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【ウマ娘SS】東京優駿2018
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気が付くと、私は東京レース場のパドックにいた。
そして、それが夢の中であるということも理解した。
自分だけが半透明で、すれ違う人々に認識されなかったからだ。
さらに、自分の目の前を謎の四足歩行の生き物が人に引かれて歩いている。
「なんだこの生き物は」というのが最初の感想であったが、未知の生物に対する恐怖感というか驚きというものは不思議と感じなかった。
しかも、レース場やパドックの作りは自分が知っている東京レース場と同じであったことから、自分がいる世界とは似ているようで、別の世界に飛ばされてしまったような感覚になる。
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肌で感じる熱気は、今日のメインレースが特別であることの証明であった。
電光掲示板の横にある文字を見つめる。
『日本ダービー』
皐月賞、菊花賞とともに三冠競争を構成するレースのひとつであり、ダービーに優勝することは、レースに携わる者にとって最高の栄誉の1つとされている。
私の成績はというと、少なくとも自分が満足できる結果ではなかった。
皐月賞では2着。ダービーでは戦略を変えて臨んだ結果、脚が持たずに14着。菊花賞では5着だった。
あの頃は、母に自分の実力を認めさせるため躍起になっていた。なぜ、この人たちと同世代なのだと恨んだこともあった。
しかし、あの敗北からようやく自分が歩むべき道が見えたのも事実だ。
何度敗れても、笑われても、泥を被っても、前に進み『一流』を必ず証明してみせる。
それが『私たち』なのだから。
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謎の生き物たちがパドックの周回を終え、そこにヘルメットをかぶり、色とりどりの服を着た男性たちがやってくる。
黒地に赤いバツ印のようなものから、緑地に赤い襷のようなデザインなど個性が出ている。
「まるで私たちが着る勝負服みたい」と考えていると、1人の男性と1頭が目に入った。
黒色と黄色部分が鋸の歯のようにギザギザに分かれた服を着た壮年の男性と17番のゼッケンを付けた生き物だった。
男性が生き物に跨り、人に引かれながらパドックから離れていく。
その様子を見て、少しの寂しさと懐かしさを感じた。
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パドックから本バ場へ移動し、レースが始まるのを待つ。
今か今かと待ちわびる気持ちが周囲から伝わってくる。
そして、ファンファーレが鳴り響くと会場のボルテージが最高潮へと達した。
始まる。一生に一度の夢舞台が。
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ゲートの中に全頭入り、実況アナウンサーの声が聞こえてくる。
「さぁ、今年、夢を叶えるのはどの馬か!日本ダービー、スタートしました!」
「ダノンプレミアム、いいスタートを切っています」
「まずは最大の注目!大歓声の中、1コーナーに向かってのポジション争い!外から皐月賞馬エポカドーロが行きます!」
「そして内に切れ込みながら16番のジェネラーレウーノ、早め1番のダノンプレミアム!2番手から3番手といったところ」
「その直後に3番のテーオーエナジー、前から中団固まって最初のコーナーに飛び込んでいきました!」
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「まず序盤先手を打ったのは皐月賞馬、12番のエポカドーロと戸崎圭太となりました!」
「そして、外から、8枠から果敢に発進ジェネラーレウーノ2番手、ダノンプレミアムは3番手で折り合いをつけている川田将雅」
「その後ろから7番のコズミックフォース、さらにワグネリアンも早め早めの競馬!」
「それをぴったりマークするように8番のブラストワンピースという大勢」
「御覧のように5番のキタノコマンドールはやや後方という位置取り、後方3番手で向こう正面の直線コースに入っていきます」
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「先頭から見ていきましょう、12番、エポカドーロ!皐月賞馬がリードを1馬身」
「2番手グループ2頭います、外側はジェネラーレウーノ、田辺!内側からがっちり手綱を持って1番のダノンプレミアム」
「1000メートルは60秒8で前を通過していった」
「その2頭にくっついていくか、7番のコズミックフォース」
「さらにはブラストワンピース。ちょっと順位を上げていったか、3番のテーオーエナジーです」
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「そして17番のワグネリアン、福永祐一!」
「6番のゴーフォザサミット、さらに外からサンリヴァルは皐月賞2着馬、2番のタイムフライヤーです」
「後ろから、11番のジャンダルム、武豊。外、11番の横山典弘、ベテランが並んでいる!」
「そして、エタリオウ、さらには15番のステルヴィオ、ルメールも怖い!」
「グレイル、そしてキタノコマンドール、後方から4番のアドマイヤアルバ!こんな大勢で3コーナーから4コーナーに向かっていく!」
「さぁこのあたり力をためているのは!1番直線で、力を、弾けることができるのはどの馬なのでしょうか!」
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「ダノンプレミアムは最内!ダノンプレミアムは最内で、最後の直線コースに入っていく!」
「先頭はエポカドーロ!エポカドーロが先頭!」
「青い帽子、コズミックフォース、石橋脩も頑張っている!」
「行きなさい!ユーイチ!」
柄にもなく、叫んでいた。しかも、話したことも無い人の名前を呼び捨てで。
「ユーイチ!」
それでも、声が止まらない。
込み上げてきた想いが、1人と1頭に向けられる。
『自分』では成し遂げられなかった夢を彼らに叶えて欲しかった。
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「さらに外からワグネリアン!ワグネリアン!ワグネリアンが先頭に立てるのかどうか!?」
「ダノンプレミアム!ダノンプレミアム伸びはどうか!?」
「エポカドーロ頑張っている!エポカドーロ頑張っている!」
「そして、コズミックフォース!残り200を通過して、コズミックフォース!」
「ワグネリアン!ワグネリアン!外からブラストワンピースも来ているが!?」
「エポカドーロか!?ワグネリアンか!?」
「ワグネリアンか!?エポカドーロか!?」
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「ワグネリアン!福永祐一!」
嬉しかった。
「ついにやった!福永祐一、19回目のダービー!」
涙が止まらなかった。
「やったやった!ワグネリアンです!」
「ついに勝った!福永祐一がワグネリアンでやりました!」
涙でぐしゃぐしゃになりながらも、なんとか彼らを見つめる。
「おめでとう、ユーイチ、ワグネリアンさん……本当に良かった……」
会場から暖かい声援に迎えられながら帰ってくる彼らを見て安心したのか、夢の中の自分は気を失うようにその場にへたり込み、目を閉じた。
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「キングちゃん……」
同室であるハルウララの声で目が覚める。
気が付くと自分の布団の中であった。
「ウララ……さん?」
「あっ、ごめんなさい、起こしちゃった?」
「大丈夫よ、ところでどうしたの?また布団に入ってきて」
彼女が寝ぼけて布団の中に入ってくることはたまにあるのだが、今回は少し事情が違う様子であった。
「キングちゃん、泣いてたみたいだけど大丈夫?何か怖い夢でも見てたの?」
どうやら泣いている姿を見て心配になったようだ。彼女の優しさに感謝しつつ、言葉を返す。
「大丈夫よ、嬉し泣きみたいなものだから」
「そうなの?」
「そうよ」
「じゃあ、よかった……」
彼女は安堵した様子で、再び眠りにつく。
「戻らないのね」と内心苦笑いしつつ、夢の出来事を思い返す。
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ウマ娘は、別世界の名前と魂を受け継いでいると言われている。
もし、それが本当のことだとしたら、今度は『こっち』で出会えるかもしれない。
そんなことを思いつつ、私は再び目を閉じた。
〜おわり〜
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イイハナシダナー
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(誕生日にSS乗っけるのは)粋スギィ!
本来なら中山記念あたりから立て直しを図っていたところなんだろうなぁと思うと…
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ワグネリアン悲しいなぁ
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いつか金子馬許可取れたらワグネリアンもウマ娘にでてほしい
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感動したれ
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感動した!
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キングヘイロー「落ち着いていけよ」
ワールドエース「人気でも気負うなよ」
エピファネイア「仕掛けは早まるなよ」
リアルスティール「距離不安でも前目につけろよ」
福永祐一「わかった」
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https://mobile.twitter.com/kuro_oolong96/status/1040562136408219648
モチーフはやっぱり例の画像ツイートですかね
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いいゾ〜これ
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ワグネリアン…ダービーの後君はどんなに負けようとも本当に頑張った…
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