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【SS】菊の敗者たち
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ウマ娘6話、7話で放映された菊花賞の裏話です
マチカネタンホイザ「ライスちゃんじゃないけど、私もブルボンちゃんのキラキラに憧れていました。そして、ブルボンちゃんに勝てば菊花賞ウマ娘になれるんだ、って」
「正直、スプリングSも、皐月賞も、ダービーも、全く勝てる気がしませんでした。でも、ウチのクラスのバクシンオー委員長が言うように、ブルボンちゃんが短距離向きだったら…」
「バクシンオーちゃんの言うことはあてにならないけど、でも、もし本当にブルボンちゃんが短距離向きだったら私にも勝ち目はある、そう信じて走りました」
「バクシンオーちゃんの言うことが結局正しかったのかは分からないけど、いつもは離されてばかりのブルボンちゃんの背中がどんどん近づいて、もしかしたらって思いました」
「最後の直線でブルボンちゃんに並んで、これはいける!そう思った瞬間外からライスちゃんにあっという間にかわされました」
「ライスちゃんには勝ったこともあったので、正直あまり気にしていませんでした。ですが、あのレースでのライスちゃんは本当に怖かったです」
「そして一度は抜かしたはずのブルボンちゃんにも抜き返されました。ライスちゃんには負けたけど、ブルボンちゃんの本当の強さを見た気がします」
「ウイニングライブは…ハッキリ言って地獄でした。私を応援する声は嬉しかったのですが、もし逆の立場だったら…そう考えると怖くなってしまうのが本音です」
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ミホノブルボン「距離の壁は鍛錬で克服できる、それが私とマスターの信条です。その信条の元、ダービーを制しました」
「ですが、ライスシャワーが2着に入ってから、彼女こそが菊花賞で最大のライバルになる、そう確信しました」
「1戦ごとに私との距離を縮めてくる、その事実に恐れも抱きました」
「マスターも同じように考えていた、いえ、私以上にライスを恐れていたようです、あのマスターが…」
「だからこそ、私は絶対に期待に応えたかった。落ちこぼれになってもおかしくなかった私を引っ張り上げてくれた人だから…」
「そんな中、菊花賞の前日に、あるウマ娘に言われました。私は、爆逃げしますと」
「マスターの指示は、いつも通りに先頭に立って押し切れということでした。ですが爆逃げを宣言された以上、それを上回ってしまったらオーバーペースになるのではないか、私の心には迷いが生じていました」
「当日は宣言通り、彼女が大逃げ、私には彼女の2番手を選択しました。はじめてマスターの指示に背いたのです」
「結果はご存じのとおりです。ライスに並ぶ間もなくかわされ、無敗の三冠ウマ娘の夢は潰えました」
「何を言っても言い訳にはなりますが、あの日私は100%のレースをできませんでした。今まで逃げウマ娘として走ってきた私が2番手だったことで、道中ではペースに狂いも生じました」
「もし、完璧にレースが出来たらどうなっていたか、その答えを出す舞台に私はいまだ立てていません」
「マスターはあの後病に倒れ入院、後任のトレーナー代理の方とはうまくいく気がしません」
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『菊花賞は逃げよう、何があっても、絶対に』
キョウエイボーガン「それが私たちの作戦でした」
「私はブルボンたちのように、春のクラシックには出場できませんでした」
「レースで勝ち始めるようになったのはダービー直前の条件戦、そして神戸新聞杯。このときは、いわゆる夏の上がりウマ娘として菊花賞の伏兵候補の1人として認識されました」
「連勝して迎えたトライアルの京都新聞杯、ここで初めてミホノブルボンと対戦します」
「このレースはスタートが決まらなかったこともあって本来の逃げではなく、ブルボンの2番手でレースを進めましたが、何もできずに下位に沈みました」
「逃げウマ娘の多くは先頭を走らないとリズムを崩して本来の走りができないものです。私もその一人であると京都新聞杯で思い知らされました」
「こうなってしまった以上、私には分かっていました。誰が相手だろうとも逃げ切る、それでしか私に勝ち目はないことを。そして…」
「それがブルボンの走りを邪魔してしまうことも」
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「レースに勝つために、自分のレースをすること、そして相手に自分のレースをさせないことはウマ娘として当然のことです」
「ですが、そうしたところでブルボンに勝てるとも思えませんでした」
「その上、もしブルボンが負ければブルボンの3冠をただ潰しただけのウマ娘としてのレッテルを貼られるだけになる」
「私だって、もし菊花賞に出ていなければ、ブルボンの三冠達成が見たかったでしょう」
「ですが、他のウマ娘に勝ちを譲るために手を抜くなんてことは言語道断です」
「どうすればよいのか、どうすれば正解なのか…私は悩みに悩んだあげく、ある結論を出しました」
『ミホノブルボン、私は爆逃げします』
「こうすれば私は一応ではあるものの本来の型に持ち込めます」
「それにブルボンも単独の2番手ならある程度リズムは保てる、そう踏んでの決断でした」
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「そして菊花賞のゲートが開いたとき、私はブルボンを、他のウマ娘を大きく引き離すこと、それだけを考えて走りました」
「案の定、私は直線に入るだいぶ手前でブルボンに捕まりました。もう一度差し返す体力などあるはずもありません」
「前方で激しい1着争いが繰り広げられる中、はるか後方を走る私は、せめてブルボンに勝ってほしい。そう思いながら彼女たちの戦いを見つめるだけでした」
「しかしそんな私の願いは届かず、ライスシャワーがブルボンをかわしました」
「レース場を包んだのは偉業を阻まれた落胆、悲鳴、そして勝者に対するブーイングにも似た空気でした」
「ですがライスは実力でブルボンをねじ伏せたまごうことなき菊花賞ウマ娘。2番人気だったこともあり、下克上を期待していたファンからの賞賛の声も少ないながらも確実に存在しました」
「一方の私はただブルボンの偉業を潰しただけのウマ娘というレッテルを貼られました」
「レース前に懸念していた最悪の想定が、その通りになってしまったのです」
「もし私が本気で勝とうとしていたら、本気でブルボンを倒すためのレースをできていたなら、未来は変えられたのでしょうか…」
「そんな私ですが、私の走りを見てファンになった、とファンレターを送ってくれた女性がいました」
「今はただ、彼女の為に次の1勝を目指しています」
-おわり-
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ウマ娘始まったしSSもまた増えそう
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