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この幸運の女神に祝福を!【このすばSS】
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「ばんわー」
「こんばんは…珍しいですね?こんな夜中に」
俺は例によってテレポートでやって来たいつもの白い部屋で、エリスに軽く手を上げながら挨拶をする。彼女の言う通り、今はちょうど日付が変わったくらいの時間、つまり深夜である。常識的に考えれば人様…というか女神様を訪ねるような時間じゃないが、銀髪の女神はそれを疑問に思いつつも、特に咎めることはしなかった。
「まぁこちらはあまり時間の概念に囚われないので良いんですが…あ、美味しいお茶が手に入ったので今淹れますね」
「ほほう」
ついにお茶まで用意してもらえるようになったてしまったか。大変ありがたくはあるが、仮にも死後の世界なのに所帯染みすぎではなかろうか。いや、俺がしょっちゅう来ているせいだけど。
と、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった。
「お茶はいただきますけど、まずその前に…ハッピーバースデーです、お頭」
「!」
俺は懐から包みを取り出し、エリスに手渡す。こういうのは単刀直入に行くのが俺流だ。
…本当は変に後回しにすると、なんか恥ずかしくなってタイミングを見失いそうだからだけど。
「……」
エリスは受け取ったプレゼントをキラキラ瞳を輝かせながら無言でしばらく眺めていたが、
「…ハッ!?す、すみません!感動のあまりにお礼も言わず…!ありがとうございます!すごく嬉しいです!」
花の咲いたような笑顔で言う。
…本当、同じ女神でもこうも違うもんかと痛感する。
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ウチにいるバカな方の女神の小憎たらしい笑顔を思い浮かべつつも、俺はエリスに、
「せっかくなんで開けてみてくださいよ。今ならクーリングオフの対象ですから」
と、促した。
まぁここで突っ返されようもんなら俺の心が完全にヘシ折れるけど。
「そうですか?ではお言葉に甘えて…あ!中身が何であってもお返しするなんてことはありませんからね!?そんな失礼なことしませんから!」
言いながらせっせと包装を開けていくエリス。なるべく破らないようにしているのか、その動きは慎重だ。こういう所にも彼女の生真面目な性格が出ている。
「よいしょ…っと。わぁ、綺麗…!」
数分後、ようやく包装を解き終えたエリスは、中身であるプレゼント──細やかな細工の施された髪飾りを手に取って、感嘆の声を上げた。
「あんまり高い物じゃなくて申し訳ないんですけど」
「値段なんて関係ありませんよ!一目見ただけで、カズマさんが私のために真面目に選んでくれたということが伝わりました!ああ、本当に嬉しい…!」
エリスは言葉通り、本当に嬉しそうに髪飾りを色々な角度で眺める。う〜ん、ここまで喜んで貰えるとは。それなりに頭を悩ませて用意した甲斐があったってもんだ。
「あの、着けてみても…?」
「もちろん」
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エリスは子供のような笑顔で髪飾りをいそいそと着ける…あ、こういう時って「俺が着けてあげますよ」とか言っちゃって良い場面だったのかな?でも前にダクネスの髪に触った時は怒られたし…くそ、難しい。
俺がそんなことを悶々と考えている間に、エリスは髪飾りを着け終えて声をかけてくる。
「よし、と…どうですか?」
「完璧ですね」
俺の率直すぎる褒め言葉にエリスが顔を赤くした。いや、実際お世辞抜きで超似合っているんだから仕方ない。彼女も気を良くしたようで、指パッチンで出現させた鏡を見て鼻歌交じりに髪飾りの位置を調整し始めた。
…ふむ。
今言い出すなら流れ的にも自然だろう。
「せっかくですし、お頭モードでも着けてみてくださいよ」
「えっ?」
俺の提案にエリスがキョトンとする。
「だって人前に出る時はあっちの姿の方が多いでしょ?どうせなら普段使いしてほしいですし」
「なるほど…確かにそうですね。では、ちょっとあっちを向いていてください」
素直に指示に従って回れ右をする俺。正直変身の過程やメカニズムにはかなり興味があるが、ここで彼女の機嫌を損ねるわけにはいかない。
…ちょっとくらいチラ見してもバレないんじゃないか?いやでも相手は女神だし…でも…。
「…はい、もうこっちを見てもいいよ、助手君」
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俺の弱い心が葛藤に陥っている間に変身は終わってしまったらしい。残念なような、ホッとしたような複雑な感情を抱えつつ、声のかかった方へと向き直る。
「どうかな?」
「最高ですね」
俺の率直すぎる感想パート2に、クリスがエリスと同じように顔を赤くした。同一人物なんだからリアクションが同じなのは当たり前だが、なんだろう、どちらも別ベクトルに男心に響くものがある。クリスに関してはボーイッシュな見た目からのギャップ萌え、ってところか。
「あはは…なんか恥ずかしいね、この部屋でこっちの姿になるのは…そもそもクリスになること自体が割と久しぶりだし」
そういって頬をかくクリス。
…よし、ここから本題に話を持っていくか。
「そうですよ、最近全然アクセルにも姿を見せないし。ダクネスはもちろん、他の冒険者連中も心配してますよ」
「顔を出しづらいのはキミのせいなんだけど」
ですよね。本当すいません。
「それはともかくとして…せっかく変身したんだし今日は町に来てくださいよ。誕生日パーティー開きますから」
「えっ?パーティー?」
そう、これがクリスへの変身を促した最大の理由である。
ここ最近正体バレを危惧して町に現れないクリスを、ダクネスと誕生日パーティーを口実に引き合わせる、という算段だ。これは俺が原因だという気まずさからで、別に凹んでいるダクネスを見るのが辛い、とかじゃないよ。
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「お頭の誕生日を祝いたいのは俺だけじゃないってことです。っていうか、いつまでも距離を取ってたらかえって怪しまれますよ」
「う…確かにそうだけど…」
…ぶっちゃけ、そんな悩むような話でもない気がするんだが。そりゃ一悶着くらいはあるだろうが、最終的には丸く収まると俺は踏んでいる。この二人の関係がそんなことくらいで揺らぐとは到底思えないんだよな。
「…はぁ、分かったよ。助手君の言うことにも一理あるし、今日はアクセルに行って、ダクネスにもちゃんと会うことにする」
「さすがお頭。ありがとうございます」
「ま、お頭としても女神としても、キミからの真摯なお願いは断るべきじゃないしね」
クリスの返答にホッと胸を撫で下ろす。これで俺のミッションは完了だ。あとはダクネスたちにクリスが来ることを伝えてパーティーの準備を…。
「ただし」
「へ?」
彼女の思わぬ言葉に驚き、マヌケな声を出してしまった。
「条件がひとつある。それをキミに飲んでもらうよ」
「ちょ、後出しはズルいでしょ!なんですか条件って!?」
言いながら、俺はクリスと初めて会った時のことを思い出す。あの時のスティール合戦でもこの人はイカサマまがいのことをしてきたんだった。
「まぁ、そんなに身構えないでよ。条件を言う前に聞きたいこともあるし」
「…なんですか?」
イタズラっぽい表情を浮かべていたクリスが、不意に真面目な顔になる。
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「今日、キミがここに日付が変わってすぐ来たのは…ダクネスのために、あたしをパーティーに誘い出すため?」
「…!」
よく見れば、彼女の瞳はどこか不安げに揺れている。
…ここは、嘘は許されない場面だ。
俺は腹を括ってその答えを伝えることにした。
「…確かに、それも目的のひとつではありました。それは事実です」
「……」
「でも」
俺は一度息を大きく吸ってから、続きを話す。
「でも、それだけじゃありません。お頭の誕生日を誰よりも先にお祝いしたかった、っていうのもある…っていうか、むしろそっちがメインです」
「!」
「あー…なんていうか、お頭がクリスでもありエリス様でもある、ってことを知ってるのは現状俺だけじゃないですか。そういう意味で、お頭の全部をお祝いできるのは俺だけの特権だし…いや、いずれはダクネスにも打ち明けてほしいってのももちろん思ってはいますよ?でもそれまではっていうか…えーっと…」
途中からしどろもどろになってしまった。ああもう、めっちゃ恥ずかしい!こういうところで童貞感を出してんじゃねぇよ俺!
頭をかきながらなんとか言葉を紡ごうとしている俺を見て、
「…プッ、あはは!」
クリスが急に吹き出した。
「いいよ、無理しなくて。ちゃんとキミの気持ちは伝わったからさ」
「お頭…」
「じゃ、聞きたいことも聞けたし、改めて条件を言うね」
そうだった、パーティーに来る条件の話をしてたんだった。
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醜態を晒した俺にさらに条件を突きつけるとか死体蹴りもいいところだが、ここまで来たら受け入れるしかないだろう。
「…来年も」
「えっ?」
クリスは頬を染め、少し目線を外しながら、
「来年も、できればこうして…真っ先にお祝いに来てくれると、嬉しい…です。ダメ、ですか?」
そう、告げた。
…なんだそれ。条件じゃなくてお願いじゃねぇか。本当、真面目で不器用な人だよ。
ったく、しょうがねぇなぁ…!
「───もちろん、喜んで」
END
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これがメインヒロインの貫禄ってやつですね
エリス様、クリスさん、お誕生日おめでとうございます
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最後だけ口調が元に戻るのいいっすね^〜正統派ヒロインの鑑
エリス様、誕生日おめでとナス!
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はいメインヒロイン
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クリエイトベイビーしない時は真面目
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こういうのでいいんだよこういうので
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