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榛名「Zebra」
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「今日もよろしくお願い致します、提督」
榛名は今日も私を見据えて、お辞儀をした。
「ああ、こちらこそ頼むよ」
私はそれに軽く返事をした。今日も、秘書艦は榛名である。
彼女は私がここに着任してから、特に理由がない限り秘書艦を勤めている。
積み重なる書類が今日も私の机には鎮座し、睨みつけていた。
毎日やってもやっても片付くことのないそれは、私よりも偉そうにも見えた。
「提督、今日も頑張りましょう!」
榛名に励まされ、喫緊の課題に取り掛かった。
どうして、彼女はこんなに優しいのだろう。いつも心が痛む。
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作戦司令、物品発注、開発命令などなどの書類の末尾にある、最後の確認としての署名欄に、私はいくつのサインを書いただろうか。私の名前がひとりでに出歩いていくような錯覚を感じた。
白黒に印字された書類が襲いかかってくる。この作業をするといつも、シマウマの大群によって、自分の名前を地面に縫い付けようとする私がもろともに踏み潰されようとする映像がいつも思い浮かぶ。
けれども、シマウマの前足が眼前に迫り、いよいよ私がペッチャンコになろうとする前に、榛名がいつも私を引っ張り出してくれる。
「お願いです、提督。お昼にしましょう」
ああ、もうそんな時間か。
「榛名、先に行っててくれないか」
「すぐに来てくださいね!」
榛名を食堂に送り出した後、私は引き出しを開け、大本営から送られてきた小箱に一瞥をくれた。
これが何を意味するのか、万年マイナーを這いずり回る私にでも分かる。
しかし、私はどうすればいいというのだ……。
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鎮守府の外れにある波止場。
食堂で仕入れた弁当を私は食べていた。
食材はいつも新鮮で、栽培方法にまでこだわりがあるという話を聞いたことがある。
隣には榛名が居る。
風は冷たいけれども、この静かな場所が私のお気に入りだった。
「今日も間宮さんのお弁当は美味しいですね」
ピーヒョロロとトンビの鳴き声が聴こえる青空を、榛名は仰ぎ見ながら、私に話しかけてきた。
「ああ、そうだな。この食事がなければ、とっくに辞めてるだろうな」
「冗談でも辞めるとか言わないで下さい!」
榛名はいい子だ。私なんかには勿体ない。
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「はあ……」
「提督? ため息なんかついてどうしたのですか?」
今日の秘書艦の扶桑が心配そうにした。
氷雨が降り注ぐこの日、榛名は南方へ旗艦として出撃した。
大規模作戦が遂行される中、私の居る鎮守府にも支援の仕事が回ってきていたのだった。
ここにそんな話が降ってくるということは、残念ながら軍全体が相当な逼迫に追い込まれていると推察するのが自然だろう。
そのことに少しでも考えが及ぶと、嘆息せざるを得なかった。
「大丈夫ですよ、榛名さんはちゃんと帰ってきますよ」
扶桑なりに私を元気づけようとしているのだろう。
「もちろん。絶対はこの世にはないが、榛名は最高の艦娘だから」
「ふふ。提督は榛名さんの話をする時だけは生き生きとしてらっしゃいますね」
「えっ、ああ、ははは……」
私は思わず視線をそらし、目の前にある書類に目を戻した。
些末なことであっても、向こうもこちらも私を通さねばならない。不合理なシステムと搾取構造が煩わしい……。
「ちょっと、休憩がてら散歩してくるよ。二、三十分したら戻ってくるから」
「はい、承知しました」
私は羽織りを引っ掛け、部屋を出た。
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廊下を歩くと、雑談に花を咲かせている部屋の前を通ることもあれば、年末行事に向けて何やら作戦会議をしている部屋の前を過ぎることもあった。
足元を見ると、新しい床材が敷かれている場所、即ち私が来てから増築された箇所に入ったことに気づいた。
外国語が聴こえる。英語ならなんとかなるが、それ以外となると非常に厳しいと言わざるを得ない。スウェーデン語はまったく分からない。いつの間にこんな大所帯になったのだろうか。
ああ、思えば遠くへ来たもんだ。陳腐な言葉だが、それが実感だった。
生き生きしているのは、艦娘の皆じゃないか。
私があの時言い放ったことが思い出され、胸に刺さる。
あれを見つけられて思わず言ってしまった、あの言葉。
一回発してしまえば、言葉は取り返しがつかない。そんなことは百も承知なのに、何故私は……。
しかし、それも本心だったのではないかという考えも拭えずにいる。
ああ、私はどうすればいいというのだ。
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外に出た私は、傘をさしながら、庭を歩く。水たまりだらけでブーツは泥に汚れてしまうだろう。
今こそ花はないが、花壇が整備され、彼女たちの癒しにもなっている。
少し離れたところには、工廠やその他の整備や開発の施設も見える。これも私が来てから改装や建て増しをした。
私は門まで歩き、振り返る。
明かりがポツポツと灯る鎮守府庁舎を眺めた。
庁舎は建て増しを繰り返し、オリジナルの美しさから逸脱している。そして、あちらこちらが傷み、蔦が這う部分もありつつも、踏ん張り続けている。
榛名の顔が思い浮かぶ。いつも私の傍らにいた彼女である。彼女はここを守り通してきてくれた。
私は果たさねばならないことに決心がついた。
あまりに遅い。でも、これが私に課せられた責務。
私はぬかるみを気にせず、力強い足取りで庁舎に向かった。
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部屋に戻ると、扶桑含めてもぬけの殻だった。その代わり、机には誰が作ったか分からないカプセルが1錠置いてあった。水も用意されていた。
添えられた紙には、
『男なら、何も言わず、飲みなさい』
という活字が書いてあった。
挑発的な文句を見て、一も二もなく私はそれを飲んだ。
猛烈な頭痛とともに、すぐに失神した。
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目が覚めると、私はタワーのように積み重なった錆びた艦橋のてっぺんに居た。
雨が降りしきり、パイプや鉄板などに当たる雨音がこだまする。私以外に周りには誰も居なかった。
突き出した形状から察するにこれは防空指揮所。しかもこの構造からして、これは榛名特有のもの。もしかしてここは……。
そこに榛名が現れた。ダズル迷彩の主砲を携えていた。
「提督?」
「榛名、申し訳なかった。謝らせてほしい」
私はすぐに頭を下げた。
「どうしたんですか?」
「許しを請うことはおこがましいのは分かっている。それでも、榛名に嘘をついたことを謝らせてほしい、頼む」
「提督……」
一陣の風が榛名から私に吹いた。雨と相まって、凍るような冷たい風だった。
それでも、私は続けた。
「私はどうしようもない臆病者だった。榛名が私や第一線からかけ離れたこの鎮守府に縛り付けられてしまうのは、榛名のためにはならない、そう思ってたんだ。だから、あの時、『指輪なんかここには分不相応な代物だ』なんて言ってしまった。それが、榛名、君を傷つけてしまった」
「そして、本当の気持ちをここで言わせてほしい。榛名、私は君が好きだ。最高だ。だから、私をいつまでも支えてくれないか、お願いだ」
榛名は私が喋る間、何も言わなかった。
「提督、ありがとうございます……」
その声を聞き、私が頭を上げた時、榛名は涙ぐんでいた。
この瞬間、再び風が吹いた。バリバリとプラズマのような火花が、榛名の後ろの空、私達の足元、周りの鉄柱などから同時かつ一気に爆ぜた。
あまりの光の強さに腕で顔を覆った。
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次の瞬間、私はいつもの部屋に居た。榛名も居た。無傷だった。
榛名はすぐに、私に駆け寄りながら、顔を眼前に据えた。
「提督?」
私はすぐに抱きしめた。
「ありがとう……」
涙ぐむ私に、榛名は私の肩や背中をなで続けた。
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「今日もよろしくお願い致します、提督」
榛名は今日も私を見据えて、お辞儀をした。
「ああ、こちらこそ頼むよ」
私はそれに軽く返事をした。今日も、秘書艦は榛名である。
榛名の右手には、私の贈った指輪が輝いていた。晴れやかな日差しに反射して、きれいだった。
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12月14日は戦艦榛名の進水日です。おめでとうございます。
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オメシャス!
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乙シャス!
榛名だいすき
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オメシャス!
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榛名はいいぞ
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優しい世界
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榛名はいい子
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ああ^〜
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何が日本一やお前、こんな名文…世界一や!(称賛)
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オメシャス!
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榛名と結婚する
結婚した
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