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このぼっち娘と盗賊女神に祝福を!【このすばSS】
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「ああああああ!やめっ、やめろおおおおおお!!」
「やめろはこっちのセリフだよ!いいからそれをこっちに渡しなって!」
「ああもう、なんであんたは毎度毎度人に迷惑をかけるの!?そんなもの持ってたらまたカズマさんに怒られるわよ!」
その日。
暇をもて余した上に小腹が空いた俺はふらりと町の市場へと出向き、軽食と散策を済ませて屋敷へと帰って来たのだが。
「なにやってんだ、あいつらは」
屋敷の前で、なにやらわちゃわちゃと揉めている3人組がいた。しかも残念なことに全員俺の知人である。具体的には爆裂魔とぼっち娘と女神兼盗賊。
……ふむ。
俺はその光景を1分ほど眺めた後、
「今日は宿に泊まるか」
踵を返して立ち去ることを決めた。
だって確実に面倒くさいヤツだもん、関わらないに越したことはない。それにゆんゆんとクリスがいるんだ、何が原因かは知らんがきっと上手いこと事態を収拾してくれるだろう、うん。
そうだ、せっかくだし今夜は久し振りにサキュバスサービスを頼んでみるか。そんなことを考えながらその場を離れようとして──
「……あ!じょ、カズマ君!ちょうどいいところに!ちょっと手を貸して!」
あっさりとこの謎のトラブルに巻き込まれたのだった。
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「で?今度は何をやらかしたんだ?」
見つかってしまったものは仕方ない。俺は気持ちを切り替えてさっさとこの件にカタをつけてしまうことにした。
「私はやらかしてませんよ!この二人が一方的に絡んできてるんです!」
地面で亀のように丸まった姿勢でめぐみんが叫ぶが、当然説得力はゼロだ。
「どの口が言うのさ!あたしはめぐみんが拾ったって言う魔道具が危険なモノだったから処分するために渡してってお願いしてるだけだよ!」
「そんなことを言って、この素敵アイテムを自分のものにするつもりでしょう!私は誤魔化されませんよ!」
なんだろう、すごい既視感がある。
「で、私がたまたま揉めてる二人を見つけて事情を聞いて……」
「クリスに加勢した、ってわけか」
この子も大概間が悪いなぁ。しかし……。
「この前(よりみち!1巻参照)みたいにスティールで剥いで行けばいいじゃないですか」
あの時はそれでめぐみんを降伏させたんだし、今回も同じ作戦で良さそうなもんだが。
俺の疑問にクリスがため息をつきながら答える。
「そうしたいのは山々なんだけどね……今回の魔道具はそうもいかないんだ。厄介な特性があるから」
「特性……?っていうか、そもそもこいつが渡そうとしない魔道具ってなんなんですか」
めぐみんが後生大事そうに抱えてるおかげで、俺はそのブツ自体をまだ見れていない。
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「ネックレスなんだけど、持っている人に対して使われる大半のスキルや魔法を無効化しちゃうんだよ。おかげでスティールもバインドもダメ。しかもステータスの底上げまでするから力尽くも厳しくて」
「無効化にステータスアップですか。そりゃすごい」
防御力や回避を上げるタイプの装備品はよくあるが、そこまでの代物は初めて聞く。それだけなら最上級のアイテムだろう。
「でも、ドギツいデメリットがあると」
「うん。まず種類や意図を問わず無効化しちゃうから回復や支援の魔法も当然アウト。加えて魔物やら亡霊やらを凶暴化させた上で誘き寄せるオマケつきなのさ」
アカン。
「おいバカ、さっさと捨てろ!完全に呪いのアイテムじゃねーか!これ以上厄介事を招き寄せてどうすんだ!」
「迷信に惑わされてはいけませんよ!現に魔物なんてぼっちの化身以外寄ってきてないではないですか!」
こいつ、なんてことを。
案の定めぐみんの暴言でゆんゆんがヒートアップする。
「誰が魔物よ!しょっちゅう人様に迷惑かけまくってるめぐみんの方がよっぽど魔物みたいでしょ!」
「うるさいですよぼっち魔神!」
ギャーギャー言い合う紅魔族たちの横で、俺はこっそりクリスに耳打ちする。
「女神パワーでどうにかならないんですか?」
「まぁ最終手段としてなら……でも、あんまり下界でそういうのを行使しちゃうのはよろしくないんだよね」
……前にエリスに変身してゼーレシルトをボコボコにしたのはセーフなんだろうか。
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とはいえ、実際そっちのプランは避けた方が無難ではあるだろう。こんな町中で女神が降臨なんてしたら混乱は避けられない。
しかし、どうしたもんか。
「 こういう時に限ってアクアもダクネスもいねぇし。どうして数少ない活躍のタイミングを逃すんだよ」
あの二人がいれば、アクアの支援魔法でダクネスの元々凄まじい筋力をさらに強化した上でめぐみんから件のネックレスをひったくり、そのまますぐにアクアに浄化させる、ということもできただろう。が、アクアはアルカンレティアで催される祭りに呼ばれて、ダクネスは王都での会議に参加するためにそれぞれ不在である。間が悪いことこの上ない。
「めぐみんを説得できればそれが一番なんだけどねぇ……はぁ」
クリスが再び深いため息をついた。
「ぜぇぜぇ……と、とてもじゃないけど聞き入れそうにあるませんよ、あの子」
息を切らせたゆんゆんが話に入ってくる。やはり力尽くは無理そうだ。
「ストレートな説得が無理なら、あとは……脅迫とかか?」
「迷わずその発想が出ちゃうのはどうなんだろう……」
クリスが何か言っているが無視する。
「あいつが大事にしてるもの……両親と妹、あとはちょむすけあたりか」
「人質方面で行くのは確定なんですか……
?」
ゆんゆんが引いている気がするがこれもスルー。
「ちょむすけは俺にもなついてるとはいえ一番はめぐみんだからなぁ。実家の家族は下手に連れてくると面倒くさそうだし」
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それ以外に脅しの材料になりそうなもの……。
俺たちが頭を捻っていると、めぐみんがそのままの体勢で偉そうに話しかけてきた。
「何を話しているか知りませんが、諦めた方が身のためですよ。今の私は強大な闇の力を手にした大魔導師……たとえ想い人の言葉であろうと届かない非情の存在なのです」
「呪いの品を拾った挙げ句丸まって駄々こねてるだけのくせに何言ってんだ」
っていうか人前で想い人とか言うなよ、恥ずかしいじゃん。
……ん?待てよ、これは使えるのでは?
どうせ他に策は無いんだし、イチかバチかやってみる価値はあるかもしれない。クリスとゆんゆんを巻き込む形になるが、下手に説明するとボロが出てめぐみんに怪しまれる可能性がある。二人が上手く察してノッてくれることを祈ろう。
俺は決意とともにめぐみんに一歩近付く。
「なんですか、我が軍門に下る決心でもついたんですか?仕方ありませんね、特別にカズマには軍師のポジションを用意してあげようではありませんか」
「あいにくだが心底遠慮する。それよりめぐみん、耳をかっぽじってよく聞けよ」
「おお、カズマ君!」
「カズマさん……!」
俺が何か策を思い付いたと思ってか、クリスとゆんゆんが期待の眼差しを向けてくる。
その想いに答えるべく、俺は身構えるめぐみんに高らかに告げた!
「俺がどうなってもいいのか!!」
「「「……はい?」」」
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案の定俺以外の3人が呆気に取られるが、これは予想通りだ。
「いいか、めぐみん。知っての通り俺は童貞だ」
「女の子に囲まれてるこの状態でよく堂々と言えますね」
めぐみんが引き気味に言うが、俺は怯まない。
「お前がその呪いのネックレスを捨てないというなら、代わりに俺は生まれてこの方清らかなままだったこの貞操を……捨てる!!いいのか!!」
ビシッと親指で自分を指差す。
そんな俺をめぐみんは露骨に憐れみのこもった目で見た。
「……カズマ、私があなたに惚れているからといって、いくらなんでもそれはないですよ」
「キミに期待したあたしがバカだったよ……」
「カズマさん……最低……」
俺への評価が味方二人を含め爆下がりしている。
だが見てろよ、ここから一気に逆転タイムだ!
「ほう……あくまで交渉に応じる気はないか。なら仕方ない、こっちも脅しじゃなくなるぞ?」
「そもそも脅しとして成立してないんですが。カズマの悪評が広まっているこの町はもちろん、他の所へ行ったとしてもヘタレのカズマがそうホイホイ女性を捕まえられると思えませんよ。私やダクネスに好かれているからといって調子に乗りすぎです」
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悪評うんぬんをお前にだけは言われたくない。だが、そんな本音は飲み込んで俺は作戦を続ける。
「ゆんゆん!」
「え?あ、は、はい!」
自分が話しかけられると思っていなかったのだろう、急に名前を呼ばれてゆんゆんが驚いたような声を上げた。
「どうか俺を貰ってください!結婚を前提として!」
「「「は!?」」」
驚きの声に構わず俺は捲し立てる。
「前から思ってたんだ、紅魔族の文化は俺に合っている部分が多いって」
これは本当。なにせ紅魔族の産みの親が俺と同じ日本人だし。
「だが同時に紅魔族の大半は独特な感性の持ち主だ。そんな中でゆんゆんは極めて奥ゆかしく常識的!しかも可愛くてスタイルも良い!魅力を感じないはずがない!」
これも嘘ではない。若干人間関係への執着が重すぎるのはアレだが。
「周りが変人ばかりの俺にとっての希望の光なんだ!だから今度は俺から言おう、ゆんゆん、俺の子供を産んでくれ!責任は取る!!」
「「「……」」」
さっき以上に呆然とする面々。だがこれでいい。
あとはゆんゆんが再起動して俺に話を合わせてくれれば流石のめぐみんも焦ってこちらの要求を飲むだろうって寸法だ。
そもそも今回といい、最近めぐみんは俺への扱いが雑な傾向がある。ここらで佐藤和真が本気を出すとどうなるかってことを思い知らせてやるぜ。
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ゆんゆんすき
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……まぁ最悪ゆんゆんが俺の意図に気付かないで普通にお断りしてきたとしても、その後しばらく粘ってやれば俺が女性に対してヘタレという認識は解消されるだろう。そうすれば後は同じ、めぐみんの動揺につけこんでネックレスを回収だ。
「……あ、あの」
俺の期待通りに、ゆんゆんが最初に復活を遂げた。
「お気持ちは嬉しいんですけど、私には次期族長の立場がありますし……そ、そういう相手はちゃんとした人を選ばないといけないので……」
うん、気付いてないなこれ。素でフラレる流れだ。
ちょっとメンタルにくるものはあるが、そこは耐えて作戦続行。
「待ってくれ!俺は自分で言うのもなんだが商才は割とある方だと思う!少なくとも金銭面でゆんゆんや紅魔族を困らせることはないと思ってくれていい!」
前に借金を背負ったこともあったが、あれは基本俺のせいじゃないしセーフだろう。多分。
「さらに人をまとめるのも結構得意だ!現にポンコツ3人組と上手くやってるだろ!」
「だ、誰がポンコツかっ!」
あ、めぐみんも現実世界に復帰したらしい。まぁ無視するけど。
「あと、め……子供からも好かれるぞ!面倒を見るのも喜んでやろうじゃないか!」
あやうく「子供」の前に「めぐみんみたいな」と付けそうになったが、ギリ持ちこたえた。
「それに俺たちは一緒に行動することも多いだろ!つまりお互いのことをよく知ってるってことだ!これは重要だと思う!それでもダメか!?」
言いながら別にここまで必死になる必要はないんじゃね?とも思ったが、気にしないことにする。ともかく、あとはタイミングを見てあのロリガキからネックレスを奪えば……。
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「……ど」
「ど?」
と、ここで俺の勢いに圧倒されていたゆんゆんが口を開いた。
「どうしようめぐみん!なんだか私、カズマさんなら悪くない気がしてきた!」
「え?」
思わず間抜けな声が漏れた。
この娘、今なんて?
「お、落ち着きなさいゆんゆん!あなたどんだけ押しに弱いんですかっ!」
「だ、だって……!」
えーっと、これって俺に話を合わせてるわけじゃ……ない、よな?え、マジで?ちょっとチョロすぎやしないか?
「あなたも知っているはずです!この男は基本的にただのダメ人間なのですよ!貧弱すぎるステータスに加えて隙あらば働かずに楽をしようとする、しょっちゅう飲んだくれる、女性であろうと盾にする、パンツを奪う!人間のクズと言っても過言ではありません!」
「お前、本当に俺のこと好きなの?」
俺が働かないのは金が充分にあって生活に不安がない時だし、酒にしたって酔った勢いでの失敗はほとんどないぞ。アクアに比べれば。
パンツだって何故かそればっかスティールできてしまうせいで故意にやったことなんてそんなにはないし、盾にしたのは……まぁアレだけど。
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しかし、そんなめぐみんに俺ではなくゆんゆんが反論する。
「確かにアレなところはたくさんあるけど……でも、紅魔族にたくさんいるニートの人たちに比べれば全然マシよ!」
「ぐっ!」
めぐみんが手痛い反撃に呻き声を上げた。
「考えてみればカズマさんって頭の回転は早いし、私にはないコミュ力があるし、いざとなればちゃんと働い……動いてくれるし!」
なんで言い直したんだろう。
「確かにダメな所の多い人だけど、そこは私がフォローすればいいと思う!めぐみんみたいに厳しくしちゃうのはかわいそうよ!あんまりカズマさんを悪く言わないで!」
「ぐむむ……!」
なんか既にダメな彼氏を庇う健気な彼女みたいなことを言うゆんゆん。
めぐみんもめぐみんで何か心当たりでもあるのか、反論しあぐねているようだ。
「と、とにかく私は認めません!絶対に認めませんよ!大体、いきなりこんなことを言い出すってことは、私の動揺を引き出すためのただの口車に決まってます!この男は独占欲が強いですからね、私にヤキモチを焼かせようとしているんです!」
無駄に鋭いなぁこいつ。しかしネックレスの件に言及しないあたりめぐみんも混乱していると見える。
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……っていうか。
「あいつ、立ち上がってんじゃん」
ゆんゆんの肩を掴んでガックガックと揺さぶっているめぐみんの首もとには、暗い銀色の細工の中央に大きめな真紅の石が嵌め込まれたネックレスがつけられており、どこか不穏なオーラを放っていた。なるほど、あいつの好みそうな中二感溢れる逸品だ。
とはいえ、これはチャンスだろう。
「お頭、今なら無理矢理ネックレス奪えそうですよ……お頭?」
「……」
クリスは俺の呼び掛けに反応せず、ボーッと突っ立ったままだ。そういえばさっきから何も発言していなかったが、まさかまだフリーズ中だったのか?
「お頭、おーかーしーら!しっかりしてください、チャンスですよ!」
「……ご」
ご?
ようやく何事かを発したかと思ったその矢先、
「ゴッドストレートッッッ!!!」
「ごふっ!?」
神速の右ストレートが俺の顎を捉えた。
……何故に?
「!カズマ!?」
「カズマさん!?」
こちらの異変に気付いた二人が声を上げるが、俺の意識はそのまま闇へと沈んでいった。
マジでなんだこれ。
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───
──
─
「う……」
「カズマ!」
「カズマさん!」
目を覚ますと、そこは俺の自室だった……はて?
「よかった……」
「アクア、ダクネス!カズマが目を覚ましましたよ!」
俺が起きるなり、目尻に涙を浮かべているゆんゆんと、この場にいない2人を呼びに行くめぐみんの姿があった……えーっと、何があったんだっけ?
「もう、大げさなのよみんな。そもそもただ殴られただけな上にこの私が治療してあげたんだもの。すぐに良くなるに決まってるじゃない」
「私を含め誰もアクアの回復魔法を疑ってはいないが、それでも心配なものは心配だということだ……ああ、思ったよりも元気そうだな。安心したぞカズマ」
めぐみんに引っ張られるようにアクアとダクネスが部屋へと入ってきた。どうやら俺の治療はアクアが行なったらしい。
そうだった、俺はいきなりクリスにぶん殴られて意識を刈り取られたんだった。
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……そういえばそのクリスの姿が見えないな。
「まったく、クリスはまったく!私の仕事を増やして!私だって暇じゃないんですからね!」
とか思っていたらその名前が出てきた。どうやら事のあらましは伝わっているらしい。
「あまり言ってやるな。クリスが悪いのは確かだが、私からしっかりと注意しておいたし……ほら、お前も早く入ってこい」
「うぅ……」
ダクネスに促されて、銀髪の少女が気まずそうに入ってきた。
「さぁ、しっかりカズマに謝るんだ。心配しなくても真摯に謝れば許してくれるさ」
チラリとこちらを見ながら言いやがったよ、このララティーナ。くそ、怒らせるつもりないじゃねぇか。
いや、元々そんな許さないとか言うつもりもないけどさ。
「その……ごめんなさい!!」
クリスが勢いよく頭を下げた。その腰の角度は見事な直角だ。
「あんなことするつもりなかった、なんて言い訳は通用しないって分かってるけど……本当にごめんなさい!!」
どこか泣き出しそうな雰囲気すらある声で謝罪の言葉を紡ぐクリスの姿に、この場にいる俺以外の全員からさっさと許してやれよ的な気配が発せられる……俺、被害者だよね?
そりゃ俺だってもちろん許すつもりではあるが、このままこの空気に従うのも癪なので、若干の抵抗を試みる。
「えーっと、結局何故あんなことを?」
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実際これは疑問ではある。ゆんゆんやめぐみんならともかく、あの流れでは第三者に近かったクリスから攻撃が飛んできた意味はいまだに分からない。
「う……えっと……」
答えづらい内容なのか、口ごもるクリス。しかし、立場的に答えないわけにもいかないと分かっているようで、観念して話し始めた。
「その……キミがゆんゆんと結婚するとか言い出して、しかもゆんゆんも結構乗り気な感じで……そしたら、なんだか急にイヤな気持ちというか、なんとかして止めなきゃ、って思ったっていうか……自分でもよく分からないんだけど……」
実際どう言葉にしていいか分からないと言った様子でたどたどしく話す……あの、俺の自意識過剰じゃなければそれって。
ダメだ!この話はこれ以上踏み込んだらなんというかダメだと思う!
なので、
「あー……言いづらいなら無理に言わなくて大丈夫ですよ。俺もう治りましたし、許しますんで気にしないでください」
「え……いいの?こんな理不尽な理由で殴っちゃったのに……」
「もちろんですよ。ところでアクアとダクネスはなんでいるんだ?そんなに早く帰ってこれる距離じゃないだろ」
無理矢理話題を変えることにした。力業にもほどがあるが、ダクネスはなんとなく俺の意図を察したのか、これに乗ってくれた。
「あ、ああ。私は会議が思ったより早く終わってな。しかも折よくアクセルの町に用があるというテレポートが使える魔法使いもいたので、それに便乗してきたんだ」
ふむ。つまり俺の昏睡の一報を受けて飛んで帰って来た、というわけじゃないのか。そりゃそうか、うん、分かってたよ?別にガッカリとかしてないよ?
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ゆんゆんは理想ってはっきりわかんだね
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「私の方は散々よ!アルカンレティアでのお祭りが盛り上がったんで、せっかくだからって近くの町にみんなで出向いてあげたんだけど」
聞きたくないなぁ、その先の話。
「そしたらなんか警察の人たちが迷惑行為がどうとか言って私たちを捕まえようとしてきて!それで誤認逮捕寸前ってところでアクシズ教徒の中にいた優秀な魔法使いの子にアクセルの近くまでテレポートで連れてきてもらったのよ!失礼しちゃうわ!」
「誤認じゃねえじゃん」
その町に勤務する警察の方々の苦労が偲ばれる。バカが率いる変態集団の相手なんてたまったものじゃなかっただろう。
……あ、そうだ。
「迷惑と言えば、あの呪いのネックレスはどうなったんだ?」
「ああ……アレならアクアさんに浄化してもらったよ。今はこの通りただのアクセサリーさ」
そう言ってクリスがカオス極まりない状況を産み出した元凶である忌々しいネックレスを取り出してみせた。なるほど、確かにさっき見た時感じた禍々しいオーラは消えている気がする。
「おいめぐみん、せっかくだから貰ったらどうだ?呪いが消えたんだし持っててもいいんだぞ」
「遠慮します。紅魔族的にツボだったオーラが無くなってますからね、もう興味ありません」
平然と言いやがる。そもそもお前が駄々こねたせいで話が拗れたんだぞ?
「はいはいはい!いらないなら私にちょうだい!私が浄化したんだからその権利はあるはずよ!」
アクアが手を挙げながら言い出した。
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「俺の勘じゃ、多分売っても大した金にはならないぞ?」
「お金しか判断基準のないあんたと一緒みたいな言い方しないでよクソニート。デザインが気に入ったから欲しいの!……あ、言い方って言えば」
アクアは何かを思い出したように手を叩くと、クリスの方を向く。
……なんだろう、すごい嫌な予感がするんですが。
「クリス、さっき言ってたカズマを殴っちゃった理由だけど……あの言い方だとまるであなたがカズマのことが好きでヤキモチ焼いた、みたいに聞こえちゃうわよ?気をつけなさいな」
シン……と沈黙に包まれる部屋。
このバカ、人がせっかく処理しかけた爆弾を掘り返した挙げ句全力で起爆させやがって!
「え……す、好き?あた、私がカズマさんを……?」
今にも煙が出そうなくらい顔を赤くして呟くクリス。いかん、テンパっているせいか口調がエリスのものと混ざっている。
「あ、あー!そういえばカズマ、ゆんゆんに謝った方がいいんじゃないですか!?適当なことを言って女心を弄んだんですから!」
この流れを絶とうとめぐみんが言う。ええい、こうなったら俺も乗るしかない!このビッグウェーブに!
「あーそうだな!ゆんゆん、ごめん!迷惑かけちまって!」
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「い、いえ!私は気にしてませんので……!」
ゆんゆんが手をパタパタと振りながらそう言うが、
「考えてみれば当然ですよね……私なんて次期族長になっても相変わらずダメダメなコミュ障で、お友達もあんまり増えないし、体型だってカズマさん好みじゃないし……求婚なんてしてもらえるわけないですもん。それなのに調子に乗って身の程も弁えずに悪くないなんて言って……バカだなぁ、私」
とても気にしておられた。
視界の端でなにやらダクネスまで自分の胸を見ながら落ち込んでいるようだったが、それ以上に。
「おい、カズマ好みの体型というのが何を指しているか教えてもらおうか!」
めぐみんの地雷を踏んだようで、ゆんゆんに食ってかかった。
……取り敢えずゆんゆんのフォローはした方が良いよなぁ。俺の思い付きの作戦に巻き込んだ挙げ句にヘコませちまったんだし。
「めぐみん、ちょっと落ち着けって……あのな、ゆんゆん」
「は、はい」
我が家の瞬間湯沸し器を抑えつつ、ゆんゆんに語りかける……あれ、でも何を言えばいいんだろう。
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「あー、えっとだな……」
「……」
ゆんゆんが潤んだ瞳で見つめてくる……ええい、もう引っ込みもつかないし勢いで押しきるしかねぇ!
「結婚だの子供だのはともかく、それ以外に嘘は言ってないんだ。実際ゆんゆんは俺の周りにいない常識人だからいてくれると安心するし、容姿、というか……女の子としても魅力的だと思ってる。あと俺はロリコンじゃない」
「カズマさん……」
俺の言葉にほんのりと頬を染めるゆんゆん。ヤバい、死ぬ。こっ恥ずかしすぎて俺が死ぬ!
「ちょっと!女神である私に常識がないみたいに言わないでよクソニート!」
「おい、何故ロリコンという単語が出てきたか聞こうじゃないか!」
「待てカズマ!貴族として世間とズレが多少あるのは認めるが、それでもこの二人よりははるかに常識も社会性も……あいたっ!や、やめろ!アクアもめぐみんも私の髪を引っ張るな!」
3バカがデカい声で騒いでいるが、俺はそれどころじゃない。
「だからまぁ、その……なんだ……」
だんだんとしどろもどろになってくる俺。くそ、童貞丸出しじゃん!
「……大丈夫ですよ」
と、ゆんゆんがクスリと笑いながら言う。
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「少なくとも今、カズマさんが嘘を言ってないことは分かりますし、それに……」
「?それに?」
彼女はその紅い瞳で俺を真っ直ぐに見つめながら、
「私もカズマさんが魅力的な人だって、気付けた気がしますから」
「え……」
そう、言った。
それって……。
「そこまでですよ二人とも!何をいい感じの雰囲気を出しているのですか!許しませんよそんなの!」
「ちょ、邪魔しないでよめぐみん!」
めぐみんが激昂しながら割って入ってくる。なんだろう、雰囲気が壊れて残念なような、ホッとしたような……。
「か、カズマさん!」
と、ここに来てようやく復活したらしいクリスが声をかけてくる。っていうか、口調が完全にエリスになっちゃってるけど大丈夫なのか?
「私、考えたんですけど!もしかしたら私、カズマさんが──」
大丈夫じゃなかった。とんでもないことを言い出した彼女に、隣にいたダクネスがストップをかける。
「お、おいクリス!何を言っているんだお前は!アレだ、お前は今冷静さを失っている!その証拠に喋り方がおかしくなっているぞ!少し落ち着きを……いや待て、やはりお前、いやあなた様は……!」
この状況でさらにアクアが、
「んー?何かしら、今のクリスを見ていると何かを思い出しそうなんですけど……私のくもりなきまなこにピンと来そうな……んー?」
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と、余計なことに気付きかけていた。
なんだこのカオス。
アレだな、こういう時はリセットをかけた方がいいだろう。ゲーマーの勘がそう言っているし、うん、そうしよう。
というわけで。
「『テレポート』!」
「「「「「あっ!逃げた!」」」」」
俺はほとぼりが冷めるまでトンズラを決めることにしたのだった。
はい、ヘタレです。すんません。
END
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乙シャス!
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はえーすっごい、乙です
野生の先生がまた降臨されたのか
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玉も竿もでけぇなお前(褒めて伸ばす)
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乙シャス!
NaNじぇいには定期的に野生のなつめ先生がpopしますね
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魔王を討伐したパーティーなのにクソしょうもないことで騒動を起こすのヤツららしくてすき
野生の暁なつめ先生次回もオナシャス!
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おーええやん
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