■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■
この駄女神の失態に救済を!【このすばSS】
-
「うわあああああ!ぶわあああああ!ああああああーっ!!」
「……」
とある日。
いつものように昼前に起きて居間にやって来てみれば、バカみたいにバカデカい声でバカがバカ泣きしていた。
その後ろでは、やや疲れた表情のめぐみんとダクネスの姿があった。
……やだなぁ、もう。絶対面倒くさいヤツじゃん。
「心底嫌だが仕方ないから聞くぞ。この状況はなんだ?」
「話すと少し長くなるんですが…原因はアレです」
俺の問いにめぐみんがテーブルを指差しながら答える。そこには黒いTシャツのようなものが広げられていた……ん?なんか胸の辺りに柄があるが……。
そのシャツを手に取って近くで見てみると、
「……なんだこれ」
https://amnibus.com/products/detail/15669
見覚えのあるマヌケ面がガッツリと印刷されていた。
いや、マジでなんだこれ。
「誰かへの嫌がらせで作ったのか?確かに着ればキツいステータス異常のひとつも付きそうだが」
「うわあああああーっ!!」
俺の率直な感想を聞いたアクアが、さらにデカい声をが張り上げて泣きわめく。
「言っておくがカズマ、これはお前にも多少は責任があるんだぞ?」
ダクネスがため息混じりに言う。
「こんな謎Tシャツに対して俺に何の責任があるってんだよ。何でも俺のせいにすればいいってもんじゃないぞ」
-
俺の反論に、やはりため息をつきながらめぐみんが答えた。
「その服がウィズの店で作られた、と言えば分かりますか?」
その言葉を受けて記憶を探ってみる……あ。
「俺が前にバニルに提案したオリT商法か」
以前にバニルから新しいアイデアを乞われた時に半ば適当に提案したプランだ。無地の服を店に持ってくれば、そこに魔導カメラで取った写真や好きなイラストを転写できる、って感じだが、いつの間に実行に移したんだろうか。
「まだ始めたばかりみたいですよ。で、たまたまそれを聞いたアクアが」
「初回割引とかの上手い文句に乗せられてホイホイ利用した結果、こんなもんが出来上がっちまった、と」
「その通りだ」
ダクネスがまた深々とため息をつく。ったく、ちょっと目を離すとすぐこれだ。
「今回使った魔導カメラが少し特殊なもので、被写体の過去の場面をランダムで写し出す機能があって、それを使ったらこれが……」
めぐみんが言う。ふむ、そのランダムの部分が見事にコイツの運の無さと噛み合った、って訳か。
「ま、あんま落ち込むなよアクア。たかがTシャツ1枚だ、勉強料と思えばいいさ」
突っ伏すアクアの肩を叩きながら言ってやる。むしろコイツにしては被害が少なかっただけマシだろう。
「……300枚」
「は?」
「300枚作っちゃったの!!」
いきなりガバッと顔を上げてアクアが叫んだ。え?どういうこと?
「ほら!この箱!!これの中身ぜーんぶこのシャツなのよ!!」
アクアは椅子から立ち上がると足元からそこそこデカい箱を引きずり出した。
マジかよおい!
-
「このバカッ!どんな柄でもいきなりそんな大量に発注するヤツがあるか!」
「だってだって!この私の神々しい姿が描かれたシャツなのよ!?たくさん買えば1枚あたりの値段が安くなるって言うし高値で売り捌けると思ったの!!めぐみんとダクネスだって反対しなかったし!」
ん?
「ちょっと待て、お前らアクアの暴挙の時その場にいたの?」
俺の問いかけに二人が同時にぷいっと顔を逸らした。おいこら。
「……いえ、違うんですよ。ゆんゆんがいたんで『おや、こんな所で何を?私はほぼ毎日カズマとデートしてますが、あなたは彼氏のダストと会わなくていいんですか?』って聞いたらあの子急にマジギレし始めて、それで……」
んなもん誰でもキレるわ。ってかデートって1日1爆裂のことだろ?あんな物騒なデートがあってたまるか。
「わ、私はその……『必ず亀甲縛りになるバインド用ロープ!ドS盗賊職にオススメ!』という極めて魅力的な商品があったのでそれを見ていたらいつの間にかアクアが……」
それ誰に使わせるつもりだよ。ダクネスの周りでバインドが使えるのなんて俺かクリスくらいだぞ?あの人がドSになるのは悪魔に対してだけだし。
ああ、目眩がしてきた。
ダメだコイツら。前から知ってたけどやっぱりダメだ。
とりあえず後でゆんゆんには俺からも謝ろう。あとダクネスが買ったであろうそのロープはこっそり処分するとして……。
「おいアクア、これって返品は」
「出来たらとっくにやってるわよ!」
そりゃそうか。しかしそうなると……。
「お願いカズマさん!お金貸して!もう私ゴマも買えないレベルでスッカラカンなんですけど!!」
-
ほら来た。
本当ならふざけんな、と突っぱねたいところだが、コイツを無一文で放置すれば今度はとんでもない借金をこさえて来かねない。
しかし……。
「っつってもなぁ。俺も今はあんまり金ないんだよ」
「そんなぁー!」
先日クリスとクエストに行って小金を稼いだのだが、すでに飲み代に消えている。あ、もしかして俺が不在だったその日にやらかしてたのか、このバカは。
「まぁ待て。俺に考えがある」
「!本当!?こういう時にカズマさんの小狡さは頼りになるわね!」
ぶっ飛ばしてやろうか、コイツ。
「このシャツをアクシズ教徒に配るんだよ、片っ端からな」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!エリス教徒ならともかくウチの子たちからお金なんて巻き上げられないわ!」
エリス教徒をなんだと思ってんだコイツは。同じことを思ったのかダクネスが顔をしかめた。
「だから『売る』んじゃなくて『配る』んだよ。女神アクアから授けるって感じで」
アクアが本物の女神と知っているアイツらなら拒否することはないはずだ。
「でもこんな本来の私とかけ離れた顔の描かれたシャツなんて、あの子たちをガッカリさせちゃわない?」
「バカ言え、お前を心底慕ってるアクシズ教徒だぞ?どんな姿でも受け入れてくれるに決まってるさ」
「物は言いようですね。単に性癖をこじらせてるだけじゃないですか」
めぐみんが正確かつ余計なツッコミを入れるがスルー。
-
「とにかくだ。出費は痛かっただろうが、お前は身銭を切って自分を信じる敬虔な彼らに施しを与えることになるんだぞ?まさに女神の中の女神と言える行いじゃないか」
実際、俺的女神の中の女神が自分で稼いだ金を自分の教会に寄付してるし。比べるのもおこがましいレベルでその実態は違うが。
「な、なるほど……!そうね!私は女神だもの!彼らのためになるなら、それ以上のことはないわ!よーし、善は急げ!早速行ってくるわね!」
アクアはそう言うと、箱を抱えてピューッと屋敷から飛び出して行った。おそらく町のアクシズ教の教会に向かったのだろう。
「……いいんですか?アクアは気付いていませんでしたが」
「ああ、そもそもの問題……金がないという現状は何も解決していないな。借金など作ってこなければ良いが」
さすがにめぐみんとダクネスは気付いたか。
「ま、大丈夫だろ。あの枚数なら間違いなくこの町のアクシズ教徒だけじゃ余るから、アルカンレティアに行くことになるはずだ。アクアのことだから荷物として送るんじゃなく教徒に直接渡そうとするだろうし」
「それがどうしたんですか?」
首を傾げるめぐみんに指を立てて説明してやる。
-
「あの連中のことだ、アクアが現れて、しかもその顔が描かれた服を配ってくれるなんてなったら大歓迎のはずだ。そうすりゃ向こう1ヶ月くらいはあっちで飯代と酒代には困らず過ごせるだろう。その間に俺たちは適当なクエストでアイツの小遣い分くらいの金を稼ぎゃいい」
「ああ、なるほど。確かに金に飢えた状態のアクアを連れていると余計なトラブルを起こしかねないな」
ダクネスが頷きながら言う。
「そういうことだ。そこまでしてやればさすがのアイツも多少は反省して真面目に働くだろう。出来れば俺の分の生活費も稼いでくれるとありがたいんだが」
「最後が余計ですね……しかし、今回のことで味をしめたアクアが稼いだお金をまたシャツにつぎ込んでしまう可能性もあるのでは?アクシズ教の布教のため、とかで」
「そこはまぁ、俺がウィズかバニルを適当に説得してアクアにオリTを作らせないようにしておくさ。いくつか商品を買って、新しいビジネスプランでも提案すりゃなんとかなるだろ」
めぐみんもダクネスも、俺のプランに納得したようだ。
やれやれ、あのバカのために働くってのは非常に癪だが、さらに状況を悪化させないためだ……ん?
「シャツが落ちてるじゃねぇか。アクアの奴、急ぐあまりに落っことしていったか」
「ちょうど3枚ありますね」
あらためて今回の騒動の元凶を眺める。うーん、やはり見事なマヌケ面。
「……寝間着ぐらいになら使える、か?」
俺が呟くと、同じようにシャツを広げて見ていためぐみんとダクネスも似たようなことを考えていたらしい。
「そうですね、掃除の時とかも使えそうです」
「うむ、私も鎧の下に……ああ、しかしいざ鎧を脱がされた時にこれでは……いやいや、逆に羞恥心が増して良いかも……いやしかし……」
そんなわけで、俺たちもこのクソTを人に見られない範囲で着てみることにしたのだった。
-
───
──
─
「警察です!動かないで!!」
「「「えっ?」」」
後日。
屋敷でくつろいでいると、突如として鋭い声がかかった。何?どういうこと?
「その服……!やはりあなた方も関与していたのですね!拘束します!」
「ま、待ってくれ!これは一体どういうことなんだ!?」
ダクネスが声を上げる。
その問いかけに対し、先頭で警官隊を率いる女性……確か、アクセルの警察署の副署長でロリエリーナ、だったか?が、応じる。
「ララティーナ様……非常に残念ですが、皆さんには犯罪者グループへの関与の疑いがかけられているのです」
「犯罪者グループ!?」
おいおい、冗談じゃないぞ!?
「確かにめぐみんは爆破魔だし、ダクネスは言動が卑猥で公序良俗を乱してはいるが、犯罪者グループなんて言いがかりだ!」
「何を自分だけはマトモみたいに言っているんですかこの男は!息をするみたいに女性のパンツを剥ぎ取るカズマが一番ヤバいでしょうに!」
「めぐみんの言う通りだ!お前にだけは公序良俗だなんて言われたくない!」
-
「え、えーと……今回の事件はですね」
ぎゃあぎゃあと言い合う俺たちに若干引きながらも、ロリエリーナは説明し出した。
話によれば、国の各地で俺たちが着ているアクアTシャツと同じものを着た集団が、エリス教徒の経営するレストランなどに押し入っては難癖を付けて無銭飲食を働いたり、他の客に無理矢理このシャツを着せようとするなどの迷惑行為を繰り返しているらしい。で、そのシャツにデカデカとプリントしてある張本人であるアクアが首謀者として疑われ、ここにガサ入れに来たのだと言う。そしたら俺たちもが同じシャツを着てた、って訳だ。
「……つくづく迷惑な連中だな」
大方シャツを貰ってテンションが無駄に上がり過ぎたのだろう。元々アクシズ教徒は他の宗教……とりわけエリス教徒には攻撃的だし。
取り敢えず俺たちはロリエリーナに事情を説明し、ある程度納得もしてもらえたものの、一応代表者として俺に署まで来るよう言われた。まぁ逮捕を免れるのならそれくらい安いものだろう。
「アクアの奴も悪気があったわけじゃないんですよ。結果的にこうなっちまっただけで」
署へと向かう道すがら、俺はロリエリーナにアクアの無罪……とも言い切れないが、ともかく犯罪者グループの頭なんて大層な物をやってるわけじゃないことを改めて説明した。
-
もしこの一件でアクアが逮捕されて長々とムショ暮らし、なんてことになったら、アイツに俺の生活費を稼がせる計画が台無しだもん。
「ええ、まぁ。冷静に考えてみればアクアさんがそこまでのことをするとは思えませんね。もちろん事情は聞かせてもらいますし、被害にあった方への補償も手伝ってもらいますが……」
要するに、やらかしたアクシズ教徒どもにちゃんと金を払わせろ、ってことだ。まぁアクアに言われれば大人しく言うことを聞くだろうしそこは大丈夫だろう。
俺たちがそんな話をしながら署へと到着すると、
「離してー!私はただ善意でアクシズ教への入信とこのシャツを勧めただけなの!それなのにあの異教徒が『そんなクソみたいな服着れるか!ましてイカれたアクシズ教になんか入るわけねぇだろ!』なんて無礼なことを言うからちょっとゴッドブローを……あ、カズマさん!ちょうどいいところに!助けて!私を犯罪者呼ばわりするこの人たちから早く助けて!」
「違う!違うんだってば!あたしはエリス教徒で、たまたま近くにいただけなのに無理矢理この服を着せられただけなんだよ!……あ、助手君!助手君助けて!」
「……」
首謀者どころか鉄砲玉だったバカと、巻き込まれた被害者がそこにはいた。
……片方は冤罪とはいえ、女神二人が揃って警察のお世話になろうとしているこの世界は、本当に大丈夫なのだろうか。
END
-
なんだこのシャツ!?
-
ちょっと欲しい
-
なつめ先生はここに短編書いてないで早う後日談書いて
-
野生のなつめ先生現れるのほんま草
-
おまけ
その後。
「やれやれ、エラい目に合ったわ」
ダスティネス家の権力、及び俺の王都におけるとあるコネをフル活用することで、アクアの勾留は数日で済み、現在は俺と屋敷への道を歩いている。
隣を歩くバカはすっかり一件落着、みたいな腑抜けた顔になっていた。
ちなみにクリスは俺の証言もあってすぐに釈放された。この貸しは高いですよ、と冗談で言ったらなにやら絶望的な表情になっていたのが気になるが。あの人は俺をなんだと思っているのか。
「お前ちゃんとわかってんのか?これからアクシズ教徒の連中にきっちり今回のツケを払わせなきゃならないんだぞ」
そう、今回の釈放は実行犯であるアクシズ教徒たちに被害者への謝罪と補償をするよう命じることが条件のひとつだ。
「分かってるわよ。大丈夫、みんな根は素直ないい子たちだから。私が言えばちゃんとしてくれるわよ」
「そうかなぁ」
コイツが自信満々なのは不穏なフラグにしか思えないんだが。
と、俺は少し気になっていたことを聞いてみた。
「そういや、あのTシャツどうやって配ったんだ?提案しといてなんだが、アルカンレティアの連中にまで配ったら絶対足りなかっただろうに」
しかも今回の一件では、アクシズ教徒以外の人にも無理矢理着せていたはずだ。どう考えても数が合わない。
「ああ、それなら増やしたのよ。うちに器用な子がいてね、あのシャツを見ただけでどうやって作られたかを見極めて複製してくれたの。ふふん、あんなクソ悪魔やポンコツリッチーの技術なんてチョロいもんよ」
ドヤ顔で言いやがる。まぁこの世界での既存の技術で出来てるんだろうし、不思議ではないが。
「あ、そういえばね」
「ん?」
「何人かのうちの教徒たちが、あのTシャツのカズマバージョンが欲しいって言ってたから、写真をあげたのよ」
えー。
素直に喜べない話だ。あの連中に好かれても損の方が多い気がしてならない。あのセシリーとかいうプリーストも見た目は美人だけど、中身がなぁ……。
「ちなみに聞くが、そのなかなか見る目のある連中はどんな感じのヤツらなんだ?」
一応、一応ね?俺のファンがどんな感じなのかは知りたいじゃん?深い意味はないけどね?
「えーっと、とりあえず全員男性でね」
え。
「みんなすごいムキムキだったわ。みんなカズマの顔と体型がエロ素晴らしいって褒めてたわ!」
「…………そうですか」
俺は二度とアルカンレティアには近づかないことを心に決めた。
おまけEND
-
まホ壊
-
野生のなつめ先生はしたらばで書いたやつまとめて短編集にして
-
>>16
こいついつも同じレスしてるな
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■