■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■
この騒がしい世界の祝福を!【このすばSS】
-
誕生日である。もちろん俺の。
今年は魔王も倒したし、アイリスが「勇者佐藤和真生誕祭」的な催しでもサプライズで開いてくれるのではないか、とか思いながら床に着いた…のだが。
日付が変わろうかという時間、修学旅行の前日のような気分でワクワクしてなかなか寝付けずにいると、部屋の扉の向こうから話し声が聞こえてきた。
『随分と脱ぎやすそうな服ですね。そしてその手に持っているやたら高そうな長いリボンはなんですかダクネス…いえ、エロネス!』
『だ、誰がエロネスだ!これは別に……め、めぐみんこそ!その手に持っている包帯はなんだ!普段足に巻いているものより長いようだが、そんなものを何に使うつもりだ!?』
『これですか。これはカズマに『プレゼントは私』的なアレをやるために用意したものですが何か?』
『……!』
うん、丸聞こえですね。
どうやら俺の素敵な仲間ふたりは、俺を喜ばそうとサプライズプレゼントを用意してくれたらしい。
いやはや、我ながら流石は魔王を討った勇者。いよいよハーレムルートが解禁されたようだ……が。
-
(いや、ふたり同時とかどうすればいいかわからないんだけど)
自慢じゃないが童貞の俺に、こんなエロ漫画のような超展開を捌ける自信は微塵もない。
おそらくこの後は、ダクネスがめぐみんにコテンパンに言い負かされ、ひとりトボトボと帰ろうとするに違いない。問題はその先だ。
仲間への情が深いめぐみんのことだから、そのままダクネスを気にせず俺の部屋にひとり入ってくる、ということはないだろう。となるとルートはふたつ。
めぐみんも撤退するか、めぐみんが誘ってダクネスとふたりで突撃してくるか。
情けない話だが、できれば前者でお願いしたい。初体験はアブノーマルな展開は避けたいお年頃だと分かって欲しい。
『普段は特殊性癖の権化みたいに振る舞っておきながらこういう時はピュアぶって!あざといにも程がありますよ!このなんちゃってマゾネス!!』
『う、うぅ……!』
そんなことを考えていると、予想通りダクネスが舌戦に敗北寸前となった。っていうか口では基本勝てないといつになったら学ぶんだアイツは。
まぁとにかく、これでふたりとも自室に戻る展開になってくれれば……。
『ふぁぁぁ……あら?何してるのふたりとも?』
-
は?
『あ、アクア?お前こそ何故こんな夜更けに……』
『私はちょっと小腹が空いたから何かつまもうと思ったんだけど』
『そ、そうですか。夜中に食べるのは良くありませんよ?今夜は部屋に戻った方が』
(あのバカ、なんてタイミングで出て来てんだ!)
相変わらず間の悪いヤツだ。畜生、嫌な予感しかしねぇ!
『んー……?ここってカズマの部屋よね?何か用事?』
『あ、あー……まぁそんなところだったが、今夜は出直すことにしよう。うん』
『そ、そうですね。私も部屋に戻ります』
お?
これは思ったより悪くない流れだ。なんだ、アクアもたまには良い仕事するじゃないか。
『うーん、よく分からないけどこの時間にわざわざ来たってことは大事な用事なんでしょ?諦めていいの?』
『『えっ?』』
えっ?
『私のくもりなきまなこによれば、ふたりはたまたまここで鉢合わせしちゃってお互いに遠慮してるのね!でも大丈夫!あれでカズマさんはときどき変に懐が深い時があるから、きっとふたり同時でも受け入れてくれるわ!何の用事かは分からないけど!』
おいコラ、こんな時だけ女神らしいこと言ったり俺への謎の信頼を示したりしてんじゃねぇ!っていうか用件も分からないのに無責任に背中を押すな!
『……そうですね。ありがとうございますアクア、おかげで目が覚めました!』
『ああ、私も迷いが消えた。礼を言おう!』
『うんうん、もっと褒めて崇めて奉って!』
あああああ!
(どうする!?どうすんのよ俺!?)
くそ、どこか逃げ場は……逃げ場?
ガチャリとドアが開かれる音を聞く寸前、俺の脳裏に閃くものがあった。
「カズマ!誕生日のあなたにプレゼントを……あれ!?」
「どうしためぐみん?……!いない!?カズマはどこへ消えたんだ!?」
俺は一枚の走り書きの手紙を置いて、
『ちょっと出掛けてきます。朝には戻るので心配しないでね』
テレポートで逃亡したのだった。
-
いいじゃないか最高だ
-
───
──
─
「ハッピーバースデー!!」
「うぉっ!?」
俺がテレポートで逃げた先──白い部屋に辿り着いたと同時に、パァンッ!といいう破裂音とそれに負けない大きな声が出迎えた。
「ふふ、ビックリしましたか?」
「……ええ、そりゃあもう。見ての通り尻餅をつくくらいには」
イタズラっぽく笑う銀髪の女神ことエリスの手には、パーティーでよく使われるクラッカーが握られていた。
「すみません、一度サプライズパーティーってやってみたくて」
言われて周りを見てみると、普段は殺風景な部屋が装飾されていることに気付いた。っていうか正面にデカデカと『お誕生日おめでとう』と書かれた横断幕が掲げられている。なんか全体的に手作り感満載だが……。
出されたエリスの手を取って立たせてもらいつつ聞いてみる。
-
誕生日SSを待ってたんだよ!
-
「えっと、わざわさ俺のために用意してくれてたんですか?」
「はい。ひとりで準備したのであまり本格的にはできなかったんですが……」
あ、どうしよう。なんかめっちゃ嬉しい。
この可愛い女神がひとりでいそいそとパーティーのお祝いの準備をしている姿を想像しただけでにやけてくる。
「……でも、よく俺が来るタイミングが分かりましたね?」
「日付が変わる前後くらいからカズマさんのことを見張ってましたから」
あ、どうしよう。なんかちょっと怖い。
この人、一歩間違えたらストーカーっぽい方向へ行っちゃうんじゃないか。
……あれ?ということは……。
「もしかして、俺がここに来るまでの経緯も」
フイッと目を逸らすエリス。
畜生め。いやヘタレた俺が悪いんだけど。
「そ、それよりほら!パーティーしましょうパーティー!ケーキはもちろん、今日は日本のお菓子も用意しましたよ!特別にお酒も!」
露骨に話を逸らそうとするその気遣いが心に痛い。
とはいえ、過ぎたことを気にしていても仕方がない。
「……ああもう、こうなったらとことん楽しみますよ!せっかくエリス様が用意してくれたんだし、食べ物も酒も全部いただきます!」
最早ヤケクソ気味に、俺は女神とふたりっきりのパーティーを堪能することにしたのだった。
-
───
──
─
その後のことはまぁ、別に特筆するようなものじゃない。
変なテンションになったエリスが抱き付いてきたり、
屋敷に戻ったらもう朝になっていて、めぐみんとダクネスに加えお忍びでやって来たというアイリスにどこへ行っていたのか厳しく問い質されたり、
その時服に付いていた長い銀髪を発見されてさらに詰問されたり、
その夜みんなが開いてくれたパーティーにクリスがやって来たはいいが、うっかり彼女が「朝まで付き合わせちゃってゴメンね」とか言っちゃってまたも修羅場になったり、
ゆんゆんがプレゼントにと明らかに高価すぎるローブをくれたり、
しかもよく見たらそれがゆんゆんが大事な場面で着ているローブとお揃いっぽくてめぐみんが荒ぶりだしたり、
俺にくれた筈の酒を飲んで酔ったアクアがウィズを浄化しかけたり、
まぁ、要するに──いつも通り、この世界らしく騒がしい1日なのだった。
END
カズマさん、お誕生日おめでとうございます。
-
誕生日おめでとうございます
いい所でヘタレるの最高にカズマさんって感じでいいですね
-
オメシャス!
-
NaNじぇいのカズマさんはハーレムルートを着々と進んでいるようで
誕生日オメシャス!
-
よい…
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■