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この健気なぼっち娘に祝福を!【このすばSS】

1 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:28:56 fIFxxhCE
「「「誕生日?」」」

「ええ、ぜひ3人に協力してもらいたいんです」

ある日。
屋敷でくつろいでいると、めぐみんがなにやら真面目な顔で言い出した。
なんでもゆんゆんの誕生日が近く、せっかくなのでお祝いしてやりたいんだとか。

「まぁ私としてもこんなことに我々の時間を割くのは不本意ではあるのですが…あの子のことなので、放っておくとまた一人誕生日パーティーをやりかねませんし。仕方なくといいますか」

妙にソワソワしながら言う…コイツはこれで本心を隠しているつもりなのだろうか。
相変わらずゆんゆん絡みになると面倒くさいヤツである。

「カズマさんカズマさん、めぐみんがまたツンデレしてるわよ」

「言ってやるなよ。あれはアイツの持病みたいなもんなんだから」

「うむ、我々は生温かく見守って…あいたっ!なぜ私だけ…!?」

ダクネスのデコをひっぱたいて満足したのか、めぐみんはコホンと咳払いしてから話を続ける。

「で、せっかくなのでサプライズパーティーにしようかと思うんです。そのために当日アクアとダクネスには会場の準備、カズマにはゆんゆんを会場であるこの屋敷から引き離す役目をお願いしたくて」


2 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:30:20 fIFxxhCE
───
──


「で、引き受けたはいいが…」

そして誕生日当日。
まぁ俺達もゆんゆんには何かと世話になっているので、めぐみんの提案を断る理由はないのだが…。

「それはそれとして、アイツの態度は気に入らないな」

俺がめぐみんに与えられた役目は、ゆんゆんをパーティー会場となる俺達の屋敷から遠ざけることだ。でもそれってつまり俺にゆんゆんとデートしてこい、ってことじゃないのか、と聞き返したのだが、

『デートと言っても、私相手にすらヘタレるカズマですからね。何かやろうとしても何も起きませんよ。その…私の親友であるゆんゆんだってその辺りは分かっているでしょう』

これである。言うに事欠いて人をヘタレ呼ばわりするとは許しがたい。そう、あくまでヘタレ呼ばわりに対しての怒りであって、何かめぐみんの中で俺よりゆんゆんへの信頼が強いような感じがしたことに大人げなく嫉妬したとかではない。ないったらない。

「見てろよあのロリガキめ。佐藤和真の本気を見せてやるよ」

具体的にはゆんゆんが満足いくデートを提供して好感度を上げてやる。
目標がしょぼい?現実的なだけさ。

「さて、と」

とにもかくにもゆんゆんに会いに行かなければ始まらない。俺の勘では、おそらくあそこにいるだろう。


3 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:33:07 fIFxxhCE
───
──


「あら、カズマさん。いらっしゃいませ!」

「あ、カズマさん…こんにちは」

俺の予想通り、ウィズの店にゆんゆんはいた。ざっと店内を見回すが、バニルと、ついでにゼーレシルトの姿は見えなかった。アイツらがいると話がこじれそうだったのでこれはありがたい。

「よう、ウィズ、ゆんゆん。今日はちょっとゆんゆんに用があってな」

「え、私に!?こんななんでもない平凡な日に私に何かご用が!?」

「……」

うん、誕生日を超意識していらっしゃる。
とりあえず俺は、出来る限り毎年彼女の誕生日を祝おうと心に決めたのだった。

「ええと、ゆんゆんは今日誕生日だったよな?せっかくだから一緒に町を回ってプレゼントを買おうかと」

俺が込み上げるものを堪えつつ、ゆんゆんに切り出す。
すると彼女は驚愕に目を見開きつつ、

「!!ほ、ほ、本気ですか!?私なんかの誕生日をご存知だっただけで驚きなのに、そんな…!」

と、トリックを暴かれた推理モノの犯人のようなリアクションをかました。どうしよう、ちょっと本気で泣きそうだよ。

「ゆんゆんさん、これは俗に言う誕生日デートへのお誘いですよ!カズマさんたらてっきりめぐみんさんが本命と思ってましたけど、実はゆんゆんさん狙いだったんですね!」

ウィズがこっちまで丸聞こえの耳打ちをゆんゆんにしているが、余計な問題が起きかねないのでやめてほしい。
とりあえず聞こえないフリをしつつ話を続ける。

「それでどうだ?嫌なら別に」

「行きます!超行きます!超行かせていただだきます!!」


4 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:34:29 fIFxxhCE
ものすごい勢いで返事をしてきた。が、その際彼女の手が近くの棚の商品に当たってしまい──。

「あっ!」

「危ねえ!」

二つ並んで置いてあったブレスレットらしきものの一つが落下しそうになり、俺は咄嗟にそれをキャッチしようとした、のだが。

「あっ!そ、それは!」

ウィズが声を上げたときにはすでに遅く、その二つのブレスレットが眩い光を放った。

「ひゃっ!?」

「うぉっ!?」

思わず驚きの声を出す俺とゆんゆん。光そのものはすぐにおさまったのだが…。

「あ、あれ…?」

「……」

気付くと、俺とゆんゆんの手にはそのブレスレットが装着されていた。
…嫌な予感しかしないが、俺たちは気まずそうな顔をしているウィズに問いかける。

「で、これは一体どんな迷惑アイテムなんだ?」

「め、迷惑だなんて!ちゃんとした商品…なんです、よ?」

目を泳がせながら言うウィズだが、俺達のジットリとした視線に耐えかねたように説明を始めた。

「そのブレスレットは、装着した人同士で運のステータスを入れ換えるマジックアイテムなんです。人呼んで『エリスの気まぐれ』」

「『エリスの気まぐれ』…ねぇ」

その名称に、いつもお世話になっている銀髪の女神の姿が思い出される…本人が知ったら『気まぐれでそんなことしませんよ!』とか言いそうだなぁ。

「ってか何の意味があるんだよそれ。案の定まったく外れねえし」


5 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:36:06 fIFxxhCE
どこにも繋ぎ目らしきものがない上に手首にピッタリとフィットする大きさであり、普通の手段ではおよそ外れそうにない。

「蓄積した魔力が尽きれば自動的に外れる仕組みなので…おそらく半日くらい待ってもらえれば大丈夫です。特にデメリットもありませんし」

「俺からすればデメリットしかないけどな。数少ない取り柄が一時的にとはいえ失われるんだから…本当に何のためのアイテムなんだよこれ」

改めてバニルの普段の苦労が偲ばれる。隙あらばこんな厄介なものばかり仕入れられたんではたまったもんじゃないだろう。

「運という天性のものを入れ換えることで、よりお互いへの理解と友情、愛情が深まるという素晴らしいアイテムなんです!まぁ今回は意図せず装着されてしまったのでアレですが…」

「ゆ、友情…!」

俺がウィズの力説を呆れ半分に聞いていると、ブレスレットを困り顔で見ていたゆんゆんがなにやら反応した…どれだけ友情に飢えてるんだよ。元引きこもりの俺が言うのもなんだが悲しすぎる。

「カズマさん、半日だけですし我慢しましょう!そして友情を深めましょう!」

「あ、はい」

その勢いに押されて思わず了承してしまう…いやまぁ、実際そこまで大きなトラブルにはならなそうだしいいけどさ。
これがアクア辺りと入れ換わろうものなら意地でも外す努力をしているところだが。アイツ並の運になったら俺なんかいよいよスペランカーばりの頻度で死にかねない。


6 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:42:12 fIFxxhCE
「それで、ですね…あの、町を回るのもできれば予定通りに…」

さっきウィズが余計なことを言ったせいか、やたらモジモジしながらゆんゆんが言う。

「分かってるって。今からでいいか?」

「も、もちろんです!今行きましょうすぐ行きましょう!」

妙なテンションになってきたゆんゆんとの距離感を測りかねつつ、彼女とともに店から出ることにする。

「頑張ってくださいね、ゆんゆんさん!めぐみんさんには悪いですけど私は応援してますよ!」

余計なことをまた言ったポンコツ店主のために、俺はこの一件のクレームをバニルに入れることを決めた。


───
──


どうやら俺の見通しは甘かったらしい。


「大変だー!牧場から暴れ牛が町にー!」

「ぬあああああ!?なんで俺の方に来るんだよおおおおお!?」

「か、カズマさーん!!」

とか。

「なんてこった!突然地面が崩落したぞー!」

「ひいいいい!落ちる、落ちるううううう!」

「か、カズマさーん!!」

とか。

「わあああああカズマさん!カズマさーん!!」

「バカッ、なんで大量の犬に追いかけられてんだこの駄女神!つーかお前ここにいちゃダメだろうが屋敷に帰れっ!ああもうこっち来んなあああああ!!」

「か、カズマさーん!!」

とか。
その他にも色々散々な目にあいましたとさ。
なんだこれ。


7 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:43:58 fIFxxhCE
───
──


「ごめんなさい…私、そこまで運のステータスは低くないはずなのに」

「ゆんゆんのせいじゃないって。どっかのアホが作ったこのブレスレットが悪い」

現在俺たちは町外れにあるカフェで休憩中である。怒涛のトラブルラッシュに見舞われた俺はもとより、そんな俺を助けるために魔法を使いまくる羽目になったゆんゆんも少し疲れている様子だ。

「しかし…なんでこんな事になるんだ?いくらなんでも不運続きすぎるぞ」

もしかしてアレか、俺には実は貧乏神的なものが憑いていて、普段は俺の天性の幸運がソイツがもたらす不運を防いでくれている、みたいなことなのか?
うん、今日のことを考えると割と納得できる仮説だ。

「ゆんゆん、いい塩を売ってる店を知らないか?」

「えっ?お塩…ですか?なんのために?」

「アクアに全力でぶっかけるんだ」

「なぜ急に!?」

だって貧乏神候補の筆頭だもんアイツ。今度からキングボンビーって呼んでやろうか。

「まぁアクアを祓う塩は後にするとして…いい加減プレゼントを買いたいところだけど」

「祓うんですか!?…って、あ、そうでしたね、ぷ、プレゼントってお話でしたもんね」

俺の言葉にまたもモジモジしだすゆんゆん。

「今日はゆんゆんに助けてもらってばかりだからな、せめてプレゼントはちゃんとしたものを贈らせてくれ」


8 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:45:07 fIFxxhCE
もちろんメインはこの後のパーティーではあるが、俺個人からのプレゼントも手を抜きたくはない。

「い、いえ!そもそも私が原因ですし…こうやって誕生日に一緒にお出かけしてもらえているだけで十分というか」

「お出かけって言ってもな…なんかほとんど俺のお守りみたいになってるし」

ウィズは誕生日デートとか言っていたが、こんなカオスな状態を世間一般的にデートとは呼ぶまい。いや、童貞だから知らんけど。

「そんなことないです。なんというか…こうしてカズマさんと二人きりで過ごすことって今までなかったので、新鮮で」

「言われてみればそうか。大抵めぐみんたちが一緒だしな」

パーティーにゆんゆんが一時的に加わったことは何回かあるが、こうして一対一で行動する機会はなかった気がする。

「でもなぁ、だからこそ俺としてはもうちょっといいカッコしたいんだよ。何か欲しいものはないか?金ならあるぞ」

「最後の一言は余計だと思います…欲しいもの、ですか。うーん」

顎に指を当てて悩み始めるゆんゆん。これがもし駄女神あたりなら「高いお酒!」と即答していたことだろう。
この控えめさと常識をあのバカが少しでも持ってくれれば…。

「あっ!そうだ!…え?か、カズマさん?どうして泣きそうになってるんですか?」

おっと、いかんいかん。非情な現実に打ちのめされてる場合じゃなかった。

「気にしないでくれ。で、欲しいものは決まったか?」


9 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:46:16 fIFxxhCE
「えっとですね…写真を撮りたいなー、なんて」

「写真?」

「はい…できればカズマさんと一緒に。今日の記念で」

おいおい、ちょっと謙虚すぎるのではなかろうか。金に物を言わせる気満々だった自分がいよいよダメ人間に思えてきてしまう。

「ダメですか?」

「いや、もちろんいいけど…それだけでいいのか?もっと欲張っていいんだぞ」

「私にとってはすごく欲張りなお願いなんです」

ううむ。
本当は服なりアクセサリーなりを買ってやりたいところなのだが、これ以上言うと写真を撮るのを嫌がっていると思われかねないな。
色々と思うところはあるが、ここは彼女のお願いを素直に聞くことにする。

「…わかったよ。んじゃ店で魔導カメラを借りてくるか」

「はい!ありがとうございます!」


───
──


「えっと…こんな感じで、と。よし、タイマーかけるぞー」

「は、はい!」

三脚に魔導カメラをセットし、タイマーを設定する。ただ撮るだけなら安価な、日本で言うところのインスタントカメラ的なものもあるのだが、せっかくなので三脚と一緒にちょっとお高めのものを写真屋からレンタルしてみた。ぶっちゃけそろそろ甲斐性を見せたいって思いもあったしな。

「時間は…5秒でいいか。うし、行くぞー」

タイマーが起動したことを確認してから小走りでゆんゆんのところへ向かう。


10 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:49:38 fIFxxhCE
「あ、危なーい!うちのキャベツが!」

「へ?…おぶっ!?」

「か、カズマさん!?」

不意にどこからかかけられた声に振り向くと、緑色の物体が俺の目の前に迫っていた。当然、俺に避けられるはずもなくモロに喰らう。
なんとか意識を飛ばさず済んだのは奇跡と言っていいかもしれない…が、身体は衝撃でふらつき、そのままゆんゆんの方へと向かって──その結果。

「だ、大丈夫で…んむっ!?」

「…!?」

俺の唇が何か柔らかいものに触れた。
…いや、何かっていうかゆんゆんの唇なんだけど。
そして何故かそのままの状態で静止する俺達。実際には大して長い時間じゃなかったのかもしれないが、俺には数分にも、数時間にも感じられた。

「「……」」

いや、しかしめっちゃ柔らかいなおい。ってかなんでゆんゆんも離れようとしないんだろ?あ、なんかパシャッて音が聞こえた気がする。

「あ、あのー…」

「「!?」」

声がかかったことで二人揃って正気に戻り、慌てて身体を離した。
いやいやバカか俺は!?何ちょっと堪能してるんだよ!?
ゆんゆんは今まで見たことがないくらいに顔を真っ赤にさせている。多分俺も似たようなことになってるんだろうが。

「ええと…すみません、うちのキャベツが」

「いえいえ!お気になさらず!何も起きてませんので!」

謝罪してきた農家らしき女性に、誤魔化すように勢いよく返事をする。この人は悪くないんだ…すべてはこのブレスレットと、油断すると野菜が飛んで来るようなこの世界が悪いんだ…!
こちらの気まずさを察してくれたのか、農家の人は早めに去ってくれた。


11 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:50:19 fIFxxhCE

「…えーと、ゆんゆん?」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

俺の呼び掛けに身体を跳ねさせる。

「あー、さっきのことは…ん?」

ふと、自分の手に違和感を感じて見てみると、

「あっ!ブレスレットが外れてる!」

「えっ!?」

いつの間に外れたのか、今日俺達を散々振り回してくれたブレスレットが足元に落ちていた。ゆんゆんの方も同じ状態だ。

「やれやれ、やっと解放されたか。最後の最後にとんでもないオチつけやがって」

拾ったブレスレットを思わず睨み付ける。本当なら叩き壊してやりたいくらいなのだが、一応ウィズの店の商品だ。クレームとともに突き返さなければならない。

「…あの、カズマさん。そういえば写真は…」

「あ。いけね、忘れてた」

さっきシャッター音が聞こえた気もするので、おそらく撮れているのだろう。さっきのショッキングな絵面が。
とりあえずカメラを確認してみる。

「仕方ない、撮り直しを…あれ?フィルムがもうないじゃん!」

なんてこった。変にお高いカメラを借りてしまったせいでもう持ち合わせがないってのに。

「あ、あの…私はさっきの一枚で十分ですので」

「え?いやでも…」

「大丈夫です。恥ずかしいですけど…あれも思い出、ですから」


12 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:52:00 fIFxxhCE
柔らかく微笑みながら言うゆんゆんに、なんだかドキリとしてしまう。

「そ、そうか。じゃあコイツを現像に出すか。多分明日には出来上がるだろうし」

誤魔化すようにちょっと早口で言ってしまう。いかん、この状況は童貞にはちょっとハードモードすぎる…!

「はい」

対してゆんゆんは満足気である。
…あれ?そういえば俺は確か今日、ゆんゆんの好感度を上げようとか思ってたんだが…これ、もしかして成功してるのか?

「あのさ、ゆんゆ──」




「あっ!こんなところにいましたね二人とも!」

…正直ちょっと予想していたオチに、思わずため息が漏れる。ゆんゆんも似たような思いらしく、なんとも微妙な表情になっている。

「なんだよめぐみん。間が悪かったり空気が読めなかったりはアクアの専売特許だぞ」

「何を訳の分からないことを言っているんですか。そもそもカズマがいつまで経ってもゆんゆんを連れてこないのがいけないんです!約束の時間はとっくに過ぎているんですよ!」

言われてみれば確かに。計画していた時間稼ぎはとっくに達成していた。していたけどさぁ?なんかさぁ?

「とにかく屋敷に帰りますよ!ほら、ゆんゆんもさっさと着いてきてください!」

「えっ?私も?なんで?」

「ああもうこれだからぼっちは!普通なんとなく察しがつくでしょうに!いいから着いてくればいいんですよ!」


13 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:53:04 fIFxxhCE
杖をブンブン振り回して激昂しながらさっさと歩き始めるめぐみんに、ゆんゆんも戸惑いながらも着いていく。俺もそれに続こうとして…っと、いかんいかん。

「二人とも、俺はちょっと寄るところがあるから先に行ってくれ」

「は?寄るところ?…まぁ構いませんが、早くしてくださいね?時間も押してるんですから」

振り返っためぐみんは怪訝そうにしながらも、俺の言葉に従い再び歩き出した。どこか申し訳なさそうにしているゆんゆんには、めぐみんに聞こえないようそっと耳打ちする。

「チャチャッとカメラ返して現像の依頼して…あとウィズにこのブレスレット返してくるから、気にせず行ってくれ」

「すみません…私のワガママで」

「いいって。あ、あとな」

「えっ?」

このあとのネタバラシで誤解が生まれないよう、あらかじめ言っておこう。

「今日は俺も…ゆんゆんと二人で過ごせて良かったよ。お世辞じゃなくな」

「え──」

返事を待たずに、俺はさっさと目的地目指して駆け出した。
だってこっ恥ずかしいんだもん!


14 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:54:14 fIFxxhCE
───
──


で、その後。
写真屋に行った後ウィズの店に行ったらすでにウィズが軽く焦げており、おそらく彼女が自分で口を滑らせお仕置きされたようだったとか、
ついでなんでウィズとバニルに誕生日パーティーのことを話して参加してもらったとか、
帰り道でダストたちと会ったんで同じようにパーティーに誘ったとか、
大所帯で屋敷に戻ると、どどんことふにふら、それにあるえがおり、どうやらわざわざ誕生日を祝いに来たようだったりとか、
ゆんゆんが感動しすぎて失神しかけたりとか、
まためぐみんがツンデレしたりだとか、
まぁ色々あったのだが──なんとか無事に、ゆんゆんの誕生日を盛大に祝うことができたのだった。
……が。

───
──


「カズマ、この写真はどういうことですか」

「正直に話した方が身のためだぞ」

「うげっ」

後日、俺が部屋で寛いでいると、めぐみんとダクネスがやって来て、いきなりビシリと一枚の写真を突きつけてきた。
はい、お察しの通り俺とゆんゆんのキスシーンです。うっかり落としていたらしい。
自分用にと一枚多く現像を依頼したのだが、写真屋のおっちゃんに口外しないよう『ほんの気持ち』を握らせまでしたのに、こんな凡ミスを犯すとは…!

「私を興奮させるために撮ったのなら、残念ながら的外れだ。私はもっと直接的かつ肉体的なネトラレシーンでなければ興奮しないっ!」

「ダクネスはちょっと黙っていてください」


15 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:55:58 fIFxxhCE
変態の妄言はともかく…どうしたもんか。
キス自体は事故なのでやましいことはないのだが、写真をわざわざ持ち歩いていたっていうのは言い訳しづらい。
いや、別にダクネスはもちろんめぐみんとも正式に付き合ってるわけじゃないんだから責められる筋合いはない…と思うけど。
なんとかこの厄介な状況を抜け出す方法を考えていると、

「ちょっとカズマ、アンタ今日食事当番でしょ!家事くらいちゃんとやりなさいよクソニート!早くして!ご飯の支度を早くして!…あら?」

腹を空かせたバカが入ってきた。おお、コイツにしてはいいタイミングだ!ここからなんとか有耶無耶に持っていければ…。

「アクア、すみませんがご飯はもう少し待っていてください。今この男に重大な問いを…」

「何その写真?何が写ってるの?」

スタスタと歩いてきたアクアは、めぐみんの持っていた写真をひょいと取り上げてしまった。

「ちょっ!?」

「おい、待てアクア!その写真は重要な…!」

慌てるめぐみんとダクネスをよそに、アクアは写真に顔を近づけてガン見する。そして。

「あわ、あわわわ…」

プルプルと震えながら顔を上げると、

「ひ、広めなきゃ…カズマとゆんゆんが深い仲だって町のみんなに広めなきゃ…!」

そのまま写真を持って部屋から走り去った。
…おいおいおいおい!!

「待てバカッ!これ以上事態をややこしくするんじゃねぇ!」


16 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 02:57:58 fIFxxhCE
慌てて駄女神を追いかける。後ろからめぐみんとダクネスの声が聞こえた気もするが、今はそれどころじゃない!

───
──


「おっ、カズマじゃねーか。聞いたぜ〜?アイツに行くとはやっぱりお前ロリコンだったんだな。止めはしないが俺を巻き込むなよ?」

「あっ、カズマさん!私が思った以上に上手くやったんですね!これもうちの魔導具のおかげでは!?というわけで、よければさっき手に入れたこちらの商品も…ば、バニルさん?いつから後ろに…!」

「結局助手君も大きい胸に走るんだね!このエッチ!スケベ!いつか天罰を当てちゃうから!ばーかばーか!!」

───
──


「畜生、もう思いっきり広まってるじゃねぇか…」

あのバカの顔の広さをこんなところで思い知らされるとは。一体何人に吹聴して回ったかは分からないが、今更アイツを捕まえたところで事態は終息しないだろう。
ため息をつきながら歩いていると、

「あの、カズマさん」

と、控えめな声がかかった。

「おう、ゆんゆん」

「ど、どうも…」

ほんのり顔が赤くなっているのを見るに、すでに噂については知っているのだろう。ただでさえ恥ずかしがり屋の彼女には辛い状況になってしまった。

「悪い、俺がヘマしたせいでこんな噂が広まっちまって」

「い、いえ!写真を撮りたい、だなんて言い出したのは私ですし…でも」

「ん?」

ゆんゆんがふと怪訝そうな表情になる。


17 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 03:00:16 fIFxxhCE
「アクアさんが写真を持って言いふらしてるって話ですけど、どこであの写真を手に入れたんでしょうか?私のもらったやつはお財布に入れてありますし」

「ああ、俺が自分用に現像したヤツを落としちまったんだよ」

「…えっ?」

「あっ」

やっべ。
言っちまった。

「…カズマさんもあの写真を?」

どうしよう、恥ずかしい。
ちゃんとした記念写真ならともかく、事故によるキスシーンの写真をわざわざ現像して持ってたって、しかもそれを本人に知られるってなんかめっちゃ恥ずかしい。めぐみんとダクネスに突きつけられたときは面倒なことになったくらいにしか思わなかったのに!

「え、えーっとだな…その…」

ああもう、なんでこういう時には回らないんだ俺の口は!今こそ上手い言い訳で乗り切るところだろうが!
しかしそんなキョドりまくる俺を見たゆんゆんはクスクスと笑いながら、

「大丈夫ですよ。なんというか…イヤな気はしないんです」

「…引かない?」

「はい」

微笑むゆんゆんを見て、ホッと息をつく。



「カズマさんもあの日のことを特別に思ってくれてるって分かりましたから」

「っ」



あれ、なんだろう。さっきとはちょっと別の種類の恥ずかしさが…なんなんだこれは。

「あの、さ。ゆんゆ」

俺が言いかけたところで、




「…あ、いましたよダクネス!あの男、案の定ゆんゆんと一緒にいます!」

「なんだと!?おのれ、我々の追及の直後に逢い引きとはいい度胸だ!実は巨乳が好みだったのに私をフッたことも併せて許せん!ぶっ殺してやる!!」

「ちょっとダクネス、殺すのはやり過ぎよ。私の仕事が増えちゃうじゃない。ただでさえ情報発信という大仕事をやり遂げたあとなんだからね」

うちの3バカがやってきた。おのれ、またも間の悪い…!


18 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 03:01:46 fIFxxhCE
「逃げるぞ、ゆんゆん!」

「へっ!?あ、はい!」

俺は咄嗟にゆんゆんの手を握り、全力で駆け出した。

「あぁっ!?手!あの男、手を繋ぎましたよ!」

「問題ない!切り落とす!」

「ちょっと、ダクネスがなんかキマっちゃってて怖いんですけど!」

「ヘタレられても困ると思って精神を高揚させるポーションを飲ませた甲斐がありましたね!アクアも飲みますか?」

「絶対に嫌ー!」

よし、絶対に逃げ切ろう。
逃げた先でどうすんだって話ではあるが、もうそれを考えるのは後だ!
そんな必死の逃走の中で見たゆんゆんは、



──なぜか、少しだけ嬉しそうだった。




END


19 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 03:02:27 fIFxxhCE
ゆんゆんさん、お誕生日おめでとうございます。


20 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 03:11:03 HbUU.CiQ
オメシャス!


21 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 03:11:17 1znx4iGU
大作いいゾ〜


22 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 04:16:34 Dbbr/ju6
すばらすばら
こういうのでいいんだよこういうので


23 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 04:22:14 PyJO8FQY
まーたなつめ先生がしたらばに新作投稿してるのか(すっとぼけ)

いままでのまとめて短編SS集にしたらコミケ出せそう


24 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 12:17:45 qq7RR40k
キャラの行動や性格を完全に再現していて相当読んでないと書けないであろうSS
ウィズの恋愛面の下世話な部分すき


25 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 14:15:34 /dvQyxoM
最近は逆レスレに慣れてたせいで純愛で逆にびっくりした。素晴らしいと思いました。


26 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/02/29(土) 18:18:25 fjc1dgoo
改めて考えるともっと違う関係でもっと違う設定で出会える世界線選べたらヒロインレースぶっちぎってそうですね


27 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/03/01(日) 00:41:28 EjaJVcAk
これは いいSSだな・・・・


28 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2020/03/01(日) 01:42:42 s7Vpyf2c
エリス様は恋愛の神様だった・・・?


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