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【短SS】川島瑞樹「日曜の夜には映画と愛を」
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「ビル・エヴァンスの"Waltz For Debby"か」
「ベタだけど、いいものね」
スピーカーからカサカサとノイズ混じりに流れるジャズに、ふと言葉が誘い出される。
「このアルバムだと村上春樹を思い出す、ノルウェイの森さ」
「私は映画『大停電の夜に』ね」
「豊川悦司か、あれはいい映画だったな」
他愛もない会話をする日曜の夜、バーの店内は客もまばらで静かだった。
控えめな照明は影を作り、二人の輪郭をクリーム色の壁に形作る。
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二人がバーに来たことに、理由は特になかった。
ただ日曜日の喧騒から少し離れて、落ち着いた時間を過ごしたかっただけだったのだ。
言い出したのはプロデューサーからだった。
「久々にマティーニを飲みに行きたいんだ、君も来ないか」
本当は今夜、飲み会にでも行こうかと彼女は決めていた。
しかしプロデューサーからの誘いには、どうしても否と言えなかったのだ。
彼女は実際、バーへ向かうタクシーの車内で彼にそのことを打ち明けた。
「次の機会に参加すればいいさ、詫びるのなら僕も同席しよう」それが彼の返答だった。
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コトリと音を立て、グラスが前に置かれる。
「ドライ・マティーニです」抑揚のない声でマスターは告げた。
「マティーニか、なんの映画を思い出す?」
「007、『カサブランカ』、『ミスター・アンド・ミス・スミス』…」
「僕は『七年目の浮気』だな、あのくだりは笑ったよ」
「縁起でもないわよ」
瑞樹はグラスを持ったまま、少し苦笑していた。
「私たち、どうも映画が好きみたいね」
「それなら、この後は映画でも見に行こうか」
瑞樹は指を顎に当て、映画のラインナップを思い浮かべた。
「特に見たい映画はないから、プロデューサー君に合わせるわ」
「実は僕も思いつかなくてね、君に合わせようと思ってたんだ」
「ふふっ、私たち似たもの同士なのね」
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それからしばらく、二人はグラスに時折口をつけながら映画談義にふけっていた。
近年の映画のこと、少し前に二人で観た映画の感想、奇をてらうようになる前の映画演出への追想…
談義にふける二人を見た者は、きっと二人を役者だと思っただろう。
それくらいに二人の雰囲気や会話内容は、バーの空気によく合っていたのだ。
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少し顔を赤らめ、日付の変わる頃にようやく二人はマンションの一室に帰り着いた。
外套をコートハンガーに掛け、ネクタイを軽く緩める。
「他所でまで芸能関係者とやらは有名人ぶらねばならないから辛いものだ」
「でもこの部屋では話は別」
「その通り、ここでだけは一介の男でいれる」
外したネクタイを、瑞樹はプロデューサーの手から受け取る。
「それは私もよ」
微笑む瑞樹をプロデューサーはそっと抱き寄せ、口付けを交わした。
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「始めからここまで考えて私を連れだしたの?」
ベッドに横たえられ、瑞樹は呟く。
「違う、と言えば嘘になるな」
プロデューサーは表情を崩さず返答し、瑞樹の上着のボタンを一つ一つ外し始める。
「いけない子ね」
頬を紅潮させながら、瑞樹は少し嬉しそうにそう言った。
その間にも手はスカートに伸び、ゆるやかにそれを脱がせてしまった。
「次は私よ」
瑞樹は身体を起こし、プロデューサーのシャツのボタンに手をかけた。
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産まれたままの姿になり、ベッドの上で向かい合う。
そして二人は唇を交え、プロデューサーは瑞樹に覆いかぶさった。
「さて、そろそろかしら?」
瑞樹が言葉を呟くとプロデューサーは彼女の肩に手を回し、そしてそっと挿入し繋がった。
瑞樹は堪えるように嬌声を抑え、目をつぶる。
「我慢しなくていい」
プロデューサーの言葉に瑞樹は目をゆっくり開き、彼を抱き返した。
「優しく、お願いするわ」
「わかっているさ」
瑞樹の目を見つめ返してから、プロデューサーはゆっくりと腰を動かし始めた。
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快楽に身を委ね、ただ互いを抱きしめ合う。
嬌声を上げながら、瑞樹は時折プロデューサーの名を呼んだ。
そしてその度に彼は、返事代わりに頭をさっと撫で瑞樹を安心させるのだった。
喧騒の去ったマンションで、寝息も聞こえぬ部屋で本能のまま身体を重ねる。
「プロデューサー君、私もう」
「僕もそろそろだ、一緒にいこう」
互いを強く抱き寄せた時、二人は同時に絶頂を迎えた。
そして荒れた息を整えながらも、二人は相手を離さなかった。
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シャワーを浴び終え、バスローブに身を包みプロデューサーは瑞樹のもとへ戻る。
「少し荒くしたかもしれない、悪かった」
申し訳なさそうにするプロデューサーに、瑞樹は優しく微笑みかけた。
「丁度いいくらいだったわ、それでこの後はどうする?」
「そうだな、映画でも見ようか」
情交の後に映画などという珍妙さに、二人は思わず笑わざるをえなかった。
しかし他には何も思いつかず、そうせざるを得ないのも事実だった。
「何の映画にするの?」
「さっき言っていた映画にしよう、『カサブランカ』でも観ようか」
「それはちょっと気取りすぎかしら」
「なら『七年目の浮気』だ、さぞかし笑えるぞ」
「それで決まりね」
棚からDVDを取り出し、プロデューサーは円盤をプレイヤーにセットした。
そして瑞樹の隣に座り、再生ボタンを押してから彼女の肩を抱き寄せた。
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とりあえず以上です、ほとんど自己満足のような作品なので流し見程度に見てください。
ホントは昨年夏に書き上げていたんですが規制で書き込みすらできず、旅先のWi-Fiから書き込めた今日までストックに保留されてました。
ちなみに今回言及された作品だとオススメは『七年目の浮気』です、特に(お高いですが)日本語吹替版がなかなか良いですよ!
月曜日が休みで連休の人も、明日が仕事の人も、たまには映画を観て過ごす夜はいかがでしょうか?
では、おやすみなさい
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ミジュキ…
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興奮してきたな
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誕生日おめでとうございます
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NaNじぇい民らしからぬ気品に富んだSS披露しちゃってさぁ…恥ずかしくないのかよ
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