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この病んだお頭の暴走を!【このすばSS】
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https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/20196/1570798182/
↑の続きです
1
「本当にいいのか?私も手伝わなくて」
「いいから座ってろって」
台所に猪を運んでもらったところで、ダクネスが手伝いを申し出てきた。そりゃ一人で料理するのはそれなりに骨が折れるが…。
「流石に調理どころか食ったこともないヤツにやってもらうわけにはな」
ただでさえ俺がこれから作ろうとしているのは日本の料理だ。この、かろうじて可もなく不可もなくな腕前のお嬢様には残念ながら出る幕はないだろう。
「そ、そうか…そうだな…何かできることがあったら呼んでくれ」
少し肩を落としながら居間へと向かうダクネス。正直罪悪感が湧かないでもないが、せっかく作るのだからこちらとしても妥協はしたくない。
俺は佐藤和真。いずれ冒険者をやめ料理人で食っていこうと割と本気で考えている男。
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もう始まってる!
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「カズマ、私も手伝いましょう」
調理を開始して数十分後、めぐみんがふらりと現れてこんなことを言ってきた。
「猪の調理なら私も多少は覚えがあります。任せてください」
「まぁ虫が主食だった時期もあるくらいだしな」
「おい、その件はさっさと忘れてもらおう!」
そうは言われてもあれは簡単には忘れられない絵面だった。そりゃ日本にだって佃煮とかで食う文化はあるが、ただの丸焼きで、しかもそれ一品で1食を賄うのはロックすぎる。
「でもなぁ、多分俺の国とは色々勝手が違うと──」
そこまで言ったところで、後ろから大きな声がかかった。
「ちょっとめぐみん!!」
その声にチッと舌打ちしつつ、めぐみんが面倒くさそうに答えた。
「なんですかゆんゆん。私はこれからカズマと適度にイチャつきつつ料理をするので忙しいのですが」
「あんたがカードゲームで5回勝負って言ったんでしょ!?最初は3回勝負だったのに自分が不利になったからって延長しといて自分が勝ったら逃げるなんて許されないわよ!!」
どうやらまたも不毛な勝負が行われたようだ。ゆんゆんもいい加減この爆裂娘の逃げ道を塞ぐ努力をした方が良いと思うんだが。
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「ほほう、ではゆんゆんは私にカズマを手伝うなと?カズマ一人にすべてやらせろと?急に来た客の身で言うわけですね
?」
「…!う、うぅ…!」
痛いところを突かれたのか、押し黙ってしまうゆんゆん。こういう時ネタ種族にあるまじき真面目さや常識人さが足を引っ張っちまうんだなぁ…。
「ゆんゆん、気にしなくていいぞ。今日の料理は俺の国のだからな、残念ながら手伝える部分はないんだ」
「!?」
「カズマさん…!いいんですか?」
「ああ、遠慮せず持ってってくれ」
俺の無慈悲な宣告にめぐみんが唖然とする。
俺は佐藤和真。OMOTENASHIを大切にする男。
別にイチャつきながら料理するという未体験なシチュエーションにビビったわけではない。
「ありがとうございますカズマさん!ほら、行くわよめぐみん!」
「や、やめろぉ!カズマの裏切り者ぉ〜…」
ズルズルと引きずられる音とともにめぐみんの声が遠ざかっていく。
…なんだろう、何故かめぐみんに裏切り者と言われるのが今は妙にキツい。
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「や、助手君」
「今度はお頭ですか…あいにく手伝ってもらうようなことはありませんよ」
めぐみんが騒いでからさらに10分ほど後。
今度はクリスがひょこっと台所に顔を出した。
「みたいだね。日本の料理じゃあたしたちは手伝えそうにないや」
「わかってるならなんで来たんですか」
手を止めずにチラリと後ろを見てみると、気付かないうちに思ったより接近していたクリスの顔がすぐ近くにあり、少しドキッとしてしまった。
当のクリスは俺の手元を見ながら「ほうほう」だの「ふむふむ」だの呟いている。
「…邪魔するなら戻ってくださいよ」
動揺を悟られまいとややキツめの言葉を使ってしまったが、クリスは気にした様子もなく、
「邪魔する気なんかないって。むしろ心配だから来たんだよ?」
「何の心配ですか」
「キミが指を切ったショックとかでうっかり死んじゃわないか、とか」
「死ぬかっ!」
この世界の女神は俺をスペランカー扱いしなければいけないルールでもあるのだろうか。
しかしクリスは肩をすくめて、
「そうは言うけどね、キミを生き返らせるための手続きとか結構大変なんだよ?少しはあたしの苦労も考えて慎重に生きてほしいんだけど」
「ホントすいません」
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ノータイムで作業を止め綺麗に頭を下げる俺。偶発的なものはともかく、魔王軍の幹部などの大物との戦いでは俺の蘇生を前提とした作戦を立てることが多い以上、言い訳はできない。
クリスは下げられた俺の頭をポンポンと叩くと、
「あはは、冗談冗談。まぁ慎重に生きてほしいっていうのは本当だけどね」
「お頭…」
なんだろう、この胸に染みる優しさは…エリス様モードじゃなくてもやっぱりこの人は女神なんだなと再確認する。
「やっぱりお頭はいつでも優しいし可愛いですね。本当俺と結婚してくださいよ」
いつものように軽口を叩いた…のだが。
「んー…」
「あれ、お頭?」
なんだ、いつもとリアクションが違うぞ?クリスは何やら考えるような仕草をしてから、真っ直ぐに俺を見つめた。
「キミがあたし一人にしっかり絞ってくれるなら、考えてもいいかな」
…妙に蠱惑的な声と目線、そして表情に思わずたじろいでしまう。
「…いやー、そりゃ残念。ほら、俺って最近モテ期なもんで。めぐみんとかダクネスとかのことを考えると…ねぇ?」
とりあえず茶化してこの話を終わらせる方向に持っていく。このまま続けるのはなんというか…取り返しがつかないことになる気がする。ルートが固定されそうというか…。
「そんなことないよ」
「えっ?」
それまで壁に背を預けていたクリスが、こちらに近付いてくる。
「キミはちゃんと一人に絞れる人だよ。あたしが保証してあげる」
俺の頬にそっと手を伸ばし、優しく撫でる。微笑みながら語りかけてくる彼女に俺は──。
「おーい、カズマさーん」
-
「っ!」
間の抜けた呼び声を聞いて我に帰る。
あれ、俺、今…。
クリスはすぐに俺と距離を取り、その直後、アクアがひょこっと顔を出した。
「カズマさーん…あら、クリス?いないと思ったらここに来てたのね。何してるの?」
「んー…手伝えることはあるかなー、と思って。まぁ結局できることも無さそうだからそのまま雑談中って感じ。もう戻るよ」
「ふーん?」
手を振って去っていくクリスをアクアは大して気にしていないようだ…コイツ昼間はあんなワケわからんこと言ってたくせに。
「で、お前は何の用だよ。今クリスも言ったけど手伝ってもらうことはないぞ」
調理を再開しつつ問いかける。まぁどうせ大した用じゃないんだろうが。
というかなんでコイツは酒瓶を抱えてるんだ?しかも俺それに見覚えがあるんですが。
「えーっとね、せっかくだからみんなでいいお酒飲もうと思って探してたんだけど」
すごく嫌な予感がしてきた。
「カズマの部屋で高そうなの発見して持ってこようと思ったら」
うん、この時点でツーアウト。
だが俺はノーリアクションを貫く。
まださっきのクリスとの妙な空気を破ってくれた分で帳消しできる範囲だ。
「途中で我慢できなくなって半分くらい飲んじゃって」
よーし、もう無理、有罪確定。道理で微妙に酒臭いわけだ。テンションもおかしいし。
しかしアクアの口はまだ止まらない。
「ついでにうっかり中身に触っちゃって残りの半分が水になっちゃった」
……。
「ごめーんね!」
俺は狙撃スキルで極めて正確に、駄女神の額に向けておたまをブン投げた。
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近くにいる場合は危機察知してきてくれるのかな?
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2
「なぜアクアはおでこにコブを作って酒瓶を抱えて泣いているんですか」
「それはねめぐみん、コイツがアホだからだよ」
「わああああああ!カズマがアホって言ったあああああ!女神のおでこを攻撃した上にアホって言ったあああああ!」
ギャーギャーやかましいアホは放っておき、さっさと食卓に皿、そして鍋を並べていく。言うまでもないが、アホ以外は皆ちゃんと配膳を手伝ってくれている。
「さて、そろそろ鍋もいい頃合いだなっと」
鍋の蓋を取ると、湯気とともに食欲をそそる香りが広がった。
「「「「「おぉ〜!」」」」」
同時に、見守っていた女性陣からも歓声が上がった。
「紅魔の里の猪鍋とは結構違いますね」
「でも、美味しそう…ううん、みんなで食べるお鍋なんだから美味しいに決まってる!」
元々日本ほどではないとはいえ猪を食べる文化のある紅魔族のふたりは好意的な様子だった。アクアとクリスの二人も日本の鍋を知っているためか似たような反応だ。
対してこちらのお嬢様は…
「確かに匂いも見た目も良いが…猪か…いや、これもそういうプレイの一環だと思えばむしろ興奮するな!」
「じゃあお前は汁だけな」
「えぇっ!?」
食べ物を性癖に巻き込むのは良くないと思います。
俺はショックを受けるダクネスをシカトし、ほいほいと鍋を取り分けて皆の前に置いていく。
宣言通りダクネスの前には汁オンリー。
「か、カズマ!私が悪かった!だからちゃんと具を…!」
…やれやれ。
お嬢様の必死な訴えを、寛容な俺は受け入れることにした。
「仕方ねぇな。反省しろよララティーナ」
「カズマさんの言うとおりよララティーナ」
「食べ物で遊ぶのは良くないですよララティーナ」
「こればっかりはキミが悪いよララティーナ」
「え、えーっと…真面目に食べましょうララティーナ…さん」
「う、うぅぅ!…はい、すみません…」
全員からのララティーナ攻撃に降参するダクネス。正義は勝つのだ。
「よし、んじゃ改めて──」
「「「「「「いただきます!」」」」」」」
-
───
──
─
「美味しい!これ美味しいわよカズマさん!」
「猪の肉は結構臭みがあってクセが強いはずですが、これは見事にその辺りが処理されてますね。さすがカズマです」
「うん、すごく食べやすい…あぁ、これが友達みんなで食べるお鍋…!」
「カズマ…すまなかった。私はやはり世間知らずだったようだ。まさか猪がここまで美味だったとは」
皆が口々に料理を褒める。
…なんだろう、この充足感。やっぱりこっちの道の方が俺には合ってるんじゃないだろうか。
「うん、本当に美味しいよ。これなら毎日だって食べたいくらい」
「そりゃどうも」
最後にかけられたクリスの言葉に無難な返事をする。おいおいプロポーズか?とか普段なら言うところなのだが、さっきの一件があったので自重しておく。
なんかとんでもない地雷が埋まってそうなんだもん。
「……」
だからめぐみんさん、瞳を紅く光らせながらこちらをガン見するのはやめてください。
俺はロリっ娘の放つ殺気にビビりつつ、自分の分を鍋から取り分けた。
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3
「さてと、飯も食ったし、あとは風呂だな」
1時間ほど後。
俺の料理は好評につき無事綺麗に完食、片付けも済ませてまったりムードだ。
「私はもちろん一番風呂ね!女神特権よ!」
嬉々として手を上げて言うアクアに、俺は優しく頷く。
「そうだな、女神だもんな。一番風呂は当然だよな」
「さすがはカズマさん、分かってるじゃない!」
まぁ風呂の湯の殺菌のためなんですけどね。
これが温泉ならそもそもコイツが入ること自体を全力で阻止するところだ。
「カズマは最後でいいんですよね?いつも通り残り湯を飲むためにも」
「えっ…カズマさん、最低…」
「ちょっと待てコラ」
おっと、例によってゆんゆんがゴミを見るような目で見てますね。
俺がお仕置きしようとする動きを察知し、めぐみんがファイティングポーズを取って警戒する。
「…あれ?でもめぐみんってカズマさんと一緒にお風呂入ってるんでしょ?それなら残り湯もなにもないんじゃ」
「「あ”」」
俺とめぐみんの声がハモった。
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「あー…うん、まぁせっかくゆんゆんが来てくれてるしな!めぐみん、今日は俺と入るのは我慢してくれ。こんな時くらいゆんゆんと入った方がいいだろ?俺と入るのは我慢して!」
「この男は!」
俺の首を絞めようと襲いかかってくるめぐみん。
いやね、一緒に入るのは大歓迎なんだよ?本来なら。
でもなんていうかこう…他に人がいる時に、しかも一緒に入ってるって知られている状態はちょっと…ねぇ?
めぐみんの実家の寝室とは色々と状況が違うし。
あと俺の方が一緒に入るのに積極的、みたいなのは微妙にプライドが許さない。
それはこの爆裂娘も同じなようだった。
「あ、あの…私のことは気にしなくても…」
揉み合う俺たちに、ゆんゆんがおずおずと言ってくる。
「女の友情が男女のアレコレの前には無力だって、ちゃんと分かってるから…!」
儚げな笑顔でそんなことを言わないでほしい。あとから来た俺が悪役みたいになるじゃん。
「…あーもう!分かりましたよ!ゆんゆん、一緒に入りますよ!“カズマが”今日は我慢するそうなので!」
「あっ!テメェ!」
「めぐみん…!」
ゆんゆんの腕を掴んでめぐみんが歩いていく。おそらくは自室に風呂の準備をしに行ったのだろう…おのれ、今度こめっこにお菓子とともにあること無いこと吹き込んでやろうか。
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「…うーん」
「な、なんだクリス?私の方を見て」
「いやいや、ゆんゆんの言う通りだと思ってね。女の友情は男女のアレコレの前では…ってやつ」
「…なんのことやら…」
そう言いながらも心当たりがあるためか、ダクネスはクリスから目を逸らしている。やがて明後日の方向を向いていたその視線は、二人を眺めていた俺へと向けられ…っておい。
「俺に助け求めるなよ」
「は、薄情者!元はと言えばお前が私を…!」
そう言われましても。
「ま、いいんだけどね。今はあたしもあんまり人のこと言えないし」
「「え?」」
今度は俺とダクネスの声がハモる。
「ちょ、ちょっと待てクリス!お前、それはつまり…!」
「あはは。ま、ご想像の通り…かな?」
えっ、なにそれ聞いてない。俺の知るお頭は、エリス様は、恋愛に耐性のない清楚でからかい甲斐のある女性だったはず…!
思わずダクネスに加勢して問い詰めようとしたが、肩をガックンガックンと揺すられながらクリスがこちらに向けた視線に、思わず動きを止めてしまった。
ちょっと待ってくれ、さっきの台所でのやり取りや今の会話から考えると…これ…。
「おい!答えろ!相手はどこの誰だ!?お前をたぶらかしたのはどいつなんだ!?」
「んー…秘密」
「なっ!?」
-
「ダクネスだって助手君のこと黙ってたじゃん。だからあたしのもしばらくは秘密」
痛いところを突かれたせいか、ダクネスはぐむむ、と唸りながらも追求をやめた。
「…おかしなヤツじゃないだろうな?こういうのに惚れると苦労するぞ」
「失敬な」
ダクネスが親指で俺を指して言うが、お前とアクアとめぐみんにだけはおかしなヤツとか言われたくない。
「どうだろうね」
クスクスと笑いながらクリスは質問を受け流した。ダクネスは眉をひそめてさらに聞こうとする。
「おい、せめてそれくらい答え──」
「ただーいま!上がったわよー」
ただ単にこの駄女神が空気を読めないだけなのか、はたまたクリスの幸運によるものなのか、ダクネスの問いはホカホカと湯気を立てるアクアの言葉に遮られた。
「おかえりアクアさん。あたしはちょっとお手洗いに行ってくるよ」
「あ、おい!まだ話は…!」
呼び止めようとするダクネスの声を無視してスタスタと部屋から出ていくクリス。
…まぁあのまま話を続けたところで、この不器用なお嬢様がクリスから真相を聞き出せるとも思えないが。
「ふふふ、トイレを見て驚かないことね!なにせうちのトイレはこのアクアさんが手塩にかけて掃除を…あいたたた!ちょっとカズマ、なんで私の頬を引っ張るの!?やめて!せっかく綺麗になったお肌にニート臭がついちゃうからやめて!」
それはそれとして、状況を理解していないアホに制裁は加えておく。
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4
「上がったぞ…なんだ、クリスはまだ戻って来てないのか?」
アクアの後にめぐみんとゆんゆんが入り、そのあとはてっきりダクネスとクリスが一緒に入るものと思っていたのだが、
『ごめん、急な用事ができちゃって。すぐに戻るから先に入っててよ』
と言い残してクリスはどこかへ出ていってしまった。
「まぁ彼女も色々忙しいのでしょう」
ゆんゆんとカードゲームで勝負していためぐみんがチラリとこちらに視線を送ってくるが、俺は首を横に振って返した。
盗賊団としての活動なら俺に声がかかるはずだが、今回はそれもなかったので違うのだろう。
「…仕方ない。カズマ、先に入ってきたらどうだ?」
「ま、それもそうだな。いつ戻ってくるか分かんねーし」
よっこいせと立ち上がって風呂場へと向かう。クリスのことが気にはなるが、変に気を使って待ってる方がクリス的にも困るだろう。彼女が人一倍忙しいのは俺がよく知っている。なにせその仕事を増やしている張本人だ。ほんとすいません。
「ふんふんふーん…さーてと」
鼻歌混じりに脱衣場で服を脱ぐ。
もちろん今日のように大勢で過ごすのは嫌いではないのだが、やはりこうして一人でリラックスする時間も重要だ。
「へぇ、意外といい身体つきしてるんだね」
「そうか?まぁ最近はレベルも上がっ…て…」
え?
待て、俺今誰と会話してる?
ギギギ、と油の切れたロボットのような動きで後ろを振り向くと、
「や、ただいま」
にこやかに手を振るクリスの姿があった。
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「な、なにして…むぐっ!?」
思わず声を上げそうになった俺の口を素早くクリスの右手が塞いだ。もう片方の手で指を口に当て「しーっ」と俺に静かにするよう示す。
「ダメだよ助手君、大きい声出しちゃ」
俺がコクコクと頷くと、満足気な顔で手をどけた。
「ぷはっ…なんなんですか、お頭。全体的に意味不明ですよ」
クリスは特に悪びれもせず、
「ちょうどいいから一緒に入ろうかと思って」
と宣った。
「何がちょうどいいんですか…お、俺なんか食べても美味しくありませんよ〜…なんて」
「そんなことないよ。大丈夫」
茶化してこの場を収めようという俺の意図を知ってか知らずか、クリスは笑顔のままねっとりとした視線を俺の身体に向ける。
「ほ、ほら、俺なんて巷じゃ『女の子に守られる雑魚マさん』なんて呼ばれるようなヤツですし」
主にめぐみんのせいなんだが、実際俺がパーティー内では一番ステータスが低いのも事実である。
見た目は引きこもりだった頃に比べてマシにはなっているが、筋力はアークウィザードな上にロリなめぐみん未満だ。
「あー、もしかしたらその呼び名、あたしにも責任あるかも」
「へ?」
「いやぁ、前にキミのこと馬鹿にしてた人たちがいて思わずボコボコにしちゃったことがあってね」
「アンタ何やってんの!?」
仮の姿とはいえ、女神がうちのチンピラ娘と同じことしたらダメだろ!
「安心してよ、一応その時は潜伏スキルも使って姿が見えないようにしたから。まぁ去り際に『女の盗賊にボコボコにされるキミたちの方が弱いね』って言っちゃったけど」
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何を安心しろというのか。
『朱に交われば赤くなる』とは言うが、もしかしてウチの欠陥花火とつるんだせいかなのか?
いや、考えてみれば元々悪魔やアンデッド相手だとバーサーカー状態になるし、案外これも地なのかもしれない。
いずれにせよ俺の中の常識人枠が一つ消滅したのは確かだ。
もうやだ泣きそう。
「さすがに脱ぐところを見られるのはちょっと恥ずかしいから先に入っててよ。まぁでもどうしても見たいっていうなら」
俺はクリスが最後まで言い切る前に浴室へ飛び込んだ。そして閉めた戸に向けて全力でスキルを発動する!
「『フリーズ』!!」
以前にもアクア相手にやった手だが、今はこれしかない。
だってさ、もう無理っすよ。童貞にどうにかできる状況じゃないよこれ。
「…って、あれ?凍ってない…?」
ここに来てようやく俺はスキルが発動していないことに気付いた。え、何故に?
「無駄だよ。ちゃーんと対策してきたから」
ガラッっと普通に戸を開けて、タオル一枚巻いたクリスが浴室に入ってくる。
「対策、って…」
「あたしはキミのことなら大体知ってるし大体分かるからね。こういう手を使ってくるだろうっていうのも当然予想済み」
そう言いながら、手に持った何かを見せてくる。見たことのない物体だったが、なんとなく高価な魔道具、というのは理解できた。
「この間偶然手に入れたヤツなんだけど…ふふ、ちゃんと機能してくれてよかったよ、この『マジックジャマー』」
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「…名前から察するに魔法を使えなくするタイプのアイテムですか?」
クリスは得意気ににっこりと笑って答える。
「そ。発動すると周囲に特集な力場を形成してスキルや魔法を無力化できるんだ。まぁせいぜいこの脱衣場と浴室くらいの範囲だけどね」
「…そうですか」
あー、こりゃダメだわ。詰んだわ。
スキルも魔法も封じられては、貧弱な俺のステータスでは抵抗などできるはずもない。
「そんなイヤそうな顔しないでよ、めぐみんやダクネスとは一緒に入ったんでしょ?ならあたしだっていいじゃん」
「シチュエーションが違いすぎるんですよ」
めぐみんとは意地の張り合いの結果でああなっただけだしな上に、当時はあんまりアイツのことを意識してなかった。
ダクネスに至ってはサキュバスの魅せた夢だと思ってたからだ。今回のように間違いなく現実で、かつ積極的に来られているのとは訳が違う。
「大丈夫だって。ほら、背中流してあげるよ」
「え、遠慮しておきます…」
「いいからいいから」
有無を言わさず俺を洗い場に座らせるクリス。ちょっと力を入れて抵抗してみたが、案の定無駄に終わった。
「よいしょ、よいしょ…お客さーん、かゆいところはございませんかー?」
「それ髪洗うときの台詞でしょ」
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最早されるがままの俺。とはいえ絶妙な力加減のおかげで気持ちいいのも確かではある。
「男の人の背中流すなんて初めてだけど楽しいね」
「…そりゃよかったですね」
ご機嫌なクリスとは逆に、俺のテンションはストップ安である。
さっきの異様な雰囲気といい、ここに至るまでの強引さといい、今日のクリスは何かおかしい。さらに言えばさっき俺が死んだときのエリス様モードもやはりこれまでとは明らかに違っていた。
こうやって考えていくと、原因は昨夜──俺の記憶が飛んでいる空白の時間にあるのではないか、という結論に至る。
が、そこを解明するのは困難だ。何せバニルですら見通せなかったのだから
──ん?
「(バニルですら見通せなかった…?)」
待て、待て待て。冷静に考えろ俺。
バニルが見通せないということは、それは『特殊な何か』が関与している、ということだ。俺はあの場ではアクアとウィズくらいしか思い付かなかったが…。
「(もう一人いる…!)」
そう、俺の後ろにいる──正真正銘の、女神様が。
「助手君、ちょっと身体ごとこっち向いてよ。このままだと前が洗いづらいからさ」
「あっ、はい。すみません」
俺は言われた通り、身体を180度回転させクリスと向き合うかたちになった。
うーむ、しかしクリスは一体昨夜俺に何を…。
…………いやいやいやいや!!
-
「何してるんですかお頭!?」
「え?だから前を」
「いらないです!前は自分で洗いますから!」
俺は必死にクリスから逃れようとしたが、彼女は片手で俺を押さえつけ、もう片方の手で身体の前面を洗い始める。
「遠慮しなくていいって。あたしがやりたくてやってるだけだから」
「いや遠慮じゃなくて…ってかタオルは!?」
「邪魔だから取ったけど」
気付けばクリスは丸裸。身体のそこかしこに付いた泡の塊がさらにそのエロさを増幅させている。
アカン。これはアカン。
「…ん〜?助手君、これは何かな〜?」
「はぅっ!?」
恥ずかしながらスタンドアップしたマイサンがクリスのハンドでかっちりホールディング。暴発しなかったのは奇跡と言っていいだろう。
「お、お頭!離して…!」
「やだ」
「あひぃっ!」
石鹸でぬるぬるとした手がゆっくりと上下に動いて…これはもう…!
「お頭…!これ、本当に、出っ…!」
「いいよ」
「…!」
「いいよ、全部受け止めてあげるから」
そっか、いいのか。受け止めてくれるのか。ならいいか…。
俺が未知の快感に身を委ねかけたその時。
「おーい、カズマさーん」
「「!」」
間の抜けた声が浴室の外から聞こえてきた。思わず俺たちはビクリと身体を跳ねさせる…いや、出てないよ?ギリギリだったけども。
「カズマさーん、私脱衣場に羽衣忘れちゃったから取ってほしいんですけどー」
-
言われてみればさっきピンク色の見覚えのある布があった気がする。っていうか大事な神器じゃないのかよ。
だが、今は好都合だ!
「い、今取るから待ってろ!」
「早くしてほしいんですけど」
その図々しさに地味にイラッときたものの、これ幸いとアイコンタクトとジェスチャーでクリスに離れるよう伝える。彼女も渋々といった風ではあったが、大人しく身体を離してくれた。
腰にタオル一枚巻いた状態で脱衣場のドアを開け、アクアに羽衣を渡してやる。
「ほれ!」
「ありがと…あら?」
「ん?」
アクアの視線が脱衣場の中へと向けられている。そこには…。
「(げっ!クリスのパンツ!?)」
床にクリスが脱ぎ捨てたパンツがあった。他の服はキチンと片付けられているのに、何故パンツだけ…?
視線を浴室の中へ向けると、アクアからはギリギリ見えない位置に立つクリスがニヤニヤとした笑いを浮かべていた。まさかわざとか!?
「あ、アクア?あれはだな…」
「ねぇカズマさん」
なんとか言い訳を捻り出そうとしていると、アクアが神妙な表情で口を開いた。
「趣味は人それぞれだから止めはしないけど、あれはカズマさんにはサイズが合ってないと思うの」
「なっ!?ちっ…!」
斜め上の解釈をしてくれた駄女神。反射的に否定の言葉が出そうになったが、とりあえずこの場はこの勘違いに乗った方が都合がいいかもしれないと思い直し、沈黙することにした。
「……」
「…めぐみんたちには黙っててあげるから。ね?」
いつもなら人の知られたくない話は積極的に広めようとするくせに、なんでこういう時に限って妙に優しいんだ。いや広められても困るけど。
反論したくてもできない俺を尻目に、アクアは哀れみを通り越して慈愛すら感じられる表情とともに去っていった。
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「いやー、ビックリしたね」
呑気な声とともにクリスが脱衣場に出てくる。いつの間にかその身体には再びタオルが巻かれていた。
「…俺はそれ以上にお頭の行動にビックリですよ。どうしてくれるんですか、おかげで俺はアクアの中で女性用下着を愛用するヤバニートですよ」
「ちょっとしたイタズラのつもりだったんだけどねぇ。ゴメンゴメン」
まったく悪びれた様子のないクリスの態度に嘆息する。
「どうしちゃったんですか、お頭。今日は本当におかしいですよ」
思わず呟いた俺の言葉を聞いて、何故か彼女の顔から笑顔が消えた。
「…誰のせいだと思ってるのかなぁ」
「え?お頭?」
「…そろそろダクネスたちも心配するだろうし、戻るよ」
そう言い残し、さっさと服を着たクリスは窓から出ていった。ポツンと残される裸の俺。
「なんなんだ、一体」
とりあえず改めて風呂に入って色々リセットしようと再び浴室へ向かうことにした。
「ちょっとしたイタズラのつもりだったんだけどねぇ。ゴメンゴメン」
まったく悪びれた様子のないクリスの態度に嘆息する。
「どうしちゃったんですか、お頭。今日は本当におかしいですよ」
思わず呟いた俺の言葉を聞いて、何故か彼女の顔から笑顔が消えた。
「…誰のせいだと思ってるのかなぁ」
「え?お頭?」
「…そろそろダクネスたちも心配するだろうし、戻るよ」
そう言い残し、さっさと服を着たクリスは窓から出ていった。ポツンと残される裸の俺。
「なんなんだ、一体」
とりあえず改めて風呂に入って色々リセットしようと再び浴室へ向かうことにした。
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5
「はぁー」
俺は自分のベッドに身体を投げ出して大きく息を吐いた。
あの騒動の後、クリスは玄関から帰ってきた。ダクネスからはどこへ行っていたのか聞かれていだが、やはり適当にはぐらかして、さっさと風呂へと向かった。その際にこちらへ送った意味深な視線が恐ろしい。
彼女が上がったところで、部屋割りを決め就寝。俺とアクアはいつも通りに一人で自分の部屋、ゆんゆんとクリスはそれぞれめぐみんとダクネスの部屋で寝ることになった。
「本当にどうしちまったんだ、お頭は…」
一人呟く。ここまで急に振る舞いが変わった以上、何かしら原因というか、きっかけがあったと思うんだが…。
「(妙な神器か魔道具に当てられちまったのか?…いや」
自分で思い付いた考えを即座に否定する。
そのテのことなら流石にアクアが気付くはずだ。それ以外だと…。
「(ダーメだ、分かんねぇ)」
よし、今日はもう諦めよう。
疲れきった頭では考察とか推理とか無理だ。うん、明日頑張ればいいや。
クリスもダクネスと同室な以上今日はもう何もしてこれないだろうし。
「(寝よ寝よ。今日はもうおしまい)」
俺はさっさと決断すると、目蓋を閉じ、そのまま眠りへと落ちていった。
-
───
──
─
どれくらい時間が経ったのだろうか。
俺は妙な音とベッドの揺れを感じて目を覚ました。
「(なんだ…?)」
めぐみんがまた思わせ振りなことをしに来たのか、あるいはダクネスか?もしかしたらアクアがまたバカなことを思い付いたのかもしれない。
「(ったく…)」
俺は面倒に思いながらも意識を覚醒させていった…が、すぐに予想がすべて大外れだったことに気付かされた。
「(…あ、あれ!?口が!?手足も!?)」
口にはおそらく布が猿轡に、手足はロープか何かでベッドの端に縛られているようだ。声も出せなければ身動き一つも取れない。
「(おいおい!なんだよこれ!?)」
異常な事態に困惑する俺だったが、おかしいのはそれだけではなかった。
「(ず、ズボンとパンツが脱げてる!)」
下半身が丸出しの状態になっております。当然ながら俺は裸族ではなく、寝る前はしっかりとどちらも履いていたはずだ。
「んんーっ!んんんーっ!!」
必死に声を出そうとするが、やはり呻き声のようなものを絞り出すのが限度だった。
と、わずかにベッド横で何かが動くような気配を感じた。
「(誰かいるのか!?)」
俺は暗視スキルでその正体を探ろうとした…が。
「(!?スキルが使えねぇ!)」
どういう訳かスキルが使えなかった。そうか、ここまでやられても気付けなかったのは、敵感知スキルも封じられていたからか!
「(つまり、犯人は…!)」
ここまでやられれば猿でも分かる。アクアでも多分分かる。それに手足を拘束するロープも“その人物”ならば簡単に説明がつく。
「お目覚めの気分はどうかな?」
“その人物”'は、いつもの軽い調子で声をかけながら、俺の猿轡を解いた。
「最悪に決まってるでしょうが。何のつもりですか──お頭」
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こちらの目が慣れてきたからか、暗闇でもわずかに見える銀髪を揺らし、
「この状況でやることなんて、ひとつだけでしょ?」
女神兼盗賊の少女は、場違いなまでに穏やかな声で言った。
「…外しちゃって良かったんですか?俺が大声出したら終わりですよ」
「ご心配なく、しっかり対策してあるから。あたしが思い付く限り、キミが何をしても無駄なくらいにはね」
…おそらくブラフではないのだろう。
先ほど風呂場で使ったマジックジャマーとやらと同時に使える魔道具か、あるいは過去に回収した神器か。何にせよ、外部からの助けは期待できないと思った方がよさそうだ。
そして俺自身もスキルや魔法を封じられている以上、抵抗の手段はない。
「そんな怖い顔しないでよ」
憎たらしいまでに優しい手つきで俺の頬が撫でられた。
「別にケガさせようってわけじゃないし。むしろ気持ちいいことだよ?」
「これが拘束されて無理矢理じゃなかったらこんな顔しませんよ」
話ながらもなんとか脱出する方法をひねり出そうとするが、考えれば考えるほど手詰まりであるという事実を突き付けられる。
クリスはそんな俺の思考を知ってか知らずか、普通に会話を続ける。
「だってキミ、正面から誘っても断るか逃げるでしょ」
「そんなことは──」
ある、な。
普段はからかい目的でそんな感じのことを言っているが、実際には俺はめぐみんと交際に近い関係にある以上、他の女の子と致すのは抵抗がある…というか無理だ。
あっさり受け入れてしまえば1回フッてしまったダクネスにも申し訳が立たない。
「だからあたしはこうするしかなかったんだ。キミがちゃんと気付いてくれないから」
「…?何にですか?お頭のムラムラが限界だったってこと?」
確かに、自分の親友と同居している知人男性宅で家主を拘束レイプしようとするほどに性欲をもて余しているとは思わなかったが。いや、思ってたらそもそも家に上げないけど。
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「キミが本当に結ばれるべき相手だよ。まぁあたしも自覚するまでちょっと時間がかかっちゃったけどさ」
「……」
こういう時、鈍感主人公なら本気で気付かずになぁなぁで済ませられるのかもしれないが、俺はここまで言われればきっちりと察してしまう…彼女の意図を。
というか、そもそも彼女が性欲だけを理由にこんな真似はしない人だということを、俺は知っている。
「本当は時が来るまで我慢するつもりだったんだけど…ダメだね、キミを見ていたら抑えが効かなくなっちゃった」
「…男の趣味悪いですね、お頭。ダクネスに怒られますよ?」
「そこは大丈夫。その時まで証拠は一切残さないからさ」
その時、というのはおそらく俺の魔王討伐達成を指しているのだろう。今は抑える必要のある彼女の感情がいずれ解放できるタイミング…というと、それくらいしか俺には思い当たるものがない。
俺たちのパーティーの人間関係が壊れないように、という配慮ゆえだろうが…。
「一応聞くんですけど俺に拒否権は」
「あったら縛ってないって」
ですよねー。
「心配しなくても終わればキミにとってもなかったことに“する”し、他の人にバレるようなヘマはしないよ…っていうか」
クリスは少し責めるような目線と口調になる。
「そもそもキミが言ったんだよ?『夜這いならいつでもOK』って」
「…記憶にございません」
嘘です。バッチリ覚えてます。
「まぁ覚えていようといまいと、本気であろうとなかろうと関係ないけどね」
クリスの目が鋭くなる。これアレだ、捕食者の目だ。
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「…もう好きにしてくださいよ。できれば優しくしてもらえると助かりますけど」
俺は脱力してぶっきらぼうに言った。
だってどうしようもねぇよ、これ。
俺の脳裏に魔王軍の幹部だったハンスとの戦いが甦る。あの時みたいな俺が死ぬ前提の作戦を実行する時の気分だ。
…今回に関しては、ただの負け戦だが。
「努力はするけどあんまり期待はしないでほしいかな。こう見えてもう我慢の限界なんだ」
なるほど、言われてみればクリスの言葉の合間に入る息遣いは荒く、口の端からは唾液がわずかに垂れていた。
「朝まで時間はたくさんあるからね。“愛し合えない”のは残念だけど──」
「その分、たっぷりと『愛してあげる』よ、旦那様?」
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6
「ふぁあああ…おはよーっす」
「もう昼前ですよ。いつものことですけど」
ゆんゆんとクリスが泊まりに来た翌日。例によって最後に起きた俺が居間に入ると、昼食の準備で皿を並べているめぐみんの姿があった。
「他のみんなは?」
「アクアは外でゼル帝の小屋をいじってます。ダクネスは台所で昼食を作ってて、ゆんゆんとクリスはもう帰りました」
「マジで?」
なんてこった。俺のハーレムタイムはもう終わっちまったのか。
「午前中のうちに帰るとは…ふたりとも忙しないなぁ」
「カズマ基準を他の人に当てはめないでください。冒険者だったら別に珍しいことでもないんですから…もっとも、ゆんゆんは里に用があるそうですが」
里に用事ってことは族長絡みだろうか。
でもまぁ、めぐみんが一緒に行ってないってことは大した問題じゃないということなのだろう。
「なんですかその生温かい笑みは。子供じゃあるまいし、いちいち付いていってまでゆんゆんの手伝いなんてやりませんよ…おい、何か言いたいことがあるなら聞こうじゃないか!」
俺の爽やかな微笑みがお気に召さなかったのか、めぐみんが襲いかかってきた。
それを華麗に回避しつつ言ってやる。
「人のことをツンデレだなんだって言うけどさ、お前も相当なもんだよ」
「…私はツンデレとかではありませんが、まぁあなたとお揃いというのは悪くないのかもしれませんね」
攻撃の手を緩めためぐみんは、穏やかな顔で、ほんのり顔を赤らめつつ言った。
-
「いや、ツンデレ同士って絶対めんどくさいことになると思う」
「この男!」
再び瞳を攻撃色に輝かせて掴みかかってきためぐみんと小競り合いを繰り広げていると、
「…起きて早々騒がしいなカズマは。ほら、お前も準備を手伝ってくれ」
呆れ顔のダクネスが台所から声をかけてきた。
─────
───
─
「…ところでカズマ、昨日は随分よく眠れていたみたいですね」
「え?」
スプーンやフォークを並べていると、めぐみんが妙なことを言ってきた。
「いえ、実は昨夜ゆんゆんと部屋に戻ってからも色々勝負をしていたんですが、つい熱くなって結構騒いでしまって。でもその割にカズマが文句を言いに来なかったな、と」
「マジか。全然気付かなかったけど」
昨日は風呂から上がって、その後部屋に行って…ん?
何かベッドに入ってからの記憶がない…っていうか何故か風呂の記憶すら曖昧だぞ?
「死に上がりで疲れてたせいかなぁ」
「変な言葉を作らないでください…まぁ疲れていたのは間違いないんでしょうけど」
「めぐみんが思っているより大きな音は出てなかったんじゃないか?私も気付かなかったぞ」
バスケットに入ったパンを持ってきたダクネスが言う。確かに、そんな大きな音に俺だけでなくコイツまで気付かない、っていうのは考えにくい。
-
「…まぁ私も昨日は眠りが深かったようではあるが」
「そうなのか?」
ダクネスは俺の問いかけにうむ、と頷くと、
「部屋に戻ってベッドに横になったらすぐに眠ってしまったようでな…クリスと色々話そうと思っていたんだが」
残念そうにため息をつくダクネス。
なるほど、クリスと…クリス?
あれ、なんだこれ。クリスの名前を聞いた途端に妙な違和感が湧いてきた。
俺は…昨日…クリス、と…。
「そうなんですか?まぁ迷惑にならなかったならいいんですが…一応ゆんゆんには改めて注意しておきましょう」
「いや、騒ぐことになった原因は絶対お前だろ」
…あれ?
反射的にめぐみんの言葉にツッコんだらそれまでの思考がどこかへ行ってしまった。えーっと…なんだっけ?
「ふー、ゼル帝のお世話も大変ね。まぁ全然苦にはならないけど…で、ご飯は出来た?お腹ペコペコなんですけど」
「お前も手伝えや」
ニワトリの世話を終えたアホが入ってくる。
あーダメだ。完全に何考えてたか分からなくなっちまった。
「やれやれ…まぁいい。ちょうど出来たところだ。昼食にしよう」
ダクネスの言葉にスキップしながら自分の席に向かうアクア。
…まぁこの駄女神に流される程度の思考なら大したものじゃないのかもしれない。
俺はそう割り切ると、アクアに習い自分の席へと向かった。
-
───
──
─
「うーん、ちょっと強引すぎたかな」
あたしは屋敷の庭の木から、中の様子を見つつ呟いた。葉に隠れているから大丈夫だとは思うけど、念のため潜伏スキルも使っている。
「助手君は頭もカンもいいからなぁ。次は確実にバレそうだ」
神器と魔道具を使って注意を払った行為だったけれど、強行に過ぎたのは否めない。
「もうちょっと自重しよう…ま、助手君次第だけど」
そもそもあたしがこんな真似をしたのも彼のせいだ。元々はベッドに潜り込むくらいの、イタズラで済む範囲に留めようとしたのに。
彼は事ある毎にあたしを誘惑する。本人は自覚がないんだろうけれど。
まぁなんにせよ、あたしは自分を抑える努力をしなければならないだろう。
──今はまだ『その時』ではないのだから。
「だから助手君、あたしをこれ以上惹き付けないでよね?」
まだ残る彼の熱を感じて、あたしは自らの下腹部をいとおしげに撫でた。
-
7
「ふぅ…これで終わりかな」
作業を一通り終えて、私ことゆんゆんは息を漏らした。家から外に出て、大きく伸びをする。
「やっぱり色々大変だなぁ…次期族長って」
まだ正式な引き継ぎは先だけれど、覚えておかなければならないこと、考えておかなければならないことは多くある。
…なにせ紅魔族は皆クセ者揃いだ。彼ら彼女らをまとめるのは楽なことではない。
「カズマさんに手伝ってもらった方が良かったかなぁ…あれ?」
自分で言って驚いた。どうして私は今カズマさんの名前を呟いたのだろう?
今の私はたくさんのお友達ができた。それこそ頼れそうな人はいっぱいいるのに、何故彼の名前が自然と浮かんだのだろうか…。
「うーん…めぐみんの影響…?」
私の一番の親友であるめぐみんはカズマさんにベタ惚れでしょっちゅう自慢混じりに話してくるからそのせいなのかもしれない。
まぁ実際、色々問題のある人ではあるけれど、いざという時には頼りになるし、優しいし、私の周囲の人の中ではトップクラスに常識人だし…。
「あ、そういえば全然お礼できてない…」
2日連続で泊めてもらったあの屋敷の所有者はカズマさんなのに、私は贈り物のひとつもしていないことに気付く。猪の肉は持っていったけれど、あれは処理に困ったからだし。というか食事までご馳走になってるじゃない、私 。
「また今度お礼に行こうっと」
せっかくだしカズマさんの好きなものを持っていった方が良いだろう。
今度めぐみんに聞いてみよう──そんなことを考えながら、私は里からアクセルの街へ戻るべく歩き出した。
END
クッソ長くてごめんなさい
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コワイ!
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相当このすばを読んでないと書けない名作シリーズ
次回もお願いします(リピーター)
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好評、絶賛!
次回もありそうな雰囲気を見せる引きいいゾー
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あーやばい!(ヘドバン)
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そろそろエリス様がカズマさんの魔王討伐に十月十日のタイムリミット設定してきそう
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台所や風呂には来るのに肝心な時に来ない辺りやはり駄女神…
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カズマさんは意外に一途だから性交渉に及ぶには力尽くしか手段がないのよね
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