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砂塚あきら「春と毛布とお休みと」

1 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:17:56 PpaPj46U


モバマス 砂塚あきらのSSです。
例によって書き溜めあるので一括投稿です。
地の文多、会話少。


2 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:18:27 PpaPj46U


「はよーざいまーす…あれ」

扉に手を掛けたまま気の抜けた挨拶を口にして、やや時間を置いてから室内に誰もいないことに気付く。
朝イチで鍵を開けてそのまま外回りに行ってしまう人がいるため、正確にはPサン以外誰も、だけど。
こんなことは珍しい…というか、346プロに入って以降の2ヶ月間では1度もなかった。
自分が来るのはむしろ一番最後のことが多いんだけどな…と、そこまで考えてやっと真実に思い至った。

「…………今日、オフだった………」

頭を抱える。
———346プロ総出の一大イベント、シンデレラガール総選挙。
毎年この時期は、間近に控えたコレのためプロダクションの施設を特別仕様に改装する"灰かぶりの休日"が設けられる。
そんな説明を確かにこの耳で聞いたというのに、覚えているのはこのポエットの炸裂しまくったネーミングもPサンの仕業なのだろうかという下らない疑問だけだった。

…そして、昨夜。
新作FPSにはつきもののチーター相手に熱くなってしまい、ふと目を向けた時計の「3:48」の表示に気を失いかけたのは覚えている。
起きたのが8時。…だったと思う。
それから自分史上最速の朝を経て、自分史上最大の脱力感に苛まれながらソファに崩れ落ちた現在、時刻は8:57。
自分を褒めてやりたいというのは定型句だけど、ここまで切実にそう思ったのは初めてだ。
…どちらかと言うと慰めるべきかもしれないけど。


——


3 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:18:53 PpaPj46U


「ん…」

ボスンという大きな音に目が覚める。
どうやら朝あのままソファで寝てしまったらしく、音を立てて軋む四肢をなんとか動かしてスマホを見ると時刻はすでに正午を回っていた。
いつこの部屋にも工事の人が入るかわからないし、迷惑をかける前に寮に戻ろう。
そう思ってはたと視線を上げると、大きな棚の上段から毛布を引っ張り出した形のまま全身を硬直させたPサンと目が合った。

「「……………」」

沈黙。

「…えっと、おはよーございます」

「あ、はい…おはよう、ございます」

…そうじゃない。
挨拶の重要性は古事記にも書いてあるらしいけど、今はとにかく現状の確認、よりも先にPサンに言い訳、いや正直に謝って…。

「あの、砂塚さん。事務所に何か忘れ物でも?」

混乱の極致に達して結局またぞろ沈黙に落ちてしまった自分を気遣い、今度はPサンが口を開いた。

「え、あ、いや…そういうわけじゃ…」

曖昧な否定を口にしてから、ここで肯定しておけばそこで話が終わったのにと激しく後悔する。
どのみちオフの日に職場のソファでぐっすり眠りこけていた事実は揺るがないけど。
しかしそれよりも今は———。

「…Pサン、とりあえずその毛布戻してよ。自分も落ち着いて話せないし、腕疲れるでしょ」

「………仰る通りですね」

苦笑を浮かべるPサンが身体を伸ばして毛布をしまい直す間、なんとか平静を装えるだけの落ち着きを取り戻していく。
そうだ、と二人分の飲み物を用意することを思い立った時には既にPサンの背中が給湯室へ向かうところだった。
また今日も助けられてばかりの自分に少し嫌気が差す。
何か、Pサンのために出来ることはないかな。


——


4 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:19:20 PpaPj46U


「改めてお訊きしますが…砂塚さんは何をしに事務所へ?」

コーヒーで潤した喉を震わせてPサンが尋ねる。
供された焙じ茶を一口飲んで、ようやく誤魔化しや言い訳はやめにしようと吹っ切ることが出来た。

「ダサい話なんデスけど、オフってこと忘れてて…朝が遅かったんで慌てちゃって」

「ああ、成る程。申し訳ありません、個別に連絡できるのが理想なのですが」

「ううん、どう考えても自分が悪いデスし。それに個別連絡って言ったって、アイドル何十人もいるんでしょ?」

そう言うとPサンは珍しく、ええとかああとか歯切れの悪い答えを返して困ったような苦笑いをしていた。
何十人というのはちょっと盛りすぎたのかもしれない。
いや、あるいは何十人どころじゃ済まない数をプロデュースしていて、2桁で済むなら個別連絡するんだけど…という意味の苦笑いだったのかもしれない。
なんて、妄想が過ぎるか。

そこでふと、先程抱いた思いが再び脳裏に去来した。

「でもまあ、来ちゃったのに何もしないで帰るのもアレなんで…Pサン、何か手伝えることないデスか?」

「いえ、私も今日は改装の立会いがメインですので。砂塚さんに手伝っていただくほどのことは」

Pサンは視線を正面からやや右側に逸らしながら答える。
この部屋の右隣にあるのはアイドルたちやその候補生たちの資料が大量にストックされたPサンの仕事部屋。
相変わらず嘘をつくのが絶望的に下手な人だった。
とはいえ、はっきりと拒絶されてしまった以上しつこく食い下がるのもかえって迷惑だろう。

「りょーかい。じゃあ肩揉みでもさせてほしいな。さっきも言ったけど、何もしないまま帰りたくはないんで」

仕事を手伝うのはスッパリ諦めるけど、そのかわり小狡い手口で何とかPサンへの恩返し権を掴み取る。
これが悟り世代のやり方だ。
Pサンにはあまり、最近の若者は〜って思ってほしくないけど。


——


5 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:19:41 PpaPj46U


「…お上手ですね、砂塚さん」

予想の数倍ガチガチに凝り固まった肩に慄きつつ、指や手のひらどころか肘まで駆使してコリをなんとかほぐしているとPサンが驚いたような声を上げた。
こっちも防弾性すらありそうな硬さに驚いてるよ。

「ん…兄ぃにもよくやってあげてたからかな。気持ちいいなら良かった…っと、ふう。よっし!オッケーデスっ」

「これは…ありがとうございました。おかげさまで随分肩が軽くなりました」

「お節介だけど、Pサン早めにプロの整体師さんに見てもらった方がいーデスよ。病院沙汰になっちゃいそうだし」

「ええ、その方が良いかもしれませんね…正直なところ、凝りが慢性化していたせいか今の方が違和感があるくらいです」

「うわぁ…」

社畜という言葉はきっとこういう人のことを指すんだろう。
Pサンはアイドルのことは過敏なくらいに気がつく人だけど、自分のことになると仕事に支障さえ出なければ片っ端から疎かにしてしまう傾向がある。
胃腸炎でゼイゼイ息を切らしながらライブステージの企画書を作っている姿には佐久間サンですら若干引き気味だった(ご丁寧にも"僅かながら伝染リスクがある"と3日にわたり終日仕事部屋に引きこもっていたというオマケ付き)。

…まあ、キャラに似合わず高めのテンションで冗談めかした言い方をしているあたり、お世辞というわけでもなく本当に肩揉みの効果はあったのだろう。
ようやく少しだけPサンの役に立てた気がして自分まで肩が軽くなった気分になってしまう。

「それじゃ、自分は帰るね。Pサンもムリしないで」

「はい、本当にありがとうございました。また明日」

ひらひらと手を振って別れを告げ、女子寮へ帰る。

ヒトの役に立ちたい、というのはあまり覚えのない感情だったけど、嫌な気はしなかった。


——


6 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:20:01 PpaPj46U


「あーもう…ほんとサイアクだなぁ今日…」

ぶつぶつと独り言を漏らしながら346プロダクションの廊下を歩いていく。
あの後女子寮に戻って即刻三度寝に落ち、陽が沈む頃に目が覚めてすぐスマホを置き忘れたことに気がついた。
何から何までまったくうまくいかない日というのは初めてのことでもなかったけど、それらがことごとく自業自得なのは初めての経験で、遣る瀬無い気分は陽光と共に沈んでいくような心地だった。
事務所が閉まっている可能性も考えたけど、手前の廊下からして電気がついたままなところを見るにそんな心配はいらなかったようだ。

「お疲れデース、ごめんPサン忘れも…の?」

室内に声を掛けながら扉を開くと、真っ先に机に突っ伏し安らかな寝息を立てる背中が目に入った。

「………SSRだなー、これ」

職場で一切気を抜かないPサンがこのような姿を見せるのは極めて珍しいことだった。
他の子がいたら写真を撮りたがっただろう。
見られたのが自分だけでよかったデスね、なんて小声で口にすると、やけに勝ち誇った気分に浸ってしまう。
…命は惜しいし、自慢して回ったりはしないけど。


——


7 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:20:34 PpaPj46U


冷静になって考えると、窓から差し込む日光の暖かさを失った室内はそれなりに冷え込んでいて、このままPサンを眠らせておくのは少し気が引けた。
かといって起こすという選択肢も、昼に触れた疲れ切った身体と今目の前の寝顔とを考慮に入れると採れなかった。
なんとかこのままPサンに暖を取ってもらう方法はないだろうか、とあたりを見渡して、昼にPサンが毛布を取り出していた棚の存在を思い出した。
180cmを超える男のヒトでもやや背伸びしないと届かない最上段だけど、この部屋にはいったい何に使うの
か、キャタツがぽつんと放置されていた。
これを使えばなんとか取り出すことは出来るだろう。

「ん、しょ……あ゛っ」

ぐぐっと毛布を棚から引き出していると、その拍子に何かが引っ張られて床に落下していった。
アレは、杏サンがいつも座ってるうさぎクッションだ。
こんなところに収納してたのか。
昼に聞いたボスンって音はコレの落下音だったのか。
杏サンじゃキャタツに乗ってもムリだと思うけど、普段は誰が出してるのかな。

やや現実逃避気味の思考を展開させながら全身を硬直させていると、昼聞いたものと寸分違わないボスンという落下音が耳に届いた。
———つまり。
恐る恐る視線を向けた先で、予想通りPサンが目をこすりながら顔を上げているのが目に入った。
間もなく目が合い、硬直。
そして沈黙。

「…おはよう、ございます」

「あーっと…おはよーございます」

打ち合わせなんてしていないけど、お互い示し合わせたような第一声を発して。

堪えきれず吹き出して、ひとしきり笑ってしまった。

まったく、二人してオフの日に何をやっているんだか。
でも、あまりにも下らないその馬鹿笑いは、朝から自分を僅かに苛んでいた感情のしこりを綺麗さっぱり解きほぐしてくれた気がした。


——


8 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:22:20 PpaPj46U




砂塚あきらをよろしくお願いします。
次はシャニから三峰を書きたいです


9 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:27:52 XJ/IOdRM
あぁ^〜たまらねぇぜ。


10 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:44:14 9ZI73WZw
私はお前が欲しいのだよ あきら


11 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:47:35 n2eqMRiA
常に自分の立ち位置とかを頭の中でぐるぐる考えたり言動を反芻してたりしてそうな女の子は地の文多めがよく合う


12 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 00:59:09 1.WPvtUU
かわいい


13 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 02:17:33 Mu0U6xl2
いい塩梅だあ……


14 : 名前なんか必要ねぇんだよ! :2019/03/21(木) 07:49:36 TjdqbB9E
こんなところでssの恩恵にあずかるとはな


15 : なーなしー! :2019/03/21(木) 11:44:36 ???
ゆったりとした日常生活を切り取った感じの作風すき


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