出航前には船員総出で西風の神(ゼピュロス)に祈りを捧げていたのだが、やはり風は気まぐれでな。熱心に願掛けをした日に限って嵐に見舞われたものだ。
ご自慢の船の危機とあっては、さすがのイアソンも自ら帆(セイル)を扱うことをためらいはしなかった。
……意外か？ まあアレも人身掌握術と操船技術だけはバケモノじみていたからな。
とはいえ、決まって突風に煽られて帆柱(マスト)に激突したり、飛んできた樽にぶち当たったりで、もっぱらメディアに介抱されている光景しか私は見ていないが。
……で、カルデアとの通信は繋がったかマスター？
……そうか、まだか。であれば今しばらくこの洞穴でしばらく暖を取ろう。
汝はいきり立って嵐なぞに立ち向かう必要はないのだからな。このまま少し体勢を整えよう。
ほら、もっと側に寄れ。洞穴に巣食っていた獣は処理したが、他にもなにかあるかもしれんからな。
用心するに越したことは無い。今宵はずっと私の側にいろ。
……ん、それで良い。肩が少し触れるくらいで、な。
……うん？ なに、せっかくだしアルゴノーツの話をもっと聞きたい？
いや、止しておこう。あの旅はもう終わったことだ。
過去の冒険よりも、今の人理を巡る旅のほうが私にとっては有意義だしな。ふふ。
どうしても聞きたくば、後で鷹の魔女にでも聞くがいい。
だが、ふーむ、代わりの暇つぶしの話題となると、そうさな……。
────「子供の話」、などはどうだ、マスター？
次回！Fate/Grand Order 「大魔女特製！台風特異点！」
見ていろよメディア！私とマスターで熱帯低気圧を起こすからな！