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【SS】北上さま、タイムトリップをする。
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◆注意な◆これはどこかにいる北上=サンの物語であり、君たちの鎮守府とは一切関係なく、猥褻は一切ない。◆奥ゆかしさ重点◆
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「うっわあ幸運ですよお!き・た・か・みさああん!!あなたが最初の目撃者!なんせ今回は正真正銘、本当に世紀の発明自画自賛もやむなしのものを作ったのですから!!ま、とりあえずハッカ飴どうですおいしいですよお国産100%ですからおっとハイテンションなのは抑えましょまあ聞いてくださいこれがもうどんだけすごいかっていうのいまから説明しますから」廊下を歩いていたら明石さんに捕まってしまった。顔は紅潮し息荒く正直すぐにでも逃げたかったが「運命変えましょうよ」という言葉に妙な興味を持っちゃった。
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開幕から草
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負けないで
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読みにくいから改行、して?(提案)
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「んじゃあまず順序立ててこの機械の理論から説明しますね、つまり北上さんは『不可逆的』ということはわかりますか?意味?意味ですよお。うんそうそう『元には戻すことができない』という意味です!さすが!最近私も覚えました!それで例えば裂いた布同士を元に戻すとか灰をかき集めて薪に戻すとか『こぼしたミルクを瓶に戻す』とかあっこれは西洋のことわざですねつまり『覆水盆に返らず』そう!それで時間もそうですね!それで時間は不可逆でありこれは古今東西の学者が物理学や量子力学どんな分野に渡っても様々な思考実験を重ねても実現は不可逆であることは立証されているわけです。それに私が異を唱えて立証できたんですよすごいでしょうもうすごいったらこの興奮もう!!」部屋では大井っちがケーキを用意して待ってるはず。それを目が血走った相手の与太話に振り回されるなんてなんてついてないんだろ。ちぇっ。
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「…つまり「重力が大きくなる」ことがポイントでありながらそれを特殊ではない環境で実現するというハードルがありましてね」「ところがまず、中性子星のようななんて環境は地上どころか地球の側に作るだけでこれはもう大変なことになって…」全然わかんない。いってること。あーあ、早く終わってくれないかな。
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あれ、不具合なのか改行ができない・・・
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連休前にタイムスリップしてぇなぁ…
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やり直します
AILEくんこの世界落として
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忍殺よろしく、敢えて改行してないのかと思ったゾ
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あえて改行しないスタイルかと思ったからそのまま続けろ
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申し訳ないです
それでは続けさせてもらいます
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◆追記な◆(最初の方は与太話なので流し読みで問題)ないです◆問題なし◆
「とまあ、この場で玄関から外に出る要領でですね!任意の時間地点へ移動する装置を作り出したというわけです」
わー、それはすごいねえ。
「なるほどねえ。面白そうだし、んじゃ、今度試させてくださいね」
「おっとここからなんですよ肝心なのは!!さて北上さんクイズです、『例えば私たちが過去に行ったとしてそれは現在に影響があるでしょうか?』」
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「えっ、それは…あると思うよ」
「だって、よくいうじゃん。未来が変わるから、過去を変えちゃいけないって」
「ブッブー違います。答えは「ない」です。じゃあ説明しますね」
「つまり!現在は過去と連綿と続いていますが、過去は現在に対する裏付けや理由という位置づけでもあるわけです。例えば『風邪で体調が悪い北上さん』が現在存在するとして、過去の『風呂に入ったあと髪を半端に乾かしていた』という事実は現在の状況の因子になるわけですよね」
「それは『AによりBになった』という確固たる因果が成立しているならば揺るがしようがないんです!」
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「へえ…そうなんだ。ちっとも言ってる意味分からないけど…でも髪を乾かすようにさせたり実際髪が乾いたら風邪引かないんじゃないの」
「そう、そこなんですよ、ではさーらーに!北上さん、昨日何したか思い出してくださいできれば残念だったなあということで」
「そうだなあ、じゃあ昨日の晩御飯でおかわりしようとしたら、もうなくなってたなあ」
「えー、うーんまあいいでしょう。じゃあそれに対してその結果を避けるための何かしらの干渉はありましたか?」
「えっ、いやあ、まあなかったけど」
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「つまりそういうことなんですよ。その「おかわりできなかった」っていう、現在自分が知っている経験は、そのとき絶対揺るぎようがなかったことだったんです」
「多分手を付けようにも邪魔はいるんじゃないかなあ、明石さんそう思うなー赤城さんすっごいお腹減らしてたしなー」
「なんだっけなーあのなんかえーと、あそうそう『因果律』っていうやつですかね?よく知らないけど!」
「まあ過去に行ったとして私が『北上さん、おかわりはお早め!』なんて言おうにも北上さんまともに受け止めてくれないだろうし、北上さんが北上さん自身に言うなんてことはできないでしょうしねえ」
バカにされてんのかな。
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別に私は頭良いとはおもわない、まあ自分では人並み以上ぐらいだと思ってる。
最初の量子なんとかとか、中性がなんとかなんとかーとか全然知らない。
でも明石さん、さっきからアタリマエのことを仰々しく言っているとしか思えない。
「もういいかな、大井っちが待ってるから、帰る」
「ちょっとちょっと!あとちょっと!ここがイッチバン大事なんですから!!」
「今までの話はどうでもいいから!いいですか!私は今まで「Aが何にも邪魔されず過去に成立した」ことで「AだからBになった」、それが現在の状況、と繰り返し言いましたよね?」
そうだね、だから?
「んもう、鈍いんだ。つまりですね」
喜色満面だった明石さんから笑顔が消え、私は息を呑んだ。
「私たちは過去に行って」
「そこで何か行動して、それが邪魔なく現在の状況を裏付けすることになれば」
「干渉したとしても成立するんです。れっきとした真実になるんです。」
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◆今夜はここまで◆
出だしからすいませんでした
明日の夜、また続きを書き込みます
AILEくん落とさないで(豹変)
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おうもう夜だぞ
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明日の夜なのでセーフ
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◆◆◆
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「じゃあもっと説明しますね。私たちは今眼前の状況を判断するために過去の経験や知識、眼の前の状況をベースに判断をして、記憶として蓄積していきますよね。当たり前ですけど」
「また例え話ですけど、仮に私が今の北上さんに「あなたは大井さんのところに10分前いましたね」といえば、それは事実だということで受け入れてくれますよね」
「でも知り合いじゃない10年前のあなたに同様のことを伝えても信用はしないでしょ?それは北上さんと大井さんが仲良しという事実を踏まえて旧知の仲である私から伝えたから、という前提があるわけです。」
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「このように『私が発言して、北上さんが認める」という『AだからBになる』という一見単純な流れがあってもそれを成立するためには過去積み上げてきた様々な要因が裏付けしてくれるからこそなんですよ」
「じゃあ逆にですよ、逆に!過去に行って、信用してもらうよう行動するためには何をすればいいと思います?」
「要因が少なければ良いんですよ、相手に判断させる際に不都合な材料が少なければ少ないほどいいんです」
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つまりは。
①出来事の蓄積により現在は成立するが、その出来事を引き起こす存在や意思は時間の流れとは必ずしも同調している必要はない。
②『AだからBになる』ということには裏付けする事柄が多ければ多いほどよく、また一方で少なければ少ないほどよい。
ってことらしい。
騙されてるような…混乱するなあ。
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「まあ長々と説明しましたけど。百聞は一見にしかず!とりあえず過去に行ってみましょう」
「でもどうやって?」
「まあまあ、とりあえずハッカ飴どうぞ。装置はこちらです」
明らかに料理用ボウル、よく見ると後頭部に太い線のようなものが一本つながっている。
雑にくり抜いたようで、銀色のテープで穴と線との隙間をぐちゃぐちゃに覆っていた。線の先は白い箱に繋がっている。
「これ被ってくださいねー。んで、そこのマッサージチェアに座ってくださーい。じゃ、スイッチ入れますねーおっとこれマッサージのスイッチだった」
私、小馬鹿にされてるのかな。
さっさと帰っt――――
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どこだろ。どうやら私は、路地裏にいる。
明石さんの実験室じゃない。
目の前の景色が違う。
表通りに出ると、なんだか町並みや人の格好が全部一世代『旧い』。
馴染みの街ではない、どこかの地方だろうけど、言葉は同じ、顔つきも同じ、でもみんなの格好が『一律に』古臭い。
以前何かで見た江戸時代を再現したテーマパークの、光景が鮮明なのに昔のものばかり、っていうミスマッチさが漂っている、あの空気に近い。
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「北上さんっ!んっ!成功っ」
背後から明石さんが肩をたたいたので、小声で驚いた。
「えっ、ここ、どこなの…」
「25年前のSという町ですよ。」
S…どこなんだろう…聞いたことない。
「提督の生まれ故郷ですよー。ま、喫茶店でも入りましょ」
何でそんなところに連れてきたの!?
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◆今日はここまで◆
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◆しばらくやすみ◆
週末に書き込みます
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けつこういいSFしてるけど、何かスポーツはしてるの?
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◆◆◆
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「どうですか!私の発明、本当の本当でしょ!?信じてくれました?」
街中の喫茶店、窓際の席で一層明石さんは目を輝かせ熱弁を始めた。
客は私たち以外にはおらず、店主も接客してからは居眠りをしてる。
「いやあ、因果律についての思考実験から始まって装置開発まで苦節3ヶ月…!」
「涙あり波乱ありとまたその短くもあり長くもあり常に失敗に怯えながらしかし打ち克った私にたいして提督はもっと敬意を示して頂いてかくなる上は…」
自分以外の人間に自分の実績がわかってもらえて大層ご満悦の彼女の話は半分に、窓の外を眺めていた。
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瞬きするぐらいの時間、目の前の光景が変わって、知らない街にいて。
皆の格好が『打ち合わしたように、一律に』古臭くなって、だけども今飲んでいるコーヒーは熱くコーヒーの味がする。
夢なら頬をつねってみて、よく言うやつだ。
だけども熱いコーヒーを現実通り味わう夢なんて私は知らない。
ひとつ、ひとつ。
いま、手に触れ感じたもの、目に映るもの、聞こえる音、香り、味。
確認していって、私は全身で悟った。
これが、私が、過去に飛んできた、ということ。
別の時間に、本当にやってきた。
無鉄砲な男の子は興奮するかもしれない。
私は、いま、焦りと不可解さで頭がいっぱいになってしまった。
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「北上さぁん?聞いてます?」
「え、いや、ごめん。まだ混乱してて…」
「まあそうですよね。私も最初はそうでしたし。ところで、覚えてます?私がさっき言ったこと」
「えっ…。あ、過去へ干渉して、邪魔が入らなきゃ」
「真実として成立する、ですよ」
「つまり、未来からやってきた私たちは過去のこの時間、この喫茶店に入り、コーヒーを飲み会話した。これが成立したということは、これは時間軸上において様々な要因に邪魔されず成立した、ということです。」
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「例えばあのハゲオヤジのマスター、居眠りのほうが大事だったということで成立を妨げる因子にならなかった、とかですかね」
「わけがわかんないや」
「まあ、試しに何かやってみると良いですよ。」
「親殺しとか」
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血の気が引いた。
この人は本気で言ってるんだろか。
「今、倫理感が働いたと思います。そういうのも成立を妨げる因子となるんです」
「ごめんなさい、キツいジョークでしたね」
「冗談でも、そういうことはやめて」
「いやあ、悪気はないんで、許してくださいね、コーヒーおごるから」
混乱した頭に少し嫌悪感を注ぎ込まれ、窓に再び目をやった。
道路の向こうに公園がある。
子どもたちがじゃれ合って…いや、あれ、ひとりいじめられてる。
「ちょっと明石さん、コーヒー代よろしく」
「え、北上さんどうしたんで…行っちゃった」
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◆今日はここまで◆
またこんど…
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オツカレサマドスエ
あからさまに不穏な空気なのだ!コワイ!
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やりますねぇ!
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不穏というよりそういやこいつらも親とかいるんだなとか思ってしまった
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ちょっとお休み頂きます
すいません
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待ちますよ〜待つ待つ…
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待ったぞあくしろや
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◆◆◆
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往来を抜けて向かいの公園へと私は走っていった。
一回り小さい男の子は、数人に囲まれて突き飛ばされている。
「ちょっと、君たち、何してるの」
「誰?」「知り合いか?お前?」
「理由は知らないけど、よってたかっていじめるなんて」
「こいつ度胸見せる言うとに、なんもせんで嘘ばっかつくからや!」
「独りで君たちの相手して、それは度胸あるんじゃないの?それに付け込んでる君たちは卑怯じゃないの?」
「い、いや…」「おい、もう行こうや…」
いじめてた子達はバツが悪そうに、しかし素直に帰っていった。
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「君、大丈夫?」
泣きじゃくる男の子を蛇口へ連れていき、土埃と血を洗ってあげた。
彼は左手の小指を深く切ったのか、血が止まらない。
「ハンカチあげるから、これで傷口を抑えてね。泣かないで、もう大丈夫だから」
ベンチまで連れていき、側に引き寄せ嗚咽が止むまで頭を撫でた。
悔しさで震えていた小さな体も、少しずつ落ち着いてきた。
「お母さんに連絡してあげるね、ちょっと待って今電話を…」
しまった。
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ポケットにはさっきのハンカチ以外、何もない。つまり、電話もできない。
えづくのも収まった彼は、困った顔の私を見て察したのかもしれない。
「おねえさん、ありがとうございました!明日、ハンカチ、洗って返します!」
大声で、男の子は公園から走り去ってしまった。
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その時。
「北上さあああん、ちょっとおお、大変ですうううう」
半ば泣きべその明石さんが走りながらやってきた。
「北上さあん、戻らないとマズいですよお。さっきのマスターに新札出しちゃってえ」
「な、なにしてんですか!戻るってどうやって」
「ともかくそこの公衆便所の個室へ、二人で入りましょう!」
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大声で追いかけてくるマスター。
手を引いて公衆便所へ逃げ込む女二人。
鍵をかけ、息を整えて
「あ、ハッカ飴どうぞ」
「そんなもん食べてる場合!?」
「ともかく口に含んで!」
「おいクソアマども出てこい!」
「変態親父!!女子トイレまで女を追いかけて何する気だ!!」
新たに加わる怒号。
荒くなった息を整えさせられ、動悸が一つ、大きくなって――――
「無事帰れましたね!大成功!!」
私はこの人と二度と過去へ行きたくない。
ちぇっ。
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冷めて渋くなった紅茶を飲む。
大井っちの話は上の空。
本当に過去に行ったのだろうか。どこか知らない場所へ飛ばされたんじゃないのか。
古びた写真で見慣れた光景が色褪せずに目に飛び込む、強烈な違和感。
『新札を出しちゃいましたあ』
明石さんの情けない泣き言が何度も蘇る。
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「北上さん?聞いてます?」
「え、ああ、ごめん。ちょっと考えてて」
「でしょ?考え込みますよね?あの無神経男、自分はカツカツなのにたまには楽しんでこいなんて差し入れやめないで…」
延々と提督への悪態?を言ってるくせに、大井っちホントは好きなのバレバレ。
話の腰を折り、用事と適当なことをいって部屋を出た。
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廊下をあてなく歩き続けるうちに、私のなかの疑念は確信へと変貌していく。
やはりあの経験は本当だったんだろう。
やや焦げた熱いコーヒーの感触は舌に残っている。
いつかの昔にお邪魔して騒動起こしたことは、つまり成立した干渉ということなんだろうか。
ひとつひとつの行動を詰めていくと頭がこんがらがるから深く考えないようにしよう、そうしよう。
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それなら、過去を変えるチャンスが有るなら適当にいってみようかな…。
あれ?
ちょっと待って?
過去に干渉して成立すればそれは現在の裏付け、なんだよね?
ということは。
自分が知らない、誰かの過去をのぞいて、やりたいちょっかい出して成功すれば…。
うまくいけば…そのひとと私の『既成事実』が出来あがるってこと?
おおっ。
運命の追い風と、私の顔をした悪魔が背中を押したかな。
歩みが少し勢いづいた。
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◆今日はここまで◆
ほなっ!
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日が変わったぞあくしろや
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>>58
しょうがねぇなあ
ほらいくどー
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◆◆◆
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「おっす、提督」
「ノックして入るように。執務中」
「んまあまあ、おやつ時でしょ。休憩休憩」
「そうだなあ、少し休憩するか」
「私コーヒー淹れてあげる。ブラックでいいんだよね」
「よろしく。そういえば貰ったクッキーがあったな」
他愛のない会話をそっけなく話すのでも、私は悟られないように目を合わせない。
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「そういえば提督はさあ、どこの生まれなんだっけ」
「何度目だよその話は…W県だよ」
「そこまでは知ってるけど、W県は広いじゃん。どのあたりなの」
「Sっていう県境のわりあい小さな港町でね。大きな川があるんだよ。年中暖かくて過ごしやすいところさ。北上の生まれたところみたいに雪は降らないな、全く、うん」
故郷の話をする彼は普段とちがう。
柔和な顔でさららと語り始めた。
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誕生日、みかんを食べ飽きるほど食べたこと。
昔は体が小さくいじめられっ子だったこと。
行幸の様子をみて一念発起し海軍を目指したこと。
数年後学校受験に失敗し夜中海へ崖から飛び込もうと思ったとき夜明けを見て思いとどまったこと。
最近は母親から嫁はまだかと電話ごとに言われること。
ハニカミと苦笑いを繰り返し丁寧に語ってくれた。
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「へえ、いつかそのSっていうとこ、行ってみたいなあ」
さっき行ったんだけどね。
25年も前の。
「ああ、休み取って旅してくれたら嬉しいな」
「ここからだと下手したら片道で1日以上はかかるかもしれないね」
「えっ、遠いなあ…行って折り返すだけで休み潰れそう。ちぇっ」
関心を匂わせたり、悪態をついたり。
気を引きたい、けどバレちゃ耐えられない。
「そういや私もちっちゃい子がいじめられてたの見てられなくて助けたんだ、さっき」
「『さっき』?命じていた出撃サボったのか?」
しまった。
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話を合わせたいだけで不用意なことを口にしちゃった。
「い、いやね、さっきここに来るまでにぼーっと外の景色見ながら来てさ、ちびっ子が見えたからそういえば昔助けたなー、なんてふと思い出しちゃってさあ」
「大体報告聞いてるでしょ。サボったなんてありえないじゃん、さ」
「そりゃそうだな…ん、このクッキー結構美味いぞ」
「ん、どれどれ」
危なかった。
でも、聴きたいことはだいたい引き出せた。
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退室し、途中図書室によってから、誕生日から逆算をしながら、部屋とは反対の方向へ。
えっと行幸の時期が…あの人の受験が…。
…よし。
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「いやー、ほんっと申し訳なかったです!それとまた来てくれてありがとうございます!」
「ほいで、次、『いつ』『どこ』に行きます?」
「うん、それなんだけど…一人でいってもいい?やっぱまずいかなあ」
「いいですよ、別に」
あっさり。
「ただ、行く時と帰る時にこのハッカ飴舐めてくださいね。じゃ多めに6個。それで一呼吸したら装置が作動するようになってますから」
「どういう仕組なの、それ」
「まあ飴はタイムトリップ時の体に対する準備みたいなもの、と思ってください。一呼吸するのは装置が認識するためのスイッチです。それでいつに行くんですか?」
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◆おやすみ◆
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おはよう
あくしろや
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おう選挙も終わったし台風来てるしやることないだろ?
あくしろよ
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◆◆◆
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夏の夜中のSをに飛び込んだ私は、早々に後悔してしまった。
ちぇっ、どこに行けばいいんだろ…。
駅の地図看板を見て、それは解決した。
Sは南北に長く、海に面している部分は狭い上に西側から漁港が横に広がり、川を越えた東の端っこに崖があるらしい。
早速、崖に行ってみると誰もいなかった。
一人きりだし、満月を眺めて時間を潰すことにする。
あとは、彼を待ってから…
あれ?
『待ってから』?
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あれ?私、思いとどまらせるためにここに来たんだよね?
『そして?』
夏の夜といってもさほど暑くなく、風が心地よい。
私は草の上に腰を下ろし、海を見て、浮かんでくる疑問に頭がいっぱいになった。
『そもそも、彼は自殺しなかったんだから、とっくに知ってるし、ここにくる必要ってないんじゃないの?』
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明確に答えはわかってる。
そして、出し抜く、とかできるできない、とか照れくささとか。
卑怯とか、も。
そんなことが過ぎっては消える。
わたし、面と向かって、声に出したくても出せない、「だいすき」という気持ちはあるよ?
でも、言えないから、苦しいからって、過去に飛んで昔の彼に会ってって…。
会って、どうなるの。
会ったところで、『今』の彼に伝わるかどうかわからないじゃない。
あれ?
私、何しにここへ…。
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夜が明けた。
海は桜色に染まり始めても、私以外ここにはこなかった。
私は飴を口に含んで、息を吸った。
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――
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「へえ、やっぱりね。あの北上さまが、勢い任せにね」
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――
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ただ衝動的に、日めくりカレンダーを一気にめくるように、私は一日毎に過去へトリップしていった。
最初は明石さんの許しを得ていたが、しばらく後からは勝手に。
装置の操作は盗み見し、見よう見真似でやっていた。
壜の中にある飴のストックが減っていくのが気にかかったが、向こうは勝手に補充してくれているし、何も聞かない。
ー他にもトリップしている人がいるんだろうか。
そう思うと焦りが先走り、日に二度、三度と重ねて夜明け前の崖に行く。
彼は一度たりともこなかった。
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しめて一月分の夜明けを眺め続けたあと、時差ボケのような強烈な睡魔と今まで感じたことのない疲労感が襲うようになってきた。
そんな中でも出撃への招集を受け、私はドックへ。
休みたいけど、命令でてるし…。
だだっ広い海原は単調で、眠気がより強くなっていく。
ふらついて、あっやばい…もう前のめりに倒れそう…ってなって…
確か眠くてねむくて、そして熱さと強烈な痛みがきて…
グシャッ
そんな音の後から記憶がない。
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◆おやす銘傑◆
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ハッピーエンドでオナシャス
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北上さんを幸せにしろ
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新宮市かな?
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>>84
なぜバレンティン
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◆◆◆
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目覚めると、口の中で激痛が走った。
続いて背中、両手両足がしびれと痛みに包まれる。
「北上さんっ。意識が戻りました!!」
大井っちの声が聞こえて、耳鳴り…キィーン…意識が…
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また目覚めると、真っ暗だったから夜だ、と思った。
耳鳴りは収まってくれていたが、喉が渇いた。
あー、大破しちゃったかあ。疲れて一日中寝てたんだなあ。
喉乾いたなあ…今何時だろ…。
「…さん、北上さんっ!やっと…」
「一日…寝てた…」
風切音と一緒に、やっと声が出る。喉が渇く。
「一週間以上も意識がなくて心配して…私もう駄目じゃないかって…」
包帯がかかっていない左眼で見つめると、艶のない髪で顔もやつれきった大井っちが泣きじゃくって…霞んで見える。
そっかあ、眠り続けてたんだね。
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「水ね、飲みたい…」
「今用意しますから、もう峠は越えたって言われたから大丈夫ですから、それでももう起きないんじゃないかって毎日毎日不安で…」
嗚咽を漏らしながら水差しで飲ませてくれた。
喉を潤すとまた瞼が重くなる。
「絶対に完治しますから…ゆっぐりやすんで…」
泣きじゃくる声が遠くなっていく。
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傷の痛みで目が覚め、耐える気疲れで眠る日々が続く。
数日間の昏睡があり、それから寝て起きるの繰り返しで今が何月何日かがわからなくなっている。
幾日だったかわからないけど。
顔に包帯、右腕にギブス、左手はやけどの包帯、不格好でも起き上がれるようになった。
みんなが出撃する様子をベッドの上で眺める。
冬にしては日差しが暖かい晴れの、心地よい日だった。
「北上さんっ」
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本能的に振り向こうとしたので、痛めた背中を忘れてたから、ううっと唸ってしまった。
「大丈夫ですか?ちょっと、失礼しますね」
明石さんは隣に座った。茶紙袋を抱えて。
「不幸中の幸いでしたね、不意に倒れて、そのまま敵の攻撃をもろに受けたって聞いて、わたしもう駄目じゃないかって思いましたから」
全然覚えてないや。
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「飴が日に何個も無くなって、使用履歴観たら1日おきに誰かトリップしてるなっと気づいたんです」
「あ、北上さんがこっそり使ってるな、って悟って止めようと思ってたところだったんです」
「…ごめんなさい。確かめたいことがあって」
「大体わかってますよ、何がしたいか」
とっさに、誤魔化す事を考え始めてた、けど。
全てお見通しだったんだね、黙ったほうがいいかな。
「力になりますよ。ただ少し、時間貰えますか?」
ただ、うんと、頷いた。
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◆グッ内藤雄太◆
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グッないすとぅーみーちゅー
まったり読んでるゾ〜
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◆◆◆
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ちょっときつい、ハッカの匂いがする。
夜明け前の崖、じっと座って、時折振り向いて
そして独りで夜明けを見る。
…夢じゃん。
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「…業務でお忙しいのは承知の上っ。今後のためにもご協力、ね?」
「また怪しいもの作ったんだろ…その犠牲にはなりたくないんだけど」
「人聞きの悪い事を。ちゃんと『試運転』は問題なかったのでご安心ください!」
「それじゃまずこの飴を舐めて、これを被ってください」
「今回限りだからな!こないだの忘れねえぞ…」
「てめえのポンコツが目の前で壊れたせいでこの小指、変な切り傷できたんだからな。全く…」
悪態をつき、チェアに座る提督。
「全くホントなんなんだよ、なぜこんな面倒な目に…」
途端、提督は急に脱力し、彼の口から、およそ人語とは思えぬ、高低差が激しい音が発せられ始めた。
「…よし、それじゃ記録開始」
明石は機器を注視する。
「自殺未遂は8月21日の夜明け、か。さて、次は傷、と、」
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――――――――――――――――――――――――――――――――――
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私は、この病室に入って以来、夜になると悪夢ばかり見るようになった。
悪夢というのかな、後悔していたことがリフレインする。
『一人で初詣した帰り』 『大掃除の日』
『夕暮れの埠頭』
『通り雨のお迎え』
『ひとり執務室で待ってた』
『図書室で本を取ってもらった』
全部、全部、自分があと少し、勇気出せたら、掴んでいた幸せが垣間見える。
霞んでるのに確実に幸せだったはずの『もしも』を感じとって胸が苦しくなる。
夢から目覚めると、涙が耳へ伝っている。
違うんだ、北上さまも、傷の激痛には敵わないときもあるんだって。
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側にだれもいないのに強がって、なんとか心を保とうとする。
大井っちも誰もいないのに。
ドアの下、廊下の電灯が漏れてるだけの、真っ暗な部屋。
孤独で、やっぱり私は失敗しちゃったんだとおもうと更に嗚咽が漏れ出す。
ノックの音。
「北上さん、夜遅くごめんなさい」
…明石さん、か。
「用意できましたよ、北上さん。過去へ、行きましょう」
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いままでの北上スレは伏線だった…?
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「現在の身体情報を織り込まないように設定したんだけど、おっかしいなあ…」
私たちは崖の側に立っていた。
私、右腕にギブス、眼帯に額の包帯という格好。
「ともかく、これから過去の提督が例の崖にやってきますから、話しかけてください」
「干渉が発生するかはわかりません。何にも邪魔されず会話が始まれば、あとは全て北上さん次第ですから」
電柱の貧弱な灯りが際立つ闇の中、明石さんはそういって崖とは反対の方向へ消えていった。
立ち尽くし、足元の砂利を見つめてしまう。
告白のときって、言葉が溢れんばかりに頭を埋め尽くすけど、口は締め切った蛇口になってしまう私。
不思議と、今は全く逆だ。
数分後、向かいから男が歩いてきた。
慌てることなく、電柱の陰に隠れる。
間違いない、彼だ。
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崖に向かった若い彼は、海に向かって腰を据えた。
私は、意を決する、ということもなく、自然な歩みで寄っていく。
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◆おや炭谷銀仁朗◆
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◆見てんのかなだれか◆◆再開な◆
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「きみ、こんな時間にどうしたの?」
思いもよらぬ声かけに驚いたんだろう、彼は振り向いた。
「私は…辛いことがあってここにきました」
そっか、と一言つぶやき、私は傍に座った。
「見慣れない…方ですね。ひどく怪我もされている」
「ちょっと、色々あってね。ところで辛いことって、どうしたの?」
「語るほどのことではありません。しょうもない話です」
「私は海軍に憧れ試験を受けましたが、今年も落第してしまいました」
「もはや見込みもないと悟って、身を投げよう、などと思っていたのです」
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(見てるから)よろしく。
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>>110
ざけんな(照れ隠し)
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「そうだったんだ。頑張ってもだめだったのが続いたら、辛いもんね」
「自分には縁がなかった、ということなんでしょう」
「諦めて別の道を考えるよう言われましたが、納得することができず苦しい日々が続いています」
「なれば、と思い切ってここに来てしまいました」
「私ね、うん、違うけど、同じような悩み抱えてるんだ」
「もう一人の自分が諦めろ、って諭すんだけど、もう一度、もう一度、って頑張ってるんだ。それでもまた失敗するんだけどね」
いつもクールな北上さまのための、嘘半分だけども。
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「はは。なんか、似た者同士ですね、私たちは」
胸が、とくんとした。
「そうだね」
気が紛れないよう、続けて話す。
「昔ね、私、いじめられっ子を助けたことがあるの」
そう、小さい頃の君。
「体がおっきい子達に囲まれて、泣きべそかいて、指に大怪我してた」
「小さい体なのに諦めないで立ち向かってたんだ」
昔から変わらない、無鉄砲さ。
「偉いとか偉くないとか、そんなんじゃなくて、負けられない時って、自分のために心も体も自然と動いてくれるんじゃないかなって、その時思ったんだよね」
私たち似てるんだよ。
「キミも、いま身を投げようって思ってたけど、迷ってたり諦められないってことだったら、心も体も、海軍に行きたいってキミを突き動かしているからじゃないかな、って」
「はあ…」
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「ごめんなさい、ちょっとメチャクチャなこと言っちゃてるかな」
いつの間にか、東の空は明るくなり始め海が茜を帯び始めている。
「私は…私は、キミに死んでほしくないなって」
「ええ、まあ、目の間で死なれたら嫌でしょうね」
違うよ、ちがう。
そんなんじゃない。そんなんじゃなくて。
「違うんだよ」
「違う、とは」
「私たちはね、また、あとで逢い直すの」
「私は、あなたとまた、もう一度逢って、幸せだったの。何度でも、アナタハココで死ぬナンテことガあったらワタシは絶対ni守るために―」
ベッドに私は横たわっていた。
「北上さん、ごめんなさい。身体への負担が無視できなくなってから、強制的に戻しました」
また、中途半端で、終わった。
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「うーむ、ちょっと織り込み方強引かな?ま、いっか後で上書きしよっと」
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なあ、俺も年取ってきたなあ、って最近思うようになってきたよ。
最初は賑やかで刺激的だ、なんて思ってたのが、繰り返されると何も感じなくなってきた。
朝起きて、飯喰って指示出して、業務こなして飯喰って風呂入って寝るだけ。
砲撃の音よりも、茶碗を割った音に冷や汗をかくようになってきた。
同じことばっかりだから、身の回りのことに無関心になってきてるんだな。
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さっき引き出しを探ってたら、ハンカチが出てきたよ。
茶色いシミが取れないままだ、そして小指の傷。
あの時の悔しさと恥ずかしさははっきりと覚えてるよ。
慰めてくれた『お姉さん』の様子はおぼろげだけどな。
お前そっくりだった…かな?
崖の上で無力感に苛まされてた時、似たような女に諭された。
話聞いてたらいつの間にかいなくなってたな。
そういやガキの時に出会った『お姉さん』に瓜二つだったと思ったよ。
ハッカの匂いがつんとしたのも覚えてる。
今、わかったよ。
お前だったんだな、北上。
2度も俺を宥めて、助けてくれたのは。
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大怪我から2ヶ月、全治とは言わないまでも、痛みは大分減り、歩くのも苦ではないまでになってきた。
大井っちは甲斐甲斐しく見舞いを続けてくれ、昼夜問わず差し入れや話をしてくれる。
夜中、隣のベッドに彼女が寝たのを見計らって、執務室へ。
「提督」
「どうした」
「私、あの崖に戻りたい」
「そうだな、一緒に、帰ろう」
私たちは、最低限の荷物をまとめ、始発に乗った。
東の夜空が群青色になる前、寝過ごした酔客しかいないホーム。
誰彼からも顔を見られぬよう列車へ飛び乗った。
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◯月☓日
提督●●並ビニ重巡洋艦北上失踪発覚ヨリ30日。
本部ヨリ捜査打切並ビニ両人ノ軍属カラノ除籍ト通知アリ。
代行大淀ハ任ヲ解カレ新任ガ着任ト合ワセテアリ。
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ファ!?
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提督、北上さん、どこへ行ったんですか。
執務室も、私たちの部屋も今もそのままにさせています。
ふと思いがよぎるんです。
ドアを開けたら、玄関を出たら、その路地を曲がったら、二人が隠れてるんじゃないかって。
そしていつも、その後に、声にならない寂しさに締め付けられます。
私は望んでいた幸せを全て失ったのに、これからずっとあの頃が戻ってくる期待感に苦しめられ続けるんじゃないか、って…。
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◯月△日
本部ヨリ異動ノ通達アリ。
明石ハ翌月ヲ以テ本部付トナル。
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「じゃあ夕張ちゃん、資材在庫の棚卸表はこれにまとめてるからこれに上書きしていって」
「ありがとうございます。明日でまた一人、ここからいなくなるって寂しくなりますね…」
「もう!死んだわけじゃないんだし。それに何かに託けて遊びにくるから」
「私、作ることもおぼつかないのに不安で…」
「泣かないの!本部で研究して、いいもののいの一番で回すから」
「量産化とかもそっちの事情を考えてするから安心して」
泣きじゃくる夕張のを苦笑いで宥める明石へ、後ろから大井が近づいて来た。
「少し、いいですか」
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機材だらけだった研究室は、既に大方が運び出されていた。
埃だらけの床の上に椅子が一対、書類が入った箱がいくつかあるぐらいだ。
「お聞きします。この、論文はなんですか」
書類を掲げ冷静を努めている大井は、しかし手が震えていた。
「あー、一番見つかりたくない人に見られちゃったかあ」
表題はこう記されている。
『薬物を用いた催眠下に於ける言動ならびに判断の制御について』
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明石の名前があるその論文には、詳細に被験者の様子が描写されていた。
イニシャルで二人の男女が、ハッカの匂いを嗅ぐたびに催眠状態となり、それぞれ『辻褄の合う』記憶を刷り込まれ、最後に失踪するまでが。
突きつけられて少し青ざめたようだったが、その顔はまた苦笑いに変わった。
「いやあね、北上さん、提督に惚れちゃってたでしょう?」
「なかなか自分から行かなくてもじもじしてるのがちょっと可哀想だったから『私なりに』背中押してあげようかなーって」
「たまたま研究したかったことだったんですよ。艤装強化ばかりじゃ金も資材も際限なく使うだけだったから、ちょっと視点変えて、ね?」
「精神的に相手を制御すること思いつたんですよ。すごいでしょ?」
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「もう大成功でしたよ」
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なんてことだ…なんてことだ…
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「まず潜在された記憶を音声化してデータベース化して、適当な視覚情報と結びつけ体験していると錯覚させること!」
「最初はヒヤヒヤしたけど上手くいったときは変な声だしちゃいましてね!」
「あとは二人に自分が描いたシナリオどおりに『記憶』させる応用だけ!」
「すれ違いばかりの二人が気付き合って、最後は駆け落ち、うーん、ちょっとロマンスが過ぎたかなあ」
「右だっけ左だっけ、提督の小指の傷を赤い糸に見立てて、なんてちょっとメタファーがわかりにくいかな?」
「ちょっとしたトラブルも織り込んだコメディ風味もおりこんで、最後は何もかも捨て去って二人きりで、やー、恋愛映画のフィナーレみたいね、うん」
「わたし天才科学者なのにここまでうまくまとめちゃった!小説家にもなれるかも!」
苦笑いはいつの間にか無邪気な笑顔になっていた。
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大井は怒りに震え、噛んでいた下唇から血が流れていた。
「あんた、人の人生書き換えて…友達奪って…許されると思ってんの…」
「おっと、私は恋のキューピットを私なりにしただけですよ?恋する乙女が幸せならいいじゃないですか」
「返してよ…二人を返して…」
涙を浮かべた大井は、椅子を振り上げようと背もたれに手をかけた。
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「あー、お気持ちお察ししますけど、私は本部付の人間ですから」
「何か危害加えたらただじゃすみませんよ。あなたも」
「あの二人も」
先程と打って変わり、低いトーンで諭しとも脅しとも取れる一言に、青筋立った白肌の手から力が抜け、大井は真顔になった。
「二人って…どこにいるのよ!!」
「場所は本部からの指示により言えませんけど」
「監視下で無事ですよ。あ、監禁とかじゃなくてフツーに生活してますからご安心ください」
「言いなさいよ!連れ戻さなきゃ!」
胸ぐらを掴まれた明石は、冷酷に言い放った。
「軍属ではない一般人を許可なくここに立ち入れることは禁じられていますが?友達連れ込むなんておかしなこと言ってんじゃないですよ」
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突き飛ばされて力が抜け、力なく床に座り込んだ大井は、むせび泣き始めた。
生きていたという安心と、これからどうすれば2人が見つかるのか見当もつかない絶望のために。
明石はよれた襟元を直し立ち上がった。
「それじゃあお元気で。お体を大事に」
「あーそういや『明々後日』Sまで『様子見に行く』用事あったなあ」
「やだなあ異動前にW県まで遠いなあ…あ、ごめんなさい独り言独り言」
引き戸が閉まり、大井は泣きじゃくるのをやめた。
今日の夜、Sへ彼女は行かなければ。
二人を、連れ戻すために。
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◆おやす三上朋也明日からまた頼むで三上朋也◆
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新宮市決戦めっちゃたのしみです
次の投稿お待ちしてナス!
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>>136
和歌山県民じゃないけど新宮市名物干し秋刀魚無茶苦茶美味いので召し上がってクレメンタイン
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iD変わってた
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面白くなってきたー!
楽しみにしてます……
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◆書く気力ない◆
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◆これで終わってもええやろ(ヤケクソ)◆
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だめです
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何言ってるの、新宮市民として恥ずかしくないのかよ
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http://b--n.net/
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◆◆◆
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春というのに、底冷えがする鎮守府のあたりと違い、小走りすると汗ばむような暖かさのS。
夜行列車で乗り継いで、翌日の夕方に大井はS駅についた。
近くの盛り場から声が聞こえる以外、街灯がぽつりと道の間隔を示しているだけ。
駅前の旅館に部屋を取り、荷物を置いたら早速行けるところまで探しに行く。
盛り場や港を歩いても二人は見つからない。
思いつく限りの場所を歩き回った。
二度、三度と盛り場を往復した。
が、夜が更けるにつれ人通りは絶えてしまった。
失意のうちに彼女は宿へ戻り、風呂も半端に切り上げ寝床につき
そして泣いた。
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翌日、日もまだ昇らぬ頃。
髪をまとめて彼女は宿を飛び出し、西の港へ向かった。
荷役や漁師が集まるところなら、提督がもしかしたらいるかもしれない。
柄の悪い男たちから色目で見られ冷やかされ歩き回った。
いなかった。
朝ご飯に戻ってもう一度街中を歩き回った。
小さな町に見知らぬ人間が徘徊しているからだろう。
家々の女たちが話を止め奇異な目で見ているのがわかる。
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路地という路地、飯場にも足を運んだが、いなかった。
尋ね回ったが、良い答えどころか冷やかしと悍ましく卑猥な言葉を返されるだけだった。
夕方も前日と同じように歩き回ったが、やはり、いなかった。
宿に帰り、彼女は畳の上に座り込み、また泣いた。
あの独り言にすがってやってきた、信じてしまった私が悪い、と。
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最後の朝、始発に合わせて夜が明けぬうちに宿を出た。
今日中に、明石にバレないように帰らないといけない。
バレてしまえば、私が鎮守府にいれなくなる。
不本意な保身への後悔と失意のなか、せめてでもと駅までの道を遠回りに遠回りを重ね歩いた。
「いるわけないじゃない…こんな朝早く…」
誰一人いない駅のホーム、東の空はほのかに明るい。
乗り込んでしばらくして、始発列車は動き始めた。
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たのしみにしてました
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客車の席に座り、海を眺める。
単線を走る列車は、街を抜け、大きな川に掛かった鉄橋を行く。
揺れながら、御世辞にも速いとはいえないスピードで。
今日の今日まで手がかりすら見つけられなかった。
後悔、無力感。
頭の中を巡り巡るが、もう泣き疲れていた。
巡る想いの合間を縫うように、三人でふざけあったしょうもない出来事が、何気ない会話が、殊更に輝いて苦しめる。
鎮守府に戻れば再開する確信をしている、けども二度と戻ることがない、あの日常が。
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窓の外は日が出始めていた。
前方に崖が突き出している。
力なく見やると、その崖の上、草むらに二人の男女が座っていた。
本能的に、目を見張った。
二人の体格、女の方の長い黒髪…。
あれは…!
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血相を変え、窓を開けようとするが、なかなか開かない。
崖はどんどん後ろの方に遠ざかっていく。
彼女は席を立ち、後ろの車両の方へ走り出した。
扉を開け、揺れに耐えながら後方へ走っていく。
「お客様、車内で動かれると…」
青ざめた車掌を突き飛ばし走り続ける。
とうとう最後の車両の扉を開けたとき、大きく揺れて転けてしまった。
すぐに立ち上がり、直ぐ近くの窓に手をかけ開けようとする。
窓は、開かなかった。
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「提督…北上さん…」
両手と頬を窓に貼り付け、後方を覗くも、カーブを曲がりきっていたために、もはや朝日に輝く海しか見えない。
ずり落ちるように膝から崩れ落ち、また、泣いた。
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その後、大井は数度内緒でSを訪ねている。
が、二人の消息はついに掴めなかった。
彼女は今でも昔のままに、自分達の部屋の入口は相方の札も掲げている。
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◆おしまい◆
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ホントにおしまい…?
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乙ゥ^〜
なんか(ハッピーエンドが)足んねえよなぁ?
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オッツオッツ!
なんか二週目やったら別のルートが出そうな終わりだと思った(ゲーム脳)
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おやまだおちてない…
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https://i.imgur.com/n5jA22I.jpg
(拾い物ですけどなんか雰囲気合ってる北上さま貼っときます)
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(正規ルートの別END)決めてんだろ…くれよ…
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>>162
(思いつか)ないです
許し亭許して
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あ
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北上さん
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