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川 ゚ -゚)  忘失都市のようです
1名も無きラノベ祭のようです:2012/11/23(金) 01:30:13 ID:Li8TKnIc0








この街は、きっと全てを受け入れてきたのだろう

                           ――――とある学者の手記







                                                  .

2ラノベ祭名無しさん:2012/11/23(金) 01:31:34 ID:Li8TKnIc0
(゚、゚トソン 「地図にない街」、ですか

私の言葉を反芻しながら、セーラー服の少女は学生鞄を左手に持ち替えた
右腕を真横に伸ばし、荒れ果てたアスファルト路面を指差しながら彼女は言葉を続ける

(゚、゚トソン ええ、確かにありますよ。この道をまっすぐ……そうですね、徒歩であれば2時間くらいでしょうか

(゚、゚トソン バスで近くまでなら行けますね。それでも30分ほどは歩かなければいけませんが

(゚、゚トソン バス停もこの先に……いえいえ、お礼をされるようなことではありませんので

(゚、゚トソン それでは私はこれで。どうかお気をつけて

(゚、゚トソン ……探し物、見つかるといいですね

お礼をしようと財布を取り出した私を手で制し、彼女は行ってしまった
この辺りに通う学生だったのだろうか。丁寧な口調といい、気配りの上手さといい、なんともよくできた子だ
――とにかく、求めていた情報は得ることができた。急ぎの旅ではないけれど、時間を無駄にするのも惜しい
彼女の指した方向に向き直り、私は歩きだした

3同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:32:24 ID:Li8TKnIc0
歩き始めて5分ほど、彼女の言葉通り、バス停に辿り着いた
程なくしてやってきたバスの車内はひどく閑散としていて、聞こえる音といえば、エンジンの回転音とノイズの混じった車内放送くらいのものだった

(’e’) 次は〜○○〜○○〜お降りのお客様はお忘れ物にご注意ください

私が乗車して4つ目のバス停で、若い男性がひとり乗り込んできた
彼はゆっくりと車内を見渡すと、私の方を見て少し驚いたような顔をした

( ・∀・) 失礼。このバスに乗っているということは、お嬢さん、もしかして「あの街」に行こうとしているのかな?

頷いて、肯定の意を示す

( ・∀・) ……やっぱりね

( ・∀・) あそこに行くのは初めてだろう?僕に案内をさせてくれないかな

所謂ナンパというものなのかと思ったが、そういうわけではないらしい
話を聞いたところによると彼はあの街の管理人のようなもので、こうやって案内をするのも仕事のうちだということだ
初対面の人間ということで多少警戒していたけれども、半信半疑でバスの運転手に確認してみると

(’e’) ああ、そうだね。確かに彼は「あの街」の管理人さ

ということだった
こちらとしても願ったりな話だったので、素直に案内をお願いすることにした

4同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:33:28 ID:Li8TKnIc0
「この国のどこかに、地図にない街がある」
そんな噂を聞いたのは去年の春、およそ一年半ほど前のことだ
その街を訪れた人間は、失われてしまった記憶を取り戻すことができるという

( ・∀・) やっぱり君も、その噂を聞きつけてやってきたんだね

( ・∀・) ひと月に一人か二人くらいかな。君みたいな若い子は珍しいけどね

( ・∀・) あの街は忘れ去られた「記憶」達が最後に辿り着く場所だ

( ・∀・) きっと君の求める記憶もそこにあるだろう。もっとも、それを見つけることができるかどうかは君次第だけどね

( ・∀・) 歓迎するよ。そこは言うなれば「記憶の窪地」、人呼んで――――

5同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:34:09 ID:Li8TKnIc0






           川 ゚ -゚)  忘失都市のようです






                                                  .

6同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:34:53 ID:Li8TKnIc0








継ぎ接ぎだらけの街である

              ――――とある老人の証言







                                                  .

7同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:36:12 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚*ζ

鈍色の空の下バスを降りると、辺りは深い霧に覆われていた
眼の前にいる彼――「モララーと呼んで欲しい」と彼は言った――の顔すら霞んで視えるほどに不明瞭な視界
開けた土地であるにも関わらず、「あの街」の影を見ることは叶わない

ζ(゚ー゚*ζ 本当にここで合ってるんですか?

( ・∀・) うん、間違いないよ。この先にあるのが忘失都市さ

ζ(゚ー゚*ζ そうですか……

( ・∀・) ちょっと歩くけど大丈夫かな?

ζ(゚ー゚*ζ はい

( ・∀・) この霧なら……そうだね、30分くらいかな

( ・∀・) 急がなくていいから、足元に気をつけて付いてきてね

そう言うと彼は私に背を向けて歩きだした
私は彼の言葉に倣い、視線を落としてその後を追う

8同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:43:32 ID:Li8TKnIc0
歩き始めて10分ほど。唐突に彼が口を開いた

( ・∀・) 黙って歩いてるのもなんだし、何か話でもしようか

ζ(゚ー゚*ζ 話ですか?

( ・∀・) そうだね……例えば君が、どのような記憶を求めてここに来たのか、なんてどうだい?

ζ(゚ー゚*ζ え……!?

( ・∀・) おっと、勘違いしないでほしいな。別に興味本位で聞いてるわけじゃない

( ・∀・) 記憶を探すための手がかりとして、どうしても聞かなきゃいけないことなんだ

( ・∀・) 言いづらいこともあるだろうけど、頼むよ

ζ(゚ー゚*ζ ……はい

ζ(゚ー゚*ζ 実は……探してるのは、私の記憶じゃないんです

( ・∀・) え?

ζ(゚ー゚*ζ 私は、私の父の記憶を探しに来ました

私は視線を下ろしたまま、彼の問いに答える
踏みつけた小石の感触が、鈍い痛みとなって伝わってくる
霧はますます深くなり、真っ白な世界の中で、機械的に前後する彼の両足だけが、ゆらゆらと、ゆらゆらと……

9同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:44:23 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚*ζ 私の両親は、娘である私の目から見ても非常に仲の良い夫婦でした

( ・∀・) ……それで?

ζ(゚ー゚*ζ 10年にも渡る大恋愛の末の結婚ということで、近所でもおしどり夫婦として評判だったらしいです

ζ(゚ー゚*ζ 小学生の頃はそれが原因でからかわれたりもしたけれど、それでも私はそんな両親が大好きでした

ζ( ー *ζ けれど……

( ・∀・) ……

ζ(゚ー゚*ζ 生まれつき病弱だった母は、2年前に……

( ・∀・) それは……大変だったろう?

ζ(゚ー゚*ζ いいえ、ほんとうに大変だったのはその後です

( ・∀・) え?

10同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:44:57 ID:Li8TKnIc0
母の死は――私にとってそうであった以上に――父にとって、あまりにも大きな出来事だった
あまりにも大きな……その悲しみに、母の存在を記憶から抹消してしまうほどの……

ζ(゚ー゚*ζ 母の死から一年ほど経ったある日、父は私にひとりの女性を紹介しました

( ・∀・) ……

ζ(゚ー゚*ζ 新しい母親、だそうです

ζ(゚ー゚*ζ きっと父はもう、母のことなんて欠片ほども覚えてないんでしょうね

ζ(゚ー゚*ζ そう思うと、私は……

( ・∀・) だから君のお父さんに、お母さんの記憶を返してあげたい

( ・∀・) そういうことかな?

ζ(゚ー゚*ζ はい

( ・∀・) なるほどね

11同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:47:05 ID:Li8TKnIc0
( ・∀・) わかった。そういう事情なら、僕もできる限り協力しよう

ζ(゚ー゚*ζ ありがとうございます

「でもね」と、彼は言葉を続ける
ざっ、ざっ、という規則的な足音が、頭の中にまで響いてくる

( ・∀・) ふたつだけ覚えておいてほしいことがある

ζ(゚ー゚*ζ ……?

( ・∀・) ひとつ。僕がどれだけ頑張っても、最終的に必要なのは君の力だ

( ・∀・) さっきも言ったけど、記憶を見つけることができるかどうかは君次第。いいね?

ζ(゚ー゚*ζ はい

( ・∀・) そしてもうひとつ。これは……おっと、意外と早かったね ピタッ

ζ(゚ー゚;ζ えっ!?

話を途中で切り上げて、彼は立ち止まった
あまりにも突然の出来事だったので、反応が遅れて、彼の背中に顔を強かにぶつけてしまう

12同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:53:50 ID:Li8TKnIc0
ζ(;ー;*ζ 痛い

( ・∀・) はは、ごめんね

( ・∀・) ……顔、上げてみて?

ζ(;ー;*ζ は、はい




ζ(゚ー゚*ζ え……!?

目の前に広がっていたのは、高層建築が立ち並ぶ一つの都市

ζ(゚ー゚;ζ いつの間に……

( ・∀・) 霧が深くて気づかなかったかな?無理もないね

( ・∀・) さて、改めて歓迎させてもらうよ

( ・∀・) ようこそ、忘失都市へ

13同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:54:35 ID:HSU0M/hc0
おおっ面白そうな設定だ
期待支援!

14同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:54:41 ID:Li8TKnIc0








『入り口は、深い霧』

         ――――ソウサク市営バス 運転席側 手前から8枚目の窓







                                                     .

15同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:55:59 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚*ζ ここが、忘失都市……

私と彼を取り囲むようにして配置されている、随分と奇抜なオブジェ達
昭和の香り漂うアーケードや歪に増築された集合住宅、「国体出場」の垂れ幕を下げた校舎にひどく錆びた給水塔
その他様々な建築物が無造作に積み上げられ、摩天楼の形を成している
その高さといったら……

( ・∀・) 霧がなかったとしても、てっぺんを目視することはできないだろうね

( ・∀・) もっとも、霧がない日なんて無いんだけど

ζ(゚ー゚;ζ これは一体何なんですか?

( ・∀・) 何って言われてもねぇ……

「まあ、こういうものだと思ってほしいな」
そう言いながら彼は首を左右に向け、きょろきょろと辺りを見回している

ζ(゚ー゚*ζ 何を探しているんですか?

( ・∀・) うーん、この辺りに居ると思うんだけどね

彼はそのまま何かを探し続けたが、目当ての物は一向に見つからないらしい
数分後、呆れたような顔で私の方に向き直り、小さくため息を吐いた

16同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:56:52 ID:Li8TKnIc0
(;-∀-) はぁ、どうやらここにはいないみたいだ

ζ(゚ー゚*ζ ……え?

――ここにはいない
その言葉が意味するのは、彼が探しているものが「何か」ではなく「誰か」であるということ
彼にとっては何気ない一言だったのだろうが、その事実は少なからず私を驚かせた

( ・∀・) こっちから会いに行くしかないか。また少し歩くからついてきてね

ζ(゚、゚*ζ ここに住んでいる人がいるんですか?

「地図にない街」というのはつまり、ゴーストタウンのことなのだろう
この街の噂を聞いて私はそのように考えていたし、今でもその考えは変わらない
事実、この街に入ってから私達以外の人間は一人も見なかったし、今も周囲に人の気配はない
しかし彼は……

( ・∀・) ああ、居るよ。歩いていればそのうち会えるだろうさ

17同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:58:03 ID:Li8TKnIc0
彼に連れられて街を歩く
立ち並ぶビル群にはやはり人の気配など無く、路地裏ではボロボロの暖簾を掲げた赤提灯が悲しげに口を開けている

( ・∀・) 話がまだ途中だったね

ζ(゚、゚*ζ え?

( ・∀・) 覚えておいてほしいこと、ふたつめ

( ・∀・) 目の前にあるアレ、見えるかな?

彼の指差す先、つまり、私達の進む道の先に視線を向ける
そこにあったのは、真っ白な、壁――いや、壁と見紛うほどに濃密な霧の層

( ・∀・) 今からあの中に突っ込むけど、なるだけ僕から離れないようにしてね?

( ・∀・) それと、何があっても驚かないように心の準備をしておいてほしいな

( ・∀・) ……まあ、無駄だとは思うけどね

彼はにやりと笑い、私の手を握って走りだした

18同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:58:49 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚;ζ ちょっ……モララーさん!?

( ・∀・) 口は閉じておいた方がいい!咽ちゃうからね!

ζ(゚ー゚;ζ あの霧は尋常じゃないですよっ!?

( ・∀・) いいからいいから!

私の言葉などお構いなしに、「壁」に向かって突き進む
必死に抵抗も試みたがやはりそこは男と女、筋量の差はどうすることもできず……

( ・∀・) ほら!突入するよ、息止めて!

ζ(゚ー゚;ζ 待って!心の準備が……いやぁぁぁぁぁぁ!!

何が何だか分からないまま、私の体は霧に飲み込まれた

19同志名無しさん:2012/11/23(金) 01:59:36 ID:Li8TKnIc0








長居はお勧めしませんね。最悪命に関わります

                            ――――近隣に住む女学生







                                         .

20同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:00:35 ID:Li8TKnIc0
 :       |      |::| |:|\,,l| l{イエiエiエiエiエiエiト、}/!  |  |   | |:::::::l| ||::::::||   /
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  /:::ト  |     |::| |:|  l| |}| |絲|| 商店街 .||絲l|{|三/:::! |   ||   /: .: ., -'": .: ., -'": .: .: .
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::  i, ― ,イ' |冫^<}ヽ ┤L」l    }+i+i+lノ|__|ェoloノ 〉〉}| Lヒァ |ノ : ノ{ {⌒ヽト、/   ノ ''‐- 、
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7゙l,.>‐`ーニフ ヾ`ー- 、ヽゝ   |    l----i'  ハヽ 〉 L::ノ|Eヨ |--' ケイ| |----|..==| |:::| {ヽ,;;;;} `
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21同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:01:29 ID:Li8TKnIc0
白い壁の向こう側で私達を待ち構えていたもの
晴れ渡った青空、一昔前の音楽、商店街の喧騒、思考をぐちゃぐちゃに掻き乱す、圧倒的な非日常

ζ(゚、゚;ζ ……

( ・∀・) 驚いた?ねえ、驚いた?

呆然と立ち尽くす私の横を、ワンレンヘアの女性が通り過ぎる
女性は訝しそうな目つきでこちらを眺めながら、私の背後にある白い壁の中へ消えていった
それを皮切りに、白い壁から続々と――または、壁に向かって続々と――老若男女様々な人が現れ、また消えていく

( ・∀・) ここはVIP商店街。隣県のVIP市にかつて実在した街だよ

( ・∀・) 現在は確か……住宅街になっちゃったのかな?

ζ(゚ー゚;ζ え?じゃあこれは……

今はもう存在しないはずの商店街が、私の目の前にある
彼の言葉が正しければ、そういうことだ

( ・∀・) うーん、あんまり詳しく説明することはできないんだよね

( ・∀・) ま、要点はふたつ

( ・∀・) 一つ、ここ「忘失都市」では誰かに忘れられてしまった「記憶」が形を持って存在できる

( ・∀・) この商店街も誰かの記憶が形になったものさ

( ・∀・) そしてもう一つ、記憶にも意思はある。これは追々わかるだろう

( ・∀・) 悪いけどこれ以上は言えない。あとは自分で調べて欲しい

22同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:02:11 ID:HSU0M/hc0
うおおおすげええ

23同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:02:27 ID:Li8TKnIc0
彼が話した二つの「要点」。記憶には意思があり、形がある
それは現代科学に唾を吐きかけるような内容ではあるけれど、目の前にあるこの商店街を見てしまうと……

ζ(゚ー゚;ζ 疑ってても、しょうがないですよね

わからないことばかりの街だ
父の記憶を手に入れるためには、もとより彼の言葉を信じる以外の方法など存在しない

( ・∀・) 理解がはやくて助かるよ。なかなか信じてくれない人もいるからね

( ・∀・) もっとも、そういう人のために最初にここに来るんだけど……

( ・∀・) うん、信じてくれたならこの場所に用はない。先を急ごう

( ・∀・) 10分も歩けば抜けられるはずさ

押し寄せる人波の隙間を縫うようにして、すいすいと彼は歩いて行く
一方私はというと、通行人に肩をぶつけ、足をぶつけ、それでも置いていかれないように必死になって追いかける
ぶつかった痛みも、衝撃も、本物の人間のそれと全く同じ感覚
彼の言葉を信じるしか無い。それはわかっているけれど……

( ・∀・) 不安になるのは分かるよ。少しづつ理解してくれればいい

24同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:03:37 ID:Li8TKnIc0
果たして、彼の言葉通り10分ほどで商店街の終わりが見えた
そこはやはり真っ白な霧の壁で……

( ・∀・) 着いたよ

ζ(゚ー゚*ζ ここは……

それを抜けた先にあったのは、元の奇妙な街並みと古びた教会
どうやら彼は、私をこの教会に連れてこようとしていたらしい

( ・∀・) 入って

ζ(゚ー゚*ζ ……はい

( ・∀・) きっと中で待ってるはずさ

「待っている」
それはきっと、先程彼が探していた「誰か」で、恐らくは私の記憶探しに必要な「誰か」

ζ(゚ー゚*ζ お邪魔します

思い切ってドアを開ける
ひんやりとした空気が頬を掠め、錆びた蝶番は耳障りな音を立てた

25同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:04:56 ID:Li8TKnIc0

川 ゚ -゚)

教会の中に居たのは髪の長い女性。年は……私と同じか少し上、といったところだろう
ステンドグラスによって着色された太陽光が、照明のないこの部屋で、彼女の整った顔をうっすらと照らしている

川 ゚ -゚) やあ、待ちくたびれたよ。退屈で死んでしまうかと思ったくらいだ

( ・∀・) だったら迎えに来てくれれば良かったのに

川 ゚ -゚) なんとなく、そういう気分になれなくてな

( ・∀・) ふうん

川 ゚ -゚) それはそうと、君の後ろにいるのは……

( ・∀・) ああ、そうだ。紹介しないといけないね

( ・∀・) 彼女はデレ。記憶を探しに来たらしい

川 ゚ -゚) ……ほう

ζ(゚ー゚;ζ は、はじめまして

川 ゚ -゚) はじめまして。そしてよろしく

川 ゚ -゚) 私のことはクールと呼んでくれ

川 ゚ -゚) 彼との関係は……そうだな、仕事仲間かな?

川 ゚ -゚) モララーが管理人だとすれば、私は経営者のようなものさ

ζ(゚、゚*ζ 経営者?

26同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:05:49 ID:Li8TKnIc0
川 ゚ -゚) うむ、経営者だ

川 ゚ -゚) 管理こそ彼に任せてはいるが、全ての決定権はこの私にある

川 ゚ -゚)-3 彼の上司といっても過言ではないな

( ・∀・) ……まあ、そういうところだね

川 ゚ -゚) この街はすべて私の思いのままだ

川 ゚ -゚) 君の求める記憶を探し出すことなど、息を吸うよりも簡単なことさ

ζ(゚ー゚*ζ それじゃあ……

川 ゚ -゚) まあ、やるかどうかはまた別の話だが

ζ(゚ー゚*ζ え?

川 ゚ -゚) 君のために記憶を探してやる気はない、と言ったのさ

27同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:06:36 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚;ζ そんな……

( ・∀・) ……

ζ(゚ー゚;ζ モララーさん……

( ・∀・) 意地悪は好きじゃないね、話はまだ終わってないはずだ

川 ゚ -゚) ……ふん、少しからかってみただけさ

ζ(゚ー゚*ζ え?

川 ゚ -゚) 記憶を探してやる気はない

川 ゚ -゚) 今のところは、だがな

ζ(゚ー゚*ζ どういうことですか?

川 ゚ -゚) 考えてもみたまえ

川 ゚ -゚) 突然やって来て、「記憶探しを手伝え」、用が済んだらはいさようなら

川 ゚ -゚) そんな話はないだろう?

ζ(゚ー゚*ζ あ、お金なら貯金が……

川 ゚ -゚) そういうことじゃない

28同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:07:40 ID:Li8TKnIc0
川 ゚ -゚) 経営者としては、この街のことをもっと知ってもらいたいのだよ

川 ゚ -゚) ついでに私たちのこともな。赤の他人に力を使うのは好きじゃない

ζ(゚ー゚*ζ ……なるほど

川 ゚ -゚) これから君に一つ問題を出す

川 ゚ -゚) 君にはその答えを見つけてきてほしい

川 ゚ -゚) 範囲は……そうだな、この街全体としよう

川 ゚ -゚) 私の問いに対する答えをこの街から探し出すことが出来れば、君のために力を使ってやろう

ζ(゚ー゚;ζ この街から、ですか?

川 ゚ -゚) それが嫌なら諦めることだ

( ・∀・) 僕も手伝うよ、安心して

川 ゚ -゚) ……随分とその子の肩を持つじゃないか

( ・∀・) 嫉妬してるのかい?

川 ゚ -゚) バカめ、好きにしろ

川 ゚ -゚) ……さて、それでは問題を出そう。よく聞きたまえ

29同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:08:23 ID:Li8TKnIc0







川 ゚ -゚) 私は、誰だ?







                                            .

30同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:09:52 ID:Li8TKnIc0








変人か、廃人か

       ――――「忘失都市」の住民についての証言








                                                  .

31同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:10:49 ID:Li8TKnIc0
手がかりを求めて、当てもなく街をさまよう
彼女の問いは、これ以上ないほど簡潔で……そして、難解な代物だった
クールと名乗った彼女。彼女はいったい、誰なのか

ζ(゚ー゚*ζ 本当にこの街にその答えがあるんですか?

( ・∀・) あるよ

自身に満ちた声色で彼が応える
ある、と言い切られてしまってはそれ以上追求することもできない

( ・∀・) 一応言っておくけど、僕から答えを聞き出そうとするのはやめておいた方がいい

( ・∀・) 君を応援する気持ちはあるけど、さすがにそれは時間の無駄ってやつさ

ζ(゚ー゚*ζ そう、ですか

( ・∀・) 彼女に不正は通じない。素直に探しまわることだね

( ・∀・) ……ところで、喉乾いてない?

ζ(゚ー゚*ζ あ、そういえば……

( ・∀・) 向こうに自販機がある。ついてきて?

32同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:12:13 ID:Li8TKnIc0

爪'ー`)y━・~ おーっす

彼に連れられて行った先には古びた自販機が二つ
ひとつは飲み物、もうひとつは煙草。並べて設置されている
更にその横に置かれた小さな椅子の上で、これまた小さな――小学校低学年くらいだろうか――男の子が膝を抱いていた

( ・∀・) やあ、いたのかい?

爪'ー`)y━・~ 毎日来てるの知ってるくせに

( ・∀・) ふふっ、そうだね

( ・∀・) 相変わらず元気そうで安心したよ

爪'ー`)y━・~ あんたもね。王女さまのご機嫌はどんな感じ?

( ・∀・) いつも通りってところかな

爪'ー`)y━・~ ふうん

彼と少年は顔見知りのようで、何やら親しげに話している
王女さま、というのはクールさんのことを言っているのだろうか
……いや、それよりも先に言わないといけないことがあるはずだ
未成年の、しかもこんな小さな子どもの喫煙を、大人として見過ごす訳にはいかない

爪'ー`)y━・~ それで、後ろのお嬢ちゃんはあれ?

ζ(゚、゚;ζ ひょえっ!?

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33同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:13:34 ID:Li8TKnIc0
突然話題が私に移る
少年に声をかけようとした当にその瞬間の出来事だったので、変な声が出てしまった

(;・∀・) ひょえって……そんなに驚かなくても……

ζ(゚ー゚;ζ すいません……

爪'ー`)y━・~ 他のことで頭がいっぱいだったのかな?

爪'ー`)y━・~ ……たとえば、未成年の喫煙がどうこうとか

ζ(゚ー゚;ζ あ……

爪'ー`)y━・~ 図星ね

( ・∀・) ああ、なるほどね。そこには気が回らなかった

爪'ー`)y━・~ 安心しな、こんな見た目だけどあんたより年上だから

Σζ(゚、゚;ζ ええっ!?

34同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:14:12 ID:Li8TKnIc0
爪'ー`)y━・~ 証拠がほしい?

ζ(゚ー゚;ζ 正直、信じられません

爪'ー`)y━・~ ふー、わかった

爪'ー`)y━・~ あんた、名前は?

ζ(゚ー゚*ζ ……デレ、です

爪'ー`)y━・~ そうかい、それじゃあデレちゃんよーく見てな

爪'ー`)y━・~ ……『ちょっとだけ、どいてくれない?』

その瞬間、少年の体が霧に包まれた
いや、それでは語弊がある。正しくは、「少年の体が霧に変わっていった」と言うべきだろう
そして、霧が晴れた後に現れたものは……

~・━v('、`*川 なんと、大人のお姉さんでしたー

……大人のお姉さんでしたー

35同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:15:07 ID:HSU0M/hc0
大人のお姉さんだー
これラノベ祭の作品だったんだな
頑張れ支援

36同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:15:14 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚◇゚;ζ ……えええええええええええええ!?

~・━v('、`*川 うーんいいね、その反応!

( ・∀・) まあ、気持ちはわかるけどね

驚きの声を上げる私を見て、二人はけらけらと笑っている
その目はまるで、初めて海を見た子供に向けるような、過去の自分をそこに投影して懐かしむような、そんな視線だった

~・━v('、`*川 この街は初めて?

ζ(゚ー゚;ζ はい

~・━v('、`*川 それじゃあ驚くのも仕方ないわね。教えてあげる

~・━v('、`*川 あんたが初めに見た私の姿……多分小さい男の子だと思うけど、合ってる?

ζ(゚ー゚;ζ ええ、だから注意しないといけないって

~・━v('、`*川 うん、いい心がけだね

~・━v('、`*川 とにかく、その姿はこの街にある「記憶」によって作られたものよ

( ・∀・) さっきのVIP商店街みたいなものだね。大きさとか、色々違いはあるけど

~・━v('、`*川 私の体を覆うように張り付いた「記憶」が、あんたに少年の姿を見せていたの

~・━v('、`*川 ……お分かり?

37同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:16:22 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚;ζ うーん……

~・━v('、`*川 まあ、納得出来ないのもわかるわよ?大きさとか色々無視してるし

~・━v('、`*川 でもね……

短くなった煙草を置いて、彼女は椅子から立ち上がった
私よりも頭一つ大きい長身。どう見たってあの少年の姿に収まる大きさではない

a('、`*川 あんたの横にいる男、見てみ?

ζ(゚ー゚*ζ へ?

そう言われて、彼女の指す方へと目を向ける
彼女の指す方……つまり、私の横に立っているモラr……



爪'ー`) やあ


           「ひょわあああああああああああ!?」


                          .

38同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:17:41 ID:Li8TKnIc0
(;、;*川 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

爪'ー`) 彼女から離れた「記憶」が僕の方に乗り移ってきたみたいだね

(;、;*川 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

:爪 ー ): これでわかったろう?「記憶」は見た目の大きさなんて簡単に変えてしまうのさ

(;、;*川 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

::爪 ー ):: ……ところでペニサス

(;、;*川 wwwwwwwwwwwっうぇwwwwwwwwwwっうぇwっうぇwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

::爪; ー ):: ……笑いすぎじゃない? プルプル

(;、;*川 だってwwwwwwwwwひょわあってwwwwwwwwwwwwひょわあってwwwwwwwwwwwwwwwwwww

余程おかしな声を上げてしまったのだろうか
彼女は腹を抱えて……それどころか、地面を転げ回りながら笑っている





(;、;*川 そんなwwwwwwwwwwwwゴツイ顔でひょわあってwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww



ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 え?

爪 ー )・;' ブフッ

39同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:18:54 ID:Li8TKnIc0
(;、;*川 これwwwwwwwwwwww見てみwwwwwwwwwwwwwwwwwっうぇwwwっうぇwwwwww

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 ……鏡?これがどうかしたん……で……

彼女から渡された手鏡に写っていたのは、私ではなく、鬼のような形相の鎧武者

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 ええええええええええええええ!?

(;、;*川 やめてwwwwwwww喋るだけでwwwwwwww声とのギャップがwwwwwwwwwwwwwwwwwww

::爪 ー ):: どうやら……イタズラ好きな記おグフッ……が……君に取り憑いたらしいね……フッ……

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 取って!取ってくださいモララーさん!!ひえええええええ!!

::爪;ー;):: ……ごめ……ングフッ……もうwwwwwwwwwwwww無理wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

ィ'ト―-イ、
以`;益;以  うええええええええええええええ!?

(;、;*川 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

爪;ー;) wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

寒空の下、私の叫びと二人の笑い声はいつまでも止むことはなかった

40同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:19:34 ID:Li8TKnIc0



ζ(゚- ゚*ζ



(;・∀・)



('、`;川

.

41同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:20:32 ID:Li8TKnIc0
(;・∀・) ……ごめんね?

ζ(゚- ゚*ζ

('、`;川 さすがにちょっとやりすぎたというか、うん

ζ(゚- ゚*ζ

(;・∀・) ほ、ほら、喉乾いてたでしょ?これ、力水!

('、`;川 す、凄いわねー!まだ売ってたんだー!?

(;・∀・) …… ゴクリ

('、`;川 …… ゴクリ

ζ(゚- ゚*ζ

(- ゚*ζ プイッ

(;・∀・) ……どうしよう ボソッ

('、`;川 どうしようったって…… ボソボソ

('、`;川 ……!そ、そうだ、いいこと教えてあげる!

(- ゚*ζ

('、`;川 あんた、クーから問題出されてるでしょ!?

Σ(- ゚*ζ ピクッ

42同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:21:05 ID:Li8TKnIc0
('、`;川 この街で一番高い建物に登ってみな!?そこにヒントがあるから!

ζ(゚- ゚*ζ ……

ζ(゚- ゚*ζ ヒント?

('、`;川 うん、そりゃもう凄いヒント!モララー、あんた案内してあげなさい!

(;・∀・) う、うん!任せて!

('、`;川 …… ゴクリ

(;・∀・) …… ゴクリ

ζ(゚- ゚*ζ 

ζ(゚- ゚*ζ ……まあ、許してあげます

(;・∀・) ホッ

('、`;川 ホッ

43同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:22:01 ID:Li8TKnIc0
( ・∀・) それじゃあ行こうか。一番高い建物はええと……向こうだね

('、`*川 はぁ?今から行く気?

ζ(゚ー゚*ζ え?

a('、`*川 あんたらあれが見えないの?

彼女が指差したのは、大きな大きな柱時計
他の摩天楼と比べても遜色のない大きさのそれは、長針が天を指す度に、街中に響き渡るほど大きく鐘を鳴らす

('、`*川 現在の時刻は18時半、最終バスは21時、今から向かったんじゃあ置いてかれるよ?

('、`*川 悪いことは言わないから明日にしなさい

ζ(゚ー゚*ζ もうそんなに経ってたんですね……

( ・∀・) うーん、そうしようか?

ζ(゚ー゚*ζ はい

('、`*川 さ、帰りましょ。私も一緒に行くわ

44同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:23:50 ID:Li8TKnIc0
('、`*川 『そういうことだから、今日はもう帰るわ。またね』

彼女がそう呟くと、周囲の霧が集まって二つの人型を作り出した

 . : : : : : . :
: : : : : : : : : :  : : : : : : : : :

 ,;,;,;,;,;,;,;,;,,;
,;,;,;,;,;,;,;,;,;,;,;,;,  ,;,;,;,;,;,;,;,;,;,;,;,

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以ノシ  爪'ー`)ノシ

ζ(゚ー゚*ζ あ……

('、`*川 可愛いもんでしょ?

ζ(゚ー゚*ζ ……はい!

( ・∀・) じゃ、行こうか

45同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:24:52 ID:Li8TKnIc0
バス停を目指して三人で街を歩く
途中、寂れた遊園地に迷い込んだり、高校野球の試合に参加したり、バナナボートに乗って海に落とされたり……
私は状況の変化にただ戸惑うばかりだったが、後の二人はというと慣れたもので、むしろその状況を楽しんでいるようだった

ζ(-、-;ζ まだ服が濡れてる気がします……

( ・∀・) 気のせい気のせい、ちゃんと乾いてるよ

('、`*川 いやーしかし、こうやって誰かと一緒に歩くってのも久しぶりねー

( ・∀・) ここに来る人はだいたい、一人で来て一人で帰ってくってのが多いからね

ζ(゚ー゚*ζ そういうものなんですか?

('、`*川 そうそう、まあそれが好きでやってるから寂しいってことはないんだけどね

('、`*川 ……そうだ

( ・∀・) ん?

('、`*川 バスまでまだ時間あるし、何か食べて行かない?

46同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:25:45 ID:Li8TKnIc0
【らぁめん内藤】

( ・∀・) おじゃまするよ

( ^ω^) いらっしゃいませだおー

('、`*川 やっほ、元気?

( ^ω^) お陰様で、だお

ζ(゚ー゚*ζ おじゃまします

( ^ω^) いらっしゃいませだ……お?この店は初めてだおね?

( ・∀・) 彼女、デレちゃん。記憶を探しに来たらしい

( ^ω^) おっおっ……初めましてだお

( ^ω^) 僕は店主の内藤。ブーンって呼んでほしいお

ζ(゚ー゚*ζ はい。よろしくお願いします

('、`*川 いつもの三つ。いいわよね?

ζ(゚ー゚*ζ はい

( ・∀・) どうぞどうぞ

( ^ω^) おー、かしこまりましたお

47同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:26:19 ID:HSU0M/hc0
霧を使って姿を形成も出来るのか
この世界感すげえ好きだわ…

48同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:26:41 ID:Li8TKnIc0
ラーメンを作る手はそのままに、ブーンさんが口を開く

( ^ω^) 最近どんな調子だお?

( ・∀・) いつも通りだよ

('、`*川 いつも通りね

( ^ω^) おー……まあ、それならいいお

( ・∀・) ……何かあったのかい?

( ^ω^) 最近、毎日のように食べに来るお客さんが居るんだお

('、`*川 いいことじゃない

( ^ω^) うーん、味を気に入ってくれたのは確かに嬉しいお

( ^ω^) けど……

( ・∀・) けど、どうしたんだい?

( ^ω^) ここ何日かは、三食全部ここで済ましてるらしいんだお……

( ・∀・) ……あー

('、`;川 あちゃー

ζ(゚ー゚*ζ ?

49同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:27:44 ID:Li8TKnIc0
私を除く三人は、何やら深刻な顔をしている
確かに三食ラーメンというのはいかがなものかとは思うけれど、そこまで大きな問題なのだろうか?

( ^ω^) うちのラーメンは特別製だお

ζ(゚ー゚*ζ 特別製?

( ^ω^) 何日もこれだけを食べ続けたら、死んでもおかしくないお

ζ(゚、゚;ζ ええっ!?

('、`*川 ま、足繁く通ってます、程度だったら全然問題ないんだけどね

( ^ω^) 別に危ないものが入ってるって訳じゃないから、そこは安心してほしいお

ζ(゚ー゚;ζ そ、そうですか……

( ^ω^) そのお客さんはタカラっていう若い男の人だお

( ^ω^) ブーンはここを動けないから、見つけたら保護してあげてほしいお

( ・∀・) ああ、任せといて

( ^ω^) 確かに頼んだお?

( ^ω^) ……っと、出来上がりだお

50同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:28:40 ID:Li8TKnIc0
( ^ω^) おっおっおー

楽しそうに鼻歌(?)を歌いながら、私達の前に丼を並べていく
その中には、麺が隠れるほど大量の野菜が載せられた塩タンメン。私の好物だ

ζ(゚o ゚*ζ わぁ…… 

( ^ω^) 野菜は体にいいんだおー

( ・∀・) いただきます

('、`*川 あ、コショウ取って

ζ(゚ー゚*ζ ……いただきます

51同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:29:52 ID:Li8TKnIc0
麺を少しつまんで口に運ぶ
昔ながらの、という言葉が似合うあっさりとしたスープが細い麺によく絡んでいる
胡麻油の香ばしい風味とシャキシャキとした野菜の食感、ほのかな甘味が一層食欲を掻き立てる
優しく、どこか懐かしい味。気がつくと私の前には空になった丼が置かれていた

( ^ω^) 気に入ってもらえたかお?

ζ(゚ー゚*ζ はい、凄くおいしかったです

( ^ω^) うれしいこと言ってくれるじゃないの

('、`*川 あんな夢中になって食べられたら、ラーメン屋冥利に尽きるってもんでしょうよ

(*^ω^) おっおっ!

( ・∀・) ふぅ……ごちそうさま

( ・∀・) それじゃあ行こうか。お代は……

( ^ω^) ツケておくお。お嬢さん二人、遅くならないうちにしっかり送ってあげるお?

( ・∀・) ふふ、了解

52同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:35:07 ID:HSU0M/hc0
こんな時間になんてものを
腹減ったが何故三食ラーメンだと死ぬかもしれないのか気になるな

53同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:35:29 ID:Li8TKnIc0
ソウサク市へ帰るバスの中、乗客は私達三人だけ
ブーンさんの店を出てからバス停までの間にも、どこぞの農村のお祭りだとか、数学の授業だとか、いろんな物に巻き込まれた
そうして時間を浪費しているうちに最終バスの時間も近くなって……最後は全員必死で走り、飛び込むように乗り込んだ

ζ(゚ー゚;ζ ……ギリギリセーフでしたね

(;・∀・) もっと余裕が有るはずだったんだけどね、今日はヤケに絡まれる

(;・∀・) デレちゃんもしかして、「記憶」に好かれる才能でもあるのかな?

('、`;川 まあ、あんだけ大袈裟に反応してくれたらあいつらも楽しいでしょうよ

('、`;川 はぁー、これだからこの街は……嫌んなっちゃう

( ・∀・) そんなこと言って、どうせ明日も来るんでしょ?

('、`*川 まあね

ζ(゚ー゚*ζ ……そういえば、ペニサスさんはどうしてこの街に来てるんですか?

ζ(゚ー゚*ζ 私みたいに記憶を探して?

('、`*川 私はもう見つけちゃったからね、そういうわけじゃないわ

ζ(゚ー゚*ζ もう見つけちゃった?それじゃあどうして……

('、`*川 今の世の中、健康害がどうだ、ポイ捨てがどうだって、喫煙者としてはいろいろ辛いのよ

('、`*川 その点ここは、誰に邪魔されることもなく好きなだけ煙草を楽しめる

('、`*川 ま、街の空気が好きってのもあるけどね

54同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:36:15 ID:Li8TKnIc0
('、`*川 あー、煙草の話してたら吸いたくなってきた

('、`*川 あんたら、どっちか持ってない?

( ・∀・) 僕は吸わないからね

ζ(゚ー゚*ζ 私も、ごめんなさい

('、`*川 ふー、我慢するしかないか

(’e’) えー次は〜□□〜〜□□〜〜

('、`*川 ……まだまだ、10分くらいかかるわね

( ・∀・) そういえばデレちゃんはこの辺りの人じゃないよね?

( ・∀・) 今日はどこに泊まるつもり?

ζ(゚ー゚*ζ 駅前にビジネスホテルがあったので、そこで……

('、`*川 ちゃんと予約とった?あそこいつも満室だよ?

ζ(゚ー゚;ζ え!?

(;・∀・) ……あちゃー

55同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:37:16 ID:Li8TKnIc0
話を聞いたところによると、この辺りにホテルは一つだけで、他所から来た人はみんなそこに泊まるのだそうだ
そうとは知らず予約もなしに泊まろうとした人は皆、近くのガ○トで夜を明かす羽目になるのだという
私はというと勿論、そんなこととは露知らず、といったところで

ζ(゚ー゚;ζ ……

(;・∀・) ……

ζ(゚ー゚;ζ どうしよう

(;・∀・) ま、まあ、もしかしたらキャンセルとかあるかもしれないし

('、`*川 ……

('、`*川 仕方ないわね、うち来る?

ζ(゚ー゚*ζ え?

('、`*川 空いてる部屋ならあるから、掃除手伝ってくれるなら泊めてあげてもいいわよ

ζ(゚ー゚*ζ 本当ですか!?

('、`*川 嘘ついてどうするのよ

ζ(゚ー゚*ζ あ、ありがとうございます!

( ・∀・) ありがとう。僕からもお礼を言わせてもらうよ

('、`*川 はいはい、どういたしまして

56同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:38:21 ID:Li8TKnIc0
(’e’) 次は〜○○〜○○〜お降りのお客様は以下略ゥ〜

( ・∀・) じゃ、僕はここで降りるよ。デレちゃんをよろしくね

('、`*川 ほーい

( ・∀・) それじゃあデレちゃん、また明日

ζ(゚ー゚*ζ はい、よろしくお願いします

( ・∀・) またね

彼が降りて、残ったのは女二人
あの街についての話を聞こうとしたのだけれど、「難しい話は家で」とのことだったので他愛もない話をして時間を潰す

(’e’) 次は〜終点〜ソウサク〜ソウサク〜

('、`*川 さ、降りるわよ

ζ(゚ー゚*ζ はい

57同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:39:25 ID:Li8TKnIc0
(’e’) 本日のご乗車誠にありがとうございました〜

私達を降ろして、バスは走り去る
あの運転手も一日の仕事を終えて、家族の待つ家に帰るのだろう

('、`*川 ふー、あの固い座席にはいつになっても慣れないわねー

体を伸ばしながら彼女が言う
さっき沢山走ったせいだろうか、汗が冷えて少し寒い

('、`*川 さて、ラーメンでいい?

ζ(゚ー゚*ζ え?

('、`*川 夜食

ζ(゚ー゚;ζ ええっ!?

つい先程食べたばかりだというのに、この人は……

('、`*川 色々あって忙しかったからついさっきのことに感じるだろうけど、内藤のところで食べてから3時間くらい経ってるわよ?

('、`*川 結構動いたし、あんたもお腹空いてるはずだけど……

ζ(゚、゚*ζ ……あれ?そういえば……

('ー`*川 でしょ?おすすめの店があるの。麺屋庶煩っていうんだけどね……

58同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:40:05 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚*ζ ごちそうさまでした

(´・ω・`) また来てね

彼女のおすすめである分厚いチャーシューの入ったラーメンをぺろりと平らげて店を出る
どうやら自分で思っているよりもお腹が空いていたらしい

('、`*川 どう?おいしかったでしょ?

ζ(゚ー゚*ζ はい、すごく

('、`*川 あの店主、昔は居酒屋なんかもやってたらしいわ。まあ、閑古鳥だったみたいだけど

('、`*川 それがある時突然ラーメン作り始めて大繁盛、いつの間にか酒よりそっちがメインになったみたいね

('、`*川 味は今体験した通り、私の好みにドンピシャリ

('ー`*川 内藤の味噌から庶煩のチャーシュー麺は私の鉄板コースよ。自慢じゃないけど毎日通ってるわ!

ζ(゚、゚;ζ ……そうですか

59同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:41:26 ID:Li8TKnIc0
('、`*川 さ、ここが私の家よ

('、`*川 遠慮は要らないわ、上がりなさい

ζ(゚ー゚;ζ ……おじゃまします

彼女に促されて入ったのは、駅前一等地にある一軒家
彼女はそこに一人で住んでいるという

('、`*川 親が金持ちでね、脛かじって生きてるの

ζ(゚ー゚;ζ へぇ……

('、`*川 さ、まずは寝床の準備しないとね

('、`*川 物置きにしてるからいろいろ荷物運び出さなくちゃ

('、`*川 私達の睡眠時間がかかってるんだから、気張りなさいよ?

ζ(゚ー゚*ζ はい!

60同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:42:41 ID:Li8TKnIc0
空き部屋の掃除は20分ほどで終わった
とりあえず落ち着いて眠れればいいということで、大きな荷物だけ運び出すことにしたのだ

('、`*川 お疲れ。コーヒー飲む?

ζ(゚ー゚*ζ あ、いただきます

('、`*川 ほーい、ちょっと待っててね

彼女は肩をぐるぐると回しながら、キッチンの奥へと消えていった
しばらくして再び現れたその手には、白い湯気を立てるコーヒーカップが二つ

('、`*川 座って

彼女に促され、木製のテーブルに向かい合うようにして座る
コーヒーカップがひとつ、私の前に置かれた

ζ(゚ー゚*ζ ありがとうございます

('、`*川 安物だけどね

61同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:43:31 ID:Li8TKnIc0
('、`*川 えーっと、あの街について聞きたいんだっけ?

ζ(゚ー゚*ζ はい

('、`*川 まあ、私も全部知ってるわけじゃないんだけどね

('、`*川 あの街は「記憶の窪地」なの

ζ(゚ー゚*ζ あ……それ……

「記憶の窪地」
彼が最初に、あの街のことをそう表現していた

('、`*川 水が低いところに集まるように、宿主に忘れられた「記憶」があの街に集まるの

('、`*川 まるでそれが当然のように、自然の摂理としてね

('、`*川 私は知らないけど、世界中探せば何箇所かあるらしいわよ?

ζ(゚ー゚*ζ それで、窪地……

('、`*川 そういうこと

62同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:44:05 ID:Li8TKnIc0
('、`*川 モララーが言うには、「記憶」ってのはどうも寂しがりやみたいでね

('、`*川 生身の人間を見ると構ってほしくて色々やっちゃうみたいよ?

ζ(゚ー゚*ζ それで、あんな不思議な事が起こるんですか?

('、`*川 私はよく知らないけどね

('、`*川 まあとにかく、そんなわけであの街に行くのはよっぽどの物好きか……

('、`*川 あんたみたいな「訳あり」くらいのものね

ζ(゚ー゚*ζ モララーさんは……

('、`*川 ああ、あいつはお仕事ね。もっとも、よっぽどの物好きじゃなきゃあんな仕事しないけど

63同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:44:49 ID:Li8TKnIc0
「ところで」と、彼女が言った
その表情には緊張と、ほんの少しの好奇心が見て取れた

('、`*川 あんたはどんな記憶を探してるの?

ζ(゚- ゚*ζ ……

('、`;川 あ、いや!言いたくなかったら別にいいのよ!?

ζ(゚- ゚*ζ ……いえ、大丈夫です

彼女に対する怒りはない
私が彼女と同じ立場だったら、間違いなく同じ事を聞いていたはずだ
私の表情が曇ったのは純粋に、それが思い出したくない出来事だったから

ζ(゚- ゚*ζ 私の両親は――――

私の話が終わるまで、彼女はじっと私の目を見て聞き続けた

64同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:46:33 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚*ζ 私の話は、これで終わりです

('、`*川 ふうん……

彼女はコーヒーを一口啜って眉を顰め、「大変だったわね」と呟いた

('、`*川 ……私の両親、貿易商だったの

('、`*川 毎日仕事で世界中を飛び回って、年に数回のお休みは沢山のお土産と一緒に帰ってきた

('、`*川 さっき運びだした荷物がそれね

ζ(゚ー゚;ζ トーテムポールとか、変な人形とか、おかしいなとは思ってました……

('ー`*川 うん、商売は上手いのに、それ以外のセンスは壊滅的だったわ

('ー`*川 「見たら死んでしまう呪いのお面」をダース単位で買って来たこともあったっけ

両親との思い出を楽しそうに語る彼女
柔らかな笑顔はそのままに、小さな瓶の蓋を開け、角砂糖をひとつ取り出した

65同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:47:23 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚*ζ 両親は今、何をしてるんですか?

彼女の手が、コーヒーカップの真上で止まる
こちらを見る笑顔に、ほんの少し、悲しみの色が注した

('ー`*川 今はもう居ないわ

ζ(゚ー゚*ζ え?

('ー`*川 飛行機事故で、ドカーン

彼女の手を離れた角砂糖が、ぽちゃりと音を立てた
飛び跳ねたコーヒーが彼女の袖に染みを作る

('ー`*川 私が高校生の頃に、二人揃ってね

ζ(゚- ゚;ζ ……すいません、嫌なこと聞いちゃって

('、`*川 いいのよ。そう聞かれたくてこの話をしたんだから

('、`*川 それに私は、もう寂しくないしね

ζ(゚ー゚*ζ 寂しくない?

('、`*川 私もあの街に救われたの

ζ(゚ー゚*ζ ……どういうことですか?

66同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:48:31 ID:Li8TKnIc0
('、`*川 親が死んでから私は思ったの

('、`*川 「他の友達と比べて、私には両親との思い出が少なすぎる」ってね

('、`*川 楽しい思い出も、嫌な思い出も、数えるほどしかなかった……いいえ、思い出せなかった

('、`*川 そりゃそうよ。一緒にいる時間が、周りのみんなとは全然違うんだから

('、`*川 だから私は探し回った。両親との記憶を取り戻せる「何か」を

('、`*川 今から新しい思い出を作ることはできないけど、忘れたものは思い出すことができるはずだってね

('、`*川 幸い、お金はあったしそっちでは苦労しなくて済んだわ

('、`*川 何年も必死になって探して、そうして見つけたのが「忘失都市」ってわけ

ζ(゚ー゚*ζ そして、昔の記憶を取り戻したんですね

('、`*川 ま、そういうこと

('、`*川 両親と過ごした時間の全てが、私の中に刻まれている

再びコーヒーに口をつけ、満面の笑みで言葉を続ける

('ー`*川 20年足らずの記憶だけど、それだけで私は満たされているわ

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67同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:51:17 ID:Li8TKnIc0
ζ(゚ー゚*ζ 素敵ですね

('、`*川 ふふ、ありがとね

('、`*川 でも、あんたは私みたいになっちゃ駄目よ?

ζ(゚ー゚*ζ え?

('、`*川 私と両親の記憶には、これ以上先は無い

('、`*川 だから私は今あるこの思い出を、残りの人生をかけて味わっていくの

('、`*川 それは私にとって幸せではあるけれど、そこには何の発展もない。言うなれば余白の無い手帳のようなもの

('、`*川 だけど、あんたと、あんたのお父さんは違うでしょ?

('、`*川 あんたのお父さんが元に戻って、お母さんのことを思い出して、それで終わりじゃない

('、`*川 これから何年、何十年も、あんたとお父さんは一緒にいて、いろんな思い出を作るの

('、`*川 先がある人間が、過去だけで満足しちゃいけないのよ

('、`*川 わかる?

ティースプーンで私を指しながら、片目を瞑ってこちら睨む
そのムッとした表情の内側は、きっと優しさで満たされているのだろう

ζ(゚ー゚*ζ ……はい

('ー`*川 よろしい

68同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:52:16 ID:Li8TKnIc0
('、`*川 さ、明日もあそこに行くんでしょ?そろそろ寝ないとね

ζ(゚ー゚*ζ そうですね

('、`*川 それじゃ布団を……って、お風呂がまだだったわね

ζ(゚ー゚*ζ あ……

話に夢中になりすぎて完全に忘れていた
考えてみればあの街に行ってから、随分と汗もかいたし埃もかぶった。他人の布団でこのまま寝てしまうというのも失礼な話だ
……そして何より、一度そう思うと汗のべたつきが気になってしょうがない

('、`*川 案内するわ。着替え持った?

ζ(゚ー゚*ζ はい、それじゃあお言葉に甘えて

('、`*川 うちの自慢のお風呂よ?親が風呂好きだったから、馬鹿みたいに広く作っちゃってもう……

ζ(^ー^*ζ ふふっ

('、`*川 ……何よ

ζ(^ー^*ζ 楽しそうだな、と思って

('、`*川 ……ふん

69同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:53:01 ID:Li8TKnIc0





('、`*川 あ、私も一緒に入るから



ζ(゚ー゚;ζ ええっ!?



.

70同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:57:05 ID:Li8TKnIc0








見えぬけれどもあるんだよ、

見えぬものでもあるんだよ。

              ――――金子みすゞ『星とたんぽぽ』








                           .

71同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:58:23 ID:Li8TKnIc0
('、`*川 ふー、さっぱりした

ζ(゚ー゚;ζ 凄かったですねー

('、`*川 でしょ?

本当に凄かった。前々から凄いとは思ってたけど……
まさか彼女のアレがコレであんなことになってたなんて、恐ろしい
いったいどうすれば、あんなふうに……

('、`*川 それじゃあ私は寝るから、あんたもあんまり夜更かししちゃダメよ?

ζ(゚ー゚*ζ はい

('、`*川 冷蔵庫に入ってるものは好きに食べていいから

('、`*川 んじゃ、おやすみ

ζ(゚ー゚*ζ おやすみなさい

('、`*川 あ、最後に一つだけ

ζ(゚ー゚*ζ なんですか?

('、`*川 秘訣は腕立てと牛乳よ

ζ(゚ー゚ ζ

('、`*川 じゃ、今度こそおやすみ




ζ(゚ー゚ ζ

72同志名無しさん:2012/11/23(金) 02:59:31 ID:Li8TKnIc0









腕が痛い

   ――とある乙女の嘆き








                .

73同志名無しさん:2012/11/23(金) 03:00:33 ID:Li8TKnIc0
前半終了です。残りは期間中になんとか
支援ありがとうございました

74同志名無しさん:2012/11/23(金) 03:23:15 ID:TCZrbVyo0
デレ貧にry

すげえ好きな雰囲気だ
ストーリーも気になるし合間の証言?がイイ
マジで頑張ってくれ 乙!!

75同志名無しさん:2012/11/23(金) 14:59:14 ID:2Ioo4DsI0
なんだか引き込まれる…
待ってるよ乙

76同志名無しさん:2012/11/23(金) 20:02:34 ID:lKq/zAcs0
いいなこれ
後半楽しみにしてる

77同志名無しさん:2012/11/24(土) 09:14:17 ID:pf/WPeHQ0
これ好きだ

78同志名無しさん:2012/11/24(土) 11:41:10 ID:BLZFgSZo0
乙!

79同志名無しさん:2012/11/24(土) 19:11:29 ID:G5Yn/Y2U0
乙!
面白い!

80同志名無しさん:2012/11/27(火) 23:35:58 ID:QALUoJK.O
おもしろいよ 
>>1、よけいかもだけど投下報告みたいなものはやらないの?

81同志名無しさん:2012/11/28(水) 17:48:39 ID:kHd0y3ws0

絵を使ってくれてありがとうございます
続き待ってます
ttp://imepic.jp/20121128/639210

82同志名無しさん:2012/11/29(木) 18:29:43 ID:9cf.QMws0
まさかの絵作者降臨

あんたの絵好きだ

83同志名無しさん:2012/12/02(日) 09:59:53 ID:7EpWoYfs0
投下しないのかなー?

84同志名無しさん:2012/12/09(日) 21:31:51 ID:scGlmMfY0
まだかなー?

85同志名無しさん:2012/12/23(日) 10:41:19 ID:DZWERFtg0
待ってるよ

86同志名無しさん:2012/12/29(土) 13:12:04 ID:GgTJ43aQO
続きマダー?

87>>1:2013/02/20(水) 10:58:44 ID:AwSrke0.0
書く気はあるのです
書けないのです
頑張って書いてるので殺さないでください

88同志名無しさん:2013/02/20(水) 11:02:01 ID:AwSrke0.0
あと絵の人、大分遅れましたがありがとうございます
ニヤニヤしながら見てます

89同志名無しさん:2013/02/24(日) 21:02:12 ID:asjTDEnI0
こんな素敵な作品があるのをずっと気がつかなかったです
恐らく僕の絵をモチーフにしてくださっている・・・のかな?

なんにせよ素敵な話なので更新楽しみにしています!
僕も現行止まっているのでお互いがんばりましょうねー

90同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:10:55 ID:nUEqljLU0
                    .








永遠を生きる旅人は、その街を終の棲家とした

                          ――――とある国に伝わる民話の一節







                                    .

91同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:11:40 ID:nUEqljLU0
滞在二日目、今日は朝から忘失都市に来ている
リュックサックには最低限の荷物。着替えと、ジュースと、カロリーメイト

( ・∀・) やあ、早かったね

ζ(゚ー゚;ζ モララーさんこそ……私始発で来たのに、どうして先にいるんですか?

( ・∀・) 今日はマイカーでの出勤さ

( ・∀・) もし君が答えを見つけ出すことができたら、必要になるからね

ζ(゚、゚*ζ ……どういうことですか?

( ・∀・) それは秘密。ところで……

ζ(゚ー゚*ζ どうしました?

( ・∀・) ペニサスは一緒じゃないんだね

ζ(゚ー゚*ζ あ、はい。実は……

92同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:12:49 ID:nUEqljLU0
………
……


('、`*川 私も一緒に行きたいのは山々なんだけど、ちょっと用事があってね

ζ(゚ー゚*ζ 用事ですか?

('、`*川 色々と切らしちゃってるから、買い出しに行かないといけないのよ

('、`*川 色々と……例えば、牛乳とか

ζ(゚ー゚;ζ そ、そうなんですかー

('ー`*川 ほんと不思議よね、昨日まではいっぱいあったんだけど

ζ(゚ー゚;ζ へぇー! へぇー!!

('、`*川 あ、そうだ。これ持ってきなさい

ζ(゚、゚*ζ ……コート?

('、`*川 今日は寒くなるらしいわよ?雪が降るかもって

ζ(゚ー゚;ζ ひえー

('、`*川 私も後で合流するけど、気をつけていきなさい

('、`*川 お腹やわくなってるでしょうから、冷やしちゃダメよ?

ζ( ー ;ζ ……


……
………

93同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:13:41 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚*ζ ということでして

( ・∀・) あ、そう

それならそれで構わない、と言った様子で彼は応えた
他にも昨日は良く眠れたかだとか、今朝は何を食べたかだとか、世間話を少し挟んで、彼は本題に移った
「牛乳って何のこと?」という質問は適当にはぐらかした

( ・∀・) まあいい。今日はとりあえず、この街で一番高い建物に登ってみよう

( ・∀・) その後は……まあ、その時の気分で

ζ(゚ー゚;ζ 気分って……

(;-∀-) 手を抜いてるわけじゃないんだけどね、こっちとしても難しいところなんだ

苦笑混じりに彼は言った。随分と歯切れの悪い、彼らしくない返事だった

( ・∀・) クーの問題に答えるためには、あることに気付く必要がある

ζ(゚、゚*ζ あること?

( ・∀・) それが何かは言えないけれどね

( ・∀・) その「あること」に気付いてもらうには、今日向かう建物に登るのが一番の有効手段なんだ

ζ(゚ー゚*ζ えっと、もしもそこで気づけなかったらこれ以上のチャンスはやって来ない

ζ(゚ー゚*ζ そういうことですか?

( ・∀・) そうとってくれて構わない

94同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:14:37 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚;ζ

( ;・∀・) 緊張してきた?

ζ(゚ー゚;ζ はい

( ;・∀・) うん、そうなるだろうから言いたくなかったんだよね

( ・∀・) 怖がらせておいて言うのも難だけれど安心して。クーの問題に時間制限は無い

( ・∀・) クーは君を嫌っているわけじゃないんだ。答えがわかるまで何度でもここに来ればいい

( ・∀・) もし今日が駄目だったとしても、諦めなければいつかは気付くことが出来るだろうさ

( ・∀・) もっとも、早いに越したことはないだろうけどね

ζ(゚ー゚;ζ そう、ですね

( ・∀・) さて、覚悟はいいかな?

ζ(゚ー゚*ζ ……はい!

( ・∀・) それじゃあ、目的地まで全速前進!




( ・∀・) ……と、思ったんだけど

ζ(゚ー゚*ζ へ?

( ・∀・) ちょっとだけ、寄り道してもいいかな?

95同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:15:22 ID:nUEqljLU0
そう言って彼が向かった先は、あの、大きな大きな柱時計
根本の広場に辿り着くと時刻は丁度午前8時。これまた大きな鐘の音が、周囲の空気を震わせる

(;・∀・) うーん、タイミングが悪い

ζ(x 、x;ζ 頭がクラクラします

ζ(-、-;ζ それでモララーさん、ここになんの用があるんですか?

(;・∀・) えっと、昨日のブーンとの会話覚えてる?

ζ(゚、゚*ζ ブーンさんとの、ですか?

( ・∀・) うん、タカラっていう人のこと

ζ(゚ー゚*ζ ……確か、何日もブーンさんのところで食べ続けてるお客さんですよね?

( ・∀・) そうそう、その人だよ

( ・∀・) クーに聞いてみたところ、この辺りで目撃証言があるらしい

( ・∀・) それほど弱ってる様子はなかったみたいだけど、念のため保護しておこうと思ってね

ζ(゚ー゚*ζ そういう事なら、手伝います

96同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:15:56 ID:nUEqljLU0
彼と協力して周囲を探索する
ベンチの陰、廃屋の寝室、果ては柱時計の内部に至るまで、隅々まで探したが人どころか虫の一匹も見つからない

( ・∀・) これは……移動してると考えるのが妥当だろうね

( ・∀・) 追いかけようにも……

柱時計の広場は街の中心部に位置し、そこから放射状に何本もの道が伸びている
この中から手がかりもなしに正解の一つを引き当てることなど、とてもではないが……

(;-∀・) ちょっと、諦めるしかないね

ζ(゚ー゚;ζ そうですね

( ・∀・) まあいい。クーの話だとまだ余裕はあるみたいだし、今は君の用事を優先しようか

( ・∀・) こっちだよ、ついてきて

97同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:17:22 ID:nUEqljLU0
最も高い建物は、街の北部にあるという
彼の指す方を見てみると、霧に隠れてうっすらと、細長い影が見て取れた
それはまるで風に揺られる煙のようで、助けを求める狼煙のようで
曲がりながら、うねりながら、異様な存在感を放って、確かにそこに立っていた

( ・∀・) 僕らが向かうのはあの頂上だよ

ζ(゚、゚;ζ よく見えないんですけど何階建てですか、あの建物?

( ・∀・) 大丈夫、3時間もあれば登れると思うから

ζ(゚、゚;ζ さんじっ……本気ですか!?

( ・∀・) ペニサスはその倍かかったけどね

( ・∀・) だって彼女、10分ごとに煙草休憩とるんだもの

ζ(゚ー゚;ζ ……ははっ、ペニサスさんらしいです

( ・∀・) 「今の私はニコチンと乳酸のカクテル」なんて、そんなこと言ってたかな

98同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:18:11 ID:nUEqljLU0
歩き始めて15分ほどすると、この街にきて何度目かの真っ白な壁が現れた
迂回することも考えたが、他の道を通った場合到着まで数十分もの差ができてしまうらしい
話し合いの結果、時間が惜しいのでこのまま突っ切ろうということになった

( ・∀・) うーん、相変わらずデレちゃん、記憶に好かれるね

ζ(゚ー゚;ζ すいません

( ・∀・) 謝ることじゃあない。もしかしたらこれだって、問題を解く鍵になるかもしれないからね

( ・∀・) さ、行こうか

ζ(゚ー゚;ζ はい

息を止めて、霧の壁に突入する
その向こうにはいったい、どんな世界が広がっているのだろうか
自分の体さえ見えない閉ざされた視界の中、頼りになるのは彼と繋がれた右手だけ

99同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:19:02 ID:nUEqljLU0
霧を抜けるとそこにあったのは、住み慣れた都会の街並み
……ただちょっと、ほんの少しだけ、ほんの何倍か、何十倍か、全てのものが、異常なほどに、大きかった

ζ(゚、゚;ζ ……

(;・∀・) これは……ちょっと不味いかもね

不安気な彼の声が、私の恐怖感を増大させる
どんな記憶の中でも余裕の表情を崩さなかった彼が、焦っている
それ程に、今私がいるこの「記憶」は危険なものなのだろうか

(;・∀・) デレちゃん、自分の頭を触ってみて

ζ(゚、゚*ζ はい?

彼に言われるまま頭に手をやると、何やらいつもとは違った感触があった
モフモフしていて、コリコリしていて、先が少しとんがっている
これは、まさか……




  ∧∧
ζ(゚◇゚;ζ 耳!?

100同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:19:42 ID:nUEqljLU0
(;・∀・) これは多分、この辺りに住む野良猫の記憶だね

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ 野良猫の、記憶……?

(;・∀・) 記憶を持つのは人間だけの特権じゃない

(;・∀・) 犬や、猫や、虫や魚だって記憶を持つ

(;・∀・) ……ここで出会うのは、滅多にあることじゃないけどね

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ ……でも、猫になるって、ちょっと楽しい気もします

(;・∀・) いや、そんな甘い話じゃないんだよね

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ ?

人間以外の生き物の気持ちを少しだけ味わえる
それは私にとっては中々魅力的で、どうして彼がここまで焦っているのかがいまいち理解できない

101同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:20:15 ID:nUEqljLU0
( ;・∀・) この街で、人間以外の動物の記憶と出会うことは滅多に無い

( ;・∀・) それはなぜかというと、保持する記憶の量の差によるものだ

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ 記憶の量?

( ;・∀・) 人間以外の動物は、保持する記憶の量が人間と比べて圧倒的に少ない

( ;・∀・) どうでもいいことは、そもそも記憶に残さない……いや、脳の容量的に残すことができないんだ

( ;・∀・) それだけに、わざわざ記憶に残した出来事というのは、彼等にとって重要な出来事

( ;・∀・) 例えば……

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ 例えば?

( ;・∀・) 命の危機、とか

――――不意に、影
頭上から降り注ぐ、甲高い声

102同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:20:58 ID:nUEqljLU0
( ;・∀・) 避けて!

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ っ!?

彼の声に慌てて飛び退くと、たった今私が居た場所を大きな足が通過した
驚いて見上げると、その足の持ち主は黄色い帽子をかぶった男の子
その子の細い両目からは――その年頃の子供特有の――嗜虐的な好奇心が見て取れる

(  Д ) 何だコイツ、避けてんじゃねーよ!

少年は足を振り上げて、私を踏み潰そうとしている
まさに「降って湧いたような」危機に、私の体は竦み上がり動くことができなかった

  ∧∧
ζ(゚ー゚illζ ひっ……

( #・∀・) うおおおおおおおおおおおお!

すかさず行動を起こしたのは、彼
長く伸びた爪で少年の足に飛びつくと、そのまま少年の体を駆け登る

103同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:21:34 ID:nUEqljLU0
(  Д ) うわっ!? やめろ! おい!?

( #・∀・) デレちゃん、今のうちに逃げて!

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ で……でも、それじゃあモララーさんが!

( #・∀・) 僕は平気だから!あの建物の下で落ち合おう!

( #・∀・)  さあ、速く!

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ ……は、はい!

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ 絶対に、無事でいてくださいね!

( #・∀・) ……ああ、任せて!

揉み合う彼等の脇を抜けて、路地裏へと逃げこむ
背後では、どしんという音。その直後に、私とは逆方向へ向かう2つの足音

  ∧∧
ζ(゚- ゚;ζ ……怪我なんてしたら、許しませんから

104同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:22:46 ID:nUEqljLU0
                      .








記憶とは、海馬や大脳皮質に蓄えられた情報のことである

                                 ――――とある医師の妄言





                   .

105同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:23:54 ID:nUEqljLU0
路地裏から覗く、建物の間の狭い隙間
壁に体を擦りながらようやく進めるその隙間の奥に、「出口」は存在した
霧で出来た、白い壁。荒れた地面に足を取られながらも壁を抜けると、忘失都市の見慣れた街並みがあった
彼の姿は、どこにもなかった

ζ(゚ー゚*ζ 一番高い建物に……

そこに行けば、きっと彼が待っているはずだ
街の北部、一番高い建物を目指して、ひたすらに歩き続ける
先程までうっすらと見えるだけだった建物も、少しづつ、その姿を現してきた

ζ(゚ー゚*ζ そういえば、一人で歩くのって初めて

思い返せばこの街に来てからというもの、常に彼と行動を共にしていた
初めてこの街を見た驚きも、VIP商店街の喧騒も、ブーンさんのラーメンの味も、全てが彼とともにあった
一人、独り、ひとり

不安に押しつぶされそうになる私の袖を小さな手が引いていた

106同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:25:11 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚*ζ え?

まっすぐ下ろした右手に目を向けると、袖を掴んでいるのは見覚えのある小さな手
振り向いた先にあったのは地下階段の入り口で、明滅する蛍光灯が、ジリジリという音を立てている
そしてその手前に立っているのは

爪'ー`)y━・~

煙草を吸っている、小さな男の子
もう一方の手は、私の袖をしっかりと掴んでいる

ζ(゚ー゚*ζ ……ペニサスさん?

爪'ー`)y━・~

私の問いかけに返事はなく、少年は黙って私の袖を引き続ける

ζ(゚ー゚*ζ ついて来いって言ってるの?

爪'ー`)b

少年は煙草を放り投げ、満足気に親指を立てた

107同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:26:03 ID:nUEqljLU0
階段を降りると、薄暗い地下通路
周囲には蛍光灯の破片が散乱し、割れたコンクリートの隙間からは名前も知らない植物が顔を出している
一歩踏みしめる度にぱきりという音が通路内に響き渡り、その後に残るのは全くの無音

ζ(゚ー゚*ζ 私に何か用?

爪'ー`)

少年は応えない。いや、応えることができないのかもしれない
恐らくこの少年はペニサスさんではなく、昨日の帰り際に手を振ってくれた記憶そのもの
こうして手を繋いで歩いていても、足音も、体温も、何一つ感じることができないのだから

ζ(゚ー゚;ζ 私、急いでるんだけど……

爪'ー`)b

少年は再び指を立てる
安心しろ、という意思表示のなだろうか

108同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:26:41 ID:nUEqljLU0
少年に引かれてしばらく歩くと、地下通路の終わり、上り階段が見えてきた
周囲には赤や黄色のテープの残骸が散乱していて、よく見ると「KEEP OUT」だとか「DANGER」だとか、物騒な文字が書いてあった

ζ(゚ー゚;ζ ……大丈夫、なんだよね?

爪;'ー`)bそ

必死で説得――なのかどうかは良く分からないが、きっとそうなのだろう――してくる少年の熱意に負けて、階段を登る
階段を抜けて真っ先に目に入ったものは、積み木を無作為に積み上げて作ったような、ひどく歪んだ建物
まるで大樹へ取り付いた蔦のように巻きつけられた螺旋階段が、今にも崩れ落ちそうなこの建物をすんでの所で支えている
私はこのシルエットに見覚えがあった

ζ(゚、゚*ζ これって、もしかして

爪'ー`)

ζ(゚ー゚*ζ この街で一番高い建物?

爪'ー`)b

ζ(^ー^*ζ 連れてきてくれたんだ、ありがと!

爪*'ー`)b

109同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:28:56 ID:nUEqljLU0
周囲を見渡す。当然ながら彼の姿は無い
私が通った地下通路はまっすぐに伸びた一本道で、つまり私は彼と離れて以降、恐らく最短のルートを通ってここに辿り着いたのだ
囮となってあの少年を引きつけていた彼が私よりも先にここに来ることなどできるはずがない

ζ(゚ー゚*ζ それじゃあ、私がすることはひとつだよね

ζ(゚ー゚*ζ モララーさんなら、きっと大丈夫

爪'ー`)b

ζ(゚ー゚*ζ ……少し、疲れちゃった

爪'ー`)

ζ(゚ー゚*ζ おいで、一緒に休も?

ヾ爪*'ー`)ノシ

彼を信じて、ここで待つ
建物の壁に背をもたれ、彼が来るまで何時間でも、何日でも待ち続けよう

110同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:29:57 ID:nUEqljLU0
  。 。
ζ( ^ *ζ それにしても……

少し仰け反って建物を見上げる。頭が建物の壁に当たり、ごりごりとして、少し痛い
  。 。
ζ( ^ *ζ どこまであるんだろ、これ

窓の枚数から階数を予測しようとしたが、100を超えた辺りで数えるのをやめた
霧で見えにくいというのもあったが、何より終わりの見えない作業に嫌気が差したのだ

ζ(-、-;ζ まだまだ、半分も数えてない

ヾ 爪'ー`) ゞ

ζ(゚ー゚*ζ ……でも、この上にあるものって、何なんだろ?

ヾ爪'ー`)シ

ζ(-、-*ζ クールさんについて知ることができるヒント……うーん……

゚+。<爪'ー`)/.+゚

ζ(゚ー゚*ζ ねえ、君は知ってるの?

<爪;'ー`)/そ ビクッ!

ζ(゚ー゚;ζ ……何してたの?

111同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:32:15 ID:nUEqljLU0
ζ(゚、゚*ζ もしかして、退屈してた?

爪;'ー`)

私の問いかけに、少年は申し訳なさそうに頷いた
……しまった

ζ(゚ー゚;ζ ごめんなさい、ちょっと考え事してて

ヾ爪;'ー`)ノシ

私が頭を下げると、少年は必死で両手を動かして何かを伝えようとしている
顔の前で手を左右に降る動作。これが表すのは、否定の意思

ζ(゚ー゚*ζ 気にするなって言ってるの?

爪;'ー`)bそ

ζ(゚ー゚*ζ ふふ、ありがと

爪*'ー`)b

112同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:33:03 ID:nUEqljLU0
ζ(゚、゚*ζ そうだ!

爪'ー`) ?

この子と出会ってから、ずっと気になっていたこと
この機会に、聞いてみよう

ζ(゚ー゚*ζ あなたって、何の記憶?

爪' ,`)a ?

ζ(゚ー゚*ζ そう、あなた

ζ(^ー^*ζ よかったら、教えてほしいな!

爪'ー`)

爪*'ー`)bそ

,;,;,;,;-`)b

力強く指を立てると、少年の体は少しづつ霧に変わっていった
霧はゆっくりとこちらへ向かって流動し、私の体を包み込む

113同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:33:51 ID:nUEqljLU0
唐突に、視界が切り替わる
霧は消失し、目の前には大きなスクリーン
背後からカシャリと音がして、スクリーン上に映像が映し出される


|□                                                                                 □|
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114同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:35:09 ID:nUEqljLU0
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|□     /  /             /  / _/  .'-‐'   'フ            / ,---――- 、_ノ / , -―-、  i `、  `、    //     □|
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|□   /  /          ̄ ̄ /  / ̄´ /  / / / , -―― ヽ     / /           / /       l .,l    `、  <          □|
|□   /  /       /⌒,     /  /   /  / / / / ‐==ニヽ 〉     _/ .'ー―― 'ニフ i  i         ノ /    / へ  ヽ.       □|
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|□ 〈   ̄ ̄ ̄´_〉/  /   /  /   /  / / / \ ` -―― フ   〈_/          \ `ー―‐'  /  //.     `、 `、 .  □|
|□  `´ ̄ ̄ ̄´   `^´     ̄      ̄´   ̄´    ̄ ̄ ̄ ̄´                    `――――'     ̄           ` ̄.    □|
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115同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:36:30 ID:nUEqljLU0
カタカタという音とともに、映像が切り替わる
次々と映し出されるそれは、大きな剣を携えた少年が世界中を旅する物語


時に家ほどもある人食い熊を一刀両断し


|□      ∩___∩                       r――――――――――――――――――――――――――――-、       □|
|□   / \\    !、 |                      | ̄~ヽヽ----------------------------------------------、    \     □|
|□   | ○ .\\ ○  ゙i.             IIエエエエエエ| {己 :||:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;〉     >.   □|
|□  ミ  (_●_ )\\   |            ヽ       |_..ノ ノ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐´    /     □|
|□ /´、  |∪|   \\、ミ_            爪'ー`)-┐└――――――――――――――――――――――――――――''´       □|
|□(  <´| !、,r' _ \\ ゙i        ┗-ヽ  ノ                                                      □|
|□ \_)|   (___\\)          ┏┘                                                      □|
|□    \       `l                                                                          □|
|□     / /\  ,|                                                                          □|
|□    (  (    ゙i |                                                                          □|
|□    /  )     ∪                                                                          □|
|□   (_/                                                                               □|

116同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:37:24 ID:nUEqljLU0
時に川ほどもある大蛇を蝶々結びにして懲らしめる


|□          __                                                                          □|
|□      _,-''"´   ``‐-、._                                                                  □|
|□     /         \ _                          ____                                □|
|□    /            ヽ ` ̄ ̄`ヽ、               / ̄ ̄´      `ヽ、                             □|
|□   /      、-,    X   \      \               /              \                            □|
|□   /     /  `‐、_  ‐-、..-'__    \         /    _____       ヽ、                         □|
|□  /     /  /  ``‐-、)``‐-、._  \    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|    /        \     i                           □|
|□  /     /   /    /        `    \  |            |  /              |     |                        □|
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|□  |       l    \               イ     /   \__________ノ                               □|
|□  l       ヽ    ``―――――――‐'´/     /\     \                                             □|
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|□     ヽ          ` ───――‐'     /        \    \                                          □|
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|□        `‐、_                  /             ``―― '´  ヾ爪'ー`)ゝ                              □|
|□           ``‐-、._            _,/                        ノ  )                               □|
|□               ``──――─‐'´                         /_,ハ. 〉                               □|

コミカルでラジカルな少年の、初めてなのにどこか懐かしい、そんな物語
世界を旅した少年は、旅の終わりに美しい少女と出会い、生涯幸せに暮らすのだ
旅の途中で出会った様々な人々の祝福の中、少年の笑顔と共に、物語の幕は降ろされた

117同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:38:47 ID:nUEqljLU0
物語が終わると、視界は再び霧に包まれた
私を包んでいた霧は少しづつ晴れてゆき、それが完全に無くなった時、私の横には笑顔の少年が座っていた

ζ(゚ー゚*ζ 今のは……君がやったの?

爪'ー`)b

「楽しかった?」

ζ(゚ー゚;ζ えっ?

どこからか、聞き覚えのある声が聞こえてきた

「『リトル・フォックス』。邦題『小さな勇者フォックスの冒険』は、1940年に公開されたアニメ映画」

ヾ爪*'ー`)ゝ

「少年フォックスが世界を旅し、成長する過程を描いた巨匠W・B・シラヒーゲの出世作」

「当時としては斬新なその表現技法は後世の映画作品にも様々な影響を与えている」

ζ(゚ー゚;ζ この声、どこから……?

爪'ー`)σ

ζ(゚ー゚*ζ っ、そこは……

118同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:39:32 ID:nUEqljLU0
少年――いや、フォックス君と呼ぼう――が指差す先には、つい先程私達が通ってきた地下通路があった
ぽっかりと開いたその入口から、見知った顔が覗いている





('、`*川 以上、wikipediaより抜粋

ζ(゚ー゚*ζ ペニサスさん!

爪*'ー`)ノシ

('、`*川 ……ん、モララーどこいった?

119同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:40:52 ID:nUEqljLU0
                       .







奴等の機嫌を損ねるな!

             ――――ひどく怯えた浮浪者






                            .

120同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:41:24 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚*ζ ――そういうわけで、はぐれちゃったんです

('、`;川  あちゃー……大丈夫だった?

ζ(゚ー゚*ζ はい、モララーさんが助けてくれたので

('、`*川 そ。ならまあ一安心ね。モララーのことは心配しなくていいわよ

('、`*川 あいつは仮にもここの管理人。その程度の事で怪我をするような奴じゃないから 

ζ(゚ー゚*ζ そう、ですか……

('、`*川 そうそう、安心しなさい

ζ(゚ー゚*ζ ペニサスさんがそう言うなら、そうします

ヾ爪'ー`)a

ζ(゚ー゚*ζ あ、そうだ!はぐれたあとは、フォックス君がここまで連れてきてくれたんですよ

('、`*川 あらそう、偉いじゃないフォックス

ヾ爪*'ー`)シ

ζ(゚、゚*ζ ……あれ?

('、`*川 ん、なに?

ζ(゚、゚*ζ その荷物、どうしたんですか?

121同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:42:40 ID:nUEqljLU0
再会の喜びで気づかなかったけれど、彼女の両手には四角い包みが握られていた
淡いピンクの風呂敷で覆われたそれは、この街のくすんだ風景の中で、弱く、儚く、それでいてはっきりと自己の存在を主張していた

('、`*川 ああ、これ?

('、`*川 おべんと持ってきたのよ。てっぺんまで歩くとなると何時間もかかっちゃうから。それと……

ζ(゚、゚*ζ それと?

('、`*川 タカラって言ったっけ、そいつに食べさせる分もあるわね

('、`*川 聞いた話だと今朝も内藤のところのラーメンだったみたいだし、そろそろちゃんとした物を食べさせないとヤバイから

再び聞いた、タカラという名前
正直なところ三食ラーメンの何がそんなに危険視されているのか、私にはよくわからない
しかし私よりこの街に詳しい人達が口を揃えてそう言っているのであれば、やはりそれは危険なことなのだろう

('、`*川 王女さまにも頼まれてねぇ、あんたらが登ってる間に私はタカラ探しってわけよ

ζ(゚、゚*ζ え、一緒に来てくれないんですか?

('、`;川 やーよ、私を殺す気?

ζ(゚ー゚;ζ えー

122同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:43:43 ID:nUEqljLU0
('、`*川 まあ、モララーが来るまでは一緒にいてあげるわ

('、`*川 何か聞きたいことがあったら今のうちよ?

「私に答えられることなら答えてあげる」
そう言って彼女は私の隣に腰を下ろした
長い髪がふわりと揺れて、微かに香る煙草の匂いが何故か心地良かった

ζ(゚ー゚*ζ それじゃあ、クールさんの問題の答えを……

('、`;川 言うわけないでしょ。そんなことしたら私が怒られるわ

ζ(゚ー゚;ζ ですよねー

('、`*川 だけどまあ、考え方くらいなら教えてあげてもいいかもね

ζ(゚ー゚*ζ 考え方、ですか?

('、`*川 な―に? 不満なの?

ζ(゚ー゚;ζ い、いえ! ぜんぜん!

('、`*川 そうそう、それでいいのよ

123同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:45:18 ID:nUEqljLU0
('、`*川 そうね、この街に来てからいろんなことが起こったと思うけど、その中でおかしなことはなかった?

ζ(゚ー゚*ζ ……おかしなこと?

おかしなことは、それはもう沢山あった
突然商店街が現れたり、ペニサスさんがフォックスくんだったり、私が猫になったり……
それこそ挙げればきりがない

('、`;川 そういうあからさまな異常じゃなくて、もっと細かいことよ

('、`*川 ヒントはそこら中に転がっているのよ。あんたが気付いてないだけでね

('、`*川 大事なヒントを「当たり前」で片付けたりしてない?

('、`*川 先入観を捨てて、今までの出来事をもう一度振り返ってみなさい

('、`*川 当然だと思っていた出来事にもう一度焦点を当てて、疑問を持つ

('、`*川 原因の原因、理由の理由まで、しっかりとね

('、`*川 そうすればきっと、何かが見えてくるはずよ?

ζ(-、-;ζ うーん、難しいですね

('ー`*川 ま、じっくり考えなさい。なんたってこれから何時間も歩くことになるんだから

ζ(゚ー゚;ζ ……やっぱりペニサスさんも一緒に行きませんか?

('、`*川 やーよ

124同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:46:08 ID:nUEqljLU0
('、`*川 あら? ピロリロリン♪

彼女のポケットから、軽快な電子音が聞こえてきた
どうやら携帯電話に着信があったらしい。着信画面をこちらに向けて、彼女は微笑んだ

('ー`*川 あら? モララーからね

ζ(゚ー゚;ζ えっ!?

('、`*川 出るわよ?

ζ(゚ー゚;ζ は、はい!

('、`*川 『もしもし、元気? 今デレちゃんと一緒にいるわ』

('、`*川 『……』

ζ(゚、゚;ζ ……

('ー`*川 『あらそう、無事ね。よかった』

ζ(゚ー゚;ζ ホッ

二人の通話に耳をそばだてる。彼の言葉はほとんど聞き取れなかったけれど、元気そうな声が伝わってきて安心する
どうやら彼は無事に逃げ切ることができて、現在こちらに向かっているらしい

125同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:47:09 ID:nUEqljLU0
('、`*川 『……今? 今は件の建物であんた待ちよ』

('、`*川 『うん? あー、それはいいけど、どこ?』

('、`*川 『うん、うん、それで? ……うん』

('、`;川 『……はぁ!?』

Σζ(゚、゚;ζ ビクッ

('、`;川 『あー、まあいいわよ。任せて、うん』

('、`;川 『それじゃ、急いできなさいよ? うん、じゃあね』 ピッ

('、`;川

('、`;川 はあー……

ζ(゚ー゚;ζ どうしたんですか?

('、`*川 タカラの居場所がわかったのよ。この近くにいるから保護しろって

ζ(゚ー゚*ζ この近く……どこでしょうね

('、`*川 この建物の裏側だってさ

ζ(゚、゚;ζ 近っ!?

126同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:48:13 ID:nUEqljLU0
('、`*川 荷物はここに置いといて大丈夫ね。おべんとだけ持ってきましょ

ζ(゚ー゚*ζ そうですね。フォックスくんも一緒に行こ?

ヽ爪*'ー`)ノ

('、`*川 しっかし、随分近いところにいたもんだわ

ζ(゚ー゚;ζ すごい偶然ですねー

ヽ爪'ー`)ゝ

薄汚れたコンクリートの壁に沿って半周、少しづつ深まる霧の向こうで、小さな影がひらひらと揺らめいていた
その正体が身の丈に合わぬ大きなパーカーを羽織った人間であると気付いたのは、そこからさらに10メートルほど歩いた後のことだ

('、`*川 おーっす、あんたがタカラ?

彼女がそう呼びかけると、私達に背を向けていた人影がくるりと振り返った
高校1年生くらいだろうか? まだ幼さの残るその顔立ちに、私は何か薄ら寒いものを感じた

ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/122.png

127同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:48:58 ID:nUEqljLU0
( ,,^Д^) そうだけど……あんたら誰?

少年は訝しげに私達を眺めた後、そのように訊ねてきた。なるほど当然の疑問だ
その質問を聞いて彼女はふふんと鼻を鳴らし、自慢げに胸を突き出した

('ー`*川 私はペニサス。この街の管理人からの依頼により、これからあんたを保護するわ

( ,,^Д^) 保護? なんで?

('、`*川 今のあんたの体はね、あんたが思ってる以上に衰弱してるのよ

('、`*川 聞いた話じゃここ何日か、食事は全部内藤の所で済ませてるそうじゃない

( ,,^Д^) 内藤? ああ、ブーンのおっちゃんのところか

( ,,^Д^) 確かにそうだけど、それがどうかした?

('、`*川 このままそれ続けたら、あんたもうすぐ死んじゃうよ?

( ,,;^Д^) ハァ!?

ζ(゚ー゚;ζ ちょっとペニサスさん、ストレートすぎません!?

('、`*川 あらそう? わかりやすくていいと思ったんだけど

128同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:50:11 ID:nUEqljLU0
( ,,;^Д^) 死ぬって……そんなこと、あるわけね―じゃん!?

「あなたはラーメンを食べ続けました。だからもうすぐ死にます」
あまりにも唐突で荒唐無稽な余命宣告に、目の前の少年は随分と狼狽しているようだった
彼女は「ちょっと持っててくれる?」と私に弁当を預け、数歩だけ少年に歩み寄る

('、`*川 色々と納得出来ないこともあるだろうけど、今はとりあえず私の言うことを聞きなさいな

('、`*川 また今度、この街がどういう場所なのか詳しく教えてあげるから。ね?

( ,,;^Д^) ば、馬鹿にすんなよな! この街が変なトコだってのは知ってるぞ!

( ,,;^Д^) えーっと……アレだろ、記憶が見えるんだろ!?

('、`*川 知ってる奴は三食内藤で済ますなんて狂ったことはしないのよ。死にたくないからね

( ,,;^Д^) だからどーゆーことだよそれ!? 意味わかんねーよ!

「やっぱり分かってなかったんじゃない」と深い溜め息をついて、彼女はさらに歩みを進める
彼女が少年の真横に辿り着き、勢いそのままにがしりと肩を組むと少年は小さく悲鳴を漏らした
……ペニサスさん、その説得の方法は、カタギの人間がしていいものではありません

('、`*川 よーく思い出してみなさい? 内藤もあんたに何か言ってたでしょ?

('、`*川 例えばそうね、あいつのことだから……「ちゃんとした栄養ある物も食べないと死んじゃうお?」とか、言ってなかった?

( ,,;^Д^) あ……

129同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:50:54 ID:nUEqljLU0
深い霧の中でもはっきりと、少年の顔から血の気が引いてゆくのが見て取れた
どうやら彼女の言葉に心当たりがあったらしい

('、`*川 その反応、図星ね。どうせ内藤があんたの健康を気遣って大袈裟なことを言ってるとでも思ってたんでしょうね

('、`*川 内藤は本気で止めようとしてたのに……駄目よ? 大人の言うことはちゃんと聞かなくちゃ

( ,,ill^Д^) う……ああ……

('、`*川 図星ついでにもう一つ当ててあげる。あんたこの辺りの人間じゃないでしょ?

('、`*川 大方この街の噂を聞いて、興味本位で遊びに来たってところね。当たってる?

彼女の問いに、少年からの返事は無い
もしかすると、もはや答えることすらも出来ないほどに、少年の心は追い詰められているのかもしれない

('、`*川 この街はね、何も知らない人間が遊びで居ていい場所じゃないのよ

('、`*川 もう一度言うわよ? 黙って私達に保護されてなさい

('、`*川 じゃないとあんた本当に――――

( 、 *川 ――――死ぬよ?

( ,,; Д ) う、ああああああああああああああああああ!! ガバッ!

('、`;川 あっ!?

130同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:52:17 ID:nUEqljLU0
緊張が限界を越えたのか、少年は肩に回された腕を強引に振り解き、そのまま逃げるように数歩後退した
怯えた表情でこちらを睨みつける少年の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた

( ,,;^Д^) お、俺は信じねーぞそんなこと! お前、俺を騙そうとしてるな!?

( ,,;^Д^) 俺の体はどこも悪くない! 保護なんていらない! 近寄るな!

ζ(゚ー゚;ζ ちょっとペニサスさん、どうするつもりですか?

('、`;川 ……ごめん、怖がらせ過ぎたかも

ζ(゚ー゚;ζ ごめんじゃないですよ、もう!

ζ(゚ー゚;ζ ええっと、タカラくんだっけ? 私もよく分からないんだけど、言うこと聞いたほうがいいと思うよ?

( ,,;^Д^) アーアーキコエナーイ

ζ(゚ー゚;ζ うぅ……

少年はとうとう半狂乱に陥り、両手で耳を塞ぎながらブツブツと何事かを呟いている
まだまだ子供といっても差し支えのない年頃であろう少年に、彼女の説得は刺激が強すぎたらしい

131同志名無しさん:2013/04/14(日) 09:58:48 ID:nUEqljLU0
('、`;川 ああもう、わかった! 保護するとか言わないから! ね?

('、`;川 とりあえず落ち着いて! お弁当持ってきたから一緒に食べましょ!?

と('、`;川 そしたらお家に帰っていいから、ね? スッ

( ,,ill^Д^) ビクッ

どうにかして落ち着かせようと、彼女は少年へ手を伸ばす。それがいけなかったのだろう
少年にとって彼女は既に恐怖の対象でしかなく――――

( ,,ill^Д^) 近寄るなって言ってるだろ!? ドンッ!

( 、 ;川 キャッ!? ドサッ

少年に思い切り突き飛ばされ、彼女は盛大に尻餅をついた
心配して駆け寄る私とフォックス君を、彼女は「大丈夫だから」手で制す
転んだ拍子に小石か何かで傷付けたのだろう。掌にぽっかりと空いた傷穴から血液が流れ出し、衣服の袖を汚していた

ζ(゚ー゚;ζ 血……

('、`;川 あ、やば……



::爪# ー )::

132同志名無しさん:2013/04/14(日) 10:01:24 ID:nUEqljLU0
爪#'ー.:. ::,:  ;: ; , ;,;

フォックス君の体が霧に変わり、忘失都市の空気と混じり合う
うっすらと赤みを帯びたその霧は、周囲の霧を巻き込んで、ぐるぐると、ぐるぐると、大きな渦を生み出した
渦の中心にいるのは、あの少年

( ,,;^Д^) え……

渦巻く霧は渦の中心で少年の体に張り付いて、彼の姿を徐々に覆い隠す
少年は振り払おうと必死で手足を振り回すが、抵抗虚しく、霧が少年から離れることはない
私は本能的に、それが何か恐ろしいものであることが理解できた

ζ(゚ー゚;ζ タカラくんを助けなきゃ……

私がそう呟くと渦はぴたりと動きを止め……次の瞬間、何条もの帯が視界に飛び込んできた
目に痛いほどにくっきりとした赤と黄色。黒字で書かれた「KEEP OUT」「DANGER」という単語
どこからともなく現れた沢山のポリステープが私と少年を隔てる壁となった

ζ(゚ー゚;ζ あっ!?

('、`;川 ……無駄よ。ああなったらもう誰にも止められない

('、`;川 私が怪我したこと、随分怒ってるみたいね

133同志名無しさん:2013/04/14(日) 10:06:21 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚;ζ これ、フォックス君がやってるんですか?

('、`;川 あの子ひとりの仕業ってわけじゃないけどね

('、`;川 周囲の記憶に働きかけて協力してもらってるのよ

ζ(゚ー゚;ζ 周囲の記憶……それでこんな大きな渦ができてるんですね

('、`;川 何十か、何百か、具体的な数はわからないけど、とにかくそういうことよ

私達がそんなことを悠長に話している間にも、回転を再開した霧が少年を徐々に包み込む
渦の大きさも、初めと比べると随分と小さくなっているようだ

.::,,;;^Д,;,;) おい! なんだよこれ!?

.:.::,;,;;Д;.::,l:,: な、なあ! 逆らって悪かった! 言うこと聞くよ! 謝るから! だから……

;,:;.:,;.;:.,;:.;:.;,,:,;.:, ……ね……いだ! た……け…………!

134同志名無しさん:2013/04/14(日) 10:08:31 ID:nUEqljLU0
渦は完全に消失し、その代わりに仄かに赤みを帯びた霧の球が出来上がった
その様子を呆然と眺めていると、今度は先程まで複雑に絡み合って壁を形成していたポリステープが瞬く間に解れ、移動を始める
何条ものポリステープが霧の球に取り付いて、巻き付き、張り付き、絡み付き、一回り大きな球となる
赤、黄、黒の斑模様。見る者の恐怖を喚起する、暴力的な警戒色

ζ(゚ー゚;ζ あ……

('、`;川 あー……

('、`*川 あの球の内部はね、今あんたも見た通り、非常に高い濃度の霧の塊

('、`*川 霧……まあわかってると思うけど、記憶のことよ

('、`*川 あのタカラって子は、記憶で満たされた空間に閉じ込められた。もうすぐ記憶達による「制裁」が始まるでしょうね

ζ(゚ー゚;ζ 制裁? 何をされるんですか?

('、`*川 安心して、死にはしないわ。内緒にしてたけど、記憶は私達を肉体的に傷つけることなんて出来ないから

('、`*川 記憶によって痛みを感じたとしてもそれは幻、実際の体にはかすり傷一つついていない

('、`;川 まあもっとも、死なない代わりに……

ζ(゚ー゚;ζ その代わりに?

('、`;川 ちょっと、ほんのちょっと……すごーく嫌な思いをすることになるでしょうけど

ζ(゚ー゚;ζ え?

135同志名無しさん:2013/04/14(日) 10:10:41 ID:nUEqljLU0
「う、うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!!?」

ζ(゚ー゚;ζ この声……いったいどうなってるんですか?

耳を裂くような、という表現が似つかわしい少年の叫び声が、球の内部から聞こえてきた
その様子を申し訳なさそうに眺めながら、彼女は語り出した

('、`;川 私も実際に体験したわけじゃないから詳しくはわからないけどね?

('、`;川 あの球を形成している記憶の殆どは、ネガティブというか、ショッキングというか……

('、`;川 とにかく、あまり楽しくない記憶が詰まってるって話よ

ζ(゚ー゚;ζ ……それで、どうなるんですか?

('、`;川 モララーは「ありったけの恐ろしい記憶をいっぺんに体験することになる」って言ってたわ

('、`;川 「トラウマになってもおかしくない。決して忘れられない思い出になるだろうね」だってさ

ζ( ー ;ζ うわぁ……

忘れることが出来ないほどに強烈な恐怖体験
果たしてあの球の内部では何が起こっているというのだろうか

136同志名無しさん:2013/04/14(日) 10:12:12 ID:nUEqljLU0
ζ;゚ー゚)ζ          ウワアアアアアアアア! タスケテクレ! ダレカ! ダレカ!>



ζ; ー )ζ             クマ! クマァ!? クワレル! クワレル! シヌゥゥゥゥゥゥゥ!>



ζ*////)ζそ        ソンナトコロイジッチャラメェ! ラメナノォ! …アッ……>



::ζill ⊿ )ζ::         アア! マドニ! マドニ!>







……本当に、何が起こっているというのだろうか

137同志名無しさん:2013/04/14(日) 10:21:42 ID:nUEqljLU0
今日の投下はここまでです
残りは今週中に

AAでけーよふざけんなって人いたらごめんなさい。ゆるしてください

138同志名無しさん:2013/04/14(日) 11:23:56 ID:TpC//wWoO

待ちくたびれたけど面白かった
やはり合間に挟まれる一言が好き

139同志名無しさん:2013/04/14(日) 14:30:33 ID:F.QSFRq60
デレが可愛いい!乙!

140同志名無しさん:2013/04/14(日) 15:29:12 ID:FwbQ8XRsO
ζ(゚ー゚*ζ牛乳全部飲んだのか

141同志名無しさん:2013/04/16(火) 18:39:01 ID:tYUt8tv.0


142同志名無しさん:2013/04/25(木) 20:58:50 ID:tVWc.Y9Q0
見上げるデレのAAうまいな
続き待ってる乙

143同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:18:16 ID:gsQDLfHo0
数分後、それまで絶えず聞こえていた悲鳴がぴたりと鳴り止み、件の毒々しい色をした球は元の白い霧となって消えた

::(( ,,illД )):: あ……ああ……

ζ(゚ー゚;ζ タカラくん!?

先程まで球のあったその場所で、少年は仰向けになって倒れていた
私は急いで少年の元へと駆け寄って声をかける

反応は無し。少年は真っ青な顔をして、ただただ震えているだけだった

ζ(゚ー゚;ζ ひどい……何もここまで……!

('、`;川 ……確かに、これはやりすぎね

爪ill'ー`) シュン

いつの間にか彼女の横に姿を表していたフォックス君が、少年にも負けぬ程に真っ青な顔をして俯いている
子供ながらにも――記憶に年齢があるのかは分からないが――やり過ぎたという自覚はあるのだろう

('、`;川 あのね、この子をあんまり責めないであげてほしいの

('、`;川 私のために……こう、カッとなってやっちゃっただけだと思うから

('、`;川 悪いのは私。こうなったのも、私が追い詰めすぎたせいで……

144同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:18:54 ID:gsQDLfHo0
ζ( ー ζ 許すかどうかは、私が決めることじゃないので

('、`;川 ……そうね

爪ill'ー`)

ζ(゚- ゚*ζ それに、何も出来なかった私も、怒る権利はありませんから

('、`;川 ……ごめんなさい

爪;'ー`)

ζ(゚- ゚ ;ζ 私に謝られても、困ります

三者三様の負い目から身動きが取れず、ただ立ち尽くす
私達はこれから何をするべきなのだろうか。わからない。何もわからない
こんな時に、あの人が居てくれたら……

ζ(゚- ゚ ;ζ モララーさん……






( ・∀・) よんだ?

145同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:19:50 ID:gsQDLfHo0







施錠して保管する

子供の手の届かない場所に保管する

                      ――――”Safety phrases(有害物質取扱の安全警句)” 第一項及び第二項






                            .

146同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:20:32 ID:gsQDLfHo0
口角から零れ落ちたスポーツ飲料が、お弁当の包みにじわりと染み込んだ
上着の袖で慌てて口を拭い、何気ない素振りで彼へと視線を向ける
幸いにも彼はずっと景色を眺めていたようで、今のみっともない姿を見られてはいなかったらしい

( ・∀・) どうかした?

ζ(゚ー゚;ζ い、いえ! なんでもないです!

( ・∀・) ……そう、ならいいけど

( ・∀・) もう少し歩けば休憩用のスペースがあるから、そこでお昼にしようか

ζ(゚ー゚*ζ そうですね

( ・∀・) 向こうも今頃食事中かな

ζ(゚ー゚;ζ 向こう……タカラくん、大丈夫ですかね?

( ;・∀・) うーん、どうだろうね。僕もあんなことになってるだなんて思わなかったから

147同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:21:39 ID:gsQDLfHo0
私達は今、件の建物の螺旋階段を二人で昇っている
ペニサスさんとフォックスくんは、あの少年をブーンさんの店へと運んでいった
「ブーンと顔見知りみたいだし、彼とならちゃんと会話ができるんじゃないかな」という、モララーさんからの提案だった

( ・∀・) まあ、最悪の事態は避けられたんだ。後はどうとでもなるさ

ζ(゚ー゚;ζ どうにかなればいいんですけどねー

塗装の剥げた木製のドアの前を通り過ぎる
ドアノブから不自然に吊り下げられた風鈴が、忘失都市の乾いた風に揺られて音を立てた

ζ(゚ー゚*ζ また、扉……

昇り始めてからずっと、5分程度の間隔を空けて建物の内部に通じる扉が現れる
真新しいガラスのスライドドア、薄汚れた木製のドア、華美な装飾を施した中華風の二枚扉……
扉の種類は様々だが、どの扉も一様に大きな南京錠がかけられていた

( ・∀・) この建物はそれぞれのフロアが完全に独立してるからね

( ・∀・) 一つのフロアに一つの出入り口、そういうことになっているんだ

( ・∀・) 勝手に入られると色々と困るから戸締りは厳重にさせてもらってるよ

ζ(゚ー゚*ζ 中には何があるんですか?

( ・∀・) いろいろだよ。大切な物とか、危ない物とか、大切で危ない物なんかがある

ζ(゚ー゚;ζ あの、因みにですけど、私達が向かっている場所には何があるんですか?

( ・∀・) ……大切な物さ。この街にとっては、何よりも大切なね

148同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:22:39 ID:gsQDLfHo0
( ・∀・) おっと、そんなところでお昼の時間みたいだね

ζ(゚ー゚*ζ え?

( ・∀・) ほら、前見て?

およそ10段ほど昇った先、建物の影から平坦な踊り場が顔を出していた
ここが彼の言っていた休憩用スペースなのだろう

ζ(゚ー゚*ζ それじゃあ、ご飯にしましょうか

( ・∀・) それもいいけど、その前に

ζ(゚、゚*ζ その前に、何ですか?

( ・∀・) この踊り場はだいたい半周、建物を挟んで向こう側くらいまで続いている

( ・∀・) 歩きっぱなしで汗もかいただろうし、先に向こうで着替えて来れば?

Σζ(゚ー゚;ζ 着替っ……! ここでですか!?

( ・∀・) あれ? 持ってきてなかった? 

ζ(゚ー゚;ζ 一応持って来ましたけど……ここじゃ丸見えじゃないですか!?

149同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:23:22 ID:gsQDLfHo0
( ・∀・) 僕からは建物の陰になって隠れるし、外からは……まあ、霧があるから大丈夫なんじゃないかな?

ζ(゚ー゚;ζ そんな適当な……

( ・∀・) ……おや?

ひらりと、空から何かが降って来るのが見えた
白く小さなその物体はゆっくりと私の頬に触れ、冷たい感触を置き土産に消え去った

ζ(゚、゚*ζ これって、もしかして……

( ・∀・) 今日あたり降るかもとは聞いていたけれど、本当に来たね

( ・∀・) これからどんどん寒くなるよ。着替えておいたほうがいいと思うけど

ζ(゚、゚;ζ 確かにそうみたいですね。でも……

( ・∀・) それとも、僕が覗かないか心配?

ζ(゚、゚;ζ うう、分かりました。着替えてきます

150同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:24:11 ID:gsQDLfHo0
リュックサックから着替えを取り出し、ビルの向こう側へと小走りで移動する

ζ(゚ー゚;ζ 誰か見てたり……しないよね?

近接する建物を眺めて確認する。霧に紛れてよく見えないが、人の気配はないようだ

ζ(゚ー゚;ζ よし! 今のうちに着替えちゃおう!

ζ(゚ー゚;ζ あ、モララーさんからは……

彼からしっかり隠れることが出来たかと、螺旋階段の内側に目を向ける
彼のいた場所は調度良く建物の陰に隠れており、お互いに視認することは不可能だった

ζ(゚ー゚;ζ よし! よし! 着替えよう!

ζ(゚ー゚*ζ ……

ζ(゚、゚*ζ あれ?

ζ(゚、゚*ζ ここにも、扉がある

151同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:25:23 ID:gsQDLfHo0
建物の壁に、長方形。この街の空気のような、濁った白
何の装飾もないのっぺりとしたその扉には、この建物の他の扉には掛けられていた南京錠がどこにも見当たらなかった
「戸締りは厳重にしている」という彼の言葉を思い出し、私は小首を傾げた

「気になるなら、入ってみればいい」

背後から、声が聞こえた
彼とは別の、しかし、聞き覚えのある声

川 ゚ -゚) もっとも、その後のことは保証できないが

ζ(゚、゚;ζ クールさん……どうしてここにいるんですか?

川 ゚ -゚) 君の評判を聞きつけてね、気になって様子を見に来たのさ

ζ(゚、゚*ζ 評判?

川 ゚ -゚) うむ、記憶に絡まれやすい人間だと専らの噂だぞ?

ζ(゚ー゚;ζ だっ、誰がしてるんですか、そんな噂!?

川 ゚ -゚) おや、違うのか?

ζ( ー ;ζ ……さあ、わかりません

たぶん、違わない

152同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:26:09 ID:gsQDLfHo0
川 ゚ -゚) ふむ、わからないか。それならそれでも構わないさ

川 ゚ -゚) ……それで、どうする?

彼女は私の横を通りぬけ、白い扉に手をかけた
ドアノブを捻り、ゆっくりと引く。僅かに開いた隙間から、蛍光灯の白い光が漏れ出した

川 ゚ -゚) 入ってみるか?

ζ(゚、゚;ζ え?

川 ゚ -゚) この扉が気になるんだろう?

ζ(゚ー゚;ζ でも、勝手に入ったら怒られるんじゃないですか?

川 ゚ -゚) 私が良いと言っているんだ、何を心配する必要がある

川 ゚ -゚) 君にだって、好奇心はあるんだろう?

ζ(゚ー゚;ζ それは、まあ……じゃあ、ちょっとだけ

川 ゚ -゚) よし、それじゃあ行こうか

川 ゚ -゚) ……掴まれ スッ

ζ(゚ー゚*ζ あ、はい

差し出された手に掴まって、彼女と共に扉をくぐる
甘い香りが、ふわりと鼻腔を掠めた

153同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:28:06 ID:gsQDLfHo0
扉の向こうには、何も無かった。いや、これでは語弊がある
壁も、床も、天井も、コンクリートで塗り固められた、何も無い部屋があった

ζ(゚、゚*ζ 何も無いですね

川 ゚ -゚) そうだな

ζ(゚、゚*ζ モララーさんからは色んな物が入ってると聞いたんですけど

川 ゚ -゚) そうだな

ζ(゚、゚*ζ モララーさんが嘘をつくとも考えにくいですし

川 ゚ -゚) そうだな

ζ(゚ー゚*ζ あ、もしかしてここだけ空き部屋だったりするんですか? だから入れてくれたとか

川 ゚ -゚) ……

川 ゚ -゚) それは違うな

ζ(゚ー゚*ζ えっ?

その瞬間、部屋のいたる所から、真っ白な霧が吹き出した

154同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:30:03 ID:gsQDLfHo0
ばたん。背後の入り口で、扉の閉まる音がする
慌てて振り返ろうとして、違和感。いくら力を入れてみても、私の体は凍りついたように動かない
瞬きをすることも、助けを求めて声を出すことも、何もできなくなっていた

ζ(゚ー゚;ζ (これ……どうして……!?)

川  - ) 君に、いい言葉を教えてやろう。イギリスの諺だ

そう言うと彼女は繋いでいた手を離し、私の背後に回り込んだ
いったい何をしようとしているのか。身動きの取れないこの体では、それを知ることはできそうもない

川 ー ) いいか?

ζ( ー illζ ッ!?

突然背後から組み付かれ、思わず息を呑む
肩口から正面へと回された腕が、痛いほどに、私の体を締め上げる

川  - ) 好奇心は、猫を殺す

耳元で、ひどく冷たい声がした

155同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:33:25 ID:gsQDLfHo0
川  - ) この部屋には、とある記憶が押し込められている

川  - ) 人の心を抉り、砕き、押し潰す。そんな恐ろしく、悲しい記憶だ

瞬く間に充満した霧は、室内の景色をゆっくりと塗り替える
白い壁、壁中に貼り付けられた何らかの張り紙

ξ゚⊿゚)ξ

部屋の中央には、真っ赤な服の少女
小学校の低学年くらいだろうか。可愛らしいキャラクターの印刷された鉛筆を片手に、一心不乱に何かを書き続けている
何故だろう。その少女を見るのが、とても辛い

ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/72.jpg

156同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:33:56 ID:gsQDLfHo0
ξ;-⊿-)ξ

ふと、少女はペンを置く
額に浮かんだ汗を拭い、丈の余った衣服の袖を、肘までまくり上げた
顕になった少女の腕は、異常とも言えるほどに痩せ細り、所々に青痣が浮かんでいた

川  - ) ネグレクト……育児放棄というものを知っているか? この少女はその被害者だ

川  - ) 一日中この部屋に閉じ込められ、外出が許されるのは一日三回までと定められた排泄時のみ

川  - ) もしもこれを破った場合、父親からの躾と称した暴力が待っている

川  - ) まあ、言いつけを守ったとしても父親の機嫌が悪ければ暴力を受けることになるのだがな

ξ; ⊿ )ξ グゥゥゥゥゥゥゥ……

間の抜けた音が室内に響き、少女がはっとしてお腹を圧えた
服の色とは真逆の、青い顔。きっと十分な食事も与えられていないのだろう

川  - ) 食事は一日に一袋、父親がコンビニで買ってくる菓子パンだけ

川  - ) それだって、父親の機嫌が悪ければ諦める他ない

157同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:35:27 ID:gsQDLfHo0
川  - ) 因みに母親だが……この記憶の中に母親は登場しない

川  - ) 死んだか、逃げたか、それとも何らかの理由で少女の前に姿を現せないのか

川  - ) まあ、いずれにせよ現れないのであれば居ないのと同じだ。そう思うだろう?



ξ;゚ー゚)ξ-3

満足気に大きく息を吐いて、少女はゆっくりと立ち上がる
その手には、拙いながらも丁寧な文字がびっしりと書き込まれた自由帳が握られていた
少女は文字の書かれたページを丁寧に破り取ると、セロテープを使って壁の空いたスペースに貼り付けた

川  - ) シンデレラという童話を知っているか? まあ、知っているだろう

川  - ) この子がもっと小さい頃に、父親から唯一買い与えられた絵本がそれだ

川  - ) 父親がどういう心境の変化でそんなことをしたのかはわからない。大方、パチンコで大勝でもしたんだろうがな

川  - ) まあ、そんなことはこの少女にとっては関係のないことだ。少女の喜びようはきっと大変なものだったのだろう

川  - ) 人生で初めてのプレゼント。時間が経つのも忘れて何度も何度も読み返した

川  - ) そうしていつの間にか、少女は自分の不幸な身の上を童話の主人公に投影するようになっていた

川  - ) いつかきっと王子様が私を助けに来てくれる、とね

158同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:37:43 ID:gsQDLfHo0
川 ー ) 意地悪な姉も、怖い継母もいない。優しい魔女なんて、どこにもいない

川 ー ) ただ同じような年頃で、同じく虐げられる立場にあるという共通点

川 ー ) それだけが、少女の心の拠り所だったのだろう。子供らしい、短絡的な発想だと思わないか?

少女は部屋の中央へ戻り、再び何かを描き始める
かぼちゃパンツに白タイツ。白馬に乗った、王子さま

川  - ) 壁に貼られているものは、まだ見ぬ王子への恋文だ

川  - ) どれ、少し読んでみよう。なになに、「はやくむかえに来てください」だそうだ

川  - ) ……さて、ここで問題だ。王子さまは、助けに来てくれたのだろうか?

ζ( ー ;ζ

川  - ) おっと、忘れていた。声も出せないんだったな

川  - ) しょうがない、正解を教えてやろう。正解はな、勿論ノーだ

川  - ) そして救いのないこの記憶も、間も無く終りを迎えることになる

159同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:40:14 ID:gsQDLfHo0
彼女がそう言ったのとほぼ同時に、部屋の扉が蹴破られ、一人の男が現れた
男は酷く酔っているのだろう、真っ赤な顔で何事かを叫んでいる

( # д ) ――――――! ――――!!

川  - ) この男は少女の父親だ。虫の居所が悪かったようで、いつものように暴力を振るいにやってきた

::ξill ⊿ )ξ:: ―――! ――――――!

( # д ) ――――!!

男は怯える少女を蹴り倒し、そのまま何度も踏みつけた
手も、足も、胸も、腹も、顔も
切れた唇から流れ出た血液が男の足を汚し、それを見た男はさらに怒りを強める

川  - ) 一切の抵抗はゆるされず、少女がどれだけ許しを請おうとも、父親は聞く耳を持たない

川  - ) 少女にできることは父親の機嫌が治るまで、ただ震えて耐え続けることだけだ

川  - ) ……しかしながら今回は、余りにも機嫌が悪すぎたらしい

ζ( ー ;ζ !?

160同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:42:02 ID:gsQDLfHo0
一段と高く振り上げた足を、少女の鳩尾へ叩きつける
場違いなほどに甲高い、繊維質の植物を折り曲げたような音が響いた

川  - ) 骨の折れる音を聞くのは初めてかな?

ζ( ー ;ζ !!

( # д )、 ――――――!

男はいくらか溜飲を下げたらしく、少女に唾を吐きかけて部屋を後にした
少女はぐったりとしていて、ぴくりとも動かない

川  - ) 助けようとしても無駄だ。君の体は決して動かない

川  - ) そして何より、これらは全て何年も前に終わった出来事だ

ζ( ー ζ

暗く、重い、粘性の液体が胸底を犯す
行き場のない悲しみが、自身を呪う無力感が、止め処なく流れ込む
この感覚に、私は覚えがあった。2年前、母を亡くした時の、あの感覚とよく似た――――

川  - ) 胸が張り裂ける思いだろう?

川  - ) しかしその感覚も、この記憶の宿主が感じた悲しみの、ほんの一部分でしかないんだ

目眩のするような不快感の中で、土気色に染まっていく少女の顔を、私達は為す術もなく眺めていた

161同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:42:34 ID:gsQDLfHo0
 







資料として扱って良いものなんだろうかね?

                        ――――とある民俗学者の悩み






                            .

162同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:43:55 ID:gsQDLfHo0
霧が、晴れる

少女も、壁の張り紙も、跡形もなく消え去って
胸の異物だけが、どろどろと、どろどろと

川 ゚ -゚) もう体は動くはずだ。楽にするといい

ζ( ー ;ζ  あ……

彼女は私の拘束を解き、ゆっくりと私の正面に回り込んだ
全身の緊張が一気に抜けだして、私はそのまま地べたに座り込む

川 ゚ -゚) さて、弱っているところ悪いが二つだけ質問させてもらおう

ζ( ー ;ζ しつ、もん……?

川 ゚ -゚) そうだ。まず第一に、私はどうして君にこれを見せたと思う?

川 ゚ -゚) こんな胸糞悪い、吐き気を催すような出来事をだ

ζ( ー ;ζ それ、は……

ζ( ー ;ζ 私のことが、嫌い、だか、ら?

川 ゚ -゚) ……ふん

163同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:45:08 ID:gsQDLfHo0
彼女は不快そうに鼻を鳴らし、「勘違いするなよ」と言って私を睨んだ
敵意のない、しかし、冷たく、厳しい視線だった

川 ゚ -゚) 私は君に対して、特別な感情は一切持ち合わせていない

川 ゚ -゚) もし私が君を嫌う事があるとすれば、それはきっと、私の二つ目の問いに不誠実な回答をした場合だけだろう

ζ( ー ;ζ それじゃあ、どうして……?

川 ゚ -゚) 君はあの記憶の宿主の感情を、ほんの僅かながら共有した

川 ゚ -゚) 実際にあの宿主が感じた悲しみは、君が感じたそれの比ではない

川 ゚ -゚) そしてその悲しみは宿主にとって、余りにも大きすぎるものだったのだろう

川 ゚ -゚) ……記憶の忘失を、望む程に

ζ( ー ;ζ ……!?

彼女の言葉は、私の脳を再び掻き乱した
記憶の忘失、それは――――

川 ゚ -゚) 君の父親と同じ症状だ。そうだろう?

164同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:47:23 ID:gsQDLfHo0
川 ゚ -゚) 君の求める記憶について聞いた時、私はまっさきにこの場所を思い浮かべたよ

川 ゚ -゚) そして機会を覗っていた。君とこの場所で、二人きりになれる機会を

ζ( ー ;ζ 二人きり? モララーさんは……

川 ゚ -゚) モララーはこのことを知らない。知らせるつもりもなかった

ζ( ー ;ζ そんな、どうしてですか?

川 ゚ -゚) 決まっているだろう、もしモララーがこのことを知ったら――――

背後で、扉の開く音が聞こえた
動かぬ足腰。上半身を捻って後ろを向くと、話題の中心となっていた彼の姿があった

( #・∀・)

ζ(゚ー゚;ζ モララーさん!?

川 ゚ -゚) まず間違いなく、反対するだろうと思ってな

165同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:48:12 ID:gsQDLfHo0
( #・∀・) なんでこんなことしたの?

川 ゚ -゚) こんなこと、とは?

( #・∀・) どうしてデレちゃんを、こんなところに連れてきたんだい?

( #・∀・) あの記憶は、人の心に深い傷を残しかねない危険な存在だ

川 ゚ -゚) 知っている

( #・∀・) 個人が背負うには大きすぎる悲しみが、あの記憶には込められている

川 ゚ -゚) それも、知っている

( #・∀・) それなら、どうして!?

川 ゚ -゚) 考えてもみろ

怒気を孕んだ彼の声に臆すること無く、彼女は言葉を返す
凛として澄み切った、美しい声。だからこそ、彼女の言葉は深々と、私の心に突き刺さる

川 ゚ -゚) この子は自分の父親に、これと同じだけの悲しみを背負わせようとしているんだぞ

( ;・∀・) それはっ……

ζ( - ;ζ あ……

166同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:49:57 ID:gsQDLfHo0
川 ゚ -゚) 記憶と感情は根源的な部分で密接に関わり合っている

川 ゚ -゚) そうだろう、モララー?

( ;・∀・) それは……

彼女の問いかけに、彼は言葉を詰まらせた
救いの言葉を待つ私の視線に気が付いたのか、苦しげに顔を背け、吐き捨てるように呟いた

(  ∀ ) 確かに、そうだね

川 ゚ -゚) 記憶を取り戻すということは、それと同時に当時の感情を取り戻すということだ

川 ゚ -゚) 記憶を失うだけの悲しみを、もう一度味わうということだ

ζ( - ;ζ そんな……

川 ゚ -゚) 一つ目の質問の答え。なぜ君をここに連れてきたのか

川 ゚ -゚) 君のしようとしていることがどのような結果をもたらすのか、それを知ってもらうためだ

ζ( - ;ζ

川 ゚ -゚) さて、苦しんでいるところ悪いが二つ目の質問だ

川 ゚ -゚) 二つ目の質問。君はこの話を聞いて、それでも父親の記憶を取り戻したいと思うか?

167同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:50:28 ID:gsQDLfHo0
( #・∀・) クー! 君は……!!

川 ゚ -゚) 悪いが少し黙っていてくれ。今は彼女と話をしているんだ

( ;・∀・) ぐっ……

彼の上げた抗議の声は、彼女によって遮られた
彼は不満気に押し黙り、二人分の視線が私に注がれる
肌寒いほどの無音の中で、私は――――



ζ( -  ζ




ζ( - ;ζ




ζ(゚ー゚;ζ



川 ゚ -゚) む?

168同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:51:44 ID:gsQDLfHo0
ζ(゚ー゚*ζ クールさんは、優しいんですね

( ・∀・) へ?

川 ゚ -゚) いきなり何を言い出すんだ、君は

ζ(゚ー゚*ζ 私がもし何も知らないで、父を傷つけてしまっていたら……

ζ(゚ー゚*ζ 私はきっと、凄く後悔したと思います

( ・∀・) あ……

ζ(゚ー゚*ζ クールさんが私をここに連れてきたのは、私と、私の父を気遣っての事だったんですよね?

川 ゚ -゚)

( ・∀・) そうなのかい?

川 ゚ -゚)

彼の視線が私から彼女へと移る
彼女は何も答えない。無言はつまり、肯定の――――

ζ(゚ー゚*ζ だから私も、真摯に、誠実に、あなたの質問に答えます

169同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:52:45 ID:gsQDLfHo0
ζ(゚- ゚*ζ 私がさっきあの記憶を体験した時、私の中に、沢山の悲しみが流れ込んでくるのを感じました

ζ(゚- ゚*ζ あの記憶の宿主の感情が……少女を失った喪失感が、何もできなかった無力感が

ζ(゚- ゚*ζ 大きな波となって、私を押し潰そうとしているように感じました

川 ゚ -゚) そうだろうさ。あれは、そういうものだ

ζ(゚ー゚*ζ でも、それだけじゃないんです

川 ゚ -゚) ……む?

ζ(゚- ゚*ζ もう一つ、それらとは全く異質の悲しみを、私は感じたんです

( ・∀・) 異質の、悲しみ?

激しく打ち寄せる感情の波。どろどろとした濃密な悲しみの合間にちらりと覗く、異物
空っぽの箱、無人の椅子、崩れ落ちた砂場のお城。どこまでも空虚なその感情に、名前をつけるとしたら

ζ(゚- ゚*ζ きっとそれは宿主ではなく、記憶自身が感じている悲しみ

ζ(゚- ゚*ζ 「寂しい」という声が、聞こえた気がしました

170同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:55:07 ID:gsQDLfHo0
ζ(゚- ゚*ζ 記憶にだって、心はある

ζ(゚- ゚*ζ 宿主からは捨てられて、ようやく辿り着いたこの街でも、忌み嫌われて、恐れられて

ζ(゚- ゚*ζ こんな高い建物に、一人ぼっちで、まるで囚人のように閉じ込められて

ζ(゚- ゚*ζ 寂しくないはずがないじゃないですか

ζ(゚- ゚*ζ きっと記憶に罪なんてなくて、ただ私達が弱いだけで

ζ(゚- ゚*ζ そんな自分勝手で記憶を悲しませてしまうのは、間違ってると思います

( ・∀・) デレちゃん……

ζ(゚- ゚*ζ 私は父の記憶を取り返します

ζ(゚- ゚*ζ きっと今頃、寂しい思いをしているはずですから

川 ゚ -゚) ……ふん

川 ゚ -゚) 確かに君はそれでいいのかもしれない。しかし、君の父親はどうなる?

川 ゚ -゚) どれだけ理屈を捏ねようが、君の父親が「記憶を失うほどの悲しみ」を再び味わうことになるのに変わりはないんだ

川 ゚ -゚) 君の綺麗事に付き合わされて苦しむのは君ではなく、君の父親だ

171同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:56:28 ID:gsQDLfHo0
彼女の反論は、至極当然のものだった
しかしそれでも私は決めてしまったのだ。記憶のために、記憶を探し出す

ζ(゚ー゚*ζ 確かに母に関する記憶は、きっと父を苦しめることでしょう

ζ(゚ー゚*ζ それはあまりにも大きな、モララーさんの言葉を借りるならば「個人が背負うには大きすぎる悲しみ」です

ζ(゚ー゚*ζ そうですよね、モララーさん?

( ・∀・) ……そうだね

ζ(゚ー゚*ζ でも私、思うんです。一人で背負えない悲しみなら、二人で背負えばいいんじゃないかって

ζ(゚ー゚*ζ 母の死は、父だけのものじゃありません。父一人に苦しい思いはさせません

ζ(゚ー゚*ζ 父と私、二人でもう一度頑張れば、乗り越えられるんじゃないかって

ζ(゚ー゚*ζ だから……

ζ(゚ー゚*ζ 私の思いに、変わりはありません

川 ゚ -゚) ……

172同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:57:50 ID:gsQDLfHo0
彼女はしばらく私を見つめてから、無言のままこちらへ向かって歩き出した
反射的にびくりと身構えた私の横を通り過ぎ、私の背後数メートル、扉の手前で立ち止まる

(- ゚ 川 君の言っていることは理想論でしかない。なんとも向こう見ずな考えだ

(- ゚ 川 きっと失敗した時のことなど、考えてもいないのだろうな

ζ(゚、゚;ζ ……

(- ゚ 川 ……まぁ

ζ(゚、゚*ζ ?

(- ゚ 川 せっかくの演説も、私の正体に気付くことが出来なければ全くの無意味だ

(- ゚ 川 あと一時間ほど昇れば頂上に着くだろう。せいぜい頑張ることだな

ζ(゚、゚*ζ ……え?

ふん、と最後にもう一度鼻を鳴らし、彼女は部屋を出て行った
私は未だ地面にへたり込んだまま。閉まった扉をぼうっと眺めていると「頑張ったね」という声が頭上から降ってきた

ζ(゚ー゚;ζ あの、どうなったのか良く分からなかったんですけど、上手くいったんですか?

( ・∀・) クーは君の言葉に満足したらしい。表情には出さなかったけれどね

ζ(゚ー゚;ζ そうですか。はは、よかった……

173同志名無しさん:2013/04/25(木) 23:59:02 ID:gsQDLfHo0
( ・∀・) 一段落したところで、ご飯にしようか

( ・∀・) おっと、着替えもまだみたいだね。僕は一足先に向こうで待ってるとしよう

ζ(゚ー゚*ζ それじゃあ、私もすぐに着替えて向かいますね

( ・∀・) 座りっぱなしで足しびれてない? ほら、掴まって?

ζ(゚ー゚*ζ はい、ありがとうございます

今の一件で随分と汗をかいてしまった。はやく着替えて食事にしよう
私はそう思いながら彼の手に掴まって、ゆっくりと立ち上が――――

ζ(゚ー゚*ζ ……あれ?

彼の手に掴まって、ゆっくりと――――

ζ(゚ー゚;ζ

立ち上が――――

ζ( ー ;ζ

( ・∀・) どうしたの?

ζ(゚ー゚;ζ 腰に……力が……

( ;・∀・) ……あちゃー

174同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:00:09 ID:dXgSc5sk0
結局、立てるようになるまでこの部屋でしばらく休むということで話がついた
私が着替えている間に彼は二人分の荷物を取りに戻る。私の着替えが終わり次第昼食という運びだ

ζ(-、-;ζ 面倒かけちゃってすいません!

( ;・∀・) そういうのは極度の緊張や興奮によって起こる物だからね、あんなことがあったんじゃあしょうがないよ

( ・∀・) ご飯食べて、少し休んで、そうすればすぐに治るさ

ζ(-、-;ζ うう、はい……

( ・∀・) それじゃあ行ってこようかな

( ・∀・) すぐに戻r……いや、10分くらいで戻るからゆっくり着替えていいよ

部屋を出た彼の足音が遠ざかるのを確認し、私は着替えを始めた
依然として力の入らない下半身や汗で張り付いた衣服
彼が戻って来るまでには充分すぎるほどの余裕があるが、それでもやはり焦りは生まれてしまうものだ
蹲ったり、転がったり、躍起になって衣服と格闘している私。その視界の端で――――

ζ(゚、-*ζ ……?

ひらひらと、真っ赤なワンピースがゆらめいていた

175同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:00:55 ID:dXgSc5sk0
ξ;゚⊿゚)ξ

そこに立っていたのは、先程の少女
一瞬心臓がどきりと跳ねて、そうしてすぐに何が起こっているのかを理解した

ζ(゚ー゚*ζ あなた、さっきの記憶?

ξ;゚⊿゚)ξそ

私の声に少女はとても驚いた様子で後ずさり、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた
きっと私の今の状態に対して負い目を感じているのだろう
謝るべきことなど、何も無いというのに

ζ(゚ー゚*ζ ちょっとまっててね

ξ;゚⊿゚)ξ ……?

半端になっている着替えを終わらせて、笑顔で少女へ手招きする
少女はしばらく悩んだ様子を見せてから、おずおずとこちらへ近寄ってきた

ζ(゚ー゚*ζ お話、しよっか?

ξ゚⊿゚)ξ ……?

ξ゚⊿゚)ξ

ξ*゚⊿゚)ξ !!!!?

176同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:01:38 ID:dXgSc5sk0
 








忘失都市は、恋をした

           ――――ある女に関する証言






                            .

177同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:05:56 ID:dXgSc5sk0
丁度戻ってきた彼も加わって、三人での食事会
件の少女はニコニコと――ニヤニヤと、の方が適切かもしれない――笑顔を浮かべ、私の隣に座っている

( ・∀・) 記憶は食事を摂らないけれど、気持ちくらいなら味わえるだろう

( ・∀・) ……ほら、飲んでみて?

そう言って彼は紙コップにお茶を注ぎ、少女へ差し出した
ほんのりと立ち昇るレモンと蜂蜜の香り。少しづつ寒さを増すこの部屋では、それだけでもご馳走だ

ξ*゚⊿゚)ξ ……

少女は二、三度コップを揺らしてから、期待の籠った瞳でお茶をあおった
びちゃびちゃという音と共に少女の足元に水溜りが広がって、飛沫が私のズボンを濡らす
慌てて水滴を手で払い、再び少女へ視線を戻すと、少女は何やらうっとりした表情で虚空を見つめていた

ξ*゛∀゛)ξ

( ・∀・) 気に入ってもらえたようだね。デレちゃん、タオル貸そうか?

ζ(゚ー゚;ζ ありがとうございます

彼から借りたタオルでズボンを拭きながら、私は子供の頃に見た、とある映画のことを思い出していた
古びた屋敷に住むゴースト達と、人間の父娘の物語
ゴースト達が食べた食料は、そのまま彼らの体をすり抜けて地面に落ちる
その背後ではいじめられっこのゴーストが一人、箒と塵取りで床の食料を回収している
彼の名前は確か……そう、キャスp( ・∀・) ありがとうね、デレちゃん しい少年の幽霊
私はその映画が大好きで、VHSに録画したロードショーの映像を両親と一緒に何度も何度も――――

ζ(゚、゚;ζ ……えっ、今何か言いました?

178同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:07:43 ID:dXgSc5sk0
( ・∀・) ありがとうって言ったんだよ。ツンを受け入れてくれて、ありがとう

ζ(゚、゚*ζ ツン?

( ・∀・) この子の名前だよ

ξ*゚⊿゚)ξノシ

( ・∀・) あんな物を見せられて、それでも君はツンを受け入れてくれたんだ

( ・∀・) そんな事ができる人間なんて、滅多にいるもんじゃないよ

ζ(゚- ゚*ζ それは……確かにあれを見るのは辛かったですけれど、だって……

だって、気付いてしまったのだから、そうするしかないではないか
彼女の悲しみを、知ってしまったのだから

( ・∀・) そもそも記憶が人間に干渉するのは、彼らの根源的な欲求によるものだ

ζ(゚、゚*ζ 欲求って……食欲とか、そういうのですか?

( ・∀・) そうだね。睡眠欲と性欲を加えて人間の三大欲求なんて呼ばれることもある

179同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:09:06 ID:dXgSc5sk0
( ・∀・) 記憶は人間と違って食事も睡眠も性行為も必要としないから、それらの欲求は人間ほど強くない

( ・∀・)σ まあ、全くのゼロってわけじゃないけどね

そう言って彼は少女を指差した
少女は丁度二杯目のレモンティーを飲み干したところ
彼は少しだけ口角を上げ、私と少女の間の床にタオルを敷きながら話を続ける

( ・∀・) その代わりに表現欲求とでも言うのかな、自身について他者に知られたいという欲求が大きいんだ

ζ(゚ー゚*ζ 表現欲求……じゃあ、私がいろんな記憶を体験したのは、その欲求が原因なんですか?

( ・∀・) そういうこと。そしてその欲求は人間の三大欲求に負けぬほど強力なものだ

( ・∀・) 人間を見つけたら干渉したくなる。自身の記憶を体験させたくなる

( ・∀・) たとえその行為が人間を傷つけるものだとわかっていても、欲求には逆らえない

( ・∀・) 結果としてツンのように……そう、刺激の強い記憶は多くの人間の心を傷つけることになる

ξ;-⊿-)ξ

( ・∀・) 誰もこの子を咎めることは出来ない

( ・∀・) 僕達だって食欲を満たすために、より良き睡眠を得るために、他の命を犠牲にしているだろう?

( ・∀・) この子が人を傷つけてしまうのは、仕方のない事なんだ

ζ(゚- ゚*ζ ……そう、ですね

180同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:12:32 ID:dXgSc5sk0
( ・∀・) この子がこの部屋に幽閉されているのは、本人の希望でもある

( ・∀・) 誰も傷つけずに済むように、誰にも嫌われずに済むように、自分という存在に鍵をかけたんだ

( ・∀・) それはきっとツンにとっても、苦渋の決断だっただろう

ζ(゚- ゚*ζ それじゃあ、私がこの部屋に入ってきたのは……

( ・∀・) 飢え苦しむイスラム教徒に、美味しそうな子豚を差し出したって感じかな?

ζ(゚、゚;ζ こぶっ……まあ、そうですかね

例えが少々引っかかるけれど、言いたいことは伝わった
自分の欲求を必死で抑えている少女。その努力を踏みにじるような行為を私はしてしまったのだ

( ・∀・) 君は何も知らなかったんだ。悪いのはクーさ

( ・∀・) クーの行為は君とツン、両方の心に傷をつける可能性があった

( ・∀・) どんな理由があったとしても、褒められた行為じゃないんだ

181同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:13:26 ID:dXgSc5sk0
( ・∀・) しかしまあ、僕の心配は杞憂に終わったようだ

( ・∀・) ツンは自身の欲求を満たし、君は記憶に対する理解を深めた

( ・∀・) もしかしたらクーは、こうなることを期待していたのかもしれないね、なんて

( ・∀・) ……おっと、君の分のお茶を忘れていたね。ほら、どうぞ

ζ(゚、゚*ζ あ、ありがとうございます

真っ白な湯気を上げる紙コップが、冷えきった指先を温める
琥珀色の香気を胸いっぱいに吸い込んで、一口。じんわりとした甘味と微かな酸味が口内に広がる
人心地がついたとは、こういう感覚のことを言うのかもしれない

( ・∀・) もう一度言うよ、ありがとう

( ・∀・) ツンの気持ちに気付いて、そして受け入れてくれた。自分があんな目にあったというのにね

ζ(゚、゚;ζ いえ……そんな改まって……

( ・∀・) 僕だけじゃない。ツンも、多分クールも君には感謝しているだろうさ

( ・∀・) ……だよね?

ヾξ*゚⊿゚)ξノシ

ζ(゚、゚;ζ そんなに言われちゃうと……なんというかこう、恥ずかしいです

( ・∀・) そうかい、これは失礼

( ・∀・) それじゃあお礼を言うのはこれでお終い。食事を楽しもうか

182同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:14:41 ID:dXgSc5sk0
彼に促され弁当箱の蓋を開ける。おにぎり、出汁巻き、タコさんソーセージ、その他お弁当の定番メニュー
ペニサスさんの手作りと思われるそれら以上に目を引いたのは、それらの入っている容器
華やかな蒔絵で装飾された立派な重箱に、私は息を飲んだ

ζ(゚、゚;ζ あの……これって、凄く高いやつですよね? ペニサスさんの私物なんですか?

( ・∀・) まあ、彼女お金持ちだし持ってても不思議じゃないよね

ζ(゚ー゚;ζ ああ、そういえばそうでしたね

( ・∀・) 僕としてはそれよりも、彼女が料理をしたってことのほうが驚きだけどね

( ・∀・) ほら、なんとなくだけど料理とかしなさそうじゃない?

ζ(゚ー゚;ζ ……ノーコメントで

( ・∀・) 否定はしないんだね

ζ(゚ー゚;ζ ……

ξ゚⊿゚)ξ ?

183同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:15:47 ID:dXgSc5sk0
( ・∀・) そういえば、君達と合流する前にブーンのお店で良い物をもらってきたんだ

ζ(゚ー゚*ζ 良い物?

彼はお茶の入っている水筒を脇において、鞄からもう一つ、ステンレス製の水筒を取り出した
新しい紙コップに中身を注ぐ。先程まで漂っていた甘酸っぱい香りを、胡麻油の香ばしい匂いが打ち消した

( ・∀・) ラーメンのスープ。こっちの方が食事には合うだろう

ζ(゚o ゚*ζ おー……

ξ*゚⊿゚)ξノシ

( ・∀・) 慌てなくてもちゃんとあげるから、大丈夫だよ

( ・∀・) ほら、ツンの分

ヾξ*゚∀゚)ξシ

( ・∀・) それでこっちが、デレちゃんの分

ζ(゚ー゚*ζ ありがとうございます

184同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:18:27 ID:dXgSc5sk0
彼が自分の分を注ぎ終わるのを待っていると、「先に食べてていいよ」との声
遠慮するのも難なので、お言葉に甘えることにした

ζ(゚ー゚*ζ それじゃあお先に、いただきます

ぬるくなったおにぎりを頬張って、熱々のスープで流し込む
行儀が悪いのはわかっているけれど、おいしいのだからしょうがない

ζ(゚ー゚*ζ 私、ブーンさんのラーメン好きです。なんだか懐かしくて、ほっとします

( ・∀・) そうだね、僕も大好きだよ

ξ*´⊿`)ξ-3

( ・∀・) ツンも気に入ってくれたみたいだね

ζ(゚ー゚;ζ まあ、食べ続けると死んじゃうってのは、少し怖いですけれど

( ;・∀・) ああ……詳しい説明はアレだけど、こうして食べる分には全くの無害だから安心していいよ

ζ(゚ー゚;ζ ほんとにどういうシステムなんですか、それ

( ・∀・) はは、企業秘密ってやつさ

( ・∀・) ……うん? pipipipi........

ζ(゚ー゚*ζ 電話ですか?

( ・∀・) そうだね、ペニサスからだ

185同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:19:01 ID:dXgSc5sk0
( ・∀・) 『もしもし、どうしたの?』

( ・∀・) 『……うん、うん』

( ・∀・) 『へえ、それはよかった』

ζ(゚ー゚*ζ どうしたんですか?

( ・∀・) タカラくんが目を覚ましたらしい

( ・∀・) ブーンの説得に応じて弁当も食べたらしいから、ひとまず安心ってところかな

ζ(゚ー゚;ζ そうですか、よかった……

彼の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす
あの少年のことはずっと気掛かりだったので、心配事がひとつ減って胸の閊えがとれた気分だ

( ・∀・) 『今? 食事中。うん、例の踊り場の辺りにいるよ』

( ・∀・) 『地上に戻るまでは……まあ、四時間半くらいじゃないかな』

( ・∀・) 『うん、オーケーわかった。それじゃあ後でね』

( ・∀・) 『……』 pi

( ・∀・) 地上に戻ったら昨日クーが居た教会で待ち合わせ、だとさ

( ・∀・) いい知らせを持って帰りたいところだね

ζ(゚ー゚;ζ そうですね

186同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:19:55 ID:dXgSc5sk0
( ・∀・) よーし、そうと決まればしっかり食べて、エネルギー補給しないとね

ζ(゚ー゚*ζ ええ、そうしましょう

そう言って私達は電話によって中断されていた食事を再開した
弁当の中身はまだまだいっぱい入っていて、とても二人で食べきれる量ではない
もしかしたら、あの少年の件がなければ彼女も一緒に付いて来てくれるつもりだったのでは、と、私は思った

( ;・∀・) いや、それは無いだろうね。普段料理しないもんだから適量が分からなかったんじゃないかな

ζ(゚ー゚;ζ ……ですよね

少しだけ思って、すぐに取り消した

ζ(゚ー゚;ζ どうしましょう、残すのも悪いですし

( ;・∀・) 頑張ろうか、デレちゃん

ζ(゚ー゚;ζ ひえー……

ξ゚⊿゚)ξノシ

( ;・∀・) ん? ああ、はいはい、おかわりね

ξ*´⊿`)ξ

( ;・∀・) まったく、気楽なもんだよ。喜んでくれてるならいいんだけどね

それからしばらく、少女はスープを飲み続け、私と彼は多すぎる昼食と格闘した
私と彼の話し声、スープのおかわりを注ぐ音、風が扉を叩く音
弁当箱が空っぽになるまで、それらの音は、何度も何度も繰り返された

187同志名無しさん:2013/04/26(金) 00:21:40 ID:dXgSc5sk0
今回投下分おしまいです。次回投下で完結ですが投下日予告はしません
どうせ守れません。でもがんばってます

188同志名無しさん:2013/04/26(金) 18:57:02 ID:orwjyt1Y0
乙!毎回おもしれぇ。無理するなよ~

189同志名無しさん:2013/04/26(金) 20:41:05 ID:36S1RxBY0
おもろい、乙

190同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:22:58 ID:rs9SOIZg0
ゆっくり投下していきます

191同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:25:33 ID:rs9SOIZg0
ぽっこりと膨らんだお腹をさすりながら、また一段
砂埃で汚れた靴底が踏み板を叩き、乾いた音が周囲に響く
雪はなお止む気配を見せず、小さな雪片がひらひらと、風に揺られて降りてくる

( ・∀・) 灰雪というらしいね

隣を歩く彼がぽつりと呟いた

ζ(゚、゚*ζ はいゆき?

( ・∀・) 雪の名称だよ。ほら、ちょうど舞い上がった灰の欠片のような動きをしているだろう?

( ・∀・) だから、灰雪

ζ(゚ー゚*ζ へぇ……

( ・∀・) 僕のリュックに合羽が入ってるから出してくれないかな

( ・∀・) 積もるようなことはないと思うけど、服が濡れるのは嫌だからね

ζ(゚、゚*ζ は、はい。ええと……あ、これですね

192同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:28:15 ID:rs9SOIZg0
雪の予報を聞いて急いで調達したのだろう、ビニル製の透明な合羽がふたつ
ひとつを彼に手渡して、もう一つを私が羽織る

( ・∀・) ところで、腰の調子はどう? 違和感とか無い?

ζ(゚、゚*ζ あ、はい。今のところは大丈夫です

( ・∀・) そう、ならいいけど。何かあったら無理せず言ってね?

( ・∀・) 時間は充分にあるから、休憩しながらゆっくり行こう

ζ(゚ー゚*ζ はい、ありがとうございます

こつり、また一段
クールさんの話によれば、あと一時間ほどで頂上に着くらしい
最早何枚目かわからない扉の前を通り過ぎ、階段の先に目を向ける

建物の陰、雪に紛れて、真っ赤なワンピースが揺れていた

ξ*゚ー゚)ξ

( ・∀・) ……おや? 戻ってきたみたいだね

ζ(゚ー゚*ζ ですね

193同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:31:07 ID:rs9SOIZg0
少女を部屋から出そうと提案したのは彼の方
溜め込まれた表現欲求を満たした今、あの部屋に閉じ込めておく必要はないだろう、ということだ

   ( ・∀・) 君がこの街にいる間は、他者に危害を加える心配は無いだろう

   ( ・∀・) 自身の理解者がいるというのは記憶にとってこれ以上無い幸福だからね

   ( ・∀・) 随分と君に懐いているようだし、君さえ良ければ……どうかな?

私としても断る理由など無く、かくして少女は私達の探索に同行することとなった
外に出られると知った時の少女の喜びようは今更言うまでもないだろう
飛んだり、跳ねたり、回ったり、ひとしきり感情を表現した少女は、そのまま私達を置いてどこかへ飛んでいってしまった

――――そう、文字通り「飛んでいってしまった」のだ

自身の体を霧に変え、街の大気に溶け込んで、私たちの前から姿を消した
驚く私の肩をたたいて彼が言うことには

   ( ・∀・) 久々の外の世界なんだ、好きにさせてあげよう

   ( ・∀・) 大丈夫、適当に街の中を飛び回って、気が済んだら戻ってくるさ

そうして彼の言葉通り、少女は今再び私達の前に姿を現した

194同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:34:14 ID:rs9SOIZg0
階段を跳ねるように駆け下りて、少女は私の腕に飛び付いた
もしも少女が人間であったならば、私と少女は二人仲良く階段を転げ落ちる事になっていただろう

ζ(゚、゚;ζ びっくりした……

ξ*゚ー゚)ξ

( ・∀・) どうだい、外の世界は?

ξ*゚⊿゚)ξシ

( ・∀・) うん、楽しそうで何よりだね

( ・∀・) 僕らはこれからこの建物の頂上まで行くんだけど、付いてくる?

少女は少し考えて、それから大きく頷いた
私の腕に絡めていた手をほどいて、私達を先導するように歩き出す
何段か昇ったところで振り返って、両腕で手招き。はやく行こう、という事なのだろう

ζ(゚ー゚;ζ ……行きましょうか

( ;-∀・) そうだね

少女に手を引かれ、およそ一時間
そうして私達はとうとう目的地、忘失都市で最も高い建物の屋上に辿り着いた

195同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:36:05 ID:rs9SOIZg0
 








きっと彼女はどこにでもいる

              ――――ある女に関する証言






                            .

196同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:37:48 ID:rs9SOIZg0
ζ(゚、゚*ζ ……

錆付いた手摺から身を乗り出して、霧に埋もれた街を見下ろす
白く濁った淀みの中で、近隣の建物の屋上だけが辛うじて確認できる
随分と遠いところまで昇って来たものだ。わかっていた事ではあるけれど、改めて思う

忘失都市の上空は、虚ろな風が吹いていた

ζ(゚- ゚*ζ 寂しい場所ですね

まるで何十年も人の出入りがなかったかのような荒れ果てた屋上
空の植木鉢、折れた物干し竿、何かの機器……様々な器具がそこかしこに散らばって、どれも一様に埃を被っている
無造作に増設された配管は風雨に晒され朽ち果てて、漏れ出した水は腐水を湛えた排水溝へと流れ込む

「寂しい場所」
それは私の、この空間に対する率直な感想だった
彼は苦笑して言葉を返す

( ・∀・) この街自体が寂しい街なのさ

( ・∀・) この街が生まれたその瞬間から、気の遠くなるような大昔から、この街はずっと、寂しい街だった

197同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:40:28 ID:rs9SOIZg0
( ・∀・) さあ、そろそろ本題に入ろうか。下でみんなが待っている

( ・∀・) ペニサスも、フォックスも、ブーンも、それにきっと、クーもね

ζ(゚ー゚;ζ ……はい

( ・∀・) こっちだよ。おいで

ξ*゚⊿゚)ξノシ

彼に言われてついて行くと、貯水タンクや空調の室外機
それらの陰に隠れて、物置きのような小さな小屋が置かれていた
簡素なアルミの扉にはやはり、大きな南京錠がかかっている

( ・∀・) 今開けるよ

彼はポケットから鍵を取り出して、錠前に差し込む
その瞬間、鍵と錠は音も無く崩れ落ち、霧となって小屋の壁に溶け込んだ

ζ(゚、゚*ζ これって……

( ・∀・) 記憶を縛ることができるのは記憶だけ。そういうことさ

198同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:42:45 ID:rs9SOIZg0
( ・∀・) 僕が手助けできるのはここまでだ。後は君の努力次第だね

( ・∀・) ツンと一緒にここで待ってるから、出たくなったら呼ぶといい

( ・∀・) ……さあ、行っておいで

ζ(゚- ゚;ζ はい

震える指で扉に触れる。刺すような冷たさに少し怯んで、それから一気に押し開く
小屋の中はとても静かで、そしてやはり、真っ白な霧で満たされていた
この霧の先にはクールさんの問題を解く手掛かりがある

ζ(゚- ゚;ζ 行ってきます

( ・∀・) うん、がんばってね

ξ#>⊿<)ξノシ

「大切な物さ。この街にとっては、何よりも大切なね」
私は彼の言葉を頭の中で反芻し、意を決して霧の中へと飛び込んだ

――――視界が、白に侵される

199同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:44:07 ID:rs9SOIZg0
                                    .

















                                .

200同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:46:48 ID:rs9SOIZg0
ひとり、街を歩く
霧に包まれた、寂しい街を
静かで虚ろな、悲しい街を

建物の隙間を擦り抜け、無人駅の改札をくぐり、ガラクタの山を乗り越えて
何かを探しているように忙しなく首を振りながら、ひたすらに街を歩く

そんなに目玉をきょろきょろさせて、一体何を探しているのだろうか
そんな私の疑問は、間もなくして解消されることとなった



ごうん、ごうん

突然鳴り響いた鐘の音に、弾かれたように走り出す

無人の公園、明滅する自販機、打ち棄てられた路面電車
視界の端に現れては消えてゆくその他様々な物事に目もくれず
なお鳴り続ける鐘の音は、少しづつ、少しづつその大きさを増し……

(*∴)(*><)(*∵) (;;;;;;;;;;;;;;) (*‘ω‘ *)(<●><●>*)

そうしてとうとう辿り着いた柱時計の広場では、沢山の子供達に囲まれて、真っ黒な影が佇んでいた

201同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:48:24 ID:rs9SOIZg0
影――――いや、穴と呼ぶべきなのかもしれない
まるで空間が丁寧に切り抜かれたかのような、混じりっ気のない黒
人の形をしたそれは、この世界にぽっかりと空いた大きな穴のようにも思えた



(;;;;;;;;;;;;;;)



          「さあ、今日も教えてくれないか」



影が発したその声は、音も、余韻も、言葉の意味すらもひどく希薄で
言葉が途切れた次の瞬間には何もかも忘れてしまいそうな程に空っぽで
しかしそれがどういうわけか、どうしようもなく愛おしかった

202同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:50:32 ID:rs9SOIZg0
乾いた風が、ベンチに積もった砂埃を巻き上げる
一瞬世界が歪んだような気がして、それから全ての風景が霧に変わった
インクが水に滲むように、街も、地面も、空気も、そして私も

(;;;;;;;;;;;;;;)

しかし影は影のままで、穴は依然、穴のままで
やはりその真っ黒な空間には、ただ純然とした無があるだけなのだ
かつて切り抜かれてしまった「何か」を埋めることができる物は、少なくともこの世界には存在しないのだろう
そうして霧は再び形を取り戻し、新たな景色を作り出す



蛍光灯の灯り、立ち昇る湯気
日に焼けたカウンターの向こう側で、影は頬杖をついてこちらを見ていた

(;;;;;;;;;;;;;;)

「この街は、きっと全てを受け入れてきたのだろう」
影が、笑ったような気がした

203同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:52:04 ID:rs9SOIZg0
「噂には聞いていたけれど、まさか実在したとはね」

「こんなことなら、もっと早く来ていればよかったよ」

影の言葉に、なんだか誇らしい気持ちになって頷く
この記憶の宿主にとって、影はいったい、どのような存在だったのだろうか

「私のことは知っているね?」

――――頷く

「私の目的だけでなく、私がどのような人間なのかも知っているね?」

――――頷く

「それじゃあ君はこの私に、どんなものを出してくれるんだ?」

視線を真下に移すと、手元には空っぽの器
全身が熱くなり、額から汗が吹き出した

「……すまない、少しだけ意地悪がしたくなったんだ」

流れる汗が目に染みる
しかしその痛みも、次の瞬間には霧に消えた

204同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:54:23 ID:rs9SOIZg0
( ФωФ) 継ぎ接ぎだらけの街である

猫目の青年が呟いた
レンガ造りのベランダからは、街の全てが見渡せた

「ここは失われた記憶が集まる街。追憶都市……と、私は呼んでいる」

「この風景のどこかにきっと、君の望む物もあるだろう」

影の言葉に、青年は身を震わせる

「どうした、怖気づいたか?」

( ФωФ) なんの、武者震いである

( ФωФ) ……ところで、お主の隣にいる大男は、何者であるか?

青年はこちらを見上げてそう言った
影はくすりと笑ってから、一呼吸置いてそれに応える

「協力者さ。どうやら君のことが気に入ったみたいでね」

「見ず知らずの土地を一人で歩き回るより、いくらかは安全だろう」

( ФωФ) ふむ……それでは、お言葉に甘えようか……

握手を求めて差し出された青年の手は、瞬き一つで真っ赤なクレヨンへと姿を変えた

205同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:56:08 ID:rs9SOIZg0




画用紙の絨毯





蹲る影





胸を裂く自己嫌悪に耐え切れず、螺旋階段を駆け上った




                .

206同志名無しさん:2013/10/13(日) 22:58:39 ID:rs9SOIZg0

世界は何度も姿を変える


春へ、秋へ


昼に、夜に


給水塔の根本、アパートの一室


崩れたトンネル、朽ちたブランコ


それらの景色は間違いなく、かつてこの世界で起こったはずの出来事で


そしてその全ての景色の中に、あの黒い影は佇んでいて――――






                  (;;;;;;;;;;;;;;)



                 「さようなら」

207同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:00:33 ID:rs9SOIZg0

ζ( ー *ζ



     ああ、そうか





                         ここにあるのは――――



ζ(;ー;*ζ

208同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:03:15 ID:rs9SOIZg0
 








きっとどこか、似ていたんだと思う

                  ――――ある少女に関する証言






                            .

209同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:07:09 ID:rs9SOIZg0
窓の外、絶えず降り注ぐ光の粒は、鳴り止まぬ雨を連想させた

ζ(゚- ゚*ζ ……

素直クール。忘失都市の経営者
教会の片隅に腰を下ろし、祭壇に立つ彼女を見る

川  - )

全ての光球は着地の寸前で軌道を変えて、彼女のもとへと結集する
教会の壁も、私の体も、遮る物など無いかのように、すり抜けて
青白い光に包まれた彼女を、私は美しいと思った

('ー`*川 頑張ったわね

私の頭に手を置いて、ペニサスさんは微笑んだ
その手がとても暖かくて、私は横に立つ彼女の足に体を預けた
何も言わずに受け入れてくれたことが、とても嬉しかった

( ・∀・) ペニサス、他の皆は?

('、`*川 タカラは内藤のところでラーメン食べてるわ

('、`*川 フォックスとツンちゃんは……まあ、あの中にでも居るんじゃない?

祭壇に群がる無数の光球を指差して、ペニサスさんはそう言った

210同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:09:27 ID:rs9SOIZg0
ζ(゚- ゚*ζ あの光の一つ一つが、この街に住む記憶なんですね

( ・∀・) そう。そしてクーはこの街のすべての記憶に号令を掛けることができる、唯一の存在だ

( ・∀・) 忘失都市のすべての記憶から君のお母さんに関する記憶を探し出す

( ・∀・) そんな芸当ができるのも、彼女をおいて他には居ないだろうね

ちらり、ステンドグラスから外を覗くと、そこには色とりどりに着色された闇が広がっていた
降り注ぐ光球の淡い光では周囲の建物の様子すら知ることは出来ない

ζ(゚- ゚*ζ なんにも見えませんね

( ・∀・) ……こんな時間だからね

深夜と言っても差し支えない時刻
私達がこの教会に戻ってから、既に6時間近くが経過していた

('、`*川 私の時もこれくらいかかったわね

('、`*川 最終バスなんてとっくに出ちゃってて、泣きながら歩いて帰ったのよ

( ・∀・) 次の日すごい剣幕で怒鳴られてね、それから車を用意することになったんだ

ζ(゚- ゚;ζ な、なるほど……

211同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:12:57 ID:rs9SOIZg0
('、`*川 ま、もう少しかかるみたいだし、適当にお話でもして時間つぶしましょ?

('、`*川 話題は……そうね、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?

ζ(゚ー゚*ζ え?

('、`*川 ねえ、あんたはどうやって王女さまの正体に辿り着いたの?

祭壇の上の彼女がぴくりと反応して、こちらを見る
6つの瞳に見つめられて私は多少の気後れを感じた

川 ゚ -゚) 私も、聞かせてほしい

ζ(゚、゚;ζ え……と……

ζ(-、-;ζ わかりました、それじゃあ一から話します


ζ(゚- ゚*ζ きっかけは、ペニサスさんの言葉です

('、`*川 私の?

ζ(゚- ゚*ζ はい。大切なヒントを「当たり前」で片付けていないか、先入観を捨ててもう一度考えてみる

ζ(゚- ゚*ζ 確かにそう言いましたよね?

('、`*川 ええ、言ったわね

ζ(゚- ゚*ζ ……そうすると一つ、とてもおかしな事が起こっているのに気が付いたんです

212同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:14:16 ID:rs9SOIZg0
( ・∀・) おかしな事?

ζ(゚- ゚*ζ フォックス君やツンちゃんに関する事です

ζ(゚- ゚*ζ そしてそれは、あの子達が人間の姿をしていたがために、今まで気にも留めていなかった出来事でもあります

昨日出会ったばかりの私を助けてくれたフォックス君
傷つけることを恐れ、自身という存在に鍵を掛けたツンちゃん
無垢で、純粋で、何より優しい、そんな彼ら
そして彼らの行為は彼らの優しさの証明であると同時に――――

ζ(゚- ゚*ζ 「記憶」にも「記憶」がある、ということの証明でもあったんです

ζ(゚- ゚*ζ 私との出会いや過去の悲しい経験

ζ(゚- ゚*ζ 彼らの行為はそれらについての「記憶」がなければ説明がつかないものだからです

( ・∀・) ふむ、なるほどね。……それで?

ζ(゚- ゚*ζ ……ここでひとつ、疑問が生まれます

ζ(゚- ゚*ζ 「記憶」に「記憶」があるのなら、彼らが忘れてしまったものは、一体どこに行ってしまうのでしょうか?

213同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:15:21 ID:rs9SOIZg0
川 ゚ -゚) ……

淡い光に包まれながら、真っ直ぐに私を見つめる彼女
その無表情の裏に隠された思いを、今の私に知る術はない

ζ(゚- ゚*ζ さて、ここで一旦、話題を変えましょう

ζ(゚- ゚*ζ 次に注目するものは、この街で最も高い建物の屋上にあった、小屋の中身についてです

ζ(゚- ゚*ζ もちろん皆さん、あの小屋の中がどうなっているのかは知っていますね?

首肯、首肯、無言
三人分の同意を得られたところで、話を続ける

ζ(゚- ゚*ζ 私はあの小屋の中で、沢山の記憶の世界を体験しました

ζ(゚- ゚*ζ 時間も、視点も、ひとつとして同じものはない。個性的な、記憶達です

ζ(゚- ゚*ζ ですがそれらの記憶には、いくつかの共通点がありました

214同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:16:03 ID:rs9SOIZg0
ζ(゚- ゚*ζ まず一つ。最初の共通点は、記憶の世界の舞台となった土地です

川 ゚ -゚) ……

私が体験した記憶の世界の風景は、どれも静かで、退廃的で
足元を流れる寂寥の水が、静かに、冷たく、靴を濡らす
そんな空虚な空間を、私はよく知っていた

ζ(゚- ゚*ζ あそこにあるのは全て、この街で起こった出来事に関する記憶なんです

川 ゚ -゚) ……ふむ

彼女は小さく頷いて、「なるほどな」と呟いた

川 ゚ -゚) 確かに君の言う通り、彼らは皆この街で生まれた記憶達だ

川 ゚ -゚) 忘れられた者が集うこの街で生まれ、そして忘れられてしまった存在だ

川 ゚ -゚) 悲しみに溢れたこの街で最も悲しい存在。そう言っても過言ではないだろう

ζ(゚- ゚*ζ ええ、私もそう思います

ζ(゚- ゚*ζ ……そしてここで新たに一つ、疑問が生まれます

('、`*川 疑問?

ζ(゚- ゚*ζ どうしてそんな悲しい存在が、この街で生まれなければならなかったのか

215同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:16:56 ID:rs9SOIZg0
ζ(゚- ゚*ζ ……この疑問の解決も、一旦置いておきましょう

ζ(゚- ゚*ζ 二つ目の共通点は、黒い人間の存在です

('、`*川 黒い人間、ね。確かにあいつ、どの記憶の中にも登場していたわね

ζ(゚- ゚*ζ 黒い人間、正確に言うならば人型の黒い何か

ζ(゚- ゚*ζ ちなみに私には、あれは人影のようにも、真っ暗な穴のようにも見えました

川 ゚ -゚) ……ほう

ζ(゚- ゚*ζ すべての記憶に現れる黒い影、これが二つ目の共通点

ζ(゚- ゚*ζ そして最後の共通点も、その影に関することでした

216同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:17:50 ID:rs9SOIZg0
ζ(゚- ゚*ζ 記憶の世界を体験するということは、記憶の宿主の感情を体験することでもあります

ζ(゚- ゚*ζ 楽しい記憶には喜びの感情、別れの記憶には悲しみの感情

ζ(゚- ゚*ζ その思いが強ければ強いほど、感情は大きな波となって私の心へ流れ込みます

ζ(゚- ゚*ζ 三つ目の共通点。それは、記憶の宿主から影へと向けられた特別な感情

ζ(゚- ゚*ζ つまり――――





ζ(゚- ゚*ζ ――――深い、愛情です

217同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:18:41 ID:rs9SOIZg0
私が体験した記憶の世界で、全ての宿主は黒い影を深く愛していた
或いは友のように、或いは恋人のように、家族のように、恩人のように、そして、神のように
形こそ違えど一様に向けられたその愛情は、影が彼らにとって掛け替えの無い存在であったことの証なのだろう

ζ(゚- ゚*ζ そしてここで、最後の疑問です

ζ(゚- ゚*ζ どうして彼らは……記憶の宿主達は、そんな大切な存在を忘れてしまったのでしょうか?

ζ(゚- ゚*ζ いいえ、「忘れなければならなかった」のでしょうか?

川 ゚ -゚) ……

彼女は何も答えない
もはや回答が不要であることを、理解しているのだろう

ζ(゚- ゚*ζ 全ての疑問が出揃いました

ζ(゚- ゚*ζ 一つ、「記憶」に忘れ去られた「記憶」はどうなってしまうのか

ζ(゚- ゚*ζ 二つ、屋上の小屋の記憶達は何故生まれてしまったのか

ζ(゚- ゚*ζ 三つ、小屋の記憶の宿主達は、どうして大切な存在である影のことを忘れてしまったのか

ζ(゚- ゚*ζ ……これらの疑問を解く鍵は、モララーさんが教えてくれました

( ・∀・) ……

ζ(゚- ゚*ζ 「この街では、誰かに忘れられてしまった記憶が形を持って存在できる」

ζ(゚- ゚*ζ つまり、そういうことだったんですね

218同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:19:38 ID:rs9SOIZg0
川 - -) ……

長い静寂が教会を包む
彼女は静かに頷いて、短く、小さな溜息をついた

川 ゚ -゚) 一つ、昔話をしよう。ある女に関する話だ

川 ゚ -゚) その女はある日突然この街にやってきて、そうしてすぐに消えてしまった

ぽつり、ぽつり、彼女が呟く
過ぎ去った日を懐かしむように、今は亡き者を悼むように
彼女を取り囲む淡い光は静かに明滅し、その危なげな様子は地下道の蛍光灯を想起させた

川 ゚ -゚) 女は「忘れない」人間だった。それはこの街の記憶にとって、何よりも衝撃的な出来事だった

川 ゚ -゚) 女の名前は素直クール。学者を自称するその女に……

川 ゚ -゚) 忘失都市は、恋をした

219同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:20:31 ID:rs9SOIZg0
彼女の口から語られるのは、素直クールという女性に関する出来事
しかしその名が指しているのは、私の目の前にいる彼女ではなく――――

川 ゚ -゚) その昔……と言っても、今からほんの数十年前

川 ゚ -゚) この街の歴史からすれば、つい昨日の出来事だ

川 ゚ -゚) 素直クールと名乗る女がこの街にやってきた

川 ゚ -゚) ……当時この街には、名前が無かった

ζ(゚- ゚*ζ 名前の無い街……ですか?

川 ゚ -゚) いいや、街と呼ぶのもおこがましいかもしれないな

ζ(゚- ゚*ζ え?

川 ゚ -゚) 当時のこの街の様子は、現在のそれとは比べ物にならないような酷い有様だった

川 ゚ -゚) それは言うなれば「記憶の流刑地」

川 ゚ -゚) 子供の玩具箱を引っ繰り返したような街並みは、人々の心をこの街から遠ざけた

川 ゚ -゚) 宿主に捨てられた記憶達はやさぐれ、腐り、僅かな来訪者を己の表現欲求のままに弄ぶ

川 ゚ -゚) おおよそ都市としての形を成していない、そんな状態だった

220同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:22:05 ID:rs9SOIZg0
川 ゚ -゚) 素直クールは名前の無いこの街を、「追憶都市」と呼んだ

川 ゚ -゚) 記憶達が宿主のところへ戻れるようにという願いの込められた呼び名だった

川 ゚ -゚) 「命名」は存在を肯定する行為だ。たったそれだけの行動で、素直クールはこの街の記憶を虜にした

ζ(゚- ゚*ζ ……表現欲求を解消した、ということですか?

川 ゚ -゚) 少なくとも、それに近いことをしたのは確かだ

川 ゚ -゚) さて、この街に名前を付けたその日から、素直クールは毎日のようにこの街にやってきた

川 ゚ -゚) 朝一番のバスでやってきて、無目的に街を歩き回り、その先々で出会った記憶と交流する

川 ゚ -゚) 無目的……いや、記憶との交流こそが目的だったのかもしれないな

記憶との交流とは、記憶の世界を体験するということなのだろう
それはつまり、記憶達の表現欲求を満たす行為でもある

川 ゚ -゚) ある日、素直クールは自分のことを、「忘れない」人間だと語った

川 ゚ -゚) そしてその証拠として、この街にやってきてからの全ての出来事を、一つとして違えること無く言ってみせた

ζ(゚- ゚*ζ 忘れられた記憶と、忘れない人間……

川 ゚ -゚) それがこの街の記憶達にとってどれほどの衝撃であったかは、言うまでもないだろう

221同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:24:16 ID:rs9SOIZg0
川 ゚ -゚) その日以来、この街の記憶達は狂ったように素直クールを求め、そして素直クールもそれに応じた

川 ゚ -゚) 時が経つにつれて、交流の仕方も徐々に形を変えていった

川 ゚ -゚) 自身の世界を体験させるだけではなく、会話による交流も行われるようになった

川 ゚ -゚) 会話による交流は、相手を人格のある存在であると認める行為だ

川 ゚ -゚) これもまた、記憶達にとって何よりの喜びであるといえるだろう

川 ゚ -゚) ……素直クールがこの街で行ったことはそれだけではない

川 ゚ -゚) 街中を整備し、人間の訪れやすい街を作った

川 ゚ -゚) 記憶を探している人間を連れて来て、記憶と宿主を再会させる手助けをした

川 ゚ -゚) 有害な記憶を彼らの同意のもとに隔離し、記憶と人間、両方を守った

川 ゚ -゚) そして……

彼女の口から語られる、素直クールという女性の数々の功績
それらは「素直クール」がこの街にとってどれほど大切な存在であったかを、何よりも明確に表していた
しかし、私の考えが正しいのならば、この街に愛されたその存在は――――

川 ゚ -゚) そして、素直クールはある日突然、この街を去った

ζ(゚- ゚ ζ ……

222同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:26:06 ID:Kq7uf39MO
しえん

223同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:26:30 ID:rs9SOIZg0
ζ(゚- ゚*ζ どうして彼女は、いなくなってしまったんですか?

川 ゚ -゚) ……さあ、なぜだろうな?

ζ(゚- ゚*ζ ……え?

川 ゚ -゚) 素直クールは何も語らずに消えてしまった

川 ゚ -゚) この街を出られない記憶達には、もはやどうすることも出来なかった

川 ゚ -゚) 素直クールを引き止めることも、その真意を知ることも、な

大切な人が突然消える悲しみは、私もよく知っている
この街の記憶達が感じたそれもきっと、耐え難い苦痛だったことだろう

川 ゚ -゚) その苦しみの中でこの街はなお、素直クールを求め続けた

川 ゚ -゚) 再び素直クールと出会いたい。再び素直クールと語り合いたい

川 ゚ -゚) 一年経っても、二年経っても、五年、十年、どれだけの時が経っても、その思いは消えなかった

川 ゚ -゚) いいや、それどころか、時が経つほどに、一層、素直クールを求める気持ちは強まる一方だった

川 ゚ -゚) 別れを嘆き、再会を求め、そうして遂にこの街は……

ζ(゚- ゚ ζ 素直クールを「作り出した」

川 ゚ -゚) ……ああ、その通りだ

224同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:29:28 ID:924rtpyg0
支援

225同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:30:06 ID:rs9SOIZg0
川 ゚ -゚) はじめ記憶達は、この街に流れ込んできた素直クール本人の記憶から、素直クールを作ろうと考えた

川 ゚ -゚) しかしそれはあっけなく失敗に終わった

ζ(゚- ゚*ζ ……素直クールは、忘れない人間だから

川 ゚ -゚) そうだ。この街は忘れられた記憶が集まる場所

川 ゚ -゚) 忘れない人間の記憶が、どうして見つかるというのだ

川 ゚ -゚) 諦めきれなかった記憶達は、とうとう最後の手段に出た

この街は、記憶の窪地。記憶が形を持って存在できる場所
消えた人間を呼び戻すことが不可能ならば、その人間に関する記憶を寄せ集め、切り抜いて、貼り合わせて
そうして記憶の中だけに存在する彼女を、現実の世界へと呼び戻す。彼女との思い出と引き換えに
きっとこの街の記憶達は、それを望んでしまったのだろう

川 ゚ -゚) 素直クールを求め、素直クールを忘れた街

川 ゚ -゚) その日この街は、忘失都市になったんだ

広い教会、片隅の私
風が窓を揺らし、光が揺らめく
街の悲しみが聞こえた気がした

226同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:31:31 ID:rs9SOIZg0
明らかになる、彼女の正体
忘失都市の記憶達から生まれた、もう一人の素直クール

川 ゚ -゚) 人間と記憶達では、「何かを記憶する」という行為は全く違った意味合いを持つ

川 ゚ -゚) 人間は新たな記憶をゼロから生み出すことができるが、この街の記憶達にはそれが出来ない

川 ゚ -゚) 彼らにとって新たな記憶とは、自身の存在を切り崩して得るものだ

川 ゚ -゚) そうして生まれたそれは、言うなれば自身そのものであり、もう一つの自己

川 ゚ -゚) この街の全ての記憶から生まれた私は、私であると同時に全ての記憶の分身でもある

ζ(゚- ゚*ζ ……そう。だから……

ζ(゚- ゚*ζ だからあなたは、忘失都市

ζ(゚- ゚*ζ 素直クールは、忘失都市

瞬間、彼女の周囲の光球が弾け、教会は光の粒子で満たされた

227同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:32:02 ID:rs9SOIZg0
川 ゚ー゚)

目の眩むような光の中で、彼女は優しく微笑んでいた

川 ゚ー゚) おめでとう、君は成し遂げた

川 ゚ー゚) 約束の品だ。受け取るといい

これまでにない、楽しげで、弾むような声色
彼女の手のひらにはいつの間にか、青白い光球が乗っていた
ビー玉ほどの小さな粒は、しかし、光に満ちた教会の中で何よりも力強く輝いている

ζ(゚、゚*ζ これが……

川 ゚ー゚) そう、君の母に関する記憶だ。宿主も君の父で間違いないだろう

川 ゚ー゚) 君の父が君の母と出会い、死別するまでの全ての記憶がこの中に詰まっている

川 ゚ー゚) 全ての感情、全ての時間……こいつを体に取り込めば、全てを取り戻すことができる

ζ(゚、゚*ζ 体に取り込む? ……どうやってですか?

川 ゚ー゚) 好きなようにすればいい。食事に混ぜ込むなり、飲み物に溶かすなりな

ζ(゚- ゚;ζ えっ……?

彼女の返答に、私は少し意表を突かれた
それではまるで、毒でも盛っているようではないか

228同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:33:03 ID:rs9SOIZg0
川 ゚ -゚) 毒、か……別に、間違っていないだろう?

川 ゚ -゚) 前にも言った通りこいつの中にある悲しみの記憶は、きっと君の父を苦しめる

ζ(゚- ゚*ζ あ……

川 ゚ -゚) 使うのならば、相応の覚悟をして使え

川 ゚ -゚) 君と父、母を失った悲しみを、二人の力で乗り越える

川 ゚ -゚) その言葉、嘘にしてくれるなよ?

彼女は私をまっすぐに見つめて、そう言った
初めて会った時のような凛とした無表情ではなく、力の込められた視線
私は初めて彼女の心に触れることが出来たような気がした

ζ(゚ー゚*ζ ……はい!

川 ゚ー゚) ふん、それでいい

彼女から手渡された光球は、私の手に触れた途端に輝きを失って、ただの透明な硝子玉へと変化した
「この状態ならばきっと、この街の外でも形を保っていることができるだろう」
そんな言葉を聞きながら、私は手のひらに乗せた硝子玉を眺め続けた
球面が反射する光の中に、母の姿が見えるような気がした

229同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:33:44 ID:rs9SOIZg0
川 ゚ー゚) さて……と……

川 ゚ー゚) モララー、後はよろしく頼むぞ

川 ゚ー゚) 内藤のところにいるタカラという子も、忘れずにな

( ・∀・) うん、任せて

川 ゚ー゚) それにペニサスも、世話になったな

('、`*川 ん、いいわよ気にしなくて。またね

川 ゚ー゚) ああ、また明日

私が硝子玉を眺めている間に、彼女は他の二人との別れの挨拶を済ませていた
三人の会話を聞いているうちに、とうとう全てが終わったのだという実感が、ゆっくりと湧いてきた

川 ゚ー゚) 最後にデレ、君にお願いがある

ζ(゚、゚*ζ はい?

川 ゚ー゚) ここの記憶達は君のことを随分と気に入っているらしい

川 ゚ー゚) ……私も、その一人だ

川 ゚ー゚) よければまたいつか、この街に遊びに来てくれないか

川 ゚ー゚) その時はこの街をあげて、君を歓迎させてもらおう

230同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:34:17 ID:rs9SOIZg0
( ・∀・) 僕からもお願いしようかな

( ・∀・) ツンやフォックスもそれを望んでいることだろう

ζ(゚、゚*ζ モララーさん……

('、`*川 来る時は私に言いなさいな、部屋とご飯くらいなら用意してあげるから

('、`*川 私は年中暇だから、こっちの都合なんて考えなくていいわよ?

ζ(゚、゚*ζ ペニサスさんまで……

川 ゚ー゚) ……どうかな?

ζ(゚、゚*ζ ……

ζ(゚ー゚*ζ 是非!

川 ゚ー゚) そうか、それはよかった

231同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:36:01 ID:rs9SOIZg0
川 ゚ー゚) それじゃあ、ひとまずお別れだな

川 ゚ー゚) 私は少し疲れた。ここらで休ませてもらうとしよう

,;,;,;,;ー゚) さようなら、デレ

. , ; ,;,;゚) また会える日を、楽しみにしているよ……

, ; ; ,; ; ,;

そう言って彼女は光の粒に姿を変えて、姿を消してしまった
消え行く粒子を眺めていると、どこからともなく、彼女の声が聞こえた

「そうそう、言い忘れていたが忘失都市にはもう一つだけ秘密がある」

ζ(゚、゚*ζ もう一つの、秘密?

「全ての記憶が眠りにつく深夜、この土地は真の姿を顕にする」

「本物の素直クールですら知らなかった秘密だが、君には特別に見せてあげよう」

「今度こそ本当にさよならだ、また会おう、デレ」

その言葉を合図に、眩い光が私の視界を埋め尽くした

232同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:37:45 ID:rs9SOIZg0
【同時刻 らぁめん内藤】

( ^ω^) へいお待ち! ブーン特性のアルティメット中華そばだお!

(*,,^Д^) おうおうこれこれ、これが食べたかったんだよ!

( ^ω^) ちゃんとペニサスのお弁当も食べたし、これなら安心して食べさせてあげられるお

(*,,^Д^) おう、あのおばさん、意外と料理上手いんだな!

( ^ω^) これに懲りたらこれからはしっかりと、ラーメン以外の物も食べないといけないお?

( ,,^Д^) ……あのさ、ずっと疑問だったんだけど、ここのラーメンって何がヤバイの?

( ,,^Д^) 食べ続けたら死ぬとか、正直信じられないんだよね

( ^ω^) ……うーん、食べ続けたらというよりも、他のものも食べないとって言った方が近いおね

( ^ω^) まあ、もうすぐ閉店時間だし、そうなったら嫌でもわかるお

(;,,^Д^) 何言ってるか全然わかんないんだけど

( ^ω^) まあ、いいじゃないかお。それよりほら、替え玉サービスしてあげるお!

(*,,^Д^) え? マジで!? さすがおっちゃん!

( ^ω^) おっおっ、たんと食べるお!

233同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:38:41 ID:rs9SOIZg0
( ,,^Д^) こんなこと言うと失礼かもしれないけどさ

( ^ω^) お?

( ,,^Д^) この店のラーメンって、古臭くて、安っぽい味してて、好きなんだよね

( ^ω^) ……おー?

( ,,^Д^) 昔住んでたところに大きなデパートがあってさ、その地下に小さいフードコートがあったわけ

( ,,^Д^) うちの親、共働きだからさ、一緒に暮らしてたばーちゃんが買い物に行くのにオレも付いて行ってさ

( ,,^Д^) 「お一人様一点限り」みたいな商品も、俺がいるから二つ買えてさ

( ,,^Д^) そうするとばーちゃん、浮いた金でフードコートのラーメン食べさせてくれんの

( ^ω^) おっおっ、いいおばあちゃんだおね

( ,,^Д^) 普段は結構厳しいんだけどね

( ,,^Д^) 一回オレが野良猫虐めようとして、返り討ちにあって、でっかい引っかき傷作って帰ったことがあるんだ

( ,,^Д^) ほら、右のほっぺた、まだ痕が残ってるだろ? 二針くらい縫ったかな?

( ,,^Д^) 心配するばーちゃんに何があったか泣きながら話したら、そのまま反対のほっぺたにビンタ飛んできた

( ,,^Д^) 「そんな酷いことする馬鹿は怪我して当たり前だ」だってさ

( ;^ω^) おー……

234同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:39:55 ID:rs9SOIZg0
( ,,^Д^) まあそんな厳しいばーちゃんだけど、オレがラーメン食ってる時だけは、すっげー笑顔でさ

( ,,^Д^) ニコニコしてるのが嬉しくてさ、オレも大袈裟に喜んでみたりして、そしたら行儀が悪いって怒られるの

( ,,^Д^) その時に食べたラーメンの味に、ここのラーメン、似てるんだよね

( ,,^Д^) 最初はなんでこんなのが美味く感じるんだって不思議だったんだけど、なんかまた食べたくなってさ

( ,,^Д^) 何回も食べてるうちに、思い出したんだよね

( ,,^Д^) 「あ、あのラーメンの味だ!」って。なんで忘れてたんだろ……

( ^ω^) ……

( ,,^Д^) まあ、そういうわけで、安っぽいとか言ったけど、オレは好きだって話ね

( ^ω^) ……ありがとうだお。その記憶に代わって、お礼を言わせてもらうお

( ,,^Д^) ……へ?

235同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:40:40 ID:924rtpyg0
いいね、思い出の味

236同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:41:00 ID:rs9SOIZg0
( ^ω^) 言ってもわからないと思ったから黙ってたけど、わかってくれなくてもいいから、言わせてもらうお

( ,,^Д^) いきなり改まっちゃって、どうしたんだよおっちゃん?

( ^ω^) ブーンの仕事は、お客さんが忘れてしまった「食事の記憶」を、本人のもとへ返してあげることだお

( ^ω^) 楽しい食事の思い出を忘れてしまうのは悲しいことだお

( ^ω^) だから、記憶で作ったラーメンで、その悲しみを癒やすんだお

(;,,^Д^) おっちゃん? 記憶がどうとか、全然わからねーんだけど……

( ^ω^) でも残念なことに食事の記憶は心を満たしても、体の栄養にはならないんだお

( ^ω^) 体を満たすことができるのは、記憶ではなく、実体のある現実の食事

( ^ω^) だからタカラくん、記憶だけを求めて飢え死になんて、悲しいことはしちゃいけないお?

( ^ω^) ちゃんと栄養あるもの食べて、体を満たして、そしてこの店で心を満たしてくれると嬉しいお

(;,,^Д^) ……うん? うーん……

237同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:41:59 ID:rs9SOIZg0
( ^ω^) やっぱりわからないかお?

(;,,^Д^) ……うん

,; ^ω^) まあいいお、ちょうど閉店時間だお

,;,;,;^ω^) それじゃあタカラくん、また明日会おうお!

(;,,^Д^) へ? おっちゃん? なんで光ってんの? 崩れてんの?

, ; ; ,;,;,;^) おっおっ、帰りはモララーの車に乗せてもらうといいお

(;,,^Д^) あれ? なんか店の中全部……光って……

, ; ,; , ,;; ,; おっおっ……おっ……おやすみ、だお……

(;,,^Д^) えっ……!? あれっ……!?





(;,,^Д^) え……

238同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:42:35 ID:rs9SOIZg0
 
















 .

239同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:43:24 ID:rs9SOIZg0
視界を埋め尽くす光量に、私は反射的に目を閉じた
瞼を通してもまだ眩しい、そんな光もいつの間にか消え去って
恐る恐る目を開けた先にあった物は――――

ζ(>、<*ζ ……

ζ(゚、<*ζ ……

ζ(゚、゚;ζ ……!?

剥き出しの地面、霧一つ無い澄んだ空気
どこまでも続く真っ更な荒れ地
教会も、柱時計も、沢山の摩天楼も、消えて無くなってしまっていた

( ,,^Д^) ……

ふと遠くに目をやると、呆然と立ち尽くす少年の影
そんな私達を楽しそうに見ながら、モララーさんとペニサスさんは、帰り支度を始めていた

240同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:44:09 ID:rs9SOIZg0
ζ(゚ー゚;ζ 全部、記憶だったんですね

('、`*川 そゆこと。とりあえず、私は向こうにいるアイツ連れてくるわ

( ・∀・) 車は向こうだね。ここまで迎えに来るから、それまでに準備しておいてね

('、`*川 いろいろ言いたいこともあるだろうけど、残りは全部車の中で、ね?

二人はそう言うと、状況を受け止めきれていない私を置いて、それぞれの用を果しに行ってしまった
取り残された私は仕方なく、地面に置いていた荷物を整理して、着崩れた衣服を整えて
それからやっぱり、何がなんだか分からずに、ぼうっとその場に立っていた

ζ(゚- ゚*ζ ……

離れたところから、車のエンジン音が聞こえてくる
その反対の方向から、ペニサスさんの苦戦する声が聞こえてくる

二つの音に挟まれて、私は何やらふわふわとした、現実味のない感覚に襲われた

241同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:44:58 ID:rs9SOIZg0
ζ(゚- ゚*ζ もしかしたら全部、夢だった、なんて……

そんな疑いを掻き消す感触が、私の手の中に残っている
父の記憶が詰まった硝子玉。私が体験したすべての出来事が現実だった、何よりの証

( ・∀・) 本当さ。全部、現実なんだ

ζ(゚- ゚*ζ モララーさん……

( ・∀・) 君が父の記憶を取り戻したことも、君がこの街で出会った記憶達も

( ・∀・) どうか忘れないであげてほしい。記憶はそれを、何よりも悲しむから

ζ(゚- ゚*ζ ……

ζ(゚- ゚*ζ ……ゃないですか

( ・∀・) ?

ζ(゚ー゚*ζ こんなとんでもない出来事、忘れられるわけがないじゃないですか

( ・∀・) ……っ、ははっ、そうかい! それは嬉しいよ!

242同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:45:58 ID:rs9SOIZg0
('、`#川 二人とも、喋ってる暇があったらコイツを運ぶの手伝いなさいよ!

( ,,^Д^) ……

('、`#川 あーもう! 固まっちゃって動きやしない!

遠くから、ペニサスさんの怒鳴り声
あんなに離れていても声がよく聞こえるのは、気温の低さゆえか、単純な声量か
そんな彼女の様子を見て、モララーさんと顔を合わせて苦笑する

('、`#川 笑ってんじゃないわよ! ほら、デレ、来なさい!

ζ(゚、゚;ζ はっ、はい! ごめんなさい!

( ・∀・) はいはい、僕も手伝うよ


雲は晴れ、満天の星空


静かで、悲しい、そんな街の中心で


私の旅は、賑やかに幕を下ろした

243同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:47:54 ID:rs9SOIZg0








           川 ゚ -゚)は忘失都市のようです

                                 終





                                                  .

244同志名無しさん:2013/10/13(日) 23:52:21 ID:rs9SOIZg0
一年くらいかかっちゃったけど完結しました。支援乙ありがとうございました
「特別にこの場面!」という感じではなく、全体的なイメージとして下の2枚の絵を使わせていただきました
2枚とも凄く好きな絵です。ごちそうさまです
ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/109.png
ttp://buntsundo.web.fc2.com/ranobe_2012/illust/108.jpg

245同志名無しさん:2013/10/14(月) 00:07:08 ID:HM169xf20
映像でみたいと思わされる作品だった
その欲求が完全とは言わないまでもイラストで満たされる、ラノベは良い祭りだなあ
所々入るコミカルなやりとりやAAの動きもすごく好み
面白かった、乙でした

246同志名無しさん:2013/10/14(月) 00:21:45 ID:fsASp6Xc0
記憶の記憶か、かなり切ない気持ちになった……
よくぞ完結!ほんとうにおつです!

247同志名無しさん:2013/10/14(月) 00:40:15 ID:s4od4oPs0
おお・・・ついに完結か、ずっと待ってたからすごく嬉しい
乙!

248同志名無しさん:2013/10/14(月) 17:45:43 ID:aBIEm3hwO
おおう完結してた
面白かったよ乙

249同志名無しさん:2013/10/14(月) 18:17:01 ID:jmdOoTOYO
ほんとうだあの祭りからほぼ1年だ、完結乙

250同志名無しさん:2013/10/14(月) 20:15:22 ID:qM2Tv10Q0
ハインヒーローはまだか

251同志名無しさん:2013/11/05(火) 03:28:25 ID:A9iXqke60
美しいお話だった


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