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男「夢を見た」
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私は夢を見た。
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夢の中で目覚めるとそこは雪国であった。
一面、白の雪に覆われた銀世界。
それをじっと見ている。
ただじっと見ている。
雪に覆われた木があるのをじっと見ている。
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そうやって、雪と木を眺めていると恐怖を感じた。
生命を感じさせない雪の世界にいることが怖くなったのではない。
背後に、とてもとても恐ろしいものがいる気がしたのだ。
私は、おそるおそると振り返った。
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そこに居たのは父だった。
父は白い肌をしていた。
雪よりも冷たい白の色。
そして、それよりも冷たい赤の瞳で私のことを見ていた。
じーっと、ただじーっと見ていた。
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背後にいたのが父だとわかった私は恐怖した。
何をするでもなく木を眺めていたのを、父に見られていた。それだけのことに恐怖したのだ。
私にとって父は安心できる人ではなかった。
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耐え切れなくなった私はそこから逃げようとした。
父のいない方向に走ろうとした。
瞬間。
雪が全て黒に染まって、世界に闇が下りた。
クラヤミの世界。
そこに放り出されたところで、
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私は目が覚めた。
目を開いて見た自分の部屋はとてもとても暗かった。
クラヤミの世界が自分の部屋だとわかると、私はなんとなく悲しくなったのだった。
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私は夢を見た。
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そこは牢獄であった。
私の熱を全て奪うような、金属に囲まれた冷たい世界。
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そこに女がいる。
死んだ目で横たわる女がいる。
死んでいるわけではないのに、目に生気が無い女。
私はそれが気に入らなくて、蹴っ飛ばした。
床に転がる女は悲鳴をあげた。
夢の世界なので音はしないが、ひどく耳障りだと思った。
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死んだような目をしているくせに、悲鳴だけは一人前にあげるんだな。
そういらいらした私は、もう一度蹴っ飛ばした。
悲鳴を上げた。鬱陶しい。
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蹴る。悲鳴を上げる。鬱陶しい。
蹴る。悲鳴を上げる。鬱陶しい。
そうやって蹴りつけるたびに、体が、心が冷えてく気がした。
部屋にすべてを奪われるような感覚すら覚えた。
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やがて怒りも冷たい世界に奪われたのだろう。
私は冷静になって、転がる女の顔を見た。
そこにいたのは死んだ目で涎を垂らしている母だった。
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母だということを自覚した瞬間に吐き気を催した。
それは醜い姿の母への侮蔑からだったのか、それを蹴りつける自分への嫌悪からだったのか
はっきりしなかった。
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はっきりとしないまま目を覚ました。
夢の中の吐き気が現実に残っていた。
その夜は寝つけなかった。
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夢を見た。
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夕暮れの教室に少女がいた。
彼女の顔は、夕暮れに赤く染まって綺麗だった。
彼女の長い髪がたまらなく好きだった
だから愛してくれと言おうと思った。
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その瞬間、彼女の眼は赤く光った。
いつかの世界で見た、父の赤い目だった。
その目が怖くなって、私の告白は行き場を失った。
愛してくれなんていうのはおこがましい。
私はそう反省した。
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愛してる。
そう言おうと思った。
決意した私は、彼女の瞳を覗き混む。
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あの母の生気のない目がそこにあった。
私は彼女を殴らなければならないと思った。
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そう思ってしまった自分が怖くなった。
夕日は沈んで、教室は闇に包まれた。
私の告白も闇に飲まれてなくなった。
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目を覚ますと、目に涙がたまっているのに気づいた。
私はじっとして、涙が渇くのを待った。
しかし、涙は乾かないだろう。そんな予感がしていた。
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私は夢見ていた。
冷たく赤い目をした父も、
死んだ目をした母もいない
みんなが優しく笑ってくれて
私も優しく笑っている
そんな世界を夢見ていた。
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現実を見てみれば
人に愛されることも
人を愛することも
全てをあきらめた自分が部屋に一人いるだけだった。
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おわり(^q^)
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おほう…
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