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ミカサ「大丈夫」
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幼い頃私は世界が残酷な事と、とても美しい事を同時に知った
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エレンと出会ってから随分経った。
エレンは世界が美しい事を教えてくれた。
ぬくもりをもらった。
私はエレンがいたら何でもできる。
そう思ってた。
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「かはっ…」
咳き込むと同時に血が飛び散ったのはそんな事を思っていた時だった。
私は横たわっていた。
ここはどこかわからない。
息をするのが苦しい。
声が出ない。
視界が霞んではっきりと見えない。
音もあまり聞えない。
自分が死に近い事だけはよくわかった。
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――!
―――!
誰かの声が聞える。
私を呼んでいるのだろうか。
ごめんなさい…あまり聞えないの…
その誰かは私の手を握った。
それはすごく暖かかった。
…ああ、近くにいるのはエレンだ。
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あなたはいつも暖かい。
出会った日からずっと。
朧げな記憶となってしまったがお父さんもお母さんも暖かかった。
でもそれ以上にあなたの暖かさが好きだった。
…そんな事を思ってしまう私は親不孝者か、薄情者か。
少し苦笑した。
"
"
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――!
―――!
エレンはまだ私の名前を呼んでいる。
そういえば最近私の手をあまり握ってくれなくなった。
あまり一緒にいられなくなった。
あまり名前を呼んでくれなくなった。
それが少し寂しかった。
もっと手を握って。
一緒にいて。
名前を呼んで。
…こんな時にそれが叶うとは皮肉だ。
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その時何かが落ちてきて頬を伝った。
それはやはりすごく暖かい。
多分エレンの涙なのだろう。
私の事を想って泣いてくれてる。
視界が霞んでるのが残念で仕方がない。
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エレンが泣いたのはいつ以来なんだろうか。
私の知らないところで泣いていたのかもしれない。
でも私がエレンの涙を最後に見たのはあの日、家族を失った日だ。
…私は少しよかったと思っている。
家族が死んで悲しむのが私じゃなかった事に。
そんな私はきっと嫌な奴だ。
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嫌な奴――
こんな死の間際にそんな事を思い知らされるなんて…
嫌な奴で終わりたくない。
だからあなたの幸せを祈ろう。
私を忘れてもいい。
あなたがいつか巨人を駆逐して、自由を手に入れて。
壁の外に出て、目に入るものすべてが美しい。
きっとアルミンがそばにいてくれるだろう。
一緒に行けないのは残念だけど。
アルミン、エレンをよろしくね。
いってらっしゃい。
声は出ない。
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もう何も聞えない。
何も見えない。
あなたの暖かい手だけ、わかる。
死ぬには怖くなかったけど今は少しだけ怖いのかもしれない。
最後に何か伝えたい。
誰かが言っていた。
私の言語力は残念だと。
その通りだ。
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だから一言で伝わるような言葉を選ぼう。
―大好きだった
―お腹を出して寝ないように
―体を大事にして
―死なないで
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…………
「ありがとう」
結局最後に出てきた言葉はこれだった。
伝えられた事に安心するともう眠気に抗えなくなった。
意識が暗闇に沈んでいく。
もうあなたと会えなくなるね。
でも大丈夫。
この暖かさを覚えてるから寂しくない。
おわり
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乙
切ない
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乙!
原作もこうなりそうで怖いな…
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乙
泣きそうになった
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