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サシャ「それが醍醐味なんですよ」
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・サシャ「味を占めちゃいましたかね?」の続きです
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―― 早朝 女子寮 ユミルたちの部屋
サシャ(……)
サシャ(……寒い)モゾモゾ
サシャ(もう半ズボンで寝る時期じゃないですねー……色々冬物も出さないと)
サシャ(それよりも……雪、降ってませんかね? こんなに寒いですし)ヒョコッ
サシャ(……うーん、やっぱりまだですか)
サシャ(あ……ライナーが外にいる……)
サシャ「……」
サシャ(えーっとえーっと)ガサゴソガサゴソ
ユミル「……サシャ」
サシャ「あっ、すみませんユミル。起こしちゃいました?」
ユミル「……あったかくしていけよ」モゾモゾ
サシャ「……はい、ありがとうございます」
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―― 営庭
ライナー(今日の訓練は……立体機動と対人格闘だったか。朝は軽く流すくらいでちょうどいいな)
ライナー(息が白くなってきたな、もう冬か……朝練のメニューも組み直さないとなー)
ライナー(去年はそれほどでもなかったが、今年はどれだけ降るんだろうな……)ハァ...
サシャ「ため息ついてると幸せ逃げますよー? どうしたんですか?」タッタッタッ
ライナー「いや、雪が本格的に降り始めたら走り込みもできなくなるからな。どうしたもんかと……」タッタッタッ
サシャ「それは大変ですねえ」
ライナー「ああ。そろそろ柔軟のほうを増やしていったほうが――おわっ!?」ビクッ!!
サシャ「おはようございまーす」
ライナー「な、なんだ? どこから出て来た?」ドキドキ
サシャ「窓から見えたので、つい出て来ちゃいました」
ライナー「……窓から飛び出してきたのか?」
サシャ「そこまで野生に返った覚えはありません」
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サシャ「毎朝こうして走ってるんですか? よくやりますね」
ライナー「いいや、目が覚めた時だけだ。今日は軽く流して終わるつもりだしな」
サシャ「おお、早起きが朝練に結びつくとは……! 私にはない発想ですね」
ライナー「メシ前なのに運動なんかやるわけないもんな、お前は」
サシャ「むっ、失礼ですね。現に今こうして運動してるじゃないですか!」
ライナー「どうだかな。少し息が上がってきたんじゃないか?」
サシャ「お邪魔なら振り切ってくださって結構です」
ライナー「……俺と勝負するつもりか?」
サシャ「そう簡単には負けませんよ?」
ライナー「……」
サシャ「……」
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―― 井戸
ユミル(ねみぃ……水……)フラフラ...
ベルトルト「あれ? ユミル? こんなところで何してるの?」
ユミル「……べるとるさぁん」
ベルトルト「舌回ってないよ、ユミル。水飲みに来たの?」
ユミル「うん……うん」カクカク
ベルトルト「ところでユミル、あれ何かわかる?」
ユミル「……いちゃついてるだけだろぉ?」
ベルトルト「こんな朝っぱらから? それに、逃げてるライナーも追いかけてるサシャも本気に見えるんだけど」
ユミル「……わたしが知るわけないだろぉー」
ベルトルト「ユミル? 大丈夫? 起きてる?」
ユミル「起きてるってばぁ。じゃあおやすみぃー」
ベルトルト「これから二度寝するの? 一人で帰れる?」
ユミル「うん……うん……」フラフラ...
ベルトルト「あっ、行っちゃった……水飲んでないけど、いいのかな」
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―― しばらく後 営庭隅
サシャ「……ど、どうっ、したんです、ライナー、それで、終わりっ、ですかっ?」ゼエハア
ライナー「軽く流すだけっつったろ……本気で追いかけてきやがって……」ゼエハア
サシャ「すばしっこさはコニーに負けますが……ふふふ、体力ならいいところまで張り合えるみたいですね……!」
ライナー「メシ前なのに大したもんだな……食わなくてもいいんじゃないか?」
サシャ「それは困りますぅっ!!!」ズイッ!!
ライナー「うおっ!?」ビクッ!!
サシャ「冗談でも言っていいことと悪いことがあるんですよ!? そんなこともわからないんですか!?」
ライナー「わかったわかった、俺が悪かった! ――取り敢えずここ座ってちょっと休め。休憩だ休憩」ポンポン
サシャ「一時休戦ですか?」
ライナー「……それでいいから隣に来い」
サシャ「はーい」ストンッ
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サシャ「朝から身体動かすのって気持ちいいですね。今日の朝はご飯がおいしく食べられそうです」
ライナー「いつも通りの冷めたスープと固いパンだろうけどな」
サシャ「でも、これくらいの手間でおいしくなるならこういうのも悪くないですよ。……習慣にするのは無理そうですけど」
ライナー「早起きが苦手なのか?」
サシャ「お腹が空いて力が出ません!」キリッ
ライナー「いい笑顔で言うんじゃない。……よく今日は走る気になったな。昼前に立体機動訓練もあるってのに」
サシャ「えっ?」
ライナー「……」
サシャ「……」
ライナー「もしかして、忘れてたのか?」
サシャ「……はい」
ライナー「体力が有り余ってるのはわかったから、次からはもう少し計画的に動こうな」
サシャ「次からそうします……」
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サシャ(せっかく二人きりなのに、いつもと話してることあんまり変わりませんね)
サシャ(もうちょっとこう……ご飯から離れた、色気のある話を……)
サシャ「えーっと……もう冬ですよね。暦としては」
ライナー「ん? ――ああ、そうだな」
サシャ「私、冬って好きなんですよ。雪が降る日って、今日みたいに朝からぴんと空気が張りつめてて、なんていうか……気持ちいいんですよね」
ライナー「雪の降る日か……わかるもんなのか?」
サシャ「百発百中とはいきませんがわかりますよ。ほら、雨の降る直前にも匂いがするじゃないですか。ああいう感じと近いです」
ライナー「そうか? 俺にはさっぱりわからんが……」
サシャ「どちらかっていうと勘みたいなものですからね。ちょっとわかりにくいかもしれません。それとですね、この時期は燻製が――」ピタッ
ライナー「? ……どうした?」
サシャ「……く、訓練兵が、楽しそう、です」ギクシャク
ライナー「ああ、確かに楽しそうな奴もいるな。去年はエレンとアルミンが雪だるま作ってたはずだ」
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サシャ「おおっ、雪だるまですか! 私もクリスタと一緒に作りましたよ」
ライナー「お前は好きそうだもんな、そういう遊び」
サシャ「本当は雪合戦とかしたいんですけどねー。でも、雪で遊んだ後はやっぱりあったかいものが食べたいですよね! 冬も冷めたスープじゃ元気が出ないですよ」
ライナー「また食い物の話か?」
サシャ「…………あっ」
サシャ(ああああああああああ……また食べ物の話……!! 私のばか! ばか!!)
ライナー「顔押さえてどうした? 寒いのか?」
サシャ「違います……ちょっと自己嫌悪に陥ってるだけです……」
ライナー「はぁ?」
サシャ(くっ……! 食事の話じゃなくて、なんかこう、自然と気遣いができるようになりたいですね……!)ギリッ...
ライナー(なんだか真横から思いっきり睨まれてる気がするんだが、何か変なこと言ったっけかな……ん?)
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ライナー「おい、サシャ。頭に木の葉ついてるぞ」
サシャ「えっ? いつの間に?」
ライナー「取ってやろうか?」
サシャ「いえ、ちょっと待ってください」ゴソゴソ
サシャ(えーっと、手鏡手鏡っと)ジーッ...
サシャ「……よしっ、取れた!」
ライナー「手鏡なんか持ってたのか?」
サシャ「いえ、これ私のじゃないんです。ミカサからの借り物なんですよ」
ライナー「わざわざ借りたのか? なんで突然?」
サシャ「……秘密です」
サシャ(もうちょっと女の子として見てほしいから……なんて、言えるわけありませんし)
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サシャ「ええっと、私もう寮に帰りますね。汗拭かないと冷えますから」スクッ
ライナー「そうだな、俺も戻るか。……少し長話しすぎたな。風邪ひくなよ?」
サシャ「ライナーこそ、廊下の真ん中で寝たりしないでくださいね? 男子寮じゃ川原と違って膝枕はできませんよ?」
ライナー「……最近生意気だな」
サシャ「ふふっ、私もそういう年頃なんですよ。――それじゃあ、お先に失礼しますね」スタスタ...
ライナー「ちょっと待った。――今日の朝、一緒に食べないか?」
サシャ「……いいんですか?」
ライナー「いいんですかも何も、俺が誘ってるんだけどな」
サシャ「そ、それもそうですね」アセアセ
ライナー「そんなに珍しいことか? ついこの前だって一緒に食っただろ?」
サシャ「だって、ライナーはいつもベルトルトと一緒ですし、この前は、クリスタが一緒でしたし……」モジモジ
ライナー「それで、嫌なのか?」
サシャ「……一緒がいいです」
ライナー「じゃあ、また後でな」ポンポン
サシャ「……はい、また後で!」
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―― 女子寮 ユミルたちの部屋
サシャ「クリスター!! ユミルー!! あーさでーすよー!!」バーンッ!!
クリスタ「んぅ……? さしゃ、元気だねぇ……?」モゾモゾ
サシャ「はいっ! そりゃあもうっ!」
クリスタ「そうかぁ……元気は、だいじだよね……」
サシャ「ほらほらほらーユミルユミルユミルー起きてくださいよー」ユサユサユサユサ
ユミル「うあああ……やだよさみぃよー」マルッ
サシャ「えーいっ!」ベリッ
ユミル「ぎゃああああああああああ凍死するうううううううっ!!」ガタガタガタガタ
サシャ「布団剥いだくらいじゃ凍死しませんよー?」
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クリスタ「なんだかサシャ、すごく機嫌がいいね」
ユミル「うー寒っ。……外でなんかあったのか?」
サシャ「はい、ありました! ごはん一緒に食べたいってライナーに言われました!」
ユミル「おお………………おぉ? それだけか?」
サシャ「はい、それだけです!」
クリスタ「……この前、私とサシャとライナーとベルトルトの四人で、一緒にご飯食べたよね?」
サシャ「そうです!」
ユミル「お前何度かライナーと外に食べに行ってるよな?」
サシャ「そうです!」
ユミル「……」チラッ
クリスタ「……」チラッ
ユミル「着替えるか」ヌギヌギ
クリスタ「そうだね」ヌギヌギ
サシャ「あっさごっはんー♪ あっさごっはんー♪」ウキウキ
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―― 午前 立体機動訓練
エレン「……? なあライナー、訓練前だってのになんだか疲れた顔してないか?」
ライナー「あー……ちょっと朝に走りすぎたから、そのせいかもな」
エレン「なんだよ、走ってたんなら俺も起こしてくれればよかったのに」
ライナー「すまんな。次からはそうする」
エレン「おう、よろしくな!」
アルミン「朝練もいいけど、ちゃんと身の回りのこともしっかりやろうね。エレンの洗濯物溜まってたよ?」
エレン「そういやそうだったな。今晩辺り一気に片付けるかー」
アルミン「せっかく晴れてるんだから、朝のうちにやっておけばよかったのに」
エレン「悪い悪い。次から気をつける」
アルミン「心配だなぁ……本当に今日やる? 一人でできる? 手伝おうか?」
エレン「俺の洗濯物より自分の心配しろよ。今日はずっと身体動かす訓練だからキツイだろ? 大丈夫か? 体力持つか?」
アルミン「平気だよ。――それに、ちょうど立体機動で試してみたいことがあったからね。実は訓練を楽しみにしてたくらいなんだ」
ライナー「試したいこと?」
エレン「へえ、何かコツでも掴んだのか? それなら俺にも教えてくれよ」
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アルミン「……怒らない?」
エレン「はぁ? なんでコツ聞いてるのに怒らなくちゃなんねえんだ?」
ライナー「もしかして、危険な技でもやろうとしてるんじゃないだろうな?」
アルミン「違う違う、そういう類のものじゃないんだ。でも、エレンやライナーが聞いたら怒るかもしれないと思って……」
エレン「なんだそりゃ。取り敢えず、話すだけ話してみろよ」
ライナー「そうだな。聞かないと判断もできん」
アルミン「それで怒られるハメになったらこっちが損なんだけどなぁ……まあいいや、教えるよ」
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アルミン「昨日の夜、マルコやジャンと一緒に資料室の整理をしてたんだけど」
エレン「そういや、消灯時間まで全然見かけなかったな。アルミン、資料室にいたのか」
アルミン「うん、マルコに頼まれてね。――それでね、資料室の本ってみんなが使うから、ノートの切れ端とかが栞代わりに挟まってたりするんだよ。昨日も何枚か見つけたんだ」
ライナー「ああ、たまに座学の答案が挟まってたりもするな」
エレン「そうなのか? 俺はあまり本は借りないからなー……それで、その切れ端が立体機動とどう繋がるんだよ?」
アルミン「その前に、ライナーに聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」チラッ
ライナー「いいぞ、遠慮しないでなんでも聞け」
アルミン「よかった! じゃあ聞きたいんだけど――」
アルミン「立体機動で受ける風の抵抗が、胸の感触と同じって本当?」
ライナー「……は?」
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エレン「胸…………胸? おいアルミン、胸ってまさか――」
アルミン「もうちょっと具体的に言うなら女の子の胸についてる二つの膨らみのことだよ」
エレン「…………ふくらみ」
アルミン「それでどう? 同じなのかな?」
ライナー「……悪い。知らん」
アルミン「だよね。――第一、立体機動で移動してる時はグリップ離すわけにもいかないから、実物とは比べられないよね」
ライナー「いや、そうじゃなくてだな」
エレン「つまり、今日はそのノートの切れ端に書いてあったことを検証するのを楽しみにしてたってことか? アルミン」
アルミン「うんっ!」キッパリ
エレン「いい笑顔で答えるな! ――ったく、訓練中に変なことしようとするなよな。俺はアルミンをそんな風に育てた覚えはありません!!」ガミガミ
アルミン「なっ……! 変なこととはなんだよ! 第一僕だってエレンに育てられた覚えはありません!」プンスカ
エレン「なんだとぉっ!?」
アルミン「なんだよぉっ!!」
ライナー「こらこら、喧嘩するんじゃない!」
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マルコ「どうしたの? 何の騒ぎ?」スタスタ...
ジャン「あんまりうるせえと罰則食らっちまうぞー」
エレン「てめえがアルミンに変なこと吹き込むからだろ!」
ジャン「はぁ? 変なこと? ……ああ、アルミンが二人に話したのか?」
ライナー「いや、俺が無理矢理聞いたんだ。悪いな」
ジャン「別に隠すことじゃねえからいいけどよ。……で、エレンがキレてるってわけか」
エレン「アルミン! 悪い子と付き合うんじゃないっ!! こっち来なさい! 説教だ説教!」グイッ
アルミン「嫌だい! 嫌だい!!」ブンブンブンブン
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マルコ「ねえライナー。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
ライナー「マルコもか? なんだ?」
マルコ「うん。『二の腕の内側の柔らかさは胸と一致する』って本当?」
ライナー「……比べたことがないからわからん」
マルコ「そっか、そうだよね。実物が目の前にあるのに腕を揉む理由がないもんね」
ライナー「…………」
マルコ「ごめん。おかしなこと聞いて」
ジャン「あっ、ついでに俺も聞きたいことがあるんだけどよ。いいか?」
ライナー「……胸の話か?」
ジャン「よくわかったな、その通りだ。それでさ――」
ライナー「ちょっと待て。……なんで三人とも俺に聞く?」
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アルミン「なんでって…………ねえ?」
ジャン「隠さなくてもいいんだぜ? 俺たちは引いたり軽蔑したりはしねえからよ」
マルコ「そうそう、むしろ先陣を切って僕たちに手本を見せようとしてくれる姿には尊敬すら覚えるよ」
ライナー「手本? 何の話だ?」
アルミン「だって揉んだことあるんでしょ? おっぱい」
マルコ「どうだった? 柔らかかった? おっぱい」
ジャン「手からこぼれ落ちたか? おっぱい」
ライナー「」
エレン「おい待てよ、ライナーがそんなふしだらなことをする男なわけないだろ!」
ジャン「はっ! 胸の一つや二つ揉んだ程度でふしだらとはな。お前、昼の座学だけじゃなくて夜の座学も不勉強なのかよ? お子様だな」ケッ
エレン「へー……この前はお子様相手に鼻の下伸ばしてたくせに、随分大人ぶった物言いじゃねえか、ジャン……!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
ジャン「死に急ぎエレぴょんには言われたくねえなぁ……! 似合ってたぜ、うさ耳姿はよぉ……!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
マルコ「エレぴょんって何? エレンのあだ名?」
ライナー「触れないでやってくれ」
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アルミン「ねえライナー、もったいつけずに教えてよ。手の平じゃ感じられないだろうけど、顔で風は何度か受けたことあるよね? ぱふぱふってあんな感じなの?」
マルコ「胸には夢と希望が詰まっていることは周知の事実だけど、二の腕の柔らかさの可能性はそれを越えられるかな? どう?」
ライナー「いや……………………その、期待しているところ悪いんだがな、ないんだ」
アルミン「……何が?」
マルコ「もしかして、実はあの胸は詰め物だったの……? まあそれはそれで悪くはないけど」
ライナー「違う……っ! 違うんだ……! 俺は……手で触ったことはないんだ……っ! ないんだよ……っ!」
アルミン「な、なんだって……!?」
マルコ「えっ? まさか、本当に……!?」
ジャン「おいおいおいおい、ズッコンバッコンは即開拓地送りだから無理にしたってよ、男のロマンにすら触れてないってのはどういうことだよ! お前正気か!?」
アルミン「わけがわからないよ!」
ライナー「そりゃこっちのセリフだ! いったいお前ら資料室で何を見つけてきたんだ!?」
ジャン「『おっぱい虎の巻』だ」
マルコ「おっぱいの感触に近いものを様々な角度から検証する素晴らしい論文だよ」
アルミン「先人の遺産は大切にしないとね」
エレン「変なもの引っ張り出してきてんじゃねえよ」
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アルミン「あくまでこの欲求は知的探求心に基づくものだから!」
ジャン「そうそう、やましいことなんかひとっつも、これっぽっちもないからな!」
マルコ「そもそもエレンやライナーは興味ないの? おっぱい」
ライナー「……そりゃあ、まあ」
エレン「あ……っるわけねえだろ!」
ジャン「二人ともちょっと詰まったな」
マルコ「無関心ってわけじゃなさそうだね」
アルミン「じゃあ、ライナーの今後に期待ってことで」
ライナー「おい」
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ジャン「他に適任はいないだろ!? お前は同期の中でもズバ抜けて優秀で頼りになる奴じゃねえか!!」
アルミン「そうだ、戦士として最後まで責任を果たすんだ!!」
マルコ「Attack on 体感!」
ジャン「頑張れ俺たちの兄貴!」
ライナー「変な期待を寄せるな! 第一そんなこと知ってどうするつもりだ? 自分の二の腕でも揉みながら想像でもするのか?」
ジャン「……ははっ、そりゃあ無理に決まってんだろ? 自分の腕を触ってみろよ」
エレン「腕……?」モミモミ
ライナー「……固いな」モミモミ
ジャン「だろ? わかるか……? これも、立派な二の腕なんだぜ……?」モミモミ
マルコ「女の子の胸ってさ、もっと柔らかいよね……?」モミモミ
アルミン「それでもさ、ひとまずこれで我慢するしかないんだよ……僕たちはさ……」モミモミ
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コニー「なんであいつら全員二の腕揉んでるんだ?」
サシャ「みんなで筋肉の比べあいしてるんじゃないですか? 真ん中にいるのエレンですし」
コニー「でもよー、マルコやアルミンがそういうのに参加するかぁ? ベルトルトはどう思う?」
ベルトルト「……さあね、僕にはわからないな」
ベルトルト(ライナーやエレンの顔が強ばってることを考えると、たぶん単純に比べあいをしてるんじゃないんだろうなぁ……近寄らないようにしようっと)
ミカサ「……」カチカチ
ミカサ(手がかじかんで、うまくトリガーがひけない……)
ミカサ「……」キョロキョロ
ミカサ「!」
ミカサ「……アニ、ミーナ。何をしているの?」
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乙です
今回も楽しく読ませてもらいます
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アニ「……」ムスッ...
ミーナ「暖を取ってるんだよ、ミカサ。パーカーのフードの下はあったかいからね!」
ミカサ「そんなに温かいの?」
ミーナ「うん、アニは冷たいからね!」
ミカサ「……? どういう意味?」
ミーナ「ほら、手が冷たいのは心が温かい証拠だって言うじゃない? ――つまりね、アニが私に冷たいのは、こうやって温もりを分け与えてくれるためなんだよ」スリスリ
アニ「違うよ」
ミーナ「うんうん、わかってるよ、アニも辛いんだよね……。本当は私のこと大好きなのに、冷たくしなきゃいけないから……」ムギューッ
アニ「勝手に捏造しないで」
ミーナ「ほらね、冷たいでしょ?」
ミカサ「なるほど」
アニ「……」イラッ
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ミカサ「ねえ、アニ」
アニ「何」
ミカサ「私も」
アニ「却下」
ミカサ「……」
アニ「……」
ミカサ「………………ふんっ!!」ズボッ!!
アニ「!! ――ちょっ、何してるのさ! ミカサ!!」ジタバタジタバタ
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ミカサ「ミーナばかりずるい! 少しは分けてほしい!」
アニ「フードが伸びるから! フードが伸びるから!!」ジタバタジタバタ
ミカサ「ああっ、あったかい……っ! これは大発見……! 歴史を変えるくらいの素晴らしい発見!!」ヌクヌク
ミーナ「ふふっ、よかったねミカサ」
ミカサ「今からアニと私は親友になった」
ミーナ「そっかぁ! 親友が二人に増えてよかったね、アニ!」
アニ「なってない! なってないから!!」ジタバタジタバタ
サシャ「あっちは何をしてるんですかね?」
コニー「ミカサとミーナの二人がかりでアニを押さえつけてるんじゃねえか? 理由はわかんねえけど」
ベルトルト(……ここが一番平和な気がする)ホッコリ
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―― 午後 対人格闘訓練
サシャ「雪降りませんかねー」
コニー「雪降らねえかなー」
サシャ「寒さ的には降ってもいい頃合いですよねー」
コニー「だよなー」
サシャ「雪乞いしますか?」
コニー「そうだな、するか」
サシャ「……雪乞いってどうやるんですか?」
コニー「知らねえ。やってるうちに思いつくんじゃねえか?」
サシャ「それもそうですね。えーっと、じゃあ……こんな感じですかね?」グルンッ
コニー「いや、空から見えるようにもう少し身体は大きく動かしたほうがいいだろうな」
サシャ「難しいですね、だったらこう――」
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アニ(……サシャとコニーの奴、何やってんだか)スタスタ...
ライナー「ようアニ、散歩中か? いつも組んでるエレンはどうした?」
アニ「エレンはミカサの生け贄に捧げてきた」
ライナー「生け贄……? どうした、エレンと喧嘩でもしたのか?」
アニ「そっちのほうがどんなに楽だったか……」ハァ
ライナー「おいおい、喧嘩より楽って……何があった?」
アニ「懐かれた」
ライナー「誰に」
アニ「ミカサ」
ライナー「……珍しいこともあるもんだな」
アニ「……もう相手探すの面倒だからあんたでいいや。教官に見つかる前に組んでよ」
ライナー「おう、いいぞ」
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アニ「そういえばさ。午前中に男子で盛り上がってたみたいだけど、いったい何の話?」
ライナー「気になるのか?」
アニ「他に話の種もないから聞いただけ。……で、何やってたの」
ライナー「何って…………二の腕の固さの比べあいだ」
アニ「予想はしてたけどくだらないね。聞くんじゃなかったよ」
ライナー「……アニもそれなりに鍛えてるよな、腕」ジッ...
アニ「は? 突然何?」
ライナー「お前、二の腕の内側は――」
アニ「嬉しいよ。今日は新鮮な挽肉が手に入りそうだ。おいしい手ごねハンバーグが焼けるね」シュッシュッ
ライナー「今の話はなかったことにしてくれ」キリッ
アニ「わかればいいんだよ。……あ、サシャとコニーが教官に見つかった」
ライナー「あーあ、ありゃ罰則確定だなー……」
アニ「混ざってきたら?」
ライナー「遠慮しておく」
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―― 対人格闘訓練終了後 とある廊下
アニ(……二の腕か。そういえば、この前ミーナとサシャが比べてたよね)
アニ「……」ジッ...
アニ(内側だっけ……私も筋肉はついてるほうだし、固いはずだよね)モミモミ
アニ(……あれ? 柔らかい)フニフニ
ベルトルト「――アニ、何してるの?」
アニ「!!」ビクッ!!
アニ「……み、見た?」ササッ
ベルトルト「何を?」
アニ「見てないならいい」スタスタ...
ベルトルト(……なんで脇の下に手を突っ込んでたんだろう)
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―― 夜 食堂
サシャ「……課題が増えました」
コニー「右に同じく」
ジャン「馬鹿かお前らは」
サシャ「今日中に提出しないと、今日の晩ご飯だけじゃなくて明日の朝ご飯も抜きだそうです」
コニー「詰んだ」
ジャン「詰んだも何も、お前らの自業自得じゃねえか」
コニー「おいおい、俺が無目的に踊っていたと思ってんのか? ジャン」フフン
ジャン「雪を降らせようとしてたんだろ? あんなもんのどこがいいんだか」
サシャ「おや? ジャンは雪があまり好きじゃないんですか?」
ジャン「道塞ぐし地面は滑るし上から落ちてくるし面倒だろ。下手に大雪になった日には雪かきしなくちゃなんねえしよ」
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マルコ「ねえ二人とも、もしよかったら僕が教えてあげようか?」
ジャン「やめろってマルコ。手伝ってやる義理なんか俺たちにねえだろ?」
マルコ「うん、それはそうなんだけど……夜だけならともかく、朝ご飯抜きってのはかわいそうだなって」
ジャン「あのなぁ、そうやって甘やかすから二人とも成長しねえんだろうが。罰則食らうの何回目だと思ってんだ?」
サシャ(……甘やかす)ピクッ
マルコ「うーん、そんなつもりはないんだけどな」
サシャ「いえ、ジャンの言うことも一理あります。……時間ギリギリまで、課題は自分一人で頑張ります」
コニー「んあ? ……あー、じゃあ俺も頑張るかな」
ジャン「なんだ、偉く物わかりがいいな。腹が減りすぎておかしくなったのか? サシャ」
サシャ「違いますよ! いつまでも、誰かが助けてくれるとは限りませんからね。私だって日々成長してるんですから、こんな課題くらいイチコロです!」
コニー「ここでサシャに差をつけられるのも癪だしなー、俺もやってやるぜ!」
マルコ「いい心がけだね。僕らはあっちにいるから、わからなくなったら聞きにおいでよ」
サシャ「はい、その時はよろしくお願いしますね。――さあ、どっちが早く終わらせられるか勝負しましょう、コニー!」
コニー「おうっ! 望むところだ!」
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―― 三十分後
サシャ「わっかりっませーん……」バタンキュー
コニー「俺は天才俺は天才俺は天才」ブツブツブツブツ
サシャ「自己暗示ですか……いいですねそれ……ふふふふふ……」
コニー「消灯まであと何分だ……? 終わるのかこれ……?」
サシャ「……前言撤回です。もう、こうなったら誰かに頼むしかないですよ」
コニー「誰かって言ったってよ、ジャンとマルコはチェス指してる真っ最中だから無理そうだぞ? あと三十分はかかりそうだ」
サシャ「三十分も待ってたら最後まで片付けられませんよぅ……あっ、それならアルミンはどうですか? この前装置の調整を手伝ってもらったんですけど、すごくわかりやすかったんですよ!」
コニー「無理無理。さっきエレンを引っ張ってどっかに行った」
サシャ「うーん、他の人って言うと……」チラッ
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ライナー「……」チラッチラッ
ベルトルト「気が散ってるよ、ライナー。――はい、チェック」コトッ
ライナー「あっ……くそっ、腕を上げたな。ベルトルト」
ベルトルト「降参する?」
ライナー「いや、まだ早いだろ。ちょっと待てよ、今考えるから……」ブツブツ
サシャ「あのー……お楽しみの最中すみません」ヒョコッ
ライナー「」ピタッ
ベルトルト「何? 僕たちに用事?」
サシャ「はい。……あの、あとどれくらいで終わりますか? その勝負」
ベルトルト「どうかなぁ……五分はかからないと思うけど」
コニー「マジか!? ――じゃあさ、それ終わってからでいいから勉強教えてくれねえ?」
サシャ「今日中に提出しないと、明日の朝食抜きなんですよぅ……助けてくださいぃ……」
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ライナー「……まいった。俺の負けだ」
ベルトルト「はい、ライナーの負けね。これで十七勝目っと」カキカキ...
ライナー「それで? どこがわからないって?」ガタッ
サシャ「……へっ? 終わったんですか?」
ライナー「終わった。――時間がないんだろ? 早く見せろ」
サシャ「あっ、そうですね。えーっと、これなんですけど……」ガサゴソ
ベルトルト(ライナーの世話焼きにも困ったなぁ……まあ、勝ち星もらえたからいいけど)カキカキ...
ベルトルト「じゃあ、僕はこれで――」ガタッ
コニー「待ってくれよベルトルト」ガシッ
ベルトルト「コニー? 何? 教えてもらうんじゃないの?」
コニー「何って、ベルトルトが俺に教えてくれるんだろ?」
ベルトルト「僕が? コニーもライナーに教えてもらいなよ。ライナーの教え方は丁寧でわかりやすいよ」
コニー「そうしたいけどよ、一人で二人の面倒見てたらライナーだって大変だろ? どっちも間に合わなくなったら悲惨だしな」
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ベルトルト「でも僕、誰かに教えるのって慣れてないし……」
コニー「大丈夫だ! 俺は誰かに教えてもらうのには慣れてるからな!」
ベルトルト「ごめん、意味がわからない」
コニー「つまりだな、ベルトルトが教えるのが下手でも、俺が教わるの得意だから大丈夫ってことだ。プラスにマイナスを足したらゼロだろ?」
ベルトルト「ゼロじゃダメだと思うんだけど……」
コニー「じゃあかけようぜ!」
ベルトルト「コニー、コニー。プラスにマイナスをかけたらマイナスだよ。もっとダメだよ」
コニー「……?」
ベルトルト「……いいよ、わかったよ、教えるよ。教えればいいんだろ。僕がライナーの隣に移るから、君は反対側に回ってサシャの隣に座って」ハァ
コニー「やった! ありがとなー!」
ジャン「懐かしいな……俺らも何回あの力技を決められたものやら」
マルコ「引っかかったのは主にジャンだけどね。――はいチェック」コトッ
ジャン「んがっ!? ま、待て待て、少し考える……」ブツブツ
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ライナー「課題は……作戦立案の記述が十問か。厄介だな」ペラッ
サシャ「こういう問題苦手なんですよね……自分だけじゃなくて、周りの動きも一緒に考えるのってどうしても苦手で」
ライナー「そうは言っても、兵団にいるうちはいずれ必要になる知識だからな。蔑ろにするわけにはいかないだろう。――それに、教えてくれって言った割には結構書けてるじゃないか」ペラッ
サシャ「そうでしょうそうでしょう! 最近ちゃんと勉強してますしね!」
ライナー「間違いもあるけどな。問7なんかひどいぞこれ」
サシャ「……はい」
ライナー「どうする? 提出だけでいいなら埋め終わってないところだけ教えてやるが」
サシャ「……時間が許す限り、とことんお願いします!」
ライナー「上等だ。やるぞ。――と言いたいところだが」
サシャ「?」
ライナー「こっちも教える前に問題に目を通しておきたいからな。まだ手をつけてないところに挑戦しとけ。何問かあるだろ」
サシャ「そうですね……了解です! もう一回挑戦してみます!」グッ
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コニー「っしゃあっ! 俺も負けてらんねえ! 頼むぞベルトルト!」
ベルトルト「はいはい、わかったよ」
ベルトルト(とは言っても、人に教えたことなんかほとんどないからなぁ……どうしたらいいんだろ)
ベルトルト「それで、どこがわからないの?」
コニー「全部だ!」
ベルトルト「……」
コニー「全部だ」
ベルトルト「二回言わなくてもわかったよ。――じゃあまずは、僕から解く取っかかりになりそうなヒントを出すから。もう一度、問題を一から解き直してみてよ。どこがわからないのかを把握しないと、こっちもどうしたらいいのかわからないし」
コニー「おうっ! よろしく頼むぜ!」
ベルトルト「わからないところは飛ばしていいからね。――はいじゃあ頑張って」
-
―― 十分経過
コニー「終わった!!」
ベルトルト「えっ? もう?」
サシャ「早くないですか!?」
コニー「俺は素早いからな! 当然だろ」フフン
ベルトルト「コニー、ちょっと課題見せてくれる?」
コニー「いいぜ、ほらよ」スッ
ベルトルト「どうも。どれどれ……?」ペラッ
ライナー「ヒントをもらったとはいえ、こんな短時間で終わるとはな」
コニー「まあな。俺は天才だからな!」
ベルトルト「……」
コニー「どうだ? 完璧だろ?」フフン
ベルトルト「……」
ライナー「どうしたベルトルト、顔色悪いぞ?」
-
ベルトルト「……コニー、ちょっといい?」
コニー「おう、いいぜ! 天才の俺になんでも聞けよ」
ベルトルト「問3なんだけどさ。この5班ってのはどこから出て来たの? 問題には3班までしか出てないよね?」
コニー「ベルトルトがくれたヒントに出てただろ?」
ベルトルト「コニー……コニー。僕が出したさっきのヒントはね、僕が覚えてる範囲で、今回の問題に一番近い作戦を書き出したものであって、問題文とは関係がないんだよ。説明しなかった僕も悪いけど、なんで突然5班が出てくるんだよ。4班はいないのに」
コニー「4班はきっと休みなんだろ」
ベルトルト「……問7は作図問題だよね。『上の図で示した状況において、1班が離脱するための作戦を立案・作図せよ』。君はなんて書いたのかな。僕には読めないんだけど」
コニー「『できるわけねえだろそんなこと』って書いたぞ」
ベルトルト「コニー……コニー! これはね、答えがあるから問題になってるんだよ。だからできるはずなんだ。一緒に考えてみようね。わかった?」
コニー「ああ、よろしく頼むぜ」
ベルトルト「後さぁ……僕はさぁ、わからない問題は飛ばせって言ったんだけどさぁ……」
コニー「おう!」
ベルトルト「他の問題は真っ白じゃないか……どうするんだよ……」ズーン...
-
サシャ「……つまり、ほとんどどころか一つも終わってないってことですか?」
コニー「そういうことだなー」
サシャ「なーんだ。びっくりしちゃいましたよ」ホッ
ライナー「さっきの宣言はなんだったんだ」
コニー「俺なりの敗北宣言だ。『わかりません』って意味だな」
ベルトルト「……」
ライナー(ベルトルトの奴、大丈夫か……? 目が死んでるぞ……?)
ライナー「おい、気をしっかり持てベルトルト。俺と交替するか?」
ベルトルト「いや……平気だよ。ちょっと現実に打ちのめされただけだから」
コニー「あんまり考えすぎるのはよくねえぞ?」
ベルトルト「コニー、君はちょっとこっち来て。――ライナー、僕たちは少し離れたところでやるね。長くかかりそうだし」
ライナー「おう。……頑張れよ」
ベルトルト「うん。……うん、頑張る」トボトボ...
-
ライナー(コニーは先が思いやられるな……そう考えれば、サシャはまだマシか)チラッ
サシャ「……」ジッ...
ライナー「紙を睨んでも答えは浮かんでこないぞ、サシャ」
サシャ「すみません、問4がどうしても解けなくって……」
ライナー「五分悩んでもわからないなら飛ばしちまえ。そっちのほうが全体的なロスは少ない」
サシャ「五分ですか……でも、解くのに必死で時計見てられないんですが」
ライナー「……三回くらい目を通して、とっかかりが掴めなさそうなら飛ばせ」
サシャ「なるほど」ジッ...
-
サシャ(うーん……横に座っていた人がいなくなると寒いですね)プルッ
サシャ(こういう時は、確か……)ゴソゴソ
ライナー「……? お前、机の下でなにやってるんだ?」
サシャ「寒いので靴脱いでます」ゴソゴソ
ライナー「はぁ? そんなことしたら余計に寒いだろ?」
サシャ「こうするんですよー」ピトッ
ライナー「……おい、何してる」
サシャ「机の下で足絡めてるんですけど」
ライナー「……」
サシャ「あれっ? ライナーは寒くありませんでした?」
ライナー「あのなぁ……お前ほんっと……」
サシャ「おかしいですね……ミカサやクリスタはこれで喜んでたんですけど……そうだ、ライナーの靴も脱がせてあげましょうか?」
ライナー「よーし課題は一人でやれよ」ガタッ
サシャ「ああっ!? すみませんすみません、ちゃんとやります!」アタフタアタフタ
-
―― 同刻 屋外
エレン「やれやれ、やっと終わったなー」
アルミン「結構時間かかっちゃったね。手が冷たいや」サスサス
エレン「悪いなアルミン。この埋め合わせは今度するからよ」
アルミン「いいよ、気にしないで。どうせ暇だったし、僕も何枚か洗濯物あったからね」
エレン「とにかく、次はもうちょっと早めに洗濯するよ。約束する!」グッ
アルミン「それ、今年に入って五回目だよ……」ハァ
エレン「そうだったか? ……ん? あそこにいるのアニじゃねえ?」
アルミン「アニ? あっ、本当だ。――おーいアニ! どうしたのー?」
アニ「……ああ、エレンとアルミンか。コニーを見なかった?」
エレン「コニー? 今の時間なら食堂にいるんじゃねえの?」
アルミン「男子寮では見かけなかったよ」
アニ「そう。どうも」スタスタ...
ミカサ「どうもー」テクテク...
アルミン「いえいえ、どういたしまして」
-
エレン「アニがコニーに用事って珍しいな。――男子寮に戻ったら、コニーの部屋にも行ってみるか?」
アルミン「そうだね。もう戻ってる可能性もありえるし」
エレン「部屋にジャンやマルコがいたら言伝頼めばいいしな」
アルミン「うん、そうしよう。まずは部屋に戻ろうか」
エレン「……」
アルミン「……」
エレン「……今、ミカサがいなかったか?」
アルミン「いたね」
エレン「……」
アルミン「洗濯物干したら、僕たちも食堂に行ってみようか」
-
―― 食堂
アニ「コニーいる? 教官が呼んでるんだけど」スタスタ...
コニー「なんだよ課題か!? まだできてねえぞ!?」ビクッ!!
アニ「そういう雰囲気じゃなさそうだったけどね。……じゃあ、私は伝えたから」
コニー「悪いベルトルト、俺少し抜けるわ!」ガタッ
ベルトルト「なんで……? なんでこんなに説明してるのにわからないの……? 僕のやり方がまずいのか……?」ブツブツブツブツ
アニ「ライナー、ベルトルトに何かあったの?」
ライナー「おお、アニか。あいつは今、教育という壁にぶち当たって…………アニ?」
アニ「何」
ライナー「どうしてミカサを後ろに引き連れてるんだ……?」
アニ「……」チラッ
ミカサ「……」
アニ「説明して」
ミカサ「お安いご用」
-
ミカサ「私とアニは親友」
アニ「親友じゃない」
ミカサ「だから、一緒にいるのは当然」
アニ「当然じゃない」
ミカサ「パーカーのフードの下は……とても温かい。手袋よりも温かい。素敵」ヌクヌク
ライナー「アニを手袋にしてるのか? ミカサ」
ミカサ「違う。そんな冷たい扱いはしない。これは親友同士のスキンシップ」
サシャ「そんな……私との関係は遊びだったんですか!? ミカサ!!」ガタッ
ミカサ「そんなことはない。サシャも親友。お友だち」
サシャ「ならいいです」ストンッ
アニ「ライナー、この寒がりを引き剥がす方法知らない? 力技でもいいからさ」
ライナー「ないな。そもそもお前ら二人にぽんぽん投げられてる俺がどうにかできるわけないだろ」
アニ「……」チッ
-
サシャ「あんまりわがまま言うとアニが困っちゃいますよー、ミカサ」
ミカサ「親友は、時に相手を困らせる。それは青春の醍醐味」
アニ「そんな青春なんか願い下げだね」
ミカサ「サシャが膝枕してくれたら、ひとまずアニからは離れてもいい」
ライナー「……膝枕?」ピクッ
サシャ「私がですか?」
ミカサ「サシャの身体は程よく肉つきがいい上に、ほんのり温かい。私専用の湯たんぽにしたいくらい」
サシャ「仕方がないですねぇ……さあミカサ、私の膝の上にいらっしゃいませ!」ポンポン
ミカサ「おじゃまします!!」ゴロンッ
アニ「……」
ライナー「……」
サシャ「さて、続きをやりましょうか」
ライナー「その状態でやるのか?」
サシャ「ダメですかね?」
アニ「どう考えても邪魔でしょ。そんなの膝の上に乗せてたら」
-
待ってました!
このシリーズ大好きです
-
ライナー「おいミカサ、エレンやアルミンのところに行ったらどうだ?」
ミカサ「アルミンはくすぐったがりなので押さえつけるのが大変。エレンにはいつも逃げられる。とてもさびしい」
サシャ「それはお気の毒に」ナデナデ
ライナー「あのなぁ……サシャは課題をやってる最中なんだぞ? しかも今日中に片付かなかったら明日の朝飯も抜きだ」
ミカサ「ならば、私が第二の頭脳になろう」
ライナー「お前は何を言ってるんだ」
サシャ「まあまあ、私はちゃんと真面目にやりますから。このまま続けましょうよ」
ライナー「……サシャの邪魔だけはするんじゃないぞ」
ミカサ「おまかせ」
-
アニ「じゃあ、私は寮に戻るよ。ここの部屋、少し寒いし」
ミカサ「待ってアニ」ガシッ
アニ「……ちょっと。ミカサ、放して」
ミカサ「絶対にノゥ!!!」
アニ「……」イラッ
ミカサ「アニ。あなたはここにいなくてはダメ。私が部屋に帰れなくなる」
アニ「知らないよ。サシャにでも掴まって帰ってくればいいでしょ」
ミカサ「サシャの服にフードはついていない。部屋に戻る間に手が凍傷になってしまう」
アニ「とんだわがまま野郎だね」
ミカサ「私は女の子」
アニ「知ってるよ。……しょうがない、少しだけだからね。サシャ、もう少し端に寄って」ストンッ
サシャ「はーい」
ミカサ「おお……サンドイッチ。風が通らなくて、両側が温かい……両手に花」ヌクヌク
ライナー「……勉強してるんだぞ」
アニ「邪魔はしないよ。気にせずやって」
-
ジャン「なあマルコ」コトッ
マルコ「何?」コトッ
ジャン「なんかさぁ……あっちほうにさぁ……見てるだけで複雑な気持ちになるテーブルがあるんだけどよぉ……」ガリッ
マルコ「へえ、不思議な家具もあるもんだね。あとテーブルに爪は立てないほうがいいよ」
ジャン「なんで……なんで馬鹿二人が、女子三人に成りかわってんだよ……どう考えてもおかしいだろ……?」ガリガリ
マルコ「ジャン、爪で引っかいても女の子はそこから出てこないよ」
ジャン「俺が悪いのか……? なあマルコ、俺が悪いのか? 最初っから手伝ってやりゃあよかったのか?」
マルコ「僕はわかってるよ、ジャン。突き放すのも優しさだもんね。君は悪くないさ。今回は裏目に出たみたいけど」
ジャン「……」
マルコ「はいチェック」コトッ
-
サシャ「……」カキカキ...
ミカサ「……」スーハースーハークンカクンカ
ライナー「……」ペラッ
アニ「……」
アニ(暇だね。何かやることは……)キョロキョロ
アニ「ねえライナー、この本誰の?」ヒョイッ
ライナー「ん? ……ああそれか。ベルトルトのだ」
アニ「『チェス・プロブレム入門』?」ペラッ
ライナー「簡単に言えばチェスのルールを使ったパズルだな。暇なら読んでたらどうだ?」
アニ「でも私、チェスなんかやったことないんだけど」
ライナー「コマの動かし方は巻末に書いてある。それに入門編だからな、お前でも解けると思うぞ?」
アニ「ふーん……」ペラッ
アニ「……」
アニ「……サシャ、紙と鉛筆貸して」
サシャ「はーい、どうぞ」スッ
-
コニー「たっだいまー。――あー、重い重い」ドサッ
ライナー「おう、おかえり。いったい何の用事だったんだ?」
サシャ「それにその木箱はなんですか? 随分重そうですけど……」
コニー「これか? 実家からみかんが届いたんだよ。ほら」パカッ
サシャ「みかん!? その箱いっぱいにみかんが入ってるんですか!?」グルンッ
コニー「あっ。……やっべ」ササッ
サシャ「コニー、私たちは仲間じゃないですか! なんで隠すんです!?」ガタッ
ミカサ「あうっ」ボタッ
アニ「サシャ。膝からミカサが落ちたよ」カキカキ...
-
サシャ「みかんください! みかん!!」グイグイ
コニー「やらねえよ!! ええい、寄るな触るな近寄るな!」シッシッ
サシャ「くださいよ! くださいよ!! 私晩ご飯食べてないんですよコニー一人だけあとで寮でこっそり食べるつもりでしょうずるいですずるいですずるいですよ!!」ピョンピョン
コニー「あーもーうるせえってば!! ――ん? お前なんでブーツ脱いでんだ?」
サシャ「へ? これですか? これはさっきまで暖を取っていたので――」
ライナー「コニー! みかんは早く部屋に置いてきたほうがいいぞ!」
コニー「そうだな、その辺に置いておいたら誰かさんに食われるもんな!」ダッ
サシャ「ああっ、みかんがぁ……っ!」
アニ「サシャ。ミカサを拾ってあげなよ。震えてるよ」
ミカサ「……寒い」グスン
-
―― しばらく後
サシャ「みかん……みかん……」ブツブツ
ライナー「……お前、黙ってやれないのか」
サシャ「だって、お腹空いたんですもん……みかん……」
ライナー「課題終わらせないと朝飯もなくなるぞ?」
サシャ「それは嫌です……嫌なんですけど……ああっ、みかん……」
ライナー「口より手を動かせ。今何問目だ?」
サシャ「ええっと、さっき飛ばした問7抜かせばこれで8問目です。今は問9解いてます。そっちはできました?」
ライナー「……ちょっと待ってろよ、すぐ解くから」カキカキ...
サシャ「はあ、そうですか……じゃあ続きやってますね」カリカリ
ベルトルト「ねえライナー、問7解けた?」ツンツン
ライナー「いや、今やってる最中だ」
ベルトルト「ちょっと答え合わせしない? 僕も途中で詰まっちゃったんだ」
ライナー「いいぞ、そっちの解答見せてくれ」
-
―― 更にしばらく後
ジャン「……」コトッ
マルコ「チェック」コトッ
ジャン「……まいりました」
マルコ「今日だけで三つも勝っちゃったな。なんだか悪いなぁ」カキカキ...
ジャン「……いいってことよ」
マルコ「どうする? もう一勝負やる?」
ジャン「なあマルコ。俺、他にもっとやりたいことがあるんだ」
マルコ「何?」
ジャン「ハーレム作りたい」
マルコ「ジャン、ヤケクソにならないで。お願い」
サシャ「あのー……お楽しみの最中すみません」
コニー「ちょっといいか? 二人とも」
-
マルコ「サシャとコニーか。――何? どうしたの?」
サシャ「えっとですね、教えて欲しいところがあるんですけど……」
マルコ「僕たちに? でも、君たち二人ってライナーとベルトルトに聞いてたんじゃなかったの?」
コニー「……あれ」
ミカサ「だから、この問題は初期配置からおかしい。さっきも言ったはず」
ライナー「それだと話が進まないって結論になっただろうが。まず、ここは東の5班を援護に回してだな」
アニ「ダメだって。そんなの間に合うかどうかわからないし、第一そこからじゃ時間がかかりすぎるよ。現実的じゃないね」
ベルトルト「なら、西側の3班を使うのはどう? 中央の1班と合流すればなんとか――」
ライナー「待て待て。この配置じゃ合流できるかどうかすら怪しいぞ」
ミカサ「どうしてもこのまま進めるというのなら、こっちの4班を東側に――」
-
マルコ「なんだか白熱してるね。何があったの?」
サシャ「何があったと言いますか、普通に課題を教えてもらってただけなんですが」
ジャン「課題一つであんなになるわけねえだろ? いつもは会話に加わらないベルトルトまで議論に参加してやがるじゃねえか。異常だぞあれは」
コニー「ベルトルトはな、今は教育者モードなんだ」
ジャン「はぁ? なんだそりゃ」
サシャ「最初はベルトルトとライナーが答え合わせしてたんですけどね。途中からアニとミカサが参加しまして、あんな状態になっちゃって……」
マルコ「みんなが話し合ってる問題以外は全部片付いたの? 二人とも」
コニー「おう。ついさっき終わったぜ」
サシャ「後は、この問7さえ埋まれば提出しに行けるんですけど……」
マルコ「どれどれ?」ペラッ
ジャン「俺にも見せろ」ヒョコッ
-
―― 更に更にしばらく後
ジャン「東から回り込んで、挟み撃ちにしたらどうだ?」
マルコ「それだと離脱が間に合わないよ。5班が援護するにも距離がありすぎる」
アニ「今まで出た中ではいい案だと思ったんだけどね、やっぱり無理か」
ベルトルト「もう一回情報を整理しよう。ミカサ、そっちの紙取って」
サシャ「……」
コニー「……」
サシャ「ジャンとマルコがあっちの世界に行ってしまいました」
コニー「もう消灯まで時間もねえのに」
サシャ「いっそのこと、ユミルにでも聞きに行きましょうか? 今なら寮にいると思いますし」
コニー「教えてくれる代わりに無理難題要求してきそうだよな」
サシャ「……ユミルはやめましょう」
コニー「そうだな。もっと優しい奴がいいな」
-
エレン「よお、みんなで集まって何してんだ?」
アルミン「何かあったの?」
コニー「救世主っ!!」ガシッ
サシャ「神様ぁっ!!」ガシッ
アルミン「えっ? 何? 何??」ビクッ
サシャ「アルミン、この問7を……問7を解いてください! お願いします!」
コニー「俺たちを……いや、あそこにいる奴らもみんなまとめて救ってくれ! 頼む!!」
アルミン「問7? この空欄のところ?」
エレン「作戦の立案かー……俺こういう問題苦手なんだよなー」
アルミン「僕が解いちゃってもいいの?」
サシャ「この際なんでも構いません!」
コニー「お前だけが頼りだ!」
アルミン「じゃあ、ちょっと筆記用具借りるね。どれどれ……?」
-
―― 更に更に更にしばらく後
ジャン「じゃあ逆によ、2班を中央に行かせるのはどうだ?」
アルミン「それ引っかけじゃない? 僕も思いついたけど、そのまま進めても手詰まりになるよ?」
ライナー「これもダメか……打つ手なしだな」
マルコ「ミカサ、紙取ってくれる? あと鉛筆削りたいからナイフ持ってない?」
ミカサ「ナイフは誰かが相手を削いだら大変なので一番最初に撤去した。紙はもう残ってない」
ベルトルト「裏紙ならあるよ。はいマルコ」ペラッ
マルコ「どうも。えーっと……」カキカキ...
サシャ「……アルミンまで取り込まれてしまいました」
コニー「怖ぇよ問7」
エレン「もう教官に直接聞いてきたほうが早いんじゃねえか? あれだけ話し合っててダメなら俺たちには無理だろ」
-
サシャ「教官にですか?」
コニー「課題なのに聞きに言っていいのかよ?」
エレン「だって、わからないんだから仕方がないだろ? 今すぐ教官室行って、『他の奴にも聞いたんですけどわかりませんでした』って白状したほうがずっと早いって」
エレン「仮に疑われたとしても、あそこで証拠の塊がまだ議論してるしな。なんか言われたら教官をここに連れてくればいいだろ」
コニー「……しゃーねーな。他は全部埋まってるし、なんとかなるか」
サシャ「ですね。行きましょっか」
コニー「俺ら提出したら一旦ここに戻ってくるからさ、あいつらのこと頼んでいいか? エレン」
エレン「おう、あいつらが正気に戻ったら説明しておく」
サシャ「すみません、じゃあお願いしますね」
エレン「頑張れよー」フリフリ
-
―― 教官室前
コニー「あー緊張する……」
サシャ「ここでうだうだしてても仕方ないですよ、覚悟決めて行きましょう! ――失礼します!」ガチャッ
キース「……スプリンガーとブラウスか」ギロッ
コニー「」
サシャ「」
コニー(なんでよりにもよってキース教官が残ってんだよ!?)
サシャ(怒られる怒られる怒られる怒られる)ガタガタガタガタ
キース「貴様ら、課題はできたのか?」
コニー「はっ、終了しました! ……一応」
キース「一応?」ギロッ
サシャ「はっ! 一問だけわからないところがありましたので、聞きに参りました!」
キース「見せてみろ」
コニー「……どうぞ」スッ
-
キース「……」ジッ...
コニー(やっぱり黙ってると怖ぇな、教官……なんか喋れよサシャ……)チラッ
サシャ(やっぱり黙ってると怖いですね、教官……なんか喋ってくださいよコニー……)チラッ
キース「問7だが、これは前提条件に誤りがある。よって、問題として成立しない」
コニー「……ということは?」
キース「この問題は飛ばして構わん。……残りも目を通した限り、大筋では間違っていないので問題なし」
コニー「…………つまり?」
キース「終わりだ」
サシャ「そ、そうですか……」ホッ
コニー「じゃあこれで……」
キース「明日の朝食はいつも通り出してやる」
-
コニー「……」
サシャ「……」
キース「不満か?」
サシャ「いっ、いえいえいえそんなことはありません!」ブンブンブンブン
コニー「ありがとうございましたぁっ!」
サシャ「それでは失礼しますっ!」
キース「……待て、ブラウス。貴様にはまだ話がある」
サシャ「えっ? 私ですか?」
キース「そうだ。――スプリンガーは行ってよし」
コニー「……はっ! それでは失礼いたします!」バッ!!
コニー(悪いなーサシャ。先に行ってるぜ!)
サシャ(……って顔してますね、あれは。ううっ、コニーだけずるい……)
-
キース「座れ」
サシャ「あ、いえ、立ったままでも――」
キース「座れ」
サシャ「……失礼します」ストンッ
キース「……」
サシャ「……」
サシャ(ちっ、沈黙がきつい……っ! 私、何かしましたっけ……?)
サシャ(最近食料庫には盗みに行ってませんし、罰則受けるのも久々ですし、他に心当たりなんて――)
キース「近頃成績をあげているようだな、ブラウス」
サシャ「はっ! ……はっ? 成績??」
キース「立体機動の成績は元々悪くなかったが、苦手科目だった座学や技巧が伸びたおかげで、全体的な成績が底上げされてきている」
キース「今さっき提出した課題も、以前までの貴様なら今日中に提出など無理だったはずだ。誰かの手を借りん限りはな」
サシャ「……」ギクッ
サシャ(ば、バレてる……もしかして、手伝ってもらったのがまずかったんでしょうか……)ドキドキ
-
サシャ「教官殿のご指摘の通り、他の人に教えてもらった部分もありますが……全てではありません」
キース「わかっている。問5は貴様一人で解いただろう」
サシャ「わかるんですか?」
キース「途中の詰めが甘い」
サシャ「……なるほど」
キース「――それで、ブラウスはどうするつもりだ? 今後は」
サシャ「? 今後と言いますと?」
キース「成績を上げているということは、卒業後は憲兵団に行くのか?」
サシャ「それは……まだ、決めていません」
キース「説明がつかんな。目的意識もなく、ここまで成績が上がるはずもない」
サシャ(教官は鋭いですね……目的はありますけど、教官に話すようなことじゃありませんし、話を逸らした方が……あっ)
-
サシャ「あの、教官殿は……昔は調査兵団所属だったんですよね?」
キース「何? ……何故知っている?」
サシャ「秋の山岳訓練の時に、椎茸のホダ木に押してあった焼印を見ました」
キース「……そうか。貴様は確かブラウンの班だったな」
サシャ「はい。――それで、その、個人的に聞きたいことがあるのですが、構いませんか?」
キース「くだらん質問なら朝食は抜きだ」
サシャ「くだらないかどうかは、わからないのですが……教官殿は、その、壁の外に出て行くのは怖くなかったのですか?」
キース「……ふむ」
-
キース「私が調査兵団に所属していたのは、壁の奪還という名目がなかった時期だ」
キース「『壁の中にいる限り、安全に暮らすことができるのに何故外に出ようとするのか』……壁外調査に行く度にそう言われていたな。税の無駄遣いだと罵られたことは数えきれん」
サシャ「それでも、壁の外へ出て行ったんですよね? 何故ですか?」
キース「……調査兵団に所属して、初めての壁外調査の時だったか」
キース「壁ではなく地平線から昇る朝陽を、私はこの目で見たことがある」
キース「あの美しさは……言葉には表せられんな」
サシャ「……朝陽、ですか」
キース「そうだ。壁内では見られない景色を見られるのは、調査兵団ならではの醍醐味だ。あの朝陽をもう一度見られるなら、巨人の脅威など大したことではない」
キース「それにやはり、自らの行く先を自らの力で切り開いていくのは――血が滾る」
-
キース「ブラウスよ。貴様は『死ね』と命令されたら死ねるか?」
サシャ「……いいえ、できれば死にたくありません」
キース「当然の答えだな。だが、実際『死ね』と命令されて死ぬのは、それほど難しいことではない。――『死ね』と言われた友を見捨てることのほうが、余程難しい」
キース「負傷した友を助けるために巨人の元へと引き返す者、友の亡骸だけでも壁の中へ連れて帰ろうとする者……友を見捨てきれずに巨人の餌食となった者は、決して無視できる数ではない。もちろん、巨人と相対して亡くなった者の数とは比ぶるべくもないがな」
サシャ「……」
キース「先程の問7の状況は、問題として成立はしていない。だが、もし仮に調査兵団に入れば、こんな問題よりも遥かに理不尽なことがいつでも起きる」
キース「再度聞こう、ブラウス。――貴様は『死ね』と言われた友を見捨てることができるか?」
サシャ「…………私は、その」
キース「今すぐに答える必要はない。だがな、もしも貴様がこの先調査兵団に入りたいと願うのなら、その答えを見つけておけ。これは私からの宿題だ」
-
キース「つまらん話をしたな。もう行け」
サシャ「いえ……ありがとうございました」スクッ
サシャ「……」スタスタ...
サシャ「……あの」
キース「なんだ」
サシャ「どうして私にだけ、そのような話を聞かせてくれたのでしょうか」
キース「いいことを教えてやろう。自らの頭で考えようとしない奴は、巨人に食われる前に真っ先に死ぬ」
サシャ「……失礼しました」ペコッ
-
―― 廊下
サシャ「……」トボトボ...
サシャ(なんで私だけ残して、進路の話をしたんでしょう……)
サシャ(そりゃあ、コニーは憲兵団志望って前から言ってますけど。……ああそっか、コニーはもうどうするか決めてるんですよね。偉いなぁ……)
サシャ(……私って、そんなにフラフラしてるように見えるんでしょうか。自分では、少しはしっかりしてきたと思ってたんですがね……)
サシャ(……さっきの話、「聞かなきゃよかった」とは言いませんけど)
サシャ(一人で考えるには、ちょっぴり重たいですね)
サシャ「……はぁ」
「――ため息ついてると幸せ逃げるぞ?」
-
サシャ「……ライナー? どうしてここに?」
ライナー「先に戻ってきたコニーに聞いてな。――おかえり、サシャ」
サシャ「……サシャ・ブラウス、ただいま帰りました!」バッ!!
ライナー「敬礼しなくていいぞ」
サシャ「そうですね。すみません……なんかクセになっちゃってて」
ライナー「……なんだ、元気がないな。そんなに教官に絞られたのか?」ジッ...
サシャ「違いますよ、怒られたわけではないんです。追加で宿題はもらっちゃいましたけど」
ライナー「宿題? 明日でいいなら見てやろうか?」
サシャ「……いえ、自分一人で考えます」
ライナー「そうか。わからなくなったらいつでも声かけろよ?」
サシャ「はい。……あ、そうだ」
-
サシャ「あの、私ってそんなにフラフラしてるように見えますか?」
ライナー「そうだな。危なっかしくて目が離せん」
サシャ「うぐぐ……やっぱりそうなんですか……」ギリッ...
ライナー「ははは、本当に困ったもんだ」
サシャ「なんでそんな嬉しそうに言うんですかぁっ! こっちは真剣に悩んでるのにぃっ!」プンスカ
ライナー「すまんすまん。――なあサシャ、ちょっと外へ行かないか?」
サシャ「外へ? 今からですか?」
ライナー「今じゃないとダメだ。見せたいもんがあるんだよ」
サシャ「見せたいもの……? でも、もう外は真っ暗ですよね? 見えるんですか?」
ライナー「いいから行くぞ」グイッ
サシャ「わっ! 引っ張らないでくださいよ!」タタタッ
-
―― 営庭
サシャ「わぁっ……! 雪! 雪! 雪降ってますよ!?」
ライナー「ついさっき降り始めたところだ。お前、朝から楽しみにしてただろ? 元気出たか?」
サシャ「はい、出ました! ――もしかして、これを教えるために待っててくれたんですか?」
ライナー「それだけじゃないけどな。他の奴にあまり見せたくなかったってのもある」
サシャ「……? 何をです?」
ライナー「どっかの誰かが初雪ではしゃぐ姿をだ」
サシャ「……もうちょっと、おしとやかにしたほうがいいんでしょうか」
ライナー「そんなこと考えなくていい。元気よく走り回ってるほうが、こっちも見てて気分がいいからな」
サシャ「そうですか……なら、気にしません」
ライナー「どうせ明日からまたはしゃぎ回るんだろうけどな、今日のところは独り占めさせてもらうぞ?」
サシャ「……どうぞ、ご賞味ください」
ライナー「ああ、ごちそうさま」
サシャ「……お粗末様でした」
-
―― 食堂
サシャ「誰もいませんねー」キョロキョロ
ライナー「全員寮に帰ったんだろ。だが、灯りがそのままなのは不用心だな。火事になったらどうするんだ」
サシャ「私、忘れ物がないかどうか見て回りますね。えーっと……」スタスタ...
ミカサ「……」プルプルプルプル
サシャ「……ライナー、忘れ物ありましたー」
ライナー「誰のだ?」
サシャ「ミカサです。ミカサ本体です」
ミカサ「本体でーす……」プルプルプルプル
ライナー「……本体だな」
-
ミカサ「さ、サシャ……私を部屋に帰して……」プルプルプルプル
サシャ「こんなところで縮こまってどうしたんです? ミカサ」ツンツン
ミカサ「アニに置いていかれた……ここの食堂は、とても寒い……」
ライナー「置いていかれたって……何したんだお前」
ミカサ「ちょっとしたスキンシップを……」
ライナー「スキンシップ?」
ミカサ「パーカーのフードの下に手を入れたら怒られた。……ので、脇に手を突っ込んでみた」
サシャ「脇ですか? でも脇に突っ込んでもあまりあったかくない気が」
ミカサ「こうやって」ズボッ!!
サシャ「ひゃああああああっ!?」ビクッ!!
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ミカサ「ふむ……サシャの二の腕はアニの腕よりも柔らかい。胸よりはやっぱり少し固いけれど」モニュモニュ
サシャ「くっ……くくく比べないでくださいよぉっ!! もうミカサなんて知りません置いていきます!」ダッ
ミカサ「ああっ、待ってサシャ……! 外は寒い、一人で行くのは危険……!」ヨロヨロ...
ライナー「……ミカサ」
ミカサ「何?」
ライナー「任務完了だ」
ミカサ「任務? 何の話?」
ライナー「こっちの話だ。……お前、いい仕事したな」
ミカサ「??」
ライナー「ほら、早く行かないと置いて行かれるぞ。あとアニに謝っとけよ」
ミカサ「部屋に帰ったら謝るけれど、部屋に帰れない……寒い……」フラフラ...
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―― 廊下
ミカサ「サシャ、待って、置いていかないで……」ヨロヨロ...
サシャ「……反省してます?」
ミカサ「している。……ごめんなさい」プルッ
サシャ「もう……次やったら置いてきぼりにしますからね。今日のところは手を繋ぐくらいで我慢してください」ギュッ
ミカサ「わかった。がまんする」コクコク
サシャ「わっ、結構手が冷えちゃってますね……本当に寒がりなんですね、ミカサは」
ミカサ「……この時期は、とても心細い」ギュッ
サシャ「じゃあ心細くならないように、私が握っててあげますよ」ギューッ
ミカサ「……嬉しい」
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サシャ「ミカサは、冬は嫌いなんですか? 私は好きなんですけど」
ミカサ「嫌いではないけれど……寒いので、あまり得意ではない。――でも、雪は好き」
サシャ「雪ですか……いいですよね、雪。さっきやっと降り始めましたよ」
ミカサ「何度か、エレンやアルミンと一緒に雪道を散歩したことがある。あれはいいものだった」
サシャ「散歩ですか……雪が降ったら、私とも一緒に行ってくれますか?」
ミカサ「手袋になってくれるなら」
サシャ「あはは、正直ですね。いいですよ」
ミカサ「……今年は、いっぱい積もるといい」
サシャ「そうですね」
サシャ「――冬の醍醐味は、これからですよね!」
おわり
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読んでくださった方&途中レスしてくださった方ありがとうございました! お待たせしてすみません、ポケモンやってました
というわけでおっぱい&初雪の話でした 教官の宿題は後々回収する予定です
他におっぱいの別スレが立っててネタが被ったらどうしようかと思ったけどそんなことはなかったぜ!!よっしゃ!
次回からはがっつり雪の話をします そんなわけでまた来週!
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乙です
今回もみんな可愛かった!
また来週も楽しみにしてます
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乙乙!
楽しかった
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乙!
今回も楽しませてもらいましたよ!
ポケモンで遅くなったのかwww
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集団下痢便テロ予告を知ってか、奴らに気付かれる前に三時間で勝負を決めるとはこの1できる…!
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乙!楽しかった!
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乙!
寒がりミカサ本体可愛すぎるwww
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おっぱい!おっぱい!
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サシャの心のつぶやきが敬語なのに違和感がありますが主はいかがでしょう?
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>>92 さん
自分は東北訛りがあるのですが、話し言葉は方言でも思考が方言になったことはないので、モノローグに関しては今後も基本的に丁寧語or標準語で進めていくつもりです
申し訳ありませんがご了承ください
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新作はまだかなー?
楽しみに待ってます!
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今週はお休みでしょうか。待ってます。
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