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ξ )ξストール女のようです
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百物語2015参加(に間に合わなかった)作品です。
アイディアを譲ってくださったTさんに感謝。
2回に分けての投下します。
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1、
内藤が彼女と出会ったのは、二十一歳の春。
その日 彼は大学の友人らと共に、都内のとあるバーに訪れていた。
( *^ω^)「こういうの、いいおね! 大人の男って感じで」
(*'A`)「さすがショボ。ショボが紹介する店ってハズレないよな」
(*´・ω・`)「買いかぶりすぎだよ。全部先輩の受け売りさ」
三人はボックス席で、各々好みの酒を飲んでいる。
痩せこけた青年の名は毒島、下がり眉毛の青年の名は八木。
彼等は高校の頃からの知り合いであり、大学生となった今でも
三人で遊ぶことが多かった。
( *^ω^)「僕は次のを注文するけれど、二人は何か頼むかお?」
内藤はメニューを眺めながら尋ねる。
(*´・ω・`)「僕はチェイサーでお願い」
(*'A`)「俺はパス」
(*-A-)「てかお前、今週は金欠だって騒いでたが、そんなに注文して平気なのか?」
( *^ω^)「心配無用。今日は僕の誕生日だから、二人に奢ってもらうんだお!」
(#'A`)「勝手に決めるな」
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そんな風に談笑している時だった。
彼等が座っているボックス席にウェイターがやってきた。
これ幸いと内藤は注文しようと口を開くが、しかしウェイターはそれを手で制す。
( ^ω^)「?」
ウェイターは「失礼ですが……」と前置きし、彼等に質問をした。
(=゚ω゚)「内藤様は、どなたでしょうか?」
.
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顔を見合わせる3人。これはどういうことだろう。
( ^ω^)「僕ですが……」
内藤がおずおずと返事すると、ウェイターは彼の前にカクテルを置いた。
ロンググラスに注がれた液体は赤く、輪切りのレモンが添えられている。
事態が呑み込めず、内藤は首をかしげる。
するとウェイターはスッと手を挙げ、内藤の背後を示す。
つられて内藤が振り返ると、カウンターの隅に一人の女性が座っていた。
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ξ )ξ
彼女の髪はブロンドであり、薄暗い店の中、一際輝いて映る。
まとっているのは、肩を出した黒いドレス。
首にはラベンダー色のストールが捲かれており、それがアクセントとなっていた。
顔はこの席から全てを伺うことはできず、しかしスラリと高い鼻はハーフを連想させる。
ぼぅと彼女に見惚れる内藤。
そんな彼にウェイターは、こう告げた。
(=゚ω゚)「あちらのお客様からです」
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ストール女のようです
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先に言葉を発したのは、八木だった。
(*´・ω・`)「……知り合い?」
((( ;^ω^)))
内藤は首を横にぶるぶると振った。
マナーモードのような内藤を見て、毒島は小声で叫ぶ。
(*'A`)「スゴいぞブーン! 逆ナンだぞ!」
( ;^ω^)「やっぱり、そうなのかお……?」
店の洒落た雰囲気に感嘆していた内藤。
だが、映画のような台詞を聞くとは思ってもいなかった。
( ;^ω^)「こういう時って、どうすればいいんだお……」
(*´・ω・`)「とりあえず、話してきなよ」
( ;^ω^)「おー…」
(*'A`)「ほれさっさと行け」
戸惑いながら席を立った内藤の背中を、毒島と八木が推す。
内藤は赤いカクテルを抱え、ゆっくりと女性の元へ向かった。
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( ^ω^)「あ、あの」
声をかけると、女性が振り返る。
凛とした表情は、例えるなら薔薇だろうか。
内藤は会釈をすると、彼女の隣に腰かけた。
( ^ω^)「カクテルあ、りがとうございます」
普段の変な喋り癖が出ないよう、内藤は細心の注意を払う。
ξ゚⊿゚)ξ「突然ごめんなさいね。でも」
彼女はじっと内藤を見つめる。
ξ゚ー゚)ξ「どうしても渡したかったの」
彼女の瞳は深い海のように蒼い。
瞳の中央には、内藤の姿が小さく映っている。
溺れているようだと、彼は思った。
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ξ゚⊿゚)ξ「だって、今日は特別な日だもの」
( ^ω^)「そう、なんですか?」
ξ゚ー゚)ξ「貴方の誕生日でしょう?」
( ^ω^)「え?」
内藤は酔った頭を必死に働かせる。
この女性とは初対面だ。
自分の誕生日を元から知っていたことはあり得ない。
ならば導き出される答えは一つ。
先程の会話が彼女にまで聞こえていたのだ。
( ;´ω`)「声が大きかったですか? すみません……」
ξ*^ー^)ξ
女性は優しく静かに微笑んだ。
ふっくらと赤く艶やかな唇。
頬がきゅぅと窪み、えくぼができあがる。
彼の心臓が強く跳ね、鼓動が早くなった。
.
-
内藤は愚鈍な脳を懸命に回転させ、会話を考える。
( ^ω^)「これは……ブラッディ・メアリーですよね?」
彼は、受け取ったカクテルについて話すことにした。
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、そうよ」
ξ゚ー゚)ξ「貴方が好きそうな気がしたから。当たってるかしら?」
( ^ω^)「はい! ウォッカもトマトジュースも大好きです」
ξ゚⊿゚)ξ「度数低めで調節してもらったけれど、辛かったら無理しないで頂戴」
( *^ω^)「ありがとうございます。でも僕、お酒は強い方なんで、大丈夫ですよ」
内藤の父は酒が飲めない体質である。
ビールの一滴が舌に触れただけで、顔がみるみる青ざめる程に弱いのだ。
一方 内藤自身は、酒豪とまではいかないが
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かなり飲める方である。
例えば毒島・八木と飲み比べをしたなら、十中八九 内藤が勝つはずだ。
( ^ω^)(お母さんの血だおね、きっと)
内藤はぼんやり考える。
栗毛髪の女性が、脳裏に淡く浮かぶ。
だがそれが、像を結ぶことはない。
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ξ゚ー゚)ξ「意外、その予想は外れたわ」
内藤の意識が現実へ、目の前の女性へと引き戻される。
彼女は、自分のグラスに触れる。
内藤もつられて、己のグラスへ口付けた。
( *^ω^)(おっ)
赤黒い液体は舌に纏わりつき、程よい酸味で舌を痺れさせる。
暫くすると、それはどろりと喉を降りていく。
『血みどろ』とは、言い得て妙だ。
内藤は、ブラッディ・メアリーを、半分程 飲む。
( *^ω^)「美味しいお……」
グラスをカウンターに置いてから、しまったと内藤は顔をしかめた。
( ;´ω`)(うっかり「お」って付けちゃったお)
これでは恰好がつかない。
幻滅されただろうか。
不安が内藤の心に広がる。
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ξ*^ー^)ξ「可愛い子ね」
と、白く滑らかな指が内藤の髪をかき上げる。
そして中指で内藤の頬をゆっくり なぞる。
ξ*゚ー゚)ξ「素敵」
内藤の体が熱くなっていくのは、アルコールのせいではないだろう。
ξ*゚⊿゚)ξ「私、その喋り方 好きよ?」
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( ^ω^)「そう、ですか……お?」
ξ゚ー゚)ξ「ええ」
( *^ω^)「おっおっ!」
内藤の緊張が するすると解けていく。
ξ*゚ー゚)ξ「貴方、お友達にはブーンと呼ばれているの?」
( *^ω^)「はい、幼稚園の頃からなんですお」
ξ*゚ー゚)ξ「大学生の今でも、そのあだ名なのね」
( *^ω^)「でも僕、これ結構気に入ってるんですお!」
( *^ω^)「ところで、お姉さんの名字は何ですかお?」
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ξ*゚⊿゚)ξ「私? つだよ。つだきょうこ」
( *^ω^)「じゃあ、ツンさんて呼んでいいですかお?」
ξ*゚ー゚)ξ「構わないけど……どうして?」
( *^ω^)「なんとなくですお!」
ξ*^⊿^)ξ「なんとなくって……」
ξ*゚⊿゚)ξ「でも良い響きね。ありがとう」
( *^ω^)「おっおー!」
内藤は夢中で彼女と話す。
まさに夢をみているような心地だった。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
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(*'A`)「楽しそうに話してんなぁ」
毒島と八木は、内藤の様子を眺めていた。
かれこれ小一時間経つが、二人の会話は止みそうにもない。
(*´-ω・`)「ね。邪魔するのも悪いし、先に帰っちゃおうか」
(*'A`)「だな」
(#-A-)「あーあ、ついに三人の中で非リアは俺だけか。チクショウ」
(*´・ω・`)「まあ落ち込まないで」
毒島をなだめつつ、八木は会計を済ませる。
(*´・ω・`)「ほら行こう」
(*-A-)「おう」
店から出ようと扉を開けると、夜風が八木の額を撫でた。
とても涼しく、心地よい。
すぅと八木の酔いが醒めてゆく。
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(´・ω・`)(そういえば)
彼はふと、ウェイターの言葉を思い出す。
同時に素朴な疑問が浮かんだ。
内藤、毒島、八木は互いのことをあだ名で呼び合う。
それは今日とて例外ではない。
ではなぜ……
(´・ω・`)(あの人は、ブーンの苗字が分かったんだろう?)
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2、
あの夜から内藤は、津田京子と頻繁に会うようになる。
いや、『会うように』でなく『会いにくるように』が正しい表現だろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン!」
内藤が講義を受け終え教室から出ると、いつも津田が迎えに来ていた。
彼女は毎日鮮やかなストールを首に巻いており、
内藤はそれを目印に彼女を探すのだ。
( *^ω^)「お、ツン!」
だが大抵は津田が発見する方が早かった。
合流した後は、津田の作った弁当を外で一緒に食べるのが日課である。
ある人は「これは束縛が強すぎる」と嫌がるかもしれない。
だが内藤は不快に感じることはなく、
むしろ「僕と同い年なのに毎日弁当作るなんて偉いなぁ」と
(少々的外れな)感心をするばかりだった。
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ξ*゚⊿゚)ξ(^ω^* )
食事をしながら、内藤は津田に様々なことを話した。
いわゆる転勤族で、小中学生の頃は頻繁に引っ越していた、
トマトジュースは好きだが生のトマトは嫌い、
この前は鍵の入った財布ごと先輩に貸したため家に入れなくなった、
だから鞄の内ポケットに予備の鍵を入れることにしている、
ベランダにある夕顔の花が咲いた、
近所に住む野良猫が可愛い、などなど。
内藤は小学校での出来事を自慢する子供のように様々なことを語り、
津田は目を輝かせてそれに聞き入るのだ。
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思えば彼は、津田に母の面影を見出していたのだろう。
内藤の母親も、えくぼが魅力的な人だった。
ζ( ー *ζ
だが内藤は、母親の顔を鮮明には覚えていない。
何故なら 内藤の両親は彼が六歳の時に離婚したからだ。
ある日突然 父親に連れられて家を出て、それ以来彼女には合っていない。
小学生の頃に内藤は、何度か父親に離婚の理由を尋ねた。
が、その度に父親は渋い顔をするので、
内藤は追求することを諦めてしまっていた。
現在内藤が彼女に関して知っているのは、名前と年齢だけである。
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最終レポートも提出し終えた7月末、津田は内藤にある提案をした。
ξ゚⊿゚)ξ「来週の土曜日に映画を見に行かない?」
( ^ω^)「映画かお?」
ξ*゚ー゚)ξ「ほら、ブーンが楽しみにしてた」
内藤は、自分が一ヶ月前に津田に話したアクション映画のことを思い出す。
ξ゚⊿゚)ξ「あれの公開日でしょ?」
( *^ω^)「覚えててくれたのかお!」
ξ゚⊿゚)ξ「当たり前じゃない。それでチケットは買ってあるんだけど……」
津田は すかさずスマートフォンを取り出す。
画面には、既に映画館のサイトが表示されている。
ξ゚⊿゚)ξ「この時間でどうかしら? レイトショーだから空いてると思うの」
( ^ω^)「うーん……これ、終電に間に合うかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「終電?」
津田がくすりと笑う。
夏風になびく空色のストール。
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ξ゚⊿゚)ξ「どうして終電が関係あるの?」
( ;^ω^)「え、だって帰れなくなっちゃうお」
ξ゚⊿゚)ξ「帰るの?」
( ^ω^)「帰らないのかお?」
津田は内藤の耳元に口を寄せる。
ふわりと、甘いの香りが漂う。
そして、彼女は小声で囁いた。
ξ* ⊿ )ξ「二人で泊まればいいじゃない」
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( ゚ω゚)「!」
童貞の彼は、そこでようやく津田の意図を理解する。
ξ゚⊿゚)ξ「嫌?」
( *゚ω゚)「そそそそんなことないお!」
耳まで真っ赤にした内藤は、照れ隠しに弁当をかきこむ。
ξ* ー )ξ「ふふ」
津田の眼に怪しい光が宿ったが、
興奮している内藤が気づくことは全くなかった。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
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(´・ω・`)「やあドクオ」
昼下がりの教室。
鞄に荷物を詰め終えた八木は、遠くに毒島の姿を見つけ近寄った。
('A`)「よお。……あれショボもこの講義取ってたっけ?」
(´・ω・`)「いや、僕は前のコマだよ」
('A`)「ああ、ブーンと一緒のやつか」
('A`)「ブーンは?」
(´・ω・`)「すぐさま教室を出ていったよ」
('A`)「またか」
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(´・ω・`)「羨ましい程に仲良しだね」
('A`)「ベッタリしすぎじゃねぇか?」
八木とは対照的に、毒島は若干の嫌悪を示す。
(-A-)「津田さんも、他大の学生なんだろ。あれでちゃんと単位取れてるのか?」
(´・ω・`)「まあ……双大の理系キャンパスはここから近いから、平気じゃないかな」
内藤と同じクラスの八木は、内藤からのろけ話を聞く機会も多かった。
('A`)「津田さん双大なのか」
(´・ω・`)「うん。工学科らしいね」
('A`)「…え」
毒島が黙りこむ。
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(´・ω・`)「どうしたの?」
('A`)「いや……双大の友人がさ」
(-A-)「工学科は女子が一人もいねぇって前に愚痴ってたんだよ」
誇張してたんだな、と毒島は補足をする。
(´・ω・`)「……」
今度は八木が黙る番だった。
(´・ω・`)(なんか、変だな)
4月に店を立ち去る時 覚えた違和感。
それが更に膨らんでゆく。
(´-ω-`)(……)
(´・ω・`)(シャキおじさんに、相談だけでもしようかな……)
八木が思い浮かべたのは、探偵業を営む伯父の顔だった。
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以上です。残りは明日投下予定
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乙
謎の残し方が上手だな 不安を掻き立てて来る
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短編って感じで良いね。
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+ +
∧_∧ +
(0゜・∀・) ワクワク
(0゚ つと) +テカテカ
と__)__) +
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面白い!すごく引き込まれる文章でさらっと読めたし、続きも気になる!
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おつ
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いいとこでとめたな
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乙乙、続きが気になる
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まだかなー
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すみません、投下が予定より遅れてしまいました
体調を崩して寝込んでいた次第です
急激に気温が変化していますが、皆さんも体を壊さぬようお気を付けください
それでは投下します
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3、
深夜のファッションホテル。
薄暗い一室で内藤は目を醒ました。
隣には、静かに眠る津田。
内藤はむくりと体を起こす。
( ´ω`)「おー…」
ふと数時間前の自分の行動を思い出す。
( ´ω`)(どうして僕は……)
内藤は深い深いため息をついた。
彼は津田を起こさぬよう注意しながら、ベットから抜け出す。
そして のろのろとトイレへ向かった。
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端的に言えば、内藤は失敗をした。
出だしは好調だった。
内藤はリラックスしてデートに臨んでいた。
映画と食事を終えた時、既に彼は『準備万端』であったのだ。
だが部屋に入り、津田がシャワーを浴びた頃から雲行きが怪しくなる。
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ξ* ー )ξ「いよいよね」
バスローブを羽織った津田が、うっとりと内藤をみつめる。
瞳が、オレンジの照明光を受け、怪しく黒くてらてらと光った。
それは、怪物が蠢いているような 暗い海底、
或いは、月明かりも届かぬ奈落の底を連想させた。
ゾワリと鳥肌が立つ。
( ; ω )
この時 内藤は、初めて津田を不気味だと感じた。
理由は自分でも分からない。
( ; ω )(逃げなきゃ……だお)
脈絡のない思考が浮かび、内藤本人も困惑する。
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( ;^ω^)(逃げる? なんでだお?)
( ;^ω^)(緊張で混乱しすぎだお、この童貞が)
彼は自分自身を笑い飛ばす。
しかし、漠然とした恐怖は払拭されず、心の底にべっとり張り付いた。
そんな状態では勃つはずもなく、
( ´ω`)「ごめんだお……今日は無理そうだお……」
ξ^ー^)ξ「落ちこまないで。初めては緊張するらしいし」
内藤は断念したのだった。
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( ^ω^)「ふぅ」
手洗いを済ませた内藤は、ベットへと戻った。
津田の頬に覆いかぶさる金髪を、彼はそっと彼女の耳にかけてやる。
彼女は、微笑みを浮かべていた。
長くカールしたまつげ。
いつか飲んだブラッディメアリーのように赤い唇。
そこから小さな寝息が漏れる。
シンメトリーで整った顔立ちは、まさにフランス人形のようだ。
内藤は、先ほどとは別種のため息をつく。
自責ではなく、感嘆だ。
( ^ω^)(ツンはやっぱり綺麗だお)
( ^ω^)(さっきのは、あれだお。綺麗すぎて怖くなったんだお。きっと)
( ´ω`)(相当なヘタレだおね、僕…… 次は頑張らないと)
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目線を胸に移そうとし、ふと内藤は奇妙なことに気付く。
今の津田は下着も身につけていない。
だが彼女の首には紺色のストールが巻かれていたのだ。
思い返せば、津田は行為の最中も付けたままだった。
外し忘れたのだろうと、内藤は推測をする。
( ^ω^)(ツンの首が絞まったら大変だお)
彼は津田を抱き起こす。
彼女の肌はシルクのように白くなめらかで、そして冷たい。
内藤は津田を起こさぬよう、左手でそっとストールを解いていく。
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そうしてストールの下から現れたのは、
( ;^ω^)「…え?」
――老婆のように皺だらけの皮膚だった。
内藤は言葉を失う。
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鎖骨上部の一帯が黄ばんでおり、黒いしみも点在している。
喉の近くには、赤く不自然に隆起した痣があった。
首回りの皮膚は、他の肌と比べても、明らかに異質だった。
内藤の全身から嫌な汗が噴き出す。
( ;^ω^)「と、特殊メイクかな……」
彼の脳内で、何かが警鐘を鳴らす。
心臓がどくどくと騒ぎはじめる。
口の中が乾いてゆく。
( ; ω )「そうに決まってるお……」
内藤は自分に必死に言い聞かせる。
だが気付けば彼は、部屋を飛び出していた。
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4、
内藤は何かから逃げるように夜の街を掛けた。
そして息も絶え絶えになりながら、自宅前へと辿りつく。
幸い、鍵の入った財布はズボンに入れたままだった。
中へ入り震える手で鍵をかけると、彼は玄関に座りこむ。
喉は渇き、焼けたように痛い。汗で濡れた服が体に纏わりつく。
( ;´ω`)「……」
( ;^ω^)「取りあえず、水、飲むお」
足に力を入れ、なんとか立ち上がる。その時だった。
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リリリリ... リリリリ....
部屋に明るげなメロディが響く。
電話だ。
誰からだろうか?
汗のせいか、体が冷える。内藤はぶるりと身震いをした。
メロディが、再び響く。
内藤はよろよろと受話器に歩み寄る。
3コール目が鳴ったあと、留守番電話へと切り替わる。
『只今留守にしております。ピーという発信音の後にご用件をお話ください』
甲高い機械音。
内藤は受話器をじっとみつめ、次の言葉を待った。
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『八木です。夜分に失礼します。早急に……』
( ^ω^)「!」
流れてきたのは八木の声だ。
内藤はすかさず子機を掴み取った。
( ^ω^)「ショボ! ショボかお!」
『もしもしブーン? 今話しても大丈夫?』
( *^ω^)「問題ないお! 全然、問題ないお!」
安心した反動か、内藤は陽気に大声で話す。
( -ω-)「あー、よかった……」
( ^ω^)「びびって損したお!」
『びびる?』
( ^ω^)「こっちの話だお。気にしないでほしいお」
『なら、いいんだけど……』
( *^ω^)「それで要件は何だお? 夏休みの旅行計画かお?」
『いや、津田さんのことでね』
内藤は体温がすぅと下がるのを感じた。
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( ;^ω^)「津田、さん?」
『うん。実は僕のおじさんがその……いろいろ調べてくれたんだ』
そういえば八木の伯父は探偵だったなと、内藤は思い出した。
高校時代、ストーカーに悩むクラスメイトを八木が助けたことがあった。
その時に八木は、伯父に少し協力してもらったのだと言っていた。
『ちょっと変だなって思うところがあったから、話したんだよ』
『そしたら「怪しいから調査したほうがいい。俺がやってやる」って言われて……』
『……勝手にごめんよ』
内藤は首を横に振る。
実際、彼らの勘は当たっていたのだから。
( ;^ω^)「それで、結果は?」
( ;^ω^)「わざわざ電話してきたってことは……」
『……うん』
『彼女は嘘をついていたよ』
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『大学には通ってないどころか、入学すらしていなかった』
『ブーンに会うまでは化粧品会社で働いていたみたいだね』
『津田京子という名前も偽名だった。本当の名前は、』
八木は、"津田"の本名を内藤へ告げる。
瞬間、内藤の体が硬直した。
( ; ω )「……」
( ; ω )「ショボ、名前の漢字も分かるかお?」
『もちろん。下り坂の「坂」に出口の……』
八木は丁寧に漢字を伝える。
内藤の顔は、段々険しくなってゆく。
八木の説明が終わると、内藤はそれを復唱し確認をした。
『そう、それで間違いないよ』
( ;´ω`)「……」
内藤は額に手をあて天井を仰いだ。
どうして、彼女がその名を騙っているのだろうか。
頭が熱い。目がチカチカする。
『聞いたことある名前?』
( ;´ω`)「……明日話す、でいいかお? 一度落ち着いて考えたいお。相談したいこともあるし」
『分かった』
( ;´ω`)「ありがとうだお」
『じゃあ、また明日だね。おやすみ』
( ;´ω`)「おやすみ」
受話器を置く。
内藤はふぅーっと長く息を吐いた。
-
「素敵なお友達ね」
.
-
( ゚ω゚)「!」
彼の息が一瞬止まる。
後ろから何者かに抱きつかれる。
ξ*^ー^)ξ
横を向くと、そこには彼女の顔があった。
( ;゚ω゚)「なんでだお……鍵は……」
ξ゚⊿゚)ξ「忘れ物よ」
内藤の足元にどさりと、何かが投げ置かれる。
彼の鞄だ。
( ;^ω^)「あ……」
もちろん内ポケットには、予備の鍵が入っている。
ξ*゚ー゚)ξ「彼女を置きざりだなんて酷いわ」
ξ*^ー^)ξ「ねえ八木君と何を話していたの?」
甘ったるい香水の臭いが漂う。
( ;´ω`)「えっと……」
内藤の頭の中は真っ白になる。
今の状況は、彼の処理能力を超えていた。
誤魔化すことを内藤は諦める。
.
-
( ;^ω^)「ツンは、"津田京子"じゃなかったんだおね」
ξ゚⊿゚)ξ「バレちゃった? あとで驚かせようと思ってたのに」
彼女の本名は、坂出零子。
――15年前に『内藤』零子だった女性の名だ。
( ;^ω^)「僕のお母さんと同姓同名だなんて、」
( ;^ω^)「す、すごい偶然だお! はは……」
ξ゚ー゚)ξ「偶然なんかじゃないわよ」
彼女の口がにやりと歪む。
ξ*^ー^)ξ「だって、お母さんですもの」
.
-
ふぅ……
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( ;´ω`)「ありえないお!だって僕のお母さんは今年で50歳に…」
ξ゚⊿゚)ξ「覚えていないの? さっき見たでしょう?」
零子は闇夜色のストールをずりおろす。
腐った林檎のような皮膚が露わになる。
内藤の全身が粟立った。
ξ゚ー゚)ξ「ほらここ」
彼女は喉の中央にあるグロテスクな赤い痣を指差す。
ξ*^ー^)ξ「貴方が私に作った傷よ? 」
ξ*゚ー゚)ξ「私に火傷させたじゃない」
幼すぎたせいか、内藤には全く覚えが無かった。
.
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ただれた部位を、零子は幸せそうに指でなぞる。
彼女の眼にはネックレスの宝石にでも映っているのだろうか。
ξ*^ー^)ξ「これが私と貴方を繋ぐ、唯一の証。私の宝物」
ξ*^ー^)ξ「だから大切に取っておいたの」
零子は歌うように囁く。
頬に浮かぶ えくぼは、もはや痘痕にしか見えない。
ξ* ー )ξ「嗚呼ブーン、私の可愛いブーン」
彼女は内藤の頭を撫でる。
執拗に、ねっとりと、何度も撫でる。
内藤の理解は全く追いつかない。
ただただ、体を強張らせるのみ。
.
-
ξ*゚ー゚)ξ「私、綺麗になったでしょう?」
零子の白い腕が、内藤の首に絡みつく。さながら蛇の如く。
逃れるため内藤が頭を動かすと、彼女は人差し指の腹で喉仏を静かに押す。
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの、綺麗じゃないの?」
息苦しくなり、内藤はゲホゲホと咳き込んだ。
ξ゚ー゚)ξ「やっぱり金髪は嫌い? 瞳の色が好みじゃない? それとも、バストが足りないの?」
蛇の牙――爪が内藤の首筋に喰いこむ。
ξ゚⊿゚)ξ「黙ってないで、教えて頂戴。でないと私、正しく直せないわ」
ξ*-⊿-)ξ「無駄にお金は使いたくないの。折角、新婚旅行のために貯めたんだから」
そこでようやく、内藤は事態を把握する。
つまり坂出零子は、全身を整形をしたのだ。
金を費やすことで、この美貌を手に入れた。
何のため?
愛する我が子と結ばれるために、だ。
内藤は震え上がる。
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-
彼女の笑顔はまるで、初恋に酔う処女のよう。
だが、唇から洩れるのは おぞましい台詞ばかり。
ξ*^ー^)ξ「ずっと待っていたのよ」
ξ*^ー^)ξ「ずっと、ずぅっと待ってたの」
ξ*^ー^)ξ「ずっと、ずっと、ずぅぅっと! 待ってたの」
おぼろげだった母親の像と、この狂った女の姿が、限りなく近づいてゆく。
それにつれて、内藤の中で生理的嫌悪が増していく。
ξ*^ー^)ξ「一目みてすぐ分かったわ」
ξ*^ー^)ξ「だって、雰囲気が全然変わってないんですもの」
ξ*^ー^)ξ「小さかったころも可愛かったけれど」
ξ*^ー^)ξ「大きくなっても素敵だわ」
余った腕を零子は、内藤の下腹部へと伸ばす。
内藤の喉の奥から、酸っぱい気配がこみ上げる。
ξ*^ー^)ξ「ハネムーンはどこがいいかしら?」
ξ*^ー^)ξ「子供は何人ぐらいがいいかしら?」
ξ*^ー^)ξ「ねえブーン」
ついに、内藤の中で母と零子が かちりと一致する。
.
-
ξ(^ー^*ξ「これからはずぅっと一緒よ」
.
-
( ω )
内藤の胃が激しく痙攣した。
食道を異物が這い上がる。
肩が一度大きく、ビクンと揺れる。
内藤は、床に吐しゃ物をぶちまけた。
ξ(゚、゚*ξ「あら」
驚いた零子は、手を離す。床に倒れこむ内藤。
ξ(゚、゚*ξ「あらあら」
ξ(゚ー゚*ξ「お掃除しなきゃ。雑巾はどこにあるのかしら」
しばらくして吐き気が収まると、内藤は口を拭い、立つ。
.
-
( ω )「……って」
ξ(゚ー゚*ξ「?」
( ω )「帰って、くださいお」
内藤は零子の体を押し、廊下へ、玄関へを向かう。
ξ(゚、゚*ξ「え、え、ちょっとぉ」
彼は無言のまま、零子を玄関の外へと突き飛ばそうとした。
( ; ω )「!」
しかしその瞬間、彼女は内藤の手首を握る。
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ξ(^ー^*ξ「どうして?」
零子の握る力は強く、振り払うことかできない。
内藤の左手が鬱血してゆく。
ξ(^ー^*ξ「お母さんをお嫁さんにするって、昔 約束してくれたじゃない」
ぞわりと全身に悪寒が走る。
違う。そうじゃない。そんなつもりじゃない。
離してくれ。離れてくれ。
内藤は傘立てからビニール傘を掴む。
ξ(゚ー゚*ξ「ブーン?」
彼は零子の腕めがけて、傘を全力で振り降ろした。
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ξ(゚、゚ ξ
傘の先端が零子の腕に刺さる。
彼女の体は、後ろへとよろめく。
蛇の牙が離れる。
それでも淀んだ零子の眼は内藤を捉え続ける。
内藤はすぐさま扉を閉め鍵を締めた。
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内藤は玄関でへたり込む。
彼の体にどっと疲れが押し寄せる。
もう立ち上がれそうにもない。
( ω )「ふーーっ……」
全身の阿寒は収まらず、体が小刻みに震える。
ガチャッ
( ; ω )「ヒッ」
ドアノブが、音を立てた。
外から零子が回しているのだろう。
勿論、開くはずはない。
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ガチャッ
再び。
それから3回目。4回目。5回目。
6回、7回、8、9、10…
間隔はどんどん狭くなってゆく。
( ; ω )
20を超えた辺りから、内藤は数えるのを止めた。
彼は耳を両手で塞ぎ目をぎゅっと瞑る。
内藤は、ひたすら 朝が早く来てくれと祈る。
金属と金属がぶつかる不快な音は、一晩中続いたのだった。
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5、
あれから数か月が経った。
季節は秋と冬の境目。
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( ^ω^)「もしもしドクオ? 元気にしてるかお」
とあるアパートの一室で夜、内藤は友人の毒島と電話をしていた。
( ^ω^)「うん、僕は元気にやってるお」
あれから内藤は、八木伯父の助言に従い、
大学に休学届けを出した後 すぐさま都外へ引っ越した。
それが唯一、零子から逃れる方法だったのである。
( ´ω`)「遊びに来たい? うーん、それはちょっと難しいおね……」
引っ越し先は友人にはおろか、父親にすら伝えていない。
どこから零子へ漏れるか、分からなかったからだ。
( ^ω^)「……そうだおね、また三人で飲みたいお」
寂しくない、辛くないと言えば嘘になる。
だが、今の内藤には心の支えとなる存在があった。
「文雄、ご飯できたぞ」
( ^ω^)「ドクオ、ごめん。クーちゃんがうるさいから。じゃあまた」
内藤は通話を切り、携帯をポケットにしまう。
川 ゚ -゚)「今、私が五月蝿いと言ったか?」
( ;^ω^)「言葉の綾だお」
川 ゚ -゚)「なら構わんが」
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内藤は今、砂尾 空 という女性と同棲していた。
引っ越して二週間後にバイトで知り合い、意気投合。
一ヶ月前から交際を始めている。
もちろん、首には皺一つない。
川 ゚ -゚)「料理が冷めてしまう。美味しいうちに食べてくれ」
( ^ω^)「いただきますだおー」
( *^ω^)ハムハム ムシャムシャ
川 ゚ -゚)「君は、毎回勢いよく食べるな」
( *^ω^)「くーふぉふぉーりふぁ、おいふぃーふぁふぁふぁお!」
川;゚ -゚)「食べながら喋るんじゃない」
数か月前の恐怖も、見知らぬ土地での不安も、
消えはしないが薄れてゆく。
内藤は、ささやかな日々に幸せを感じていた。
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川 ゚ -゚)「少し寒いな。暖房の効きが悪いのか?」
( ^ω^)「あ、喚起のために窓を開けたままだったお」
川 - -)「全く、君はダメな…奴だな。私が閉めてこよう」
( ^ω^)「クー、ありがとうだおー!」
砂尾はエプロンを脱ぎ、窓際へ近づいた。
川 ゚ -゚)「……ん?」
窓に何か映っている。
彼女はじぃと目を凝らす。
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しかし何ということはない、それは彼女自身の姿だった。
長い黒髪。茶色の瞳。豊満な胸。捲り上げた袖からは…
川 ゚ -゚)「あ」
彼女は、左の二の腕にある縫い傷が露わになっていることに気づく。
それは3針ほどの小さな傷だ。
例えば…… 棒状の物体で強く突かれたら、こんな風になるだろう。
砂尾は愛おしそうに、傷をそっとなぞる。
川* ー )
彼女は、微笑んだ。
頬にえくぼができる。
( ^ω^)「どうしたお、クー」
立ち止まったままの彼女に、内藤は声をかける。
川 ゚ -゚)「いや、何でもないさ」
"砂尾"は袖を下し傷を隠すと、窓の鍵をゆっくり締めたのだった。
(終)
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乙。やべぇな、、、
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以上です
言い忘れていたのですが、10分感想絵での支援絵、ありがとうございました。
感無量です。自分が想像していた以上に色っぽくて驚きました。
今回の投下で期待を裏切ってないか、ちょっぴり心配です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
来年は間に合いますように……
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乙乙! 面白かった
声も変えてるのかな……
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乙
これは……ハッピーエンドなのか……?
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知らぬが仏やな
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整形の技術ってすげー
それにしても怖いな乙
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これはこわい
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おつ!面白かったよ
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乙乙
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