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('、`*川 フリーターと先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)
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('、`*川 フリーターと先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)
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↑の作品知らなくても読むのに支障ない
時間軸としては、本編の11話〜14話までの間の、どこか
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語りたくなかった話を、しよう。
*****
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なん……だと……
支援
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(´・_ゝ・`)「伊藤君、お見合いしてみない?」
この質問。
たとえば盆暮れの集まりで、世話焼きな親戚から持ち掛けられたものだとすれば、
別段おかしな点はないと思う。
が。
(;、;*川「……先生、それ今言うの!?」
深夜。心霊スポットで。おぞましい幽霊を見てしまい。死に物狂いで逃げ出して。
怖かったと泣きじゃくる乙女に突然ぶん投げた言葉だということを説明すれば、
この人の異常性を理解してもらえるだろうか。
-
(´・_ゝ・`)「いや、今回も、僕は幽霊さん見られなかったからさ……」
(;、;*川「話通じないー」
「先生」──私はこの人のことをそう呼ぶ──は、
いつも以上に意味の分からない発言をしながら車のエンジンをかけた。
発進する直前、慰めるように私の肩をぽんと叩いて、先生が再び口を開く。
(´・_ゝ・`)「──で、今日はどんな幽霊を見たんだい?」
お見合いの話どこ行った。
とはいえ、私も怖い思いを1人で消化するのが嫌だったので、
遠ざかっていく廃工場をサイドミラーで確認しつつ答えることにした。
(;、;*川「く、首が千切れかけた男の人が上から降ってきて、私の足つかんで……」
ほんの数分前に工場内で体験した出来事を訥々と語る。
鳥肌が全然収まらなくて、何度も腕を摩った。
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よっしゃーーーーーー!!!
-
(´・_ゝ・`)「そうか、足つかまれたのかあ。
怪談の定番だと、丁度その部分が痣になったりするよね。後で確認させてよ」
完全に無関係者のような面をしているが、
私が怪奇現象に見舞われている真っ最中、この人は私の真横に居た。
明らかに生きていない男が降ってきて、びたん、と派手な音を立てても。
頭をぶらぶら揺らしながら這いずって私の足を掴んできても。
その手が先生にまで伸ばされても。
この人は何にも気付いていない様子で、「何も無いね」とほざいたのだ。
……いつものことだけれど。
-
(´・_ゝ・`)「あの廃工場に幽霊が出るって噂は本当だったか。嬉しいなあ。
……あー、しまった、写真撮り忘れてたな。伊藤君、ちょっと戻っていい?
すぐ済ませるから」
(;、;*川「ふざけんな馬鹿あ! 行くなら1人で行ってよ!!」
(´・_ゝ・`)「そりゃ僕だって、普通に幽霊が見られるのなら伊藤君なんか連れずに1人で行きたいよ」
はあ、と溜め息をつく先生。何だ、それは。
私の方が百万回くらいは溜め息をつきたいのに。
(´・_ゝ・`)「伊藤君ばっかり幽霊見て、ずるいなあ」
(;、;*川「……」
いい加減、殴りたくなってきた。
先生の方が、よっぽどずるい。
-
(´・_ゝ・`)
──盛岡デミタス。先生の名前。
VIP大学で経済学の教授をやっている。
50代。独身。
いつもぴっしりしたワイシャツにグレーのベストとスラックスといった出で立ちで、見た目に隙がない。
こうしてこの人の情報を並べれば並べるほど、
高卒フリーターの私、伊藤ペニサスとの接点など皆無なように思える。
けれど実のところ、私がフリーターだったからこそ接点が出来た、と言うのが正しい。
少し前、私のアルバイト先の一つであるコンビニに先生が来店したことで
私達は出会った。──出会ってしまった。
-
(´・_ゝ・`)『君、幽霊って信じる?』
('、`*川『いると思いますよ』
初対面であるにも関わらずそんな質問を寄越した先生は、
どう考えてもやっぱりどこかおかしい。
素直に答えた私も馬鹿だったかもしれないが。
とにもかくにも、これ。
幽霊。オカルト。怖い話。
そんな「怪奇」が、私と先生を結び付けたのだ。
.
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えっまじ?ほんもの?
-
ご立派な大学でご立派な教授職に就いていらっしゃる盛岡デミタス大先生は、
幽霊というものに目がない。
幽霊に会いたい。その一心で、暇さえあれば各地の心霊スポットを巡るほど。
気付けば私もしょっちゅう同行させられるようになっていた。
今回で、もう何度目になるのだろう?
数えるのも億劫だ。
……だというのに。
(´・_ゝ・`)『伊藤君ばっかり幽霊見て、ずるいなあ』
先の発言通り、先生は幽霊が大好きなくせに、霊感というものが全く無い。
どんなに幽霊に囲まれようと、見えないし、聞こえないし、まず気配も察せられない。
零感、というやつ。
私だって生まれてこの方20年、幽霊を見たことなどない──なかったのだ。
この間までは。
-
マジもんっぽいな
ならば百物語に感謝しよう
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零感の先生といると、何故だか幽霊が見えてしまう。
何故だか私ばかり霊に絡まれてしまう。
だから先生は私を心霊スポットに連れ回すようになった。
本当やめてほしい。勘弁してくれ。
どうして私ばっかり、怖い思いをしなきゃいけないんだ。
(´・_ゝ・`)「──伊藤君って霊に好かれるよね。僕の方が幽霊さん好きなのに」
バンドルを操りながら呟く先生を、私は泣きながら睨みつけた。
(;、;*川「本当にね! 傍迷惑なくらい大好きよね!!
先生なんか幽霊と結婚しちゃえばいいんだわ!!」
怒鳴りつけてやれば、先生の顔から表情が消えた。
怒らせたか、と怯む。それからすぐに、なぜ私の方が怯まねばならないのだと頭を振った。
今、怒っていい権利は私にあるはず。
そういえば先生が人間に対して分かりやすく怒るところを見たことがない。
年齢や立場上、誰か(私含む)を「叱る」ことはたまにあるけれど、
起因する感情としては呆れや蔑みがほとんどだ。
(幽霊相手には結構怒る。『なぜ僕に姿を見せない』などと。頭おかしい)
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(´・_ゝ・`)「結婚といえば」
身構えていた私に反し、先生はまったく気の入っていない声を出した。
(´・_ゝ・`)「伊藤君、お見合いの件、どうかな?」
(;、;*川「へ」
ここで話が戻るのか。
目をぱちくりさせると、ぽろりと最後の雫をこぼして、涙が引っ込んだ。
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('、`*川 フリーターと先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)
『冥婚』
.
-
o川*゚ー゚)o「冥婚、っていう風習は、日本に限らず色んな国にあるの」
携帯電話をいじくりながら、女性は言った。
──とある片田舎の、とある民家。
やたら広い和室の中央で、私と彼女は向かい合うように座っている。
('、`*川「めいこん」
o川*゚ー゚)o「死後婚、鬼婚、呼び方は他にもあるね。
未婚のまま亡くなった人に、お嫁さんやお婿さんを与えるわけ」
「はあ」、と生返事。
世の中、色々あるものだ。
-
ふと疑問が湧く。
恐る恐る右手を挙げてみれば、彼女は携帯電話から視線を外し、
「なあに?」と鈴を転がすような声で問うた。
('、`*川「お嫁さんやお婿さんを与えるって、どうやって?」
o川*゚ー゚)o「んーと、単純に、亡くなった男女を夫婦にさせるとか。
他にも、架空の伴侶として作ったお人形や絵と一緒に埋めたり火葬したり」
考え込むように頬へ指を当て、どんぐり眼が斜め上を向く。
その姿が、とてもよく似合う。
o川*゚ー゚)o「そうそう、日本でいうなら、絵馬を奉納するって方法は結構知られてるかも。
テレビでやったことあるし」
('、`*川「生きてる人と結婚させるわけじゃないんですね」
o川*゚ー゚)o「そのパターンもあるよー。
亡くなった人の形見を持っていてもらうとかね。
生きてる人を死者と一緒に埋めちゃう、なんてのもあるみたいだけど……」
('、`;川「ええー」
-
o川*゚ー゚)o「ま、国や地域によって色々だよ」
('、`*川「はあ、なるほど……」
o川*^ー^)o「──って、これ全部受け売りだから、私も詳しくは知らないんだけどね」
彼女は肩を竦め、ぺろっと舌を出してみせた。
その仕草があまりにも可愛くて、目眩がする。
20歳を過ぎて尚、そんな動作が様になるなんて。私とは違う世界から来たのでは。
──キュート、という名前のその人は、
VIP大学の文学部に属する女子学生。らしい。現在3年生だとか。
キュートさん。名は体を表す。
私より一つ歳上らしいのだけど、小さな顔と大きな瞳のおかげで未成年に見える。
背が低めで、ちんまりしているので、余計に。
('、`*川「キュートさん、民俗学について学んでるんですっけ」
o川*゚ー゚)o「うん。でもそんな、詳しいわけじゃないんだよ本当に。全然」
苦笑する顔も可愛い。
締め切った障子の向こうから、廊下を歩く音が近付いてくる。
それに気付いたキュートさんは携帯電話をコンパクトに持ち替えて、乱れてもいない髪を整えた。
障子が開く。そこに立つ、1人の男性。
彼は部屋に入ると、私の隣に腰を下ろした。
-
(´・_ゝ・`)「話は弾んでるかな」
('、`*川「弾むほど柔らかい話題じゃなかったけど……」
先生だ。
おかえりなさい、と微笑むキュートさんに、ただいま、と返している。
それからすぐにキュートさんが立ち上がった。
o川*゚ー゚)o「飲み物もらってきますね。伊藤さんは、おかわりいる?」
('、`*川「あ、お願いします」
私とキュートさんの前には、先程まで冷たいお茶が入っていたグラスがある。
2人で先生を待つ間に飲み干してしまっていた。
o川*^ー^)o「ちょっとお水足さなきゃね」
くすくす笑って口元に指を当てるキュートさん。
さっき頂いたお茶は、濃く淹れすぎたのか苦味が強かったのだ。
一口飲んで顔を顰めた私に対し、キュートさんは困ったようにちょっとだけ笑う、なんて可憐さで、
あの瞬間に私はこの人とは違う生き物なのだと確信した。
-
グラスを抱えたキュートさんがぱたぱたと廊下を駆けていく。
今度は先生と2人きりになってしまった。
妙な沈黙、数分。
我慢出来なくなって、ちらりと先生を見た──というか睨んだ。
('、`*川「先生。ちょっと確認していい?」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「お見合いってどうなったの?」
──昨夜、「お見合いについて話すから、お昼前に迎えに行くよ」と車中で言われて。
やる気はなかったけれど、興味はあったので、話だけでも聞こうと思った。
バイト休みだし。
なのに──
何だろう、この状況は。
見知らぬ郊外の見知らぬ家に連れてこられ、
会ったばかりの女性と2人きりにさせられて、死者の結婚なんて話を聞かされて。
お見合いの、おの字も出てこない。
私の視線など物ともせず、先生はわざとらしく首を捻ってみせた。
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(´・_ゝ・`)「キュート君から聞かなかった?」
('、`*川「……なにを」
(´・_ゝ・`)「冥婚」
('、`#川「やっぱりか!!」
先生の肩をどつくと同時に、お盆を持ったキュートさんが戻ってきた。
突然暴力を振るった私に、目を白黒させている。
o川;゚ー゚)o「どっ、どうしたの伊藤さん!? 先生、大丈夫ですか!?」
(´・_ゝ・`)「いつものことだよ」
('、`#川「誤解を与えるような言い方しないで!」
──数時間前、我が家の前で停まった先生の車に
知らない女性が乗っていた時点で、嫌な予感はしていたのだ。
ほとんど直感だったけど。
でも、
-
('、`*川『……先生、本当に、お見合いの話をするだけなのよね?』
(´・_ゝ・`)『うん』
って、先生が普通に頷くから。
何かを企むような笑みではなく、当然のような顔をしていたから。
あと、女性──キュートさんが、あまりにまともな美少女といった感じで、変な風に見えなかったから。
これはオカルトなど関係なく、本当に普通の話をするのだなと、そう判断してしまった。
自分で言いたくないが、これじゃあ、先生に度々馬鹿にされるのも仕方ない。
それで気付いたら、キュートさんの親戚の家なんぞに連れてこられていた。
o川;゚ー゚)o「伊藤さん、お茶でも飲んで落ち着いて……」
キュートさんが私と先生の前にグラスを差し出す。
私のグラスには水出しの緑茶。宣言通り水を足してくれたのか、美味しい。
先生の方はアイスコーヒーだ。
キュートさんのグラスにもアイスコーヒーが注がれていた。ちょっと仲間外れな気分になる。
-
o川*゚ー゚)o「先生は、コーヒーで良かったですよね?」
(´・_ゝ・`)「うん。ありがとう」
私が見る限り、先生はいつもコーヒーを飲んでいる。
私でさえ気付くくらいだから、同じ大学にいるキュートさんも、そりゃあ把握しているだろう。
ブラックのまま口をつける先生をじっと見つめ、キュートさんは小首を傾げた。
o川*゚ー゚)o「先生、ブラック派?」
(´・_ゝ・`)「基本的にはね」
o川*゚ー゚)o「へえー……」
頷き、キュートさんもコーヒーをそのまま一口飲んだ。
それからちょっと顰めた顔を先生に向けて、舌先を出す。
o川*´ -`)o「苦いですねー」
('、`*川(……可愛いな……)
癒されて、先生への怒りがほんの少し和らいだ。
ミルクとシロップをストローでかき混ぜながら、キュートさんがまた先生を見た。
-
o川*゚ー゚)o「ブラック飲むのって、大人のひとって感じがして、格好いいですね」
(´・_ゝ・`)「まあ大人だしね」
o川*゚ー゚)o「そっかあ」
そうしてそのまま、和やかな雰囲気に──
なるわけがない。
('、`#川「先生!!」
和らいだとはいっても、依然として怒りは残っている。
せっかく持ってきてくれたお茶を一気に飲み干して、叩きつけるようにグラスを置いた。
先生お馴染みのベストを思いきり握り締めてやると、
皺になる、と先生が眉を顰めた。
-
('、`#川「コーヒー飲んでないで説明してよ!
何なの、まさか私を死んだ人とお見合いさせるつもりなの!?
……ていうか、キュートさんもグル!?」
o川;゚ー゚)o「えっ、お見合い!? 何でそんな話になってるの?」
キュートさんの反応で察する。
先生1人による犯行だ。よし、心置きなく怒れるぞ、これは。
('、`#川「『見合い話があるから来い』って先生に言われたんです」
o川;゚ー゚)o「私は『冥婚に興味がある人がいるから連れてく』って先生から聞いてたんだけど……」
('、`#川「興味ないし! そもそも知らないし!!」
(´・_ゝ・`)「伊藤君って幽霊に好かれるから、いっそ幽霊と結婚してくれれば、
僕も幽霊とお近付きになれるかなと」
幽霊幽霊うるさい。
先生は何食わぬ顔でコーヒーを口に含んだ。
いつも思っているのだけれど、この人どこかのネジが外れているんじゃなかろうか。
キュートさんが軽く頬を膨らませて、先生を上目に見た。
-
o川*゚ -゚)o「先生ったら、女の子だますなんて。
そうまでして連れてきたかったんですか?」
(´・_ゝ・`)「伊藤君は結構な確率で怪奇現象に巻き込まれてくれるからね」
好きで巻き込まれるわけじゃないんですけど。
もはや文句しか出てこないし、しかも大量に溢れてくるので、
とうとう頭も口も追いつかなくなってしまった。
むりやり動かそうとしても動かない脳みそは、
まず話の整理をしろと要求してくる。
('、`#川「……先生は、なんでここに来たの?」
(´・_ゝ・`)「今日、このキュート君の実家、……の親戚の家か。
ここで冥婚の儀式が行われるというので、それを見に来た」
('、`#川「キュートさんって先生と仲いいの?」
先生は経済学部の教授で、キュートさんは文学部の学生さん。
ご親戚の家に行けるほどの仲になれるものだろうか?
生憎、私は大学など馴染みが薄いので分からない。
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支援
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o川*゚ー゚)o「仲がいいっていうか……」
(´・_ゝ・`)「キュート君は民俗学の教授が開いているゼミの子だ。
──僕も民俗学教授とはよく話すからね、その縁で、彼女とも多少交流があった」
('、`*川「へえ」
(´・_ゝ・`)「それでこの前、偶然聞いたんだよ。
キュート君の地元では現代も冥婚の風習が行われてるって」
o川*゚ー゚)o「私は、それとは知らなかったんだけどね。
ゼミのみんなで雑談してたときに、話を聞いていた先生──うちのゼミの先生の方が、
それは冥婚じゃないか、って言い出して」
('、`*川「冥婚……」
──民俗学を研究するゼミ生のキュートさん。
先程の話の通り、彼女の地元で冥婚──死者の婚姻が行われていると知り、
民俗学の教授さんは大変に興味をそそられた。
しかも、ちょうど先日、その地域で未婚の親戚が亡くなったというのだ。
恐らく今回も冥婚の儀式が行われる。
ぜひとも話を聞きに行きたいという教授さんだったが──
-
(´・_ゝ・`)「東北のとある地域の奇祭が、今年で最後だというんだよ。
彼はそちらを優先したいんだってさ。
でもやっぱり、冥婚についての研究もしたい」
──とのことで。
冥婚の研究と、お祭りの歴史的瞬間への立ち会い。
見事に予定が被ってしまった結果、
教授さんは代わりの人間に冥婚の取材を任せることにした。
ここまで来れば、言わずもがな。
話を聞いた先生が名乗りをあげたのだ。
「ぼく行きたいな」って。ピクニックじゃねえんだぞ。
つまり。元々キュートさんと先生だけで彼女の地元へお邪魔する筈だったところを、
こうして私まで強引に連れ出されてきた──と。
('、`*川「……それ、やっぱり、幽霊とか関わってくる感じなの?」
低めた声で問う。
アイスコーヒーの氷を眺める先生は、こちらを一瞥もせずに答えた。
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(´・_ゝ・`)「でなきゃ僕が出向くわけがない」
ですよね。くそったれ。
先生が積極的に行動し、さらに私まで連れ出したということは、
100パーセント幽霊絡みの話なのだ。
先生は本当に人間の幽霊にしか興味がない。
死者の結婚、という風習そのものには、然したる興味を抱いていないだろう。
o川*゚ー゚)o「あ、でもね、あれだから。
式の間は、ちょっと変なことが起きやすい──ってだけで、
幽霊をはっきり見たとか誰か祟られたとか、そこまでの話は聞いたことないし」
キュートさんがフォローするように言った。
でも、何かが起こる可能性はあるってことだろう。
私はぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜ、うー、と唸った。
o川*゚ -゚)o「……可哀想ですよ、先生。帰してあげましょう?」
女神がいる。
そうだそうだと私が賛同すると、先生は渋るように首を振った。
-
(´・_ゝ・`)「伊藤君の集客力に期待してるんだよね。
今回亡くなったの、男の人なんでしょ?」
o川*゚ー゚)o「はい。私のハトコです」
('、`*川「え」
待て、先生、何だ今の言い方。
死んだのが男だから何だっていうんだ。
私が女だから関係あるっていうのか。
だって冥婚って、死んだひと同士の、あるいは死んだ人と架空の伴侶の結婚だってキュートさんが、
いや、キュートさんは、生きている人と結婚させるパターンもあると言っていたけど、
でもそんな、まさか先生、本気で私を、私と死人を。
──泣きそうな顔でもしていたのか、先生は私を見ると、軽く頭を叩いてきた。
(´・_ゝ・`)「ごめんね。お見合いとかは、たちの悪い冗談だよ」
自分で言うか。本当にたちが悪い。
(´・_ゝ・`)「さっき話を聞いてきたけど、生きてる人間と結婚させた事例はここには無い。
君が見初められる可能性も著しく低い」
おい。後半の台詞、なぜ私とキュートさんを見比べながら言った。
とは思いつつ、先生の言葉に縋る私もいる。
私は安全なのだと信じたくて。
-
(´・_ゝ・`)「ただ、キュート君が言ったように、変わった現象が起きる場合がある。
それが幽霊の関わる怪奇現象なのか気になるから、君に同席してもらいたいんだ」
('、`*川「どのみち危ないのは私じゃないの」
(´・_ゝ・`)「死人とはいえ結婚式だよ。結婚。おめでたい場じゃないか。
いかにも恐ろしげなことなんて起きないよ、多分。
今までだって、危険なことが起こったわけじゃないんだろう? キュート君」
o川*゚ー゚)o「はい、話を聞いた限りでは。
音がしたとか物が動いたとか、それくらい」
('、`*川「……」
死者と結婚させられる、という、あまりに突飛すぎる事態を避けられたことで、
私の警戒心が少し緩んでしまった。
すると今度は、どんな式なんだろう、なんて興味が湧いてくる。
(´・_ゝ・`)「帰るかい?」
('、`*川「……もうちょっと居る……」
(´・_ゝ・`)「よしよし」
背中を一撫で。犬じゃないっての。
今回も結局いいように操られているように思えて腹が立ったので、
先生の脇腹を2回ほど殴っておいた。
-
( ´W`)「あのう」
す、と障子が引かれ、初老の男性が顔を出した。
この家へ着いたときに出迎えてくれた人で、キュートさんの叔父だという。
( ´W`)「皆が揃ったので、そろそろ最後の準備をします。そちらも見ていかれますか?」
(´・_ゝ・`)「ああ、はい」
先生が半分ほどコーヒーの残るグラスをお盆に戻して立ち上がる。
調査をしに来たという手前、先生はそれらしいことをしなければならない。
私も付いていくべきかと腰を上げかけたが、
おじさんに手で制された。
( ´W`)「死人が男の場合は、準備も男がやらねばならない決まりでして」
そこへ、おじさんを呼ぶ声がした。彼は返事をすると、
2つ隣の部屋へ行くよう先生に指示を出してから、声のもとへ向かった。
(´・_ゝ・`)「うーん、なるべく伊藤君を連れたいんだけどなあ」
('、`*川「いいから早く行け」
先生にとって、もはや私は幽霊探知機みたいな認識になっている。
膝裏を叩いてやると、先生はおどけるように肩を竦めて部屋を出ていった。
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えええええまじで。この人か
-
o川*゚ー゚)o「……伊藤さんって、先生と仲いいね」
('、`*川「ええ?」
しばしの沈黙の後、突然キュートさんがそんなことを言い出した。
o川*゚ー゚)o「気安いっていうか、親しげっていうか」
('、`*川「そりゃ、こっちが遠慮してたら増長するだけですし。あの人」
思えば、かなり目上の人間な筈なのに、あの人に敬語で話すことすら早い段階でやめたものだ。
何度も罵倒したことがあるし、衆人環視の中でビンタしたこともある。
そうされる先生の方に原因があるとはいえ、かなり失礼な態度ではあった。
でも、だからって、「仲がいい」というのも。違うだろう。
o川*゚ー゚)o「私もあれくらい親密になってみたいんだけどなあ」
('、`;川「親密……?」
私は学生ではないので、そのぶん先生に遠慮しなくて済んでいるというのはある。
学生であるキュートさんが先生を罵倒したり引っ叩いたりしたら、そりゃ大問題だ。
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o川*゚ー゚)o「ほら、先生って、何考えてるか分からないとこあるでしょ?
だから、どれくらい近付いていいか分かんないっていうか……」
('、`*川「はあ」
o川*゚ー゚)o「でも、お茶目で可愛くて、
そういうとこ見ちゃうと、やっぱり距離を縮めたくなっちゃうし」
('、`;川「お茶目じゃないですよ悪ふざけって言うんですよアレは」
──何の話をされているのだろう、今。
先生のどこに可愛げが?
口元で両手を合わせて、照れたような顔をするキュートさんは可愛いと思うけど。
o川*゚ー゚)o「そういう、けっこう子供っぽいところも可愛いよね」
('、`;川「……いやあ、子供っぽいっていうか、ガキ臭いというか……」
基本的に自分勝手でわがまま、自分の好きなことにばかり一生懸命なところは正に子供だ。
でもやっぱり、単なる憎たらしい部分としか思えない。
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('、`*川「……そのくせ、年相応に落ち着いてるとこもあるから、ややこしいったらないですよ」
o川*゚ー゚)o「だよね」
私はちょっとした悪口のつもりで言ったのだが、
何故だかキュートさんは微笑んでこくこく頷いた。
o川*゚ー゚)o「穏やかで優しくて、そこが素敵」
優しい。とは。
嫌がる人間をむりやり心霊スポットに連れ回す輩の、どこが優しいのか。
でも、私のような犠牲に遭ったことがない人間から見たら、
たしかに先生は「ちょっと変わった人」で済むのかもしれない。
仕草などは本当に紳士的というか、お上品なので。
o川*゚ー゚)o「他の教授みたいに、うるさく怒ったりしないの」
('、`*川「あー、ですね、あからさまに怒ることはないですね……。
怒鳴ったりしないというか……」
キュートさんは少し目を丸くして私を見て、
「だよね」とふんわり笑った。
私が男だったら、とっくの昔に彼女に惚れているだろう。
o川*゚ー゚)o「あ、お茶のおかわり、いる?」
早々に空けてしまったグラスを指差し、キュートさんが言う。
飲みきった後に先生へ怒鳴ったり緊張させられたりしたので、喉が渇いている。
('、`*川「……お願いします」
o川*゚ー゚)o「はーい」
*****
-
お茶を飲みすぎた。
('、`;川(……ぐうう……)
正座の状態で、膝をぎゅっと握り締める。
たまに腰を捩ったり、思いきり背筋を伸ばしたり曲げたり、
端から見れば挙動不審極まりなかっただろう。
だが幸い、最後列の端に座る私に注目する人などいなかったので、
隣の先生と、向かいに座るキュートさん以外にはバレていなかったと思う。
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──お座敷には横長の飯台が3列ほど置かれており、私含む老若男女がそれを囲んでいる。
飯台にはご馳走が並べられていて、どれも絶品だった。
部屋の最前には白い祭壇のようなものが鎮座し、
その上に、キュートさんのハトコだという中年の男性が写る遺影と、一枚の絵が飾られていた。
遺影は黒い額に入っているが、絵の方の額は白い。
絵に描かれているのは、その男性と知らない女性が並んで立つ姿。
2人の名前が書かれている。苗字は同じ。
(´・_ゝ・`)「架空の花嫁だ。見た目も名前も、想像で作られたものだよ」
小声で先生が解説してくれるのだけど、まったく集中できないので、ほとんど聞き流した。
( ´W`)「新郎は心臓を悪くして以来、この家に戻って療養し……」
祭壇の横に立つおじさんが、何かの紙を見ながら男性の半生を語っている。
が、他の親戚もそこかしこで囁き合うように会話し、ときどき朗らかに笑う声もあるので、
たしかに、普通の結婚式のような和やかさがあった。
少なくとも厳めしい雰囲気はない。
-
(´・_ゝ・`)「まずは普通に宴会みたいなことをして、
場が温まったら、進行役が新郎新婦の生涯を話す。
もちろん新婦の生涯とやらも架空なんだけどね。まあ肉付けのためかな」
(´・_ゝ・`)「それが済んだら、程よいところで散会。
あとは進行役があの絵を神社へ納めれば、婚姻完了なんだってさ」
なるほど。式の内容自体は、予想していたよりシンプルだ。
とてもよく分かった。もう充分。本当に。
o川*゚ー゚)o「基本的に、死んだ人の親や兄弟が進行するものなんですけど……。
あの人のご両親はもう亡くなってるし、兄弟もいないので、
叔父さんが代わりに進行役をやってるんです」
(´・_ゝ・`)「親兄弟もお嫁さんもいなかったのなら、療養するのは大変だったろうなあ」
o川*゚ー゚)o「幸い、近くに住んでる親類が多いので、みんなで看てたみたいです。
私も帰省した際には何回かお世話しましたし」
(´・_ゝ・`)「えらいねキュート君。……伊藤君、さっきから何もじもじしてるの」
('、`;川「……」
──トイレに行きたい、と。
消え入るような声で言うと、先生とキュートさんが顔を見合わせ、再び私を見た。
-
o川;゚ー゚)o「えっと……」
(´・_ゝ・`)「行けば?」
o川;゚ー゚)o「だっ、駄目ですよ! だって……」
──1時間ほど前。
式が始まるというので、親類縁者とオマケ(私と先生)が座敷に集まった際、
おじさんは確認をとるようにこう言った。
( ´W`)『式の最中は、この部屋から出てはいけません。
障子や襖、窓を開けることも許されません。
トイレにも行けなくなるので、式を始める前に済ませておいてくださいね』
何故、と先生が訊ねると、おじさんは半信半疑といった顔を隠しもせずに答えた。
いわく。式のために締め切った部屋を途中で開けてしまうと、
外の空気と一緒に余計なものが入り込んで──
まあ要するに。式を「邪魔」してしまうということだ。
少し長くなると聞いたので、私はちゃんと事前に用を足してきた。
足してきた、のに。
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まず、冷たいお茶を短時間に3杯も飲んでいたこと。
にもかかわらず、美味しい料理に釣られてお酒も少々やってしまったこと。
そして思いのほか座敷の冷房が利きまくっていたこと。
そういう諸々が原因で、また尿意が湧いてきたのである。
汚い話で申し訳ない。
('、`;川「……あと、どれくらいで終わるの……」
o川;゚ー゚)o「1時間で終われば早い方かな……」
私はきっと、非常に情けない顔をした。
何なら、泣く一歩手前だった。
私のすぐ後ろに障子がある。
ほんの少し手を伸ばせば開けられる。
('、`;川「せんせえ……」
(´・_ゝ・`)「だから行けば?」
先生からすれば異常事態大歓迎なのだから、
「途中で障子を開ける」というタブーを犯すのは寧ろ推奨したいくらいだろう。
──そのとき、ぴしり、と硬い音が鳴った。
-
天井の辺りからだ。みんなが口を止め、部屋に静寂が広がる。
それを見計らうように、ぴしぴし、続けざまに音がした。
少しして、今度は畳を擦るような──足音のようなものが耳に入る。
ただ、具体的にどの位置から聞こえるのかはよく分からない。
若干距離があるようなので、この部屋ではなさそうだけど。
「始まったなあ」と、だいぶ酒の入ったお兄さんが笑った。
式の最中に起こる変な現象とは、こういうことか。
先生の顔に喜色が浮かぶ。
進行役のおじさんは気を取り直して語りを続けたし、
周りの人達も食事や会話を再開させたので、些末事として処理したようだ。
というか、これをいちいち気にしていたら、式を滞らせてしまうからだろう。
('、`;川「……うう……」
私はといえば、余計に動きづらくなっていた。
明らかに異変が確認できた以上、禁止事項に触れる勇気など萎んでしまう。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
手足に力を入れる度に頭の中がぐちゃぐちゃしてきて、もう、まともな判断が出来ない。
-
トイレ行きたい。でも開けちゃ駄目って。でも。
これ以上は。無理そう。なんだけど。
あれじゃないか、障子を開けて外の空気が入るより、
縁もゆかりもない飛び込みの参加者が漏らす方が、明らかに式の邪魔なんじゃないか。
いや、どっちの方がマシかって、多分、どっちも駄目なんだろうけど、でもどっちか選ばないと。
本当にそろそろ無理だ。
もう泣いてしまえば水分を逃がせるのでは、と思考回路が現実性を無視し始めた瞬間、
隣の先生が高々と右手を挙げた。
おじさんがきょとんとして「どうしました」と訊ねると、皆の目がこちらを向いた。
(´・_ゝ・`)「トイレに」
先生は簡潔に言う。
もっと必死さをアピールしないと却下されるじゃないか、と訴えたいけど、
もはや口を動かすことすら億劫だった。
-
( ´W`)「あー……ええと、緊急ですかね?」
(´・_ゝ・`)「緊急ですね」
( ´W`)「じゃあ、どうぞ」
え?
幻聴かと思った。
そんな、あっさり。
( ´W`)「まあ、あくまで形式ですから。
実は昔にも、退屈した子供が勝手に襖を開けてしまったことがありましてね」
o川;゚ー゚)o「えっ、そうなの!?」
あのときは焦ったな、まあ何も起こらなかったんだけど、と年配の方々が朗らかに頷き合っている。
マジかよ。言えよ。先に。
私は座ったまま腰を捻り、急いで障子を開けた。
それを見る先生は、これから何が起こるか楽しみにしているかのような笑みを浮かべていた。
-
生温い空気が入り込む。
室内の楽しげな雰囲気はそのままで、誰もタブーに触れたことを気にしていない。
何が起こるでもなく、普通の廊下がそこにある。
先生がつまらなそうに息をついた。
(´・_ゝ・`)「伊藤君も行くかい」
立ち上がった先生にそう誘われたところで、私はようやく、
先生は「私が」トイレに行きたいのだとは言っていなかったことに気付いた。
一応、気遣ってくれたのか。
成人した女がトイレへ行きたいとも言い出せず、代わりに他人から申告してもらったとなれば
それはたしかに、なかなか恥ずかしい。笑う人もいたかもしれない。
頷き、慎重に立ち上がって、先生と一緒に廊下へ出た。
キュートさんもついてくる。
o川;゚ー゚)o「大丈夫?」
('、`;川「ごめんなさい、開けちゃって……」
o川;゚ー゚)o「ううん、私こそごめんね、あんな軽い認識だと思ってなかったから……。
もっと早く、私が叔父さんに訊いとけば良かったね」
-
('、`;川「先生もごめん、……ありがとう」
(´・_ゝ・`)「いいよ、別に。
事前に注意されていたにもかかわらず排泄の管理も碌に出来なかった爺さんだと思われたことは、
僕は全く、これっぽっちも。気にしてないから」
('、`;川「……本当にごめん」
あとでコーヒー奢ろう。
本気で限界が近いので、謝罪もそこそこに、私はトイレへ飛び込んだ。
.
-
('、`*川(──悪いのは、ちゃんと自分で調節できてなかった私だよなあ)
洗面台で手を洗いつつ、自省する。
そもそも私がしっかりしていれば、何も問題なかったのだ。
水を止めて顔を上げる。
鏡の隅に、ひらりと何かが映り込んで、すぐに消えた。
('、`*川(……ん?)
振り返る。はためくようなものは無い。
黒い布に見えたのだけど。
('、`*川(気のせい?)
虫か何かかもしれない。
ハンカチで手を拭いながら、洗面所を出る。
先生とキュートさんは座敷に戻ったようで、廊下にいなかった。
ふと、座敷が何やらざわめいていることに気付く。
-
('、`*川(どうしたんだろ?)
障子は開けっ放しだ。先生やキュートさんの他に、何人かが立ち上がっている。
皆一様に同じ方向を見ていた。
前。祭壇の方。
先生が目の前に立っているせいで、座敷に入れない。
ついでに祭壇で何が起きているかも見えない。
とりあえず先生をどかそうかと手を伸ばして──何故か妙に気になり、
もと来た道へ目をやった。
まっすぐ伸びた、長めの廊下。
その先に、誰か座っている。
それを見た瞬間、ぞわりと肌が粟立った。
-
黒い着物。俯いているので顔は見えないが、結い上げた髪は真っ白で、
お婆さんであることが分かる。
お婆さんはぴくりとも動かない。
じっと俯き、そこにいる。
さっきまで座敷にはいなかった。
でも、家の中にいた人は全員座敷に入っていた筈だ。
膝に手を置いて俯き続ける姿を見ていると、悪寒が増してくる。
堪えるような──
怒っているような印象を受けた。
('、`;川「……っ」
先生の横をくぐるようにして座敷に入り、障子を閉める。
それにより先生は私に気付いたらしく、伊藤君、とうきうきした声で呼び掛けてきた。
-
(´・_ゝ・`)「絵が倒れた」
('、`;川「へ?」
一瞬混乱し、みんなが祭壇を見ている理由だと思い至る。
祭壇を見るが、絵の入った白い額は先程と同じように遺影の隣に立っていた。
(´・_ゝ・`)「さっき、ひとりでに額が倒れたんだよ。2回」
('、`;川「……は……」
o川;゚ー゚)o「しょ、障子、開けちゃったからかな……?」
キュートさんの呟きに、おじさんが表情を曇らせた。
でも──昔タブーを犯したときは、何も起きなかった筈では。
( ´W`)「……まあ偶然だな、偶然。とりあえず、続きをしましょう。
──他に、トイレに行きたい人はいるかな?」
その問いに2人ほど手を挙げた。
再び障子が開かれる。
そっと覗いてみたけれど、あのお婆さんはいなくなっていた。
*****
-
その後も式は続けられたが、天井やどこかの部屋から聞こえていた音は二度と鳴らなかった。
代わりに、夫婦を描いた絵が何度も倒れた。
立て直してもしばらくすると倒れ込み、
ついには祭壇から転げ落ちるほど。
それでも何とか式を進め、宴会の後半戦も手短に済まされ──
( ´W`)「あとは明日、私が神社に絵を納めに行きます。
お疲れ様でした、ここでの式はこれで終わりです」
そう言い渡したおじさんが、絵に手を伸ばしたとき。
また額が落ち、とうとう、絵を覆っていたガラスが割れてしまった。
-
o川;゚ー゚)o「あっ」
(;´W`)「ああ、しまった」
先に絵を拾い上げる。
その瞬間、おじさんは目を見開いた。
(;´W`)「あ……」
──ガラスの破片のせいなのか、絵の真ん中が裂けていた。
新郎新婦を分かつように。
沈黙。
やがて、おじさんが苦笑いを浮かべた。
(;´W`)「……まあ今回は、縁がなかったということで……」
冗談めかして何人かが笑う。
一方、私はすっかり青ざめていた。
-
('、`;川「……ごめんなさい……」
私が障子を開けてしまったからだ。
深く頭を下げる。そうすると、とても頭を上げられなくて、
畳をじっと見つめるしかなくなった。
(´・_ゝ・`)「トイレに行きたいって言ったのは僕だ」
先生が言う。
先生は何も悪くない。だって先生は、気を遣って私の代わりに言ってくれただけだ。
( ´W`)「まあ、こんな失敗、何も今回が初めてってわけでもありますまい。
それに障子を開けたのが原因だと決まったわけではないですし」
周りから賛同する声があがる。
ああ、気を遣わせてしまっている。
申し訳ない。情けない。
-
( ´W`)「……ええと、盛岡先生、どうしますかな。
明日は一応、神社の方に絵を持っていってはみますが、
それも立ち会いますか?」
(´・_ゝ・`)「いや……明日は別の仕事があるので。
何かあれば、キュート君の方に報告してください」
( ´W`)「はあ、分かりました」
(´・_ゝ・`)「今日はありがとうございます。それと、申し訳ありませんでした」
先生が謝ること、何もないのに。
私は唇を噛み締め、謝罪する先生の声を黙って聞いていた。
.
-
──すっかり日が暮れた頃、私の家に着いた。
(´・_ゝ・`)「またね、伊藤君」
o川*゚ー゚)o「疲れたでしょ、ゆっくり休んでね」
運転席の窓を下ろして先生が言うと、助手席のキュートさんがねぎらってくれた。
先生はこれからキュートさんをアパートに送るそうだ。
('、`*川「……ごめんなさい、先生、キュートさん」
o川*゚ー゚)o「全然! 気にしないで」
(´・_ゝ・`)「幽霊を見たにもかかわらず、すぐに教えてくれなかったことについては
もっと謝ってほしいかな」
いつも通りすぎる先生の言葉で、僅かに気が軽くなった。
帰りの車中で廊下のお婆さんのことを話してからというもの、
それについての嫌味を大量にいただいた。
こいつ。
-
('、`*川「……うるさいなあ、次は気を付けるわよ」
(´・_ゝ・`)「そう。次は、ね」
先生がにんまり笑って窓を上げ、車を発進させる。
数秒。
完全に失言だったと気付き、私は頭を抱えた。
('、`;川「次とか! ないから!!」
*****
-
J( 'ー`)し「おかえり、ペニサス」
('A`)「おー、おかえり」
('、`*川「ん、ただいま」
爪'ー`)「どこ行ってたんだよ、姉貴」
('、`*川「……ちょっとね」
リビングには母と兄、それと弟がいた。
家族の顔を見た途端、安堵が胸に広がる。
お風呂に入って、ご飯を食べて、弟とゲームをして、兄とくだらない話をして。
日付が変わる頃、自室に引っ込んだ。
すぐに部屋の明かりを絞り、ベッドに潜った。
明日は朝からコンビニのアルバイトがある。
携帯電話のアラームを設定してから、目を閉じた。
-
──けれど、心身に疲労はあるというのに、なかなか寝付けなかった。
式での失敗をまだ引きずっているのかしら、と溜め息をつく。
もぞもぞと何度も寝返りを打ちながら回想し、
もだもだと何度も後悔する。
式の途中で聞こえた音。あれはラップ音ってやつだろうか。
あれが怪奇現象だというのなら、真実、あの場に幽霊か何かがいたことになる。
でもみんな、あまり気にしていなかった。
幽霊の存在を信じる信じないの問題ではなく、「そういうもの」と大雑把な認識でいたからだろう。
敢えて細かく考えないというか。
だから、式の失敗自体も、それほど深刻に考えていない。
でなければ私はもっと責められていた筈だ。
彼らはあくまで、彼らの視点でのみ、儀式を捉えている。
けれど──
式の主役だった男性、キュートさんのハトコの視点では、どうなのだろう?
-
大事な式を、私に邪魔された。
それは事実であり、ならば、私に怒りを覚えるのは当然の流れ。
('、`;川「……」
まだまだ夜も暑い時期なのに寒気がして、丸まった。
('、`;川(……そういえば……)
思考が少しだけ別の方向に移動する。
あのお婆さんは誰だろう?
怒っていた気がするけれど、何に対して?
('、`;川(……あー、やめやめ、そういうのは明るくなってから考えよう)
このことは、一旦打ち切り。
私は寝返りを打ち、壁に背を向けた。
ドアの前に、お婆さんが座っていた。
-
黒い着物。
白い頭。
ほとんど真っ暗な室内でも、それらは分かる。
顔を上げているが、影が落とされたようになっていて、どんな顔立ちかは見えなかった。
認識した瞬間、私は短く息を吸って、呼吸を止めた。
体が硬直したように動かない。
その一瞬が過ぎると、鼓動が乱れ始め、
それに合わせて再開した呼吸も速まっていった。
シーツを握る手には力を込められたけど、それ以外の動作は何一つ出来ない。
-
〈……上手く、いかなくて……〉
しわがれた声。
どの方向から聞こえたのか不明瞭だし、お婆さんの口元が動いた気配も無かったけれど、
間違いなく、このお婆さんの声だろうと思えた。
〈息子があまりに哀れで……〉
声には恨みが滲んでいる。
「上手くいかなくて」とは──あの、式のことか。
見開いていた目に乾きを覚えて瞬きすると、その一瞬で、
お婆さんは少しだけこちらに近付いていた。
息が荒くなる。焦るがままに、もう一度瞬き。また、少し近付く。
距離が縮まっても、お婆さんの顔は見えない。
-
瞬きを止めたいのに、我慢しても、乾きに耐えられず瞼を閉じてしまう。
閉じたのなら閉じたままでいたいのに、勝手に瞼が上がる。
そうしてその度にお婆さんが近付いて。
ついに目の前まで迫ったお婆さんが、初めてその身を動かした。
皺だらけの手が、私の手首を掴む。
〈……息子は足が悪いので、こちらへ来るのが少し遅れます……〉
.
-
甲高い電子音が鳴り響いた。
ぱちんと弾けるように、私の意識が切り替わる。
室内は明るくなっていた。
いつも通りの部屋。私以外、誰もいない。
呼吸も鼓動も激しいままで、びっしょりと汗をかいている。
手を動かし、足を動かし、感覚を確認する。
それから、ずっと鳴り続けている音が携帯電話から聞こえるものだと気付いた。
-
身を起こして携帯電話を引き寄せる。
アラーム音だ。解除して、ようやく止まった。
窓を見る。カーテン越しに入る明かりも、携帯電話のアラームも、
朝になったことを示している。
('、`;川(……さっきのって、夢……?)
眠った覚えはない。
いや、眠る瞬間の自覚なんて、そうそうあるものでもないか。
気付かぬ内に寝ていたのかもしれない。
式でのことを悔いていたときには既に夢の中で、
さらに自分自身を戒めるような展開にしてしまったのかも。
苦笑して、ベッドから下りる。
強張る両手をほぐすように動かし──
-
右の手首に痣があるのを見付け、へたり込んだ。
収まっていた動悸がまた激しくなっていく。
唇が震える。
〈……息子は足が悪いので、こちらへ来るのが少し遅れます……〉──
来る。どこに?
「こちら」へ、って。
-
──ここに、来る?
*****
-
今夜はこの辺で
続きます
後半は二週目の金土日のいずれかに
-
乙乙乙。最高や。最高に怖い
-
来週まで生殺しか
おつ
-
>>14
誤字った
×> バンドルを操りながら呟く先生を、私は泣きながら睨みつけた。
○> ハンドルを操りながら呟く先生を、私は泣きながら睨みつけた。
-
うおお!百選で読んで大好きだった作品だ!
-
乙
本編読んでないけど面白いな
これを機に本編も読んでみるか
-
前作も好きだったよ!
そして少し遅れますこえええ
-
おつ!やっべえ最高に怖い
怪奇夜話大好きだよぉぉぉ!
来週楽しみに待ってます
-
乙!
今夜一人でトイレに行けなくなりそうになるくらい怖かった……
来週楽しみにしてる
-
まじでええええええ!!!
まだ読んでないけど!!
つい昨日読み返してたくらいメッチャ好きだあああ!!!!
やったぁぁああああ!!!
作者乙!!!
-
大好きな作品がくるとは…!
続きがたのしみだ、乙!
-
前後編か。期待してる乙
-
乙!楽しみにしてる
-
うっわぁ…こえぇぇ…
-
また読めるなんて嬉しすぎる
-
乙!また怪奇夜話が読めるとは!
ぞくっとした。後半も楽しみにしてる!
-
釣り…釣りじゃない?だと?
-
('、`*川「……誰が悪いと思います?」
神妙な面持ちで問う。
机を挟んで私と向かい合うその人は、何とも言えぬ表情を浮かべていた。
( ゚д゚ )「……先生が悪いってことにしていいんじゃないかな……」
(´・_ゝ・`)「僕は何もしてないよ」
( ゚д゚ )「先生が伊藤さんを連れていかなけりゃ、こういう事態にならなかったでしょうが」
その人──ミルナさんが、呆れたように言う。
ミルナさんは先生の教え子である男子学生だ。4年生。
彼もまた、私同様、先生の趣味に度々付き合わされる被害者である。
立場的に私よりも先生に近しい分、先生からの扱いもいくらか雑で、
ひょっとすると一番気の毒な立ち位置にいるのかもしれない人だ。
-
(´・_ゝ・`)「まあ騙し討ちみたいな形で連れ出したのは僕だけど」
(;゚д゚ )「自覚あるんじゃないですか」
──私は今、VIP大学、先生の研究室にいる。
アルバイトのためコンビニには行ったものの、
あの出来事によるショックが大きくて何も手につかず、
体調を心配した店長に早退を命じられてしまった。
今日はコンビニ以外の予定が入っていなかったため、することがなく。
無為に時間を過ごし、昼前、先生に会おうと決めた。
とにもかくにも、先生に話さなければと思ったのだ。
私は先生の携帯電話の番号など知らないので、
こちらから接触するには、まず大学を当たらねばならない。
大学はまだ夏休み期間らしく、少々不安だったが、果たして先生は研究室にいた。
顔を見た瞬間、ものすごくむかむかした。
正確に言うと、真面目な顔でオカルト雑誌を読み耽り、真剣に心霊スポットをチェックしている姿に苛々した。
人の気も知らないで。よくもまあ、呑気に。
-
来た!
-
ちょうど卒論の話をしに来たというミルナさんも同席していたので、
私は一昨日の夜に「見合い」の話を持ち掛けられたところから
自室で起きたことまで、全てを詳らかに説明した。
そして最後にミルナさんへ投げ掛けた質問が、先程のあれだ。
私と先生。一番悪いのは誰か、と。
(´・_ゝ・`)「──だからって、その後の伊藤君の行動まで責任とる義理はないよ。
油断して、まんまとトイレに行かなければならない状況に自ら陥ったのは伊藤君だ。
そもそも連れて行ったことに関しても、僕は別に強制はしてない」
( ゚д゚ )「伊藤さんが断ったところで、どうにかこうにか丸め込んでたくせに」
(´・_ゝ・`)「よく分かってるね」
( ゚д゚ )「経験談です」
先生の理屈が耳に痛い。
直接的には、我慢できなかった私に原因がある。
右手首に着けたリストバンドを見下ろし、眉根を寄せた。
例の痣を隠すために着けたのだ。
左手でリストバンドを軽く撫で、ふと、今のやり取りに引っ掛かりを覚えた。
でも何が気になったのか分からなくて、結局そのまま流す。
-
('、`*川「何でこんな人を『優しい』なんて言うのかしら、キュートさん……」
嘆くように言ってみせると、先生とミルナさんがこちらを見た。
( ゚д゚ )「何の話?」
('、`*川「昨日キュートさんが先生のこと、べた褒めしてたんです。
穏やかで、優しくて、お茶目で、可愛いそうですよ」
一つ一つを強調するように、当てつけがましい言い方をしてやれば、
ミルナさんが生温い目を先生に向けた。
昨日の私も、きっとキュートさんを同じように見ていただろう。
( ゚д゚ )「キュートさんって、あのめちゃくちゃ可愛い子だろ……。
先生、可愛い子相手だからって猫かぶってんじゃないのか」
('、`*川「それが、全くもって普段通りだったんですよ」
(;゚д゚ )「普段の先生を見て、どうしてそんな感想が出るんだ?」
聞こえよがしに言葉を交わす私達を冷ややかな瞳で見遣り、
デジタルカメラ(さっき私の手首の痣を撮った)に視線を落とした先生は、
事も無げに言った。
-
(´・_ゝ・`)「惚れた欲目じゃないの。あの子、僕のこと好きでしょう」
('、`*川
( ゚д゚ )
──とうとう独り身をこじらせて気でも狂ったか、と言いたくなるような発言だったが。
実のところ、やっぱりそうか、なんて思う私もいた。
キュートさんの言動は結構あからさまだった。
もしかしてという疑念はあったが、相手は「あの」先生だぞ、と思うと私の勘違いのような気がして、
見て見ぬふりをしていたのだけど。
-
(;゚д゚ )「え……? マジで言ってんすかそれ」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「……まあ有り得なくもない」
(;゚д゚ )「あのキュートさんが? 先生を?」
(´・_ゝ・`)「趣味悪いよね」
('、`*川「あ、自分で言うんだ」
(;゚д゚ )「手ェ出してないでしょうね!? 出したら男子学生から殺されますよ!」
(´・_ゝ・`)「彼女が学生でなければなあ」
先生が残念そうに呟く。
学生でなければ、どうするっていうんだ。
白い目で見る私に対し、ミルナさんは先程とは打って変わって
羨望の眼差しを先生へ向けていた。
-
( ゚д゚ )「キュートさんも『物好き』の1人だったのか……」
('、`*川「キュートさん以外にも物好きがいるような言い方ですね」
(´・_ゝ・`)「伊藤君は平気な顔して僕とラブホテルで一泊するけれど、
その一夜を喉から手が出るほど望んでいる子は僅かばかり居るんだよ」
('、`*川「まったく平気な顔してなかったし、言い回しが何か気持ち悪いわ先生」
(;゚д゚*)「ラブホ!?」
('、`;川「あ、いや、ほぼ肝試しですよあれは!」
もちろん目的は幽霊であり、宿泊したのは曰く付きの部屋だった。
やましいことは何もしていない。
しかも例によって私だけが怖い目に遭った嫌な思い出だ。
ははは、と先生が肩を揺らして朗らかに笑う。いかにも楽しそうに。
なんて一方的な談笑。
この人、見た目に反して、たまに俗っぽい言動をとるので
身構えていないとちょっと呆気にとられる。
キュートさんはこういうところも見るべきだ。いや、見た上で尚、あれなのか。
-
( ゚д゚ )「伊藤さん、さすがにホテルにまで付いていくのはどうかと思う」
呆れ顔のミルナさんが窘めるように言った。
本気の声色。要するに本気で呆れている。傷付く。
('、`;川「……先生、基本的に幽霊にしか興味ないし……」
(;゚д゚ )「そりゃそうだけど。もうちょっと警戒しないと。
そんなんだから学内でも噂になるんだよ……まあ噂の内容はそれぞれだけど」
('、`;川「えっ、私の存在ってそんなに知られてるの!? 私、完全に部外者ですよ?」
( ゚д゚ )「先生自体がちょっと有名だから、自然と伊藤さんも注目されるんだ」
たしかに大学の前で先生をビンタしたことがあるし、
先生と一緒に学生達の百物語に参加したこともあるし、
それ以外にも何度か研究室にお邪魔したけれど──ああ、噂される要素しかない。
('、`;川「ちょっと待って、キュートさんも噂知ってるの? 変な誤解させてない?
私と先生は仲がいいって言われたんだけど」
(´・_ゝ・`)「伊藤君のことはちゃんと包み隠さず正確に説明してあったから、
誤解はしてないと思うよ」
('、`;川「全然正確じゃなかったんだけど!」
私を「冥婚に興味がある人」と紹介していたじゃないか。
あれのどこが正確な説明なんだ。
-
そのことを指摘すると、先生は泰然と頷いた。
(´・_ゝ・`)「まあ、そこだけ嘘ついたけど。それ以外は事実のみ話したよ。
僕自身、君との仲を疑われるのは心外だし屈辱だからね」
('、`#川「こッッッちの台詞だわ!!」
( ゚д゚ )「……俺も2人は仲良く見えるなあ」
ミルナさんが言う。
正直、私もそんな気がしてきた。
無遠慮な態度をとらせる先生が悪い。
──先生への文句を続けていると。
こつこつ、軽やかな足音が近付いてきた。
足音はこの部屋の前で止まり、次いで、ノックの音。
-
(´・_ゝ・`)「どうぞ」
o川*゚ー゚)o「失礼します」
('、`;川「あ」
キュートさんだ。
今まで話していた内容が内容だけに、思わず挙動不審になってしまう。
キュートさんは私を見て、ちょっと困ったような目をした。
o川*゚ー゚)o「伊藤さん」
('、`*川「……ど、どうも」
何か言いかけたキュートさんが、ミルナさんに気付いて一礼する。
ミルナさんはどぎまぎしながら応えた。──頬が赤いところからして、
私とは違う意味合いで緊張しているようだ。
o川*゚ー゚)o「あの、先生……」
キュートさんがちらちらと私へ視線を送る。
さっきまでの会話を思い出して、何となく居た堪れなくなった。
先生の研究室にいた私を見て、どう思っているのやら。
慌てて腰を上げる。
('、`;川「ちょっとトイレ行ってきます」
そそくさと研究室のドアへ向かう。
呼び止められた気がしたが、構わず廊下へ出た。
.
-
夏休み中でも学生はいくらか居るようで、若い男女と幾度かすれ違った。
盛岡教授の、という囁き声が耳に入る。本当にそこそこ知られているらしい。辛い。
女子トイレを見付け、適当な個室に入った。
蓋を閉めたままの便器に座る。
('、`*川「はー……」
──帰ろうかな。
妙な誤解を深められても厄介だ。
実際、気軽にこんな場所に来ている私にも問題が──
そんなことを考えていたら、不意に、当初の目的を思い出した。
('、`;川(って、そうだ! そもそも、)
じくり。
右手首が疼く。
-
('、`;川「いっ、」
……あのお婆さんのことを相談しに大学へ来たのだった。
思い出した途端に淡く熱を持つ手首を、リストバンド越しに押さえた。
何とか先生に責任を押しつけられないか、といった流れから
いつの間にやらキュートさんの話題になって、すっかり忘れていた。
なんだかんだ、私も呑気なものだ。先生のことを言えない。
('、`;川(夜にあったこと、キュートさんにも話しておくべきかな……)
リストバンドをずらす。痣の色が赤から紫へと変わっているが、濃くはない。
じくり。また痛む。
朝は全く痛まなかったのに、どうして今更。
痣を一撫でしてリストバンドを戻した──そのとき。
にわかに、空気が冷えた気がした。
しんと静まり返るトイレ。ひやりと漂う空気。
嫌な予感がする。
私は立ち上がろうとして、
扉と床の隙間から、揃えた指先が覗いているのを見付け、また腰を落としてしまった。
-
('、`;川「……な……」
細く、皺の目立つ指。
かりかりと床を掻く。
その仕草から、苛立ちが滲んでいる。
〈……あと三つ、橋を越えれば……〉
しゃがれ声。
泡が立つように、ぶつぶつと所々が低く弾けて聞こえる。
〈到着しますので……〉
──到着する。
彼女の「息子」が。
恐らくは、キュートさんのハトコが。
-
('、`;川「ぁ、」
右手が震える。
けれど、夜に会ったときほどの恐怖は無かった。
先生達と間の抜けた話をして、いくらか気が大きくなっていたのかもしれない。
昨夜から一貫してお婆さんの口調は大人しく、
何となく、話が通じそうな気がしたのだ。
('、`;川「……あの……」
とはいえ話しかける私の声は弱々しかった。
床を掻く指先が止まった。
意味はないけれど、扉を睨む。
('、`;川「邪魔しちゃったのは申し訳ないです、けど。
私には多分、どうしようもないので、
……どうにかしたいなら、親戚の人の夢枕に立ってお願いしてみてもらえませんか」
-
──言い切ると、途端に静寂が身に染みた。
激しく跳ね始める心臓。胸を押さえ、もう一度床を見る。
指は消えていた。
('、`;川(……いなくなった)
ほっと息をつく。
瞬間、どん、と扉を叩かれた。
どん、どん。壁まで震えるほど強く。
音に合わせて手首が痺れる。
お婆さんが何か言っている。
しかし扉を叩く音が響いて聞こえない。
どんどんという音の合間に、呪詛のような低い呟きが混じる。
-
('、`;川「ひあっ」
ついには、がたがたと個室全体を揺らされるような錯覚をおぼえるほど強くなる。
扉の把っ手が、がちゃがちゃ、狂ったように捻られた。
耳を塞ぎ、目を瞑り、体を丸める。
──間もなくして、また静かになった。
手を下ろし、辺りを窺う。
女の子の話し声が近付いて、トイレへ入ってきた。
サークルの話をしながら、ポーチだろうか、何かを探る音を立てている。
震えながら個室を出ると、2人の女の子が化粧を直していた。
私がよほど青ざめていたのか、こちらを見た彼女らは「大丈夫ですか」と案ずるような声をかけてきた。
*****
-
研究室に戻った私の顔色を見て、ミルナさんがぎょっとした。
急いで私を椅子に座らせる。
部屋の片隅にあった小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを出した先生が、
ペットボトルの蓋を開け私の前に置いた。
それからキュートさんが私の隣に座り、どうしたの、と問いながら背中を摩る。
一斉に世話を焼かれて、何だか可笑しいなと思うと、気分が落ち着いた。
けれども口はなかなか動いてくれない。
('、`;川「……」
唇が震える。左手でリストバンドを押さえる。
(´・_ゝ・`)「また何かあったの」
先生が訊ねた。
──恐怖に怯える私の姿を一番よく知っているのは先生だ。すぐぴんときたのだろう。
夜の出来事は、私がいない間に先生からキュートさんへ伝えられていたらしく、
キュートさんが「出たの?」と青ざめる。
頷き、トイレで起こったことをゆっくり語っていった。
.
-
(;゚д゚ )「まずくないですか」
話が終わって、数秒の沈黙の後。
ミルナさんが先生に振り返った。先生は顎に手を当て黙っている。
(;゚д゚ )「婆さんもまずいですけど、
そもそも、そのハトコは、こっちに来て何するつもりなんでしょう」
o川*゚ -゚)o「……あの」
膝の上で両手をつかねていたキュートさんが、おずおずと口を開いた。
o川*゚ -゚)o「さっき、叔父さんから電話があって。
私、それを伝えに来たんです」
(´・_ゝ・`)「昨日のことについてかな?」
o川*゚ -゚)o「そうです。……『気になるなら、後始末しといた方がいいかも』って、
やっぱり軽いノリだったので、私もあんまり緊急だと思ってなかったんですけど……」
緊急みたいですね、と呟く彼女に、私は浅く頷いた。
先生がキュートさんの後ろに立ち、腰を曲げる。
-
(´・_ゝ・`)「後始末って何だい?」
o川*゚ -゚)o「式が失敗してしまったときの対処っていうか……」
(´・_ゝ・`)「そんなのあるの?」
o川*゚ -゚)o「はい。叔父さんも今朝、神社に行って話を聞いて、初めて知ったみたいです」
私は、縋るような目を彼女に向けた。
o川*゚ -゚)o「──昔、式の最中に子供が襖を開けてしまったって、叔父さんが言ってましたよね」
(´・_ゝ・`)「そのときは何もなかったとも言ってたね」
o川*゚ -゚)o「でも、神社の人によれば──
そのときも、婚姻自体は失敗してたらしいんです」
o川*゚ -゚)o「……神社に絵を納めるまでは良かったんですが、
気付けば絵が無くなってて、後日、切れ端だけが見付かったって」
幼い子供を責めるわけにもいかず、
その事実はごく少数の人間──当時まとめ役だった高齢者たち──にしか知らされなかった。
だからおじさん達は知らなかったのだという。
-
('、`;川「けど、結婚が失敗しただけであって、
その襖を開けた子には何もなかったんでしょ?」
o川*゚ -゚)o「それは、婚姻を挙げた死者が男性で、
襖を開けた子供も男の子だったから」
o川*゚ -゚)o「失敗の原因が同性だったから、それ以上は何も起こらなかった。
……という見解みたい」
(;゚д゚ )「……原因が異性なら、話は変わってくるってことか?」
絶句する私の代わりに、ミルナさんが訊ねた。
くらくらする。ハトコは男で、私は女だ。
o川*゚ -゚)o「あくまで言い伝えなんですけど……」
言いにくそうに、キュートさんがこちらに視線を寄越す。
それから目を逸らし、いくらか小さくなった声で続けた。
-
o川*゚ -゚)o「責任をとらなければならなくなるそうです」
('、`;川「責任って──どうやって」
o川*゚ -゚)o「それは分からない。
──そもそも冥婚自体、ここ何十年かで数件しかやってないから」
まず冥婚が行われること自体が稀なのだという。
小さな村。人口は年々減っているし、時代に合わせ、結婚を重要視しない世代が増えている。
だからたとえ未婚のまま亡くなった人がいても、
必ず冥婚を行うわけではないのだそうだ。
そして仮に行ったとしても、シンプルな儀式ゆえに、失敗することが少ない。
-
(´・_ゝ・`)「なぜ今回は冥婚を?」
o川*゚ -゚)o「ハトコのお母さん……その、伊藤さんが見たお婆さんだと思うんですけど」
着物、白髪、背格好の特徴は一致するらしい。
先程のことを思い出し、身震いした。
o川*゚ -゚)o「あの人、生前、ハトコのお嫁さん探しに必死だったんです。
結局どの縁談もまとまらないままお母さんが亡くなって、それから彼も亡くなって……。
だからあの冥婚は、ハトコのためというよりは、
ハトコのお母さんのためというのが大きかったと思います」
──「上手く、いかなくて」。
お婆さんの言葉が脳裏を過ぎる。
あれは式の件だけでなく、生前のことも含まれていたのかもしれない。
ようやく息子さんが結婚するという段で、私が邪魔してしまった。
だからあんなに怒っていたのか。
そこへ原因の私が「私に言われても」なんてすげなく返せば、そりゃあ激怒するだろう。
-
o川*゚ -゚)o「うちの親族で最年長のお祖父さんでも、
冥婚に立ち会ったのは、昨日含めて3回程度だそうです」
一度目は例の、子供が襖を開けてしまったとき。
当時、おじいさんは失敗したことを知らされていなかった。
二度目は何年か前に。
キュートさんも参加した回で、それは恙無く終わったという。
o川*゚ -゚)o「事例が少ないんです。まして、今回みたいなパターンは……。
だから正確なことが分からないんですけど、」
(´・_ゝ・`)「伝承によれば、今回の場合、伊藤君が『責任』をとらされる。
でも責任のとり方が分からない」
そうなります、と答えるキュートさんの声は、さらに小さくなっていた。
私は言葉を失う。
誰もはっきりと言わなかったが、きっと、同じ考えを頭に浮かべていただろう。
──私が、「彼」へ嫁ぐことになるのではと。
-
やや間をあけて、先生が指を2本立てた。
(´・_ゝ・`)「とり殺されて連れていかれる。
死ぬまで付きまとわれ、死後に正式な妻となる。
まあ真っ先に思いつくのは、この2つかな」
どっちもごめんだ。結果は同じで、早いか遅いかの違いでしかない。
俯き、唇を噛む。
──あと3つ、橋を越えれば。
彼は私のもとへ来る。来てしまう。
携帯電話で地図を調べてみたが、ルートによって、「3つの橋」を通る距離が変わる。
ただ、いずれにしろ、だいぶ近いところまでは来ているようだ。
('、`;川「──後始末って、何をしたらいいんですか?」
キュートさんの言葉を思い出し、顔を上げた。
そうだ、対処できると言っていたじゃないか。
私の問いに、彼女は固い表情を和らげた。
o川*゚ー゚)o「もう一回失敗させればいいの」
*****
-
──数時間後、キュートさんが独り暮らしをしているマンションにお邪魔した。
そこで「結婚式」が行われることになったのだ。
o川*゚ー゚)o『うちで式を開くので、途中、先生が部屋のドアを開けてくれればいいんです』
研究室でキュートさんはそう言った。
そうすれば式は御破算、私は助かるし、
ドアを開ける先生は新郎と同性なので、責任をとらなくて済むわけだ。
何故キュートさんの家でやるのかというと、死者が主役である以上、
その人の、あるいは親族の家でやるのが好ましいのだそうで。
本当は昨日のように、本人の家に行くのが色々と都合がいいのだろうが、
移動に時間がかかるし──道中で「彼」と行き合った場合、どうなってしまうか分からない。
だから、ここでやる。そして失敗させる。
新郎と彼の母親には気の毒だが、こちらも、はい分かりましたと簡単に嫁いでやれない。
-
(´・_ゝ・`)『ミルナ君も来るかい?』
(;゚д゚ )『……いえ、どうぞお構いなく』
キュートさんの家ということで揺れたみたいだが、
妙な事態に巻き込まれたくない気持ちが勝ったか、ミルナさんは丁重にお断りしていた。
o川;゚ -゚)o『ごめんなさい、ちょっと事情があるので、ミルナさんは……』
さらにキュートさんからも直々に断りが入ったので、免除と相成った。
羨ましい。
結果、参加者は私とキュートさん、先生の3人だけ。
少ないけれど、相手役と進行役、そして妨害役としては最低限揃っている。
-
諸々の準備は先生がやってくれた。
死者と同性の人間が準備をしなければならない、とは昨日おじさんが言った通り。
幸い、取材という名目で先生が手伝っていたおかげで、必要なものは把握していたようだ。
カラーボックスとシーツにより、簡素な祭壇がキュートさんの寝室に作られる。
キュートさんの持っていたアルバムからハトコが写っている写真を選び、
彼のみを切り抜いて小さな額に飾った。
夫婦の絵は無くていいらしい。「相手」である私は既に、ここに居るから。
寝室の中央に小さなローテーブルを置き、適当に作ったり買ったりした料理をそこに並べる。
──箸は2膳。
私とキュートさんの分。彼女は「よし」と頷くと、先生に振り返った。
o川*゚ー゚)o「それじゃあ先生、申し訳ないんですけど、外で待っててもらえますか?」
(´・_ゝ・`)「玄関の外でいいのかな」
o川;゚ー゚)o「はい……ごめんなさい、うち、こんな感じなので……」
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キュートさんの住むマンションの間取りは、開放的な造りになっていた。
寝室、リビング、キッチンに明確な仕切りがなく、
ドアといえばトイレと浴室、それと玄関にしかない。
この寝室だけで閉鎖的な空間を作るということが出来ないのだ。
だから、先生はこの部屋を出て、マンションの外側通路で待機する。
──外に出ずとも、内側からドアを開ければいいだろう、と思うかもしれない。
けれど、そういうわけにもいかない事情があった。
o川*゚ -゚)o『新郎の親族よりも他人の数が多いと、式が成り立たないんです』
繰り返すが、今回の主役は新郎であり、式の主導は彼の親族にある。
部外者の方が多いと、新郎にとって、何というか──
「やりづらい」状況になってしまうのだそうだ。
今のところ私の立ち位置が判然としないのが痛い。
既に嫁として親族側にいるのか、
まだ婚姻が済んでいないから他人として扱われればいいのか。
とにもかくにも過去の事例の情報が足りないので、何が正しいのか分からないのだ。
リスクを減らすため、ひとまず確実に安全な手として、先生には外に出てもらう。
-
o川*゚ー゚)o「新郎が来たら、合図を送ります。そしたら開けてください」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`;川「開けてよ! 絶対に開けてよ!」
(´・_ゝ・`)「前フリかな」
('、`;川「んなわけあるか!!」
──お婆さんを信じるならば、新郎はまだここに来ていない。
新郎が来なければ式が成立しないので、彼が到着しないことには、先生も妨害のしようがない。
なので、ここだ、というタイミングで、
キュートさんの携帯電話から先生の携帯電話へ発信する手筈となった。
('、`;川「あっ、でも、この部屋を閉じちゃったら新郎も入れなくなるんじゃ」
o川*゚ー゚)o「『余計なものが入らないように』するものだから、
必要な新郎は入れるんじゃないかな。多分」
('、`;川「……曖昧ですね」
-
o川;゚ー゚)o「うん……けどね、式が始まる前に新郎が来ちゃったら、
伊藤さんがどうなるか分からないじゃない?」
o川;゚ー゚)o「でも新郎が来たときに既に式が始まってれば、
向こうも、『結婚する気があるんだな』って、
式の間は手出しせずに大人しくしててくれると思うの」
(´・_ゝ・`)「仮に新郎が式場に入れなくなったとしても、それはそれで時間稼ぎにはなるしね」
('、`;川「……あ、そうね。時間を稼いだ後にどうすればいいか分からないけど」
いずれにしても、先に式を始めておいた方が無難か。
キュートさんが腕時計を見た。
外はもう真っ暗で、時計は午後8時を指している。
新郎の具体的な移動速度が分からないが、昼の時点でそう遠くない場所にいたのなら、
そろそろここへ来る頃かもしれない。
-
(´・_ゝ・`)「じゃあ頑張って」
('、`;川「先生も頑張ってよ、本当に頑張ってよ!!」
ひらひら手を振って、先生が玄関から外の通路へ出ていった。
ドアが閉められる。
場所はこれで整った。
*****
-
o川*゚ー゚)o「……大丈夫?」
('、`*川「……はい」
20分ほど経ったろうか。
黙々と食事をしていたキュートさんが、私の顔を覗き込んだ。
式の手順は、宴会をして、新郎新婦の生涯を説明して、適当なところで締めて。それで終わり。
今は最初の宴会の段階だが、盛り上がるわけもなく。
料理に手をつける気にもなれず、私はじっと押し黙って自分の膝を睨んでいた。
o川*゚ -゚)o「……ごめんね、伊藤さん」
('、`*川「キュートさんは何も悪くないでしょう」
のこのこ先生についていったのは私で、障子を開ける羽目になったのも私1人の問題だ。
キュートさんは寧ろ被害者だろう。こうして巻き込まれて。
-
箸を置いたキュートさんが足元から紙を拾い上げた。
新郎の生涯を綴った原稿。おじさんに教えてもらって書いたものだ。
o川*゚ー゚)o「……これじゃ結婚式なのかお通夜なのか分かんないね!
進めちゃおうか」
祭壇の前に立ち、無理に笑顔を作ったキュートさんが原稿を読み始める。
昨日とは違った意味で集中できなくて、結局今日も聞き流した。
.
-
それからしばらくして。
じくり、右手首に痛みが走った。
('、`;川「っ」
私が震えたのを見て、キュートさんが口を止める。
原稿を畳み、私の隣にしゃがみ込んだ。
o川;゚ー゚)o「来たの?」
多分、と細い声で答える。
──その瞬間、ぴしりと天井から音がした。
昨日と同じだ。
続けて、こつん、窓を叩く音。カーテンがしまっているので、外は見えない。
-
o川;゚ー゚)o「……新郎かな……中に入れないのかな?」
('、`;川「……どうでしょう」
昨日の記憶を反芻し、ふと疑問が湧いた。
今はともかくとして、昨日はきちんと丁寧に準備を整えた上で行った筈だ。
新郎も既に部屋にいただろう。
なのにラップ音は部屋の外から聞こえていた。
天井の音は内外の区別がつかないが、畳を擦る足音は確実に別の部屋からのもの。
あれは誰の足音だったのだろう?
そんな私の思考を読んだかのように、今度は足音が聞こえた。
けれど昨日とは違い、くっきりとした響きは、明らかに室内で鳴ったものだった。
-
きし。きし。小さく軋む床の音。背後、リビングの先にある廊下からだ。
きし。きし。ゆっくり近付いてくる。
きし。きし。合間に、引きずるような音。
お婆さんの声が耳に蘇る。
「息子は足が悪いので」。
o川;゚ -゚)o「……」
('、`;川「……」
私もキュートさんも、振り向けない。
じりじりと手首が痛む。
部屋の明かりが弱まった。キュートさんが肩を跳ねさせる。
リモコン式の照明だが、誰もリモコンには触れていない。
なのに光が絞られていく。
明るくもなく、真っ暗でもなく、室内の様子が分かる程度の薄暗さは、却って不快だった。
-
いびつな足音はリビングへ侵入した。
フローリングを踏み、擦り、こちらへやって来る。
ふうふう、苦しそうな呼吸音。
呻くような低く短い声が合間に挟まる。
〈……ゥグ……ウゥ〜……〉
距離が縮んでいく。
カーペットを踏む音に変わる。寝室に到達したのだ。
そうして。
ついに、俯く私の視界に、足が入り込んだ。
.
-
目を閉じる。
顔を動かせなくて、瞼を下ろすくらいの抵抗しか出来なかった。
手首は痛みよりも熱を強く感じた。
苦しげな呼吸が耳につく。
(-、-;川「……きゅーと、さん」
早く、先生に合図を。
懇願するようにキュートさんを呼ぶ。
衣擦れの音。方向からして、男ではなくキュートさんが動いたようだ。
私から離れ、すぐに戻ってくる。何故かそのまま後ろに回り込んだ。
そして、
('、`;川「──んぐッ!?」
口元に何かを押し当て、うつ伏せに倒された。
-
背中に誰かが座り込む。その人が私の頭を押さえつける。
口元にあるのはクッションだ。幸い、鼻までは塞がれなかったので呼吸は出来る。
('、`;川「きゅ、うっ」
部屋の主を呼ぼうとしたが、一層強く頭を押されて叶わなかった。
喚いてもクッションに吸収される。
背中に乗っかる人物の足に両手を抑え込まれて、上手く動けない。
o川*゚ー゚)o「……それから5年後、新郎の母が病により亡くなり……」
──乗っかっている人が。
キュートさんが、原稿の続きを読み始めた。
どうして。
電話は。どうして電話をかけないの。
-
dkdk
-
必死に身をよじる。けれど後ろから封じ込まれた上、手も碌に使えない分、
小柄なキュートさんが相手でも撥ね除けられない。
私を押さえつけているためか、息を乱し、力んだ声で彼女は原稿を読み続ける。
視界に、また男の足が入った。
その場にゆっくりと膝をついてから座り込む。
ああ。終わるのを、待っている。
くしゃり、紙を放り投げる音が辛うじて聞こえた。
新郎の分の原稿を読み終えたのだろう。
次は私だ。これといって目立ったことのない人生だし、たった20年だし、
そもそもこの段階まで進むことを想定していなかったから、
とてもシンプルな一文が複数あるだけだ。
あんなの、あっという間に読み終わってしまう。
そしたら。
式が。終わってしまう。
-
キュートお前……!?
支援
-
(;、;*川「んん──っ!!」
叫ぶ。クッションに邪魔されて、どこにも届かない。
涙が浮かぶ。手首の熱が増していく。
嫌だ。嫌だ、助けて。誰か。
もはや体のどこに力を入れているか分からなくなって。
藻掻くように足を振って。
──体の上から、重みが消えた。
ずるりと滑り落ちるようにキュートさんの体が左にずれ、
左手の上に思い切り座り込まれて激痛が走った。変な角度で曲げていたので。
反射的に左手をキュートさんの下から抜き取る。
そのまま体を反転させ、仰向けになった。
-
(;、;*川「っぶはっ!」
顔が濡れている。汗と涙と鼻水。
いつの間にか、部屋の明かりが元に戻っていた。
ぼやけた視界に、立ち尽くす男がいる。
写真で見るよりどす黒い肌に、こけた頬。
落ち窪んだ眼窩が私を見下ろしている。
無表情のまま、彼は踵を返した。ゆっくりと寝室を出る。
呆然とそれを眺めていた私の顔を、別の男が上から覗き込んだ。
(´・_ゝ・`)「顔汚いよ」
(;、;*川「、せ、」
先生。
-
数秒、見つめ合って。
がばと起き上がり、私は玄関へ顔を向けた。
開いている。
(;゚д゚ )「……だ、大丈夫かー……?」
しかもミルナさんがドアの陰からこちらを覗いていた。
何故ミルナさんがここに。大学で別れた筈では。
私の疑念を感じ取ったか、先生が答えをくれた。
(´・_ゝ・`)「電話で合図をくれなかったときのために、ミルナくん呼んだんだ。
──彼も幽霊とは結構相性いいみたいだから、
姿なり声なり足音なり、何かあれば気付いてくれるかと思って」
(;゚д゚ )「別に相性いいわけじゃないですよ!
先生の近くにいると勝手に見えるんです!」
彼の叫びはとてもよく分かる。
振り返って確認すると、先生がキュートさんの腕を掴み上げているのが見えた。
キュートさんはだらりと項垂れていて、顔を窺えない。
-
何度もミルナさんとキュートさんを見比べる。
「顔汚いよ」。ものすごく失礼なことを先生にもう一度言われたので、
近くにあったティッシュペーパーで顔面を拭いた。
('、`*川「……何なのこれ……何があったの」
(´・_ゝ・`)「こっちが訊くけど、何があったの?」
('、`*川「……キュートさんにいきなり乗っかられて口ふさがれて、結婚式進められそうになった」
(´・_ゝ・`)「じゃあ、その通りのことが起こったんだと思うよ」
o川*゚ -゚)o「……」
キュートさんが顔を上げた。
乱れた髪が汗で顔に張りついているけれど、丸い瞳はいつも通り。
敵意も何もない。
何故、あんなことをしたのか──と本人に訊ねるより先に、
ある仮定が浮かんだので、それを口にした。
-
('、`;川「キュートさん、な、何かに憑かれたの?」
(´・_ゝ・`)「正気でしょ」
あっさり否定された。
キュートさんも深く頷く。
それから彼女は、困ったように笑った。
わけが分からない。
(´・_ゝ・`)「ごめん伊藤君、さっきまでは確信できるほどじゃなかったから、
たしかめるために様子を見ることにしたんだけど──ここまでするとは思ってなかった」
('、`;川「……、──……」
先生とキュートさん、そして部屋に上がってこないミルナさんを順繰りに眺める。
('、`;川「たしかめるって、何を」
(´・_ゝ・`)「彼女が本気で君を助けようとしてるのか、
それともやっぱり、君に悪意を持っていたのか」
「やっぱり」、って、何だろうか。
とりあえず答えは出たのだろう。
きっと、良くない答えが。
逃げる気配がないと判断したか、先生はキュートさんの腕を離した。
案の定キュートさんはその場に座ったまま動かなかった。
-
('、`;川「……どういうことなの?」
混乱は深まるばかりだ。
我ながら曖昧な質問をぶつける。
キュートさんは答えてくれない。
彼女は先生を見上げ、にこにこ、笑みを深めるだけだ。
先生は溜め息をついて、彼女の代わりに答えた。
(´・_ゝ・`)「たとえば心不全の患者には、利尿剤が処方されることがある」
('、`;川「……、……は……」
明らかに会話が成り立っていなかった。
多分、先生の中では正しい順序立てが行われた上での発言なのだろうけど。
それにしたって利尿剤って。心不全って。心不全──
( ´W`)『新郎は心臓を悪くして以来、この家で療養し……』
おじさんの言葉を思い出す。
ざわり、肌が粟立った。
-
むむ?
-
うわあ…
-
(´・_ゝ・`)「多分だけど、キュート君は昨日、伊藤君に薬を盛った。
──何度か看病したことがあると言っていたから、
彼女は薬がどこに置いてあるか知ってただろう」
(´・_ゝ・`)「君に薬を盛るとしたら、それが出来たタイミングは限られてくるね」
('、`;川「……」
──1杯目のお茶は、とても苦かった。
思わず顔を顰めた私と違って、キュートさんは儚く苦笑しただけで。
可愛い人は、ちょっとしたリアクションすら違うものだと思った。
でも。そういえば。
その後、先生を真似てブラックコーヒーを飲んだキュートさんは、普通に顔を顰めていたじゃないか。
ああ、そうだ。お昼。
先生とミルナさんの会話で、何かが引っ掛かった。でも何が引っ掛かったか分からなかった。
今は分かる。
「油断して、まんまとトイレに行かなければならない状況に自ら陥ったのは伊藤君だ」。
まんまと、なんて。
まるで私の行動に誰かの策が介在していたみたいだ。
先生はあの時点で、いくらか見当がついていたのか。
-
('、`;川「……何で薬なんか」
吐き気がする。
嫌悪感なのか、困惑なのか、別の何かか、あるいは全てが混ざったのか。
一向に頭が休まらない。
何も考えたくないけれど、そういうわけにもいかない。
昼間の会話を反芻する。
キュートさんが私に悪意を持つとしたら、原因は──
('、`;川「……やきもち? 私が先生と一緒にいるから?」
先生は黙ってキュートさんを見た。理由については先生もよく分かっていないらしい。
大体これしかないだろうという推理を上げたつもりだけど、どうも外れたようだった。
可愛らしい声で、彼女はようやく答えてくれた。
o川*゚ー゚)o「……まあ、少しは妬いてるけど、でも伊藤さん、先生と付き合ってるわけじゃないし。
邪魔だからどうこうしようなんて思ってないよ」
('、`;川「じゃあなんで」
-
キュートさんは、先の争いで上気していた頬を一層赤くして、また先生を見上げた。
彼女は胸の前で両手を重ねて──
o川*゚ー゚)o「先生に、怒ってほしい」
うっとりと、言った。
-
予想の斜め上だった…
-
o川*゚ー゚)o「先生と特別な関係になろうなんて思わないから、せめて、
誰も知らない先生が見たい」
('、`;川「……は?」
慌てて私も先生へ目を向ける。
先生は眉根を寄せて、いかにも怪訝な表情。
o川*゚ー゚)o「先生と伊藤さんの噂、よく聞くから。仲いいのかなって思って。
伊藤さんに酷いことしたら、怒ってくれるかなって……」
利尿剤を飲ませたのは、私に障子を開けさせるため。
先生が楽しみにしていた「冥婚」の儀式を台無しにすることで先生を落胆させ、
その後キュートさんが小汚い策で私を利用したのだとばらし、
激怒させたかったらしい。
けれど予想に反し、あからさまな異変が起こり先生が喜んでしまった。
そして今日、おじさんからの電話や、私と先生の話を受け、
私に望まぬ結婚をさせてやろうと考えたのだという。
そうして、取り返しのつかない状況になってからネタばらしをするつもりだった。
-
o川*゚ー゚)o「せんせえ」
甘ったるい声で先生を呼び、キュートさんが先生の足に縋る。
軽く振り払うように先生が後ずさると、彼女の瞳に期待が篭った。
('、`;川(……なに言ってるの、この人……)
怒らせたかった?
そんなことのために、この人は、私を。
そんな──ふざけた理由で。
o川*゚ー゚)o「怒って。怒鳴って。叩いて」
言い寄り、へらへら笑う顔は、きっと、
敢えてそうすることで余計に憎たらしく見せようとしている。
先生は一度天井を仰いだ。
深く溜め息。
勢いづいたキュートさんは、さらに挑発するような言葉を続けた。
-
けれど。
(´・_ゝ・`)「……」
先生は怒らなかった。
やおら視線を落とす。
呆れたような目。──いつもの目。
そりゃあそうだ。
先生は私自身の安否なんて、そんなに拘泥していないと思う。
多少は気にしてくれても、大きく感情を乱されるほどではないだろう。
盛岡デミタス。
この人は本当に自分勝手で、幽霊以外の物事への執着が薄い。
だから私のために激怒するなんて有り得ない。──だからキュートさんに怒りを覚える筈がない。
やっぱりキュートさんは、先生のこと、碌に知らないのだ。
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(´・_ゝ・`)「君は、伊藤君に謝らないといけないよ。
結婚式を邪魔されたハトコにも」
o川*゚-゚)o「……怒ってよ」
(´・_ゝ・`)「怒ってるよ。叱ってあげてるじゃないか」
o川*゚д゚)o「そういうのじゃないの! 私が欲しいのは!」
(´・_ゝ・`)「……これ面倒臭いな。伊藤君、帰ろうか」
o川;゚д゚)o「ねえ!! 先生!!」
(´・_ゝ・`)「静かにしなさい。近所迷惑だよ」
それは、ただの「注意」だった。
窘めるような。穏やかな。
いつでも、誰でも見ることの出来る先生だ。
キュートさんの顔色が、一気に青白くなった。
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ふるふると唇を震わせ、じわり、瞳を潤ませる。
見とれるくらい、可憐な泣き顔。
o川 ;-;)o「先生。なんで? なんで?」
(´・_ゝ・`)「伊藤君、立てる?」
o川#;-;)o「……なんで!!」
──乾いた音が響く。
キュートさんは頬を押さえ、信じられないような目で私を見た。
('、`#川「そんなに怒られたいなら、怒ってやるわよ!!」
振り抜いた右手のひらがじんじんと痛む。
ふざけるな。
こんなことのために、私がどんな思いをさせられたか。
腹が立つ。顔が熱い。──悔しい。
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呆然とした顔のキュートさんは、怒りに震える私と、何ら動じない先生を視界に収めると
すっかり表情をなくし、俯いた。
(´・_ゝ・`)「……もう一度訊くけど、立てる?」
('、`#川「……立てない!」
先生に支えられるようにして、何とか立ち上がる。
足に上手く力が入らない。
恐怖と怒り。キャパシティを超えたそれらが、私の邪魔をする。
(´・_ゝ・`)「彼女には、他に言いたいこととかないの?」
('、`#川「ない」
許したわけではない。報復しようという気もない。
これ以上関わっても、時間や機嫌や体力やその他諸々、私が損をするだけにしか思えなかった。
-
寝室を出る。
リビングの隅。
黒い着物。白い髪。
じっと座っているお婆さんと、寄り添うように立つ男。
お婆さんからは、激しい怒りが窺える。
きっと彼らが見えているから、ミルナさんは上がってこようともせず、
玄関でおろおろしているのだろう。そう思うと、
情けないやら共感するやらで、ほんの少し笑えた。
*****
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先生の車、助手席。
ダッシュボードに額を押しつけ、獣のように唸り続ける。
あれこれ考えていると、その度に怒りや恐怖や悔しさが溢れて、唸り声になってこぼれた。
後部座席から、恐る恐るといった様子の声が掛かる。
(;゚д゚ )「い、伊藤さん、えっと、……痛むとこないか?」
('、`#川「あちこち痛い!!」
(;゚д゚ )「あ、うん、だよな、ごめん」
踏まれた左手も、体重をかけられた腰も、鷲掴みにされた後頭部も、圧迫された口元も、
至るところが鈍く痛む。
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('、`#川(──あれ?)
そういえば、右手は何ともない。
リストバンドをずらしてみると、
('、`*川「……消えてる」
痣が無くなっていた。
──解放されたのだとようやく実感し、怒りやら何やらが抜けていった。
深い安堵感。良かった。
そこへ、黙って運転していた先生が口を開いた。
(´・_ゝ・`)「待機中に、電話でキュート君の叔父さんから話を聞いたんだけどね」
('、`*川「?」
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(´・_ゝ・`)「キュート君の言った通り、新郎の母親は、生前から息子の嫁探しに執着していた。
異常なほどだったそうだ」
(´・_ゝ・`)「息子の方は母親の言いなりだ。母親が選ぶ相手に文句もつけない。
しかし体が弱く、心臓も足も悪くしていて
それに伴い塞ぎ込むようになったので、女性がすぐに離れていってしまう」
('、`*川「……はあ」
怒るお婆さんの姿が脳裏を過ぎる。
生前も、あんな感じだったのかもしれない。
-
(´・_ゝ・`)「死後も変わらないのかもね。
誰かが選んだ相手を黙って受け入れて、失敗すればまた誰かが選んでくれるのを待つ。
本当は自分自身どうだっていいのに、母親が望むから言うことを聞く」
('、`*川「……」
──式場の外の足音。
外から窓を叩く音。
あれは──もしかして、お婆さんが立てる音だったのだろうか。
式場の中に入れないお婆さんの。
o川*゚ー゚)o『「余計なものが入らないように」するものだから』──
余計なものなのだ。
新郎にとって、あの母親のお節介など、不要なものなのだ。
けれども彼は従う。いらないのだと思いながらも、抗う気はない。生前も死後も。
ずっと、繰り返す。
-
(´・_ゝ・`)「何が悪かったんだろう。
過干渉な母親か、病弱な体質か、弱った精神か、女運か」
どれか一つが悪いのか。それとも全部?
分からない。
('、`*川「……結局、私がこんな目に遭ったのは、誰が悪いってことになるのかしら」
(´・_ゝ・`)「さあ。さっきのも、それも、人によって見方は変わるからね」
(´・_ゝ・`)「伊藤君を騙して連れ出した僕。
懲りずにほいほい付いてきた伊藤君。
勝手な思い込みで卑怯な手を使ったキュート君。ミルナ君はどう思う」
(;゚д゚ )「へ? ……えっと、……み、みんなの責任ということで」
('、`*川「……昼間と答えが違うじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「無難でつまらない回答だなあ」
(;゚д゚ )「……これ、正解あります?」
(´・_ゝ・`)「ないね」
責任の所在など、考えようによって、どうとでも変わる──
そう言った先生は、さらに続けた。
-
(´・_ゝ・`)「昨日の件に関してもそうだ」
('、`*川「? どれ?」
(´・_ゝ・`)「伊藤君が障子を開けたせいで、本来の式は失敗に終わった。
だから伊藤君に責任をとるよう求められたが──」
ちらり、私の右手を一瞥する。
痣の消えた、以前通りの手首。
(´・_ゝ・`)「そもそも伊藤君が障子を開けざるを得なくなったのは、
他者に仕組まれたことであったのが判明したわけだ。
その『他者』こそが大本の原因だと言う人もいるだろう」
(´・_ゝ・`)「そうなると伊藤君の責任ではなかったことになり、
今日の式は元から必要のないものであったわけだから、全て無効となって──」
どくんと、心臓が跳ねた。
背中から足元まで一気に冷える。
先生は一拍おいて、結論を口にした。
(´・_ゝ・`)「昨日の失敗の責任は、まだ取られていないことになる」
-
私は慌てて振り返った。ミルナさんも顔を後ろへ向けている。
キュートさんのマンションはとっくの昔に遠ざかり、影も形も見えない。
けれども、ある光景が目に浮かぶようだった。
呆然と座り込むキュートさん。
彼女に忍び寄る、黒い着物のお婆さんと──
('、`;川「……先生……」
(´・_ゝ・`)「冷たいようだけど、さすがに、僕らが何とかしてあげる義理も責任もないと思わない?
こればっかりは」
そもそも、何とかしようもないんだけどね。
そう言って先生は首を傾げ、溜め息をついた。
*****
-
その後、何かの用でVIP大学に寄った際、一度だけキュートさんを見かけた。
o川*゚ー゚)o
あの夜のことなどなかったかのように、朗らかで可愛らしい微笑みを友人に向けていた。
元気そうな姿に、ほっと息をつく。
直後、彼女の後ろで、黒い袖がひらりと揺れるのを見た。
*****
-
──正直、この話は語りたくなかった。
考えても考えても分からないのだ。
この結末に至った原因が何だったのか、ちっとも。
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終わり、なのか…?
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おかしな執着心で墓穴を掘ったキュートさんか、
そもそもこんな事態に巻き込まれる羽目になった先生のオカルト趣味か。
突き詰めていくと、ある事柄が頭に浮かんでくる。
それを思う度、嫌な気分になって仕方がなくなるのだ。
私が先生と出会ったこと自体が悪かったのか、なんて。
.
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(´・_ゝ・`)「伊藤君、血まみれで足のない恋人とか欲しくない?」
('、`*川「ふざけんな馬鹿」
……まあ、先生と出会ったことなんて、いつも後悔しているのだけれど。
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('、`*川 フリーターと先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)
『冥婚』
終わり
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お疲れさま!
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乙です! 面白かった!
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乙です!また読めるとは超嬉しい
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(
)
i フッ
|_|
終わりです
デミタスを何とか 「ジェノサイドダークフリーズ」の能力に目覚めさせられないかと悩みましたが無理でした
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乙。ワロタ
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蝋燭君見てたのかwwwwww
おつ
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乙です!何か背筋が寒い……
キュートはそのうち連れて行かれるのか、結婚を妨害されてから死後に連れて行かれるのか……どっちにしても怖い
怪奇夜話、また読めてよかった!
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ジェノサイドダークフリーズは無理だなwwwwww
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乙
蝋燭君のやつかww
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乙!
ジェノサイドダークフリーズはさすがに無r…いやそれでもNG集なら
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おつおつ
今回も面白かったわ
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おつおつ!
きゅーとはどうなったのか、気になるな…
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乙
出会ったのが悪かったのか、ってとこで苦しくなったわ…
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