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ξ゚⊿゚)ξモーニングコールは貫くようです。
-
ξ゚⊿゚)ξ「あの……この携帯は?」
古くなり動作もノロくなってきた携帯をいいかげん買い替えようと、
私は携帯ショップを訪ねた。
しばらく様々なモック品に触れた末、一台の機種を選んだ私に、
店員はもう一台、別の機種を渡してきた。
ストレートタイプの本体に小さな画面があり、
その下にはボタンの列が並んでいる、いわゆるガラケーだ。
( ・∀・)「サービスですよ、お客様」
ξ゚⊿゚)ξ「サービス?」
( ・∀・)「現在機種変更していただいたお客様には、
サービスとしてもう一台機種をプレゼントするキャンペーンを行っております」
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ……」
-
( ・∀・)「今回購入された機種をメインで使っていただく一方で、
こちらをもしものときのサブ携帯として利用していただくと良いかと思われます」
私の手を握り、その店員はぎゅっと携帯を押し付ける。
( ・∀・)「代金の方は一切頂きませんので、是非よろしければご利用ください」
いくらなんでも太っ腹すぎやしないだろうかと思いつつも、
まあ貰えるものは貰っといて損ないか、と私はそれを受け取った。
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、頂きます。ありがとうございます」
( ・∀・)「いえいえ」
と、言うわけで、別に使うアテは無いものの、
私は2台の携帯電話を手にしてその店を後にしたのだった。
-
ジリリリリリリリ……
ベッドで眠っていた私を起こしたのは、けたたましいベルの音だった。
時計を見ると朝6時、まだ起きるには1時間半ほど早い、
何から響いているのか寝ぼけた頭で探してみると、
机の上に置かれた携帯電話からだった、機種変更の時に貰ったあの携帯だ。
ξ゚⊿-)ξ「なんなのよぉ、もう……」
貰ったばかりのこの携帯の番号を知る人もほぼ居ないはずだ、
一体誰からだろうとディスプレイを見ると非通知。
こんな時間に掛けてくるなんて非常識なことは明らかだ、
切っちゃっても罪はないだろうと切断ボタンを押そうとしたんだけど……。
ξ゚⊿゚)ξ「あっ」
まだ完全に覚めていなかった私の脳はボタンの位置を間違えてしまい、
切断するつもりがうっかり着信ボタンをプッシュしてしまった。
-
ξ;゚⊿゚)ξ(あっちゃー、面倒ねぇ)
いたずら電話だろうと、あの携帯ショップからだろうと、
こんな朝っぱらから、歯も磨いてないうちから言葉を発するのは
どうにもやりたくない。
しかし、出てしまったものは仕方ない、とため息を抑えつつ携帯を耳に寄せる。
ξ゚⊿゚)ξ「はい、もしもし……どなた?」
相手の声が、私の耳に届くことはなかった。
と、いうのも。
その瞬間、私の意識を目映く鋭い光が貫いたのだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「! ! !!!!!!!!!!」
――――
―――
――
-
【テーブルは広すぎたようです】
「…て!……して!」
誰かが呼ぶ声がする、起きなきゃ。
ものを詰め込みすぎたリュックのように重たい意識を引っ張り上げて、
私はゆっくりと瞼を開いた。
ξ-⊿゚)ξ「んん……」
o川*゚ー゚)o「目ぇ覚まして!ほらっ」
女の子が目の前に立っていた、長い髪にピンクの髪留め。
どうにもお尻がごつごつする、ベッドで寝てたんじゃないみたいだ、
女の子の向こうには黒板が見えたので、ここが自室ではなく
教室の中であることを次第に認識する。
-
o川*゚ー゚)o「あっ、起きた?」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ(誰だろうかこの子……)
知ってるはずなんだけど、思いだそうとしても意識にもやがかかったようで、
なかなか名前が浮かばない、クラスメートだとは思うけど。
o川*゚ー゚)o「もう授業始まっちゃうよ、しかも今日小テストあるし」
ξ゚⊿゚)ξ「小テスト?」
o川*゚ー゚)o「うん、ツンはもう"テーブル"見た?
ギコが範囲置いてくれてたけど」
ξ゚⊿゚)ξ「テーブル……?」
教壇のことだろうかとそちらに目を向けるも、特に何も置かれてない。
疑問に思い、目の前の女の子に尋ねてみる。
-
ξ゚⊿゚)ξ「テーブル?どのテーブル?」
すると彼女は、心から呆れたような声を出した。
o川;゚ー゚)o「頭のテーブルに決まってるじゃない!
もしかして、忘れちゃったの?」
"頭のテーブル"、その言葉を聞いて、私は脳内にテーブルを思い浮かべた。
そう、私は何も置かれていない、ただのテーブルを思い浮かべたはずだった。
木製の、晩餐会に使うような広く大きいテーブルを。
しかし、驚くことに……。
ξ;゚⊿゚)ξ(ええッ!?)
そのテーブルの上は、メモ用紙や写真、ノートなどで既に所狭しと埋まっているではないか。
ξ;゚⊿゚)ξ(な、なにこれ……!?)
-
私はそのテーブルの上にあるモノを一つずつ確認する、
野球のトレーニングメニューやら、誰が誰と付き合っているなんて噂話が書かれた紙、
今話題のアイドルのライブ写真などがある。
どれも、私の記憶には元々ないものばかりだ。
ξ;゚⊿゚)ξ(私の頭のなかに、私の知らない情報があるって……)
ξ;゚⊿゚)ξ(変な感じ)
その中の一つのプリントをめくると、なにやら教科書のページ範囲が記入されており、
最後に「ギコより」と書かれていた。
o川*゚ー゚)o「どう?見た?テスト範囲」
そこで、先ほどの女の子の声が聞こえ、私の意識は引き戻された。
ξ;゚⊿゚)ξ「う、うん……」
o川*゚ー゚)o「でも、もう間に合わないだろうな」
そういって彼女は教室の壁に掛けられた時計を見た。
o川*゚ー゚)o「今から授業始まるから」
-
数秒後、ドアが開き髭もじゃの大きな男が教室の中へ入ってきた。
ミ,,゚Д゚彡「うっし、授業始めるぞー。今日は小テストだからな」
教師のその言葉に、教室のあちこちから声が湧く。
「あぶねー、テーブル確認しておいてよかったー」
「サンキューな、ギコ!」
「テーブルあって良かったわー」
o川*゚ー゚)o「だからもっと早く確認しなきゃね」
ξ;゚⊿゚)ξ「う、うん……」
そして、私はその小テストの問題にちっとも答えられないまま、
終了時間を迎えたのだった。
-
授業が終わり、お昼休み。
私は先ほどのテーブルをもう一度よく確認することにした。
しばらく探っているうちに、私は何となくシステムを理解できた。
どうやらこの脳内のテーブルは、
私が籍を置く1年B組のクラスメート全員の意識と繋がっているらしく、
テーブルに各々の記憶を"置く"ことで、情報の共有が出来るみたいだ。
テーブルの情報はクラスメート誰もが閲覧可能で、
私もその中の一つのクラス名簿で先ほどの女の子が
"素直キュート"という名であることを思い出せた。
ξ゚⊿゚)ξ(こんなテーブルがあることなんて、知らなかったわ……)
いつ皆はこのテーブルの存在に気づいたんだろう?と考えてみたが、
不思議なことに今日以前の学校の記憶が、私には曖昧だ。
まるで紹介もなくこのクラスに転校してきたような気分。
-
ξ゚⊿゚)ξ(そうよ、あの朝の電話に出てから変なのよね)
あの電話に出た瞬間私は意識を失い、
目が覚めたらこの"テーブル"が存在する世界へ飛ばされていた、
そう解釈するしかない。
何かヒントになるような物はないかともう一度テーブルを探る。
ξ゚⊿゚)ξ(あら?なにかしらアレ……?)
広いテーブルの一角に、何も置かれていない箇所を発見した。
他は他人の記憶で埋まっているにも関わらず、
その場所だけぽつんと空いているのは明らかに不自然だ。
近づいて(といっても歩いて近づく訳じゃない、意識をそこへズームさせていく感じ)
よくよく確認してみると、テーブルの表面に11桁の数字がナイフのようなもので掘られていた。
-
"0X0-XX32-X26X"
ξ゚⊿゚)ξ(これは、携帯のナンバー……っぽいわね)
その番号に掛けてみようか、とも一瞬思ったが
人と話すのが苦手な私だ、もし知らない人が出てしまうことを思うと
どうにも物怖じするので、そこではやめておいた。
ξ゚⊿゚)ξ(そういえば、携帯)
制服のポケットに手を入れて探ってみると、
プラスティックのひんやりとした感触が伝わってきた。
取り出すと、あの、キャンペーンで貰ったガラケーだった。
ξ゚⊿゚)ξ(ふーむ……)
それをしばらく眺めた後、また制服のポケットに仕舞っておく。
-
そして事件は、放課後に起こった。
(#'A`)「ふざけんじゃねえぞ、ブーンてめえ!」
(#^ω^)「だから僕じゃないって言ってるお!!」
帰りのホームルームが終わった後、
二人の男子生徒が急に激しい言い争いを始めたのだ。
彼らは、ブーンとドクオ。
性格は正反対なもののどうにも波長が合うらしく、
いつも一緒に行動する仲(らしい)。
まあ、テーブルの情報を閲覧したわけだけど。
周りの生徒も珍しさになんだなんだと注目し、彼らの周りに集う。
(#'A`)「しらばっくれんじゃねえよ!」
(#^ω^)「僕なわけないじゃないかお!そんなことしないお!」
-
(#'A`)「どう考えてもお前しかいないじゃねえか!
俺がクーのこと好きだってことを知ってんのは!」
クラスメートたちの間に、衝撃が走る。
「えっ、ドクオ、クーのこと好きだったの?」
「知らんかった……」
(;'A`)「あ……」
うっかり秘密を暴露してしまったドクオは、
周りのひそひそ話す声を聞いて急にばつが悪くなったようで、
ブーンの胸を軽く押すと咳払いをした。
(;^ω^)「目を覚ませお、ドクオ……
僕がお前の大事なことをテーブルに書いて置くわけないじゃないかお……」
ブーンは悲しい声でドクオを諫めるも、当の彼はまだ怒りが収まる様子ではない。
-
(#'A`)「俺だって信じられねえよ、
でも俺はおまえにしか話してねえ、お前しか知らないはずだろ」
(;^ω^)「でも、僕は本当に……」
(#'A`)「もういい」
ドクオはブーンに背を向ける。
(#'A`)「おかげで目が覚めたよ、お前がどんなに薄情な卑怯者かって知れて良かったぜ」
(#'A`)「もう絶交だ!」
肩を怒らせて、ドクオは真っ直ぐドアから教室の外へ出ると、勢いよくドアを閉めた。
バン!という窓ガラスの揺れる音が教室内に響く。
後には、寂しそうに佇むブーンの姿と
クラスメートたちのざわめきだけが残された。
-
ξ゚⊿゚)ξ(テーブルに置いた、ってドクオ言ってたわね)
出歯亀根性ながらも、私は興味本位でテーブルを覗いてみる。
しかし、その騒動の原因になったであろう情報は
広いテーブルのどこを探しても見つかることはなかった。
ξ゚⊿゚)ξ(そうね)
私は気づく。
ξ゚⊿゚)ξ(情報を置くことが出来るなら、取り除くことも出来るわよね)
ξ゚⊿゚)ξ(そうじゃないとテーブルも埋まる一方だし)
あの様子だと、ブーンが本当にドクオの秘密をテーブルに置いたとは思えない。
きっとこの騒動を目の当たりにした真犯人が、
慌ててその情報をテーブルから降ろしたのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ(便利なテーブルだけど、トラブルの原因にもなっちゃうわよね、そりゃ)
-
次の日。
教室に入ると、ある一画に女子生徒たちが集まっていた。
ξ゚⊿゚)ξ(なにかしら……?)
その中心では一人の女の子が机に突っ伏して小刻みに身体を震わせていた、
泣いているようだ。
女子生徒たちの中にキュートの姿もあったので、
私は彼女に事情を尋ねてみることにした。
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?これ」
o川*゚ー゚)o「あ、ツン。あのね、なんか、
ナベさんの悪口がテーブルに書かれてて……それでナベさん泣いちゃって」
ナベさん、それはあだ名で、本名は渡辺エリカだったか。
未だ泣き続ける女の子の方をみると、
ナベさんの特徴であるふわふわとした茶髪の巻き髪が、
何かの生き物のように机の上で震えていた。
从;ー;从「ひっぐ、ぐすっ」
-
ξ゚⊿゚)ξ(またテーブルか……)
テーブルに覗こうとする私を、キュートの声が遮った。
o川*゚ー゚)o「あ、その悪口、もうテーブルにないみたいよ」
その声に私は意識を戻した。
ξ゚⊿゚)ξ「……ないの?」
o川*゚ー゚)o「うん、ていうか……」
キュートは困ったように肩をすくめる。
o川*゚ー゚)o「その悪口自体、ナベさんしか見てないんだよね」
ξ゚⊿゚)ξ「えぇ……」
-
証拠がないんじゃ、誰を責めるべきかも分からない。
一体どんな内容の悪口だったのかとナベさんに聞いてみても、
肝心の彼女はただ泣くばかりで、はっきりとした情報は得られなかったらしい。
それで、とにかく女子たちも慰めるより他無いみたいだ。
o川*゚ー゚)o「か弱い女の子って大変ね」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね、あんたと違ってね」
o川*゚ー゚)o「あっ、ひっどーい!私だって泣くことぐらいあるよ!」
ξ゚⊿゚)ξ「逮捕された時とかね」
o川*゚ー゚)o「うん、……って!おい!」
そのとき、教室のドアが勢い良く開いた。
-
( ^ω^)「おっはよー!」
昨日の悲しげな姿とは打って変わって、
底抜けに明るい声でブーンが教室へ入ってきた。
続いてその後ろからドクオの姿も。
('A`)「おはよう……」
o川*゚ー゚)o「あっれ?絶交したんじゃ?」
あんまりな尋ね方だがキュートの疑問も尤もだ。
あれだけの言い争いをしておきながら、次の朝には一緒に登校するなんて
一体どういう風の吹き回しだろう。
( ^ω^)「みなさまお騒がせしました、僕たち仲直りしましたお!」
('A`)「……まあな」
-
支援
-
ξ゚⊿゚)ξ「仲直り?」
('A`)「うん」
ぽりぽりと人差し指で頭を掻きつつドクオは説明した。
('A`)「よく考えたらさ、テーブルに書かれてたやつ、
別に俺やクーのことを名指しして書いてなかったんだよな」
o川*゚ー゚)o「え?そうなの」
('A`)「俺、クーのことをブーンに打ち明けて、それでなんか敏感になっちゃって」
('A`)「それでテーブルのを見た瞬間にすぐブーンのこと疑っちゃって……
ひどい奴だよな、ブーンはそんなことするやつじゃないって
分かってたはずなのにさ」
('A`)「昨日帰ってから、おれ、ブーンに酷いことしちゃったって気づいて
すぐブーンの家に行って謝ったんだ」
-
('A`)「本当にごめん、ブーン……
大事な俺の友だちに、俺、あんな暴言吐いて……」
( ^ω^)「気にしないお、大事な恋だから、
ドクオがつい敏感になっちゃうのも分かるお!」
(つA`)「ありがとうなブーン……」
涙ぐみながらドクオはブーンの手を取り、何度も謝った。
o川*゚ー゚)o「本当にお騒がせだよねまったく……」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ、なんにせよ仲直りしてよかったわ」
( ^ω^)「ところで、なんかあったのかお?」
女子たちが集まっているのに気づいたブーンは、首を傾げて尋ねた。
-
o川*゚ー゚)o「ナベさんが自分の悪口をテーブルに書かれた、って泣いてるの」
(#^ω^)「ひどいことをするやつもいたもんだお、
皆が見れるテーブルにそんなことを載せるなんて……」
( ^ω^)「犯人は分かってるのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「それが、その悪口ナベさんしか見てないから分かんないのよ」
('A`)「えっ!?」
ドクオはそれを聞き、突然大きな声を出した。
o川*゚ー゚)o「うわ、びっくりした!なに!?」
キュートの声を無視して、女子たちの壁を押しのけて、
ドクオは泣き続けるナベさんの元へ駆け寄ると、頭を勢いよく下げた。
(;'A`)「すまん!ナベさん!!」
-
从;ー;从「ど、ドクオくん……?」
ナベさんはしゃくりあげながらも顔を上げる。
(;'A`)「その悪口、俺が書いたやつかもしれない!」
(;^ω^)o川;゚ー゚)oξ;゚⊿゚)ξ「「「な、なんだってー!!!??」」」
o川;゚ー゚)o「ドクオ……あんたなんてヒドいことを……」
(;^ω^)「繊細なナベさんに悪口なんて……いくらなんでも許せんお……」
(;'A`)「ち、ちがう!いや、ちがわないんだけど、聞いてくれ!」
首をブンブン振りつつも、ドクオは弁明する。
(;'A`)「その悪口、別にナベさんに向けて書いたんじゃないんだよ、
ブーンと絶交した後、まだムシャクシャしててさ、
ついブーンの名は出さずに悪口書いて、テーブルに載せたんだよ」
-
从つー;从「じゃ、じゃあ私に対しての悪口じゃないってこと……?」
(;'A`)「そうだ、んで、すぐにマズいって気づいてテーブルから消したんだ!」
(;'A`)「載せてから消すまでほんの5分ぐらいだから誰も見てないって思ってたが
まさかナベさんが見てたとは……」
从'ー'从「そう、だったんだ……」
ナベさんの涙はすっかり乾いていた。
彼女の口には、かすかに笑みさえ浮かんでいる。
(;'A`)「本当にすまん!」
o川*゚ー゚)o「そういうことだったのか、それでナベさんしか見てなかったのね」
( ^ω^)「テーブルも便利だけど、こういうことがあるんじゃ大変だお」
ξ゚⊿゚)ξ「ほんと、そうね」
-
なるほど、”テーブル”ってそういうことか……!
こういう話大好き
-
ドクオが必死に謝る様子を見てナベさんもそれを許し、
これについては一件落着。
ブーンたちも仲直りしたし、ナベさんも泣きやんだし、
これでテーブル関連の懸念事項はすべて解決……、
といきたいところだが、私にはまだ引っかかっていることがあった。
――ドクオとブーンの絶交の原因となったテーブルの情報は、
一体どんな内容で、誰が置いたものだったのか?
ξ゚⊿゚)ξ(名指しで書かれてなかったとしたら、
ドクオとクーじゃなく、いったい誰の秘密を……?)
別にそれが何であろうと私には関係ないはずだけれど、無性に気になる。
確かめずにはいられないというか、むしろ、確かめることが義務のようにさえ思えてくる。
-
思い立ったが吉日、私はドクオが座っている席に向かった。
ξ゚⊿゚)ξ「あのさ、ドクオ……」
('A`)「うお、なんだ……ツン?」
ラノベ文庫をちょうど開こうとしていたドクオは、
驚いた様子で顔を上げた。
ξ゚⊿゚)ξ「あんたが、ブーンが置いたって勘違いした
テーブルの情報って、いったいどんなのだったの?」
言った後で、突然こんなことを尋ねてしまうのは不躾だったかと後悔する、
案の定、ドクオは訝しがった。
('A`)「……それ聞いてどうすんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ「いやさあ……わたしも、その、好きな人が居て、
それでもしかしたら私のこと書いてたのかもしれない、って……」
我ながら、とっさに上手い嘘がつけたもんだと感心する。
-
('A`)「ああ、そうなのか……、そりゃあ心配だよな。
でも、多分ツンのことじゃあ無いと思うよ」
ξ゚⊿゚)ξ「なんで?」
('A`)「その、テーブルに書かれてた内容は、たしか、
"あの根暗が、とても釣り合わない相手に惚れてるらしい"とか、
そんな内容だったからさ、どう考えてもツンには当てはまらねえだろ」
ξ;゚⊿゚)ξ「根暗が、釣り合わない相手に……」
それを聞いて、ズキ、と頭の一部が鋭く痛み始めた。
まるで、錠前を合わない鍵で無理矢理こじ開けられた、みたいな……。
-
('A`)「根暗で釣り合わないってまさに俺とクーのことじゃんか、
俺はこのクラスで一番っていっていいほどの根暗野郎だし、
クーはクラスでもトップクラスの美人で人望あるし頭もいいしさ……」
('A`)「でもやっぱりブーンがそんなこと書くわけ無いしな、
俺が勘違いしただけだろうな、ウン」
ξ;゚⊿゚)ξ
ドクオの言葉も、もはや耳には届かなかった。
頭痛は秒毎に、耐えられないほど酷くなり、
もはや頭全体をハンマーでブン殴られているようだった。
ξ;゚⊿゚)ξ(く……ど、どうにかなんないの?これ……)
痛む頭を抱えながら、私はあることに気づいてしまった。
-
ξ;゚⊿゚)ξ(待てよ……)
ξ;゚⊿゚)ξ(ドクオがブーンと絶交した後に書いた悪口は、
ナベさんが"自分に向けて書かれた"と勘違いするような内容だったのよね)
そのとき、ドクオに頭を下げられて泣きやんだときの
ナベさんの表情がフラッシュバックした。
あの、唇に浮かんでいた笑みは……。
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ありがとうね、ドクオ……」
('A`)「おい、なんか顔色悪いぞ?大丈夫か?」
ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫よ、すこし頭が痛いだけ……」
よろよろとふらついた足取りで、私はドクオの席から離れた。
次に向かうは、ナベさんの席。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ナベさん……」
从'ー'从「ん?どうしたのツンちゃん」
ξ;゚⊿゚)ξ「あの、さ……」
痛い、痛い、頭が、が。
ξ;゚⊿゚)ξ「ドクオが書いた悪口って、どんな内容か覚えてる?」
別に、ドクオに聞いてもよかったのだが、
ここはナベさんに尋ねて、その反応を見たかった。
ナベさんはしばらく考えた様子で、そして。
从'ー'从「うーん……」
ξ;゚⊿゚)ξ
从'ー'从「ごめん、もう忘れちゃった」
-
ξ゚⊿゚)ξ(忘れるわけ……)
もうダメだ、頭痛はいよいよその痛みを増し、全身を貫く。
ξ゚⊿゚)ξ(ねえだろ……)
とうとう私はその場に倒れ込んでしまった。
从;'ー'从「ツンちゃん!?どうしたの!?目を覚まして!」
ナベさんは倒れた私を見て高い声を上げ、慌てて立ち上がり私の体を支えた。
私はというと……無意識にテーブルにアクセスし、とある情報を閲覧していた、
脳内に浮かぶのは、あのナンバー……。
"0X0-XX32-X26X"
ξ;゚⊿-)ξ「う、ナベさん、私のポケットに……
携帯あるよね、ガラケーの……」
-
从;'ー'从「携帯?」
ナベさんは私の制服のポケットを探り、そしてあの携帯を取り出した。
从;'ー'从「あるけど……」
ξ;゚⊿゚)ξ「貸して……」
渡された携帯を震える手で受け取ると、
私は吐き気を堪えつつ、ボタンをプッシュする。
0、X、0……、
X、X、3、2、……、
X、2、6、X……、
そして、通話ボタン……。
-
プルルルル……、プルルルル……、
ξ;-⊿゚)ξ(出て……)
プルルルル……、プルルルル……、
ξ;-⊿゚)ξ(はやく……)
プルルルル……、プルルルル……、
ξ#-⊿゚)ξ「早く!」
――ガチャリ。
回線は繋がり、次にスピーカーから声が響いた。
「はい、もしもし……どなた?」
その瞬間、私の意識を目映く鋭い光が貫いた。
-
【現実(1)】
あの携帯電話を手にしたままで、私は自室のベッドの上で目を覚ます。
教室じゃない、ナベさんも、キュートもいない。
――夢を、見ていたのだろうか。
ξ;゚⊿゚)ξ「夢だとしたら、悪趣味な夢だこと……」
夢?で感じたあの頭の痛みはもはやすっかり消えていた、
むしろすっきりと冴えているようで、それがむしろ気味が悪かった。
ふと気になった私は、携帯の通話履歴を閲覧するも、
そこには何の記録も残されてはいなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「この携帯のせい、では、ないのかしら?多分……」
両腕をまっすぐ上に伸ばして、私は深呼吸した。
夢にクラスメートが出てくるというのはなかなか気まずいもんだ、
学校に行きたくないなあ。
-
それでも登校した私。
重たく感じる腕で、教室のドアを開ける。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよう……」
そこには、夢に出てきたあのクラスメートたちが既に登校済で、
各々机に向かって予習をしたり、談笑したりして過ごしている。
o川*゚ー゚)o
―キュート。
( ^ω^) ('A`)
――ブーン、ドクオ。そして、
从'ー'从
ナベさんも。
その誰もが、私の挨拶に返してくれることはなかった。
その態度で私は思い出す。
そう、私はクラスで浮いた存在の、いわゆる根暗だったってことに。
-
ξ゚⊿゚)ξ(やっぱり、夢ってのは願望が現れるものなのかしら)
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅ」
ξ゚⊿゚)ξ(落差感じちゃうよなあ、やりきれないなあ)
もはや慣れていたことであったにもかかわらず、
やはり夢であれだけクラスメートと関わった体験と
今現在の寂しさの高低差に思わずため息をつきながら、
私は自席に腰掛け、鞄をかけた。
ξ゚⊿゚)ξ("あの根暗が、とても釣り合わない相手に惚れてるらしい"、か……)
夢の世界では、私は決して根暗ではなかった。
しかし現実では、クラス一の根暗は明らかに私だろう。
だとしたら……。
あの、とっさに思いついた嘘は、実は本当のことなのかしら。
-
突如、クラスメートたちが慌てた様子で一斉に着席しだす。
そして、ドアが開き髭もじゃの大きな男が教室の中へ入ってきた。
ミ,,゚Д゚彡「うっし、授業始めるぞー。今日は小テストだからな」
「小テスト!?やばい!範囲どこ?」
「うわぁ、ぜんぜん勉強してなかった!」
混乱の声を上げるクラスメートたち、
そうか、現実にはあんなテーブル、ないんだよね。
ふと、気になった私はこっそりと教室を見回す。
端の方の席が、ひとつだけ空いていることに気がついた。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ(なにか、忘れてる気がするのよね……)
前から回されてくる小テストの問題用紙を受け取りながら、
私は、次のモーニングコールを心より待ち望むことにした。
〜つづく〜
-
ここまで読んで頂きありがとうございました、
投下ペースは遅くなりますが、なんとか続けていきたいと思いますので
どうかよろしくお願いいたします。
-
乙乙!
次回も楽しみにしとる
-
おつ
なんかこわいなー
-
おつおつ
面白いな
-
乙!…なんかすごくいいわ
期待!
-
おもしろいな
期待支援
-
すげえ続き気になる
-
乙
なんだかよくわからなかったけど雰囲気は好きだ
-
乙
どうなるのか気になる
-
なんじゃこれ
気付かんかった面白いな
-
ジリリリリリリリ……
今朝もまた、あのけたたましいベルの音が鳴り響いた。
私は上半身をベッドから起こして、頭を軽く左右に振る。
振り子が勢いを失うように、私の視界もだんだんとはっきり写りだして
そこで時計を見ると、やはり時刻は7時半。
ξ゚⊿゚)ξ(几帳面ね)
そう思いながら、発信源である携帯を手に取る。
ベル音とバイブレーションで激しく震えているそれを、落とさないように。
ξ゚⊿゚)ξ「ん……?」
そのとき、ふと誰かが私の姿を覗いているような気配を感じた。
天井や空、宇宙よりもっと高い高い場所から、観察されているような。
首を上に向けるも、当然真っ白な天井しか見えない。
-
ξ゚⊿゚)ξ「誰かいるの?」
そう声を出してみるが、返事は返ってこない、
聞こえるのは相変わらずやかましく鳴り続けるベルの音だけ。
ξ゚⊿゚)ξ(変なの……)
ξ゚⊿゚)ξ「……まあ、いっかぁ」
とりあえずその違和感は眠気のせいにして、
私は携帯の着信ボタンを押し、耳に当てた。
ξ゚⊿゚)ξ(また、変な世界に飛ばされちゃうのかしら)
期待半分、恐怖半分の不安定な気持ちで、私は声を出す。
ξ゚⊿゚)ξ「もしもし」
そして、私の意識を目映く鋭い光が貫いた。以前と同じように。
――――
―――
――
-
【直線は途切れないようです】
ξ゚⊿-)ξ「ん……」
瞼をあけると、そこは自室のベッドでも教室でもなかった。
6畳ほどの空間の中心に置かれた長机、私はその端の席に突っ伏していた。
頭を起こし周りを見渡すと、机の上や床には泥でうす汚れた鞄やタオル、
空のペットボトルなどが転がっている。
そして壁には、「めざせ県大会優勝!」と書かれた張り紙が。
ξ゚⊿゚)ξ「うーん」
ξ;゚⊿゚)ξ「部……室……?」
なにかの、体育会部活動の部室らしき空間と思われる、
次に視線を下に向け「あっ」と声が漏れた。
-
私は、半袖の白い体操着に身を包んでいた。
うすく日に焼けた素肌が袖口からすっと伸びている。
ξ゚⊿゚)ξ「あたしも……?」
私って、運動するような子だったんだなと人ごとのように思う。
ξ゚⊿゚)ξ「なんの部活かなあ……」
なにか情報を得ようと私は脳内へテーブルを思い浮かべようとする、しかし。
ξ;゚⊿゚)ξ(あれ……テーブルが?)
思い浮かべたテーブルには何ひとつ載っていなかった、
至って普通の、ただ個人各々が思い浮かべただけのテーブル。
ξ;゚⊿゚)ξ(前とは違う世界に飛ばされたから、テーブルの能力もないってことかしら)
これはまいった、あのテーブルは案外便利だったのに、
あれがなければ今のこの現状を知り得る手段がぐっと減ってしまう。
残念な気持ちでがっくり肩を落とすと、部屋のドアが軋みながら開いた。
-
ミ,,゚Д゚彡「お、ツン」
入ってきたのは、あの、以前に小テストを出してきた毛むくじゃら大男の教師だった。
緑色のジャージに身を包み、首からストップウォッチをさげている。
ミ,,゚Д゚彡「なんだ寝てたのか?まったく大会もすぐだってのに、弛んでるぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい……」
これがどんな部活で、どんな大会が迫っているかも分かっていない私だが、
とりあえず謝っておく。
ミ,,゚Д゚彡「分かってるんならさっさと練習しろよな」
彼は自身の口ひげを軽く撫でて、その指で開いたままのドアを示した。
現状把握を焦っていた私は、怒鳴られるだろうなという覚悟を持ちつつも、
彼に尋ねてみることにした。
-
ξ゚⊿゚)ξ「あの……?」
ミ,,゚Д゚彡「ん?」
ξ;゚⊿゚)ξ「これって……」
ξ;゚⊿゚)ξ「なんの部活でしたっ、け……」
ミ;,,゚Д゚彡「おまえアホか!?」
ξ;゚ー゚)ξ「えへへ……」
どうにもならず照れ笑いを浮かべる私に
怒るというよりも、心配するような困惑の表情で教師は叫ぶ。
彼は机の上のタオルをひっつかみ、部屋の奥の水道でそれを濡らすと
半ば押しつけるように私に渡した。
ミ,,゚Д゚彡「寝ぼけてんのか?目ぇ覚ましな、顔でも洗ってよ、おい」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」
-
ご厚意に甘えて濡れタオルを両手に上に乗せると、それで顔を拭う、
しっとりとした水の感触が肌に触れた瞬間、息苦しさが襲った。
ξ;゚⊿゚)ξ「……!!」
思わず私はすぐに顔を上げてしまう。
次に視界がぼやけ、無意識に体が小刻みに震え出す。
しかしその原因についても、何一つ思い出せない。
ξ;゚⊿゚)ξ「うぅ……」
どうしたというのだろう、私は。
ミ;,,゚Д゚彡「お、おい?大丈夫か?気分悪いんか?」
青ざめた私を見て、彼は心配そうに声をかける。
涎がこぼれそうになる唇をきゅっと結んで私は頷く、
そのときドアの外から男の子の明るい声が聞こえた。
「せんせー!タイム計ってくんなーい?」
-
ミ;,,゚Д゚彡「むっ?あぁ、今行く!」
と焦って応える教師。
ミ,,゚Д゚彡「調子悪いんなら、少しそこで休んどけよな」
そう私に言い残すと彼は首のストップウォッチを右手に持ち、
あわただしく部屋の外へ出て行った。
ξ;゚⊿゚)ξ「ふゃあ……」
誰もいなくなった部屋で、
私は長く伸ばした両腕を机にべたーっと置いたまま息を吐いた。
ξ;゚⊿゚)ξ「夢で具合が悪くなるなんて、とんでもないことね」
ξ;゚⊿゚)ξ「まったく、もう……」
-
しばらく座っているうちにどうにか立ち直ってきた私。
なんとなく周囲を見渡せば、奥の方に小さな本棚を見つけた。
近づいて、並んだ背表紙を左から右へと眺める。
本の題名はさまざまだったが、そのどれにもすべて
「ライトライン」という単語が含まれていることは共通していた。
ξ゚⊿゚)ξ「ライト……ライン……」
その中の一冊、「ライトライン教本」に指を引っかけて取り出す。
開いて、ぱらぱらとページをめくっているとこのような記述が。
ξ゚⊿゚)ξ「ライトライン、100mのレーンにラインカーで素早く石灰の線を引いていく」
ξ゚⊿゚)ξ「100点の持ち点から、スタートからゴールまで線を引くのに掛かった秒数だけ減点し」
ξ゚⊿゚)ξ「次に線の美しさを得点として加え、より多くの点を取った選手を勝者とする……」
文章と一緒に載せられていた白黒の小さな写真には、
競技に使用するラインカーとして、車輪と取っ手がついた四角い箱が写されていた。
あの、運動会などで使うラインカーと全く同じだ。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「こんなスポーツ、聞いたこともないわね……」
私が知らないだけで、陸上競技の一種として存在するんだろうか?
そのとき、かかとに何かが触れたのでそちらに目を向けると、
私の名前が金色の糸で刺繍された鞄が床の上にあった。
必勝祈願、と書かれた紺色のお守りがぶら下げてある。
しゃがみ込んで鞄のジッパーを開くと、中には
よれよれになった「ライトライン上達の道」という本や、
水筒、換えの体操着などがぎゅうぎゅうに収まっている。
どうやら私は、このスポーツに青春をかけていたらしい。
現実の私は、いったい何の部活に所属していたんだろうか、と考えるも
やはりそちらもあまり思い出せない。
ξ゚⊿゚)ξ(なんで、現実のこともまったく分からないんだろう)
-
ξ゚⊿゚)ξ(と、いうか、ね……)
普通、夢の中では現実のことなんてまったく念頭に置かないはずだ、
こうやって、夢と現実の二つの世界があることに気づいていること自体、
おかしなことではないか。
ξ゚⊿゚)ξ(うーん……)
部屋の隅に数個積まれた石灰入りの袋へ目をやる。
ξ゚⊿゚)ξ(ライトラインかぁ……)
ξ゚⊿゚)ξ「……やってみるか」
部屋の外から、生徒たちの部活に励む声が聞こえている。
私は教本を元の棚へ戻し、その場で両腕をうんと伸ばすと、
ドアから外へ出て行った。
-
部室の外は運動場だった、
広いグラウンドでは学生たちが各々部活の練習に励んでいる。
声をかけあいながらキャッチボールをしている男たちの横を通り抜け、
私は陸上トラックの方へ向かった。
ミ,,゚Д゚彡
先ほどの緑ジャージの教師が、レーンの外でストップウォッチを手に立っていた。
私の姿を見つけた彼は、声をかけてくる。
ミ,,゚Д゚彡「もういいのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「はい、ご心配掛けてすみませんでした」
ぺこりと頭を下げる。教師はうん、と頷いた。
ミ,,゚Д゚彡「練習、いけるか?」
ξ゚⊿゚)ξ「は、はい」
-
ミ,,゚Д゚彡「じゃあ一本、軽く走ってみるか」
そう言うと彼は近くにあったラインカーを引っ張ってきた。
私はそれを受け取り、取っ手を握ったままレーンのスタート地点まで移動する。
ξ゚⊿゚)ξ(今日、ちょっと暑いわね)
スタート地点に立つと、のろのろとしたぬくい向かい風が、
かすかに私の前髪を揺らす。
レーンの前方、ゴール地点に教師が立っているのが見える。
さっきまで全く知らなかったスポーツなのに、
戸惑いや不安は不思議となかった。
これまで何百回もやってきたことのように、
アキレス腱をゆっくりと伸ばし、走るための準備を整える。
-
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
私はラインカーのレバーを足で押すと、左腕をまっすぐと上げて叫んだ。
ξ゚⊿゚)ξ「いけます!」
ミ,,゚Д゚彡「よし、よーい……」
ぐぐぐっと、脚に力を込めると、私の中の意識やエネルギーが
全てそこへ集中していくように膨らむ。
ミ,,゚Д゚彡「スタート!」
教師の声が響くと同時に、私は地球の自転に弾みをつけるがごとく
強く地面を蹴って、走り出した。
-
ガラガラガラ、とにぎやかな音を立ててラインカーの下部から
石灰の粉が落ちていき、地面に真っ白な線を描いていく。
私はその線が歪むことのないように注意を払いながら、
かつ全速力でレーンを駆け抜けていく。
ξ;゚⊿゚)ξ(のびろ!のびろ!くうう!!)
正直、気持ちがいい。
私の中のもやもやとした感情がすべて石灰の線と化して
落とされていくような、爽快な気分。
過去現在未来本心建前喜怒哀楽、
どれも置き去りにして、ただ夢中で駆け抜け、
あっという間に私はゴールまでたどり着いた。
-
ミ,,゚Д゚彡「よしっ!」
ストップボタンを押す教師、
ゴールした私が息をきらしつつ後ろを振り返ると、
まっすぐな直線が最初から最後まで途切れることなく
綺麗に引かれているのが見えて、胸のすくような思い。
ミ,,゚Д゚彡「うん、いいタイムだな、ラインも綺麗だし」
満足げに頷く教師に、流れる汗を手の甲でぬぐいつつ応える。
ξ;゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」
ミ,,゚Д゚彡「大会までその調子を落とすなよ」
教師の緑ジャージの陰から、一人の男の子がひょこっと顔を出した。
太い眉毛が特徴的な、カートゥーンアニメのネズミキャラのような印象の
お調子者っぽい、背の低い少年だ。
_
( ゚∀゚)「すげーなツンは、目の覚めるような走りだったわ」
-
そう褒めてくれた少年の肩を教師はばんと叩く。
ミ,,゚Д゚彡「ジョルジュ、お前ももっとしっかりしろよな、
お前タイムは早いけどラインがめちゃくちゃ汚いんだから、
ミミズがのたうちまわったみたいな線になってんぞ」
ジョルジュと呼ばれた少年は口をとがらせて頭を掻く。
_
(;゚∀゚)「まっすぐなるよう気をつけてんだけどさぁ、どうしても」
ミ,,゚Д゚彡「心の歪みはラインの歪みだぞ」
ミ,,゚Д゚彡「遅くてもいいから綺麗な線を引くことを考えて走れ、まずそれからだ」
_
( ゚∀゚)「はぁーい、フサせんせ」
彼の言葉で教師の名がフサ、であることがようやく分かった。
そのフサ先生はジョルジュの気の抜けた返事に呆れ顔を浮かべると、
次にきょろきょろと周りを見渡す。
-
ミ,,゚Д゚彡「そういえばクーはどこだ?」
_
( ゚∀゚)「さっきツンと入れ替わりに部室にいってたよ」
ジョルジュは振り返り、部室の方角を見た。
_
( ゚∀゚)「あ、今こっちきてる」
ジョルジュ越しに、向こうから長い黒髪の少女が歩いてくるのが見える。
川 ゚ -゚)
風を切って歩く彼女の姿に目を凝らすと、
――ズキン。
ξ;゚⊿゚)ξ「あっ……!」
あの、以前の夢の中でも感じた頭痛が、また私を襲った。
-
ξ;-⊿゚)ξ「うっ」
思わずその場にしゃがみ込む、
トンカチで頭蓋骨をノックされているような痛み、
クーという少女のことを思えば思うほどその痛みは激しさを増す。
心では何か思い出そうとしても、身体はそれを拒絶している、
そんなせめぎ合いによって生じる痛みというか。
_
(;゚∀゚)「おいツン、どうしたんだよ!?」
ミ;,,゚Д゚彡「やっぱりまだ調子悪いのか?」
_
(;゚∀゚)「まだ!?どういうことフサせんせ?」
ミ;,,゚Д゚彡「いやさ、さっきも部室でなんか気分悪そうにしてたから」
_
(;゚∀゚)「ばっか、そんなときに運動させんな!」
ごもっともだ、いや、私が悪いのだけれど。
-
クー。
そういえば前の夢では、ドクオの想い人として名前だけ出てきた。
彼女について私は何も知らないが、どうしても直視できない。
前はどうやってこの痛みをしのいだかと思い起こして、
私は携帯の存在に気づいた。
ξ;゚⊿゚)ξ(あ)
ξ;゚⊿゚)ξ(ま、また電話を掛ければ、この夢から逃げられる、んじゃ?)
震える手で携帯を取り出し、そして番号ボタンに指を置いたところで、
私の動きは止まる。
ξ;゚⊿゚)ξ(ナンバー、知らない……)
そう、以前はこの世界から逃れるためのナンバーをテーブルで知ることが出来た、
だが、テーブルの能力を失った今では、それが分からない。
思い出そうとしてもすっかり忘れてしまっている。
-
ξ;゚⊿゚)ξ(そ、そうだ、前の通話の記録が残ってれば)
すがるような思いで通話履歴を確認するも、
液晶画面には何ひとつナンバーは表示されなかった、履歴ゼロ。
ξ;゚⊿゚)ξ「うぅ……無慈悲な」
増していく痛み、このままいっそ気を失ってしまえば楽なのだが、
精神の最後の最後の芯はなかなか折れてくれないようだ。
ξ;゚⊿゚)ξ(こんな、なんかあるたびにフラフラしてたら、
病弱な子って思われちゃうじゃんかよぉ……)
うぅと唸る私にフサ先生が声をかける。
ミ;,,゚Д゚彡「部室で横になっとくか?」
大丈夫、と顔を伏せながらも左手を突き出す私。
そのまま目をぎゅっと瞑り、闇の世界に没入して、ひたすら嵐が過ぎ去るのを待つ。
-
一秒、十秒、三十秒。
スポイトで水滴を落としていくようにぽたぽたと時を数えていると、
次第に霧の晴れていくように、すっと頭痛が収まっていく。
助かった……。
もう大丈夫か、と目を開けようとしたその瞬間。
パーン!
と、ピストルの発砲音が聞こえたかと思うと、次に喧噪、
そして丸めた背中には日の温かな光が降り注いでいるような。
ξ-⊿-)ξ「……?」
ゆっくりと目を開く。
-
そこにあったのは相変わらず運動場だった、
けれどさっきよりもずっと広い。
そして少し離れた前方には、様々な異なるデザインの体操着に
身を包んだ人々が並んでいる。
その遙か前方に掲げられた横断幕には、
「ライトライン美府県地区予選大会」の文字。
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
ξ;゚⊿゚)ξ「えーと、つまり、これは……」
つい先程まで部活の練習中で、その最中に頭痛で苦しみ、
そして気づいたら、大会当日になっていたなんて。
夢の世界というのは本当に気まぐれなものだ。
-
_
( ゚∀゚)「ツン」
声を掛けられたので顔を上げると、そこには太い眉毛の少年。
ジョルジュだ。
ξ゚⊿゚)ξ「わっ」
_
( ゚∀゚)「もうすこししたら、ツンの出番だって、さ!」
ξ゚⊿゚)ξ「う、うん」
ジョルジュの手に引かれてよろけながら立ち上がる。
頭痛のせいで全身にまだ血が行き渡ってないような不安定感。
_
( ゚∀゚)「石灰はちゃんと入ってるか確かめた?」
その言葉に、そばのラインカーの蓋を開けて中身を確かめると
走るのに十分な量の石灰がきちんと詰まっていた。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫みたい」
_
( ゚∀゚)「そっか」
-
_
( ゚∀゚)「今走ってるのが3組目で、ツンは6組目だから」
指を折って数えるジョルジュ。
_
( ゚∀゚)「トイレとか行くんならまだちょっと時間あんぜ」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、じゃあ行っとこう」
_
( ゚∀゚)「俺も行っとこ、我慢してたんだ、連れションだ」
ξ゚⊿゚)ξ「あんた女の子だったの?」
_
( ;゚∀゚)「バカか?」
ジョルジュについても名前ぐらいしか分かってないので
もしやと思い尋ねてみると、呆れた表情で返された。
ξ゚⊿゚)ξ「そうね、バカね」
_
( ゚∀゚)「バーカ」
-
用を足し終え、トイレから出てきたところで
ポケットがぶるぶる震えだした。
手を突っ込んで探ると、プラスチックの細長いなにかに指が当たる。
驚いて取り出すと、あの携帯に着信が来ていた。
液晶には非通知の文字が。
ξ゚⊿゚)ξ「向こうの方からかかってくるパターンもあるのね……?」
へええと半ば感心するように私はひとり呟いて、着信ボタンを押した。
ξ゚⊿゚)ξ「もしもし」
私の声からワンテンポ置いて、スピーカーから声が響く。
「やぁ、調子はいいですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「……誰ですか?」
-
どこかで聞いたことのあるような声。
優しげで、どこかおどけてて。いつまでも聴き続けたくなるような、
懐かしい気持ちにさせてくれる声。
「そんなことより」
声は私の疑問に答えること遮って、続けた。
「走る前にもう一度、ラインカーの石灰を確かめた方がいいですよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「はぁ……?」
ξ;゚⊿゚)ξ「で、結局あなたは」
「今は、それしか言えません」
それだけ告げると、電話はブツッと切れた。
ツーツーツーという無機質な音だけが、受話器から流れる。
ξ;゚⊿゚)ξ「何なのよ……」
しばらく呆けた顔で携帯を見つめ続ける私だったが、
ジョルジュがこちらに向かってくるのに気付いて、慌ててそれを仕舞った。
-
その後、あの電話での忠告に従い、
もう一度ラインカーの蓋を開いて中を見てみると、大変なことになっていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「あれえ!?」
先ほど確かめたときは確かに石灰は入っていたのに、
今は全くの空っぽとなっていた。
ほんの僅かに白い粉がまぶしたように底に残っているのみ。
ξ;゚⊿゚)ξ「どして……」
血の気の引く思いがした。
恐ろしいことだ、このまま走っていたら線を引けなくて
確実に負けていたところだ。
電話に心より感謝して、私はテントから石灰入りの袋を抱えて持ってくると、
封を切ってラインカーに注ぎ込んだ。
ξ゚⊿゚)ξ(それにしても……)
なぜ、あの電話の主はこのことを知っていたんだろう。
-
とうとう、私の走る番がやってきた。
ミ,,゚Д゚彡「ツン、練習での走りを忘れずにいれば、絶対大丈夫だ、がんばれよ」
ξ゚⊿゚)ξ「はいっ」
フサ先生の激励に頷きながら、私はラインカーの取っ手を握り、
スタート地点へ向かう。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
私の隣には他に5人の選手が並んでいる。
皆、しっかりと鍛えあげられた肉体に自信のある表情を浮かべていて、
私も思わず心を引き締めて前を向いた。
視界をわずかに遮る前髪をかき分けると、走りだす体勢をとる。
スターターが耳を片手で塞いで、ピストルを空へ掲げると、
その周囲だけ時間の流れが止まったように緊張が走る。
ピストルの音が鳴ると同時に、私は駆け出した。
-
一心不乱に地面を蹴る、
心を、風景を、歓声を追い抜いて、
私自身がまるで一本の線としてレーン上にまっすぐ伸びていくようだ。
ξ;゚⊿゚)ξハァハァ
肺に空気を送り込むと同時に使い古しの息を吐く、
前の方には誰も居ない、わたしが一番先頭だ、
線も歪んでいないはず、勝てるぞ!
しかし。
ゴールまで半分、というところで、私の体はがくっと下へ傾いた。
ξ゚⊿゚)ξ(えっ)
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
あぁ、足がもつれて転んだのだ、と気づいた頃には
全身を砂の上にしたたかに打ちつけていた。
-
あわれ道連れとなったラインカーは倒れ、
開いた蓋から石灰の粉が土砂崩れのようにこぼれ出している。
ξ;゚⊿゚)ξ「あっ、あっ」
すりむいた膝の痛みをこらえていると、、
私の横を他の選手たちが通り抜けていくのが見える.。
一人、二人と追い抜かれていく度に、
私の心は万力で締め付けられたように苦しくなる。
ξ;゚⊿゚)ξ(ゴールしなくちゃ、しなくちゃ)
なんとか、左足、右足の順に立ち上がる。
手のひらに付着した砂ごとラインカーの取っ手を握り、
泥まみれの体操着を払うことなく私はまた走り出す。
-
傷の痛みで思うように走れない、
ままにならない悔しさか、目頭へ熱いものが溜まってくる。
潤んだ視界に写るのは、前方で選手たちが次々とゴールする姿、
その後ろにはまっすぐと続く線が、光のように伸びていた。
ξ;゚⊿゚)ξ(だめ、だめ、だめ!)
駄目だと願って止まってくれるほど、時間は優しくない。
数秒遅れて、私もゴールまでたどり着いた。
当然、順位は最下位。
私の競技は終わってしまった。
-
テントの方を向くと、フサ先生が悲痛な表情を浮かべていた。
ミ,,゚Д゚彡「……」
掛ける言葉も見つからない、といった顔だ、無理はないわね。
そしてフサ先生の影に隠れて、なにか黒い影が揺れていた。
先生が腰を浮かすことでその姿がはっきり見えた、クーだ。
川 ゚ -゚)
悲しんでいるとも、笑っているとも判別の付かない微妙な表情で、
彼女は私の姿を見つめていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
流れる汗が憎いほどに不快だ、
前、走った時にかいた汗は爽快ですらあったのに。
-
そういえば、ラインはどうなったのだろう、私の引いたラインは。
振り向いちゃいけないと、脳は警鐘を鳴らしていたのに、
それでも私は、おそるおそる、レーンの方を振り向き見てしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ「……っ!」
目に飛び込んできたもの、
それは、レーンの中ほどでこぼれた石灰の山と、そこで途切れている醜いライン。
それを認めた瞬間に、私は声を上げて泣いた。
ξ;⊿;)ξ「ああああああああああああああああ!!!」
まるで心が喉にそのまま直結しているように、
私の中から溢れる悔しさが、すぐに叫びとなって体外へと放出される。
-
何がこんなに悲しいのだろう。
所詮、夢の中の出来事のはずなのに、
私自身は、一回練習しただけで、すぐ大会を迎えただけ、
この競技に執着なんてないはずなのに。
それでもひたすらに悔しかった。
ξ;⊿;)ξ「あっ……!あああああああ……っ!!」
そうだ、泣いているのは私じゃないんだ。
私がいま体を借りている、この、ライトラインに青春をかけていた
今までの私が、本能のままに泣き叫んでいるんだ。
止めどなく溢れる涙を流れるままにして、私はその場所を離れた。
-
フサ先生が、私の元へ駆け寄ってくる。
ミ,,゚Д゚彡「ツン……」
ξ;⊿;)ξ「……っ」
私の腕をつかもうとするフサ先生を振り払ってしまった、
そんな自分の行動に嫌悪を覚える。
ダメだ、辛いのは他の人達だって同じなのに、
私ばかり泣いてちゃ、嫌われる。
せめて涙だけでも拭おうと、グラウンド外にあるテントの下へ
よろよろとした足取りで向かい、鞄からタオルを取り出そうとすると、
鞄に下げていたお守り袋から、紙片がはみ出していることに気がついた。
ξ;⊿;)ξ(このお守りも、無駄にしちゃったわ)
-
お守りの中身には、いったい何が書かれているんだろう、
ありがたいお経?励ましの言葉?
しかしそのどれだとしても、私は……。
はみ出している箇所を指で摘んで引っ張り上げると、開いて中を見る。
次の瞬間、私は驚き、思わず口を手で押さえた。
驚きのあまり、涙も止まってしまった。
なぜならば、その紙に書かれていたのは。
"0X0-XX32-X26X"
ξつ⊿゚)ξ(携帯……ナンバー!?)
以前、脳内のテーブルに彫られていたものと全く同じ、
この世界から逃げる唯一の手段である、あの携帯ナンバーだった。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「なんで……?どうして」
すぐに、私は鞄の中から携帯を取り出した。
ξ;゚⊿゚)ξ「助けて、くれるのよ……、ね?」
その紙に書かれている通りに数字ボタンを押し、
最後に通話ボタンを親指で叩く。
プルルルルルルルル……、
発信音が5コールほど鳴ったところで、ガチャリという着信音、そして。
「もしもし」
その声が聞こえた瞬間、私の意識を目映く鋭い光が貫いた。
以前と同じように。
-
【現実(2)】
やはり、目が覚めると私は自室のベッドの上だった。
雀たちのじゃれあうような鳴き声が、窓の外からかすかに聞こえる。
掛け布団に開いた両手を重ねて、私は思案する。
ξ゚⊿゚)ξ「……なんか連続でバッドエンドな夢見てる気がするわ」
前は不可思議なテーブル、次は不可思議なスポーツ。
登場人物は一部共通しているものの、その内容にはあまり関連はない。
ξ゚⊿゚)ξ「ふーむ……」
夢は夢、と割り切ることも出来るけれど、
その夢の発生源はどれもこの携帯電話からだ、
取りも直さず、この携帯になにか謎が秘められているはず。
ξ゚⊿゚)ξ「あの携帯ショップに、もう一度行ってみようかしら……」
-
しかしショップへ行ってみたところで、どうこの出来事を伝えようか。
ここで貰った携帯電話から毎朝変な電話がかかってきて、
それに出ると夢の世界に飛ばされます、だなんて。
ξ゚⊿゚)ξ「そんなん言ったら、頭の病気を疑われちゃうだけね」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅ……」
もやもやと渦巻く頭を枕に叩きつけ、私は叫んだ。
ξ#゚⊿゚)ξ「あーっ!もう混乱する!」
ξ#゚⊿゚)ξ「私に、何をさせたいっていうのよ!?」
ごろり、と横を向くと時計が見えた。遅刻寸前。
ξ゚⊿゚)ξ「登校か」
とりあえずこの事は後回しにして、急いで私は登校することにした。
-
学校に着いた私は、教室のドアを開けて
鯉にエサを与えるように、挨拶を放り込んだ。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよう」
( ^ω^)
('A`)
从'ー'从
o川*゚ー゚)o
相変わらず、私の挨拶は返されることなく無視される。
うん、分かっていたことだ。
そして若干傷つくことさえ、予想出来ていたことだ。
ξ゚⊿゚)ξ(だから、だからギャップのある夢はやめてほしいのよね……)
-
一時限目が終わった後の10分休み、
机でぼーっと外を眺めていた私の肩を、誰かがとんとんと叩いた。
振り向くと、髪飾りを付けた女の子、キュートだった。
o川*゚ー゚)o「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ「な、なに……?」
話しかけられたことに対する期待と不安で声がかすかに揺れる。
それに気づいた様子もなく、キュートは言った。
o川*゚ー゚)o「陸上部の子が、呼んでる」
彼女が指さしたドアのところには、背の低い男子生徒が立っていた、
よく見ると、太い眉毛が特徴的な顔。
ξ゚⊿゚)ξ(ジョルジュ……)
私はキュートに礼を言うと、立ち上がり彼の元へ向かう。
-
_
( ゚∀゚)「ツンさん」
全くの無感情な、抑揚のない声で彼は淡々と告げた。
_
( ゚∀゚)「今日、部活の方で定例会議があるので、放課後部室に来てください」
ξ゚⊿゚)ξ「は、はあ」
それだけ言うと彼は、私の返事を聞くこともなく、
告げるだけ告げましたよ、といった感じでその場を去っていった。
彼の背中が遠ざかるにつれ小さくなるのを見ながら、私は思った。
ξ゚⊿゚)ξ(私、陸上部だったのよねえ……)
ライトラインと陸上、線を引くこと以外はほぼ同じ競技と言っていい。
どうにも夢の内容と現実が、若干リンクしているようだ。
-
放課後。
私は部室へと向かうため、玄関で上履きを脱いでいた。
ξ゚⊿゚)ξ「ん……?」
下駄箱を上げると、革靴より手前になにか小さなものが置かれていた。
手に取ると、それは紺色のお守り袋で、前面に「必勝祈願」の文字。
ξ゚⊿゚)ξ「これ……」
そのお守りをぎゅっと握りしめたまま、手を胸の前に寄せる。
すると、じんわりと温かな気持ちが、手から腕、腕から全身へと伝わるような。
そのとき、ごく自然に私の中で決意が生まれた。
ξ゚⊿゚)ξ(……走らなくちゃ)
このお守りを預けてくれた人の想いに応えるために、
私は走らなければならない、そんな決意。
-
その後、私は玄関で踵を返してトイレへ急いだ。
用を足すためではない、着替えるためだ。
個室に駆け込みカギをかけると、
鞄の中から服屋で貰うビニール製の袋を取り出した。
ξ゚⊿゚)ξ「別に体育の授業はなかったんだけども」
ξ゚⊿゚)ξ「念のため、朝持って来といて良かったわね」
袋の中から引っ張りだした体操着に体を通す。
着替え終わると、私は個室から出て、洗面台の鏡で自身の姿を確かめる。
袖から出ている肌は、陶器のように白かった。
ξ゚⊿゚)ξ(体動かせよな、じぶん)
私は、その姿で部室へ向かった。
-
陸上部部室は、夢で出てきたライトライン部部室と全く同じ場所だった。
長机の一番奥にはフサ先生が、
そして十数人の部員たちが並んで座っている。
その中にはジョルジュも、そして。
川 ゚ -゚)
クーの姿もあった。
ξ゚⊿゚)ξ(クー……)
激しい頭痛がまた襲ってくることはなかったが、
彼女を見ると、魚の骨が喉に引っかかったような変な違和感を覚えてしまう、
何かを思い出そうとしているかのようだ。
ξ゚⊿゚)ξ(私と、クーとの間に、なにかあったかしら)
ξ゚⊿゚)ξ(あったのね)
-
その後始まった定例会議は、
大会が近づいているとか、健康管理に気を付けろとか、
そんな取り留めのない内容を十数分話しただけで、すぐに解散となった。
三々五々散っていく部員たち。
彼らの姿が部室から消えた後、
未だテーブルに座り何かの資料を熱心に読むフサ先生の元へ、私は近づいた。
ξ゚⊿゚)ξ「あの……」
フサ先生はプリントから目を離し、顔を上げる。
ミ,,゚Д゚彡「なんだ?」
ξ゚⊿゚)ξ「今から、一本、走ってもいいですか?」
ミ;,,゚Д゚彡「ええ……!?あぁ、もちろん構わねぇけどよ」
驚きながら、フサ先生は口ひげを指でいじる。
-
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」
ミ;,,゚Д゚彡「いやぁ……珍しいなぁ、お前がなぁ」
ξ゚⊿゚)ξ「珍しい……?」
ミ,,゚Д゚彡「練習にもほとんど来てなかったのに、どういう風の吹き回しかと」
数秒間考えて、私はぽつり発した。
ξ゚⊿゚)ξ「……なんか、走らなくちゃ行けない気がして」
ミ,,゚Д゚彡「ふぅん……大会も近いしな」
がたがたと音を立てて立ち上がったフサ先生と共に、
私たちは部室を出て、グラウンドへ向かった。
-
陸上トラックのスタート地点に立った私。
その場で軽くアキレス腱を伸ばし、ぱしっと頬を叩いて気合いを入れる。
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
いつでも構わないです、と私はゴール地点のフサ先生に向かって合図を送る。
先生は頷き、片手を上げると叫んだ。
ミ,,゚Д゚彡「よーい」
ξ゚⊿゚)ξ(ねぇ、見てるかな)
ξ゚⊿゚)ξ(お守りを、わたしにくれた人は)
ミ,,゚Д゚彡「スタート!」
――私は地面を蹴り上げ、駆けだした。
-
―――
――
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございました、気持よく走れました」
ミ,,゚Д゚彡「おうよ、気をつけて帰れよ」
走り終えた私は、付き合ってくれたフサ先生に礼を告げると
グラウンドを離れ、部室横の更衣室でまた制服に着替えた。
ξ゚⊿゚)ξ(まー、まだ家には帰らないんだけどね)
帰宅するその前に、この携帯の謎を探るべく
携帯ショップを訪ねる決心を私は固めていた。
ξ゚⊿゚)ξ(どういう風に調べるかは……店に着いた時にまた考えよう)
だなんて甘い見通しで行こうとしていた私。
だけれども、携帯ショップには行けなかった。
-
と、いうのも。
私が、帰宅する前に携帯ショップに行こうとすると、
なぜか過程をすっ飛ばして自室にたどり着く。
そして自室から携帯ショップに行こうとすると、
また校舎に戻っている。
それの繰り返しだった。
しばらく試行錯誤するも、
結局私は今現在訪れることの出来る場所は、
校舎、部室、
グラウンド、自室、
以上の4つの場所のみだということが分かった。
それ以外の場所に行こうとしても、絶対に行けない。
-
すっかり日も落ちたグラウンドの隅に突っ立ち、
私はどうしたものかと、髪先を指で絡めてため息をついた。
ξ゚⊿゚)ξ(どういうこと?)
ξ゚⊿゚)ξ(なんで、携帯ショップはおろか、他の場所にも行けないのよ)
ξ゚⊿゚)ξ「もう、ワケわかんね……」
頭は混乱するばかりで、もはや恐怖や不安さえ入り込む余地はない。
そういえば、朝の登校時の記憶も私にはない、
私にあるのは、朝起きたときと、教室に入ったとき、そして部活での記憶のみだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「私って、一体何なのよ」
「お困りのようですね」
突然横から声が入ってきて、私が首を向けるとそこにいたのは。
( ・∀・)
あの携帯ショップの店員だった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「あなたは……」
僥倖といっていいのだろうか、まさか彼から訪ねてきてくれるとは、
何か知っているだろうと私はポケットから携帯を取り出す。
ξ゚⊿゚)ξ「あの、これっ!」
( ・∀・)「うん」
それを見て、ふと彼の表情に陰りが浮かんだ気がした。
( ・∀・)「これから、その携帯のせいで苦しむことも多くなるでしょうが」
( ・∀・)「絶対に手放さないでくださいね」
ξ゚⊿゚)ξ「どうして……?」
-
( ・∀・)「今は、それしか言えません」
ξ;゚⊿゚)ξ「だから、どうして」
( ・∀・)「では、また」
彼は踵を返すと、足早にその場を去っていった。
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ……」
しばらく呆気にとられ、その場に突っ立っていた私。
彼の姿がすっかり見えなくなった後で、大変なことに気づいた。
ξ;゚⊿゚)ξ「ああっ……!」
驚きで口がぱくぱくと開閉を繰り返す。
-
あの声も、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「今は、それしか言えません」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そしてこの声も、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( ・∀・)「今は、それしか言えません」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ξ;゚⊿゚)ξ「一緒じゃん!どっちの声も!」
夢の中のライトライン大会で、石灰がないことを教えてくれた電話の主と、
先ほどの携帯ショップ店員の声が、全く同じものであった。
ξ;゚⊿゚)ξ「……!」
慌てて彼の去っていった方向へ走り出す、
だが、その姿を見つけだすことは、とうとう出来ない私だった。
〜つづく〜
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今回はここで終わりです、ありがとうございました。
書いてる途中でライトラインじゃなくてドローラインじゃね、と思いましたが
修正したら負けな気がしてそのままにしました。
次の投下は一ヶ月以内になるよう頑張ります、では。
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乙
謎が深まる一方で続きが気になる!
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おつ!
やだおもしろい・・・これからどうなるかすごい楽しみ
まってる!
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乙
先が気になる!!
面白かった
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すごく面白い
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うぉ、じわじわ怖いな……
でも面白い。次も楽しみに待ってる
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読めば読むほど謎が深まるな…
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乙
相変わらず訳ワカメだったけど面白かった
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乙
すげー面白い
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読めば読むほど引き込まれる
演出も上手くて面白いなあいいなあ
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今更読み始めたけど面白いな
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今更だけど面白いねこれ
続き期待
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打ち切りなんかなぁ(´・ω・`)
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乙
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おもしろす
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支援
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削除依頼スレ見てきたけど打ち切りマジか……
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