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(*゚ー゚)ニセモノ家族には秘密の一つや二つあるようです

1 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 16:34:21 N6tYZHuQ0
☆ 家 族 構 成 ☆

( ・∀・) モララー
父親。四十歳。会社員。
長身のイケメン。優しい性格をしているが怒ると怖い。

ζ(゚ー゚*ζ デレ
母親。三十三歳。パート。
若い上に美人。人から好かれやすい。天然ボケが玉にキズ。

川 ゚ -゚) クー
モララーの連れ子。十七歳。高校生。
美人だが高圧的。祖父母の前では素の少女になる。

(*゚ー゚) しぃ
デレの連れ子。十六歳。高校生。
とても可愛らしい顔つきをしている。

※ハートフルホームドラマですが少しエロがあります


2 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 16:39:54 8a3a.8kE0
初めて痴漢の被害にあったのは、高校一年の夏だった。

学校はもう夏休みに入っていて、その日はクラスの友達と遊びに行く約束をしていた。
列車に乗って行くのだが社会人達に夏休みなんてものは存在せず、いつも通り朝ラッシュを迎えていた。
しかもその日は車両故障だか何かで大幅なダイヤ乱れ、蒸し暑いプラットホームでたっぷりと列車を待ち、
ようやくやって来た列車も人がこれでもかと詰め込まれていた。ステンレスの車体にみっちりと乗っていた。
これ以上乗れるのかとたじろいでしまったが並んでいたサラリーマン達は無理に列車の中に自らを押し込んでいく。
覚悟を決めて自分も列車に乗り込む。程なくして列車は発車するがひどい混雑でつり革も掴めず身動きも出来なかった。

早く着かないかなぁ。そんな事を考えていた、その時だった。
自分のお尻に違和感を覚えた。手が当たっている。いや、触っている。
それは満員列車の偶然ではなかった。その手は明確に意志を持っていた。
ぞぞぞと全身を悪寒が駆け巡る。初めての経験だった。純粋に怖かった。
抵抗されない事をいい事にその手はお尻を撫で回す。そうして更に下へと進路を取った。
そこで遂に我慢出来なくなって、声を振り絞って、叫んだ。

(;*゚ー゚)「や、やめて下さい…!」

列車の中がどよめいた。意思を持った手は慌てて引っ込んでいった。
どうした、車内のどこからか声がした。「ち、痴漢です」と答えると車内は余計にどよめく。
ちょうど列車が次の駅に着く。ドアが開け放された途端に一人の男が飛び出していった。
そいつだと誰かが叫ぶと何人もの男が追っていった。車内は混乱してプラットホームには怒号が飛び交った。
少し後には痴漢は屈強な男達に捕まえられ駆けつけた駅員に引き渡されていた。
鮮やかな逮捕劇だった。

(`・ω・´)「きみ、大丈夫かい?」

がっしりとした身体つきのサラリーマンが声をかけてくる。
正義感の強そうな男だ。真っ先に痴漢を捕まえたのもこの人だった。


3 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 16:43:02 8a3a.8kE0
(*゚ー゚)「はい、大丈夫です…ありがとうございます」

(`・ω・´)「最近は痴漢が多いからね、きみも女性専用車両に乗った方がいいよ」

(*゚ー゚)「あ、その、女性専用車両には乗れないんです…」

(`・ω・´)「え? どうして」

あぁ、まただ。心の中で呻く。この人にも悪意はないのだけれど。

(*゚ー゚)「その、ぼく男なので」

(;`゚ω゚´)「えええええ!?」

サラリーマンの男が素っ頓狂な声をあげる。一緒に取り押さえた男達も駆けつけた駅員も驚いてぼくを見た。
痴漢の男にはあんぐりと口を開けてぼくを見てから、がっくりと肩を落としたのだった。

ぼくはれっきとした男である。しかしあまりにも女の子らしい顔つき、容姿から幼少時より間違えられる事が多かった。
それはぼくにとってまさしく最大のコンプレックスなのである。


4 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 16:44:04 8a3a.8kE0



(*゚ー゚)ニセモノ家族には秘密の一つや二つあるようです


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5 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 16:46:07 8a3a.8kE0
ζ(゚ー゚*ζ「わたしね、結婚するの」

母さんが放った一言はぼくを確実に混乱に陥れた。
すぐに理解が出来なかったので、とりあえず口の中のコロッケを飲み込む。
住み慣れた狭いアパート。夕食中。見ていたテレビではバラエティ番組を放送している。
そんなありふれた状況で、何の脈絡もなく母さんはその一言を発した。
今も混乱するぼくをよそに平然と味噌汁を啜っている。

(*゚ー゚)「え、今なんて?」

ζ(゚ー゚*ζ「だから、結婚するのよ〜」

何を言ってやがる。とりあえずぼくはテレビを消す。
母さんは恐ろしくマイペースだ。そう言えば良い方で、実際のところ社会常識が少し欠如している。
近所付き合いは上手くやっているがたまにぼろが出るのだ。
だから夕食中にいきなり再婚すると言い出しても、母さんならば仕方がない。
ぼくは母さんの性格に関してはとうに諦めてしまっている。

(*゚ー゚)「そんな相手がいるなんて知らなかったんだけど」

ぼくの母さんは若い。十七の時にぼくを産んでいる。
それに客観的に見ても母さんは美人だ。
近所でも評判だし、小学生の頃の授業参観や運動会では明らかに目立っていた。
しぃのお母さんは美人で羨ましいと男女問わず言われたものだ。

ζ(゚ー゚*ζ「だって、会わせた事なかったもの」

そういう事じゃないだろうに。
悪びれずに母さんは言う。訳あってぼくには父親がいない。
いわゆる母子家庭というもので、小さい頃から母さんと二人暮らしだ。
しかしまだ若く美しい母さんは、いずれ相手を見つけて結婚する。これは小学生ぐらいから自覚していた事だ。
俗に言うお水の仕事をしている母さんは男との付き合いが多い。家に帰った時に行為の最中に出くわした事もある。


6 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 16:49:23 8a3a.8kE0
(*゚ー゚)「付き合ってどのぐらいなの」

ζ(゚ー゚*ζ「一年ぐらいかなぁ」

(*゚ー゚)「本気なの?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、本気」

母さんの男の交友関係は広い。しかし結婚すると言い出した事は一度もない。そこまで達した男もいない。
けれど再婚する日がいつかは来ると覚悟していたし、生半可な気持ちでそれを口にしてはいないと思う。
だから反対しようとは思わなかった。まだ会った訳ではないが反対する必要はなかった。
母さんに結婚に漕ぎ着けるまでの相手がいた事を知らなかったのは少なからずショックだが、仕方ない。
ぼくももう高校生だし、四六時中母さんと一緒にいる訳ではない。知らない事だってある。

ζ(゚ー゚*ζ「もちろん、しぃちゃんにも会わせようと思っているの。 今度の日曜日にでも」

(*゚ー゚)「日曜日、うん、大丈夫だよ」

今日は金曜日だしもう明後日だ。本当に急だ。予定あったらどうするんだ。
母さんの心を射止めた男とは、一体どんな人物だろう。そして果たしてぼくはその男を気に入るだろうか。
会わせたいといっても、その男はもうぼくの父親になる事が決まっているのだ。
確かに母さんは両親から勘当されていて、再婚の許可をもらう必要はなく結婚のハードルは低い。
さすがに唯一の家族であるぼくには予め訊いてほしかったが、母さんにそんな常識は通じないだろう。

父親が出来る、これは物心がついた頃から父親がいなかったぼくとしては全く実感がわかない事だ。
運動会で、日曜日のショッピングセンターで、テレビで放送しているドラマで見る父親像はなんとなく頭にある。
しかし実物に接した事のないぼくに父親なんて存在はリアルに想像出来もしないのだ。
上手くやっていけるだろうか。母さんへの歓迎よりもその不安の方が大きいかもしれない。

(*゚ー゚)「それにしても、よく結婚する気になったね」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、妊娠したのよ〜」

(;*゚ー゚)「はぁっ!?」

呆れて言葉も出なかった。三十過ぎてデキ婚とは予想出来なかった。
デキ婚を否定的に捉えるかどうかは別の話としてもう少し大人だと思っていた。
避妊ぐらいしろ。三十過ぎだぞ。
父親どころか、近い未来に弟か妹が出来るのだ。


7 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 16:54:52 8a3a.8kE0
(*゚ー゚)「本当に急だね…」

ζ(゚ー゚*ζ「それでね、月末に引っ越すの」

(;*゚ー゚)「引っ越す!?」

ζ(゚ー゚*ζ「せっかくなら早く同居した方がいいって向こうも言ってくれて、今月でアパートの契約打ち切っちゃった」

嬉々として話す母さんとは対照的にぼくは深々とため息をつく。本当に何の相談もなしに物事を決めてしまう。
このアパートにはかれこれ十年以上は住んでいる。外装は随分と傷んでいて家賃も安い。
古びたアパートは階段の音が響くし隣に越してきた若いカップルの嬌声が聞こえてくるがそれなりに愛着がある。

(*゚ー゚)「でも学校は? 母さんだって仕事あるじゃない」

ζ(゚ー゚*ζ「向こうのお家はそんなに遠くないから十分に通えるんだって。
仕事は結婚するならさすがにやめる。 パートでもしようかなぁって」

(*゚ー゚)「そう…」

確かに、再婚するならお水の仕事はやめるべきだろう。
そして今の高校にもきちんと通えるならばますます反対する理由は見つからない。

(*゚ー゚)「なんだかもう、訳分かんないよ…」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、だから引っ越しの準備しなきゃね〜」

報告を終えた母さんは嬉しそうだった。ぼくはその顔を見て何も言おうとは思えなかった。
母さんからしてみればようやく人生のパートナーを見つけたのだ。祝福してやるべきなのだろう。
ぼくは心の整理がなかなか出来なかった。スーパーマーケットで買ってきたコロッケはもう喉を通らなかった。


§  §  §


三月が終わる。年度末。色々と別れの季節だ。ぼくは本来ならばただ高校の二年生に上がるだけのはずだった。
引っ越しの日である月末はあっという間にやってきた。空っぽになった住み慣れたアパートの部屋をぼくは眺めていた。
結婚、妊娠、引っ越しと大きなイベントがまとめて訪れたのだ。色々と考える事はあったが時間はさっさと過ぎてしまった。
二人分の荷物は少なかった。引っ越しのトラックに詰め込んで、これだけかと拍子抜けしてしまったぐらいだ。
洗濯機や冷蔵庫などはこれから一緒に住む相手の家では必要がないので全て処分してしまうからでもある。
幼少時から住んでいたアパートはあらためて見てみるととても狭い。様々な思い出が蘇ってきて、感慨深くなる。

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん、そろそろ行くよ〜」


8 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:01:06 8a3a.8kE0
母さんに呼ばれてぼくは部屋を出る。長年お世話になった大家さんに鍵を返して挨拶をして、別れを済ませる。
アパートの前にはフリードが止まっている。母さんの結婚相手の車だ。

ζ(゚ー゚*ζ「おまたせ〜」

母さんと一緒に後部座席に乗り込む。運転席の男が振り向いた。

( ・∀・)「じゃあ、行こうか」

この男こそ、母さんの再婚相手。ぼくの新しい父親。
名前はモララーという。今年で四十になるそうだが、見た目は若い。
若くて美人と評判の母さんと並んでも違和感がないぐらいだ。母さんの働く店で知り合ったのだという。
それに顔立ちも良い。普通にイケメンである。母さんは面食いだし、納得だ。

驚くことにモララーさんも離婚歴があるのだ。今は一人娘と二人暮らしだという。
モララーさんには母さんの報告の後に会わせてもらったがその一人娘は同席しなかった。
予定が合わなかったのだという。それ故に引っ越す今日が初対面になる。
家族になる人間と引っ越す当日にようやく会うというのは不安でしかない。
いくら何でも無茶苦茶だろう。せめてモララーさんは常識のある人間であってほしい。

モララーさんがフリードを出す。住み慣れたアパートと街が遠くに消えていく。
よく行ったスーパーマーケットや毎日使った駅を通り過ぎる。
引越し先のモララーさんの家は二つ隣の市だ。
いくら近いといっても愛着のある街を離れるのは寂しいものだ。

ζ(゚ー゚*ζ「さみしい? それとも不安?」

(*゚ー゚)「うーん、両方かなぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫よ、クーちゃんもいい子だし」

モララーさんの一人娘はクーという名前だ。ぼくの一つ年上になる。
ぼくの姉という事だ。全く赤の他人だった女子が姉となり家族となり同居人となるのだ。
何と恐ろしい事だろう。新居や父親よりもこれが一番不安であった。


9 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:05:33 8a3a.8kE0
何よりぼくは少し女性恐怖症だと言える。歳の離れた女性はそれほど感じないが、同年代の女子が怖いのだ。
幼い頃からぼくは女の子みたい、と女子からもてはやされた。しかし思春期を迎えるにつれそれは明確な嫉妬に変わってしまった。
男子にもしぃの方がかわいいと本気で公言する者がいた。それが拍車をかけてぼくは女子に苛められるようになった。
女子の苛めは男子と違ってとにかく集団的かつ陰湿だ。徹底的に目立たないようにやる。
中学生の間はずっとそれが続いていた。ぼくは自分の女の子にしか見えない顔を呪った事すらあった。

( ・∀・)「クーは少し大人びているけど、心優しい子なんだよ。
しぃ君の話をした時に弟が出来るって喜んでいたし」

モララーさんはぼくをしぃ君と呼ぶ。母さんの知り合いの男にしぃ君と呼ばれる事はあったがモララーさんは父親になる男だ。
どこかくすぐったかった。

フリードは引越し先の家のあるニュータウンへ入る。大規模なニュータウンであり、地図で見るとこれでもかと家ばかりだった。
国道には様々な店舗が並んでいるが側道に入ると本当に家しかない。無個性な一軒家がずらりと続く。
軒先に僅かな庭らしき芝生がある。同じ顔をした家で唯一個性を持っているのは一家に一台止まっている車ぐらいだ。
今度からそれらを目印にして自分の家を探す生活が始まりそうだ。モララーさんの車がプリウスではなかった事だけが救いだと思う。

( ・∀・)「着いたよ」

やはり個性のない家の前でフリードは止まる。もう何番目の家か忘れた。
家の近くで迷子になりそうだ。それほどに家達に個性はない。
モララーさん曰く築十五年ほどだそうだ。一人娘クーが産まれてから購入したのだという。
その後離婚してしまい、以来二人暮らしをしている。ぼくと母さんが転がり込むには絶好の家だとは思う。

まずぼく達はリビングに通される。狭いアパートと比べるととても広い。
ところどころ傷んでいる部分も見られるが、古びたアパートよりはずっと綺麗だ。
リビングに置かれた液晶テレビも大きいものだ。

ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃんは?」

( ・∀・)「あれ、リビングにいるよう言っておいたのだけど」

呼んでくるよ、とモララーさんは階段を上がっていく。
母さんが椅子に座ったのでぼくも倣う。リビングにはテーブルを挟んで椅子が四つ置かれている。
そのうち二つは真新しいもので、同居に合わせて新調したのだろう。


10 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:08:57 8a3a.8kE0
ζ(゚ー゚*ζ「いいお家でしょ〜。 うんと広い」

(*゚ー゚)「そうだね」

ぼくはこれから住む家なんてあまり気にならなかった。これから会う、姉になる人間こそが気がかりだった。
同年代の女子は苦手なのだ。それが家族になって毎日一緒に暮らすのだ。どうしても新しい父親よりも心配だった。

( ・∀・)「おまたせ」

階段に二つの足音が響いて、モララーさんがリビングに戻ってくる。後ろに髪の長い女性がついてくる。クーだ。
モララーさんも長身だが、娘であるクーも背が高い。全体的にすらりとしている。
長く伸ばした髪は流れるように美しい。親譲りの顔も整っていて美形であった。

と、普通の人なら思うのだろう。
ぼくはそれよりもまだ言葉の一つすら発していない彼女から独特の刺々しい雰囲気を感じ取っていた。
簡単にいえば性格キツそうな女、である。口悪そうだなぁ、あまり笑わないんだろうなぁ、とか勝手に想像してしまう。

( ・∀・)「ほら、挨拶」

川 ゚ -゚)「はじめまして」

(;*゚ー゚)「は、はじめまして」

クーはぼくをまじまじと見る。観察されている。
そしてクーは一言感想を放った。

川 ゚ -゚)「ふぅん、本当に女みたいな顔だね」

その一言でぼくは凍りつく。それは長らくぼくを苛めてきた女子達が言った言葉だ。
たったその一言だけでぼくへの初撃としては成功だった。予想通りだ。
彼女はまさしくぼくが苦手としてきた女子そのものだ。

( ・∀・)「こら、クー」

ζ(゚ー゚*ζ「でしょ〜、しぃったら昔っから女の子に間違えられて」

モララーさんがたしなめるが母さんは笑い飛ばす。
ぼくの最大の悩みである女の子らしい顔立ちは母さんにとっては笑い話でしかないのだ。

クーも席について、母さんとモララーさんによる結婚の挨拶が始まる。
そう言えば聞こえはいいがようはのろけ話だ。どう出会ったか、どうプロポーズしたか、そんな程度だ。
子供にそんな話をしてどうするんだと思う。それにプロポーズと言ってもデキ婚だろ、と心の中でツッコんでおく。
それにしてもクーは笑わない。本当に無愛想だ。顔立ちは良いのに全く笑わない。見た目通り、予想通りだった。
苦手だ。間違いなくぼくは苦手だ。でも逃げられない。これから家族になるのだ。毎日一緒に生活するのだ。


11 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:14:43 8a3a.8kE0
母さんとモララーさんの挨拶はとにかく長かった。何のまとまりもない話で恐ろしく退屈だった。
いつまで話してるんだこいつら。ただの自己満足じゃないか。
それに母さんとモララーさん二人だけで盛り上がっていて、まるで取り残された気分になる。
これからこんな息苦しい家で暮らすのだと思うとうんざりしてしまう。

ふと、向かいに座るクーに目をやる。彼女はどうなのだろう。
すると彼女もぼくと同じだった。目を伏せて退屈そうにしていた。
この瞬間だけぼくと彼女は同じだった。数少ない共通点を持っていた。
きっと彼女も、ぼくと同じ事を考えているのだろう。
そう思えば少し親近感がわいた。
前向きになろう。家族になる人間だ。
まだきちんと話した訳ではない。実は優しい心の持ち主かもしれない。
初対面の人間に対して先制パンチを喰らわしてきたけれどそういう可能性もゼロじゃない。
前向きになろう。前向き。


夕食はお祝いという事で出前の寿司を取った。
出前の寿司なんて食べた事があっただろうか。
そういえばモララーさんの収入はどれほどのものなのだろう。
ごく普通の会社員としか聞いていない。急に家族が増えるのだ。
それをきちんとカバー出来る収入はあるのだろう。この家のローンだって残っているはずだ。

四人で出前の寿司を食べる。当然だがまだ慣れない。ずっと母さんと二人きりだったのだ。
それは向こう側も同じようだった。モララーさんはようやくこの日がきたなぁと感慨深げに言っていた。
リビングがあって、大きな液晶テレビがあって、テレビが見やすい位置にソファーがあって、対面キッチンがある。
ぼくが友達の家に遊びに行って憧れた一軒家のリビングだ。
やっぱり一軒家は広い。安いアパートとは比べ物にならない。

出前の寿司を食べ終わると、引っ越しの片付けがあるからとそそくさとリビングを出た。
また母さんとモララーさんの濃密なのろけ話が始まりそうだったからだ。
実際まだ引っ越しの荷解きは終わっていないし、きちんと口実になる。


12 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:18:03 8a3a.8kE0
新しくぼくの部屋として用意されたのは、元々はモララーさんの部屋だ。
二階には二部屋あって、もう片方はクーの部屋になる。
一家にある和室をこれからは母さんとモララーさんの部屋として使うのだという。
少し申し訳ない気もしたが、念願の一人部屋を獲得したのだ。
自分の部屋という確固たるプライバシーの確保。
これは本当に嬉しいものだ。

隣の部屋のドアが閉まる音が聞こえる。
クーも早々にリビングから離脱してきたらしい。

(*゚ー゚)「さて、やるかな」

荷解きと言っても段ボール箱は三箱しかない。
机やハイチェストはモララーさんが使っていたものを譲ってもらったので揃っている。
クローゼットや衣装ケースに衣服や下着を移送させる。
ぼくはそれほど服装にこだわるタイプなのでそれほどの量はない。
机に教科書や参考書、辞書を並べていく。
漫画本を置いておくスペースはなかったのでカラーボックスでも買おうと思う。

楽しいものだ。憧れの自分の部屋だ。
新しい家族だったり、息が詰まるリビングだったり、色々不安要素はあるがこれだけは手放しで喜べる。
あのアパートから持ってきたぼくの荷物を全て段ボール箱から出したのに、まだ部屋には余裕がある。
もっと色んなものを置ける。部屋のデザインだってある程度は自由に変えられる。
ゆっくり家具の配置でも考えようと思う。

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん〜」

母さんがぼくの部屋を訪れる。せめてノックはしようよ。ぼくももう高校生だし多感な時期なんだよ。
と、母さんに言ってもまず無駄な事はこれでもかと知っているから諦めているんだけど。

ζ(゚ー゚*ζ「早〜い、もう片付いたね〜」

(*゚ー゚)「ぼくの荷物大してなかったしね」

ζ(゚ー゚*ζ「でもじぶんの部屋はどう〜? いいでしょ〜?」

(*゚ー゚)「うん、いいね」


13 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:24:06 8a3a.8kE0
ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうそう、お風呂空いてるからね〜。 場所は分かる?」

(*゚ー゚)「うん。 電気のスイッチは上でしょ?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうそう、バスタオルは洗面台に置いてあるからね〜」

母さんが部屋を出ていって、パタパタと階段を降りるスリッパの音が聞こえる。
挨拶の後に家の中を案内してもらった。トイレはウォシュレット付きだし、風呂も広い。
洗濯機も数年前に買い替えたそうでドラム式のものが置かれていた。
つくづくアパートと一軒家ではスケールが違うと思う。
浴槽では思い切り足を伸ばせそうだ。

(*゚ー゚)「風呂、入るか」

着替えを持って階段を降りる。
リビングには誰もいなかった。
母さんとモララーさんはもう二人の部屋なのだろう。
クーはもう寝てしまったのだろうか。

(*゚ー゚)「こっちこっち…」

蛍光灯のスイッチは洗面台とトイレのものが縦に並んでいる。
上が洗面台の蛍光灯のものだ。
しかしスイッチは点灯を示している。
消し忘れだろうか、そう考えながら洗面台のドアを開ける。

そもそもそこで気づくべきだったのだ。
きちんと確認すべきだったのだ。

(*゚ー゚)「あっ」

開け放たれたドアの向こうにいたのはクーだった。
下着姿だった。むしろ脱ぎかけだった。
あぁ、風呂に入るんだ。被っちゃった。
先を越されたな。母さんめ、話が違うぞ。

僅か一瞬の間にそんな事ばかりぐるぐると頭を駆け巡って、ようやく恐ろしい事態になったと気づく。
クーはただ黙ってぼくを睨みつけていた。叫ぶ訳でも恥ずかしがる訳でもなく、ただ睨んだ。
やっと自分の失態を理解して慌ててぼくはドアを閉める。

(;*゚ー゚)「ご、ごめんなさい!」

すぐに謝ったが返答はない。
あの睨みようは恐らくとても怒っている。
やってしまった。初日からやってしまった。
母さんとの二人暮らしに慣れすぎていた。


14 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:27:45 8a3a.8kE0
ぼくはとりあえず部屋に戻った。
ベッドに座って頭を抱えた。マジでやってしまった。
漫画みたいなベタなイベントだ。でも現実ではイベントでは済まされない。
これから姉になる人だ。これから家族になる人だ。これから一緒に暮らす人だ。
嫌われるような事があってはいけない。
うまく良好な人間関係を築いていかなければならない。
それなのに初っ端からやってしまった。

(*゚ー゚)「明日、もう一回ちゃんと謝ろう…」

クーはただ睨むだけだった。
漫画で見たのとは違う。思い切り睨まれた。

(*゚ー゚)「はぁ…」

明日、謝ろう。そう強く言い聞かせる。
そのままベッドに倒れこむ。蛍光灯をぼんやりと眺める。
母さんとの二人暮らしは長かった。長すぎた。
早く慣れなければ。


(*゚ー゚)「…」

目が覚める。
いつの間にか眠っていた。壁にかけたばかりの時計を見るととうに日付を跨いでいた。
明日は登校しなければならない。今は春休みだが、ぼくの通う高校はこの一帯では有名な進学校だ。
いつも通り高校へ行かなければいけない。

(*゚ー゚)「風呂入ってないじゃん…」

クーと洗面台で出くわして機を逸したままだ。
もうさすがに誰も入らないだろう。
むしろ皆眠ってしまっているだろう。
起き上がって着替えを持ってあらためて部屋を出た。


15 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:30:03 8a3a.8kE0
廊下に出る。
すると隣のクーの部屋のドアが少しだけ開いていて、光が暗い廊下に差し込んでいた。
まだ起きているのだ。もう随分と遅い時間なのに。
勉強でもしているのだろうか。とにかく邪魔しない方が良いだろう。
静かにクーの部屋を通りすぎようとする。

しかし。

ぼくは気づく。僅かに開いたドア。
そこから彼女の甘い声が漏れている。
昼間の冷たい声とは想像も出来ない甘い声が聞こえてくる。

当然気になった。
でも見るべきではないと思った。
それは彼女のプライバシーだ。今日家族になったばかりのぼくが立ち入る領域ではない場所だ。
立ち去るべきだ。聞こえなかったふりをするべきだ。そう思った。

けれど好奇心が勝った。
ぼくは足音を極力たてずに静かに近づいた。
少しだけ開かれたままのドアから部屋の中を覗き込む。

(;*゚ー゚)「…!」

見るべきではなかった。
第一にそう思った。

クーとモララーさんだった。獣のようだった。
裸の二人は身体を重ねていた。腰を打ちつける音が連続した。
昼間の穏やかなモララーさんとは一変して荒々しかった。
クーもモララーさんに腕を回して喘いでいた。

見てはいけないものだ。
ここにいてはいけない。

そう思ってぼくは後ずさり、逃げるようにクーの部屋の前から離れた。
今度こそ無人の洗面台に入り、蛍光灯のスイッチを押す。
着替えを置いて、壁にもたれて、ずるずると座り込んだ。


16 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:31:59 8a3a.8kE0
見てしまった。
見てはいけないものを見てしまった。
親子で関係を持っていた。禁断の関係だ。
どうして親子で関係を持っているのだろう。
これまでこの一軒家で二人暮らしをしていたのだ。
ならばずっと関係を持っていたのだろうか。
モララーさんには母さんがいるはずだ。
母さんは妊娠している。妊娠したからこそ再婚を決めた。
モララーさんは母さんときちんと関係を持っている。
今日からは一緒に住んでいる。同じ部屋で過ごしている。
それなのにクーと関係を持っている。
実の娘とセックスをしている。

どうして。

色んな疑問がぐるぐる頭を駆け巡って走り回って思考がまとまらない。
答えが出せない。理解が追いつかない。

先制攻撃を喰らわしてきたクーはともかく、モララーさんは柔和な物腰で優しい印象が強かった。
それなのに実の娘と関係を持っている、普通ではない男だった。
もはや信じられない。

母さんは当然この事を知らないだろう。
結婚した相手が娘とセックスをしているなどと、知らないだろう。
ぼくは知ってしまった。
現場を見てしまった。
秘密を覗いてしまった。

(;*゚ー゚)「何なんだ…この家」

ぼくはもしかすると、とんでもない家に引っ越してきたのかもしれない。


ぼくはあまり眠れなかった。
勿論それには色々な要因がある。環境が変わったのも大きい。
ぼくにあてがわれたベッドは、元はモララーさんのものだ。
あの狭いアパートではずっと布団で寝ていたからかベッドにはまだ慣れなかった。


17 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:35:18 8a3a.8kE0
それ以上に、昨夜の出来事が純粋にショックだったのだ。
そりゃあ親が再婚してその相手が子連れなら向こうの家庭の事情というものは幾つもあるだろう。
新しく家族になるのならばその向こうの事情と適切な距離を取るなり付き合っていくなりあるだろう。

でも違う。そんなレベルじゃない。実の父親と娘がセックスをしている、それはそんなレベルでは済まない。
容認出来る、出来ないとかそういう程度でもない。それは明らかに社会的に、倫理的におかしな行為なのだ。
どういう経緯でそういう関係になったのかは分からないけれど、ぼくはただ気持ちが悪いと思う。
まず、父親が娘に欲情するというのが気持ち悪い。行為までするのだからクーを女として見ているという事だ。
当然母さんという新しいパートナー、女がいながらである。
今寝ているベッドがモララーさんのものであった以上、ここで行為をした可能性だってある。
考えれば考えるほど眠れなかった。

それにぼくが見てしまった事実を母さんに伝えるべきなのか、ぼくは心底迷った。
言うべきだとは思った。しかしそれはこの家庭をさっそく破壊する事になる。
いくらマイペースな母さんでも再婚した相手が娘とセックスをしていますと伝えられれば卒倒するだろう。
早くもこの家庭は維持出来なくなる。

しかし母さんにとってはようやくの再婚であるし、何より身籠っているのだ。
ぼくだって母さんにはやっぱり幸せになってほしい。
適当な母親だと思ったし、自分の出生を呪った事もあったが母さんこそ唯一の肉親なのだ。
幸せになってほしいに決まっている。

だからぼくは黙っていようと思う。

ζ(゚ー゚*ζ「おはよう、しいちゃん」

( ・∀・)「おはよう」

(*゚ー゚)「おはようございます」

リビングには既にモララーさんと母さんが朝食を取っていた。
モララーさんの勤務先はこのニュータウンにあって、車通勤なのだという。
スーツを着て、新聞を読んで、コーヒーを飲んでいる。
テレビ・ドラマで見たテンプレート通りの父親だ。
昨晩のあれを見ていなければそう思っただろう。
ぼくはもうモララーさんという男を信用出来ずにいた。
当然といえば当然だ。


18 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:38:46 8a3a.8kE0
モララーさんは何食わぬ顔で朝刊に目を通している。
昨夜あんな事をしておきながら、たいしたものだ。
きっとこれまで何度もそうしてきたのだろう。
ましてぼくに見られてしまったなど、知る由もない。
今や、ぼくは家庭を崩壊させる鍵を握ってしまったのも同然だ。
ぼくが二人の行為を母さんに告げればたちまちこの家庭は崩壊する。
まさしくぼくがそのキーマンなのだ。
まるでぼくの手に新しい家庭の命運が握られているようで嫌だった。

ぼくは母さんにこの事実を黙っている以上は、知らないふりをしなくてはならない。
モララーさんにもクーにも平然としなければならない。
きっと途方もない苦労だろう。

そういえば、まだクーの姿がない。
ぼくの一つ年上なのだから、高校生のはずだ。

ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃん、遅いね」

母さんもそれに気づいたようでモララーさんに訊く。

( ・∀・)「あぁ、あの子は朝が弱くてね。 いつもギリギリなんだ」

呑気にモララーさんは言う。放任主義なのだろうか。
しかし母親がいない家庭ではきっとそれぞれが独立しなければならないのだろう。
ぼくの家庭だってそうだった。

ぼくはクーとモララーさん、二人が揃うのを出来れば見たくなかった。
昨晩の出来事を鮮明に思い出してしまいそうだからだ。
だから寝起きの悪いクーがリビングに降りてくる前に、さっさと学校に行ってしまおう。
今日から通学経路だって変わる。
いくら人気の大規模ニュータウンと言っても都心から大して近くない。
ぼくの通う学校だって直線距離でこそ近いものの列車通学だと少し遠い。
乗り換えだって多くなる。


19 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:45:12 8a3a.8kE0
ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうだしいちゃん」

トーストを飲み込むように食べたぼくに母さんが言う。

ζ(゚ー゚*ζ「これからはクーちゃんと一緒に登校してほしいの」

(*゚ー゚)「えぇ?」

素直に怪訝そうな声が出てしまった。
でも実際、急にそんな事を言い出すのだから仕方ない。

( ・∀・)「そうそう、昨日デレとも話したけど、最近この辺りも少し物騒でね。 男の子がついていれば安心だよ」

(*゚ー゚)「じゃあ、駅まで?」

ζ(゚ー゚*ζ「違う違う、あれ、言ってなかったっけ?」

( ・∀・)「全く、デレは本当に肝心な事を忘れやすいな」

そうそう、モララーさんは早くもそれに気づいている。
しかしぼくが言いたいのはそんな事じゃない。
二人でそうなのよ〜なんて笑いあわなくていい。

(*゚ー゚)「言ってないって何を?」

ζ(゚ー゚*ζ「あぁ、それね」

足音が階段を降りてくる。
リビングからでもよく聞こえる。
二階の部屋だけでなく全体的に壁が薄いのだろう。
流行りの壁ドンでもやれば突き抜けそうだ。

川 ゚ -゚)「おはよう」

クーがリビングに入ってくる。
ぼくは立ちすくみ、絶句する。
学校に行く前の彼女は自身の通うセーラー服を着ている。
それはとても見覚えがあった。
見覚えどころか、毎日見ているものだ。

ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃん、しぃちゃんと同じ学校なの」

そんなバカな。
県内に幾つ高校があると思っているんだ。
こんな偶然があってたまるものか。
よりにもよって、よりにもよって。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、お願いね」

ぼくの逃げ道は絶たれたのも同然だ。


20 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:47:18 8a3a.8kE0
登校は個性のない家の軍団から脱出する事から始まる。
一重に大規模ニュータウンと言えども幾つもの小隊に別れていて、それの集合体だ。
新しく住む家がある小隊の中は同じ顔の家ばかり建ち並ぶ。
その小隊から抜けると同じような家達を抱える小隊が国道沿いに並んでいる。

国道を少し歩くと駅が見えてくる。
ニュータウンのあちこちから住人が出てきて駅に吸い込まれていく。
このニュータウンに鉄道は一つしかない。
途中に幾つも駅があってその度に列車はニュータウンの住人をその腹に蓄えていく。
列車通勤通学の住人が集まってくるので朝はなかなか過酷なラッシュになる。

ぼくはクーと家を出た。駅まで歩いて、列車に乗り、乗り換えて、もう一度乗り換えて、列車を降りて学校まで歩く。
どれだけの時間がかかるだろう。これを毎日繰り返すのだ。
年間ペースで考えれば恐ろしく膨大な量になる。
その時間をこれからこの得体の知れない義理の姉と二人で共にするのだ。
何を話せばいいだろう。そんな事を考えていたがクーは特に何も話さない。
黙って二人で歩く。親に言われたから仕方なく、事務的に二人で歩く。

ぼくはまだクーという人間の特徴をあまり掴めていない。
クーは家の中でもあまり喋らない。至って無口だ。
まだ顔を合わせてから一日しか経ってないので当然ではあるが、やはり情報が少ない。
むしろ初対面で女みたいと先制パンチを喰らわしてきたのと、深夜の秘め事だ。
そりゃあ印象最悪だ。

けれどクーは家族だ。これから一緒に暮らしていくのだ。
勿論彼女の事を良く知った方が良いだろうし、ぼくも知ってもらう必要がある。
それにはやはり話す必要がある。話すべきなのだ。

川 ゚ -゚)「なぁ」

意外にも先に口火を切ったのはクーだった。
クーは急に立ち止まって、跳ねるようにぼくは頭をあげる。


21 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:52:01 8a3a.8kE0
(;*゚ー゚)「え、なに」

川 ゚ -゚)「昨日、見ていただろう」

あぁ、忘れていた。まず謝ろうと決めていたのに。
洗面所でついうっかり半裸姿を見てしまったのだ。
同居初日に故意ではないとしてもそんな事をすれば誰だって怒る。
その後のインパクトに負けてすっかり失念していた。

(;*゚ー゚)「昨日は本当にごめんなさい、その、わざとじゃなくて」

だめだ、言い訳していてはだめだ。怒りを助長させるかもしれない。

(;*゚ー゚)「つ、次からお風呂に入る時は気をつけるから」

川 ゚ -゚)「そっちじゃなくて」

そっちじゃなくて。
風呂ではないほう。
ぼくの心臓が高鳴る。
そんなもの、一つしかない。
真夜中の二人の行為しかない。

(;*゚ー゚)「そっちじゃなくて…?」

とぼけてみせる。まさか。

川 ゚ -゚)「夜中、見ただろう」

もう逃げられなかった。
クーが指し示すものは一つしかなかった。
気づいていたのか。気づきながらも行為をやめなかったのか
そこはもう二人の聖域なのか。
いくら家族とはいえ少し前まで他人だったぼくには立ち入れない領域なのか。


22 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:53:51 8a3a.8kE0
ぼくは返答に困る。
何と言って良いのか分からない。
何と返すべきなのか見つからない。
ぼくだって見たくなかった。知りたくもなかった。
咎められる行為をしていたのに、逆にぼくが咎められている。
どうして。あまりにも理不尽じゃないか。

(;*゚ー゚)「だ、だって」

声が震えてしまう。

(;*゚ー゚)「だって、おかしいよ、親子でああいう事をするのは…!」

悲鳴に近かったと思う。言ってしまって、認めてしまった。
だってそれは本当におかしな事だ。
恐る恐る顔を上げると、クーは静かにぼくを睨んでいた。

川 ゚ -゚)「それで?」

えっ。ぼくの間抜けな声が漏れる。
怒り狂う訳でもなく、顔を赤くする訳でもなく、淡々とクーは言う。

川 ゚ -゚)「お前には関係ないだろう」

高い壁だ。深い溝だ。
家族になるけれど、本当の家族ではない。
越えられない壁。埋まらない溝。
まさしくそれがぼくとクーの間にある。
ぼくは他人。無関係な他人。他人に干渉などされたくない。
家族だけど、家族ではない。
ぼく達はニセモノ家族なのだ。


23 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 17:55:31 8a3a.8kE0
1 おわり

つづく


24 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 18:00:39 G2WWmiCw0

続き気になる


25 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 19:23:03 TminDOC20
乙!ハートフルとは一体…


26 : 名も無きAAのようです :2015/05/06(水) 19:44:43 cgD4tlsM0
信じるよ?ハートフルな話だって信じていいんだよね?


27 : 名も無きAAのようです :2015/05/07(木) 11:24:32 W5UcMUq20
乙!
ハートフルボコッコじゃないか……!
でも続き楽しみにしてる


28 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:05:10 L2PK9hg20
ありがとうございます

>>25
>>26
>>27
1レス目から嘘をつきました…
このスレにハートフルは微塵もないのです…


29 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:09:44 L2PK9hg20


2


「ねぇ、三年のクーって知ってる?」

室内のどこからか聞こえてきた声。ぼくは弾かれるように顔を上げる。
春休みが終わって考査もクリアし、ようやく一学期が始まっていた。
体育の授業の後の男子更衣室。汗とデオドラントスプレーににおいで充満している。
空気が篭っている。長居すると頭痛がしそうになる。

( ^ν^)「あー、あのキツそうな人?」

爪'ー`)y‐「そうそう」

クラスメートが、クーの話をしている。つい聞き耳をたててしまう。
学年は一つ上なのに知られているのだ。実は知名度があるのだろうか。
学校でクーはどんな人物なのだろう。どんな評価を受けているのだろう。
それは純粋に興味があった。

爪'ー`)y‐「ジョルジュ先輩が告ったんだって」

( ^ν^)「へぇ、勇気あんなぁジョルジュさん」

爪'ー`)y‐「そんで玉砕。 もう玉砕中の玉砕。 こっぴどく断られたって」

( ^ν^)「へぇ〜」

あの女らしい。

( ^ν^)「だってクーって人さ、美人だけどめっちゃキツそうじゃん」

爪'ー`)y‐「女子には優しいらしいけどね。 一番分っかんないのが、顔はいいのに三年の先輩曰く彼氏いるの見たことないんだって」

( ^ν^)「へー、もったいね」

爪'ー`)y‐「何人かに告白されてるらしいんだけど全部断ってるらしーよ。 好きな人でもいるんかな」

それは、モララーさんではないだろうか。
もう三年生になるクーが男子からの告白を軒並み断っているのは、やはりモララーさんに特別な感情を抱いているから。
そう考えるのが自然だ。何せセックスまでする仲だ。もうそこらの高校生カップルとはある意味で別次元と言える。


30 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:12:37 L2PK9hg20
ぼくが思っていた通り、クーとモララーさんの夜の関係は一度や二度ではなかった。
あのニュータウンの家に引っ越してからまもなく半月になる。
引っ越してから今日まで、毎晩二人は身体を合わせた。
クーの部屋で、決まって夜遅くに始まる。
恐らくこれまでずっとそうしてきたのだ。
そしてぼくと母さんとの同居が始まってもそれを続けている。

モララーさんには母さんがいる。
同じ部屋で寝ている。
気づかないのだろうか。
モララーさんに罪悪感はないだろうか。
クーは何とも思わないのだろうか。
疑問は尽きないし、次々と湧き出してくる。

( ^ν^)「大学生の彼氏いるとかじゃね」

爪'ー`)y‐「あー、そーいうのありそうだな。 なんか年上好きそう」

実際は、それよりもっと年上だ。年上というか、父親だ。
クーを知る者がそれを聞いたら何と思うのだろう。
そう考えるとぼくは家庭だけでなくクーの社会的地位ですらひっくり返せるのだ。
その鍵を握っているのだ。
どうだ。少し優越感。

ぼくは別にクーが嫌いという訳ではない。
まだ半月だ。クーという人間をまだまだ理解するには足りない。
でも今のところ感じ悪いし、あんまり喋らないし、父親とセックスまでしている。
それにとにかくクーの冷たい対応、まるで譲歩しようとしない姿勢が気に食わなかった。
ぼくはクーと新しい家族として上手く付き合っていきたいと思っている。
しかしクーにはそういう姿勢が感じられなかった。
ぼくだけ歩み寄ったって無駄だ。

( ^Д^)「おいっ、それなんだよ!」

誰かが大きな声をあげる。
皆がそっちに向く。クーについての会話も打ち切られた。


31 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:17:06 L2PK9hg20
( ^Д^)「お前なにこれ!?」

クラスメートの一人が何人かに囲まれている。気の弱いアサピー君だ。
特徴はとにかく目立たない事だ。

(-@∀@)「そ、それはコスプレで」

アサピー君のリュックサックに入っていたのはセーラー服だ。
なかなか街中では見かけない配色がなされている。
きっとゲームかアニメで出てくるものなのだろう。
最近のものは精巧に再現されていると聞いた事がある。

(・∀ ・)「なんで学校に持ってきてんの」

(-@∀@)「ぶ、部活で使うんだ」

(・∀ ・)「へぇ〜」

(`∠´)「つかそれさ」

一人がぼくの方を見る。
嫌な予感がする。

(`∠´)「しぃに着せたら似合うんじゃね」

( ^Д^)「あぁ〜」

皆がこっちを見る。こっち見るな。
正直着たくない。バービー人形じゃない。

(*゚ー゚)「えっと」

(・∀ ・)「いいから、着てみてよ」

得体の知れないセーラー服を寄こされる。
ぼくに断る勇気はない。
大人しくもう着るしかなかった。


32 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:19:21 L2PK9hg20
ぼくが女顔だというのは皆が知っている。きっと学年の皆が知っている。
それほどにぼくの女の子らしい風貌は目立つ。
それにこうして女物の服を着せられるのは初めてではないのだ。
去年の学園祭では流行りのメイド喫茶が採用されたが男子でぼくだけメイドにまわされた。
まだぼくを知らない他学年の男子が本気で女子と間違えてしつこく連絡先を聞いてきたりもした。
あの時のぼくの勇姿は暫く伝説になったのである。

女の子らしい顔つきこそ長らくコンプレックスとして悩んできたぼくにとって褒められても何も嬉しくないのだ。
メイド服が似合ったって、男子からしつこくアドレスを聞かれたって嬉しくない。
だからこんな事は、本当はしたくない。

( ^Д^)「お〜やっぱ似合うじゃん!」

恐らく架空の学校の制服なのだろうセーラー服を着ると、歓声が上がる。
スカートはやたら丈が短い。おかげで下半身が涼しい。
本当に女子みたいだな、と声を掛けられる。嬉しくなんかない。
似合う似合うと言いながらスマートフォンで写真を撮っている。

(;*゚ー゚)「あ、あんまり写真撮らないでよ」

( ^Д^)「いいじゃんかよ! マジ超似合ってっから!」

嬉しくない。心底嬉しくない。
ぼくは顔だけでなく身体つきも女の子っぽい。
筋肉質な身体つきとは程遠く、華奢な身体つきをしている。
髪だって少し長い。これぐらいがしぃちゃんにはちょうど良いから、と母さんがあまり切らせてくれない。

ゲリラ撮影会が数分で終わる。やっぱりしぃは似合うな、と聞き飽きた賞賛を何度ももらう。
ぼくはようやくセーラー服を脱いで元の制服に着替える。
きちんと畳んでアサピー君に返した。


33 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:22:05 L2PK9hg20
(-@∀@)「そ、その、しぃ君すごく似合ってたよ!」

(*゚ー゚)「そ、そう?」

(-@∀@)「ま、前からね、しぃ君には素質があると思ってたんだ! その、こういうの、やってみない?」

(*゚ー゚)「いやいや、大丈夫」

丁重にお断りする。冗談ではない。
女顔が嫌なのに女装が趣味になればもうおしまいだ。
すっかり喉が渇いてしまった。


半月。ニュータウンの家に引っ越してから、もう半月だ。
ぼくとクーは親の言いつけに従って一緒に登校している。
モララーさんは会社に行き、早く退社出来た日は家族皆で夕食を取っている。
母さんはそろそろ新しい住まいにも慣れてきたからパートでも始めようかな、と言っている。
モララーさん曰く、もう近所では美人が来たと話題になっているそうだ。

( ・∀・)「会社の皆にも驚かれたよ。 まさか美人と再婚するとはなって」

モララーさんは嬉しそうにそんな話をぼくにする。
母さんの話をする時のモララーさんは本当にいつも嬉しそうだし、大切にしているんだと感じる。
でもこの男は娘とセックスをしているのだ。それさえなければ良い父親に見えたかもしれないのに。

半月経っても、ぼくはクーとモララーさんの関係性を掴めない。
分かっているのは夜な夜な行為をしている事だけだ。
モララーさんは良き父親であろうとしているし、母さんとはいつもベタベタしている。

(*゚ー゚)「じゃあ、行ってきます」

川 ゚ -゚)「行ってきます」

ぼくとクーは一緒に家を出る。
クーが乗る列車は決まっていて、それに合わせて毎朝同じ時間に家を出る。
共に登校するよう言われているのでぼくもそれについていく。

黙って二人で歩く。
半月前に初めて一緒に登校した日に突き放されてから、会話なんてものは殆どない。
だけどこのままではいけないと思う。ぼくは思案して話題を探す。


34 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:24:48 L2PK9hg20
(*゚ー゚)「えっと、告白されたんだって」

クーがぼくの方をちらりと見た。

川 ゚ -゚)「なんでその事を?」

食いついた。

(*゚ー゚)「クラスの男子が話してるのが聞こえて。 ジョルジュ先輩だっけ、こっぴどくフラれたって」

二年生が知っているのか、とクーは呟く。

川 ゚ -゚)「まぁ、そうだな。 しつこかったから可能なだけ罵倒してやった」

やっぱりこの女は性格悪いんじゃないだろうか。

(*゚ー゚)「結構告白されてるって聞いたけど」

川 ゚ -゚)「別に、人より多いとは思わないけど」

(*゚ー゚)「なんで彼氏作らないんだろって不思議がってたよ」

あくまでもクラスメートの意見だが。しかし言ってしまってから少し後悔する。
クーが学校で彼氏を作らない理由がモララーさんとの夜の行為と関係あるならば、今のぼくの発言は直球ど真ん中だ。
ものすごいストライクゾーンに投げ込んでしまった。そっとクーの様子を伺うと

川 ゚ -゚)「…」

感情が見えない。怒りでも焦りでもない、まさしく無表情。

川 ゚ -゚)「お前が何を言いたいかは知らないが」

あぁ、また言われる。

川 ゚ -゚)「お前には関係ないだろう」

はい。スタートに戻りました。

また会話はなくなる。
ぼくはあてもなくスマートフォンのトップ画面を行き来する。
会話を振るのならもう少し慎重にならなければならない気がする。
なんと億劫なのだろう。


35 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:31:23 L2PK9hg20
川 ゚ -゚)「先に言っておくが」

クーが急に切り出す。
何の話か分からずとりあえずぼくはスマートフォンから顔を上げる。

川 ゚ -゚)「私はお前が知ってしまった事をお父さんには言っていない」

知ってしまった事とは、クーとモララーさんがセックスをしているという事だ。
ぼくがそれを知ってしまったという事実を把握しているのはクーだけだ。
その事実をモララーさんに伝えていない。
それは一体何を指し示しているのだろうか。

川 ゚ -゚)「私はそれをお父さんには言わない。 だからお前もあの人には言わない」

(;*゚ー゚)「な、なんだよそれ」

クーの言うあの人とは母さんの事だろう。
その事実を母さんに知らせれば家庭が崩壊するのは必至だ。
だからぼくがそれを母さんに伝えるのを阻止したいのは分かる。
しかしその事実をモララーさんに言わないというのは果たして対等だろうか。

(;*゚ー゚)「それは不公平じゃないの」

川 ゚ -゚)「どうだろうな」

クーは何とも不透明な答えを返す。
ぼくは分からなくなる。混乱する。
母さんにその事実を伝えれば淡い同居生活は終わる。
モララーさんに伝えればどうなるのだろう。
とても不穏だ。全く読めない。
不気味で仕方なかった。
それでもクーは教えてくれなかった。


§  §  §


ぼくは自分の部屋にいる事が多い。
念願の自分だけの部屋というのもあるし、リビングにいる夫婦が鬱陶しいというのもある。
どちらかといえば後者で、日に日に母さんとモララーさんのバカ夫婦っぷりは拍車をかけている。
皆で夕食を取ればぼくもクーも早々に自分の部屋に上がっていくのだ。
リビングとは本来家族団らんの場所であるがこの家ではその機能を成していない。

ぼくは部屋にいる間は勉強をしているしクーもそうだろう。
何せぼく達の通う高校は進学校の部類に入る。


36 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:33:57 L2PK9hg20
ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん」

母さんがぼくの部屋に入ってくる。
相変わらずノックはしない。やはり母さんにそんな習慣はない。
時計を見るとまだ二十一時を過ぎたあたり。この時間はいつもモララーさんといるはずだ。

(*゚ー゚)「どうしたの」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。 ちょっとね」

母さんがベッドに座る。ぼくは回転椅子をぐるりとやって母さんの方を向く。
常にポジティブな母さんにしては少し元気が無い。なんとなく察しはついた。

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃんは、クーちゃんと上手にやってる?」

やはりクーの話題だ。ぼくは少し考え、

(*゚ー゚)「まぁまぁだよ」

と曖昧な答えを返した。
実際全然まぁまぁじゃない。最悪だ。でも母さんにそう言いたくなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「そっか」

(*゚ー゚)「母さんは?」

ζ(゚ー゚*ζ「わたしはね〜、全然なの。 クーちゃんあんまりしゃべってくれなくて」

やっぱり、というか案の定だ。
クーからしてみればぼくより母さんの方が憎いだろう。
もし本当にクーがモララーさんに対して親子以上の感情を抱いているのなら、母さんほど邪魔な存在はないはずだ。
当然その連れ子であるぼくだって邪魔にしかならない。
離婚したのはまだクーが幼い頃だったそうで、この一軒家でモララーさんとずっと二人きりだったのだ。

それにきっとクーは嫉妬しているのだ。
モララーさんを横取りした母さんに嫉妬しているのだ。

でもぼくはそれを告げない。母さんにぼくが知っている事は言わない。

(*゚ー゚)「きっと、クーもまだ緊張しているんだよ」


37 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:39:55 L2PK9hg20
ζ(゚ー゚*ζ「そうかな〜」

(*゚ー゚)「そうだよ」

やんわりと、諭すようにぼくは言う。
ぼくは母さんに残酷な現実を伝えない。それは母さんに必要ない。
前向きな言葉だけを母さんに話す。それで良いと思う。

(*゚ー゚)「クーだってずっとモララーさんと二人きりだったんだし、母親ってものに慣れていなくて身構えちゃってるんだ。
でも時間がそのうち解決してくれるはずだよ」

嘘ではない。

(*゚ー゚)「ぼくだってモララーさんと喋る時はまだ緊張するよ。
言ってしまえば少し前まで他人だったし、お父さんっていうのも初めてだし」

これも嘘ではない。

ζ(゚ー゚*ζ「そうかな〜…。 ちゃんとした家族になれるかな」

(*゚ー゚)「大丈夫だよ、時間が経てばいい家族になれるよ」

これは嘘だ。

ζ(゚ー゚*ζ「そうか〜そう言ってもらえるとうれしいな〜」

(*゚ー゚)「うん、大丈夫だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「さすがにモララーさんにはこんなこと言いづらくって」

まぁそうだろう。娘があんまり口を利いてくれないの、なんてさすがに言いづらい。
それにぼくだって母さんがモララーさんではなくぼくに頼ってきてくれたのはちょっと嬉しい。
となればぼくも心のどこかで母さんを掻っ攫っていったモララーさんに嫉妬しているのかも。
すっごいカッコ悪い。マザコンみたい。でも母子家庭でぼくもずっと二人きりだったのだ。
でもぼくは大人の対応をしようと思う。態度にそのまま出ているクーは子供だ。
もう十七歳か十八歳なのに子供じみている。


38 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:42:53 L2PK9hg20
それに母さんには持ち前の明るさだってある。
すぐに周囲の人間と打ち解けてしまうのだ。
今日も近所数軒の婦人とすっかり仲良くなった話をしていた。

ζ(^ー^*ζ「でもお母さん元気でたよ!」

(*゚ー゚)「うん、母さんなら大丈夫だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうね」

母さんが部屋を出て行く。
そう、これでいい。母さんは知らなくていい。
それで家庭の平穏が保てるのならば母さんは何も知らなくていい。


§  §  §


朝がきてぼくは目を覚ます。
新しい環境にも慣れて熟睡する事が出来るようになってきていた。
ポイントとしては隣の部屋で深夜の行為が始まる前に眠ってしまう事である。
壁が薄いので静かにしていると隣の部屋から行為の音が聞こえてくるのだ。
だからうるさくなる前に眠ってしまうのである。
そうする事でぼくは快眠を得る事に成功した。

一緒に家を出るクーはいつもぼくより起きるのが遅い。
モララーさんの言った通りクーは朝に弱いのだ。
いつも最後に起きてきて、朝食を少し食べて家を出て行く。
部屋を出ても今日も隣の部屋は起きている様子はなかった。
でも起こしはしない。そういう関係じゃない。

階段を降りて洗面台に向かう。
きっと母さんはもう朝食の準備をしている頃だろう。
ぼくと二人であの狭いアパートで暮らしていた頃は、母さんは朝に殆ど起きなかった。
俗に言うお水の仕事をしていた母さんは決まって帰宅が遅かったのだ。
ぼくは寝ている母さんを起こさないよう静かに準備をして勝手にパンを食べて学校に向かったものである。


39 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 19:56:01 L2PK9hg20
(*゚ー゚)「あ、おはようございます」

( ・∀・)「おはよう」

洗面台には既にモララーさんがいた。
オランダ製の電気シェーバーを使い終わって洗っているところだ。
ぼくは洗面台を譲ってもらって顔を洗い、歯を磨く。
洗面台には歯ブラシが四本刺さっている。
こうしてみると、やはり家族なのだ。

モララーさんも歯を磨く。
こうして並ぶとモララーさんの背の高さを感じる。

( ・∀・)「しぃ君はさ」

(*゚ー゚)「はい」

考えてみればモララーさんと二人きりって初めてだ。
慣れないというか変な感じがする。

( ・∀・)「クーとはどうかな?」

思わず口の中の歯磨き粉を飲み込みそうになる。
それはつい昨夜に母さんから問いかけられた言葉だ。
何か夫婦で謀っているのだろうか。

(*゚ー゚)「まぁまぁ、ですけど」

母さんと時と同じ回答を用意する。
後で照らし合わされるかもしれない。

( ・∀・)「そうかぁ。 クーはあまり昔から男の子の知り合いがいなくてね、男の子と上手くやっていけるか少し心配で」

(*゚ー゚)「はぁ」

( ・∀・)「それにね」

(*゚ー゚)「はい」

( ・∀・)「うーん、デレとね、クーがあまり話しているように見えないんだ。
しぃ君はどう思う?」

あ、気づいてるんだ。
この話し方だと母さんがモララーさんに相談した訳ではなさそうだ。
でもさすがにモララーさんだって気づくレベルの冷え込みようなのだろう。
本当にクーは子供なのだ。嫉妬しているのだ。それを態度に出してしまうのだ。


40 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 20:00:57 L2PK9hg20
✕母さんと時と同じ回答を用意する。
○母さんの時と同じ回答を用意する。


41 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 20:09:35 L2PK9hg20
(*゚ー゚)「確かにあまり話しているのを見ないですね」

しかし予測通りクーが母さんに嫉妬して冷たい態度を取っているとして、モララーさんはどう思うのだろう。
そんな態度を取るんじゃないとクーを叱るのだろうか。
クーと未だに身体的関係を持っているモララーさんがそんな事を言えるのだろうか。
良い父親を演じているモララーさんはそういう場面が訪れても良い父親を演じ続けるのだろうか。

( ・∀・)「やっぱりそうか…。 デレが困っているような気がして」

昨日相談されました。言わないけど。

( ・∀・)「クーはそういう話をするかい?」

(*゚ー゚)「いえ、特には」

そういう話どころか普通の会話すら殆どしません。

( ・∀・)「そうか、デレが悩んでいるんじゃないかと思ってね。
もしデレからそういう話をされたらぼくにも言って。
きっとぼくには言いづらいと思うから」

(*゚ー゚)「はい」

モララーさんが口をゆすぐ。
ぼくもモララーさんが使い終わったプラスチックのコップを受け取る。

( ・∀・)「それと、もう家族なんだから敬語じゃなくてもいいからね」

(*゚ー゚)「あ、はい」

ぼくはそのしぃ君という呼び方が気に入らないです。


クーはやはりぼく達よりかなり遅れて起きてきた。
ぼくも朝食を食べ終わる頃であり、モララーさんは既に食後のコーヒーを飲んでいた。
テレビでは朝のニュース番組をやっているしモララーさんは新聞に目を通している。
ニュースだらけだ。暴力的な量の情報で洪水しそう。
それに似通った一軒家が恐ろしいほどあるニュータウンで新聞配りはさぞかし大変だろう。

ζ(゚ー゚*ζ「おはようクーちゃん」

( ・∀・)「おはよう」

川 ゚ -゚)「おはよう」


42 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 20:16:29 L2PK9hg20
クーが手早く朝食を食べる。もう五分ほどで家を出る時間だ。
それほど活発に会話がある訳でもない。クーとモララーさんも大して話さない。
また昨夜も行為があったのだろうか。よく平然としていられるものだ。
まるで仮面親子ではないか。

ζ(゚ー゚*ζ「二人ともそろそろ時間だよ〜」

母さんが声をかける。
ぼくとクーは席を立った。
また会話のない登校が始まる。

ニュータウンには多くの人間が眠っているのだと実感させられる。
朝になって多くの住人達が駅に向かって行進を始める。
ぼく達が歩く歩道も向かいの歩道も駅に向かう人ばかりだ。
こうしてニュータウンの至る所から駅に集結していく。
都心から距離があるからモララーさんのように職場が近くなければ列車通勤を強いられる。
高速道路も付近にはなく都市間バスもあまり設定がないのでやたらと運賃の高い鉄道の一人勝ちだ。

さっさと歩くクーと後ろをついていくぼくとの間に今日も会話はない。
でもぼくは諦めた訳ではない。
諦めたら本当に会話は生まれない。
何かないか考え続ける。

(*゚ー゚)「クーは、朝弱いよね」

余計な事を言ったかもしれないが会話の発端など日常的な事だって良い。
そこから発展したり脱線したり打ち切られたりする。

川 ゚ -゚)「…昔から」

むすっとした答えが返ってくる。

(*゚ー゚)「遅くまで勉強してるの? 受験生だもんね」

あ、また地雷を踏んだ。夜遅くまでモララーさんとセックスしてるからだ。
自分で言っておいて気づいてしまった。
地雷ど真ん中だ。ちゅどん!

川 ゚ -゚)「…気づいてるだろ」


43 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 20:18:14 L2PK9hg20
あぁ、ぼくのバカ。クーは静かにお怒りだ。

川 ゚ -゚)「聞こえるだろう? 壁が薄いからな」

(*゚ー゚)「え、まぁ」

あー、認めてしまった。

川 ゚ -゚)「お前の部屋が父さんの部屋だった頃はよく電話越しに怒鳴る声が聞こえた」

へぇ、モララーさんって怒鳴ったりするんだ。優しい印象だしちょっと意外。
というか隣に聞こえてるかもって自覚があるならもう少し自重してくれないかな。
よく義理の弟に聞かれてると分かっていながらセックス出来るものだ。

(*゚ー゚)「まぁ、薄いよね、うん」

適当に相槌を打つ。
そして会話終了。
セクションで区切られる。
セクション。セクション。セクション。エンター。エンター。

分かってはいたがクーに会話を続けようとする努力はないように見られる。
ぼくだけがあれやこれやと振って、すぐ萎んでしまうのだ。
まさにぼくだけが空振り、それも強振で空振っている。
気に食わない。本当にクーには会話を続けようと努力するさまが見られない。
そもそもぼくと仲良くしようとする意思が見られない。
譲歩もしない、努力もしない。ぼくだけがから回っている。
腹ただしい。正直ぼくのペースに持ち込みたい。
何を言えば会話が広がるだろう。クーは食いつくだろう。

クーが食いつきそうなもの。
一つだけ思いつく。
今度は地雷どころか弾道ミサイルだ。
少し躊躇われる。しかし、構うものか。


44 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 20:23:32 L2PK9hg20
(*゚ー゚)「クーはさ」

弾道ミサイル上等、撃ち込んでやれ。
スイッチを用意、押下!

(*゚ー゚)「母さんに嫉妬してるんでしょ」

川 ゚ -゚)「は?」

着弾!
命中!
炎上!

川 ゚ -゚)「何だって」

食いついた。食いつきました。さすが釣り針大きいだけはある。

(*゚ー゚)「だからさ、母さんに嫉妬してるんでしょ」

ぼくは至って冷静に言い放つ。
クーの顔が強張るのが分かる。

川 ゚ -゚)「私があの人に嫉妬している?」

そういや母さんの事、あの人って呼んでるんだった。
冷たい。まさに他人行儀。母親ですよ?
まぁぼくもモララーさんって呼んでるけど。

(*゚ー゚)「だってそうじゃない。 母さんに冷たいし、あまり話さないでしょ。 それって嫉妬してるからでしょう」

弾道ミサイルを更に用意。

(*゚ー゚)「モララーさんを取られて嫉妬してるんだよね、クーは」

追い打ちミサイル発射!

川 ゚ -゚)「私は別に」

(*゚ー゚)「今朝モララーさんから相談されたんだよ。 クーと母さんはちゃんと喋ってるかって」

クーが立ち止まる。ぼくも立ち止まる。

(*゚ー゚)「モララーさんにも心配かけて恥ずかしいと思わないの?」


45 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 21:03:17 L2PK9hg20
クーは怒りと恥辱の混じった何とも形容しがたい顔をしていた。
これは面白い。モララーさんの話を出されると弱くなるのだろうか。

川 ゚ -゚)「それは」

言葉に詰まる。いい気味だ。

(*゚ー゚)「それにさ」

ぼくは煽る。畳み掛ける。

(*゚ー゚)「クーはあまり昔から男の子の知り合いがいなくてね、男の子と上手くやっていけるか少し心配で、だって」

おかしいよね。そうぼくは続ける。

(*゚ー゚)「自分が娘とあんな事までしているのにね」

クーがぼくの胸元を掴む。そのまますごい勢いで民家の壁に押し当てる。
コンクリートの壁にぼくは押しやられる。ものすごい迫力だ。
怒ったクーは少し震えている。ここまで感情を露わにしたのは初めて見た。
なんだ、父親用のセックス人形じゃなかったのか。

(*゚ー゚)「そんな顔、出来るんだね」

クーの歯軋りまで聞こえてくる。殴られるだろうか。引っ叩かれるだろうか。
しかしクーは黙って手を離す。そしてそのままさっさと歩いて行ってしまう。
拍子抜けだった。

ぼくはシャツを直して後ろについていく。
もう会話など望めないだろう。知った事か。
一緒の登校は最初から事務的なものだから別に構わないのだ。


46 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 21:05:04 L2PK9hg20
2 おわり

つづく


47 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 21:07:25 L2PK9hg20
最後のレスがNGワードに引っかかり30分かけて調べたところ「コンクリート」が該当でした
半角なら通るけど全角だと通りませんでした…なんでや…


48 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 22:33:52 Obui764U0
乙ー
やはり嘘だったか……
しぃの淡々とした語り口が癖になるなぁ


49 : 名も無きAAのようです :2015/05/13(水) 23:35:18 .thmnE0I0
ドロドロやね
続き気になる


50 : 名も無きAAのようです :2015/05/14(木) 16:55:31 0RmxTNqo0
乙!


51 : 名も無きAAのようです :2015/05/14(木) 19:32:00 ivy8gtBM0

そのうちデレに危害を加えそうだなこのクーwwww


52 : 名も無きAAのようです :2015/05/14(木) 20:48:16 /10XUxY.0
乙!
1レスめで嘘ついてんじゃねーよ(´;ω;`)


53 : 名も無きAAのようです :2015/05/14(木) 21:01:26 NNzGZfnY0
>>26だよ
やっぱり嘘なのかよ!
気になって読まないわけにはいかなくなっちゃったよ...


54 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:09:08 9lysTjK60
ありがとうございます

>>48
>>52
>>53
サーセンwww最後までこんな感じですw

>>51
そんな展開が…あったのか…


55 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:10:45 9lysTjK60
今週は水曜更新が出来ないので前倒しします…


56 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:13:02 9lysTjK60


3


小学校というのは狭いコミュニティ世界だ。
真っ白に塗られた建物には等間隔に数字の振られた箱が詰まっている。
箱の中にも木の机と椅子がびっしりと並べられている。
そこで変わり映えのない顔見知り達と長い時間を過ごすのだ。
そこに集う生徒達はある意味で運命的と言える。
ただ生まれた年が同じという理由で一つの学年としてセットになり長い時間を共にしなければならない。
気の合う人間とも苦手な人間とも平等にその長い時間を共有せざるを得ない。

ぼくはその運命的な集合体を呪う事が何度もあった。
苦手としてきた女子が学年に何人もいたのだ。
ぼくの女の子らしい顔つきは年を重ねるごとに目立っていった。
運命的な集合体が思春期を迎えるあたりで気に食わない女子集団から嫌がらせを受けるようになった。
女子のいじめとはとにかく陰湿で間接的だ。感心するほどに徹底している。
暴力を振るわれる事こそなかったものの教科書や上履きといった個人の持ち物はよく隠された。
小学校の教室などもはや密室だ。密室殺人だと表現しても大げさではないだろう。
教師の目は教室の隅から隅まで見渡せる訳ではない。万能の神などではなくただ一人の人間でしかない。
親など教室という世界から見れば外部の人間だ。密室には立ち入れない。

もう小学校など遥か昔の事のようで、教室の様子もぼんやりとしか覚えていない。
黒板の隣には時間割表や掲示物が貼ってあって、それら掲示物を管理する係もあった。
後ろの壁にはそれぞれが自由に好きな文字を書いた習字の紙が貼られていた。
ロッカーにはランドセルが置かれていたが、まだあの頃は黒か赤の二択を迫られていた。

あれは、いつぐらいだっただろうか。
図画工作の授業であった。美術などという単語はまだ使われなかった。
その日は自分の父親の顔を描くという内容の授業だった。
それぞれが思い思いに画用紙に鉛筆で下書きをして、水彩絵具で着色していた。
ぼくはといえば机の上の真っ白な画用紙とずっと睨めっこしていた。
父親がいないので、父親の絵など描けなかったのだ。


57 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:28:57 9lysTjK60
ぼくにははじめから父親がいなかった。
物心ついた時から父親がいなかった。
離婚したという訳でもなく、家には父親の痕跡すらなかった。
手紙や写真の一つもなかった。ぼくはそれが不思議でたまらなかった。
とにかく父親という感覚すら分からないぼくにとってそのお題はとても残酷であった。

o川*゚ー゚)o「しぃちゃん、イメージでいいから描けないかしら」

若い女教師がぼくに優しく声をかける。
そんな事言われても、父親なんてテレビでしか見た事がない。
香取慎吾か松岡充か加藤浩次でも描いてやろうかと思ったけどそんな画力はなかった。

从'ー'从「センセー」

女子生徒の一人がわざとらしく手を挙げる。

从'ー'从「どうしてしぃチャンのお家にはお父さんがいないんですかー?」

そう言うと何人かの女子がくすくすと笑う。
日頃ぼくをいじめている連中だ。
常に集団行動をして一人で廊下を歩いているのすら見た事がない女子ばかりだ。

o川*゚ー゚)o「どうしてって、ねぇ?」

女教師が困ったようにぼくの顔を覗き込む。
ぼくはただ黙って画用紙を睨みつけていた。
結局ぼくの画用紙だけ真っ白なままだった。
水彩絵具のパレットには色彩が生まれずぼくだけ洗う必要はなかった。
ぼくの成績だけ点数が付けられなかったのは言うまでもない。

本当にどうしてぼくの家には父親がいないんだろう。
幼いぼくはそう考える事が多かった。母さんにそれを訊く事もあった。
しかし母さんはいつもはぐらかして真相を教えてくれなかった。


58 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:34:39 KZZXHywc0
おお過去偏か、しえん


59 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:34:59 9lysTjK60
ぼくが十四になった頃である。
しぃちゃんももう大きくなったし、と母さんはぼくの父親についてようやく教えてくれた。

簡単にいえば父親が誰か分からなかったという事である。
母さんがぼくを身篭った時はまだ高校生だった。
その時に関係を持っていた男性が何人もいたのだ。
同学年の男子生徒だったり、大学生の家庭教師だったり。
しかし妊娠した母さんに自ら名乗りを上げる者はいなかった。
だから誰が父親か分からなかったのよね〜と母さんは笑いながら話した。
でもしぃちゃんも大きくなってきてちょ〜っと似てきたのよねぇ。
だからやっぱりあの人だったかな〜って目星はついてるの、ふふ。
と付け加えてくれた。

ぼくはその日以降もう父親の話をしなかった。
ようやく自分は生まれる家庭を間違えたのだと気づいたのだった。


§  §  §


とある日曜日に初めて家族全員で出かける機会が設けられた。
モララーさんの会社は一般的な土日休みだそうだ。
母さんはさっそくパートの面接を受けに行ったが働くのは平日だけにするという。
さすが、日曜日は家族団欒の日という訳だ。
土曜日とは違ってさすがに日曜日に登校する必要はない。
ぼくは部活には所属していないし、クーも同じようだった。
逃げ場のない日曜日。まさしくそんな表現が出来ると思う。


60 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:41:51 9lysTjK60
午前中はモララーさんと母さん二人でどこかに出かけていた。
二人が帰ってきてからミニバンタイプの車フリードに全員で乗り込む。
運転は決まってモララーさんだ。そういえば母さんは普通免許を持っていない。
助手席には母さんが座って運転席のモララーさんと楽しそうに話している。
よくも飽きずにイチャイチャ出来るものだ。駅で見られる高校生カップルみたいだ。
ぼくとクーは後部座席で隣り合わせに座らされている。とても居心地が悪い。
きっと二人の親はぼく達を一緒にしておく事で仲が良くなるとでも思っているのだ。
一緒の登校だってどうせそんな単純な考えからだろう。

わざわざ車を出して遠出する訳でもなく、ぼくと母さんにニュータウンを案内するというものだった。
このニュータウンはそこらの新興住宅地とは規模が違う。
基盤となる鉄道に寄り添うように東西およそ二十キロメートルもニュータウンが続く。
鉄道路線を挟んで国道が走りその国道沿いに様々な店舗が並んでいる。
その店舗のあるブロックから更に奥へ入るとそこに無個性の家がびっしりと建ち並んでいる。
そんな光景が東西二十キロメートルも続いているのだ。
同じような構図で飽きずに延々と続いていた。
車窓から見える同じような景色はそりゃあ鳥肌モノである。

ニュータウンの大動脈である国道には本当に様々な店舗が並んでいる。
大型ショッピングセンターやシネコン、ホームセンターにインテリア販売店と何でも揃う。
このニュータウンから出なくても生活出来るレベルのものだ。
車さえあればニュータウンを東西に散らばる店舗を回れるのだそうだ。
そのためニュータウンの家にはどこも一台は車が置かれている。

( ・∀・)「コストコが出来た時はすごかったよ、渋滞が」

ζ(゚ー゚*ζ「あ〜コストコ行ってみたい〜」

( ・∀・)「会員制だからねー、あそこは」

店舗は郊外型なのでどれも大きなものばかりだ。
ジョイフル本田は本当に大きかった。
正直なところジョイフル本田を芸人か何かだと思っていたので驚いた。
片仮名と漢字の組み合わせはどうもお笑い芸人を連想させる。
マイケル中村もお笑い芸人かと思っていたぐらいだ。

とにかく休みの日にはニュータウンに散らばる商業施設に行く、これぞニュータウンの暮らしなのだ。
どの店舗も駐車場は車で埋まっていたし、ニュータウンの外からも来るんだよとモララーさんは誇らしげに語った。
この繁栄こそニュータウン住人の誇りなのだ。


61 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:48:46 9lysTjK60
ζ(゚ー゚*ζ「いいわね〜お買い物も楽だし」

( ・∀・)「そうでしょう。 遠出する必要もないしエコな街なんだよ」

前部座席にて二人で楽しそうに話している。
ぼくもクーも置いてきぼりだ。
後ろの座席は本当に静かなものだ。
クーはずっとスマートフォンに視線を落としている。
ちらりと見たが無料通話アプリでメッセージのやり取りをしていた。
ぼくはただひたすら車窓の景色を眺めていた。
国道に挟まれた線路をライナーがぶっ飛ばしていく。
あの鉄道路線は空港まで行くのだ。
都心と空港を結ぶライナーが一定間隔で運行されているがニュータウンには止まらない。
空港が近いのもニュータウンと良いところとモララーさんは言っていたがそんな頻繁に飛行機を使うのだろうか。

昼食は大型ショッピングセンターのフードコートで取った。
家族でフードコートというのはまさしく典型的な家族の光景であった。
ぼく達はステレオタイプのような家族になったのだ。
このニュータウンのどこにでもいるような家族になったのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば今日入籍したの〜」

フードコートで母さんが何気ない会話の中で言った。
麻婆チャーハンを食べていたぼくのスプーンがぴたりと止まる。
デジャヴ。この前もこんな感じだった。
相変わらずではある。母さんはいつもこうだ。
大切な話も何気なく話してしまうマイペースさは健在だ。

( ・∀・)「デレ、それは今夜話そうって言ったじゃないか」

モララーさんが咎める。まぁそうだろう、そういう形に調整してあっただろう。
それでもぽろっと言ってしまうのが母さんだ。今更驚きはしない。
しかし事後報告とは気に入らない。入籍する前に言うだろ普通。

(*゚ー゚)「ええと、なんで今日なの?」

ζ(゚ー゚*ζ「付き合い始めた記念日なの〜」

学生カップルか。アホらしい。


62 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:52:40 9lysTjK60
( ・∀・)「ぼくとしては二人にはサプライズ報告にしようと思っていたんだけど」

何と嬉しくないサプライズだろう。でも喜んでくれると本気で思っているのだろう。
まぁ分かっていた事だ。母さんが妊娠して、同居も始めて、あとは入籍するだけだったのだ。
ようやく籍を入れたか、ぐらいの感想だ。それも付き合い始めた記念日待ちだったとは、呆けてしまう。
これで晴れて正式に家族になったのだ。もう後戻りは出来ない。
セックスする親子と家族になった。めでたい。

ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃんも苗字変わったからね〜」

(*゚ー゚)「あ、そっか」

モララーさんの苗字は珍しい。勅使河原という。読み方はテシガワラ。
四文字の苗字は全国的に見ても少ない。この前テレビに出ていたエセ作曲家ぐらいしか知らない。
ぼくもこれからは勅使河原姓を名乗るのだ。

ふと、会話に参加していないクーの方を見る。
じっとどこかを見ていた。遂に来たか、そんな表情だ。
妊娠と同居でこの時が来る事は分かっていただろうに。
現実を直視すべきだ。今更どうにも出来ないのだ。


昼食の後はぼくとモララーさん、クーと母さんの二組に別れて買い物をする事になった。
恐らくあらかじめモララーさんと母さんで打ち合わせをしていたと見られる。
ぼく達はカー用品を見に行き、クー達は夕食の買い物という役割分担だ。

( ・∀・)「じゃあ、また後で」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、またね〜」

ショッピングセンターの入り口で別れる。
後にここで集合予定だという。
ぼくとモララーさんはカー用品のある方へ向かう。


63 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 22:57:58 9lysTjK60
( ・∀・)「まぁ特に買うものはないんだけどね」

でしょうねー。
これはクーと母さんを二人きりにして会話の機会を設けようという目論見だ。
クーだって理解しているはずだ。自分の父親からそういう状況に置かれたのだ。
果たしてクーは母さんときちんと話すだろうか。気にはなる。
ぼくはモララーさんと二人きりだがクーみたいに子供ではないのできちんと話す。

( ・∀・)「上手くいくと思う?」

(*゚ー゚)「クー次第かと」

本当の事だ。明らかにクー次第だ。
歩み寄る母さんにクーがどこまで応えるか、だ。

( ・∀・)「そうだよね」

一応きちんとカー用品を見に行って、すぐに帰ってくる。
モールに設置されたベンチに二人で座った。

( ・∀・)「ぼくはね、クーが三歳の時に離婚したんだ」

ここでまさかの身の上話。

( ・∀・)「だからクーは母親の顔を覚えていない。 それからずっと二人だったから、クーは母親というものを知らないんだ」

そうか、クーはぼくと同じなのだ。
クーには記憶があるうちからから母親がいなかった。
ぼくにははじめから父親がいなかった。
それ故にぼくは父親というものが分からなかった。
今だってよく分かっていない。しっくり来ない。

( ・∀・)「だから、ぼくが再婚すると知ってクーは喜ぶと思ったんだ」

(*゚ー゚)「喜ばなかったんですか」

まあね。モララーさんはそう苦笑いする。

( -∀-)「クーに母親という存在が出来て、喜ぶものだと思っていた。 彼女にとって待望の存在だと思っていたんだ」

ぼくも母さんの再婚は驚いた。でも今更ずっと無縁だった父親という存在が出来る事が、それほど嫌ではなかった。


64 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:03:15 9lysTjK60
✕記憶があるうちから
○記憶がない頃から


65 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:08:59 9lysTjK60
( ・∀・)「だから今のクーの反応は本当に予想外なんだ。 どうしてなんだろうって」

分からないのか。この人は素で言っているのか。
そんなもの、クーがモララーさんに特別な感情を抱いているからだろう。
どういう経緯でそういう関係になったのかは知らないけれど、二人がセックスまでする仲だからだろう。
二人だけの一軒家でずっと夜な夜なそういう行為をしてきて急に再婚します母親が出来ますと言ってクーが喜ぶ訳がないだろう。
母さんという明確な再婚相手が出来てもきっとクーはまだモララーさんに父親以上の感情を持っているのだ。

ならば果たしてモララーさんはどうなのだろう。
モララーさんとて実の娘とセックスするようになったのは勿論その実の娘に欲情したからだ。
自分の娘に必要以上の感情を持ったからだ。一人の女性として愛してしまったからだ。
しかしモララーさんは母さんという新しいパートナーを見つけた。母さんとセックスをして妊娠までさせた。
そうして同じ家に住むようになってもまだクーと関係を持ち続けている。
どうしてまだ関係を持っているのだろう。それが本当に分からない。
モララーさんはまだクーを一人の女性として愛しているのだろうか。
それともただの性欲の捌け口だろうか。

分からない。こればかりは分からない。予想すら出来ない。
聞いてみたい。直に聞いてみたい。でもそんな勇気はない。

ぼくは母さんに二人の関係について言っていない。クーもモララーさんには言っていない。
数日前にクーがぼくに申し付けた事だ。
ぼくが母さんに言わなければ家庭は維持される。
クーがモララーさんに言わなければ何が守られるのだろう。
クーが母さんに言ってしまえばやはり家庭は崩壊する。
ぼくがモララーに言ってしまえばどうなるのだろう。

本当にどうなるのだろう?
モララーさんは態度を変えるだろうか。良い父親を捨ててセックスする時みたいに荒々しい男に豹変するだろうか。
口止めするためにぼくを暴行でもするのだろうか。それとも泣いてデレには黙っていてくれと懇願するのだろうか。
ぼくはまだモララーさんという男をよく分かっていない。どう転ぶか分からない。

(*゚ー゚)「まぁ、クーにも色々思うところはあるんじゃないですかね」

やはり、明らかに対等ではない。ぼくの方が不利だ。
ぼくは家庭を崩壊させるスイッチを持っている。未来を左右するトリガーを握っている。
しかしぼくがそれに触れられないという事をクーは知っているのだろう。


66 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:24:38 9lysTjK60
暫く時間が経ったのち、ぼく達は買い物組と合流した。
クーと母さんは話せただろうか。表情からでは判断出来ない。
フリードのトランクに買い物袋を詰めて家へと帰る。
このニュータウンではきっとこういう生活が延々と続くのだろう。
いよいよ晴れてぼくはニュータウンの一員になったのだ。


月曜日というのはいつでも憂鬱なものだ。
一週間がリセットされて新しい週が否応なしに始まってしまう。
学校に行くのにも足取りが重い。引っ越しで遠くなった高校までの通学は億劫だ。
何よりクーとの会話のない登校こそがそれを助長させる。

周囲の通勤客を見ても月曜日は悲壮な顔つきをしている。
まぁニコニコしながら会社に向かう者はいないだろう。
ぼくにしてはジャンプを読める事だけが月曜日のモチベーションを支えている。
クラスメートのドクオが朝に買ってくるのでそれを皆で回し読みさせてもらうのだ。

ぼくとクーが異変に気づいたのは駅に着いてからだ。
駅の改札口はラッシュとはいえいつも以上に混雑していた。
頭上から垂れるモニタには運行情報が流れていて、列車の遅れを知らせている。
ホームに降りると列車を待つ通勤客でごった返している。
アナウンスで乗るはずの列車の遅れを案内していた。

鉄道というのは本当に様々な理由で遅延に陥る。
人身事故、車両故障、安全確認、踏切支障、線路内に人が立ち入り、色々ある。
今朝は急病人救護と言っていた。要は車内の乗客が倒れてその救助を行いましたというものだ。
遅延というのは雪だるま式で、どんどん積み重なって増大していく。
朝ラッシュなど運行間隔が短い時間帯で回復などあまり望めないのだ。
そういう連鎖でたちまち遅延からダイヤ乱れと変貌する。
大して状況が良くならないアナウンスにため息が漏れる。
月曜日の朝からだ。いい迷惑だ。
でもこのニュータウンにはこの鉄道路線一つしかない。
どれだけ遅れようとも他に選択肢はないのだ。


67 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:40:32 9lysTjK60
(*゚ー゚)「遅れてるね」

川 ゚ -゚)「間に合うか微妙だな」

(*゚ー゚)「乗り換える時に遅延証明書をもらおう」

川 ゚ -゚)「そうだな」

あれ、普通に会話出来てしまう。

(*゚ー゚)「あ、きた」

ようやく列車がやってくる。ドアが開けられて軽く打ちのめされる。
既に車内にはたっぷりの人が乗っている。遅れた分だけの乗客が各駅に待っているから当然だ。
ましてニュータウンの中間駅で降りる者は少ない。待っていた人達は中へ身体を押し込んでいく。
ぼく達も車内へ入る。すぐにものすごい圧力で更に奥へ押しやられる。
アナウンスと共にドアの閉扉が試みられる。どこかで挟まったらしく時間をかけ、ようやく完全に閉まる。
まるで家畜だ。たっぷりの家畜は狭い箱に押し込まれて運搬される。
ブレーキが払われ、重たくなったステンレスの車体が軋む。
初めて痴漢にあった高校一年生の夏を思い出す。あの時は女と間違えられたのだ。

(;*゚ー゚)「うわっ」

列車が揺れる。ぐぐっと圧力がかかる。
足が殆ど床に着いていないし、吊り革すら掴めない。
また列車が揺れる。隣のクーと密着状態になる。
顔が近い。クーの呼吸すら顔にかかる。
クーのやたら発育の良い胸が押し付けられる。
ぼくが目のやり場に困ってとりあえず天井を見た。

まぁ、ぼくだって、思春期の高校生男子だ。
急に一つ年上の義理の姉が出来て意識しない訳がない。
父親とセックスをしているし、母さんとはろくに話さないし、ぼくにも冷淡な態度を取るけど、歳の近い女子なのだ。
正直なところ引っ越した初日に見てしまったクーの半裸姿は未だに忘れられない。
それにクーはスタイルが良い。同学年女子と見比べても明らかに発育が良い。
そんなものが押し付けられれば理性がぶっ飛びそうになる。
ぼくは冷静を保つ。平然を装う。早く駅に着く事を願う。


68 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:43:16 9lysTjK60
クーは真顔で立っているのだろう、そう思って一瞬だけ様子を盗み見る。
しかし意外だった。予想外だった。クーはどこか気恥ずかしそうにしていた。
密着しているクーの身体の柔らかさから意識を遠ざけるために必死に思案する。
クーは男子生徒からの告白を軒並み断ってきたと聞く。
それはモララーさんとの夜の関係があり、そもそも恋愛感情すら抱いているからだと思われる。
そうなればクーは同学年の男子生徒とあまり触れ合っていないのかもしれない。
告白をことごとく断るクーはその美貌と落ち着いた雰囲気から高嶺の花のようなボジションを獲得しているのかもしれない。

では、クーはモララーさん以外の異性にあまり免疫はないのではないだろうか。
もしかすると、本当にもしかすると、モララーさんとの肉体関係は実は長く、クーにはこれまで一度も彼氏などいなかったら。
父親とセックスまでするクーが同世代の男子との触れ合い方を知らないとしたら。

考えているうちに列車は次の駅に着く。
僅かな時間ながら足すら着かない混雑が解消される。
クーはぱっとぼくから離れた。

あまり弱みを見せないクーの意外な一面が見られた気がする。
列車は遅れを増幅させながら進み、ぼく達は乗換駅でようやく殺人ラッシュから解放された。
遅延証明書をもらってから乗り換えの列車を待つ。なんとか学校には間に合いそうだ。

(*゚ー゚)「クーはさ」

訊かない方がいいと思う。
しかし先日クーにキレられた時点でぼくは彼女と仲良くやっていく事を諦めている。
失うものなどないのだ。構いはしない。

(*゚ー゚)「彼氏いた事あるの」

川 ゚ -゚)「なんだ急に」

怪訝そうにクーは訊き返す。

(*゚ー゚)「いや、なんとなく」

川 ゚ -゚)「…」

そんな事を訊いたのは勿論先程のクーの反応を見たからだ。
クーもそれを察しているのか、ぼくを睨む。


69 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:45:17 9lysTjK60
川 ゚ -゚)「…いない」

しかしクーは答えた。そして案の定の答えだった。

(*゚ー゚)「意外だね」

川 ゚ -゚)「そうか」

本当の事だ。意外である。同級生がそう言うのも分かる。
クーは自分が下手に出ているのが気に入らない様子だった。
いつもそうだ。クーはぼくと話す時に自分が受け身になるのを嫌っている気がする。

川 ゚ -゚)「別に男がいなくたっていい」

まぁぼくは正論だと思う。
ぼくも生まれてこの方、彼女という存在がいた事がない。
異性に興味がない訳ではないがやはり女性恐怖症が横たわるのだ。
だから別に異性との交際もなく青春らしい学生生活でなくても良いと考えている。

川 ゚ -゚)「お前だっていないだろう」

ほぅら、矛先がもうぼくにきた。

(*゚ー゚)「まぁいないけど」

川 ゚ -゚)「女装好きだものな」

(*゚ー゚)「は?」

女装好きと言った?女顔の事をからかっているのか?

(*゚ー゚)「なにそれ」

川 ゚ -゚)「いや、後輩に送ってもらったんだがな」

おもむろにクーがスマートフォンを取り出す。
何度か指を弾いて一枚の写真を出した。


70 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:48:44 9lysTjK60
川 ゚ -゚)「いい写真じゃないか」

あぁ、最悪だ。最悪。ため息が出そうになる。
それは更衣室で着させられたコスプレの写真だった。
同級生に撮られたものが回り回ってクーの元に到達したのだ。
だから写真など撮られたくなかったのに。クーが調子に乗る材料など献上したくなかったのに。

川 ゚ -゚)「似合っているよ」

見ればクーは薄ら笑いを浮かべていた。
まさしく性悪女。こんなカードを持っていやがった。
どう弁解すれば良いのだろう。どう弁解しても逆転出来ない気がする。

川 ゚ -゚)「どうした?」

(*゚ー゚)「…そういうのじゃない」

川 ゚ ー゚)「そんな顔、出来るんだな」

クーは笑う。立場が逆転する。
ぼくが言った言葉だ。
覚えていやがった。そのまま返しやがった。

接近メロディがホームに響く。
古びた通勤列車に乗り込む。
やかましい加速音と共に駅のある切り開かれた新興住宅地を出て行く。
同じような景色が続く。暫く続いて次の乗換駅がやってくる。

クーはぼくを言い負かしたつもりでいるのだろう。
満足そうにいつも通りスマートフォンに視線を落としている。
正直なところぼくも下手に出るのは気に食わない。
クーより下手に出たくないのだ。
もはやこれは戦争と言っていいだろう。
そうだ、戦争だ。まさしく戦争。
ぼくとクーの戦いになる。


71 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:50:56 9lysTjK60
(*゚ー゚)「昨日さ」

ぼくも手札のカードを切る。
一番手前にある真新しいカードだ。

(*゚ー゚)「買い物で母さんとちゃんと喋れた?」

我ながらストレートに嫌な言い方だ。
クーも露骨に嫌そうな顔をぼくに向ける。
でもクーとて分かっているだろう、そう仕向けたのは紛れも無くモララーさんだ。
クーが特別な感情を抱くモララーさんにこそあの状況を作られたのだ。

川 ゚ -゚)「別に」

(*゚ー゚)「別にって、喋ったの、喋らなかったの。
モララーさんが随分と心配していたけど」

川 ゚ -゚)「やっぱりお父さんのせいだ…」

ぼそっとクーが言う。
その通りだよ。モララーさんが求めたんだよ。
その大好きなお父さんから仕向けられてクーはどうしたの?

(*゚ー゚)「モララーさんが言ってたよ」

これも言ってしまおう。
モララーさんは本人に言うつもりはなかったかもしれない。
でもそれは、本当は伝えた方が良いものなのだ。

(*゚ー゚)「モララーさん、離婚してからずっと二人だったから、再婚してクーは喜んでくれると思ってたって。
母親が出来てクーは喜んでくれるものだと。 だから今のクーは予想外だって」

クーの様子を見る。唇を強く噛んで下を向いている。
効いている。これはじわじわ効いている。

何せ今のクーはモララーさんを裏切っているのだ。
母さんに冷たく当たってモララーさんの思いを踏みにじっているのだ。
モララーさんの一方的な押し付けがましい願望だとはぼくも思うが、仕方ない。
子供は親を選べないのだ。そんな事は分かりきっているし当たり前の事だ。
親がそうするならば子供のぼく達は従うほかないのだ。


72 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:53:14 9lysTjK60
(*゚ー゚)「クーはどうなの」

ぼくは攻撃の手を緩めない。
徹底的に叩く。攻め続ける。

(*゚ー゚)「モララーさんを裏切り続けるの」

クーは答えない。黙ったまま。
答えがないのか、話したくないのかは分からない。
ぼくも何も言わない。沈黙が続く。
しかしこの沈黙はクーだけが苦しい時間だ。
あえて黙ってクーを待つ。苦しませる。
長い時間が過ぎて、ようやくクーが絞り出すように

川 ゚ -゚)「…お前には、関係ない」

とだけ言った。またそうやって逃げる。
クーは逃げてばかりだ。

(*゚ー゚)「関係なくないよ。 家族なんだから」

もう入籍を済ませた以上、ぼく達は家族だ。
元は他人でももう他人ではない。家族という切れない繋がりを持ったのだ。
中身はどうしようもないニセモノ家族だ。しかしやはり家族なのだ。

(*゚ー゚)「ぼくとクーも家族だし、ぼくとモララーさんも家族で、クーと母さんも家族なんだよ」

分かっているんだろう、頭では。でもまだ受け入れられないんだろう。
クーはそういう幼い人間だ。現実を直視出来ないのだ。
またクーは黙る。ずうっとそうやって黙っていればいい。
永遠に現実から目を逸らしていればいい。

川 - )「…に乗るな」

(*゚ー゚)「えっ?」


73 : 名も無きAAのようです :2015/05/18(月) 23:56:36 9lysTjK60
車内アナウンスが学校最寄り駅に間もなく到着する旨を知らせる。
それにかき消されてクーの小さな声は聞き取れなかった。

川 ゚ -゚)「調子に乗るな」

今度ははっきりと聞こえた。

川 ゚ -゚)「私はお前の日常をいつでも壊せる」

列車が駅に着く。
ドアが開かれてクーはぱっと降りていった。
やや遅れてぼくも列車を降りる。

クーの言葉を反復する。まるで悪人みたいな事を言う。
しかしその意味がぼくには分からなかった。妙に不安になる。

両親に言いつけられた二人での登校もこの高校の最寄り駅までだ。
ここまで来れば同じ学校の学生がたくさんいるしクーも駅から合流する同級生がいるらしい。
ようやくぼくも晴れてお役御免となるのだ。解放されると言ってもいい。

もうクーはとっくに改札口を出ていったようだった。
ぼくもPASMO定期券をかざして駅を出る。
列車が遅れたせいもあってあまり登校時間に余裕はないがまだ学生がちらほらいる。

('A`)「よう」

後ろから見慣れた顔がぼくを見つける。
同じクラスのドクオだ。いつも時間ギリギリに登校してくる。

(*゚ー゚)「おはよう」

('A`)「しぃにしては珍しく遅いな」

(*゚ー゚)「あー、列車が遅れちゃって」

('A`)「え? 総武線遅れてた?」

しまった。ぼくは引っ越した事を誰にも言っていない。
学校には届け出たがそれだけだ。ぼくの口からは語っていない。


74 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 00:00:05 A/dLXRCk0
(*゚ー゚)「いや、その、うち引っ越したんだ。 使う路線変わって」

('A`)「へぇ〜マジか」

色々あってね、とぼくは誤魔化す。


ぼくがクラスで特に仲が良いのは今のドクオと、ブーンことホライズンとツンの三人だ。
昼食にはぼくを含めこの四人でいつも机をくっつけて食べる。
ツンはぼくが気兼ねなく話せる女子の数少ない一人だ。

( ^ω^)「昼ナンデスwwwエルナンデスwww」

ξ゚⊿゚)ξ「うっさいわねぇ」

特にブーンとツンは幼稚園から一緒だという。
正真正銘の幼馴染み、腐れ縁という奴だ。
夫婦漫才みたいなものを年中繰り広げている。
しかしそれを指摘するとツンは顔を真っ赤にして怒る。

( ^ω^)「ドクオ、ジャンプ読み終わったかお?」

('A`)「おう。 つかたまには自分で買えよ」

そう言いながらドクオは鞄から出したジャンプをブーンに手渡す。
いい奴なのだ。

( ^ω^)「ありがとうだお! 恩に着るお!」

('A`)「因みにヒロアカなんだけどデク負けて轟が勝ったから」

(# ゚ω゚)「はあああああああなんで言うんだおおおおおおお!」

ぼくはいつも弁当を持ってくる。母さんが毎朝作るのだ。

('A`)「しぃんとこはいいよな、母さん料理上手で」

(*゚ー゚)「そうかな」

('A`)「うちなんか冷凍食品ばっかだぜ」


75 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 00:04:18 A/dLXRCk0
母さんは確かに料理が上手だ。モララーさんも褒めちぎっていた。
ぼく以外にもモララーさんとクーも弁当を持って家を出る。
あのクーも母さんが作った弁当を毎日食べているのだ。
どんな気持ちで食べているのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「しかもしぃのお母さんすごく美人なんでしょー」

('A`)「いいよなー美人母ちゃん」

(*゚ー゚)「そんな事ないよ…」

まぁ母さんは美人だ。アパートの近所でも評判だったし、ニュータウンのご近所でも話題になっているらしい。
学生時代の写真も見せてもらったがやはり周囲から群を抜いていた。
でも母親の美貌を褒められたって素直に手放しで喜べない。
そこには母さんの無計画かつマイペースな性格は考慮されていない。
何より男遊びをした末にぼくを妊娠した経緯も含まれていない。

('A`)「そういえばさー」

ドクオがエンデヴァーと連呼しながらジャンプを読むブーンをよそに何気なく会話を変える。

('A`)「さっき職員室に呼ばれたんだけどさ」

ξ゚⊿゚)ξ「何したのよ」

('A`)「いやなんもしてないから」

ドクオはツンを制して話を続ける。

('A`)「でさ、クラス名簿があったんだけど、しぃの苗字変わってたぞ」

(;*゚ー゚)「えっ」

あぁ、入籍したのだった。

('A`)「しかも四文字のすっごいいかつい苗字、あれなんだっけ」


76 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 00:19:21 A/dLXRCk0
(*゚ー゚)「…テシガワラ」

ξ゚⊿゚)ξ「テシガワラ?」

(*゚ー゚)「勅使河原、でテシガワラ」

スマートフォンで文字を出してみせる。

( ^ω^)「へぇ〜いかつい」

ξ゚⊿゚)ξ「というかなんで苗字変わったのよ」

ぼくはうなだれる。
実のところ母さんの再婚についても誰にも話していない。
再婚の事を全て話せばクーに繋がってしまう。
学年は違えどクーはちょっとした有名人らしいし、何より三年生の女子と同居していると知られれば話題になってしまう。
ぼくは自分が話題に登るのは好きではない。この目立ちすぎる女顔のせいだ。
だから誰にも話さなかったし、その必要もないと思っていた。
だから入籍して苗字が変わってそこに気づかれる、というのは想定外だった。

しかし、言い訳は出来ないだろう。ぼくに父親がいない事は仲の良い彼らは知っている。
苗字が変わるというのは再婚以外まずありえないからだ。

(*゚ー゚)「その、母さん再婚して…」

('A`)「マジか! 美人母ちゃん結婚したのか!」

( ^ω^)「うらやましいお、密かに狙ってたのに!」

ξ゚⊿゚)ξ「キモッすっご〜い、相手の人イケメン?」

あぁ、やはりこうなる。なになに、と周囲のクラスメートも集まってくる。

( ^ν^)「へぇ〜母さん再婚したんだ、めでたいじゃん」

リハ*゚ー゚リ「いまいくつなの?」

(*゚ー゚)「三十三だよ」

( ^Д^)「わっかー! もううちなんて五十代だぜ〜」


77 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 00:38:35 A/dLXRCk0
口々に賛辞を送られる。目立ってしまう。
もうこのぐらいで終わりにしてほしい。

(´・_ゝ・`)「つーか、勅使河原ってすげーな」

( "ゞ)「あれ、三年にもいたでしょ勅使河原」

リハ*゚ー゚リ「あ〜クー先輩だよ〜」

( "ゞ)「あ、あの苗字も性格もいかつい人」

リハ*゚ー゚リ「え〜クー先輩すっごく優しいんだよ〜」

四文字の苗字で余計に目立つのだ。
それにクラスでクーの名前を聞くと変な汗が出る。
クーは未だに家庭の中での存在だ。
一緒にする登校も駅までで、学校で遭遇した事は一度もない。
早く話題が終わる事を祈る。このまま鎮火する事を願う。
そうして今夜お風呂に入って眠って明日の朝には皆が忘れていますように。

しかし、そんなぼくの淡い願いは容易く打ち破られる。
教室のドアが開かれる。見慣れない訪問者に視線が一斉に注がれる。
ぼくは来訪者を認めてひっくり返りそうになった。
流れるような髪。整った顔立ち。すらりとした長身。ちょっぴり短めのスカートを翻してクーが教室に入ってきた。

どうしてクーがここに。なんで二年生の教室に。思考がぐるぐる回る。まとまらない。汗が吹き出す。

リハ*゚ー゚リ「クー先輩じゃないですか」

クーと親交のあるらしいクラスの女子が彼女のもとに駆け寄る。
先程も性格がいかついという評価に対して優しい人だと反論していた。
随分と懐いているようにも見える。


78 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 00:46:10 A/dLXRCk0
川 ゚ -゚)「あぁ、しぃを探していて」

リハ*゚ー゚リ「しぃ君ですか? しぃ君ならそっちに…」

川 ゚ -゚)「ありがとう」

クーがぼくを見つける。そしてにっこりと微笑む。
普段見せない顔。よそ行きの顔。学校で見せる顔。社会での顔。
寒気がする。ぼくは蛇に睨まれた蛙みたいに身動きが取れなかった。
ゆっくりと近づいてくるクーをただ眺めていた。
ドクオも、ブーンも、ツンも、呆気に取られている。
たった今話していた先輩が急に教室に現れたからだ。

川 ゚ -゚)「昼食の途中か、ごめんなしぃ」

いつもと違う話し方。声色も違う。

(;*゚ー゚)「な、なに」

他人のふりをするには無理があるだろう。
状況が読み込めないなか、ぼくは恐る恐る答えを返す。

川 ゚ -゚)「母さんが今日はお父さんと皆で食事に行くから早く帰ってきてって」

この一言は全てにとどめを刺した。
ぼくはクーの目的を知る。
クーは学校で公表していないぼくの立場を分かっていたのだ。
だからクラスのど真ん中でぶちかましてくれたのだ。
家族である事。同居している事。隠したかった事全てをぶちまけた。
朝に言い放った、私はお前の日常をいつでも壊せるという言葉。
それがまさにこれだ。クーはぼくが守っていた学校での日常を文字通り壊しに来たのだ。
これにて家庭と共に学校でのぼくの平穏も奪われた。

リハ*゚ー゚リ「え…クー先輩なんて?」

クラスがざわめく。ブーンはフリーズしている。
クーはとてもわざとらしく、首を傾げる。


79 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 00:55:01 A/dLXRCk0
川 ゚ -゚)「え? 聞いていないのか?」

やめろ、言うな。それだけは言うな。もう取り返しがつかなくなる。

川 ゚ -゚)「私の親が再婚してな、その再婚相手の連れ子がしぃだったんだ」

リハ*゚ー゚リ「え、じゃあクー先輩としぃ君は」

川 ゚ -゚)「家族だぞ」

クラスが一気にどよめく。大炎上だ。もう鎮火は望めない。

川 ゚ -゚)「じゃあ、ちゃんと早く帰るんだぞ」

ぼくに優しく声をかけてクーは教室を出る。
引っ掻き回すだけ引っ掻き回して悠然と去っていく。
クーが教室を出るなり一気にクラスは騒ぎ出す。

(; ゚ω゚)「ど、どういう事なんだお!」

(;'A`)「お前あの人と一緒に住んでんのかよ! マジかよ!」

(;´・_ゝ・`)「エロイベントは!?」

ぼくは質問攻めにあう。
もう言い訳も思いつかなかった。クーは最低限の言葉で重要な事項を喋っていった。
完全にしてやられた。完膚なきまでに手遅れだった。


家に帰るとクーがリビングのソファーに寝そべって雑誌を読んでいた。
クーがリビングにいるという事は母さんが不在という事だ。
まだ買い物に行っているのだろう。クーは顔を合わせたがらない。
制服から着替えてラフな格好をしている。いつもジャージなどを着ている。

川 ゚ ー゚)「おかえり」

クーがぼくを見つけて口元を歪ませる。


80 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 00:56:44 A/dLXRCk0
(*゚ー゚)「…やりやがったな」

川 ゚ -゚)「何の事だ?」

クーはとぼける。分かっているくせに。

川 ゚ -゚)「クラスで隠し事はよくないぞ」

返す言葉が見つからない。確かにぼくは隠していた。
そこを突かれたのだ。見抜かれていた。

ぼくはとにかく悔しかった。
クーは普段あんな笑顔を見せない。
クーは普段あんなに親しげに話さない。
クーは普段ぼくを名前で呼ばない。
クーは普段母さんなどと呼ばない。

あれは全て社会でのクーの姿だ。
家では見せない学校での姿なのだ。
それが余計に悔しかった。

ぼくはソファーに寝そべるクーを睨む。
間違いだった。こんな女と仲良くしよう、家族として上手くやっていこうとしたのが間違いだった。
譲歩するのも努力するのも無駄だった。それら全て間違いだった。
こんな人間と上手くやっていけるかはずがない。父親とセックスする女と仲良く出来る訳がない。
ぼくは復讐を誓う。必ずこの女に復讐をする。


81 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 00:59:29 A/dLXRCk0
3 おわり

つづく


82 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 01:01:50 A/dLXRCk0
>>58
サーセン…3レスで終わってしもた


83 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 07:07:51 LNA/YUnY0
おつおつ!今回も面白かった。
続きが気になるな。

エセ作曲家でちょっとふいたwww


84 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 08:36:00 nENxoSD60

姉弟ゲンカってレベルじゃないな…


85 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 21:39:55 8zv4ce5Q0
一触即発ううう
これでしぃは男子も敵にまわさなきゃいいんだが
乙でした


86 : 名も無きAAのようです :2015/05/19(火) 22:31:58 zABhTQ160
>>84
姉弟じゃない!こんなの姉弟じゃ...


87 : 名も無きAAのようです :2015/05/21(木) 19:19:55 k4iiBaDs0
ニュータウンの大動脈は、運賃がくっそ高いことも触れてあげて……


88 : 名も無きAAのようです :2015/05/22(金) 01:02:36 EpCRZGRo0
ありがとうごさいます

>>87
千葉ニュー使ってごめんなさい…
初めて北総使った時に絶望したぜ…


89 : 名も無きAAのようです :2015/05/22(金) 07:15:24 8.aXBGDc0
こないだは超ローカルな実家駅の名前がでるし
ここで更に元職場の名前を目にするとは思わなんだ

身近に感じながら生々しく読んでる


90 : 名も無きAAのようです :2015/05/24(日) 01:25:55 p4ejs7LI0
スレタイでモララーとでぃの話と関連してんのかなあと思ったら違ってた


91 : 名も無きAAのようです :2015/05/24(日) 04:16:36 Wf5WHObs0
だんだん不穏さを増していくこの感じすげー面白い
乙です
続きも期待してます


92 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:27:49 wKi1j.fg0
ありがとうごさいます

>>89
超ローカルだと前々回の東武線ですかね…


93 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:29:02 wKi1j.fg0
※ちょっとだけエロあります


94 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:31:41 wKi1j.fg0


4


ニュースなんてものはそこらに転がっている。
メディアは次から次へと新鮮なニュースを世間に消費させる。
食べ終わったニュースは無慈悲にも放り捨てられる。
熟れて食べどきのニュースばかりが第一線で消費されていくのだ。

そもそもメディアも世間も飽きやすいうえに無責任だ。
痛ましい事件が起きてそれが大々的に報道されると心を痛める。
しかし新しい新鮮なニュースがやってきた途端に早々と捨ててそれに飛びついてしまう。
世間は感情的だ。社会は忘れやすい。ニュースの消費期限だって短い。

それはメディアを通じてニュースを受け取る社会も、高校という狭いコミュニティ社会でも同じ事だ。
ぼくがクーと同居しているというニュースは数日の間はクラスを騒がせたものの、早くも消費期限切れになった。
大して話題にならなくなったのである。あれだけ騒いでおいてやはり無責任なものだ。
もっともぼくは元の平穏が戻って心から安堵している。これで良い。
それにクーを知る人は彼女が男子からの告白を軒並み断るような堅物だと知っている。
期待されるような漫画みたいな展開はまぁありえないだろうと考えたのだと思う。

('A`)「はぁ〜、オレも姉ちゃんほしかったなぁ」

しかしドクオはまだクーの話題を引きずっていた。

(*゚ー゚)「ドクオ一人っ子だっけ?」

('A`)「おうよ」

( ^ω^)「ドクオに姉ちゃんいても同じ根暗だお」

('A`)「てんめぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「私も一人っ子だから兄弟って感覚が分からないのよねぇ」

昼食を食べてのんびりとしながらそんな話をしていた。
休憩明けの授業まではまだ時間に余裕がある。

ξ゚⊿゚)ξ「クーさんって家ではどんな感じなの」

ツンはストレートにものを訊く女子だ。本来ぼくが苦手とするタイプでもある。
しかしツンには裏表がなく、とても付き合いやすい。それ故に数少ない仲の良い女子なのだと思う。

(*゚ー゚)「どんなって、まぁあんな感じ」

思い切り嘘だが別に家庭内の冷えきった状況を自ら公言しようとは思わない。
家庭問題を学校に持ち込むべきではない。


95 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:35:33 wKi1j.fg0
ξ゚⊿゚)ξ「そっか…。 クーさんってちょっとポーカーフェイスっぽいところある気がするのよねぇ」

鋭い。確かに学校でのクーは社会モード全開だった。

( ^ω^)「そうかお? いつもああいうクールビューティなのかなーって」

('A`)「でもほんとなんで彼氏作らないんだろうな」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、それなんだけど」

ツンがぐいっと身体を前に出して小声になる。

ξ゚⊿゚)ξ「三年の先輩に聞いた話なんだけど」

( ^ω^)「なんだお急に」

ξ゚⊿゚)ξ「同じ三年にクーさんが好きで、フラれたんだけど結構しつこく付きまとっていた男子がいたらしくて」

('A`)「ストーカーじゃん」

ξ゚⊿゚)ξ「そこまではいかないんだけど、周りの男子からもストーカーまがいだからやめろって言われるレベルだったらしいの」

(*゚ー゚)「へぇ…」

やっぱりモテるんだなぁ。顔立ちもいいし胸も大きいし、分からなくもない。
クーの本性を知らなければ、の話だけど。

ξ゚⊿゚)ξ「でね、クーさんも困ってたらしいの。 そしたら」

('A`)「そしたら?」

ξ゚⊿゚)ξ「クーさんのお父さんが出てきたんだって。 その男子の家に押しかけて、人の娘に何してくれてるんだって」

(; ^ω^)「ぼ、ボコったのかお」

ξ゚⊿゚)ξ「さすがに殴ったりはしなかったらしいけど、ものすごい怒りようでさんざん怒鳴り散らしていったんだって。
      そこの両親も問題沙汰にしたくないからひたすら謝ったらしいんだけど」

モララーさんが、そんな事を。意外だ。
朝に弱いクーを起こしには行かないし、放任主義なのかと思っていた。
まぁモララーさんがクーを大切にしているというのは感じられる。肉体関係を抜きにしても。
父親らしいと言えば父親らしいのかもしれないが、少し大げさすぎる気がする。
ちょっと過剰な娘思いの父親だろうか。それとも独占欲の強い父親だろうか。


96 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:39:24 wKi1j.fg0
ξ゚⊿゚)ξ「そういうの知らない?」

(;*゚ー゚)「い、いや全然」

( ^ω^)「しぃもクーさん狙ったらダメだお」

(;*゚ー゚)「狙わないよ、義理でも姉弟なんだから」

そう、姉弟。本来、性的に意識するのもおかしい関係。

(*゚ー゚)「それに母さんが再婚するって言うまで相手の存在すら知らなかったもの」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ、そうなの」

( ^ω^)「そりゃドキドキだお」

ξ゚⊿゚)ξ「あとね、クーさんは身体が弱いって言ってた」

(*゚ー゚)「え?」

身体が弱いなどと、聞いた事がない。見たところクーは健康そのものだ。
病弱体質など程遠いように思える。モララーさんもそんな話をした事はない。

(*゚ー゚)「それって、なんで?」

ξ゚⊿゚)ξ「知らないの? クーさん体育の授業殆ど出ないんだって。 身体弱いから、らしいけど…」

(*゚ー゚)「そんな…」

そんなはずがない。あのクーが、身体が弱いなど、考えられない。
毎日駅まで歩いて通学しているし、そんな素振りを見せた事はない。
ならばどうして体育の授業に出ないのだろう。
単に嫌いだから、ではないと思う。
社会では良い顔をしているクーがそんな単純な理由で評価を下げるとは考えにくい。

分からない。適した理由が全く浮かんでこない。

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ…なんか言っちゃ悪い事だったら、ごめん」


97 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:44:18 wKi1j.fg0
(*゚ー゚)「いや、いいんだ…」

('A`)「んん〜、でもいいよな〜義理の姉だぜ? 弟くんって呼ばれたいぜ…音姉…」

(*゚ー゚)「あ、ぼくトイレ行ってくるね」

クーの話題が続きそうだったのでぼくは教室から離脱する。
やはりクーの話題はあまりしたくない。

教室を出てトイレに向かう。廊下を歩くと一人の見知らぬ男子生徒と目が合った。
見覚えがないので恐らく同学年ではないのだろう。その男子生徒はぼくの方に歩み寄ってくる。
どう見てもぼくの方に向かってきている。なんだろう。本当に見覚えがない。
その男子生徒は運動部に所属しているのだろう、がっちりとした体形をしている。

(,,゚Д゚)「お前がしぃ?」

(*゚ー゚)「あ、はい」

(,,゚Д゚)「話の通り女みてーな顔だな…」

なんと失礼な…。

(,,゚Д゚)「オレ三年のギコっていうんだけどさ」

三年。クーと同じ。嫌な予感がする。
ギコは周囲を確認する。近くには誰もいない。聞かれたくない内容なのだろうか。

(,,-Д-)「まぁ簡潔に言うと、オレちょっと前にクーにフラれたんだわ」

(*゚ー゚)「はぁ…」

(,,゚Д゚)「しかもすっげーこっ酷くフラれたわけ。 別に八つ当たりじゃねーからな」

クーに酷くフラれた被害者がここにもいた。というより毎回酷い断り方をしているのかあの女。
被害者の会でも作れそうだ。

(,,゚Д゚)「それでさ、聞いたらお前同居してるんだろ?」

(*゚ー゚)「え、まぁ、はい」

なんで知られているのだろう。


98 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:47:15 wKi1j.fg0
(,,゚Д゚)「オレ悔しくてさ」

何を要求するんだ。ぼくは同居して家族でもあるけどクーの所業一つ一つには何の関係もないし責任を負う必要もないぞ。

(,,゚人゚)「クーのパンツでも一枚盗ってきてくんねーかな! 頼むよ!」

(*゚ー゚)「はい?」

あ、ダメな人だ。顔も悪くないのに、これはダメだ。そりゃクーもこっ酷く断るだろう。

(*゚ー゚)「あ、いやその、無理です」

(,,゚Д゚)「なっ」

(*゚ー゚)「すいません、失礼します」

言い終わる前にぼくは全力で走り出す。とにかく逃げる。どう見ても関わらない方がいい。
クーもあんな男に好かれたのか。さすがに同情してしまう。


ぼくとしては、クーの下着姿など引っ越し初日に見ている。見てしまっている。
ついでに行為中の喘ぎ声だって毎晩聞こえてくる。僅かな隙間から行為中の姿も見ている。
きっと皆が想像した女子の先輩との同居で起こるハプニングの域を越えているだろう。
しかもクーは清純さすら持ち合わせているのだ。
長い黒の髪は流れるように美しいし、クーの立ちふるまいはおしとやかな印象を持たせる。
でも父親とセックスをしている。大きなギャップだ。

ビッチという単語があるがクーはそれに当てはまるだろうか。
しかし彼氏がいた事のないクーは、モララーさんとしかセックスをした事がないのだ。
一人としかセックスをしていない、それをビッチと呼べるだろうか。

ぼくは自室での勉強を切り上げて風呂に入る。隣の部屋で夜の営みが始まる前に眠りにつかなければいけないのだ。
何とも不条理であるがぼくは夜更かしをする事が少なくなった。おかげで健康そのものである。
ぼくは服を脱いで洗濯物カゴに放る。放って、見つけてしまう。クーの下着。


99 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:50:39 wKi1j.fg0
昼間に会った情けない先輩ギコを思い出す。彼が欲しているものだ。
なんとか交際してほしい、ではなく下着なのだ。謎である。
ぼくはクーの下着を手に取る。水色のナイロンの下着。あのクーがこれを身につけている。
言うまでもなくぼくにとってクーは性の対象だ。そのクーの下着を手にしている。
妙な背徳感がある。クーが見れば怒るだろうし、蔑むだろう。しかしクーはいない。
ぼくは自分の股間が盛り上がるのを感じる。

あぁ、どうして今まで気が付かなかったのだろう。
自分で思いついた妙案に感嘆する。日頃の鬱憤を晴らす時だ。
クーの下着でオナニーをする。ナイロン生地の感触が良い。
全裸になって、下着を巻きつけて、ひたすら行為に耽る。
あの冷徹なクーを、生意気なクーを汚す事が出来る気がした。
それだけで随分と興奮した。あのクーに。あのクーにだ。
程なくしてぼくは絶頂を迎える。そのままクーの下着にぶちまける。
全部搾り取ってから下着を外してかざしてみる。
ナイロンの下着に精液がたっぷり染み込んでいる。
これで憎きクーを少しだけ汚せた気がした。妙な征服感があった。
罪悪感はこれっぽっちもない。ざまあみろ。
洗濯こそされるものの、クーはぼくの精液が染み込んだ下着をはくのだ。
そう考えただけで、ぼくは満足だった。
自分でもちっちゃい人間だなぁ、とは思うけど。


§  §  §


ニュータウンの家に引っ越して一ヶ月が過ぎた。世間はゴールデンウィークに入っている。
特に部活に所属していないぼくとクーは連休の間は完全にフリーだ。
さすがにうちに進学校も大型連休の間に登校はない。
モララーさんは仕事が休みで、母さんもいる。
家族が揃った。てっきりニュータウン内で完結する連休かと思いきや違った。
モララーさんの実家に行くのだそうだ。モララーさんの両親は存命だと聞く。
つまりぼくから見れば義理の祖父と祖母に当たる。
その義理の祖父母に会いに行くのだ。
母さんは勘当されているためにぼくは自分の実の祖父母とすら会った事がない。
それなのに義理の祖父母に会うというのは、変な気分だ。


100 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:54:33 wKi1j.fg0
母さんは入籍する前にモララーさんと挨拶に行っている。
ぼくは義理の家族となってから初めて会うのだ。
なんだか順番が違う気がする。向こうはぼくをどう思っているのだろう。
急に彼が義理の孫ですと紹介されるのだ。どんな顔をするだろう。
ぼくは顔も知らない義理の祖父母の反応を心配する。
心配になるに決っている。緊張だってする。

家族四人を乗せたフリードがニュータウンを出発する。
モララーさんの実家は南房総にある。高校までそこで過ごしたのだという。
国道16号線から東関東道に入り、京葉道路を経由し、館山道をひたすら南下する。
途中に立ち寄った市原のサービスエリアを出れば長閑な風景ばかりが続く。
同じ県内のはずなのに距離がある。やたら遠い。
家族になって遠出をするのは初めてだ。

車内にはモララーさんの好きなアーティストのCDが流れている。
相変わらず前部座席の母さんとモララーさんばかり話している。
後部座席のぼくとクーにはいつも通り会話がない。
クーもまたスマートフォンを見ている。
富津あたりから右側に海が見える。近いのだろう。
それなのにトンネルが連続し、フリードがせわしなくヘッドライトを点ける。
最後のインターチェンジが近づくとようやく前方にも海が見えてきた。

高速道路の終点まで辿り着き、一般道に降りてからも更に南下する。
地名の通り房総の南の果てにあるのだ。
フリードは国道と別れを告げて細い道へ入る。
住宅もあまりなく周囲には田園風景が広がる。
何度か曲がって行き違いすら困難なより細い道を進む。
その終端にようやくモララーさんの実家が見えてくる。
裏手は山になっていて近くに家もなく静かな場所であった。


101 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 18:59:57 wKi1j.fg0
( ・∀・)「着いたよ」

ぼく達はフリードを降りる。本当に静かなところだ。
風に揺られる木々のざわめきばかりが聞こえる。
繁栄こそ住民の誇りであるニュータウンから一時間ほどでこんな長閑な土地へ着くのだ。
モララーさんの実家は一階建てのこじんまりとしたものだ。随分と古びている。
砂利の庭には型落ちの軽自動車が一台と、年老いた犬が一匹。
小屋の前で伏せている犬はぼく達来訪客には気づいているが吠えたりしない。
視線だけこちらにやり、特に反応を示さなかった。

( ・∀・)「そいつもうおじいちゃんなんだ」

(*゚ー゚)「どうりで」

( ・∀・)「昔はワンワン吠えたんだけどねぇ、今ではすっかりなまくらだよ」

この家にはモララーさんの両親二人だけが住んでいるという。
モララーさんを先頭にして家に入る。ガラガラと大きな音をたてて扉が開かれる。
玄関は全体的に暗い。裏手は山だしあまり日差しが入っていない印象を受ける。

( ・∀・)「ただいま」

靴を脱いで居間に入る。中には二人の老夫婦が座って待っていた。

( ,'3 )「おかえり」

モララーさんの父親、ぼくの義理の祖父のバルケンさん。
分厚い眼鏡をかけている。顔つきはモララーさんに似ている。

( ‘∀‘)「よくきたねぇ」

モララーさんの母親、ぼくの義理の祖母のガナーさん。
髪は真っ白で、ぼく達を見て顔をほころばせる。

ζ(゚ー゚*ζ「お父さんお母さんお久しぶりです」

母さんが頭を下げる。しっかりしている時の母さんだ。
いくら母さんだってやる時はやる。


102 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:04:35 wKi1j.fg0
( ‘∀‘)「入籍を済ませたんだってね、おめでとう。
      これでようやく家族だねぇ」

ガナーさんが母さんの手を取る。嬉しそうだ。
もう母さんはこんなに良い関係を築いている。

( ,'3 )「こんな息子だがよろしく頼むよ、デレさん」

( ・∀・)「こんな息子って」

モララーさんが苦笑いする。こういうモララーさんは新鮮だった。
そして二人はぼくに目をやる。

( ‘∀‘)「あらあら、あなたがしぃちゃん?
      本当に可愛らしい、女の子みたいねぇ」

(*゚ー゚)「はじめまして。 お会いできて嬉しいです」

( ,'3 )「ほほ、デレさんにそっくりじゃの」

( ‘∀‘)「そうねぇ、将来美人さんになるねぇ」

( ・∀・)「二人とも、しぃ君は男の子なんだから」

( ‘∀‘)「あぁ、ごめんねぇ。 あんまりにも可愛らしいものだから」

ガナーさんはぼくの手を取る。皺の入った手だ。とても温かい。

( ‘∀‘)「何もない家だけど、ゆっくりしてってねぇ」

そして二人はクーに向き合う。

( ‘∀‘)「クーちゃんも久しぶりねぇ、いつ以来かしら」

川 ゚ ー゚)「お正月に帰って以来だよ、おばあちゃん」

クーは二人に優しく微笑みかける。まさに歳相応の少女そのものの笑顔だ。
こんな顔がクーにも出来たのだと、ぼくは内心驚く。
それはクーの演技でもなく、彼女の本来の姿らしかった。

( ,'3 )「まぁた背が伸びたんじゃないのか? モララーを越えそうだな」

川 ゚ ー゚)「んー、お父さん越えちゃうかもね」

屈託のない笑顔でクーは二人と話す。
家での態度とも、学校など社会での姿とも違う。
これが本来の、素のクーなのだろうか。


103 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:12:14 wKi1j.fg0
今日はこの家に泊まっていく。キッチンで母さんとクーとガナーさんで夕食の支度をしている。
ぼくとモララーさんはバルケンさんと一緒に居間でテレビを見ながら色々な話をしていた。
先程のクーの様子を見るに、母さんがいるなかで今はどんな態度を取っているのだろう。
もしかしてガナーさんが二人の仲を取り持ってみたりするかもしれない。

( ,'3 )「しぃ君、学校はどうじゃ」

(*゚ー゚)「授業のスピードが早くてついていくのが大変ですね」

( ,'3 )「大学に行くのか? 行きたい大学とかは?」

(*゚ー゚)「はい、一応ですけど希望進路はあります」

ぼくが通う高校は進学校だ。基本的に大学へと進む。
以前ぼくは母子家庭である事を考えて、高校は商業科に進んで卒業後は就職しようと考えていた。
しかし母さんは金銭的な事は考えなくて良いからと自分の進みたい道を選びなさいと言ってくれたのだ。
そして結果的には再婚によって金銭面はクリアされたようなものである。
今春で三年生になったクーも当然進学の道を歩んでいる。

( ,'3 )「そうかぁ、今は学歴社会じゃもんなぁ。 わしの頃とは全然違う」

( ・∀・)「ぼくの頃ももう大卒ありきだったよ」

( ,'3 )「そうじゃな、お前はよく言ってた」

居間はフローリングになっていて、カーペットが敷かれている。
その居間の奥に畳の部屋があり、ここが祖父母二人の寝室だという。
そこには仏壇もあってぼくは顔も名前も知らない先祖に線香を上げた。
モララーさんはこの家で高校まで過ごしたのだ。
玄関を挟んだ向かいの部屋がモララーさんの部屋だそうだがもはや物置の扱いになっていた。
テレビの横には古い写真が飾られている。
近づいて見ると、若い頃の祖父母とまだ子供のモララーさんらしき姿があった。

( ,'3 )「それはな、モララーが九つの時に撮ったんじゃ」

バルケンさんが説明してくれる。どこかの海沿いの展望台で撮影されたものらしい。
広大な海をバックに三人がにこやかに笑みを浮かべている。


104 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:14:34 JaUpKlgU0
ちょっとか?ほんとにちょっとか?
嘘つくなよ?


105 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:18:33 wKi1j.fg0
( ・∀・)「はは、ぼくもまだ子供だ。 お父さんもお母さんも若いなぁ」

( ,'3 )「この頃のモララーさんは本当に良い子じゃったのう。 顔立ちも可愛いものじゃ」

写真に思いを馳せていると夕食の支度が出来る。
ガナーさんが腕を振るった料理は母さんとクーも手伝ったという。
親子三代の共同作業だ。なんだかすごい。
食卓には近くの海で採れたという魚の刺し身も並ぶ。
全員で食卓について夕食が始まる。
父親も祖父母も親戚もいなかったぼくはこれだけ大人数の親族で食事をするというのは初めてだ。
テレビで見たやつ。漫画で見たやつ。

( ‘∀‘)「でも本当に良かったわぁ、デレさんがモララーと一緒になってくれて。
      もうあれから何年だったかしら」

あれ、とは離婚の事だろう。

( -∀-)「十四年前だよ」

( ‘∀‘)「それからモララーったら全くそんな素振りがなかったから、クーちゃんのためにも早く相手を見つけなさいと言ってたんだけどねぇ」

( -∀・)「仕方ないだろう、本当にいい人がいなかったんだ」

( ‘∀‘)「まぁおかげでこぉんなべっぴんさん連れてきて、びっくりしたよ」

ζ(゚ー゚*ζ「え〜やだも〜」

母さんが笑う。クーも笑う。
ここでは理想体の家族になっている気がする。
脂の乗った刺し身に舌鼓を打ちながらぼくは考える。
とういか刺し身すごい、醤油に少しつけると脂が広がる。

バルケンさんは日本酒を飲んでいる。母さんとモララーさんもそれをもらっている。
ガナーさんは飲まないらしい。母さんはお水の仕事をしていただけあって酒は強い。
モララーさんはどうなのだろう。風呂あがりにビールを飲むところは何度か見ている。


106 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:20:02 wKi1j.fg0
>>104
チョットダヨ! チョットダケ! サキッポダケ!


107 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:26:09 wKi1j.fg0
夕食が終わってバルケンさんから風呂に入る。六人もいるので効率よく入る。
風呂はレトロなタイル貼りで年季が感じられる。トイレも和式だ。
でもあの古びたアパートもそれなりにボロいトイレだったので慣れている。
風呂を出るとトイレに来たバルケンさんと会う。
バルケンさんは小さい声でぼくに囁きかけた。

( ,'3 )「こんな事を言うをクーは拗ねるかもしれんがな」

(*゚ー゚)「はい」

( ,'3 )「わしわな、本当はいつか男の子の孫が欲しかったんじゃ。 だから嬉しくてな」

バルケンさんはぽんぽんとぼくの肩を叩く。

( ,'3 )「ありがとうな、しぃ君」

ぼくは純粋に嬉しかった。トイレに入るバルケンさんを見送って居間に帰る。
実の祖父母は絶縁した母さんの子供であるぼくとは会おうともしない。
だからぼくは生まれてきて歓迎されたのだろうかと、考えてしまう事があったのだ。

ぼくの祖父母は高校生ながら妊娠した母さんを認めなかった。ぼくは祖父母からは歓迎されなかった。
ぼくの父親は母さんの妊娠を望まなかった。名乗りを上げなかった。ぼくは父親からも歓迎されなかった。
歓迎されなかったのだ。歓迎されなかった。誕生を祝福されなかった。
母さんはぼくが生まれて良かったと言ってくれた。妊娠した事も後悔していないと言った。
高校在学中に望まぬ妊娠をしたのだから、中絶をするという選択肢もあったはずだ。
それでも母さんはぼくを生んだ。ぼくは生かされた。だから母さんだけだと思っていた。
それなのに、ついこの間まで他人だった人に歓迎されたのだ。祝福されたのだ。ありがとうと言われたのだ。
ぼくにはそれだけで十分だった。


ぼく達は居間に雑魚寝で眠った。さすがにクーとモララーさんの行為はない。
夜が明けて、朝食を食べてからぼく達は近くにある先祖代々の墓へ向かう。
線香を上げて、ゆっくりと田んぼばかりの町を散歩する。
本当に静かなところだ。ニュータウンの繁栄も都心の喧騒もない。
たまに軽トラが走り去っていくぐらいだ。


108 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:29:44 wKi1j.fg0
そしてぼく達家族は帰宅の途に着く。
フリードに荷物とお土産を積み込む。
年老いた犬は相変わらず視線だけくれるが吠えはしない。
おめぇもおじぃじゃからのう、とバルケンさんが頭を撫でた。

バルケンさんとガナーさん、二人が庭先でぼく達を見送る。
最後に挨拶をして、モララーさんはフリードを出した。
老夫婦と古びた家が田園風景の奥に遠ざかっていく。
角を曲がって見えなくなるまで二人は車を見送っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「どうだった、しぃちゃん」

(*゚ー゚)「ん、優しかった。 うん。 優しかったな」

隣のクーを見る。いつものクーだ。スマートフォンに視線を落としている。
本当にいつものクー。ぼくの視線に気づいたクーがなに、と訊いてくる。
魔法が解けたみたいだ。なんでも、とぼくは車窓に視線を移した。


§  §  §


ゴールデンウィークが開けて人々は現実に叩き込まれる。
八月のお盆の前に祝日を新設するとニュースで見たが唯一祝日設定のない六月に作ってやればいいのにと思う。
そうすれば五月病などと言い出す者も少なくなるだろう。
それに五月病だと公言する者はゴールデンウィークをしっかりと休んだ恵まれし者達なのだ。
ゴールデンウィーク中ずっと働いていたあらゆる労働者達に謝罪する義務があると思う。
しかし確かにゴールデンウィークを越えればただの平凡な平日が延々と続く。

その日の夕食は少し豪華だった。平凡な平日にしては豪華だった。
母さんから呼ばれてリビングに降り立ったぼくは何かあるなと予想する。
テレビの電源も落とされている。クーも降りてきてテーブルにつく。


109 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:32:49 wKi1j.fg0
( ・∀・)「お知らせがあります」

案の定、モララーさんが勿体ぶって話し始める。
モララーさんのこういうのには慣れてきた。
それにサプライズを母さんに任せないという判断は賢明だ。

( ・∀・)「挙式の日取りが決まりました!」

ばんざーいと母さんが手を挙げる。
きちんと挙式するのだ。入籍だけなのではと思っていた。
自分を妊娠させた相手を特定出来なかった母さんにとって結婚すら未経験なのだ。
それなので挙式も初めてだ。少女の頃から憧れすら持っていたかもしれない。

(*゚ー゚)「おめでとう」

素直にぼくは祝福する。母さんは幸せだろう。
同居を始め、入籍して、遂には挙式だ。来年には身篭った子供も産まれるという。
幸せの階段を駆け上っているところだ。

ちらりとクーの方を見る。浮かない顔をしている。この期に及んで未だに現実を受け入れられないのだろう。
しかしもう今更引っくり返す事は出来ない。
夫婦が駆け抜けるイベント街道にはしっかりとレールが敷設されている。

クーに何も手札がない訳ではない。
自分がモララーさんと関係を持っていますと母さんに告白してしまえばいいのだ。
そうすればモララーさんを取り戻せるかもしれない。しかしクーはそれをしないだろう。
母さんと同時にモララーさんも幸せの絶頂にいるのだ。それをぶち壊す勇気などないだろう。
ただでさえ母さんに冷たく当たってモララーさんを裏切っているのだ。
これ以上クーはモララーさんを裏切れないだろう。失望させられないだろう。
だから彼女には母さんとぼくに冷たくする事しか抵抗する事が出来ない。
可哀想なクー。同情はしない。

ζ(゚ー゚*ζ「わたしは結婚式はじめてだから緊張するな〜」

( ・∀・)「ぼくは二度目だけどね」

笑えね〜。自虐ネタ笑えね〜。
モララーさんはたまに滑っている気がする。

(*゚ー゚)「でも籍も入れて、挙式も決まって、順調だね」


110 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:36:35 wKi1j.fg0
そう、表向きはこの家庭はとても順調だ。順調に歩みを進めている。
ニセモノ家族であるとしても、知らなければ幸福な家庭を築いている真っ最中なのだ。
ぼくはこのまま知ってしまった事実を言わない。隠し続ける。家庭はそれで維持される。
あとはクーの様子を伺うのみだ。

クーは相変わらず態度を軟化させなかった。
ぼくとの登校中も殆ど喋らないし、やはり母さんとの間にも会話はないようだった。
もう同居を始めて一ヶ月以上経つ。ぼくもそろそろニュータウンの暮らしには慣れてきた。
母さんも平日限定でパートを始めている。スーパーマーケットのレジ打ちだ。
マイペースな母さんがレジ打ちをする姿はあまり想像出来なかったが、以前に経験があるらしい。
家の表札もぼくと母さんの名前が入った新しいものに取り替えてある。
確実にぼく達は家族になりつつあった。見た目は至って普通の家族だ。

(*゚ー゚)「どれぐらい呼ぶの?」

( ・∀・)「そんなに盛大にやるつもりはないよ」

ζ(゚ー゚*ζ「わたしの方がいないからね〜」

(*゚ー゚)「あぁ、そっか」

母さんは両親から勘当されている。高校在学中に妊娠したためだ。
それも関係を持った相手が複数いて孕ませた男が誰だか分からないというから仕方ないとは思う。
母さん曰く彼女の父親はとても厳しい人間だったという。それ故に反発心から男遊びが激しくなっていったのだそうだ。
なんとも悪循環である。母さんを生んだだけあってその親も変わり者だったのかもしれない。

ここまで他人行儀に見てしまうのはぼくが母さんの親を一度も見た事がないからだ。
どうやら母さんは勘当されてから本当に一度たりとも親とは会っていないらしい。
母さんは家から見捨てられその後どうやってぼくを育てたのかはよく分からない。
しかし様々な経緯があるのだと母さんは言っていた。彼らは孫の顔を見たくはないのだろうか。
まぁ今更会ったところでぼくとしてもそんな顔をすれないいのか分からないのだけれど。

ζ(゚ー゚*ζ「前のお店の人は呼ぶつもり〜。 付き合い長いし」

( ・∀・)「それはいいね」

そもそもモララーさんとは、母さんが働く店で出会ったのだ。


111 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:39:25 wKi1j.fg0
ζ(゚ー゚*ζ「今から楽しみね〜」

( ・∀・)「そうだね」

母さんはまだ三十三だし、とにかく美人だ。
二十代とよく間違えられると豪語しているがその通りだと思う。
きっとウエディングドレスも似合うだろう。
モララーさんも母さんとは釣り合っているし、お似合いだ。

これで良い。ぼくは心からそう思う。このままで良い。
そうすれば幸せなのだ。このまま順調にイベントが進めば幸せなのだ。
たとえモララーさんが娘とセックスするような倫理観のぶっ飛んだ男でも、ぼくはそうするべきだと本当に思う。
幸せな母さんを見ているとそう思わされるのだ。この幸せな家庭を壊してはいけないと感じる。
それにもし二人の再婚に反対しようとも、もう全てが手遅れだと言える。
同居も始め、入籍も済ませ、挙式まで控えている。何より母さんは妊娠している。
ぼくの弟か妹になる子供に父親は必要なのだ。もうぼくみたいに父親の顔を知らない子供になるべきではない。

会話に全く参加しようとしないクーを盗み見る。後は本当にクーだけだ。


§  §  §


日曜日の昼過ぎ、家はぼくとクーの二人だけだった。
昼食後に母さんとモララーさんはフリードに乗って出かけていった。
きっと結婚式の打ち合わせだろう。式にも色々な形態があるらしい。
ぼくは自室でベッドに寝転んで漫画本を読んでいた。
あの狭いアパートの時から保有していたものだ。

川 ゚ -゚)「やっぱり面白いな」

(*゚ー゚)「でしょう」


112 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:42:02 wKi1j.fg0
クーは机の前に置いた回転椅子に座ってぼくの漫画本を読んでいる。
ぼくが持ってきた漫画本はクーには読んだ事のないものが多いらしくよく読みに来る。
まるで漫画喫茶だ。自室には持って帰らずいつもぼくの部屋で読む。

川 ゚ -゚)「この作者女なんだろ、男みたいな絵柄だよな」

(*゚ー゚)「ぼくもずっと男だと思ってた。 名前も男っぽいし」

クーが一冊読み終えたらしく回転椅子から立つ。
そして本棚に返して、次を探す。

川 ゚ -゚)「ん」

(*゚ー゚)「どうしたの?」

川 ゚ -゚)「第5巻がない」

(*゚ー゚)「…」

ぼくは視線を落とす。そこには第5巻。
クーがぼくの視線に気づく。

川 ゚ -゚)「…それ第5巻だな」

(*゚ー゚)「…そうだね」

川 ゚ -゚)「貸して」

(*゚ー゚)「…」

川 ゚ -゚)「…」

(*゚ー゚)「今いいとこなんだもーん」

川 ゚ -゚)「貸―しーてー」

クーがぼくの寝転がっているベッドに乗る。
ぼくが持っている第5巻を掴む。負けじとぼくも力を込める。


113 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:44:47 wKi1j.fg0
(*゚ー゚)「やーだー」

川 ゚ -゚)「む」

クーがぱっと手を離してぼくの唇を奪う。
すぐに舌を入れてくる。舌でぼくの口の中をかき回す。
馬乗りになってぼくの舌をじゅるじゅると吸う。
押しのけようと肩を押すもなかなか離してくれない。
たっぷり舌を絡ませてからクーがようやく口を離す。
クーの舌とぼくの舌を伝って混ざり合った唾液が糸を引いた。

川 ゚ -゚)「なぁ」

(*゚ー゚)「なに」

川 ゚ -゚)「したくなった」

もう一度クーは唇を奪う。今度はぼくの後頭部をがっちり抑えているのでいよいよ逃げられない。
クーは多分ディープキスが好きだ。不意打ちでよくやってくる。
本人はからかうつもりでやっているのだろうがいい迷惑だ。
そんな事をされたら確実に勃つからである。
いつもなんとかごまかしている。

川 ゚ -゚)「しよ」

(*゚ー゚)「えー」

クーがぼくの下半身に手を伸ばす。
すっかりスウェットの中で大きくなった肉棒が握られる。

川 ゚ -゚)「こっちはしたいそうだ」

(*゚ー゚)「…はい」


114 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:50:56 wKi1j.fg0
いつだってクーにペースを握られる。日常生活でもセックスにおいてもだ。
クーにされるがまま、着ていたスウェットをパンツごと脱がされる。
下半身だけ素っ裸というのはどうも恥ずかしい。

川 ゚ -゚)「おっきくなってるね」

(*゚ー゚)「そりゃ…」

クーが指で肉棒をつっつく。呼応するように充血した肉棒が跳ねる。
身体は正直なものです。

川 ゚ ー゚)「ふふ、かわいい」

クーが少しだけ舌を出して肉棒に触れる。
根元の方から先端に向けてゆっくり時間をかけて這わせる。
それを何度も繰り返されるうちにぼくは堪らなくなる。

川 ゚ -゚)「ん? どうした?」

(*゚ー゚)「あ、あんまりじらさないで…」

川 ゚ -゚)「しぃはじらされるのに弱いな」

(*゚ー゚)「だって…」

川 ゚ -゚)「せっかちな男はダメだぞ」

説教される。それじゃ女の子にモテないぞ、ともクーは言う。
別にぼくは女の子にモテたくはない。やっぱり女性恐怖症は残っている。
それにクーがいればいいのだ。本気でそう思う。


115 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:56:45 ZXCn2TOY0
!?


116 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:57:33 wKi1j.fg0
(*゚ー゚)「気をつける」

川 ゚ -゚)「よし」

結局またじらされる。ぼくの様子を見ながら先端を舐めまわして時折小さく吸う。
クーはぼくの反応を楽しんでいる。ペースは握られっぱなしだ。
ようやくクーが肉棒を咥える。温かい咥内に出迎えられる。
そのままゆっくりと肉棒がクーの口の中に沈み込む。
一番深いとろこまで到達して、そこから頭を上下させる。
ぼくは快感にもだえる。そんなぼくを見てクーは満足気だった。

川 ゚ ー゚)「感じてるしぃ本当にかわいい。 女の子みたい」

(*゚ー゚)「嬉しくない…」

川 ゚ -゚)「ね、もうしたい」

(*゚ー゚)「ん」

ベッドの脇にある机の引き出しからコンドームの箱を出す。
両親には気づかれないよう隠してあるのだ。中から一つ出して封を切る。
コンドームを取り出して、あれ、どっちが表か分からなくなった。

川 ゚ -゚)「貸して」

待てないクーが手間取るぼくからコンドームをひったくる。
先端を指で抑えて肉棒にあてがい、するすると伸ばしていく。
器用に根元まで綺麗にコンドームが装着される。相変わらず上手い。

川 ゚ -゚)「コンドームぐらいぱっと付けれないと女の子萎えちゃうよ」


117 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 19:59:00 wKi1j.fg0
また唇を重ねる。その間もクーは肉棒を愛おしそうに握る。
クーは行為の最中もキスを求める。絶頂を迎える時は決まってそうだ。
唇を離し、クーがジャージの下だけ脱いでベッドに寝る。
ぼくとしては上半身も脱がしてしまいたいけどクーはもう待てないようだった。

川 ゚ -゚)「ほら、はやく」

甘えた声でぼくを急かす。足が開かれてクーの秘部が露わになる。
ぼくはクーの前に座って秘部にあてがう。そしてゆっくりと、クーの中へと入っ


(*゚ー゚)「…」

目を開けば天井。常夜灯だけが照らすぼくの部屋。
起きて、まず深々とため息が出る。
夢だ。それも恐ろしくリアルな夢。
いつも夢なんて起きた途端に忘れてしまうのに今日は鮮明に覚えている。
クーの舌の感触、口の中の温かさ、全てがリアルだった。
童貞だけど。経験ないけど。それでもはっくりと覚えている。
ばっと布団をめくる。夢精してない。そりゃ最後までいってないからか。当然だ。

(*゚ー゚)「はぁ…」

本当にため息が出る。愕然とする。そしてぼくはようやく認めてしまう。
ぼくはクーとセックスがしたいのだ。遂に夢に見てしまうぐらいにしたいのだ。
いくらクーが父親とセックスしていてぼく達には冷酷であろうとも、ぼくから見ればやはり性の対象だ。
初日から下着姿を見てしまったし、風呂に入るたびに洗濯物カゴに入れられたクーの下着が見えるし、
それでオナニーをしてしまったし、何より毎晩彼女の喘ぎ声が聞こえてくるのだ。したいに決っている。
いくら女顔でもぼくも思春期だ。女顔だってオナニーぐらいする。性欲もある。


118 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 20:02:00 wKi1j.fg0
それに夢で見たのは理想のクーだ。普通に仲が良く、普通に話せるクー。
一緒に漫画を読めるような姉弟。そんな風になりたかったのだ。
だから夢で見たクーはぼくが渇望してやまないクーの姿なのだ。
そのせいで、夢から醒めた今は余計に虚しく感じる。
何て夢を見てしまったのだろう。理想が具現化したようなものではないか。
やはり夢で見てしまった以上、あれこそぼくが求めているクーの姿なのだと確認する。

ベッドから半身を起こし、部屋に置かれたカラーボックスを見る。
鋼の錬金術師が全巻揃っている。きっとクーは読んだ事がないだろう。
クーがこれを読む日が来るだろうか。そんな事を考えてしまう。
手を伸ばして第5巻を取る。笑顔のウィンリィ。これを取り合う日が来るだろうか。

鋼の錬金術師第5巻を所定位置に戻したところでぼくは隣室の部屋の物音に気がつく。
隣のクーの部屋で今夜も始まっていた。まただ。むしろこのせいであんな夢を見たのではないだろうか。
それではうなされたようなものだ。つくづくいい迷惑だ。壁が薄いのを分かっているくせに。

この家の壁はやはり薄い。ニュータウンの安い建て売りだ。
こちらが静かにしていれば隣の部屋の物音が聞こえてくる。
こうしてベッドで寝ていればベッドの軋む音とクーの小さく喘ぐ声が聞こえてくる。
更に壁に耳を当てるとよりはっきりと聞こえてくる。もはや二人のセックスの状況まで読み取れる。
どういう体位でしているとかそういうところまで分かるのだ。
モララーさんが絶頂を迎える時には必ず手前からもうすぐイクよ、としつこく言う癖も知っている。
最後はいつもコンドームをした状態で娘の膣内で果てる。
それでクーも今日はいっぱい出たね、などと言っているのだ。
ぼくがセックスする夢まで見たクーが隣で父親とセックスしている。
なんと虚しい事だろう。


119 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 20:05:06 wKi1j.fg0
別にセックスは悪じゃない。当然ながら人間はセックスから生まれてくるのだ。
母さんもモララーさんもクーもセックスをして生まれてきたし、ぼくも当時母さんが付き合っていた男性の誰かと
セックスをして生まれてきた。どの人間もそこは共通なのだ。そればかりは人類平等だ。

セックスは本来、子孫を残す生殖行為だ。でも避妊をすればただの快楽をひたすらに求める行為だ。
クーとモララーさんだってコンドームをしてセックスをしている。生殖が目的ではなく快楽を求めるだけだからだ。
だからと言ってコンドームさえ付ければ実の親子でセックスをしていいはずがない。そこには常識と倫理の壁がある。
しかしその常識と倫理の壁をあの親子は現在進行形でぶち破ってしまっているのだ。
バルケンさんとガナーさんが知ったらどう思うだろう。二人はあの老夫婦を裏切り続けている。

ぼくはきっと人間不信に陥りつつあるんだと思う。元々女性恐怖症なのだし、仕方ない気がする。
街中で、列車の中で見かける人が皆セックスをしていると考えてしまうのだ。
学校の厳格な教師も、駅前コンビニのレジ店員の中年女性も、立ち寄った書店の大人しめな若い女性店員も、
セックスによって生まれてきたのだし、自らもセックスをしているのだ。
朝の通勤ラッシュで見かけるサラリーマン達こそ確実に皆セックスをしている。彼らは家庭を持っている。
そう考え始めると、あの人も、あの人も、とそういう目で見てしまう。
まして同じ学校の同級生達だってそうかもしれない。
クーだって父親とセックスしているし、付き合っている奴らなんて絶対にしている。
そう考えるとどうにも止まらないのだ。ぼくの周囲はセックスだらけだ。社会もセックスで蔓延している。
街もセックスで満ち溢れている。窒息しそうだ。気が狂いそうだ。

ぼくがそういう性交渉の経験がないからだろうか? 童貞だから?
壁に耳を押し当てればセックス実況すら出来るクーとモララーさん。
小学生の頃に帰宅すると裸で母さんを抱いていた見知らぬ男。
社会が悪い? ぼくが悪い? どちらだろう? 答えはあるのだろう?


120 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 20:07:33 wKi1j.fg0
何かを叩く音がぼくの思考を遮断する。ぼくは壁に耳を押し当てたままだった。
ピシャリ、また音が響く。何かを叩く音。何か? 肌だ。身体をひっぱたく音。
誰が? モララーさんだ。誰に? クーにだ。
モララーさんが、クーを、叩いている?
しかも行為の最中だ。まだクーは喘いでいる。
SMプレイ? それも違う。モララーさんが怒っていた。珍しく怒気を孕んだ声だった。
前にクーが言っていたものだ。普段あんなに優しそうなモララーさんが怒っている。
集中して言葉を拾う。デレ。お前。いつまでも。どうして。いい加減に。言葉を拾う。
あぁ、クーが母さんに対していつまでも冷たい態度を取っている事に激怒しているのだ。
セックスしながら。叩きながら。罵声を浴びせながら。

なんだそれ。

今夜は異常だ。こんなのは初めてだ。いや初めてだろうか。
なるべく聞かないよう、聞こえないようにしてきたのだ。
前からこういう日があったのではないだろうか。

ぼくは二人の関係性が分からなくなる。
予想と少し違うのかもしれない。
何か勘違いをしていたのかもしれない。


ぼくはそれから二人のセックスを壁越しに注意深く聞くようにした。
するとやはりモララーさんは怒りながらセックスに入る事が何度かあった。
その時は決まって身体を叩く音が聞こえる。
そのつどクーは喘いだり、悲鳴に近い声をあげる。
この親子が普通ではない事は既に分かりきった事だが、やはり普通ではないのだ。


121 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 20:09:46 wKi1j.fg0
ぼくは仮説をたてる。急に生まれた仮説だ。
でももしその仮説通りならば、ぼくは思い違いをしていたのだ。

果たしてぼくに何が出来るだろう。
再婚した母さんのため。新しい家庭を維持するため。哀れなクーのため。
ぼくは考える。考える。ぼくには何が出来るだろう。

一つだけ結論は出ている。明確な結論が一つだけある。
クーは、モララーさんから卒業しなければならない。


122 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 20:10:33 wKi1j.fg0
4 おわり

つづく


123 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 20:13:29 ZXCn2TOY0

クーは救われてほしいけどしぃが暴走しないか心配だわ


124 : 名も無きAAのようです :2015/05/27(水) 20:58:59 VhM6ihjw0
おつ!


125 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:22:10 aQB24ri20
ありがとうごさいます

>>123
しぃはわりと最後まで冷静ですYO


126 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:23:47 aQB24ri20
※ややエロあります


127 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:24:38 aQB24ri20


5


五月の終わり、家はぼくとクーの二人だけになる。
母さんとモララーさんが旅行に行くのだ。
新婚旅行みたいなものだそうだ。再婚だけど。
モララーさんの勤める会社にはカフェテリアプランというシステムが導入されている。
毎年決まったポイントが付与されて、自分の好きなサービスが受けられるのだ。
福利厚生のスタイルとしては押し付けがましいものより個人の選択があるので良いシステムだろう。
四月になり新年度となって新たにポイントが付与されたのでそれを利用して旅行に行くと決めたのだ。
五月下旬という半端な時期を選択したのも繁忙期を避けるためだという。

ζ(゚ー゚*ζ「わたし箱根はじめて〜」

行き先は箱根だという。都心から近いしアクセスも良好で人気の観光地だ。
母さんが箱根のパンフレットを見せてくれた。種類豊富なロマンスカーが顔を並べている。
これに乗るの、とフェルメール・ブルーを指さす。母さんは楽しそうだった。

ただぼくとクーも当初は一緒に行かないかと誘われたのだ。
ぼく達が同行すれば新婚旅行、ではなく再婚旅行にはならない気がする。
何より二人のラブラブっぷりにぼく達はついていけないのだ。
ぼくもクーも打ち合わせこそしていないものの揃って丁重に断らせてもらった。
母さんもモララーさんも同居前はぼくとクーがいたために、二人で旅行というのは初めてだったりする。
それこそ尚更二人だけで楽しんでもらいたいと思う。せっかくの機会だ。


128 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:26:12 aQB24ri20
土曜日の朝に出て、一泊して日曜日の夜に帰ってくる。そんなスケジュールで二人は出かける。
その間、家にはぼくとクーの二人だけだ。まぁ会話なんて殆ど生まれないだろう。
旅行に同行しても窒息しそうだし、家に残っても気まずい。厳しい選択肢だ。
別に部屋に引き篭もっていれば済むと思う。どこかに一人で出掛けるのも良い。
ドクオやブーン、ツンみたいに学校の仲の良い誰かと予定でも合わせても良いかもしれない。


そうして土曜日の朝がやってくる。一泊なので二人の荷物は小ぶりだ。
ニュータウンは厚い雲に覆われているが箱根の天気は良いらしい。同じ関東でも違うものだ。
それならば絶好の旅行日和だろう。

( ・∀・)「じゃあ、行ってくるね」

ζ(゚ー゚*ζ「お留守番よろしくね〜」

ぼくとクーは玄関で二人を見送る。なんだろう、この構図。

(*゚ー゚)「気をつけてね」

川 ゚ -゚)「いってらっしゃい」

二人が玄関を出る。ドアが閉まる。
母さんとモララーさんの話し声が遠ざかっていく。やがて静かになる。
ニュータウンの内部にある閑静な住宅地は音が少ない。
大動脈である鉄道は中心部を走っているし、大きな道路も住宅地ブロックの外側にある。
幹線道路に店舗が建ち並び、その裏手に住宅が広がるために基本的に静かな住環境なのだ。

遂にぼくとクーの二人だけになる。あと一日半。これほど長いのは初めての事だ。

(*゚ー゚)「…」

川 ゚ -゚)「…」

とりあえず二人して黙って玄関からリビングに戻る。
どうせクーはリビングを自由気ままに使うだろう。
母さんが外出している時は普段あまり姿を現さないリビングでごろごろしている。
ぼくは自分の部屋に篭もろうと思う。冷蔵庫から高校生の代名詞リプトンミルクティーを取り出して持っていく。
クーは案の定リビングのソファーに座る。その横をすり抜けてぼくはリビングを出た。


129 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:27:48 aQB24ri20
結局ドクオもブーンもツンも予定があった。ぼくとしても特に行きたいところがなかった。
ニュータウンは都心部から遠い。少しオーバーな表現だが山奥みたいな場所を切り開いて造られたものだ。
都心部までは遠いし、休みの日にわざわざ列車で出て行くのも億劫だ。
それにニュータウン内で生活が完結出来るよう様々な店舗が揃っているが、車がなければ到底回れない。
何せ東西およそ二十キロメートルにも及ぶ巨大ニュータウンだ。

ぼくは自分の部屋に入る。そろそろ引っ越して二ヶ月になるが既に自分の部屋として落ち着く空間になっていた。
ここにいればクーは入ってこない。関わる事もない。今日は隣室から喘ぎ声も聞こえない。まさにオアシスだ。
唯一不満点を挙げればテレビがない事ぐらいだ。あったらさぞかし快適だっただろう。
子供の部屋にテレビを置くと部屋から出てこなくなるというのがモララーさんの考えらしくクーの部屋にもない。
それに土曜日の朝はテレビがつまらない。昼になってもバラエティの再放送ばかりだ。

高校生の代名詞リプトンミルクティーの飲みくちを開ける。慣れ親しんだ五百ミリリットルの紙パックを机に置く。
カラーボックスの漫画本はもう読んでしまったものばかりだ。新しい作品に手を出そうかなとも考えている。
学校の鞄に入れたままの小説本を取り出した。今日はこれを読み進めようと思う。
先週書店でクー対策に購入したものだ。クー対策というのは朝の会話のない登校時間の事である。
ニュータウンからの長い通学時間をいつも持て余していたので試しに小説本を購入してみたらとても集中して読み進められたのだ。
本の世界に入り込めばもうクーの存在など気にならなくなる。どうせ会話もないしクーもスマートフォンをいつも操作している。

もう今日中には読み終わるかもしれない。何篇もの物語がまるで別世界のように展開しながらやがて収束していくのだ。
その意味を知ってからとても秀逸なカバーデザインだと感心する。シンプルなデザインに見せかけて散らばった物語の収束を示していたのだ。
ぼくはゆっくり読書を楽しむ事にする。


何時間か経ったところで、ぼくの読書は中断される。
部屋のドアがノックされる。今は家にクーしかいない。
クーだ。クーがそこにいる。しかしぼくが答える前にドアが開かれる。


130 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:29:34 aQB24ri20
川 ゚ -゚)「邪魔するぞ」

うわ、返事をする前に開けやがった。まぁノックするだけ母さんよりマシだ。それに初めて部屋に入ってきた。
ここはぼくの不可侵領域だ。テリトリーだ。オアシスだ。なんて事しやがる。
それとも鋼の錬金術師は全巻揃っているのであの夢のように読んでいくだろうか。
色んな事が一瞬の内に頭を駆け抜ける。まさしく不意打ち。ぼくは反応が鈍る。

(*゚ー゚)「な、なに」

顔は引きつっていたと思う。冷静を装っているが動揺しているのは明白だ。

川 ゚ -゚)「ちょっといいか」

(*゚ー゚)「あー、うん」

ぼくは読書を諦める。付箋を挟んで本を置く。
呼び出しだ。呼び出し。なんだ、一緒に掃除でもやろうってのか。
しかしそんな適当に出した予想は当然間違えている。クーはぼくの部屋を出て隣の自分の部屋に入った。
ぼくは足がすくむ。隣でこそあるがクーの部屋には初めて入る。
初めて二人の行為を僅かに開いたドアから見た引っ越し初日の夜、他にはたまたま部屋から出てきたクーと出くわした時にちらりと見えた程度だ。
クーの部屋。同年代の女子の部屋。初めて到達する見知らぬ空間。ぼくは緊張する。壁を隔てた隣の一室に入るだけで緊張してしまう。

部屋に入る。ドアを閉めると強めに閉めて、とクーから注文される。なるほど、ドアは古いのか閉まりにくい。
さすがはニュータウンの安い建て売りといったところか。この閉まりの悪いドアが原因で初日の夜にぼくは見てしまったのだ。
クーの部屋はわりとシンプルに抑えられていた。クーの性格上あまりにも女の子らしい部屋ではないと想像していたがその通りだ。
淡い水色のカーテンが揺れている。勉強机は小学校入学時に購入してもらったものをまだ使っているのだろう。
受験生だけあって参考書が本棚に並んでいる。しかしそれと同居するように漫画本も置かれている。少女漫画だ。
壁には制服が掛けられている。見慣れたものだ。部屋の隅ではプラズマクラスターが稼働していた。
何より気づいてしまったのはベッドの位置だ。ぼくの部屋に向かって壁際に置かれているのだ。ぼくのベッドも壁際にある。
すなわち壁を隔てて並ぶように置かれているのだ。行為の音や声が聞こえてくる訳である。


131 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:31:40 aQB24ri20
川 ゚ -゚)「これ、着てみてよ」

そう言ってクーが広げたのは女物の服だ。それも少女趣味の色が強いものである。
突然そんなものを見せられ、ぼくは更に反応に困る。

(*゚ー゚)「え…?」

何を言い出すんだ、こいつ。何を考えているんだ。

(*゚ー゚)「なんで、急に」

川 ゚ -゚)「いや、片付けしてたら出てきてな。 お前なら似合うと思って」

確かにこの服はクーが着ているものとは考えにくい。昔の服なのだろう。
高校生が着るようなものではないし、クーの性格からも合っていない。

(*゚ー゚)「…嫌なんだけど」

川 ゚ -゚)「女装好きなんだろう?」

(*゚ー゚)「あれは違うって、無理矢理着させられただけで」

腹ただしい。あんなコスプレを着させられたのも、写真を撮られたのも、クーにそれが渡ったのも腹ただしい。
ぼくは自分の女顔が嫌いだ。それをからかわれるのも嫌い。まして女装など本当に嫌だ。

(*゚ー゚)「とにかく、着たくない」

アホらしい。こんな事に付き合う道理はない。
用がこれだけならぼくはさっさと部屋に帰ろうと思う。
踵を返してドアへ向かう。

川 ゚ -゚)「そうか」

背中を向けるぼくにクーが残念だなぁとわざとらしく声をかける。

川 ゚ -゚)「私の下着でするくせにな」


132 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:33:28 aQB24ri20
ぼくの足が止まる。下着というワードが全身を駆け巡る。
事態が飲み込めなかった。頭が理解出来なかった。
いや、ダメだ。否定しろ。否定しなければならない。そんなものは知らないと。

(*゚ー゚)「な、何の事…」

川 ゚ -゚)「だから、私の下着でしてるだろ」

ぼくは返す言葉を探す。そんな訳がないと突き放す言葉を探す。
否定しなければ。何とか否定しなければ。

川 ゚ -゚)「気づかれないと思った? 分からないだろうと思った? 大丈夫だろうと思った?」

(;*゚ー゚)「い、いや…」

川 ゚ -゚)「自分の精液が染み込んだ下着を私が穿いているのを見てざまあみろ、とか思っていたんでしょう。
     それに何回もやっているよね」

いよいよぼくは逃げ場を失う。ハッタリなどではない。
言い逃れが出来ない。この場を回避する術がない。

川 ゚ -゚)「ほら、着てみてよ」

逃げたかった。逃げ出してしまいたかった。けれどそれは出来なかった。

ぼくは大人しく戻って服を受け取る。
向こう向いているから、とクーは椅子に座って壁の方を向いた。
着たら声かけて、そう言ってスマートフォンに視線を落とす。
その後ろ姿を暫く睨んで、ぼくは服を広げる。

デイジー柄のワンピースだ。それも大きなフリルがついている。
後ろは大きなリボンがあり背中が少し見える構造になっている。
本当にとても女の子らしい少女趣味の強い服だ。これをクーが着ていたのか。
とりあえずジャージを脱いで、頭からワンピースを被る。


133 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:35:52 aQB24ri20
(*゚ー゚)「…着たけど」

クーが振り返る。まず吹き出して、暫く悶絶してからまじまじとぼくを眺めた。
そしてまた笑い始める。

(*゚ー゚)「ちょっと」

川 ゚ ー゚)「いや、似合ってる、似合ってるよ」

(*゚ー゚)「嬉しくないよ」

クーが笑いながら部屋に置かれたスタンドミラーを指さす。
ぼくはその前に立つ。本当に、女の子そのものだ。少女そのものだ。嬉しくないけど。
似合ったって嬉しくない。ぼくは男なのだ。何も嬉しくない。

川 ゚ -゚)「いや、本当に女みたいだな」

クーがスマートフォンで写真を撮っていた。咄嗟に身を捩るが何枚か撮られている。

(;*゚ー゚)「ちょっとやめてよ」

川 ゚ -゚)「いいだろう、別に」

悪びれずにクーは言う。ずっといつもより勝ち気な態度だ。
確かにクーは優位な立ち位置にいる。

川 ゚ -゚)「私に逆らうのか?」

クーが顔を近づける。勝ち誇った顔だ。

川 ゚ -゚)「お前はもう私に逆らえない。 分かっているだろう?」

そう、二ヶ月に及ぶぼくとクーの戦争はここで終戦を迎えたのだ。
下手に出る事を嫌う両者が、どちらが優位に立つかの戦いだ。
現時点を持ってぼくはクーに逆らえなくなった。ぼくの負けだ。


134 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:37:20 aQB24ri20
川 ゚ -゚)「もう私には逆らわない事だ」

終わったのだ。
戦いは終わった。
ぼくはもう逆らえない。
だからぼくは諦めようと思う。
リセットしようと思う。
姉になる人だからと譲歩してきた事を諦める。
なんとか会話を続けようと努力してきた事を諦める。
これから家族になる人だからと我慢してきた事を諦める。
諦めるのだ。

川 ゚ -゚)「…なんだ」

視線に気づいたクーが怪訝そうにぼくを見る。
ぼくはどんな顔をしていただろう。まぁいいとクーは後ろを向く。

川 ゚ -゚)「もう着替えていいぞ」

クーは油断しすぎなのだ。いくら自分が優位だろうが、考えが甘いのだ。
ぼくはクーの首に腕を回して力いっぱい押し倒す。
ベッドに押し倒して馬乗りになる。喉を圧迫されクーは咳き込んだ。
今の状況を予想出来ていなかったクーが狼狽している。顔は恐怖に引き攣っている。

(*゚ー゚)「ぼくさ、こんな女顔だけど中身は普通の男なんだよね」

考えもしなかっただろう。ぼくがお前を押し倒して馬乗りになるなど。
不利な状況に陥ったぼくが実力行使に出るなど。
甘い。

川;゚ -゚)「な、何を…!」

クーは抗議の声を上げるが混乱している。
ぼくはお構いなしにクーのジャージのファスナーに手をかける。


135 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:40:56 aQB24ri20
(*゚ー゚)「男だから性欲もあるんだよ」

川;゚ -゚)「や、やめろ…!」

声が震えている。怯えが混じっている。
これからぼくが何をしようとしているのか、何を晒そうとしているのか理解したのだろう。
ぼくの腕を抑えるが非力だ。ぼくは華奢な身体つきだが女子よりは強い。ましてクーの腕力も握力も大した事はない。

川;゚ -゚)「やめて…!」

抵抗するクーを押さえつけて力任せにファスナーを引っ張る。
上半身を守るジャージを剥ぎ取る。
クーの身体を晒す。

川; - )「やめて…」

クーが身体を捩る。しかし無駄だ。隠せはしない。
予想通りだった。案の定それはあった。

(*゚ー゚)「やっぱりね」

クーの身体じゅうにあったのは痣だ。叩かれたり殴られたりして出来た痣。
顔にこそないものの、それが身体の至る所にある。
モララーさんによるものだ。セックスの最中に聞こえてくる音はクーを叩く音だ。
これだけの痣ならばセックスだけでなく日常的なものだろう。
二ヶ月前に同居を開始するまではずっと二人だったのだ。不思議ではない。

(*゚ー゚)「いつかさ、ぼくがクーとモララーさんがしてるのを知っちゃった事実を、クーはモララーさんには言わない。
     だからぼくは母さんには言わない、そう言ったよね」

どうしてそんな話をするのだと、そう言いたげな目でクーはぼくを見る。

(*゚ー゚)「対等じゃない、不公平だってあの時は思ったんだ。だってそうでしょ?
     ぼくが母さんに言えばこの家庭は終わりだ。だからぼくが言い出せるはずがない。
     だけどクーがモララーさんに言ったからってどうなる? 不公平じゃないかって」

ぼくは脆弱なニセモノ家族を維持させるか崩壊させるかのキーマンだと思っていた。トリガーを握っていると思っていた。
しかしぼくが言い出せるはずはなかった。母さんには幸せになってほしいし、知らないふりをするほかなかった。

(*゚ー゚)「でも違う、本当は違うんだよね。 クーが恐れているのは母さんじゃなくてモララーさんだ」


136 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:43:58 aQB24ri20
川 -)「…」

(*゚ー゚)「クーはモララーさんが怖いんでしょう? モララーさんにまた怒られるのが嫌だったんでしょう?
     ドアが開いていて同居を始めたばかりのぼくに見られたなんて。 ぼくが母さんに告げ口したら再婚はパーだ。
     きっと怒られるんでしょう? モララーさんとする時みたいに叩かれたりするんでしょう?
     だからハッタリだったんだよね。 ぼくは言い出せないし、クーはモララーさんにも黙っている。
     ぼくとクー、二人ともそれで対等になったようで、クーだけが助かってたんだ」

クーは答えない。もはや肯定だ。否定をしないのだから。
本当にクーはモララーさんが怖いのだ。愛しているし恐怖しているのだ。
きっとそうやって育てられたのだ。だからセックスするのも自然なのだ。
そしてモララーさんは畏怖の対象なのだ。

(*゚ー゚)「よくも騙してくれたね」

セックスの最中に聞こえてくるクーを叩く音。クーが体育の授業に殆ど出ない事。考えていた通りだった。
クーは虐待まがいのセックスをしていたのだ。顔には傷をつけないぶんモララーさんは狡猾だ。

川;゚ -゚)「そ、そんなつもりじゃない…」

(*゚ー゚)「あっそう」

不意をついてジャージの下半身も脱がす。クーが咄嗟に抵抗するが遅いし力もない。
無理に脱がすと下半身に痣は少なかった。下着姿の状態になって改めて見ると痣は上半身に多い。
セックスの最中に叩きやすいからだろう。

クーの下着姿。引っ越し初日の夜以来だ。あの時は気がつけなかった。
もはやクーの優位は失われた。ぼくとクーの関係性は大きく崩れた。
ぼくはクーの弱みを握った。そこに付け込むだけだ。簡単な事ではないか。

(*゚ー゚)「ねぇ、いつもモララーさんとしてる時みたいにやってよ」

クーが黙ってぼくを睨む。軽蔑の眼差しだ。
しかしそんなものは効かない。今更どうでも良い。
ぼくは自分の下着を下ろす。もうぼくの下半身は十分に主張している。
クーはそれを見て、またぼくをじっと睨む。


137 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:48:10 aQB24ri20
(*゚ー゚)「いいんだよ、ぼくが全部ぶち壊しても」

川 ゚ -゚)「…」

(*゚ー゚)「今現在この家でなんとか保たれているバランスをぶっ壊してもいい」

ぼくはすっかり膨らんだ肉棒をクーの頬に押し当てる。
クーはぼくをなおも睨む。しかしいつもの気丈さは薄れていた。
当たり前だ。クーは逆らえない。

川 ゚ -゚)「最低だな、お前…」

(*゚ー゚)「なんとでもいってよ。 ほら、早く」

川 ゚ -゚)「…」

クーは歯軋りして、俯いたあと、観念したように口を開いた。
ぼくの勝ちだ。クーが屈服した瞬間であった。
クーが舌を伸ばして肉棒の先に触れる。くすぐったい。
変な感触だった。弧を描くようにクーは舌を動かす。
やがて咥えられて口の中へと沈み込んでいく。
肉棒から全身に電流が走るみたいだ。

(*゚ー゚)「いつもこうやってるの」

クーは答えず見上げてぼくを睨む。
ぼくは征服感で満たされる。あのクーがぼくの肉棒を咥えているのだ。
そして悔しそうにぼくを見上げている。たまらない。
クーはモララーさんとしか経験がないが回数は多い。きっと歴史も長い。
嫌々やっているものの、慣れた様子だ。
ぼくは興奮した。クーを屈服させている事実に興奮した。
あの高慢で無神経なクーに自分の肉棒を咥えさせているのだ。
いつもクーはこんな事をしている。実の父親とこんな事をしている。

(*゚ー゚)「もういいよ」


138 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:51:24 aQB24ri20
そう言うとクーが少し安堵したような表情で口を離す。
何を勘違いしているんだ。これからじゃないか。
ぼくはクーの下着に手をかける。
だいぶ抵抗されるがようやく下着を脱がせる。
そこでぼくは頬を引っ叩かれる。
馬乗りになっているのにクーは気丈な女だ。
ぼくは殴り返そうと拳を握るが身構えたクーの姿があまりにも弱々しくてやめてしまう。

クーは本当に非力だった。
下着も剥かれ、ぼくに馬乗りにされ、降りかかる拳から逃れようと手で顔を覆うクーは本当に非力で哀れだった。
学校では同級生から何度も告白され下級生から慕われているクーが、今現在とても惨めだった。
だけどぼくは同情しようとは思えなかった。ここで引き下がろうとは思わなかった。
ぼくが誓ったのは復讐だ。クーより優位を奪う事だ。完遂するべきなのだ。
そしてぼくを突き動かすのは復讐心であり性欲だ。何せぼくは健康的な男子高校生なのだから。

(*゚ー゚)「抵抗しないでよ」

クーはまた黙ってぼくを睨む。でもそれで事態が解決される訳がないとクーこそが理解しているはずだ。
ぼくはクーに馬乗りになるのもやめないし、押さえつけるのもやめない。勃起だって収まらない。

(*゚ー゚)「モララーさんって独占欲が強いよね? 嫉妬心が強いよね?
    クーに告白した男子の家に怒鳴りつけに行くんだもんね。
    クーはそんなモララーさんが怖いんだよね? 怒られるのが怖いんだよね?」

川 ゚ -゚)「…」

(*゚ー゚)「ぼくが二人がしてるのを知ってるってモララーさんに言ったら明日の夜にでも帰ってきたモララーさんに叩かれるんだよね?
     また叩かれながらバックでされるんだよね? モララーさんバックでお尻叩きながらするのよくやるもんね、いつも聞こえるよ」

クーは答えない。全部本当の事だからだ。

(*゚ー゚)「今クーが大人しくしていればいいだけなんだよ。 そうすればぼくも誰にも言わない」


139 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:53:27 aQB24ri20
勿論クーに選択肢はそれしかないのだ。
やはりぼくはこの家庭の命運を握るキーマンだったのだ。どう転がすかのトリガーを握っているのだ。

川 ゚ -゚)「最低だ、お前…。 本当に最低な奴だ…」

(*゚ー゚)「うん、じゃあ足開いてよ」

川 ゚ -゚)「…覚えてろ」

クーはぼくをなおも睨みながら、ようやく足を開く。
何も遮るもののない秘部が露わになった。
既にモララーさんに開発されている。
好きでもない男の前で足を開いて秘部をさらけ出すというのはどんな気分だろう。
ワンピースを着たままの男に肉棒をあてがわれるというのはどんな気分だろう。
初めて父親以外の男を体内に受け入れるというのはどんな気分だろう。

実体験はないもののアダルト・ビデオなどで蓄積した知識では前戯という儀式が必要だ。
しかしこれは愛のある行為ではないし何より余裕はない。それにぼくはもう我慢が出来ない。
充血した肉棒をクーの秘部にあてがう。思ったより下の方にある。
なんとか入り口を見つけて押しやると、ずぶずぶと奥の方へ入っていった。

(;*゚ー゚)「う、ぁ…」

変な声が漏れる。
クーの中へ迎え入れられてぼくは初めての快感に悶える。
すごい。遂にセックスをしている。まだ入れたまでだけど、紛れも無くセックスだ。
クーの中は温かい。少し動かしただけで全身に快感が行き渡るみたいだ。
それにクーは口に手を当てて声を出すのを堪えている。好きでもない男の肉棒でも感じてしまうのだ。
もっとクーがどんな風に喘ぐのが見たい。いつも壁越しに聞こえたクーの嬌声を聞きたい。
強めに奥へ突くとクーが一際大きな声で悶える。可愛らしい反応だ。

(*゚ー゚)「我慢してるの」

川 - )「…っ、してない」


140 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 11:55:40 aQB24ri20
クーも息が荒い。そうだ、普段は高圧的に振る舞うクーだって男に肉棒を突っ込まれたら平常心を保てないのだ。
セックスすごい。ぼくみたいな女顔でもあのクーをこんなに弱らせる事が出来る。
ぼくは動きやすい楽な体勢を見つける。ちゃんと足を開かせて、クーの腹のあたりを掴んで突くとやりやすい。
クーの反応が楽しくて夢中になって腰を振る。手で抑えられたクーの口から甘い声が漏れる。
感じている。好きでもない男でクーが感じている。
たまらなかった。もっとクーを汚してやりたいと思った。
クーをもっとめちゃくちゃにしてや

(;*゚ー゚)「あ、やば」

絶頂は一気にやって来た。慌ててぼくは肉棒を抜いた。
無理に抜かれた肉棒がぴんと上を向いてぼくは射精を迎えた。
ものすごく出た。こんなに出るものかと思うぐらいに出た。
普段のオナニーでは見られない量だ。クーの足を掴んだまま、ぼくは射精の余韻に浸っていた。

あぁ、これが暴発というやつだ。本当に文字通りの暴発だ。早かった。めちゃくちゃ早かった。
セックスするまであれほどの時間がかかったのに挿入してからはあっという間だった。
初めてだったし、勢いだったからコンドームをしなかったし、仕方ないけれどそれでもぼくの初体験はものの数分で終わった。

川 ゚ -゚)「…おい」

クーに声を掛けられてぼくはようやく気づく。クーはたっぷりの精液を浴びて身動きが取れずにいた。
腹や胸からは精液が今にもベッドに垂れそうで、慌ててティッシュを取る。
それにクーの顔や髪にもべったりと精液が降りかかっている。
これはぼくの征服欲を大いに満たした。あの高慢なクーの顔にたっぷりと精液を注いでやったのだ。
クーを汚してやった。ぼくは満足する。顔に射精する男が多いのも納得出来る。

(*゚ー゚)「ゴミ箱どこだっけ」

川 ゚ -゚)「…そこ」

腹や胸、顔や髪にかかった精液をティッシュで拭く。黙って拭かれるクーはもはや滑稽だった。

(*゚ー゚)「終わったよ」

川 ゚ -゚)「…」

クーはお礼も言わない。まぁレイプしたようなものだから当然ではある。
黙ってクーは下着を穿く。それを眺めていると見るなと怒られる。
もうそれ以上のものを見てしまったので怒らなくても良いのに、と思ってしまう。
ぼくは精液シャワーから難を逃れたベッドに座る。
背後ではクーがジャージを着ているのが音で分かる。
そういえばぼくはワンピースを着たままだ。
初体験がワンピースを着たままで、更に義理の姉が相手だ。
我ながら破天荒である。母さんの血はぼくにもきちんと流れている。


141 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:02:42 aQB24ri20
セックスはすごい。ものすごく気持ちいい。体験してようやくそれを認識出来た。ハマって当然だ。
同級生で付き合っている奴らが時間さえあればセックスしているのが理解出来る。
あの古いアパートの隣の部屋に引っ越してきた若いカップルが毎晩セックスしていたのも理解出来る。
何年も前にぼくが帰ってくるかもしれないのに母さんがアパートに男を連れ込んでセックスしていたのも理解出来る。
モララーさんとクーが親子なのにセックスしているのも少し理解出来る。
セックスは麻薬だ。またしたい。何度も重ねればきっと中毒みたいになるだろう。
色んな懸念、不安材料をセックスはふっ飛ばしてしまう。
挿入の瞬間、行為の最中、射精の余韻は恍惚となるほどだ。

クーが着替え終わってベッドに座る。ぼく達は背中を向け合って座る。
これからどうしようか。何も考えていなかった。勢いだったからだ。
これでぼくとクーの関係性は大きく崩れた。元々崩壊していたようなものだがこれで決定的だろう。
しかしクーはモララーさんにも母さんにも告げ口をしないと思う。ぼくに乱暴されたと訴えたりしないだろう。
そもそもぼくがクーとモララーさんの秘密を知っているからだ。
ぼく達は口にすれば家庭を崩壊させる事の出来る互いの秘密を持ち合うのだ。
核の抑止力みたいなものだろう。きっとこの家庭はこのまま維持される。

(*゚ー゚)「クーはさ」

ぼくは何気なく口を開く。もう何を聞いたって構うまい。聞きたかった事を全部聞こう。

(*゚ー゚)「どうしてモララーさんとするようになったの」

クーは暫く答えなかった。無視しているのではなく考えているようだった。
ぼくはそれを待った。話してほしかった。

川 ゚ -゚)「…気づいたら、そうなってた」

(*゚ー゚)「え?」

曖昧な表現からクーは話し出す。

川 ゚ -゚)「小さい頃から教えられて、お父さんとエッチするのは普通だと思ってた」

(*゚ー゚)「…いつからしてたの」

川 ゚ -゚)「初めて生理が来た時からだから、小六ぐらい」

南房総の実家でモララーさんの離婚は十四年前だと言っていた。
当時クーはまだ幼子である。それからクーはモララーさんずっと二人暮らしだった。
つまりクーにとってモララーさんが全てだったのだ。モララーさんが娘に教えるべきではない事を行なっても咎める者がいなかったのだ。
クーは父親とセックスするのはおかしな事だと気づかずに成長してしまったのだ。そのために親子のセックスが続いているのだ。
一般的な親が幼い我が子に家事の手伝いをするのは当然なのだと教えこむように、モララーさんは娘にセックスを教えたのだ。


142 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:05:57 aQB24ri20
(*゚ー゚)「おかしいとは、思わなかったの」

川 ゚ -゚)「大きくなってから自分の家がおかしいとさすがに気づいた。
     でもお父さんは夜の事は決して誰にも言わないよう強く言っていたし、黙ってた」

社会的にも倫理的にもおかしな事だと気づいても、クーはモララーさんとのセックスをやめなかった。
それはやはり、

(*゚ー゚)「モララーさんの事が好きなの」

川 ゚ -゚)「好き、なんだと思う」

うん、好きなんだとクーは続ける。

川 ゚ -゚)「私にはお父さんしかしなかったし、エッチする時のお父さんはいつも優しかった。
     お父さんが再婚するって聞いた時すっごく嫉妬したし、それからもお父さんが私を求めてくれて嬉しかった」

(*゚ー゚)「モララーさんはなんで母さんとしないの?」

川 ゚ -゚)「妊娠してるからだって。 だからお父さんがまた私のところに来てくれた」

(*゚ー゚)「はぁ…」

そんな理由だったのか。では今のモララーさんがクーを求めるのは母さんの代わりではないのか。
それを察したのかクーが口を開く。

川 ゚ -゚)「別にあの人の代わりにエッチしてるって分かってたけどそれでも良かった。
     それで私の事を見てくれたし」

呆れてぼくは言葉を失う。クーはモララーさんに依存しすぎている。
父子家庭だし仕方ない面はあるとしても許される状況ではない。
それにクーをこうしてしまったのは他ならぬモララーさんだ。


143 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:08:04 aQB24ri20
(*゚ー゚)「本当に、モララーさんが好きなの」

川 ゚ -゚)「お父さんが好き。 ずっとそうだったし、これからもそうだと思う」

ある意味ではモララーさんの洗脳である。親の躾というのは子供にとって絶大だ。
そこでモララーさんは娘をセックス出来るようコントロールしてしまったのだ。
こうしてセックスする事を拒まない娘が完成してしまったのだ。
クーはすっかりモララーさんに依存しきっている。

(*゚ー゚)「でも、暴力を振るわれるんでしょう」

川 ゚ -゚)「…それは」

クーは口籠る。しかしクーの体じゅうにある痣こそが動かぬ証拠だ。

川 ゚ -゚)「…ご飯を残したりするとよく叩かれた。 お父さんが仕事で何かあるとそれでも叩かれた。
     だけどエッチする時は優しかった。 最近はしてる時もあるけど…」

モララーさんのクーへの暴力は案の定日常的なものだった。クーにはモララーさんしかいないから逃げ場などない。
クーは恐らく慣れてしまったのだ。モララーさんからの暴力のある生活が何年も続いて慣れてしまった。
セックスの最中に叩かれても慣れてしまった。モララーさんしかいないから。

ぼくは同情すら出来なかったクーがとても可哀想なのだと感じてきた。
自分がそうだったように子は親を選べない。生まれる家庭を選べないのだ。
ぼくは母さんの元に生まれてしまったし、クーはモララーさんの元に生まれてしまった。
二人きりという閉鎖的な家庭で本来ありえない親子のセックスが日常化してしまったのだ。
暴力を振るわれても求めてしまうのだ。求められると喜んでしまうのだ。それほどに依存してしまっているのだ。
社会的倫理的におかしな行為と知りつつもやめられないのだ。本来父親から注がれるべき愛情とは違った劣情を愛おしいと感じてしまうのだ。

クーがぼくと母さんに冷たくあたっていたのはモララーさんを取られた嫉妬心からだ。
しかしそもそものクーのモララーさんへの愛こそがモララーさんによって植え付けられたものではないだろうか。
怒った時のモララーさんによる暴力と、優しい時のモララーさんのセックス、その使い分けがそう思わせたのではないか。


144 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:12:45 5i2FaZIU0
しえん


145 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:13:17 aQB24ri20
クーは本当にモララーさんの事が好きなんなのだろうか?
それは洗脳であり、依存ではないだろうか?
見事にモララーさんの思惑通りに生きているのではないだろうか?

ぼくはクーがモララーさんから卒業しなければならないと思っていた。
しかしそれは実は逆で、モララーさんこそがクーから卒業しなければいけないのだ。
言うなればクーをモララーさんから解放すべきなのだ。

川 - )「…なんでこんな事話したんだろ。 言うつもりなかったのに」

クーが呟く。顔を手で覆う。

川 - )「混乱してるんだ、私。 気持ちの整理が追いつかない…」

(*゚ー゚)「ごめん」

素直にぼくは謝ってしまう。罪悪感などなく、復讐心と性欲を満たすべくやったのだが急にクーが可哀想な人間だと思えてきたからだ。
ぼくの予想は当たっていたが外れていた。これからどうするべきなのかは考えなおさなければなるまい。

川 - )「…謝ったって遅い」

(*゚ー゚)「…クーが悪いんだよ、ぼくはクーと普通に家族になりたかった」

母さんだってそうだよ、と付け足す。

川 - )「…ごめん」

今度はクーがすんなり謝る。意外だった。

川 - )「…だって、嫌だった」

(*゚ー゚)「…」

川 - )「…ずっと二人だったのに…いきなり再婚だなんて」

気持ちは分かる。ずっと二人で暮らしてセックスまでしていた父親が急に再婚すると言い出したのだ。
納得いかないのも嫉妬するのも仕方ないと思う。セックスするほどの仲なのに私はなんだったのか、といったところだろう。


146 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:20:33 aQB24ri20
川 - )「私だって…嫌だった…」

気づけばクーは泣いていた。ぼくは驚いて振り返る。
クーは体育座りになって顔を埋めて泣いていた。
哀れだった。その後ろ姿はただただ哀れだった。
どうすれば良いか分からず、ぼくはとりあえずクーを後ろから抱きしめた。
するとクーはぼくの腕に掴まって泣いた。ひたすらに泣いた。
クーの中の長年溜め込まれたものが流れ出るように泣き続けた。
モララーさんは家にいない。母さんも家にはいない。泣ける時に泣くべきだとぼくは思った。
だからぼくはクーが泣き止むまでずっと抱きしめていた。今しがた自分を乱暴した男に抱かれながらクーは泣いた。

ぼくとクーの関係はリセットされた。もうこれまでの関係は終わりだ。
しかしそこで終わる訳ではない。ぼく達はどう足掻いても家族なのだから。


147 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:21:37 aQB24ri20
5 おわり

つづく


148 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:22:29 aQB24ri20
支援ありがとうございました!


149 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:26:58 5i2FaZIU0
乙ー
ここからどう転がるか気になる展開になってきた


150 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 12:59:16 MyW7.DNY0

とりあえずイーブンにまで持ち込めたって感じだな…


151 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 20:26:30 I.BbLiZU0
こりゃ対モララーが怖いな
にしてもどう転んでもハッピーで終わる気がしない


152 : 名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 20:57:39 WYfPd9bE0
乙です


153 : 名も無きAAのようです :2015/06/04(木) 23:20:09 W3fu9pZI0
ややエロどころか

ややエロどころか!


154 : 名も無きAAのようです :2015/06/06(土) 18:16:11 pTXieR7w0
ありがとうごさいます

>>149
来週で終わりなんすよ…

>>151
ハッピーエンドなんすよ…

余談なんですがあまりにも可愛らしい女顔というしぃの設定が殆ど活用されてない訳ですが元々はクーに下着の件がバレてそれからクーの半ば玩具になり強制的に女装させられてしぃ自身どんどんハマってしまうというのが初期案だったためです
また3の頭でようやく自分は生まれる家庭を間違えたのだと気づいた、とまで言わしめたのはしぃが無責任に自分を身篭ったデレをわりと本気で恨んでいる節があり最終的にしぃとクーがどうしようもない家庭を捨てて駆け落ちするエンドだったためです
バッドエンド続きだったのでボツになりました〜


155 : 名も無きAAのようです :2015/06/06(土) 23:14:37 lVIKhquc0
なんと
円満に終わるのか


156 : 名も無きAAのようです :2015/06/07(日) 07:11:47 EokZzrhc0
>>1でハートフルとか言ってて見事に騙されたし油断はできない


157 : 名も無きAAのようです :2015/06/07(日) 09:05:49 HXLaadkU0
だよな
モララー変態だもん和解できる気がしねぇ


158 : 名も無きAAのようです :2015/06/07(日) 10:54:59 ctDzLMmU0
ハートフル(ボッコ)の次は(アン)ハッピーエンドしか見えないんですがそれは


159 : 名も無きAAのようです :2015/06/09(火) 10:49:49 8Y5JfE3A0
家族ゲームの終わり方が頭をよぎったがあぁなりそうにはないな


160 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:35:40 QRqPiG6.0
>>156
1の事は許してクレメンス

>>157
ハッピーエンドとは言ったが…和解するとは言っていない…ッ!


161 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:36:31 QRqPiG6.0
※やっぱりエロがあります


162 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:38:50 QRqPiG6.0


6


ぼくはクーという人間を見誤っていたのだと思う。

平日の夕方。ぼくとクーだけが家にいる。
モララーさんはまだ仕事だ。帰宅は二十一時ぐらいだという。そして母さんもパートの残業があるらしい。
今日は勤務先のスーパーマーケットで棚卸しがあり社員もパートも総出で当たるのだそうだ。
即ちぼくとクーは二人きりである。まさしくチャンスである。

ぼくは隣の部屋のドアをノックする。中から返事が返ってくる。
ドアを開けると制服からジャージに着替えたクーがぼくを一瞥した。
家で二人きりのタイミングを見計らってぼくが訪問してきたのだからすぐにクーは理解したようだった。

ぼくがクーを脅して行為に及んでから既に二週間ほど経っている。
その間に分かったのは、クーはとても臆病な人間だという事だ。
普段の冷徹なクーは実のところ強がりで、本当はとても臆病だった。
モララーさんの暴力に恐怖して支配下に置かれていたクーはぼくにまで怯えるようになったのだ。
これは予想外であった。クーの態度が微妙に変わってぼくは気がついた。

初めて行為に及んでから数日が経った日の事だ。
モララーさんはまだ帰宅せず母さんは買い物に行って、ぼく達は家で二人きりだった。
ぼくはまたセックスがしたくなった。あれほどの快感をもう一度味わいたいと思った。
再びクーを脅したのだ。あの日みたいにしたいと言ったのだ。
正直突き放されると思っていたし、最低だと罵られるだろうと想定していた。
それでもモララーさんに喋るぞと脅してやろうと考えていた。
しかしクーは嫌そうな顔をしつつもすんなりと受け入れたのだ。
ちゃんとコンドームを付けるなら、すぐに終わらせるならと言ってぼくの要求を呆気なく飲んだ。

クーはぼくに恐怖を覚えていた。逆らえなくなっていた。
それに乗じてぼくは行為に及んだ。家で二人きりになる時を狙ってクーの部屋を訪れた。
まるでモララーさんだ。自分でも最低の行為だと思う。

だけどクーへの復讐心は満たされても性欲ばかりは満たされないのだ。
性欲は無限だ。底なしだ。一時満たされてもまたすぐに渇く。
それに家がぼくとクーの二人だけになる機会はわりとある。
ぼくとクーは部活動に所属していない学生で生活パターンは似ている。
それにモララーさんや母さんの仕事が忙しい時はよく二人だけになるのだ。

川 ゚ -゚)「…なに」

分かっているくせに。ぼくは意地悪く笑う。

(*゚ー゚)「なんだと思う?」


163 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:41:45 QRqPiG6.0
母さんもモララーさんも帰りが遅い事をクーだって当然知っている。

川 ゚ -゚)「…また?」

(*゚ー゚)「うん」

クーが顔を背ける。だけど断れない。知っている。

(*゚ー゚)「ほら」

ぼくはクーのベッドに座る。そうするとクーが隣に座る。モララーさんの時もそうしているのだろうか。
先立ってぼくが服を脱ぐとクーもそれに倣う。それですら見られるのをクーは嫌いいつも背中合わせにそれをする。
その後全てを見るのに身体の痣を見られるのが嫌なのだろうか。服を脱いでぼくとクーは向かい合う。
やはり痛々しい傷だらけの身体。カーテンを閉めて蛍光灯のスイッチを切ってもそれは見える。
ぼくは極力部屋を暗くする。痣を目立たくする。クーへのほんの少しながらの配慮だ。
クーの柔らかい身体に触れる。もうクーが抵抗する事もない。
瑞々しい身体を楽しんで、たっぷりとクーに咥えてもらってから、コンドームを取り出す。
コンドームはクーの机の引き出しに普通に仕舞ってあった。とても自然に溶け込んでいた。
いつもモララーさんがクーの部屋に来てセックスをするのでもうコンドームの箱自体を置いてあるのだ。
クー曰く残数など数えていないから大丈夫だそうだ。ぼくは一つ箱から取り出した。
もうコンドームを付けるのは三回目だ。袋を破って、先端を摘んで、肉棒に当てる。

(;*゚ー゚)「あ、あれ」

しかしなかなか上手くいかない。二週間前まで童貞だった身だ。
相変わらず上達しない。見かねたクーがコンドームを取る。

川 ゚ -゚)「貸して」

器用にするするとコンドームをはめる。慣れた手つきだ。
きっとモララーさんとする時はクーが着けているのだろう。
モララーさんの事だからそういう事もクーに教え込んだのだと思う。
準備が整いクーの中に迎え入れられる。さすがにもうものの数分で絶頂を迎えたりはしない。
あの時は初めてで加減が分からなかったし、何よりコンドームを着けていなかったのだ。
クーはいつも口を手で抑えて声が漏れるのを我慢している。
そんなクーをもっと困らせたくてぼくは強めに突いてみたりする。
不意にリズムを崩されるとクーは身を捩って悶えるのだ。

でもぼくがやっているのはモララーさんと同じだとは思う。
モララーさんは暴力でクーを支配したし、ぼくはクーを脅して行為に及んでいる。
クーは臆病者だから受け入れてしまうのだ。だから普段は強気な態度で誤魔化しているのだ。
本当は弱い自分の姿を他人に見せたくないのだ。しかしぼくは見てしまった。
クーのか弱い情けない姿も、身体の傷もぼくは見てしまった。


164 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:44:10 QRqPiG6.0
ぼくは行為を重ねるにつれ、クーが可哀想な人間だと本気で思い始めていた。
新しい痣も増えている。モララーさんの暴力は見えないところで続いているのだ。
日頃の優しいモララーさんのストレスは夜に発散されているのだろう。
セックスが終わって黙って服を着るクーを見ると、初めのうちにはなかった罪悪感すら覚えるようになった。
クーはモララーさんの暴力から逃げられず、ぼくとの行為からも逃げられず、可哀想なのだ。
そう思いながらぼくはクーの中で射精する。クーに覆いかぶさってありったけを注ぎ込む。
たとえぼくが罪悪感に苛まれてクーに迫るのをやめてもただモララーさんとのセックスが続くだけだ。
このニセモノ家族は永遠にこのままだ。このままでいいのだろうか。
コンドームをずるずると外して結ぶ。これは上手に出来るようになってきた。

川 ゚ -゚)「これで、満足?」

(*゚ー゚)「うん」

クーは息を整えて立ち上がってさっさと服を着る。ぼくも服を着る。
ぼくはいつまでこんな事を続けるのだろう。この会話のない時間はぼくに妙な罪悪感を与えるのだ。
当然クーは好きでもないぼくとセックスさせられて嬉しくはないし、何なら弱みを握っているぼくに死んで欲しいとすら思っているかもしれない。
しかし性欲は強力だ。クーとしたい。それに変わりはない。
ぼくはクーとしたいのだ。それは好きとは違うと思うだろう。
突然同年代の女子と同居すれば性の対象になるのは当然だ。
クーは性の対象だったから、セックスしたいと思った。
それだけ。それだけだと思う。
でもぼくはクーを可哀想だと思い始めている。
何とかしてやりたいとも思っている。

あれ?

(*゚ー゚)「クー、ぼくはさ」

ぼくは。

(*゚ー゚)「君を解放したいんだと思う…」

川 ゚ -゚)「はぁ?」

クーが怪訝そうな顔をする。


165 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:48:28 QRqPiG6.0
✕それは好きとは違うと思うだろう。
○それは好きとは違うと思う。


166 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:49:57 QRqPiG6.0
(*゚ー゚)「クーは、モララーさんから解放されるべきだと思う」

川 ゚ -゚)「…余計なお世話だ」

いや、本当にそうだ。クーはモララーさんから解放するべきなのだ。
クーがモララーさんを愛してしまっているのも、セックスしてしまうのも、暴力を受け入れてしまうのも、モララーさんの支配下にあるからだ。
モララーさんから解放されるべきなのだ。実の娘への劣情を受け入れるべきではないのだ。本来抱くはずのなかった父親への愛情を捨てるべきなのだ。
それさえなければクーは普通なのだ。それさえなければぼく達は普通の家族だったのだ。

川 ゚ -゚)「本当に、余計なお世話だから」

もう出てって、とクーに部屋を追い出される。ぼくは大人しく自分の部屋に帰る。
ベッドに寝転がって、考える。考える。クーを解放する術を考える。
解放すべきだ。解放されるべきなのだ。


§  §  §


季節は梅雨に入っていた。一年で一番嫌いな時期だ。
しとしとと降り続ける雨は気分を暗くさせる。憂鬱になってしまう。
毎日の登校だって億劫だ。傘が手放せなくなる。
学校の最寄り駅を降りると色とりどりの傘がずらっと続いている。
傘には個性が出る。それぞれ個人の投身でもある。
自分の好きな色だったり、親が適当に購入してもらったり色々だ。
風に強い高価な傘もあるし安物のビニール傘もある。
ぼくはもう同じ傘を三年ぐらい使っている。
貧しい母子家庭だったし物持ちが良いとよく言われる。

日曜日だというのに雨は相変わらず降っている。
窓を雨粒が叩く。これでは出かける気が起こらない。
モララーさんは珍しく休日出勤であった。何か会社でトラブルがあったのだという。
ぼくはリビングでソファーに座りぼんやりとテレビを見ていた。退屈なバラエティ番組だ。
高校生の代名詞リプトンミルクティーに差したストローに口をつける。
慣れ親しんだ五百ミリリットル紙パックを机に置く。


167 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:52:44 QRqPiG6.0
ζ(゚ー゚*ζ「降ってるわね〜」

母さんが隣に座り、パンフレットを机に置いた。

ζ(゚ー゚*ζ「これ、式場のパンフレットなの」

(*゚ー゚)「へぇ」

パンフレットを手に取る。
白亜のチャペル、キャンドルに彩られるプール、豪華な食事などの写真が並ぶ。
結婚式など出た事がないぼくとしては別世界のように感じる。

(*゚ー゚)「すごいね」

ζ(゚ー゚*ζ「でしょ〜」

(*゚ー゚)「いいんじゃない?」

ζ(^ー^*ζ「でしょでしょ〜」

母さんはパンフレットを置いてリビングを出て行く。
洗濯をするらしい。今日も部屋干しだ。梅雨の時期では仕方ないだろう。
それに狭かったアパートと比べれば部屋干しも容易いものである。
ぼくはパンフレットを更にめくる。豪華絢爛といった感じだ。
ちょうどそこでクーがリビングに入ってくる。

(*゚ー゚)「あ、クーも見る?」

クーが冷蔵庫から紅茶花伝を取り出してからソファーに来る。

川 ゚ -゚)「式場?」

(*゚ー゚)「そう」

クーがパンフレットに目を通す。

川 ゚ -゚)「いいところだね」


168 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:55:08 QRqPiG6.0
(*゚ー゚)「クーは結婚式行った事あるの?」

川 ゚ -゚)「中学の時に親戚の結婚式に一度だけ」

ぼくはクーとの会話が増えたように思う。
別にぼくはもっと話せと迫った訳ではない。まぁ言おうかと考えたけど自主性がなければ意味が無いのでやめた。
しかし実は臆病なクーがぼくに対して恐怖している事と関係があるのだろう。
クーはぼくの存在を無視出来なくなった。恐怖する存在になったからだ。
ぼくははじめ気が付かなかったが、きっとクーはいつもモララーさんの機嫌を伺っていたのだろう。
クーは弱い人間だ。そうやって生きてきたのだ。そして新たに恐怖するぼくにもそうやって接するのだ。

クーの強さはニセモノだ。
普段は気丈に振る舞って自分を強く見せている。けれど臆病だという事実に変わりはない。
こっ酷くフッた男どもから暴力でも受ければたちまち支配されてしまうだろう。
逆恨みでレイプでもされれば従順になってしまうだろう。
それほどにクーという人間は脆く弱い。
強く触れたら壊れてしまう繊細な硝子細工のように脆く弱い。

そしてとにかくクーは恐怖心と依存が強い。見た目とは真逆の人間だと思う。
脅してセックスした事は取り戻せないし、互いの優位を争う関係はリセットされた。
これからはきっとこの関係が続くだろう。いつまで続くかは分からない。
このバランスが保たれるかは明らかではない。しかし今はそれで良いと思う。
普通に家族として仲良くなりたかったけど、別にこれでも良いと思えるのだ。

あとは母さんともう少し話してくれればな、とは常々感じる。
モララーさんから強く言われているのに、クーの態度はまだ軟化しない。
他ならぬモララーさんへの愛情とそれによる嫉妬からなのは明白だ。
それにも関わらずモララーさんはクーに母さんと打ち解けるよう求めている。

矛盾している。矛盾しているのだ。
クーがモララーさんを好きな以上、それは無理なのだ。
モララーさんに依存している今現在では、嫉妬して当然なのだ。
だからクーとモララーさんを引き離す事こそが最善の解決策なのだ。
ぼくがようやく得た結論はそれであった。


169 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 10:58:43 QRqPiG6.0
その解決に導く方法が一つある。どう転ぶか予測しにくいものだ。
しかし上手く行けばクーとモララーさんを引き離せるかもしれない。
逆にぼくの立場が危うくなるかもしれないし、それこそ脆弱な家庭が崩壊するかもしれない。

ぼく達はニセモノ家族だ。戸籍上は家族であってもやはりニセモノ家族だ。
ぼくの目標が達せられた後でもニセモノ家族のままだろう。
だけどぼくは実行しようと思う。ニセモノ家族が少しでも本物の家族に近づくために。


§  §  §


ニュータウンに夕陽が沈む。一日が急速に終わりに向けて加速する。
都心に出ていた住民達が次々とニュータウンに帰ってくる。
朝とは逆の光景だ。駅からぞろぞろと住民達が出てくる。
ニュータウンは一軒家が多いが駅前にはマンションも多い。
列車の車内広告はこのニュータウンのマンションばかり並んでいる。

ぼくは夕陽に照らされながら駅からの道を歩く。今日は梅雨の合間の晴天だ。
駅を出て鉄道を挟む形で国道は東西へ続く。線路をライナーが飛ばしていく。
四月の頭に引っ越してきたのだから、もうニュータウンでの生活も二ヶ月半といったところだ。
ぼくはニュータウンでの暮らしに慣れてきた。自分の家も覚えられた。
都心から遠いし住民のプライドは高いがニュータウンに愛着も感じている。
国道から側道へ。同じ顔の家を抱える小隊の中へ入っていく。小隊の二列目、数えて五番目。
フリードは停まっていない。モララーさんの帰宅は遅いと言っていた。

(*゚ー゚)「ただいま」

玄関にはクーの靴がある。もう帰っているのだ。
リビングに行くとラップが張られた夕食が置かれている。
母さんは仲良くなった近所のご婦人方と食事に行っている。
どこか抜けていて社会的常識も少し欠如している母さんだが近所づきあいは相変わらず上手い。
そもそも母さんは男女問わず好かれやすい。昔からそうだ。

テーブルの脇には母さんのスマートフォンが置かれている。
昨日ぼくが誤って水没させてしまったのだ。
防水仕様ではない母さんのスマートフォンは見事に壊れた。
食事会の待ち合わせで使えないけど多分大丈夫でしょう、と母さんは相変わらずのマイペースっぷりを見せてくれた。
明日にでも修理に持っていくと言っていた。


170 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:01:38 QRqPiG6.0
ぼくは自分の部屋に入る。またクーと家で二人きりだ。
モララーさんは仕事で帰宅が遅い。母さんも食事会に行っている。
あと数時間は二人きりだ。ようやくチャンスが巡ってくる。
願ってもないチャンスである。計画を実行するなら今しかない。
ぼくは制服から部屋着に着替える。スマートフォンを手にとってメールを開く。

無料通話アプリの普及によってメールの使用する機会は本当に減った。
通話に並ぶ最もポピュラーな通信であったはずのメールがここまで存在の薄いものになるとは思わなかった。
一時期あれほど中高生の間で大流行となったソーシャル・ネットワーキング・サービスも今では下火だ。
いわゆるガラケーとメールの衰退だって当時は予想すら出来なかったものだ。
今ではメールはスマートフォンではなく未だにガラケーを使う人と連絡する時のみ使用している。
我が家ではモララーさんぐらいだ。仕事でも使うのでガラケーの方が良いのだという。

時間を逆算してメールを作成して送信予約をする。これで準備完了だ。
そして今日はスマートフォンを持参する。これが大きな武器になる。
ぼくは部屋を出る。静かな廊下を歩く。隣の部屋のドアをノックする。
普段ぼくはクーの部屋のドアを叩いたりはしない。家に二人きりの時だけだ。
即ちぼくがクーの部屋のドアをノックするというのはセックスしたい意思表示そのものなのだ。
クーも今は家に自分とぼくしかしない事を知っている。このノックが何を示しているか理解している。

川 ゚ -゚)「…入って」

声が返ってくる。まぁ返ってこなくてもぼくはドアを開けるだろう。クーはぼくにもう逆らえないのだから。
ぼくがクーと関係を持っている事はきちんと隠している。母さんにもモララーさんにも今は知られてはいけない。
必ず二人がいない時にしかしないし、コンドームもティッシュにまるめて気づかれないように処理する。

川 ゚ -゚)「…また?」

(*゚ー゚)「うん」

川 ゚ -゚)「…最近多くない」

(*゚ー゚)「そうかな」

机の上には参考書とノートが置かれている。勉強中だったらしい。
クーは三年生で受験生だ。ちょっと申し訳ない。
確かにここ最近のぼくは家で二人きりになると決まってクーの部屋に行く。
タイミングを見計らってはクーに求めている。クーがぼくに抵抗出来ない事をいい事に。


171 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:03:45 QRqPiG6.0
本来セックスとは二人の合意で行うものだ。二人の意思が合わさって起こるものだ。
だからぼくはどこか幕引きを図るべきだと思っていた。
それがまさしく計画を実行する今日だと思う。今日を最後にするべきだと思う。
正直クーとはセックスしたい。めちゃくちゃ気持ちいい。これからもしたい。
しかしクーを脅してセックスし続けるのであらえばモララーさんとやっている事は同じだ。
だから今日で最後。潔く、最後。

遮光カーテンを閉める。蛍光灯のスイッチを切る。途端に部屋は暗くなる。
うっすらと夕陽が差し込む。国道から離れた住宅地は静かだ。下校中の近所の小学生の話し声がたまに聞こえる。
クーはぼくとのセックスに慣れつつあった。渋々ではあるが諦めが早くなった。
モララーさんとセックスする事に慣れたように。モララーさんから暴力を受ける事に慣れたように。
そうやってクーは臆病だから受け入れてしまうのだ。本当に弱い人間だとつくづく思う。

クーをベッドに寝かせて服を脱がしていく。ぼくも慣れつつある。
抵抗さえされなければ服を脱がすのは容易だし、ブラジャーのホックを外すのも慣れれば簡単だ。
クーの胸を存分に楽しむ事だって出来る。つんと上を向いた乳首を舌で転がすとクーが小さく声を漏らす。
女性の胸はやはり魅力的だ。包容力がある。大人になっても男は胸が好きだ。
こうやって揉んでいるだけで幸せになれると思う。モララーさんもそうしているはずだ。
モララーさんによって開発された秘部に右手を持っていく。
指でかき混ぜるとクーが身を捩る。本人の意思とは裏腹に秘部は指を受け入れる。

一昔前には処女は初夜まで維持すべきという考えが一般的であったが現代社会では薄れてしまった。
中にはこうして娘の処女を奪ってしまう父親もいるのだ。何せモララーさんは独占欲がとても強い。
クーが同級生からストーカーまがいの被害を受けていた時のモララーさんの行動がそれを指し示しているだろう。

(*゚ー゚)「クー」

ぼくが下着を脱ぐとクーが身体を起こす。特に指示しなくても髪をかき分けてぼくの大きくなった肉棒を握る。
その妖艶な仕草はモララーさんと身体を重ねるうちに自然と生まれたものだと考えられる。
クーは従順になった。きっとモララーさんとする時にしている事をぼくにもしているのだ。
モララーさんから教え込まれたようにセックスの手順を踏んでいるのだろう。
クーにとってモララーさんこそ全てであったし、モララーさんとしかセックスをした事がない。
そのためにクーのセックスは全てモララーさんのために特化したものだ。色がついているのだ。


172 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:06:34 QRqPiG6.0
クーは根元から裏筋にかけて舌を這わせるのをよくやる。
何度もそれを繰り返してようやく口に含む。
時間をかけて肉棒が沈み込んでいく。

ぼくは壁に掛けられた時計を見る。そろそろ頃合いだ。
遂に最後のフェイズに移行する時だ。

(*゚ー゚)「そろそろ入れたい」

クーが口を離して頷く。
コンドームを取りにベッドを降りる。机の引き出しを開ける。
その僅かな隙を見て、ぼくはクーのスマートフォンを手に取る。
電源ボタンを押す。ロック解除画面になる。
パターンによるセキュリティロックがかかっている。
しかし必要ない。電源ボタンを今度は長押しする。
電源を切るか訊ねる項目が表示させる。
迷わずぼくはタップする。画面が暗くなる。
スマートフォンの電源が落とされる。
電源と落とすだけならロックの解除は不要なのだ。
ぼくは元あった場所にスマートフォンを置く。

川 ゚ -゚)「どうして立ってるの」

(*゚ー゚)「あ、いや」

ぼくはベッドに戻る。気づかれていない。上手くやった。
もうぼくのスマートフォンから予約していたメールが送信されたはずだ。
そしてクーのスマートフォンの電源は落とされた。

(*゚ー゚)「ねぇ」

川 ゚ -゚)「なに」

ぼくの肉棒にコンドームをつけようとしたクーが顔を上げる。
いつの間にかクーが自ら装着してくれるようになった。
ぼくが装着に手間取るのもあるし、普段モララーさんとの時もそうしているからだ。
たとえ壁越しの音だけでもセックスの様子は伝わってくるものだ。

(*゚ー゚)「いつもさ、口でゴムつけてるでしょ」

川 ゚ -゚)「…まぁ」


173 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:08:49 QRqPiG6.0
(*゚ー゚)「それさ、やってみせてよ」

ぼくにとってはクーとセックスするのは今日で最後だ。今は言わないけれど。
だから最後ぐらいそれを見てみたい。

川 ゚ -゚)「…いいけど」

素直にクーは応じる。円形のコンドームを咥えて肉棒にあてがう。
ゆっくりと肉棒がクーの口の中に収められていく。
コンドームが途中で引っかかる事なく装着されていく。
根元まで達し、確かめるように何度か頭を動かす。

川 ゚ -゚)「…ほら」

クーが頭を上げると肉棒にきちんとコンドームが装着されていた。
すごい、本当に手を使わないでつけるやつだ。
モララーさんはこれも娘に教え込んだのだろう。物好きだ。

クーがベッドに横たわる。ぼくは足元に座る。
ちょうど太もも同士が当たる。女の子の身体は本当に柔らかい。
何度もセックスするうちに言葉も指示も不要になってきた。
クーにとっては事務的なものかもしれないけど、それでも自然と流れが出来てきた。

クーの中へ肉棒を進ませる。コンドームを介しても温かさが伝わる。
これが最後。今日で最後。この挿入の瞬間もこれで最後。
クーの腰を掴んでゆっくり動かす。飛ばし過ぎるとあの日みたいに暴発する。
じっくりと時間をかけてクーとの最後を楽しむ。
ぼくは何度も壁に掛けられた時計を盗み見る。

川 ゚ -゚)「…なに」

ぼくの視線に気づいたクーが訝しんだ。

(*゚ー゚)「ううん、なんでもない」

予想される時間までもう少しだ。それまでに終わってしまってはいけない。
最大の打撃を与えるために。言い逃れ出来ない窮地にするために。
射精を促すようにクーの中が締め付けてくる。
徐々に近づく絶頂を感じぼくはいったん肉棒を引き抜く。

(*゚ー゚)「ねぇ、後ろからやってみたい」


174 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:11:25 QRqPiG6.0
川 ゚ -゚)「…」

クーは少し不服そうにしながらも、黙ってそれに応じる。
ぼくに尻を向けてベッドの上で四つん這いになる。
好きでもない男にこんな格好をするのは屈辱的だろう。
ぼくは近づいて肉棒を押し当てる。前でするより入れやすい。
少し力を入れただけでクーの中へ収まっていく。
まさしく動物の交尾だ。動物的な格好だ。
顔こそ見えないがクーは恥辱に震えているかもしれない。
腰を打ちつける音が部屋じゅうに響く。これではぼくの部屋から聞こえるはずだ。

そこで静かな住宅地に来訪者が現れる。
家の外から車の音が聞こえる。
近づいてくる。着実に近づいてくる。
そうしてこの家の前でブレーキ音が響く。
間違いなく家の前で停車した。
すぐに荒々しくドアが閉まる。
予想よりも早い。さすがだ。感心する。
クーはまだ気づいていない。
ぼくに突かれながら僅かに喘いでいる。
さぁ、クーを解放する時だ。
男の声が聞こえる。焦っている。
しかも家の中からだ。
ようやくクーが気づく。

川 ゚ -゚)「…え」

クーが間抜けな声を出す。
この時間にはいないはずの人間だからだ。
まだ帰ってくるはずのない人間の声。

「クー!」

今度ははっきりと聞こえる。
クーが事態に気づく。
自分が置かれた状況に気づく。
そう、まさしく最悪のシチュエーションだ。
それにクーは気づいた。ようやく気づいた。

川;゚ -゚)「うそ、帰ってきた!?」

そう、帰ってきたよ。
愛すべきモララーさんが。
ぼくとセックスしている最中に。
今さっき予約送信したぼくからのメールによって。


175 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:13:51 QRqPiG6.0
川;゚ -゚)「だ、だめ、離して…!」

(*゚ー゚)「だめだよ」

もう遅い。全てが遅い。
最悪の状況が整っている。
逃げる事など出来ない。

「おい、クー! いるのか!? しぃ君は!?」

声が急速に近づく。
階段を駆け上がる音が響く。
クーが逃げようとする。
しかしぼくは腰を強く掴んで逃さない。

(; ・∀・)「クー!?」

バタン、と勢いよく部屋のドアが開かれる。
憔悴しきったモララーさんが部屋に飛び込んでくる。
そこでクーと再会する。
裸でセックスをしているクーと再会する。
義理の弟に後ろから突かれるクーと再会する。
ぼくはパンパンパンパン腰をぶつけながら

(*゚ー゚)「あ、モララーさん」

と呑気に挨拶をした。

(; ・∀・)「は…」

モララーさんはその場に突っ立っていた。
面白いぐらいにフリーズしていた。
あれが人間の処理能力を超えた瞬間だ。
目を丸く見開いて裸のぼくとクーを見ていた。

川;゚ -゚)「ち、違うの、これは…!」

クーが必死に言い訳をしようとするがこの状況では何を言っても無駄だ。
セックスをした痕跡があるならまだしも現在進行形だ。
まさしくセックスの最中だ。一切言い逃れは出来ない。


176 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:20:22 QRqPiG6.0
川;゚ -゚)「ひぐっ!」

それに強めに突くとクーはたまらず声をあげる。
モララーさんの前で。父親の前で。愛する男の前で。
きゅっと締め付ける。絶頂へ一気に駆け上がる。
そのままぼくは射精を迎える。クーの中へ注ぎ込む。
ナイスタイミング。調整したかいがあった。
完璧だ。もう何一つ言い逃れの出来ない状況。
娘と義理の息子がセックスをしている状況。
中にたっぷりと射精している状況。

( ・∀・)「な、何をしているんだ…?」

ようやく我に返ったモララーさんが声を押し殺して訊く。
冷静さを保とうとしているらしい。殴りかかってくるかと思った。
ぼくの前ではまだ優しい父親を演じていたんだ。クーはすぐ殴るくせに。

(*゚ー゚)「なにって、セックスしてました」

川 ; -;)「違うのお父さん、これは…違うの…」

クーは恐怖のあまり泣き出してしまって言葉に出来ていない。
予期せぬタイミングで父親が帰宅し義理の弟とのセックスを見られてしまったのだから、まぁ仕方ない。

(*゚ー゚)「まず騙してごめんなさい、クーが倒れたからすぐ帰ってきてくれという嘘のメールを送りました」

ぼくが未だにガラケーを使うモララーさんにメールで予約送信したのは、クーが家で倒れた、すぐに帰ってきてくれというものだ。
モララーさんに先日やんわり訊いたところ職場から家まで車で二十分。その時間に合わせてこの状況を作っておいた。
クーのスマートフォンの電源を切っておいたので当然連絡は通じない。ぼくもその後にモララーさんから着信があっただろうが応じていない。
モララーさんの性格上飛んで帰ってくるだろうと確信があった。予約送信時間から十七分。早い。さすが。
母さんのスマートフォンは昨日水没させてしまった。いや、ぼくが水没させた。この状況を作るためとはいえ申し訳ないけれど。
そうしてモララーさんは急ぎ帰るしか手立てはなかったのだ。

(*゚ー゚)「モララーさんにぼく達の関係を見てほしくて」

そう言いながらぼくは肉棒を抜く。コンドームにたっぷりと放出された精液を見せつける。
あなたの娘でぼくはこんなにいっぱい出しました。


177 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:23:55 QRqPiG6.0
( ・∀・)「き…君とクーは義理とはいえ姉弟だぞ、姉弟でそんな事をしていいはずないだろ…!」

おぉ、壁越しに聞いた素のモララーさんだ。遂にぼくに敵対心を見せてきた。
モララーさんのニセモノの顔はここまでだ。ぼくと接する時の演技は終わりだ。

(*゚ー゚)「義理とはいえ、ねぇ」

だからぼくもここまでだ。好かれようと努力した良い義理の息子はこれで終わりだ。

(*゚ー゚)「実の娘とセックスしてるモララーさんには言われたくないですね」

( ・∀・)「は…」

またモララーさんが硬直する。
そうか、本当に気づかれていないと思っていたのか。
おめでたい男だ。間抜けな男だ。

( ・∀・)「な、何を言ってるんだ…? そんなはずがないだろう」

すうっと、ぼくは一息。

(*゚ー゚)「昨日は二十四時三十一分に開始。正常位、バックでゴム中出し。二十四時五十七分に終了。
    一昨日は二十四時四分に開始。正常位、バック、正常位でゴム中出し。二十四時三十九分に終了。
    三日前は二十三時五十八分に開始。騎乗位、正常位、バックでゴム中出し。二十四時十九分に終了。
    四日前はなし。
    五日前は二十五時五分に開始。正常位、寝かせてバックでゴム中出し。二十五時三十一分に終了。
    モララーさんはバックでイクのが好きですよねぇ。あとイク前にいつもそろそろイクよ、そろそろイクよと言う。
    ゴムをしているのに中で出すよ、も連呼しますね。そうやって母さんも孕ませました?」

深呼吸。モララーさんの様子を伺う。
唖然としている。反論しようとする勢いをぶん殴ってやった。
どれも本当の事だ。ノン・フィクションだ。盛っていない。
本人が一番よく分かっているはずだ。

( ・∀・)「…なんだ、だからどうしたんだ!?」

本性が出てきた出てきた。ようやくきちんと話せたね。

( ・∀・)「そ、それに証拠なんてないじゃないか! デレは信じないぞ、きっとオレを信じる!」


178 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:28:03 QRqPiG6.0
証拠はぼくが壁越しに聞きました、それだけです、そんな訳ないじゃないか。
バカめ。そんな勝率の低い事をするはずがない。
ぼくはコンドームを縛り、ティッシュで手を拭き、立ち上がって自分のスマートフォンをたぐり寄せる。
わーお、モララーさんから着信数十件。こりゃストーカーも負ける。
そりゃああんなメール送っておいて音沙汰なしじゃ無理もない。
ぼくは動画フォルダを開く。ずらりと日付のみのタイトルが並ぶ。
その中の一番破壊力のある動画を開く。もはやお気に入りだ。
それをモララーさんに向けた。怪訝そうにモララーさんがそれを見る。
画面には白い壁しか映っていない。当然だ。
ぼくの部屋の壁を撮影しただけだ。映像は何も変わらない。
ただし壁越しから聞こえてくる音声は別だ。

『はぁっ、クー、気持ちいい、気持ちいいよ』
『私も、いい♥すごく、気持ちいい♥』
『あぁ〜お父さんイキそうだ、イキそうだよ、そろそろイク』
『ん、出して♥出して♥』
『あーイクイク、出すよ、クー、出すよ!お父さんイクよ!中に出すよ!』
『出して♥ちょうだい♥ちょうだい♥』
『イクぞ、イクぞ、あ、あぁー、あぁー!あ〜〜〜、あーーー』
『すごい、熱い♥ドクドクいってる♥』
『あ〜出たよ、クーの中にいっぱい出しちゃった』
『見せて。わぁ、すごい、いっぱい出たね♥』

動画が終わる。またモララーさんが固まる。
泣きじゃくっていったクーも固まる。本当にこの家の壁は薄いのです。
最新のスマートフォンは音声をクリアに拾ってくれました。
動かぬ証拠だ。二人の生々しいセックスの中継だ。
母さんに見せれば必ずモララーさんだと分かるだろう。
モララーさんとセックスして妊娠したのだから。一年も付き合っていたのだから。
当然モララーさんがバックで果てるのが好きなのとイクイクとしつこく言う癖を嫌というほど知っているだろう。

(*゚ー゚)「他のも見ます?」

( ・∀・)「…」

モララーさんは黙ったままだ。あぁ、クーの都合が悪くなると黙る癖は親譲りか。
本当にいらない部分だけ遺伝するよね。
もう反論出来る余地などない。一切ない。


179 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:31:32 QRqPiG6.0
( ・∀・)「…どうしたいんだ、デレに全部ぶちまけるのか」

観念したようにモララーさんが口を開く。実質上の敗北宣言だ。

(*゚ー゚)「いえ、母さんには何も言いません」

意外そうにモララーさんが眉をひそめる。
バラされるものだと思ったのだろう。
しかしそんな事をすればお終いだ。

(*゚ー゚)「母さんは妊娠しています。結婚式も控えています。今が幸せのまっただ中なんです。
    ぼくは生まれた時から父親がいなかった。新しく生まれる子には、そんな風になってほしくない」

母さんが身篭った以上、もうどうする事も出来ない。幸せならそのままでいてほしい。
たとえ娘に暴力を振るってセックスするような男の遺伝子でも、生まれてくる命を祝福してあげたい。
かつてぼくが祝福されなかったみたいに、寂しい子供になってほしくない。

(*゚ー゚)「だからこのままでいて下さい。 このまま今の家庭を維持して下さい」

モララーさんは母さんを裏切っていたのだ。罪悪感ぐらいあるだろう。

(*゚ー゚)「そしてクーとの身体の関係を断って下さい。 実の娘とする事はおかしい事だ。
    勿論ぼくももうクーとはしません。 姉弟なのだから」

モララーさんが唇を噛んでいる。すぐに頷け。どこまでクズなんだ。
ぼくはもう一度動画ファイルを開く。
音量を最大にする。
スマートフォンから二人の矯正が響く。
大音量の喘ぎ声が部屋に反響する。

(; ・∀・)「わ、分かった、分かった! 分かったから…!」

動画を止める。

(*゚ー゚)「もしまたクーとセックスしようとしたら次こそ母さんに言います。 まず離婚でしょうね」

( -∀-)「…だろうな」


180 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:34:20 QRqPiG6.0
自嘲気味にモララーさんが言う。自覚はあるのだ。
そして今度はぼくとモララーさんで秘密を共有しあうのだ。
クーと関係があった事実を母さんに隠し平然と装い続けるのだ。
普通の家族を演じ、維持させていくのだ。

(*゚ー゚)「それと」これも大事な事だ。「もう一つ、クーについて」

視線を落とす。ベッドで裸のまま静かに泣くクー。
美しい髪に痣だらけの身体。痛々しい姿。

(*゚ー゚)「もうクーに暴力を振るわないで下さい」

クーが顔をあげる。涙と鼻水で汚れた顔をあげる。

(*゚ー゚)「モララーさんはクーに暴力を振るって心を支配した。 モララーさんがしたい時にセックス出来るよう教育した。
    モララーさんはクーの人生を狂わせたんですよ。 自分だけを見るようにしてクーの青春を奪った。
    自分の都合の良い娘に育つよう、ストレス発散と性欲の捌け口としてクーを我が物とした。
    クーは男子との接し方もろくに分からないし体育にも出られない、そんな風にモララーさんがしたんですよ」

最低ですね、ぼくは吐き捨てる。

(; ・∀・)「ち、違う…教育の方針が…」

(*゚ー゚)「母さんが知ればきっと肉体関係よりも慢性的な暴力の方に激怒するでしょうね。
    クーは女の子なのに、可哀想だ」

身体じゅうが痣だらけで、誰にも身体を見せられず、クーはどれほど苦労しただろう。
体育の授業、身体測定、修学旅行、父親によって刻まれた傷でどれだけクーは苦心しただろう。

(*゚ー゚)「クーはモララーさんがそう教育したせいで本当に愛してしまったんですよ。
    モララーさんは本当に一人の女性としてクーを愛していました?」

(; ・∀・)「あ、愛していたさ…!」

(*゚ー゚)「でもキャバで働いていた母さんと付き合ってセックスして妊娠させましたよね。
    母さんが妊娠してセックスさせてくれなくなってまたクーとするようになった。
    違います?」

(; ・∀・)「それは…」

(*゚ー゚)「自分がしたい時にいつでもセックスさせてくれる娘に育てたんですもんね、感心しますよ」


181 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:37:38 QRqPiG6.0
( ・∀・)「…」

またモララーさんは言葉を失う。モララーさんも一生そうやって黙っていればいい。

(*゚ー゚)「もうクーを解放してやって下さい。 クーはモララーさんの拘束なしで自由に生きるべきだ」

( ・∀・)「………分かった」

ようやくモララーさんが認める。これでクーは解放される。長年の呪縛から解き放たれる。

(*゚ー゚)「あと、クーに謝って下さい」

( ・∀・)「…」

(*゚ー゚)「今まで暴力を振るった事、セックス出来るよう教育した事、こんな風に育ててしまった事。
    そうしなければクーは前に進めない」

清算すべきだ。たった一言謝っただけで、過去が消滅する訳ではないけれど。時間は戻らないけれど。
奪われた自由な青春は取り返せないけれど。クーの傷が癒える訳ではないけれど。歪んだ愛情を忘却出来る訳ではないけれど。

(*゚ー゚)「クーはこれから自由に生きるべきです。 青春を駆け抜ける高校三年生です。 自由に恋をして自由に青春を謳歌するべきです」

( -∀-)「…」

モララーさんは俯いて何かを考えていた。
今まで誰にも指摘される事がなかったのだ。バルケンさんも、ガナーさんも、母さんも知らなかった。
ずっとクーと二人きりの家庭だったのだ。誰かに自分の行いを指摘され糾弾される事がなかったのだ。
自分がクーにした仕打ちをようやく認識するのだろうか。

モララーさんは押し黙り、ぼくも何も言わない。そんな時間が続いた。
永久にも似た時間を経て、ようやくモララーさんが口を開く。

( ・∀・)「…悪かった」


182 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:40:34 QRqPiG6.0
モララーさんが頭を下げる。

( ・∀・)「…今まで悪かった。 オレはお前を自分の都合のいい娘に育てた。
      本当に悪かった」

(*゚ー゚)「ぼくも、ごめん」

ぼくもクーに頭を下げる。

(*゚ー゚)「この半月、脅してセックスしてごめんなさい。
    でもぼくはこれから普通にクーと家族になりたい。
    今更だとは思うかもだけど、もう一度、ちゃんと家族になりたい」

ぼくとモララーさんの二人から頭を下げられて、クーは何も言葉に出来なかった。
その代わり泣いた。ただただ泣いた。ぼくはたまらなくなってあの日みたいにクーを抱きしめた。
ぼくの腕の中で、クーはひたすらに泣いた。
君は解き放たれた。もう自由だ。


§  §  §


年が明ける。母さんは予定よりちょっぴり早く第二子を出産する。
三月になって結婚式の日がやってくる。
あのパンフレットに載っていた式場だ。白亜のチャペルが眩しい。
ステンドグラスから柔らかい光が注ぐ。大聖堂の奥には再婚した二人。
どこか緊張した面持ちのモララーさんと純白のウエディングドレスに身を包んだ母さん。
バルケンさんとガナーさんが嬉しそうに二人を見つめているし、ガナーさんに至っては少し涙ぐんでいる。

モララーさんサイドのゲストはバルケンさんガナーさん夫妻の他に会社の同僚達が招かれている。
男性が多くモララーの嫁さん本当に若いし美人だな、などと口々に言い、もう高校生のぼくを見つけ目を丸くしている。
母さんサイドは結局両親との関係は修復されず、パート先の同僚や前の職場の同僚だけだ。
ぼくとクーは並んでそれを見守っていて、クーの腕の中にはまだ幼い弟が眠っている。
そう、弟だったのだ。可愛らしい顔立ちに育ってしまえば、またぼくみたいに苦労するだろう。
でも、弟は誕生を多くの人に祝福された。幸せ者だ。


183 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:44:09 QRqPiG6.0
モララーさんは二度目の挙式だというのにやたらと緊張していて面白い。
母さんはそんな様子はなく、存分に楽しんでいる様子だ。写真をたくさん撮ってもらっている。
幸せそうだ。これで良かったのだ。ぼくは心からそう思う。

母さんを恨んだ事もあった。父親のいない家庭に怒りをぶつけた事もあった。子は親を選べない。
でも母さんはぼくを生んでくれた。ぼくの命を祝福してくれた。
名乗り出なかった父親からも祝福されず、母さんを勘当した両親からも祝福されなかったぼくにとって母さんが唯一の存在だった。
これからだって幸せになってほしい。

式が終わって、二人は新婚旅行ならぬ再婚旅行に行く。入籍の際にも行ったのに結局再度行く。
バルケンさんとガナーさんがせっかくなのだから、一生ものなのだから、と強く進言したのだ。
挙式代で余裕のなかった再婚夫婦に代わり、旅費も大半を負担してくれたという。
よっぽどモララーさんの再婚が嬉しかったのだ。新しく生まれた弟を何度もあやしていた。
二泊三日、弟と共に二人は沖縄へ再婚旅行へと旅立っていく。箱根とは大違いだ。
本当はバルケンさんガナーさんがその間弟を預かるつもりだったらしいがここのところガナーさんは身体の調子が悪いらしい。
式の間もずっと車椅子に座っていた。心配はいらんからね、とガナーさんは笑ってバルケンさんと房総特急に乗って帰って行った。

家は暫くの間、ぼくとクーの二人になる。数日も二人きりなのは久しぶりだ。
クーは今月の頭に見事に超難関の第一志望への進学を決めた。進学校である我が校でも特進クラスにいただけはある。
四月からはぼくも受験生になる。クーほど立派な大学は無理だけれど、頑張るつもりではいる。

夜になって、ぼくは勉強を切り上げる。ぼくの部屋にも物が増えた。
自分なりに部屋をカスタマイズしたりもした。何よりも隣の部屋から夜な夜な聞こえていた嬌声がなくなった。
モララーさんはきちんとクーとの肉体関係を断ち切ったようだった。まぁあの状況にまで追い込めば当然だろう。
そのうち報復されるのでは、などと考えてはいたが、杞憂に終わった。モララーさんにも罪悪感があったのだろう。
ぼくもモララーさんもクーも母さんには黙ったまま、家庭は平和に推移している。これで良いのだ。
結局、ぼく達はニセモノ家族だ。過去を帳消しには出来やしない。だからこのままで良い。

(*゚ー゚)「寝るか」

蛍光灯の紐を引っ張ると、常夜灯のみが部屋をうっすら照らす。
ベッドに入って目を閉じる。沖縄のお土産、どんなものだろう。
やっぱり紅いもタルトやドーナツ棒、サーターアンダギーやちんすこうだろうか。
そんな事を考えているとドアがノックされる。どうぞ、と返事をする。


184 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:49:13 QRqPiG6.0
川 ゚ -゚)「…まだ起きてる?」

クーがドアから顔を覗かせる。

(*゚ー゚)「ちょうど寝るところ」

川 ゚ -゚)「そうか」

クーが部屋に入りドアを閉める。ぼくの部屋のドアはちゃんと閉まる。

川 ゚ -゚)「一緒に寝ていいか」

クーは枕を持参してきていた。ぼくが答える前に枕をぼふっと置いて布団に潜り込む。

川 ゚ -゚)「詰めろ」

(*゚ー゚)「まだいいって言ってないんですけどおおお」

川 ゚ -゚)「うるさい」

きっちりスペースが二分割させる。狭い。

(*゚ー゚)「じゃ、おやすみ」

ぼくはなんとか眠られる体勢を作って目を閉じる。
そこから静かになる。相変わらずニュータウンは静かだ。
国道も離れているし、家の前には車の往来もない。
そもそもニュータウン自体がもう寝静まっている頃だ。
ぼくはゆっくりと眠りにつ(;*゚ー゚)「ごほっ!?」

鳩尾に拳が入りぼくは悶絶する。結構ガチめなパンチだ。いってぇ。

(;*゚ー゚)「なにすんのさ…」

川 ゚ -゚)「一緒に寝るって言って普通に寝るバカがいるか?」

クーがぼくの頬をつねる。またしてもガチめ。超痛い。


185 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:51:30 QRqPiG6.0
(;*゚ー゚)「いだいいだい」

川 ゚ -゚)「寝れると思うなよ」

ぱっと手を離してクーがぼくの唇を奪う。すぐに舌を入れてくる。
舌を絡ませながらぼくの上にクーが馬乗りになる。
さんざん舌を吸ってからクーが口を離す。

(*゚ー゚)「したくなったの?」

川 ゚ -゚)「したくなった」

クーはぼくの着ていたスウェットを強引に脱がす。
ぼくの上半身に顔を近づけて舌を這わせる。
乳首のまわりをぐるぐると円を描くように進み、舌の先端で弾く。
途端にぼくの身体が跳ね上がる。

川 ゚ -゚)「しぃは? したくない?」

(*゚ー゚)「し…したい…」

川 ゚ -゚)「クーはここ好きだよな」

ふふっとクーは笑って乳首を吸う。
ぼくはたまらなくなって声を漏らす。
クーはぼくの好きな部分をもう熟知している。
放っておけばものの数分に絶頂に追いやられてしまう。

(*゚ー゚)「ずるい…」

川 ゚ -゚)「ふふ」

実のところ、ぼくとクーの肉体関係は終わらなかった。
ぼくはあの日できっぱり終わりにするつもりだった。しかし逆にクーがその後も求めてきたのだ。
結局クーは誰かに依存していかなければ生きていけない人間だった。その依存する相手がモララーさんからぼくに変わっただけなのだ。
クーはぼくに依存するようになった。それだけの事なのだ。

勿論モララーさんには黙っている。ぼく達がセックスするのは母さんもモララーさんもいない時だけだ。
あの日モララーさんにクーとはもうしないときっぱりと宣言している以上、隠し通さないといけない。
ぼくとモララーさんとクーは母さんに事実を隠したまま生きている。ぼくとクーは更にモララーさんに隠し事をして生きている。
いつまでもぼく達はニセモノ家族なのだ。新たに秘密を抱えながら生きていくのだ。


186 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:54:17 QRqPiG6.0
川 ゚ -゚)「自由に恋をして自由に青春を謳歌するべきって言ったのはしぃだからな」

確かに言った。しかしそれはぼくとの話ではない。
でも楽しそうなクーを見ていると訂正する気も起きない。

(*゚ー゚)「そうだね」

痣が消えすっかり綺麗になったクーの身体を撫でる。
モララーさんが独占し続けた艶かしい若い身体。それを今度はぼくが手にしている。
本当にぼくがモララーさんの代わりになっただけだ。それでもクーが望むのなら、別にいい気がする。
それにクーに触れる事で、ぼくの悩みだった女性恐怖症はゆるやかに解消されつつあるように思える。
今でも苦手な女子はいる。この女顔もコンプレックスだ。けれどそれは一生付き合っていかねばならない。

川 ゚ -゚)「ん」

クーがまた唇を重ねる。クーは本当にキスするのが好きだ。

川 ゚ -゚)「今日も明日もお父さんもデレさんもいないからいっぱいできるな」

(*゚ー゚)「もー…」

クーは少しずつ、本当に少しずつ、母さんと話すようになった。
あの人呼ばわりからデレさんに変移した。ぼくもモララーさんではなくお父さんと呼ぶよう努力している。
モララーさんとはよそよそしさが残るが、互いに極力普通に接している。
ぼくもモララーさんもこの家庭を維持したいのだ。それだけは共通である。
ニセモノ家族ではあるけれど、徐々に本物の家族に向かって前進している。

川 ゚ ー゚)「ふふ」

(*゚ー゚)「なに」

川 ゚ ー゚)「いや、別に」

クーは笑いながらぼくの唇をなぞる。嬉しそうだ。


187 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:56:58 QRqPiG6.0
クーはぼくに依存している。ぼくとセックスしたがる。
ぼくも満更ではないし。そりゃあクーとセックス出来るならしたい。
果たしてそれは好き、だろうか。クーのそれは好き、だろうか。
ぼくはあの頃憎んですらいたクーへの復讐心で関係を持ったのだ。
しかし二人の関係性を知るにつれ、クーが可哀想だと気付き、解放してやりたいと思った。
そうして今でもずるずると関係を続けている。
クーとはしたい。それはただの性欲だろうか。
本当にそれだけだろうか。ぼくの中にくすぶっているのはそれだけだろうか。
クーはどうなのだろう。ぼくとキスするのは、ただの性欲だろうか。

(*゚ー゚)「ねぇ」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

(*゚ー゚)「ぼく達の関係って、なんだろ?」

川 ゚ -゚)「んー、なんだろうな」

クーは笑う。

川 ゚ ー゚)「なんだろーなー」

まぁ、ぼく達はどうせニセモノ家族だ。これからもニセモノ家族なのだ。
ぼくがクーを好きでも、クーがぼくを好きでも、今更驚きはしない。
だって、ニセモノ家族には秘密の一つや二つある。


188 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:58:14 QRqPiG6.0
(*゚ー゚)ニセモノ家族には秘密の一つや二つあるようです

おわり


189 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 11:59:05 QRqPiG6.0
投下終了です。
読んでいただいた方ありがとうございました。


190 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 12:45:33 eDufKT8A0
あっさり終わったな、乙!


191 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 12:57:59 fzCRf6VA0
乙! ハッピー、というよりビターかな……?
面白かったよ。二人が一緒にハガレンを読んでることを願う。


192 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 13:36:52 1BNK8gr60
乙!
面白かったよ


193 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 15:08:25 O9pBcCNs0
乙 エロくてよきかなよきかな


194 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 15:46:36 kzLpxGUY0
いい感じに終わってよかった!!!
初めて完結現行につきそえてよかった!!

乙乙


195 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 16:12:39 WJGCgTSE0
乙!
デレさんとモララーずっと上手くいってほしいな。面白かった


196 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 16:58:12 b0MlvBeU0

これはこれでありだとおもうぜ
楽しませてもらった


197 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 17:30:58 HausKNnY0
おつ!


198 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 18:41:21 wLEyl3pk0
>>185

クーはここ好きだよな、は
AAの間違いなのか名前の間違いなのか


199 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 18:46:39 7dKrfVfg0
乙!
最後はちゃんとハートフルだった
すごく良かったよ

一つ不満があるなら、クーを一回くらいお姉ちゃんと読んで欲しかった、背徳感的な意味で!
そういえば確か、義理の姉って普通に結婚できたよな……


200 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 19:52:46 qXTyfLVQ0
乙!
最初はドロドロの崩壊劇見せられるのかと思ったら思いの外平和なオチでよかった!
色んな意味で楽しめた


201 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 20:44:31 SknXfo5s0
う、うそだろハッピーエンドだと…!
でもすっきりしたわ、乙


202 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 21:39:34 n6ehs/sw0
おつです、
良かったよ!おもしろかった!


203 : 名も無きAAのようです :2015/06/10(水) 22:22:00 vXFBxCFw0
乙でした!!


204 : 名も無きAAのようです :2015/06/11(木) 00:11:36 QIOWpF0I0
乙!
おもしろかった!


205 : 名も無きAAのようです :2015/06/11(木) 21:28:13 0bPtKE020
乙!
他に何か書いてる?


206 : 名も無きAAのようです :2015/06/12(金) 14:28:56 y9tVn/0.0
ありがとうごさいました〜

>>198
しぃはここ好きだよな、の間違いですサーセン!

>>199
仲良くなったんならお姉ちゃん呼びでも良かったかなぁ
義理の姉って結婚出来るんすか…ぱねぇ…

>>205
前回は('A`)終末世界にさようならのようですってやつです


207 : 名も無きAAのようです :2015/06/12(金) 15:53:52 EwiVF3jw0
フェルメールブルーとも同じってことか
どれも面白かった


208 : 名も無きAAのようです :2015/06/15(月) 02:48:51 Wb4U3M2I0
読みやすくってそんで内容もすっごい面白かった
良かった


209 : 名も無きAAのようです :2015/06/16(火) 14:40:04 hgss/PNs0
一気に読んだわ、おもしろかった!乙!


210 : 名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 13:30:56 qNlmoYO.0
この人茨城県民かな


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