■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■
( ^ω^)愛がとにかく余ってるようです
-
(;^ω^)フゥフゥ
僕が家族構成調査のためにその家を訪れたのは9月の残暑厳しい頃だった。
長く、急な坂を息継ぎながら登っていくと、目的の家の屋根がようやく見えてくる。
家のドアの前に立ち額に流れる汗を手の甲で拭って
インターホンを探すも見つからないので、木製のドアを拳で叩いて家主を呼ぶ。
( ^ω^)「失礼します、荒巻さんいらっしゃいますかお?」コンコン
(;^ω^)「いてっ」
叩いた拳に鋭い痛みを感じ、見ると手の甲にトゲが刺さっていた。
ドアがボロボロすぎてささくれだっているのだ。
トゲを抜きながら、なぜこのような辺鄙な所を尋ねる羽目になったのかを、
忌々しく思い返す。
-
この家に住んでいるとされる荒巻氏は現在齢72の老人で、
かつて新薬開発で財を成し、そして今は隠居し悠々自適な生活を送っているという
マンガのようなサクセスストーリーを持つ人物だ。
彼は家庭を持たない、ということに役所の方ではなっていたのだが、
近隣住民のタレ込みにより、彼の家から若い男性や子供の声が四六時中聞こえたり、
数人の人物が彼の家へ出入りをしているところを目撃されているので
その事実を本人に確かめなければならない。
孤独死や児童虐待が社会問題となっている昨今、
定期的に住民や家族構成の確認を行うことが義務づけられるようになったため、
我々がこんな足労を負う羽目になったというわけだ。
( ^ω^)「荒巻さん、いらっしゃいますか?」コンコン
今度は拳をハンカチで包んだ状態で、もう一度ドアを叩く。
するとドアが軋んだ音をたてて開き、白髪の老人が顔を見せた。
-
/ ,' 3 「なんでしょうか」ガチャリ
彼が荒巻老人だ。
柔和そうないかにもな好々爺といった顔で、
あまりこちらを警戒してないようなので僕の方も単刀直入に切り出すことにした。
( ^ω^)「私、VIP市調査課の内藤と申します。
貴方は現在、このお宅にお一人で住まわれているのでしょうか?
近隣の方からこのお宅に荒巻さん以外の方も住まわれているというのを
聞いたものですから」
/ ,' 3 「んん……」
どう説明したものか、という迷いの表情で彼は口を噤んだ。
なにか、特別な事情というか、ややこしいものが潜んでいるらしい。
/ ,' 3 「どう申し上げたものか……ま、とりあえずお上がりくださいな」
( ^ω^)「すみません、失礼いたします」
荒巻氏に案内されて僕は敷居をまたいだ。
-
なるほど家の中は、外観のボロっぷりとは裏腹になかなか小綺麗だった。
奥にテレビが設置してあり、その手前に長テーブルが置いてあるが、
そこに並べられた座布団の数は4個である。
荒巻氏と、その他の住人の3人分という訳だろうか。
/ ,' 3 「どうぞ脚を楽にして……」
( ^ω^)「お気遣いありがとうございます、では失礼して……」
長テーブルに向かい合わせで座り、僕は家の中を見回した。
一人暮らしの部屋かそうでないかは、長年の経験である程度分かってくるものだ。
僕の勘では、間違いなく荒巻氏のほかにも住んでいる人が居るはずだ。
/ ,' 3 「私一人で暮らしてはいないというのは、もうお気づきようですね」
( ^ω^)「え、えぇまぁ」
荒巻氏の方からカミングアウトしたので僕は面食らって変な声を出してしまった。
しかし、自分から打ち明けるのに何故こうまでも苦い表情を
彼は浮かべるのだろうか。
-
( ^ω^)「あの、別に同居されてる方の関係さえ教えていただけば充分ですので、
別に同居が悪いという訳ではないので」
/ ,' 3 「実を言うとその関係が問題でしてね……
まぁ、ここに今から呼びましょうかね」
( ^ω^)「え?」
荒巻氏は立ち上がり、廊下に通じているらしい居間のドアを開けると、
外に向かって叫んだ。
/ ,' 3 「みんな、ちょっと来なさい!」
ドアの向こうから足音が響いたかと思うと、
まもなく複数人の男がぞろぞろ居間へと入ってきた。
-
(´・ω・`)(`・ω・´)( ФωФ)
小学生ぐらいの男の子、高校生ぐらいの男の子、20代半ばの青年の3人だ。
全員、どこか荒巻氏と同じ面影がある。
( ^ω^)「この方たちは一体……?」
問いに対して荒巻氏が答えた言葉に僕は耳を疑った。
/ ,' 3 「実は……、彼らは全員、"わたし"なのです」
( ^ω^)「は?」
わたし?聞き間違いでなければ彼らは全員荒巻氏だということか?
(;^ω^)「ど、どういうことですか」
/ ,' 3 「彼らはそれぞれ過去の私ということです」
(;^ω^)「ごめんなさい、説明をお願いします」
-
荒巻氏はゆっくりと語り始める。
/ ,' 3 「老年となり隠居生活を送っていた私は、
趣味が高じたつまらぬ発明遊びで日々暇をつぶしておりました」
/ ,' 3 「そんなある日、偶然にもなんとタイムマシンを発明してしまったのです」
(;^ω^)「タイムマシン!?」
突拍子もないことに驚嘆の声をあげる僕だったが、彼は続けた。
/ ,' 3 「そう、過去や未来に移動できる装置、タイムマシンです」
(;^ω^)「はー……」
/ ,' 3 「我ながらとんでもない物を発明しましたが、
私はこのタイムマシンの活用方法をひとつ思いついたのです」
( ^ω^)「活用方法?」
-
/ ,' 3 「内藤さんでしたよね、貴方には辛い過去はありますか?」
( ^ω^)「ええ、まぁあるっちゃありますが……」
中学の時、漫画に影響されて痛い行動ばかり取っていた、
第一志望の大学に落ちた、そういった苦い過去が僕の脳裏に浮かぶ。
/ ,' 3 「誰だって思い出したくもないような、そんな過去を持っているものです」
/ ,' 3 「そういった過去のトラウマなどは時間が解決してくれると言いますでしょう?
実際、生きてさえいればそのようなことも忘れてしまいます、
現在の私は、自慢じゃないですが何一つ不自由しておりませんから
過去を恨むようなこともありません」
/ ,' 3 「しかし、そうやって過去を切り離してしまうと、過去の自分が哀れじゃないですか」
( ^ω^)「哀れとは?」
-
/ ,' 3 「時間の流れは一定に、そして休むことなく動き続けています。
従ってトラウマもすぐに過ぎ去ってしまい、平気になります。
しかし過去の自分は今も確かに、過去の世界で苦しんでいるのです」
/ ,' 3 「現在を生きているこの私自身は恵まれていても、
その当時の自分は苦しみから抜け出せずにもがいているのです、
決して救われることもなく」
( ^ω^)「はぁ……」
/ ,' 3 「そう考えた私は、そんな過去の自分をこのタイムマシンで
救助するということを思いつきました」
( ^ω^)「救助?」
救助という言葉の僕は意味が分からず、荒巻氏の顔を見つめる。
-
/ ,' 3 「彼は」
そういって荒巻氏は、一番若い小学生の男の子を指さした。
男の子はかすかに頷いた。
(´・ω・`)コクリ
/ ,' 3 「小学4年生の頃のわたしですが、些細なことがきっかけで
クラスメイトから酷いいじめを受けていました、
心配をかけさせたくないと両親や教師にもそれを告げず、
一人で悩みを抱えていたのです」
/ ,' 3 「私はタイムマシンで当時に戻り、彼に事情を伝えて現代まで連れてきました」
荒巻氏が男の子の肩に手をかけ引き寄せる。
/ ,' 3 「今は幸せそうですよ、現代には昔じゃ考えられないような娯楽もありますし、
勉強だって通信教育で習わせてます、もういじめに苦しむこともありません」
/ ,' 3 「なぁ?」
(´・ω・`)「はい、つらかったけど今はたのしいです」
-
( ^ω^)「……」
それでいいのだろうか、と疑問に思ったが,
そもそもタイムマシンの存在自体が眉唾物ではないか。
答えあぐねて僕が黙っていると、
次に荒巻氏は高校生ぐらいの男の子を指さした。
/ ,' 3 「彼も」
(`・ω・´)「はい」
/ ,' 3 「高校生のときの私ですが、やはりいじめを受けてましてね。
どうやら一旦染み着いたいじめられっこ気質というのは抜けきらないようです、
なので彼もここへ連れてきました」
(`・ω・´)「未来の自分には感謝しております、
ここなら謂われない迫害を受けることもありませんし」
-
次に青年を指さす荒巻氏。
/ ,' 3 「そして彼は」
( ФωФ)「はい」
/ ,' 3 「26歳の頃の私ですが、ひどい失恋をしましてね」
( ФωФ)「あまり話しすぎないでくださいよ」
/ ,' 3 「まぁまぁ、君は私でもあるんだし……
彼はね、会社で出会ったとある女性に相当入れ込んでいまして、
確かに相思相愛だと思っていたのですが、結婚直前という段階で
他の男に取られてしまったのです」
/ ,' 3 「それが可哀想で可哀想で……
自暴自棄になるほど苦しんでいたので、救ってあげました」
( ФωФ)「いやあお恥ずかしい」ポリポリ
青年荒巻氏は顔を赤く染めて頭をかいた。
-
(´・ω・`)(`・ω・´)( ФωФ)
ずらりと並んだよく似た顔を見渡して荒巻氏は笑みを浮かべた。
/ ,' 3「こうやって、不幸な私は次々と救われていったのです。
過去が救われたおかげで、今の私も晴れ晴れとした気持ちですよ」
余りに幸福そうな顔なので少しためらったが、僕は当然の疑問を口にした。
(;^ω^)「しかし、そんなことをしては歴史が変わってしまうのでは?」
しかし荒巻氏は胸を張って答える。
/ ,' 3 「心配いりません。過去を変えれば未来も変わる、なんてのは迷信ですよ。
たとえ過去を変えても、他のあり得たかもしれない分岐、
つまりは平行世界が変えた過去を補ってくれるので、未来に影響はないんです」
-
/ ,' 3 「平行世界というのは、たとえば食後につまようじを使ったあるいは使わなかった、
その程度でも分岐して生まれるのです。
そのような平行世界が数え切れないほど存在するのですから、
一つの世界が変わったところで問題はありません」
( ^ω^)「それじゃあ荒巻さんの、その過去の自分を救う行為自体に
意味がなくなるんじゃ」
/ ,' 3 「まぁそうでしょうね。言ってみれば自己満足ですが、
少なくとも救われた自分は存在しています」
/ ,' 3 「誰も救われないなんて結果よりはよっぽど、ましですよ」
/ ,' 3 「みんなに不自由ない暮らしをさせてあげられるくらいには私も余裕がありますし」
ここまで聞いたが、やはりそもそもタイムマシン自体が存在するのかが疑わしい。
暇な老人の戯れ言の可能性が高いのだ。
その、過去の自分と言っている連中も金にあかせて連れてきた人物か、
あるいは親戚かそんなところか。
-
そう疑う僕の心を感じとってか、荒巻氏は言った。
/ ,' 3 「信じていないようですね、まぁ無理もないでしょう」
/ ,' 3 「一応、小さい頃にテーブルにぶつけたときの傷が全員の額に残ってはいますが
……これも信じる材料としては、ねぇ」
一斉に彼らが前髪をかきあげると、なるほど確かに額に横向きの傷が走っていた。
これも特殊メイクの可能性もあるので疑いは晴れない。
/ ,' 3 「そうだ!」
/ ,' 3 「もう一人救いたい私がいるので、今から行ってきましょう」
( ^ω^)「えっ?」
/ ,' 3「実際にあなたの目の前でタイムマシンで過去に行って、
もう一人私を連れてくるんですよ」
-
荒巻氏は懐から名刺サイズのメカを取り出すと、
その表面に並べられた数字盤で8桁の数字を打ち込んだ。
/ ,' 3 「こいつがタイムマシンですよ。
西暦と月日を打ち込めばどの時代にも行けます、便利でしょ?
ユーザーユーティリティってやつですね。
私一人しか使わないんで意味ないですけど」ピッピッ
打ち終わると服に付いた埃をはたき、荒巻氏は立ち上がる。
/ ,' 3「それじゃ、行ってきます。留守を頼みますよ。1分もかからないでしょうがね」
( ^ω^)「えっ、ちょ」
――シュン!
荒巻氏がタイムマシンの上部にある赤いボタンを押すと、
彼の存在は一瞬で跡形なく消え去った。
-
荒巻氏の居た所には何も痕跡が残っていない。
完全に消滅したようだった。
(;^ω^)「消えているお……手品、じゃなさそうだお」
(`・ω・´)「タイムスリップしたんですよ、
僕にとっては未来の、未来の僕にとっては過去の自分の元へ」
(;^ω^)「まさか本当に……」
僕の側に立つ少年荒巻氏の顔を改めて眺める。
確かに、荒巻氏そのものと同じ雰囲気を感じる。
――シュン!
/ ,' 3 (丶ФωФ)
それから30秒ほど経ったか経たないか、
荒巻氏と、荒巻氏によく似た中年の男性の2人の姿が突如現れた。
/ ,' 3「ただいま戻りました」
( ^ω^)「な……」
/ ,' 3「ね?1分もかからなかったでしょ」
-
中年の男を座らせて荒巻氏は言った。
/ ,' 3「彼は43歳の私です。
その当時、私は会社の金を横領して、その罪悪感に苛まれてました」
(;^ω^)「ちょ、横領って」
いきなりの犯罪告白に面食らう僕だが荒巻氏は飄々としている。
/ ,' 3「心配いりません、その当時の彼は今は現代にいるので、とっくに時効です」
(;^ω^)「そういう問題なんでしょうか……」
確かに横領をした本人は時効成立後の未来にいるので時効は成立しているが、
本人の体感時間で言えばまだ時効は来ていないし……。
混乱でどうにかなりそうだった。
-
/ ,' 3「ともかく、これでタイムマシンは信じていただけたでしょうか」
( ^ω^)「う、うん……まぁ」
ありえない現象を目の当たりにし、パンク寸前の僕は煮えきらない返事をした。
/ ,' 3「もう辛い過去というのも無いですし、
これ以上私が増えることはないでしょう。
親戚を4人預かっていて、計5人家族という形で報告してください」
( ^ω^)「はぁ……」
/ ,' 3「くれぐれもタイムマシンのことは口外しないで欲しいです。
まあ誰も信じないでしょうが」
――そして、半ば追い出されるように僕は荒巻宅を出た。
その後もしばらく僕は、ふわふわと現実を生きているような気分がしなかった。
-
それから数ヶ月後。
あの奇妙な連中がどうなっているか気になった僕は、
仕事とは関係なく荒巻邸を訪ねることにした。
相変わらず長い長い坂を上りきって見えてきた荒巻邸は、
外から見る分には異様なほど静かだった。
以前訪ねたときと同じように僕はささくれだったドアをノックする。
( ^ω^)「荒巻さーん、いらっしゃいますか」コンコン
返事がない。
どこかに出かけているのだろうかと思い、また訪ねてみようと踵を返したその瞬間。
「……ん……!……む……!」
家の中の方向からくぐもった悲鳴のような声が聞こえて、僕は振り返る。
-
(;^ω^)「まさか……!?」
トゲが刺さるのも構わずドアに耳を押しつけると、
確かに数人の悲鳴が、家の中から聞こえている。
その中には小学生らしき子供の声もあり、嫌な予感が頭を埋め尽くす。
(;^ω^)「荒巻さん!?荒巻さん!?いらっしゃいますか!?」ドンドン
拳でドアを叩くが、相変わらず何の返事もない。
これは事件だと確信し、僕はドアノブをガチャガチャと何度も回すも
当然カギが掛かっているので開かない。
(#^ω^)「ええい!こうなれば!」
強行突破だ、僕は大学時代のアメフトで堅く鍛え上げられた体を
ドアに思いきりぶつけると微かに歪んだので、
更に続けて何度もタックルを繰り返すうちに、けたたましい音を立てドアがついに破れた。
(;^ω^)「よし!」
-
/ ,' 3「ちぇっ、来たか」
(;`・ω・´)「んー!んー!」
(;´・ω・`)「むむ!むー!」
(;ФωФ)「ふぐっ、ふぐぐぐ!」
(ヽФωФ)「もがっ!もがっ!」
部屋の中央、荒巻氏が包丁を片手に立っており、
その足下にはガムテープで口と身体を固く縛られた4人の男が転がっていた。
間違いない、彼らは過去の荒巻氏だ。
(;^ω^)「な、何をしているんですか荒巻さん!!」
-
/ ,' 3 「何って……始末ですよ」
冷ややかな声で荒巻氏は返した。
以前訪ねた時とは違う、殺意に満ちた刺々しい声だ。
(;^ω^)「し、始末……?」
/ ,' 3 「えぇ、邪魔な障害は始末するに限ります」
(;^ω^)「邪魔な障害って……その人たちはあんた自身でしょうが!」
/ ,' 3「事情が変わったんですよ」
荒巻氏は冷たく言い放つ。
/ ,' 3 「26歳の頃に失恋したって言ったでしょう、
その時の彼女と、この前偶然再会しましてね。
思ってもないぐらい二人意気投合して、付き合うことになったのです」
/ ,' 3 「そうなると私の暮らしもクリーンにしなきゃいけない、
彼女を迎えるためにね」
-
荒巻氏はうめき声を上げる過去の自身を指さして吐き捨てる。
/ ,' 3「と、するとこいつらが邪魔でねぇ……ちょっと始末することにしたんですよ」
(;^ω^)「自分が何をしてるか分かってるんですか!?」
/ ,' 3 「自分が自分を殺すことの何がいけないんですか?
こいつらが居なくなったところで別の平行世界が代替するので、
歴史が変わることはない」
/ ,' 3 「過去の自分を集めて共同生活をしていた変人じじいが、
恋を知った只のじじいに戻るだけだ!何の問題もない!」
(;^ω^)「でも!」
/ ,' 3「さぁ、邪魔をしないでくれ!
これは自殺でも他殺でもない!
カサブタを剥がすようなこととなんら変わりないんだ!」
(;´;ω;`)「あぁーーー!」
(;^ω^)「あっ!」
包丁を持った手を大きく振りあげ、荒巻氏は足下の少年荒巻氏へと降り降ろす。
とっさのことに僕も反応できず、もうダメだと覚悟したその瞬間だった。
-
――シュン!
誰かが部屋の中に現れたかと思うと、荒巻氏の腕を掴み、
間一髪、少年荒巻氏はあと数センチのところで助かった。
(;´;ω;`)「んー!」
/ ,' 3 「誰だ!?」
白昼の惨劇から救ってくれたその男の顔を見て、僕は仰天した。
/ ,' 3 「……」
荒巻氏と、全く同じ顔だったからだ。
その男は荒巻氏の腕を固く掴んだまま言った。
/ ,' 3 「私は……お前の半年後だ」
(;^ω^) / ,' 3 「「えぇっ!?」」
その半年後の荒巻氏と名乗る人物は、さらに続けた。
-
/ ,' 3 「お前がこれから付き合う、その彼女だが……
付き合って1ヶ月で別のじじいに惹かれて出ていくぞ」
/ ,' 3 「……えっ?」
ショックのあまりか、呆気にとられた顔で荒巻氏は硬直する。
/ ,' 3 「お前はそんな、尻軽ババアとの一時の虚しい恋のために、
自分を4人も犠牲にするのか!?」
/ ,' 3「そ、そんな」
/ ,' 3 「その後お前は後悔することになるぞ、
自分のわがままのために自分を殺してしまったのだからな」
/ ,' 3 「あ、ああぁ……」
カランという音がしたので見ると、荒巻氏は包丁を床に落としていた。
体が小刻みに震えている。
-
/ ,' 3 「……だが心配いらない、そんなお前を私は救いにきたのだ」
/ ,' 3 「いや、お前だけではない、お前が手に掛けようとしている、
その私たちもだ」
(;´・ω・`)(;`・ω・´)(;ФωФ)(ヽФωФ)「「「「!!」」」」
縛られている過去荒巻氏たちが驚きの表情を浮かべる。
/ ,' 3 「自分を殺してしまうというトラウマ、
そして自分に殺されてしまうというトラウマ、
そんなトラウマから解放してやる」
未来荒巻氏は過去荒巻氏たちを縛っていたガムテープを剥がし、
現在荒巻氏たちと一緒に抱き寄せた。
/ ,' 3 「さぁ、半年後の未来の世界で一緒に暮らそうじゃないか」
/ ,' 3 「人が増えた分、家もちょっと狭くなるが住心地は悪くないだろう」
-
/ ,' 3 「内藤さん、ご迷惑をおかけしました。では、半年後に会いましょう」
( ^ω^)「え、あ、はい?」
/ ,' 3 「それじゃあ、また」
僕の方を見て軽く会釈すると、
未来荒巻氏は懐からあのタイムマシンを取り出して、
上部の赤いボタンを押した。
――シュン!
そして荒巻氏たちは、一瞬でその場から消え去った。
-
後には空き家だけがぽつんと残され、物音ひとつしなくなった。
部屋の真ん中に落ちている包丁が窓を遮るカーテンの僅かな隙間から
差し込んだ光に照らされて光っている。
破れた玄関ドアから外に出ると、騒ぎを聞きつけた近隣住民が
大勢家の前に集まっていた。
彼らの視線を浴びながら、僕は呟いた。
( ^ω^)「アホらし……」
半年後どころか一生会ってなんかやるものか、と心に銘じ
僕はその場を後にしたのだった。
〜おわり〜
-
こういう感じの短編を投下していきます。
宜しくお願い致します。
-
おつー
なんか不思議な感じで引き込まれるなぁ
-
おつ! 次回を楽しみにしてます!
-
少し不思議な話だな
-
おもしろい
他の作品も期待
-
乙
これは楽しみ
-
おつ
-
いきなりギャグになったかと思った
-
乙
引き込まれるなー。これは期待せざるをえない
>>1はタモさんと覚えとくわ
-
短編集的な感じか
これは楽しみだなあ
-
乙
よくできてる話で面白かった
-
世にも奇妙なって感じ。面白い
このまま荒巻(一番老いてる)が死んだら過去の自分たちはどうなるんだろう
しかし尻軽な婆だこと・・・年食っても目移りするのはかわらんのな
-
その日、僕の一日はとても充実したものだった。
中学以来の親友と朝から夕方までカラオケやら映画やらで遊び回り、
夜には居酒屋で共に酒を飲み、体はクタクタに疲労したものの、
代わりに得た満足感はとても大きかった。
('A`)「また近いうち会おうぜ」
( ^ω^)「うん、今日はありがとう!」
('A`)「こっちこそありがとう、じゃあな」
夜十時過ぎの駅構内で友人と手を振り合って別れ、
彼が改札を抜けてホームの方へと消えていくのを見届けてから
僕は大きくため息をついた。
( ^ω^)「明日から仕事かお……」
-
明日は月曜日。
あの辛く厳しい社会人としての一日がまた始まることを思えば、
今までの幸せも濁っていくようである。
( ^ω^)「はぁ……」
僕は現在の仕事にまったく満足していない。
どんなに一所懸命業務に励んでもミスを連発し、
そのたびに上司を呆れさせてしまい、
「この仕事向いてないんじゃないか」という気持ちが心を埋め尽くす。
おまけに僕は人とコミュニケーションを取るのが苦手であり、
職場の人間関係も良好とはいえず、毎日重苦しい雰囲気で
好きでもない仕事を続ける他なかった。
( ^ω^)「行きたくないなぁ、仕事……」
-
駅を出て家に着くまでの道すがら、
周りに人がいないのを良いことにグチグチと呟き続ける。
( ^ω^)「今日は楽しかったなぁ、今日がいつまでも続けばいいのに……」
「続けさせてあげようか」
ふとそんな声が聞こえたのでその方向へ首を向けると、
黒いスーツに身を包んだ背の高い男が道の端に立っていた。
彼は言う。
( ・∀・)「今日という日を、繰り返させてあげようか」
-
( ^ω^)「……どういうことですか?」
( ・∀・)「実はね」
( ・∀・)「僕には、他人の一日をループさせる能力があるんだ」
( ^ω^)「は?」
まさか、と一笑に付しその場を立ち去ろうとするも、
酔っていたせいか、その男の言葉がどうにも本当の事のように感じられ
僕はさらに説明を求めることにした。
( ^ω^)「ループするって……同じ日が何度も繰り返されて、
次の日が来ないってことですかお?」
( ・∀・)「その通り」
彼は大きく頷いた。
-
( ・∀・)「これから僕が君の肩を叩く。
すると今日という一日がずっと繰り返されることになるんだ。
記憶を引き継いだ状態でね」
( ^ω^)「それってまさか永遠に繰り返されるわけじゃないですよね?」
( ・∀・)「それはないよ、君がもう充分だと思えば、
僕のところを訪ねてくれればいい」
( ・∀・)「そしてまた僕が君の肩を叩けば、
ループが解除されて君の日々は元に戻る。
無事、明日がやって来るというわけさ」
( ^ω^)「……あなたにもう一度会える保証は無いお?」
僕の言葉に、彼はアハハハ、と口を大きく開けて笑った。
-
( ・∀・)「今日という同じ一日が繰り返されるんだから、
僕もこの時間必ずここにいることになるだろう?」
( ^ω^)「そういえばそうだお」
そこで突然彼は、真顔に戻った。
( ・∀・)「でもデメリットもある」
( ・∀・)「同じ一日を繰り返すと、その分どんどん一日が薄まっていくんだ」
( ^ω^)「薄まる?」
( ・∀・)「そう。例えば一万円を拾うという経験をした一日を繰り返すとしよう、すると、
それがだんだん、千円拾った、百円拾った、十円拾った、一円、何も拾わなかった……
という具合に、繰り返すごとに経験が薄まっていくわけ」
( ^ω^)「なるほど……」
-
( ・∀・)「その辺を理解してもらったところで……」
彼はスーツの袖をまくると、尋ねる。
( ・∀・)「どう?今日を繰り返してみるかい?」
( ^ω^)「……」
どうせ本当かどうか分かりはしないが、
ただ肩を叩いてもらうだけで、今日という素晴らしい一日を繰り返し楽しめ、
さらに明日を先延ばしできるかもしれないのだ。
やってもらうに越したことはない。
( ^ω^)「お願いするお」
( ・∀・)「了解、じゃあさっそく」
了承を得ると彼は右腕を振り上げ、そして僕の右肩を強めにポンと叩いた。
(;^ω^)「……!」ビクッ
-
叩かれた瞬間は若干の痛みを感じたが、
その他に別段変わったことはない。
( ^ω^)「……これでいいのかお?」
( ・∀・)「あぁ。今夜寝て、起きたらまた今日が始まるってわけ」
( ^ω^)「ふーん……」
( ・∀・)「あー!人助けするのは気持ちがいいなぁ!」
大きく腕を伸ばし唸ると、彼は軽く頭を下げ、
( ・∀・)「じゃあまた今日会いましょう、さよなら」
と言うとその場から足早に去った。
-
(;^ω^)「本当に今日がループすんのかお、あれで……」
疑いながらもその日は家へ帰り、すぐに寝床に潜った。
これで結局明日が来てしまったら、落胆も大きいだろうなと思いつつも
僕は、誰に願うべきかも定まらないまま願う。
( ^ω^)(お願いします、明日来ないで下さい
お願いします、明日来ないで下さい
お願いします、明日来ないで下さい
お願いします、明日来ないで下さい)
微かな望みに期待を寄せ目を閉じると、すぐに夢の世界へ旅立った。
-
窓の外でさえずる雀の声で目が覚めた。
うんと延びをしながら、ふとベッドの横の机に置かれた時計を見ると
時刻は8時49分を指していた。
一瞬で顔が青ざめる。
(;^ω^)「ち、ちこ、遅刻……!」
急いでベッドから跳ね起きてパジャマを脱ぎながら
壁に掛けているスーツを取り、それを身につける。
髭を剃るのは無理でもせめて洗顔だけ、と思い
洗面所に向かうため居間を通り抜けようとしたとき、
テレビの画面を何気なく覗いて驚いた。
-
( ^ω^)「あれ……?プリキュアやってるお……?」
怪訝に思いテレビを見つめていると、母親がキッチンから出てくる。
J( 'ー`)し「おはよう、どうしたのスーツなんか着て。
今日、日曜なのに……」
( ^ω^)「日曜……?だって昨日も日曜……」
スマホを開いて画面を確認すると、
そこには確かに日曜日の文字が表示されていた。
ここで僕は、昨夜(今夜?)のことを思い出す。
---------------
( ・∀・)「これから僕が君の肩を叩く。
すると今日という一日がずっと繰り返されることになるんだ。
記憶を引き継いだ状態でね」
---------------
-
(;^ω^)「ま、マジだったのかお……」
その瞬間、喜びが全身をかけ巡るのを感じた。
本当に休日がループしているのだ、
彼の言っていたことはまさしく事実だったのである、
(*^ω^)「やったお!また今日が来たんだお!
明日はまだ来ないんだお!」
J(;'ー`)し「どうしたの突然、変な子ねぇ……
今日はドクオくんと会うんでしょ、遅刻しないにしないと」
(*^ω^)「うん、うん!」
僕は頷くとその場でスーツを脱ぎ去った。
J(;'ー`)し「ちょっと、部屋で脱ぎなさい!」
-
そしてまた僕は、友人と共に今日を満喫した。
まぁ、以前の今日と今回の今日で、
掘りごたつのカラオケボックスが普通の部屋になっていたり、
3D映画を見たのが2D映画になっていたりという違いはあったが、
これもおそらく一日が薄まったせいであろう。
その後、夜になり。
以前と同じように友人と駅で別れてからの道すがら、
以前と同じようにスーツ姿の男と出会った。
彼は僕と目が合うと、引き留めて尋ねる。
( ・∀・)「ねぇ、違ってたら悪いけど君……ループしてない?」
(*^ω^)「はい、ありがとうございます!
あなたのおかげで今日をまた楽しめたし、
おまけに明日を先延ばしに出来たし!とても助かったお!」
-
( ・∀・)「そうか、それはよかった。で、もうループ解除するかい」
( ^ω^)「それは……」
僕は思う。
またあの地獄のような仕事の日々に戻るには
心の準備が出来ていない気がする。
もう少し今日という日を楽しんで、
明日からの仕事に励む覚悟が出来てからの方が良いだろう。
解除はそれからでいい。
( ^ω^)「……まだいいですお」
( ・∀・)「了解、じゃあ今日また会いましょう」
-
次の日。
(といっても、結局また今日が来たのだが)
また同じように友人と一日中遊んだ。
気の置けない仲ならば何度同じ遊びを繰り返しても、
意外と飽きないものだ。
普段、仕事で辛い思いをしていただけにこういった
時間が余計楽しい。
一日が薄まったせいでカラオケの時間が短くなったり、
視聴する映画が少々退屈なものに変わったりはしたが、
それも些細なことだ。
そして夜、同じように男と出会う。
( ・∀・)「君、間違ってたら悪いけどループしてない?」
( ^ω^)「はい」
-
( ・∀・)「ループ解除するかい?」
まだその気にはなれなかった。
労働意欲が湧いてくるまでは明日には来てほしくない。
どうせいつでも解除できるんだ、まだいい。
( ^ω^)「解除しませんお」
( ・∀・)「了解、じゃあまた今日会いましょう」
そうして僕はどんどん今日を繰り返し、明日を先延ばしにした。
-
だが、いつまでたってもその明日を迎える気にはなれなかった。
同じ日を何度も繰り返すことで、仕事をしない生活に
脳がすっかり適応してしまい、
労働意欲がいよいよ失せてしまっているのだ。
( ^ω^)(まだ解除しない、まだ解除しない、まだ…)
そのうち、繰り返される一日もだんだんと無味無臭なものに変貌していく。
友人と会う時間が減り続け、次第に全く会わないようになった。
そればかりか家からもなかなか出る気がしない。
何事にも無気力となり、生きている心地さえ感じられなくなっていく。
朝起きて夜寝るまでの間、イベントらしいイベントがほぼ起こらなくなっていく。
-
しかしそれでも。
( ・∀・)「ループ解除するかい?」
( ^ω^)「しない……」
仕事の始まり、というものから逃げ続けるために明日を先延ばしする。
もはや友人がどうとか関係はなかった。
働きたくない、その一心で解除を拒み続ける。
( ^ω^)(いつでも解除出来るし……まだいいんだお)
そんな日々も終わりを告げることになる。
-
何度目の今日だろうか。
数十回、下手をすれば数百回目のループを繰り返した朝のことだった。
すっかり鈍りきってしまった身体を起こそうとするも、
( ^ω^)(あれ……?)
全く動かない。
筋肉に力を入れても、指の先から抜けていくようで手応えがない。
それから1時間、2時間、3時間……。
太陽が真上に上りきり、そして沈んでいく頃になっても
僕はまだベッドから抜け出せずにいた。
( ^ω^)(なんでだお……?)
-
おかしな事に母が訪ねてくるようなこともない。
息子が一度も部屋から出てきていないにも関わらず、だ。
( ^ω^)(大変だお……)
大声で助けを求めようにも声すら出ないのだ、
完全な八方塞がりだ。
やがて完全に夜になり、部屋の中が真っ暗になった頃、
僕は身体が動かなくなった理由にようやく気づいた。
( ^ω^)(恐らく……一日を薄めすぎてしまったせいで、
僕の一日に全く何の変化も起こらなくなってしまった、
そうに違いないお)
( ^ω^)(僕の身体や精神が無気力になれば、
それだけ僕も動こうとしなくなる……
僕が動かなければイベントも起きないので、
結果一日が薄まっていく……というわけかお……)
-
そして、僕は恐ろしい事実に気がついた。
( ^ω^)(これじゃあ……ループ解除できないじゃないかお)
あの男はまた今日もあの道に立っているのだろうが、
何しろ全く動けないのだから、彼に会う術もない。
そして今日という一日もまもなく終わろうとしている。
今日が終われば……次にやってくるのは明日ではない。
また今日だ。
その今日も、現在の今日よりさらに薄まって……。
( ^ω^)(……)
僕は眠った。眠るより他に無かった。
-
次の朝。次の夜。そのまた次の朝……。
何一つ動きのない一日を繰り返しているうちに
僕は、完全に思考を停止していた。
( ^ω^)
もはや生きているのかどうかも分からない。
彼の時間が止まってしまったのか、
世界全体が止まってしまったのか、それを確かめる方法はない。
彼の存在は一体どうなってしまったのだろうか。
……。
-
日曜の夜、駅からの帰り道で俺はため息をついた。
(,,゚Д゚)「はぁ……だりぃなあ……。明日から仕事かよ」
(,,゚Д゚)「今日がずっと続けばいいんだけど……」
「続けさせてあげようか」
ふとそんな声が聞こえたのでその方向へ首を向けると、
黒いスーツに身を包んだ背の高い男が道の端に立っていた。
彼は言う。
( ・∀・)「今日という日を、繰り返させてあげようか」
〜おわり〜
-
乙です。世にも奇妙な物語みたいだって書こうとしたら既に書かれてた
-
乙。無限ループこええ
-
おつおつ
良い雰囲気だなあ
-
おつ
うおおぞっとした…俺ブーンと同じ結末辿る自信があるわ
やっぱ無限ループって怖いな
-
おつ
-
面白い!構成がいいな
前よりもよくなってる
-
昼飯を食べ終わり学食のテーブルで暫くまったりしていると、
熱心にスマートフォンを見つめているドクオが妙に気になり
僕は声をかけた。
( ^ω^)「何してるんだお?」
('A`)「……」
ドクオは答えず、ただ一心不乱に画面を見続けている。
その姿は痴呆のそれすら連想させて僕はぞっとした。
(;^ω^)「おい、ドクオ!聞いているのかお!」
('A`)「……あっ、なんだ、その声はブーンか」
ようやく僕の存在に気づいたドクオだったが、
それでも画面から目を離そうとはしない。
( ^ω^)「一体なにをそんなに熱中してるんだお?ゲームかお?」
('A`)「んー?まぁそんな感じかな……」
要領を得ない返事に、僕は余計それが気になってしまう。
-
('A`)「お、沸いた沸いた」
やがてドクオは満足そうに頷くと、スマートフォンをポケットに仕舞った。
( ^ω^)「もういいのかお?」
('A`)「あぁ」
( ^ω^)「なんなんだお?アプリかお?」
('A`)「うん、お湯メーカーってアプリで最近ハマっちゃってさ」
( ^ω^)「お湯メーカー?」
大抵のスマホアプリの情報はチェックしている僕だったが、
それは全く聞いたことの無いものだった。
( ^ω^)「どんなのだお?それ」
('A`)「単純だよ、お湯の沸く様子を眺めるだけのアプリなんだ」
( ^ω^)「……はぁ?」
-
拍子抜けして僕は尋ねた。
(;^ω^)「お湯が沸くのを眺めるだけ?それだけ?」
('A`)「それだけ。
アプリ起動させたら画面に鍋に入った水が表示されるから、
あとはスタートボタンをタップして沸騰するまで眺めているだけ」
そんなアプリに熱中できる理由が全くわからず更に僕は尋ねた。
(;^ω^)「何が面白いんだおそれ……?」
('A`)「うーん、上手く説明できないんだけど……
なーんか止められないんだよな。これが。
沸くまで待つ期待感とか、沸いた後の達成感とか、もうやみつきだよ」
(;^ω^)「理解できない世界だお……」
-
('A`)「まぁ騙されたと思ってお前もやってみたら?基本無料だし、
課金しなくてもそれなりに楽しめるしさ」
(;^ω^)「課金!?そんなのに課金要素があるのかお!?」
('A`)「あぁ、俺も我慢できなくて課金してるよ、
先月なんか仕送りの6万全部つぎ込んじゃったしさ」
(;^ω^)「お前の実家苦しいのによくそんなことを……
ていうか課金して何になるんだお!?」
('A`)「沸かす水が早く補充できたり、コンロの火力が強くなったりとか色々だよ。
そういう要素もなんというか魅力の一つかもな」
(;^ω^)「そんなのカスタマイズしてどうすんだお……本当に分からないお」
('A`)「まぁまぁ、だからお前もやってみろって。俺が招待してやるから」
そう言うとドクオはまたスマートフォンを取り出し、なにやら操作する。
-
すると数秒後、僕のポケットが激しく震えた。
そのポケットに入れていた僕のスマートフォンを確認すると、
ドクオからURL付きのメッセージが飛んできていた。
('A`)「そのURLで始められるから始めてくれ、そしたら俺と湯ーフレになってくれ」
( ^ω^)「湯ーフレ?」
('A`)「紹介で湯ーフレになると、紹介者とその相手の両方に
水が500ミリリットル送られるんだよ。お得だろ?」
(;^ω^)「その水は現実の水じゃないんだおね?」
僕がおそるおそる確認すると、
('A`)「何言ってんだ、当たり前だろ?」
ドクオは真顔で答えるのだった。
-
ドクオと別れた後、最寄りの駅までの電車を待つ間に
先ほどのURLを開いて、そのお湯メイカーとやらを始めてみることにした。
アプリをダウンロードする。
データサイズはかなり小さいらしく、ほんの数秒で落とし終えた。
存在しないお湯を沸かすだけの内容なら、それもさもありなんだ。
( ^ω^)「さて……どれどれ、どんなものかお?」
アイコンをタップしアプリを起動すると、いきなりユーザー登録を求められた。
(;^ω^)「こんなアプリに登録もクソもあるのかお?」
なんとも面倒だが、アカウント名とパスワードだけでいいらしいので
取りあえず画面の指示に従って登録を進める。
( ^ω^)「えーと、アカウント名はboon_chan、パスワードはchanboon、と」
-
登録後、ジャジャーン!という派手な音と光がしたかと思うと、
CGモデルで描かれた水の入った鍋が現れた。
その下にはスタートと書かれたボタンとメニューに戻る為のボタンが有るのみで、
他には特に操作できるようなものはない。
(;^ω^)「うわぁ……シンプルだなぁ」
スタートボタンを押すと、シュボッという音と共に鍋の下に火が現れた。
( ^ω^)「後は待つだけってことかお……
いや、まさか本当に待つだけってことはないはずだお?
多少ミニゲーム要素はあるに違いないお」
1分待ってみたが、別に何も起こらない。
( ^ω^)「まだ何も起こらないお……」
-
それから3分が経過した。
水面にかすかに泡が出てきたが、その他に変化はない。
(;^ω^)「……まだ待つのかお?」
それからさらに3分が立ち、
お湯がボコボコと音を立て完全に沸騰しだすと、
画面にトゲトゲのフキダシで「沸騰成功!」の文字が現れた。
それだけである。
他には、戻るボタンしか出ていない。
評価画面など存在しないし、報酬アイテムもない。
(;^ω^)「ま、マジでお湯が沸くのを見るだけのアプリじゃねーかお!」
じっと画面を見続けていたせいで電車も一本逃してしまうし散々である。
怒りでお湯よりもこっちの頭が沸騰しそうだ、あやうくスマートフォンを
ホームの地面に叩きつけようかと思ったぐらいである。
(#^ω^)「時間返せお!なんなんだおこのクソつまんないアプリ!
こんなのに金かけるなんてドクオもどうかしてるお!」
それきり、僕はそのアプリを起動することはなかった。
-
やがてそのアプリの存在すらも忘れ日々を過ごしていたが、
その日自分の部屋でテレビを何気なく見ていた僕は
とある一つのコマーシャルを目にして驚いた。
テレビ「1億ダウンロード突破!お湯メイカー!まさに話題沸騰中、
お湯だけに!気になる人は"お湯"で検索!」
(;^ω^)「げぇ!あのクソアプリ、CMやってんのかお!」
(;^ω^)「1億ダウンロードとか嘘に決まってるお……
誇大広告としてJAROに通報したほうがいいんじゃないかお……?」
呆れて僕はテレビの電源を落とし、ベッドの上に放り投げていた
ゲーム雑誌を引き寄せて開く。
( ^ω^)「なんか好みの新作のゲーム載ってるかな……?」
パラパラと雑誌をめくっているうち、とある見開きページで僕はまたまた仰天する。
-
(;^ω^)「"今話題のお湯メイカー、最新攻略情報を徹底チェック"……!?
なんでゲーム雑誌にもお湯メイカーのことが載ってんだお!?」
(;^ω^)「あんな内容で攻略することがあんのかお!?
大体、なんでいつのまにこんな世間に浸透してるんだお」
少し気味が悪くなったが、思い直すと広告というのは得てしてこういうものだ。
(;^ω^)「いっつもこうやって、変なものを売りだそうとするんだお……
それで本当に流行ることもあるけど……
まぁこのアプリだけは流石に無いお」
そう、最初はマスコミのゴリ押しで無理やり流行っていることにしているのかと思ったが、
世の中の変化はメディアだけではなかったことを僕は思い知る。
-
それからも、街を歩けばすれ違う人すれ違う人が、
(,,゚Д゚)「お湯メイカーにハマっちゃってさ」
( ・∀・)「お前も?俺も一日中やってるよ」
と、あのアプリの話題を口に出しているではないか。
さらには、混みあった電車に乗れば前後左右に立っている人が
みんなスマートフォンを手にしており、目に入る画面には
どれもこれも沸騰するお湯が写っている始末。
(;^ω^)(おかしいお……なんでみんなあんなのにハマれるんだお……?)
納得はいかないが、現にあのお湯メイカーは確かに流行しているようだ、
それに疑問を挟む余地はない。
-
そして大学でも、学生たちが口々にお湯メイカーを話題にする。
その日も知り合いの学生の一人が話しかけてきた。
ミ,,゚Д゚彡「内藤はお湯メイカーのランクどれぐらい?」
(;^ω^)「あ、僕それやってないんだお」
ミ,,゚Д゚彡「なんだよ、珍しいな。みんなやってんのに。
ちょっと教えて欲しいことあったんだけどなぁ……」
彼の表情が心底失望しているように見えて、僕はドキリとした。
(;^ω^)「あ、でも……」
慌てて、なんとか話題に乗ろうとして声を出したが、
( ゚∀゚)「お湯メイカー?俺結構プロだからなんでも言ってみろよ」
ミ,,゚Д゚彡「マジ?あの硬水なんだけどさぁ」
彼は他の人とお湯メイカーで盛り上がり始めて、僕だけが取り残されてしまった。
-
気味悪さはピークに達しそうだった。
自分が合わなかったものを、誰も彼もが受け入れている現実。
僕だけが別の世界に生きているような疎外感。
「あの人、お湯メイカーしてないよ……」
「遅れてるね、どっかおかしいんじゃない?」
(;^ω^)(な……)
そんな幻聴さえ聞こえてきて、
僕は思わずポケットからスマートフォンを取り出した。
ホーム画面には、あの時から残っているお湯メイカーのアイコン。
(;^ω^)「……」
-
僕はお湯メイカーを起動し、お湯を沸かし始めた。
――1分、2分。
相変わらず、ただ水面に泡が立つだけで退屈極まりない。
だが、目を逸らす気にはなれなかった。
やめた瞬間に社会不適合者の烙印を押されそうで怖かった。
数分後、ぼこぼこ沸騰しだしたお湯を見て僕は息を吐いた。
( ^ω^)(やったお、沸いたお……)
その瞬間、わずかながらも達成感を覚えた僕自身に愕然した。
(;^ω^)(なんだおこの気持ちは……?)
(;^ω^)(いや、これは達成感じゃないお、
ただ辛い作業から開放された喜び以外の何物でもないお……)
僕は首を振って自分をごまかした。
-
だが、それからは下り坂を転げ落ちるようだった。
最初は世間から浮いてしまわないように、
空いた時間でちょこちょことお湯を沸かす程度だったのだが、
次第にその頻度が増えていった。
('A`)「ブーン、メシ食わないの?」
( ^ω^)「ん?あぁ、これ沸かしてから食うお」
('A`)「あんだけメシに執着してたお前がこんなにハマるとはなぁ」
寝食さえ忘れて、湯沸かしに没頭する僕。
あれほど退屈で怒りさえ覚えていた、あのお湯を沸かす作業を
以前よりも受け入れている僕を変に思う暇すらなかった。
勉強もスポーツも興味がわかず、時間が取れれば湯を沸かし続ける日々。
-
やはりと言うか、どっぷりとお湯メイカーにハマり込んでくると
無課金では我慢できなくなった。
( ^ω^)(とりあえず500円で水を追加して……)
という軽い気持ちで投入する程度だったのが、それもエスカレートして
(ヽ^ω^)「なんでもっと火力が上がらないんだおっ……!
もういいお、次は5万ぶち込んで絶対すぐ沸かしてやるお……!」
といった具合に、以前の僕なら大事に大事に取っておいた金額、
もはや生きていくのに必要な金すらお湯メイカーにつぎ込んでいる有り様で、
これは明らかに健康を害している。
その時の僕の姿は、病人や狂人と呼ばれても仕方なかった。
-
やがて僕は大学にも顔を出さなくなり、自分の部屋に篭って
ひたすら一日中スマートフォンの画面を見つめ続けるようになった。
(ヽ^ω^)「……」
お湯が沸くと次の水を買って入れ、それが沸くとまた水を買う。
それだけを繰り返し、現実の水すらわずかしか口にしない。
片付ける時間が惜しいので、
部屋の中は溜まりきったゴミが散乱していた。
ピンポーン
インターホンが鳴ったが、出る気はない。
扉の方向に顔を向けることすらせず、ただ鍋を見続ける。
「おーい、ブーン、いるか?……なんだ、カギ開いてねえじゃん、入るぞー?」
-
ガチャ
ドアノブが回ると、扉が開いた。
('A`)「どうしたんだよブーン、学校にも来ねえしよぉ……、
うわ、部屋汚ねぇなあ」
訪ねてきたのはドクオだった。
そういえば、彼とも1ヶ月近く顔を合わせていない。
(ヽ^ω^)「……」
('A`)「なんか言えよ、心配してきてやったのに……何してんの?」
ドクオが何か話しかけてくるがその声すら邪魔だ、
そんなことよりお湯だ、お湯を沸かさなければ。
('A`)「おーい、聞いてんのか?大丈夫かお前?」
暫くただ話しかけてくるだけだったドクオは、
しびれを切らして僕の持つスマートフォンの画面をひょいと覗き込む。
-
('A`)「ったく、何してんのかと思えばお湯メイカーかよ、懐かしいな」
ドクオのその一言に、僕は敏感に反応した。
(ヽ^ω^)「……懐かしい……?」
('A`)「あぁ、そういえば俺もやってたなーって。今じゃ周りでやってる奴いないけど」
(ヽ^ω^)「な、な……」
力が全身から一気に抜けていく。
今まで、お湯を沸かすためだけに気力を持たせていたようなものだった。
その気力が水蒸気のように消えていく。
お湯だけに。
(ヽ^ω^)「もう誰もやってないのかお……?」
-
('A`)「あぁ。代わりに今流行ってんのはこれ、これだよ」
ドクオが突きつけてきたスマートフォンの画面には、一面黒しか写っていない。
一瞬、電源が入っていないのかと思ったが下の方にメニューバーが存在した。
(ヽ^ω^)「これは……?」
('A`)「ブラックドローってアプリだよ、画面を黒く塗りつぶすだけだから
手軽に出来てハマれるぜ?お前も始めるか?だったら俺と塗り友に……」
(ヽ^ω^)「……やらないお」
僕は心の底から遠慮した。
〜おわり〜
-
おつ
やだこわい……
-
でも実際沸騰してるお湯ってなんか魅入られるんだよな…
-
発想がすごいな 今にもタモさんがでてきそうだ
-
スマホゲー業界の縮図みたい
-
乙。こええな。よくわかんないものにハマッちゃうことあるよなー。
-
ギャグもいけるのか
面白かった
-
>>92
わかる
あのプクプク感は何故か高揚する
-
友人であるドクオの家へ向かう途中、僕は道に落ちていたそれを見つけた。
まるでメッキ加工をしたように輝く、銀色のそれが妙に気になった僕は、
かがんで拾い上げた。
( ^ω^)「なんだおこれ……?」
手のひらにすっぽり収まるぐらいのサイズで、
表面はツルツルとした感触でやけに軽く、どう考えても自然物ではないようだ。
しばらく手の中で転がしているうち、突如ストロボのように激しくそれが光った。
(;^ω^)「うわぁ!」
驚いて思わず放り投げると、それは側溝に転がり落ちて見えなくなった。
( ^ω^)「なんなんだお……」
訳が分からなかったが、その場にずっと突っ立っているわけにもいかず、
やがて僕は歩き出し、ドクオの家へ向かった。
-
ピンポーン
( ^ω^)「ドクオー」
('A`)「おぉ、ブーンか。今開けるぜ」
ドクオ宅へ到着後、インターホンを押すとドアが開いて
中から陰気そうなツラが出てきた。
('A`)「お前また太ったんじゃないか?」
( ^ω^)「昨日会ったばかりじゃないかお」
('A`)「そういえばそうだな。中入れよ、こたつ出したぜこたつ」
( ^ω^)「おぉ、ありがてえお」
その後はドクオの部屋で、こたつに二人でもぐりながら、
他愛ない話をしつつゲームなどをして時間を過ごした。
-
('A`)「デリケートゾーンのかゆみって言うけど
デリケートゾーンってどこだよって話だよな」
( ^ω^)「分かるお、その辺はっきりして欲しいお……
あ、ごめん、僕ちょっとトイレ」
('A`)「先生はトイレじゃありません!」
( ^ω^)「うるせえお、とにかくトイレ借りるお」
尿意を催したのでトイレを借りて用を足したあと、僕はドクオのいる部屋へ戻る。
( ^ω^)「うーさみー」ガチャ
('A`)「おかえりー」
( ^ω^)「ただいまー、そういえばドクオ、昨日やってたアメトークだけど……」
こたつに足を入れながら、昨日見たテレビ番組の話題を出そうとした
その瞬間だった。
-
カチリ
どこかで、スイッチの切り替わるような音がしたかと思うと、
ドクオの顔が急に俯いた。
( A )「……」
そして、ゆっくりと口を開く。
('A`)「……刑事さん」
( ^ω^)「……ドクオ?」
何を言い出したのか分からなかった。
(;^ω^)「えっ、刑事さんってなんだお……?」
('A`)「刑事さん、今日のところは帰ってくれませんか?」
(;^ω^)「え?ドクオ?どうしたんだお」
また変な冗談を言い出したのかと思ったが、ドクオの様子を見る限り
そういった雰囲気ではなく、やけに真に迫っている。
-
('A`)「ちょっと気分が悪くなったみたいですので……
悪いけど帰ってもらえませんか」
(;^ω^)「だ、大丈夫かお?」
ドクオは昔から腹が弱いので、また痛み出したのかと背中を
さすってあげようと手を伸ばした瞬間、ものすごい剣幕で怒りだし、
(#'A`)「帰ってください、刑事さん、お願いですから帰ってください!」
(;^ω^)「え、ちょ、なに!?痛っ!何するんだお!」
そこらにあるクッションやら本やらを僕に向かって
手当たり次第投げつけてきたではないか。
(#'A`)「帰って、帰ってよ!帰れ!帰れ!」
(#'A`)「出てけ!出てけえええええええええええ!!」
(;^ω^)「わ、分かったお!出てくから!出てくから落ち着けお!」
(#'A`)「出てってよおおおお!!!!」
-
( ^ω^)「どうしたんだおドクオ……」
ドクオをなだめる術も思いつかず、僕は外に出るほか無かった。
今までの会話の流れの一体どこに彼の逆鱗に触れる要素があったのか……。
考えてみるもさっぱり分からず立ち尽くす。
(,,゚Д゚)「どう思いますブンさん?鬱田ドクオのあの様子」
( ^ω^)「え?誰だおアンタ」
急に見知らぬオッサンが横からけてきた。
(,,゚Д゚)「あの取り乱しよう……あいつ何か隠してますよ」
(;^ω^)「だから誰なんだおアンタ」
(,,゚Д゚)「俺、しばらくアイツ張ってみます。
ブンさんは捜査本部に報告お願いします、それじゃ」
そう言うとオッサンは僕に敬礼し、走り去っていった。
-
(;^ω^)「なんなんだお……おかしいおどいつもこいつも」
ふと、ポケットになにか入っている感触がしたので
探ってみると、硬いツルツルとした物体が指に触れた。
そっとそれを取り出してみると、
(;^ω^)「なんで……?」
あの時失ったはずの、銀色の石であった。
(;^ω^)「気持ち悪いお……確かに失くしたはずなのに
なんでポケットに入ってるんだお……?」
気味が悪くなった僕はそれをまた側溝へ放り投げた。
-
どこかに寄るような気分にもなれなかった僕は、
その後まっすぐ帰宅した。
( ^ω^)「カーチャン、ただいま」
玄関を開けて挨拶すると、エプロン姿の母が出迎えてくれた。
J( 'ー`)し「おかえりブーン、夕飯もうすぐだから着替えてらっしゃい」
( ^ω^)「分かったお」
サラダがどっさり盛られたボウルをダイニングテーブルに置こうとする
母の隣を通りすぎようとしたその時、またどこかで
カチッ
と、例のスイッチが切り替わるような音がした。
-
J( 'ー`)し「ところで今日は随分早かったのね」
( ^ω^)「うん、ちょっとね」
J( 'ー`)し「アンタずいぶん疲れて見えるわよ、大丈夫?」
( ^ω^)「え?そうかお」
J( 'ー`)し「だから母さん反対だったのよ、体の弱いアンタが小学校の先生だなんて」
(;^ω^)(えっ……!?)
(;^ω^)(な、何言ってるんだお?僕が先生?)
当然僕は学校の先生などではない、ただの高校生だから、むしろ教えられる側だ。
自分の息子の職業を忘れるんじゃないと抗議しようとするも、
(;^ω^)(あれ……!?、声が、声が出ないお!!)
口を動かそうとしても全く動かず、そればかりか
( ^ω^)「大丈夫だって、僕が好きで始めたことなんだから」
(;^ω^)(僕の思ってることとは違う言葉が出ちゃうお!なんだおこれ!?)
-
J( 'ー`)し「とはいってもアンタがそうやって毎日疲れきった顔で
帰ってくると母さん心配なのよ」
( ^ω^)「大丈夫だって、子供は可愛いし……毎日楽しいんだから」
J( 'ー`)し「そう、それならいいけど……。
あぁそうだ、今日はアンタの好きなもの作ってあげるわ、何がいい?」
( ^ω^)「それなら肉じゃががいいな」
(;^ω^)(違うお!僕は鳥の唐揚げが好きなのに!)
J( 'ー`)し「アンタ肉じゃが好きねぇ、よっし!母さん張り切っちゃうかな!」
( ^ω^)「楽しみにしとく」
(;^ω^)(カーチャンまで!僕の好物は肉じゃがじゃないのに!)
やがて僕は自分の意志とは関係なく、居間を出て階段を登り、
2階の自分の部屋へと足を進めた。
(;^ω^)(身体まで勝手に動くなんて……)
-
部屋に入り、ベッドに寝っ転がると急に身体が軽くなったような気がした。
ゆっくりと息を吐きながら喉を震わせると、声が出る。
( ^ω^)「あー、あー」
(;^ω^)「よかった……もう声は出せるようだお……」
両手を交互にグーとパーの形に変える。
( ^ω^)「うん、体も自分で動かせるお……」
(;^ω^)「一体なんなんだお、さっきから……
ドクオといいかーちゃんといい……絶対おかしいお」
次々自分に起こる奇妙な出来事に首を傾げていると
階下から母の呼ぶ声が聞こえた。
「ごはんよー!」
( ^ω^)「はーい!今降りるお!」
-
1階に下りて居間に足を踏み入れると、
ダイニングテーブルに並んでいたのは豚のしょうが焼きであった。
(;^ω^)「肉じゃがじゃないお……」
J( 'ー`)し「え?肉じゃが?何のこと?」
ぼそりと呟いた僕の言葉に母は不思議そうに聞き返した。
(;^ω^)「いや、なんでもないお」
( ^ω^)(さっきの出来事が全く無かったことになってる……?)
その時、玄関の方で鍵を開ける音がした。
「ただいまー」
J( 'ー`)し「あ、お父さん帰ってきたわ」
-
ネクタイを緩めながら父は疲れた表情で居間に入ってくる。
J( 'ー`)し「おかえりお父さん」
( ФωФ)「うん、ただいま。ブーンも帰ってきてるのか」
そう言って椅子を引き腰を下ろそうとしたその瞬間、またあの
カチッ
という音が鳴り、そして
・,.,'・,
ブフッ ・,.,'・, ,'・:,.、 ,'・,
( ФωФ), ',∴ ・;:¨・,.,'・, ,、・,,'・, .∴
父は思い切り吐血した。
-
(;ФωФ)「ゴホッ!ガハッ!グヘェ!」
(;^ω^)「トーチャン!?」
J(;'ー`)し「ちょっとお父さん大丈夫!?」
( ФωФ)「心配するな、いつもの発作だ」
(;^ω^)(いつもの発作!?聞いてないお!トーチャンいつの間に変な病気に!?)
(;^ω^)(で、また僕の声が出なくなってるお!)
( ФωФ)「少し寝てれば治る、大げさなんだよお前らは」
J( 'ー`)し「本当に大丈夫なの?お父さんももう年なんだし……」
( ФωФ)「自分の体のことは自分が一番分かってるよ」
( ФωФ)「……ちょっと横になる、メシは後でいい」
父はハンカチで口の周りの血を拭いながら、居間を出て行った。
(;^ω^)(とーちゃん……)
-
J( 'ー`)し「本当にあの人はいつもそう、あれだけ苦しそうなのにぜんぜん病院に行かないんだから」
(;^ω^)(嘘だお!ちょっとでも具合が悪くなったらすぐ病院に行くはずだおトーチャンは!)
( ^ω^)「えぇ?そうなの?」
J( 'ー`)し「何度か無理矢理連れていこうとしたんだけどねぇ……ガンとして動かないんだから」
J( 'ー`)し「まったく、明治生まれってのは本当に頑固なんだから」
(;^ω^)(明治生まれ!?んな訳ないお!!)
( ^ω^)「まったく本当だよな」
「おーい、聞こえてるぞ」
J( 'ー`)し「あら、ごめんなさい」
外の部屋から聞こえてきた父の不満気な声に母は軽く笑いつつ返した。
-
そのとき、部屋着のポケットが膨らんでいたので探ってみると……。
(;^ω^)「げっ」
なんとまたあの時の銀色の石が入っていた。
(;^ω^)「なんでまたこれがあるんだお……!?」
また捨てても戻ってくるような気がして、僕は捨てずにポケットに仕舞いこんだ。
( ^ω^)(今日はなんか変なことが起こりっぱなしだお……
明日はきっとまともな日常に戻っていることを祈るお……)
そう思いながらも、願ってるような日常は帰ってこないような、
そんな胸騒ぎがどうにも収まらなかった。
( ^ω^)「もう寝るかお……」
-
次の日。
朝食を食べるために居間にやってきた父に、それとなく聞いてみる。
( ^ω^)「トーチャン、なんか体が悪いとかないのかお……?」
( ФωФ)「ん?別にいたって健康だが……どうした?」
(;^ω^)「いや、最近風邪が流行ってるから気をつけてほしいと思って」
( ФωФ)「ふーん、まぁ気をつけるよ」
(;^ω^)(やっぱり昨晩のことは無かったことになってるみたいだお……
なんか、ドッキリでも仕掛けられてる気分だお……)
(;^ω^)彡 (まさか本当にドッキリ!?)ガバッ
思わず振り返ると、そこにはコーヒーカップを持った母が立っていた。
J( 'ー`)し「どうしたのよ、びっくりするじゃない」
( ^ω^)(……そんなわけないかお)
-
昨日の胸騒ぎ通り、その後も僕の周りで奇妙な出来事は頻発した。
カチッ
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンくん、話があるの」
( ^ω^)「ツンさん?」
高嶺の花であったクラスのマドンナであるツンさんから呼び出され、
ウキウキしながら校舎裏へ来ると、彼女は紅潮した顔で僕を壁際に押しやり、
ξ゚⊿゚)ξ「目を閉じて、顔を近づけて……」
( ^ω^)「ひゃ、ひゃい……」
目を閉じると、あぁ、ツンさんの甘い吐息がすぐそこまで……。
カチッ
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね、ブーンくん」ドスッ
( ^ω^)「えっ」
突然の、内蔵が破れるような激痛に目を見開くと、
ツンさんの硬い拳が僕の腹に突き刺さっていた。
-
(;^ω^)「な、なんで……ツン……さん」ガクッ
崩れ落ち、朦朧とする意識の中でツンさんを見上げると、
彼女は悲しげな表情で呟いた。
ξ゚⊿゚)ξ「あなたを巻き込むわけにはいかないの……」
(;-ω^)「ツ、ツンさん……!?」
カチッ
(;-ω-)(まただお、またこの音……)
僕の意識は完全にブラックアウトし、
そして目覚めると、天井の照明が眩しく差し込んできた。
( ^ω^)(ここは……?)
(,,゚Д゚)「それではオペを開始する」
手術着に身を包んだ医師たちが、僕を取り囲んでいた。
(;^ω^)(な、なんで手術されてんだお!?)
-
(,,゚Д゚)「メス」
(*゚ー゚)「はい」
(;^ω^)(ちょっ、待って、なんも悪くないのに腹裂かんといて!!)
カチッ
(,,゚Д゚)「お主、余の顔を見忘れたか!」
(#^ω^)「上様がこのような所に来られるはずがない!」
(#´∀`)「上様の名を騙る不届き者め、であえであえ!」
カチッ
( ´∀`)「それでは弁護人は要旨を述べて下さい」
( ^ω^)「はい、原告は事件当日の8月32日午前9時頃……」
カチッ
( ^ω^)「おいおいどうしたんだいマイケル、暖炉に捨てたスニーカーみたいな顔して?」
\ドッ/
カチッ……カチッ……カチッ……
-
何十、何百かの場面展開をめまぐるしく繰り返したのち、
やがて目の前に銀色のタイツに身を包んだ男が現れた。
( ・∀・)「やぁ、ブーン君だね」
( ^ω^)「は、はい」
突然、僕の名前を呼ばれて驚きながらも答える。
すると彼は、とんでもないことを言い始めた。
( ・∀・)「僕は……君たちのいるこの時代の遙か未来からやってきた」
(;^ω^)「み、未来人!?」
( ・∀・)「君、丸くて手のひらに収まるぐらいの銀色のものを持っているだろう?」
そう言われて思い返すのは、何度捨てても僕のもとに戻ってきた
あの銀色の石。
思えば、あれを拾ってからおかしくなった気がする。
( ^ω^)「ええ、どうしてそれを?」
-
( ・∀・)「実は、それは僕たちの時代のテレビなんだ」
(;^ω^)「テレビ!?」
( ・∀・)「未来のテレビは迫力と臨場感を追求し続けた結果、
自分がドラマの登場人物となって、物語の展開を体験することが
出来るようになったんだ」
( ・∀・)「僕は時間旅行のお供にと、そのテレビを持ってきたんだが……
マヌケなことに、この時代のどこかに落としてしまった」
( ・∀・)「本来なら持ち主の元に戻ってくるという紛失防止機能も付いているんだけど、
落とした拍子に壊れたらしい」
( ・∀・)「それでこの時代をくまなく探してみたところ、君が拾っていたことが分かった。
すまないが返してもらえないか」
普段なら信じないようなことであるが、
あいにく信じられないようなことが立て続けに起こる僕に疑っている余裕はなかった、
僕はポケットからあの石を取り出し、彼に突きつける。
( ^ω^)「はい」
僕の手にあるそれを見た彼は、急に顔を青ざめさせた。
-
(;・∀・)「た、大変だこれは……」
( ^ω^)「どうしたんですかお?」
(;・∀・)「チャンネルボタンがイカれて、押されっぱなしになっている!
これでは次々別のドラマに出演することになってしまうぞ!」
(;^ω^)「それで僕の周りが次々ドラマみたいに場面転換していったのかお!」
(;・∀・)「早く僕に渡してくれ、じゃないとまた別のドラマに……」
僕は急いで彼の手に石を渡そうとしたが、遅かった。
またあの音が響いたのだ。
カチッ
( ^ω^)「「 あ 」」(・∀・ )
-
( ・∀・)「警察だ!悪いが君、この自転車借りてくよ!事件なんだ」
( ^ω^)「えっ、ちょ」
( ・∀・)「後で必ず返すから、京都県警の茂羅に連絡してくれ!じゃあ!」
そう言うと彼はいつの間に僕のそばに置いてあった自転車にまたがると、
あっという間にはるか向こうへ走っていた。
すっかり彼の姿が見えなくなった頃、僕は思った。
( ^ω^)(京都県警ってどこにあるんだお……)
僕の手に残ってしまった未来のテレビを指で撫でつつ、僕はため息を付いた。
(;^ω^)「これどうやって戻すんだお……。どこかに捨てても何故か戻ってくるし……」
-
( ^ω^)「ん?戻ってくる?」
その時僕は、あの未来人の言っていたことを思い出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( ・∀・)「本来なら持ち主の元に戻ってくるという紛失防止機能も付いているんだけど、
落とした拍子に壊れたらしい」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
( ^ω^)「あの紛失防止機能、もしかして壊れたんじゃなくて登録者が僕になっちゃってるのかお?」
なるほどそれなら合点がいく。
まったく、確かに紛失しないことは良いことだが、捨てられないのも困ったものだ。
( ^ω^)「全く迷惑だお、ドラマなんて……ドラマ……」
と、そこで僕は更に恐ろしい考えに至った。
(;^ω^)「もしかしてあの未来人との会話も……単なるドラマの一つだったりしないかお……?」
-
シエンタ
-
カチッ
( ^ω^)「みんな!あの太陽に向ってダッシュだ!」
カチッ
( ^ω^)「お嬢さん……あっしは不器用な人間なもんで……お天道様に背ェ向けて歩けねえんでさぁ」
カチッ
( ^ω^)「最後に質問よろしいでしょうか?」
カチッ……カチッ……カチッ……
それからも僕は、ドラマからドラマを渡り歩き続けている。
僕自身の物語を進められるのは、一体いつになるだろうか。
もしかすれば、あの未来人のドラマにまたチャンネルが合えばチャンスはあるかもしれないが、
ドラマというものは打ち切りになることもありえる。そうなれば僕は……
かつてはドラマのような経験をしてみたいと何度か憧れたが、やはりドラマは見るに限るな、と僕は思い知った。
〜FIN〜
-
乙でござる
はた迷惑なテレビや
-
おつ
確かにドラマに憧れたことはあるけどなww
-
未来のテレビで臨場感溢れるAVを見たいです
-
母親と実演することになる可能性があると
-
いいね!面白い
ここにあるのはオリジナルかな
凄いわ
-
面白いわ
世にも奇妙な物語みたいで好き
-
喫茶店でのネーム作業から帰ってくると、アシスタントの
女の子が僕の元へ駆け寄ってきた。
(*゚ー゚)「先生、手紙が来てましたよ」
( ^ω^)「ん?ありがとう」
アシスタントの子から封筒を受け取り、中身を調べると
そこには繊細そうな文字でつらつら長文が書かれていた。
上から文を読み上げる。
( ^ω^)「なになに?先生が描かれた先週のクロワッサン戦記で
登場人物の一人が弓矢で敵のリーダーをしとめる
描写がありましたが、あの弓の引き方ではまっすぐ
矢を飛ばせません、弓道が誤解されてしまうので
もっと正確な描写をお願いします……か」
その下にも、正しい弓の引き方について様々な用語を交えながら
延々と解説が書かれていた。
( ^ω^)「ふーん……ちょっと適当に書きすぎたのが
悪かったかお……」
-
弓道というのはそこまでメジャーなスポーツでもないだろう、
大勢の人の目に触れる漫画でおざなりな描写をしてしまったら
確かに真剣に弓道に取り組んでいる人に悪いという気もする。
僕は素直に反省し、ご指摘ご教授ありがとうございます、
次回以降は正確な描写を心がけます……と返事をしたためた。
その後ひと段落して、アシスタントは僕にコーヒーを渡しながら
尋ねてきた。
(*゚ー゚)「そういえば先生、これから展開はどうなるんですか?」
僕は頭の中に仕舞っている今後の自作の流れを、かいつまんで話した。
( ^ω^)「うん、敵のアジトまで主人公たちがたどり着くんだけど
進入方法に困ってしまう、そこで仲間のハッカーが
裏門のセキュリティを書き換えてロックを解除するんだお」
(*゚ー゚)「あ、それであのハッカーを仲間に引き入れたんですね」
( ^ω^)「そうだお、その後無事アジト内に進入できるんだけど、
キッチンまで進んだところで四天王の一人が待ち受ける」
(*゚ー゚)「とうとう四天王まで出てくるんですね」
-
( ^ω^)「彼はなんと姿を消す能力を持っていて、
主人公たちは大苦戦するお」
(*゚ー゚)「え!?じゃあどうやって倒すんですか?」
( ^ω^)「主人公はキッチンの隅に小麦粉があるのを発見する、
そこで機転を利かせて、小麦粉をばらまいて
粉塵爆発を起こし、逆転勝利するんだお」
(*゚ー゚)「すごいですね!」
( ^ω^)「四天王を倒した先で、主人公たちは金網を発見する。
すると突然、ヒロインが怯えて震えだすんだお」
(*゚ー゚)「どうしてですか?」
-
( ^ω^)「ヒロインはかつて金網デスマッチで敗れた過去があり、
それが今でも心的外傷として残り続けているんだお、
そのせいで金網を見るだけで恐怖がフラッシュバックして
動けなくなっちゃんだお」
(*゚ー゚)「可哀想ですね……」
( ^ω^)「そんなヒロインの姿を見た主人公は彼女を優しく抱きしめ、
僕たちがついているから大丈夫、と声をかけてやる。
主人公の優しく広い心が受け入れてくれたおかげで、
彼女はトラウマを無事克服するんだお」
(*゚ー゚)「感動ですね、なんかもう涙ぐんじゃいます」
( ^ω^)「まぁそんな感じの展開だお」
(*゚ー゚)「ありがとうございます」
-
実際の漫画でも、おおむね先ほどのような展開で描き進めた。
ここ最近は特に筆が乗ったおかげでスイスイと制作に取りかかれ、
誌上に載った自分の作品を見て、我ながらよく描けたと悦に入っていたのだが。
(*゚ー゚)「先生、また手紙が来てましたよ、三通!」
( ^ω^)「お、またかお」
アシスタントから受け取った三通の封筒を受け取り、
そのうちの一通の封を開けて確認する。
そこには、以前とは違う筆跡だが、やはり繊細そうな文字で
長文が書かれていた。
文を読み上げる。
( ^ω^)「えーと……先生のクロワッサン戦記で、
仲間のハッカーがアジトのセキュリティを書き換えて
ロックを解除するというシーンがありました。
私はシステムエンジニアをやっており、コンピュータにも多少精通しておりますが、
ハッカーというものを先生は根本的に誤解されているようです、
見たこともないセキュリティをその場で解除するというのは
現実あり得ない芸当であり、憤飯ものであると言わざるを得ません、
本来コンピュータのセキュリティというものは……」
-
その後も、セキュリティから情報科学の概念に至るまで解説があり、
同時に僕がどれだけ間違っているかを指摘する文面が続いていた。
(;^ω^)「うーん、そんなこといっても僕は詳しくないもんなぁ……。
やっぱもうちょっと調べて描くべきだったかお?」
見たこともない専門用語が踊る文を眺めていたせいか痒みだした頭を
右手でぼりぼりとかきむしりながらも僕は反省した。
( ^ω^)「あとで謝罪の手紙書かないと……」
とりあえず先ほどの手紙をテーブルにおいて、
僕は次の封筒を開けて文を確認した。
先ほどの手紙の筆跡とは違うものの、やはり繊細そうな文字があり
僕はいやな予感がした。しかし読み上げる。
( ^ω^)「先々週のクロワッサン戦記読みましたが、
粉塵爆発について間違った描写がありましたので
ご迷惑かと思いますが指摘させていただきます。
粉塵爆発というものはそう狙って起こせるものではありませんし、
思惑通りに発生することもありません。
」
化学用語のちりばめられたその後の文章を見て僕は熱が出そうだった。
-
( ^ω^)「プロを怒らせるとマジで面倒だお……」
描写には本当に気をつけなければならない、と僕は肝に銘じて
次の封筒を開けた。
( ^ω^)「次こそファンレターだと嬉しいんだけど……」
だが繊細そうな筆跡を見て、僕はその期待が裏切られたことを
直感的に知った。それでも読み上げる。
( ^ω^)「先週のクロワッサン戦記読ませていただきました、
ヒロインのトラウマを主人公が解消させるというシーンですが、
心理カウンセラーをやっている者からしてみれば、
あのシーンには怒りを覚えました。
仕事柄、様々なトラウマを抱える方々にお会いしておりますが、
心的外傷というものはそう簡単に克服できません、
苦しみ続け、自ら命を絶つ者さえいる現状で、
あのような安直な言葉だけで心の傷を癒せるというのは
危険な考え方でもあります、まず、人間の記憶というのは、
長期記憶と短期記憶、超短期記憶に分かれており……」
( ^ω^)「……うーん……」
僕は思わず、ソファーに倒れ込んでしまった。
(*゚ー゚)「先生!?」
慌ててアシスタントが駆け寄る中、僕は創作というものの難しさを改めて思い知った。
-
それから数ヶ月後、それからも送られ続ける読者からの指摘に
その度応えて展開づくりをしているうちに僕は
自分が書こうと思っていたストーリーを見失ってしまった。
( ^ω^)「ここで主人公が……、いや、こんなことはありえないお……」
どんな展開を書こうとしても、読者からの抗議が頭にちらつき、
僕は当たり障りのない描写しか描けなくなった。
そうすれば当然、漫画としての出来も薄くなっていき、
あえなく僕の連載は打ち切りの憂き目にあうのであった。
(*゚ー゚)「先生……」
( ^ω^)「さようなら、ふがいない師匠でごめんだお……」
そしてアシスタントもくにへ帰ってしまった。
-
それ以後も新作作りから遠ざかりつつあった僕だったが、
ここにきて戯れにホームページに載せていたエッセイ漫画が
思いの外好評となり、なんととある雑誌に連載することになった。
僕は安心していた、なぜなら。
( ^ω^)「エッセイ漫画なら僕自身の経験を書くんだから、
間違ったことを描いて抗議がくることもないお……」
というわけだ。
(*゚ー゚)「良かったですね先生!」
アシスタントも帰ってきて万々歳だ、
僕は久しぶりにうきうきとした心持ちで作画に取り組めた。
( ^ω^)「ふんふん……」
鼻歌なんかも、奏でてみたりして。
それからしばらく経った後のことだ。
-
(*゚ー゚)「先生、手紙が届いてましたよ」
アシスタントから封筒を受け取る。
今度はもう悲観はしていない、次こそきっとファンレターだ。
( ^ω^)「女の子からだと良いなあ……」
(*゚ー゚)「あ、そんなこと言って。わたし、妬いちゃいますよ」
( ^ω^)「まさか」
封筒を鼻に近づけて匂いを嗅いでみると紙の匂いがした。
女性からではないらしいが、それでも励ましや感想なら嬉しいのに代わりはない。
珍しくペーパーナイフで封を切り、中の手紙を取り出す。
それを開くと、書かれていた筆跡はあの繊細そうなものであった。
(;^ω^)「なんか、いやな予感が……」
とにかく目を通してみると、
-
( ^ω^)「先月の先生の作品を読ませて貰いました。
そこで、道ばたの空き缶を拾ってゴミ箱に捨てたということを書いておりましたが、
過去の先生の傾向からいってそんな善行をするのはありません、
本来の先生ならば無視するか、あるいは蹴飛ばすはずです、
このような間違った描き方をすると先生の人格が誤解される可能性が
ありますので、お節介かもしれませんがご指摘させていただきます……」
その下にもつらつらと長文が書かれていたが、僕は読まなかった。
ここでようやく僕は、読者の反応の正しい対処に気付いた。
僕はその手紙をまっぷたつに破るとくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に捨てた。
そしてアシスタントの子に話しかけた。
( ^ω^)「なんか美味しいパンケーキでも食べにいこうかお?」
(*゚ー゚)「わたし天一の方が好きです」
( ^ω^)「じゃあそれで」
部屋の電灯を消して、僕たちは外へ出るのだった。
-
〜おわり〜
-
どうやら愛のためのゴミ箱というのは存在しないものらしい。
最近、とにかく愛が余っている。
人々の胸中に泡のごとく次々と湧き出る愛を、愛ゆえに抑えることが出来ず
ただ本能の行動として消費し、そして消費が追いついていないのが現状だ。
(*゚ー゚)「あれ?内藤さんって普段メガネなんですか?」
僕が俯きがちに電卓を叩いていると職場の女子社員が尋ねてきた。
( ^ω^)「うん?あぁ、家ではメガネなんだお」
(*゚ー゚)「やっぱり。
でも内藤さんがメガネなんてちょっと意外かも」
( ^ω^)「職場でかけたことは一度もないからね……
でもどうして気付いたんだお?」
(*゚ー゚)「ほら、鼻のところがメガネの痕が残ってるじゃないですか」
そう言われて引き出しから小さな鏡を取り出しのぞき込むと、
確かに鼻の両側に楕円の痕がある。
メガネの鼻当てが長い時間接触していたために、その形で残ってしまったものだろう。
-
( ^ω^)「よくそんなところ見て気付けるおね……」
感心して僕が答えると彼女は照れたように小さく笑い、
(*゚ー゚)「わたし、メガネの男の人が好きなんです。
なんか、近眼だとか目が弱いっていわゆる弱点じゃないですか、
そういう弱点を隠すこともできずにメガネという形で表さざるを得ない、
そういうところに胸がじんじんと震えてくるんです。
あぁ、この人には弱いところがある、だから私が守ってあげないといけないって、
そういう気持ちに駆られてしまって」
彼女の言葉と視線が一段また一段と熱を帯びてくるのを感じて、
それとは逆に僕の肝はどんどん冷えてくるので、
(;^ω^)「あ、ごめん、ちょっとトイレに……」
と席を立ち一目散に遁走した。
愛ゆえにこういう悲劇も起きるが、いつもの事なので気に病む必要は何一つ無い。
-
さて、確かに僕はプライベートではメガネをかけている。
しかしそれは、近眼だからとか目が弱いだとか、
そういう真っ当な理由からかけているのではない。
このメガネは、"メガネをかけている"という事実さえ満たせるのなら、
度が入っていなくても、フレームが重くても問題ではないのだ。
退社した僕はまっすぐ家に帰るようなことはせず、
市街地のアーケード商店街を抜けて、その先の飲み屋街へ進んだ。
その一角の小さなスナックビルに僕の目的の店がある。
玄関を通り抜けてエレベータに乗りこみ、5階のボタンを押す。
エレベーターが上昇している間、僕は上着の内ポケットからメガネを取りだし、
ハンカチでレンズを拭うと、それを装着した。
( ◎ω◎)(うん、レンズに汚れはないようだお……)
そうしているうちにエレベータは5階へ到着し、チンと鈴の音が鳴った後、
ドアが開いた。
-
「「「「いらっしゃいませー」」」」
ドアの向こうのフロアから数人の若い男性の挨拶が響いた。
彼らは白いシャツに身を包み、斜め45度のきっちりとした角度で
僕にお辞儀をする。
( ´∀`)「本店のご利用は初めてでしょうか」
( ・∀・)「本店のシステムについてはご存じでしょうか」
(,,゚Д゚)「お煙草はお吸いになりますでしょうか」
ミ,,゚Д゚彡「上着をお預かりいたします」
なにも客一人にこんな大勢で対応しなくてもいいんじゃないか、と思うが
なにしろ世の中に愛が溢れていて、そして従業員も増えている。
ここで働きたいとやって来た人を無碍には出来ず、次々と雇ってしまうからだ。
例えどんなに人手が充実していようが、オーナーは未来ある若者への、
そしてその労働意欲への愛ゆえに、それをやめることが出来ない。
-
( ◎ω◎)「とりあえず10人ほどで頼むお、
煙草は吸わないから禁煙ルームで頼むお」
( ´∀`)「かしこまりました」
( ・∀・)「ではお部屋へとご案内させていただきます」
僕たちは4人の従業員に連れられて、1.5人分ぐらいの幅の狭い廊下を進み、
目的の部屋へと向かった。
その間も僕はメガネのレンズになにも触れることの無いよう、
細心の注意を払い続けた。
( ・∀・)「こちらです」
ミ,,゚Д゚彡「ではごゆっくり」
( ◎ω◎)「ありがとうございますお」
案内された部屋にはシングルの粗末なベッドと照明とテレビのみが置いてあり、
奥にはもう一つドアがあった。
-
店員が出て行った後、ベッドに腰掛けて一息つき、
そして立ち上がり奥のドアをノックする。
( ◎ω◎)コンコン
すぐにドアが開き、10人ほどの小学生ぐらいの年齢の男女がわーっと部屋に突入し、
僕の元へと迫った。
(*゚ー゚)(´・ω・`)(*゚∀゚)川 ゚ -゚)(=゚ω゚)ノ ワー
満面の、という言葉がぴったりな笑顔を浮かばせた彼らは
僕の目の前まで駆けてきて、そして僕のメガネを素手でべたべたと触れ始めた。
曇り一つ無かったきれいなレンズは、子供たちの指紋で次々と埋まり、
メガネ越しに見る室内はあっと言う間に灰色に曇っていった。
( ◎ω◎)「……」
僕は抵抗するでもなく、話しかけるでもなく、ただただ眼鏡を触られ続ける。
子供たちの方も、それ以外は何一つしない。
これが彼らの仕事だし、僕もそれを望んでいるからだ。
-
その後数分が経過して、すっかり眼鏡に何も映らなくなった頃、
子供たちは行為をやめて、一列に並び、壁のそばに立った。
もう頃合いか、と思い僕も立ち上がって彼らの元に向かう。
( ◎ω◎)「ありがとう、楽しかったお」
僕は子供たちの一人一人に感謝の辞を述べ、握手を交わす。
子供たちはやはり笑いながら、ぺこりと頭を下げる。
端から端まで挨拶が終わると、彼らは入ってきたドアから帰っていった。
壁掛け時計の秒針以外は何一つ音のしなくなった部屋で、
僕は眼鏡を外しレンズを改めてまじまじ眺めると、
年輪のような指紋の輪がいくつもいくつも重なりあって残っていた。
それを見ることで、僕は耐えがたい充足感に満たされる。
確かに僕は、愛を受け取ったらしい。
( ^ω^)つ◎-◎「ふぅ……」
ひとつため息をついて、思わずにやける口元を腕で拭うと、
立ち上がり退出した。
-
子供たちは、いわば愛の結晶である。
そして、現在のように愛が大量発生する世の中では、当然愛の結晶も爆発的に増加する。
無尽蔵に沸いてくる愛の結晶を全て受け止められるほどこの国は広くなく、
かといって、溢れる愛は間引きさえもそれを認めず、僕の眼鏡を触ってきた彼らのように、
愛のはけ口として回されることになった。
なぜこれほどまで急速に愛が増加したのか、
幾人もの研究者が原因解明とその対応に勤めたものの、結局分からなかった。
愛は見ることも掴むことも出来なければ、当然その実体は藪の中だ。
愛すると言うことは、大抵誰か、あるいは何か対象が存在するというのが定説だった。
しかし今回発生する愛には特に対象がなく、指向性の無い、ものを選ばない愛が
触れる人すれ違う人に、ポケットティッシュのように配られてしまう。
夫は妻以外のものを愛し、妻も夫以外のものを愛し、
姑は先立たれた夫とその両親とそのご先祖を愛し、子供はクラスメートにすら惜しみなく愛を配り、
家庭内には見ず知らずの愛の受け皿が増え、そしてだれもそれを咎めることが無いゆえに
マンションは空へ空へと伸び続け、アパートは地を這うように広がり続けた。
愛のためにこの国は終焉を迎えつつあったのだ。
-
( ^ω^)「なんか……喉乾いたお」
ジュースでも買おうかと上着を探るとその拍子に紙の束が地面へ散らばり落ちた。
一つを拾い上げるとそこには名前と連絡先が記されている。
ほかの紙も同じようなことが書いてある。先ほどの子供たちからだろう。
( ^ω^)「まったく困ったもんだお」
愛は与えるばかりで、僕のように求める人は少なくなってしまった。
当然だろう、与えても与えても減らないのにわざわざ貰う奴はいない。
僕の場合は、むしろ逆だった。
浴槽の栓を抜いたように、次から次へ愛が失われていく。
愛を時々補充しなければ、なんだかとてつもなく薄情になっていきそうで怖かった。
まるで僕みたいな人間とそれ以外の人たちで、愛のバランスをとっているようだった。
「あああああああああ!!!」
( ^ω^)「ん?」
突然、背後から迫り来る喚声に思わず振り向いた。
-
すると老若男女大勢の人々が、一つの方向へ脇目も振らずに走っていくのが見える。
彼らは笑いながら、至福を全身に満たした風で、
しかし不可抗力を思わせる感じで駆けていた。
(;^ω^)「なっ……?なんだお?」
誰も彼もが笑顔を張り付けて走って行く。
みんな、その場所へ向かうことがこの上ない喜びと疑わない様子で駆けていく。
怪訝に思い、その方向にへ目を凝らしてみると、僕は仰天した。
(;^ω^)「あ、愛が爆発してるお!」
愛は目に見えない、と言ったがそれは訂正するしかないだろう、
形容こそ出来ないが確かに、一人の男から吹きだした愛が可視化され
奔流となって町を浸食しつつあるのだ。
人々はその愛に引き寄せられ、そして愛を放出してからっぽになりつつある爆発元の男へ
自身の止めどない愛を押しつけるために、走っているのだ。
-
(;^ω^)「い、いけないお!」
その方向に向かってはいけない、彼らに加わってはいけない!
本能が警鐘を鳴らし、理性が後ろから追いかけていく。
だが、それでも彼らの列に混じろうと体は動いてしまう。
愛を受け取ること、愛を押しつけること、それが義務であり責務であると信じて疑わない
そのパレードに加わらない自分が、生きている価値がないような
人でなしのように感じてしまうが故に、引き寄せられていく。
アスファルトを削り、筋肉を振るわせて脚はそちらへ向かおうとする。
しかし抵抗をやめるわけにはいかない、
愛の流れに身を任せることが楽になることだと分かっていても、
あの先に安全が保障されているわけじゃない。
今のこの現象は、確かに異常なのだ。
(;^ω^)「こ、こんな……こんな、ただポロポロと産んでは投げつけるような
こんな、愛が、愛とは認めないお……こんなの、違うんだお、
愛のホントの形じゃないって……そ、そうだ、お……」グググ
-
精神と肉体の擦り合いで血の吹き出すような痛みを全身に感じながらも
必死の抵抗のおかげで、僕はなんとか数センチ動くにとどまったが、
しかし限界は近いだろう。
(;^ω^)「だれか止めてくれお……愛は止められないって……そんなの……
酷い話だお……ただ愛があるから愛する、それも対象も選ばずに……
そんなの、猿以下じゃないか……お……もっと尊いもんじゃないかお……」
呪詛とも祈りともしれない言葉を吐きつつ、脚がぎしぎしと悲鳴を上げ、
もはやこれまでと思われたその時だった。
愛の爆発の中心地に群がり互いに体を押しつけ合う連中を、
空から現れた巨大なショベルが地面ごとえぐって掬いあげ、
そしてまた空へ去っていった。
( ^ω^)「……」
一瞬の出来事だった、呆然とすることしか出来ず、
もう動かなくなった脚を握り拳で叩くと、その場に体ごと崩れ落ちた。
-
先程一億総弓道部を読みましたが、
粉塵爆発に対する指摘に対して間違った描写がありましたので
ご迷惑かと思いますが指摘させていただきます。
粉塵爆発というものは一定の状況下では狙って起こせるものでありますし
乾燥させた小麦粉を部屋に充満させれば思惑通りに発生することも十分にあります。
(翻訳:めちゃくちゃ面白い、急いで他の話も読んできます。全力支援)
-
この町のほぼ全人口が、あそこへ集結していたのだろうか。
周りには僕以外、人っ子ひとり居ない。
あれは何だったんだ。あれほど町中に蔓延していた愛は今は気配すらなく
虚無ともしれないものが肌を撫でつける。
愛は人間から生まれるものだとしたら、人間が居なくなれば愛も消えるということか。
現場の近くへ向かうと、大きく抉れた地面が土肌を露出させていた。
血や肉片が残った様子はなく、あのショベルは地面と人間だけを綺麗に持っていったようだ。
連れ去られた彼らは今どこで何をしているんだろうか、
もしかして平気で、新天地で愛を交換し続けているんだろうか。
それを思うと、急に寒気が襲ってきた。
( ^ω^)「寒いお……」
しかし寒かった。
本当に寒くて、上着を体に寄せると、ポケットに細長いものが触れた。
取り出すと、それは指紋だらけの眼鏡だった。
( ^ω^)つ◎-◎「……」
その眼鏡の指紋を僕はどうにもふき取ることは出来ず、
ただその場に立ち尽くすのみだった。
〜おわり〜
-
本スレッドは、ここで終了となります。
今までありがとうございました。
またの機会を、お楽しみに。
敬具
-
一気に全部読んでしまった
おつ
-
超乙
どれもこれも面白いけど
俺的に一億総弓道部が一番好きだ
これからの作品も期待してる
-
最後はなんだか詩人みたいだ
面白かったです
-
不安な気持ちにもなったけど全部面白かった
最後の好き
乙!
-
う〜ん面白いね
乙
-
全部一気読みしたわ
起承転結がしっかりしてて読んでて楽しかった
乙
-
乙
なんだか不思議で読んでて次がよめなかった
楽しかったよ
-
久々の更新でおわっちゃうのさみしいけど面白かったよおつ
-
魅力的な文だった
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■