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( ^ω^)僕らは冷凍都市で生きていくようです
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僕があの町を出てから、早1年。
都会は雰囲気も空気も全く違います。
( ^ω^)「おっ」
ようやく。
都会での生活にも慣れました。
-
( ^ω^)「おっ」
( ^ω^)「おっ」
( ^ω^)「おっ」
目の前から迫りくる人々を避ける。
背負っているバックが揺れる。
脇を通り抜けるリーマンの肩に当たる。僕は謝ろうとそっちの方向を向くが、もうリーマンはいなかった。
思ったよりも。
都会の人々は冷たいです。まるで冷凍庫に入っているみたいに。
と、いうよりはむしろ、この街が冷え切っているみたいです。
-
なんというか、そう──
「冷凍都市」
という言葉が似合う。そういう所です。
( ^ω^)僕らは冷凍都市で生きていくようです
Track1:ZAGEN VS UNDERCOVER
-
「……このように、チボマット族は成人の儀式とぉ……」
窓から白くたなびく雲を眺めていた。
青く澄み渡った空にぶちまけられたペンキのようなそれは、ふわふわと風に流されるがままで漂っている。
大学へ入学して早くも1年の月日が過ぎ去った。
この1年で少しだけ抱いていたモラトリアムは酒と共に流れ去り、残っているのは自尊心と思い出と言う名の残り滓だけ。
改めて思い返しても酒と男と女と涙……まるで昔の演歌のタイトルのような事しか出て来ない。
例えば、こんな話。
A先輩と付き合っていた女……都合上こいつをA子としよう。
そのA子がある日サークル内での飲み会に参加した。その飲み会にはOBの先輩、こいつをBとする。そいつがいた。
Bはよくいる雑誌モデルというやつだった。一応ながらも事務所に所属し、ちょこちょこ仕事をこなしていたらしい。
美歩線の駅構内の壁に大きく張り出された結婚式場の宣伝広告にBが写っていた時は正直驚いた。
そう、察しの良い諸君ならもう既に気が付いていると思うが──
-
('A`)「よっ」
回想の世界へ耽こもうとしたその時、よく見知った顔に声をかけられた。
( ^ω^)「お前人が気持ちよく寝れそうな時に……」
( ^ω^)「というかもう講義終わるお、ドクオ何しに来たんだお」
('A`)「ばっきゃろーテメエ、出席だけしにきたに決まってんだろ」
( ^ω^)「……この講義、講義の頭に名前書かせて出席者控えるようになったから今更出てきても遅いお」
(;'A`)「マジで?」
( ^ω^)「マジマジ」
('A`)「終わったわ、留年決定」
( ^ω^)「名前書いておいた」
('A`)「流石だぜブーン」
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( ^ω^)「名前書いておいた」
('A`)「流石だぜブーン」
( ^ω^)「昼飯奢れお?」
('A`)「余裕余裕。さっきお金降ろしてきたから」
( ^ω^)「……飯食う金も無いって昨日めっちゃ騒いで無かったっけ」
('A`)「いやあ、お金預けてるとこで銀色の球をパチパチ打ってたら沢山お金出てきて」
( ^ω^)「てめえ貸した金でパチ打ってんじゃねえお」
('A`)「まぁまぁ……よいっしょっと」
ドクオはあたかも自然に僕の隣に座ると、前から送られてきた出席カードへサラサラと名前を書く。
('A`)「出席点何点だっけこの講義」
( ^ω^)「3割」
僕も配られたカードへ名前を書く。
隣をチラリとみると、いかにも「僕と一緒に講義を受けてました」と言わんばかりのドクオの堂々とした態度に僕は思わず苦笑してしまった。
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('A`)「何笑ってんだよ」
( ^ω^)「いや、あまりにもドクオが立派に座っているものだからつい」
('A`)「おう、10万勝った王者の風格よ」
( ^ω^)「10万勝っても30点は惜しいのかお」
('A`)「それとこれとは話が別ですぜブーンさんよ」
ドクオ。本名、毒田独夫。経済学部2年。
最初の出会い?よく覚えてない。
省略する。
往々にして大学生ってそんなもんだ。
こいつと一緒にいたことで、僕は沢山のモノを得た。いいことも悪い事も含めて、だ。
得たものが何か?よく覚えてない。
-
………
……
…
講義が終わり、僕とドクオは中庭のベンチでコンビニおにぎりを食べていた。
建物に囲まれた中に差し込む陽の光は、春の暖かさをこの小さな庭へともたらしている。
('A`)「そういやさぁ」
ドクオがチルドパックのコーヒーへストローを差し込みながら口を開く。
('A`)「今日サークルの飲みじゃん? お前出るの? 」
( ^ω^)「出る」
僕はドクオの問に間髪入れず答えた。
(;'A`)「お、おう……」
( ^ω^)「ここ最近マジで女の子と飲みたくて仕方がない」
-
('A`)「ジョルジュも来るのに?」
(;^ω^)「あー、まじかお」
('A`)「アイツ主催よ主催」
( ^ω^)「まぁ、端で静かに飲んでりゃ絡まれることねえお」
('A`)「ホントアイツ人には一気しかさせねえ割に自分飲まねえからな」
( ^ω^)「で、断るとその場のみならずサークル内で空気扱いになるっつう」
('A`)「無駄に権力持ってるから扱い辛いよなぁ」
( ^ω^)「この前もピッチャーで一気させられて死ぬかと思ったお」
('A`)「そろそろビールじゃなくてウォッカをピッチャーで一気させられるんじゃね」
-
そういってドクオはシャツの胸ポケットから煙草を取り出す。
白い箱に赤のブルズアイがちらっと見えた。
( ^ω^)「相変わらずラッキーストライク吸ってんのかお」
('A`)「これ以外吸った気ならねえんだよ」
( ^ω^)「煙草吸うのと同じくらいの速さで寿命も縮んでいくお〜」
('A`)「へっ、どうせならパッと散らせてくれよ」
そういうとドクオは加えた煙草に火をつけ、息を吸うとため込んだ煙を空に向かって吐き出した。
空を漂う雲より薄汚く、低い煙が輪を描いた。
-
「「「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」」」
その掛け声とともにあちこちでグラスの当たる音が鳴る。
掲げられたカットグラスが反射する暖色の灯りは、学生御用達の安居酒屋にクソみたいな彩りを与えた。
僕たちの所属するスポーツサークル「SAMURAI」の新人歓迎会は毎年ここで催される。
サークル員の数もそれなりな僕らのサークル。
加えてまともにスポーツをするよりも飲み会の方が多いうちのサークルはここのお得意様となっているようで、今回は多少「無理を言った」らしい。
確かに去年に比べ、多少食べ物が豪華だし、飲み放題のメニューも増えている気がする。
( ゚∀゚)「マジパネエワンチャンアルッショ」
その無理を言わせた張本人がこの長岡 譲司(ながおか じょうじ)である。
去年は新入生としての参加でお金なんかは一切払っていないはずなのだが。
どうも中身が不満だったようで去年の暮れからずっと先輩にちまちまと言い続けた結果が今回らしい。
「どーよこの交渉力」と本人は胸を張っていたが、結局のところこいつの取り込む力とコミュニケーション能力の勝利だったのだ。
そんな男が僕らの正面に座り、可愛い女の子二人を自分の両脇に置いてはべらせている。
-
('A`)「マジなんだよジョルジュ……てかなんで正面座るんだよ……」
さっきからブツクサと小声で文句を言っている左隣の彼も同じ気分はあまりよろしくないらしい。
僕も一緒だよと心の中で彼の小言に頷く。
ちなみにジョルジュというのは彼のあだ名である。
彼が去年の暮れに「マイネームイズ "ジョルジュ"! 」と連呼しながら外国人のねーちゃんをナンパしている姿を目撃されて以降、ずっとこう呼ばれている。
( ^ω^)「フットサル好きかお?」
「あんまりよく分からないんですけど、友達が入ろうって言ってたから私も一緒に入ろうかなって」
「私が強引に連れてきたんです」
('A`)「へぇ、そうなんだ」
( ^ω^)「まぁ飲み会しかしないけど」
ジョルジュの脇に座る女の子2人と適当に会話を交わす。
この子たちはいつサークルに来なくなるかなと思いつつ、運ばれてくる貧相な料理をぼーっとつまみながら話していた。
-
( ゚∀゚)「おいブーン!お前新入生に一発いいとこ見せてやれよ! 」
目の前に置いていたレモンサワーで口を潤そうと手を伸ばしたその時、ジョルジュから声を掛けられた。
「またいつものが来たな」
そう思った。
何故か分からないけど、飲み会で最初に一気させられるのは僕だ。
彼の何が僕にそうさせるのかが分からないが、どうやらお気に入りらしいのだ。
「てめぇでやれ」そう言いたくなったが、そういうのもめんどくさい。
僕は手の行先をまだ口をつけていないレモンサワーから、半分ほど無くなったビールのピッチャーへと変えた。
( ^ω^)「では不精ブーン!ピッチャー一気させていただきますお!」
そう言って僕は片手で持つにはデカすぎるそれの注ぎ口を口元に近づけ、グイッと傾けた。
目の前に黄金色の液体の固まりが迫ってくる。
いつからか、僕はこうしている。
別にやりたいといったわけでは無いが、いつの間にかこうしている。自問自答をした記憶もないが、僕はこの立場になんだかとどまっている。
何も考える間も無いうちに、僕は黄金色に飲み込まれていった。
-
('A`)「おいブーン大丈夫か?ほら、飲め」
ハッと気が付くと、僕はテーブルに突っ伏していた。身体を起こし、ドクオが差し出してくれた水をグッと飲む。
清涼感と透明感がすっと喉に残る不快な感覚と頭のボヤケを薄め、少しまともになった気がする。
正面にいたジョルジュと、その脇にいた女の子2人は既にいなくなっていた。どうやら別の席へ移ったようだ。
このテーブルに残っているのは僕とドクオの2人だけだ。
('A`)「ったくよぉ、お前酒飲めねえんだからああいうのはやめとけよな」
( ^ω^)「おっおっ、すまんお……僕いつから寝てた?」
('A`)「ピッチャー一気してからずっと突っ伏してた。ジョルジュは爆笑してたけど、両脇の女二人はドン引きしてたよ」
( ^ω^)「ふっ、初っ端から大学生の洗礼をおみまいしてやったお」
('A`)「やられたのはお前だろ」
-
そう言うとドクオは大きく息を吐きだし、タバコを取り出すと加えて火をつけ始めた。
('A`)「そのうち本当に死ぬぞお前」
ドクオは宙を眺めタバコを吸い、大きく煙を吐き出す。
( ^ω^)「あの状況で断る度胸は無いお」
('A`)「だよなー……俺も無理だわ。しかもジョルジュに言われちまうとなぁ」
( ^ω^)「……まぁ飲むお」
('A`)「ぶっ倒れた野郎にもう飲ませたくねえよ……」
( ^ω^)「じゃあタバコくれお」
('A`)「もう無ぇよ」
ドクオはギュッと灰皿で吸っていたタバコをもみ消す。そこには少しだけ煙が燻っていた。
-
………
……
…
(*'A`)「いやあ、飲んだなぁ」
( ^ω^)「レモンサワー計3杯しか飲んでねえくせに酔うの早すぎるお」
(*'A`)「つぶれたブーン君に言われたくないぞっ☆」
( ^ω^)「おかげさまで意識もしっかり頭スッキリ、まだまだ飲めそうだお」
(*'A`)「よし!ブーン復活祝いで次行くか! 」
歓迎会も2次会が終わり、各々3次会へ赴くか解散するかといった感じで、店の前で僕らはダラダラと佇んでこの後の予定を考えている。
4月も末とはいえ、やはり外は寒い。ジャケットのポケットに手を突っ込み、ハァと吐いた息は白かった。
(*'A`)「今ショボンのバイト終わったってさ」
( ^ω^)「おー。じゃあいつもんとこ行くかお? 」
-
('A`)「あー、席空いてるかな今日」
( ^ω^)「……お前あの店の席が埋まってるとこ見たことあるかお?」
('A`)「すまないブーン、一度言ってみたかったんだ。じゃあそこで合流って連絡しとくわ」
( ^ω^)「おk」
('A`)「よしじゃあ移動すっか」
僕は「おう」と返事をして、先に歩き出したドクオと共にこの場からフェードアウトしようとしたその時。
後ろから大きな声が響いてきた。
_
(*゚∀゚)「な〜いいじゃぁ〜ん!」
ξ;゚⊿゚)ξ「いや、もう私たちはホントにいいんで……」
川 ゚ -゚)「……」
-
いつも通りの光景だった。大体飲み会のあとは、ジョルジュが女の子に絡むのが恒例である。
大体その時参加している可愛い女の子を何とかして連れて行こうとするのだが、あまり成功したところを見たことがない。
動かない僕に気が付いたのか、2,3歩離れた位置で振り返ってドクオがこちらを見ていた。
僕がジョルジュの方を指さすと、チラリと見たがすぐに目線をそらして胸のポケットから煙草を取り出して火をつけ始めた。
('A`)y-〜「早く行こう」
ドクオの方へ寄っていくと、煙を吐き出しながら彼はそう言った。
('A`)「今、向こうの黒髪女の方と目が合った」
( ^ω^)「それが何か?」
('A`)「なんか知らんがめんどくさい事に巻き込まれそうだ」
彼は苦々しい顔をしながら煙草を吸うと、煙と共に吐き出すように、加えてこう言った。
('A`)「悪い時の俺の直感は当たるぞ」
-
いつの間にか酔いどれた顔から普段の顔に戻った彼は、冷静にこう言った。
まさかそんなわけあるまい。そう思ってもう一度ジョルジュたちの方を見る。
振り向いた瞬間、ジョルジュに絡まれている金髪女がこちらの方を指さす。
この瞬間、ドクオの言わんとしている事を理解した。
僕らが踵を返してこの場から立ち去ろうとした瞬間、「お待たせしました〜!」という声が背中から聞こえた。
振り返ると、手を振りながら近づいてくる金髪女とその後ろについてくる黒髪女。
そしてその後ろから怒りなのかイラつきなのか憎しみなのか、とにかく絶対にプラスではない感情をこめた視線でこちらを睨むジョルジュがその後ろにチラと見えた。
('A`)「……だから言っただろ?俺の直感は当たるってさ」
ドクオは加えていた煙草をペッと吐き捨てると、足裏でグリグリともみ消した。
-
しえ
-
(;´・ω・`)
その時のショボンの表情はよく覚えている。
良く比喩で「ハトが豆鉄砲くらったような」というのがあるがまさしくこういう顔なのだろう。それくらい驚いた顔をしていたショボンは衝撃的だった。
なんせムサい男2人が来ると思ったら可愛い女の子2人が付いてきたのだ。
誰だって驚く。俺だって驚く。
(;´・ω・`)「あー、ドクオとブーン、後ろの2人は? 」
('A`)「氷河期の厄災の象徴」
( ^ω^)「サークルの新人。詳しくは今から話すお」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、よろしくお願いします」
川 ゚ -゚)「お邪魔させていただきます」
(´・ω・`)「急に2席多めに取っておいてとかいうから何だと思えば……」
(´・ω・`)「あークソ、こんなんだったらちゃんとした服着てくりゃ良かったな」
ショボンは吸っていた煙草を手元に置いていた黒いシンプルな灰皿でもみ消した。
その落ち着いた色合いは、カウンターテーブルと見事にマッチしていて、それもインテリアの一つに見える。
そしてショボンはカウンターの中の方へ向き直ってこう言った。
(´・ω・`)「とりあえずマスター、ジントニック」
-
僕が3杯目のジントニックを飲み終えようとした頃、1杯目のモスコミュールすら飲み終えていないドクオが急に話をふった。
(*'∀`)「ねぇねぇ、ツンとクーは彼氏とかいないの」
ξ;゚⊿゚)ξ「えーっと……」
彼女らが僕らと同学年だと分かった途端、彼の遠慮のリミッターは無くなったようだ。
先ほどからあんまりな質問を連発し続けている。
彼女らもこんな奴らのとこに来なきゃ良かった心底思ってるだろう。
(;^ω^)「こいつ酔うといつもこうだから気にしなくていいお」
(*'A`)「何を言うか!俺はまだまだ素面じゃボケッ」
でも、この2人に彼氏がいないってことは無いだろう。
-
ξ゚⊿゚)ξ
ツンはまつ毛が長く目がぱっちりしていて、とても綺麗な顔をしている。
カールをかけた綺麗な金髪が相まって、まるでフランス人形のようだ。
それでいて人形のような無機物感はまるで無くて……とにかくかわいい。
川 ゚ -゚)
クーは『綺麗』な『女性』といった感じだ。ツンとは逆ベクトルの美しさといったところか。
切れ長のすっとした目に、柔らかそうな唇、そしてスッと通った鼻筋の3つの組み合わせが素晴らしい美人を生み出している。
ξ;゚⊿゚)ξ「えっと、今はいないかな〜?」
川 ゚ -゚)「私はいない」
なお胸に関してはクーの圧勝である。
-
続くドクオのセクハラに近い質問ラッシュにツンとクーが困り果てているそんな時、さっきまで蚊帳の外だったショボンが話をふった。
(´・ω・`)「てかさ、なんでこいつ等の方に逃げてきたわけ?」
(*'A`)「あ、俺もそれ疑問だったわ」
( ^ω^)「僕も僕も」
ξ;゚⊿゚)ξ
川;゚ -゚)
更に困った顔をされた。
そんな困り顔をしながら、絞り出すようにツンが口を開く。
ξ;゚⊿゚)ξ「えっと……最初に座った時に一緒のテーブルにブーン居たじゃないですか」
( ^ω^)「おっ?」
「君いたっけ?」と喉元まで出かかったが、ギリギリで飲み込んだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「で、ピッチャー一気して倒れたじゃないですか」
-
(;^ω^)「おー……」
ξ゚⊿゚)ξ「でー、さっきのあんな状況でー、このままだと無理やりにでも他に着いていかないとー」
ξ゚⊿゚)ξ「チャラそうなさっきの奴らに押し切られて連れていかれそうだったから……」
ξ゚⊿゚)ξ「で、ふとそっちを見たらドクオとブーンが一緒にいて」
ξ;-⊿-)ξ「どっか行きそうな雰囲気だったし便乗して逃げようかって……クーと話して……」
ξ;-⊿-)ξ「さっきの見てたしそんな酒強くなさそうだったから、仮に一緒にどっかいってもめっちゃ飲まされることは無いかなって……」
(*'∀`)「うっひゃっひゃwwwww正解正解wwww俺たち皆よっわいからwwww」
(´・ω・`)「てめえは弱すぎなんだよ」
川 ゚ -゚)「あと、私がドクオと目が合った時、頷いてくれたからな」
('A`)「えっ」
-
川 ゚ -゚)「私が救いのまなざしを送った時にさり気なくサインを送る男気を信じさせてもらった」
('A`)「(おい、俺頷いてたか)」
( ^ω^)「(多分目線外したときの顔の動きで勘違いされたんじゃね)」
(´・ω・`)「ほーん」
聞くだけ聞いてショボンは興味無さげに手元の柿の種をポリポリとかじった。
ξ゚⊿゚)ξ「……迷惑だった?」
(´・ω・`)「いや、別に。ムサい男たちで飲むよか全然華があっていい」
('A`)「悪かったなムサい男たちでよ」
( ^ω^)「まぁこれもいい機会だったということで」
川 ゚ -゚)「うむ、そうだな」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、みんなでV・I・PのID交換しましょうよ、私たち全然分からないからブーンとかドクオにいろいろ聞きたいし……」
V・I・Pは最近はやりのメッセンジャーアプリだ。何かの略称だったと思うが、詳しいことは忘れた。
僕は慌ててスマートフォンのロックを解除してアプリを開く。
ちらっと見えたアプリ内の「友達」の数を見て、少しの虚しさが心にチクリと刺さった。
-
………
……
…
目の前のつり革が規則正しく揺れていた。
窓の外から見える街の明かりは相変わらず煌々と輝いている。
電車の中に詰め込まれた人間たちの目には生気はあまり無く、皆一様に疲れ果てた顔をしている。
人は多いのに、車内は気持ちが悪いくらい静かだ。鳴るのは車輪とレールの振動と、時々聞こえる携帯のバイブ音だけだった。
「この街は人間たちの生気を吸い取って生きている」
人々のこんな姿を見ると、そんな妄想を時々してしまう。
そしてまた見るたびに思うのだ。「あぁ、間違ってはいなさそうだ」と。
つい10分前、他の面子と別れた僕はドクオと共に電車に揺られていた。
ドクオは席に座った瞬間に寝てしまい、僕はやることも無くスマートフォンを弄っていた。
「ツンとクーにメッセージでも送ろうかな」
そう思ってロックを解除した瞬間、スマートフォンが震えた。
-
<【ツン】 今日はありがと〜(*^。^*) またサークルでよろしくね♪
(*^ω^)
IDを交換した後の義務的な送信だとしても、やはり嬉しい。
それが女の子だと尚更だ。この1年、女の子とそれらしい交流もしていなかった僕にとってはさらにだ。
('A`)「なぁブーン」
( ^ω^)「なんだおドクオ」
僕はツンにメッセージの返信をしながら返事をする。
ドクオも先ほどからずっと弄っているスマホの手を止めずに話す。
('A`)「ジョルジュがいなくなったらしい」
_,
( ^ω^)「……はぁ?」
('A`)「飲んでる最中だかなんだか知らんが、急に」
-
( ^ω^)「どうせ酒に酔いすぎてどっかにフラフラいったんだお」
('A`)「そうだよな、どうせこの前みたいに道端で爆睡してるとこ拾われるパターンだよな」
( ^ω^)「どちらにしても僕たちは知らんし、まぁ心配する必要も無いお」
('A`)「だな。というわけでブーンの家で飲みなおそうか」
( ^ω^)「ふざけんなテメエ、この前散々飲み荒してくれたおかげで冷蔵庫の中空っぽだお」
ガタン、と電車が大きく揺れた。
そして響くブレーキの音、開くドアから流れ出るゾンビのような人々。
電車から吐き出される人たちの波に流されるまま、また僕たちも街の中へ飲み込まれて帰路へと着く。
多分今日飲んだ他のサークルの皆も僕らと同じように、各々それぞれ夜を明かしたのだろう。
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そしてみんなこう思っていたはずだ。
「まぁどうせジョルジュだから」
と。
しかし、次の日も、
また次の次の日も、
彼は戻ってこなかった。
そして、次の週も、
また次の次の月も、
彼はこの街で見つかることは無かった。
-
Track1:ZAGEN VS UNDERCOVER
了
-
面白い
支援
-
以上、第1話でした。
所々ミスがありましたので、次回は気をつけながら投下していきたいと思います。
次回は来週を目途に投下予定です。
また、よろしくお願いします。
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× ドクオは席に座った瞬間に寝てしまい、
〇 ドクオは席に座った瞬間からスマホとにらめっこしている。
こういうミスとかね!次から気をつけます!
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イイネ!
支援
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こういうのいいな おつ
日常系か、そこから転がるのかも楽しみだ
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これはデルポイ
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俺ZAZEN BOYS大好きなんだ
これは支援せざるを得ない
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細かいかもしれんが、タバコを加える×銜える○な。
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こいつは姿くらまさないでほしいね
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ショボンは(´・ω・`)より(´・ω・`)を使った方がいいよ。
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冷凍都市ってナンバガじゃないっけ?向井ワールドだからまぁどっちでも良いんだけどさ
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デルポイくん
前の作品はもう書くのやめたの?
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冷蔵庫に見えたがなかなか良さそうおつ
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すげぇ良い雰囲気だ乙
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wktk
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乙、面白そう
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雰囲気いいな
続きが気になるな
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これはいい
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雰囲気が素晴らしい
待ちきれないの、あふぅ
-
こんばんは。
第2話投下していきます。
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ちょっとしたホールのような広さがあるこの部屋は、一番人数が多いサークルに割り当てられる。
中は窓際から部屋の真ん中まで休憩室のようにテーブルが適当に置かれ、壁際にある椅子を引っ張ってきて適当に座るのがこの部室のルールだ。
もちろん、誰も椅子を律儀に片づけなんてしない。
椅子は置かれっぱなしになっているので、そのルールも形骸化している。
この部室にはいつも誰かがそこにいて、そしていつの間にかいなくなる。
そんな部屋でいつもここに居たのがジョルジュだった。
そのジョルジュが居なくなってから、3ヶ月が経つ。
もう、僕らのサークル部屋の中は何時ものように戻っていた。
例えば、いつもジョルジュと馬鹿笑いをしながら壁際でよく話していた彼女たち。
彼が消えた次の日くらいまでは、まるで自分の親を殺されたかのように延々とヒステリックに泣きじゃくっていた。
今は雑誌をめくって夏休みにどこへ行くかの会議で忙しそうだ。
例えば、いつもジョルジュに金魚のフンのようにくっついてはへらへらと喋っていた彼ら。
同じく次の日くらいまでは神妙な面持ちでジョルジュについての話をしていた。
今は飲み会と女がどうこうという話で持ち切りのようだ。
-
そう、この部屋はいつものように戻ったのだ。
ただ、ジョルジュという要素が無くなっただけで。
Track2:Frustration in my blood
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('A`)「よう、待たせたな」
(´・ω・`)「ようやく来たな」
ドクオがサークル部屋のドアを開けて僕とショボンの座る窓際のテーブルへ歩いてくる。
熱心に話していた彼らはチラッとドクオの方を向いたが、すぐに自分たちの話に戻っていった。
( ^ω^)「おっせえお」
ドクオは僕の正面の席に座ると、僕の近くにおいていた灰皿を自分の方へと引き寄せ、少しくたびれたシャツの胸ポケットから煙草を取り出しながら答えた。
以前ドクオにそのシャツをいい加減捨てろと言った記憶がある。
彼は「ヴィンテージだ」と言ってニヤリと笑っただけだったが。
('A`)「文化学概論の教授が中々見つからなくてよ」
( ^ω^)「で、結果は?」
('A`)「余裕っすよ。余裕でレポート不受理」
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( ^ω^)「wwwwwwww」
(´・ω・`)「さすがのドクオでも無理だったか」
ドクオは苦笑いを浮かべ、煙草を銜えて火をつける。
大きく吸い込み、ブハァと煙を吐き出した。
(;'∀`)「土下座してる俺に向かって『君、謝ればどうにかなると思うのやめた方がいいと思うよ』だってさ」
( ^ω^)「ついにドクオの土下座芸に負けない教授が現れたのかお」
('A`)「あーあ、いい機会だし真面目になるかな」
(´・ω・`)「そうか、この後ブーン、ツン、クー、僕の4人で飯食いに行くんだけど、3コマ控えてるドクオ君は行けないね。いや残念」
('A`)「よし、代返してもらうからちょっと待っとけ」
( ^ω^)「真面目になるとはなんだったのか」
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ξ゚⊿゚)ξ「お待たせー」
川 ゚ -゚)「ドクオ、首尾は上々だったかい?」
('A`)「『ビューン。俺は死んだ』」
('A`)「つーか何でクーが俺の土下座行脚知ってんだよ」
(´・ω・`)「ドクオ、君が思うより自分の行動は他の人に知られているんだよ」
( ^ω^)「つーか堂々と廊下のど真ん中で土下座してる男なんて嫌でも知られるわ」
ξ゚⊿゚)ξ「うん……ドクオのこと全く知らない私の友達も『よく教授に土下座している変なガリガリの男がいる』って話してたもの……」
川 ゚ -゚)「私も、というか実際見た」
('A`)「そいつは光栄だね」
( ^ω^)「褒めてねえお」
(´・ω・`)「じゃあ今日はドクオの落第祝いでもしようか」
('A`)「えっ、何?奢ってくれるの??うへへ」
ヒョーイと奇声を上げながら部屋を出るドクオの後に続いて僕らも出る。
部屋の端で今だ熱心に話している彼らはこちらをチラッと見たが、またすぐに自分たちの話に戻っていった。
-
『ブロッサム』という名前をこのレストランにつけたきっかけは、「桜の花のように沢山のお客さんに来てほしい」事から名付けたらしい。
今、見渡していた壁に貼ってあるポスターに、ちょこっと書いてあった。
確かに桜は満開の期間こそ多くの花が咲くが、その期間は果てしなく短い。
そんな刹那的な瞬間を望んで名付けたこの店の姿勢は実にロックだと思う。
そんなロックな店は僕らの大学から程よい距離にあり、料金も安く種類も豊富なため、ここの学生御用達となっている。
ξ゚⊿゚)ξ「結局ジョルジュってどうなったんだろうね」
僕が『ブロッサム』名物、大盛りカルボナーラを食べ終え、食後に運ばれてきたコーヒーに口をつけようかと思った時、ツンが言った。
( ^ω^)「結局まだ見つかって無いんだお?」
川 ゚ -゚)「財布とか鞄とかは街のあちこちで見つかってるらしいが、本人はまだみたいだな」
(´・ω・`)「他のメンバーが少し目を離していた瞬間に消えた、神隠しだとかって言ってたね」
-
('A`)「別に消えてもらって構わねえけどなあんな奴」
ドクオが煙草を雑にもみ消しながら言う。
('A`)「遅かれ早かれどうにかなってるよアイツ」
川 ゚ -゚)「あいかわらず捻くれてるなドクオは」
(´・ω・`)「捻くれなかったらドクオじゃないからな」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「これだから童貞は」
('A`)「童貞は関係ないだろ!いい加減にしろ! 」
全員でゲラゲラと笑う。
こういう、何の実にもならない会話が好きだ。
どうでもいい話でどうでもよく笑う、この時間が僕はたまらなく好き。
なのだが。
-
(´・ω・`)「でも僕も結構気になってるよこの件は」
( ^ω^)「おっ」
(´・ω・`)「繁華街で突然の失踪……興味深いじゃないか」
('A`)「出た、ショボンの気になる病」
(´^ω^`)「いやだなぁ、探求心が豊かだと言ってくれよ」
(´^ω^`)「久々に興味が湧いた。この件は個人的に探ってみるよ」
ショボンは指先でコツコツと机を叩きながらニコニコと笑った。
いつもショボンが指をせわしなく動かすときはテンションが上がっているときだと、ドクオが以前言っていた。
川 ゚ -゚)「そうやって首を突っ込みすぎるとそのうち痛い目にあうぞ」
クーが右ひじをテーブルにつきながら、コーヒーを啜る。
いつの間にかクーが手元に置いていた灰皿の上に、吸いかけの煙草が置かれていた。
-
(´・ω・`)「痛い目見そうな事に首を突っ込むのが楽しいんだよ」
ショボンのコツコツと机を叩く速度が上がる。
(´・ω・`)「どうせ普通に生きてても痛い目見る事なんてそんなに無い」
(´・ω・`)「だったら少しくらい持て余してる自由を使って経験したっていいじゃないか」
('A`)「俺は痛い目見まくってるぞ、主にパチンコで」
(;^ω^)「お前なあ……」
ξ゚⊿゚)ξ「ま、そういうなら別に止めないけど。私たちを巻き込まないでね」
先ほどから我関せずと言った感じでアイスコーヒーを飲んでいたツンが口を開く。
言葉に何時ものような丸さが無く、刺々しい口調だった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「そういうしょーもない事で私ケガしたくないし」
(´・ω・`)「これだからいい子ちゃんはつまらないね」
コツコツコツコツコツコツ。
ξ゚⊿゚)ξ「つまらなくて結構。メリットも無い訳分かんないことに巻き込まれて人生壊したくないだけ」
(´^ω^`)「ほぉー? そうやってつまらなく生きて痛みも知らない温室育ちは出来上がっていくんだなぁ! 」
ξ゚⊿゚)ξ「あら? 大学まで不自由なく行かせてもらって、仕送りまでしてもらってるショボン君がまるで温室育ちじゃないみたいな言い方ね? 」
(´^ω^`)「これが普通なんだよ? 知らなかったかい? 」
コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ。
(;^ω^)「おいおいおいおい、そろそろやめるお」
('A`)「はい、この話はおしまい! はい、ヤメヤメ! 」
-
ここ最近、この2人はずっとこんな感じだ。
何が気に入らないのか、お互い発言に噛みつくことが多い。
そして僕らが止めなければ彼らはそれを延々と続ける。
この前、「何がそんなに不満なのか」と彼と彼女に聞いた。
揃って帰ってきた答えは「とくにありません」だった。
極端に振れる僕らの関係と雰囲気は、ここ最近なんだかよく分からなくなっている。
何といえばいいのだろう、とにかく「殺伐」とした空気感が僕らの間に漂う時間が多くなっていた。
結局この後、僕らは何とも言えない空気の中解散。
ツンはバイト、ショボンは用事、クーは講義だと言って、「ブロッサム」から去って行った。
-
僕は結局いつもどおり、ドクオと一緒に駅への道を歩いていた。
雲一つない青空から射す日差しが僕らを包み、肌にヒリヒリと刺さる。
もうすでに春の優しい太陽は去っていってしまったようだ。
( ^ω^)「なあドクオ」
('A`)「あん? 」
(;^ω^)「なんつーか、僕……今すげーめんどくさいお」
('A`)「察した。……まぁーな」
ドクオは胸ポケットから出しかけていた煙草の箱をしまう。
('A`)「ブーン、お前って県外組だよな? 」
( ^ω^)「そうだお」
('A`)「県内組……というかこの街で生まれ育った人間目線で言わせてもらう」
('A`)「ここの人間は、あんまり深い付き合いを好まん」
さっきからブラかせていた手をポケットへ突っ込みながらドクオは語る。
-
('A`)「自分の中に踏み込まれるのを極端に嫌うというか……なんつうか」
(;^ω^)「ほぉう……」
('A`)「ショボンってあれじゃん、知りたがりでガンガン踏み込みに行くじゃん」
('A`)「だから多分、ツンは本能的にショボンを嫌ってるんじゃないかな」
(;^ω^)「はぁ……」
正直、ドクオの言っていることが全く分からない。
僕は田舎者だからなのだろうか?
知り合って、仲良くなって、そして相手を知るために踏み込んでいく事に嫌悪感を覚える理由がいまいち分からない。
そんなモヤモヤした感情を消化しきる間も無く、ドクオは続ける。
-
('A`)「あとブーンは一年住んでるから何となく分かると思うけど。この街、あんまり治安良くねえだろ」
( ^ω^)「それはよく分かる」
この街は正直言って、怖い。
夜に繁華街を歩くだけでも、危なげなギラギラとした目をした柄の悪い奴らが肩を揺らしながら歩いている。
加えて脇を見れば客引きと、派手な格好のホストやキャバ嬢があちらこちらで待ち構えている。
少し路地裏に逸れれば、口から血を流してぶっ倒れてる男や、明らかにイッた目をした奴らがいるのがこの街だ。
('A`)「俺も何回カツアゲされたか……パチ屋に財布の中身持ってかれて既にスッカラカンだっつうのに……」
('A`)「ま、あのショボンに対する態度は、そんだけヤバい所に突っ込んで行かせないようにするツンなりの優しさよ」
( ^ω^)「でもショボンだってこっちに来て1年は経ってるんだし、ヤバいとこくらい知ってるんじゃ」
('A`)「……あいつさ、自分だけはトラブルに巻き込まれねえって思ってる節があるだろ」
('A`)「漫画や小説の主人公みたいにさ」
-
(;^ω^)「……あー、何となく分かるお……」
('A`)「そうじゃなきゃあんなに色んな事に首突っ込もうとしねえって」
('A`)「この前だってあの猫街通りの、あのヤバい噂しか聞いたことないクラブに行ったって言うし」
(;^ω^)「マジかお」
そのクラブはその手の話に疎い僕でも聞いたことがある。
この街一の繁華街のさらに真ん中、猫街通りの丁度真ん中辺り、地下のライブハウスのさらに下にそこはある。
殴り合い等のトラブルは日常茶飯事。裏ではドラッグを流しているという噂もあるくらいだ。
('A`)「『トンでるガールが沢山居たよ!』って楽しそうに喋ってくれたわ」
('A`)「とにかく、あの『自分が主人公』思想はそのうちとんでもない事に巻き込まれるだろうからな」
( ^ω^)「……ツンも素直に言ってあげればいいのに」
('A`)「だってアイツってさ……ツン」
( ^ω^)「デレ」
('A`)「それ」
僕とドクオは互いに顔を見てヘヘッと笑う。
-
('A`)「ま、そういう事だ。以上、俺の私見と雑感」
('A`)「と、いう訳で分かり合うために俺らも今晩飲もうぜ」
(;^ω^)「お前、ほんと飲めないくせに飲むの好きだお」
('A`)「飲むとさぁ……頭がふわふわしてきて何にも考えなくてもハッピーになれるからさ……」
(;^ω^)「毒だお、まさしくコイツ酒毒に浸食されてやがるお」
('A`)「へへへ……さあ飲もうぜ! 落第記念で奢ってくれよ! 」
( ^ω^)「さっきハンバーグランチ奢ってやったろ」
('A`)「そうだっけか」
( ^ω^)「そうだお」
('A`)「じゃあ今度勝ったら俺もなんか奢ってやるかな」
( ^ω^)「期待しないで待ってるお」
('A`)「つーわけで飲み代も奢ってくれ」
( ^ω^)「お前死ねお」
-
………
……
…
「このようにして相関係数による……」
僕の心はふわりと宙に浮いていた。
多分、窓の外で青い空を優雅に漂う雲なんかより、もっと掴みどころが無くて薄っぺらい。
そう、昨日の飲みのせいだ。
おかげさまで盛大な二日酔いと寝不足のダブルパンチを食らい、脳みその中までフワフワしている。
('A`)「おいブーン」
ドクオの声でハッと気がつく。
講義を受けたまでは覚えていたのだが、いつの間にか時は僕の脇を小走りで駆けて行ってしまった。
('A`)「授業終わってんぞ」
(;^ω^)「おー……」
('A`)「……昨日のが効いてるな」
-
(;^ω^)「うん」
('A`)「俺も久々にキテる」
(;^ω^)「なんか酔い方がおかしかったお昨日の飲みは」
('A`)「……まぁ2人とも結構飲んだからな」
( ^ω^)「……まぁな」
('A`)「お前、強くないんだからほどほどにな」
( ^ω^)「なんだよ急に気持ち悪い」
('A`)「講義寝過ごしとかされると俺の出席点に響くから」
( ^ω^)「だと思ったお」
('A`)「ま、それは冗談だとしてもだ。あんまり無理しすぎんなよ」
-
川 ゚ -゚)「おいドクオ、待たせたな」
('A`)「おっ……じゃあ、俺行くわ。また後でなブーン」
そういって講義室の出入り口からそろって出ていくクーとドクオ。
ドクオはピシッとしたドット柄のシャツの襟を弄りながらクーの後をついていく。
昨日、飲んでる最中にドクオがクーと遊びに行くと連呼していたのを思い出す。
「頑張れよ」心の中でそうドクオにエールを送り、僕は重い頭を抱えて机に突っ伏した。
(´・ω・`)「よっ!」
またも後ろから声をかけられた。
重い頭を持ち上げて振り向くと、そこにいたのは相変わらずいい体格をした、垂れ眉の男だった。
気持ち、いつもより彼のテンションが高い気がする。
-
( ^ω^)「ショボン」
(´・ω・`)「まったく昨日は参ったね」
( ^ω^)「ツンと殴り合わんばかりの剣幕でやりあうの、いい加減勘弁してほしいお」
(´・ω・`)「ああ? ああ、あれくらい喧嘩したうちに入らないから平気平気」
(´・ω・`)「今暇? 良かったら昼飯一緒食べない? 」
( ^ω^)「オッケーだお」
(´・ω・`)「学食行く? 」
( ^ω^)「混んでそうだしサークル室でいいお」
(´・ω・`)「了解」
僕は机の上に広げっぱなしになっていたノートと資料をリュックの中へと適当に詰め込み、僕はショボンと共にサークル室へと向かう。
日が差し込む窓の外を見ると、薄く広がった白い雲が、青い空の真ん中で留まっていた。
-
入ったサークル室の中は意外にガランとしていた。
昼のこの時間であれば、もう少し人がいると思っていたのだが。
僕とショボンは窓際のテーブルに座ると、机の上に乗っていた雑誌類を端に寄せ、生協で買ってきた昼飯を広げる。
それから僕らは、口の中から垂れ流れてくる話を、だらだらと零していた。
特に何かするわけでも無く、かといって黙っているわけでも無く、僕たちはただ漠然とそこで時間を過ごしていた。
そんな僕らの緩やかとも怠惰ともいえる時の流れが変わったのは、ショボンの一言からだった。
(´・ω・`)「昨日、あのあとジョルジュの件に関していろいろ調べに行ったんだ」
( ^ω^)「……まぁそんな気はしてたお。どこ行ってたんだお? 」
(´・ω・`)「ゲイバー」
(;^ω^)「ゲイッ……!?」
僕は危うく飲みかけていたコーヒー牛乳を吹きだすところでなんとか堪えた。
おいおい、なんていうカミングアウトをするんだこいつは。
(´・ω・`)「ジョルジュの件を探りに、ちょっとね」
-
(;^ω^)「……なんでジョルジュの件を探るためにゲイバーに行くんだお……」
(´・ω・`)「そのゲイバーのマスターの人脈が広いもんでね、あそこらへんの話題はあの店に一気に集まってくる」
(´・ω・`)「で、その話題をマスターが結構喋るから、酒飲むついでに聞いてたってわけ」
( ^ω^)「ほぉう……? で、成果は? 」
(´・ω・`)「ジョルジュに関しては結構聞けた。懐は軽くなったけどね」
( ^ω^)「おっ、結局ジョルジュは」
(´・ω・`)「さらに」
僕の言葉を遮り、ショボンは話し続ける。
(´・ω・`)「ジョルジュの情報の副産物じゃないけど、おもしろい話を一つ聞いた」
-
(;^ω^)「面白い話? 」
(´^ω^`)「ふふふ、君はきっとビックリするぞ」
(;^ω^)「なんだお、それ。気になるお……」
(´・ω・`)「もう少し待て。ジョルジュの件も含め、裏付けが取れて確信が取れたらいくらでも聞かせてやる」
(;^ω^)「お前、引っ張ってここでさらに引っ張るかお」
(´・ω・`)「気になる病患者は結構臆病なんだ」
(´・ω・`)「夜、いつものバーで会おう。バイト?サボれ」
そういってショボンは自分の手元に置いていた紙パックのストローを咥えて啜る。
ズッズッと、中から空っぽの音がした。
-
………
……
…
('A`)「で、お前は不完全燃焼だったわけだ」
(;^ω^)「ホント、煮え切らない昼下がりの会話だったお……」
あの昼食の後、ショボンと別れ午後の講義を受けた僕は何となく構内を歩いていた。
中庭に行くと、ベンチで暇そうにしていたドクオがいたので、そのまま僕も隣に座って一緒にだべっていた。
('A`)「ま、俺はショボンにケツの穴を狙われていなかった事が分かっただけでも少し安心したよ」
( ^ω^)「それは確かに」
('A`)「でも最悪ショボンに身体売って金稼ぐという選択肢が無くなったのは痛い」
( ^ω^)「お前ってやっぱりクズだお」
-
( ^ω^)「そういやクーはどうしたんだお?」
('A`)「講義があるってさ、ついさっき行っちまったよ」
( ^ω^)「で、お前は中庭でスマホ弄ってたのかお」
('A`)「へっへっへっ……今日も3万スッちまったしよぉ、やる事もねえし」
(;^ω^)「……今日も? 」
まさかと思うが、今日クーとパチンコ打ちに行ってたんじゃあるまいな、こいつ。
もし仮に本当だとしたらとんでもない馬鹿だと改めて確信するだけだが。
('A`)「いやーでも今日は助かったぜ」
('A`)「なんせクーが馬鹿当たりして一気に7万勝ったからな。ビギナーズラックって恐ろしいわ」
('A`)「なっさけねえ事に俺、助けてもらっちゃってさ……へへへ」
-
審議無用。こいつは本物の馬鹿だった。
( ^ω^)「ホントお前何つうか……バカ? 」
(*'A`)「よせやい照れるだろ」
( ^ω^)「いやいや褒めてねえお」
( ^ω^)「デートでパチンコに行っちゃうデリカシーの無さに呆れてるんだお」
(;'A`)「……やっぱパチンコはまずかったかな」
( ^ω^)「うんまぁ初デートでパチンコ屋連れてく奴は中々いないし、実に個性的でいいんじゃないかお」
(;'A`)「お、俺らしさがにじみ出て良かったって事だよな? 」
( ^ω^)「うーん……」
-
何か気の利いた一言でも言おうと考えた次の瞬間。
車輪と線路が擦り合う音を響かせながらホームへと電車が入ってきた。
僕は言いたくなった言葉を喉の奥へと引っ込めて、電車へと乗り込む。
乗り込むときにもドクオは「良かったよな? だって7万も勝ったもんな? 」と僕に向かって聞いてきた。
僕は「まぁまぁじゃないかお? 」と返して座席に座った。
ドクオは「そうだよな、負けてないもの」といって僕の隣に座った。
( ^ω^)「……お前、おもいっきり負けてるお」
さっき、出かけて引っ込めた言葉を僕は吐き出した。
-
………
……
…
右腕に着けた時計を見る。時計の針はそろそろ9時をさそうとしていた。
昼間、ショボンに言われ通り僕はバイトをサボり、いつものバーに来ていた。
僕がショボンを待ち続けてからそろそろ2時間は経つ。
彼に送ったV・I・Pのメッセージを見るが、未だに既読のマークがつかない。
/ ,' 3 「お連れ様、中々いらっしゃいませんね」
去年から頻繁にこの店に来ているが、初めてバーテンダーに話しかけられた。
僕はちょっと挙動不審になりながら、彼に答える。
(;^ω^)「えっ、ま、まぁ結構彼、時間にルーズなんで……」
/ ,' 3「本日内藤様はどなたとご一緒のご予定で?」
バーテンダーの口から僕の名前が出て、更に驚いた。
僕がここで本名を口にしたのは数えるほどしかないはずなのに。
-
(;^ω^)「えっと……垂れ眉でガタイのいい奴と……」
/ ,' 3「ああ、緒本(おもと)様ですね? 」
(;^ω^)「……良くご存知ですね? 」
/ ,' 3「ええ、緒本様にはご贔屓にしていただいているので」
/ ,' 3「内藤様もいつもありがとうございます」
(;^ω^)「いやいや、こちらこそいつも美味しいお酒ありがとうございますお」
胸につけた「ARAMAKI」と書かれた名札を直しながら、軽く礼をするバーテンダー。
こういう仕事は客の顔と名前を覚えるのも仕事の内なのだろうが、「この人は半端じゃないな」と僕でもわかる。
それとも、僕が知らないだけで、バーテンダーは皆この能力を持っているのだろうか。
だとすれば、脳みそに情報が入るとそのまま他の情報が流れ出る僕には、とてもじゃないができないな。
-
/ ,' 3「最近、緒本様は人間関係にお悩みのようですね」
唐突にバーテンダーから話を振られる。
( ^ω^)「……はぁ」
/ ,' 3「色々とお聞きしております」
どうやらショボンはここで溜め込んだものを吐き出していたらしい。
ツンに対してあれだけ言っているのに、まだ吐き出したりていなかったのだろうか。
/ ,' 3「でも、内藤様達のような友人というのは素晴らしいと思いますけどね」
( ^ω^)「今にも殴り合いそうな雰囲気で喧嘩してばっかりですけどね」
/ ,' 3「それが素晴らしいのです」
バーテンダーが開いているのか閉じているのか分からない、細い目で僕の顔をじっと見つめる。
-
/ ,' 3「最近の子たちは、表面的に触れ合ってヘラヘラと過ごすことを友達付き合いだと勘違いしているのです」
/ ,' 3「あなた方みたいに、喧嘩するくらいの付き合いをする人たちは最近では珍しいものですよ」
( ^ω^)「……はぁ」
いまいちピンとこないが、僕は言わんとすることは分かった気になった。
「出過ぎたことを言ってしまい申し訳ありません」そう言って頭を下げるバーテンダー。
「いえいえ」そういって答える僕。
バーテンが出してきた4杯目のカクテルを僕は一口含む。
口の中に入ったそれは、爽やかさよりも甘さよりも、やけにアルコールの苦味が濃く感じた。
「これなんですか? 」と僕はバーテンに問う。
「オリジナルのカクテルです」彼は答える。
「苦味があった方が、旨みが引き立つのですよ」バーテンダーはニッコリと笑った。
その後、僕はチビチビとそのカクテルを飲み続け、バーテンダーと他愛もない話をしながらショボンを待ち続けた。
結局この日、ショボンがいつものバーに来ることは無かった。
V・I・Pのメッセージには、既読のマークがいつまでたっても付かなかった。
-
Track2:Frustration in my blood
了
-
以上第2話でした。
支援や乙、ありがとうございます。
次回は来週、もしくは再来週あたりを目途に投下予定です。
また、よろしくお願いします。
-
乙
現行で一番楽しみにしてるわ
-
乙乙 気になる終わり方すんなぁ
続き楽しみにしてる
-
乙乙乙
とても良い感じ。このまま頑張って欲しい。
-
登場人物から滲むクズっぷりと
こ空気感が良いわ
乙過ぎる
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綺麗な街を彷彿させるなおつ
-
ディストピアな感じはない
-
>>90の言ってる事も分かるっちゃあ分かるな
冷凍都市って感じならもっと殺伐さをアピールしてもいいかもね
作者のテーマがそうじゃないんだったらスマソ
-
あ、俺は>>89に対するレスとして>>90を書いたことを申し添えておく
「この作品は綺麗な街とは別の感じな良作だ」という感じの読者様的な意見なのだった(恥
-
>>92
街で蠢く不穏な陰にブーンたちがほのぼのとしつつも
徐々に巻き込まれていきそうな展開が綺麗な街みたいだと思ったんだ
何はともあれ軽率だったすまない
この作品には期待してるから>>1は気にせずがんばってくれ
-
期待
-
こんばんは。
これから第3話投下します。
-
朝日が、白く眩しい。
僕は、陽が昇った夜明けの街を歩いていた。
この街を一人でふらつくのはいつ以来だろう。
確か、こちらの街へ越してきた直後によく歩いていた記憶はあるのだが。
( ^ω^)
僕はショボンが居なくなってから、1人で夜歩くようになった。
別に誰も信じられないとか、繊細な心が傷ついた乙女のようになったわけでは無い。
ただ、何故か何となく僕はこの街を歩くようになった。これだけが事実だ。
-
酔いどれて回らなくなった頭も少し歩いているとクリアになってきた。
ふと道の脇を見ると、その場にうずくまっている人や、ダルそうな顔をして輪になりながらフワフワした会話をしている学生達がいる。
僕が練り歩くこの街は、人で溢れている。
中心に位置する駅へ多くの人が吸い込まれ、多くの人が吐き出される。
この時間、早朝は吸い込まれそびれた人々が、道端であったりそこらの店でまた呑み込まれる時を待つ。
もう少し陽が昇れば、また駅はまた活動を始め、また街は動き出す。
そして彼らはビルディングが立ち並ぶ中、一様にどこかへ消えていく。
そんな彼らと共にジョルジュも、そしてショボンも消えていったのだろうか。
Track:3 Delayed Brain
-
道端でうずくまるサラリーマン風の男性を見ていると、僕がこの街に来た直後の事を思い出す。
確か、よく場所も分からず朝に駅前でブラブラしていた時のことだ。
コーヒーを片手に、ボーっと駅の構内で立っていたのは覚えている。
それが人待ちだったのか、ただ単に暇を持て余していたのかは覚えていないが。
改札口から出てくる無数の人々を眺め、
( ^ω^)「(やっぱり都会は人の数が全然違うお……)」
と、改めて地元とのギャップをかみしめていた。
そんな僕の目の前を、フラフラとサラリーマンが歩いていった。
無精ひげにボサボサの髪、そして目の下のクマとやつれた顔は、僕の中の「社畜」というイメージにぴったりくるものだった。
『あんな感じにはなりたくないお』
そう思いながら歩いていく社畜君を、僕はボケッと見つめていた。
-
すると、社畜君がいきなり倒れた。
本当に自然に、力尽きるようにパタリと倒れた映像は、今でも脳内で鮮明に再生できるくらい強烈に焼き付いている。
(;^ω^)「!!! 」
丁度電車が到着したのだろう、多くの人が改札口に迫っているのが見えた。
倒れた社畜君に向かって歩いていく改札口から出てくる人々。
そして、するりと皆避けていく。
誰も心配する素振りなど見せなかった。
ただただ、彼らは歩いていた。
倒れた社畜君の周りだけ、人が全く寄らず、そこだけパックリと空間が空いている状況は異質だった。
そして、皆が一様に倒れた彼に投げかけていく視線は、汚物のそれを見ているような、冷たい目だった。
それからのことはよく覚えていない。
確か僕が駅員さんを呼んでから救急車で運ばれる社畜君、彼を見送った記憶がぼんやりとあるだけだ。
-
そんな記憶よりも僕の中では、都会の人々に対する恐怖の念が優っていた。
ただ、人が倒れようが何をしようが、彼らにとってはどうでもよい事なのだ。
何も無く、ただそこにいるだけの存在、それが他人であると彼らは黙して語っていた。
これだけ冷え切った街で、僕は過ごしていけるのだろうか。
そんな恐怖と不安で心の中が満ちていった。
それが去年の春の事だった。
あの頃から大して僕は変わらずにいる。
相変わらずボンヤリと、どこかを見つめながらこの街で暮らしている。
-
(;^ω^)「おっ」
ドンッと、右肩に何か当たった。
この街中で当たるものと言えば、人の目線か身体しかない。
「すいません」
そう言うために当たった方向を向く。
( ・∀・)
数歩離れた位置にいた彼は、穏やかな表情でこちらを見ていた。
それを見て僕はほっとする。
この街で人に当たると、大体は3パターンに分類される。
1、舌打ち、もしくはにらみつけながら去っていく(稀にそのまま殴られる)
2、何事もなかったかのように去っていく
3、お互いに「すいません」と謝って去っていく
今回は3。お互い気持ちよく去れる最高のパターンである。
-
( ^ω^)「すいませんでしたお」
そういって僕は軽く彼に向かって会釈をする。
( ・∀・)
すると彼はこちらへ歩き、数歩の距離を詰めてきた。
先ほどのパターンが適用されるのは、大通りの相手だけ。
僕は、裏路地にいたことをすっかりと忘れていた。
( ・∀・)「お前さ、何笑ってんの? 」
(;^ω^)「は? 」
( ・∀・)「何笑ってんのって言ってんの」
(;^ω^)「いやいや、そんな事……」
-
この時、彼の顔を見た僕は覚悟を決めざるを得なくなった。
穏やかに見えた彼の顔は、ただニヤけていただけ。
そして落ち着いたように見えていた目は視線が定まらず、宙をさまよっていた。
分かりやすく言うならば、目がイッちゃっていた。
( ゚∀・)「なあ、何笑ってんだよ、なあ!? 」
胸倉を捕まれ、グイッと持ち上げられる。
正直貧弱そうに見た彼に持ち上げられた僕の心は一気に竦み上がった。
彼の身体から、強烈な甘い香りが漂ってくる。
焦げたカラメルソースのような、刺さる匂いだった。
-
(;^ω^)「わ、笑ってませんお!笑ってませんお!ぶつかってすいません! 」
( ゚∀・)「牛の分際で何ヒクついてんだよ……ああ虫か?そういう顔だったのか!!! 」
もはや何を言っているのかも理解できない。
とにかく激情している彼は、懐をゴソゴソと探り、何かを取り出す。
取り出した右手には、鈍く光る銀色が見えた。
多分、ナイフだ。
生命の危機に瀕した時、人はなかなか動けないのだとこの瞬間分かった。
とっさに手に持つナイフを蹴り落としたりすることが出来るのは、漫画の中だけでしかあり得ないのだろう。
「あ、僕死んだな」
-
そう思った次の瞬間。
僕の身体は投げ出され、僕を掴んでいた彼はいつの間にか男2人に取り押さえられていた。
( ゚∀・)「いてぇ!いてぇ!!! 」
(#´∀`)「おいこの馬鹿!やめろ!! 」
(,,#゚Д゚)「ほんといい加減にしとけよゴラァ! 」
ガタイの良い、厳つい顔をした男が倒れた彼に馬乗りになって押さえつける。
恰幅の良い、垂れ目の男が厳つい男と一緒に抑え込む。
恰幅の良い男が、少し疲れて大人しくなってきたところで、何かイッた目をした男にしたのが見えた。
イッた目をした男は、しばらくバタバタしたのち、急に大人しくなった。
-
馬乗りになっていた男はふぅ、と一息ついてからイッた目の男を一発殴り、こちらを向いた。
(,,゚Д゚)「見せもんじゃねえぞ、どっか行けゴルァ」
続けて恰幅の良い男がこちらを向いてこう言った。
( ´∀`)「兄ちゃんもこうなりたい? 」
そういって押さえつけた男の顔をこちらに向ける。
とてもじゃないが、僕の語彙では表現できない顔をした彼をちょっとだけ見た僕は、早足で立ち去った。
僕がこの街で学んだこと。
ヤバいと思ったらすぐに逃げることだ。
-
………
……
…
『では、次のニュースです。最近問題となっているドラッグ『SUGAR MAN』、これを販売している……』
僕は右手に齧ったおにぎりを持ち、サークル室にあるボロテレビから流れるニュースをボーっと見ていた。
ここ最近、サークル室には人が寄り付かない。
短期間で同じサークルから行方不明が2人も出てしまい、怖くなったからなのか。
それとも単にここにいるのに飽きたのか、それは僕以外の誰かしか分からない。
僕は、ショボンが居なくなってからの事をボンヤリ思い出していた。
あの日の翌日から、僕は彼の家を毎日訪ねている。
忘れ物を取りに行くついでに、あと、あの日の文句を言うためにだ。
大学から歩いて10分、住人の9割が大学生、安アパート2階の角部屋、そこが彼の家だ。
そこのインターフォンを3回鳴らした。
しかし返ってくるのは静寂だけで、出てくる人はいなかった。
-
「やっぱり今日もいないのか」
ある日もこうして彼の不在を確かめる。
そして僕が帰ろうと振り返ると、人がいた。
(`・ω・´)「ショボンに何か用ですか」
そこにいたのは、眉をキリっとさせて、少し歳を取らせたショボンだった。
(`・ω・´)「いやあ、ショボンにも友人がいたのですなぁ」
僕はショボンのお父さん……しゃっきりした眉だからシャキンさんとしよう。
シャキンさんと向かい合って、何故かショボンの家の中でコーヒーを飲んでいた。
シャキンさんが「入って入って」と促すものだから、しょうがなくだ。
-
(`・ω・´)「昔から友達が少なくてねあいつは、何でも一人でやるもんだから……」
( ^ω^)「確かに、それは今でも変わらないみたいですお」
シャキンさんが苦笑いを浮かべる。
(`・ω・´)「変わらなくていいとこばかりそのままだなアイツは」
(`・ω・´)「基本的にあいつは誰でも下に見ているのかも知れない」
( ^ω^)「いや、そんなことは……」
(`・ω・´)「ずっとあいつはああだったよ」
そういってコーヒーを啜るシャキンさん。
僕は友人の部屋で友人の親父と向かい合いコーヒーを二人きりで飲んでいるこの状況が、死ぬほど辛かった。
-
( ^ω^)「あのぉ……ショボンは……」
この空気に耐えかねた僕は口を開く。
シャキンさんは、コーヒーカップをことりと置いて、こちらを向く。
(`・ω・´)「……うん、相変わらず進展はない」
(`・ω・´)「ぱったりと形跡も無くなってね、どこいったんだかホント」
そう言って右頬をポリポリと掻くシャキンさん。
なんとも言えない表情をしながら机の上を見つめる彼は、少し疲れているように見えた。
( ^ω^)「……」
(`・ω・´)「僕のできることはこうやって時々ショボンの部屋の掃除をしながら、帰りを待つことだけさ」
-
( ^ω^)「結構、余裕あるんですね」
(`・ω・´)「ん? 」
(;^ω^)「あ、いや、普通身内が居なくなったときってもう少し取り乱すものかと思っていたから……」
(`・ω・´)「……まぁ、僕らの場合は何となく覚悟ができてたからね」
(`・ω・´)「いつか、興味を持て余しすぎて、どこかへ消えていくんじゃないかって、ずっと心のどっかで僕も妻も思ってたのかもしれない」
(`・ω・´)「今回の話を聞いても、あまり驚きとかそういうのが無かったんだ」
( ^ω^)「……」
-
(`・ω・´)「冷たいと思われるかな。でも僕らにとってはある意味最初から分かってた事だったんだ」
( ^ω^)「……そうですかお」
(`・ω・´)「でも僕らは親だから。彼が見つかるまでずっと探すよ」
(`・ω・´)「探すと言えばこの名前のお店を知らないかい?」
(`・ω・´)「テーブルの上のメモに殴り書きされててね、君も探してみてくれないか」
そういってシャキンさんは僕にメモ書きのコピーを渡した。
そこには「Bar abe」と殴り書きされたショボンの文字が書いていった。
そして、今日に至る。
-
『このドラッグにこの名称が……カラメルの……』
彼はいったい、どこへ行ったのだろう。
何故彼が、居なくなってしまったのだろう。
多分、彼は踏み入れてはいけないところへ行ってしまったのだろう。
と、いう事は察することはできるのだが。
僕は、ジョルジュが居なくなった時、探さなくなった彼らを僕は内心馬鹿にしてたし、憤慨していた。
しかし、今では彼らの気持ちが分かる気がする。
探せば探すほど見つからず、手がかりも、足跡も無いこの状態に、自分の無力さと失望感に溢れていくのだ。
『最近では摘発のために……潜入捜査官が……』
('A`)「よっ」
見知った顔が姿を現す。
もう見るのもウンザリしていた顔だったが、ショボンが居なくなってからは顔を見るとホッと一安心する。
-
('A`)「何してんの? 」
( ^ω^)「おにぎり食ってたお」
('A`)「見たら分かるよ」
そういってドクオは僕の正面の椅子に座る。
僕はドクオの方に灰皿を差し出すが、彼は気にも留めず手に持っていた缶コーヒーを飲んでいた。
( ^ω^)「……あれ? 」
('A`)「あん? 」
( ^ω^)「おかしい、お前ドクオじゃないな? 」
(;'A`)「……何言ってんだお前」
( ^ω^)「いや、ドクオいつもこのタイミングで煙草吸うから」
('A`)「あぁ……俺最近煙草止めたんだ」
-
(;^ω^)「えっ、マジで? 」
('A`)「マジマジ」
( ^ω^)「煙草吸えなかったら死ぬと言ってたお前がなぁ」
('∀`)「……クーが『煙草を吸う男はあまり好きじゃないな』って言ってたからさ」
そういって鼻の頭をかくドクオ。
照れくさそうに笑う彼の顔がなんだか新鮮に見える。
( ^ω^)「そう言って絶対3日後にはまた煙草吸ってるお」
('A`)「いや!今回は断じて吸わん! セミナーでもそう学んだしな! 」
( ^ω^)「セミナー? 」
('A`)「クーに連れてってもらったんだよ」
(;^ω^)「ほ、ほぉ……」
-
('A`)「『嗜好品を断ち切り己を高めよ』……ってな」
('A`)「『絶対人生が変わるから! 』って誘われてさ……。最初は俺も半信半疑だったけどよ」
('∀`)「これが実際聞いてみると凄かったんだよ! 俺目が覚めた気分になっちゃってさぁ! 」
彼が人生の春に足を踏み入れようとしていたことを祝おうとしたが、そのまま僕は拍手する手を下した。
(;^ω^)「そ、そっか。それは何よりだお」
('A`)「ブーンも来ねえか? マジですげえぞ」
(;^ω^)「いや……僕は遠慮しておくお」
('A`)「ま、無理にとは言わねえ。救いが欲しくなったらいつでもいってくれ」
(;^ω^)「おう、サンキューだお」
-
('∀`)「じゃ、俺またセミナーいってくるから」
彼は春へ駆け上がっているつもりが、実は下り坂で地獄へ向かっているのかもしれない。
ドクオは僕に向かって二指で敬礼をすると、サークル室を出て行った。
出て行った彼の顔は、それはそれは爽やかで、まさしくこの世の春を謳歌している彼の心中がよく現れているように見えた。
僕は彼を止めようかとも思ったが、その顔を見て彼を止められなくなってしまった。
一見地獄に見える場所でも、もしかしたら彼にとっては春になるかもしれない。
そう思ってしまったからだ。
-
彼が出て行った直後、閉まっていた扉がまた開いた。
ξ゚⊿゚)ξ「あら」
人生を謳歌しているような顔をしていたドクオと入れ替わりで入ってきたのはツンだった。
彼女の目は少しくたびれた感じで僕の方を見つめていた。
なんだか気持ち、いつもより疲れているように見えた。
ξ゚⊿゚)ξ「なんか久々ね」
( ^ω^)「最近ここで会ってなかった気がするお」
ξ゚⊿゚)ξ「気がする、じゃなくて実際会ってなかったのよ」
そういって彼女は俺の正面の席に座る。
彼女は右手に持っていたコンビニの袋をドサッとテーブルの上に置いて、ドカッと座り込んだ。
-
この前、駅前で遭遇した時はなんだか少し安心した。
自分以外が信じられない街で、自分の見知った顔と出会えることは心強い事なのだと初めて知った。
ξ゚⊿゚)ξ「で、成果は? 」
( ^ω^)「ショボンが言ってたゲイバーを見つけた。今日行ってみるお」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅーん、頑張ってね」
(;^ω^)「……あれ、心配とかしてくれないのかお」
ξ゚⊿゚)ξ「え?……じゃあ、ワセリンとローション、ゴムを忘れないようにね」
( ^ω^)「誰が僕の尻の心配をしろと言った」
ξ゚⊿゚)ξ「あのねえ、私もう心配するの程々にすることにしたの」
ξ゚⊿゚)ξ「心配して心配して、ホントにそれが現実になっちゃうと結構辛いって分かっちゃったし」
-
( ^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「他人ならいいのだけど。それが身内、というか友人ならちょっとね」
ツンは飲み切ったエナジードリンクの缶をテーブルに優しく置く。
カンと、軽い音が静かなサークル室内に響いた。
ξ゚⊿゚)ξ「だから、あんんま考えすぎないことにするわ」
( ^ω^)「そんならいい報告できるように帰ってくるお」
ξ゚⊿゚)ξ「……無理しないようにね」
( ^ω^)「おっ、なんだかんだ言って心配してくれるんじゃないかお」
ツンは「うっさい」と言って僕に空の缶を投げつける。
少し感覚を開けて、中身の入ったエナジードリンクを優しく僕の方へ放り投げる。
彼女なりのエールをしっかり受け取った僕は、隣に置いていたバックパックを背負い、サークル室を出る。
サークル室の入口正面にある窓から日が差し込む。その日差しはまだまだ夏の暑さを帯びていた。
-
ヤッタァァァァア!!!!!
-
………
……
…
猫街通りのメイン通りから2本外れた裏路地の、寂れたビルの地下1階にこのゲイバーはある。
またこの前のような事にならないように、僕は細心の注意を払いながらこの通りを歩く。
これだけキョロキョロしながら歩いている僕は、メイン通りなら間違いなく職質の対象だろう。
しかし、ここでは僕は目立たない。
何故なら僕なんかがこの風景に溶け込んでしまいそうになるくらい、周りはもっと騒がしく、にぎやかだからだ。
もちろん、良い意味ではない。喧騒とか、そういった意味でのものだ。
僕はうずくまっているオッサンと、うつろな目をしながら煙草を吸う若者の脇をすり抜け、ビルの階段を下る。
降りると、少し開けたフロアがそこにあり、その先に古びた木製のドア。
そしてその隣には「Bar abe」と書かれた看板がぶら下がっている。
-
ついにゲイバーか…
-
見た感じは、普通のバーと言った感じの様子だ。
僕らがいつも行っている所と変わらない気がする。
僕はドアを押し開き、中へと入る。ベルの音と、ドアの軋む音が響いた。
N| "゚'` {"゚`lリ「いらっしゃいませ」
店内に入ると、低く渋い声が僕を出迎えてくれた。
その声の主の方を見ると、ピシッとタキシードを着こなした、いいガタイをした男がこちらを見つめていた。
N| "゚'` {"゚`lリ「よかったらカウンター席が空いていますので、こちらへどうぞ」
彼に手招かれるまま、僕は入口から見て一番奥の席へ座る。
ここから僕の勝負が始まる。
そんな気がした。
僕は色気すら感じてしまう、バーテンダーの目を見てこういった。
( ^ω^)「ジントニックを、一つ」
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Track3:Delayed Brain
了
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以上第3話でした。
予定より投稿が遅れてしまいました。
次回こそ、来週か再来週に投下予定です。
また、よろしくお願いします。
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おつ
うーんおもしろくなってきたなぁ
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はじめて読んだけどふいんき(ryいいね
続き期待乙
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おつです
登場人物が生きてるのに死んでる感じが不思議ですきです
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乙
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さらっと読ませるのが凄い
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やっぱ雰囲気いいな
次も期待させてもらう
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乙
彼らの無力感が肌で感じられる
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乙
めっちゃ好きだけど疑問符感嘆符とかっこ閉じの間のスペースがめっちゃ気になる
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全角スペースとセットで辞書登録してるんじゃね
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疑問符感嘆符の後はスペースを開けるのが正しいんじゃなかった?
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>>134は
括弧内の末尾においてもそのルールを適用するべきなのか
という問いだろ
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http://www.raitonoveru.jp/howto2/bunnsyou/05.html
「!」や「?」の後には、一マス空けるというルールがあります。
●例
× 「早く駅前に来てくれ!間に合わなくなる」
○ 「早く駅前に来てくれ! 間に合わなくなる」
だだし、閉じカッコの直前に来た場合は、例外です。1マス空ける必要はありません。
おせっかいかもしんないけどざっと調べて来たよ
まあこの程度の差、直さなくてもいいとは思うけどね
-
こんばんは。
これから第4話投下します。
-
Track4:BRUTAL MAN
-
N| "゚'` {"゚`lリ「お客さん……いい身体してるね」
席に着いた僕が、カウンターから最初にかけられた言葉がこれだ。
危うく口に含んだジントニックを吹きだしかけた。
(;^ω^)「い、いや……ただ太っているだけですお」
ここは結構古びたバーだ。
しかし、古さというのはバーにとっては趣を高める要素の一つでしかない。
あまりに雰囲気が良すぎたおかげで、僕はここが男色を好む人々が集う場所であることを失念していた。
よく考えなくても、『そういう』ことを求めてやってくる人も少なからずいるのだろう。
N| "゚'` {"゚`lリ「そういうのが好きってお客さん、知ってるぜ? 紹介してやろうか」
いつの間にか砕けた口調になっている、バーテンダーのいい男は僕にグッと顔を近づけてそう言う。
思わず同性なのに顔を赤くしてしまいそうになる。それくらい凄いフェロモンが彼からは滲み出ていた。
-
多分、この世界ではモテにモテるのではないだろうか。いや、僕らの暮らす世界でも、間違いなく人気が出るだろう。
(;^ω^)「いやいやいやいや、結構ですお」
N| "゚'` {"゚`lリ「恥ずかしがるなよ。男は度胸、何でもやってみるものさ」
(;^ω^)「そんな事言われても」
「僕、ノーマルですし」
この言葉が口をついて出そうになったが、寸前で堪えた。
ここは、ゲイバーだ。
ノーマルがここにいたら自分らの居場所を荒らされている、そう思われてもおかしくないだろう。
それは、困る。
僕がここに来たのは、情報を引き出すためだ。
この場所の事、ジョルジュの事、そして、ショボンの事。
-
ショボンが言っていた通りならば、ここのマスターは聞けば話すのだろう。
スムーズに、何事も無く聞き出すためには適当に合わせて不快にだけはさせたくない。
さらに付け加えて言うならば。
こんな街のこんな場所で平然と店を構えて営業しているような彼を、敵に回すのは色々とまずいだろう。
N| "゚'` {"゚`lリ「ん? 何にも知らないでこんなとこに入ってきたって言うのか」
N| "゚'` {"゚`lリ「治安もまるでよろしくないような、路地裏にあるこんなボロいバーに」
予想が外れた。
受け答えがどうも正しくなかったらしい。
(;^ω^)「いや、あの」
身体から滲み出るフェロモンが、威圧感に変わった。
鋭い眼光でこっちを睨みつけるバーテンダー。
僕は彼の雰囲気に完全に押された。
-
N| "゚'` {"゚`lリ「『あいつら』のお仲間かな? いや、それにしちゃあ随分と……」
(;^ω^)「何の話ですかお? 僕はただお酒を嗜みに……」
N| "゚'` {"゚`lリ「……」
(;^ω^)「……」
若干の沈黙。
その後、険しい表情だったバーテンダーの顔が緩んだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「……ははは! すまんすまん、ついからかいたくなってな」
(;^ω^)「えっ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「お客さん、ノンケだろ?」
どうやら、考えすぎていたらしい。
バレたらどうしようとか、ノーマルではダメではないかとか。
全て僕の杞憂だったようだ。
-
(;^ω^)「ノ、ノンケです……」
N| "゚'` {"゚`lリ「やっぱりな、何となく分かっちまったよ」
(;^ω^)「ここはそういうお店なんですかお?」
僕はしらばっくれる。
あたかも何となくここに入り込んでしまったかのように装った。
別にここで「話に聞いて……」と大人しく言っても良かったのかもしれない。
ただ、万が一彼がショボン、ジョルジュの失踪に関わっているような危険人物ならば、感づかれてそのまま僕も仲間入りのではないか?
そう考えたのだった。
でも、何も知らずに迷い込んできたノンケの僕というのも中々危険だろう。
だがその時はテンパっていてそこまで頭が回らなかった。
N| "゚'` {"゚`lリ「いや……最初はノンケ、もとい一般の客向けに始めたんだがな」
N| "゚'` {"゚`lリ「やっぱり類は友を呼んじまうのか、どうも男臭い奴らが集まってきちまってな」
ははは、と爽やかに笑うバーテンダー。
さらっと自分もアッチ側の人間だとカミングアウトしているのだが、随分と軽い。
-
( ^ω^)「僕みたいな人が来ることってあるんですかお?」
N| "゚'` {"゚`lリ「あるさ。そりゃ一応普通のバーって体だからな」
N| "゚'` {"゚`lリ「まぁ……最近は少しめんどくさい輩も入って来ちまうけどな」
( ^ω^)「こんな場所ですしね」
N| "゚'` {"゚`lリ「俺たちが色んな意味で一番アウトローだから怖いモンはあまり無いけどな」
( ^ω^)「(つーかこんなガタイのいい人にケンカ売る奴は頭おかしいお)」
N| "゚'` {"゚`lリ「そうそう、変な奴と言えばこの前こんな奴がな……あ、その前に」
まず、自分の名前が阿部だという事を僕に言う。
それから、バーテンダーさんの「変な客」の話が始まった。
-
支援
-
妻帯者のノンケに恋する男の話、延々とスクリュードライバーだけを注文していく客の話、酔っぱらったヤクザとそれに絡んだゲイの話……
それ以外にも、この街の話がポンポンと出てきた。
ショボンが言っていた『情報庫』という情報は間違っていないようだ。
進む彼の話と一緒に、進む酒の量で財布の中身が無くなるのも、情報として正確だった。
そんな話を聞いていく中で、僕はふと思ったことを口に出した。
( ^ω^)「本当に沢山知ってるんですね」
N| "゚'` {"゚`lリ「ん?」
( ^ω^)「いや、何というか……抱えてる情報を全てオープンにしてるというか」
( ^ω^)「全てを曝け出そうとしているというか……」
N| "゚'` {"゚`lリ「どうせ隠してても仕方ねえだろ? 蓋したって漏れてくるのが情報なんだ」
N| "゚'` {"゚`lリ「それに、俺の信条は『男らしくあれ』だからな。女々しくモノを隠したりなんてしねえぜ」
-
おっ、やっと戻ってきたな支援
-
正直、阿部さんの事を信じていいのか半信半疑だった僕だった。
しかし、この潔い男らしいセリフを聞いて、少し彼を信じてみたくなった。
「どうせ聞かなきゃそのままだし、聞けなくてもそれはそれでいい」
そう思い立った僕は、彼の方を見て口を開く。
( ^ω^)「じゃあ僕も阿部さんに聞きたいことがあるんですお」
N| "゚'` {"゚`lリ「おっ、何だ?言ってみろよ」
彼の話を聞きながら進んだ酒で頭をぼやけさせながら、僕は聞いた。
( ^ω^)「ある行方不明になった友人に関してお聞きしたいんですお」
N| "゚'` {"゚`lリ「おいおい、俺は超能力者じゃないぜ。そいつらの居場所なんかは分からない」
( ^ω^)「ここに以前来たことがあるはずなんですお。そいつがその時に何か言ってなかったか、それだけでも」
N| "゚'` {"゚`lリ「……よし、そいつの顔写真とかあるか?見せてみろ」
-
(;^ω^)「でも、そいつも1,2回くらいしか来たことないから見ても分かるかどうか……」
N| "゚'` {"゚`lリ「安心しろ、客といい男の顔は全部ここに入ってるからな」
そういって阿部さんは微笑みながら、人差し指で自分の頭をコンコンと2回たたいた。
本当なら、十分超能力級だよなと僕は思った。
僕は彼の方にショボンの顔写真を写したスマートフォンを向けた。
「どれどれ」といって阿部さんは覗き込む。
N| "゚'` {"゚`lリ「……落ち着いて聞いてくれ」
僕のスマートフォンに写した、ショボンの顔を見た阿部さんが、急に真剣な顔をしてこちらを向いた。
N| "゚'` {"゚`lリ「今からいう事は、君にとって凄くショッキングな事かもしれない」
N| "゚'` {"゚`lリ「けど、取り乱してはダメだ。ありのままを受け入れるんだ、いいね?」
(;^ω^)「? はい」
何かこれからとんでもない事を言われてしまうようだ。
これで全てが終わってしまうのか、はたまたようやく始まるのだろうか。
-
僕は阿部さんの顔を見つめ返し、彼が口を開く時を待った。
そして彼は、真一文字に結んでいた口を開いた。
N| "゚'` {"゚`lリ「まず、彼はゲイだ」
僕の曇っていた意識はポーンと突き抜け、宇宙へと飛び出していった。
雷が僕の身体に落ちても、今ほどの衝撃はないのではないだろうか。
始まる前に終わった。というかオチた。
( ^ω^)「……」
思考停止状態とはこのことを言うのだろうか。阿部さんの話を聞こうとしても頭が全く動かない。
記憶することを脳が拒んでいる。
予兆なんてものはまるでなかったと言ってもいい。
女性に対してつまらなそうに接することは多々あったし、ツンみたいにやり合うことも女性との事が多かった。
それでも普通の男並みには女性に反応していたと思う。
全く持って、驚きの報告だった。
-
N| "゚'` {"゚`lリ「正確に言えば、ゲイ寄りのバイかもしれんがな」
N| "゚'` {"゚`lリ「……いいか? 続けるぞ?」
阿部さんの言葉にまたハッとし、何とか僕は思考を動かす。
(;^ω^)「すみません、あまりに唐突だったもので……どうぞ」
N| "゚'` {"゚`lリ「……ま、すぐには受け入れられないと思う、だがそのうち受け入れてやってくれ」
N| "゚'` {"゚`lリ「彼は俺の店に来てまずこう言った。『最近落としたイイ男はいないか』……ってな」
そういって阿部さんは、その当日の事を語り始めた。
まるでついさっきの出来事を話しているかのように、スラスラと。
-
………
……
…
(´^ω^`)「この場所なら沢山来るんじゃないですか?」
そういってカウンターに座ったこの垂れ眉は俺に話しかけてきた。
N| "゚'` {"゚`lリ「なんだい唐突に」
「そこのお姐さん、昨日はしっぽりしけこんだんですか?」
と、聞くのとなんら変わらん失礼な奴だ。
もっとも俺はノンケでは無いから、こんなセリフをいう事は無いが。
俺ならもっと甘いセリフを男にぶち込んでやる。
(´・ω・`)「……僕ね、実はゲイなんですよ」
N| "゚'` {"゚`lリ「こんなとこに来た時点で分かってるよ。安心しな」
(´・ω・`)「マイノリティは辛いですね」
そういって彼は俺に向かって自分の事を切々と語り始めた。
-
いかに自分が大学で苦しんでいるか。
特に、同級生を性的な目で見る事を抑える事に苦しんでいるか。
それでも時々女性に反応してしまう自分に如何に困惑しているか。
そしてマイノリティであることの苦悩。
そのマイノリティである自分が如何に他の奴より優秀か。
多くの自慢話と苦労話、加えて時々聞こえてくる彼からの注文を聞きながら、俺は相槌を打ってやった。
それに加えて、「ゲイじゃなくてバイかもしれない」と言う話をしてやると、彼は眉の間にしわを寄せ、指をカツカツと忙しなく動かしていたのが気になったが。
そんな彼がそういう話をしに来て、何回目かの時だった。
(´・ω・`)「そういや、こんな奴が来てたらバーテンのお兄さんなら覚えてるかな……」
そういって胸ポケットからそいつは写真を取り出した。
端に少し着いた折り目とヨレを伸ばして、俺の方に差し出す。
『( ゚∀゚)』
茶髪でパーマ、最近の大学生風。
カウンターに置かれた写真に写る顔を、俺の脳内リストで探る。
脳みその端っこで、引っかかった。
-
N| "゚'` {"゚`lリ「……ああ、確かに来てたぜ」
(´^ω^`)「おっ!」
俺は、そいつが来た日の事を思い出す。
確かあの日は……ああ、そうだ。『あいつら』が来た日だった。
N| "゚'` {"゚`lリ「よく覚えている。あまり見かけない顔だったし、こういう場所にも慣れてなさそうな感じだったからな」
(´・ω・`)「で、彼は? 彼は何か言っていましたか?」
そういって垂れ眉は話を急かす。
まるで目の前に垂らされた餌にがっつきたくて堪らない犬のようだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「いや、かなりその時彼は酔っていたし、適当に俺とは会話しただけだったな。ただ……」
(,,Д)「そいつは俺と話してたんだよ」
-
今、俺が最も見たくない客が話に入り込んできた。『あいつら』の1人だ。
ドアについているはずのベルも鳴らさず入り込んできた奴は、ドカッと垂れ眉の隣の席に腰かけた。
N| "゚'` {"゚`lリ「……いらっしゃい」
(,,Д)「ギムレットをくれ」
嫌な客だが、客は客だ。
俺は注文を受けたカクテルを作るため、ジンを探す。
(´^ω^`)
(,,Д)
ジンが丁度切れていたため裏の倉庫へ取りに行く。
そうして持ってきたジンとライムジュースを注ぎ、シェイカーを振る。
俺がシェイカーを振るより早く、垂れ眉の指がカウンターを叩く音が響く。
カツカツカツカツと、叩く音が徐々に大きくなっていく。
数分くらいの短時間で、どうやら彼らは意気投合したようだった。
-
N| "゚'` {"゚`lリ「ギムレットです」
そういって俺がカクテルを差し出したのにも気づかず、2人は話を続けていた。
1分ほど経ってようやく俺の出したカクテルに気が付くと、そいつはグイッとすぐに飲み干し、金をカウンターに叩き付けた。
(,,Д)「俺とコイツの分の金だ。釣りは取っておけ」
(´^ω^`)「えっ、いいんですか!?」
(,,Д)「ははは! 金ならあるから安心してくれ! 才能は君みたいに無いがな!」
(´^ω^`)「いやいやそんな」
(,,Д)「おい、こいつ連れ出すからな」
N| "゚'` {"゚`lリ「うちはそういう店じゃない。どうぞご勝手に」
N| "゚'` {"゚`lリ「あと、垂れ眉の兄ちゃん、一つ忠告しておく」
(´・ω・`)「は?」
N| "゚'` {"゚`lリ「そいつと関わりすぎるな。ロクな事にならんぞ」
(,,Д)「……だってよ? ショボンさん」
(´・ω・`)「ご忠告どうも。ただ、あなたも人を見る目をもう少し養った方がいいかもしれませんね」
-
………
……
…
N| "゚'` {"゚`lリ「……そういって奴らは2人揃って出て行った。後はもう見た覚えが無いし、行先も分からん」
( ^ω^)「……1つだけ今の話で気になった部分を聞いていいですかお?」
N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、だけど垂れ眉の彼に関しては本当にこれだけなんだが」
( ^ω^)「さっきから話に出てくる『あいつら』って何なんですかお?」
N| "゚'` {"゚`lリ「最近ここらに現れる、得体の知らない奴らさ」
そういって阿部さんは僕が飲み切ったカクテルグラスを下げながら話を続ける。
N| "゚'` {"゚`lリ「うちの客や他の店で人へ話しかけてはどこかへと連れていく。それだけじゃなく、ここら辺のビルに出入りしてるって話だ」
N| "゚'` {"゚`lリ「垂れ眉の彼にしても、彼が探していた男に関しても、同じ奴がどこかへ連れて行きやがったんだ」
N| "゚'` {"゚`lリ「俺に入ってくる情報でも詳しい事は分からなかった。ただ一つ言えるのは『ヤバい事』をしてるみたいだって事だけだった」
-
そういって、彼は僕の方へ氷の入った水を差しだした。
僕が酔いどれ気味なのも話ながら見抜いていたのだろうか。
N| "゚'` {"゚`lリ「ここら辺の治安も安定してきたんだがな……また怪しくなってきやがった」
( ^ω^)「(十分まだまだ不安定だと思うお)」
その後、僕はいただいた水をゆっくりと飲み干しながら阿部さんと話し、会計を済ませて店を出た。
阿部さんからは、これ以上のショボンの情報は得られなかった。
( ^ω^)「……」
左に着けた腕時計を見る。
時間は天辺を回るか回らないかといったところだった。
もっと長くあそこにいた気がしたが、意外にゆっくりと時間は過ぎたようだ。
正直言って、今回の店への突撃は収穫だったと言えるだろう。
店を出て、僕はさっきの阿部さんの話を反芻していた。
考えれば考えるほど怪しい点は浮かぶが、まずパッと浮かんだ疑問点2つを考えてみよう。
-
まず1つ目、ショボンのゲイ疑惑。
これは間違いなく彼の嘘だ。
同じマイノリティであることで心を開かせ情報を得ようとしたのだろう。
彼なりに完璧に設定を練ってきたにも関わらず、阿部さんに「ゲイじゃなくバイだ」と突っ込まれた時にコツコツ叩いていたのがその証拠だ。
彼は人に隙を突かれるのがどうしようもなく嫌いなのだ。
そして2つ目。これが一番の疑問だ。
何故、ショボンが出会ってすぐの人間にホイホイとついていったのかである。
正直言って、彼は警戒心の塊だ。
中々人を信じないし、人に打ち解けようともしない。
出会ってからのこの1年で、僕は彼を理解しているつもりだ。
彼が出会ってすぐに信頼するもの。
それは身内、友人、もしくは権威だ。
その見知らぬ男は、ショボンを引き付けるほどの何かの権威をもった人間だったのだろうか。
分からない。
考えれば考えるほど泥沼へはまっていく、そんな気分だ。
-
そして、最後に言われたあの情報。
僕の心の中のモヤモヤを、更に酷くしている。
N| "゚'` {"゚`lリ「そういやあの垂れ眉の彼に加えて聞かれたことがあった」
N| "゚'` {"゚`lリ「何と言ったかな……そう、女性の事だ。確か名前が……」
思い出そうとした瞬間、ポケットに入っているスマートフォンが震え始めた。
取り出して画面を見る。正直、今一番どうでもいい奴からの電話だった。
( ^ω^)「……もしもし」
('A`)『ブーン助けてくれ』
-
(;^ω^)「……おいおいまさか」
('A`)『家の鍵落とした』
( ^ω^)「……ネカフェに泊まれお」
('A`)『生憎宵越しの銭は持たない主義なんでな』
( ^ω^)「素直にパチで負けてヤケ酒してましたって言えば?」
('A`)『申し訳ありませんブーン様なにとぞご慈悲を』
( ^ω^)「……今から帰るからちょっと待っとけお」
そういって電話を切る。
興が削がれたというか、腰が折られたというか。
今の電話で、さっきまでの真剣で真面目な僕の精神状態はすっかりとほどけてしまった。
「ま、ドクオにも聞いてみるか」
そう思いながら、僕は駅へと小走りで向かう。
終電の時間が、もうすぐそこまで迫っていた事を思い出したのだ。
-
………
……
…
('A`)「いやービールうめぇ」
さっき僕が得た情報、そして僕の見解を話した後の、彼の最初の一言がこれだった。
( ^ω^)「あのさぁ……」
(;'A`)「わりぃわりぃ、俺もちょっと情報量が多すぎて混乱してるんだよ」
(;'A`)「だってお前いきなりショボンにケツの穴狙われてたかもなんて言われてみろよ……恐怖でしかないだろ」
(;^ω^)「だからそれはショボンのフェイクだって」
(;'A`)「怖いわー本当怖いわー」
( ^ω^)「話を聞けお」
('A`)「ま、多分あいつは……いい男に誘われていっちまったんだよ。ホイホイな」
コイツにまともに聞いたのが間違いだったかもしれない。
僕はこの6畳一間のベッドの上で頭を抱えた。
-
( ^ω^)「……聞く相手を間違えたお」
('A`)「よせやい照れるだろ」
( ^ω^)「褒めてねえお」
僕はベッドから降りてテーブルの上に置かれているビールに手を伸ばす。
こいつに呼ばれた時点で「もう考えるな」と神様が言っている気がしたからだ。
('A`)「そんなことより俺の悩みを聞いてくれよ」
( ^ω^)「僕の話は聞かないのに?」
(;'A`)「いや、ほんとすまん。でもコレ話さないとしっかりモノ考えらんねえ」
僕はこれ見よがしにハァーと大きく長い溜息を吐く。
少しでも申し訳なさを彼に覚えてもらいたいからだ。
-
( ^ω^)「どうぞ」
(;'A`)「……ほんとすまんって。クーの事なんだけど……」
(;'A`)「最近なんか妙に厳しくてさ……なんかあるなと思ってたんだ」
僕は「おっ」と思った。
怪しげなセミナーに誘う彼女を、ようやくドクオも怪しいと思い始めたかと。
('A`)「そしたら最近、セミナーにもう一人連れて来いって言われててさ……」
( ^ω^)「おっ」
('A`)「連れてこないとノルマ未達成ってことでセミナーから排除されちまうんだ……」
('A`)「川 ゚ -゚)『私が連れてきた人から堕落者を出したくない』……って」
('A`)「でも友達も大体から断られちゃってどうしようも無くて……どうすりゃいいかな」
-
違う。
彼はもはや地獄の底の入口まで引きずり込まれている。もはや戻るのは困難なのかもしれない。
( ^ω^)「……それ、暗に僕に来いって言ってるお?」
(;'∀`)「……ご名答」
また僕は大きく溜息を吐き出す。
コイツに期待した僕が馬鹿だった。
( ^ω^)「いいお、行ってやるお」
もうコイツの目を覚まさせるには、僕が行って満足させた上でクーともども、ボコボコに言ってやるしかない。
( ^ω^)「参加費は?」
(;'A`)「えっ、来てくれんの?」
( ^ω^)「行ってやるから、早く言うお」
(;'A`)「すまねえ。……最初は俺の紹介って事になるからタダだと思う……」
-
ドクオから色々話を聞けば聞くほど、怪しくて胡散臭い。
僕の中の疑いはもはや確信である。
厄介な奴に絡んだ事を呪いつつ、僕はもう一人巻き添えを増やしてやろうと、V・I・Pの画面を開いた。
( ^ω^)「ドクオ、どうせならもう一人呼んでいいかお?」
他人の心配をして、自分に浸るくらいなら、実際に体験してから後悔させてあげよう。
揺れる長い髪の金色と巻き髪を思い出しながら、文字を入力していく。
(;'A`)「えっ、それは構わんけど……誰を?」
( ^ω^)「心配性で逃げ性なお嬢さんを巻き込んであげるんだお」
そう言って僕は画面の送信ボタンをポチっと押した。
-
Track4:BRUTAL MAN
了
-
以上第4話でした。
書き溜めが尽きた事に加え、中々時間も取れなかったため、また伸びてしまいました。
なるべく早く投下出来るよう努力します。
次回の予定も来週か再来週が目途です。
また、よろしくお願いします。
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はあくした
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面白いし何より読みやすい
気長に頑張ってくれ 応援してる
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乙
タイトルに惹かれて読んでいるが中々面白い
早く続きが読みたい
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なんだろうこの読みやすさ
続き楽しみにしてる!
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面白いなあ
阿部△
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激おつ
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面白いな 乙
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読んで良かった!おつ!
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おもしれぇ!
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こんばんは。
お久しぶりです。
これから第5話投下します。
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前へ向かう道しるべは、どうやって見つけるのだろう。
次から次へと過ぎて行く時間の中で、それを見つけながら進むのは困難だ。
しかし、過ごしていく中で僕らは少しずつ、その場所を見つけるヒントを得ているのかもしれない。
例えばそれは何気ない生活の中でだったり、他愛も無い友人とのやり取りの中で得ているのかもしれない。
そうして僕らがたどりつく場所が見えてくると、徐々に夢の終わりが見えてくる。
それが見え始めてきた大学生活で僕らは何を思って過ごすのだろう。
そして、僕らは何を思ってここへやってきたのだろう。
何を見つければいいのだろう。
-
Track:5 ABSTRACT TRASH
-
ξ゚⊿゚)ξ「……で、なんで私まで連れていかれるわけ?」
( ^ω^)「だって心配するのはもう沢山なんだお? なら自分で行けば問題ないと思うお」
僕とツンは、スマホを片手に見知らぬ土地を歩いていた。
ドクオに教えられた最寄駅で下車して、スマホを片手に早20分ほど彷徨っている。
見知らぬ土地の風景なはずなのに、何故だかデジャヴを感じる光景だ。
何処に行っても住宅街なんてのはこんなもので、ある種現代人の原風景なのかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ「そういうの、なんて言うか知ってる? 屁理屈って言うのよ?」
( ^ω^)「おっおっ、正直に言うと犠牲者を一人増やしたかったんだお」
彼女はワザとらしく目を細め、眉間に皺を寄せながら僕の顔を見てこういう。
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……あんた性格悪いわね」
( ^ω^)「何を今更」
-
ξ゚⊿゚)ξ「もうちょっと良いもんだと思ってたわ」
( ^ω^)「多分気のせいだお」
ξ゚⊿゚)ξ「はいはい……それより、大丈夫なの?」
( ^ω^)「おっ? 何がだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「時間。結構歩いてない? 私たち」
( ^ω^)「こんな事もあろうかと結構余裕をもって出てきているお」
( ^ω^)「ただ」
ξ゚⊿゚)ξ「ただ?」
( ^ω^)「余裕が結構吹き飛んだ」
彼女は僕の肩をバシッと叩き、「バカっ」と言ってズカズカと僕の前を歩いていく。
スマホを耳元に当てながら誰かと話している。
ドクオだろうか、クーだろうか。
はたまた誰かにここから連れ出してくれるように頼んでいるのだろうか。
-
それもありかもしれないな、と僕は思い始めていた。
なんせ僕も行く気が全く失せてしまったのだ。
電車の中では「ドクオを救い出してやろう」と意気込んでいた僕だったが、
市街地を歩いている間にどんどんその膨らんでいたやる気はしぼんでいき、最終的にはしぼんだ風船よりももっと小さい、何かになってしまった。
誰かに連れ出してもらおうと思って電話帳を見ても、ショボン、ドクオ、ツン、クー……そしておまけのようにジョルジュ。
僕はただただ溜息をつき、のっそりと歩いていくしか出来なかった。
(;'A`)「おっせえよ」
( ^ω^)「ごめんだお」
結局彼女が呼び出したのはドクオだった。
僕は少し不満だったが、彼女は当然の事をしただけだろう。
('A`)「まぁ間に合ったから良かったけどさ……ここ右曲がったらすぐだったのに」
-
そう言って早足で歩くドクオの後ろについていく。
口では大丈夫と言っているが、実は結構時間が押しているのかもしれない。
(;^ω^)「おー? 道がスマホの表示と違うお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンの頭がポンコツ過ぎたんじゃない?」
そして、目的地の入口までたどり着くとドクオの早足ががピタリと止まった。
川 ゚ -゚)「はぁ、ようやく来たか」
その入口の前には、クーが仁王立ちで待ち構えていた。
会うのは結構久々だ。相も変わらず綺麗な人で、本当にドクオと仲良くやっているのか今でも疑問である。
ただ、今のクーは結構お怒りのようだ。
-
川 ゚ -゚)「自ら進んでこの素晴らしいセミナーにやってきたことは褒めよう。しかし時間に遅れかけるとは何事だ?」
(;'A`)「クー、勘弁してやってくれよ、俺が位置を正確に伝えそびれたみたいで」
川 ゚ -゚)「だとしても場所なんぞは自分で改めて確認するのが筋だろう」
川 ゚ -゚)「ドクオ、お前は先に入っていろ。この2人には根本的な部分から理解を」
(;'A`)「ほ、ほらクー、時間結構ぎりぎりだし、さっさと入ろうぜ? な?」
川 ゚ -゚)「むっ……しょうがないな。ほら、行くぞ」
そういってクーに促されて入っていく僕ら。
確かにクーは美人で綺麗かもしれないが、さっきチラと見せた目の輝きは、どちらかと言えば美というよりは狂気を感じた。
瞳の中に見える濁ったような、暗い炎のような光が見える。
それはまるで、あの日見た男のような。
-
案内された部屋の中に入ると、一般的な会議室を二つ繋げた位の広さの部屋にびっしりと並べられた机と椅子に、これまたびっしりと人が詰まっていた。
おもったよりこのセミナーは盛況らしい。
正直な話、こんな胡散臭いセミナーにこれだけ人が集まるとは予想外であり、驚きであった。
それと同時に僕は呆れた。
「これだけ騙されるとは世も末だ」
宗教とか詐欺とか、案外ちょろいものなのかもしれないなとこの風景を見て思う。
カリスマ性とか、そういった類のものがあればの話なのかもしれないが。
僕らは最後列の空いていた席へ腰かける。
部屋の中に何か匂い消しでも焚いているのだろうか? 焦げたような甘い香りが部屋の中に漂っている。
( ^ω^)「(……なーんかデジャヴな感覚だお)」
そんな事を考えながら前の講演台を眺めていると、台の脇の扉が開き貫禄のある老人が講演台へ着いた。
-
/ ,' 3「ようこそみなさん!!! そしておめでとう皆さん!!!」
/ ,' 3「貴方たちは幸福だ!!! ここから貴方たちの船出が始まる!!!」
彼の絶叫が響き渡る。
それは祝福のようであり、威圧のようでもあった。
そしてそれと同時に、いつの間にか降ろされていた講演台両脇のスクリーンへスライドが投影される。
『孤独からの克服、そして進歩と成長』
全てが大袈裟、そして無駄に壮大感を煽らなければ彼らは気が済まないのだろうか?
-
/ ,' 3「出会いとは……云々」
/ ,' 3「ですから皆さんは……云々」
内容は正直言って、退屈であった。
並べられる言葉は、自己啓発本やビジネス本でよく見かけるようなありきたりな語句だけ。
耳触りはいいが、簡単に言い直せば当然の事しかいっていないのだ。
香ばしいような、甘い匂いが鼻につく。
小学生の頃に鼈甲焼きを作った事を思い出す。
僕はここに来るまで歩き回った疲労と、この部屋に濃密に香るようになってきた甘い香りのお陰で、夢の世界へ今にも飛び込めそうだ。
まともに話を聞こうと僕は精一杯の努力を試みたが、眠気と引力に僕の意識と頭はスゥと吸い込まれていった。
-
………
……
…
(´・ω・`)「おい、起きろよブーン」
聞きなれた、けれども聞きたかった声が聞こえてハッと身体を起こす。
キョロキョロと見回すと、辺りは漆黒に包まれていた。
そしてその漆黒の中、ポッと浮いたようにショボンがそこにいた。
(;^ω^)「ショボン! お前どこいってたんだお!」
(;^ω^)「突然消えて突然現れて、お前には言いたいことが山ほどあるんだお!」
(´・ω・`)「ハイ、ストップ。僕はショボンじゃない」
そういってショボンは手を開いて前に突き出し、僕の話を遮る。
-
(´・ω・`)「僕は君だよ?なぁドクオ」
('A`)「そうだな」
ショボンが何もない暗闇の空間に話しかけると、そこにいきなりドクオが現れた。
瞬間移動でもしたのだろうか。僕は今いったい何を見ているんだろうか?
(´・ω・`)「僕は君で」
('A`)「俺もお前だ」
(:^ω^)「???」
(´・ω・`)「まぁ無理もない」
('A`)「幻覚だと思え。それが一番いい」
( ^ω^)「……悪趣味な夢だお」
-
( ^ω^)「……夢の中とは言え、結構ムカつくお」
そして強ち嘘でもないのが更にムカつくところだ。
自分の頭の中で言っている事なのだから、当たり前なのだが。
この際だから、僕の本音を言ってしまおう。
僕は、人が苦手だ。特にこの街の人間は。
( ^ω^)「正直、僕は人を相手にするのが得意では無いお」
('A`)「そうだろうな。高校時代から変わらないものな」
本物のドクオなら一切知らないはずの事を、堂々と言ってくる姿がなんだか滑稽に見える。
僕は少しニヤけながら続けた。
-
( ^ω^)「……そうだお。昔っから僕は逃げ続けてきたお。人と関わることから」
( ^ω^)「こういう街に出てきたのも人付き合いから逃げるためだったお」
( ^ω^)「人が多いこの街なら、そんなもんからも逃げられるかなって思ったんだお」
('A`)「で、結果は?」
( ^ω^)「結局人付き合いからは逃げられないって事を痛いくらい思い知ったお」
( ^ω^)「他人に空気を読ませる事を押しつけるわりにはラインを引いて踏み込ませない、そんな奴らばかりだったお」
(´・ω・`)「そんな奴らの誘いを断り切れなくて、あんな馬鹿でかい、しかも飲みサーに入ったわけだ」
ショボンの言葉の語尾が少し笑っていた。
そりゃあ笑いたくもなるだろう。
人付き合いから逃げたかった奴が結局人の圧に負けて人付き合いさせられているのだから。
-
( ^ω^)「でも、悪い事ばっかでも無かったお」
('A`)「何が?」
( ^ω^)「思ったより良い奴って結構いるもんだお」
(´・ω・`)「ふぅーん、それが君の得たものって訳か」
( ^ω^)「まぁね」
(´・ω・`)「ははは……それだったらあんな田舎からこんな街まで出てくる必要は無かったんじゃない」
('A`)「結局どこまで行ってもお前なんて結局そんなもんだよ」
(´・ω・`)「全く大したもんを得てもいないのに、成長した気になってるだけ」
('A`)「自信が付いた、いい経験になった……だから何?」
急に彼らの周りが暗くなる。
スポットライトで照らされて急にそこだけ明るくなるように、彼らの周りだけ光量が落ちてどんどんと暗くなっている。
彼らの顔が隠れて見えなくなった。
-
( ^ω^)「……さっきからなんなんだお? 言ってることが支離滅裂、あっちゃこっちゃに飛び散ってるお」
(´・ω・`)「そりゃあそうさ幻覚なんだもの」
('A`)「ただ、お前は気を付けた方がいい」
(´・ω・`)「得たつもりになってると、そのうち全てが無くなるんだ」
( ^ω^)「もう、意味分かんねえお……」
そうして彼らは闇に包まれて消えた。
それと同時にスッと何処からか光が差し込み、そして広がっていく。
僕はその光に包まれ、視界が真っ白くなっていった。
僕はたまらず、目をつぶる。
/ #,' 3「そう!この人生の敗北者のようになぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そして僕が再び目を開くと、僕の顔から数センチのところに、皺くちゃで正しく憤怒と言った感じの表情の老人がいた。
怒鳴り散らした罵声と唾が、僕の顔へいっぺんに降りかかった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「あはは、おもしろい、ソレ」
僕はツンとさっき通ってきた住宅街の中を歩いていた。
さっき歩いた時は高く昇っていた太陽も、既に傾いて街をオレンジ色に染めている。
( ^ω^)「笑いごっちゃねえお……」
ξ゚⊿゚)ξ「よく考えなくても当然よね。人生変えてやろうって話してるのに呑気に寝てるやつがいたらそりゃあ怒るわよ」
( ^ω^)「おっおっ、クーにもさっきシバかれたお」
ξ゚⊿゚)ξ「『この堕落者め!』……みたいな声聞こえてたの、あれブーンに言ってたのね」
( ^ω^)「『この落伍者め!』だお」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、どっちでも大して変わらなくない?」
( ^ω^)「得てしてあの類の人々は言葉にこだわるんだお」
-
ξ゚⊿゚)ξ「まるで知ってるかのような物言いね」
( ^ω^)「そりゃそうだお、何てったってさっきまで聞いてたからね」
ξ゚⊿゚)ξ「半分寝ながら、でしょ?」
僕は苦笑いを浮かべながら半笑いな彼女の顔を見た。
彼女はなんだか、来る前よりも爽やかな表情をしている気がする。
( ^ω^)「結構ツン、楽しんでたかお?」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「今のセミナーを?」
一気に怪訝な顔になる彼女。ああ、そっちでは無かったのか。
ξ゚⊿゚)ξ「でも、結構さっきから気分いいのよね。ああいう人間の底みたいな奴らを見たからかしら?」
(;^ω^)「おいおい」
ξ゚⊿゚)ξ「冗談よ、冗談。ま、私はああいうのに引っかからずに一生慎ましく生きていくわ」
-
ξ゚⊿゚)ξ「事件とかイレギュラーに巻き込まれずにいたいのよ」
ξ゚⊿゚)ξただただ平々凡々に日々を過ごして、人生を生きて……それが私の夢ね」
( ^ω^)「つまらなそうな生き方だお」
ξ゚⊿゚)ξ「みんなに言われるわ、それ」
彼女は微笑みとも、苦笑とも取れる笑い顔を浮かべながらこちらを向く。
ξ゚⊿゚)ξ「でも、案外波の無い人生を生きる事って、波のある人生を生きるより難しい事だと思わない?」
( ^ω^)「難しい事をこなしてまでつまらない事をやれる気が僕はしないお」
ξ゚ー゚)ξ「生き方については分かり合えないわね、私たち」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは、どういう生き方をしたいとかって思う事ってあるの?」
-
普段、話さないような事をぺらぺらと話し、あまつさえ僕に話をふってくる彼女のテンションはやはりおかしい。
セミナーで人生がどうのこうのと言う事を聞いたから、それに感化されてしまっているのだろうか?
だとしても、普段の彼女と比べたら十分におかしいのだが。
でも、今回僕はこのツンの話に乗っかって見る事にした。
( ^ω^)「僕は……信頼できる奴らと生きていければそれでいいお」
ξ゚⊿゚)ξ「え、なに? 親友とかダチと一緒に生きていくのさ的な?」
(;^ω^)「おっおっ、違うお……何と言ったらいいのか」
ξ゚⊿゚)ξ「ま、それこそ私にとっては『難しい事をこなしてまでつまらない事をやれる気がしない』わ」
そう言うと彼女は「あ、あれ」と指をさす。
そこには、降りてきた駅があった。来るときはあれだけ彷徨ったのに、帰る時は随分とあっさりしたものだ。
来る時とは違って、夕日に照らされた、人も疎らな小さな駅が、また僕らを飲み込んだ。
-
( ^ω^)「あそこにいた人達って何を求めてると思うお?」
電車の窓からオレンジ色の日差しが差し込む。
その色に照らされた吊革が揺れるのを眺めるのをやめ、僕はツンの方を向き問いかけた。
彼女の肌も、また日差しの色に照らされていた。
ξ゚⊿゚)ξ「なに? 唐突に」
( ^ω^)「だってあれって数万出して受けてるわけだお? 何かしら得られるものというか、メリットがなきゃ……」
ξ゚⊿゚)ξ「……数万出して、あのセミナーを受けてるって事が既にメリットなんじゃないの」
( ^ω^)「はぁ? よく分からねえお」
ξ゚⊿゚)ξ「『私は数万円出しました、そしてこんな素晴らしい講師のセミナーを聞いています、私はこんな事にもお金をかけられる人なんですよ凄いでしょう』」
ξ゚⊿゚)ξ「……こんな所でしょ、大体」
なるほど、ここでようやくツンの言わんとしていることを理解した。
言うならば顕示欲。自分が金を持っていて、余裕があるということを示したいのだ。
-
( ^ω^)「……でもみんなが皆そうなのかお」
ξ゚⊿゚)ξ「それは無いわね。あんたも分かるでしょう? あのクーとかの様子見れば」
そして2つ目の理由としては『狂信』。
提言者である教組のお言葉を信じる事がメリットだと信じて疑わない。
あんな陳腐な話(僕はそもそも聞いていないが)を本当にありがたく聞くことで自分の得を高めるのだ。
( ^ω^)「うーむ」
ξ゚⊿゚)ξ「よく分からない事だけど、彼らにとってはどれも重要なのよ」
( ^ω^)「どちらにしても、そんな事のためにあんな大金叩いている奴らの気はしれんお」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、私たちだって変わらないんじゃない?」
自分の美しいブロンドの毛先を指でクルクルと弄りながらツンは続ける。
-
ξ゚⊿゚)ξ「アホみたいな大金出して、しょうもない勉強と薄っぺらい仲間との交流のために、大学生っていう名前をつけてもらってる」
ξ゚⊿゚)ξ「私たちもなんら変わらないわ」
( ^ω^)「そいつは心外だお。そもそも大学は目標のためのコースの一部だお」
昨今、大学へ行かない人達の方が珍しくなりそうな時代になっている。
大学も最早既定路線に乗るコースの一部であり、多くの人はそのままより良い一般企業へ就職するための梯子であるとしか思っていないだろう。
だから、そのただ歩くだけのコースである大学生という名前と、自らお金を投げ出して勝手に飛び込む彼らとは訳が違う。
ξ゚⊿゚)ξ「繰り返すけど、私たちも一緒よ」
ξ゚⊿゚)ξ「結局私たちも何かしら得ようとしてるわけ。多くの人は自由とか学生の余裕とか」
ξ゚⊿゚)ξ「その中で誰でも欲しいものって持ってるはずで、私たちは結局五里霧中で試行錯誤しつつ手探りしてるだけなのよ」
-
( ^ω^)「……今日のツンはなんだか難しいお。話、よく分からないお」
ξ゚⊿゚)ξ「あーあ、あんなセミナーまともに聞いちゃったおかげで私の頭も毒されちゃったみたい」
ξ゚⊿゚)ξ「お詫びにあの駅前のカフェでケーキセット奢ってよ」
( ^ω^)「嫌だお」
ξ゚⊿゚)ξ「あっ、そ」
そういってツンは手に持っていたスマートフォンへ視線を落とした。
僕もまた、揺れる吊革を眺める事にした。
何となくツンの言っていることは分かっていた。
それでも何故か途中で聞くのを辞めてしまった。
それは何故だか、自分でも分からない。
-
………
……
…
テレビから流れる音をBGMに、僕はパソコンに向かっていた。
提出期限が近いレポートの存在をすっかりと忘れていた僕は、少し苦めに入れたコーヒーをお供に課題に励んでいる。
が、焦る心とは裏腹に脳みそは回らず、文字数は一向に増えず、ただただ画面と向き合っている。
あの、ツンとのセミナー以来どうしても考えてしまうのだ。
「自分は何のためにここにいるのだろう」と。
別に自分の存在意義とか、鬱入って自虐思考になったわけでもない。
「自分は何がしたくてここにいるのだろう」
そればかり考えてしまうのだ。
( ^ω^)「あんなとこ、行くんじゃなかったお……」
思わず本音が口をついて出てしまう。
自分から誘っておいて、何を言っているんだと自分で笑う。
-
よく考えなくても、誰もが目的を持ってその場所にいるわけではないと思う。
さっきのセミナーにしてもそうだ。誰かしら何となくでそこにいる奴だって、もちろんいるのだ。
彼らだって僕らだって、何かがあると思っているからここにいる。
('A`)
ドクオだって、緩い緩い学生という身分を、ギャンブルとか少し歪んだ形で謳歌している。
ξ゚⊿゚)ξ
ツンなんて、正しく学生といった感じで自分の将来をボンヤリと浮かべながら前に進んでいる。
(´・ω・`)
ショボンも、自由な今の立場で首を突っ込んでは自分の知的好奇心を満たしている。
( ゚∀゚)
ジョルジュこそ大学生の最たるものだろう。飲んで、遊んで、使っている。
ここから抜け出したい人なんているのだろうか。
いつまで経ってもここにいれれば幸せなのでは無いだろうか。
-
けれども、僕は抜け出したい。
周りの人が自由に見えているこの光景が、僕にとっては逆に檻の柵であるようにしか思えない。
僕は彼らほど自由というものを謳歌できていない。
むしろ、この自由さが窮屈に思えている。
この前の帰り、僕は大学生を「コースに乗っている」と言った。
しかし、そのコースは果てしなく多岐に渡り、幅が広くなっている。
今、僕は前が見えない。
何がしたいのかすらも分かっていない。ただ何となく道を歩いている。
中学、高校生の時のように決められた一本道を歩かされていた時の方が如何に楽だっただろう。
「僕にだって出来る事があるはずだ」
ショボンのお父さんに会った時、そう思ってショボンを探しに街へ踏み出した。
彼が居なくなる前に出会った僕が、何かを出来ると思って探しに出かけた。
-
が、僕は結局何も出来なかった。
あのバーで酒をあおり、情報を聞きだしたまでは良かった。
でも、結局得られたのはそこまでだった。
どうあがいてもそこから先の情報は得られず、分かりそうだとなった情報の先が例の薬漬けクラブだったりした。
そんな場所に突っ込んでいく勇気は僕にはなかった。
ショボンのように、無謀な英雄にはなれなかった。
唯一、あの時得られて今も生きている情報がある。
クーがカルト宗教にどっぷりで、教組の側近として今いる事。
それを聞いてドクオに誘われたフリをしてあの中に飛び込んで行ったが、結局行くだけで終わってしまった。
あのクーの狂った目の輝きと、ドクオの怯えながらも何かを信じている目を見て、僕は何も言えなくなった。
彼らが結局呑み込まれても、僕は腹から引きずりだしてやることも出来なかったのだ。
いや、出来ないのは僕だけではないのかもしれない。
この街に呑み込まれていく人たちを、外から見ている事しか出来ない人達が、遠巻きで眺めている。
それが、この冷凍都市での最良な生き方なのだろう。
-
「……いかんいかん、いい加減レポートに集中せねば」
そう思って僕は一口つけたコーヒーを啜る。
コーヒーは、もう既に冷え切っていた。
改めてコーヒーを入れなおしてもう一度気分をリセットさせようと、席を立つと同時に部屋のチャイムが鳴った。
自慢じゃないが、僕の部屋を訪ねる人は少ない。
せいぜい事前に連絡を入れてきた友人が来るくらいで、あとは新聞か宗教の勧誘、あとはネット宅配のものくらいだ。
僕は「この間注文した漫画でも届いたのかな」とシャチハタを持ち、ドアを開ける。
開けた先には段ボールを持ったおじさんも、分厚い本を持ったおばさんも、やけにフランクに話してくるジジイも居なかった。
( ´_ゝ`)「どうも」
(´<_` )「警察です」
そこから見えたのは、瓜二つの人間が、こちらに向けて黒い革地に桜の代紋をつけた手帳を持っている姿だった。
-
Track5:ABSTRACT TRUTH
了
-
以上第5話でした。
次回が最終話(予定)です。
本来なら1ヶ月で終わらせる予定が、ズルズルと伸びてこんなに経ってしまいました。
反省しております。
また、よろしくお願いします。
-
おつ
ここで警察か面白くなってきたじゃないの
-
乙
作品全体に無気力感が漂っている
次で終わりっていうのはさびしいな
-
次で終わりか、意外だな
楽しみに待ってます
-
次で終わり!?
大長編の匂いを感じていたが、コンパクトにまとめる方針で来たか
なんにせよ超期待
こういう少年と青年の間にしかできない感じの冒険が好きなんだ
-
乙です
次で終わりなのか…
はたしてどうくるか
-
乙です!
終わったら楽しみが減っちまう\(^o^)/
次回も楽しみにしてます
-
もう終わるのか....
今年中に終わるかな?
-
最終回は来年に持ち越しかな?
お年玉になりそうだな
-
待ってるよ
-
ラストォ…
-
щ(´Д`щ)カモ-ン
-
どうもこんばんは。お久しぶりです。
ひっそりと最終話投下していきます。
-
( ´_ゝ`)「えっと、内藤大地さん?」
(;^ω^)「は……はい、そうですお」
(´<_` )「学生、間違いないね?」
(;^ω^)「はい」
( ´_ゝ`)「今日は学校お休み?」
( ^ω^)「……はい」
(´<_` )「とか何とか言って〜サボりじゃないの〜?」
( ^ω^)「……いえ」
見た目は優しそうな二人でも、警察という肩書が最初から出てきていると威圧感が違う。
僕は大人しく彼らの質問に答えた。
-
( ´_ゝ`)「なに、そう固くならなくていいよ」
(´<_` )「ちょっとお話を聞きたくて! 任意なんだけど、ちょ〜っと時間くれるかな?」
この場合の「任意」は、僕に意思を任せてはくれないだろう。
僕は大人しく首を縦に振った。
それを見た警察の彼らは、僕の肩を優しくポンポンと叩きながら部屋から連れ出した。
Last Track: DESTRUCTION BABY
.
-
白と黒のツートンカラーの車に乗せられて。
連れてこられたのは、コンクリートの打ちっぱなしのような殺風景な部屋だった。
真っ白で四角いこの部屋は、人の心を冷たくするのには丁度いいのかもしれない。
( ´_ゝ`)「さて、最初に言っておこう。私たちは君を逮捕したりとか、そういうつもりは一切無い」
椅子に座って、まず最初に言われたのがその言葉だった。
その言葉にホッとすると同時に、少し違和感を感じる。
(´<_` )「君にはちょっと話を聞きたい事が多くてね」
そう、何故捕まえるつもりもない奴をこんな所へ引きずり込んだのかと言うことだ。
話を聞くだけなら別に僕の家でも十分できたではないか。
( ´_ゝ`)「まず1つ目、君は長岡君、緒本君と友人だね?」
(;^ω^)「えっ」
予想外だった。
何故あの2人の名前が今、しかもここで出てくるのか。
-
(´<_` )「一応これ、確認であって真偽を聞くわけじゃないから」
( ^ω^)「……まぁ合ってますお、長岡君はともかくショボンは」
( ´_ゝ`)「長岡君とは親しくないと。本当に?」
( ^ω^)「ここで嘘を吐く必要がありますか?」
(´<_` )「すまないねブーン君、今まで話を聞いた人は長岡君とは特に親しくないってみんな言うからさ」
僕は、ジョルジュに対して哀れみを感じてしまった。
あれだけ周りに人が絶えることが無かった彼が、実は空虚な木偶に囲まれてそいつらに向けて話しかけながら過ごしていたなんて、あまりに残酷だ。
彼らはジョルジュが帰ってきたら、どんな顔をして彼に会うのだろうか。
そして接するのだろうか。
-
( ´_ゝ`)「彼らが行方不明だという事は知ってる?」
( ^ω^)「えぇ、それは知ってます」
僕は即答した。
その反応を見て、鼻の高い方の刑事が満足したように頷いた。
(´<_` )「詳しい情報は君に言えないけれど、僕達は彼らは事件に巻き込まれたと見てる」
続けて鼻の潰れた方の刑事が話す。
( ´_ゝ`)「だから、君の知っている限りで構わない。彼らの事件前の行動を教えてくれないかな」
僕は彼ら、特にショボンについての事を刑事たちに話した。
普通に彼から聞いていた事や、これまで僕が調べたという事を加えて。
もちろん、自分が調べたという事を上手くぼかしながら話した。
余計な事を言って、僕が疑われる状況を避けたい。
やっぱり僕は、面倒事に巻き込まれることは嫌いなのだ。
-
一通り僕の話を聞いた刑事たちは、感謝の言葉を述べると電話番号を僕に渡した。
「何か思い出したり、何かあったら電話してくれ」と。
( ^ω^)「レア物だお」
帰り道、貰った名刺を眺めながら僕はそう呟いた。
中々刑事から直接もらう機会なんて、逮捕されても無いだろう。僕はその名刺を胸のポケットにしまいこんだ。
それにしても、わざわざ僕をここまで連れてきたにも関わらず全く大した事を聞かれなかった事には驚きを通り越して呆れた。
連行された時なんかは特に生きた心地がしなかったというのに、わざわざ警察署の取り調べ室を使って聞いたのは聞き込みで分かりそうな事ばかり。
しかも車で連れてきたにも関わらず、帰りは「パトカーが出払っているから」という事で歩いて帰されたのだから最早笑うしかない。
国家権力に対する苛々を募らせながら、僕は家路を歩いていた。
地面に落ちていた缶を思いっきり蹴飛ばそうとしたその時、右のポケットに入れていた僕のスマートフォンが震え出した。
-
「珍しい事は続くものだな」
そう思いながらスマホを取り出す。
僕に電話をかけてくる人なんて、せいぜいドクオかたまにツンくらいのものだからだ。
またどうせドクオだろうなとと思い、特に確認せず電話に出る。
( ^ω^)「もしもし」
「あ、どうも内藤さん……」
ドクオとは違う声が聞こえた。
少し面食らった僕は慌てて画面を確認する。
そこには『緒本(父)』という文字が白い画面に浮かんでいた。
-
「そういえば」
と、僕はショボンの父親に出会った日を思い出した。
帰り際に「何か分かったら」という事で電話番号を互いに交換した事を朧気ながら思い出した。
「……もしもし?」
電話口の向こうから聞こえてきたシャキンさんの声で引き戻される。
( ^ω^)「すいませんですお、電波が悪かったみたいで……何か進展があったんですかお?」
ある訳がない事は分かっていた。
何かあったならばさっきの刑事たちの取り調べなんかは無かったはずなのだ。
もしくは、取り調べのタイミングでなにか教えてくれてもいいはずだ。
そう分かっているが、一応僕はシャキンさんに聞いた。
「ええそりゃもう……」
-
( ^ω^)「……何があったんですかお?」
「息子から連絡が来たんです!しかも今いる場所まで言ってくれて!」
まさかそんなはずは無いだろう。
僕は頭の中でシャキンさんの言葉を否定していた。
この数ヶ月間、一切連絡が無かった彼から?急に親へ連絡を?
しかもあまり交流もなさそうだったこの親子が?
「今どこにいらっしゃいますか?私は息子の部屋にいるとこなんですが、私と一緒に彼のところへ向かいませんか!?」
違和感・疑問・不安、そして疑惑。
次から次へと頭の中へと浮かび上がり、僕の頭を覆い尽くした。
けれども、彼の父親が嘘をついて僕をはめる理由も思いつかない。
「とりあえず行ってみよう」
「知った顔の身内が面倒事を運んでくることは無いだろう」
そう自分を納得させながら、僕はショボンの家へと向かった。
-
警察署からショボンの家へはそう時間がかからなかった。
見知らぬ道を歩くはめになった訳だが、スマートフォンのマップは優秀だった。
この前の住宅街で迷って以来、スマートフォンは僕からの信用を失っていた。
しかし、今回の一件で見直す事にしよう。
辺りはひっそりと静まり返っている。ショボンの家の周りはいつもこうだ。
けれども今日は異様なくらいに静かだ。
学生が多く住んでいるというのに、全く人の話し声も生活音さえ聞こえない。
違う世界に放り込まれたのだろうか?なんてことを思ってしまうほどには奇妙な静けさが辺りを包んでいた。
階段を登り、2階の角部屋。
彼の部屋のドアの前に立つ。
さっき電話した時、「そのまま入ってきてくれ」と言われた僕は迷わずドアノブを捻ってドアを開ける。
-
開けた瞬間、僕は強烈に違和感を感じた。
ショボンの家の匂いと、キツイ香水の香りが漂う。
その匂いを嗅いだ瞬間、先ほどまでなんとなく感じていた違和感が確信へと変わる。
ショボンの家でこんな強烈な香水の香りはありえない。彼はそういった類のものをつけていたことは無いし、何より部屋の中に漂う雰囲気が異様だ。
『今すぐ逃げろ』
僕の脳みそが危険のアラームを発すると同時に、僕の目の前に2人の男が現れた。
目の前にいたのはシャキンさんでも、もちろんショボンでも無かった。
( ´∀`)「よう、兄ちゃん」
(,,゚Д゚)「大人しくなってもらうよ」
身体が反応するより早く彼らに捕まってからの記憶はイマイチあやふやだ。
布を口に当てられた瞬間までの記憶は、何となく覚えていた。
-
………
……
…
「おい、起きろよ」
その声が聞こえた直後に、軽いパシッという音と左頬に鈍い痛みが走る。
自分の頬を殴られたのだと気がつくまで少し時間がかかった。
少し朦朧としていた意識が覚醒し始める。
そして目を開く。
見えたのは薄暗い天井と、ここ最近めっきり見なかった顔だった。
(´・ω・`)「ようやく起きたか」
(;^ω^)「ショボン!」
(´・ω・`)「全く、死んでるかと思ったよ」
-
上半身を起こして改めて周りを見渡す。
あたりは薄暗く、天井に釣られた裸電球だけで照らされている。大きさは僕の部屋よりちょっとだけ広い程度だろうか。
この部屋の中にいるのは僕とショボン、そして部屋の隅で小さく蹲っている人が1人いるようだ。
そして僕の正面にある扉は金属製で、所々にサビが浮いていた。
とても重く、硬く、そして冷たく見えるそれは、壊して逃げようなんていう選択肢を真っ先に捨てられる程度には頑丈そうであった。
( ^ω^)「……これは夢かお」
(´・ω・`)「夢ならいいんだけどねぇ」
(;^ω^)「……どうなるんだお?僕たち」
(´・ω・`)「さあね?」
そう言ってショボンは手に持っていた石ころを鉄の扉へ向かって投げつける。
石ころが当たった扉は鈍い音をたてただけで、傷一つつかない。
跳ね返った石ころは力なく扉の周りをころがり、そして止まった。
何故か僕の頭は冷静だ。
ショボンがいて、拉致されて、混乱に混乱を重ねた結果、逆に思考がはっきりしているのかもしれない。
-
(;^ω^)「あ、ショボン、お前何でこんなとこに……」
こんな風に聞けるくらいには、僕は落ち着いてしまっている。
(´・ω・`)「それ、僕に聞いちゃう?」
苦笑いを浮かべながらこちらを見るショボンの顔は、幾分やつれているように見えた。
( ^ω^)「……すまんお」
(´・ω・`)「勘弁してよね。急に居なくなりたくてなった訳じゃないんだ」
そして沈黙。
裸電球のジジジという音だけが響く。
( ^ω^)「で、でも無事みたいで良かったお」
沈黙に耐えられないのと、少しパニックになっていた僕はショボンに向かって話し続ける。
話していないと、なんだか落ち着かない。
-
(´・ω・`)「……今のところはね」
( ^ω^)「今のところ?」
(´・ω・`)「そのうち分かるよ。さ、お前は何をして連れて来られた?」
コツコツコツとショボンの指が床を叩く。いつものクセを見て、少し僕は安心した。
(;^ω^)「何にもしてないお」
(´・ω・`)「嘘をつくなよ。そんな奴が連れてこられる訳無いでしょ」
連れてこられるという言葉を聞いて、僕は拉致されたのだと改めて自覚した。
分かってはいたのだが、まだ心のどこかで信じてない自分がいた事に驚く。
-
(;^ω^)「本当だお、ただ僕は……ショボンのお父さんに会ったお」
(´・ω・`)「は?」
( ^ω^)「眉毛が釣り上がってるだけで結構似てたお……そして一緒にショボンを探そうって言って……」
床を叩く、乾いた鈍い音が響いた。
僕ではない。ショボンが思いっきり腕を振り下ろして叩いたのだ。
部屋の片隅でうずくまっている人がその音に反応して、ビクッと動いた。
ショボンは眉間にシワを寄せ、苦々しい顔をしながら舌打ちをした。
「なんだってあいつとなんか」と呟くと、僕の顔を睨みつけた。
(´・ω・`)「あのクソ野郎が……ついにやりやがったな」
(;^ω^)「えっ、どういう事だお?」
(´^ω^`)「おめでとうブーン、君はあのクソ野郎に売られた」
すくっと立ち上がり、手を軽くパチパチと叩きながらこちらの方を見るショボン。
その顔は、満面の笑みだった。狂気を感じるくらいに。
-
(´^ω^`)「どこだ? どこで会った?」
(;^ω^)「しょ、ショボンの家に行ったらいて……」
(´^ω^`)「僕の家!!」
急に大声を上げたショボン。
僕がビクッと反応すると同時に隅でうずくまっていた人も動いたように見えた。
(´^ω^`)「証拠隠滅でもしてたか……くそっ、あんな奴に家に入られたと思うと腹が立つ……」
(;^ω^)「あの……ショボン……」
(´^ω^`)「2人」
(;^ω^)「は?」
(´^ω^`)「僕の親父は2人いるんだ」
ショボンは僕の顔を、狂気に満ちた笑顔で見つめながら話を続ける。
-
(´^ω^`)「おおよそご想像通りだよ。離婚してくっついた。それだけさ」
(´・ω・`)「……ま、その『元』親父って言うのが本当に屑だったんだけどさ」
ショボンはまたその場に腰を下ろすと、俯き加減で僕に向かって話し始めた。
(´・ω・`)「お前がはめられた親父……あのクソ野郎はとにかくクソを塗って固めたような存在だった」
(´・ω・`)「借金もする、浮気もする、そしてDVまでなんでもござれだったよ。当時小学生だった自分でも分かる位にはクズだった」
(´・ω・`)「そしてたっぷり僕らに借金と痣を残して逃げたのが中学生になった頃」
そう言って自分の頬をさするショボン。
そのまま頬杖のような形で話し始めた。
(´・ω・`)「中学卒業してそのまま働きに出るかを本気で考え始めた頃にウチの母親が今の親父を捕まえて、そして今に至る」
(´・ω・`)「そんなクズにお前は捕まったんだよバカ」
-
(;^ω^)「……」
(´・ω・`)「……そしてそのクズに会って捕まった僕も馬鹿だ」
( ^ω^)「……ショボン」
(´・ω・`)「丁度、君に面白い事を話してやるって言ったその日さ。あいつから誘いがあってね」
(´・ω・`)「延々切々と自分の近況を話し続けてきてね。いい加減うんざりしたから会ってやろうって」
あれだけ貶した男に彼が何故会ったのか、分からない。
いつもいつも自分の興味で動いてきた彼を突き動かすだけの何かがあったのだろうか。
結局彼も血の繋がりへ湧く情を、抑えられなかったのかもしれない。
理屈や、思考を抜きにしてもだ。
-
だがしかし、彼は相当に──
( ^ω^)「……バカだお」
(´^ω^`)「そっくりそのまま返してあげようその言葉」
そう言ってショボンは笑った。
幾分、さっきの狂気じみた笑みよりは柔らかく見えた。
(´・ω・`)「ま、君が連れてこられた理由、ある程度許容の出来る範囲だな……」
右手をさすりながら、ショボンはゆっくりと腰を下ろす。
「あ、やっぱり痛かったんだな」と、僕はその姿を見て思う。
(´・ω・`)「でもアイツは馬鹿すぎる」
( ^ω^)「アイツ?」
(´・ω・`)「そこに一人、いるだろう? もう一人の馬鹿が」
( ^ω^)「あぁ……隅っこにいるあの人かお」
-
(´・ω・`)「おいこら、お前なんか言えよ」
ショボンは近くに転がっている小石を掴んで三角座りをして小さくなっている彼に投げつけた。
すぐさま二発目を投げつけようとしていた彼を、慌てて僕は止める。
(;^ω^)「しょ、ショボン! 可哀想だお! やめるお!」
(´・ω・`)「はぁ? あいつに情けをかけるのか?」
(;^ω^)「見知らぬ人に石を投げる奴を止めるのに情けもクソも無いと思うお」
(´・ω・`)「ああ、そういう事ね」
そう言って投げかけた腕を下ろすショボン。
その姿を見て僕が気を緩めた途端、ショボンはまた振りかぶって石を投げつけた。
(´・ω・`)「そういう事なら一切問題ないな」
(;^ω^)「おいおいおいおい」
-
(´・ω・`)「だってあいつは僕も君も知ってるやつだよ?」
(;^ω^)「そういう……えっ?」
(´・ω・`)「そう、僕と……君もか?まぁとにかく探してたあいつさ」
(;^ω^)「まさか」
(´・ω・`)「まさかもクソも、1人しかいないだろう?」
(´・ω・`)「ジョルジュだよ」
( ゚∀゚)
ずっと隅で小さくなっていた彼が、顔を上げゆっくりとこちらを振り向く。
その顔は、少しやつれていたが紛れも無くジョルジュだった。
-
………
……
…
こちらを見て、またすぐに顔を下げたジョルジュの顔をショボンが強引に上げさせる。
ショボンのジョルジュに対する先ほどからの態度を見ていると、どうやらこの部屋では上の立場にいるらしい。
(´・ω・`)「ほら、こんな部屋に投げ込まれた理由を早く話せよ」
( ゚∀゚)「……クソが」
(´・ω・`)「悪態ついてないででさっさと話したら?」
(#゚∀゚)「うるせぇ!」
(´・ω・`)「じゃあ僕が話してやろうか? 君の実に滑稽な転落劇を」
(#゚∀゚)「いい加減黙れよこの垂れ眉野郎……殺すぞ」
(´・ω・`)「薬切らしてヘロヘロになってる君が殺せるかな?」
( ゚∀゚)「うっせえ……うっせえよ……」
-
最初の威勢の良さがしおしおと萎むのが見えていくようだった。
彼の勢いが萎むのと同時に、僕の疑問は膨らんだ。
( ^ω^)「薬……?」
(´・ω・`)「ああ、君は知らなかったっけ」
(´・ω・`)「コイツ、薬のバイヤー」
そう言ってショボンはジョルジュを指先でつついた。
ショボンがつついたと同時に、僕の疑問は破裂した。
(´・ω・`)「そんでもって中毒患者っつうコンボ。笑えないよな」
結構なインパクトだった。まさか、ニュースの中で聞いていたような事が、現実で起きているなんて。
ただ……そこに少し分からないことがある。
破裂した疑問の中から、むくむくとまた疑問が生まれてくる。
( ^ω^)「……ショボン、どっからその話を……」
(´・ω・`)「あ、聞きたい?それはね」
ショボンが話そうとこちらを向くか向かないか。
その瞬間、先ほどまで固く閉ざされていた扉が────
-
────────────────────────────────────
(´・ω・`)「ダメだねこりゃ」
緒本さんの声で僕はハッと現実に戻った。
緒本さんが僕の原稿を読み進めている間、僕もストーリーを頭の中で反芻させていたのだが、どうやら入り込み過ぎたようだ。
緒本さんは先ほどまでコツコツと机を突いていた赤いボールペンを机に置く。
そして先ほどまで前のめりだった身体を背もたれに投げ出した。
(´・ω・`)「一応聞くけどさ、この後の展開はどうなるの?」
(;^ω^)「えっと、その部屋に警察が突入してきますお、その警察って言うのが」
(´・ω・`)「先読んでないけど当ててやろうか、その警察、ショボンがバーで会った不審者だろ」
(;^ω^)「うっ」
-
(´・ω・`)「で、警察がわざわざ歩かせて帰らせたっていうのが何か伏線になってるな?」
そう言って緒本さんは、僕の顔を見る。そして一つ大きなため息をついた。
(´・ω・`)「内藤君は嘘がつけない奴だなぁ」
(;^ω^)「えっと、でもそれで」
(´・ω・`)「内藤君の話は読み易いんだよ」
緒本さんは先ほど置いた赤ペンを右手に持つと、クルクルと回し始めた。
(´・ω・`)「文章が読み易いっていうのはまだいい。だけど君の場合はストーリーが読み易いんだ」
(;^ω^)「はぁ……」
(´・ω・`)「先読み易いストーリーを、読者は最後まで読むと思うかい?」
-
(´・ω・`)「伏線の張り方も露骨だし、意味ありげなキャラが全部『あ、多分この後出てくるんだろうな』って分かってしまう」
(´・ω・`)「そして張ってる伏線の数が少ないから、後半急に知られざる事実が出てくる」
(´・ω・`)「これじゃあダメだ。引き伸ばししてる少年誌の連載じゃないんだから」
(´・ω・`)「更にだ。君の文章は癖がありすぎる。これじゃあ読もうと思っている人も途中で投げてしまうよ」
(´・ω・`)「君、好きな作家は誰だっけ」
(;^ω^)「村下冬樹と伊藤雄太郎です」
(´・ω・`)「……うん、もうちょっとストレートな表現をする作家の文章も読んでみるといい」
(´・ω・`)「とにかく、このままじゃ出せないな。もう少し練って、書き直してきて」
緒本さんは机の上に置いていた僕の原稿を、茶封筒に丁寧にしまい僕に差し出す。
僕はただ力なく項垂れて受け取るしか出来なかった。
-
(´・ω・`)「それじゃ、また今度。連絡はメールじゃなくて電話でね、よろしく」
そう言って緒本さんが席を立った1分後、僕も座っていたソファーから重い腰を上げた。
( ´ω`)「はぁ」
僕と緒本さんの打ち合わせは、いつも編集室の一番奥の隅っこで行われる。
この編集室でバイトしていた時、緒本さんに僕の文章を見てもらっていた頃からずっとこの場所だ。
編集室の椅子と椅子の隙間を通り抜けながらチラチラと周りを見る。
皆、相変わらず不健康な顔をしてパソコンに向かっている。
煙草の臭いがしなくなっただけ、昔と比べて少しは健康的になったかもしれないが。
僕は邪魔をしないようにそっとドアを開けて、そして音がしないようにそっと閉めた。
-
………
……
…
ξ゚⊿゚)ξ「またダメだったのね」
( ^ω^)「うん」
ツンは僕の前にコーヒーを置くと、テーブルを挟んだ僕の向かいの椅子に座った。
ξ゚⊿゚)ξ「今度は何て言われたの?」
ツンと結婚して早3年が経つ。
収入が不安定な作家見習いの僕と、市役所に努める彼女。
向こうの両親に猛反対されたのは言うまでも無い。
しかしツンは
ξ゚⊿゚)ξ「私は彼とで無ければ結婚できる気がしません」
と、言い張り、しまいには自分の両親を根負けさせて僕と結婚した。
僕と僕の両親は、ただただ成り行きを見守っているだけであった。
-
( ^ω^)「文章が読みにくい、ストーリーがつまんない、その他多数」
ξ゚⊿゚)ξ「あなた、やっぱり一般文学は向いていないんじゃない?」
僕はツンの顔が見れなくなって、手元のコーヒーへ目線を落とす。
( ^ω^)「でも、僕の憧れは……」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、村下冬樹と伊藤雄太郎でしょ?」
( ^ω^)「うん、僕はね……」
ξ゚⊿゚)ξ「『シベリアの森』、『天使の照準』みたいな本を書きたいんでしょ?」
( ^ω^)「……うん」
ξ゚⊿゚)ξ「でもね、やっぱり向き不向きはあると思うの」
( ^ω^)「……うん」
-
ξ゚⊿゚)ξ「だって『ナンバーガール』は結構評判いいんでしょう?」
『ナンバーガール』。
僕が2年前に初めて書いたライトノベルのタイトルだ。
2xxx年、機械とスパコンによって管理されるようになった人類。
軍事大国であるヴィッパー公国はフルマシンボディによる新人類の作成に取り掛かる。
適合性の問題で、少女としか適合しないそのボディを装備した少女らは製造番号で管理される。
そして、敬意と恐怖を持って彼女たちの事を彼らはこう呼ぶ。
『ナンバーガール』と……
1週間で何とかしろと言われて寝ずに何とか捻り出したこの小説が結構ウケたらしく、現在重版がかかっている。
続編の話も出ているのだが、僕はどうしても一般小説を書きたかったのだ。
( ^ω^)「まぁね」
ξ゚⊿゚)ξ「だったらそっちを中心に書けばいいじゃない」
( ^ω^)「……うん」
-
ξ゚⊿゚)ξ「ね、お願いよ、また両親がうるさくなちゃうから」
( ^ω^)「分かってるお」
僕はツンが注いでくれたコーヒーに口をつける。
香ばしさと苦みが口の中へと広がる。
顔を上げてツンの顔を見る。
いつも通り、ツンは優しく微笑んでいた。
ただ、何となくだが、目は悲しんでるように見えた。
何となく、だが。
ξ゚⊿゚)ξ「ありがと……ちなみに今回はどんなお話を書いたの?」
( ^ω^)「あぁ、大学の時の話を使って書いてみたんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「……何かそんな面白い事あったかしら?」
( ^ω^)「ほら、ドクオに誘われていったセミナーとか……」
ξ゚⊿゚)ξ「あぁ!」
漫画のように、ポンと手を叩くツン。
本当に覚えていなかった事を今思い出したといった感じだ。
-
ξ゚⊿゚)ξ「でもそんな面白い話? あれ」
( ^ω^)「ツンが知らないだけで、本当色々あったんだお」
( ^ω^)「ま、そのまま書いちゃうと色々ダメだから変えたり脚色かけたりして面白くしたつもりだったんだお」
( ^ω^)「でも、やっぱりつまんないって言われちゃったし……まぁ考えなきゃいけないお」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね……ダメだしされちゃったものね」
( ^ω^)「おっおっ、頑張るお」
ξ゚ー゚)ξ「うん……『ほどほど』にお願いね?」
( ^ω^)「心配ご無用だお。流石に引き際は弁えてるつもり」
-
そう言って僕は仕事部屋へと引きこもる。
仕事部屋と言っても、倉庫用の小部屋にパソコンと机・椅子を強引に入れただけだが。
そして周りには書籍が堆く積まれていると、さながら物書きの部屋の雰囲気が出ている気がする。
( ^ω^)「さて……と」
丹精込めて書いたあの原稿もダメ。ツンには言ってないがナンバーガールの続編も進まず。
そして締切も近い。アイデアもお金も枯渇しかけている。
大学生の時、バイト先として選んだ出版社で僕は緒本さんに目をつけてもらった。
そこで、僕の物書きとしての人生が始まった。
だが僕は平凡だ。
アイデアだって浮かばない。平々凡々とした生活しかしてこないから奇抜なストーリーも出てこない。
-
もう、どうしようもないこんな時、いつも僕を救ってくれるものがある。
僕は本棚の上から2段目、右から3番目の「限りなく透明に近いイエロー」の本を抜き出す。
そしてその間に挟まれている鍵を僕は取り出す。
中々にクラシックな見た目をしたこれは、アクセサリーに見えなくもない。
右のポケットが震える。
僕はスマートフォンを取り出し画面を見る。
名前を見て、僕は思わずため息をついてしまう。
( ^ω^)「……もしもし」
本の山の下敷きになっている金庫へ鍵を差し込む。
ダイヤルキーが付いているがこれはフェイクだ。この鍵で開けるのが正解なのだ。
( ^ω^)「ドクオ、今日はなんだお?」
-
右に3回転、左に4回転、右に1回転。
そして最後に鍵を抜いてから取っ手を回す。
( ^ω^)「ほう昇格? そいつはおめでとう」
金庫の中には「いつか使うかもしれない」小説の最終回原稿と、大きめの瓶が入っている。
いつだって、この瓶は僕を救ってくれた。
あのバーでの奇跡的な出会いに感謝しなければいけないかもしれない。
( ^ω^)「ついにドクオも幹部かお……ん、セミナー? あー……結構だお」
僕は瓶を取り出して、部屋の蛍光灯に中身を透かす。
茶色の結晶が屈折して輝く。
-
( ^ω^)「ん? 僕に講演してくれって?……もう少し売れたらやるお……」
( ^ω^)「クーは元気かお? うん、うん……そうかお、お大事に」
( ^ω^)「やっぱり一度なると癖になっちゃうっていうし……」
僕は小さじを金庫から取り出し、その結晶を掬う。
( ^ω^)「例のモノはどうなったんだお? ……おーそいつは……」
( ^ω^)「うん、よろしく。値段はいつもので」
僕は通話が切れたことを確認してスマホを机に置く。
そして僕は右手をライターに持ち替え、左手に持った匙を火で炙る。
( ^ω^)「さ」
( ゚ω゚)「仕事の時間だお」
部屋の中に、焦げた甘い香りが漂う。
その香りはまるで焦げた砂糖のような、カラメルソースのような香りだった。
-
──── テーマ曲 NUMBER GIRL 「NUM-AMI-DABUTZ」
.
-
( ^ω^)僕らは冷凍都市で生きていくようです
了
.
-
これにて
「僕らは冷凍都市で生きていくようです」
完結とさせていただきます。
読んでいただきありがとうございました。
-
(;´Д`).。o○(次書くときはもっと書き溜めてサクサク投下したいな……)
-
乙
最初からこのオチに決めてた?
-
>>265
最初は全然違うオチを考えていました。
が、いざ書いてみるとイマイチな感じが強く、結局書き直してしまいました。
-
うーん
なんていうかうーん
最初の雰囲気がすごく好きだったからなんか期待はずれ感がすごい
でもほんと好きだったし楽しめた
次回作待ってるぜ!
-
>>266
そっちのオチも見てみたかったかな
俺も次回作楽しみに待ってる!
-
一言だけ言わせてもらうと、最後まで読みたかった
-
うーん!!納得いかないけど悪くないオチだと思った。
面白かったよ。
-
できれば違う方のオチも見たいなぁ
-
なんとなくあのまま行っても遠からぬオチになってたように思う
知識ないから分からんけど最後のカラメルの匂いって薬物かなんかだろ?
-
>>113このあたりの『』のニュース?
からすると薬物だと思う
-
伏線だったのか
でも少しオチは納得いかないなあ
-
俺が投げやりになった時に妄想してたオチに似すぎて恐い
-
乙 一気読みして最終話まで読んできた
酷く現実的な雰囲気、その裏で密かに隠れる人たちの動きをブーンが突き止めようとしているのが
淡々と静かに進んでいる感じが退廃的で思わずブーンに感情移入しちゃってたわ 世界観にとても惚れてしまったよ
たしかにオチはちょっと納得行かなくて、俺も最初のストーリー自体のオチも最後まで読みたかったなあと思ったけど
ここまで気になってきたストーリーを一度ただの作りものと思わせてからの、実はブーンの体験談だったという感じに持っていくのは少しグッと来た
何が言いたいかというととっても面白かったよー!
そういやカラメルの匂いの話、>>273の言うとおり薬物のことなんだと思う
荒巻の時もそんな匂いを感じてる描写もあったけど、それがどう絡んでくるか気になってたりもしたが
それが回収されなかったのでちょっと悲しい
-
皆さん、読んでいただきありがとうございました。
せっかくなので書き上げて没にした、当初の最終話を今晩あたり投下しようと思います。
文章供養も兼ねての投下ですので、もう一つの最終回的な感じで見ていただけたら幸いです。
-
うひょー
たのしみや
-
これは期待
せっかくだからざっくりとでもあれから何がどうなってそこに至るかをひとこと加えてくれたらありがたい
-
それでは、これから当初予定していた最終話を投下して行きます。
-
──現代、冷凍都市に生きる妄想人類諸君に告ぐ。
Last Track:DESTRUCTION BABY
.
-
( ´_ゝ`)「さてと」
白と黒のツートンカラーの車に乗せられて連れてこられたのは、所謂「取調室」だった。
四角く、そこまで広くも無く、白いこの部屋。
ドラマで見るよりずっと殺風景で、ずっと冷たい部屋だなと思った。
(´<_` )「君を連れてきた理由、分かる?」
( ^ω^)「ええまぁ、何となく」
何もやましい事を抱えていない僕が、こんな所に連れてこられた理由は何となくわかっていた。
ジョルジュとショボン、この2人に関しての事だろう。
当然と言えば当然なのだ。
だって2人と繋がりがある僕が今までこういった所に呼ばれなかった事が不思議なくらいなのだから。
だから僕は結構堂々としていた。
もう分かりきったことを聞かれるものだと高を括っていたからだ。
-
(´<_` )「ふーんそうかい」
( ´_ゝ`)「なら話が早いな」
そう言ってパイプ椅子に座っていた僕の両脇に2人の刑事たちが近づいてきた。
「いよいよ取り調べ開始だお」
などと、少し好奇心が湧きあがってきたその瞬間。
僕の右頬に鈍い痛みが走った。
殴られたのだと理解するには、一寸時間がかかった。
そして頭が今の出来事を処理する前に僕の身体が宙に浮く。
鼻の潰れた方の刑事に胸倉を捕まれたのだ。
-
( ´_ゝ`)「ったくよぉおぉ、一丁前に嗅ぎまわってくれちゃってさぁぁあ」
( ´_ゝ`)「たかが学生の身分でよくやるな? ええ?」
先ほどまで穏やかな顔をしていた刑事の顔が急に鬼のような表情へ変わる。
「まるでジキルとハイドだな」
呑気にも僕はそれを見てそんなことを考えていた。
そして同時に思う。
「この人は何を言っているんだ?」と。
( ´_ゝ`)「探偵ごっこは小学生で終わっとけよな」
そう言って刑事は僕を床に叩き付ける。
勢い余って僕はそのまま後ろへ倒れる。
打ち付けた背中が痛い。
-
(´<_` )「おいおい、兄者止めとけよ」
そう言って右手で制止する、鼻が高い刑事。
僕の口の脇から何かが垂れてきている。手の甲で拭ってその痕を見ると、赤黒い筋が着いていた。
口の中がどうやら切れてしまってるらしい。
(´<_` )「ボディーにしときなボディーに」
そう言って寝ころんでいた僕の脇腹へ鋭い蹴りを入れる鼻が高い刑事。
もう何が何だか分からない。
なんで、
僕が、
刑事に、
蹴られて、
殴られてるんだ?
-
( ´_ゝ`)「別にいいじゃん、どうせコイツも『養豚場』行きだろ」
唯一つ分かることがある。
(´<_` )「傷モンは売れなくなるんだよ」
( ´_ゝ`)「はっ、どうせやる事やって終わりだろ」
こいつらは刑事では無い、という事だ。
(´<_` )「気持ちの問題だ……それにアイツが難癖つけるだろ」
( ´_ゝ`)「ホモ野郎どもの気持ちは分かんねえな」
そう言って兄者と呼ばれていた刑事は僕の座ってた椅子にドカッと座りこんだ。
そして胸ポケットから煙草を取り出すと火を点けて銜えた。
-
( ^ω^)「……禁煙」
( ´_ゝ`)「あ?」
( ^ω^)「禁煙って書いてあるお」
何でこんな事を言ったのか、今冷静に考えてもよく分からない。
( ´_ゝ`)「……お前、頭打ち付けておかしくなったか?」
( ^ω^)「公僕たるもの、規則は守ってなんぼじゃないのかお」
更になぜこんな煽るような事を言ったのか、やっぱりよく分からない。
( ´_ゝ`)「……なぁ弟者、やっぱコイツ殺していいか」
(´<_` )「まぁ落ち着けよ兄者」
そう言って弟者は、僕の脇にしゃがみ込むと髪の毛を引っ張り、無理やり顔を起こさせる。
-
(´<_` )「内藤君、君の言う通り我々公僕は規則を守らねばならない」
(´<_` )「加えて、市民の言葉を聞くのも我々の義務だろう」
(´<_` )「さぁ、なんか言いたいんだろ? あんだけ煽る元気があるんだから何か言えよ? あ?」
(;^ω^)「……僕が何をしたって言うんだお」
そう言った瞬間、僕のふくよかな腹部に鈍痛が走った。
殴ったのはどっちだ?目でチラッと見る。やっぱり兄者だ。
( ´_ゝ`)「うっぜえわコイツ」
(´<_` )「おいコラ、いい加減にしとけよこのメレンゲ人形」
(#´_ゝ`)「あ?」
-
(´<_` )「キレてきたからって八つ当たりすんのは辞めろってんだよ」
(#´_ゝ`)「……るっせーな」
(´<_` )「おい内藤君」
弟者がこちらに視線を向ける。
この部屋に入ってから初めて僕はこの人の顔を間近で見る。
細く、垂れた目から覗く瞳が、これまで見てきた何よりも冷たかった。
そう、死体なんかよりも、冷たく。
(´<_` )「……本当に何も知らないのか?」
(;^ω^)「本当も嘘も、訳分かんねえお。いきなり殴られるし、蹴られるし……」
-
(´<_` )「……ふぅむ」
弟者は掴んでいた僕の髪の毛を離して、右手をポケットの中に突っ込んでゴソゴソとしている。
『まさか「ゴメンね」とか言って飴ちゃん渡すつもりじゃねえだろうな』
などと相変わらずフワフワした思考をしている僕。
(´<_` )「では、お詫びにいいものを喰わせてやろう」
そう言って弟者は何かを僕の口へと突っ込み、無理やり飲み込ませた。
瞬間の出来事過ぎて抵抗する間も無かった僕は、されるがままに呑み込んだ。
そして僕の視界は瞬間でブラックアウトしていった。
-
………
……
…
( ^ω^)「……また、お前らかお」
(´・ω・`)「ほら、結局こうなっただろ」
僕はいつかのセミナーで見た、漆黒に包まれた場所に寝ころんでいた。
相変わらずショボンにはピンスポットが当たっている。
('A`)「大して仲も良くない相手に野次馬根性で!」
演技がかったドクオの声が聞こえた瞬間、やっぱりそこへスポットが当たる。
さながら今は僕とショボンとドクオの3人舞台だ。
-
(´・ω・`)「突っかかってトラブルに巻き込まれて」
('A`)「その結果君がピンチだ」
(´・ω・`)「だから言っただろう」
('A`)「得た気になってると、そのうち全てを失うって」
(´・ω・`)「君の生命は今ピンチだ! さあ本当に全てを失うぞ」
(#゚ω゚)「 う る さ い ! ! 」
.
-
僕は、生まれてきてから久方ぶりに大声で叫んだ。
赤ん坊の頃を除いて、大声で叫んだことが無いんじゃないかと思うくらいには慎ましく過ごしてきた僕がだ。
(#゚ω゚)「もうなんなんだお……訳分かんねえ警察に拉致監禁に暴行だ、周りの人間は馬鹿ばっか!」
(#゚ω゚)「セミナーに行方不明に酒と女と男!」
(#゚ω゚)「これが……これが僕の得たものだっていうのかお」
(´・ω・`)「残念ながら」
('A`)「ご愁傷様ですが」
そう言って手を合わせ、合掌のポーズでこちらへ向かって頭を下げるドクオとショボン(の幻想)。
僕の脳みその中は、えらく煮えたぎっていた。
まるで思考の回路が焼け切れたみたいに、酷く言葉が生まれては繋がらずに吐き出された。
-
(#゚ω゚)「朽ち果てるお、おおそれ見た大業な嘴は夢を見せたお」
(#゚ω゚)「これでしかない端々に憂鬱を求めるモノなのか」
(#゚ω゚)「煮えくり返る空だお、友人は声か? 結果としてああいう隙間か……」
('A`)「何言ってんだお前」
(´・ω・`)「だが」
ショボンの言葉が耳に入ってきた瞬間、オーバーヒートしていた思考が少し停止する。
(´・ω・`)「妄想に引きずりまわされては味が無いな」
(#゚ω゚)「あぁ……? 妄想はお前らだお」
('A`)「ああ、確かにな。でもお前は今、妄想の世界に囚われるかどうかの瀬戸際だ」
-
ドクオがパチンと指を鳴らす。
漆黒に包まれていた舞台に急に光が灯された。
正しく閃光に包まれ、辺り一帯が真っ白になった。
(#-ω゚)「うぐっ……目が……」
(´・ω・`)「このまま妄想に憑き殺されるなんてつまらなすぎるだろう?」
('A`)「生きてみろよ、そのまま。記憶が妄想に変わっていくその時まで」
(´・ω・`)「この、冷凍都市でね」
(#-ω^)「本当に……意味分かんねえ事ばかり……」
ショボンが、パチンと指を鳴らす。
その瞬間、僕の身体は浮き上がり、後ろへと吸い込まれて行くような、奇妙な感覚を感じた。
「幽体離脱をすると、こんな感じなのかな?」
そんな事を思いながら、僕は得体のしれない力にされるがままとなっていた。
-
………
……
…
(;^ω^)「はっ」
気が付くと、僕は仰向けで寝ころんでいた。
先ほどとは違う、冷たさと暗さに包まれた部屋に。
いつの間にか僕は違う部屋へ移されていたらしい。
身体にはじっとりと汗が纏わりついていた。さっきまでは一滴もかいて無かった、汗をかいていた。
(´<_` )「おや」
目線の先には弟者がいた。
先ほどと変わらず、凍り付きそうな目で、僕の事を見つめていた。
僕は身体を起こし、彼の事を睨みつけた。
今できる精一杯の行動で、弟者に敵意をぶつけた。
-
(´<_` )「驚いた。『砂糖』をあんだけ生で喰わされたのに生きてるとは」
全く驚いていない素振りで手元の携帯を見つめる弟者。
コイツはいったい何なんだろう。底知れぬ不気味さすら感じる。
(;^ω^)「……何を僕に食べさせたんだお」
(´<_` )「え?『砂糖』だよ『砂糖』」
(;^ω^)「普通の砂糖を人間が喰わされても昏倒しないと思うお」
( ´_ゝ`)「……お前本当に何にも知らなかったのか?」
暗い部屋の隅に、どうやら兄者もいたようだ。
急に聞こえてきた声に驚いた僕はそちらの方へ振り向く。
-
( ´_ゝ`)「どうやら阿部の兄貴も鈍ったみたいだな」
( ´_ゝ`)「兄貴がコイツ怪しいなんて言うからわざわざ権限使ってやったのによぉ」
(´<_` )「……元来彼の事は信用してないよ」
右のポケットから何かカチャリと金属音を立てて取り出す。
そして「ただ」と言葉をつけくわえる。
(´<_` )「彼の金払いの良さと有象無象の情報群は信頼している」
何か、右手で左手に持っているモノに押し込むシルエットが見えた。
(;^ω^)「(拳銃……?)」
ハッキリとした形が見えないこの状態で判断はできないが、音と姿が、映画では見たことのあるそれであった。
もっとじっくりと見ようとした瞬間、弟者が僕の腹をヤクザキックで蹴り飛ばした。
流石に準備ができていなかった僕は、そのまま吹き飛ばされる。
-
( ´_ゝ`)「ほう? という事は今日も」
(´<_` )「用意が出来てるってよ。コイツ含め新しい『商品』の写真を送ったら即決しやがった」
( ´,_ゝ`)「『養豚場』に入れる暇も惜しいくらいさっさと欲しいってか」
(´<_` )「彼の顧客は一から仕込むのが好きな金持ちが多いんだとさ」
そういって彼はまた胸ポケットから煙草を取り出し、銜えて火をつける。
そこから香る煙の臭い。先ほどまでは気が付かなかったがあれは……
( ^ω^)「(焦げた……砂糖の臭いだお)」
-
( ´_ゝ`)「おい、クソ」
僕の方を見ながら、兄者が口を開く。
( ´_ゝ`)「今からいいとこ連れてってやるから、大人しくそこで寝てろよ」
( ^ω^)「……阿部の兄貴って、Bar Abeの主人かお?」
( ´_ゝ`)「あのさ、大人しく寝てろって」
(´<_` )「あぁ、そうだよ」
キレてまた僕に向かって蹴りをかまそうとしてきた兄者を右手で制止しながら弟者が話し始める。
( ´_ゝ`)「余計な事言う必要ねえだろ?」
(´<_` )「いいじゃん、どうせこれから処分するんだし」
( ^ω^)「クスリと人を売るにしちゃあ随分ちゃちい相手だお?」
-
( ´_ゝ`)「……やっぱこいつさぁ」
(´<_` )「まぁまぁ」
銜えていた煙草を手に持ち、とんとんと燃えカスの灰を落とす。
僕の足元へそれは落ちていく。
(´<_` )「ガキの頃見た特撮で、よく覚えてるのがあってな」
灰を落とした煙草、もといクスリをまた口に銜える。
(´<_` )「『人と人の繋がりを断てば人間は崩れる』って夕焼けの射す四畳一間で怪獣が胡坐組んで語ってたんだ」
(´<_` )「この街はその逆さ。誰もが誰とも繋がっていない」
弟者は、吸い込んだ空気をふうと吐き出す。
煙はそこにはなかった。
-
(´<_` )「でもな、絶対にどこかには繋がりを握ってるやつがいるんだ」
(´<_` )「そいつを握って、そこから流せばいい、そんだけで全ては終わる。便利な街だろう?」
(´<_` )「それが阿部だった。それだけの話さ」
右手につけた腕時計にチラと目線を落とす弟者。
すぐに視線を戻すと、鼻で溜息をついた。
(´<_` )「……いかん、話しすぎたな」
(´<_` )「次会うときはお別れの挨拶を考えなきゃな」
弟者は、銜えていたクスリ(と、思われる)をペッと吐き捨て、靴の裏でもみ消した。
そして、彼は振り返り、自分が背にしていたドアから外へ出て行った。
( ´_ゝ`)「満足した?じゃぁ大人しくしてろよ」
-
兄者は僕に挨拶代わりの蹴りを入れると、弟者と同じくドアから出て行った。
外でガチャガチャという音がしていたので、鍵の閉め忘れで僕も出れるという事は無さそうだ。
ドアが閉められ、いよいよ薄暗くなった部屋の中へ目を凝らそう。
そう構えた瞬間だった。
「ぶ……ブーンか?」
聞き慣れた声が聞こえた。
声が聞こえた右隅の方へ目を凝らすとそこから、ぼうっと、見知った顔が浮かび上がってきた。
-
(´;ω;`)「うっ……ブーン……」
あれだけ威勢よく、日ごろ過ごしてきたショボンが、僕の前で涙を流してうずくまっている。
そして行方不明だったショボンが、ここにいる衝撃。
( ^ω^)「スポットライトが照らさないのかお」
その感情を抑えて口からついて出てきたのは、この言葉だった。
やっぱり、少し先ほどの妄想にまだ囚われているかもしれない。
(´;ω;`)「何のことだよぉぉ」
ショボンのいう事、もっともである。
泣きわめくショボンをなだめすかし、彼の話を聞いた。
そして僕は、自分が調べたショボン自身の足取りについて彼に話した。
-
(´・ω・`)「……大凡は君の言う通りだよ」
(´・ω・`)「その通り、Bar Abeで僕は怪しい男に会った」
(´・ω・`)「ギコさんって名乗ってた……そのあと僕は彼について行った先でジョルジュについての話を聞いた」
(´・ω・`)「これが君に話そうとした秘密さ」
( ^ω^)「で、内容は?」
(´・ω・`)「……ま、そうだよね今更隠す必要も無いけど」
ショボンは今まで上げていた顔を伏せ、俯きながら話す。
(´・ω・`)「ジョルジュはクスリの売り子だった……って話」
-
( ^ω^)「……ほう」
多分、あの日、あのバーで聞いていれば僕はかなりの驚きの表情を作っていただろう。
ただ、タイミングが悪かった。
今日は色々とありすぎて、どうも僕の感情メーターは狂っていた。
(´・ω・`)「あ……あぁうん」
僕の反応が予想はずれですこし拍子抜けしたようなショボン。
(´・ω・`)「結局彼が行方不明になったのも、自分から入り込み過ぎた結果なんだよね」
(´・ω・`)「ギコさん、阿部さんの二人から聞いたら、そんな感じの事を言ってたから……」
(´・ω・`)「で、そのジョルジュのクスリの取引現場を掴んでやろうって張ってた日が君に話そうとしたその日」
(´;ω;`)「彼を張っていたら……いつの間にか囲まれて……それで……」
そう言ってまた彼は泣き始めた。
ぽつぽつと床に垂れる涙の痕がドンドン大きくなっていった。
-
( ^ω^)「で、ずっとここに閉じ込められてると」
ショボンは俯いた状態で顔を拭いながら僕の問に答える。
(´;ω・`)「うんっ……『養豚場』がどうこうって話してたけど、よくわがんなかったじ……」
僕はこれ見よがしに大きくハァーッと溜息をついた。
別に自分の現状に対してため息をついているわけでは無い。
こんな奴に時間を割いていたのだなと思うと、何故だかため息が出てきたのだ。
(´;ω・`)「今思うとさぁ……ギコさんが『深く係るな』って言ってくれてたんだよ……なのに僕……」
( ^ω^)「……あのさぁ、今までもショボンはそうしてきてたじゃないかお」
-
( ^ω^)「それなのに今更反省するなんて虫が良すぎると思わないかお」
(´;ω・`)「……」
( ^ω^)「散々人に迷惑と心配かけまくって、結局それかお。アホくさいお」
(´・ω・`)「……じゃあどうすればいいのさ」
( ^ω^)「堂々とするんだお。堂々として堂々と死んでいけばいいんだお」
(´・ω・`)「……死ぬのは嫌だ。僕はこんなことに巻き込まれるなんて……」
( ^ω^)「じゃあ永遠に自分を殺して生きるのがいいと思うお。そうしなきゃ、そのうち死ぬお」
(´・ω・`)「……」
ショボンが何か言おうと口を開きかけた、その瞬間先ほど閉ざされたドアが開いた。
この扉が開いた時、それは僕らが完全にどこかへと連れていかれる事が確定する瞬間なのだ。
-
「あぁ、意外に早く来てしまったな」
突然入り込んできた光が眩しくて目を瞑る。
さっきも光に包まれて妄想から引き戻された。
あぁ、願わくばこの光も、この馬鹿げた状況から引きずり出してくれる希望の光であらんことを
何て馬鹿げた事を僕はガラにもなく祈りながら──
(,,゚Д゚)「!! ガイシャ確認! 確保ぉ!!!保護しろ───!!!!」
その耳に入ってきたのは、聞き慣れない叫び声と、多くの人だった。
ドアの外からは怒号、騒音、喧騒が聞こえてくる。
-
真っ先に入ってきた声の主は、ショボンのところへ駆け寄り、二言三言呟くと、ショボンの頭を殴った。
ショボンはまた泣いた。泣きながら笑っていた。
そして、僕の元に先ほどまで散々見た顔がやってきた。
(;´_ゝ`)「さっきはゴメンなぁ、いや、本当ゴメン。痛くなかった?」
(;´_ゝ`)「……だよねー、痛いよねー……俺、違うから。ホント違うんだよ。捜査でね、紛れてたから。うん、ゴメン」
そう言って僕の右手を掴み、引き起こす。
その手は、少し暖かかった。
その人たちは所謂警察の制服を着た人々であった。
僕とショボンはあれよあれよと言う間に警察に囲まれ、毛布で包まれ、またもや白と黒のボーダーの車に乗せられた。
そしてまた僕は警察署へと向かう羽目になったのだった。
「1日で2度、パトカーに乗せられて警察署に入る経験なんてそうないかもしれないな」
そんな事を思いながら、車に揺られて外の景色を眺めていた。
-
………
……
…
『──それでは、次のニュースです』
『先日、潜入捜査によって摘発された麻薬組織【SICKS】の幹部3人と、売り子2人が昨日再逮捕───』
『売り子の内1名は美府大学に通う大学生という事もあり、美府大学では再発防止のガイドラインを───』
何時ものサークル室で、僕は1人腰かける。
遠くから聞こえてくるテレビのニュースをBGMにしながら、窓から白くたなびく雲を眺めていた。
青空は鮮やかさを失い、くすんだ色味が空で燻っていた。
外で揺れる木々の葉も落ち、寒々しさを増している。
大学へ入学してそろそろ2年が過ぎようとしている。
この2年でモラトリアムは更に捻くれ、残っているのは相変わらず自尊心と思い出と言う名の残り滓だけ。
何が僕に残ってるかと言えば、何も残っていない。
ただただ、無駄に浪費した日々という悲しい過去だけが積み重なっている。
-
('A`)「よっ」
自虐思想に耽こもうとしたその瞬間、この2年間嫌というほど見た顔に声をかけられた。
( ^ω^)「……出たな妖怪セミナー魔人」
('A`)「その話はやめろ」
ドクオは僕の正面の席にドカッと座り込むと胸のポケットから煙草を取り出す。
白の箱に真っ赤なブルズアイ。相変わらずのラッキーストライクだ。
('A`)「今日、ようやくツンに金返した」
煙草をふかしながらドクオは窓の外を見つめる。
ボンヤリと何処を見ているわけでもなさそうな感じで眺める姿は、なんだか燃えカスの抜け殻のようにも見えた。
-
('A`)「流石にこの金抱えてパチンコ行ったらヤベエと思ってさ、理性的な意味で」
( ^ω^)「今日も勝ったのかお」
('A`)b「あったりめーよ」
そう言って僕に向けて親指を立てるドクオを見てつい笑ってしまう。
(*^ω^)「ふっふっふ」
(;'A`)「あ?」
( ^ω^)「いや、ようやくドクオが本領発揮してきたなって」
('A`)「るっせーい。あの数か月の事は思い出すな」
そういって煙を吐き出すドクオ。
まるで悪い思い出を必死に吐き出そうとしてるようにも見える。
-
('A`)+「前を見て生きようぜ、前だけを!」
( ^ω^)「それは後ろに忘れ物をしていない人間だけが言えるセリフだお」
('A`)「何その俺がとんでもない忘れ物してるような言い方」
結局あの日、僕らは『偶然』摘発のため、強制捜査に立ち入ろうとした『潜入捜査官』達に助けられた。
少し日付がずれていれば、僕らは問答無用で何処かへ売り飛ばされていただろうと聞かされた。
本当に紙一重だったらしい。
もちろん僕らがしこたま説教されたのは言うまでもない。
その時にジョルジュは逮捕された、らしい。
僕らは会わなかったが、彼は強制捜査の現場にいた上に、丁度クスリの受け渡しを行っていたんだそうだ。
そのまま芋づる式に関係者各位が逮捕されていった。
Bar Abeのマスターも、もちろんそのまま逮捕されていった。
-
そして何より痛手を受けたのはクーが狂信していたセミナーの主催者たちだ。
セミナー自体は隠れ蓑であり、本体は今回摘発された麻薬組織だったことから、必然的に解散に追い込まれた。
解散する手前、必死に彼らは金を絞り取ろうともがいていた。
狂信者のクーによって、自分の財産だけでなく家族の財産ごと引き抜かれようとしていたドクオ。
僕が止めても、ショボンが止めても止められなかった彼を止めたのはツンだった。
出会い頭にビンタ一発。
そして札束をポンポンっと投げて去って行った彼女の所業は最早僕らの間では伝説と化している。
結局ドクオはそのツンの金を使うことなく、自分の言葉と意思で抜け出した。
その後、クーとはぱったり連絡が取れなくなったらしい。
('A`)「金の切れ目が縁の切れ目ってね」
と、強がっていたが結構騙された自覚は持っていたらしい。
ついでに言うと、やっぱりちょっと凹んでいたらしい。
ショボンはあれ以降、結構大人しい。
むしろ大人しすぎて大丈夫か?と思うくらいには落ち着いてしまった。
時々、風俗街、特に同性者向けのところで目撃されるようになったらしいが、まぁいい。
彼のこれからに幸あれと、強く思う。
いや、冗談抜きで。
-
( ^ω^)「あ、そろそろ3コマだお」
('A`)「出席点何点だっけあの講義」
( ^ω^)「3割」
僕はいそいそと机の上に置いていたノートと筆記用具を鞄へとしまう。
チラリと僕は正面に座るドクオを見る。腕を組み、椅子に深く腰掛けプカプカと煙を吐き出すドクオをみて思わず僕は笑ってしまった。
('A`)「何笑ってんだよ」
( ^ω^)「いや、あまりにもドクオが立派に座っているものだからつい」
('A`)「おう、300万の返済を終えた王者の風格よ」
( ^ω^)「セミナーで騙されかけたお金返しただけなのにネー」
('A`)「それは言わない約束ですぜブーンさんよ」
-
ドクオ。本名、毒田独夫。経済学部2年。
多分この講義を落とさなけば3年になるはず。
最初の出会い?よく覚えてない。省略する。往々にして大学生ってそんなもんだ。
こいつと一緒にいたことで、俺は沢山のモノを得た。いいことも悪い事も含めて、だ。
得たものが何か?
まだ、よく分からない。
.
-
僕があの町を出てから、早2年。
都会は雰囲気も空気も、そして人も全く違います。
ようやく。
都会での生活にも慣れて、都会に生きる「人」に近づけた気がします。
.
-
( ^ω^)「おっ」
( ^ω^)「おっ」
( ^ω^)「おっ」
目の前から迫りくる人々を避ける。
背負っているバックが揺れる。
脇を通り抜けるリーマンの肩に当たる。僕は気にも留めずそのまま歩く。
.
-
やっぱり。
都会の人々は冷たいです。まるで他人は透き通っているかのように気にも留めません。
そんな人々でこの街が冷え切っています。
そう──
「冷凍都市」
ここ、僕の、僕らの生きる街は、そういう所です。
.
-
( ^ω^)僕らは冷凍都市で生きていくようです
完
.
-
乙
-
おいおいおい良いじゃないか乙
-
乙
展開が急だといえばそれまでだけど少なくとも俺はこっちのが好み
-
以上、当初の最終話でした。
正直言って、今見直すとコッチの方がすっきり纏まってるよなぁ……と思います。
最初に投下した時、「少し捻ったラストにしたい」
と、少し欲を掻いてしまったのがあります。
結果、何とも言えないラストになってしまったという、本末転倒な事をしてしまったかもしれません。
うーん、投下してから言うのも何なのですが。
-
これで本当にラストです。
今まで読んでいただきましてありがとうございました。
アドバイスなどいただければ幸いです。
-
乙
話の雰囲気とか引き込まれたよ
-
こっちの最後のが好きだ!
ただラストまでもっと話数重ねてもよかった気がする
-
いいねぇ、こういう終わり方は凄く好きだ
乙!
-
こっちの方が好き��
乙��
-
前の最終話はもやっとした部分
(ブーンの小説のどこまでが実際にあったことなのかとか
ブーンと砂糖の関係とか)が色々多くて飲み込みにくかった印象があったけど、
ミステリアスさがあって面白かった
今回の最終話は、性急に話を畳んだ感じが否めないけど、
冷凍都市っていうこの作品のコンセプトが最後まで一貫していて面白かったし
綺麗に完結してるな〜と思ったよ
どっちの最終話も面白かった!おつ!
-
おつ俺は二番目の終わり方の方好きだなー
ちょっと気になったのは「〜〜〜」なんて思いながら、とかいう感じのが多い気がする。台詞なん?ってなった
もうちょい別の言い回ししたら読みやすくなるかと。ブーン系なんだし、( ^ω^)(思ったこと)にするだけでも印象変わる
-
おつ
こっちの方がいいと思う、けど
結局兄弟がなんなのかわからない気がする
-
今日読みました
断然こっちの方が良かったです!
乙!
-
乙
最終回二つについては後者の方が好みだ
いい作品だった
-
繰り返される諸行無常
-
自分もこっちの方が好きだった
でも、弟者がブーンに食わせた砂糖は本物なのかとか色々気になる
-
今更だけど自分も最初に出した終わりより二回目の終わりのほうがすっきりまとまって好きだった
もし次の作品を読める時が来るならとっても楽しみにしてる 乙々
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