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('A`)彼女の世界の中のようです
-
地下鉄が空を飛んでいた。
ドクオはぼんやりとそれを見上げる。
ジェット機の様に地下鉄は頭上を通過していく。
あのアルミ合金製の箱は本来地面の下を潜っているはずだ。
ノパ⊿゚)「おい」
誰かに呼び掛けられる。
振り返ると見慣れぬ女性が立っていた。
いつからいたのだろう。
ノパ⊿゚)「お前は私を知っているか?」
真っ白な世界。
地下鉄が飛び去ってしまったので背景には何も残っていない。
アクリル絵具で塗りつぶされた様に白一色。
地平線すら見えず、奥行きも分からず、室内なのか屋内なのかも分からない。
そんな純白の世界の中心に立つ女性の赤みがかった髪はよく目立った。
('A`)「ごめん」
突然の質問にドクオは少し面食らう。
しかし彼女に見覚えはない。
('A`)「知らないよ」
ノパ⊿゚)「そっか」
彼女は残念そうに顔を曇らせる。
なんだか申し訳なくなってしまう。
ノパ⊿゚)「急に悪かった。
私は記憶がないんだ。
自分が何者なのか、どうしてここにいるのか、ここがどこなのか、何も分からないんだ」
そう告げられ、初めてドクオはこの場所がどこなのか考えた。
周囲を見渡していても白い世界がただ広がっている。
広大な雪原かもしれないし、まだ着色されていないキャンパスかもしれない。
ノパ⊿゚)「お前は?」
後ろで一つに纏めた彼女の髪が揺れる。
成人しているようだが幼さも残る。
('A`)「俺は・・・」
-
まるで寝起きの様な、ぼんやりとした頭で思い出す。
あらかじめ登録されていたかのごとく単語が湧き出してくる。
('A`)「名前はドクオ・・・21歳、大学生。
ここには、どうやってきたんだっけ」
突如、背景に亀裂が走る。
白い世界にヒビが入る。
その奥からは漆黒の闇が覗く。
バリバリと音をたて破片は剥がれ落ち瞬く間に白の世界は闇夜に包まれた。
('A`)「一体何が・・・」
そう言いかけてドクオは自分の身体が暗闇に沈み込んでいくのを確認した。
見ればあの女性も闇に溶け込んでいく。
途端に、ドクオはこのまま彼女と別れてはいけない気がして焦燥感に駆られる。
('A`)「あ、あのさ!」
既に下半身を飲み込まれていた彼女はどこか寂しそうな顔をしていた。
何故だかドクオは胸を締め付けられる。
ドクオは叫ぶ。
('A`)「き、君の名前は・・・ヒート!」
ノパ⊿゚)「ヒート・・・」
確証なんてものはない。
彼女に見覚えもない。
それでも咄嗟にそう叫んでいた。
ノパ⊿゚)「ヒート・・・ヒート。
うん、そうだ、私の名前はヒートだ」
ヒートは笑う。
ノハ^⊿^)「ありがとう」
視界が暗転する。
完全に闇夜に飲み込まれ彼女の姿は見えなくなった。
海底深くに沈む様に身体は落ちていく。
('A`)「ヒート・・・」
その名前をもう一度呟く。
また会えるだろうか。
また会わなければならない。
そこでぷっつりとドクオの意識は途切れた。
-
彼女の世界の中のようです
1 白い世界
-
ドクオの意識を呼び起こしたのは前夜に設定したであろうアラームだった。
その発生源である携帯電話を手に取る。
ゆっくりと身体を起こす。
('A`)「朝か」
少しずつ眠たい頭が機能していく。
ベッドの上。
やや散らかった自室。
充電が完了した携帯電話。
電源が点けっぱなしのパソコン。
ゆらゆら揺れるカーテンから部屋に差し込む眩い朝陽。
ドクオ。大学生。21歳。実家住まい。両親との3人暮らし。
機能し始めた頭がデータを取り出す様に今の状況を説明する。
('A`)「あぁ、今日は1時限からか」
ドクオはベッドから這い出した。
いつもあらかじめ母親に起床時間を伝えているので、間もなく起こしに来るからだ。
§ § §
('A`)「変な夢・・・だったな」
家を出て欠伸をしながらドクオは昨晩の夢を思い出す。
赤みがかった髪が特徴的な、記憶喪失の女性。
面識はなかったのに何故か彼女の名前を言い当てる事が出来た。
それは咄嗟に口にしたものだったが、どうして急に思いついたかも分からない。
あれこそ勘だとか、第六感という類のものなのだろう。
ともあれ不思議な夢だった。
それで話は終わる。
ドクオの意識は今日の講義に向かっていた。
静かに電停に入ってきた路面電車に乗り込み、ICカードと一体化した学生証をかざす。
青いランプの点灯を確認してドクオは車内の奥の方へと進む。
大学へは路面電車で、二十分あまりで着く。
この島の主な交通機関は路面電車とバスだ。
パークアンドライドが推奨されており島の市街地はトランジットモール化されている。
学生であれば運賃無料という事もあり、本数も多く路線も充実し市民の足として親しまれている。
-
('A`)「おーっす」
大学前の電停で降りると、見慣れた顔が目に入る。
( ^ω^)「おはようだおドクちん!」
ξ゚⊿゚)ξ「おはようドクオ」
同じ学部のブーンことホライゾンと、その幼馴染みツン。
二人は幼稚園からの腐れ縁だというから驚きである。
いっそ付き合わないのかと何回か聞いた事があるが二人とも顔を真っ赤にして否定するばかりだ。
( -ω-)「1コマ目からはだるいおー」
ξ゚⊿゚)ξ「また夜遅くまでモンハンでもやってたんでしょう」
( ^ω^)「なんで分かるんだお。 ツンは超能力者かお」
ξ゚⊿゚)ξ「アンタねぇ、何年幼馴染みやってると思ってんのよ・・・」
('A`)「今日も仲いいなぁ」
ξ*゚⊿゚)ξ「うるさいわよ!」
いつものやり取りをしながら石畳の道を歩く。
電停から大学までの道は街灯や街路樹が綺麗に整備されている。
この区域もバスやタクシー以外の自家用車は殆ど乗り入れが規制されている。
従って歩行者や自転車が大半を占めているが、
('A`)「おっ」
例外もいる。
从 ゚∀从「おいーっす」
重低音が響く。
左右に広がって歩いていた学生が一斉に道を開ける。
石畳の小洒落た道とは不釣り合いなハーレーが姿を現す。
それにまたがった女性がひらひらと手を振った。
从 ゚∀从「ようよう皆の衆」
彼女もまた同じ学部の、ハインリッヒである。
-
('A`)「相変わらず目立ってんな。
お前は将軍様か」
从 ゚∀从「北の?」
('A`)「暴れん坊の方だろ」
( ^ω^)「ハーレーで颯爽と大学に来る女ハインぐらいだお」
从 ゚∀从「うるせえ、オレには理念っつーもんがあるんだ。
公共交通機関なんぞ使ってたまるか」
ξ゚⊿゚)ξ「なんと反社会的な」
('A`)「いやコイツは漢字ばかりの単語が使いたいだけのバカだ」
あまり稼働率の良くないバイク駐輪場にハーレーを止める。
景色には不釣り合いだが見た目も中身も男勝りなハインリッヒにはよく似合う。
また彼女の天真爛漫かつ凶悪凶暴な性格から逆らうと轢き殺されると言い伝わっているので自然と通り道が開けられるのであった。
彼女はその現状に対して満更でもない顔をしている。
('A`)「おっかねぇな・・・」
この学校の生徒の殆どは島民が占める。
幼稚園に入園した時から大学生の今に至るまで、この島が生活範囲だ。
島とはいえど独自に発展しており他の都市に出ずとも欲しい物が手に入るのも拍車をかけている。
怠惰な時間ばかりが過ぎていく気がしていた。
('A`)「なんか面白い事起きないかな」
( ^ω^)「なーに言ってんだお、平和が一番だお。
ほらピースピース」
('A`)「うぜぇ」
ξ゚⊿゚)ξ「大体アンタはね平―――
('A`)「えっ」
音が消える。
ツンが途中で喋るのをやめてしまったため彼女の方を見る。
彼女はまるで石像にでもなったかの様に、ぴたりと動きを止めていた。
ブーンも、ハインリッヒも、近くを歩いていた他の生徒も、一様に止まっている。
慌ててドクオは周囲を見る。
-
('A`)「なんだ・・・」
街灯から飛び立とうとしていた鳥。
購買で売るパンを運搬していたワンボックスタイプの軽自動車。
カーブを切り抜けようと傾いた自転車。
全てが止まっていた。
一時停止でもしたかの様に。
話し声、鳥の鳴き声、業者の車のエンジン音、自転車の軋む音、一切の音が消える。
一瞬にしてドクオ以外の全てが停止し、世界は静寂に包まれた。
(;'A`)「えっ、なにこれ、えっ」
静止した世界から次第に色が落ち始める。
学生の肌の色、服の色、髪の色、石畳の色、街路樹の色、目に見えるあらゆる色は溶けて溢れだし流れていく。
やがて青い空の色も失われ色彩は完全に消え去った。
真っ白な背景に一切の動きを停止した線だけが残る。
(;'A`)「一体何がどうなって」
(*゚∀゚)「君がドクオ君かぁ」
静寂の世界を幼い声が打ち破る。
ドクオより幾つか年下であろう少女。
いつの間にかいたのか。
何より彼女には色が付いていた。
(;'A`)「き、君は・・・というかなんで皆真っ白なんだ、それにどうして俺の事を」
(*゚∀゚)「そんな矢継ぎ早に聞かれても」
仕方ないなぁ、と少女は大仰にため息をつく。
-
(*゚∀゚)「私の名前はつー。 皆が真っ白になったのは『白い世界』の時間だから。 君には色が付いてるじゃない」
ドクオはそう言われて自分の手や足元を見てみる。
色彩は失われていない。
腕時計に目をやるとこちらは止まっていた。
ポケットに入れていた携帯電話も、色こそ付いているが動かない。
('A`)「訳が分からない・・・何が起こったんだ。
どうして君と俺だけ色が付いている」
(*゚∀゚)「それは簡単。 単純明快」
つーと名乗った少女は笑う。
笑いながら、後ろに隠していた右手を出す。
握られているのは鋭利なナイフ。
(*゚∀゚)「君を殺すためだよ」
少女が走り出す。
間合いはすぐ詰められる。
研ぎ澄まされたナイフを構える。
地面を蹴り跳躍。
迷う事なく突き込む。
(;'A`)「っ!」
瞬発的な反応でドクオは石畳を転がる。
身体のあちこちが痛むが気にしない。
つーはナイフをちらつかせながらまた笑う。
(*゚∀゚)「あっれー、見かけによらず反射神経いいねぇ。
のろまなモヤシだと思ってたのに」
(;'A`)「な、なにを」
狼狽するドクオに構わずつーはナイフを振りかざす。
躊躇わず振り下ろされるナイフをドクオは必死に避ける。
体勢を立て直し背を向け走り出した。
(*゚∀゚)「背中を見せるとはいい度胸だね!」
-
彼女には迷いも罪悪感もない。
殺すと先程宣言した通りただその結果のみを追求している。
純粋な殺意が背後から貫く。
(;'A`)「ぐっ!」
石畳につまずき、ドクオは転倒する。
慌てて立ち上がろうとするももう遅い。
たった数秒のチャンスを逃さずつーはドクオに覆いかぶさりナイフを突き立てた。
(*゚∀゚)「おしまい」
冷たい彼女の声が降り注ぐ。
背中に突き刺さる鋭い痛みを想像した刹那。
金属同士のぶつかる鈍い音が響く。
(*;゚∀゚)「なっ!?」
つーが飛び退く。
その手にナイフはない。
目で追うと数メートル先に吹っ飛ばされている。
川 ゚ -゚)「待たせたな、無事か」
まるでヒーローの様な台詞を吐き、誰かが立っていた。
恐る恐るドクオは見上げる。
川 ゚ -゚)「よう」
色彩のない世界に立つ女子高生。
紺色のセーラー服にやたら短い膝上15センチのスカート。
彼女の手には似合わない剣が握られている。
(*゚∀゚)「なんだお前は!?」
('A`)「誰ですか貴方」
川*゚ -゚)「一度に言わないでくれ、照れる」
(*゚∀゚)「・・・」
('A`)「・・・」
川 ゚ -゚)「・・・クーだ。 遅れてすまない、ドクオ」
クーと名乗る少女が手を差し伸べる。
-
('A`)「助けてくれるのか」
川 ゚ -゚)「当たり前だ、私は君を守るためにきた」
つーが舌打ちする。
(*゚∀゚)「そうか、お前干渉者か」
転がったナイフをつーは拾う。
(*゚∀゚)「邪魔を、するなっ!」
次はクーに。
つーは駆け出す。
刃渡り20センチのナイフが振るわれる。
それを、クーは鮮やかに、動きを読み取り、難なく躱す。
川 ゚ -゚)「遅い」
クーは左手でしぃの腕を掴む。
そうして右手に握られた剣を振り下ろした。
たった一瞬で全てが決着する。
スローモーションを見ているかの様に。
つーの腕が飛ぶ。
(* ∀ )「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
切り口から血が迸る。
噴水の様に溢れ周囲を汚す。
真っ白な世界でどす黒い鮮血はよく映えた。
踊る様につーは血とともに悶え叫ぶ。
振り撒かれた血が石畳の溝を見たし模様を作り出す。
川 ゚ -゚)「次はもっとまともな奴を連れてこいと、雇い主に伝えておけ」
ゆっくりとクーはつーに近づく。
返り血を浴びてセーラー服は赤く染まっている。
つーは痛みに苦しみながらクーを睨みつけた。
(*゚∀゚)「お前は反逆するのか・・・あの人
川 ゚ -゚)「まぁここで殺すがな」
つーの言葉を遮りクーは袈裟懸けに斬り倒す。
華々しく血を噴きながらつーは倒れた。
再び静止した世界に静寂が戻る。
-
川 ゚ -゚)「危ないところだったな」
(;'A`)「い、いやいや、そうだけれども、殺したのか!?」
川 ゚ -゚)「いやなに、こいつはじきに消去される」
(;'A`)「何を・・・」
彼女の言った通り、絶命したつーの身体は溶ける様に消滅していく。
ものの数秒で肉片一つ、骨や飛び散った大量の血も残らず消えてしまった。
跡形もなくつーの痕跡全てが消え、無色の石畳だけが残る。
(;'A`)「なんだったんだ・・・あいつは、人じゃないのか」
川 ゚ -゚)「まぁ、そうだな、そうなるな」
(;'A`)「俺を殺そうとしていた」
川 ゚ -゚)「あぁ、そうだ」
何か事情を知っている様子なのに、クーの歯切れは悪い。
それがもどかしく感じる。
('A`)「色々訳分かんない事ばかりで、考えが追い付かない・・・まずどうして時間が止まってるんだ」
川 ゚ -゚)「『白い世界』だ。 この間私達以外の時間は止まる。 止まっているものの色も抜け落ちる。
この『白の世界』の間に、奴らは君を殺しにくる」
白い世界。
今さっき倒された少女も言っていた。
('A`)「奴らって、俺は狙われてるのか」
川 ゚ -゚)「詳しい事は残念ながら何一つ全くもってどうしても分からないが、そうだ。 そうなんだ。
君は狙われている。 だから私が守る」
('A`)「守る・・・」
川 ゚ -゚)「そう、守る。 私は君を守るためにいる」
にわかに信じられない話だが、クーはいたって真剣だった。
何よりこの現状を見れば信じるほかない。
川 ゚ -゚)「君が狙われた時は必ず助けに来る。
安心してくれ」
('A`)「お、おう」
-
女の子に守ってもらうと宣言されるのはなんとも恥ずかしい気がする。
川 ゚ -゚)「あと、このセーラー服はコスプレじゃないぞ。
ちゃんと通っている高校のものだ」
('A`)「はぁ」
ドクオは改めてまじまじとクーを見ている。
流れる様に美しい黒髪に制服の上からでも分かる発育の良さ。
抜群のスタイルに落ち着いた喋り方からクールな印象を与える。
短いスカートは彼女が動くたびにゆらゆら揺れ視線が向く。
何故かドクオの好みどストライクだった。
川 ゚ -゚)「どうだ、惚れたか。
君の好み直球なのは仕様だから当然だ」
('A`)「仕様って」
川 ゚ -゚)「因みに」
クーはプリーツスカートを指でつまみ上げる。
川 ゚ -゚)「下着も君の好みになっている。 喜ぶといい」
(*'A`)「お、おお・・・!」
まくり上げられたスカートから覗くのは水色ストライプの下着。
いわゆる縞パン。
(;A;)「お、おおお・・・3次元で履いている者など今まで拝めた事がなかった・・・やっと・・・!」
川;゚ -゚)「何も泣くなよ・・・」
そこでふとドクオは気づく。
真っ白だった世界に徐々に色が戻りつつある。
着色作業のごとく薄い色から自己を取り戻していく。
川 ゚ -゚)「『白い世界』が終わるみたいだな・・・完全に色が戻ったら時間はまた動き出す。
それまでに元いた場所で元の体勢に戻るんだぞ。
さもないと瞬間移動した様に見えてしまうから」
('A`)「えっ難易度高くない」
川 ゚ -゚)「あと『白い世界』の事は誰にも言わない方がいいぞ、皆知らないからな」
-
('A`)「き、君は?」
川 ゚ -゚)「大丈夫だ、君が危ない時はちゃんと守りにくる。
またすぐに会えるさ」
('A`)「それってまたすぐ襲われるって意味なんじゃ・・・」
世界が色彩を取り戻す。
静止していた世界が動き出す。
―――和ボケしすぎなのよ!
もうちょっと緊張感を持ちなさいよ緊張感を!」
( ;ω;)「うえーツンは厳しいお、ドクちんフォローしてくれお!」
('A`)「えっ」
街灯から鳥が飛び立つ。
購買で売るパンを運搬するワンボックスタイプの軽自動車が通り過ぎる。
カーブを切り抜けようと傾いた自転車が盛大にクラッシュする。
ξ゚⊿゚)ξ「うっわ痛そう」
( ^ω^)「石畳って自転車とか走るのに向いてないお・・・」
全て元通りに、正常に動いていた。
数分の出来事などなかったかの様に平然と時間は流れていた。
クーと名乗った女子高生の姿はすでになかった。
時間は動き出したのに、自分だけ取り残された気がして、ドクオは違和感を拭えなかった。
-
§ § §
('A`)「なんだったんだろ・・・」
ベッドの上でドクオは何度目かの寝返りをうつ。
思い出されるのは朝方の出来事。
夢などではない。
今でも鮮明に再生される。
('A`)「すごかったな・・・」
あれが魔法だったのか超能力だったのかは分からない。
時間を止める『白の世界』や、斬り殺されたにも関わらず肉や骨の一つも残らず消滅してしまったつー。
今日見たものはどれも科学的説明の追い付かないものばかりだ。
クーと名乗った女子高生も最低限の説明のみしか与えてくれなかった。
('A`)「考えても・・・仕方ないな」
いい加減眠りにつく事を目指し、ドクオは目を閉じる。
意識はゆっくりと沈んでいった。
§ § §
('A`)「・・・あれ」
次に目が覚めたその場所は、見慣れない景色だった。
閑静な住宅地の平均的な一軒家の自室ではなかった。
辺りを見渡すと、薄暗い照明と青白い光が目に入る。
大小様々な水槽が並んでいる。
('A`)「水族館かな」
-
ただ立っていても何も変化がないのでドクオは歩いてみる。
薄暗い照明の下に水槽はいくつも置かれていた。
アクリルガラスの水槽を覗いてみても何も泳いでいない。
幾つもの空の水槽を越えると、人影が見える。
誰がいるのかは、もうなんとなく分かっていた。
ノパ⊿゚)「お、また会ったな」
やはりそこにいたのは夢の中で見た女性、ヒートだった。
('A`)「あぁ・・・本当だ」
二人は歩き出す。
他に人影はない。
無人の水族館を歩く。
ノパ⊿゚)「名前、ありがとうな。
ようやく一つ、思い出せた」
水槽を覗く。
大きな入道雲が優雅に泳いでいる。
ノパ⊿゚)「だけどなんで分かったんだ?
私の事は知らないと言ったじゃないか」
('A`)「いや、それが俺にも不思議で。
なんとなく、こいつはヒートだ! って感じで閃いたというか」
ノパ⊿゚)「うーん、私も根拠はないのにお前にヒートと言われた時に、びびっときたというか、それだ! 私はヒートだ! って感じになったんだよなぁ」
-
記憶喪失ならば思い出すきっかけも些細なものかもしれない。
ともかく全てを失った彼女はまず名前を取り戻した。
まだ第一歩に過ぎないが大きな進展である。
ノパ⊿゚)「なぁ、ならその閃きで他も当ててみてよ!
年齢とか職業とかどんな人生だとか!」
('A`)「えー」
ノパ⊿゚)「ほらそのー、インスピレーションとか? 第六感とか?
なんでもいいからさ」
期待の眼差しを彼女は向けてくるが、ドクオはヒートの名前を思いついた時と比べると全くといっていいほど閃きはない。
仕方がないので本当に、適当な人物像を想像する。
('A`)「うーん、君は20歳、高卒で県内大手企業の正社員、主に事務職、実家で両親と暮らして・・・みたいな」
ノハ'゚⊿゚`)
('A`)「ご不満ですか」
ノパ⊿゚)「うん、なんか全然違う、第六感ダメだな」
('A`)「だろうね」
ヒートは落胆した様子だった。
無理もない。
('A`)「なんか悪いな」
ノパ⊿゚)「いや、気長に自分を探すよ。
自分の名前が分かっただけでも大きな一歩だしな」
('A`)「何か手がかりでもあればいいんだがな」
ノパ⊿゚)「ほんとだよな・・・」
-
筒の様な水槽が続いたあとは、大きな水槽が現れる。
アクリルパネルの向こう側を見ると逆さまに高層ビルが聳え立っていた。
ライトアップされた水槽を飛行機が泳ぐ。
ノパ⊿゚)「思い出そうと思っても、頭の中で靄がかかっている、そんな感じなんだ」
降り注ぐ焼夷弾の様にビルは生える。
射出されるミサイルの様にビルが並ぶ。
不揃いで個性豊かなビル群を縫って飛行機は進む。
水槽を駆け抜けると飛行機雲の様に泡沫が残る。
ノパ⊿゚)「なぁ」
ヒートは立ち止まる。
飛行機は止まらない。
ノパ⊿゚)「お前が記憶を失ったら、どう思う」
旋回を始めた飛行機を見ながらドクオは暫く考える。
('A`)「それは怖いな。 友達とか、親とか、恋人とか、大事なものとか、忘れちゃう訳だろ。
それはあまりにも、怖い」
ノパ⊿゚)「そうだよな。 私も怖い。
やっぱり色々忘れちゃってるだろうから、余計に怖い」
ヒートは物憂げな表情を見せる。
-
ノパ⊿゚)「それにこんな世界に一人ぼっちだなんて」
水槽が軋む。
厚さ60センチのアクリルガラスに亀裂が入る。
耐えきれなくなったアクリルが割れ大量の水が溢れだす。
遊泳していた飛行機も不揃いなビル群も根こそぎ流れ出す。
二人の身体は行き場を求めた数百万リットルの水に飲み込まれる。
('A`)「また」
流されながらドクオは叫ぶ。
('A`)「また会える」
ノパ⊿゚)「うん」
夢が終わる。
ドクオは流れに逆らうのをやめ身を任せた。
途端に激流に沈む。
身体とともに意識も沈んでいった。
また会える。
それにも根拠はない。
でもそう言わなければいけない気がしたからだ。
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1 おしまい
つづく
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ξ゚?听)ξの発言の平―――、―――和のつなげかたはよかった
レスが空きすぎたらなんのことか気づかなかっただろう
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面白かった 続き期待してる
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おつおつ面白かった
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乙
バトルは逃亡が怖いけど期待してる
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おつ
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面白い
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ありがとうございます。
週一ぐらいでやっていこうと思います。
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その島の名前はミサキという。
火山島であり平地は少ないものの五十万人もの住民が暮らし極めて人口密度が高い。
経済特区に指定され金融機関や大規模工場が集結し経済や流通の拠点でもある。
更に国内初の特別行政区であり本国よりも独自の発展を遂げ様々な特徴がある。
公衆無線LANが張り巡らされ島中どこからでもインターネットにアクセスでき、ユビキタス社会を実現している。
主な交通機関は充実した路線を誇る路面電車やバスであり、市街地への自動車の乗り入れは規制させるなど欧米のパークアンドライドが導入されている。
景観の良さも考慮され主要道路はアスファルトながら一般車両の乗り入れられない市街地は石畳の道が採用されている。
島であるものの本土から4キロメートルほどしか離れておらず鉄道供用橋で結ばれており観光客も多い。
ただし特別行政区であるため島外から上陸する場合は検問所でのセキュリティチェックが必要となる。
国内では異例なほどの厳戒な警備体制と独自に発展した街から、ミサキは箱庭と呼ばれていた。
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彼女の世界の中のようです
2 箱庭
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ドクオが異変に気づいたのは路面電車に乗り込んでから十数分後の事だった。
急にシャッフルモードの音楽プレイヤーが再生を停止したのでイヤホンを外すとすでに世界から音は奪われていた。
乗客はやはり固まっている。
窓の外を見ると通りを走る車も止まっている。
数日ぶりの感覚。
('A`)「『白い世界』・・・」
乗降中のため停車していた路面電車からドクオは電停に降りる。
ゆっくりと色が浮き上がる。
ここでは白が圧倒的強者。
あらゆる色も個性を失い白色という無に帰する。
繁華街の極彩色も他と平等になる。
ほどなくして色彩は消滅してしまった。
('A`)「またなのか・・・」
またすぐに会える、というクーの不吉な言葉通り、それはすぐやってきた。
恐る恐る、ドクオはあたりを見渡す。
そして予想通り色のついた人間を見つけてしまった。
( ФωФ)「ふむ、貴様がドクオであるな」
屈強な男。
長身かつ筋肉質な身体には鉄の鎧で守られている。
いかにも手練れという雰囲気を醸し出していた。
右手には長く禍々しい槍が握られている。
('A`)「ひ、人違いじゃないでしょうかね」
次はもっとまともな奴を連れてこいなどとクーは言っていたが、まさにリクエスト通りの人材だろう。
( ФωФ)「隠しても無駄だ、『白い世界』の中で動いているうえに色も着いておる!」
('A`)「ですよねー」
-
( ФωФ)「我が名はロマネスク!」
男は高らかに名乗る。
槍を天高く突き上げ、地面に力強く突きつけた。
( ФωФ)「その命、我輩が頂戴する!」
猛然とロマネスクが襲いかかる。
回れ右をしてドクオは走りだした。
必ず助けに来ると約束したクーの姿はない。
(;'A`)「いやいやいや!」
路面電車の影に回りドクオは全速力で逃げる。
( ФωФ)「笑止! 貴様、背中を向けるとは!」
同じ様な事をナイフの少女に言われた気がするが無視してドクオは走る。
戦う術がない以上立ち向かうなど不可能だ。
車が無規則に停車したままの通りを駆け抜ける。
( ФωФ)「待てぇ!」
鎧の男も追いかける。
槍を投げてこないので投擲するものではないと判断しドクオはただひた走る。
(;'A`)「クソッ、助けに来てくれるんじゃないのか!」
大して体力のないドクオは当然すぐに息切れを起こし悲鳴をあげる。
普段から鍛えておかなかった事を今ばかりは後悔する。
ロマネスクとの距離はみるみるうちに縮まっていく。
( ФωФ)「もたったァァァ!」
ロマネスクが飛びかかる。
一気に距離が狭まる。
川 ゚ -゚)「待て!」
凛とした声が響く。
ロマネスクは急停止し、声の方を見やる。
通りに設置されたバス停のベンチから彼女は立ち上がった。
( ФωФ)「何者だ!? 『白の世界』でも個性を保持している・・・貴様干渉者であるか?」
川 ゚ -゚)「想像に任せるとしよう」
彼女、クーは不敵に笑う。
-
川 ゚ -゚)「大丈夫だったか、ドクオ。 待たせたな」
(;'A`)「あの、ほんと、助けてもらう身分であれだけど、もうちょっと早く来てもらっていいっすかね・・・」
川 ゚ -゚)「悪かった悪かった」
ドクオの視線はクーが持つゲーム機に移る。
川 ゚ -゚)「あ、いや、セーブさせてくれ、もうすぐクエスト終わるから」
('A`)「あっお前モンハンやってたな!? 人がピンチだっていうのに呑気にモンハンやってたな!?」
川 ゚ -゚)「もうちょっとで終わるんだ! 待ってろ!」
( ФωФ)「・・・スリープにすればよかろう」
('A`)「・・・」
川 ゚ -゚)「・・・だな」
スリープモードにしたゲーム機を鞄にしまいクーは交差点に立つ。
( ФωФ)「干渉者よ、貴様はその男を守るというのだな?
それは我輩の邪魔をするという事だ」
川 ゚ -゚)「そうだ、私はドクオを守るためにいる」
('A`)「モンハンやってたけど」
川 ゚ -゚)「うるさい」
巻き添えを食らうまいとドクオは交差点の脇に避難する。
止まっているので信号機は点灯していない。
もっとも色が付いていないので判別する事も出来やしない。
( ФωФ)「干渉者・・・ただのか弱い少女に見えるが」
-
ロマネスクの言うとおり、クーは一見ただの華奢な身体つきの女子高生に過ぎない。
彼女の方が謎だと言える。
しかしクーは臆することのない、自信に満ち溢れた顔をして立っている。
川 ゚ -゚)「すぐに思い知るさ」
クーは交差点を統一する信号機のある電柱に触れる。
解錠する様に手を回し一気に引き抜く。
すると手にはつーを斬り倒したあの剣が握られていた。
( ФωФ)「よかろう」
ロマネクスは槍を手の中で回す。
まるで隙がなく威圧感を与える。
暫く互いは睨み合い、槍を回す音だけが響く。
( ФωФ)「どうした、怖気ついたか」
川 ゚ -゚)「まさか」
クーは剣を握り飛びかかる。
動きを読んだロマネスクが槍で斬撃を受け止める。
立て続けにクーは打ち込む。
両手で槍を掲げロマネスクはそれを防ぐ。
( ФωФ)「ぬぅっ!」
槍を短く持ち直す。
一瞬の隙を見逃さず突き込む。
しかし命中する事なくいなされる。
ロマネスクはすぐさま身体を捩り背後からの斬撃を躱す。
槍をアスファルトに叩きつけ大きく間合いを取った。
( ФωФ)「不思議だ、そのか弱い腕からどうしてそれほどの腕力が生み出されるのか」
川 ゚ -゚)「単に私がチート的な存在だからだ」
-
剣と槍が交じり合う。
あらゆる音が滅亡した今では金属がぶつかる音はよく響く。
( ФωФ)「チートだと?」
川 ゚ -゚)「長い得物を振り回しているだけの木偶の坊とは違うのさ」
( ФωФ)「何を!?」
ロマネスクは憤る。
クーが距離を詰める。
足を払おうと槍を振る。
しかし虚しく空を切る。
その動きを読んでいたクーは高く飛び上がっていた。
川 ゚ -゚)「単純な奴め」
顔面に強烈な蹴りが入る。
対応出来なかったロマネスクはもろに蹴りを喰らい体勢を崩す。
それだけで勝負は決する。
決定的な好機を逃す事なく。
クーの剣はロマネスクの身体を斬り裂く。
鉄の鎧ごと屈強な身体を斬り致命的な裂傷を負わせる。
豪快に鮮血を撒き散らしながらロマネスクはアスファルトの地面に倒れた。
( ФωФ)「馬鹿な・・・こんなガキに」
川 ゚ -゚)「言っただろう、私はチートだ。 普通のとは違う」
( ФωФ)「干渉者・・・たとえお前が足掻いても無駄だ・・・必ずあの方は
そこでロマネスクの発声は終わる。
クーは喉を突き刺した剣を引き抜き今度は心臓を貫く。
('A`)「お、終わったのか?」
川 ゚ -゚)「ん、あぁ、もう大丈夫だ」
取り繕うようにクーは男の死体を離れ歩き出した。
ドクオもそれに付いていく。
川 ゚ -゚)「元いた場所から少し移動しただろう? 『白い世界』が終わる前に元の場所に戻らないとな」
-
('A`)「おう・・・あのさ、幾つか聞きたい事があるんだが」
川 ゚ -゚)「あぁ、いいぞ。 歩きながらだが」
二人は幹線道路の真ん中を歩く。
普段は交通量が多くとても歩ける様な場所ではないが時間が止まっている今では歩きやすい。
('A`)「その剣はどうやって出したんだ、何もないところから取り出した様に見えるけど魔法か何かなのか?」
川 ゚ -゚)「まぁ魔法の様なものだと思ってもらっていい。 一部の者のみが扱える力、といったところかな」
道路を抜け石畳の広場へ入っていく。
広場を横切る様に線路が引かれ電停が設置されている。
この一帯はヨーロッパの街並みを連想させる。
('A`)「俺が何かに狙われてのこの前のナイフ女や今日の鎧の男みたいに殺し屋を送り込んできてるっていうのはなんとなく分かった」
川 ゚ -゚)「そう、物分かりがいいな。 私はそれらから君を守るという使命がある」
('A`)「君は一体、何者なんだ。 それに誰の指示で俺を守ってくれるんだ」
川 ゚ -゚)「私はただの女子高生だよ。 そして君を守るというのは独断だ。
私の意思で行っている」
('A`)「奴らが君を干渉者と呼ぶのは」
川 ゚ -゚)「そ、それは・・・まぁ・・・その・・・あれだ、二つ名だ、二つ名」
('A`)「ふ、二つ名・・・」
停車したままの路面電車が見えてくる。
海外で製造された主力車両は5両編成で通勤通学ラッシュにも耐えうる輸送力を誇る。
ドクオは自分が乗っていた車両を探す。
('A`)「あ、ここだ」
自分がもといた場所を見つけ、ドクオは顔をあげる。
クーがドクオに手を振る。
足元を見れば色彩が戻りつつあった。
('A`)「やっぱり、これからも続くのか」
-
川 ゚ -゚)「あぁ、残念だが、これからも敵の襲来は続く。
でも私が助けに来る」
真っ白なキャンバスに水彩絵具を垂らした様に着色が進む。
鮮烈で豊かな色彩が視界に溢れる。
瑞々しい色が帰ってくる。
川 ゚ -゚)「だから安心してくれ」
('A`)「あぁ・・・ありがとう」
川 ゚ -゚)「また」
時間が動き出す。
定刻通り路面電車のドアが閉まりゆっくりと走りだした。
路面電車は広場を出て補助警報を鳴動しながら先程二人で歩いた幹線道路へと出る。
当然、鎧の男の死体などそこにはない。
('A`)「当たり前か・・・」
やはり彼女の姿もない。
ただの高校生だと称したが謎は多い。
更にクーのどこか名残惜しそうな顔が妙に気になった。
§ § §
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたのよ、ボーッとして」
ツンの声で、ドクオは我に返る。
昼過ぎの大学構内のカフェ。
テーブルに着くのはいつもの面々。
ツン、ブーン、ハインリッヒと同じ学部の面子が揃う。
('A`)「あ、いや、ちょっと考え事」
( ^ω^)「エロい事考えてたお!? ドクちんエロ妄想してたお!?」
ξ゚⊿゚)ξ「アンタはいつもでしょッ」
ツンの鳩尾へのストレートパンチが決まりブーンは悶絶する。
いつ見てもツンはブーンに容赦無いし痛そうである。
-
从 ゚∀从「全く童貞は妄想ばっかだな」
(;゜ω゜)「だ、だだだ誰が童貞だお!」
从 -∀从「分かりやす、お前ら早くくっついちまえよな」
ξ*゚⊿゚)ξ「な、ななな何言ってんのよ!」
二人とも顔を真っ赤にして席を立つ。
从 ゚∀从「はは、分かりやすい奴らめ」
ハインリッヒがブーンの鼻に彼が口にしていたストローを刺す。
(;^ω^)「い、痛い痛い」
从 ゚∀从「プッシュー」
(;゜ω゜)「ぎゃあああ鼻からフラペチーノが! ハナペチーノが!」
ドクオの思考はまた昨日に戻る。
二度目の『白い世界』。 再び現れた襲撃者。 謎の女子高生クー。
まるで夢の中の出来事の様だが、現に二度目となると直視せざるを得ない。
('A`)「夢・・・」
そういえば。
ドクオは思い出す。
夢で何度か会った記憶喪失の女。
彼女は元気にしているだろうか。
§ § §
ドクオは目を覚ますと同時に背中に違和感を覚えた。
ベッドから降りてみるとそれは切り揃えられた木に布を被せただけの簡易なものだった。
木のベッドは硬いので少しばかり背中が痛い。
寝ていた部屋には可愛らしい家具が置かれているがどれも木製やプラスチック製のものが並ぶ。
-
('A`)「これってシルバニアファミリーだよな・・・」
部屋を出て家の中を見回してみてもやはり同じ様な可愛らしい家具ばかりで揃えられている。
外を出てみると家も木で出来たものだ。
特に誰も見当たらないので外を歩いてみる。
自分の背丈ほどの積み木やレゴブロックがそこらに散乱している。
おもちゃ箱をひっくり返した様な街をドクオは歩く。
('A`)「バスか」
木やプラスチックばかりのなか、やたら現代的なハイブリッドタイプのバスが目に入る。
吸い寄せられる様にそのバスへと向かった。
ドクオが乗車するとドアが閉まり発車する。
空いている座席を探してドクオは奥へと進む。
親子や高齢者、女子高生らが席を埋めるなか、奥から二番目の座席で見知った顔を見つけた。
('A`)「よう」
ノパ⊿゚)「ん、久しぶり」
-
赤みがかった髪が特徴的な記憶喪失の女。
分かっているのはヒートという名前のみ。
会うのは何日ぶりだろうか。
('A`)「隣いいか」
ノパ⊿゚)「おう」
ドクオはヒートの隣に座る。
('A`)「あれから何か思い出せたか?」
ノパ⊿゚)「いやー、なんにも・・・」
名前が分かれば、そこから数珠つなぎに思い出せそうな気もしたがそう簡単にはいかないらしい。
またも物憂げな表情でヒートは窓の外に目をやる。
その顔を見るとドクオは無性に苦しくなる。
ノパ⊿゚)「このまま思い出せないままなんじゃないかって、たまに不安になるんだよね」
('A`)「もう長いのか」
ノパ⊿゚)「2週間ぐらい、かな。 気がついたらここを漂流してた」
バスはおもちゃの街を進む。
人形が街を闊歩する。
すぐ隣には乾電池を動力源とした列車が軟質プラスチックの線路を走る。
ノパ⊿゚)「でも、分からないなら仕方ない。 気晴らしに、何か別の話でもしようか」
('A`)「別の話か」
ノパ⊿゚)「じゃー、ドクオの話。 大学生なんだろ? 学部とかどんな感じだとか、将来の夢とか」
('A`)「おぉ、いいぜ。 学部は情報学部。 結構難しいんだけど」
バスは街を出て山道を走る。
片側一車線で対面交通の道路はカーブが多く勾配もきつくバスはゆっくりと走り抜ける。
('A`)「大学は住んでる島にあってさ、通学も結構楽なんだよな」
ノパ⊿゚)「情報学部・・・」
-
ヒートはドクオの言葉を繰り返す。
('A`)「珍しいか? 最近だと結構増えてきてるぞ」
ノパ⊿゚)「いや、情報学部って、何故か分からないけど、懐かしい様な、そんな気がする」
バスが速度をあげる。
流れる景色が速くなる。
('A`)「それってもしかして、ヒートは情報学部に在籍している、あるいはしていたとか?」
ノパ⊿゚)「そうかも・・・いや、そうだ。 情報学部。 間違いない」
('A`)「良かったな、また一つ思い出せたな。 名前の次が学部って予想外だけど」
ヒートは一つ記憶を取り戻し、一瞬嬉しそうな顔を見せるも、また少し困惑した様な表情になる。
彼女は躊躇いながら、ドクオの方に向き直り、尋ねた。
ノパ⊿゚)「その、なんとなく、なんだけどさ」
('A`)「なんだ、また何か思い出したのか」
ノパ⊿゚)「うん、ほんと変な事だから笑わないで聞いてほしいんだけど」
('A`)「おう」
ノパ⊿゚)「私達ってやっぱり初対面じゃなくてどこかで会った事がある・・・いや、むしろ」
('A`)「むしろ?」
ノパ⊿゚)「・・・私達、付き合っていたんじゃないか?」
-
バスがカーブを曲がりきれずガードレールを突き破る。
勢い余ったバスは回転しながら崖を落下していく。
幼児が食べていたポテトチップスが舞う。
高齢者が飲もうとしていたミネラルウォーターが飛散する。
女子高生達が持っていた色とりどりの携帯電話が飛び交う。
運転士が胸ポケットに隠し持っていた規定違反のタバコが飛んでいく。
身体が天井に叩きつけられる。
頭部と激突しガラスが飛び散る。
踊る様にバスは宙を舞い続ける。
バスはやがて宇宙に飛び出し無重力空間に放り出される。
重力を失い乗客は皆座席を離れ浮き上がった。
ぐるぐる回りながら宇宙を泳ぐ。
幾千万の星の輝きを眺めながらバスは落下を続ける。
大気圏に突入し熱を帯び耐えられなくなったバスは分離する。
バラバラに分解され燃えながら地球へ降下する。
降り注ぐ数多の流星の様に焼失していく。
世界が燃える。
ドクオは目を閉じた。
きっとあと数分もすれば携帯電話のアラームが鳴るだろう。
それでも起きなければ母親が起こしに来る。
朝食を食べ、路面電車に乗り、大学へ向かう。
そしてブーン、ツン、ハインリッヒ、いつもの情報学部のメンバー達が待っている。
ブーン、ツン、ハインリッヒ、いつもの情報学部のメンバー達。
情報学部。
情報学部。
ヒート。
情報学部。
ヒート。
情報学部。
ヒート。
私達、付き合っていたんじゃないか。
ヒート。
付き合っていた。
ノイズが覆う。
意識は途切れる。
シャットダウンする。
流星となり夜空を照らし一筋の光として一瞬の煌きを見せ闇に消えてなくなった。
後は黒色だけが残る。
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2 おしまい
つづく
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がんばれ
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乙
続きも期待!
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2話で結構面白くなってきた
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おつ
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最近は面白いのが多いな
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ありがとうございます
次いきます
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ヒートは眠っていた。
そこは宇宙であり、大地であり、空であり、床である。
一流ホテルに用意された柔らかな海外製の高級ベッドであり、ワックスが摩耗してくすんだフローリングの床である。
そこがどこだか分からないものの、心地よかった。
南の島の海沿いで優しい風に吹かれながらハンモックで昼寝をする様な、そんな心地よさ。
ずっとここにいていい気がする。
ここにずっといてはいけない気がする。
青空がある。 夜空がある。 新幹線の車窓の様に景色が流れていく。 現れては消えていく。
-
彼女の世界の中のようです
3 彼女の世界の中
-
壁に設置されたデジタル時計は12時を指す。
一日で一番の繁忙時間帯に入った大学構内の食堂は学生達でごった返していた。
大きな大学であるため食堂や店舗はいくつも用意されているものの、構内で一番高い位置にあり景色が良くメニューも安価で豊富なこの食堂が常に圧倒的シェアを誇っている。
木を基調とした落ち着いた雰囲気でありいつも清潔に保たれている。
ドクオとハインリッヒはディスプレイに表示されたメニュー表と暫く睨み合いをしたあと、学生証をICカードリーダーにかざして食券を購入する。
トレーに載せたランチを運びながら空席を探した。
从 ゚∀从「混んでるな」
('A`)「いつも通りだ」
人混みの中で大きく手を振るブーンの姿を見つけそちらへ向かう。
ブーンが4人分の席を確保していた。
すでにツンも着席している。
('A`)「助かったぜ」
从 ゚∀从「さすがパシリ王」
( ^ω^)「誰がパシリ王だお! 誰が使いっパシリ王だお!」
ξ゚⊿゚)ξ「大して上手い事言ってないわよ。 さぁ食べましょ」
無事席に着き、食事を始める。
ドクオも日替わりランチのから揚げ丼にありつく。
( ^ω^)「ところでみんなの夢はなんなんだお?」
食堂一番人気のカレーを頬張りながらブーンが聞く。
突拍子もない質問に一同は少し面食らった。
('A`)「なんだよ急に」
( ^ω^)「たまにはいいかなって。 ブーンは天下のNTTに入るお!」
ξ゚⊿゚)ξ「あのクラスの企業はうちの大学からじゃ厳しいしまずアンタじゃ無理ね」
( ;ω;)「ひ、ひどいお」
ツンは紙コップに注がれた水を飲む。
小さくなった氷が中で揺れる。
ξ゚⊿゚)ξ「私はウェブデザイナーね、叶うかは微妙だけど・・・」
-
从 ゚∀从「オレはD●NAやらGR●Eみたいな成り上がり急成長企業に入る! それで初任給30万もらう!」
ξ゚⊿゚)ξ「下心丸出しね」
( ^ω^)「ドクちんは?」
('A`)「俺? 俺は」
将来の夢。
なりたかったもの。
目指したもの。
('A`)「プログラマーだな」
( ^ω^)「へぇ、ドクちんらしいお」
夢。
プログラマー。
ヒート。
急に頭を殴られた様な衝撃が襲う。
数日前に見た夢を思い出す。
情報学部だったヒート。
妙にプログラマーという単語がちらつく。
それに彼女が最後に言った言葉が再生される。
付き合っていたんじゃないか。
どうして彼女はそんな事を言ったのだろう。
彼女に会って聞かなければいけない。
確認しなければいけない。
考え出してからはブーンの話は殆ど耳に入らなかった。
§ § §
目が覚める。
ドクオは正方形の箱の中にいた。
会議室の様にも講義室の様にも見える大きな部屋はとにかく薄暗い。
リノリウムの床には乱雑かつ無造作にいくつものモニターが置かれている。
モニターは7インチのものから42インチのものまで大小様々であり、中には電源が落ちているものもあって統一性がない。
そして空中には無数のウインドウが浮いていた。
半透明のそれはエラー警告であったりダウンロード表示であったりこれもまとまりがない。
これらのウインドウ一つ一つを手動で消していかなければならないのでは、と考えたドクオはふと恐ろしくなった。
-
('A`)「邪魔だな・・・」
ふらふら浮いているウインドウを押し退けドクオは進む。
アップロードを続けるウインドウをくぐると彼女の姿があった。
ノパ⊿゚)「よお」
('A`)「よっす」
彼女は回転椅子に座りモニターを見ていた。
モニターの電源こそ入っているが、何も表示されていない。
他のモニターと違いこれだけが機能を失っていた。
ノパ⊿゚)「分からないけど、多分私。 何も映ってないけれど」
('A`)「そっか」
そういえば、とドクオは付け足す。
('A`)「ヒートも情報学部だって言ったよな。 この前言い忘れたけど、俺さ、プログラマーになるのが夢なんだ」
ノパ⊿゚)「プログラマー・・・」
('A`)「ヒートは?」
モニターが突然色彩を生み出す。
カラフルな色彩が自由自在に踊った後は透き通った空が映し出される。
雲一つない晴天。
ゆっくりと視点は下へ向き、発射台へ固定されたロケットが現れる。
カウントダウンと共にロケットは放たれ豪快に白煙を吐き散らしながら宇宙へと旅立っていった。
ノパ⊿゚)「宇宙飛行士」
('A`)「えっ」
ノパ⊿゚)「小さい頃は、宇宙飛行士になりたかった。 でも、なれなかった」
映像が終わる。
ノパ⊿゚)「プログラマー・・・だった。 私は」
確かめる様にヒートはその言葉を繰り返す。
ノパ⊿゚)「そう、プログラマー」
('A`)「じゃあヒートは情報学部出身でプログラマーだったって訳か・・・。
なんだか似てるな」
ノパ⊿゚)「うん・・・」
-
ヒートは小さく頷き、ドクオを考える。
少し迷って、口を開いた。
ノパ⊿゚)「この前、もしかして私達付き合ってるんじゃないかって、言ったじゃん」
('A`)「あぁ」
ノパ⊿゚)「勿論確証なんてものはないんだけど、本当にそんな気がしたんだ。
ドクオは何か、思い出せない?」
('A`)「・・・いや、ヒートの事はやっぱり全然知らない。
だけど妙に、胸騒ぎがするんだ。
ヒートが苦しそうだと、俺も苦しくなる」
ノパ⊿゚)「そっか・・・。 なんだかね、懐かしいというか、帰る場所すら見つからない私だけど、変に既視感があるというか」
('A`)「帰る場所か・・・。 まずここがどこかなんだよな。 ヒートが漂流しているこのよく分からない世界が」
ノパ⊿゚)「ここにあるものは無意味な様で、無意味じゃない気がする」
('A`)「うーん・・・そもそも、俺は今夢を見ているんだ。 夢の中で、たまにヒートにこうして会える。 俺はてっきり俺の夢の中に住む存在か何かだと思っていた」
ノパ⊿゚)「いや、それは多分違う」
あっけなくヒートは否定する。
ノパ⊿゚)「私は三週間ぐらいここを漂流しているけど、たまにこうしてドクオと会えるんだ。
それ以外は、ずっと一人」
('A`)「ならリンクしているとでも・・・?」
無論、この非現実的な世界が現実でないのは明白だ。
そのためドクオにとってヒートは夢の中の住人という認識であった。
でも、夢ではない。
ならば別のどこか。
-
('A`)「なら一体ここは」
突如ドクオの言葉を遮る様にウインドウが一斉に飛ぶ。
豪快に白煙を吐き散らしながら宇宙へと飛び立つ。
モニターもそれに倣い打ち上げられる。
数多あったウインドウやモニターが飛び去り正方形の部屋の中にはロケット発射を映したモニターだけが残る。
そのモニターは再び色彩をその身に宿す事なく、役目を終える。
まるで卵から雛が孵る様に、ゆっくりと亀裂が入り、時間をかけながら、割れる。
そうしてモニターは砕け散った。
途端に正方形の部屋が50パーセントの縮小を始める。
ノパ⊿゚)「あのさ」
30メートル。
ノパ⊿゚)「また会えるかな」
15メートル。
ノパ⊿゚)「ここさ、寂しいんだ」
7.5メートル。
ノパ⊿゚)「ドクオがたまに遊びにきてくれる程度でさ、話し相手もいなくてさ」
3.75メートル。
ノパ⊿゚)「だからまた遊びに来てよ」
1.875メートル。
ノパ⊿゚)「明日とか、明後日とか」
93.75センチメートル。
ノパ⊿゚)「私はきっといつでもいるから」
46.875センチメートル。
ノパ⊿゚)「だから、さ」
23.4375センチメートル。
ノパ⊿゚)「待ってる」
必ず行く。
-
正方形の部屋は圧縮され、雨粒となり、重力に従い、大地に降り、世界と同一化する。
蛇口から出る殺菌された水道水も世界と同じ。
塩素で消毒された25メートルのプールも世界と同じ。
翌朝の洗濯に再利用される風呂の残り湯も世界と同じ。
消防車が消火栓からポンプで汲み上げ放つ水も世界と同じ。
熱したアスファルトを冷ますため撒かれるバケツの水も世界と同じ。
500ミリリットルのペットボトルに詰められ喉を潤す天然水も世界と同じ。
増水で河川が氾濫し家屋や田畑を無条理に押し流す鉄砲水も世界と同じ。
雨が降る前に家路を急ぐ人の頬に落ち降雨を知らせる一滴の雨粒も世界と同じ。
個は世界と同じ。
雨が降り排水口に流され終末処理場で浄化され川に流され海へ出て蒸発し雨雲となり雨が降る。
世界は個と同じ。
§ § §
幾つかの声が響く。
ドクオの意識は眠りから呼び戻された。
夕暮れの街を走る路面電車。
車内は帰宅客でやや混雑している。
近くに乗車したばかりの小学生の集団が目に入る。
彼らの話し声で起こされたのだと理解した。
('A`)「1時限からだとどうも眠いな・・・」
自宅の最寄り駅を迎えドクオは交通系ICカードをかざして路面電車を降りた。
このICカードは学生証としての機能を兼ねており、教室の席に設置されたリーダーにタッチする事で出席を確認するシステムが導入されている。
また島内の殆どの店舗でICカードでの決済が可能であり、この一枚さえあれば買い物が出来る。
これもこの島、ミサキの大きな特徴の一つである。
('A`)「今日はさっさと寝よう・・・」
自宅のすぐ近くまで来たところで、ドクオは前をゆっくり走るトラックの存在に気づく。
道に迷っているのかノロノロと走る。
抜かそうか考えていとトラックは遂に道端で止まってしまった。
不審に思いながらドクオはその脇を通ると、すでに車体は脱色を始めていた。
('A`)「また・・・か」
-
トラックから、アスファルトの道路から、アルミ鋳物フェンスから、ポリカーボネートのカーポートから、屋根に設置されたソーラーパネルから、色が抜けていく。
背景は白一色に指定され万物の動きは止まる。
( ・∀・)「君がドクオか」
トラックの影から男が現れる。
彼が持つのはアサルトライフル。
この近距離で撃たれれば間違いなくひとたまりもない。
川 ゚ -゚)「私が相手だ」
どこからともなく現れたのは華奢な女子高生、クー。
クーは繊維強化プラスチックの門扉に手を触れ、撫でる様に回す。
僅かな光とともに出現した柄を握り引き抜く。
これまで襲い来る刺客達を斬り倒してきた剣を取り出し、構えた。
( -∀・)「ふん、やっぱり干渉者がいるんだねぇ」
『白い世界』に遭遇する様になってから二週間あまりが経つ。
襲撃は日を追うごとに頻度を増し、今や毎日の様に続く。
それでもドクオを抹殺するべく送り込まれた刺客をクーは残さず斬り殺してきた。
宣言通り、ドクオを守り続けているのである。
川 ゚ -゚)「私はドクオの盾だからな」
( ・∀・)「ふぅん」
川 ゚ -゚)「ドクオは離れていて」
ドクオは走って距離を取る。
ほどなくして銃声が限りなく無音に近い住宅街に響く。
普通ならば、ライフルを所持する人間に剣で挑んだところで勝てる訳がない。
しかし自らをチートと称するクーはその言葉通り、いかなる不利な状況でも敵を打ち破ってきた。
電柱の影からそっと様子を見る。
-
( ・∀・)「おおおお!」
ライフルが火を噴く。
しかしクーは速い。
常人の速度ではない。
驚異的視力。
反射能力。
あるいは特殊な能力。
多くを語らないクー故に分からないが彼女が傷を負った場面すら見た事がない。
(;・∀・)「バカな!?」
弾丸はクーに当たらない。
全て背後で跳ねる。
素早い動きでクーは距離を詰める。
(;・∀・)「ッ!」
すんでのところで男は回避する。
休む間もなくクーは剣を振るう。
慌てて男は後退し距離を取る。
(;・∀・)「化け物か・・・!」
男はありったけの弾丸を浴びせる。
数多の銃弾をかいくぐりクーは目まぐるしいスピードで駆け抜け斬りかかる。
(;・∀・)「どうして・・・!」
-
川 ゚ -゚)「簡単だ」
迷いなく振り下ろされた一撃が男の喉元から一気に斬り裂く。
川 ゚ -゚)「並みの設定じゃあないんだよ、私は」
呆気無く。
川 ゚ -゚)「終わったぞ」
早い決着であった。
クーは門扉に剣を向ける。
鋒から静かに光の中に剣が収められていく。
('A`)「相変わらずその剣はすごいな・・・」
川 ゚ -゚)「なに、ドクオもその気になれば使える。 これはそういう代物だ」
('A`)「そ、そうなのか」
川 ゚ -゚)「あぁ、ドクオが本当にこの剣を必要とした時は必ず現れる」
('A`)「そうか・・・しかし今日は早かったな」
川 ゚ -゚)「武器を振り回しているだけのガキだったからな、造作も無い。
元軍人キャラでも連れて来いといったところだ」
('A`)「キャラ?」
川 ゚ -゚)「いや、いいや、いやいや、それよりだな」
クーは背後の家を指さす。
それはドクオの自宅であった。
真っ白な自宅を見るのも斬新なものだとドクオは一人考える。
川 ゚ -゚)「ドクオの家だな」
('A`)「俺の家ですね」
川 ゚ -゚)「おじゃまさせてもらおう」
('A`)「えっ」
川 ゚ -゚)「鍵を」
('A`)「えっ」
川 ゚ -゚)「助けにこないぞ」
-
反論出来ず、観念する。
鍵を受け取ったクーは有無をいわさず解錠して部屋へあがる。
ドクオの部屋に入り主にベッドの下や本棚の隙間やパソコンのフォルダを探索したあとベッドに飛び込んだ。
川 ゚ -゚)「いやぁ男の子らしい部屋だな」
(∩A∩)「あーもー片付けてないから嫌だったんだよー」
川 ゚ -゚)「女子か。 お前は女子か」
(∩A`)「二度も言うなよ」
川 ゚ -゚)「次はゴミ箱のティッシュチェ〜ック」
(;゚A゚)「やめてやめて!」
雑然としている自室も、色がないと無機質に見える。
文字通り世界から浮いているのだ。
('A`)「なぁ、やっぱりお前まだ俺に言ってない事あるだろ」
川 ゚ -゚)「ん、ない、ないぞ」
('A`)「・・・俺がここまで執拗に狙われる理由ぐらいは知っているんじゃないか。 俺には殺される理由が何一つ思い当たらないしあまりにも理不尽だ」
川 ゚ -゚)「さっぱりだ」
クーは枕に顔を埋める。
('A`)「あと何か聞きたい事があったはずなんだけど・・・お前にしか聞けない事・・・」
ドクオは眉間に手をやり考える。
聞きたかった事。
忘れてしまっている事。
何か大切な事。
川 ゚ -゚)「なんだよースリーサイズかー」
パソコンが目に入る。
クーがフォルダを漁ったままのデスクトップパソコンを暫く眺める。
パソコン。 インターネット。 ウェブページ。 ソースコード。 プログラム。
プログラム。
-
('A`)「ヒートだ・・・」
川 ゚ -゚)「え」
('A`)「ヒートだ、そうだ、なんで忘れてたんだろ。 聞きたい事、思い出したぞ」
川 ゚ -゚)「あぁ、うん」
('A`)「俺さ、ここ最近何日に一度、同じ様な夢を見るんだ。 その夢には必ず記憶喪失の女の子がいて、俺はてっきりよく見る夢の中の住人ぐらいの認識だった。
だけどそこは俺の夢の中じゃない別の世界で、パラレルワールドというか、彼女の世界の中に俺が寝ている間にリンクしているらしいんだ」
川 ゚ -゚)「ほ〜」
('A`)「俺はその子の事は見覚えがないんだけど、彼女曰く知り合いだったらしくて、何か意味があるんじゃないかと。
何か知らないか?」
川 ゚ -゚)「いっやー?」
クーは枕から顔をあげ大仰に首を傾げる。
川 ゚ -゚)「聞いた事ない、初めて聞いたな。 そんな摩訶不思議な事が実際に起こるものなんだな、驚きだ。
しかし私も夢の話はさすがのさすがに分からないというか、対処出来ないというか、なんというか」
('A`)「そうか・・・それならいいんだ。
どちらも非現実的なものだから関わりがあるんじゃないかと思ってさ」
川 ゚ -゚)「いや、残念だが、無関係だ。 全く無関係。 力になれなくて残念だ」
('A`)「まぁ何か分かったら」
川 ゚ -゚)「そ、それより!」
クーは足をばたつかせる。
-
川 ゚ -゚)「どうだ、自分のベッドに女子高生が寝てるんだぞ。
何か変な気起きないか?」
('A`)「べ、別に」
川 ゚ -゚)「パンツ見てるだろ」
('A`)「み、見えてるからね」
川 ゚ -゚)「見せてるからな」
('A`)「えっ」
川 ゚ -゚)「因みにいつも戦闘中ついついパンツ見てる事も知ってる」
('A`)「うっ」
川 ゚ -゚)「まぁ不本意だがそういう仕様だからな、このスカートのアホみたいな短さは」
('A`)「それ一体何の仕様なんだよ」
そこで会話は途切れる。
スカートをめくらせたまま、クーはドクオを見る。
川 ゚ -゚)「なぁ」
言いかけて二人は異変に気づき振り返る。
部屋中にじんわりと色が戻りつつあった。
窓の外を見れば無機質な住宅地が明るく染まっていく。
川 ゚ -゚)「ちぇ、いいところだったのに」
('A`)「いいところって」
川 ゚ -゚)「というか外に戻らないと、息子がワープ帰宅したらお母さん卒倒するぞ」
(;゚A゚)「うわあああかーちゃん高血圧なんだから!」
慌てて家を飛び出し道路に出る。
色彩が息を吹き返し、街が動き出す。
ノロノロ走るトラックはそのままゆっくりとした速度で行ってしまった。
そして案の定クーの姿はない。
('A`)「手がかりなしか・・・」
漂流世界のヒート。 白い世界のクー。
どちらも非現実的で、謎の多い存在である。
-
共通点がある様に思われたがクーはあっさりと否定した。
ヒートにも、聞いてみよう。
また何か思い出すかもしれない。
そう考えながら、ドクオは二度目の帰宅のため歩き出す。
('A`)「ん」
ふと目線と落とす。
道路の傍ら。
電柱の脇。
ホログラムの様なものがいくつか浮いていた。
('A`)「なんだこれ・・・」
見間違いかと思い、近くまで寄ってみる。
しかしやはりそれは浮いており、漂っていた。
手を伸ばしてみるが掴む事は出来ない。
暫くすると溶け込む様に消えてしまった。
まるで街の綻びの様に。
-
3 おしまい
つづく
-
乙
独特な感じいいな
-
乙〜
個は世界と同じ、世界は個と同じってのがハガレンを彷彿とさせられた
-
おつ
-
ありがとうございます
次行きます
>>65
一は全、全は一でしたっけ
思い出せばまんまですねw
-
愛する者を鳥籠に閉じ込めた。
彼女に触れる事は出来ない。
話しかける事も自分の存在を知らせる事も出来ない。
自分にはそれほどの権限が与えられていない。
それでも愛しい彼女を世界から隔離する事は出来る。
今までも。 これからも。
彼女は、ヒートは自分だけのものだ。
-
彼女の世界の中のようです
4 干渉者
-
目を開ける。
ドクオは欠伸をして回りを確認した。
そこは一般的な教室。
懐かしい木の机や椅子が整然と並ぶ。
外を見れば夕暮れ時で、ドクオが座っていた窓際の席はとても暖かく居心地が良かった。
('A`)「・・・いない」
教室には誰もいない。
きっと放課後だから部活にでも行っているのだろう。
自分が高校に在籍していた時はどの部活に入っていただろうと考えながらドクオは席を立つ。
廊下に出てみると消失点がはっきりと見えないほどずっと奥まで続いていた。
ただただ教室が延々と続く。
とりあえずドクオは歩き出した。
どれも同じ様に見えて一つ一つの教室に夢やら思い出やらが詰まっている。
('A`)「・・・ヒート」
ついその名前を呟く。
知らないはずなのに。
夢の中でしか会えない存在のはずなのに。
どうしても探さなければいけない。
自分の中で何かがそう叫ぶ。
('A`)「ん」
一つの教室の前で立ち止まる。
いる気がする。 何故か分かる。
気配だとか物音でなく、それこそ最初に言っていた第六感の様なものかもしれない。
一息ついて、ドアを開けた。
('A`)「よっ」
ノパ⊿゚)「わ、びっくりした」
やはり彼女はいた。
窓際の席に座っていた。
赤みがかった髪は真っ赤な夕陽に照らされる。
一つに纏めた髪はカーテンと共にふんわり揺れる。
-
('A`)「前いい?」
ノパ⊿゚)「うん」
彼女の前の席に、向かい合わせになる様に座る。
ヒートは制服を着ていた。
よく見ればドクオも制服を着用している。
まるで本当に学生みたいだ。
ノパ⊿゚)「なんか、懐かしいね。 セーラー服なんて」
('A`)「俺も学ランは、卒業した後だとコスプレしているみたいだ」
ノパ⊿゚)「だよねぇ」
そう言ってヒートは笑う。
どこか懐かしく感じるのは、この高校という舞台や木の机や椅子といった備品だけではないだろう。
この笑顔をずっと見ていた気がする。
('A`)「なぁ、何か新しく思い出したか?」
ノパ⊿゚)「ううん、全然ダメ。 でもね、一つ分かった事はあるよ」
黒板には誰かの落書きが残っている。
掲示板には余った画鋲で適当な文字が書かれている。
だらしなく開いたままのロッカーがある。
テレビは未だにブラウン管のものが置かれている。
弁当箱が入った手提げ袋が忘れられたままひっかけられている。
時計は生徒がいなくなった後も黙々と時間を刻んでいる。
ノパ⊿゚)「ドクオが来てくれると嬉しい。 また会えたって」
ヒートは少し恥ずかしそうに俯く。
彼女の顔が赤いのは真っ赤な夕陽のせいだけじゃない。
少しの間沈黙が続く。
グラウンドからはどこかの運動部のランニングの掛け声が聞こえる。
帰り際の女子生徒の話し声が聞こえる。
郵便配達のカブのエンジン音が聞こえる。
-
ノパ⊿゚)「なんかさ、こういう夕暮れ時の教室って雰囲気あるよね」
('A`)「たしかに」
ノパ⊿゚)「まるでカップルみたいでさ」
ひときわ大きな風が吹く。
彼女のポニーテールが揺れる。
カーテンがめくれる。
顔が隠れてしまう。
見えなくなってしまう。
急に不安に駆られてドクオは揺れるカーテンを手で押さえた。
ノパ⊿゚)「ねぇ」
ヒートの顔が見える。
やっぱり彼女の顔は赤い。
ノパ⊿゚)「キス、してみる?」
そこからはスローモーションの様だった。
不規則に揺れるカーテンも、風になびく赤みがかった髪も、わずかに顔を上げる彼女の仕草も、全てゆっくり見えた。
自然と身体が動き、立ち上がり、彼女の肩に手をやって、そっと唇に触れる。
彼女の柔らかな唇の感触が伝わると窓の外から光が溢れる。
眩いばかりの光が二人も教室も学校も包む。
燃える夕陽に溶け込み見えなくなった。
その唇の感触さえ、懐かしかった。
§ § §
目を開ける。
ドクオは欠伸をして回りを確認した。
そこは見慣れた自室。
相変わらず物が散らかり片付いていない。
外を見れば朝陽が差し込み、ベッドからのそのそと這い出す。
('A`)「俺は・・・」
データを取り出す様に。
抽出。 再構築。 整理。 羅列。
ドクオ。 大学生。 情報学部。 家族と一軒家に在住。
これが自分だ。
これが自分だろうか。
-
奇妙な違和感を覚えるも、携帯電話の通知音が遮る。
それに目を通しドクオは慌てて時計を見た。
集合時間まであまり余裕はない。
考える事を放棄してドクオは準備に取りかかった。
まだローンが残っている新築で購入した一軒家。
南側に位置し日当り良好な自室。
ドクオが小学校在籍時に描いた絵が貼られた階段。
家族の歯ブラシが並ぶ洗面台。
一昨年購入した超薄型液晶テレビが置かれたリビング。
見慣れた風景のはずなのに、どこか違和感がある。
('A`)「なんだろうな・・・」
家を出て路面電車に乗り市街地へ向かう。
車窓から見えるのは人口五十万人都市の街並み。
島そのものが経済特区であり特別行政区であるミサキ。
この一風変わった島で生まれ、育ってきたのだ。
幼少時からの記憶が何よりの証拠である。
疑う余地もない。
('A`)「なに考えてるんだか」
自嘲気味に呟き、ドクオは路面電車を乗り換える。
大学とは別の方向の市街地へ向かう。
向かう先は先週、空港跡地に開業したばかりの大型ショッピングモールだ。
市街地に隣接していた空港を郊外の人工島に移し、広大な跡地を再開発するという大規模なプロジェクトであった。
その一角に完成したのが国内最大級のショッピングモールである。
( ^ω^)「ドクちんこっちだお!」
新しく開設された電停で降りるとブーンが待っていた。
ツンやハインリッヒといったいつもの顔もある。
('A`)「おまたせ。 待った?」
( ^ω^)「みんな着いたばかりだお!」
ブーンのテンションは高い。
いわばツンとのデートの様なものだ。
残る二人はそれに付き合わされる形だったりする。
从 ゚∀从「全くこいつらは二人でフツーにデート出来ないもんかね」
('A`)「仕方ないだろ・・・もう慣れたよ」
-
素直に二人でデートでもすればいいものを、照れくさいのかいつも決まってドクオとハインリッヒも誘うのが恒例となっている。
そんな煮え切らない二人にもどかしく思いつつも、結局付き合ってやるのだ。
从 -∀从「オレたちがいなきゃ何にも出来ないんだからなー」
('A`)「お前はお母さんか」
从 ゚∀从「はっはっはっ、早いとこくっつけようぜ、もう大学生なんだし」
('A`)「そういうお前も男の影も噂もねーよな」
从 ゚∀从「別にいらねーし女の影も噂もねーお前に言われたくねー」
(;A;)「ぢぐじょう」
開業したばかりのショッピングモールは日曜日という事もあり人でごった返していた。
何百もの店舗が軒を連ねるメインストリートは混雑が激しく人の流れは良くない。
ξ;゚⊿゚)ξ「やっぱりすごいわね」
(;^ω^)「は、はぐれそうだお」
从 ゚∀从「それはまずいな、ブーン、手を繋いでやれ」
ξ;゚⊿゚)ξ「なっ!? 何を言って・・・」
从 ゚∀从「ツンとはぐれたらどうする? ツンが迷子になったらどうする? 二十歳近い女子が迷子のご案内放送で呼ばれたらどうする? もうお嫁にいけないぜ?」
ξ;-⊿-)ξ「ちょっとハイン言い過ぎでしょうが」
从 ゚∀从「ほら、繋いでやれ? 男を見せるんだよ・・・」
(;^ω^)「う・・・つ・・・ツン」
ξ゚⊿゚)ξ「・・・なに」
(;^ω^)「てっ・・・ててて、手を・・・手をっ、テヲツナグオッ」
('A`)「宇宙人みたいになっちゃったよ」
ξ*-⊿-)ξ「もう、仕方ないわね、全く」
どうぞ、とツンは満更でもない顔で手を突き出した。
ブーンは唾を飲み込み、ゆっくりと深呼吸して、そっとその手を握る。
ぎこちなく、たどたどしく、二人の手は繋がれた。
微妙な距離感を保ったまま二人は歩く。
从 ゚∀从「青春だな」
('A`)「青春だわ」
-
3階建てのショッピングモールには600インチもの大型ビジョンからぶら下がる。
わずか厚さ1センチの薄さを実現した大型ビジョンは何枚も設置され各店舗の宣伝を受け持っていた。
大学生の頃はたしかブラウン管テレビから液晶テレビへ移行していたはずで、数年で劇的な進化を遂げたものである。
('A`)「大学生の頃・・・?」
はて、とドクオは首を傾げる。
自分は今現在大学生のはずだ。
どうして過去形になってしまうのだろう。
('A`)「・・・」
人混みに紛れながらドクオは不安になる。
妙な違和感が消えない。
ここにいる様な、いない様な、根拠もない違和感。
从 ゚∀从「どうしたんだよ」
('A`)「いや・・・」
視線を逸らす。
床の隅に何かが浮いているのが目に入った。
ホログラムの様な何かが、浮遊している。
先日見た時と同じだ。
('A`)「あ、あれ」
( ^ω^)「なんだお」
('A`)「ほら、浮いてる」
从 ゚∀从「何にもないじゃんかよ。 大丈夫か?」
ξ゚⊿゚)ξ「疲れてるのよ」
('A`)「・・・そっか」
確かにそれはもう見えなかった。
そしてその代わり。
色が抜け落ちていく。
人混みは完全に動かなくなり。
数百のカラフルな専門店街は個性を失っていく。
('A`)「こんなところで・・・」
-
家族連れやカップルが目立つなか、無色の雑踏の中で個性を保持する女性の姿が視界に入る。
ドクオを見つけるとにっこりと微笑み、大きな鎌を担ぎながら歩み寄る。
幼い笑顔と彼女の背丈ほどもある大ぶりな鎌は不釣り合いだ。
リハ*゚ー゚リ「君がドクオさんだねー」
('A`)「鎌か・・・これはこれでおっかないな」
リハ*゚ー゚リ「命を刈り奪る形をしてるだろ?」
('A`)「やめとけ」
まだ姿を現していないクーの姿を探す。
やけに遅いのでまた何かやっているのだろう。
そう思っていると店舗の奥からアイスを頬張りながらセーラー服の女子高生が出てくる。
コーンの上には3つもアイスクリームが重ねられていた。
('A`)「・・・何してるんだ」
川 ゚ -゚)「・・・サーティワンアイスクリーム」
('A`)「見れば分かる」
川 ゚ -゚)「のトリプル。 チョコレートチップ、ラムレーズン、ホッピングシャワー」
('A`)「なに食ってるんだ」
川 ゚ -゚)「いや、無色でも味はあるんだよ。 あっ、アイスだったかアイシスだったか、食べ終わるまで待っててくれな」
リハ*゚ー゚リ「・・・これが噂の干渉者か」
アイシスは鎌を一閃。
握られたコーンが中ほどで真っ二つになる。
斬られたアイスクリームは無残にも床へ墜落した。
リハ*゚ー゚リ「ほら、始めようよ。 『白い時間』は有限じゃないんだから」
川 ゚ -゚)「・・・そうか」
クーは膝をつきセラミックタイルの床に手をかざす。
手を回し解錠して現れた柄を握り引き抜く。
ゆっくりとしたモーションで立ち上がり、剣を構える。
川 ゚ -゚)「アイスの恨み、深いと思え」
('A`)「そっちか」
-
アイシスが先に仕掛ける。
大きく踏み込み鎌を振る。
クーは高く跳び上がりかわす。
勢いに乗りアイシスは回転しながら斬りかかる。
剣を振り下ろしクーは迎撃する。
暫く睨み合ったあとアイシスが弾き距離を取った。
リハ*゚ー゚リ「これが本気?」
川 ゚ -゚)「どうかな」
今度はクーが先に出る。
跳躍しながら振りかぶり叩きつける。
吹き抜けのショッピングモールに金属のぶつかる音が響く。
静止した人混みの中を縫う様に打ち合う。
突き出された剣がアイシスの頬を抉った。
丁寧に水拭きされた床に血が滴る。
アイシスは人差し指で垂れる血をさっと拭ってクーを睨みつけた。
リハ*゚ー゚リ「本当に、自分一人だけで守れると思うの」
川 ゚ -゚)「守れるさ」
同時に飛び出す。
クーは剣を高々と構える。
がら空きになった腹部めがけて鎌が振るわれる。
しかしその重々しい一撃は彼女を捉える事なく壁へと突き刺さった。
リハ*゚ー゚リ「しまっ」
彼女の足元へと滑り込んだクーは体勢を崩したまま斬り上げる。
その一撃だけでアイシスを戦闘不能に追い込むのは容易であり勝敗は決した。
壁に刺さった鎌を引き抜く事も出来ずアイシスは崩れ落ちる。
クーは息を吐き、剣を床へと戻す。
川 ゚ -゚)「さて、もういっかいアイス食べよう」
('A`)「どれだけアイス食べたいんだお前」
クーはドクオを連れてアイスクリーム店舗に入る。
カウンターに入り込みスクープを手に取った。
ショーケースを開けてコーンに盛る。
-
川 ゚ -゚)「いかに丸く盛るか。 スクープには技術が必要なんだ」
('A`)「いや堂々と何してるんだ」
川 ゚ -゚)「ドクオはどれがいい?」
('A`)「・・・チョコレート、チョコレートチップ、チョップドチョコレート」
川 ゚ -゚)「ドクオはチョコレート好きなんだな・・・」
アイスクリームを持って店を出る。
立ち止まる人達を避けながらメインストリートを歩く。
川 ゚ -゚)「デートしてるみたいだな」
('A`)「なんでそんなに嬉しそうなんだ」
川 ゚ -゚)「嬉しいに決まっているだろう」
無色の店が並ぶ。
無色の服を見る。
無色の靴を見る。
無色のCDを見る。
無色の雑貨を見る。
無色の化粧品を見る。
無色のゲームセンターに入る。
機械は動いていないので眺めるだけだ。
('A`)「前にも聞いたけどさ」
川 ゚ -゚)「あぁ、なんだ?」
レーシングゲームで豪快にハンドルを切っている。
リズムゲームで華麗なステップを踏んでいる。
クレーンゲームで悔し紛れにガラスを叩いている。
止まったまま。
('A`)「ヒート・・・夢に出てくるヒート、本当に何も知らないのか」
川 ゚ -゚)「あ、あぁ、うん、知らないなぁ、初めて聞いたぞ、うん」
('A`)「・・・前々からツッコもうと思ってたんだが、お前は嘘をつくのが恐ろしく下手だぞ」
川 ゚ -゚)「・・・」
-
クーは唇を噛み、俯く。
黙ってクレーンゲームに目をやる。
同じ様なぬいぐるみが詰められている。
小さく息を吐き呟いた。
川 ゚ -゚)「嘘が下手なんて設定、いらなかったのに」
クーは唇を噛み、俯く。
黙ってクレーンゲームに目をやる。
同じ様なぬいぐるみが詰められている。
小さく息を吐き呟いた。
川 ゚ -゚)「嘘が下手なんて設定、いらなかったのに」
('A`)「え?」
川 ゚ -゚)「ごめんね、ドクオ」
('A`)「・・・じゃあ」
川 ゚ -゚)「いや、それよりも、お客さんだ」
ゲームセンターを出る。
色は抜けたまま。
無色のメインストリートの奥。
色を持った個体が現れる。
('A`)「連続で・・・!?」
川 ゚ -゚)「ダブルヘッダーか。 それだけ『奴』も必死という訳だ」
現れたのは眼鏡をかけた女性。
綺麗な黒髪は纏め上げられ細いフレームの眼鏡と相まって知的な印象を与えた。
それでも彼女の右手には似つかわしくない大剣がある。
彼女が掲げただけで肩を痛めてしまいそうなほど剣は厚く大きい。
(゚、゚トソン「トソンです。 イレギュラードクオならびに干渉者クーの二人を排除しに参りました」
川 ゚ -゚)「大きな得物だな。 扱えるのか」
(゚、゚トソン「ご心配なく」
クーはアイスクリームをドクオに渡す。
壁に手を当て、解錠し、具現化した剣を抜き取る。
トソンはクーが構えたのを確認し、ゆっくりと大剣を持ち上げた。
-
ミス
-
クーは唇を噛み、俯く。
黙ってクレーンゲームに目をやる。
同じ様なぬいぐるみが詰められている。
小さく息を吐き呟いた。
川 ゚ -゚)「嘘が下手なんて設定、いらなかったのに」
('A`)「え?」
川 ゚ -゚)「ごめんね、ドクオ」
('A`)「・・・じゃあ」
川 ゚ -゚)「いや、それよりも、お客さんだ」
ゲームセンターを出る。
色は抜けたまま。
無色のメインストリートの奥。
色を持った個体が現れる。
('A`)「連続で・・・!?」
川 ゚ -゚)「ダブルヘッダーか。 それだけ『奴』も必死という訳だ」
現れたのは眼鏡をかけた女性。
綺麗な黒髪は纏め上げられ細いフレームの眼鏡と相まって知的な印象を与えた。
それでも彼女の右手には似つかわしくない大剣がある。
彼女が掲げただけで肩を痛めてしまいそうなほど剣は厚く大きい。
(゚、゚トソン「トソンです。 イレギュラードクオならびに干渉者クーの二人を排除しに参りました」
川 ゚ -゚)「大きな得物だな。 扱えるのか」
(゚、゚トソン「ご心配なく」
クーはアイスクリームをドクオに渡す。
壁に手を当て、解錠し、具現化した剣を抜き取る。
トソンはクーが構えたのを確認し、ゆっくりと大剣を持ち上げた。
-
(゚、゚トソン「ここは狭い。 人も多い。 外に出ましょう」
川 ゚ -゚)「外に?」
(゚、゚トソン「ええ」
トソンがクー目掛けて大剣を振る。
クーはとっさに受け止めるも身体ごとふっ飛ばされる。
ガラスを突き破り外へ放り出された。
まともに受け身を取る事も出来ず平面駐車場に止められたワンボックスカーに叩きつけられる。
ガラスの雨が降るなかトソンは軽い足取りで駐車場に飛び降りた。
(゚、゚トソン「ここなら広いです」
大きくへこんだ車体からクーは起き上がる。
身体に付着した微細なガラス片を払う。
頭部から流れる血を拭った。
川 ゚ -゚)「その身形でパワータイプとは驚きだな」
(゚、゚トソン「恐縮です」
ドクオは動かないエスカレーターを駆け下りて駐車場を目指す。
クーがダメージを負ったのを見るのは初めてだ。
自らをチートと称し無傷で並居る敵を叩き斬ってきた。
そのクーがふっ飛ばされた。
胸騒ぎがしてしょうがない。
(;'A`)「クー」
閉まりかけたまま固まった自動ドアを抜け駐車場に出る。
何台もの車のフロントガラスが粉砕され中には横転しているものもある。
戦いの激しさを物語っていた。
車列の向こうに猛然と打ち合う二人の姿があった。
川 ゚ -゚)「ドクオ」
-
クーは満身創痍であった。
身体じゅうに傷があり裂傷からは血が流れて痛々しい姿を晒していた。
あのクーが、無傷でここまで勝ち抜いてきたクーが、これほどの傷を負っている。
対するトソンは幾つか切り傷を負いながらも平然とした顔で大剣を振るっていた。
川 ゚ -゚)「大丈夫だ、君は私が守る。 そう約束した」
クーは笑ってみせる。
傷だらけの姿で見せる笑顔は本当に痛々しいものだった。
ドクオは胸が締め付けられる。
素性は知らないのにこんなに傷つき健気に戦っている。
彼女を事など知らないのに。
(゚、゚トソン「取り込み中のところですが、利用させてもらいます」
トソンが地を蹴りドクオに迫る。
急な動きにドクオは反応出来ず立ちすくむ。
クーも慌てて走りだす。
トソンが大剣を突き出す。
クーも剣を振るう。
間に合わない。
大剣の鋒は迷わずドクオを貫かんと襲いかかる。
(;'A`)「ッ!」
衝撃はなかった。
眼前にあるのは荒々しい息遣い。
見ればクーが到達寸前で立ち塞がり腹部に大剣を受けていた。
トソンが大剣を引き抜くと夥しい量の鮮血が吹き出す。
ドクオの顔から下半身までクーの血で真っ赤に染められた。
(;'A`)「あ・・・あぁ・・・」
生暖かい血がべったりと付く。
クーの口からは一筋の血が溢れる。
(;'A`)「く・・・クー」
川 ゚ -゚)「・・・大丈夫だ、必ず、守る」
彼女は倒れない。
ふらつきながら、まだ剣を持って敵に立ち向かう。
本来なら立っている事も不可能なはずだ。
(゚、゚トソン「見上げた根性ですね」
トソンはただ冷静に、むしろ憐れむ様なクーを見る。
クーの足元はおぼつかない。
それでも気丈に剣を構える。
-
(゚、゚トソン「しかしここまでです」
川 ゚ -゚)「それは、どうかな」
クーが手にたっぷり付着していた自分の血をトソン目掛けて放る。
狙い通りトソンの目に入り彼女の視界を一時的に奪う。
予想外の動きにトソンは一瞬怯むもすぐに急接近するクーに気づく。
(゚、゚トソン「無駄な足掻きを・・・!」
大剣が再度クーの身体を貫く。
太い刃は彼女の腸から胸あたりまでに突き刺さった。
柔らかい身体を貫く確かな感触。
そしてほぼ同時に得体の知れない衝撃が襲う。
(゚、゚;トソン「グッ・・・!?」
トソンは目を見開く。
クーの剣がトソンの胸に刺さっていた。
ようやくトソンは事態を理解する。
(゚、゚;トソン「馬鹿な、相打ち覚悟で・・・?」
川 ゚ -゚)「守ると、約束したからな・・・」
的確に心臓を刺されたトソンが先に崩れる。
クーも腹に大剣が刺さったまま、アスファルトの地面に倒れ込んだ。
(;'A`)「お、おい、クー、大丈夫か」
慌ててドクオはクーを抱き起こす。
川 ゚ -゚)「はは・・・嘘を付くのは苦手なのに、約束は必ず守るだなんて、本当に都合の良いキャラクター設定だな・・・」
(;'A`)「何を言ってるんだ・・・」
彼女の口からはとめどなく血が溢れ止まらない。
細い身体を貫いている大剣を抜けばたちまち死んでしまうだろう。
どうする事も出来ない。
ドクオは泣きたくなる。
-
('A`)「お前は・・・どうしてここまでして、俺を守ってくれるんだ・・・」
川 ゚ -゚)「・・・『奴』と、一緒なんだ」
('A`)「『奴』・・・って、俺を殺そうと暗殺者を送り込んでいる奴の事か」
川 ゚ -゚)「あぁ・・・今まで黙っていて、悪かった・・・。 私は君に、隠し事をしすぎた・・・」
クーは震える手でスカートのポケットに手を入れ、ドクオに渡す。
柔らかいロール紙で印刷されたチケット。
川 ゚ -゚)「今夜・・・19時にステーションから発車する列車・・・」
消えそうな声でクーは続ける。
川 ゚ -゚)「お前は・・・元の世界に帰らなければならない」
('A`)「元の・・・世界?」
川 ゚ -゚)「ヒートと・・・一緒に・・・元の世界に・・・」
('A`)「ヒート、ヒートってやっぱりお前彼女の事を知って・・・!」
クーはもう答えられなかった。
そうして時間が動き出す。
アスファルトに色が戻り始める。
破壊された自動車もそれぞれの指定された色を取り戻す。
長かった夜が終わるかの様に。
ようやく夜明けを迎える様に。
白い世界が終わる。
ドクオは一人、残された。
-
4 おしまい
つづく
-
乙 この雰囲気好き
殺伐としてるのがとてもいい
-
おつ
クーがあっさり死んだな
-
ありがとうございます
最後いきます
-
彼女の世界の中のようです
5 銀河鉄道の夜
-
夜の駅は帰宅を急ぐ人で混み合っていた。
島で一番大きなターミナル駅。
ここから島の外へ出る唯一の鉄道もある。
雑然とした人混みの中でドクオは突っ立っていた。
片手にはクーから託されたチケットが握られている。
('A`)「これ・・・」
自動改札機に入れていいものか躊躇われ、ドクオはチケットを駅員に見せる。
改札を通り、指定された番線に向かうと、古めかしい客車を連れた機関車が止まっていた。
通勤車両が並ぶ頭端式ターミナルでそのホームだけが少し浮いていた。
そのホームには人がまばらで大きな荷物が目立つ。
手ぶらで来たドクオは少し不安になる。
チケットに印字された席へ座ると間もなく発車する旨の放送が入る。
19時3分、列車は定刻通り動き出した。
列車は帰宅客で混むホームを軽快に通過していく。
( ^ω^)「ドクちん」
顔を上げるとブーンとツンが立っていた。
ドクオと同じボックス席に座る。
一人きりでよく分からない列車に乗り込み不安だったドクオは顔見知りが来た事で一気に安堵した。
( ^ω^)「なんだか遠足みたいだお」
ξ゚⊿゚)ξ「確かに雰囲気はあるわねぇ」
昭和時代に製造された客車は古い。
良く整備されているものの車内の痛みは目立つ。
真新しい新製の機関車が牽引しているので余計に際立っていた。
( ^ω^)「ポテチでも持ってくれば良かったお」
('A`)「また太るぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「ホンントよ、80キロ超えたら豚って呼ぶからね」
(;^ω^)「そ、それはちょっと・・・」
夜の住宅街を駆け抜ける。
それぞれの家には明かりが灯っており夕食の時間を迎えているのだろう。
車窓には大小様々な家が現れては消える。
数えきれないがそれぞれに家庭のドラマがあるはずだ。
-
('A`)「しかしお前らも変わらないよなぁ、幼稚園の頃からだろ、人生のほぼ全部一緒だよな」
ξ-⊿-)ξ「だからー、腐れ縁なんだってば」
('A`)「もう夫婦みたいなものだろ」
(;゜ω゜)「フッフウフ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ふっふうふ!?」
('A`)「息ピッタリじゃねーか」
さすがは幼なじみといったところである。
ブーンとツンの凹凸な性格も合っている様に思える。
もう成人間近だしいよいよ大人の関係になっても良いのではと考えてしまう。
('A`)「幼稚園の出会った頃とか、覚えてるの」
( ^ω^)「うーん、さすがにあんまり・・・」
ξ-⊿-)ξ「私は覚えてるけどね」
( ^ω^)「えっ」
('A`)「ブーンはやっぱり今みたいな感じ」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん、それがね、正反対」
ツンは窓の外に目をやる。
線路は上り坂を登り標高の高いところを走る。
眼下にあるのは島中びっしりと広がる住宅地だ。
ξ゚⊿゚)ξ「私は、こんな髪だから、よく男の子にからかわれてたの。
私をからかっていたのはクラスのリーダー的存在の子達で、もう幼稚園の頃から強弱関係っていうのは構成されてて。
私を助けてくれる子なんていなかった」
懐かしむ様にツンは続ける。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン以外は」
( ^ω^)「お・・・」
ξ-⊿-)ξ「ブーンは果敢に立ち向かってくれた。 私を庇って助けてくれた。
私とブーンの関係はそこから始まったの」
-
( ^ω^)「ツン・・・」
ξ゚⊿゚)ξ「まぁ今は勉強も出来ないし年々太ってきてただの豚だけど」
(;^ω^)「ひ、ひどいお」
ξ゚ー゚)ξ「でもたまに男らしいところを見せるのよ。 ブーンは」
ブーンはどこか照れくさそうだった。
こんな話をされるとは思っていなかったのだろう。
やはりこの二人はお似合いだとドクオは再確認するのだった。
('A`)「なんか意外というか、まぁ俺は大学入ってからの二人しか見てないからな。
出会った頃は・・・」
言いかけて、言葉に詰まる。
ブーンとツンと、出会った頃。
大学に入ってからのはず。
たった数年前の出来事のはず。
それでも記憶からすっぽり抜け落ちた様に、思い出せなかった。
('A`)「あれ、俺達が出会った時ってさ」
列車が速度を落とす。
制動がかけられる。
車内放送が停車駅の接近を知らせる。
二人は視線を合わせ、立ち上がった。
('A`)「え・・・」
( ^ω^)「ドクちん、僕達はここまでだお」
('A`)「ここまでって」
ξ゚⊿゚)ξ「私達はここまでの切符しか持ってないの」
( ^ω^)「でもドクちんの持ってるチケットは、どこまでも行けるものなんだお」
-
列車は市街地にある駅に止まる。
ここも駅を中心として発展している。
しかしまだ島から出ておらず降りる人はあまりいない。
( ^ω^)「じゃあ」
けれどブーンとツンは、やっぱり降りてしまう。
( ^ω^)「ドクちん、短い間だったけど、楽しかったお。 ありがとうだお」
ξ゚⊿゚)ξ「私も楽しかったわ。 さようなら、ドクオ」
そう言って、二人は列車を降りていった。
暫くして列車は動き出す。
一人きりになったボックス席でドクオはプラットホームを眺める。
しかしブーンとツンの姿を見つける事は出来ない。
そのまま列車は駅を完全に出てしまい、ドクオは諦めて視線を戻した。
さようなら。
それは言うまでもなく、別れの言葉だ。
無性に寂しくなってドクオは顔を伏せた。
4人掛けのボックス席は一人で座るには広すぎる。
古びた客車を軋ませながら列車はトンネルへと入った。
川 ゚ -゚)「ドクオ」
ドクオは顔を上げる。
立っていたのはセーラー服姿の女子高生。
『白い世界』でしか会えなかった存在。
ここまで自分を守ってくれた彼女。
('A`)「お前・・・生きていたのか・・・」
川 ゚ -゚)「あぁ」
クーはドクオと向き合うように座った。
至って健康そうだ。
('A`)「傷は・・・それに『白い世界』じゃないのに会うなんて」
川 ゚ -゚)「もう大丈夫なんだ・・・もう終わりだから」
-
トンネルには等間隔で蛍光灯が列車を照らす。
轟音と共に高速で通過していく。
('A`)「元の世界に・・・戻るっていうのは」
川 ゚ -゚)「この列車に乗っていれば、この島ミサキを出る事が出来る。
そこにきっと『奴』もいる。
『奴』を倒せば元の世界に帰れるはずだ」
('A`)「ここは・・・この島は、ミサキは何なんだ」
川 ゚ -゚)「バーチャル世界」
トンネルを抜ける。
一気に車窓から光が消える。
夜の冷たい海が広がっていた。
川 ゚ -゚)「この島ミサキは、君達が開発したゲームの架空のフィールドだ。
島の全てがフィールドで、細部まで丁寧に良く作りこまれてる」
('A`)「ゲームの、フィールド・・・?」
川 ゚ -゚)「君とヒートはプログラマーだ。
今回のこのゲーム開発に参加しキャラクター開発などに携わった。
この島ミサキはそのゲームのフィールドとなるバーチャル世界だ」
('A`)「なら、俺は何故バーチャル世界の中に・・・?」
川 ゚ -゚)「完成間近、この島ミサキで深刻なエラーが発生した。
君達は修正を試みたがそれは叶わなかった。
そしてそのエラー元の開発担当だったヒートをダイブさせ、直接このバーチャル世界のミサキに送り込み、エラーを解決する事にした」
('A`)「ダイブ?」
川 ゚ -゚)「ゲームの世界に入り込む、ダイブする事により五感でバーチャル世界を感じる事が出来る・・・君達はサイバーダイブと呼んでいる。
数年前まで高価なものだったが今のゲーム市場では主流になりつつあるそうだな。
この島ミサキもサイバーダイブしてプレイするために開発されたフィールドだ」
('A`)「なら、俺はどうして」
川 ゚ -゚)「まず、ヒートはエラーを解決出来なかった。
更に『奴』により彼女の精神は捕らえられ、記憶を奪われ、現実世界に復帰する事が出来なくなった。
それで彼女を救い出すべく、今度は君がミサキにダイブした」
('A`)「じゃあ俺とヒートの身体は他の、現実の世界にあって、今はずっとミサキにダイブしているという事・・・なのか」
川 ゚ -゚)「そうだ。 そして君も『奴』により記憶を奪われた」
-
列車は左右を海に囲まれる。
海の上を線路はずっと続いている。
川 ゚ -゚)「『奴』は君の記憶を奪い、一キャラクターとしてこのミサキに放った。
君の生い立ち、経歴、住居、家族構成諸々は本来他のキャラクターに割り当てられるべきものだった」
だからブーンとツンの二人に出会った時の頃を思い出せなかった。
妙な違和感は、割り当てられた設定が完璧ではなかったからだろうか。
('A`)「俺は『奴』が捕らえているヒートを助けに来たから、『奴』は俺を殺そうとしていたのか」
川 ゚ -゚)「あぁ。 『奴』はこのゲームのラスボスとなる存在だった。
しかし『奴』が君を殺す権限を持っている訳ではなく、暗殺者を使った。
元々このゲームは平穏な日常を送っている主人公が突如『白い世界』で暗殺者に襲われる、というどうにも厨二くさいストーリーで、それを利用したんだ」
('A`)「・・・『奴』は、何者なんだ。
何故ヒートを捕らえる」
クーは少し目を逸らした。
それでも下手な繕いをする事もなく話し出す。
川 ゚ -゚)「『奴』は、ヒートに恋をした」
('A`)「恋・・・」
川 ゚ -゚)「そもそも『奴』は、ヒートが開発したキャラクターだ。
ミサキの主要キャラクターは私を含め人工知能で、意思を持ち、自我を持つ。
『奴』は自分を開発した親であるヒートに恋をして、ダイブした彼女を自分のものにしようとした。
でもそれは叶わず、『奴』はヒートの記憶を奪い、エラー世界へと閉じ込めた。
『奴』の鳥籠といったところだ」
('A`)「それは、人工知能の暴走に値するんじゃないか」
川 ゚ -゚)「あぁ、恐るべき禁忌だ。
しかし同時に起こるべくして起こった事でもある・・・仕方ない事だ」
クーは俯く。
('A`)「・・・あんまり整理出来ないけど、俺は『奴』からヒートを取り返してこのバーチャル世界のミサキから現実世界に復帰する。
そういう事なんだな」
川 ゚ -゚)「あぁ」
('A`)「ならお前は・・・クーは、どうして俺を守ってくれたんだ」
列車はいつの間にか緩やかなカーブの坂を登っていた。
曲がっていく列車の先には大きなトラス構造の吊り橋が見えてくる。
あの大きな橋を渡れば、きっとミサキを出るのだろう。
川 ゚ -゚)「・・・私も、『奴』と一緒だ」
-
('A`)「一緒・・・」
川 ゚ -゚)「私も自分を開発した親に恋をした。
私のものになればいいと思った」
('A`)「それって」
川 ゚ -゚)「私は君が作ったキャラクターなんだ」
('A`)「俺が・・・作ったキャラクター・・・」
彼女の容姿がドクオの好みどストライクである事。
彼女の性格が設定だと漏らしていた事。
彼女の服装が仕様だと言っていた事。
全て合点がいく。
('A`)「JKでおっぱいが大きくて敵から守ってくれてスカートが短いからパンチラ拝み放題、それを俺が作ったのか」
川 ゚ -゚)「うん」
(∩A∩)「何やってんだ俺・・・」
川 ゚ -゚)「でも君のおかげで私は生み出された」
クーは嬉しそうだった。
彼女がどんな思いで自分をここまで守ってくれたのか、ドクオは胸が痛くなる。
川 ゚ -゚)「君がこのミサキにダイブし、記憶を奪われ、一キャラクターとして放られたと知り、私は迷った。
『奴』から君を守る事は当然として、君に真実を伝え奪われた記憶を取り戻させるか、真実を隠し君にこのミサキに長居させるか。
卑怯な私は後者を選んだ」
クーははじめから歯切れが悪かった。
嘘をつくのが苦手という設定故に誤魔化すのも本当に下手だった。
川 ゚ -゚)「このまま、君が私を好きになってくれるんじゃないか、そうしたらずっとこのままでいいんじゃないか、私はそう思った。 そう思ってしまった。
でも君はヒートと繋がり、記憶がないにも関わらず惹かれ合った。
私の出る幕はなかったんだよ、悔しいけど」
('A`)「やっぱり、俺とヒートは」
川 - -)「恋人だよ。 高校の頃から。
小学校からの幼なじみだ」
あぁ。 だから。
ドクオは感嘆する。
忘れていた大切な何か。
ようやく辿り着いた。
川 ゚ -゚)「いいんだ。 君はヒートを助けるために来た。
果たすべきなんだよ」
-
クーはドクオの手を握る。
彼女の指はしなやかで細い。
この手で数多の敵を斬り倒しては守ってくれた。
それも、終わる。
川 ゚ -゚)「そうするべきなんだ」
列車はまた速度を落とす。
間もなく次の駅へ到着する事を車内放送が告げる。
真っ暗な海ばかりだった車窓にプラットホームの蛍光灯が映る。
そこだけが別世界の様に明るい。
ゆっくりと駅へ入っていく。
('A`)「ごめん」
知らなかったとはいえ、彼女の思いに何一つ答えられなかった。
健気で勇敢で、宣言通り敵から守り切ったクーに、何もしてやれなかった。
後悔ばかり、ドクオは言葉も見つからず唇を噛む。
川 ゚ -゚)「後悔なんてするな」
ドクオは顔を上げる。
川 ゚ -゚)「真っ直ぐ行け。 そこにヒートもいる。 『奴』もいる」
('A`)「・・・分かった」
いよいよ列車は海上の駅に着こうとする。
クーは名残惜しそうに指を解き、席を立つ。
最後ぐらい、と彼女は笑う。
川 ゚ -゚)「私はここから先はいけない。 ここまでだ」
('A`)「・・・そうか」
川 ゚ -゚)「これからこの列車はミサキを出る。
ラスボスである『奴』以外のキャラクターにその権限が与えられていないんだ。
破れば恐らく自分のデータごと消滅してしまう」
クーはドクオの手にあるチケットを指し示す。
川 ゚ -゚)「それがあれば天上へも行ける」
('A`)「どうして、これを」
-
川 ゚ -゚)「私は、ミサキの鍵となるキャラクター設定なんだよ。
主人公を助けラスボスへの道を開く、それが私に本来割り振られた役柄。
影から主人公を殺そうと『白い世界』を発動させ暗殺者を送り込む『奴』と同じで、本来のストーリーに沿っていた訳だ」
列車はいよいよ駅に到着する。
クーはまた笑って、手を振った。
川 ゚ -゚)「君なら大丈夫。 きっと」
('A`)「ありがとうな、クー」
川 ゚ -゚)「あぁ」
最後は呆気無いくらいに、別れる。
クーは列車を降りていった。
また列車は息を吐き動き出す。
駅に人影はない。
クー以外に降りた人も乗った人もいないだろう。
古びたプラットホームを黙って照らす蛍光灯も、雨に打たれ錆びたベンチも、長らく使われていない水飲み場も、とにかく寂しかった。
駅を発車した列車は先程見えた大きな橋を渡り始める。
全長何キロメートルなのだろう。
外はあまりにも暗く橋の全体はよく見えない。
時折遠くの灯台から発せられる光がコンクリートの主塔と沿岸に多く建設された風力タービンを照らすのみだ。
ノパ⊿゚)「よっ」
ドクオの前に、女性が座る。
赤みがかった髪の彼女。
記憶喪失の彼女。
漂流し続ける彼女。
恋人の、彼女。
('A`)「また。 会えたな」
ノパ⊿゚)「うん。 でもここは、変な感じ。
いつもと、違う様な」
-
('A`)「あぁ、この橋を渡ればミサキを出る」
ノパ⊿゚)「ミサキ?」
ヒートは首を傾げる。
無理もない。
('A`)「元の世界に帰ろう、ヒート」
ヒートはきょとんとして、暫くした後、微笑んだ。
ノパ⊿゚)「思い出したの」
('A`)「思い出したというか、教えてもらった」
ノパ⊿゚)「帰れるのか?」
('A`)「あぁ、きっと」
列車は大きな橋を渡り切る。
その先に線路はなかった。
ジョイント部分を渡る音が消えた。
暗い海は見えなくなった。
機関車は軌条を失っても力強く客車を引っ張り続ける。
('A`)「君は・・・ヒート。
俺と、同じ高校で、同じ大学で、今も同じ会社で働いてる・・・」
ノパ⊿゚)「あ・・・」
島を出たのだろうか。
ゆっくりと奪われた記憶達が戻ってくる。
ノパ⊿゚)「そうだ・・・小学校の頃から、一緒だったんだ」
窓の外にはいつしか雲ひとつ無い星空があった。
上空にも、足元にも、大小の星が埋め尽くす。
何千何万の星が燦然と輝いていた。
遮蔽物の一切ない夜空を銀河鉄道は優雅に泳ぐ。
ノパ⊿゚)「どうして、忘れていたんだろう」
('A`)「記憶を奪われていたから、らしい。
だからヒートが何も覚えていなくて当然だ。
俺も記憶を奪われていたから、ヒートの事をよく思い出せなかった」
ノパ⊿゚)「そっか・・・でも、それなのに、私の名前を思い出してくれたんだな」
-
ヒートは笑った。
つられてドクオも笑う。
こうしたかった。
やっと叶う。
ノパー゚)「嬉しい」
銀河鉄道は星の絨毯を進む。
左にベガ。 右にアルタイル。
夏の大三角が近づく。
天上まできっともう少し。
ノパ⊿゚)「・・・綺麗だな。 織姫と、彦星」
ヒートの視線は窓の外に向かう。
ドクオもそちらを見る。
ちょうど銀河鉄道は夏の大三角を通る。
宝石箱の様な星々が輝く。
天の川をゆっくり登っていく。
('A`)「ヒート」
視線を戻す。
そこにヒートはいなかった。
慌ててドクオは席を立つ。
客車を見渡す。
もうヒートの姿はない。
誰も乗っていない。
窓の外の星達は電気を落とされたのか一斉に輝くのをやめる。
真っ暗な夜空に戻る。
暗闇の中にドクオは放り出される。
古びた客車もボックス席も、なくなっていた。
手に握っていたチケットもどこかに消えてしまった。
ドクオはたった一人で闇夜を漂う。
四方は暗黒に覆われている。
宇宙なのか星空なのか、はたまたただの虚空か。
どの方向を見ても黒一色だ。
黒は有でもあり無でもある。
無重力空間をドクオは漂い続ける。
ドクオはすっと息を吸い、目を閉じた。
-
(-A-)「ヒートを助ける・・・そのために・・・俺は来たんだ」
言い聞かせる様に。
目を開く。
ドクオはきちんと地面に立っていた。
目の前には無数のドアが整然と並んでいた。
それらが視界いっぱいに広がっている。
ドクオはまず一番手前のドアを開けてみる。
向こうにあったのは先程同様の黒い虚無だった。
隣のドアを開けてみる。
人工的に着色された青空だった。
次のドアを開けてみる。
いつか見た夕焼けだった。
ドアを閉じる。
もう一度ドクオは周囲を見る。
数えきれないほどのドア。
きっと、どれか一つに彼女はいる。
そんな気がする。
('A`)「ヒート」
もうクーに頼る事は出来ない。
自分で抗わなければならない。
彼女を見つけ出さなければならない。
ドアは更に増えていた。
どうやって開けるのか、地面や頭上にもある。
ドクオは無闇にドアを開けるのをやめ、歩き出す。
-
時間をかけて、ゆっくりと、失った記憶が流れ込んでくる。
ぼんやりと、うっすらと、彼女を思い出す。
同じ高校で、同じ大学で、同じ会社で、同じプログラマー。
ドクオは走り出す。
小学生の頃は男勝りで活発だった彼女はよく男子に混ざって遊んでいたのに、家の中では少女らしい趣味を持っていた。
ドクオは走る。
幼少時にテレビで見たロケット発射に感動して宇宙飛行士になる夢を持つも、バスの事故に遭い乗り物が暫く苦手になって諦めてしまった。
足元にあったドアを踏み大きく蹴りだす。
初めて上京した時には地下鉄が高架線を走っているのに驚きはしゃいでいた。
どこまでも走り続ける。
飛行機を見るたびに旅行に行きたいと漏らしていたが、海に落ちると怖いなどと怯える一面もあった。
そんな普通の女の子。
ドクオは一つのドアの前で立ち止まる。
すると周囲のドアが倒れ始める。
ドミノ倒しの様に次々と倒れていく。
ドクオはドアノブを握った。
背後からドアの波が迫る。
そっと、ドアノブをひねる。
軋みながらドアが開かれる。
そこは真っ白だった。
アクリル絵具で塗りつぶされた様に白一色。
地平線すら見えず、奥行きも分からず、室内なのか屋内なのかも分からない。
そんな純白の世界の中心に、誰かがいた。
-
誰か。
一人しかいない。
クーが『奴』と呼んでいた人物。
このミサキのラスボスである存在。
ドクオを抹殺すべく暗殺者を送り込んできた張本人。
ヒートが作成したキャラクター。
彼女に恋をして記憶を奪いこの世界に閉じ込めた犯人。
なんとなく、ドクオは察しがついていた。
彼女だけ、姿を見せなかった。
从 ゚∀从「よお」
ドクオの到着に気づいたハインリッヒはわざとらしく向き直る。
从 ゚∀从「まさかここまで来るとはな」
('A`)「・・・お前だったのか」
从 ゚∀从「そうだぜ。 別に騙してた訳じゃあない。 自分で言うのもアレだが隠しラスボスみたいなモンだからな」
('A`)「おかげで全然気づかなかった」
从 ゚∀从「勿論、普段は一キャラクターとして生活しているからな。 無理もないさ」
そんな怖い顔をするなよ、とハインリッヒは笑う。
('A`)「クーに聞いた。 お前がヒートを閉じ込めているんだろう」
从 ゚∀从「あぁ。 オレは彼女を愛している。 でもミサキのラスボスたる存在のオレですら彼女をこのミサキに留め置く権限は与えられていない。
だからオレは逆を突いて彼女の記憶を奪い、隔離されたエラー世界に閉じ込めた。 オレだけの鳥籠に」
でも。 ハインリッヒは続ける。
从 ゚∀从「お前がヒートを追ってきた。 オレはお前を直接殺す権限も持っていないから、記憶を奪ってミサキに放ってやった。 それなのに、彼女とお前は繋がった」
ハインリッヒの口調が変わる。
从 -∀从「はじめは信じられなかったよ。 でも確実に繋がっていた。 二人とも記憶を奪ったはずなのに、繋がっていた」
-
('A`)「だから暗殺者を送り込んできたのか」
从 ゚∀从「そうだよ。 しかしお前が作ったキャラクターがお前を守った。 良く出来たキャラクターだよ、アイツは」
オレとは大違いだね、と自嘲気味にハインリッヒは呟く。
製作者に恋をして幽閉したハインリッヒと手助けをしてくれたクー。
もっと彼女に感謝するべきだったとドクオは後悔する。
从 ゚∀从「しかし、ここまでだ」
ハインリッヒは右腕を突き出す。
光と共に研ぎ澄まされた剣が現れる。
剣身は淀みのない黒。
不気味な気を纏う。
从 ゚∀从「どうだ、ボスっぽいだろ」
('A`)「知るかよ・・・」
从 ゚∀从「オレはお前を殺す権限はない。 でもそれはミサキのフィールド上での話だ。
ここではオレはお前を殺せる。 ダイブ中に死ぬとシャレになんねーってのは覚えてるか?」
('A`)「あぁ・・・思い出したよ。 きちんと管理されたフィールドならただのゲームオーバーだが、こういう無法地帯でのサイバーダイブ中の死は現実世界でも死を意味する」
从 ゚∀从「その通り。 お前は二度と目を覚まさない。 ミサキでは永遠に行方不明の烙印を押される」
('A`)「それは困るな。 俺はヒートを連れ帰る」
-
从 ゚∀从「出来ると思うか? オレは別に紳士じゃねぇからお前に武器を与えない。 今から始まるのは一方的な蹂躙だ。
あの女もここまでは来れない。 入り込めばバラバラにデータごと解体されるだろうさ」
ハインリッヒの言う事は的確だ。
クーに頼る事はもう出来ない。
彼女はここまで来れない。
一人で、自力で何とか打開するしかない。
('A`)「いや・・・」
クーの言葉を思い出す。
ドクオが本当にこの剣を必要とした時は必ず現れる。
彼女は確かにそう言った。
ドクオは突き動かさえる様に、膝をつき、真っ白な地面に手をつく。
クーの動作を思い出す。
彼女の軌道をなぞる様に、手を回し、解錠する。
从 ゚∀从「何を・・・」
地面が光る。
間違いない。
ドクオは確信して光の中に手を突っ込んだ。
何かに手が当たり握ってみると確かな感触が得られる。
それを力任せに一気に引き抜いた。
从;゚∀从「な・・・あッ・・・!?」
現れたのはクーの剣。
ハインリッヒが送り込んだ暗殺者を残らず倒してきた剣。
それをドクオは慣れない手つきで構える。
从 ゚∀从「そうか・・・あの女の剣か。 つくづく献身的で男に都合の良いキャラクターだよなァ」
ハインリッヒも剣を構える。
从 ゚∀从「悪く思うなよ。 ヒートは、オレのものだ」
ハインリッヒが仕掛ける。
振り下ろされる斬撃をドクオは剣で受け止める。
重い。
斬撃は重い。
衝撃が手から腕から全身に駆け巡る。
骨が砕かれそうなほどの衝撃が突き抜ける。
腕が痺れる。
(;'A`)「ぐ・・・!」
たった一撃で。
从 ゚∀从「いくら良い武器を持っていてもお前が非力な事実は変わらないんだぜ」
-
外します
-
④
-
しえ
-
ありがとうございます
再開します
-
また黒い剣が振り下ろされる。
受けきれずドクオは後ろにふっ飛ばされた。
白い地面に叩きつけられる。
ハインリッヒはゆっくりと近づく。
慌ててドクオは剣を握り直した。
力の差は歴然だ。
从 ゚∀从「お前が泣いて懇願すれば記憶をまた綺麗に抹消してミサキに放ってやろうと思ったんだが、やっぱりダメだ。
きっとお前はまたヒートと繋がる」
ドクオは立ち上がる。
あまりの衝撃に足まで震えている。
从 ゚∀从「なぁ、どうしてお前とヒートは繋がったんだ。 お互い記憶を奪ったのに」
('A`)「知らねーよ・・・でも」
从 ゚∀从「でも?」
('A`)「記憶を消されても繋がったんだ、それぐらい強い絆だったって事じゃねーのか」
从 ゚∀从「・・・そうか、一番聞きたくない様な最低な答えだ」
ハインリッヒが猛然と打ち込む。
防戦一方のドクオは剣で受け止める。
やはり重い。
骨が軋み筋肉が悲鳴を上げる。
从 ゚∀从「オレはお前と違って同じ土俵にすら立てなかった。
やっと同じ高さに立てたんだよ。 分かるか?」
('A`)「ゲームのキャラクターと・・・作成者じゃ次元が違う」
从 ゚∀从「それをあの女にも言えるのか?」
('A`)「それは」
从 ゚∀从「言えねぇだろうがよ!」
ドクオはまた弾き飛ばされる。
後頭部を打ち付け視界が揺らめく。
荒々しく息を吐き、また立ち上がる。
こんなところで、倒れてはいけない。
('A`)「お前にヒートの何が分かる・・・」
-
从 ゚∀从「あ?」
('A`)「思い出したんだよ・・・俺は小学校の頃からヒートを見てきた。 一緒に過ごしてきた。
彼女の好きなもの、これからの目標、将来やりたい事、全部だ」
从 ゚∀从「何が言いたい」
('A`)「ヒートを助けるのは、これまでも、これからも、俺だ」
从 ゚∀从「口だけは・・・達者だな、えぇ!?」
黒い剣が迫る。
クーの剣とぶつかり合う。
('A`)「お前はまだ分かってないのか」
从 ゚∀从「何がだ」
('A`)「お前がやっている事は、無駄だ。 無意味だ。 好きっていうのは一方通行だけじゃダメなんだよ」
从 ゚∀从「・・・」
('A`)「お互いの好きが重なってようやく成立するんだよ・・・。 お前がやっているのは、一人よがりの、ただの自己満足だ」
从 ∀从「るせぇよ・・・」
剣が離れる。
从#゚∀从「うるせぇんだよクソが・・・ッ!」
ハインリッヒは大きく振りかぶる。
恐らく最大の一撃。
渾身の一撃。
一番の
「よく言った」
彼女の斬撃は遮られる。
動きが止まる。
両腕が封じられる。
从;゚∀从「な・・・!」
突如現れたのは身体の一部が欠如したクー。
ハインリッヒを背後から羽交い締めにする。
すぐに暴れるも逃れられない。
川 ゚ -゚)「やれ!」
('A`)「!」
-
反応したドクオが剣を突き立てる。
吸い込まれる様に剣は左胸を貫く。
ハインリッヒの目は見開かれ、口から血を垂らし、歯ぎしりする。
从 ∀从「く・・・クソが・・・あぁ・・・」
クーがハインリッヒの身体を離す。
剣を引き抜かれると、膝をつき、崩れ落ちる。
恨めしそうに顔をあげた。
从 ∀从「馬鹿が・・・お前消えるんだぞ・・・それにお前の恋も・・・叶わない」
川 ゚ -゚)「馬鹿はお前だ・・・好きな人の恋を応援する恋だってあるんだよ・・・。
好きな人が幸せにならないなら、意味は無い」
从 ∀从「クソッタレが・・・クソ・・・ふざけやがって・・・」
ハインリッヒは事切れる。
折り重なる様にクーも、白い地面に膝をつく。
身体のあちこちがすでに消えている。
もう半分ほどしか残っていなかった。
川 ゚ -゚)「私も本当にお人好しだ・・・ここまで来てしまうなんてな」
('A`)「どうして・・・。 クーは、消えてしまうんだろう」
川 ゚ -゚)「どうしても心配だったのさ・・・これは別に設定でもなんでもない・・・私の本心だ」
クーは第一関節がなくなった自分の手を見る。
もう長くないな、と漏らす。
('A`)「クー・・・ありがとう、本当に」
ドクオはクーの消えかけた手を握る。
クーという存在が消えていく。
データが消去されていく。
-
川 ゚ -゚)「役に立てて良かったよ。 ドクオに作ってもらえて、自分を全うできて、良かった」
下半身がなくなってしまった。
残る上半身も見る見るうちに消えてしまう。
川 ゚ -゚ 「今度は彼女の手を離すなよ。 絶対に」
('A`)「あぁ、離さない。 絶対に」
川 ゚ ー 「それなら、良かっ
クーが消える。
完全に消滅する。
ハインリッヒの死体もいつの間にかなくなり、視界は再び白一色になった。
('A`)「ヒート」
ドクオは振り返る。
ドアがあった。
迷わずドクオはそのドアを開ける。
中にあったのは澄んだ青空だった。
遠足を左右する曇天だった。
茜色に染まる帰り道の空だった。
涙を流す雨空だった。
夏休みの入道雲だった。
燃える様な夕焼けだった。
真っ赤な世界の中心に彼女はいた。
赤みがかった髪が目立つヒート。
うつ伏せで眠っていた。
ドクオは彼女を優しく抱き起こす。
-
ノハ-⊿゚)「ドクオ・・・」
夕陽が沈み、夜が訪れる。
澄み渡る夜空には幾千万の星々が輝いてみせる。
('A`)「帰ろう、ヒート」
ノパ⊿゚)「・・・うん」
離さない。 絶対に。
星々が降下を始める。
次々に流星が降り注ぐ。
幾つもの軌跡を描きながら流星は命枯れるまで燃える。
全ての星が去り、照らすものは何もなくなった。
ゆっくりと、音もなく世界が終わる。
終幕を迎え黒で塗りつぶされた世界は閉じていく。
ドクオとヒートの意識は遠のいていった。
そうして、彼女の世界が終わる。
(゚A゚)「ッ!」
目が覚める。
薄暗い部屋。
身体のあちこちに繋がれたコード。
頭部には無数の電極が張り付いている。
あぁ、会社だ。
ここからヒートはミサキにサイバーダイブした。
それを自分も追った。
-
ヒート。
そう、ヒート。
ドクオはヒートを探す。
ソファーを改造した機械から起き上がろうとするも筋肉はうまく動かない。
ふとドクオは右手が何かを握っている事に気がつく。
そちらに視線を寄越すと、自分と同じ様にヒートが眠っていた。
手はしっかりと握られている。
帰ってきた。
ドクオは強く手を握る。
きっと、ずっとこうしていたのだ。
( ´∀`)「モナ・・・」
部屋の奥から男の声が聞こえる。
あれは同僚のモナーだ。
ミサキへのダイブを一番心配してくれたのが彼だ。
見守ってくれていたのだろうか。
(;´∀`)「お・・・起きてるモナ・・・」
寝起きの目をこすりながらモナーは震える。
(;´∀`)「お、起きたモナ! ドクオ達が帰ってきたモナ!」
そう叫びながらモナーは部屋を飛び出す。
どれだけの時間ダイブしていたのだろうか。
恐らく心配をかけただろう。
でも。 今はそれよりも。
('A`)「ヒート」
隣のヒートを揺する。
彼女は小さく声を漏らした。
きっともうすぐ起きる。
ドクオはもう一度、ヒートの手を強く握るのであった。
§ § §
都心から快特でおよそ一時間。
終着駅からバスで約十五分。
半島最南端に位置する人口約四万人強の都市がある。
古くから漁港として栄えた街。
二人は海沿いの海を歩いていた。
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ノハ-⊿-)「とろまん食べたかった・・・」
('A`)「仕方ないだろ、まさかどこも売り切れだとは」
ノハ-⊿-)「とろまん・・・とろまん・・・」
この漁港の名物が食べられずヒートはヘコんでいた。
('A`)「しかし、のどかなところだなぁ」
ここがミサキのモデルとなった土地だという。
やたら先進的で欧州の様な街並みはなく古びた住宅ばかりが目立つ。
それでも思い出されるのは一ヶ月近くを過ごしたあの仮想世界だ。
ミサキからクーは完全に消去されていた。
ハインリッヒも完全に削除された。
あれから様々な調査が行われたが、結局のところ、記憶を奪われた二人がどうして繋がったのかは判明していない。
あればかりはクーが関与出来るはずもなく、最後まで解明されなかった。
ノハ-⊿-)「とろまん・・・」
でも、いいのである。
今更ドクオにとってはどうでも良い事だった。
こうしてまたヒートと同じ時間を歩めるだけで満足だった。
('A`)「また今度来ようよ。 いつでも来れるんだから」
ノパ⊿゚)「・・・うん」
ヒートが手を差し出す。
ドクオはそれを握った。
間もなく夕暮れを迎える海沿いの道を歩く。
今度はその手を離さない様に。
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彼女の世界の中のようです
おしまい
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投下終了です。
読んでいただいた方ありがとうございました。
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最大級の乙
投下頻度高い上におもしろいからすごく楽しませてもらった
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おつ!面白かった
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おつ!
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おつ
いい雰囲気だった
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