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('、`*川潰された犬のようです
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百物語参加作品
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小学生の頃、神社の裏手で変なものを見た。
赤黒い染みの広がった茶色い毛皮。
鮮やかに赤く艶めく固まり。
固まりの半分は平べったくなり、下品に散らばっていた。
それらの前に、男がしゃがみ込んでいた。
べったりとどす黒い液体にまみれた金槌と鉈を持っている。
その傍らに無傷な獣の頭があったので、あの固まりはどうやら──
('、`*川潰された犬のようです
('、`*川「──覚えてるのはそこまで。気付いたら家に帰ってた。
だからもしかしたら、あれは白昼夢の類だったのかも」
(;・∀・)「潰された犬? 何じゃそりゃ……気持ち悪い話だな」
('、`*川「怖い話、それも実体験なんて全然ないんだもん。
こんなもんしかネタないよ」
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从;'ー'从「でもでも、それ白昼夢じゃなかったとしたらヤバいよねえ〜……。
犬殺してた変質者と鉢合わせちゃったってことでしょ〜?」
(;^Д^)「その後のこと覚えてないってのもマズくねえか?
よっぽど恐い目に遭って、自ら記憶を封じて……みたいな」
('、`*川「単純に、ビビって無我夢中で逃げただけじゃないかなあ」
私は小皿を持ち上げ、そこに乗っている蝋燭の火を吹き消した。
その小皿とライターを隣の友人に渡す。
夏は日が長いとはいえ、もう夜とも言える時間だ。
外は暗くなりつつある。
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(*゚ー゚)「これで何話目?」
( ´∀`)「二十……何話モナ?」
(´・ω・`)「21。百物語にはまだまだ遠いね」
──教室でこっそり百物語を行おうと言い出したのは誰だったか。
田舎の高校で、一学年につき一クラスしかない上、クラスメートも30人に満たない。
そのおかげかみんな仲がいい。そして田舎ゆえに娯楽が少ない。
こんな下らない企画にクラスメート全員が参加表明したのも、当然と言えば当然だった。
もちろん先生には内緒。
これもまた、みんなが乗り気になる要因だっただろう。私たち若者はスリルに弱い。
100本の蝋燭を用意するのは金がかかるし面倒だし、木造校舎で大量の火元を作るのも恐かったので、
「使い回し」方式が採用された。話し始めに蝋燭に火をつけて、話し終わったら消して、そのまま次の人に回す。
短くなったら蝋燭の箱(20本入り)から補充、という感じで。ずいぶん所帯染みている。
しかし実体験のみという縛りで百物語というのは、ちょっと無理があった。
既に、幽霊妖怪がどうこうではなく、単なる「びっくり体験談」程度のレベルになってしまっている。
それを危惧したようで、私の次に順番が回ってきた友人は、
わざとらしく咳払いをしてから声を低めた。
(*゚ー゚)「……これは私が中学生の頃の話なんだけど──」
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正統派の怪談だった。
皆が真剣に聞き入るほど怖くて、話し方も上手くて、揺らめく蝋燭の炎が怪しくて。
だから、
ξ;゚⊿゚)ξ「──きゃあああっ!!」
突然1人が叫んだ瞬間、室内が軽いパニック状態になった。
私も悲鳴に驚いて跳ね上がり、横に寄せられていた机に頭をぶつけてしまった。
(;*゚ー゚)「え、何? 何? まだオチじゃないよ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「後ろ! しぃ達の後ろの窓! 何かいたの!」
叫んだ彼女は、私たちの後ろを指差した。
ぎょっとして振り返ったが、薄暗い風景以外には何も見えなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「頭みたいなのが──」
(;^ω^)「ぼっ、僕も見たお! 窓の下の方から、ちらっと出てすぐに引っ込んでっ」
嘘をついている様子はなかった。
徐々に騒ぎが大きくなる。
1人の勇気ある男子生徒が窓を開けて確認したが、それらしいものは見付からなかった。
それから騒ぎを聞きつけた先生がやって来て、私たちはしこたま怒られた後、家へと帰された。
別の場所でやり直すか、と誰かが言ったが、さすがに賛同の声は挙がらなかった。
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('、`*川「ただいまーっと」
自宅の玄関の前に立ち、鍵を開ける。
ドアノブを捻った瞬間、砂利を踏みつけるような音が背後から聞こえた。
振り返る。
誰もいない。
たまに、こういうことがある。
誰かが後ろにいるような気がして、でも誰もいない。そういう。きっと気のせいだろうけど。
百物語で私の番が再び回ってきたらこのことを話そうと思っていたが、そうなる前にお開きになってしまった。
クラスメート達が見たのは結局何だったのだろう。
首を傾げつつ、家の中に入った。
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J( 'ー`)し「おかえりなさい」
('、`*川「ただいま。ご飯は?」
J( 'ー`)し「もうちょっとで出来るよ」
('、`*川「じゃあ出来たら呼んでね」
2階に上って、自室で制服から部屋着へ着替えた。
やることもないのでベッドに横たわり、目を閉じる。
唐突に汚れた毛皮の映像が浮かんできて、瞼を持ち上げた。
次々に、剥き出しの肉や内臓のイメージまでもが脳裏を過ぎる。
犬の頭。しゃがむ男。
弾かれたように起き上がる。
俯き、口を押さえ、我慢出来なくて部屋を飛び出した。
1階の洗面所へ駆け込み、吐き気に任せるがままに胃の中身をぶちまけた。
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J(;'ー`)し「ペニサス! どうしたの!?」
母がやって来て、私の背中を擦る。
答える余裕など無い。私は必死に吐き続けた。
胃が空っぽになるまで。
そうしたいのではなく、そうしなければならない気持ちで一杯だった。
何故かは分からなかったのだけれど。
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J( 'ー`)し「──すっきりした?」
('、`;川「うん……」
しばらくして、やっと落ち着いた私に母は麦茶を出してくれた。
よく冷えた麦茶をゆっくり飲み下す。喉の不快感が癒されていくようだった。
J( 'ー`)し「どうしたの急に。もしかしてお弁当悪くなってた? 今日暑かったから……」
('、`*川「いや、食べ物のせいじゃないよ。もう大丈夫」
J( 'ー`)し「そう……。そういえば、あんた昔も学校帰りにいきなり吐いたことあったでしょう。
あのときは、変なもん拾って食べてたらどうしようかと……」
('、`;川「私は犬猫か。
……そんなことあったっけ?」
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J( 'ー`)し「あったよ、あんたが小学生のとき。
帰ってくるなりトイレで吐いてねえ。どうしたのって訊いても答えてくれなくて」
覚えていない。
もしかして──あの、潰された犬を見かけた日のことなのだろうか。
やはり白昼夢などではなく実際にあった出来事で、
あまりのショックに、当時の私は吐き気を催した、とか。
あの光景自体は今までにも何度か思い出してきたが、
今ほど気持ち悪くなったことはない。
そういえば人に話したのは今日が初めてだった。
そのせいで、当時の感覚まで思い出してしまったのかもしれない。
('、`*川(あの男の人、あれからどうしたんだろう)
考え込んでいると、夕食をどうするか母に訊かれた。勿体無いが遠慮しておく。
頭が痛い。
まだ早いけれど、風呂に入って眠ることにした。
*****
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──生臭い。
ぼやけた頭に浮かんだ感想が、ふわりと溶けて、また浮かんで、溶けていく。
眼前の光景を呆然と眺める。
赤黒い染み。茶色い毛皮。ピンク色の内臓。肉。
宙を睨む犬の頭。
黒いパーカーを着た男。右手の鉈。左手の金槌。
男がこちらに顔を向けた。
鉈と金槌を放り、立ち上がる。
足に力が入らない。逃げられない。
連続した写真を見せられるかのように、男の動作がコマ撮りで進んでいく。
男が近付いてくる。
手が伸ばされる。
パーカーのフードに隠れて、顔がよく見えない。
男の手が私の腕に触れた。
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('、`;川「──……」
自室のベッドの上だと気付くのに、数秒を要した。
何度も寝返りを打ち、ベッドから転げ落ちて、ひやりとしたフローリングに頬を押しつける。
変な夢を見た。
('、`;川(夢。夢だわこれ。うん。昨日あんな話をしたせいで。余計な夢を)
だって、あれがただの夢ではなく記憶の反芻なら。
男に捕まった後、私はどうなったというのだ。
思考を打ち消し、床を眺める。
窓の外から小鳥の鳴き声。爽やかな朝だ。爽やかな。
がばと身を起こし、制服に着替えた。
身だしなみを整えてから階下におりる。
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J( 'ー`)し「いつもより早いね」
('、`*川「早く寝たからね」
冷蔵庫にあった昨夜の残りを腹に収め、もう一度身だしなみを確認して、
母から受け取った弁当を鞄に詰めて。
もやもやする頭を振ってから、家を出た。
まだ少し夜の名残を漂わせる、冷えた空気を浴びる。
さっさと学校へ行こう。
家にいると、余計なことを考えてしまいそうだ。
敷地を出た私はわざとらしく軽快な足取りで角を曲がり、
頭に衝撃を受けて、視界と意識を真っ黒に塗り潰された。
*****
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支援
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男の手が私の腕に触れた。
引き倒され、地面に押さえつけられる。
暴れたところで、大人と小学生では話にならない。
男は近くにあったピンク色の肉片を持ち上げた。
それを、私の口に捩じ込む。
吐き出そうとしたが、口と鼻を押さえられた。
『よく噛んでね。ちゃんと飲んだら離してあげるからね』
息が出来ない。
苦しい。
2度ほど噛んで、無理やり飲み込んだ。
生臭い。
臭い。臭い。酸味と苦み、どろりと舌に絡みつくえぐみ。
男の手が離れる。
空気を吸い込んだ瞬間、今度は男の右手が私の口を開いたまま固定させた。
左手の指先で口の中を掻き回される。舌を持ち上げて覗き込まれた。
肉片が無いのを確認したのだろう。
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『これで共犯だからね』
耳元で囁かれる。
どろどろ。声が流れ込む。
『誰にも言ってはいけないよ』
『約束だからね』
『こっそり話そうとしても無駄だよ』
『ずっと見てるから』
『友達にも家族にも、話しちゃ駄目だ』
私はひたすら頷いた。そうするしかなかった。
*****
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はっとして、目を開けた。
すぐ目の前に板敷きが見える。
うつ伏せに倒れているようだ。
口元に違和感。猿轡。
('、`;川「んぐっ!?」
身をよじる。
後ろ手に縛られ、さらに両足もベルトか何かで纏められていた。
暴れていると、頭を撫でられた。
びくりと体が震え、硬直する。
恐る恐る見上げると、黒いパーカーを着た男がいた。
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男は何も言わない。
私を仰向けにさせると、一旦離れた。
どこかの小屋の中らしい。
小さな窓越しに、蝉の鳴き声が響いている。
隅から箱を持ってきた男は、私の傍に座り込んだ。
箱に手を突っ込み、次々と中身を取り出しては、私の顔の横に並べていく。
金槌。鉈。のこぎり。鑿。アイスピック、半田ごて、それから、それから──
涙を流して唸る私を、「よしよし」なんて言って、男が撫でる。
まるで犬を可愛がるかのようだった。
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(
)
i フッ
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短いけど終わり
まぜこぜブーンで見た仮タイトルを元に書いてみた、その8。たしかこれで全部だったはず
支援ありがとうございました!
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うええ、ペニサス……見られてたのね……
乙
タイトル全部書き切ったんだな、本当すごいわ
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ミス
>>11
> 連続した写真を見せられるかのように、男の動作がコマ撮りで進んでいく。
「コマ撮り」じゃなくて「コマ送り」でした
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うおーめっちゃ怖いし後味悪い……
乙でした…
怖いよ…
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