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川 ゚ -゚)お迎えのようです
-
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(i,)
|_|
-
ひたり、ひたり。
水が滴る。
さあお迎えじゃ、お迎えじゃ。
川 ゚ -゚)お迎えのようです
-
川 ゚ -゚)「最近、水たまりをよく見るんだ」
('A`)「ふうん?」
相談があるのだが、と切り出したクールに、ドクオは生返事をする。
問題の在り処が分からない。
夏の夜、鬱田(うつだ)ドクオと直(すなお)クールは、居酒屋で向かい合っていた。
川 ゚ -゚)「雨が降った日も、晴れた日もだ」
('A`)「池みたいに偶々深い所に残ってるだけじゃないのか?」
川 ゚ -゚)「それなら同じ場所だろう。違うんだ」
('A`)「……偶然じゃないの?」
やはりよく分からない。
ビールをぐっと煽って、おかわりと軟骨を注文する。
クールも同じくビールを干し、梅酒を頼んだ。
ふと、流れてくるタバコの煙にドクオは顔をしかめた。
居酒屋である以上、仕方のないことだと思い直すが、嫌悪に変わりはない。
-
川 ゚ -゚)「鱗がある」
('A`)「ん?」
川 ゚ -゚)「しかも段々、私の家に近づいている」
('A`)「え、どゆこと」
川 ゚ -゚)「どことなく生臭くて、鱗が必ず落ちてて、
その水たまりは段々ウチに近づいてきている」
('A`)「…………」
川 ゚ -゚)「鱗のせいか、銀色に見えるんだ。だから、必ず気付く」
そこまで言われると、偶然だろうとはもう言えなかった。
('A`)「……実物、見ないと分かんないな」
川 ゚ -゚)「ああ、この後見てくれ」
ビールを舐めると同じタイミングで、クールも梅酒に口をつけた。
.
-
+ + + + +
夜風に吹かれながら、並んで歩く。
煙のないすっきりした空気が、心地よい。
('A`)「で、どこら辺?」
川 ゚ -゚)「昨日は郵便局の近くだったから……ああ、あった」
郵便局を過ぎ、角を曲がった所で、クールは指をさした。
街灯に照らされて、きらりと光る水たまり。
('A`)「……」
それはドクオの想像よりも、銀色だった。
近づくと、生臭さが鼻にくる。
しゃがむと、水たまりの中に確かに鱗があって、それが水全体を銀色に見せていた。
('A`)「確かに、これは普通じゃないな」
川 ゚ -゚)「だろう」
直径は30cm程、さほど大きくはない。
-
('A`)「自分に関係あると思ったのは何でだ?」
川 ゚ -゚)「段々近づいているからだよ」
('A`)「何か隠してるだろ」
じっとクールはドクオを見つめる。
やがて目を伏せて、小さく息をついた。
川 ゚ -゚)「夢を見る。何かが近づいてくる夢。
同時期に、水たまりを見つけた。これも段々近づいてくる」
('A`)「夢、な」
川 ゚ -゚)「非科学的な、と言われそうだったんでな」
('A`)「理由もなく水たまりが自分を追ってくる、なんてそっちの方がおかしいと思うぜ」
川 ゚ -゚)「電波だな。ウチが近いが寄ってくか?」
茶くらい出すが、とクールは言う。
じゃあ、とだけドクオは応えた。
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+ + + + +
('A`)「夢ってどんな?」
川 ゚ -゚)「水音と声がする。何を言ってるか分からないが、多分、私を呼んでいる」
('A`)「そんだけ?」
川 ゚ -゚)「モヤが掛かってるように、視界は見えない。どこか青い。
……七日連続だ」
('A`)「一週間か」
コンビニで購入した茶を啜る。
クールはクッションに身を預けて、だらりと足を伸ばした。
川 ゚ -゚)「今日も見るだろうな」
その姿勢からは、あまり不安を感じられない。
ドクオがそれを口にすると、クールは口の端を軽く上げた。
表情の薄いクールの、それが笑顔だった。
('A`)「心当たり、あるのか?」
川 ゚ -゚)「生憎オカルトの類は縁がなくてな」
('A`)「……呪いのビデオ見たとかさ」
川 ゚ -゚)「貞子には会ったこともない」
じゃあお手上げじゃないか、とドクオは零す。
だから鬱田に来て貰ったんだ、とクールは飄々と返した。
.
-
+ + + + +
その夜――丑三つ時は疾うに過ぎていた――客用の布団を出して貰い、
ドクオはクールの部屋に泊まることになった。
布団を並べ、背を向けて横になる。
クールがドクオの部屋に泊まった時も、同じだった。
しんしんと静けさが積もる。
ふと、高く湿った音が聞こえた気がした。
耳を澄ます。
ひたり、ひたり。
水気を含んだ何かが――近づいてくる。
息を詰め、目の前にあるテーブルの脚を見つめる。
('A`)(……待て)
暗闇に目が慣れたにしては、明るい。
昼の光、という程ではない。
青く、ぼんやりとした――そう、夕暮れの後の空。
-
ゆっくりと身体を回していく。
直、と声をかけようとして、硬直した。
川 - -)
眠るクールの身体が、ぼんやりと発光している。
透き通った青。
ぴちょん。
水音が、響く。
さざなみが引くように、音はそれきり遠ざかっていった。
光も消え、後には暗闇が残された。
.
-
('A`)「……直。直、起きろ」
川 ゚ -゚)「……ん? 何だ」
('A`)「お前、今」
言葉に詰まる。
クールは起き上がった。
('A`)「今……」
川 ゚ -゚)「夢なら見た。水音と、呼ぶ声」
('A`)「夢、じゃあ、連動してるのか」
川 ゚ -゚)「何か起こったか」
('A`)「水音と……お前の身体が、光ってた」
ほう、と小さくクールは漏らした。
あまりに落ち着いた風情で、ドクオは逆に落ち着かない。
-
川 ゚ -゚)「やはり鬱田を呼んで正解だった。
怪異が起こってるのがはっきりした」
('A`)「……そりゃどーも」
で、どうする。
簡潔に問う。
川 ゚ -゚)「まあ、今晩は寝ておこう。明日心当たりを話す」
('A`)「あるんじゃねーか心当たり」
川 ゚ -゚)「私自身にはない、ということだ」
('A`)「どういう意味だよ」
川 ゚ -゚)「おやすみ」
('A`)「おいこら直」
川 - -)
('A`)「おい」
('A`)「……ったく」
タオルケットを頭から被る。
眠れるのだろうか、と少しばかり不安になった。
.
-
+ + + + +
川 ゚ -゚)「地元にちょっとした伝説があってな」
翌朝、朝食もそこそこに、クールは言った。
川 ゚ -゚)「水神の伝説だ。悪さをする大蛇が退治されたが祟りが起きた。
そこで祀った所、神となって守護するようになったと」
水、そして鱗、全てそれで説明がつくではないか。
思わずため息をついたドクオに、クールは首を傾げてみせる。
川 ゚ -゚)「どうした」
('A`)「お前な、言ってないこと多すぎ」
川 ゚ -゚)「今言ったろう?」
('A`)「もう隠してることないだろうな」
川 ゚ -゚)「ないと思う。水神伝説も、これ以上は知らないし」
('A`)「そうか……」
クールは姿勢を崩し、ベッドに寄りかかる。
ドクオも胡坐をかき、その上に肘をついて顎を乗せた。
.
-
川 ゚ -゚)「地元に戻ってみようかと思うんだ」
('A`)「え? でも、もしもだけど、その伝説に水たまりや夢が関係あったら」
川 ゚ -゚)「あるかもしれないから、調べに行くのさ」
('A`)「……呼ばれてるんだろ?」
夢の中で。
その夢の最中には確かに異変があったし、水たまりも近づいている。
川 ゚ -゚)「いずれ水たまりが到達すれば、きっと同じだろう」
だから、とクールはドクオを見つめる。
相変わらず真っ直ぐな瞳に、ドクオはたじろいだ。
川 ゚ -゚)「もののついでだ。一緒に来て調べてくれないか」
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「駄目か?」
('A`)「……乗りかかった舟だな」
いかにも仕方ないという風情でドクオは頷く。
クールは微かに笑った。
帰り際に見た水たまりは、確実に、クールの家へ近づいていた。
.
-
+ + + + +
陽光がさんさんと降り注ぐ。それは道端の草や木に照り返し、輝いていた。
同時に、アスファルトのおかげでむっとした熱も感じる。
電車の冷房に冷えた身体を思えば、丁度よかった。
('A`)「やっぱ暑いな」
川 ゚ -゚)「ああ。雨でもくれば涼しくなりそうだが、ウチに着くまでは降らないで欲しいな」
('A`)「同意」
三日後、バイトや予定に都合をつけ、二人はクールの地元に来ていた。
無人駅を出、徒歩でクールの実家へ向かう。
道すがら、あれはよく寄った店だ、山に繋がる川だ、と紹介するクールの声を聞きながら、ゆっくり歩く。
川 ゚ -゚)「あの、小さい方の山」
ふと橋の上で立ち止まり、クールは指をさす。
ドクオが見上げた先に、二つの山が見えた。その、少しばかり小さい方。
川 ゚ -゚)「あの山が、水神伝説のある場所だ」
どうしてか、美しく見えた。
小さく頼りなく、けれども緑の映えるその山。
水神、というイメージからくるものだろうか。あの水たまりのように、輝いて見えるからだろうか。
食い入るように見つめるドクオをちらりと見遣り、クールもまた山を見る。
記憶と違わず、山はそこにあった。
.
-
(゜д゜@「あらやだ、クーちゃんじゃない?」
きき、と軽いブレーキ音と共に、声がした。
川 ゚ -゚)「おばさん。久しぶりですね」
(゜д゜@「本当ねえ。どれくらいぶりだったかしら。どうしたの、帰省?」
川 ゚ -゚)「二年くらいですよ。そんなに経ってない」
(゜д゜@「あらやだ、そうだった?」
自転車から降りた中年の女性は、クールの知己のようだった。
ドクオは所在なげに、一歩ひいて二人を見守った。
が、そんなドクオに気付いてか、女性はあら、と口を覆う。
(゜д゜@「あらやだ、クーちゃんたら。彼氏さん?」
(;'A`)「えっ、や、ちがっ」
(゜д゜@「あらやだまあ。おばさん邪魔しちゃったわねぇ」
川 ゚ -゚)「そんなことは」
狼狽したドクオを尻目に、クールは淡々と答える。
その様子に、ドクオは増々狼狽する。
.
-
(゜д゜@「クーちゃんが人を連れてくるなんて。結婚式にお呼ばれするのもすぐね!」
(;'A`)「いえ、結婚とかそういうんじゃ」
(゜д゜@「あらやだ、じゃあ挨拶だけ?
それだけで来てくれるなんて、いい人じゃない、クーちゃん!」
川 ゚ -゚)「人が好いのは確か、ですね」
(゜д゜@「あっそうだ、二人ともお祭り行ってから帰りなさいな。もうすぐだし、ね?」
川 ゚ -゚)「ええ。おばさん、買物袋の中身、大丈夫ですか?」
(゜д゜@「あらやだ、アイス入ってたんだったわ。
じゃあまた後でね、二人とも!」
自転車に跨り、女性は去っていく。
嵐のようだった。
ドクオは一つ息をついた。
('A`)「親戚?」
川 ゚ -゚)「近所のおばさん。多分、少年野球あたりに差し入れだな」
近所の噂好き世話焼きおばさん、というイメージそのものだった。
歩き出したクールを追う。
それにしても、とドクオは言う。
(;'A`)「否定くらいしろって」
川 ゚ -゚)「した所で照れてると思われるのが関の山だ」
('A`)「……ああうん、全然話聞いてくんなかったな」
川 ゚ -゚)「それに事実しか口にしてない」
('A`)「そうだろうけどな」
大きくため息をつくドクオに、幸運が逃げるぞと言い置いて、クールはさっさと歩を進めた。
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+ + + + +
直家の玄関は、静寂に満ちていた。
ただ、車の音が遠く耳に入ってくる。
(;'A`)
川 ゚ -゚) (゚д゚ )
酷く真っ直ぐではっきりした目を持つ男性が、二人をじっと見つめていた。
クールは動じる風でもなく、佇んでいる。
ドクオは、先程の女性とは全く違った意味合いで、居心地が悪い。
( ゚д゚)
(゚д゚ )
( ゚д゚ )
こっち見ないで下さいお願いします。
そう口走ってしまいたい誘惑にドクオは耐える。
( ゚д゚ )
( ;д; )ブワッ
(;'A`)そ
唐突に男性の目から涙が溢れた。
-
( ;д; )「娘が……娘が彼氏を……」
(;'A`)「いや……」
( ;д; )「この日がついに訪れようとは……」
(;'A`)「……直」
川 ゚ -゚)「ああ」
クールは靴を脱いで、ドクオも促す。
ドクオとしては、どうにかしてくれ、の意だったのだが。
川 ゚ -゚)「先にあがってるからな、父さん」
(;'A`)「……お邪魔します」
やや迷った。が、正直ここに男性と――クールの父と残る気にはなれない。
一言声をかけて、ドクオはクールの後を追いかけた。
「ああぁあぁかみさまのばかやろおおおううううう」
玄関に響く慟哭は、聞かなかったことにした。
-
ノパ⊿゚)「おおお、おかえりクー!!」
川 ゚ -゚)「ただいま、母さん。粉塗れで抱き着くのはやめてくれ」
ノパ⊿゚)「ごめんなー! ついなー!」
居間に通されると、続きになっている台所から女性が現れた。
小柄でにこにこと笑っている。
ドクオはぺこりと頭を下げた。
('A`)「お邪魔します」
ノパ⊿゚)「おー! よく来てくれたねー!」
川 ゚ -゚)「鬱田、ウチの母だ」
ノパ⊿゚)「直ヒートだよ! それと玄関に居たのは旦那さんで、ミルナっていうんだ!」
川 ゚ -゚)「こっちは鬱田ドクオ」
('A`)「鬱田です」
ノハ^⊿^)「ドクオくんかぁ! 娘をよろしくね!」
(;'A`)「いえあのすみません違うんです」
ドクオに向かって伸ばされた手を、クールは止める。
粉塗れだろう、と言うと、ヒートは慌ててエプロンで手を拭い、改めて差し出す。
その手を握ると、大きく上下に振られた。
-
ノパ⊿゚)「でも、違ったの? てっきりそうだと思って、ご馳走作っちゃったよ?」
こくりと首を傾げる仕草がクールに似ているとドクオは思う。
あとは、名前の通り素直そうな所が。
ノパ⊿゚)「あ、勿論そうじゃないから歓迎しないって意味じゃないよ!」
('A`)「はい、それは。あの、ありがとうございます」
異性を実家に連れて帰るということが、どう取られるか。
少し考えれば分かることだったが、クールは気にした様子もないし、
ドクオも怪異に気を取られてうっかりしていた。
ノパ⊿゚)「いーのいーの! あ、部屋の用意も出来てるから、二人とも休んでてね。
お茶出すから、お茶!」
ぱたぱたとヒートは台所に戻って行く。
すまんな、と小さくクールが言った。
川 ゚ -゚)「母さんは家族で一番騒がしい」
('A`)「明るくていい人だと思うよ。……オレのこと何て説明してたんだ?」
川 ゚ -゚)「ちょっと地元に連れていきたい人と一緒に帰る」
確かに嘘は吐いていない。
吐いていないが、事実をぼかして言っている。
('A`)「直はもう少し、言い様ってのを覚えた方がいいんじゃないか」
川 ゚ -゚)「善処するとしよう」
改める気はなさそうだった。
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-
+ + + + +
( ゚д゚ )「水神か。あの山の」
('A`)「はい。その話をお伺い出来ないかと思って」
夕方、二人は直家の面々と食卓を囲んでいた。
中学生のクールの弟も川遊びから帰宅しており、ドクオに散々質問を投げかけていた。
その過程で、ミルナにも恋人でないことを分かって貰えたのは、収穫だ。
(・∀ ・)「なー、ほんとにねーちゃんと付き合ってねーのー?」
('A`)「付き合ってない」
( ゚д゚ )「……」
(;'A`)「付き合ってませんってば」
川 ゚ -゚)「そろそろ本題に入って欲しいんだが」
唐揚げを取りながら、クールが言う。
(・∀ ・)「ねーちゃんそれ、最後のからあげー!!」
ノパ⊿゚)「まだ揚げたのあるから大丈夫だぞー、またんき」
直家の料理は、凝ったものではなく、素朴で素直においしいと思える味だった。
が、箸で攻防を繰り広げる姉弟に構っていては、話が進まない。
そう判断したドクオは、ミルナに向き直る。
-
('A`)「教えて頂けますか?」
( ゚д゚ )「ああ、構わないが。クール、課題なんだったら最初からそう言ってくれればいいのに」
川 ゚ -゚)「私の記憶も定かじゃなかたからな。それより話を」
( ゚д゚ )「鬱田くんも悪かったね」
ドクオは曖昧に笑うに止めた。
無駄に嘘は吐きたくない。
( ゚д゚ )「水神伝説は、あの美布(びぷ)山とこの村が舞台だ。
昔、長生きの蛇が居て、悪さばかりしていたので、村人に退治された。
美布山にある小さな湖に葬られたが、これが死ななかったらしい。
より大きな災い――祟りを成すようになった」
塩辛を一口。続いて、く、とミルナはコップを干す。
( ゚д゚ )「そこで旅の行者に頼んだ所、祀れば神となり末永く守護するだろう、と言われた。
麓に祠を建てて祀ると祟りは止み、その年は豊作になった。
それからその蛇は水神兼村の守り神として崇められるようになった。
とまあ、概要はこんな所か」
ノパ⊿゚)「そ、美布ってのも、蛇の鱗が銀の綺麗な布みたいだ、って所から来てるんだ!
湖だけじゃなく、山自体もご神体みたいなもんだよー」
('A`)「へえ……」
( ゚д゚ )「祟る時は雨を続けて水害を起こす。
祀られれば雨を呼んで豊作を呼び、逆に長雨を抑えて水害を抑える」
ノパ⊿゚)「水に関係するから水神様なんだよね。そうそう、水分神とも言うそうだよー」
ドクオも止めていた箸を動かす。
話自体はよくある民話のようだ。
蛇、鱗、美しい銀色。
クールに起こった出来事と合致する。ただ、何故クールに起こったのか、それが分からない。
.
-
( ゚д゚ )「……そうだ、鬱田くんは煙草はやるかね」
('A`)「いえ、煙草や煙の類はどうも苦手で」
( ゚д゚ )「そうか、それだと山に入った時は困るかもな」
どういったことだろうか、とドクオは首を傾げる。
遭難した時、煙を、なんて話ではなさそうだ。
( ゚д゚ )「その水神は煙が苦手でね。山中でからかわれた時、悪さをされた時は、
煙を焚く、今なら煙草を喫うといいと言われてる」
お守りに持っていくかい、とミルナは少し口の端を持ち上げた。
多分、クールと同じく、それが笑みなのだろう。
ノパー゚)「そういうお父さんも、昔クーに煙草のケムリが嫌だって大泣きされて、喫わなくなったんだよなー。
家だけだったのが、その内どんどん本数減ってって」
( *゚д゚)「こ、こら余計なことを」
川 ゚ -゚)「さっぱり覚えてないな。まあ、今も好きじゃないが」
Σ(゚д゚ )「お父さん凄いショックだったんだよ!? キライって言われて!」
(・∀ ・)「いいんじゃねーのー? 健康的で」
親馬鹿を発揮する親の前で、子供は冷静だった。
つまるところ、これが通常運転なのだろう。
-
ノパ⊿゚)「二人とも、まだ暫く居れるんでしょう?」
川 ゚ -゚)「ああ、夏休みはまだあるな」
ノパ⊿゚)「なら明日からのお祭り、見てくといいよ! 水神様に奉納する祭りだからね!」
('A`)「ああ、途中で会った人もお祭りのこと言ってました」
川 ゚ -゚)「阿良のおばさんだよ」
( ゚д゚ )「阿良さんか」
(・∀ ・)「あー、おばちゃんなー。すげー捕まったろ。話なげーもんおばちゃん」
こら、とミルナもたしなめはするが、苦笑気味だ。
ドクオはやや引きつった笑いを返した。
('A`)「祭りって、普通の夏祭りとは違うんですか?」
ノパ⊿゚)「出店や屋台が出るのは普通かな。
祭りは三日続くんだけど、最終日に村人と水神様の約束を再現するんだ」
('A`)「約束」
ノパ⊿゚)「村人は水神として祀り、お祭りを奉納すること。
水神様は末永くこの村を祀ること。
そういう約束」
(・∀ ・)「へー」
川 ゚ -゚)「あの舞はそんな意味だったのか」
知らなかったな、とクールは唐揚げの皿に残っていたレタスを齧る。
その横のミニトマトをまたんきが摘まんだ。
-
( ゚д゚ )「祭りの由来くらいは覚えておきなさい」
(・∀ ・)「水神様祀るのは知ってるって。最後の舞のこと知らなかっただけー」
川 ゚ -゚)「私もだ」
( ゚д゚ )「しょうがないな、全く」
ノパ⊿゚)「ドクオくん、ご飯おかわりどう?」
('A`)「あ、すみません。ありがとうございます」
空の茶碗を渡す。
にこにこ笑いながら、ヒートはおかわりをよそってくれた。
ノハ^⊿^)「お父さんも婿に入るまでは、そんなこと全然知らなかったから大丈夫ー」
(・∀ ・)「……とーさん」
( ゚д゚ )「ぐ、そ、それはこの村の出身じゃなかったからでな」
ノハ*゚ー゚)「隣町から遊びに来て、私に一目惚れのベタ惚れだもんなー?」
( *゚д゚)「うっ……ま、またんき、クー、そんな目で見るんじゃない! 鬱田くんもだ!!」
.
-
+ + + + +
川 ゚ -゚)「やはりというべきかな」
('A`)「だな」
夕食後、クールの部屋で話をすることになった。
ドクオはヒートが持ってきてくれた茶を啜る。
('A`)「何でお前のとこに、っていうのが分からないな」
村の外に住んでいる人は沢山いる。
進学の為に外に出て二年、クールに怪異が訪れたのは、ほんの十日前だ。
川 ゚ -゚)「父さんが語った内容は、多分他の人に訊いても同じだろうな」
('A`)「と、なると……あとは神社と湖に行くくらいしかないか?」
祠は、今では神社になっているという。
川 ゚ -゚)「ああ。煙草、持ってくか?」
お守りに。
ドクオは一瞬顔をしかめ、ややあって答えた。
('A`)「……オレは遠慮したいな。持つなら直が持ってけよ」
.
-
狙われているとしたら、クールなのだ。
ならばどうしても好きになれないものを、ドクオは持っていく気にはなれなかった。
僅か、クールも思案する。
川 ゚ -゚)「私もいらないな」
('A`)「一応狙われてるんじゃないか」
川 ゚ -゚)「別に、危ない気はしてないからな」
('A`)「さいで」
クールは時々、勘や感覚で行動することがあった。
普段は冷静なくせに、ともすれば無防備な程、大胆なことをする。
今回も、その勘が働いているのだろうか。
('A`)「道は分かるのか?」
川 ゚ -゚)「神社があるからな、湖まで行く人はそう居ないが、道自体はあるだろう」
('A`)「なら大丈夫か」
茶を飲み干し、立ち上がる。
('A`)「じゃ、そろそろ」
川 ゚ -゚)「ああ、おやすみ」
ドアを閉める寸前、クールは茶を啜っている所だった。
.
-
湯呑を洗う為、階下に向かう。
階段を下りた所で、ヒートに出会った。
ノパ⊿゚)「あ、お茶のおかわり?」
('A`)「いえ、ごちそうさまです。もうそろそろ寝ようかと」
ノパ⊿゚)「じゃあ湯呑かして。ドクオくんは寝る準備してて大丈夫だよー」
('A`)「いや、お世話になってるんですから、これくらい」
ノハ^⊿^)「お客さんなんだから、いいっていいって。ね?」
どうもヒートの笑顔には弱い。はい、と頷いて湯呑を渡した。
ヒートは水道を開いて、洗い始める。
ノパ⊿゚)「その代わりと言ったらなんだけど、ドクオくん」
('A`)「はい」
ノパ⊿゚)「もうすぐ、あの子の誕生日なんだ。プレゼント、一緒に渡してくれないかなぁ?」
('A`)「え、そうだったんですか」
知らなかった。聞いたことも――いや。
あったかもしれない、とドクオは思った。
ぼんやりと、そんな会話をしたような、してないような。
あれはいつだったか。
ノパ⊿゚)「うん、それで――……ドクオくん?」
は、と気付くと、いつの間にか洗い物を終えたヒートが目の前に居る。
.
-
('A`)「す、すみません。ちょっとぼーっとして」
ノパ⊿゚)「ああ、疲れてるよね、ごめんね」
('A`)「そんなことないです。プレゼントは、その、用意してなかったので」
ノパ⊿゚)「誕生日とか知らなかったんだから当然だよ。
でもあの子、ドクオくんからプレゼントあったら喜ぶと思うんだー」
('A`)「ええ、当日までに何か探しておきますね」
ノハ^⊿^)「ありがとう! 無理言ってごめんね」
('A`)「オレも、祝いたいですから」
それは、ドクオの本心だ。
去年は何もなかったが、今年は知ったのだから何かしてやりたい。
ノパ⊿゚)「それでね、私達からは本を用意してるんだ。
またんきは秘密だって言うから、分からないんだけど」
('A`)「じゃ、被らないように気を付けないといけませんね」
ノパ⊿゚)「ドクオくんのセンス、楽しみにしてるよー!」
('A`)「大したことは出来ませんけど。そうだ、いつなんですか?」
ノパ⊿゚)「今年は丁度祭りの最終日なんだ! 三日後だよ!」
('A`)「――……」
嬉しそうに言うヒートは、きっと演出を考えているのだろう。
けれどドクオは、その日付に、因縁を覚えずにはいられなかった。
.
-
+ + + + +
夜。客間を与えられたドクオは、ふと目を覚ました。
目を閉じるが、まんじりともしない。暫くして、諦めて身を起こした。
外の風にでも当たれば気分も違おうと、窓に手を掛ける。
ぴちょん。
聞き覚えのある音に、手が止まる。
ひた、ひたり、
水音。何かが、歩く、音。
('A`)「……」
隣はクールの部屋だ。
そっと、窓を開けた。
.
-
―――お迎えじゃ、お迎えじゃ
―――ぬしさま、ぬしさま。ああ、まつりじゃ、まつりの季節じゃ
水を通したような、くぐもった、けれども喜色が伝わる声。
女の子のようだった。
.
-
無意識に手に力が入る。
と同時、はっとした。
青い光が見える。
クールの部屋からは漏れ出るように。
そしてドクオの居る部屋からも、まるでシャボン玉のように。
幾つも生まれては浮かび上がって行く。
それは、何故か、ドクオの恐怖を煽らなかった。
('A`)「………」
手を伸ばす。
震える指が青に届くと、それはとろりと溶けて、波が引くように去っていった。
('A`)「…………」
ついにドクオは言葉を発せなかった。
迫っている。
ただそれだけが、確信として残っていた。
.
-
+ + + + +
翌朝、クールはまたんきと共にラジオ体操に参加していた。
山に行くのだから、ちょっとは身体を慣らしておくべきだと思ったのだ。
付け焼刃にすぎないのは分かっていたが、それでも弟と共に運動するのは、楽しいことだった。
帰ると朝食の準備が済んでいた。
ノパ⊿゚)「おかえりー! 朝ご飯だぞー!」
('A`)「おはよう」
ドクオが食事を運んでいる。
昨日の残りと、味噌汁に卵焼きが追加されているようだ。
二人でおはようを返して、手伝うことにした。
ノパ⊿゚)「またんき、お父さん呼んで来てー」
(・∀ ・)「へーい」
またんきが駆けて行く。
ヒートがご飯と味噌汁をよそい終わると、丁度二人が居間に入ってきた。
( ゚д゚ )「おはよう。じゃあ、いただきます」
川 ゚ -゚)「「「いただきます」」」('A`)(・∀ ・)
ノパ⊿゚)「はい、召し上がれ」
温かな湯気が食卓に広がる。
醤油のやりとりや、箸と食器の音がする。
.
-
ノパ⊿゚)「今日はどうするの?」
川 ゚ -゚)「久しぶりに神社に行こうと思ってる」
ノパ⊿゚)「お祭り見ながら行くの、いいかもね」
川 ゚ -゚)「そうだな。それもいい」
わざわざ祭りに寄ってから行くのか、と一瞬不思議に思ったが、水神の為の祭りならば
その神社の近くでやるのは当然だと思い直す。
単純に、祭りや出店を見るのは久しぶりだから、いいかもしれない。
伝説と符合するクールの状態を不安に思わないわけではなかったが、
ドクオは祭りと聞くだけ、つい浮かれてしまう。
(・∀ ・)「ふーん。途中で会うかもなー、友達と祭り行く約束してんだー」
( ゚д゚ )「それはいいが、宿題はちゃんとやってるのか」
(・∀ ・)「ごちそうさまー」
( ゚д゚ )「こら、またんき」
ノパ⊿゚)「食器洗ってから行きなさいねー!」
(・∀ ・)「わーってるよー」
またんきが食事を片づけ、台所へ向かう。
宿題は恐らくやっていないのだろう。
どうも直家の人たちは嘘をつくのが苦手らしい、とドクオは微笑ましく思う。
.
-
('A`)「ごちそうさまです」
ノパ⊿゚)「あ、ドクオくん、洗い場に置いといてくれればいいから」
('A`)「いえ、」
ノパ⊿゚)「作るのも手伝って貰ったしね!」
大丈夫だよー、とヒートは笑う。
困って、ドクオはクールとミルナに視線を彷徨わせた。
川 ゚ -゚)「母さん、面倒じゃないならやらせた方が鬱田も気楽だと思うぞ」
ノパ⊿゚)「んー、そう? じゃあお願いしちゃおっかな!」
('A`)「はい」
ほっとしながら台所へ向かう。
( ゚д゚ )「……いい青年じゃないか。くぅ……」
ノパー゚)「悔しがることじゃないでしょー?」
洗剤の残るスポンジに水をかけ、泡立てる。
昨晩の青い光が、思い出された。
.
-
+ + + + +
川 ゚ -゚)「出店は変わらないな」
人の多くなった道を歩き、クールは首をめぐらせる。
そうだな、とドクオは頷く。
('A`)「こういうのは、変わらないんだろう」
川 ゚ -゚)「……お、かき氷は種類増えたな」
出店を冷やかしながら、昨晩の話をする。
ドクオは青い光を見た。クールは夢を見た。
川 ゚ -゚)「お迎えじゃ、と聞こえた」
('A`)「オレもだ。女の子の声っぽかった」
川 ゚ -゚)「私を呼んでた声だろうな。あとは……まつりとか、ぬしさまとか」
('A`)「祀る、って意味なのか、この祭りのことなのか」
軽く髪をかき上げて、さて、とクールは呟いた。
川 ゚ -゚)「どちらにせよ、行ってみるしかないな」
('A`)「……この話に関しては随分不用心だな、直」
川 ゚ -゚)「……そうかもしれない。鬱田も十分、無謀だと思うがな」
('A`)「どこが?」
川 ゚ -゚)「私に付き合って怪異に首を突っ込んでいる」
それは、と口にしかけて言いよどむ。
話を聞いた時から、ドクオの中に引き返すという選択肢はなかった。
ふとクールが足を止める。
.
-
川 ゚ -゚)「クジだ。昔、当てようと躍起になったな」
沢山のおもちゃが詰まった箱が幾つもあり、大まかに分けられた番号が示されている。
小さい番号程いい商品が当たる、そんなクジだった。
川 ゚ -゚)「すみません、一枚」
('A`)「やるのか」
川 ゚ -゚)「リベンジさ」
硬貨を渡し、代わりに一枚クジをひく。
開かれたそれは、下から二番目の番号だった。
そっから選びな、と強面ながら笑顔の男性が、箱を示した。
('A`)「リベンジ出来た?」
川 ゚ -゚)「選ぶ景品次第だ。結構あるな」
小さなおもちゃたちに、クールは真剣に悩みだす。
適当に視線を逸らしたドクオの目に、別のクジの出店が映った。
('A`)(……ガラスクジ)
景品が全てガラスのクジだ。
さっきクールがひいたクジと同じく、番号が割り振られている。
手の平ほどの置物から、指先ほどの細工まで、結構な種類があった。
.
-
('A`)「一枚」
若い男性が硬貨を受け取り、クジを差し出す。
結果は中の下、といった所だった。
番号の範囲を見ていると、一つのガラスに目が吸い寄せられた。
('A`)(……ああ、ペンダントトップか)
小さな雫型の細工だった。
つるりと丸みを帯びていて、上部の細くなった所に穴が貫通している。
チェーンか紐はないのだろうか。
('A`)「これ、ください」
結局、ドクオはそれにした。
チェーンはそこらで買えるだろう。
きちんと発泡シートに包んでくれるあたり、良心的な出店かもしれない。
('A`)(……流石にこれが誕生日プレゼントってのはどうだろうな)
けれど、明後日だ。
もしも明日時間がなかったら、これにしよう。来年はちゃんとするから――
不意に、不安が押し寄せた。
('A`)(来年、……来年、オレは、直の傍にいるんだろうか)
何事もなければ。
この怪異を解決したら。
クールは、自分の傍に、いるのだろうか。
ちがう、なんだろう。
漠然としていて、にも拘らずぎりぎりと締め上げるような不安。
怪異なんていう、非現実的なもののせいか。
だがこの痛みは、確かに現実のものだった。
.
-
川 ゚ -゚)「待たせたな」
('A`)「あ、……ああ、大したことない」
大したことない、と言い聞かせる。
不安はもう既に溶けて、掴み所がなくなっていた。
川 ゚ -゚)「そうか?」
('A`)「ああ。何にしたんだ?」
川 ゚ -゚)「これだ」
クールの手の中にあったのは、シャボン玉セットだった。
('A`)「へえ」
川 ゚ -゚)「懐かしくてな。見つけたら、これがいいと思ったんだ」
('A`)「オレも後でやりたい」
川 ゚ -゚)「ああ、帰ったらまたんきも誘ってやろう」
('A`)「ヒートさんもやりたがりそうだ」
川 ゚ -゚)「そうだな。……となると、誘っとかないと父さんは拗ねるだろうな」
('A`)「だな」
会って一日しか経っていないが、その様子がまざまざと想像できて、ドクオは笑う。
つられたのか、クールも小さく口の端を上げた。
.
-
+ + + + +
神社を過ぎ、山道を登る。
道は一応ある、という体だった。
奥に行くに従って、さわさわと水の流れる音がする。
神社には、特に手がかりはなかった。
ミルナから聞いたのと同じ話が、看板に書いてあった。
神社の本になった祠も、何か怪異が起こることもなかった。
封じ祀った行者のことが看板があったが、それも怪異を退ける術は書いていない。
それでこうして連れ立ち、二人は湖を目指している。
川 ゚ -゚)「……久しぶりだ」
目を細め、クールが言う。
相も変わらず不安は見えない。
そう、最初からそうだ。いやに無防備で、怪異を嫌がる素振りがなかった。
('A`)「直」
川 ゚ -゚)「何だ」
('A`)「お前にとって、水神伝説って、どういうものなんだ」
少し首を傾げ、ややあってクールは答えた。
川 ゚ -゚)「懐かしい、かな」
('A`)「こわいとか、いやだとか」
川 ゚ -゚)「そういうのではないな」
そうか、と返して歩を進める。
ざわめきが、胸の内で増していく。
ドクオが感じるそれを、クールはいっかな感じていないようだった。
一歩進むごとに、それの正体について見えていく気がする。
何か少しずつ、確信を得ていくような。
-
そこから言葉少なに歩いていると、目の前が開けた。
川 ゚ -゚)「ここが」
('A`)「……水神伝説の、湖」
木立の間から差し込む陽光が反射して、水が煌めいている。
水面は穏やかに揺れていた。
登る間、耳についていた沢の音も、すぐ近くで聞こえている。
とうとう二人は、辿り着いたのだ。
川 ゚ -゚)「……綺麗な、青だ」
('A`)「………」
そっと呟くクールに、ドクオは何も返せなかった。
ざわめきの正体に、ようやく気付いたのだ。
.
-
('A`)「………ああ、」
――胸を焦がす郷愁。
('A`)「かえって、きたんだ」
ドクオは歓喜に打ち震えていた。
川 ゚ -゚)「……鬱田?」
怪訝そうなクールに答えず、ふらりと前に出る。
川;゚ -゚)「お、い、鬱田!」
伸ばされた手が、空を切る。
同時にどうしてだろう、酷く悲しかった。
切なくて悲しくて、申し訳なくて。
一歩進む毎に、答えが見つかる気がした。
.
-
ざわり、こぽり。
湖が泡立つ。
ざああああ、と水が盛り上がり、流れ落ちる。
l从・∀・ノ!リ人「ぬしさま」
湖の上に、幼い少女が立っていた。
続いて二つ、水柱が上がり、消えた所には二人の男性が立っていた。
( ´_ゝ`)「主様、ご帰還か」
(´<_` )「お戻りなされた」
('A`)「…ああ………」
三人を見、ざわめきの理由をドクオは完全に悟る。
('A`)「ただいま」
人では、なかったのだ。
.
-
+ + + + +
川 ゚ -゚)「……鬱田」
呼びかけると、ドクオはゆっくりと振り向いた。
どこか陶然とした佇まいで、笑った。
その曖昧な笑みは、いつもと変わらぬようにも思えた。
('A`)「オレ、お前に会いたくて、我慢できなかったんだ」
けれど、微かに手が震えているのが見えた。
('A`)「約束の日まで、待てなくて。寂しくて。それで、人に化けて」
川 ゚ -゚)「約束……」
ちり、と胸の奥が焼ける。
懐かしさは、この痛みに起因している。
そしてまた、ドクオは優しく笑う。
('A`)「…いいんだ、覚えてなくて。それでいい。ごめんな、もう全部忘れてくれ」
l从・∀・ノ!リ人「ぬしさま! あんなに待っておったではないか!」
('A`)「妹者」
l从・∀・ノ!リ人「妹者も待てなかったのじゃ、だから約束の娘御を迎えに参ったのじゃ!」
( ´_ゝ`)「主様のいない二年は、長かったよ」
(´<_` )「妹者も随分待っていたんだ、主様」
-
ドクオを主様と呼ぶ三人は、着物と袴を着ていた。
覗く肌に見えるのは、鱗だろうか。
川 ゚ -゚)「鬱田、お前は……この湖の、主なのか」
('A`)「そう。人じゃなかったんだ」
ドクオは一歩、後ろへ踏み出す。水面に足を置いて、沈まなかった。
そして肌がぬらりと光る。
蛇の鱗だ。ゆっくりと、湧き出でるように生じる。
鱗のついた手をドクオは見せる。
('A`)「だからもう、お前の傍には居られない」
川 ゚ -゚)「……いいのか。お前は、待ってたと言ったじゃないか」
('A`)「いいんだ」
だったら。
だったら何故、そんな寂しそうに笑うんだ。
.
-
胸の中を駆け巡る何かを掴もうとして、掴めない。
もう少しなのに。
クールはもがく。まるで水の中だ。
('A`)「………さあ、人の世にお帰り。もう、何も起こらないから」
『―――さあ、人の世にお帰り。待っているから』
川 ゚ -゚)「――ッ」
手を握りしめる。
銀の煌めき、水の冷たさ、曖昧な笑み。
――掴んだ。
川 ゚ -゚)「鬱田だったんだな」
('A`)「…え」
.
-
川 ゚ -゚)「溺れた私を助けた誰か。そう、まだ小学校にあがる前だ。
母さんが妊娠中で、よく私は一人で遊びに出てた」
ぐんぐん水面が見えてくる。
掴んだ所から浮かび上がる。
川 ゚ -゚)「神社に飽きて、一人では行くなと言われてた山に向かった。
湖まで辿り着いたはいいが、疲れて足を滑らせた。
……助けてくれたひとが居た」
水面から射す光を、抱きしめた。
川 - )「ああ」
クールは息をそっと落とした。
それはついに見つけた、安堵のため息だった。
.
-
+ + + + +
湖の畔、水面と地面の上で、少女と男が話していた。
('A`)「一人で来ちゃ、危ないだろ?」
ノパ-゚)「だってつまらなかったんだもん」
('A`)「こんな所に来たら、お前なんかぱくっと喰われちまうんだからな」
ノパ-゚)「そうなの?」
('A`)「…そうなの」
少女はこくり首を傾げる。
ほら、と男は手の鱗を見せた。
('A`)「怖いだろ。もう一人でここに来たら駄目だからな」
ノパ-゚)「どうして?」
('A`)「どうしてって、だから、危な―」
ノパ-゚)「こわくないよ」
('A`)「………え?」
ノパ-゚)「きらきらしてきれい。シャボン玉みたい」
少女はポケットを探り、ぱっと顔を輝かせた。
ノパ-゚)「よかった、落としてなかった。一緒にシャボン玉しよ?」
('A`)「シャボン玉…」
祭りで売られているのは知っていた。
けれど男は、実際にそれをしたことはなかった。
.
-
ノパ-゚)
少女が息を吹くと、幾つもの煌めく玉が、溢れ出した。
ノパ-゚)「はい」
('A`)「あ、ああ」
ノパ-゚)「ふーってするの」
('A`)「ふー」
それは男の息でも同じだった。
虹色の玉が、美しいと思った。
ノパ-゚)「ほら、同じ色。きれいだね」
('A`)「ああ…」
笑った少女の姿が、美しいと思った。
.
-
('A`)「なあ」
ノパ-゚)「なぁに?」
('A`)「お前、オレが怖くないか?」
ノパ-゚)「こわくないよ。やさしいよ」
('A`)「じゃあ、好きか?」
ノパ-゚)「んー? うん、すき。おとーさんと、おかーさんと、たぶんおとーとの次に!」
('A`)「じゃあ」
す、と息を吸い込む。
微かに声が震えた。
('A`)「じゃあ、お嫁に来てくれるか?」
ノパ-゚)「およめさん? お兄ちゃんの?」
('A`)「ああ」
少女は目をぱちくりさせて、男を見つめている。
本当は傍に居てくれるか、と言おうとしたのだが、つい口が滑ってしまった。
心臓があまりに音を立てるものだから、壊れやしないかと男は不安になった。
.
-
ノパ-゚)「いいよ」
だから、少女がそう言った瞬間、本当に壊れそうだった。
.
-
ノパ-゚)「でもね、けっこんは大きくならないと、できないんだよ」
('A`)「そう、そうだな」
ノパ-゚)「だからね、大きくなったらお兄ちゃんとけっこんするね」
ああ、ああ。
何て美しい少女だろう。
自分を怖がらずにいて、話しかけてくれる優しい少女。
('A`)「二十になったら、迎えに行くよ」
ノパ-゚)「はたち。せーじん?」
('A`)「ああ」
ノパ-゚)「待ってるね」
('A`)「…ああ。いけない、日が暮れる」
ノパ-゚)「おひさま、赤いね」
('A`)「遅くならない内に山を下りるんだ。神社までは、守りをかけてあげるから」
ノパ-゚)「わたし、お兄ちゃんともっとお話したい」
('A`)「駄目だよ。心配する」
ノパ-゚)「でもお兄ちゃん、さみしそうだよ」
虚を突かれて、男は黙る。
そうだ寂しい。たった一人でここに居た。祭りを催して貰うのも、寂しいからだ。
けれども。
-
('A`)「約束したから、寂しくないよ」
ノパ-゚)「けっこんのやくそく?」
('A`)「そう。―――さあ、人の世へお帰り。待っているから」
ノパ-゚)「わかった。大きくなるまでね」
素直に頷いて、少女は立ち上がる。
男は少女に向けてくるりと手を回した。これで神社までは守りが掛かった筈だ。
ノパ-゚)「お兄ちゃん、おなまえは?」
('A`)「…ああ、ええと」
美布、は違う。人が男に冠した称号のようなものだ。
そうだ、遠い昔、これもまた人がつけた名前があった。
ノパ-゚)「わたしはね、クールっていうの」
('A`)「オレは、ドクオ」
ノパ-゚)「うん。またね、ドクオ」
('A`)「気を付けて帰るんだよ」
ノパ-゚)「うん!」
軽やかに少女は駆けて行く。
待っているよ、とその背に男は呟いた。
.
-
+ + + + +
あの少女と出会ってから、日々が色づいたようだった。
少女が再び湖を訪れることはなかったけど、それでも約束をずっと待っていた。
人が愛おしく思えた。
少女がその中にいるのだと知れば、どれほど温かいことか。
('A`)「………」
ほんの十五年、何ともない時間の筈だった。
なのに会えないことが寂しさを深くし、いつか会える時間を想像すれば楽しかった。
人の営みを見守ることも、意味を変えた。
たった一人の少女が。
ある日、長く生きた魚の兄弟がついに死んだ。
送ろうとして、気付いた。
自分は気が回らない。一緒に棲むには、誰か居た方がいいのではないかと。
力を与え、眷属とした。
( ´_ゝ`) (´<_` )
傷つき、倒れようとしている魚が居た。
嫁に来てもらうのだ、女手があった方がいい。
魚と人では違うかもしれないが、きっと慣れる。
力を与え、眷属とした。
l从・∀・ノ!リ人
眷属たちと過ごす時間は、孤独を癒し、少女に会えない苦痛を和らげた。
だけど、少女に会いたかった。
.
-
だから、人に化けた。
眷属にした三匹が寂しがるのを分かってて、それでも、どうしても駄目だった。
ばれないように記憶を封じ、少女の傍で過ごした。
何て幸福な二年間だったろう。
川 ゚ -゚)
そして少女は成長し、今、こうして目の前に居る。
.
-
('A`)「…ごめんな」
そのことを、ドクオは素直に喜べずにいた。
人として過ごした記憶が、自分の約束の酷さを教える。
ドクオはこの湖と山の主だ。
長くは離れられない。
今までだって出来る限りの力を眷属に与えて、ぎりぎりの期間だった。
そんな自分の許に来るということは、人の世から外れるということだ。
( A )「ごめんな、クール」
クールが愛する家族とも、人の営みとも、全部離れる。
幼いクールに、自分は何てことを約束させたのだ。
.
-
( A )「あんな約束、守らなくていい。オレのことも全部忘れて、それで家に帰るんだ」
川 ゚ -゚)「……鬱田」
( A )「さあ早く、いつまでも居たら、オレはお前を喰らってしまう」
川 ゚ -゚)「そんなこと鬱田はしないよ」
( A )「あの時だって、でかくなった方が食い出があると思ったから、そう言ったんだ」
川 ゚ -゚)「泣くな、鬱田」
( A )「え」
(;A;)「…あ、れ」
初めて気づいたように、ドクオは頬を擦る。
拭っても、拭ってもそれは零れ落ちた。
(;A;)「ちが…オレは…」
川 ゚ -゚)「私は傷つけられたりしてない。
ずっと、忘れていた私の方が酷いことをしたんだ」
(;A;)「クー、ル」
川 - )「お前に嘘なんて似合わないよ。ごめん、ごめんな」
クールは本気で言っている。
そう分かった途端、ドクオの中で何かが弾けた。
.
-
(;A;)「クー、クール、ごめん。ずっと待ってた、オレはここに帰る、
直、ごめん、でも、オレ、それでも」
(;A;)「お前に来て欲しいって、まだ思ってしまう」
あさましい。
あの約束がどれほど酷いか分かってて、本心を口にしてしまう心根が。
人ならざる身で人と同じことをしようとしたって、上手くいく訳がないのに。
それでも止まらない。溢れ出す。
(;A;)「ごめん直、しあわせになって欲しいのに、クールの傍に居れたのが嬉しい、
待って、た、でも………でも、もう、」
川 ゚ -゚)「……泣かないで」
クールは両手を伸ばす。
そっとドクオの頬に触れた。元々体温の低い手だったが、ドクオの肌はもっとひんやりしていた。
最早ドクオは言葉なく、嗚咽を漏らしている。
涙だけがぽろぽろと、尽きることなく零れ落ちる。
暫くの間じっとドクオを見つめ、クールはゆっくり口を開いた。
.
-
川 ゚ -゚)「あの時と違って、すぐに返事が出来ない。
少しだけ、私の誕生日まで待ってくれないか」
(;A;)「…祭りの、最終日………」
川 ゚ -゚)「ああ。家族に話す時間が欲しい。
祭りの最後の日、必ずここに来る」
約束する、と込められる限りの真心を込めて、クールは言った。
( A )「………」
クールには酷いことを言っている自覚がある。
ドクオが言うよりもずっと。
それでも家族には伝えたい。その時間だけが、どうしても欲しかった。
('A`)「………分かった」
するりとドクオは水面を滑り、クールから離れる。
畔から二歩分の所で止まった。
('A`)「二十の誕生日、ここでお前を待つ」
川 ゚ -゚)「ああ」
('A`)「さあ、お帰り。気を付けるんだよ」
川 ゚ -゚)「……ああ」
一、二度躊躇するように足を出し、それからクールは湖に背を向ける。
その背中を見送って、もう一つ涙が落ちた。次いで手をくるりと回す。
ぽつりと波紋が出来た。
.
-
(´<_` )「…主様」
('A`)「ああ、大丈夫。長く留守にして悪かった」
( ´_ゝ`)「戻って下さったのだから、どうでもいいこと」
l从・∀・ノ!リ人「でもあと二日したら、娘御が来てくれるのじゃ!」
('A`)「………」
無邪気に笑う妹者に、ドクオはすぐに答えられなかった。
(´<_` )「主様。それでよろしいと思ってるのか」
('A`)「ああ。嫁いでなんかこなくても、いい」
断るまでもなく、ただここに来ないだけでいいのだ。
妹者が目を見開く。
l从・∀・;ノ!リ人「どっどうしてなのじゃ! 来るって約束したのじゃ!」
(´<_` )「ここに来る、とだけ約束した。それは娘御が断る可能性もあるということ」
( ´_ゝ`)「主様は、娘御が来なくともいいと」
兄弟は、冷静だった。
ただその中に、ほんの少し怒りがあった。
その怒りをやり過ごし、ドクオは答える。
('A`)「いいんだ。クールを待った十三年と、一緒に過ごせた二年。幸せだった」
それに。
ドクオは周りの眷属を見回す。
('A`)「お前たちを眷属に出来た。それだけで十分なことだ」
眷属たちは押し黙った。
妹者がドクオの足にしがみ付き、肩を震わせる。
その頭を撫で、ドクオは湖の中へ眷属たちを促した。
.
-
+ + + + +
湖に背を向けて、歩き出す。
ひんやりとしたものが身体を包んだ気がした。
これが多分、守りだとクールは気付く。
ドクオとは、大学で出会った。
ドクオはクールを少々ズレてると評したが、ドクオもまた妙に馴染まない人だという印象だった。
それは人が嫌いという意味でなく、ただそう在るものだとクールは思った。
信頼していた。怪異を相談するくらいに。
今も。今でも。
川 ゚ -゚)「……そうだな。それは、変わらないんだ」
呟くと、すとんと腹に落ちた。
土を踏みしめる。
神社に着くと、ひんやりしたものは、消えていった。
神社は賑わっていた。
木造の舞台があり、最終日には舞が行われる。
敷地の境にある石段に、座った。
クールは暫く考える。
(・∀ ・)「あれ、ねーちゃん」
またんきに声を掛けられたのは、空が赤から青に変わる頃だった。
(・∀ ・)「何やってんの」
川 ゚ -゚)「……ちょっと色々考えてた」
それまでも顔見知りや知り合いから、おかえり、彼はどうしたの、といった声を掛けられていた。
.
-
ゆっくりとクールは背を伸ばす。
長く同じ姿勢だったのではないかとまたんきは思った。
クールの横に腰を下ろす。
(・∀ ・)「ドクオはどーしたんだー?」
川 ゚ -゚)「……ああ、」
言いよどむ。
数瞬迷い、結局ただ一言を口にした。
川 ゚ -゚)「帰ったよ」
(・∀ ・)「えー? 電車あんの? つーか祭り見てくって言ってたじゃん」
川 ゚ -゚)「……あとで、話す。今日は舞もないし、遅くならないな?」
(・∀ ・)「まぁ9時頃には帰るよ」
川 ゚ -゚)「話があるからちゃんと帰って来いよ。そういえば友達はどうした?」
(・∀ ・)「告白に行ってる」
だからちょっと別行動、と少し口を尖らせた。
川 ゚ -゚)「そうか。うまくいくといいな」
(・∀ ・)「そーだけどさー。成功したら遊びに行くのも減るんだろーなー。ちぇー」
つまらなそうにしながらも、極々軽い。
正面から応援してはいないが、失敗を望んでいるわけではない。
クールはそんな弟を微笑ましく思ったが、口には出さないでおいた。
.
-
(・∀ ・)「ねーちゃんも早く仲直りしろよー」
川 ゚ -゚)「ん?」
(・∀ ・)「喧嘩でもしたんだろ? どーせくっだらねーことで。
ねーちゃんは言葉の選択おかしいとこあんだよ」
ドクオではなくクールが原因だと微塵も疑ってない様子に、微かに苦笑した。
川 ゚ -゚)「随分と姉に対する信頼がないな」
(・∀ ・)「信頼してっから、ちゃんと言えば分かって貰えるって思ってんだよ、馬鹿姉貴」
川 ゚ -゚)「……そうか」
不意に泣き出したい気持ちになった。
祭囃子が聞こえる。それに紛れるように、蝉が鳴いている。
幼い頃に遊んだ川を、見上げた山の緑を、思い出す。
この一瞬を、クールは忘れない。
.
-
(・∀ ・)「ん」
またんきがポケットからケータイを取り出す。
かちかちと画面をスクロールさせ――はあ、とため息をついた。
(・∀ ・)「成功したってさー」
川 ゚ -゚)「よかったな」
(・∀ ・)「これから皆で遊ぶって。彼女含めて。
いやいや、成功したんだったら放っといてやれよー」
川 ゚ー゚)「友達思いじゃないか」
(・∀ ・)「ま、しゃーねーから祝いに行ってやるよ。
じゃ、ねーちゃん後でなー」
ひらひら手を振って、またんきは境内から伸びる階段を下りていく。
その後ろ姿が見えなくなってから、クールはゆっくりと立ち上がった。
空はもう、星が見え始めている。
深いのに透明な気がするこの青が、クールは好きだった。
優しく包まれている気がする。
やがて、クールは歩き出した。
.
-
+ + + + +
――その晩、姉がした話は、またんきに大きな衝撃を与えた。
長い話だった。
暫く、誰も何も言わなかった。
けれど両親は既に受け入れているように見えて、不思議だった。
ノパ⊿゚)「もう、決めたんだね」
川 ゚ -゚)「……ああ」
( ゚д゚ )「……」
ノパ⊿゚)「じゃ、色々準備しなきゃいけないね」
明日は様々な準備をし、明後日――クールの誕生日は家族で過ごし、送ることに決まった。
もう遅いから寝なさい、という母の言葉に従って、席を立つ。
( ゚д゚ )「クール」
ずっと黙っていた父が声を掛けた。
またんきは一足先に廊下に出て、背中で会話を聞いた。
( ゚д゚ )「……たまには、帰ってきなさい」
川 ゚ -゚)「……帰って、来れるかな」
( ゚д゚ )「来れるさ。だから、いいね?」
川 ゚ -゚)「――はい」
.
-
階段を上って、自室に辿り着く。
ふと思い出して、ケータイを取りだす。メールを打って――消した。
遅いけど、電話にしよう。まだ起きてる筈だ。
『もしもし?』
(・∀ ・)「あ、オレ」
『直から電話なんて珍しいね』
(・∀ ・)「あのさ。祭りの最後の日なんだけど、行けなくなった」
『え? どうして』
くすくす笑っていた声は、途端不機嫌になる。
『直から一緒に行こうって言ったんじゃない。楽しみにしてたのに』
(・∀ ・)「ごめん。ねーちゃんがさ、今帰って来てて。
……暫くさ、会えないから、家族で過ごそうってなったんだ」
『ふぅん……そっか、仕方ないか』
(・∀ ・)「ほんとごめん。隣町の花火大会は一緒に行こうぜ」
『ほんと!?』
今度は一転、はしゃいだ声になる。
隣町のは人多いから嫌だって断ってたから、行くって言ったら喜んでくれると思った。
(・∀ ・)「ん。じゃあ明後日はごめんなー」
『んーん。じゃあおやすみ』
(・∀ ・)「おやすみ」
.
-
(・∀ ・)「よし」
川 ゚ -゚)
(・∀ ・)
ケータイを閉じて目を上げると、クールと目が合った。
生温かい視線を感じる。
.
-
川 ゚ -゚)「なんだ。夕方あんなこと言っておいて、彼女いたのか」
案の定、微かに笑って、というかにやついてクールが訊いてくる。
(・∀ ・;)「うっ、いやその」
川 ゚ -゚)「『隣町の花火大会は一緒に行こうぜ』」
(・∀ ・;)「おいこらっ」
川 ゚ -゚)「『一緒に』」
(・∀ ・*;)「やめろ馬鹿姉貴ー!!」
思わず叫ぶと、ようやくクールは口を噤む。
こんな形でバレるとは思わなかった。悪態をつこうにも心臓がばくばくしすぎて出来ない。
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川 ゚ -゚)「約束、すまんな。大事にしてやれ」
(・∀ ・)「……いいよ。花火大会行くし」
川 ゚ -゚)「一緒にな」
(・∀ ・)「もういい!」
すまん、と言いはしたが、今度のすまんはとてつもなく軽い。
何とはなしに二人して黙り込む。
そっとクールを見ると、突き当りの窓を見ていた。――窓の外を。
(・∀ ・)「……付き合ってないって、言ってたじゃねーか」
川 ゚ -゚)「事実付き合ってない」
(・∀ ・)「なのに、決めたのかよ。つーか人じゃないって何ソレ」
川 ゚ -゚)「……どうしてだろうな」
いつもクールは静かだ。冷静で、マイペースで。
感情を乱すことがあるのかと思う程。
川 ゚ -゚)「ただ、……泣かないで欲しいと思ったんだ」
なのにその声には、あまりに真摯な響きがあった。
いま泣き出しそうなのは、クールの方ではないのか。
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(・∀ ・)「……そっか」
呟くと、クールは小さく頷いた。
川 ゚ -゚)「そろそろ寝ないと母さんにどやされるぞ」
(・∀ ・)「もう子供じゃねっつーのー」
川 ゚ -゚)「そうか。私は寝るよ。おやすみ」
(・∀ ・)「おやすみー」
クールが自室に戻り、扉を閉める。
それを見てから、またんきも自室の扉に手を掛けた。
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+ + + + +
一日はあっという間に過ぎた。
大学関係の書類を調べたり、向こうで暮らしている部屋のことだったり、
荷物をまとめたりしている内に、夜だった。
クールが居間に降りると、着物が出してあった。成人式の時に着る予定だった、振袖だ。
ノパ⊿゚)「今ある一番の晴れ着だからね」
ヒートが笑う。
ノパ⊿゚)「夏だとちょっと暑いけど。やっぱりお洒落なドレスにしようか」
川 ゚ -゚)「振袖がいい」
ノパ⊿゚)「そう?」
川 ゚ -゚)「気に入って選んだものだし」
両親はクールが振袖を着るのを楽しみにしていた。
これがいい。
川 ゚ -゚)「母さん、袴も持って行っていいかな」
ノパ⊿゚)「うん、勿論!」
ミルナとまたんきが帰宅し、普通にご飯を食べ、話をして、その日は終わった。
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翌朝――クールの誕生日。
着替えが二枚入った小さなカバンだけを持ち、クールは部屋を後にした。
ミルナは午後から半休を取り、それから皆で出かける予定だ。
台所では、ヒートがお重に詰めていた。
何をしているのか訊くと、
ノパ⊿゚)「んー、持参金? 代わり?」
とのことだった。
きっと喜んでくれる、と思った。
何もかもやってもらうのは申し訳ないので、クールも手伝って午前を過ごした。
ミルナが帰って来て、またんきも一緒に暫く他愛ない話をする。
それから着付けをして貰う。
髪は背中で一つに括るだけにした。
小さなカバンと重箱、それから袴。家を四人揃って出る。
重箱はミルナが、袴はまたんきが持った。
川 ゚ -゚)「いってきます」
ノパ⊿゚)「いってらっしゃい」
小さく呟くと、ヒートがそう返してくれた。
出店の並ぶ通りを抜け、舞台の前へ。
何度か振袖を訝しまれたが、適当に切り抜けた。
(゜д゜@「あらやだ、クーちゃんとっても綺麗ねえ」
そうやって褒めてくれる人も、同じくらい居た。
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( ゚д゚ )「始まるぞ」
夕闇の迫る頃、舞台横に火が灯され、舞が始まった。
悪さをする蛇、それを退治して封じる。
けれども蛇は悪さをやめない。
行者が出てきて、村人と蛇は約束をする。
神として祀ること。祭りを奉納すること。
末永くこの村を守ること。
蛇と村人が手を携え、そっと礼をして、舞は終わった。
(・∀ ・)「……意味分かってみるとちげーんだなー」
前はよく分かんない内に終わってた、とまたんきが感心しながら言う。
確かに、全く違って見えた。
素朴な村人と、寂しがり屋の蛇。
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それから人の波に逆らって、神社の境内を目指す。
着いた時、周りは薄暗く青に染まっていた。
ヒートがクールの襟元をそっと正す。
ノパ⊿゚)「……うん、よく似合ってるよ、クー」
川 ゚ -゚)「ありがとう、母さん」
( ゚д゚ )「クー。これは父さんと母さんから」
ミルナが差し出したのは、民話を集めた本だった。
丸みを帯びた風のような形の栞が挟まっている。本体は金色で、緑の紐が結ばれていた。
川 ゚ -゚)「ありがとう。後で読むよ」
(・∀ ・)「はい」
またんきが差し出したのは、小さな水色の袋。
開けると銀色の細いチェーンが入っている。
(・∀ ・)「ネックレス。ペンダント?
本当は何か飾りあるんだけど、いいの分かんなかった」
川 ゚ -゚)「着けてくれるか?」
少し屈む。
またんきは腕を回し、悪戦苦闘しながらもチェーンをクールに着けた。
川 ゚ -゚)「大事にするよ。ありがとう」
(・∀ ・)「ん」
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クールは家族をじっと見つめた。
クールが決めたことを受け入れ、助けてくれた。
信じてくれた。
ヒートがクールを抱きしめる。
またんきが横にしがみ付き、ミルナが全員を纏めて抱きしめた。
川 ゚ -゚)「……ありがとう」
やがて誰ともなくゆっくりと離れていく。
クールは荷物を手にした。
ノパ⊿゚)「元気でいるんだよ! クール!」
(・∀ ・)「……ねーちゃん」
( ゚д゚ )「いってこい、クール」
一人一人に頷いて、クールは山への道を登り始めた。
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「………なん、で」
「約束したろう」
「だって」
「ちゃんと準備だってして来たんだ」
「そのでかいヤツ…?」
「そうだ。持参金代わりだって母さんが。それと、これ」
「…シャボン玉」
「あとで、皆でやろう」
「………ああ」
「あと持ってきたのは誕生日プレゼントだけだな」
「…そのチェーンも?」
「ああ、またんきがくれた」
「………」
「似合ってるか?」
「ああ、似合ってる。…その、これ」
「……いつの間に。ありがとう」
「…渡せないと、思ってた」
「……」
「ありがとう」
「……行こう?」
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+ + + + +
祭りの終わった夜半、ぽつぽつと雨が降り出した。
梅雨明けから降水量を気にしていた住民たちは喜んだ。
明け方まで降り注いだ雨は、その年の収穫を約束する、慈雨だった。
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(
)
i フッ
|_|
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乙
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お疲れさまでしたー
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乙、すごく良かった
ドクオの正体分かって以降半泣きになりながら読み進めたわ…
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読みながら何度泣いたか分からん
みんな幸せになってくれ!
乙!!!
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乙、なんだかほのぼの感があってよかった
またんきがいい子すぎる
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おつです!
切なくって泣いたわー…
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昨年といい今年といい、(・∀ ・)←こいつはいい仕事してるな
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乙!
序盤でクトゥルフかなんて思った俺を殴りたい
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>>87
おまおれ
乙
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いい話だった
乙
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