■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■

( ´_ゝ`)時間を司るようです(´<_` )
1名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:37:07 ID:tbKo1Qf20
予告編スレで予告した者です
ぼちぼち投下ー

2名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:38:29 ID:tbKo1Qf20
 
 

 
 
すべてはもう、ずっと前から始まってた、なんて。

3名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:40:05 ID:tbKo1Qf20
 
二人で過ごすには大きすぎる一軒家の、二階に弟者の部屋はある。階段を登ってすぐの、茶色い木の温かみがある扉。

それの向こう側に真っ赤な景色があるなんて、いったい誰が想像したのだろう。

( ´_ゝ`)「……弟、者……?」

返事なんてありはしなかった。

ただ、部屋の中央に転がった乾いた血溜りの中に、弟者のネックレスがあるというだけで。

兄者は膝から崩れ落ちた。

4名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:42:55 ID:tbKo1Qf20
 
 
 
『――続いて、次のニュースをお伝えします。本日より首相が――』
 
( ´_ゝ`)「……クソッタレ」
 
兄者はそう言うとテレビの電源を落とした。
 
弟者が血まみれの部屋とネックレスを残して消えた日から一週間。
行方不明となった兄弟の弟の情報を求める報道など、少なくなっていくのが当然だった。
 
初日なんかはもう酷かった。家の外にマスコミと野次馬が集結し、買い物にも行けずカーテンを全て閉めて外界から自分を遮断した。
 
マスゴミめ、と毒づいた自分は悪くない、と兄者は思う。

5名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:44:56 ID:tbKo1Qf20
( ´_ゝ`)(しかし、まあ……減ったな)

数えるのも嫌になるくらいだった人の量も、今では片手で足りるくらいだろう。家の前にはいるが、無言で去れば追いかけるのをやめるくらいになった。

( ´_ゝ`)「弟者……」

6名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:46:29 ID:tbKo1Qf20
部屋に広がっていた血が弟のものだとすれば、あれは致死量だ。
部屋の中心から、壁にまで飛び散った血飛沫の跡。そして割れた窓ガラス。
 
いくら階が違うとはいえ、全く気が付かなかった自分を殴りたい。
兄者は後悔に拳を握り、それをソファに叩き付けるとクッションを抱え込んで横になった。
 
夕飯を作っていない。ああ、二人分作る癖がどうしても抜けない。
もう、帰ってこないかもしれないのに。

広すぎる部屋に、弟の骨壺を置いた風景を想像するのが怖くて。
兄者は思考に蓋をするように眠りについた。

7名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:48:42 ID:tbKo1Qf20
 
 
 
 
 
( ・∀・)「や、こんばんは」

( ´_ゝ`)「……は?」

目の前に、胡散臭い笑みを貼りつけた男がいた。

( ・∀・)「不法侵入してしまってすまないね。でも、まあ緊急事態だから許してくれないかな」

( ´_ゝ`)「……誰だ、あんた」

( ・∀・)「僕はモララー、モララーだよ。ねえ」

8名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:50:58 ID:tbKo1Qf20
 
( ・∀・)「あんたの弟、救う方法があるって言ったら、信じる?」

( ;´_ゝ`)「――え、」
(    )「おや、先を越されてた」

瞠目する兄者の後ろから、また別の声が落ちてきた。
唐突なそれに驚いて振り返った先には、

(´・ω・`)「君、死んでくれないかなあ」

真っ黒な、銃口があった。

9名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:53:31 ID:tbKo1Qf20
( ;´_ゝ`)「――ッ!」

衝撃を覚悟して目を瞑った。が、衝撃は襲ってこず、代わりに鼓膜が破れそうな破裂音と体に浮遊感が走った。
閉じていた瞳を開ければ、兄者は床に尻餅をついていた。自分が座っていたソファを挟んで相対するモララーと男の姿がある。
モララーの肩からは血が流れていた。

( ;´_ゝ`)「……あんた、」

( ・∀・)「舌噛まないで、よッ!」

10名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 16:55:40 ID:tbKo1Qf20
モララーは言うと兄者の手を掴んで引っ張り起こし、リビングから廊下に出る扉に突き飛ばした。
元から開いていた扉の向こうにまた倒れ込むと、その背を支えられた。

( ,,゚Д゚)「出るぞ、モララー!」

兄者を支えた青年が、鋭い声で叫ぶ。
モララーは男の短銃を持つ腕を蹴り上げると、兄者と青年の方へ駆けてくる。
 
 
 
男が落とした短銃を拾い上げた時、もうその家には男以外の人物は存在しなかった。

(´・ω・`)「……ちっ」

男は舌打ちすると、ソファを蹴った。

11名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 17:00:23 ID:LpyLAias0
しえーん!

12名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 17:04:01 ID:afMu3ZWw0
支援

13名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 17:04:48 ID:tbKo1Qf20
 
 
 
 
( ・∀・)「追ってはこなかったみたいだね」
 
( ,,゚Д゚)「元から本気じゃなかったんだろうな。連れて行けそうなら連れていく、みたいな感じだろ」
 
( ;´_ゝ`)「ッ、あんたら……」
 
兄者はまったく状況が掴めていなかった。
 
モララーが男の方からこちらの方へと走ってきた瞬間だ。
後ろの青年が持っていた「何か」から、青い光が突然漏れ出して、自分達を覆い始めた。
そして気が付けば知らない場所にいた。モララーはギリギリ間に合ったというところだ。
 
( ・∀・)「ああ、ごめんね。こいつはギコっていうんだ」
 
( ;´_ゝ`)「そうじゃなくて!」

14名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 17:09:41 ID:tbKo1Qf20
窓からは真っ青な空が見える、どころではなく。むしろ下に雲と、そのまた下に小さくなった自分の街が見えている。
僅かに伝わる振動も加えれば、ここは――

( ・∀・)「ああ、ここ? 飛空艇の中だけど」

( ;´_ゝ`)「エスパーか!?」

( ・∀・)「いや、なんか言いたいこと顔に書いてあるから」

( ;´_ゝ`)「うそン!?」

( ,,゚Д゚)「いやそうじゃねえだろ」

15名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 17:16:49 ID:tbKo1Qf20
そうだった、と兄者はギコの声で我に返る。

弟を救う方法。
襲ってきた男。
家の中にいたはずなのに、こうして一瞬で飛空艇の中にいること。

( ´_ゝ`)「あんた達、一体――」

( ・∀・)「……僕はモララー。こっちはギコ。で、君は流石兄者で合ってるね?」

なんで俺の名前、と聞き返したがったが、なんとなく聞くのは気が引けた。

モララーとギコが互いに視線を交わした後――頷くなり、兄者の前に跪いた。

16名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 17:22:29 ID:tbKo1Qf20
( ´_ゝ`)「!? 何して――」
 
 
 
( ・∀・)「流石兄者殿。僕らの主人、過去を司る者よ」
 
 
 
言われていることが、理解できなかった。
 
 
 
( ,,゚Д゚)「我らはあなたをお守りする為に参上致しました」
 
 
 
 
 
第1話「始」・終

17 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/02(土) 17:25:46 ID:tbKo1Qf20
酉付けてみたった
支援ありがとうございましたー短い上に急展開の不親切設計ですみません
今回投下分はここまで。後半ながら投下で申し訳ない

こんなんですが細々と続けていきたいなーと思います
読んでくださりありがとうございましたー!

18名も無きAAのようです:2013/03/02(土) 17:43:05 ID:a15/RFuM0
乙。楽しみだ。

19名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 13:49:24 ID:THrtmUrg0
おお!これから楽しみだ
乙!

20 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/04(月) 22:06:04 ID:eH7oOPFY0
どもー
第2話投下していきたいと思います

21名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:14:29 ID:eH7oOPFY0
 
 
 
「逃がさない」

その声が孕んでいた、狂気は。
 
 
 
第2話「知」

22名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:15:57 ID:eH7oOPFY0
 
世界は不安定である。

ゆえに、世界は人柱によって支えられている。
人柱にそれぞれ力が宿り、代替わりする時には生まれたばかりの赤子にその力を宿すという。
力を宿した者、人柱のことを、受け継ぎし者、「受継者」と呼ぶ。

その中でも時間の受継者は、代々関わりの深い二人組に力が受け継がれるという――

23名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:17:23 ID:eH7oOPFY0
( ,,゚Д゚)「で、兄のあんたが過去を、弟者は未来を司るってわけだ」

( ・∀・)「僕らは時間の受継者の守護者の一族でね。その中でも過去の受継者である君を守ることになってる」

ちなみに一瞬で移動したのはこれ、と、モララーが持っていた小さな青い石の破片を兄者に見せた。

( ・∀・)「過去に指定した場所に瞬間移動できるようになってる。守護者である僕らが使えるものだけど、使い捨てだよ」

言ったそばから、石の破片は淡い光を発してその姿を砂に変えた。先ほどまでの青とは似つかない黒い砂を、モララーは「あーあ」と言いながら窓を開けて外に捨てた。

24名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:19:37 ID:eH7oOPFY0
砂を捨てたモララーの肩が未だ赤い血に濡れていて、兄者ははっとした。

( ;´_ゝ`)「そうだお前! 血!」

( ・∀・)「ん? ああ、もう傷は塞がってるんだけどさあ」

ははは、と笑いながらモララーは肩を回して見せた。
確かに血は流れないが、固まった血がぱらりと地面に落ちて兄者は顔を顰める。

( ・∀・)「僕のことは気にしないでいいよ。治療担当の奴もいるから」

( ´_ゝ`)「治療担当?」

(   )「帰ってきたんなら報告しなさいよ」

25名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:22:04 ID:eH7oOPFY0
兄者が聞き返した直後、背後にあった扉が開いた音がした。
そこから聞こえた凛とした声に振り返る。

ξ ゚⊿゚)ξ「げ。何、怪我してるのあんた」

( ・∀・)「僕だって怪我くらいするよ」

(*゚ー゚)「平然とした顔しないの、モララー!」

扉を開けた少女の後ろから、女が声を上げてモララーに駆け寄った。
咎めるような色を含んだその声音に、モララーは少し困ったように笑う。

( ・∀・)「悪かったよ、しぃ」

(*゚ー゚)「分かったならいいけど、ちゃんと報告してね。じゃないともう治してあげないよ!」

26名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:22:16 ID:SyGNSk/c0
しぇ

27名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:23:57 ID:eH7oOPFY0
モララーに駆け寄った女はしぃというらしい。

ふとただならぬ雰囲気を感じて、兄者は視線を横に遣った。
ギコが、モララーとしぃを鋭い目でじっと見つめている。

( ´_ゝ`)「……ギコさーん?」

呼びかけてみたが返事は無い。
ふと兄者は、その視線の中に隠しきれない心配と愛情が見えているのを発見した。

視線をモララーとしぃに向けてみる。
すると、しぃは何かを感じたようにきょろきょろと周りを見渡した。ギコと目が合う。
しぃは花が咲いたような、可憐な笑顔を見せた。

28名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:25:31 ID:eH7oOPFY0
 
( ´_ゝ`)(あー……なるほど、そういうこと)

リア充爆発しろ。
兄者が小さく呟いたその言葉は、ギコには聞こえなかったらしい。
 
 
 
( ・∀・)「さて、ご主人。君、青い石を持ってるよね?」

傷はもう塞がっているから、と肩に包帯を巻かれたモララーはそう口を開いた。

29名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:27:20 ID:eH7oOPFY0
 
( ´_ゝ`)「……ある」

兄者は服の首元に手を突っ込み、服の下から青い石の付いたネックレスを出して見せた。透き通るような青色は、海の色を彷彿とさせる。

( ・∀・)「それは君が過去を司るっていう証明みたいなものだよ。で、もう一つ」

モララーの瞳が、期待と不安を孕む。
 
 
 
( ・∀・)「緑の石が、どこにあるか知ってるかい?」

30名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:28:46 ID:eH7oOPFY0
 
( ´_ゝ`)「……弟者のものだが、俺が持ってる。部屋の真ん中に落ちてた」

兄者の言葉に、モララーを含めた一行が歓喜の声を上げた。
自分だけ置いて行かれて周りは喜んでいる。その状況についていけず、兄者は「ちょっと待ってくれ」と思わず言った。

( ´_ゝ`)「石って何なんだ? 俺らが物心ついた時から持ってたものだが、そんなに価値があるのか」

( ・∀・)「価値も何も、力そのものだよ」

( ´_ゝ`)「……は?」

( ・∀・)「いいかい、ご主人」

31名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:30:32 ID:eH7oOPFY0
 
「思い出してごらんよ」モララーはそう言った。

( ・∀・)「僕らが瞬間移動に使った石の破片。あれも青かっただろう? 同じものなんだ」

( ´_ゝ`)「同じ?」

( ・∀・)「そう。つまりね」
 
 
 
( ・∀・)「君は石があれば、過去を操ることができるんだ」
 
 
 
( ´_ゝ`)「……は?」

32名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:34:16 ID:eH7oOPFY0
 
 
 
 
 
( ^ω^)「……これ、は」

過去の守護者の男――内藤ホライゾンは、目の前に広がる地獄絵図に思わず口を覆った。

川 - )

  _
(  ∀ )

从 ∀从

倒れ伏しているのは、未来の受継者の守護者達だ。
倒れた皆からは、すでに命の灯火は消えている。

( ^ω^)「間に合わなかったお……でも、足りないお」

33名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:36:40 ID:eH7oOPFY0

自分の記憶では、あと2人守護者がいた筈だ。
その守護者と受継者がいないということは――まだ、可能性はある。

( ^ω^)「未来の受継者はぼくらに任せるお。だから……ゆっくり、休むといいお」

内藤は膝をついて、繋がった彼らの手に自分の手を重ねた。





第2話「知」・終

34 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/04(月) 22:42:39 ID:eH7oOPFY0
今回はここまでー
支援ありがとうございました

前回言い忘れたんですが、兄者の部屋は1階にあります
なので弟者の部屋で何かが起きても階が違うので気付きませんでした

のろのろペースですが読んでくだされば幸いです
ありがとうございましたー!

35名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 22:50:00 ID:SyGNSk/c0
おつー

36名も無きAAのようです:2013/03/05(火) 22:56:59 ID:2eDSH2Y2C
兄者が気付かなかったのは敵の超能力の伏線かと勝手に深読みしてた

モララーもただの不法侵入?

37 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/06(水) 17:47:38 ID:fXNF5Kx60
なんか甘いもの食べたい

投下しますー

38名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 17:49:32 ID:fXNF5Kx60
('A`)「……」

倒れ込んだ地面はカラリと乾いていて、衣服に大して泥を付けることはなかった。
元から衣服は血塗れで汚れているのだが。

('A`)「……」

地面に倒れ込んだ男は、痛む腹に顔を顰める。
襲いくる強烈な眠気にいよいよ負けそうになって、閉じまいとしていた瞼から力を抜いた時だった。

( ^ω^)「――ドクオ? ドクオ!!」

一度は確信が無かったのか、疑問で上がった語尾。
二度目は確実に自分の存在を認識して、呼んできた。

ドクオは動かすのも億劫だった表情筋で、微かに笑った。

39名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 17:51:03 ID:fXNF5Kx60
 
 
 
 
 
その内に秘められた力を知る時は来た。
 
 
 
第3話「実」

40名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 17:52:53 ID:fXNF5Kx60
 
 
 
( ・∀・)「つまりさ、ご主人。君、その気になれば歴史の改変もできるんだよ」

( ´_ゝ`)「……たとえば?」

( ・∀・)「織田信長を本能寺で死なないようにするとか」

( ´_ゝ`)「なんで織田信長なんだ」

( ・∀・)「なんとなく?」

茶化すように笑うモララーに、眩暈がした。
溜息を一つ吐いて、兄者は頭を抱える。

理解がとても追いついていかない。もういっそ新手の詐欺集団ではないかと思い始めたところだ。
だが、それにしては話が凝り過ぎている。

それに、兄者はもう1つ認めざるを得ない点があった。

41名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 17:54:02 ID:fXNF5Kx60
 
( ´_ゝ`)(……石、1度も人に見せたことなんかなかったのに)

物心付いた頃から持っている、石の付いたネックレス。兄者は青を、弟者は緑を。
親の写真も1枚も持っていなかった兄弟が、唯一持っていたものだ。

2人だけの生活には金が要る。その為ひたすらバイトをしてきた兄者は、それらしい友達も居らず石が見つかる可能性はほぼ無かった。
高校に通う弟者は、体育の時などにどうやって隠しているのかは謎だが。

とにかく、石のことは誰にも見せたり話したりしてはいけないと。兄弟間でそう決めていた。
どうしてそうしたのかは、もう思い出せないが。

42名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 17:55:14 ID:fXNF5Kx60
 
( ´_ゝ`)「……あ」

そう思い返していた兄者は、ふと重要なことに気が付いた。唐突に思考を止めた額に冷たい汗が流れる。

どうして、
どうしてさっき、問われたときに気が付かなかったのか。

( ;´_ゝ`)「……ひじょーに申し上げにくいんですが」

黙り込むなり青い顔をしてそう切り出した兄者に、周りは怪訝そうな顔をする。
あああ泣きそうだ、と兄者は今から口にする言葉を引っ込めたくなる気持ちでいっぱいだった。

( ;´_ゝ`)「弟者の石……家に置きっぱなしだわ」

43名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 17:56:50 ID:fXNF5Kx60
 
 
 
 
 
ξ ゚⊿゚)ξ「……大丈夫みたいね」

( ;´_ゝ`)「申し訳ない……」

兄者が家に石を取りに行くのに、ついてきたのはツンとギコだ。
敵が残っている可能性もあり、護衛で兄者に付き添っている。

ツンが玄関先を見張り、ギコが窓の外を見遣る。その間で兄者はリビングに置いてある棚の引き出しを開けた。

44名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 17:58:24 ID:fXNF5Kx60
家を離れる前と同じ場所に、緑の石はそこにあった。

( ´_ゝ`)「よかった……」

( ,,゚Д゚)「終わったか?」

( ´_ゝ`)「ああ」

ギコの問いに答え、緑の石のネックレスを隠すように自分の首にかけようとした時だった。

( ´_ゝ`)「……? あ、れ」

緑の石に、わずかに罅が入っていた。

45名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:00:15 ID:fXNF5Kx60
ξ;゚⊿゚)ξ「なんでっ!?」

玄関先から聞こえてきたツンの声に、兄者とギコが弾かれるように視線を向けた。
困惑と焦り。ツンの声音に含まれたその色に、二人は何者かが現れたことを知る。
それがどうやら、味方ではなさそうなことも。

先導するギコの後ろに続き、玄関から伸びる廊下を伺った。
先に覗いたギコが、「な」と瞠目して声を漏らす。
つられるように兄者が顔を出す、と。

( ´_ゝ`)「……え?」

ξ;゚⊿゚)ξ「なんで、あんたがいるのよ――デレ!」

46名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:01:29 ID:fXNF5Kx60

ツンと似ていて違う。ツンと比べれば顔立ちは柔らかく幼いだろう。
デレと呼ばれた少女は、この場の雰囲気に似合わない笑顔を浮かべて、玄関に立っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、あなたが兄者さん?」

目の前にいるツンなど見えていないかのように、奥にいた兄者に向かってデレは話しかけた。
綺麗だと表現されるその笑みにどこか薄ら寒いものを感じて、兄者はぞくりと肩を震わせる。
ギコがデレの視線から遮断するように、兄者の前にしっかりと立ち塞がった。

47名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:03:03 ID:fXNF5Kx60

ζ(゚ー゚*ζ「初めまして、私デレっていいます。弟さんにはお世話になってます」

( ;´_ゝ`)「ッ!」

ξ ゚⊿゚)ξ「デレ!!」

明確な、敵だというアピール。
ツンは自分と目を合わさないデレの肩を掴むと、もう一度確かめるように名を呼んで揺さぶった。

48名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:04:57 ID:fXNF5Kx60
ξ ゚⊿゚)ξ「見えてるでしょう、聞こえてるでしょう! どうしてあなたがここにいるの、答えなさいデレ!」
 
 
 
ζ(゚ー゚*ζ「――うるさい、なあ」
 
 
 
デレの声が、低く唸る獣のような獰猛さを持った。

ζ( ー *ζ「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい」

俯いたデレが、そう呟きながらツンの手を払う。
兄者は、ふと家に流れる空気が風となって流れていることに気が付いた。

( ´_ゝ`)「なんで、窓も開けてないのに――」

風は自分の後ろから、廊下を通って玄関へと流れていく。
兄者がぽつりと零したその言葉に、ギコははっとして叫んだ。

49名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:07:34 ID:fXNF5Kx60

( ,,゚Д゚)「主、ツン! 耳塞いで身を守れ!!」

( ´_ゝ`)「え、」

ζ( ー *ζ「あなたなんか――」

デレが俯いていた顔を上げる。

ζ(゚ー゚*ζ「『知らない』ッ!!」

刹那。
音。

ξ ゚⊿゚)ξ「――ぁっ、」

どんっ、と。
ツンの体が吹き飛ばされて、壁に強く叩き付けられた。

50名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:08:58 ID:fXNF5Kx60
耳を塞いだのがあまり意味をなさないほどの、爆音。
それによって痛む頭に、兄者は小さく悲鳴を上げた。

デレの目の前にいたツンは吹き飛ばされている。
「ツンッ、」そう叫んだ兄者の前から飛び出していったのはギコだった。

ギコの手から眩い青い光が放たれて、一つに収束する。次の瞬間、青い光は青い両手剣へと形を変えていた。

( ,,゚Д゚)「ぁああっ!!」

声を上げ、斬りかかる。空気を切り、重い音を立てて迫るその刃は、

51名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:10:57 ID:fXNF5Kx60

ζ(゚ー゚*ζ「『止まれ』ッ!」

( ,,゚Д゚)「ぐっ、」

デレが発したその言葉の振動とぶつかった。
だが、一瞬弾かれただけで留まる。

一度跳ね返った剣を、床を踏みしめ体を低く前に突き出せば手も自然についてくる。
体を前に出した反動で腕を薙げば、持った剣に逃げ切れなかったデレがぶつかるのをギコは感じた。
デレの体に突き進む感覚は浅い。
剣の届く範囲から逃げ出したデレは、ギコによって傷付けられた腕を押さえて身を翻した。

ξ ゚⊿゚)ξ「っで、れ、」

ツンの掠れた声に答えることはなく。
デレの姿は、扉の向こうに消えた。

52名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:12:33 ID:fXNF5Kx60

( ´_ゝ`)「ツン!」

兄者は叩き付けられて壁に背を預けたツンに駆け寄った。
出ていくデレを見届けてから気を失ったらしい。意識はなかった。

( ´_ゝ`)「これは、一体、」

( ,,゚Д゚)「ツンは『声』を武器にする」

デレが出て行った玄関を見つめていたギコが、もう戻ってこないと判断したのか兄者とツンの元へ近づいた。

( ,,゚Д゚)「声によって発生する空気の振動を、衝撃波に変えて攻撃するんだ。
風だと思ってたのは、それを作る為に必要な酸素を取り入れてたせいだろう。
まさか同じ能力を持っているとは……」

53名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:13:41 ID:t8pj121Q0
支援

54名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:14:04 ID:fXNF5Kx60
( ´_ゝ`)「あの、デレって子は?」

( ,,゚Д゚)「ツンの妹、だと思う。前に妹がいると話してた」

しゃがみこみ、ツンの苦痛に歪んだ顔を見てギコが顔を顰めた。

( ,,゚Д゚)「まずいな。肋骨が折れてるかもしれない」

( ´_ゝ`)「早く連れ帰らないと」

ツンを背負おうと手を伸ばしたが、ギコに止められる。
純粋な疑問に首を傾げた兄者は、まっすぐ見つめてくるギコに不安を覚えた。

( ´_ゝ`)「ギコ?」

( ,,゚Д゚)「しぃの治療を受ける必要はない」

主、と呼んだギコは兄者からまっすぐな視線を逸らすことなく、

55名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:15:26 ID:fXNF5Kx60

( ,,゚Д゚)「主。あんたが、ツンを治すんだ」

そう言った。

( ´_ゝ`)「治す、って」

( ,,゚Д゚)「大丈夫だ。死に関わらない範囲なら、影響は無い」

( ;´_ゝ`)「ギコ、まさか」
 
 
 
( ,,゚Д゚)「過去を操る術を、ここで身につけろ。主」

無理だ、と兄者は口の中で呟いた。

56名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:16:53 ID:fXNF5Kx60

 
自分が過去を操れるなど、ほんの数時間前に知ったばかりだ。
まだ頭の中はごちゃごちゃで理解できなくて、自覚なんてある筈もない。
ましてや、その力を使えなんて。

兄者の心情を知ってか知らずか、ギコは兄者に「自分の石は持ってるよな」と問うた。

( ,,゚Д゚)「操るのに必要な条件は3つあると聞いている。
これは今までの時間の受継者共通だったから、きっとあんたもこの方法でできるはずだ。

石を身に付けて、対象に触れ、願う」

( ´_ゝ`)「……願う、」

57名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:18:01 ID:fXNF5Kx60
見つめてくるギコの視線に耐え切れず俯いた。
視線を落とすと、ツンの脚が目に入る。
ツンの、痛みからだろうか、苦しみに喘ぐ息が、兄者の耳を打つ。

眩暈がしそうだった。理解ができなかった。

けれど、今、それをやらなければ。
ツンは、このまま帰っても痛みを引きずることになる。
兄者はツンの顔を見て――きつく閉じられた瞼を見て、彼女の手に触れた。

( ´_ゝ`)(石を、身に付けて)

58名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:19:21 ID:fXNF5Kx60
空いている手で、服の下に潜り込んだネックレスを引っ張り出す。

( ´_ゝ`)(対象に触れ)

女性の手は細くて柔い。
こんな弱弱しい手が、自分をこれから守ってくれる存在なのだと思うと申し訳なくなった。

( ´_ゝ`)(願う)

いつの間にか、言葉は頭に浮かんでいた。

( ´_ゝ`)「我、過去を司る者」

ギコの見守る中、兄者がその言葉を発した途端石が凶器のような光を放った。
強すぎるその光に一瞬目を閉じざるを得なくなる。

光を遮るように目元に手を遣って、その指の隙間から見えたのは。

59名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 18:21:01 ID:fXNF5Kx60

光と同じ色、茶からその瞳を青色に変えた兄者の姿だった。

( ´_ゝ`)「彼の者を癒せ。巻き戻れ、時の歯車よ」

石から広がった光が、気を失ったツンを包み込んだ。
 
 
 
 
 
第3話「実」・終

60 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/06(水) 18:22:41 ID:fXNF5Kx60
今日はここまで
支援ありがとうございました!

短文にしてしまう癖をなんとかしたいと切に思います

61 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/06(水) 18:32:53 ID:fXNF5Kx60
>>36

弟者を狙う敵は襲撃に家を襲撃したものの、駆け付けた守護者との戦闘の為すぐに家から出ました
(=未来の守護者達が死んでた場所が家ではない)

モララーは本当に単なる不法侵入です(笑)

ちなみに現時点で判明してる登場人物達

過去:( ´_ゝ`)
( ・∀・) ( ,,゚Д゚) (*゚ー゚) ( ^ω^) ξ ゚⊿゚)ξ

未来:(´<_` )        _
川 ゚ -゚)(死亡) ('A`) ( ゚∀゚)(死亡) 从 ゚∀从(死亡) ???

敵:???
(´・ω・`) ζ(゚ー゚*ζ

62 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/06(水) 18:34:21 ID:fXNF5Kx60
質問とかあれば気軽に聞いてください

展開に影響しないものであれば次回更新時とか気が付いたら携帯から回答します

ありがとうございましたー

63名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 19:20:22 ID:HzEk2/6s0
乙ー

64 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/08(金) 21:54:32 ID:NCS7eLS60
 
 
 
 
 
夢であれ、と。



第4話「縋」

65名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 21:56:15 ID:NCS7eLS60
 
 
 
 
 
どん、と床が僅かに揺れた。

( ・∀・)「おや?」

モララーは座っていた椅子から立ち上がると、少し考え込むような素振りを見せる。
だがそれも一瞬のことで、次の瞬間にはもう歩き出していた。

(*゚ー゚)「モララー、何か良いことでもあったの?」

心なしか弾んでいるようにも見えるモララーの足取りに、すれ違ったしぃが問いかける。
モララーは振りかえると、漆黒の瞳を細めて笑った。

( ・∀・)「うん。とっても良い予感がするんだ」

66名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 21:57:46 ID:NCS7eLS60

(;*゚ー゚)(……予感なんだ)

楽しげに歩いて行ったモララーの背を見ながら、しぃは心の中で思った。
 
 
 
( ・∀・)「はいおかえりー」

一つの部屋の扉を疑いもせず言いながら開いたモララーは、目の前の光景に隠しきれない笑みを浮かべた。
着地に失敗したらしい、兄者・ツン・ギコの三人が床に尻餅をついていた。
気付いたギコがモララーに視線を向ける。

67名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 21:59:58 ID:NCS7eLS60

( ,,゚Д゚)「……今帰った」

そう言うギコの手には、「帰り用に」と渡した使い捨ての青い石の破片がある。そしてそれは今もなお砂になる様子を見せない。
それが意味するのは、期待していたことの成功だ。
モララーの笑みの理由がわかっていたらしい。ギコは「気持ち悪い」と一蹴した。

( ,,゚Д゚)「成功した。お前が聞きたいのはこれだろ」

( ・∀・)「さっすがギコ! わかってるねえ」

(#,,゚Д゚)「うるせえんだよゴルァ! さっさとその気持ち悪い笑いをやめろ!」

68名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:01:11 ID:NCS7eLS60

状況を読み込めていない兄者が「え? え?」と困惑した声を上げているのを、ツンが溜息を吐きながら宥めた。

( ・∀・)「ああ、そうだ。ツン」

ξ ゚⊿゚)ξ「何?」

( ・∀・)「言い忘れてた。彼、帰ってるよ」

モララーのその言葉に、ツンの表情が輝いた。

69名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:03:13 ID:NCS7eLS60
だが、すぐにツンははっとしたように自分の両頬を手で覆う。
言葉にならない声を出しながら俯いた。

ツンの様子はまさに恥じらう乙女という言葉が相応しかった。
間近で見ていた兄者がそのツンの変化を見て、不快そうに顔を歪ませる。

( ´_ゝ`)(え、なに、こっちもリア充?)

( ・∀・)「ご主人ご主人、こっちの中で非リア充僕らだけだよ」

( #´_ゝ`)「やかましいわ! 言うな傷付く!!」

70名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:04:22 ID:NCS7eLS60

モララーはけらけらと笑っている。
ツンが「べっ別に嬉しいわけじゃないんだから!」とツンデレを発揮したすぐ後だった。

( ^ω^)「ツン!?」

モララーが開け放しにしていた扉から、男が顔を見せる。
たった今本人のいない所で否定をしていたツンは、その声にびくりと肩を震わせて真っ赤になった。

( *^ω^)「うおおおおツンー! ただいまだおーっ!!」

ツンだと確証を持った男――内藤が、駆け寄って真っ赤になったツンに抱き着いた。
否定をしていた傍からこのラブラブアピールである。

71名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:05:57 ID:NCS7eLS60

ξ //⊿/)ξ「〜〜ッ!!」

嬉しさよりも羞恥の方がずっと勝ったらしい。
ツンは抱き着いてきた内藤の鳩尾に、鋭い拳をお見舞いした。
「あ」周りが見守る中で、内藤がずるずると崩れ落ちる。効果は抜群だった。

(;^ω^)「ひ、久しぶりなのに酷いお……」

ξ ゚⊿゚)ξ「はっ」

意識を失う直前、最後の最後に内藤が呟いた言葉にツンが我に返る。が、時すでに遅し。
内藤はツンに正面から寄りかかるようにして気を失った。

72名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:08:00 ID:NCS7eLS60

ξ ゚⊿゚)ξ「ちょっブーン! ごめんってば! しっかりしてブーン!」

( #´_ゝ`)「あああ甘い! くそ甘い!! 誰かブラックコーヒー持ってこい!」
 
 
 
(*゚ー゚)「……みんな元気だねえ」

部屋が離れていても、ツン達の騒ぎはしっかりと聞こえていた。
しぃはその楽しげな声に口元を綻ばせる。

(*゚ー゚)「ドクオも早く、元気になるといいね」

73名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:09:06 ID:NCS7eLS60

しぃが視線を戻した先には、ベッドに横たわるドクオ。
左頬には大きなガーゼが、頭と腹には包帯が巻かれている。
それ以外の場所にも、掠り傷や切り傷が多く見られた。

ドクオは眠っている。

兄者達が緑の石を取りに出発したすぐ後だった。
未来の守護者達と連絡が取れないと、直接探しに行った内藤がドクオを連れ帰ってきたのだ。

74名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:10:19 ID:NCS7eLS60
ドクオは未来の守護者達の中で副リーダーのような存在だった。
そのドクオがここまで傷を負って、しかも一人しかいない。
そのことを追及すると、内藤は視線を伏せた。

( ^ω^)『……遅かったお』

その言葉が意味することは、明白だった。
それに焦ったのも無理はない。
未来の守護者がここまでいなくなった以上、こちらの準備も、そして何より兄者に自覚と自衛手段を身に付けさせねばならないとモララーは判断した。

75名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:11:57 ID:NCS7eLS60
それの結果。
無事、兄者は過去の力を操ることができたという。

(*゚ー゚)(弟者さんのこと、あと兄者さんに戦いを教えないと)

しぃは治療担当だが、戦闘ができないというわけではない。
頑張らないと、としぃは密かに拳を握った。

('A`)「……う、」

ふと、呻くような声が聞こえた。

76名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:12:36 ID:INUUYWwo0
支援

77名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:13:10 ID:NCS7eLS60
(*゚ー゚)「ドクオ!」

ドクオの瞼が震える。苦しみに引き攣った表情は、見ていて気持ちのいいものではなかった。
は、としぃはあることに気が付いて身構えた。

('A`)「――主ッ!」

悲鳴にも近い声だった。
怪我している腹などお構いなしに起き上がろうとするドクオの肩を、しぃは医師として押さえた。
だが、男と女の力の差など目に見えている。

78名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:15:20 ID:NCS7eLS60

('A`)「主……主ィッ!」

(;*゚ー゚)「ドクオ、落ち着いて! 傷が開いちゃう!」

('A`)「主……オレは、オレはぁ……ッ!」

あああああ。焦りを帯びた、懺悔の声。
聞く者の耳に痛い声だった。



( ,,゚Д゚)「……おい、何か聞こえないか?」

ふと、ギコが漏らした言葉に一同は声を止めた。
耳を澄ませると、男の呻き声が聞こえてくる。
徐々に大きく響いてくるその声に、内藤が起き上がり――血相を変えた。

79名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:17:18 ID:NCS7eLS60

(;^ω^)「ドクオ……!」

ξ ゚⊿゚)ξ「え? ドクオがいるの?」

先ほどまで気を失っていたとは思えない機敏な動きで、内藤は立ち上がり駆け出した。その尋常ではない様子に、周りはしんと静まり返る。

( ・∀・)「……ブーンの話を聞く限り、これはまずいかもねえ」

ξ ゚⊿゚)ξ「ドクオがどうかしたの?」

( ,,゚Д゚)「未来の守護者達が、な」

未来、という言葉に兄者がぴくりと反応した。

80名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:18:48 ID:NCS7eLS60

( ,,゚Д゚)「壊滅だ。モナーは行方不明、内藤が瀕死のドクオを連れ帰った」

( ´_ゝ`)「え、」

兄者の頭に、最悪の事態が浮かぶ。

( ´_ゝ`)(未来の守護者が、壊滅? じゃあ、)

弟者は?

口に出さない代わりに、視線は自分の手の中にある石へと移る。
罅が入った緑の石。その罅が、何か意味を持っていたら。

81名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:20:19 ID:NCS7eLS60
( ´_ゝ`)(弟、者)

( ・∀・)「とにかく、行こうか」

モララーの移動を促す声に我に返る。
兄者は「ああ、」と力の無い声で答えて立ち上がった。

モララーの視線には、気付かなかった。



( ^ω^)「ドクオ!」

駆け付けた内藤は、しぃの「内藤君!」と切羽詰まった声に頷いた。

82名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:21:48 ID:NCS7eLS60
ドクオはなおも起き上がろうとしている。腹に巻いた包帯に、僅かに赤が滲んでいた。

( ^ω^)「ドクオ、落ち着くお!」

('A`)「あああああ、オレ、オレが、」

オレが死ねばよかったのに。
ドクオの言葉に、内藤が息を飲んだ。

ξ ゚⊿゚)ξ「ドクオ!」

後から駆け付けたツンの声に、ドクオの視線が向く。
それまで激しく暴れていたのが嘘のように、ドクオの動きが止まった。

83名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:23:27 ID:NCS7eLS60

('A`)「……ある、じ」

視線はツンの奥にいた兄者に向いていた。

(;A;)「あ、あああ……」

ドクオが、ぼろぼろと涙を流した。
全ての力が抜けたらしい。ドクオはベッドに倒れ込んだ。

( ・∀・)「……何があったのかを聞くのは、まだ無理そうだね」

モララーは言う。

84名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:25:08 ID:NCS7eLS60
ドクオの様子に、これからの覚悟をしなければならないと感じていた。

( ´_ゝ`)「……あの、さ」

兄者はぎゅっと緑の石を握って口を開いた。

( ´_ゝ`)「お前ら、俺らのこと、正直俺らよりも詳しいよな?」

( ・∀・)「それは受継者とかのことかな? なら詳しいと思うよ」

( ´_ゝ`)「じゃあ、教えてくれ」

85名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:26:07 ID:NCS7eLS60
兄者は握っていた緑の石を見せた。
最初は何かと見つめていたモララーの顔色がさっと変わる。

( ´_ゝ`)「弟者の石に罅が入ってた。これがどういうことだか、分かるか」

( ・∀・)「……まずいね」

モララーが真っ先に発した言葉に、兄者は嫌な予感が的中することを恐れた。
だが、それはすぐに裏切られる。

86名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:27:36 ID:NCS7eLS60
 
 
 
(;・∀・)「未来の受継者が、危ない」
 
 
 
 
 
第4話「縋」・終

87 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/08(金) 22:29:32 ID:NCS7eLS60
今日はここまで
支援ありがとうございましたー!

作業合間に摘まむチョコは至高

88名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 22:42:51 ID:JZPSV95E0
乙!これから色々明らかになってくるのか

89名も無きAAのようです:2013/03/09(土) 10:17:47 ID:p5Zl8e8UO
面白い乙乙

90 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/10(日) 21:39:20 ID:OMlIKBQI0
 
 
 
 
 
今更だ、と笑った。



第5話「決」

91名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:40:31 ID:OMlIKBQI0
( ・∀・)「まだ説明、してなかったね」

怪我人が眠る場所で話すのも良くない、としぃを残して兄者達は別室へと移動した直後。
モララーは厳しい表情でそう言った。

( ・∀・)「その石は、受継者の状態を表す。何の問題も無ければ当然傷付かないし、逆に言えば半永久的に傷付かない。
でも、それが勝手に傷付いてるってことは」

弟君が、未来の受継者が何らかの怪我を負っているってことだ。

兄者は言葉を失った。

92名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:42:44 ID:OMlIKBQI0

( ・∀・)「君たち受継者が力を、石がスイッチを持ってるようなものだよ。石は他者からの力で割れることは絶対にない。でも、例外がある」

( ・∀・)「君たちが死んだ時と、役割を放棄する時だ」

( ;´_ゝ`)「おまっ、」

最悪のケースを簡単に出してきたモララーに、兄者は思わず声を漏らす。だがモララーは「ご主人」と短く呼んで兄者を制した。

( ・∀・)「時間の受継者は皆関わりの深い二人組に力が受け継がれるって話はしたよね。過去と未来、片方が死ねばどうなると思う?」

( ´_ゝ`)「……均衡が、壊れる」

93名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:44:04 ID:OMlIKBQI0

( ・∀・)「そう。そんなことが起きてはいけないんだよ。だから、時間の受継者は片方が死ねば必然的にもう片方も死ぬようになっている」

ひたすら、まるで音読をするように。
その身に課せられた、運命とも呪いとも思える事実を告げ続ける。

兄者はいつの間にか、弟者の緑の石も、服の下の自分の青い石も握り締めていた。
知らずのうちに、座っている膝に力が入る。

( ・∀・)「ご主人。君は、生きたいなら役割を放棄するべきだよ」

( ´_ゝ`)「……放棄、って」

94名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:45:28 ID:OMlIKBQI0

( ・∀・)「受継者は、死ぬと――まあ、石が割れると、その身に受け継いだ力は自動的に次世代へと受け継がれることになってる。今は、弟君が下手をすれば死ぬような状況だ。
向こうに捕まってる弟君が死ねば、君も死んでしまう」

だから、とモララーは言うと兄者の肩を掴んだ。正面から真っ直ぐ見据えてくるその瞳は、決断を迫っていた。

( ・∀・)「君が、自分の石を自分で割れば。力は次世代に受継される。弟君は死ぬが、君は役割を放棄して『普通の人間』として生きることができるんだ」

( ´_ゝ`)(死ぬ? 死ぬのか。弟者は、)

95名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:48:34 ID:OMlIKBQI0

死ぬのか。
心の中で繰り返し呟いただけなのに、弟者のいない世界を想像して、兄者は涙を流した。
 
 
 
 
 
('A`)「……」

白い天井が見える。知らない景色だった。
頭と腹が鈍く痛む。まだぼうっとする意識の中で、記憶が蘇ってくる。

(*゚ー゚)「ドクオ」

久しく聞いていなかった声だ、と思った。だがドクオはすぐその考えを否定する。
さっき、頭に響いていなかったか?

96名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:51:09 ID:OMlIKBQI0

('A`)「――ッ!!」



川;゚ ー゚)『頼んだぞ、ドクオ』



('A`)「……しぃ、か」

ドクオはじわりと滲む涙を見せたくなくて目元を腕で擦った。
ベッドのそばにある椅子に座っているのだろう、しぃの「うん」という穏やかな声は枕元のすぐ近くから聞こえてくる。

97名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:53:10 ID:OMlIKBQI0

('A`)「さっきは、悪かった」

(*゚ー゚)「大丈夫。それより、ドクオは?」

('A`)「何が」
 
 
 
(*゚ー゚)「ドクオの心は、大丈夫?」
 
 
 
しぃの言葉は、心にすとんと落ちてくる。
この分だと全て知れているのだろう、とドクオは眉を顰めた。

内藤がここまで連れてきてくれた。きっと未来の守護者達のことも知っている。
だが、未来の守護者達がどうやって死んだのかは、自分しか知らない。

98名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:54:41 ID:OMlIKBQI0

大きく斬り付けられた心は未だに血を流してじくじくと痛む。
その傷口を抉るような、起こった出来事を話さなくてはいけないという事実。

('A`)「……ああ、大丈夫だ。話せる。オレには、話さなくちゃいけない義務がある」

ぎしぎしと音を立てる体を動かして、ドクオは上体を起こした。
「もう言っていいの?」心配そうに問うてくるしぃに、ドクオは「ああ」と答えた。

('A`)「守護者は死んだ。それでも、主はいる。オレが止まったせいで主を死なすなんて、守護者失格だ」

だから、話すんだ。

99名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:56:23 ID:OMlIKBQI0

そう言うドクオに、しぃは淡く微笑んで肩にカーディガンを羽織らせた。

(*゚ー゚)「みんな別の部屋で話してる。激しい動きをすると傷に良くないから、ゆっくり一緒に行こう、ね?」

しぃの誘導に併せて、ベッドから立ち上がる。
そして二人は兄者達の部屋へと向かった。
 
 
 
 
 
( ・∀・)「ま、これはあくまで一個人としての意見だけどね」

100名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 21:58:31 ID:OMlIKBQI0
先ほどまでの真剣な表情はどこへやら、ぱっと掴んでいた肩を離しておどけたように笑って見せた。

道化のようだ、と兄者は思った。
ころころとすぐに表情を変えて掴み所が無く、本心が見えないモララーが。

( ´_ゝ`)「モララー」

うん? とモララーは首を傾げる。兄者を見つめる漆黒の瞳は笑ってはいない。

( ´_ゝ`)「お前の本心はどこにあるんだ?」

( ・∀・)「……さあね?」

くすくすと笑うモララーに、見ていた内藤達が溜息を吐いた。

101名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 22:01:07 ID:OMlIKBQI0

( ,,゚Д゚)「主、深く考えるなよ。こいつはいつもこんな感じだ」

( ´_ゝ`)「……ん」

( ・∀・)「ちょっと酷いよギコぉ」

まあとにかく、とモララーはパンと手を打った。話題を戻そうという合図らしい。

( ・∀・)「真剣に話そうか。未来の守護者サマも到着したみたいだし」

ちらりと視線を横に遣ったモララーは、そこにいたドクオを茶化すように笑った。

102名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 22:03:14 ID:OMlIKBQI0

('A`)「相変わらずムカつくツラだな、モララー」

( ・∀・)「それは僕の顔が変わってないってことだよね? 僕もまだまだ若さを保ってるんだなあ」

('A`)「めんどくせえよお前」

唾棄しそうな勢いでドクオは言った。

( ^ω^)「仲の悪さも相変わらずだお……」

ξ ゚⊿゚)ξ「モララーと仲が良い奴なんかいるの?」

そうひそひそと話す内藤とツンに、モララーは見逃さず笑みを向ける。「うざいんだけど」とツンに一蹴されたが。

103名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 22:04:06 ID:OMlIKBQI0
ごほん、とギコがわざとらしく咳払いをした。

( ・∀・)「さあさあ、どうする? 僕らとしては君を守らせてもらえればそれでいいんだけどさ」
 
ξ ゚⊿゚)ξ「ちょっと、それじゃ意味ないじゃない。コイツだけ守っても、絶対コイツ自身は納得しないわよ」
 
ツンは言葉と共にモララーの鳩尾に肘打ちを繰り出した。
にこやかで胡散臭い笑顔を貼り付けたままモララーは鳩尾を押さえてその場に崩れ落ちる。

言っとくが、と口を開いたドクオに自然と視線が集中する。

104名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 22:05:25 ID:OMlIKBQI0

('A`)「それ以上言ってくれるなよ。お前らはオレの主が死のうがどうでもいいみてえだが、オレはまだ諦めるつもりはねえからな」
 
( ・∀・)「はは、怒るな怒るな。別に君の主を見殺しにするつもりはないよ。僕らの主が見捨てない限りはね」
 
('A`)「……」
 
ドクオは腑に落ちないという顔をしていた。

一際強くモララーを睨み付けると、寄り掛かっていた壁から離れてよろよろと歩き出す。
そのカーディガンの前から覗く包帯には赤がにじんでいた。
その危なっかしい後ろ姿を見つめながら、モララーは「馬鹿だねえ」と呟いた。

105名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 22:06:21 ID:OMlIKBQI0
モララーは振り返ると、心配そうにドクオの後ろ姿を見つめていたしぃに声をかけた。
 
( ・∀・)「しぃ、傷が開いているみたいだから頼んでいいかい? 面倒事を押し付けてすまないね」

(*゚ー゚)「! うん!」
 
( ,,゚Д゚)「……」
 
( ・∀・)「ギコも一緒に行ってくれるかい?」
 
( ,,゚Д゚)「……! おう」
 
しぃの後に続いたギコが、立ち止まってちらりとモララーに視線を向ける。

106名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 22:07:32 ID:OMlIKBQI0
視線を受けたモララーは、にやりと意味ありげに笑った。カッとギコの顔が赤くなる。
 
( ,,゚Д゚) お ぼ え て ろ !
 
( ・∀・)ニヤニヤ
 
しぃに聞かれたくないからだろう、口パクで伝えたギコはそのまま通路の向こうへと姿を消した。
さて、とモララーは椅子に座ったままの兄者に向き合った。
 
( ・∀・)「心は決まったかな? 僕らのご主人」

( ´_ゝ`)「最初から決まってらぁ。おめーらの会話に口を挟めなかっただけだよ」

107名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 22:09:06 ID:OMlIKBQI0
 
兄者はぎゅっと、血がこびり付いた緑の石を握りしめた。
優しげな色合いとは裏腹に、石は突き刺すような冷たさを兄者の手に伝えてきた。悔しさに唇を噛む。
座っていた椅子から立ち上がった。
目元の涙はもう乾いて、表情を変えると引き攣るような感覚がした。
 
( ´_ゝ`)「弟者を助けに行く。だから、」
 
ざわりと空気が変わる。
真っ直ぐに見つめる兄者の瞳が茶から青に色を変えた。
首から下げた蒼い石がふわり、浮き上がって熱を持った。

108名も無きAAのようです:2013/03/10(日) 22:10:10 ID:OMlIKBQI0
目の当たりにしてツンは息を飲み、モララーは目を細めて楽しげに腕を組んだ。
すう、っと息を吸う。それだけで、この部屋の空気が震えた気がした。
 
( ´_ゝ`)「だから、手伝え。助けろ」
 
( ・∀・)「仰せのままに――ご主人?」
 
( ・∀・)(これはこれは。僕らのご主人は、将来有望だ)



第5話「決」・終

109 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/10(日) 22:13:14 ID:OMlIKBQI0
バイトのせいで足痛い

今日はここまでー

次回を12日に投下しようと思っていたのですが、予定が入ってしまったので
明日か13日に投下しようと思います

ではー

110名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 00:04:44 ID:Y25r33NUO
おつ
話が上手く見えてこない(^q^)

111名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 07:54:58 ID:Ww2ER2kw0
おつおつ

112 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/11(月) 08:10:20 ID:Kl5jxZ0QO
携帯から失礼
今日の昼〜夕方頃6話投下予定ですー

>>110

本題入ってないので作者としてももどかしいです(笑)
遠回りする話で申し訳ない

113 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/11(月) 22:39:24 ID:9LWum32c0
予告しておきながら結局こんな時間になってしまった……申し訳ない
投下します

114名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:40:59 ID:9LWum32c0
( <_ ;)「……は、あっ」

吐き出した息が、じくりと折れた腕に痛みを残す。
こうして真っ暗な部屋に閉じ込められて何日経ったのか、もうわからない。
寝ても起きても真っ暗で、時間の感覚などなくなっていた。

定期的に水音が聞こえるのももう聞き飽きた。
閉じ込められてから飲まず食わずで、最初の頃は水音の方向を必死で探っていたものだが、今ではもうそんな気力もない。

( <_ ;)「……あに、じゃ」

お願いだから、と思う。

115名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:42:40 ID:9LWum32c0
(´<_`;)「来る、な、兄者」

狙いはあんただ。

音にならずに、言葉は消えた。
 
 
 
 
 
君を探す。
 
 
 
第6話「頼」

116名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:44:13 ID:9LWum32c0

( ・∀・)「さて。ご主人には、力の練習と応用、あとできれば護身術を身に付けてほしいんだけどさ」

( ´_ゝ`)「応用」

( ・∀・)「そう、応用」

うへえ、と兄者は顔を顰めた。それにモララーはけらけらと笑う。

( ・∀・)「そんな真面目に勉強するってわけじゃないよ。実践の方が多いと思うし」

( ´_ゝ`)「その方が助かる」

うん、とモララーは頷いた。

117名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:45:29 ID:9LWum32c0

( ・∀・)「君がツンを治したのは、正確に言えば『治した』んじゃない。『なかったことにした』んだ」

( ´_ゝ`)「なかったことにした?」

( ・∀・)「そう。君の力はあくまで『過去』を操る力だ。君がやったのは、デレだっけ?
ツンが彼女から『攻撃を受けて負傷した』という事実を『なかったことにした』んだよ」

その言葉に、以前モララーが冗談で言っていたことを思い出した。織田信長をどうの、というものだ。

( ・∀・)「君は過去を改変できる。だから、それを理解して使えばもっと応用が効くはずだ」

118名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:47:04 ID:9LWum32c0
( ´_ゝ`)「あのさ、質問なんだけど。過去って、どっからの範囲なんだ?」

( ・∀・)「1秒過ぎればもう過去だ」

(;´_ゝ`)「マジか」

兄者は実感の湧かないまま自分の掌を見つめた。
特におかしいところも見当たらない、普通の掌。
それでもこの掌を伝って、ツンに力を使ったのだと考えると不思議な感じがした。

けれど、弱点もある。そう切り出したモララーに兄者は顔を上げた。

( ・∀・)「自分には使えない。これは原理がよく分かってないけどね。でも、未来の受継者には使えるから大丈夫だよ」

119名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:48:32 ID:9LWum32c0

( ´_ゝ`)「……なあ、モララー」

( ・∀・)「うん?」

( ´_ゝ`)「一回試してみたいことがあるんだけど」
 
 
 
 
 
どこから話そうか、とドクオは全員の顔を見渡した。

病室にはギコと兄者を除く過去の守護者が集っている。
ドクオが「受継者と守護者達に起こったことを話す」と言ったからだった。

('A`)「まあ、最初からの方がいいか」

120名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:50:14 ID:9LWum32c0
ドクオははあ、と自分を落ち着かせるように息を深く吐いて、話し出した。
 
 
 
 
 
未来の受継者は流石弟者だって知った時点で、前々から監視というか、影から見守ってたんだ。
お前らと違って、こっちは顔も分かって確証もあったから。

最初に異変に気付いたのはやっぱりクーだった。そこはやっぱりリーダーだからこそって思う。

川 ゚ -゚)『同じ男が最近、主の周りをうろついてる』

クーがそいつのことを調べても、全然情報が出てこなかった。
辛うじて出てきたのは個人店のバーのマスターだったってことくらいだ。

121名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:52:10 ID:9LWum32c0
オレ達はそいつが怪しいと踏んで、警戒するようになった。
そいつはこっちに気付いてるのか気付いてないのかわからないが、相変わらず主の周りに居続けた。

前兆は本当にそれくらいしかなかった。
急すぎて、どうしてそうなったのか今でもわからない。

主の家の窓ガラスが割れて侵入者が入ったって、最初にわかって飛び出したのはジョルジュだった。
オレ達はジョルジュに着いてくような感じで、主の部屋に侵入者を追って入った。
主は、寝てたところを男に襲われて首を絞められてた。

122名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:53:27 ID:0TL6iWYo0
支援

123名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:53:58 ID:9LWum32c0
  _
(;゚∀゚)『主ィッ!!』

ジョルジュがそう言って、男にナイフ投げ付けた。でも、男の方が上手だった。

男は、ジョルジュが投げたナイフを銃で全部撃ち落とした。その上、ジョルジュの腹と首を撃った。
腹はど真ん中、首は掠ったくらいか。

从 ゚∀从『ジョルジュ!!』

ハインは叫んだ割には、まだ冷静だったな。ちゃんと銃弾を弾いてから男と戦いに行った。

124名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:55:35 ID:9LWum32c0
部屋にあった血溜まり、あれはほぼジョルジュのものだ。
もうわかると思うが、ジョルジュはその時点で瀕死だった。
治療役のモナーがその場に残って、ハインは主を男から解放しようと奮闘してた。
クーが加勢しようとした時、窓から衝撃波出してきたのはお前の妹だったか? ツン。

とにかく、クーはそいつと、ハインは主を連れた男と、オレは二人を援護しながら主の家を出た。
モナーに治癒してもらったジョルジュも後から着いて来た。それでもやっぱり血が足りなくてふらふらしてたから、みんなジョルジュに無理はさせられないってわかってたな。

125名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:57:06 ID:9LWum32c0
使い捨ての石の破片で場所移動して――未来に自分達が行くであろう場所だから全く知らなかったが――そこで戦ってた。
ブーン、多分お前が守護者達の死体を見たのはそこだろうよ。

主は主で抵抗してた。でも、男に腕撃ち抜かれてからはなかなか抵抗は難しかったみたいだけど。
その後、腕だけじゃなくて胸撃ち抜かれそうになった主を――また、ジョルジュが庇った。

眉間に一発。致命傷だ。
死んだらもう治療はできない。ジョルジュがそこで死んだ。

126名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:58:10 ID:9LWum32c0
それを見て激昂したのはハインだ。
とにかく斧振りかぶってて、あれはもう我を忘れてたな。
クーはツンの妹の衝撃波を叩き斬って、あの二人の戦いに関しちゃクーの方が勝ってたと思うよ。
モナーもオレも遠距離援護系だったから、オレがクーを、モナーがハインを援護してた。
でも、そう長くも続かなかった。

ハインの悲鳴が始まりだ。
そこで振り向いたオレは――今思うと馬鹿だったと思うが、男から腹に一発銃弾貰っちまった。
幸い貫通してたから、鉛毒でやられることもなく今この通りだ。

127名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 22:59:58 ID:9LWum32c0
ハインが胸を撃たれてた。見なくてもわかったんだろうな、クーがオレに言ったんだ。

川;゚ -゚)『ドクオ、ここは私とモナーに任せろ! お前は過去の守護者に応援を頼みに行け!』

そう言ったクーに賛同するみたいに、モナーはオレの腹の穴を塞ぐだけ塞いだ。
もうその時点で動けるのはオレだけだって思ったんだろうな。

川;゚ -゚)『行ってくれ、守護者の役目を果たせ』

(;´∀`)『ドクオ!』

128名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 23:01:40 ID:9LWum32c0
戦いながら言うなんてほど危ないものはない。
オレはクーの言う通り、お前らに応援を頼みにその場を離れた。

川;゚ ー゚)『頼んだぞ、ドクオ』
 
 
 
 
 
('A`)「……あの時のクーの声が、今でも耳から離れない」

( ,,゚Д゚)「……大体わかった。その銃を持った男ってのは、こっちが遭遇した奴と同じ奴だろう」

129名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 23:03:19 ID:9LWum32c0
ギコは腕を組んで「だが、」と唸った。ツンの視線がちらりとギコに向く。

( ,,゚Д゚)「モナーは一体どこに行った? 死体は無かったんだろ、内藤」

( ^ω^)「そうだお。あの辺りは念入りに探したから、見逃しは無かったはずだお」

ξ ゚⊿゚)ξ「未来の受継者と一緒に捕まってる可能性もあるわね。治療担当だから利用されてるとか」

しぃが「ドクオ」と声をかけた。
ベッドで上体を起こしたドクオはその声に「なんだ」と返事して視線を向ける。

130名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 23:04:32 ID:9LWum32c0
(*゚ー゚)「ここまで生きて来てくれてありがとう。おかげで私達もこうやって対策をとることができる」

('A`)「……それは、全部終わってからにしよう、しぃ」

(*゚ー゚)「うん、でもお礼が言いたくて」

しぃはふわりと笑うと、手を伸ばしてドクオの頭を撫でた。
傷に障らないようにと気を付けながらだったが、それでも彼女の手つきは優しく暖かさがあった。

131名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 23:07:02 ID:9LWum32c0
それを見つめていたツンがギコの脇腹を突く。
う、と小さく呻きを漏らしたギコは突いてきたツンを見る。ギコの瞳は雄弁だった。

ξ ゚⊿゚)ξ「嫉妬してんじゃないわよ馬鹿」

( ,,゚Д゚)「ッしてねえよゴルァ!」

(;^ω^)「おっおー、喧嘩はよくないおー」

どうどう、と宥めていた内藤は「とにかく!」と手を打った。

( ^ω^)「モララーに話して具体的な対策、あと弟者の行方を調べるお!」

( ,,゚Д゚)「ああ」

132名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 23:08:27 ID:9LWum32c0

( ・∀・)「その必要はないよ」

モララーの声が響く。音がしそうなほどの勢いをつけて全員が振り返った先には。
扉を開いたモララーと、能力を使った余韻で未だ青い瞳のままの兄者がいた。

( ・∀・)「未来の受継者の居場所がわかった」
 
 
 
 
 
第6話「頼」・終

133 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/11(月) 23:11:15 ID:9LWum32c0
今日ここまで
投下時間詐欺しましたごめんなさい……

支援ありがとうございました

キャラ多くなると喋らせるのが難しいですね

134名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 23:16:19 ID:w2xjMlco0
おつおつ

135名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 23:36:44 ID:eWkRtULM0
良いねぇ…乙!

136名も無きAAのようです:2013/03/11(月) 23:45:17 ID:0TL6iWYo0
乙!

137 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/13(水) 23:29:19 ID:d4Ct3Ghc0
三。
誰かが笑った。

二。
誰かが振り返った。

一。
誰かが唾を飲み込んだ。

零。
全員が駆け出した。
 
 
 
第7話「動」

138名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:30:55 ID:d4Ct3Ghc0
( ・∀・)「何をやろうって言うんだい?」

( ´_ゝ`)「俺は過去の力を操れるって言ってたよな」

それってつまりさ、と兄者はモララーと視線を合わせた。

( ´_ゝ`)「対象に何か縁のある者なら、その持ち主の状態探れたりしないかなって」

( ・∀・)「……うーん、物による、かな」

モララーは腕組みをして考えているようだった。
あくまで兄者もモララーも、これまでの受継者のすべてを知っているわけではない。
前例が無ければ未知のことであって、試してみる外無かった。

139名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:32:49 ID:d4Ct3Ghc0
( ・∀・)「ご主人はもしできたら、その方法で弟くんを探すつもりなんだろう?」

( ´_ゝ`)「ああ。てか、その実験を今からやってみたいわけなんだけど」

( ・∀・)「ぶっつけ本番だねえ」

まあいいや、とモララーは笑った。
モララーの表情に不安や心配は一切ない。
こういうところは好ましいな、と兄者は思った。

( ・∀・)「僕の言った能力応用にあたるのかな、一応。とりあえずやってみようか」

( ´_ゝ`)「ああ」

140名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:33:46 ID:d4Ct3Ghc0
兄者は言うと、弟者の緑の石を取り出した。
罅が入ったそれは、目にする度に不安がじわりと滲んでくる。
兄者はその気持ちを振り払うように大きく深呼吸した。
自分の青い石はもう皆から見えるように服の下に隠すのはやめた。
その方が何かと気が付きやすいだろうと思ったからだ。

( ´_ゝ`)「我、過去を司る者」

体が何かに包まれたように暖かくなる。
奥底から湧き上がる、高揚するような不思議な感覚がくすぐったい。

141名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:35:03 ID:d4Ct3Ghc0
( ´_ゝ`)「持ち得る限りの過去を我に示せ」

その言葉を紡いだ瞬間、体がぶわりと謎の浮遊感に襲われた。

(;´_ゝ`)(あ、)

やばい、かも。

平衡感覚が乱れて、ぐらりと床に膝をついた。
モララーの戸惑うような声がする。

( ・∀・)「大丈夫かい、ご主人」

そう言ってモララーが膝をついた兄者を立ち上がらせようと、腕を掴んだ。

142名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:35:05 ID:BbIPvkL.0
支援

143名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:37:06 ID:d4Ct3Ghc0
その時。

( ;´_ゝ`)「――ッ!?」(・∀・; )

頭の中に、ざらざらとノイズと混ぜながら映像が流れ出した。

剣を支えにしていたクーが、力尽きてどさりと地面に倒れ込む。
それを見ていたデレが、つまらなさそうにクーの体を蹴った。

ζ(゚ー゚*ζ『意外とあっけなかったわね』

(´・ω・`)『……まあ、いいさ。目標は達成した』

144名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:38:49 ID:d4Ct3Ghc0
男が、気絶したのだろう、ぐったりとした弟者を肩に担いでいた。
力無く垂れる右腕からは血が滴り落ちている。

ζ(゚ー゚*ζ『ショボン、そいつはどうするの?』

そいつ、とデレが顎で指したのは、肩で息をして横たわるモナーだ。
掌を撃ち抜かれ、両手が使えなくなったのだろう。血塗れの両手から、モナーの使っていたチャクラムが落ちている。
モナーは荒い息の合間から、デレ達を強く睨み付けていた。

(´・ω・`)『連れ帰る。治療ができるらしいからな。利用できるだろう』

( ;´∀`)『誰がッ、お前らに……!』

145名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:40:03 ID:d4Ct3Ghc0
ζ(゚ー゚*ζ『はいはい、後でいいからそういうの。今は、おやすみ』

囁くように言ったデレの「おやすみ」という言葉に、モナーの目が虚ろになっていく。最終的には意識を失った。
「これでよし、っと」デレが楽しげに言い、ショボンと呼ばれた男はモナーを脇に抱えた。

(´・ω・`)『さて、帰るか』

ζ(゚ー゚*ζ『でも帰るってくらいの距離でもないね』

そう言ったデレは、少し歩くとハインの死体を蹴り上げた。

146名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:41:06 ID:d4Ct3Ghc0
ごろりと転がったハインがいた場所に、デレが屈み込んだ。

ζ(゚ー゚*ζ『開けてー』

その風景とそぐわない、どこか間の抜けたような声に、地面が一度揺れた。
直後、デレとショボンの姿がそこから掻き消える。



がらりと場面が変わって、ひたすら真っ暗な闇が広がった。
誰かの呼吸音が聞こえる。時折げほげほと咳き込むその声に、兄者は聞き覚えがありすぎて肩を震わせた。

147名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:42:59 ID:d4Ct3Ghc0
( ;´_ゝ`)「弟、者……!」

兄者がそう呟いた直後、ノイズの走る映像がからりと晴れて無くなった。

どっと押し寄せた記憶の波に、兄者はわずかに痛む頭を押さえた。
力を使うのはまだこれが3回目。まだ力の調整がうまくとれていないのかもしれない。

( ;´_ゝ`)「……弟者、が、」

( ;・∀・)「ああ。僕も見えてたよ」

少し困惑の混じったようなモララーの声に、兄者は「え」と驚きで振り返る。
視線を受けたモララーは笑う。

148名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:44:12 ID:d4Ct3Ghc0

( ・∀・)(……ご主人の伸びしろはどこまであるんだろうねえ)

そう思いながらも口には出さず、モララーは「立てるかい、ご主人」と再度腕を掴んだ。

( ・∀・)「ご主人は力のコントロールを覚えた方がいいかもね。少し暴走してるような気がするんだ」

( ´_ゝ`)「ん、ああ……頑張る」

( ・∀・)「とりあえず、場所は分かったね。あとは護身術か」

未だふらついている兄者を見て、モララーは「多分今は無理だね」と言った。
反論ができるわけもない兄者はその言葉に素直に頷く。

149名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:45:27 ID:d4Ct3Ghc0
( ・∀・)「まあ、体を鍛えるのはまだ難しいと思うから。今はその場しのぎだけど銃を渡そうと思ってる。
照準を合わせて引き金を引く。簡単に見えるけど難しいから、少し練習してもらうよ」

( ´_ゝ`)「銃、か。エアガンでBB弾撃ったことあるくらいだ」

( ・∀・)「BB弾とは懐かしいねえ。もう随分と長いこと実弾しか撃ってないよ」

( ;´_ゝ`)「怖いこと言うな!」

はは、とモララーは嘘か本当かわからない笑顔で笑った。

150名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:46:39 ID:d4Ct3Ghc0
 
 
 
 
 
未だ青い瞳をした兄者は、ドクオを見て「あ」と声を漏らした。

( ´_ゝ`)「そういえば、治せるのに治してなかった」

('A`)「ん? ああ」

兄者はドクオの腹に触れ、詠唱した。青い光がじわりとドクオを包み込み、収束する。
兄者が手を離せば、傷は綺麗さっぱり無くなっていた。
できた、と呟いた兄者をじっとドクオは見つめている。

151名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:48:22 ID:d4Ct3Ghc0
('A`)「……本当に、兄弟なんだな」

( ´_ゝ`)「よく言われる。そっくりだろ」

ξ ゚⊿゚)ξ「そういえば、一回主を未来の受継者と間違えてたわね」

ツンが言ったその言葉に、ドクオは「ああ」と頷いた。

('A`)「お前らは会ってないから分からないだろうが、そっくりだぞ」

( ´_ゝ`)「特に双子ってわけでもないんだけどな……俺の方が2歳上」

152名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:49:33 ID:d4Ct3Ghc0
雑談に突入するかと思われた話題は、「しぃ」とモララーの声でぷつりと切れた。

( ・∀・)「ご主人に銃の指導を頼みたいんだ。いいかな?」

(*゚ー゚)「うん、いいよ。最初は銃だろうなって思ってたの」

兄者は意外だと感心した。
しぃは治療担当とだけ思っていたのだ。穏やかで優しい彼女が銃を使うところを想像できない。
声にこそ出さないが、兄者の思いが分かったらしい。しぃは兄者に向かって微笑むと――手に持った銃をちらつかせた。

153名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:51:43 ID:d4Ct3Ghc0
( ;´_ゝ`)「え!?」

(*゚ー゚)「気付かなかったでしょう?」

しぃが銃を取り出すところが全く見えなかった。
しぃは悪戯が成功したと喜ぶように、無邪気な笑みを浮かべて銃を腰に戻した。
上着でよく見えていなかったが、腰にはちゃんとホルダーが着いていた。

( ,,゚Д゚)「居場所は分かったが、どうするんだ?」

( ・∀・)「できる限り早く、未来の受継者の奪還だね。その後はやってから考える」

('A`)「行き当たりばったりだな」

( ^ω^)「始まりも突然だったからしょうがないお」

154名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:52:58 ID:d4Ct3Ghc0
「というわけでご主人」モララーがくるりと兄者に向き直る。

( ・∀・)「君が如何に早く銃を使えるようになるか、だよ。それによって突入日が決まる」

( ´_ゝ`)「!」

先ほどの映像が蘇る。

自分の体も見えないような闇。
その中に、弟者はいつからいるのか分からない。

けれど、そう長く居させるわけにはいかないのだ。

155名も無きAAのようです:2013/03/13(水) 23:54:06 ID:d4Ct3Ghc0
兄者は緑の石の罅を撫でた。撫でたからといって直るわけでもない。
だが、この罅を一刻も早く無くしたいと思った。

兄者はしぃに頭を下げた。

( ´_ゝ`)「ご指導よろしくお願いします!」
 
 
 
 
 
第7話「動」・終

156 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/13(水) 23:55:12 ID:d4Ct3Ghc0
なんか今回短めになってしまった

支援ありがとうございました!

買ってきたポテチがなかなか食べられなくて悶々としている

157 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/14(木) 00:17:20 ID:3aWEu1ZUO
誤字……
>>138
×縁のある者
○縁のある物

158名も無きAAのようです:2013/03/14(木) 00:43:07 ID:IiT13IQU0
一気読みしたわ 乙!

159名も無きAAのようです:2013/03/14(木) 00:43:22 ID:IW9ouYZs0


160名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 19:37:22 ID:WwW70KcgO
面白いな
期待!

161 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/15(金) 23:33:25 ID:xp7nYTL60
 
 
 
 
 
再び見えた君は。
 
 
 
第8話「離」

162名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:34:52 ID:xp7nYTL60
タァン、と人間の形を模した的の、眉間の部分に丸い穴が開いた。

「うん、大丈夫だね」

しぃは言うと、兄者に向き直った。

(*゚ー゚)「筋が良いと思う。これならきっとモナーも大丈夫って言ってくれるんじゃないかな」

( ´_ゝ`)「……ああ」

しぃの褒め言葉に、兄者は浮かない顔をしている。
どうしたの、としぃが尋ねると、兄者は「うん」と小さく声を漏らす。

( ´_ゝ`)「……俺はこれで、人を殺す時が来るのかなって」

163名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:35:07 ID:nsqVTqm20
支援

164名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:36:07 ID:xp7nYTL60
兄者が不安げに漏らしたその言葉に、しぃはぱちくりと黒い瞳を瞬いて――すぐに、柔らかく笑んだ。
銃を持っている兄者の手を、しぃは自分の手で包み込んだ。

(*゚ー゚)「殺さなくてもいいよ。主の正確さなら、腕や足を撃つこともできる。それだけでも十分だから」

しぃの手は、細い見た目とは違い皮膚は硬い。
随分と長いこと銃を扱っている、と聞いた。

(*゚ー゚)「守護者として、私は銃を使う。主を守る為。主に危害を加える人達を殺す為。だからね、主」

165名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:37:17 ID:xp7nYTL60
しぃは笑う。守ることも、守られることも知っている者の笑顔だった。

(*゚ー゚)「自分を守る為に、主は撃てばいいよ。そこに殺す必要はないから」

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

兄者の言葉にしぃはうん、と頷いた。
だが、しぃが見つめていると兄者の顔がだんだんと緊張に強張っていった。

(*゚ー゚)「主?」

( ;´_ゝ`)「……うん、しぃ」

「あのさ」そう切り出す声は少し震えている。

166名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:38:29 ID:xp7nYTL60
( ;´_ゝ`)「ギコのやきもちはどうにかならないかな」

(*゚ー゚)「えっ」

その言葉にしぃが振り返る。
兄者の声が聞こえていたのだろう、さらに当人と視線が合ったギコは――真っ赤な顔をして、しぃから逃げるように訓練場から出て行った。
ばたんと大きな音を立てて閉まった扉を、兄者としぃは暫くぽかんとしたまま眺めていた。
だが、次第にくすくすと笑い声を殺せなくなっていった。
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)(……昨日までそんなことで笑い合ってたのになあ)

167名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:39:31 ID:xp7nYTL60
兄者ははあ、と大きく息を吐いた。
なんとなく手が寂しくて、触れた銃はひんやりと冷たかった。

しぃから「私のお古だけど」と渡されたのはベレッタM84。
少し大きめだが、癖が無い為初心者には使いやすいと説明を受けた。

モララーがこくりと頷いた。
守護者の皆が見守る中、兄者は前に進み出ると両手を地面に下ろす。
ざらりとした砂が手に付くのを感じながら、兄者は口を開く。

( ´_ゝ`)「我、過去を司る者。嘗ての姿を我に示せ」

168名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:40:24 ID:xp7nYTL60
青い光が辺りを包み込む。
その光がドクオを含めた守護者全員を包み込んだのを確認した時、兄者はさらに片手を離して緑の石を取り出し触れた。

( ´_ゝ`)「重ねて命ずる。過去を辿り、我をその場所へと導き給え!」

一際青い光が広がり、全員の姿がそこから掻き消えた。
 
 
 
 
 
どたどたと騒がしいな、と思った。

169名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:41:09 ID:xp7nYTL60
空腹と渇きから少しでも逃れようと、眠りを選んだ。
起きる頻度は多いが、起きてずっと苦しむよりはマシだと思った。

もう自力で動くこともままならない。
すぐそこで頭をもたげている死に、自嘲するように笑った。

(  )「……主?」

誰かに触れられた気がした。声も聞こえたような気がした。
触れられたのは左腕だ。怪我をした右腕じゃなくてよかった、と見当違いな安心をする。

170名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:42:14 ID:xp7nYTL60
(  )「主ッ!」

聞いたことのある声だ、と思った。
ゆっくりと記憶を辿る。その先に行きついたのは――あの時、自分を守った内の一人だということ。

(   )「ドクオ、落ち着け」

冷静な声と共に、久しい光が目を焼いた。
思わずきつく目を閉じる。瞼の裏から明かりに慣れ、おそるおそる目を開けた。

( ´_ゝ`)「弟者!」

(´<_` )「……あに、じゃ?」

171名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:43:32 ID:xp7nYTL60
とうとう幻聴まで聞こえ始めたのか、と不明瞭な視界が明確になるまで分からなかった。
見慣れた顔だ。それも、鏡で見る自分の顔と少ししか変わらない顔。

( ;_ゝ;)「ッ弟者ぁ!」

泣いている。兄者が泣いている。
ここまで泣くのは珍しい、と弟者は何故かおかしくて笑えた。

( ・∀・)「ご主人、感動の再会はまた後で仕切り直しだ。とにかく今はここを出る」

( う_ゝ;)「う、ああ」

「僕が抱えるお!」内藤が弟者の体を抱える。

172名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:44:52 ID:xp7nYTL60
ぼろぼろと泣いていた兄者はぐいと乱暴に目を擦ると、守護者達に「俺に触れてくれ」と呼びかけた。

( ´_ゝ`)「我、過去を司る者、」

そこまで言ったところだった。
ギコが持っているランタンとは別の光が、後方から差し込んでくる。
差し込んだ光の方へ、ギコが両手剣を、しぃが銃を向けた。

開いた扉から覗いた姿に、二人が瞠目する。

ξ;゚⊿゚)ξ「……嘘、でしょう」

ツンが思わず漏らした声に、視線を向けていなかったドクオが振り返った。

173名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:46:25 ID:xp7nYTL60
('A`)「……え」

(  ∀ )「……」

('A`)「モ、ナー……?」

ドクオの震える声に、モナーは虚ろな瞳を向けた。

次の瞬間、モナーがぐっと片腕を後ろに引いた。
その腕を、紅い光が覆った。

( ´∀`)「……排除」

ぼそりと呟かれた言葉と共に、紅い光を纏ったチャクラムが投げ付けられる。

174名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:48:11 ID:xp7nYTL60
轟と音を立てたチャクラムに、しぃが引き金を引いた。
耳障りな金属音を立てて、チャクラムが本来の軌道を外れて大きく高さを失った。
そこへ駆けたギコが両手剣を振り下ろすと、床に叩き付けられたチャクラムが掠れた音を響かせて弟者達の横を滑って行った。

( ´∀`)「排除……排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除」

('A`;)「モナー……モナーッ!!」

( ;・∀・)「ご主人、退却だ!!」

175名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:49:33 ID:xp7nYTL60
( ;´_ゝ`)「ッ過去在った地へと戻れ!」

叫ぶように詠唱した兄者の近くへ、しぃとギコが駆けて戻る。
兄者と直接手を繋いだモララーと、モララーの手を取ったツンと――全員が経由しながら兄者に触れた守護者達の元へ、しぃとギコは駆け込んで手を繋いだ。

('A`;)「モナあああああああッ!!!」

ドクオの叫びを最後に、全員の姿は元から無かったようにすべて消えた。

176名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:50:51 ID:xp7nYTL60
 
 
 
 
 
( ・∀・)「大丈夫かい、ご主人」

( ;´_ゝ`)「俺は、大丈夫だ……ッ弟者!」

兄者は弾けるように顔を上げると、内藤に抱えられた弟者の元へと走った。
弟者は気を失っている。弟者の姿を認めるなり、兄者は再びぼろぼろと泣き始めた。

( ;_ゝ;)「弟者、弟者あぁ……」

177名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:52:42 ID:xp7nYTL60
兄者は嗚咽で喉を引き攣らせながら、途切れ途切れで詠唱する。
ろくに処置も受けておらず、傷口が化膿して骨の折れていた右腕は青い光に包まれた後怪我をしていない普通の腕へと戻った。

( ・∀・)「ご主人、今日は休もう。大分体力を消耗してる」

( ;_ゝ;)「……ふ、う、うあああ」

ξ ゚⊿゚)ξ「……暫く泣き止みそうにないわね」

(*゚ー゚)「それでいいよ、やっと会えたんだもの」

178名も無きAAのようです:2013/03/15(金) 23:54:03 ID:xp7nYTL60
しぃは微笑む。
だが、その隣でツンは笑っていた表情を引き締め――後ろを振り返った。

('A`)「モナー……なんで、」

ドクオが、力無い声でぽつりと呟いた。
 
 
 
 
 
第8話「離」・終

179 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/15(金) 23:55:44 ID:xp7nYTL60
なんか20レス以内で毎回終わってしまう……

支援ありがとうございました

明日遊びに行くから楽しみ

180名も無きAAのようです:2013/03/16(土) 02:06:11 ID:8/zHIJH20


181 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/17(日) 23:20:51 ID:4.OVJpBs0
 
 
 
 
 
虚偽を信じるつもりはない。
 
 
 
第9話「解」

182名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:22:01 ID:4.OVJpBs0
ぱち、と目を覚ました。
目の前には白い天井が広がっている。
時折揺れる部屋に、びくりと驚きで肩を震わせた。

(´<_` )(……どこだ、ここ)

ぐ、と起き上がろうとしたが体の節々がぎしぎしと痛む。
せめて周りを見るだけでも、と首を動かそうとして。
自分の腹に寄りかかる重みに気が付いた。

(´<_` )「……兄者」

183名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:22:48 ID:4.OVJpBs0
椅子に座っていたのだろうが、眠ってしまったらしい。
そのまま倒れ込んだ、といった感じでベッドに横になっている弟者の腹に兄者の肩がある。地味に腹に刺さって痛い。だが、倒れ込んだのが自分の方でよかったと安心した。
後ろに行けば椅子からも落ちて床に頭をぶつけることになりそうだからだ。

(´<_` )(……気持ちよさそうな顔してるなー)

そう思いながら、弟者はさてどうしようか、と思考を始めた。
このままもう一眠りしてしまおうか。それとも起きているか。

184名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:23:56 ID:4.OVJpBs0
ちなみに起きてしまうと、ずっと体勢を変えないままという縛りが付く。兄者を起こしたくはないという気持ちからだった。
それにしても、気を遣うなどどちらがこの部屋にお世話になっているのか分からない。
けれど妙にそれが自分たちにとってはお似合いのような気がして、弟者は微笑んだ。

( ・∀・)「おや、目が覚めたかい」

ふと、意識を失う前に聞いた声が聞こえた。
視線だけ動かすと、扉から男が覗いてきているのが見える。
男は弟者と目が合うと、にっこりと笑った。
それがふと作り物染みていた気がして、弟者は眉を顰める。

( ・∀・)「初めまして、弟者くん。僕はモララー、君のお兄さんの守護者だ」

185名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:25:04 ID:4.OVJpBs0
(´<_` )「守護者」

( ・∀・)「そう。君は自分が囚われた理由は知っているかな」

(´<_` )「いや、」

全く。
そう続けた弟者は、真っ直ぐとした瞳をモララーに向けている。
固い警戒に包まれた好奇心を映すその瞳に、モララーはヒュウと口笛を吹く。

( ・∀・)「それは悪かったね、じゃあ教えよう! 君たちが持つ力のことを」
 
 
 
 
 
二人の声が聞こえる。
片方は楽しむような、もう一人は怒りを隠しきれないのか低い声になっている。

186名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:25:38 ID:kqJJjT9M0
支援

187名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:26:24 ID:4.OVJpBs0
後者の人物の、低くない時の声を知っている。
それだけじゃなく、笑った声も、呆れたような声も。

( ´_ゝ`)(あれ?)

今会話してるこの二人は、誰だ?

光に照らされて眩しいと感じる瞼を押し開けて、光を視界に取り入れる。
その直後、自分の体が大きく動いて兄者は「うわ!?」と思わず声を上げた。

(´<_`;)「……あ」

188名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:27:54 ID:4.OVJpBs0
( ・∀・)「おはよう、ご主人。よく眠れたかい?」

( ´_ゝ`)「あ、おはよう」

布団に手を着いて起き上がる。
体が動いたのは、どうやら自分が体を預けていた弟者が上体を起こしたせいらしい。
弟者は自分が起こしたと思っているのか、罰が悪そうな顔をしながら囁くような小ささで「おはよう」と言った。

( ´_ゝ`)「弟者、急に起き上がって大丈夫か? どっか痛くないか?」

(´<_` )「強いて言うなら兄者が下敷きにしてた腹が痛い」

(;´_ゝ`)「すまん」

189名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:29:26 ID:4.OVJpBs0
会話こそいつも通り。だが、声に棘がある。
何かあったのか、とモララーに視線を投げかけても肩を竦めて笑うだけだった。

( ´_ゝ`)「あ、弟者、右腕の具合はどうだ? 多分綺麗に治ったと思うんだけど」

(´<_` )「……兄者」

( ´_ゝ`)「うん?」

(´<_` )「兄者、何を考えてるんだ」

( ;´_ゝ`)「は?」

190名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:31:28 ID:4.OVJpBs0
ほおら始まった、モララーが楽しげにそう言った。

(´<_` )「兄者、よくもまあこんな胡散臭そうな奴に着いて行ったな。もしこいつが向こう側の奴だったらどうするんだ。下手したら二人とも行方不明だぞ」

( ;´_ゝ`)「う、いや、胡散臭いのはモララーだけだから。ギコとか普通だから」

( ・∀・)「え、僕の扱い酷くない?」

ぎっ、と弟者はモララーを睨み付けた。
状況を飲み込めていない兄者はきょろきょろと弟者とモララーを交互に見る。

(´<_` )「俺がその未来の受継者ってことは分かった。とにかくさっさと終わらせてくれ、こんなこと」

( ・∀・)「うん、まあ僕らもそうしたいんだけどねえ」

191名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:32:42 ID:4.OVJpBs0
( ;´_ゝ`)「え? ちょっと待って、俺が寝てる間に一体何があったの」

( ・∀・)「ただの事情説明と状況報告だよ」

( ´_ゝ`)「モララーが言うと嘘にしか聞こえなくなるのがたまに悲しくなる」

( ・∀・)「ねえだから僕の扱い酷くない? ねえってば」

とにかく、と弟者が声を荒げた。
弟者は厳しい目のまま兄者を見つめた。
声に出さずとも伝わってくるような、責め立てるような瞳に兄者はたじろいだ。

192名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:34:11 ID:4.OVJpBs0
(´<_` )「そんなことに巻き込まれて、しかも乗るんじゃない。銃の扱いなんて覚えてどうするんだ」

( ;´_ゝ`)「ちょっ」

「あんまりだ!」兄者のその言葉にも、弟者は兄者を一瞥しただけだった。
その態度が頭にカチンとくる。

気が付けば言葉は勝手に出てきた。

( ;´_ゝ`)「俺はお前を助けたくて、」

(´<_` )「だからってそこに至るまでの警戒が無さすぎる。もっと人を疑うことを覚えろ」

( ´_ゝ`)「さっきからなんだよその態度!」

193名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:35:53 ID:4.OVJpBs0
兄者は怒りを露わに椅子から立ちあがった。

( #´_ゝ`)「今こうやって助かったんだからいいだろ!?」

(´<_` )「厳密に言えば助かってない。これから危険な目に遭うかもしれない」

( #´_ゝ`)「あのままだったら今頃死んでた! 今こうやって生きてる、それだけで十分だろうが!」

叩き付けるような叫びだった。
兄者と弟者は暫く睨み合った。
似たような顔が互いに同じような表情をして向き合っている。

( ・∀・)(こうして見ると兄弟だなあ)

モララーが全く別のことを考える中、ずっと続いていた沈黙は兄者が目を逸らしたことから破れた。

194名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:37:08 ID:4.OVJpBs0
( ´_ゝ`)「弟者の馬鹿ッ!!」

そう吐き捨てると、兄者は足音をずんずんと立ててモララーが入って開け放しにしていた扉のドアノブを引っ掴んだ。
バタン! 勢いよく扉を閉めた大きな音を残して兄者は部屋から出て行った。

( ・∀・)「弟想いだねえ」

(´<_` )「……」

兄者が起きる前の空気に戻った、とでも言えばいいのか。
部屋は怒りの空気で満ちていた。

195名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:38:41 ID:4.OVJpBs0
( ・∀・)「それにしても、君も随分言うねえ。確かに行動は良くなかったけど、それぐらい君を大切に想ってるってことじゃないか」

(´<_` )「……駄目なんだ」

駄目、という言葉が理解できなくてモララーは首を傾げた。
うまく言葉が噛み合わない、とでも言うべきか。

( ・∀・)「駄目って、一体何が?」

素直に尋ねてみる。
モララーの言葉に弟者は首を振って「駄目なんだ」と自分に言い聞かせるように繰り返した。

(´<_` )「俺がこうして助けられたら、駄目なんだ……きっと一緒に居ると予想して向こうは喜ぶ」

( ・∀・)「何を言って、」
 
 
 
(´<_` )「あいつらの狙いは兄者なのに」

196名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:39:49 ID:4.OVJpBs0
( ・∀・)「……聞き捨てならないね、今の言葉は」

詳しく聞かせてもらおうか?
モララーが、兄者が座っていた椅子に座る。そのモララーに、弟者は鋭い視線をモララーに向けた。
 
 
 
 
 
( #´_ゝ`)「馬鹿馬鹿ばぁあああか!」

特に行先は決めていなかった。
兄者は一つ覚えのようにそう繰り返し呟きながら、飛空艇の中を歩いていた。

197名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:40:48 ID:4.OVJpBs0
どこかに向かうか、ふと考えてみる。
あまり暇が無かったからできていなかった内部の探検でもしようか、そう考えていた時。

だん、と壁を拳で殴った音が聞こえた。

( ´_ゝ`)「……?」

自分のすぐ隣にある壁だから、驚くのも無理はない。
兄者はその部屋の扉をひょいと見て、「あ」と声を漏らした。
少し躊躇うが、ドアノブに触れてみる。

( ´_ゝ`)「……」

がちゃり、ドアノブを捻って扉を押した。

198名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:42:33 ID:4.OVJpBs0
( A )「ちくしょう……ちくしょう……」

部屋の、声の主は誰だかわかっていた。

('A`)「どうして……どうしてだよ、モナー」

( ´_ゝ`)「……ドクオ」
 
 
 
 
 
第9話「解」・終

199 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/17(日) 23:44:27 ID:4.OVJpBs0
今日はここまで

支援ありがとうございました

バイト疲れた死ぬ

200名も無きAAのようです:2013/03/17(日) 23:48:57 ID:Zz/34XgEO


201 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/18(月) 22:52:17 ID:P2jOCKcQ0
 
 
 
 
 
忍び寄る足音。
 
 
 
第10話「哀」

202名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 22:53:48 ID:P2jOCKcQ0
('A`)「モナーはさ、オレらの中で潤滑剤みたいなものだったんだ」

潤滑剤、と兄者が繰り返すとドクオは「そう」と頷いた。
広い部屋の隅で、二人して壁に背を預けているのは少しおかしな光景だった。

('A`)「オレらは意見の対立が激しくてさ。ジョルジュやハインは押せ押せなのに対して、クーとオレは慎重派だったんだ。
だから、監視なのに飛び出そうとするのを説得するのはいつもモナーだった」

昔を懐かしむようにぽつりぽつりと話すドクオの手に、兄者はそっと触れた。
心の中で詠唱して、自分の体に熱が灯るのを感じながら目を閉じる。

ドクオの語る彼らの姿を、少しでも感じたかった。

203名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 22:55:27 ID:P2jOCKcQ0
 
 
 
 
 
(´<_` )「俺があそこに入れられる前、あいつらが言ってたんだ」

(´・ω・`)『ああ、こいつは未来の方か』

(´<_` )「あの時はさっぱり訳が分からなかった。でも、その後確かに言ってたんだ」

(´・ω・`)『まあいい、こっちが未来ならあっちは確実に過去だ。こいつを使っておびき寄せればいい』

モララーは口元に手を当てたまま考え込んでいるようだった。
弟者の険しい表情は消えない。

204名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 22:56:32 ID:P2jOCKcQ0
(´<_` )「あんたら、こんだけ知ってるなら少しくらい何か知ってるんじゃないのか」

( ・∀・)「……残念ながら」

モララーは苦笑いすると、お手上げだと言うように両手を上げて見せた。

( ・∀・)「ずっと昔から何者かに狙われているっていうことは知ってる。でも、誰からかまでは記録が残っていないんだ。不思議なことにね」

(´<_` )「……使えないな」

( ・∀・)「申し訳ないね」

苛立ちを明確に表している弟者は、モララーからこそ視線を外すが舌打ちは抑えきれなかった。

205名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 22:57:44 ID:P2jOCKcQ0
目元は兄者と比べると切れ長で、心なしか凛々しい顔立ちをしていると思う。
確か身長は兄者と頭一個分違ったはずだ。
見目は完璧に弟者の方が上だと思えた。

( ・∀・)(兄弟でもここまで性格が違うんだなあ)

兄者は人を信じすぎ、弟者は人を警戒しすぎている。
足して2で割りたいと思えてしまうほどだ。

( ・∀・)「……君は、随分と違うね」

(´<_` )「何がだ」

206名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 22:59:03 ID:P2jOCKcQ0
( ・∀・)「お兄さんとだよ」

モララーが言うと、弟者は剣呑な目でモララーを一瞥してから「ああ」と答えた。

(´<_` )「兄者は間が抜けているから。見てないと不安だ」

( ・∀・)「……」

なんていうかなあ、とモララーは頭を掻いた。

( ・∀・)「ねえ、君さあ。僕の勘違いであればいいんだけど」

(´<_` )「?」

207名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:00:12 ID:P2jOCKcQ0
( ・∀・)「お兄さんに向ける気持ちが、ちっと過保護すぎやしないかい」

(´<_` )「否定はしない」

( ;・∀・)「えっ」

モララーにとってはそこそこ冷たい視線と言葉を覚悟していた。
だが、当の本人から実質肯定するような言葉を返されて、モララーは拍子抜けしてしまう。

弟者は自分の首にかかっている緑の石のネックレスをぎゅっと握ると、布団に視線を落としたまま口を開いた。

(´<_` )「兄者はもしかして話してないのか。俺達のこと」

208名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:01:38 ID:P2jOCKcQ0
( ・∀・)「……あまり聞いてないね」

(´<_` )「そうか」

「俺達は」弟者はモララーと決して目を合わせない。

(´<_` )「俺達は、俺達以外の家族の記憶が一切無い」

( ・∀・)「……と、言うと?」

(´<_` )「物心ついた時には、兄者とこの石しかなかった」
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)『弟者、これからは兄者と一緒に暮らすんだ』

209名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:02:49 ID:P2jOCKcQ0
(´<_` )『……兄者?』

最初に手を握りながら、自分に言い聞かせるようにも思えたその言葉を聞いたのは、確か兄者が小学3年生で自分が小学1年生の時だった。
どうして二人きりになったのかは覚えていない。
むしろ自分がどうやってここまで生きてきたのかも覚えていない。

不思議なくらいだった。
兄者は自分達二人だけになってから、進んで家事をするようになった。
毎日レシピ本とにらめっこする兄者に、何度手伝うと申し出ただろうか。
兄者は何度言っても穏やかに笑うだけだった。
笑って、必ず決まって言うのだ。

210名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:03:59 ID:P2jOCKcQ0
( *´_ゝ`)『いや、いいよ。弟者は気にしないで宿題やってな』

いつもそうだった。
折れてくれたとしても、風呂掃除や洗濯物を取り込むくらいの軽い仕事だけしかくれないのだ。

日常生活で、銀行に入る子供二人はさぞ異質だったろうと思う。
いつも周りの視線を感じていた。
それでも、兄者はいつも自分の頭を撫でて「ちょっと待ってな」と笑って行くのだ。

中学を卒業して、兄者は高校に行かなかった。
いつの間にかバイトをして、自分の人生を犠牲にする兄者にあの頃は一番反抗していたと思う。

211名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:05:04 ID:P2jOCKcQ0
そのくせ弟者が高校に行かないと言った時は酷く怒ったものだった。
確か一度殴られた。きっとあの時が最初で最後、兄者が自分に手を上げた時だっただろう。

( ´_ゝ`)『お願いだから、弟者は何も気にせず楽しんでくれ』

自分の分まで、という言葉が含まれているような気がして、弟者はその時口を噤んでしまった。
 
 
 
 
 
(´<_` )「俺のせいで、兄者は自分の人生を蔑ろにしてまで、俺にちゃんとした生活を送らせようとして」

212名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:06:22 ID:P2jOCKcQ0
そこまでされて、鬱陶しく思うなんてことないだろう。
弟者はそう言った。

モララーははあ、と溜息を吐いた。

( ・∀・)(……依存、かなあ)

いや、間違いなくそうだろう。モララーはそう結論付けた。
幼い時から二人だけで育ってくれば、ましてや片方がお人好しなら、もう片方が反面教師のように育っても無理はない。

213名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:07:55 ID:P2jOCKcQ0
それ故に、生まれてしまった歪なもの。

しょうがないかなあ、とモララーは心の中で呟いた。
「弟くん」そう呼びかけて弟者を見た、が。

(´<_` )「……兄者」

弟者が、自分の石を握り締めている。そこまではいい。
顔色が真っ白だった。

(´<_`; )「兄者……ッ!」

( ;・∀・)「弟くん!?」

214名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:09:08 ID:P2jOCKcQ0
ベッドを立ち上がろうとした弟者は、暫く使っておらず固まった脚のせいでその場に崩れ落ちる。
思わず駆け寄れば、弟者は「早く、」と焦れたように呟いた。

( ;・∀・)「どうしたんだい? 一体何が、」

(´<_`; )「早く、早く行かないと」
 
 
 
(´<_`; )「兄者が、危ない」

215名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:10:07 ID:P2jOCKcQ0
 
 
 
 
 
( ;´_ゝ`)「……っ、ぐ」

ドクオが、ドクオが血を流して倒れている。
早く治さねば、と思うのに、伸ばした手が届かない。
どうしてだろう、と考えて。

( ;´_ゝ`)(……ああ、そうか)

216名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:14:21 ID:P2jOCKcQ0
床に押し倒されてれば、そりゃ届かないか。

( ;´_ゝ`)「か、は……ッ」

ぐ、と首にかかる圧が強くなる。
ドクオの方を向いているせいで、自分の首を絞めている相手はわからない。
だけど、味方でないことは確かだった。

(   )「……」

喋ることもなく、ただ首を圧迫してくる。

217名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:16:06 ID:DTfWe0BI0
しえ

218名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:18:17 ID:P2jOCKcQ0
徐々に酸素を求めて喘ぐ兄者を、声に出さず楽しむように。
首はじわじわと強く絞め付けられた。

( ;´_ゝ`)「、ぅ、あ……」

弟者。
そう呼びたくなった。

( ;´_ゝ`)(ああ、もしかして死ぬのか)

こんなことなら喧嘩なんかしなきゃよかった、と兄者は微かに笑った。
喧嘩別れほど後悔することはきっと無いだろう。

219名も無きAAのようです:2013/03/18(月) 23:19:31 ID:P2jOCKcQ0
(´<_`; )「兄者ああッ!!!」

遠くなっていく意識の中で。
叫ぶような弟者の声が、聞こえた。
 
 
 
 
 
第10話「哀」・終

220 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/18(月) 23:22:13 ID:P2jOCKcQ0
今日ここまで

支援ありがとうございました

明日から混むと確定してる三連勤です
水曜日は前半だけだから投下できる……はず……
投下してなかったら寝てるって思ってください

では

221名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 00:23:17 ID:FS2iHmqM0
乙乙

222名も無きAAのようです:2013/03/19(火) 14:48:27 ID:BB8dU0Us0
一気に読んでしまった。面白い撿

223 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/20(水) 22:27:42 ID:..tylcf.0
『――ッ!』

(  _ゝ )(?)

泣いている。泣いている。
誰かが泣いている。

『……、――』

血を吐くような、嗄らした喉から絞り出す怨念の声だった。
視界が明確になっていく。

224名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:29:06 ID:..tylcf.0
女が胸から血を流している。
女を抱えた男が、誰かの足首を掴んで、叫んでいる。

『……ろう、……』

男が、ぎっと掴んでいる足首の持ち主を睨みあげた。

『いいだろう、―――――』

男は笑った。
憎い憎いと語る、凄惨な笑みだった。

225名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:31:08 ID:..tylcf.0
『そんなに分からないなら、永遠に与えてやるよ』

男の瞳は、緑色だった。
 
 
 
 
 
変わらないまま、ずっと恨んで怨んで憾んで。
 
 
 
第11話「真」

226名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:32:56 ID:..tylcf.0
(´<_`; )「兄者ああッ!!!」

( ・∀・)「!」

弟者がそう叫んだ瞬間、モララーは支えていた弟者の体を置き去りにして駆けた。
駆ける最中に青い光を収束させて具現化したのは、青い刃を持ったサーベルだ。
右手に掴んだその持ち手をぐっと左に突き出し――兄者に馬乗りになっているその人物へ向かって、左から右へ一気に横へ薙いだ。

( ФωФ)「ふっ」

227名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:34:12 ID:..tylcf.0
馬乗りになっていたのは男だった。
モララーの攻撃に当たるまいと、即座に兄者の体から飛び退いて避ける。
それだけで十分だった。
飛び退いて距離を取ったその男から、モララーは兄者とその男の間に立つように兄者を背後に庇ってサーベルを男に向ける。

( ・∀・)「……お前か、時間の受継者を狙っているのは」

( ФωФ)「いかにも」

男は不気味なほどに落ち着いている。
むしろ、これが平静なのかと思えるほどだった。

228名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:35:21 ID:..tylcf.0
( ・∀・)「どうして狙う」

( ФωФ)「それは言わぬ。だが、名は名乗っておこうか」

男は演技かかった口振りで、両手を広げて朗々と話した。
騒ぎを聞きつけたギコ達が、入口で無闇に手出しできずに武器を構えたまま止まっている。
窺うようなギコ達に、モララーは視線で「待て」と合図した。

( ФωФ)「吾輩の名はロマネスク。杉浦ロマネスクだ。
此度は邪魔が入ったが、次こそは過去の受継者を殺しに来よう」

男――ロマネスクがそう言い終えた直後、しぃの銃が火を噴いた。

229名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:36:15 ID:..tylcf.0
だがその銃弾は当たらずに、ロマネスクに当たる直前に、真っ二つに割れて床に落ちた。
からんからんと、乾いた音がした瞬間ロマネスクはその姿を消していた。

( ・∀・)「っ探せ!」

モララーの声に頷いたギコとしぃが立っていた扉から離れて、部屋から廊下に向かって走り出した。
内藤が弟者の体を支え、ツンが倒れたドクオの元に向かう。

( ・∀・)「……杉浦、ロマネスク?」

230名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:37:36 ID:..tylcf.0
引っかかる、とモララーは呟いた。
どこかで聞いた覚えのある名だと思った。

( ・∀・)(……これは、調べる必要がありそうだね)

(´<_` )「兄者、」

( ^ω^)「主は大丈夫だお。気を失っただけだお」

内藤の言葉に、弟者は表情がほっと安心したように落ち着いた。
だがそれも一瞬のことで、悔やむように顔をくしゃりと歪ませる。

231名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:39:21 ID:..tylcf.0
(´<_` )(守れなかった)

ぐ、と唇を噛んだ。
「弟者、」ドクオを見ていたツンが声をかける。
両腕を刃物で斬り付けられたような傷があり、そこから流れていた血の止血をしていた。

ξ ゚⊿゚)ξ「もう力は使える? 今となっては、あんたの守護者はドクオしかいないのよ。私達も守ろうと思えば守れるんだけど、同じ受継者でも相性が違うと不完全になるの」

(´<_` )「……大丈夫だ。使える」

手順は既にモララーから聞いていた。

232名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:40:52 ID:..tylcf.0
弟者は首に緑の石のネックレスをかけていることを確認してから、ドクオに触れる。
詠唱するとざわりと空気が震え、弟者の瞳が緑色に変わった。

('A`;)「う、」

ξ ゚⊿゚)ξ「大丈夫? ドクオ」

('A`)「ああ……気分は最悪だけどな」

ξ ゚⊿゚)ξ「あんたのクロスボウは近距離じゃなかなか難しいしね」

('A`)「返す言葉もねえわ」

233名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:42:30 ID:..tylcf.0
ドクオがよっ、と声を付けて体を起こす。
傷は塞がりはしたが痕が残っていた。

モララーは起き上がったドクオに向かって声をかける。

( ・∀・)「あいつはどうやって現れた? 前触れも何も無かったのかい」

('A`)「ああ、無かった。いきなりそこら辺の空間が歪んで、あいつが現れたんだ」

( ・∀・)「空間転移か? なんらかの受継者と見ても、受継者に受継者を殺すメリットなんて無いはずだ」

(´<_` )「……なあ」

234名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:44:09 ID:..tylcf.0
それまで口を閉じていた弟者が、口を開いた。
自然と視線は弟者に集まる。
集まった視線を気にすることも無く、弟者は凛とした声で言葉を紡いだ。

(´<_` )「守護者は、どうしているんだ?」

ξ ゚⊿゚)ξ「え?」

(´<_` )「受継者に受継者を殺すメリットは無い。なら、必然的に一般人でも受継者を殺すメリットは無いよな。殺したら自分の住んでる世界のバランスが崩れるんだから」

235名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:45:20 ID:..tylcf.0
(´<_` )「なら、なんで守護者は存在してるんだ?」

( ・∀・)「……なるほど」

モララーは眉を顰め、そう呟いた。
言われてみればそうだと納得する。

受継者が生まれた歴史は、そこまで詳しく記されていない。
あって当然のように、残された資料からは発動条件などが淡々と記されているだけなのだ。
弟者の言葉に、これは資料を全て読み直してさらにまた新たに資料を探した方がいいのかもしれないとモララーは腕を組んだ。

236名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:47:19 ID:..tylcf.0
そして、今回新たに現れた「杉浦ロマネスク」という存在も。

( ・∀・)「調べ直そうか。ドクオも、未来の守護者として協力してくれないかい?」

('A`)「勿論だ」

( ,,゚Д゚)「見回ったが、奴はいなかった」

飛空艇の中を回ってきたギコとしぃが戻ってきた。
その表情にはやりきれないという気持ちがありありと表れている。

( ・∀・)「ああ、でも場所がバレたのは痛いね。どうしようか」

237名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:48:42 ID:..tylcf.0
( ,,゚Д゚)「とりあえず、飛空艇の飛んでる場所を変えるか? ずっと同じ場所に居るのもおかしかったな」

( ・∀・)「うん、とりあえずやらないよりはマシだね。変えようか」

モララーは倒れたままの兄者の腕を自分の肩に回し、立ち上がった。
兄者の首にはロマネスクによって付けられた絞め痕が残っている。

それに静かに眉を顰め、弟者はモララーに支えられた兄者に触れて素早く詠唱した。
「ん?」突然近づいてきた弟者を疑問に思ったのだろう、モララーは一度声は上げたが消えていく痕に合点がいったように小さく頷いた。

238名も無きAAのようです:2013/03/20(水) 22:50:18 ID:..tylcf.0
( ・∀・)「少し気になってたんだよね」

(´<_` )「……別に」

( ・∀・)「包帯で隠すのもあれだしね。ありがとう」

「ご主人は部屋で寝かせておくよ」モララーと共に、ドクオが部屋から出て行った。
だが、部屋を出ていくその直前に。

(  _ゝ )「……ロマ、ネスク……」

兄者の唇から零れ落ちたその名前には、誰も気が付かなかった。
 
 
 
 
 
第11話「真」・終

239 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/20(水) 22:52:47 ID:..tylcf.0
今日ここまで

駄目だ回重ねるごとに短くなってく……ひぃ
ようやく折り返し地点まできたのでがんばりたいです

では

240名も無きAAのようです:2013/03/21(木) 03:14:55 ID:M2Ofsj.s0
おつ 続き楽しみにしてる!
弟者が傷を治せるのは、時を進めて自然治癒させてるということ?

241 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/22(金) 23:12:25 ID:vmfo4mZ20
 
 
 
 
 
覚めたくないと思ったのは今まで無かった。
 
 
 
第12話「否」

242名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:13:42 ID:vmfo4mZ20
( つ_ゝ`)「……」

酷い夢だった。
見たくもない映像を延々と頭の中に流されていた。
自分の意思など関係ないように、一方的に事実を淡々と。

( ´_ゝ`)「……頭いてえ」

(   )『幸せになるのじゃ!』

(  _ゝ )「……ッ!」

こちらが望まないことまで、伝わってきた。

初めて自分の運命を呪った日だった。

243名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:15:03 ID:vmfo4mZ20
 
 
 
 
 
(  ∀ )「……はは」

書庫の中で、モララーは天井を仰いで乾いた笑いを漏らした。
彼の正面には、ドクオが片手で顔を覆っている。
その表情には色濃い疲労と。何より、後悔の念が強く表れていた。
モララーは持っていた本をばさりと放った。
本の山に投げ出されたその本の、開いたページには古めかしい写真がある。

映っていたのは。

244名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:16:31 ID:vmfo4mZ20
( ・∀・)「杉浦ロマネスクか。そうだよ、道理で聞き覚えがあると思ったんだ」

('A`)「……これは、過去の受継者に話を聞きに行かないとな」

( ・∀・)「ああ。起きているといいんだけどね」

「ついでに全員集めないと」モララーは座り込んでいた床から立ち上がり、固まった背を解そうと伸びをした。
大きく溜息を吐いて、書庫を出る扉へと向かう。
ドクオもワンテンポ遅れてそれに続いた。

( ・∀・)「弟くんの予想が当たるなんてね」

245名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:17:49 ID:vmfo4mZ20
('A`)「できれば当たってほしくなかったがな」

誰もいなくなった書庫の扉が、音を立てて閉まった。
 
 
 
 
 
( ・∀・)「杉浦ロマネスク。受継者を狙っている。弟くんを襲撃したのも主犯はこいつだ」

全員が集結した部屋で、一つの丸テーブルを囲むようにして全員が立っていた。
兄者の顔色はあまり良くない。
隣に立つ弟者が兄者に声をかけるが、兄者は「大丈夫」と作り笑いをするだけだった。

246名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:19:40 ID:vmfo4mZ20
( ・∀・)「はっきり言おう。こいつはおそらく不老不死だ」

( ,,゚Д゚) 「なんだと?」

モララーが口にした非現実的な言葉に、ギコが怪訝そうに眉を寄せる。
「まあ聞いてよ」苦笑いを隠しきれないモララーが、すっと視線を伏せる。

( ・∀・)「杉浦ロマネスク。何か聞き覚えがある名だと思ったんだが、嫌なことに当たってね。

今から142年前。脱獄したまま行方を眩ませた、殺人鬼の名だ」

247名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:21:22 ID:vmfo4mZ20
ξ;゚⊿゚)ξ「は……?」

ツンの表情が引き攣った。
ツンにとっては、妹のデレのこともある。
妹が仕える相手が、不老不死の殺人鬼など。信じられないのだろう。

( ・∀・)「27人を殺害。死罪として処刑日まで牢獄にいた間、脱獄してそれきりだ。
そして、受継者に守護者が付くというシステムが生まれたのも142年前」

さらにだ、と話すモララーを見つめながら。
兄者が小声で「やっぱり」と呟いた。

248名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:22:31 ID:vmfo4mZ20
(´<_` )「? 兄者?」

( ・∀・)「書庫中の本ひっくり返して調べたら、今まで読んだことのない本が出てきてね。おかげにそれが重要物だときたもんだ」

( ・∀・)「それが、受継者のことについて詳細に書かれた本でね」

モララーはそう言って、本を取り出した。
茶革のカバーをかけられた本は、見ただけで年季が入っているとわかった。
どこかクラシカルなデザインのそれは、まだ埃を被っているようにも見える。

249名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:24:11 ID:vmfo4mZ20
( ・∀・)「これによると。時間の受継者には、石なんて存在しなかったらしい」

(´<_`; )「えっ」

石を首から下げた弟者が声を上げる。

( ・∀・)「石が生まれたのも142年前。この142年前、っていう同時期がすごくひっかかるんだけどさ」

どうかな、ご主人?
話を振られた兄者が、ごくりと唾を飲んだ。

250名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:25:31 ID:vmfo4mZ20
モララーと兄者以外は、何のことだかさっぱりわかっていない。
兄者はすう、と深呼吸を一つしてから石を握り締めた。

( ・∀・)「ご主人が気を失う直前だね。首を絞めてくるあいつの手を、抵抗しようと君は握っていたはずだ。その君の手が、気を失う直前に青く光っていたような気がしたんだけど」

( ´_ゝ`)「……よく見てたな、モララー」

( ・∀・)「ありがとう」

モララーは常と同じトーンで礼を言うと、じっと兄者を見つめた。

251名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:26:20 ID:vmfo4mZ20
漆黒の瞳が、「さあどう出る」と試しているようにも思えた。

( ´_ゝ`)「……モララーの言う通りだ。自分の意思じゃないが、力が発動してた。
結果、あいつの過去に若干触れた」

全員が息を飲む。
その中で一番敏感に反応したのは弟者だった。

殺人鬼の記憶に触れる。それはつまり、その者の過ごした日々を見るということで。
人を殺す光景を、まともに見るということなのだ。

252名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:27:09 ID:vmfo4mZ20
「兄者、」情けない声音で呼びかけてしまう。
だがそれだけで言おうとしたことが分かったのか、兄者は弟者に弱弱しく微笑んだ。

( ´_ゝ`)「142年前。ロマネスクが最後に殺した相手が、過去の受継者だった」

( ´_ゝ`)「気付いたのが遅かったらしくて、過去の受継者はもう力を使っても治せないところにまできてた」

( ´_ゝ`)「次からそんなことが無いように、と――未来の受継者が、力を石に変えて、割ったんだ」

253名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:28:27 ID:vmfo4mZ20
きっとそこから石ができたんだ、と兄者は締めくくった。
モララーはふむ、と口元に手をあてていたが、兄者が言葉を続ける気配が無くなったのを見て口を開いた。

( ・∀・)「でも、それぞれが石を身に付けていても相手の危機なんて分からないよね?」

( ´_ゝ`)「俺達の前の世代はみんな、自分のじゃなくて互いの石を付けてたみたいなんだ」

( ;^ω^)「……ちょ、ちょっと待ってくれお」

答えた兄者を、内藤が止めた。

254名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:29:35 ID:vmfo4mZ20
( ;^ω^)「主、今、」

( ;^ω^)「どうして、142年前以後の受継者のことに答えられたんだお?」

内藤の質問に、しぃが少し考えるような表情をした後――はっとしたように兄者を振り返った。
まさか、音にこそならないがしぃの唇がそう象っていた。

しぃに答えるように、兄者は頷いた。

( ´_ゝ`)「ロマネスクは、ずっと時間の受継者を狙い、殺してるんだ」

255名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:31:10 ID:vmfo4mZ20
(;*゚ー゚)「……そんな」

「これは142年前の受継者に原因がある」石を握り締めていない方の下ろした手が、きつく握り締められていることに弟者は気が付いた。
そのまま視線を上げれば、何かを堪えるような表情をした兄者の姿がある。
自分にしか果たせないことだと、込み上げる苦痛に耐えているのだと弟者には分かった。

( ´_ゝ`)「その時代の未来の受継者は、過去の受継者を殺したロマネスクに呪いを残した。
ここは音声が不明瞭で、事情がよく分からなかったんだけど」

256名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:32:52 ID:vmfo4mZ20
( ´_ゝ`)「『分からないなら永遠に与えてやる』って。そう言ってた。きっと、ロマネスクに訪れる死を無くしたんじゃないかって思う」

('A`)「……それで死ねなくなったロマネスクが、時間の受継者を殺してるって?」

こくりと兄者が頷いた。
モララーは目を閉じ、頭が痛いと小さく呟いた。

( ・∀・)「あくまで狙いは過去の受継者なんだね。過去の出来事を揉み消そうとでもしてるのかな」

257名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:34:10 ID:vmfo4mZ20
( ´_ゝ`)「でも、過去を狙ってても必ず死ぬのは未来の方なんだ。
未来の受継者が過去の受継者を庇って死に、過去の受継者がそれに引きずられて死ぬ」

('A`)「だからいつまで経っても元に戻れない、と」

ドクオの言葉を最後に、全員が沈黙に沈んだ。

過去に起こった出来事は、兄者が望めば変えることができるのだろう。

『死を否定されたことを無かったことに』、触れながら願えば。

だが、それをやろうとする頃には兄者はきっと刃を突き立てられている。

258名も無きAAのようです:2013/03/22(金) 23:35:08 ID:vmfo4mZ20
( ・∀・)「……どうすればいいんだろうね」

モララーの言葉が、全員に重く伸し掛かった。
兄者の拳は、震えていた。
 
 
 
 
 
第12話「否」・終

259 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/22(金) 23:37:42 ID:vmfo4mZ20
今日ここまで

お菓子買い忘れて後悔して瀕死

260 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/22(金) 23:44:02 ID:vmfo4mZ20
>>240

そうですねー
体を「傷が治った」っていう未来にまで急速に引っ張り上げる感じです
ただし未来の力なので、「無かったこと」にする過去の力と違って酷いと痕が残ったりもします

未来においては「いつ死ぬか」は定められてません
未来はいつでも未知なので。ジョルジュが死ぬ前に石で回復できたのはその原理です

でもその中で、142年前の未来の受継者がロマネスクの「死」を否定してしまったので
ロマネスクはずるずると生きているというわけです

設定が不完全な感じが否めない……

では今日はここら辺で

261名も無きAAのようです:2013/03/23(土) 23:47:07 ID:.d2H8QhE0


262 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/25(月) 21:27:07 ID:PqnUk8x6O
携帯から

帰りが遅くなってしまったので今日投下できず、
明日の昼頃になるかなーと思います

263名も無きAAのようです:2013/03/25(月) 22:58:38 ID:mWnsbWG2O
( ^ω^)はあくしたお

264名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 18:29:02 ID:2uWCZDtk0
まだかね
待つぞよ

265 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/27(水) 20:09:19 ID:wWcqPus60
投下時刻詐欺やめようと本気で思った
すみません投下します

266名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:10:23 ID:wWcqPus60
 
 
 
 
 
そう決めたならば。
 
 
 
第13話「嫌」

267名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:12:17 ID:wWcqPus60
('A`)「……驚いた」

ドクオはそう零した。

('A`)「主、本当に初心者かよ」

(´<_` )「まあ、一応一般人」

('A`)「一般人でそんだけ使えるってどういうことだよふざけんな」

知らないっての。
ぼやきながら弟者は持っていた耳切棒を肩に担いだ。

268名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:14:14 ID:wWcqPus60
飛空艇の一室、訓練場で自衛手段を身に付ける為の訓練をやっていた、はずだった。
邪魔にならないようにと、訓練場の隅で体育座りをしてその光景を見ていた兄者はいつからかぽかんと口を開けていた。

ドクオが驚くのも無理はない。
弟者は準備された武器の中から迷いなく棒を選ぶと――守護者のドクオを相手に、見事に立ち回って見せたのだ。

( ・∀・)「……弟くんは化け物か何かかい?」

( ´_ゝ`)「いや、俺が半分育てた人間だと思うんだけど」

( ・∀・)「なんだいその半分ってのは」

( ´_ゝ`)「半分は弟者が自分で勝手に育った分」

269名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:15:04 ID:wWcqPus60
隣に立つモララーの言葉に答えながら、兄者は本当に弟が人間なのかを疑い始めていた。
そんな兄の心情など知らずに、弟者は担いでいた棒をくるくると弄んでいた。

ふと、兄者と弟者の視線が合う。
途端厳しい色を帯びる弟者の視線から、逃れるように兄者は目を逸らした。
勢いよく逸らされた視線に、弟者は何か物言いたげな表情をする。
が、ドクオに呼びかけられて視線はドクオへと向いた。

その一連の様子を見ていたモララーが首を傾げた。

( ・∀・)「どうしたんだい、ご主人。なんか喧嘩してるみたいだね」

270名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:16:16 ID:wWcqPus60
( ´_ゝ`)「みたいじゃなくてしてるんだ、実際に」

( ・∀・)「おやおや」

ロマネスクの襲撃から目的を突き止めたところまで、いろいろと紛れてしまったが、実は流石兄弟の喧嘩は続いたままだった。

(´<_` )『銃の扱いなんて覚えてどうするんだ』

弟者はそう言った。
きっとあれは、兄者が人を傷付ける方法を知ってしまったということに対する非難だっただろう。

271名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:17:40 ID:wWcqPus60
けれど今こうして弟者も――しかも兄者よりも容易に――人を傷付ける方法を身に付けている。
そこに関して、兄者は弟者を許していなかった。

( ´_ゝ`)「弟者が跪いて許しを乞う姿を見せない限り許さない」

( ・∀・)「セフィロスかい君は」

恨めしそうに、ドクオを手合せする弟者を見つめたままそう言う兄者にモララーは溜息を吐いた。

( ・∀・)(面倒くさい兄弟だなあ。やたらと頑なだし)

272名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:19:05 ID:wWcqPus60
そういうところが似ている、とは口には出せなかった。
訓練をしている弟者が、兄者達を振り返った。
 
 
 
 
 

(´<_` )「……」

弟者が投げかけた視線は、ぷいっと無視されてしまう。
それに眉を顰めながら、弟者もドクオに向き直った。

273名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:20:36 ID:wWcqPus60
('A`)「心配か? 兄が」

(´<_` )「……別に」

('A`)「嘘言わなくていいさ。素直に気になるって言えばいい」

笑いながらのドクオの言葉にどこか子供扱いされたような気がして、弟者はムッとしてドクオに強く打ち込んだ。
突然の打撃をまともに食らったドクオは「うおっと!」と声を漏らしながらも、打ち込んできた棒を押し返すことは忘れない。
不意打ちが失敗したことに小さく舌打ちをすると、ドクオは「びっくりするわ!」と冷や汗を流したまま言った。

274名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:22:10 ID:wWcqPus60
(´<_` )「うざったかったから」

('A`)「酷い、なっ」

言葉と共にぐっと弟者の棒が弾かれた。
弟者よりも小柄なドクオの体が、ふっと弟者の視界から消える。
姿が消えたことに気付いた弟者が棒を構えて周りを見渡した直後、

弟者の背後から、着地する音と、首に棒を突き付けられた感触がしたのは同時だった。

('A`)「ほら、油断は大敵だぞ」

(´<_`; )「……」

275名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:23:54 ID:wWcqPus60
( ´_ゝ`)「ドクオすげえ」

( ・∀・)「あれでも未来の守護者達の中で副リーダーみたいなもんだったからねえ」

ドクオは小柄な体を生かした軽やかな動きが多い。
棒を弾かれた弟者がよろけた瞬間にドクオは勢いをつけ、その場から跳躍して弟者を飛び越えた。
頭上を飛び越えていた内から棒を構え、弟者の背後を取った着地と同時に急所へと獲物を突き付ける。
それだけの動きをしておきながら、ドクオは遠距離援護のクロスボウを得意としているのだから驚きだ。

( ^ω^)「おー、やってるおねー」

276名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:28:45 ID:wWcqPus60
( ・∀・)「内藤?」

扉から顔を覗かせたのは内藤だった。
どうかしたのかと尋ねようとしたモララーの横で、「あ゛ーっ!」という大声が響いてモララーと内藤は肩をびくりと震わせた。

( ´_ゝ`)「見てるだけじゃだめだ! 俺も銃練習する!」

( ^ω^)「あ、今それを言いに来たんだお。しぃが銃の練習しないかって」

( ´_ゝ`)「行く!」

277名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:30:25 ID:wWcqPus60
兄者は立ち上がるとモララーの背を押して巻き込みながら訓練場を後にした。
扉を閉める間際、一度だけ兄者は弟者に視線を向けた。
兄者に気が付かない弟者に軽く微笑んで、すぐに痛みを堪えるように眉を寄せて唇を噛んだ。

( ´_ゝ`)「ごめん」

消えそうな声で呟いて、兄者は扉を閉めた。

(´<_` )「……?」

(´<_` )(何か、聞こえたような)

('A`)「主?」

(´<_` )「なんでもない」

278名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:31:45 ID:wWcqPus60
 
 
 
 
 
( ・∀・)「おやおや、弟くんじゃないか」

(´<_` )「……うわっ」

( ・∀・)「そんなあからさまに嫌なもの見たって顔しなくても」

窓の外がすっかり暗くなった頃、廊下を歩いていた弟者はモララーと遭遇した。
嫌悪で目を細めた弟者の前でモララーは酷い酷いと泣き真似をする。
その様子も弟者は冷めた目で見つめていた。

279名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:33:07 ID:wWcqPus60
( ・∀・)「ご主人、相当お怒りみたいだよ」

(´<_` )(相手にしないからって立ち直り早すぎだろ)

早々に泣き真似を止めたモララーはそう切り出した。

( ・∀・)「跪いて許しを乞う姿を見せるまで許さないってさ」

(´<_` )「セフィロスか」

( ・∀・)「だよねえ」

280名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:34:22 ID:wWcqPus60
(´<_` )「……話したところで何かしら言われるってのはもうわかってる」

そうぼそりと言った弟者に、モララーは「へえ?」と笑んだ。

( ・∀・)「何も言わずにそう決め付けるなんて愚かだね」

(´<_` )「……分かってる」

( ・∀・)「いーや、分かってないね」

モララーの言葉に反論できないのは事実だった。
弟者が黙り込む横を、モララーは笑いながら通り過ぎる。

281名も無きAAのようです:2013/03/27(水) 20:35:59 ID:wWcqPus60
( ・∀・)「とにかく、話さないと何も始まらないさ。それは君が一番よく分かってるだろう?」

(´<_` )「……ああ」

( ・∀・)「今から話しに行きなよ。ご主人ならさっき部屋に帰したところだから起きてるだろう。
それとも、着いて行ってあげようか」

(´<_` )「いらない」

即答した弟者にくつくつと喉を震わせて、じゃあねと手を振ってモララーは笑いながら去って行った。
その後ろ姿を見送って、弟者は深い溜息を吐く。
そして前に向き直ると、兄者の部屋へ向かう為に歩き出した。
 
 
 
第13話「嫌」・終

282 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/27(水) 20:37:48 ID:wWcqPus60
今日ここまで

なんだかんだでパソコンに触れない日々が続いてしまいました
いや言い訳にしかならないんですが

とにかく詐欺してすみませんでした!

283名も無きAAのようです:2013/03/28(木) 00:52:25 ID:NjG3.KfMO
待ってたよー


284名も無きAAのようです:2013/03/28(木) 23:10:55 ID:zyHUnJRw0
もつ

285 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/29(金) 18:56:46 ID:7c6KjhuE0
 
 
 
 
 
目を合わせて、息を吸って。
 
 
 
第14話「正」

286名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 18:57:53 ID:7c6KjhuE0
(´<_` )「起きてるか、兄者」

( ´_ゝ`)「ん」

部屋の扉をノックすると、中で立ち上がるような音が聞こえた後に扉が向こうから開かれた。
開けたまま部屋の奥に入っていく兄者を見て、どうやら招いてくれるらしいと弟者は足を踏み入れる。

ふと、部屋に入って扉を閉めたところでモララーの言葉を思い出した。
弟者はその思い出した言葉に眉を顰めて、大きく溜息を吐いた。

287 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/29(金) 18:58:37 ID:7c6KjhuE0
すみません呼ばれてしまった
一旦離脱

288 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/29(金) 19:26:43 ID:7c6KjhuE0
戻りましたんで再開

289名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:28:49 ID:7c6KjhuE0
(´<_` )「兄者」

( ´_ゝ`)「なに」

(´<_` )「ごめん」

( ;´_ゝ`)「……はっ!?」

兄者は弟者を振り返って――瞠目した。

弟者は床に正座している。
そして両手を膝の前の床に付け、肘を折るのにつられるように背を曲げて頭も下げている。
つまるところ、土下座だった。

290名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:30:21 ID:7c6KjhuE0
( ;´_ゝ`)「え、ちょ、弟者!? 一体何やって」

(´<_` )「悪かった」

頭を下げたまま、弟者はそう言った。
その言葉の意味に、兄者は慌てていた様子をぴたりと落ち着かせる。

(´<_` )「悪かった」

弟者は念を押すようにもう一度、繰り返した。
訳も話さずに謝るという行為に納得がいかず、いつの間にか兄者の表情は不機嫌そうに眉を顰めたものになっていた。

291名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:32:43 ID:7c6KjhuE0
( ´_ゝ`)「それは、何に対しての謝罪だ?」

兄者がそう問いかけて、弟者は初めて頭を上げた。
座っているせいで普段と視線の高さが逆転している。
それでもそんなことを感じさせないような真っ直ぐとした視線で、弟者は兄者を見上げた。
同じ茶の瞳が交錯する。

(´<_` )「俺が、武器を扱うこと」

( ´_ゝ`)「!」

(´<_` )「俺、言ったよな。兄者が銃を使うことに対して、色んなこと。でも、俺は心配だった」

292名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:34:19 ID:7c6KjhuE0
弟者は一度兄者から視線を外すと、自分の掌を見つめた。

(´<_` )「俺のせいで兄者は自分の人生を犠牲にしてる。本当は行きたかった学校も、年相応の自由も」

( ´_ゝ`)「ちが、」

(´<_` )「違わない!!」

弟者の大声に兄者はびくりと肩を震わせた。

(´<_` )「だから、まただって思ったんだ」

293名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:36:01 ID:7c6KjhuE0
(´<_` )「また、俺のせいで兄者が傷付くって」

( #´_ゝ`)「違う!」

また、大声。
顔は同じでも声は違うものなんだ、とどこか他人事のように弟者はそう思った。
兄者が怒りで顔を赤くしている。
怒ると顔を赤くするのは、余程怒っている時だけだ。

( #´_ゝ`)「ずっと思ってたのか、お前。自分のせいで俺が犠牲になってるって」

294名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:37:41 ID:7c6KjhuE0
(´<_` )「ああ」

( #´_ゝ`)「馬鹿野郎が」

兄者の言葉に弟者がむっと眉を顰めた。

( ´_ゝ`)「俺は一度も犠牲になってるなんて思ったことないし、なった覚えもない」

(´<_`# )「自覚してないだけでなってんだよ!」

( #´_ゝ`)「どこが!」

(´<_`# )「全部だ!」

295名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:39:11 ID:7c6KjhuE0
 
 
 
 
 
( ・∀・)「おーおー、やってるねえ」

('A`)「なんかシュールだな、あの図」

( ^ω^)「兄弟喧嘩うらやましいお」

兄者の部屋の前には守護者全員が集結している。

296名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:40:37 ID:7c6KjhuE0
何故全員いるのかといえば。
弟者を焚き付けたモララーが「面白いことになりそう」と勝手に予想して、全員を(時には引きずって)連れてきたからだった。

結果、予想は的中していたわけだが。

ξ ゚⊿゚)ξ「これぞ正真正銘の兄弟喧嘩、って感じね」

(*゚ー゚)「デレさんとはしなかったの?」

ξ ゚⊿゚)ξ「……んー」

しぃの問いかけに、ツンは少し唸ってから後ろ頭を掻いた。

297名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:42:36 ID:7c6KjhuE0
ξ ゚⊿゚)ξ「……あんまり話をしなかった、かな」

(*゚ー゚)「そっか」
 
 
 
(´<_` )「自分が年上だからって、自分だけやって俺に家事をさせなかった」

( ;´_ゝ`)「っ、」

(´<_` )「俺を進学させるために、自分は高校に行かずに働いた!」

ぐ、と兄者が唇を噛んだ。
返す言葉が何も無かった。

298名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:44:29 ID:7c6KjhuE0
(´<_` )「兄者は――兄者は、否定するかもしれない。それでも、俺は絶対に」

(´<_` )「これ以上、兄者を犠牲にさせない。その為の力だ。あいつらを殺すんじゃない、あいつらから兄者を守る」

( ´_ゝ`)「……」

ばか、と。兄者は小さく呟いた。

立っていた兄者がその場に膝をついた。
視線の高低差が縮まり、少し顔を上げるだけで視線が合うようになった。

兄者は、泣きそうな顔で笑っていた。

299名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:46:30 ID:7c6KjhuE0
(´<_` )「兄者、」

( ´_ゝ`)「……馬鹿だなあ、弟者は」
 
 
 
( ФωФ)「ふむ、確かに人は愚かであるな」
 
 
 
( ;´_ゝ`)「ッ!!!」(´<_`; )

兄者の背後に現れた男――ロマネスクの姿に、弟者は棒を具現化させた。
緑の光を纏った棒を両手で持ち、先端を兄者の頭の上を通って叩き付ける。

300名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:48:43 ID:7c6KjhuE0
( ;´_ゝ`)「あ゛っ!」

ロマネスクは迫ってきた棒を上体を逸らすことで避け、兄者の体を突き飛ばした。
突き飛ばされた衝撃でよろけた兄者の体を受け止めた弟者は――手に付いたぬるりという感触に、目を見開いた。

感触がしたのは、背中に触れた手だった。
兄者の右肩から背骨にかけて、斜めに切り傷があった。
目の前を見れば、血濡れの大振りのナイフを持ったロマネスクがいる。

(´<_` )「ッお前」

301名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:50:43 ID:7c6KjhuE0
('A`)「伏せろ主っ」

ドクオの声に反応して弟者は兄者を抱えたままその場で伏せた。
背後の扉が大きく開け放たれて、クロスボウが射出される。
射出された三本の矢を目で追って――弟者は「な」と声を漏らした。

( ФωФ)「ふむ。痛いな」

ドクオの狙いは正確だった。

矢は眉間に一本、首に二本。確かに刺さっている。

302名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:52:14 ID:7c6KjhuE0
だが、その刺さった傷口からは一筋血が流れただけ。
ロマネスクは平然として、笑って見せた。

( ;,゚Д゚)「化け物め……!」

( ・∀・)「弟くん、ご主人を離さないで!」

モララーの言葉にハッとして見渡せば、弟者の肩に触れたモララーが青い石の破片を持っているのが見えた。
その背後にはモララーの背に触れたギコを始め、守護者全員が体のどこかしらに触れている。

303名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:53:36 ID:7c6KjhuE0
モララーの持った石が青い光を放って、全員の姿を包み込む。

飛空艇には、ロマネスクだけが残された。
 
 
 
 
 
(´<_`; )「ッ兄者!」

( ・∀・)「弟くん、落ち着いて。力を使えば治るから」

石で移動したのは流石兄弟の家だった。
内藤とツンは用心深く辺りを警戒している。

304名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:55:41 ID:7c6KjhuE0
( ・∀・)「いつか襲撃してくるだろうとは思ってたよ」

('A`)「飛空艇を取られたのは痛いな」

( ,,゚Д゚)「……これから、どうする」
 
 
 
(  _ゝ )「正さないと」
 
 
 
(´<_` )「兄者?」

力で緑の光に包まれた兄者が、そう呟いた。

305名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:57:14 ID:7c6KjhuE0
(  _ゝ )「俺達が、やらないと。もう、終わりにしよう」

( ´_ゝ`)「ロマネスクを、正そう」
 
 
 
 
 
第14話「正」・終

306名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 19:59:54 ID:7c6KjhuE0
今日ここまで

一話一話の量は少ないのに話数が増えてるのは何故だろう

では

307名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 20:23:56 ID:aK6BWLxw0


308名も無きAAのようです:2013/03/29(金) 22:46:41 ID:zm3iLLFc0


一話一話の量が少ないから話数が増えるんじゃないか?www

309名も無きAAのようです:2013/03/30(土) 01:01:47 ID:BBLXrBKo0
乙乙!

310名も無きAAのようです:2013/03/30(土) 07:36:12 ID:KR69foW2O
ちと短いけどちょこちょこ更新してくれるのはうれしい

311 ◆MH/VTCEj3A:2013/03/30(土) 08:33:22 ID:xm6IPO8IO
携帯から失礼

なんかちょこちょこレス付いててびっくり
今までワードで5ページちょいくらいの量だったんですが、10ページくらいに増やしてみるかな

本当は18話予定だったんだよなんか伸びてるよww
色々あざっした!

ではでは

312 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/01(月) 23:09:20 ID:4ylLcPSM0
 
 
 
 
 
笑顔の裏に隠された真意は。
 
 
 
第15話「感」

313名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:10:55 ID:4ylLcPSM0
少し荒れたリビングで、全員が円になって話し合っていた。

( ,,゚Д゚)「敵陣に侵入するにしても、時間が欲しいな。主達の訓練をもっとちゃんとしたい」

('A`)「いくら守護者がいると言っても、完全に守り切れるわけじゃないしな。問題はどこを使うかだ」

ギコの言葉に、ドクオが苦々しい表情で頷いた。
弟者という人質が居たにしても、襲撃してきた相手は2人。
それに対して未来の守護者は5人で挑み――3人が死んでいるのだ。
カバーしきれないところが必ず出てくるだろうと踏んでの判断だった。

314名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:12:20 ID:4ylLcPSM0
場所、という単語にモララーが考えるように腕を組んだ。
眉を寄せながら首を傾げて、いかにも考えながらという感じで口を開く。

( ・∀・)「飛空艇、まだあいつがいるかな? あれは自動操縦だから人質にする対象も無いとは思うんだけど」

ξ ゚⊿゚)ξ「そういえばモララー、アンタ書庫はちゃんと閉めてきたの?」

( ・∀・)「ああ、それは大丈夫。見られても困るようなものは鍵付だし」

モララーはポケットに手を突っ込むと、そこから取り出した琥珀の鍵をひらひらと振って見せる。
もう一度あそこに戻るのか、とドクオが難色を示した。

315名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:14:35 ID:4ylLcPSM0
( ・∀・)「なんなら、僕達だけで行ってみるかい。それならきっと平気だろう」

('A`)「……そうだな」

まあそれはまた後だ、とモララーとドクオは話題を戻した。

(´<_` )「侵入経路は? 俺が捕まってた所まで兄者の能力で行けばいいのか」

( ・∀・)「そうなるね。そこから奴さんの住処を回って、早めにロマネスクに辿り着けばいいんだけど」

( ^ω^)「……相手が一体何人いるのか分からないおね」

316名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:17:12 ID:4ylLcPSM0
内藤が不安げに零したその言葉に、兄者はほぼ反射的に「それは大丈夫だ」と声に出していた。
自然と視線は兄者に集まる。

( ´_ゝ`)「ロマネスクは不死だ。つまり、仲間ができてもずっと一緒にいることはできない。今周りにいるのもデレと、ショボンって奴と、あとまだ会ってない奴が1人。
これは確証がある」

(*゚ー゚)「デレはツンと同じスタイルってことでいいのかな?」

ξ ゚⊿゚)ξ「ええ」

声から変化した衝撃波。これについては、使い手のツンがいるのだから弱点などもはっきり分かるだろう。
だがショボンと、未だ会っていないというもう1人については不安が残る。

317名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:19:02 ID:4ylLcPSM0
( ,,゚Д゚)「ショボンについてはどうだったんだ? ドクオ」

('A`)「専ら銃を使ってたな。だがあれは主を抱えながらだったから、本当はもっと違う武器の使い手かもしれないっていう線は捨てきれない」

ξ ゚⊿゚)ξ「一般人だったはずが、自分の店を畳んでまであいつに従う理由が分からないわね」

訥々とずるずると、話は重い雰囲気を抱えたまま続いていく。
結局、大した結果も得られないままその日の会議は終わった。
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「……やっぱ布団足りないな」

(´<_` )「だろうな」

318名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:20:14 ID:4ylLcPSM0
飛空艇に迂闊に戻れず、かと言って行くところもない。
当分の間は流石兄弟の家で寝泊まりをすることになりそうだった。
リビングで雑魚寝をすることになったのだが、2人で住んでいた家にそんなに布団の数があるわけがない。
守護者が2人ずつ交代で寝ずの番をするらしいが、それでも足りなかった。

( ´_ゝ`)「頑張っても4組しかないなー……毛布はあるから誰か2人はソファーで寝てもらうか」

(´<_` )「……なあ、兄者」

( ´_ゝ`)「うん?」

(´<_` )「守護者であるあいつらが、俺達をソファーで寝かせると思うか?」

( ´_ゝ`)「……」

うん、無いな。

319名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:21:22 ID:4ylLcPSM0
自分達がどんなに説得しても決して折れることのないであろう事態に、兄者は遠い目になった。

とりあえず見つかった布団を持っていこうと、布団を抱えてリビングまで向かおうとした時だった。

( ´_ゝ`)「……弟者」

兄者が、弟者を呼んだ。弟者は「ん?」とそれに答える。
弟者の方が先に部屋を出ていたので、廊下に出たところで開きっ放しの扉から部屋の中にいる兄者を振り返るような形だ。

( ´_ゝ`)「弟者はさ、この生活を恨んでるか?」

(´<_` )「……この生活って?」

( ´_ゝ`)「2人での生活」

320名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:22:26 ID:4ylLcPSM0
そう尋ねる兄者は俯いていて表情を確認することができない。
それでも聞こえる声が震えているような気がして、弟者は首を傾げた。
兄者の意図するところがよく分からない。
弟者は、とりあえず自分の思うままのことを言うことにした。

(´<_` )「恨んでる、とまではいかないが……まあ、あまり快いものじゃないな。兄者が自由なことをできないわけだし」

( ´_ゝ`)「……そう、か」

ああ、震えている、と。
兄者が吐息と共に吐き出したような返事に、弟者はそう確信した。
何かあったのだろうか、と心配して声をかけようとした。

321名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:23:31 ID:4ylLcPSM0
( ´_ゝ`)「あのさ、弟者」

だが、それは先に声を出した兄者に遮られる。
顔を上げた兄者は震える声に反して笑っていた。
けれど穏やか過ぎるその笑顔を見て、弟者はますます訳が分からなくなった。
 
 
 
( ´_ゝ`)「お願いだから、さ。こうなった経緯を、決して恨まないでくれ」
 
 
 
そう言った兄者の声色は「お願い」というよりも、「懇願」に近かった。

322名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:25:02 ID:4ylLcPSM0
何故なのかという言葉も、体の横で震えるほど握り締められていた拳の理由も、弟者は聞くことができなかった。
 
 
 
 
 
( ・∀・)「一応あいつはいなかったけど、行く時は注意が必要だね。訓練してたら襲撃されました、なんて最悪だ」

( ´_ゝ`)「あ、訓練する時ってなるべく俺がみんなを移動させた方がいいよな? 破片のストックってそんなに多いわけじゃないだろ」

(*゚ー゚)「うん、それはそうなんだけどね」

( ´_ゝ`)「?」

( ・∀・)「そう、そういえば言ってなかったね!」

323名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:27:15 ID:4ylLcPSM0
苦笑いするしぃに兄者が首を傾げていると、モララーは突如兄者のことを指差した。
うおっと兄者は声を上げて驚く。

( ・∀・)「ご主人、もうちょっと体力を付けようか!」

( ´_ゝ`)「え、」

( ・∀・)「力のコントロールをする時間が無いからそっちはもうどうにもならない。
でもね、君ただでさえ力を使う度に体力持ってかれてゼエハア言ってるよね?
もっと体力を付けないとやっていけないよ」

( ´_ゝ`)「いや、でも体力付けるなんて……」

(´<_` )「ただでさえ兄者は3年間の高校生活にある体育をやってないんだからな。体力は無くて当然だろう」

( ;´_ゝ`)「いや、でも小学校と中学校の9年間の体育があるし……!」

(´<_` )「甘いな。兄者は高校の体育の持久走の辛さを知らない」

( ;´_ゝ`)「ええええ」

324名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:28:39 ID:4ylLcPSM0
そんな、と声を上げる兄者に対して、全員がうんうんと頷いている。
1対7という、敗北がありありと見える図だった。

( ・∀・)「ご主人はあれだよね。始め友達と喋りながら走ってるんだけど、体力無くて一緒だった友達に置いて行かれるタイプ」

( ^ω^)「あー、分かる気がするお」

( ;´_ゝ`)「えっちょっやめてその妙なリアリティがある話」

最早やることは決定して覆せないのだろう、と理解した兄者がその場で項垂れた。
ちらりと石を見遣る。
確かに、体力が無いとは思う。
能力のコントロールができず、いつも使いすぎて変に疲れてしまっている。
コントロールを身に付ける為にも体力を付ける必要もあるが、果たしてそんな急に思い立ってやったところで短期間で体力が付くのかという疑問もあった。

325名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:30:54 ID:4ylLcPSM0
( ´_ゝ`)「で、ちなみにその体力作りの内容は」

( ・∀・)「毎朝走る、訓練前に軽い体力作りトレーニングを済ませておく。これだね」

( ,,゚Д゚)「訓練前のトレーニングは向こうに行ってからその日のコーチである守護者が手伝う。ランニングは内藤が見てくれるそうだ」

( ^ω^)「走るのなら僕に任せるお!」

( ;´_ゝ`)「うええ」

既に内容を聞いただけでも兄者は嫌そうに表情を歪ませた。

( ・∀・)「まあ、やらないよりはマシだからね。ちなみに今朝の分として、今から行ってきてもらうから」

( ;´_ゝ`)「え゛!?」

326名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:32:45 ID:4ylLcPSM0
( *^ω^)「よーし、行っくおー!」

「嘘だああああ」内藤に引きずられながら、小さくなっていく悲鳴と共に兄者は出て行った。
それを憐れみを含んだ目で見送ってから、弟者は守護者達の方に向き直った。
すう、静かに息を吸ってどこか緊張した面持ちをした守護者達に口を開く。

(´<_` )「で? 俺だけにしたってことは、何か話があるんだろう」

(*゚ー゚)「……やっぱり気付かれちゃったね」

しぃが眉を下げて笑う。ギコが気遣うようにそれをちらりと見遣っていた。
モララーがさて、と緊張を感じさせない声で言った。

327名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:34:03 ID:4ylLcPSM0
ツンは腕を組んで眉を顰め、弟者を見つめている。

( ・∀・)「弟くん。君は、どうしたい」

(´<_` )「何を」

( ・∀・)「今回、重点的に狙われるのはご主人だってわかっている」

モララーの言葉に、弟者は不本意そうに目を細めた後渋々頷いた。

( ・∀・)「ご主人はロマネスクを止めようとしてる。どうやってかは分からないけど、それを実行するのには絶対に触れる必要があるはずだ。そしてその時に傷を負う可能性も」

(´<_` )「……で?」

328名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:35:46 ID:4ylLcPSM0
( ・∀・)「僕らはそこで、君がご主人を庇って死ぬ可能性もあると当然考える」

モララーが改めて突き付けてきたその言葉に、弟者はぐっと唇を噛んだ。
否定ができないが故に、悔しかった。

そんなことが起これば、兄者に凶刃に倒れるようなことがあれば、それを見るなり自分はすぐさま代わりにと飛び出すだろう。
だがそれは、これまで受継者が辿ってきた歴史と同じだ。
何も変わらず、そして兄者も道連れになり、力は次の世代へと受継される。
また次の受継者がロマネスクに狙われることになる。

('A`)「だから、主。オレ達は主が望めば、それだけの力を身に付けさせると約束する」

(´<_` )「!」

329名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:37:30 ID:4ylLcPSM0
ドクオの言葉に、他の守護者達も頷いた。

( ,,゚Д゚)「元からあんたは筋が良い。訓練じゃなく、模擬実戦の方が良いだろうと思ってな」

ξ ゚⊿゚)ξ「限りなく本物に近づければ、それだけ本番に使えるはずよ。そして、それだけ対抗することができる」

('A`)「だから、オレ達はそれを主がやってくれるか。こうして選んでもらいたいんだ」

(´<_` )「……そんなの」

やるに決まってるだろう。
弟者の言葉に、守護者達はほっと安心を露わにした。
緊張は崩れ去り、空気は穏やかに変化する。

330名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:38:54 ID:4ylLcPSM0
ふと弟者は思い立ち、口を開いた。

(´<_` )「あんた達、守護者だって立場で俺らに付き動いてるけど、本当にそれでいいのか」

弟者の言葉に、守護者達は一瞬ぽかんと呆けたように弟者の方を見た。
だがすぐに笑顔になり、弟者の言っていることがおかしいとでも言うように溜息を吐いた。
何のことだか分からない弟者に対し、モララーは「残念ながら」と言った。

( ・∀・)「僕達守護者の一族は、どうも受継者に惹かれるようにできているらしい」

331名も無きAAのようです:2013/04/01(月) 23:41:08 ID:4ylLcPSM0
(*゚ー゚)「だから主人がどんなことをしようとしても、自然と従う気持ちになっちゃうんだ」

('A`)「まあ、それだけ主のやろうとすることも良いと思えるってことだがな」

(´<_` )「……そう、なのか」

弟者はそう呟いた。
自分の生死までも、自分達を守る為に費やす守護者達に、弟者は感謝と罪悪感を感じた。
 
 
 
 
 
第15話「感」・終

332 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/01(月) 23:43:38 ID:4ylLcPSM0
今日ここまで

今回8ページ分くらい。
慣れながらじわじわ増やせるといいな

明日のバイトに備えてチョコチップアイス食べてきます
では

333名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 00:18:50 ID:6IfqjT1.0
乙です

334名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 01:36:32 ID:4llSpcR6O
乙!

長さは気にしすぎなくても大丈夫だぜー
長めのゆっくり投下でも、短めでちょこちょこ来てくれても、どっちにせよそれはそれで嬉しい。

335 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/02(火) 14:18:22 ID:9JG5CZ8w0
 
 
 
 
 
向き合わずとも、互いを信じ。
 
 
 
第16話「開」

336名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:19:57 ID:9JG5CZ8w0
( ´_ゝ`)「なあ」

( ,,゚Д゚)「なんだ?」

訓練前のストレッチとして前屈をしていた兄者は、背を押してくれているギコに声をかけた。
その間にも容赦なく押してくる強さに「痛い痛い痛い」と声を上げていたが。

( ´_ゝ`)「弟者ってさ、どこで訓練やってるんだ? この間帰る時に迎えに行こうとしたら全く正反対の場所から出てきたんだけど」

( ,,゚Д゚)「……ああ」

言えない、という言葉をギコはぐっと飲み込んだ。
兄者の言う迎えに行こうとした場所は、きっと前にドクオと訓練をしていた場所だろうと容易に想像がついた。

337名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:21:06 ID:9JG5CZ8w0
まさか、言えるわけがない。

飛空艇の中でも最下層のワンフロア――何もない、まっさらな場所で日々模擬実戦をしているなど。
ましてやそれが、兄者を守る為の力を身に付ける最終段階などと。

( ,,゚Д゚)「……俺も知らないな、まだ弟者のコーチになったことが無いから。いつかコーチになって分かったら教える」

( ´_ゝ`)「そっかー」

尋ねて来てヒヤリとしたギコだったが、存外兄者は深く気にしてはいないらしい。
ストレッチを終えて立ち上がった兄者は、自分自身の訓練を始めようとギコに向き直る。
そんな兄者にギコは模造剣を投げ渡すと、「やるか」と声をかけるのだった。

338名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:22:20 ID:9JG5CZ8w0
 
 
 
 
 
(´<_`; )「は、」

隠れた柱の陰で弟者は荒い息を吐く。
完全に息が上がっていた。息を整える時間が欲しいと思ったが、そういうわけにもいかない。
耳を澄ませる。予測する方向に、相手の気配が感じられない。
それにハッとして、周りを見渡そうとした時には。

ξ ゚⊿゚)ξ「『止まれ』」

ぴいん、と。背後から聞こえたその声に、全身が縛り付けられたように動けなくなった。
精一杯抵抗しながら振り向いたその先には、腕を組んだツンがいる。

339名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:23:37 ID:9JG5CZ8w0
ツンは組んでいた腕を解くと、片手を銃の形にして――銃口を模した人差し指を、弟者の額に当てた。

ξ ゚⊿゚)ξ「ばーん」

(´<_`; )「……」

ξ ゚⊿゚)ξ「あんたの負け。少し休憩しましょうか」

解放、と小さく呟いたツンによって全身の見えない拘束から解放される。
声を武器にするなんて聞いたことがなかった。
故に戦い方もうまくいかず、こうして弟者は先ほどから負けが続いている。

340名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:24:50 ID:9JG5CZ8w0
休憩だと自分に言い聞かせるように心の中で繰り返すと、今まで動けていたのが嘘のように、緊張感が疲労感となってどっと体に襲いかかってくる。
柱に寄りかかったままずるずるとその場に座り込むと、ツンも一緒に隣に座った。

ξ ゚⊿゚)ξ「お疲れ様。一般人にしてはよくやる方だと思うわ」

(´<_` )「……そりゃどうも」

弟者がちらりとツンに視線を遣る。
ツンの横顔は無表情だった。体力を著しく消耗している弟者とは違って、余裕すら見える。
けれどその無感情が、妙な違和感を隠しきれなかった。

ξ ゚⊿゚)ξ「ちょっと聞いてもいい?」

341名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:26:10 ID:9JG5CZ8w0
弟者の方を向かず、前を向いたまま切り出すものだから弟者は驚いた。
特に遮る理由も見当たらない為、了承の意を返す。

ξ ゚⊿゚)ξ「あんたには兄がいるわよね」

(´<_` )「? ああ」

ξ ゚⊿゚)ξ「上がいるって、どんな感じ?」

私上だから分からないの、と言うツンに、弟者は敵方にいるツンの妹のデレを思い出した。
家族が敵方に居るのに、何の理由も無いはずがない。
弟者はその話に付き合ってやろうと、口を開いた。

342名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:27:15 ID:9JG5CZ8w0
(´<_` )「安心感は大きいな。俺の状況が状況だったからかもしれないが。
だが、下である俺のことを第一に考えられるのは偶に腹が立つ。
けど、だからと言って完全に見捨ててほしくも無い。そんな感じだ」

ξ ゚⊿゚)ξ「……そう」

ツンはそう返事した。弟者の言葉を噛み締めるような、小さい声だった。
ツンはおもむろに体育座りになると、抱え込んだ膝に自分の顔を埋めた。
小さく折り畳まれたツンの体は、急に小さい子供のように見えて、震えているような気がした。

ξ ⊿ )ξ「独り言だから。聞き流して」

ツンは言った。

343名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:28:05 ID:9JG5CZ8w0
ξ ⊿ )ξ「私達の親はいつの間にか死んでた。
なんでかは分からない。それが守護者としての役割を果たしてなのか、違うのかも分からない。
とにかく、私とデレは2人きりになった。
きっとその時の私はあんたの兄と一緒だったでしょうね。
流石に高校には行ったけど、私はデレがちゃんと普通の人生を送れるように精一杯だった。
いつくらいだったかな。デレは私に口を利かなくなった。
学校にも行ってなかったみたいで、欠席の確認をする教師からの電話が日常になっていった。
その頃、モララーが守護者としての使命を果たそうと話を持ちかけてきた。
私も血筋だから、そうすべきだとモララー達と話をするようになって、暫く経った時。

デレは、家から出て行った」

その言葉に、弟者は眉を顰めた。

344名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:29:04 ID:9JG5CZ8w0
ξ ⊿ )ξ「気付けなかった私もどうかと思うわ。いくら果たさなきゃいけないからって、妹の気持ちを見ずにそっちばかりに感けてた。
本当、馬鹿よね」

最後の声は涙に濡れていた。
弟者はじっと動かず、独り言と称したその話をずっと聞いていた。

デレが何を思い、どうして向こう側にいるのかは分からない。
それでも、それなら。考えついた結論を、弟者は素直に口にした。

345名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:30:34 ID:9JG5CZ8w0
(´<_` )「なら、探せばいい」

ξ ⊿ )ξ「!」

(´<_` )「というか、向こうはこっちを探してくるはずだ。なら、その時。
あんたがデレと向き合って、真っ向から話せばいい」

ξ ⊿ )ξ「……うん」

ツンは一度そう言うと、膝の間に埋めていた顔を上げた。
その顔は泣いたせいでぐちゃぐちゃで、それでも失われない美しさがあった。

ξ*;ー;)ξ「ありがとう」

そう笑った笑顔は、強い意思が見えた。

346名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:31:19 ID:9JG5CZ8w0
 
 
 
 
 
守護者達が自分の武器の手入れで慌ただしく動いている。
その中でしぃに自分の銃を見てもらい、暇になった兄者は棒を抱えて同じように座るだけの弟者の隣に腰かけた。

出陣が明日と決まった。
準備でばたばたと慌ただしくなるのも当然だ。
全てをかけた決戦が、残り数時間の明日に迫っている。

347名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:32:22 ID:9JG5CZ8w0
だがあまりの忙しさに、守護者達はちゃんと全部準備を済ませて眠るのかということが心配になってくるほどだ。

( ´_ゝ`)「……暇だなー」

(´<_` )「ああ」

そう交わす弟者にも、緊張は見られない。
時折手にした棒を握ったりして感触を確かめるだけだ。

兄者は周りの光景をぼんやりと見つめて――ふと何かを思い出したように、「あっ」声を上げた。
ぐっと勢いをつけて立ち上がる。弟者はそれを見上げた。

( ´_ゝ`)「弟者、ちょっと着いて来いよ」

348名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:33:31 ID:9JG5CZ8w0
(´<_` )「……?」

楽しげに笑った兄者は、首を傾げる弟者に構わず一人でさっさと歩き出した。
弟者が首を傾げながらそれに続く。

兄者が辿り着いた先は玄関だった。
特に変わらない玄関にまた首を傾げるが、兄者の狙いは玄関の壁にある柱にあった。

( *´_ゝ`)「ほら、弟者! ここに立って」

(´<_` )「!」

兄者が指差した柱を見て、弟者はやっとその意図を理解した。
いつの間に持ってきたのか、兄者はサインペンを手に持っていた。

349名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:34:51 ID:9JG5CZ8w0
玄関の壁の柱には、ドラマなどでよくある、互いの成長の記録である身長の線が書かれている。
兄弟がこの家に住むようになった日。兄者は小学3年生、弟者は小学1年生。
何が起きたのかよく分からなかった自分を元気付ける為なのか何なのか、兄者は柱を見るなり「身長を書こう」と言い出したのだ。
だがそれも弟者が中学へ上がる頃からは忘れられていき(恥ずかしくなっただけなのだが)、柱は兄者が中学2年生、弟者が小学6年生の記録で途切れている。
まだ自分が兄者よりも小さかったという記録が、どこか新鮮だった。

( *´_ゝ`)「いつから身長抜かれたんだろうなー。ちゃんと書いとけばよかったな」

(´<_` )「弟は兄を超すものだからな」

( *´_ゝ`)「なんだとこの野郎!」

350名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:36:05 ID:9JG5CZ8w0
そんな軽口を叩きながら、兄者は弟者の身長の線を書き終えた。
はい次俺の番、とサインペンを渡される。
兄者の身長も同じように書き終えて、改めて柱の記録を見直してみる。

( ´_ゝ`)「弟者身長伸びすぎだろ」

(´<_` )「違う、兄者が小さすぎるんだ。見ろこの記録を、成長期にきっと伸びなかったんだ」

( ´_ゝ`)「やめろよ、確かに背の順前の方だったけど一番前ではなかったし」

(´<_` )「じゃあ何番目だ」

( ´_ゝ`)「……3番目」

351名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:37:03 ID:9JG5CZ8w0
(´<_` )「小さいな」

( ´_ゝ`)「はっ倒すぞ」

はは、と笑いながら言った兄者の笑顔に薄ら寒いものを感じて弟者はぶるりと体を震わせた。
そして、すぐに弟者は真剣な目をして兄者に尋ねた。

(´<_` )「どうして、今こんなことをしようと思ったんだ?」

( ´_ゝ`)「……」

兄者は微笑んだ。
それは既に、覚悟を決めている笑顔だった。

352名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:38:07 ID:9JG5CZ8w0
( ´_ゝ`)「……言わなくても、分かるだろ?」

(´<_` )「分からない。分かりたくもない」

( ´_ゝ`)「こら」

そう言う兄者の声音は、不気味なほど優しい。

( ´_ゝ`)「……もしかしたら、二度と戻って来れないかもしれないから」

(´<_` )「だからッ!」

弟者は兄者の肩を掴んだ。
冗談でも言ってほしくない言葉だった。それなのに。

353名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:39:19 ID:9JG5CZ8w0
兄者が、もう死ぬ覚悟を決めた表情だったから。

弟者は。
 
 
 
(´<_` )「……死なせたりなんか、しないからな」

(´<_` )「兄者らしくもないだろう。お願いだから、死ぬ覚悟なんてしてくれるな」

(´<_` )「絶対に、生きて帰って2人でまた暮らす。それだけ見ててくれ」
 
 
 
( ´_ゝ`)「……うん」

笑った兄者は、なおも笑みを深めた。
けれどそれは、兄者が考えを改めたような気はしなかった。

354名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:40:09 ID:9JG5CZ8w0
( ´_ゝ`)「ありがとう、弟者」

笑いながら言った兄者に、弟者はもう一度「死ぬなんて考えるな」と消え入りそうな声で繰り返した。
返事は無かった。
 
 
 
 
 
全員が飛空艇に集まっていた。
兄者が深い深呼吸をする。息を吐いたところで、モララーが「大丈夫かい」と声をかけた。
それにこくりと頷く。続いて、皆の顔を見回した。
全員、大丈夫だと告げるように兄者に頷いた。

355名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:41:05 ID:9JG5CZ8w0
兄者は「よし」と自分を元気付けるように声を出して――隣にいた、弟者の手を握った。
それを見ていた全員も、手を繋ぐ。

( ´_ゝ`)「我、過去を司る者」

ぶわりと、兄者を中心に青い光が湧き上がった。
どこからともなく風が吹く。全員が青い、蒼い光に包まれていく。

( ´_ゝ`)「過去を辿り、我をその場所へと導き給え!」
 
 
 
 
 
最初に見えたのは、やはり闇の黒。

356名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:42:06 ID:9JG5CZ8w0
それでも手を繋いだ感触があるから、慌てることは全くない。
ボッと音を立てて、ギコがランタンに火を灯した。
全員の顔をオレンジの光が照らす。

ランタンをすいと周囲にやって、ギコは部屋の扉を見つけた。
ドアノブを捻り、突っかかるような音はしない。鍵は開いているようだった。
ギコがドアノブを捻り、扉を開けた。

357名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 14:43:04 ID:9JG5CZ8w0
( ・∀・)「さあ――始めようか」

モララーの宣言するような声で、全員が動き出した。
 
 
 
 
 
第16話「開」・終

358 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/02(火) 14:47:24 ID:9JG5CZ8w0
筆が乗りそうで時間もあったので連日更新
今日はここまで。この後バイトなので

なんだかんだいって処女作なので色んなことにチャレンジしたいお年頃なのです
長さもその1つ

さて、終盤へと一直線。難産になりそうだ……
気長に付き合ってもらえれば幸いです

ではバイト行ってきますーノシ

359名も無きAAのようです:2013/04/02(火) 18:57:30 ID:6IfqjT1.0
乙です、ちょっとだけ面白い。

360名も無きAAのようです:2013/04/03(水) 18:00:17 ID:.1s.mKDIO


こうしてみると思想的にも兄者は過去で弟者は未来なんだなあ

361名も無きAAのようです:2013/04/03(水) 22:35:31 ID:eKucV0Pc0
支援! 兄者ね
http://imefix.info/20130403/261262/rare.jpeg

362名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 14:37:56 ID:PjYXNBTY0
乙乙!続きが気になる

363 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/04(木) 23:43:41 ID:xLZahnos0
 
 
 
 
 
逃げないと一緒に決めたから。
 
 
 
第17話「向」

364名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:45:06 ID:xLZahnos0
('A`)「……不気味だな」

ドクオがぽつりと零した言葉に、兄者は頷いた。

弟者が囚われていた部屋から出ると、廊下に出た。
建物の内壁は灰色の石材が使われているらしい。
ひたすら灰色に覆われた室内は、すべての音を吸収しているのではないかと思うほど静かだった。
部屋を出た廊下は明かりが点いていたので、ランタンは早々に必要が無くなった。
ランタンを消したギコが先頭に、しぃ、モララー、兄者、弟者、ドクオ、内藤、ツンの順番で一行は進んでいる。
今は廊下の端にあった階段を登っていた。

365名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:47:13 ID:xLZahnos0
('A`)「一体何階分登ったんだ? かれこれ10分はずっと登ってるぞ」

( ・∀・)「おそらく、弟くんがいた部屋が地下牢のようなものだったからだろうね。それにしては長すぎる気もするけど」

( ;´_ゝ`)「早くも疲れてきたんだが」

(´<_` )「体力作りの成果はどうした成果は」

弟者の言葉に兄者はぐ、と言葉を詰まらせた。
はいはい、と弟者は呆れたように呟きながら兄者の背を押した。

(´<_` )「まだ着いてもいないんだ。ここでくたばらないでくれ」

( ;´_ゝ`)「わーってるよ!!」

366名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:48:48 ID:xLZahnos0
( ,,゚Д゚)「……おい」

兄者が弟者が言い合っていると、頭上から声が降ってくる。
その声は至って真剣な声音で、思わず兄弟は声を止めた。

( ,,゚Д゚)「扉だ」

階段の先には扉があるだけで、それ以上上に上がる階段も無かった。
ギコが言いながら、後ろを振り返る。
こくりと全員が頷いたのを確認して、ギコはドアノブに手をかけた。
その刹那。

( ;,゚Д゚)「ッ!」

(;*゚ー゚)「ギコ!」

367名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:50:32 ID:xLZahnos0
手をかけたドアノブが付いた扉がすさまじい勢いでこちら側に開かれる。
咄嗟に手を離したギコは手を扉と壁に挟まれることは無かったが、次いで襲ってきた紅い光の衝撃波に瞠目する。
なんとか武器を発現させたはいいものの、自分の体の前の床に突き刺して盾にする。
両断するのもできない速度だと判断したその行動は、両手剣がまともに衝撃波を受け止めるだけで済んだ。
両手剣がびりびりと衝撃を受けて震えている。
「大丈夫か」と後ろを振り返り、怪我が無いことを確認すると再び前に向き直った。

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら皆さん、お揃いで」

( ,,゚Д゚)「……デレ、か」

(´<_`; )「!」

368名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:51:50 ID:xLZahnos0
聞こえた声とギコが忌々しげに呟いたその名前に、弟者が弾かれたように顔を上げた。
ギコが階段から部屋に足を踏み入れる。
恐る恐る、部屋に入った全員は部屋の中心に立つデレに向き合った。
視線を受けたデレは、その場で恭しくお辞儀をして見せた。
地下牢から階段にかけての石だらけの壁とは違い、その部屋は病院のような真っ白な壁と床と天井だった。
そこの中心に立つ、紅いワンピースに金髪のデレは酷く目立つ。

ζ(゚ー゚*ζ「改めまして、デレと申します。
ロマネスク様の命で――受継者2人以外、全員、死んでもらいましょうか」

顔を上げたデレの瞳は紅い色をしている。

369名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:53:28 ID:xLZahnos0
それに身構えた全員の中で――1人が、前に進み出た。

ξ ゚⊿゚)ξ「みんな、下がってて」

(´<_`; )「ツン、」

ξ ゚⊿゚)ξ「私1人で十分だわ」

ζ(゚ー゚*ζ「……へえ」

言い放ったツンに大して、デレがぎん、と睨み付けた。

ζ(゚ー゚*ζ「嘗められてるんだね、私」

ξ ゚⊿゚)ξ「……ええ、そうよ」

370名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:55:01 ID:Y6tyPIXI0
銭湯シーンktkr

371名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:55:11 ID:xLZahnos0
ツン、と弟者が名を呼んだ。
ツンはそれに振り返る。

大丈夫だから、と。
笑顔のツンは、そう声に出さず唇を動かした。

ζ(゚ー゚*ζ「随分余裕だね――ッ『砕けろ』!」

(´<_`; )「ツン!」

後ろを向いたままのツンに対し、デレが先制攻撃を仕掛けた。
デレは砕けろ、と言った。
声の衝撃波は言われた「言葉の意味を持った」まま、衝撃波に変化して相手へと向かう。

372名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:56:23 ID:xLZahnos0
もしそれが当たってしまったら。
 
 
 
ξ ゚⊿゚)ξ「『消えろ』」
 
 
 
それは、あまりにも小さい声だった。

後ろを向きながら、向かってくる衝撃波を目視しないまま放ったその小さな言葉が、ツンの体に近付いていた紅い衝撃波にぶつかり霧散する。
紅を消し去った、ツンから放たれた衝撃波は――青い色を、していた。

自分の攻撃を無力化されたデレが舌打ちする。
ゆうるりと振り返ったツンの瞳は、済んだ海の青色に光っている。

373名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:57:33 ID:xLZahnos0
ξ ゚⊿゚)ξ「そりゃあ、余裕も持つわよ。こっちはずっと守護者としての力を身に付けてきたんだから」

ざわり、とツンのツインテールが揺れる。
ツンの体から青い光が立ち上った。

ξ ゚⊿゚)ξ「さあ、お姉ちゃんと喧嘩しましょうか――デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふざ、けるなあッ!!」

「『切り裂け』ッ!」それは叫んでいるに等しい声だった。
轟、窓も何も無い筈の部屋で風が沸き起こる。
あまりに強いその風は、ツンとデレのもとに収束して彼女たちの周りに竜巻のように纏わりついた。

374名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:58:35 ID:xLZahnos0
紅い光の刃が、デレの周りに無数に出現する。
三日月のような形をしたそれは、くるりとデレの周りを回転すると――それぞれバラバラのタイミングで、上下左右からツンへと襲いかかった。
向かい来る光の刃をじっと見つめていたツンが、今度は普通の会話するような声の大きさで言った。

ξ ゚⊿゚)ξ「『切り裂け』」

デレと言った言葉と全く同じ。だが、その違いは歴然だった。
デレが出したものの3倍近くはある。1つがツンの下半身と大体同じ大きさだろう。
そして、形はしっかりと丸い。だが薄く、円盤のような形をしていた。

375名も無きAAのようです:2013/04/04(木) 23:59:52 ID:xLZahnos0
ツンが出した青い刃が、デレの紅いそれに一直線に向かっていく。
速度も倍近くあった刃は、ぱあんと大きな音を立ててデレの三日月をいとも簡単に粉々に砕いた。

ξ ゚⊿゚)ξ「あんたのことだから、どうせ後ろの扉にも声で何か仕掛けてあるんでしょう。面倒くさいことするわよね」

ζ(゚ー゚*ζ「……うるさい!」

デレがかっと顔を怒りで顔を赤くして言った。
 
 
 
 
 
後ろで見つめている兄弟と守護者達は、2人の戦いを見守ることしかできなかった。

376 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/05(金) 00:01:36 ID:IJ1y8Eeo0
ツンの背後に居る今、迂闊に動かない方がいいと判断した。
背後に居させることで庇っているという意味もあるのだろう、そこから下手に動くとデレに狙われてしまうのは目に見えている。

( ^ω^)「……ツン、」

内藤がぽつりと、心配するような声音で呟いた。
兄者はふとそれに気が付いて、「ブーン」と声をかける。

( ´_ゝ`)「どうしたんだ? 何か心配なことでも、」

( ^ω^)「……まあ、ツンが絶対に勝つって信じてるわけじゃないお」

377名も無きAAのようです:2013/04/05(金) 00:02:33 ID:IJ1y8Eeo0
それは全員同じだ。
だが、内藤の言い方ではそれ以外の意味も含んでいるようにも聞こえる。
内藤は、不安げに眉を寄せたままだった。

( ^ω^)「あの時……デレがいなくなったことに気が付いた時」

そう切り出した内藤に、弟者が視線を向ける。

( ^ω^)「あの時のツンは自分を責めて責めて、1週間近く塞ぎ込んでたんだお。
相当弱って、僕が毎日ドアの前でずっと話しかけて、やっと立ち直ったくらいだお」

だから、と。

378名も無きAAのようです:2013/04/05(金) 00:03:45 ID:IJ1y8Eeo0
内藤がツンを見つめる目は、険しい。

( ;^ω^)「今も、相当無理してるはずなんだお。
だからもし、本人にそこを突かれてしまったら、」

( ;^ω^)「ツンは、崩れてしまうかもしれないお」
 
 
 
 
 
第17話「向」・終

379 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/05(金) 00:05:56 ID:IJ1y8Eeo0
今回ちょっと少なめ
支援ありがとうございました

頂いた絵に驚いてベッドから落ちましたww
ありがとうございます、励みになります! 兄者イケメン!

戦闘シーン難しくてずるずる書いてますが頑張りたいです
では

380名も無きAAのようです:2013/04/05(金) 14:42:35 ID:86J5O7hY0
乙!
続きが楽しみだ

381 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/08(月) 22:45:46 ID:tZsIa3Oc0
 
 
 
 
 
喉の奥に飲み込んだ言葉を。
 
 
 
第18話「劣」

382名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:47:07 ID:tZsIa3Oc0
ζ(゚ー゚*;ζ「ぐ……っ!」

青に押され、デレの周りに渦巻いていた風がぱあんと弾けて消えた。
両側から襲いかかる青い衝撃波をまともに食らい、デレの体が浮き上がって後ろの壁へと叩き付けられた。
彼女が叩き付けられたすぐ横には、茶色い木で作られた扉がある。
背から叩き付けられたからか、デレは壁に背を預けたままいくつか咳き込んだ。

その様子を、ツンは動かずその場からじっと見ていた。
ぜえはあと肩で息をし、うまく酸素を取り込めていないデレとは違ってツンは普通だった。
その2人の差は明らかで、勝敗も見えたようなものだった。

383名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:48:05 ID:tZsIa3Oc0
ξ ゚⊿゚)ξ「……もう、」

終わりにしよう、と。
そう紡ぎかけた唇は、デレが壁に手を着いて立ち上がったことで止まった。
なおも紅い瞳で睨み付けてくる妹に、ツンは目を細めた。
すう、と息を吸う。

ξ ゚⊿゚)ξ「『当たれ』」

それは、とても曖昧な言葉だった。
ツンの周りに、青い球体が現れる。それは野球ボールと同じような大きさで、ツンが瞬きをしたと同時にデレへ向かって発射された。
瞬きをして、瞳を開いた先には。

腹を押さえたデレが、微かに見える口元を歪めて笑っているのが見えた。

384名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:49:18 ID:tZsIa3Oc0
 
 
 
ζ( ー *ζ「『砕けろ』」
 
 
 
そう放たれた紅い光が、向かい来る青に勢いよくぶつかった。
意味が明確に定まっている言葉の方が強い。
ツンの青い光は紅い光にぶつかると、ばらばらに砕け散って床に落ちる前に消えた。

ζ( ー *ζ「……ははっ」

不釣り合いな声だ、とツンは眉を顰めた。
デレは俯いたまま笑い声を上げている。緩くカールされたツインテールがゆらゆらと揺れた。
ぐん、とデレは顔を上げた。

385名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:50:34 ID:tZsIa3Oc0
ζ(゚ー゚*ζ「そうやって、また突き放すんだ?」

どくり。
ツンの心臓が、嫌な音を立てた。

ζ(゚ー゚*ζ「先に行って、突き放して――また私を置いて行くんだ、お姉ちゃん?」

ξ ゚⊿゚)ξ「……違う」

ζ(゚ー゚*ζ「何が違うの?」

ξ;゚⊿゚)ξ「違うっ」

眩暈がする、とツンは思った。
ぐらりぐらりと今まで考えないように、意識してきた想いが揺らぐ。

386名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:52:04 ID:tZsIa3Oc0
ξ;゚⊿゚)ξ「私は別にっ、デレを突き放したわけじゃ」

ζ(゚ー゚*ζ「突き放したよ」

ふと、ツンは自分の周りの風が揺らぎ始めていることに気が付いた。
そしてその風が、目に見えずとも分かる軌道を描いて――デレの元に向かっていることも。

ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、ツンお姉ちゃん」

顔を上げてしまう。
目が、合ってしまう。

ζ(゚ー゚*ζ「あなたは、一度でも私の話を聞いてくれた?」

ξ;゚⊿゚)ξ「――あ、」

387名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:53:15 ID:tZsIa3Oc0
 
 
 
ζ(゚ー゚*ζ「『切り裂け』ッ!!」
 
 
 
デレは、容赦をしなかった。

ふっと気が緩んだツンの隙を見逃さず、叫ぶ。
デレの周囲に現れた紅い三日月がやって来る方向もばらばらに、複雑に交差しながらツンに襲い掛かる。
はっと気が付いた時には既に遅く、最初の紅い三日月がツンの脹脛を切り裂いた。

( ;^ω^)「ツンッ!!」

388名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:54:30 ID:tZsIa3Oc0
内藤の叫びも空しく、紅い三日月は次々とツンの体を切り裂いて消えて行った。
紅い三日月に切り裂かれた傷口から、もう少し赤黒い血が飛沫を上げる。
床にぱたぱたと血を落としながら、ツンはその場に崩れ落ちた。
うつ伏せに倒れ込んだ、ツンの服にじわじわと赤い染みが広がっていく。

ツンの元に駆け出そうとした内藤を、モララーが静かに止めた。
モララーを振り返って、ぎりりと悔しげに唇を噛んだ内藤の視線はモララーからデレへと移る。
デレは少しよろけながらもしっかりと歩み寄り、倒れたツンの前にしゃがみ込んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、まだ生きてるでしょう?」

ξ ⊿ )ξ「……」

389名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:55:30 ID:tZsIa3Oc0
ツンは返事を返さない。
最早意識があるのかさえ危うかった。
デレはつまらなさそうに唇を尖らせると、立ち上がってツンの横に回って脇腹を蹴り上げた。
僅かな呻き声と共にツンの体がごろりと転がり、うつ伏せから仰向けになる。
目元は前髪に隠れて見えなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「無様だねー」

そう言って、またしゃがみ込んだ。
しゃがんだ膝に肘を乗せ、頬杖をついてツンを見つめながらデレは口を開く。

ζ(゚ー゚*ζ「私ね、ずっと自分が嫌いだった」

そう、切り出した。

390名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:56:22 ID:tZsIa3Oc0
ζ(゚ー゚*ζ「だってさあ、いつでもあなたと比べられるんだもの。
いつでもみんなお姉さんは、お姉さんはーって。
親御さん代わりにお姉さんが頑張ってるんですね、
お姉さんのおかげであなたは学校に行けるのねって。もう嫌になっちゃうよね。

だから私は自分が嫌いだった。
いつでも比べられる自分が、お姉ちゃんに頼らなきゃ生きていけない自分が。嫌いだった。

でもさ、本当に転機だったんだ。受継者の守護者の使命とか何とか?
私以外空っぽの家見て、ああ見捨てられたんだって。
家族なんてくだらないものより、血の使命の方が大切だったんだって。
同じ血を持っていても、あなたは私を関わらせようとはしなかった。

そこで初めて、私はやっと1人にしてもらえたんだって、そう思ったんだ」

391名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:58:26 ID:tZsIa3Oc0
デレが小さく、「『砕けろ』」と呟いた。紅く、ごつごつと歪な形をした光が、デレの背後にぷつぷつと現れる。
首を傾げて、デレは綺麗に笑った。

ζ(゚ー゚*ζ「ずっとずっとお姉ちゃんに劣ってた私とはもうお別れ。さよなら、お姉ちゃん」

( ;^ω^)「ッツン――!」
 
 
 
ξ ⊿ )ξ「『弾けろ』」
 
 
 
紅い光とデレの体が、大きく吹き飛ばされた。

ζ(゚ー゚*;ζ「ッ、な――っ!?」

ξ ゚⊿゚)ξ「そう……よーく分かったわ」

392名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 22:59:52 ID:tZsIa3Oc0
ツンがそう呟いて、立ち上がった。ぷっ、と床に血の混ざった唾を吐き捨てる。
ふらり、と切れた脹脛でぐらついた体をなんとか持ちこたえ、床に投げ出されたデレを青い瞳で真っ直ぐ見据えた。

ξ ゚⊿゚)ξ「とにかく、さっさと目を覚まさせて話し合う必要があるわけね」

ζ(゚ー゚*;ζ「ッ、誰が寝惚けてるって!?」

ξ ゚⊿゚)ξ「あんたに決まってんでしょうが馬鹿デレ」

つかつかと歩いていくと、ツンは床に倒れたデレの胸倉を掴んで起こした。
間近まで顔を近づけ、「よく聞きなさい」と紅い瞳を覗き込む。

393名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 23:01:23 ID:tZsIa3Oc0
ξ ゚⊿゚)ξ「確かに私が、あなたのことをちゃんと見てあげられなかったのは認める。でもね、見捨てたりなんかしてない。
ちゃんと話を聞いてあげなかったし、普段からも話をする機会を設けなかったのは完璧に私が悪い。

デレ、でもね。私は一度も、あなたから話をしてくることを拒んだつもりは無いわ」

ζ(゚ー゚*ζ「……!」

デレが自分の力で起き上がれることに気が付くと、ツンは胸倉から手を離した。
両手でデレの頬を包み込んで、額を自分のそれと合わせる。

ξ ゚ー゚)ξ「ねえ、デレ。これまでの分、今から取り返そう。それじゃあ駄目?」

394名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 23:02:53 ID:tZsIa3Oc0
ζ(;ー;*ζ「……駄目じゃ、ない」

ぼろぼろと、デレの頬が涙で濡れる。
先ほどまで戦っていたとは思えないほどに、無防備にデレは泣き始めた。
僅かに開けた瞳からは、紅い色などどこにも無く。本来の、茶色の瞳が覗いていた。

(´<_` )「……盛大な、姉妹喧嘩だな」

呆れたような弟者の声に、ツンは笑顔を見せた。
デレの頬に添えた手はそのままに、顔だけ振り返る。

ξ ゚ー゚)ξ「ありがとう、弟者」

395名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 23:04:21 ID:tZsIa3Oc0
(´<_` )「……礼を言われるようなことはしてないさ」

そう笑い合った先で、扉ががちゃんと大きい音を立てた。
全員が振り返ると、デレが守っていた扉が独りでに開いているのが見える。

ξ ゚⊿゚)ξ「先に行ってて」

ツンがそう言った。

ξ ゚⊿゚)ξ「私はまだ動けそうにないから。後から絶対行く」

( ^ω^)「僕が手当てするお!」

名乗り出た内藤に、モララーが「頼んだよ」と頷いた。

396名も無きAAのようです:2013/04/08(月) 23:05:34 ID:tZsIa3Oc0
( ´_ゝ`)「じゃあ、先に行くな」

ξ ゚⊿゚)ξ「うん」

進んだモララーが、ドアノブを掴む。開けた先には同じようにまた灰色の石壁が続いていた。
次に来る敵に警戒しながら、全員は階段を登り始めた。
 
 
 
 
 
第18話「劣」・終

397 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/08(月) 23:07:30 ID:tZsIa3Oc0
今日ここまで

声での攻撃って自分で考えときながら難しくて苦労しました
次はもう少し楽になる……はず……

では

398名も無きAAのようです:2013/04/09(火) 02:08:45 ID:YV7cUoYE0
おつおつ

399名も無きAAのようです:2013/04/12(金) 21:43:48 ID:EmQN3VBw0
おもすれー


400 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/13(土) 00:26:45 ID:VuKQcKCQ0





(*゚ー゚)『ねえ、あなた、大丈夫?』
 
少女が青年を見つけたのは、本当に偶然だった。
路地裏で腹から血を流して倒れていた青年を見つけたのは。
 
( ,,゚Д゚)『……構うな、ガキ』

(*゚ー゚)『どう見たって同い年くらいだと思うんだけどな』

( ,,゚Д゚)『……』

401名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:28:27 ID:VuKQcKCQ0
少女が興味津々に青年の顔を覗き込む。
青年は鬱陶しいとでも言うように眉を寄せると、視線から逃れるように顔を背ける。

青年は白いシャツを血で汚していた。少女は汚れない制服を着ていた。
少女は楽しげに笑うと、屈んでいた体を戻して言った。

(*゚ー゚)『ねえ。助けてあげようか』

( ,,゚Д゚)『……は?』
 
 
 
 
 
彼女が手を差し伸べた頃。
 
 
 
第19話「助」

402名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:30:06 ID:VuKQcKCQ0
('A`)「しぃ?」

内藤とツンが残ったことによって後ろに回ったしぃは、前にいたドクオに声をかけられてはっと顔を上げた。
 
('A`)「大丈夫か? 疲れたのか」

(*゚ー゚)「ううん。ちょっと思い出してただけ」

('A`)「? そうか」

大丈夫だそうだ、ドクオが前に声をかけたことから自分のせいで歩みが止まっていたのだと気付く。
それに申し訳なく思いながら、しぃ自身も大丈夫だと言おうと前を向いた時だった。

403名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:31:09 ID:VuKQcKCQ0
ギコと、目が合った。

(*゚ー゚)「……大丈夫」

そう言って笑いかけると、一同は大丈夫だと判断したらしい。
皆が前に向き直る中で、ギコだけが名残惜しげに「しぃ」と声に出さず象ってから前を向いた。

(*゚ー゚)(大袈裟だなあ)

しぃは先ほど思い出していた自分達の出会いと照らし合わせながら、独りでに笑って居た。
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)(そういえば、2人共恋人だったよなあ)

404名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:32:07 ID:VuKQcKCQ0
早々に前に向き直っていた為、ギコがしぃに声無く呼びかけるのを見た兄者は素直にそう思った。
内藤とツンも付き合っている。
守護者の一族も惹かれ合うようにできているのだろうか、と考えてから心の中で「リア充爆発しろ」と静かに呪った。
 
( ,,゚Д゚)「扉、あったぞ」

ギコの言葉に、はっと身を引き締める。
前回のこともあって警戒しているらしい。ギコは両手剣を手に握ると、ドアノブを掴んで押し開けた。

部屋の内装はデレがいた所と変わらない。白い壁、天井、床。

405名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:33:36 ID:VuKQcKCQ0
(´<_` )「……なんだか、甘い匂いがしないか?」

そう口にしたのは弟者だった。
その言葉にこくりと兄者も頷いた。

部屋に入った時からずっと、花の芳香をめちゃくちゃに詰め込んだような甘ったるい匂いがしていた。
甘い、を通り越して吐き気さえ覚えるような。そんな匂いだった。

( ´_ゝ`)(……吐き気?)

ふと、兄者は自分が思ったことに疑問を持った。
吸い続ければ鼻は慣れていくものだ。だが、じわりじわりと吐き気は頭を出してきている。

406名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:34:53 ID:VuKQcKCQ0
部屋の中に視線をぐるりと巡らせて。

部屋の隅に、割れたワイングラスとぶちまけられた紅い液体が、見えた。

兄者が一点を見つめていることに気が付いたのだろう、モララーが「ご主人?」と声をかけて視線を追って――

( ;・∀・)「ご主人! 自分達の周りの空気を元通りにすることはできるかい」

( ;´_ゝ`)「え? あ、ああ」

突如叫んだモララーに肩を揺らしながらも、兄者はぺたりと床に手を着けた。
やけに切羽詰まったような表情が気になった。

407名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:36:07 ID:VuKQcKCQ0
( ´_ゝ`)「我、過去を司る者。過去在った姿へ戻れ」

そう呟くと、兄者の体から発生した青い光が、兄者を中心にドーム状に広がった。
それは緩やかな風を起こしながら、範囲を拡大して――だが、一番遠くにいたギコを包んだところで、紅い火花を散らしてその進みを止めてしまった。

( ;´_ゝ`)「え!?」

( ・∀・)「……やっぱりか」

ち、と舌打ちしたモララーはそのあと小さく咳をした。

( ・∀・)「部屋の隅に落ちているあれは、きっと毒だ」

408名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:38:09 ID:VuKQcKCQ0
( ´_ゝ`)「毒?」

( ・∀・)「そう。ただの液体かとも思ったけど、微妙に紅く発光してる」

言われて全員の視線がワイングラスに向いた。
床に染み込み始めた液体は、時折宝石のようにきらりと紅い光を一際強く放っていた。

( ・∀・)「長時間吸っていれば、きっと死ぬだろう」

( ´_ゝ`)「範囲がこれだけしか広がらないなら、俺と一緒に移動するのが無難だけど……」

( ,,゚Д゚)「いや」

ギコが警戒するように、視線をぎろりと向けている。

409名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:39:37 ID:VuKQcKCQ0
( ,,゚Д゚)「そういうわけにもいかないらしい」

ギコが見つめている先の扉が、向こうから開けられた。
 
 
 
(´・ω・`)「やあ」
 
 
 
男は、平然と毒で満ちた空間に何も着けずに歩いてきた。

(´・ω・`)「初めましての方が少ないけど、一応自己紹介でもしておこうか。
僕はショボン、今日は君達を殺す為にこの部屋を仕掛けさせてもらった」

(´・ω・`)「……ああ、不思議そうな顔をしてるね。でも、当然だろ?
毒を作った奴が、自分の毒にやられるわけがないじゃないか」

(´・ω・`)「今日の毒が一番よくできたと思うんだ。少し吸っても体に残る。
確実に今、どこかの細胞が死滅していってるだろうね」

410名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:40:35 ID:VuKQcKCQ0
(´・ω・`)「さて。君達はずっとそこから動かないつもりかな?
的が止まっているとすごく撃ちやすくて結構だけれど」

( ・∀・)「……よく喋るねえ、君」

そう言いながら、モララーの後ろでは既に兄者が動いている。
最初の一説だけ詠唱した兄者は、青い瞳でショボンの様子を伺いながら皆を治療するタイミングを計っていた。
それを見倣うように、しぃも小さな麻袋から石の破片を取り出して、それでも動き出せずに止まっている。

さてどうしようかと、モララーは思考を巡らせた。
確認を取っていないが、遠距離攻撃である兄者・しぃ・ドクオがこのドームの中から攻撃すれば穴が開いてしまうだろう。
そうすれば毒が中に流れ込んでしまう。

411名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:42:18 ID:VuKQcKCQ0
かといって、このまま動けずにいればショボンの言う通り一方的に蜂の巣にされるに違いない。

( ,,゚Д゚)「珍しく真剣な顔してんじゃねえぞ、ゴルァ」

背後から肩に手を置かれたと同時に聞こえた声に、モララーは特に驚いた表情は見せなかった。
だが、少し眉を寄せて問いかける。

( ・∀・)「君の体験したことのないものだろうし、大分ブランクがある。それでもいいのかい」

( ,,゚Д゚)「らしくないって言ってんだ、モララー」

それは酷い、とモララーは笑った。
そのモララーの横をすり抜けて、歩き出すギコに兄者が呼びかける。

( ;´_ゝ`)「ギコ!? やめろ、出るな!」

412名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:43:51 ID:VuKQcKCQ0
( ,,゚Д゚)「大丈夫だ、主」

兄者の制止にそう答えながら。
 
ギコは、兄者の形成したドームから1人抜け出した。

( ,,゚Д゚)「毒には慣れてる」

(´・ω・`)「……へえ」

ショボンがそう呟きながら、愉しげに笑んだ。
そして、取り出した銃をギコに向けて見せる。

(´・ω・`)「君が倒れるのはいつだろうね」

( ,,゚Д゚)「ほざいてろ」

413名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:45:22 ID:VuKQcKCQ0
タァン、ショボンの銃口が火を噴いた。
それを剣で弾いて、ギコはショボンへ駆けて行った。
 
 
 
 
 
ギコがショボンの相手を務める間、全員の体から毒を取り除いた兄者は安心から息を吐いた。
その兄者の体を治療して、麻袋の中身を確認したしぃは立ち上がった。

(*゚ー゚)「じゃあ、私も行ってくるね」

( ;´_ゝ`)「は!?」

414名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:46:54 ID:VuKQcKCQ0
当然とでも言うように言い放ったしぃに、兄者が驚いて声を上げる。
弟者も声こそ上げなかったが瞠目してしぃを見つめていた。
引き留められたしぃは首を傾げている。

( ;´_ゝ`)「いや、ギコもだけど大丈夫なのか!?」

(*゚ー゚)「? うん。石の残りもまだあるし」

(´<_`; )「おい」

石の残りを確認した上で行くということは、毒を治療する必要があるということだ。
けれどしぃは平然とした顔で、AMTバックアップDA45をその手に取る。

(*゚ー゚)「ギコが行ってるんだもの。私が行かなきゃ」

415名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:48:09 ID:VuKQcKCQ0
( ;´_ゝ`)「いや、でも……!」

( ・∀・)「大丈夫だよ、ご主人」

しぃを後押しするように続けられたモララーの言葉に、兄者が言葉を詰まらせる。
それを見て、モララーがしぃを振り返ると頷いた。
しぃも同じように頷いて、ドームの外へと一歩踏み出した。

( ;´_ゝ`)「一体どうして、」

( ・∀・)「2人はね」

モララーが、静かに言う。

416名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:50:46 ID:VuKQcKCQ0
( ・∀・)「互いが視認できる場所にいれば、いつも一緒に戦うんだよ」
 
 
 
 
 
『ねえ。助けてあげようか』

過去の自分が投げかけた言葉に、しぃは笑った。
今思うと随分と偉そうな口を叩いたものだ、と笑いは治まりそうにはない。
笑って戦場に行くなど、異質でしかないだろう。

それでも、しぃは笑顔を浮かべた。

417名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:51:37 ID:VuKQcKCQ0
(*゚ー゚)「今、助けに行くよ」
 
 
 
 
 
第19話「助」・終

418 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/13(土) 00:54:36 ID:VuKQcKCQ0
今日ここまで
本来無いはずのエピソードにまで手出してるから長引いとる……

コンビニで買ったチョコケーキが濃厚でうまいっす
では

419名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 01:09:28 ID:57eNguUk0
乙!

420名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 01:58:38 ID:WV6Z./g2O
乙乙!

421 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/15(月) 23:37:51 ID:HqygebcE0
 
 
 
 
 
もう飽き飽きだと男は笑った。
 
 
 
第20話「飽」

422名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:39:05 ID:HqygebcE0
( ,,゚Д゚)(1,2,3)

弾数を数えながら、ギコは銃弾から逃れてリロードの機会を狙っていた。
ショボンが手にするのはIMI デザートイーグル。
普通のものよりも反動が大きいそれをいともたやすく扱い、正確に狙ってくるのだからたまったものではない。
自動拳銃の中ではメジャーだが、そもそも大型獣相手に作られた銃だということを思い出すとゾッとする。

(´・ω・`)「……意外に素早いなあ」

ショボンがそう零しながら、また引き金を引く。
その銃口から放たれた銃弾がギコの眉間を狙い――咄嗟に振った両手剣に弾かれ、遠く離れた床に耳障りな音を立てて転がった。

423名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:40:13 ID:HqygebcE0
( ,,゚Д゚)(8)

あと1発。
そう思い両手剣を固く握り直し、床を蹴った時だった。

(´・ω・`)「どうせ、数えていたんだろう?」

ショボンが、そう言って笑った。
いつの間にか、ショボンの片手はズボンのポケットへと伸びている。
そのポケットから、ゆっくりと取り出されたのは。

ゆらりと紅い光を放つ、液体が入った小瓶だった。

( ;,゚Д゚)「ッ!」

424名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:41:22 ID:HqygebcE0
ショボンが小瓶を床に叩き付ける。
割れた小瓶から紅い蒸気が立ち上り、ショボンの体を覆って見えなくした。
僅かに漂う臭気から、それがまた毒なのだということを知らせてくる。

( ,,゚Д゚)「しかも、新手か……ッ!」

部屋全体に漂っていたのが花なら、こちらは菓子。
胸焼けするような、甘い匂いに眉を顰めた。

刹那。

( ;,゚Д゚)「ぐッ」

紅い霧から真っ直ぐに飛んできた銃弾が、ギコの肩を撃ち抜いた。
貫通したが故にパッとその場に舞った血に、背後から兄者の声が聞こえた。

425名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:42:29 ID:HqygebcE0
(*゚ー゚)「ギコ!」

しぃの声が、響く。
その直後に聞こえた銃声が1つ、2つ。だがそれが目の前ではなく、背後からのものだ。
しぃが撃った弾は紅い霧の中に吸い込まれていく。

(*゚ー゚)「ギコ」

( ,,゚Д゚)「ああ」

とん、としぃが銃を持っていない手でギコの肩を叩いた。
その一瞬触れただけで、ギコの血に濡れた傷口がみるみるうちに塞がっていく。
だがその代わりに、しぃが叩いた掌に持っていた青い石の破片が黒い砂となって床に落ちて行った。

( ,,゚Д゚)「ロマネスクに何らかの力を与えられたのは毒だけらしい。銃弾は何の変わりも無い」

(*゚ー゚)「分かった」

426名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:43:51 ID:HqygebcE0
そう言うしぃの顔色は、青い。
それを一瞥してから、そうだろうなとギコはすぐに前に意識を集中させた。

( ,,゚Д゚)(俺が異常なだけだ)

衰えることなど無い。
体に叩き込まれた、あらゆる毒への耐性など。

(´ ω `)「あーあ」

ショボンのどこか残念そうな声と共に、姿が見えないほどの霧が晴れる。
そして現れた光景に、瞠目した。

しぃが撃った弾は2発。
その2発は、確かにショボンの体に当たる――はずだった。

427名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:45:12 ID:HqygebcE0
一層濃い紅の霧が、野球ボールのような大きさで2つ、ショボンの前に浮いている。
ショボンが銃を持たない左手を振ると、その霧は晴れて包まれていた2発の銃弾が床に落ちた。

(´・ω・`)「弾の無駄遣いだね。勿体ない勿体ない」

(*゚ー゚)「……じゃあ大人しく当たってよ」

(´・ω・`)「嫌に決まってるじゃない、かッ」

しぃを狙って銃声が響く。
咄嗟の判断で左に飛んだしぃの、元の胸の位置を銃弾が通り抜けて行った。

( ,,゚Д゚)(9!)

ギコは元から、しぃを狙われたことを気にしなかった。
むしろチャンスだと思ったほどだ。

428名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:46:21 ID:HqygebcE0
きっかり9発。つまり、弾倉が空になった。
リロードの機会を待っていたギコは自分に銃口が向けられていないのを好機と見、走り出した。
一際強く床を蹴り上げ、跳躍する。
頭の上に振り上げた両手剣を、自分が落ちる勢いに乗せ、ショボンの頭めがけて振り下ろした。

( ,,゚Д゚)「あああッ!!」

ギコの目が青く光る。
ショボンの目が頭上から迫るギコを映して。

(´・ω・`)「甘いよ」

ギコの振り下ろした剣を、紅い霧が受け止めた。
まるで鉄の壁に叩き付けているような、押してもびくともしない霧に舌打ちする。

429名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:47:34 ID:HqygebcE0
剣を押し付けたままの霧に、足を付けた。剣を受け止めたままの霧は鉄の壁同然のままだということを利用して、床に見立てて蹴って再び宙に飛んだ。
その間にリロードを終わらせて向けられた銃口に、ギコは剣を盾にした。

ギコを狙うショボンへと、しぃが銃弾を撃ち込む。
ショボンの視線がギコから外れて、しぃが撃った銃弾が再び紅い霧に包まれた。

ショボンが視線を逸らしたその隙に、ギコが着地して体勢を整える。
だが、次の瞬間。
ギコは血を吐き出した。

( ;,゚Д゚)「ぐ、げほ……ッ」

(;*゚ー゚)「ギコ!」

430名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:48:43 ID:HqygebcE0
突然の吐血でほんの一瞬、意識がショボンから外れてしまう。
その一瞬が、命取りだった。

(´・ω・`)「さよなら」

ショボンの撃った弾が、ギコの胸へと吸い込まれていった。

ギコが仰向けに床に倒れる。
しぃはショボンがそれに気取られているうちに発砲する。2発。
だがまたもや止められ、更に弾切れを起こしてリロードしようとしたしぃの前腕をショボンが撃ち抜いた。
持っていた銃を取り落とし、少し離れた場所に銃が転がった。
迂闊に動けば撃たれるであろうという状況に、しぃが動くことを止めてショボンを睨み付ける。

(´・ω・`)「君はそこで待ってなよ。先に彼を殺すから」

431名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:49:52 ID:HqygebcE0
(;*゚ー゚)「っ」

ショボンの言葉に動きたくなるのを抑えて、しぃはぐっとその場に留まった。
だがショボンの視線がしぃから外れたところでそっと石の破片を取り出し、撃ち抜かれた前腕を治療する。
あとはどうやって銃を回収するか、ショボンから目を離さずしぃは機会を伺った。

倒れ込んだギコは苦しげな表情でごぽり、と引き続き吐血している。
撃たれた胸だけでなく、とうとう回った毒の為でもあった。

(´・ω・`)「僕、君にとても興味があるんだけど」

(´・ω・`)「君、どうしてここまで平気だったんだい? これだけの時間ならもうとっくに死んでるはずなんだけど」

432名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:51:29 ID:HqygebcE0
(´・ω・`)「君だけ、他の奴らと違って治療も何も受けずここまできたよね? すごいなあ、すごいなあ」

(´・ω・`)「どれだけの毒に耐えられるか、試してみたいものだね」

( ;,゚Д-)「……るせえ」

ギコが苦悶で歪めた表情の中で、片目を開けてショボンを見る。
その瞳は変わらず青色のままだった。

( ;,゚Д-)「ガタガタ抜かすな、ゴルァ」

(´・ω・`)「それを言うならこっちのセリフだよ」

433名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:52:12 ID:HqygebcE0
ショボンが言いながら銃口をギコに向ける。
乾いた音が響いて、ギコの左腕がびくりと波打って血を散らした。
くぐもった呻き声が喉の奥で消えた。
 
 
 
 
 
暗殺任務を失敗して、路地裏に怪我をしたまま倒れていたのはもう随分と前のこと。
そして、それをしぃに助けてもらったのも。

暗殺者として、あらゆる技術を身に付けさせられた。
毒の耐性も、その1つに入る。

434名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:53:06 ID:HqygebcE0
相手を殺す手段を己で知るべし。それに何も疑問を感じなかった。
毒を飲んで、死ぬギリギリまで耐えて、解毒剤を飲んで、また毒を飲んで。ずっと繰り返し。
やがて解毒剤がいらなくなるまで。そうやって体に覚えさせる。
こんなところで役に立つなど思っていなかった、とギコは思う。

暗殺者に失敗など許されない。失敗すれば死。
つまり、自分を助けたしぃも危ない。

だから教えた。けれど、ある程度は既に知っていた。

(*゚ー゚)『私、守護者の一族なの』

彼女の言うことは分からなかった。
だが、彼女に連れられてその守護者とやらに会いに行って。

435名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:54:49 ID:HqygebcE0
( ・∀・)『おやおや、君も僕らの同胞じゃないか。初めまして』

( ,,゚Д゚)『……は?』

( ・∀・)『はは、君は分からなくても、僕には分かるよ。君は守護者の一族だ』

(*゚ー゚)『本当に?』

じゃあおそろいだね、と。

隣からこちらを覗き込んで、しぃがはにかむように笑ったのを。
覚えている。
 
 
 
 
 
( ,,゚Д-)「……まあ、これまで飲んだことのない毒だったからか」

ギコは笑った。

436名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:56:11 ID:HqygebcE0
( ,,゚Д゚)「でも、もう戦える」

(;´・ω・`)「な……ッ!?」

言った直後、ギコは跳ね上がるように起き上がって青く光る両手剣を横に薙いだ。
ショボンの両足の脛を斬り付ける。横一直線に引かれた赤い線から小さく血が噴き出して、ショボンがその場に膝を付いた。

( ,,゚Д゚)「しぃ!」

ギコの声に応えるように、銃声が1つ。
青い光を纏った弾丸が、ショボンの後頭部に当たった。
びく、と大きくショボンの体が揺れる。だが、傷は負っていない。

437名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:57:55 ID:HqygebcE0
( ;´_ゝ`)「あれは……!?」

( ・∀・)「しぃのあの弾は、人を傷付けるものじゃない」

(´<_` )「……過去の力、か」

弟者が呟いたのを合図にしたように、部屋の隅にあった液体が紅い色を無くして透明に変化していった。
そしてショボンの体を取り巻いていた紅い霧も無くなっていく。

( ・∀・)「しぃは元から石の扱いが上手くてね。石に僅かに残っている力を、自分の銃弾に纏わせるのも器用にやってのける」

(´・ω・`)「……どうして」

ショボンが小さく呟いて、体を大きく傾かせた。
白い床に横に倒れて、駆け寄ってきたギコとしぃを虚ろな瞳で見つめる。

438名も無きAAのようです:2013/04/15(月) 23:59:34 ID:HqygebcE0
( ,,゚Д゚)「しぃが撃った弾なんか放っておけばいいものを、お前はわざわざ振り返った。
つまり、攻撃は視認しないと防げないんじゃないかと思ってな」

(´・ω・`)「違う、そうじゃない。毒だ」

消えそうな声で問いかけるショボンに、ギコは納得がいったようにああ、と返事した。

( ,,゚Д゚)「吐血はしたが、つまりそれは死ぬ直前までいったってことだ。後は体が勝手に死なないように耐性を作るようになってる」

(´・ω・`)「……ふざけた体だね」

(*゚ー゚)「ねえ、1つだけ聞いていい」

倒れたショボンの前に、しぃはしゃがみ込む。
近くなった視線で、しぃは落ち着いた声で問うた。

439名も無きAAのようです:2013/04/16(火) 00:00:57 ID:NT.TMUhM0
(*゚ー゚)「どうして、ロマネスクに協力したの」

(´・ω・`)「……は、そんなの」
 
 
 
(´・ω・`)「人生に飽きたからだよ」
 
 
 
そう言って、ショボンは意識を失った。
 
 
 
 
 
('A`)「こいつはバーの元マスターだって言ったよな。で、飽きたっていうのは心当たりがある」

改めての治療を施しながら、何もすることのないドクオがそう言った。

440名も無きAAのようです:2013/04/16(火) 00:02:30 ID:NT.TMUhM0
('A`)「こいつには妻子がいたらしい。だが、交通事故で2人とも亡くして、その後すぐにバーを閉めてるんだ」

(´<_` )「……過去を恨む理由は十分だな」

('A`)「だろ? 一気に人生のどん底に突き落とされた。孤独感に苛まれる人生に飽きた、そういうことなんだろう」

ギコの治療が終わったのを見計らって、ドクオが立ち上がる。
気を失ったショボンを見て、「どうするよあれ」と指差した。

( ・∀・)「……後から来るであろう内藤達に回収させようか。今連れて行っても邪魔だろうし」

441名も無きAAのようです:2013/04/16(火) 00:03:40 ID:NT.TMUhM0
( ´_ゝ`)「なあ、それって結局面倒くさいだけじゃ」

( ・∀・)「よーし行くよー」
 
 
 
 
 
第20話「飽」・終

442 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/16(火) 00:06:50 ID:NT.TMUhM0
今日ここまでー
書こう書こうと思ってたのになかなか投下できませんでした、でもすっきり
今見返すと戦闘シーン少なすぎて泣ける

さああともうひとがんばり
進撃の巨人アニメ見ながら戦闘シーン頑張ります

では

443名も無きAAのようです:2013/04/16(火) 01:36:44 ID:YsCDRxJkO
乙!ショボン退場かあ…

444名も無きAAのようです:2013/04/16(火) 17:43:09 ID:pK1Q1xuw0
おつ

445 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/22(月) 23:04:22 ID:TTEyE1WQ0
 
 
 
 
 
ずっと待ってた。
 
 
 
第21話「独」

446名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:05:56 ID:TTEyE1WQ0
('A`)「……モナー」

部屋に入った途端、後ろにいたドクオがそう呟いた。
その声にはっとしたように奥を凝視すれば、確かに1人。
次に続く扉の前に、俯いている男がいる。その手には紅い光を帯びたチャクラムが握られていた。

見覚えのあるチャクラムに、一同は自然と身構えた。

( ´∀`)「排除排除排除排除排除排除排除排除」

('A`)「うるせえ」

( ;´_ゝ`)「ドクオ!?」

447名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:07:12 ID:DMyP2Zg20
きたああああ!!

448名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:08:53 ID:TTEyE1WQ0
小さく舌打ちして前に進み出たのはドクオだ。
手に緑の光を収束させて現したクロスボウをしっかと握ると、立ち止まってモナーに向ける。

止まっていた面子の中から1人動けば的になるのは必然と言えるだろう。
排除という言葉をひたすら繰り返すモナーは、チャクラムを持つ手を大きく後ろに引きつけてから音がするほどの速さでチャクラムを放った。
轟、音を立てて丸い刃の輪がドクオに襲い掛かる。

('A`)「はっ」

クロスボウを構えて照準を合わせていたドクオが、鼻で笑った。

449名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:10:03 ID:TTEyE1WQ0
('A`)「遅いんだよ、モナー」

言うなり、ドクオはクロスボウの引き金を引いた。
ぱっと見ただけでは攻撃性に欠けると見えるかもしれない。
そんなクロスボウから放たれた矢は、ドクオが引き金を引いただけで緑色の光を帯びた一羽の鳥へと変わった。
矢は迫りくるチャクラムの刃に命中する。
バランスを崩して勢いを失ったチャクラムは相手を傷付けることなく、更に持ち主の手にも戻らず床に耳障りな音を立てて落ちた。

攻撃を防がれ、その上武器をも失ったモナーは一瞬の動揺の後腰に手を伸ばした。
見れば腰には短銃が収められているホルダーがある。
それを阻止しようと銃を手に取ったしぃよりも、やはりドクオの方が行動が早かった。

450名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:11:16 ID:TTEyE1WQ0
ほんの一瞬。まさに一瞬だ。
モナーが手を伸ばした一瞬に、ドクオのクロスボウの矢がモナーの頬のすぐ側を掠めて行った。
それにはっとしたように顔を上げたモナーは、いつの間にか目前にまで駆け寄っていたドクオに胸倉を引っ掴まれてそのまま足払いをかけられる。
床に響く人1人分が倒れた音に、一同はドクオの早業に目を剥いた。

成す術も無く床に倒されたモナーの上に、ドクオが馬乗りになる。
胸倉を掴んで上げ、紅黒い瞳を真っ直ぐと正面から見据えた。

('A`)「モナー本来の動きじゃない。体がうまく動かないってのが見て取れるんだよ。

451名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:13:05 ID:TTEyE1WQ0
そうだろ、モナー」

( ;´∀`)「……う、」

ドクオがそう呼んだ時、モナーの瞳に一瞬だけ緑の色が過った。

( ;´∀`)「う、ガああアァァアああああああッ!!!」

('A`)「そこに居んだろ、モナー!! 簡単に乗っ取られてんじゃねえよ!!!」

( ´_ゝ`)「弟者!」

(´<_` )「ああ!」

ドクオの言葉に苦しむように苦悶の声を上げ、モナーは耳を塞ごうとする。

452名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:14:12 ID:TTEyE1WQ0
モナーを取り戻そうと呼び掛けるドクオの後ろで、兄者がふと気が付いて弟者を呼んだ。
伝えようとしたが、考えていることは同じだったらしい。
兄弟は頷くと、ドクオ達に駆け寄った。

暴れるモナーの体に触れると、詠唱を始める。
ぶわりと青と緑の光が広がって、4人を包み込んだ。

兄者が「モナーがロマネスクの力を流し込まれた」という過去を抹消し、
弟者がそれを手助けする為に主である自分の力を送り込む。

モナーの身の内に蟠るロマネスクの力を少しずつ消していく。
それが、2人が言葉を交わさずとも決めて思ったことだった。

453名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:15:26 ID:TTEyE1WQ0
モナーのきつく閉じられた瞳が不意に大きく見開かれる。
その瞳の色が、紅と緑でちかちかと点滅した。

('A`)「モナー!!」

ドクオは呼ぶ。
ひたすらにモナーの名前を呼ぶ。

('A`)「戻って来い、モナー!!」

(´<_`; )「……帰って来い……ッ」

じわり、弟者の額に脂汗が浮かぶ。
モナーに送り込む力は、あまりスムーズに中へと進んではくれない。

454名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:16:35 ID:TTEyE1WQ0
それほどまでにロマネスクから与えられた力が、追い出されないようにと躍起になっているようで、弟者は吐き気がするくらいだった。

('A`)「モナー!!!」

( ;´∀`)「……ぁ、」

モナーの苦しみに満ちた声が、急にふつりと止んだ。
これまでの苦しみが嘘のように、突如静寂に満ちた空間を壊したのは、この空間を作り上げたモナー自身だった。

( ´∀`)「……ああ……」

耳を塞いでいた手がだらりと落ちる。

455名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:17:35 ID:TTEyE1WQ0
ドクオが掴んだ胸倉だけで上体を起こされたモナーは、目を閉じていた。

( ´∀`)「……夢、を、見てたモナ……」

そうぽつりと響いた部屋は、皆口を噤んでいる。
何故か、この静寂を破ってはいけないような気がしたからだ。
熱に浮かされておぼろげな頭を働かせたモナーが、言葉を紡いでいるからこそ。

邪魔してはいけない空間だと。

( ´∀`)「守護者の、みんなが、いて。僕らは主を、主達を狙う輩を監視してて。
ある日、主の部屋に侵入されるモナ」

ぐ、と弟者が喉の奥に言葉を飲み込んだ。

456名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:18:57 ID:TTEyE1WQ0
( ´∀`)「そこから、みんな、死にかけて。ジョルジュが死んで、ハインが死んで、ドクオも死にかけてて」

モララー達が歩み寄る。
モナーが想いを繋げて言葉にするのを、黙って聞きながら兄弟に一歩引くようにジェスチャーした。

( ´∀`)「クーが死んで、主も死にかけてて。でも、僕は利用されるモナ」

('A`)「……ああ」

( ´∀`)「気持ち悪い力を流し込まれて、底無し沼にはまるみたいな。
ずっと出てこれないで沈むような、そんな夢だったモナ」

('A`)「……そうか」

457名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:20:54 ID:TTEyE1WQ0
( ´∀`)「僕、だけ。僕だけモナ」

そう言って、モナーは目元を自分の手の甲で隠した。

(  ∀ )「みんな死んで、死にかけてたのに、僕だけ。大した怪我もせずに、1人だけ」

('A`)「ああ」

(  ∀ )「……もう……1人は、嫌モナ」

(  ∀ )「死にたく、ないモナ」

('A`)「モナー」

ドクオが掴みあげていた胸倉を下ろして、モナーの背中が床に付いたのを確認して手を離した。
馬乗りだった体勢を止め、モナーの体の上からどく。

458名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:22:32 ID:TTEyE1WQ0
('A`)「夢じゃないんだよ、モナー。お前が見てた夢、全部夢じゃないんだ」

(  ∀ )「……わかってるモナ」

目元に押し付けていた手の甲をぐい、と乱暴に移動させる。
手の甲でなく腕で目元を隠して、モナーは引き攣った笑いを浮かべた。

( ;∀ )「わかってる、モナ……」

僅かにずれた腕から覗く瞳は、澄んだ森の色をしていた。
 
 
 
 
 
('A`)「うっし、大丈夫だな」

459名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:23:52 ID:TTEyE1WQ0
多少赤く腫れた目元で、それでもモナーは何も言わずにチャクラムを拾い上げて戻ってきた。
チャクラムが淡い緑色を帯びる。
戦う意思が損なわれていない、その精神力の強さにふと弟者はモナーに視線を遣った。
瞬間、目が合う。

(´<_` )「……」

( ´∀`)「……主」

言葉に詰まる弟者を知ってか知らずか、モナーは弟者と目を合わせて呼んだ。

( ´∀`)「よくぞご無事でいてくれたモナね」

(´<_` )「……お前が見張ってた癖によく言う」

460名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:25:07 ID:TTEyE1WQ0
( ´∀`)「そうモナ?」

(´<_` )「ああ」

そう答えて笑うと、モナーも笑った。
痛みを乗り越えた先の強さを持った笑顔だった。
 
 
 
 
 
( ,,゚Д゚)「……これ、どういうことだ」

扉を見たギコがそう呟いた。
扉、らしきもの。は、ある。が、取っ手も鍵穴も何も付いていないのだ。

461名も無きAAのようです:2013/04/22(月) 23:26:22 ID:TTEyE1WQ0
どうやってモナーがこの扉を越えてきたかなど、覚えているわけもない。
首を傾げながらモララーがその扉に触れて――敵に遭遇したように飛び退いて扉から距離を取った。

( ・∀・)「ご主人、扉から目を離すな!」

( ;´_ゝ`)「!?」

モララーの声に身構えながら扉を見て、兄者は瞠目した。
 
 
 
 
 
第21話「独」・終

462 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/22(月) 23:30:42 ID:TTEyE1WQ0
長らくパソコンに触れる機会が無くてこんなことに
失礼致しました

なんかドクオの腕前があんまり目立ってませんが
ドクオは一応未来の守護者達の副リーダーです
リーダーはクーでした

ゲーセンで取れた特大ポテチ食べながらお暇させて頂きます
では

463名も無きAAのようです:2013/04/23(火) 01:19:18 ID:voiVdS6oO
乙乙
待ってた!

464 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/25(木) 22:06:32 ID:KaiFeRLs0
 
 
 
 
 
掬い上げたのは誰か。
 
 
 
第22話「最」

465名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:08:19 ID:KaiFeRLs0
('A`)「……子供?」

ぎい、と音を立てて向こうから開けられた扉。
向こうから扉を開けたのは小さな子供だった。
まだ8、9歳くらいに見える子供は、じとりとどこか薄暗い瞳で兄者を見つめていた。
言葉も発さないまま、見つめてくる子供が僅かに動いたと思った瞬間。

( ;・∀・)「ご主人ッ!」

( ;´_ゝ`)「う、わっ!?」

モララーが子供と兄者の間に走り割り込んだ。
モララーが駆け寄ってくるのが目に入った時、子供の手にいつからか握られていた何かが襲い掛かる。
青く光を放つサーベルを突き出した。そのサーベルに、子供から放たれた鎖のようなものが絡み付くのを感じ取ったモララーは素早く絡み付くそれを振り払う。

466名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:10:10 ID:KaiFeRLs0
全員が武器を構えて警戒するその間、子供は静かに自分の手元に戻った鎖を見て一つ深呼吸をした。

子供が手にしているのは、その小さな体に不釣り合いなほど大きい乳切木だ。
長めの棒の一端に鎖が付いており、その鎖の先に分銅が付いている。
上から吊るせば乳切木の全長と子供の身長は同じくらいではないのかと思うほどだった。

( ФωФ)「……手間が省けて何よりである」

子供の居る向こう側、扉の先にある部屋でロマネスクはそう言って立っていた。

( ФωФ)「こんばんは。忌々しき者達よ」

( ;´∀`)「ロマネスク……!」

467名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:11:35 ID:KaiFeRLs0
ロマネスクはこちらを見て薄く笑うだけだ。
子供がくるりと兄者達に背を向けて、ロマネスクの元に軽い足音を立てて駆け寄っていく。
握った乳切木の鎖を床にずるずると引きずりながら、子供は駆ける。

( ФωФ)「ご苦労である、ミルナ」

( ゚д゚ )「……」

ロマネスクが頭を撫でるのを、子供は擽ったそうに片目を閉じて無言で受け入れる。
一見平和に見えるような光景も、それをやっている者の本質を知っていれば息を飲むのも無理は無かった。

( ・∀・)「ご主人。もしかして、あの子供がまだ会ってない1人ってやつかい」

468名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:14:05 ID:KaiFeRLs0
( ;´_ゝ`)「……認めたくないけど」

('A`)「アレ、本当に子供なのか?」

( ´_ゝ`)「俺が見たのは、ロマネスクがあの子供を拾ったところ。と、あの武器を渡したところだ」

(*゚ー゚)「子供にまで戦わせるなんて……」

しぃがぽつりと呟いた後に、ミルナと呼ばれた子供が兄者達の方を振り返った。
まだ幼いせいかやけに大きく見える瞳は、いつの間にか先ほどまでの茶色ではなく紅色に輝いていた。

( ФωФ)「吾輩はあまり気が長い方ではない。吾輩が用があるのは過去の受継者だけ。
ミルナ、まず守護者から片付けるのである」

469名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:15:29 ID:KaiFeRLs0
( ゚д゚ )「……」

ミルナはロマネスクの言葉に何も喋らずに頷いただけだ。
それでもミルナは再び引きずった鎖の音を響かせながら、兄者達の方へと向かい歩いてくる。
その様子を真正面から見据えながら、モララーはサーベルを肩に担いだ。

( ・∀・)「ご主人、油断しない方がいい。後ろにはあのロマネスクが控えてるんだ、何かされてもおかしくない」

( ´_ゝ`)「ああ」

モララーの声に応えるように銃をその手に構えた兄者が、いつでも撃てるようにと引き金に指をかける。
その指をかけた、かちりという小さな音。

その音を合図にしたように、カッと紅い目を見開いたミルナが一跳びでモララーと兄者の間に割って入った。

470名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:17:02 ID:KaiFeRLs0
( ;´_ゝ`)「早……ッ!?」

( ;・∀・)「ご主人!!」

瞠目する兄者に、ミルナが振るった乳切木の鎖がうねりながら狙いを定める。
一瞬で眼前に迫った鎖に、兄者が訪れるであろう衝撃に反射的に目を瞑った。

(´<_`; )「こ、のッ!」

ひゅ、と兄者の鼻先に弟者の棒が掠める。
それに驚きで声を上げそうになる前に、棒に鎖が絡み付くのを見て「弟者!」と兄者は叫んだ。
ミルナの鎖に絡み取られた棒が自由に動くわけがなく、弟者は思い通りに動かぬ棒に舌打ちする。
ふと棒を捕らえたミルナと目が合った瞬間――持っていた棒に引きずられる形で、乳切木を振るったミルナによって弟者の体は大きく動かされて兄者にぶつかった。
子供の力如きに体を引きずられた弟者と皆が驚きに目を瞠った。

471名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:19:01 ID:KaiFeRLs0
( ФωФ)「ああ、そういえば受継者と守護者を引き離すようにも言ってあったか……お利口であるな」

( ;・∀・)「クソッ!」

兄弟と守護者達の間に、ミルナは立っている。
弟者の棒から鎖を外したミルナは、最早気にしないとでも言うように兄弟達に背を向けた。

( ;´_ゝ`)「なん、で……ッ!?」

疑問から声を発した兄者の言葉が、すぐに止まった。

兄弟達がぶつかって倒れ込んだ床から、ぶわりと紅い禍々しい光が湧き上がった。
紅い光は驚きで動けない兄弟達をドーム状の形で包み込む。
あまりに一瞬のことで、反応が遅れた守護者達が兄弟を呼んだ。

( ;´_ゝ`)「なんだよ、これっ!」

472名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:20:23 ID:KaiFeRLs0
どん、と内側から兄者がドームを叩いた。
ドームは硬く、兄者が叩き付けた拳にもびくともしなかった。
むしろドームを叩いた時にした音が重く鈍く、よほど強固で破れそうにないものだと無意識のうちに悟ってしまう。
ドームの壁は全体が紅いものの、透明にはなっている。
だからこそ眼前で繰り広げられる、参戦することもできず閉じ込められた状態に唇を噛むことしかできなかった。
ミルナの小さな体が、守護者達の間で跳ねる。

( ;´_ゝ`)「みんな……!」

(´<_`; )「……!」

473名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:21:41 ID:KaiFeRLs0
守護者達に想いを馳せる兄者の後ろで、弟者は振り返って息を詰めた。
ドームに向かって歩いてくるロマネスクに、鋭い視線を投げた。
 
 
 
 
 
(*゚ー゚)「ギコ!」

( ,,゚Д゚)「ああ!」

ミルナの体を狙って放たれた弾丸は、宙に舞った鎖によって弾かれる。
間を置かず横から駆け込んでくるギコに視線だけちらりと遣って、一歩踏み外すように後ろにずれてギコの攻撃を躱した。
不意に横に乳切木を薙ぐ。
するとドクオの放ったはずの矢が2本3本と鎖に絡め取られて、次々に床に落ちて行った。
かと思えば自分の前に斜めに構えた棒に、チャクラムが真正面からぶつかって床に当たりながらモナーの元へ滑っていく。

474名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:23:24 ID:KaiFeRLs0
('A`;)「化け物か……!?」

ドクオが呟いたのも無理はない。
子供が1人に対してこちらは大人が5人。
一度に全員を相手にしているのにも関わらず、大したダメージを与えることができない。

それがロマネスクが与えた力であることは明白だった。
少しでも兄者達の方に視線を遣ったモララーは、視界の端に飛んできた鎖の先の分銅にサーベルを振るった。
間近でした耳障りな音にモララーは眉を顰めた。
ほんの一瞬でも気を逸らしただけでこの有様なのだから、恐ろしいものだと苦笑が漏れた。

ミルナの紅い瞳が真っ直ぐにモララーを捉える。
真横から飛んできたチャクラムを鎖で絡め取ってからモナーの方へと投げ返し、モララーに向かって来ようと足に力を込め、モララーもそれに応戦しようとサーベルを構え直した時だった。

475名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:25:03 ID:KaiFeRLs0
 
 
 
ξ ゚⊿゚)ξ「『止まれ』ッ!!」
 
 
 
( ゚д゚ )「!」

突如横からぶつかってきた青い衝撃波に、ミルナの体が軽々と吹っ飛ばされた。
体重を感じさせないほどに宙に浮いたミルナは、されど空中で体勢を立て直すために一回転して床に降り立つ。
そして衝撃波を発せられた扉の方をぎろりと睨み付ける。

ξ ゚⊿゚)ξ「お待たせ!」

( ^ω^)「遅くなったお!」

476名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:26:26 ID:KaiFeRLs0
中に入ってきたツンと、内藤がそう高らかに言った。
後から続いてきたデレが、その肩に気を失ったショボンの腕を回している。

( ・∀・)「ツン、内藤! ご主人達の救出に回れ!」

ξ ゚⊿゚)ξ「分かった! そっちは!?」

( ・∀・)「こっちはこっちで片付ける!」

モララーは叫ぶような声で指示を出すと、サーベルを握り直した。
ミルナは先ほどのツンの衝撃波の余韻か、立ってはいたが一度ふらりと体勢を崩してまた立て直した。
向こうのペースが崩れた、とモララーは確信する。

サーベルを一度振る。
サーベルの刀身に帯びた青い光が一際強くなり、モララーの目が青く変わった。

( ・∀・)「反撃させてもらうよ――クソガキが」

477名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:28:08 ID:KaiFeRLs0
 
 
 
 
 
( ;^ω^)「主イィッ!!」

( ;´_ゝ`)「ブーン! ツン!」

ξ ゚⊿゚)ξ「『切り裂け』ッ!」

走りながら発動したツンの衝撃波が、青い円盤が2つ軌道もばらばらにロマネスクの元へと飛んで行った。
追撃を狙う内藤が、青い光を帯びたナックルダスターを嵌めた拳に力を込めて跳躍した。

478名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:29:14 ID:KaiFeRLs0
 
 
 
( ФωФ)「甘い」
 
 
 
だが、それはロマネスクの退屈そうな声と共に全て切り捨てられる。

ツンの円盤は、ロマネスクが刹那のうちに掌に現した紅黒いナイフによって1つは半分に、もう1つは受け流されたことによってツンの元へと跳ね返った。
切羽詰まったような声音で「『砕けろ』!」と発動された青い小さな礫によって砕かれる。
追撃を狙っていた内藤が、ツンの攻撃が跳ね返されたことに唇を噛みながら拳をロマネスクにめり込ませる――はずだった。

479名も無きAAのようです:2013/04/25(木) 22:31:30 ID:KaiFeRLs0
ナックルダスターが、ナイフ1本に軽々と受け止められてびくともしない。
しんと静まったその静寂の内に、内藤が大きく目を見開いてロマネスクは厭な笑みを浮かべた。
静寂で止まった時がその瞬間に還元されたように、内藤の体が紅い波動に大きく弾かれて床に叩き付けられた。
 
( ;´_ゝ`)「ブーンッ!!」

兄者の声に、ロマネスクは嗤った。
 
 
 
 
 
第22話「最」・終

480 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/25(木) 22:34:24 ID:KaiFeRLs0
今日ここまで
2ヶ月以内完結を目指してきたんですがちょっと厳しいかなー……と思い始めている
でも完走はできそうなのでできる限り頑張りたいです

乳切木は完全に自分の趣味です
なんか名前がえr……なんでもない

では

481名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 01:29:50 ID:VtbyjZlEO
おつうう待ってた!!!

乳切木ってなんて読むんだ…?ググってくる

482 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/26(金) 21:59:30 ID:U/AltkVA0
 
 
 
 
 
見えないで、見えないで。
 
 
 
第23話「不」

483名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:02:00 ID:U/AltkVA0
( ゚д゚;)「――ッ!」

咄嗟の判断で顔を後ろに引いたミルナの、黒い前髪がはらはらと宙を舞った。
とん、とたたらを踏むように後ろに数歩よろけて、はっとしたように顔を上げた先にはしぃの放った銃弾が迫っていた。

( ゚д゚;)「っ、」

顔を逸らしたミルナの、頬に銃弾が掠めて後ろの壁に当たる音が聞こえた。
掠っただけでも効果はあったらしい。
傷跡が無い頬を片手で押さえてぐらついた途端、ミルナの体から紅い靄が浮かび上がった。
自分から立ち上る靄に驚いたのか、ミルナは自分の手を見つめて一瞬硬直する。

('A`)「貰ったッ!」

ドクオの声に振り返ったミルナの体には、既に矢が刺さっている。

484名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:03:22 ID:U/AltkVA0
ミルナの上腕に刺さった矢は、痛みをもたらして顔を歪ませる。
だがその瞬間、矢から腕に緑の光が流し込まれたのを見て、ミルナが瞠目した。

( ゚д゚ )「――ぁ、」

これまで呻き声1つ上げることの無かった、幼い少年の声が微かに漏れる。
その声を聞いたか否か、モララーは床を蹴るとサーベルを持たない右手でミルナの首を掴んで床に押し倒した。
背よりも先に後頭部を床に強かに打ち付けて、ミルナの瞳がぎゅっと瞑られる。

( ・∀・)「しぃ」

(*゚ー゚)「うん」

485名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:05:30 ID:U/AltkVA0
痛みで鈍くなった抵抗をもろともせず、モララーは短くしぃを呼んだ。
細めた目のままモララーの手に爪を立てたミルナは、だがしぃに撃たれるや否や瞳から紅い色を無くして気を失う。

( ´∀`)「……やったモナ?」

( ,,゚Д゚)「ああ、おそらく」

モナーとギコがそう会話を交わした横で、モララーはミルナの意識が無いことを確認すると、掴んでいた首を離して立ち上がった。
「行くよ」その一言だけで分かったらしい、ドクオとギコは走り出したモララーの後を追った。
モナーがミルナに、ドクオの矢が刺さった傷の治療を施す。

(*゚ー゚)「デレちゃん!」

486名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:06:35 ID:U/AltkVA0
しぃが入った扉の近くで壁に寄りかからせたショボンと共にいたデレを呼ぶ。
デレはしぃの声にすぐ反応して振り返った。

(*゚ー゚)「この子、お願いしても平気? いざとなったら守ってもらいたいんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「……大、丈夫」

未だ後ろめたい気持ちがあるのだろう。
どこか気まずそうに、視線を合わさずに答えるデレは小走りでやって来ると床に倒れたミルナを抱え上げる。
抱え上げる際に一瞬だけ合った視線に、しぃが笑顔を向けるとデレは声を詰まらせて、何か言いたげに目を細めた。
何かと問おうとしたが、その前にデレが背を向けてしまう。

戻っていくデレの背中を見つめて、

487名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:09:57 ID:U/AltkVA0
( ;´_ゝ`)「ブーンッ!!」

兄者の叫び声が聞こえた。
 
 
 
 
 
('A`;)「間に、合えっ!」

内藤がロマネスクに弾き飛ばされた直後、ドクオがクロスボウから矢を射る。
見もしないその矢を、ロマネスクはナイフを振っただけで全て弾き落とす。

( ・∀・)「はぁあああっ!!」

モララーの青い瞳が、ロマネスクの紅い瞳と交錯する。

488名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:11:07 ID:U/AltkVA0
リーチの短いナイフとサーベルとではモララーの方に利がある。
過去の力を帯びた刀身で少しでも効果があれば、とモララーは刃を突き出した。

ロマネスクが、モララーの突撃に何の抵抗も見せずに笑った。

( ;・∀・)「!」

ずぶり。
ぬかるんだような音がして、モララーのサーベルがロマネスクの腹に吸い込まれる。
攻撃を与えたはずのその感触に、モララーは嫌な汗がこめかみを伝うのをやけに鮮明に感じた。
 
 
 
( ФωФ)「愚か、愚か」

489名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:12:27 ID:U/AltkVA0
 
 
 
ゆっくりと響く、ロマネスクの低い声が耳を打つ。
モララーは刺し貫いたサーベルの刃を抜こうと、サーベルを引いた。
だが、サーベルは抜けない。

( ФωФ)「中でも、受継者は特別愚かであるな」

モララーのサーベルを、紅い縄状のような光――例えるなら、紅い蛇。
それが伝ってきて、モララーの手首に到達し。
蛇の鼻先が、モララーの顔を向いてぴたりと止まって。

( ;・∀・)「――ッ!!」

首を逸らしたモララーの、肩を大きく食い破って、背後に居たギコへ、しぃへ、次々と襲い掛かっていった。

490名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:13:55 ID:U/AltkVA0
( ;´_ゝ`)「みんなァっ!!」

(´<_`; )「びくともしない……!」

耐え切れず表情を歪ませて守護者を見守る兄者の後ろで、弟者が棒を壁にぶつけるも効果は無い。
兄者の銃で撃てば、とも考えたがもし破れずに跳弾したらと考えると下手に撃てない。
守護者を襲った紅い蛇は何か仕込んでいるのか、モララー達は攻撃を受けるなり崩れ落ちてまともに動くことができなかった。
兄弟の目には、床に刺した両手剣を支えにやっと立てているようなギコが映っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「『消えろ』ッ!」

遠くから発せられた、凛とした声が響く。
デレも守護者の血を引いている。
微弱ながらも青い光を帯びて、デレの衝撃波がロマネスクの力で動けない皆を助ける――はずだった。

491名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:16:05 ID:U/AltkVA0
守護者達に降り注ぐはずだった青い衝撃波が、飛んできた紅い光に全て消し去られる。
それを見たデレはびくりと肩を震わせた。

( ФωФ)「……ほう」

ζ(゚ー゚*;ζ「……!」

ロマネスクの視線がデレに向く。
ひたりと真っ向から見つめられたデレが、恐怖からか目を大きく見開いた。

( ФωФ)「愚かすぎてかける言葉も無い」

( ´_ゝ`)「やめろ……」

492名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:17:11 ID:U/AltkVA0
( ФωФ)「さらばである」

( ;´_ゝ`)「やめろおおおおおッ!!」

兄者が激しく拳を打ち付け、ドームの中で叫んだ。

その目の前でデレが、紅い蛇に襲われて床に倒れ込む。
見ていることしかできず、悔しさで爪が皮膚に食い込んで血が流れた。

( ФωФ)「さあ」

倒れるデレを見届けたロマネスクが、兄弟達の方へと向き直った。
弟者が睨み付けながら棒を構え、兄者も銃を構える。
動くことのできないドームの中で、歩いてくるロマネスクの足音を聞き続けるのはまるで死刑執行の前に覚悟させるかのようだった。

493名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:19:08 ID:U/AltkVA0
( ФωФ)「これで最後である、憎き時間の受継者よ」

( ;´_ゝ`)「……はっ」

兄者が、屈するものかと強い意思を秘めた瞳で冷や汗をかきながら笑った。

( ;´_ゝ`)「お前の望みなんか、叶えるもんか!」

( ФωФ)「――屑が」

ロマネスクが兄者に手を伸ばす。
その瞬間に紅いドームが無くなったのを晴れた視界で確信して、兄者は引き金を引いた。
タァン、その音と共に反動で揺れた銃をしかと感じた兄者の銃弾はロマネスクの掌を貫通する。
その貫通した衝撃で止まったロマネスクを、兄者の後ろから跳んだ弟者が棒で首を狙って振りかぶった。

494名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:20:18 ID:U/AltkVA0
だがいつまでも止まるロマネスクでもない。
貫通した掌の血で赤い穴から、紅い蛇が現れる。

その紅い蛇が、弟者の脇腹を食いちぎった。

(´<_`; )「う、が……ッ!」

( ;´_ゝ`)「弟者あっ!!」

眼前で、弟者の緑の石に罅が入る。
血を散らして床に落ちた弟者に気を取られ、兄者は自分の首に伸びる手に気が付かなかった。

( ;´_ゝ`)「っ、う!」

495名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:21:13 ID:U/AltkVA0
容赦無い力で首を掴まれ、足が空を掻く。
ロマネスクの手によって全体重を支えられた兄者は、圧迫される呼吸に酸欠で視界が霞む。
酸素を求めてぱくぱくと金魚のように口が開閉を繰り返す。

更にロマネスクが、持っていた紅いナイフを兄者の腹を刺した。
茶の瞳が突如走った痛みに見開かれ、ごぷりと口の奥から血がせり上がる。

(;*゚ー゚)「……ッある、じ……!」

床に倒れて立ち上がれないしぃがもどかしさに拳を握った。

496名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:22:39 ID:U/AltkVA0
だが体全体に燃え上がるような熱が、手足は感覚が無くなるほど冷たくなっている。
声を出すのも、体を動かすのも激しい激痛が走る中で、それでも主がむざむざと殺されかけるのを見つめることしかできない。

( ; _ゝ )「か……っぁ……ッ」

兄者の腕が、とうとう力無くだらりと垂れる。
ぴしりと罅が入った青い石が、瞳を閉じた兄者の胸で淡く光を持ち始めた。

( ;・∀・)「何故、能力が……!?」

モララーがそう口にした途端、カッと強すぎる青い光が目を灼いた。
首を掴んでいたロマネスクの手を、青い1本の青い線が伝って床へと一直線へ向かう。
その線が床に到達すると、床一面が青い光を放った。

497名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:23:56 ID:U/AltkVA0
( ;・∀・)「ご主人!?」

ぐったりと目を閉じた兄者に返事は無い。
驚いたように瞠目するロマネスクが床を振り返ると、床がさっと色を変えた。

視界が赤い液体で染まる。
手に持ったナイフから、血が伝う。
目の前には自分がたった今刺した人だったものが転がっている。

( ФωФ)「……やめろ……」

ロマネスクが唸るように低く呟いた。

( ;ФωФ)「やめるのであるッ!!」

498名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:25:27 ID:U/AltkVA0
ナイフを振るう。人が倒れる。
路地裏に追い込んだ女は、その青い瞳を怯えさせていた。

( ;ФωФ)「吾輩の記憶を、覗くなァッ!!」
 
 
 
『生とは何か、そう言ったな』
 
 
 
青い瞳の女の胸を刺したところで、緑の瞳の男が現れる。
涙を流しながら女を抱きかかえて名を呼んで、その光景を煩わしいと思い踵を返した時だった。
足首が何かに掴まれて、振り返る。

499名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:27:24 ID:U/AltkVA0
『いいだろう』

緑の瞳がぎろりと睨み付けてくる。
怨嗟の念がありありと見えた。

『いいだろう、殺人鬼』

男は笑った。
憎い憎いと語る、凄惨な笑みだった。

『そんなに分からないなら、永遠に与えてやるよ』

ロマネスクの手が、掴む力を失くした。
支えを無くした兄者の体が床に落ちる。
すぐ近くに落ちた兄者の体に、声をかけながら弟者が手を伸ばした。

(´<_`; )「あに、じゃ」

500名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 22:28:46 ID:U/AltkVA0
( ;´_ゝ`)「だめ、だ、弟者」

血でうまく話せない兄者が、それでも弱々しく譫言のように呟いた。

( ;´_ゝ`)「今、俺に、さわるな……ッ!!」

その声が聞こえた時には既に遅かった。
弟者の手が、投げ出された兄者の手に触れる。
その瞬間、再び床が青く発光して新たな記憶を流し始めた。
 
 
 
 
 
第23話「不」・終

501 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/26(金) 22:30:16 ID:U/AltkVA0
今日ここまで
難!産!! まあ遅筆のせいでもありますが

あと2話くらいで終わる予定、だけども。伸びずに終わるといいなあ
では

502 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/26(金) 22:46:18 ID:U/AltkVA0
>>481
もう調べたかもしれませんが「ちぎりき」と読みます
大好きですええ

503名も無きAAのようです:2013/04/26(金) 23:50:28 ID:.jHgfeA.0
おっつー

504名も無きAAのようです:2013/04/27(土) 01:43:10 ID:nqu/fzgw0
乙!

505 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/29(月) 22:35:04 ID:rRgcVZ/M0
 
 
 
 
 
全てを知ってなお。
 
 
 
第24話「故」

506 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/29(月) 22:37:12 ID:rRgcVZ/M0
l从・∀・ノ!リ人『あにじゃ、あにじゃ』

幼い少女の声が聞こえる。
少女は笑っていた。
けれどその大きな眼に、光を反射して煌めく涙を湛えていた。

l从・∀・ノ!リ人『おっきいあにじゃもちっちゃいあにじゃも、ぜったいぜったい幸せになるのじゃ!』

指切り、と差し出された小指に、自分の指を絡ませたのを。
その少女の――妹者の、背後で。
母者がナイフの切り傷だらけで戦っていたことを。
父者がもう保たないと叫んでいたのを。
姉者が妹者の名前を呼んだのを。

507名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:38:22 ID:rRgcVZ/M0
妹者が、笑って自分達から離れて行ったのを。

l从・∀・ノ!リ人『さよならなのじゃ、あにじゃ』

酷く泣きそうな声音だったことを。
 
 
 
 
 
(´<_` )「――妹、者」

( ´_ゝ`)(ああ、)

508名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:39:38 ID:rRgcVZ/M0
思い出させてしまった、と。
兄者は失血で回らない頭の中で、鮮明にそう思った。

兄弟は最初から孤児だったわけではない。
父と母と、姉と妹と。一緒に暮らしていた。

もうずっと昔。封じ込めた記憶の中。

その家族を殺したのは、目の前にいるロマネスクだ。
 
(´<_` )「――ッ」

弟者が、声にならない声で瞠目したままぼうっと床を見つめていた。
突然の事実に心が追いつかないのは当然のことだ。
兄者自身はもう前に知っていたから、1人で考える時間もあった。だが、今は。

509名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:41:04 ID:rRgcVZ/M0
家族の仇を目の前にしている、今は?

(´<_` )「……悪い、兄者」

( ´_ゝ`)「ぇ、」

弟者の手が、兄者の手に触れる。
能力を暴走させたままの兄者の過去の力は、最早詠唱も要らず勝手に発動する。
現に、触れただけで弟者の脇腹を一瞬で回復させる。
それと同時に弟者自身も能力を使ったらしく、兄者の腹にあった刺し傷がみるみるうちに治っていく。

(´<_` )「俺にはあいつの目的が分からない」

( ;´_ゝ`)「弟者、」

(´<_` )「だから、」

510名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:42:21 ID:rRgcVZ/M0
(´<_` )「あいつの望みがなんだろうと、俺はあいつを殺す」

( ;´_ゝ`)「弟者ッ!!」

言うなり、弟者は床に映し出される記憶に気を取られていたロマネスクに飛びかかった。
反応が遅れたロマネスクが、それでも振り上げたナイフで弟者の棒を受け止めた。
余程強く打ち込んだのか、ロマネスクの腕が衝撃で一瞬揺れる。

(´<_` )「ロマネスク」

そう呟くくらいの小さい声で、弟者は名を呼んだ。
煩わしげに表情を歪めたロマネスクの目の前で、突如弟者の棒が緑色の光を帯び始める。
緑の光が、棒を受け止めているロマネスクのナイフをも包んでいく。

( ;ФωФ)「!?」

511名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:43:39 ID:rRgcVZ/M0
(´<_` )「お前が何の目的で兄者を殺そうとするのかは理解できない」

驚きから弟者を弾いて、後ろによろけるように離れたが既に遅かった。
ナイフから伝った光が、手を、腕を、肩を。
次第にスピードを増して、緑の光はロマネスクの全身を覆って行った。

弟者はその光景を黙って見つめている。
緑に輝く瞳は、酷く冷めた色をしていた。

( ;ФωФ)「何、を……!?」

(´<_` )「だから」

自分の体を覆う緑の光に、ロマネスクが困惑したように自分の掌を見つめた。

512名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:45:41 ID:rRgcVZ/M0
兄者も守護者も、弟者が何をしようとしているのか分からず呆然とそれを見ている。
 
(´<_` )「俺は、お前の未来を否定する」

( ;ФωФ)「――ッ!」

弟者の言葉がきっかけだったように、緑の光が一瞬で緑の炎へと変貌した。
全身に纏っていた光が発火して、体を焼くのにロマネスクは悲鳴を上げることもできずにその場に膝を付いた。

( ;´_ゝ`)「弟者……!」

(´<_` )「兄者はお前を助けようとしてたかもしれない。だが、俺は」

立ち上がって止めに行くことができなかった。
治された腹の痛みが、残って動くことができなかった。
それでも、兄者は。

513名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:47:51 ID:rRgcVZ/M0
自分の弟が人を殺めるところを、ただ見ていることなどしたくなかった。

(´<_` )「俺には、自分の家族の仇を生かす優しさなんてない」

緑の炎が小さくなっていく。
炎に巻かれていた、体と思われる黒い部分が灰になることもなく消えていく。

そして最後には、何も残らなかった。
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「ロマネスクは、ひたすら『生』がどうしてあるのか、『生』とは何なのかを探求してた」

514名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:49:10 ID:rRgcVZ/M0
呆気なく全てが終わった。
兄者と弟者が能力を以て守護者達の傷を治している最中、兄者はぽつりとそう零した。

( ´_ゝ`)「142年前の27人目、つまり過去の受継者。
その人を殺した時、未来の受継者から『生』の探求の為に『生』を押し付けられた」

兄者の脳裏に浮かんだのは、脱獄してから自殺を試みてもすぐに回復する自分に発狂するロマネスクの姿だ。
どれだけ自分の首を刺しても、痛みも何も無い。
少量の血が流れ、だがすぐに塞がるという事実。

途方に暮れるよりも、受継者への憎しみが勝った。

( ´_ゝ`)「俺は、そうなってしまってもロマネスクを」

(´<_` )「助けたかった、のか?」

515名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:50:05 ID:rRgcVZ/M0
( ´_ゝ`)「……助ける、とは少し違ったかもしれないけど」

それでも、と兄者は呟いて目を閉じた。

( ´_ゝ`)「人並みの死は、与えてやりたかったと思うよ」

(´<_` )「……」

弟者が口を噤んで視線を逸らしたのを、兄者は違うのだと言いたかった。
俺は、

( ´_ゝ`)(俺は、お前に人1人を殺めたっていう事実を背負わせたくなかった)

そう言えなかったのは、彼に家族という記憶を与えたことへの負い目か。

516名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:51:55 ID:rRgcVZ/M0
もう、兄者には分からなかった。
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「モララー」

( ・∀・)「うん?」

ロマネスクという脅威の存在がいなくなっても、守護者達は変わらず傍にいた。
弟者はまた学校に通いだしている。
突然の失踪に戸惑っていた学校側は、これまた突然の帰還に騒然とした。
が、世間の波もそう長く続くわけではないようだ。

517名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:54:26 ID:rRgcVZ/M0
兄者も職場に復帰して、以前と変わらぬ生活を送っている。

( ´_ゝ`)「ちょっとさ、知りたいことがあるんだ」

( ・∀・)「うん」

( ´_ゝ`)「だからさ」
 
 
 
( ´_ゝ`)「飛空艇の書庫、入れてもらってもいい?」
 
 
 
( ・∀・)「……ご主人」

518名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 22:55:35 ID:rRgcVZ/M0
モララーは変わらぬ笑みを顔に張り付けて、それでも視線は怪訝そうだった。

( ・∀・)「別に書庫に入るのはいいんだけどさ」

真っ直ぐ正面から見据えてくる漆黒の瞳は、兄者の心を見抜こうとして、できずに細められる。
それを受け止める兄者は、口元に淡い笑みを浮かべていた。

( ・∀・)「何を、考えてる?」

( ´_ゝ`)「……何も、考えてないよ」
 
 
 
 
 
第24話「故」・終

519 ◆MH/VTCEj3A:2013/04/29(月) 22:58:05 ID:rRgcVZ/M0
今日ここまで

やっとここまで来ましたー
次回で最終回になります
長いような短いような

自分が納得する終わらせ方にできるようがんばりたいです
では

520名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 23:41:33 ID:xfgUxqtk0

おぉーん弟者も兄者も…

521名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 23:51:20 ID:.SAi/Ou60
乙です!

522 ◆MH/VTCEj3A:2013/05/02(木) 00:09:12 ID:hoDqzuOo0
 
 
 
 
 
君よ、さらば。
 
 
 
第25話「始」

523名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:10:19 ID:hoDqzuOo0
( ´_ゝ`)「……ああ、やっぱり」

兄者は読んでいた本を閉じると、天井を仰いでそう呟いた。
ふ、と眉を寄せて困ったように微笑んだ。

( ´_ゝ`)「モララー」

静かに呼ばれた、モララーは壁に背を預けている。
声にゆっくりと瞳を開けて、眉間に皺を寄せたまま兄者に視線を遣った。

( ´_ゝ`)「お願いがあるんだ」

( ・∀・)「……しょうがないね、君は」

諦めたように、モララーは首を振った。
悪いな、と兄者は笑った。

524名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:12:25 ID:hoDqzuOo0
 
 
 
 
 
(`・ω・´)「流石ー」

(´<_` )「?」

呼ばれた声に振り返ると、どこかを指差している友人がいる。
その先を見た弟者は、驚きで目を見開いた。

( *´_ゝ`)「弟者ー!」

(`・ω・´)「あれ、お前の兄さんだろ」

(´<_` )「……ああ」

525名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:14:07 ID:hoDqzuOo0
学校の敷地内に入る手前の、校門の向こうで兄者が手を振っている。
同じ顔が校門前で手を振っていたら確かに気付いて声をかけるだろう。
突然の行動にどうしたのかと驚く弟者に、友人は笑いながら行って来いよと促してくる。

(`・ω・´)「こないだのこともあったし心配だったんだろ。部活の方には俺から言っとくから」

(´<_` )「……悪い」

気にするな、と笑う友人を背に弟者は肩の鞄を掛け直した。
駆け寄ってくる弟者を笑って見つめる兄者は手ぶらで何の荷物も持っていない。
仕事はどうしたのか、という疑問を口に出す前にやけに陽気な声で話しかけられた。

( *´_ゝ`)「弟者! 着いてきてほしい所があるんだ」

(´<_` )「……なんでまた、っていうか朝に言ってくれよ」

526名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:15:15 ID:hoDqzuOo0
( *´_ゝ`)「俺も今日知ったばっかなんだって!」

溜息を吐きながらも、弟者は兄者の隣を歩く。

こんなことをするのは初めてだ、と思った。
と言うよりは、今まで兄者は仕事で弟者は学校と部活だったからこんな機会など無かったのだが。

兄者はご機嫌に鼻歌まで歌っている。
余程嬉しいことがあったのかと、つられるように弟者も微笑む。

これまでの日々を振り返って暗い表情をすることが多かった兄者の、明るい表情を久々に見て弟者は嬉しかった。
特に本人が気にしているのは、弟者がロマネスクを殺したことだろう。
何も言わずとも目を見れば雄弁だ。

527名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:16:16 ID:hoDqzuOo0
(´<_` )(……良かった)

安心して、弟者は兄者の歩調に合わせて歩いた。
 
 
 
 
 
( ・∀・)「やあ、おかえり」

(´<_` )「……ただいま?」

どうしてこんな出迎えを受けているのだろう、と弟者は困惑した。

結局兄者が目指して辿り着いたのは自宅だった。
何故だか守護者全員勢揃いで、自宅前に集まっている。

528名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:17:26 ID:hoDqzuOo0
兄者はきょろきょろと周りを見渡すと、「いけるー」と軽い調子で言って弟者の手を握った。
間もなくもう一方の手をしぃに繋がれる。

(´<_`; )「え、」

( ´_ゝ`)「我、過去を司る者」

こんな外で、と慌てて周りを見渡すが誰もいない。
先程の兄者の行動はこれか、と理解した。

( ´_ゝ`)「過去を辿り、我をその場所へと導き給え」

青い光が溢れる。

529名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:18:19 ID:hoDqzuOo0
ふと、光に包まれるその瞬間に弟者のYシャツの襟元に侵入する手があった。
驚いて手を離しそうになったが、これを離すと移動ができなくなると気が付いてぐっと堪える。
眩しさに瞑る目を開いて見れば、兄者の悲しげな微笑みが見えたような気がした。
 
 
 
 
 
(´<_` )「……ここ、は」

目を開けて、目の前に広がったのはあの荒地だった。
未来の守護者達が眠る場所。
視線を巡らせれば、確かに盛り上がった地面がいくつか見て取れてドクオが視界の端で俯いた。
否、ドクオだけではなかった。

530名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:19:33 ID:hoDqzuOo0
兄者とモララー、そして弟者を除いた全員。
ドクオ、ギコ、しぃ、内藤、ツンは、皆俯いている。
その中でもドクオとツンは肩が震えているようにも見えた。

( ´_ゝ`)「ここ、さ。今はこんな荒地だけど、嘗ては街で……142年前の受継者が、死んだ場所だったんだ」

(´<_` )「……そう、なのか。いや、そうじゃなくて」

兄者。
弟者の声は掠れ、茶色の瞳は大きく見開かれている。

(´<_`; )「兄者、なんで」
 
 
 
(´<_`; )「なんで、俺の石を持ってる?」

531名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:20:21 ID:hoDqzuOo0
 
 
 
兄者は、ただ笑うだけで言葉を返さない。

下げられた左手。その左手には、弟者が首にかけていたはずの緑の石がある。
兄者は問いに答えないまま、そのネックレスを青い石と一緒に自分の首に掛けた。

( ´_ゝ`)「弟者」

酷く穏やかに、兄者は弟者の名前を呼ぶ。

( ´_ゝ`)「ここが、ここが始まりだったんだ。だから、」

( ´_ゝ`)「ここで、終わりにする」

532名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:21:56 ID:hoDqzuOo0
(´<_`; )「兄者、何を」

( ´_ゝ`)「世界を支える為に人柱が必要なんて、おかしいと思わないか?」

だって、と兄者は言う。
兄者は笑みを絶やさぬまま、不自然な程優しい声のまま話し続ける。

( ´_ゝ`)「人間が存在しなかった時代だってある。じゃあその時地球は安定してたはずなんだ」

(´<_`; )「兄者、答えてくれ」

( ´_ゝ`)「いつから人柱なんか使わなきゃいけなくなったのか」

(´<_`; )「兄者、」

533名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:23:04 ID:hoDqzuOo0
( ´_ゝ`)「人間が、生まれたからだったんだ。知性があって、長く生きて。世界を荒らすから、その代償に人柱が生まれたんだ」

(´<_`; )「兄者!」

( ´_ゝ`)「でもさ、弟者」

そう言うなり、兄者はその場で膝を折った。
地面に膝を付けて、地面に両手を広げている。
屈んだ体勢になって兄者の首元で二つの石が揺れた。

( ´_ゝ`)「俺は、受継者によって今回みたいなことが起こるなら。受継者なんていらないと思うんだ」

534名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:24:16 ID:hoDqzuOo0
足が動かない、と弟者は思った。
嫌な予感で冷や汗が背を伝う。
喉は渇いてうまく声を出せない。

( ´_ゝ`)「だから」

兄者が顔を上げた。
家に帰って来た弟者に「おかえり」を言うのと、同じ笑顔を浮かべて。

兄者は、泣いていた。
 
 
 
( ´_ゝ`)「この世界を、元に戻すよ」
 
 
 
(´<_`; )「やめろおおおおおおおッ!!!」

535名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:25:22 ID:hoDqzuOo0
金縛りが解けて、駆け出そうとした体を後ろから背を強く押されて倒された。
すぐに立ち上がろうとするも、背に乗られて動けない。
抵抗しながら見上げれば、動きを封じているのはモララーだった。

( ´_ゝ`)「我、過去を司る者」

もう何度目聞いたか分からない詠唱が聞こえて、兄者の方を振り返る。
兄者は視線に気づいたのか、閉じていた目を開いて弟者と視線を合わせる。
その瞳の浮かべる色に見覚えがあった。
2人きりになった日、2人で生きていくと決意した日と同じ目だった。

( ´_ゝ`)「過去の在りし日へと姿を変えろ」

(´<_`; )「兄者、」

536名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:26:55 ID:hoDqzuOo0
( ´_ゝ`)「巻き戻れ、時の歯車よ」

(;<_; )「兄者ッ!!」

青い光が。
兄者の掌から、地上全てへと伝っていく。

世界が青い光を帯びる。

叫んだ。
喉を嗄らすほどに、弟者は兄者の名を呼んだ。

兄者は、涙を流して弟者を見て、

さようなら、と唇で象って笑った。
 
そして、兄者の姿は掻き消えた。

537名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:27:54 ID:hoDqzuOo0
 
 
 
 
 
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃいあにじゃー!」

(´<_` )「ん」

妹者の声に、振り返る。
久々に部活も休みの休日だったから、妹者が散歩に行きたいと主張するのに付き合って歩いていた。

どこに行くのか、と問うても妹者は「わからないのじゃ!」と答えるだけだった。

538名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:29:06 ID:hoDqzuOo0
l从・∀・ノ!リ人「あ! きれいなお花なのじゃー! ちちじゃとははじゃとあねじゃに持って帰るのじゃ!」

(´<_` )「そうだな」

花畑に座り込んだ妹者を見て、自分も座り込む。

ふと、見渡す限り花しかないこの場所を眺めて、弟者は違和感を覚えた。
妹者が先導するのに黙って着いて来たこの場所。
行き方も、存在も全く知らなかったこの場所が。

どこか、懐かしい気がした。

妹者が弾かれたように、顔を上げる。
摘んでいた花を放って駆けていく小さな姿に、弟者も立ち上がって後を追った。

539名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:31:30 ID:hoDqzuOo0
幼い割に素早く移動した妹者は、ある場所で立ち止まるとまた座り込む。
弟者は近付くにつれて、耳に赤子の泣き声が聞こえてくることに気が付いた。

l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃいあにじゃー!」

妹者が、笑う。

l从・∀・ノ!リ人「おっきいあにじゃ、見つけたのじゃ!」
 
 
 
 
 
君よ、さらば。
 
そしてまた、会おう。
 
 
 
( ´_ゝ`)時間を司るようです(´<_` )・終

540名も無きAAのようです:2013/05/02(木) 00:39:32 ID:WLIldZ9E0
おっつー!!

541 ◆MH/VTCEj3A:2013/05/02(木) 00:47:03 ID:hoDqzuOo0
時間を司るようです、これにて完結です。
元は創作小説の没ネタ使い回しだったんですが、ここまで長くなると思ってませんでした。

初のブーン系でしたが、無事完結できました。
支援・乙ありがとうございました。

ブンツンドーさん(http://buntsundo.web.fc2.com/)にまとめて頂きました。
この場を借りてお礼申し上げます。

また機会があればお会いしましょう。


落書きですが
作者の兄弟イメージ ※擬人化注意
兄者
http://vippic.mine.nu/up/img/vp114389.jpg

弟者
http://vippic.mine.nu/up/img/vp114390.jpg

ありがとうございました!

542名も無きAAのようです:2013/05/03(金) 07:59:48 ID:Bp.WDS8A0
ラストうむむ…



543名も無きAAのようです:2013/05/03(金) 08:13:18 ID:/rImWcEI0
おつ!

544名も無きAAのようです:2013/05/03(金) 20:01:39 ID:xpXGqxc60
盛大に乙
次作も期待してる

545名も無きAAのようです:2013/05/03(金) 23:42:19 ID:4oXaTMOE0
乙ありがとうございます

過去ログ送りしますー

546 ◆MH/VTCEj3A:2013/05/03(金) 23:43:50 ID:4oXaTMOE0
酉忘れてた ↑の作者です

547名も無きAAのようです:2013/05/04(土) 00:00:05 ID:/zs4EWj6O
過去ログ送り依頼早すぎ!

■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■