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( ´_ゝ`)卵が孵らないようです- 1 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:13:25 ID:N/qoymC60
- ブーン系突発イベント参加作品
- 2 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:14:25 ID:N/qoymC60
-
――これは眠り続ける少女の夢。
――これは贖い続ける騎士の夢。
――これは全てに絶望した魔女の夢。
- 3 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:15:26 ID:N/qoymC60
- 新緑は赫々と燃えて、火の粉を撒き散らしていた。
一つが燃えればまた一つ、炎はゆっくりと揺らめいて木葉を朱へ染めていく。
炎はその身を肥らせて、森の全てを飲み込もうとしていた。
大きな火柱が一つ、上がった。
木々を揺らし、闇夜を駆け抜けるのは独りの長身の男。闇色のローブがはためいて、中から白銀の鎧が覗いた。
男の足音に合わせて、鎧は軋み硬質な音をたてていた。
左右を見回して道を探る。
木々から洩れる月明かりは頼りなく、
開けた道へ出ない限り己が何処にいるのかすら、見当がつかなかった。
熱風が男の顔を嘲笑うかのようにそっと撫でる。
- 4 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:17:22 ID:N/qoymC60
-
(;´_ゝ`)(早く……早く姫を安全な処へお運びしなくては)
男は大層焦っていた。
白絹の包みを大事そうに抱え、ローブの中へしまい込む。
かつて美しかったであろう包みは、くすんだ葡萄茶色になっていた。
男はいっそ鎧を脱ぎ捨てようかと呻吟するが、すぐに考え直してまた走り出した。
この鎧は王より賜った、聖騎士の誇り――。
男はなんとしても、誇りだけは失うわけにはいかなかった。
( ´_ゝ`)(俺は咎人……誇りすら失えば、それは獣も同然)
腰に携えた剣は血に濡れて、ずくずくと濡れそぼっている。
刀身に彫り込まれた荊は血を浴びて、真紅の花を咲かせていた。
- 5 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:18:22 ID:N/qoymC60
-
ひたり
ひたり
ひたり
- 6 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:19:42 ID:N/qoymC60
- 男が脚を動かすたびに血液は剣をつたい、大地を汚した。
男は額に滲む汗を拭おうともしない。
ただひたすらに前を向いて駆けていた。
(;´_ゝ`)「はぁ、はぁ、はぁ」
男はアレクサンダーと呼ばれていた。
本来、生を受けたときに与えられるべき祝福の名は、彼にはない。
それは生まれることを拒絶され、忌み嫌われたことを意味していた。
月明かりに照らされたアレクサンダーの顔は、白銀の鎧と同じく、色を失っていた。
こんなにも夢中で走っているにもかかわらず、頬は青白い。
高い鼻梁から覗く透き通った瞳は疲れから濁り、暗く落ち窪んでいた。
闇色のローブはその色の深さ故に、アレクサンダーの傷口から滴る血液を巧みに隠していたのだ。
- 7 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:22:43 ID:N/qoymC60
-
(;´_ゝ`)(血を流しすぎたか……目が回る)
土砂のような、まるで瓦礫が崩れ落ちるような、轟音が後ろからゆっくりと近づく。
迫りくるのは百を越える騎馬隊の蹄音だった。
漆黒の鬣をたなびかせ、軍馬は深林を掻き分ける。騎馬の群れは唸りを上げて押し寄せていた。
(,,゚Д゚)「反逆者、アレクサンダーを捕らえよ!」
轟音に紛れて聞こえたのは、部隊長ギルフォードの声だった。
親のいないアレクサンダーが父と慕い、敬愛した男である。
ギルフォードの鳶色の瞳がアレクサンダーを捕らえた。
かつてのような温もりに溢れた眼差しは、重厚な兜に隠れて探し出すことは叶わない。
( ´_ゝ`)(あのように浅ましいことをして、
俺は未だに人の情けに縋ろうというのか)
アレクサンダーは少しだけ、心が軋む音を聞いたような気がした。
(,,゚Д゚)「……。」
( ´_ゝ`)「……。」
互いに無言のまま、
(,,゚Д゚)「弓兵、構え!」
(+)(+)(+)ザッ
(,,゚Д゚)「……。放て!」
大量の矢がアレクサンダーに向けて放たれた。
- 8 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:23:30 ID:N/qoymC60
-
( ´_ゝ`)卵が孵らないようです
【使用イラスト】>>446 http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_554.png
- 9 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:25:37 ID:N/qoymC60
-
アレクサンダーはすばやく身を反転させ、暗闇に紛れた。
矢は空を切り、大地に降り注ぐ。
数本の矢は彼のローブを僅かに捕らえ、厚い布地を引き裂いた。
これでは捕らわれの身となるのも時間の問題だろう。
アレクサンダーは立ち止まると宙に向かって、大声を張り上げた。
(#´_ゝ`)「観ているのだろう? 最果ての魔女よ! あなたに頼みがあるのだ!」
(,,゚Д゚)「気でも狂うたか、アレクサンダーよ!」
ギルフォードの問いかけにアレクサンダーは一度も答えない。
(,,゚Д゚)「そなたも騎士の矜持があるならば、おとなしく裁きを受けよ!」
怒気を孕んだギルフォードの声がアレクサンダーの胸を抉る。
顔に微かに迷いが走った。が、首を小さく振り迷いから逃れた。
- 10 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:28:24 ID:N/qoymC60
-
( ´_ゝ`)「私は己の信じる道を行くまで」
(,,-Д-)「言葉はもはや無用か」
( ´_ゝ`)「……。」
(#,,゚Д゚)「ならば我が切っ先がそなたを貫こうぞ!」
いつの間にかギルフォードはあと数十歩のところまで迫っていた。
拳を一度握り締め槍を構えると、愛馬の腹を蹴った。
ギルフォードはアレクサンダーの喉元目掛け、猛烈な勢いで突進していた。
(#,,゚Д゚)「うおおおーーっ!!」
(#´_ゝ`)「魔女よ、応えてくれ! 俺にはあまり時間がないのだ!」
次の瞬間、禍々しい瘴気がアレクサンダーを覆った。
( A )「我が名は常闇の魔女。汝の真名を唱えよう」
( A゚)「大地の魔神ユーミルよ。アレクサンダーを攫い、闇夜に溶けよ」
忌まわしい声にアレクサンダーは肌が粟立っていくのを感じていた。
一度はっきりと気づいてしまった嫌悪感は、じわじわと彼の身体を這い回る。
叫び声を上げそうになるのを堪えて、アレクサンダーは黒い瘴気に身を任せた。
( _ゝ:;.:.
- 11 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:29:15 ID:N/qoymC60
-
槍の穂先からおびただしい火花が散った。
切っ先は獲物を捕らえることは叶わず、虚しく宙をさ迷っていた。
(,,゚Д゚)「何事だ?」
ギルフォードは槍で貫く刹那、確かに硬いものにぶち当たったような手応えを感じていた。
おそらくあれは、アレクサンダーの白銀の鎧。肉を引き裂くことはできなかったが、槍は確かにあの男を捕らえていた。
だがギルフォードの手応えとは裏腹に、アレクサンダーの姿はそこにはなかった。
白銀の騎士は煙のように忽然と姿を消してしまったのだ。
(゚Д゚≡゚Д゚)?「これは……一体……」
ギルフォードは唖然として立ちつくしていた。
周りを囲む兵士達も辺りを警戒しつつ、隊長の傍らへ駆け寄る。
しかし今起こったことを到底理解できる者などいるはずもなく、どの顔も皆、茫洋とした顔をしていた。
(,,゚Д゚)!ハッ
(;,,゚Д゚)「探せ! 草の根を分けてでも、アレクサンダーを探すのだ!」
薄暗い森の中で、ギルフォードの掠れた声が響く。
兵士達ははっとすると、それぞれの方角へ散っていった。
- 12 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:31:11 ID:N/qoymC60
-
不愉快な黒霧に包まれて暫く、アレクサンダーはみすぼらしい小屋の前に佇んでいた。
銀の門扉の向こうには、何の飾り気もない荒ら屋が一つ。
( ´_ゝ`)(……此処はどこだ?)
先程いた城下の森と景色はさほど変わらない。
しかしながらどこか違和感を拭い去ることのできない、不思議な光景だった。
アレクサンダーは少し逡巡すると、やがて躊躇いがちに門へ指先を伸ばした。
('A`)「あんたがアレクサンダーか?」
戸口に立っていたのは、くすんだ法衣に身を包んだ酷く陰気な男だった。
下から上へアレクサンダーへ睨め付けるような視線を送る。
男は男性にしてはかなり小柄だった。
背中は彎曲し、たっぷりと布を用いた法衣からでも、
なだらかな弧を描いているのがわかる。
見上げた顔は、肉をこそげ落としたのではないかと思うほど痩せこけていた。
- 13 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:32:32 ID:N/qoymC60
-
( ´_ゝ`)(これが汚れを運ぶと噂される“最果ての魔女”、か)
( ´_ゝ`)「如何にも。お初にお目にかかる。
我が名は聖騎士アレクサンダーだ」
('A`)「御高名は兼ね兼ね承っておりました、とでも言っておこうか」
口許を僅かに痙攣させて、素っ気なく男は言った。
多分笑おうとしたのだろう。
少なくとも自分は招かざる客ではないらしいというのはアレクサンダーにもわかった。
( ´_ゝ`)「御高名を轟かせているのはあなたのほうだ。最果ての魔女よ。
あなたの噂は国の至る所にも知れ渡っている」
('A`)「はん、どんな噂が流れているのやら」
('A`)「入りな。身体が冷えて仕方ない」
男はぞんざいな仕草でアレクサンダーを小屋の中へ誘う。
( A`))「それと」
( ´_ゝ`)「何かな?」
('A`)「“最果ての魔女”はやめな。その呼び名は好きじゃない」
( ´_ゝ`)「わかった。なら、何と呼べば良い?」
('A`)「“常闇の魔女”、だ」
- 14 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:33:33 ID:N/qoymC60
-
短く言葉を切ると、男はさっさと歩き出してしまった。
後に従いながら、アレクサンダーは改めて、国の脅威となり続けている男の背中を見つめた。
不浄と厄災を運ぶ最も力の強い魔女。
汚れた大地――。最果ての地に追放された憐れな不具の男。
煉獄に縛り付けられた忌まわしき存在。
それが、自分の前を歩く“最果ての魔女”の主な噂だった。
彎曲した体躯をしてはいるが、動きは澱みない。
今その無防備な背中に剣を突き入れたとしても、男を打ち負かすことはできないだろう。
所作の一つ一つに隙はなく、男が如何に用心深いかがわかる。
- 15 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:35:34 ID:N/qoymC60
-
( ´_ゝ`)(まぁ、この男を殺せば、俺の希望は粉々に砕け散るのだが)
( ´_ゝ`)(疲れているのか? 無駄なことばかり頭を過ぎる……)
アレクサンダーはゆるゆると頭を振った。
頭の端を掠めるのは、処刑台から落下していく王妃の蒼ざめた容だった。
彼女は死の直前まで、笑みを湛えていた。
死にゆく彼女を前に、自分は手を伸ばしてやることすらできなかったのだ。
愛おしげに膨らんだ腹を撫でさする彼女の白磁のような指先が、
ワタクシ
ζ(゚ー゚*ζ「もうじき産まれるわ。妾にはわかるの」
緩やかに持ち上げた水蜜のような唇が、
ζ(^ー^*ζ「きっと生まれてくる子はオルセー王にそっくよ。
アレクサンダーもそう思うでしょう?」
そして高い主塔の城壁から垣間見える、なよやかな肢体が、
ζ(゚ー゚*ζ「アレクサンダー……妾の愛しい剣」
ζ(^ー^*ζ「この子を、姫を守って……」
ζ( ー *ζ「……。」
アデーレの名残が幻影が、無力なアレクサンダーを責めていた。
- 16 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:37:08 ID:N/qoymC60
-
無意識に胸に抱きしめた白絹の包みは、
追っ手から逃れるうちにどんどん冷たくなり、今では石のように冷えて固まっていた。
( ´_ゝ`)(姫……貴方は私が必ずやお助け致します)
('A`)「さあ、座れよ」
( ´_ゝ`)「失礼する。」
アレクサンダーは何事もなかったかのように男の部屋に入っていった。
- 17 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:39:21 ID:N/qoymC60
-
('A`)「さぁて、訳を話して貰おうか」
男は大儀そうに身体をかがめると、椅子へゆっくりと腰を下ろした。
好奇心から、唇が嫌らしい笑みを結ぶ。
神妙な面持ちをして、自分の向かいに座る白銀の騎士が、
例えどのような事情を抱えようとも、男には関係のないことだった。
良い身なりに美しい容。
煤のついた頬に金糸のような髪がへばりついている。
大きな青みがかった双眸は、疲労からその美しさに翳りが見えるが、
朱唇を歪め、苦悩するアレクサンダーの顔を男は興味深そうに眺めた。
- 18 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:51:18 ID:N/qoymC60
-
男の不躾な視線を浴びても、アレクサンダーは微動だにしなかった。
二人の間に沈黙が訪れる。
息を大きく吸い込んで吐息を洩らすと、ゆっくりと語り出した。
( ´_ゝ`)「現王オルセーの妃、アデーレ様が崩御なすった」
('A`)「へぇ、そりゃ何でまた?」
( ´_ゝ`)「オルセー王はアデーレ様に不義の疑いを掛けられた」
('A`)「王妃が不貞をはたらいたと?」
( ´_ゝ`)「左様」
('A`)「アデーレといえば、婚礼を挙げる前は、
“白百合の姫”と呼ばれて国民から愛されてた女だろ?」
( ´_ゝ`)「王はおそらく乱心召されたのだ」
( ´_ゝ`)「アデーレ様を捕らえ、長い間獄に閉じ込められていたそうだ」
- 19 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:53:00 ID:N/qoymC60
-
('A`)「ん? 何故その部分だけ曖昧なんだ?」
( ´_ゝ`)「俺は半年近く遠征に出掛けていたのだ」
('A`)「口を挟んで悪かった。続けて」
( ´_ゝ`)「王妃は懐妊なすっていた」
( ´_ゝ「とても正気の沙汰とは思えない」
('A`)「懐妊していたからこそだろ。
自分に身の覚えがなければ、間男を疑うのもわからんでもない」
アレクサンダーは首を横に振る。
('A`)「有り得ないと?」
( ´_ゝ`)「お人柄をみれば一目瞭然だ。
そのようなことをなさる方ではない」
('A`)「王妃お抱えの聖騎士様ならわかるってか」
アレクサンダーは一瞬、目を見開いた。
森で自分の声に応えたときから薄々感づいてはいたが、
この男はきっと全ての事情を了解している。
わかった上で、自分は試されているのだろう。
- 20 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:54:37 ID:N/qoymC60
-
( ´_ゝ`)(どのような術で情報を仕入れているかは、今の俺が詮索すべきことではない)
( ´_ゝ`)「そうだ」
( ´_ゝ`)「俺が遠征から帰還した日、アデーレ様は斬首刑に処された」
男はおもむろに立ち上がると暖炉に火を焼べた。憔悴仕切ったアレクサンダーを気にもしない。
男は一貫して傍観者であり、冷淡だった。
('A`)「で、俺に頼みがあるそうだが……」
男はアレクサンダーの膨らんだ胸元に視線を移した。
片眉を上げて、見せろと手を突き出す。
アレクサンダーは頷くと、震える指先で包みを解いてみせた。
(*'A`)「ほほー、これはこれは」
男の笑みは、より深いものへと変わる。
絹に包まれていたのは、生まれて間もない嬰児の亡骸だった。
身体は鮮血にまみれて汚れきっている。
一度も産声を上げることのなかったろう唇は、固く閉ざされていた。
- 21 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:55:48 ID:N/qoymC60
-
('A`)(赤子は……女児か。それにしても、身体が小さすぎる)
('A`)(……まさか、この男……?)
('A`)「埋葬された母親の亡骸から、子供を取り上げるとは……」
('A`)「王妃の腹を裂いて、赤子を引きずり出したのか?」
( ´_ゝ`)「如何にも」
('A`)「惨いことしやがる」
( ´_ゝ`)「『姫を御守りしろ』というのが、王妃の最期の願いだ」
('A`)「正気じゃないのはお前なんじゃないのか?」
( ´_ゝ「例え地獄の業火で焼かれようとも、俺はどんなことだってしてみせよう」
主塔に引き立てられ、断首台に押さえつけられたアデーレの哀れな姿を見たときから、
生暖かい返り血が身体に降り注いだときから、自分は狂ってしまったのだろうと思った。
- 22 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:56:45 ID:N/qoymC60
-
ぱん、ぱん、ぱん。単調な拍手がアレクサンダーの傾けた横顔に注がれる。
男は満足げに笑っていた。
('∀`)「余興にしては素晴らしい話を聞けた」
('A`)「俺はこう見えても芝居好きでね、
こんな不毛の地に縛り付けられる前は、よく劇場に足を運んでいたんだ。」
('∀`)「良い芝居を一つ見たような気分だ」
( ´_ゝ`)「ふっ、お気に召したのなら幸いだ」
('A`)「さて、それじゃあここからが本題だ。
……お前はこれをどうしたい?」
( ´_ゝ`)「姫を蘇らせてほしい。可能か?」
('A`)「できないことはない。
土塊に魂を与えるよりずっと手間はかからないからな。」
('A`)「ただ……」
- 23 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:57:30 ID:N/qoymC60
-
( ´_ゝ`)「ただ?」
('A`)「お前は代償に、何を差し出す?」
男は法衣を翻し、アレクサンダーの前へ立ちはだかった。
ついさっきまで貧相で陰気なみすぼらしい男のが信じられないほど、
その佇まいは不気味な威厳に満ちていた。
( ´_ゝ`)「何でも……そうだな、俺の命と引き換えでは足りないか?」
アレクサンダーはこともなげに言う。
差し出せるものは何だって差し出すつもりだった。
('A`)「うーん、それじゃあ趣が足りない」
('∀`)!
('A`)つ□
男暫くの間思案に暮れて、狭い部屋の中をうろうろと歩き回った。
やがて嫌らしい笑みを再び浮かべると、机一杯に薬包紙を広げだした。
- 24 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 19:58:53 ID:N/qoymC60
-
(;´_ゝ`)「おい、常闇の魔女よ」
( A`))「代償は決まった。
お前は隣の寝室で休むなり、なんなりすればいい。」
('A`)「それとも肉塊が作り替えられていくのが見たいのか?
お前もなかなかの業の者だな」
(;´_ゝ`)「いや、結構」
アレクサンダーは白絹の包みから立ち上る臭気に顔を背けた。
少し肺に入れただけで吐き気が胸元までせり上がってくる。
( ´_ゝ`)「では少しばかり休ませてもらおう」
立ち去るアレクサンダーの背中に、作業に夢中になっていた男が声を掛ける。
('A`)「白銀の騎士よ」
( ´_ゝ「なんだ」
('A`)「良い夢を」
( )「私もそれを願うばかりだ」
これが最期の夢見となるかもしれない。そうでないかもしれない。
どちらによアレクサンダーは構わなかった。
( ´_ゝ`)(姫、願わくば貴方に神の祝福があらんことを)
アレクサンダーは男の好意に甘えて、重たい身体を寝台に沈めていった。
- 25 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:00:46 ID:N/qoymC60
- 今回の投下は以上です
とりあえず書き溜めた分だけ投下しました
ありがとうございましたー
- 26 :名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 20:02:08 ID:tZZJae6c0
- 支援支援!
- 27 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 00:37:37 ID:2xa2lO5.O
- おつ 続きが楽しみ
- 28 :名も無きAAのようです:2013/01/04(金) 02:25:39 ID:RrqTV8/w0
- おおお乙!イラスト使って頂いて嬉しいです!
騎士に姫に魔女だなんて、ファンタジー好きの血が燃え滾る!
続きに全力wktk期待
- 29 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:21:07 ID:ZNPDPN2I0
-
窓から洩れる陽射しが、アレクサンダーの瞼を貫いた。
寝台の横に据え置かれた、燭台の炎はすでに費えていたので、アレクサンダーの寝室は仄暗い。
真っ直ぐに伸びる一筋の強い光が、夜明けを迎えたことを知らせる。
照らされた部屋は殺風景で、寝台と燭台、この二つしか家具と呼べるものはなかった。
.:.;:_ゝ`)「ううん……」
.:.;:_ゝ`)(ここは……?)
覚束ない頭を抱えたまま、アレクサンダーは真後ろを向いた。
部屋の入り口の方で、こつこつと木片を合わせたような音がしたからだ。
('A`)つコツコツ「起きな、白銀の騎士」
覇気のない男の顔を見て、アレクサンダーは漸く自身が何のためにここへやって来たのかを思い出した。
男は声を掛けることすら面倒くさいのか、壁を軽く叩くことで、アレクサンダーの気を引いた。
- 30 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:22:52 ID:ZNPDPN2I0
-
.:.;:_ゝ`)(そうか……私は……)
押し寄せる数々の兵をこの手で殺めた。
王妃の墓を暴き、亡骸を辱めた。
オルセーとアデーレの一粒種を攫った。
昨晩のことがまるで遠い昔のことのように感じる。
しかしながら、不道徳な行いを恥じる時間はアレクサンダーにはない……はずだった。
.:.;:_ゝ`)「常闇の魔女よ、私はどうやら生きているようだが?」
('∀`)「みたいだな?」
男は鼻歌交じりに返事を返す。
アレクサンダーがもし誘えば、共にワルツを踊ってくれそうだ。
- 31 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:24:26 ID:ZNPDPN2I0
-
('∀`)「ともかく、そんなことはどうでも良い」
('∀`)「お前の愛しいお姫様が完成したぞ」
早く身仕度を済ませて部屋に見に来い、男は謳うようにアレクサンダーに告げた。
('∀`)「俺は一足先に部屋にいるからな」
.:.;:_ゝ`)「承知した」
アレクサンダーは不安だった。
自分は死なず、贄としての役割を果たしてはいない。
それにもかかわらず、男は今までにないほど上機嫌だった。
.:.;:_ゝ`)(もしや……)
アレクサンダーは光を避けて、寝台の隅へうずくまった。
清々しい朝日を浴びるには、アレクサンダーの心は暗く濁りきっていた。
もし……もし、常闇の魔女が自分を欺いて、とてつもない化け物を作り出していたら?
.:.;:_ゝ`)(あの男は確かに不誠実だ。
だが、昨晩過ごした一時の間でも、嘘は言っていない)
心の中で男を肯定してみても、不安は募る一方だった。
ここで悩んでいても、何の解決にもならない。
アレクサンダーは手早く仕度をして、寝室を後にした。
- 32 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:26:02 ID:ZNPDPN2I0
-
('∀`)「お、来たな」
男は軽やかな足取りで近くと、アレクサンダーの背を押して、部屋の中へ迎え入れた。
早く姫を見ろ、ということらしい。
だが、机の上にはごちゃごちゃとした薬包紙の屑や、見たこともない獣の肉片がこびりついているだけだった。
そこには赤子の姿の欠片もありはしない。
.:.;:_ゝ`)「姫は何処に?」
アレクサンダーはまだ光を避けていた。
部屋の暗がりの方へ飛び込むように入ると、影から動こうとしない。
普段なら気にもしない柔らかな陽射しが、
瞼を焼くのではないかと思うくらい強烈なものに感じた。
- 33 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:29:17 ID:ZNPDPN2I0
-
('∀`)「ふっふ、これだよ」
('∀`)つ◯ヒョイ
男が掲げてみせたのは、滑らかな殻に覆われた、白い球体だった。
('∀`)「お前が持ってきた白絹、フェンリルの喉笛、戦乙女の歌声……
あり合わせの材料を使ったにしちゃ、上出来だろう?」
男はアレクサンダーを見やると、ウィンクすらしてみせた。
得意げな顔で球体を撫でさする。
.:.;:_ゝ`)「失礼だが、それは卵のように見えるのだが」
もはや姫の面影は一つもない。
('A`)「卵だよ。お前の目は節穴なのか?」
当然男は笑顔をしまい込むと、憮然とした表情でアレクサンダーに言い放った。
わざと聞こえるような大きな溜め息をついて、男は肘掛けにもたれた。
('A`)「お姫様の遺体はほとんど使いものにならなかった」
('A`)「この糞寒いのに、肉体が蕩け始めていた。
魂が離れかかっているいい証拠だよ」
('A`)「だから特別な器を誂えて、姫の魂をそこに閉じ込めた」
- 34 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:30:53 ID:ZNPDPN2I0
-
.:.;:_ゝ`)「……そうか。俺がのうのうと鼾をかいているうちに、随分世話をかけたようだ」
('A`)つ◯「ほれ、これはお前のものだ」
男は無表情に卵を渡してよこす。
.:.;:_ゝ`)「……。」
⊃◯
アレクサンダーは殻が傷つくことのないよう、慎重な手つきで卵を抱いた。
卵は見た目に反して暖かい。
何気なくアレクサンダーは指先て表面を辿った。
とく、とく、とく。
卵はアレクサンダーに応えるように胎動を繰り返す。
殻は薄く、白絹そのものだった。
光に透かせば中の様子が透けて見える。
半透明の液体の中に、握り拳大の玉がゆらゆらと頼りなげに浮かんでいた。
.:.;:_ゝ`)(これが……姫なのか?)
- 35 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:37:02 ID:ZNPDPN2I0
-
にわかには信じがたいことだった。
('A`)「十六夜の晩、乙女の血を捧げな。
毎年欠かさずにするんだ」
('A`)「年に一度必ずだ。
それ以外はほっぽらかしでも構わん」
.:.;:_ゝ`)「わかった。何度繰り返せば良い?」
('A`)「十回……つまり十年は同じことをしなくてはならない」
男は口には出さないが、それは少なくとも十人の女の命を奪うことを示唆していた。
何の罪もない女達の骸の上で、姫は命を育むこととなる。
.:.;:_ゝ`)「わかった……。そうすれば、そうすれば必ず姫は蘇るのだな?」
男の言葉に、アレクサンダーは念を押して聞いた。
('A`)「あぁ、必ず」
('A`)つ□「それと、お前に新しいローブをやろう
お前のやつは血で汚れているからな」
男が持っている布は、今まで目にしてきたどの布とも違ったものだった。
表面は絹のように艶やかだか、鉄のように重い。
ローブは男の腕の中でだらりと垂れ下がっていた。
.:.;:_ゝ`)「結構だ」
アレクサンダーはローブを一瞥して、間を置かずに断った。
姫を取り戻すために、尽力してくれたことは心から感謝している。
だが、これ以上この男に関われば、きっと目も背けたくなるような仕打ちが待っているに違いない。
('∀`)ニヤニヤ「俺は必要だと思うけどねぇ……」
.:.;:_ゝ`)「いらぬ」
('A`)「そう、つれないことを言うな。
せっかくお前のためにこしらえたんだ」
('∀`)「そうだ! なら、羽織ってみるだけなら構わないだろ?」
('∀`)つ.:.;:_ゝ`))))ズルズル
男はアレクサンダーの腕を掴むと、強引に鏡の前へ押しやった。
ローブを広げ、アレクサンダーの肩に掛ける。
- 36 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:39:09 ID:ZNPDPN2I0
-
.:.;:_ゝ`)「だからいらぬと……」
.:.;:_ゝ゚)「なっ……」
アレクサンダーは驚愕していた。
歯がかちかちと音をたてる。震えはやがて、全身に広がっていった。
( ;::゚_ゝ゚)┃( ゚<_ ゚ ::;)
鏡に映るのは異形の怪物だった。
碧かった瞳は藍鼠に濁り、右頬には魚のような鱗が数枚、へばりついていた。
戦慄いた唇の隙間から、獰猛に尖った犬牙が見え隠れしている。
(;::゚”_ゝ゚)「化け物……」
アレクサンダーは恐々鱗に触れる。
手触りは堅く、雲英のようだった。
指先でつまみ上げると、頬の肉も同時に持ち上がった。
('∀`)「あはははっ、色男が台無しだな?」
男は堪えていた笑いを爆発させた。
ヒステリックな笑いは、次第に痙攣じみた笑いに変わる。
- 37 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:40:05 ID:ZNPDPN2I0
-
アレクサンダーは、男が笑い転げているのを茫然と見つめていた。
('A`)「それが姫を蘇らせた代償だ」
('A`)「最初はお前の命でも良いかなと、思ったんだがな」
('A`)「それじゃあつまらない」
('A`)「一瞬の痛みより」
('A`)「永久の責め苦」
(;::゚”_ゝ゚)「……。」
(*'∀`)「どうだ? そのほうがよっぽど趣があるだろう?」
男は目の端に溜まった涙を拭いながら、男はアレクサンダーに同意を求める。
頬は発作的な笑いのせいで、赤く上気していた。
- 38 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:41:37 ID:ZNPDPN2I0
-
(;::゚”_ゝ゚)スゥ
(;::-”_ゝ-)フー
アレクサンダーは彼を責めようとは思わなかった。
付け込む隙を与えたのは自分であり、彼は少しの茶目っ気を出したつもりなのだろう。
男は、少しだけ悪辣で、また少しだけ残酷だっただけのことだ。
(;:: ´_ゝ`)「取り乱して済まない。
このなりでは簡単に外は出歩けまい」
(;:: ´_ゝ`)「ローブは有り難く受け取ろう」
('A`)「それが賢明だ。ローブはその屑みたいな鎧より、ずっと役に立つ。
……なんだつまらん。もう立ち直ったのか」
同意が得られないとわかって、男は少し落胆していた。
いつものように陰鬱な表情をして、つまらなそうに呟いた。
( ;:: ´_ゝ)「私はどうやら此処に長居しすぎたらしい。
そろそろお暇しよう」
アレクサンダーはローブで卵を包むと扉の方へ歩き出した。
- 39 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 13:43:06 ID:ZNPDPN2I0
-
('A`)「白銀の騎士、もう一つ言うことがある」
男はすかさずアレクサンダーの前へ回り込むと早口で言い添えた。
ご丁寧なことに、男は卵を安全に持ち運ぶための台座と籐の篭を持っていた。
(;:: ´_ゝ`)「何だ?」
('A`)「その薄玻璃でできた鱗は、卵に血液を垂らすたびに体中へ広がっていく」
(;:: ´_ゝ`)「そうか」
('A`)「最初は脚、そして腕、やがて左側の頬も鱗で覆われるだろう」
('A`)「鱗が増える時、それは耐え難い苦痛をもたらす」
('A`)「堪えられないようなら、卵を容赦なく割れ。
さすれば姿は元に戻る」
(;:: ´_ゝ`)「いらぬ心配だ。俺はそのようなことは絶対にしない」
('A`)「どうだかな」
薄玻璃の鱗は朝日を受けて、きらきらと光輝いていた。
アレクサンダーはローブを目深に被り、光を遮った。
( ;:: ´_ゝ)「さらばだ、常闇の魔女よ。
もう会うこともあるまい」
('A`)ノ「おう、じゃあな」
男の言葉にアレクサンダーは振り返らない。
無言で、荒れ果てた大地をゆっくりと踏みしめた。
- 40 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 18:52:49 ID:6Fv5qMQU0
- 面白い展開だ
期待age
- 41 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 19:13:09 ID:hGv5iOkg0
- これは期待
綺麗な文体だ
- 42 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 20:53:41 ID:ZNPDPN2I0
-
地獄にも似た悠久の時は、ゆったりと流れていた。
立ち込めた暗鬱な黒雲が空を覆う。
山から降りる風は凍てつくような冷気を孕み、木々にうっすらと霜を下ろす。
空に浮かぶ月は雲を押しのけて、煌々と輝いていた。
.:.;:_ゝ`)
月明かりが照らすのは、薄玻璃の鱗の生えた異形の騎士だ。
かつて白銀だった鎧は、鈍色にくすんでいる。
額に張り付いた髪は、美しい金色から銀鼠色に色褪せていた。
アレクサンダーは朽ちた礼拝堂にいた。
長椅子は取り払われて、中はがらんどうになっている。
その中心にはふんだんに布をあしらった天蓋の付いた、巨大な寝台が据え置かれていた。
- 43 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 20:55:05 ID:ZNPDPN2I0
-
('A`)「久し振りだな、白銀の騎士。」
('∀`)「いや、鱗の騎士よ」
男は音もなく現れると、アレクサンダーのもとへゆっくりと向かう。
掃き清められた木製の床に、男の足音が染み込んでいった。
(;::゚”_ゝ゚)「久しいな、常闇の魔女。
お前に見えたのが、遠い昔のことのようであり、ついこの間のような気もする」
アレクサンダーは濁った瞳を宙にさまよわせた。
思考は澱み、歩くことすら覚束ない。アレクサンダーはぐったりと石壁に身体を預けていた。
片膝を立て、頭を乗せる。その動作すら緩慢でだらしない。
虚ろな眼がぎょろりと剥いて、男を捕らえた。
(;::゚”_ゝ゚)?「何故そのような恰好を?」
男は黒衣の礼服に身を包んでいた。
高い詰め襟が、長い黒衣が男の極端な矮躯を隠す。
かつてアレクサンダーは、男の身体を心中では醜いと罵った。
しかし己が男と同じく、異形の姿となったとき、不快な感情は消え、親しみすら覚えた。
('A`)「何だ? 忘れてしまったのか?
今日は待ちに待った姫が誕生する日じゃないか」
(;::゚”_ゝ゚)「ああ……。ああ、そうだったな」
アレクサンダーは深く、何度も頷いた。
そう、今日は待ち望んだ誕生の日。
幾人ものか弱い乙女の嘆きで築き上げられた、祝福の日。
('A`)「誰にも望まれない誕生だとしても、祝福は必要だろう?」
(;::゚”_ゝ゚)「そう……だな」
- 44 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 20:55:53 ID:ZNPDPN2I0
-
アレクサンダーは何故今までこのようなことをし続けてきたのか、その理由の殆どを忘れてしまっていた。
一人目の乙女を殺めたときに、微笑みを――。
二人目の乙女の喉元を裂いたときに、嘆きを――。
三人目の乙女の首をへし折ったときに、怒りを――。
四人、五人と女達の叫びを聞くたびに、アレクサンダーは人としての道徳を、赦しを乞うことを忘れていった。
アレクサンダーを突き動かしたのは、惰性ともいえる執着心からだった。
現実は緩やかに乖離し、今では夢と現がアレクサンダーの心の中で、渾然と融和していた。
- 45 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 20:56:59 ID:ZNPDPN2I0
-
('A`)「素晴らしい十六夜の日だ。
この素晴らしさを姫にも実感させてやれ」
男は胸に手を当てて、一礼した。
男は一変して、荘厳な雰囲気を帯びた聖職者のようになる。
腕の先にはあの忌まわしい卵があった。
薄絹に包まれたそれは、殻の中で震え、蠢いていた。
(;::゚”_ゝ゚)「……。」
アレクサンダーは胸元から、銅のくびれた小さな小瓶を取り出すと、よろよろと寝台へ歩き出した。
(;::゚”_ゝ゚)つ□タラリ
血液がゆっくりと球体を浸食していく。
(ww)ピリ
(*'A`)「さぁ! 産まれるぞ……。姫の御生誕だ!」
男は興奮した様子で身を乗り出した。
殻に入った亀裂はどんどん深くなっていく。
( <◯>)ピリリ
- 46 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 20:58:31 ID:ZNPDPN2I0
-
(;::゚”_ゝ゚)つ□「な……!」
二人が最初にめにしたのは、亀裂から覗くのは老婆の白く濁った眼だった。
殻を掴む指先は節くれだって、皺にまみれている。
姫は――産まれながらにして、老い始めていた。
:(;::゚”_ゝ゚):「常闇の魔女よ……貴様……!」
('A`)「……。」
(#´_ゝ゚)「貴様俺を謀ったのか!?」
振り向きざまに、薄玻璃の鱗がばらばらと剥がれ、水晶の鈴のような音をたてて、零れ落ちた。
乾いた唇は朱色で縁取られ、鮮やかに彩られていく。
願いは成就した――。
アレクサンダーは漸く、永久の苦しみから解放されたのだ。
(#´_ゝ`)つ+── ('A`;)「答えろ!!」
∩('A`)∩「謀る?」
('A`)「馬鹿言うな。俺は対価に相応しいことをしたつもりだ」
( 'A)「問題はあれ自体にある」
男は心外だと言わんばかりに顎をしゃくってみせた。
- 47 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:00:07 ID:ZNPDPN2I0
-
( ´_ゝ`)「姫に問題があるだと?」
フロイライン
('A`)「さぁ、わけを話しな。お嬢さん」
( ´_ゝ`)「無礼な」
('A`)「今、あれに王位はない。もはや人ですらあるか怪しいんだぞ。」
( <◯>)「妾は……」
二人の声を遮って、少女は語り出す。
張りのない嗄れた声は、まさしく醜い老婆のようだ。
( <◯>)「気がついたとき、妾は暗く冷たい、寂しいところに一人おりました」
( <◯>)「妾は何故一人なのか、どうして閉じ込められているのか、
わからないまま、随分と長い間眠っていました」
( <◯>)「妾の友人は時折やってくる、森の小鳥達」
( <◯>)「そして……」
( <◯>)「ごく稀に訪れる、一人の男性でした」
姫は一つ吐息を洩らした。
ひどく辛そうに言葉を紡いでいく。声は掠れて、礼拝堂に静かに吸い込まれていく。
( <◯>)「妾は……」
( ´_ゝ`)「やめろ」
( <◯>)「妾はその方が訪れるのを心待ちにするようになりました」
( ´_ゝ`)「やめてくれ……!」
アレクサンダーが叫ぶ。
悲痛な叫びを縫って、無機質な男の声が後を引き継いだ。
- 48 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:01:50 ID:ZNPDPN2I0
-
('A`)「白銀の騎士に惚れたのか?」
( <◯>)「……おそらくは」
男は姫の言葉に、一瞬無表情になった。
顔を背け、うずくまると、懐かしいあの発作のような笑いが始まった。
('∀`)「はははっ、これは傑作」
少女は話し続ける。
( <◯>)「あるとき青鵐が囁きました」
――お前は貴い血を持つ子。
( <◯>)「あるとき駒鳥が囁きました」
――お前は王、オルセーの子、早く命を育みなさい。
( <◯>)「あるとき金糸雀が囁きました」
――いいや、違うね。
お前はオルセーの双子の兄、アレクサンダーと王妃アデーレの子。
(#´_ゝ`)「違う!」
- 49 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:02:41 ID:ZNPDPN2I0
-
( <◯>)「あるとき鶺鴒が囁きました」
――お前は顔も知らぬ、実父を愛した、忌まわしい子。
呪わしい子。お前の生は、乙女の骸の上にある。
( <◯>)「……妾は、産まれるべきではないのです」
( ´_ゝ`)「違う……」
アレクサンダーはゆっくりと膝から崩れ落ちた。
首を振り、少女の言葉を何度も否定する。
( ´_ゝ`)「私は……私はアデーレ様に邪な感情を抱いたことなど、一度もない……!」
('∀`)「心は深く繋がっていたのにか?」
男はアレクサンダーの肩に手を置いて、面白そうに聞いた。
覆い被さるように、背後から顔を覗き込む。
- 50 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:03:29 ID:ZNPDPN2I0
-
(#´_ゝ`)「だから何だと言うのだ!?
アデーレ様は、ただ私に信頼を寄せて下さっただけのこと」
アレクサンダーは男の腕を振り払い、憎しみのこもった目つきで彼を睨んだ。
('∀`)「器が寸分違わぬ肉と血で造られたのなら……」
('∀`)「あとは契った本人の心が誰と結び付いていたか……それだけの違いだ」
ぱん、ぱん、ぱん。乾いた拍手が礼拝堂にこだまする。
('A`)「一体どんな劇を演じてくれるかと、期待してみれば……」
('∀`)「まさか、こんな喜劇だったとは」
男は至極満足そうに、うなだれる白銀の騎士と朽ち果てていく卵の両方に視線を向けた。
('A`)「例えお前が産まれることを拒絶しようとも……」
( <◯>)「……。」
('∀`)「かわりに、こんなに良い演目が生まれたのだ」
('A`)「祝福してやろう」
男は息をたっぷり吸い込むと、口を大きく開いた。
- 51 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:04:31 ID:ZNPDPN2I0
-
深き悩みより われは御名を呼ぶ。
主よ、この叫びを 聞き取りたまえや。
されど、わが罪は きよきみこころに
いかで耐え得べき。
男の歌声に老婆の声が重なる。
二人の歌声は混ざり合い、やがて豊かなハーモニーを奏で始める。
世にある人々 力の限りに
主の道を求め いそしみ励めど、
神のみ恵みに ふさわしき者は
ただ一人もなし。
- 52 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:10:07 ID:ZNPDPN2I0
-
男は歌い終えると出口へ歩き出した。
黒衣がひらめき、風に揺れる。
風は卵から匂う、甘い腐臭を運んだ。
('A`)「さらばだ。白銀の騎士よ。いや……」
('∀`)「哀れな男アレクサンダーよ。」
:(;::゚”_ゝ゚)つ:「あっ……」
暗い礼拝堂に男の哄笑が響き渡った。
アレクサンダー無意識に伸ばした指先は、男には届かない。
そしてうっすら微笑むと、礼拝堂の扉を後手に閉めた。
( ´_ゝ`)卵が孵らないようです
〜La Fin〜
- 53 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:13:34 ID:ZNPDPN2I0
- 以上です!
使用スレタイ
( ´_ゝ`)卵が孵らないようです
使用イラスト
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_554.png
ありがとうございました
- 54 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:22:15 ID:XkoVuZ5U0
- うおおお!!乙でした!
切ねぇよ・・・
- 55 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:23:47 ID:qr883OrA0
- おつ! ぐっと惹かれた
- 56 :・・・:2013/01/05(土) 21:25:17 ID:dMXxLVkE0
- うわあああ乙…
救いがない…
- 57 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:27:01 ID:dMXxLVkE0
- あれなんか名前欄に入ってたorz
- 58 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:38:54 ID:ZNPDPN2I0
- あ、最後の最後で間違いを……
>>52
:(;::゚”_ゝ゚)つ:→:( ゚”_ゝ゚)つ:
です 申し訳ない!!
- 59 :名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:48:43 ID:6Fv5qMQU0
- うおあああああああ……!!!卵が孵るシーン想像してゾッとした
これは素敵な鬱物語……
>>58
だよねよかった!また鱗生えてきちゃったのかと思ったよ!!(´;ω;)
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