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川 ゚ -゚)ききたいようです- 1 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:26:35 ID:NFxNXQws0
-
夢をみた。
( ^ω^)「また書いてるのかお」
「うん」
( ^ω^)「よく飽きないおね」
「飽きる飽きないの問題じゃないし」
月が喋る。
(´・ω・`)「俺ならその行為に厭きるね」
「うっさいな」
(´・ω・`)「ご苦労なことだね、ほんと」
「嫌味しか言えないのかお前ら」
雲が喋る。
( ^ω^)「僕は言ってないお。性格悪いのは雲の野郎だお」
(´・ω・`)「ぶち殺すぞ。今すぐお前を隠してやろうか」
(;^ω^)「おっ、やめてくれおー! お話しできなくなる!」
(´・ω・`)「そのピーチクうるせぇ口を閉ざせるなら、俺は何でもやってやる」
(;^ω^)「殺るって言ったお今ああああ!」
そして。
( )「はーあ」
影が、今日も手紙を書く。
.
- 2 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:27:29 ID:NFxNXQws0
-
川 ゚ -゚)ききたいようです
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/26.jpg
.
- 3 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:28:43 ID:NFxNXQws0
- その夢を見始めたのはいつ頃だったろうか。
確か数年ほど前には、もう見ていた記憶がある。
ξ゚⊿゚)ξ「クー、おはよう」
川 ゚ -゚)「おはよう、ツン、デレ」
ζ(゚ー゚*ζ「おはよう!」
どこか広い草原で、喋るお日様とバラと、おはようから始まる夢。
寝ている時間なのだから、当然おはようの時間ではないのだが。
そう指摘しても、彼女達はおはようと言うので、私もおはようから始めることにした。
それに、その日初めて会うのだから、おはようでも問題はないだろう。
……おはようがゲシュタルト崩壊しそうだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえねえ、今日はどんな日だった?」
川 ゚ -゚)「私自身は特に変わらなかったよ」
ζ(゚ー゚*ζ「お話してよー」
ξ゚⊿゚)ξ「喋るの好きね、あんた」
ζ(゚ー゚*ζ「バラだもの。太陽だって聞きたいでしょ?」
ξ゚⊿゚)ξ「べっ別に私は聞かなくたっていいもの!」
川 ゚ -゚)「そうだな……そうだ、今日は朝、ペニサス先生が結婚するって聞いたよ」
- 4 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:29:28 ID:NFxNXQws0
-
こうしてお日様とバラと話をしたり、二人が喋るのを聞いていたり、楽に過ごせる時間だ。
夢、なのだが、憩いであり癒しでもある。
普通の夢とは違うとはっきり自覚した時には、もう既にこの夢に馴染んでいる自分が居た。
さわさわとバラが笑いながら体を揺らす。
ぴかぴかとお日様が光りながら照れる。
可愛らしい。
私の夢の産物とは思えぬ程だ。
ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃん大分傾いてきたね」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね……」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、寂しそう」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたはもうまた! デレだってそうでしょう!」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、寂しいなぁ。クーちゃん、またお話してね」
川 ゚ -゚)「ああ。ツンもデレも、また会おう」
おはよう、と言った時、真上に居たお日様が、地平線に近くなっていた。
斜陽がバラを照らし、景色が朱く染まっていく。
私は立ち上がると、地平線を見据えた。
- 5 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:30:16 ID:NFxNXQws0
-
ξ゚⊿゚)ξ「……またするの?」
川 ゚ -゚)「ああ」
ζ(゚ー゚*ζ「飽きないねぇ」
川 ゚ -゚)「どうにも止められない。届くかもしれないと思うと」
ξ゚⊿゚)ξ「好きね」
川 ゚ -゚)「好きかは分からないが、そうだな」
ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃんだって好きなくせにぃ」
ξ//⊿/)ξ「わわわ私は別に月のことなんかどうだって会ったことなんてないし別に」
ツンは夕日になったせいで余計に真っ赤になる。
そうやってよく光って感情を表すから、デレにからかわれるのだ。
すぅ、と息を吸い込む。
口の横に手を当てる。
川 ゚ -゚)「なあ、聞こえているかー!」
呼びかける。
会ったこともない、あいつに向かって。
川 ゚ -゚)「訊きたいことがあるんだ。君に訊いてみたいことがあるんだ」
川 ゚ -゚)「だから……おーい!」
少しのこだまを残し、声は吸い込まれていく。
返事も変化もなかった。いつもの通りに。
- 6 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:31:14 ID:NFxNXQws0
-
ζ(゚ー゚*ζ「今日も返事ないね」
川 ゚ -゚)「そうだな」
ξ゚⊿゚)ξ「諦めないの?」
川 ゚ -゚)「いつか飽きたらな」
そう言いながらも、簡単には止めないだろうと私は確信していた。
だから二人も、これ以上は何も言わない。
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあまたね」
ζ(゚ー゚*ζ「またねぇ、クーちゃん」
川 ゚ -゚)「またな」
おはようで始まった時間は、またねで終わりを告げる。
お日様が沈むと、景色は暗く、バラの姿ごと溶けていく。
やがて、暗闇の中で一人、私は立っている。
一つ小さく息をつくと、私はその闇の中を歩き出した。
不思議と周囲は「見えて」いる。何もないのだけれど。
水面を歩けたらきっとこんな感じだ。遠い水音を幻聴しながら、私は歩いた。
ぼんやりと光る何かを見つけ、私はそこに向かう。
そこにあるのは、夜の風景。
水面を切り取ったような、窓のような。
決して触れられない、月と雲と、影の居る景色。
- 7 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:31:57 ID:NFxNXQws0
-
( ^ω^)「今日も今日とて変わり映えしなさそうだおね」
( )「そう簡単に変わらないって」
(´・ω・`)「さみしーい毎日だな」
( )「うっせ」
(´・ω・`)「反論できねー癖によ」
( )「うっせー!」
月と雲が喋り、丘の上には顔の見えない影が居る。
……ツンとデレが居るあの夢の後、この風景に出会って、どれ程経っただろう。
切り取られた、もしくは霞が一部取れたような、水面の向こうのような。
窓のように、私はそこを覗いている。
- 8 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:32:56 ID:NFxNXQws0
-
(´・ω・`)「で、また書いている訳か」
( )「うん」
( ^ω^)「もう溢れかえってるお」
( )「……しょうがないだろ。こうしないとすっきりしないんだ」
影はいつも、手紙を書いている。
いや、手紙なのかは分からない。ただ、薄い赤紫の便箋に何かをずっと書いている。
封筒に入れられたそれは丘を埋め尽くし――やがてほろりと窓を超えて落ちてくる。
今日は久しぶりに落ちてきたな。
その「手紙」を私は拾い上げる。
『何を、そんなに一生懸命なんだろう』
短く。
けれど、想いの籠った手紙。
手紙はどうやら時期がまちまちのようで、時に古いものや新しいものがあった。
『誰だろう』
『ちくしょう辛い』
『嫌いだ。大嫌いだ』
『きれいだ』
古いものでは、辛い寂しいといった感情や、嫌い、憎い、という感情が多かった。
けれど最近は、さっきのように誰かに宛てた手紙が多い。
『会いたい』
私は訊きたい。
彼に(口調とぼんやり見える顔からして多分彼だ)、訊きたい。
一体誰に、そんな想いの籠った手紙を書いているのかと。
- 9 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:33:59 ID:NFxNXQws0
-
川 ゚ -゚)「おおい」
だから、私は呼びかける。
川 ゚ -゚)「なあ、誰に手紙を書いているんだ!?」
私に応えてくれない影に。
川 ゚ -゚)「君は――誰なんだ?」
- 10 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:34:56 ID:NFxNXQws0
-
月が沈んでいく。
( ^ω^)「おっ、時間だお」
(´・ω・`)「やれやれ、しょうがねえからまた来いよ」
( )「へいへい。ありがとさん」
空が紫紺に明るくなっていき――白く、私の居る場所も染めていく。
- 11 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:35:41 ID:NFxNXQws0
-
目が覚めると、ベッドの下だった。
川 ゚ -゚)「……っくしゅ」
幸いタオルケットも落ちていたので、さほど寒くはなかったが、くしゃみが一つ。
この寝相の悪さを勘案すると、布団に変えた方がいいだろうか。
どっちにしろ変わらないか。せいぜい打ち身をしなくなるくらいだ。
……いや、それは意外と大きい気がしてきた。真剣に考えてみることにしよう。
着替えと朝食を済ませると、大学生の姉であるシューが起きてきた。
lw´‐ _‐ノv「お、もう行くの。いってらーマイシスター」
川 ゚ -゚)「いってきます、シュー姉」
ソファにだらけるシュー姉を置いて、私は家を出た。
……今日は一限からじゃなかったんだろうか。まあ高校よりは余裕あるだろうからいいだろう。
- 12 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:36:35 ID:NFxNXQws0
-
教室で、薄緑のノートに今日の夢を書く。
通常の夢はすぐに忘れてしまうのに、お日様とバラの、そしてあの夜の風景だけは深く覚えている。
だから、夢だけれど、夢ではないように私は思っている。
あの影。
誰かに、何かに手紙を書いている彼。
――彼は、どこにいるのだろう。
会いたい。
会って、訊きたい。
君は誰に手紙を書いているのかと。
何を、伝えたいのかと。
けれど、夢の中ですら届かないのに。
……そもそも、夢なのだから、現実に会えるなんて思わない方がいいのに。
ため息をついてペンを回す。
(*゚ー゚)「おはよ、クー。何見てるの?」
川 ゚ -゚)「しぃか。何でもない」
ノートを閉じて友人に答える。
流石に夢の話は誰にもしていない。
(*゚ー゚)「そう? ね、それよりこれ見てよ、これ」
ほらトソンも、と近くに居た友人も引っ張り込み、しぃは私の机に雑誌を広げた。
それに載っていたのは『街角で見かけた彼』という記事だった。
- 13 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:37:26 ID:NFxNXQws0
-
[ (,,゚Д゚) ]
(*゚ー゚)「ほら、これギコくん載ってるの」
(゚、゚トソン「わ……本当だ。すごい」
川 ゚ -゚)「へえ」
クラスメイトでしぃの彼氏、ギコが少し固い顔で載っていた。
街角で見かけたカッコいい人を撮ろう、という企画らしい。二人で歩いている時に声をかけられたそうだ。
カッコいいでしょ、と臆面もなくのろけるしぃに、トソンは頷き、私は適当に流していた。
[ ( 'A) ]
――ふと、隣の背景に目が留まる。
横顔、というか斜め後ろの角度で、小さく小さく映っている人。
たまたま映り込んだだろう、ガラス越しの姿に――私は、目を離せなかった。
『同じ所で二人もイケメン見つけたよ!』と二人の写真の下に小さく煽りが載っている。
(*゚ー゚)「ん、どしたの、そんなに見詰めちゃって。あ、ようやくギコくんのカッコよさが分かった?
……まさか惚れちゃった? そ、それはダメだからね!」
(゚、゚トソン「違うと思います……見てるの隣の写真です」
川 ゚ -゚)「…………」
似てる。
気がする。
不鮮明な映りの、その面影が。
あの、彼に。
川 ゚ -゚)「……なあ、しぃ」
(*゚ー゚)「違うんだ、よかったー、って何?」
川 ゚ -゚)「これ、どこで撮ったんだ?」
- 14 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:38:24 ID:NFxNXQws0
-
放課後、しぃから情報を貰い、私はその街角に来ていた。
近場の繁華街、ゲーセンの近く。映画館やデパート、本屋など、まさにデートにはうってつけの場所だ。
私たちの高校も近いが、他にも二つ程高校が近い。その内一つはブレザー。もう一つと私たちの高校は学生服だ。
映っていたのは学生服のようだった。
つまり、うちか、もう一つか。その可能性が高い。
うちの高校の写真を調べるか、映った場所を調べるか。
私は後者を選んだ。
三学年合わせての写真チェックより、こっちの方が可能性があると思ったのだ。
……いや。
それよりも、会えるかもしれない。
その気持ちが強すぎた。
まだ彼だと決まっていない。
夢は所詮夢じゃないか。
向こうは知らない筈だ。
こんな所で会えるわけがない。
沢山の不安が交差する。
それでも、来てしまった。
写真の場所に立つ。放課後の遊び場は、騒がしい。
カラオケに行くだろう集団や、ブレザーの集団、うちの高校の生徒も居る。
その中に――彼は居るだろうか。
ざわざわしている。
横断歩道の、青信号の音楽が鳴っている。
人が多い。風がぬるい。
探す。
探す。
さがす。
祈るように。名も知らぬ彼を、さがす。
.
- 15 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:40:30 ID:NFxNXQws0
-
結論から言うと、見つかりはしなかった。
目を皿のようにして探したけれど、それだけで見つかれば奇跡ではないだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの、元気ないね」
また今日もお日様とバラの夢。
この所、よくこの夢を見る。以前はぽつぽつと、という感じだっただのが。
彼女らや影たちに会うのは楽しいから問題はない。ともあれ、今日の出来事を二人に話す。
ξ゚⊿゚)ξ「ふうん。例の影にね」
川 ゚ -゚)「信じてくれるのか?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん! だってクーちゃんがそう感じたならきっとそうだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね」
川 ゚ -゚)「珍しく素直だな」
ξ゚⊿゚)ξ「だってきっとそうだもの」
ζ(゚ー゚*ζ「私たちにも分かるもの、夢だから」
信じてくれて素直に嬉しかった。
……夢。そう、夢だ。
でも、現実かもしれなくて、そして、それを夢の存在に肯定された。
これはただの夢じゃない。
だからきっと、彼にも――
ξ゚⊿゚)ξ「……もうこんな時間だわ」
それから二人と話し、二人が話すのを聞き、気付けば景色が朱くなっていた。
また今日も叫ぶ。君に会いたいと。訊きたいと。
ξ゚⊿゚)ξ「またね。きっと見つかるわ」
ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃん。きっと繋がるよ」
二人の言葉に頷き、私は夕から夜になるのを待った。
水音がする。瞬きをすると、そこはもう夜だった。
窓からまた月と雲と影を覗く。
- 16 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:41:31 ID:NFxNXQws0
-
( ^ω^)「お? 何か今日はいつにも増して暗い顔してるお」
( )「……かもな」
(´・ω・`)「まっずい顔が余計見れなくなるぜ」
( )「……うるせーな」
(´・ω・`)「……マジで落ち込んでやがるとかよぉ」
( ^ω^)「おお……久々だお」
どうしたのだろう。
いつもは月や雲の軽口など、叩き返している位なのに。
顔は見えない。見えないけど、落ち込んでいるのは伝わってきた。
( ^ω^)「…………」(´・ω・`)
( )
- 17 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 00:42:20 ID:YCBdCSckO
- 見てるぞ
支援
- 18 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:42:28 ID:NFxNXQws0
-
そして彼は、今日も手紙を書いた。
いつもはそのまま手紙の丘に紛れるそれを、彼は折りたたむ。
出来上がった紙飛行機が、つい、と飛んだ。
それはこちらへと近づき、私の足元に零れた。
『俺なんて、』
川 ゚ -゚)
書きかけの一言。
強い筆跡と文字を消したぐちゃぐちゃの線。
伝わる。
まるで、この夢を見始めた時のようだ。
下手をすると、その時よりもずっと。
川 - )
何故だ。
( )
ぎゅっと手紙を握りしめる。
何故、私は伝えられない。
伝えたいのに。
- 19 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:43:18 ID:NFxNXQws0
-
川 ゚ -゚)「私は」
いつものように手を口にやろうとすると、拡声器があることに気付いた。
そのまま口に持っていく。
私はこんなにも。
こんなにも君に、会いたい、訊きたい――
川 ゚ -゚)「――届けたいんだ!!」
ぱりぃん、と。
――――窓が、われた。
- 20 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:44:07 ID:NFxNXQws0
-
(;´・ω・`)「んっ!?」
(;^ω^)「おっ!?」
( )
川 ゚ -゚)
影が振り返る。
( 'A)
川 ゚ -゚)
私は手を伸ばす。
( A )「――――」
景色が白む。
どんどん目の前の光景が溶けていき――
そして私は、目を覚ました。
.
- 21 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:45:03 ID:NFxNXQws0
-
+ + + + +
俺がその夢を初めて見たのは、何年も前になる。
喋くる月と雲。夜の風景。
普通の夢じゃなかったのは、それをいつもはっきり覚えていたから。
でも別に普通かそうじゃないかはどうでもよかった。
大切だったのは、あいつらと話して、そして、書くこと。
( ^ω^)「何書いてるんだお」
('A`)「……今日思ったこと」
( ^ω^)「お? そんなの言えばいいお」
(´・ω・`)「聞いてやらなくもねーのによ」
('A`)「だって、言えないから」
ブーンやショボンは聞いてくれるだろう。
でも、現実では言えない。
だから、書く。
昔から言葉にするのが苦手で、こんな夢でしか喋れない俺の、心の洗濯。
- 22 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:45:44 ID:NFxNXQws0
-
『こんな俺、嫌いだ』
『あいつら嫌。嫌いなら話しかけんな』
『なのに寂しい』
言えない言葉を、薄い赤紫の紙に綴る。
それをそっと夢の中に置くことで、俺は色んな物を吐き出していた。
内容はあいつらも知らないが、俺の気持ちは何となく分かってるようだった。
( ^ω^)「根暗だお」
(´・ω・`)「暗すぎんだろ」
('A`)「はっきり言うな」
嫌味や軽口を交えながら、俺はそれが好きだった。
素直に口に出す月のブーンと、捻くれて口の悪い雲のショボン。
悪意がないのが分かったから。
現実なんかより、ずっと。
- 23 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:46:33 ID:NFxNXQws0
-
ある時から、あいつらに会う前に、太陽と薔薇と、黒髪の少女の夢を見るようになった。
ξ゚⊿゚)ξ
ζ(゚ー゚*ζ
川 ゚ -゚)
声は聞こえない。
ただ、喋っているのは分かった。
彼女らは、主に太陽と薔薇が喋って、少女が相槌を打っているようだった。
ξ#゚⊿゚)ξ
ζ(゚ー゚*ζ〜♪
川 ゚ー゚)
時折見せる笑顔や、普段は動かない怜悧な表情が、綺麗だと思った。
そう思った時は、その感情をそっと記した。
川 ゚ -゚)「――」
その内に彼女は、夕方になり夜になる直前、何事か言うようになった。
立ち上がり、どこかを見据え、叫ぶように。
懸命になっていることは聞こえなくても分かった。
いったい何を、叫んでいるのだろう。
何を、そんなに一生懸命になってるんだろう。
気付くと、俺の書くことは彼女のことばかりになっていた。
- 24 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:47:40 ID:NFxNXQws0
-
( ´ー`)「お前、その本好きなの?」
('A`)「あ、うん……あ、の、読む?」
( ´ー`)「いや、持ってるから。これ好きな奴中々いネーヨな」
( ・∀・)「ん、何それ。面白いの?」
( ´ー`)「おう。お前つまんネーつった本」
('A`)「おもしろい……よ」
( ´ー`)「だよなー!」
( ・∀・)「よく読めるなぁ、そんな難しいの」
夢の中であいつらと軽口を叩き、汚い感情を書いて吐き出していると、やがて現実でも少し喋れるようになった。
彼女への気持ちを書いているうちに、現実はそんなに嫌ではなくなっていた。不思議なことに。
川 ゚ -゚)「――――」
彼女は、どんな人なんだろう。
どんな声をしているんだろう。
知りたい。
聴きたい。
- 25 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:48:46 ID:NFxNXQws0
-
( ´ー`)「なあドクオ、あのシリーズの新刊出たよな」
('A`)「ああ、そうだった」
( ´ー`)「今日さ、着替えたら駅前の本屋いかネー?」
( ・∀・)「僕は漫画コーナー! 明日発売日なんだけどフライングゲットできるかなぁ」
( ´ー`)「シラネーヨ」
('A`)「俺……お前らん家より遠いし、このまま行く」
(*・∀・)「んー。僕は着替えてくよ。ねぇねぇ、写真とか撮られたらどうする?」
( ´ー`)「「シラネーヨ」」('A`)
中学で仲良くなったネーヨと同じ高校に行く為、少し遠くの高校に進学した。
モララーも頑張って成績をあげ、今ではすっかり安定している。
この日はモララーが本当に写真を頼まれ、ネーヨが「残念なイケメンめが」と罵るのを聞きながらこっそり同意した。
- 26 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:49:29 ID:NFxNXQws0
-
そんな日々の、別の放課後だった。
(*゚ー゚)「私たち、人を待ってて……」
(゚、゚;トソン オロオロ
( ^Д^)「まーまー、いーじゃん、女の子待たせる奴なんてほっといて遊ぼうぜー。
あ、それとも女の子? それなら待ってるよ!」
(*゚ー゚)「困りますから」
制服の女子二人が、馬鹿に絡まれていた。
カッコよく着崩した風の、だらしない恰好。……こいつ、小中と嫌いだった奴だ。
だがそれよりも――女子の制服に、目が行った。
一人はセーラーで、一人はその下だけであろう、シャツ。
彼女と同じだった。
そう認識した瞬間、衝撃だった。
実在するなんて。
そしたら、もしかしたら、彼女が居るかもしれないなんて。
探したことはなかった。でもどうやら近所の高校らしい。
女子なんて彼女以外興味なかったから、今まで目につかなかったのだろうか。
……ああ。
やっぱりあれはただの夢じゃない。
- 27 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:50:13 ID:NFxNXQws0
-
( ^Д^)「オレ面白いトコ知ってんだー。なぁ、行こうぜ、絶対気に入るって」
(*゚ー゚)「あの、本当に結構ですから」
( ^Д^)「そんなこと言わないでさぁ。ねー、そっちの彼女も説得してよ」
(゚、゚トソン「えっ? いえ……その、私たちは……」
( ^Д^)「ほらほら、行こうよ」
(゚、゚;トソン「きゃっ」
(;゚ー゚)「放して下さい!」
俺が衝撃を受けている間に、話はどんどん進んでいた。
プギャーの奴、女子の手を取って無理やり歩こうとしている。
……やっぱり最低な奴だ。
…………。
見過ごす、のか?
そしてまた、書くのか?
あいつは最低だと。
俺はそれで――いいのか。
- 28 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:50:57 ID:NFxNXQws0
-
('A`)「よ……よせよ」
( ^Д^)「ああ?」
(*゚ー゚)「……!」(゚、゚トソン
睨まれて竦む。いやがってるだろ、と蚊の鳴くような声で言う。
( ^Д^)「関係ねーだろ! ……ん? お前……もしかして」
('A`)「…………」
( ^Д^)「wwww何だよ、根暗くんじゃねーかよww」
無視して女子にかかってる手を掴んだ。
よせよ、という声は震えていた。
( ^Д^)「触んじゃねーよ!!」
ふり払われる。道端に転がった。
( ^Д^)「何だよお前wwヒーローにでもなったつもり?wwばーかwwww」
背中が痛い。息が一瞬止まった。キツい。
ヒーローなんて、つもりじゃ。
ああ。ちくしょう。痛い。
('A;)
囃し立てられた過去が蘇る。
背中を打ったせいか息がし辛い。涙が滲む。
プギャーの嘲笑が響いた時。
- 29 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:51:59 ID:NFxNXQws0
-
(,,゚Д゚)「やめろ」
( ^Д^)「あ? ……ぐあっ!?」
(,,゚Д゚)「ツレに手出すな。とっとと行けよ」
( ^Д^)「っち、ちくしょう、何だよ! けっ、そんなブスこっちから願い下げだっつの!!」
捨て台詞を吐いて、プギャーは早足に立ち去った。腹が痛そうだった。
(,,゚Д゚)「大丈夫か、二人とも」
(*゚ー゚)「うん、ありがとうギコくん!」
(゚、゚トソン「ありがとう……あの、あの人……」
(*゚ー゚)「あっ、大丈夫ですか!?」
三人が座り込んでる俺の傍にやってくる。
女子二人はハンカチやティッシュを出して汚れを落としてくれた。
男子は俺の腕を持って立ち上がらせてくれた。
('A`)「……あ、ありが、」
(゚、゚トソン「ありがとう、ございました」
(*゚ー゚)「うん、ありがとうございます」
(,,゚Д゚)「ありがとうな、助けようとしてくれて」
お礼の言葉が突き刺さる。
俺は、助けられなかった。みっともなく転がっただけだ。
ありがとう、と何とか絞り出して、俺はその場を逃げ出した。
- 30 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:52:59 ID:NFxNXQws0
-
( ^ω^)「お? 何か今日はいつにも増して暗い顔してるお」
('A`)「……かもな」
(´・ω・`)「まっずい顔が余計見れなくなるぜ」
('A`)「……うるせーな」
(´・ω・`)「……マジで落ち込んでやがるとかよぉ」
( ^ω^)「おお……久々だお」
今日も夢を見た。喋る太陽と薔薇、叫ぶ彼女の夢の後、気付いた事実に俺はどん底まで落ちていた。
俺はヒーローになりたかったわけじゃない。
ただ助けたかったわけでもない。
確率は少なくとも、もしかして彼女に俺のことが伝わりはしないかという、下心からだった。
そうまでして彼女に会う可能性に賭けたくて、その癖、助けることができなかった。
あの女子二人が無事だったのは、待ち人の男子が来てくれたからだ。
俺がいなくたって問題なかった。
プギャーに、一言も言い返せなかった。
紙に書きなぐる。
『俺なんか、』
……情けなさと自己嫌悪が大きすぎて、続きは書けなかった。
いつもは紙の山に置くそれを、今日は紙飛行機にする。
こんな気持ちから逃げたい。
……俺は、結局、変わっていない。
紙飛行機は、山の向こうに落ちて紛れた。
珍しく月も雲も何も言わない。
よかった。
今は何を言われても返せる気がしない。
.
- 31 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:53:40 ID:NFxNXQws0
-
――ぴん、と何かが響いた気がした。
('A`)「……?」
ぱりぃん。
(;´・ω・`)「んっ!?」
(;^ω^)「おっ!?」
('A`)「え……?」
唐突に響いたその音は、何だかとても澄んでいた。
振り返る。
目線の先に、誰かが。
川 )
あの、女の子、が。
川 - )
('A`)「あ――」
風景が、一気に白くなって、俺は意識を失った。
.
- 32 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:54:24 ID:NFxNXQws0
-
気付くと目を覚ましていた。
('A`)「……どう、して」
どうして彼女が。
伝わった? そんな馬鹿な。
何が、どうして、いつもは夜になると居なくなるのに。
学校でも彼女のことを考えながら過ごした。
何だか怒っているような、悲しんでいるような表情が気にかかった。
彼女に何があったんだろう。
川 ゚ -゚)「――――」
それから、彼女は一言だけ言う日が続いた。それもおそらく同じ言葉を言い、夜に溶けていく。
現実では彼女と同じ制服を探し、夢ではそれを見続ける生活を続けた。
- 33 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:55:09 ID:NFxNXQws0
-
そうして数日後の雨の日だった。
今日も駅前の繁華街に来て、制服を探す。
何人か見つかったが、彼女と思しき人は居なかった。
何をやっているんだろう。
夢だ。ただの夢じゃないと思っていたって、やはり夢なのだ。
('A`)「…………」
帰ろう。雨も強くなってきた。傘も忘れてきた。
.
- 34 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:55:59 ID:NFxNXQws0
-
「見つけた」
http://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/71.jpg
.
- 35 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 00:56:05 ID:4liafO3I0
- 支援
- 36 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:56:42 ID:NFxNXQws0
-
――声と、背中に細いものが当たる感覚がした。
「手を挙げろ」
いたずらめかした声。
みつけた、と言った時の嬉しそうな声。
ゆっくりと、半身を振り返る。
川 ゚ -゚)
彼女が、居た。
川 ゚ -゚)「ようやく、会えたな」
――ああ。
聴きたかった、声だ。
('A`)「……ああ……」
声が震える。
降りしきる雨の中、横断歩道の明るいメロディが響く中、彼女の声しか耳に入らない。
たくさんの傘が行き来するけど、彼女しか目に入らない。
ようやく、聴けた。
――会えた。
- 37 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:57:34 ID:NFxNXQws0
-
川 ゚ -゚)「おっと、点滅してる」
('A`)「ぅぉ、とあぶねっ」
彼女と並んで横断歩道を渡りきる。
知らぬ間にとっていた手に気付き、慌てて解いた。
川 ゚ -゚)
('A`)
じっと互いを見詰める。
川 ゚ -゚)「とりあえず喫茶店にでも入ろうか」
('A`)「あ、そ、そうだな、濡れてるから風邪ひいちゃうよ」
川 ゚ -゚)「君もずぶぬれだ」
小さく笑って、彼女は薄い赤紫の傘を開いた。
川 ゚ -゚)「ん」
彼女が傘をこちらに寄せる。
意図を察して少し迷ったが、素直に入ることにした。
- 38 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:58:19 ID:NFxNXQws0
-
二人で傘を差し、歩き出す。
川 ゚ -゚)「さて、何から喋ろうか」
楽しそうに、彼女は言う。
俺も少しだけ笑って答えた。
('A`)「喋る月と雲と、太陽と薔薇の話」
.
- 39 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 00:58:49 ID:YCBdCSckO
- おおお……!支援
- 40 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 00:59:05 ID:NFxNXQws0
-
ききたいようです('A`)
終
.
- 41 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 01:00:07 ID:NFxNXQws0
-
使用作品
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/26.jpg
(ラノベ祭り作品No.26)
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/71.jpg
(ラノベ祭り作品No.71)
ありがとうございました!
支援もありがとうございます、すげー嬉しい
投下報告行ってきます
- 42 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 01:01:59 ID:xODqH9EA0
- 乙ー
雰囲気が好きだ…
- 43 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 01:02:25 ID:4liafO3I0
- 乙
すごく好みの雰囲気
- 44 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 01:02:38 ID:EPLTTI7gO
- 乙!
なんかフワッときて本のページ捲る感じで良かった!
- 45 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 01:04:16 ID:YCBdCSckO
- 乙!
手紙が溜まるドクオ側とそれを見るクー側の雰囲気が凄く好みだわ
夢が無意味に終わらず少しずつドクオが変わっていっていた部分も好きだ
- 46 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 01:11:08 ID:NFxNXQws0
- どちらの絵も一目惚れしたのでどうしても書きたかったんです
皆さんも絵師さんも本当にありがとうございます
- 47 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 01:29:38 ID:CFgwHqlI0
- よかったー!
乙!
- 48 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 02:32:28 ID:l6scXqOE0
- 聞きたい様です
聞き太陽です
ということなのかな?
二人が出会ったところで
そこまで読んでて自分の中でたまってきた何かがはじける感じがしてよかった
- 49 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 02:51:11 ID:pU2GuZKQ0
- 2枚目の絵が出てきたときおお!ってなった
面白かった乙〜
- 50 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 07:05:15 ID:mbVDtG0Y0
- ほんわかした
乙!
- 51 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 08:54:43 ID:SQATX6Uw0
- 乙!
雰囲気がとても好き!
- 52 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:14:42 ID:yBCEQ15k0
- これはいい
乙
- 53 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:28:04 ID:zV8urS3.0
- うおー、面白かった・・・乙
- 54 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:23:10 ID:FkatnvjQ0
- №26を描いたものです!
こんな雰囲気の良いお話にしあげていただきありがとうございます!!
うわあああああああああ(´;ω;`)
- 55 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:46:37 ID:BXk4XTZg0
- トリもスレ立ても正直勢い
でも開き直って使うことにした
というわけでもう一本いきます
>>54
ありがとうございます!
お二人のおかげでこの話は書けました!
本当にありがとうございますうううううう!!ドゲザー
>>48
ネタバレ? になるのでちょっとスペース
最初の文字だけ漢字
- 56 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:47:47 ID:BXk4XTZg0
-
ある所に、白い小さな猫がおりました。
ですが毛並みは汚れ、灰色に見えます。
猫は、でぃという名でした。
∧ ∧
(#゚;;-゚)
でぃはいつも一匹ぼっちでした。
小さい頃から傷だらけで、人から石を投げられたり、猫からも遠巻きにされていたのです。
∧ ∧
...(#゚;;-゚)
∧∧
(,,゚Д゚)「おい、でぃだぞ」ヒソヒソ
∧ ∧
(*゚ー゚)「本当だわ。気味悪い」
∧ ∧
( ´∀`)「来ないで欲しいモナ……」
その為に傷は、ずっと治りませんでした。
- 57 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:48:32 ID:BXk4XTZg0
- ∧ ∧
(#゚;;-゚)ムシャムシャ
そんなある日のことです。
∧ ∧
( ・∀・)「よう」
∧ ∧
(#゚;;-゚)そ
影が、でぃに話しかけてきました。
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/158.png
∧ ∧
(#゚;;-゚)影色のあいつのようです
- 58 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:49:14 ID:BXk4XTZg0
-
∧ ∧
(#゚;;-゚)「……だぁれ?」
∧ ∧
( ・∀・)「オレはモララー。お前の影」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「もら……?」
∧ ∧
( ・∀・)「モララー」
影はにんまりと笑いながら言いました。
∧ ∧
( ・∀・)「お前の出来ないこと、オレがやってやるよ」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「できないこと? 本当?」
∧ ∧
( ・∀・)「ああ、本当さ。ちょっとオレに貸してみな」
みにょん、と影の尻尾が弧を描きます。
少しだけ考えて、でぃはこくりと頷きました。
すると、ふっと体が軽くなります。
『ほら、行くぜ』
頭の中で、モララーの声がしました。同時に、身体が勝手に動き出します。
たたっと軽快に足が走り、いつもは超えられない壁も簡単に超えていきます。
- 59 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:50:07 ID:BXk4XTZg0
-
∧ ∧
(#゚;;-゚)「わぁ……!」
『楽しいか?』
∧ ∧
(#゚;;-゚)「うん!」
『そいつは何より』
いつもは走れない所を走り、すり抜け、原っぱでようやくでぃの体は止まりました。
∧ ∧
(#゚;;-゚)「はあ、はあ」
∧ ∧
( ・∀・)「どうだった」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「すごかった……すごいね、もら!」
∧ ∧
( ・∀・)「モラって……まあいいや呼び方なんか」
どうせ、とモララーが呟きましたが、でぃは興奮していて聞こえていませんでした。
∧ ∧
( ・∀・)「こうやってお前にやれないこと、オレがやってやるよ」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「またしてくれるの?」
∧ ∧
( ・∀・)「ああ」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「約束だよ、もら」
∧ ∧
( ・∀・)「いいとも」
こうして、でぃはモララーに時々体を預けるようになりました。
ある時は走り、ある時は電車に忍び込み、ある時はおいしいものを掠め取ったり。
- 60 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:50:55 ID:BXk4XTZg0
-
∧ ∧
(#゚;;-゚)「ねえ、もらはずっといる?」
∧ ∧
( ・∀・)「……どうだろうな」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「……いなくなっちゃうの?」
∧ ∧
( ・∀・)「……さあ。オレはお前の影。お前の闇だから」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「…………」
そしてある時、モララーはでぃを高い木の上に連れて行きました。
でぃでは途中で落っこちてしまうような、高い木です。
天辺の枝で、二匹は星を見ました。
「きれいだね」とでぃが呟きます。「まあな」とモララーが返しました。
∧ ∧ ∧ ∧
(#゚;;-゚) ( ・∀・)
二匹は、じっと一緒に星空を眺めていました。
- 61 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:52:19 ID:BXk4XTZg0
-
ある日。
またでぃは、人に石を投げられました。
痛みを堪え、ねぐらまで歩きます。
∧ ∧ ∧∧ ∧ ∧
(*゚ー゚)(,,゚Д゚)( ´∀`)
また猫たちが口さがなく、でぃにヒソヒソ声を投げかけます。
「やだな」
「まただよ」
「何であいつ、居るんだろう」
∧ ∧
...(#゚;;-゚)
- 62 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:53:05 ID:BXk4XTZg0
-
そうしてでぃは、ねぐらに辿り着きました。
∧ ∧
( ・∀・)「なぁ」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「なぁに、もら」
∧ ∧
( ・∀・)「お前に出来ないこと、してやろうか」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「いっつもしてもらってるよ?」
∧ ∧
( ・∀・)「復讐、してやるよ」
にんまりと、笑ってモララーは、言いました。
∧ ∧
(#゚;;-゚)「ふくしゅ……う?」
∧ ∧
( ・∀・)「そうさ。あいつら、嫌いだろ。イヤだろ。オレが復讐してやる」
だから、貸せよ。
モララーは、囁きます。
でぃは、随分随分、考え込んでいました。
- 63 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:53:51 ID:BXk4XTZg0
-
∧ ∧
(#゚;;-゚)「してくれなくて、いいよ。でも、そうして」
∧ ∧
( ・∀・)「ん? どういう意味だ? 復讐しなくていいってことじゃないだろ?」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「ううん、しなくていい。でも、もらの好きして」
∧ ∧
( ・∀・)
∧ ∧
( ・∀・)「お前……意味、分かってる……?」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「たぶん。でもあたし、もらに触りたい」
∧ ∧
( ・∀・)「――……」
モララーは、入れ替わるつもりでした。
何度も体を借り、馴染ませ、やがて取って代わるつもりでした。
気付いてなんかいないと、思っていたのです。
でも、そんなことを言い出すなんて。
- 64 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:54:29 ID:OICFMv9o0
- 支援
- 65 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:54:39 ID:BXk4XTZg0
-
∧ ∧
(#゚;;-゚)「あげる、でもねもら、一つお願いがあるの」
∧ ∧
( ・∀・)「何だ、やっぱりか。人にか、あの猫どもにか、それとも――」
∧ ∧
(#゚;;-゚)「一緒にいてもいい?」
∧ ∧
( ・∀・)
∧ ∧
( ∀ )
∧ ∧
( ∀ )「……お前、……馬鹿だろ」
こくり、とでぃは小首を傾げます。
∧ ∧
⊂( ∀ )
それでもモララーは、手を伸ばします。
モララーは、でぃの心の闇。
付け入る隙があれば、手を出さずには居られない、『そういうもの』なのです。
- 66 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:55:19 ID:BXk4XTZg0
-
∧ ∧
(#゚;;-゚)「モララー」
∧ ∧
( ∀ ) ピクッ
∧ ∧
(#゚;;-゚)「あたしの目、みてて」
∧ ∧
( ∀ )
∧ ∧ ∧ ∧
(#゚;;-゚) ⊂(・∀・ )
∧ ∧ ∧ ∧
(#゚;;-゚)つ ⊂(・∀・ )
∧ ∧ ∧ ∧
(#゚;;-゚)つ⊂(・∀・ )
カッ
「でぃ」
.
- 67 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:56:03 ID:BXk4XTZg0
-
ある所に、白い猫がおりました。
その毛並みは美しく、つやつやとしています。
その猫は、好んで一匹でした。
他の猫たちは気になっていましたが、なかなか一緒には居られませんでした。
その猫には奇妙な癖がありました。
影を、優しく撫でるのです。
その影も、時折白い線が幾つか走っているように見えましたが、
美しい毛並みだったので、光の加減だろうと他の猫たちは思っていました。
そして、その猫は木の上で星を見上げます。
「綺麗だな」と呟いて。
おわり
.
- 68 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/19(月) 22:57:55 ID:BXk4XTZg0
- 使用作品
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/158.png
(ラノベ祭り作品No.158)
今回も絵師さん、支援、ありがとうございました
- 69 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 23:01:41 ID:xODqH9EA0
- 乙!
でぃが可愛かった
- 70 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 23:02:35 ID:SnGMI46Y0
- 乙乙
締め方いいなー すごい好きだ
- 71 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 23:11:00 ID:qaPd7KK60
- 乙
いいな
- 72 :名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 23:13:41 ID:OICFMv9o0
- 乙乙
雰囲気好き、すごく良い
- 73 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/20(火) 03:31:21 ID:SzqQ3cH20
- 明日早いのに眠れねぇ
という訳で短いのもう一本
- 74 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/20(火) 03:32:12 ID:SzqQ3cH20
-
『システムオールグリーン』
『了解、出まス』
音声を介すと、目の前の扉がごごごごと開いていク。
宇宙ダカラ、音なんてないケドネ!
ハハ ロ -ロ)ハ(こういうのは気分デス)
ハハ ロ -ロ)ハ(ヤマト、発進! とかやりたいじゃないデスカ。ワタシ操縦士じゃないケド)
ハハ ロ -ロ)ハ(この場合あれカナ。ハロー、いっきまース!)
開き切った扉カラ、ワタシは宇宙の海へ躍り出た。
ハハ ロ -ロ)ハ「Hello,Hello,――」のようです
.
- 75 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/20(火) 03:33:04 ID:SzqQ3cH20
-
近世、近代、現代と来て、時代は宇宙時代を迎えマシタ。
火星のテラフォーミング、月が人工衛星という事実発覚、それに伴う共有化、仮設化。
更にはワープ航法までという、マサに21世紀が想像した通りデス。
ワタシは、太陽系外に向かウ有人船の乗組員。
主に修復・維持を船外活動で行うノが仕事デスネ。
乗組員は多国籍だけれド、自動翻訳機があるから何の問題もナイ。
英語は慣習として習得が推奨されてイルけど、ワタシはバイリンガルだカラそちらも問題ナシ。
自動翻訳機がナイ時代を考えるとぞっとしちゃうネ!
ハハ ロ -ロ)ハ『船体の損傷箇所発見。損傷率軽微。すぐ直せマス』
『了解。そのまま船外活動を続けてくれ』
ハハ ロ -ロ)ハ『了解』
オペレーターと会話しながら、修復を続ける。
ウン、本当に簡単に直った。
ハハ ロ -ロ)ハ『直りましタ』
『早いな。時間はまだある、少しなら遊んでてもいいぞ』
ハハ*ロ -ロ)ハ『ホント? わーい』
極々かるーく船体を蹴る。
それだけで、ワタシの身体は宇宙へ放り出されテ行く。
緊急時の酸素ヤラ、ケーブルヤラ、命綱がゆるゆると伸びていク。
ワタシが着けてルのは、見た目は旧式だが、中身は最新にも匹敵する程メンテをされた宇宙服ダ。
操作性だってそうそう劣ったりシナイ。やっぱり差はあるケド。
それでも骨董趣味、懐古趣味の人間は好んデ身に着けル。
例えば、ワタシのようナ。
- 76 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/20(火) 03:33:50 ID:SzqQ3cH20
-
ぽんと宇宙に放り出されるト、視界の全てが星にナル。
上下の感覚など、トオに消え失せ、左右も――右手左手は分カルが、やっぱりナイ。
サテサテ、ワタシは本当にココに居るんでしょうかネ?
満天の星々は答えてなんてくれナイ。ツメタイ。あんなに光って温度を主張しているクセにィ。
だからちょっと歌ってミタ。
自動翻訳を一瞬だけ切って。
ハハ ロ -ロ)ハ「Hello,Hello,Can you hear me?」
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/131.png
『は? 何だ、どうした』
ウン、当たり前に返ってキタ。そうだよネ、オペレーター。
ハハ ロ -ロ)ハ『なァんでもナイよ、オペレーター』
『ふむ、そうか。そろそろ時間だ、戻れ』
ハハ ロ -ロ)ハ『了解』
- 77 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/20(火) 03:35:20 ID:SzqQ3cH20
-
命綱を掴み、静カに推進装置を稼働させル。
視界に、さっきまで修理をしていた船体が戻ってくる。
ちょっとホッとするのは、地に足をつけて生きてる人種なんだと思わされマス。
「I always hear you」
不意にオペレーターの声が響きマシタ。自動翻訳を切って。
優しく笑みを含んだ声デス。
アア、モウ、全く。
ハハ*ロ -ロ)ハ『アナタのそーいう所、好きですヨ』
『……それは、どーも』
彼は今、照れて無表情になっているコトだろウ。
容易に想像が出来テ、ワタシは笑ってしまう。
『だあああああ照れた仏頂面とかリア充してんじゃねええええええ!!!』
oh...切実なる響き。ドクオですネ。
『ちょ、おい叫ぶな』
『叫ばせてんのはてめえらのかっゆい会話のせいじゃああああああ』
『んな、おれは別にそんな、』
『うるせええええツンデレキャラはもう一人の船外士で十分足りてんだよおおお』
『ちょっとそれどういう意味よ!』
減圧室を抜け、ハッチに戻るとこんな会話が繰り広げられていましタ。
次のターゲットはツンのようデス。
オペレーターのミルナに船外記録のチップを渡し、そっと距離をとる。
そうすれば巻き込まれることナク、騒動を観察できる、いい位置をとれるノダ。
- 78 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/20(火) 03:36:42 ID:SzqQ3cH20
-
ジュースを手に取り観察モード。ミルナもどうやら抜け出したらしく、反対側で息をついていた。
まだ外にいる飛行士のツンと、オペレーターのブーン。総括するドクオ。
三人の会話を聞いてると、いつも思うのデス。
ドクオに幸あれ。
あ、ここは流暢に言いますヨ。
旧式の飛行服を片づけて、筋トレをして、休み時間。
ぎろりとした目と目があった。
ウウン、怖いですネェ。
ハハ ロ -ロ)ノシ
( -д- ) =3
ヤだ、ため息つかれちゃっター。ウフ。
あの上下左右、何もない空間で。
――私の声は、聞こえてますか?
機械にすがって生きている私たち。
いつだって、聞こえているよ――
返してくれる彼が、私の好きなトコ。
宇宙で、大切なコト。
もう一回いくかと筋トレを始めることにした。
愛しく、優しく、不器用な人の所に、また戻る為に。
終
- 79 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/20(火) 03:37:59 ID:SzqQ3cH20
- 使用作品
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/131.png
(ラノベ祭り作品No.131)
ありがとうございました!
- 80 :名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 03:42:34 ID:pjwdMBn.O
- おつー
- 81 :名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 06:20:31 ID:6B1S6CQ.0
- 素敵な終わりかただぁ
乙!
- 82 :名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 06:52:53 ID:JgeohJrM0
- お、いいなあ
乙
- 83 :名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 12:54:30 ID:av6yey7A0
- >>68
この絵を描いた者です
素敵なお話を描いて頂き本当にありがとうございました
昨夜寝る直前に見つけてベッドから転がり落ちました
もらでぃ!もらでぃ!
おそれながら表紙と挿絵追加して自サイトにてまとめさせて頂きました
ttp://konekotoissyo.web.fc2.com/matome/kageiro/kageiro.html
本当にありがとうございました!
でぃちゃんかわいくてによによが止まらないたすけて
- 84 :名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 13:25:02 ID:6kdlakiI0
- いい雰囲気の作品で読んでて楽しかったです
- 85 :名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 18:58:24 ID:frMDxuwM0
- 乙!
どの話もいいなあ、和む
- 86 :名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:39:56 ID:PWZpIGFM0
- No.131を描いた者です
こんな綺麗な話を書いて頂けて嬉しいです!
なんだか心が暖かくなる良い話でした本当にありがとうございました
他の作品も雰囲気が好きです
- 87 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/21(水) 04:17:34 ID:1utORqp.0
- >>83
>>86
ご本人たちから……!
こちらこそ、こちらこそ素敵な絵をありがとうございましたあああああ!!
おかげ様でとっても楽しく書いています
レスくれる皆さん、いつもありがとうございます
祭り終了まで、また時々覗いてくれると嬉しいです
- 88 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:01:30 ID:sc/F0tyI0
- 朝っぱらから目ぇ覚めた。ということで投下行きます
- 89 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:02:19 ID:sc/F0tyI0
-
風が吹いていた。
金髪の少女の髪を揺らし、黒髪の少年の頭を撫で、過ぎ去っていく。
( ^ω^)「行くお」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ」
金髪の少女は黒を基調とした、所謂ゴシックロリータの恰好をしている。
冷めた瞳と玲瓏な顔貌、金髪に、よく似合っていてまるで人形のようだった。
一方、ぽっちゃりした少年は、シンプルな黒の学生服に身を包んでいた。
鈍い金色のボタンだけが唯一おしゃれかもしれない。
二人はビルの屋上から飛び降りる。
――たんっ、と軽快な音を立てて、隣の屋上を少年は蹴った。その腕に少女を抱いたまま。
たんっ、たんっ、と音は続く。
幾つか飛び移った後、少年は壊れ物でも扱うかのように、優しく少女を降ろした。
ξ゚⊿゚)ξ「ん」
( ^ω^)「んーん」
ここら辺の筈だけど、と少年は呟いて辺りを見回す。
少女が肘で脇腹をつついた。
ξ゚⊿゚)ξ「あれ」
( ^ω^)「おっ」
(-@∀@)
キツい眼鏡をかけた、青年が居た。
一見普通に見える。が、普通ではない。
- 90 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:03:12 ID:sc/F0tyI0
-
(-@∀@)「……おや、どうしたんです? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」
だってこの屋上は、鍵がかかっているのだから。
ξ゚⊿゚)ξ「見つけたわ。あんたね」
( ^ω^)「観念するお。大人しくするなら痛くないお」
(-@∀@)
(-@∀@)「……なァんだァ。バレてたんだァ。
でもキミたち、誰さァ? 僕がわかるなんてェ」
ξ゚⊿゚)ξ「妖(あやかし)の便利屋兼退治屋」
(-@∀@)「ふゥん? かたっぽずつなら聞いたことあるけど、両方? へーえ」
ξ゚⊿゚)ξ「何がおかしいのよ」
(-@∀@)「だァってさ。珍しィのに聞いたことないもん。噂にならない、つまりさ、
――そォんな強くないんでしょォ?」
けたけたと眼鏡の男は笑う。
その身体から、黒いもやが湧きだしてきた。
( ^ω^)「乗っ取り系だおね」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、やれるでしょ?」
( ^ω^)「勿論だお」
(-@∀@)「――けきゃきゃきゃきゃ!!」
奇妙な笑い声をあげながら、男が飛びかかる。
ブーンと呼ばれた少年が、それを両腕を交差させて受け止める。
くるくると男は回って距離を取った。
- 91 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:04:44 ID:sc/F0tyI0
-
(-@∀@)「なーんだなんだ、意外とやるゥ」
( ^ω^)「最終通告だお。大人しく出てくなら、痛くしないお」
ξ゚⊿゚)ξ「……」フゥ
(-@∀@)「はン」
男は鼻で笑って、黒いもやを腕に纏わせる。
(-@∀@)「ばァか」
とん、と意外にも軽い音で男は空中に舞った。
ブーンは両腕を交差させたまま、一歩右足を引いた。
足のついた部分に、煙がかった白い光が発現する。それはブーンを取り巻くように、渦をなしていった。
鋭い風切り音と共に、男が黒を纏った腕を叩き付ける。
両腕で受け止めた。
受け止めたまま、左足をふんばり、右足を振り上げる。
(;-@∀@)「!? な、」
引こうとしても遅い。
光を纏った重い一撃が、脇腹にぶち当たった。
――吹っ飛ぶ。
( ^ω^)「……よっし」
( ∀ )「ぐっ……う」カラン
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、これ」
少女がブーンに人形を投げ渡す。顔も何もない、のっぺらとした小さなぬいぐるみだ。
それをブーンが男に近づけると、腕に纏わりついていた黒が、吸い込まれていく。
( ∀ )
( ∵)「!? えっええっえっ!?」
- 92 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:06:06 ID:sc/F0tyI0
-
( ^ω^)「ツン、出来たお」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。お疲れ様」
ツンと呼ばれた少女がブーンに近づき、手を伸ばす。
ブーンも人形を持った手を伸ばし、二人の手が球のように合わさった。
音もなく、人形は丸い球の中に封じられた。
( ∵)「!! 〜〜〜!!」
人形は何か叫んでいるようだが、口も動かなければ表情も動かない。
というよりも、身体全体が透明なガラスにでも固められたように、動かない。
それはまるで、綺麗な円を描いた琥珀ようでもあった。
ξ゚⊿゚)ξ「これを渡せば依頼達成ね」
( ^ω^)「だおね」
- 93 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:06:49 ID:sc/F0tyI0
-
ξ゚⊿゚)ξ「…………」トン、トン、トン
( ^ω^)「おっ、大丈夫だお、どこも変じゃないお」
ξ゚⊿゚)ξ「そんな訳にいかないでしょうが」
( ^ω^)「……んー」
ツンはブーンの関節や可動域に触れていた。
最後に胸元に手を当てる。甲に紋章のようなものが浮かび上がった。
ブーンが纏った光と同じものが溢れ、吸い込まれていった。
大丈夫ね、とツンは小さく呟いた。
ξ゚⊿゚)ξ「行きましょ」
( ^ω^)「うん」
彼と彼女は便利屋。
( ^ω^)「あ、そうだ」
( ∀ )「うー……ん。……あれ、ここ……どこ……?」
( ^ω^)「あのう」
( ∀ )そ「うっひゃい!?」
( ^ω^)「コンタクトの方がいいと思いますお。多分」
( ・∀・)「……へっ?」
そして、退治屋。
妖と人をつなぐ、一つの形。
.
- 94 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:07:37 ID:sc/F0tyI0
-
ξ゚⊿゚)ξこちら妖の便利屋兼退治屋のようです( ^ω^)
.
- 95 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:09:19 ID:sc/F0tyI0
- 繁華街の喫茶店の一席にて。
ツンとブーンは並んで座り、依頼人に説明をしていた。
ξ゚⊿゚)ξ「――という訳で、これがその妖です」
つ( ∵) シーン
(´・_ゝ・`)「ふむ、確かにそのようですね。では報酬を」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」
琥珀に閉じ込められた人形を渡し、代わりにツンは布製の袋を受け取る。
じゃらりと音がした。最初の予定よりも多いようだ、とツンは見当をつけた。
ξ゚⊿゚)ξ「少々多いようですが」
(´・_ゝ・`)「早かったですし、クーさんの紹介ですし。これからも何かあれば是非」
ξ゚⊿゚)ξ「そうですか。ではありがたく」
(´・_ゝ・`)「では、お先に」
依頼人が立ち上がり――そうだ、ともう一度座る。
ξ゚⊿゚)ξ「はい?」
(´・_ゝ・`)「ここらで人気のない所はありませんかね。
来る時も見つかりやしないかひやひやしてしまって」ヒソ
ξ゚⊿゚)ξ「それなら、二丁目の角から少し行った所が……」ヒソヒソ
(´・_ゝ・`)「どうも」
依頼人――妖が出て行って、ツンはテーブルのカフェオレに手をつけた。
まだ温かい。ぬるいのが嫌いなツンは、冷ましもせず一気に飲んだ。
- 96 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:10:00 ID:sc/F0tyI0
-
ξ-⊿-)ξ=3「ふうっ」
( ^ω^)「お疲れ様だお、ツン。僕、何も言えなくてごめんお……」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたが何を言うことあるのよ。あんた戦闘員でしょ」
( ^ω^)「そうだけど……あ、そうだツンの肩揉むお」
ξ゚⊿゚)ξ「いらない」
( ´ω`)ショブーン
ξ゚⊿゚)ξ「それより報酬確認したいわ」
ボックス席だが一応人目を伺い、ツンは報酬の袋を開けた。
青く半透明な石が、幾つかテーブルに零れる。
一つを光に透かし、じっと見詰めたツンは、一つ頷いた。
ξ゚⊿゚)ξ「いい石。これならいいもの作れそう」
( ^ω^)「それはよかったお」
にこにこ笑いながらブーンが石に触れる。ことりと音がした。
ξ-⊿-)ξ「……ほんと、暢気なんだから」ハァ
.
- 97 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:12:27 ID:sc/F0tyI0
-
ツンこと津出・コトーハ・ツンは、ブーンと二人で学生業を全うしながら、便利屋兼退治屋を営んでいる。
その経営は、主に妖からの依頼で成り立っている。
今回は人間にバレたくないのに迷惑をかけまくっている者を捕まえてくれ、とという依頼だった。
妖故に、人の金を持っているものは少ない。
だが、ツンとブーンがこの稼業を営むのに、金銭はあまり関係なかった。
というのも、二人とも、実家は金持ちなのである。
それ以上に、二人には共通の目的があった。
――金だけでは達成できない、目的が。
.
川 ゚ -゚)「やあ」
( ^ω^)「クーじゃないかお」
高校からの帰り道、人気の少ないいつもの道で、二人に声をかける者があった。
クーという名の、小さな妖だ。膝程までの高さで、全体的に水色の身体をしている。
およそ毛と呼べる物はなかったが、ふんわり盛り上がった頭部がちょうど髪のように見えた。
ξ゚⊿゚)ξ「この前は紹介ありがとう。また依頼? 配達?」
川 ゚ -゚)「両方だな」
( ^ω^)「お? 僕らに手紙かお?」
クーは妖の運び屋である。
何でも運ぶが、主に配達しているのが手紙であるせいで、配達屋・手紙屋と呼ばれることの方が多い。
今日も身体の割には大きい、肩掛けのかばんを持っている。
川 ゚ -゚)「配達の途中なんだが、君たちを見つけてな。
終わったら話がしたいんだ。雑貨屋にでも来てくれ」
( ^ω^)「ツン、今日の予定は……」
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。すぐ来る?」
川 ゚ -゚)「ああ。そんなに時間はかからないさ」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ待ってるわ」
川 ゚ -゚)「頼んだ。じゃあな」
クーがその場で一回転すると、ふっとその姿が掻き消えた。
- 98 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:14:00 ID:sc/F0tyI0
-
( ^ω^)「デルタさんの雑貨屋だおね」
ξ゚⊿゚)ξ「ついでに買い物するわ。収入もあったことだし」
( ^ω^)「僕も何か買うおー。……何かツンの好きなものとか」
ξ゚⊿゚)ξ「必要なものは経費で買うわよ」
( ´ω`)「……ツンのいじわる」
ξ゚⊿゚)ξつ< ゚ω゚)「ごめんなさいごめんなさい」
ギリギリ
ξ゚⊿゚)ξ「さて、いつもの空き地ね。開けて、ブーン」
( ^ω^)「任せるおー」
通学路を離れ、ビルとビルの隙間にある小さな空き地。
こじんまりとした社があって、何かが祀られていた。
ブーンはポケットから親指大の鍵を取り出す。息を吹きかけると、空中にそれを刺した。
途端、空間が歪み、扉が鍵の部分から揺らめいて現れ始めた。
その扉をくぐり抜けた先。
( "ゞ)「はーいこんにちわ☆皆のデルタお兄さんだよ(はーと」
きゅるん、と擬音付きでおっさんがキラッ☆ミをやっていた。
( ^ω^)「」
ξ゚⊿゚)ξ「」
- 99 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:15:05 ID:sc/F0tyI0
-
( "ゞ)「今日は皆にお知らせがあるよ! 何と、何と何と! 特別大サービス!
来てくれたお客さんにはお兄さんのブロマイド!!」
( "ゞ)「新商品も入荷してるからね☆」
( "ゞ)「なーんちゃって。さぁ、今日も一日頑張って――」
( "ゞ)
( ^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ
( "ゞ)「……いつから」
ξ゚⊿゚)ξ「……わりと最初から」
( "ゞ)
( "ゞ)「やあ、こんにちは。皆のデルタお兄さんだよー。いらっしゃい、ツン、ブーン」
( ^ω^)「そうだおね、こういう人だおね、デルタさん」
ξ゚⊿゚)ξ「もう何に納得してるのかも分からないわ」
- 100 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:17:08 ID:sc/F0tyI0
-
ツンが商品を見比べて考えている間、ブーンは店内を歩き回る。
骨董屋のような、それでいて新しいものもあるような、そんな雰囲気がブーンは好きだった。
( ^ω^)「……お?」
ふと、ブーンの足が止まる。
古い木の棚に、細い鎖が掛けてあった。
特別目立っているわけではない。
細工は細かいが少々古いくらいで、木の中に溶け込んですら見える。
( ^ω^)(でも何か、綺麗だお)
( "ゞ)「いい所に目をつけたねー」
( ^ω^)「ふおっ!? いつの間に!」
( "ゞ)「ツン悩んでるんだもん」
( ^ω^)「もんとか止めてくれってば、デルタさん」
( "ゞ)「ショック。再び」
大げさに胸を押さえ、それからすぐにデルタは鎖を指さした。
つくづく立ち直りが早いとブーンは思う。
( "ゞ)「取ってみな。気になってるんだろう?」
( ^ω^)「お……」
言われた通りだった。
鎖を手に取ると、魚提灯の波紋に照らされて、きらりと光る。
- 101 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:17:57 ID:sc/F0tyI0
-
( "ゞ)「どーだい、ツン」
ξ゚⊿゚)ξ「……ブーンにしては悪くないわ」
( ^ω^)「ふおおおっ!?」
( "ゞ)「じゃお買い上げってことで」
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
( "ゞ)「手にとったしいいじゃないか」
ξ゚⊿゚)ξ「それが目的かおっさん」
( "ゞ)「だからお兄さんて言ってよ」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたも単純な手に乗せられてんじゃないわよ」
(;^ω^)「ご、ごめんおツン。でも綺麗で」
まあまあ、と宥めるようにデルタが間に入る。
お前が言うなとばかりにツンが睨んだ。
( "ゞ)「でもま、縁てのはあるんだよ。そいつは、ブーンとツンに縁があった。
だからブーンを呼び止めたのさ」
( ^ω^)「縁……」
( "ゞ)「ツンもいいと思うもの、あの中にはなかったんだろう?」
ξ゚⊿゚)ξ「……まあ」
( "ゞ)「ものの声、って意味、ツンなら理解できるだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
そういうことさ、とデルタは笑う。
( ^ω^)(ものの、声)
確かにツンなら分かるだろう、とブーンは思った。
ツンは、人形師だから。
つくる者だから、分かるのだろう、と。
- 102 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:19:22 ID:sc/F0tyI0
-
川 ゚ -゚)「遅くなってすまない」
先日の報酬半分と適当な金で会計し終った時、クーがやって来た。
( ^ω^)「全然待ってないお」
( "ゞ)「そうそう、お陰でお買い物して貰ったしね」
ξ゚⊿゚)ξ「この悪徳商人」
川 ゚ -゚)「そうか……デルタに得をさせる気はなかったんだが。すまないな」
( "ゞ)「ねえ何で皆お兄さんに冷たいの?」
( ^ω^)「自業自得じゃないかお?」
( "ゞ)「ショック。三度」
デルタが大げさによろめいている間に、クーがカウンターに乗って荷物を置く。
クーの手が離れた瞬間、それは倍以上の大きさになった。
クーの大きさで運び屋をやっているのは、自分の大きさに物を変換できる、この能力の為だった。
川 ゚ -゚)「デルタ、受け取りにサイン」
( "ゞ)「はーい」
川 ゚ -゚)「では便利屋の二人。本題に入ろう」
ξ゚⊿゚)ξ「何かしら」
川 ゚ -゚)「最近、配達先で襲撃の話をよく聞く」
( ^ω^)「襲撃……?」
ξ゚⊿゚)ξ「物騒な話ね」
川 ゚ -゚)「そこで」
川 ゚ -゚)つ□「依頼書だ」
相変わらず端的すぎる、とツンは思いつつも、小さなサイズの手紙を受け取った。
しゅんと大きさを戻した手紙を開いて、ツンは眉を寄せる。
- 103 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:20:17 ID:sc/F0tyI0
-
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……高いわね、報酬」
( ^ω^)「……てことは、危ないのかお」
川 ゚ -゚)「だろうな。君たちならいけるだろう」
ξ゚⊿゚)ξ「簡単に言ってくれるわね。
どの被害者も切り裂かれて血を抜かれてる、なんて」
( "ゞ)「妖関連じゃわりと普通じゃないか?」
川 ゚ -゚)「だが飲んでるわけでもなく、儀式的なものも見つかってない。愉快犯なら尚、大変だ」
ξ゚⊿゚)ξ「……何で私たちなわけ?」
川 ゚ -゚)「君たちが優秀だからじゃないのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなに知れ渡ってるとは光栄ね?」
川 ゚ -゚)「ふむ。これは他の奴が零したことだが、……ああ、隠してたわけじゃないから睨むな」
クーは軽く肩を竦めると、二人を見上げて言った。
川 ゚ -゚)「妖力を感じない、んだとさ」
.
- 104 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:22:19 ID:sc/F0tyI0
-
結局二人は、依頼を受けることにした。
依頼書を受け取った時点で契約は成立したようなものだし、報酬もよかった。
質のいい報酬――例えば妖力の塊だとか、その地方の妖の作る名産とか――があれば、
ツンの作る人形の材料になる。そして――二人の目的にも、通じるかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ「場所は街外れ、手口は食事に出かけた所を襲撃、ワンパターン。
なら網を張るわ。いいわね」
( ^ω^)「オッケーだお」
そんな会話がなされて数日後。
妖力が溜まると噂の廃工場で、獲物は掛かった。
.
- 105 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:23:20 ID:sc/F0tyI0
-
「うわあああああ!!?」
ξ゚⊿゚)ξ「!」
( ^ω^)「ツン、先行くお!!」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、ちょっと! ……もう!」
ブーンがやや太い体に似合わず、素早く走って行く。
あの猪突猛進は、とツンは呟いて後を追った。
今までの手口からして、被害者は一撃では殺されない。
……様子をみるべきではないか、とツンは思ったのだが、ブーンはそう言ってられないようだ。
(;’e’)「なな、何だよ! 何もしてないのに何で……!」
ブーンが廃工場に飛び込んだ瞬間、風を裂く音と動揺する男の声が聞こえた。
瓜゚∀゚)「何にも? ふふ、ふふ、なあんにも、ね」
(;’e’)「う、うあ、わわ」
( ^ω^)「やめるお!!」
瓜゚∀゚)「……あら?」
居たのは、妖と見える男と、妖力を感じない――人間の、女だった。
(;’e’)「ひっ、また……!」
( ^ω^)「逃げるお!」
(;’e’)「え、え?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいから早く行きなさい」
巻き込まれても知らないんだから。
追いついたツンの言葉を聞いた途端、弾けるように男は逃げ出した。
入口まで行った所で、姿が消えた。この場は結界でも張られているようだ。
- 106 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:24:00 ID:sc/F0tyI0
-
瓜゚∀゚)「……なに? 貴方たち、邪魔するの?」
( ^ω^)「そうだお。こんな酷いこと、もうさせないお」
瓜゚∀゚)「酷くなんてないでしょお? 妖相手だもの。貴方たちには関係ないこと」
( ^ω^)「なっ」
ξ゚⊿゚)ξ「便利屋なのよね、私たち。依頼だから関係あるの」
瓜゚∀゚)「……便利屋?」
女は首を傾げたかと思うと、表情を一気に硬くした。
瓜゚ー゚)「……人間の癖に? 妖を助けるっていうの? しかも便利屋?」
瓜゚∀゚)「ふざけないでよね!!」
ごう、と風が唸ってとぐろを巻いた。
――次の瞬間、風がブーンに向かう。
ブーンは腕に光を纏わせ、振り払った。
( ^ω^)「いっ……切れた!?」
ξ゚⊿゚)ξ「かまいたち。厄介な能力ね。ていうか気づきなさい」
(;^ω^)「うっ……面目ない」
瓜゚∀゚)「かまいたちなんて妖の名前で呼ばないでくれるう!?
ていうか、ほんと腹立つ! 人間の癖に!!」
風刃が二人を襲う。ブーンはツンを抱えて飛びずさった。
- 107 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:25:06 ID:sc/F0tyI0
- かまいたち。妖の名でなければ、風による刃。
ツンが人形を作るように――それは、一種の能力だった。
( ^ω^)「何で妖を襲うんだお。何にもしてない妖まで!」
先ほどの男の言葉を思い出し、ブーンは叫ぶ。
ツンは実の所、興味はなかったが、動きが止まったのを見てそのままにした。
瓜゚ー゚)「妖なんてどいつもこいつも同じよ。
あたしの大切な人だって、何にもしてなかったのに、殺された。全身、血を抜かれてね」
瓜゚∀゚)「だから殺してやる。皆血を流せばいい」
( ^ω^)「それは八つ当たりだお。関係ない妖まで殺すのはおかしいお!」
瓜゚∀゚)「うるさいのよ」
風が女の身体を取り巻く。
ごうごうと音が鳴り――それは大きな竜巻を形作った。
ξ゚⊿゚)ξ(まずい、避けられない。問答なんかするんじゃなかった……!)
瓜゚∀゚)「おらああああ!!」
( ^ω^)「ツン!!」
女の叫びとブーンの叫びが重なる。
パイプや廃材が崩れる轟音と土煙。
.
- 108 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:26:06 ID:sc/F0tyI0
-
瓜゚∀゚)「あー……殺しちゃったかな。人殺すのは初めてかあ。
……ん?」
女の目前に居たのは。
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/134.png
血を流しながら、ツンを抱えたブーン。
その腕は、作り物の骨格が露わになっていた。
( ^ω^)「ツンは、僕が守る」
そしてこれは正しく、血を吐くような心の叫びだった。
.
- 109 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:27:32 ID:sc/F0tyI0
- 瓜゚∀゚)「……あんた、何それ」
だが女はそんなもの理解しない。しようとしない。
瓜゚∀゚)「何その腕。……はは、はははは、そう、そういうこと!」
ξ゚⊿゚)ξ「……何がおかしいのよ」
冷たくツンが問いかける。
女は激しく笑い続けた。
瓜゚∀゚)「あんた、人間じゃないんだ! 人間のふりした作り物なんだ!
――妖の仲間なんだ!!」
だから邪魔するんでしょ、と金切声が響く。
瓜゚∀゚)「化け物!!」
ξ ⊿ )ξ
(;^ω^)「っ……ツ、」
ξ ⊿ )ξ「ブーンは、ブーンよ」
僅かに声が震えているのを分かったのは、ブーンだけだった。
瓜゚∀゚)「はははははは!! じゃあ殺してもいいや!!
死になよ!! しになよ!!」
三度、風が渦巻く。
風を纏った腕が、真っ直ぐ向けられた。それは恐ろしい速度で二人に襲いかかるだろう。
( ^ω^)(絶対守る)
――思った瞬間には、もう、放たれていた。
.
- 110 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:28:32 ID:sc/F0tyI0
-
* * * * *
全ての始まりは、あの幼い日だった。
.
- 111 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:29:36 ID:sc/F0tyI0
-
小学校に上がる前のことだった。
私の父、津出・コトーハ・ワカッテマスに連れられて、大きな日本家屋に私はやって来た。
ハーフの父はこの国で結婚し、帰化していた。
父の家系は代々続く人形師であり、時に妖の依代となったりもしていた。
そして父はこの国である人物に出会い――その人形作りの技術を、より妖方面に特化させていた。
その人物の屋敷こそがここであった。
( <●><●>)「……つまり、ただのガラス玉こそが力を持つと」
( ФωФ)「そういうこともある、ということであるな」
この時の私は幼く、そんな事情も知らず、ただ退屈していた。
そして一人、当時も珍しかった和風の屋敷を探検し――疲れて、居眠りをした。
「……誰だお?」
そこで、出会ったのだ。
( ^ω^)A`)
ブーンと、ドクオに。
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/20.png
.
- 112 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:30:39 ID:sc/F0tyI0
-
ξ゚⊿゚)ξ「……だれ?」
(;^ω^)「えっ!? ぶ、ブーンはブーンだお」
ξ゚⊿゚)ξ「その小っちゃいのは?」
Σ('A`)
( ^ω^)「こっちはドクオだお。妖だお」
ξ゚⊿゚)ξ「あやかし……」
ドクオは、紫の身体に細い手足――そういえば、クーの身体と似ていた。
父から妖の話は聞いていたが、ドクオは私が初めて出会った妖だった。
( ^ω^)「それで……きみは?」
ξ゚⊿゚)ξ「あ……わたし、ツン」
(*^ω^)「ツン……か、かわいい……名前、だお」
ξ*゚⊿゚)ξ「えっ……」
そしてブーンは、初めてそんなことを言った人だった。
.
- 113 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:31:29 ID:sc/F0tyI0
-
ブーンの本名は内藤ホライゾンと言った。
だがそれを聞く頃には、すっかりブーンはブーンで馴染んでいた。
ブーンの両親は早くに亡くなっており、祖父である杉浦ロマネスクに引き取られたそうだ。
ロマネスクさんは人や物の魂を見たり、移動させたりする力を持っていた。
そのロマネクスさんこそが、父が教えを乞うた相手の一人であり、この屋敷の持ち主だと、後に知った。
('A( ^ω^)「ツン、どうしてここに居るんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「おとうさんが、連れてきたの。でも退屈だったから探検してたの」
('A( ^ω^)「探検! ブーンもまだ探検しきれてないお、一緒にいかないかお?」
ξ*゚⊿゚)ξ「いっしょ? ……うん、いいよ。ドクオは?」
Σ('A( ^ω^)「もう隠れなくったっていいじゃないかお……」
ξ゚⊿゚)ξ「……ドクオはわたしが嫌いなの?」
('A( ^ω^)「違うお、ドクオは怖がりなんだお」
('A`( ^ω^)
('A`)( ^ω^)
('A`)「……びっくりしたんだ。オレ、ドクオ。よろしく、ツン」
ξ゚ー゚)ξ「うん、よろしく」
ドクオはブーンの家に憑いている妖で、随分長いこと居るそうだ。
これも後に知ったこと。
私が、人形作りを父に教えて貰うようになってからのことだ。
――ドクオはその外見に似合わず、ブーンの家系に色々なことを教えてきたのだ。
魂を移動させる――今のブーンが使っているような、生命力を使う力も、ドクオの教えをアレンジした結果だった。
- 114 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:32:09 ID:sc/F0tyI0
-
ξ゚⊿゚)ξ「あっ、池」
( ^ω^)「こいがいるんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「ほんとだ!」
('A`)「ブーン、餌の時間じゃないの?」
( ^ω^)「あ、そうだったお! その為に来たんだったお!」
ξ゚ー゚)ξ「ブーンは、忘れっぽいね」
(;^ω^)「そっそれはツンに会ったから……!」
ξ゚ -゚)ξ「……わたしのせいなの?」
(;^ω^)「ち……ちがっう、お……」
ξ*゚⊿゚)ξ「よかった」
('A`)「……ブーン、もうそんな年になるんだね」
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^)そ
(;'A`)
ξ*゚⊿゚)ξ
(*^ω^)
('∀`)
その日、私とブーンとドクオは、友達になった。
.
- 115 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:33:17 ID:sc/F0tyI0
-
この頃のブーンは、小さかった。私より一つ下だったけど、それでもやっぱり小さかったと思う。
大きくなりだしたのは、小学校の中学年頃からだっただろうか。
ブーンの身体が大きくなってきた頃、私は既に、父から少しずつ教えを受けていた。
ブーンもドクオとロマネスクさんから教えを受け、私もまたそれを聞き、人形作りの練習をしていた。
妖を視たり、父の人形で迷う人の話を聞いて助けたり、そういったことにも触れていた。
ブーンも殆ど変らなかったようだ。
楽しかった。
優しいブーンは、成長しても変わらなかった。いつも、誰かを思い、私にも優しかった。
ドクオは、時々教えをくれて、普段は楽しそうに私たちと喋っていた。
やがてクーやデルタたちとも少しずつ親交をもつようになり――私の中で、妖は全く怖いものではなかった。
そしてそれが起こったのは、中学生になる直前だった。
.
- 116 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:34:27 ID:sc/F0tyI0
-
( ω )
ξ;⊿;)ξ「ブーン! ブーン!!」
(;'A`)「しっかりして、ブーン! ツン、落ち着いて!」
ξ;⊿;)ξ「やだよ、ブーン、死なないで、やだ、やだあああ」
妖に、ブーンは大怪我を負わされた。
屋敷から帰る途中、困った振りをした妖に。
私を送ってくれていた、ブーンが。
私たちを喰らおうとしていた妖に。
私が、不用意に近づいたせいで。私をかばって。
(;'A`)「!! 危ない!」
ξ;⊿;)ξ「!? ど……」
屋敷から、異変に気付いたドクオが来て、妖に致命傷を負わせた。
その最後の、仕返しの一撃。
またしても私は、かばわれた。
('A`;)「……二人とも、無事、だよね」
ξ;⊿;)ξ「ドクオ……そんな……身体が!」
('∀`;)「大丈夫……オレは、簡単に消えたり出来ないから。
心配、しないで」
ξ;⊿;)ξ「ドクオ……ブーン……やだよ!」
('∀`;)「……大丈夫。眠るだけ。
ツン、ブーンのこと……何とか、助けてやって、な……」
私の頭を撫でると――粒子状に、ドクオは消えていった。
残された私は、動揺した頭で必死に考えた。
ブーンを助けなきゃ。
私のせいだ。
助けなきゃ、助けなきゃ。
死なないで、お願い居なくならないで。
.
- 117 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:35:38 ID:sc/F0tyI0
-
ξ;⊿;)ξ「――っ!」
その時思い出した。
ξ*゚⊿゚)ξ『見て、初めて作ったの!!』
(*^ω^)『おお! 凄いお、これでツンは誰かを助けるんだおね!』
( )
私が作った『人形』が、ある。
ブーンに見せる為に持ってきた、人形。
( ^ω^)
(;^ω^)
(*^ω^)
ブーン。
大切な、大切な、ブーン。
大好きな、ブーン。
ξ ⊿ )ξ
ξ ⊿゚)ξ「ブーン」
散歩から帰ってきたロマネスクさんが来た時には、もう終わっていた。
.
- 118 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:36:23 ID:sc/F0tyI0
-
それから、ブーンは私を主人とした『人形』になった。
私がやったことは、死にかけのブーンの身体から魂を人形に移したこと。
人形は魂に合わせて性質を変える。姿も変える。
だから、見た目には何も変わらない。魂の、ブーンの年の認識によって年々成長すらする。
人格だって、勿論変わらない。
ただ、主従関係が、出来てしまった。
――そして彼には、魂の力を表に出す、戦闘力がついてしまった。
起動時、「ブーン」と呼びかけたが為に、彼はそれからずっと『ブーン』だ。
次に内藤ホライゾンに戻るのは、彼の本当の身体が癒え、戻った時だ。
( ^ω^)「ツン。助けてくれて、ありがとうだお」
私にそんなこと言って貰える資格はない。
( ^ω^)「ドクオのことは……お祖父ちゃんに聞いたお。
ドクオの性質に合った強い妖力を見つければ、目が覚めるかもしれないって」
じゃあ何としても見つけなきゃ。私のせいだ。
( ^ω^)「それに……ドクオなら、僕もどうにかできるかもしれないって」
ほんとう?
本当、なの?
それなら、必ず。
ドクオもブーンも、今度こそ本当に、私が助ける。
.
- 119 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:37:04 ID:sc/F0tyI0
-
そう思っていても、現実はそうじゃなかった。
.
- 120 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:37:54 ID:sc/F0tyI0
-
ブーンの本当の身体を維持する為の術式を維持する為の施設、お金、物品。
それらは大半を彼の祖父が出し、私の父が出してくれた。
そしてブーンと出来てしまった主従関係。
戦闘力のない私。
妖と交渉すれば危険は増える。必然的に、ブーンが戦うことになった。
私を守るとブーンは言う。
それは、主従関係のせいなんだろう。
彼の、優しさのせいなんだろう。
……私に出来るのは、彼のエネルギー源となり、メンテナンスをし――
便利屋兼退治屋として、人形に封じたりするだけ。
身体も人並み以上に動けるようになったし、少しの退魔くらいは何とかできる。
それでも、ブーンの力に頼らざるを得なかった。
ドクオの為に。
誰よりもブーンの為に、ブーンの力を、使う。
ξ゚⊿゚)ξ
涙は、あの瞬間までに搾り尽した。
私はそうして、進むしかない。
.
- 121 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:38:42 ID:sc/F0tyI0
-
* * * * *
ツンは、初めて会った時から可愛い人だった。
ξ゚⊿゚)ξ
赤い可愛いワンピース。
金色の髪。
ぱっちりとした目。
ξ*゚⊿゚)ξ
一目惚れだったと思う。
でも、一緒に過ごす内、どんどんその内面に惹かれていった。
見た目以上に可愛らしくて、一生懸命で。
ちょっぴりわがままだけど、それすら可愛い。
盲目かなと一時期悩んだ程に、僕は彼女が好きだ。
.
- 122 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:39:58 ID:sc/F0tyI0
-
ξ ⊿ )ξ
僕が人形の身体で目覚めた時、ツンの表情は抜け落ちていた。
ξ ⊿ )ξ「ごめんなさい。ごめんなさい、ブーン」
そして、謝った。
僕を助けてくれたのに。
どうしてだろうと思って、そしてすぐに辿り着いた。
彼女は、自分がドクオと僕を傷つけたと思っているのだ。
……確かにツンは妖に近づいた。
でもそれは、妖が困っているように見えたからだ。
優しい心からの出来事で、僕だって気付かなかった。
僕がこうなったのは、力もないのにツンを助けようとしたからだ。その結果だ。
だから感謝している。
ツンを助けられたこと。僕を助けてくれたこと。僕にたたかう力をくれたこと。
ツンはそれから、あまり笑わなくなった。
僕は前と変わらない態度でいた。そうすることで昔のように笑い合いたかった。
余計にツンを傷つけているのではと思い当った時、既に僕は態度を変えるなんて出来なかった。
そもそも、ツンに対する感情が変化していないのに、そんな真似が出来る程、僕は器用じゃない。
.
- 123 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:40:38 ID:sc/F0tyI0
-
ξ゚⊿゚)ξ「……私、便利屋をやろうと思うの」
ドクオを戻す可能性を、全て試したい。
ツンはそう言った。
昔から思っていた。もしかしてツンは、ドクオのことが好きなんじゃないか、と。
それが証明されたようで、僕は少し辛かった。
でも僕だって、ドクオにもう一度会いたい。
元の身体にだって、出来るなら戻りたい。何よりも、それがツンを笑わせることになってくれるなら。
そして、僕は嬉しかった。
ツンを守れる。
ツンの力を借りなければならないから、どうしてもツンを危険にさらしてしまうけど。
危険からは、僕が守る。
必ず、守る。
大切な、大好きな女の子を、守る。
.
- 124 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:41:26 ID:sc/F0tyI0
-
( ^ω^)「――守る!!」
.
- 125 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:42:35 ID:sc/F0tyI0
-
ツンを後ろに押しやって、手を前にかざした。
.
- 126 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:43:16 ID:sc/F0tyI0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!!」
ツンの叫びを聞いた瞬間。
――目の前に、青い壁が出来た。
.
- 127 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:44:25 ID:sc/F0tyI0
-
瓜゚∀゚)「……は?」
( ^ω^)「……これは……」
胸元が光っている。ツンとの関係を示す、ブースターでもある紋章と――あの青い石。
ξ゚⊿゚)ξ『はい』
( ^ω^)『お? これ、この前の報酬と鎖?』
ξ゚⊿゚)ξ『ええ。加工してみたの』
(*^ω^)『おー。カッコいいお。ありがとだお、ツン』
ξ゚⊿゚)ξ『あんたが余計な物手にとるからよ』
( ^ω^)『すまんお。……あれ、ツンその腕輪もしかして』
ξ ゚⊿)ξ『……余っただけ』
思い当った瞬間、僕は引きちぎるように石のペンダントを外し、前方にかざす。
細い鎖が石の周りに弧を描き、青い光を柔らかく纏う。
瓜;゚∀゚)「なっ……何よそれっ!」
女の人が次々に風刃を放って来る。
力を込めると、青い光が全てそれを防いでくれた。
.
- 128 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:45:28 ID:sc/F0tyI0
-
瓜#゚∀゚)「何よ……何よ何よ何よ! あんたたちばっかり!!
化け物のくせに!! 死ねよ!!」
ξ ⊿ )ξ「化け物じゃない」
ツンが、後ろから僕を抱えるようにだきついて来た。
腕輪と紋章が、光っている。
僕の胸元の紋章も、ペンダントも光っている。
青い光が溢れ出す。身体に力が満ちていく。
ξ ⊿ )ξ「ブーンの命も好きにさせない」
ツンの腕輪が僕のペンダントの隣に浮く。
僕は前を見据えた。
ξ#゚⊿゚)ξ「あんたなんかに、私のブーンをくれてやるもんですか!!」
女の人の全力の風刃を、青い光が薙ぎ払った。
.
- 129 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:47:05 ID:sc/F0tyI0
-
(*^ω^)♪
ξ゚⊿゚)ξ「苦労しただけあって、報酬はよかったわね。
……何にやついてるのよ」
(*^ω^)「んーん」
僕はここしばらく、最高に機嫌がいい。
ツンが言ってくれた。
『私のブーン』って。『私の』って!
……いや分かってる。多分、主従関係的な意味だ。
でも嬉しい。
ツンが、こういう形でわがままを発言するのは、本当に久しぶりだったから。
独占されているような気がして、もう堪らない。
ξ゚⊿゚)ξ「……まあいいけど」
あの後、気絶した女の人を拘束し、デルタさんに後処理を任せた。
正直、僕らにはこれ以上どうしようもない。
殺されないようにはしてあげるよ、とデルタさんは言ってくれた。料金は請求された。
きっと彼女は、何かの償いはすることになるんだろう。妖の規律に従って。
通学路の帰り道。
ふとツンが立ち止まった。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、ブーン」
( ^ω^)「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ-⊿-)ξ「……ううん、何でもない」
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/13.jpg
僕は、後ろを向いた。
ツンが今、何を考えているかは分からない。
でも、ツンが意地っ張りなことは知っている。
- 130 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:48:42 ID:sc/F0tyI0
-
あれから、ツンは笑わなくなっただけじゃない。
泣きもしなくなった。
昔は僕の前では泣いてくれていた。
でも、今はきっと、誰の前でも泣いていない。一人でも。
ツンはきっと、泣いちゃうと、辛くなるから。
……それは多分に、僕のせいでもある。
知っているけど、僕にできることは、ツンを守ることだけ。
ツンは今、どんな顔をしてるだろう。
別に今、泣きたいわけじゃないと思う。
ただ。
ただ、何かを言おうとしている。
それを、待つ。
「ブーン」
静かな声だった。
「守ってくれてありがとう」
( ^ω^)「……僕はいつだって、ツンを守るお」
「…………」
( ^ω^)「僕は、ツンが、……ツンを、守りたいんだお」
好きだとは、言えない。
……今は、困らせる。
ツンが振り返った。いつもの顔だ。
ξ゚⊿゚)ξ「……じゃ、もっと強くなってよね」
( ^ω^)「ん。任せとけお」
.
- 131 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:49:34 ID:sc/F0tyI0
-
少し寒い、冬の昼下がり。
僕らは、並んで家まで帰る。
いつか、昔のような日々を取り戻そう。
いつか。
例え砕けても、想いを伝えられる日を、掴み取ろう。
大切な人を隣に、僕はそう、思う。
終
.
- 132 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 04:51:10 ID:sc/F0tyI0
-
使用作品
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/134.png
(ラノベ祭り作品No.134)
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/20.png
(ラノベ祭り作品No.20)
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/13.jpg
(ラノベ祭り作品No.13)
今回もありがとうございました!
- 133 :名も無きAAのようです:2012/11/22(木) 08:57:22 ID:.dYWmB1k0
- きゃあああああああああ
俺の絵がこんな素敵な作品に!
ありがとう
乙
- 134 :名も無きAAのようです:2012/11/22(木) 11:17:34 ID:bq55juZQ0
- 敵側が純粋に憎らしいのは良作の証
これはもっと長く読みたくなるな、面白いほんとに
乙!
- 135 :名も無きAAのようです:2012/11/22(木) 19:29:42 ID:g.hjOCtM0
- 乙!
幸せになってほしい二人だ
- 136 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 19:55:53 ID:ruNBfO220
- 抜けがありました
>>99と>>100の間に、
( "ゞ)「それで今日は何にする?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいのあったら見せて。クーを待ってる間」
( "ゞ)「待ち合わせかー。ここは喫茶店じゃないんだけどなー」イジイジ
ξ゚⊿゚)ξ「おっさん止めろ」
( ^ω^)「止めてくれお、デルタさん」
( "ゞ)「おっさん言わない。あとブーンにまでつっこまれると何かショック」
雑貨屋デルタ。人と妖、どちらのものも置いてある、雑多な場所。妖と人の橋渡し的場所でもある。
店主はと言えば、変人(妖)と評判の妖である。
見た目は人だが、本人曰く本気を出すと目が変わるとのこと。
まあいいやとあっさり持ち直したデルタは、次々とカウンターに商品を出していく。
( "ゞ)「サロンのAA葦にー、ラウンジの半月に照らした春の夢、
ソーサク山の極楽鳥のパイロープとか、ショーセツ産の良質な天垂れ水銀もあるよ」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん……」
を、入れといて下さい……またやっちまった
- 137 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/22(木) 19:58:28 ID:ruNBfO220
- >>133
うおお……どれを描いてくれた方か分かりませんが、ありがとうございます!!
この作品が出来たのは皆さんの絵のおかげです
読者の皆さん、レスくれる皆さん、いつもありがとうございます
期間中もう一作くらい投下できたらいいな
- 138 :名も無きAAのようです:2012/11/22(木) 20:41:33 ID:.UzZnagU0
- 4作も投下とか超乙
ツンもブーンもドクオもみんな幸せになってほしい。
- 139 :名も無きAAのようです:2012/11/22(木) 22:50:24 ID:7Y/ZFV0k0
- ホントに書いてくれてありがとう
ロリツン
http://imepic.jp/20121122/818660
>>107より
http://imepic.jp/20121122/821140
次のやつも楽しみにしてる
- 140 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/23(金) 00:53:17 ID:LuO/hzm20
- >>139
一枚目の方ですか
光の速さで保存した
実は本スレにも1本投下してるので5本目でござんす
6本目も投下できたらいいな。いいな!
布団の上でごろごろしちゃう位、皆さんのレスが嬉しいです
↑うっかりこういうこと言っちゃう位です
- 141 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 03:52:30 ID:Wfq7V/u60
- 遅くなったけど乙
書いてくれてありがとうございました
ttp://imepic.jp/20121124/137240
- 142 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 12:21:24 ID:4scHyIT.0
- >>141
ツンもブーンも素敵だな
- 143 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 15:44:01 ID:Bmc.1xwM0
- >>141
あらきれい
ツン美人さんだなー
- 144 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:17:40 ID:y72MjMr20
- >>141
ありがとうございます!!
光の速さd(ry
いつもありがとうございます、投下開始
- 145 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:18:23 ID:y72MjMr20
-
その社には、六子(りくこ)さんが住むと言われている。
爪'ー`)y‐「あー……」
从 ゚∀从「何だよ変な声だして」
爪'ー`)y‐「いや、夏に扇風機の前であーってやるじゃん?
あの声出せねーかなーって」
爪'ー`)y‐:フォックス
いい加減な性格の狐神
(-_-)「そんなもん出してどうすんのさ……意味わかんない」
从 ゚∀从「こいつが馬鹿なのは今に始まったことじゃないけどさ」
从 ゚∀从:ハイン
すぱすぱ物を言う犬神
爪'ー`)y‐「馬鹿はねーだろ馬鹿は」
(-_-)「じゃあ阿呆でもいいよ」
(-_-):ヒッキー
ひきこもり体質の狸神
爪'ー`)y‐「おめーら最近さぁ、頓におれをバカにしてくるよな」
从 ゚∀从「バカにしてんじゃなくて、馬鹿だと思って見下してるだけだ」
爪#'ー`)y‐「尚悪いわ!! ヒッキーも一人でさり気なく戻ろうとしてんじゃねー!!」
(-_-)「めんどい……寝たい」
爪'ー`)y‐「ひきこもりめ」
(-_-)「大馬鹿阿呆よりマシだよ」
爪'ー`)y‐「酷くなってんじゃねーか」
- 146 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:19:03 ID:y72MjMr20
-
从 ゚∀从「でさあ、最近どうよ」
爪'ー`)y‐「あん? 何が?」
从 ゚∀从「手紙だよ、テガミ。お前ら叶えてるの?」
(-_-)「……ボクは0」
从 ゚∀从「うん予想済み」
爪'ー`)y‐「おれは1」
从 ゚∀从「何だ仕事してんな」
爪'ー`)y‐「おめーは?」
从 ゚∀从「1」
爪'ー`)y‐「……仕事ねーのってさ、いいことなのかな」
从 ゚∀从「……こうも暇だとな」
(-_-)(ずっとこのペースのままならいいのに)
- 147 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:20:20 ID:y72MjMr20
-
(-_-)爪'ー`)y‐从 ゚∀从神社の六子さんのようです
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/160.jpg
.
- 148 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 20:20:35 ID:G1IxTADI0
- 支援!
- 149 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:21:06 ID:y72MjMr20
-
六子さん。りくこさんと読む。
この小さな社に手紙を持っていくと、六子さんが叶えてくれるという。
恋から人生から呪いから、降霊まで幅広く。
種類によって、手紙の書き方や色が決まっているそうな。
しかしてその実態は、ひきこもりと煙中毒とゴーイングマイウェイの気まぐれ三柱である。
从 ゚∀从「しかし俺らもこの社に祀られてから長いな」
爪'ー`)y‐「だな。三柱も一気に祀るってすごくね? つかかなり小さくなっちまったよな、社」
从 ゚∀从「ところでさんはしらって言いにくいよな」
爪'ー`)y‐「んじゃ何て言やあいいんだよ。人じゃないし」
(-_-)「体とかでいいんじゃないの……匹とか」
爪'ー`)y‐「出自考えたらおかしかねーけど微妙。あと匹っつーとお前みたい」
从 ゚∀从「まあいいや何でも」
- 150 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:22:01 ID:y72MjMr20
-
* * * * *
( ‘∀‘) 「六子さん……」
川( ‘∀‘)「あたしが悪かったんです。呪いなんて……試してしまったから……」
川 ( ‘∀‘)「もうキュウリに埋もれて溺れてしまえなんて考えません!」
川д ( ‘∀‘)「だから、呪いを解いて下さい!!」
川д( ‘∀‘)つ□
川д( ‘∀‘)パンパンッ
つ;:⊂
川д川 ペリッ
ζζ
(‘∀‘; )三3
スタタタター...
川д川
川д川「あっ」
川д川「離れた!!」
.
- 151 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:22:44 ID:y72MjMr20
-
从 ゚∀从「封筒はなしで一回も折りたたんでない紙。中身は青いボールペン。
文句なしに解呪だな」
爪'ー`)y‐「ハインちゃん仕事はやーい」
从 ゚∀从「半分自動受付みたいなもんだろ。一応ここ神域だし」
爪'ー`)y‐「でもおれなら放置しちゃうかも。あ、でも可愛い子だったからやっぱやったかも」
(-_-)「フォックスは気まぐれすぎるね」
爪'ー`)y‐「最近の達成数0のお前に言われたかねー」
川д川「あの……貴方たちは……」
从 ゚∀从「ん? ああ、六子さんて呼ばれてる神様?」
(-_-)「何で疑問形なのさ……」
川д川「貴方たちが、私をあの子から引き離したの?」
从 ゚∀从「そうなるな。お、何だやるか?」
(-_-)「めんどいから止めてよ」
川;д川「ありがとおおおお!!!」
从 ゚∀从「……んん?」
- 152 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:23:59 ID:y72MjMr20
-
* * * * *
ξ゚⊿゚)ξテクテク
シクシク
ξ゚⊿゚)ξテクテク
シクシク
ξ゚⊿゚)ξ「……? 何だろう」
グスングスン
ξ゚⊿゚)ξ「あ、壁と電柱の間に……」
○ ヒックヒック
ξ゚⊿゚)ξ(……何か丸いのがいる)
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?」
○ !?
( ノAヽ)「ね、ねえもしかして、おいらが視える!?」ポンッ
ξ*゚⊿゚)ξ「うん。……わあ、ふにってしてる」
( ノAヽ)そ「お嬢ちゃんもおいらをいじめるノーネ!?」
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/98.png
- 153 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:24:44 ID:y72MjMr20
-
ξ゚⊿゚)ξ「あ、ごめんつい……あとお嬢ちゃんじゃないよ、もう六年生だもん」
( ノAヽ)「じゃあ……お嬢さん?」
ξ゚⊿゚)ξ「あんまし変わんない。ツンだよ」
( ノAヽ)「ツン。……ツンはいじめない?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
( ノAヽ)「ほんと?」
ξ゚⊿゚)ξ「本当。どうしてあんな所で挟まってたの? 名前は?」
( ノAヽ)「おいら、ノーネ。……実は、追われてたノーネ」
.
- 154 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 20:25:15 ID:LAV4uSxI0
- この絵すきだったわ
支援支援
- 155 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:25:46 ID:y72MjMr20
-
* * * * *
川д川「もうテレビから出てくるのも本から出るのも疲れたんです。だからお休みしてたんです。
そしたら今度はやり方間違ったエンジェル様的な降霊術ですよ!!」
川;д;川「もう疲れたんですぅぅぅ」サメザメ
从 ゚∀从「ああ、うん……お疲れ」
川д川「分かるわけないじゃないですか。
リコーダーから思念読んで、誰が好きか教えてくれとか、分かるわけないじゃないですか!」
爪'ー`)y‐「神様でも難しいわなー」
川д川「しかも『誰々さんですか』で合ってたら何々の曲吹いてとか知るわけないでしょおおお」
爪'ー`)y‐「最近のがきんちょは無茶ぶりしやがんなー」
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/150.jpg
川д川「しかも帰してくれないし。適当に答えたら呪ってくれって言うし」
爪'ー`)y‐「んでそれも方法間違ってて、本人に祟るしかなかったと。
ユーレイも大変だねー」
- 156 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:26:39 ID:y72MjMr20
-
从 ゚∀从「おいヒッキー、何帰ろうとしてんだ」
(-_-)「もう呪わなくてよくなったら、いいかなって……ボクそろそろひきこもる」
爪'ー`)y‐「ええー、おま、おれたちに押し付け――」
川д川「私もひきこもる!!」
(-_-)「え?」
爪'ー`)y‐「え?」
从 ゚∀从「え?」
川д川「もう嫌です! ひきこもってやる! 誰も呼び出さないでえええ!!」
(-_-)「え、ちょ、くっつかないで、のわあああ」
ヒュンッ
爪'ー`)y‐「…………」从 ゚∀从
爪'ー`)y‐「見事に吸い込まれたな」
从 ゚∀从「だな」
爪'ー`)y‐「……どうする?」
从 ゚∀从「……まあ、貞子が平穏取り戻したんならいいんじゃね?」
爪'ー`)y‐「…………ま、そーゆーことにしておくか」
从 ゚∀从「な!」
若干聞こえてくるヒッキーの声は、聞こえないことにしたフォックスとハインだった。
- 157 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:27:40 ID:y72MjMr20
-
* * * * *
ξ゚⊿゚)ξ「ふーん。お姉ちゃんを探しに来たら、変な人に会っちゃった、か」テクテク
( ノAヽ)「うん……怖かったノーネ」フワフワ
ξ゚⊿゚)ξ「よしよし。それで、その社に行くだけでいいの?」
( ノAヽ)「きっと六子さんなら助けてくれるノーネ。
……あっ」
ξ゚⊿゚)ξ「ん?」
( ;ノAヽ)「…………」
ξ゚⊿゚)ξ「……いいよ、遠慮しないで。
本当は私が人形でお姉さん呼べたらいいんだけど、まだ出来ないし……。
私が助けてあげられることなら、助けるよ」
( ノAヽ)「……じゃあ、もう一つだけお願いがあるノーネ」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
( ノAヽ)「手紙を書いて欲しいノーネ。おいらの手じゃ書けないノーネ……」
ξ゚⊿゚)ξ「いいよ。それでノーネが助かるんだもん」
( *ノAヽ)「ツン……!」ウルウル
- 158 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:28:56 ID:y72MjMr20
- ( ´∀ )「そこのお嬢ちゃん」
○=3 シュンッ
○ノξ゚⊿゚)ξ「……だれ?」
( ´∀ )「怪しい者ではないモナ。ちょっと、探し物をしてるモナ」
○ノξ゚⊿゚)ξ(……まさかノーネ?)
(( ノAヽ))(ここここの人なノーネ!!)
( ´∀ )「お嬢ちゃん、そのマリ……見せてくれるモナか」
ξ゚⊿゚)ξ「お嬢ちゃんじゃない、もう六年生」
( ´∀ )「失敬。レディ、では――」
ξ>⊿<)ξ「きゃー!!」
( ;´∀ )「!?」
ξ゚⊿゚)ξ「へんたーい! 小学生に手を出そうとする変態がいるー!!
誰か助けてー(棒」
( ;´∀ )「誤解モナ! 違うモナ!」
ξ゚⊿゚)ξ「犯人はいっつもそういうのよ! ろりこん!」
( ;´∀ )「冤罪の上、性癖まで付加されたぁー!」
ザワザワ エッ ドウシタ
( ´∀ )「まずい……!」
( ∀`; )フ三3 ピューン
ξ゚⊿゚)ξ+「ふ……悪は滅びる」
( ノAヽ)「つーん!! 凄い! ありがとなノーネ!!」
ξ*゚⊿゚)ξ「ふふ。ブーンに自慢してやろっと」
ξ゚⊿゚)ξ「さ、手紙書いて行こう」
( ノAヽ)「うん!」
ξ゚⊿゚)ξ(……あの人、何か後ろに見えたけど……気のせい、だよね?)
- 159 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:29:51 ID:y72MjMr20
-
* * * * *
川 ゚ -゚)「やあ、暇神たち」
从 ゚∀从「相変わらず繕うってことしねーよな、手紙屋」
川 ゚ -゚)「受け取りにサインくれ」
爪'ー`)y‐「どうせ殆ど受付やしねーのによー」
川 ゚ -゚)「手紙の行く末は知らん。頼まれたから運ぶだけだ」
从 ゚∀从「処分してくれてもいいのによ」
川 ゚ -゚)「受け取りにサイン」
爪'ー`)y‐「へぇい」
川 ゚ -゚)「ふむ、ではな」
- 160 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:30:39 ID:y72MjMr20
-
从 ゚∀从「マイペースな奴」ポイポイ
(-_-)「クーだしね」ポイポイ
爪'ー`)y‐「お前らもな」ポイポイ
川д川「手紙……読まないんですか?」
(-_-)「うん。どうせ書式守られてないし」
从 ゚∀从「つーか何で妖から手紙くんだよ。自分でどうにかしろよ」
爪'ー`)y‐「おれらが願い聞くのは、人が祀ってるからだしなー」
川д川「私も……ごめんなさい……」
(-_-)「貞子ちゃんは元人だし、あの子の書式も合ってたからいいんだよ」
爪'ー`)y‐(あれ、何かヒッキーが優しい)
从 ゚∀从「貞子『ちゃん』? お前、俺は呼び捨てなのに」
(-_-)「ハインちゃんとか気持ち悪い」
从 ゚∀从「同意はするが言葉は選べ」
- 161 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:31:22 ID:y72MjMr20
-
川д川「人のお願い、か……」
爪'ー`)y‐「貞子もお願い聞く側だもんなー。大変だよなー」
川д川「いえ、神様の方が……ヒッキーくんも、大変そう」
爪'ー`)y‐(あれ、ヒッキー限定?)
(-_-)「一応祀られてるからね」
从 ゚∀从「そうそう。お供えしてくれるし、ほら何かコケシとかあるし」
爪'ー`)y‐「ばーさまが持ってきたんだよなー。何でコケシなんだろ」
从 ゚∀从「かわいんだけど、何でだろうな」
(-_-)「……あー、もしかしてさ」
川д川「心当たりが?」
(-_-)「フォックスが人助けする度、『可愛い子好きだからいいよ』って……」
从 ゚∀从「……あー、つまりあれか。祟られちゃかなわんから、人身御供の代わりってか」
爪'ー`)y‐「え、おれのせい?」
- 162 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:32:06 ID:y72MjMr20
-
(-_-)「ところで貞子ちゃん、帰らなくていいの?」
川д川「あ、迷惑……ですよね、ごめんなさい」
(;-_-)「いやそうじゃなくて……その、単純に大丈夫かな、って」
川д川「……ここに居たら、呼び出されないし……居心地、いいし」
(-_-)「……そっか」
川д川「……仲のいい子はいるんですけど、もう少し……だけ、居たい、なって」
(-_-)「……うん」
爪'ー`)y‐(あれ、何この空気)
从 ゚∀从「ひゅう」
川;д川「あ、いえ、あ」
- 163 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:32:51 ID:y72MjMr20
-
ξ゚⊿゚)ξ「ここが六子さんの社?」
( ノAヽ)「うん」
爪'ー`)y‐「おや可愛い子」
ξ゚⊿゚)ξ「こんにちは。……六子さんて女の子じゃないの?」
从 ゚∀从「この三柱まとめてそういうのさ」
ξ゚⊿゚)ξ「へえ……」
(-_-)「……ていうか、見えるんだ」
爪'ー`)y‐「あ」从 ゚∀从川д川
( ノAヽ)「あ!!」
川д川「ああ!!」
( ノAヽ)「さだこお姉ちゃん!!」
川д川「ノーネ! どうしてここに?」
从 ゚∀从「え、知り合い?」
(-_-)「もしかして、仲のいい子って」
川д川「はい……この子です。弟みたいなもので」
ξ゚⊿゚)ξ「ノーネのお姉ちゃんもここに居たなんて……よかったね、ノーネ」
( ノAヽ)「うん! ツンが連れてきてくれたおかげなノーネ! ありがとなノーネ!」
- 164 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:33:55 ID:y72MjMr20
-
* * * * *
爪'ー`)y‐「なーる。面白い縁だねー」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。もうお姉ちゃんは見つかったけど、この手紙、一応渡しとくね」
爪'ー`)y‐「可愛い女の子の頼みならいつでも聞いちゃう」
从 ゚∀从「一回だけ折り畳んだ紙に、鉛筆書き。四隅に鳥居。書式もクリアだな」
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ。女の子は一人だし、全員で三人なのに、何で六子さんなの?」
从 ゚∀从「それはな」
(-_-)「狸。り」
从 ゚∀从「狗。く」
爪'ー`)y‐「狐。こ」
爪'ー`)y‐「ってわけ」
(-_-)「祀られた順番」
从 ゚∀从「まあいつの間にやらって感じだけど」
爪'ー`)y‐「だよなー。おれなんて適当に女の子助けてたらさー、こいつらと一緒に祀られてた」
从 ゚∀从「平和な奴。俺は祟ってたら」
爪'ー`)y‐「こえーこえー」
川д川「凄く、らしい……。この中だとヒッキーくんが、一番古いんですね……」
(-_-)「元々ボクのウチだし」
爪'ー`)y‐「縄張りから色んなモン排除してたら、
知らない間に水源守ってたり疫病防いだりしてて、祀られるようになったんだっけ?」
从 ゚∀从「ひきこもりはその頃からか」
( ノAヽ)「かみさまの事情って、意外と単純なノーネ……」
- 165 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:34:55 ID:y72MjMr20
-
* * * * *
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ私、行くね。ばいばい、ノーネ」
( ノAヽ)「ツン、本当にありがとなノーネ。元気でね」
川д川「ありがとうございました……」
ξ゚⊿゚)ξノシ
( ノAヽ)ノシ
从 ゚∀从「それにしても、人魂攫いたぁな……」
爪'ー`)y‐「物騒なもんだ。女の子ならまだ攫いたくなる気持ちも分かろうってもんだが」
从 ゚∀从「ほれコケシ」
爪'ー`)y‐「わーい、ってアホか」
(-_-)「やっぱり引きこもってるのが一番だよ」
从 ゚∀从「そらお前だけだ」
川д川「ノーネ、無事でよかった。ごめんね、私が帰ってこないから心配させて」
( ノAヽ)「お姉ちゃんが無事ならいいノーネ。ツンにも会えたし」
「ふふ……見つけたモナ」
爪'ー`)y‐「ん?」
.
- 166 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:35:54 ID:y72MjMr20
-
( ´∀`)
( ノAヽ)「ああっ、こ、この人!」gkbr
从 ゚∀从「こいつがそうなのか」
( ´∀`)「そこの幽霊のお嬢さん。確か女の子に憑いてたモナね」
川д川「えっ……ど、どうして」
<( ´∀`)「おや、それにさっきの人魂……ついてるモナ」
从 ゚∀从(いや、何か憑いてんのお前じゃね?)
(-_-)「……あんた」
爪'ー`)y‐「おいおい、おれたちの目の前でいい度胸してんじゃねー?」
<( ´∀`)「いやいや、何も悪い話じゃありませんモナよ?
モナはそこの幽霊と人魂を――」
(-_-)「悪党め、貞子ちゃんたちに手出しはさせない……!」
<_( ´∀`)「え、ちょ、神様って簡単に手は出せないんじゃ」
爪'ー`)y‐「ふははっ! ところがどっこい!!」
爪'ー`)y‐ □
『ノーネとノーネのお姉ちゃんを助けて下さい』
爪'ー`)y‐「ツンからの手紙があるのさー!!」
从 ゚∀从「書式ばっちり、人からの手紙、しかもまだ叶えられてない」
(-_-)「その願い、承る……!」
- 167 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:36:37 ID:y72MjMr20
-
ゴウッ
<_;( ;´∀`)「モナっ!? 風!? 何かぬるい!」
(-_-)「この神域(ボクのウチ)の力、舐めるなよぉぉぉぉ!!」
( ;´∀`)「モナああああああ!!」「わああああ」<_プー゚;)フ
从 ゚∀从「あ、俺たちの力とかじゃないんだ」
爪'ー`)y‐「流石ヒッキー、そこにシビれないあこがれない」
( ノAヽ)「すっ凄いノーネ!」
川д川(入口まで吹き飛ばされた……)
.
- 168 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:37:34 ID:y72MjMr20
-
* * * * *
( #)∀`)「すみませんでしたモナ」
<_プー゚)フ「あのすみませんでした」
爪'ー`)y‐「何だよ、人魂攫いじゃなかったのかよー」
从 ゚∀从「何か憑いてると思ったら協力者って」
( ノAヽ)「本当? さらわないノーネ?」ビクビク
川д*川「大丈夫よ。それに何かあっても……その、守って、くれるし……」
(*-_-)「……」
爪'ー`)y‐(うわああヒッキーのくせにいいい」
从 ゚∀从「出てる出てる」
( #)∀`)「あの本当……無理やりとかじゃなくて、このエクストみたく協力してくれないモナかと」
<_プー゚)フ「幽霊の人は祟りも出来るみたいで、丁度いいんじゃないかなーと、はい」
爪'ー`)y‐「お化け屋敷に本物使うって、馬鹿かおめーら」
( #)∀`)「リアリティでるモナ。それに噂になったら儲かるモナ」
从 ゚∀从「お前それ、ゾンビ映画で本物出せっつってるようなもんだろ。
ブードゥーか、アンブレラか?」
(-_-)「それに噂になったら普通、客足遠のくよ……」
( #)∀`)そ「ええ!? そうモナ!?」
<_プー゚)フ「マジかよ、てっきり心霊スポットみたいに盛況になるもんだと」
从 ゚∀从(馬鹿だ)
爪'ー`)y‐(アホがいる)
(-_-)(同レベル)
- 169 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:38:43 ID:y72MjMr20
-
川д川「……私もノーネも、協力しません。ノーネを怖がらせたし」
( #)∀`)「すみませんでしたモナ……」
<_プー゚)フ「ご迷惑おかけしました……」
( ノAヽ)「おいらは、お姉ちゃんたちが無事ならもういいノーネ」
川д川「……なら、私もいいです。……あの、皆さんありがとうございます」
(-_-)「……気にしないで。ボクのウチのことだし」
从 ゚∀从「久々にいい仕事したぜ」
爪'ー`)y‐「お礼はツンに言うといいさ」
( #)∀`)「それじゃあ、失礼しますモナ」
<_プー゚)フ「お化け屋敷できたら知らせにくるぜ」
从 ゚∀从「諦めないとか凄いな」
(-_-)「とっとと行って」
爪'ー`)y‐「もう迷惑かけんなよー」
( ノAヽ)ノシ
川д川ノシ
( #)∀`)ノシ
<_プー゚)ノシ
从 ゚∀从「友達みたいに去ってったな」
(-_-)「……貞子ちゃんもノーネも優しいね」
川д川「そんなことないです……フォックスさんやハインさん、ヒッキーくんが助けてくれたから……」
( ノAヽ)「ツンも」
川д川「またお礼、言わなきゃね」
( ノAヽ)「うん、いつかまた会いに行くノーネ」
.
- 170 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:39:40 ID:y72MjMr20
-
* * * * *
从 ゚∀从「あー……」
爪'ー`)y‐「何だよ変な声だして」
从 ゚∀从「まぁた暇だなって。貞子もノーネも帰ったし、手紙も相変わらず書式違うし」
爪'ー`)y‐「変な所きっちりしてるよなー、ハインは」
(-_-)「細かいんだよ……」
从 ゚∀从「何かある度ひきこもる奴に言われたかない」
川 ゚ -゚)「やあ、今日も暇してるな」
爪'ー`)y‐「おう。相変わらずストレートだな」
川 ゚ -゚)「受け取りにサインを」
从 ゚∀从「はいよ。ほんっとクーのトコで処分してくれたらいいのによ」
川 ゚ -゚)「ヒッキー、サイン」
爪'ー`)y‐「……ん? 何でヒッキーだけ?」
川 ゚ -゚)「六子さん宛てじゃないんだ」
(-_-)「……ありがと。代わりに、これ」
川 ゚ -゚)「承知した。ではまたな」
.
- 171 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:40:23 ID:y72MjMr20
-
(*-_-)「…………」
从 ゚∀从「お、もしかして!」
爪'ー`)y‐「文通かよひゅーひゅー。でも何でヒッキーなんだ、おれの方がかっこいいのにさー」
(-_-)「冗談やめてよ」
从 ゚∀从「お前らどっちもどっちだよ」
爪'ー`)y‐「安心しろ、おめーにゃそんな気ないから」
从 ゚∀从「あっても困るわ馬鹿野郎」
今日も、六子さんの社は平和のようです。
おわり。
.
- 172 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/24(土) 20:41:12 ID:y72MjMr20
-
使用作品
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/160.jpg
(ラノベ祭り作品No.160)
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/98.png
(ラノベ祭り作品No.99)
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/150.jpg
(ラノベ祭り作品No.150)
絵師さん、及び見てくれた皆さん、ありがとうございます!
- 173 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 20:43:54 ID:G1IxTADI0
- 乙乙
ヒッキー爆発しろ
- 174 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 21:35:11 ID:Pd08e3Ag0
- なるほど前のお話と同じ世界の話なのか
みんな可愛い
- 175 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 21:38:30 ID:Wfq7V/u60
- 乙っつ
近くに六子さんいないかなー
- 176 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 21:58:47 ID:9I.HcEuM0
- 乙!
- 177 :名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:43:42 ID:trkLQfGs0
- 160の絵を描いた者です
使ってくださってありがとうございました!
ヒッキーと貞子がうらやま 乙乙です
- 178 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 08:46:59 ID:SgNhdrNc0
- 乙
それぞれのキャラがいいな
- 179 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:42:05 ID:.p7.I0bo0
- >>177
こちらこそありがとうございます!
書いてて楽しかった!
それでは最後の作品投下します
- 180 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:42:48 ID:.p7.I0bo0
-
僕の、小さなひみつのせかい。
.
- 181 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:43:43 ID:.p7.I0bo0
-
( ><)種育てのようです
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/101.jpg
.
- 182 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:44:23 ID:.p7.I0bo0
-
ふんわりみかん色の、優しい空。
柔らかな地面を靴下で駆けて、僕はスーツのお姉さんに手を振ります。
( ><)「ぽぽさーん!」
(*‘ω‘ *)「おや、ビロード。いらっしゃいませっぽ」
( ><)「あっ、ツンちゃんも来てたんです!」
ξ//⊿゚)ξ コクリ
スーツのお姉さん、ぽぽさんの近くには、眼帯をした女の子、ツンちゃんも居ました。
( ><)「調子はどうですか?」
ξ//⊿゚)ξ「悪くないわ」
( ><)「よかったんです!」
( ><)「内藤くんも元気そうです」
( ^ω^) オッオッ
ξ//⊿゚)ξ「いっつも元気よ」
( ><)「ふふ、そうですね!」
ツンちゃんの頭の上には、白っぽいお餅のような生き物が乗っています。
この子は内藤くん。ツンちゃんが育てた『種』です。
.
- 183 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:45:18 ID:.p7.I0bo0
-
(*‘ω‘ *)「ビロード、今日はどうやって来たっぽ?」
( ><)「今日はドクオくんとクールちゃんと遊んでたんです。
二人が帰った後、眠っちゃったみたいなんです!」
(*‘ω‘ *)「それじゃ、晩御飯までに帰らないといけないっぽね」
( ><)「そうみたいです……でも、ここは時間がよく分からないからいいと思うんです」
ここに来る時、いつも僕は眠っています。眠らないと、来れないのです。
そして夜、普通に寝る時は来れません。居眠りしたり、お昼寝したりした時じゃないと来れないのです。
何でかはわかんないんです!
( ´∀`) モナー ( ・∀・) モラッ
(*゚ー゚) ニャー
( ><)「あ、モナーくんにモララーくん、しぃちゃん」
ぽぽさんたちと話していると、足元に白とオレンジ色とピンク色の生き物たちが寄ってきました。
この子たちもお餅のような身体ですが、耳のようなものがあるのが、内藤くんとは違います。
僕は直接会ったことはないのですが、ここの来ている誰が育てた『種』だそうです。
何度もここに来る内に、案内人のぽぽさんやよく会うツンちゃんだけでなく、他の人の『種』とも仲良くなりました。
『種』の皆は、話しかけると鳴いて返事をしてくれます。
触るとふにっとしてて、とっても気持ちいいのです。ただ、触らせてくれる人は限られているんです。
未だにしぃちゃんは、なかなか触らせてくれません。
とてとて、ぽぽさんと並んで僕は歩きます。ツンちゃんも今日の分は終わったのか、着いて来ます。
すぐに紫色の、大きなコーヒーカップが見えました。僕のお気に入りの場所です。
.
- 184 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:46:29 ID:.p7.I0bo0
-
( ><)「ワカくん! ギコくん!」
( <●><●>) ワカッテマス
(,,゚Д゚) ゴルァ
入口とテーブル付のコーヒーカップの隣。
白く、僕の胸程まであるぱっちり目の子と、小さく青い身体の子に僕は抱きつきました。
やっぱりワカくんとギコくんの触り心地が一番です。
ワカくんとギコくんは、僕が育てた『種』なのです。
(*‘ω‘ *)「ビロードはワカとギコが大好きっぽね」
( ><)「はいなんです! ツンちゃんが内藤くんを好きなのと同じです!」
ξ//⊿゚)ξ「べべべ別に私はすすすすす好きとかじゃなくて、ただ私の育てた『種』だかららら」
( ><)「いつも通りの動揺っぷりなんです」
(*‘ω‘ *)「眼帯で表情分かりづらいけど、分かりやすいっぽ……」
相変わらず慣れないっぽねぇ、とぽぽさんは優しく笑います。
ツンちゃんはぷいとそっぽを向いてしまいました。
僕も笑っていましたが、コーヒーカップの傍に目がいきました。
从'ー'从 アレレ〜?
( ><)「ナベちゃん! 随分おっきくなったんです!」
(*‘ω‘ *)「もう『お話』も出来るようになったっぽ。もうすぐ動けるようになるっぽね」
( *><)「凄いんです! 聴かせて貰えますか?」
(*‘ω‘ *)「いいと思うっぽ。ね、渡辺?」
从'ー'从 コクコク
ナベちゃん、渡辺さんも他の人が育てている『種』です。
このコーヒーカップをお気に入りの人が僕以外にも居るみたいで、モララーくんの色に似た花も、
ナベちゃんの隣にあります。
ちなみにツンちゃんのお気に入りはゴーカートのような所です。
.
- 185 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:47:23 ID:.p7.I0bo0
-
(*‘ω‘ *)「さ、渡辺、お話してっぽ。この案内人と、種育てのビロードと、ツンに」
从'ー'从「うん」
ナベちゃんはにっこり笑います。
『種』は大きくなると『お話』をしてくれます。その時だけは、流れるように喋ってくれるのです。
僕も初めて育てたワカくんが『お話』してくれた時、とっても嬉しかったのです。
从'ー'从「どこか遠いところのお話だよ」
ナベちゃんは、話し始めました。
.
- 186 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:48:05 ID:.p7.I0bo0
-
――大昔、街がありました。
今は、廃墟です。
ひとりの女の子が、旅をしていました。
女の子は、街と森が好きでした。
(゚、゚トソン「よいしょ」
だから、種を蒔きました。
(゚、゚トソン「よいせ」
やがて、街は廃墟でなくなりました。
けれど、森でもありませんでした。
(゚、゚トソン
街と森が合わさって、廃墟でも森でもない、不思議な庭が出来ました。
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/189.jpg
樹に覆われた図書館、ビルの幹、沢山の緑と花と、コンクリート。
(゚、゚*トソン
女の子はにっこり笑うと、去っていきました。
いっせんねん。
女の子は満足して、また旅を続けてゆくのです。
.
- 187 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:49:04 ID:.p7.I0bo0
-
从'ー'从「終りだよ」
ナベちゃんが話し終わりました。
僕は拍手します。ツンちゃんとぽぽさんも拍手します。
ナベちゃんはもう一度笑いました。
他の『種』たちはそれぞれにカップの周りで遊んでいました。
ワカくんとギコくんは僕の近くでお話を聞いてくれています。
いつもどこか不思議なお話を『種』たちはしてくれます。
月夜のお話。雨の中のお話。猫たちのお話。
宇宙のお話。青い石のお話。神社のお話。
他にも、もっともっと。
お話してくれるのは、大きくなった時と『種』たちが気まぐれにその気になった時です。
( ><)「ありがとなんです」
从'ー'从 アレレ〜
(*‘ω‘ *)「またお話してくれる時を待ってるっぽ」
ξ//⊿゚)ξ「……待ってるわ」
(*‘ω‘ *)「さ、ビロード」
( ><)「あ、そうですね、始めましょう!」
ぽぽさんがコーヒーカップを示します。
芽の出た植木鉢をテーブルに置き、僕は座りました。
今、僕が育てている『種』です。
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- 188 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:50:22 ID:.p7.I0bo0
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(*‘ω‘ *)「さあ、種育てビロード、そのこころをこの案内人にみせて」
( ><)「はいなんです」
ぽぽさんのいつもの問いかけに答えると、ふんわりと身体が光ります。
(*‘ω‘ *)「種育てビロード、想いの動き、こころの成長、今ここに」
その光はぽぽさんの手の上に集まり、やがて輝く水になりました。
ぽぽさんが柔らかく手を傾けると、それに合わせて水が滴り落ちます。
ぽたりぽたりと。
( *><)
ξ//⊿゚)ξ
わくわくしている僕と、覗き込んでいるツンちゃんを見て、ぽぽさんはふふりと笑います。
その笑みが、僕は大好きです。
芽の出た植木鉢はみるみる水を吸い込んでゆき――完全に、水はなくなりました。
( ><)「今日も、元気に育って欲しいんです」
(*‘ω‘ *)「大丈夫っぽ。いい水だったっぽ」
水は、僕のこころ。僕の想い。
僕が成長した分だけ、水になるそうです。
といっても消費する訳じゃないそうですが、よくはわかんないです。
『種』は、僕たち種育てのこころで成長します。
ワカくんやギコくんのように植木鉢から離れられるようになると、水ではなく、直接僕たちから受け取るそうです。
だから『種』たちがしてくれる『お話』は、僕たちのこころで世界なのだとぽぽさんが言っていました。
内藤くんがしてくれた『お話』はツンちゃんのこころで世界、
ナベちゃんがしてくれた『お話』はナベちゃんを育てる人のこころで世界なのです。
何だかそれはとても、素敵なことのように、僕は思うのです。
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- 189 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:51:09 ID:.p7.I0bo0
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ふわん、とみかん色の景色が浮遊感を増しました。
( ><)「あ、目が覚めそうなんです」
(*‘ω‘ *)「みたいっぽね。ビロード、またおいでっぽ」
( ><)「はいなんです。ツンちゃんもバイバイなんです」
ξ//⊿゚)ξ「じゃあね」
手を振ると、ぽぽさんとツンちゃん、ワカくんやギコくんたち『種』も手を振りかえしてくれます。
ふと、ツンちゃんがこちらを見詰めました。
ξ//⊿゚)ξ「私ね。目、治すわ」
( ><)「え?」
ξ//⊿゚)ξ「いつかぽぽに話せるように。ビロードに会えた時、分かるように」
(*‘ω‘ *)「……ツン」
( ><)「ツンちゃん……! はいなんです! きっと会えるんです!」
会えるんです。
もう一度叫んだ時、僕はリビングのソファの上でした。
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- 190 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:52:00 ID:.p7.I0bo0
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僕の、小さなひみつのせかい。
ぽぽさんの居る、『種』たちの居る、種育ての居る、大事な世界。
おわり
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- 191 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/25(日) 20:54:06 ID:.p7.I0bo0
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使用作品
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/101.jpg
(ラノベ祭り作品No.102)
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/189.jpg
(ラノベ祭り作品No.189)
ありがとうございました!
これにてラノベ祭りの投下は最後と致します。
繰り返しですが、絵師の皆さん、読者の皆さんに、最大級の感謝を。
- 192 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 20:58:51 ID:mioQ14p60
- 乙
全部読んだよ
- 193 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 21:16:07 ID:3LEc4/iw0
- 乙!この雰囲気すごくすき もっとみたい
- 194 :名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:06:02 ID:VtqphOgk0
- 乙です
102の者です
このほのぼのした雰囲気が良く、(,,゚Д゚)も見え難い場所にいたのにちゃんと出してもらえて嬉しいです!
素敵な物語を有難うございました!!
- 195 : ◆v9sUzVr/7A:2012/11/26(月) 01:08:14 ID:cTqQK4rcO
- >>194
こちらこそありがとうございました!!
ほのぼのなのは絵のおかげです
- 196 :名も無きAAのようです:2012/12/04(火) 00:25:22 ID:.ch9XZRg0
- >>41
遅くなりましたが!絵を使ってくだすって!!ありがとうございました!!!
夢と現実が段々近付いて行く感じが凄く好きで、最後の方はもう必死に追いかけてました
そしたら自分の絵が出て来て本当に死ぬかと思った、興奮して
傘をあの色に塗って良かった
http://imepic.jp/20121204/007050
(ちなみに、川 ゚ -゚)の制服とか手紙の山とかそういうものはNo.26さんの素敵イラストをそのまんま参考にしています)
遅くなりましたが、沢山の素敵な作品面白かったです
乙でした
- 197 :名も無きAAのようです:2012/12/04(火) 00:26:03 ID:.ch9XZRg0
- 遅くなりましたがって二回も言っちゃったよ
- 198 :名も無きAAのようです:2012/12/04(火) 03:24:36 ID:77lvIPqc0
- おつ!
うめーなー
- 199 : ◆v9sUzVr/7A:2012/12/04(火) 19:00:46 ID:4ClFWpvkO
- >>196
うわああありがとうございます!!
傘の色はもう自分も気付いた時、にやにやしながら書いてました
一目惚れした絵師さんに描いて頂けるとは……本当に幸せです
sage状態ですが改めまして
絵師さん、レスしてくれた皆さん、そして読んでくれた皆さん
ありがとうございましたああああ!!
- 200 :名も無きAAのようです:2012/12/27(木) 18:27:21 ID:YESUdxgU0
- ログ送り前に目次
川 ゚ -゚)ききたいようです
>>1
(#゚;;-゚)影色のあいつのようです
>>56
>>
>>
- 201 :間違えた:2012/12/27(木) 18:40:42 ID:YESUdxgU0
-
川 ゚ -゚)ききたいようです
>>1
(#゚;;-゚)影色のあいつのようです
>>56
ハハ ロ -ロ)ハ「Hello,Hello,――」のようです
>>74
ξ゚⊿゚)ξこちら妖の便利屋兼退治屋のようです( ^ω^)
>>89
(-_-)爪'ー`)y‐从 ゚∀从神社の六子さんのようです
>>145
( ><)種育てのようです
>>180
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