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( ^ω^)ブーンの手に雀牌が馴染んでいくようです
1 ◆azwd/t2EpE:2012/09/01(土) 23:58:17 ID:vFBXtx6I0
「( ^ω^)ブーンの手に雀牌が馴染んでいくようです」のスレです。

2名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 23:59:50 ID:J0sWWoVYO
まさかのアナタw

3名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:00:44 ID:1y6aUdns0
よっしゃ支援

4名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:03:42 ID:jAOLmvpg0
ktkr

5名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:05:15 ID:06EmFJlg0
待ってました

6名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:05:36 ID:.qK5zOzU0
キチャー!!

7名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:07:11 ID:.G3y45ys0
うおおおおおおおお!

8 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:09:23 ID:iN94.SDg0
投下を始める前に、ちょっと後ろ向きで申し訳ないのですが、この作品に対する自分のスタンスを書かせていただこうと思います。

アルファの終盤もそうでしたが、昔ほどはブーン系に時間が取れなくなっており、
アルファを完結させた時点では「もう連載形式の投下は無理だろう」と思っていました。

一度作品を始めるからには、それをしっかりと完結まで書ききる。
それは、ポケモンの頃からずっと貫いてきたことで、自分のなかでは半ば義務化していた思いでした。

ただ、アルファを終わらせてからのしばらくで、ブーン系から少し距離を置いていた時間で考えたのは、
もっと気楽にブーン系に臨んでいいんじゃないかな、ということでした。

気楽に投下を始めていいし、気楽に投下を終わらせてもいい。
自分を制約で縛って、ブーン系を楽しめなくなるくらいなら、完結させようとしなくたっていい。
それくらいの思いを持つようになりました。

なので、この作品は完結させられるかどうか、自分でも分かりません。
投下の間隔も、きっと恐ろしいくらいに空きまくるんじゃないかと思います。
下手したら第一話だけの投下になり、続きを一切書かなくなるかもしれません。

ただ、「それでもいい」という方がいらっしゃるのであれば、
是非、読んでいただきたいと思う作品です。
一話一話の作品の出来に関しては、最善を尽くすことを誓います。

だいぶ前置きが長くなりましたが、投下を始めます。
よろしくお願いします。

9名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:11:04 ID:7bjVimxU0
こっちこそよろしくお願いしますなんだぜ!

10名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:11:25 ID:1y6aUdns0
>>8
むしろブーン系ってのは本来そうあるべき
どんとこい

11第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:13:12 ID:iN94.SDg0
【第1話:偽りの地平線】
 
 
 窓から射し込む夕日と、携帯電話のランプの色が混じっていた。
 そのせいで、初本は電話がかかってきていることに気づくのが遅れた。
 
 何度かコールされた後に初本は携帯電話を手に取り、発信者をはっきりと確認しないまま応答した。
 
(´・ω・`)「もしもし。あぁ、前田くんか。どうかしたのかい?」
 
 雀卓に置かれた雀牌の中から適当に掴んだ牌は、二筒だった。
 電話の向こうから届く低いトーンの声に意識を向けながら、初本は二筒を右手で弄ぶ。
 
 その手が、突如、ぴたりと止まった。
 
(´・ω・`)「え? ちょっと待ってよ、それは困るよ」
 
 いつの間にか二筒は手から離れ、初本の右手は雀卓を掴んでいた。
 僅かに生じた手汗が馴染んでいく。
 
(´・ω・`)「いや、そんな急に言われても、本当に困るんだよ。どうしても無理なのかい?」
 
 携帯電話を持つ手を左から右に替え、初本は左手の汗を拭った。
 同時に正方形の掛け時計に目をやる。短針が指し示す先は、少しずつ床の方向へと向かっていた。
 
(´・ω・`)「うーん、そうかぁ。まぁ、しょうがないと言えばしょうがない、かぁ。勉強のほうが大事だし」
 
(´・ω・`)「分かった、こっちは何とかするよ。まだ少し時間もあるし」
 
(´・ω・`)「あぁ、前田くんは気にしなくていいよ、全然。頑張ってね」
 
 小さく息を吐いて携帯を閉じた。
 心配をかけまいと気丈な言葉を口にしたものの、初本は内心、焦燥に駆られている。
 前田の代わりを務めてくれそうな人物を頭の中で探してみたが、誰もいないのだ。

12名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:16:27 ID:iN94.SDg0
 とにかく部員に報告しよう、と初本が思ったところで、部室の扉が開いた。
 
( ^Д^)「あれ? 初本さんだけっすか?」
 
(´・ω・`)「あぁ、他はまだ誰も来てないんだ」
 
 二年生の笑野が鞄を部室の隅に置く。
 その鞄からガムを取り出し、ひとつ口に放り込んだ。
 
( ^Д^)「みんな遅いっすね」
 
(´・ω・`)「椎名と伊藤はもうすぐ来ると思うよ。毒島は図書委員の仕事があるらしくて、ちょっと遅れるみたいだけど」
 
( ^Д^)「そうなんすか。あ、そうそう、ネットで面白い噂聞いて、初本さんに話そうと思ってたんすけど」
 
(´・ω・`)「いや、ちょっと待って。その前に大事な話がある。マズイことになったんだ」
 
( ^Д^)「え?」
 
(´・ω・`)「塾の模試の日と被ってることに気づいてなかったらしくてね、前田くんが県大会に出られなくなった」
 
(;^Д^)「ええええぇぇぇ!?」
 
(*゚ー゚)「どうかしたんですか?」
 
('、`*川「笑野さんが大声なんて、珍しい」
 
 部室の扉の開閉音は、笑野の声にかき消されていた。
 二人が気づかない間に、椎名と伊藤が部室に到着している。

13名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:16:56 ID:7bjVimxU0
前田くんは裏切られるのか……

14名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:19:15 ID:xK46Yhs20
期待

15名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:21:46 ID:iN94.SDg0
(;^Д^)「大変だ! 前田さんが県大会出れなくなっちまったんだよ!」
 
(;゚ー゚)「えー!」
 
('、`;川「え、じゃあウチの高校自体、県大会に出れないじゃないですか」
 
(´・ω・`)「このままだとそうだね、人数が足りてない」
 
 芽院高校の麻雀部は、現在五人しか在籍していない。
 県大会出場にあたって、最低でも選手は五人揃っていなければならないのだ。
 
(;^Д^)「こうなったら伊藤にも出てもらうしか」
 
('、`;川「アタシは無理ですよ。ゼッタイ親にバレますもん」
 
(´・ω・`)「そうだね、麻雀部に所属していることが親御さんに知られたら一大事だ」
 
 麻雀部には五人の部員がいるものの、選手として試合に出られるのは四人だった。
 そのため、帰宅部の前田に協力を仰ぎ、大会に参加するつもりでいたのだ。
 しかし、その予定が突如として崩れ去った。
 
(;゚ー゚)「じゃあ、他に出られそうな人を探さないと!」
 
('、`;川「県大会のエントリー締め切りは?」
 
(´・ω・`)「登録自体はもう済ませてある。ただ、大会の三日前の17時まではメンバーの変更が可能なんだ」
 
( ^Д^)「三日前?」
 
('、`;川「って、今日が三日前じゃないですか!」
 
(;゚ー゚)「しかもあと1時間くらいしかないですよ!」
 
(´・ω・`)「うん。これはダメかも分からんね」

16名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:23:19 ID:iN94.SDg0
(;^Д^)「いやいや、諦めるのはまだ早いっす! 麻雀のルールが分かるやつ、誰か一人くらいは!」
 
(´・ω・`)「でも、今週は色んな運動系の部活も大会があるみたいなんだよね」
 
('、`*川「そういや、アタシのクラスに一人だけ麻雀できるやつ居るんですけど、確か今週末は試合があるって言ってました」
 
(´・ω・`)「うん。だから前田くんみたいに帰宅部で麻雀打てる人は凄く貴重だったんだけど」
 
(;゚ー゚)「厳しいですね、かなり」
 
(´・ω・`)「正直お手上げだよ。もう少し時間があれば、何とかなったかもしれないけど」
 
( ^Д^)「いや! ちょっと待ってください!」
 
(´・ω・`)「ん?」
 
( ^Д^)「一か八か、俺がネットで聞いた噂に賭けてみません?」
 
 先ほど笑野が言いかけていたことを、初本は思い出した。
 面白い噂をネットで聞いたという。
 
( ^Д^)「まぁ、かなり不確実な話なんすけど」
 
(´・ω・`)「どういうこと?」
 
( ^Д^)「『ホライゾン』のこと、知ってるっすよね」
 
(*゚ー゚)「あ、聞いたことあります。すっごく強いネットの雀士ですよね」

17名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:24:11 ID:1y6aUdns0
前田……w

18名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:26:08 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「ネット界最強とも言われてるね。僕は対局したことないけど、プロに匹敵するとか」
 
( ^Д^)「その『ホライゾン』が、実はウチの高校にいるらしいんすよ」
 
(´・ω・`)「えっ? うそ、本当に?」
 
 突拍子のない笑野の言葉に、間の抜けた声を返した初本。
 半信半疑だった。
 
(´・ω・`)「知らなかったなぁ、そんな話」
 
( ^Д^)「まぁ、あくまで噂なんすけど」
 
(*゚ー゚)「でも本当だったら凄いですよね! 全国制覇も夢じゃないです!」
 
(´・ω・`)「うーん。ただ、真偽はともかくとして、『ホライゾン』を見つけられるのかどうか」
 
( ^Д^)「問題はそこなんすよねぇ」
 
('、`*川「そこまで麻雀が強いんだったら、とっくにウチに入部してるはずじゃ?」
 
(´・ω・`)「そうだね。でも入部してないってことは、入部したくない理由があるってことだ」
 
(;゚ー゚)「じゃあ、もし奇跡的に『ホライゾン』を見つけられたとしても、大会に参加してもらえないかもしれないってことですよね」
 
(´・ω・`)「うん、そうなるね。もし参加してくれたら、これほど心強いことはないんだけど」
 
( ^Д^)「厳しいかもしれないっすけど、とにかく探してみましょう! 大会の日だけなら参加OKかもしれませんし!」
 
('、`*川「確かに、普段はバイトとかで時間なくて入部できないだけかも」
 
(´・ω・`)「まぁ、ここに居ても進展しないのは確かだね。とりあえず部室から出よう」

19名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:28:16 ID:iN94.SDg0
( ^Д^)「まず図書室に行かないっすか? 毒島にも話したほうがいいでしょうし」
 
(´・ω・`)「あぁ、そうだね。それに、図書室で作業している図書委員に事情を話してみるのもいいかもしれない」
 
(*゚ー゚)「色んな知識を蓄えてる人が居そうだから、麻雀知ってる人も居るかも!」
 
 四人揃って麻雀部の部室を出た。
 波長の短い光が散乱し、廊下の窓からは朱色の光が射し込み始めている。
 
 麻雀部の部室からはかなり離れている図書室へと、足早に四人が向かった。
 廊下の人通りは少ない。帰宅部の生徒は帰宅済みで、部活に入っている生徒は部活動の真っ最中であるためだ。
 
(´・ω・`)(思ったより人が少ない。これは本当に急がないとまずいな)
 
 図書室の前に到着すると、初本は躊躇いなく扉を開けた。
 中は静かで、初本にとっての誤算は、図書委員が全く見当たらないことだった。
 
( ^Д^)「あれ? 誰もいないっすね」
 
(´・ω・`)「うん。毒島まで居ないのはちょっと変だ」
 
('、`*川「入れ違っちゃいましたかね」
 
(*゚ー゚)「電話してみます?」
 
('、`*川「あれ? 毒島の番号知ってんの?」

20第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:31:01 ID:iN94.SDg0
(*゚ー゚)「うん。ちょっと前に交換したんだ」
 
('、`*川「へー。毒島から言ってきたの?」
 
(;゚ー゚)「まさか。同じ麻雀部だし、いざというときに連絡取れたほうがいいよねって、私のほうから言ったの」
 
('、`*川「だよね。女の子に話しかけることもできない毒島が『番号教えて』なんて言えるわけないよね」
 
(;^Д^)「おいおい、あいつの女性恐怖症の話は今はどうでもいいだろ。まぁ連絡してみたほうが良さそうだけど」
 
(´・ω・`)「あれ? ちょっと待って」
 
 図書室へとゆっくり足を踏み入れた四人。
 その先頭に立つ初本が、図書室の隅へと視線を向けた。
 
(´・ω・`)「パソコンの前に、誰か座ってるね」
 
( ^Д^)「あ、本当っすね。見覚えはないっすけど」
 
 四人からは背中しか見えない状態でパソコンの前の椅子に腰掛ける男子生徒。
 どうやら図書室には彼しか居ないようだ、と初本は思った。
 
 そこで不意に、椎名が気づく。
 
(;゚ー゚)「あれ? あのパソコンで表示されてる画面って、もしかして」
 
(;^Д^)「お!? あれって『雀王道』の画面じゃねーか!?」
 
(´・ω・`)「えっ?」
 
 初本が瞠目する。
 そして確かに、パソコンのディスプレイには『雀王道』というネットの麻雀対局サイトが表示されていた。

21第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:33:26 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「本当だね。間違いなく『雀王道』だ」
 
( ^Д^)「『ホライゾン』が最近活動してるのも『雀王道』っすよ!」
 
(*゚ー゚)「え、じゃああの人が『ホライゾン』なんですか!?」
 
( ^Д^)「可能性は高い!」
 
('、`;川「うーん? 待って待って、ちょっと話が上手くいきすぎてるような?」
 
(´・ω・`)「うん。いくらなんでも、こんなに美味しい話あるのかなって気はする。ただの偶然じゃないかな」
 
( ^Д^)「仮にそうだとしても、『雀王道』を見てるってことは、麻雀がプレイできるってことっすよ!」
 
(´・ω・`)「それは確かにそうだ。実力は分かんないけど、ルールが分かってるってだけでも大歓迎だ」
 
 もし本物の『ホライゾン』ならば、麻雀部にとっては大きな助けとなる。
 仮に違っても、決して麻雀が上手いとは言えなかった前田の代わりとしては文句なしだろう。
 初本はそう考えたが、ひとつ、障壁があった。
 
(´・ω・`)「ただ、学校のパソコンで『雀王道』にアクセスするくらいの麻雀好きなら、普通は麻雀部に入りそうなもんだけど」
 
('、`*川「さっきも懸念してたことですよね」
 
( ^Д^)「うーん。あいつの名前が分かれば、勝手に大会の登録しちゃっても良さそうなんすけど」
 
(*゚ー゚)「でも、あの人も週末に予定があったりしたら、もうアウトですよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。それにできれば、あんまり強引なことはしたくないな」

22第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:37:06 ID:iN94.SDg0
('、`*川「って言っても、締め切りまであと30分くらいしかないですよ。説得してる時間あります?」
 
(´・ω・`)「うーん、微妙だね。メンバー変更の申し込みの手間を考えると、実際にはあと十五分ぐらいだし」
 
(;^Д^)「名前と土日の予定だけ確認して、こっそりやっちゃいましょうよ。終わってからみんなで土下座っす」
 
(´・ω・`)「ただ、そんなの理由なくいきなり聞いたら変だし」
 
( ^Д^)「じゃあ、こうしましょう!」
 
(´・ω・`)「?」
 
( ^Д^)「椎名! 出番だ!」
 
(;゚ー゚)「え!? なんで私!?」
 
 時計の針は既に16時35分を指している。
 時間的な余裕は、ほとんどなくなってきていた。
 
( ^Д^)「逆ナンパ作戦だ! 『土日一緒に遊ぼう』って誘うんだ!」
 
(;゚ー゚)「えー!!」
 
('、`*川「おぉ、なるほど。それなら名前と土日の予定がスムーズに確認できますね」
 
( ^Д^)「モデルをやってる椎名が誘えば楽勝だろ! 誘いに乗らない男はいない!」
 
(;゚ー゚)「いや、どうなんでしょう? 普通にたくさん居るんじゃないかなぁ」
 
(´・ω・`)「作戦としては良いかもしれないけど、さ。椎名は、そういうのが一番イヤなんじゃないの?」
 
(;^Д^)「あっ! そ、そうか」

23名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:37:44 ID:7Gw26gGc0
期待

24第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:38:59 ID:iN94.SDg0
 幼い頃から多くの雑誌でモデルを務めてきたとあって、椎名の顔とスタイルは学校内でも群を抜いている。
 確かに笑野が言うように、誘いに乗らない男はいない、と初本も考えていた。
 
 ただ、入部の経緯と椎名の心情を考えれば、作戦に頷くことはできない。
 それが部長として、親心にも近い思いを持って、初本が感じたことだった。
 
 しかし椎名は、初本が予想しなかった言葉を口にする。
 
(*゚ー゚)「初本さん、大丈夫です。やってみます」
 
(´・ω・`)「えっ?」
 
(;^Д^)「いいのか?」
 
(*゚ー゚)「はい。それくらいは平気ですから」
 
(´・ω・`)「無理しなくてもいいんだよ、椎名」
 
(*゚ー゚)「いつも優しくしてくれるみんなへの恩を、これで少しでも返せるなら、そのことのほうが嬉しいです」
 
 椎名の頬の赤らみは、夕日を受けて一層深まっていた。
 
(;゚ー゚)「それに『モデル』に関しては普段から笑野さんが散々イジってますよね」
 
(;^Д^)「まぁ、そうだけど」
 
(*゚ー゚)「あれでだいぶ慣れた感じもしますし、大丈夫です!」
 
(´・ω・`)「よし。椎名がここまで覚悟してくれてるなら、思い切ってやっちゃおう」
 
('、`*川「おぉ!」

25名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:40:40 ID:1y6aUdns0
プギャーいいキャラしてる

26第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:41:20 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「まぁ、結果的には彼を騙すことになるわけだから、あとで全力で謝ろう」
 
(;^Д^)「そうっすね、土下座っす」
 
(;゚ー゚)「むしろ私の誘いに乗ってくれるかどうかが心配です」
 
(´・ω・`)「そこは大丈夫だと思うよ、さすがに」
 
(;゚ー゚)「だといいんですけど、うーん」
 
(´・ω・`)「もうほとんど時間がない。悪いけど、急いで行ってくれ、椎名」
 
(*゚ー゚)「はい!」
 
 一度大きく息を吸い、ゆっくり吐いてから歩き出した椎名。
 パソコンの前に座る人物へ、少しずつ近づいていく。
 
 近づくにつれ、椎名はとあることに気づいた。
 先ほどから、ディスプレイに全く動きがないのだ。
 どうやらパソコンがフリーズしてしまったらしい。
 
(;゚ー゚)(んー? 気にしなくていいかな?)
 
 理由のない不安に駆られつつ、時間がないことを即座に思い出して、椎名は手を伸ばす。
 そして、男子生徒の肩に触れた。
 
 振り向いた顔は、柔和な笑みを浮かべていた。
 
(*゚ー゚)「あの、初めまして」
 
( ^ω^)「お?」
 
 優しげな声を聞いて、椎名は安堵を覚える。
 初対面の相手を威嚇するような人ではない、と判断できたためだ。

27名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:41:20 ID:mtg.ndnA0
支援!

28第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:43:57 ID:iN94.SDg0
( ^ω^)「どうかしましたかお?」
 
(*゚ー゚)「えっと、突然ですみません」
 
( ^ω^)「?」
 
(*゚ー゚)「あの、今度の土日って、予定空いてますか?」
 
 椎名は、自分の声が微かに震えていることに気づいた。
 自分から誰かに誘いの言葉をかけたことなど、今までの人生で一度もなかったためだ。
 
(;^ω^)「お? なんでそんなことを聞くんですお?」
 
(*゚ー゚)「その、よかったら、どこか一緒に遊びに行きませんか?」
 
(;^ω^)「おっ!?」
 
(*゚ー゚)「私、予定が空いてて。もし予定がなければ、私と一緒に、どうですか?」
 
 まず、この時点で椎名にとっての幸運が一つあった。
 彼が顔写真入りの生徒証を、キーボードの横に置いていたのだ。
 そこには名前もはっきりと記されている。
 
 内藤文和。
 椎名と同学年の、一年生だった。
 
(*゚ー゚)(あとは土日の予定さえ分かれば!)
 
 名前の確認よりは容易い。
 ただ、同時に椎名は嫌な予感も感じ取っていた。
 それは、話しかける前に懸念したことでもあった。

29第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:46:20 ID:iN94.SDg0
(;^ω^)「なんでですお? 唐突すぎて訳分かんないですお」
 
(;゚ー゚)「そんなに深い理由はないの。何となくっていうか」
 
(;^ω^)「もっと他にたくさん人がいるはずですお。僕じゃなくてもいいはずですお」
 
(;゚ー゚)(意外と用心深い人だ!)
 
 誘いに乗ってくれるかどうか、分からない。
 笑野が最初に提案した時点から、椎名はそう思っていた。
 初本と笑野は心配していなかったが、椎名の懸念した事態が起きてしまっている。
 
(;゚ー゚)「ダ、ダメかな? なんか予定ある?」
 
(;^ω^)「予定はありませんお。でも、なんだか凄く怪しいですお」
 
(*゚ー゚)「!!」
 
 人生で初めて『怪しい』と言われたことも、椎名は気にならなかった。
 土日の予定はない。内藤ははっきりとそう言ったのだ。
 
(*゚ー゚)「予定ないんだね! 良かった!」
 
(;^ω^)「で、でも」
 
(*゚ー゚)「ありがとう! 後でまた戻ってくるから、ちょっとだけ待ってて!」
 
 椎名はすぐ内藤に背中を向けて駆け出した。
 その椎名の表情を見ただけで、他の三人が成功を確信する。

30名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:47:49 ID:1y6aUdns0
意外とってww

31第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:49:10 ID:iN94.SDg0
(*゚ー゚)「内藤くんです! フルネームは、内藤文和!」
 
(´・ω・`)「漢字は!?」
 
(*゚ー゚)「内藤は普通の『内藤』で、『文学』の文に、『天和』の和です! 一年生です!」
 
(´・ω・`)「よし! 内藤くんには悪いけど、無理やり登録してくるよ!」
 
(*゚ー゚)「はい! お願いします!」
 
 大急ぎで部室で向かう初本の背中を、三人が見送る。
 椎名が安堵の息を吐いた。
 
( ^Д^)「よくやってくれた! さすがだな!」
 
(;゚ー゚)「乗ってきませんでしたけどね! 全然!」
 
('、`;川「え、マジ? 断られたの?」
 
(;゚ー゚)「はっきりと断られたわけじゃないんだけどね、すっごく怪しまれた」
 
(;^Д^)「うーん、さすがに唐突すぎたか」
 
(;゚ー゚)「いや、単純にそこまでの女じゃないってことです」
 
(;^Д^)「いやーそれはないだろ。このレベルの女の子に靡かないやつは男じゃねーよ」
 
('、`*川「アタシが男だったら問答無用でいかがわしい場所に連れ込みますね」
 
( ^Д^)「だよなー」
 
(;゚ー゚)「内藤くんもそういう感じだったら良かったんですけどね」

32名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:50:02 ID:mtg.ndnA0
ぁゃしぃ

33名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:50:12 ID:.qK5zOzU0
凄い会話してるな

34第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:51:43 ID:iN94.SDg0
( ^Д^)「とにかくメンバーは確保できた。一安心だな」
 
(;゚ー゚)「後は全力で謝って、なんとか試合会場に来てもらわないと、ですね」
 
 数分後、息を切らせた初本が図書室に戻ってきた。
 膝に手をつきながら呼吸を整えたあと、右手の握り拳から親指だけを突き出す。
 
(´・ω・`)「何とか間に合ったよ。ぎりぎりだった」
 
( ^Д^)「良かった、良かった。これで大会に出れるっすね」
 
(´・ω・`)「椎名、本当にありがとう。君のおかげだ」
 
(*゚ー゚)「お役に立てて良かったです。残念ながらモデルとしての武器は役に立たなかったですけど」
 
(´・ω・`)「あれ、そうなのかい? まぁとにかく良かった」
 
('、`*川「じゃあ、早速みんなで謝りに行きましょう」
 
(´・ω・`)「そうだね。謝って、何とか大会に参加してもらおう」
 
 図書室の奥では、怪訝そうな顔を浮かべた内藤が椅子に座っていた。
 ディスプレイは暗くなっている。電源を落としたようだ、と初本は思った。
 
(´・ω・`)「内藤くん、だよね」
 
(;^ω^)「そうですお」
 
(´・ω・`)「すまない、と先に謝らせてほしい。それからひとつ、聞かせてほしい」
 
(;^ω^)「?」
 
(´・ω・`)「君は『ホライゾン』かい?」

35名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:51:59 ID:1y6aUdns0
よかねーだろww

36第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:54:42 ID:iN94.SDg0
 その言葉を聞いても、内藤の表情は変わらなかった。
 ごまかしているわけではなさそうだ、というのが初本の率直な感想だった。
 
(´・ω・`)「『ホライゾン』ではないみたいだね」
 
(;^ω^)「何のことか、全然分からないですお」
 
( ^Д^)「え、『ホライゾン』自体を知らねーのか? ネット界じゃ最強だぞ」
 
(;^ω^)「最強? 何が最強なんですお?」
 
( ^Д^)「何がって、そりゃ麻雀に決まってるだろ」
 
(;^ω^)「お? 麻雀?」
 
 麻雀部の四人全員が、嫌な予感に包まれた。
 まさか、という思いだった。
 
(´・ω・`)「もしかして、麻雀、知らない?」
 
(;^ω^)「えっと、僕は麻雀は打てないですお」
 
(;^Д^)「はぁ!?」
 
 笑野の大声に驚く内藤。
 当惑している内藤に、再び初本はすまないと声を掛ける。
 
(´・ω・`)「一つ、教えてほしい。さっきパソコンで麻雀サイトにアクセスしていたけど、あれは何故だい?」
 
( ^Д^)「そうだよ。麻雀知らないんだったら『雀王道』にアクセスする理由なんてないだろ?」
 
( ^ω^)「あれは、僕がアクセスしたんじゃないですお」
 
(*゚ー゚)「どういうこと?」

37名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:55:29 ID:.qK5zOzU0
(ノ∀`)アチャー

38第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 00:56:48 ID:iN94.SDg0
 平静を装いながら、初本は内藤の言葉に耳を傾ける。
 実際には、様々な不安が心の中で渦巻いていた。
 
( ^ω^)「僕は授業が終わったあと、中央のテーブルで寝てたんですお。そりゃもうぐっすり」
 
( ^ω^)「でも、パソコンのファンの音が徐々にうるさくなってるのに気づいて、目が覚めたんですお」
 
(;^Д^)「テーブルからパソコンって遠くね? 耳いいな、お前」
 
( ^ω^)「で、パソコンのほうを見たら、あの画面でフリーズしてたんですお」
 
(*゚ー゚)「あっ、確かにフリーズしてた」
 
( ^ω^)「誰かが放置していったみたいなんですお。それで、フリーズから復帰しないかどうか見てたんですお」
 
('、`*川「復帰したの?」
 
( ^ω^)「しませんでしたお。だから、さっき強制終了させましたお」
 
(´・ω・`)「なるほど、ねぇ。つまり、ただの偶然だったってことか」
 
(;^Д^)「やばいっすね、これ。つまり素人をメンバー入りさせちゃったってことっすよね」
 
(´・ω・`)「うん。まさかこんなことになるとはね」
 
 想像もつかないような、出来の悪い夢のような偶然が起きてしまった、ということになる。
 いま後ろに椅子があったら、全身の力が抜けて自然と座り込んでしまうだろう、と初本は思った。
 
(;^ω^)「メンバーって、どういうことですお?」
 
(´・ω・`)「事情を話すから、聞いてほしい。いま色々と困ってるんだ」

39名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 00:57:08 ID:1y6aUdns0
あらら

40第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:00:26 ID:iN94.SDg0
 初本は全ての事情をゆっくりと話し始めた。
 既に17時10分。締め切りは過ぎている。
 もはやメンバーの変更はできない状態だ。
 
(´・ω・`)「と、いうわけなんだ」
 
(;^ω^)「勝手に登録しちゃったんですお? 僕を?」
 
(´・ω・`)「それについては確信を持ってやったことだから、本当に申し訳ないとしか言えない」
 
('、`*川「すみませんでした」
 
( ^Д^)「提案したのは俺だ、俺が全面的に悪い」
 
(;゚ー゚)「いや、直接的に騙したのは私です。本当にごめんなさい」
 
(;^ω^)「そんなに困ってるなら、ちゃんと話してくれれば」
 
(´・ω・`)「そうなんだけど、時間がなくてね。君が麻雀を知っているものだと思い込んでたし」
 
( ^Д^)「図書室で麻雀やるくらい麻雀が好きなら麻雀部に入らないなんて変だろ? なんか事情があるのかと思ってさ」
 
(´・ω・`)「だから、素直に話しても協力してもらえないんじゃないかと勘繰ってしまって、強引な手段を取っちゃったんだ」
 
 しかし、強引な手を使ってまでも手に入れたメンバーは、全くの素人だった。
 あまりにも身勝手なことだと分かってはいたが、さすがに初本も落胆せざるをえなかった。
 
('、`*川「まぁ、とりあえず登録しちゃったわけですし、何とか出てもらわないとマズイですよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。これもまた、こっちの勝手な都合なんだけどね」
 
(;゚ー゚)「本当にゴメンなさいとしか言えないですね」

41名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:01:23 ID:mtg.ndnA0
なるほど。それで馴染んでいくってことか

42第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:02:52 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「とりあえず、土日の予定はないんだよね、内藤くん」
 
(;^ω^)「一応、そうですお」
 
(´・ω・`)「あとで何らかのお礼はする。だから、僕たちと一緒に県大会に出て欲しい」
 
(;^ω^)「いや、さっきも言ったように、僕は全くルールを知りませんお!」
 
(´・ω・`)「それでもいい。とにかく五人揃って出ないと全国への道が閉ざされてしまうんだ」
 
(;^ω^)「でも、そんな」
 
( ^Д^)「今年は初本さんにとって最後の大会なんだ。不参加なんて形じゃ絶対に終われねぇ」
 
('、`*川「そうです! 初本さんのために何としても全国に行かないと!」
 
(´・ω・`)「身勝手すぎるお願いだと、分かってはいるんだ。でも、頼む。一緒に行ってほしい」
 
(*゚ -゚)「内藤くん、ごめんね。でも、何とかお願いできないかな」
 
(;^ω^)(そんな、いくらなんでも唐突過ぎるお)
 
(;^ω^)(でも)
 
 四人の懇願を受け、内藤はいったん目を伏せた。
 切実な気持ちは充分に伝わっている。だからこそ、軽々しく返答できない。
 自分が入ることで、チームを敗退に導いてしまうこともあるかもしれない、と考えたためだ。
 
 だが、いずれにせよ参加しなければ、この四人全員、失意に打ちひしがれることとなるのだろう。
 そうも内藤は考えていた。
 手段は強引で、勝手に巻き込まれたとはいえ、麻雀部の面々が困っていることは間違いないのだ。

43第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:05:06 ID:iN94.SDg0
 思考を振り払うように、内藤は頭を振った。
 そして、目を開いた。
 
( ^ω^)「分かりましたお。戦力にならなくても、とりあえず参加するだけなら」
 
('、`*川「おぉ!」
 
(*゚ー゚)「ありがとう! 内藤くん!」
 
( ^Д^)「よっしゃ! とりあえず県大会には参加できる! サンキュー内藤!」
 
(´・ω・`)「ありがとう、本当に。心から感謝するよ」
 
 万感を込めた息を吐いてから、初本は内藤に右手を差し出した。
 内藤が軽く握り返して、微笑む。
 初本は、それだけでまた、心が安らいだ。
 
(´・ω・`)「県大会が終わったら何かお礼するよ。お金はあんまりないけど」
 
( ^Д^)「飯くらいならがっつり奢ってやるぜ!」
 
('、`*川「こういうときこそアタシの出番? 初本さんを助けてくれたし、何でも買ってあげる!」
 
(;^Д^)「伊藤が『何でも』って言ったらガチで何でもOKになりそうだな」
 
(´・ω・`)「いやいや、部長の責任で何とかお礼するよ」
 
(;^ω^)「いや、っていうか別にお礼とかいいですお。そんな、ただの数合わせで」
 
(´・ω・`)「でも、できればルールもちょっと覚えてほしいんだ。一応参加するわけだし」
 
(;^ω^)「おっ」

44名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:05:49 ID:mtg.ndnA0
読んでたら打ちたくなるわぁ・・・

45名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:06:05 ID:VGM3CFCE0
ペニサスのお嬢感いいな

46第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:07:07 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「大会についてちょっとだけ説明すると、実は、五人必要だけど五人全員が対局するとは限らないんだ」
 
( ^Д^)「そうそう。三人目とか四人目とかで終わる可能性もある」
 
(´・ω・`)「だから内藤くんが対局しなくて済むよう最大限努力はするけど、もしかしたら出番があるかもしれない」
 
('、`*川「でも、そうなったらもう、ほとんど諦める感じですよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。でも、可能性は少しでも高いほうがいい」
 
(*゚ー゚)「守備を覚えればリードを守って対局を終えることもできますよね」
 
(´・ω・`)「うん、そうだね。内藤くんには負担を強いてばかりで申し訳ないけど」
 
( ^Д^)「さっそく部室で特訓だ! 心優しい二人の先輩と美女がお相手するぜ!」
 
(´・ω・`)「毒島のこと忘れてるね、完全に」
 
( ^Д^)「そういやアイツどこ行ったんすかね?」
 
(*゚ー゚)「ドっくんにも事情説明しないと、ですよね」
 
(;^Д^)「ドっくん? いつの間にそんなニックネームつけたんだ?」
 
(*゚ー゚)「入部して二ヶ月くらい経つのに全然心開いてくれないから、愛称があれば距離が縮まるかなと思ったんです」
 
(´・ω・`)「いやホント、椎名には頭が下がるよ。仲良くしようとしてくれて、ありがたい限りだ」
 
(*゚ー゚)「だって仲間ですし! あ、内藤くんも愛称で呼びたいな、何がいいかな?」
 
(;^ω^)「いや、それは何でもいいですお。っていうか、ちょっと話を聞いてくださいお」
 
(´・ω・`)「ん?」

47名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:08:13 ID:1y6aUdns0
メンタンピンまで仕込めれば後はビギナーズラックでなんとか

48第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:09:30 ID:iN94.SDg0
(;^ω^)「あの、実は僕、そろそろ帰らないといけないんですお」
 
(´・ω・`)「え? あ、何か予定があるのかい?」
 
( ^Д^)「マジかよ。まぁ今日は急だからしょうがねーけど」
 
(´・ω・`)「そうだね。まだ明日と明後日があるから、そこで色々と」
 
(;^ω^)「いや、それが、そういうわけにもいかなくて。実は、明日と明後日、僕は学校をお休みするんですお」
 
('、`;川「え、えぇ?」
 
(;゚ー゚)「何で?」
 
 県大会は三日後に迫っている。
 明日と明後日の時間を使えないとなれば、初本たちが内藤にルールを教える時間さえない。
 
(;^ω^)「家庭の都合で、実家に帰省するんですお」
 
(´・ω・`)「こんな時期に?」
 
(;^ω^)「すみませんお」
 
(´・ω・`)「いや、謝ることじゃないけどさ。ちょっと困ったね」
 
(;^ω^)「土曜の早朝には帰ってきますお。それからすぐ会場に向かえば、何とか間に合うとは思いますお」
 
(;^Д^)「マジで教える時間ねーな」
 
(*゚ー゚)「でも、しょうがないですよね」
 
(´・ω・`)「うん、こっちが勝手に巻き込んだことだからね」

49名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:11:19 ID:.qK5zOzU0
ぶっつけ本番ってやつか……

50第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:11:32 ID:iN94.SDg0
(;^ω^)「暇な時間があったら、麻雀の本を読むようにしますお」
 
(*゚ー゚)「あ、それなら私が貸すよ。初心者向けの本、何冊か持ってるから」
 
(´・ω・`)「今も持ってるの?」
 
(;゚ー゚)「あ、家だ。えっと、私の家に寄ってくれる?」
 
(;^ω^)「それは構いませんお。ただ、あんまり遅くなるとちょっとマズイですお」
 
('、`*川「じゃーアタシが迎えを呼ぶから、クルマで行こう。それなら大丈夫でしょ?」
 
( ^Д^)「なるほど。それなら家に行ったあと椎名が戻ってくるのも楽だな」
 
(*゚ー゚)「ペニちゃんありがと〜」
 
('、`*川「これくらい、いくらでもやるわよ。マネージャーだもん」
 
( ^ω^)「ありがとうございますお」
 
('、`;川「敬語使わなくていいよ、同学年だから」
 
(;^ω^)「あ、そうなのかお? 知らなかったお」
 
(*゚ー゚)「私もだよ。初本さんと笑野さんは先輩」
 
(´・ω・`)「僕が三年で、笑野が二年。まぁ、そのへんの自己紹介はまた今度やろう」
 
 その後、内藤と麻雀部の部員が携帯番号とメールアドレスを交換した。
 そうした一つ一つのステップに、初本は軽い安心感を覚える。
 部外者で、しかも素人の内藤を引き込んでしまったことによる不安は、それほど大きいものだった。
 
('A`;)「あれ? みんなこんなところに居たんですか?」

51名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:12:24 ID:1y6aUdns0
どっくん!

52名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:13:03 ID:.qK5zOzU0
毒島さんじゃないですか!

53第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:13:25 ID:iN94.SDg0
 内藤が帰り支度を整えたところで、毒島が図書室に入ってきた。
 その姿を見て、内藤は軽く手を挙げる。
 
( ^ω^)「毒島じゃないかお。そういえば、麻雀部に入ったって言ってたかお」
 
('A`)「内藤? なんでお前がみんなと一緒にいるんだ?」
 
(´・ω・`)「それより、毒島は今まで何をしてたんだい?」
 
('A`)「僕は、図書委員の仕事が終わったあと、いったん教室に忘れ物を取りに行ってから部室に行ったんです」
 
(´・ω・`)「なるほど、そこで入れ違っちゃったんだね」
 
('A`)「そうみたいで、でもずっと待ってても誰も来なくて、おかしいなと思って部室を出まして」
 
('A`)「僕はそんな感じですけど、内藤は?」
 
(´・ω・`)「ちょっと色々あってね、試合に出てもらうことになったんだ。内藤くんに」
 
(゚A゚;)「ええええええぇぇぇ!? 内藤、お前麻雀できたっけ!?」
 
(;^ω^)「まったく打てないお。これからルールを覚えるところだお」
 
(;^Д^)「本当に色々あったんだけどな、簡単に説明するよ」
 
 初本と笑野が簡潔な説明を述べる。
 そしてその途中、毒島の顔色がはっきりと変わった瞬間があった。

54第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:16:15 ID:iN94.SDg0
(゚A゚;)「『雀王道』の画面を見てたから、みんなが勘違いした?」
 
(´・ω・`)「うん。偶然って怖いよね」
 
( ^Д^)「まったく、パソコンをフリーズさせたやつが放置してなきゃ、こんなことにはならなかったのに」
 
(゚A゚;)「いや、あの、その」
 
(´・ω・`)「ん?」
 
(゚A゚;)「す、すみません! フリーズさせたまま放置してったの、僕です!」
 
(´・ω・`)「え?」
 
(;^Д^)「はぁ!?」
 
 髪を乱しながら何度も毒島が頭を下げる。
 笑野は一歩、毒島に詰め寄った。
 
(゚A゚;)「図書室で仕事が終わったあと、『雀王道』の自分の成績をちょっと確認したくて、アクセスしたらフリーズしちゃって」
 
(゚A゚;)「あんまりパソコン詳しくないから下手にイジるのも怖くて」
 
(゚A゚;)「内藤が寝てたから、起きたら直してくれるかなって思って」
 
(゚A゚;)「内藤、パソコン詳しいから、それくらい簡単かなって」
 
(゚A゚;)「一応、内藤にはメールしといたんですけど」
 
( ^ω^)「あ、いま気づいたお。サイレントマナーにしてたから気づかなかったお」

55名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:16:54 ID:mtg.ndnA0
どっくんwwwwwwwwww

56名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:17:00 ID:1y6aUdns0
おやまあ

57第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:18:41 ID:iN94.SDg0
(゚A゚;)「さっきここに戻ってきた理由は、パソコンがどうなったかを確かめるためだったんです。本当にすみません!」
 
(´・ω・`)「なるほど、ねぇ」
 
(# ^Д^)「図書委員が放置していくんじゃねーよ!!」
 
(゚A゚;)「す、すみません!!」
 
(´・ω・`)「まぁ、過ぎたことだからしょうがないよ。笑野が言うとおり、放置して退出するのはまずいと思うけどさ」
 
(゚A゚;)「ほ、本当にすみません」
 
(;゚ー゚)「これだけ謝ってますし、許してあげましょうよ。悪気があったわけじゃないですし」
 
(;^Д^)「まったく」
 
 誰しもにとって本意ではないことが起きた。
 それでも、淡々と時間は過ぎていく。
 県大会の日は、三日後にやってくる。

58名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:19:21 ID:1y6aUdns0
配牌からわかんないのはきついな

59第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:19:48 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「とにかくこのメンバーで県大会に臨む。みんな、頑張ろう」
 
( ^Д^)「やってやるっすよ」
 
(*゚ー゚)「初めての公式戦、ドキドキでワクワクです! 頑張ります!」
 
('A`;)「精一杯頑張ります」
 
(;^ω^)「どこまでやれるか分からないけど頑張りますお」
 
('、`*川「アタシもサポート頑張ります」
 
 突然巻き込まれた内藤と、巻き込んでしまった麻雀部。
 それぞれが多少の不安を抱えながら、全国へと続く道を進み行く。
 
 初本が図書室の出口へと向かい、その背中に他の面々がついていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 第1話 終わり
 
     〜to be continued

60名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:21:12 ID:1y6aUdns0
乙!

61 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:21:48 ID:iN94.SDg0
第1話は以上です、ありがとうございました。

第2話も書けてはいるのですが、今日は遅いので、明日に投下しようと思います。
またよろしくお願いします。

それと、>>8-20あたりで間違えてsageてたので、そこだけ投下しなおします、すみません。

62名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:22:05 ID:r.40i16Mo
乙!!
続きがすごく気になる

あとなんか
>     〜to be continued
これをまた見られて嬉しい

63第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:22:35 ID:iN94.SDg0
【第1話:偽りの地平線】
 
 
 窓から射し込む夕日と、携帯電話のランプの色が混じっていた。
 そのせいで、初本は電話がかかってきていることに気づくのが遅れた。
 
 何度かコールされた後に初本は携帯電話を手に取り、発信者をはっきりと確認しないまま応答した。
 
(´・ω・`)「もしもし。あぁ、前田くんか。どうかしたのかい?」
 
 雀卓に置かれた雀牌の中から適当に掴んだ牌は、二筒だった。
 電話の向こうから届く低いトーンの声に意識を向けながら、初本は二筒を右手で弄ぶ。
 
 その手が、突如、ぴたりと止まった。
 
(´・ω・`)「え? ちょっと待ってよ、それは困るよ」
 
 いつの間にか二筒は手から離れ、初本の右手は雀卓を掴んでいた。
 僅かに生じた手汗が馴染んでいく。
 
(´・ω・`)「いや、そんな急に言われても、本当に困るんだよ。どうしても無理なのかい?」
 
 携帯電話を持つ手を左から右に替え、初本は左手の汗を拭った。
 同時に正方形の掛け時計に目をやる。短針が指し示す先は、少しずつ床の方向へと向かっていた。
 
(´・ω・`)「うーん、そうかぁ。まぁ、しょうがないと言えばしょうがない、かぁ。勉強のほうが大事だし」
 
(´・ω・`)「分かった、こっちは何とかするよ。まだ少し時間もあるし」
 
(´・ω・`)「あぁ、前田くんは気にしなくていいよ、全然。頑張ってね」
 
 小さく息を吐いて携帯を閉じた。
 心配をかけまいと気丈な言葉を口にしたものの、初本は内心、焦燥に駆られている。
 前田の代わりを務めてくれそうな人物を頭の中で探してみたが、誰もいないのだ。

64名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:22:51 ID:Qpz4k7d60

麻雀のルール勉強すっかな

65第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:23:42 ID:iN94.SDg0
(;^Д^)「大変だ! 前田さんが県大会出れなくなっちまったんだよ!」
 
(;゚ー゚)「えー!」
 
('、`;川「え、じゃあウチの高校自体、県大会に出れないじゃないですか」
 
(´・ω・`)「このままだとそうだね、人数が足りてない」
 
 芽院高校の麻雀部は、現在五人しか在籍していない。
 県大会出場にあたって、最低でも選手は五人揃っていなければならないのだ。
 
(;^Д^)「こうなったら伊藤にも出てもらうしか」
 
('、`;川「アタシは無理ですよ。ゼッタイ親にバレますもん」
 
(´・ω・`)「そうだね、麻雀部に所属していることが親御さんに知られたら一大事だ」
 
 麻雀部には五人の部員がいるものの、選手として試合に出られるのは四人だった。
 そのため、帰宅部の前田に協力を仰ぎ、大会に参加するつもりでいたのだ。
 しかし、その予定が突如として崩れ去った。
 
(;゚ー゚)「じゃあ、他に出られそうな人を探さないと!」
 
('、`;川「県大会のエントリー締め切りは?」
 
(´・ω・`)「登録自体はもう済ませてある。ただ、大会の三日前の17時まではメンバーの変更が可能なんだ」
 
( ^Д^)「三日前?」
 
('、`;川「って、今日が三日前じゃないですか!」
 
(;゚ー゚)「しかもあと1時間くらいしかないですよ!」
 
(´・ω・`)「うん。これはダメかも分からんね」

66名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:23:51 ID:.qK5zOzU0
乙乙
読んでると打ちたくなってくるな

67名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:24:04 ID:2.ldEvKgO
おつー!
麻雀分からないのに面白かったー!ルール学ぶ!

68 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:24:48 ID:iN94.SDg0
ミスった……
>>63>>65の間に以下のレスが入ります

69 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:25:33 ID:iN94.SDg0
 とにかく部員に報告しよう、と初本が思ったところで、部室の扉が開いた。
 
( ^Д^)「あれ? 初本さんだけっすか?」
 
(´・ω・`)「あぁ、他はまだ誰も来てないんだ」
 
 二年生の笑野が鞄を部室の隅に置く。
 その鞄からガムを取り出し、ひとつ口に放り込んだ。
 
( ^Д^)「みんな遅いっすね」
 
(´・ω・`)「椎名と伊藤はもうすぐ来ると思うよ。毒島は図書委員の仕事があるらしくて、ちょっと遅れるみたいだけど」
 
( ^Д^)「そうなんすか。あ、そうそう、ネットで面白い噂聞いて、初本さんに話そうと思ってたんすけど」
 
(´・ω・`)「いや、ちょっと待って。その前に大事な話がある。マズイことになったんだ」
 
( ^Д^)「え?」
 
(´・ω・`)「塾の模試の日と被ってることに気づいてなかったらしくてね、前田くんが県大会に出られなくなった」
 
(;^Д^)「ええええぇぇぇ!?」
 
(*゚ー゚)「どうかしたんですか?」
 
('、`*川「笑野さんが大声なんて、珍しい」
 
 部室の扉の開閉音は、笑野の声にかき消されていた。
 二人が気づかない間に、椎名と伊藤が部室に到着している。

70第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:26:38 ID:iN94.SDg0
(;^Д^)「いやいや、諦めるのはまだ早いっす! 麻雀のルールが分かるやつ、誰か一人くらいは!」
 
(´・ω・`)「でも、今週は色んな運動系の部活も大会があるみたいなんだよね」
 
('、`*川「そういや、アタシのクラスに一人だけ麻雀できるやつ居るんですけど、確か今週末は試合があるって言ってました」
 
(´・ω・`)「うん。だから前田くんみたいに帰宅部で麻雀打てる人は凄く貴重だったんだけど」
 
(;゚ー゚)「厳しいですね、かなり」
 
(´・ω・`)「正直お手上げだよ。もう少し時間があれば、何とかなったかもしれないけど」
 
( ^Д^)「いや! ちょっと待ってください!」
 
(´・ω・`)「ん?」
 
( ^Д^)「一か八か、俺がネットで聞いた噂に賭けてみません?」
 
 先ほど笑野が言いかけていたことを、初本は思い出した。
 面白い噂をネットで聞いたという。
 
( ^Д^)「まぁ、かなり不確実な話なんすけど」
 
(´・ω・`)「どういうこと?」
 
( ^Д^)「『ホライゾン』のこと、知ってるっすよね」
 
(*゚ー゚)「あ、聞いたことあります。すっごく強いネットの雀士ですよね」

71名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:26:51 ID:mtg.ndnA0
打ちたいけど遊び以外では打ちたくない

雀荘で洗礼受けまくってテンピン怖い

72名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:27:05 ID:aNNri8HM0

数行の文のあと長い改行が入って最後にto be continuedってのを見るだけで感動した
ちなみにこれって元ネタというか、世界観は咲から拝借したみたいな感じ? そのうち書かれるんだろうけど

73名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:27:10 ID:06EmFJlg0


台詞メインもテンポが良くていいね

74第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:27:28 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「ネット界最強とも言われてるね。僕は対局したことないけど、プロに匹敵するとか」
 
( ^Д^)「その『ホライゾン』が、実はウチの高校にいるらしいんすよ」
 
(´・ω・`)「えっ? うそ、本当に?」
 
 突拍子のない笑野の言葉に、間の抜けた声を返した初本。
 半信半疑だった。
 
(´・ω・`)「知らなかったなぁ、そんな話」
 
( ^Д^)「まぁ、あくまで噂なんすけど」
 
(*゚ー゚)「でも本当だったら凄いですよね! 全国制覇も夢じゃないです!」
 
(´・ω・`)「うーん。ただ、真偽はともかくとして、『ホライゾン』を見つけられるのかどうか」
 
( ^Д^)「問題はそこなんすよねぇ」
 
('、`*川「そこまで麻雀が強いんだったら、とっくにウチに入部してるはずじゃ?」
 
(´・ω・`)「そうだね。でも入部してないってことは、入部したくない理由があるってことだ」
 
(;゚ー゚)「じゃあ、もし奇跡的に『ホライゾン』を見つけられたとしても、大会に参加してもらえないかもしれないってことですよね」
 
(´・ω・`)「うん、そうなるね。もし参加してくれたら、これほど心強いことはないんだけど」
 
( ^Д^)「厳しいかもしれないっすけど、とにかく探してみましょう! 大会の日だけなら参加OKかもしれませんし!」
 
('、`*川「確かに、普段はバイトとかで時間なくて入部できないだけかも」
 
(´・ω・`)「まぁ、ここに居ても進展しないのは確かだね。とりあえず部室から出よう」

75名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:27:34 ID:mtg.ndnA0
乙!次回も期待です!

76第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:28:33 ID:iN94.SDg0
( ^Д^)「まず図書室に行かないっすか? 毒島にも話したほうがいいでしょうし」
 
(´・ω・`)「あぁ、そうだね。それに、図書室で作業している図書委員に事情を話してみるのもいいかもしれない」
 
(*゚ー゚)「色んな知識を蓄えてる人が居そうだから、麻雀知ってる人も居るかも!」
 
 四人揃って麻雀部の部室を出た。
 波長の短い光が散乱し、廊下の窓からは朱色の光が射し込み始めている。
 
 麻雀部の部室からはかなり離れている図書室へと、足早に四人が向かった。
 廊下の人通りは少ない。帰宅部の生徒は帰宅済みで、部活に入っている生徒は部活動の真っ最中であるためだ。
 
(´・ω・`)(思ったより人が少ない。これは本当に急がないとまずいな)
 
 図書室の前に到着すると、初本は躊躇いなく扉を開けた。
 中は静かで、初本にとっての誤算は、図書委員が全く見当たらないことだった。
 
( ^Д^)「あれ? 誰もいないっすね」
 
(´・ω・`)「うん。毒島まで居ないのはちょっと変だ」
 
('、`*川「入れ違っちゃいましたかね」
 
(*゚ー゚)「電話してみます?」
 
('、`*川「あれ? 毒島の番号知ってんの?」

77名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:28:39 ID:5E/qJfW20


78 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:29:56 ID:iN94.SDg0
あとは>>20からです。
久々なのと2ちゃんブラウザ変えたのとで、以前ならなかったような投下ミスでした。
次回からは留意します。

79 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:30:40 ID:iN94.SDg0
あ、よく見たら>>20もsageてた……。

80第1話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:31:22 ID:iN94.SDg0
(*゚ー゚)「うん。ちょっと前に交換したんだ」
 
('、`*川「へー。毒島から言ってきたの?」
 
(;゚ー゚)「まさか。同じ麻雀部だし、いざというときに連絡取れたほうがいいよねって、私のほうから言ったの」
 
('、`*川「だよね。女の子に話しかけることもできない毒島が『番号教えて』なんて言えるわけないよね」
 
(;^Д^)「おいおい、あいつの女性恐怖症の話は今はどうでもいいだろ。まぁ連絡してみたほうが良さそうだけど」
 
(´・ω・`)「あれ? ちょっと待って」
 
 図書室へとゆっくり足を踏み入れた四人。
 その先頭に立つ初本が、図書室の隅へと視線を向けた。
 
(´・ω・`)「パソコンの前に、誰か座ってるね」
 
( ^Д^)「あ、本当っすね。見覚えはないっすけど」
 
 四人からは背中しか見えない状態でパソコンの前の椅子に腰掛ける男子生徒。
 どうやら図書室には彼しか居ないようだ、と初本は思った。
 
 そこで不意に、椎名が気づく。
 
(;゚ー゚)「あれ? あのパソコンで表示されてる画面って、もしかして」
 
(;^Д^)「お!? あれって『雀王道』の画面じゃねーか!?」
 
(´・ω・`)「えっ?」
 
 初本が瞠目する。
 そして確かに、パソコンのディスプレイには『雀王道』というネットの麻雀対局サイトが表示されていた。

81 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:34:16 ID:iN94.SDg0
続きは>>21からで、今度こそ再投下完了です。
なんかgdgdになってすみません。

>>72
咲は、2巻か3巻くらいまで読みました。
高校麻雀という点についてはそうですね、咲に似通った部分があると思います。
ただ、麻雀がメジャーという設定はないです。

82 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:36:55 ID:iN94.SDg0
あと、作品の方向性としては、
麻雀のルールを知らない人にも面白いと思ってもらえるように作るつもりでいます。

「作中で説明があって、ルールが分かるから面白い」じゃなく、
「ルールは分からない、けど面白い」というような形を目指しています。
達成できるかどうかは分かりませんが、頑張ります。

もちろん、麻雀に興味を持ってもらえて、
ルールを知ってみようと思ってもらえるなら自分としてはとても嬉しいことです。

83 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:44:00 ID:iN94.SDg0
一応自分でアンカでレスをまとめると、以下の順番です。

>>63 >>69 >>65 >>70 >>74 >>76 >>80 >>21 >>22 >>24 >>26 >>28 >>29
>>31 >>34 >>36 >>38 >>40 >>42 >>43 >>46 >>48 >>50 >>53 >>54 >>57 >>59

だいぶごちゃごちゃしてしまった……とっても反省です。

84 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 01:45:16 ID:iN94.SDg0
先述のとおり、第2話は明日の夜に投下予定です。
明日も是非、よろしくお願いします。

それでは、また。

85名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:48:18 ID:mtg.ndnA0
お疲れ様でした。

86名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 01:50:35 ID:iwJ5T7xY0
乙です!

87名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 02:01:21 ID:Rgma.1CA0
投下乙でした!

88名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 02:07:41 ID:x0w6NCOw0
投下乙っす!
プギャーがメインキャラってなかなかないから、そこのとこもワクワクしてますw

89名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 03:51:54 ID:Ts8.41cA0
マジで本物なの?
避難所でもトリってVIPと同じなんかね?

90名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 04:34:29 ID:HLWao/o.0
本物だよ。ツイッターの垢でも呟いているし

91名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 05:02:11 ID:rBa0vpcc0
わーい

92名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 13:41:24 ID:yNFJwbl.O

さくさくした序盤ですこと。今後期待
麻雀はド素人でもプロに勝てる可能性のある唯一の競技とか聞いたことあるし、なんとかなるかもしれん

93名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 14:03:54 ID:QTGL8P9M0

麻雀はルールだけ知ってて役とかは一切知らんけどこれを期にやってみよーか

94 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 17:24:41 ID:iN94.SDg0
第2話は恐らく21時ごろから投下開始します

95名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 17:46:56 ID:hqPsGcgkO
ω・`)ワクワクですな

96名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 18:02:14 ID:yNFJwbl.O
>>93
いいんじゃない
面白いよ
初心者向けの解説サイトとかたくさんあるだろうし

97名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 18:21:10 ID:XQpdnXSg0
ブーンの耳が良いって伏線に…いや麻雀に聴力いらねぇか…
wktkして待ってる

98名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 18:29:27 ID:yNFJwbl.O
しぃの誘惑にもなびかない警戒心の高さから絶対に振り込まない鉄の守備を持っているに違いない

99名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 20:33:09 ID:u7dVTg9s0
>>97
昔なら牌の音でガン牌みたいなことやるってネタもあったんだけどな
手作業で作られた竹牌だからこそできるネタ

100名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 20:45:18 ID:ObBVgHps0
ちょうど今日アルファ読み直して芸さんの掲示板見たら新作投下ってなんつータイミングだよう
>>97相手の息遣いやらなんやらでテンパイ気配察知という超能力

101名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 20:48:06 ID:.qK5zOzU0
雀牌と一体化するんですねわかりますん

102名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 20:51:03 ID:iVDG9gdE0
ブーンが握った一筒が発熱して大騒ぎに・・・

103 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 20:51:19 ID:iN94.SDg0
こんばんは。

第2話の投下を始めます。
よろしくお願いします。

104名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 20:52:00 ID:cq9dyVfU0
はい

105第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 20:55:09 ID:iN94.SDg0
【第2話:広がりゆく一歩目】
 
 
 県大会当日。
 時計が先ほど7時を示したばかりで、朝の光は微弱だった。
 試合会場である県民会館の前に、まだ人はほとんど集まっていない。
 
(´・ω・`)「あ、来たね」
 
 初本が指差した先に、銀色の光を放つジャガー・X351が颯爽と現れた。
 停車してすぐ、助手席から伊藤が降りてくる。
 次いで、後部座席から内藤がゆっくりと姿を現した。
 
(´・ω・`)「おはよう」
 
('、`*川「おはようございまーす」
 
( っω-)「おはようございますお、むにゃむにゃ」
 
 内藤は寝ぼけ眼を擦っていた。
 夜行バスで地元に帰ってきたものの、車中であまり眠れなかったためだ。
 
(*゚ー゚)「内藤くんおはよー。眠そうだね」
 
(;^ω^)「椎名さん、おはようだお。夜行バスで寝るのって難しいお」

106第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 20:57:44 ID:iN94.SDg0
(*゚ー゚)「あ、私のことは『しぃ』でいいよ。もちろん呼び捨てで!」
 
( ^ω^)「分かったお、しぃ」
 
(*゚ー゚)「うん。私は『ブーンくん』って呼ぶから」
 
(;^ω^)「その仇名はどこから出てきたんだお?」
 
(*゚ー゚)「内藤くんの名前って『文和』でしょ? 『文』から取ったの」
 
( ^ω^)「なるほどだお。僕はどう呼ばれてもOKだお」
 
(*゚ー゚)「やった。じゃあそう呼ぶね」
 
 椎名の朗らかな笑顔に癒され、内藤は眠気が薄れつつあった。
 その後、改めて周りを見回して、まだ二人来ていないことに気づく。
 
( ^ω^)「笑野さんと毒島さんは?」
 
(´・ω・`)「ちょっと遅れてるみたいだね。とはいえ、開会式は8時からだから、まだいいんだけど」
 
(*゚ー゚)「ドっくんにさっきメールしたら、どうも起きたばっかりだったみたいで、『すぐ行きます!』って返ってきましたよ。何故か敬語で」
 
(´・ω・`)「ははは。毒島は家が近いはずだから、あと10分くらいで来るかな」
 
('、`*川「笑野さんは、あぁ見えて結構きっちりしてるから、間に合いそうですね」
 
(´・ω・`)「そうだね。元々笑野には『できれば7時、遅くとも8時までに』としか言ってないし」

107第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:01:26 ID:iN94.SDg0
(*゚ー゚)「初本さん、開会式までまだ時間あるなら、あそこのガスト入りませんか? ゆっくりしたいです」
 
(´・ω・`)「うん、いいね。コーヒー飲みたい気分だし」
 
 試合会場から徒歩一分ほどの場所にあるガストに四人が入った。
 それぞれ自分の飲み物を注文し、程なくして毒島が到着する。
 
('A`;)「遅れてすみません」
 
(´・ω・`)「いや、いいよ。ガストにいるっていうのは椎名から聞いたの?」
 
('A`;)「あ、メールしていただいたんで、はい」
 
(;゚ー゚)「そんなよそよそしい言い方しなくても」
 
 毒島が追加でコーヒーを頼んで、すぐに五人の飲み物が揃った。
 内藤はすぐにオレンジジュースを飲み干してドリンクバーへと向かい、再びオレンジジュースでコップを満たして席に戻った。
 
(´・ω・`)「内藤、ルールはどれくらい覚えられた?」
 
(;^ω^)「あ、えーっと」
 
(´・ω・`)「あんまり覚える時間なかった、って感じかな」
 
(;´ω`)「すみませんお。実は、そうなんですお」
 
 実家の祖父母が、家を新築するにあたって一時的にアパートへ引っ越すことになった。
 その引越しを二日間手伝った内藤は、就寝前しか本を読む時間がなく、まだほとんど知識を蓄えられていない状態だ。
 尤も、それは初本が予想していたことでもあった。

108名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:02:51 ID:XQpdnXSg0
よしきた支援…は必要ないのか?

109 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:04:35 ID:iN94.SDg0
>>108
創作板なので本来は支援は必要ないですが、あったらあったで読んでもらえてることを実感できるので、
支援でもなんでもレスもらえることは自分にとっては嬉しいです

110名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:05:10 ID:1y6aUdns0
ktkr

111第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:05:44 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「無理を言ってるのはこっちだからね、しょうがないんだけど」
 
(*゚ー゚)「でも、まだ時間はあります! ウチは二回戦からですし!」
 
(´・ω・`)「そうだね。その間に少しでも教えたいところだ」
 
( ^ω^)「二回戦から? どういうことですお?」
 
(´・ω・`)「最初に大会のルールについて説明しようか」
 
 初本が鞄から大会についての資料を取り出した。
 五枚くらいの紙の左端がホッチキスで留められている程度の簡素なものだ。
 
 机を軽くナプキンで拭いた初本が資料を机に置くのとほぼ同時に、笑野が到着した。
 
( ^Д^)「おはようございます」
 
(´・ω・`)「おはよう」
 
( ^Д^)「あ、大会の資料ですね。そういや今年のルール、まだ確認してませんでした」
 
(´・ω・`)「そうなのかい? まぁ、ちょうどいいや」
 
 笑野が朝食としてモーニングセットを頼み、それから初本が資料を開く。
 最初のページには組み合わせが書かれていた。

112第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:08:18 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「まず、一回戦は十二校が出場する。ウチはシード校だから一回戦は免除」
 
( ^ω^)「なんでシードなんですお?」
 
( ^Д^)「去年の県大会で優勝したからな」
 
( ^ω^)「おぉ! ウチは強豪校ってことですかお?」
 
(´・ω・`)「まぁね。一応、県大会は三連覇中だし。ただ今年は一年生が三人だからね」
 
( ^Д^)「毒島も椎名も実力つけてきてるけど、さすがに去年の三年生にはまだ及ばない」
 
(´・ω・`)「まぁ、それはしょうがない。最初から強い人なんていないし」
 
( ^Д^)「ともかく去年の成績のおかげでウチは二回戦からだ」
 
(´・ω・`)「一回戦を勝ち上がった六校と、去年の県大会の優勝校と準優勝校、併せて八校が二回戦を戦う」
 
( ^Д^)「二回戦は半荘戦ですか。ここは去年と変わりませんね」
 
(´・ω・`)「そうだね。この二回戦で半分が削られて、勝ち残った四校が決勝を戦う」
 
( ^Д^)「決勝で一位になった高校が優勝、晴れて全国への切符を掴むってわけだ」
 
(´・ω・`)「まぁ、厳密に言うと二位はプレーオフに回るから、二位でも可能性はあるんだけど」
 
( ^Д^)「ただ、プレーオフを勝ち抜いて全国へ進出するのは相当厳しい。是が非でも優勝したいところだ」

113名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:08:49 ID:XQpdnXSg0
>>109
投下中なのにわざわざすいません

114名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:09:20 ID:ObBVgHps0
ショボンに敬語を使うプギャーが小物に見えてくるのはある種の刷り込みに違いない

115第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:10:53 ID:iN94.SDg0
( ^ω^)「なるほどですお。って、あれ? 決勝は明日やるんですかお?」
 
(´・ω・`)「うん。今日一日で決勝までやるのは時間的に無理だからね。決勝は一荘戦だし」
 
( ^Д^)「決勝は朝から夜までやるぞー。毎年だいたい10時間くらいかかってるからなー」
 
(;^ω^)「そんなに時間かかるんですかお」
 
(´・ω・`)「まぁ、ひとりひとりが打つのは二時間くらいだよ。とはいえ、終盤は精神的な疲れもあるけど」
 
 笑野の注文したモーニングセットが運ばれてきた。
 黄身が二つの目玉焼きとソーセージ、グリーンサラダが小さなプレートに載っている。
 笑野は資料を覗き込みながら、ソーセージを齧った。
 
( ^Д^)「先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の五人を選出して戦う。これはまぁ、いつもどおりですね」
 
( ^Д^)「って、あれ? 得点のルールが変わってますね」
 
(´・ω・`)「うん。今回それが大きな変更点だよ」
 
(*゚ー゚)「あ、昨日ネットで確認しました。割合計算するんですよね」
 
('A`)「どういうことですか?」
 
(´・ω・`)「半荘戦は各自が25000点、一荘戦は各自が50000点を持つ。ここは去年と変わってない」
 
(´・ω・`)「で、終局したら一位が100ポイントを貰う。これは固定なんだけど、二位以下が変動する」
 
(´・ω・`)「一位の得点との割合を計算して、小数点以下を切り捨てた値がそのままポイントになるんだ」

116第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:13:11 ID:iN94.SDg0
('A`;)「えーっと? つまり一位が50000点で、二位が40000点だったら、二位は80ポイントですか?」
 
(´・ω・`)「うん。ただし順位によって少し変わる」
 
(*゚ー゚)「二位はそのままだけど、三位はそこから5ポイント、四位は10ポイント引かれちゃうみたい」
 
(´・ω・`)「一位が50000点で三位が25000点だったら、割合計算上は50ポイントだけど、5ポイント引いて45ポイントってわけだね」
 
('A`)「なるほどです」
 
(´・ω・`)「あと、0点になった人が出たら、その戦いはそこで終わりなんだけど、もちろん0点は0ポイントだよ」
 
( ^Д^)「で、最終的に五人のポイントを合計して、その合計ポイントで順位を決めるってわけですか」
 
(*゚ー゚)「大将戦の前に一位と二位に100ポイント以上の差がついてたら、そこで打ち切りなんですよね」
 
(´・ω・`)「うん、そこで順位が確定する。だから、ウチとしては副将戦までに決着をつけたいところだ」
 
( ^Д^)「そうすれば内藤は打たなくて済みますね」
 
(;^ω^)「それは助かりますお。というか、僕が打つ展開になったらヤバイですお」
 
( ^Д^)「県大会レベルなら何とかなるさ。手強い高校もチラホラいるが」
 
(´・ω・`)「うん、何とかしないとね」
 
 笑野がモーニングセットを平らげ、フォークを置いた。
 そしてすぐ、乾いた喉を潤すために、コーラを一気に飲み干す。

117第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:15:37 ID:iN94.SDg0
( ^Д^)「ぷはー。じゃあ次は競技ルール確認しときましょうか」
 
(´・ω・`)「そうだね。とはいえ、競技ルールは大きな変更点はないよ」
 
( ^Д^)「符計算は? 今年もなしですか?」
 
(´・ω・`)「うん。符計算なしルールは今後も続くだろうね」
 
( ^Д^)「内藤に教えるのが楽でいいですね」
 
(´・ω・`)「ははは、そうだね」
 
(;^ω^)(婦警さん?)
 
('A`)「他のルールは、えーっと。後付けありとか喰い断ありとかは、まぁ当然ですよね」
 
(*゚ー゚)「赤ドラはないんですね」
 
(´・ω・`)「去年はあったんだけどね。逆に、去年はなかった数え役満が今年はあるよ」
 
( ^Д^)「他は昨年と同じですか。よし、あとは全部薙ぎ倒すだけですね」
 
(´・ω・`)「頼もしいね。期待してるよ、エース」
 
( ^Д^)「あ、俺は副将でいいんですか?」
 
(´・ω・`)「うん。実質的に大将だけどね」
 
( ^Д^)「じゃあ初本さんが中堅ってことですか。毒島と椎名は?」

118第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:17:53 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「椎名が先鋒、毒島が次鋒。無事決勝に進めたら、またオーダーは変えるかもしれないけど」
 
(*゚ー゚)「私が先鋒なんですね、頑張ります!」
 
('A`;)「不安のほうが大きいですけど、最善を尽くします」
 
(´・ω・`)「うん、二人ともよろしく頼んだよ。じゃあそろそろ会場に向かおうか」
 
 それぞれが自分の朝食代とドリンク代を初本に渡し、会計を済ませて店を出た。
 太陽は角度をつけ始めて、朝の白さは薄れつつあった。
 
 六人揃って、会場である県民会館に向かう。
 開会式まで、あと15分ほど。既に参加校は集結し、館内は人の声が蠢いていた。
 
(´・ω・`)「大広間で開会式があるからね。まぁすぐ済むんだけど」
 
('、`*川「試合開始は8時30分からですね」
 
(´・ω・`)「そうだね。ただ、僕らはシードで二回戦からだよ。昼過ぎまでは待機だ」
 
(*゚ー゚)「いよいよ始まるんですね。わくわくです」
 
( ^Д^)「よっしゃ、大広間に行こうぜ」
 
 笑野が先陣きって中に入り、他の五人が後をついていく形で大広間へと向かう。
 その途中、初本に向かって手を挙げる男がいた。
 
(‘_L’)「おはようございます」
 
(´・ω・`)「久しぶりだね、水戸くん」
 
 差し出された右手を初本が握った。
 肯綮高校の水戸蓮人。県内屈指の実力者だ。

119 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:18:58 ID:iN94.SDg0
あ、間違えた……
>>118を訂正します

120名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:19:13 ID:ObBVgHps0
咲みたいな点数大量共有制じゃなくて個人ポイント制なのか
役満直撃くらってトビ終了0ポイントとか泣けるなー

121第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:21:05 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「毒島が先鋒、椎名が次鋒。無事決勝に進めたら、またオーダーは変えるかもしれないけど」
 
(*゚ー゚)「私は次鋒なんですね、頑張ります!」
 
('A`;)「不安のほうが大きいですけど、最善を尽くします」
 
(´・ω・`)「うん、二人ともよろしく頼んだよ。じゃあそろそろ会場に向かおうか」
 
 それぞれが自分の朝食代とドリンク代を初本に渡し、会計を済ませて店を出た。
 太陽は角度をつけ始めて、朝の白さは薄れつつあった。
 
 六人揃って、会場である県民会館に向かう。
 開会式まで、あと15分ほど。既に参加校は集結し、館内は人の声が蠢いていた。
 
(´・ω・`)「大広間で開会式があるからね。まぁすぐ済むんだけど」
 
('、`*川「試合開始は8時30分からですね」
 
(´・ω・`)「そうだね。ただ、僕らはシードで二回戦からだよ。昼過ぎまでは待機だ」
 
(*゚ー゚)「いよいよ始まるんですね。わくわくです」
 
( ^Д^)「よっしゃ、大広間に行こうぜ」
 
 笑野が先陣きって中に入り、他の五人が後をついていく形で大広間へと向かう。
 その途中、初本に向かって手を挙げる男がいた。
 
(‘_L’)「おはようございます」
 
(´・ω・`)「久しぶりだね、水戸くん」
 
 差し出された右手を初本が握った。
 肯綮高校の水戸蓮人。県内屈指の実力者だ。

122第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:23:54 ID:iN94.SDg0
(‘_L’)「今年も芽院高校が強いことは分かっていますが、我が校も昨年と同じではありませんよ」
 
(´・ω・`)「だろうね。一番警戒してるよ」
 
(‘_L’)「決勝で当たるのを楽しみにしています。それでは、また」
 
 水戸が軽く頭を下げ、芽院高校の生徒を先に通した。
 彼なりに、昨年の優勝校に敬意を表したのだ。
 
 大広間には既に参加校が集まっていた。
 
(;^ω^)「おぉっ、けっこうたくさん居ますお」
 
(´・ω・`)「麻雀部がある高校はそれほど多くない、とはいえ全部で14校いるからね」
 
('、`*川「100人くらい居ますかね?」
 
(´・ω・`)「選手としては70人。あとはメンバーから漏れた部員とかマネージャーとかもいるから、だいたい100人くらいかな」
 
( ^Д^)「始まりますね。着席しましょう」
 
 芽院高校の六人が着席するのとほぼ同時に、県大会の主催者が登壇した。
 白髪で恰幅のいい老人が、淡々と紙を読み上げる。
 
 初本は、あまりその声を聞かずに、周囲を見回していた。
 既に二度出場した大会で、見知った顔も多い。
 しかし当然、各校の一年生のことは分からない。

123名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:25:28 ID:yxrDq8UA0
ということはブーン達の学校は一番規模が小さいのか

124名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:25:39 ID:uF3vlIY.O
フィレンクトさんじゃないか
今回はどんな活躍してくれるのか楽しみ

125第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:26:03 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)(一年生に思わぬ実力者がいるかもしれない。まぁ、そんなこと考えても分からないんだけど)
 
(´・ω・`)(とりあえず手強いのは肯綮高校、これは間違いない)
 
(´・ω・`)(一昨年、昨年と連続で準優勝。今年はかなり優勝に燃えているはずだ)
 
(´・ω・`)(あとは麦秀高校の伊要、陶冶高校の杉浦も去年手強かったし、今年も勝ちあがってきたら厄介だ)
 
(´・ω・`)(ウチは四人目までに決着をつけないといけない。苦しい戦いになるのは間違いないな)
 
 初本が思考を巡らせているうちに、主催者の挨拶が終わっていた。
 次いでルールが説明されるが、これは事前に配布された資料と全く同じ説明だった。
 
(´・ω・`)(開会式が終わったら、とにかく内藤にルールを教えないと)
 
(´・ω・`)(ただ、各校の新入生の実力もチェックしておきたい。ルールを教えるのは他の部員に任せたほうがいいかな)
 
(´・ω・`)(新戦力の実力次第では、ノーマークの高校の台頭もありうる。怖いところだ)
 
 常に思考を続けるところは、日常生活でも麻雀でも変わらない。
 初本は、そんな自分の特徴をよく分かっていた。
 
 ただ、今年は去年までとは違う。
 最高学年となり、皆を引っ張らなければならない立場となった。
 思考だけを続けているわけにもいかなくなった。
 
(´・ω・`)(改めて思い返してみると、不安ばっかり抱えてるなぁ、僕は)
 
 思考の果てにそう思い、自嘲的な笑みが軽く漏れる。
 初本は、いかに去年までの自分が先輩に頼っていたのかを、改めて自覚したのだ。

126名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:28:06 ID:.qK5zOzU0
名字で誰か判るな

127第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:29:15 ID:iN94.SDg0
 初本自身、県大会では上位レベルの実力がある。
 ただし、昨年は全国大会ではほとんど通用しなかった。
 その自分の実力から生じる不安が、まず大きいのだ。
 
 全国区の打ち手である笑野に関しては、初本はほとんど心配していなかった。
 県大会レベルでは敵がいない。今年もやってくれるだろう、と期待を込めていた。
 しかし、一年生たちの実力がどこまで通じるのかは、やってみなければ分からない部分が大きい。
 
 昨年までは、自分の麻雀にだけ集中していればよかった。
 部長となった今年は、皆を牽引していく必要がある。
 果たして自分に務まるだろうか。初本の不安は、誰にも言えないまま低回している。
 
 やがて、開会式が終わった。
 
( ^Д^)「ふー、終わった終わった。一回戦から戦う高校はすぐ試合なんてキツイですね」
 
(´・ω・`)「そうだね。笑野もそうだけど、僕も二回戦からの県大会しか経験してないし」
 
( ^Д^)「よーし、二回戦まで内藤をビシバシ鍛えるぞ!」
 
(;^ω^)「お、お願いしますお」
 
(´・ω・`)「いや、待ってくれ笑野」
 
( ^Д^)「え?」

128第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:31:26 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「内藤の指導は毒島と椎名に任せよう。僕たちは他校の試合を見ておくべきだ」
 
( ^Д^)「肯綮高校だけ注意しとけばいいんじゃないですか?」
 
(´・ω・`)「慢心は敵だよ、笑野」
 
(;^Д^)「うぐ、そうですね。侮っちゃいけませんね」
 
(*゚ー゚)「じゃあ私たちで内藤くんにルール教えますね。観戦のほう、よろしくお願いします」
 
(´・ω・`)「うん、そっちもよろしく」
 
 それから、初本は皆と一緒に控え室へと向かおうとした。
 しかし、初本の視界に、再び肯綮高校の水戸が入った。
 水戸の視線は初本に向いており、開会式の前と同じように歩み寄ってくる。
 
(´・ω・`)「あぁ、みんなは先に控え室に行ってていいよ」
 
 そう言って、初本は部員を控え室へ向かわせた。
 水戸が、先ほどとは違った空気を醸し出していたためだ。
 
(´・ω・`)「随分な表情じゃないか」
 
(‘_L’)「開会式の前は時間がなくて聞けなかったことを、聞いておこうと思いまして」
 
(´・ω・`)「何だい?」
 
(‘_L’)「"ネット界最強雀士の『ホライゾン』が芽院高校にいる"」
 
(´・ω・`)「!」
 
(‘_L’)「真の話ですか?」

129名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:32:37 ID:yxrDq8UA0
やはり知らないフリをしているだけなのか・・・?
wktk

130名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:32:52 ID:06EmFJlg0
フィレンクトとショボンの対決が見たい!

131名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:33:43 ID:uF3vlIY.O
プギャーが小物じゃない……だと……

132第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:33:51 ID:iN94.SDg0
 笑野は、ネットで噂を聞いたと言った。
 ならば水戸が知っているのも不思議ではない、と初本はすぐに理解できた。
 それでも動揺したのは、他校に質問された際の応答を考えていなかったためだ。
 
(´・ω・`)「ネットで聞いたのかい?」
 
(‘_L’)「えぇ」
 
(´・ω・`)「かなり広まった噂のようだね」
 
(‘_L’)「最近、頻りに噂されていますよ。三日前の出来事が、それに拍車をかけているのですが」
 
(´・ω・`)「どういうことだい?」
 
(‘_L’)「メンバー変更ですよ。噂が広まりだしたときに、誂えたようなタイミングでしたからね」
 
(´・ω・`)「なるほどね」
 
 ネット上では、芽院高校に『ホライゾン』がいるという噂が広まりだしていた。
 そこにちょうど、芽院高校が締め切り直前にメンバーを変更するという出来事があった。
 どうやら、『ホライゾン』を見つけてメンバー変更を実施した、という風に勘違いされたらしい、と初本は思った。
 
(´・ω・`)(まぁ、流れとしては間違っちゃいないんだけど)
 
(‘_L’)「正直、半信半疑でしたが、先ほどの反応を見る限りでは、ただの噂ではなさそうですね」
 
(‘_L’)「内藤という一年生、存分に警戒させていただきますよ」
 
(´・ω・`)「まぁ、対局を楽しみにしてるといいよ」
 
(‘_L’)「えぇ、そうさせていただきます」

133名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:35:08 ID:XQpdnXSg0
噂はただの噂ですむ悪寒

134第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:36:06 ID:iN94.SDg0
 肯綮高校の控え室へと向かう水戸の背中を見送ってから、初本も控え室に向かった。
 参加校すべてに個別の控え室が用意されており、気兼ねなく作戦を練ることができる。
 二年前までは控え室の数が少なく、他校と同じ部屋で余計な気苦労をさせられることがあったのだ。
 
 控え室に向かう途中で初本はペットボトルの緑茶を買い、観客席にも寄った。
 一般開放されており、疎らながら観客が既に入っていた。
 直接試合を見るのではなく、大型のテレビに映し出される映像を観るための部屋だ。
 
 観客の年齢層は様々だが、性別としては男のほうが多い。
 家族連れも居て、徐々に賑わいだしているところだった。
 
(´・ω・`)(さてと、どうするかな)
 
 寄り道を終えた初本は再び控え室へ向かう。
 思考を巡らせながら。
 
(´・ω・`)(水戸くんは『ホライゾン』のことを知っていた。多分、他の高校も同じだろう)
 
(´・ω・`)(最大限、警戒される。それはまぁ、別にいいんだけど)
 
 曲がり角を曲がって、控え室が立ち並ぶ通路を進んだ。
 何人かの生徒が廊下で立ち話をしている程度で、それほど騒がしくはない。
 
(´・ω・`)(芽院高校としては、真実を言うべきか、否か?)
 
(´・ω・`)(とはいえ、真実を言ったところで今更遅いか。僕が『内藤はホライゾンじゃない』と言っても疑われるに決まってる)
 
(´・ω・`)(だったらいっそ、思い切った作戦に出たほうが良さそうかな)

135名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:37:10 ID:1y6aUdns0
ブーン、祭り上げられるの巻w

136第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:38:27 ID:iN94.SDg0
 頭のなかに思考を漂わせたまま、初本が芽院高校の控え室に入る。
 八畳程度の広さで、テレビと机と椅子があるだけの簡素な部屋だ。
 既に机の上には雀牌が散らばっていた。
 
('A`)「で、牌を切って、また自分の番が来たら山から一枚取る」
 
( ^ω^)「こんな感じかお?」
 
(*゚ー゚)「うん、そうそう」
 
 内藤には毒島と椎名がついていた。
 笑野と伊藤はテレビの前に座っている。
 試合は、地上波や衛星回線での放送はないものの、会場内ではリアルタイムで映像を見ることができるのだ。
 
(´・ω・`)「とりあえず、順調そうだね」
 
(*゚ー゚)「はい。まだ基本的なところですけど」
 
(´・ω・`)「とにかく試合で変なミスが出ない状態になってさえいれば、今のところはいいかな」
 
('A`)「ミスが出たら、そのときはしょうがないですよね」
 
(´・ω・`)「そうなんだけど、ちょっと考えがあってね。繰り返しになるけど、ミスが出ないようにしたいんだ」
 
(*゚ー゚)「どういうことですか?」

137第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:40:25 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「さっき水戸くんに聞かれたんだよ。『ホライゾン』がいるらしいねって」
 
(;^ω^)「おっ?」
 
(*゚ー゚)「もうそんなに広まってるんですか?」
 
(´・ω・`)「そうみたいだ。恐らく、どの高校も内藤のことを『ホライゾン』だと思ってるだろうね」
 
(;^ω^)「おっおっ」
 
(´・ω・`)「厄介な状況だけど、逆に利用するのも手だと思うんだ」
 
(*゚ー゚)「?」
 
('A`)「利用するってことは、『内藤はホライゾンだ』という嘘をつくってことですか?」
 
(´・ω・`)「いや、嘘はつかない。肯定も否定もしない。そのほうが効果的だと思うからね」
 
 肯定、否定、どちらもあまり意味を為さないだろうと初本は考えていた。
 いずれにせよ、かなり広まっている噂に対しては火に油を注ぐようなものだ。
 
(´・ω・`)「内藤を『ホライゾン』だと勘違いしてくれたままなら、相手はほぼ確実にエースを大将に起用する」
 
(´・ω・`)「だが、ウチはエースに副将を務めてもらって、副将戦で試合を終わらせる。相手のエースを封じ込められるんだ」
 
(*゚ー゚)「おー! 本当ですね!」

138名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:40:42 ID:yxrDq8UA0
そういえば実際に高校の部活に麻雀部ってあるのだろうか

139名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:42:29 ID:XQpdnXSg0
>>138
賭け事だから承認されないんじゃないか?

140第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:42:45 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「これが最大のメリットだけど、他にもメリットはある。万が一、内藤にまで回ってしまった場合だ」
 
(;^ω^)「起きて欲しくはない事態ですお」
 
(´・ω・`)「普通にやれば勝てるはずがない。相手は経験豊富な各校のエースだからね」
 
(´・ω・`)「だけど、『ホライゾン』だと思い込んで対局すると、恐らく打ち筋が変わる」
 
(´・ω・`)「あまり強気に打てなくなるはずだ」
 
('A`)「確かに、自分だったらそうなります。警戒してしまいますね」
 
(´・ω・`)「いずれはバレるかもしれないことだけど、序盤だけでも怯えてくれていれば、ウチにとっては有利だ」
 
(*゚ー゚)「なるほどです。そのために、ミスが出ないようにしたいってことなんですね」
 
(´・ω・`)「うん。バレないに越したことはないからね」
 
(;^ω^)「どこまでやれるか不安ですお」
 
(´・ω・`)「内藤は気負わなくていい、失敗しても君のせいじゃない。もし出番が来たら、そのときは気楽に打ってくれればいいんだ」
 
(*゚ー゚)「うん、そうだよ。巻き込んだのはこっちだから、何が起きてもブーンくんは悪くないもん」
 
 初本と椎名が、優しげな笑みを浮かべていた。
 不安を取り除くためにそうしてくれたのだ、と内藤には分かった。

141第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:44:56 ID:iN94.SDg0
( ^ω^)「了解ですお。でも精一杯頑張ってみますお」
 
(´・ω・`)「ありがとう。じゃあ、毒島と椎名は引き続きよろしく。僕は他校の試合を見ておくから」
 
(*゚ー゚)「はーい」
 
('A`)「分かりました」
 
 テレビの前の椅子に向かった初本の背中を見てから、三人は再び雀牌に触れる。
 内藤はまだ基本中の基本を覚えた程度だ。
 
('A`)「自分の手牌に同じ牌が二つあって、それを他の誰かが切ったときは『ポン』ができる。その牌を自分が貰えて、対子が刻子になる」
 
( ^ω^)「ふむふむ」
 
('A`)「同じように塔子が順子になるように牌を貰うのが『チー』で、これは自分の左側の人が捨てたとき限定だ」
 
(;^ω^)「おっおっ」
 
('A`)「自分の手牌に刻子があって更にまた同じ牌が切られたとき、今度は『カン』ができて、そんで」
 
(;^ω^)「おっ? うーん?」
 
(;゚ー゚)「ちょ、ちょっと待ってドっくん。説明が性急な感じだよ」
 
('A`;)「あっ、ご、ごめん」

142名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:45:02 ID:1y6aUdns0
ホライゾン……一体誰なんだ

143名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:45:59 ID:.qK5zOzU0
チョンボがコワイ

144第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:46:53 ID:iN94.SDg0
(*゚ー゚)「それと、カンの説明は後回しにしたほうがいいかも。実際の対局でも、まだカンはやらないほうが無難だと思うし」
 
(*゚ー゚)「初本さんも『ミスが出ないように』って言ってたし、覚えてないと危ないところから説明したほうが良さそうだよ」
 
('A`;)「そ、そうだね。もっと基本的なところから説明していこうか」
 
 二人の一年生が初心者の一年生に対し、熱心にルールを教える声が初本たちの背に届く。
 笑野は始まってしばらく経った試合に目を向けながら、三人の声を聞いて軽い笑みを浮かべていた。
 
( ^Д^)「なかなかルール教えるのって難しいっすよね」
 
(´・ω・`)「そうだね」
 
 第一回戦は、早い試合では既に先鋒の南場に突入している。
 今のところ、初本と笑野が気にかかる高校はなかった。
 
(´・ω・`)「麻雀のルールは分かりにくいからね」
 
('、`*川「本当、そのとおりです。私も未だに全然分かんないですし」
 
(;^Д^)「伊藤の場合、麻雀にあんまり興味ないってとこが妨げになってるんだと思うけどな」
 
(´・ω・`)「内藤も一緒だよ。巻き込まれたから仕方なく覚えてるだけで、『麻雀への興味』という下地がない」
 
( ^Д^)「そうっすね、確かに。興味あることはすぐ覚えられますけど、興味ないとなると厳しいかもしれないっすね」
 
(´・ω・`)「うん。専門用語は多いし、三十以上ある役も覚えないといけないしね」
 
( ^Д^)「しかも中国語っすからね」

145名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:47:12 ID:06EmFJlg0
競技麻雀というものがあってだな…




大学だけど

146名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:48:22 ID:1y6aUdns0
ブーンならリアルにタンヤオAAやってくれそうだ

147第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:48:54 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「まぁ、去年から導入された完全自動雀卓のおかげで、点数は覚えてなくても何とかなるっていうのが救いだね」
 
( ^Д^)「あれ本当に助かりますね。牌を倒すだけで勝手に役を判定して、点数まで計算してくれるなんて」
 
(´・ω・`)「完全自動雀卓がなかったら、内藤を試合に出すのは完全に諦めるべきだっただろうね」
 
( ^Д^)「あの雀卓ってどういう仕組みになってるんすかね?」
 
(´・ω・`)「雀牌ひとつひとつにICチップが埋め込まれてて、それを雀卓が読み取って判定してるらしいよ」
 
( ^Д^)「それだけで牌を倒す動きとかも分かるんすか?」
 
(´・ω・`)「六軸ジャイロセンサーも搭載してるらしいからね。別に加速度は分からなくても良さそうなんだけど」
 
( ^Д^)「よく分かんないっすけど、大したもんっすねー」
 
 初本が注視している第一回戦の第一試合は、南場二局に差し掛かっていた。
 陶冶高校の江楠が跳満を和了。トップを直撃し、順位が入れ替わった。
 
( ^Д^)「舐めてるわけじゃないっすけど、さすがに全国大会に比べるとレベルは落ちるっすね」
 
(´・ω・`)「まぁ、そりゃそうさ」
 
( ^Д^)「第一試合はどこが勝ちそうっすか?」
 
(´・ω・`)「一位通過は陶冶高校だろうね。ここは大将の杉浦くんが強い」
 
( ^Д^)「杉浦は覚えてますよ、去年戦った相手っすから」

148名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:49:34 ID:.qK5zOzU0
なにそれすごい

149名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:50:54 ID:/igO2z620
なにそれほしい

150第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:52:29 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「そっちの第二試合はどうだい?」
 
( ^Д^)「順当に麦秀高校じゃないっすかね、トップ通過は。大将の伊要まで回らないかもしれないっす」
 
(´・ω・`)「伊要くんが出るまでもない、か。それは手強いかもしれないね」
 
 その後、二人が予想したとおりに展開は進んでいった。
 先鋒が得たリードを次鋒と中堅が守る、理想的な流れ。
 陶冶高校と麦秀高校の一回戦通過はほぼ確実となっていた。
 
 第三試合も凌雲高校が順調にリードを築き、他校の逆転は厳しい点差となっている。
 初本は腕時計で時間を確認した。
 
(´・ω・`)「11時か。ちょっと早いけど、昼御飯を食べておいたほうがいいかもしれないね」
 
( ^Д^)「そうっすね。三試合とも大将戦まで回らなさそうっす」
 
(´・ω・`)「まぁ、僕と笑野の出番はまだまだ先だから、急ぐ必要があるのは毒島と椎名だけどね」
 
('、`*川「買い出しはアタシが行ってきます。コンビニでいいですよね」
 
(´・ω・`)「うん。僕はおにぎり三つとメロンパンね。おにぎりの具は何でもいいや」
 
( ^Д^)「俺はチキンカツ弁当。もしなかったらハンバーグ弁当を頼む」
 
('、`*川「はーい」
 
(´・ω・`)「一人で大丈夫かい?」
 
('、`*川「さすが初本さん、優しいです! でも大丈夫です!」
 
(´・ω・`)「大丈夫ならいいんだけど、気をつけてね」
 
('、`*川「はーい♪」

151名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:52:47 ID:uF3vlIY.O
なにこれほしい

152名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:54:57 ID:ObBVgHps0
はやく雀卓メーカーは全自動卓の生産にとりかかるべき

153名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:55:22 ID:yxrDq8UA0
ブーンのときにICが故障!とか期待

154第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:56:34 ID:iN94.SDg0
 伊藤が立ち上がって、内藤たちの希望を聞くべく雀卓に近寄る。
 レクチャーを始めてから既に三時間以上。内藤の顔にははっきりとした疲労が浮かんでいた。
 
('、`;川「ぐったりしてんね、内藤」
 
( ´ω`)「なんで麻雀のルールってこんなに難しいんだお、意味不明だお」
 
 内藤が雀牌の海に頭を突っ込ませる。
 慰めるようにして椎名が内藤の頭を撫でた。
 
(;゚ー゚)「突然だもんね、すぐには覚えられないよね」
 
('A`;)「とはいえ、もうあんまり時間がないなぁ」
 
( ´ω`)「一度覚えたこともしばらく経つと忘れちゃうんだお」
 
('A`;)「そこは反復していくしかないだろうけど」
 
('、`*川「とにかく、昼御飯買ってくるから、何が食べたいか教えて。内藤は?」
 
( ´ω`)「ツナのおにぎりと卵のサンドイッチとチョコロールパンとリンゴのデニッシュとヨーグルトとシュークリームとポテチとコーラ」
 
('、`;川「注文多いわねアンタ!」
 
('A`;)「ぼ、僕は適当にパンを三つくらい。クリームパンがひとつあれば、後は本当に何でもいいです」
 
('、`;川「何で敬語なのよ。まぁいいけど」
 
(*゚ー゚)「私は一緒に行くよ、ペニちゃん。試合の前にリラックスしたいし」
 
('、`*川「そう? じゃあ一緒に行こっか」

155名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:57:02 ID:1y6aUdns0
これあったらネット専門の人達が一気に雀荘デビューし出しそう

156第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:58:47 ID:iN94.SDg0
 椅子から立ち上がって体の筋を伸ばした椎名が、伊藤と共に控え室から出て行き、コンビニへ向かった。
 毒島はぐったりしたままの内藤に嘆息を吐く。
 
('A`;)「いきなり覚えろって言われても、そりゃキツイだろうけどさ。頑張ってくれよ、内藤」
 
( ´ω`)「頭の中がゴチャゴチャで、しっちゃかめっちゃかだお」
 
(´・ω・`)「迷惑かけてしまって本当に申し訳ない、内藤」
 
('A`)「初本さん」
 
(´・ω・`)「毒島は少し休んでくれ。一時間くらいで試合だからね」
 
('A`)「そうですね、ありがとうございます」
 
 毒島は二回戦の先鋒として起用されることが決まっている。
 内藤ほどではないものの、必死でルールを説明しつづけたことによる疲労は多少なりともあった。
 試合には万全の状態で臨むべき、と考える初本の計らいだ。
 
(´・ω・`)「ルールはどれぐらい把握できてる?」
 
( ´ω`)「正直、どこまで理解しているのかさえ分かりませんお」
 
(´・ω・`)「ゲームのだいたいの流れは?」
 
( ´ω`)「何となく、程度には」
 
(´・ω・`)「最低限、それさえ分かってれば何とかなるよ。勝とうとしなくていい、ただゲームを流していってくれればいいんだ」
 
(´・ω・`)「仮に内藤まで回ることがあったとしても、それまでに僕らはリードを築いているはずだからね」
 
(´・ω・`)「それに、前も言ったけど、仮に負けても君のせいじゃない。気楽に臨んでくれればいいんだ」

157名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 21:58:49 ID:1y6aUdns0
pizza

158第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:00:55 ID:iN94.SDg0
 初本の言葉は、内藤を安心させるためのものであり、本心でもあった。
 内藤に回してしまった時点で、敗北は覚悟しておくべきだと考えているからだ。
 
 そして内藤は、心に羽根がついたような軽さを覚えていた。
 
( ^ω^)「少し、気が楽になりましたお」
 
(´・ω・`)「うん。ルールはゆっくり覚えていってくれればいいから。焦らなくていいから」
 
( ^ω^)「はいですお」
 
(´・ω・`)「雀卓から離れて、少し休もうか」
 
 二人揃って立ち上がり、笑野と毒島が座っているテレビ前の長椅子に腰掛けた。
 長椅子の前には小さなテーブルがあり、そこに置かれた御欠を内藤が口にする。
 
(´・ω・`)「今ちょうど一回戦の副将戦をやってる。試合を見るのも勉強になるはずだよ」
 
( ^ω^)「実はちょっと見てみたかったんですお」
 
 一回戦の三試合は並行して実施されているが、進行度合いは試合によって違った。
 第一試合は早くも南場に突入しているが、第二試合は東三局、第三試合は東二局の一本場だ。
 
( ^Д^)「やっぱ大将戦には回りそうもないっすよ、初本さん」
 
('A`)「あと30分くらいで決着しそうですね」
 
(´・ω・`)「うん。大将たちが去年とどう違うのか見ておきたかったけど、こればっかりはしょうがないね」

159第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:03:32 ID:iN94.SDg0
 やがて第一試合が終わった。
 一位は麦秀高校、二位が万斛高校。ここまでが二回戦に進出する。
 三位と四位は一回戦敗退となった。
 
('、`*川「お昼ですよーっと」
 
(*゚ー゚)「ドっくん早く食べなきゃだね、試合始まっちゃう」
 
('A`;)「あ、ありがとうございます」
 
 買出しから戻ってきた二人が袋を机に置き、毒島は何度も頭を下げてからパンを受け取る。
 要望していたクリームパンと、後はショコラデニッシュ、ベーコンマヨネーズパンだ。
 代金として400円を支払ってから袋を開いて食べ始めた。
 
('、`*川「笑野さん、チキンカツ弁当はなかったです。チーズハンバーグ弁当ですけどいいですか?」
 
( ^Д^)「サンキュー」
 
(*゚ー゚)「初本さんはおにぎり三つとメロンパンですよね。チョコチップメロンパンしかなかったですけど」
 
(´・ω・`)「あぁ、構わないよ。ありがとう」
 
(*゚ー゚)「あとこの袋に入ってるのは全部ブーンくんのだから。はい、どうぞ」
 
( ^ω^)「おぉ、ありがとだお。あ、代金、お札しかなくてゴメンだお。お釣りあるかお?」
 
('、`*川「大丈夫、内藤はジャスト1000円だから」
 
 初本と笑野も伊藤に代金を払ってから食べ始めた。
 伊藤が買ったのはチョコクロワッサンとクイニーアマン、袋から香ばしい匂いを漂わせているホットスナックのチキンだ。
 椎名は控え室に備え付けられたポットで湯を沸かし、スープ春雨のカップに注いだ。

160第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:05:46 ID:iN94.SDg0
(;^Д^)「しくじった、俺もチキン頼めばよかった」
 
('、`*川「食べます? 一口だけならいいですよ」
 
( ^Д^)「マジ? サンキュー」
 
(´・ω・`)「あ、第二試合が終わったね」
 
(*゚ー゚)「後は第三試合だけですね」
 
 第二試合は陶冶高校と豊稔農林高校が上位となり、二回戦進出を決めた。
 残る第三試合もオーラスに突入している。
 
 そして最後は一位の凌雲高校が安目の手を和了って終局。
 凌雲高校と和煦高校が二回戦へと駒を進めた。
 
(´・ω・`)「決まったね」
 
( ^Д^)「ウチは確か、第一試合の一位と、第二試合の二位と、第三試合の一位が相手ですよね」
 
(´・ω・`)「うん。だから麦秀高校と豊稔農林高校と凌雲高校だね」
 
(*゚ー゚)「どこが強いですか?」
 
(´・ω・`)「麦秀。椎名の相手は恐らく簿留っていう三年生だと思うけど、少し手強いかもしれないね」
 
(*゚ー゚)「楽しみです!」
 
('A`)「麦秀の先鋒は松中ですよね」
 
(´・ω・`)「ん? そうだけど、もしかして知り合い?」

161名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:07:46 ID:XQpdnXSg0
間接キス…だと…

162第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:08:49 ID:iN94.SDg0
('A`)「同じ中学だったんですよ。接点は全くなかったですし、麻雀やってるとは知らなかったですけど」
 
(´・ω・`)「へぇ。奇妙な縁もあるもんだね」
 
( ^Д^)「麦秀の副将の名織ってやつはパっとしないっすね。打牌がめちゃくちゃ早いっすけど、ミスが多いっすよ」
 
(´・ω・`)「あぁ、僕も見てたけど、そんな感じだったね。ただ、自分のペースに持ち込んだときは強いタイプかもしれない」
 
( ^Д^)「そうっすね、警戒しときます」
 
 一回戦の三試合が全て終わったあと、テレビには第二回戦の組み合わせが表示されていた。
 同時に試合開始時間も示されている。12時30分から開始だ。
 時計の短針は真上を向き、長針はそこからやや進んだところにいた。
 
(´・ω・`)「試合開始は12時30分だけど、一応10分前には対局室に入っておいたほうがいいよ、毒島」
 
('A`)「分かりました」
 
 三つのパンを全て食べ終え、喉を鳴らして緑茶を飲む。
 対局室に持ち込むためのペットボトルを抱え、立ち上がって軽く体を動かした。
 
 内藤まで回さずに二回戦を終わらせるためには、先鋒戦で躓くことは許されない。
 毒島は、それを充分に理解していた。
 
 初めての公式戦にかかる重圧としては、非常に大きい。
 しかし、表情に出すことのないまま、毒島は制服のブレザーを羽織った。

163第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:11:17 ID:iN94.SDg0
('A`)「行ってきます」
 
(´・ω・`)「頼んだよ」
 
( ^Д^)「ぶちかましてこい!」
 
(*゚ー゚)「頑張ってね!」
 
('、`*川「行ってらっしゃーい」
 
( ^ω^)「頑張ってだお!」
 
 麻雀部の面々に見送られ、控え室の扉の取っ手を捻る。
 一回戦を通過した高校が集う対局室へと、毒島が歩を進めた。
 
 第三十八回、全国高校麻雀選手権、三重県大会。
 昨年の優勝校、芽院高校が初陣へと臨む。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第2話 終わり
 
     〜to be continued

164 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:12:54 ID:iN94.SDg0
第2話は以上です、ありがとうございました

一つ訂正です
>>128で椎名が「内藤くん」と言っている箇所は、「ブーンくん」の間違いです

165名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:13:19 ID:SKQNgPWk0
おつー

166名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:13:24 ID:XQpdnXSg0
乙かれー

167名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:13:44 ID:.qK5zOzU0

毎回良いところで切りやがるぜ……
三重県が舞台だったのね

168名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:14:28 ID:yxrDq8UA0
おつおつー、次回から試合か。どう表現するのかが気になる

169名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:15:58 ID:ObBVgHps0
おつおつです
次回投下の予定とかある?

170 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:19:31 ID:iN94.SDg0
ようやく次回から麻雀をやるんですが、今のところ第3話の投下予定は完全未定です……

前提のところでも書かせていただいたように、この作品は気楽なスタイルでやっていこうと思います
書きたいなーと思ったらのんびり書いていくような、そんな作品にするつもりです

なので、自分でもどれくらい投下間隔が空くのか正直分からず、
もしかしたらここで終わってしまう作品かもしれません
もしかしたら別の作品を書きたい欲求に駆られるかもしれません

そんな作品で申し訳ないのですが、それでもお付き合いいただけるという方は、よろしくお願い致します

171名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:21:08 ID:1y6aUdns0

続きが楽しみだ

172名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:24:25 ID:/igO2z620
おつ

173名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:37:41 ID:11kJGvyQo
乙!!
続き気になるが書きたいものを書きたいときに書きたいように書く、っていうのがブーン系だと思う
続きでも別の作品でもいつか来たら全力で楽しみたい

174名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:50:49 ID:u7dVTg9s0
面白かった、乙

175名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 22:56:16 ID:5E/qJfW20
のんびりでええよ。こっちものんびり待つし、続きが来たらもうけものと考えるし。

なんていいつつもやっぱり期待しちゃう!悔しいっ!
乙でした!

176名も無きAAのようです:2012/09/03(月) 02:22:18 ID:TDCvrUVI0
乙、いいねー

177名も無きAAのようです:2012/09/03(月) 03:11:48 ID:.2rXtkyo0

ニヨニヨしながら読んだwwwww
おんもすれー

178名も無きAAのようです:2012/09/03(月) 04:38:04 ID:qkP9yZB.0
この雀卓チャンカンとかのアガリはどうやって認識すんだろう
ところで作者さんは符計算できる?

179<^ω^;削除>:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>

180 ◆azwd/t2EpE:2012/09/03(月) 22:13:01 ID:ef0UekKE0
>>178
基本的には、手牌を倒すとそのとき和了りの状況かどうかを全ての牌を読み取って雀卓が判断する、という設定です
なので槍槓のときも、カンの直後に手牌を倒すだけでOKです
もちろん和了りの条件を満たしていないときはチョンボ扱いです

符計算はちゃんと時間をかければできますが正直めんどくせー!と思ってます
この作品で採用した符計算なしルールは、実は「そうなればいいなぁ」という自分の願望でもあります

181名も無きAAのようです:2012/09/03(月) 22:32:10 ID:8vPXsJnA0
おつおつ
楽しみにしてるよー

182 ◆azwd/t2EpE:2012/09/03(月) 23:13:38 ID:ef0UekKE0
RESTさんにまとめていただきました
ありがとうございます!

http://boonrest.web.fc2.com/genkou/jan/0.htm

183名も無きAAのようです:2012/09/04(火) 03:20:48 ID:hdzGhCNk0
麻雀で大会だと咲のイメージがする

184名も無きAAのようです:2012/09/04(火) 05:04:33 ID:siO.X1WI0
符計算なしというと、符の高に関わらず
子の1000,2000,3900,8000,ピンツモでも30符ツモと同じ扱いという事かな?
チートイも通常の30符上がりと同じ計算になるんでしょうか

確かに符計算は面倒だけれど、それがないと麻雀としてのおもしろみが無いと思うんだよな
リアルでどっかの団体がそのルールを採用してるが、それはどうなん?て言われてるしなぁ
とにかく続き楽しみにしています

185名も無きAAのようです:2012/09/04(火) 11:42:35 ID:ZTMyL1NM0
>>106
( ^ω^)「笑野さんと毒島さんは?」
って言ってるけど
1話だと毒島のこと呼び捨てだよね?
ちょっと気になった

186名も無きAAのようです:2012/09/04(火) 15:50:27 ID:l4a8G4ZYO
ちょっと麻雀のルール覚えてくる

187名も無きAAのようです:2012/09/04(火) 17:25:10 ID:hN0MtXtA0
基本ネト麻ばっかりやってるライト層は符計算できないのが大半
役の点さえ覚えてないのも少なくない
もうね、ネト麻ばっかりやってると計算する必要ないし計算しようって気にもならないのよ
ライト層なんてそんなもん

188名も無きAAのようです:2012/09/04(火) 18:35:18 ID:72Ct0vZ.0
俺のことか

189名も無きAAのようです:2012/09/04(火) 19:11:11 ID:7fN4dc/.O
>>185先輩達に対して喋ってるから('A`)にもさん付けと解釈した

190 ◆azwd/t2EpE:2012/09/04(火) 23:23:08 ID:gW0Lk1ho0
>>184
確かに符計算があるからこその楽しさというのはあると思います
ただやっぱり、麻雀の入り口を狭くしてしまっているのも事実かなと思います

点数については、次回からテンプレとして出す予定だった表が以下です
これだけを基準に今後の話は進んでいきます

■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点

■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

>>185
oh!
すみません、ミスですね
「毒島さん」ではなく、正しくは「毒島」です

191名も無きAAのようです:2012/09/05(水) 09:07:05 ID:HWLqLMeoO
読み終えた 乙

今度は「僕」ショボンなんですね
麻雀のルールさっぱりだけど楽しみにしています

192名も無きAAのようです:2012/09/05(水) 19:44:20 ID:.2ivDNHg0
3飜はロン上がりでも4000、6000点なんですか?
チートイドラ2でも満貫?

ダブロンか頭ハネか
ラス親のアガリ止めは有りか無しか
途中流局(九種九牌/四家立直/三家和了/四槓散了/四風連打)はどうなってるのか
流し満貫はアリか、パオは有りか、二飜縛りはありか
順位ウマはどれくらいか、オカ、焼き鳥はあるのか

この辺の基本ルール知りたいです!


基本ルール一覧みたいのが欲しい・・・
あ、作中で説明するからもうちょい待ってろってなら座って待ってます
wktk

193 ◆azwd/t2EpE:2012/09/05(水) 20:42:47 ID:a.xddubY0
>>191
そうですね、一応初めての僕ショボンです

あと、気づいた方いらっしゃるかもしれないのですが、
今作は今までに多用していた三点リーダを完全排除して書いています
これまで三点リーダに頼りすぎている気がしたので、一回完全にやめてみよう!と思い立ちました

そんな感じで今までと色々やり方の違うところがあって、書きにくかったりもするんですが、
自分の成長のためと思い、頑張ってます

>>192
子の1飜以外はロン・ツモ共通の点数です
七対子ドラ2は満貫です
点数に関してはかなりシンプルな形にしています

あとの対局ルールに関しては次回に出す予定です

194名も無きAAのようです:2012/09/05(水) 21:48:20 ID:WQAUqg2.0

面白い現行が増えてきて嬉しい

195名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 17:28:21 ID:xB7fM5rUO
正直全然来ないよっていうスタンスを教えてくれるだけで充分ありがたい
待つ気が出来る

投下する時はレスして教えてくれよー

196 ◆azwd/t2EpE:2012/09/12(水) 23:24:05 ID:RJzjGEUw0
>>195
もちろんです
具体的な時期が分かったら予告します

報告遅れましたが、ブーン芸さんにもまとめていただきました
ありがとうございます!

http://boonsoldier.web.fc2.com/zyanpai.htm

197名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 20:41:32 ID:CHoWS1VQ0
待ってる!と言っちゃいけないと分かってても言わされるなんて悔しい…

198名も無きAAのようです:2012/09/14(金) 23:06:28 ID:mC7r2KlQO
>>197
別に誰も言っちゃいけないなんて言ってないだろ
後ろめたくさせてしまうんじゃないかみたいな罪悪感なんて持つんじゃない

むしろ持たせて書いてもらえ

199 ◆azwd/t2EpE:2012/09/15(土) 00:29:12 ID:cD619fcc0
そうですね、「待ってる!」と言われるのは全然OKです、むしろ嬉しいです
ただ、今までだったら続きを書くことが約束できていたのに、今作ではそれができないので、
その点はごめんなさい、という感じです
期待してもらえること自体はとても嬉しいです

200名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 20:12:22 ID:uXuTLqHk0
それではお言葉に甘えて…
待ってます!

201名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 04:56:39 ID:lur6dNbM0
楽しみじゃのう

202名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 00:04:58 ID:Oe9bYlNw0
wktk

203名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 20:13:19 ID:MiuXE8wc0
期待

204 ◆azwd/t2EpE:2012/09/25(火) 23:30:20 ID:64d/QiOM0
皆さんありがとうございます

第3話を9/29(日)に投下予定です
よろしくお願いします

205名も無きAAのようです:2012/09/25(火) 23:43:10 ID:N1jBq2P60
おー!
待ってます!

206名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 00:54:13 ID:Hsbp/dlsO
待ってるわー

207名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 01:29:10 ID:I4RuyRzA0
楽しみだ

208名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 07:56:13 ID:WzLIbVLE0
wktk

209名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 08:40:38 ID:7/kWVNk2O
29日は土曜だぞー!

210名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 08:44:36 ID:icqL22so0
ktkr!!!!!
楽しみに待ってます

211 ◆azwd/t2EpE:2012/09/26(水) 21:11:32 ID:MX38t.yA0
>>209
あれ!?
すみません、勘違いしてましたね……
正しくは9/29(土)です

212 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 20:06:19 ID:GkQY0Mg20
21時ごろから投下予定です、よろしくお願いします

213名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 20:08:02 ID:oJiCsYMsO
待ってるよー

214名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 20:23:41 ID:m5YbrJZc0
楽しみにしてるよー

215 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:05:31 ID:GkQY0Mg20
こんばんは
ドーナツ食べながらもりもり投下します

と、思っていたのですが、テンプレ作るつもりで作ってなかったことに気づいたので、
作りながら投下していきます

216登場人物 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:12:15 ID:GkQY0Mg20
◇芽院高校

■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生

■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生

■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生

■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生

■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生

217大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:13:56 ID:GkQY0Mg20
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。

一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。

例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。

どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

218名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 21:14:50 ID:JR/MmAOIO
ありがたい
支援

219大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:15:40 ID:GkQY0Mg20
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

220大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:17:48 ID:GkQY0Mg20
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点

■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

221第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:20:32 ID:GkQY0Mg20
【第3話:踏み出す二本の矢】
 
 
 静かに打牌の音が積み重ねられていた。
 
 東一局は凌雲高校が親番だったものの、豊稔農林高校が速やかに役牌のみでロン和了り。
 豊稔農林高校を親とする東二局へと差し掛かっていた。
 
<メ´Θ`>(配牌は三向聴か)
 
 豊稔農林高校の近藤は、先ほど上手く凌雲高校の親番を流した。
 点差は小さいとはいえ現時点では首位。この順位を守っていきたい気持ちは強い。
 
<メ´Θ`>(正直、この面子じゃあウチの決勝進出は厳しい。芽院と麦秀が抜けてる)
 
<メ´Θ`>(でも諦めるわけにはいかない。運次第で何とでもなるのが麻雀だ)
 
<メ´Θ`>(まずこの先鋒戦、トップに立ってバトンを渡す。それが俺の役目だ)
 
 五巡目。
 近藤の手は一向聴まで進んでいた。
 
 四萬か六筒を引けば三色同順をテンパイ。
 三色同順がつかなくとも断幺九、平和は実質的に確定している。
 喰い下がりをやむなしとすれば、更に手が進むのは早くなるだろう。
 
 八巡目、近藤は四萬を引いた。
 
<メ´Θ`>「立直」
 
 近藤が雀卓の立直ボタンを押すと、卓上に立直棒の画像が表示された。
 物理的な点棒のやり取りが存在しないのも、完全自動雀卓の特徴だ。

222第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:23:44 ID:GkQY0Mg20
<メ´Θ`>(さて、どう出る?)
 
 近藤は他の三人の様子を窺った。
 まだテンパイの気配はない。
 
<メ´Θ`>(凌雲のやつは降りそうな気配だ。麦秀はまだ仕掛けてきそうだが、芽院は全然手が進んでないみたいだな)
 
<メ´Θ`>(まぁ、立直しちまったから後はツモ切りするだけだ)
 
 九巡目、近藤が引いた牌はドラの八萬。
 当たり牌の六筒ではなかった。
 
 そして、近藤が静かにツモ牌を捨てた直後、声が上がる。
 
('A`)「ロン」
 
 近藤は、呻き声を漏らしかけた。
 最も和了りの気配が薄いと感じていた芽院高校の毒島が、ロンを宣言したのだ。
 
('A`)「満貫」
 
 牌が倒される。
 それを読み取った雀卓から音声が流れた。
 
雀卓「西家、ロンです。平和、一盃口、ドラ2。満貫、8000です」
 
 得点を表示する画面に変化があった。
 まず毒島が8000点を得て33000点に、近藤が8000点を失って18000点となる。
 それから立直棒供託の計算がなされ、最終的に毒島が34000点、近藤が17000点となった。

223第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:26:52 ID:GkQY0Mg20
<メ´Θ`>(くそっ、いきなり満貫に振り込んじまった)
 
<メ´Θ`>(捨て牌を見る限りだと配牌時点で一向聴だったか。読みが甘かったな)
 
<メ´Θ`>(まぁ、まだ始まったばっかりだ。切り替えて行くぜ)
 
 東三局。
 麦秀高校の松中を親とする局面へと移ろった。
 
<メ´Θ`>(おっ、二筒と八筒以外の筒子が揃ってる。一気通貫狙うっきゃねーな)
 
<メ´Θ`>(ツモに恵まれれば混一色も望める。鳴かずに進めりゃ満貫だ)
 
<メ´Θ`>(とはいえ和了りも重視したい。無理せず鳴いていくか)
 
 その近藤の思惑どおり、四巡目に八筒が切られ、近藤は声高にチーを宣言する。
 六巡目には対子となっていた白を引き、一気通貫、混一色、役牌の一向聴。
 既に鳴いているものの、当初の狙いどおり満貫となる手だった。
 
 そして九巡目。
 近藤は二筒を引き、これでテンパイ。
 南を引けば和了りという形に持ち込んだ。
 
<メ´Θ`>(誰か切ってくれねーかな)
 
 近藤は捨て牌を見回した。
 南はまだ一枚も切られていない状況だ。
 
 ツモ和了りもロン和了りも期待できる。
 揚々と十巡目のツモを切って、近藤は他家の捨て牌を待った。
 
 しかし、南家が牌をツモしたとき、ツモ牌は捨てられずに手牌と共に倒された。

224第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:29:50 ID:GkQY0Mg20
('A`)「ツモ、500・1000」
 
<メ´Θ`>「ッ!」
 
雀卓「南家、ツモです。断幺九、三色同順。二飜、500・1000です」
 
<メ´Θ`>(くそっ!)
 
 東三局を終えた時点で、芽院高校が36000点でトップ。
 二位が凌雲高校で24500点、三位が麦秀高校で23000点。
 最下位が16500点の豊稔農林高校となった。
 
 
 
(*゚ー゚)「ドっくん凄い! 順調ですね!」
 
(´・ω・`)「うん。まだ油断できないけどね」
 
 内藤の指導役は笑野が担当し、初本と椎名は毒島をテレビ越しに応援していた。
 伊藤は朝が早かったことによる眠気に襲われ、机に頭を伏せて寝息を立てている。
 
(´・ω・`)「この面子じゃ毒島の実力がひとつ抜けてる感じだね。緊張もしてないみたいだし」
 
(*゚ー゚)「初めての公式戦なのにあそこまで堂々と打てるって凄いですよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。でも、椎名もきっと大丈夫だ。毒島がリードを奪ってくれてるし」
 
(*゚ー゚)「はい。いつもどおりに打ってきます」
 
 椎名が右手を握り締めた。
 腕に嵌められたオレンジのブレスレットが光を撒きながら揺れている。
 初本は、微笑を浮かべながら頷いた。

225第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:33:07 ID:GkQY0Mg20
(´・ω・`)「また子が和了ったね。もう南場だ」
 
 東四局は毒島が親番だったが、麦秀高校の松中が立直、一発、門前自摸で和了。
 毒島は2000点を支払い、34000点となった。
 
(*゚ー゚)「展開早いですね。このままだとすぐに次鋒戦になりそう。準備しなきゃ」
 
(´・ω・`)「対局室に携帯は持ち込めないから、ここに置いていくように」
 
(;゚ー゚)「あ、そうですよね。危ない、持ち込んじゃうとこでした」
 
(´・ω・`)「まぁ、仮に対局室に持ち込んじゃったとしても、係員に預ければいいんだけどね」
 
(*゚ー゚)「あとは飲み物を用意して、トイレにも行っておけば万全! ですよね!」
 
(;´・ω・)「仮にもモデルなんだし、もうちょっと慎ましく『お手洗い』とかの表現にしたほうがいいんじゃないかなぁ」
 
 椎名が慌しく準備を始めたところで、先鋒戦は南一局で初めての流局。
 芽院高校と麦秀高校がノーテン罰符を支払った。
 
 南一局一本場は親の凌雲高校が安い手を和了って1800点を加算。
 しかし続く二本場では豊稔農林高校が親から出和了りし、2600点を取り返した。
 
(*゚ー゚)「どうなりました?」
 
(´・ω・`)「今は南二局だよ」
 
 紅茶のペットボトルを携え、椎名が控え室に戻ってきて、再びテレビの前に座る。
 内藤と笑野はテレビに視線を向けることなく懸命に練習を重ねていた。

226第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:36:17 ID:GkQY0Mg20
(*゚ー゚)「最下位の豊稔農林が親番ですね」
 
(´・ω・`)「うん。これ以上トップから離されまいと必死になってるよ、豊稔農林」
 
(*゚ー゚)「そういうときって、けっこう怖いですよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。無理に攻めてしまって、逆に振り込んじゃったりする」
 
(;゚ー゚)「あ、今まさに初本さんの言ったとおりになりましたね」
 
 決して安全ではない牌を豊稔農林高校の近藤が切り、立直していた麦秀高校の松中がロン。
 4000点のやり取りがあった。
 
(*゚ー゚)「南三局が終わったら対局室に向かいます」
 
(´・ω・`)「うん」
 
 南三局はまず流局があり、親のみテンパイで一本場へ。
 この時点で、僅差ながらも麦秀高校がトップに立ち、芽院高校は二位に転落した。
 
(;゚ -゚)「ドっくん、二位になっちゃいました」
 
(´・ω・`)「大丈夫だよ」
 
 南三局一本場は再び流局。
 親がノーテンだったため、南四局へと局面は移った。
 
(*゚ー゚)「逆転してくれることを信じて、行ってきます」
 
(´・ω・`)「うん、頼んだよ」

227第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:39:18 ID:GkQY0Mg20
 先鋒戦がオーラスとなったため、椎名が控え室から対局室へと向かった。
 初本は一人、毒島の戦いを見守る。
 
 
 
('A`)(よし、一向聴)
 
 八巡目、毒島は西を引いて八萬を切った。
 一向聴だが、トップの麦秀高校の松中も手が進んでいる気配がある、と思っていた。
 
('A`)(一位とは1000点差、このままだとウチは90ポイントだ)
 
('A`)(副将戦までで二回戦を終わらせるためには、先鋒から副将まで一人あたり25ポイントのリードを取っておく必要がある)
 
('A`)(易しい条件じゃない。でも、やるしかない)
 
 毒島が気合を入れ直したところで、雀卓中央の画面の表示に変化があった。
 
,(・)(・),「立直」
 
 トップの麦秀高校、松中が立直。
 これまで一枚も索子を捨てておらず、皆が染め手を疑うのは当然だった。
 
 実際、松中の手には索子が並んでいる。
 しかし、待っているのは東と中であり、二面待ちの混一色だ。
 これなら出和了りを期待できる、と松中は心を躍らせていた。
 
,(・)(・),(中は一枚切られてる。でも、東はまだ自分の手にしか見えてない。誰かが抱えてる?)
 
,(・)(・),(毒島が切ってくれたら一番いいけど)

228第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:43:00 ID:GkQY0Mg20
 十一巡目、その毒島が手切り。
 松中の警戒心が高まった。
 
,(・)(・),(テンパイしたかな)
 
 この半荘戦で松中が感じたことは、毒島はあまり立直をしないタイプだ、ということだった。
 鳴きも少ない。そのため、どこまで手が進んでいるのか読みづらい、と感じていた。
 
,(・)(・),(しかも何を待ってるのか分かりづらい。序盤の和了りは単騎待ちだったし)
 
,(・)(・),(親の毒島に振り込んだら一気に不利だ。自分のツモが毒島の当たりじゃないことを願うしかない)
 
 既に松中は立直しているため、降りることはできない。
 どれほど危険な牌だとしても切るしかないのだ。
 
 立直をかければ、皆が降りてくれるかもしれない。
 そう考えて松中は立直したが、トップを安全に守るためには、立直せずダマテンで行くべきだったのだろうか。
 
 松中がそう考えながらツモした牌は、一筒。
 切るしかないと分かっていながらも、一瞬手が止まった。
 
,(・)(・),(毒島は、幺九牌と字牌を一枚も捨ててない)
 
,(・)(・),(混全帯幺九と混老頭、最悪は国士無双まで考えられる場面だ)
 
,(・)(・),(二筒も三筒も捨ててないから、できれば切りたくないけど、立直してるからしょうがないな)
 
 一抹の不安を抱えながら、松中が一筒を河に置いた。
 そしてその不安が、毒島の手牌を押し倒す。

229第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:46:47 ID:GkQY0Mg20
('A`)「悪いな、松中。ロンだ」
 
,(・)(・),(あぁ、やっぱり読みどおりか)
 
雀卓「東家、ロンです。混全帯幺九、ドラ1。三飜、6000です」
 
 毒島がトップの松中を直撃。
 これで、順位が入れ替わり、芽院高校がトップに立った。
 
,(・)(・),(立直は早まったかな。最低でも三飜あったんだし、様子を見たほうが良かったのかも)
 
,(・)(・),(まぁ、後は先輩たちに託すとしようかな)
 
 南四局一本場は豊稔農林高校が凌雲高校から七対子を出和了り。
 先鋒戦は終局となった。
 
 先鋒戦の最終的な得点は、芽院高校が37900点、麦秀高校が24900点、凌雲高校が20900点、豊稔農林高校が16300点。
 各校の獲得ポイントは、芽院高校が100ポイント、麦秀高校が65ポイント、凌雲高校が50ポイント、豊稔農林高校が33ポイントとなった。
 
,(・)(・),「毒島ありがとう、楽しかったよ」
 
('A`)「こっちこそ。まさか、こんなところで会うことになるとは思わなかったけど」
 
,(・)(・),「実は中学のときからやってたんだけど、接点なかったね」
 
('A`)「そうだな。まぁ、また決勝で打てたらいいな」
 
,(・)(・),「楽しみにしてるよ」
 
 軽い握手を交わし、二人は対局室を後にした。

230第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:49:33 ID:GkQY0Mg20
 他の三人を通してから、毒島は最後に対局室から出る。
 そこに、椎名が待っていた。
 
(*゚ー゚)「試合見てたよ! 凄かった!」
 
(;'A`)「椎名さん」
 
(*゚ー゚)「逆転するって信じてた! さすがだね!」
 
(;'A`)「何とか逆転できて、本当に良かった」
 
(*゚ー゚)「うん、凄い凄い! 全然緊張してないみたいだったし!」
 
(;゚ー゚)「私なんて喉カラカラになるくらい緊張してて、いつもどおりに打てるかどうか、ちょっと不安だよ」
 
('A`)「大丈夫だよ、きっと、いつもどおりやれば」
 
('A`)「椎名さんなら、勝てると思う」
 
(*゚ー゚)「ありがとう! 頑張ってくるね♪」
 
 華やかな笑顔を振りまきながら、椎名は対局室へと駆け込んでいった。
 その背中を見届けてから、毒島はブレザーの袖で額の汗を拭う。
 
(;'A`)(椎名さんと会話するときの緊張に比べたら、対局は全然気楽だなぁ)
 
 その緊張が篭った息を大きく吐き、毒島は控え室に戻った。
 
 
 
(*゚ー゚)「よろしくお願いしまーす♪」
 
(;=_)=)「よ、よろしく」
 
( ・_i・)「よろしくー」
 
( ・3・)「よろしくだYO」

231第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:52:38 ID:GkQY0Mg20
 四人が雀卓の前に着座する。
 この完全自動雀卓では親も席順もランダムで決定されるため、サイコロを振ることはない。
 予め雀卓中央の画面に表示された情報に従って座るだけだった。
 
 しかし、着座したあとも、次鋒戦の四人は誰一人として落ち着いていなかった。
 
(;゚ー゚)(やっぱ緊張するなぁ。ドっくんが35ポイントのリード作ってくれたけど、私もやっぱりトップで100ポイントを取らなきゃだよね)
 
(;=_)=)(なんか、麻雀に似つかわしくないくらい、すげー可愛い子がいるんだけど。勘弁してよ、まともに打てないよ、俺)
 
( ・_i・)(モデルの椎名愛実が参加してるって本当だったんだー。まだそんな有名じゃないけど、将来絶対もっと売れると思うんだよなー、この子)
 
( ・3・)(オゥワー、この女の子いいカラダしてるNE。まるでモデルみたいだNE)
 
 雀卓がランダムで親を決めた。
 先鋒戦と同じく、起家は凌雲高校。
 四人の前に迫り出されてきた牌から凌雲高校の菱田が一枚捨てて試合が始まる。
 
(*゚ー゚)「ポン」
 
( =_)=)(うわ、いきなり?)
 
 菱田の七萬を椎名がポン。
 椎名が手元の副露ボタンを押すと同時に、菱田の河から七萬が消えて、椎名の手牌の傍に現れた。
 
( =_)=)(完全自動雀卓じゃなかったら、牌を手渡しするチャンスだったのになぁ)
 
 淡々と東一局は進み、四巡目。
 豊稔農林高校の萩本が五筒を切ったところで、椎名が再び鳴いた。
 
(*゚ー゚)「チー」
 
( =_)=)(二副露か、喰い断かな。やばいな)

232第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:55:25 ID:GkQY0Mg20
 椎名の河には字牌と幺九牌が溜まっている。
 菱田から副露で見えている牌にも中張牌はなかった。
 
 菱田は、自身の読みが正しかったことを六巡目に知る。
 
(*゚ー゚)「ツモ。断幺九のみです」
 
(;=_)=)(あーあ、親番流されちゃった)
 
( ・_i・)(早いなー。速攻型の打ち手なのかなー)
 
( ・3・)(エェー、その配牌から喰い断かYO! リードを堅く守る戦法でも堅すぎるYO!)
 
 麦秀高校の簿留は、自分なら鳴かずに門前で進めただろう、と思った。
 立直、平和、断幺九、門前自摸なら満貫になる。それを目指していい配牌だったはずだ、と。
 
( ・3・)(ガチガチに守られたら困るYO。早めに反撃したいところだNE)
 
 東二局の親は豊稔農林高校の萩本。
 麦秀高校の簿留は配牌時点で対子が五つ揃っていた。
 
( ・3・)(素直に七対子目指すとするYO)
 
 簿留の対子は、現時点では字牌と幺九牌が絡んでいない。
 立直した上で断幺九がつけば満貫となる手だった。
 
 七巡目、簿留は五索を引いて、六つ目の対子を揃えた。
 運に恵まれた流れ。ここは落とせない、と強く感じていた。
 
( ・3・)「立直だYO」

233第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:58:18 ID:GkQY0Mg20
 立直棒が中央の画面に表示された。
 しかし、次巡の芽院高校の椎名も、手元のタッチパネルのボタンを押下する。
 
(*゚ー゚)「立直です」
 
 中央の画面に、立直棒が二つ。
 早い段階から、二校が立直をかけた。
 
( ・3・)(追っかけ立直かYO)
 
 簿留は七対子のため単騎待ち。
 待ち牌の四筒は読まれていないと簿留は確信しているものの、そもそも当たり牌が三枚しかない状況は楽観視できなかった。
 
( ・3・)(芽院の子の待ちは読めないYO。ボクと共通している現物も少ないし、凌雲と豊稔農林はかなり降りづらい状況だNE)
 
( ・3・)(まぁ、立直してる以上、考えたところでどうにもならないNE。なるようになるYO)
 
 自分の手番になり、簿留は牌をツモする。
 生牌の八筒。簿留の当たり牌ではないため、そのまま河に置いた。
 
 それと同時に、簿留の上家が牌を倒す。
 
(*゚ー゚)「ロンです。立直、一発」
 
(;・3・)「オゥワー」
 
雀卓「北家、ロンです。立直、一発。二飜、2000です」
 
 簿留は天を仰いだ。
 避けようがなかった放銃ではあるものの、追っかけ立直に一発で和了されるとは思ってもみなかったのだ。

234第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:00:59 ID:GkQY0Mg20
(;・3・)(っていうか一発じゃなかったら役が立直しかないYO!)
 
(;・3・)(いくらなんでも手堅すぎるYO!)
 
 二局連続で芽院高校の椎名が和了り、29100点でトップ。
 二位の豊稔農林高校が24700点、三位の凌雲高校が24500点、四位の麦秀高校が21700点となった。
 次鋒戦はトップの芽院高校を親番とする東三局へ突入する。
 
 
 
(=゚ω゚)ノ「また芽院高校がトップだよう。悔しいよう」
 
 麦秀高校の控え室で、伊要は左手で頭を押さえながらテレビを見ていた。
 次鋒として出場している簿留が芽院高校の椎名に振り込み、最下位に転落したところだった。
 
('(゚∀゚∩「ツキがないけど、大丈夫だよ! きっと持ち直すよ!」
 
 音を立てて煎餅を頬張りながら、副将の名織が伊要の後ろから声を出した。
 決してネガティブなことを言わない前向きさは是非見習いたい、と伊要は思いながら、何も言わずにテレビへと視線を向けつづける。
 
(’e’)「それにしても、この芽院の女子は本当に可愛ぇのう。アイドルみたいじゃのう」
 
(=゚ω゚)ノ「アイドルじゃなくて、モデルらしいよう」
 
(’e’)「なんと。本当かの」
 
('(゚∀゚∩「『Glitter』っていうティーン雑誌でモデルやってるんだってさ! さっきGoogleで調べたよ!」
 
(’e’)「ワシが次鋒になればよかったのう。打ちたかったのう」
 
('(゚∀゚∩「ショートカットが似合うのは本当に可愛い子だけだよ! この子は凄いよ!」
 
,(・)(・),(毒島はこの子と一緒に部活やってるのかぁ、うらやましいなぁ)

235第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:03:27 ID:GkQY0Mg20
 次鋒戦の東三局は親の椎名のみテンパイで流局し、一本場に変わった。
 その椎名が早々と鳴いて役牌を揃え、再びテンパイする。
 
(=゚ω゚)ノ「椎名って子は、とにかく和了りを重視するタイプみたいだよう。高い手が狙えそうでも狙ってこないよう」
 
(’e’)「今の手も、混一色を狙って良さそうじゃったんじゃがのう」
 
(=゚ω゚)ノ「役牌だけで終わらせるには、ちょっともったいない手牌だよう」
 
('(゚∀゚∩「混一色を和了されたらもっと差が開くよ! だからウチにとってはありがたいよ!」
 
,(・)(・),「そのとおりですけど、なかなか崩しにくいタイプの打ち手ですよね」
 
(=゚ω゚)ノ「ウチが決勝に進出できれば、決勝でまた当たることになるよう。何か対策したほうがいいかもしれないよう」
 
 椎名が早々とテンパイしていた東三局一本場は、立直をかけていた凌雲高校の菱田がツモ和了り。
 凌雲高校が4300点を得て東四局に突入する。
 
('(゚∀゚∩「ウチの親番だよ!」
 
 麦秀高校の簿留は、配牌時点で三向聴。
 手は伸び悩みながらも、九巡目には一向聴に達した。
 
 しかし簿留にテンパイの気配はなく、豊稔農林高校が先に立直する展開となる。
 親流れは避けようと簿留は回し打ちするも、結局テンパイには至らず流局。
 テンパイしていた芽院高校と豊稔農林高校が1500点を得ることとなった。

236第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:06:14 ID:GkQY0Mg20
(;゚ω゚)ノ「今のは痛いよう」
 
(’e’)「一向聴から全然進まなかったのう」
 
('(゚∀゚∩「そういうこともあるよ! 南場で逆転すれば大丈夫だよ!」
 
,(・)(・),「信じましょう」
 
 次鋒戦は南入し、後半戦へと突入する。
 
 
 
 南一局、配牌を見て椎名は小さく首を捻った。
 
(*゚ー゚)(あんまり綺麗な配牌じゃないなぁ、断幺九狙いでいいかな?)
 
 風牌が三枚あるものの、幺九牌はない。
 南一局の椎名の配牌は、断幺九の四向聴だった。
 
 三手かけて風牌を全て河に流し、途中でツモした一萬も捨てた。
 これで、椎名の手は三向聴。
 
(*゚ー゚)「チーです」
 
 五巡目、上家から出た八筒をチーして、手が進む。
 九巡目には六索をポンし、一向聴となった。
 
(*゚ー゚)(早くテンパイしたいな。他の人はどうなんだろ?)
 
 椎名は河を見回してみるが、手の進み具合はほとんど把握できなかった。
 ツモ切りが続いている豊稔農林高校が苦しんでいるかもしれない、ということが考えられた程度だ。
 
 しかしそこで、はっきりとテンパイを示した者がいた。

237名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:07:32 ID:ERU9zYiA0
支援

238第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:08:37 ID:GkQY0Mg20
( =_)=)「立直」
 
 親番の凌雲高校、菱田が立直を宣言。
 立直棒が中央の画面に表示されると同時に、場には緊張感が生まれた。
 
(;゚ー゚)(わぁー、何が安牌なのか全然分かんない。現物で降りたほうがいいのかな? 降りないほうがいいのかな?)
 
(*゚ー゚)(悩みどころだけど、私も和了りたいし、ここは思い切っていってみよう!)
 
 九巡目の椎名のツモ牌は、不要牌の一索。
 そのまま捨てたが、立直をかけている菱田の当たり牌ではなかった。
 
 十巡目、椎名は五萬を引く。
 生牌だった。
 
(;゚ー゚)(大丈夫かな、これ。筋じゃないけど、捨てていいかな)
 
 現物は手牌に三枚あった。
 それを切れば放銃することはないが、和了りを放棄することとなる。
 
(*゚ー゚)(もう一枚の不要牌は三筒だけど、これも生牌だから危ないよね。どっちも変わらないかな?)
 
(*゚ー゚)(怖いけど、切っちゃおう!)
 
 五萬を河に置いた。
 直後、無情にも菱田から声が上がる。
 
( =_)=)「ロン」
 
(;゚ー゚)「あっ」
 
 凌雲高校の菱田の牌が奥に倒された。
 順子が並んでいる。

239名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:10:06 ID:K4FpSB6g0
心理描写好き
支援

240第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:10:40 ID:GkQY0Mg20
雀卓「東家、ロンです。立直、平和。二飜、3000です」
 
(;゚ー゚)(振り込んじゃった。やっぱ降りたほうが良かったのかなぁ)
 
(;=_)=)(できれば君からは和了りたくなかったんだけど、ごめん!)
 
 二位の凌雲高校が一位の芽院高校から出和了りしたことで、順位が入れ替わった。
 親が和了ったため、南一局は一本場となる。
 
(;゚ー゚)(一位を取らなきゃいけないのに、逆転されちゃった。再逆転できるかなぁ)
 
(*゚ー゚)(とにかく、頑張ろう!)
 
 自動的に配牌が行われ、四人の前に牌が姿を現した。
 ここで牌に恵まれたのは、豊稔農林高校だった。
 
( ・_i・)(よし、一向聴)
 
 役はないものの、立直をかければ和了れる手だった。
 現時点で豊稔農林高校は23100点で三位。萩本は、確実に和了っておきたい気持ちが強かった。
 
 それからしばらくツモ切りが続くも、五巡目の四索を引いたとき、萩本は手元の九筒を横向きにして捨てた。
 
( ・_i・)「立直」
 
 自信を込めて、萩本が立直を宣言する。
 既にドラが一枚絡んでいるため、和了すれば二飜つくことは確定していた。
 
( ・_i・)(裏ドラも乗ってくれたら嬉しいんだけどなー)
 
 期待を抱きつつ、ツモ切りを繰り返す。
 萩本から見て、他家が明確に降りている気配はなかった。

241第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:13:20 ID:GkQY0Mg20
( ・_i・)(さっきの放銃からするに、芽院の椎名って子はあんまり守備が得意じゃなさそうだなー)
 
( ・_i・)(僕にも振り込んでくれないかなー)
 
 この大会では、一位の得点から離されていればいるほど獲得ポイントが下がる。
 上位者から点を奪うのは重要なことだった。
 
 十巡目、萩本のツモ牌は三索。
 ドラだが、当たり牌ではない。
 
( ・_i・)(んー、来ないなー)
 
 萩本が三索を捨ててすぐ、芽院高校の椎名が山から牌を一枚引いた。
 椎名は一瞥して、牌をそのまま捨てる。
 
( ・_i・)(中かー、それも違うんだよなー)
 
 中は立直後に麦秀高校の簿留が切った牌だ。
 椎名からすれば、まず振り込む恐れのない安牌だった。
 
 凌雲高校の手番となり、菱田はツモした牌をすぐに河へ流した。
 六萬。これも、萩本の当たり牌ではなかった。
 
 簿留の当たり牌だった。
 
( ・3・)「ロンだYO」
 
 淡々と、しかし達成感に満ちた表情で、簿留は手牌を仰向けにした。
 
雀卓「北家、ロンです。断幺九、平和、三色同順。満貫、8000で一本場につき8300です」
 
(;=_)=)(うわっ、やっちゃったなぁ)

242第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:16:25 ID:GkQY0Mg20
 凌雲高校は、トップから一気に最下位へと転落した。
 点数に変動のなかった芽院高校が首位に返り咲き、僅差で麦秀高校が続いている。
 
(;・_i・)(僕の関係ないところで大きい点のやり取りされちゃったなー)
 
 立直をかけていながら他家に和了られた豊稔農林高校の萩本は、嘆息を吐きながら手牌を雀卓の中へと落とした。
 
 
 
(´・ω・`)「今のところ椎名がトップだけど、今後どうなるか分からないね」
 
 袋の上からキットカットを二つに割り、初本がひとつを口に入れた。
 もう半分を毒島に差し出すと、軽く頭を下げて毒島が受け取る。
 
('A`)「麦秀の簿留は、やっと運が巡ってきたって感じですね」
 
(´・ω・`)「そうだね。そもそも、この中じゃ一番強いはずの打ち手だし」
 
('A`)「椎名さんはやっぱり、経験不足ですか」
 
(´・ω・`)「筋はいいと思うんだけどね、まだ上手く降りられない」
 
('A`)「さっき振り込んだ場面も、親が立直してるんだから、それだけでベタ降りしてもいいんですけどね」
 
(´・ω・`)「そうだね。椎名自身がテンパイしてるならともかく、まだ一向聴だったし。経験不足が表に出ちゃったかな」
 
('A`)「でも、この次鋒戦をトップで終わらせられたら、きっと自信になりますよね」
 
(´・ω・`)「うん、そうなってほしいね」

243第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:19:35 ID:GkQY0Mg20
 次鋒戦、南二局。
 ここは豊稔農林高校が親番だったが、先ほど満貫に振り込んだ凌雲高校の菱田が奮戦した。
 立直からのツモで4000点を取り返すことに成功したのだ。
 
 南三局は、芽院高校の椎名が親となる番だった。
 しかし、配牌時点から麦秀高校が不穏な空気を漂わせる。
 
(´・ω・`)「上手く凌いでくれるといいんだけど」
 
 麦秀高校の簿留は、南一局一本場で満貫を和了した勢いそのままに、この局も立直をかけた。
 三面張で、待っているのは二萬と五萬と八萬だ。
 
(;'A`)「振り込むかもしれないですね」
 
 椎名は五萬を手牌に抱えている。
 三萬とのカンチャン待ちの形だが、二萬をツモれば五萬を捨ててしまう可能性があった。
 
 簿留の手は立直と平和だが、ドラが既に二枚ある。
 裏ドラが乗らなくとも、振り込めば満貫だ。
 
(´・ω・`)「満貫に振り込んだら8000点。逆転は厳しいだろうね」
 
 椎名も既にテンパイしている。
 四萬を引けば三色同順がつき、平和と断幺九を合わせてこちらも満貫となる手だ。
 ただ、既に鳴いているため立直はかけておらず、待ちは変えられる状況だった。
 
(´・ω・`)「椎名にしては珍しく高い手だ。和了りたいだろうね」
 
('A`)「ただ、四萬は簡単には出そうにないんですよね。凌雲の菱田が暗刻で持ってますから」
 
(´・ω・`)「山に眠ってるのは一枚のみなんだけど、椎名からは四枚残ってるように見えてしまう」
 
('A`)「そうなると降りる判断ができるかどうか」
 
(´・ω・`)「ベタ降りすれば振り込まずに済みそうだけど、どう出るかな」

244第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:22:08 ID:GkQY0Mg20
 簿留の立直後の、椎名の手番。
 ツモ牌は九萬で、簿留の当たり牌ではない。
 ただし、椎名からすれば安牌とも言えない牌だった。
 
(´・ω・`)「ツモ切りか」
 
 少し考える素振りを見せたあと、椎名は九萬をそのまま切った。
 降りるのならば現物も安牌もある。ツモ切りしたということは、和了りを目指していくということだ。
 
(´・ω・`)「素直な子だね、椎名は」
 
('A`)「とにかく和了りを目指して打とうって、教えたとおりに打ってますね」
 
(´・ω・`)「教えただけじゃ中々実践できないんだけどね、普通は。どうしても放銃を恐れてしまう」
 
('A`)「それも、悪いことじゃないと思いますけど」
 
(´・ω・`)「うん。ただ、愚直に和了りを目指せる果敢さは、椎名の大きな武器だ」
 
('A`)「仮に失敗があっても、団体戦なら他のメンバーがカバーできますもんね」
 
(´・ω・`)「そのとおり。仮に振り込んで負けたとしても、僕と笑野が取り返せばいいだけだ」
 
 テンパイしているとはいえ、単騎待ちで先制立直を相手に突っ張ることは、危険な賭けだった。
 後は、どちらがツモ牌に恵まれるか、という点が勝負を左右することになる。
 
 しかし、簿留が立直をかけた三巡後、勝負は意外な形で決着した。
 
(´・ω・`)「あれ? ロン?」

245第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:25:38 ID:GkQY0Mg20
 豊稔農林高校の萩本が、簿留の八索切りに応じてロンを宣言した。
 役牌のみだ。
 
('A`)「テンパイしてたんですね、気づきませんでした」
 
(´・ω・`)「椎名と簿留ばっかり見ちゃってたね」
 
 芽院高校からすれば、助かったと言っていい展開だった。
 親番は流されてしまったが、豊稔農林高校が麦秀高校の点数を削ってくれた。
 
('A`)「しかし、簿留が立直してるのに萩本は降りなかったんですか」
 
(´・ω・`)「立直時点では二向聴だったみたいだけど、不要牌が簿留の現物ばっかりだったね」
 
('A`)「で、そこからのツモで必要牌ばっかり来て、一気に和了りですか。かなり運に恵まれましたね」
 
 豊稔農林高校の萩本からすれば望外の和了りだった、ということになる。
 控え室で対局を見守っていた初本と毒島にとっても、だ。
 
(´・ω・`)「さぁ、オーラスだ」
 
 次鋒戦も残すところ、あと一局。
 初本は中堅戦の準備を始めた。
 
 
 
 雀卓の中から迫り上がってきた手牌を見て、簿留は右手に力を込めた。
 
( ・3・)(まだ運はそっぽ向いてないみたいだYO)

246第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:28:53 ID:GkQY0Mg20
 先ほどは満貫を和了れそうだったところで、豊稔農林高校の萩本に潰された。
 2000点を失い、もはや逆転は不可能かと簿留自身も半ば諦めていた。
 
 しかし、オーラスとなった南四局の配牌。
 刻子が一つ、対子が二つ揃っている。対々和と三暗刻を狙える手だった。
 
( ・3・)(四暗刻なんて欲張りはやめとくYO。とにかくトップを取れればそれで良しとするYO)
 
 次鋒戦、麦秀高校は現在三位。
 決勝に進むためにはトータルポイントで二位以上になる必要があるが、このままだと厳しい状況だ。
 何しろ、芽院高校はこの後、初本と笑野が控えている。
 
( ・3・)(なるべくここでポイントを稼ぐYO!)
 
 次鋒の自分が踏ん張らなければ。
 強い決意を持って臨む、親の南四局。
 
 簿留の気持ちが萎むのは、芽院高校の椎名が横向きに打牌したときだった。
 
(*゚ー゚)「立直です」
 
(;・3・)「!」
 
 第一巡での立直。
 両立直だった。
 
(;・3・)(最悪としか言いようがないYO!)
 
 簿留は配牌に恵まれた。
 しかし、芽院高校の椎名はそれ以上だったのだ。
 
(;・3・)(しかも両立直じゃ安牌も何も全く分からないYO!)

247第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:31:24 ID:GkQY0Mg20
 捨て牌は北のみ。
 あまりに情報が少なく、何を切るべきかの判断がつかない状況だ。
 
 上手く切り抜けられれば簿留は高目を和了ることができる。
 しかし、振り込んでしまえば最下位への転落は必至だ。
 
 幸か不幸か、椎名が切った北を簿留は三枚持っていた。
 これを捨てていけば、三巡は安全を確保できる。
 しかし、同時に和了りを放棄することとなる。
 
 簿留の手番。
 幾許かの躊躇いの後、簿留は北を切った。
 
( ・3・)(ここで両立直の相手に突っ張るのはやっぱり無謀すぎるYO。振り込まないことに専念するYO)
 
 役が立直と両立直だけならいいが、他の役やドラが絡んでいた場合は取り返しのつかないことになる。
 簿留は、最終的な勝利のために、次鋒戦での勝利を捨てた。
 
 その判断が正しかったと、簿留は三巡目に知る。
 
(*゚ー゚)「ロンです」
 
 凌雲高校の菱田が七索を切ったところで、椎名がロンを宣言した。
 役は、立直と両立直のみだ。
 
( ・3・)(降りて正解だったYO)
 
 椎名の当たり牌である七索は、簿留も二巡目に引いていた。
 和了りを目指していたら、間違いなく捨てていた牌だ。
 
 芽院高校と凌雲高校の間で2000点が遣り取りされる。
 簿留にとっては、二位だった凌雲高校が振り込んでくれたことは幸いだった。

248第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:34:59 ID:GkQY0Mg20
 子の椎名が和了ったため、そこで次鋒戦は終了となった。
 
 最終的な得点は、芽院高校が29500点、麦秀高校が24400点、凌雲高校が24000点、豊稔農林高校が22100点。
 獲得ポイントは、芽院高校が100ポイント、麦秀高校が82ポイント、凌雲高校が76ポイント、豊稔農林高校が64ポイントとなった。
 
(*゚ー゚)「ありがとうございました!」
 
 晴れやかな笑顔を振りまいて、椎名が席を立つ。
 敗戦に落ち込んでいた萩本と菱田は、それだけで気分が明るくなっていた。
 二位に終わった麦秀高校の簿留だけは、気持ちの整理がつかない顔でまだ雀卓の前に座っている。
 
 椎名が対局室から出ると、中堅戦に出場する初本が待っていた。
 
(´・ω・`)「お疲れ様」
 
(*゚ー゚)「初本さん! 何とか勝てました!」
 
(´・ω・`)「よくやってくれたね。文句なしだよ」
 
(*゚ー゚)「本当はもうちょっと差をつけられたら良かったんだと思いますけど、ごめんなさい。精一杯です」
 
(´・ω・`)「充分すぎるほどさ。二位の麦秀高校とはトータルで53ポイントの差をつけられたからね。後は任せてほしい」
 
(*゚ー゚)「そうですよね、初本さんと笑野さんなら安心ですよね。ゆっくりモニタ越しに応援します」
 
(´・ω・`)「うん、ゆっくり休んでていいからね」
 
 軽い握手を交わし、控え室に戻る椎名を見届けてから、初本は対局室に入った。
 椎名と話している間に、他の三校の面子は既に対局室入りしている。

249名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:35:18 ID:zrj8PqRE0
麻雀のルールは分からんけど、状況はすごく分かり易いです
支援

250第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:36:58 ID:GkQY0Mg20
 初本は、席に座りながら右側に座る男に視線を送った。
 麦秀高校の船都。警戒するなら、やはりこの男だろう、と考えていたのだ。
 
 
 
(=゚ω゚)ノ「お疲れ様だよう」
 
 次鋒戦を終えて戻ってきた簿留に、伊要が労いの言葉をかける。
 簿留は小さく口を尖らせていた。
 
( ・3・)「勝てそうで勝てなくて悔しいYO」
 
 ほとんど口をつけなかったオレンジジュースのペットボトルを投げ出し、簿留は雑に椅子に腰掛けた。
 最善を尽くしたが、勝てなかった麻雀。よくあることとはいえ、すぐに納得できるほど器用ではなかった。
 
(=゚ω゚)ノ「最後の降りはファインプレーだったよう。あそこで無茶攻めして振り込んでたらかなり厳しかったよう」
 
( ・3・)「その前に満貫を和了れなかったのがとにかく痛かったYO。最後のは傷口を最低限小さくしただけだYO」
 
('(゚∀゚∩「でもウチが今のところ二位だよ! この順位をキープすれば決勝進出だよ!」
 
 名織の言うとおり、麦秀高校は現在のところ二位。
 しかし、三位との差は僅かに18ポイントだ。
 決して決勝進出を楽観視できる状況ではない。
 
 何しろ、今年の芽院高校は中堅に初本を据えている。
 これはあまりに脅威だ、と伊要は感じていた。
 
(=゚ω゚)ノ(大将でもおかしくない初本が中堅、明らかに苦しい戦いになるよう)
 
 この二回戦を首位通過できるとしたら、先鋒戦と次鋒戦で芽院高校に大差をつける必要があった。
 しかし、それは叶わず、むしろ大差をつけられている状況だ。
 伊要は完全に二位狙いへと気持ちを切り替えていた。

251第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:40:09 ID:GkQY0Mg20
 だが、ここから芽院高校の真価が発揮される。
 県内屈指の打ち手である初本、昨年の全国大会でも目覚しい活躍を見せた笑野。
 それに加えて今年は、ネット界最強の『ホライゾン』までいるのだ。
 
 下手に振り込んでしまうと一気に順位を落とす可能性がある。
 伊要は、中堅の船都に"放銃だけは気をつけてほしい"と言ったが、上手く凌いでくれるかどうかは分からなかった。
 
(=゚ω゚)ノ(信じるしか、ないよう)
 
 祈るように手を合わせて、試合を映すモニタに目を向けた。
 起家は、豊稔農林高校だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第3話 終わり
 
     〜to be continued

252 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:41:45 ID:GkQY0Mg20
第3話は以上です
お読みいただいた方々、レスしてくださった方々、ありがとうございました

253名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:42:12 ID:K4FpSB6g0

いいところで切ったな

254名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:43:11 ID:/BsCLd16O
乙でした!次が楽しみです

255名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:43:48 ID:ERU9zYiA0
乙ー!
麻雀知らんでも面白いから困る

256名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:44:31 ID:lhdp7eU60
面白いこれ、乙

257名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:45:39 ID:QRrqvTxw0
乙です!

258名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:46:15 ID:zrj8PqRE0

相変わらず切るの上手い

259 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:50:25 ID:GkQY0Mg20
ありがとうございます
最初の前置きどおり、いつまでどこまでやれるか分からないのですが、
のんびりまったりやっていこうと思います

麻雀のルールの説明が欲しいという要望をけっこういただいたので、
近々作中で、軽くですが入れる予定でいます
全部を説明するのは無理なので、最低限くらいですが……

260 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:57:06 ID:GkQY0Mg20
ドーナツ一日に十個も食べたの初めてかも

第4話の投下予定は未定なのですが、
ラノベ祭りに参加したいなぁと思っているので、投下があるとしてもけっこう遅くなるかもです
また投下する際にはツイッターやこのスレで投下予告するつもりなので、よろしくお願いします

261名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 22:57:24 ID:Uxb9Sk3w0

うまく言えないんだけど
ダブリーとリーチは重複しないで、単純にダブリーが2翻役なんじゃないの?

262 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 23:01:49 ID:GkQY0Mg20
>>261
どうなんでしょう?
正直、厳密なところが分からなくて、ネットの麻雀サイトとか見てみたんですが、
サイトによって記述が違ったので、はっきりしたことは分かりませんでした
Wikipediaとかだとダブリーのときはリーチを二飜として計算するって書いてありますね

263名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 23:06:44 ID:xS65ufxc0
投下乙ー

264名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 00:23:54 ID:QkakmXtw0


牌を倒すだけで点棒計算してくれる自動卓と便利過ぎる
現実でも普及してくれたら麻雀人口が増えるのになぁ

265名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 00:28:49 ID:0NfApRI20
闘牌の様子は(せめて手牌だけでも)AAを使ったほうが格段に見やすくなると思うのですが
作者さんはあくまでも文章にこだわって、描写していくつもりですか?

個人的にはぜひAAを扱って表現して欲しいのでツールを紹介しておきます
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12368/1304172446/201

266名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 00:36:11 ID:3PNiyb3k0
おつー
ハラハラはするものの順調に進むね、良い緊張感

AAはガラもしが死ぬぞ
横に長けりゃ尚のこと

267 ◆azwd/t2EpE:2012/09/30(日) 01:14:16 ID:QeiQzkNs0
>>264
「あったらいいな」という妄想を詰め込みました

>>265
こんなツールあるんですね!
凄いなぁ……

自分の今作に関しては、完全に文章のみでやっていく予定です
理由としては、どうしても手牌をAA表現すると文章の流れが切れてしまい、テンポを損なってしまうのではないかと思うのと、
>>266さんが仰るように携帯から読むとキツイんじゃないかなと思うためです
(本当は細かい理由がもっとたくさんあるのですが、ウェイトを大きく占めるのは上記二つの理由です)

麻雀をよく知る方、麻雀モノをよく読む方にとっては、もしかしたら物足りないかもしれないのですが、
文章だけでも充分満足してもらえるようにという理想を持ってやっていくつもりです

268名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 01:37:29 ID:pVnwNt4c0
乙!
ドーナツ10個…3000カロリー…

269名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 03:51:31 ID:1uuAX/s.0
解説なしで結構がっつり麻雀するのな
専門用語がまったくわからんぜ

270名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 09:12:48 ID:zmr9A2yU0
乙乙
ゆっくりまったり待ってるぜ

271名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 09:25:48 ID:FYWgvF160
一応もしもしは掲示板だと画像化とかあるから多少のAAくらいなら対応できるんじゃないかなー

まとめで見る分は辛くなるけど・・・

272名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 10:43:27 ID:oOo5Lny20

これがきっかけで麻雀人口増えたらいいな

273名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 13:00:08 ID:NXDDzoYUO
ド、ドーナツ10個だと…

乙です
しかしこれは書き応えありそうですね
ある意味すらすら書きやすいかもしれないけど、執筆が終わってから矛盾のないように見直しする作業がつらそう
次も楽しみにしてます

274名も無きAAのようです:2012/09/30(日) 17:40:58 ID:QeiQzkNs0
>>271
まとめで見るのが辛いとなるとやっぱりちょっと……ですし、
それがなくてもその他諸々の事情でやっぱり文章表現という選択になっちゃいますね

>>273
そうですね、見直しはけっこう時間かかります
符計算ないからそこは楽なはずなのに、リーチとかの計算忘れてて点数ミスってたりとかあります……
麻雀モノは、実際に書いてみるとけっこう大変なジャンルだなと思いました

275 ◆azwd/t2EpE:2012/09/30(日) 17:42:25 ID:QeiQzkNs0
トリップ抜けちゃった……

276名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 00:13:10 ID:MVkZMukAO
ω・∩乙。ショボンの活躍が楽しみだ。

277名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 03:59:27 ID:nOW2JcTMO
麻雀のルールの説明するということなのであえて 
 
>>243の局面は鳴いているので平和はつかないと思うよ

278名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 12:23:16 ID:Fx2QVoNI0
乙です。久々の連載物、wktkしながら読んでます

横から突然で申し訳ないんですが>>276に補足。>>243>>244が色々と間違ってます

【間違ってる点】
1.平和はつかない
2.三色同順は一飜下がる
3.単騎待ちではない

1:既に鳴いている。また、面前だとしても嵌張待ちの場合NG
2:既に鳴いている
なので椎名の手は二飜

3:嵌張待ちと単騎待ちは別物です


・間違いじゃないけど気になった点
>三萬とのカンチャン待ちの形だが、二萬をツモれば五萬を捨ててしまう可能性があった。
今回の場合、五萬切りはほぼ有りえないと思います。
いやどっちにしろ二萬手放しちゃうと思うんですけどね

279名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 16:16:25 ID:HX/Ytq6k0
麻雀のルール知らないけどすごく面白いです
心理描写がすごくいいです
続きが楽しみです
ブーンの活躍に期待!

280名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 16:30:58 ID:ccGXdqDw0
麻雀知ってるけど、なんかイマイチって感じだなぁ
淡々とゲームが進んでくって感じで…
いや、かといってどうしたらいいって意見もないんだけどさ
4話に期待

281名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 17:32:30 ID:ZAjmQznw0
咲もこんな感じだしわりと読みやすくていいと思う
と思うのは麻雀のルール解るが故なのかもな

282名も無きAAのようです:2012/10/01(月) 17:55:59 ID:M54TH9gUO
キャラクターに強い癖を持たせたり、濃い展開は後々やると思うけどな
麻雀知らない人に楽しく読ませるための導入としてはちょうど良いかと

283 ◆azwd/t2EpE:2012/10/01(月) 23:55:53 ID:nYifvuB60
>>277-278
ご指摘ありがとうございます
普通に考えれば当たり前のことなのに、書いていると全然気づかないのは何でだろう……
ミスがあり申し訳ないです

椎名の平和のくだりは、満貫にしたくて無理に入れたせいで盛大に矛盾してますね
結局三色同順の喰い下がりがあるのでどのみち満貫になってないんですが……
先にカンチャンと言っておきながら後で単騎とか言っちゃってるのは単純なミスですが……

あと、よくよく考えると簿留が二萬と五萬と八萬の三面待ちしてるのに、
菱田が四萬を暗刻で持ってて、その状況で初本が「山に一枚眠ってる」って発言してるのもおかしいですね
ここは菱田は対子ですね

なるべくミスのないよう心がけて書いていきますが、
またミスがあった際はご指摘ください

後ほど>>243>>244の訂正版を投下します

284 ◆azwd/t2EpE:2012/10/02(火) 01:01:52 ID:8J4vFH4I0
後ほどと書きましたが時間がなくなっちゃったのでまた後日……

あと、その他にもたくさんのレスありがとうございます
とても励みになります

満足してもらえるような作品に仕上げられるよう最善を尽くしていきます

285名も無きAAのようです:2012/10/02(火) 06:49:11 ID:B9ffivQI0
3話キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!! 乙!

286名も無きAAのようです:2012/10/02(火) 08:33:13 ID:HNyrP7620
>>283
>その状況で初本が「山に一枚眠ってる」って発言してるのもおかしいですね
今さらになるけど、テレビには対局者全員の手牌が映ってるってことでいいんだよな?

287名も無きAAのようです:2012/10/02(火) 15:25:41 ID:/s2TH.vk0
本当に面白いです
4話目期待してます

288名も無きAAのようです:2012/10/02(火) 21:20:12 ID:Yf6CS/pIO
麻雀って難しいんだな

289名も無きAAのようです:2012/10/02(火) 21:21:42 ID:JzwGKeXY0
AAじゃなくて一二三①②③123東南西北白發中で表記すればいいのでは?
機種依存文字がアレなら大字混ぜてもいいですし

290名も無きAAのようです:2012/10/03(水) 02:20:53 ID:eFMFLNHY0
俺はそういうのいいや
読めば大体わかるし、細かい牌の動きより話の流れを追いたい
既に言ってる様にテンポも悪くなるだろうし、運命の一戦みたいに一局を細かくがっつり描くでもなきゃ必要ないと思う

291名も無きAAのようです:2012/10/03(水) 03:08:37 ID:weesQXoAO
両立直ってダブリーの事でおk?

292名も無きAAのようです:2012/10/03(水) 03:11:35 ID:w2TmI2..0
AAや1行で完全に手札を公開しちゃう形だと、
横から名人様にそこは○○切りだろとか突っ込まれるケースが予想されるしな

正直、打ち方や思考としてはそこは俺ならこうだな・・・って思う場面はある
多分作者さんも、麻雀に精通している訳ではないんだと思う
もちろん俺もしている訳じゃないけどね

でも麻雀の打ち方に正解とか存在しないし、ルールの矛盾点とかの突っ込みはともかく
外野が過剰にプレイングについてどうこう言うのは荒れる元になりかねないから気をつけた方がいいね

大会クラスとはいえ作中で打ってるの高校生だしねー、多少まごついてた方がおもしろい
打ち手の個性の差別化もされてて楽しいです

293名も無きAAのようです:2012/10/04(木) 18:05:46 ID:ZatE.5jM0
ゲームモノと麻雀モノはボウフラの如く名人様が沸くので敬遠されがちなのですよ

294 ◆azwd/t2EpE:2012/10/05(金) 08:31:21 ID:FQ1sCfB60
>>286
そうですね、全員の手牌が見れます

>>289
それでも流れを止めることになっちゃうと思いますし、
他にも諸々の事情があって、やっぱり手牌表現はやめておこうと思っています

>>291
おkです
この作品では、役名を完全に漢字で表記し、なおかつ略称を一切用いない方針でやっていきます
キャラのセリフでも「純全帯幺九」なんて長ったらしいのが出てきますが、作品全体の統一感のためにそうしています

>>292
そうですね、仰るとおりです
キャラによって熟練度は違いますし、考え方やスタイルも全然違います

一般的に考えて「それはおかしい」ってなる場面でも、そのキャラの思考として最善であれば自分としてはおkです
そういう面もなるべく作中で納得してもらえるように書いていけたらと思っています

295名も無きAAのようです:2012/10/05(金) 15:08:17 ID:OwYTuQtcO
実際麻雀やってるけど読んでも分からん
口で教えてもらっただけのせいか読めない漢字多すぎ

麻雀好きだからちょっと勉強してくる


次の話投下待ってます

296 ◆azwd/t2EpE:2012/10/07(日) 21:37:52 ID:ANbQtjOY0
だいぶ遅くなりましたが>>243と>244の訂正版を投下します

297第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/10/07(日) 21:39:00 ID:ANbQtjOY0
 次鋒戦、南二局。
 ここは豊稔農林高校が親番だったが、先ほど満貫に振り込んだ凌雲高校の菱田が奮戦した。
 立直からのツモで4000点を取り返すことに成功したのだ。
 
 南三局は、芽院高校の椎名が親となる番だった。
 しかし、配牌時点から麦秀高校が不穏な空気を漂わせる。
 
(´・ω・`)「上手く凌いでくれるといいんだけど」
 
 麦秀高校の簿留は、南一局一本場で満貫を和了した勢いそのままに、この局も立直をかけた。
 三面張で、待っているのは二萬と五萬と八萬だ。
 
(;'A`)「振り込むかもしれないですね」
 
 椎名は簿留の当たり牌を予測できていないだろう、というのが初本と毒島の考えだった。
 簿留の当たり牌を引けば捨ててしまう可能性がある、と考えているのだ。
 
 簿留の手は立直と平和だが、ドラが既に二枚ある。
 裏ドラが乗らなくとも、振り込めば満貫だ。
 
(´・ω・`)「満貫に振り込んだら8000点。逆転は厳しいだろうね」
 
 椎名も既にテンパイしている。
 四萬を引けば三色同順がつき、役牌と断幺九を合わせてこちらも満貫となる手だ。
 
(´・ω・`)「椎名にしては珍しく高い手だ。和了りたいだろうね」
 
('A`)「ただ、四萬は簡単には出そうにないんですよね。凌雲の菱田が対子で持ってますし、麦秀の簿留も一枚持ってますから」
 
(´・ω・`)「山に眠ってるのは一枚のみなんだけど、椎名からは四枚残ってるように見えてしまう」
 
('A`)「そうなると降りる判断ができるかどうか」
 
(´・ω・`)「ベタ降りすれば振り込まずに済みそうだけど、どう出るかな」

298第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/10/07(日) 21:41:09 ID:ANbQtjOY0
 簿留の立直後の、椎名の手番。
 ツモ牌は九萬で、簿留の当たり牌ではない。
 ただし、椎名からすれば安牌とも言えない牌だった。
 
(´・ω・`)「ツモ切りか」
 
 少し考える素振りを見せたあと、椎名は九萬をそのまま切った。
 降りるのならば現物も安牌もある。ツモ切りしたということは、和了りを目指していくということだ。
 
(´・ω・`)「素直な子だね、椎名は」
 
('A`)「とにかく和了りを目指して打とうって、教えたとおりに打ってますね」
 
(´・ω・`)「教えただけじゃ中々実践できないんだけどね、普通は。どうしても放銃を恐れてしまう」
 
('A`)「それも、悪いことじゃないと思いますけど」
 
(´・ω・`)「うん。ただ、愚直に和了りを目指せる果敢さは、椎名の大きな武器だ」
 
('A`)「仮に失敗があっても、団体戦なら他のメンバーがカバーできますもんね」
 
(´・ω・`)「そのとおり。仮に振り込んで負けたとしても、僕と笑野が取り返せばいいだけだ」
 
 テンパイしているとはいえ、カンチャン待ちで先制立直を相手に突っ張ることは、危険な賭けだった。
 後は、どちらがツモ牌に恵まれるか、という点が勝負を左右することになる。
 
 しかし、簿留が立直をかけた三巡後、勝負は意外な形で決着した。
 
(´・ω・`)「あれ? ロン?」

299 ◆azwd/t2EpE:2012/10/07(日) 21:43:08 ID:ANbQtjOY0
一応こんな感じに訂正しました
あとでまとめサイトさんに修正依頼を出してきます

300名も無きAAのようです:2012/10/07(日) 21:59:11 ID:TzhHTWRI0
>>297
>四萬を引けば三色同順がつき、役牌と断幺九を合わせてこちらも満貫となる手だ。

役牌とタンヤオがあるけど大丈夫?

301 ◆azwd/t2EpE:2012/10/07(日) 22:07:11 ID:ANbQtjOY0
あっ!

またアホなことやってる……

302 ◆azwd/t2EpE:2012/10/07(日) 22:12:51 ID:ANbQtjOY0
もう一盃口にしよう……

ということで>>297の「役牌」は「一盃口」に訂正します
申し訳ありません

点数ありきで役を考えると矛盾しやすいですね
ここは製作のやり方を変えていって、なんとか改善したいです

303名も無きAAのようです:2012/10/08(月) 01:50:10 ID:KC.ohtKY0
麻雀はなぁ・・・

304名も無きAAのようです:2012/10/09(火) 20:05:10 ID:ggYzEZ2Q0
ガンバレー作者

点数ありきで考える時は、困った時のドラ絡ませればいいじゃない

次回も楽しみにしてます

305名も無きAAのようです:2012/10/17(水) 03:54:21 ID:qWIjR6Uc0
一人で話作ってるとどうしてもな
プロが話作って編集がチェックしても矛盾が出ることがあるくらいだし

306名も無きAAのようです:2012/10/21(日) 15:26:03 ID:6wB8jhAA0
ドンジャラにしよう(提案)

307名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 22:24:52 ID:8H6qQjiY0
>>306

(´・ω・`)「ロン」  






呟いて、初本は牌を倒す。 倒した牌、その全てはのび太だった

(´・ω・`)「のび一色。役満」


場が騒がしくなる。これは麻雀の大会のはず。なぜのび太牌がある。

何故、と思ったところで、振り込んだことに変わりは無い。例えイカサマだとて、現場を押さえられなかった。
つまり、イカサマという証拠は、無い。

これで、初本は大幅にリードした。
初本は勝利を確信した。
しかし、その確信は、数分後瓦解する。






とぅーびーこんてぃにゅーど

308名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 22:27:21 ID:4p.vmHlE0
わろたww
負け確じゃねぇかwwww

309名も無きAAのようです:2012/10/24(水) 22:41:56 ID:s1opvpLs0
まず何故のび太牌を切っているのか

310名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 02:23:25 ID:4XRUL6psO
ドンジャラ牌混じってたらとりあえず皆に確認とる意味でも卓に置いて晒すだろ?

311名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 19:57:56 ID:KQ48CkeE0
それだけで短編書けそうだよな

312名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 20:06:27 ID:D/EhU.BcO
( ^ω^)ブーンの手にのび太牌が馴染んでいくようです

313名も無きAAのようです:2012/10/27(土) 07:38:59 ID:Bevw/SoE0
(´・ω・`)がドンジャラでサマをするようです

314名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 00:48:05 ID:Yc2KLfdw0
| -○○|のび太牌が雀卓に馴染んでいくようです

315名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 01:52:32 ID:UkRmh12gO
せめて次の大会は点パネは導入してくれ下さい
仮にも大会なのに、ないのは不自然だと思います

316 ◆azwd/t2EpE:2012/11/30(金) 02:15:40 ID:Qu9wVZGk0
>>315
この作品に関しては、例えどれだけ話が続こうとも符計算一切なしでやります
それがこの作品内での考え方なので、少なくともこの世界としては全く「不自然」ではないという設定です
ご要望いただいたのに申し訳ありませんが、ご了承ください

317名も無きAAのようです:2012/12/30(日) 17:52:54 ID:zORDU1HA0
あ、あれ…

318名も無きAAのようです:2013/01/03(木) 10:24:40 ID:iANEf7xY0
おつ

319 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 19:44:48 ID:zp5q7Op.0
直前のお知らせで申し訳ありませんが、
今日の21時〜22時ごろから第4話を投下予定です
よろしくお願いします

320名も無きAAのようです:2013/01/12(土) 19:47:43 ID:frg4T9LEO
( ^ω^)把握したお!

321名も無きAAのようです:2013/01/12(土) 19:52:18 ID:xA9CbTWw0
お、楽しみ!

322名も無きAAのようです:2013/01/12(土) 19:58:52 ID:Iqrf1sU6O
やったああああ
まあ投下終わってから読む派だけど
楽しみにしてます

323 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:00:56 ID:zp5q7Op.0
若干遅くなりすみません、第4話の投下を始めます

324登場人物 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:01:37 ID:zp5q7Op.0
◇芽院高校

■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生

■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生

■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生

■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生

■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生

325大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:02:25 ID:zp5q7Op.0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。

一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。

例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。

どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

326大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:03:15 ID:zp5q7Op.0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

327大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:04:13 ID:zp5q7Op.0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点

■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

328 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:05:14 ID:zp5q7Op.0
【第4話:駆け出す二本の矢】
 
 
 控え室に戻った椎名は、半分ほど残っていたペットボトルの紅茶を一気に飲み干した。
 
(*゚ー゚)「あー緊張した。疲れたぁ」
 
( ^Д^)「お疲れさん。よくやったな」
 
(*゚ー゚)「ありがとうございます。でもやっぱり麦秀高校、強いですね」
 
( ^Д^)「決勝に上がってくるだろうな。まぁ、今のところはウチの敵じゃないけど」
 
 椎名が次鋒戦に臨む前は、笑野が内藤を指導していた。
 しかし今は既に試合を終えた毒島に変わっている。
 
(*゚ー゚)「明日の決勝って一荘戦なんですよね」
 
( ^Д^)「あぁ。すげー疲れるぞ、公式戦での一荘戦は」
 
(;゚ー゚)「集中力、続くかなぁって。今から心配です」
 
( ^Д^)「ま、なるようになるさ」
 
('、`*川「そんなこと言って今日の二回戦で敗退しちゃったらどーすんですか」
 
( ^Д^)「あれ? 起きたのか、伊藤」
 
('、`*川「ぐっすり寝ちゃってましたね。初本さんは?」
 
( ^Д^)「今から対局開始だよ」
 
('、`*川「危ない! 寝過ごすとこでした!」
 
 控え室の壁際に設置されたテレビの前にすかさず陣取る伊藤。
 他の選手が戦っているときと、初本が戦っているときでは、熱の入れようは全く違った。

329第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:07:20 ID:zp5q7Op.0
('、`*川「大丈夫だって信じてますけどね。精一杯応援します!」
 
(*゚ー゚)「一緒に応援しよー、ペニちゃん」
 
( ^ω^)「隣、座ってもいいかお?」
 
(*゚ー゚)「あれ? お勉強終わり?」
 
(;^ω^)「ちょっと休憩だお。頭が疲れちゃったお」
 
('A`;)「教える側も大概キツイぜ、これ」
 
( ^Д^)「ま、いいんじゃねーか。一気に覚えられるようなもんでもねーし」
 
 五つの椅子がテレビの前に並べられる。
 中堅戦の起家が豊稔農林高校に決まったところだった。
 
(*゚ー゚)「中堅戦も、やっぱり警戒するのは麦秀ですか?」
 
( ^Д^)「だなぁ。麦秀の中堅は船都ってやつなんだが、こいつがけっこう曲者なんだよ。手が読めないっつーか」
 
('A`)「去年の戦い、ネットで確認しましたけど、いい麻雀でしたね」
 
( ^Д^)「卒業したウチの先輩と戦ったけど、互角だったな。ただ、確実に初本さんのほうが強い」
 
('、`*川「初本さんが負けるわけないです!」
 
(*゚ー゚)「うんうん、初本さん強いもん。大丈夫!」
 
 全国へと続く戦いの、緒戦。
 相手がどうあれ、負けるわけにはいかない。
 
 初本はそれをよく分かっているはずだ、と笑野は思っていた。
 こんなところで躓くようでは、とても全国制覇など成し得ないと。

330第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:09:54 ID:zp5q7Op.0
( ^Д^)「毒島と椎名は、勝ち方を見といてくれ」
 
 それだけを言い、笑野は腕を組んで背凭れに体重をかけた。
 
 
 
 東一局、十一巡目に麦秀高校の船都が立直をかけた。
 
(´・ω・`)(立直か。降りたほうが良さそうだね)
 
 二位の麦秀高校には振り込めない。
 初本も一向聴だが、すぐさま形を崩して現物を切った。
 
(´・ω・`)(船都は萬子染めかな。まぁ、放銃することはなさそうだ)
 
 初本の手には、安牌が五枚。流局まで逃げ切れそうだ、と考えていた。
 十三巡目、現物の四筒を切る。
 
 無論、その牌は通った。
 しかし、凌雲高校の多賀崎が切った牌は、船都の当たり牌だった。
 
(’e’)「ロンじゃよ」
 
 船都の手牌は、綺麗に一萬から九萬までが並んでいる。
 一気通貫だった。
 
 手は一気通貫と立直のみで、それほど高い手ではない。
 しかし、船都の待っていた牌を見て、初本は思わず苦笑してしまった。
 
(´・ω・`)(当たり牌が七索だったとは、怖いね)
 
 船都は六索と八索を立直前に切っている。
 そして河には萬子が一枚もない。七索は、安牌に見えても仕方がない状況だ。

331第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:11:18 ID:zp5q7Op.0
 牌の捨て方を初本が見る限りでは、最初から七索は対子で持っていたようだった。
 しかし、六索を引いた時点で両面待ちにしていれば八索でツモ和了りだったのだ。
 
 確率を重視した打ち方なら、七索待ちはありえなかった。
 だからこそ、凌雲高校の多賀崎は振り込んでしまったのだ。
 
(´・ω・`)(こんな愚形での待ちを選択したのは、僕の放銃に期待したからかな)
 
(´・ω・`)(何にせよ、読みにくい相手だ)
 
 麦秀高校の船都が4000点を得て、親が変わる。
 芽院高校が東家となった。
 
(´・ω・`)(親番、ここが大事だな)
 
 初本は船都に視線を送った。
 何を考えているのか、表情からは読みにくい。
 
(´・ω・`)(船都くん、君はいい打ち手だ。麦秀高校じゃ大将の伊要くんに次ぐ実力者だと思ってる)
 
(´・ω・`)(だけど、ここで蹉跌を踏みたくはない。侮るわけじゃないけど、うちの目標は全国制覇だ)
 
(´・ω・`)(遠慮なくやらせてもらうよ)
 
 雀卓が東二局の開始を告げる。
 初本は自分の手牌を見やり、西を切った。
 
 それからしばらく、淡々と牌が捨てられていく。
 声が発されたのは八巡目、初本が一筒をポンしたときだった。
 
(’e’)(鳴いてくるのかい。こりゃあ、警戒しといたほうがよさそうじゃのう)
 
 初本が鳴くのは、喰い下がりがないときか、喰い下がっても問題なく点を稼げるとき。
 昨年の打ち方を分析した伊要はそう言っていた。

332第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:13:15 ID:zp5q7Op.0
 船都はまだ二向聴。しかも、立直をかけなければ役がつかないような手だ。
 無理をして突っ張る必要はない場面だった。
 
(’e’)(鳴いたから立直はかからない。いつ和了ってもおかしくないのう)
 
 怪しい匂いのする牌はなるべく切らないよう気を配りながら、船都は打っていった。
 特に幺九牌は危ない、と船都の経験は囁く。一筒のポンが危険度を加速させていた。
 
 そして不意に、初本の手牌は倒される。
 
(´・ω・`)「ツモ。4000オール」
 
(’e’)(満貫じゃったか)
 
 純全帯幺九にドラが二つ乗っている。
 喰い下がりのある手だが、門前でも満貫だ。
 船都の読みどおり、喰い下がっても問題ない手、ということだった。
 
(’e’)(やはり手強いのう。しかし、そう思い通りにはさせんぞい)
 
 船都が意気込み、臨んだ東二局一本場。
 雀卓から迫り出されてきた船都の手牌は、三向聴だった。
 上手くすれば三色同順が狙えそうな配牌でもある。
 
 それから十巡目までに、三種の数牌が同順で三つ、綺麗に並んだ。
 これでテンパイ。あとは当たり牌を待つだけだった。
 
 ただ、初本が既に白をポンし、役牌を確定させている。
 なるべく早めに和了りたいところだ。
 
 そう船都が思い、發を切ったとき。
 
(´・ω・`)「ポン」
 
 初本の手に、發が渡る。
 船都の額から、汗が噴き出した。

333第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:15:05 ID:zp5q7Op.0
(’e’;)(三元牌の二副露。これは、まずいのう)
 
 誰がどう見ても、大三元狙い。
 場に緊張感が走った。
 
(’e’;)(大三元を和了られたら、ツモであれロンであれ、どこかが0点になる。中堅戦が終わってしまうぞい)
 
 可能性としては、既に大三元が確定していることも考えられる。
 そうなると、何に注意すべきかがほとんど掴めない。
 三元牌以外を自由に組めるのが大三元の怖いところなのだ。
 
(’e’)(まだ十一巡目じゃが、放銃は絶対に避けなければならんのう。ここで飛ばされたら決勝進出が絶望的になるぞい)
 
 果たして、凌ぎきれるかどうか。
 テンパイを捨てて現物の二索を切りながら、船都は必死で思考を続けた。
 
 船都の視界には、中は一枚も見えていない。
 既に初本が揃えている可能性は充分ある、と見ていた。
 
 残る面子と雀頭は何を揃えようとしているのか。
 十二巡目は既に現物がない。船都は、雀牌に汗を滲ませながら北を切った。
 
(’e’)(通ったか)
 
 初本からロンの声が発されることはない。
 北は既に二枚切られていたため、これを待っている可能性は低いと考えながらも、船都は心から安堵していた。
 小さく息を吐き、船都は次の手番で現物をツモることを祈る。
 
 しかし、初本の手番。
 ツモった牌の表が見えるように卓上に置かれた。
 船都の体が、膠着する。
 
 だが、ツモ牌に続いて倒された初本の手牌は、船都にとって意外な形で並んでいた。

334第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:16:55 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「ツモ、8100オール」
 
 倍満。
 船都たちは、相当の痛手を被った。
 それは間違いない。しかし、大三元ではなかったのだ。
 
(’e’;)(大三元を待たずに小三元で和了じゃと!?)
 
 初本の手に、中は二枚しかない。
 大三元を和了るためには、中が三枚必要なのだ。
 
 中が出てくるのを待っていれば、そこで中堅戦を終わらせることができた。
 しかし初本は、七萬で和了りを宣言した。
 
雀卓「東家、ツモです。役牌2、小三元、対々和、ドラ3。倍満、8000オールは一本場につき8100オールです」
 
 裏ドラが乗り、倍満まで膨れた手を和了ったことで、芽院高校の初本の得点は60000点を超えた。
 中堅戦で圧倒的優位に立ったことは間違いない。
 
(’e’)(それで良しとする、か? 大三元まで手を上げなくても充分じゃと)
 
(’e’)(あるいは中で和了ることをほとんど諦めておったか)
 
 最後は中と七萬を待つ形だった。
 周囲に中を警戒されていては出和了りは絶望的。ならば七萬で、という判断か。
 現実的な男だ、と船都は思った。
 
(’e’)(なんにせよ、これ以上は点を減らさないように打たんといかんのう)
 
 仮に今、終局したとすれば、麦秀高校にはたったの27ポイントしか入らない状況だった。
 しかしそれでも、凌雲高校や豊稔農林高校よりはポイントを稼げるのだ。
 
 二位の維持。
 船都は、それだけを目標に打とうと決めた。
 
 
 
( ^Д^)「小三元で和了りか。初本さんらしいな」
 
 中堅戦は東二局の二本場。
 引き続き、芽院高校の初本が親だった。

335第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:18:28 ID:zp5q7Op.0
('A`)「結果的には最高の判断ですよね。大三元は絶対に和了れなかったわけですから」
 
 初本は中と七萬を待つ形でテンパイしていたが、中は凌雲高校の多賀崎が二枚抱えていた。
 多賀崎の気が狂わない限り、中が出てくることは絶対になかったのだ。
 
( ^Д^)「見抜いてたのかもな。誰かが中を抱えてるって」
 
(*゚ー゚)「初本さんなら、ありえますね! 観察眼すごいから!」
 
('A`)「相手の視線や理牌から推測できてたとしても不思議じゃないですね」
 
( ^Д^)「ただ、中が出る可能性を信じてたとしても、あの場面は小三元で和了るよ。そういう人だ、初本さんは」
 
(*゚ー゚)「後ろに笑野さんが控えてるから、ですか?」
 
( ^Д^)「いや、それもあるかもだけど、あんまり高目は狙わないんだよ。野球でいうなら中距離バッターって感じだ」
 
('A`)「笑野さんは長距離砲ですもんね」
 
( ^Д^)「まぁ俺なら大三元目指してただろうな。つーか毒島もそうだろ」
 
('A`)「和了れるチャンスがあるときに和了っておきたいっていうのはありますね」
 
(*゚ー゚)「私なら、役満は和了ってみたいですけど、跳満確定、裏ドラ乗って倍満ならそれで満足しちゃいます、きっと」
 
( ^Д^)「ま、そんな感じで人それぞれなわけだ」
 
 大三元を和了していれば、この中堅戦は圧勝で終わっていた。
 しかし、初本は小三元を選択した。
 
 初本はそれでいいのだ、と笑野は思っていた。
 昨年の全国大会のような、自分を見失った打ち方をしなければ、初本は堅実に勝利を収める。
 
 麻雀は運の要素が絡むからこそ、自分の軸を崩してはならない。
 自分のスタイルを、保たなければならないのだ。

336第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:20:01 ID:zp5q7Op.0
 この戦いに関してはまず安泰と見ていい。
 そう思った笑野は立ち上がって、飲み物を買うべく控え室を出た。
 出番は、遠くないうちに回ってきそうだった。
 
 
 
 東二局三本場。
 配牌を確認した初本の鼻から息が漏れた。
 
(´・ω・`)(さすがに二局連続で好配牌とはいかないか)
 
 三元牌に恵まれた先ほどのような配牌ではない。
 五向聴。普通に打ち進めれば和了りはかなり遠いだろう。
 
 だが、今度は逆に字牌が一枚しかない。
 鳴きを利用して断幺九を狙うという手があった。
 
(´・ω・`)(既に40000点以上のリードがある。このまま固く守っても、問題ないんだろうけど)
 
(´・ω・`)(麦秀と決勝で再び戦うことを考えると、ここでなるべく圧倒しておきたい)
 
 基本的に、この二回戦のポイントは決勝には影響しない。
 もし決勝で同点の高校が出た場合、二回戦のポイントで上位が決まることもある、という程度だ。
 
 しかし、ここで力量差を見せつけておけば、決勝でも対局を優位に進められる。
 麦秀高校は、どうしても相手の手を窺って打たざるを得なくなるためだ。
 
 無理に攻める必要はないものの、手を緩めるつもりなど初本には全くなかった。
 
(´・ω・`)「チー」
 
 鳴いて手を進める。
 断幺九のみでも、とにかく連荘できればそれでいい、というスタンスだった。
 
 しかし、ここで機先を制するべく上がった声があった。

337第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:22:04 ID:zp5q7Op.0
(’e’)「立直じゃ」
 
 麦秀高校の船都が九巡目に立直。
 初本はようやく一向聴に達したばかりだった。
 
(´・ω・`)(そんなに高い手じゃなさそうだ。とにかく親を流そうってとこかな)
 
 もし勝利を得るつもりならば、高目を狙うはずだ。
 更に理想を求めるならば、初本からの出和了りに期待してダマテンで仕掛けるべき場面だった。
 しかし、船都は立直をかけた。
 
(´・ω・`)(姿勢としては、悪くないんだろうけどね)
 
(´・ω・`)(でも、それが簡単に通じる相手だと思われたくはないな)
 
 初本はまず、立直時に船都が切った六索をポンして手を進めた。
 これで、初本もテンパイ。
 
 降りる気など全くなかった。
 ここは仕掛けるべき場面だ、と初本は判断したのだ。
 
 既に他校とは圧倒的な点差があった。
 仮にここから多少の失点があったとしても、確実に首位をキープできる。
 トップにさえ立っていれば、あとは県下最強の笑野に全てを託せばいいだけなのだ。
 
 初本は、多少のリスクを負ってでも、徹底的に他校を叩く作戦に出ていた。
 
(’e’)(ポンじゃと? 降りる気はない、ということか?)
 
 無論、初本の意思は船都にも伝わっていた。
 この局の展開について楽観視していた船都に、焦りが生じる。

338第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:24:14 ID:zp5q7Op.0
(’e’)(低い手ならすぐ降りるはずじゃがのう。この親番では充分稼いだことじゃし)
 
(’e’)(ドラも絡めて、かなり高い手になっておる、か?)
 
 船都の手は、今のところ立直と平和で二飜のみだ。
 自分があまり高い手ではないと読まれているのかもしれない、とは船都も思っていた。
 
 ただ、初本は既に二回鳴いており、手牌が限られてきている。
 回し打ちには厳しい状況だ。
 
(’e’)(まぁ、立直はかけておらんし、危なくなればすぐに降りるつもりなんじゃろうがのう)
 
 次の手番で船都に回ってきた牌は一筒。
 当たり牌ではなく、そのまま切り捨てる。
 
 その後に巡ってきた芽院高校の手番、初本はツモ牌を一瞥する。
 そして、即座に河へと捨てた。
 
 余裕を、持って。
 
(’e’;)(確信しているかのような、捨て方じゃのう)
 
 ツモした三萬で、振り込むことはない、と。
 そう確信しているかのようだった。
 初本は、船都の様子を窺うこともなく淡々と三萬を捨てたのだ。
 
 三萬は、生牌だった。
 生牌でなくとも、河を見れば決して安全と言えるはずのない牌だ。
 なのに何故、あれほどあっさり捨てられるのか。
 
 船都には、分からない。
 握り締めた拳に、爪が食い込んだ。
 
 立直をかけて、優位な立場にいるはずなのに、逆に追い詰められているような感覚さえ船都にはあった。
 そしてそれは、間違っていなかったのだと知る。

339第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:26:13 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「ツモ」
 
 初本が、ツモ牌の五筒と共に手牌を倒した。
 単純な役としては断幺九のみ。しかし、船都が読んだとおり、ドラが絡んでいた。
 
(´・ω・`)「断幺九、ドラ3。4200オール」
 
 裏ドラが絡んでドラが一つ増え、満貫となっていた。
 もはや、中堅戦の最下位である凌雲高校には4700点しか残っていない。
 二位の麦秀高校さえ、首位の芽院高校とは70000点以上の点差があった。
 
(’e’)(役者が、違うのう)
 
 対局中でなければ、自嘲的な笑みさえ漏らしていたかもしれない。
 船都は、あってはならないことだと分かっていながらも、自分の率直な思いを抑え込むことはできなかった。
 
 この中堅戦は、もうどうにもならない、と。
 
 続く東二局の三本場。
 否応なく漂う厭戦感のなかで、初本に立ち向かえる者は、一人もいなかった。
 
(´・ω・`)「ロン」
 
 凌雲高校の多賀崎が、不用意に危険牌を切った。
 呼応して和了りを宣言した初本が、手牌を公にする。
 
(´・ω・`)「立直、平和、断幺九。6000は6900」
 
 凌雲高校が、全ての点数を奪われた。
 しかしもはや、多賀崎は反応を示せずにいる。
 
 0点となった高校があったため、中堅戦は東二局の三本場をもって終了。
 初本の、圧勝だった。

340第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:27:54 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「ありがとうございました」
 
 軽く頭を下げて、初本が最初に対局室から退出する。
 しかし、他の三名はすぐに席を立つことができなかった。
 
 
( ^Д^)「お疲れっす」
 
 ペットボトルを持たないほうの手を振って、笑野が初本を迎えた。
 初本は軽く手を挙げて応える。
 
( ^Д^)「楽勝っすね」
 
(´・ω・`)「いやぁ、牌に恵まれただけだよ。ドラもいっぱい乗ってくれたし、できれば決勝に取っておきたかったくらいだ」
 
( ^Д^)「大丈夫っすよ。決勝じゃあ麦秀は縮こまってるだけっす」
 
 さすがに、笑野は初本の意図を見抜いている。
 だからこそ、この男は頼もしいのだ、と初本は思った。
 
( ^Д^)「あ、そういえば今ポイント差はどんな感じっすか?」
 
(´・ω・`)「二位の麦秀とは133ポイント差だね。34ポイント以上の差をつけられて麦秀に負けると、大将戦に回ってしまう」
 
( ^Д^)「そんな事態を起こしたら伊勢湾に沈めてもらっていいっすよ」
 
 そう答えた笑野に、初本は微笑んだ。
 例え半荘戦であろうと、負けてはならない。それを、笑野も分かっているのだ。
 
(´・ω・`)「僕より早く終わらせてくれることを期待してるよ」
 
( ^Д^)「まじっすか? じゃあ頑張ってみるっすけど」
 
 後ろ手を振りながら笑野は対局室へと消えて行った。
 それを見届けてから、初本は控え室に戻る。

341第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:29:45 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「みんな、お疲れ様」
 
 控え室は、対局室よりエアコンが効いていて涼しかった。
 初本は、廊下を歩く間に噴き出た汗を、鞄から取り出したタオルで拭う。
 
(*゚ー゚)「お疲れ様です! 凄かったです!」
 
( ^ω^)「圧勝したってことは何となく分かりましたお!」
 
(´・ω・`)「ありがとう。まぁ、会心の麻雀かな」
 
 壁際のテレビには副将戦の模様が映し出されている。
 まだ着座したばかりで、これから親が決まるところだった。
 
('A`)「小三元で和了ったときは、中が出ないことを読んでたんですか?」
 
(´・ω・`)「僕が發をポンしたとき、凌雲の多賀崎くんだけがあまり焦ってないように見えてね」
 
('A`)「なるほど。だから中を対子で持ってるんじゃないかと推測できたんですね」
 
(´・ω・`)「ま、小三元で充分と思ってたから、いずれにせよ七萬で和了る場面だけどね」
 
(*゚ー゚)「麦秀の船都さんが立直したあとに三萬を自信満々で切ってましたよね。あれは?」
 
(´・ω・`)「いや、自信満々ってほどじゃないよ。ただ、他者の牌が捨てられたとき、萬子と筒子でちょっと船都くんの反応が違う気がしてね」
 
(´・ω・`)「萬子のときは、捨て牌から目を切るのが早い。筒子だとちょっと遅い。だから筒子を待ってるのかなって思ったんだ」
 
(´・ω・`)「確証はないから、自分のなかでは『放銃もやむなし』って感じだったんだけどね。そんなに高い手じゃなさそうだったし」
 
(*゚ー゚)「そんな細かいところまで観察してるなんて、やっぱり初本さんは凄いです!」
 
 晴れやかな笑顔を浮かべてそう言う椎名に軽く礼を言って、初本はテレビの前の椅子に腰掛ける。

342第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:32:02 ID:zp5q7Op.0
 笑野のように、高い手を狙う勇気が持てない。
 毒島のような徹底したダマテンでの攻めも単騎待ちもできない。
 椎名のように常に和了りを目指せるような果敢さもない。
 
 自分に足りないものを、初本は自覚していた。
 だが、ないものをねだっても致し方ない。
 自分は自分らしく打たなければならないのだ、と昨年の全国大会で痛いほど思い知らされた。
 
 観察力も、図抜けているものだとは初本自身、思っていなかった。
 ただ、武器らしい武器はそれしかなかったのだ。
 決して捨ててはならない。自分らしくあるために。
 
 どこまで通用するかは分からないが、携えて戦っていこうと初本は決めていた。
 自分を、見失ってしまわないように。
 
('、`*川「あ! 初本さん帰ってきてる!」
 
(´・ω・`)「お疲れ様」
 
 トイレに行っていた伊藤が、初本の姿を見つけて急いで駆け寄った。
 初本は思わず苦笑いを浮かべる。
 
('、`*川「麻雀のルールはよく分かんないですけど、完勝だったんですよね!」
 
(´・ω・`)「うん。今回は上手く打てたよ」
 
('、`*川「もうウチが決勝進出でほぼ決まりですよね! さすが初本さんです!」
 
(´・ω・`)「まだ油断はできないよ。何が起きるか分からないのが麻雀だからね」
 
(*゚ー゚)「でも、副将戦に笑野さんが出るっていうのは凄いですよね。磐石すぎます!」
 
(´・ω・`)「それは、確かにそうだね。他の高校からしたら、笑野が大将じゃないことに戦々恐々って感じかな」
 
 県内では、どの高校でも大将を務められる実力の持ち主だ。
 副将戦に出てくるとは思わなかった、というのが他校の思うところだろう。

343第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:33:41 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「さ、みんなで笑野を応援しようか」
 
 そう言いつつも、初本の意識は別の高校の試合に向いていた。
 
 
 
 副将戦で、初めて芽院高校が起家となった。
 
( ^Д^)(おっ。かなりの好配牌だ)
 
 迫り出されてきた牌を見て、笑野の心は弾んだ。
 十四枚のうち、九枚が索子。
 字牌が二枚。混一色を狙うべき配牌だった。
 
( ^Д^)(できれば一気通貫も乗せたいところだな。足りないのは二索と九索か)
 
( ^Д^)(喰い下がってでも鳴いていくか?)
 
 まず不要牌の五萬を切ってから、笑野は他家の捨て牌を待った。
 無難に字牌が切られていく。
 
 二巡目、いきなり九索が笑野の手に入った。
 
( ^Д^)(よし、鳴くのはやめよう)
 
 混一色も一気通貫も、鳴いた瞬間に喰い下がりが発生する。
 合計で二飜下がるとなると、得点への影響は大きかった。
 
 圧倒的な首位に立っている現状では、点が下がろうとも和了りを優先すべきかもしれない。
 笑野はそうも思っていたが、やはり、自分のスタイルを変えるべきではないだろうという思いのほうが強かった。
 部長の初本が、中堅戦で貫いたように。
 
( ^Д^)(二索はなかなか出てこないな)
 
 七巡目まで進んだが、笑野の手に二索は入って来ず、他家から捨てられることもなかった。
 しかし、その間に一索が二枚入ったのだ。
 笑野はここで、混一色を狙うこともやめた。

344第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:35:09 ID:zp5q7Op.0
( ^Д^)(ここまで来たら、清一色狙いだ)
 
 役満を除けば、単体の役としては最高の六飜を得られる清一色。
 ツモに恵まれている今こそ狙うべきだ、と笑野は考えた。
 
 清一色と一気通貫を鳴かずに完成させれば倍満となる。
 この副将戦を、磐石のものとできるのだ。
 笑野は、牌を強く握って發を切った。
 
 直後、二索が河に捨てられた。
 
 麦秀高校の名織は、いつものように素早い打牌だった。
 
( ^Д^)(どこまで考えてんだかな、この人は)
 
 考えて打っているのか、考えずに打っているのか。
 それさえ、笑野には分からない。
 
 上家の捨て牌であるため笑野はチーできないが、索子が河に少ないことは一目見れば分かる。
 多少は警戒したほうがいい場面だ。
 しかし、名織に躊躇はなかった。
 
( ^Д^)(高目を狙ってんのかもな、麦秀の名織も)
 
( ^Д^)(幺九牌がほとんど捨てられてねーけど、もしかして国士無双か?)
 
 一瞬、そう考えたが、一索は笑野が三枚握っている。
 可能性としては低い、とすぐ考え直した。
 
( ^Д^)(あんまりデカイのに振り込むとマズイけど、この局はなるべく突っ張っていきたいところだな)
 
 その後、十一巡目までは不要牌ばかりが回ってきたものの、十二巡目で七索を引いた。
 これで笑野は、清一色と一気通貫のテンパイ。
 出和了りを待つべく、立直はかけなかった。
 
( ^Д^)(さぁ、和了れるか)

345第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:37:09 ID:zp5q7Op.0
 ダマテンでの二索の単騎待ち。
 まるで毒島みたいだな、と笑野は思った。
 
 途中の字牌の引きを組み合わせると、混一色狙いならもう和了れていた計算になる。
 もしこの清一色を和了れないとなると、笑野の打ち方は裏目に出たこととなるのだ。
 
( ^Д^)(裏目上等、望むところだ)
 
 自分を信じて、打つ。
 結果的に奏功しなかったとしても、それでいい、と笑野は考えているのだ。
 和了りを捨てていたとしても、自分を捨てるよりはいい、と。
 
 二索は麦秀高校の名織が既に一枚捨てているため、残り三枚。
 決して分が悪い勝負ではない、と笑野は思っていた。
 
 そして、笑野がテンパイした直後、名織の手には再び二索が入ってきていた。
 
('(゚∀゚∩(また二索だよ。これ、大丈夫かな?)
 
 いつもは打牌の早い名織も、さすがに手が止まった。
 首位を独走する芽院高校の笑野が、まだ一枚も索子を切っていないためだ。
 
 先ほど二索を切ったときは、笑野から声が上がることはなかった。
 刻子として揃えたいわけではない、ということだろうか、と名織は考える。
 順子の要員として既に手に入れている可能性も、そもそも二索が必要ではない手という可能性もあった。
 
('(゚∀゚∩(うーん、考え出すとキリがないよ)
 
 笑野がテンパイしていることは充分に考えられる。
 そう思っている名織も、既にテンパイしているのだ。
 珍しい形だが、混老頭と七対子の組み合わせだった。
 
 名織にとっては、和了りたい局面。
 しかし、笑野の染め手に振り込んでしまうと、決勝進出が厳しくなる。

346第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:38:52 ID:zp5q7Op.0
 逡巡の後に、名織は対子になっていた中を切った。
 事実上の、降参だ。
 
('(゚∀゚∩(とっても和了りたいよ! でもそれ以上に、振り込みたくないよ!)
 
 普段、そう簡単には降りない名織が、降りることを選択した。
 絶対に決勝に進むという強い決意を持って。
 
 それが好判断であったと、名織はすぐ知ることになる。
 
( ^Д^)「ロン」
 
 名織が中を捨て、豊稔農林高校に手番が移った。
 ツモを取り込んだ後に捨てた牌が、二索だったのだ。
 
 笑野が仰向けにした手牌は、見事に索子が並んでいた。
 更に、中央の画面に裏ドラが表示され、それが四索だったため、裏ドラも二枚乗った。
 合計で、十飜。
 
雀卓「東家、ロンです。清一色、一気通貫、ドラ2。三倍満、36000です」
 
 二回戦は全て25000点持ちで始まる。
 36000点を失った豊稔農林高校は持ち点が0となり、雀卓の中央の画面には『終局』の文字が表示されていた。
 
( ^Д^)「終わりか」
 
 東一局のみで、笑野は副将戦を終わらせた。
 あまりに迅速な、完勝だった。
 
 副将戦では、まず一位の芽院高校が100ポイント、二位の麦秀高校が40ポイントを得た。
 それから三位の凌雲高校が35ポイントを獲得し、三倍満に振り込んで飛ばされた豊稔農林高校はポイントなしに終わった。

347第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:40:23 ID:zp5q7Op.0
 合計ポイントとしては、芽院高校が400ポイント、麦秀高校が207ポイント。
 ここまでが決勝に進み、170ポイントの凌雲高校と99ポイントの豊稔農林高校は二回戦敗退が決定した。
 
( ^Д^)「要らなかったな、これ」
 
 笑野が対局中に飲むために用意したファンタは、結局、キャップさえ開けないままだった。
 
 
 
(=゚ω゚)ノ「お帰りだよう」
 
 普段とあまり変わらない表情で帰ってきた名織を、伊要が出迎えた。
 
(=゚ω゚)ノ「二位をキープできて良かったよう。これで決勝に進めるよう」
 
('(゚∀゚∩「決勝に行けて嬉しいよ! 明日はもっと頑張るよ!」
 
 飛び跳ねるように名織は喜んでいる。
 敗戦のショックを抱えているわけではなさそうだ、と伊要は胸を撫で下ろした。
 
,(・)(・),「二索を引いたときは、実はみんなでちょっと心配してたんですよ」
 
( ・3・)「振り込むんじゃないかと思ったYO」
 
('(゚∀゚∩「さすがの僕でも降りるよ! 放銃には気をつけてたよ!」
 
(’e’)「ツモ和了りなら他も同時に沈むからのう。振り込んだら凌雲に逆転されてるところじゃった」
 
(=゚ω゚)ノ「決勝進出のことだけを考えるなら、豊稔農林が振り込んで試合が終わったのはラッキーだったよう」
 
('(゚∀゚∩「そういえば、何で豊稔農林は最後に二索を切ったの?」
 
(=゚ω゚)ノ「二索を切って跳満のテンパイだったんだよう」
 
( ・3・)「豊稔農林が逆転するためにはとにかく和了ってかなきゃいけない状況だったYO。だから無理に突っ張ったんだYO」
 
,(・)(・),「でも、振り込んで悔いなしって感じでしたね。ある程度は覚悟してたんでしょうね」

348第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:42:13 ID:zp5q7Op.0
 中堅戦で初本に圧勝されたときは、絶望感が伊要を覆ったが、辛くも二回戦を突破できた。
 この二回戦では芽院高校に敵わなかったものの、明日は何が起きるか分からない。
 麦秀高校の歴史上、一度としてない全国への道が、おぼろげながら見えてきていた。
 
(=゚ω゚)ノ「今日はみんなゆっくり休んでほしいよう。明日は7時に集合だよう」
 
 今日出番のなかった伊要にも、精神的な疲労はあった。
 そしてそれは、明日になっても消えないだろう。
 
 肯綮高校の水戸、陶冶高校の杉浦。
 明日の大将戦に出てくるであろう相手は、いずれも県内では五指に入る打ち手だ。
 
 そして、何よりも。
 
(=゚ω゚)ノ(ネット界最強の、『ホライゾン』)
 
 芽院高校が用意した最終兵器。
 恐らくは、大将戦で出てくる。
 
 強敵に対する恐れか、喜びか。
 今、襲い来る感情がいったい何なのか、伊要自身にもよく分からなかった。
 
 しかし、決して悪い気分ではなかった。
 
 
 
( ^Д^)「誰も待っててくれないなんて寂しい限りだぜ」
 
('A`;)「いやいや、勝つの早すぎです」
 
(;゚ー゚)「東一局で終わるなんて予想できませんよ、笑野さん」
 
 対局室を出たところに誰も居なかったことを、笑野は冗談めかして責めていた。
 もちろん、笑野自身も東一局で終わらせられるとは思っていなかったのだ。

349第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:45:01 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「僕より早く、とは言ったけどね。まさかヨーイドンで終わらせるとはね」
 
( ^Д^)「まぁ、裏ドラが乗ったのは偶然っすけど」
 
(´・ω・`)「清一色まで狙いを高めたところが、さすがだよ。僕なら混一色で和了ってる」
 
( ^Д^)「それも、運に恵まれた感じはあるっすよ。どうしても運が絡むのが麻雀っすから」
 
 笑野は、オカルト派の打ち手ではないが、麻雀の偶然性の高さはよく分かっていた。
 次も同じように上手くいくとは限らない。それが、麻雀だ。
 
( ^Д^)「内藤、見てたか? 俺の華麗な打ち筋を」
 
( ^ω^)「なんか同じような牌がいっぱい並んでて綺麗だなって感じでしたお!」
 
(;^Д^)「そーいや、まだ役はほとんど教えてないんだったな。清一色も分かんないか」
 
(´・ω・`)「そうそう、それについては笑野に話があるんだよ」
 
( ^Д^)「話っすか?」
 
 二回戦が終わったため、今日は帰宅していいと運営側から連絡が入っていた。
 既に内藤や毒島、椎名などは帰り支度を始めている。
 
(´・ω・`)「明日の決勝も、今日みたいに副将戦までで終わらせる。その方針に変わりはない」
 
(´・ω・`)「だけど、やっぱり内藤をできる限り鍛えておきたい」
 
( ^Д^)「そうっすね、万が一に備えて」
 
(´・ω・`)「このまま帰宅してまた明日、だとちょっと時間が足りないかなって思ってね」
 
( ^Д^)「確かに。内藤なかなか覚えてくんないっすもん」

350第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:46:58 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「だから、できれば今晩もみんなで集まって内藤を鍛えたいんだ。時間は大丈夫?」
 
( ^Д^)「ん? 時間はいいっすけど、場所がなくないっすか? 学校はダメでしょうし」
 
(´・ω・`)「僕もそう思ったんだけどね。伊藤の力を借りることにした」
 
('、`*川「任してくださいよ!」
 
 鞄を肩に掛け、帰宅準備を終えた伊藤が、右手の親指を自分に向けていた。
 その伊藤に向けて拍手を送る椎名を、笑野は不思議そうな目で見る。
 
(;^Д^)「んん? どういうことっすか?」
 
(´・ω・`)「伊藤のお父さんがホテルを何軒か経営してるっていうのは、知ってると思うけど」
 
( ^Д^)「ストリングホテルっすよね」
 
(´・ω・`)「そうそう。それでね、電車で20分くらい行ったところにも観光用のホテルがあって」
 
('、`*川「何とか空室を確保しました!」
 
( ^Д^)「マジで!?」
 
(´・ω・`)「時間の許す限り内藤を鍛えて、明日はホテルからそのまま会場に向かおう」
 
(;^Д^)「伊藤マジですげーなお前」
 
('、`*川「ただし、麻雀部の活動ってことがウチの親にバレたらとんでもないことになるんで、そこだけ要注意です」
 
(*゚ー゚)「華道部の人たちとコミュニケーションを取るために部屋を借りたって言い訳してるみたいなので」
 
(;^Д^)「そーいや華道部に入ってるって嘘ついてるんだったな」
 
 机の上に散らばっていた雀牌を片付け、皆が自分の鞄を抱えた。
 初本が頷き、最初に控え室を出る。

351第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:48:38 ID:zp5q7Op.0
 県民会館から駅までは徒歩五分程度だった。
 小さな駅のため、急行電車は止まらない。
 ホテルのある駅へ早く行くためには、途中の駅で急行電車に乗り換える必要があった。
 
('A`*)「なんかホテルに泊まるのってわくわくしますね。しません?」
 
( ^Д^)「確かに。滅多にないもんなぁ」
 
 県民会館から出て、駅に向かって六人が歩きだした。
 同じように試合を終えた高校の生徒が疎らに同じ道を進んでいる。
 
('、`*川「ご飯は出ないんで、ホテルの近場で済ませましょ」
 
(*゚ー゚)「お菓子買って持ち込もうよ、ペニちゃん!」
 
('、`*川「いいね、いいね。わくわくしてきた」
 
( ^ω^)「いっぱい買い込むお!」
 
('、`*川「内藤、あんた食い過ぎちゃダメよ。すぐ太りそうだから」
 
( ^ω^)「僕は糖分を摂取しないと知識が頭に入らないんだお。だからたくさん食べるお」
 
('A`;)「本当かよ。それで覚えられるんなら苦労はないんだけどなぁ」
 
(´・ω・`)「みんな、楽しむのもいいけど、あんまりはしゃぎすぎないようにね」
 
(*゚ー゚)「はーい」
 
 芽院高校の一行が駅に到着し、二十分に一回しか来ない電車をプラットホームで待った。
 ホテルで一泊するとあって皆の気持ちは既に弾んでいる。
 いつもとさほど変わらないのは初本くらいのものだ。
 
 その初本に、歩み寄ってくる男がいた。

352第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:50:28 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「水戸くん」
 
(‘_L’)「お疲れ様です」
 
 プラットホームは島式で、初本たちは上りの電車を待ち、水戸たちは下りの電車を待つところだった。
 それぞれ、電車が到着するまでは五分以上の時間がある。
 
(‘_L’)「さすがに強いですね。圧勝ですか」
 
(´・ω・`)「そっちこそ、この時間に帰ってるってことは、副将までで終わったんだろう?」
 
(‘_L’)「自分も打ちたい気持ちはありましたが、早く終わらせるに越したことはありません」
 
(´・ω・`)「全くだね。計算上の最速である中堅戦で終わらせられればベストだよ」
 
(‘_L’)「しかし、無論のことながら明日はそうもいきません。こちらにとっても、そちらにとっても」
 
 芽院高校を相手に、副将戦までで終わらせられるはずがない。
 水戸は、そう考えていた。
 
(´・ω・`)「厳しい戦いになるだろうね」
 
 初本も同じ気持ちだ。
 肯綮高校は決して易い相手ではない。
 昨年も、一昨年も、シャツが湿るほど緊迫感に満ちた戦いだった。
 
(´・ω・`)「今日もそっちの試合を見てたけど、いい麻雀だった。去年より強いね、間違いなく」
 
(‘_L’)「そちらこそ、でしょう。貴方の麻雀も、笑野くんの麻雀も力強かった」
 
(‘_L’)「そして何より、大将に『ホライゾン』が控えているのですから」
 
 漏れかけた苦笑を、初本は堪えた。
 その大将が打つようなことがあれば、芽院高校の全国への道は閉ざされるだろう。

353名も無きAAのようです:2013/01/12(土) 22:51:32 ID:9/x74byU0
ん?鳴いてるのに裏ドラ?

354第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:54:07 ID:zp5q7Op.0
(‘_L’)「先鋒と次鋒を務めた二人の一年生も、いい打ち筋でした。明日は、最初から難しくなりそうです」
 
 それを聞いて初本は、不意に肯綮高校の先鋒のことを思い出した。
 
 今年から加入した一年生。飛びぬけた実力があるわけではなさそうだ。
 抱いた印象は、その程度だったが、大事なことを忘れていた。
 
(´・ω・`)(やばいな。最初から苦戦するのは、こっちのほうかもしれない)
 
 手を打たなければ。
 しかし、相手に悟られたくはない。
 初本は必死で平静を保った。
 
(‘_L’)「内藤くん」
 
 しまった、と初本は思った。
 
 動揺を心で押し留めていた初本の脇を通過し、水戸が内藤に近づいた。
 初本は、間に割って入りたかったが、そうすることの合理性がない。
 何も余計なことは言わないでくれ、と願うことしかできなかった。
 
(‘_L’)「肯綮高校の水戸です。お会いできて光栄ですよ」
 
 水戸が差し出した右手を、内藤は躊躇いながら握り返した。
 内藤に警戒心を抱かせる、不思議な握手だった。
 
(‘_L’)「明日は対戦することになると思います。胸を借りるつもりで挑ませていただきますので、よろしくお願いします」
 
( ^ω^)「よろしく、お願いしますお」
 
 水戸が内藤の手を離し、背中を向けてようやく、初本は安堵した。
 内藤は、何も余計なことは喋らなかった。

355第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:57:13 ID:zp5q7Op.0
(‘_L’)「今年はもう、プレーオフには回りたくありません。ストレートで全国行きを決めるつもりです」
 
(´・ω・`)「僕たちも一緒さ、水戸くん」
 
(‘_L’)「えぇ、そうでしょう。そうでなければ、面白くありません」
 
 すれ違いざまに、初本に見せた、水戸の自信。
 全身から横溢するようだった。
 
(‘_L’)「例えどんな展開になろうと、最後まで諦めずに戦い抜きます。お覚悟を」
 
(´・ω・`)「充分、警戒させてもらうよ」
 
 初本の声を掻き消すような音を立てながら、上りの電車がプラットホームに到着した。
 肯綮高校の五人のメンバーから送られる視線を背に受けながら、芽院高校の面々は電車に乗り込む。
 
 電車が発車した直後、水戸は軽く頭を下げて電車を見送った。
 
/ ゚、。 /「相変わらず初本って落ち着いてるよね。同い年とは思えない」
 
 一歩引いたところで見ていた鈴木が、水戸に近づきながら言った。
 首を捻りながら喋っているように見える鈴木だが、単に癖としていつも身体が傾いているのだ。
 
(‘_L’)「彼は昨年、既にリーダーシップを発揮しつつありましたからね」
 
( ∵)「彼奴が中堅として戦場に出陣してくるわけか。血が滾るな」
 
(‘_L’)「相当に手強いことは間違いありません。名瀬楢くん、相応の覚悟を」
 
从'ー'从「でもでもぉ〜、初本って人は今日で運を使い果たしちゃったんじゃないですかぁ〜?」
 
(‘_L’)「運とはただの確率です。使い果たすなどどいうことはありえないのですよ、渡辺さん」
 
(´・_ゝ・`)「僕と当たることは、ないですよね?」
 
(‘_L’)「えぇ。盛岡くんは初本とも笑野とも内藤とも当たらないでしょう」

356第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:59:28 ID:zp5q7Op.0
 水戸の後ろで初本との会話を見守っていた他の部員たちが、次々に水戸へ声をかけた。
 肯綮高校の麻雀部は五人しか居ないため、これでフルメンバーだ。
 
/ ゚、。 /「でもさ、初本も笑野も怖いけど、やっぱ一番は『ホライゾン』でしょ?」
 
从'ー'从「そうそう〜。ネット界では凄いんですよね〜。私は今日初めて知りましたけど〜」
 
/ ゚、。 /「水戸を信頼してないわけじゃないけどさ、かなり厳しい相手だと思う。どうするの?」
 
(‘_L’)「今さら小手先に頼っても奏功するとは思えません。私は私らしく打つだけです」
 
(‘_L’)「ただ、実のところ、それほど内藤を恐れる必要はないかもしれないと思っています」
 
/ ゚、。 /「えっ?」
 
 電車の音が遠来し、プラットホームにまで届いた。
 下りの電車が到着する時間だった。
 
/ ゚、。 /「何それ、どういうこと?」
 
(‘_L’)「つまり、内藤が最強の雀士とは限らないということです。詳しくは、また後ほど」
 
 二両編成の電車が到着し、五人が電車に乗り込んだ。
 電車は南の方面へ向かって、ゆっくりと動き出す。
 
 やがて加速し、規則正しい音を立てながら、駅から遠ざかっていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第4話 終わり
 
     〜to be continued

357第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 23:00:21 ID:zp5q7Op.0
第4話は以上です、ありがとうございました

>>353
ごめんなさい、間違えまくってますね……!
訂正版だしますね

358名も無きAAのようです:2013/01/12(土) 23:02:31 ID:qkE.9yYY0
乙です!面白かった!

359名も無きAAのようです:2013/01/12(土) 23:04:16 ID:8ua4.6EA0
おつ。久しぶりの現行遭遇でテンション上がった
麻雀知らなくてもふいんきだけで楽しめるな

360第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 23:15:00 ID:zp5q7Op.0
レスの一部を訂正です

>>334
「裏ドラが乗り、倍満まで膨れた手を和了ったことで、芽院高校の初本の得点は60000点を超えた。」
 ↓
「倍満を和了ったことで、芽院高校の初本の得点は60000点を超えた。」

>>339
「裏ドラが絡んでドラが一つ増え、満貫となっていた。」
 ↑この一行を削除

>>346
「 更に、中央の画面に裏ドラが表示され、それが四索だったため、裏ドラも二枚乗った。
 合計で、十飜。」
 ↑この二行を削除

>>349
「( ^Д^)「まぁ、裏ドラが乗ったのは偶然っすけど」」
 ↓
「( ^Д^)「ドラにも恵まれたっすね。こっちは運が良かっただけっすけど」」


だいたいこんな感じで……
正直、最初はストーリー性のためにルールをいじろうとしていて、
裏もリーチ関係なくつくようにしようとか考えてたんですけど結局やめて、
でもその意識が完全に残った状態で書いちゃってますね……
(裏でいいやっていう安易さも改めるべきですけど)

いろいろミスが多くて申し訳ない限りですが、
今後ともよろしくお願いします

361 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 23:38:00 ID:zp5q7Op.0
投下終わったあともずっと「第4話」ってついてた……

何度か要望があったのですが、
麻雀のルール的なものを次話で簡単に紹介する予定でいます
ある程度の触りが分かるんじゃないかなと思っています

ミスを連発しているので、おいおいお前こそルールちゃんと覚えろよとか思われちゃいそうですが、
懸命に頑張ります

362名も無きAAのようです:2013/01/12(土) 23:49:08 ID:8ua4.6EA0
訂正乙。なんか大変そうだなwwwww
楽しみにしています。がんばってください

363名も無きAAのようです:2013/01/13(日) 08:10:15 ID:WHPYqm4oO
ω・)乙。さすが最近少ない安心して見れる作品だなー。

364名も無きAAのようです:2013/01/13(日) 11:39:06 ID:5mped6ss0
面白い! 麻雀上の多少のミスはあまり気にならないな

365名も無きAAのようです:2013/01/13(日) 14:46:26 ID:HkxTJZxA0
おつおつ

366名も無きAAのようです:2013/01/14(月) 05:09:18 ID:RkLF2xq.O
前も言ったけど矛盾の見直し、修正は執筆中よりもダルそうだw
今回はいよいよ盛り上がってきたなって話だった
面白かった、次回も期待

367名も無きAAのようです:2013/01/15(火) 10:54:30 ID:wBcUb5IU0
作者がルールを勘違いしているのか、単に書き間違えただけなのかわかんないけど
気になるところが多い。ミスなら直してほしい

>>344
上家の捨て牌である為、チー出来ない
⇒むしろ上家の捨て牌のみチー出来る。下家の間違い?

>>345
ダマテンでの二索の単騎待ち
⇒手牌からして嵌張待ちかと

>>346
三倍満はどこも11飜〜というのが基本かと思います。
もし10飜〜ルールで行くなら次回テンプレに入れたほうがいいと思います。


あと笑野の手牌、描写から推測する限りでは、テンパイ形は二索を含む多面張になります。
二索のみというのは有りえないので直されたほうがいいかと
説明は長くなるので省きますが。。。


口うるさく書いちゃったけど決して貶めたいわけではないからね!
次の話も楽しみに待ってます

368名も無きAAのようです:2013/01/19(土) 12:17:30 ID:HHuS23qI0
手牌について全てが描写されてるわけではないし、そこはある程度作者の自由がきくとこだと思うんだけど
推測で〜待ちはあり得ないとかわかるもんなの?

369名も無きAAのようです:2013/01/19(土) 14:29:37 ID:zeAlNCvk0
ある程度までは捨て牌でわかるよ
ただある程度までな
とある美少女バトル系麻雀漫画みたいに何点でなに待ちとかわかるやつはいない

370 ◆azwd/t2EpE:2013/01/19(土) 17:12:36 ID:6.899TrY0
>>367
>むしろ上家の捨て牌のみチー出来る。下家の間違い?
そうですね、仰るとおりチーは上家のみなので、ミスです

>手牌からして嵌張待ちかと
ここもミスで、正しくはカンチャン待ちです

>三倍満はどこも11飜〜というのが基本かと思います。
ここもミスです、1飜間違えていますね……

>あと笑野の手牌、描写から推測する限りでは、テンパイ形は二索を含む多面張になります。
これは、確かに清一色だけなら多面張です
笑野はここで一気通貫を乗せることしか考えていないので、こういう描写になりましたが、
和了れる形としては確かに複数の待ち牌があるので、適切な描写ではなかったと思います

色々とミスが多く、辻褄を合わせないといけないので、
第4話は一度投下しなおす形を取ろうと思います、すみません

様々なミスは自分の知識・経験不足から生じているもので、
構想や執筆の手応えとしては充分あったのですが、結果的にたくさんのミスがあるので、
この作品をしっかり書くだけの技量がないということになることと思います

今後も作品を書くうえでの精進は続けていきますし、作品をやめようという気も今のところないのですが、
どこかで一度中断するということは視野に入れておかなければならないとも思っています
とりあえず第5話は引き続き書いていく予定ですが、どこかキリのつくタイミングで……というのも考えていきます

作品を始める前の前提からして、身勝手極まりない作品ですが、
自分が納得できる形を探しながらやっていくつもりです

もちろん、間違いや不自然の指摘はとてもありがたいことなので、
今後もどんどん指摘してもらえたらと思います

371名も無きAAのようです:2013/01/19(土) 17:29:52 ID:ZzUsyUXo0
すごい長文だな。とことん自分を追い詰めてなんか鬼気迫るって感じっすね
ここまで猛省見せられると、とにかく頑張れとしか言えないわ
納得がいくもの書けるといいな
でも俺としては、続き楽しみにしているから早く続きが見たい
まぁこの作品をどうするにしても、あなたの書く作品はとても面白いから、これからもブーン系書き続けて欲しい。頑張ってください

372名も無きAAのようです:2013/01/19(土) 18:33:37 ID:x6ZpTgEwO
麻雀とか囲碁とかTRPG系は
矛盾を上げるとキリがないから、ある程度作者の中で割り切ることが肝心

考えるな感じろ!とまでは言わないが、話数を積み重ねていく内に修正していけば
後々に矛盾もミスも減少していくだろう
一気にやろうとしないでほしいし、実際無理でしょ
十分楽しいぜ

373名も無きAAのようです:2013/01/19(土) 19:00:24 ID:HHuS23qI0
>>369
あーごめん。それって実際に自分が対局してる時の話だよね?そういうことを聞いた訳じゃないんだ

んで知りたいことは作者が答えてくれたんでもうおけですwありがとう

てかよくそんなとこ気付くな・・・

374名も無きAAのようです:2013/01/19(土) 22:24:30 ID:UNoIa2/IO
続き待ってるよ!

375名も無きAAのようです:2013/01/21(月) 05:30:42 ID:ISEIYBy20
麻雀さっぱり分からないけど好きです

376名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 22:10:35 ID:IAX/VEI60
この作者が書く作品はどれも面白いから今回も期待してます。

377名も無きAAのようです:2013/02/20(水) 03:50:57 ID:TVJPaM7w0
まとめサイトで読んでて

〜to be continue

の一文で◆azwd/t2EpEさんだとわかって大興奮しました!

最終的に

「( ^ω^)ブーンが第四帝国を潰しに行くようです」

ってレベルになってくれることに期待

378名も無きAAのようです:2013/02/24(日) 23:29:54 ID:MPc1Y04Q0
>蹉跌を踏む
こういう言い方する?

379 ◆azwd/t2EpE:2013/03/03(日) 12:09:28 ID:ecw5tE860
あまり音沙汰がなくすみません
皆さんレスありがとうございます
最近あまり書く時間を取れていないのですが、ゆっくりやっていこうと思います

>>378
しないっぽいですね……!
そこも第4話再投下時に修正します
日本語ももっと勉強しなくちゃ……

380名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 21:10:02 ID:.Uu44cj.0
ゆっくり待ってます

381名も無きAAのようです:2013/03/03(日) 23:37:10 ID:XORZrXesO
ω・)楽しみにしてます

382名も無きAAのようです:2013/04/05(金) 03:26:38 ID:JaCH9fCsC
知識もロクにないのに書くなよww変な所で一々拘るくせに

383名も無きAAのようです:2013/04/05(金) 10:15:50 ID:QfAh4O7cO
気づけばひと月か
黄金週間辺りに期待してる

384名も無きAAのようです:2013/05/09(木) 00:30:55 ID:MJEp7F1U0
はやくしろ

385名も無きAAのようです:2013/05/09(木) 20:54:07 ID:.1jPSHl20
GWなんてなかったんや

386名も無きAAのようです:2013/05/09(木) 21:12:46 ID:OUzA/h6gO
GWはリフレッシュするものなんだよ(迫真)

387名も無きAAのようです:2013/05/09(木) 22:54:44 ID:KstjyP3o0
ダメダメだなあ

388名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 02:40:32 ID:t3jXT/a.0
こねえww

389名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 02:50:28 ID:vC1BTh9YC
黒歴史確定すなあ

390名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:54:44 ID:W0EWj/rc0
好きに書くって言葉すら出来ない読者ばかりよ

391名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 07:29:43 ID:e/DmWKX20
人気の高い作品に対しては寄せられるコメントも多い分批判も集まるべ。
俺は過去作の大ファンですですがな。

392名も無きAAのようです:2013/08/23(金) 22:25:23 ID:o1BK5jVMO
ω・)俺は嫌いじゃない

393名も無きAAのようです:2013/08/23(金) 23:03:34 ID:54l.c15U0
麻雀好きならふつうに面白く読めると思うがな
どーも過去作が過去作だからか過敏になってる右翼どもが目立っているが

394名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 20:54:07 ID:2EcAcvaQO
ま、アンチは飽きればいなくなるしょ

395 ◆azwd/t2EpE:2013/08/30(金) 20:59:36 ID:mq74SjkI0
当作品を気にかけていただき、ありがとうございます。

最初に>>8でも書いたように、この作品はかなり気軽な気持ちで臨んでいます。
気が向いたときに書くのがちょうどいい、と自分では思っています。

もちろん、「それならもういいや」って思われてしまう可能性は十分あって、
自分としてはリスクでもありますが、あまり気張らずに進めていこうと思っています。

本来は第4話の直しからやらないといけないんですが、
自分としては第5話の続きを書いているのが楽しいので、そっちをゆるゆると進めていたりします。
とはいえ投下の目途は立っていないので何とも言えないのですが、変わらずにまったりやっていこうと思います。

396名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 21:12:22 ID:hkKE9cBwO
全然問題なし
まったりやってくださいな
(でもこの大会だけは終わらせて><)

397名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 06:54:43 ID:uWhqZ6Vk0
お、待っとります。

398名も無きAAのようです:2013/09/13(金) 16:25:40 ID:iiSZS9gw0
死ぬまでに完結してるかもしれないぐらいの気持ちでゆっくり待つか

399名も無きAAのようです:2013/09/25(水) 12:26:34 ID:4duL.20E0
これが完結するまでブーン系は残っているのだろうか

400名も無きAAのようです:2013/09/25(水) 19:11:04 ID:QFsu6fHwO
作者が何度も言ってるが、これは気軽に書いてるもので、完結を望んで読むものじゃないぜ

401名も無きAAのようです:2013/10/07(月) 17:59:48 ID:DYjz1AMs0
フィレンクトさんのモデルになった鴨志田選手が戦力外やて

402名も無きAAのようです:2013/10/08(火) 03:49:01 ID:eSUAVlj.0
くっだらねーことであげんなよ!!
せめて作者きた時にしろよ
なんでわかんねーかな

403名も無きAAのようです:2013/10/11(金) 03:26:50 ID:p8seKuhwO
あげ

404名も無きAAのようです:2013/10/11(金) 16:01:12 ID:hcCQVcfI0
闘牌で悩んでるなら協力したいわ

405名も無きAAのようです:2013/10/11(金) 18:16:14 ID:CllkxRy.0
来てるかと思ったら違ったのか。
あげるなとは言わないが、少し自重しようぜ。

406名も無きAAのようです:2013/10/20(日) 16:19:11 ID:vkvQZVRE0
ホライゾンの正体がわかるまで死ねんな

407名も無きAAのようです:2013/10/27(日) 18:23:04 ID:I1qP0giI0
我々は三年待つ!

408 ◆azwd/t2EpE:2014/01/19(日) 22:32:08 ID:ELB1sFPI0
前回投下から一年くらい経っちゃってますね……
気楽な気持ちで、と言いつつもやはり全然投下できてないとなると、
お待ちいただいている方には申し訳ない限り……

展開的には最後まで作ってあるので悩みはないですが、
気の向きようの問題で、やっぱりだいぶのんびりです
それでも一時期よりは意欲が沸いてるので、マイペースにやっていけたらと思います

409名も無きAAのようです:2014/01/19(日) 23:14:27 ID:nmm7wbp20
生存報告キター( *・ω・)
気長に待ってますんで、ぼちぼち頑張ってください♪

410名も無きAAのようです:2014/01/24(金) 00:22:49 ID:FBbFCVhs0
おお、期待してます

411名も無きAAのようです:2014/04/06(日) 23:35:52 ID:X82MSgcI0
これ読んで麻雀始めた

412名も無きAAのようです:2014/04/07(月) 00:56:50 ID:8GOy.jCU0
ずっと中二病でいられ続けるって才能だと思うぜ
あんたに憧れてブーン系書き始めたんだ
頑張ってくれよな!

413名も無きAAのようです:2014/11/08(土) 22:57:22 ID:.a/sAvS.0
ここまで待った

414名も無きAAのようです:2014/12/04(木) 14:46:54 ID:.s/yBd6.0
ブーンがまともに麻雀やる前に二周年突破とかぱねぇ

415名も無きAAのようです:2014/12/24(水) 11:10:22 ID:3zDHkTPA0
最終投稿からもうすぐ2年なのね!
今アルファ読み直してるけどそれが終わる頃には来るかなぁ

416名も無きAAのようです:2015/02/11(水) 15:42:25 ID:7MRuzNZU0
久々に読み直してきたら二年たってたのかはやいなー

417名も無きAAのようです:2015/03/02(月) 18:38:04 ID:1LvM5AS2O
麻雀ものって簡単なようで難しいよな
あまり御都合主義に走ると薄っぺらくなるし、技術描写は作者に豊富な麻雀知識がないとツッコミ所満載になるし

それでもブーンがどこまで強くなるのか、ホライゾンの正体は誰なのかと気になって仕方がない

418 ◆azwd/t2EpE:2015/03/08(日) 10:32:48 ID:K5dvZxbE0
間が空きまくりですみません……
投下を待っていただいている方々には申し訳ない限り……

2014年は正直、ほとんど時間が取れなくて、
続きもまともに書けていなかったのですが、
今年になってからようやく時間が取れるようになってきて、ちょっとずつ書き進めています

第5話は、文量的にはもう投下してもいいくらいに達しているのですが、
切りどころまで書けていないため投下できない状況です
ただ、投下の目途は立ち始めたかなという感じもあるので、焦らず頑張ります

419名も無きAAのようです:2015/03/08(日) 11:08:46 ID:4145drGQ0
半ば続きを諦めてただけにすげえ嬉しい
楽しみだわ

420名も無きAAのようです:2015/03/08(日) 14:01:08 ID:fGv./xdc0
まじかよ
うれしいまってる

421名も無きAAのようです:2015/03/08(日) 14:32:13 ID:D29WulaY0
ひゃっほいマジかよ
読み返しとかなきゃ

422名も無きAAのようです:2015/03/08(日) 14:39:04 ID:gcv92inY0
ひゃっほい!待ってるぜ!

423名も無きAAのようです:2015/03/10(火) 23:44:55 ID:.Vvf3W5o0
これで楽しみがひとつ増えたな

424名も無きAAのようです:2015/03/14(土) 22:08:22 ID:hUVj.AyI0
αみたいな話でいいよ
これやめて新しいの始めてくれ頼むから

425名も無きAAのようです:2015/03/15(日) 00:41:29 ID:tErN7nDQ0
>>424
死んでくれ頼むから

426名も無きAAのようです:2015/03/19(木) 12:32:48 ID:nmW9vsF60
正直つまらないから向いてないんだと思う
次行こう

427 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:15:59 ID:ueJ0zPsY0
途中で中断を挟んだりするかもですが、これから第5話を投下します
よろしくお願いします

428登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:20:39 ID:ueJ0zPsY0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生


◇肯綮高校

■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生

■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生

■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生

■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生

■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

429大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:21:29 ID:ueJ0zPsY0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

430大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:22:35 ID:ueJ0zPsY0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

431大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:23:57 ID:ueJ0zPsY0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

432第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:25:31 ID:ueJ0zPsY0
【第5話:天穹に向かって歩く音】
 
 
 非接触型の認証機にICカードを翳し、室内を目にした瞬間、椎名が声を上げた。
 
(*゚ー゚)「すごーい! 部屋広い! 広すぎ!」
 
 鞄をソファに投げ出し、椎名がベッドに身を投じる。
 小麦の生地を伸ばす延べ棒のように、白い毛布の上を転がっていた。
 
(´・ω・`)「このベッド、シーリーのクラウンジュエルだね。全室そうなの?」
 
('、`*川「よく分かんないですけど、ここはいいベッド置いてあるみたいです」
 
( ^Д^)「テレビでけー。60インチくらいあるんじゃねーか?」
 
('A`)「これくらいないと、部屋の端からは観にくいですよね」
 
 軽く小走りできる程度の広さの部屋に、ベッドが三つ並べられている。
 更に、小さな階段を昇った先にはロフトがあり、そこにもベッドが二つあった。
 
( ^ω^)「テーブルの上のお菓子、食べていいかお?」
 
('、`*川「いいわよー。でも、みんなの分も残しといてね」
 
 卵型の黒いテーブルの前に座り、内藤はフィナンシェに手をつける。
 それを見た椎名もテーブルに駆け寄り、マドレーヌの包みを開いた。
 
( ^ω^)「それにしても本当に凄い部屋だお。泊まっちゃっていいのかお?」
 
('、`*川「運良く空室だったのよ。土曜の夜は大抵埋まってるって聞いたことある気がするけど」
 
( ^Д^)「親父さんにか?」
 
('、`*川「そうです、そうです」
 
 直後、伊藤の笑みが顔に貼りついたままとなる。
 ダース・ベイダーの登場シーンに使われる音楽が、伊藤のスマートフォンから鳴り出したためだ。
 
('、`;川「あっ、お父様。奈々です」
 
 椎名以外の全員が、目を見開いて伊藤を見た。
 声だけでは、誰が喋っているのか分からなかったためだ。
 上げた髪に和服が似合いそうな、淑やかな声だった。

433第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:29:48 ID:ueJ0zPsY0
('、`;川「はい。無事にホテルに到着致しました。ご心配をおかけし、申し訳ございません」
 
('、`;川「何かありましたらすぐに連絡致します。はい。失礼します」
 
 父親が見ていないにも関わらず、伊藤は自然と膝を折って床に正座し、頭を下げていた。
 スマートフォンを耳から離したあと、長く呼吸を止めていた後のように大きく息を吐く。
 
('、`;川「あーびっくりした。仕事中だから電話来ないだろうって油断してた」
 
(;^Д^)「ってか今の声は何だよ! 誰だよお前!」
 
('、`;川「誰も何も、私ですよ。家に居るときは、いつもあの声です」
 
(´・ω・`)「こっちがびっくりだったよ。躾が厳しいとは聞いてたけど、相当なものみたいだね」
 
('、`*川「家での振舞いには、もう慣れましたけどね」
 
(*゚ー゚)「私も初めて聞いたときはびっくりしたな~。ペニちゃんじゃないみたいだった」
 
( ^ω^)「親父さんはそんなに怖い人なのかお?」
 
('、`*川「最近はあんまり怒られてないけどね、怒ると本当に怖い。こんな私が眠れなくなるくらい」
 
(;^Д^)「おいおい、そんな親父騙してんのかよ。やばいだろ、今の状況」
 
('、`*川「大丈夫ですよ。成田さんが上手くごまかしてくれてますから」
 
(´・ω・`)「ここの支配人だね?」
 
('、`*川「そうです。今まで何度も助けてくれた、良き理解者ってやつです」
 
(´・ω・`)「後でお礼を言いに行きたいな。会えるかな?」
 
('、`*川「大丈夫です、私のほうから伝えときます!」
 
(´・ω・`)「そっか、悪いね。じゃあ、よろしく頼んだよ」
 
('、`*川「はーい♪」

434第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:31:15 ID:ueJ0zPsY0
 皆が荷物を部屋の片隅に置いて、思い思いに寛いだ。
 笑野と毒島はテレビの前に座り、チャンネルを切り替えている。
 内藤と椎名はベランダに出て、伊勢湾を一望できる景色に目を輝かせていた。
 
(´・ω・`)「まずは夕飯だね。ここのレストランは、多分使わないほうがいいかな」
 
('、`*川「そうですねぇ、うーん。あんまり従業員の目につくと、父親にバレるかもしれないです」
 
(´・ω・`)「伊藤だけ別行動ってのも寂しいし、みんなで外に食べに行こうか」
 
('、`*川「気を遣っていただいて、すみません」
 
(´・ω・`)「いやいや、伊藤が謝ることなんて一つもないよ」
 
 初本が皆を呼び集め、外食に行くことを伝えた。
 加えて、行きたい店があるかどうかを初本が皆に尋ねると、真っ先に内藤の手が挙がる。
 
( ^ω^)「ここの近くにあるはずの『大和』ってお店、行ってみたいですお!」
 
(*゚ー゚)「あ、確かビュッフェ形式のお店だよね」
 
('、`*川「内藤らしいチョイスねぇ」
 
('A`)「一回行ったことあります。かなり混んでましたけど、美味しかったです」
 
( ^Д^)「俺も何回か行ったよ。揚げ物が多めで嬉しいんだよな」
 
(´・ω・`)「へぇ、なるほどね。僕は行ったことないけど行ってみたいな。そこでいいかな?」
 
 皆が賛成の意を示し、夕食を取る店はあっさりと決まった。
 時間は、まだ十八時になったばかりで、今の時間ならさほど混んでいないだろうと笑野は言った。
 財布やスマートフォンなどの最低限の荷物だけを持って、伊藤を除く五人が部屋を出る。
 
('、`*川「アタシはちょっと遅れて行きます。一緒に居るところ、見られるとマズイかもしれないんで」
 
('、`*川「クルマで送ってってもらうんで、お店には先に着いてると思いますけど」
 
(*゚ー゚)「じゃあ、また後でね!」

435第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:33:05 ID:ueJ0zPsY0
 事情を知らない従業員に見られると、父親に嘘が発覚するかもしれない、ということだった。
 もし父親の耳に真実が入ってしまった場合、一体どうなるのか、というのは全員が少なからず抱いた不安だ。
 
( ^Д^)「みんなで土下座っすよ、初本さん」
 
 初本が不安を口にしたところ、笑野は朗らかにそう言った。
 相変わらずだね、と初本は呟く。
 
(*゚ー゚)「内藤くんのときと一緒ですね。ダメだったら謝る!」
 
( ^ω^)「きっと伊藤のお父さんも僕みたいな紳士だお。だから大丈夫だお」
 
('A`)「どこの誰がだよ、おい」
 
 椎名と毒島は、明日が決勝だということを全く意識していないようだ、と初本は思った。
 変に固くなるよりは、そのほうがよほどいい、とも思っていた。
 
( ^ω^)「それより、バイキング、バイキング~♪ 楽しみすぎるお!」
 
('A`;)「どんだけ食うのか見させてもらうよ」
 
 五人でホテルから出て、徒歩で店に向かった。
 ホテルは幹線道路に面しており、その道路を上り方面へ十分ほど歩いたところに店はある。
 クルマの往来は激しく、バンパーが夕日を照り返して道路に多くの光が生まれていた。
 
( ^Д^)「ホテルに帰ったら早速特訓っすか?」
 
(´・ω・`)「そうだね。少しでも内藤を鍛えないと」
 
( ^Д^)「椎名と毒島も、もっと強くなってほしいっすよね」
 
(´・ω・`)「特に伸び代が大きいのは、椎名かな。すぐ強くなるとしたらね」
 
( ^Д^)「そうっすね。まだまだ伸びる余地があるっす」
 
(´・ω・`)「今日は内藤をメインで鍛えるけど、椎名にも適宜指導していこう」
 
( ^Д^)「了解っす」

436第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:34:53 ID:ueJ0zPsY0
 その後、店の看板が見えると内藤はダッシュで店内に駆け込んだ。
 苦笑して他の四人も後を追う。
 
 店内の待機席には既に伊藤が座っていた。
 
('、`*川「順番待ちの紙に名前書いときましたよー」
 
( ^Д^)「ナイス!」
 
 店内は、入り口から向かって左側に料理が並び、右側に席が並ぶ構造だった。
 三十ほどあるテーブルは全て埋まっており、席が空くのを待っている客も十人ほどいる。
 料理を運ぶ店員、料理を取りに行く客と、人が忙しなく動いていた。
 
 内藤たちが到着したとき、既に順番待ちの紙は伊藤より上の名前に線が入っていた。
 程なくして名前を呼ばれると、内藤がすぐにプレートを持って料理コーナーへと向かっていく。
 
(;'A`)「あいつあんなにコテコテのデブキャラだったのか、知らなかった」
 
('、`;川「必死すぎでしょ」
 
(*゚ー゚)「太りすぎないように注意だよね。今はちょっとぽっちゃりくらいだけど」
 
('、`*川「アンタも食べ過ぎちゃダメよ。スタイルキープしないと」
 
(*゚ー゚)「大丈夫! そのへんはちゃんと気をつけるよ」
 
 それぞれがプレートを持って料理コーナーへと向かう。
 既に内藤は牛肉コロッケ、鶏の唐揚げ、春巻き、ローストビーフ、グリーンサラダ、南瓜の煮物をプレートに載せながら歩き回っていた。
 
('、`*川「意外と野菜も食べるんですねぇ、内藤」
 
(;^Д^)「とは言っても肉が多いけどな」
 
(*゚ー゚)「ペニちゃん! お寿司取りに行こう! 美味しそう!」
 
('、`*川「お、いいね。行こう行こう」

437第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:36:09 ID:ueJ0zPsY0
 それぞれが思い思いに料理をプレートに載せ、最後にドリンクをグラスに注いで席に着く。
 最後に着席した毒島が箸を手に取る頃には、既に内藤はほとんどの料理を胃袋に収めていた。
 
(;'A`)「食うの早すぎだろ」
 
( ^ω^)「時間制限がある以上、のんびりはしていられないんだお」
 
(´・ω・`)「よく噛んで食べなよ、消化に悪いから」
 
( ^ω^)「高速咀嚼を会得してるから大丈夫ですお!」
 
(;^Д^)「あの小刻みな顎の動きは、そういうことだったのか」
 
( ^ω^)「最小限の動きで素早く食べ物を噛み砕いてるんですお」
 
('、`*川「食に対する情熱は半端じゃないわね」
 
 その後も内藤は皿が空になる度に席を立ち、山を築き上げては席に戻って山を崩す。
 四つ目の山が炒飯のみだったときは、周りの部員たちの呆れを誘っていた。
 
(´・ω・`)「よくあれだけ食べられるもんだね」
 
( ^Д^)「胃下垂っすよ、きっと」
 
('、`*川「アタシもうお腹いっぱいです。なんか、内藤の食べっぷり見てたらこっちが満腹にさせられた感じで」
 
(*゚ー゚)「凄いよね、ほんと。私はもう少し食べたい気もするけど、このくらいにしとこっかな」
 
('A`)「僕はもうちょっと取ってきます」
 
(´・ω・`)「僕もあっさりしたものなら食べれそうだ。取りに行ってくるよ」
 
 毒島の後を追うように初本は席を立ち、料理が並べられたコーナーへ向かった。
 揚げ物が揃っている大皿の近くには内藤が陣取り、またも山を作ろうとしている。
 初本は苦笑して、ポテトサラダとコールスローを皿に盛りつけた。

438第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:37:10 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)(あとは、ビーフンでも食べようかな)
 
 豚肉や玉ねぎなどと一緒に焼かれたビーフンを取るべく、初本は麺類コーナーへ足を向ける。
 その途中、ふと目をやったドリンクバーに、見覚えのある横顔があった。
 
 初本は麺類コーナーから足先を逸らして、ドリンクバーへ向かう。
 そして、やや丸まった背中を二度ほど人差し指で突いた。
 
(´・ω・`)「杉浦くん」
 
( ФωФ)「む。なんと、初本殿であるか」
 
 明日の決勝で芽院高校と戦う、陶冶高校の大将を務める、杉浦浪漫。
 初本にとっては、昨年の県大会で戦った相手でもある。
 攻守のバランスが良く、先を見通す力に長けた、県内屈指の打ち手だ。
 
( ФωФ)「芽院高校も、麻雀部での会合のようであるな」
 
(´・ω・`)「ってことは、陶冶高校も他の部員が来てるんだね」
 
( ФωФ)「そのとおりである。明日の決勝に向けて英気を養っているところであるよ」
 
 低く渋い声に、芝居じみた台詞がよく似合う。
 同い年とは思えないな、と初本は感じた。
 
( ФωФ)「芽院高校は今日の試合、大将が打たずして終わったそうであるな。完勝であるか」
 
(´・ω・`)「いやぁ、運に恵まれただけだよ。そっちも、副将戦で終わったみたいだね」
 
( ФωФ)「肯綮高校には上手く打たれてしまったである。明日は雪辱戦であるな」
 
(´・ω・`)「杉浦くんが副将だったら、間違いなく大将戦まで回ったんだろうけどね」
 
( ФωФ)「仮定の話をしても詮無きことである。二位でも決勝に進出できたことを良しとするである」

439第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:38:10 ID:ueJ0zPsY0
 陶冶高校は、杉浦の力が抜けている。
 そのため、副将戦までは水戸率いる肯綮高校に上手くやられてしまっていた。
 初本の言葉は、月並みな世辞ではなく、本心だった。
 
( ФωФ)「ただ、明日は出番が回ってきそうである。どこかが単独で抜け出すことは、想定しにくいであるよ」
 
(´・ω・`)「同感だね」
 
 初本は、そう嘯いた。
 実際には、陶冶高校大将の杉浦が打つ展開になると、芽院高校にとっては絶体絶命の危機だ。
 杉浦と同じ卓には、内藤が座ることになるためだ。
 
 死に物狂いで、何としてでも、他校を蹴落とす。
 副将戦までに全てを終わらせる。
 それが、芽院高校が全国へと歩を進められる唯一の道だった。
 
( ФωФ)「初本殿は、明日も中堅であるか?」
 
(´・ω・`)「まだ分からないけど、その可能性が高いかな」
 
( ФωФ)「対局が叶わぬのであれば、誠に残念であるよ」
 
(´・ω・`)「僕もだよ、杉浦くん」
 
 初本はそう答えたが、自分の気持ちが判然としなかった。
 昨年の県大会決勝では、杉浦に満貫を振り込まされ、一時は逆転を許したのだ。
 最終的には辛くも再逆転し、先輩にバトンを渡したが、相当に拮抗した戦いを初本は強いられた。
 
 再び対戦するとなれば、喉が乾き切るほどの緊迫した試合となるだろう。
 だからこそ初本は、杉浦と再戦したいのかどうか、自分でも分からないでいた。
 
( ФωФ)「しかし、今回は別の楽しみができたであるよ」
 
(´・ω・`)「ん?」
 
( ФωФ)「大将に据えるのであろう? 『ホライゾン』を」

440第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:39:35 ID:ueJ0zPsY0
 初本が思っている以上に、広まっていた。
 一年生の内藤が、ネット界最強雀士の『ホライゾン』であるという噂が。
 
 初本は、なんとか苦笑を堪える。
 
(´・ω・`)「杉浦くんも知ってたんだね、『ホライゾン』の話」
 
( ФωФ)「無論であるよ。そちらとの再戦も、心待ちにしていたである」
 
(´・ω・`)「ん? 再戦?」
 
( ФωФ)「ネットで一度、戦ったであるよ。およそ二か月ほど前に」
 
(´・ω・`)「へぇ」
 
 初本にとっては意外なことだった。
 しかしすぐ、そういう人がいてもおかしくないな、と思い直す。
 周りに打てる人がそう多くない高校生は、ネットの麻雀に対局の場を求めることが多いからだ。
 
( ФωФ)「神懸かり的な読みの力でほとんど放銃せず、自分が和了れるときは確実に和了る」
 
( ФωФ)「自分の当たり牌を他者が抱えて放さないと悟ると、待ちを変えて和了ることもある」
 
( ФωФ)「どこにどの牌があるのか、全て見通しているような打ち方は、正に噂通りであった」
 
(´・ω・`)「神の目、か」
 
( ФωФ)「いかにも」
 
 神の目を持つ打ち手。
 ホライゾンがそう呼ばれていることは、初本も知っていた。

441第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:40:25 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「その口ぶりだと、負けたみたいだね、杉浦くんでさえ」
 
( ФωФ)「完膚無きまでに叩きのめされたである。清々しいほどに」
 
(´・ω・`)「それほどの完敗を喫しても尚、再戦を望むのかい?」
 
( ФωФ)「無論であるよ」
 
 杉浦が口元を緩めて笑った。
 しかし、猫のような目は鋭いままだ。
 
 初本はそんな杉浦を、少し、羨むような目で見つめる。
 
( ФωФ)「同輩が待っているである。そろそろ失礼するである」
 
(´・ω・`)「明日はよろしく。いい勝負をしよう」
 
( ФωФ)「血が躍るような熱戦を心待ちにしているであるよ」
 
 手に持った烏龍茶を軽く呷って、杉浦が初本に背を向けた。
 歩いて行った先は、ちょうど初本たちの席からは反対側に位置し、壁に遮られて見えない席だった。
 
( ^ω^)「おっ。初本さん、締めのサラダですかお?」
 
 初本も席に戻ろうとしたとき、チキンカツやメンチコロッケ、白身魚のフライなどを皿に載せた内藤が傍に寄ってきた。
 そのまま初本の隣にあった、透明なプラスチックのコップを手に取り、コーラを並々と注ぐ。
 
(´・ω・`)「まだ食べられるなんて、驚きだよ。お腹壊さないようにね」
 
( ^ω^)「ちゃんとセーブしてますお」
 
 満面の笑みでそう答える内藤。
 これでも極端に太っていないということは、笑野の言うとおり胃下垂なのだろうか、と初本はぼんやり考える。

442第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:41:33 ID:ueJ0zPsY0
( ゚ω゚)「はっ! 厨房のほうからトンカツの揚げ終わった音が聞こえましたお!」
 
( ゚ω゚)「揚げ物コーナーで待機してきますお!」
 
(´・ω・`)「程々にね」
 
 食のことになると、エスパーじみた能力さえ発揮するのだろうか。
 初本はそう考え、苦笑しながら席に戻る。
 ビーフンを食べる気力は失っていた。
 
 初本が席に戻ると、芽院高校の面々は既に食べ終え、雑談しているところだった。
 
(´・ω・`)「さっき、陶冶高校の杉浦くんに会って、少し話してきたよ」
 
( ^Д^)「あ、初本さんも会ったっすか? 俺は話してないっすけど」
 
(*゚ー゚)「陶冶高校の大将ですよね。ちょっと猫っぽい目の」
 
(´・ω・`)「そうだね。『ホライゾン』と戦うのを楽しみにしてるってさ」
 
('A`;)「その期待は裏切っちゃいますね」
 
( ^ω^)「おっおっおっー、トンカツトンカツ~」
 
 渦中の人物は陽気な歌声と共に戻ってきた。
 皿の上は絶妙なバランスによって揚げ物の城が築かれている。
 
(´・ω・`)「それを食べ終わったら、ちょうど時間制限くらいかな」
 
( ^ω^)「了解ですお! ちゃんと制限は守りますお!」
 
( ^Д^)「ホテル帰ったら明日のために特訓始めるぞー。内藤だけじゃなくて、椎名も毒島も」
 
(*゚ー゚)「頑張ります! ぜったい優勝して全国に行きましょう!」
 
('A`)「僕も、何としてでも優勝したいです。特訓頑張ります」
 
(´・ω・`)「うん、一緒に頑張ろう」

443第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:42:51 ID:ueJ0zPsY0
 十分から十五分ほどで内藤が揚げ物を食べ終え、最後に全員がドリンクを一杯飲んでから店を後にした。
 入店した頃は夕日が眩しかったが、既に日は落ち、車のヘッドライトで歩道が照らされている。
 
( ^Д^)「あー、腹パンパンだ。もう米一粒さえ入んねー」
 
('A`)「笑野さんもかなり食べてましたもんね」
 
( ^Д^)「けっこう食うほうなんだけどな、俺も。内藤がいたら霞むけど」
 
( ^ω^)「あんまり食べ過ぎたらお腹壊しちゃいますお」
 
(;^Д^)「なんつー説得力のなさだよ」
 
(*゚ー゚)「あれだけ食べたら満腹すぎて身動きできなくなりそう」
 
( ^ω^)「動けなくなるほど食べてみたいもんだお」
 
(*゚ー゚)「私が同じくらい食べたとしたら、もう一歩も動けなくなって、お風呂にも入れず、メイクも落とさないまま――――」
 
(;゚ー゚)「あっ」
 
 幹線道路の歩道を五人で並び歩き、ホテルの入り口が見えてきた頃だった。
 椎名は、不意に思い出したように、声を上げた。
 
(;゚ー゚)「メイク落とし、家に忘れちゃいました」
 
( ^Д^)「マジか。家に戻るのか?」
 
(*゚ー゚)「や、コンビニで買ってきます! みんなは先に戻っててください!」
 
 ホテル近くのコンビニは歩いて数分のところにあった。
 ただし、既に見えているホテルまでの道のりからは逸れてしまう。

444第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:44:55 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「いやいや、こんな夜道を女の子一人で歩かせるわけにいかないよ」
 
( ^Д^)「そうっすね、椎名なら尚更っす」
 
(;゚ー゚)「や、ほんとに大丈夫です! 一緒に来てもらうのはとっても気が引けます!」
 
('A`;)「で、でも、そうは言っても」
 
( ^ω^)「じゃあ僕が一緒に行きますお。みんなは先にホテルに行っててくださいお」
 
 夕方よりも少し膨らんだお腹を弾ませながら、内藤が手を挙げた。
 意外だな、と初本と笑野は感じたが、毒島にはすぐ理由が分かった。
 
('A`)「お前、またコンビニで買い食いしたいだけだろ」
 
(;^ω^)「うっ。い、いや、可憐で麗しい椎名さんが暴漢に襲われないかと、生まれついての紳士である僕は心配で堪らなくて」
 
(*゚ー゚)「あはは。なんだ、そっか。じゃあ、ブーンくん一緒に行こう!」
 
(*゚ー゚)「それから、私のことは『しぃ』って呼んでね。今朝約束したのに、忘れてたでしょ」
 
( ^ω^)「おっ、そうだったお。ごめんだお、しぃ」
 
(´・ω・`)「じゃあ、よろしく頼んだよ、内藤。僕たちは先に戻ろう」
 
(*゚ー゚)「あ、ついでにお菓子買っていきます! 楽しみにしててください!」
 
(´・ω・`)「ありがとう。それじゃ、また後で」
 
 それぞれ手を振って、一旦別れた。
 内藤と椎名は道を逸れ、まっすぐ進めば駅に到達する道を歩いていく。
 街灯は多く、人通りもあるため、それほど危なくはない道だった。
 
(*゚ー゚)「ブーンくん、この前は、ほんとにごめんね」
 
( ^ω^)「おっ?」
 
(*゚ー゚)「ブーンくんを騙すような形で、無理やり引き入れちゃったこと」

445名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 20:46:33 ID:J8hGGibs0
支援いたす

446第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:46:51 ID:ueJ0zPsY0
 既に一度謝っていることではあった。
 それでも椎名は、まだ心に引っ掛かりが残っていたのだ。
 手の指にできた、小さなささくれのような、微かな痛みを伴う引っ掛かりだった。
 
(*゚ー゚)「昨日まで引越しの手伝いで大変だったのに、今日明日は私たちに付き合わせちゃってるしさ」
 
(*゚ー゚)「私たちの都合で振り回しちゃってるのに、碌にお礼もできてないから、申し訳ないなって」
 
( ^ω^)「気にしなくていいお。僕は僕なりに、けっこう楽しんでるんだお」
 
(*゚ー゚)「ほんと?」
 
( ^ω^)「麻雀のことはまだよく分からないし、覚えるのは大変だけど、麻雀部の人たちはみんな良い人だお」
 
( ^ω^)「突然加わった僕のことも、まるで昔からの部員みたいに親しく接してくれるから、居心地抜群だお」
 
 無理やり引き込んでしまったという負い目がある。
 それ故の優しさも混じっているのだろう、と内藤は理解していた。
 ただ、それを差し引いたとしても、麻雀部の五人は気兼ねなく接せる相手だったのだ。
 
( ^ω^)「まだまともに打ったこともない麻雀を、好きだとはとても言えないお」
 
( ^ω^)「でも、みんなと一緒に打つならきっと、楽しくなるんじゃないかなって」
 
( ^ω^)「今は、そう思ってるんだお」
 
 湿気の多い夜道の空気を、涼風が駆け抜ける。
 暗闇に溶け込む内藤の髪と、ほのかに茶色がかった椎名の髪が揺れた。
 
( ^ω^)「だから、頑張って覚えてみるお。僕なりに、精一杯やってみるお」
 
(*゚ー゚)「うん。本当に、ありがとね、ブーンくん」

447第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:47:46 ID:ueJ0zPsY0
 見合って、自然と笑顔を浮かべる二人の足は、やがてコンビニへと辿り着いた。
 店内に入ってすぐ、椎名は日用品などのコーナーに行き、化粧落としを探す。
 そこをスルーした内藤は、すぐさま買い物カゴにアイスとサンドイッチとおにぎりを入れた。
 
( ^ω^)「夜食の補充は完璧だお。あとはお菓子だお」
 
(*゚ー゚)「メイク落としもあって良かった。お菓子いっぱい買おう!」
 
 椎名が買い物カゴに化粧落としを入れたあと、二人並んでお菓子を物色した。
 ポテトチップス、じゃがりこ、ポッキー、トッポ、カントリーマアム、アルフォートなど、二人の好きなお菓子が次々に買い物カゴに投入される。
 
(*゚ー゚)「あとは、ペニちゃんが好きなメルティキッスと、初本さんが好きなキャラメルコーンと、笑野さんが好きなブラックサンダー!」
 
( ^ω^)「毒島は確かハッピーターンとかチーズおかきとかが好きだったお。ついでに買ってってやるお」
 
(*゚ー゚)「あ、きのこの山とたけのこの里も買おう! ブーンくんはどっちが好き?」
 
( ^ω^)「言わずもがな、きのこの山だお」
 
(*゚ー゚)「なんで? チョコ部分が多いから?」
 
( ^ω^)「カロリーは美味しさを表す数値なんだお。カロリーの高いきのこの山のほうが上を行くんだお」
 
(*゚ー゚)「あはは。私はたけのこの里の食感が好きだなー。人それぞれだよね」
 
( ^ω^)「だおだお。じゃあ、そろそろレジに行くお」
 
 もうほとんどお菓子が入りそうにない買い物カゴを持って内藤がレジへ向かう。
 合計金額は三千円をいくらか超える程度で、二人で二千円ずつを出して会計し、お釣りは内藤が椎名に全額を渡した。
 どうせ僕のほうがいっぱい食べるから、と内藤が朗らかに笑って言うと、椎名も納得して財布にお釣りを収める。

448第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:48:46 ID:ueJ0zPsY0
(;^ω^)「おっ、しぃってモデルなのかお?」
 
 コンビニを出て、再びホテルへと向かいだした二人。
 中学の時はどういう部活をやっていたか、という話になったとき、内藤は思いもよらぬ事実を知った。
 
(*゚ー゚)「そうだよー。小学生になったくらいのときから、ずっとやってるの」
 
( ^ω^)「ってことは、もう十年くらいかお?」
 
(*゚ー゚)「うん、それくらいかな」
 
( ^ω^)「全然知らなかったお。だから、中学のときは部活に入ってなかったのかお」
 
(*゚ー゚)「ほんとは、どっかに入りたかったんだけどね。平日も休日も、いつ仕事になるか分からなくて」
 
( ^ω^)「あんまり練習できそうにないから入るのをやめた、ってことかお?」
 
(*゚ー゚)「うん。中途半端は嫌だったから」
 
(*゚ー゚)「でも、別に部活に入ってなくても、クラスのみんなは話しかけてくれるし、学校休んだときはノートを取ってくれたりしてたの」
 
(*゚ー゚)「なかなか一緒に遊びに行ったりはできなかったけど、休み時間はみんなと楽しく喋ったりもできてたし、友達も多いほうだって思ってたんだ」
 
(*゚ー゚)「そのときは、まだ」
 
( ^ω^)「お? そのときは、って」
 
(*゚ー゚)「中学三年生になって、私、進路に悩んだの。仕事に対して理解のある私立にするか、普通の公立に行くか」
 
(*゚ー゚)「で、誰かに相談しようって思ったときに、気づいちゃったんだ」
 
(*゚ー゚)「真剣に悩みを話せる友達なんて、一人もいないってことに」

449第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:50:41 ID:ueJ0zPsY0
 夜道を歩く二人の頭上にある街灯が、明滅を繰り返していた。
 時間をかけて、ゆっくり明るくなったかと思えば、瞬時に光が消える。
 再び明かりを灯すまでには、少し時間がかかっていた。
 
(*゚ー゚)「改めて思い返してみると、みんな、モデルとして活動してる私と仲良くしたかっただけだったの」
 
(*゚ー゚)「もちろん、それはそれで嬉しいことではあるんだけどね」
 
(*゚ー゚)「一人の中学生、椎名愛実と仲良くしたかったわけじゃないってことに、気づいちゃって」
 
(*゚ー゚)「なんか、一気に世界が変わったっていうか。どうしようもない孤独感に襲われちゃって」
 
(*゚ー゚)「学校での振る舞いは変えなかったけど、それからは、仕事だって嘘ついて学校休んだことも何回かあったかな」
 
(*゚ー゚)「今更、落ち着ける居場所なんて、きっと作れないんだろうなぁって思っちゃったし」
 
(;^ω^)「おっおっ。その感じだと、もう仕事一筋でいくことに決めたのかと思っちゃうお」
 
( ^ω^)「でも、公立の芽院高校に来たってことは」
 
(*゚ー゚)「うん。やっぱ、ちゃんと友達作って、部活とか遊びとかもしっかり楽しむ学校生活を送りたいって思ったんだ」
 
(*゚ー゚)「だから、仕事は少しセーブしてほしいって事務所に頼んで、もし仕事するとしてもなるべく土日だけにしてもらうようにしたの」
 
(*゚ー゚)「それだったら、放課後の部活には参加できるでしょ?」
 
( ^ω^)「おっおっ、確かにだお」
 
(*゚ー゚)「でもね、芽院高校でも危うく中学と同じことになりかけたの」
 
( ^ω^)「お?」

450第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:52:34 ID:ueJ0zPsY0
(*゚ー゚)「当時、というか今もだけど、ネット広告のモデルとして起用してもらっててね。その広告画像が、Yahooとかに載ってたの」
 
(*゚ー゚)「で、うちの高校でもけっこう早い段階で、私のことが知れ渡っちゃって」
 
(;^ω^)(全然知らなかったお)
 
(*゚ー゚)「中学のとき、仕事があるから部活やってなかったって話も、上級生にまで広まっちゃって」
 
(*゚ー゚)「入学したあとの部活勧誘でも、どこも声かけてくれなかったんだ。みんなに、遠慮されてたみたいで」
 
(;^ω^)「それは、辛すぎるお」
 
(*゚ー゚)「もちろん、自分から入部したいって言えばそれで済む話なんだけどね」
 
(*゚ー゚)「でも、一度遠慮されちゃってると中々踏み出せないし、仮に入部しても壁ができちゃうんじゃないかって思って」
 
(*゚ー゚)「どうしよう、どうしようって悩んでたんだけどね」
 
(*゚ー゚)「そんなときに、初本さんと笑野さんが声をかけてくれたんだ」
 
 
 ◆
 
 
 前日の雨で作られた、桜の花びらの絨毯の上を椎名は歩いていた。
 一時間前には、期待と不安の入り混じった気持ちを持って進んだ道。
 今は、期待だけを失ったまま引き返していた。
 
(*゚ -゚)(どうしよう)
 
 一通り、部活の勧誘ブースは見て回った。
 ソフトボール部、バレーボール部、吹奏楽部、演劇部などは活気があり、大声で勧誘していた。
 そのいずれにも、椎名は声を掛けられることがなかった。

451第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:53:22 ID:ueJ0zPsY0
(*゚ -゚)(周りの子は、声かけられてたのになぁ)
 
 椎名の姿を見ると、大声が小声に変わり、何かを囁きあっていた。
 その光景は、椎名を委縮させるには充分すぎた。
 
 ネットの広告に使われたことが、やはり影響としては大きかった、と椎名は思った。
 ほとんどの学生が所持しているスマートフォンで、簡単に見ることができるからだ。
 会ったこともない上級生までが、椎名の顔を知っていた。
 
(*゚ -゚)(土日に部活できないのも厳しいのかな)
 
 手に持った、部活紹介のパンフレットに視線を落とす。
 そこには部活の活動時間一覧が載っており、ほとんどの部活は土日に練習の可能性があるとのことだった。
 特に運動部は、原則的に土曜日の練習があると記載されている。
 
 椎名の仕事は、毎週あるわけではないものの、休日の練習を頻繁に休むとなれば軋轢も生じかねない。
 何より、部活を心から楽しむことができない、と椎名自身が思っていた。
 
 自分の居場所を作ることなんてできない、と感じていたのだ。
 
(*゚ -゚)(やっぱ、仕事と学校の両立なんて、諦めたほうがいいのかな)
 
(*゚ -゚)(どっちも中途半端になるくらいだったら、いっそ、平日もお仕事入れてもらったほうが――――)
 
(´・ω・`)「ごめん、ごめん。ほんとごめん」
 
(;^Д^)「やばいっすよ! もうほとんどの新入生取られちゃってる頃っすよ!」
 
(´・ω・`)「いや、ほんとに申し訳ない」
 
(*゚ -゚)(うん?)
 
 慌ただしく二人の男子が昇降口から飛び出してきた。
 胸の校章の色は、青と緑。二年生と三年生だった。

452第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:54:40 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「突然電話がかかってきてさ。早く切りたかったんだけど、なかなか切らせてくれなくて」
 
(;^Д^)「こんな大事なときに電話なんて、ありえないっす! あとで掛け直せば良かったじゃないっすか!」
 
(´・ω・`)「いや、すぐ出ないと怒ってくる相手でさ。なるべく早く終わらせようとはしてたんだけど」
 
(*゚ -゚)(新入生の勧誘に行くのかな?)
 
 二人が何部なのかは椎名には分からない。
 しかし、ほとんどの部活が部員総出で勧誘していたが、この部活にはあまり人が居ないようだ。
 恐らくはマイナーな部活だ、と椎名は曖昧に推測する。
 
(;^Д^)「ブースの準備はしたっすけど、まだ全然声かけてないっすよ! マジでヤバイっす!」
 
(´・ω・`)「これはもう、ダメかもわからんね」
 
(;^Д^)「いやいや、諦めるの早すぎですって! まだ決めかねてる一年生も少しくらいは――――」
 
( ^Д^)「おっ!」
 
(;゚ー゚)「え?」
 
 二人の上級生は足早に椎名の側を駆け抜けようとした。
 しかし、すれ違いざまに椎名の校章を確認した二年生が急ブレーキを掛ける。
 慌てて三年生も足を止めた。
 
( ^Д^)「一年生! 一年生っすよ!」
 
(´・ω・`)「ほんとだ。でも、もう勧誘ブースに行った後じゃないかな?」
 
( ^Д^)「とりあえず声かけてみるっす! おーい!」
 
(;゚ー゚)「あっ、はい」
 
 大声に呼応して、椎名も歩み寄る。
 先ほどは、誰も掛けてくれなかった声に。

453第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:55:38 ID:ueJ0zPsY0
( ^Д^)「一年生みたいだけど、どの部活に入るか決めた?」
 
(;゚ー゚)「や、まだ決めてなくって」
 
( ^Д^)「チャーンス! 俺は笑野、こっちの先輩は初本さんっていうんだけど、君は?」
 
(;゚ー゚)「えっと、名前は、椎名っていいます」
 
 椎名は一瞬、名乗るのを躊躇いかけた。
 しかし、そのことを思考する間もなく笑野は声を弾ませる。
 
( ^Д^)「椎名! 燃え滾るほどの熱き戦いが君を待っている!」
 
( ^Д^)「俺たちと一緒に『麻雀』の世界で全国制覇を目指そう!」
 
(;゚ー゚)「ま、麻雀?」
 
 椎名にとってはあまりにも予想外な単語が出てきた。
 麻雀。今までに打ったことはなく、誰かが打っているところを見たことさえなかった。
 
(;゚ー゚)「私、麻雀のルール知らないですよ? 戦力になれそうもないですし、全国制覇なんて、さすがにちょっと」
 
( ^Д^)「そんなの全然OKだ! 素人だってプロに勝てるのが麻雀だぜ!」
 
(*゚ー゚)「えっ、そうなんですか?」
 
( ^Д^)「おう! やってみれば楽しさは分かる! 何なら早速」
 
(´・ω・`)「ちょっと笑野、強引すぎるってば。落ち着いて」
 
(´・ω・`)「ごめんね、椎名さん。突然こんな、無理やりな勧誘しちゃって」
 
(*゚ー゚)「あ、いえ」
 
 優しい声の三年生、初本が笑野と椎名の間に入る。
 それでも笑野はまだ興奮している様子だった。

454第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:56:54 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「笑野が言ったとおり、僕たちは麻雀部だ」
 
(´・ω・`)「去年、三年生が抜けて、部員が足りなくてね。何としても新入生に入ってもらいたいところではあるんだけど」
 
(´・ω・`)「もちろん椎名さんの意思が一番大事だから、とりあえずは、候補の一つに入れてもらえたら」
 
( ^Д^)「そんな悠長なこと言ってたら絶対他に取られちゃいますって! こんなチャンスはもうないと思わないと!」
 
(´・ω・`)「いや、そうは言っても」
 
( ^Д^)「椎名、明日からの君は今日までとは違う君だ! 新しい世界に踏み出そう!」
 
 
( ^Д^)「君の居場所がそこにある!」
 
 
(*゚ー゚)「!!」
 
 ――――それは、笑野が勢いに任せて放っただけの一言。
 しかし、ぴたりと当てはまる一言だった。
 
 椎名の心の隙間に嵌まるピースだった。
 
(´・ω・`)「まったく、強引すぎるよ。ごめんね椎名さん」
 
 初本の、本来ならば心が落ち着くような声も、今の椎名には全く意味がなかった。
 羽のついた心は、今にもふわりと浮かび上がりそうだったのだ。
 
(´・ω・`)「ただ、本当に麻雀部は部員が足りなくてピンチだ。もし入部を検討してもらえるなら嬉しい」
 
(´・ω・`)「もちろん、検討に時間はかけてくれていいし、今度よかったら見学にでも――――」
 
(*゚ー゚)「いえ、私、もう決めました」
 
(´・ω・`)「ん?」

455第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:57:58 ID:ueJ0zPsY0
 羽ばたきだしそうな心を抑えるように、椎名は胸元に手を置いた。
 そして、意を決して発した言葉は、少し上ずりながらも、はっきりと二人に向かっていった。
 
(*゚ー゚)「私、入ります。麻雀部に、入部させてください」
 
(´・ω・`)「!!」
 
( ^Д^)「マジか!?」
 
 いつか、心に生えた羽が、背中に移るような。
 そして、背中の羽をいつでもそこで、心置きなくゆっくり、休められるような。
 
 そんな予感が、椎名にはあった。
 
(´・ω・`)「いや、笑野が強引に誘ってしまって、断りづらくて無理をしてるようなら」
 
(*゚ー゚)「そういうんじゃなくて、本当に入りたいんです。完全に素人ですし、ご迷惑をおかけするとは思いますけど」
 
( ^Д^)「大丈夫だ! ルールなんてすぐ覚えられるし、すぐ強くなれる!」
 
(´・ω・`)「そうだね、ルールは僕たちが教えるよ。6月に大会があるから、とりあえずそこを一つの目途にして頑張ろう」
 
(*゚ー゚)「あっ、でも私、土日は部活に参加できないかもしれないんですけど、大丈夫ですか?」
 
(´・ω・`)「基本的には大丈夫。僕も土日は大抵バイトだし」
 
( ^Д^)「俺も家の店の手伝いがあるしなー」
 
(´・ω・`)「ただ、6月の県大会は土日だ。そこは大丈夫?」
 
( ^Д^)「毎週とかじゃなくて、二日間で終わるけど」
 
(*゚ー゚)「あ、それなら全然大丈夫です! 空けてもらえるように調整します!」
 
(´・ω・`)「良かった。じゃあ、これからよろしく」

456第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:58:41 ID:ueJ0zPsY0
 初本が大きな右手を差し出した。
 椎名が握り返すと、程よい暖かみが伝わる。
 
( ^Д^)「よろしく頼むぜ!」
 
 笑野が無骨な右手を前に出す。
 椎名も右手で応じると、力強さが伝わってきた。
 
(*゚ー゚)「よろしくお願いします!」
 
 
 ◆
 
 
(*゚ー゚)「初本さんと笑野さんは、私がモデルやってること知らなくて」
 
(*゚ー゚)「新入生にそういう子がいるって、噂では聞いたことあったらしいんだけど、顔までは分からなかったって言ってた」
 
( ^ω^)「なるほどだお。だから、遠慮なく声かけたのかお」
 
(*゚ー゚)「まぁ、笑野さんは『知ってても声かけたかも』って言ってたけどね」
 
(;^ω^)「笑野さんらしいお」
 
 二人が話に夢中になっていると、いつの間にかホテルの入り口まで到達していた。
 ラウンジを抜けてエレベーターに乗り込み、『12』と書かれたボタンを押す。
 動き出した瞬間は少し揺れたが、そのあとは微動さえ感じずに十二階へと二人を運んだ。
 
 コンビニで買ったお菓子などが入った袋を内藤が握り直し、フロアの奥にある1201号室へと向かう。
 椎名がノックすると、すぐに内側から扉が開かれた。

457第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:04:27 ID:ueJ0zPsY0
( ^Д^)「おー、お帰り。遅かったな」
 
(*゚ー゚)「すみません。お菓子選ぶのに時間かかっちゃって」
 
('、`*川「あ、もう買ってきてくれたの?」
 
(*゚ー゚)「うん、コンビニ行ったついでにね」
 
( ^Д^)「あとで割り勘だな」
 
 内藤と椎名が部屋に入ったとき、まず目に付いたのは雀牌だった。
 正方形のテーブルにマットが敷かれ、その上に整然と雀牌が並べられている。
 夕食前にはなかったものだ。
 
(´・ω・`)「ご飯を食べた後、伊藤が学校に戻って取ってきてくれたんだ」
 
(*゚ー゚)「さすがペニちゃん!」
 
('、`*川「マネージャーとして、これくらいはやんないとね」
 
(´・ω・`)「早速だけど始めよう、内藤」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
 テーブルの周りに四脚の椅子が置かれ、初本、内藤、椎名、毒島が座った。
 笑野と伊藤は側にあるベッドに腰掛けてトッポを摘んでいる。

458 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:06:46 ID:ueJ0zPsY0
すみません、ちょっと一回中断します
多分、30分~1時間くらいで再開します

459名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 21:14:48 ID:i6ssA.3U0
いくらでも待つよー。
楽しみ。

460名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 21:24:21 ID:SISaWxAk0
いいね、支援だよ

461 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:36:46 ID:ueJ0zPsY0
すみません、再開します

創作板であっても支援は嬉しい限りです
残りの投下もまったり頑張りますのでよろしくお願いします

462第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:37:52 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「改めてルールの基礎から説明していくよ。復習も兼ねてね」
 
(´・ω・`)「まず、麻雀は四人でやるゲームだ。それぞれが得点を競い、最終的に最も得点を稼いだ人の勝利になる」
 
(´・ω・`)「ゲームに使うのは麻雀牌。略して雀牌とも言うね」
 
(´・ω・`)「雀牌には様々な絵柄が彫られている。つまり、雀牌には色んな種類がある」
 
(´・ω・`)「色んな雀牌を組み合わせて、『四面子一雀頭』を作ることが麻雀の基本になる」
 
(´・ω・`)「麻雀は牌を組み合わせて『役』を作る必要があるんだけど、ほとんどの役は四面子一雀頭の形に沿ってるんだ」
 
(´・ω・`)「内藤、雀頭と面子については説明されたかい?」
 
( ^ω^)「確か、雀頭っていうのは全く同じ絵柄の牌を二枚集めた形ですお」
 
( ^ω^)「面子っていうのは、全く同じ絵柄の牌を三枚集めた形か、同じ種類の牌で連続した数字を三枚集めた形ですお」
 
(´・ω・`)「そのとおりだね、正解だよ。よく覚えたね」
 
(´・ω・`)「つまり、四雀頭一面子っていうのは、面子の形になった三つの牌の組み合わせを四つ、雀頭の形になった二つの牌の組み合わせを一つ作るってことだね」
 
(´・ω・`)「もう少し具体的に例を言うなら、五萬を二枚集めた形は雀頭、三枚集めた形は面子だ」
 
(´・ω・`)「面子にはもう一つ形があって、例えば三萬、四萬、五萬というような形だね」
 
(´・ω・`)「同じ牌を三枚集めた形を刻子、同じ種類で連続した数字を集めた形を順子というんだ。どちらも面子であることに変わりはないけどね」

463第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:39:12 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「実は、まだ雀牌の種類がいまいち覚えられてないんですお」
 
(´・ω・`)「説明するよ。大雑把に言うと雀牌には四種類ある」
 
(´・ω・`)「萬子、筒子、索子、字牌だ」
 
(´・ω・`)「分かりやすいのは萬子だね。漢数字で一とか二とか三とか書かれてるのが萬子だ」
 
(´・ω・`)「筒子も分かりやすいかな。丸い絵が描かれてるやつだ。丸が一個なら一筒、二個なら二筒だね」
 
(´・ω・`)「分かりにくいのは索子だ。竹串みたいなのが描かれてるのが索子なんだけど、何故か一索は鳥の絵が描かれてたりする」
 
( ^Д^)「何でなんすかね? 分かりにくいっすよね」
 
(´・ω・`)「まぁ、文句を言ってもしょうがない。とにかく一索はこういう柄なんだと覚えるしかない」
 
('A`)「索子は八索もちょっと分かりにくいですよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。とはいえ、よく見るとちゃんと竹串が八本描かれてる」
 
( ^ω^)「じゃあ、それ以外は全て字牌ですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。漢字一文字だけが描かれてる牌と、何も描かれてない牌は字牌だ」
 
(´・ω・`)「厳密に言うと字牌にも二種類あって、方角が描かれてるのは風牌、それ以外は三元牌だ」
 
(´・ω・`)「字牌の注意点としては、字牌で面子を作るときは順子が作れないってことだね」
 
( ^ω^)「同じ牌を三つ集める形じゃないと駄目ってことですかお?」
 
(´・ω・`)「そうだね。例えば、東と北と西を一枚ずつ集めたからといって順子になったりはしない」

464第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:40:33 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「ってことは、字牌だと面子が作りにくいですお!」
 
(´・ω・`)「筋がいいね、そのとおりだよ。ただし、字牌も悪いことばかりじゃない」
 
( ^Д^)「三元牌だと、それを三枚集めるだけで役になるからなー」
 
(´・ω・`)「笑野の言うとおり、字牌は集めにくいけど集めたときはメリットがあったりもする」
 
(´・ω・`)「麻雀は役がないと和了れないからね、役を作る上で三元牌は大いに役立ってくれるよ」
 
( ^ω^)「実はその、役がないと和了れないってのがまだよく分かんないんですお」
 
( ^ω^)「単に四面子一雀頭を集めるだけじゃ駄目なんですかお?」
 
(´・ω・`)「そうだね、そこが麻雀の難しいところであり、初心者に分かってもらいにくいところでもある」
 
(*゚ー゚)「私も一回そこで躓いたな~」
 
(´・ω・`)「さっきも言ったとおり、麻雀の基本は四面子一雀頭を集めることだ」
 
(´・ω・`)「でも、単に集めただけじゃ駄目で、集めたときに何らかの役の形になっていないと和了りにならないんだよ」
 
(´・ω・`)「ちなみに、役の形は今回の大会で採用されているものだけでも三十種類以上ある」
 
(;^ω^)「そんなにたくさん、覚えられる気がしませんお」
 
(´・ω・`)「全てを覚えようとする必要はないよ。今は、そのうちの三つだけを覚えていてくれたらいい」
 
( ^ω^)「おっ、たった三つなら何とかなりそうですお」

465第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:41:32 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「特に、今の内藤に覚えててもらいたい役は、立直だ」
 
(´・ω・`)「さっきの説明と矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、この役は単に四面子一雀頭を集めるだけでいい」
 
(´・ω・`)「四面子一雀頭の完成まであと一つ、ってときに『リーチ』と宣言すればそれで役がつくから、あとは最後の一牌を手に入れるだけで和了りだ」
 
( ^ω^)「おお、簡単ですお!」
 
(´・ω・`)「そうだね、一番簡単と言ってもいい。ただし、条件がある」
 
(´・ω・`)「ポンやチーをしていると立直はできないんだ」
 
( ^Д^)「初本さん、ポンとチーの説明がまだじゃないすか?」
 
(´・ω・`)「あ、そうか。忘れてた」
 
( ^ω^)「確か、お昼に説明してもらいましたお。他の人が捨てた牌を貰えるやつですお」
 
(´・ω・`)「そのとおり。詳しくは後ほど説明するけど、面子を揃える手助けになるのがポンとチーだ」
 
(´・ω・`)「とても便利だからこそデメリットもある。立直ができなくなることは代表的なデメリットだね」
 
( ^Д^)「四面子一雀頭を揃えるだけでいい立直にポン・チーまで出来たら簡単すぎるからなー」
 
( ^ω^)「自分で頑張って四面子一雀頭を揃えたときだけ立直できるってことですお?」
 
(´・ω・`)「そうだね。まぁ、自分の点棒次第じゃ立直できないこともあるんだけど、レアケースだから気にしなくていい」
 
('A`)「完全自動雀卓なら立直できないときはボタン押せないですしね」
 
(´・ω・`)「そうそう。だからこそ、内藤には一つ、覚えていてほしいことがある」
 
(´・ω・`)「明日は内藤に回さないように頑張るけど、万一内藤に回してしまった場合だ」
 
(;^ω^)「恐ろしい事態ですお」

466第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:42:58 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「もし打つことになったとしたら、立直できるときは必ず立直してほしい。必ずだ」
 
(´・ω・`)「具体的に言うと、手元のタッチパネルに『リーチ』のボタンが表示されたら迷わず押してほしいんだ」
 
( ^ω^)「和了れるかもしれないからですかお?」
 
(´・ω・`)「それもあるけど、立直の宣言は和了りの一歩手前であることをみんなに教えることでもあるんだ」
 
(´・ω・`)「すると、相手が内藤を警戒して降りてくれるかもしれない。こうなれば儲けものだ」
 
( ^ω^)「降りる?」
 
(*゚ー゚)「和了りを諦めるってことだよ~」
 
(´・ω・`)「本当は、状況次第じゃ立直しないほうがいいときもあるんだけど、今は考えなくていい。とにかく、立直できる場合は必ず立直だ」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
(´・ω・`)「よし、次の役の説明に移ろう。次は役牌だ」
 
(´・ω・`)「この役は分かりやすい。さっき三元牌の説明をしたけど、覚えてるかい?」
 
( ^ω^)「確か、方角じゃないタイプの字牌ですお」
 
(´・ω・`)「そのとおり。具体的に言うと、白・中・發の三つだ」
 
(´・ω・`)「その三つのうち、どれかを三枚揃える。つまり、三元牌で刻子を作ると役牌は完成する」
 
( ^ω^)「例えば、發を三枚揃えるとかですかお?」
 
(´・ω・`)「そうだね、それであとは麻雀の基本である四面子一雀頭を作ればいい」
 
(´・ω・`)「言い換えると、四面子のうち一つが三元牌で作られた刻子であればいいってことだね」
 
( ^ω^)「お手軽ですお!」

467第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:44:38 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「役牌のいいところは、ポンをしてもいいってところだ。自分が發を二枚持っているときに誰かが發を捨てたら、それを貰って役牌を完成させてもいい」
 
( ^Д^)「和了りが早くなるから、特急券って呼んだりもするな」
 
(´・ω・`)「字牌は他人に捨てられやすい面もあって、最初から發を二枚持ってたりしたらポンで揃えられる可能性は低くないよ」
 
(´・ω・`)「あと、本当は風牌も場合によっては役牌になりえるんだけど、これは説明してない要素が絡むから、また後で説明するよ」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
(´・ω・`)「分かってもらえたところで、最後の役、断幺九の説明だ」
 
(´・ω・`)「断幺九も四面子一雀頭を作るっていう基本は変わらない。特殊な要素としては、まず、字牌を使っちゃいけない」
 
( ^ω^)「ふむふむ。でも、確か字牌は面子を作りにくいから、そんなに大きなデメリットじゃなさそうですお」
 
( ^Д^)「いや、雀頭にも使えねーからな」
 
(;^ω^)「おお、そう考えたら結構きつい気がしますお」
 
(´・ω・`)「使っちゃいけないのは字牌だけじゃない。数牌の一と九もダメなんだ」
 
( ^ω^)「どういうことですお?」
 
(´・ω・`)「具体的に言うと、一萬と九萬、一索と九索、一筒と九筒が使えないんだ」
 
(´・ω・`)「同じ牌を三つ揃える刻子はもちろん、連続した三つの数牌を集める順子もダメだ」
 
( ^Д^)「つまり、七萬と八萬と九萬みたいな形の順子があると断幺九では和了れないってことだな」
 
(;^ω^)「かなりハードル高い気がしますお」
 
(´・ω・`)「ただ、断幺九はポンもチーもしていい。配牌次第じゃ結構簡単に和了れたりもするよ」

468第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:46:15 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「ポン・チーをせずとも四面子一雀頭が作れそうなら立直狙い、そうじゃなければ断幺九狙いっていう作戦がいいかもしれないね」
 
( ^ω^)「役牌が出来そうなら、それがいいですお!」
 
(´・ω・`)「そうだね。三元牌が最初から多いようなら役牌を狙っていくのが一番楽かな」
 
(´・ω・`)「さて、麻雀の基本と簡単な役を紹介したところで、次は実際にゲームをしながら流れを教えていくよ」
 
(´・ω・`)「と、行きたいところだけど、いったん休憩しよう。みんなまだお風呂に入ってないし、サッパリしてから続きをやろうか」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
('、`*川「あ、最上階に大浴場があるんで、それ使って下さい。私は部屋のお風呂使いますけど」
 
(´・ω・`)「そっか、伊藤は人目につかないほうがいいのか。仕方ないね」
 
(*゚ー゚)「ペニちゃんがここに残るなら私も残るよ。二人で入れそうな広さだし」
 
('、`*川「そう? ありがとね」
 
( ^Д^)「伊藤、あとで感想よろしく」
 
('、`*川「はーい」
 
(;゚ー゚)「やー、多分期待に沿えないですよ」
 
 部屋に置いてある浴衣を男子部員が抱えて大浴場に向かった。
 時計の短針は水平へと近づきつつある頃だ。
 最上階は大勢で賑わっていた。
 
 脱衣所に入るや否や、すぐさま笑野は服を脱ぎ捨て湯けむりに包まれていった。
 内藤と毒島は股間のアルファベットを比べている。
 そんな三人を苦笑いで見送りながら初本も後に続いた。
 
 大浴場は近場の温泉から汲み上げた湯を使っており、熱め、温めなどに温度が分けられている。
 寝湯や足湯などもあり、入り口近くのサウナでは何人もの男が汗を絞り出していた。

469第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:47:37 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「うひー、気持ちいいお!」
 
('A`)「先に身体洗えっつの」
 
 浴場に入るや否や、真っ先に温泉に飛び込んだ内藤を毒島が窘める。
 内藤は渋々従って洗い場へと足を向けた。
 
( ^ω^)「けっこう人が多いお。土曜の夜だからかお?」
 
('A`)「だろうなぁ」
 
( ^ω^)「なかなか繁盛してるみたいだお。伊藤さんと結婚したら逆玉の輿だお」
 
('A`;)「そんなこと、妄想さえ出来ねぇ」
 
 髪と身体を洗い終えた内藤と毒島が寝湯へと向かう。
 ちょうど壮年の男性二人が去った後だった。
 
( ^ω^)「それにしても、毒島が麻雀部に入ってるなんて全然知らなかったお」
 
('A`)「前に言ったことあると思うけどな」
 
 寝湯から顔だけを出して、二人は天窓を眺めていた。
 梅雨の時期だが雲はなく、小さな窓に星々が犇めき合っている。
 
( ^ω^)「昔から麻雀やってたのかお?」
 
('A`)「元々、親父が麻雀やっててな。八歳くらいから付き合わされてたかな」
 
('A`)「親父の麻雀仲間の子供とかとも一緒にやったりして、普通のゲームより楽しんでたなぁ」
 
('A`)「中学に上がる前に、親父の仕事の都合でこっちに引っ越してきたから、麻雀やってた子たちとは疎遠になっちまったけどな」
 
('A`)「親父も麻雀仲間が居なくなってから全然打たなくなって、俺も一時期は麻雀から離れてたけど」
 
( ^ω^)「そういや、中学のときはテニス部だったって言ってた気がするお」
 
('A`;)「いや、卓球部だけどな」

470名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 21:47:49 ID:SISaWxAk0
股間のアルファベットwwwwww

471第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:49:32 ID:ueJ0zPsY0
('A`)「まぁ、中学に麻雀部はなかったし、あの頃は卓球のほうが面白くてさ。高校でも卓球部に入ろうと思ってたんだけど」
 
('A`)「でも、中学三年生のときに何気なくネットの動画サイト観てたら、見つけたんだよ」
 
('A`)「昔、一緒に麻雀打ってた友達が、全国大会で打ってるときの動画を」
 
( ^ω^)「おお!」
 
('A`)「一緒にやってた友達の三人のなかで一人だけ年上が居てさ、その人が去年の全国大会に出てたんだ」
 
('A`)「その人、めちゃくちゃ強くなってるしさ、めちゃくちゃ楽しそうに打ってるしさ」
 
('A`)「俺も全国大会に行けば、あそこで打てる、あの人と打てる、って思って」
 
('A`)「だからこそ、卓球部じゃなくて麻雀部にしたんだ。全国大会で、またあの人と打つために」
 
( ^ω^)「そうだったのかお。じゃあ、明日は絶対に勝たなきゃだお!」
 
('A`)「ああ。お前のこと、巻き込んで悪かったと思ってるけど、全国には絶対行きたい」
 
('A`)「そのためにも明日は俺が頑張んなきゃな。今日よりも、もっと」
 
( ^ω^)「いざというときは僕に任せてくれお」
 
('A`;)「その事態を避けるためにこそ頑張るんだよ」
 
 全身が温まる寝湯から二人は空を見上げ続けている。
 小さく見える星々が、本当は巨星なのだと、意識することもないまま。
 
(´・ω・`)「あの二人、ずっと寝湯にいるね。のぼせないといいけど」
 
( ^Д^)「大丈夫っすよ、子供じゃないんすから」
 
 初本と笑野は濁り湯に浸かっていた。
 あまり人は多くなく、心置きなく脚を伸ばして身体を癒せている。

472第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:51:06 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「さっき、ネットで確認したんだけどね」
 
( ^Д^)「ん?」
 
(´・ω・`)「神奈川は烽火高校が全国行きを決めたらしい」
 
( ^Д^)「おっ」
 
 自然と笑野の全身が反応し、濁り湯に波紋が広がった。
 烽火高校。初本にとっても、笑野にとっても、忘れられない校名だった。
 
( ^Д^)「来てもらわなきゃ困るっすよね。勝ち逃げなんて許さないっす」
 
(´・ω・`)「そうだね。去年の雪辱は、是が非でも晴らしたいところだ」
 
( ^Д^)「去年からメンバーは変わってるんすか?」
 
(´・ω・`)「一年生が二人レギュラーになってるけど、他は同じだね。去年は一年生と二年生が主体だったし」
 
( ^Д^)「それなら、尚更楽しみっすよ」
 
 笑野の口角が吊り上がった。
 昨年、全国制覇の道に立ち塞がった強豪校。
 超克しなければならない壁は、依然として、壁でありつづけていた。
 
 何かを超えるたびに、打ち手として、少しずつ成長していく。
 それを楽しめる自分が、笑野は好きだった。

473第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:52:20 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「他の県も少しずつ決まってきてるよ。兵庫は順当に地久高校が優勝したし、去年一回戦で戦った天弓大学付属高校も全国行きを決めてる」
 
( ^Д^)「毎年何校も全国に送り込んでくる歩家グループの高校は?」
 
(´・ω・`)「今のところ二校が全国に歩を進めたね。あと一校か二校くらい全国に行きそうだし、今年も勢いあるね」
 
( ^Д^)「ま、どんな相手でも勝たなきゃいけないっすね」
 
(´・ω・`)「だね。よし、そろそろ上がろう。のぼせちゃまずい」
 
( ^Д^)「内藤と毒島に声かけてくるっす」
 
(´・ω・`)「ああ、よろしく」
 
 一足先に初本が脱衣所に戻る。
 ドライヤーや扇風機などの音で騒がしい中、身体を拭いていると、後から笑野たちが現れた。
 内藤と毒島は足元が軽くふらついている。
 
(´・ω・`)「やれやれだね」
 
 のぼせかけた内藤と毒島を、初本と笑野が支えながら部屋に戻った。
 椎名と伊藤は既に風呂から上がり、二人でポッキーを食べていた。
 
 内藤と毒島はポカリスウェットを飲んで復活し、アルフォートの包みを解いた。
 初本と笑野も同じようにブラックサンダーの袋を裂いて口に放り込む。
 
(´・ω・`)「さて、麻雀講座の続きといこうか」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
(´・ω・`)「ここからは実際に雀牌を使いながら説明するよ」
 
 正方形のテーブルを四つの椅子が囲む。
 窓際の椅子に笑野が座り、そこから時計回りに毒島、内藤、椎名が腰かけた。
 初本は内藤の後ろに立っている。

474第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:53:18 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「ゲームの流れを説明していくよ。まず、麻雀には親番というものがある」
 
(´・ω・`)「この親番が半時計回りに変わっていく。つまり、最初の親が笑野だとしたら次は椎名だね」
 
(´・ω・`)「四人それぞれが親番を経験するのが一つのゲームの塊になる。麻雀では『場』というんだけどね」
 
(´・ω・`)「場には方角の名前がつけられていて、最初は『東場』だ。全員が親を経験するまでは東場だ」
 
(´・ω・`)「東風戦と呼ばれるルールだと、東場が終わると試合終了。そこで決着がつく」
 
(´・ω・`)「今日僕たちが戦ってたのは半荘戦。東場の次に南場があるルールだ」
 
(´・ω・`)「この場合は親番が一巡したあと、もう一回親番が一巡するまで試合が続く」
 
(´・ω・`)「明日僕たちが戦うのは一荘戦。東場、南場、西場、北場という流れで親番が四巡するまで続くよ」
 
(;^ω^)「けっこうややこしいですお」
 
(´・ω・`)「まぁ、今はこのへんのことはあんまり意識しなくてもいいかな」
 
(´・ω・`)「親番が持ち回りで変わっていくってことくらいを覚えていてくれればいい」
 
( ^ω^)「親番は一局打つごとに変わるんですかお?」
 
(´・ω・`)「原則的にはね。ただし、親番が変わらない場合もある」
 
(´・ω・`)「具体的に言うと、親が和了った場合と、親がテンパイしたまま流局した場合は親番が変わらない」
 
(´・ω・`)「これを連荘というんだ。極端な話、親がずっと和了りつづけたらいつまでも試合は終わらないってことになる」
 
(´・ω・`)「まぁ、その場合は他の誰かの持ち点がなくなって試合終了になるはずだけどね」

475第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:54:17 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「逆に言うと、子が和了ったときは親番が変わるってことですお?」
 
(´・ω・`)「そうだね。あとは親がテンパイできないまま流局になった場合もそうだ」
 
(´・ω・`)「テンパイっていうのは和了りまであと一手の状態だね。欲しい牌があと一枚来たら和了れるってことだ」
 
(´・ω・`)「和了りまであとちょっと、惜しいとこまで来てるから、もう一回親番をさせてあげるって感じかな」
 
( ^ω^)「親番のほうが嬉しいんですかお?」
 
(´・ω・`)「親番にはメリットとデメリットがある。まず、親番のときに和了ると、貰える点が増えるんだ」
 
(´・ω・`)「具体的には1.5倍になる。状況次第じゃ一気に逆転も可能だね」
 
( ^ω^)「美味しいですお!」
 
(´・ω・`)「ただし、自分が親番のときに他の人にツモ和了りされると、たくさんの失点がある」
 
(´・ω・`)「例えば子番が4000点の手をツモ和了りしたら、親番の人が2000点、他の子番が1000点ずつを払うんだ」
 
(´・ω・`)「たくさん点を得られる可能性も、たくさん点を失う可能性もあるのが親番ってことだね」
 
( ^ω^)「ツモ和了り?」
 
(´・ω・`)「和了りにはツモ和了りとロン和了りがあるんだけど、そのへんのことは、また後で説明するよ」
 
(´・ω・`)「ここからは実際にゲームをやりながら説明しよう。完全自動雀卓でやるときと同じように、既に配牌まで終わった状態からスタートだ」
 
(´・ω・`)「ここでは笑野の親番から始めることにしよう。親番の人は『東家』だ」
 
( ^ω^)「東家?」

476第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:55:25 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「ゲームが始まると、それぞれが自分の方角を持つんだ。ただし、ずっと同じ方角なわけじゃない」
 
(´・ω・`)「親番が変わるにつれて人が持つ方角も変わる。親番の人が必ず東家、そこから反時計回りに南家、西家、北家となる」
 
( ^ω^)「ってことは、今の僕は西家ですお」
 
(´・ω・`)「そのとおり。麻雀では方角という言い方より『風』という言い方のほうが一般的だけど、あまり気にしなくていい」
 
(´・ω・`)「ともかく、ゲーム中は必ず何らかの方角の家に属するってことだ」
 
( ^ω^)「どの方角が得とかあるんですかお?」
 
(´・ω・`)「いや、ないよ。基本的には平等だ」
 
(´・ω・`)「ただ、方角次第で役牌の条件が変わる。さっき説明した役のことだ」
 
( ^ω^)「確か、白・發・中のどれかを三枚揃えるだけの役ですお」
 
(´・ω・`)「そうだね。ただ、実はそれ以外にも役牌になりえる牌がある。それが自分の方角の風牌だ」
 
(´・ω・`)「つまり、東家だったら東を三枚集めることでも役牌が成り立つんだ」
 
( ^ω^)「おお! 可能性が広がりますお!」
 
(´・ω・`)「ちなみに、さっき説明した『場』の風牌も役牌になる。南場だったら南を三枚集めると役牌だ」
 
( ^ω^)「役牌って和了りやすそうですお!」
 
(´・ω・`)「まぁ、比較的完成させやすい役であることは間違いないね」
 
(´・ω・`)「さて、ゲームを進めよう。配牌が終わったら、まず親番の人が牌を一枚捨てる」
 
(´・ω・`)「親番だけは最初から十四枚の牌が配られてるからだね。他の人は十三枚だから、自分の番が来たら山から一枚取る」
 
(´・ω・`)「牌を一枚取った後、不要な牌を一枚捨てる。この繰り返しでゲームは進んでいくよ」
 
(´・ω・`)「山のどこから牌を取ればいいのかは知らなくてもいい。完全自動雀卓の場合、取るべき牌の背が少し光るようになってるからね」
 
( ^Д^)「あれも凄い技術っすよねー」

477第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:56:40 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「自分の番かどうかは手元のタッチパネルで分かる。『あなたの番です』って表示されるからね」
 
(´・ω・`)「完全自動雀卓のタッチパネルには色んな情報が表示されるから、それを見ていれば基本的にはチョンボせずに済むと思う」
 
(;^ω^)「助かりますお」
 
(´・ω・`)「さて、笑野と椎名が一枚ずつ捨てたから内藤の番だ。山から一枚取って」
 
( ^ω^)「白ですお!」
 
(´・ω・`)「実際のゲームじゃ取った牌が何なのかは言わないようにね。さて、牌を一枚捨てようか」
 
(;^ω^)「何を捨てればいいのか全然分かんないですお」
 
(´・ω・`)「基本的には、面子が作りにくそうな牌だね。今の手牌で言うと、北とかかな」
 
( ^ω^)「確かに、字牌は面子が作りにくいから不要っぽいですお」
 
(´・ω・`)「一枚しかないなら尚更だ。あとは孤立してる九筒も候補だね」
 
( ^ω^)「とりあえず北を捨てますお」
 
(´・ω・`)「次に毒島が牌を取って捨てると一巡だね」
 
('A`)「普通に打てばいいんですか?」
 
(´・ω・`)「そうだね。和了れそうなら和了ってもらっても構わない」
 
('A`)「了解です」
 
(´・ω・`)「お、毒島が良い牌を捨ててくれたね。好都合だ」
 
(´・ω・`)「いま毒島が捨てた八索、内藤は二枚持ってるね」
 
( ^ω^)「あの一枚があれば三枚揃うから面子が作れますお!」
 
(´・ω・`)「その一枚を貰うことができる。それが『ポン』だ」
 
(´・ω・`)「自分が同じ牌を二枚持ってるときに、他人の捨て牌を貰えるんだ。貰ったあとはまた不要な牌を捨てる」

478第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:57:56 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「じゃあ、今度は九筒を捨てますお」
 
(´・ω・`)「ついでだからチーの説明もしておきたいな。椎名、四萬か七萬持ってる?」
 
(*゚ー゚)「あ、ちょうど七萬があります!」
 
(´・ω・`)「手番が来たら切ってほしい。チーができる」
 
( ^ω^)「チーも相手の牌が貰えるんですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。いま椎名が七萬を切ってくれたから、それを貰おう」
 
( ^ω^)「面子がまた出来ましたお!」
 
(´・ω・`)「チーは連続する三つの数牌、順子を作るときに使える。今回みたいに五萬と六萬があったときとかね」
 
(*゚ー゚)「あと、六萬と八萬があるときに七萬が切られた場合も使えますよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。ただ、注意点があって、チーの場合は左隣の人が捨てた牌にしか使えない」
 
(´・ω・`)「ポンは誰が捨てた牌でもいいんだけどね。ここが少しややこしいところだ」
 
( ^ω^)「なんで左隣だけなんですお?」
 
(´・ω・`)「ポンは同じ牌を揃えるためのものだから、ポンできる牌は一種類しかないんだ」
 
(´・ω・`)「それに対してチーできる牌は二種類ある場合がある。今回もそうだったね」
 
(´・ω・`)「つまり、誰からでもチーできると簡単に面子が作れ過ぎてしまう。だから左隣に限定されてるんだと思う」
 
( ^ω^)「なるほどですお!」
 
(´・ω・`)「ちなみに、ポンやチーなどのことを俗に『鳴く』と表現する。『副露』という言い方もするけど、鳴きのほうが耳にする機会は多いかな」

479第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:58:57 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「さて、ゲームを進めよう。内藤の手には今、面子が二つできてるね」
 
(´・ω・`)「順調に手が進めば和了れる可能性もありそうだけど、どうかな」
 
('A`)「あ、すみません、ツモです」
 
(´・ω・`)「ありゃま」
 
(;^ω^)「和了られちゃいましたお」
 
('A`)「門前清自摸和、平和、ドラ1」
 
(;^ω^)「しかも謎の呪文を唱えてますお」
 
(´・ω・`)「あんまり気にしなくていいけど、ドラだけは説明しておこう」
 
(´・ω・`)「牌山の中に一枚だけ表向きの牌がある。あれをドラ表示牌というんだ」
 
(´・ω・`)「いま三索が表向きになってるから、ドラは四索だ」
 
(´・ω・`)「和了ったとき、手牌の中に四索があると、得点が上がる。それがドラだ。言わばボーナスみたいなものだね」
 
( ^ω^)「表向きになってる三索を持ってたらじゃなくて、その次の牌の四索を持ってたら、ってややこしいですお」
 
(´・ω・`)「そうだね。なんでこんなルールなのか、正直分からないけど、そういうものだと割り切って覚えるしかない」
 
(´・ω・`)「とはいえ、完全自動雀卓の場合、ドラは牌の表面が青く光るから分かりやすい。今回で言うと四索が光る」
 
(´・ω・`)「もちろん、あんまり強い光だと他の人に四索を持っていることがバレてしまうから、ほんの少し光るだけだけどね」
 
( ^ω^)「親切設計ですお!」
 
(´・ω・`)「ちなみにドラが何枚も手牌にあれば、そのぶん点数は上がっていく。たくさん持ってればラッキーだね」

480第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:00:01 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「そうそう、ついでにもう一つ説明しておくよ。さっき毒島が和了るときにツモって言ったことについて」
 
(´・ω・`)「麻雀は手牌に役がつけば和了れるんだけど、和了り方には二つある。ツモとロンだ」
 
(´・ω・`)「さっきみたいに自分で引いた牌で役が完成すればツモ和了り。他の人が捨てた牌を貰って役が完成すればロン和了りだ」
 
( ^ω^)「ロンは誰からでも出来るんですかお?」
 
(´・ω・`)「チーみたいな制限はないよ。基本的には誰からでもロンできる」
 
(´・ω・`)「ちなみに、ツモもロンも和了りであることに変わりはないんだけど、点の貰い方に違いがある。ツモは他の三人から、ロンは一人からだ」
 
( ^ω^)「ロンは和了りに至った牌を捨てた人から貰えるってことですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。捨て牌で誰かにロンされることを『振り込む』というんだけど、振り込みは失点がキツイから極力避けるべきだね」
 
(´・ω・`)「それと、ツモの場合は親番か子番かで少し点の貰い方が違う。例えば12000点の役を和了った場合、親番なら全員から4000点ずつ貰うんだけど、子番の場合は親から6000点、他の子から3000点ずつ貰うんだ」
 
(;^ω^)「親番怖いですお」
 
(´・ω・`)「さっきも言ったとおり、親番はハイリスクハイリターンだ。とはいえ、少しリターンのほうが多いかなと思うけどね」
 
(´・ω・`)「あと、流局についても説明しておくよ。誰も役を完成させることができず、和了れなかった場合のことだね」
 
( ^ω^)「山を全部取りきったら終わりですかお?」
 
(´・ω・`)「いや、麻雀では必ず牌山を十四枚残すことになってるんだ。つまり、残り十四枚になった時点で流局だね」
 
(´・ω・`)「ついでに言うと、流局になったときも点のやり取りが発生する場合がある。テンパイしてるかどうかで変わってくるんだけど」
 
( ^ω^)「テンパイって確か、和了りまであと一歩の状態ですお」
 
(´・ω・`)「そうだね。流局になった場合、テンパイしてない人はテンパイしてる人に点を支払わなければならない」

481第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:01:10 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「テンパイしてないことをノーテンって言うんだけど、一人テンパイで三人ノーテンなら、三人が1000点ずつ支払う」
 
(´・ω・`)「二人テンパイで二人ノーテンなら、ノーテンの二人が1500点、三人テンパイで一人ノーテンなら一人が三人に1000点ずつを支払う」
 
( ^ω^)「つまり、必ず3000点のやり取りがあるってことですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。ただ、全員テンパイや全員ノーテンの場合は点のやり取りが発生しないけどね」
 
(´・ω・`)「ちなみに、親がテンパイしてれば親は変わらずに次局へ移るけど、その次局は『一本場』と呼ばれる」
 
(´・ω・`)「一本場でまた親が和了ったりテンパイしたまま流局したりすれば、今度は二本場に移る。そうやって、三本場、四本場、と続いていく場合もある」
 
( ^ω^)「一本場とか二本場とかは、何かが得なんですかお?」
 
(´・ω・`)「和了ったときにボーナスがつく。一本につき300点。二本場なら600点だね」
 
(´・ω・`)「と、ここまでで一応、基本的なことは説明できたつもりだよ」
 
(´・ω・`)「他に説明しておくべきこと、何かあるかな」
 
(*゚ー゚)「役の飜とか点数とかは説明しないんですか?」
 
(´・ω・`)「うん。説明すると長いし、色んな役の説明もしなきゃいけないしね」
 
(´・ω・`)「とりあえず今は立直、役牌、断幺九のことだけ覚えてくれてればいい。何点貰えるか、とかまでは知らなくてもいい」
 
('A`)「フリテンの説明は?」
 
(´・ω・`)「それも、とりあえずパスだ。本当はすごく大事なことだけど、完全自動雀卓ならフリテンのときはロンの表示が出ないわけだし」
 
(´・ω・`)「とにかく、手元のタッチパネルにツモかロンの表示があったら迷わず押す。それを徹底してくれればいい」
 
( ^ω^)「了解ですお!」

482第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:02:40 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「じゃあ、ゲームを続けよう。さっき子の毒島が和了ったから、ゲームは東一局から東二局に移る」
 
(´・ω・`)「東場は親が一巡するまで続くから、東四局まである。とりあえず、東場が終わるまで続けようか」
 
(*゚ー゚)「はーい」
 
( ^Д^)「了解っす」
 
 一通りの説明を終えて、初本はその場から離れる。
 冷蔵庫の前まで歩き、中から緑茶のペットボトルを取り出した。
 ずっと喋り続けていたため、喉の渇きは限界に近かった。
 
 ペットボトルを持ったまま再び雀卓と化したテーブルに戻る。
 椎名を親番とする東二局が進んでいた。
 
(´・ω・`)(内藤は三向聴か)
 
 とりあえず、牌を取って捨てるという基本的な動作はできている。
 仮に明日、内藤まで回ったとしても、棄権する羽目にはならなさそうだ、と初本は安堵した。
 
( ^Д^)「ツモ。役牌、一盃口、ドラ2」
 
(*゚ー゚)「さすがですね、笑野さん」
 
(;^Д^)「点棒のやり取りがないから、何となく虚しいけどな」
 
( ^ω^)「次は僕の親番ですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。最初に山から牌を取らないようにね」
 
( ^ω^)「気をつけますお!」
 
 完全自動雀卓ならば、手番になると手元のタッチパネルにその旨が表示される。
 それさえ見てくれればチョンボすることもないだろう、と初本は希望を込めて思った。

483第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:03:38 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)(内藤がとりあえず打てるようになってきたことは、喜ばしいことだけど)
 
(´・ω・`)(まともな対局は望めない。やっぱり、副将までで終わらせないと、全国行きは厳しいな)
 
 明日のことも初本は不安だった。
 しかし、先々のことまで考えておくならば、他にも不安は山積している。
 最大の悩みの種は、五人目のメンバーをどうするか、ということだった。
 
(´・ω・`)(元々出てもらう予定だった前田くんは、今後も受験優先だろうからアテにしないほうが良さそうだな)
 
(´・ω・`)(前田くんが駄目なら他の人を探すつもりでいたけど、それも見つかるかどうか不確定だ)
 
(´・ω・`)(そうなると、このまま内藤を鍛えてメンバーになってもらうのが最善なのかな)
 
 無論、最大限尊重されるべきは内藤の意思だ。
 それを初本は充分に理解していた。
 
 内藤が麻雀を好きになれず、明日限りで離れるというのであれば、それも致し方ない。
 初本の中では、そう割り切れていることではあった。
 
(´・ω・`)(全国は、覚えたての初心者が戦えるほど甘くはない)
 
(´・ω・`)(仮に内藤を鍛えて全国に連れていくとしても、かなり厳しい戦いになるだろうな)
 
(´・ω・`)(ただ、メンバーを選り好みできるような余裕がないのも事実だし)
 
(´・ω・`)(どうしたものかな)
 
 元を辿れば、部員の勧誘を上手くできなかった初本の責任だった。
 伊藤が打てない以上、打てるメンバーをもう一人部員として引き入れるべきだったが、それを果たせなかったのだ。
 そのツケを今更、払わされている。内藤に、迷惑をかけてもいる。
 
(´・ω・`)(部長である僕に全ての責任がある。当然のことだ)
 
(´・ω・`)(だからこそ、最大限の努力をしなきゃいけないんだ)

484第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:05:11 ID:ueJ0zPsY0
 全国制覇のためなら何事も惜しまない。
 その覚悟が、今の初本にはあった。
 部長として臨んだ初めての大会で、ようやくしっかりと芽生えてきた覚悟だった。
 
 だからこそ、まず全国へと進むために、今は少しでも内藤を鍛え上げなければならない。
 初本の意思は確然としていた。
 
(´・ω・`)(ん?)
 
 思考しながら、初本はぼんやりと卓上を見ていた。
 東三局。内藤の親番で対局は進んでいる。
 内藤の手牌は三向聴で今のところ役はないが、白を対子で持っており、役牌が狙える状況だった。
 
 白は既に一枚切られている。
 残る白は一枚。山に眠っているか、誰かが持っているかは、内藤からは分からないはずだった。
 
 
 しかし、内藤はずっと、笑野の手牌の背を見ていた。

 しかも、左端の牌だけを、ずっと。
 
 
(´・ω・`)(なんで、そんな)
 
 極めて限定的なところを見ているのか。
 初本は、そう思った。
 不思議な予感の正体が、分からないままに。
 
 自然と初本の足が笑野の許へと進む。
 後ろへと回って、笑野の手牌を確認した。

485第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:07:07 ID:ueJ0zPsY0
 笑野の配牌は相当に酷いもので、一枚しかない孤立牌を淡々と捨てているところだった。
 だが、それもようやく少なくなり、無思考で捨てるべき牌はあと一枚だった。
 
 手牌の右端にいる、白だけだった。
 
(;^Д^)「今回はかなり酷いな、和了れる気がしねー」
 
( ^ω^)「あっ!」
 
 笑野が、白を切った。
 しかし、内藤が反応を示したのは、笑野が白を掴んだ瞬間だった。
 白が、表向きで河に置かれる前だった。
 
( ^ω^)「えっと、ポン? ですお!」
 
(*゚ー゚)「あ、役牌完成だね! やったね!」
 
( ^ω^)「だおだお! もしかしたら和了れるかもだお!」
 
(´・ω・`)「ちょっと待って」
 
 初本は、堪らず制止の声を出した。
 皆の視線が一斉に初本へと向く。
 
 そんな、馬鹿な。
 いったい、どうして。
 
 初本の頭の中を、疑問符が埋め尽くす。

486第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:08:47 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「内藤、何故いま、白のことが分かってたんだい?」
 
(;^ω^)「お?」
 
(´・ω・`)「君は今、明らかに、笑野が白を捨てる前から白の場所を知っていた」
 
(´・ω・`)「笑野の右端の牌が白であると、分かっていたはずだ」
 
 でなければ、あの反応の速さはあり得ない。
 初本がそう考えていることに、他の部員たちも気付き始めていた。
 
(´・ω・`)「そうだろう?」
 
(;^ω^)「えっと、確かに笑野さんが白を持ってることは分かってましたお」
 
(;^Д^)「マジか? 俺、なんかチョンボしたか?」
 
(;^ω^)「いや、あの、そうじゃなくて」
 
( ^ω^)「笑野さんは一巡目で白を引いて、自分の手牌に取り込んだと思いますお」
 
(;^Д^)「そうだけど、なんでそれが分かるんだ?」
 
( ^ω^)「それは、その」
 
 
 
 
( ^ω^)「笑野さんが前局で白を置いたときと、『同じ音』が聞こえたからですお」
 
 
 
 
 その一言で、室内からは、音が消えた。
 口を開きかけた毒島の声も、伊藤の口から響いていたお菓子の咀嚼音も。

487第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:10:21 ID:ueJ0zPsY0
 前局と、同じ音。
 内藤は、確かにそう言った。
 
 そんな、まさか。
 そう思う初本の脚は、微かな震えをカーペットに伝えている。
 
(´・ω・`)「本当に、分かるのかい?」
 
 声を発すると同時に、初本は無造作に牌山を崩した。
 そこから二つの牌を掴む。一筒と南だった。
 
(´・ω・`)「内藤、よく聞いててほしい」
 
(;^ω^)「お?」
 
 初本は、内藤に表を見せた状態で二つの牌を卓に置いた。
 手も微かに震えている。それでも、なるべく均等の力になるように、慎重に。
 
 三度ほど、同じ動作を繰り返したあと、再び牌は初本の手中に収まる。
 そして、今度は内藤に背を向ける形で、二つの牌が置かれた。
 
(´・ω・`)「どっちがどっちか、分かるかい?」
 
 複雑な気持ちのまま、初本はそう言った。
 当ててほしい気持ちと、当てられるはずがない、という気持ち。
 綯い交ぜになって、浮遊して、沈着しない思い。
 
 ただ、確実なことは、一つ。
 もし、内藤がこれを当てられたならば――――
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒ですお」
 
(´・ω・`)「!!」
 
 当ててきた。
 ほとんど、迷いもなく。

488名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 22:11:26 ID:SISaWxAk0
おいおいまじかよ

489第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:11:41 ID:ueJ0zPsY0
(;^Д^)「マジか!?」
 
(;゚ー゚)「え、え? ほんとに?」
 
('A`;)「で、でも、一回くらいなら、たまたま当たったってことも」
 
(´・ω・`)「あぁ」
 
 毒島の言うことは尤もだった。
 今のところは、二分の一で当たる賭けでしかないのだ。
 
 初本がもう一度、牌を置く。
 手の中で、内藤に見えないように混ぜた後で。
 
 二分の一の勝負であることに変わりはない。
 それでも、連続で当てられる確率となれば当然、回を重ねるごとに下がっていく。
 ただの勘に頼った勝負ならば、大抵、三回目か四回目までに敗北を喫するだろう。
 
 その、勝負に――――
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒」
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒」
 
( ^ω^)「左が一筒、右が南」
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒」
 
( ^ω^)「左が一筒、右が南」
 
( ^ω^)「左が一筒、右が南」
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒」
 
(´・ω・`)「!!」
 
 ――――全て、勝利した。
 間違いなかった。

490第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:12:27 ID:ueJ0zPsY0
 牌を置いた音で、牌種が分かる。
 もはや、疑いようもない事実だった。
 
(;゚ー゚)「ペニちゃん、分かる?」
 
('、`;川「分かるわけないでしょ、そんなの」
 
(;^Д^)「ありえねぇ。でも、ありえてるんだよなぁ」
 
(;'A`)「なんでだ? 音がどう違うっていうんだ?」
 
( ^ω^)「そう言われると難しいけど、なんか、重みが違う気がするお」
 
(´・ω・`)「重み、か」
 
 初本が再び牌を手に取る。
 絵柄の彫られた表面をじっと見つめたあと、自分で自分に呆れるような声を出した。
 
(´・ω・`)「仮定を言うよ。僕自身、信じられないけど」
 
 牌を仰向けにして、皆に見えるように初本が置いた。
 そして、牌の表面を軽く撫でる。
 
(´・ω・`)「みんな雀牌に触ったことあるから分かると思うけど、牌の表面には絵柄がある」
 
(´・ω・`)「その絵柄は、牌を削って描かれたものだ」
 
(´・ω・`)「つまり、絵柄が違えば、削られた量も違う。牌によって、重さが違うんだ」
 
 馬鹿げたことを口にしている。
 その自覚が、初本にはあった。
 しかし、それ以外には考えられなかった。

491第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:13:45 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「牌によって重さが異なる、だから牌を置いたときの音にも違いが出るんだ」
 
(;^Д^)「いやいやいや! そんなの誤差くらいの違いっすよ!」
 
(;゚ー゚)「重さの違いは確かにあるんでしょうけど、多分、数グラムくらいですよね?」
 
(´・ω・`)「もっと少ないかもしれない。もしかしたら、数ミリグラムの世界かもね」
 
(;'A`)「それを聞き分けられるなんて、正直、信じられません」
 
(´・ω・`)「僕もだよ。だけど、内藤が音を聞き分けているという事実はあるんだ」
 
 皆の視線が内藤に向く。
 渦中の人物は、困惑の表情を浮かべていた。
 
(;^ω^)「あの、えっと、一つ教えて下さいお」
 
(;^ω^)「確かに僕は牌の音を聞き分けられるかもしれませんお。確実ではないにせよ」
 
(;^ω^)「でも、それって麻雀で役に立つんですかお?」
 
(;^Д^)「役に立つなんてもんじゃねーよ!」
 
(;'A`)「お前、この力があったら、世界のトップだって目指せるぞ!」
 
(;^ω^)「お、お、お?」
 
(´・ω・`)「内藤、さっきの局面、内藤は白を待ってただろう?」
 
 初本は、あえて落ち着いた声を出した。
 本当は、初本も動揺が残っている。

492第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:14:38 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「そして、笑野が一枚持っていることも分かっていた」
 
(´・ω・`)「白が一枚しかないんじゃほとんど役に立たない。だから笑野が捨てるかもしれないと思っていたはずだ」
 
( ^ω^)「確かに、そのとおりですお」
 
(´・ω・`)「だけど、もし笑野が白を二枚持っていると分かっていたら? どうする?」
 
( ^ω^)「お? 笑野さんもあと一枚白が欲しいのかなって思いますお」
 
( ^ω^)「笑野さんが白を捨てそうになかったら、役牌は諦めてたと思いますお」
 
(´・ω・`)「そう。だけど、普通はそんなこと分からなくて、最後まで白を待ってたりする」
 
(´・ω・`)「作れる可能性がほとんどない役を狙い続けるのは無駄なことだ。それなら、他の役を狙ったほうがいい」
 
(´・ω・`)「そういう判断ができる。普通じゃできない判断を」
 
(´・ω・`)「これが一つの大きな武器。そして、もう一つの武器も強力だ」
 
(´・ω・`)「さっき説明したけど、誰かが捨てた牌で和了ることをロン和了りという」
 
(´・ω・`)「ロンの場合、その牌を捨てた人が和了った人に全ての点を支払わないといけない。大きな失点があるんだ」
 
(´・ω・`)「だから麻雀では自分で捨てた牌でロンされないように打たなきゃいけない。最も技量が問われる部分でもある」
 
(´・ω・`)「だけど、もし相手の牌がある程度分かるんだったら、ロンされる確率はかなり低くなる」
 
(´・ω・`)「失点を極力抑えつつ得点を重ねることができるんだ」
 
(;^ω^)「えっと、それって、つまり」
 
(´・ω・`)「全国のどんな強豪さえ、打ち負かせるほどの力になりえるってことだ」

493第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:16:23 ID:ueJ0zPsY0
 内藤は、まだ実感が湧いていなかった。
 本当にそれほどの可能性を秘めた力なのか、と懐疑的に見てしまっていた。
 
 しかし、他の部員たちの表情を見て、ただごとではないのだと気づく。
 
(´・ω・`)「もちろん、万能な力じゃないことは確かだ」
 
(´・ω・`)「配牌は読みようがないし、相手が牌を強く置いたら音が変わるし、そもそも、音を覚えるまでに多少の時間もかかるだろう」
 
(´・ω・`)「それでも、間違いなく、有利に働く。麻雀を打つうえで、必ず」
 
 自然と、初本の拳には力が入っていた。
 力を緩めようとしても、自分の意思では緩められないほどに。
 
 先ほどまで抱いていた、全国大会への不安など、消し飛んでいた。
 
(´・ω・`)「勝てる」
 
(´・ω・`)「僕たちは、間違いなく、全国でも勝ち進んでいける」
 
 初本の口から、自然とこぼれた言葉。
 椎名がゆっくりと、笑野がはっきりと、頷く。
 遅れて毒島も、小さな呻きを漏らしながら頭を縦に振った。
 
(´・ω・`)「僕たちはきっと、全国を制覇できる」
 
 また、初本は意識しないまま口にしていた。
 
 全国の頂きへと至る階段の、一段目を上がったときの音が、初本には聞こえた気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第5話 終わり
 
     ~to be continued

494 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:18:06 ID:ueJ0zPsY0
第5話は以上です、ありがとうございました

二年以上も間隔が空いてしまって本当に申し訳ない限りです
続きの投下は相変わらずの未定ですが、今回ほど間隔が空くことは多分ないと思うので、
まったり頑張っていきます

495名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 22:19:33 ID:SISaWxAk0

ワクワクしてきた
ますます期待が高まるぜこれは

496名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 22:26:49 ID:F0DHPUg60
ホントおもしろい

497名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 22:54:53 ID:KjBKkUy20
アルファの作者とはいえ、今までのブーン系の麻雀物と似たり寄ったりだろうと思って読まなかったけど

なんだこれ めっちゃ面白いじゃん
今度はショボンが裏切らない様に期待するw
大将ブーンってのもいいしw



乙でした

498名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 23:00:07 ID:FR8e4Zhg0
すげぇ、ブーンの技能チートやん……!
面白そう、1話からきちんと読んでくる

499名も無きAAのようです:2015/03/29(日) 23:03:29 ID:/Yo6bogM0
麻雀詳しくないけど面白い


500名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 00:20:49 ID:j/TGUjAUO
乙。ブーンチートすぎるwwwwやっぱこの人の書くブーン系はいいね

501名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 03:17:45 ID:JcFE9LdM0


502名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 08:09:31 ID:ftCkyuB60

麻雀よく知らないのだけどブーンはなんで前局で笑野が白を手牌に加えたってわかったの?

503名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 13:39:04 ID:h50EVN0k0
>>502
前局で役牌で上がってたからこれが白だとすると、牌を引くたびに音で認識(区別)してたのかな。
それでどの音がどの牌なのかを手牌を晒した時に合致したって感じ?

504名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 15:35:25 ID:ftCkyuB60
>>503
なるほど納得できたわ
ありがとう

505名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 20:17:14 ID:lww5.q9w0
今更ですけど乙でした!
いやーこのチートっぽい技能燃えますね…!

506名も無きAAのようです:2015/03/30(月) 23:20:25 ID:s5errvH.0
股間のアルファベットはどちらが勝ったんですか?
意外とどっくんがSの壁を越えてそう

507名も無きAAのようです:2015/03/31(火) 14:17:25 ID:JJOuAjr.0
ショボンはZなのかな

508名も無きAAのようです:2015/04/01(水) 00:36:53 ID:GuTz67XE0
今上がってるの気付いて最初から読み直しちゃった
これからどうなるのかすごい楽しみ

509名も無きAAのようです:2015/04/02(木) 10:36:42 ID:qYnU1glM0
なんとなく印南を思い出すな

510名も無きAAのようです:2015/04/04(土) 10:20:48 ID:LsAWq3Lo0
咲や兎みたいな超能力麻雀バトルものだったのかw

511名も無きAAのようです:2015/04/05(日) 19:35:32 ID:1jzrEB1w0
>>442
このトンカツが揚げ上がった音を聞き付けたのって伏線だったのか……

512名も無きAAのようです:2015/04/05(日) 20:23:31 ID:v5BCTgAM0
>>38
ここも伏線だね

513 ◆azwd/t2EpE:2015/04/06(月) 00:30:23 ID:5O7HggeU0
皆さんいつもありがとうございます

今週は少し余裕のある時間が多く、書き溜めもスムーズに進んだので、
順調なら多分、次の土日あたりに第6話が投下できるんじゃないかなと思っています
とかいって予定が狂っちゃったら申し訳ないですが……頑張ります

514名も無きAAのようです:2015/04/06(月) 02:50:49 ID:y0Th4iTE0
無理せずって言いたいけど、楽しみになもんで、期待支援w

515名も無きAAのようです:2015/04/06(月) 09:29:19 ID:b/yfkgjg0
>>513
わーい!!

516名も無きAAのようです:2015/04/06(月) 14:08:32 ID:5u2NEHgMO
何これ面白過ぎる!

517名も無きAAのようです:2015/04/06(月) 19:36:45 ID:Ig9vay4E0
盛り上がる場面の文章はアルファの時同様にさすがと言わざるを得ない
続きも期待してます

518名も無きAAのようです:2015/04/06(月) 21:44:49 ID:6XEUSqt20
どうせ土日の投下は(ヾノ・∀・`)ムリムリ

519 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:28:03 ID:CUmEQ.Hs0
これから第6話を投下します
よろしくお願いします

520登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:29:25 ID:CUmEQ.Hs0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校

■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

521登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:30:08 ID:CUmEQ.Hs0
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生

522大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:31:13 ID:CUmEQ.Hs0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

523大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:31:58 ID:CUmEQ.Hs0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

524名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 16:32:21 ID:IWjQ.NVA0
きた!!

525大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:34:12 ID:CUmEQ.Hs0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

526第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:35:38 ID:CUmEQ.Hs0
【第6話:空間の揺蕩い】
 
 
 毒島が目を覚ましたとき、部屋にはほとんど音がなかった。
 カーテンの隙間から漏れる光は青白い。まだ六時か七時くらいだろうか、とぼやけた頭で毒島は考える。
 
 昨晩は遅くまで麻雀を打っていた。
 特に、初本と笑野は、毒島がベッドに入ったあとも卓に着いていたのを覚えている。
 最も早く寝たのは伊藤と椎名だった。
 
(*゚ー゚)「あ、ドっくんだ」
 
 毒島の身体は、一瞬大きく揺れた。
 朗らかな声が洗面所から飛んできたためだ。
 
(*゚ー゚)「おはよー」
 
('A`;)「お、おはよう」
 
 椎名は既に化粧を終え、制服に身を包んでいた。
 そのスタイルに毒島の視線は奪われかけたが、慌てて窓の方に逸らす。
 
(*゚ー゚)「みんなまだ寝てるね。遅くまで打ってたの?」
 
('A`;)「ぼ、僕は日付が変わる頃に寝たけど、初本さんと笑野さんは遅かったみたい」
 
(*゚ー゚)「そうなんだ。決勝に向けて気合入ってる感じだね!」
 
('A`;)「そ、そうだね」
 
 同学年であり、同部活でもある椎名に対し、毒島はまだ臆してしまっていた。
 ただしそれは椎名に限ったことではない。
 
 なんとか会話できているだけでも、毒島にとっては快挙に近かった。
 伊藤に対しては、椎名以上に壁を感じている。
 それ以外の女子など、もはや声の届く距離ではなかった。

527第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:37:12 ID:CUmEQ.Hs0
(*゚ー゚)「絶対勝たなきゃいけないもんね。みんなで、全国へ行くために!」
 
(*゚ー゚)「今日は私が先鋒らしいから、なんとか一位でドっくんにバトンを渡せるよう頑張るよ!」
 
 毒島の声は上手く出なかったが、代わりに強く頷いた。
 
 オーダーの変更が初本から伝えられたのは昨晩、椎名が寝る前のことだった。
 戦略上の理由、とだけ初本は言い、詳しい理由はいずれ説明すると語った。
 毒島は多少、訝しんだが、先鋒でも次鋒でもやるべきことは変わらなかった。
 
 自分の麻雀を打つだけだった。
 
(´・ω・`)「やぁ、二人とも早いね。おはよう」
 
(*゚ー゚)「初本さん。おはようございます♪」
 
('A`)「おはようございます」
 
(´・ω・`)「いよいよ、か」
 
 その短い一言で、椎名にも、毒島にも気合が入った。
 思わず、姿勢を正してしまうほどに。
 
 その後、続々と部員たちが目を覚まし、支度を整え始めた。
 途中で伊藤が部屋から出て行き、皆が不思議に思っていると、カートを押して戻ってきたため全員が一驚を喫した。
 
('、`*川「朝ご飯ですよーっと」
 
( ^Д^)「マジか! ナイス!」
 
(´・ω・`)「いいのかい?」
 
('、`*川「許可は取りました。朝食バイキングはどうせいつも余りますし」
 
('、`*川「今にして思えば、昨日の晩ご飯もこうすれば良かったのかも。まぁいっか」
 
(*゚ー゚)「あのお店じゃなきゃブーンくんの胃袋の相手は務まらなかったと思うし!」
 
('、`*川「確かに、それもそうね」
 
( ^ω^)「ご飯ご飯ー♪」

528第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:38:38 ID:CUmEQ.Hs0
 昨日は雀卓と化していたテーブルに皿が並べられていく。
 一人当たりの量はさほど多くないものの、朝食としては程良かった。
 クロワッサンやバターロール、ベーコンやウインナーなどを皆が思い思いに口へと運ぶ。
 
 五分から十分ほどで全て平らげられ、その後は、それぞれ歯を磨いたり顔を洗ったりして準備を整えた。
 伊藤だけは朝食を載せてきたカートを返却していたこともあり支度が遅れたが、選手ではないため、試合に出る五人は先に出立することとなった。
 
('、`*川「あとでクルマで向かいます。試合開始に間に合うかどうか、ちょっと微妙ですけど」
 
(´・ω・`)「ゆっくりでいいよ。色々世話になってしまって申し訳なかったけど、本当にありがとう」
 
('、`*川「これくらいしかできないんで!」
 
(*゚ー゚)「ペニちゃんありがとね! またあとで!」
 
 伊藤に一旦の別れを告げて、五人はホテルから出て駅へと向かった。
 日曜の七時台ということもあり、人通りはあまりない。
 角度をつけて冲天へと昇りつつある太陽からの光は柔らかかった。
 
 駅から電車に乗り、二十分ほど揺られたところで会場の最寄駅へと到着した。
 急行電車が止まらない駅であることも影響して、乗降する人はほとんど居ない。
 試合も、今日は決勝しか行われないため、尚更だった。
 
 駅から歩いて数分ほどで、会場の片影が五人の目に入った。
 
(´・ω・`)「行こう」
 
(´・ω・`)「必ず優勝して、全国へ」
 
 それぞれが頷く。
 そして、力強く足を踏み出した。
 
 
 ◇
 
 
('、`*川「すみません、学校寄ってたら遅れちゃいました」
 
(´・ω・`)「ああ、雀牌を戻しに行ってくれてたんだね。ありがとう」
 
('、`*川「いえいえ。試合のほうはどうなってます?」
 
( ^Д^)「まだ先鋒戦だよ。南三局だな」
 
 控え室へと入ってきた伊藤に、初本と笑野は首だけを返していた。
 身体は試合の様子を写すモニターへと向けられている。

529第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:40:10 ID:CUmEQ.Hs0
('、`*川「内藤と毒島は?」
 
(´・ω・`)「さっきトイレに行ったよ」
 
 伊藤が椅子に腰掛け、初本と笑野の背中越しにモニターを見た。
 そして、軽く首を捻る。
 
('、`*川「負けてます?」
 
(´・ω・`)「今のところは三位だね」
 
 県大会も決勝まで来ると強豪揃いだった。
 麻雀を始めて二ヶ月余りの椎名では、苦戦も致し方なし、と初本は割り切っていた。
 ただ、ここまで一度も和了れていないというのは予想から外れた出来事だった。
 
(´・ω・`)(緊張してるのかな)
 
(´・ω・`)(いつもの椎名に比べると、果敢さが足りない)
 
 愚直に和了りを目指せるのが椎名の強み。
 初本はそう思っており、事実、昨日は他者に優るスピードで一位をもぎ取った。
 
 既に南三局。
 もしも昨日と同じ半荘戦なら、あと二局しか残っていないのだ。
 ここまでほとんど何もできていない、というのは初本にとっては想定外のことだった。
 
 しかし、今の初本には、それ以上に想定外のことがあった。
 自分自身の判断を、大いに悔やむほどに。
 
(´・ω・`)(悔やんでも悔やみきれないな)
 
(´・ω・`)(余計なことをしなきゃ良かった。完全に誤算だ)
 
 悔いたところで時間は戻らない。
 初本は、二人が何とかしてくれることを願うしかなかった。
 
 信じて、戦況を見守ることしかできなかった。

530第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:41:48 ID:CUmEQ.Hs0
 
 
 ◇
 
 
 南三局、十二巡目にしてようやく、椎名は堂々と手牌を見せることができた。
 
(*゚ー゚)「ツモです」
 
 立直と、門前清自摸和。
 椎名が得られたのは2000点だが、それでもありがたかった。
 
 肯綮高校の盛岡を親番とする南三局が終わり、前半戦のオーラスとなる南四局へと突入した。
 
 親番は麦秋高校の松中。
 松中はここまであまり良いところがなく、最下位に沈んでいる。
 南二局で満貫に振り込んだのが手痛かった。
 
 尤も、それまでは芽院高校の椎名が最下位だったのだ。
 椎名からすれば、他力で何とか三位に上がった形だった。
 
(;゚ー゚)(緊張しちゃってるなぁ、私)
 
 実力的に、この中で最も劣っていることを、椎名は自覚していた。
 そして、いつもとは明らかに打ち筋が変わってしまっていることも、分かってはいた。
 
 緊張から生まれる焦燥と動揺が常に付き纏う。
 こんな経験は、今までになかった。
 仕事でテレビに出演したときでさえ味わうことのなかった感覚だ。
 
 いつもどおりに打たなければ。
 そう思えば思うほど、椎名の足は泥濘に嵌まっていく。

531第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:43:33 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)「ポン」
 
 十巡目、肯綮高校の盛岡がポンで手を進めた。
 椎名の中にはまた、焦りが生まれる。
 
(;゚ー゚)(私はまだ三向聴、和了りは厳しいかなぁ)
 
 そう考えながら、椎名は九筒を切った。
 盛岡が鳴いているため、断幺九狙いかもしれない、と考えた故の九筒切りだ。
 幸いにも、切った瞬間に盛岡から声が上がることはなかった。
 
 しかし、陶冶高校の江楠が二索を切った時は、そうはいかなかった。
 
(´・_ゝ・`)「ロン。断幺九、ドラ1」
 
(;゚ー゚)(わぁ、やっぱ断幺九だったんだ)
 
 椎名は、読みが当たっていたことに安堵していた。
 しかし、それが本当は自分らしくないことにも、気付いていた。
 
 子の盛岡が和了ったため、南場が終了。
 五分間の休憩時間に入った。
 
 ここまで、肯綮高校が57000点で首位を走っている。
 それに続く陶冶高校は54800点。次いで芽院高校が47700点、最下位の麦秋高校が40500点だった。
 
 盛岡と松中がトイレに行くため席を立ったが、椎名は席に座ったまま手元のタッチパネルを見ていた。
 首位との点差はおよそ一万点。易々と覆せる差ではなかった。
 安い手を素早く和了っていくタイプの椎名にとっては、尚更だ。
 
 大将戦に回さないように芽院高校は戦わなければならない。
 それは、副将戦が終わった時点で他校に100ポイント以上の差をつけている必要がある、ということだ。
 他を、圧倒するような勝ち方をしていなければならない、ということだった。
 
(;゚ -゚)(まだまだ実力が足りてないのは、分かってるんだけど)
 
(;゚ -゚)(それでも何とか勝たなきゃ。じゃないと、全国に行けなくなっちゃう)
 
(;゚ -゚)(先鋒戦で躓いたら後が苦しくなっちゃうし、どうにかして、私が――――)
 
<_プー゚)フ「緊張してる?」
 
(;゚ー゚)「えっ?」
 
 突然、声を掛けられたため、椎名の口から出た声は上ずっていた。
 陶冶高校の江楠は、両肘を卓に突いてリラックスした様子を見せている。

532第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:45:47 ID:CUmEQ.Hs0
<_プー゚)フ「なんか、オドオドした打ち方してるなぁって思って」
 
<_プー゚)フ「昨日のほうが伸び伸びしてたよ。映像でちょっと見た程度だけどさ」
 
 対局中も、江楠は常に柔やかだった。
 元々そういう顔なのか、緊張とは無縁なのか、椎名には分からなかった。
 
<_プー゚)フ「牌の巡りが悪いと、どんどん自分を追いつめて、上手く打てなくなったりとか」
 
<_プー゚)フ「僕もそういうこと、よくあるけどね。大会だと、自分の後ろに先輩たちが控えてたりもするわけだし」
 
<_プー゚)フ「迷惑かけたくないのに、点が伸びなくて、自己嫌悪したりとかさ。そういうのってヤダよね」
 
 今の椎名の状況に、完全に合致する言葉、というわけではなかった。
 ただ、不思議と頷かされるような力があった。
 
<_プー゚)フ「あんまり点数のこととか、勝ち負けのこととか、気にしすぎると余計に上手く打てなくなっちゃうもんだよ」
 
<_プー゚)フ「だから、とりあえず一局一局のことだけ考えてたほうがいいんじゃない?」
 
<_プー゚)フ「じゃないとさ、楽しくないでしょ。せっかく麻雀打ってるのにさ」
 
<_プー゚)フ「その可愛い顔が楽しそうにしてるとこを見たいんだよ、僕は」
 
 椎名は思わず、笑みをこぼした。
 軽やかな言葉に、身と心を軽くしてもらった気分だった。
 
(*゚ー゚)「ありがとうございます」
 
 せめてもの笑顔を椎名は返した。
 同じように江楠も微笑み、手元のサイダーのキャップを開ける。
 
(*゚ー゚)(見た目も喋り方もちょっとチャラそうだけど、根はしっかりしてる人なんだろうなぁ)
 
 サイダーを二口、三口と飲む江楠の横顔を見ながら、椎名はそう思った。
 そして同じように、午後の紅茶を口に含んでから、しっかりと前を見据える。

533第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:47:59 ID:CUmEQ.Hs0
 盛岡と松中が対局場に戻り、休憩時間が終わった。
 山と手牌が雀卓の中から迫り上がって、先鋒戦の西場が始まる。
 
 親番は、陶冶高校の江楠だった。
 
<_プー゚)フ(うん、悪くない配牌だな)
 
 まずは二向聴。
 牌の多くは中張牌であり、手広く牌を待てそうな形だ、と江楠は考えていた。
 
 静かに牌が捨てられていく中で、江楠は下家の表情を確かめる。
 
<_プー゚)フ(いい顔になってきたじゃん)
 
<_プー゚)フ(やっぱ、そのほうがいいよね。こっちも、打ってて楽しいし)
 
 芽院高校の椎名が、明るさを取り戻しているように見えた。
 それが、江楠の気分までも明るくしていた。
 
<_プー゚)フ(よし、テンパイ)
 
<_プー゚)フ「立直」
 
 江楠がタッチパネルを軽く叩く。
 十巡目にして、五萬と八萬を待つ形で立直をかけた。
 
<_プー゚)フ(一発、もしくはツモ和了りなら6000点だ)
 
<_プー゚)フ(肯綮高校を抜いて、トップを奪い返――――)
 
(*゚ー゚)「チー」
 
<_プー゚)フ「!」
 
 朗らかな声で椎名が宣言した。
 江楠が横向きに捨てた牌を、そのままチーしたのだ。

534第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:50:28 ID:CUmEQ.Hs0
<_プー゚)フ(そういや、この子は昨日も、親の立直相手に突っ張ってたっけ)
 
<_プー゚)フ(南場までのこの子なら降りてたかもしれないけど、自分を取り戻したみたいだね)
 
 昨日、映像で見ていた打ち筋に比べると、今日の椎名は明らかに降りるのが早かった。
 江楠は、そう感じていた。
 
<_プー゚)フ(しかし、ここで鳴いたってことは、もうテンパイしてる可能性が高そうだ)
 
<_プー゚)フ(追い抜かれて和了られたらショックだし、なんとか当たりを引きたいなぁ)
 
 江楠が山から牌を取って、表を見た。
 当たりの牌ではない三索を、いったん卓上に置いてから河へと置き直す。
 
 そこで、椎名の手牌が倒れた。
 
(*゚ー゚)「ロン」
 
<_プー゚)フ「!」
 
(*゚ー゚)「4000点です、すみません」
 
<_プー゚)フ「いやいや」
 
 あっさりとかわされ、江楠は苦笑することしかできなかった。
 追い抜かれたくないと思った直後に追い抜かれてしまったのだ。
 
 果敢な打ち筋を、取り戻しつつある。
 それを、江楠ははっきりと感じ取っていた。
 
<_プー゚)フ(敵に塩を送っちゃったみたいだ。大将の杉浦さんに怒られるかも)
 
<_プー゚)フ(いや、あの人もそういうとこあるし、大丈夫だな、きっと)
 
 供託された立直棒と合わせて、5000点が椎名に加算された。
 江楠にとっては手痛い失点。それでも、笑みを失うことはなかった。

535第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:52:44 ID:CUmEQ.Hs0
 
 
 ◇
 
 
( ^Д^)「打ち筋が変わってきたっすね」
 
(´・ω・`)「そうだね。戻ってきた、と言ったほうがいいかもしれないけど」
 
 初本と笑野はじっと戦況を見守っていた。
 先鋒戦は西二局に移っている。
 
( ^Д^)「これで52700点。二位に上がったっすね」
 
(´・ω・`)「なんとかトップを取ってくれたら嬉しいけど、どうかな」
 
 西二局は椎名が親番だった。
 場は緩やかに進行していき、ほとんど誰からの声も上がらないまま終盤へ。
 残り二巡ほどのところで、ようやく椎名がテンパイしたが、和了ることはできないまま流局となった。
 
(´・ω・`)「麦秋もテンパイしてたね。うちと麦秋が1500点ずつか」
 
( ^Д^)「麦秋の松中、今日は全然いいところがないっすね。一人沈みっすよ」
 
('A`)「昨日のほうが明らかにいい麻雀してましたよね」
 
 松中と中学時代の同級生である毒島が、二人の後ろから声を出す。
 初本と笑野が座るソファーのやや後方に椅子を置いてモニターを観ていた。
 
(´・ω・`)「松中くんは牌の巡りが悪いね。満貫に振り込んだのも不運だった」
 
( ^Д^)「あの単騎待ちは読めないっすよね」
 
('A`)「松中がもうちょっと頑張ってくれないと、うちとしても苦しいですね」
 
(´・ω・`)「欲を言えば、肯綮高校から点を取り返してほしいところだ」
 
 肯綮高校の盛岡は、先鋒戦で図抜けた実力を持っている、というわけでもなかった。
 満貫を和了ったのも、苦し紛れの単騎待ちがたまたま上手く嵌まっただけだ。
 ただ、いずれにせよ肯綮高校にリードされる展開は苦しい、と初本は考えていた。

536第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:55:07 ID:CUmEQ.Hs0
(´・ω・`)(副将戦までで試合を終わらせるには、三校それぞれからリードを奪う必要がある)
 
(´・ω・`)(麦秋だけに沈まれたんじゃ苦しいのは毒島の言うとおりだ)
 
(´・ω・`)(できればどこかが、肯綮高校を直撃する形で出和了りしてくれるといいんだけど)
 
 無論、それが椎名によるものであれば、芽院高校にとっては最善だった。
 
 西二局一本場は早々に麦秋高校がテンパイする形となった。
 松中はとにかく和了りを目指しており、鳴きを使った断幺九のみのテンパイ。
 そしてテンパイ後、しばらくしてから、狙っていた牌を自ら引き当てた。
 
 ドラが一枚絡んで麦秋高校は2300点を得る。
 芽院高校からすれば1100点を失う形となったが、ツモ和了りでは避けようもなかった。
 
 西三局はトップの肯綮高校が親番。
 盛岡は連荘を狙って鳴きを多用するが、一向聴で足が止まった。
 逆に、他の三校は次々にテンパイへと至る。
 
( ^Д^)「ラッキーっすね」
 
 そのまま流局になったのを見届けて、笑野はそう言った。
 肯綮高校に親番で稼がれるのは避けたい展開だったからだ。
 
(´・ω・`)「トップが3000点の失点。うちとしては助かったね」
 
( ^ω^)「試合はどうなってるんですかお?」
 
 離れたところで麻雀の入門本を読んでいた内藤がモニターに近寄ってきた。
 口には昨日コンビニで買ったチーズおかきを咥えている。
 
(´・ω・`)「いま椎名が逆転してトップだ。頑張ってくれてるよ」
 
( ^ω^)「おお、凄いですお!」
 
( ^Д^)「序盤はかなり厳しい戦いだったけど、巻き返してくれた。このままいってもらいたいとこだな」
 
( ^ω^)「しぃには頑張ってほしいですお!」
 
(´・ω・`)「もちろん、僕たちも頑張るよ。なんとか副将戦で終わらせないとね」

537第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:58:31 ID:CUmEQ.Hs0
 椎名の戦い様は、南場までに比べれば明らかに改善されている。
 このままなら逆転も可能かもしれない、とは初本も感じていた。
 
 調子を取り戻しつつある椎名に対する期待は大きい。
 しかしそれは、別の不安が大きいからこそでもあった。
 
 今の初本が、最も憂慮しているのは――――
 
('A`)「僕も次鋒戦、できる限り点を稼げるように頑張ります」
 
 ――――毒島のことだった。
 
 
 ◇
 
 
 西場も四局目に突入していた。
 
 親番は最下位の麦秋高校。
 松中は、自分の牌を見て思わず目を伏せた。
 
,(・)(・),(ここで連荘して稼ぎたいのに、この配牌はなぁ)
 
 五向聴からのスタートに、肩を落としかける松中。
 それでも気丈に、北を切って自分の手番を待った。
 
,(・)(・),(ここのメンバーが強いのは分かってたけど、やっぱ昨日とは違うな)
 
,(・)(・),(緊張感もあるし、打ち手としては成長できそうな対局だけど、それにしても酷いやられ方だ)
 
,(・)(・),(せめて三位には上がらないと、次鋒戦以降がキツイよ)
 
 この大会では順位によるポイントの減算がある。
 四位より三位、三位より二位のほうが明らかに得なのだ。
 一つでも上に、と松中が考えるのは当然だった。

538第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:00:10 ID:CUmEQ.Hs0
,(・)(・),(それにしても、なんで芽院高校は先鋒と次鋒を入れ替えてきたんだろ?)
 
,(・)(・),(てっきり今日も毒島との対局だと思ってたのに、想定が狂ったなぁ)
 
 無論、そんなことは最下位の言い訳にもならない。
 ただ、対局場に入った瞬間、松中の意識が戦いから一瞬逸れたのも事実だった。
 
,(・)(・),(そういや肯綮高校も、今日はオーダーの変更があったみたいだ)
 
,(・)(・),(この盛岡って人は確か、次鋒戦で打ってたよなぁ)
 
 各校にそれぞれの戦略がある。
 意図までは探れないと分かっていても、松中の頭の中は思考が駆け巡っていた。
 
(*゚ー゚)「ポン」
 
 松中が九萬を捨てたところで、芽院高校の椎名が鳴いた。
 その表情は、前半戦に比べると明らかに輝きが違った。
 
,(・)(・),(やっぱこの子可愛いなぁ。うちにもこんな子が入部してこないかなぁ)
 
,(・)(・),(いや、駄目だ。ちゃんと対局に集中しないと)
 
 軽く頭を振って、河を見つめる。
 十二巡目だが、松中から見る限り、今のところは危険な気配もなかった。
 
 ただ、松中の身体が強張ったのは、陶冶高校の江楠が九索を捨てたときだった。
 
(*゚ー゚)「ポン」
 
,(・)(・),「!」
 
 椎名が再びの副露。
 しかもこれで、九萬と九索の刻子を完成させたことになる。

539名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 17:02:28 ID:j3NHrQpE0
wktk

540第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:02:31 ID:CUmEQ.Hs0
,(・)(・),(やばいな。対々和狙いはほぼ間違いないと思うけど、問題は他の牌だ)
 
,(・)(・),(もし九筒の刻子まで完成させたら三色同刻。字牌もあんまり捨ててないから、混老頭まで可能性がある)
 
,(・)(・),(さすがに清老頭まではないと思うけど、対々和、三色同刻、混老頭でも跳満だ)
 
 跳満に振り込めば12000点を失う。
 最下位に沈んでいる麦秋高校にとっては致命傷となりかねなかった。
 
 松中は、すぐに現物の四萬を切った。
 
,(・)(・),(降りよう。親番は惜しいけど、ここは絶対に振り込んじゃいけない)
 
 仮に混老頭狙いならば、字牌と一九牌さえ切らなければ放銃する恐れはない。
 そして松中の手牌には、現物を含む中張牌がいくつもあった。
 
,(・)(・),(混老頭なしだと中張牌でも振り込むかもしれないけど、跳満に振り込むよりはマシだ)
 
 跳満ならツモ和了りでも6000点を失うが、それは避けようがない。
 とにかく、放銃しないことに専念すべきだ、と松中は即座に判断していた。
 
 肯綮高校も陶冶高校も明らかに降りる気配を見せ、場は静かに進んでいった。
 椎名が山から牌を取るたびに松中の心臓は鼓動を速めたが、椎名が手牌を押し倒すことはない。
 
 やがて、最後の牌が捨てられても、椎名から声が上がることはなかった。
 
(*゚ー゚)「テンパイです」
 
,(・)(・),(う、わ)
 
 椎名の手牌を見た瞬間、松中は思わず呻きかけた。
 既に三色同刻は完成しており、最後は西と南で待つ形だった。
 もし西家の椎名が西で和了っていたら、その手は倍満にまで発展していたのだ。
 
 親番が手から離れたことを悔やむよりも、失点しなかったことに安堵すべきだ。
 松中はそう気持ちを切り替え、最後の北場に臨んだ。

541名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 17:04:16 ID:xqUTUZmw0
あとで読みます!
支援!!!

542第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:04:50 ID:CUmEQ.Hs0
 
 
 ◇
 
 
 先鋒戦が北入したとき、時計の針はおよそ十時半を示していた。
 
(´・ω・`)「毒島、ご飯食べなくて大丈夫?」
 
('A`)「はい。次鋒戦が終わってから食べます」
 
 次鋒戦は正午を跨ぐことになりそうだった。
 先に食べておいたほうがいいかもしれない、と初本は思ったが、昼食を取るには微妙な時間でもあった。
 
( ^Д^)「ま、朝飯も食べたんだし、大丈夫じゃないっすか?」
 
(´・ω・`)「それもそうだね」
 
 伊藤は机に伏せて眠っており、内藤は時々眠気に襲われながらも入門本を読んでいる。
 控え室内は静かなものだった。
 
( ^Д^)「それにしても、さっきの椎名は惜しかったっすね」
 
(´・ω・`)「見てるこっちがドキドキしたよ」
 
 安い手で和了ることの多い椎名が、珍しく倍満まで狙える手を作っていた。
 もし和了っていたら、二位に大差をつけてトップを確たるものにしていたところだ。
 
 テンパイした時点で山に眠っていた西は一枚、南は二枚で、当たり牌は合計三枚だった。
 あまり期待しすぎないほうがいい、とは初本も笑野も考えていたが、それでも和了りを願った。
 倍満で16000点を得ていれば、今後の戦いが相当楽になるためだ。
 
('A`)「跳満でも充分でしたけど、ほんと惜しかったですね」
 
(´・ω・`)「まぁ、とりあえず3000点は得られたわけだし、それで良しとしよう」
 
 西場は椎名が上手く立ち回り、遂にトップに立った。
 芽院高校が西場でおよそ一万点を稼ぎ、57100点。それに次ぐ肯綮高校は西場で加点が一切なく、50900点。
 三位の陶冶高校が47700点、四位の麦秋高校が44300点となっている。

543第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:06:39 ID:CUmEQ.Hs0
( ^Д^)「このまま終わってくれれば、先鋒戦としては大満足っすね」
 
(´・ω・`)「そうだね」
 
 初本の同意は本音だった。
 しかし、このまますんなりとは終わってくれなさそうだ、という曖昧な予感もあった。
 
 特に、西場でいいところがなかった肯綮高校の盛岡を、初本は不気味に思っていた。
 
 
 ◇
 
 
 北一局、盛岡は三巡目で中をポンした。
 
(´・_ゝ・`)(よし、いい感じだ)
 
 早くも役がついた。
 この場は陶冶高校の親を流すためにも、なるべく早く和了っておきたい、と盛岡は考えていた。
 
(´・_ゝ・`)(西場はかなり苦しい戦いだった。このままじゃ士気が下がる)
 
(´・_ゝ・`)(何でもいいからまずは和了って、自分の士気を高めないと)
 
 その後も盛岡は鳴いて手を進める。
 役牌がある以上、もはや鳴けるのであればどんな形でもいい、という意識だ。
 幸いにもドラが一つあるため、最低でも2000点は得られる状況だった。
 
 七巡目にテンパイし、八巡目のツモ牌は手牌と共に奥へと倒す。
 
(´・_ゝ・`)「ツモ。役牌、ドラ1」
 
 狙ったとおりに和了ることができた。
 満足感を飲み込むように、ペットボトルのコーヒーを流し込む。

544第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:08:18 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)(大将の水戸さんには、もう少し手を高めたほうがいいって言われるかもしれないけど)
 
(´・_ゝ・`)(いいんだ。ここは、これで充分だ)
 
 陶冶高校の江楠は掴みどころがないようにも見えるが、安定した実力を持っている。
 連荘されると手がつけられなくなるかもしれない、と盛岡は考えていた。
 だからこそ、親を流すことには拘った。
 
 そして、北二局はトップの芽院高校が親番。
 ここも、素早く流してしまうことを盛岡は狙っていた。
 
 ただ、南場までの椎名と西場からの椎名は、まるで別人のように打ち筋が変わった。
 今は生き生きとして打っている、一筋縄ではいかないかもしれない、というのが盛岡の抱いた印象だった。
 
(´・_ゝ・`)(だからこそ、ここも連荘されたくないんだ)
 
 配牌は二向聴。
 先ほどのようなスピードは出せなくとも、和了れる可能性は低くない、と盛岡は見ていた。
 
 しかし、六巡目にして早くも場が動いた。
 
,(・)(・),「立直」
 
(´・_ゝ・`)「!」
 
 最下位の松中が立直をかけた。
 手出しが多いとは盛岡も感じていたが、牌の配りも引きも良かったということになる。
 
(´・_ゝ・`)(どうする、和了りを目指すか?)
 
(´・_ゝ・`)(いや、ここは親が流れてくれれば充分。最下位の麦秋高校が和了るならそれでもいいや)
 
 尤も、六巡目では安牌の判断も難しかった。
 盛岡は回し打ちしながら、場の行方を見守る。
 椎名と江楠も明確に降りているような気配はまだなかった。

545第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:09:48 ID:CUmEQ.Hs0
 十巡目まで進んだが、盛岡はまだ一向聴だった。
 いつでもベタオリに回る準備はできていたが、どうせなら和了りを、という気持ちも捨てきれないでいる。
 
 十一巡目、盛岡は五筒を引いた。
 これでテンパイ。ただ、立直をかけなければ役がなかった。
 
 立直さえかけてしまえば、ドラが二つあるため、和了りで4000点が得られる。
 一発、ツモ和了り、裏ドラのいずれかで満貫。重複して跳満まで膨らむ可能性もあった。
 
 幾許かの逡巡の末、盛岡は口を開く。
 
(´・_ゝ・`)「立直」
 
 追っかけ立直を仕掛けた。
 これでもう、盛岡の逃げ場はない。
 肚は逡巡の間に決めていた。
 
 しかし、次の上家の手番で発された言葉に、盛岡は驚かされる。
 
(*゚ー゚)「立直です」
 
(´・_ゝ・`)「!」
 
 盛岡の想定から完全に外れていた事態。
 芽院高校の椎名までもが立直をかけた。
 
(´・_ゝ・`)(いいね。嫌いじゃないよ、そういうの)
 
 これで三人が立直。
 四家立直での途中流局もないため、恐らくは誰かが和了るだろう、と盛岡は感じた。
 
 そしてその予感は、当たっていた。
 しかし、最も意外なところで牌は仰向けとなる。

546第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:12:06 ID:CUmEQ.Hs0
<_プー゚)フ「ツモ」
 
 立直していた三人が、一斉に江楠を見た。
 まさか、という思いだった。
 
雀卓「北家、ツモです。一気通貫、混一色。三飜、1000・2000です」
 
 四人の中で唯一、立直をかけていなかった江楠が和了。
 立直をかけていた三人は全員、目を丸くした。
 
(´・_ゝ・`)(立直した後は捨て牌しか見てなかったけど、てっきり降りてるもんだと思ってたよ)
 
(´・_ゝ・`)(しかも、この和了形は回し打ちじゃない。ずっと和了りを狙ってたんだ)
 
(´・_ゝ・`)(僕たちは全員、ノーガードの殴り合いをしてたんだな)
 
 盛岡は思わず苦笑しそうになった。
 いかに先鋒戦とはいえ、全員がここまで愚直に和了りを目指せることも早々ない。
 全国行きを賭けた決勝戦とは思えない、とさえ盛岡は感じていた。
 
 だからこそ、楽しんで打てているのだ、とも。
 
(´・_ゝ・`)(いい面子に恵まれたなぁ)
 
(´・_ゝ・`)(こういう人たちの中でトップに立てたら、喜びも格別だな、きっと)
 
 目指すところは、先鋒戦の首位。
 それは最初からずっと、変わっていなかった。
 
 北二局は、結果的に親を流したいという盛岡の狙いは達成された。
 北三局、ようやく盛岡の親番が回ってくる。

547第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:15:53 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)(北一局で稼いだ2000点を、北二局でそのまま失ってしまった)
 
(´・_ゝ・`)(今は僅差で陶冶高校が首位。僕は三位転落)
 
(´・_ゝ・`)(後ろの人たちが何とかしてくれるとは思うけど、少しでも点は稼いでおきたいところだ)
 
 力強く前を見据えて、盛岡は配牌を確認した。
 それを見て心が躍り、すぐさま、牌を掴んで横向きに捨てる。
 
(´・_ゝ・`)「立直」
 
 幸運に恵まれた。
 盛岡は、両立直を仕掛けることができた。
 
(´・_ゝ・`)(ラッキー。役が他にないのは残念だけど、裏ドラに期待だな)
 
 他家は通常どおり打ち進めていく。
 両立直が相手では安牌の判断もほとんどつかないためだ。
 
 五巡目、盛岡の手に望んでいた牌が舞い込む。
 
(´・_ゝ・`)「ツモ、2000オール」
 
 手牌を倒してすぐ盛岡は手元のタッチパネルを確認したが、裏ドラは乗らなかった。
 しかし、6000点を得て連荘できただけでも良しとすべきだった。
 
 北三局の和了で、肯綮高校が首位を奪還。
 親番続行で、北三局は一本場へと移る。
 
 だが、ここは打って変わって、盛岡にとっては苦しい場となった。

548第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:17:34 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)(うわ、キツイな)
 
 配牌が六向聴。
 しかも、面子を作りやすい中張牌があまりなかった。
 かといって、幺九牌だけで構成する役が狙いやすい形とも言えなかった。
 
(´・_ゝ・`)(かなりバラバラ。あんまり無理しないほうがいいかも)
 
 親番は大事にしたいが、無理に突っ張るべきではない。
 盛岡にとっては、できればテンパイまでは手を進めて、連荘の目を残したいところだった。
 
(´・_ゝ・`)(形聴でもいいから、とにかく形を作っていこう)
 
 そう考えていたが、十巡目にして、盛岡は連荘を諦めることとなる。
 
,(・)(・),「立直」
 
(´・_ゝ・`)(やばっ)
 
 最下位の麦秋高校、松中が立直。
 盛岡も、松中の手が進んでいることは感じていた。
 そしてそれが、決して安い手ではないだろう、ということも。
 
(´・_ゝ・`)(染め手っぽい。索子は捨てないほうが良さそうだな)
 
 河からそう判断し、盛岡はベタオリを選択した。
 三向聴からではどうしようもない、と考えたためだ。
 
 椎名と江楠が盛岡と同様に降りて、松中が当たりを引くこともないまま進行していく。
 やがて山が王牌のみとなっても、松中からツモ、ロンの発声がなされることはなかった。
 
,(・)(・),「テンパイ」
 
 松中が溜め息を吐きながら手牌を公にした。
 盛岡の思ったとおり、索子で染まっている。
 混一色と一盃口にドラが絡んで、和了っていれば跳満となっていた手だ。

549第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:19:33 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)(ツモ和了りかトップ直撃のロン和了りで逆転首位になれたんだな)
 
(´・_ゝ・`)(悔しいだろうけど、そういうこともよくあるのが、麻雀だ)
 
 最善を尽くしたとしても望んだ結果が得られるとは限らない。
 最悪の一手を放ったあとでも望外の結末を迎えられることもある。
 それが、麻雀だった。
 
 だからこそ楽しいのだ、とも盛岡は思っていた。
 
(´・_ゝ・`)(さぁ、オーラスだ)
 
 この楽しい時間も、あと僅か。
 最後まで全力で楽しもう。そう思って、盛岡は拳に力を込めた。
 
 
 ◇
 
 
 先鋒戦もいよいよ北四局を残すのみとなった。
 
( ^Д^)「椎名、ここまでよく頑張ってるっすね」
 
(´・ω・`)「ほんとにね。頭の下がる思いだよ」
 
 芽院高校は現在三位。
 トップとの差は5300点だが、二位との差は僅か100点だった。
 
 ポイントの減算がある三位ではなく、できれば二位に上がってほしい。
 そういう思いも初本と笑野にはあったが、それよりも、今は放銃に留意してほしいと考えていた。

550第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:20:54 ID:CUmEQ.Hs0
(´・ω・`)「テンパイしてれば流局でも二位に上がれる可能性があるし、落ち着いて打ち進めてほしいね」
 
( ^Д^)「そうっすね。配牌も悪くないですし」
 
(´・ω・`)「和了って終わりならそれが一番だ。そういや、毒島は?」
 
( ^ω^)「トイレ済ませておきたいから早めに出るって言って、さっき行っちゃいましたお」
 
(´・ω・`)「そっか。厳しい戦いになるかもしれないけど、毒島には何とか頑張ってもらいたいところだ」
 
( ^Д^)「ん? 次鋒戦って、そんなに強敵揃いっすか?」
 
(´・ω・`)「いや、面子の実力はさほど高くない。普段の毒島なら充分トップを狙える相手だけど」
 
(´・ω・`)「ただ、僕が余計なことをしたせいで、毒島を窮地に追いやってしまった」
 
(;^Д^)「ん、ん? どういうことっすか?」
 
 初本は前傾姿勢になって嘆息を吐く。
 先鋒戦が始まる前になって配られた、各校のオーダー表をポケットから取り出しながら。
 
(´・ω・`)「今日、椎名と毒島の順番を入れ替えただろう?」
 
( ^Д^)「そうっすね。椎名のほうが実力的に劣るから、相手の軽そうな先鋒戦に出したほうがいいってことっすよね?」
 
(´・ω・`)「それも一つ。ただ、最大の理由は、肯綮高校の先鋒だったんだ」
 
( ^Д^)「ん? 昨日の肯綮高校の先鋒って、誰でしたっけ?」
 
(´・ω・`)「一年生の渡辺彩」
 
(;^Д^)「あっ!!」
 
(;^ω^)「お!?」
 
 二人とも、すぐに気が付いた。
 事態の深刻さに。

551第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:23:20 ID:CUmEQ.Hs0
(;^Д^)「マジっすか!? やばいっすよ!!」
 
(;^ω^)「それは駄目ですお! 絶対に駄目ですお!」
 
(´・ω・`)「うん。本当にまずいんだ。まさか、肯綮高校もオーダーを変えてくるなんて思わなくて」
 
(;^Д^)「いや、初本さんの判断は正しいっすよ。それはしょうがないっすけど」
 
(;^ω^)「でも絶対にやばいですお。毒島は絶体絶命ですお」
 
(;^Д^)「先に言っといたほうが良かったんじゃないっすか? 毒島、多分何にも知らないっすよ」
 
(´・ω・`)「それも考えたんだけど、言った時点からずっと緊張するよりはいいかなと思って」
 
(;^Д^)「うーん、確かに。でも微妙なとこっすね」
 
(;^ω^)「多分、対局場に入ったらびっくりして動揺しまくると思いますお」
 
(´・ω・`)「そうだね。実は、うちの部員たちで打ってたときも、最初はそうだった」
 
(´・ω・`)「毒島は、椎名がいるとほとんどまともに打てなかったんだ」
 
 毒島の入部は、椎名から遅れること数日。
 男しかいないだろうと油断していた毒島は、椎名の存在に、怯えさえ抱いていた。
 
 一緒に卓を囲むだけで視線は泳ぎ、気は漫ろ。
 麻雀に全く集中できておらず、何度も最下位を繰り返した。
 特に、椎名が当たり牌を捨ててもロンの発声が出来なかったのは致命的だった。
 
(´・ω・`)「椎名のときは、一ヶ月くらいで何とか慣れてくれたけどね」
 
(;^Д^)「今度は初対面の相手。絶対やばいっす」
 
(´・ω・`)「椎名に慣れれたのも、椎名が普段から話しかけててくれたからこそだしね」
 
(;^ω^)「クラスの女子相手には今でも『あ』と『うん』しか言えないんですお。重症ですお」
 
(´・ω・`)「不安だらけだけど、今更オーダーの変更はできない。とにかく、頑張ってもらうしかない」
 
 初本は祈るようにそう言った。
 県大会でのオーダー変更など滅多にあることではない。それが、今回に限って起きた。
 肯綮高校の意図は初本には分からないが、不運としか言いようがなかった。

552第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:25:02 ID:CUmEQ.Hs0
 この決勝戦は副将戦までに終わらせなければならない。
 大将の内藤は、途轍もないポテンシャルを秘めてはいるが、今はただの素人だ。
 耳の力も、知識がなければほとんど役に立たない。
 
(´・ω・`)(だからこそ、できれば)
 
 椎名に、先鋒戦で稼いでもらいたかった。
 ここまで健闘している。多くを望みすぎるべきではない。
 分かっていても、初本は願っていた。
 
 先鋒戦の北四局は七巡目。
 椎名の手は、一向聴まで進んでいた。
 
 
 ◇
 
 
 八巡目、山から引いた一萬を椎名はすぐさま河に置いた。
 
(*゚ー゚)(二萬だったら良かったのに、惜しいなぁ)
 
 打牌の音が重なっていく。
 他家がテンパイに至っているのかどうか、椎名は読めなかった。
 ただ、ここ二巡ほど誰も手出しはしていない。
 
 椎名の手牌の左端には、三萬が一枚、四萬が二枚、五萬が一枚あった。
 面子が作れる可能性は高い形だった。
 
(*゚ー゚)(こういうのなんていうんだっけ。中ぶくれだっけ)
 
(*゚ー゚)(この形は好形だから大事にしたほうがいいって、初本さんが教えてくれたなぁ)
 
 それを初本から聞いていなければ、早い段階で四萬を切っていたかもしれない。
 まだ初心者に近く、待ちの効率もあまり分からない椎名だが、初本は着実に成長させようと少しずつ知識を教えていた。

553第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:27:46 ID:CUmEQ.Hs0
 断幺九狙いで既に鳴いている椎名は立直がかけられない。
 ただ、チーで作った順子にドラの六筒が入っているため、和了れば二飜はつく状態だった。
 
(*゚ー゚)(私はいま三位、だけどここで和了れれば二位にはなれる)
 
(*゚ー゚)(ポイント計算のことを考えると、絶対三位は抜け出したい!)
 
(*゚ー゚)(みんなで、全国へ行くために!)
 
 入部したときから、何かと椎名のことを気にかけてくれていた初本が、引退を控えている。
 今日、ここで全国への道が途絶えれば、それは即座に現実のものとなってしまうのだ。
 
(*゚ー゚)(まだ、初本さんが作ってくれる空気を味わっていたいよ)
 
(*゚ー゚)(その空間こそが、今の私の居場所だから)
 
 いつか初本が引退する日は必ず訪れる。
 引退後は恐らく笑野が部長となり、新しい麻雀部が作られていく。
 それはそれで、きっと楽しい空間だろうと、椎名も分かってはいるのだ。
 
 しかし、初めて見つけた居場所は、やはり特別だった。
 
(*゚ー゚)(五筒かぁ、外れだなぁ)
 
 九巡目も手が進まなかった。
 しかし、この時点ではまだ、椎名に焦りはなかった。
 
 焦燥と動揺が同時に押し寄せたのは、盛岡が横向きに打牌したときだった。
 
(´・_ゝ・`)「立直」
 
(;゚ー゚)(わっ、先越されちゃった)
 
 トップの肯綮高校が立直。
 椎名にとっては苦しい展開だった。
 
 それでも、焦燥と動揺は瞬時に払いのけた。

554第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:30:02 ID:CUmEQ.Hs0
(*゚ー゚)(相手の点数は分からないけど、ここは絶対降りない)
 
(*゚ー゚)(私も和了りたいし、少しでもポイント稼ぎたいもん!)
 
 チームのために、そして、自分のために。
 椎名は、最後まで突っ張ることを決めた。
 
 その強い決意に、ツモ牌が応える。
 
(*゚ー゚)(やった、六萬だ!)
 
 これで椎名もテンパイ。
 あとは、どちらが先に栄光を手にするか、だった。
 
(*゚ー゚)(えーっと、この形だと二萬と五萬で和了りだよね)
 
(*゚ー゚)(河にはどっちもないから、当たりは七枚かな?)
 
(*゚ー゚)(よく分かんないから計算はいいや、とにかく和了れますように!)
 
 南場までの自分を忘れたかのように、椎名は生き生きとして打っていた。
 和了りを目指しているときがやはり楽しいと思い出して。
 
 そして、最も楽しい瞬間が訪れる。
 
(*゚ー゚)「ロン!」
 
 十二巡目、肯綮高校の盛岡が五萬を捨てた瞬間に椎名は声を上げた。
 盛岡は堪らず目を伏せる。
 
雀卓「西家、ロンです。断幺九、ドラ1。二飜、2000です」
 
 椎名は軽く顎と目線を上げて、溜まったものを放出するように息を吐いた。
 その先に見えるものが何なのか、はっきりと意識することもないまま。
 
 先鋒戦が終了。
 オーラスでは立直棒の供託もあったため、僅差で芽院高校が逆転を果たした。
 
 最終的な得点は、芽院高校が53600点、肯綮高校が52900点、陶冶高校が50700点、麦秋高校が42800点。
 各校の獲得ポイントは、芽院高校が100ポイント、肯綮高校が98ポイント、陶冶高校が89ポイント、麦秋高校が69ポイントとなった。

555第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:32:36 ID:CUmEQ.Hs0
<_プー゚)フ「ありがとー、楽しかったよ」
 
(*゚ー゚)「こちらこそ!」
 
(´・_ゝ・`)「また打てたらいいね」
 
(*゚ー゚)「はい、楽しみにしてます!」
 
,(・)(・),「今度はリベンジします」
 
(*゚ー゚)「私だって負けないよー!」
 
 それぞれが椎名に一言、声をかけてから対局場を去って行った。
 椎名はペットボトルの紅茶を二口ほど飲んでから、しっかりとした足取りで出入り口へ向かう。
 
 廊下には既に肯綮高校、陶冶高校、麦秋高校の次鋒が揃っていた。
 ただ、毒島の姿だけがそこにない。
 
(*゚ー゚)(あれ? ドっくんどうしたんだろ?)
 
 次鋒戦の開始まではまだ少し時間がある。
 焦る必要はないものの、理由が分からず椎名は首を傾げた。
 
(*゚ー゚)(ま、出番のこと忘れてるわけないし、大丈夫かな)
 
(*゚ー゚)(控え室に戻る前にトイレいっとこっと)
 
 椎名が小走りでトイレへと向かう。
 休憩時間は席を立つ気にもなれず、しばらくトイレには行っていなかったのだ。
 尤も、そのおかげで陶冶高校の江楠と会話でき、復調のきっかけを掴むこともできた。
 
 トイレの入り口が椎名の視界に入ったあたりで、毒島の姿も同時に見えた。
 
(*゚ー゚)「ドっくん!」
 
('A`;)「あ、椎名さん」
 
(゚A゚;)「うおぁ!」

556第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:35:11 ID:CUmEQ.Hs0
 毒島に駆け寄り、椎名が毒島の両手を握りしめた。
 そして大きく手を上下させる。
 
(*゚ー゚)「勝ったよ! なんとか一位取れた!」
 
(゚A゚;)(手! 手! 手!)
 
(*゚ー゚)「ほんとはもうちょっと点差つけれたら良かったんだけど、私にはこれが精一杯かな」
 
(*゚ー゚)「でも大丈夫だよね、ドっくんも初本さんも笑野さんもいるし! 全国行けるよね!」
 
(゚A゚;)「そ、そうだね。なんとかして副将戦までで終わらせられるように、頑張るよ」
 
(*゚ー゚)「うん! 私も控え室で応援してるから、頑張ってね!」
 
 椎名は毒島の手から両手を離し、そのまま大きく振って笑顔のままトイレへと消えていく。
 毒島は背中に汗をかいていた。
 
('A`;)(椎名さんって、誰にでも分け隔てなくああいう風に接せるから、凄いよなぁ)
 
('A`;)(前世はマザー・テレサかナイチンゲールかなぁ)
 
 両手に感覚を残したまま、毒島は対局場へと向かう。
 次鋒戦は先鋒戦が終わってから十分後に始まることとなっている。
 
('A`)(もう少し時間あるかな)
 
 途中、自動販売機に寄って、ポカリスウェットを購入した。
 商品口から左手でペットボトルを取り出し、再び対局場へと足を向ける。
 
('A`)(椎名さん、俺が観てたときはトップとけっこう点差あったのに、逆転してくれたんだな)
 
('A`)(二位とのポイント差は分からないけど、次鋒戦でも100ポイントは絶対確保だ)
 
('A`)(そのうえで、二位以下にどれだけポイント差をつけられるか、だな)

557第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:38:25 ID:CUmEQ.Hs0
 気負いすぎることもなく、程よい緊張感を保って毒島は次鋒戦に臨もうとしていた。
 目指すべきものも、見失うことはないまま。
 
 自動販売機の設置場所から歩いて数十秒ほどで、毒島は対局場の前に到着した。
 
('A`)(他の人たちは、もう対局場に入ったみたいだな)
 
 入り口の外に誰も居ないのを見て、毒島はそう思った。
 次鋒戦の幕を開くように、毒島は扉を押して部屋へと入る。
 他校の三人は既に着座していた。
 
 それを見た瞬間、毒島の左手からペットボトルが滑り落ちる。
 
从'ー'从「よろしく~」
 
 緩やかな調子の声で、そう挨拶している。
 肯綮高校の次鋒。
 
(゚A゚;)(お、お、女の子!?)
 
(゚A゚;)(え、え、えええ!?)
 
 想定外の出来事に、毒島は固まってしまった。
 直後、部屋に入ってきた係員に、着座するよう促される。
 
(゚A゚;)「す、すみません」
 
 慌ててペットボトルを拾って席に座る。
 肯綮高校の渡辺は、毒島の上家だった。
 
(゚A゚;)(そ、そういや昨日、駅で見たとき、この子もいたっけ)
 
(゚A゚;)(でも次鋒だなんて知らなかった! 初本さんも教えてくれなかったし!)
 
(゚A゚;)(ど、ど、どうしよう! 怖い! 怖すぎる!)
 
 毒島の頭の中を混乱が埋め尽くす。
 そんなことを知る由もない渡辺は、軽く鼻歌を口ずさみながら試合開始を待っていた。

558名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 17:39:44 ID:j3NHrQpE0
ドクオwwww

559第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:40:44 ID:CUmEQ.Hs0
/^o^\(なんか芽院高校の人が、やけに動揺しているような?)
 
/^o^\(緊張してんのかな?)
 
( ・3・)(昨日のカワイコちゃんじゃなくて、今日は根暗そうな男だNE)
 
( ・3・)(でもま、肯綮高校の渡辺って子もなかなか可愛いから良しとするYO)
 
 それぞれがそれぞれを観察し終えた頃、試合開始の合図が鳴った。
 起家は麦秋高校の簿留だった。
 
(゚A゚;)(やばい、どうしよう)
 
(゚A゚;)(全然麻雀に集中できない。牌が見えない)
 
(゚A゚;)(こんな空間にあと一時間以上いなきゃいけないなんて、生き地獄すぎる!)
 
 毒島の恐怖と動揺をよそに、東一局は淡々と場が進んでいった。
 動きがあったのは八巡目。芽院高校の毒島が三索を捨てたときだった。
 
从'ー'从「あ~、それポンします~」
 
(゚A゚;)「あ! は、はい!」
 
从'ー'从「ありがとね~」
 
 気の抜けるような声で渡辺がポンを宣言。
 その副露を見て、簿留は思わず舌打ちしかけた。
 
( ・3・)(ドラをポンされちったYO。もし和了られたらキツイNE)
 
( ・3・)(芽院もどうせなら最後まで抱えててくれればいいのにNE)
 
 渡辺の手がかなり進んでいる気配もある。
 ここは無難に打ち進めたほうが良さそうだ、と簿留は感じていた。

560第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:43:39 ID:CUmEQ.Hs0
 十二巡目、簿留は捨て牌に少し悩んだ。
 渡辺がテンパイしていることを考えれば、危険な牌は切れないためだ。
 
( ・3・)(ベタオリはまだしたくないYO。索子の染め手っぽいから、とりあえず萬子を切っておくYO)
 
 八萬を切ってその場を凌ぐ。
 簿留は一向聴だが、和了りの待ちは愚形になることが分かっていた。
 和了りを目指すよりも、渡辺に振り込まないことを目指すべきだ、と考えていたのだ。
 
 そして十四巡目、毒島が手出ししたとき、渡辺の牌が倒される。
 簿留は安堵したが、毒島は目を丸くしていた。
 
从'ー'从「ロンだよ~。え~っと、三飜で4000かな~?」
 
(;・3・)「いや、跳満だYO!」
 
从'ー'从「あ~、ドラがあったんだった~。忘れてた~」
 
(゚A゚;)(や、やっべぇぇぇぇぇ!!)
 
 役牌と混一色にドラが三つ。
 跳満となり、毒島は、いきなり12000点を失った。
 
(゚A゚;)(い、いきなり跳満に振り込むなんて、何やってんだ俺は!)
 
(゚A゚;)(ぜ、絶対勝たなきゃいけない勝負なのに!)
 
 女子がいようとも麻雀には関係ない。
 いつもどおりに打てばいい。
 
 毒島は、言葉として頭に思い浮かべることはできていた。
 ただ、それが毒島のなかに全く浸透していかないのだ。
 
 毒島の両手は、小刻みに震えていた。

561第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:45:26 ID:CUmEQ.Hs0
(゚A゚;)(と、とにかく点を取り返さなきゃ)
 
(゚A゚;)(いつものように、平常心で打てばいいんだ)
 
(゚A゚;)(大丈夫、きっと、やれるはず)
 
 言葉は、あまりにも虚しく空回りしていた。
 
 
 ◇
 
 
 急須から緑茶を淹れると、まるで寒い日の吐息のように湯呑から湯気が立った。
 それを水戸は右手で掴み、口元に運んで慎重に傾ける。
 左手はずっと、力なく垂れ下がったままだった。
 
(‘_L’)「いいスタートを切りましたね、渡辺さんは」
 
/ ゚、。 /「いきなり跳満なんて、期待以上だね」
 
 水戸が音を立てて緑茶を啜った。
 急須の取っ手を軽く握って鈴木にも勧めるが、鈴木は首を横に振る。
 
/ ゚、。 /「この時期に熱い緑茶なんて理解できない」
 
(‘_L’)「そうですか」
 
 好きなもの、嫌いなものは人によって様々だ。
 そして、得意なもの、苦手なものも。

562第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:48:17 ID:CUmEQ.Hs0
/ ゚、。 /「それにしても芽院の毒島って子、かなり無警戒だったね」
 
/ ゚、。 /「渡辺は明らかに染め手。索子を切るにしても筋なら放銃は避けられたのに、なんで筋を切らなかったんだろ?」
 
/ ゚、。 /「筋を理解してないとか?」
 
(‘_L’)「いえ、昨日の試合を見た限りでは、そういうわけでもなさそうです」
 
(‘_L’)「ただ、昨日に比べると明らかに様子が変ですね。心ここに在らず、といった感じです」
 
/ ゚、。 /「なんでだろ? 体調でも悪いとか?」
 
(‘_L’)「そうかもしれません。ただ、頻りに上家を気にしているようにも見えますね」
 
/ ゚、。 /「上家って、うちの渡辺だよね。なんでだろ?」
 
(‘_L’)「例えば、異性が苦手、とか」
 
/ ゚、。 /「まさか」
 
 女性にあまり慣れていないというのも、高校生であれば珍しい話でもなかった。
 しかし中には、女性に対するトラウマのようなものまで抱いている者もいるかもしれない、というのが水戸の意見だ。
 もしそうであれば、上手く打てなくなっているとしても合点がいく。
 
(‘_L’)「まぁ、可能性の一つに過ぎない話です。渡辺さんに一目惚れしてしまったとか、実は過去に会ったことがあるとか、そういうことも考えられます」
 
/ ゚、。 /「もし渡辺の影響だとしたら、オーダー変更は大正解だったね」
 
(‘_L’)「えぇ。本当は、渡辺さんと芽院高校の椎名さんをぶつけるためだったのですが」
 
/ ゚、。 /「あの子、かなり可愛いもんね」
 
(‘_L’)「大抵の男子は、気が漫ろになるでしょう。女性同士で戦わせるのがいい、と思ったのですが」
 
/ ゚、。 /「水戸は相手が絶世の美女でも平然としてそうだけどね。盛岡、どうだった?」
 
(´・_ゝ・`)「正直、確かに最初は少し緊張しました。徐々に慣れていけたとは思いますが」
 
 先鋒戦を終えた盛岡は控え室に戻っていた。
 トップは取れなかったが、僅差の二位。先鋒戦の結果としては上々だ、と水戸は考えていた。

563第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:51:59 ID:CUmEQ.Hs0
(‘_L’)「まぁ、毒島くんが対局に集中できていない理由が渡辺さんにあるとも限らないのですが」
 
/ ゚、。 /「単にお腹が痛いだけかもしれないしね」
 
(‘_L’)「えぇ。ただ、ひとつ確実に言えることは、他家の捨て牌もまともに見れない状態であるということ」
 
 水戸が再び湯呑を手に取る。
 軽く息を吹きかけ、ゆっくりと緑茶を口に含んだ。
 胸が、内側から熱くなる感覚を、水戸は堪能していた。
 
(‘_L’)「芽院高校から点を稼ぐなら、今が好機でしょうね」
 
/ ゚、。 /「だね」
 
(‘_L’)「できれば、根こそぎ奪ってしまいたいものです。点も、希望も、全国への切符も」
 
 湯呑を静かに置いて、水戸は再びモニターを観た。
 
 その瞳に、確かな情熱を宿しながら。
 全国への道程を見据えながら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第6話 終わり
 
     ~to be continued

564 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:54:05 ID:CUmEQ.Hs0
第6話は以上です、ありがとうございました

次話の投下は相変わらずの未定ですが、まったり頑張ります

565名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 17:55:55 ID:j3NHrQpE0
お疲れさま!
面白かったです!

566名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 17:56:59 ID:IWjQ.NVA0
乙です!
どうなっちゃうんだドックン・・・

567名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 19:08:11 ID:cgkFtl5s0
乙です!
ドックン頑張れ……!

568名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 20:25:33 ID:nof1nBrQ0


569名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 21:46:57 ID:A4nOHYV60

麻雀全く分かんないけど楽しめるわ

570名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 22:05:37 ID:eWRkrSnI0
ドックン…………

571名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 23:02:50 ID:CI1TwtnQ0
>>546
ツモ、イッツー、ホンイツってハネ満で3000,6000じゃね?
それともいつの間にか鳴いてた?

572名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 23:06:54 ID:YEn9uX8Q0
>>571
俺もそれ思ってたけど、描写がないけど鳴いたんだろう

573名も無きAAのようです:2015/04/12(日) 23:29:52 ID:maIbhfXI0
乙!!!

574 ◆azwd/t2EpE:2015/04/18(土) 10:35:01 ID:htV0/knY0
皆さんいつもありがとうございます

>>571-572
そうですね、ここは江楠の存在感を消したかったのであえて描写しなかったのですが、
実際には鳴いているので三飜という形です
分かりづらくてすみません

575名も無きAAのようです:2015/04/19(日) 12:04:42 ID:PEr0UW0M0
次の投下はいつですか?

576名も無きAAのようです:2015/04/19(日) 12:21:09 ID:Nm2SDkg60
>>574
鳴いても存在感ないってすごいな
読んでないけどそれはやりすぎでは?

577名も無きAAのようです:2015/04/19(日) 15:58:26 ID:nVLPqiME0
>>576
読者からってことじゃね?
某ステルスさんばりの能力ではないと信じたいw

578名も無きAAのようです:2015/04/24(金) 15:50:44 ID:uKwOUpfM0
三ー゚)フ「ステルスエクストの独壇場っすよ!」

579名も無きAAのようです:2015/05/02(土) 19:08:17 ID:Y643LnFg0
期待してます
支援

580 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:41:24 ID:xdkgJMfU0
これから第7話を投下します、よろしくお願いします

581名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 19:41:53 ID:XlwPns4I0
待ってた

582登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:43:36 ID:xdkgJMfU0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校
 
■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

583登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:44:36 ID:xdkgJMfU0
◇陶冶高校
 
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生

584名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 19:45:33 ID:IU9iRK3o0
きた!支援

585大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:45:57 ID:xdkgJMfU0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

586大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:47:03 ID:xdkgJMfU0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

587大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:49:20 ID:xdkgJMfU0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

588名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 19:52:17 ID:U/uimAys0
来たー!!!
待ってました!

589名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 20:00:13 ID:.UIPc2us0
キター!!
支援

590 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 20:05:37 ID:xdkgJMfU0
ごめんなさい、急用でちょっと中断…
後ほど投下再開します

591名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 21:19:59 ID:2KnJyqPQ0
支援

592 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:21:14 ID:xdkgJMfU0
すみませんでした、再開します

593第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:22:21 ID:xdkgJMfU0
【第7話:跳ね回る海底】
 
 
 前半戦が終わると同時に、毒島はすぐさま対局場から飛び出した。
 
('A`;)(や、やっと解放された)
 
 行く場所もなく、毒島は階段の踊り場まで走ってしゃがみこむ。
 窓から射し込む日差しは上階を照らしていた。
 
('A`;)(でも、また五分後に戻らないといけないなんて、辛すぎる)
 
('A`;)(なんで、こんなことに)
 
 毒島にも、想像はついていた。
 恐らく初本は、渡辺との対局を回避させるために、オーダーを変更したのだ、と。
 毒島の女性恐怖症を知っている初本が、わざと渡辺にぶつけるはずはなかった。
 
('A`;)(多分、向こうもオーダーを変更してきたんだ。だから、俺とあの子が当たってしまった)
 
('A`;)(それは分かるけど、こんな不幸が起きるなんて、ツイてなさすぎだろ!)
 
('A`;)(元々は俺が悪いんだけど、こんな事態がよりによって決勝で起きるなんて!)
 
 東場、南場が既に終わった。
 毒島が一度も和了れないまま。
 
 自分の手牌も、他家の捨て牌も、毒島はほとんど見えていなかった。
 振り込みは二度に留まったが、高い点の奪い合いに取り残されたことは事実だ。
 何よりも、前半戦終了時の点数が、それを物語っていた。
 
('A`;)(確か、俺の点数は26900点)
 
('A`;)(トップは63200点だっけ。倍以上の差がついちゃってる)
 
('A`;)(何とかして取り返さないと、みんなに迷惑がかかる! 何とかしないと!)
 
('A`;)(とりあえず、一度でもいいから和了ってリズムを取り戻すんだ!)
 
 階段を駆け下り、大きな音を立てながら廊下を走って毒島は対局場に戻った。
 他の三人は席に着いたままだ。

594第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:23:25 ID:xdkgJMfU0
 毒島は、意識して渡辺のほうを見ないようにしながら自席に腰掛けた。
 西場の開始を告げる合図が鳴る。
 
('A`;)(とにかく、和了るぞ!)
 
 動揺を残したまま、毒島が配牌を確認する。
 面子はあまりない。それくらいしか、今の毒島には判断できなかった。
 
 西一局は毒島が親番。
 点を取り返すためには、ここで少しでも長く連荘する必要がある。
 毒島は、その思いとは相反するように進まない手に焦りを感じていた。
 
 そして、他家から先に声が上がる。
 
从'ー'从「立直だよ~」
 
('A`;)(やばっ!)
 
 是が非でも連荘したい場で、先制立直をかけられた。
 毒島の手には汗が浮いている。
 
('A`;)(俺はまだ一向聴、追い抜いての和了りは難しいか?)
 
('A`;)(でも、ここは絶対に和了りたい。でも、振り込むわけにもいかないし)
 
 意思が定まらないまま手番を迎え、毒島は七萬を切った。
 和了りに向かうためとも言えない、放銃を避けるためとも言えない、半端な一手だった。
 
 幸いにも、その手で毒島が渡辺に振り込むことはなかった。
 しかしすぐさま、渡辺の手牌は公となる。
 
从'ー'从「一発だ~」
 
('A`;)「!」
 
从'ー'从「え~っと、満貫だよ~」
 
 立直、一発、平和、門前清自摸和。
 親の毒島は4000点を失うこととなった。

595第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:24:48 ID:xdkgJMfU0
('A`;)(連荘できなかった上にツモ和了りされた)
 
('A`;)(ヤバイ、どんどん点差が開いてく。早く取り返さないと!)
 
 焦燥は視界を曇らせる。
 そのことにも、今の毒島は気づけないでいた。
 
 
 ◇
 
 
 祈りと諦めと悔しさが入り混じった、不思議な気持ちで初本はモニターを観ていた。
 
(´・ω・`)「これで、トップとは五万点近い差か」
 
 ぽつりと呟く。
 隣に座る笑野は力なく頷いた。
 
(;^Д^)「厳しい戦いになるかもとは思いましたけど、想像以上っすね」
 
(´・ω・`)「そうだね。全体的に打点が高いことも相俟って、完全に一人沈みだ」
 
 西二局の親番は陶冶高校の富士。
 静かに場は進み、陶冶高校と麦秋高校のみテンパイで流局となった。
 
('、`*川「あいつの女性恐怖症、少しはマシになったんだと思ってました」
 
 眠りから目を覚ました伊藤が、起き抜けの声を出した。
 麻雀が分からない伊藤でも分かるほど、毒島とトップの点差は開いている。
 
('、`*川「変わってなかったんですね」
 
(´・ω・`)「やっぱり、初対面の相手はダメみたいだ。全く対局に集中できてない」
 
(;^Д^)「重症すぎるな」
 
(;゚ -゚)「ドっくん」
 
 先鋒戦を終えて控え室に戻ってきた椎名が不安げな声を漏らす。
 椎名は、誰よりもモニターに近い位置に座って戦況を見守っていた。

596第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:26:00 ID:xdkgJMfU0
(´・ω・`)「毒島は、麻雀の勉強よりも女性恐怖症の克服が最優先だね」
 
(;^Д^)「今後も女の子と当たる可能性はあるっすもんね」
 
(;^ω^)「でも、毒島の女性恐怖症って簡単には治らないと思いますお。女の子と遊んだこともないのに」
 
(;゚ー゚)「や、女の子と遊んだことはあるよ。っていうか、私だけど」
 
( ^ω^)「お!?」
 
(´・ω・`)「え、そうなの?」
 
('、`*川「二人で? 知らなかったんだけど」
 
(;゚ー゚)「あれ? 言ったことなかったっけ?」
 
(*゚ー゚)「遊んだっていうか、ドっくんの家で麻雀教えてもらって、帰りにちょっと買い物行ったくらいかな」
 
(;^Д^)「部屋で二人とか、そこまで経験してたら治っても良さそうだけどな」
 
(´・ω・`)「椎名と他の子じゃ違うのかもね。椎名は接しやすいしさ」
 
(;゚ー゚)「どうなんでしょう。でも、こんなことなら遠慮せずもっと遊びに誘っておけば良かったかなぁって、だいぶ後悔です」
 
(´・ω・`)「それは椎名のせいじゃないし、いま悔やんでもしょうがないよ」
 
(´・ω・`)「今の僕たちはただ、毒島を信じて応援することしかできないんだ」
 
 自戒を込めて、初本はそう言った。
 忸怩たる思いを最も抱えた者として。
 
 西二局、毒島は辛うじてテンパイに至り、1500点を得た。
 親の陶冶高校が一向聴止まりだったため、次鋒戦は西三局へ。
 
 ここは配牌の良かった陶冶高校の富士が手早く役を作り、七巡目でツモ和了り。
 立直、門前清自摸和、断幺九で4000点を取り返した。

597第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:27:02 ID:xdkgJMfU0
(;^Д^)「どうでもいいけど、あの富士ってやつめっちゃデカイな」
 
('、`*川「巨人ですね。2メートルくらいありそう」
 
(´・ω・`)「実際、2メートルあるらしいよ。本人がツイッターで呟いてたからね」
 
( ^Д^)「そんなのチェックしてるんすか?」
 
(´・ω・`)「大して役に立つことはないと分かってるけど、念のためにね」
 
(*゚ー゚)「さすが初本さん! 情報収集に余念がないですね!」
 
(´・ω・`)「いやいや、そんな大したもんじゃないよ。ツイッターもたまたま見つけただけだし」
 
( ^Д^)「でも、本人が打ち筋とか呟いてたら、参考にはなるっすよね」
 
(´・ω・`)「残念ながら富士は麻雀に関するツイートがほとんどなかったけど、陶冶高校の中堅の旭は結構情報を出してくれてたよ」
 
(´・ω・`)「もしかしたら、中堅戦は優位に立てるかもしれない」
 
 次鋒の毒島は苦戦しており、逆転は相当に困難な状況だった。
 中堅戦は圧勝したい、という思いを初本は強めている。
 
(´・ω・`)(いや、圧勝しなきゃいけないんだ)
 
 思いは、決意へと変わった。
 それこそが、部を率いる者としての責務だと考えて。
 
 西四局、親番はトップを直走る肯綮高校の渡辺。
 配牌はそれほど良くなかったものの、二度の鳴きを使って断幺九のみで和了った。
 500オールで渡辺は1500点を加点し、西四局は一本場へ。
 
(;゚ー゚)「女の子少ないから、頑張ってるのを見ると嬉しい気持ちもあるんですけど」
 
 複雑な気持ちを抱えたまま、椎名はそう言った。
 もし第三者として観戦していたら、純粋に渡辺を応援していただろう、と考えながら。

598第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:28:41 ID:xdkgJMfU0
( ^Д^)「でもほんと、あの子頑張ってるっすね。そんなに上手いとも思えないんすけど」
 
(´・ω・`)「配牌に恵まれている感はあるね。でも、七万点は出来過ぎかな」
 
( ^Д^)「最初に跳満を和了って、波に乗ったのもあるかもっすね」
 
(´・ω・`)「そうだね。毒島は、余計に厳しくなったのかもしれない」
 
(*゚ー゚)「大丈夫です! ドっくんならきっと巻き返してくれます!」
 
(*゚ー゚)「ほんとは次鋒戦のメンバーの中で一番強いんです! 私はそう信じてます!」
 
(´・ω・`)「全くもって、椎名の言うとおりだ」
 
 そう信じて応援するしかない。
 初本は、中堅戦のことを視野に入れつつ、次鋒戦の希望も捨てないまま戦況を見守っていた。
 
 
 ◇
 
 
 次鋒戦、西四局一本場は陶冶高校が七対子を肯綮高校から出和了り。
 西場が終わり、残すは北場のみとなった。
 
 ここまで、芽院高校が単独で沈んでおり、点数は僅か19900点。
 トップの肯綮高校が65900点、二位の麦秋高校が60000点、次いで陶冶高校が54200点となっている。
 
('A`;)(北一局。ここが最後の親番だ)
 
 毒島が雀卓中央のディスプレイに視線を向ける。
 二万点を切る点数を見て、まるで現実から逃避するように目を伏せた。
 
('A`;)(ここまで俺は一回も和了ってない。この親番は簡単に失っちゃいけない)
 
('A`;)(ここで点を取り返すぞ!)
 
 心に置いた言葉だけは、ずっと力強いままだった。
 そして、その言葉は毒島の気持ちを鼓舞することもないまま、ずっと留め置かれているだけだ。
 
 北一局、毒島の配牌は悪くなかった。
 刻子が一つと、両面で待てる塔子が既に三つ完成している。
 他は整っていないものの、迷わず和了りを目指せる手牌だった。
 
('A`;)(いつもみたいにヤミで構えてるわけにはいかない。鳴いてでも進めていかないと)
 
 そう考えた直後の二巡目。
 渡辺の捨て牌に、毒島が固まる。

599第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:30:05 ID:xdkgJMfU0
('A`;)(うっ)
 
 一萬。二萬と三萬を持っている毒島の手元のタッチパネルに、チーのボタンが表示された。
 しかし、毒島の意識は、チーよりも渡辺に向いている。
 
 一萬をチーすれば断幺九では和了れなくなる。
 しかし、既に作られている刻子は九筒によるものであり、塔子も一九牌に近い。
 一萬をチーしても混全帯幺九が狙える状態だった。
 
('A`;)(ど、どうする。混全帯幺九狙いで鳴くか?)
 
('A`;)(で、でも、まだ二巡目だし、早まりすぎか?)
 
 大会では、試合時間短縮のため、上家が打牌したあと十秒以内にツモか副露を実施する必要がある。
 もし十秒を超えてしまうと、他校に1000点ずつ支払うというペナルティが科せられるのだ。
 
 毒島の手元のタッチパネルに表示された時間は、あと四秒。
 その数字が、毒島を消極的な方向へと導く。
 
('A`;)(喰い下がりもあることだし、ここはやっぱ、様子見だ!)
 
 毒島は、そう自分を納得させた。
 本当は、渡辺からチーすることに抵抗があるだけだという事実を、握り潰すようにして。
 
 その姿勢が災いしたのは、十二巡目のことだった。
 
( ・3・)「ツモだYO」
 
('A`;)「!」
 
( ・3・)「役牌、三色同順、ドラ2で2000・4000だYO」
 
 毒島の最後の親番は、麦秋高校の簿留によって蹴られた。
 これでもう、和了りによる連荘で点を取り返すことは、できなくなった。
 
 結果として、十二巡目までに幺九牌が絡んだ三面子一雀頭ができていた。
 しかし、一萬と四萬が一向に捨てられず、自分で引くこともできなかった毒島は、和了りを逃した。
 
('A`;)(二巡目で一萬をチーしてれば、先に混全帯幺九で和了れた可能性が高い)
 
('A`;)(あのとき鳴いてれば、逆転の望みも繋げられたかもしれないのに、くそっ)
 
 そんなことは、結果論に過ぎない。
 毒島は、そう分かってはいた。
 ただ、結果的に副露を避けたことで和了りが遠のいたのも事実なのだ。

600第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:31:06 ID:xdkgJMfU0
 残すは三局。
 親と毒島のみでテンパイして流局しつづければ点棒を大きく取り戻せるが、現実的ではなかった。
 実質的には、挽回のチャンスは三回程度しか毒島には残されていない。
 
 毒島は改めて点数を確認した。
 15900点。トップの麦秋高校が68000点。
 思わず目を覆いたくなるほどの点差だ、と毒島は思った。
 
 しかしそのとき、不意に、気づいた。
 
('A`;)(あれ? ちょっと待てよ?)
 
 もう一度、各校の点数を毒島が見た。
 
 現在、毒島は最下位で、トップとの点差は52100点。
 仮にこのまま次鋒戦が終わったとすれば、芽院高校の獲得ポイントは僅か13ポイントだ。
 
 対局場の出入り口近くにあるホワイトボードに記載された、先鋒戦の結果を毒島は確認した。
 芽院高校は現在、100ポイント。二位につける肯綮高校は98ポイント。
 今の点数のまま次鋒戦が終了したとすれば、芽院高校は113ポイント、肯綮高校は191ポイントで、その差は78ポイントとなる。
 
('A`;)(うちは副将戦が終わった時点で二位に100ポイント差をつけてないといけない)
 
('A`;)(ってことは、中堅戦と副将戦で、89ポイントずつ引き離さないといけないってことか?)
 
(゚A゚;)(やべぇ! それってほとんど不可能だろ!!)
 
 芽院高校が100ポイントを取ったうえで、肯綮高校を11ポイントに抑える。
 仮に肯綮高校が二位ならばポイントの減算もないため、大きく引き離して勝つ必要があった。
 
 肯綮高校のみを狙い撃ちすれば他校がポイントを稼ぐ。
 そうなれば陶冶高校、麦秋高校に対して100ポイント以上の差をつけられない可能性があった。
 しかし、親番のツモ和了りで万遍なく点を奪いつづけることも困難だ。
 
 毒島は、ようやく気付いた。
 このまま不甲斐ない結果で次鋒戦を終えれば、ほぼ確実に大将戦まで回ってしまう。
 まだルールも覚束ない内藤が打つことになってしまうのだ。

601第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:32:31 ID:xdkgJMfU0
(゚A゚;)(あいつには耳の力があるけど、まだほとんど役に立たないよな)
 
(゚A゚;)(内藤が打つことになったら絶対負ける。全国に行けなくなる)
 
(゚A゚;)(俺のせいで、初本さんの最後の大会が、ここで終わっちまう!)
 
 初本の引退が、毒島の戦いによって、現実味を帯びてきた。
 その事実に直面し、毒島の手は小刻みに震える。
 
 毒島が麻雀部の門を叩いたとき、同じく一年生の椎名が既に入部していた。
 女子部員がいることを知って、毒島は、入部の決心が鈍りかけた。
 
 それを全力で引き止めたのが、初本だった。
 
 初本が毒島を離したくないと思った最大の理由は、無論、部員が足りていなかったためだ。
 それは、初本も包み隠さず正直に話していた。
 ただ、初本は毒島の今後のことも考えていたのだ。
 
 
 ◆
 
 
(´・ω・`)「毒島、君にどんな過去があって女子を避けるようになったのか、僕は分からないし、あえて聞かない」
 
(´・ω・`)「過去はともかく、今の君が大きな問題を抱えていることは事実だ」
 
(´・ω・`)「その事実からは逃れられない。これから生きていくうえで、何度も壁に突き当たるだろう」
 
(´・ω・`)「だからここで、壁と向き合ってみてほしい。乗り越えようとしてみてほしい」
 
(´・ω・`)「それがきっと、今後の人生で役に立つ。たとえ乗り越えられなくても、正面から向き合った事実は糧になるはずだよ」
 
(´・ω・`)「椎名はいい子だ。言葉の裏の意味を探る必要がない。少しずつでもいいから会話してみてほしい」
 
(´・ω・`)「大丈夫。ここで過ごす時間のなかで、きっといつか、壁を乗り越えられる日が来るよ」
 
(´・ω・`)「僕は、そう信じてる」
 
 
 ◆
 
 
 初本は、入部を躊躇う毒島にそう言った。
 当時の毒島の思いは、完全に晴れたわけではなかったが、入部を拒む気持ちはなくなったのだ。
 
 麻雀部の一員として過ごす日々のなかで、毒島は、椎名や伊藤と会話ができるようになった。
 打ち解けた、とまでは言えなかったが、言葉のキャッチボールができただけでも毒島にとっては大きな前進だったのだ。

602第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:33:40 ID:xdkgJMfU0
 前に進んだことで、毒島は、また壁に突き当たった。
 女子と雀卓を囲み、まともに麻雀を打たなければならないという壁だ。
 椎名のときは、一ヶ月ほどかかって乗り越えた壁だった。
 
 たった一日で、乗り越えられるはずがないと毒島は思った。
 それでは駄目だと分かっていながら、首が痛くなるほど高く聳え立つ壁を見ると、勝手に足は竦んでいたのだ。
 
 県大会の決勝という、大事な局面で向き合うべきではない壁だった。
 毒島はそう感じ、初本もそう考えたからこそ、オーダーの変更で何とか避けようとしていたのだ。
 
 だが、毒島は向き合うことになってしまった。
 
 逃げ場はない。壁しかない。
 ならば、やるべきことは決まっていた。
 
 壁に手をかけて登るか、壁を打ち壊すか、だ。
 
(゚A゚#)(やってやる)
 
(゚A゚#)(ここでやらなきゃ、全部終わってしまうんだ!)
 
(゚A゚#)(雀牌だけを見ろ! 麻雀だけに集中しろ!)
 
 北二局が始まる。
 毒島の双眸は、力強い光を放ち始めていた。
 
 
 ◇
 
 
 北二局の親番は、陶冶高校の富士。
 五万を超える点数を得ているが、三位という順位には不満げだった。
 
 肯綮高校としては、最大のライバルと目していた芽院高校が沈みきっている現状に、満足すべきだった。
 このまま終われば芽院高校はポイント上でも最下位に転落。
 プレーオフ進出さえ危うくなるほどの沈み方だった。
 
 とりあえず、次鋒戦に関しては楽観してもいいだろう。
 そう考えていた鈴木が水戸を見て、不意に気づいた。
 
 湯呑を持つ右手が、不自然な位置で止まっていることに。

603第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:35:20 ID:xdkgJMfU0
 机から持ち上げたところなのか、机に置こうとしているところなのか。
 鈴木には分からない、中途半端な状態だった。
 
/ ゚、。 /「どうしたの?」
 
 首を傾げて鈴木は水戸に声をかけた。
 水戸の視線はモニターへと向いており、逸れることがない。
 
/ ゚、。 /「なんか、変なことでもあった?」
 
 鈴木もモニターに近づく。
 北二局は九巡目まで進んでいた。
 
/ ゚、。 /「渡辺の手牌は微妙だね。和了りは厳しいかな?」
 
/ ゚、。 /「形式聴牌でもいいから、なんとか手を進めてほしいけど」
 
(‘_L’)「そんなことよりも」
 
 鈴木の言葉を遮るように、水戸は口を開いた。
 そして、右手の湯呑を置いてから、モニターを指さす。
 
 人差し指の先にあったのは、毒島の捨て牌だった。
 
(‘_L’)「気づきませんか?」
 
/ ゚、。 /「ん? なにが?」
 
(‘_L’)「毒島くんはさっき、ツモった三萬をそのまま捨てました」
 
 八巡目の捨て牌だった。
 確かに三萬が捨てられている。しかし、それがどうしたというのか。
 鈴木は分からず、再び首を傾げる。
 
/ ゚、。 /「毒島は五萬と六萬を持ってて、四萬はドラ表示牌と河に二枚、麦秋の簿留のチーで一枚、既にもう全部出ちゃってる」
 
/ ゚、。 /「四萬が引けないんじゃ三萬を使うことはまずない。だから切った、それだけでしょ?」
 
(‘_L’)「ええ、恐らくそのとおりでしょうね」
 
/ ゚、。 /「何も問題ないじゃん。何を気にしてるの?」
 
(‘_L’)「大問題です。これは、あまり良くない展開になるかもしれません」

604第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:36:44 ID:xdkgJMfU0
 水戸の右手の人差し指は再び捨て牌を指した。
 ただし、今度は毒島の河ではなく、渡辺の河だ。
 
(‘_L’)「分かりませんか? 四萬を二枚捨てたのは、渡辺さんなのです」
 
/ ゚、。 /「!」
 
(‘_L’)「つまり、今の毒島くんは、渡辺さんの捨て牌が見えているということです」
 
 鈴木もようやく気付いた。
 これまで毒島は、他家の河が視界に入っていないとしか思えない打ち方をしていた。
 しかし、突如としてこの北二局で、変わった。
 
(‘_L’)「そうでなければ、とりあえず三萬は残すでしょう。捨て牌を考慮しなければ、八筒のほうが価値は低い」
 
/ ゚、。 /「四萬を引けば良い形で待てるしね」
 
(‘_L’)「ええ。北一局までの毒島くんなら、そうしていたはずです。しかし、打ち方が変わりました」
 
(‘_L’)「今日の次鋒戦、一番上手く打っているのは麦秋の簿留くんです。渡辺さんは運に恵まれている感が強い」
 
(‘_L’)「しかし、毒島くんが本領を発揮すれば、簿留くんを上回っても不思議はありません」
 
/ ゚、。 /「その本領が、発揮されるかもしれないってことだね」
 
 水戸はモニターを見たまま頷いた。
 どうやら簡単には終わってくれなさそうだ、という思いを抱きながら。
 
 不穏な空気を漂わせたまま、北二局は進んでいく。
 
 
 ◇
 
 
 十五巡目にして、ようやく毒島はテンパイに至った。
 
(゚A゚#)「立直!」
 
 力強く宣言した。
 普段、出和了り狙いで立直をかけることの少ない毒島にとっては、珍しいことだ。
 尤も、点差を考えれば当然のことだった。
 
(゚A゚#)(立直をかけなきゃ単なる断幺九ドラ1で2000点、ツモ和了りでも4000点にしかならない)
 
(゚A゚#)(立直をかけた上で一発かツモ和了りなら満貫、裏ドラ次第じゃ跳満までありえるんだ)
 
(゚A゚#)(出和了りが期待できなくなったとしても、ここは打って出るべき場面だ!)

605第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:38:04 ID:xdkgJMfU0
 大差による焦りではなかった。
 毒島は、かつてないほど麻雀に集中している。
 卓上の雀牌だけを見ることができているのだ。
 
 残る手番は少ない。
 それでも毒島は信じていた。
 必ず、当たり牌を引くことができる、と。
 
(゚A゚#)(一発はないか)
 
 十六巡目、毒島が引いたのは一萬。
 確認してすぐさま河に流した。
 
 このまま場が進んだとすれば、毒島に残された手番はあと二回。
 確率的に厳しいことは、毒島も分かっていた。
 それでも、芯は揺るがなかった。
 
(゚A゚#)(俺が立直をかけたあと、すぐさま現物を切ってきたのは対面と上家)
 
(゚A゚#)(下家は降りてるのかどうか分からない捨て方だけど、真ん中付近は切ってこないな)
 
(゚A゚#)(やっぱりロン和了りは期待できない。あとの二巡で引き当ててやる!)
 
 毒島は二筒と七索のシャンポン待ちだった。
 どちらも河には一枚もない。
 山に眠っているのか、誰かが対子で持っているのか、毒島には分からなかった。
 
 山が少しずつ減っていく。
 十七巡目。毒島のツモ牌は、發。
 軽く息を吐いてから、毒島は河に捨てた。
 
 毒島に残されたのは、海底牌だけだった。
 
(゚A゚#)(絶対に諦めない!)
 
 例え最後の一牌しか可能性がなくとも、ゼロではない。
 ならば、和了りを信じるべきだ。毒島の思いは、固かった。
 
 今日の次鋒戦、毒島はここまで、訳も分からずに打ち進めてきた。
 視界はぼやけ、心は揺れる。麻雀を打っている感覚さえ毒島にはなかった。
 それが、北二局になってようやく、変わった。
 
 変えることが、できたのだ。
 
 残り三局、全て和了りを目指すしかない。
 そう、強く決意することができたのだ。

606名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 22:38:14 ID:IU9iRK3o0
支援

607第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:39:49 ID:xdkgJMfU0
 十八巡目。
 北二局、最後の一枚。
 
 毒島の右手が、牌を掴む。
 そして、一瞥の直後、牌を表返した。
 
(゚A゚#)「ツモ!」
 
 声高に宣言して、手牌を全て傾ける。
 
(゚A゚#)「立直、門前清自摸和、断幺九、海底摸月、ドラ2!」
 
(゚A゚#)「3000・6000!」
 
 海底から当たり牌を引き当てた。
 更に裏ドラが一枚乗ったことで、その手は跳満にまで膨らんだ。
 
 これで毒島は12000点を奪還。
 残り二局。まだ、挽回の機会は残されていた。
 
(゚A゚#)(海の底からでも這い上がってやる)
 
(゚A゚#)(みんなで、全国へ行くために!)
 
 毒島の両目は、雀牌だけを見据えたままだった。
 
 
 ◇
 
 
 北二局の跳満に、芽院高校の控え室は沸いた。
 ようやく毒島が息を吹き返したのだ。
 
( ^Д^)「よっしゃあー! よくやったぞ!」
 
(*゚ー゚)「凄い凄い! ドっくん凄い!」
 
('、`*川「一気に点増えたね、やるじゃん」
 
( ^ω^)「かなり盛り返した気がしますお!」
 
(´・ω・`)「ああ。でも、まだこれからさ」
 
 初本も喜びは隠しきれない。
 中堅戦と副将戦のハードルはかなり高い、と考えていたが、先ほどの一撃で大きく下がった。
 精神的に余裕が持てるだろう、という安心感もあった。
 
 ただ、これで終わりではない、と初本は感じていたのだ。
 毒島はまだ、決して満足していない、と。

608第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:41:19 ID:xdkgJMfU0
 打てる反撃は、最大でもあと二発。
 その二発が、今の毒島ならば期待できる。
 初本は、北三局が進むにつれ、その思いを強めていった。
 
( ^Д^)「いい感じっすね」
 
 七巡目、毒島が的確に不要牌を切ったのを見て笑野が呟く。
 北二局から、ようやく毒島は河が見え始めた。
 それを確信したためだ。
 
 九巡目、毒島がテンパイ。
 一気通貫、混一色、ドラ1がつく手牌だった。
 
( ^Д^)「立直しないのは出和了りに期待してるからっすかね?」
 
(´・ω・`)「それもあるだろうけど、やっぱ、ダマテンのほうが自分らしいと考えてるんじゃないかな」
 
( ^Д^)「それも、大事なことっすね」
 
 毒島の待ちは三筒か南。
 テンパイの気配を他家が感じていなければ、出和了りには充分期待できる。
 その認識は初本と笑野の間で共通していた。
 
 そして、芽院高校にとって、最も放銃を願っていた者が、南を捨てた。
 
(´・ω・`)「よし」
 
 すかさず毒島が手牌を倒す。
 振り込んだ渡辺は、しばらく固まって動かなかった。
 
(*゚ー゚)「凄い! 二局連続で跳満!」
 
( ^Д^)「しかも肯綮高校を直撃だ。これはポイント計算を考えるとかなりデカイ!」
 
(´・ω・`)「どうやら、オーラスも期待できそうだね」
 
 初本が席を立つ。
 次鋒戦は遂に最終局。中堅戦は間近まで迫っていた。

609第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:42:37 ID:xdkgJMfU0
(´・ω・`)「行ってくるよ」
 
 小さな声でそう言い残した。
 ずっと抱えている悔しさを、押し殺すようにして。
 
 
 ◇
 
 
 北二局あたりから、芽院高校の毒島が急に目つきを変えた。
 まるで、全ての牌を眼光で射抜くような鋭さだ、と簿留は思った。
 
( ・3・)(おっかないNE)
 
 何が切っ掛けで変わったのか、簿留には分からない。
 ただ、いずれにせよ、今の毒島は簿留にとって脅威だった。
 二局連続で跳満を和了ることは、決して容易なことではない。
 
( ・3・)(特に、北三局の和了り方は怖かったYO)
 
( ・3・)(正直、テンパイしてるとは思ってなくて、僕も危うく振り込むとこだったYO)
 
 毒島は三筒と南で待っていた。
 肯綮高校の渡辺が南を切ったことで簿留は放銃を避けられたが、簿留も不要牌として三筒を持っていたのだ。
 渡辺が振り込まなければ、12000点を失っていた可能性が高かった。
 
 二位の肯綮高校が直撃を受けたことで、麦秋高校の簿留は他を大きく引き離した首位となった。
 肯綮高校との点差は16100点。このまま終わらせることができれば、麦秋高校は全国へと望みを繋げる。
 簿留にとって、このオーラスは正念場だった。
 
( ・3・)「チーだYO」
 
 三巡目、簿留は八索が捨てられたところでチーを宣言。
 さほど恵まれていない配牌を一目見た瞬間に、喰い断狙いは決めていたのだ。
 
( ・3・)(とにかく和了ればトップをキープできるんだから、一巡でも早く和了ることを目指すYO)
 
 その後、五巡目に四萬をポン。
 簿留は一向聴に至った。
 
 六巡目に山から簿留の手に降りてきたのは、先ほどポンした四萬。
 数秒ほど迷ってから、簿留は四萬を右端に寄せた。
 
( ・3・)「カンだYO」
 
 簿留は加槓を選択し、嶺上牌を取得。
 そして八索を捨てたあと、最も幸運な形で槓ドラ表示牌が表になる。

610第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:44:15 ID:xdkgJMfU0
( ・3・)(運が向いてるNE)
 
 槓ドラ表示牌は三萬。
 つまり、槓子の四萬がドラになったのだ。
 
( ・3・)(これで和了れば満貫は確定。ポイント計算でもトップに立って中堅戦に繋げるNE)
 
( ・3・)(芽院高校も肯綮高校も陶冶高校も、ここから先のメンバーは強そうだし、ここでトップに立てたら大きいYO)
 
( ・3・)(麦秋高校史上初の全国行きを達成するためにも、絶対和了るYO!)
 
 二位以下にここまでの差をつけられるとは簿留も考えていなかった。
 肯綮高校の渡辺が跳満に振り込むなど、運に恵まれた面もあったが、それでも良かった。
 元より、運に左右される面もあるのが麻雀だ。幸運を素直に喜ぶべきだ、と簿留は思っていた。
 
 その後、簿留が八巡目に引いたのは七筒。
 六筒と組み合わせて塔子となるため、不要牌の三索に三本の指をかけて、持ち上げようとした。
 
 そのとき不意に、簿留は躊躇った。
 
(;・3・)(あるぇー?)
 
 簿留の右手の、三本の指が、不自然な位置で止まった。
 
 何故、打牌を逡巡してしまっているのか。
 簿留は、自分でも分からなかった。
 
 七筒を引いたことで、簿留は両面待ちのテンパイに至るところだった。
 八筒は一枚捨てられているものの、五筒は河に一枚もない。
 つまり、七枚の当たり牌を期待できる状態に達せるのだ。
 
 簿留は、毒島の捨て牌を改めて確認し、捨て方を思い出した。
 一巡目から手出しは多かった。しかし、序盤に手出しが多いのはよくあることだ。
 ここ三巡ほどの毒島はツモ切り。テンパイしているとは、簿留には思えなかった。
 
( ・3・)(確かに北三局もテンパイの気配は薄かったけど、今回は更に薄いYO)
 
( ・3・)(ここで三索を捨てないと和了りが遠のくし、巡目が積み重なるほど放銃の危険性も高まるYO)
 
( ・3・)(捨て牌から考えればそれほど危険な牌でもなさそうだし、ここはやっぱり三索切りだNE!)
 
 引っ掛かりを振り払うように、簿留は三索を手にかけて河に置いた。
 あとは五筒と八筒を待つだけだ、と考えながら。
 
 その思考が固まったのは、毒島が手牌の両端を掴んだときだった。
 
(゚A゚#)「ロン」
 
 狙い澄ました的を、射抜くように。
 ただ、三索だけを見て、毒島は手牌を倒す。

611第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:45:43 ID:xdkgJMfU0
(゚A゚#)「役牌、一盃口、混全帯幺九、ドラ2」
 
(;・3・)「!」
 
(゚A゚#)「跳満、12000」
 
 簿留は思わず肩を落とした。
 渡辺が跳満に振り込んだことを幸運と感じていた簿留も、跳満に振り込んでしまったのだ。
 
 立直をかけてツモ和了り、もしくは裏ドラが一枚でも乗れば倍満にまで膨らんでいた可能性がある。
 しかし毒島は、トップの簿留に一撃を浴びせることを狙っていた。
 簿留には、そうとしか思えなかった。
 
 三索を捨てるときの逡巡の理由が、今更ながら簿留には分かったからだ。
 他家が牌を捨てるときと、簿留が捨てるときでは、毒島の目つきが違っていた。
 できれば直撃を、と毒島が考えていたためだろう、と簿留はようやく気づけた。
 
(;・3・)(最後の最後で跳満は、かなり痛いYO)
 
( ・3・)(でももう済んだことだし、なんとかトップは保てたから、それで良しとするYO)
 
 三局連続で芽院高校の毒島が跳満を和了し、次鋒戦が終了。
 最終得点は、麦秋高校が53000点、芽院高校が51900点、肯綮高校が48900点、陶冶高校が46200点。
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が197ポイント、肯綮高校が185ポイント、麦秋高校が169ポイント、陶冶高校が166ポイントとなった。
 
('A`;)(なんとか少し、盛り返せた)
 
('A`;)(でも、初本さんと笑野さんの負担が大きいことに変わりはないよな)
 
 続々と対局場を後にする他校の選手に続いて、毒島も出口へ向かった。
 近くのホワイトボードにはまだ次鋒戦の結果が記載されていない。しかし、獲得ポイントは毒島も分かっている。
 芽院高校は、通算獲得ポイントでトップをキープできたが、二位とのポイント差は僅かだった。
 
('A`;)(くそっ、最初からいつもどおり打ててれば、中堅戦と副将戦を楽にできたかもしれないのに)
 
('A`;)(今更悔やんでも遅すぎるけど、情けないよな、本当に)
 
 芽院高校は、最悪の状況からは脱することができた。
 それでもまだ、厳しい戦いは続く。
 
 戦いの場から出た毒島を出迎えたのは、初本だった。

612第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:48:16 ID:xdkgJMfU0
('A`;)「初本さん!」
 
(´・ω・`)「毒島、すまなかったね、本当に」
 
('A`;)「いえ、すみません! トップ取れなくて、ポイントが」
 
(´・ω・`)「毒島のせいじゃないよ。僕がオーダーを変更してしまったことが原因だから」
 
('A`;)「でも、それは本当は、あの子との対戦を避けるために」
 
(´・ω・`)「そのつもりだったけど、結果的に対戦させることになってしまった。申し訳ない」
 
(´・ω・`)「でも、ありがとう。対局場から声が聞こえたよ。最後も跳満を和了ってくれたみたいだね」
 
('A`;)「本当は、なんとか逆転までできたら良かったんですけど」
 
(´・ω・`)「充分さ。あとは僕と笑野に任せて、ゆっくり休んでてほしい」
 
(´・ω・`)「必ず、全国行きを決めてみせるから」
 
 毒島の肩を軽く叩いて、初本は対局場へと踏み入った。
 肯綮高校の名瀬楢、陶冶高校の旭、麦秋高校の船都は既に入室している。
 
 雀卓が自動で決めた席に、初本は座った。
 上家には麦秋高校、下家には肯綮高校、対面には陶冶高校が座ることとなっている。
 
( ∵)「同じ戦場に立つのは初めてのことだな」
 
 初本から見て右側の席には、既に肯綮高校の名瀬楢が着席している。
 戦国時代からタイムスリップしてきたような喋り方だ、と初本は思った。
 
(´・ω・`)「毎年同じ大会に出てるのに、試合で当たったことはなかったね」
 
( ∵)「法悦に浸れるような果し合いとなることを期待しておるよ、くく」
 
(´・ω・`)「命を懸けるつもりはないけどね。取り合うのは全国行きのチケットだ」
 
( ∵)「戦いの中に身を置く者にとって、敗北は絶息と同義であろう」
 
(´・ω・`)「懸ける思いはそのとおりだ。だから全校、潰すつもりで戦うよ」
 
 あえて、名瀬楢と視線を合わせないようにしながら初本は言った。
 名瀬楢は、愉快そうに笑みをこぼしているが、それが初本の視界に入ることはない。

613第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:49:32 ID:xdkgJMfU0
( ∵)「随分な尖り声を出すではないか。よほどの業腹と見える」
 
(´・ω・`)「ああ、そうだね」
 
 再び、名瀬楢のほうを見ないまま初本は言葉を返す。
 
 初本にはずっと、悔しさが残っていた。
 毒島を窮地に追いやってしまったこと。そのことで、芽院高校も苦境に踏み込みかけていること。
 いずれも、部長である自分の責任だ、と初本は考えていたのだ。
 
 最善を尽くしてもどうにもならないことはある。
 まさにこれから初本が打とうとしているものも、そうだ。
 しかし、後悔は初本の中から消えなかった。
 
(´・ω・`)「悔しくて、悔しくて、堪らないんだよ」
 
(´・ω・`)「勝つことでしか、この悔しさは晴らせないのかもしれないね」
 
 独り言のように、小さな声で初本はそう言った。
 名瀬楢が再び口を開きかけた瞬間、試合開始を告げる合図がスピーカーから鳴る。
 
 全員が着座し、十数秒後に雀卓から牌が迫り上がってきた。
 決勝戦の中堅戦が、始まった。
 
( ∵)(初本は冷静さを欠いておるか?)
 
( ∵)(然すれば、一気呵成に攻め立てるのが定石であろうな)
 
 東一局の親は芽院高校の初本。
 肯綮高校の名瀬楢としては、早めに東一局を終わらせて、自らが親番となる東二局に移りたいところだった。
 
 配牌に恵まれた名瀬楢は望んでいた牌を次々に手中へと収める。
 そして七巡目、一筒を横向きに打牌した。
 
( ∵)「立直」
 
 自信を持って名瀬楢が立直をかけた。
 一盃口、断幺九、平和、立直が確定しており、一発や門前清自摸和、裏ドラ次第では跳満から倍満まで望める手牌だった。
 
 出だしとしては最高の形。
 ここで一気に点を稼ぎ、次の親番に繋ぎたい。
 そうすれば、この中堅戦も有利に進められるだろう。
 
 名瀬楢が、そう考えていた、次の瞬間。
 
(´・ω・`)「ツモ」
 
 初本の牌の顔が、上向きとなる。
 名瀬楢の顎も、弾けるように上がった。

614第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:51:10 ID:xdkgJMfU0
(´・ω・`)「断幺九、三色同順、ドラ1」
 
(´・ω・`)「4000オール」
 
 極めて冷静に、淡々と初本はそう言った。
 名瀬楢は、思わず右手を卓に叩きつけそうになった。
 
(;∵)(泰然としておるな。冷静さを欠いているように見えておったが)
 
 力強く握りしめていた右手を、名瀬楢は自分の膝に置いた。
 そして今度は、膝を潰すように再び力を込める。
 
 最低でも満貫、運による上乗せがあれば倍満まで見込める手を潰された。
 それが名瀬楢にとって悔しかったことも事実。しかし、それ以上の悔しさを、名瀬楢は植えつけられた。
 
 初本は、名瀬楢が立直をかけても、全く焦っていなかった。
 テンパイに至ったのはほぼ同時。しかし、立直をかけていない点と、当たり牌の多さで、初本が上回っていた。
 先に和了れるという自信があったからこその、余裕だったのだ。
 
 立直をかけた時点で和了った気になっていた名瀬楢は躓き、膝を擦りむいた。
 痛みそのものは、小さい。しかし、全力で走れるかどうか、名瀬楢は分からなくなっていた。
 
(´・ω・`)「さっきも言ったとおりさ」
 
 雀卓が初本の役を読み上げている途中で、初本の声が被さった。
 その声は、名瀬楢だけに向けられているものではなかった。
 
(´・ω・`)「悔しさがあってね。悪いけど、ここでぶつけさせてもらう」
 
(´・ω・`)「何もかもを、潰すつもりでね」
 
 横から聞こえているはずの声が、何故か、上から圧し掛かってきたように名瀬楢は感じていた。
 
 
 ◇
 
 
 猫のように狭い額から、汗が流れた。
 それを手ぬぐいで拭き取りながら、杉浦は陶冶高校の控え室の扉を開く。
 
<_プー゚)フ「お帰りなさーい」
 
 部長を迎える陽気な声を発したのは、先鋒戦を戦った江楠。
 手すさびのように、幾つかの雀牌を掌の上で転がしていた。

615第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:53:06 ID:xdkgJMfU0
( ФωФ)「すまなかったであるな。思ったよりも時間がかかってしまった」
 
<_プー゚)フ「あったんですか? 何とか茶っていう謎のお茶」
 
( ФωФ)「謎ではない。燕龍茶という血圧の低下に寄与するお茶である」
 
 ペットボトルをテーブルの上に置いて、杉浦は椅子に腰かけた。
 ポケットの中の小銭入れは鞄へと仕舞う。
 
<_プー゚)フ「血圧が高い家系だって言ってましたもんね」
 
( ФωФ)「うむ。しかし事前に用意しておかなかったのは失敗であった」
 
<_プー゚)フ「そんな珍しいお茶じゃなくても、血圧下げる飲み物なら他にもあるんじゃ?」
 
( ФωФ)「味が好きなのであるよ。それに、これを飲んで戦った試合は中学時代からほとんど負けなしである」
 
<_プー゚)フ「験担ぎですか」
 
( ФωФ)「そのようなものであるな。尤も、一番大事なのは自分の実力を出し切ることである」
 
 ペットボトルのキャップを捻り、燕龍茶を少し口に含んだ。
 杉浦の喉が小さく鳴る。
 
( ФωФ)「結局、一時間半ほどかかってしまったであるか。最寄りのコンビニには置いてなかったである」
 
<_プー゚)フ「どこまで行ったんですか?」
 
( ФωФ)「駅を過ぎてしばらく歩いた先のスーパーである。ついでに、まがりせんべいも買ってきたであるよ」
 
<_プー゚)フ「わーい。いただきます」
 
/^o^\「僕も食べていいですか?」
 
( ФωФ)「無論であるよ」
 
 富士のように確認することなく江楠は煎餅の袋を裂いた。
 遠慮がなく、他人に壁を作らないところは、江楠の長所でも短所でもあった。

616第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:54:50 ID:xdkgJMfU0
( ФωФ)「次鋒戦はどうなったであるか?」
 
/;^o^\「すみません。僕が最下位です」
 
<_プー゚)フ「でも、大して離されなかったですよ。トップの芽院とはトータルでも31ポイント差ですし」
 
( ФωФ)「む? 芽院はもっと沈んでいておかしくなかったはずであるが」
 
<_プー゚)フ「北二局からガラっと変わって、三局連続で跳満を和了られちゃって」
 
/^o^\「怒涛の巻き返しでしたね。途中から目つきが全然違いましたもん」
 
( ФωФ)「途中までが、あまりにも不甲斐ない打ち様であった。上手く切り替えたのであろうな」
 
/^o^\「そうみたいですね。最後の二局で肯綮と麦秋から出和了りしてくれて助かりました」
 
<_プー゚)フ「次鋒戦よりも、今の中堅戦のほうがヤバイですね。最後までいかないかも」
 
( ФωФ)「む?」
 
 試合はいくつかのカメラで撮影されており、定期的に映像が切り替わる。
 今は俯瞰の映像であり、点数は確認できなかった。
 杉浦に分かるのは、試合が西二局まで進んでいるということだけだ。
 
( ФωФ)「手酷くやられてしまっているであるか? 我が校の旭は」
 
<_プー゚)フ「いや、ウチはまだマシです。肯綮と麦秋のほうがヤバイです」
 
/^o^\「このままいくと、飛ばされるかもしれませんね」
 
 モニターの映像はようやく雀卓の中央ディスプレイに切り替わった。
 そこには、杉浦が信じがたいと思うほどの点数が表示されている。
 
( ФωФ)「なんと、十万点を優に超えているであるか」
 
 トップの芽院高校は123800点。
 二位の陶冶高校は39600点。これは確かに、まだいいほうだ、と杉浦は思った。
 三位の麦秋高校は19100点、最下位の肯綮高校は17500点まで持ち点を減らしている。

617第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:56:57 ID:xdkgJMfU0
<_プー゚)フ「芽院の人、ここまで八回も和了ってるんですよ。ヤバくないですか?」
 
( ФωФ)「初本であるか。確かに、去年も手強い打ち手であった」
 
/^o^\「昨日も凄かったですよね。東二局で試合を終わらせてましたし」
 
( ФωФ)「去年の全国では些か物足りなかったであるが、進化を遂げたようであるな」
 
 肯綮高校と麦秋高校が沈んでいることは、陶冶高校にとって悪いことではなかった。
 この県大会では最終的に二位でも全国へ行ける可能性がある。
 どの高校も優勝を目指していることは間違いないが、二位で踏み留まるための方策も考えておかなければならないのだ。
 
 しかし、このままでは、県大会が副将戦までで終了する可能性がある。
 それは、杉浦にとっては思わしくない事態だった。
 チームとしても、杉浦個人としても、だ。
 
<_プー゚)フ「マズイですよね。下手すると、杉浦さんがホライゾンにリベンジできなくなっちゃいます」
 
 軽い口調で本質を突く。
 そういうところが面白い男だ、と杉浦は江楠について思っていた。
 
( ФωФ)「まぁ、それもそうであるな。主将としても、個人としても、大将戦は逃したくないである」
 
<_プー゚)フ「ネットでホライゾンと戦ったときって、どうだったんですか? 惨敗ですか?」
 
( ФωФ)「この試合のように一荘戦で戦ったであるが、南場までは我輩のほうが優っていたであるよ」
 
<_プー゚)フ「おぉ~」
 
( ФωФ)「しかし、西場からはほとんど支配的で、我輩は為す術なく逆転されてしまったであるな」
 
 そのときのことは、今でもすぐに思い出せるほど杉浦の記憶に深く刻まれていた。
 前半は互角以上に戦えたからこそ、後半で手も足も出なかったことが杉浦にとって衝撃だったのだ。
 
<_プー゚)フ「そういや、聞いたことある気がします。ホライゾンは、前半戦は手を抜くことが多いって」
 
( ФωФ)「手を抜くというよりも、相手の打ち筋を見極めているのであろうな」
 
( ФωФ)「前半で相手を知り、後半で一気に攻め立てる。そういう戦い方を好んでいるようである」
 
<_プー゚)フ「うわー、戦いたくないなぁ」
 
 『神の目』という大仰な名の付いた力も、相手を見極める力のことを指すのだろう。
 杉浦は、そう考えていた。
 しかし、麻雀という偶然性の高いゲームで高い勝率を誇っていることは、誰にとっても脅威的だった。

618第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:58:01 ID:xdkgJMfU0
<_プー゚)フ「せっかくの直接リベンジの機会、逃したら心置きなく卒業できないですよね」
 
( ФωФ)「いや、それは些末なことである。陶冶高校が十二年ぶりに全国大会へ進出すること、それが最重要であるよ」
 
<_プー゚)フ「そっか。じゃあ、旭くんには頑張ってもらわないと、ですね!」
 
( ФωФ)「うむ。そして、副将戦、大将戦でもいい試合をして、全国へ行くである」
 
( ФωФ)「皆で、最高の夏を迎えるであるよ」
 
 茶色い髪を揺らしながら、江楠が頷く。
 杉浦は暗闇にいる猫のような鋭い目をモニターへと向けた。
 
 県大会決勝、中堅戦は西二局まで進んでいる。
 心に期するものを感じながら、杉浦は試合を見守っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第7話 終わり
 
     ~to be continued

619 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 23:00:29 ID:xdkgJMfU0
第7話は以上です、ありがとうございました
途中で長い中断があってすみません……

構成の都合などで色々あって、第8話も途中まで書けているので、
早ければ来週末くらいに投下できたら、と思っています
読んで下さっている方々、今後ともよろしくお願いいたします

620名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 23:02:38 ID:KfHxBe5Q0
乙!
続きも期待してるで

621名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 23:07:45 ID:IU9iRK3o0
乙!

622名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 23:24:29 ID:CvhVMaOs0

更新早くてイイネ!

623名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 23:26:35 ID:U/uimAys0
乙!
毒島の怒涛の巻き返しに痺れた

624名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 23:45:39 ID:tuAg0UKg0
乙です!

625名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 00:35:50 ID:9gm5rGQI0
乙です!!
ただ、すみません一言だけ・・・
三筒と南だけの待ちに一気通貫は・・六筒と九筒ががw

626名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 01:02:15 ID:KGdRbJSk0
12333456789p南南じゃないかな

627名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 08:17:34 ID:W5UcMUq20
乙!
海底引き当てたところが、もう、最高ですわ!
次回も楽しみにしてる

628名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 13:09:07 ID:46u5W9RA0
>>626
すみません、確かにそうですね・・

629名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 13:25:47 ID:bsx32WO.0
乙!やっぱ面白い!

なんか熱いアニメを見てる感覚だった…!

630名も無きAAのようです:2015/05/07(木) 20:54:37 ID:gBoU2uB.0
乙です。心理描写やっぱり上手いすね…
ところで質問
1、麻雀で好きな役は何ですか?
2、現実での作者さんの麻雀を打つ上でのスタイルとか信念とか
3、漫画の咲は好きですか?もしそうなら好きなキャラとか

631 ◆azwd/t2EpE:2015/05/08(金) 21:35:32 ID:yX3EVS.60
皆さんありがとうございます
初期構想時から書きたいと思っていた展開がここから先に色々あるので、続きも頑張ります

>>630
1.天和
2.天和出すまで諦めない
3.咲は全部は読んでないですが好きです
  取りたてて好きというキャラはいないのですが、強いて言うなら風越の福路とかでしょうか

632名も無きAAのようです:2015/05/08(金) 22:02:46 ID:x.MZNrPU0
今回は誰が裏切るんだ…

633名も無きAAのようです:2015/05/08(金) 23:51:33 ID:1awAwqx20
乙おつ
相変わらずこの作者の書くドックンはキメるとこキメてくれるからいいぜ





>>632
おい、やめろ 裏切り者なんか居るワケないだろ

634名も無きAAのようです:2015/05/09(土) 17:22:49 ID:Xvn7Em9Q0
ホライゾンがどう絡んでくるのかが気になるね

635名も無きAAのようです:2015/05/14(木) 15:44:13 ID:XfKR93Pg0
(;゚ω゚)「お……お……お……」


 手から幾本も落ちる点棒。
 まるで、涙のように。

 その我々の得点を、抱え込む男。

 罰符を、払い落とした男。


 今まで、自分の何もかもを託してきた――――


 ――――最も、信頼していた男。





(´・ω・`)「実に、長かった。あまりにも、長すぎた」

636名も無きAAのようです:2015/05/14(木) 16:11:07 ID:hHqJGDCM0
ねーよwww

637名も無きAAのようです:2015/05/14(木) 21:15:44 ID:qc/kNSm.0
ワロタ

638名も無きAAのようです:2015/05/14(木) 21:31:16 ID:9CgLLH1I0
ところで前田くんは誰だったんだろうな…… いや前田くんなんだけどさ。モナーかな。あまり本筋と関係ないかもしれんが。

639名も無きAAのようです:2015/05/15(金) 06:05:31 ID:EyUXDulo0
( ゚ω゚)「はっ! 厨房のほうからトンカツの揚げ終わった音が聞こえましたお!」
 
この耳の良さは伏線なんだな...アルファさんほんとすげぇよ

640名も無きAAのようです:2015/05/15(金) 07:01:42 ID:PuRbuppY0
( ゚ω゚)「牌が・・・透けて見えるんだよ・・・・」

641名も無きAAのようです:2015/05/15(金) 16:31:36 ID:DQh7hhQk0
1話のパソコンのファンの音がうるさくて目覚める件もきっと伏線なんだぜ

642名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 02:28:07 ID:aqBqO7U.0
ホライゾンの打ち筋を見極めるやり方とブーンが雀牌の音を聞き分けるまでが上手い具合に被るわけかww
無理矢理だなwww

643 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:01:35 ID:YtsJxGfY0
これから第8話を投下します、よろしくお願いします

644登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:02:46 ID:YtsJxGfY0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校
 
■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

645登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:03:40 ID:YtsJxGfY0
◇陶冶高校
 
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生

646大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:04:42 ID:YtsJxGfY0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

647大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:05:58 ID:YtsJxGfY0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

648大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:07:39 ID:YtsJxGfY0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

649第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:10:26 ID:YtsJxGfY0
【第8話:無双の果て】
 
 
 中堅戦も北場まで進んだ。
 ここまでの結果に初本は、満足こそしてないものの、決して悪くないとは思っていた。
 
(´・ω・`)(できれば、ここも連荘したいけど)
 
(´・ω・`)(麦秋が高めの手を張ってるみたいだし、降りたほうが良さそうかな)
 
 北一局、親番は芽院高校の初本。
 連荘狙いで一度鳴いたが、麦秋の船都が僅かに顔を紅潮させているのを見て、初本は現物を捨てた。
 最低でも満貫はあるだろう、と考えながら。
 
 その予感は、十一巡目に現実となる。
 
(’e’)「ツモじゃ」
 
 門前清自摸和、一盃口、混全帯幺九、混一色。
 綺麗な染め手だ。初本が感じたのは、その程度だった。
 
(’e’)「3000・6000じゃよ」
 
 子にツモ和了りされたことで、初本は6000点を失った。
 しかし、避けようのなかった失点。初本に点を惜しむ気持ちはなかった。
 
(´・ω・`)(昨日戦ったときに、心を折ったつもりだったんだけど)
 
(´・ω・`)(そう上手くはいかないか。みんな、全国へ向けて必死だね)
 
 初本と船都は昨日も対局している。
 そのときは初本が圧巻の麻雀を見せ、東二局で試合を終わらせていた。
 
 役者が違う。
 昨日の試合中に、船都はそう感じていた。
 それでもチームのために、心を無理やり奮い立たせていたのだ。
 
 ここまで、二位に大差をつけて芽院高校の初本がトップに立っている。
 しかし、南場まではいいようにやられていた肯綮高校と麦秋高校も黙ってはいなかった。
 それぞれ、三万点近いところまで点数を取り返してきている。

650第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:12:22 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)(さすがに南場までは恵まれすぎてた。あんなに和了れたのは人生で初めてかな)
 
(´・ω・`)(みんなが早々に諦めてくれたら良かったんだけど、そうもいかないか。難しいな)
 
(´・ω・`)(なるべく点差を広げて終わらせたいところだけど)
 
 椅子の横にある小さなテーブルに、烏龍茶のペットボトルを置いていた。
 そのキャップを取って、初本は烏龍茶を二口分ほど流し込む。
 
 昨日、そして今日。
 初本は、あまりも出来過ぎている結果に、満足はしていなかった。
 
 実力のみで全てを引き寄せたならば、これ以上を望むこともなかっただろう。
 しかし実際には、幸運にも助けられている。
 だから決して満足できないのだ、と初本は思った。
 
(´・ω・`)(唯一、自分で自分を褒められるのは、ここまで一度も振り込んでないことかな)
 
(´・ω・`)(ただ、一度くらいは放銃があっても、おかしくはないな)
 
 先ほどの親番では麦秋高校の船都に6000点を奪われている。
 この先も充分に警戒が必要だ、と初本は気を引き締めた。
 
 しかし、警戒網を容易く乗り越えるような声が上がる。
 
( ∵)「立直」
 
 北二局、一巡目。
 肯綮高校の名瀬楢が、両立直をかけた。
 
(´・ω・`)(これは、事故に遭うかもしれないな)
 
 両立直の難点は安牌がほぼ読めないところだった。
 現物は九萬のみ。初本の手には一枚もない。
 どの牌を切っても振り込む恐れがあった。
 
(´・ω・`)(ないとは思うけど、仮に役満なら48000点か。逆転されるな)
 
(´・ω・`)(まぁ、現実的なところを考えれば、悪くても満貫から倍満の間くらいかな)
 
(´・ω・`)(それなら振り込んでもまだ大差だ)
 
 初本が西を切るも、名瀬楢がロンと発声することはない。
 一発は消えた。しかし、ここから先に、名瀬楢は何十回ものチャンスを残している。
 
 そのチャンスを、三巡目に初本が切った一筒で、掴まれた。

651第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:13:31 ID:YtsJxGfY0
( ∵)「ロン」
 
 仕方ないな。
 初本が真っ先に考えたことは、それだった。
 
( ∵)「両立直、ドラ4」
 
 跳満で済んで良かった。
 初本が次に考えたことは、その程度だった。
 
(´・ω・`)(何が安牌か分からないんじゃほとんど逃げられない。貰い事故みたいなものかな)
 
 できれば他の誰かが振り込んでほしい。
 初本はそう願っていたが、叶わなかった。
 尤も、それが麻雀というゲームだ。
 
 18000点を失った初本だが、それでも二位とは五万点以上の差があった。
 残りは最短で三局。例え和了れなくとも、大きな失点さえなければポイント計算で芽院高校は優位に立つ。
 初本にとって最重要なことは、なるべく良い形で笑野にバトンを繋ぐことだった。
 
(´・ω・`)(今の跳満はしょうがないけど、これ以上の失点は防ぎたいところだな)
 
 親の名瀬楢が和了ったため、場は北二局一本場へと移る。
 ようやく大きな点数を手に入れたことで、名瀬楢は本来の調子を取り戻し始めていた。
 
( ∵)(西場までは、燎原の火の如き勢いに、為す術なくやられてしまっておったが)
 
( ∵)(跳満で邀撃に成功した。この機、失うわけにはいかぬな)
 
 北二局、一本場の名瀬楢の手牌は、萬子が多かった。
 萬子九枚に、筒子が三枚、字牌が二枚。
 理牌を終えて、すかさず一筒を切る。
 
( ∵)(混一色を狙うより他あるまいよ)
 
 その後、六巡かけて名瀬楢の手牌は萬子と字牌だけになった。
 これで、あとは萬子を整えて手役を完成させるのみ。
 立直をかけた上での混一色ならば最低でも12000点。名瀬楢の士気は、上がっていた。
 
 しかし二巡後、その士気が下がる一声。
 
(´・ω・`)「立直」
 
( ∵)「!」
 
 初本が先制立直。
 西場までの苦々しい思いが、名瀬楢の中で再び目を覚まし始める。

652第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:14:42 ID:YtsJxGfY0
(;∵)(くっ。和了りを目指したいが、振り込むような大過も避けたい)
 
(;∵)(しかし、この手では回し打ちするのも厳しい)
 
 西場までの初本の勢いは凄まじく、名瀬楢は和了れる気がしないとさえ思っていた。
 北場に入ってようやく下火となり、反撃の糸口を掴んだが、その糸を断ち切るような先制立直。
 名瀬楢は臍を噛む思いだった。
 
 幸か不幸か、初本は萬子を多く捨てており、名瀬楢には安牌がいくつもあった。
 守備に使える字牌もある。ベタ降りすれば放銃の危険性は低かった。
 
( ∵)(親番は口惜しいが、ここは、失点を避けるべきか)
 
 一つ息を吐いてから、名瀬楢は一萬を切った。
 初本がどれほどの手を作っているのかは、読めない。
 それでも、点を守るべき場面だ、と名瀬楢は自分に言い聞かせて。
 
 しかし、四巡後に公開された初本の手牌を見て、名瀬楢は再び悔やんだ。
 
(´・ω・`)「ツモ。立直のみ」
 
(;∵)「!」
 
 役が、立直しかない。
 初本が得たのは1400点、名瀬楢が失ったのは600点だ。
 
(;∵)(これほどまでに安い手だったのか。それならば、突っ張ったほうが得策であった)
 
 初本は、極端に安い手で和了ることはほとんどない。
 名瀬楢は、大将の水戸からそう聞かされていた。
 それ故の警戒でもあったが、今回の初本の手は、たったの一飜だった。
 
(;∵)(配牌は中々のもの。初本ならば満貫以上を狙いにいってもおかしくはない)
 
(;∵)(大差を保って迅速に試合を終わらせるために、あえて安い手で和了った、ということか?)
 
 名瀬楢にとって悔やまれるのは、ベタ降りを決めたあとに萬子がいくつも手に入ったことだ。
 ベタ降りしていなければ、初本よりも先に和了れていた可能性があった。
 
 悔しさを押し殺すように、名瀬楢は静かに牌を手前に倒した。
 非運を嘆くより他ない。心の中で、そう呟いて。
 
 尤も初本からすれば、決して運だけに左右された一局ではなかった。

653第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:17:18 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)(あの表情を見るに、どうやら中々いい手が入ってたみたいだね)
 
(´・ω・`)(読みどおり、萬子染めで混一色狙いかな。立直をかけられれば最低でも満貫、一気通貫も加われば跳満の手だ)
 
 初本からは名瀬楢の手牌を確認できない。
 しかし、今日の試合で初本は名瀬楢の癖を見抜いていた。
 そしてそこから、手牌をある程度把握することができていたのだ。
 
(´・ω・`)(名瀬楢くん、君は理牌のときに必ず萬子を左に運ぶことから始める)
 
(´・ω・`)(次は筒子、次は索子、最後に字牌。この順序は絶対に崩さない)
 
(´・ω・`)(君は一巡目に一筒を切った。あの一手で、最初から萬子が九枚あることが分かった)
 
(´・ω・`)(ほぼ確実に手を染めてくることは分かってたし、和了りも早そうだった。だから安い手で潰しにいったんだ)
 
(´・ω・`)(本当は僕も、もう少し手を高めたかったけどね。満貫や跳満を潰せたなら充分だ)
 
 芽院高校は副将戦までに試合を終わらせなければならない。
 それを考えれば、初本としては、少しでも多く点を稼ぎたいところではあった。
 しかしそれ以上に、失点を防ぐことが大事だ、と初本は考えていた。
 
(´・ω・`)(河に萬子を多く流したのも、気持ちをベタ降りに傾かせるためだったけど)
 
(´・ω・`)(上手くいったのかな。思惑どおりになってたならいいけど)
 
 全てが思い描いたとおりになったのかは初本には分からない。
 しかし、全てを支配することなどできないのが麻雀だ。
 初本は、そう考えていた。
 
 それでも、思ったとおりに事を運べるよう、努力すべきだ、とも。
 
 北三局、親番は陶冶高校の旭。
 高い手に対する放銃こそないものの、和了りは一度に留まっていた。
 最後の親番で少しでも点を稼ぎたい。旭がそう考えているであろうことは、誰もが予想できていた。
 
 旭が素早く理牌を終えて、七索を切る。
 その時点で、初本は旭の狙いが読めていた。
 
(´・ω・`)(間違いないな。七対子狙いだ)
 
(´・ω・`)(対子が四つで二向聴。君なら間違いなく七対子を狙う配牌だろう)

654第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:18:27 ID:YtsJxGfY0
 陶冶高校の旭は理牌の際、同じ牌が二つあるといったん手前に引き寄せてから二枚同時に移動させる癖がある。
 それを初本は見抜いていた。
 
 そして、無類の七対子好きであることは、旭本人のツイッターから情報を得ていた。
 
(´・ω・`)(七対子は最後、必ず単騎待ちになる。当たり牌が何なのか、読みにくいのが怖いところだけど)
 
(´・ω・`)(狙ってる役が明らかなのは、戦いやすくもあるかな)
 
 北三局は淡々と場が進行していく。
 肯綮高校の名瀬楢、麦秋高校の船都はさほど手が進んでいなかった。
 
 一方、陶冶高校の旭は確実に七対子へと近づいていく。
 
(-@∀@)(ひひひ。テンパイしましたよぉ~)
 
(-@∀@)「立直!」
 
 十一巡目に七対子テンパイにまで至り、旭が立直をかけた。
 七対子と立直とドラ2で満貫は確定。裏ドラ次第で跳満までありえた。
 旭の胸は期待で膨らむ。
 
(-@∀@)(私にもようやくチャンスが巡ってきました)
 
(-@∀@)(副将戦以降のことを考えると、ここで点差を詰めたいですねぇ)
 
 ブラックコーヒーを飲み、口を拭いながら旭は前を見据えた。
 当たり牌は二筒。序盤に一枚捨てられているものの、当たり牌は二枚残っている。
 
 旭は、立直をかける際に五筒を捨てていた。
 いわゆるモロ引っかけに誰かが嵌まってくれないかと期待していたのだ。
 
(-@∀@)(七対子モロ引っかけで出和了りしたときが最高に楽しいんですよねぇ~)
 
(-@∀@)(ああ、早く誰か切ってくれませんかねぇ~)
 
 思わず笑顔になりかけたのを必死で堪える旭。
 残る手番はさほど多くないものの、和了れる可能性は充分あると見ていた。
 
 しかし、十二、十三、十四と巡目が重なっても、一向に二筒は場に現れない。

655第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:20:35 ID:YtsJxGfY0
(;@∀@)(ん~、王牌の中で眠っちゃってますかねぇ~)
 
(;@∀@)(あるいは誰かが対子で持っちゃってますかぁ~?)
 
 親の立直に対してベタ降りするならば、筋の二筒の対子落としがあってもいい。
 場に一枚切れているため生牌でもないのだ。
 旭はそう考えていたが、二筒が河に流されることもないまま、場は進んでいく。
 
 やがて最後の手番になっても、二筒は姿を見せなかった。
 
(;@∀@)「ん~、テンパイです」
 
( ∵)「ノーテン」
 
(’e’)「ノーテンじゃよ」
 
(´・ω・`)「テンパイ」
 
 嘆息を吐きながら旭は牌を表にした。
 親番は続行。しかし、満貫確定の手を和了れなかったことには大きく落胆させられていた。
 
 それ以上に、芽院高校の初本が公開した手牌に、旭は落ち込まされることとなる。
 
(;@∀@)(二筒があるじゃないですか! 対子で!)
 
 旭の待ち望んでいた牌が、初本によって囚われていた。
 立直をかければ待ちは変えられない。初本がテンパイを維持する限り、旭の和了りは厳しかったということになる。
 
(;@∀@)(うーむ。初本が途中で切った牌は、二筒よりもよっぽど危険な牌が多いように思いましたがねぇ~)
 
(;@∀@)(和了りのために突っ張ったことが、たまたま奏功したということですかぁ~?)
 
(-@∀@)(運の良い人ですねぇ~)
 
 七対子を和了ることはできなかった。
 それでも、連荘できたならば悪い結果ではない。
 今回の流局は、運が悪かった。致し方ない。
 
 旭は、そう思った。
 しかし実際には、初本は確信を持って二筒を止めていたのだ。

656第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:22:35 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)(二筒か八筒で待ってると思ってたけど、やっぱりそうだったか)
 
 雀卓の中に吸い込まれていく雀牌を見送りながら、初本は僅かに頬を緩ませた。
 モロ引っかけで二筒もしくは八筒待ち。これも、初本が事前に仕入れていた情報どおりだった。
 
(´・ω・`)(七対子をモロ引っかけで和了るのが一番好きだって、何度もツイッターに書いてたね)
 
(´・ω・`)(大会でも自分らしさを貫くのは悪くないけど、不特定多数に見られてることは考慮しなきゃね)
 
 二枚の二筒が初本の手に来たのは立直後のことだった。
 事前に情報を得ていなければ、二筒は捨てていた可能性が高い。
 無筋の生牌である六索を先に切るというようなことは恐らくなかっただろう、と初本は思った。
 
 満貫以上が確定していた手を初本は上手く潰した。
 この中堅戦、大差を保ったまま終わらせられる見通しが立った、と初本は見ていた。
 
 
 ◇
 
 
 控え室はクーラーがついているものの、喉の渇きは早い。
 一本目の燕龍茶は既に半分以上なくなっている。
 念のため三本買ってきておいて良かった、と杉浦は思った。
 
<_プー゚)フ「惜しかったですね。旭くん、七対子和了れそうだったのに」
 
 江楠はチョコボールの包みを解きながら言った。
 その声は相変わらず軽い調子で、旭に同情している風でもない。
 
<_プー゚)フ「おっ、銀のエンゼルだ」
 
/^o^\「え、ほんと?」
 
<_プー゚)フ「ラッキー。久々に当たった」
 
( ФωФ)「集めているのであるか?」
 
<_プー゚)フ「だいぶ前に当たった銀のエンゼルが、確か二枚くらい家にあったような」
 
/;^o^\「それ、もう失くしちゃってるパターンじゃ?」
 
<_プー゚)フ「探してみるよ。どっかにあるはず」
 
 思いがけない幸運に恵まれた江楠。
 先ほどの旭とは対照的だった。

657第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:24:29 ID:YtsJxGfY0
<_プー゚)フ「それにしても、さっきの二筒待ちは不運でしたよね」
 
<_プー゚)フ「あんなにピンポイントで止められるなんてこと、滅多にあるもんじゃないのに」
 
( ФωФ)「まるで、二筒待ちが分かっているかのような止め方であったな」
 
<_プー゚)フ「完璧に読み切ってたんですかね?」
 
( ФωФ)「分からぬよ。しかし、初本という男は観察力に優れている」
 
( ФωФ)「かつて我輩が対局したときも、見事に当たりを止められたことがあったであるよ」
 
<_プー゚)フ「まるでホライゾンの『神の目』じゃないですか」
 
( ФωФ)「似ておるな。しかし、初本の場合は恐らく、相手の癖を見抜くのが上手い」
 
( ФωФ)「理牌や視点移動などを備に観察し、読みの力に活かしているのであろうな」
 
<_プー゚)フ「そんなの、観察するのも大変ですけど、覚えてるのも大変ですよねぇ」
 
( ФωФ)「うむ。正直、理屈が分かったとしても、簡単には真似できぬことであろうな」
 
 北三局の一本場、旭は思ったように打ち進められず、鳴きを使ったものの一向聴で手が止まった。
 初本もテンパイには至らなかったが、名瀬楢と船都はテンパイし、北三局の点をしっかり取り返した。
 
<_プー゚)フ「中堅戦もオーラスですね」
 
( ФωФ)「田中をそろそろ起こしてやるである。出番であるよ」
 
(゜3゜)「起きてますよー」
 
 寝ぼけ眼を擦りながら、副将の田中が杉浦の側に寄ってきた。
 髪は上下左右に跳ね、制服は皺だらけ。
 杉浦は、今更身だしなみを注意する気にもなれなかった。
 
(゜3゜)「どうなってます? 勝ってます?」
 
( ФωФ)「いや、厳しい戦いである。しかし、全国への道が潰えたわけではない」
 
(゜3゜)「ま、適当に打ってきますよ。気負いすぎると碌なことがない」
 
( ФωФ)「うむ。お主はそれくらいがちょうどいいである」
 
(゜3゜)「じゃ、行ってきまーす」
 
 その場に欠伸だけを残して、田中が副将戦の舞台へと向かった。
 およそ緊張とは無縁な性格。それが、長所でも短所でもある男だ、と杉浦は思っていた。

658第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:26:04 ID:YtsJxGfY0
( ФωФ)「責任感という言葉が最も遠い男であるな、田中は」
 
<_プー゚)フ「あれはあれで、けっこう良いやつなんですけどねぇ」
 
( ФωФ)「うむ。それに、実力も決して悪くはない」
 
<_プー゚)フ「ちゃんと副将らしい力はありますよね」
 
( ФωФ)「しかし、今年の副将戦は些か分が悪い」
 
<_プー゚)フ「あー、そっか。芽院高校の副将は笑野でしたっけ」
 
( ФωФ)「いかにも。まったく、恐ろしいオーダーであるな」
 
 県下最強の打ち手として真っ先に名の上がることが多いのは、間違いなく芽院高校の笑野だった。
 何しろ、高校生になってから公式戦では一度も負けていない。
 昨年の全国大会で、芽院高校は二回戦敗退に終わったが、笑野自身は勝利を収めているのだ。
 
<_プー゚)フ「実績を考えると、やっぱ県じゃ最強ですかねぇ。杉浦さんが最強だ、って信じたいですけど」
 
( ФωФ)「客観的に考えると、やはり笑野であろうな。肯綮の水戸、芽院の初本、麦秋の伊要も相当な打ち手であるが」
 
<_プー゚)フ「去年も県大会で大暴れして、全国でも烽火高校相手に勝っちゃったんですもんね」
 
( ФωФ)「あのあと烽火高校が全国三位になったことを考えると、快挙といっていい活躍であったな」
 
 その笑野が、副将戦に出てくる。
 本来ならば大将の器。その大将戦でも、トップに立つ可能性が高い男だ。
 
 副将戦を戦う面々のなかで図抜けていることは明白だった。
 
<_プー゚)フ「笑野ってどのへんが凄いんですかね? よく分かんないんですけど」
 
( ФωФ)「豊富な経験であろうな。昨年対局したときに少し話したであるが、物心ついた頃から毎日のように麻雀を打っているそうである」
 
<_プー゚)フ「うへー、そんだけ打ってて飽きないんですかね」
 
( ФωФ)「いつ見ても楽しそうに打っているである。心底、麻雀が好きなのであろうな」
 
 昨年の対局時、笑野は自分が和了ったときはもちろん、他家に和了られたときでも笑顔を絶やさなかった。
 純粋に、対局を楽しんでいる。動揺したり、焦燥に駆られたりすることがない。
 だからこそ、実力を出し切れずに終わるということがないのだろう、と杉浦は考えていた。

659第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:28:14 ID:YtsJxGfY0
( ФωФ)「笑野は、恐らく豊富な経験に裏打ちされた感覚が抜群に優れている。それこそが強みであろう」
 
<_プー゚)フ「計算で戦うというよりも、感性で戦うタイプですか」
 
( ФωФ)「そのように見える。無論、合理的な読みの力も人並み以上のものを備えているのであろうが」
 
 笑野は決してオカルト派の打ち手ではない、と杉浦は思っていた。
 しかし、常に緻密な計算をしながら打つタイプでもない。
 
 過去に経験した何千、何万という対局の記憶から、自然と答えを出せる。
 まるでベテランのような強みを持った打ち手だ、というのが杉浦の答えだった。
 
<_プー゚)フ「計算して打つタイプだと、制限時間も気にしなきゃいけないですもんね。経験則から瞬時に導き出せると強いなぁ」
 
( ФωФ)「それもそうであるな。ツモってから打牌するまで十五秒以内、というのは、意外と長いようで短い」
 
<_プー゚)フ「そういや、去年は二十秒以内だったのに、なんで今年は短くなっちゃったんですか?」
 
( ФωФ)「全国大会の全プレイヤーの平均時間を取ったところ、十五秒で充分という結論が出たそうである」
 
<_プー゚)フ「えー。勝負どころではじっくり考えたいのになぁ」
 
( ФωФ)「そういう意見もあるにはあったが、試合時間の短縮を図る意味でも制限時間を短くしたほうがいいという方向になったようであるな」
 
<_プー゚)フ「笑野みたいな天才型の打ち手はそれでいいんでしょうけど、僕みたいな凡人には厳しいですよ」
 
( ФωФ)「とはいえ、先鋒戦では全部五秒以内に切っていたようであるが?」
 
<_プー゚)フ「あっ、実はあんまり考えてないことがバレましたね」
 
 杉浦が江楠と談笑している間に、中堅戦の北四局は中盤まで進んでいた。
 親番の船都は手堅く進め、十巡目の時点で断幺九、三色同順、ドラ1の手がテンパイに至った。
 
 次鋒戦の簿留が首位を取った麦秋高校だが、中堅戦では最下位に沈んでいる。
 ここは是が非でも連荘したい。そう考えているであろうことは、モニター越しの杉浦でも分かった。
 
 しかし、船都がテンパイに持ち込んだ三巡前には、芽院高校の初本がテンパイしていた。
 そして、自らの手で最後の牌を引き当てた。
 
( ФωФ)「終わったであるな」
 
 中堅戦が終了。
 最後は、芽院高校の初本が断幺九のみの安い手で試合を終わらせた。
 
 中堅戦の最終得点は、芽院高校が102300点、肯綮高校が41600点、陶冶高校が29900点、麦秋高校が26200点。
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が297ポイント、肯綮高校が225ポイント、陶冶高校が190ポイント、麦秋高校が184ポイントとなった。

660第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:30:35 ID:YtsJxGfY0
<_プー゚)フ「トップの芽院高校からは結構離されちゃいましたね」
 
( ФωФ)「しかし、まだ逆転の余地は残っているである」
 
<_プー゚)フ「二位とは35ポイント差ですし、プレーオフ狙いも考えなきゃいけませんね」
 
( ФωФ)「現実的にはそうであるな。無論、首位を目指すことに変わりはないであるが」
 
 しかし、田中が笑野に勝つのは厳しいかもしれない、とは杉浦も考えていた。
 副将戦で芽院高校との点差が詰められなければ、陶冶高校の優勝の目は消える。
 その場合は二位を狙わなければならない。
 
( ФωФ)「とにかく、田中が1ポイントでも多く稼いでくれることを願うばかりである」
 
 ストレートでの全国行きを決めるにせよ、プレーオフに望みを託すにせよ、まずはポイントを得る必要がある。
 そして、陶冶高校の命運は、これから始まる副将戦が鍵を握っている。
 杉浦は、そう考えていた。
 
 
 ◇
 
 
( ^Д^)「初本さん、お疲れ様っす」
 
(´・ω・`)「疲れたよ、本当に。一荘戦は長いね」
 
 初本が対局場を出たところで、笑野が労いの言葉を掛けた。
 気負いはなさそうだ。そう思って、初本は安堵する。
 
( ^Д^)「圧勝っすね。さすが初本さん」
 
(´・ω・`)「いやいや、出来過ぎだよ。特に南場までは配牌が大いに味方してくれた」
 
( ^Д^)「配牌も良かったっすけど、それ以上にやっぱ、読みが冴えてたっすね」
 
 初本が相手の動きをどう読んでいたのか、笑野には分からないはずだった。
 それでも感じ取れることがあったのだろう、と初本は思った。
 笑野は、麻雀に対する嗅覚が人一倍優れている。
 
(´・ω・`)「今、肯綮高校との差が72ポイントだ。30ポイントくらい差をつければ大将戦には回らないで済む」
 
( ^Д^)「肯綮以外は、もう100ポイント以上引き離したっすよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。首位さえ取れれば、肯綮以外の点数は気にしなくてもいい」
 
( ^Д^)「了解っす。必ずここで勝負を終わらせるっすよ」
 
 緊張しているわけでもなく、気を抜いているわけでもない。
 笑野は、極めて勝負に適した精神状態だ、と初本は思った。
 だからこそ、あの背中は頼もしく見えるのだろう、とも。

661第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:33:00 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)(50ポイント差くらいにできたらと思ってたけど、72ポイント差か。上出来だね)
 
(´・ω・`)(何があるか分からないのが麻雀だけど、公式戦無敗の笑野が打つんだから、安心してもいいのかな)
 
 携えたペットボトルに残っていた烏龍茶を初本が飲み干す。
 そのまま自販機の横にあるゴミ箱に入れ、真っ直ぐ控え室に戻った。
 
(*゚ー゚)「初本さん、お帰りなさい!」
 
('、`*川「お疲れ様です!」
 
 二人の女子部員が飛び跳ねるように初本を出迎えた。
 ありがとう、と言葉を返して初本は椅子に腰を落とす。
 
('A`;)「すみません、僕がもっと稼いでたら初本さんも楽に打てたと思うんですけど」
 
(´・ω・`)「いやいや。さっきも言ったけど、僕のオーダー変更が原因だから」
 
 初本の中に残っていた悔しさは、中堅戦の圧勝で随分晴れている。
 しかし、全てが消えるのは全国大会行きを決めたときだ、と初本は分かっていた。
 
(*゚ー゚)「笑野さんなら大丈夫ですよね。昨日なんて東一局で終わらせちゃったくらいですし!」
 
(´・ω・`)「相手は軽めだけど、油断はできないよ。笑野ならやってくれると信じてるけどね」
 
 内藤に出番を回さないための、苦肉のオーダー。
 それが奏功して副将戦までに試合が終わるのであれば、芽院高校にとってはありがたいことだった。
 全国でも注目されるほどの打ち手である笑野が、副将戦に出てくるというのは、他校にとっては脅威的なことだ。
 
(´・ω・`)「そういや、内藤は?」
 
('A`)「昨日食べたものが出そうだって言って、さっきトイレに行きました」
 
(*゚ー゚)「中堅戦の間も昨日のお菓子の残りを食べてたもんね」
 
(´・ω・`)「まぁ、のんびりしてもらってて良さそうだね」
 
 初本がモニターに目を向けると、副将戦の選手は既に全員着席していた。
 肯綮高校の鈴木、陶冶高校の田中、麦秋高校の名織。
 いずれもやはり、県大会レベルの打ち手だ、と初本は思った。
 
 一抹の不安もなく、副将戦が始まる。
 
 
 ◇
 
 
 副将戦の東一局、起家は芽院高校の笑野だった。
 しかし配牌の悪さに苦しみ、途中で手が進まなくなる。

662第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:33:58 ID:YtsJxGfY0
( ^Д^)(んー、微妙だな)
 
 一索をツモ切りして、笑野は軽く首を捻る。
 配牌が悪く、ツモにも恵まれない。
 親番としてはもったいない展開だった。
 
( ^Д^)(ま、こういうこともよくあるけど)
 
 その思いは、陶冶高校の田中が手牌を倒しても変わらなかった。
 
(゜3゜)「ツモ、500・1000」
 
( ^Д^)(和了られたか)
 
 副露して手を進めていた田中が混一色のみで和了った。
 笑野の親は流れ、場は東二局へと移る。
 
( ^Д^)(麦秋の名織とは昨日戦ったし、肯綮の鈴木とは去年対局したけど、陶冶の田中は初めてだな)
 
( ^Д^)(掴みどころがなくて、やりづらい相手かもしれないって初本さんは言ってたっけ)
 
 副露していたとはいえ、手の進む気配が分かりにくいタイプの打ち手だ、と笑野は感じた。
 しかし、こういう手合いは笑野が通っていた雀荘にも何人か居た。
 
( ^Д^)(あんまり理屈で打つタイプじゃなさそうだ。捨て牌一つ一つを深読みすると損かな)
 
 東二局、親番は肯綮高校の鈴木に変わる。
 先ほどとは違い、笑野の配牌は悪いものではなかった。
 
( ^Д^)(ダマで断幺九、平和、三色同順が狙えそうだ。ここは点を稼ぎたいな)
 
( ^Д^)(長丁場を乗り切るためにも、序盤にリードを築いておきたい)
 
 決勝戦は全て一荘戦。
 まだ東一局が終わったばかりで、誰かが飛ばない限り最短でもあと十五局ある。
 集中力を切らさずに戦いきることが大事になる、と笑野は考えていた。
 
 その後、二巡で手が進み、笑野は一向聴にまで至る。
 この局は和了れる目途が立った。笑野がそう思った、三巡目。
 
 ツモ牌の九萬を、そのまま捨てようとした。
 しかし、不意にその手が止まる。

663第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:36:31 ID:YtsJxGfY0
( ^Д^)(ん? なんか、嫌な予感がするな)
 
 理屈はなかった。
 しかし、笑野は九萬を切りにくく感じた。
 
 勘だけに頼って打つつもりなどない。
 しかし、情報が少なく道も多い序盤ならば、勘を信じてみるのもいい。
 笑野は、そう考えていた。
 
( ^Д^)(ここは、七筒切りにしとくか)
 
 断幺九を狙うならば九萬は不要。それでも、笑野は自分の感覚を信じた。
 昨日の試合も、清一色まで手を高めても和了れる予感があったからこそ、笑野は狙いを切り替えたのだ。
 そして、対局を東一局で終わらせることができたのだ。
 
 しかし、四巡目。
 今度は一萬が笑野の手に入った。
 
 一萬を手牌の上に置き、笑野は動きを止める。
 
( ^Д^)(なーんか、これもあんまり切りたくねーなぁ)
 
( ^Д^)(でも、そんなこと言ってたら手が崩れるし、切れるもん無くなるよなぁ)
 
 感覚のみに頼るならば手に残す牌。
 しかし、理屈から言えば迷わず捨てるべき牌だ。
 
( ^Д^)(んー。まぁ、よほどのことがない限り大丈夫か。まだ序盤だし)
 
( ^Д^)(捨てとこう)
 
 ツモ牌の一萬を、河に流した。
 僅かな引っ掛かりを振り払うように、潔く。
 
 その瞬間、親の鈴木が手牌を掴む。
 
/ ゚、。 /「ロン」
 
(;^Д^)(あー、振り込んだか)
 
 嫌な予感は、やはり、当たっていた。
 笑野は、軽くそう考えた。
 
 奈落の底へと落ちていることには、気づけていなかった。
 
 
/ ゚、。 /「国士無双」
 
(;^Д^)「!?」

664第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:39:39 ID:YtsJxGfY0
 笑野の腰が、浮いた。
 思わず、鈴木の牌を覗き込んでしまっていた。
 
/ ゚、。 /「役満、48000」
 
 俄かには信じがたかった。
 僅か四巡目にして、役満を和了。
 
 あまりにも出来の悪い夢だ、と笑野は思った。
 
(;^Д^)(冗談だろ!?)
 
 笑野は何度も確認した。
 しかし、何度確認しても変わらなかった。
 
 全ての幺九牌が、一枚ずつ揃っている。
 国士無双、十三面待ちからのロン和了り。
 たった四巡で、鈴木はそこに到達していた。
 
 親の役満で48000点。
 笑野の持ち点は、49000点から、僅か1000点になった。
 
 よほどのことがない限り大丈夫だと笑野は考えた。
 その、よほどのことが、起きた。
 
(;^Д^)(やべぇ!! やべぇ!!)
 
(;^Д^)(これは、マジでやばい!! どうする!?)
 
(;^Д^)(たった1000点しかなかったら、簡単に飛ばされちまう!)
 
 放銃すればどんな手でも持ち点を失う。
 他家のツモ和了りでも、親なら二飜、子なら三飜の手で、笑野の息の根は止まるのだ。
 
 笑野は、動揺を隠しきれなかった。
 口の中は渇き切り、視点は定まらない。
 東二局一本場の配牌が終わっても、笑野は自分の手牌が頭に入ってこなかった。
 
 それでも時間は流れていく。
 笑野は、方向性が定まらないままに、錯乱しながら打ち進めていた。
 
 そこに、追い打ちをかけるような声。
 
(゜3゜)「立直」
 
(;^Д^)「!」

665名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 17:39:40 ID:ZUxczrIU0
うおおおおおおお!!!

666第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:41:06 ID:YtsJxGfY0
 五巡目の立直。
 笑野が振り込めば、そこで副将戦は終わる。
 
 ここで試合が終了すれば、肯綮高校が100ポイントを得る一方、芽院高校は0ポイントに終わる。
 ポイント計算上で肯綮高校が逆転トップに立って、大将戦に回ることとなる。
 
(;^Д^)(大将戦に回ったら、うちは終わりだ。全国には行けない)
 
(;^Д^)(ここで何とかしなきゃいけねぇのに、くそっ、安牌が読めねぇ!)
 
 これほどまでに追いつめられた経験が、笑野にはなかった。
 役満に振り込んだことは過去に何度かあるものの、遊びで打っていたときの話だ。
 公式戦で、しかもチームの命運を握るような試合で、首の皮一枚になったことはなかった。
 
 早まる心臓の鼓動を、どうすることもできないまま、笑野が西を切る。
 田中の口は、開かなかった。
 
 開いたのは、三巡後だった。
 
(゜3゜)「ツモ」
 
(;^Д^)「!!」
 
(゜3゜)「立直、門前清自摸和で600・1100」
 
 田中が発声した瞬間、笑野は、思わず呼吸を忘れた。
 しかし田中の手は二飜。親ならば死んでいたが、笑野は子番のため失点は600点で済んだ。
 まだ、辛うじて生き延びていた。
 
(;^Д^)(あぶねぇ! なんとか、ギリギリ、首の皮は繋がったけど)
 
(;^Д^)(でも、更に点が減っちまった。もう、立直もかけられねぇ)
 
 笑野の手元のタッチパネルに表示された数値は、三桁。
 持ち点は、僅か400点にまで減っていた。
 
 親のツモ和了りならば無条件で敗北。
 子のツモ和了りでも生き延びられるのは一飜の手だった場合のみだ。
 
 当然、誰かに振り込めば即座に死に至るのは変わっていなかった。

667第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:43:20 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(虫の息、か)
 
(;^Д^)(でもまだ、点は残ってる。呼吸も、できる)
 
 たった一度の放銃が、笑野の命運を大きく変えた。
 絶体絶命の危機に陥った。
 
 それでも、笑野の心はまだ、折れきってはいなかった。
 
(;^Д^)(なんでもいいから、まずは、点を取り返そう)
 
(;^Д^)(やれるだけやってみよう)
 
 事の帰趨は分からなくとも、最後まで、全力を尽くす。
 そうでなければ、初本に顔向けができない。
 笑顔で初本を送り出すことができない。
 
 笑野は、そう思った。
 そして、ぼやける視界の曇りを晴らすように、目を擦った。
 
 
 ◇
 
 
 副将戦が始まるまでは、半ば、楽観的な空気さえ漂っていた。
 芽院高校の選手控え室。
 
 それが、たった三局で、まるで通夜のように静まり返っていた。
 
(´・ω・`)「読めない」
 
(´・ω・`)「あれは、絶対に読めない手だ」
 
 初本が呟く。
 頭の中に残って消えないのは、東二局の役満だった。
 
(´・ω・`)「誰であっても読めない。配牌時点で、国士無双の二向聴なんて」
 
('A`;)「しかも、そこからたった三巡で、十三面待ちのテンパイなんて」
 
 誰でも振り込む可能性があった。
 それが、たまたま芽院高校の笑野であった、というだけの話。
 初本は、分かっていた。それでも、割り切ることはできなかった。

668第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:45:15 ID:YtsJxGfY0
 笑野の持ち点は、僅か400点。
 もはや立直をかけることさえできない点数。
 
 立直がかけられないということは、作れる手も限られてくるということだ。
 その分、相手には読まれやすくなる。和了れる可能性が、低くなってしまうということだった。
 
(´・ω・`)(いや、仮に和了れたとしても、トップとの点差は96000点。逆転は厳しい)
 
(´・ω・`)(仮に逆転できたとしても、そこから更に点差を広げて、肯綮に28ポイント差をつけなきゃいけない)
 
(´・ω・`)(肯綮だけを狙い撃ちすれば他が浮く。そうなると陶冶や麦秋とのポイント差が縮まる)
 
(´・ω・`)(たった400点の持ち点で肯綮を逆転しつつ他も封じ込めるなんて、ほとんど無理だ)
 
(´・ω・`)(ほぼ、不可能だ)
 
 初本は、冷静に状況を分析すればするほど、絶望感に襲われていった。
 一度でも振り込めば瞬時に終わる。その状況から、逆転することなど、奇跡でも起きなければ成しえないことだ。
 考えれば考えるほど、それが分かってしまったからだった。
 
( ; -;)「ごめんなさい、初本さん、ごめんなさい」
 
( ; -;)「私が、私が、もっとポイントを取れていれば」
 
 椎名は、涙を流していた。
 この状況が絶望的であるということに、気づいていたからだ。
 
('A`;)「違う、椎名さんのせいじゃない!」
 
('A`;)「俺が、俺があんな、不甲斐ない結果に終わってしまったから」
 
 毒島が慌てて椎名を慰める。
 その毒島自身、自責の念は強くあった。
 
 しかし、初本は首を振って、二人を落ち着かせるように優しい声を出す。
 
(´・ω・`)「二人のせいじゃない。二人とも、本当によくやってくれた」
 
 本音だった。
 初本は、心からそう思っていた。

669第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:48:02 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)「椎名は麻雀を覚えて数ヶ月、毒島は苦手なものが相手」
 
(´・ω・`)「二人とも楽な状況じゃなかった。それでも、本当に頑張ってくれた」
 
(´・ω・`)「ありがとう。今年の大会がここで終わったとしても、この経験を活かして、また来年頑張ってほしい」
 
(´・ω・`)「君たちなら、必ず全国に行けるはずだから」
 
 諦めるにはまだ早い。
 まだ、試合は終わっていない。
 
 そう分かっていても、初本の口からは、自然と来年に向けた言葉が出てきていた。
 
 この決勝を、副将戦で終わらせるという計画は、ほとんど潰えた。
 最後、まだルールを少し覚えただけの内藤が、大将として登場する。
 県下屈指の打ち手たちを相手に、戦わなければならない。
 
 水戸、杉浦、伊要。
 いずれも、大将に相応しい選手だった。
 いくら牌の音を聞き分ける力があっても、今の内藤に太刀打ちできる相手ではなかった。
 
( ^ω^)「ただいまですおー」
 
('、`*川「たっだいまー」
 
 初本が項垂れ、泣きじゃくる椎名が毒島の肩で顔を伏せていたところに、二人が戻ってきた。
 内藤はトイレへ、伊藤は飲み物を買いに行っていたのだ。
 
 ドアを開けた瞬間は朗らかだった二人も、すぐに控え室内の空気を察した。
 
('、`;川「え、え? なに、どうしたの?」
 
(;^ω^)「お? しぃは、なんで泣いてるんだお?」
 
(´・ω・`)「内藤、すまない。聞いてほしい」
 
(´・ω・`)「どうやら、ほぼ間違いなく君に出番が回りそうなんだ」
 
(;^ω^)「お!?」

670第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:49:22 ID:YtsJxGfY0
 椎名の嗚咽がずっと聞こえ続けている室内。
 初本も、本当は、今すぐ顔を伏せてしまいたかった。
 
 それでも、最後まで、部長としての責任を果たさなければならない。
 その思いは強く、何とか初本の両脚を支えていた。
 
(´・ω・`)「笑野に不運があって、今、大差の最下位に沈んでる」
 
(´・ω・`)「笑野は諦めずに頑張ってくれると思うけど、それでも副将戦で全てを終わらせるのは厳しい状況だ」
 
(´・ω・`)「現実的に考えると、ほぼ確実に大将として打ってもらうことになる」
 
 その現実から、初本は、逃避してしまいたいとさえ思った。
 しかし、目を背けたとしても、現実は現実として鎮座している。
 
(;^ω^)「で、でも僕はまだ、ほとんどルールも分からなくて」
 
(´・ω・`)「そうだ。だから、ただ打ってくれるだけでいい」
 
(´・ω・`)「もちろん負けても君のせいじゃない。気楽に打ってくれればいい」
 
(´・ω・`)「できれば、君にはこれから、麻雀を好きになってもらいたいからね」
 
 内藤の肩を、初本が軽く二度叩いた。
 そして、今の心理状況で出せる、精一杯の笑顔を見せた。
 
(;^ω^)「分かり、ましたお」
 
 内藤は、言葉に詰まりながら答えた。
 その言葉に初本は、再び笑顔を返す。
 
 内藤が麻雀部に入部してくれるかどうか、初本には分からない。
 しかし、もし麻雀を面白いと感じてくれたならば、可能性はあるだろう、と思っていた。
 
 『神の耳』とでも言うべき、牌の音を聞く力が内藤にはある。
 もし内藤が入部してくれれば、来年の大会で、必ず芽院高校の武器になる。
 初本は、そう確信していた。
 
(´・ω・`)(みんな、本当にありがとう)
 
(´・ω・`)(僕は、いい仲間に恵まれた。それだけでもう、充分だ)

671第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:53:10 ID:YtsJxGfY0
 椎名は大粒の涙を流し、毒島は悔しげに自責し、伊藤も涙ぐんでいる。
 麻雀部とは本来、関係がない内藤も、大将戦を戦ってくれる。
 
 この仲間たちと共に最後の夏を過ごせた、戦えた。
 それだけで、充分に満足できる。
 
 初本は、本心からそう思っていた。
 
 
 ◇
 
 
 口の中の熱気を放出するように、水戸は息を吐いた。
 ちょうど、陶冶高校の田中がツモ和了りした直後だ。
 
从'ー'从「ざんね~ん。もうちょっとで終わってたのに~」
 
 気の抜けたような声で渡辺が言った。
 何が終わっていたか、といえば無論、この副将戦だ。
 
(´・_ゝ・`)「鈴木さんがツモ和了りしていれば、芽院は飛ばせてましたね」
 
(‘_L’)「ええ」
 
 田中に素早く和了られてしまったが、先ほどの東二局一本場、鈴木もテンパイしていたのだ。
 配牌とツモの良さは続いており、最後も四面張だった。
 しかし、カンチャン待ちの田中に先を越され、惜しくも副将戦を圧勝で終わらせることはできなかった。
 
从'ー'从「でもでもぉ~、芽院の人はあと400点ですしぃ~、次で終わっちゃうんじゃないですかぁ~?」
 
(´・_ゝ・`)「水戸さんの出番、すぐに回ってきそうですよね」
 
(‘_L’)「いえ、そう楽観はできません」
 
 二人の甘い考えを、断ち切るように水戸は言った。
 奇妙な予感を拭いきれないまま。
 
(‘_L’)「何事においてもそうですが、好機というのはそうそう巡ってくるものではありません」
 
(‘_L’)「だからこそ、いつ好機が訪れてもいいように準備しておかなければなりませんし、確実に掴まなければなりません」
 
(‘_L’)「いま鈴木くんは、もしかしたら、最初で最後の好機を逃したかもしれないのです」

672第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:55:26 ID:YtsJxGfY0
 東二局、鈴木は強烈な幸運に恵まれた。
 親番で国士無双を和了。しかも、トップの芽院高校からの出和了りだった。
 
 降って湧いたような、千載一遇の機。
 一気に追い込み、息の根を止めなければならなかった。
 
 それが叶わなかったことを、水戸は口惜しく思っていた。
 そして、この逸機が笑野にとっては挽回の機になりかねない、とも感じていた。
 
 点差は十万点に近い。
 しかし、絶対に楽観してはならない、と水戸は考えていた。
 
(‘_L’)「芽院高校の笑野くんは、率直に言うと、この副将戦のメンバーの中では圧倒的な存在です」
 
(‘_L’)「引くときの潔さもありますが、攻め込むと決めたときの勇猛さは簡単に真似できるものではありません」
 
(‘_L’)「この点差であっても絶対に気を抜いてはいけない相手なのです」
 
 それを、果たして鈴木は分かってくれているだろうか。
 水戸の不安は、東三局、笑野が満貫の手をテンパイしたときから、次第に大きくなっていった。
 
 
 ◇
 
 
 誰かが打牌するたびに緊張感が走る。
 鈴木の手には汗が滲み始めていた。
 
/ ゚、。;/(立直をかけたのに六筒をツモ切りか)
 
/ ゚、。;/(降りる気ゼロで突っ張ってくるなぁ)
 
 県大会決勝、副将戦の北二局。
 鈴木に躙り寄ってくる、追い縋ってくる気配は、局を重ねるごとに強くなっていた。
 
/ ゚、。;/(立直してても全然和了れる気がしない)
 
/ ゚、。;/(リードしてるのはこっちなのに、まるでいいようにやられてる気分だ)
 
/ ゚、。;/(いや、実際、国士無双以降はいいようにやられちゃってる、か)

673第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:57:04 ID:YtsJxGfY0
 鈴木の待ちは三面張。
 手広く堅く当たり牌を待てている。それでも、和了りは遥か彼方のように感じていた。
 
 十一巡目、鈴木が山から引いた牌は八萬。
 待ち望んでいる牌ではなく、そのまま静かに河へと置く。
 
 その瞬間、鈴木の心はざわめいた。
 
(;^Д^)「ロン」
 
/ ゚、。;/「!」
 
(;^Д^)「混一色、役牌、ドラ1で8000」
 
 また、振り込んだ。
 鈴木は、掌の汗を全て拭うように、右手を強くズボンに擦りつける。
 
 これで何回目の放銃だ。
 何回、直撃を喰らった。
 鈴木は、自分に聞いたが、答えは返ってこなかった。
 
/ ゚、。;/(はっきり分かることは、一つ)
 
/ ゚、。;/(笑野は、やっぱり格が違う。この面子の中じゃ、明らかに上手だ)
 
/ ゚、。;/(それも、一枚どころじゃなく、二枚も三枚も)
 
 この副将戦、鈴木は今後の人生で二度とないほどの配牌に恵まれた。
 東二局、最初から国士無双の二向聴。
 しかも、たった三巡で十三面待ちのテンパイにまで至った。
 
 ツモ和了りでもいいが、可能ならば芽院高校から出和了りしたい。
 そう思っていたところに、笑野が一萬を切った。
 全てが思い描いたとおりに進み、この次鋒戦、確実に圧勝できると鈴木は楽観さえしていた。
 
 しかし、怒涛の逆襲を鈴木は喰らった。

674第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:58:45 ID:YtsJxGfY0
 一時は持ち点を400点まで減らしていた笑野が、幾度もの和了りを経て、今は49400点にまで回復している。
 直撃を受け続けた鈴木は、50900点だ。
 
 南場あたりまで、鈴木は多少の失点を気にしていなかった。
 まだ大差がある。再び大きな手を和了れば笑野を沈めることができる。
 そう考え、事態を深刻に捉えていなかったのだ。
 
/ ゚、。;/(慢心があったのも事実だけど、ここまでやられるとは思ってなかった)
 
/ ゚、。;/(二巡前に他家が切った牌でロンされたりとか、もうほんと僕から出和了りすることしか考えてない)
 
/ ゚、。;/(トップとの点差でポイント計算されるから、当然といえば当然のことなんだけど)
 
 それでも、ここまで一人を狙い撃ちしつづけることができるものなのか。
 鈴木はそう考え、戦慄していた。
 着席していなければ、恐らく足が竦んでいただろう、と思うほどに。
 
 国士無双で得た大差を、ここまでにほとんど奪い返された。
 笑野が、これほどの化け物とは思っていなかった。
 鈴木の両手は微かに震えている。
 
 しかし、鈴木は理解しがたい違和感も覚えていた。
 
/ ゚、。;/(この副将戦、笑野は、何故かやけに焦ってる)
 
/ ゚、。;/(まるで、ここで全部終わらせようとしてるみたいに)
 
 笑野は国士無双に放銃し、大きく点を奪われた。
 それを取り戻そうとすること自体は、何ら不思議なことではない。
 
 しかし、あまりにも無茶な攻めが多すぎる。
 まるで、逆転したうえで更に点差をつけ、大将戦へ回さないように戦っているかのようだ。
 鈴木は、そう感じていた。
 
/ ゚、。 /(となると、もしかして、水戸の仮説が当たってる?)
 
/ ゚、。 /(可能性、あるなぁ。じゃなきゃ程々のポイントで大将にバトンを渡してもいいはずだもんね)
 
/ ゚、。 /(なるべく大将戦に回さないように。そう考えてるんだとしたら、やっぱ、大将戦に不安があるってことだ)
 
/ ゚、。 /(これは、ウチの優勝の可能性が高くなってきたかも)
 
 場は北三局へと進む。
 鈴木が思考を巡らせている間も、笑野は焦燥に駆られていた。

675第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:00:04 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(くそっ、五萬での和了りなら一盃口とドラがもう一つ乗って跳満だったのに。安いほうで和了るしかなかった)
 
(;^Д^)(直撃を取れたのは良かったけど、もうあと二局しかねぇ)
 
 ここまで笑野は、徹底した鈴木への直撃狙いで点差を詰めてきた。
 派手な和了りこそないものの、着実に点を重ねることで、ようやく背中に触れそうなところまでは来た。
 
 しかし、残るは二局。
 速度を優先した打点の低い手では、逆転こそ可能であっても引き離すことは難しい。
 
(;^Д^)(ここまで来たらもう、鈴木もほとんど無理はしないだろうな)
 
(;^Д^)(直撃はかなり厳しくなってきたと考えるべきだ)
 
 既に笑野も鈴木も親番はない。
 仮に鈴木からロン和了りできないとすれば、笑野が鈴木から一局で奪える最大点数は8000点だった。
 しかし、それは役満という、決して簡単には作れない手を作り上げたときの話だ。
 
(;^Д^)(くっそぉ、あんとき一萬を切らなきゃこんなことには)
 
(;^Д^)(嫌な予感はしてたんだよなぁ。自分の勘を信じてりゃ良かった)
 
 国士無双への放銃を今更悔やんでも時間は戻らない。
 しかし、切り替えの早い笑野といえど、48000点もの失点には傷が残った。
 そう簡単に忘れられるはずもなかった。
 
 北三局、笑野の配牌はまずまずだった。
 しかし、役満が狙えるような手ではない。
 
(;^Д^)(上手くいっても倍満くらいか?)
 
(;^Д^)(倍満ツモなら16000点で鈴木からは4000点が取れる。逆転でトップにも立てるけど)
 
(;^Д^)(それじゃあポイントが足りねぇ。大将戦に回っちまう)
 
(;^Д^)(オーラスで和了れればいいけど、傷を広げないための速攻を決められたら終わりだ)
 
(;^Д^)(ウチの大将は内藤。水戸や杉浦、伊要らを相手にしちゃ絶対勝てない)
 
(;^Д^)(くそっ、どうする)
 
 考えがまとまりきらないまま、場は進行していく。
 笑野の手は緩やかに、しかし確実に高まっていった。

676第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:01:32 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(三色同順、混全帯幺九、ドラ1まで一向聴)
 
(;^Д^)(立直すれば跳満。一発、ツモ和了り、裏ドラの次第じゃ倍満までありえるか)
 
(;^Д^)(でも立直すれば逃げ場がない。どんな危険牌でも切るしかなくなっちまう)
 
(;^Д^)(放銃は絶対避けたい。けど、リスクを取って攻め込むべき場面でもある、か)
 
 東三局以降の副将戦はほとんど笑野が支配している。
 この状況で立直をかければ、他家は降りてくれるかもしれない、という期待も笑野にはあった。
 
 そして、次巡で三索を引いた。
 これで笑野はテンパイ。しかし、立直をかけるべきかどうか、十秒ほど迷った。
 
 やがて答えを出したとき、河に置かれた牌は、横に曲がっていた。
 
(;^Д^)「立直」
 
 リスクの高い賭けであることは笑野も分かっていた。
 それでも、あまりにも不確実な、次局という未来に賭けるよりはいい、と笑野は考えたのだ。
 
 安全策を取っても負けることはある。
 無謀な手に出ても勝てることもある。
 
 それが麻雀だった。
 あとは、事の成り行きに身を任せるしかない、と笑野は思っていた。
 
 その笑野の立直を見て、心が弾んだのは麦秋の名織だった。
 
('(゚∀゚∩(やっぱりこの局も強気に攻めてきたよ! この人スゴイよ!)
 
('(゚∀゚∩(でも、ここは僕が和了るよ!)
 
 名織の手は萬子染めの五面張。
 当たり牌は五萬、六萬、七萬、八萬、九萬で、名織は萬子を捨ててもいる。
 これならば出和了りも期待できると見て立直をかけずに待っていた。
 
 役は混一色、ドラ3で跳満が確定。
 四人の点数がほぼ五分になっているため、跳満を和了すれば名織は大きく抜け出せる状況だった。
 
 例え笑野が萬子染めに気づいていたとしても、立直している以上、当たり牌以外は捨てるしかない。
 名織は、先に和了られないことだけを祈っていた。
 
 そして三巡後、笑野の手が止まる。
 捨てるしかないと分かっているはずの牌を、中々捨てられずにいたのだ。
 
 数秒後、名織の目当ての牌がこぼれる。

677第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:04:17 ID:YtsJxGfY0
('(゚∀゚∩(立直したのは失敗だったね!)
 
('(゚∀゚∩「ロンだよ!」
 
(;^Д^)「!!」
 
 笑野の落胆は、誰しもに伝わった。
 国士無双に振り込んだときよりも落ち込んでいるのではないか、とさえ名織は思った。
 
 麦秋の名織がトップに立ち、笑野は再び大きく沈んだ。
 残すは、一局。
 このままトップをキープしたい。そう考える名織にも疑問点があった。
 
 芽院高校の笑野が、トップに固執しすぎている、という点。
 
('(゚∀゚∩(どんな手だったか知らないけど、安全に行くならダマで仕掛けるべきだったよ! 染め手にも気づいてたみたいだし!)
 
('(゚∀゚∩(無敗記録を守りたくてトップに拘ってるのかなー?)
 
 芽院高校の事情を知る由もない名織は的外れな予測を立てる。
 それにしても、笑野の絶望の色は尋常ではない、と名織は感じていた。
 
(;^Д^)(リスクを取って、攻め込んだが)
 
(;^Д^)(最悪の結果だ。ここにきて、跳満に振り込むなんて)
 
 立直せずに仕掛けるべきだっただろうか。
 笑野は、そう振り返る。
 しかし、和了りを目指すならば、先ほどの七萬は切らなければならない牌だった。
 
 名織の染め手にも、笑野は、薄々気づいてはいた。
 七萬を切るときには、思わず手も止まった。
 それでも、立直している以上、避けようがない放銃だったのだ。
 
 オーラスを前にして、笑野は改めて得点を確認し、目指すべき未来を冷静に考え始めた。

678第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:05:23 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(鈴木から出和了りが期待できないとすれば、オーラスでは三倍満以上の手が必要)
 
(;^Д^)(でも、多分鈴木も名織もオーラスはスピードを上げてくる。この点差で充分だろうからな)
 
(;^Д^)(陶冶の田中もじっくり手を高めるタイプじゃない。三倍満を狙ったら速さで負ける)
 
(;^Д^)(それでも、親番がない以上、狙うしかない。三倍満以上の役を)
 
 北四局。
 副将戦、最後の一局。
 笑野は、祈るような気持ちで配牌を確認した。
 
(;^Д^)(対子が四つ、か)
 
 対子が四つあること以外は、牌種に統一感もなく、ドラもなかった。
 単純に和了りを目指すだけでは三倍満への到達が難しい配牌だ。
 
 ならば、目指すべき役は一つだった。
 
(;^Д^)(四暗刻。それしかないな)
 
 役満、32000点の手。
 ツモ和了りでもロン和了りでも確実に副将戦で決勝が終わる。
 芽院高校の優勝が、確定する役。
 
(;^Д^)(ポンもできないのに刻子を作っていくのはキツイけど、やるしかない)
 
(;^Д^)(じゃなきゃ、ウチは県大会敗退だ)
 
 芽院高校の命運を、この手牌が握っている。
 四暗刻を和了れるかどうかに掛かっている。
 
 進むべき道は、単純明快。
 他家に振り込まないよう留意しつつ四つの暗刻を作るのみだった。

679第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:08:52 ID:YtsJxGfY0
('(゚∀゚∩(うーん。親番だけど、この局はちょっと和了るのが難しそうだよ!)
 
('(゚∀゚∩(ここはあんまり無理せず、運が良ければ連荘、くらいの感じで進めるよ!)
 
(゜3゜)(酷い配牌。形式聴牌に漕ぎつけられれば御の字かな)
 
(゜3゜)(大失点がなきゃ大将戦に望みが繋がる。あとは杉浦さんに丸投げしよっと)
 
/ ゚、。 /(このオーラス、僕の場合は和了ることよりも笑野に振り込まないことが最重要)
 
/ ゚、。 /(ちょっとでも怪しい気配があったらすぐベタ降りだ。放銃さえしなければ、あとは大将の水戸が何とかしてくれる)
 
 それぞれの思いを乗せた北四局が進む。
 脚が鈍い三人に比べれば、役満狙いでも笑野の手は着実に頂きへと向かっていた。
 
 四巡目に暗刻が一つ、十巡目に暗刻が二つ。
 笑野の胸は否が応にも高鳴る。
 
(;^Д^)(頼む、和了ってくれるな)
 
 他家の動向に目を光らせながら、笑野は打ち進めていた。
 先に和了られてしまえば全てが終わる。
 それより先に役満を完成させるしかなかった。
 
 そして、十五巡。
 一萬を引いて暗刻が三つ、揃った。
 
(;^Д^)(来た! 四暗刻テンパイ!)
 
(;^Д^)(四暗刻単騎じゃねーからツモ和了りしかねーけど、上等だ!)
 
(;^Д^)(残りの手番で引き当てる!)
 
 笑野の手牌、二つの対子は八筒と發だった。
 どちらもまだ、笑野の手牌の外には一枚も見えていない。
 四枚の当たり牌が期待できる状況だった。
 
 このまま順調に進んだとして、笑野の手番は残り三回。
 望みは薄い。それでも、絶たれているわけではない、と笑野は思った。
 
 十六巡目、笑野が引いた牌は三萬。
 当たり牌ではないため、笑野はすぐさまツモ切りしようとした。
 
 しかし、一瞬手が止まる。

680第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:10:55 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(ん? 危険牌か?)
 
 理由の見つからないブレーキ。
 笑野は、何故自分が手を止めてしまったのか、答えを探そうとして他家の捨て牌を見回した。
 しかし、振り込みそうな気配もない。
 
 少しだけ首を傾げながら、笑野が三萬をツモ切りする。
 
 そして、十七巡目は再び三萬。
 笑野は、微かな心のざわめきを打ち捨てるように、すぐさま牌を河に置いた。
 
(;^Д^)(ツモは、あと一回だけ、か)
 
(;^Д^)(最後まで、望みを捨てずに待つしかないな)
 
 笑野は、不安を抱えながら自分の手番を待っていた。
 その途中、思わず身が固まる。
 
 陶冶高校の田中の捨て牌が、八筒だった。
 
(;^Д^)(くそっ!)
 
 手元のタッチパネルには『ロン』の文字が表示されている。
 しかし、ここでロン和了りすれば役は三暗刻と対々和のみ。
 たったの8000点にしかならない。
 
 それでも、笑野の心は揺らいだ。
 
(;^Д^)(もし最後に望みを託すなら、ここで少しでも点差を詰めといたほうがいいのか?)
 
(;^Д^)(麻雀は運次第で初心者が勝つこともあるゲーム。奇跡が起きれば、内藤が勝つことも)
 
 一瞬、笑野はそう考えた。
 しかしすぐさま、光のない思考を振り払う。
 
(;^Д^)(ダメだ! 大将戦の相手はそんな甘い奴らじゃない!)
 
(;^Д^)(椎名や毒島ならまだしも、ルールさえ怪しい内藤じゃ勝てるわけねぇ!)
 
(;^Д^)(ここで試合を終わらせるしかないんだ!)

681名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 18:11:56 ID:k5nqxeLA0
この時間に油断した。
支援です!!

682第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:13:38 ID:YtsJxGfY0
 笑野は、目を伏せて八筒を見送った。
 四暗刻のみを目標にして。
 
 例え流局でも、親の名織がテンパイしていれば一本場へと続く。
 しかし、途中から不穏な気配を感じた名織は笑野の現物を切っていた。
 これが最後になる。笑野は、そう確信していた。
 
 十八巡目。
 海底牌に、笑野が手を伸ばし、掴んだ。
 
 そして、ゆっくりと牌の角度を変えていく。
 
(;^Д^)(来い!)
 
 心の中で叫んだ。
 そして、牌の顔を確認した。
 
 
 三巡連続の、三萬だった。
 
 
雀卓「終局です」
 
 雀卓が終わりを告げる。
 それは、副将戦の終焉。しかし、笑野は、芽院高校そのものが終わったと言われているように感じていた。
 
 仮定を考えても詮無いこと。
 分かっていても、笑野は、悔しさが収まらなかった。
 
 最初に三萬を引いた時点で手を変えていれば、最後に四暗刻をツモ和了りできていたのだ。
 
 その選択肢に合理性はない。
 しかし、笑野の選択は、和了りに繋がらなかった。
 重く苦しい事実が、その背中に圧し掛かっていた。

683第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:16:31 ID:YtsJxGfY0
('(゚∀゚∩「ノーテンだよ!」
 
(゜3゜)「テンパイ」
 
/ ゚、。 /「テンパイ」
 
(;^Д^)「テンパイ」
 
 最後の気力を振り絞って、笑野は手牌を倒す。
 それを見て表情を変えたのは、名織と鈴木だった。
 
('(゚∀゚;∩(四暗刻テンパイしてるよ! この人、ほんとに恐ろしいよ!)
 
/ ゚、。;/(ここまで手を高めてたなんて、全然気づかなかった。やっぱり、笑野は凄い)
 
/ ゚、。;/(でも、これは明らかにおかしい。なんで、田中が八筒を捨てたときにロンしなかった?)
 
 陶冶高校の田中はすぐに席を立ち、部屋の出口へと向かっていった。
 笑野も腰を上げる。しかし、その足取りは重かった。
 
/ ゚、。;/(八筒でロンだと三暗刻と対々和。8000点にしかならないけど、それでも最下位は脱出できた)
 
/ ゚、。;/(でもロンせず四暗刻に拘った。これは、つまり、逆転トップを狙ったってこと)
 
/ ゚、。;/(そして、この副将戦で優勝を決めるつもりだったってこと)
 
 いや、決めざるを得なかったのか。
 鈴木は、そう考えた。
 
 ならば、鈴木に考えられる理由は一つだった。
 
/ ゚、。 /(間違いない。芽院高校は大将戦に不安を残してる)
 
/ ゚、。 /(じゃなきゃ、役満に拘って流局するような真似は絶対にしない。するはずないんだ)
 
/ ゚、。 /(勝てる。今年は、ウチがストレートで全国行きだ!)
 
 プレーオフに回ることの苦しさを鈴木は知っている。
 昨年も厳しい戦いを強いられ、結局、肯綮高校は全国大会出場を逃した。
 
 そして、鈴木以上に、プレーオフを避けたいと思っているのが大将の水戸だ。
 一年生のときからレギュラーだった水戸は、二年連続でプレーオフを戦っている。
 今年こそ県大会で優勝して真っ直ぐ全国へ向かいたい、という思いは強いのだ。

684第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:19:38 ID:YtsJxGfY0
/ ゚、。 /(国士無双で築いたリードをほとんど吐き出したのは申し訳なかったけど、悪くない形で繋げた)
 
/ ゚、。 /(あとは全部、大将にお任せだ)
 
 副将戦が終了。
 最終的な得点は、麦秋高校が59400点、肯綮高校が51900点、陶冶高校が51300点、芽院高校が37400点。
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が349ポイント、肯綮高校が312ポイント、麦秋高校が284ポイント、陶冶高校が271ポイントとなった。
 
 全ての学校に優勝の可能性を残して、県大会決勝は、大将戦へと舞台を移す。
 
 
 ◇
 
 
 名織が麦秋高校の控え室に戻ると、ちょうど大将の伊要が部屋を出ようとしているところだった。
 
(=゚ω゚)ノ「お疲れ様だよう」
 
('(゚∀゚∩「お疲れだよ! ほんとに疲れたよ!」
 
 すぐさま名織はソファーに身を投げた。
 そして、まるで活魚のように体を弾ませる。
 
(=゚ω゚)ノ「正直、あの面子の中でトップを取ってくれるとは思わなかったよう」
 
('(゚∀゚∩「僕も思ってなかったよ! 運が良かったよ!」
 
(=゚ω゚)ノ「笑野が国士無双に振り込んでくれたのが大きかったよう」
 
('(゚∀゚∩「でもそのあとの巻き返しは凄かったし怖かったよ!」
 
(=゚ω゚)ノ「確かに、最後も役満まであと一歩だったよう」
 
('(゚∀゚∩「四暗刻を和了られてたら大将戦がなくなるとこだったよ! 危なかったよ!」
 
(=゚ω゚)ノ「本当だよう。出番があって良かったよう」
 
 昨日の試合では大将の伊要が打たないままに終わった。
 決勝でも同じ目に遭えば悔いが残る。そう伊要は思っていたが、まずは大将戦が行われることに一安心していた。

685第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:21:13 ID:YtsJxGfY0
( ・3・)「ここまで来たら全国に行きたいNE。期待してるYO」
 
(’e’)「悔いのないよう頑張ってくるんじゃぞ、伊要」
 
,(・)(・),「応援してます!」
 
('(゚∀゚∩「きっと全国行けるよ! 大丈夫だよ! ファイト!」
 
(=゚ω゚)ノ「みんな、ありがとうだよう」
 
 皆が、大将戦に繋いでくれた。
 信じて、最後の戦いに託してくれた。
 
 それが、伊要は嬉しかった。
 
(=゚ω゚)ノ「行ってくるよう」
 
 部員たちの期待を背に、麦秋高校の大将、伊要が歩み出す。
 
 
 ◇
 
 
 控え室に戻ってきた田中の肩を、杉浦は二度ほど叩いた。
 
( ФωФ)「奮戦してくれたであるな、田中」
 
(゜3゜)「んー。ま、あんなもんですかね」
 
 田中は、相変わらず恬淡としていて、勝敗への拘りがない。
 だからこそ、どんな相手にも平常心で打てるのだろう、と杉浦は思っていた。
 
( ФωФ)「笑野が怒涛の反撃に出ても、和了れるところでは着実に和了ってくれたであろう」
 
( ФωФ)「あれが最終的には大きかったである。オーラスの八筒切りには肝を冷やしたであるが」
 
(゜3゜)「あー、芽院の奴が見逃してくれたっていう、よく分かんない幸運」
 
( ФωФ)「どうやら逆転トップを狙っていたようであるな。おかげで助かったである」
 
(゜3゜)「ま、やれる限りやったんで、あとは頼みますよ」
 
( ФωФ)「うむ」
 
 燕龍茶を脇に抱え、杉浦が席を立った。
 大将戦が始まるまで、あと五分。

686第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:23:47 ID:YtsJxGfY0
 ここまで、陶冶高校は獲得ポイントで最下位に沈んでいる。
 しかし、二位までは41ポイント、首位までは78ポイントの差。
 全国大会への道は、充分見えている。杉浦は、そう考えていた。
 
( ФωФ)(全国への希望を持って最終戦を戦える。これほどありがたいことはないであるな)
 
( ФωФ)(皆に感謝せねば)
 
 昨年の陶冶高校は、決勝で中堅の杉浦が奮闘したものの、副将戦で大きく躓いた。
 結果、大将戦が始まったときには二位に大差をつけられており、全国への望みを絶たれていたのだ。
 
 杉浦は、昨年の大将を応援はしていたが、否が応にも熱は入らなかった。
 控え室の空気も重苦しかったことを杉浦はよく覚えている。
 
 しかし、今年は違う。
 最下位ではあっても、希望のある最下位だ。
 
 それだけでも、心持ちは全く違っていた。
 
<_プー゚)フ「頑張ってください、杉浦さん!」
 
(-@∀@)「応援してますよぉ~」
 
/^o^\「みんなで頂上へ登りましょう!」
 
(゜3゜)「行ってらっしゃーい」
 
 希望と期待の込められた声が、杉浦の背中に降り注ぐ。
 杉浦は、親指を立てて上に向けた。
 
( ФωФ)「行ってくるである」
 
 他の部員の、誰よりも希望を抱きながら、陶冶高校大将の杉浦が歩み出す。
 
 
 ◇
 
 
 急須から最後の一滴まで淹れ終えた緑茶を啜る。
 既に温くなっていたが、それでも、味わい深さは変わっていない、と水戸は思った。
 
/ ゚、。 /「ごめん、とんでもないラッキーがあったのにあんま活かせなかった」
 
(‘_L’)「いえいえ、充分ですよ」
 
 溜め息まじりにそう言う鈴木に、労いの言葉をかける水戸。
 その充分という言葉は、本心から出たものだった。

687第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:25:04 ID:YtsJxGfY0
(‘_L’)「国士無双で笑野くんを直撃したのは偶然、とはいえ最下位に沈めたのは確かなことです」
 
(‘_L’)「全国大会でさえ個人としては無敗だった相手ですから、誇っていい結果だと思いますよ」
 
/ ゚、。 /「実力で撃ち落としたならともかく、もう一生ないほどのラッキーがあってのことだからね。素直に喜べない」
 
(‘_L’)「それが麻雀です。実力だけではどうにもならないことはあるのです」
 
 国士無双を和了したあと、鈴木は笑野に滅多打ちにされた。
 もし役満で築いたリードがなかったら、と思うと、水戸もぞっとするほどの猛攻だった。
 
 本来ならば大将として戦っていておかしくない打ち手。
 それが副将戦に出ていた。最初は、大差も覚悟しなければならない、と水戸は思っていた。
 しかし、結果的に笑野は逆転を果たせなかった。
 
 笑野の点数を残り僅かのところまで追い込んだときに、とどめを刺せなかったことで、大きく差を詰められた。
 あのとき、鈴木にはいくらか油断もあっただろうと、水戸は分かってはいた。
 そのことを不満として挙げることも、できなくはない。
 
 しかし、決勝戦を大将として戦える。
 それを思えば、副将戦での鈴木の働きには、水戸が文句をつけられるはずもなかった。
 
(‘_L’)「皆さん。この決勝戦、奮戦していただきありがとうございました」
 
(‘_L’)「最後、私が負ければ全て水泡に帰すことは分かっています。全ての責任は負います」
 
(‘_L’)「皆さんが獲得してくれたポイントを決して無駄にはしません。必ず、期待に沿う働きをしてみせます」
 
(‘_L’)「どうか、見守っていてください」
 
 全員の、期待に満ちた眼差しが、水戸に注がれる。
 水戸は湯呑に残っていた緑茶を飲み干して、控え室の扉へと向かった。
 
 肯綮高校の部員たちが、立ち上がってその背中を見送る。

688第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:27:22 ID:YtsJxGfY0
从'ー'从「応援してますねぇ~、ファイトぉ~♪」
 
(´・_ゝ・`)「信じて待ってます!」
 
( ∵)「必ずや、ともに勝利の盃を傾けようぞ」
 
/ ゚、。 /「頑張って。みんなで、全国に行こう」
 
 水戸は、振り返って一度、頷いた。
 左脇に水筒を挟んでから、ドアノブに右手を掛ける。
 
(‘_L’)「行ってきます」
 
 決して重荷にはならない責任感を背負いながら、肯綮高校の大将、水戸が歩み出す。
 
 
 ◇
 
 
 控え室に戻ってきた笑野は、まず何かを言おうと口を開いた。
 しかし、そこから言葉が出てこず、力なく椅子に腰を下ろす。
 
 数秒後、項垂れるように初本に頭を下げた。
 
(; Д )「初本さん、本当にすみませんでした」
 
(; Д )「全部、俺のせいっす。初本さんの最後の大会なのに、こんな」
 
(´・ω・`)「謝らないでほしい。最後まで諦めずに、本当によく戦ってくれた」
 
 俯いた笑野の顔を覗き込むように、しゃがんで初本は声をかけた
 笑野の顔は、ゆっくりと上がっていく。

689第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:30:32 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)「あの国士無双は避けようがなかったし、そこからの追い上げは凄まじかった」
 
(´・ω・`)「三倍満以上の手が必要な状況で四暗刻テンパイまで持って行けたのも、笑野だからこそだ」
 
(´・ω・`)「僕が同じ立場だったら400点になったあと飛ばされて終わってる。飛ばされなかったとしてもあそこまで戻せない」
 
(;^Д^)「でも、結局」
 
(´・ω・`)「最強の打ち手が最善を尽くしても勝てないことがある。それが麻雀だよ」
 
(´・ω・`)「去年も今年も笑野には散々助けられてきた。だから、どうか謝らないでほしい」
 
(´・ω・`)「君なしじゃここまで来れなかった。本当に感謝している」
 
(´・ω・`)「ありがとう」
 
 笑野は、何かを言いかけて押し黙った。
 そして自責するように、拳を額に押し付けた。
 
(´・ω・`)「内藤」
 
(;^ω^)「は、はいですお」
 
 大将戦が始まるまで、あと五分。
 コーラのペットボトルを渡して、初本は内藤と向き合った。
 
(´・ω・`)「まず、君に負担を強いてしまうことを謝らせてほしい。本当に申し訳ない」
 
(;^ω^)「いや、そんな」
 
(´・ω・`)「なんとか出番が回らないようにと思っていたけど、回ることになってしまった」
 
 初本が頭を下げる。
 内藤が慌てて、頭を上げてほしいと言おうとするも、初本はすぐに言葉を繋いだ。
 
(´・ω・`)「さっきも言ったけど、大将戦で何が起きても君のせいじゃない」
 
(´・ω・`)「だから、気楽に打ってきてほしい。麻雀を、楽しんできてほしい」
 
(´・ω・`)「ただ、ひとつだけお願いがある」
 
(;^ω^)「?」
 
 出番が終わった初本は、もう、自分の手で優勝を掴むことはできない。
 それでも、打てる手は全て打っておくべきだと考えていた。
 そうでなければ、必ず悔いが残る、と。

690第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:33:25 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)「昨日も言ったけど、君が本物のホライゾンじゃないこと、バレないようにしていてほしいんだ」
 
(´・ω・`)「自分から『僕はホライゾンだ』って言う必要はないけど、聞かれても明確には否定しないでほしい」
 
 その意図は、既に初本の口から説明済みだった。
 他校の選手が内藤をホライゾンだと思い込んでくれれば、いつものようには打てなくなるかもしれない。
 そうすれば、僅かながら奇跡の確率が上がるかもしれない。
 
 そんな、あまりに儚く淡い希望を、初本は抱いていた。
 
(;^ω^)「もし聞かれたらどうするのがいいですお?」
 
(´・ω・`)「無視するのが一番かな。質問に応じる義務はないから」
 
(;^ω^)「なんか、それも相手に悪い気がしますお」
 
(´・ω・`)「対局に集中しているふりをしてくれればいいと思う。相手も気を遣ってくれるだろうし」
 
( ^ω^)「なるほどですお、それなら」
 
(´・ω・`)「あとは、堂々と振る舞うことかな。不遜な態度を取る必要はないけど、何が起きても動じずにいてほしい」
 
(;^ω^)「上手くできるかどうか分からないけど、やれるだけやってみますお」
 
(´・ω・`)「こっちの事情に付き合わせてしまって申し訳ない限りだ。他のことは気にせず、自由にやってきてほしい」
 
 決して口にすることはないが、初本は、今年の大会はもう終わったものだと考えていた。
 他校のエースたちを相手に、素人同然の内藤が対抗できるはずはないのだ。
 
 しかしそれは、あくまでも、『今は』だった。
 
 この大将戦が、来年に繋がればいい。
 内藤に秘められた力は、全国のどんな猛者たちも薙ぎ払えるほどのものだ。
 そのための踏み台になるのであれば、この試合も決して無駄にはならない。
 
 初本は、そう考えていた。
 
(;^ω^)「まともに打てるかどうか、不安だけど」
 
( ^ω^)「僕なりに、精一杯やってみますお」
 
 内藤が立ち上がり、そう言った。
 変に気負いすぎていることはないようだ、と初本は思った。
 それでいい。それだけでいい、とも。

691第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:36:02 ID:YtsJxGfY0
('、`;川「なんか厳しい戦いみたいだけど、全力で応援してる!」
 
(*゚ -゚)「私も、最後まで信じる!」
 
('A`;)「すまん、内藤。でも、頑張ってくれ!」
 
(;^Д^)「迷惑かけて本当に悪い。俺たちのことは気にせず打ってきてくれ!」
 
(´・ω・`)「どうか、麻雀を楽しんできてほしい。僕から言えるのは、それくらいだ」
 
 祈りと不安が、複雑に入り混じる声が、内藤に掛けられた。
 内藤は全員に対し、一度ずつ頷く。
 そして、せめて少しだけでも、皆の不安を和らげられればと思い、笑顔で明快な声を出した。
 
( ^ω^)「行ってきますお!」
 
 その笑顔とは裏腹な、大いなる不安を抱えたまま、芽院高校大将の内藤が歩み出す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第8話 終わり
 
     ~to be continued

692 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:37:20 ID:YtsJxGfY0
第8話は以上です、ありがとうございました

第9話の投下までには少し時間がかかるかもですが、
自分なりのペースで頑張っていきます
今後ともよろしくお願いします

693名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 18:44:28 ID:s4aUjrZM0
今回は特に見応えがあって面白かった
笑野が役満上がって、本当に副将戦で終わるかも?
と最後まで期待がかかる展開ですごく良かった

694名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 18:48:07 ID:D4SbS5vg0

いよいよ主人公の出番が来たな

695名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 20:15:59 ID:agrT1TyI0

今回も面白かったけどメンピンが1400で扱われてるのが気になった

696名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 20:41:39 ID:AFYYPZHs0
乙、本当に面白いわ。何度も息が止まった。
次はいよいよブーン……どうなるか本当に分からない。楽しみにしてます!

697名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 21:12:16 ID:pH.KVBZ20
乙!

698名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 21:18:33 ID:diTJMQ5g0
おもしろいけどやっぱり符計算の概念を取っ払っているのが残念
符計算がある故の読み、打ち回しの戦略性が無くなっちゃうからゲームとしては別物とまではいかないけどかなり様相の違うものになるよね

699 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 21:51:44 ID:YtsJxGfY0
皆さんありがとうございます
とても励みになります、頑張ります

>>695
すみません、メンピンが1400というのはどのあたりでしょう……
と思って少し見返してたら>>652でリーヅモを立直のみにしちゃってるというミスを発見してしまいました
修正版レスを出そうかと思ったのですが、メンピンの計算も間違っているようなら一緒に直したいので、具体的なところを教えていただけると幸いです

>>698
賛否両論恐らくあるという懸念を分かったうえで、自分なりの考えがあってこの形にしたので、
仮に「符計算がなきゃ読む気になれない」という意見があったとしても、それは割り切って受け止めるしかないのかなと思っています

700名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 22:01:13 ID:IIARZWD60
内藤たのしみ

701名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 22:10:33 ID:4CiYEQQU0
乙。どういう展開になるのか全くわからないのがよいね。次が楽しみすぎる

702名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 22:31:08 ID:Roo1pqbE0
話を作る上でも苻計算まで絡めるとどうしても複雑になるだろうし、これで良いと思う
楽しく読ませてもらってるよ

703名も無きAAのようです:2015/05/16(土) 23:20:37 ID:agrT1TyI0
>>699
ごめん652のこと立直自摸かリーヅモかどっちで書こうか迷ってたら急にメンピンって出てきてそのまま書いちゃった

704名も無きAAのようです:2015/05/17(日) 00:02:59 ID:tyNmNMrA0
このルールだと立直自摸七対子は満貫扱いなの?

705名も無きAAのようです:2015/05/17(日) 00:32:06 ID:UTq6y46k0
あああ本当にきになる


706 ◆azwd/t2EpE:2015/05/17(日) 01:00:11 ID:x.MSalWI0
>>703
そうだったんですね、了解です
ご指摘ありがとうございます、次話を書く前でとても助かりました
点数間違えてることに後々気づくとキツイので……

>>704
1飜+1飜+2飜で満貫ですね


というわけで↓に>>652の訂正版を出します

707第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/17(日) 01:01:41 ID:x.MSalWI0
(;∵)(くっ。和了りを目指したいが、振り込むような大過も避けたい)
 
(;∵)(しかし、この手では回し打ちするのも厳しい)
 
 西場までの初本の勢いは凄まじく、名瀬楢は和了れる気がしないとさえ思っていた。
 北場に入ってようやく下火となり、反撃の糸口を掴んだが、その糸を断ち切るような先制立直。
 名瀬楢は臍を噛む思いだった。
 
 幸か不幸か、初本は萬子を多く捨てており、名瀬楢には安牌がいくつもあった。
 守備に使える字牌もある。ベタ降りすれば放銃の危険性は低かった。
 
( ∵)(親番は口惜しいが、ここは、失点を避けるべきか)
 
 一つ息を吐いてから、名瀬楢は一萬を切った。
 初本がどれほどの手を作っているのかは、読めない。
 それでも、点を守るべき場面だ、と名瀬楢は自分に言い聞かせて。
 
 しかし、四巡後に公開された初本の手牌を見て、名瀬楢は再び悔やんだ。
 
(´・ω・`)「ツモ。立直、門前清自摸和」
 
(;∵)「!」
 
 役が、立直と門前清自摸和のみ。
 初本が得たのは2300点、名瀬楢が失ったのは1100点だ。
 
(;∵)(これほどまでに安い手だったのか。それならば、突っ張ったほうが得策であった)
 
 初本は、安い手で和了ることはあまりない。
 名瀬楢は、大将の水戸からそう聞かされていた。
 それ故の警戒でもあったが、今回の初本の手は、ロン和了りならたったの一飜だった。
 
(;∵)(配牌は中々のもの。初本ならば満貫以上を狙いにいってもおかしくはない)
 
(;∵)(大差を保って迅速に試合を終わらせるために、あえて安い手で和了った、ということか?)
 
 名瀬楢にとって悔やまれるのは、ベタ降りを決めたあとに萬子がいくつも手に入ったことだ。
 ベタ降りしていなければ、初本よりも先に和了れていた可能性があった。
 
 悔しさを押し殺すように、名瀬楢は静かに牌を手前に倒した。
 非運を嘆くより他ない。心の中で、そう呟いて。
 
 尤も初本からすれば、決して運だけに左右された一局ではなかった。

708名も無きAAのようです:2015/05/17(日) 01:09:36 ID:tyNmNMrA0
>>706
>>704です。ご返答ありがとうございます。
他の人も言ってるけど、符点無しだと大分戦略変わるよなー
メンタンピンツモでも通常5200が満貫なわけだし

709 ◆azwd/t2EpE:2015/05/17(日) 01:15:02 ID:x.MSalWI0
あとは追加で修正ですが……

>>659
 中堅戦の最終得点は、芽院高校が102300点、肯綮高校が41600点、陶冶高校が29900点、麦秋高校が26200点。
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が297ポイント、肯綮高校が225ポイント、陶冶高校が190ポイント、麦秋高校が184ポイントとなった。
   ↓
 中堅戦の最終得点は、芽院高校が103200点、肯綮高校が41100点、陶冶高校が29700点、麦秋高校が26000点。
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が297ポイント、肯綮高校が224ポイント、陶冶高校が189ポイント、麦秋高校が184ポイントとなった。

>>660
(´・ω・`)「今、肯綮高校との差が72ポイントだ。30ポイントくらい差をつければ大将戦には回らないで済む」
   ↓
(´・ω・`)「今、肯綮高校との差が73ポイントだ。30ポイントくらい差をつければ大将戦には回らないで済む」

>>661
(´・ω・`)(50ポイント差くらいにできたらと思ってたけど、72ポイント差か。上出来だね)
   ↓
(´・ω・`)(50ポイント差くらいにできたらと思ってたけど、73ポイント差か。上出来だね)

>>684
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が349ポイント、肯綮高校が312ポイント、麦秋高校が284ポイント、陶冶高校が271ポイントとなった。
   ↓
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が349ポイント、肯綮高校が311ポイント、麦秋高校が284ポイント、陶冶高校が270ポイントとなった。

>>686
 しかし、二位までは41ポイント、首位までは78ポイントの差。
   ↓
 しかし、二位までは41ポイント、首位までは79ポイントの差。

これで以上と思われますが、訂正漏れがあったらすみません
投下前にもっとしっかりチェックしないとですねー……

710名も無きAAのようです:2015/05/17(日) 07:31:42 ID:cLZ12Zzk0
符計算という考えがないからチートイ4翻でも6400じゃなくて満貫か

711名も無きAAのようです:2015/05/17(日) 07:53:33 ID:m47GjK46O
麻雀はただでさえルールが難しすぎるからな。無経験者にも読んで貰うと考えるなら完全符無しにしたのは英断だと思う。乙

712名も無きAAのようです:2015/05/17(日) 10:51:25 ID:hnrnULhc0
経験者は混乱してるけどね

713名も無きAAのようです:2015/05/17(日) 14:05:08 ID:idBaqUy20
プギャーは性格が悪くて底が浅いキャラってキャラに対するイメージの中で言ってるけど、他作品でもいいやつだよね
運命の一戦とポケモンか

714名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 01:53:55 ID:ou4n6jeE0
符計算入れると完全に初心者のブーンを動かし辛くなるし
読者にも説明入れないといけないから
テンポ悪くなるから無くてもいいんじゃない?

715名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 15:12:02 ID:fl1Xn9kw0
8話面白かったー! 9話もねっとりとお待ちしております

716名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 15:37:01 ID:KMXLP0.Y0
チートイってイーファンじゃないのか

717名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 18:55:29 ID:/lzOa4jU0
2飜だね

718名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 19:34:11 ID:rAlzKjuk0
現実なら50符1飜か25符2飜だね
ネトゲは2飜、年寄りの多い雀荘は1飜の印象

719名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 22:32:26 ID:THyqxZIw0
符計算の苦手な人へのフォローとさせて頂くが
通常の符計算の麻雀の場合

東三局 子 平場 ドラ2p

12345m234p999s北北

この手をリーチをかけてロン上がりしたとします
裏ドラは乗らず

さて点数はいくらでしょうか

720名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 22:36:38 ID:THyqxZIw0
おっと自分は南家とするとき ね

721名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 23:24:50 ID:it6QlzC20
2600

722名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 23:31:04 ID:VMkK2Ypw0
和了り牌が3mなら3200で
6mロンだったら2600

723名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 23:49:32 ID:ijMAGsKI0
>>744
ペンチャン受けでも20+10+8+2で計40だから符ハネしないんでない?

724名も無きAAのようです:2015/05/18(月) 23:50:39 ID:ijMAGsKI0
>>723
安価ミス
>>722です

725名も無きAAのようです:2015/05/19(火) 02:09:51 ID:u2HYEdIIO
麻雀講座は他所でやってくれ

726名も無きAAのようです:2015/05/30(土) 17:37:20 ID:yiMdY/ew0
麻雀わからんけど面白いわ

727名も無きAAのようです:2015/05/30(土) 18:41:06 ID:Cfcm9G3U0
符が無いと分かり難いな

728 ◆azwd/t2EpE:2015/05/30(土) 20:52:06 ID:V3H6vsVY0
ストーリー構成の都合上、第9話は第8話に比べると短くなりそうなので、
順調ならば明日あたりに投下できそうな気配です
とか言って投下できなかったら申し訳ないですけど……頑張ります

729名も無きAAのようです:2015/05/30(土) 21:10:10 ID:/7zb7CB.0
読めたら嬉しいですが、無理せずマイペースでお願いします^ ^

730甘味料:2015/05/30(土) 23:50:01 ID:gky2xr520
ゆっくりマイペースでいいですよ
楽しみにしてますね

731名も無きAAのようです:2015/05/31(日) 17:37:41 ID:LziBQZSc0
おう頑張れよ

732 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:00:51 ID:p9NXuClk0
遅くなりましたがこれから第9話を投下します、よろしくお願いします

733登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:02:01 ID:p9NXuClk0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校
 
■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

734登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:02:55 ID:p9NXuClk0
◇陶冶高校
 
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生

735大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:04:41 ID:p9NXuClk0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

736大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:06:26 ID:p9NXuClk0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

737大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:07:28 ID:p9NXuClk0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

738第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:08:29 ID:p9NXuClk0
【第9話:初歩の足音】
 
 
 大将戦の開始時間が迫っている頃。
 対局室に向かう道順が分からず、内藤は階段を昇ったり降ったりしていた。
 
(;^ω^)(ど、どこにあるんだお)
 
(;^ω^)(もっと詳しく聞いておけば良かったお)
 
 階段を昇りきって内藤が周囲を見渡すも人影はなく、それらしい部屋も見つからない。
 昨日は対局しなかったため、内藤は対局室に行ったことがないのだ。
 そのことを、初本も忘れてしまっていた。
 
 対局室の場所を詳細に伝える、などということにまで、頭が回らなかったのだ。
 
 芽院高校の控え室には、絶望感が漂っていた。
 通算獲得ポイントでトップに立っている高校の空気では、なかった。
 
 当然のことだ。これから大将として打つのは、内藤。
 昨日ルールを覚え始めたばかりの、ずぶの素人だった。
 
 まともに打てるかどうかさえ分からない。
 勝てる見込みなど、あるはずがない。
 その事実に直面してしまい、芽院高校の部員たちは沈んでいたのだ。
 
 内藤も、勝てるとは思っていなかった。
 昨日、ホテルで何度か対局したものの、ルールどおりに打つのが精一杯。
 それも、初本が後ろで指南しながら打って何とか、だった。
 
(;^ω^)(勝てるわけないのは分かってるんだお)
 
(;^ω^)(でも、最後までやりきらないと、優しくしてくれたみんなに申し訳ないお)
 
( ^ω^)(あの人たちと過ごした二日間が楽しかったのは、間違いないことなんだお)
 
 麻雀部の人たちと、知り合えた。
 友達に、なれた。
 
 内藤は、そう思っていた。

739第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:09:40 ID:p9NXuClk0
 最初は勘違いで、今は単なる穴埋めとして存在しているだけ。
 それも分かってはいた。しかし、ここは良い場所だった。
 
 居心地の良い二日間を、過ごさせてもらった。
 その恩義に、報いるためにも。
 
 やれるだけやってみよう。
 内藤の意志は、内藤なりに固かった。
 
(;^ω^)(しかし、対局室が分からなかったらどうしようもないお)
 
(;^ω^)(時間もヤバイ気がするお。スマホ置いてきちゃったから連絡も取れないお)
 
(;^ω^)(こうなったら、いったん控え室に戻るしか)
 
(=゚ω゚)ノ「ん?」
 
 不意に、内藤の後ろで優しい声が発された。
 内藤が振り返るとそこには、麦秋高校の制服に身を包んだ生徒。
 
 伊要は、芽院高校のブレザーを見て、すぐに勘付いた。
 
(=゚ω゚)ノ「もしかして、これから対局室に行くのかよう?」
 
(;^ω^)「あっ、そ、そうですお!」
 
(=゚ω゚)ノ「早く行かないと試合が始まっちゃうよう。急ぐよう」
 
(;^ω^)「わ、分かりましたお!」
 
 助かった、と内藤は思った。
 対局室を知っている者に偶然出会えたのだ。
 対局開始時間に間に合わず失格、となれば皆を失望の底に突き落とすこととなる。
 
 伊要の背中についていく内藤。
 先ほどまでは焦燥感に支配されていたが、まずは人心地つけていた。
 
 しかし、伊要が歩く速度を落とし、声を掛けてきたことで、再び額には汗が浮かぶ。

740第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:10:51 ID:p9NXuClk0
(=゚ω゚)ノ「本当は、喜んじゃいけないことかもしれないよう」
 
(;^ω^)(お?)
 
(=゚ω゚)ノ「でもやっぱり、心が躍るんだよう。決勝の舞台で、君と戦えること」
 
(=゚ω゚)ノ「ネット上で圧倒的な強さを誇るっていう、ホライゾンと、戦えること」
 
(;^ω^)(お、おお)
 
 この人も、やはりそうなのか、と内藤は思った。
 インターネット麻雀の世界で最強とも言われる『ホライゾン』と、勘違いしている。
 まともに麻雀を打ったこともない、内藤を。
 
(=゚ω゚)ノ「正直、僕の実力じゃ君に及ばないことは明白だよう。そんなことは、分かってるんだよう」
 
(=゚ω゚)ノ「だけど、僕は僕なりに全力で打たせてもらうつもりだよう」
 
(=゚ω゚)ノ「この試合が、高校生としての集大成。それくらいのつもりで」
 
 優しげな声と、特徴的な語尾。
 そこに意識を持っていかれそうだった。しかし、内藤ははっきりと感じ取っていた。
 
 伊要の、この試合にかける、猛き思いを。
 
(=゚ω゚)ノ「よろしくお願いしたいよう」
 
(;^ω^)「こちらこそ、よろしくお願いしますお」
 
 伊要が差し出した右手に、内藤も右手で応える。
 手汗で緊張が感じ取られてしまわないだろうか、と内藤は不安に思った。
 
 それから二十秒ほど歩いて、二人は対局室に到着した。
 
(=゚ω゚)ノ「遅くなってごめんよう」
 
 二人が部屋に踏み入ると、肯綮高校の水戸と陶冶高校の杉浦は既に卓に着いていた。
 待たせては悪いと、内藤は慌てて雀卓に向かう。
 右に水戸、左に杉浦を見ながら打つことになる席だった。

741第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:11:56 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)「対局を心待ちにしておりました。水戸と申します。皆さん、よろしくお願い致します」
 
( ФωФ)「我輩は杉浦。大将戦に相応しい打ち様を心がけるである。よろしくお願いするであるよ」
 
(=゚ω゚)ノ「僕は伊要だよう。胸を借りるつもりで打たせてもらうよう。よろしくだよう」
 
(;^ω^)「内藤といいますお。よろしくお願いしますお」
 
 挨拶を交わした。
 普通ならば多少、空気が和んでもいい、と内藤は思った。
 
 しかし、室内の空気はむしろ、張り詰めていく一方だった。
 
 気楽に打っていい、と内藤は言われていた。
 楽しんできてほしい、とも言われていた。
 
 実際にここに座ると、内藤は、とてもそんな気分にはなれなかった。
 
 まざまざと、伝わってくるのだ。
 水戸、杉浦、伊要の真剣味が。
 この対局にかける、思いの丈が。
 
 三人の気迫に、内藤は、押し潰されてしまいそうだった。
 
(; ω )(や、やるしかないんだお)
 
(; ω )(どういう結果になっても、精一杯やってみるしか)
 
 対局前にも考えていたことを、内藤は今一度思い出す。
 しかし、頭の中で再生される声は、震えていた。
 
 やがて、試合開始を告げる合図が鳴る。
 
(=゚ω゚)ノ(勝ちたいよう、みんなで全国に行くんだよう)
 
( ФωФ)(絶対に勝利してみせるである)
 
(‘_L’)(今年こそ、優勝して全国へ)
 
 それぞれの強い思いが、卓上でぶつかり合い、弾ける。
 内藤は、一人、取り残されていた。
 
 東一局の起家は、その内藤だった。

742第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:13:27 ID:p9NXuClk0
(;^ω^)(お? 東家、親番って書いてあるお?)
 
 内藤は、初本に言われていたとおりに手元のタッチパネルを見ていた。
 そこに様々な情報が出ており、その情報を元に打てばミスすることもないだろうと教えられていたのだ。
 
(;^ω^)(えっと、確か親番だと、最初は山から牌を取らずに一枚捨てなきゃいけないんだお)
 
(;^ω^)(で、でも、何を捨てればいいのか、全然分かんないお!)
 
 四面子一雀頭のことは内藤の頭にもあった。
 しかし、何を捨てればそれに近づくのか、咄嗟に判断できないでいる。
 
 そして、迷っている間に、手元のタッチパネルの数字は減っていった。
 
(;^ω^)(あ、制限時間が来ちゃうお! やばいお!)
 
(;^ω^)(よく分かんないから適当に捨てるお!)
 
 内藤は慌てて、仄かに光る右端の牌を掴み、河に置いた。
 手元のタッチパネルからはカウントダウンが消える。それを見て、内藤は胸を撫で下ろした。
 
 しかし、他の三人は一様に刮目させられていた。
 僅かな動揺を、隠せないでいた。
 
(=゚ω゚)ノ(一巡目でいきなりドラの五萬切りかよう?)
 
(=゚ω゚)ノ(どういうことだよう?)
 
( ФωФ)(例え浮いている牌だとしても、普通ならば真ん中のドラはとりあえず残すである)
 
( ФωФ)(しかし内藤は初巡で切った。これは確実に五萬を使わないということ。つまり)
 
(‘_L’)(恐らく内藤くんは相当な好配牌。筒子か索子の染め手、もしくは幺九牌を使った手が考えられますね)
 
(‘_L’)(ほとんど不要牌もない、一向聴か二向聴あたりと推測されます)
 
 内藤の初手で、東一局は一気に混沌とした。
 水戸も杉浦も伊要も、内藤を警戒して思うように牌を切れない。
 特に索子、筒子、幺九牌は捨てにくいと感じ、窮屈な打ち方を強いられていた。
 
 そのとき内藤は、初本に教えられたとおり、四面子一雀頭を作ることのみに専念していた。

743第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:14:47 ID:p9NXuClk0
(;^ω^)(しまったお。二巡目で適当に九筒を捨てたあとに七筒と八筒が来てしまったお)
 
( ^ω^)(あ、でも西が三枚集まったお。捨てずに持ってて良かったお!)
 
( ^ω^)(これで二面子はできたお。雀頭もあるから、あと二面子作れば和了りだお!)
 
 内藤の手牌に統一感はなく、立直をかけなければ和了れない形だった。
 そうとは知らない他家は警戒を続けていたが、徐々に違和感に気づく。
 配牌が良ければそれほど手出しは多くならない。しかし、内藤は手出しを繰り返しているのだ。
 
 その違和感が強まったのは、内藤が九筒をチーしたときだった。
 
( ^ω^)(やったお、チーで面子がもう一個作れたお!)
 
( ^ω^)(かなり和了りが近くなってきたお!)
 
 内藤は、自分の犯したミスに気づけないでいる。
 だからこそ、他の三人は内藤の手が読めずに悩んでいた。
 
( ФωФ)(九筒をチーしたということは、混全帯幺九や純全帯幺九などの老頭牌を使った手であるか?)
 
( ФωФ)(しかし、最初からその狙いならば、序盤に九索を捨てたのは不可解である)
 
( ФωФ)(途中から狙いを変えたであるか? 読めないであるな)
 
(‘_L’)(かなりの好配牌かと思いましたが、副露ですか。手出しもやけに多いですね)
 
(‘_L’)(筒子も索子も幺九牌も捨てている。どういう手作りをしているのか、全く読めません)
 
(‘_L’)(初巡の五萬切りは、ただの撹乱ですか?)
 
 それもホライゾンならばありえる話だ、と水戸は思った。
 水戸は、ホライゾンと対局したことはないものの、噂はよく耳にしている。
 ホライゾンは、人を喰ったような、意地の悪い手を打つことでも知られていた。
 
(‘_L’)(自分を追い込みかねないような意地悪な手も、勝つ自信があればこそでしょうが)
 
(‘_L’)(こちらとしては、つけ込まなければならない隙ですね)

744第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:16:27 ID:p9NXuClk0
 しかし、ただの撹乱と思わせておいて、相手の放銃を誘うのもホライゾンの手口だ。
 まだ大将戦の先は長い、慎重に打たなければならない、と水戸は気を引き締める。
 
 それから東一局は静かに進んでいった。
 副露の声も、立直の声も、和了の声も上がらない。
 やがて山は少なくなり、遂には流局に至った。
 
(‘_L’)「ノーテンです」
 
( ФωФ)「ノーテンである」
 
(=゚ω゚)ノ「テンパイだよう」
 
(;^ω^)「えっと、テンパイですお」
 
 流局したとき、テンパイしていれば牌を見せるという手順を、内藤は辛うじて思い出した。
 何とかテンパイには至ったものの、和了ることはできなかった内藤。
 落胆していたが、当然のことだった。内藤の手には、役がなかったのだ。
 
(;^ω^)(断幺九が狙えると思ってチーしちゃったけど、一と九の牌は駄目だったのを忘れてたお)
 
(;^ω^)(もうちょっとで和了れそうだったのに、もったいないことをしちゃったお)
 
 内藤が嘆息を吐く。
 しかし、その内藤の内心を知らない三人は、内藤の手牌を凝視していた。
 
(=゚ω゚)ノ(形式聴牌かよう? 全然いい配牌じゃなかったみたいだよう)
 
( ФωФ)(配牌は六向聴くらいであるか? それならば連荘のために形式聴牌を狙うのも理解はできるであるが)
 
( ФωФ)(しかし、一巡目のドラ切りは不可解であるな。それよりも一枚しかなかった西を切るべきであろう)
 
(‘_L’)(初巡はノータイムでオタ風の西を切るべき。ですが、内藤くんはその後、自力で西を三枚集めた)
 
(‘_L’)(他方、最初に五萬を切ったあと、内藤くんは三萬から七萬までを一枚も引かなかった)
 
(‘_L’)(結果的に、一巡目でドラの五萬を切ったのは正解だった、とも言えますが)
 
(‘_L’)(神の目で見通していた、ということですか?)
 
 そうでもなければ最初のドラを切るのは初心者くらいのものだろう、と水戸は思った。
 同時に、牌山まで全て見通せるはずがない、とも。

745第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:17:29 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)(もし牌山まで把握できる力があったら、私たちにはほとんど勝ち目がありません)
 
(‘_L’)(上手く掌の上で転がされ、嬲るように甚振られるだけです)
 
(‘_L’)(しかし、そんな超常的な力は存在するはずがありません)
 
 麻雀はオカルトではない。
 全て理屈で説明がつけられるゲームだ、と水戸は思っていた。
 不確実な要素はあるものの、それも全て確率で論じることができる、と。
 
 インターネット麻雀でホライゾンが見せる神懸かり的な和了りも、図抜けた読みの鋭さを活かしたものだ。
 決して人外の能力ではない、と水戸は確信していた。
 
(‘_L’)(一流のプロさえも超越するような読みの力があることは事実でしょうが)
 
(‘_L’)(果たして、この場で実力の全てを遺憾なく発揮できるかどうか、見ものですね)
 
 水戸が内藤を見遣り、僅かに口角を上げた。
 親の内藤がテンパイしていたため、場は東一局一本場へと移る。
 
 ここで配牌を味方につけたのは、麦秀の伊要だった。
 
(=゚ω゚)ノ(この配牌なら、絶対に和了らなきゃいけないよう)
 
 三色同順が既に揃いかけている。
 おまけに純全帯幺九、一盃口までが狙えそうな手牌だった。
 
(=゚ω゚)ノ(鳴かずに和了れれば最低でも跳満。絶好のスタートと言えるよう)
 
(=゚ω゚)ノ(ここまで繋いでくれたみんなのためにも、ここは絶対に和了ってみせるよう!)
 
 決勝戦が始まる前、伊要は冷静に戦力を分析した。
 麻雀は時の運に左右される競技。しかし、単純に実力だけを見れば、麦秋が劣っていることは明白だった。
 三年生が四人いるものの、名織や船都は安定感がなく、一年生の松中もまだ充分な実力を有しているとはいえなかった。
 
 大将戦の頃には、もう、全国行きの目がないかもしれない。
 その覚悟さえ伊要にはあった。しかし、今は優勝さえ狙えるポイント差だ。
 次鋒戦と副将戦でのトップが大きかった。
 
 麦秋高校の麻雀部が創設されたのは二十二年前のこと。
 全国大会に進んだことは、一度もない。
 決勝戦まで勝ち上がったことは何度かあっても、いつも大事なところで躓き、全国行きを逃してきたという。
 
 過去最大の好機、とまではいえない。
 しかし、全国に手が届くところまで麦秋高校が来たことは間違いなかった。

746第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:19:47 ID:p9NXuClk0
(=゚ω゚)ノ(この大将戦に全てをぶつけて、その結果が全国行きになるなら、最高の形だよう)
 
(=゚ω゚)ノ(麦秋のみんなと過ごす夏を、一日でも長く伸ばせるように、頑張るよう!)
 
 伊要の強い気持ちに、牌が応える。
 僅かな手番で次々に必要牌が山から降りてきた。
 そして六巡目にはもう、牌を横向きに捨てていた。
 
(=゚ω゚)ノ「立直だよう!」
 
 高らかにそう宣言する。
 ここは、和了れる気しかしない、とさえ伊要は思った。
 
 仮に内藤に神の目があり、手牌を読むような力があるとしても、振り込みが避けられるのみ。
 自力で和了れば神懸かり的な力も意味を成さない。
 伊要はそう考え、放銃には期待せず、ただツモのみに集中していた。
 
 そして、最後まで牌は、伊要に味方した。
 
(=゚ω゚)ノ「ツモだよう!」
 
 山から取った牌をそのまま置いて、手牌を全て仰向けにする。
 見せびらかすように。
 
(=゚ω゚)ノ「立直、門前清自摸和、一盃口、三色同順、純全帯幺九!」
 
(=゚ω゚)ノ「4100・8100だよう!」
 
 綺麗な和了形だ、と伊要は自分で思った。
 この上ないスタートが切れた、とも。
 
 何よりも、トップの芽院の親番で倍満を和了れたことが、伊要にとっては大きかった。
 全国へ進むためには、どうしても蹴落とさなければならない相手だからだ。
 
 決勝の大将戦、まずは麦秋の伊要が機先を制した。
 しかし、試合はまだ始まったばかりだった。
 
 先の長い戦いを見据え、それぞれの思いが交錯する。

747第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:20:57 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)(今のはどうしようもありませんが、かなり良い手を和了られてしまいましたね)
 
(‘_L’)(伊要くんはムラのある打ち手ですが、気持ち良く打たせてしまうと厄介なことになりそうです)
 
( ФωФ)(先ほどの倍満、手痛い失点ではあるが、芽院高校の点を削ってくれたのはありがたいことであるな)
 
( ФωФ)(しかし、いかに神の目があろうとも、ツモで和了られてはどうしようもないであるか)
 
(=゚ω゚)ノ(このまま勢いに乗って東二局も和了りたいよう)
 
( ФωФ)(麦秋高校に調子を与えたくはないである。ここは、速攻を仕掛けるべきであるか)
 
 東二局、親番は肯綮高校の水戸。
 しかし、真っ先に動いたのは陶冶高校の杉浦だった。
 
( ФωФ)「ポンである」
 
 二巡目、白をポンして刻子を作った杉浦。
 真っ白で、行き先の書かれていない特急券を、親の水戸が一瞥して首を振る。
 杉浦を捲って和了るのは難しい、と判断したからだった。
 
 その後、杉浦は更に一索をポン。
 テンパイに至り、最後は六索、七索、八索で待つ形となった。
 
( ФωФ)(当たり牌は十枚残っているである、和了れる可能性は高いであるな)
 
 ホライゾンのような、神懸かり的な力など持ち合わせていない。
 だからこそ堅実に、手広く当たりを待てるように打ち進めるしかないのだ、と杉浦は考えていた。
 
 部長として、杉浦は同級生のいない麻雀部を率いてきた。
 後輩たちは個性豊かで、打ち筋も様々。まとめるのは一苦労だった。
 
 後進の育成にあたりつつ、自分の実力も底上げしなければならない日々を杉浦は送った。
 唯一の三年生として、背にかかる重圧は大きかったが、それに嫌気が差したことはない。
 二年生たちがいつも杉浦を気遣い、そして、最後は必ず全国へ送り出そうと努力を重ねてくれたからだった。
 
 そして今、全国への希望を持って杉浦は卓に着けている。
 
( ФωФ)(皆が獲得してくれたポイントのおかげで、我輩は今、かつてないほど楽しんで打てているである)
 
( ФωФ)(その礼として、必ず皆を全国へ連れていくであるよ)
 
 楽しんで打てれば、実力を出し切れる、と杉浦は思っていた。
 そしてそれが、全国へ最も近づける道筋だと信じていた。
 
 その道筋に、光が当たる。

748第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:22:04 ID:p9NXuClk0
( ФωФ)「ロンである」
 
 冷静に発声し、牌の絵柄を露わにした。
 それほど高い手ではない。しかし、まずは一撃浴びせることができたと、杉浦は満足感を漂わせる。
 
( ФωФ)「役牌、混一色。4000である」
 
 杉浦にとっての僥倖は、芽院高校の内藤が振り込んでくれたことだった。
 染め手は勘づかれているだろうと思い、杉浦はツモ和了りしかほとんど考えていなかったのだ。
 しかし、内藤は無防備にも六索を河に流した。
 
 もし他家の手牌を見通す力があるとすれば、立直していない状態での放銃はほぼありえない。
 つまり、内藤が振り込んだということは、やはり他家の手牌までは分からないということだ、と杉浦は思った。
 
 しかしふと、杉浦はホライゾンとの対局を思い出す。
 
( ФωФ)(そういえば、雀王道で戦ったときも、同じようなことがあったであるな)
 
( ФωФ)(ホライゾンがまるで無警戒な放銃をし、口ほどにもない相手だと思ってしまったである)
 
( ФωФ)(しかし後半戦に入った途端に逆襲され、最終的には敗北を喫してしまったである)
 
 インターネット上でのホライゾンは、ほとんどの対局で序盤は他家にリードを許すという。
 相手の打ち筋を見極めているからとも、序盤はあまり調子が出ないからとも言われている。
 中には、わざと振り込んで自分を追い込み、最後に逆転するのが好きだからだ、と推測する人もいた。
 
( ФωФ)(もし、今のが差し込みだとすれば、あまり調子には乗らないほうがいいであるな)
 
( ФωФ)(最後は計ったようにきっちり逆転してくることも想定しておかなければならないである)
 
( ФωФ)(――――それに、手強いのはホライゾンだけではない、ということも忘れてはならないであるよ)
 
 杉浦が対面を見遣る。
 冷静に、虎視眈々と頂点を目指している男が、配牌を見つめていた。
 
( ФωФ)(肯綮高校の水戸。この男、間違いなく全国レベルの打ち手である)
 
( ФωФ)(警戒は怠れないであるな)
 
 杉浦は気を引き締め直して、東三局に臨む。
 親番は麦秀高校の伊要。
 しかし、配牌を確認して右手に力を込めたのは、水戸だった。

749第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:23:27 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)(手広く牌を待てそうな二向聴ですね)
 
 ここまでの和了りは伊要と杉浦。
 未だに加点がないのは水戸だけだった。
 
(‘_L’)(長い一荘戦を思えば、東場も終わっていない状態での収支などさほど気にする必要はありませんが)
 
(‘_L’)(なるべく早く最初の和了りが欲しいのも事実です)
 
 四巡目に七萬を引いたところで水戸の手が止まる。
 向聴数が変わるツモではない。しかし、他の牌と入れ替えることで少しでも道が広がるかどうかを考えていた。
 
(‘_L’)(ここは、やや迷いどころですが)
 
(‘_L’)(三萬切りとしたほうが、受け入れが増えますね)
 
 確信を持って水戸は三萬を打つ。
 例え裏目に出たとしても、効率を重視した結果ならば悔やむ必要はない、と思いながら。
 
 逆に、七萬を残したことが奏功すれば、自信に繋がるだろう、とも。
 
 水戸は、全ての要素に理屈を求めるタイプだった。
 それでも、人が感情に左右される面があることは否定できないでいる。
 何度も和了りを逃せば自信を失い、導き出せるはずの答えを導き出せないこともある、と思っているのだった。
 
 勢いや流れなどというものは、本来、この世に存在しない。
 しかし、自分に疑いを持たなくなった人間は、強い。
 だからこそ、自信を持つことは大事なのだ、と水戸は思っていた。
 
 これほどの強敵たちを相手にしても、水戸の自信が揺らぐことはなかった。
 
(‘_L’)「立直です」
 
 手堅く打ち進めていた水戸が、八萬を引いた八巡目に立直。
 手が整っていない伊要、杉浦はすぐさまベタ降りに回った。
 動じる様子も見せずに牌を捨てているのは内藤のみだ。
 
 しかし、その内藤から、水戸の当たり牌が齎される。

750第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:24:53 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)「ロン、4000です」
 
 水戸が右手の親指で、牌を左から順に軽く押していく。
 流れるように手牌は倒され、公となった。
 
(=゚ω゚)ノ(相変わらず、綺麗な蛍返しだよう)
 
( ФωФ)(生まれつき不自由な左手は一切使わずに倒牌。見事なものであるな)
 
 他家に和了られたとは思えない表情で、二人が水戸を見つめていた。
 当の水戸は、点数が確かに増えたことを確認して、軽く息を吐く。
 
 完全自動雀卓ならば、手元のタッチパネルのボタンをタップするだけで自動的に倒牌される。
 手で倒す必要はないが、水戸は昔からそうしてきたように、右手で牌を仰向けにした。
 癖は簡単には抜けないものだったのだ。
 
( ФωФ)(ついつい蛍返しに目を奪われがちであるが、最後はピアノ待ちで三面張)
 
( ФωФ)(とにかく待ちを広くする打ち筋は極めて合理的で、隙はほとんどないである)
 
(=゚ω゚)ノ(もしかしたら、今年の水戸くんは笑野くん以上に手強い相手かもしれないよう)
 
 杉浦と伊要は一様に警戒心を強めた。
 肯綮高校の水戸。立ちふさがる壁としてはやはり高い、と考えながら。
 
 そして水戸は、4000点を失ったばかりの内藤を見ていた。
 東四局が始まっており、内藤は自分の手番に山から牌を取って河に捨てる。
 その一挙手一投足を、じっと、水戸は観察していた。
 
(‘_L’)(先ほどの放銃はあまりにも呆気なく、不気味でさえありましたが)
 
(‘_L’)(ぎこちないツモ、打牌、理牌を見る限り、どうやら間違いなさそうですね)
 
(‘_L’)(やはり、内藤くんはリアル麻雀に慣れていない。ほとんど初心者と言ってもいいくらいに)
 
 そのことに、水戸は昨日から察しがついていた。
 ホライゾンが芽院高校のメンバーになったとの噂が流れ出した頃から言われていたことでもあるのだ。
 
(‘_L’)(ホライゾンはネットでしか麻雀を打ったことがない。どうやら、真実のようですね)
 
(‘_L’)(ここまで一方的に点を減らし続けているのも、リアル麻雀に戸惑っているからと考えれば納得がいきます)
 
(‘_L’)(わざと振り込んで楽しんでいる可能性も、ないわけではありませんが)
 
 リアル麻雀とインターネット麻雀では、情報の見え方が違う。
 ホライゾンの図抜けた読みの力も活かしきれないかもしれない、と水戸は考えていた。
 
 もしそうならば、リアル麻雀に慣れる前に叩き潰すべきだ、とも。

751第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:26:04 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)「ロン」
 
 再び、水戸の右手は手牌を流れるように押し倒す。
 上家の内藤が牌を捨てた直後のことだ。
 右手親指のみの倒牌でも、両手での倒牌と遜色ない速度だった。
 
(‘_L’)「断幺九、平和、三色同順で4000です」
 
 子の水戸が和了ったことで、まずは東場が終わった。
 ここまでのトップは麦秀高校の伊要で67800点。
 次いで肯綮高校の水戸が52400点、陶冶高校の杉浦が48400点。
 
 そして、芽院高校の内藤が31400点。
 誰の目にも明らかな沈み方で、最下位となっていた。
 
(‘_L’)(ここまでの点で通算獲得ポイントを計算すると、うちが逆転を果たしてトップですね)
 
(‘_L’)(芽院はまだ二位ですが、三位の麦秀との差は僅かに1ポイント)
 
(‘_L’)(このままなら、いずれ間違いなく全国への道を絶たれることと思いますが)
 
 このまま大人しく、一方的にやられてくれるだろうか、ホライゾンは。
 水戸は、内藤の顔を見ながらそう考える。
 
 最下位の内藤は、トップの伊要から既に大差といっていい点差をつけられている。
 親番で倍満を和了られたことは避けようがなかったとしても、そのあとの放銃はあまりにも無警戒。
 これは、果たしてリアル麻雀に不慣れという理由だけで納得していいのだろうか、と水戸は自問した。
 
 自問せざるをえない理由があったのだ。
 内藤の、表情に。
 
( ^ω^)
 
 これほど点差をつけられても、内藤は全く動じていないからだった。
 柔らかな笑みを、崩していないからだった。

752第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:28:08 ID:p9NXuClk0
(=゚ω゚)ノ(最下位なのに全然、余裕綽々って感じだよう)
 
( ФωФ)(やはり、不気味であるな。先ほどの放銃も、差し込みと思っておくべきであるか)
 
(‘_L’)(決して楽観はできませんね。例え本調子ではないとしても、相手はあのホライゾンなのですから)
 
 それぞれが決して気を緩めることなく、内藤を警戒しつづけている。
 当の内藤は、錯乱を表に出さないことで必死だった。
 
( ^ω^)(やばいお。なんかめっちゃ点数が減ってるお)
 
( ^ω^)(なんとか四面子一雀頭を作ろうとしてるけど、それより先にみんなが和了っちゃってるお)
 
( ^ω^)(多分、僕ひとりだけボロ負け状態だお。よく分かんないけど恐らくピンチだお)
 
( ^ω^)(でも、何があっても動じちゃいけないんだお。初本さんにそう言われてるんだお)
 
 雀卓中央のディスプレイには大きく『南場』と表示されている。
 大将戦の四分の一が終わった、ということだけは内藤にも分かった。
 
 
 ◇
 
 
 僅かな期待さえ抱くべきではない。
 そう分かっていたにも関わらず、初本は目を伏せてしまった。
 
(´・ω・`)「ポイントで、肯綮に逆転されたみたいだ」
 
 ぽつりと呟く。
 言うべきことではなかったかもしれないと、初本はすぐに後悔した。
 
(;^Д^)「よくやってくれてるっすよね、内藤は。ここまでミスもないし」
 
(´・ω・`)「そうだね。内藤が打ってくれるおかげで、棄権する破目にはならなかった。感謝しないと」
 
 厳しい戦いであることなど分かっていた。
 それでも、落胆を隠しきれない。
 初本だけでなく、誰にとってもそうだった。

753第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:29:27 ID:p9NXuClk0
('A`;)「あとで内藤に、なんか奢ってやらないと」
 
('、`*川「だね。よく分かんないけど、頑張ってくれてるみたいだし」
 
 毒島の独り言に、伊藤が言葉を繋ぐ。
 どちらも、力ない声だった。
 
 先鋒として戦った椎名は、ただじっと、顔の前で両手を組んでいる。
 
 大将戦は南入し、再び内藤の親番が回ってきた。
 ここで安い手でも和了ってくれれば、まだ望みを繋げる。
 初本はそう考えたが、現実は非常に厳しいものとなった。
 
(´・ω・`)「速いね」
 
 七巡目にして陶冶高校の杉浦がテンパイし、立直をかけた。
 最低でも満貫となる手。
 振り込めば、内藤は更に窮地へと追い込まれる。
 
 現物などの安牌に頼ってベタ降りすれば、しばらくは逃げられるだろう。
 初本はそんな、意味のない仮定を考えた。
 
 今の内藤は、現物という言葉さえ知らないのだ。
 
 なんとか振り込まずに済ませてほしい。
 そう祈りながら皆が試合の映像に視線を注ぐ。
 
( ^Д^)「伊要が当たり牌の三筒を掴んだ!」
 
(´・ω・`)「そのまま切ってくれれば、伊要くんが放銃だけど」
 
 伊要はすぐに打牌せず考え込んでいた。
 しかし、他に安牌らしい安牌も存在していない。
 そのままツモ切りしてくれれば、と芽院高校の面々は願った。
 
 やがて、芽院高校の願いは通じ、杉浦は伊要が捨てた三筒を見て手牌を傾けた。
 
(;^Д^)「あっぶねー。助かった」
 
(´・ω・`)「トップの伊要くんから8000点か。ありがたいね」

754第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:31:30 ID:p9NXuClk0
('A`)「肯綮の水戸さんは、途中の八索切りが裏目に出ましたね」
 
(´・ω・`)「そうだね。ただ、あそこは八索切りで正解だよ。そのほうが受け入れが増える」
 
( ^Д^)「あの人なら何度同じ局面に遭遇しても八索を切るっすね、きっと」
 
(´・ω・`)「そのブレのなさが、水戸くんの強さだ」
 
 南二局は、その水戸が着実に打ち進め、テンパイに至った。
 一盃口と役牌しかない手でも立直をかけずに当たり牌を待っている。
 それが奏功し、伊要が六筒を捨てた瞬間、右手で牌を倒した。
 
(´・ω・`)「待ちが悪いときはダマで構える、か。手堅いね」
 
('A`)「そういえば、大会の推奨マナーでは片手倒牌を控えるよう書いてありましたけど、水戸さんの蛍返しはいいんですか?」
 
(´・ω・`)「生まれつき左手が動かなくて、小さい頃からやってきたことらしいしね。運営本部も了承してるよ」
 
( ^Д^)「今でこそ完全自動雀卓があるから、手で倒牌しなくてもいいっすけどね」
 
(´・ω・`)「完全自動雀卓の倒牌と変わらない速さだし、いいんじゃないかな。見事な技だし」
 
 親の水戸が3000点を得て、南二局は一本場に入る。
 連続で振り込み、点を減らしつづけていた伊要が逆襲し、早々にテンパイ。
 十巡目には四筒を自ら引き当てて、4300点を取り返した。
 
 南三局はその伊要が親番。
 ここは内藤を除く三者が鳴きを使って手を進める激しい展開となった。
 
(;^Д^)「さっきから展開早いっすよね」
 
(´・ω・`)「一人がスピードを上げると、それに負けじとスピードを上げる。そういう流れだね」
 
('A`)「打点も低めですね。大きかったのは最初の倍満くらいで」
 
(´・ω・`)「三人の点はほぼ横並びだ。細かく稼いで、少しずつリードしていく作戦かな」
 
 副露によって様々な牌が卓上に顔を並べた。
 賑やかな場となった南三局、一足早く制したのは陶冶高校の杉浦。
 一気通貫、混一色で水戸から4000点を得た。
 
(´・ω・`)「前半戦のラストだね」
 
 大将戦は南四局に差し掛かった。
 ここまで、最初の持ち点からマイナスになっているのは内藤のみ。
 他の三者はそれぞれが実力を発揮し、拮抗した点数で並んでいた。

755第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:32:59 ID:p9NXuClk0
(´・ω・`)「なんとか、最後まで」
 
(;^Д^)「トラブルなく打ち終わってほしいっすね」
 
 直接的な言葉は誰も出さない。
 しかし、もはや全国への希望が持てる状況ではなかった。
 県内屈指の打ち手たちを相手に、内藤はひとり、置いていかれてしまっている。
 
 内藤は、孤独さを感じているだろうか、と初本は考えた。
 麻雀を楽しんできてほしいと言って送り出したが、孤立していては楽しめるはずもない。
 
 初めてのまともな麻雀が、県予選の頂点だった。
 内藤が楽しもうとしても、周りの打ち手が醸し出す空気は、それを許さないかもしれない。
 そういった場に送り込んでしまったことの責任は、無論自分にある、と初本は考えていた。
 
( ^Д^)「初本さんは」
 
 不意に、聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、笑野が言った。
 もし、芽院高校がトップに立っていたら、きっとこんな声にはならなかっただろう、と初本は思った。
 
( ^Д^)「大学に行っても、麻雀つづけるんすか?」
 
 その言葉を聞いて、やはり笑野は自責しているのだろう、と初本は考える。
 初本にとってのラストチャンスがなくなったことで、麻雀をやめてしまわないか心配しているのだろう、と。
 
(´・ω・`)「そのつもりだよ。進学予定の大学には、麻雀サークルがあるみたいだからね」
 
( ^Д^)「そうなんすね。もしかしてまた、囲碁に戻るんじゃないかと」
 
(´・ω・`)「あぁ、そういや、その話をしたこともあったね」
 
('、`*川「あれ? 初本さん、昔から麻雀やってたわけじゃないんですか?」
 
(´・ω・`)「麻雀を始めたのは中学の途中からだね。それまでは囲碁ばっかりだった」
 
 囲碁を始めたのは小学生の頃で、囲碁を打てる担任に誘われたことがきっかけだった。
 ルール自体はさほど難しくなかったため、すぐ対局できるようになり、徐々に熱中していったのだ。
 当時は、囲碁というゲームが持つ果てしない奥深さも、あまり分かっていなかった。
 
('A`)「昔は囲碁をやってたなんて、全然知りませんでした。囲碁部に入ってたんですか?」
 
(´・ω・`)「いや、中学のときは地元の碁会所に通ってたんだ。囲碁部はなかったし」
 
('、`*川「でも、なんで途中でやめて麻雀に?」
 
(´・ω・`)「凄く強い相手に、どうしても勝てなくてね。心を、折られてしまったんだ」
 
 否が応にも、初本の声は小さくなった。

756第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:34:05 ID:p9NXuClk0
 今となっては、その当時のことを言葉にできる。
 しかし当時の初本は、どうしても勝てないという事実を認めたくない気持ちが強かった。
 
 人生で、初めてといっていい挫折。
 初本なりに努力し、もがいたが、それでも勝てなかった。
 何度挑戦しても、変わらなかった。
 
(´・ω・`)「囲碁ってゲームは偶然性がなくて、ある程度の実力差があると、弱い人は強い人にまず勝てないんだ」
 
(´・ω・`)「もちろん、諦めずに努力を続ければ実力差を埋められたかもしれない。だけど、当時の僕は諦めてしまった」
 
(´・ω・`)「囲碁なんてもう打ちたくない。そんなことさえ考えていた頃に出会ったのが、麻雀だったんだ」
 
 麻雀にのめりこんだことも偶然だった。
 たまたま打った麻雀ゲームで、ルールも覚束ないまま初本は圧勝したのだ。
 まさに、偶然性が最大限活かされた結果だった。
 
(´・ω・`)「麻雀は上手く打てたつもりでも勝てないことが多々あるけど、それも面白いなって思ってね」
 
(´・ω・`)「中学卒業までどっぷりハマって、高校でも麻雀部に入ることしか考えてなかった」
 
 初本が芽院高校を進学先として選んだのも、麻雀部があるから、という理由は大きかった。
 中学時代の学力を考えれば、もう少しレベルの高い進学校に行くべきだったのかもしれない。
 しかし、初本の家からさほど遠くなく、麻雀部がある高校となると、芽院高校くらいしか選択肢はなかった。
 
 それでも、初本は進学先を後悔したことなど一度もない。
 麻雀部に入ったことで、素晴らしい仲間たちと出会えた。
 入部してよかったと、心から、何度も何度も思ったのだ。
 
(´・ω・`)「入部してからここまで、どれくらい成長できたのか分からないけど」
 
(´・ω・`)「自分なりには頑張ってこれたかな」
 
 入部してからの二年と少しを、初本は曖昧に思い返し始めていた。
 
 高校一年生のとき、まだ県大会にさえ出られるレベルでなかった初本を、先輩たちは鍛えてくれた。
 理論派の上級生から叩き込まれた牌効率は、今の初本の基礎となっている。
 無論、一年生のときに夏の大会に出ることはできなかったが、秋の新人戦では悪くない成績を収めることができた。
 
 二年生になってからは先輩を凌ぐほどの実力を身につけ、レギュラーの座を掴んだ。
 一年生の笑野が目覚ましい活躍を見せたこともあり、初本はそれほど目立たなかったものの、県大会ではチームに貢献できた。
 しっかりとした実力を得れば、ある程度安定した成績を収めることができる、という確信も持てていた。
 
 しかし、全国大会ではその確信が脆くも崩壊した。

757第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:35:38 ID:p9NXuClk0
 全国という大舞台で、初本は自分を見失い、一回戦で大きなマイナスとなる敗北を喫する。
 その後に打った笑野が取り返してくれたおかげでチームは二回戦に進んだが、そこでも初本は惨敗した。
 打ち始めに躓いたことで、早く点を取り返そうとして大きな手を狙いすぎ、逆に相手に振り込むという失態を繰り返したのだ。
 
 その結果、芽院高校は二回戦敗退。
 戦犯は誰の目にも明らかだったが、先輩たちは決して初本を責めなかった。
 その心遣いがなければ、初本の心は再び折れていたかもしれない。
 
 今年は、全国でも悔いのない戦いをしたい。
 そう思っていたが、進級前に初本と同学年の部員が一人抜け、メンバーが足りなくなったことが結果的には響いた。
 いま内藤が大将戦を戦っていることも、それが原因といえなくもない。
 
 ただ、部長として充分なメンバーを揃えられなかったことの責任は大きい。
 それも、初本は分かっていた。
 
(´・ω・`)(結局、僕のせいだ。だから、誰かを責めることなく終えられる)
 
(´・ω・`)(そのほうがいい。随分、気は楽だ)
 
 結局、全国大会では良績を残せないままとなってしまった。
 それが、初本にとっては心残りと言えば心残りだ。
 しかし、今となってはそれも致し方ないことだった。
 
 ここまで完璧によく頑張ったと自賛することはできない。
 だが、全てを否定するつもりもない。
 麻雀部で過ごした時間、ここで得たもの、その全てが初本にとって大きな糧となった。
 
 その点については、何ら、疑いの余地もなかった。
 
(*゚ -゚)「あれ?」
 
 初本が過去を振り返りながら、ぼんやりとそんなことを考えていたとき。
 ずっと顔の前で両手を組みながら、内藤を見守っていた椎名が、不意に声を出した。
 
 南四局は、四巡目まで進んでいた。
 
(´・ω・`)「どうしたの?」
 
(*゚ -゚)「今、もしかしたら」
 
 椎名の目は、ずっとモニターに向いている。
 ちょうど、内藤が九筒を捨てたところ。
 一見、何の変哲もない打牌だ、と初本は思った。
 
 しかし。

758第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:36:46 ID:p9NXuClk0
 誰よりも内藤を信じ、内藤を静かに見守り続けてきた、椎名。
 
 その椎名だからこそ、すぐに気づけたのだろうか、と後に初本は思った。
 
 
 
(*゚ -゚)「もしかしたら、ブーンくん、『聞こえた』のかもしれません」
 
 
 
 ――――内藤の、小さな、しかし確かな、第一歩に。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第9話 終わり
 
     ~to be continued

759名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 00:37:45 ID:FnFMNSAs0
乙でした。

760 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:39:24 ID:p9NXuClk0
第9話は以上です、ありがとうございました

ストーリーの構成を変えた都合で、第9話の投下は思ったより早くできたのですが、
次の第10話は長くなるので投下までちょっと時間がかかりそうです
のんびりとマイペースで、頑張っていきます

761名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 00:41:02 ID:U5i0S5Mg0
こりゃあ10話を書きたい書きたい言ってたのも納得の流れ

762名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 01:34:16 ID:JK6bHqcA0
乙。ほんと文章にひきこまれてしまうや。

763名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 01:49:25 ID:zqC8HEvw0
佐村河内ブーン、覚醒の時

764名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 07:02:15 ID:ajJnTfyE0
がんばれブーン


765名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 07:16:35 ID:QGG.7.f60
とても気になります展開

766名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 11:43:59 ID:QOYAcMfkO
乙!
東1で内藤の西暗刻が最初一枚しか持ってなかった事を水戸と杉浦が分かったのは何でだぜ?

767名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 11:45:24 ID:fzRHHXro0

ほんといいところで切るなぁ
続きが気になります

768名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 13:17:12 ID:8sjVsdT20
乙!

769名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 14:40:39 ID:gI3BGDQc0
>>766
大会ならどれが配牌でどれをツモってどこに入れたかある程度把握する
特に内藤のような初心者なら尚更はっきり分かると思われ

770名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 15:12:43 ID:LVH86hCQ0

次回楽しみだ!
ブーンの反撃のターンだな

しかしフィレンクトさんの左腕ネタを作り上げたアルファさん自身が
フィレンクト左腕ネタを踏襲してるのは流石に失笑を堪えきれなかったwww

771名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 18:26:08 ID:epI0XDUc0
乙!
いいところで切るなほんと
続きゆっくり待ってます

772名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 21:31:19 ID:8FcVxrOk0
フィレンクトの隻腕設定でニヤけた

773名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 21:42:38 ID:JK6bHqcA0
そっか。フィレンクトの生みの親なんだったな。

774名も無きAAのようです:2015/06/01(月) 22:41:55 ID:nYcv4.H20

フィレンクトの設定ワロタ
大将戦みんな東塔だな

775 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 22:59:31 ID:p9NXuClk0
皆さんいつもありがとうございます
第10話ものんびり書き進めるので、また投下の際は読んでいただけたら幸いです

昨日投下した第9話、またもミスがあったので訂正させてください
ちゃんと推敲で発見できていなくて申し訳ない限りですが……

>>751
(‘_L’)「断幺九、平和、三色同順で4000です」
  ↓
(‘_L’)「三色同順、ドラ2で4000です」

ここは鳴いているので三飜という形で、
訂正前から点数は変わらずに4000ということで、よろしくお願いします

>>773
最初にアルファでフィレンクトを登場させたときは、
まさか他の方にも使ってもらえるキャラになるとは夢にも思わず……
2~3秒でパっと閃いてつけた名前が、まさかこんな風に広まるなんて、分からないものですね~……

776名も無きAAのようです:2015/06/02(火) 22:53:07 ID:I189tjac0
ここ最近ザックザク書き進めてくれて本当嬉しい
1話経るごとに引き込まれちゃう

777名も無きAAのようです:2015/06/02(火) 23:15:53 ID:cizZQGWc0
思えば、ポケモンマスター書いてた人だっけ?
とすると相当長い間作者のブーン系に世話になってる気がする

778名も無きAAのようです:2015/06/03(水) 11:59:39 ID:UdnFhiks0
ポケモンマスター開始の時はこりゃひでえなと思ったもんだ
どんどん文章上手くなっていって驚いた

779名も無きAAのようです:2015/06/03(水) 13:09:26 ID:hd32mcu20
最初は確か別人でしょ

780名も無きAAのようです:2015/06/03(水) 20:56:57 ID:WYfPd9bE0
おつ!

781名も無きAAのようです:2015/06/04(木) 21:13:44 ID:tWsyR8160
ちょwwwフィレンクトといえばショボン・ルージアルと並ぶアルファの生んだ名キャラやぞwフィレンクトの退役シーンで流した涙を返してw

782名も無きAAのようです:2015/06/04(木) 21:15:46 ID:Z1xInV4A0
四中将もだれか使ってやれw

783名も無きAAのようです:2015/06/05(金) 01:35:50 ID:PJzcSF860
乙乙

784名も無きAAのようです:2015/06/15(月) 22:27:47 ID:VIgNbvsE0
どうなる内藤www

785名も無きAAのようです:2015/06/23(火) 06:38:41 ID:G5wBHmEI0
久々にアルファ読み直してここまで辿ったけど、この人現役だったのか、すごいわ

786名も無きAAのようです:2015/06/23(火) 07:58:18 ID:99RcoXyY0
なんでわざわざ無駄上げするかなぁ

787 ◆azwd/t2EpE:2015/06/24(水) 00:11:45 ID:NtY/FqDk0
皆さんいつもありがとうございます

第10話も第9話と同じくらいの文量は書けましたが、自分が思う切りどころまではまだ結構あるので、
投下まではもうしばらくかかりそうですが、のんびり頑張ります

>>779
自分がポケモンを書き始めたのは第14話以降ですね
当時は前作者さんのコメディな作風に合わせようとして結構ムリしてたような気がします

>>786
別にsageなきゃいけないというルールはないようなので、
どちらでもいいんじゃないかと個人的には思います
個人的にもレスに気づきやすくてありがたかったりしますし

788名も無きAAのようです:2015/06/24(水) 00:18:50 ID:qazoJWHY0
楽しみに待ってるよ

789名も無きAAのようです:2015/06/24(水) 00:56:33 ID:yYBscaAE0
14話からだったのか…
ポケモンも読み直してみようかな!

790名も無きAAのようです:2015/06/24(水) 11:36:57 ID:rub.TJDA0
次はいつかな

791名も無きAAのようです:2015/06/25(木) 13:24:27 ID:AXSdrJ4s0
楽しみに待ってるよ

792名も無きAAのようです:2015/06/26(金) 05:14:12 ID:m7gq7VsA0
お疲れ様です!
楽しみに待ってますねー

793名も無きAAのようです:2015/07/02(木) 13:50:42 ID:AUsp3h.M0
あげ

794名も無きAAのようです:2015/07/03(金) 00:28:09 ID:zRC7S0RE0
一気読みしました!続きが早く読みたいです!

795 ◆azwd/t2EpE:2015/07/06(月) 00:01:17 ID:fxKeM2dQ0
なんだかんだ、第10話はもう第9話の二倍くらいの量になっているのですが、
この第10話の終わらせ方はだいぶ前から決めてたので、そこまでまだもうちょっと……

分割投下も少し考えはしたのですが、やっぱり自分のこだわりを貫こうと思います
お待ちいただいている方には申し訳ない限りですが、納得できるものを出せるように頑張ります

皆さんいつもありがとうございます

796名も無きAAのようです:2015/07/06(月) 11:25:30 ID:t/0VyED20
乙乙
楽しみにしてるよ

797名も無きAAのようです:2015/07/06(月) 13:06:37 ID:m89vyPLM0
楽しみに待ってる

798名も無きAAのようです:2015/07/06(月) 23:12:28 ID:mPgHF6fY0
楽しみで仕方がないわ
待ってるよ

799名も無きAAのようです:2015/07/07(火) 21:37:36 ID:FFhBVdyE0
お待ち申し上げております!
頑張って下さい!

800名も無きAAのようです:2015/07/08(水) 04:41:32 ID:EPnWiBYU0
アルファさんが納得のいく形ならこれは期待できるね!

801 ◆azwd/t2EpE:2015/07/19(日) 21:29:17 ID:O.qvStjE0
やっとこさ第10話を書き終わったのですが、
随分長くなったので推敲にも時間がかかりそうで、
投下は早くても次の土日くらいになりそうです

とりあえず書き上がってはいるので、投下をお待ちいただけたら嬉しく思います
少しでも質を高められるように頑張ります

802名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:46:23 ID:2mAJ/4lI0
楽しみにしてセルフsm全裸待機してる

803名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 22:34:55 ID:Lt6XBTC60

一週間くらいなんてことないぜ

804名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 00:28:44 ID:3BjjYM9E0
よっしゃ!
楽しみに待ってるよ

805名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 12:26:19 ID:aU1jeVGY0
めちゃくちゃ楽しみにしてます!

806名も無きAAのようです:2015/07/21(火) 11:43:37 ID:7WrCMB0E0
楽しみにお待ちしております(^q^)

807名も無きAAのようです:2015/07/24(金) 01:12:45 ID:rKPymoVo0
楽しみー!応援してます!

808 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:09:43 ID:3IPfqjZQ0
これから第10話を投下します
ちょっと長めですがよろしくお願いします

809登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:11:00 ID:3IPfqjZQ0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校
 
■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

810登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:12:09 ID:3IPfqjZQ0
◇陶冶高校
 
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生

811大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:13:16 ID:3IPfqjZQ0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

812名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 14:14:02 ID:fQV8Dpxg0
来たか

813大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:14:22 ID:3IPfqjZQ0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

814名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 14:15:18 ID:dtDkGJMM0
支援

815大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:15:46 ID:3IPfqjZQ0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

816第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:17:06 ID:3IPfqjZQ0
【第10話:五重奏の行き先】
 
 
 リズムよくチョコボールを口に運んでいた江楠の手が、不意に止まった。
 それを富士は訝しげに見る。
 
/^o^\「どうしたの?」
 
<_プー゚)フ「んー」
 
 江楠が首を傾げる。
 口の中のキャラメルは溶けきっていないが、それを噛むこともしていなかった。
 
<_プー゚)フ「今なんか、変じゃなかった?」
 
/^o^\「え、何が?」
 
<_プー゚)フ「ホライゾン。名前は、内藤だっけ?」
 
/^o^\「あぁ、芽院高校の」
 
 大将戦の前半戦が終わろうとしている。
 ここまで、陶冶高校の大将である杉浦は善戦していた。
 強敵たちを相手に、五分に渡り合う活躍だった。
 
/^o^\「正直、パっとしないよね。ネットで最強のホライゾンも、リアルじゃこんなもんなのかな? って感じで」
 
<_プー゚)フ「ぶっちゃけ、僕もそう思ってたよ。でも、油断もできないよなーと思って注目してたんだ」
 
<_プー゚)フ「で、さっきの塔子落とし。あれ、明らかに変でしょ」
 
/^o^\「え? よく見てなかった」
 
(-@∀@)「あぁ、私も変だと思いましたよぉ~。こんな序盤で、降りるわけでもなくドラ含みの辺塔子落としなんて」
 
 四巡目にして、内藤は配牌時から持っていた八筒、九筒を捨てた。
 ドラ表示牌は七筒。つまり、八筒はドラだったが、その塔子から順子を作ることを諦めたのだ。
 
/^o^\「ほんとだ。これ確かに変だね。まだ序盤なら普通は七筒待つはず」
 
<_プー゚)フ「染め手狙いでも断幺九狙いでもないみたいだしさ。なんでここで、って疑問だったんだけど」
 
<_プー゚)フ「七筒ってもう、ほぼ確実に出ないんだよね。肯綮の水戸が暗刻作っちゃってるから」
 
/^o^\「あ、ほんとだ」
 
/^o^;\「え?」
 
 納得しかけて、富士はすぐに気づいた。
 事態の、異常さに。

817第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:18:37 ID:3IPfqjZQ0
<_プー゚)フ「しかも、ホライゾンは今、水戸が七筒で暗刻を作った直後に八筒と九筒を捨てた」
 
<_プー゚)フ「まるで、七筒が場に出ないってこと、分かったかのように」
 
/^o^;\「うわっ、マジで?」
 
<_プー゚)フ「これって、いよいよ発揮されちゃう感じなのかな」
 
<_プー゚)フ「ホライゾンの、『神の目』ってやつが」
 
 相手の打ち筋を見極める力。
 それが神の目なのだろうと杉浦が言っていたことを、江楠は思い出した。
 
 理屈が何であれ、もし相手の手牌が分かるようになってきているのだとしたら。
 これは、後半戦が相当に荒れるかもしれない。
 江楠はそう感じていた。
 
/^o^\「ドラの八筒はとりあえず残すって手もありそうだけどね」
 
<_プー゚)フ「いや、伊要と杉浦さんが一枚ずつ持ってるんだよ。それも見えてるとしたら」
 
/^o^;\「あー、ほんとだ。ってことは、どう頑張っても雀頭にしかならないのか」
 
(-@∀@)「しかし、本当に分かるんですかねぇ~。そんな非科学的な力、あるとは思えませんけどねぇ~」
 
<_プー゚)フ「でもさ、水戸は理牌読み対策までやってるんだよ。わざわざ七筒を左端に置いてさ」
 
<_プー゚)フ「もし癖を見抜いただけだとしても、理牌から推測せずに読めるなんて脅威的じゃない?」
 
(-@∀@)「う~む、確かにそうですねぇ~」
 
 机に頭を伏せて眠っている田中以外の三人が唸る。
 原理は分からない。それでも、内藤には七筒の刻子が見えているとしか思えない。
 そんな、理解しがたい状況に遭遇してしまったからだった。
 
(-@∀@)「後半戦は、ホライゾンを抑え込めるかどうか、が鍵になるかもしれませんねぇ~」
 
<_プー゚)フ「だね」
 
 既に出番の終わった者には、ただ待つことしかできない。
 そして三人は、杉浦をひたすら信じていた。
 ホライゾンの力を脅威に感じつつも、大将の勝利を疑うことなど、決してなかった。
 
 南四局は進んでいく。
 陶冶高校の大将、杉浦は、徐々に手が高まっていた。
 
 
 ◇

818第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:19:45 ID:3IPfqjZQ0
( ФωФ)「立直である」
 
 十二巡目、親番の杉浦が立直をかけた。
 断幺九、三色同順、一盃口、ドラ2で跳満以上が確定している手。
 ここで18000点以上が得られるのは非常に大きい、と杉浦は心を弾ませる。
 
 大将戦が始まる前の獲得ポイントでは、陶冶高校が最下位。
 しかし、ここで和了ることができれば、ポイント計算でも一気にトップに立てるのだ。
 それを考えれば、期待で地に足がつかなくなるのも致し方ないことだ、と杉浦は思った。
 
 ただ、決して良い待ちではない。
 三索のカンチャン待ちで、既に一枚捨てられているため、当たりは三枚しかなかった。
 
( ФωФ)(しかし、六索を捨てているため、筋引っかけは期待できるであるな)
 
( ФωФ)(一番いいのは、自分で引いて倍満に高めることであるが)
 
 もし倍満で8000オールならば、他を大きく引き離すこととなる。
 陶冶高校のストレートでの全国行きが、現実味を帯びてくる。
 杉浦の中には、もはや期待しかなかった。
 
 しかし徐々に、その期待が、薄れゆく。
 
( ФωФ)(三索は、出てこないであるな)
 
 十六巡目まで進んでも、杉浦の望む牌は姿を見せない。
 現物を捨てるなど、明確に降りているのは水戸と伊要。
 芽院高校の内藤は、現物を捨てることもなく、平気で中張牌を河に流していた。
 
( ФωФ)(芽院の内藤は突っ張っているようであるな)
 
( ФωФ)(親が立直していても諦められないほど高い手であるか?)
 
( ФωФ)(こっちがあっちに振ってしまうと厳しいかもしれんであるな)
 
 期待しか抱いていなかった杉浦に、不安が押し寄せる。
 牌をツモし、河に流すたび内藤の動きを確認した。
 しかし、内藤の手牌が仰向けになることはない。
 
 そしてそのまま、南四局は流れていった。
 
( ФωФ)「テンパイである」
 
 最後まで当たり牌を引けなかった杉浦が、諦念と共に牌を晒す。
 そしてすぐさま、内藤の手牌のほうを見遣った。
 果たして内藤は、どれほど高い手を作っていたのだろうか、と。
 
 しかし、内藤が見せた牌姿は、杉浦の想定とは全く違っていた。

819第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:21:05 ID:3IPfqjZQ0
( ^ω^)「えっと、テンパイですお」
 
( ФωФ)「!?」
 
 役が、断幺九しかない。
 内藤の手は、ただの喰い断に過ぎなかった。
 
 しかし、杉浦にとって驚きだったことは、それだけではなかった。
 内藤は、杉浦の当たり牌である三索を掴んでいたのだ。
 
 しかも、杉浦の記憶が正しければ、内藤は四索を捨てて三索を手に取り込んだ。
 両面待ちの塔子を崩して対子に組み替えることなど、普通はあまりない。
 三索が危険牌であることを、読み切ったかのような打ち方だ、と杉浦は思った。
 
 杉浦の脳裏には、過去の記憶が俄かに蘇る。
 かつて、ホライゾンに蹂躙された記憶が。
 
( ФωФ)(もし、このカンチャン待ちを読んでいたのだとすれば、いよいよであるか)
 
( ФωФ)(いよいよ、真価を発揮するであるか、ホライゾン)
 
 心に生まれた感情が何なのか、杉浦自身も分かっていない。
 名前をつけるならば、恐らくは不安だろう。
 しかし、決して悪くはない気分だ、と杉浦は思った。
 
( ФωФ)(強者と相対するのは、いつも心が震えるであるな)
 
 ホライゾンの強さの、中枢までは杉浦には分からない。
 それでも、恐怖で身が固まることはなかった。
 
 南四局一本場。
 親番でも、内藤の動きには注視して打たなければならない、と杉浦は考えていた。
 
( ФωФ)(大きめの手を和了れば、どの高校にも機がある状況である)
 
( ФωФ)(だからこそ、それに放銃するようなことがあってはならないであるよ)
 
 特に、内藤の捨て牌には気を配らねばならない。
 そう考えていた杉浦の手は、七巡で一向聴まで進んだ。
 
 鳴いても三色同順がある手牌。
 例え喰い下がろうとも、二本場があることを考えれば悪くない。
 内藤の手を潰す意味でも、ここは、速度を優先していくべきか。
 
 杉浦がそう考えながら、八萬を切ったとき。
 
(=゚ω゚)ノ「ロンだよう」
 
( ФωФ)「!」

820第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:22:12 ID:3IPfqjZQ0
 しまった、とすぐに杉浦は悔いた。
 内藤を気にしすぎるあまり、伊要の河が見えていなかった。
 
(=゚ω゚)ノ「2300だよう」
 
 杉浦にとっての救いは、伊要の手が安かったこと。
 傷は小さく済んだ。充分な希望を持ったまま、後半戦に臨める、と杉浦は思った。
 
 対局室に、休憩の合図が鳴る。
 
( ^ω^)「失礼しますお」
 
 合図とほぼ同時に内藤が立ち上がり、対局室から退出した。
 試合開始から一時間が経っている。トイレにでも行くのだろう、と三人はほとんど同時に考えた。
 
 南場が終わった時点でのトップは麦秀高校の伊要で、61900点を得ている。
 二位は陶冶高校の杉浦で58500点。三位に肯綮高校の水戸で47800点。
 そして最下位は、東場終了時点と変わらず芽院高校の内藤で、31800点だった。
 
( ФωФ)(最後にトップを奪われたであるが、悪くはない点数である)
 
( ФωФ)(大きい手に振り込むような大過だけは、絶対に避けねばならないであるな)
 
(‘_L’)(トップからはやや離されましたが、満貫直撃でひっくり返るような点差)
 
(‘_L’)(あまり強気に攻めすぎないよう留意すれば、自ずと全国は見えてくると信じたいですね)
 
 杉浦と水戸が、それぞれ、全国への思いを胸に後半戦を見据えていた。
 そのとき不意に、二人の思わぬところから声がかかる。
 
(=゚ω゚)ノ「二人は、どう見てるんだよう?」
 
 麦秀高校の伊要。
 平素、高めのトーンの声が僅かに低くなり、そのぶん重みを二人に感じさせていた。
 
( ФωФ)「どう、とは?」
 
(‘_L’)「なんの話、でしょうか」
 
 本当は、二人とも感じ取っている。
 ただ、少しの間を欲しただけだった。
 
(=゚ω゚)ノ「もちろん、決まってるよう」
 
(=゚ω゚)ノ「ホライゾンのことだよう」
 
 それ以外にはありえない。
 分かっていても、二人は、無意識のうちにその話を避けたがっていた。
 
 理由は、南四局にあった。

821第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:23:18 ID:3IPfqjZQ0
(=゚ω゚)ノ「僕は正直、よく分からないんだよう」
 
(=゚ω゚)ノ「ここまでホライゾンは一度も和了ってない。点数だけを見れば、拍子抜けって感じだよう」
 
(=゚ω゚)ノ「だけど、何だか不気味で、全然心が落ち着かないんだよう」
 
 伊要は、正直な気持ちを吐露していた。
 元来、小賢しい駆け引きなど得意としていないタイプだと、水戸も杉浦も分かっている。
 
(‘_L’)「彼は恐らく、ネットで麻雀を覚え、ずっとネットで打ってきた人です」
 
(‘_L’)「ですから、リアル麻雀に戸惑っていたのだと考えれば、前半戦の不振は納得できます」
 
( ФωФ)「それもあるかもしれぬ。しかし、ホライゾンは元々、前半戦はあまり和了らないことが多いであるよ」
 
(=゚ω゚)ノ「それは僕も聞いたことあるよう。だけど」
 
( ФωФ)「後半戦できっちり逆転してくる。我輩が雀王道で対局したときも、そうだったである」
 
(‘_L’)「過去に対局したことがあるのですか、ホライゾンと」
 
( ФωФ)「たまたま、フリー対局で同卓になったである。幸運であったな」
 
 雀王道にはランク対局とフリー対局の二つがある。
 ランク対局では同ランクのプレイヤーと対局し、獲得ポイントに応じてランクが上昇していく。
 また、全ての対局が記録され、戦績も自由に閲覧できるのが特徴だった。
 
 一方、フリー対局では対局相手が完全にランダムでマッチングされる。
 全くの初心者もいれば、最上ランクに属する強力なプレイヤーもいる、玉石混交の場だ。
 戦績が残らないため、勝敗を気にせず自由に打てることから、ランク対局を避けてフリーのみで打つ者もいた。
 
(‘_L’)「ホライゾンは確か、雀王道に登録直後から一気にSランクまで昇り詰め、その後は専らフリーに潜るようになったそうですね」
 
( ФωФ)「うむ。どうやら、ランク戦に飽きてしまったようであるな。対局依頼も多かったようであるし」
 
(=゚ω゚)ノ「偶然フリーで対局できたときも、前半戦は杉浦くんがリードしてたってことかよう」
 
( ФωФ)「いかにも。しかし、後半戦からこちらの手を見透かしたような打ち方をされ、為す術なく逆転されてしまったであるよ」
 
(=゚ω゚)ノ「『神の目』、やっぱりあるのかよう?」
 
( ФωФ)「二人も気づいたかもしれないであるが、先ほどの南四局、まさに『神の目』が使われたようであるな」
 
 水戸の視線が鋭く杉浦に向いた。
 杉浦は思わず口元を緩める。

822第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:24:30 ID:3IPfqjZQ0
( ФωФ)「南四局、我輩は三索のカンチャン待ちであった。あの待ち、二人は読めていたであるか?」
 
(‘_L’)「索子の若い牌が危ない気はしていましたが、はっきりとは分かりませんでした」
 
(=゚ω゚)ノ「僕は正直、他に安牌がなかったら三索を捨ててたと思うよう。生牌でもない筋の牌なら、それなりに安全性はあるよう」
 
( ФωФ)「我輩が逆の立場なら振り込んでいたかもしれないである。しかし、ホライゾンは違った」
 
(‘_L’)「三索を捨てずに、四索を捨てた」
 
(=゚ω゚)ノ「しかも、塔子を崩して対子に組み替える形で、テンパイを維持したまま」
 
( ФωФ)「うむ」
 
 さすがに二人とも見えていたようだ、と杉浦は思った。
 テンパイをキープしつつ、相手の当たり牌を止める。決して容易なことではない。
 しかし、内藤はそれをやってのけた。
 
( ФωФ)「相手の手が見えるなど、俄かには信じがたいことであるが、そうとしか思えない止め方であった」
 
( ФωФ)「それほど癖のあるほうだとは思っていないであるが、どうやら、ホライゾンには何かを見抜かれているのであろうな」
 
(‘_L’)「いえ」
 
 自虐気味に、杉浦が小さく笑った。
 それを、真剣な顔で水戸が遮る。
 
(‘_L’)「どうせ、後で映像を見れば分かることですから、お伝えしておきます」
 
(‘_L’)「南四局、私は配牌時点で七筒の対子を持っており、二巡目に七筒は暗刻となりました」
 
(‘_L’)「その直後、三巡目と四巡目に、内藤くんは八筒と九筒を捨てたのです」
 
( ФωФ)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「南四局って、確かドラ表示牌も七筒だよう」
 
(‘_L’)「えぇ。つまり、内藤くんの辺塔子は順子になる見込みが限りなく薄かった」
 
(‘_L’)「それを見越したかのような塔子落とし。正直、戦慄しました」
 
(‘_L’)「あれこそ正に、手牌が見えているとしか思えない捨て方でした」
 
 対局室を包む、静寂。
 壁に掛けられたアナログ時計の秒針の音が、三人にはっきりと聞こえるほどだった。
 
 幾許か続いた静謐を破ったのは、水戸の小さな吐息。
 それから続く、推測だった。

823第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:25:37 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)「どうやら、ホライゾンは相手の手が分かるようになるまで、いくらか時間がかかるようです」
 
(‘_L’)「今回も、およそ折り返しに差し掛かったあたりで手が見え始めた。どうやって見ているのかは、やはり、分かりませんが」
 
(=゚ω゚)ノ「そう考えれば、ネット上で後半に逆転することが多いのも納得だよう」
 
( ФωФ)「しかし、東一局でいきなりドラを捨てたことも引っ掛かってはいるである」
 
( ФωФ)「あのときホライゾンが捨てたのは五萬。そしてその後、ホライゾンに五萬周りの牌は一度も入らなかった」
 
( ФωФ)「そして残したオタ風の西では暗刻を作った。もしや牌山が見えているのでは、と思わされたであるが」
 
(‘_L’)「えぇ。私もそこは引っ掛かっていますし、謎のままです」
 
(‘_L’)「ただの偶然や攪乱であればいいですが、もし、牌山まで見える術があるとするならば」
 
 その先の言葉を、水戸は飲み込んだ。
 言わずとも、杉浦と伊要には伝わっていた。
 
 そして、杉浦が不意に、思い出したように口を開く。
 
( ФωФ)「ネット上で、まだホライゾンがランク対局をメインに戦っていた頃の戦績」
 
( ФωФ)「確か、異常に多かったのが、西一局での和了」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
( ФωФ)「後半戦の開始早々に、大きな手を和了って反撃の狼煙を上げる」
 
( ФωФ)「我輩が雀王道でホライゾンと打ったときも、そうであった」
 
(‘_L’)「そのときの、ホライゾンの手は?」
 
( ФωФ)「確か、数え役満」
 
 伊要の肌が粟立ち、水戸は思わず持ち点を確認した。
 親番の内藤が数え役満を和了れば48000点。47800点の水戸が振り込めば、一瞬で飛ばされ県大会敗退が決定する。
 他の二人にとっても、ほぼ全国への道が途絶える一撃となる。
 
 例えツモ和了りでも16000オール。
 ストレートでの全国行きは、ほとんど諦めざるをえないような展開になる、と三人はすぐに理解した。
 
 数え役満など、そう簡単に和了できる手ではない。
 しかし、和了されない保証もない。

824第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:26:43 ID:3IPfqjZQ0
( ФωФ)「この卓に着いている以上、全員が敵である。結託することなどはありえないこと」
 
( ФωФ)「しかし、各々が最大限にホライゾンを警戒すること。それこそが、各々のためであるよ」
 
(‘_L’)「ええ。恐らく、杉浦くんの言うとおりでしょうね」
 
(=゚ω゚)ノ「やっぱり、気を抜いちゃいけない相手ってことかよう」
 
 三人がそれぞれ表情を硬くした頃、内藤が対局室に戻ってきた。
 立ち振る舞いは堂々としており、とても最下位に沈んでいるとは思えない、と水戸は感じた。
 
 能力の真価は掴みきれておらず、不気味という伊要の言葉にも頷ける。
 それでも臆せず戦わなければならないのだ、と水戸は決意し、口を開いた。
 
(‘_L’)「後半戦も力の限り戦い抜きます、よろしくお願いします」
 
(=゚ω゚)ノ「僕も力を出し切るつもりだよう。よろしくだよう」
 
( ФωФ)「この後半戦に身命を賭す覚悟である。よろしくお願いするであるよ」
 
( ^ω^)「よろしく、お願いしますお」
 
 水戸の声に続いて、それぞれが決意を口にする。
 場に横溢するは、皆の気迫。
 
 後半戦の開始を告げる合図が、鳴り響く。
 それぞれの命運を定める、決勝の大将戦の後半戦が、始まった。
 
 西一局、親番は、芽院高校の内藤。
 
(‘_L’)(さて)
 
(‘_L’)(杉浦くんの話では、ホライゾンは西一局の和了率が異常に高いとのこと)
 
(‘_L’)(鵜呑みにして縮こまる必要はないものの、あまり強気には出ないほうが良さそうですね)
 
 水戸の配牌は四向聴。
 ここから和了りを目指すならば鳴きを使うべきだろう、と水戸は思った。
 
 しかし、手牌が減ると、いざというときに降りにくい。
 他家がテンパイに至るよりも前に和了れば関係ないが、際どい勝負になる。
 
 四巡目、内藤が捨てた二筒で水戸はポンが可能だったが、声は上げなかった。
 
(‘_L’)(もし手牌を見透かしているならば、鳴ける牌をわざと捨てたということになります)
 
(‘_L’)(鳴かせることで降りにくくし、私から直撃を取る作戦かもしれませんね)
 
 仮に役満の直撃を受ければ、水戸の持ち点はなくなる。
 その瞬間、芽院高校の優勝が決まることとなるのだ。

825第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:27:48 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)(三位であっても、まだ焦るべきではありません)
 
(‘_L’)(恐らく、焦燥に駆られた者から順に、脱落していく戦いですから)
 
 西一局は穏やかに進行していった。
 誰の声も上がることのないまま、九巡目まで到達。
 水戸、杉浦、伊要は、それぞれ警戒しながらも焦ることなく打ち進めていた。
 
 手が進まないことに焦っているのは、内藤だけだった。
 
(;^ω^)(うう。同じ牌が二枚までは来るのに、三枚目が全然来ないお)
 
(;^ω^)(誰かが捨ててくれればポンもできるのに、それもないお)
 
(;^ω^)(これじゃこの局も和了れそうにないお)
 
 まず一度、和了ってみたい。
 内藤はそれを目標にして打っていたが、ここまで一度も和了りには至っていなかった。
 何度かテンパイまでは漕ぎ着けたものの、最後の一牌が引けないでいたのだ。
 
( ^ω^)(牌の音は、ようやくちょっとずつ分かるようになってきたお)
 
( ^ω^)(僕がいま二枚持ってる三筒は、どうやら伊要さんも一枚持ってるみたいだお)
 
( ^ω^)(もしかしたらそのうち捨ててくれるかもだお)
 
 内藤は、音の聞き分けと、その記憶力には自信があった。
 僅かな音の違いを、しばらくならば正確に憶えていられる。
 中身の見えないお菓子の箱に入った玩具も、昔からほぼ確実に当てることができた。
 
 ただし、雀牌の音の違いは極僅か。
 聞き分けることに自信を持つ内藤でも、容易ではなかった。
 実際、聞き違えていたことで当てが外れ、和了りを逃したこともある。
 
 それでも、何度も繰り返し聞いていくうちに、確実性は増していた。
 
( ^ω^)(いま杉浦さんが引いた牌は、多分北だお)
 
( ^ω^)(あ、やっぱりそうだったお)
 
 十巡目、杉浦は北をツモ切り。
 牌を確かに聞き分けられたと、内藤は充足感を覚える。
 
 しかし、やはりまだ確実ではない。
 十一巡目に水戸が引いた牌が何かは、判然としなかった。

826第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:28:53 ID:3IPfqjZQ0
(;^ω^)(うーん。二萬か八萬かお?)
 
(;^ω^)(あっ、八萬だったお。この二つは音がかなり似てるお)
 
( ^ω^)(もっと、音の重心を聞き分けられるようにならないとダメだお)
 
 音の把握のためには、一局たりとも、一巡たりとも無駄にできない。
 内藤は、そう思っていた。
 
 初本は、楽しんできてほしいと内藤を送り出した。
 勝ち負けなど気にしなくていい、という意味だろうと、内藤も分かってはいた。
 
 それでも、やれるだけやってみたい。
 例え勝てなくとも、勝とうとする姿勢は失いたくない。
 内藤は、強く決意していた。
 
 そうでなければ、皆との縁を保てるはずがない、と思っていたのだ。
 
( ^ω^)(前半戦の、最後から二番目の一局)
 
( ^ω^)(あのときは、牌の音を上手く聞き分けて、なんとかピンチを回避できたお)
 
( ^ω^)(もし牌の音を聞けてなかったら、間違いなく僕の捨て牌でロンされてたお)
 
 内藤が振り返ったのは、南四局。
 杉浦が立直をかけたときのことだ。
 
 内藤は、杉浦が二索と四索を持っていることが分かっていた。
 四面子を完成させるためには三索が必要なのだろうと、雀牌の音から推測できていたのだ。
 
 それ故に、三索ではなく四索を捨てた。
 内藤が二枚の三索を手に抱えたことで、杉浦の和了りの目は限りなく小さくなったのだ。
 
( ^ω^)(もしロンされてたら、もっと点が減ってたお。危なかったお)
 
( ^ω^)(水戸さんが七筒を三枚集めたことも聞けたおかげで、テンパイして点を稼げたお)
 
( ^ω^)(この調子でどんどん音を憶えていけば、僕も和了れるようになるかもだお!)
 
 最下位でも、内藤の士気は高かった。
 しかし、その心持ちとは裏腹に、内藤が待ち望む牌は中々手に入らない。
 対子で止まってしまう牌ばかりだった。
 
(;^ω^)(うう、どんどん山が減っていくお)
 
(;^ω^)(他の人に和了られる前に、なんとか面子を作って)
 
(‘_L’)「立直です」
 
(;^ω^)「!」

827名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 14:29:14 ID:P/aGbOBY0
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

828第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:30:00 ID:3IPfqjZQ0
 懸命に和了りを目指していた内藤の、心を挫くような立直。
 水戸が機先を制するべく声を上げた。
 
(‘_L’)(待ちは三筒、四筒、七筒の三面ですが、これも神の目で見えているのでしょうか?)
 
(‘_L’)(染めていることを勘付かれないよう、筒子を何枚か捨ててもいるのですが)
 
(‘_L’)(ホライゾンからの出和了りは期待できないとしても、この待ちならば是が非でも和了りたいところですね)
 
 水戸の手は立直、混一色で満貫が確定している。
 現在三位に甘んじている水戸にとって、内藤の親番を満貫で潰せれば、後半戦の滑り出しとしては上々の結果だった。
 
 そのころ内藤は、水戸の音を必死で思い出していた。
 
(;^ω^)(やばいお。何の牌か分からない牌が結構あるお)
 
( ^ω^)(でも、どうやら二筒を三枚持ってるのは間違いなさそうだお)
 
( ^ω^)(残りの牌も何となく筒子が多そうだお。ただ、字牌も混じってるようだお)
 
( ^ω^)(とりあえず、この三筒は捨てないほうが良さそうだお)
 
 内藤はツモ牌の三筒を手牌に取り込み、代わりに五萬を河に流す。
 この局は和了れなくとも仕方ない、と考えながら。
 
( ФωФ)(ここは和了りが遠い。大人しく降りるであるよ)
 
(=゚ω゚)ノ(うーん、一向聴だけど高い手にはなりそうもないよう。リスクは冒せないよう)
 
 杉浦と伊要はベタ降りを選択。
 当然、水戸にとっては想定できていた展開だった。
 染め手を読まれていないとしても、出和了りにはさほど期待していなかったのだ。
 
(‘_L’)(当たり牌は残り八枚。好形といえるでしょう)
 
(‘_L’)(不安があるとすれば、ホライゾンに先を越されることですが)
 
(‘_L’)(相変わらず、突っ張っているのか降りているのかが分かりにくい打ち方ですね)
 
 立直したことで、水戸に降りるという選択肢はなくなった。
 もし内藤がテンパイしていれば、容易に振り込んでしまう可能性もあるのだ。
 そのリスクを分かった上で水戸は立直をかけたが、不安も拭いきれないでいた。
 
 その内藤は、再び水戸の当たり牌である三筒を引いていた。
 
( ^ω^)(また三筒かお。うーん)
 
( ^ω^)(やっぱり捨てないほうが良さそうかお? よく分かんないお)
 
( ^ω^)(まぁ、さっき残したのをここで捨ててロンされたら後悔しちゃうから、やっぱ残すお)

829第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:31:34 ID:3IPfqjZQ0
 内藤は三筒を残し、四萬を捨てた。
 当たり牌を的確に止められていることなど、今の水戸に気づけるはずはない。
 
 そして内藤も、大事なことに、気づけないでいた。
 
 そこから更に一巡を経ても、水戸の前に当たり牌は現れない。
 山は目に見えて少なくなっている。
 水戸に残された手番は、あと二回のみだった。
 
(‘_L’)(中ですか)
 
 山から手にした中をそのまま河に捨て去る。
 水戸の心の内には、徐々に諦念が生まれ始めていた。
 
(‘_L’)(ここまで当たり牌が出てこないということは、誰かに握られてしまっている可能性がありますね)
 
(‘_L’)(ホライゾンに神の目で見抜かれているとすれば、その可能性はかなり高い、とも思えます)
 
 それでも全ての当たり牌を止められるはずがない、とも水戸は思っていた。
 故に仕掛けた立直でもあったが、和了りのみを信じることはできないでいる。
 
(‘_L’)(もしホライゾンが当たり牌を止めているとすれば、恐らくテンパイではないはず)
 
(‘_L’)(連荘を防いだだけでも良しとすべき、でしょうか)
 
 自分を納得させるように、心の中で水戸はそう呟く。
 当然、勘づけているはずはなかった。
 
 次巡に内藤が取る、予想外の行動に。
 
 牌山は残り二十枚を切っていた。
 内藤のみが二回の手番を残し、他の三者はそれぞれ一度のみ山から牌を取ることができる状況。
 
 内藤が牌を一枚取る。
 先ほど水戸が捨てた牌と同じ、中だった。
 
( ^ω^)(うーん。これが危ないのかどうかなんて全然分からないお)
 
( ^ω^)(でもまぁ、そのまま捨てるしか――――)
 
 不意に、内藤は気づいた。
 手元のタッチパネルが、僅かに光っていることに。
 
 『リーチ』の文字が、現れていることに。
 
(;^ω^)(お!? 『リーチ』!?)
 
(;^ω^)(な、なんでだお!? 四面子一雀頭なんて全然できてないお!)
 
(;^ω^)(いったい、どういうことなんだお!?)

830第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:32:42 ID:3IPfqjZQ0
 錯乱する頭で、内藤は何度も手牌を見直す。
 しかし何度見ても、同じ牌は二枚までしかない。
 一つとして三枚は揃っていないのに、立直できるはずがない、と内藤は思った。
 
 初本は、麻雀の基礎を理解してもらうために、あえて教えなかったのだ。
 四面子一雀頭の形に沿わない、例外的な役を。
 
 その役の存在さえ知らない内藤は、ただ混乱する一方。
 それでも、初本に言われていたことを、しっかり思い出していた。
 
(;^ω^)(な、何がなんだかよく分からないけど)
 
(;^ω^)(初本さんに言われてるんだお。『リーチ』のボタンが押せるときは必ず押すようにって)
 
(;^ω^)(なんで押せるようになったかは分からないけど、ここは押すしかないお!)
 
 内藤が勢いよく、手元のタッチパネルをタップする。
 それから、手に持っていた牌をそのまま河に置いた。
 
 雀卓から、機械の声が流れる。
 
 
雀卓「東家、立直です」
 
 
 内藤の立直が成立した。
 同時に、他の三人は大きく目を見開く。
 
 全員が、はっきりと、動揺した。
 
(;ФωФ)(ツモ切り立直!?)
 
(;゚ω゚)ノ(ど、どういうことだよう!?)
 
 内藤は、ツモ牌をそのまま捨てた。
 つまり、先巡は立直できる状況で立直しなかったということなのだ。
 
(;‘_L’)(彼に残されたツモは海底牌しかない。その状況まで待って立直をかけたというのですか?)
 
 既に水戸が先制立直をかけている局面。
 しかし、残りはたったの一巡しかない。
 振り込む恐れもほとんどないと見て内藤は立直をかけたのか、とも水戸は思った。
 
 だが、一つの推測が水戸の思考を変える。
 
(;‘_L’)(もし、牌山まで神の目で見えているのだとすれば)
 
(;‘_L’)(海底牌での一発ツモ和了りを狙って、このタイミングまで待ったとも――――)

831名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 14:32:53 ID:Q8qjPsr60
マジ?!マジ?!

832第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:33:47 ID:3IPfqjZQ0
 そう考えられることに気づき、水戸に戦慄が走る。
 やや遅れて杉浦と伊要も、同じ考えに行き着いた。
 
 三人に走った動揺は、明らかに顔から出てしまっている。
 隠せる状況でもなかった。
 
 水戸は内藤を窺いながら、山から牌を取る。
 九索。結局、最後まで水戸は当たり牌を自力で引けなかった。
 
(;゚ω゚)ノ(杉浦くん、これで鳴いてくれないかよう)
 
 伊要が四索を捨てる。
 誰かが副露すればツモがズレるため、内藤が海底牌を引くことはなくなる。
 それを期待しての打牌だったが、杉浦から声が上がることはなかった。
 
 残るは、二枚。
 
(;ФωФ)(ホライゾンの手は読めないである。しかし、相当に高い手であると思っておかねば)
 
(;ФωФ)(いっそ水戸に差し込んだほうがいいであるか? しかし、水戸の当たり牌も読みにくいである)
 
 杉浦は不安に駆られながらツモ牌を確認した。
 八索だった。
 
(;ФωФ)(この牌はホライゾンの現物。振り込むとすれば水戸)
 
(;ФωФ)(何点の手なのかは分からないであるが、振り込んでも致し方ないとするであるか)
 
 杉浦の頭にはずっと、ホライゾンと対局した際の数え役満が残っていた。
 もし同じことが起きれば、この大将戦はほぼ決着がつく。
 あとは神の目で終局まで逃げ切られるだろう、と杉浦は思っていた。
 
 杉浦が、八索を捨てる。
 しかし、誰の声も杉浦の耳には届かなかった。
 
 残るは、海底牌のみ。
 
(;‘_L’)(ようやく、分かるのでしょうか)
 
(;ФωФ)(ホライゾンの神の目は、牌山まで見通せるのか否か)
 
 内藤の右手が、牌を掴んだ。
 
 三人が、その一挙手一投足を見守る。
 不安と好奇が綯い交ぜになったような、複雑な気持ちで。
 
 内藤は、牌をいったん手牌にくっつけた。
 十四枚の牌が、整然と並ぶ。
 
 そして、その右手がゆっくり、タッチパネルに近づく。

833第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:34:54 ID:3IPfqjZQ0
(;゚ω゚)ノ「!」
 
 牌を取った後にタッチパネルで選択できる操作は、二つしかない。
 『リーチ』、そして『ツモ和了り』。
 
 
 しかし内藤は、既に立直をかけている。
 
 押せるボタンは、たった一つだった。
 
 
雀卓「東家、ツモです」
 
(;ФωФ)「!!」
 
 雀卓が、内藤の牌を自動で倒す。
 徐々に露わになる牌の絵柄を、三人は真っ白な頭で注視していた。
 
 そして、その手に三人は愕然とする。
 
雀卓「立直、一発、門前清自摸和、断幺九、海底摸月、七対子、ドラ4」
 
(;‘_L’)「!!」
 
雀卓「三倍満、12000オールです」
 
 淡々と、事実を伝える。
 雀卓の声。
 
 それが、あまりに冷徹な宣告のように、三人は感じていた。
 
(;‘_L’)(間違い、ない。ホライゾンは、牌山が、見えている)
 
(;‘_L’)(でなければ、この狙い澄ました一撃は、ありえません)
 
 水戸は思わず立ち上がっていた。
 二度も三度も内藤の手牌を確認する。しかし、何度確認しても同じだった。
 
 親番の内藤が三倍満を和了。
 三人を牛蒡抜きし、トップに立った。
 
(;ФωФ)(やはり、西一局で本領を発揮してきたであるか。恐ろしい男であるな)
 
(;゚ω゚)ノ(た、たったの一局で逆転されたよう。これが、ホライゾンの力かよう)
 
(;‘_L’)(これほどの打ち手を相手に、いったい、どう勝機を見出していけというのでしょうか)

834第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:36:18 ID:3IPfqjZQ0
 三人はそれぞれ慄き、戦意の芯を抜かれかけていた。
 それほど、西一局の三倍満は、三人にとって痛烈だったのだ。
 
 しかし、三倍満を和了った当の本人は、ずっと戸惑っていた。
 
(;^ω^)(な、なんであれが和了りになるんだお?)
 
(;^ω^)(面子なんて一個もできてなかったのに、和了りなんて、わけ分かんないお!)
 
(;^ω^)(なんか、やっぱり、麻雀って難しいお)
 
 初めての和了りを経験したにも関わらず、内藤の心には靄がかかったままだった。
 
 
 ◇
 
 
 内藤が海底牌を引き、タッチパネルのボタンを押した瞬間。
 芽院高校の控え室は、歓喜に沸いた。
 
(*^Д^)「来た!! 来たぁぁ!! 来たぞぉぉぉ!!」
 
(*^Д^)「すげぇ!! 内藤、あいつマジすげぇ!!」
 
(゚A゚;)「さ、三倍満!? 内藤が!?」
 
('、`;川「逆転したの!? ほんとに!?」
 
(*;ー;)「凄い! ブーンくん凄いよ!」
 
 控え室内の誰も想像できなかったほどの、奇跡が起きた。
 ほとんど素人の内藤が、県内屈指の打ち手たちを相手に、三倍満をツモ和了り。
 36000点を得て、一気にトップへ躍り出た。
 
(´・ω・`)「本当に、凄い」
 
 初本も、思わずそう溢した。
 無論、三倍満を和了った強運もそうだ。しかし、それ以上に。
 
 内藤の力の凄まじさを、初本は思い知っていた。
 
(´・ω・`)「今の三倍満」
 
(´・ω・`)「恐らく僕があの場で打ってたら、和了れてない」
 
(´・ω・`)「その前に、水戸くんに振り込んで終わってたと思う」
 
 本心を、初本は言葉にした。
 半ば、呆然としながら。

835第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:37:23 ID:3IPfqjZQ0
( ^Д^)「三筒っすよね?」
 
(´・ω・`)「うん。あの局面、和了りを目指していたら三筒は捨てていただろうね」
 
 内藤が和了った西一局、先に立直をかけたのは肯綮の水戸だった。
 最後の待ちは手広く三面に構えており、三筒は当たり牌の一つだったのだ。
 
(´・ω・`)「水戸くんは染め手だったけど、字牌を六枚使ってたこともあって、捨て牌からは染め手に見えなさそうだった」
 
('A`)「確かに。立直後に六筒が捨てられてたから、後引っ掛けにもなってましたね」
 
( ^Д^)「あの状況なら、三筒は捨てちゃう可能性あるっすね」
 
(*゚ -゚)「やっぱり、牌の音が聞こえてたんでしょうか?」
 
(´・ω・`)「恐らくは。でければ、あの状況で三筒を残すという選択が初心者にできるはずはないからね」
 
 内藤は、筒子が多いことに気づいていたのだろう、と初本は思っていた。
 それ故に何となく、筒子を捨てないほうが良さそうだと考えたのだろう、と。
 
(´・ω・`)「内藤がテンパイしてすぐ立直しなかったのは単に気づいてなかったからだろうし、一発や海底摸月はただの偶然だ」
 
(´・ω・`)「相当な運に恵まれた三倍満だったことは間違いない。だけど、あの和了り方は――――」
 
 初本の両腕には鳥肌が立っている。
 それは、山の頂に近づけば近づくほど気温が下がることに似ているのかもしれない、と初本は思った。
 
(´・ω・`)「どうやら、途轍もない人を、僕たちはメンバーに引き込んだみたいだ」
 
 内藤の三倍満で、芽院高校はトップを奪還した。
 胸の高鳴りを、部員たちは抑えきれなくなっていた。
 
 
 ◇
 
 
雀卓「西一局一本場です」
 
 雀卓の声だけが冷静だった。
 卓上には整然と雀牌が並んでいる。
 
 それを見つめる水戸の視界は、霞んでいた。
 
(;‘_L’)(たったの一局で、この大差)
 
(;‘_L’)(もしかしたら私は、心のどこかで侮っていたのかもしれません。しかし、ようやく分かりました)
 
(;‘_L’)(ホライゾンは、明らかに、二枚も三枚も上手の相手です)

836第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:38:35 ID:3IPfqjZQ0
 隔絶的な差を、水戸は感じさせられていた。
 それほどの威力が、先ほどの三倍満にはあったのだ。
 
 親の三倍満で内藤は36000点を得てトップに立った。
 そして、再び内藤を親とする西一局一本場が始まっていた。
 
(;‘_L’)(配牌は、あまり良くありませんね。鳴いていったとしても和了れるかどうか)
 
(;゚ω゚)ノ(うーん。ツモに恵まれてくれないと厳しそうだよう)
 
(;ФωФ)(どうにも巡りが良くないであるな。できれば親を蹴りたいところであるが)
 
 それぞれ、内藤に大差をつけられた。
 半荘しか残されていないことを考えれば、一局たりとも無駄にできない。
 それゆえ、安い手で和了りたくないという思いもあったのだ。
 
 しかし、その思いは西一局一本場が終わる頃、一様に消え去ることとなる。
 
( ^ω^)(おっ、今回は筒子がたくさんあるお!)
 
( ^ω^)(筒子は牌が分かりやすいから好きだおー♪)
 
 内藤は暢気なことを考えていた。
 手元にある牌が、どれほど恵まれたものであるかなど、気づきもしなかった。
 
 内藤以外の三者は不安を抱えながら打ち進めていった。
 特に、内藤に当たり牌を止められた経験のある水戸と杉浦は、不安が大きい。
 例えテンパイしても和了れないかもしれないと考えてしまっていた。
 
 トップに立った内藤は、望外の和了りに恵まれた。
 誰よりも点が多いことは中央のディスプレイを見れば内藤にも分かる。
 このまま点差をキープすれば、恐らく芽院高校は全国へ行けるのだろう、ということも。
 
 それでも内藤には、どうしてもやってみたいことがあった。
 
( ^ω^)(さっきの和了りは、なんかよく分かんなくて、実感がないお)
 
( ^ω^)(一回くらい、自分の力で和了ってみたいんだお)
 
 自力による和了り。
 それはきっと、どこかから転がり落ちてきたような和了りとは違う。
 喜びが、明らかに違っているはずだ、と内藤は思っていた。
 
 その内藤の手は、一向聴まで進んでいた。
 
( ^ω^)(うーん。一筒から三筒までが二枚ずつ揃ったお)
 
( ^ω^)(これって二つの面子としてカウントしていいのかお? 同じ組み合わせはダメとかあるのかお?)
 
( ^ω^)(よく分かんないから二つの面子だってことにしておくお)

837第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:39:40 ID:3IPfqjZQ0
 八巡目。
 誰も鳴かないまま、ここまで進んでいた。
 親番の内藤が引いた牌は、八筒。
 
( ^ω^)(あ、同じ組み合わせでも二つの順子としてカウントするなら、これでまた二つ面子ができたお)
 
( ^ω^)(七筒から九筒までが二枚ずつ。これで面子が四つだお!)
 
( ^ω^)(いま西が一枚だけあるから、西がもう一枚来ればこれが雀頭になって和了りかお?)
 
( ^ω^)(あっ、でも西は既に一枚捨てられてて、あとの二枚は伊要さんが持ってるみたいだお)
 
(;^ω^)(ってことは西じゃ雀頭は作れないお。他の牌に変えなきゃダメだお)
 
 九巡目、内藤は山から發を引いた。
 すぐさま西を捨て、發を手牌に取り込む。
 
 そこで、内藤の対面から声が上がった。
 
(=゚ω゚)ノ「ポンだよう」
 
 手役作りに苦しんでいた伊要が副露で役牌を得た。
 内藤は、自風が役牌になることを忘れている。
 
(=゚ω゚)ノ(神の目で手牌が見えているはずなのに、役牌を鳴かせてくれたのはラッキーだよう)
 
(=゚ω゚)ノ(これで一向聴。役牌のみでいいから和了りたいよう)
 
 伊要は、手が進んだことの喜びしかなかった。
 しかし、水戸と杉浦は先ほどの打牌に、強烈な違和を感じている。
 
(‘_L’)(神の目があれば、伊要くんが西を二枚持っていたことも読めていた可能性が高い)
 
(‘_L’)(伊要くんは西家。三枚目の西を捨てれば、それを副露されることも当然、考慮はしていたはずですが)
 
( ФωФ)(皆が親番を蹴ろうとしていることは分かっているはずである。それなのにホライゾンは特急券を与えた)
 
( ФωФ)(あまりにも不可解に思える行動であるが――――もし、わざと鳴かせたのだとしたら?)
 
 水戸と杉浦は同じ結論に達しつつある。
 役牌を他家に与えても構わないとするならば。
 
 先局の一発ツモが、二人の脳裏に蘇る。
 
(;ФωФ)(もしや、ホライゾンは既にテンパイに至っているであるか?)
 
(;‘_L’)(既にテンパイしているならば、もしや)
 
(;‘_L’)(先ほど伊要くんに役牌を鳴かせたのは、ツモ順を、ズラすために――――)

838第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:40:45 ID:3IPfqjZQ0
 十巡目。
 親の内藤は、六萬を引いた。
 
 そこで不意に、内藤が気づく。
 
( ^ω^)(あれ?)
 
( ^ω^)(僕はまだ一回も鳴いてないお。でももう四面子が完成してるお)
 
( ^ω^)(ということは、あとは雀頭さえ作ればいいんだから、今ってもう立直できる状況じゃないかお?)
 
 ずっと自分の手牌と他家の音に集中していた内藤は、手元のタッチパネルを確認し忘れていた。
 そして、内藤の思ったとおりそこには、『リーチ』のボタンが表示されている。
 
(;^ω^)(し、しまったお。またしても立直を見逃してしまっていたお)
 
( ^ω^)(えーっと、この六萬をそのまま捨てて立直すれば良いのかお?)
 
 内藤の右手は河に、左手はタッチパネルに伸びる。
 内藤を除く三人には、その瞬間、再び緊張が走った。
 
雀卓「東家、立直です」
 
(;‘_L’)「!!」
 
(;゚ω゚)ノ(ま、またツモ切り立直かよう!)
 
(;ФωФ)(来たであるか、ここも)
 
 親番の内藤が立直をかけた。
 三人は横向きの牌に視線を注ぐ。
 
 その胸中は、共通していた。
 
(;ФωФ)(ツモ切り立直ということは、ほぼ間違いなく一発狙いであろうな)
 
(;゚ω゚)ノ(次のツモで和了られる可能性が高いよう。何とかしないといけないよう)
 
(;‘_L’)(恐らくホライゾン以外は誰もテンパイさえしていない。となれば、現実的な対抗策は――――)
 
 副露によってツモをズラす。
 それしかない、という思いも三人は共通していた。
 
(;‘_L’)(どの牌が鳴けるのかは、非常に読みにくいところですが)
 
(;‘_L’)(この牌でどうでしょうか)

839第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:41:55 ID:3IPfqjZQ0
 水戸が五索を河に置いた。
 内藤に振り込む可能性もあることを考えれば、真ん中の牌はなるべく捨てたくはない。
 それでもここは誰かに副露させることを優先すべきだ、と水戸は考えていた。
 
 しかし、誰からも副露は宣言されない。
 水戸の不安は、大きく膨らんだ。
 
 残るは二人。
 内藤の対面にいる伊要は、手牌を改めて確認した。
 
(;゚ω゚)ノ(ううん、誰かに鳴いてもらえる牌を捨てたいけど、何を捨てるべきかよう)
 
(;゚ω゚)ノ(難しいけど、ホライゾンの現物でもあるし、三索でどうかよう)
 
 伊要も誰かに鳴かせるべく牌を捨てた。
 祈りを込めて、伊要はまず上家の水戸を見る。
 しかし、落胆を隠しきれないかのように、水戸は僅かに頭を下げた。
 
 この牌も駄目なのか。
 伊要はそう考えながらも、一縷の希望は捨てずに、下家を見た。
 
 他家のポンがないかどうかを一瞬待ってから、声を上げた男がいた。
 
( ФωФ)「チーである」
 
(‘_L’)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
 杉浦が一索、二索と共に、三索を右に寄せた。
 そしてすぐさま、九索を捨てる。
 
(=゚ω゚)ノ(ありがとうだよう!)
 
( ФωФ)(助かったである。これで、ツモが一つズレたであるな)
 
(‘_L’)(一発は消えましたね。さすがにこの副露はホライゾンでも予測できなかったでしょうし)
 
 三人に安堵が広がる。
 杉浦は一向聴で、立直をかけなければ役もないような手だった。
 一索を含む順子を作ったことで、和了りはほぼ絶望的となったが、それでも杉浦は最善を尽くせたと納得できていた。
 
 そして、内藤が山から牌を取る。
 しかし手牌が傾けられることはない。
 
(‘_L’)(ツモがズレたためでしょうか、やはり和了れませんでしたね)

840第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:43:18 ID:3IPfqjZQ0
 水戸も牌を取った。
 杉浦のチーがなければ、本来は内藤が取っていた牌。
 
 發だった。
 
(‘_L’)(これがもし、ホライゾンの当たり牌であったならば)
 
(‘_L’)(やはり我々は、遥か高みにいる怪物を相手にしていることとなりますが)
 
 当然のように、水戸は發を手牌に取り込み、内藤の現物を捨てた。
 水戸は發を初巡に捨てており、内藤が發を待っているのであれば、国士無双でない限り役に立たない牌だ。
 即ちベタ降りとなるが、それも致し方ないと水戸は割り切れていた。
 
 そこで不意に、内藤の視線に水戸は気づく。
 
(;‘_L’)(ずっと、見ていますね)
 
(;‘_L’)(私が手牌に取り込んだ、發を)
 
 顔は向けずに、内藤は視線だけを注いでいる。
 まるでそれが、どうしても諦めきれないものであるかのように。
 
(;‘_L’)(この發が当たり牌だったのかどうか)
 
(;‘_L’)(願わくば、流局時に確かめたいものですね)
 
 西一局一本場はその後、静穏に包まれたまま流れていった。
 流局時、内藤以外の三人は牌を手前に倒し、手牌を仰向けにしたのは内藤のみ。
 
 そしてその手牌を見て、三人の目は大きく開く。
 
( ^ω^)「テンパイですお」
 
(;‘_L’)「!!」
 
 一筒、二筒、三筒、七筒、八筒、九筒が二枚ずつ。
 そして、最後まで水戸が捨てなかった發が、一枚。
 
(;ФωФ)(立直、混全帯幺九、二盃口、混一色、ドラ2!)
 
(;゚ω゚)ノ(ま、また三倍満かよう!)
 
 二人の額から汗が噴き出す。
 再び三倍満を和了られるまで、あと一歩のところだったのだ。
 
 しかし、額だけでなく、手からも汗を掻いている男が、一人。
 
(;‘_L’)(当たり牌がやはり發だった、ということは)
 
(;‘_L’)(もし杉浦くんのチーがなければ、一発と門前清自摸和がついていた)

841第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:44:28 ID:3IPfqjZQ0
 内藤が公にした手牌についている飜数は、十一。
 しかし、ここに二つ役が乗れば、合計十三飜となる。
 
 つまり――――
 
(;‘_L’)(ホライゾンの本当の狙いは、三倍満ではなかった)
 
(;‘_L’)(数え役満だった、ということですか)
 
 その事実を知ってしまったのは、水戸。
 そして、戦局を見守っている、各校の控え室の面々だった。
 
 
 ◇
 
 
 肯綮高校の控え室内は、静まり返っていた。
 
 ここまでの獲得ポイントで二位となり、優勝も見えている状態で大将戦に臨んだ肯綮高校。
 実際、前半戦の水戸は堅調であり、優勝に手が届くと全員が期待していた。
 
 その水戸は、トップの内藤から、四万点近く離されている。
 
/ ゚、。;/「ここまでとは、思わなかった」
 
 鈴木の本音は、小さな声で零れる。
 前半戦までとは全く違う空気が、そうさせていた。
 
(;´・_ゝ・`)「正直、想像以上です。ホライゾンが、ここまで強いなんて」
 
从;'ー'从「た、たまたまなんじゃないですかぁ~? 偶然に偶然が重なりまくってるだけかもぉ~」
 
(;∵)「ただの偶然とは思えぬことが何度も起きている。あらゆる牌を、見透かしているかのような」
 
/ ゚、。;/「だね。西一局では水戸の当たり牌を完璧に止められたし」
 
 鈴木は、恐怖心さえ覚えた。
 決して読みやすいとも思えなかった、水戸の当たり牌である三筒を、内藤は捨てなかった。
 先制立直をかけた水戸を止めた上で、内藤自身は三倍満を和了したのだ。
 
 これほどの相手とは思わなかった。
 鈴木は、先ほども零した本音をもう一度、頭のなかで繰り返した。
 
(;´・_ゝ・`)「本当に、あるんですね。神の目ってやつが」
 
/ ゚、。;/「バカバカしい、と思ってたけどね。大将戦が始まるまでは」
 
(;∵)「理屈は分からぬが、牌が見えている可能性は極めて高い。恐ろしい男よ」

842第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:45:37 ID:3IPfqjZQ0
从;'ー'从「き、きっとズルしてるんですよぉ~! 絶対ヘンですぅ~!」
 
/ ゚、。;/「ズルはないだろうけど、ガン牌の可能性はあるかもね。ただ、それもほぼありえないとは思うけど」
 
(;´・_ゝ・`)「牌に目立つ傷なんて一つもなかったですもんね。普通じゃ見えない小さな傷が見えるのかもしれないですけど」
 
(;∵)「しかし、それが神の目なのだと言われても、得心とはいかぬな」
 
/ ゚、。;/「可能性はゼロじゃないかもしれないけどね」
 
(;´・_ゝ・`)「でも、それだと牌山を見透かすのは厳しいですよね。半分は背が隠れてるわけですし」
 
/ ゚、。;/「うん。どのみち、信じられないようなことだけどね」
 
 現状、内藤の猛攻を防ぐ手立てが四人には思い浮かばない。
 尤も、思い浮かんだところで水戸に伝える術はない。
 
 その水戸の顔が、ちょうどモニターに映った。
 
(´・_ゝ・`)「水戸さん」
 
 水戸は、最下位に沈んでいる。
 このままでは優勝どころか、プレーオフ行きとなる二位さえ危うい状況だった。
 
 それでも、水戸の目は死んでいなかった。
 
/ ゚、。 /「まだ、諦めてないね、水戸は」
 
( ∵)「実力差は痛感させられたはず。それでも心を奮い立たせておるか」
 
从'ー'从「水戸さんゴ~ゴ~! 絶対逆転できるって信じてますぅ~!」
 
 渡辺の緩い声に、鈴木は思わず笑ってしまった。
 しかし、その姿勢は見習うべきだ、とも鈴木は思った。
 
/ ゚、。 /「一番キツイはずの水戸が諦めてないのに、僕らが勝手に諦めちゃいけないね」
 
(´・_ゝ・`)「はい。最後まで勝利を信じます」
 
 西一局は二本場に入った。
 力強く牌を見据える水戸を、四人は信じつづけている。
 
 
 ◇
 
 
 もし内藤が数え役満をツモ和了りし、16100オールとなっていたら、勝負はほぼ決まっていた。
 杉浦のチーに感謝するしかない、と水戸は思っていた。

843第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:46:42 ID:3IPfqjZQ0
 ただ、内藤がテンパイしていたことで親番は続行。
 内藤以外の三人は、底なし沼に片足を突っ込んでいるような心境だった。
 
(‘_L’)(先ほどの一局、まさに首の皮一枚繋がったというところですね)
 
(‘_L’)(これを機と捉えねばなりません。この西一局から、絶対に脱出しなければ)
 
(‘_L’)(ホライゾンの思うがままに打たせていては、西一局のまま大将戦が終わることにもなりかねません)
 
 水戸の持ち点は33800点。
 トップの内藤が71800点であり、大差といっていい点差をつけられている。
 
 残る局数を考えれば、あまり安い手では和了りたくない。
 水戸はそう思っていた。
 
 先ほどの数え役満未遂を見るまでは、だった。
 
(‘_L’)(ここはどんな手であっても、とにかく和了りを優先すべきです)
 
 どれほど安い手でもいい。
 とにかく内藤の親番を、終わらせなければならない。
 
 その思いのみで、水戸は声を上げる。
 
(‘_L’)「ポン」
 
 伊要が捨てた六筒をポンで取り込む。
 その二巡後には杉浦の捨て牌を再びポンで手に入れた。
 
 そして五巡目にして、水戸の親指は手牌を撫でる。
 
(‘_L’)「ツモ。断幺九のみ、500・700」
 
 その和了りに安堵したのは水戸だけではなかった。
 僅かとはいえ、失点した杉浦、伊要もようやく視界が明るくなった気分だった。
 
 そして、西二局の親番は、最下位に沈んでいる水戸。
 
(‘_L’)「チー」
 
 ここも、水戸は鳴きを使って速度を上げた。
 内藤がツモ順を操作しようとしている可能性があり、できればチーはしたくない、という思いも水戸にはある。
 それでも、水戸にできる内藤への対抗策は、これしかなかった。
 
(‘_L’)(ホライゾンよりも先にテンパイし、和了る)
 
(‘_L’)(この試合に勝つためには、最早それしかありません)
 
 誰よりも先にテンパイすれば振り込むことはない。
 和了られる前に、和了る。単純なことだが、それしかない、と水戸は考えていた。

844名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 14:47:24 ID:886eJM.M0
ツモ切りフリテンリーチとか普通なら悪形極まりないけどこれは………

845第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:48:02 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)「ツモ。1000オール」
 
 三色同順、ドラ1で水戸は素早く3000点を得た。
 勢いに乗って、西二局一本場も手作りを速める。
 
(‘_L’)(この配牌ならば、本当は鳴かずに進めたいところですが)
 
(‘_L’)(ホライゾンが相手では、そんな甘い考えは捨てるべきですね)
 
(‘_L’)「ポン」
 
 副露なしで手作りすれば跳満や倍満さえ望めそうな配牌だった。
 それでも水戸は、とにかく和了ることだけを優先した。
 
 全ては、肯綮高校を優勝させるために。
 ここまで繋いでくれた、仲間たちのために。
 
(‘_L’)「ツモ。4100オール」
 
( ФωФ)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
 役牌、混一色、ドラ1で和了った水戸が更に12300点を得た。
 持ち点が50800点となり、肯綮高校は二位まで浮上。
 トップとの点差も15200点となった。
 
 無論、伊要と杉浦もそれを良しとはしなかった。
 
(=゚ω゚)ノ(トップを削ってくれたのはありがたいけど、好き放題はさせないよう!)
 
( ФωФ)(水戸にばかり稼がれてはどのみち苦しいである。我輩も反撃に出ねば)
 
 水戸の三連続和了に伊要と杉浦も発奮する。
 そして西二局二本場、すぐに動いたのは伊要だった。
 
(=゚ω゚)ノ「チーだよう!」
 
 配牌が良かったこともあり、一度のチーですぐさま伊要はテンパイに至った。
 そして四巡目には早くも手牌の両端を掴む。
 
(=゚ω゚)ノ「ツモ、1200・2200だよう!」
 
 一気通貫、混一色で水戸の親番を流した伊要。
 西三局はその伊要が親番だった。

846第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:49:13 ID:3IPfqjZQ0
(=゚ω゚)ノ(ここは僕が稼ぐよう!)
 
 そう意気込み、伊要が確認した配牌は悪いものではなかった。
 断幺九や平和、一盃口などが狙えそうな手牌。
 できれば鳴かずに進めたい、という欲も伊要には生まれた。
 
 しかしすぐさま、その欲を杉浦がかき消す。
 
( ФωФ)「ポンである」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
 水戸、伊要と同じく、杉浦も副露で手を早めてきた。
 親番を失いたくない伊要は負けじと鳴きによる加速を狙うが、思うようには進まない。
 焦りに支配されている間に、更に杉浦がポンで刻子を作る。
 
 やがて杉浦が倒した牌の面子は、全て刻子で構成されていた。
 
( ФωФ)「ツモ。対々和、ドラ2、2000・4000である」
 
 杉浦が満貫を和了し、伊要の親番は流れた。
 大将戦は足早に西四局へと移る。
 
 西一局で内藤が場を制圧しかけたものの、他の三人も容易くは膝を折らなかった。
 副露して素早く和了ることで、内藤の和了りを防ぐ作戦に全員が出ていたのだ。
 それこそが優勝への唯一の道だと信じて。
 
 実力差が歴然としていようとも、勝利のみを目指せば、必ず活路はあると信じて。
 
 
 ――――その決意が、西四局で再び、揺らぐ。
 
 
( ^ω^)「ポン、ですお」
 
(;‘_L’)「!」
 
(;ФωФ)「!」
 
(;゚ω゚)ノ「!」
 
 内藤が、副露。
 立直ではなく、ただのポン。
 それでも、三人の体は硬直した。
 
 理由は二つあった。
 一つは、後半戦に入ってから一度も鳴いていなかった内藤が鳴いた、という事実。
 一発ツモの記憶も色濃く残る三人は、それほど副露の多いほうではない、という印象を内藤に抱いていたからだ。
 
 もう一つは、内藤がポンした八萬がドラである、という事実。

847名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 14:49:51 ID:886eJM.M0
あいや、水戸の捨て牌か…勘違い

848第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:50:34 ID:3IPfqjZQ0
(;‘_L’)(和了られれば、最低でも満貫、ですか)
 
(;゚ω゚)ノ(満貫で済めばいいけど、また三倍満でも和了られたら、かなり厳しいよう)
 
(;ФωФ)(最大限に警戒し、絶対に放銃を避けねば。例え親番を失うことになろうとも)
 
 内藤から離された三者にとって、最悪の事態は内藤に振り込むことだった。
 ツモ和了りはほとんど避けようがない。避けられることは、放銃のみだ。
 満貫に振り込んでトップから更に16000点の点差がつけば、どの高校にとっても全国行きは一気に遠のく。
 
 ほぼベタ降りを選択した三者は慎重に打ち進めた。
 できればテンパイを残しておきたい、と考えた杉浦のみが回し打ち気味に立ち回る。
 十四巡目には、役こそないものの一向聴にまで至っていた。
 
 杉浦の不要牌は二萬。
 あとは五索か八索、もしくは二筒か五筒を引けばテンパイだった。
 
 そこで、内藤が手出しした。
 
( ФωФ)(三萬切り、であるか)
 
 嫌な予感が、杉浦の中で息づいた。
 
( ФωФ)(我輩の不要牌である二萬は二巡前に水戸が捨てている。故にこれは安牌と思っていたであるが、しかし)
 
( ФωФ)(もし神の目で我輩の手牌が見えていて、不要牌が二萬であることに気づいているとしたら?)
 
 一巡前、もしも内藤が二萬と三萬を持っていて、一萬と四萬の両面待ちだったとしたら。
 その状態で二萬を引き、三萬を捨てて単騎待ちに切り替えているとしたら。
 
 内藤は、不要牌が河に出るのを待っているのかもしれない、と杉浦は気づいた。
 
 そして、次の杉浦のツモ牌は、五筒。
 待ち望んでいたはずの牌が、杉浦には霞んで見えた。
 
(;ФωФ)(五筒を残して二萬を切れば、テンパイであるが)
 
(;ФωФ)(切れないであるな、二萬は)
 
 杉浦の読みが当たっていた場合、二萬を捨てることで負う傷は致命的となる。
 両面待ちを捨てて単騎待ちにするなど、常識では考えられないことだが、常識など通じない相手なのだ、と杉浦は思った。
 
(;ФωФ)(連荘を諦めるのは悔しい限りであるが、読みどおりだった場合の一撃は手痛い)
 
(;ФωФ)(ここは、ベタ降りに回るより他ないであろうな)
 
(;ФωФ)(いつでも神の目で見られているという事実を、忘れてはならないであるよ)

849第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:51:59 ID:3IPfqjZQ0
 杉浦は現物でもある五筒をツモ切りした。
 残りの手番を考えれば、なんとか逃げきれそうだ、と考えながら。
 
 そして杉浦は、自分の読みが正しかったことを流局後に知る。
 
( ^ω^)「テンパイ、ですお」
 
( ФωФ)「!」
 
 内藤は、二萬と四萬と七萬待ちだった。
 しかし七萬はドラ表示牌であり、序盤に伊要が一枚捨ててもいる。
 つまり、実質的には二萬と四萬待ちだったが、両面待ちを保っていれば一萬も当たりだったのだ。
 
(;ФωФ)(当たり牌を減らしてまで、我輩の二萬を狙ったであるか)
 
(;ФωФ)(形式聴牌狙いで、いずれ二萬を捨てるであろうことを、完璧に読まれていたのであろうな)
 
(;ФωФ)(しかも、二萬による和了りならば、手役は断幺九、対々和、清一色、ドラ3で再びの三倍満)
 
(;ФωФ)(全くもって、空恐ろしい男である)
 
 二萬を捨てていたら、杉浦は24000点を奪われていた。
 間違いなく、息の根を止められていた、と杉浦は恐怖する。
 同時に、凌げたことへの安堵もあった。
 
 他方、杉浦が二萬を止めたことを知らない二人は、別の恐怖を抱いていた。
 
(;゚ω゚)ノ(な、何回三倍満を和了れば気が済むんだよう。恐ろしいよう)
 
(;‘_L’)(もし二萬をツモっていたら三暗刻もついて、今度こそ数え役満だった、ということですか)
 
 いかに神の目があろうと、配牌までは操作できない。
 そのことを水戸は確信していた。つまり、内藤はかなり運に恵まれてもいる。
 しかし、相手に振り込むことがないぶん、自由に手を高められるのが強みだ、と水戸は思っていた。
 
 そして、相手の手が見えていれば、直撃を狙うことも容易いだろう、とも。
 
(‘_L’)(ノーテンでは手牌を公開しないため、詳細は分かりませんが)
 
(‘_L’)(もしかしたらホライゾンは、伊要くんや杉浦くんから出和了りしようとしていたのかもしれませんね)
 
(‘_L’)(となれば、私たちの最大の危機は、このあと訪れるということになります)

850第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:53:18 ID:3IPfqjZQ0
 親の杉浦がノーテンだったため、西場が終わった。
 大将戦はいよいよ北場を残すのみとなっている。
 
 最初の北一局の親番が、内藤だった。
 
 その内藤は、またも和了れなかったことに落胆している。
 思うようにはいかないものだ、と。
 
(;^ω^)(杉浦さんは二萬が不要っぽかったから、捨ててくれるかと思ったのに)
 
(;^ω^)(なんで捨ててくれなかったのかお。よく分からないお。難しいお)
 
 未だ和了りの喜びを感じられないままに、内藤は北一局に進む。
 配牌を確認して、内藤は首を捻りかけた。
 どこからどう面子を作っていけばいいのか、分からなかったのだ。
 
(;^ω^)(なんか、ぐちゃぐちゃな組み合わせだお。和了るのは大変そうだお)
 
( ^ω^)(だけど、やっぱり一度くらいは自力で和了ってみたいお。頑張るお!)
 
 意気込んで内藤は發を切る。
 しかし、内藤以上に意気込んでいるのは他の三者だった。
 
(‘_L’)(ここは、とにかく親番を流すことが最優先です)
 
( ФωФ)(差し込んででも親番を蹴る。それが最善であるという考えに疑いの余地はないである)
 
(=゚ω゚)ノ(誰でもいいから和了らなきゃいけないよう。西一局みたいなことが起きたら絶望的だよう)
 
 ここは最速で和了るしかない。
 三人が同じ思いで打ち進める。
 
 内藤は、思うように揃わない牌をもどかしく感じていた。
 副露して面子を作っていきたい。そう思っていたところに、杉浦から二索が捨てられる。
 
( ^ω^)「チーですお」
 
 三索と四索を右に寄せて、内藤がチー。
 そして手牌から八筒を取り、河に置いた。
 
 その捨て牌に対し、内藤と同じ声が上がる。
 
(‘_L’)「チーです」
 
 水戸が加速すべく、八筒を取り込んだ。
 その動きを注視しながら、伊要と杉浦も和了りを狙っている。
 
 しかし、考えを変えることになるのは、次に再び水戸が発声したときだった。

851第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:54:31 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)「チーです」
 
( ФωФ)「!」
 
 内藤が九萬を捨てたところで、水戸がチー。
 水戸の狙いが、杉浦にははっきりと伝わった。
 
( ФωФ)(三色同順狙いであるか。水戸はドラを一枚捨てているから、ドラが絡んだ手ではなさそうである)
 
( ФωФ)(混全帯幺九や純全帯幺九が絡んでいなければ、僅か一飜の手、ということであるな)
 
( ФωФ)(それならば――――)
 
 杉浦は手を崩した。
 五索、六索と共に順子を作っていた七索を、河に流す。
 
 申し訳ない、と心の中で杉浦に謝ってから、水戸は倒牌した。
 
(‘_L’)「ロン。三色同順のみです」
 
 水戸が軽く頭を下げる。
 杉浦は僅かに笑って、手牌を前に倒し、燕龍茶に口をつけた。
 
(‘_L’)(意図を汲み取っていただき、心から感謝します)
 
( ФωФ)(たった1000点でホライゾンの親番を流せたである。貴公には感謝しているであるよ)
 
 あえて手を安くし、振り込みやすい形を作った水戸。
 それに応えた杉浦。
 二人が、他の誰のためでもなく、それぞれ自分自身のために最善を尽くした。
 
 水戸は、思った通りの形で北一局を終わらせられたことに、満足はしていた。
 しかし、引っかかりも残っている。
 
(‘_L’)(和了れたことは良かったのですが、ホライゾンは随分あっさり鳴かせてくれましたね)
 
(‘_L’)(手牌が見えているなら三色同順狙いも分かっていたはず。それなのに二度もチーさせるとは)
 
(‘_L’)(あえて、なのでしょうか。意図は分かりませんが)
 
(‘_L’)(術中にハマってしまった可能性などは、あまり考えたくありませんね)
 
 大将戦、尚もトップに立つのは芽院高校の内藤。
 最短では、あと三局で決着がつく。

852第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:55:44 ID:3IPfqjZQ0
 決して一局も無駄にできない。
 特にこの親番は、簡単には失えない。
 水戸はそう決意して、北二局に臨んだ。
 
 
 ◇
 
 
 祈ることしかできない。
 ただ、祈りながらじっと戦局を見守ることしか、できない。
 芽院高校の誰しもが、同じだった。
 
(;^Д^)「あと三局っすね」
 
(´・ω・`)「なんとか、持ち堪えてほしい」
 
 期待と不安が交互に顔を覗かせる。
 まさか、内藤がトップをキープしたまま北二局まで来れるとは思ってなかった、というのが初本の本音だ。
 だからこそ、期待も不安も大きい。
 
('A`;)「陶冶の杉浦の七索切りは、差し込みですよね」
 
(´・ω・`)「うん、間違いないね」
 
(;^Д^)「やっぱ杉浦は見るべきところを見てたっすね。視野が広いというか」
 
(´・ω・`)「状況判断能力に長けてるね。先々を見通すこともできるし、相当な打ち手であることは間違いない」
 
(´・ω・`)「ただ、あの差し込みは内藤を警戒しすぎてたね。うちとしてはありがたいことだけど」
 
 北一局、内藤の配牌は六向聴だった。
 可能な限り鳴いていったとしても、テンパイが精々、というような手牌。
 ツモの巡りも悪く、水戸が和了ったときはまだ四向聴だったのだ。
 
 じっくり手を高められていたら芽院高校としては苦しかった。
 親番を蹴るためだけの三色同順が、結果的には芽院高校を助けてもいた。
 
(´・ω・`)「神の耳のおかげだね」
 
(´・ω・`)「内藤が牌を見透かしたような待ち方をしたことで、他の三人は警戒を大いに強めた」
 
(´・ω・`)「内藤に神の耳がなければ、この点差はありえなかった」
 
 自然と、初本は内藤の力を『神の耳』と名付けていた。
 ホライゾンの『神の目』のような、超常的とも言える力だった。

853第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:56:49 ID:3IPfqjZQ0
(;^Д^)「かなりラッキーだったことは間違いないっすけど、それだけじゃないっすもんね」
 
('A`;)「大将戦が始まる前はほとんど諦めてましたけど、あいつのおかげで、もしかしたら――――」
 
(*゚ -゚)「あと三局、凌げるでしょうか?」
 
(´・ω・`)「分からない。肯綮も麦秀も陶冶も親番を残してる、連荘されると苦しい」
 
(´・ω・`)「幸運もあって内藤は今トップだけど、本当は、内藤より遥かに実力も経験もある打ち手ばかりだからね」
 
 本来ならば、初心者ではどう足掻いても敵わない相手。
 幸運と、神の耳で内藤は立ち向かっていた。
 ここまでは、上手く行きすぎているとさえいえた。
 
 しかし、内藤以外の三人も必ず逆転を狙ってくる。
 内藤にとっての正念場が、やってくる。
 初本は、そう思っていた。
 
(´・ω・`)「最後まで、信じて応援しよう」
 
 自分に言い聞かせるように、初本は呟いた。
 その声に、皆が頷く。
 
 水戸を親番とする北二局は、不穏さを漂わせながら進んでいた。
 
 
 ◇
 
 
 できれば大きな手を和了りたい。
 ツモ和了りでも跳満以上ならばトップに立てる。
 しかしやはり、まずは小さな手でも和了ることを優先すべきだ。
 
 水戸は、そう考えながら打ち進めていた。
 
(‘_L’)「ポンです」
 
 杉浦が捨てた四筒をポンし、九索を捨てた。
 水戸が右手を肘掛に置いて体重をかけ、深く座り直す。
 
(‘_L’)(手を高めようとしてホライゾンに先を越される展開だけは、避けねばなりませんが)
 
(‘_L’)(これまでホライゾンがヤミで通したことはない。立直か副露が入るまではさほど警戒せずとも良さそうです)
 
 水戸は、警戒しすぎて委縮してしまうことを恐れていた。
 放銃してはならない、しかし内藤を恐れすぎて動きが鈍ればいずれにせよ優勝の目はなくなる。
 そう考えた水戸は、安全に加速できる間は加速しつづけるつもりでいた。
 
(‘_L’)「ポンです」

854第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:58:27 ID:3IPfqjZQ0
 二度目の副露でテンパイに持ち込んだ水戸。
 役は対々和と断幺九のみ。しかし、暗刻の一つはドラだった。
 
 恐らく杉浦と伊要も同じだろう、と思っていることが水戸にはある。
 それは、内藤からの出和了りにはもはや期待できない、ということだ。
 神の目で牌を見透かされていれば、立直していない限り放銃はありえないだろう、と。
 
 伊要は守備が甘いところもあるが、杉浦は放銃率が低い。
 つまり、この局面においては、自力で最後の牌を引けるかどうかが鍵になる、と水戸は考えていた。
 
(‘_L’)(今更、手替わりはありえません。あとはツモの巡りに託すのみです)
 
 運に任せる、という言葉を水戸は嫌った。
 人の運とはただの確率であり、人が生まれ持つものではない。
 単に悪運だった、で事を済ませてしまえば、人は確率を上げる努力さえ怠るようになるだろう、というのが水戸の持論だった。
 
 今局、水戸は配牌から可能な限り最善を尽くし、跳満のシャンポン待ちを作り上げた。
 万人にとって十全なものではないとしても、今の持てる力を使える限り使った結果だ。
 どちらに転んでも、今の自分を納得させることはできる、と水戸は自分に向けて呟いた。
 
 その水戸の努力が、静かに報われる。
 
(‘_L’)「ツモです」
 
( ФωФ)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
 七萬を仰向けにして卓上に置いてから、水戸は右手で手牌を撫でた。
 
(‘_L’)「対々和、断幺九、ドラ3。6000オールです」
 
 背中を、捉えた。
 一時はあまりにも遠く、霞んでいた内藤の背中を、ようやく捉えた。
 水戸は、そう思った。
 
 この大将戦での持ち点で、水戸は内藤を逆転していた。
 
 ポイント計算を考えれば、水戸が稼ぐべき点はまだ多い。
 しかし、逆転可能な範囲だった。
 
(‘_L’)「一本場です」
 
 凛とした声でそう告げた。
 この親番で必ずポイント計算上もトップに立つ。その強い思いを込めて。
 
 しかし、制服の袖を捲って水戸を見る男が、一人。

855第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:59:34 ID:3IPfqjZQ0
(=゚ω゚)ノ(今の一撃で、ウチはプレーオフさえ厳しい状況になったよう)
 
(=゚ω゚)ノ(だけど、絶対諦めないよう!)
 
 大将戦、抜け出したのは内藤と水戸。
 杉浦と伊要はトップから二万点以上離されている。
 
 それでも、今の伊要は何も恐れていなかった。
 
(=゚ω゚)ノ(ウチはここにいるだけでも充分な成績。だから何も失うものはないんだよう)
 
(=゚ω゚)ノ(やれるだけやって、結果的に駄目でも、それはしょうがないことなんだよう)
 
(=゚ω゚)ノ(だから、悔いだけは絶対残さないように打つんだよう!)
 
 北二局一本場。配牌を確認して、伊要は小さく拳を握りかける。
 ドラを含む索子が豊富に揃った手牌。
 普段ならば当然のように門前で進めることを選択するだろう、と伊要は思った。
 
 だが、この場には神の目がある。
 悠長に構えていれば必ず、その眼光に射抜かれる、と伊要は考えていた。
 
 だからこそ、五巡目に水戸が捨てた一索は見逃さなかった。
 
(=゚ω゚)ノ「チーだよう!」
 
 これで、伊要の手牌には一索から九索までが全て入った。
 一気通貫には喰い下がりがある。数巡待つだけで一索を自分で引けたかもしれない。
 そんな甘い考えを、伊要は切り捨てていた。
 
 和了りのために、やれることは全てやる。
 好配牌でも、その思いは決して変わらなかった。
 
 芯の強い思いは、やがて和了りという形で露わになる。
 
(=゚ω゚)ノ「ツモだよう!」
 
(‘_L’)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「一気通貫、清一色、ドラ1! 3100・6100だよう!」
 
 あまりにも貴重な12300点を、伊要が得た。
 トップとの差も、一気に縮まった。
 
(=゚ω゚)ノ(行ける、行けるよう! プレーオフどころじゃなく、優勝まで狙えるよう!)
 
(=゚ω゚)ノ(次の親番で更に稼いで、なんとしてもトップを奪い返すよう!)
 
 意気揚々と伊要は親番となる北三局へ向かった。

856第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:00:53 ID:3IPfqjZQ0
 ひとたび勢いづけば、手がつけられないほど苛烈な攻めを見せる。
 それが伊要という男の怖さでもあった。
 
 だからこそ、食い止めなければならない、と考える男がいた。
 
( ФωФ)(残るは最少で二局。トップとの点差はおよそ二万点)
 
( ФωФ)(伊要が親番でトップを削ってくれるならばありがたいことであるが、その場合は伊要を捲るのが難しい)
 
( ФωФ)(ここは、他の誰にも譲れぬ局面であるな)
 
 北三局、杉浦の配牌は、絶好とはいえなかった。
 それでも北場に入ってからの配牌の中では、最も恵まれたものだった。
 
( ФωФ)「ポンである」
 
 杉浦の考えも、水戸と伊要に近かった。
 残る局数を考えれば安い手では和了れない。しかし、手をじっくり高める余裕もない。
 際どいところで均整を取って打ち進めなければならない、と思っていたのだ。
 
( ФωФ)(他家にテンパイの気配はない。ホライゾンも動かないである)
 
( ФωФ)(この機は、逃せぬであるな)
 
( ФωФ)「ポンである」
 
 杉浦が二度目の副露。
 どちらも老頭牌のポンだった。
 
 この鳴き方では、ほとんど出和了りを期待できない。
 当然、杉浦はそれを分かっていた。
 
 ここまで、孤独な戦いを強いられてきた。
 誰しもが自分のために、自分のチームのために戦っている。
 他家に差し込むこともあった杉浦だが、決して共闘ではなく、最後は自分自身がトップへ昇るために最善を尽くした結果だった。
 
 ならば、最後の牌も自分で引き当ててみせよう。
 そう心の中で呟いた杉浦の手に、舞い込んだ牌。
 
 他家の背中に、追いつくための牌だった。
 
( ФωФ)「ツモである」
 
(;゚ω゚)ノ「!」
 
 親番の伊要が思わず右手を固く閉じた。
 杉浦はそれを一瞥することもなく、手牌を倒す。
 
( ФωФ)「対々和、三色同刻、混老頭、ドラ2。4000・8000である」

857第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:01:59 ID:3IPfqjZQ0
 喰い下がりのない役で、倍満を作り上げた。
 杉浦は、平静を保てていないことに、自分の心音で気づく。
 
 トップの水戸には、まだ少し届かない。
 しかし、点差は僅か2900点だった。
 
 北三局が終了し、遂に、北四局へと戦いの場は移る。
 
 県大会決勝、大将戦の、オーラスがやってきた。
 
(‘_L’)(遂に、オーラスですか)
 
(=゚ω゚)ノ(オーラスになっちゃったけど、頑張るしかないよう)
 
( ФωФ)(オーラスが親番であるか。逆転するまで和了りつづけるしかないであるな)
 
(;^ω^)(中央のディスプレイに『オーラス』って書いてあるけど、どういう意味か分かんないお)
 
 ここまでトップは肯綮高校の水戸で、54500点。
 二位は芽院高校の内藤で、52700点。
 三位は陶冶高校の杉浦で、51600点。
 そして最下位は麦秋高校の伊要で、41200点だった。
 
 全員の点数を見て、水戸が改めて現況を頭の中で確認する。
 
(‘_L’)(トップには立っていますが、オーラスのハードルは意外と高い)
 
(‘_L’)(ポイント計算で逆転優勝を果たすためには三倍満ツモが必要、ですか)
 
(‘_L’)(杉浦くん、伊要くんからの出和了りならば、役満でなければならない、ということになりますね)
 
(‘_L’)(ホライゾンから直撃を取れれば楽ですが、それには期待しないほうがいいでしょうし)
 
 水戸は自分の点数と内藤の点数を交互に見比べ、一度目を伏せた。
 それから今度は、杉浦の点数を確認する。
 
(‘_L’)(杉浦くんは親番ですから、小さな手でも連続和了で逆転優勝の可能性があります)
 
(‘_L’)(ある意味、最も逆転優勝の可能性が高いともいえるのが杉浦くんですね)
 
 水戸がすぐさま杉浦の持ち点から目を切る。
 そして、水戸の下家にあたる伊要の持ち点を見た。
 
(‘_L’)(伊要くんはかなり厳しい状況。ホライゾンから役満の直撃を取るしか優勝の可能性がなく、かなり難しいでしょう)
 
(‘_L’)(二位でプレーオフ狙いならば伊要くんのハードルも下がって、私から倍満を取る程度で済みますね)
 
(‘_L’)(ツモ和了りならば三倍満でも1ポイント足りずに三位ですから、やはり役満が必要ですが)
 
 水戸がそこまで考えていたとき、不意に、炭酸の弾ける音がした。

858第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:03:08 ID:3IPfqjZQ0
 コーラのペットボトルが、開いた音。
 水戸の左耳から入ってきた。
 
 そうだ。
 まずは、この男をなんとかしなければならない。
 水戸だけではなく、杉浦も伊要も、そう改めて思わされた。
 
( ^ω^)
 
 内藤が喉を鳴らしてコーラを流し込む。
 何もかも全て飲み込むと、そう宣告されているかのように水戸は感じていた。
 
(;‘_L’)(当然のことながら、優勝に最も近いのは、芽院高校)
 
(;‘_L’)(僅か1000点の手であろうとも、とにかく和了るだけで優勝ですね)
 
(;‘_L’)(親がノーテンで流局でも優勝。圧倒的優位に立っていることは間違いありません)
 
 仮に芽院高校が優勝したとしても、水戸が内藤に大きな手を振り込まない限り、肯綮高校も二位は確保できる。
 しかし、プレーオフから全国へ進むには険しい道のりを歩む必要があるのだ。
 まだ経験の浅いメンバーを全国までじっくり育てるためにも、やはり優勝を狙うべきだ、と水戸は考えていた。
 
雀卓「オーラスです」
 
 中央ディスプレイに表示された情報を、雀卓が読み上げる。
 水戸、杉浦、伊要が一様に気を引き締めた。
 
 四人の前に、牌が並ぶ。
 
 複雑な表情が顔に出かけたのは、陶冶高校の杉浦。
 
( ФωФ)(厳しい配牌であるな。鳴いて断幺九か、三色同順か)
 
( ФωФ)(ツモや他家の捨て牌にも恵まれなければ、和了りは厳しいであるな)
 
 親番の杉浦は、どんな手でも和了りつづける限り可能性がある。
 あるいはテンパイしたうえでの流局も悪い展開ではないものの、甘い考えかもしれない、と杉浦は思っていた。
 単に和了ればいいという状況は、ポイント計算でトップに立つ内藤も同じだからだ。
 
 他方、これならば、と思ったのは麦秋高校の伊要。
 
(=゚ω゚)ノ(最低でも倍満が必要だけど、なんとかなるかもしれないよう)
 
 既にドラが二枚。
 対子がいくつかあり、ツモ次第では四暗刻さえ狙えるかもしれない、と伊要は思った。
 仮に四暗刻に至らずとも、立直をかけた上で対々和、三暗刻が組み合わされば倍満は充分狙える、とも。
 
(=゚ω゚)ノ(倍満なら水戸くんから出和了りが必要だよう。ベタ降りされれば厳しいかもしれないけれど)
 
(=゚ω゚)ノ(水戸くんも逆転優勝のために無理をするはず。直撃を取れる可能性はゼロじゃないよう)

859第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:04:22 ID:3IPfqjZQ0
 もし伊要が役満をツモ和了りすれば、肯綮高校はプレーオフにさえ進めない。
 その可能性を、水戸ならば充分に考慮しているはずだ、と伊要は思っていた。
 
 暗槓でドラを増やすなどすれば数え役満もありうる。
 とにかくここは、手を高めることに集中すべきだ、と伊要は気合を入れた。
 
 そして、誰よりも配牌に恵まれたのは、肯綮高校の水戸。
 
(‘_L’)(三元牌が、既に六枚)
 
(‘_L’)(これならば、目指すべきゴールは、一つですね)
 
 大三元。
 最も役満が欲しい局面で、役満の片影が見える配牌を、水戸は手に入れた。
 
 三元牌以外のみを見れば酷い配牌だが、水戸はそれも全く気にならなかった。
 大三元は、三元牌以外の面子と雀頭は何でも構わない。鳴きを使えば簡単に作れるだろうと水戸は思っていた。
 
 何よりも大事なことは、内藤、杉浦という早和了りを狙うはずの者たちよりも先に和了ること。
 一瞬たりとも気は抜けない。必ず厳しい戦いになる。
 そう考えながら水戸は、水筒の緑茶で喉を潤した。
 
 一巡目。
 最初の杉浦の捨て牌で、いきなり白が出た。
 
(‘_L’)「ポンです」
 
 良すぎるほど幸先の良いスタートを水戸が切った。
 これで、あとは發と中を一枚ずつ集めれば三元牌は揃う。
 いい風が吹いている、と水戸は思った。
 
 次の内藤は西を河に流す。
 何も反応せずに水戸は見送ったが、そういえば、と不意に気づく。
 
(‘_L’)(神の目ならば当然、私が既に三元牌を七枚集めたことは分かっているはず)
 
(‘_L’)(大三元狙いも見透かしていると考えるべき。つまり、ホライゾンは絶対に三元牌を出さない)
 
(‘_L’)(もしホライゾンに三元牌を引かれたら非常に苦しいですね。ホライゾンにとっては流局でもいいわけですから)
 
(‘_L’)(配牌には恵まれましたが、三元牌を集めることは相当に難しいかもしれません)
 
 既に水戸は白を三枚見せている。
 もし中か發をポンすれば、誰しもが大三元狙いに気づくだろう、と水戸は思っていた。
 
 全てをポンで集めることは難しい。
 最低でも一つは自力で引き寄せなければならない。
 
 そう思っていた水戸の四巡目に、中が舞い込む。

860第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:05:25 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)(これで、三元牌が八枚)
 
 既に小三元の条件は満たした。
 ここまでは順調に手が進んでいる。
 本当に、逆転を果たせるかもしれない、という期待は水戸の中で徐々に膨らんでいた。
 
 尤も、その期待が大きくなりつつあるのは水戸だけではなかった。
 
(=゚ω゚)ノ(刻子が一つ、対子が四つ)
 
(=゚ω゚)ノ(四暗刻、本当に狙えそうだよう)
 
 伊要は配牌にも恵まれたが、ツモにも恵まれていた。
 このまま順調に進めば、本当に奇跡が起きるかもしれない。
 そんなことさえ考えてしまい、伊要は高揚が抑えきれなくなりつつあった。
 
 しかし、伊要が最も懸念しているのは、速度だった。
 
(=゚ω゚)ノ(みんな一巡でも早く和了ろうとしているはずだよう。となると、鳴けない僕は明らかに不利だよう)
 
(=゚ω゚)ノ(だけど、先に和了れると信じてツモっていくしかないよう)
 
 その伊要が、七巡目には二つ目の暗刻を作った。
 この調子ならば、テンパイも近い。そう思いながら伊要が六索を捨てた。
 
 そのとき。
 
( ^ω^)「ポンですお」
 
(;゚ω゚)ノ「!」
 
 聞きたくない声を、聞いてしまった。
 伊要は、そう思った。
 
(;゚ω゚)ノ(やっぱり、加速してくるかよう)
 
 ポイント計算でトップに立つ内藤が副露。
 いずれ起きうる、と分かっていた他の二人にも、動揺が走った。
 
(;ФωФ)(来たであるか、やはり)
 
(;‘_L’)(今のポンで恐らく、最低でも一向聴。場合によってはテンパイに至った可能性もあります)
 
(;ФωФ)(ホライゾンより先に和了らねばならないであるが、なかなか手が進まない。もどかしいであるな)
 
(;‘_L’)(私は大三元の二向聴。果たしてホライゾンの先を越せるかどうか)
 
 ツモを飛ばされた杉浦には焦燥もあった。
 連荘のみを目指して断幺九を狙っていたが、未だ二向聴。
 鳴ける牌が思うように捨てられないことも誤算だった。

861第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:06:38 ID:3IPfqjZQ0
(;ФωФ)(ホライゾンに手牌を見透かされているならば、鳴ける牌を取り込まれている可能性もあるであるな)
 
(;ФωФ)(伊要からチーできる牌が捨てられればいいのであるが)
 
 伊要のツモ切りはさほど多くない。手は進んでいるようだ、と杉浦は思っていた。
 しかし、伊要は必ず大きい手を狙う。伊要よりは早く和了れる可能性も高い、という期待も杉浦は抱いている。
 
 巨大な障壁は、やはり、杉浦の右隣に座る男だった。
 
( ФωФ)(いっそ、開き直って構えてみるであるか)
 
( ФωФ)(早和了り狙いはホライゾンと同様。つまり、同じ土俵の上に立っているといえるである)
 
( ФωФ)(ここでやられるようなら、我輩も所詮、その程度だったということ。諦めもつくであるよ)
 
 焦ったところでツモ牌が良くなるはずもない。
 どっしりと構えて、鳴ける牌があったら鳴いていけばいいだけのこと。
 最初からやるべきことは何も変わっていない、と杉浦は思った。
 
 杉浦が泰然と構えだした頃、水戸の手は更に一つ、先へと進んでいた。
 
(‘_L’)(これで、一向聴)
 
(‘_L’)(しかし、まだ最後の發が出ていませんね)
 
 できれば發で待ちたくはない、と水戸は思っていた。
 オーラスで高い手が必要だということは誰しもが分かっている状況。
 そして水戸は白をポンしている。大三元を、誰もが思考の端には置くだろう、というのが水戸の推測だった。
 
(‘_L’)(發ではなく、二筒の単騎待ちのほうが和了れる可能性は高いでしょう)
 
(‘_L’)(できれば發も、ツモで引きたいものですが)
 
 次巡の水戸のツモ牌は、九筒。
 落胆を表に出さないよう、冷静に牌を河へ置いた。
 
 もしかしたら、もう誰かが發を二枚抱えてしまっているかもしれない。
 水戸はそうも思った。しかし、確かめる術はない。
 今は、愚直に大三元を目指していくしかない、とも思った。
 
 ――――直後、水戸の思考が、固まる。
 
(;‘_L’)「!?」
 
( ^ω^)っ
 
(;‘_L’)(發を手出し!?)
 
 念願の牌が、捨てられた。
 しかし、まさか、という思いが水戸の全身を瞬時に駆け巡る。

862第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:07:43 ID:3IPfqjZQ0
 上家である内藤からこぼれた、發。
 この男から捨てられることだけは、絶対にないと水戸は思っていた。
 
(;‘_L’)(神の目で私の大三元狙いも分かっているはず、なのに何故ですか? 何故、發を?)
 
(;‘_L’)(罠でしょうか。ここでポンすれば、次巡はホライゾンがツモ和了り?)
 
(;‘_L’)(しかし、ここで發を見逃せば大三元が――――)
 
 錯乱しつづける頭。
 それでも水戸はすぐに答えを出した。
 ポンは三秒以内という時間制限があり、それを過ぎれば権利を失うためだ。
 
(;‘_L’)「ポンです」
 
 罠の可能性に恐れを抱きつつ、水戸がポンを選択した。
 發を持つ手は、微かに震える。
 
 三元牌の二副露。
 これで、水戸は大三元のテンパイ。
 しかし、水戸の心は見えない糸に絡め取られていた。
 
(;‘_L’)(役満を和了れば肯綮高校の逆転優勝。それをホライゾンが分かっていないはずもありません)
 
(;‘_L’)(手牌が見えていなかったのでしょうか。神の目といえど完璧ではない可能性は、もちろんありますが)
 
(;‘_L’)(このまま副露なくホライゾンのツモ番となれば、そこで試合が終わってしまうのでしょうか)
 
 ツモ牌をずらすことで、ツモ和了りを狙う。
 牌山を見通していれば可能な芸当だ、と水戸は思っていた。
 実際、そうとしか思えないような局面に水戸は何度も遭遇している。
 
 同じ頃、水戸の下家である伊要は、内藤よりも水戸を警戒していた。
 
(;゚ω゚)ノ(水戸くんは明らかに大三元狙い。中が場に一枚も出ていないことを考えると、もう三元牌は全て揃えた可能性が高いよう)
 
(;゚ω゚)ノ(もし三元牌以外で待ってるとなると、当たり牌はかなり読みにくいよう)
 
 伊要も四暗刻の一向聴までは手が進んでいた。
 水戸が北を捨てたあと、伊要も牌を取るが、一萬。
 テンパイには至らず、そのまま河へ牌を置く。
 
 しかし、落胆するでもなく、伊要は前だけを見ていた。
 
(=゚ω゚)ノ(水戸くんに先を越されるかもしれないけど、僕がやるべきことは一つだよう)
 
(=゚ω゚)ノ(四暗刻を和了って、最低でも二位を確保。あわよくば優勝、だよう)

863第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:08:48 ID:3IPfqjZQ0
 伊要は、一枚しかない二筒を見遣り、それから杉浦を見た。
 その手があまり進んでいないことは、水戸も伊要も感じている。
 実際、杉浦はようやく一向聴にこぎつけたところだった。
 
( ФωФ)(どうやら水戸は大三元のようであるな。役満が必要な状況で、狙いどおり手を進めるとは、やはり相当な打ち手である)
 
( ФωФ)(他方、伊要も全く鳴かずに手を進めている。かなり高い手を組んでいると見て間違いないであろうな)
 
( ФωФ)(ツモの巡りもあるとはいえ、二人に比べれば我輩はあまりにも情けない。立直をかけなければ役もないような手である)
 
( ФωФ)(それでも、最善は尽くしてきた。例え和了れなかったとしても悔いなどないであるよ)
 
 オーラスでの気の緩みなど一瞬もなかった。
 だからこそ杉浦は、晴れ晴れとした気持ちのまま打てていたのだ。
 
 その杉浦が、ようやく必要牌を手に入れる。
 
( ФωФ)「立直である」
 
 思っていたよりは遅くなってしまった、と杉浦は思った。
 結局、副露して手を進めることもできなかったためだ。
 
 それでも連荘に手はかけた。
 ここから出来ることは何もない。ただ、牌を信じるしかない。
 杉浦は、そう考えていた。
 
 一方、同じくテンパイしている水戸は、杉浦の立直よりも内藤のツモを警戒していた。
 
(;‘_L’)(先ほど發を鳴かせたのがツモ牌をズラすためならば、ここでツモ和了りがあってもおかしくありませんね)
 
(‘_L’)(ただ――――)
 
 もし、ここで内藤がツモ和了りできないならば。
 そのときは、神の目が不完全であるという推測も生まれる、と水戸は思っていた。
 
 無敵とさえ思えた内藤にも、付け込む隙はあるのだ、と。
 
 杉浦が立直したあと、淡々と内藤は山から牌を取る。
 その牌を、どうするか。水戸は注目していたが――――そのまま、河に置かれた。
 
 この勝負、勝てる可能性は大いに高まっている。
 水戸は、そう確信した。
 
(‘_L’)(鳴かれて再度ツモ牌がズレる可能性があるのですから、数巡先のツモのために發を鳴かせたとは考えにくい)
 
(‘_L’)(牌山が見えていなかったか、私の牌が見えていなかったか。いずれかでしょう)
 
(‘_L’)(ならばこの勝負は、互角に戦える。いや、きっと勝てます)
 
 自分を鼓舞するように水戸は心の中で呟いた。

864第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:09:57 ID:3IPfqjZQ0
 最後まで自分の選択を信じ抜く。それができなければ、自分を保つことはできない。
 自分を保つことができなければ、試合に勝つこともできない。
 水戸は、そう思っていた。
 
 十四巡目の、水戸のツモ牌。
 当たり牌の二筒ではなく、九筒。
 仕方がない、と自分を納得させてから水戸は牌を捨てた。
 
 そして、伊要のツモ番。
 
(=゚ω゚)ノ(五索が、来たよう!)
 
 三つの暗刻と二つの対子が完成。
 四暗刻のテンパイに至った。
 
 しかし、不要牌の二筒に手をかけたところで、伊要は逡巡した。
 
(=゚ω゚)ノ(この牌は、決して安牌とはいえないよう)
 
 まだ場に一枚も出ていない。
 誰かが待っている可能性は、低くない。
 
 伊要はそう考え、右手が止まる。
 それでも、すぐさま二筒を三本の指で掴み、持ち上げた。
 
(=゚ω゚)ノ(ここで五索を捨てたら四暗刻を諦めることになる。それは絶対ありえないよう)
 
(=゚ω゚)ノ(ここまで自分なりに頑張ってこれた。可能性を持つこともできた)
 
(=゚ω゚)ノ(最後まで自分らしく打って、それで駄目ならしょうがないよう)
 
(=゚ω゚)ノ(これで、勝負だよう!)
 
 
 伊要が、二筒を、置いた。
 
 瞬間、水戸の右手が、動いた。
 
 
(‘_L’)「――――ロン!」

865第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:11:38 ID:3IPfqjZQ0
 力強く発される声。
 伊要は、弾けるように顔を上げた。
 
(‘_L’)「大三元!」
 
 水戸の右手親指が、牌を倒していく。
 三元牌で構成された面子と、そうでない面子と、二筒。
 
(‘_L’)「役満、32000です!」
 
 勝った。
 大将戦を、決勝戦を、制した。
 
 水戸は、その思いに満ち溢れ、思わず大声で点数を申告していた。
 
 長い戦いだった。
 苦しい戦いだった。
 特に、内藤に支配されていた後半戦は、どう戦えばいいのか分からないとさえ水戸は思っていた。
 
 それでも、勝つことができたと、水戸は右手を握り締める。
 
(‘_L’)(この素晴らしい面子のなかでトップを取れたこと、誇りに思います)
 
(‘_L’)(そして、我が校のメンバーの奮戦に報いれたことも)
 
 優勝により、ようやく全国へストレートで進出できる。
 それが何よりも嬉しい、と水戸は思った。
 
 プレーオフは厳しい戦いがおよそ一ヶ月つづく。
 全国へ進める可能性も高くはない。
 それを避けて全国へ行くことが水戸の宿願であり、部長として果たすべき義務だと思っていたのだ。
 
 戦いから解放され、水戸の身体からは力が抜ける。
 そこに、機械の声がゆっくりと入ってきた。
 
雀卓「南家、ロンです」
 
 雀卓の自動判定機能が働き、スピーカーから声が流れる。
 水戸は充足感に浸りながら、その声に聞き入った。
 
 
 ――――しかしすぐ、水戸は耳を疑うこととなる。
 
 
雀卓「断幺九。1000です」
 
(‘_L’)「!?」

866第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:13:48 ID:3IPfqjZQ0
 おかしい。
 大三元のはずが、断幺九と判定されてしまっている。
 雀卓の自動判定機能の不具合か。
 
 水戸は、そう思った。
 しかし、おかしいところはそれだけではないと気づく。
 
 水戸は、西家。
 しかし雀卓は、南家がロンだと言った。
 
 はっとして、水戸は左を向く。
 
 
(;‘_L’)「!!」
 
 
 ――――今度は、耳ではなく、目を疑った。
 
 そこで起きていた、事態を。
 
 
( ^ω^)
 
 
 内藤が、牌を倒している。
 三つの面子と、一つの対子と、一つの塔子。
 
 塔子は、両面待ち。
 足りない牌は、二筒と五筒だった。
 
 水戸は、ようやく現実を理解した。
 
 
(;‘_L’)(頭ハネ――――)
 
(;‘_L’)(――――と、いうことです、か)
 
 
 水戸の右手は、力なく垂れ下がる。
 
 水戸と同じく、内藤も二筒を待っていた。
 そこに、伊要から二筒が捨てられた。
 
 待ちが同じだった場合、ロンの優先権は上家にある。
 つまり、内藤のロンが優先され、水戸の和了りはなかったこととなったのだ。
 
 そこまで理解して、水戸は大きく項垂れた。
 
雀卓「終局です」

867名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 15:14:22 ID:886eJM.M0
うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!

868第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:15:38 ID:3IPfqjZQ0
 改めて、全員の最終得点が表示された。
 トップの内藤が54700点、二位の水戸が54500点。
 三位の杉浦が50600点、最下位の伊要が40200点だった。
 
 自分の点が増えたことを見て、ようやく内藤は、和了りの実感を掴んでいた。
 
( ^ω^)(どうやら、最後の最後で和了れたみたいだお)
 
( ^ω^)(自分が思ったとおりに断幺九で和了れたのは、ちょっと不思議な感覚だお)
 
( ^ω^)(でも、なんだか凄く、気持ちよかったお!)
 
 水戸が張りのある声を上げたとき、内藤は大いに混乱した。
 オーラス、内藤は水戸の牌を読みきれておらず、二筒を不要牌として持っていると思っていたのだ。
 同じく伊要にとっても不要と見ていた。つまり、どちらかが二筒を捨てることに期待していたのだ。
 
 水戸が同じ待ちであることは読めておらず、何故内藤のみが和了れたのかも分かっていない。
 先にロンのボタンを押したからだろうか、などと的外れなことを内藤は考えていた。
 
 いずれにせよ、ようやく内藤は自力で和了ることができた。
 その喜びを、誰にも知られないようにひっそりと噛み締める。
 
 緊迫感を否が応にも感じさせられる戦いの中で、最後に、内藤は知った。
 麻雀の楽しさの、ほんの一部を。
 
 それが、内藤の前に続く道へ踏み入る第一歩だと、内藤はまだ気づけないでいる。
 
( ФωФ)「この大将戦の場で貴公と戦えたこと、誇りに思うであるよ」
 
 三位に終わった杉浦が、内藤に手を伸ばしながらそう言った。
 オーラスでは立直をかけたものの、和了ることができなかった。
 それでも、杉浦の口元は緩んでいた。
 
( ФωФ)「残念ながら陶冶高校の夏も、我輩の夏も、ここで終わりである。しかし、貴公に負かされたならば致し方ないと納得できる」
 
( ФωФ)「我輩も最善は尽くした。それでも遠く及ばなかった。まだまだ精進せねばならぬと教えてもらった気分である」
 
( ФωФ)「願わくば、またどこかで、再戦を」
 
( ^ω^)「こちらこそ、是非。よろしくお願いしますお」
 
 杉浦の右手を握り、内藤はそう言葉を返した。
 礼儀的な返答ではなく、本心だった。
 
 先に部屋から退出する杉浦の背中を見送った内藤に、続いて近寄ったのは、最下位に終わった伊要。

869第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:17:17 ID:3IPfqjZQ0
(=゚ω゚)ノ「胸を借りるつもりで挑ませてもらったけど、やっぱり君には全然敵わなかったよう」
 
(=゚ω゚)ノ「だけど、僕なりにベストは尽くしたつもりだよう。悔いはないよう」
 
(=゚ω゚)ノ「またいつか、一緒に打たせてもらえたら嬉しいよう」
 
( ^ω^)「はいですお。こちらこそ、よろしくお願いしますお」
 
 伊要が上げた左手に、ハイタッチするように左手を合わせた内藤。
 その背中を見送ったあと、内藤は前に向き直る。
 
(‘_L’)「ありがとうございました」
 
 雀卓から立ち上がった水戸が、内藤に握手を求めながら言った。
 その表情は、悔しさこそ拭いきれていないが、笑みもあるものだった。
 
(‘_L’)「点差こそ僅かですが、正直に申しまして、今の私では百回やっても勝てないと思うほど隔絶的な差を感じました」
 
(‘_L’)「麻雀を打っていて心を挫かれそうになったのは初めてのことです。一瞬は、恐怖さえ覚えました」
 
(‘_L’)「ですが、永遠に勝てないとは思っていません。肯綮高校は、必ずプレーオフを勝ち抜いて全国に行きます」
 
(‘_L’)「そこで再び君と戦い、今度こそ勝利してみせます。そのために、もっと強くなってみせますよ」
 
( ^ω^)「僕も、もっと強くなりますお。また水戸さんに、勝てるように」
 
 今度は、自分の実力で勝ちきれるように。
 その言葉は、内藤の中に留まった。
 
(‘_L’)「楽しみにしております。次は、全国の舞台で」
 
( ^ω^)「また、お会いしましょうお」
 
 水戸の右手を握り返し、内藤は笑った。
 同じように水戸も笑みを見せ、それから対局室を後にした。
 
 三人が退出した部屋で、内藤は大きく息を吐き、やがて立ち上がった。
 雀卓に背を向ける。しかし、部屋を出る前に一度、振り返った。
 
 あそこで、内藤は初陣を終えた。
 分からないことばかりで、困惑し、楽しみきれたとはいえない。
 それでも、最後まで打ちきることができた。
 
 そして、トップを取ることができた。
 
( ^ω^)(僕の実力なんかじゃないんだお。きっと、ただ運が良かっただけなんだお)
 
( ^ω^)(だけど、とにかく勝てたんだお。芽院高校が、全国に行けるんだお)
 
( ^ω^)(きっとみんな喜んでくれるお。控え室に戻るのが楽しみだお!)

870第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:18:35 ID:3IPfqjZQ0
 素人の内藤に出番が回った時点で、皆が全国行きを諦めていたことも内藤は分かっていた。
 だからこそ、形はどうあれ、皆が全国大会へ進めることを、内藤は心から嬉しく思っていた。
 
 内藤が足早に対局室の出入り口に近づき、芽院高校の控え室に戻ろうとしたところ、向こうからひとりでに部屋の扉が開く。
 内藤の視界に真っ先に飛び込んできたのは、椎名だった。
 
(*;ー;)「ブーンくん! ブーンくん!」
 
(;^ω^)「おっ、おっ?」
 
(*;ー;)「すごい! すごいよブーンくん! 本当にすごい!」
 
(*;ー;)「ありがとう! ほんとにありがとう!」
 
 抱きつくような勢いで走り寄り、椎名が内藤の手を掴んで上下に振った。
 その目には涙が浮かんでいる。
 
 椎名に遅れて、毒島と伊藤が対局室に入ってきた。
 
(;A;)「内藤ぉぉぉぉぉぉ!! お前ってやつはぁぁぁぁぁぁ!!」
 
(;^ω^)「な、なんだお!?」
 
(;A;)「とんでもねぇやつだぁぁぁぁぁ!! 全部お前のおかげだぁぁぁぁぁ!!」
 
(;^ω^)「グシャグチャの顔で来るなお! 気持ち悪いお!」
 
('、`*川「よく分かんないけど勝ったんでしょ!? 全国行けるんでしょ!?」
 
('、`*川「内藤なに欲しい!? なんでも買ってあげる! スマホ? ゲーム機? パソコン? クルマ? 家?」
 
(;^ω^)「いやいや、いやいや」
 
 落涙しながら近寄ってくる毒島に内藤は引いてしまい、突進を軽く避ける。
 伊藤が発する途方もない発言には思わず苦笑いしてしまっていた。
 
 そのあとに対局室に来たのが、笑野と初本。
 二人とも、内藤が今までに見たことがないほどの笑顔だった。

871第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:19:54 ID:3IPfqjZQ0
(*^Д^)「内藤! お前はすげぇよ! 本当によくやってくれた!」
 
(*^Д^)「お前には感謝してもしきれねぇ! お前じゃなきゃマジで終わってた! 本当にありがとう!」
 
(´・ω・`)「本当に君のおかげだ。言葉だけじゃ感謝を伝えきれないくらいに」
 
(´・ω・`)「ありがとう。どうか僕たちの気が済むまでお礼をさせてほしい」
 
( ^ω^)「いやいや、みんなの嬉しそうな顔を見れただけでも充分ですお!」
 
('、`*川「何そのイケメン発言。かっこよすぎでしょ」
 
(*゚ー゚)「でもでも、そんなこと言ったってたくさんお礼しちゃうんだけどね! とりあえずみんなの奢りでご飯!」
 
( ^Д^)「だな! 寿司でも焼肉でもなんでも好きなとこ連れてくぞ! いくらでも食え!」
 
(;^ω^)「いやいや、そんなの悪いですお。勝てたのも単に運が良かっただけなのに」
 
(´・ω・`)「いや、単なる幸運じゃないことは分かってる。君の『耳』がなければ絶対に勝ちえなかった勝負だ」
 
 初本が雀卓に近づき、伊要が最後に捨てた二筒を持ち上げた。
 そしてそのまま置く。鳴った音は、微かなものだった。
 
(´・ω・`)「最後に二筒を待ったのも、伊要くんの手牌が読めてて、いずれ河に出ると思ったからだろう?」
 
( ^ω^)「本当は、水戸さんも捨てるんじゃないかって思ってたんですお。水戸さんも二筒を狙ってたとは分からなくて」
 
(´・ω・`)「全ての手牌が分かるわけじゃなくても、一部だけでも、相当な武器だ」
 
(´・ω・`)「耳の力がなければ七対子での三倍満も和了れなかった。最後の断幺九も和了れてたかどうか分からない」
 
(´・ω・`)「もし僕が打ってたとしても、笑野が打ってたとしても、勝つことは難しかったかもしれない試合だ。それを君は制してくれた」
 
(´・ω・`)「もちろん幸運があったことも事実。だけど最後まで、出せる力を全て出し切ってくれたおかげで勝てたんだ」
 
(´・ω・`)「改めて言わせてほしい。本当に、ありがとう」
 
 初本が内藤の手を握り、軽く頭を下げた。
 
 感謝してもしきれない。
 笑野が言ったとおりだ、と初本は思っていた。
 昨日ルールの一部を覚えたばかりの内藤が、県内屈指の打ち手たちを相手に、勝利を収めたのだ。
 
 そのおかげで、まだ夏は続く。
 初本にとっての、高校生活最後の夏が。
 
 再びあの激戦の地へ戻れる夏が、続こうとしていた。

872名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 15:20:39 ID:SGJnH1io0
家wwww

873第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:21:27 ID:3IPfqjZQ0
(´・ω・`)「もう一つ、改めて」
 
( ^ω^)「?」
 
(´・ω・`)「君が部活に所属していないことは毒島から聞いている。だから、今は助っ人に過ぎないけれど」
 
(´・ω・`)「どうか、麻雀部に入ってほしい。そして全国でも、共に戦ってほしい」
 
 内藤の手を握りしめたまま、初本は言った。
 この手に、雀牌はどれほど馴染んだのだろうか。そんなことを、考えながら。
 
 内藤の顔に浮かんだ笑みは、柔らかいままだった。
 
( ^ω^)「正直、僕は麻雀のルールもまだよく分かってなくて、複雑で難しいから、今でもあんまり自信がありませんお」
 
( ^ω^)「でも、今日の試合、最後の最後でようやく、僕が思ったとおりに和了ることができましたお」
 
( ^ω^)「麻雀って、面白い。そんな風に自然と思えたんですお」
 
( ^ω^)「だから――――」
 
 右手同士が組み合わさっていたところに、内藤が左手をかぶせた。
 両手で、初本の手を包み込んだ。
 
( ^ω^)「こちらこそ、よろしくお願いしますお」
 
 初本は、その言葉を聞いた瞬間、思わず空いた左手で内藤の肩を抱いた。
 ありがとう。そんな言葉と共に。
 
 椎名や伊藤らからは歓声が上がり、皆が内藤を取り囲んだ。
 
(´・ω・`)「絶対に、全国でも優勝しよう。僕たちならできる。絶対にできる」
 
( ^Д^)「やってやるっすよ! 内藤がいれば俺も後先気にせず大暴れできるっす!」
 
('A`)「僕も、全国までにもっともっと強くなってみせます!」
 
(*゚ー゚)「私もです! みんなに追いつけるように、全国でも勝てるように、頑張ります!」
 
('、`*川「私も可能な限りみんなをサポートします!」
 
 それぞれが、決意を新たに。
 視線をはっきりと全国へ向けた。
 
 力強く、その足を踏み出していた。
 
 全国高校麻雀選手権、三重県大会。
 最終的に449ポイントを獲得した芽院高校が、二位の肯綮高校に39ポイント差をつけ優勝を果たした。

874第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:23:31 ID:3IPfqjZQ0
 その後、芽院高校の部員たちは焼肉屋で祝勝会を実施した。
 数時間にわたって繰り広げられた祝宴は盛り上がりつづけ、何度も全国制覇を誓い合った。
 しかし決して浮ついているだけではなく、全国制覇のために必要なことを語り合う時間もあった。
 
(´・ω・`)「とにかく、全国までに個々のレベルアップ。それに尽きる」
 
(´・ω・`)「たくさん打つことも大事だし、牌理を勉強することも大事だ。やるべきことはたくさんある」
 
( ^ω^)「僕はどうしたらいいですお?」
 
(´・ω・`)「まずはルールを完璧に覚える。あとは基本的な戦術も知っておいたほうがいい」
 
(´・ω・`)「相手の持ってる牌が分かってるとき、相手が何を切りそうかっていうのも分かれば更に有利だろうからね」
 
( ^ω^)「なるほどですお、頑張りますお!」
 
(´・ω・`)「君の存在は大きな鍵になる。どうか頼りにさせてほしい」
 
 それぞれが高いモチベーションを保ったまま、祝勝会は幕を閉じた。
 全国制覇に向けて、レベルアップを果たすために、何をすべきか。
 皆が頭のなかで考えながら、家路を辿った。
 
 全国大会までは一ヶ月以上ある。
 しかし決して長くはない。芽院高校の誰しもが、そう思っていた。
 
 
 ◇
 
 
 試合が終わって自校に戻った肯綮高校の水戸と鈴木は、インターネット上に公開された試合の映像を観ていた。
 水戸はすぐさま、オーラスの場面へと映像を進める。
 
(‘_L’)「やはり、最後の二筒待ちは読まれていたと見るべきでしょうね」
 
/ ゚、。 /「同じ待ちにされた時点で、うちの負けは決まってたってこと?」
 
(‘_L’)「立直していない単騎待ちですから待ちを変えることは容易でしたが、そのために二筒を捨てれば当然ホライゾンがロンして終局です」
 
/ ゚、。 /「水戸が待ちを変えても変えなくても、あの状況からは絶対に和了れなかったってことだね」
 
(‘_L’)「えぇ。それと、終局後に確認したことですが、仮に伊要くんが二筒を捨てなかったとしても次の杉浦くんが二筒をツモっていました」
 
/ ゚、。 /「!」
 
(‘_L’)「杉浦くんにとって二筒は当たり牌ではなく、立直しているため捨てるしかない」
 
(‘_L’)「つまり、あの局面では誰がどう足掻こうが芽院高校の優勝だったということです」
 
 想像の上の、更に上をいっている。
 それが鈴木にもようやく分かった。

875第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:25:13 ID:3IPfqjZQ0
/ ゚、。;/「ホライゾンがそこまで全部見えてたんだったら、僕らには最初から勝ち目なんかなかったってことになる」
 
(‘_L’)「悔しい限りですが、そうです。単なる幸運では済まないことが何度も起きましたから」
 
/ ゚、。 /「プレーオフを勝ち抜いて全国に進めたとしても、また当たる可能性がある。どうするの?」
 
(‘_L’)「今の私にはホライゾンの対策をする余裕はありません。まずはプレーオフです」
 
(‘_L’)「ですが、ホライゾンも完全無欠ではないはず。前半戦ではほとんど良いところがなかったことからも、それは分かります」
 
/ ゚、。 /「神の目が効くまでに、時間がかかるかもしれないってことだね」
 
(‘_L’)「もし今日、勝機を掴みたかったのなら、前半に畳み掛けなければならなかった。そこまで考えは及びませんでしたが」
 
(‘_L’)「しかし、永遠に勝てない相手ではない。そう思います。いえ、そう思いながらやっていかなければ」
 
(‘_L’)「プレーオフを勝ち抜いた先に再びホライゾンが待っているならば、これほどモチベーションの向上に繋がることはありません」
 
/ ゚、。 /「うん。僕ももっと強くなって、今度は笑野を実力で捻じ伏せたいな」
 
(‘_L’)「全国制覇という最終目標に変更はありません。皆で、更なる高みへ」
 
/ ゚、。 /「頑張ろう。まずは、みんなで全国へ」
 
 鈴木が左手を差し出すと、水戸は右手を軽く合わせた。
 まるで火花が散ったような、小さな音が鳴る。
 まるで、口火が切られたような。
 
 まずは、プレーオフを勝ち抜く。
 視界を塞ぐ壁を、一つ一つ、打ち壊しながら先へ進もう。
 水戸は、そう思った。
 
 
 ◇
 
 
 陶冶高校の送別会は、その日のうちに開かれた。
 唯一の三年生である杉浦の、最後の大会が、終わった。
 
( ФωФ)「敗れたことは無念極まりない。皆にも申し訳ない」
 
( ФωФ)「しかし、晴れ晴れとした気持ちである。恐らくは、完敗だったからこそであろうな」
 
 陶冶高校の側にある洋食屋にはあまり人が入っていなかった。
 そのためか、杉浦の声ははっきりと他の四人の耳に入っていく。

876第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:26:33 ID:3IPfqjZQ0
<_プー゚)フ「完敗じゃないですよ、惜敗です!」
 
/^o^\「っていうか、負けたのは僕のせいです! 杉浦さんはホライゾン相手に互角でした!」
 
( ФωФ)「いや、あの場に居たからこそ分かったであるよ。確かに点差だけ見れば惜敗であるが、実際には大敗である」
 
( ФωФ)「ネットで戦ったときにも恐ろしい打ち手だと思ったであるが、今日は、それ以上だったであるよ」
 
( ФωФ)「恐怖を抱いた時点できっと、負けていたのである。我輩も、水戸も、伊要も」
 
 ポークジンジャーを口に運びながら杉浦は言った。
 淡々としていて、悔いはないように見える。
 隣に座っている江楠はそう思った。
 
<_プー゚)フ「杉浦さんともう一緒に戦えないなんて、寂しいなぁ。もっと長く戦いたかったです」
 
( ФωФ)「そう言ってくれるのは、ありがたい限りであるよ」
 
/^o^\「来年、杉浦さんの意志を継いで頑張ります! 必ず全国へ!」
 
( ФωФ)「うむ。我輩も、それを心から願っているである」
 
(-@∀@)「来年は私がホライゾンを倒してみせますよぉ~。仇は取りますからねぇ~」
 
( ФωФ)「そうなれば陶冶高校の全国行きも現実的になってくるであろうな。頑張ってもらいたいであるよ」
 
(゜3゜)「ま、お疲れさんでした。ゆっくり休んでください」
 
( ФωФ)「うむ、そうさせてもらうであるよ」
 
 良い仲間たちに恵まれた。
 決して金銭では得られない、かけがえのない仲間たちに。
 
 全国の地を踏むことは叶わなかった。
 しかし、全てを出しきったからこそ、杉浦には悔いなどなかった。
 いま心にあるのは、充足感のみだ。
 
( ФωФ)「とりあえず今年の夏は、芽院高校の応援に回るとするであるか」
 
<_プー゚)フ「どうせなら全国で圧勝してほしいですよね。そしたらウチの評価も上がります!」
 
( ФωФ)「それもそうであるな。芽院高校の戦いが楽しみである」
 
 杉浦自身が戦いの場に立つ夏は終わった。
 それでもまだ、心躍る戦いは残っている。
 
 全国の舞台で、内藤がどこまで活躍するのか、という期待が残っている。
 
 
 ◇

877第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:27:43 ID:3IPfqjZQ0
 甲高い音が断続的に鳴り響く。
 伊要は、自分が投じたボールの行方を途中まで見守り、音が鳴る直前で背を向けた。
 そして、左手を掲げる。
 
(=゚ω゚)ノ「完璧だよう」
 
('(゚∀゚∩「すごいよ! さすがだよ!」
 
(’e’)「ボウリングでは敵いそうもないのう」
 
 十本のピンが倒れ、レーン近くのディスプレイには『ストライク』の文字が表示されている。
 その文字が消えたあとに示されたスコアで、二百を超えているのは伊要だけだった。
 
( ・3・)「ボウリングならきっとホライゾンにも勝てたNE」
 
(=゚ω゚)ノ「いや、もしかしたら神の目で完璧なラインを見極めるかもしれないよう」
 
,(・)(・),「そんなことできたら無敵すぎますね。完璧超人じゃないですか」
 
 伊要の冗談に皆が笑みを浮かべた。
 松中を除けば全員が三年生。今日が引退の日となる。
 しかし、未練がましい表情をしている者はいなかった。
 
(=゚ω゚)ノ「まぁ、さすがにそれはないとしても、麻雀においてはやっぱり脅威的だったよう」
 
(=゚ω゚)ノ「どうやっても勝てそうにないと思わされたのは初めてだよう。完敗だよう」
 
( ・3・)「ま、最後はよく頑張ったと思うYO。役満テンパイまでいったわけだしNE」
 
(=゚ω゚)ノ「いや、不要牌で待たれてたんだから、やっぱり完敗だよう」
 
(=゚ω゚)ノ「でも、あれくらい完璧に負けると、悔しさよりも清々しさが出てくるよう。楽しかったとも思えたよう」
 
(’e’)「良い思い出になったのならば良かったのう。最後の大会じゃったわけじゃし」
 
('(゚∀゚∩「楽しかったよ! このメンバーで決勝を戦えて良かったよ!」
 
,(・)(・),「みんな居なくなっちゃうんですね。寂しくなっちゃいます」
 
(=゚ω゚)ノ「二年生がいなくて、一年生が三人。ちょっとアンバランスな構成だけど、頑張ってほしいよう、松中部長」
 
,(・)(・),「あれ、部長は僕でいいんですか?」
 
( ・3・)「実力的にも適任だNE。佐々木は間が抜けてるし、榊原はまだほとんど初心者だYO」
 
(=゚ω゚)ノ「どうか部を盛り立てて、来年はせめてプレーオフに進んでほしいよう。応援してるよう」
 
,(・)(・),「来年もホライゾンがいることを考えるとかなり大変そうですけど、精一杯頑張ります!」
 
 部長を引き継いだことで、伊要は少し、肩が軽くなったような気がした。

878第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:29:05 ID:3IPfqjZQ0
 最終フレーム、ここまでの二投はともにストライク。
 ボールを軽く拭いてから穴に指を入れ、レーンに向かって歩き、伊要が投じる。
 
 曲線を描きながらピンに向かっていくボールを、最後まで見ることなく、伊要は再び左腕を高く突き上げた。
 
 
 ◇
 
 
 六月中旬。
 全国高校麻雀選手権の県大会は各地で進んでいた。
 
 選手権の運営側が所有している完全自動雀卓は全国でも数が少なく、一つの県で大会が終わると次の県に運ばれる。
 そのため、県大会が終わった県もあれば始まってさえいない県もあるなど、地域によって進行度は様々だった。
 
 三重での県大会が終わった翌週には、青森や福井などでも全国進出校が決まっていた。
 そんな中、ひとつのインターネット番組が放送を開始する。
 
(実・Д・)「今年も青春を麻雀に捧げる高校生たちの熱き戦いをジャンジャンお届けしてまいります、『ジャンジャン雀道』です!」
 
(実・Д・)「解説は実力派アイドル雀士として人気の芹尾プロです! よろしくお願いします!」
 
リ|*‘ヮ‘)|「よろしくお願いします♪」
 
(実・Д・)「今年も暑い夏がやってきましたね。県大会の様子はご覧になられましたか?」
 
リ|*‘ヮ‘)|「注目の神奈川県大会の決勝は会場まで見に行きました。やはり烽火高校、強いですね!」
 
(実・Д・)「神奈川以外にも続々と代表校が決まっています。果たして全国を制するのはどの高校か!」
 
(実・Д・)「本日は芹尾プロに解説していただきながら、全国進出を決めた注目校をご紹介いたします!」
 
リ|*‘ヮ‘)|「頑張ります!」
 
(実・Д・)「それでは早速まいりましょう! まずは青森県代表、大神高校!」
 
 
 ◇
 
 
 県大会くらいは危なげなく勝ち抜きたい。
 大将を務める見奈はそう思っていたが、決して楽勝ではなかった。
 今のままでは全国制覇と気軽に口にするなどできない、とも見奈は感じていた。
 
( ゚д゚)「優勝はできた。まずは一安心だな」
 
 試合が終わったあとの控え室で見奈がそう言うと、賀秀は深く頷いた。
 不流はじっと前を見ており、大久保は何も考えていない様子で椅子に腰かけている。
 そして古田は黙って眼鏡の蔓を上げるだけだった。

879第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:30:29 ID:3IPfqjZQ0
〔´_y`〕「県大会といえど手強い相手が多い中、500ポイントで優勝できたことには価値があると思います」
 
( ゚д゚)「まぁ、確かにそうだな」
 
| `゚ -゚|「しかし、大差をつけられたわけではありません。ひとつ間違えば負けていた試合もあります」
 
( ゚д゚)「お前の言うことも尤もだ。際どい勝負もあるにはあった」
 
(ゝ○_○)「特に次鋒戦はほとんど負け戦でしたね。オーラスでたまたまトップを直撃できたから良かったものの」
 
〔;´_y`〕「それは」
 
( ゚д゚)「論うな、古田。お前が戦った副将戦とて、西三局で放銃していればどうなっていたか分からん」
 
(ゝ○_○)「相手の当たり牌は読めていましたから。放銃はありえないことです」
 
( ゚д゚)「だったらベタ降りする必要はなかっただろう。七索を止めたままでも和了りを目指せたはずだ」
 
(ゝ○_○)「それは、念には念を」
 
( ゚д゚)「ただの偶然を必然のように喋るより、もっと練習に励むべきだろう、古田」
 
 古田の笑みは引きつっていた。
 これでいて、試合前は必ず『自分を大将に』と主張してくるのが古田という男だ。
 今更どうしようもないのだろう、と見奈は思っていた。
 
( ゚д゚)「大久保、何か意見はあるか?」
 
《 ´_‥`》「いえ、何も」
 
( ゚д゚)「そうか。まぁ、今日はそれぞれ疲れもあることだろうし、解散としよう」
 
(ゝ○_○)「失礼します」
 
| `゚ -゚|「失礼致します」
 
〔´_y`〕「失礼します」
 
《 ´_‥`》「します」
 
 それぞれが控え室から退出したあと、見奈は大きく息を吐いた。
 表立っていがみ合うわけではない。しかし、四人それぞれに距離感がある。
 協調性という言葉から最も遠い四人だろう、と見奈は思った。

880第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:32:07 ID:3IPfqjZQ0
( ゚д゚)(昨年につづいて県大会で優勝することはできた)
 
( ゚д゚)(しかし、それぞれがそれぞれを補う気持ちがなければ、全国の舞台で勝ち進むことは難しい)
 
( ゚д゚)(あいつらの仲が改善されるような手を、何か打てればいいんだが)
 
( ゚д゚)(考えるだけ無駄かもしれんな)
 
 見奈が吐いた大きな溜め息は、音だけを残して消え去った。
 
 青森ではほとんど敵なしといっていい大神高校。
 しかし、全国の猛者たちは県大会の相手とは比べものにならない。
 どの高校が相手でも厳しい戦いとなることは間違いなかった。
 
 果たして、勝ち進んでいけるだろうか。
 見奈は、今後の戦いに不安を抱きつつ帰路についた。
 
 
 ◇
 
 
リ|*‘ヮ‘)|「大神高校は青森では抜けていますね。決勝で大将戦まで回ったことは驚きでしたが、きっちり500ポイント勝利を収めるあたりはさすがです」
 
(実・Д・)「昨年は全国大会の準決勝まで進出。そのときと全く同じメンバーで挑む今年こそ全国制覇を期しているはずです」
 
リ|*‘ヮ‘)|「特に大将の見奈くんがかなり力をつけています。全国屈指の打ち手ですし、見奈くんの出来次第で優勝も狙えるはずです」
 
(実・Д・)「あとは見奈を支える四人がどこまでやれるかですね。大神高校の戦いが今から楽しみです!」
 
(実・Д・)「さて、次にまいりましょう。福島県代表、東別府高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 五本用意された缶コーヒーをそれぞれが手に持ち、合わせた。
 缶と缶がぶつかる音は小さい。あまりにもささやかな戦勝祝い。
 
 ここはまだ、通過点に過ぎない。
 更なる高みがこの先に待っていると、それぞれが理解しているからこそだった。
 
(,,゚Д゚)「まずは無難に勝ち抜けましたね」
 
( ><)「良かったんです! また全国へ行けるんです!」
 
( <●><●>)「プレーオフでの全国行きなど私たちには許されない。確実に優勝する必要があったと分かっています」
 
(个△个)「でも、県大会とはいえ嬉しいです! というか負けたらどうしようって怖かったんでホっとしました!」

881名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 15:32:20 ID:886eJM.M0
オオカミわろた

882名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 15:32:50 ID:SGJnH1io0
オオカミじゃねーかww

883第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:34:06 ID:3IPfqjZQ0
 四人がそれぞれ様々な笑顔を見せている。
 しかし、大将戦で圧勝してみせた男だけは、笑っていなかった。
 
( ・∀・)「確かに勝てた。結果だけ見りゃ圧勝といっていい」
 
( ・∀・)「でも、全国の舞台は甘くねーぞ。今日のような打ち様じゃ一勝もできずに終わると思ったほうがいい」
 
 厳しい言葉で場の空気を引き締める。
 大将を務める、茂羅の言葉だった。
 
( ・∀・)「俺も含めて全員、もっと強くなる必要がある。全国大会まであと一ヶ月ちょっとだ、余裕はねーぞ」
 
(,,゚Д゚)「そうですね。全国の打ち手たちは、県大会の相手とは比較になりませんし」
 
( ><)「でも、どうやれば強くなれるのかよく分かんないんです!」
 
( <●><●>)「とにかく勉強して一局でも多く打つ。それしかないと分かっています」
 
(个△个)「どこまで強くなれるか分からなくて不安ばっかりですけど、自分なりに頑張ります!」
 
 誰よりも強くなりたい。
 全国を制し、敵などどこにもいない状況を作り上げたい。
 茂羅はそう思っていた。それについてくる者たちの気概も、悪くはなかった。
 
( ・∀・)「目指すは全国制覇、ただ一つのみ。絶対に気を緩めるなよ」
 
 四人が頷く。
 それを見てから茂羅は缶コーヒーを傾け、一気に飲み干した。
 
 
 ◇
 
 
(実・Д・)「東別府高校も県大会決勝では500ポイントでの勝利です。特に大将戦は圧巻でした」
 
リ|*‘ヮ‘)|「大将の茂羅くんだけでなく、今年は他の選手も力をつけましたし、一年生の流芝くんも意外性を秘めています」
 
(実・Д・)「昨年は決勝の舞台にあと一歩届きませんでしたが、今年は挽回を狙っているでしょうね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「最後の全国制覇から十年以上遠ざかっていますし、近年では今年が最大のチャンスだと思います。期待したいですね」
 
(実・Д・)「では、続いてまいりましょう。島根県代表、西別府高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 網の上で香ばしい匂いを放ちながら、牛のカルビが焼けていく。
 程よく焦げ目がついたところで、荷田は手際よく空いた皿に肉を振り分けていった。

884第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:35:52 ID:3IPfqjZQ0
<ヽ`∀´>「じゃんじゃん食べるといいニダよ。アボジとオモニが今日はタダでいいって言ってくれたニダ」
 
ミ,,゚Д゚彡「ありがとうございます! 遠慮なくいただきます!」
 
( ´_ゝ`)「全国では勝つたびにご馳走してもらえるって考えていいのかな?」
 
(´<_`;)「いくらなんでも厚かましすぎるだろう、兄者」
 
(-_-)「全国制覇できたときに期待するくらいが、ちょうどいい」
 
 言葉どおり遠慮なく肉を貪る布佐。
 厚かましい兄と窘める弟の流石兄弟。
 そして物静かな飛木。
 
 部活のメンバーでもあるが、荷田にとっては、それぞれがかけがえのない親友でもあった。
 
<ヽ`∀´>「去年はプレーオフからの全国行きをあと一歩のところで逃して、本当に悔しかったニダ」
 
<ヽ`∀´>「でも今年は違うニダよ。チームとしての力は確実に上がってるし、本気で優勝を目指せると思ってるニダ」
 
(-_-)「そうですね、今年は去年とはかなり違います」
 
( ´_ゝ`)「なんといっても布佐の加入が大きいよな。このフッサフサの髪に相手がビビってるし」
 
(´<_`;)「純粋な実力での勝利だろう。髪は関係ないぞ」
 
ミ,,゚Д゚彡「勝てりゃなんでもいいんです。全国にどんな相手がいるか分からないですけど、負ける気はしません!」
 
<ヽ`∀´>「そうそう、そういう自信も大事ニダ。あんまり警戒しすぎると却って実力を発揮しきれないニダ」
 
 敵を分析することや、対策を練ることなどは自分がやればいい、と荷田は思っていた。
 自信満々で打っているときが一番強い流石兄弟と布佐には、なるべく余計な情報を与えたくない、と。
 下手に敵の凄さを伝えて委縮させてしまうことだけは、絶対にしてはならない、とも考えていた。
 
 西別府高校より強い高校は何校もあるだろう。
 それでも勝てる可能性がある。それが、麻雀だ。
 荷田は口角を吊り上げさせながら、タレにつけたカルビを口に運んだ。
 
<ヽ`∀´>「まぁ、とりあえず今日は試合のことを忘れて楽しむニダ!」
 
<ヽ`∀´>「カンパーイ! ニダ!」
 
 烏龍茶やオレンジジュースなどが入ったジョッキをそれぞれが掲げ、軽くぶつける。
 そして何人かが飲み干すと、その場には屈託のない笑顔が広がった。
 
 
 ◇

885第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:37:52 ID:3IPfqjZQ0
リ|*‘ヮ‘)|「西別府高校は二年ぶりの全国ですが、実力的にはかなり勝ち進めてもおかしくありませんね」
 
(実・Д・)「特に、大将を務める荷田の守りの力は相当なものです。県大会では放銃が一度しかありませんでした」
 
リ|*‘ヮ‘)|「それに、今年からチームに加入した布佐くんも攻守のバランスに優れています。他の三人も全国レベルですね」
 
(実・Д・)「四人の三年生と一人の二年生で全国に挑みます、西別府高校。その戦いぶりに期待しましょう!」
 
(実・Д・)「さて、次は西東京代表の数歩家高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 種田がかき氷を一気に口に含んだあと、頭を押さえる。
 その光景を見て呉路と鬼鳥は揃って苦笑した。
 
《μ`ー´》「種っち、そんなに一気に食ったらそりゃキーンってなるっス」
 
彡`・ >「さっきも同じことやってたス。学習能力がないスね」
 
( o∂ー∂o)「だって美味しいから! しょうがない!」
 
 県大会が終わったあと、試合会場の近くにあるコンビニでそれぞれがアイスを食べていた。
 そのなかでかき氷を食べているのは副将の種田と、大将だった氷鳥だ。
 種田とは違って氷鳥は淡々と食べつづけている。
 
ゞ< _☆_>p「氷鳥さんみたいにゆっくり食べればいいネ」
 
( o∂ー∂o)「だって、我慢できない!」
 
 誰が窘めても聞く耳を持たずに種田はかき氷を掬いつづけた。
 そんな種田に嘆息を向けながら、氷鳥は呆れ声を出す。
 
|ミ゚<>゚〉「そんなに急がなくても簡単に溶けやしないよ。焦らず食べな」
 
(;o∂ー∂)「うっ。氷鳥さんに言われると逆らえないなぁ」
 
 氷鳥の言うことに大人しく従い、種田はかき氷をゆっくり食べ始める。
 しかし、その頃にはかき氷もほとんどなくなっていた。

886第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:39:22 ID:3IPfqjZQ0
彡`・ >「しかし、熱戦のあとのアイスは美味いスね。最高の一言に尽きるス」
 
( o∂ー∂o)「頑張ったもんね! 全国に行けて良かった!」
 
|ミ゚<>゚〉「結局アタシの出番はナシかい。拍子抜けだね」
 
《μ`ー´》「県大会では上手くいったっスけど、全国では絶対に氷鳥さんの力が必要になるっスよ」
 
ゞ< _☆_>p「全国でもなんとか勝てればいいネ」
 
|ミ゚<>゚〉「楽しめる相手がいればいいんだけどねぇ」
 
 不敵に笑う氷鳥を、頼もしげに見る四人。
 全国中学麻雀選手権で残した、伝説的な実績を、誰もが知っているからこそだった。
 
彡`・ >「おっ、ガリガリくん当たりス。もう一本貰ってくるスよ」
 
( o∂ー∂o)「ラッキーだね。なんか幸先いい感じ!」
 
|ミ゚<>゚〉「吉兆ってやつかい。そんなので勝てたら苦労はしないけどねぇ」
 
( o∂ー∂o)「でもでも、外れるよりはいいよ!」
 
|ミ゚<>゚〉「ま、それもそうかい」
 
 無邪気な種田に小さな笑みを向ける氷鳥。
 全国でこのチームがどこまでやれるかは分からないが、つまらない夏として終わることはなさそうだ。
 氷鳥はそう考えながら、かき氷の最後の一掬いを口に入れた。
 
 
 ◇
 
 
(実・Д・)「数歩家高校は県大会の全試合を副将戦までに終わらせました。県では敵なしでしたね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「これは凄いことですね。数歩家高校は氷鳥さんが圧倒的なエースなのに、エースが出るまでもありませんでした」
 
(実・Д・)「中学生時代の全国大会で、歴史に名を残すほどの活躍を見せましたね、氷鳥は」
 
リ|*‘ヮ‘)|「あまりにも冷徹に相手の攻めを封じることから、そのプレイスタイルは『氷壁』と呼ばれていました」
 
(実・Д・)「その氷鳥なしでも全国行きを決めた数歩家高校、全国での戦いが楽しみです!」
 
(実・Д・)「さぁ、続いてまいりましょう。埼玉県代表、不義歩家高校です!」
 
 
 ◇

887第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:41:04 ID:3IPfqjZQ0
 鉄板を挟んでシェフと向かい合った五人は、表情を輝かせながら岩のようなステーキを見ている。
 そこにブランデーが注がれ、チャッカマンで小さな火をつけると、鉄板から一気に炎が上がった。
 
Σ=(*・∇・)「おおおぉぉぉー!!」
 
*~(*〒W〒)「フランベやー!! どえらい迫力やでー!!」
 
(゚ν゚炎「騒がしいやっちゃのう、螺田」
 
*~( 〒W〒)「なんでワイだけ注意やねん! 人影かて同じぐらい騒いどったで!」
 
Σ=(;・∇・)「すみません火鳥さん、興奮しちゃって」
 
(゚ν゚*炎「人影はええんや、いくらでも騒ぎぃな!」
 
*~(#〒W〒)「相変わらず人影ビイキが酷いやっちゃな!」
 
 騒がしい三人をよそに、白竜と打保は切り分けられた肉を頬張る。
 口の中に広がる旨味をじっくりと堪能していた。
 
τ/゚◎ ゚/⊿「いやぁー、美味しいっすねぇー。自分のカネじゃ食えない味だぁー」
 
ζ^・_)「ニホンのお肉、品質高い」
 
(゚ν゚炎「おっ、和牛の良さが分かるとは中々やな、白竜」
 
ζ^・_)「美味しい。謝々、火鳥サン」
 
τ/゚◎ ゚/⊿「ほんとにタダでいいんすかねぇー。なんか申し訳なくなっちゃうっすねぇー」
 
(゚ν゚炎「全国への進出祝いやからな。どんだけ食うても全部払とくって親父が言うとったわ」
 
*~( 〒W〒)「自分がオーナーを務める店とはいえ、気前のええ話やなー。ありがたいこっちゃでー」
 
(゚ν゚炎「親父も喜んどったからのう。麻雀から心が離れとったワイが今まで心配やったみたいで」
 
Σ=( ・∇・)「螺田さんが麻雀部を作ったおかげですね!」
 
*~( 〒W〒)「まぁ麻雀部を作ったんは白竜のためやけどな」
 
(゚ν゚炎「わぁっとる。しかし、中国からの留学生やから麻雀って安直すぎやろ」
 
Σ=(;・∇・)「しかも、螺田さんも白竜さんも完全に麻雀未経験だったっていう」
 
*~( 〒W〒)「そんなもんやってみりゃなんとかなるんや! 実際なんとかなったしな!」
 
(゚ν゚炎「こんな寄せ集めみたいな集団が創部一年目で全国行きなんて驚きやけど、なんとかなるもんやなぁ」

888第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:42:51 ID:3IPfqjZQ0
(゚ν゚炎「せやけど、全国はかなり厳しい戦いになるやろ。県大会と同じ感覚でいったらエライ目に遭うで」
 
Σ=( ・∇・)「数歩家高校の氷鳥さんも全国に出てくるんですよね、確か」
 
(゚ν゚炎「そのはずやな。あいつの強さは俺が一番よう知っとるわ」
 
*~( 〒W〒)「どんなもんか知らんけど目指すとこは一つや! 全国の頂点や!」
 
(゚ν゚炎「相変わらず意気込みだけは頼もしいのう」
 
 火鳥と打保以外は、まだ麻雀を初めて数ヶ月。
 初心者を三人も抱えて全国へ行けた理由は、ひとえに火鳥の力によるところが大きい。
 
 人影と螺田と白竜は、まだ怖さを知らない。
 それが、吉と出るか、凶と出るか。
 
 もし吉と出れば、かなりいいところまで勝ち進める可能性もある。
 このチームのことを、火鳥はそう分析していた。
 
Σ=( ・∇・)「ふー、ごちそうさまです。ココア飲みたいなー」
 
(゚ν゚*炎「そう言うと思って用意してもろといたで!」
 
Σ=(*・∇・)「ホントですか!? わーいわーい! ココアココアー!」
 
*~(;〒W〒)「高校生にもなってココアでそんなテンション上がるやつ他におらんで、ホンマ」
 
 和やかな空気のまま、不義歩家高校の全国進出祝いは終わった。
 この雰囲気を保ちつづけられれば、このチームはきっと強い。
 火鳥はそう信じていた。
 
 そしてできる限り長く、このチームと共に過ごしたい、とも火鳥は思っていた。
 
 
 ◇
 
 
リ|*‘ヮ‘)|「不義歩家高校は創部一年目とは思えない強さでした。特に大将の火鳥くんの力は抜けていますね」
 
(実・Д・)「中学生時代には数歩家高校の氷鳥と共に全国で活躍しました。圧倒的な火力の持ち主ですね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「県大会で和了った手は全て満貫以上。高い打点で場を支配することから『炎渦』の異名を取りましたね」
 
(実・Д・)「中国からの留学生である白竜も、センスを感じさせる打ち筋と評価が高い」
 
リ|*‘ヮ‘)|「安定感に欠ける選手が多いのですが、勢いに乗ったときの爆発力は相当なものです。全国でどこまで勝ち進めるか、楽しみですね」
 
(実・Д・)「では次にまいります。昨年の全国大会で準優勝、独歩家高校です!」

889第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:44:41 ID:3IPfqjZQ0
 ◇
 
 
 太陽の光を反射し、海面は輝く紐を撒いたように煌めいていた。
 日差しを遮るものはなく、五人の肌には自然と汗が浮かぶ。
 
(※( ・ー・)「まだ六月なのに暑いねー」
 
《●`ー)「でも海開きしてないからか、全然人がいねぇナ」
 
ヾ(¬`・∧)¬「しかし、潮騒の穏やかな音は戦いで昂った心を静めてくれる」
 
 海岸沿いを歩く五人の足跡が、砂浜に点々と続いていた。
 
 時折、誰かが貝殻を踏んだときに固い音が鳴る。
 その音が誰の耳にも届くほど、波の音は静かだった。
 
|メ`・-Ю「砂浜にいるとついつい走りたくなるな、昔みたいに」
 
(※( ・ー・)「お父さんと一緒にボクシングの練習してたんだっけ?」
 
|メ`・-Ю「あぁ。よくこういう場所を走ったんだ、懐かしいな」
 
(○'ー')о「うわー、走りにくそう」
 
ヾ(¬`・∧)¬「それが下半身の強化に適しているのであろうな」
 
 水平線に身を沈めつつある太陽の光はオレンジ色で、五人の横顔を優しく照らす。
 潮風は海の匂いを伴いながらそれぞれの髪を揺らした。
 
(※( ・ー・)「暑いけど落ち着くね。来て良かったなぁ」
 
《●`ー)「試合が早く終わりすぎて、時間を持て余しちまったからナ」
 
ヾ(¬`・∧)¬「手の内は隠しておくに越したことはない。中堅戦で試合が終わったことは最上の結果だ」
 
《●`ー)「でも、戦い足りなくて身体は疼いてるんじゃネーカ?」
 
(※(;・ー・)「結局、頭戸の出番なかったもんね。七瀬が頑張りすぎちゃって」
 
《●`ー)「普通に打っただけなんだけどナ」
 
ヾ(¬`・∧)¬「客観的に見て、拙者たちは県では頭一つ抜けた存在。しかし全国では昨年同様、過酷な戦いを強いられよう」
 
|メ`・-Ю「でも負けるつもりはねぇぜ。去年の準優勝はマジで悔しかったからな」
 
(○'ー')о「みんな今年がラストチャンスだもん。何がなんでも優勝、だね!」
 
 打ち寄せる波が砂を掠い、再び押し戻す。
 揺蕩う光もまた、何度も五人に近づいたり離れたりしていた。

890第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:46:06 ID:3IPfqjZQ0
ヾ(¬`・∧)¬「拙者たちなら必ず成し遂げられる。そう信じて戦わねばならぬな」
 
(※(*・ー・)「みんなで頑張ろー!」
 
 瀬荷と七瀬と針谷は笑みを見せながら。
 頭戸と蛯原は引き締まった表情のまま。
 
 それぞれ、砂浜に確かな歩みの証を残しつづけた。
 
 
 ◇
 
 
(実・Д・)「言わずと知れた昨年の準優勝校。県大会では敵なしでしたね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「茨城のレベルがさほど高くないこともありますが、決勝が中堅戦で終わったのは驚異的でしたね」
 
(実・Д・)「エースの頭戸が出るまでもありませんでした。中堅の七瀬の存在が非常に大きい」
 
リ|*‘ヮ‘)|「七瀬くんは、頭戸くんの『連続斬り』を彷彿とさせる連続和了で三校まとめて飛ばしましたからね。ちょっと格が違いました」
 
(実・Д・)「脇を固める他の選手たちも力をつけています。昨年はダークホースでしたが、今年は堂々の優勝候補です!」
 
(実・Д・)「さて、次も歩家グループの高校ですね。千葉県代表、文歩家高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 所狭しと並べられたスイーツに、客はほぼ全員が一様に目を輝かせている。
 ショートケーキやカップケーキ、ティラミス、ミルクレープなどが次々に姿を現しては消えていった。
 
 そんな中、特設プリンコーナーに陣取り、次々にトレイへ載せていく女子が一人。
 
ξ*+⊿+)ξ「これはクレマカタラーナね! 『スイーツ・バレンシア』から仕入れているという噂は本当だわ! 仕上げ方を見れば分かる!」
 
ξ*+⊿+)ξ「そしてこのクリームブリュレ! 『ホテル・グレン』のパティシエを引き抜いただけあるわね! 以前とは輝きが全然違うじゃない!」
 
ξ*+⊿+)ξ「あぁ、今日はプリン大福まであるのね! 正統派の私でもここのプリン大福には逆らえないわ! ちゃんとプリンが主役だもの!」
 
 電光石火の勢いでプリンの山を築く。
 トレイがいっぱいになると光井はすぐさま席に着き、一瞬で平らげてはプリンコーナーに戻る。
 その光景を他の四人は呆然と見ていた。

891第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:47:51 ID:3IPfqjZQ0
†;゚‐゚†「相変わらず光井様のプリン愛は凄いですね」
 
Σ`・゚・〉「食べすぎ」
 
〔◇`゚¬〕フ「あれだけ食べても太らないのは大したものだな」
 
ヽ〈┓` 八〉┓
 
† ゚‐゚†「ほら、蓮見さんも言葉を失ってます」
 
〔◇;`゚¬〕フ「いや、それはいつものことだが」
 
 他の四人は程々にベイクドチーズケーキやクッキーシュークリームなどを取り、席でゆっくり食べている。
 時折、驟雨のように光井がやってきて、激しくプリンを食べては去っていったが、途中からは誰も気に留めなくなっていた。
 
〔◇`゚¬〕フ「試合に勝つたびにお祝いと言ってスイーツビュッフェに来たがるが、単にプリンが食べたいだけだな」
 
† ゚‐゚†「試合に勝ちたいのかプリンを食べる口実が欲しいのか、よく分からなくなりますね」
 
〔◇`゚¬〕フ「まぁ、決勝でも力は発揮してくれた。実力を出し切れるならば理由はなんでもいいが」
 
 甘味が充満した口内を元に戻すように、袋井はブラックコーヒーを飲んでいる。
 旗振はダージリンティーをゆっくり啜っては、熱を放出するように息を吐くことを繰り返していた。
 
ξ*゚⊿゚)ξ「あー美味しかった。ごちそうさま」
 
 時間制限いっぱいまでプリンを食べる光井を待ってから、全員で店を出る。
 光井は名残惜しそうに何度も振り返りながら帰っていた。
 
ξ*゚⊿゚)ξ「また来たいなぁー。お金さえあれば毎日来るんだけどなぁー」
 
†;゚‐゚†(正気の沙汰とは思えない)
 
〔◇`゚¬〕フ「また全国大会で勝ったときに来ればいいだろう。勝利のあとに味わうからこその格別だ」
 
ξ゚⊿゚)ξ「言えてるわ。単に食べるだけじゃ美味しさ二割減ね。去年の全国大会で負けたあとのプリンは、どことなく寂しげな味がしたもの」
 
Σ`・゚・〉「気のせい」
 
ξ#゚⊿゚)ξ「違うわよ! やっぱり勝ったあとの味が最高なの!」
 
〔◇`゚¬〕フ「プリンの味はともかく、やはり敗北は悔しいものだ。同じ辛酸を舐めたくはない」
 
ξ゚⊿゚)ξ「えぇ。今年こそ全国制覇、その目標はブレないわよ」

892第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:49:01 ID:3IPfqjZQ0
†*゚‐゚†「今年は去年よりみんな強くなってます! 優勝しちゃいましょう!」
 
ξ゚⊿゚)ξ「厳しい戦いが続くだろうけど、揺るがない気持ちがあればきっと大丈夫。私たちならできると信じましょう」
 
〔◇`゚¬〕フ「あぁ、そうだな」
 
Σ`・゚・〉「頑張る」
 
ヽ〈┓` 八〉┓
 
ξ゚⊿゚)ξ「ダルも蓮見も気合ばっちりね。私には分かるわ」
 
ξ゚⊿゚)ξ「絶対優勝するわよ!」
 
†*゚‐゚†「おー!」
 
ξ*+⊿+)ξ「そして全国制覇した暁にはみんなで『スイーツキャッスル』の九十分食べ放題コースへ!」
 
†;゚‐゚†(結局それ!?)
 
〔◇;`゚¬〕フ(やれやれ)
 
 
 ◇
 
 
リ|*‘ヮ‘)|「昨年は準々決勝で敗退した文歩家高校ですが、今年は昨年より力をつけていますね」
 
(実・Д・)「突出した選手こそいませんが、逆に言えば隙のないチームです」
 
リ|*‘ヮ‘)|「そのなかでも光井さん、袋井さんの女子二人が見せる果敢な攻めは光ります。歩家グループの中では独歩家高校に次ぐ総合力ですね」
 
(実・Д・)「旗振、蓮見、ダルも昨年全国で健闘しました。今年は昨年を超える成績を収められるか、注目です!」
 
(実・Д・)「では次にまいりましょう。昨年の全国三位、神奈川県代表の烽火高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 夜闇をかき消すライトは、誰もが眩しく感じるほどだった。
 横浜スタジアムは多くの人で熱気に満ちている。
 
 試合はちょうど、一回の裏が終わったところだった。
 
彡 ´ー`)「まだ始まったばかりですね」
 
 一塁側の内野スタンド中段の席に腰かけ、榊は飲み物のストローに口をつけた。
 夏の暑さに水分を奪われた喉は、瞬時に潤されていく。

893第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:50:31 ID:3IPfqjZQ0
[`↓´]「まだどっちも点入ってないですね」
 
(^・J・^)「今日は投手戦になりそうだな」
 
(ムΘラ)「ホームラン見たいんで、多少は打ってほしいですけど」
 
(◎´∵`◎)「弁当いただきまーす」
 
彡 ´ー`)「ユニフォーム弁当ですか、いいですね」
 
(^・J・^)「いつの間に買っていたんだ、井蓋」
 
(ムΘラ)「僕も何か食べようっと。すみませーん」
 
 若い売り子を呼び止め、村者がシウマイ弁当を購入した。
 同時に古者が唐揚げ弁当を買い、二人ともすぐさま頬張り始める。
 
 その間に榊と畑は売店へ行き、ピザやポテトフライ、フライドチキンなどを買ってきていた。
 
(ムΘラ)「おっ、ホームラン」
 
彡 ´ー`)「いいスイングですね。内角の捌きが上手い」
 
[`↓´]「やっぱ野球の観戦は生に限りますね。早めに決勝終わらせてきて良かったです」
 
(^・J・^)「榊さんは打ち足りないのでは?」
 
彡 ´ー`)「いえ、そんなことはありませんよ。麻雀では何が起きるか分かりませんから、大将戦に回るよりいいでしょう」
 
(◎´∵`◎)「県大会で出番がなかった分、全国で存分に打てばいいだけですもんね」
 
彡 ´ー`)「さすがに全国では副将戦までに終わるようなことはほぼないでしょうからね」
 
(^・J・^)「昨年戦った芽院高校なども全国行きを決めているようです。楽しみですね」
 
彡 ´ー`)「不穏な噂がありますね、あそこは。ネット界を賑わせている『ホライゾン』がいるとか」
 
[`↓´]「本当ですか? もしそうなら、かなり手強い相手ですね」
 
(◎´∵`◎)「去年でさえ厳しい戦いを強いられた。今年当たるかどうかは分からんが」
 
(^・J・^)「個人的には独歩家の瀬荷にリベンジしたい。あの人に振り込んだ倍満が今でも悔やまれる」
 
(◎´∵`◎)「俺もあそこの七瀬には借りがあるな。どこかでまた当たりたいものだ」
 
彡 ´ー`)「まぁ、どんな相手だろうと勝ち抜くのみです。最初から優勝しか目指していないのですから」

894第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:52:08 ID:3IPfqjZQ0
 榊は泰然としており、風格さえ漂わせている。
 自他ともに認める、全国屈指の打ち手であるからこそだった。
 
 その榊が自信を漲らせている限り、他の四人も、ただ信頼してついていくだけでいい、と思っていた。
 
彡 ´ー`)「今年こそ、全国制覇を」
 
 四人がその言葉に頷くと同時に、グラウンドからは球音が響いた。
 白球は空高く舞い上がり、観客はただそれを見上げる。
 
 やがて打球は見えなくなったが、ライトの光に紛れたのか、夜の闇に紛れたのか、榊には分からなかった。
 
 
 ◇
 
 
リ|*‘ヮ‘)|「一昨年は準優勝、昨年は三位。全国での成績はかなり安定していますね」
 
(実・Д・)「大将の榊は全国でも五指に入る打ち手と評されます。しかし、県大会はその榊なしでも圧勝しました」
 
リ|*‘ヮ‘)|「榊くん以外もかなりの爆発力を秘めた選手ばかりですね。一年生の村者くん、古者くんはやや守りが甘いものの、魅力的な一発がある打ち手です」
 
(実・Д・)「三年前の優勝校でもあります、烽火高校。今年は優勝賜杯を取り戻せるでしょうか。その戦い様に注目が集まります!」
 
(実・Д・)「さぁ、つづいてまいりましょう。福井県代表、元別府高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 四隅にライトがあるだけの薄暗い公園で、五人はそれぞれ身体を休めていた。
 
 茂名と荒巻はベンチに座って団扇で風を送り、瀬知と長岡はジャングルジムの最上部から公園を見下ろしている。
 そして範名は、蛇口のバルブを何度も捻っては喉を鳴らしていた。
 
(*`・ー・)「うめぇぇぇぇー!! 水うめぇぇぇぇー!!」
 
(;゚∀゚)(うっせーなアイツ)
 
(;´∀`)「対局中だけで2リットルのペットボトルを飲み干したのに、まだ喉が渇いてたんですか」
 
(`・ー・)「熱戦だったしな! 3リットルにすりゃよかったと後悔したぜ!」
 
 茂名と荒巻は苦笑させられている。
 水の飲み過ぎで身体を壊さないだろうか、と周囲が心配するほどの給水量だった。

895第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:53:38 ID:3IPfqjZQ0
/ ,' 3「本当は副将戦で終わらせられればよかったのですが、申し訳ありません」
 
(`・ー・)「いやいや、気にすることねーよ。あの放銃は誰でもやらかすって」
 
( ´∀`)「範名さんなら迷わず振り込む場面ですね」
 
(;`・ー・)「おいおい。俺でも二秒くらいは迷う場面だぞ」
 
(,,;’」’)「たった二秒ですか、大将」
 
(`・ー・)「大将じゃねーって、瀬知。総大将だ!」
 
( ゚∀゚)「そんなポジションありませんよ」
 
(`・ー・)「分かってるけどさ、かっこいいだろ! 総大将のほうが!」
 
 長岡と瀬知は顔を見合わせてから首を振った。
 あまりにも自由気まま。しかし、まるで裏表がなく、誰に対しても同じ態度を取る。
 そんな範名のことを、皆が信頼していた。
 
( ゚∀゚)「じゃあ、その大仰な名に相応しい活躍をお願いしますよ、総大将」
 
(`・ー・)「おう! 俺が全国一のデジタル打ちであることを証明するチャンスだな!」
 
( ´∀`)「恐らく、日本で一番デジタルから遠い打ち手であることが証明されますね」
 
( ゚∀゚)「証明するまでもなく、全国一のオカルト派でしょうね」
 
(;`・ー・)「おいおい。俺だって色々考えてんだぜ? これ捨てたら流れが悪くなりそうだなーとか」
 
/ ,' 3「それを世間ではオカルトと言うのですよ、範名さん」
 
 範名以外の四人の笑い声がこだました。
 その中心にいる範名は首を傾げながら頭を掻いている。
 
(`・ー・)「デジタルでもオカルトでも、勝てりゃなんでもいいんだ。一個団結して、目指すは優勝のみ!」
 
( ´∀`)「一致団結の間違いですね、総大将」
 
(;`・ー・)「あれ、そうだったか?」
 
(;゚∀゚)(ほんと相変わらずだな、あいつ)
 
(`・ー・)「とにかく今年こそやってやるぜ! みんなで全国制覇だ!」
 
 どんなときでも明るく前を向く。
 だからこそ範名の背中は頼もしく見えるのだ。
 四人はそう考えながら、範名の突き上げた拳を見ていた。

896第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:56:20 ID:3IPfqjZQ0
 ◇
 
 
(実・Д・)「昨年の全国大会で決勝に進出し、四位の成績を収めた元別府高校ですが、エース範名を欠いての四位です」
 
リ|*‘ヮ‘)|「今年は範名くんがいますし、新人の長岡くんがかなりの打ち手です。昨年いなかったこの二人を中心に回ると思います」
 
(実・Д・)「堅実に立ち回る茂名や瀬知、常に落ち着いて打てる荒巻など、総合力は全国屈指ですね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「今年も間違いなくいいところまで勝ち進むでしょうし、優勝が充分に狙えるメンバーを揃えましたね」
 
(実・Д・)「範名と荒巻が引退する年に悲願の優勝なるか、元別府高校。勇戦を期待しましょう!」
 
(実・Д・)「さて、次がいよいよ最後です。昨年の全国覇者である、香川県代表、羅雲寺高校!」
 
 
 ◇
 
 
 風鈴の音が小さく鳴る軒下の縁側で、深成兄弟が身体を冷やしていた。
 そこに、風呂から上がった狩名が浴衣姿で近づく。
 
( ’ t ’ )「お風呂ありがとうございました、浴衣もお借りしました」
 
(`∠´)「あぁ」
 
 狩名を一瞥だけして、深成鈴は月に視線を戻した。
 左手に持ったグラスには麦茶と氷が入っている。
 
( ' t ' )「実時さんと義留さんは?」
 
( ̄⊥ ̄)「コンビニへ行くと。軽く摘めるお菓子などを買ってくるそうです」
 
( ' t ' )「そうか」
 
 狩名も縁側に腰を下ろした。
 弟の深成春路の隣だ。
 深成鈴の隣に座ることは、気が引けていた。
 
( ' t ' )「二人で、どんな話を?」
 
( ̄⊥ ̄)「今日の試合の、反省点などを」
 
(`∠´)「まだまだ甘い手が多い。全国でも同じように勝てるとは思うな、と」
 
 弟のみへ向けた言葉ではない。
 狩名はそう感じた。
 今年からメンバーとなった、狩名にも同じことを思っているのだろう、と。

897第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:58:51 ID:3IPfqjZQ0
( ’ t ’ )「全国の相手は、県とは比較になりませんか?」
 
(`∠´)「あぁ」
 
( ̄⊥ ̄)「警戒すべき相手は?」
 
(`∠´)「両の手では数えられないほどいるが、特に名前を挙げるならば、榊や頭戸、範名や茂羅、火鳥や氷鳥などか」
 
 いずれも知った名だ、と狩名は思った。
 特に、榊と頭戸は昨年、深成鈴が決勝で戦った相手だ。
 
 昨年の決勝の大将戦、映像は狩名も観た。
 思わず瞬きを忘れるほど目まぐるしい攻防戦。
 最終的には羅雲寺が勝利を収めたが、決して楽勝とはいえない戦いだった。
 
( ’ t ’ )「火鳥と氷鳥は、中学時代に伝説的な活躍をしたそうですね」
 
(`∠´)「その中学時代に対局したことがある。かなりの苦戦を強いられた相手だ」
 
( ’ t ’ )「そうだったのですか。元別府の範名も、中学時代に打ったことがあると仰っていましたね」
 
(`∠´)「あぁ。いずれも全国屈指の打ち手であることは間違いない」
 
 深成鈴が名を挙げて警戒するほどの相手。
 それだけでも、恐ろしい打ち手なのだと狩名には分かる。
 一昨年も、昨年も、一度たりとも負けていない深成鈴の言葉だからこそだ。
 
 今の自分では恐らく、敵わない相手なのだろうと、狩名は分かっていた。
 それでも、気持ちは挫けるどころか、むしろ高揚が抑えきれなくなっている。
 
(`・ι・´)「ただいま戻りました」
 
( `゚ e ゚)「ぬぅ、暑いですな。夜になって、多少は気温が下がったとはいえ」
 
 実時と義留がコンビニから戻ってきた。
 手に提げた袋にはチョコレートや煎餅、クッキーなどが入っている。
 
(`∠´)「揃ったな。じゃあ、早速だが始めよう」
 
(`∠´)「東風戦で、最下位が控えと交代。最初の控えは、春路だ」
 
( ̄⊥ ̄)「はい」
 
(`∠´)「しっかり記録を取っておいてくれ。あとで検討の材料にしよう」
 
 卓上には既にマットと雀牌が置かれていた。
 こうやって深成家に集まり、深夜まで練習することは度々ある。
 両親が仕事で海外に行っている深成家ならば、気兼ねなく打てるためだった。

898第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 16:00:52 ID:3IPfqjZQ0
 深成春路を除く四人が、卓につく。
 そしてサイコロを振る前に、深成鈴が口を開いた。
 
(`∠´)「我々は確かに全国へ進出した。しかし、全国で二連覇していることを考えれば当然の結果だ」
 
(`∠´)「過去、幾度もの優勝を羅雲寺は成し遂げている。だが三連覇は一度も達成されていない」
 
(`∠´)「今年こそやり遂げるのだ。そして、この五人の名を羅雲寺の歴史に刻もう」
 
(`∠´)「全国の歴史に、刻もう」
 
 深成鈴の言葉で、これから打つ東風戦にも、緊張の糸が張られた。
 まるで、絶対に負けられない戦いへと臨むような気分に、それぞれがなっていた。
 
(`∠´)「さぁ、始めよう」
 
 深成鈴の手からサイコロが滑り落ちる。
 賽は、投げられた。そんな言葉が、狩名の頭の中に浮かんだ。
 
 
 ◇
 
 
(実・Д・)「やはり今年も強かった、羅雲寺高校。三連覇へ向けて、視界は良好ですね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「深成鈴くんの力は際立っていますね。これまでの実績も圧倒的ですし、高校生としては最強といっても過言ではないでしょう」
 
(実・Д・)「昨年の三年生が抜けたことによる戦力の低下も懸念されましたが」
 
リ|*‘ヮ‘)|「一年生の深成春路くんと狩名くんが、むしろ戦力を向上させましたね。特に狩名くんからは類稀なセンスを感じます」
 
(実・Д・)「今年は昨年以上に強い、羅雲寺高校! 果たして三連覇は達成されるのでしょうか! 注目です!」

899名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 16:01:41 ID:j0bw.V560
オールスターじゃねーかwww

900第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 16:02:11 ID:3IPfqjZQ0
(実・Д・)「まだまだ県大会は続いていますし、これからプレーオフもあります。そこからダークホースが現れることも考えられる、今年の全国高校麻雀選手権」
 
(実・Д・)「全国大会は七月下旬より開催予定! 全試合をこの番組にて放送予定です!」
 
(実`・Д・)「果たして栄冠を手にするのはどの高校でしょうか! 高校生たちの熱き戦い、今から待ちきれません!」
 
(実`・Д・)「視聴者の皆様、どうかお楽しみに!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第10話 終わり
 
     ~to be continued

901 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 16:03:54 ID:3IPfqjZQ0
第10話の投下は以上です、ありがとうございました!
書くのにやたら時間がかかってしまいましたが、書いてて楽しかったです

いま見たらカルリナの顔がおかしい……
>>896で「( ' t ' )」になっている顔は全部「( ’ t ’ )」です
お詫びして訂正します

902名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 16:04:10 ID:886eJM.M0
乙!!
オオカミと元ヴィップがんばってほしいね

903名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 16:07:53 ID:qE0AvUqc0
実力ないやつを周りが強者だと誤解する流れは好きだなあ。カメレオンの矢沢とか
とにかく面白かったです
乙でした

全国はやらないかと思ってたから嬉しい!
サカキ頑張れ

904名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 16:14:16 ID:84GFzbG.0
ポケモンやアルファのキャラが出てきた時の高揚感が凄かった
乙!

905名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 16:15:14 ID:P/aGbOBY0
乙乙
ポケモン読んでたから懐かしいキャラが続々と出てきてニヤニヤした

906名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 16:56:08 ID:nxlMnCeQ0

アルファやポケモンのキャラが出てテンション上がったわ
こういう展開ならやっぱりオオカミを一番応援したくなってしまうな

907名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 17:01:20 ID:Wj9Ze5nM0
ブーンはビキナーズラックだったけど、その幸運を逃がさず掴んだのはブーンががんばったからだよなぁ
乙!

908名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 17:54:42 ID:CKxoHfHo0
ポケモン、アルファ総出演で鳥肌たってきたわwww
また熱い戦いがみれそうで期待しまくり!
乙でした

909名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 18:21:57 ID:fh3PZLls0
乙。アルファさんがこんなにノリの良い人だとら思わなかったwww

910名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 18:34:52 ID:UAgrmQjk0
乙 ゾクゾクした

911名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 19:13:29 ID:w76RGAz.0
元作品で色々あったのが集まるとこう来るものがあるね


912名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 21:14:46 ID:vOGPdkAk0
麻雀よくわからんけどブーンの時めっちゃ鳥肌たったは
オオカミとラウンジも頑張って欲しいな


913名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 21:16:29 ID:CKc/HerU0
あーもう読み終わってしまった!
続きが早く読みたいです!!
乙です!!

914名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 21:30:55 ID:rAKlXxGU0


915sage:2015/07/26(日) 21:42:02 ID:8B/mLdaU0
初めてリアルタイムで見させていただきました
頑張ってください!!

916名も無きAAのようです:2015/07/26(日) 22:14:18 ID:dlgRdb3g0
鈴でベルかwwwwwwwwwwwwwwwwうまいな

917 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 23:30:32 ID:3IPfqjZQ0
皆さんありがとうございます
ポケモンのキャラを書くのは、表合作を抜きにすれば十年ぶりぐらいでしたが、昔と同じ感覚で書けて楽しかったです

アルファもポケモンも全然知らない、という方も多々いらっしゃると思うのですが、
過去作を読んでないと分からない!という話にするつもりはもちろんなく、
この雀牌だけでも全国編を楽しんでもらえるように頑張ります

あとすみません、ツイッターでミスを指摘していただいたため、一部訂正します
>>825のところです

( ^ω^)(僕がいま二枚持ってる三筒は、どうやら伊要さんも一枚持ってるみたいだお)
  ↓
( ^ω^)(僕がいま二枚持ってる三索は、どうやら伊要さんも一枚持ってるみたいだお)

七対子なのに内藤が三筒を四枚持ってることになってた、というか三筒が全部で七枚あることになってたので……
たびたびミスがあり申し訳ない限りです、精進します

918 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 23:51:53 ID:3IPfqjZQ0
あと、大事なことをお伝えし忘れていたのですが……

県大会編が第10話をもって終了し、これからは全国大会編となるのですが、
ちょっと色々と時間をかけて片づけないといけないことがあるため、
雀牌の投下をいったんお休みします

空いた短い時間で続きをちょこちょこ書いたりすることはあるかもですが、
まとまった空き時間は別のことに充てるつもりでいるため、
続きの投下はそれなりに先になるかと思います

大変申し訳ありません

一時は、第10話をもって完結にしようかと考えたこともあったのですが、
ここから先も書くのが楽しみなところがたくさんあるので、やっぱり続けようと思っています
とはいえ>>8で書いたスタンスも変わっていないので、ちゃんと完結させられるかどうかは分からないままなのですが……

それでも続きを待っていてほしいなどと、そんなおこがましいことは言えるはずもないのですが、
とりあえず今の時点では、なんとか完結まで書き切りたいという気持ちです

温かく見守っていただけたら嬉しく思います

919名も無きAAのようです:2015/07/27(月) 00:09:03 ID:7tQ49QYE0
乙。ゆっくりで構わないから無理だけはしないでくれ

920名も無きAAのようです:2015/07/27(月) 00:12:54 ID:Q.lhx7Ek0
展開が熱いなぁww
なんか別作品のキャラのイフストーリー見てる感じで面白い!
次も期待してるぜ!

921名も無きAAのようです:2015/07/27(月) 02:18:59 ID:6bfTnltk0
読んでて震えたわ
やっぱり本当に書くの上手いな



922名も無きAAのようです:2015/07/27(月) 03:38:46 ID:VRvWq8wY0
オールスターわろたww
コレは全国編も楽しみだな
だから今一度言おう 我々は三年待つ!!

923名も無きAAのようです:2015/07/27(月) 03:46:49 ID:Sor3.jfcO
改めて見るとブーン達芽院高校のキャラもアルファに近いんだなー

続き書いてくれるなら楽しく読むけどこの作品に関しては
書きたいものはほとんど書いただろうし
ブーン達の戦いはこれからだエンドでもええんやで

924名も無きAAのようです:2015/07/27(月) 05:22:47 ID:pJFnQPUg0
長年のブーン系読者としては、こういうベテランの人が楽しんで書いてくれることはとても嬉しいことだね

925名も無きAAのようです:2015/07/27(月) 21:10:32 ID:nOe8pw7.0
>>923
作者が書きたいところがあるって言ってんだから余計なこと言うんじゃねえ

926 ◆azwd/t2EpE:2015/07/28(火) 00:18:06 ID:YQvQQoio0
皆さんありがとうございます
やっぱり、お話を読んだうえでの意見や感想をいただけることは凄く嬉しいです

県大会編が終わって、一区切りついて、ほっと一息な感じですが、
片付けるべきことを早く片づけて続きを書きたいなぁという気持ちです
そうは言っても今後の予定はめちゃくちゃ未定で、続きを書けるのがいつかは分からないのですが……

>>923
第10話をずっと書きたかったのは間違いないことですが、
「書きたいものはほとんど書いた」ということはないです、全然
ストーリーの根幹を成す大事な部分もまだ残っていますし
また続きを楽しみにしていただけるなら嬉しいです

>>924
ポケモンのころもアルファのころも色々あれこれ考えながら続けてきたこのブーン系ですが、
結局のところ、単に「書くのが楽しいから書く」という、そんな単純な動機で書いています
時折他のことを楽しんだりももちろんしますが、一番の趣味であることは間違いないですね~

927名も無きAAのようです:2015/07/28(火) 04:10:12 ID:r5guwQSw0
結局本物のホライゾンは謎のままなんだよね・・・

928名も無きAAのようです:2015/07/28(火) 14:12:43 ID:T7t0saOA0
いずれ
内藤vsホライゾンもしくは関係者
があるから謎のままなんだろ

929名も無きAAのようです:2015/07/28(火) 18:37:42 ID:VxG7/33s0
この中にホライゾンがいる可能性

930名も無きAAのようです:2015/07/28(火) 19:56:40 ID:tTilm91wO
本当は初本が実力隠したホライゾンで羅雲寺のスパイだったっていう熱い展開を希望

931名も無きAAのようです:2015/07/28(火) 20:21:14 ID:Dzu7IUPk0
(´・ω・`)「実に、長かった。あまりにも、長すぎた」

932名も無きAAのようです:2015/07/28(火) 22:08:30 ID:aCau9Q9.0
ラウンジにクラウンが居たらマジで裏切りそうww

933名も無きAAのようです:2015/07/29(水) 00:49:29 ID:jqzCgoKI0
>>930
そんなんあるわけねーだろwww
あんなにみんなのことを考えて、周りからの信頼も厚い(´・ω・`)さんが裏切るなんてねーよwwwwww
ショボンが裏切る作品なんて見たことないしな

934名も無きAAのようです:2015/07/29(水) 08:01:09 ID:Oao7yVwk0

各校紹介して俺達の戦いはこれからだ!、で終わるかと思ったわ
続きも楽しみ

935名も無きAAのようです:2015/07/29(水) 09:25:40 ID:qsXlrU8Q0
>>933
フラグ立ててんじゃねえよwwwwwwww

936名も無きAAのようです:2015/07/29(水) 12:28:12 ID:ZDopJZyA0
この後ブンドクとショボプギャで対立するんでしょ?知ってる知ってる

937名も無きAAのようです:2015/07/29(水) 18:07:30 ID:N0ARih6A0
そして東別府の人間と付き合うしぃたん

938名も無きAAのようです:2015/07/29(水) 18:42:43 ID:2UwsNN8Y0
東別府の彼氏が死んだ後、西別府の彼と付き合うしぃたん

939名も無きAAのようです:2015/07/29(水) 23:51:11 ID:KZbXXS.k0
おまえらいいかげにしとけw

まだ未読の人もいるかもしれんだろ

940名も無きAAのようです:2015/07/30(木) 09:00:53 ID:8CqFjcqc0
元ネタ的に仕方無いのかもしれないけど同学年に敬語使ってるのは違和感あるなぁ

941名も無きAAのようです:2015/07/30(木) 10:27:25 ID:MZHpxb5g0
同い年で敬語で喋る人だっているよ
逆に上に対しても敬語使わない人だっているよ

942名も無きAAのようです:2015/07/30(木) 20:41:35 ID:q/xAhoFI0
敬語を使う=年上相手
って思い込んでるんだろうね


たとえ年上でも敬う必要がない人間はいるんだよね
勿論、逆も然り

943 ◆azwd/t2EpE:2015/08/01(土) 02:08:28 ID:QLNhFVxk0
この話でファルロがカルリナに敬語を使っている事情は、一応作中でちゃんと補完する予定です
単にアルファで上下関係があったから、という理由ではないです

個人的にも、高校生が同学年に対し敬語を使うっていうのは普通は不自然で、
何かしら理由があるほうが自然だろうと思うので

944名も無きAAのようです:2015/08/01(土) 08:39:04 ID:FHQTMBjI0
いうほど不自然にも感じない

945名も無きAAのようです:2015/08/01(土) 22:50:38 ID:2lEUofS.0
しぃがホライゾン…ってのはないか

946名も無きAAのようです:2015/08/01(土) 23:16:28 ID:gd5XvRmA0
>>945
む?内藤がホライゾンなのであるよな?
実際対局した吾輩にはもはや疑いようがないのである。

947名も無きAAのようです:2015/08/02(日) 07:51:23 ID:jAa8ATmI0
なんか気持ち悪いよ

948名も無きAAのようです:2015/08/02(日) 08:23:04 ID:wD3xFUZEO
>>946は予想レスは作者の筆を遅らせる元だとオブラートに包んで伝えようとしたのでは

949名も無きAAのようです:2015/08/03(月) 02:06:15 ID:EMRprfJ60
いま久しぶりにポケモンをまた読んでるんだけど、やっぱ面白いわ
金銀編とかあれば読みたいくらい

950名も無きAAのようです:2015/08/03(月) 03:22:18 ID:HtroD/nI0
まさか続ききてたとは思わなかった
懐かしい感じの伏線にオオカミなんかも出てきて、流石でした
読者をにやにやさせるのが本当にうまいね

俺たちの戦いはこれからだ!になるような引きで一向に構わないくらい良かった
でもまた先が読めるということなので、気長に待ちます

951名も無きAAのようです:2015/08/07(金) 01:31:09 ID:XtPy6ehk0
アルファとポケモンの登場人物が出てくるとはたまげたなぁ
また読み返したくなったわ

952名も無きAAのようです:2015/08/07(金) 03:11:41 ID:kAtk1lggO

しかしチート級の能力を持つとはいえ初心者に「高校3年の夏」を終わらせられたロマネスクといよう達が少し不憫な気もするが、勝負の世界にゃこういうのが付き物だからな
それにそう思うのは作者の「敗北者」の書き方が絶妙だからかと

ホライゾンは別に正体不明のまま終わっても良いと思う

953名も無きAAのようです:2015/08/07(金) 20:55:06 ID:9yGbaY.M0
アルファ、ポケモン、野球とか過去作からめちゃめちゃ出てて感動したわ

954名も無きAAのようです:2015/08/07(金) 22:29:07 ID:c/xeUkwM0
過去作からの皆も胸に来る物があったし、大会の素晴らしく熱かったし、ホント続きが楽しみよ

955名も無きAAのようです:2015/08/07(金) 23:32:02 ID:BUJMfyP20
( ^ω^)「ポン、ですお」
このセリフだけでもブーンに恐怖を感じるわ

956名も無きAAのようです:2015/08/08(土) 02:50:37 ID:wC0THsWM0
ほんと、アルファさんは敗北者をかっこよく描くのがうまいよ

957名も無きAAのようです:2015/08/08(土) 19:19:12 ID:0ddkmtSY0
オオカミで爆笑してしまった

958名も無きAAのようです:2015/08/11(火) 14:43:57 ID:.qVdN1AI0
>>849
247待ちで対々 ??

959名も無きAAのようです:2015/08/11(火) 16:54:02 ID:V.6.3czE0
2244555666 888
ってな感じじゃ

960名も無きAAのようです:2015/08/11(火) 17:32:13 ID:NrD78/dQ0
オオカミで爆笑するポイントってなんだったの?

961名も無きAAのようです:2015/08/11(火) 17:41:16 ID:ppsIUhN20
難点はどうにもポケモン陣を人型で想像し直すのが難しいってところだなw

962名も無きAAのようです:2015/08/11(火) 18:17:51 ID:.qVdN1AI0
>>959
おーなるほど!サンクス

963名も無きAAのようです:2015/08/11(火) 18:32:11 ID:Ph6Z5zHA0
乙!熱かった
ポケモンキャラ懐かしいやら、好きだった四中将が出てくるやらで面白かった

>>930
決勝戦前にショボンとプギャーがラウンジに転向するもプギャーが猥褻事件起こして出場停止になるんだろ
知ってる知ってる

964名も無きAAのようです:2015/08/11(火) 23:52:27 ID:qomxR8KE0
10話でおわりかと思ってたら全国編も書いてくれるなんてすげーうれしい
しかもオオカミが出てきたときにはニヤニヤしながら泣いちまったw

965名も無きAAのようです:2015/08/12(水) 22:17:20 ID:no7Uqur.0
そういや大将戦に出てるのは全員ブーンの部下だった面子か
全国編があるなら凄く楽しみだ

966名も無きAAのようです:2015/08/12(水) 22:30:06 ID:KDMN5Yxw0
しかし全国編なんてただの一読者でも、執筆には相当の根気がいるだろうことは想像できちゃう
気づいたら東京五輪きてそう

967名も無きAAのようです:2015/08/13(木) 04:18:46 ID:NxaRMSO60
>>965
すげえ、云われてみれば確かにそうだな

968名も無きAAのようです:2015/08/13(木) 08:24:50 ID:5iJicp7A0
プギャーやしぃがメインにいるのに違和感あったがこれもポケモンからの流れか
スーじゃなくてしぃだけど

969名も無きAAのようです:2015/08/13(木) 09:25:22 ID:0wNaXeUA0
>>965
むしろ東別府からあぶれた面子って感じがする
改めて見るといよぅが全然違うキャラだなww
こっちのいよぅも将来ガチムチになるのかな…

970名も無きAAのようです:2015/08/16(日) 11:32:30 ID:hw1zUEDs0
オーラスのロン牌を見逃してまでスーアンを狙ったりと、笑野が副将戦で終わらせることにこだわってたのは明白なんだけど、内藤の圧倒的な力を見てその笑野の焦りを他校はどう結論づけたんだろうか?

971名も無きAAのようです:2015/08/16(日) 12:26:43 ID:zOJBDbasO
全国を見据えて、ホライゾンの力を見せないで終わらせようとしてたと考えるだろう。対局の録画とかで研究されない為に。

972名も無きAAのようです:2015/08/16(日) 13:46:13 ID:hw1zUEDs0
あとこの県大会は三重なんだな
アルファさんの出身地だからか…

973名も無きAAのようです:2015/08/17(月) 00:19:18 ID:jdHVKW5g0
マンガ描きました
次回も楽しみにしています

http://vippic.mine.nu/up/img/vp154488.jpg
http://vippic.mine.nu/up/img/vp154489.jpg
http://vippic.mine.nu/up/img/vp154490.jpg
http://vippic.mine.nu/up/img/vp154493.jpg

974名も無きAAのようです:2015/08/17(月) 00:30:24 ID:dwgcs6oI0
アルファベット持ち出してんじゃねーよ!www

975名も無きAAのようです:2015/08/17(月) 00:44:35 ID:609fnfbQ0
四コマに向いてるな

976名も無きAAのようです:2015/08/17(月) 00:50:06 ID:T/acnXNc0
夢のコラボだ

977名も無きAAのようです:2015/08/17(月) 00:57:37 ID:T/acnXNc0
と思ったけどこの人アルファベット漫画化してたな
この2人の親和性高い

978名も無きAAのようです:2015/08/17(月) 00:59:00 ID:YUtWVSmc0
おもしろいw

979名も無きAAのようです:2015/08/17(月) 01:16:02 ID:gfRFGS760
4コマの人じゃねえかwwwwwwww

980名も無きAAのようです:2015/08/23(日) 13:37:41 ID:U.ES.0J20
すごく面白くて一気に読んでしまった
ただ気になることが1つある……
この作品のペニサスは伊藤奈々って名前なのになんでペニちゃんって呼ばれてるんだろう…?

981名も無きAAのようです:2015/08/23(日) 14:33:53 ID:SkikNvmQ0
そこに気づくとは天才か

982名も無きAAのようです:2015/08/23(日) 16:19:43 ID:22JLT0/.0
ふたなりなんだろう

983名も無きAAのようです:2015/08/23(日) 16:40:16 ID:V2Xz6siE0
ミドルネームかもしれん

984名も無きAAのようです:2015/08/24(月) 12:42:10 ID:bI4LmB1o0
おいおい
伏線潰してどうするんだ

985名も無きAAのようです:2015/08/24(月) 21:45:26 ID:MvcS4dcsO
初心者なのに達人と全員勝手に勘違いって一歩間違えばカメレオン並のギャグ展開をよくシリアスで乗りきったな

986 ◆azwd/t2EpE:2015/08/27(木) 00:55:31 ID:tdzXkVjM0
皆さんいつもありがとうございます
ひとつひとつのレスが嬉しい限りです

>>966
そうですね、相当に根気は要りそうですが、のんびりまったりやっていけたらと思います
なるべく完結させられるように頑張ります

>>973
wwwwww

>>980
多分いずれ作中で由来を説明する機会があるんじゃないかなぁと思います
変なあだ名の付け方はしぃの特徴ですね

>>985
カメレオンは読んだことないですけどジゴロ次五郎は読んでました、面白かったです
あと似た系統で言うと個人的にはエムゼロが凄く好きでしたね
勘違い系は書いてみると難しいですけど楽しいです

987名も無きAAのようです:2015/08/27(木) 06:24:41 ID:EyeMehao0
エムゼロの叶先生はカメレオンが好きで勘違い系無双主人公が描きたかったらしいからな

988名も無きAAのようです:2015/08/31(月) 05:47:46 ID:c1s.oscs0
ドクオの名字の読みってぶすじまかどくしまかどっちだろ

989名も無きAAのようです:2015/09/02(水) 12:02:48 ID:gB/z5Nhg0
三周年記念カキコ

990名も無きAAのようです:2015/09/03(木) 13:12:39 ID:fJHCygXk0
乙乙
この作品のおかげで麻雀のルール覚えた
アプリから始めるかな…

991名も無きAAのようです:2015/10/09(金) 20:50:28 ID:YElmC/NM0
ポケモンキャラクソなつかしす
読み返してくるか~

992名も無きAAのようです:2015/10/24(土) 21:17:02 ID:417Yswcc0
オオカミの四将は相変わらずってか別世界でも同じ苦労で胃を痛めてるミルナさんカワイソス

993名も無きAAのようです:2015/11/03(火) 13:51:51 ID:RUebUxDw0
全国編楽しみ
あくあく

994名も無きAAのようです:2015/11/03(火) 15:59:10 ID:fVYzpiIs0
おはようございます。
本日、20時出勤大丈夫でしょうか

995名も無きAAのようです:2015/11/03(火) 16:02:39 ID:3EYQU7tQ0
?!
もちろん大丈夫です!!!
社員一同お待ちしております!!

996名も無きAAのようです:2015/11/03(火) 16:32:22 ID:XBKk1jao0
期待

997名も無きAAのようです:2015/11/03(火) 16:39:20 ID:ERDl3TCM0
久々に全裸待機だ

998名も無きAAのようです:2015/11/03(火) 17:30:14 ID:NdMKJw9k0
酉がない

999名も無きAAのようです:2015/11/03(火) 18:03:20 ID:sdUVAjzg0
うーん・・

1000名も無きAAのようです:2015/11/03(火) 23:09:50 ID:2Blfu82w0
>>1000なら年内に新作

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