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('、`*川 フリーターと先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)- 1 :※若干閲覧注意:2012/08/04(土) 01:02:56 ID:0h2q.rK.O
-
(´・_ゝ・`)「君はきっと、僕より優れているのかもしれないね。
こんなこと、フリーター風情に言いたくはないけど」
私はその日、初めて「先生」に認められた。
少し嬉しかったから、いくつか、話をしようと思う。
フリーター風情の私が、教授センセーのクソジジイに振り回される話を。
いま思い出しても腹の立つような、しょうもない怪談を。
まずは、私と「先生」が出会った話から。
- 2 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:03:47 ID:0h2q.rK.O
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('、`*川 フリーターと先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)
.
- 3 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:06:43 ID:0h2q.rK.O
-
私が掛け持ちしているアルバイト先の一つに、コンビニがある。
色々と曰く付きのコンビニなのだけれど、ある夜、私は店長に呼び出された。
(´・_ゝ・`)
お客さんが入ってきたことで、私は目を覚ました。
立ったまま寝ていたらしかった。
慌てて、入口のお客さんに微笑みかける。
('ー`*川「いらっしゃいませー」
お客さんはちらりと私を一瞥し、
(´・_ゝ・`)「よだれ」
とだけ言って、奥の方へ歩いていった。
口元を拭うと、よだれが垂れていた。
ものすごく恥ずかしかったのを覚えている。
今にして思えば、こんな奴に羞恥心を覚える必要もなかったのだけど。
- 4 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:08:41 ID:0h2q.rK.O
-
('、`;川(深夜のコンビニがこんなに退屈だとは思わなかった……)
無意味にも、心の中で言い訳しておいた。
だって、店内に自分以外の人間がいないという状況が長いこと続けば、
うたた寝くらいしてしまうだろう。
時計を見れば、深夜1時45分。
そんな時間にコンビニのレジに立たされるのは初めてだった。
というのも、夜勤は基本的に男性従業員に任せているのだけれど
この日はどうしても、急用だとか急病だとかで人手不足に陥ってしまった──らしい。店長いわく。
故に、暇だった私が駆り出されたのである。
店長はといえば、このとき、裏の事務所で仮眠をとっている。
あと少ししたら交代、というところだった。
- 5 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:11:45 ID:0h2q.rK.O
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(´・_ゝ・`)
ぶらぶらと棚の間を歩くお客さんを、こっそり観察してみる。
50代か60代か。大体それくらいの男性。
すらりとした長身、細身。
ワイシャツの上にグレーのベスト、同色のスラックスを身に着けていて、
清潔感を感じさせるような、小綺麗な身なりの人だった。
('、`*川(『先生』って感じ)
ぴんと背筋を伸ばして歩く彼からは、どこか、そういった呼称が似合いそうな印象を受けた。
教師とか医者とか弁護士とか。
この直感が正しかったのを知るのは、もう少し後のことだ。
高校時代にああいうタイプの教師がいたけど、私はその教員が苦手だった。
冗談も通じないような堅物で頑固者で、やりづらいったらない。
あまりじろじろ見るのも失礼なので、程々のところで視線を外した。
彼以外にお客さんはいない。
とりあえず、目に入った商品のメーカーを当てる1人クイズにでも興じることにした。
そうする内、店の中を一周したらしい男性が、レジの前に立った。
- 6 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:14:32 ID:0h2q.rK.O
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(´・_ゝ・`)「──君。ええと……伊藤君」
('、`*川「はい?」
先生──彼こそが冒頭の「先生」なので、もう、先生と呼ぶことにする──は私の苗字を呼んだ。
びっくりしたが、何てことはない。
先生の視線の先には、「伊藤ペニサス」という、私の胸についた名札があった。
どうしました、と問う。
目当ての商品が見付からなかったのだろうと思っていた。
しかし、先生は一度振り返ってから、馬鹿らしいにも程がある言葉を口にしたのである。
(´・_ゝ・`)「ここに幽霊が出ると聞いたんだけど、本当かい?」
('、`*川「──はあ?」
第一夜『幽霊が出るコンビニ』
.
- 7 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:17:38 ID:0h2q.rK.O
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(´・_ゝ・`)「以前は、この近くに踏み切りがあったんだ。
今はもう高架になってしまったけど」
突然にも突然すぎる問いに私が硬直していると、
先生は息をつき、何か話し始めた。
(´・_ゝ・`)「それまで、踏み切りでは事故や自殺が多発していたらしい。
悩みを抱えた男が飛び込んだり、少女がボールを取りに行こうとしたり、犬が入り込んだり……」
はたと我に返る。
私は、精一杯、己が出来る限りの「呆れた表情」を浮かべてみせた。
('、`*川「たしかに噂はありますけど……」
このコンビニには、まことしやかに囁かれる怪談があった。
彼の言うように、十数年前まで近くに踏み切りがあったのは事実だし、
そこで死亡した人や動物が複数いたのも本当。
踏み切りが高架になって、少ししてから出来たのがこのコンビニ。
あとは誰もが予想する通り。
「踏み切りで亡くなった霊がコンビニに現れる」──という噂が、
どこからともなく出回るようになったのだ。
- 8 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:20:43 ID:0h2q.rK.O
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(´・_ゝ・`)「君は見たことあるのかな?」
('、`*川「ありませんね。
まあ、この時間に来るのは今日が初めてですけど」
(´・_ゝ・`)「ふむ……」
('、`*川「店長も、そういうことは一度もなかったって言ってました」
知り合いに、霊関係と仲のいい──所謂「霊感少女」がいる手前、
幽霊の存在そのものを否定するつもりはない。
でも、誰よりも店に詳しい店長が「何もない」と言うのだから、
まあそうなのだろうなと、このときの私は納得していた。
ああ、自分の馬鹿さが恥ずかしい。
('、`*川「夜勤入ってる人の話だって、変な音がしただの何となく人の気配がしただの、
すごく曖昧で胡散臭いものばかりでしたし」
(´・_ゝ・`)「ふん。ふんふん……んー……」
先生は顎を擦り、残念そうな声を出した。
彼の外見から真面目そうな印象を抱いていたが、違った。
たまに来る(と聞く)、冷やかし半分に好奇心を満たそうとする類の人間だろう──と私は判断した。
本当は、もっとタチの悪い男だったのだけれど。それはまた別のときに。
- 9 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:22:55 ID:0h2q.rK.O
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(´・_ゝ・`)「なるほどねえ」
('、`;川「……あ! ちょっと!?」
ぱりぱりと音がする──と思ったら、先生が、
レジ前に置かれている飴玉の包装を勝手に剥がしていた。
赤色の球形が彼の口に放り込まれる。
お金! と私が怒鳴ると、彼はポケットから財布を取り出し、
その中の50円玉を一枚、指で弾くように寄越してきた。
(´・_ゝ・`)「今回も無駄足だったかなあ……」
言いながら、彼は後ろの方へ目をやった。
もう誰でも分かると思うが、彼は、常識に欠けるタイプの人間である。
これはまだまだ序の口程度だったのだけども。
('、`;川(だから夜勤って嫌なのよう……)
- 10 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:23:54 ID:0h2q.rK.O
-
からから、飴玉が歯に当たる音が聞こえた。
(´・_ゝ・`)「君、幽霊って信じる?」
無視しようか。
逡巡して、私は溜め息をつきながら首を縦に振った。
('、`*川「いると思いますよ」
(´・_ゝ・`)「やあ、そうかそうか」
先生の声が僅かに明るくなる。
(´・_ゝ・`)「僕もそうなんだ。でも、見たことはないんだよね。
不思議だねえ。どんなものなんだろう、幽霊って。
足のない幽霊と足のある幽霊とがいるけど、違いは何なんだろう?」
('、`*川(知らんがな……と言えるなら言ってやりたい)
(´・_ゝ・`)「何だか妙に心引かれるものがあるよね。
知りたいなあ、見てみたいなあ」
たとえばこのコンビニ、と言って、先生は雑誌コーナーを見遣った。
まだ続くのか、この話。
私はうんざりしきっていた。
- 11 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:25:43 ID:0h2q.rK.O
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(´・_ゝ・`)「噂通りなら、深夜2時過ぎ辺りが一番『出る』らしい。丑三つ時ってやつだね。
霊の姿は目撃者によってまちまちだけど、不思議と共通する点がある。
およそマトモな形をしていないとか何とか」
('、`;川「はあ……」
( ・∀・)「あ、いらっしゃいませー」
('、`;川「! 店長!」
レジ横のドアが開き、店長が現れた。
欠伸を噛み殺しつつ先生に声をかけている。
このときの私は、心底ほっとした顔をしていたに違いない。
( ・∀・)「お疲れ。裏、行っていいよ」
('、`;川「はい」
気の毒だけど、奇人の相手は店長に任せることにした。
少なくとも私よりは慣れている筈。
- 12 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:27:16 ID:0h2q.rK.O
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( ・∀・)「──っと、そうだ、トイレの掃除してくれる? それが済んだら休憩入って」
('、`;川「分かりました」
あの変人に絡まれるよりかは、よっぽどましだ。
私は、先生に近付かないように気を付けながら店の奥へ移動した。
ドアの向こうは、タイル張りの狭い部屋になっている。
左手側にトイレの個室が一つと、その隣に掃除用具が入ったロッカー。
個室の真向かいには洗面台があった。
トイレを覗き込む。
掃除とは言っても、大して使用者がいなかったのか、然程汚れていない。
ゴム手袋を着け、洗剤とブラシをロッカーから取り出した。
('、`*川(さっさと終わらせよう)
個室の扉を閉め、とりあえず鍵は掛けないまま、掃除に取り掛かった。
*****
- 13 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:29:16 ID:0h2q.rK.O
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ふと、肌寒さを覚えた。
手を止めて辺りを見渡しても、窓が開いている様子はない。
トイレには冷房なんか入っていないので、夏の夜には寧ろ蒸し暑いくらいなのに。
('、`*川「……」
腕時計は2時を過ぎた頃を指していた。
(´・_ゝ・`)『深夜2時過ぎ辺りが一番「出る」』──
先生の言葉が脳裏を過ぎる。
よりにもよって、その状況で。
- 14 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:31:10 ID:0h2q.rK.O
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('、`*川「……もういいかな」
何だか気味が悪いので、切り上げることにした。
水洗レバーを捻り、便器の中の洗剤を流す。
水が渦を巻いて吸い込まれ、洗剤が全て落ちていくのを眺めた。
芳香剤の残量が充分なのを確認して、
──ぴちゃぴちゃと、水音がするのに気付いた。
('、`*川「?」
トイレの水は既に止まっている。
どこかから漏れている気配もない。
首を傾げながら振り返ると──
('、`*川(……え)
扉から床までの数センチの隙間。
そこに、足があった。
- 15 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:34:06 ID:0h2q.rK.O
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血の気のない肌。
靴を履いていない。
ほとんどの指があらぬ方向に曲がったり中ほどから千切れたりしていて、
右足の親指は爪が半分ほど剥げ、上向いた爪に肉片がこびりついている。
足の甲はずたずたに引き裂かれ、踝の辺りから骨が突き出ていた。
それだけでも悍ましい光景なのに、傷口から流れる液体がまた奇妙だった。
血──というより、墨汁のようなどす黒さ。
それが床に流れ、じわじわ広がっていく。
麻痺していた頭が、ようやく動き出した。
きしきし、扉が揺れている。
咄嗟に扉の把っ手を押さえ、鍵を掛けた。
扉に凭れるように両手をつき、頬を押しつける。
そうしないと、膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
ぼそぼそ、向こうから声がする。
何を言っているかは分からないけど、恐怖で涙が出そうで堪らなかった。
- 16 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:35:22 ID:0h2q.rK.O
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店長を呼びたいのに声が出ない。
足元で、黒い水が侵食範囲を広げている。
逃げ場がない。
──目の前を、何かが上から下へ落ちていった。
黒い。液体。
扉を伝って垂れている。
上から。
私は、よせばいいのに視線を上げた。
- 17 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:39:22 ID:0h2q.rK.O
-
顔が並んでいた。
ほとんどが潰れていたり抉れていたりして定かではないのだが、
年齢や性別はそれぞれ違うように見えた。
それらが、扉の上に並んでいる。
最も酷いものは鼻から上がなく、そこから糸のようなものを何本もぶら下げ、
それらにゼリー状の何かを纏わせていた。
捲れた肉が口を覆い、今にも千切れそうなほど頼りなく揺れている。
目玉なんて無くなっているものばかりなのに、私を「見ている」のは分かった。
白い扉が黒く染められていく。
私は後ずさり、便器にぶつかると、そこに腰を落とした。
荒い呼吸が耳につく。
それが自分のものでなく、すぐ後ろから聞こえるものなのだと気付いた瞬間、
ぬらりとした感触が私の頬を撫でた。
*****
- 18 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:42:16 ID:0h2q.rK.O
-
(;・∀・)「あ、起きた!」
目を開けると、店長がほっとしたように息をつくのが見えた。
('、`;川「……店長……」
体を起こす。
ロッカー、防犯カメラのモニター、白いテーブル。
見馴れた事務所。
私が身じろぎすると、ぎし、という音が腰の下で鳴った。
並べたパイプ椅子に寝かせられていたようだ。
(;・∀・)「トイレからペニサスちゃんの悲鳴が聞こえてさ、びっくりしたよ。
覚えてる?」
('、`*川「トイレ……」
頭を押さえて記憶を手繰り──さっと青ざめるのを感じた。
どうやら、あの後、気絶したらしかった。
頬がぴりぴりするので、店長に鏡を要求する。
妙なものに撫でられた部分が、僅かに赤くなっていた。
- 19 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:43:56 ID:0h2q.rK.O
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(;・∀・)「トイレの鍵が閉まってたから開けるのに苦労するし、
いざ開けたら君は気絶してるし……。
この方に、運ぶの手伝ってもらったんだよ」
(´・_ゝ・`)「やあ」
('、`;川「あっ」
少し離れたところに、先生が立っていた。
彼の肩越しに、壁掛け時計が目に入る。2時半。
不意に、来店を知らせるメロディーが響き渡った。
店長が慌てて店へと駆けていく。
私と先生の2人が残された。
(´・_ゝ・`)「大丈夫かい」
('、`;川「……はあ。多分。……えっと、ありがとうございました」
(´・_ゝ・`)「幽霊見た?」
こいつ。
大丈夫かと訊ねたときの声は抑揚がなかったのに、
その質問は大変浮き浮きした声だった。
- 20 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:45:39 ID:0h2q.rK.O
-
「あれ」が幽霊だったかどうかなど考えたくない。思い出したくもない。
口を噤み、そっぽを向く。
でも、沈黙はある種、何よりも雄弁な答えとなるもので。
(´・_ゝ・`)「そうかあ。いいなあ。どんなのだった?」
('、`*川
(´・_ゝ・`)「詳しく教えてくれないかな。どんな風な見た目で、どんな風に出てきたんだい?」
('、`#川
(´・_ゝ・`)「足はあった? 男だった女だった動物だった? ねえ──」
('、`#川「うっるせえな黙ってろ!!!!!」
(;・∀・)「ぎゃぴいっ!?」
私が怒鳴ると同時に、戻ってきた店長がびくりと跳ね上がった。
私と先生を交互に見遣って、恐る恐る口を開く。
- 21 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:48:11 ID:0h2q.rK.O
-
(;・∀・)「えっと……今日はもう帰っていいよ」
('、`#川「そうさせてもらいます」
勢いよく立ち上がり、先生を睨んでからロッカーに移動する。
先程の体験に対する恐怖が、彼のせいで妙な方向に捩じ曲がって
苛立ちへとシフトしていた。
兄なら起きているだろうから、連絡して迎えに来てもらおうと考えながら
ポケットの携帯電話を探す。
( ・∀・)「お客様も、もうお帰りになって大丈夫ですよ。彼女も元気そうですし……」
(´・_ゝ・`)「そうだね。残念ながら話も聞けそうにないし」
ふと。
ある疑問が浮かび上がった。
- 22 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:49:16 ID:0h2q.rK.O
-
('、`*川「店長」
( ・∀・)「ん?」
('、`*川「お客さんはどうしたんですか?」
( ・∀・)「何が?」
('、`*川「さっき。来店の音楽鳴ったから店の方に出てったでしょ?
なのに、すぐ戻ってきたじゃないですか」
( ・∀・)「……」
不自然な沈黙。
振り返った先生は、店長の顔を一瞥した後、モニターの傍へ寄っていった。
モニターが映す店内には、誰もいない。
( ・∀・)「……うんとね、誰も来てなかった。
たまにあるんだよ。壊れてるのかもしれないね。ははは」
早口に答える店長の声は、感情が籠っていなかった。
- 23 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:50:36 ID:0h2q.rK.O
-
気になることはもう一つ。
トイレで悲鳴をあげて気絶していた私に、少しも理由を訊ねないというのも
おかしいんじゃなかろうか。
('、`*川「……」
( ・∀・)「……」
('、`*川「……店長」
( ・∀・)「うん?」
('、`*川「店長、前に、怪奇現象とかそういうのは『何もない』って言いましたよね」
( ・∀・)「言っ……た、かな?」
('、`*川「あれ、本当ですか?」
( ・∀・)「……」
- 24 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:51:34 ID:0h2q.rK.O
-
──たっぷり間をあけて、結局、店長が無言のまま微笑んだので。
近日中に辞めてやろうと私は決意したのであった。
第一夜『幽霊が出るコンビニ』 終わり
- 25 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:53:16 ID:0h2q.rK.O
- 百物語に出そうと思ったけど、続き物にしたくなったので書き直して再利用
それでは今夜はこの辺で
- 26 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 01:55:20 ID:eRzhPtJc0
- 乙。怖い。でも最後まで読める。
- 27 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 02:00:18 ID:OgRJ04vs0
- 深夜に良いものをやってくれるね
続きを楽しみにしてる
おつ
- 28 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 04:11:02 ID:WjXvm2hQ0
- 乙
真剣に怖かったんだが……
続き楽しみにしてる
- 29 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 14:24:48 ID:yUJbNxh.0
- 面白い
- 30 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 17:27:29 ID:8em6R0520
- これから楽しみ!
- 31 :名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 23:45:06 ID:Tt3RxLA20
- おくればせながら乙!
まってる
- 32 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 00:55:00 ID:dqBQmbIQO
-
('、`*川「ありがとうございましたー」
あの夜勤の日から1週間と少し。
日曜日の午後だった。
辞めてやると決意したものの、何となく切り出すタイミングを掴めずにいた私は
その日も例のコンビニで働いていた。
客足が一旦途絶えたので、私は、先刻出ていったお客さんが乱雑に放置した雑誌を整理するために
棚の前に移動した。
すると、少し離れた場所で立ち読みしていた男が私の近くへ寄ってきた。
雑誌で顔を隠しながら、す、す、と横歩きに近付いてくる。わざとらしい動き。
いらっと来た私は、男の手から雑誌を奪い取った。
(´・_ゝ・`)「あ」
('、`*川「何か用? 先生」
すっかり顔馴染みとなった男を睨む。
彼──先生は、気付いてたのか、と、つまらなそうに呟いた。
- 33 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 00:56:25 ID:dqBQmbIQO
-
大変奇妙なことに、そして大変迷惑なことに、
彼は、幽霊とかそういったものに並々ならぬ興味を抱いている。
前回の私と店長の会話から
このコンビニは「出る」ぞ、と確信したらしい先生は、
結構な頻度で昼といわず夜といわず来店していた。
この1週間強で、もう3、4回は顔を合わせたことになる。
お陰様で、互いに顔と名前を認識出来るようになってしまった。
正直、あまり嬉しいことではない。
('、`*川「私バイト中だから、先生に構ってる暇ないんだけど」
雑誌の表紙を眺めながら言う。
「心霊写真特集」の見出し。胡散臭い。
(´・_ゝ・`)「何でもいいからさ、怖いことない?」
('、`;川「はあ?」
- 34 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 00:58:29 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「どうやら、このコンビニの霊は僕に会ってくれないみたいだし。
ここでの怪異は諦めようと思ってさ。
で、何かオススメの心霊スポットとか、もしくは怪奇現象の悩みとかない?」
──このとき、私が自分の行動圏内から遠く離れた場所を挙げるなり、
「ない」と答えるなりしていれば、
恐らくもう、この男と関わることはなかっただろう。
だが、咄嗟にそこまで思考が至らなかった私は思わず、
('、`*川「……友達から、心霊写真は預かってますけど」
そう答えてしまった。
ああ、出来ることなら、当時に戻って私をぶん殴りたい。
第二夜『心霊写真』
.
- 35 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 00:59:02 ID:ojuScaXM0
- やっべ二話来てるとか嬉し過ぎるんだけど
支援
- 36 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 00:59:55 ID:exf7a76c0
- ねむれなくなっちゃうよ
- 37 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:01:53 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)
──盛岡デミタス。それが先生の名前。
2度目に再会したときに自己紹介された。
VIP大学で教鞭を執っているのだと聞いている。
なので、私は彼のことを先生と呼ぶことにした。
大学では経済について教えているそうだ。
おおよそ彼が好む幽霊やら何やらとは関係なさそうな学問だったので、少し拍子抜け。
そもそも、50代後半という歳に不相応なほど気ままで勝手な性格の彼に、
教授という職業が向いているのかどうかすら甚だ疑問だった。
高校を卒業し、フリーターとなってアルバイト三昧の生活を送っている私には、
「教授」なる立場の人間はあまり馴染みがないから分からない。
- 38 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:03:28 ID:dqBQmbIQO
-
さて、先生の紹介はこれくらいにして、話を進めよう。
(´・_ゝ・`)「──ううん……」
夕方。駅前のショッピングモール。
そこにあるファミリーレストランで、私と先生は向かい合っていた。
話すなら何か食べながら、と主張する先生に、
アルバイトが終わって早々ここに連れてこられたのだ。
時間帯もあってか、店内はなかなか賑やかだった。
('、`*川「……先生?」
カレーライスが食べたいと言っていた先生は、メニュー表を前にして
かれこれ10分ほどうんうん唸っていた。
- 39 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:05:13 ID:dqBQmbIQO
-
('、`*川「どうかしました?」
(´・_ゝ・`)「お子様ランチっていうのは、大人は頼めないのかな」
('、`*川「……おとなしくカレー頼みましょうね」
(´・_ゝ・`)「でもお子様ランチだとカレーに海老フライが付いててさ」
('、`*川「カレーと一緒に海老フライ単品で頼めばいいでしょ」
(´・_ゝ・`)「単品? メニューには書いてないけど」
('、`*川「頼めば出来ますよ」
ここは、私の数あるバイト先の一つである。
故に、対応可能な範囲は分かる。
とりあえず、先生は私の案に落ち着いてくれた。
- 40 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:06:29 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「それで、写真は?」
注文を済ませた後。
夕飯はいらない、と母にメールを送った私に、
先生はドリンクバーから持ってきたホットコーヒーを啜りながら訊ねた。
携帯電話を鞄にしまい、それと入れ替えるようにクリアファイルを取り出す。
シフト表などと一緒に挟まれていた封筒を、先生に手渡した。
('、`*川「どうぞ」
先生は封筒を開き、中から一枚の写真を出した。
テーブルの中央に置く。
【( ^Д^)(=゚ω゚)ノ从'ー'从】
写真に写っているのは2人の男と1人の女。私と同い年くらいの。
3人共、少々目立つ格好をして、おちゃらけたポーズを決めていた。
頭の悪そうな子達だなあ、と呟いた先生が、ふと1人の男に目を止める。
- 41 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:08:21 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「あれ。左の子、プギャー君じゃないか。
うちの学部の学生だよ。講義はよくサボるけど。
伊藤君、知り合いなの?」
('、`*川「そうなんですか? 男の方は2人とも知らない人です」
先程ドリンクバーで注いできたメロンソーダで喉を潤し、私は答えた。
知り合いである女の子の方も、大して交流はない。友達の友達、程度。
右下の一週間前の日付を見てから、先生は唸った。
(´・_ゝ・`)「……ああ、これ、右の」
('、`*川「そう。右の女の子の横」
私は頷き、先生の視線の先にあるものを指差した。
右端の女の子にくっつくようにして、妙なものが見える。
(´・_ゝ・`)「人、だよなあ……」
('、`*川「だと思いますよ」
カメラのライトであろう光に照らされた3人。
その中で、「それ」は一際真っ白に、
まるで写真に直接描き込まれたかのようにくっきりと浮かび上がっていた。
くっきりと、とは言っても、所々が擦れて背景に溶けているし、
影などがないので「それ」自体は平面的に見える。
- 42 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:10:18 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「ふむ」
先生は、興味津々といった様子で顎を摩って前のめりになった。
「それ」は、辛うじて人の形を保っていた。
てっぺんには頭らしいシルエット。そこから首、肩、と続いている。
ただ、やはり、顔だとか服の種類までは判別出来ない。
(´・_ゝ・`)「子供かな」
('、`*川「多分……」
女の子の腰ほどの高さしかないので、恐らくは子供だ。
全体的に小さくもある。
眉間に皺を寄せていた先生は、ふと片眉を上げた。
(´・_ゝ・`)「これ、あれか。あの家でしょ」
('、`*川「家?」
- 43 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:13:12 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「知らない? 隣町の有名な心霊スポット。
今や誰も住まぬ、殺人現場」
('、`;川「殺人……あ、一家皆殺しですっけ?」
10年前、隣町で凄惨な殺人事件が起こった。
気の触れた男が赤の他人の家に侵入し、
そこに住んでいた父母と幼い息子を包丁で刺し殺す──という事件だった。
通報を受けた警察が現場に駆けつけたとき、
その男は子供の遺体で遊んでいたという。
検死の結果、即死だった両親に対し、
子供は長時間にわたり苦痛を与えられた後に死んでいたという、惨たらしい事実が判明した。
結局、心神喪失を理由に、男が罪に問われることはなく。
それを巡って、各メディアが騒いでいたような記憶がある。
- 44 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:14:49 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「そうそう。後はお決まりの流れでね。
殺された一家の幽霊が出る出ないの噂がたくさん……」
('、`*川「その家、誰も住んでないんですか?」
(´・_ゝ・`)「事件から1年後ぐらいに住んだ人がいたようだけど、すぐに引っ越してる。
これもまた、噂が広まった原因だろうね。
──大方、その噂を聞いて肝試しにでも行ったんだろうね、この子らは」
この子ら、と写真を見下ろす先生。
私は、前回のトイレでの光景を思い出して身震いした。
私なら肝試しになんか行こうとも思わない。
('、`*川「へえ……。
……でも先生、よく、この写真だけで場所が分かりましたね」
(´・_ゝ・`)「後ろの柱を見てごらん」
先生が、3人の背後を指差した。
木目の浮かぶ柱。
- 45 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:16:15 ID:exf7a76c0
- 先生なら既に行ってそう
- 46 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:16:41 ID:ojuScaXM0
- こえー…
夜中に読むべきでは無いけど追ってしまう不思議
- 47 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:17:03 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「ここに、僕が以前訪れたときに残した落書きがある」
よく見ると、刃物で彫ったような跡が確認出来た。
口にするのも憚られるような、低俗で幼稚な落書きだった。
('、`*川「……」
(´・_ゝ・`)「何だい、その目」
('、`*川「死ぬほど下らないことしてますね」
心霊スポットで記念撮影する3人とどっこいどっこいだ。
(´・_ゝ・`)「別に僕は、遊びだとか度胸試しのつもりで描いたんじゃないよ。
幽霊さんを怒らせるためにやっただけだ」
('、`*川「怒らせてどうするの」
(´・_ゝ・`)「そしたら僕の前に出てくれるかもしれないだろ?
結局何も起きなかったけどさ」
('、`*川「この人、馬鹿なんじゃないの……」
馬鹿である。
そこへ、料理を抱えたウェイトレスさんがやって来た。
慌てて、心霊写真を隅に寄せる。
先生の前にカレーライスと海老フライ、私の前にナポリタンの皿が運ばれた。
ウェイトレスさんは、「ごゆっくり」と一礼して立ち去っていく。
- 48 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:19:12 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「こういうシーンだと、2人しかいないのに
3人分の水が運ばれてきたりするのが定番なんだけどな」
('、`*川「はいはい」
しょうもないことを言いながら、先生はカレーライスをスプーンで掬った。
視線は心霊写真へ移している。
よくもまあ、そんなものを眺めながら食事が出来るものだ。
溜め息をつきつつフォークを取って──私は、ぎょっとした。
('、`;川「!?」
視界の隅、自分の横に、何かがいたように見えた。
慌てて顔を横向けるも、そこにあるのは長椅子の生地だけ。
(´・_ゝ・`)「どうかした?」
('、`;川「……いや。……む、虫が飛んでてびっくりしただけです」
気のせいだろうか。
さっきのは、細い、子供の足に見えた。
*****
- 49 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:21:03 ID:dqBQmbIQO
-
すっかり日も暮れて。
私は、先生が運転する車の助手席に座っていた。
(´・_ゝ・`)「先に、大学に寄ってっていいかな。
知り合いに渡す書類を取りに行きたいんだ」
('、`*川「はい」
──まず、軽く経緯を説明すると。
ファミリーレストランで食事を終えた後、先生の携帯電話に着信があった。
何やら小難しいことを言っていて内容は分からなかったけど、
どうやら誰かに呼ばれたようだった。
そしてレストランに来る客が増えてテーブルがいっぱいになっていたのもあって、
話の続きはまた今度、ということになったのだ。
恐らく社交辞令であろう「暗いし車で送ろうか」という先生の言葉に、私は頷いた。
その瞬間、露骨に嫌な顔をされたが気にしない。
まず大学に寄るというので、私はシートに凭れて、軽く目を閉じた。
先生の用事が済むまで少し休むことにした。
車が動き出す。
- 50 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:23:06 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「──あの心霊写真」
しばし黙って運転していた先生が、不意に、口を開いた。
瞼を持ち上げ、何ですか、と答える。
(´・_ゝ・`)「友人が君に預けたんだっけ?
その友人って、写真に映っている内の誰か?」
('、`*川「いえ。あの写真の右端の女の子いたでしょ?
あの子……渡辺ちゃんっていうんですけど、
渡辺ちゃんの友達が私に寄越したんです。その子は渡辺ちゃんから貰ったって」
(´・_ゝ・`)「んん? じゃあ写真を手にしたのは、少なくとも君で3人目なのか。
どうして全く関係のない君に渡ってきたんだろう?」
('、`*川「私、高校生の弟がいるんですけどね。
弟の幼馴染みに──えっと、そういうのが好きな女の子がいるんです。女子高生の」
本当は、そういうのが好き、ではなく、霊やら何やらが「見えてしまう」体質の子なのだけれど。
うっかり先生に話そうものなら、その子に迷惑が掛かりかねない。
- 51 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:24:45 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「ほう」
('、`*川「それで友達が、『その子にあげたら喜ぶんじゃないか』って言って……。
……多分、心霊写真持ってるのが嫌だったんじゃないですかね」
(´・_ゝ・`)「なるほどね。
渡辺さんから友達へ、友達から君へ、君から女子高生へ……。
心霊写真は転々と、か」
私は、例の写真を鞄から出した。
窓を通してちらちらと不定期に差し込む光を頼りに、写真を眺める。
正直、ただ真っ白な影が映っているだけだ。
テレビで見るような、恐ろしい顔をした霊とか体の一部が消えているとか──そういう、
いかにもおどろおどろしいものではない。
- 52 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:28:34 ID:TydH740A0
- こんな時間にホラーとは……
支援!
- 53 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:29:15 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「……その写真、いつ貰ったんだい」
('、`*川「今朝。バイトに行く途中、道端で会って」
(´・_ゝ・`)「今朝? 道端でってことは、会う約束はしてなかったんだね」
('、`*川「はい。実は会うのも何ヵ月かぶりだったんですよ。
心霊写真を見て、さっき話した女子高生のことを思い出したらしいんです。
前に、その子について少しだけ友達に話したことがあったんで」
(´・_ゝ・`)「で、君の家に来る途中でばったり会ったと。それは何時頃だった?」
('、`*川「ええと、掃除のバイトに行くときだったから……結構早かったですよ。
7時前とか、それくらい」
先生は、ちょっと妙な表情をした。
真剣に考え込んでいるような、何かを面白がっているような。
(´・_ゝ・`)「……最初からあの封筒に入ってたの?」
('、`*川「入ってました」
(´・_ゝ・`)「その子、変わった様子はあった?」
('、`*川「……特には」
ふうん、と先生が頷く。
それから何となく、2人共、口を閉じた。
- 54 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:31:35 ID:dqBQmbIQO
-
先生は、VIP大学の駐車場に車を停めた。
私を助手席に残し、先生はエンジンをかけたまま降車する。
(´・_ゝ・`)「ちょっと待ってて」
('、`*川「はあ」
大学へ歩いていく先生の背中を、本当に教授なのだなと思いながら見つめる。
冷房の風が私の襟元を撫でた。
駐車場には他に何台もの車が停まっている。
午後7時半。
大学を見遣ると、明かりのついている窓が多く目についた。
高校時代、部活には入っていなかったけど、委員会の仕事などで夜まで学校に残ることが何度かあった。
そういった日に、外から校舎を見たときは真っ暗な印象を抱いたのに。
('、`*川(大学って明るいのねえ)
- 55 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:33:01 ID:dqBQmbIQO
-
──ふと。
何気なくルームミラーを見て、ぎくりとした。
咄嗟に視線を外し、胸元を押さえる。
('、`;川(……いやいや……)
足が見えた、気がした。
- 56 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:34:54 ID:dqBQmbIQO
-
恐々、もう一度ルームミラーに視線をやる。
ある。
足が2本。
何度瞬きしても、何度見直しても、ある。
('、`;川(いや……いやいや……)
1週間と数日前、コンビニのトイレで遭遇した「奴」も初めは足とのご対面だった。
短パンから伸びる脚は細く、子供なのが分かる。
どうやら後部座席に腰掛けているようだった。
ルームミラーの角度のせいで、腰から先が見えないのは幸いか。
('、`;川(先生戻ってきて早く来て)
振り返る勇気はない。
鏡から目を逸らす勇気もない。
ばくばくと跳ねる心臓。冷房の風が、ひどく冷たく感じられた。
- 57 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:37:50 ID:dqBQmbIQO
-
鏡の中で、子供が体を揺らす。
ゆらゆら、ゆらゆら。
いくら祈っても、先生は来ない。
それどころか、誰ひとり近くを通らない。
そうする内、子供の動きが激しくなっていった。
初めは左右に揺れるだけだったのが、段々、ジャンプするように足を踏みしめて
腰を軽く浮かしてから、一気に座席へ体重をかけるような動きに変わっていく。
後部座席の振動も激しくなり、車全体が揺れているのではないかと思えた。
どすんどすんと、助手席の背もたれに頭でもぶつけているかのような衝撃が伝わる。
〈ウ〜……ウゥ……ウ〜〉
呻き声らしきものがした。
間違いなく後ろから聞こえている。
- 58 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:40:26 ID:dqBQmbIQO
-
〈ウゥゥ〜……〉
ぐるぐる、喉の奥で絡んだ痰が震えるような、そんな音が混じった呻き声。
間延びしていて、ともすれば間抜けにも思える響きが、余計に不気味だった。
それが徐々に大きくなっていく。
〈ォ……ァアザ……〉
私はようやくルームミラーから目を逸らし、自分の手だけを見つめた。
ドアの把っ手を掴む。開かない。鍵が掛かったままだ。
〈イ、ァア……ダ……ィョ……〉
震える指で鍵を押し上げようとするが、滑って上手くいかない。
どすどす、背中に衝撃。
〈オァ、ア……ザ……イアィヨ……〉
ばちん、と、大きな音をたてて鍵が開いた。
〈……オアァザン……〉
.
- 59 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:41:44 ID:dqBQmbIQO
-
──お母さん、痛いよ、お母さん。
子供の言葉を理解すると同時に、私は、ドアを開けて外に飛び出した。
私の右手を掴もうとした小さな両手が、するりと滑ったような気がする。
*****
- 60 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:43:35 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「おや。何をしてるんだい」
('、`*川「……」
大学の正門から玄関まで続く、煉瓦の敷かれた道。
そこに設置されたベンチの一つに、私は腰掛けていた。
大学から出てきた先生が私に気付き、傍らに立つ。
彼が脇に抱えた大判の封筒と本が、互いに擦れ合って音をたてた。
(´・_ゝ・`)「トイレでも行きたいのかい?」
('、`*川「先生……」
(´・_ゝ・`)「……何かあった?」
私の様子がおかしいのを察したらしい。
先生の瞳に好奇心の色が宿る。
癪ではあったけど。
私は、ぽつぽつと、先程の出来事を話した。
1人で抱え込むのが嫌だった。
.
- 61 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:46:54 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「──それはなかなか面白……いや、怖い目に遭ったね」
話を聞き終えた先生は、うんうんと頷いた。
爛々と輝く瞳。私を本気で心配してはいない。確実に。
(´・_ゝ・`)「でも、ずるいなあ。何で君ばっかり……」
('、`*川「……」
(´・_ゝ・`)「そんなに睨まないでくれるかな」
肩を竦め、先生が息をつく。
並んでベンチに座っている私達の前を通りかかった学生が、
ぺこりと先生に一礼していった。
(´・_ゝ・`)「……件の『家』にまつわる噂なんだけれどもね」
返事をするのも億劫で、ちらり、先生を見る。
- 62 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:49:10 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「その多くが、子供に関するものだった。
『子供の泣く声がする』『子供の霊が窓辺に立つ』『子供が歩き回る』──
他にも色々。両親が出てくる話は、とても少ない」
(´・_ゝ・`)「その内のどれが本当で、どれが出鱈目かは分からないけれど、
それだけ偏りがあるということは……まあ、そういうことだろう」
私は、頭が良くないなりに精一杯考えた。
噂は子供主体のものが多い。
──両親は、どこにいるのだろう?
もし。もしも。
両親は霊として留まることもなく、既に成仏なり何なりしていたのなら。
子供だけが取り残されたのなら。
(´・_ゝ・`)「あの写真の中で、白い影は女性に寄り添っていた。
……もしかして、子供の霊は、親を探しているんじゃないかな。
幼い子なら、特に母親を必要とするだろう」
そこまで話して、先生は腰を上げた。
大判封筒の一つで私の頭を軽く叩く。
- 63 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:50:45 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「写真を寄越してきたお友達とは、付き合いを考え直した方がいいよ」
('、`*川「……え?」
(´・_ゝ・`)「というより、信頼出来る友人として接するのはやめようね」
急に何だ。
それは失礼ではないか、と抗議しようとしたけど、
まだそこまでの気力は戻っていない。
睨むだけの私を見下ろしながら、先生は話を続ける。
(´・_ゝ・`)「お友達は、写真の女の子からもらったんだっけ。
可哀想に。朝早くから君に写真押しつけたくなるほど、怖かったんだろうね」
('、`*川「……何なの、先生」
(´・_ゝ・`)「伊藤君」
先生は、微笑んだ。
- 64 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:52:05 ID:dqBQmbIQO
-
(´・_ゝ・`)「あの心霊写真。
子供の霊が写真に『写っていた』のではなく、
『潜んでいた』と考えれば、どうだろう」
('、`*川「潜む……?」
──写真の中に潜む霊。
初めは被写体の女の子のもとに。
次は、友人のもとに。
(´・_ゝ・`)「映画を思い出すね。ビデオを見た人が呪われちゃう感じの」
人から人へ。
写真と共に、霊が移動する。
- 65 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:53:58 ID:dqBQmbIQO
-
('、`*川「──じゃあ、友達は……」
(´・_ゝ・`)「多分、君に直接渡す気はなかったんじゃない?
君の家のポストにでも封筒を突っ込んで、
さっさと逃げて、知らんぷり決め込むつもりだったんじゃないかな」
(´・_ゝ・`)「後の始末は、きっと、
君か──あわよくば、弟くんの幼馴染みさんに任せてさ」
──久しぶり、と、私に声をかけた友人の姿を思い出す。
互いの近況報告もそこそこに、私に封筒を持たせた彼女。
うっすらと目の下に隈は出来ていたが、以前と変わりない、明るい笑みを浮かべていた。
何だか、無性に。
寂しいような、悔しいような気持ちになった。
.
- 66 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:55:10 ID:dqBQmbIQO
-
車に戻ると子供は消えていた。
心霊写真は、欲しいと主張する先生に渡す。
それから私の家まで向かった。
家の前に来たところで、礼を言って降りる。
発進する車の後部座席に、一瞬だけ、子供らしき影が見えた。
*****
- 67 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:58:01 ID:dqBQmbIQO
-
後日、駅前で先生に会った。
あれからどうなったのか訊ねると、
(´・_ゝ・`)「ラップ音みたいなのはするんだけどさ、肝心の姿が全然見えないんだよ。酷くない?
腹立ったから、写真燃やして、灰は元の家に撒いてきた」
とのお答えをいただいた。
それ以降、祟りらしいものも怪奇現象も、特にないらしい。
第二夜『心霊写真』 終わり
- 68 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 01:58:30 ID:TydH740A0
- 先生つええええええ
乙!
- 69 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 02:01:07 ID:SxpVzeo2O
- 先生つよすぎワロタ乙
心霊現象描写が怖すぎたせいでトイレ行けねえ
子供の霊はちゃんと成仏できたんだろうか
- 70 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 02:03:38 ID:dqBQmbIQO
- 今夜はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
・不思議な実話
今回の話を書くにあたり、あるシーンを書くときのみ、部屋の中で「ぱしぱし」と家鳴りがしていた
2、3回ほど推敲したが、そのシーンに差し掛かったときだけ、必ず家鳴りが聞こえた
まあ多分偶然だろう
- 71 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 02:20:47 ID:exf7a76c0
- 個人的に一話目よりゾクゾクきた
先生いると恐怖感が薄れていいとかくだんの霊感少女の登場が楽しみとかペニサス霊に好かれ過ぎワロタとか思った
乙乙
- 72 :名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 14:59:47 ID:QGLP0YhkO
- 師匠シリーズに似て軽くて読みやすくてほどほどに怖い良い読み物だねえ
- 73 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:22:43 ID:x/JI1.LIO
-
先生と関わったのが間違いだった。
彼のやることに付き合ったら碌なことがない。
本気でそう思わされた出来事がある。
今日は、それを話そう。
(´・_ゝ・`)「伊藤君、今夜、一緒にホテルに行ってくれないかな」
('、`*川
('、`*川「は?」
まず、人がファミリーレストランでバイトしている真っ最中に、
普通の声量でそんなことを言う感性を疑う。
第三夜『いわくつきラブホテル』
.
- 74 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:25:08 ID:x/JI1.LIO
-
('、`*川「何? は?」
(´・_ゝ・`)「ホテル」
('、`*川「ホテル? そういう名前の遊園地か何か?」
(´・_ゝ・`)「まあミラーハウスみたいに鏡張りだったり回るベッドのアトラクションがあったりするけど」
ラブホじゃねえか。
私は、右手に持ったマルゲリータピザを先生に叩きつけるかどうか、本気で迷った。
結局、普通に先生の前に置いたけれど。
──以前、先生と心霊写真のことを話したファミリーレストラン。
よりによって私が働いているときに昼食をとりに来た先生は、
私に気付くなり、冒頭の台詞を吐いたのであった。
('、`;川「いっ、行くわけないでしょ! 年の差はともかく、色々非常識だと思うんだけど!」
(´・_ゝ・`)「え?」
先生は、珍獣を見るような目で私を眺めながら、
ナイフとフォークで小さく切ったピザを口に運んだ。
一応ピザカッターもあるのだけれど、先生は、それは使わなかった。
見た目は小綺麗だし、こういうところだけ見れば、紳士然としているのに。
中身が残念すぎる。
- 75 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:27:17 ID:x/JI1.LIO
-
先生がピザを飲み込んで、一言。
(´・_ゝ・`)「馬鹿か君は」
('、`#川「なっ」
(´・_ゝ・`)「まさか、僕が君に『そういうこと』をするために誘ったと思っているのかい。
なんて悍ましい発想だ。そこまで悪い趣味はしてないよ」
馬鹿にされた挙げ句、女として色々否定された気がする。
反論の言葉を捻り出そうとする私から視線を外し、先生は続けた。
(´・_ゝ・`)「出る、って噂のホテルがあるんだよ。そこへ一緒に行かないかと言ってるんだ」
('、`;川「出る……?」
(´・_ゝ・`)「幽霊が」
('、`;川「ますます行かないわよ!」
思わず怒鳴ってしまった。
口を押さえる。周囲からの視線が痛い。
ただ、単なる心霊スポットへのお誘いだったことには、ちょっと安心した。
- 76 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:29:23 ID:x/JI1.LIO
-
('、`;川「1人で行けばいいじゃない」
(´・_ゝ・`)「1人じゃ入れないらしいんだよ」
('、`;川「先生だって教授なんだから、女子大生の1人や2人、
どうとでも言いくるめて連れていけるでしょ」
(´・_ゝ・`)「僕と学生がホテルに入るのを誰かに見られたらどうする」
('、`;川「知らないわよ……。第一、何で私が行かなきゃいけないの?」
(´・_ゝ・`)「ここでたまたま会えるなんて、きっと何かのお導きだと思う」
先生は結婚していない。
私も彼氏はいない。
互いに、気を遣うような相手がいないわけで。
(´・_ゝ・`)「ね?」
('、`;川「い、行かない。絶っっっ対、行かない!」
*****
- 77 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:31:17 ID:x/JI1.LIO
-
('、`*川(どうしてこうなった)
(´・_ゝ・`)「見て見て伊藤君、マジックミラーだよ。
部屋の中からだと向こうの浴室が丸見えだね。なんて下品なんだろう」
ダブルベッド。てかてかしたソファ。いかがわしい自動販売機。
来てしまった。先生と。ラブホテルに。
馬鹿だ。
気付けば完全に言いくるめられていた。
「ちょろいな」とでも言いたげな先生の表情が忘れられない。腹立つ。
私は、ホテルに入ってから通算10回目となる溜め息をついた。
時刻は、日付が変わる数分前。
明日の朝まで、ここで先生と過ごさなければならない。
(´・_ゝ・`)「伊藤君、テレビがあるよ」
('、`*川「どうせアダルトチャンネルでしょ……」
(´・_ゝ・`)「普通の映画専門チャンネルも見れるみたいだよ。
──お、ナイスタイミング」
チャンネルを合わせると、そこに映し出されたのは、数年前に話題になったホラー映画だった。
ナイスタイミングどころかバッドタイミングだ。
- 78 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:33:03 ID:x/JI1.LIO
-
('、`;川「ちょっと、やめてよ」
(´・_ゝ・`)「幽霊さんも、その気になってくれるかもしれないよ」
('、`;川「冗談じゃ──」
──ぷつりと、テレビの画面が真っ暗になった。
先生と顔を見合わせる。
途端、先生が嬉々としながらテレビを調べた。
どのスイッチを押しても反応はない。
(´・_ゝ・`)「怪奇現象」
('、`*川「……壊れてるだけでしょ」
私は、少し躊躇ってからベッドに腰掛けた。回るベッドではなさそうだ。
枕元にあるパネルを操作すると、流行りの曲が流れた。
- 79 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:35:26 ID:x/JI1.LIO
-
(´・_ゝ・`)「昔、この部屋でちょっとした事件があったらしいよ」
部屋のあちこちを見て回りながら、先生が出し抜けに言った。
聞きたくない。さっさと寝て、さっさと帰りたい。
せめてもの反抗に、有線放送の音量を上げた。
(´・_ゝ・`)「あるカップルが泊まったんだ。
事を済ませて、彼氏の方が先に眠ったんだけど、
ふと目を覚ますと……」
何となく、室内の空気が変わった気がした。
気のせいだ、と頭を振る。
(´・_ゝ・`)「彼女が、彼氏の胸元に鋏を突き刺そうとしているところだった」
(´・_ゝ・`)「驚いた彼氏は彼女を突き飛ばし、部屋から逃げた。
フロントに行って事情を話すと、フロント係は警察を呼んで、部屋の様子を見に行き……
血だまりの中で死んでいる彼女を発見する」
('、`*川「……」
- 80 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:37:56 ID:x/JI1.LIO
-
(´・_ゝ・`)「その後、警察が来て色々調べたら──不可解な事実が判明した」
('、`*川「……実は彼氏が犯人でした、って話じゃないでしょうね」
(´・_ゝ・`)「いいや。彼女は自分で顔を切り裂き、胸や喉に鋏を刺していた。
まず間違いなく自殺だ。
けどね──」
──彼女の遺体の状況や血の乾き具合からして、
彼氏が目を覚ましたという時刻には、とっくに彼女は死んでいた筈なんだ。
先生が怪談のオチを呟く。
その瞬間だけ、有線放送から流れる音楽に、ノイズが混じった。
(´・_ゝ・`)「元々、精神的に不安定な女性だったそうだよ。
何度か自殺未遂もしてたらしいし……まあ、その日も何かのスイッチが入ったんだろうね」
(´・_ゝ・`)「多分、初めは1人で自殺したけど、寂しくなったんじゃないかな。
彼氏も道連れにしたくなったのかもしれない」
- 81 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:41:38 ID:x/JI1.LIO
-
('、`*川「それで、幽霊になってすぐ、彼氏を殺そうとしたってわけ?」
迷惑な話だ。
けれど口にするのは憚られて、喉の奥で飲み込んだ。
(´・_ゝ・`)「そういうことだろう。
それ以来、この部屋は『出る』ようになったんだってさ。
……んー、お札とか貼ってないか期待したけど、ないな」
壁のタペストリーをめくって、先生は肩を竦めた。
何をやっているのかと思えば、なんと下らないことだ。
私は、先生に枕を投げつけた。
それから、先生は徹夜で霊を待つというので、私がベッドに1人で眠ることになって。
ソファで本を読む先生を眺めている内、私の意識は暗闇に落ちていった。
.
- 82 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:43:22 ID:x/JI1.LIO
-
──気付くと、部屋の隅に座っていた。
私の趣味ではない服を身に着けている。
何とはなしに、私ではない誰かの視点なのだろうと思った。
夢なのだろう、とも。
私の意思とは関係なく、その人は立ち上がった。
(´・_ゝ・`)
──先生がいる。
ソファの上で、本を読んでいた。
私ではない誰かが、先生の傍に立つ。
先生は一向に気付く様子もない。
小難しい本のページをめくっている。
「誰か」が、がっかりしたのが分かった。
気付いてもらえない寂しさというか。
そういった感情が、私にも伝わってきた。
- 83 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:44:25 ID:x/JI1.LIO
-
先生を諦め、その人は方向を変えた。
ベッドが目に入る。
その上で横たわっている女。
私だ。ベッドの左側を向くようにして眠っている。
「誰か」が私に近付く。
ベッドの端にしゃがみ込む。
(-、-*川
そこで、視界が暗くなった。
.
- 84 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:46:14 ID:x/JI1.LIO
-
真っ暗な視界の中、身じろぎする。
足がシーツに擦れる感触。
目が覚めたのだと気付いた。
ほぼ無意識に瞼を持ち上げる。
見知らぬ女と目が合った。
声が出ない。
心臓が縮むような感覚。
女は鼻から上だけを覗かせて、異常に小さい黒目で私を見つめている。
瞬きもせず、じっと。
('、`;川「──!!」
跳ね起きる。
ソファにいた先生が、本から目を上げた。
- 85 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:48:14 ID:x/JI1.LIO
-
(´・_ゝ・`)「何だい、びっくりするじゃないか」
('、`;川「せっ、先生、せん……っ」
ぱくぱくと口を動かし、私はあちこち見渡した。
さぞかし挙動不審だったことだろう。
しかし、あの女はどこにもいなかった。
ベッドから下りて、先生の隣に座る。
先生は邪魔臭そうに私を見てから、どうしたの、と訊ねた。
('、`;川「へ、変なの見た、変なの居た」
(´・_ゝ・`)「……出たの?」
こくこく、何度も頷く。
どんな姿だったか、どんな風に出たかをしつこく訊かれ、
まずは私の心配をしろと思わないでもなかったが、私も興奮気味だったので体験した通りのことを話した。
先生がわくわくした様子で本を閉じる。
それから夜が明けるまでずっと起きていたけれど、結局、何事もなく。
ひどく残念そうな先生に送られて、家まで帰った。
*****
- 86 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:51:37 ID:x/JI1.LIO
-
時間を進めて、翌日の夜。
すっかり恐怖の薄れた私は、昨夜の出来事を「寝ぼけていただけ」と結論づけた。
鼻歌なんかを歌いながらお風呂場を出て、2階の自室へ戻る。
ドアの前に立ったとき、斜向かいの部屋から出てきた兄に声をかけられた。
('A`)「あれ? お前、風呂入ってたのか?」
('、`*川「うん。次はお母さんが入るから、兄さんはその次ね」
('A`)「ああ……」
不思議そうな顔で、兄が首を傾げる。
──この数日後に「前にお前の部屋から女の声がしてた」と聞かされるのだけれど、
このときの私は、特に兄の挙動を気にも留めず、
おやすみ、なんて言って部屋に入った。
.
- 87 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:52:36 ID:x/JI1.LIO
-
髪を乾かし、翌日の予定を確認する。
午前にコンビニ、午後にファミリーレストランのバイト。
('、`*川(先生と会いませんように)
手を合わせて祈る。
半ば本気だ。
それも済むと、眠気が込み上げた。
ほぼ毎日バイト尽くしなので、疲れが溜まっている。
私は電気を消すと、ベッドに潜り込んだ。
.
- 88 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:55:16 ID:x/JI1.LIO
-
真っ暗な中で目が覚めたとき、ものすごく嫌な予感がした。
しかも金縛り付き。
('、`;川(勘弁してよ……)
壁の方を向いたまま、なるべく下らぬことを考えるように努める。
バイト先の店長の失敗とか。弟と兄がお菓子を取り合って喧嘩したこととか。
なるべく、最近笑った出来事を。
ふと、先生の顔が脳裏を過ぎった。最近よく見る顔だからだろう。
すると、そこから連想ゲームのように、コンビニのトイレとか先生の車とか、
昨日のホテルの光景が思い浮かんでいく。
くそ。あのジジイのせいで。
──きし、と、遠くで、床の軋む音がした。
心臓が跳ねる。
- 89 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 02:56:15 ID:x/JI1.LIO
-
きし、きし。
廊下を歩く音。
家族の誰かだろうと、自分に言い聞かせた。
鼓動が速まり、呼吸が乱れる。
苦しい。
きし。きし。きし。
足音が近付く。
きし。きし。
私の部屋の前で止まる。
静寂。
ドアが開く音はしない。
足音が遠ざかることもない。
目の前の壁を睨んだまま、私は、唾を飲み込んだ。
──しょきん。
すぐ背後から、変な音。
- 90 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:00:20 ID:x/JI1.LIO
-
しょき、しょき。
連続して聞こえる音は、金属が擦れるような、
鋏を動かしたときのものに似ていた。
息が止まる。
昨夜の、先生の話が記憶の底から這い上がった。
しょきん。しょきん。
すぐそこから鳴っている。
少しして、それに変化が生じた。
ひどく柔らかいものに、無理矢理、刃を通したような。
じょり、とか、ぶち、とかいうような。
〈アアアアア゙ァァァァァァイ゙イ゙イ゙イイイィィイイ〉
けたたましいサイレンのような──声。
悲鳴だと気付くのに、数秒かかった。
- 91 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:02:02 ID:x/JI1.LIO
-
じょり、じょり、ぎち、ぶちん。
〈ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい〉
耳を塞ぎたくても、体が動かなかった。
部屋中に満ちる声が、耳の中で、わんわんと反響する。
何かを殴るような重たい音がすると、悲鳴が途切れ、
ぶくぶく、水の中で泡が立つのに似た音が鳴り出した。
- 92 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:02:57 ID:x/JI1.LIO
-
音が。声が。
近付いてくる。
しょきん。
耳元で鋏が鳴る。
視界の隅に、どす黒く濡れた顔が現れた。
長い髪が私の顔に掛かる。
真っ白な中にぽつりと浮かぶ小さな黒目。
その目が、私の目を覗き込んだ。
*****
- 93 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:05:51 ID:x/JI1.LIO
-
(;、;*川「先生の馬鹿! 先生の馬鹿! 先生の馬鹿!!」
昼、私はVIP大学の事務室に電話を掛けて先生に取り次いでもらい、
泣きながら先生に罵声を浴びせた。
それから、ホテルで見た女が部屋に現れたことや、
気付くと朝だったこと、
私の部屋にあった新品の鋏が何故か錆びていたことを捲し立てる。
先生の返答は、「ずるい」だった。
ふざけんな。
『ホテルから君の家まで、ついていっちゃったのかなあ。
君、随分と幽霊に好かれてるね。羨ましい』
電話口の先生の声は、うきうきを隠しきれていない。
本当にふざけんな。
(;、;*川「せ、先生があんなところに連れてくから……。
どうしたらいいのよう……」
『ううん、そうだなあ。今夜、またあの部屋に行ってみようか』
(;、;*川「馬鹿じゃないの!? もうあそこ泊まりたくないわよ!!」
『まあまあ。大丈夫、今度は小一時間で帰るから。
君の、錆びてたっていう鋏も持っておいで』
- 94 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:08:38 ID:x/JI1.LIO
-
──その夜のことは、恐ろしくて話したくない。
だが、ここまで話しておいて沈黙するのも酷だろう。
だから、ごくごく簡単に説明すると。
先生は例のラブホテルの一室にて、ひたすら、錆びた鋏でそこら中の空間を突きまくり。
聞くに堪えない罵詈雑言を、見えもしない霊に向かって吐きまくった。
霊に代わって私が先生を呪ってやろうかと思えるほど酷い内容だったことを、
是非知っていてもらいたい。
ついでに、それ以降あの女が私の前に現れなかったことも。
.
- 95 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:12:29 ID:x/JI1.LIO
-
後日談。
しばらく先生の家や研究室で、物が動いたり鋏が錆びたりする怪事件が多発したらしい。
「先生の研究室に女が入っていくのを見た」「先生に女がしがみついてた」と言う学生も多くいたが、
先生はといえば、例によって、その女の姿を見ることはついぞ無かった。
そして1週間ほどすると、全て収まったのだという。
霊の方が諦めたであろうことは、明白だった。
- 96 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:13:40 ID:x/JI1.LIO
-
(´・_ゝ・`)「地味な嫌がらせはいいから、姿を見せろって話だよねえ。つまんないの」
('、`;川「……」
そのとき、ようやく私は察した。
先生は霊に対する興味が強い。強すぎる。
そのくせ──
所謂、とんでもない「零感」野郎なのである。
第三夜『いわくつきラブホテル』 終わり
- 97 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:14:18 ID:SoqBDqAA0
- Tさんとはまた別の心強さだな乙
- 98 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:14:51 ID:x/JI1.LIO
- 今夜はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
- 99 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 03:23:20 ID:1htayDXA0
- ふえぇ…怖いよぉ~…
- 100 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 13:35:24 ID:jjlomnCw0
- 深夜に投下されたら色んな意味で読めないじゃないですかー!
おつおつ
- 101 :名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 15:27:29 ID:vrgYpxMc0
- あんたホラーを相当読んでるな…よくわかってらっしゃる
- 102 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:35:39 ID:tf4/L/nYO
-
我が家には、とある人形が住んでいる。
所謂、衣装人形というやつ。
着せ替えたり玩具として扱ったりするのではなく、もっぱら鑑賞するための人形だ。
母が祖母から譲り受けたものらしく、それは、居間の棚に飾られている。
高さにして50センチメートルほどのガラスケースの中で佇む、すらりとした赤い着物の女性。
遊女を象った人形だと聞いた。
なるほど、たしかに、どことなく色っぽく見える。
今回は、その人形にまつわる話だ。
- 103 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:37:26 ID:tf4/L/nYO
-
(´・_ゝ・`)「伊藤君は神出鬼没だね」
('、`*川「こっちの台詞なんだけど」
あれは8月の頭だった。
バイト先の書店で新書の整理をしているところに、先生が現れた。
どうして、こうも頻繁に遭遇してしまうのだろう。
いっそ気持ちが悪い。
溜め息をついた私は先生の左手に目を留めた。
('、`*川「何それ」
(´・_ゝ・`)「ん?」
先生は、日本人形を抱えていた。
市松人形だったか、そういうやつ。
50過ぎの男には不釣り合いだ。
- 104 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:38:34 ID:tf4/L/nYO
-
(´・_ゝ・`)「知り合いから貰ったんだよ。
娘さんが持ってたんだけど、もう20歳だし、いらないってさ。
いる? あげるよ」
どうしてだか、私はその人形が無性に気になった。
幼い頃から、人形遊びなど興味がなかったような人間なのに。
何だか妙に心が引かれる。
先生が持っている時点で、警戒すべきだった。
というより──まったく警戒しなかったのが、未だに不思議でならない。
まるで何かに目隠しでもされたかのように、私は、その人形に対する様々な疑問を無視した。
('、`*川「……いる」
第四夜『遊女の人形』
.
- 105 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:40:10 ID:tf4/L/nYO
-
持ち帰った市松人形を、件の衣装人形の隣に置いた。
満足げに頷く私に、居間のソファに座っていた兄が「何だそれ」と訊ねた。
('、`*川「知り合いがくれた。可愛いでしょ」
('A`)「可愛いっつうか恐い」
人形好きでもない者には、市松人形は不気味に見えるだろう。
私だって、平素通りであれば、その人形を気味悪く思っていた筈だ。
('A`)「……何か気持ち悪いなあ」
──その数分後、兄は人形の前で躓き、左足を捻挫した。
*****
- 106 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:41:56 ID:tf4/L/nYO
-
しばらくは何事もなかった。
状況が一変するのは、それから3日後のこと。
その日の深夜。
('、`;川「わっ!」
がしゃん、という凄まじい音で飛び起きた。
ガラスが割れるような音だ。
夢で聞いたのか現実で聞こえたのか判別出来ず、固まる。
強盗が窓を割ったのでは──という想像が駆け巡り、私は、そろそろとベッドから下りた。
少しして、家族が部屋から出てくるのが聞こえたので、私もドアを開けた。
両親、兄、弟、私の5人で、先刻の音について話す。
ずっと起きていた兄いわく、音は階下から聞こえたらしい。
爪'ー`)「いいから見に行こうぜ。泥棒だったらぶっ殺してやる」
がらの悪い弟は、一番に階段を下りていった。
両親が武器になりそうなものを持ってきて、後を追う。
私と兄も続いた。
- 107 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:42:25 ID:aGilD89U0
- これは面白い
夏はやはりホラーだな
- 108 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:45:42 ID:tf4/L/nYO
-
('A`)「何だこりゃ」
結論から言うと、1階にある窓は全て無事だった。
ただ──居間に置いてあった衣装人形のガラスケースが、床の上で割れていた。
衣装人形もそこに転がっている。
地震か何かで落ちたのだろう、と父が言った。
その言葉に兄は首を捻る。
('A`)「地震なんて、なかったと思うけど……」
それに、衣装人形の隣にいた市松人形は棚に座ったままだ。
納得はいかなかったけれど、いくら考えても答えは出ない。
とにかく私はガラスの破片を集め、母は人形を拾い上げた。
J( 'ー`)し「あら……」
母が声をあげる。
衣装人形の着物のあちこちが裂けていた。
ガラスで切れたとは考えにくい。
私と母は、顔を見合わせた。
.
- 109 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:47:13 ID:tf4/L/nYO
-
翌日、母は人形店に衣装人形を持っていった。
ガラスケースの手配と着物の修復、ついでに衣装人形の手入れを依頼するらしい。
兄は大学、弟は高校、父は会社、母は人形店に行き。
急遽、午前のバイトが休みになった私だけ、家に残された。
('、`*川
自室のベッドに座り、雑誌を読む。
──子供の笑い声が聞こえた気がして、顔を上げた。
当然ながら、私以外に誰もいない。
外で小さい子が遊んでいるのだろうと思い、雑誌に視線を戻す。
ページをめくると、今度は、ぱたぱたと走る音がした。
私の耳が正しければ1階で鳴った。
そっと部屋のドアを開ける。
ぱたぱた、また足音。間違いなく1階だ。
- 110 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:47:56 ID:lRHcK7Ww0
- またお前はこんな時間に
- 111 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:48:41 ID:tf4/L/nYO
-
('、`*川「……お母さーん?」
音が止む。
しんと静まり返る。
何となく怖くなって、ドアを閉めた。
ベッドに戻って雑誌を開く。
先程のことが気になったが、好きな俳優のインタビュー記事に差し掛かり、
そちらへ夢中になった。
じっくりとインタビューを読む。
新作の映画に触れられていて、観に行きたいなと思いながら文字を追った。
──ぱたぱた。足音がした。
一気に、雑誌から足音へと意識が移る。
1階を駆けていた音は、とんとん、階段を上るものに変わった。
息を殺す。
雑誌を押さえる手に力が入り、くしゃ、と、紙面が小さく鳴った。
- 112 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:50:12 ID:tf4/L/nYO
-
とんとん、ぱたぱた。
階段を上り終えた足音は、廊下を進み、私の部屋の前まで来た。
私の心臓が、馬鹿みたいに跳ねている。
やがて、ドアの向こうから甲高い声が聞こえた。
〈いなくなったいなくなったいなくなった〉
いやに低い位置から発せられているように感じられた。
最後に少しだけ笑って、足音が1階に戻る。
笑い声は、先程のものに似ていた。
- 113 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:51:34 ID:tQSEKf.g0
- ふえぇ…こぇぇな…
- 114 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:52:08 ID:lRHcK7Ww0
- 丑三つ時になっちゃうよう…
- 115 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:52:10 ID:tf4/L/nYO
-
間もなく、玄関から物音と母の声がした。
私は雑誌を抱えたまま、恐る恐る1階に下りた。
('、`*川「……おかえり」
J( 'ー`)し「ただいま。あんた、午後からコンビニだっけ。お昼ご飯は家で食べてく?」
母は、居間で市松人形を抱えていた。
どうしたの、と訊ねると、市松人形が床に座っていたのだという。
誰も人形を棚から下ろしていない筈だ。
J( 'ー`)し「この棚、傾いてるのかしらねえ」
母は棚に市松人形を戻した。
さっきの出来事を話そうか迷って、私は結局黙った。
「いなくなった」。部屋で聞いた言葉を思い出す。
何が「いなくなった」のだろう。
私に思いつくのは、衣装人形しかなかった。
*****
- 116 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:53:40 ID:tf4/L/nYO
-
('、`*川「ん……」
夜、私はトイレに行きたくなって目覚めた。
階段を下り、トイレに入って、用を足す。
寝起きでぼうっとしていた私は、水を流したときに、ふと朝のことを思い出した。
ぶるりと体が震える。
よりによって、このタイミングで思い出したくはなかった。
さっさと部屋に戻ろう。
ドアを開け──そこに市松人形が立っているのを見付けて、腰が抜けかけた。
びっくりしすぎて変な声を出してしまったように思う。
しばらく人形と睨み合ってから、私は、手を洗うのも忘れて部屋に駆け戻った。
ベッドに潜り込み、ぎゅっと目を閉じる。
朝。居間に行くと、人形は何食わぬ顔で棚に座っていた。
.
- 117 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:55:10 ID:tf4/L/nYO
-
あの人形はおかしい。
そうは分かっていても、不思議と、先生に返すとか
家族に相談しようとかいう気持ちにはならなかった。
それどころか、市松人形の髪を梳いたり着物を整えたりするようになっていたから、
端からは、私が人形を可愛がっているように見えただろう。
だが実際は、やりたくてやっているわけではなかった。
ふとしたときに「やらなければ」と思うともう駄目で、いてもたってもいられなくなる。
そうして人形の世話をしている間は、失敗してはならないという恐怖感に苛まれていた。
.
- 118 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:56:34 ID:lRHcK7Ww0
- 今回のは一際やばそうな臭い
- 119 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:57:08 ID:tf4/L/nYO
-
そんな日々が続いていた、ある日。
バイト中に、私は「人形の世話をしなくてはならない」という感覚に襲われた。
('、`;川(行かなきゃ……)
しかし仕事は仕事。すっぽかすわけにもいかない。
私はバイトを続けた。
すると、時間が経つにつれ焦燥が激しくなり、
ついには「殺される」とまで思うようになった。
震えが止まらない。
私の異変に気付いた店長が帰宅を許してくれた頃には、あの感覚から、既に3時間は経っていた。
急いで家に帰る。
市松人形は玄関に座っていた。
泣きながら人形に謝り、髪を梳く。
いつもは櫛がするすると通るのに、この日の人形の髪は妙にごわごわして、
全て終わるのに時間が掛かった。
着物を整え終えても、まだ、人形が怒っているような気がした。
.
- 120 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 01:57:12 ID:tQSEKf.g0
- ふえぇ…貴様はもう操り人形だよぅ…
- 121 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:00:48 ID:tf4/L/nYO
-
その日の夜。
眠りに落ちかけた瞬間、名前を呼ばれた気がした。
ぼんやりとドアを見る。
中途半端に開いたドアの隙間から、市松人形が私を見つめていた。
(;、;*川「……ごめんなさい……」
そこに人形がいることではなく、人形の怒りが恐くて、私は謝っていた。
私が眠るまで、市松人形は、ずっとそこにいた。
*****
- 122 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:01:29 ID:lRHcK7Ww0
- 本気で怖いんだけど
- 123 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:02:45 ID:tf4/L/nYO
-
次の日、人形店に預けていた衣装人形が帰ってきた。
以前よりさらに綺麗になっていたように思う。
私が話したかったのは、ここからだ。
衣装人形が戻ってきてから、さらに市松人形の怒りが大きくなった気がして、
恐ろしくて堪らなかった。
私はバイトを休み、市松人形を抱っこしたまま一日を過ごした。
どうしても恐くて、それと、このまま一緒に寝るのはいけないという気持ちが湧き上がって、
眠る前には、いつもの棚に戻したけれど。
.
- 124 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:03:49 ID:aKwCLalo0
- 先生はよ
- 125 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:04:22 ID:tf4/L/nYO
-
そうして眠りに就いた私は、変な夢を見た。
川 ゚ -゚)
自室の真ん中で、私は女性と向かい合って座っていた。
赤い着物。艶やかな黒髪。色っぽい雰囲気。
普通の人間と同じ大きさをしている以外は、あの衣装人形にそっくりだった。
川 ゚ -゚)「あのいちまは駄目だ」
女性は、髪をいじりながら呟いた。
少し低めの、大人っぽい声だったのを覚えている。
私が黙っていると、彼女は同じ言葉を繰り返した。
- 126 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:06:10 ID:tf4/L/nYO
-
川 ゚ -゚)「あのいちまは駄目だ」
('、`*川「いちま?」
川 ゚ -゚)「市松」
('、`*川「……人形?」
川 ゚ -゚)「あれは憑いてる。駄目だ」
('、`*川「何が?」
川 ゚ -゚)「今年で20。お前と同じだ。だから妬んでる。駄目だ」
このときは分からなかったけれど、今にして思えば、
「20」は「20歳」のことだったのだろう。
川 ゚ -゚)「あいつ嫌いだから、追い出してやる」
彼女は、着物の袖を捲った。
右腕を露出させる。真っ白な肌。綺麗だ。
川 ゚ -゚)「壊れるけど、私のこと、捨てないでね。
ペニサスがお嫁にいくまで、一緒にいさせて」
私は無意識に頷いていた。
彼女が何者なのか、問う気にはなれなかった。
- 127 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:07:32 ID:tf4/L/nYO
-
するりと立ち上がった女性が、私の頭を撫でる。
川 ゚ -゚)「あの男、一回くらい叩いてもいいと思う」
('、`*川「……男って」
川 ゚ -゚)「『せんせい』」
くすくす笑って、彼女は去っていった。
.
- 128 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:08:20 ID:aKwCLalo0
- ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 …
- 129 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:09:03 ID:tf4/L/nYO
-
がしゃん。
音と共に目を覚ます。
あの日と同じだ。
廊下に出てきた家族と一緒に、居間へ向かう。
J(;'ー`)し「──あら……あらあら」
電気をつけて、母が絶句した。
衣装人形と市松人形が、床に落ちている。
衣装人形の方の被害は、新品のガラスケースと右腕。
市松人形は、首や足が取れた上に着物が裂けて、無惨なものだった。
('、`;川「……」
(;'A`)「うおっ、どうした!?」
へたり込む。
恐怖より、安堵の方が強かった。
.
- 130 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:10:09 ID:tf4/L/nYO
-
市松人形は人形供養をやっている寺へ。
衣装人形は、一緒に供養へ出そうかと言う母を説得し、
人形店で右腕を直してもらってから、再び居間に飾った。
以来、あの市松人形による怪奇現象はない。
*****
- 131 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:12:23 ID:tf4/L/nYO
-
(´・_ゝ・`)「ふむ、そうか、そんなことがあったか」
早朝、私はVIP大学の前で先生を待ち伏せした。
先生を取っ捕まえ、一連の出来事を話す。
彼は興味深げに聞いていた。
('、`*川「……あの市松人形、何なの?」
(´・_ゝ・`)「知り合いから貰ったんだってば」
('、`*川「知り合いの娘さんが20歳になるから、もういらないって言ってくれたんだっけ?
それ本当なの? 何か嘘ついてない?」
先生はしばらく黙った。
辛抱強く答えを待つ。
通りすがる学生達の視線が私達にまとわりついてくるが、そんなものに構っていられない。
ようやく、先生が口を開いた。
(´・_ゝ・`)「今年で20歳になる娘さんが事故で亡くなったんだけど、
それ以来、彼女が大事にしてた市松人形が勝手に動いたりして恐いから、
人形を貰ってくれないかって言われた」
私は、深々と頷いた。
右手を掲げる。
- 132 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:14:13 ID:tf4/L/nYO
-
('、`*川「先生。引っ叩いていい? 軽くじゃなくて、思いっきりなんだけど」
(´・_ゝ・`)「いいよ」
朝の大学に、頬を張る音が響き渡った。
VIP大学内はしばらく「盛岡教授が朝っぱらから若い女と別れ話をした末に、
思いきり殴られていた」という噂で持ち切りだったらしいが、
私の知ったことではない。
第四夜『遊女の人形』 終わり
- 133 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:14:25 ID:lRHcK7Ww0
- 流石先生としかいえない
- 134 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:15:51 ID:tf4/L/nYO
- 今夜はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
- 135 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:16:05 ID:aKwCLalo0
- 乙
市松人形はマジで無理
- 136 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:20:23 ID:lRHcK7Ww0
- おつおつー
- 137 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 02:55:34 ID:jqRR01tkO
- 乙!相変わらず安定して怖いわ
それにしても目元に強烈な遺伝のある一家だな
- 138 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 09:54:23 ID:dNigmkL60
- ブチ切れた市松人形さんかと思ったら違ったけど面白かったわ
- 139 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 10:33:53 ID:YBMAN7jQ0
- 衣装人形いい奴だなー
- 140 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 11:30:32 ID:zzUTc//EO
- なんと面白い
- 141 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 17:05:52 ID:21bnolC20
- 来てた。乙。
みんなお母さん似なんだな
- 142 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 19:18:54 ID:8dTdJgJw0
- 次回ブチ切れて再登場するに決まってんだろ
- 143 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 20:01:13 ID:h7ktaMDQ0
- ペニ達のお父さんが誰なのか気になる乙
- 144 :名も無きAAのようです:2012/08/07(火) 23:58:35 ID:FdkG17wY0
- おもしろいなー
- 145 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:13:23 ID:ykXILoO2O
-
今回は厳密に言えば、私と先生の話ではない。
だけど、話さなければいけないと思う。
私にとっては、怖い話ではなく、哀れな話なのだけれど。
その青年は、爽やかな感じのする、どことなく好感を持てる人だった。
_
( ゚∀゚)「ほんと、大した話じゃないんですよ」
彼はアイスコーヒーにミルクとガムシロップをたっぷり入れて、
ストローでぐるぐる掻き混ぜた。
甘くて飲めたものじゃないだろうと思える量だ。
彼は、照れ臭そうに笑った。
_
( ゚∀゚)「こうしないと飲めなくて」
('、`*川「はあ……」
(´・_ゝ・`)「普通にジュース飲めばいいんじゃないかな」
対して、先生はブラックのままアイスコーヒーを飲んでいる。
こっちはこっちで、私には飲めそうにない。
- 146 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:16:06 ID:ykXILoO2O
-
(´・_ゝ・`)「それはともかく、早く話してくれる?」
_
( ゚∀゚)「あ、はいはい」
私は隣に座る先生を一瞥し、鬱屈した気持ちを溜め息に込めて吐き出した。
バナナジュースに刺さっているストローをくわえる。
何だって、喫茶店で怪談を聞かされねばならないのだろう。
第五夜『憑かれた青年の話』
.
- 147 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:17:56 ID:ykXILoO2O
-
今回も、発端は「偶然」だった。
夕方にバイトが終わって、お気に入りの喫茶店で休んでいるところに
先生が青年を連れて来店したのだ。
一番奥のテーブルにいた私は、すぐに気付けなかった。
隣のテーブルにつこうとした先生と目が合ったときには、もう遅い。
(´・_ゝ・`)『やあ伊藤君。やあやあやあ』
有無を言わさず、先生は私の隣に座り、向かいに青年を座らせた。
注文したばかりだったけど、帰ろうかと思った。
(´・_ゝ・`)『伊藤君、怖い話聞かない?』
('、`;川『はあ?』
(´・_ゝ・`)『いいかな長岡君。この子、僕の知り合いなんだけど』
_
( ゚∀゚)『俺は構いませんよ』
('、`;川『なっ、何で私が怖い話聞かなきゃいけないの!?』
(´・_ゝ・`)『怖い話をすると「寄ってくる」って言うじゃない。
幽霊に好かれる君がいれば、すごいのが来るかもしれない』
そうこうしている内にバナナジュースが来て、この店のバナナジュースが好きな私は
散々迷って迷って迷って、果たして、その場に留まった。
- 148 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:20:17 ID:ykXILoO2O
-
青年は長岡ジョルジュと名乗った。
VIP大学の教育学部に所属する、私と同い年の学生だという。
先生の教え子の友人であって、青年と先生自体は、ほぼ初対面らしい。
その教え子が、先生に「変な体験した友達がいる」と話したのがきっかけだったとか何とか。
詳しく聞いてみるとオカルトのニオイがしたので、本人から話を聞くことにした。らしい。
それで喫茶店に来てみたら私と会った、というわけだ。
教授と学生なら大学で話せ。こんなところに来るな。
胸の内で文句を吐き出し、冒頭に至る。
- 149 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:21:50 ID:ykXILoO2O
-
_
( ゚∀゚)「もう解決したから、多分、話しても大丈夫だと思います」
青年はにこにこ笑っていた。
彼が先に言ったように、大した話ではないのかもしれない。
彼は紙ナプキンを一枚取ると、先生からペンを借りた。
さらさらと慣れた様子でペンを走らせ、私達に差し出す。
そこに描かれていたのは、人のような形をした何かだった。
_
( ゚∀゚)「絵、下手だから上手く描けないけど……一時期、こんな感じのやつに付き纏われてたんです」
ぼうぼうに伸びた髪。
両目と口の辺りは真っ黒に塗り潰されている。
私が青年の顔を見ると、彼は、自身の目を指差した。
_
( ゚∀゚)「目がね、なかったんですよ」
*****
- 150 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:23:25 ID:ykXILoO2O
-
S病院は「出る」。
友人は興奮した様子で、俺に語った。
<_プー゚)フ「マジだって! 先輩が見たらしいぜ」
_
( ゚∀゚)「お前、嘘つかれてんじゃねえの」
夜だから怖い話でもしよう、なんて言うからどんな話が出てくるかと思ったら。
S病院は有名な心霊スポットだった。
とはいえ廃病院なんてものは、事実がどうあれ、心霊スポット扱いされる宿命にあると思う。
そのS病院も御多分に漏れず、馬鹿な奴らの肝試しの末に、
出る、なんて噂が流れるようになっていた。
<_プー゚)フ「聞けって。あのな、先輩が仲間と一緒に肝試しに行ったんだと。
したら、病室の前でババアが手招きしてたり手術室から足音がしたり……」
_
( ゚∀゚)「はいはい」
俺はこれっぽっちも信じなかった。
幽霊を信じていないわけじゃない。
ただ、廃病院だからって、必ず霊が出るわけじゃないだろうと思っているだけだ。
聞き流す俺に、友人も苛立ってきたのだろう。
突然俺の腕を引っ掴むと、車に乗り込んだ。
- 151 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:24:45 ID:ykXILoO2O
-
<_プー゚)フ「行くぞ!」
_
(;゚∀゚)「はあ!? ふざけんな!」
<_プー゚)フ「お前マジでビビっても知らねえからな」
──が、案の定、何事もなく肝試しは終わった。
というよりも友人が怯えすぎて、何かが起こる前にさっさと退散してしまったと言うのが正しい。
<_フ;゚ー゚)フ「絶対俺ら以外の足音してたって……」
_
( ゚∀゚)「気のせいだろ」
割れた窓からS病院を出る。
車へ戻ろうとして──俺は、ぎょっとした。
車の傍、運転席側に何か立っている。
- 152 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:26:31 ID:ykXILoO2O
-
<_フ;゚ー゚)フ「あー、気味わりい。帰って飲もうぜ」
_
( ゚∀゚)「……おう」
友人には見えていないらしかった。
そいつの前を通り、友人が運転席に座る。
俺は助手席のドアを開けながら、向かいにいる「そいつ」を見た。
その辺の男よりも背が高い。
伸びきったぼさぼさの髪、白い服──というより、布切れ。
そいつの顔が目に入り、凍りついた。
目がない。
両目がある筈の部分は、眼球をくり抜かれたようにぽっかりと穴があいている。
口は開きっぱなしで、こちらも、黒い穴があるみたいだった。
視線を逸らし、助手席のシートに腰掛けた。
車が走る。そいつはその場に佇んだまま動かない。
遠ざかっていくのをルームミラーで確認し、ほっと息をついた。
.
- 153 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:27:57 ID:ykXILoO2O
-
数日後。
大学で講義を受けている最中、何気なく窓から外を見下ろして、凍りついた。
正門の前に変な奴がいる。
ぼさぼさの髪に白い服。
遠目だったが、間違いなくあいつだ。
だって、そいつは顔を上向けて、俺の方を見ていた。
眼球のない目で、俺を見ていた。
何人かの学生が正門を通っていくが、誰1人としてあいつを気にする様子はない。
一旦講義室に視線をやってから再び窓を見ると、もう、あいつはいなかった。
.
- 154 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:29:27 ID:ykXILoO2O
-
それから、度々そいつを目にするようになった。
見かけるときはいつも遠くにいるから、単なる勘違いだとか、
見間違いだと思い込むようにしていた。
けれど、そいつを見たときに覚える寒気と恐怖が、奴の存在を証明している気がした。
大学の構内。
アーケードの人混み。
電車の隣の車両。
そいつは必ず俺に顔を向けていた。
ある日、ふと気付く。
──段々近付いてきてないか?
.
- 155 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:31:26 ID:ykXILoO2O
-
そのことに気付くと、そいつは、街中や大学には現れなくなった。
代わりに、俺が住むアパートの周りに佇むようになった。
初めは、アパートを出てしばらく歩いた先の曲がり角に。
その2日後はアパートから3本目の電柱の傍に。
さらに2日後には、3本目と2本目の電柱の間に。
じりじりと、距離を詰めている。
俺が奴の前を通り過ぎても、奴は、追ってきたり触れてきたりはしない。
ただひたすら佇み、数日経つとアパートに近付いている。
気味は悪いが、危害を加えてくることはない。
_
( ゚∀゚)(そんなに『危ない』奴じゃないのかも)
そう思ってしまうくらいには、平和だった。
- 156 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:33:12 ID:ykXILoO2O
-
しかし、その期待は早々に裏切られる。
ある夕暮れ。
1本目の電柱に寄り添っている「奴」の前を通り過ぎたところで、
向こうから野良猫が近付いてきた。
猫は俺の横を過ぎると、めちゃくちゃに威嚇し始めた。
他に人や猫はいなかった筈なので、「奴」に向けて威嚇したのだろう。
何となく気になって振り返ろうとした、瞬間。
猫の声が、首を絞められたみたいに、妙に詰まったような感じで途切れた。
直後、ぶちぶちと何かが千切れるような音と、ぐちゃぐちゃ、掻き混ぜる音が響く。
俺は走り出し、アパートには入らず、友達の家まで逃げた。
.
- 157 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:35:31 ID:ykXILoO2O
-
<_フ;゚ー゚)フ「マジかよ……やばくねえ?」
俺の話を聞いた友人が、あんぐりと口を開ける。
彼は俺を馬鹿にすることなく、真面目に聞いてくれた。
これからどうする、と問う友人に、どうしよう、と答える。
<_フ;゚ー゚)フ「とりあえず、しばらくこの部屋に泊まってけ」
_
( ゚∀゚)「いいのか?」
<_フ;゚ー゚)フ「俺だったら怖すぎて帰れねえもん。
第一、俺が病院に連れてったせいでこうなったんだろ」
お言葉に甘えて、俺は友人の家に数日ほど泊まった。
ここにまで「奴」が来るのではないかという不安でいっぱいだったが、
そういったことはなかったのが救いだ。
だが、いつまでも友人の家にいるわけにもいかない。
友人と一緒に、お祓いをしてくれる場所を調べた。
あいつを何とかしないと、家に帰れないからだ。
- 158 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:38:02 ID:ykXILoO2O
-
インターネットや人脈を駆使し、ようやく信頼出来る神社を見付ける。
アポをとった方がいいというので、電話を掛けたら──
「申し訳ありません」。
これだけ言って、電話を切られた。
もう一度掛けてみると、自分にはどうしようも出来ない、と言われた。
それだけ。
<_フ;゚ー゚)フ「どうだった?」
_
(;゚∀゚)「無理って言われた……」
他の候補にも電話を掛けてみたが、どこも返事は似たり寄ったり。
たまに、引き受けると言うところもあったけれど
とんでもない金額を吹っ掛けてくるので、こちらから断った。
手詰まり。
申し訳ありません、と言う神主の声が頭の中を巡る。
そんなに恐ろしいものに取り憑かれたのかと思うと、震えが止まらなかった。
どうして俺ばっかり、こんな目に。
一緒に行った友人は平気なのに、何で俺だけ。
- 159 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:42:07 ID:ykXILoO2O
-
溢れ返る不安に耐えかねて友人に当たり散らしたが、
それでも友人は、真剣に対処法を考えてくれた。
<_フ;゚ー゚)フ「思い切って引っ越そうぜ。
ほら、その霊は俺のうちには来ないんだろ?
ってことは、そいつ、あのアパートしか狙ってないんじゃねえかな」
もう、それしかないだろう。
俺は実家に泣きついて金を借り、アパートからなるべく離れた引っ越し先を探した。
引っ越しが決まり、荷物を整理するため、久々にアパートに戻った。
ドアの前にあいつがいた。
吐き気が込み上げて、蹲る。
今回の件を知らない友達を何人か呼んで、彼らに準備を済ませてもらった。
.
- 160 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:45:32 ID:ykXILoO2O
-
引っ越し先は小綺麗なマンション。
家賃は高めだが、趣味や娯楽を我慢すれば、バイト代で何とかやっていける。
そこに越してから、一度も「奴」を見なくなった。
初めはびくびくしていたけれど、2週間、3週間、一ヶ月もすると、
逃げ切れたという気分に浸ることが出来た。
引っ越して一ヶ月半。
夜、トイレで用を足しているときのこと。
こつ、と、トイレの窓が鳴った。
磨りガラスの向こうに、白い何かがある。
丸い穴が3つあいたような──顔。
一秒も経たない内に、それは消えた。
呆然として、固まる。
ようやく動けるようになるまで10分以上かかった。
.
- 161 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:47:42 ID:ykXILoO2O
-
──逃げられなかったのだ。
絶望感で、何日も眠れなかった。
また友人の家に泊まろうか。
でも、泊まって、その後はどうする?
どうせお祓いはしてもらえないし、あいつからは逃げられない。
ずっと友達の家にはいられない。
どこに行っても無駄。
何をしても無駄。
.
- 162 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:49:36 ID:ykXILoO2O
-
_
( ∀ )「……」
越してから2ヶ月。
俺は風呂に入りながら、漠然と、答えの出ない悩みを繰り返していた。
怖い。怖い。どうしよう。
湯に浸かり、現実から目を背けるように瞼を下ろした。
寝不足が祟ったのか、俺は、湯船の中で眠りに落ちた。
- 163 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:52:01 ID:ykXILoO2O
-
──くしゃみで目を覚ました。
お湯が、すっかりぬるくなっている。
早く出ないと風邪を引く。
両手で掬ったぬるま湯を顔にかけ、俺は湯船の縁に手をついた。
_
( ゚∀゚)
目の前。
「奴」が、お湯から顔の上半分を出して、俺を見ている。
長い髪が湯船の中でゆらゆら揺れている。
手が伸びてきた。
異様に細くて、薄くて、皺だらけの手。
俺は咄嗟に目を閉じる。
瞼の上を、冷たい指がなぞる。
- 164 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:52:31 ID:ykXILoO2O
-
ああ。
つかまった。
*****
- 165 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:54:12 ID:ykXILoO2O
-
そこで青年は話を終えた。
しばらく待って、私は口を開く。
('、`;川「……あの……」
_
( ゚∀゚)「はい?」
('、`;川「終わりですか?」
_
( ゚∀゚)「はい」
にこにこ、青年は笑っている。
('、`;川「はい、って……それからどうしたんです?」
_
( ゚∀゚)「どうって?」
('、`;川「いや、だってあなた最初に、もう解決したって……」
_
( ゚∀゚)「しましたよ」
青年が首を傾げる。
傾げたいのはこっちの方だ。
- 166 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:55:27 ID:ykXILoO2O
-
('、`;川「そ、その霊はどうなったんですか?」
_
( ゚∀゚)「いなくなりました」
('、`;川「どうして? 誰も祓えないんでしょ? お風呂場で会った後、どうな──」
(´・_ゝ・`)「長岡君」
先生が、私の言葉を遮った。
私と青年の瞳が先生に向かう。
先生はアイスコーヒーを飲み、青年の前のグラスを指差した。
(´・_ゝ・`)「君、一口も飲んでないよね」
('、`;川「は?」
青年のグラスの中身は、半分ほどに減っている。
飲んでいない筈がない──そう言おうとした私の顔が、青ざめた。
私の記憶が正しいかは分からない。
けれど、たしかに、私は青年がコーヒーに口をつけるところは一度も見なかった。
- 167 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:57:27 ID:ykXILoO2O
- _
( ゚∀゚)「そうですね」
(´・_ゝ・`)「……たくさん話して喉が渇いたろう。飲んだら?」
_
( ゚∀゚)「俺、甘いコーヒーって苦手なんですよ。コーヒーは何も入れない派です」
にこにこ。にこにこ。
青年が笑う。
「こうしないと飲めない」。そう言ったのは、彼本人だ。
('、`;川(……誰が……)
──誰が、「こうしないと飲めない」のだろう?
私は思わず先生の腕を掴んだ。
先生は一度視線で抗議したが、そのままにさせてくれた。
- 168 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 02:59:42 ID:ykXILoO2O
-
(´・_ゝ・`)「君、まだ解決してないんじゃないの」
_
( ゚∀゚)「何がですか? 終わりましたよ? 俺はもう平気ですよ。
何もありません。解決したから。大丈夫です。
もう大丈夫です。解決しました」
青年の表情は変わらない。
初めに抱いた印象と同じ。爽やかな笑顔。
不意に、携帯電話の着信音が響いた。
心臓が飛び出るほど驚いた私を他所に、先生は懐から携帯電話を出し、耳に当てた。
(´・_ゝ・`)「はい? ……ああはい、すみません、行きます。はい」
レポートがどうたら資料がどうたらという声が、携帯電話から聞こえてくる。
先生は通話を切って、腰を上げた。
(´・_ゝ・`)「楽しい話をありがとう、長岡君。
僕は仕事があるから戻るよ」
_
( ゚∀゚)「はい。こちらこそ、こんな話に付き合ってくれてありがとうございます」
もう大丈夫もう大丈夫と呟いていた青年は、先生の声で我に返ったのか、こくりと頷いた。
- 169 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 03:01:07 ID:ykXILoO2O
-
(´・_ゝ・`)「お金は払っておくから、君はゆっくりしてていいよ」
_
( ゚∀゚)「すいません、ご馳走になります」
('、`;川「あ……せ、先生」
伝票を持った先生が、レジに歩いていく。
私は青年と2人きりにされるのが恐くて、慌てて先生の後を追った。
私の分まで会計を済ませてくれた先生は、私に、「送ろうか」と声をかけた。
どうせまた社交辞令だろうが、頷いて返す。
.
- 170 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 03:04:45 ID:ykXILoO2O
-
外はもう暗かった。
店を出て、恐る恐る振り返る。
ガラス越しに青年が見えた。
彼の後ろに寄り添う、人のようなもの。
ぼさぼさの髪に白い服、顔は──
私は目を逸らし、先生の車に乗り込んだ。
*****
- 171 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 03:10:08 ID:ykXILoO2O
-
(´・_ゝ・`)「幽霊がどうこうより、彼の方が恐いな、僕は」
帰りの車中で、先生は呟いた。
どう答えていいか分からなくて、私は窓を眺めたまま沈黙する。
('、`*川「……先生、何とかしてあげられないの?」
(´・_ゝ・`)「本職の人が何も出来ないのに、どうしろって言うのさ。
僕が下手に干渉しても、彼の寿命を縮めるだけな予感もするし。
まあ興味はあるから、彼の友人を通じて観察はしてみたいね」
('、`*川「……先生、良識って言葉は知ってる?」
彼を救う術はないのだろうか。
見て見ぬふりをすることが、彼にとっての「逃げ道」なのだろうか。
憑かれて、疲れて。それが、あの結果か。
恐いというよりも、何だか──可哀相でならなかった。
- 172 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 03:10:55 ID:ykXILoO2O
-
青年がその後どうなったのか、私は知らない。
第五夜『憑かれた青年の話』 終わり
- 173 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 03:13:04 ID:ykXILoO2O
- 今夜はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
- 174 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 03:54:12 ID:N5YTccigO
- 毎日来るというのはいいねえ
面白いので是非このペースを保ってもらいたいところ
- 175 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 04:18:32 ID:jpAc2nj60
- 乙
今回のがダントツで怖え・・・
救いのない話は苦手だ
- 176 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 05:03:59 ID:Ct6TZC9I0
- いやあああビコーズ超こええ!
こ、こんな時間に、ありがとう、大好き。乙
- 177 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 09:37:10 ID:BZENxCcU0
- 話上手だなぁ、羨ましい。乙。
- 178 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 10:14:47 ID:Uvyr6D.c0
- 最初のやつと今回のがやべぇわ
- 179 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 12:33:37 ID:pzzi1QPo0
- 人形の時といい憑かれてる本人がその状態を不審に思って無いってのが怖いな
乙
- 180 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 15:23:50 ID:aTjAjyi.O
- ( ●▼●)お憑かれ
- 181 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 15:27:10 ID:aTjAjyi.O
- 川 ●▼●)( ゚∀゚)・・・
- 182 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 22:58:31 ID:oA/ZnuqA0
- ふ、ふん!ト、トリックだ!トリックに決まっている!!
- 183 :名も無きAAのようです:2012/08/08(水) 23:40:43 ID:mvXp5Ssg0
- 今日も来るかね
- 184 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:18:19 ID:B.euWL5AO
-
いつも怖いことばかり起きるのかといえば、そうでもない。
中には、「不思議だな」程度で済ませられる出来事もあった。
箸休めというわけでもないが、今日は、そんな話を。
J( 'ー`)し「ペニサスー!」
母親が階下から呼ぶ声で、私は目覚めた。
午後6時半。
今日はバイトが午前だけだったので、ついつい昼寝してしまった。
私は大声で返事をすると、手早く服を着替えて階段を下りた。
('、`*川「何か用〜?」
欠伸をして、目元を擦る。
母は玄関にいた。
- 185 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:20:51 ID:B.euWL5AO
-
J( 'ー`)し「お客様よ」
(´・_ゝ・`)「やあ」
('、`*川
我が目を疑った。
夢かと思った。
何度か目を擦ったが、先生は消えることもなく、母の前に立っている。
私は踵を返し、無言で階段を駆け上がった。
第六夜『祠とキツネ』
.
- 186 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:22:06 ID:B.euWL5AO
-
J(*'ー`)し「あらあら、そんな……。あの子がねえ……」
(´・_ゝ・`)「いつも助かってますよ」
気持ちを落ち着かせて1階に戻ると、母と先生がリビングで談笑していた。
('、`;川「何なの!? 何しに来たの!?」
先生の後ろで叫ぶ。
振り返った先生は、見たこともないような上品な笑顔を浮かべていた。
何度か車で送ってもらったことがあるから、彼が私の家まで来れた理由は分かる。
しかし、一体何の用があって来たのか。
(´・_ゝ・`)「おはよう、伊藤君」
J(*'ー`)し「ペニサスってば、盛岡先生の研究のお手伝いしてるんだって?」
('、`;川「は?」
J(*'ー`)し「VIP大学の教授っていったら、すごい方じゃないの。
そんな方のお手伝いをするなんて偉いわ!」
どうやら、私のいない間にすっかり母を騙してくれたようだ。
その「研究」が幽霊絡みだなんて、母は思ってもみないだろう。
お手伝いというより巻き込まれているだけなことも、
この先生のおかげで、娘が厄介なものに取り憑かれかけたことも。
- 187 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:23:00 ID:B.euWL5AO
-
先生を睨む。
すると、母に「何て顔をするの」と叱られた。
('、`;川(くっ、くそ……っ!)
かたや、頭のよろしい大学に勤める経済学教授。
かたや、定職に就かずバイトを渡り歩く20歳。
先に母を味方につけた方の勝ちだ。
私が握り拳を作ると、母は、とんでもない言葉を口にした。
J( 'ー`)し「ペニサス、今日も研究手伝う約束してたんでしょ?
早く準備してらっしゃいな」
*****
- 188 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:24:38 ID:B.euWL5AO
-
あれよあれよという間に車に乗せられ、研究という名の肝試しに付き合わされることになって。
先生の車の中で、私はずっと愚痴っていた。
('、`;川「最悪……最悪……約束なんてしてないっつうの……」
(´・_ゝ・`)「まあまあ。後でご飯を奢ってあげよう。
いやあ、バイトに行ってたらどうしようかと思ってたんだけど、
家にいてくれて良かったよ。やっぱり何かしらの縁があるのかな」
('、`;川「何でわざわざ家に来るわけ? 何なの?」
(´・_ゝ・`)「君に手伝ってほしかったからだよ。
前にも言っただろう。霊に好かれる伊藤君がいれば、何か起こるかもしれない」
別に霊に好かれているわけではない。
先生が零感すぎるあまり、私に皺寄せが来ているだけだ。
先生は右手でハンドルを操り、左手で私に何か寄越してきた。
最新型のデジタルカメラ。
('、`;川「?」
(´・_ゝ・`)「今から心霊スポットに行くよ。そこで写真撮ってきて」
窓からカメラを捨ててやりたい気分になった。
- 189 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:26:32 ID:B.euWL5AO
-
('、`;川「心霊スポットってどこ?」
(´・_ゝ・`)「Jトンネル」
聞いたことのない名前だ。
私はデジタルカメラの電源を入れながら、「何それ」と訊ねた。
(´・_ゝ・`)「トンネルとしても、心霊スポットとしてもマイナーなんだよね。
何でも、トンネルの中で写真を撮ると、女の霊が写るとかいう話で……」
先生はインターネットで噂を知ったらしい。
ただ、いくら調べても、噂の裏付けとなるネタが見付からなかったそうで
先生自身も半信半疑なのだという。
(´・_ゝ・`)「昨夜、僕1人で行ってみたんだけどさ。
霊らしきものなんか何も写らなかったんだ」
('、`*川「じゃあ何もいないんでしょ。帰ろう」
(´・_ゝ・`)「君がやって駄目だったら諦めるよ」
('、`;川「ほんと勘弁してよお……」
話している内に到着したのか、車が減速し、止まった。
先生が意気揚々と降りる。
私も少し迷ってから、車を降りた。
- 190 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:27:46 ID:B.euWL5AO
-
時刻は8時。
分かってもらえるだろうか、夜のトンネルが持つ雰囲気というものを。
辺りが暗く染まる中、さらなる暗闇が口を開けていることの恐怖。
私はトンネルを前にして、青ざめた。
(´・_ゝ・`)「結構昔に作られたトンネルでさ。
中に明かりなんてないし、今となっては、この道を使う人も少ない。
雰囲気はたっぷりだよね」
('、`;川「……」
逃げたかった。
カメラを投げつけて、走り去りたかった。
が、先生に後ろから両肩を掴まれているため、それも叶わない。
- 191 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:29:51 ID:B.euWL5AO
-
('、`;川「せめて……せめて昼に連れてきてよ……」
(´・_ゝ・`)「昼より夜の方が出そうじゃない? 幽霊」
('、`;川「出て堪るか」
(´・_ゝ・`)「僕は出てほしいんだよ。
さあ行っておいで。あ、1人でね」
('、`;川「帰る! 帰る!」
(´・_ゝ・`)「そう言わずに。ほら、ご飯奢ってあげるってば」
('、`;川「ファミレスごときでそこまで体張れるか!」
その後、あれやこれやと説得されること30分。
先生に3つの条件を呑んでもらい、ようやく私は覚悟した。
条件は、車のライトで照らすことと、トンネル内で懐中電灯を使う許可、
それと、途中で逃げ出しても怒らないこと。
(´・_ゝ・`)「中途半端に明かりがある方が怖いと思うんだけどな……」
呟きながら、先生は車のライトをつけ、後部座席から取り出した懐中電灯を私に投げた。
- 192 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:31:46 ID:B.euWL5AO
-
明かりがあると、周囲を見渡す余裕も出来る。
トンネルまで続く道はアスファルトで舗装されているけれど、
その両脇は雑草が伸び放題で、やたらと虫が飛んでいる。
虫除けスプレーを持ってくれば良かった。
雑草ゾーンの向こうは林なのか、木がずらりと並んでいた。
静かだ。
('、`*川「……何あれ?」
一点に目を留め、私は、車の傍らに立つ先生へ訊ねた。
トンネルの入口に近いところに、木で出来た何かが置かれている。
小さい箱のような。
(´・_ゝ・`)「祠だと思うよ。ぼろぼろだけど」
祠。
ということは、神様がいるわけだ。
私は祠に向けて手を合わせた。
- 193 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:33:34 ID:B.euWL5AO
-
('、`;川「何も出ませんように……」
(´・_ゝ・`)「出ますように」
('、`;川「先生黙って」
先生の言うようにぼろぼろなので、今は、祠の手入れをしている人はいないのかもしれない。
そんなところに祈ったところで神様が聞き入れてくれるのか甚だ疑問だが、
やらないよりはマシ、ということで。
何度か深呼吸して、私は右手に持った懐中電灯のスイッチをつけると、
左手にデジタルカメラを構えた。
('、`;川「……行ってきます」
(´・_ゝ・`)「行ってらっしゃい」
('、`;川「そこにいてよ? 勝手に帰らないでね? ちゃんと待っててね?」
(´・_ゝ・`)「はいはい」
まずは、入口で写真を一枚。
出来を確認する勇気はない。
画面を見ないまま保存し、私は大股で歩き始めた。
*****
- 194 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:34:57 ID:B.euWL5AO
-
ある程度進むと、車のライトも届かなくなった。
もう懐中電灯だけが頼りだ。
ぎゅっと目を閉じ、適当な場所を撮る。
('、`;川(帰りたい……)
足元を照らしながら歩いた。
こつこつ、自分の靴の音が反響する。
そっと前を見た。向こうの出口は、まだ遠く感じられる。
あそこまで行って、また戻らなければいけない。
心臓がぎゅうぎゅうと痛む。
まだ何も起こっていないのに、怖くて仕方なかった。
- 195 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:36:06 ID:B.euWL5AO
-
3分の2ほど進んだ頃。
不意に、何かが私の左足に触れた。
('、`;川「ぎゃあ!」
懐中電灯を取り落とした。
慌てて拾い上げ、左足に向ける。
──そのときの私は、さぞかし間抜けな顔をしていただろう。
('、`;川「え? ……え?」
キツネが、私の足に体を擦りつけていた。
キツネ。どこからどう見てもキツネだ。
私が後ずさると、キツネは私を見上げた。
- 196 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:37:41 ID:B.euWL5AO
-
('、`;川「……きつね……」
ぽつり、呟く。
そして──冗談だと思ってもらっちゃ困るのだけれど。
そのキツネは、私を見つめながら、たしかに「言った」。
〈いなりのかみ〉
男とも女ともとれない、不思議な声だった。
それと、何となく、舌足らずに思えた。
('、`;川「え?」
〈いなりのかみ〉
稲荷神、という漢字が頭に浮かぶ。
そこから、今度はあの祠が連想された。
キツネは私から視線を外そうとしない。
正直、可愛かった。
- 197 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:38:43 ID:B.euWL5AO
-
('、`;川「……あの祠の神様?」
キツネが頷く。
やっぱり可愛い。
('、`;川「あなたが? 稲荷神?」
また頷いた。
冷静に状況を確認するとキツネに話しかける怪しい女なのだけれど、
このときの私に、そこまで考えが回るような余裕はなかった。
互いに沈黙し、見つめ合う。
試しに一歩進んでみると、キツネも付いてきた。
少しペースを上げる。キツネは離れない。
しばらく、私と彼(彼女?)は一緒に歩いた。
.
- 198 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:40:25 ID:B.euWL5AO
-
スタート地点に近付いてきた頃には、キツネは消えていた。
懐中電灯の光と車のライトが重なり、ほっと息をつく。
可愛らしい同行者のおかげで、さほど恐怖を覚えずに済んだ。
(´・_ゝ・`)「おかえり」
('、`*川「ただいま」
(´・_ゝ・`)「何かあった?」
('、`*川「……さあ」
怯えた素振りも見せない私の様子で、何もなかったと判断したのだろう。
先生はそれ以上何も言わずに、デジタルカメラの確認をした。
(´・_ゝ・`)「写真も、それっぽいのは写ってないね。
ここは外れだったか」
ひどく残念そうだ。
帰るよ、という先生の言葉に頷いて、私は車に乗った。
- 199 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:41:07 ID:B.euWL5AO
-
〈あぶらげたべたい〉
出発する間際、耳の奥で、例の声が響いた
あぶらげ。
付き添ってやったのだから、油揚げくらい寄越せ──ということだろうか。
*****
- 200 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:43:44 ID:B.euWL5AO
-
翌日の昼、私は1人でJトンネルを訪れた。
明るい時間帯には、昨夜のような恐ろしい姿も鳴りを潜めている。
私は祠の前にしゃがみ込み、家から持ってきた小皿と
スーパーで買った油揚げを鞄から取り出した。
小皿に油揚げを2枚ほど乗せ、そこへ置く。
このまま去るのもアレなので、手を合わせておいた。
ありがとうございました、と一言。
それを済ませると、私は立ち上がり、トンネルに背を向けた。
──背後から、がさがさという音と笑い声。
振り返る。
人間も動物も、どこにもいない。
けれど、小皿の油揚げが2枚共なくなっていた。
****
- 201 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:45:07 ID:B.euWL5AO
-
(´・_ゝ・`)「はあ。稲荷神……」
その日の夜。
ご飯を奢るという約束を果たしてもらうために
先生とファミリーレストランへ行った際、トンネルでのことを話してみた。
先生は首を捻っている。
('、`*川「神様に守ってもらったのかと思うと、すごい体験した気がする」
(´・_ゝ・`)「……」
('、`*川「……先生、ノリ悪いわね」
(´・_ゝ・`)「僕が興味を持ってるのは死んだ人間の霊だからね。
神様や妖怪の類には、あんまりそそられないな」
随分と偏った嗜好である。
しかし私は、それよりも、先生の目が気になった。
私を馬鹿にしくさるような、ものすごく腹が立つ目だったのだ。
私が顔を顰めると同時に、先生は溜め息をついた。
- 202 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:47:37 ID:B.euWL5AO
-
(´・_ゝ・`)「あのね、伊藤君。稲荷神はキツネじゃないよ」
('、`*川「へ?」
(´・_ゝ・`)「稲荷神じゃなく、稲荷神の使いがキツネなんだよ。
よく混同されるみたいだけど」
('、`;川「使い? え……で、でも、あのキツネ、自分で稲荷神って……」
(´・_ゝ・`)「使いの者が自分の主人の名を騙るとは考えにくいし、
それ、多分ただのキツネだったんじゃないかな」
('、`;川「だ、だって喋ってたのよ! 気付いたら消えてたしっ……」
(´・_ゝ・`)「化かされたんだろうね」
そこまで話した辺りで先生は吹き出した。
俯き、くつくつと笑う。
- 203 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:50:45 ID:B.euWL5AO
-
(´・_ゝ・`)「まあ──ある意味、『すごい体験』じゃないの?
この御時世にキツネに化かされるなんて」
('、`*;川「ぐ……」
(´・_ゝ・`)「しかも人に化けたキツネなんかじゃなく、
もろにキツネの姿をした奴に騙されたんだろう? すごいよ。うん」
('、`*;川「ぐうう……」
(´・_ゝ・`)「まんまと要求通りに油揚げまで用意するとは、なんて馬鹿……ああいや、
なんて純粋な子なんだと思われたことだろうね」
('、`*;川「も、もういい……もうやめて……」
トンネルの前で聞いた笑い声の意味が分かった。
情けないというか──かなり恥ずかしかった。
- 204 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:56:44 ID:B.euWL5AO
-
ただ、この話にはちょっとしたオマケがある。
以来、バイトで帰りが遅くなると、たまにだけれど
ふわふわしたものが足の辺りでちょろちょろしながら付いてくるような、
妙に安心出来る感覚を抱くようになった。
そういう日に庭に油揚げを出しておくと、翌朝には無くなっている。
第六夜『祠とキツネ』 終わり
- 205 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 00:58:27 ID:B.euWL5AO
- 今夜はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
- 206 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 01:08:49 ID:VxC6gWnc0
- 今回はなんかほっこりした話でよかったよ
前回があれだし…。
- 207 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 01:18:02 ID:ofSCMbZ20
- 乙乙ー
- 208 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 01:35:37 ID:jHABlvEY0
- なんかすごく安心した
怖いのもいいけど、たまにはこういったものも欲しくなるね
- 209 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 05:45:02 ID:Su.l8gXg0
- おつ
キツネかわいいお
- 210 :名も無きAAのようです:2012/08/09(木) 06:30:59 ID:181a9Llk0
- こんな可愛い話で安心させて次は今までにないような恐ろしい話を持ってくるんじゃないだろうな!
- 211 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 02:02:31 ID:vEvjyRVE0
- 今日は無しかな
- 212 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 05:48:32 ID:AwHAZKeEO
-
あれは、たしか、お盆に入る直前だった。
お盆の時期には母方の実家に泊まるのが我が家の恒例なのだけれど、
今年はバイトの予定が詰まっていて、私はお盆前の一日しか休みがとれなかったのだ。
せめて顔だけは見せておいでと母が言うので、
私1人だけ、一足先に母の実家へ行くことにした。
そんな日の話。
('、`;川「全員留守!?」
(゚、゚トソン「また肺の調子が悪いとかで、お祖父ちゃんが病院に行きましてね。
場合によっては検査入院もあるみたいです。
あくまで『念のため』ですから、あまり心配しなくても大丈夫ですよ」
(゚、゚トソン「で、お祖母ちゃんは、他県でお友達のお葬式があるそうです」
- 213 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 05:51:09 ID:AwHAZKeEO
-
('、`;川「お葬式は電話で聞いてたけど……伯母さん達は?」
(゚、゚トソン「母さんはお祖父ちゃんの付き添い。父さんはお仕事」
喫茶店でレモンティーを飲みながら、従姉妹は言った。
彼女はトソンという。
母の姉──伯母──の娘で、私より一つ年上の大学3年生。
歳が近いからか、私達は昔から仲がいい。
トソンは一人暮らしをしているのだけれど、今は夏休みなので、母の実家に戻っているそうだ。
今日は、電車より安く済むからという理由で
わざわざ車を運転して私を迎えに来てくれた──のに。
('、`;川「よりによって、このタイミングで……」
出発する前にお茶でも飲んでいこう、とトソンに言われ
喫茶店に行った私は、そこで衝撃的な話を聞かされた。
なんと、今日に限って、祖父母も伯母夫婦も出払っているのだという。
- 214 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 05:53:19 ID:AwHAZKeEO
-
(゚、゚トソン「だから、正直、ペニサスが来る意味ないんですよね。
どうします? やめます?」
('、`;川「言ってくれるね。行くよ。
せめて仏壇に手を合わせるぐらいはする。あと、久々にあの縁側で昼寝したいし」
(゚、゚トソン「そうですか。まあ夜には両親も帰ってきますし、
検査がすぐに終わればお祖父ちゃんだって帰ってくるかもしれませんしね。
それまでのんびりしていってください」
母の実家は、言っては何だが、郊外の小さな田舎町にある。
「のんびり」という言葉がよく似合う。
('、`*川「そうするかな……。
あ、ショボンはどう? 元気?」
ショボンとは、彼女の弟である。
たしか今年で小学2年生だったか。
素直ないい子だ。
何気なく振った話題だったが、トソンは僅かに表情を曇らせた。
- 215 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 05:55:07 ID:AwHAZKeEO
-
(゚、゚トソン「それが、変なことを言うんです」
('、`*川「変?」
(゚、゚トソン「ええ……──おばけが、どうこうって」
私は舌打ちしそうになるのを、すんでのところで抑えた。
せっかくあのジジイがいないのに、またオカルト話か。
まったく。
トソンにバレないように溜め息をつき──私は、硬直した。
(゚、゚トソン「家の中で変なのを見るって言うんです。
ショボンにしか見えてないみたいなので、私は気のせいだろうと思ってるんですが……」
私の視線が、トソンの後ろを捉えたまま固まる。
ああ、もう、やだ。
- 216 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 05:56:04 ID:AwHAZKeEO
-
(゚、゚トソン「お祖父ちゃんが神社やお寺に相談したらしいんですが、これといって、何かあるでもなく。
それで母さん達が気味悪がって……──ペニサス、どうしました?」
私の様子がおかしいのに気付いたのだろう。
トソンは怪訝そうに私を見て、それから、振り返った。
(´・_ゝ・`)「君達、面白そうな話をしてるじゃないか」
第七夜『つきまとう影』
.
- 217 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 05:57:03 ID:AwHAZKeEO
-
('、`*川「ごめんなさい本当にごめんなさいごめんなさい変な人なのごめんなさい」
(゚、゚トソン「構いませんよ。ペニサスの知り合いなんでしょう?
それに、うちの大学にも研究熱心な教授はいますから」
午後1時に祖父母の家に着いた。
運転席のトソンに何度も謝る。
トソンは、シートベルトを外しながら首を振った。
(´・_ゝ・`)「いやあ、無理言って悪いね」
('、`*川「本当だわ。先生ってどうしてこんなに非常識なの。信じられない」
(´・_ゝ・`)「たまたま会った伊藤君がたまたま幽霊の話をしてたら、付いてこないわけにいかないだろう」
──後部座席で、先生がけらけらと笑う。
この男の前で幽霊を匂わせる発言をしてはいけない。
まさか、ここまで付いてくるなんて。
- 218 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 05:58:59 ID:AwHAZKeEO
-
(゚、゚トソン「でも、盛岡教授の望むような話ではないと思いますよ。
たしかに昔から地元にある家ですけど、家も地域も至って普通ですから」
(´・_ゝ・`)「それならそれで、仕方なかったと諦めるさ」
先生は、自分を「民俗学を多少齧っている経済学教授」と中途半端に偽り、
私にはよく分からない言葉を並べ立ててトソンを説得、もとい洗脳していた。
たしか、昔の風習が後世の子に齎すなんちゃらかんちゃらが何々、
学術的な興味があるからショボンの話を聞いてみたい云々。とか。
私だったら意味が分からなすぎて逃げる。
しかしまあ、VIP大学教授という肩書きの、なんと便利なこと。
トソンもすっかり先生を信用しきっていた。
トソンと先生が車を降りる。私は、急いで2人に続いた。
.
- 219 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:01:24 ID:AwHAZKeEO
-
(´・_ゝ・`)「すごいな」
先生は、座敷の真ん中で呟いた。
2部屋分の襖が取っ払われて一つの部屋となった座敷は、
今から大人数で宴会を始めても差し支えがないほどに広い。
縁側に続く障子も開かれていて、舞い込んだ風が、私達を撫でていった。
涼しい。
(゚、゚トソン「夏場は、なるべく風がよく通るようにしてるんです」
(´・_ゝ・`)「大きい家だね」
そう。祖父母の家は大きい。
純和風の、ちょっとした「屋敷」と言ってもいいレベルだ。
私や兄弟、トソンが幼かった頃は、かくれんぼをすると、
全員見付けるのに結構な時間が掛かったものである。
(゚、゚トソン「持て余し気味ですけどね。
──2人共、お腹すいてませんか。ご飯にしましょう。
お祖母ちゃんの作り置きがあります」
('、`*川「あー、是非いただきます」
私と先生は座敷の隅に荷物を置き、その部屋を後にした。
.
- 220 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:03:25 ID:AwHAZKeEO
-
(゚、゚トソン「……あれ?」
居間の障子を開け、トソンは首を傾げた。
飯台の上に飲みかけの麦茶がある。
つけっぱなしのテレビは、ワイドショーを映していた。
('、`*川「どうかした?」
(゚、゚トソン「おかず温めて出しておくよう、ショボンに電話したんですけど……。
……ショボンー?」
台所の方へ顔を向け、トソンはショボンの名を呼んだ。
返事も、物音もない。
トソンが踵を返す。
私と先生は顔を見合わせ、彼女に続いた。
(゚、゚トソン「ショボン、どこですか?」
よく通る声でショボンを呼びながら、トソンは廊下を歩く。
遊びに行ったんじゃないの、と私が言うと、玄関に靴があったと答えられた。
ショボンは、頼まれたことはちゃんとやる子だ。
一体どうしたのだろう。
何事かな、と先生がうきうきした雰囲気を醸し出していたので、足を踏んでおいた。
- 221 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:05:48 ID:AwHAZKeEO
-
──行きの車中でトソンが話してくれたことを思い出す。
(゚、゚トソン『黒い人間だって、ショボンは言ってましたね』
ショボンが見る「おばけ」は、真っ黒な、人の形をしたものらしい。
目だけがくっきり浮かび上がっていて、その目を忙しなく動かしながら
家の中をうろついているのだという。
(゚、゚トソン『初めて見たのは一昨年だったそうですが、一昨年は一度しか見なかったらしいです。
それが去年には3ヶ月に一度になって、今じゃ2週間に一度の頻度で出るらしくて』
そいつはショボンを見付けると、
ぴたりとショボンに目を向けたまま、その場に立ち止まったり、たまに近付いてきたりする。
少し経つといなくなるし、害はないのだけれど、ショボンがすっかり怖がっているそうだ。
彼が1人でいるときによく現れ、他の家族には見えないのだとか。
神社やお寺、拝み屋の類に相談しても、ちゃんとした答えは返ってこない。
(゚、゚トソン『お祖父ちゃん達が変に関わるから、ショボンがますます怖がるんですよね。
放っておけばいいのに』
トソンはリアリストで、幽霊などの存在は信じていなかった。
溜め息をつく彼女を、先生が冷めた目で見つめていたのを覚えている。
- 222 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:10:18 ID:AwHAZKeEO
-
私達は一旦居間の方へ戻り、台所脇の階段から2階へ向かった。
トソンが生まれたときに増築された階だ。
子供部屋しか置いていないので、1階に比べると随分狭く感じる。
階段を上った先に廊下があって、ドアが2つ並んでいるだけだった。
(゚、゚トソン「ショボン?」
右側のドアをトソンがノックする。
すると、中から、ばたばたと音がした。
トソンが眉を顰め、ドアを開ける。
それと同時に少年が飛び出してきた。
(´;ω;`)「お姉ちゃぁああん!!」
(゚、゚;トソン「わ」
少年がトソンにしがみつく。
ショボンだ。わんわんと大声で泣いている。
- 223 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:11:26 ID:AwHAZKeEO
-
(゚、゚;トソン「どうしたんですか」
(´;ω;`)「お、おね、ちゃ、ひぐっ、ひ、」
不躾だとは思いつつ、私はショボンの部屋の中を覗き込んだ。
押し入れが開いていて、そこから布団が落ちかけている。
どうやら、ショボンはそこに隠れていたようだ。
(´・_ゝ・`)「何があったんだろうね」
私の後ろで先生が囁く。
ショボンが完全に泣き止むまで、30分以上かかった。
*****
- 224 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:12:55 ID:AwHAZKeEO
-
('、`;川「ねえ……どうすんの?」
(゚、゚トソン「何がですか?」
私は、トソンの返答に「駄目だ」と思った。
彼女は弟の話を信じていない。
──ショボンが泣きながら話したことには。
また、例の黒い何かが現れたらしい。
トソンから電話を受けて、ご飯を温めようとしたショボンは、
台所でそいつに遭遇した。
驚いて逃げると、そいつは、ゆっくりな動きではあったが追いかけてきたのだという。
うっかり2階に逃げ込んでしまい、階段を下りるに下りられず、
自室の押し入れでずっと震えていた。
そこへトソンが来た──とのことだ。
- 225 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:16:22 ID:AwHAZKeEO
-
(´-ω-`) スースー
現在、ショボンは居間の真ん中で座布団を枕にして眠っている。
初めは先生を見て「誰?」と訝しげだったものの、大人が3人もいれば安心出来るのか、
彼はすぐに眠りに落ちた。
寝顔を見守るトソンの瞳は優しい姉のそれだけれど、
端からショボンの話を信じる気がないというのは宜しくない。
事実かどうかはともかく、ショボンはあんなに泣いていたのに。
('、`;川「『何が』ってさ、ショボンあんなに怯えてたじゃない」
(゚、゚トソン「子供ですから、いきすぎた想像に自分で怯えることもあるでしょう。
こちらまで過剰に対応すれば、ますます怖がるだけですよ」
(´・_ゝ・`)「君は随分と弟に冷たいね。
こんなに歳が離れていれば、必要以上に可愛がりそうなものだけど」
(゚、゚トソン「そうでしょうか」
トソンは、空の食器を重ねて立ち上がった。
一応食事はとったものの、ショボンの話を聞いた後だと、あまりお腹に入らなかった。
先生とトソンは完食していたけれど。
- 226 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:17:36 ID:AwHAZKeEO
-
(゚、゚トソン「お皿洗ってきますね」
('、`*川「あ、手伝おうか」
(´・_ゝ・`)「僕が手伝うよ」
私を押し留め、先生が腰を上げた。
トソンは「ありがとうございます」と先生に礼を言っている。
どうせ、ショボンが寝てしまった今、
トソンしか「黒い奴」の話を聞き出せそうな人間がいないと判断したのだろう。
質問責めに遭いながら(そしてついでに怖い話を聞かされながら)
食器を洗う羽目になるであろうトソンに、私は内心で合掌した。
今日ぐらいは私の身代わりになってくれてもいい筈だ。
2人が食器を抱えて台所に移動する。
私とショボンが居間に残った。
- 227 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:18:58 ID:AwHAZKeEO
-
扇風機が首を振りながら風を送る。
普段はエアコンがないと嫌になるけれど、この家は扇風機だけでも充分に涼しい。
その内、眠気が込み上げた。
食べてすぐ寝たら牛になるよ、という祖母の声が聞こえてきそうだが、
私は、欲求に応じることした。
本当は縁側で寝るのが一番気持ちいいのだけれど、ショボンから離れるのも可哀想だ。
彼と向かい合うように転がり、私は目を閉じた。
ショボンの前にだけ現れるという、黒い何か。
いつものように、先生が好奇心でもって引き取ってくれないだろうか。
.
- 228 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:20:36 ID:AwHAZKeEO
-
目を閉じたものの、あれこれ考えているとなかなか眠れない。
ここに「黒い奴」が現れたらどうしよう、とか。
もうテレビでも見てようかな。
私は、目を開けた。
──途端、目が合った。
心臓が跳ねる。
(´-ω-`) スースー
私の前で眠るショボン。
その向こうに、真っ黒な顔がある。
人の影がそのまま立体になったような印象だった。
輪郭が、どことなくぼんやりしている。
多分、上から見たら、私とショボンと影で川の字になっていただろう。
- 229 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:21:44 ID:AwHAZKeEO
-
ショボンを挟んで、私と影は至近距離で見つめ合う。
どうして幽霊ってやつは不意打ちで来るのか。
本気で心臓が止まりかねないから、やめてほしい。
影は何も言わない。
そもそも口があるのかも分からない。
唯一人間らしいパーツである目は、じっと私を睨んでいる。
何とはなしに、見覚えのある瞳だと思った。
私は、そっとショボンを抱き寄せた。
ショボンが唸り、舌足らずに私を呼ぶ。
目を覚ましたようだ。
身を捩ったショボンは私の胸元で、ひっ、と声をあげた。
小さな手が私の服を握りしめる。
- 230 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:22:31 ID:AwHAZKeEO
-
怖い。
瞬きもせずに私を睨む目からは、感情が窺えない。
ただ、奴にとって、私が邪魔な存在であろうことは分かった。
震えるショボンを抱く腕に力を込め、私は瞼をきつく閉じた。
──洗い物を終えたトソン達が戻ってきて、ようやく目を開けた頃には
影はいなくなっていた。
*****
- 231 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:24:46 ID:AwHAZKeEO
-
('、`;川「絶対に居たんだってば!」
(゚、゚トソン「夢じゃないですか? ショボンの話を気にしすぎたんでしょう」
既に夕暮れ。
庭からは、ひぐらしの鳴き声が聞こえる。
私が何度訴えても、トソンは頑として影の存在を認めなかった。
('、`;川「このままじゃ、ショボン、家にすらいられないじゃないの」
(゚、゚トソン「まあ、それはたしかに心配ですが……」
ショボンは家にいたくないと言って泣くので、
3時前に、近所に住む祖父の友人の家に預けられた。
伯母が帰ってきたら迎えに行くつもりらしいが、果たしてショボンは素直に帰りたがるだろうか。
- 232 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:26:47 ID:AwHAZKeEO
-
(´・_ゝ・`)「落ち着きなよ伊藤君。
お姉さんに言ったって、どうしようもないさ。
拝み屋さん達だって『分からない』って言ってたらしいんだから」
縁側に座った先生が、あっけらかんと言い放つ。
どういうわけか、トソンと一緒に台所から戻って以降
先生は今回の件への興味をすっかり無くしているようだった。
(゚、゚トソン「盛岡教授の言う通りです。
仮に、本当にショボンの言うようなものが存在したとして、
私に出来ることはないと思います」
('、`;川「だっ、……だったら、なるべく傍に居てあげるとかしなさいよ!
ショボンが1人のときに『あいつ』が出てくるんでしょ?
それが分かってるなら、出来る限り一緒にいればいいじゃない」
(´・_ゝ・`)「でも、伊藤君が一緒に寝てたところにも現れたんでしょ」
('、`;川「うぐっ……」
そういえばそうだ。
あれは、私がいるにも関わらず現れた。
というより──私がいたからこそ出てきたような、そんな気もする。
ショボンではなく、ずっと私を睨んでいたから。
言葉に詰まる私を一瞥して、先生はトソンへ顔を向けた。
- 233 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:28:31 ID:AwHAZKeEO
-
(´・_ゝ・`)「まあ、弟君の傍にいてあげるっていうのは正しいかもしれないね」
(゚、゚トソン「……そうでしょうか」
(´・_ゝ・`)「四六時中一緒に、とは言わないけど」
トソンが考え込む。
私達の言うことを受け入れてくれればいいのだけれど。
しばらく沈黙が続いた後、先生が口を開いた。
(´・_ゝ・`)「伊藤君、僕はもう帰るよ。君も一緒に帰らないかい」
('、`;川「えっ……どうして? このタイミングで?」
(´・_ゝ・`)「この件は、民俗学とは関係なさそうだからね。
あれがショボン君の空想ならば心理的な問題になってくるし、
そうでないなら、風習なんかは関係ない、彼個人のオカルト話だ」
(´・_ゝ・`)「これ以上僕が首を突っ込むのは、良くないことだよ」
ああ、先生は民俗学を齧っている経済学教授、という設定でここにいるのだった。
でも、それにしても──
- 234 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:30:03 ID:AwHAZKeEO
-
('、`;川(先生は『個人のオカルト話』に興味があったから来たんじゃないの?)
何か変だ。
たしかに民俗学云々という設定上なら、先生の言葉は然程おかしくないと思う。
しかし先生の本当の企みを知っている身としては、納得出来ない。
──不意に電話が鳴った。
トソンが立ち上がり、子機を取る。
私は先生の傍に近寄り、小声で話しかけた。
('、`*川「帰るなら1人で帰ってね。
私はこのままトソン達を放って帰るなんて出来ないし」
(´・_ゝ・`)「僕は、君こそ帰るべきだと思うんだけど」
('、`;川「何でよ」
(´・_ゝ・`)「そりゃあ……」
トソンが子機を置いた。
それに気付いた先生が口を噤み、顔を背ける。
一体何なんだ。
- 235 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:33:10 ID:AwHAZKeEO
-
(゚、゚トソン「……ペニサス」
('、`*川「ん?」
(゚、゚トソン「ショボンが、『また出た』って泣いてるそうなんです……。
すごく怯えてて、向こうも手を焼いてるので、こちらに帰すそうです」
('、`;川「──出た? あっちの家に!?」
私は、思わず大声をあげてしまった。
トソンが不安の滲んだ顔で頷く。
ここまで来たら、トソンも「放っておけばいい」なんて言っていられないだろう。
トソンが玄関へ行くと、先生は帰宅の準備を始めた。
「君も準備しなさい」と言われたので、本当に帰っていいのか悩みつつ、
ひとまず仏間へ行き、仏壇に手を合わせておいた。
結局、少しものんびり出来なかった。
.
- 236 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:35:40 ID:AwHAZKeEO
-
(´;ω;`)「お姉ちゃん……」
10分ほどすると、祖父の友人に送られて、ショボンが帰ってきた。
玄関先でトソンに抱き着き、ぐすぐすと泣いている。
トソンは祖父の友人に礼を言って、ショボンの頭を撫でた。
普段は表情の薄い彼女も、ひどく心配そうな顔でショボンを見下ろしている。
(゚、゚;トソン「大丈夫ですよ。私が傍にいますから……」
(´;ω;`)「もうやだ、こわい、やだ……」
(´・_ゝ・`)「ショボン君。お姉さんと一緒なら、あいつは出ない筈だよ」
先生が靴を履きながら言った。
何を根拠に、と思ったけれど、やけに自信のある口調だった。
ショボンがきょとんとしながら先生を見上げ、次にトソンを見る。
それから、ショボンは不思議そうな顔をしつつも頷いた。
- 237 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:41:00 ID:AwHAZKeEO
-
(´・_ゝ・`)「行こうか、伊藤君」
('、`;川「う、うん……。じゃあ、トソン、えっと……気を付けてね。
ごちそうさまでした。ご飯美味しかったってお祖母ちゃんに言っといて。
お祖父ちゃんにはお大事にって」
(´・_ゝ・`)「お邪魔しました。いきなり押しかけてごめんよ」
(゚、゚トソン「はい……あの、変なことに巻き込んで、すみません」
ショボンが私達に向けて「行っちゃうの」と呟いた。
私だって彼らを置いていきたくないが、さっきから先生が2人には見えない位置から
私の腰を突いてくる。多分急かしているのだと思う。
('、`;川「何かあったら電話してね。
もし怖かったら、2人で知り合いの家に──」
(´・_ゝ・`)「行くよ」
先生に腕を引っ張られた。
何度も振り返り、私は、トソン達に手を振った。
*****
- 238 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:47:28 ID:AwHAZKeEO
-
(´・_ゝ・`)「あれは多分生き霊じゃないかな」
('、`*川「……生き霊?」
乗客の少ない電車の中で、先生は言った。
生き霊。恨みを持つ相手を祟る、生きている人の魂だか念──だったっけ。
弟の幼馴染みが、いつぞや、そんな話をしていた。
(´・_ゝ・`)「洗い物の最中、色々聞いてる内に分かったよ。
……前も言ったけど、僕は死んだ人間の霊が見たいんだよね。生き霊はどうでもいいや」
少し前まで赤く染まっていた窓の外。
もう、夜の闇が手を広げ始めていた。
- 239 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:49:37 ID:AwHAZKeEO
-
('、`;川「生き霊って……。
誰か、ショボンに恨みでも持ってるわけ?」
(´・_ゝ・`)「逆」
('、`;川「何がよ」
(´・_ゝ・`)「ショボン君を愛しすぎてるってこと」
ぽかんと口を開け放し、私は先生を凝視した。
先生は溜め息をついている。
嫌な予感がしつつ、訊かずにはいられなかった。
('、`;川「……誰が?」
返ってきた答えは、やっぱり、
(´・_ゝ・`)「あのお姉さん」
トソン。
- 240 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:50:36 ID:AwHAZKeEO
-
(´・_ゝ・`)「初めは、弟に対する愛情が薄い人だと思ったけど……。
いやはや、誤解だった。
洗い物のとき、彼女、ショボン君の話ばっかりするんだ」
(´・_ゝ・`)「こっちがちょっと恐くなるくらいね」
('、`;川「うそ……」
(´・_ゝ・`)「本当」
私の知っているトソンは、歳の離れた弟だろうと、必要以上に甘やかさない人だった。
寧ろ厳しすぎるのではないかと思うくらいに。
- 241 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:51:54 ID:AwHAZKeEO
-
(´・_ゝ・`)「初めてショボン君が『おばけ』を見たのは一昨年だっけ。
お姉さんが大学に入って一人暮らしを始めたのも一昨年だそうじゃないか」
('、`;川「……そうだけど……」
(´・_ゝ・`)「弟が心配で堪らなかったんだろうね。
その気持ちは年々募っていき、当然、『おばけ』が出る頻度も上がる」
ショボンが1人のときによく現れる黒い影。
それは、トソンがショボンを案ずるが故のものだろうと先生は言う。
なら。
('、`;川「なら、何で私の前にも出てきたの……?」
私に向けられた先生の視線は冷たい。
「少し考えれば分かるだろう」、というような。
(´・_ゝ・`)「嫉妬かな。姉としての。
君にも弟がいる分、『弟』としてショボン君を可愛がる気持ちは強いだろうから」
- 242 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:53:19 ID:AwHAZKeEO
-
(´・_ゝ・`)「その嫉妬が引き金になったのか、
とうとう他所の家でも『おばけ』が現れるようになってしまったね。
……彼女が弟離れ出来るまで、君はあんまりショボン君に近付かない方がいいよ」
先生は、ほんの少しだけ口角を上げた。
(´・_ゝ・`)「実際に『おばけ』を見た君に訊くけど、僕の推理は間違ってたかな?」
もう何も言えなかった。
居間で見た黒い影が、私の脳裏に浮かんでは消えていく。
どうしてあのとき、すぐに気付かなかったのだろう。
あの目は、トソンの目に似ていた。
*****
- 243 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:56:02 ID:AwHAZKeEO
-
お盆になり、帰省した母から電話が掛かってきた。
祖父の体調は良好だとか、
親類が大勢集まって賑やかな宴会が始まっているとか、
墓参りは恙無く終わったとか。
『それとね、珍しくトソンちゃんがにこにこ笑いながらショボン君と一緒に遊んでるの。
やっぱり姉弟なんだから、仲良くしてる方がいいわよね』
そうだね、としか答えられなかった。
そのときの私は、一体どんな表情をしていただろうか。
第七夜『つきまとう影』 終わり
- 244 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 06:59:01 ID:AwHAZKeEO
- 今夜(今朝)はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
- 245 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 07:47:30 ID:9YdZROr.0
- 朝っぱらから乙ww
- 246 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 08:01:01 ID:d4A5EeNM0
- 将来はヤンデレ姉か……乙!
- 247 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 11:55:12 ID:C6/icgTo0
- 愛のあまりスタンド出しちゃったのか
乙
- 248 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 12:02:49 ID:UCpZM/2Q0
- 面白いです。
- 249 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 15:35:03 ID:qJwZRioc0
- つきまとう影ってデミタスの事かと思っちまったwww
乙
- 250 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 16:45:59 ID:mwyZrycA0
- >>249
先生をストーカー扱いするのはやめて!!
- 251 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 18:33:55 ID:TNRKjfoUO
- 乙
>>249
おま俺
先生神出鬼没すぎwwww
- 252 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 20:56:53 ID:mzoj9NZs0
- >>249
え?違うの?
てっきり教授の事かと思てた…
- 253 :名も無きAAのようです:2012/08/10(金) 22:28:23 ID:6KERs/060
- 今日から百物語なわけだがそっちでも頑張って欲しい
- 254 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 01:25:57 ID:WnHz0oVs0
- 今日も投下は早朝かな?
- 255 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:15:09 ID:NIzUlJcYO
-
(´・_ゝ・`)「伊藤君、百物語しない?」
('、`*川「何言ってんの?」
私のバイト先の一つである書店は、大きなファッションビルの6階にある。
その下、5階の一角には百均。
午後9時を回り、店も終わったので、下の百均で買い物して帰るか──と
エスカレーターで下ったのが運の尽き。
百均の袋を提げた先生に捕まった。
しかも開口一番、冒頭の言葉を投げ掛けられた。
(´・_ゝ・`)「何って、百物語。
九十九個でやめるような生温いことはしないからね」
('、`*川「……」
(´・_ゝ・`)「ね。やろうよ」
先生は、かつて私の母に見せたような、やたらめったら品のいい笑みを浮かべていた。
嫌な予感しかしない。
- 256 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:17:06 ID:NIzUlJcYO
-
(´・_ゝ・`)「学生が大学のサークル棟を利用して百物語やるっていうからさ、
混ぜてもらうことにしたんだ。暇な子達だよね。
結構な人数が参加するみたいだし、伊藤君もおいでよ」
どうして私を誘うの、という質問は、もはや愚問だ。
先生はすっかり私を「幽霊ホイホイ」か何かだと思っている。
ほら蝋燭も買ってきたんだよ、と、先生は袋の中身を見せた。
セット売りの蝋燭が何箱か。
本気だ。
('、`*川「……先生」
(´・_ゝ・`)「何?」
('、`*川「今、思いっきりお盆なの知ってる?」
第八夜『呼ばれる』
.
- 257 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:24:11 ID:NIzUlJcYO
-
こういう状況で私が先生から逃げられた試しがあるかといえば、全くない。
結局その日、私はVIP大学のサークル棟の一室に連れ込まれ、
そこにいた十数人ほどの学生に混ざり、
一部からの「教授を引っ叩いてた人だ」という視線と囁きに耐えることとなった。
幸いだったのは、私のように、友達や恋人に引っ張られてきたという
この大学とは無関係な人間が何人かいたことだ。
おかげで私があまり浮かずに済んだ。
ちなみに、ここにいる学生はほとんど文芸サークルの面々らしい。
何でも、サークルで発行する冊子に「ガチ百物語レポート」なる記事を載せたいのだとか。
学生というのは、馬鹿馬鹿しいことを本気でやる生き物だ。
(´・_ゝ・`)「じゃあ始めようか」
発案者である文芸サークルの人を差し置いて、一番やる気満々な先生が仕切っていた。
私達は、円を描くような形で床に座らされた。
私の左隣に先生が腰を下ろす。
部屋の電気が消えて真っ暗になると、学生達に僅かな緊張が走るのが分かった。
- 258 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:27:13 ID:NIzUlJcYO
-
(´・_ゝ・`)「ルールは、百物語の作法を元にして、僕と部長が決めたよ」
/ ゚、。 /「まず、話し終えた人は隣の部屋に行ってください。
そこに、火のついた百本の蝋燭と鏡を置いてありますので、
鏡を見ながら蝋燭の火を一つ消す」
向かいの方から、サークルの部長らしき女性の声がする。
怯えを抑えるような声だった。
/ ゚、。 /「それが済んだら、この部屋に戻ってくること。
その繰り返しです」
(´・_ゝ・`)「話し終えた人は、隣に行って火を消して戻ってくるまでの間、
何があっても声を出しちゃいけないよ」
何があっても、の部分を先生は強調した。
誰かが唾を飲み込む音が聞こえたが、暗闇の中では、他の人の表情は碌に見えない。
(´・_ゝ・`)「じゃあ、最初は僕からでいいかな。
……百個目の話が終わったとき、何が起きるか楽しみだね?」
.
- 259 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:29:37 ID:NIzUlJcYO
-
百物語は滞りなく進んだ。
必ずしも怖い話でないといけないわけでもなく、ただの不思議な話でもいいということで、
それぞれ、話が被るようなこともなかった。
当然ながら私にも順番は回ってくるのだけれど、
誰かさんのおかげで、ネタには困らない。
実体験を「人から聞いた話」として話しておいた。
が、話自体はともかくとして、その後の試練が辛い。
手探りで部屋を出て、隣の部屋に入る。
小皿や空になった缶詰などの「燭台」に立てられた大量の蝋燭。物凄い光景だ。
もしものときを考慮してか、床には水の入ったバケツが置かれていた。
蝋燭を一つ取って、机の上の鏡を見ながら火を消す。
これが怖い。
私は微妙に視線を外しつつ火を吹き消し、さっさと元の部屋に戻った。
足音の速さなどからして、みんなも大体そんな感じだったようだ。
.
- 260 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:31:35 ID:NIzUlJcYO
-
さて。
何巡かして、残る蝋燭もあと10本ほどという頃になると、
場の緊張感は凄まじいものになっていた。
どこかで物音がすれば女性陣が悲鳴をあげ、その声に驚いた男性陣も悲鳴をあげる。
大して動揺もしなかったのは、先生くらいなものだ。
そんな状況でも百物語は進行していくし、
もう心の底から帰りたいと思っていた私にも「話し手」の順番は巡る。
('、`;川「……じゃあ、人形の話でも」
人数から考えて、もう私が話し手になることはない。
早く終わらせたいという気持ちのまま、私は怪談を話し終えた。
- 261 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:33:10 ID:NIzUlJcYO
-
腰を上げ、窓の方を見ないようにしながら移動する。
ドアを開けて廊下に出た。外灯のおかげで、部屋の中よりは少し明るい。
('、`;川「……」
廊下の奥から目を逸らす。
途中で誰かが話していた、真っ暗な廊下を走る子供の怪談を思い出した。
早足で隣の部屋へ。
すっかり少なくなった蝋燭。
その中から一本持ち上げて、鏡の前に立つ。
ふっ、と息を吹き掛けた──瞬間。
鏡に映る私の後ろを、上半身だけの女が横切った。
('、`;川「ひっ……!」
引き攣った声が喉の奥から漏れる。
びくりと体を震わせた拍子に、燭台代わりの缶詰が手から滑り落ちた。
蝋燭の火は消えていたから良かったが、がしゃん、と響いた音の大きさに、また声が出た。
- 262 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:34:53 ID:OnQjrSKg0
- きたか!
支援!
- 263 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:35:39 ID:NIzUlJcYO
-
('、`;川「あっ、わっ! ……っあ……」
口を押さえる。
──何があっても声を出しちゃいけないよ。
先生の言葉を思い出し、青ざめた。
辺りを見渡す。
空気が変わったように感じられて、私は部屋を飛び出した。
廊下の奥に白い影。窓に張りつく何か。
それらを見なかったことにして、みんなのいる部屋に駆け込んだ。
(´・_ゝ・`)「何か落とした?」
('、`;川「蝋燭……手が滑って。火は消してたから大丈夫」
ぽつりと答え、先生の隣に戻る。
それからはもう酷かった。
誰かが話している最中に窓がばんばん叩かれたり、
壁に寄りかかっていた女の子が「背中を撫でられた」と泣いたり。
もはや楽しそうなのは先生だけで、多分、ほとんどの人が半泣きだったと思う。
.
- 264 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:37:15 ID:NIzUlJcYO
-
──しかし。
最後の蝋燭を消し終えたとき、どうしてか、何も起こらなかった。
というか、頻発していた怪現象がぴたりと収まったほどである。
(´・_ゝ・`)「何だ。拍子抜けだね」
先生はそう言うが、何か起きていたら、多分心臓が止まる人が出ていただろう。
*****
- 265 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:40:22 ID:NIzUlJcYO
-
(´・_ゝ・`)「おやすみ、伊藤君。楽しかったね」
私の家の前で車を停め、先生は言った。
どの辺が楽しかったというのか。
('、`*川「おやすみ先生。人生で最低の夜だったわ」
私は吐き捨てるように返して車を降りた。
何かあったら教えてね、と先生が微笑む。
あって堪るか。
車が発進する音を聞きながら玄関の鍵を開け、家に入った。
真っ暗。廊下の明かりをつける。
私以外の家族は、祖父母の家に泊まりに行っている。
つまり家には私しかいない。
時計を見ると、既に日付は変わっていた。
('、`;川(ああ、誘われたときに先生を殴ってでも逃げてれば良かった……)
リビングに向かい、ソファに座る。
テレビをつけて深夜番組にチャンネルを合わせ、私はまず、恐怖心を収めることから始めた。
.
- 266 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:42:20 ID:NIzUlJcYO
-
ようやく落ち着いてきた頃に、2階の自室で部屋着に着替えた。
それから、兄や弟の部屋から勝手に漫画とDVDを持ち出す。
部屋で眠る気など、さらさら無い。
「リビングでDVDをかけながら漫画を読んで朝を待つ作戦」に出た。
──怖がりな人の中には、何かに怯えたとき、こういう手段を選ぶ人もいるだろう。
そんな人に、経験者の立場から言わせてもらう。
これは無意味だ。
*****
- 267 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:44:01 ID:NIzUlJcYO
-
いとうくん。
先生の声が聞こえたような気がして、私は漫画から顔を上げた。
当然、先生がここにいるわけもない。
私はテレビに視線をやった。
弟の部屋から持ってきた、お笑い芸人のライブDVDが流れている。
その声と間違えたのだろうと思い、漫画に視線を戻した。
──とんとん。
何かを叩く音。
とんとん。
方向からして、玄関の方。
('、`;川(ええ……)
息を潜め、耳を澄ます。
何度目かのノックの後、今度は声がした。
「伊藤君」
今度は聞き間違いではない。
先生の声だ。
私は漫画を閉じ、そっとリビングを出た。
- 268 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:45:33 ID:NIzUlJcYO
-
「伊藤君、開けて」
ノックの音、先生の声。
やはり玄関から聞こえる。
そろそろと廊下を進み──途中で、私は立ち止まった。
我が家の玄関のドアは、真ん中辺りに、磨りガラスで出来た縦長の窓がついている。
そこから、ドアの向こうに立つ人のシルエットが見えた。
先生より背が低い。
そして──頭が、斜めに抉れている。
「伊藤君。ねえ」
いやに赤いシルエットは、先生の声を出した。
- 269 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:47:06 ID:NIzUlJcYO
-
「伊藤君」
私はじりじりと後ずさった。
ノックと声が止む。
こちらの様子を窺っているように思えて、背筋が寒くなった。
リビングに戻ると、テレビが静かになっていた。
DVDプレイヤーは動いているのだけれど、テレビの電源が落ちている。
スイッチを押しても反応しない。コンセントは刺さっている。
四苦八苦していると、
「開けて」
やけに近くから聞こえた。
- 270 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:49:55 ID:NIzUlJcYO
-
「伊藤君、開けて」
声は、リビングの、庭に通じる窓からする。
カーテンを閉めているから分からないけれど、きっと、あの赤いのが移動してきたのだろう。
「早く開けてよ」
カーテン越しに見つめられている気がして、私は、ソファの陰に蹲った。
両手を握り締める。
天井の明かりが点滅した。
あ、と思う間もなく、電気が消える。
その直後、窓を激しく叩かれた。
「入っていい? 入っていい?」
既に先生の声ではなくなっていた。
がたがたと、窓が揺れる音が響く。
涙目になりながら耳を塞ぐ──と。
- 271 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:51:44 ID:NIzUlJcYO
-
急に、電気がついた。
('、`;川「あ……」
テレビから流れる、芸人の声と観客の笑い声。
窓は静まり返っている。
ソファで体を支えながら立ち上がると、インターホンが鳴った。
('、`;川「ぎゃあっ!」
また座り込む。
私がじっとしていると、インターホンが連打され始めた。
うるさい。
震えながら玄関に行くと、最近馴染みのある背丈のシルエットがあった。
- 272 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:53:13 ID:NIzUlJcYO
-
('、`;川「……せ、先生ー?」
インターホン攻撃が止まる。
「伊藤君、車に携帯電話忘れてたよ。
忘れる方が悪いから放っておこうと思ったけど、気が向いたから持ってきてあげた」
('、`;川「本当に先生?」
「何その質問」
('、`;川「……今、幽霊みたいなのが来てたから」
少し、間があいた。
シルエットが答える。
「本当にずるいよね、君ばっかり」
先生だ。
*****
- 273 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:56:34 ID:NIzUlJcYO
-
(´・_ゝ・`)「もう少し早く来てたら、僕も幽霊見れてたかな」
('、`*川「先生が来たからいなくなったんだと思うけど……」
リビングのソファに座り、私が入れたコーヒーを啜りながら
先生は「勿体ないなあ」と言った。
どういう神経をしていれば、そんな言葉を吐けるのだろう。
私は先生を一睨みすると、携帯電話で友人にメールを送った。
今から泊まりに行ってもいいか、というような内容で。
時間の都合上、断る断らない以前に返信すら無いことを覚悟していたが、
意に反して、数分と経たずに了承の返事が届いた。
(´・_ゝ・`)「どうだって?」
('、`*川「泊まっていいって……。先生、送ってって。道案内はするから」
先生はとてもとても面倒臭そうな顔をしたものの、
すっかり中身を飲み干したコーヒーカップを見て、「仕方ないね」と呟いた。
.
- 274 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 04:59:42 ID:NIzUlJcYO
-
('、`*川「……言われるがままに開けてたら、どうなってたのかしら」
先生の車で友人の家に向かう途中、私は降って湧いた疑問を口にした。
先生は少し考えて、先程話した体験に関する呟きだと気付いたらしい。
(´・_ゝ・`)「さあね。
開けてみれば良かったじゃないか」
('、`;川「あの状況で開けられるわけないでしょうが」
(´・_ゝ・`)「何で?」
('、`;川「怖いから」
ふうん、と先生が唸る。
- 275 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 05:02:31 ID:NIzUlJcYO
-
(´・_ゝ・`)「怖いなら、『帰れ』とか言えば良かったんじゃない?」
('、`;川「……怒らせたらどうするの」
(´・_ゝ・`)「さあ」
先生は首を傾げた。
けれど──まあ、たしかに、私がやっても逆効果な気はするけれど。
先生がやれば、霊もおとなしく帰りそうだな、と思った。
('、`*川「先生ってもしかして無敵なんじゃないの」
(´・_ゝ・`)「何それ。そんなことないと思うよ」
思わず吹き出したといった感じで、先生が笑う。
いつもの、わざとらしかったり腹が立ったりするような笑い方じゃなく、
自然な笑いだった。
.
- 276 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 05:04:51 ID:NIzUlJcYO
-
──自分で言うように、先生は決して無敵ではない。
何よりも本人が分かっていたことなのに、
このときの私は、先生の返答を謙遜や無自覚としか思っていなかった。
第八夜『呼ばれる』 終わり
- 277 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 05:06:40 ID:IzRTwxQYO
- おつつ!
そういえば最初からずっと過去編か!
- 278 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 05:07:02 ID:OnQjrSKg0
- 先生に何か起こるのか?
乙!
- 279 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 05:07:16 ID:NIzUlJcYO
- 今夜(今朝)はこの辺で。たぶん明日は休む
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
『呼ばれる』 >>255-276
- 280 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 10:41:41 ID:8GM/TSPY0
- 乙乙
しかしペース早いな
何かに憑かれてるんじゃないか
- 281 :名も無きAAのようです:2012/08/11(土) 12:03:49 ID:0uapwDPM0
- 最後の文が気になるな
- 282 :名も無きAAのようです:2012/08/12(日) 08:11:31 ID:Tk78W1960
- 今日は投下無しか
今までのペースが異状だったもんなwww
- 283 :名も無きAAのようです:2012/08/12(日) 16:03:59 ID:jYE0gb6E0
- これは次の話までの溜め期間か
死なない程度にお願いします
- 284 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 03:59:09 ID:pK.GWnJcO
-
先生の零感ぶりは凄まじい。
たとえば2人で廃病院に行った(連れていかれた)とき。
血まみれのお婆さんが乗った車椅子が、私達に近付いてきたことがあった。
しかしお婆さんなんか見えない先生は、霊を挑発するためなのか何なのか、
車椅子のハンドルを握って全力疾走した。
お婆さんは迷惑そうな顔をして消えた。
たとえば2人で墓地に行った(連れていかれた)とき。
足のない女の子が先生の背中を押して、先生が危うく転びかけたことがあった。
しかし女の子なんか見えない先生は、直前まで私が文句を言い続けていたのもあり、
完全に私の仕業だと決めつけて、ねちねちねちねち嫌味を浴びせてきた。
女の子は申し訳なさそうな顔をして消えた。
たとえば──いや、もういい。きりがない。
- 285 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:00:26 ID:pK.GWnJcO
-
とにかくこれが先生の基本スタイルで、私としては、いっそ羨ましいくらいだった。
前回、私が先生を「無敵」と評したのも、彼のこの性質が根本にあったからだ。
そのことをふまえた上で今回の話を聞いてほしい。
ひどく単純で、不気味な話。
第九夜『おばけバス』
.
- 286 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:02:07 ID:pK.GWnJcO
-
(´・_ゝ・`)「おばけバスって知ってる?」
('、`*川「おばけバス?」
昼間のファーストフード店の中、私と先生は向かい合って座っていた。
まず10分ほど前、窓際の席でハンバーガーを食べていたところ、外を先生が通りかかった。
通り過ぎかけた先生は、私に気付くなり店に入ってきて、
手早く注文を済ませて向かいに座ったのである。
いい加減、ばったり遭遇しても驚かなくなってきたのが悲しい。
で、先生は挨拶もそこそこに唐突に「おばけバスって知ってる?」などと訊いてきたのであった。
('、`*川「知らないけど……。……何それ? ネコバスみたいなもん?」
(´・_ゝ・`)「君は頭の悪い発言をするね」
先生がハンバーガーを齧る。
先生は歳の割に、若者向けの味を好む人だ。
- 287 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:03:56 ID:pK.GWnJcO
-
(´・_ゝ・`)「普通のバスなんだけどさ。
よく『出る』んだって」
('、`*川「……幽霊が?」
(´・_ゝ・`)「うん。だから、おばけバスっていう通称が出来た」
私は先生の前にあるフライドポテトを2本ほど失敬した。
先生が私のチキンナゲットを奪う。ちゃっかりマスタードソースまで付けて。
('、`*川「バスに幽霊が出るの?」
(´・_ゝ・`)「そうだよ。気付いたら乗客が増えてるとか、後ろに座ってた人が消えてたとか。
決まった車両の、決まった路線の、決まった時間でのみ、そういうことが起こる。
おかげで、そのバスの利用者は減ってしまったようだよ」
('、`*川「ふうん……」
- 288 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:05:49 ID:pK.GWnJcO
-
それから私達は、黙々と食事を続けた。
私は店内に貼られている新商品のポスターを眺めながら。
先生は外に視線をやりながら。
その内に、私が先にハンバーガーを食べ終える。
包み紙を折り畳む私に、先生は微笑んだ。
(´・_ゝ・`)「伊藤君、この後の予定はあるの?」
正直に「暇です」と答えるべきか否か、真剣に迷った。
*****
- 289 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:07:58 ID:pK.GWnJcO
-
電車に乗って、バス(普通のバスだ)に乗って、
適当な店で時間を潰して、ひたすら歩いて。
気付くと、もう午後6時を回っていた。
私は、隣を歩く先生の顔を見上げた。
('、`;川「どこまで行くの?」
(´・_ゝ・`)「もう少しかな」
ハンカチで汗を拭う。
昼に比べればマシとはいえ、まだ気温は高い。
先生も、うっすらとではあるけれど汗をかいていた。
こういうとき、道路を走っていく車を見ると羨ましく思う。
冷房が恋しい。
- 290 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:10:42 ID:pK.GWnJcO
-
(´・_ゝ・`)「あ、そこだ」
先生が声をあげる。
前方に、屋根付きの停留所があった。
ベンチと自動販売機が置かれているのを発見し、私は小走りで駆け寄った。
スポーツドリンクを購入する。
冷たいペットボトルを首に当て、ほっと息をついた。
('、`;川「気持ちいい……」
ベンチに腰を下ろし、スポーツドリンクで喉を潤す。
少し遅れて到着した先生が缶コーヒーを買った。
プルタブを引きながら時刻表を確認する。
(´・_ゝ・`)「うん、丁度いいね。そろそろだ」
先生が私の隣に座った。
他には誰もいなかった。
.
- 291 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:11:44 ID:pK.GWnJcO
-
先生がコーヒーを飲み終えた頃、バスが来た。
行こうか、今日こそは幽霊見れるかな。
そう言って先生が私の背を叩く。
('、`;川「……多分、先生は今日も無理よ……」
窓辺に佇む、片目のぶら下がっている男が見えていない時点で望み薄だ。
*****
- 292 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:14:04 ID:pK.GWnJcO
-
バスの中は、やけに涼しかった。
涼しいどころか寒いくらいだ。
あんなに恋しかった冷房が、今はとても煩わしい。
('、`;川「先生、降りたいんだけど……」
(´・_ゝ・`)「何、もう見えてるの? その感受性を僕にも分けてよ」
('、`;川「分けられるくらいなら分けたいわよ」
2人がけのシートの窓側に私、通路側に先生が座っている。
これで通路側に座らされていたら、私は5分も持たなかっただろう。
有り得ない方向に首が曲がっているお爺さんが通路をうろうろしたり、
子供が先生の顔を覗き込んだり。
すぐ傍を霊がうろちょろしているのに、先生はきょろきょろと見当違いな方向を見回している。
- 293 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:16:58 ID:pK.GWnJcO
-
('、`;川(どんだけ鈍いのよ……)
通路を挟んだ隣の座席には、若い女と小さな女の子がいた。
女は人形を抱っこしながらぶつぶつ呟き、
女の子は虚ろな目で足元を見つめている。
先生はその2人についても、何も触れなかった。
私達と運転手以外に、生きている人間はいないようだった。
流石おばけバス。
(´・_ゝ・`)「僕の傍に何かいないの?」
('、`;川「……先生の膝辺りに、男の子が頭乗っけてるけど」
(´・_ゝ・`)「え? ここ?」
先生が膝を叩く。
場所を確認する動きだったのだろうけど、
先生の左手は子供の頭にクリーンヒットした(とは言っても、すり抜けていたけど)。
子供は私を睨み、消えた。
- 294 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:19:09 ID:pK.GWnJcO
-
(´・_ゝ・`)「どんな子供? 今どんな顔してる?」
('、`;川「……消えた」
(´・_ゝ・`)「何だ」
つまらなそうに言って、先生は嘆息した。
先生から視線を外して前方に顔を向けた私は、思いきり後悔した。
さっきの子供が、前の席にいた。
背もたれの上に手と顔を乗せ、こっちを覗き込んでいる。
さらに後ろの席から黒い手が伸びてきて、私の首を撫でた。
拒否するように顔を振ると、首から離れた手が髪を引っ張る。
私は先生の手を掴んだ。
そっと握るとかではなく、手首を全力で握り締めるような感じで。
- 295 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:20:14 ID:pK.GWnJcO
-
(´・_ゝ・`)「痛いよ」
('、`;川「怖いの」
依然、子供は私を見つめているし、黒い手は髪を引っ張っている。
そこらを歩き回る他の霊も、ちらちらと私に意識を向けるようになってきた。
目が合うとかではないけれど、私を認識しているのを何となく感じられる。
私は視線を足元に落とした。
私の足と先生の足の間に、男の顔があった。
もうやだ。
- 296 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:22:04 ID:pK.GWnJcO
-
('、`;川「先生、次で降りよう……」
(´・_ゝ・`)「もうちょっともうちょっと」
('、`;川(この野郎)
先生を一睨みする。
そのとき、向こうの席に座っている、人形を抱えた女が目に入った。
人形の髪を引き千切っている。
合間合間に手足をもぎ取っては、ポケットに突っ込んでいた。
隣に座る女の子は、相変わらず虚ろな目。
〈悪い子……悪い子……〉
女の呟きが耳に届く。
私は目を閉じた。
前も後ろも下も横も、霊まみれ。
本当に嫌だ。
- 297 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:23:13 ID:pK.GWnJcO
-
(-、-;川「……もう、私1人だけで降りる……」
その一言で、私が本当に嫌がっているのを察してくれたらしい。
先生は「しょうがないな」と言って、降車ボタンを押した。
*****
- 298 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:24:46 ID:pK.GWnJcO
-
次の停留所でバスから降りた。
通りすがりの女の子達が、私と先生を見て何か囁き合う。
おばけバス、という単語が聞こえた。結構有名らしい。
(´・_ゝ・`)「どのみち、ここから2つ先の停留所まで行けば、
霊がバスから降りるらしいんだけどね。
……もう少し我慢出来なかったの?」
('、`;川「出来るわけないでしょ!」
あれ以上あのバスに乗るのは御免だった。
霊が降りる様子を伊藤君に実況してほしかったのに、と先生が呟く。
誰がするか。
- 299 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:26:38 ID:pK.GWnJcO
-
私と先生は、そのまま次のバスを待った。
家に帰るのは何時になるだろうか。
(´・_ゝ・`)「正直、おばけバスの話はあんまり信じてなかったんだけど……。
伊藤君の様子を見るに、本当に『出る』みたいだね」
('、`;川「うん……霊だらけだった。気持ち悪いぐらい。
あれだけいて、何で先生は全然見えないわけ?」
(´・_ゝ・`)「僕の方が訊きたいな、それは。
……運転手、ぐったりしてたね。もう諦めたって言わんばかりの疲れ具合だった」
先生が笑う。随分と楽しそうだ。
恐らく先生は、あのバスにまた乗りに行くだろう。
そのときは是非とも1人で乗ってほしい。
- 300 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:27:39 ID:pK.GWnJcO
-
(´・_ゝ・`)「乗客も少なかったし、噂は真実だったってことでいいね」
('、`*川「少ないも何も、私と先生しかいなかったじゃない」
鞄から飲みかけのスポーツドリンクを取り出す。
キャップを開け、ペットボトルに口をつけた。
そんな私を、先生が小首を傾げながら見ている。
(´・_ゝ・`)「お客さん、もう一組いたじゃない」
('、`*川「え?」
(´・_ゝ・`)「僕らの隣」
私は先生に顔を向けた。
先生は、嘘などついていないようだった。
- 301 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:32:00 ID:pK.GWnJcO
-
(´・_ゝ・`)「親子か知らないけど、女の人と女の子がいたでしょ」
('、`*川「……人形持ってた人?」
(´・_ゝ・`)「うん。人形の髪とか足を毟ってた人。気持ち悪かったな、あれ。
女の子の無表情っぷりも恐かった」
女は、あからさまに異常だった。
女の子も、5、6歳ほどに見える幼さにしては、いかにも生気が欠けていた。
悪い子。
人形の足を捩り取っていた女の声が、耳の奥で蘇る。
- 302 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:33:49 ID:pK.GWnJcO
-
──先生は零感だ。
信じられないくらい、そういうものに対して鈍感である。
確かめる術などないし、未だに真実がどうだったのかは分からない。
けれど、先生にも見えていたということは。
多分、あの親子は幽霊でも何でもなく──
('、`;川(……うわあ……)
バスの中で見た幽霊達よりも、そのことが一番恐かった。
第九夜『おばけバス』 終わり
- 303 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 04:35:38 ID:pK.GWnJcO
- 今夜(今朝)はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
『呼ばれる』 >>255-276
『おばけバス』 >>284-302
- 304 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 05:31:02 ID:ekSZmjhEO
- 乙です!!
- 305 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 08:16:21 ID:oqfh3hB20
- まさか人間がいた話でぞっとするとは
乙乙
- 306 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 13:25:03 ID:HcqxF0c.0
- 異常な人間が一番怖い
乙
- 307 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 19:29:44 ID:nIQ4erUo0
- 話がすげぇ上手いし面白い怖い
- 308 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:00:49 ID:ZIfoCIYUO
-
(´・_ゝ・`)「伊藤君、怖い話ない?」
('、`*川「……」
図ったかのように現れる人だ。
その日、私が働いているファミリーレストランに来た先生を見て真っ先に思ったことが、それだった。
('、`*川「先生、私に盗聴器とか仕掛けてない?」
(´・_ゝ・`)「何で? あ、ナポリタンちょうだい。あとホットコーヒー」
('、`*川「……かしこまりました、ナポリタンとホットコーヒーですね」
踵を返そうとしたところ、先生に腕を掴まれた。
逃げられなかったか。
(´・_ゝ・`)「さっきの言い草からして、何かあったんでしょ」
('、`;川「……ああもう、口が滑った」
(´・_ゝ・`)「教えてよ」
にっこり、先生が笑う。
私は溜め息をつき、先生の手を振り払った。
- 309 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:01:42 ID:6mYxU5Yg0
- 出たな
- 310 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:02:13 ID:ZIfoCIYUO
-
('、`*川「先生、妖怪には興味ないんでしょ」
(´・_ゝ・`)「何だ、妖怪の話?」
('、`*川「そう」
先生の目から興味の色が薄れた。
私は、今度こそ背を向ける。
その背中に質問が飛んできたので、振り返らずに答えた。
(´・_ゝ・`)「どんな妖怪?」
('、`*川「ろくろ首」
瞬間、先生が「待った」と声をあげた。
第十夜『長い首』
.
- 311 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:04:24 ID:ydCnoDWY0
- 首を長くして待ってたぞとかなんとか
- 312 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:04:42 ID:ZIfoCIYUO
-
バイトが終わって、夕方。
私は、ある人を連れて喫茶店へ向かった。
そこでコーヒーを飲みながら待っていた先生が、私達を見付けて片手を挙げる。
ミセ*゚ー゚)リ「あれ、デミタス先生じゃん」
ある人──ミセリさんという女性は、目を丸くさせた。
彼女は、私と同じファミリーレストランで働いている先輩だ。
(´・_ゝ・`)「何だ、君か」
ミセ*゚ー゚)リ「『何だ』って何だよー。
こんにちは。あ、こんばんはかな?」
ミセリさんが、先生に気安く話しかけながら向かいの席に座る。
私はその隣に腰を下ろした。
('、`*川「知り合い?」
(´・_ゝ・`)「うちの学部の学生だよ」
('、`;川「えっ、そうなんですか」
ミセ*゚ー゚)リ「そうだよー」
大学4年生だとは聞いていたけれど、まさか先生の教え子だったとは。
- 313 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:06:01 ID:ZIfoCIYUO
-
ミセ*゚ー゚)リ「ペニサスちゃんが言ってた『おばけに詳しい人』って、デミタス先生のこと?
なあんだ。詳しいっていうか、ただ怪談好きなだけじゃん。この人」
先生の趣味は学内でも有名らしい。
ころころと笑いながら、ミセリさんはメニュー表を手に取った。
先生が私に視線を送る。
(´・_ゝ・`)「ミセリ君が伊藤君にろくろ首の相談をしたの?」
('、`*川「相談っていうか、雑談の一部だけどね。今日、制服に着替えてるときに──」
.
- 314 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:07:22 ID:ZIfoCIYUO
-
──その日の昼頃。
私とミセリさんは、ロッカールームで着替えていた。
最初は、他愛ない世間話だった。
ふと会話が途切れたときに、ミセリさんがぽつりと言った。
ミセ*゚ー゚)リ『この間、友達と5人で肝試し行ったんだよねえ』
('、`*川『肝試しって、どこにですか?』
ミセ*゚ー゚)リ『シベリア中学の裏山。
初めは5人でドライブしてたんだけどさ、夜になって、
どっかの山に入ってみようってことになったの』
ミセ*゚ー゚)リ『で、近くにシベリア中があったから、裏山の中に車で入ってったわけよ。
まあ、これといって事件もなく、道が悪すぎて酔う子も出てきたから
途中で引き返したんだけど……』
ロッカーの扉を閉め、ミセリさんは小首を傾げた。
- 315 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:08:14 ID:ZIfoCIYUO
-
ミセ*゚ー゚)リ『なんか、それ以来、ろくろ首が出る……らしいんだよ』
('、`;川『……は? ろくろ首?』
ミセ*゚ー゚)リ『ろくろ首。首伸びるやつ』
('、`;川『ろくろ首が出る? ミセリさんのとこにですか?』
ミセ*゚ー゚)リ『そうそう。いや、私は見てないの。周りの人が「見た」って言うわけ。
今時ろくろ首って。ねえ?』
ミセリさんがロッカールームを出ていったので、そこで話は終わった。
その後、先生が店に来て、私がうっかり口を滑らせて、
先生が「その人と話したい」と言い出して、
私がバイト終わりに「ろくろ首について何か分かるかも」とミセリさんを連れ出して。
そして喫茶店の会合に至ったわけである。
.
- 316 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:10:19 ID:ZIfoCIYUO
-
(´・_ゝ・`)「──もうちょっと詳しく話してくれる?」
ミセ*゚ー゚)リ「オッケー。
詳しくって言っても、裏山に行った話はペニサスちゃんに話した通りだけどさ」
注文を済ませたミセリさんは、こくりと頷いた。
やたらノリが軽い。まさか騙されているのでは、と、ちょっと疑った。
ミセ*゚ー゚)リ「山に行った次の日に、バイト中、変なこと言われたわけ」
ミセリさんいわく。
最初に「ろくろ首」を見たのは、バイト仲間だったという。
料理を運んでいるミセリさんに目をやると、
ミセリさんの横に、人の形をした、薄い靄のようなものがいた──と言われたらしい。
ミセ*゚ー゚)リ「人の形っつっても、かなり首が長かったのね」
ミセリさん本人は、そんなもの見なかった。
気味悪く思いながらも、そのときは、バイト仲間の見間違いか何かだと判断した。
- 317 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:11:04 ID:6mYxU5Yg0
- ペニサスに見せれば一発だね!
- 318 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:12:22 ID:ZIfoCIYUO
-
しかし。
ミセ*゚ー゚)リ「次の日も言われたの。友達と駅で待ち合わせしたときだったかな」
待ち合わせ場所に来た友人は、件のバイト仲間と同じようなことを言った。
ミセリさんの傍に、首の長い、人型の何かが居たと。
しかし、一つ違うことがあった。
その友人には、ただの靄ではなく、男のように見えたらしい。
それから度々、色んな人が「ろくろ首」を目撃するようになった。
ミセリさんの傍にいることと、首が長いことは共通している。
ミセリさん本人には見えないというのも変わらない。
ミセ*゚ー゚)リ「見る人によって、靄みたいにぼんやりしてたり
男だって分かる程はっきりしてたり。結構ばらばらだね」
(´・_ゝ・`)「そこは、その人の霊感によるんだろうね」
先生の返答を聞いて、ミセリさんは笑った。
その反応で何となく分かった。
彼女はこういう話を信じない──どころか、馬鹿にする──タイプの人だ。
- 319 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:14:27 ID:ZIfoCIYUO
-
ミセ*゚ー゚)リ「なるほどね。そういうところでリアリティ出すわけだ。
あいつらも暇だねえ」
('、`;川「あいつら?」
ミセ*゚ー゚)リ「みんなで私のことビビらせようと思ってるだけだって、どうせ。
口裏合わせてさ」
放っときゃ、みんな飽きるよ。
そう言ってミセリさんは足を組んだ。
対して、先生は「ふむ」と唸りながら顎を摩った。
顔面に好奇心が張りついている。
先生は、妖怪の類には興味がないのではなかったか。
私は先生の様子を眺めながら疑問に思っていた。
ミセリさんは先生を見つめ、笑いながら提案した。
ミセ*゚ー゚)リ「先生そんなに興味あるなら、一緒に裏山行ってみる?」
.
- 320 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:15:41 ID:ZIfoCIYUO
-
──先生が断る筈もなく。
私達は先生の車で、シベリア中学校の裏山へ向かった。
どうして私まで連れていかれなきゃいけないのだろう。
(´・_ゝ・`)「この道から車で入ったの?」
ミセ*゚ー゚)リ「……うん」
不思議なことに。
先生の車が山に入るなり、ミセリさんは少し元気がなくなったようだった。
じっと俯いている。
(´・_ゝ・`)「伊藤君は窓の外見てて。何か見えたら教えてね」
('、`;川「やだ」
まだ完全に日が落ちていないとはいえ、山の中は暗い。
私は、運転席の先生と助手席のミセリさんにのみ視線を向けた。
- 321 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:18:09 ID:ZIfoCIYUO
-
しばらく行くと、ミセリさんが口を開いた。
ミセ*゚ー゚)リ「ここら辺で引き返したと思う」
(´・_ゝ・`)「ここ?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん……あの大きな樹、見覚えあるから」
(´・_ゝ・`)「伊藤君、ここまで来る間に何か見えた? ──伊藤君。伊藤君?」
私はそれどころではなかった。
後部座席のシートの上で丸くなるようにして横たわり、吐き気に耐えていた。
つまり悪路で車が揺れすぎたので酔った。
(´・_ゝ・`)「……ミセリ君、ダッシュボードからビニール袋取って」
ミセ;゚ー゚)リ「うわ、大丈夫? ちょっと待って」
(´・_ゝ・`)「早くして」
ミセ;゚ー゚)リ「は、はいはい。あ、これ? どうぞ」
乙女の恥じらいとして、細かい説明は避けるけれども。
敢えて言うなら間一髪だった。
*****
- 322 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:19:38 ID:ZIfoCIYUO
-
結局「特に分かったことはない」ということで、お開きになった。
何だったんだ。
家に送り届けてもらい、私は先生とミセリさんと別れた。
('、`*川「──あれ」
川д川「あ……こんばんは」
来客あり。
居間のソファに座っていた女の子が、ぺこり、頭を下げる。
私は彼女に微笑みかけた。
('ー`*川「久しぶり、貞子ちゃん」
貞子ちゃん。
近所に住んでいる、弟の幼馴染みだ。
爪'ー`)「おかえり」
ソファに寄り掛かるようにして床に座っていた弟が、持っていたチラシを振った。
不良というほどではないにしろ、派手な見た目で素行も決して良いとは言えない弟に対し、
貞子ちゃんは大人しくて、どちらかと言えば「地味」グループに所属するような子である。
それでも仲がいいのは、昔から築き上げてきた、兄妹のような感覚が色濃く残っているからだろう。
- 323 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:21:14 ID:ZIfoCIYUO
-
('、`*川「あんたら2人で何してたの?」
爪'ー`)「夏休みの課題片付けて、あとはDVD見てた」
('、`*川「そう。……母さんは?」
爪'ー`)「親父と一緒に出掛けてる。帰りは遅くなるから、俺らで適当に飯食っとけってさ」
弟の持っているチラシが、ピザ屋のものだと気付いた。
ちゃっかりクーポン券まで切り取ってある。
爪'ー`)「もう少しで兄貴帰ってくるから、そしたらピザ頼もうぜ」
('、`*川「はいはい、私が払うのね。──貞子ちゃんも食べてく?」
川д川「私は、家でお母さんがご飯作って待ってるので……」
そろそろ帰ります、と貞子ちゃんは言った。
残念。久々にたくさん話したかったのに。
- 324 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:22:08 ID:ZIfoCIYUO
-
('、`*川「フォックス、あんた、貞子ちゃん送ってきなさいよ」
爪'ー`)「えー? すぐそこじゃんかよ」
('、`*川「すぐそこでも送るもんなの」
爪;'ー`)「痛っ、分かったから蹴るなよ!」
文句を言いながら弟が立ち上がる。
貞子ちゃんも鞄を抱えて腰を上げ──
川д川「……お姉さん、山とか行きました……?」
私を見つめながら、訊ねた。
それから、ぱたぱたと私の右肩を軽く叩く。
('、`;川「何で分かるの……。え、ていうか、何かついてた?」
私の質問には答えず、貞子ちゃんは、やんわりと微笑んだ。
──貞子ちゃんは、生粋の霊感少女だ。
それを証明する言動や行動、現象が昔から多発していたので、
貞子ちゃんの両親や我が家の人間は、みんな事実として受け入れている。
- 325 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:23:12 ID:ZIfoCIYUO
-
爪'ー`)「貞子、行くぞー」
居間の入口から弟が声をかける。
返事をして、貞子ちゃんは私に一礼した。
ふと気になることがあったので、呼び止める。
('、`*川「貞子ちゃん」
川д川「はい……?」
('、`*川「ろくろ首って見たことある?」
貞子ちゃんは、首を傾げた。
いいえ、と一言。
('、`*川「じゃあさ、首が長い幽霊は?」
数秒間、彼女は口を噤んだ。
再び弟が貞子ちゃんを呼び、それに返事をする。
去り際、ぽつりと答えられた。
川д川「ありますけど……あんまり、いいものじゃないですよ……」
*****
- 326 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:24:43 ID:ZIfoCIYUO
-
翌日、朝っぱらから先生が私の家に来た。
「分かったことがあるから、昼になったら喫茶店においで」と告げ、さっさと帰っていったけれど。
.
- 327 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:26:53 ID:ZIfoCIYUO
-
午前のバイトが終わり、私は喫茶店に行った。
先生とミセリさんが待っていた。
(´・_ゝ・`)「──僕は、ろくろ首じゃなくて、人間の幽霊だと思うね」
('、`*川「はあ」
早々、先生は本題に入った。
鞄からファイルを取り出し、私とミセリさんの前に出す。
新聞記事のコピーが挟んであった。
ミセリさんの顔色が変わる。
- 328 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:27:45 ID:ZIfoCIYUO
-
('、`*川「何これ?」
(´・_ゝ・`)「伊藤君は新聞の読み方も知らないの?」
黙って読め、ということだろう。
私は先生の足を踏んでやろうか考えながら、記事に目を通した。
('、`*川「……自殺?」
ミセ*゚−゚)リ「……」
日付は5年前。
シベリア中学校の裏山でサラリーマンの遺体が見付かった、という内容だった。
方法は、首吊りとのことだ。
自殺を図った理由までは、詳しく書かれていなかった。
- 329 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:28:44 ID:ZIfoCIYUO
-
(´・_ゝ・`)「首吊り死体は首が伸びる」
コーヒーを飲みながら、先生が言った。
(´・_ゝ・`)「首に体重をかけるからね。
吊ったまま何日も放置していると、
下へ下へと引っ張られて、伸びてしまうわけだ」
('、`;川「そうなの?」
(´・_ゝ・`)「勿論、状況や環境によるだろうけど。
……ろくろ首って聞いて、もしかしたらと思ったんだよ。
それで調べてみたら、こんな記事を見付けた」
('、`;川「じゃあ、ミセリさんの友達が言ってた『ろくろ首』って……──」
ミセリさんが私の手からファイルを奪い取り、床に叩きつけた。
店内が、しんと静まり返る。
- 330 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:30:06 ID:ZIfoCIYUO
-
ミセ* − )リ「くだらない」
それだけ言って、ミセリさんは席を立った。
ファイルを踏みつけ、店を出ていく。
私と先生は顔を見合わせた。
.
- 331 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:31:39 ID:ZIfoCIYUO
-
何となく話を続ける雰囲気じゃなくなって、私は午後のバイトに出るため喫茶店を後にした。
直前、先生から、どこで何時まで働くのか訊ねられた。
で、覚悟はしていたのだけれど、バイトが終わって外に出ると、先生が待っていた。
('、`*川「……」
(´・_ゝ・`)「うんざりって顔だね」
('、`*川「どこに行くっていうの?」
(´・_ゝ・`)「話が早い。──あの裏山行こう。幽霊が出る根拠があるんだから、見れるかも」
('、`;川「ああもう、想像通りだわ! 行かないわよ!」
(´・_ゝ・`)「伊藤君がいないと駄目なんだ」
('、`;川「棒読み丸出しじゃないの!」
車に押し込まれた。
拉致とか、そういうものに当たるんじゃなかろうか。これは。
*****
- 332 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:34:45 ID:ZIfoCIYUO
-
裏山に入って。
途中まで車で進み、適当なところで降りた。
私が酔わないように、という配慮らしい。もっと別のところで配慮すればいいのに。
真っ暗だ。
先生が懐中電灯のスイッチを入れる。
('、`;川「ほ、本当に行くの?」
(´・_ゝ・`)「大丈夫だよ、ここを真っ直ぐ行くだけだから迷わない」
そりゃあ、車が通れるほどの道はここしかないから
そうそう迷わないだろうけれど。
私の心配は、そこではない。
夜の山は色々出やすい。
前に貞子ちゃんが言っていた。
('、`;川「怖い……」
(´・_ゝ・`)「なに面白い声出してるの」
('、`;川「か弱い声だよ馬鹿野郎」
言いながらも先生はずんずん歩いていくし、
私も置いていかれては堪らないので後をついていくしかなかった。
- 333 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:36:44 ID:ZIfoCIYUO
-
気付けば結構進んでいた。
幽霊だけではなく虫への恐怖に怯えながら、先生の隣に並んだ。
(´・_ゝ・`)「何か見える?」
('、`;川「何も……」
(´・_ゝ・`)「んー、どの樹で首を吊ったのか分かれば、まだ目的地の設定が出来──」
('、`;川「──ぎゃあああっ!!」
先生が左へ顔を向ける。
それと同時に、正面を照らしていた懐中電灯の光の中に誰かが入り込んだ。
絶叫して先生にしがみつく。
先生は「うるさいよ」と言って、正面に光を向け直した。
いる。
誰かが、こちらに背を向けて座り込んでいる。
心臓が飛び散りそうだ。
けれど、時間が経つにつれ落ち着いてくる。
見覚えのある後ろ姿だった。
- 334 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:37:44 ID:ZIfoCIYUO
-
(´・_ゝ・`)「ミセリ君」
ミセ* )リ
ミセリさんだ。
先生が呼び掛けても、じっと黙っている。
何だか、異様な空気だった。
先生にも見えているということは、間違いなくミセリさん本人なんだろうけれど。
('、`;川「ミセリさん……?」
ミセリさんは、樹を見上げていた。
先生が視線の先を照らす。
そこにあるのは太い枝。
新聞記事を思い出し、ぞっとした。
- 335 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:39:06 ID:ZIfoCIYUO
-
ミセ* )リ
('、`;川「……ミセリさん!」
私はミセリさんに駆け寄った。
彼女の肩を抱き、大声で名前を呼ぶ。
ミセ*゚ー゚)リ
ミセリさんの目がぐるりと私を見て、口元がつり上がった。
笑って、ミセリさんは樹を指差す。
('、`;川「ミセリさ……──」
視界の端に、何かがちらついた。
足。
私は。
私は、ほぼ無意識に、そちらを見てしまった。
- 336 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:40:27 ID:ZIfoCIYUO
-
男がぶら下がっている。
ぱんぱんに膨れ上がった顔。
目玉が飛び出し、口の端からは、だらりと舌が零れ出ている。
そして──首が、長かった。
彼を支えているのは、首と枝を繋ぐロープだけ。
喉がびりびりと震えて、自分が叫んでいるのに気付いた。
ミセリさんを抱えるようにして引っ張り、先生のもとに走る。
先生の後ろまで来たところで足が縺れ、ミセリさんごと転んだ。
振り返ると、男は消えていた。
(´・_ゝ・`)「どうしたの、君達」
ミセ* − )リ
ミセリさんの顔は、もう笑みを浮かべていなかった。
無表情で震えていた。
- 337 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:41:18 ID:ZIfoCIYUO
-
ミセ* − )リ「……私が悪いんじゃないもん……」
何が、と問う余裕は、まだ私に戻っていなかった。
代わりに先生が訊ねる。
(´・_ゝ・`)「何のこと?」
ミセ* − )リ「……」
静寂。
虫の鳴き声が響いている。
痺れを切らした先生が、さらに問い掛けた。
(´・_ゝ・`)「あの自殺した人と、知り合いなの?」
ミセリさんの肩が揺れる。
私は先生とミセリさんを交互に見るしか出来なかった。
ミセ* − )リ「……お金……」
小さな声で、ミセリさんは言った。
- 338 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:42:49 ID:ZIfoCIYUO
-
ミセ* − )リ「お金くれるから相手しただけ……」
('、`;川「……お、お金?」
ミセリさんは、手元にあった石を握り締めた。
そして、先程の樹に向けて投げつける。
ミセ# д )リ「──女子高生に誘われたからって簡単に金払う方が悪いんじゃん!!」
幹に当たった石が跳ね返り、地面に落ちた。
ミセリさんの顔には、怒りが滲んでいる。
ミセ# д )リ「ろくに金持ってないくせに女子高生買うのに必死になって!!
馬鹿だよ! 馬鹿だったんだよお前!!」
ミセ# д )リ「馬鹿で遊んで何が悪いんだよ!!」
ぎし、と、軋むような音。
枝が揺れている。
私はミセリさんを引っ張り起こすと、道を駆け戻った。
.
- 339 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:43:50 ID:ZIfoCIYUO
-
ミセリさんは興奮状態にあった。
何事かを喚き散らし、私達の言葉に答えようとしない。
先生は私を家に送ると、ミセリさんを乗せたまま、どこかへ行った。
その日、私は色々なことが気になって、ろくに眠れなかった。
*****
- 340 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:46:30 ID:ZIfoCIYUO
-
(´・_ゝ・`)「高校生の頃、お小遣い稼ぎのために体を売っていたそうだよ」
翌日。
またもや朝っぱらから私の家に来た先生は、玄関先で、
ミセリさんから聞き出した話を教えてくれた。
(´・_ゝ・`)「あの自殺した男性は妻子持ちだったけれど、
家に帰るより、ミセリ君を買うのに夢中になっていたんだって」
('、`*川「……はあ」
(´・_ゝ・`)「彼を見下しきっていたミセリ君は、ほんの遊び心から、
匿名で彼の奥さんに手紙を送ったらしい」
(´・_ゝ・`)「友人に頼んで撮ってもらった、ミセリ君達がホテルに入る瞬間の写真を同封してね」
('、`*川「……」
後は、大体予想がついた。
話を続けようとする先生を、手で制す。
('、`*川「ミセリさんは今どうしてるの?」
(´・_ゝ・`)「さあ。
僕が知る限りで、評判のいい神社やお寺をいくつか紹介しといたけど。
行くかどうかは彼女次第だろうね」
- 341 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:48:11 ID:ZIfoCIYUO
-
(´・_ゝ・`)「……ああ、そうそう。
昨夜、ミセリ君をマンションまで送ってあげたときにさ。
あの子、街灯見上げて、悲鳴あげてマンションに入ってったよ」
彼女本人も見えるようになったのかな、それとも幻覚かな。
腕を組み、先生が呟く。
いやに暗い気持ちになって、私は俯いた。
('、`*川「……先生は、ミセリさんのこと心配しないの?」
俯いた私には、先生の表情が見えなかった。
ただ──声は、いつもと変わらないようだった。
(´・_ゝ・`)「可哀想ではあるけど、彼にしてもミセリ君にしても、自業自得じゃないかな」
そうだ。
だからこそ、こんなに嫌な気持ちになるのだ。
*****
- 342 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:48:41 ID:ydCnoDWY0
- うむ
- 343 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:49:10 ID:ZIfoCIYUO
-
ミセリさんを見なくなった。
バイトにも来ない。
ミセリさんの友人でもあるバイト仲間は、外で散歩しているところを見かけたから
体調不良ではなさそうだと言っていた。
そのとき、ミセリさんは、シベリア中学校の近くを歩いていたらしい。
ミセリさんに電話をかけても、出てくれなかった。
私だけでなく、店長や友人からの電話にも出なかったそうだ。
.
- 344 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:52:44 ID:ZIfoCIYUO
-
一週間ほどしたある日、私は夜道を歩いていた。
家に帰る途中だった。
('、`*川(……ミセリさん、大丈夫なのかな)
店長かミセリさんの友人に話して、彼女の家に連れていってもらおうか。
そう思いながら、街灯以外に明かりのない道を歩く。
とある街灯に差し掛かった瞬間、目の前に足が降ってきた。
顔を上げる。
女が首を吊っていた。
ミセリさんの顔だった。
〈ゲエッゲゲッエッエッ〉
嘔吐するときのように喉を鳴らし、彼女は笑った。
私が尻餅をつくと同時に消える。
それから数分後、ミセリさんが自室で首を吊っているのが発見されたという連絡があった。
脱臼したのか、僅かに首が伸びていたらしい。
.
- 345 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:54:15 ID:ZIfoCIYUO
-
(´・_ゝ・`)「後味が悪いね」
次の日、全てを聞いた先生のリアクションはそんなものだった。
それしか感想がないのか、とか、薄情な奴だ、と感じるのが普通かもしれない。
けれど、いつもと大して変わらない先生の反応は、何となくありがたかった。
これで先生にまで落ち込まれていたら、私の気持ちはどこまでも沈む一方だったと思う。
*****
- 346 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:56:55 ID:ZIfoCIYUO
-
数日後、貞子ちゃんが家に来ていたので、一連の出来事について話してみた。
先生のことはあまり詳しく説明せずに。
変なことに首を突っ込むな、と軽いお説教をされた。
ごもっともだ。
そして、あの夜、私の前に現れたミセリさんについて訊ねると。
川д川「多分、最後の最後に、お姉さんに八つ当たりしただけだと思います……。
……何の影響もなさそうだし、忘れるのが一番です……」
と、答えられた。
そうは言われても──忘れることなど、出来るだろうか。
きっと無理だ。
第十夜『長い首』 終わり
- 347 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 02:58:40 ID:ZIfoCIYUO
- 今夜はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
『呼ばれる』 >>255-276
『おばけバス』 >>284-302
『長い首』 >>308-346
- 348 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 03:00:06 ID:sAdeO15EO
- 乙!!
- 349 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 03:04:44 ID:ydCnoDWY0
- 今回結構怖かった
しかしなんだかペニサスが霊に当てられてしどろもどろしてるのがかわいくてしかたないな
乙
- 350 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 08:58:03 ID:Ca2hs/720
- 更新ペースが最早怪奇現象レベルだと思うの……
なにはともあれ面白かったです。乙
- 351 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 09:01:43 ID:Z54fn/zM0
- ろくろ首もう馬鹿にできないわ乙
- 352 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 11:21:02 ID:9cQ7NapQO
- こわっ乙
- 353 :名も無きAAのようです:2012/08/14(火) 17:05:28 ID:yqSypXj.0
- 安定した怖さだな乙!
この夏は涼しく過ごせるぜ……
- 354 :名も無きAAのようです:2012/08/15(水) 17:58:57 ID:L6CpHLMQO
- 百物語に出してたら、蝋燭十本プラスだったのかな?
- 355 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:01:48 ID:oN9l5tkoO
-
(´・_ゝ・`)「──こっくりさんこっくりさん、おいでください。
来たら返事をお願いします」
時刻は午後7時前、場所はVIP大学のとある研究室。
そこで、私と先生、それともう1人を入れた計3人で机を囲んでいた。
机の上には一枚の紙。
紙に書かれているのは50音表と数字、「はい」「いいえ」、「男」「女」、そして鳥居のマーク。
その鳥居の上に乗せた10円玉に、私達は人差し指を置いていた。
こっくりさん。怪談ではよく聞くけど、実際に自分がやったことはなかった。
私は、向かいにいる男性に目をやった。
(;-д- )「……」
私の視線に気付いた彼が、目を閉じ、首を横に振る。
諦めて先生の好きにさせよう──という、声にならない返事が聞こえてくるようだった。
彼からは、私と似たニオイがする。
- 356 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:03:43 ID:oN9l5tkoO
-
('、`;川「……ねえ、全然来ないんだけど」
(´・_ゝ・`)「そうだね」
こっくりさんを開始して、かれこれ15分。
10円玉は鳥居から動こうとしない。
もう諦めればいいのに、先生は、ずっと真剣な顔で10円玉を見つめている。
(;゚д゚ )「そもそも、何で急にこっくりさんなんですか」
(´・_ゝ・`)「前に、学生がこっくりさんをやって怖い目に遭ったらしい。
羨ましいから僕もやりたくなったんだ。
……こっくりさんこっくりさん──」
もう何度目になるのか、数えるのも億劫な呼び掛け。
それを先生が言い終えるか言い終えないかというとき──
('、`;川「……わ!」
(;゚д゚ )「あ」
10円玉が、「はい」の方へ動き出した。
- 357 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:05:16 ID:oN9l5tkoO
-
さて。
なぜ私がVIP大学にいるのか、なぜ先生達とこっくりさんをしているのか、
この、もう1人の男性が誰なのか。
先に、そこを軽く説明しておかなければなるまい。
第十一夜『可哀想なこっくりさん』
.
- 358 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:06:27 ID:oN9l5tkoO
-
まず、前回の件により、あのファミリーレストランを辞めた私が
新たにパン屋のバイトを始めたということを知ってほしい。
ファミリーレストランで働いていると、どうにもミセリさんのことを考えて暗い気分になってしまうからだ。
で。そのパン屋で働いていて、夕方になり、
バイトが終わる寸前に先生が来店したときはもう笑うしかなかった。
(´・_ゝ・`)『うわ、伊藤君だ』
1人で食べるには少し多く感じられる量のパンを買って、先生は、何時上がりなのか訊ねてきた。
間の悪いことに、そこへ店長が「そろそろ上がっていいよ」などと声をかけてきたのである。
あとはお決まりのコース。
店から出てきた私は先生の車に乗せられた。
勿論そのまま素直に私の家に行く筈もなく。
真っ直ぐ大学へ向かった先生により、私は彼の研究室に引っ張り込まれたのであった。
- 359 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:07:50 ID:oN9l5tkoO
-
研究室には、1人の男子学生がいた。
( ゚д゚ )『どちら様です?』
(´・_ゝ・`)『知り合いの伊藤君。20歳のフリーター。
──はい、本持ってきたよ。ついでにパン屋寄ってきた』
( ゚д゚ )『あ。すいません、わざわざ』
男子学生の名前は、ミルナといった。
先生のゼミに所属している、VIP大学の4年生とか何とか。
卒論の相談をするために来ていたのだという。
先生とミルナさんが、私にはよく分からない小難しい会話を交わす。
私は部屋の隅に行き、母に電話をかけ、
帰りが遅くなりそうな旨を伝えて通話を切った。
手持ち無沙汰に感じ、本棚を眺める。
先生が書いたと思われる経済学の本が何冊かあって、改めて先生は「先生」なのだなと思った。
- 360 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:08:56 ID:oN9l5tkoO
-
(´・_ゝ・`)『──あとは自分で調べなさい』
( ゚д゚ )『はい。ありがとうございました』
(´・_ゝ・`)『うん……それじゃあ、』
ふと振り返る。
先生のものらしい事務机があった。
大量の本とファイルが積まれた上に、一枚の紙が乗っている。
私は何気なく紙を拾い上げた。
(´・_ゝ・`)『こっくりさんでもやろうか』
50音が書かれた紙と、先生のその言葉で、私はここに連れてこられた理由を知った。
そして冒頭へ。
.
- 361 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:10:10 ID:oN9l5tkoO
-
('、`;川「動いた! 先生動いた!」
ついに動いた10円玉。
「はい」へ移動し、そして、鳥居へ戻る。
(´・_ゝ・`)「君達、誰も動かしてないよね?」
('、`;川「動かしてない」
(;゚д゚ )「同じく」
10円玉を自分で動かそうとすれば、力が篭ることで指先が白くなると思う。
けれど、私達の指に変化はなかった。
寧ろ私などは、気味が悪くて、軽く置く程度にしか触れていない。
先生は私とミルナさんを見てから、手元に視線を落とした。
- 362 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:11:35 ID:oN9l5tkoO
-
(´・_ゝ・`)「本当にこっくりさん?」
間をおいて、10円玉が動く。
〈はい〉
ミルナさんが、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
私も似たような表情になっていたかもしれない。
(´・_ゝ・`)「こっくりさんの性別は?」
10円玉は「男」と答えてから、反対側にある「女」も指した。
先生が首を傾げる。
どういう意味、と先生が訊ねても、今度は鳥居から動かなかった。
('、`;川「こ、これ、本当なの? 本当に来てるの?」
(´・_ゝ・`)「さあね」
先生は、こっくりさんにどんどん質問していった。
ミルナさんの今日の朝食とか、先生の好きな食べ物とか、私の弟の名前とか。
訊いたところで意味があるのかと言いたくなるような質問ばかり。
- 363 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:13:37 ID:oN9l5tkoO
-
で──何とまあ、このこっくりさん、「ぽんこつ」だった。
基本的に、答えない。
答えたとしても間違う。
問答が繰り返される内に、恐怖が薄れてきた。
物々しさというか、そういうものに欠けている。
(;゚д゚ )「……何か、拍子抜けっていうか」
('、`;川「ですね……」
(´・_ゝ・`)「君達、こっくりさんに怒られるよ」
口を噤む。
先生は顎に手をやって唸っていたかと思うと、不意に口を開いた。
- 364 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:15:26 ID:oN9l5tkoO
-
(´・_ゝ・`)「こっくりさんは、どこにいるの?」
何だ、その質問。
私とミルナさんが呆れたような目を向ける。
一拍あけて、10円玉が動いた。
〈くらい〉
('、`*川「……くらい?」
(´・_ゝ・`)「地名?」
〈いいえ〉
(´・_ゝ・`)「真っ暗な場所?」
〈はい〉
(´・_ゝ・`)「ここにいるわけじゃないんだ」
〈はい〉
- 365 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:17:46 ID:oN9l5tkoO
-
( ゚д゚ )「……こっくりさんって、降霊術の一種じゃないんですか?」
ミルナさんが先生に問う。
こうれいじゅつ、というものが何なのか、私は分からない。
後で知ったのだけど、ミルナさんも何度か
先生のオカルト趣味に付き合わされたことがあるらしい(私ほど頻繁ではないが)。
そのせいで多少の知識がついたのだという。
(´・_ゝ・`)「そうだとは聞くけど……。
降霊術ってのは、この場に来ないと成立しない、ってものでもないのかもしれない」
( ゚д゚ )「遠くから念を送ってるとか?」
(´・_ゝ・`)「そういうことで成り立つ場合もあるのかもね」
こっくりさんそっちのけで真面目に議論している。
私が咳払いすると、先生はこっくりさんの方に意識を向け直した。
- 366 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:20:09 ID:oN9l5tkoO
-
(´・_ゝ・`)「……こっくりさん。僕、是非こっくりさんに会ってみたいな」
余計なことを。
睨みつける私に、先生は微笑んで返す。
するする、10円玉は滑らかに「あ」行へ向かった。
〈いま〉
〈いく〉
4文字を辿り、鳥居へ。
──今行く。
答えの意味を理解した瞬間、ぞっとした。
身を竦ませた拍子に10円玉から指が離れそうになったけれど、
こっくりさんのタブーは知っていたので何とか堪えた。
(;゚д゚ )「『今行く』……?」
- 367 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:21:49 ID:oN9l5tkoO
-
(´・_ゝ・`)「来てくれるの?」
10円玉は動かない。
先生が色々と話しかけるのだけど、それきり、こっくりさんは答えなかった。
('、`;川「……ねえ」
(´・_ゝ・`)「ん?」
('、`;川「これ、終わらせられないんじゃないの?」
こっくりさんといえば、「こっくりさんお帰りください」「はい」のやりとりで
終わらせなければいけない筈だ。
けど、現在、こっくりさんは完全に沈黙している。
試しに「お帰りください」と言ってみたものの、うんともすんともいわなかった。
- 368 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:25:23 ID:oN9l5tkoO
-
(´・_ゝ・`)「たしかに終わらせられないね」
(;゚д゚ )「せ、先生、どうするんです?」
(´・_ゝ・`)「どうするって?」
('、`;川「ちゃんと終わらせないといけないんじゃないの?」
(´・_ゝ・`)「……んー。君達、変なこと言うね」
先生は──指を離した。
そして、私とミルナさんの指の下から10円玉を奪い去る。
(´・_ゝ・`)「そもそも、普通に帰したって面白くないじゃない」
そういえば、こういう人だ。
*****
- 369 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:27:15 ID:oN9l5tkoO
-
こっくりさんを中断させてから、20分が経過した。
私達3人は依然として机を囲み、その上の紙を眺めていた。
今のところ、怪奇現象の類はない。
( ゚д゚ )「このまま何事もなく済みそうですね」
ミルナさんが先生に言った。
先生は、うん、と小さく頭を揺らす。
(´・_ゝ・`)「やっぱり、こっくりさんなんて来てなかったのかな」
('、`;川「でも10円玉は動いてたわよ」
(´・_ゝ・`)「10円玉が動くのは、
参加者が無意識に動かしているのが原因だ、とする説がある。
無意識だから、ひとりでに動いていると錯覚するわけだ」
('、`;川「無意識? 無意識であんなに動くの?」
(´・_ゝ・`)「うん……」
先生は、目の前に持ち上げた10円玉をまじまじと見据えた。
「でもなあ」と一言。
- 370 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:29:02 ID:oN9l5tkoO
-
(´・_ゝ・`)「僕、あのこっくりさんはリアリティがあったと思うんだけどなあ」
('、`;川「リアリティって」
( ゚д゚ )「質問の答え、外れまくってたじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「外れまくってたからこそリアルなんじゃないか」
親指で10円玉を弾いた。
くるくると宙を舞ったそれを、先生は手のひらで受け止める。
(´・_ゝ・`)「こっくりさんは、低級な動物霊や浮遊霊なんかを呼ぶものだと一般的に言われている。
──そういう霊が、ミルナ君の朝食や伊藤君の弟の名前を知ってると思うかい?」
(;゚д゚ )「……うーん」
(´・_ゝ・`)「伊藤君さ、いきなり見知らぬ人から電話かかってきて
『私の好きな映画は何でしょう』なんて言われて、答えられる? ヒントも無しに」
('、`;川「そりゃ分かんないけど」
(´・_ゝ・`)「でしょ」
先生が口を閉じる。
私とミルナさんも視線を交わすだけで、何も言わなかった。
- 371 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:31:06 ID:oN9l5tkoO
-
不意に、部屋のドアがノックされた。
驚きすぎて悲鳴が出そうだった。
(´・_ゝ・`)「はい?」
「教授、研修についてお話よろしいですか」
男性の声だ。准教授かな、とミルナさんが呟く。
先生は事務机から封筒を取ると、研究室を出た。
ドアの向こうで会話する声が聞こえ、やがて、2人分の足音が遠ざかっていった。
('、`;川「あ、行っちゃった」
( ゚д゚ )「多分すぐ戻ってくるんじゃないか」
残された私とミルナさんは、何となく気まずい空気の中、互いの動向を窺った。
初対面の男女をこっくりさんに巻き込んだ上に2人きりで放置するって、結構ひどい。
- 372 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:33:26 ID:oN9l5tkoO
-
(;゚д゚ )「……あ、な、何か飲む?」
('、`;川「はっ、はいっ」
ミルナさんが腰を上げ、事務机の隣にある棚へ移動した。
コーヒーメーカーやポットなどが置いてある。
( ゚д゚ )「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
('、`*川「紅茶で……」
棚の中から紙コップを出し、ミルナさんはティーポットを手に取った。
そして──ふと、傍にあった窓を見たミルナさんは固まった。
右手にティーポットを持ったまま、そこに立ち尽くしている。
('、`*川「?」
私は、そっとミルナさんに近付いた。
彼の隣に立つ。
ミルナさんは、窓の外を見下ろしていた。
- 373 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:34:45 ID:oN9l5tkoO
-
ここは3階だ。
すぐ下に中庭が見える。
各所に設置された外灯が、無人の中庭を照らしている。
そこを通るものがあった。
どう表現すればいいのだろう。
牛ほどの大きさもある肉の塊。
あちこちから人の手足が飛び出している。
所々に毛が生え、顔のパーツのようなものも点在していた。
手足も、髪も、1人2人の量ではない。
もたつきながら、それは這うように中庭を移動していた。
.
- 374 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:36:09 ID:oN9l5tkoO
-
尋常じゃないほどの寒気に襲われ、私は後ずさった。
後ろの事務机にぶつかり、床に転ぶ。
ミルナさんはびくりと体を揺らし、私を見た。
そして、小刻みに震えている足を折り曲げ、しゃがみ込む。
(;゚д゚ )「……見たか、あれ……」
頷いて答える。
ミルナさんは膝をつくと再び窓を覗き込み、視線を逸らした。
(;゚д゚ )「……生き物じゃ、ないよな」
('、`;川「た、た、たぶん、……たぶん」
したたか打ちつけたお尻を摩りながら、私はミルナさんと向かい合うように座った。
ミルナさんは青ざめている。
口を開いては閉じ、舌で唇を湿らせ、また口を開いて、閉じた。
どうしたんですか。
私が問うと、ようやく彼は答えた。
- 375 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:39:05 ID:oN9l5tkoO
-
(;゚д゚ )「あいつ……男みたいな腕もあれば、女みたいな足もあった。その逆も……」
('、`;川「はあ」
(;゚д゚ )「……さっきの、こっくりさんってさ」
そこでまたミルナさんが黙る。
けれど、その先は私にも分かった。
──先生がこっくりさんに性別を訊ねたとき、こっくりさんは、「男」と「女」、両方を答えた。
肌が粟立つ。
まさか、あれがこっくりさんなのだろうか。
- 376 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:39:46 ID:porGzkAE0
- きたきたきたきた
- 377 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:41:00 ID:AE64j5cEO
- わくわく
- 378 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:41:49 ID:oN9l5tkoO
-
(;゚д゚ )「帰さないと……!」
ミルナさんは立ち上がり、こっくりさんを行った机に駆け寄った。
机に辿り着くなり、妙な声を漏らしてへたり込む。
私は本棚に掴まりながらミルナさんのもとへ歩いていって、机の上を見た。
有り得ない光景だった。
紙に書かれていた文字が、ぐちゃぐちゃになっていた。
場所や方向がばらばらな上、いやに捩れていて、まともに判読出来る文字が少ない。
鳥居のマークは真っ黒に塗り潰されている。
私もミルナさんも言葉を失った。
真っ白になった頭に、警鐘が鳴り響く。
('、`;川「……に、逃げましょうよ……!」
ミルナさんの腕を引っ張る。
何とか立ち上がった彼を連れて、私はドアを開けた。
- 379 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:43:58 ID:oN9l5tkoO
-
先生の研究室は一番奥にある。
長く伸びる、真っ暗な廊下。
その先の曲がり角から、のそのそと現れる「何か」。
凍りつく。
中庭で見たものが、そこにいた。
その肉塊は、ぴたりと止まった。
直感的に、私の頭に「見付かった」という言葉が浮かぶ。
瞬間、肉塊は、先程までとは打って変わって
凄まじいスピードで近付いてきた。
かちかち、ぺたぺた、動物と人間が同時に走っているかのような奇妙な足音が耳に突き刺さる。
- 380 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:45:08 ID:oN9l5tkoO
-
ミルナさんが私を研究室に引き戻してドアを閉めたのと同時に、
それはドアにぶつかった。
ドアがめちゃくちゃに叩かれる。
ミルナさんは必死の形相で鍵をかけた。
背中でドアを押さえ込むようにしながら、彼は私に携帯電話を投げた。
(;゚д゚ )「先生に電話しろ!」
私は半泣きになりながら携帯電話を操作した。
私が使っているのと違う型だったから手間取ったが、何とか「盛岡先生」の番号を見付ける。
こういうときにありがちな電波障害が起こることもなく、無事、先生に繋がった。
- 381 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:47:37 ID:oN9l5tkoO
-
『はい』
(;、;*川「先生!」
『あれ、ミルナ君じゃないね。……あ、伊藤君か』
(;、;*川「こ、こっくりさんが、こっくりさんが、」
がんがんというドアの音に、頭の中が掻き混ぜられる。
言葉がつっかえて出てこなかったけれど、
もう慣れたもので、先生は大体のところを察したようだった。
『来たの? 何だよ、僕がいない隙に……。
どうしようか、今ちょっと席外せそうにないんだよね』
(;、;*川「や、やだ、待って、待って!」
電話の向こうで、がさがさという音が鳴った。
誰かが先生に話しかける声。
先生が答える声がして、通話は切れた。
唖然として携帯電話を見下ろす私に、ミルナさんが「どうした」と訊ねる。
(;、;*川「切られた……」
(;゚д゚ )「はあ!?」
- 382 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:48:12 ID:porGzkAE0
- むしろ先生がいないからきました
- 383 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:50:06 ID:oN9l5tkoO
-
みしり、ドアが軋む。
ミルナさんの顔色は最悪だ。
あと1分もしない内にドアは破られるだろう。
私が顔を両手で覆った──と、同時。
音が止んだ。
(;゚д゚ )「……え?」
ミルナさんが掠れた声を落とす。
私は、そろそろと顔を上げた。
- 384 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:52:24 ID:porGzkAE0
- dkdk
- 385 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:53:21 ID:oN9l5tkoO
-
ドアは、すっかり静かになっていた。
諦めたのか。
油断させるつもりなのか。
私もミルナさんも、動けなかった。
ドアを睨む姿勢で硬直する。
──どれほどの間、そうしていただろうか。
突然、遠くから物凄い絶叫が聞こえた。数人分。
ミルナさんが座り込む。
彼の表情には、どことなく安堵の色が浮かんでいた。
(;、;*川「なっ、何!? 何!?」
(;゚д゚ )「……」
返ってきた声は、聞こえるか聞こえないかの小ささだった。
(;゚д゚ )「多分……あの人、あっちでこっくりさん呼びやがった」
*****
- 386 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:55:22 ID:oN9l5tkoO
-
(´・_ゝ・`)「会議室に5人くらい居たんだけどさ、僕以外の教授や准教授が、
一斉に悲鳴あげて逃げたんだよ」
しばらくして研究室に戻ってきた先生は、悔しそうに言った。
(´・_ゝ・`)「何で僕だけ見えないかな……。理不尽だ。不公平だ」
('、`*川「本当に理不尽だわ」
私はミルナさんが入れた紅茶を飲みながら、先生を睨んだ。
例によって、今回も先生には幽霊など見えなかったらしい。
- 387 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:55:48 ID:porGzkAE0
- 裏技過ぎるwww
- 388 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:55:56 ID:s10r0WOk0
- せんせいなんてことをwwwwwwwwww
- 389 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 21:57:54 ID:oN9l5tkoO
-
( ゚д゚ )「……で、先生、具体的に何をやったんですか」
ミルナさんが問う。
先生は答える代わりに、彼に封筒を手渡した。
封筒の裏面を見たミルナさんの表情は、何とも言えないものだった。
私も横から覗き込む。
──酷かった。
やたら曲がった鳥居のマーク。
その傍らには、恐らく「YES」「NO」の略であろうYとNの一文字ずつ。
「男」「女」と書くところは、♂と♀。
50音表は、もはや50音ではなかった。
あかさたなはまやらわ。これだけ。
('、`*川「……こっくりさん、ろくに喋れないわね。これ」
(;゚д゚ )「こんなんで呼び出されたら俺ならキレるな」
(´・_ゝ・`)「伊藤君が切羽詰まってたみたいだから急いで仕上げたんじゃないか。
成功したんだし、いいでしょ」
- 390 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 22:00:37 ID:oN9l5tkoO
-
('、`*川「呼び出した後はどうしたの?」
(´・_ゝ・`)「説教した」
自分がいない間に研究室に来たこと、
他の教授達には見えたのに自分にだけ見えなかったこと、
お腹が空いていたこと。
それらの怒りを、先生はこっくりさんにぶつけたらしい。
前2つはともかく、最後のはこっくりさんに関係ない。
こっくりさんが碌に反論出来ないのをいいことに、一方的に説教をかましたのだという。
30分ほど続け、最後に先生が「もう帰れば?」と言うと、
10円玉は「Y」を通って鳥居に戻ったそうだ。
('、`;川「説教効いたんかい」
(;゚д゚ )「……なんか可哀想だな」
すごいとか格好いいとかより、いっそ恐い。
- 391 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 22:01:48 ID:rRSst21o0
- ふええ…折角来てくれたこっくりさんかわいそうだよお
- 392 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 22:02:06 ID:xk6LN0QQ0
- 先生最強……。
- 393 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 22:03:00 ID:oN9l5tkoO
-
私とミルナさんは、あれの見た目だけで随分とダメージを受けた。
そのせいで怯えきっていた私達には、立ち向かうことを考える余裕もなかった。
先生は正反対だ。
何も見えないからこそ、怯える暇などなかった。
寧ろ腹を立てたくらいなのだから、恐怖なんて欠片も感じなかったのだろう。
('、`;川「……見えないから図太いのか、図太いから見えないのか……どっちでしょうね」
(;゚д゚ )「どっちだろうなあ……」
(´・_ゝ・`)「何こそこそ話してるの?」
「見えない」ことの強さを、思い知らされた気がした。
.
- 394 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 22:04:51 ID:oN9l5tkoO
-
──わざわざ言う必要もないだろうけど。
今のところ、こっくりさんの祟りとか、そういうものは一切起こっていない。
第十一夜『可哀想なこっくりさん』 終わり
- 395 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 22:06:30 ID:oN9l5tkoO
- もしかしたら、また何時間か後に
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
『呼ばれる』 >>255-276
『おばけバス』 >>284-302
『長い首』 >>308-346
『可哀想なこっくりさん』 >>355-394
- 396 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 22:08:23 ID:rRSst21o0
- 怖いけど最後のこっくりさんにちょっと和んだ、乙
ていうか何時間か後ってことはひょっとしたらまたくるかもしれないのか
待ってる
- 397 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 22:12:24 ID:porGzkAE0
- 先生の理不尽なたくましさがすごい
おつおつ
- 398 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 22:12:58 ID:s10r0WOk0
- おーつ。
なになに、今日は二本立て?
楽しみにしてるお
- 399 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 23:21:23 ID:TvuJiRvQ0
- 乙おつ
今のところ一番期待してるわ頑張れ
- 400 :名も無きAAのようです:2012/08/16(木) 23:44:03 ID:QqV1yYTg0
- 怖いな
だがそれ以上に先生強すぎる
こっくりさんに襲われてるのが分かったからって、普通別の場所でこっくりさん呼び出したりしねぇよ...
おまけに説教付きとか
- 401 :名も無きAAのようです:2012/08/17(金) 20:06:34 ID:m230kvKU0
- 説教じゃなくて八つ当たりじゃねーかwww
- 402 :名も無きAAのようです:2012/08/17(金) 23:22:53 ID:cxMHA.H60
- 今日中にくるかなー?
- 403 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 00:51:40 ID:uy2/vdx2O
-
残る話も、あと僅かだ。
今回の話は先生の出番が少ない。
けれど、教訓として聞いてほしいと思う。
海とか山とか、とにかくどこでも。
落ちているからって、何でもかんでも物を拾うのは止した方がいい。
余計な「モノ」まで拾いかねない。
.
- 404 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 00:52:57 ID:uy2/vdx2O
-
家に帰ってから、私の耳が何だか変だった。
耳鳴りというか。
時折、じりじりとノイズのような響きが耳の奥で鳴っていた。
爪'ー`)「よう」
('、`*川「ただいま」
居間のソファに座っていた弟は、私に気付くと手を振った。
私も手を振り返し、隣に座る。
弟は翌日から2学期が始まるということで、何となく気怠そうだった。
じりじり。
何秒か耳鳴りがして、何秒か静かになって、また耳鳴りが何秒か。
私は、弟の右手に小さな袋があるのに気付いた。
- 405 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 00:54:01 ID:uy2/vdx2O
-
('、`*川「何それ」
爪'ー`)「先輩からもらった。彼女のために買ったけど、気に入ってもらえなかったって」
弟が袋の中から小さな箱を取り出す。
開けてみると、中身は指輪だった。
透き通るような水色の石。
多分、アクアマリン。
いる? と訊かれたので、首を横に振った。
女性ものの指輪で、弟は扱いに困っているようだった。
('、`*川「……先輩に返した方がいいと思うよ」
それだけ言って、私は腰を上げた。
第十二夜『海の夢』
.
- 406 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 00:54:48 ID:uy2/vdx2O
-
その夜、夢を見た。
真夜中の海辺に私が横たわっていて、その傍らに女性が座っている夢だった。
女性は私を見下ろしているのだけど、顔が分からない。
影で覆われているかのように、顔や体が黒い。
寒いのか、彼女はふるふると震えていた。
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- 407 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 00:56:08 ID:uy2/vdx2O
-
('、`*川「……」
何だかすっきりしない目覚めだった。
耳鳴りはまだ聞こえる。
1階に下りると、制服姿の弟が居間の中をうろうろしていた。
('、`*川「何してんの?」
爪'−`)「昨日の指輪が見付かんねえんだよ。
欲しいって言う奴いたから、持っていきてえんだけど……」
弟の部屋にも居間にも見当たらないのだという。
('、`*川「箱ごとなくなったの?」
爪'−`)「いや、箱はあるけど指輪が……」
そろそろ行かないと遅刻するよ、と母が言うと、弟は溜め息をついて居間を出ていった。
朝食をとって家を後にすると、耳鳴りは収まった。
*****
- 408 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 00:57:08 ID:uy2/vdx2O
-
爪;'ー`)「なあ、指輪見なかったか?」
バイトから帰ると、おかえりの挨拶も無しに訊ねられた。
困りきった様子の弟に、嫌な予感を覚える。
('、`;川「どうしたのよ」
爪;'ー`)「……貞子に、変なもの持ってないかって言われた」
('、`;川「あー……」
貞子ちゃんに言われれば、そりゃあ不安にもなるだろう。
彼女いわく、弟に何かが憑いているわけではないけれど、不吉な気配がしたらしい。
私と兄も手伝って家中を探したが、指輪は見付からなかった。
耳鳴りは、帰宅してから再開していた。
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- 409 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 00:58:16 ID:uy2/vdx2O
-
その日の夜も夢を見た。
やっぱり私が海辺に横になり、隣に女性が座っている夢。
私も彼女も口を開かない。
私は仰向けになったまま夜空を見上げる。
視界の端にいる女性は、震えている。
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- 410 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 00:59:30 ID:uy2/vdx2O
-
J( 'ー`)し「何だか、海の匂いがするわね」
朝、母が首を傾げてそう言った。
家の中が何となく磯臭く感じる、と母は呟く。
私には感じられなかった。
けれど、原因は見当がついている。
('、`*川「フォックスは?」
J( 'ー`)し「探し物してたけど、さっき学校に行ったわよ」
弟は今朝も指輪を見付けられなかったようだ。
私の頭の中には、ぼんやりと、ある想像が広がっていた。
夢の女性は指輪の持ち主なのではないだろうか。
*****
- 411 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:01:24 ID:uy2/vdx2O
-
爪;'ー`)「あの指輪、海で拾ったんだってよ」
弟はぐったりとソファに凭れ、言った。
指輪を寄越した先輩を問い詰めたところ、先輩は正直に吐いたらしい。
海に行ったときに、岩と岩に挟まるようにして指輪が落ちているのを見付けたのだという。
交番などに届け出るのも面倒だったし、捨てるのは勿体ない気がしたので
自宅にあったケースに入れて、弟に渡したそうだ。
海で拾ったなんて知っていたら、弟は受け取らなかっただろう。
間違いなく誰かのものだし、それに、そういう場所での拾い物には注意するべきだと
貞子ちゃんから散々言われているから。
爪;'ー`)「あれ、ヤバいんじゃねえかな」
('、`;川「……そうね」
明日の放課後、貞子ちゃんに探し物を手伝ってもらうつもりだと言うので、
それで解決することを祈った。
- 412 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:02:04 ID:uy2/vdx2O
-
──このときに、耳鳴りと夢のことを弟に話しておけば良かったのだ。
弟から貞子ちゃんへ話が行けば、貞子ちゃんは私に会おうとしただろうに。
そうして彼女と会っていれば、もしかしたら、その時点で無事に終わっていたかもしれないのに。
指輪さえ見付かれば耳鳴りもなくなるだろう、と判断した私が悪かった。
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- 413 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:03:18 ID:uy2/vdx2O
-
夢の内容が少し変わった。
場所や、私と女性の姿勢は相変わらず。
昨夜までと違うのは、誰かの声が微かに聞こえることだ。
その声がするのは、私の足が向いている方向からだった。
そっちには海がある。
震える女性を見ながら、海の声を聞く。
指輪は、この女性のものなのだろうか。
そうだとして、この人はもう亡くなっているのだろうか。
時間の感覚が抜け落ちていく。
*****
- 414 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:04:18 ID:uy2/vdx2O
-
翌日の夜、バイト終わりに先生に捕まり、心霊スポットへ連れていかれたのだけれど
幽霊が出るでもなく変な声が聞こえるでもなく、何事もないまま終わった。
こういうことが、たまにある。
おかげで先生が退屈そうだったので指輪の話をしたところ、
先生がちょっと元気を取り戻した。
(´・_ゝ・`)「指輪と耳鳴りと夢か」
('、`*川「関係あるかは分かんないけどね」
貞子ちゃんのことは伏せて、そろそろ解決するだろうということも話すと、
先生は少し残念そうにしていた。
(´・_ゝ・`)「その指輪欲しいなあ……」
('、`*川「もしかしたら何の曰くもない、ただの指輪かもよ。
夢も全然意味なかったりして」
(´・_ゝ・`)「じゃあ耳鳴りは何なのっていう話になるだろう」
('、`;川「……普通に病気だったら嫌だわ」
幽霊より恐い気がする。
私は無意味にシートベルトを撫でながら、夢のことを考えた。
- 415 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:06:13 ID:uy2/vdx2O
-
もし先生が望むように、全てが心霊的に繋がっているとして。
彼女は、夢で何を伝えたいのだろう。
('、`*川「……幽霊って夢が好きなのかしら」
(´・_ゝ・`)「何で?」
('、`*川「ホテルのときも人形のときも変な夢見たし……。
怪談でも多いじゃない。夢に出てくるのとか」
(´・_ゝ・`)「あー……干渉しやすいんじゃないの。
僕には分からないけど」
家に近付く。
私はシートベルトの留め具に触れた。
.
- 416 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:07:15 ID:uy2/vdx2O
-
家に入ると、耳鳴りがした。
居間に行き、ソファに座る弟の頭を小突く。
('、`*川「指輪は?」
爪'ー`)「貞子が見付けた。洗面台の裏にあったぜ」
弟は清々しい顔で答えた。
('、`*川「そう。見付けた後はどうしたのよ」
爪'ー`)「兄貴に海まで連れてってもらって、貞子に指示された通りの場所に置いてきた。
返すのがもう少し遅れてたら、何かしら起こってたかもしれないってよ」
('、`*川「ふうん……」
爪'ー`)「とりあえず、何も起きないまま終わって良かったな」
じりじり。
耳鳴り。
私は適当に相槌を打って、自室へ向かった。
終わった?
それじゃあ、この耳鳴りは?
本当に病気なのかもしれない。
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- 417 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:07:54 ID:uy2/vdx2O
-
──結局、また夢は同じだった。
寝そべる私と座る女性、海から聞こえる声。
今度は、じりじり、あの耳鳴りも加わった。
女性を眺める内、ふと気付いた。
耳鳴りの音と、震える女性の動きが連動している。
何か喋っているのだろうか。
耳を澄ませていると、段々、意識が現実の方へ引っ張られていった。
*****
- 418 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:10:04 ID:uy2/vdx2O
-
家に帰る。
母が心配そうな顔で私に声をかけた。
J( 'ー`)し「あんた、病院行ったんだって?」
('、`*川「ん? うん。何で知ってんの?」
J( 'ー`)し「お隣の沢近さんが、病院でペニサス見たって」
('、`*川「そう。……ちょっと最近耳鳴りがするから診てもらったの。
大したことないみたい」
午前中、バイトを休んで病院に行ってみたけど、原因は分からなかった。
3日おいてもまだ聞こえるようなら、また来てください──とのことだ。
耳鳴り以外の症状がないので、仕方ない。
- 419 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:12:08 ID:uy2/vdx2O
-
J( 'ー`)し「何かあったら、すぐ言ってね」
('、`*川「うん……」
何か大きな病気だったら困るが、あの夢と関係している現象だとしても困る。
指輪については解決した筈だ。
なのに昨夜も夢を見た。耳鳴りは続いている。
指輪は関係ない?
('、`*川(参ったなあ……)
病気かオカルトか。
どっちかに絞れれば、まだ気も楽なのだけれど。
耳を押さえる。
じりじり。鬱陶しい。
J( 'ー`)し「……やっぱり、海の匂いがする」
呟き、母が小首を傾げた。
.
- 420 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:13:34 ID:uy2/vdx2O
-
じりじり。じりじり。
気付くと、耳鳴りが大きくなっていた。
海辺。私と女性と、遠くの声。
夢だ。
声は遠すぎて何を言っているか分からないし、女性は隣で震えるばかり。
目的とか、そういうことが何も伝わってこない。
──私に何の用があるの。
心の中で問い掛ける。口は動かなかった。
──指輪なら海に返したけど、それとは関係ないの?
女性が一際大きく震える。
今まで彼女の顔を隠していた影が、消えた。
- 421 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:15:33 ID:uy2/vdx2O
-
彼女は震えているのではなかった。
びっしりと身体中に張りついた生き物が蠢く度に、彼女も揺れているだけだった。
シャコやらカニやらが、目や口といった穴を出入りし、変色して膨れた肉を抉っている。
お腹にあいた穴から、ウナギかアナゴか、細長い魚が抜け出て砂の上でのた打った。
種類の分からない小さな魚が口の端から零れる。
頬の肉に噛みついたエビが、肉ごと落っこちた。
じりじり。
音は、彼女が食われていく音だった。
- 422 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:19:08 ID:uy2/vdx2O
-
女性が動く。
ぎこちなく、右腕を上げる。
彼女の小指と数匹のカニが地面に降った。
ぶよぶよに膨らんだ指で、ずるずるに崩れた顔の肉を千切る。
彼女の左手が私の口を開かせる。
体が動かない。声が出ない。
右手のそれを、口に詰め込まれた。
苦いような酸っぱいような、しょっぱいような味が広がる。
彼女は髪の毛ごと頭皮を毟った。
そうやって何度も自身の肉を千切っては、私の口に押し込んでいく。
- 423 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:20:28 ID:uy2/vdx2O
-
彼女の頭が上下に揺れた。子供が大笑いするようだった。
海の声が鼓膜を震わせる。至近距離。
何人もの笑い声。
突然、全身を水が包んだ。
いつの間にか私は海の中にいた。
女性が私に抱きついている。下半身にたくさんの手がしがみついている。
息が出来ない。
苦しい。苦しい。
.
- 424 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:22:22 ID:uy2/vdx2O
-
──腕を引っ張られた。
どこか硬いところに体を打ちつける。
タイル張りの床だ。
(;'A`)「何してんだよ!!」
兄が私を見下ろし、怒鳴った。
見覚えのある天井が視界にあった。
浴室。
私は呆然としながら、激しく呼吸を繰り返した。
兄の手が、私の頬を叩く。
咳き込んだ。
舌が震える。
慌ててうつ伏せになり、吐いた。
夕飯しか出てこない。
とろけた肉などは無かった。
- 425 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:23:24 ID:uy2/vdx2O
-
(;'A`)「おい……大丈夫かよ、お前」
息も絶え絶えになりながら、何があったのか、兄に問う。
尿意で目覚めた兄がトイレへ向かう途中、風呂場が騒がしかったので様子を見に来たのだという。
そしたら、私が浴槽に張った水に顔をつけてもがいていたそうだ。
いくら吐いても吐き気は止まなかった。
口の中に水死体の欠片がこびりついているように思えてならない。
浴槽の水は、海水のようにしょっぱかった。
*****
- 426 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:26:17 ID:uy2/vdx2O
-
翌日の夕方、貞子ちゃんの家に行った。
私を見るなり、貞子ちゃんが青ざめる。
川;д川「何かあったんですか?」
全て話すと、彼女は地面に頭がくっつきそうな勢いで謝ってきた。
指輪を探しに行ったときに気付けば良かった、本当にごめんなさい──
何度も謝罪を繰り返す貞子ちゃん。
見ていて、こっちが申し訳なくなった。
('、`*川「……貞子ちゃん、何か分かるの?」
川;д川「指輪と一緒に、色んな霊が付いてきてたんだと思います……。
それでお姉さんにイタズラして……。
……ああ、もしかして指輪が行方不明になってたのも、この人達のせいかも……」
貞子ちゃんに肩や背中を叩かれた。
「あとは私が帰してきます」と言っていたので、悪いとは思いつつ任せることにした。
- 427 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:27:38 ID:uy2/vdx2O
-
('、`*川「何とか出来る?」
川д川「これくらいなら……」
先生とは違った意味で頼もしい。
あとでお礼をしに来ると貞子ちゃんに言い、私は家へ戻った。
弟に「先輩」とやらへ電話をかけてもらうように頼むことにした。
罵声くらいは浴びせてもいいと思う。
*****
- 428 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:29:21 ID:uy2/vdx2O
-
(´・_ゝ・`)「強烈だね」
3日後。
先生は珍しく同情の色を顔に滲ませ、私の話を聞いていた。
例によって、貞子ちゃんについては話していない。
('、`;川「まだ寒気がするわ……」
(´・_ゝ・`)「耳鳴りは?」
('、`;川「もうしない」
いつもなら「羨ましい」とか「もう終わっちゃったのか」とか言うところだろうけど、
さすがに先生も空気を読んだのか、黙って頷くだけだった。
夜の繁華街を、先生の車が走る。
(´・_ゝ・`)「ねえ伊藤君」
('、`*川「なに?」
(´・_ゝ・`)「お腹すいたよね」
('、`*川「うん……今日は朝からあんまりご飯食べてない」
- 429 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:30:39 ID:uy2/vdx2O
-
(´・_ゝ・`)「何か奢ってあげようかと思ってるんだ」
('、`*川「ほんと? ありがとう」
(´・_ゝ・`)「あのさ」
('、`*川「うん」
(´・_ゝ・`)「僕、お寿司食べたいんだけど」
('、`*川「無理」
(´・_ゝ・`)「だよね」
先生は、適当な場所でUターンした。
.
- 430 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:32:26 ID:uy2/vdx2O
-
──あの夢を見て以来、しばらく魚介類を食べられなくなった。
「しばらく」は「しばらく」。1週間もすればまた元のように
海老フライもうな重も食べられるようになったので、
案外、私も図太いのかもしれない。
第十二夜『海の夢』 終わり
- 431 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:34:05 ID:uy2/vdx2O
- 今夜はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
『呼ばれる』 >>255-276
『おばけバス』 >>284-302
『長い首』 >>308-346
『可哀想なこっくりさん』 >>355-394
『海の夢』 >>403-430
- 432 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:37:31 ID:ntbhNaXcO
- 乙
- 433 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:50:38 ID:MLgFQMn60
- おつおつー
- 434 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 01:52:24 ID:NHuJFSSI0
- 乙
相変わらず安定して怖いな
- 435 :名も無きAAのようです:2012/08/18(土) 13:11:49 ID:Is3DJgNw0
- 相変わらず怖いが、終わりが近いと悲しいな
- 436 :名も無きAAのようです:2012/08/20(月) 13:49:45 ID:BAeQGOZsO
- >>435怖いくらい同意
- 437 :名も無きAAのようです:2012/08/21(火) 19:32:29 ID:1/xfkO5s0
- 新規サイトですがまとめさせていただきました。
http://boonrest.web.fc2.com/genkou/yoru/0.htm
更新楽しみにしています。
- 438 :名も無きAAのようです:2012/08/22(水) 00:11:49 ID:vx6cNGmk0
- マダカナマナカナ
- 439 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:32:44 ID:EjaUCCVcO
-
雨が降っていた。
低く唸る風と共に降りしきる、大雨だった。
(´・_ゝ・`)「失礼しますね」
(*゚ー゚)「ええ」
先生が、向かいに座っているお婆さんの右腕を持ち上げる。
着物の袖を捲り、肉の薄い腕に先生の指が触れた。
お婆さんの手は、だらりと垂れている。
先生は肘の内側を強く押した。
(´・_ゝ・`)「痛くありませんか」
(*゚ー゚)「痛くありませんねえ」
がたがたと窓が鳴った。
私は、びくりと身を竦ませる。
そんな私の様子に、お婆さんが少し笑った。
- 440 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:33:22 ID:EjaUCCVcO
-
私は水出しの緑茶を口に含み、雨が叩きつけられている窓を一瞥した。
薄暗い。
そろそろ夜が来る。
第十三夜『猫とノコギリ』
.
- 441 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:33:52 ID:fJ9QF2go0
- トイレは済ませて来た
- 442 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:34:17 ID:EjaUCCVcO
-
この日は明るい内から神社に連れていかれた。
昔、境内で焼身自殺を図った男がいたとかで、その霊が出ると噂される神社だった。
が、成果はゼロ。
(´・_ゝ・`)『やっぱ夜の方が良かったかな』
('、`*川『また夜に来るつもりなら1人で来てよね』
坂の上にある駐車場へ向かう最中、お婆さんとすれ違った。
(*゚ー゚)
着物姿の、どことなく上品な雰囲気を漂わせた人だった。
70代にはなっていそうな。
足が悪いのか、左手に杖を握っている。
- 443 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:35:57 ID:EjaUCCVcO
-
(´・_ゝ・`)『何じろじろ見てるの』
立ち止まってお婆さんの背中を目で追う私に、先生が問う。
('、`*川『……なんか』
(´・_ゝ・`)『うん?』
('、`*川『あの人の背中、誰かくっついてた』
すれ違いざま、彼女の肩越しに、一瞬だけ人影が見えた。
先生は私の囁きを聞くと、お婆さんに目をやった。
(´・_ゝ・`)『焼死体?』
('、`*川『そういう感じじゃなかったと思う……』
焼死体がどんなものか知らないけど。
何となく、この土地のものじゃなく、あのお婆さんに「憑いている」ものに思えた。
私達の視線の先で、お婆さんは左足を庇うようにして坂を下っていく。
不意に、お婆さんの足が揺れた。
お婆さんがその場にしゃがみ込む。
私は踵を返し、彼女に駆け寄った。
- 444 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:37:08 ID:EjaUCCVcO
-
('、`;川『大丈夫ですか?』
(*゚ー゚)『ええ……すみません……』
お婆さんは私の腕に掴まり立ち上がろうとするが、上手くいかない。
いつの間にか近付いていた先生が、「どうしました」と問い掛ける。
(*゚ー゚)『左足に力が入らなくて……』
('、`*川『救急車呼びます?』
(*゚ー゚)『いいえ、病院に行くようなことじゃありません。
……すみませんが、すぐそこに私の家がありますから、孫を呼んできていただけませんか』
('、`*川『あ、おんぶしましょうか。近くならお連れ出来ますよ』
色んなバイトをしている手前、力仕事も結構やらされてきた。
正直、そこらの女よりは腕力もある。と思う。
小柄なお婆さん1人、どうってことない。
しかし先生は私を押しのけると、お婆さんの腰と膝の裏に腕を回し、抱え上げた。
横抱き。お姫様抱っこ。
お婆さんは左手で先生の肩に掴まった。
- 445 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:38:45 ID:EjaUCCVcO
-
(*゚ー゚)『あ……』
(´・_ゝ・`)『こちらの方が都合がいいでしょう』
お婆さんの右腕がぶらぶら揺れる。
片腕が不自由なのだと、私はそのときに気付いた。
左手だけでしがみつくしかないのだから、急な坂では、おんぶは危険だったろう。
それに彼女は和服だから、背負ったら裾が乱れていた筈。
そう考えると、先生の抱えかたの方が彼女のためになる。
自分の気の回らなさを恥じ、私はお婆さんの右手をとって、彼女のお腹に乗せた。
揺れるままにしておくのも、どうかと思ったのだ。
それから杖を拾い上げておく。
(*゚ー゚)『ごめんなさいね……ありがとう……』
(´・_ゝ・`)『お宅はどちらに?』
先生が、坂の上と下を交互に視線で示す。
お婆さんは下に行ってほしいと答えた。
散歩帰りだったのだという。
- 446 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:40:16 ID:EjaUCCVcO
-
坂を下りる。
典型的なインテリ派に見える先生だけれど、案外、力持ちだ。お婆さんが軽いのもあっただろうけど。
家に近付いた辺りで、先生が口を開いた。
(´・_ゝ・`)『そこの子がね、あなたの後ろに誰かいたーって言うんですよ』
('、`;川『ちょっ』
(´・_ゝ・`)『幽霊みたいなのが、あなたに悪さしようとしてたー……とかね。
そんなわけないでしょって僕は言ったんですけど』
言ってないだろうが。
私は先生を睨んだけれど、先生は何食わぬ顔でお婆さんに微笑んでいる。
(*゚ー゚)『……ギコさんだと思います』
('、`*川『え?』
(*゚ー゚)『私の後ろにいたっていう人。多分、ギコさんかと』
(´・_ゝ・`)『ギコさん?』
(*゚ー゚)『幽霊です』
- 447 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:41:09 ID:EjaUCCVcO
-
2階建ての家の前に辿り着く。
私は先生の代わりにインターホンを押した。
──そのとき、頭に何か当たった。
空を見上げる。ぽつり、今度は顔に。
やがて、それはぽつぽつと私達や敷石を打ち始めた。
('、`;川『げ』
雨だ。
(´・_ゝ・`)『予報より早いね』
徐々に強まっていく雨。
そこに、ドアを開く音が交じった。
(*゚∀゚)『あ、祖母ちゃん!』
顔を出したのは、20代半ばほどの若い女性だった。
彼女が孫らしい。
- 448 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:42:01 ID:EjaUCCVcO
-
玄関の中に入れてもらい、私と先生は坂でのことをお孫さんに話した。
彼女は目を丸くさせ、何度も礼を言う。
お婆さんの左足を見るお孫さんの瞳は、悲しみや怯えに揺れていた。
お婆さんもお孫さんも、病院に行こうと言い出さないのが気になった。
とはいえ他人事。あとはお孫さんに任せて解散──とは、いく筈もない。
だって先生は聞いてしまっている。「幽霊」という単語を。
それなのに、先生が何もせずに帰るわけがなかった。
そこから先は、彼お得意のでっち上げと出任せのオンパレード。
気付くと私達は、「論文のために各地の神社を巡っている教授と学生」になっていた。
先生はまたもや民俗学を齧っている経済学教授を演じている。
さらに、車も傘も、タクシーに乗るお金もないという設定まで付け加えていた。
実際は神社の駐車場に車があるし、傘も車内在中だし、
お金も先生の財布にぎっしり詰まっている(これはイメージ)けど。
(*゚ー゚)『なら、うちで雨宿りしていってくださいな』
まんまと──と言うのも何だけど──お婆さんは自分のテリトリーに先生が侵入するのを許してしまった。
もう先生のペースだ。
ちゃっかり、言葉巧みに「ギコさん」の話を聞き出す約束も取りつけていたし。素早い。
- 449 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:43:11 ID:EjaUCCVcO
-
お孫さん(つーさんというらしい)は私達を居間へ案内してくれた。
歩きながら、つーさんと彼女の夫、そしてお婆さんが暮らしている家なのだと教えてもらった。
つーさんにとって、お婆さんは父方の祖母らしい。
ただ、つーさんの母(お婆さんにとってはお嫁さんで義理の娘)がお婆さんを……というより、
彼女に憑いている「ギコさん」を敬遠しているので、
代わりにつーさんが祖母の世話を引き受けたそうだ。
- 450 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:44:23 ID:EjaUCCVcO
-
説明が長くなったが、私達がお婆さんの家に招かれるに至った経緯は以上である。
居間にお婆さんと向かい合うようにして座って、お茶とお菓子も出してもらって。
ようやく本題。
(*゚ー゚)「私の右腕と左足は、『ギコさん』に取られたんです。
右腕は20年以上前。……左足は、ついさっき」
話は、この言葉で始められた。
取られた、とはいっても、彼女の右腕と左足はそこにある。
「動かなくなった」ことが、イコール「取られた」に繋がるのだろう。
取られたから動かなくなった、と言うべきか。
冒頭の通り、先生はお婆さんの右腕に触れて確認した。
動かないだけでなく、感覚すらないようだ。
- 451 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:45:17 ID:fJ9QF2go0
- wktk
- 452 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:46:41 ID:EjaUCCVcO
-
(´・_ゝ・`)「そのギコさんっていうのは……。
あなたと面識のある人だったんですか?」
(*゚ー゚)「元は、野良猫でした」
(´・_ゝ・`)「は」
ゆったりと答えるお婆さん。
先生は二呼吸ほどおいて、私を横目で睨んだ。
(´・_ゝ・`)「君、『誰かくっついてた』って言わなかった?
さも人間の形をした何かがいたかのような表現をしておきながら──」
('、`;川「わっ、私が見たのは人の形だったわよ!」
(*゚ー゚)「お嬢さんが見たのも、ギコさんでしょうね」
私と先生は、同時に首を傾げた。
猫が人間? どういうことだろう。
- 453 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:48:45 ID:EjaUCCVcO
-
(*゚∀゚)「お2人、食べられないものとかありますかー?」
そこへ、つーさんがひょっこり顔を出して訊ねてきた。
私達が「ない」と答えると、彼女は満足げに頷いて台所へ引っ込んだ。
晩御飯までご馳走になることになってしまった。
申し訳ない。
ばらばらと打ちつける雨の音を聞きながら、お婆さんは口を開いた。
(*゚ー゚)「……ギコさんの名前は、私が勝手につけたものです。
ノコギリの、ぎこぎこっていう音……」
お婆さんが、右の袖をさらに捲った。
肩が露わになる。
二の腕の真ん中に、細い線条が一本あった。
薄い刃物で分断した腕を改めてくっつけ直したような、そんな痣だった。
ここから、お婆さんの話。
*****
- 454 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:50:21 ID:EjaUCCVcO
-
──私が幼い頃に住んでいた土地には、ある野良猫がいた。
体が大きくて獰猛で、頭のいい雄猫だった。
田畑を荒らすため、人間からは嫌われていた。
どんな罠を仕掛けても、ひょいとすり抜けて野菜や干物を奪う。
猫も生きるのに必死なのだろうが、不作の年が続いていたこともあり、
「彼」を憎む人間は多かった。
ある日、ついに「彼」が捕らえられる。
憎き敵を捕まえた人間達の仕打ちは酷かった。
猫の足を4本ともノコギリで切断し、瀕死の猫を棒で打ち据え、最後に首をもいで燃やした。
当時の私はまだ子供で、その行いは見ていなかったが、父から話だけは聞いていた。
どの大人も、清々したと言っていた。
- 455 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:51:20 ID:EjaUCCVcO
-
ただ、ある女性は猫のことを可哀想だと思ったらしい。
名士の娘であった彼女は、家の裏手に猫の焼け残った部分を埋め、簡単な墓を作ってやっていた。
その女性はヒートさんといった。当時、15歳ほどだったと思う。
(*゚ー゚)「こんにちは」
ノパ⊿゚)「やあ、今日も来たか」
私はたまにヒートさんが作った墓を見に行き、
山で採った木の実などを供えた。
ヒートさんは、よく、そこにいた。
心の優しい人だった。
.
- 456 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:52:27 ID:EjaUCCVcO
-
それが悪かったのだろう。
10年後、彼女が産んだ子供には、四肢が無かった。
子供が産まれるまでの間、夜中になると、ぎこぎこという音がしていたそうだ。
ノコギリで骨を断つ音に聞こえたと、ヒートさんの夫は話していた。
まるで、彼女の子が、ノコギリで四肢を落とされたかのよう。
皆は噂した。
猫に祟られたのだ、と。
*****
- 457 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:54:57 ID:EjaUCCVcO
-
(*゚ー゚)
お婆さんは、ガラス製の湯飲みに口をつけた。
私が身じろぎすると、籐椅子がきしきしと鳴る。
('、`;川「祟られた?」
(*゚ー゚)「ええ」
('、`;川「お墓を作ってあげた人が?」
(´・_ゝ・`)「あまり珍しくもないよ」
肘掛けに右腕で凭れかかり、先生が答えた。
(´・_ゝ・`)「嬲り殺しにされた蛇を憐れんだ人が祟られる、
車に轢かれた猫の死体に同情した人が取り憑かれる」
(´・_ゝ・`)「直接危害を加えた者じゃなく、心を痛めた人の方にとばっちりが行くってのは
よく聞く話だ。迷信の域を出ないけど」
('、`;川「そんな……」
(´・_ゝ・`)「まあ、『祟られた』のか『気に入られた』のか、その違いは僕には分からないけどさ」
どっちにしろ困る。
先生の「気に入られた」という言葉に、お婆さんは頷いた。
- 458 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:56:42 ID:EjaUCCVcO
-
(*゚ー゚)「祟りよりは、その……気に入られた、というのが相応しいと思います。
……ともかく、忌み子だとして、彼女とその子供は、田んぼの傍にある小屋に住まわされました。
元は農具をしまう場所でしたが、中を空っぽにすると、親子2人が寝るのに充分な広さはありました」
(*゚ー゚)「ご飯は、ヒートさんの家の者が運んでいるようでした。
それ以外の者は近付いてはいけないと言われていましたので」
きしきし。
籐椅子の軋む音。
私でも先生でもなく、お婆さんの方からしていた。
彼女は口以外を動かしていないのに。
一瞬、窓から激しい光が入り込んだ。
続いて雷鳴。
(*゚ー゚)「……私は2ヶ月に一度ほど、人の目を盗んでは、彼女達の様子を見に行っていました」
*****
- 459 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 02:59:01 ID:EjaUCCVcO
-
(,,゚Д゚)「……あー」
ヒートさんの子供が3歳になった頃、私は21歳になっていた。
子供は知能や言葉に遅れが見られたが、手足が無いなりに、健康に育っているように見えた。
きっとヒートさんが、私などには思いも及ばないほどの努力をしたのだろう。
相変わらず彼女の身内以外は小屋に近付かない。
私は、たまに様子を窺いに行っていた。
何だか放っておけなかったのだ。
(,,゚Д゚)「うーう」
その子供はいつも、僅かに突出した「手足のなり損ない」を蠢かせながら、私に近付こうとした。
私は彼をあやして、ヒートさんと軽い世間話をし、小屋を去る。
それがいつもの光景。
会うのは二月に一度ほどの頻度だったが、子供は私を忘れることはなかったらしい。
ヒートさんいわく、子供は、私が来たときだけ活動的になっていたそうだから。
- 460 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:00:20 ID:EjaUCCVcO
-
(*゚ー゚)「調子はどうですか?」
ノパ⊿゚)「うん……元気だよ」
──この頃から、ヒートさんは自身の耳をよく触るようになっていた。
四肢のない息子を産んでも狭い小屋に閉じ込められても強靱な精神を保っていた彼女だったが、
息子が3歳になって以来、会う度に弱っていった。
そして──さらに一年が過ぎた頃だろうか。
ヒートさんの左腕が動かなくなった。
.
- 461 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:01:35 ID:EjaUCCVcO
-
ノパー゚)「……ははは」
感覚さえも無くなった腕に右手で触れ、ヒートさんは力なく笑っていた。
祟りだ。
彼女の父親は、近隣の住民達にそう話していた。
(*゚ー゚)「……偶然ですよ」
ノパー゚)「違うよ。ふふ。猫だ」
くすくすとヒートさんが笑う。
彼女は、耳を指差した。
ノパー゚)「ぎこぎこって。聞こえたんだ」
──かつて聞いたのと同様の音が、ここ一年の間も聞こえていたのだという。
ノコギリで何かを切断するような音が。
- 462 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:02:40 ID:EjaUCCVcO
-
ノパー゚)「この子の手足だけじゃ、気が済まなかったんだな。
ふふ。それともやっぱり、赤ちゃんの腕と足じゃ、すぐに使い物にならなくなったのかな」
ヒートさんが、横に転がる子供を右手で撫でる。
明らかに様子がおかしかった。
ノパー゚)「抱っこも出来なくなっちゃった。ふふふ」
彼女は私に視線を向け、右袖を捲り上げた。
二の腕に赤い線条。
ノコギリで彼女の右腕が切断される様を想像し、背筋が寒くなった。
- 463 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:03:36 ID:EjaUCCVcO
-
そのとき、後ろから、足音と怒鳴り声がした。
振り返ると、ヒートさんの家の者が小屋に駆けてきていた。
近付くなと言った筈だ。
そう怒号を飛ばし、ヒートさんの父は私の頬を打った。
倒れ込む私の前で、彼らは、ヒートさんと子供を運んでいった。
ヒートさんが子供の面倒を見るのが難しくなったから、家へ戻すのだろう。
(,,゚Д゚)
老婦に抱えられた子供と目が合う。
その目が、一瞬、猫のそれに見えた。
.
- 464 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:06:53 ID:EjaUCCVcO
-
翌年。私が、他県に住む遠い親戚のもとに嫁いでから間もなく、
ヒートさんの左腕も動かなくなったと親の便りで知った。
それから2年後に右足が。
さらに5年後、ついに左足まで動かなくなったそうだ。
私は30歳になっていた。
あの子供は12歳になっている筈だった。
その年の冬、ヒートさんが亡くなった。
詳しくは知らないが、首を切断するような事故があったという。
葬儀のために、私は、一旦故郷に戻った。
──ヒートは頭がおかしくなっていたから、父親が殺したのだ──
そんな噂もあったが、私には真実は分からなかった。
ただ、日を同じくして子供も死んだそうだから、
厄介払いとして母子共々殺された可能性はある。
少なくとも、そういう発想が出来るほどの「空気」があの家にあった。
ヒートさん達は手厚く弔われた。
正直なところ、私には、猫の祟りがこれ以上起こらないようにするための供養に思えたけれど。
.
- 465 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:07:49 ID:EjaUCCVcO
-
その葬儀の最中、変なものを見た。
小さな体に不釣り合いな、長い手足を生やした少年だった。
何かを探すように、人と人の間をゆっくり移動する。
誰も気付いている様子はない。
(,, Д )
遠目に見た横顔は、ヒートさんの息子に似ていた。
- 466 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:09:32 ID:EjaUCCVcO
-
手足は、ヒートさんのものだ。
直感でそう思った。
途端、どくどく、心臓が痛むほど鼓動が激しくなる。
彼が私を探している気がしてならない。
しばらく俯いていると、いつの間にか、彼はいなくなっていた。
ほっと息をつく。
〈みうえあ〉
耳元で声。
「見付けた」。舌足らずに、そう言われたように聞こえた。
.
- 467 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:11:16 ID:EjaUCCVcO
-
──以来、彼は私の傍に居続けた。
時折、ふっと鏡などに映り込んで姿を見せる。
年月を重ねるごとに、彼も歳をとっていった。
私が35、彼が──生きていれば──17歳になる頃には、彼の胴体と手足はバランスがとれていた。
いや、男の体に女の手足では、やはり多少の違和感はあったけれど。
そのときまでは、彼はただ傍にいるだけだった。
でも、何となく、とある予想は出来ていた。
──いずれヒートさんから奪った四肢も使い古してしまえば、
今度は私の腕や足を狙うようになるのだろう。
そんな予感。
.
- 468 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:13:01 ID:EjaUCCVcO
-
彼はヒートさんの息子ではない。
人間の手足を使いこなすために息子の体とヒートさんの四肢を借りた、猫なのだ。
何故だかそう思えた。
彼は──ギコさんだ。
ノコギリで、ぎこぎこと手足を切り落とす猫。
ギコさん。
名前をつけると、一層、その存在が確かなものになった。
*****
- 469 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:15:13 ID:EjaUCCVcO
-
(*゚ー゚)「ある日、鏡に映ったギコさんから右腕がなくなっていました。
それから毎晩、ふと耳を澄ますとぎこぎこと音がするようになって、
右腕に細い痣が浮かんできて……」
(*゚ー゚)「……一年すると、私の右腕が動かなくなりました」
話が終わりに近付くにつれ、雨も弱まっていった。
私はお婆さんから目を逸らしながらお茶を飲む。
彼女を見ていると、その背後に「ギコさん」まで見えそうな気がしたから。
(´・_ゝ・`)「病院には行ったんですか?」
(*゚ー゚)「はい。お医者様に診てもらっても、原因は分かりませんでしたよ」
(´・_ゝ・`)「……じゃあ、寺とか神社とか、そういうところは」
(*゚ー゚)「……行く気になりませんでした」
- 470 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:18:40 ID:EjaUCCVcO
-
('、`;川「どっ……どうしてですか? もしかしたら何とかなるかもしれないのに……」
(*゚ー゚)「だって、ギコさんを殺した人間の中には、私の父も含まれていましたから。
父の代わりに──私が詫びたいという気持ちが、どこかにあるんです」
(´・_ゝ・`)「このまま、残った左腕と右足もくれてやるつもりですか」
(*゚ー゚)「勿論。……つー達には、迷惑をかけてしまいますけれど」
(´・_ゝ・`)「そういえば、お孫さん達には、ギコさんとやらについて話してるんですか?」
(*゚ー゚)「みんな、何度かギコさんを見てはいるようですけど……詳しくは説明していません。
あ、でも、つーにだけは話してあります。
彼女は昔から私に懐いてくれていたから、隠し事をしたくなくて」
(*゚ー゚)「優しい子でしてねえ……私のこともギコさんのことも、『可哀想』だと言ってくれました」
玄関先で見せた、つーさんの複雑な色合いの瞳を思い出す。
彼女はギコさんについて知っていた。
だから病院に連れていくとは言わなかったのだろう。
- 471 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:20:23 ID:EjaUCCVcO
-
ふと。
一通り記憶を巡った私の思考が、凍った。
すぐに解凍し、もう一度、初めから辿る。
思考が深まるほど、雨の音が意識から遠ざかる。
恐々、お婆さんの足元に視線をやった。
籐椅子の向こうに、2本の足。
右足はぼろぼろで、こそげた肉の間から骨が覗いている。
対する左足は綺麗だけれど、右足とは、細さも形も違う。
まるで、老人のようだ。
('、`;川「……っ」
瞬きすると消えた。
錯覚か──それとも、彼が、ギコさんが、そこに。
- 472 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:23:31 ID:EjaUCCVcO
-
顔を上げる。
お婆さんが、優しい表情で私を見た。
(*゚ー゚)「少し、気味の悪い話だったかしら」
('、`;川「いえ、あの、」
口の中が、からからだ。
緑茶を飲み干し、横目に先生を見る。
私が気付いたのなら、先生だって気付いている筈。
それでも先生は何も言わない。
私が訊ねるしかないのか。
あるいは訊ねるべきではないのか。
迷いながらも、口は動き出していた。
.
- 473 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:24:09 ID:fJ9QF2go0
- dkdk
- 474 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:25:00 ID:EjaUCCVcO
-
('、`;川「……もし、あなたの全ての手足を、ギコさんが持っていってしまったとして──」
──直接危害を加えた者じゃなく、心を痛めた人の方にとばっちりが行く──
猫を弔ったヒートさんとお婆さんに、ギコさんは憑いた。
ヒートさんが亡くなった後には、わざわざお婆さんを探してまで。
──優しい子でしてねえ……──
つーさんは。
ギコさんを、可哀想だと言った。
('、`;川「……あなたの腕も足も使いきってしまったら、
ギコさんは……それからどうするんでしょうか」
お婆さんと視線を絡ませる。
隣で、ふう、と先生の溜め息が聞こえた。
お婆さんの笑みが深くなる。
(*゚ー゚)
.
- 475 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:25:29 ID:EjaUCCVcO
-
「さあ?」
.
- 476 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:26:00 ID:EjaUCCVcO
-
窓の外が光った。
雷光を映した彼女の瞳は、猫を彷彿とさせた。
*****
- 477 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:26:59 ID:EjaUCCVcO
-
私はぐったりと助手席のシートに凭れかかった。
(´・_ゝ・`)「お腹空いたな」
エンジンを入れながら、先生が呟く。
──あれ以上あの場にいたくなくて、
私はつーさん逹に謝り倒してから家を飛び出し、神社の駐車場へと逃げた。
多少の雨に濡れてしまったけど、そんなことに構う余裕はなかった。
未だに動悸が収まらない。
よく分からないけれど、お婆さんが恐くて仕方がなかった。
- 478 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:29:27 ID:EjaUCCVcO
-
(´・_ゝ・`)「……それにしても伊藤君は怖がりだね。
猫に憑かれたってだけの話じゃないか」
('、`;川「『だけ』? だって、だってあの人、自分の孫を……──」
(´・_ゝ・`)「うーん……あの人っていっても、もうほとんど『ギコさん』に侵食されてた気もするな」
先生は顎を摩る。
(´・_ゝ・`)「たしかに、優しいからこそ取り憑かれるなんて、怖いというか虚しい話だけど。
そういうことが起こってしまったから、彼女逹はああいうことになったわけで。
気の毒だなあ、で済むことじゃない?」
('、`;川「気の毒って……それだけ?」
(´・_ゝ・`)「じゃあ、君はどうしたいの?
助けたい? でも君はこうやって逃げてきたよね?」
('、`;川「う……」
(´・_ゝ・`)「それは、直感で『関わりたくない』と思ったからじゃないの?
物理的に何とかなる問題ならともかく、こういった話の場合は、
そういう直感に従った方がいいと思うよ」
(´・_ゝ・`)「君の本能が下した危険信号ってやつだろうからさ。
──あの人の話で学んだでしょ? 同情して無闇に首突っ込むのも考えものだよ。
人としては立派でもね」
- 479 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:31:08 ID:y8X7en7gO
- 発想がすごいな、支援
- 480 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:33:23 ID:EjaUCCVcO
-
車が動く。
先生のお腹が鳴るのが聞こえたので、指示される前に、
携帯電話で近場のファミリーレストランを調べた。
(´・_ゝ・`)「……好奇心は猫を殺すとはよく聞くけど、同情心は猫に殺されるわけだね。
面白いね伊藤君」
('、`;川「面白くないわよ」
結局、彼女逹のことは放置するしかない。
やるせない気持ち。
無力感。
そう。無力。
度々感じていた。
幽霊だとか何だとかを見るだけ見て、そこから私がどうこう出来るわけでもない。
そもそもこんなに色々見えるようになったのも、先生と出会って変なことに巻き込まれ始めてからだから、
貞子ちゃんみたいに、こなれた様子で対処しろと言われても困るけど。
- 481 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:33:28 ID:fJ9QF2go0
- ただでさえつかれやすいもんな伊藤くん
- 482 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:35:21 ID:EjaUCCVcO
-
まとわりつく後味の悪さと恐怖を、無理矢理に取っ払う。
携帯電話を膝の上に置き、遠ざかっていく神社をバックミラーで確認しながら両手を打った。
真っ暗な夜の中、さらに暗い闇をそこに固めたような、黒い人。
焼け焦げた人に見える「それ」は、石段の前に佇んでいる。
あの神社、本当に出るらしい。
('、`*川(というわけで私は何も出来ないので、今回はお互い無視することにしましょう)
先生に毒されている気もしたが、別に、私の判断は間違っていない筈だ。
背負う必要のない責任は置いていけばいい。
こうして人は強くなるのである。
第十三夜『猫とノコギリ』 終わり
- 483 :訂正:2012/08/26(日) 03:35:59 ID:EjaUCCVcO
-
>>464
× ヒートさんの左腕も動かなくなったと親の便りで知った。
○ ヒートさんの右腕も動かなくなったと親の便りで知った。
- 484 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:36:52 ID:fJ9QF2go0
- おつおつー
- 485 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:38:54 ID:EjaUCCVcO
- >>437 ありがとうございます
今夜はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
『呼ばれる』 >>255-276
『おばけバス』 >>284-302
『長い首』 >>308-346
『可哀想なこっくりさん』 >>355-394
『海の夢』 >>403-430
『猫とノコギリ』 >>439-482
- 486 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:48:02 ID:winEEcg.O
- この発想はなかった
なるほど…乙でした
- 487 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 03:52:21 ID:JgqpnW/o0
- おつ こええ…
- 488 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 04:04:46 ID:g7okTxoQ0
- 猫好きだから辛いし怖いしもうどうしたらいいかわらかん乙
- 489 :もういっこ訂正:2012/08/26(日) 04:05:10 ID:EjaUCCVcO
- >>462
× 彼女は私に視線を向け、右袖を捲り上げた。
二の腕に赤い線条。
ノコギリで彼女の右腕が切断される様を想像し、背筋が寒くなった。
○ 彼女は私に視線を向け、左袖を捲り上げた。
二の腕に赤い線条。
ノコギリで彼女の左腕が切断される様を想像し、背筋が寒くなった。
- 490 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 10:01:08 ID:Xvx61FA60
- 怖いけどやっぱ面白いな、乙
- 491 :名も無きAAのようです:2012/08/26(日) 12:22:23 ID:7J2rgWq60
- うーん、モヤモヤ
- 492 :名も無きAAのようです:2012/08/27(月) 08:12:22 ID:3lSyHwlAO
- ノコギリギコギコでギコって聞くと
ネゲットするようですを思い出すよね
- 493 :名も無きAAのようです:2012/08/27(月) 08:44:44 ID:89KXPyzAO
- 俺はせいとかいを思い出す
- 494 :名も無きAAのようです:2012/08/27(月) 13:00:42 ID:K600QXJ60
- 今回は更新まで長かったな
次回も気になるでヤンス
- 495 :名も無きAAのようです:2012/08/28(火) 16:07:51 ID:WZuwzzqwO
- 乙。境内の焼死体さん放置もいいとこだったな
ブームくんがでぃの手足をノコギリぎこぎこする話のレスでも、ぎこぎこぎこぎこ→(,,゚Д゚)(,,゚Д゚)ってなってたの思い出した
- 496 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:16:03 ID:lfiOLhV.O
-
( ゚д゚ )「……卑猥なことを考えると、霊が寄ってこないってネットで見た」
ミルナさんが呟く。
青ざめて震えている彼に、果たして「卑猥なこと」を考える余裕があるのかは、甚だ疑問だった。
('、`*川「……まあ、頑張ってください」
私は適当に答えて、前を歩く先生の背中に目をやった。
──場所は小学校の2階廊下。時刻は深夜1時。
小学校といっても、もはや通う生徒も教師もいない廃校だ。
ありがちな心霊スポット。結構有名だそうだけど。
バイト帰りに先生の車に引っ張り込まれたときには、既にミルナさんが助手席に乗っていた。
なんでも、初めは彼だけを連れていく予定だったのに、
私を見付けたミルナさんが「どうせだから3人で行きましょう」と先生に訴えたらしい。
多分、自分だけが犠牲になるのを嫌ったミルナさんが
私を道連れにしようとしたのだろう。
- 497 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:17:15 ID:lfiOLhV.O
-
思い出したら腹が立ってきたので、隣を歩くミルナさんを睨んだ。
それに気付いたミルナさんが、ごめん、と口を動かす。
(´・_ゝ・`)「こういう場所で、こっくりさんやりたいなあ……」
教室を覗き込み、中を懐中電灯で照らしながら先生が言う。
備品などからして、ここは理科室らしい。
壁に落書きがされていたり、床に割れたガラスが散乱していたり。随分荒らされている。
有名な心霊スポットということは、それだけ多くの人が来るわけで。
こういうところに来るのは、大抵、常識に欠けた人逹なわけで。
この理科室に限らず、校内は散らかり放題だった。
ちなみに前述の「常識に欠けた人」は先生も含まれる。
(;゚д゚ )「こ、こっくりさんって、何言ってんですか先生!」
(´・_ゝ・`)「すごいのが来そうだと思わない?」
(;゚д゚ )「その『すごいの』が来て喜ぶのは先生だけでしょうよ」
(´・_ゝ・`)「でも準備もしてきたんだよ」
先生が、懐から折り畳まれた紙を出した。
広げたそれに書かれているのは、例の、鳥居とか五十音とか。
すかさずミルナさんが紙を奪って破いてポケットに突っ込んだ。
- 498 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:18:47 ID:lfiOLhV.O
-
( ゚д゚ )「……ただ校内を歩いて回るだけって約束の筈ですが」
(´・_ゝ・`)「ミルナ君は厳しいなあ……。
伊藤君は単純だから何だかんだで絆されてくれるのに」
('、`*川「え? 何? 急に馬鹿にされた?」
第十四夜『廃校闊歩』
.
- 499 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:21:11 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「──昔、低学年の生徒と教師で遠足に行ったそうだ」
3年生の教室。
真ん中の席に腰掛けた先生が、この学校が心霊スポットたる所以を語り始めた。
聞きたくもなかったしさっさと帰りたかったのだけど、
先生が「帰る」と言わない以上、私とミルナさんは先生に付き合うしかない。
何せ車で2時間以上もかけて連れてこられた挙げ句、
ここが何という土地なのかすら私は知らないのだ。1人で帰るのは難しい。
校門にあった銘板も落書きまみれで読めなかったし。
(´・_ゝ・`)「行く途中で落石があって、生徒達の乗っていたバスがそれに巻き込まれた」
(;゚д゚ )「……まさか死人が出たとか」
(´・_ゝ・`)「全員死亡──っていう噂もあるけど、それはちょっと脚色されてるね。
3分の1は生き残ったみたいだよ」
- 500 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:22:20 ID:lfiOLhV.O
-
('、`;川「3分の1って、じゃあ他の子は亡くなったの?」
(´・_ゝ・`)「うん。それと引率の教師は3人全員無事だった」
先生が口を閉じる。
途端、静けさが場を包んだ。
耳を澄ましたら何かが聞こえてしまいそうで、私は首を振った。
机の上に立てられた懐中電灯は天井を照らし、
机を囲む私逹には、申し訳程度の光しか与えていない。
('、`*川「それから、どうなったの」
(´・_ゝ・`)「もともと地域の子供が少なくなってきてたのに加え、
その事件で生徒が大幅に減ってしまった。
間もなく他の小学校と合併して、こっちは廃校になったらしい」
先生は腰を上げた。
懐中電灯を持ち、窓辺に寄る。
- 501 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:24:15 ID:lfiOLhV.O
-
ちょいちょいと先生が指で「来い」というような仕草をしたので、私は先生の隣に移動した。
私を見た先生が、にやりと笑う。
少し間をあけ、私は振り返った。
笑みの理由を悟る。
(´・_ゝ・`)「ほらね、伊藤君って単純だろう」
(;゚д゚ )「単純っていうか、警戒心が薄いだけじゃ……」
ミルナさんは椅子に座ったままだった。
そうだ、先生がわざわざ移動して呼ぶ時点で、何かしら企んでいる可能性が高い。
ろくに考えずに付いていく私は、自分で言いたくないが、馬鹿だ。
今更だけど。
先生は窓を開け、腕を外に出して懐中電灯を前方へ向けた。
数メートル先に窓がある。
その向こうは、ここと似たような作りの教室だった。
- 502 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:25:07 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「左側が1年生、右側が2年生の教室」
('、`;川「遠足行った学年?」
(´・_ゝ・`)「そう。
あそこが、一番『出る』んだって」
私は目を逸らした。
見て堪るか。
(´・_ゝ・`)「ネットで見た体験談によると、子供の笑い声が聞こえたとか」
('、`;川「あーあー」
(´・_ゝ・`)「肝試しに来た若者逹がこの教室に入って、
ふとあっちの教室を見たら、窓に子供の顔が並んでたとか」
('、`;川「あーあーあー」
耳を塞ぐ。
先生から離れ、ミルナさんの隣に座った。
- 503 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:26:42 ID:lfiOLhV.O
-
(;゚д゚ )「……」
('、`;川「……ミルナさん、めちゃくちゃ瞳孔開いてますよ」
ミルナさんはすごい目で携帯電話を見つめていた。
携帯電話の明かりに照らされたミルナさんの目は、ちょっとした幽霊より恐かったかもしれない。
よく見ると、震えている。
(´・_ゝ・`)「ミルナ君は子供の幽霊が苦手だからね」
('、`;川「そうなの?」
(´・_ゝ・`)「去年だったかな、僕と一緒に心霊スポット行ったときに、
やたらと頭の大きな子供の霊に付き纏われたらしくて。
軽いトラウマみたいなものだね」
くつくつ、先生が笑う。
そんなミルナさんを小学校に連れてくるって、血も涙もない。
('、`;川「あの、大丈夫ですか?」
(;゚д゚ )「……うん……」
- 504 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:27:54 ID:lfiOLhV.O
-
携帯電話を覗き込んでみる。
表示されているのはアダルトサイトだった。
この人、大丈夫だろうか。色々と。
どん引きしてから、廊下を歩いたときのミルナさんの呟きを思い出した。
いやらしいことを考えると霊が寄ってこないとか何とか。
('、`*川「……変なリンクとか踏まないように気を付けてくださいね」
(;゚д゚ )「うん……」
(´・_ゝ・`)「何? ミルナ君は何見てるの?」
('、`*川「『わたしのヒミツの体験談』みたいなタイトルは見えた」
ミルナさんを見る先生の、瞳の冷たさったらなかった。
懐中電灯の光に蛾が寄ってくる。
それを振り払い、先生は窓を閉めた。
- 505 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:28:46 ID:lfiOLhV.O
-
食い入るように携帯電話を睨むミルナさんだけど、
警戒しているのか、たまに視線をあちこちに向けるし震えっぱなしだし、
気休めにもなっていなさそうだった。
よくよく考えてみると、心霊スポットに居座ってアダルトサイトを見るって、
ミルナさんが一番バチ当たりなことをしているような。
(´・_ゝ・`)「ミルナ君、敢えて言うけどさ」
(;゚д゚ )「ふ、ひ、ひゃ、はいっ?」
(´・_ゝ・`)「意味ないと思うよ、それ」
ああ、ばっさり切り捨てた。
- 506 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:30:31 ID:lfiOLhV.O
-
(;゚д゚ )「いや、あの、性欲は生命の根源に関わるものだから、死者とは相性が悪いって聞い……」
(´・_ゝ・`)「その理論は僕も見たことある。反論もたくさんあった。僕も反対派だ。
幽霊が性欲を嫌うのなら、ラブホテルに怪談が多いのはどうなるの、とかね。
実際に伊藤君はラブホテルで幽霊を見てるし」
(;゚д゚ )「う」
(´・_ゝ・`)「極論で、自慰をすれば霊が退散するっていう説もあったな。
それは退散するわけじゃなくて、ただ単に『そっち』に本人の意識が集中して、
霊による何かしらの干渉に気付きにくくなるだけだと僕は思う」
物凄く下らない話をしているなと思うと、私の中にあった恐怖心が若干薄れた。
場所が教室ということもあって、ちょっと授業っぽく感じる。
(´・_ゝ・`)「つまり、あくまで『気が紛れる』だけだ。
性欲とそれに関わる行為そのものに、除霊のような効果はないんじゃないかな」
(´・_ゝ・`)「だから、既に怯えきっている君がそんなことをしたところで
無意味なんじゃないのかと言いたい」
先生は「先生」だから、持論を語るのときは張り切る。
少し楽しそうにも見えたので、多分、ミルナさんが反論してくるのを期待していたのだろう。
まあ、私も、先生の意見に概ね賛成だ。
色情霊だったか、そういう存在を貞子ちゃんから聞いたことがあるし。
それに、そんなことで霊が退散するなら、心霊現象に悩む人なんていない。
- 507 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:32:12 ID:lfiOLhV.O
-
ミルナさんは携帯電話を握り締め、涙目で答えた。
( ;д; )「そ、そんなの、俺だって心から信じてたわけじゃないけど!
でも多少の期待だってあったんだよ!
それを真っ向から叩き潰さないでくださいよ!!」
(´・_ゝ・`)「うん、まあ、幽霊だって色々いるから、
嫌悪感を抱いて逃げていく霊も居るかもしれないよ。
ただ大半はそんなの関係ないだろうし、逆に怒らせかねないよね」
( ;д; )「最後の一言いらねえ!!」
ぱしん、と、どこからか音が鳴った。
ミルナさんが息を吸い込み、口を噤む。
(´・_ゝ・`)「ほら怒らせた」
そろそろミルナさんが本気で泣きそうだったので、私は先生を一睨みした。
('、`*川「ただの家鳴りみたいなもんでしょ」
(´・_ゝ・`)「でもタイミング良かったよ」
('、`*川「たまたまじゃないの?」
- 508 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:33:05 ID:lfiOLhV.O
-
先生はどうあってもミルナさんを追い込みたいらしかった。
彼の恐怖心を煽るのが楽しいのか、それとも怖い話をすると霊が寄ってくる説を実践しているのか。
正直なところ私も存分にビビっていたけれど、
それを先生に悟られたら今度は私が餌食になりそうだったので、平気な顔を装った。
先生は窓に目をやって、懐中電灯をゆらゆらと揺らす。
(´・_ゝ・`)「いま何時?」
('、`*川「え? ええと……」
( ゚д゚ )「2時ちょっと過ぎです……」
ミルナさんがか細い声で答え、携帯電話を閉じる。
丑三つ時。私は情けない顔をしただろう。
- 509 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:34:04 ID:lfiOLhV.O
-
('、`*川「……ねえ、そろそろ帰らない? 今から帰ったら、もう朝になるわよ」
(´・_ゝ・`)「んー……伊藤君逹、何か幽霊とか見てないの?」
('、`*川「今のところは、別に」
( ゚д゚ )「俺もです……というか今の状況で何か見たら心臓止まります……」
(´・_ゝ・`)「うーん」
先生は動かない。
ふと、気になったことがあった。
('、`*川「ねえ先生。何でこの教室にいるの?」
(´・_ゝ・`)「ん?」
('、`*川「向こうの教室の方が幽霊出やすいんでしょ?
先生なら、そっちに行きたがりそうなもんだけど」
言いながら、嫌な予感がした。
あの先生がわざわざ確率の低い場所を選ぶなんて、何か裏があるに違いない。
案の定、私の予感は当たっていた。
- 510 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:35:09 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「ここでの体験談は、ネット上の掲示板やブログにたくさん載っているんだけど、
それらの多くに、ある『現象』が共通している」
(;゚д゚ )「……どんなのですか」
(´・_ゝ・`)「廊下を通る声」
遠くで笑い声が聞こえた。
子供の甲高い声に似ていた。
ミルナさんが肩を跳ねさせる。
私と視線を交わし、互いに聞き間違いでないことを確認する。
先生は首を傾げていた。
(´・_ゝ・`)「どうしたの」
('、`;川「いや……笑い声が……」
答えている内にまた聞こえた。
声が増えている。
ミルナさんが再び震え出した。
- 511 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:36:59 ID:lfiOLhV.O
-
もう一度、笑い声。
さっきより大きい。
違う。近付いているのか。
身を強張らせる私達に先生が色々訊ねてきたが、答える余裕がない。
声を出したら「気付かれる」ような気がして、喋りたくなかった。
そうする内に声がどんどん近付いてくる。
ミルナさんは顔を両手で覆って俯いていた。
大勢の人の声だ。
ほとんどが子供の。
一度、低い声がして、子供逹の声が弱まる。
大人に注意された子が口を噤む光景が思い浮かんだ。
- 512 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:38:08 ID:lfiOLhV.O
-
そして私は、それを見た。
開きっぱなしの、教室の入口。
その前の廊下を、何人もの影が通り過ぎていく。
囁き合う声。
笑い声。
大人ほどの背丈のシルエットが2つ、先頭を歩く。それに続く影はどれも背が低い。
みんなの背中の部分に膨らみがある。
多分、リュック。
怖くはなかった。
子供逹の声が楽しげで、その足取りが軽快で。
寧ろ微笑ましくて──それでいて、何だろう、悲しかった。
- 513 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:38:45 ID:lfiOLhV.O
-
こっそりミルナさんの様子を窺うと、彼は指の隙間から廊下を見ていた。
もう震えていない。
瞳に、怯えはなかった。
数十人の影が過ぎ去り、最後尾にいた大人の影が視界から消えた。
声が遠ざかる。
何も聞こえなくなって、私とミルナさんは、同時に大きく息を吐き出した。
(´・_ゝ・`)「また君達だけ見えたの?」
('、`*川「大人と子供の行列で……何か、楽しそうだった」
( ゚д゚ )「遠足に行った子達ですかね」
先生は窓を離れた。
「そうだろうね」と一言。
- 514 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:38:49 ID:Vr00GMCs0
- こんな昼間にだと?!
- 515 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:40:53 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「さっき言った、声が聞こえたっていう体験談。
おどろおどろしく語る人もいたけど、
『怖くなかった』『悲しかった』という感想を抱いた人が、何人もいた」
私には、とてもじゃないが、おどろおどろしいものに思えなかった。
はしゃいでいる、幼い子供逹。
これから遠足に行くことへの期待と楽しみ。
全てが明るかった。
だからこそ、悲しい。
- 516 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:42:08 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「ちゃんと行けなかった遠足を、ずっと繰り返してるのかなと僕は思ってたよ」
普通に考えれば、そうなのだろう。
だけど、何だか。
('、`*川「でも」
先生は私の隣に立った。
静かに、私の言葉を待ってくれている。
('、`*川「でも、……多分、引率だった先生のだと思うけど、大人の影もあったの」
(´・_ゝ・`)「うん。さっきの君の説明を聞いて、そこが気になった」
先生の話だと、引率の教師はみんな生き残っている。
なのに、さっきの列には教師がいた。
(´・_ゝ・`)「事件は20年ほど前で、当時の教師は、3人とも20代や30代だった。
まだ生きてると思う」
( ゚д゚ )「じゃあ、さっきのは?」
先生は肩を竦めた。
さあね、という呟きが漏れる。
- 517 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:44:16 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「可能性は色々ある。
遠足に行きたがる子供の霊が、その辺の大人の霊を取っ捕まえて引率者にしたとか、
子供逹を守りきれなかった教師が生き霊を飛ばしてまで遠足を完遂させたがってるとか」
どちらも違う気がする。
直感でしかないから、何とも言えないけど。
(´・_ゝ・`)「あとは──結構ファンタジーな発想になっちゃうけど。
学校の記憶、とか」
('、`*川「記憶?」
(´・_ゝ・`)「遠足に心躍らせて校舎を出ていった子供逹の内、何人もが
哀れな事故によって帰ってこれなくなった。
さらに、その事故によって廃校の話が進んだ」
(´・_ゝ・`)「建物そのものに魂が宿るっていう怪談もあるし、
仮に、この学校にもそういうものがあったなら──それはそれは無念だったろうね。
何度も、焼きついた記憶をリピートするかもしれない」
ぱしん。
どこかで、音が鳴る。
- 518 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:45:17 ID:lfiOLhV.O
-
──足元が揺れる感覚があった。
胸が、ぎゅっと痛む。
自分以外の誰かの感情が、無理矢理潜り込むようだった。
帰ってきてほしい。
出掛けたときみたいに、全員、笑って帰ってきてほしい。
何度繰り返しても帰ってこない。
何度繰り返しても。
誰もいない。
自分が泣いているのに気付かなかった。
我に返ったときには、先生に手を引っ張られて立ち上がっていた。
- 519 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:46:11 ID:lfiOLhV.O
-
(´・_ゝ・`)「……最近、この校舎を取り壊す話が持ち上がってるらしい。
しばらくしたら、きっと本格的に立ち入り禁止になるだろうね。
そうなる前に幽霊に会いに来たんだけど……」
先生は、溜め息をついた。
残念がるのとは、少し違う色に感じられた。
(´・_ゝ・`)「今回も無理だったな。そもそも幽霊ですらなかったみたいだし。
……もう帰ろうか」
*****
- 520 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:47:49 ID:lfiOLhV.O
-
('、`*川「じゃあね、先生。ミルナさんもさようなら」
(´・_ゝ・`)「じゃあね、おやすみ」
( ゚д゚ )「おやすみ……もう朝だけど」
家に着く頃には、空はすっかり明るくなっていた。
先生の車を降りて、2人に手を振る。
ミルナさんはとても眠そうで、声がふにゃふにゃしていた。
走り去る車を見送り、我が家へ向き直る。
無事に帰ってこれたことが、妙に感慨深かった。
- 521 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:49:27 ID:lfiOLhV.O
-
('、`*川「……ただいま!」
元気よく言ってドアを開けた。
お腹が空いている。
シャワーを浴びて、軽くご飯を食べて、昼まで眠ろう。
冷蔵庫に何があるか確認するため、居間へ入る。
( ´∀`)
父がいた。
パジャマ姿で腕を組み、ソファに座っていた。
('、`*川「おはよう……早いね……」
( ´∀`)「ペニサス」
父の声は、ひどく冷めたものだった。
- 522 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:51:04 ID:lfiOLhV.O
-
( ´∀`)「こんな時間まで何してたモナ」
('、`*川「……」
心霊スポット行ってました、と言えるだろうか。
言えるわけがない。
かといって咄嗟に言い訳も思いつかず、
結果、私は目を泳がせながら口をぱくぱく動かすだけに終わった。
父からしたら、怪しいどころの騒ぎじゃない。
( ´∀`)「さっきカーテン開けるときに見えたけど、あの車に乗ってた男2人は誰モナ」
私はますます動揺するばかりだ。
もう駄目だ。
- 523 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:55:32 ID:lfiOLhV.O
-
( ´∀`)「……ペニサス」
呼ぶ声は、一層冷たく、低い。
( ´∀`)「座りなさい」
('、`*川「……はい……」
説教を受けながらも何とか先生がVIP大学の教授であることを説明したけれど、
却って「お偉い金持ち」という先入観を植えつけただけだった。
起きてきた母が居間にやって来るまで、実に1時間。
私は空腹と眠気と疲労と父の説教に耐えるため、
かつてレンタルビデオ店でバイトしていたときに見かけた
シュールなシチュエーションのAVの数々を思い返して、タイトルを五十音順に並べた。
なるほど、卑猥な思考は現実逃避に丁度いい。
- 524 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:57:55 ID:lfiOLhV.O
-
──廃校の話は、これで終わりだ。
残る話もあと2つ。
あと二晩、お付き合いしてほしい。
第十四夜『廃校闊歩』 終わり
- 525 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 10:59:24 ID:lfiOLhV.O
- 今朝はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
『呼ばれる』 >>255-276
『おばけバス』 >>284-302
『長い首』 >>308-346
『可哀想なこっくりさん』 >>355-394
『海の夢』 >>403-430
『猫とノコギリ』 >>439-482
『廃校闊歩』 >>496-524
- 526 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 11:05:39 ID:qNvRtcyA0
- 乙
あと2話も待ってる
- 527 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 11:12:33 ID:0s63tG8o0
- ペニサスとばっちりwwwwwwwwwww
- 528 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 12:21:23 ID:3oy1mJ2UO
- 朝帰りとは良いご身分だな!
- 529 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 12:24:14 ID:kBDTeTcw0
- あと二話しかないだと……
切なさを感じつつ乙
- 530 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 19:12:31 ID:9I7owEwk0
- せつねえな
乙乙
- 531 :名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 22:22:44 ID:H0C0BEXIO
- あと2話!?
番外編とか後日談とか他にも色々あるんだよね?ね?
まだまだ読みたいからね!
終わらないよね?ね?
ふと思たが、これが引き延ばしなのか
- 532 :名も無きAAのようです:2012/08/30(木) 01:01:35 ID:34XrGKfw0
- 親父さんは堅物か。
- 533 :名も無きAAのようです:2012/08/30(木) 01:02:10 ID:.t4PASN.O
- 師匠シリーズのノリだな。すごくいい
- 534 :名も無きAAのようです:2012/08/30(木) 01:07:50 ID:Zgc9KFVg0
- 親父ネーヨ予想だったがモナーか
そしてあと二話…寂しいな
- 535 :名も無きAAのようです:2012/08/30(木) 08:22:02 ID:SRtaqta60
- 切ないな
乙
- 536 :名も無きAAのようです:2012/08/31(金) 10:27:14 ID:/s8Nt1NwO
- 切ないけどやっぱり怖い はいビビリです
乙
さくしゃは穴本さんですか?
はい いいえ
- 537 :名も無きAAのようです:2012/08/31(金) 21:16:43 ID:arVTaiS20
- で、でた〜ww作者が黙っているのにドヤ顔で聞奴〜wwww
- 538 :名も無きAAのようです:2012/08/31(金) 23:50:33 ID:XEj07iWwO
- 質問とかは完結してから答える
- 539 :名も無きAAのようです:2012/08/31(金) 23:51:35 ID:XEj07iWwO
-
(´・_ゝ・`)「泊まると高確率で怪奇現象が起きる部屋があるらしい」
('、`*川「はあ」
3日ぶりの再会は、いつもの偶然ではなく、先生が我が家を訪れたことで果たされた。
居間で私と向かい合い、先生は、旅行誌の1ページを私に見せた。
何の変哲もない旅館が紹介されている。
当然ながら、記事には「いわくつき」なんて説明は書かれていない。
(´・_ゝ・`)「そこに、一緒に泊まってほしい」
('、`;川「えー」
いくら先生といえど、先生は男で私は女だ。抵抗はある。
たしかにホテルに一泊したことはあるけれども、だからって、
旅館にもほいほい付いていきますよ、というわけにはいかない。
- 540 :名も無きAAのようです:2012/08/31(金) 23:52:52 ID:XEj07iWwO
-
そこへ、お盆を持った母がやって来た。
J( 'ー`)し「コーヒーでよろしかったですか?」
にこにこと笑いながら、母は先生の前にアイスコーヒーと
4分の1ほどにカットしたバウムクーヘンを出した。
先生もにこりと笑って「ありがとうございます」なんて返している。
それから、先生は私を旅館に連れていく許可を母にとった。
そもそも私がまだ首を縦に振っていないのだが、そこはもう完全に無視の方向で。
母はまた先生の笑顔とでっち上げに騙され、笑顔で頷いた。
('、`;川「いやいや、私と先生が旅館に一泊って、ぱっと見ただの不倫カップルよ!?」
J( 'ー`)し「その旅館ってちょっと遠いところにあるんでしょ?
誰に何と思われようと、いいじゃないの」
('、`;川「お父さんにバレたら怒られるし!」
J( 'ー`)し「お父さんには適当に言っておくから」
仮にバレたとしてもコブラツイストで黙らせる、と頼もしい一言が付け足された。
寧ろ目の前の男にコブラツイストをかけてほしい。
- 541 :名も無きAAのようです:2012/08/31(金) 23:54:32 ID:XEj07iWwO
-
(´・_ゝ・`)「……というわけで、あとで旅館に予約入れておくから。
伊藤君、午後から空いてる日はある?」
先生が微笑む。
そして、先程の記事を指差した。
指の先には旅館の評価欄。
食事の部分が満点だ。
私は、自棄気味にバウムクーヘンを口に放り込んだ。
第十五夜『プラスかマイナスか』
.
- 542 :名も無きAAのようです:2012/08/31(金) 23:56:01 ID:XEj07iWwO
-
数日後、私は旅館にいた。
恥ずかしながらご満悦だった。
('ー`*川「ふひひ」
ほろ酔いで布団に倒れ込む。
浴衣を着ているので堪えたが、先生がいなかったら足をばたばた動かしていただろう。
温泉気持ち良かった。ご飯美味しかった。お酒も美味しかった。
この部屋がいわくつきであることさえ忘れれば、幸せだった。
('ー`*川「こんなにゆっくり出来たの久々ー」
バイト三昧の日々に、たまの休みは家でごろごろ。
そんな生活だったので、ここまでのんびりするのは本当に久しぶりだった。
旅館なんて、高校の修学旅行以来だ。
- 543 :名も無きAAのようです:2012/08/31(金) 23:58:28 ID:UonqFO6s0
- リアルタイムきたー
- 544 :名も無きAAのようです:2012/08/31(金) 23:58:33 ID:XEj07iWwO
-
('ー`*川「しかも料金は先生持ちだしー」
(´・_ゝ・`)「はいはい、良かったね」
先生は広縁にある背の低い椅子に腰掛け、お茶を飲んでいた。
小さなテーブルの上にはノートパソコン。済ませなきゃならない仕事があるそうだ。
ワイシャツにスラックスという服装で、どうやら寝る気はなさそうだった。
旅館の人にも、布団は私の分だけでいいと言っていたし。
一組の布団に枕が2つ並んでいて、完全に勘違いされているのが分かって死にたくなったけども。
とりあえず、私は布団の中に潜り込んだ。
ふかふかの敷布団に、さらさらのシーツ、程よく軽い掛け布団、丁度いい高さと柔らかさの枕、いい匂い。
このまま寝たら、とろけそうだ。
冷えている布団に自分の熱が移り、心地よさが増していく。
('ー`*川「んふふふふ。きもちいー。おやすみ先生」
(´・_ゝ・`)「じゃあそろそろ怖い話でもしようか」
何でだ。
- 545 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:00:02 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「この部屋に出るっていう幽霊はね、」
('、`*川「幽霊の話はいいから。おやすみ」
(´・_ゝ・`)「なら幽霊じゃない怖い話する?
高校卒業してから2年、バイトしかしてこなかった伊藤君の将来についてとか」
('、`*川「やめて」
それが一番恐い。
私は余分な枕を布団の外に放り、先生を睨んだ。
('、`*川「言っとくけど、私、幽霊に会うために旅館に来たんじゃないからね」
(´・_ゝ・`)「僕は幽霊に会いに来たんだよ。
そしてさっき伊藤君が言ったように、費用は僕持ちだ」
('、`;川「……くっ」
それを言われると、ちょっと痛い。
私は先生に「旅館に一泊させてもらっている」立場である。
先生はゆったりとお茶を飲み、息をついた。
- 546 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:02:48 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「──昔、駆け落ちしてきてこの部屋に泊まったカップルがいた。
彼らは真夜中、海に飛び込んで心中を図った」
聞くしかないらしい。
掛け布団を捲り、上半身を起こした。
あまり遠くないところ(近いとも言えないが)に海があるのだと、事前に聞いていた。
(´・_ゝ・`)「で、女性の方だけ生き残っちゃったんだって。
家に帰されてから一ヶ月後に、自室で後を追ったらしいけど」
('、`*川「……結果的には2人とも亡くなったけど、時間と場所は違うわけね」
(´・_ゝ・`)「男性の方は死体も見付かってないから断言出来ないな。
まあ亡くなってるだろうけどね」
(´・_ゝ・`)「ともかく2人とも死んだとするよ。
彼女の家は2つ隣の県だから、距離はかなり開いてしまったことになる」
('、`*川「……それでも心中って言えるのかしら」
(´・_ゝ・`)「難しいところだね。僕なら『一緒になれた』とは思わないかな」
私も、そうは思えない。
天国なんてものがあるとして、互いの魂がそこに行って再会出来れば、まあ無意味ではないだろうけど。
いや、自殺したら地獄に落ちるんだっけ。
- 547 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:06:37 ID:7eWcle2EO
-
というか、これは「怖い話」なのだから、まだ続きがある筈だ。
その続きも大体想像がつく。
想像通りなら、天国にも地獄にも行けていないだろう。
(´・_ゝ・`)「ともかくそれ以来、この部屋に男女2人が泊まると、幽霊が出るようになったそうだ」
('、`*川「どっちの幽霊?」
(´・_ゝ・`)「どっちも目撃談はあるよ。男だけが出てくるパターン、女だけのパターン、両方出るパターン。
まあ、その目撃談だって全てが事実ではないだろうから、
実際がどうなのかは全く分からないよ」
男女の霊が出るなら、既に再会していることになるのではないだろうか。
それよりも幸せなカップルを妬ましく思う気持ちの方が強いのか、心中とは関係ない霊なのか。
(´・_ゝ・`)「何にせよ、ありきたりすぎて胡散臭いよね。
一応、事件自体は本当にあったらしいけど」
('、`*川「調べたの?」
(´・_ゝ・`)「うん。新聞にも載ってた」
教授の仕事だって暇ではないだろうに。
私は、「そう」と自分が出来得る限りの呆れた声で返した。
私も先生も黙り込む。
途端に、室内の静けさが身に染みた。
- 548 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:08:20 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「もう寝ていいよ」
先生が、気持ち悪いくらい爽やかに微笑んだ。
このパターン、寝たら危険だ。
夢か寝起きに「来る」恐れがある。今までの経験上。
('、`;川「……やだ」
(´・_ゝ・`)「じゃあ起きてる? 丑三つ時まであと3時間くらいかな」
悩んだ。
このまま起きていて、びくびくしながら夜を明かすか。
眠りに就いて、何も起きないまま朝を迎える希望に賭けるか。
明日は昼から書店のバイトだ。
('、`*川「……」
私は、もそもそと布団を被って横たわった。
鼻から上だけ出して、先生の方を向いたまま目を瞑る。
電気は消したくない。
何も起きませんように。
控えめにノートパソコンのキーを押す音を聞いている内、
うとうとしてきて、やがて意識が暗闇に落ちた。
*****
- 549 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:09:06 ID:7eWcle2EO
-
意識が持ち上がって最初に感じたのは、私の爪先に触れる、誰かの足の感触だった。
頭の中がぼんやりして、無意識に足を動かして感触を確かめた。
ちょっと冷たい。
ここはどこだっけ。
寝る前の記憶を手繰る。
旅館。先生と旅館に来たんだった。
そして──まさか布団に先生が入ってきたのかと思い
一気に目が覚めた私は、瞼を上げた。
目の前にあったのは、先生とは似ても似つかない後頭部だった。
髪の長さや華奢な肩からして、女の人。
混乱する。
よくよく見ると、彼女はぴくりとも動いていなかった。
呼吸をしている様子すらないのだ。
- 550 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:10:37 ID:7eWcle2EO
-
生きている人間ではないと気付いた。
寝る前に抱いた思考が合っていたのにも気付いた。
本当に寝起きに来やがった。
足を離し、瞼を下ろした。
視界を再び闇に戻す。
いなくなっているのを期待して、そっと目を開けた。
こっちを向いていた。
あんまりにも驚いて、一瞬、息が止まった。
もう。やだ。本当に。何で油断しているときに来るんだろう。
- 551 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:11:53 ID:7eWcle2EO
-
彼女は無表情だった。
目の大きさが左右で全く違うのを除けば、普通だ。
声が出せない。体が動かない。目だけは動かせる。
私は泣きそうになりながら、また目を閉じた。
鼻に何かが触れる。
指。
ぺたぺた、顔や髪を触られた。
今にも首を絞められるのではないかと思うと、気が気じゃなかった。
逃げたい。
──そのとき、部屋の入口で音がした。
まさか霊が増えたのではと戦慄したが、足音が入口から部屋の中、広縁の方へ移動する。
椅子の軋む音で、正体が先生だと分かった。
- 552 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:14:30 ID:7eWcle2EO
-
あの女性の感触が消えていた。
手に力を込める。動いた。
そろそろと足で探ってみても、やはり、彼女の足はもう布団にはなかった。
私は深呼吸をすると、目を開いた。
(´・_ゝ・`)
先生が缶コーヒーを開けている。
視線は真っ直ぐノートパソコンに。
そのすぐ後ろに、さっきの女がいた。
先生にぴったり張りついて、というか覆い被さるようだった。
先生は──気付きそうにない。
コーヒーを飲んで、ノートパソコンのキーを叩いている。
その人を脅かそうとしても無駄だよ。
霊に、そう言ってやりたかった。
もちろん本当に言う勇気はない。
- 553 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:16:11 ID:7eWcle2EO
-
──けれど。
先生は、ふと顔を上げた。
暗い窓の方を振り返り、首を傾げる。
またノートパソコンに向き直ったが、少しすると、再び周囲を見渡し始めた。
ついには、自分の左肩辺りに顔を傾けた姿勢で固まる。
そこには女の顔がある。
時間にして、ほんの1、2分。
先生がテーブル脇の鞄に手を伸ばすと同時に、女は消えた。
先生はデジタルカメラを引っ張り出して、左肩を撮った。
たぶん何も映っていないだろう。
撮影したデータを確認し、先生は溜め息をついた。
残念そうだ。
それでも、先生の瞳からは──若干の興奮が読み取れた。
私は身を起こした。
あの女は、どこにもいない。
- 554 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:16:56 ID:VYHEpD.E0
- 先生がついに霊感を……?
- 555 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:17:54 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「伊藤君」
('、`;川「先生、今、」
(´・_ゝ・`)「聞いてよ伊藤君」
やっぱり興奮している。
先生は私の横に座り、身振り手振りで先程の出来事を説明した。
子供みたいだった。
(´・_ゝ・`)「声がしたんだ」
('、`*川「声?」
(´・_ゝ・`)「女の人の。はっきり喋ってた。本当だよ。
写真も撮ったけど、それには写らなかった」
左側から、恨みつらみを吐き出す声がしていたのだという。
姿は見えなかったらしいが、たしかに先生の左肩に女が顔を乗せていたと私が答えると、
先生は嬉しそうに笑った。
- 556 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:19:57 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「はじめて霊の声聞いた。
普通の人間より耳に響く感じなんだね」
('、`*川「ああ、そう……良かったわね」
霊が起こすラップ音や足音なんかを聞くことはあっても、
霊そのものの声を聞いたことはなかったそうだ。
さすが零感。
しばらく1人ではしゃいでいた先生だったが、やがて落ち着いてきたのか、
一度咳払いをして仕切り直した。
(´・_ゝ・`)「……さっき、自動販売機に行くついでに、旅館の人つかまえて
心中事件について聞き出したんだ」
('、`*川「事件のことを聞き出すついでに自販機に寄った、でしょ」
(´・_ゝ・`)「そうとも言うね」
- 557 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:21:49 ID:r0.3ZOeQ0
- 紫煙!
- 558 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:22:42 ID:7eWcle2EO
-
('、`*川「それにしても、よく聞けたわね。
従業員が知ってたとしても簡単に話すとは思えないけど」
(´・_ゝ・`)「そこは舌先三寸で色々と」
先生が舌をちょっと出した。
自分で言うか。
とにかく、事件を詳しく聞くことには成功したらしい。
(´・_ゝ・`)「心中の前夜、先に旅館に来たのは彼女の方だったそうだ。
あまりにも暗い顔してるから、心配した仲居さんが付き添ってあげた」
(´・_ゝ・`)「彼女が仲居さんに泣きながら話したことには、
彼氏と同時に家を出るのが難しかったから、この旅館を待ち合わせ場所にしたらしい」
('、`*川「待ち合わせ……」
(´・_ゝ・`)「その後、彼氏も合流して……仲居さんが気付いたときには2人は旅館から消えていた。
あとは報道された通り。
心中して、彼女だけが助かって、一ヶ月後に彼女も死んだ」
先生は、弧を描く口元を手で隠した。
別に面白い話ではないので、さしもの先生も不謹慎であるとは思ったようだ。
しかし何とまあ、幽霊の声を聞いたのがそんなに嬉しいか。
- 559 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:23:27 ID:H8.MhTTo0
- ついに先生に変化が……
VIPの感想スレで感想出てたよ
いつも楽しみにしてます
- 560 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:24:42 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「ポイントは、ここが『待ち合わせ』の場所だったということだ。
……やっぱり、死んだ時間も現場も違えば心中にはならないみたいだね。
死んでも尚、一緒にはなれなかった。だから彼女は、今もここで彼氏を待ってる」
('、`*川「……? 彼氏に会いたいなら、せめて、現場だった海に行けばいいじゃないの」
(´・_ゝ・`)「僕もそう思うけど。でもさ、怪談に合理的な思考を求めるのも、ちょっとね。
──彼女にとって、ここは待ち合わせ場所なんだ。
待ってれば彼氏が来てくれるっていう、彼女の意思が色濃く残ってたんだろう」
('、`*川「……なるほど」
海で亡くなった彼氏。
一ヶ月後、自宅で後を追った彼女。
未だに巡り会えていない。
(´・_ゝ・`)「ということは、この部屋に男の霊も出るってのはデマだね。
あるいは無関係な通りすがりの霊だ」
('、`*川「そうね……」
- 561 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:25:45 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「ついでに、男女の客が泊まったときに幽霊が出るってのも、どうやら違うらしいよ。
それは噂が一人歩きしていっただけだ。
実際は、男性が泊まるときに怪奇現象が多いんだってさ。女性客の有無は関係ない」
('、`;川「はあっ!? じゃあ私が付いてきた意味は!?」
(´・_ゝ・`)「いいじゃないか。ご飯美味しかったんだから」
('、`;川「そんなもん吹き飛ぶような体験したっつうの!!」
無意味に連れてこられて、無意味に幽霊に添い寝された気分は
先生には分からないだろう。
言っておくが、私はまだビビっている。
枕を先生に投げつけるかどうか迷って、結局やめた。
- 562 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:26:51 ID:7eWcle2EO
-
('、`*川「……はあ」
溜め息。
添い寝は怖かったけれど、あの霊自体は、ただ純粋に彼氏を待っているだけなのだ。
男性客が来る度、彼氏が来たのではないかと確かめているだけの──
('、`*川(ん?)
いや、待った。
さっき、先生は何と言った?
女性の声は、恨みつらみを吐いていたそうだ。
恨みって、誰に?
(´・_ゝ・`)「さて、僕には気になってた事柄がある」
先生が人差し指を立てた。
嫌な予感しかしない。
- 563 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:28:43 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「果たして彼女は、本当に『後を追う』ために自殺したのかな?」
('、`;川「……どういうこと」
(´・_ゝ・`)「彼女達は、互いの両親から交際を妨害されて、
それから逃れるために……そして結ばれるために心中を選んだ。
しかし結果を見れば、彼女だけが生き残ってしまった」
(´・_ゝ・`)「……彼氏側の両親は、どう思うだろうね?」
どう、って。
考えて、私は眉根を寄せた。
(´・_ゝ・`)「仮に、彼氏の方から心中を提案したとする。
でも彼氏が亡くなってる……というか帰ってきてない以上、
彼女が言い訳をしたところで、彼の両親は信じるだろうか」
('、`;川「それは……んんと、どうだろ……」
(´・_ゝ・`)「あくまで推測。下衆の勘繰りだけど。
彼女は、ひどく責め立てられると思う」
- 564 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:29:55 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「愛する人との心中を覚悟して、それなのに自分だけ助かってしまって。
それだけで充分苦しい筈なのに、そこへさらに憎しみをぶつけられようものなら──」
恨み。
もし。もしも。自分1人で死んでしまった「彼」に恨みを抱いたなら、彼女は何をするだろう。
彼女は、ここで「彼」を待っている。
でも、「待っている」と「待ち構えている」では、その意味は、あまりにも違う。
室内の空気が冷えていた。
ぞわぞわ、背筋を見えない何かが這い上がる。
私は右手で先生の口を塞いだ。
続きを聞きたくなかった。
聞いてはいけないと思った。
- 565 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:30:59 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)
先生の目が、私を見下ろす。
後から聞いたけれど、このときの私は、非常に情けない顔をしていたそうだ。
そのおかげか、私が手を離しても先生は話の続きを口にはしなかった。
目が冴えていた。
眠れないまま朝を迎え、朝食をとって、私達は旅館を後にした。
.
- 566 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:31:58 ID:7eWcle2EO
-
旅館での体験は、あれだけだった。
別に幽霊が付いてくることもなかったし、はっきりと悪さをしたわけでもなかった。
私にとっては、いつもの、先生に巻き込まれたことによる心霊体験。
でも先生にとっては、それなりに衝撃的な出来事だったのだろう。
*****
- 567 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:33:25 ID:7eWcle2EO
-
──それからしばらく後、パン屋にて。
実に2週間ぶりに会った先生は、ひどく疲れている様子だった。
(´・_ゝ・`)「やあ伊藤君、旧Mトンネルって知ってる?」
('、`*川「知らないけど、どうせ心霊スポットでしょ」
(´・_ゝ・`)「そうそう。伊藤君、そこに、」
言葉の途中で、先生は口元に片手を当てた。
顔を背ける。
欠伸をしたらしかった。
- 568 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:34:55 ID:wfbueWEU0
- 続きが気になって眠れねー!
- 569 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:35:49 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「……そこに、一緒に行かない?」
息をついて、話を続ける。
眠たそうな目。
その下には、隈が出来ていた。
('、`*川「……先生、大丈夫? ちゃんと寝てる?」
答えはなかった。
私がカツサンドを袋に入れると、先生は財布を開き、値段ぴったりのお金を出した。
袋を受け取りながら、「行く気があったら大学の前に来て」と先生が呟く。
('、`*川「何時?」
(´・_ゝ・`)「……10時くらい」
行きたくはなかったけれど。
先生の様子が気になったので、午後10時、私は言われるままにVIP大学へ向かった。
.
- 570 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:38:35 ID:7eWcle2EO
-
旧Mトンネルの周囲は人気がなかった。
トンネルの前に車を停める。
運転席で、先生が欠伸を漏らした。
これで何度目だろう。
('、`*川「……先生、何か眠そうね」
(´・_ゝ・`)「うん……」
先生は車から降りなかった。
ぼうっと、トンネルを眺めている。
何でも、入口に血まみれの男が現れる──というのが、ここの「定番」だそうだ。
また欠伸。
しばらく沈黙して、先生が口を開いた。
- 571 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:40:11 ID:7eWcle2EO
-
(´・_ゝ・`)「本当は1人で来るつもりだったんだけどさ。
1人だと朝まで寝てしまいそうだったから、君を連れてきたんだ」
('、`*川「へ」
(´-_ゝ-`)「……というわけで、何かあったら、起こして」
('、`;川「え、ちょっと」
先生は座席の背もたれに寄り掛かって、目を閉じた。
──私が先生と心霊スポットに行った回数は、話していない分も含めれば結構な数に及ぶ。
その体験の中には、じっと、「何か」が起こるまで待たなければいけないことが幾度もあった。
しかし私が覚えている限りで、先生が眠ったことはなかった。
真夜中に静かな車中で黙って座っているときだって、まんじりともせず、
眠気など窺わせない瞳で暗闇を睨みつけていた。
ホテルのときも、旅館のときもそうだ。
なのに、このとき、先生は眠った。
先生だって人間だ。睡眠をとることはおかしくも何ともない。
それでも私には異常事態に思えた。
- 572 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:41:01 ID:7eWcle2EO
-
('、`;川「先生」
呼び掛ける。
3度目くらいで、先生はうっすらと瞼を持ち上げた。
('、`;川「何か変よ」
(´・_ゝ・`)「何が……」
('、`;川「先生が」
手の甲を目元に当て、先生が唸る。
少ししてから、ぼやけた声で言った。
(´-_ゝ-`)「……最近」
('、`;川「うん」
(´-_ゝ-`)「ほとんど毎晩、心霊スポット行ってるから……あんまり寝てない」
先生らしいといえば先生らしい。
そんなことか、と安堵した。
- 573 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:42:32 ID:7eWcle2EO
-
('、`*川「程々にしなきゃ駄目よ」
(´-_ゝ-`)「……でも」
口が大きく動かなくなってきた。
本気で眠たいのだろう。よくここまで運転出来たものだと思った。
(´-_ゝ-`)「最近……声とか色々……よく、聞けるようになったから……
今の内に色んな場所行けば……見れるようになる気がする……」
それを最後に、先生は口を閉じる。
しばらく見ていると、寝息をたて始めた。
私の方は、先生の呟きを理解するのに必死だった。
- 574 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:44:06 ID:7eWcle2EO
-
('、`*川(……声って、幽霊の?)
言葉を何度も反芻する。
先生は旅館で幽霊の声を聞いた。
それ以来、他の霊の声も聞けるようになった──という意味だと解釈する。
それが、先生を刺激したのだ。
今まで以上に、躍起になって心霊スポットを巡った。
そうすれば、やがて霊の姿も見られるようになるのでは、と考えたのだろう。
いい傾向だとは思えなかった。
今の先生の状態を見れば、誰だってそう感じる筈だ。
あまりにも危うい。
けど、どうすればいいのかは分からなかった。
私の忠告なんて、先生は聞かない。
- 575 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:45:28 ID:7eWcle2EO
-
ぐるぐると思考を巡らせている内に、日付が変わり、丑三つ時が過ぎ、空が白み始めた。
幽霊は現れなかった。
あるいは、出たことに私が気付かなかっただけかもしれない。
先生が目を覚ます。
頭を振り、「何もなかったか」とだけ言って、ハンドルを握った。
('、`*川「……休まないと駄目よ」
精一杯考えて、何を言うべきか迷って、それしか言えなかった。
(´・_ゝ・`)「今日は久しぶりに長時間眠れたよ」
先生は笑うだけだった。
*****
- 576 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:47:22 ID:7eWcle2EO
-
いま思えば、先生は最初から憑かれていたのだ。
とっくの昔に。
死霊とか、動物霊とか、そういうことでなく。
「幽霊」という概念に、取り憑かれていた。
先生はずっと危ないところにいた。
生まれもっての零感が作る、ひどく薄いバリアに守られていた。
でも、「零」は崩れた。
いつかは崩れるものだったのだ。
先生は自ら心霊スポットなんかに行って、そのバリアを傷付けてきたのだから。
.
- 577 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:48:56 ID:7eWcle2EO
-
それから一ヶ月経って、私は、先生がいなくなったのを知った。
第十五夜『プラスかマイナスか』 終わり
- 578 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:50:34 ID:7eWcle2EO
- 今夜はこの辺で
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
『呼ばれる』 >>255-276
『おばけバス』 >>284-302
『長い首』 >>308-346
『可哀想なこっくりさん』 >>355-394
『海の夢』 >>403-430
『猫とノコギリ』 >>439-482
『廃校闊歩』 >>496-524
『プラスかマイナスか』 >>539-577
- 579 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 00:51:23 ID:VYHEpD.E0
- うわあああああ先生があああああ
最強の零感があああああ
あと一話か……乙楽しみだ
- 580 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 01:10:51 ID:1jdJtf7oO
- こんなとこまで話を作ってたのか
結末が楽しみだな
- 581 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 01:43:25 ID:r0.3ZOeQ0
- 先生…。
- 582 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 02:03:59 ID:jWxTrWtY0
- なんか師匠シリーズを彷彿とさせる
- 583 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 02:20:25 ID:DfG8D2tE0
- いつもの怖いのとはちょっと違うぞわぞわが来たわ
乙乙
- 584 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 02:22:27 ID:BiwSxJsk0
- おつ
いよいよあの人出てくるかな
wktkしてるわ
- 585 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 08:56:31 ID:pM2AvzrEO
- 師匠シリーズみたいな良作で素敵やん
- 586 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 11:19:57 ID:v97gf1tE0
- ちょちょちょちょちょせんせえええええええええええ
- 587 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 11:26:33 ID:SkSETwoc0
- 先生…うそーん
- 588 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 12:49:45 ID:mglkaOqE0
- 先生………。
- 589 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 13:22:21 ID:zFenCO060
- 乙乙!
先生は誰かに会いたがってるのかね
- 590 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 14:19:12 ID:Vg5LzIS20
- teach...
- 591 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 15:44:55 ID:N96tWj9g0
- >>589
違うだろー
- 592 :名も無きAAのようです:2012/09/01(土) 22:42:36 ID:FyTHpt6QO
- と見せかけて実はそうなのかも知れない
- 593 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 09:33:09 ID:.v02eby.0
- けどきっと違う
- 594 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 16:33:11 ID:ZtDzXk7U0
- 先生は俺に会いに来てくれるのかな///
- 595 :名も無きAAのようです:2012/09/02(日) 18:59:02 ID:CM0UoXns0
- >>594
おう、さっさと死んで霊になってこい
- 596 :名も無きAAのようです:2012/09/03(月) 07:21:45 ID:miDvy/VEO
- あのさぁ・・・(恐怖)
- 597 :<^ω^;削除>:<^ω^;削除>
- <^ω^;削除>
- 598 :名も無きAAのようです:2012/09/04(火) 16:21:16 ID:U7pMyuc20
- いよいよラスト1話か……
待ち遠しい! ……が、来たら終わっちゃうから待ち遠しくない!
……あれ?
- 599 :名も無きAAのようです:2012/09/05(水) 18:58:37 ID:4rQ009/Y0
- ぺろっ…これは先生幽霊化フラグ…!
- 600 :名も無きAAのようです:2012/09/06(木) 17:13:16 ID:ySBzC5zQ0
- 先読みしてるやつらって事故顕示欲の塊だよね
気持ち悪ぅい
- 601 :名も無きAAのようです:2012/09/06(木) 17:44:56 ID:dYOv32EsO
- スレが残るからなVIPと違って
予想や催促をしたくなるんだろう
- 602 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 21:01:09 ID:BtVq2mRkO
- 明日夜投下
- 603 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 21:03:29 ID:BtVq2mRkO
- 間違えた
明日夜10時くらいから投下する
- 604 :名も無きAAのようです:2012/09/07(金) 21:30:59 ID:VXAoqXXYO
- 待ってます
- 605 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 00:00:07 ID:FrAGGF2c0
- 明日まで舞ってるぜ 楽しみだ
- 606 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 02:09:59 ID:oFk8b4ZQ0
- >>605
たまには身体を労れよ
- 607 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 02:27:13 ID:dBHlyyCQO
- >>605
22時間も踊ってるのか、ギネス申請ものだ
- 608 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 11:58:19 ID:tMGd1wtY0
- >>605
ちょっと赤くしとこう
頑張って舞えよ
- 609 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 17:58:58 ID:L4S/VdO20
- >>605
あと4時間だ何とか頑張れ。
- 610 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 19:01:15 ID:5776ZqNA0
- おい、誤字位見逃してやれよ
- 611 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 19:16:35 ID:/jQXN.0AO
- ♪ ∧,_∧
(´・ω・`) ))
(( ( つ ヽ、 ♪
〉 とノ )))
(__ノ^(_)
♪ ∧,_∧ ♪
( ´・ω・) ))
(( ( つ ヽ、 ♪
〉 とノ )))
(__ノ^(_)
- 612 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 19:21:56 ID:lanh90I.0
- >>605の代わりに俺が舞っておいた
- 613 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 19:27:41 ID:5776ZqNA0
- (´;ω;`)
- 614 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 21:14:01 ID:zQrr6gCIO
- 一時間くらい遅れるかもしれないから悪いけどもう少し舞っててほしい
- 615 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 21:16:44 ID:dBHlyyCQO
- >>610
これだけ盛り上がれば、>>605もレスした甲斐があったというもんだよ
- 616 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 21:32:22 ID:lanh90I.0
- 舞ってるぜ
- 617 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:20:22 ID:tMGd1wtY0
- >>614
踊るみてんじゃねぇよ
- 618 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 22:52:26 ID:j3vNd8VI0
- >>605に踊らされたのか
- 619 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:33:43 ID:qrRsrIVA0
- >>618
やかましいわ
- 620 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:37:34 ID:zQrr6gCIO
- >>614
ごめん
- 621 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:38:43 ID:zQrr6gCIO
-
出会ってからほんの数ヶ月程度の間に、私は先生に散々振り回されてきた。
語っていない怪談はまだまだある。
他の話に比べると些細な怪現象ばかりだから、話しはしない。
今まで私が語ってきたのは、特に印象に残ったものを選んでいただけだ。
そんな怪談も、今夜で最後。
今夜で終わり。
どうか、暇潰しにでも聞いてほしい。
私と先生の──
最終夜『怪奇夜話』
.
- 622 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:39:51 ID:zQrr6gCIO
-
旧Mトンネルの件から一ヶ月。
私は先生と会うこともなく、平穏な日々を過ごしていた。
平穏とはいっても、要するに何事もなかっただけであって、
私の胸中は先生に対する不安で度々荒れていたのだけれど。
もしも街中で会うことがあれば、心霊スポットに行くのをやめさせよう、と思っていた。
なのに、これまでの「ばったり」はどこへやら、とんと先生を見なくなった。
無事でいるんだろうか。
そう思いながら居間でぼんやりとテレビを眺めていた私に、母が慌てた様子で声をかけてきた。
J(;'ー`)し「ペニサス、ちょっと……」
母は手に持った新聞を私に渡した。
その中の、小さな記事を指差す。
それに目を通した途端、私の頭の中が一気に痺れた。
母が何かを言っていたが耳に入らなかい。
機械的に、私の目が文字を追っていく。
- 623 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:40:46 ID:zQrr6gCIO
-
大学教授が失踪したという記事。
そこに載っている写真も、盛岡デミタスという名前も、間違いなく先生のものだった。
10日ほど前から連絡がつかなくなり、
暮らしているマンションにも帰ってきた形跡がないそうだ。
旅行に行くとか、そういった話は誰も聞いていない。
先生は独り身だし、ご両親も既に亡くなっているので、彼のプライベートを詳しく知る者がいなかった。
現在、警察が行方を調べている──
新聞に記された情報は、それだけ。
その僅かな情報さえ、理解するのに時間が掛かった。
理解しても、それでも尚、何も分からなかった。
*****
- 624 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:42:58 ID:zQrr6gCIO
-
冷静な思考と混乱の極みを何度も往復し続け、耐えきれなくなった私は、
数日後の夕方、先生のことを全て弟に話した。
先生の趣味や、心霊スポットに何度も連れていかれたこと、彼が失踪したこと。全部。
なぜ弟に話したのかといえば、家族の中だと
こいつが一番こういう話を真剣に聞いてくれるからだった。
小さい頃、おばけがいると周囲に訴えては「嘘つきめ」と泣かされてきた貞子ちゃん。
そんな幼馴染みを庇い続けて育ったためか、弟は、基本的に怪談の類は何でも信じる。
今回も例に漏れず私の話を聞いてくれた弟は、首を捻りながら携帯電話を取り出した。
爪'ー`)「正直、俺よりも貞子に聞いてもらった方がいいと思うぞ」
言われてみれば、なるほど、それもそうか。
弟は貞子ちゃんにメールを送ると、私を連れ、貞子ちゃんの家に向かった。
弟に話している間も、貞子ちゃんの家へ歩いている間も、
どこか、ぼんやりとした靄に脳内を占められているような心持ちだった。
それほど先生の失踪にショックを受けていたのだと思うと、ちょっと笑えた。
.
- 625 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:45:08 ID:zQrr6gCIO
-
川д川「……まず私は、お姉さんが
そんな馬鹿なことを何度も繰り返していたことに驚いてます」
貞子ちゃんの自室にて。
全て聞き終えた貞子ちゃんの第一声は、それだった。
貞子ちゃんは、先生とは何もかもが正反対だ。
たとえば、霊感がばりばりあるとか。
それなりに幽霊には慣れているけど、怖いものは怖いとか。
幽霊を下手に刺激するのを絶対に嫌がるとか。
本当に真逆。
「向こうから勝手に近付いてくるのはどうしようもないけれど、
こっちからわざわざ近付いていくのは愚行にも程がある」という考えの持ち主なので、
先生の趣味である心霊スポット巡りなんて、彼女からすれば軽蔑に値するものだろう。
- 626 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:47:46 ID:zQrr6gCIO
-
川д川「心霊スポットに行くことがどんなに危険か、私、何度も話したじゃないですか……」
('、`;川「いや、そりゃ、私も重々承知してたよ。
でも何か……気付いたら言い包められてて」
私だって行きたくて行っていたわけじゃない。
弱々しい反論をすると、貞子ちゃんは溜め息をついた。
結構怒ってる。恐い。
爪'ー`)「道理で最近、ド深夜まで出掛けてたり朝帰りが増えたりしたわけだなあ」
炭酸ジュースを飲みながら、弟が言った。
いつにも増して呑気な声。
その声で貞子ちゃんの雰囲気が和らいだ隙に、私は訊ねた。
('、`*川「今まで霊感と無縁だった人が、急に目覚めることってあるの?」
川д川「……それは、あるんじゃないでしょうか」
私もたまに、びっくりするくらい霊感の無い人を見かけることはあります。
貞子ちゃんは、そう言葉を続けた。
- 627 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:50:44 ID:zQrr6gCIO
-
川д川「そもそも人って、大なり小なり、そういう……霊感っていうのは持ってるもので。
その感覚が生まれつき強い人もいれば弱い人もいて、
中には、全く機能してない人もいるんです」
機能していない。
それはたとえば、生まれつき目が見えないとか耳が聞こえないとか、
そういうことと同じようなものらしい。
先生は、その、「霊感が全く機能してない人」なのだろうと貞子ちゃんは言った。
川д川「でも最近って、医学や技術の進歩のおかげで、
盲目の人の目が見えるようになったり、聞こえなかった耳が聞こえるようになったりするじゃないですか」
川д川「つまり生まれつき機能してないからって、絶対に一生そのまま、ってわけじゃないんです。
何かのきっかけで、ぱっと感覚が開くことは充分に有り得ることです」
('、`*川「霊感も?」
川д川「多分。……私だって何でも分かるわけじゃないから、話半分程度に聞いてくださいね?」
貞子ちゃんはその体質ゆえ、幼い頃には、しょっちゅう神社だの寺だのに連れていかれていた。
そこで「専門家」達から色々聞かされてきたというのだから、
説得力は、なかなかある。
- 628 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:50:49 ID:uaDEViys0
- 貞子ちゃんきたな
- 629 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:53:01 ID:zQrr6gCIO
-
川д川「お姉さんはその『先生』と出会ってから、よく幽霊を見るようになったんですよね。
きっとお姉さんの場合は、『先生』と出会ったことで、人並みだった霊感が
一気に強まってしまったんじゃないでしょうか」
('、`;川「先生のせい? 何で?」
川д川「ええと、その……ゼロって書いて零感でしたっけ」
('、`;川「うん……ネットで見た言葉だけど」
川д川「『先生』みたいに極端な零感の場合、幽霊からの干渉をほとんど受けないんです。
見えない聞こえない触れない……全部スルーしちゃうんですね」
川д川「だから、『先生』に何かしようにも何も出来ないから、
『先生』よりは感受性のあるお姉さんの方にみんな行っちゃうわけです」
爪'ー`)「要するにあれか、とばっちりか」
やっぱりあのジジイ、ろくなもんじゃない。
ささやかな殺意を覚えた私だったが、貞子ちゃんの話を反芻して、
あることに気付いてしまった。
零感だったからこそ、先生は幽霊からのアプローチを全て無視してこれたのだという。
なら──幽霊の声が聞こえるようになった先生は。
零感でなくなってしまった先生は、どうなるのだろう?
- 630 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:55:54 ID:zQrr6gCIO
-
もしもそんな状態で、凶悪な霊がいるような場所に赴いたら──
('、`;川「……先生、何かに祟られたのかしら」
ほぼ無意識に漏れた呟き。
貞子ちゃんは、かくりと首を傾げた。
川д川「人為的な事件の可能性だって充分ありますし……というかその可能性の方が高いだろうし、
ともかく、警察に任せる以外に出来ることはないと思いますよ。
何でもかんでもオカルトに結びつけるのは良くありません」
言外に、下手な考えで行動するなと釘を刺されたようだった。
分かっている。
貞子ちゃんのように、積極的に関わらないようにするのが賢明なのは、分かっている。
それでも。
*****
- 631 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:59:26 ID:zQrr6gCIO
-
翌日、私はVIP大学へ赴いた。
来てなかったらどうしようと思っていたものの、しばらく正門で待っていると、
運良くミルナさんを捕まえることが出来た。
驚くミルナさんに、先生の件について何か知らないかと詰め寄る。
かなり渋っていたが、しつこく食い下がると、ようやく教えてくれた。
( ゚д゚ )「……とりあえず、俺が知ってることだけ話す」
ある日、先生が大学に来なかった。
学生や教授達が先生の携帯電話と自宅の番号に掛けても、繋がらなかったという。
そういう状態が何日か続いてから、警察に届けたそうだ。
私は先生の携帯電話の番号すら知らないことに気付いた。
日頃、互いに連絡を取り合う必要がなかったし、
私が先生に言うことがある場合は、VIP大学の事務室に電話を掛けて取り次いでもらっていたから。
思えば変な関係だ。
泊まり込みで心霊スポットに行く程度には気を許しているけれど、
お互いに把握し合えているのは、職場と名前、あとは些末なことくらい。
- 632 :名も無きAAのようです:2012/09/08(土) 23:59:54 ID:XlaLez6M0
- きたぁぁぁあああ!!!
- 633 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:01:06 ID:YWhnb/9EO
-
( ゚д゚ )「……先生がオカルト好きだったのは学生の間でも有名だった。
学内じゃ、変な祟りにでも触れたんじゃないかって噂が流れてる。
ここ最近、先生は目に見えて疲れきってたし」
あの日の、ひどく眠たそうな先生を思い浮かべる。
やはり学生からしても異常だったのか。
そのことを警察は知っているのかと問うと、ミルナさんは頷いた。
そんな話、警察は歯牙にもかけなかったみたいだけれど。
たしかに、まともな思考の持ち主なら、馬鹿らしいと言って一笑に付すような話だ。
寧ろ先生のオカルト趣味を知られたことで、
奇人が行方をくらませただけだと認定されてしまったのではないだろうか。
先生が子供じゃないのもネックだ。
大人の失踪となると、警察の方もあまり熱心に探すことはない(らしい)。
ミステリーみたいに、たとえば、先生の車から血痕でも発見されれば別だろうけども。
- 634 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:04:56 ID:YWhnb/9EO
-
('、`*川「……そういえば、先生の車は?」
( ゚д゚ )「マンションの駐車場にあったそうだ。
……せめて車で移動してくれてりゃ、それを手掛かりにして先生を探せただろうにな」
どうしようもないのだという響きが、ミルナさんの声に滲んでいた。
私もミルナさんも口を閉じて、場には沈黙が降りた。
彼の瞳を見つめる。
まだ何か言いたげだ。
根気強く待っていると、やがて、ミルナさんが鞄からファイルを出した。
そこから、小さなメモ用紙を抜き取る。
( ゚д゚ )「……先生のパソコンに、ある町を調べた履歴が残ってたらしい」
('、`*川「町?」
( ゚д゚ )「他県にある町だ。
警察がそこを調べても、有力な情報は得られなかったそうだけど」
手渡されたメモ用紙には、隣の県名と、馴染みのない町名が書かれていた。
ここについて何か聞いていないか、と警察官に問われたときに
ミルナさんがこっそりメモをとったのだという。
- 635 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:05:04 ID:qZKUIv2w0
- 初めて生で立ち会えた
支援
- 636 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:07:03 ID:YWhnb/9EO
-
( ゚д゚ )「めちゃくちゃ怪しいよな?
だから、俺たち盛岡ゼミのメンバーで、この町について調べてみた。
そしたら──いくつか、心霊スポットがあるのが分かったんだ」
('、`*川「……」
私の脳裏に、先生の姿が浮かぶ。
新幹線か電車にでも乗って、遠くにあるその町に行って、近くにいた人に声をかけて。
それから──私の頭の中で、先生は黒い手に引っ張られて、闇に消える。
いつもの先生なら、そんな手に気付きすらしないだろう。
けれど私が最後に見た先生は、どんなに小さな手にも引かれそうな、そんな頼りなさがあった。
( ゚д゚ )「それが分かった途端、みんな『絶対ここに行ったんだ』って盛り上がってさ。
1人が張り切っちゃって、3日くらい前だったかな……実際に行ってきたんだと」
それはまた、なかなか行動力のある。
私が興味深く聞いていると、ミルナさんは首を振り、肩を竦めた。
- 637 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:09:07 ID:YWhnb/9EO
-
( ゚д゚ )「でも、心霊スポットを一通り見てきたけど、何も分からなかったってさ」
まあ、それで見付かるようだったら、警察が既に発見しているか。
私は改めてメモ用紙を見下ろし、少しして、ふと顔を上げた。
ミルナさんと視線が絡んだ。
( ゚д゚ )「……俺は進んで関わる気はないよ。正直に言うと怖いし。
でも伊藤さんがどうするかは自分で決めればいい」
言いながら、ミルナさんの顔が何だか情けない色合いになっていて、
私は少し笑ってしまった。
私に教えて良かったのかどうか、未だに悩んでいるように見えた。
('、`*川「……うん、ありがとうございます」
( ゚д゚ )「無茶はするなよ。何があるか分かんないんだから」
メモ用紙を財布にしまい、ミルナさんに何度もお礼を言った。
これからどうするかという具体的な考えはなかったけれど、重要な一歩に思えた。
*****
- 638 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:12:21 ID:YWhnb/9EO
-
('、`*川「というわけで、そこに行ってきます」
帰宅後、弟と兄に宣言した。
誰にも何も言わずに行くつもりだったけど、「万が一」ということもあるし、
家族の1人くらいには話しておいた方がいいと思ったからだ。
じゃあ誰に話すかと考えたとき、選択肢から真っ先に両親が消え、この2人が残ったのである。
兄弟姉妹と仲のいい人なら分かってくれるだろうか。
こういうときに腹を割って話せるのは、両親ではなく、きょうだいなのだ。
2人は顔を見合わせていた。
先に口を開いたのは兄。
彼にはつい数分前に一から説明したばかりなので、まだ微妙に困惑しているようだった。
('A`)「その町に行って、具体的に何すんだ?」
('、`*川「心霊スポット全部見てくる」
バイトの休みはもらっている。
明日一日、心霊スポット探索に費やすつもりだ。
兄はペットボトルを開けて緑茶を一口飲み、再び弟と共に互いを見交わした。
今度は、弟が言葉を落とした。
- 639 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:13:14 ID:YWhnb/9EO
-
爪'ー`)「なに使って行くんだよ」
('、`*川「まず新幹線で行って……後はバスとかタクシーで回るつもりだけど」
爪'ー`)「なら、兄貴が車で連れてってやった方がいいんじゃね?」
あっけらかんと言い放つ。
ちょっと、びっくりした。
弟は、オカルト関係においては貞子ちゃんに絶対の信頼を寄せている。
だから貞子ちゃんみたいに「行くな」と言うだろうと思っていたのに。
(そして無視してやろうと思っていたのに)
('、`;川「え?」
('A`)「そうだな、そうすっか」
('、`;川「え? え?」
爪'ー`)「明日って土曜だよな? 俺も行くわ」
('、`;川「ふぉっく、え、は? 何で?」
予想外だった。
2人が乗り気すぎて、逆に私が引いたくらいには。
- 640 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:13:50 ID:PFGzHVW6O
- 生投下だー!
支援支援
- 641 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:15:08 ID:YWhnb/9EO
-
('A`)「新幹線だのタクシーだの使ってたら金かかるだろうし」
爪'ー`)「1人で行かせるのも心配だし?」
言葉を失う私を見て、弟がけらけら笑う。
口開いてる、と顔を指差され、私は口を押さえた。
('、`;川「止めないの?」
爪'ー`)「止める意味あんの?」
('、`;川「……。先生が見付からないまま無駄足になる確率だって高いわよ」
爪'ー`)「まあ俺らはドライブ感覚で行かせてもらうわ。『先生』っての知らねえし」
('、`;川「私、オカルトを前提にしてるのよ。馬鹿馬鹿しいと思わない?」
兄が、ペットボトルの蓋を私の額に向けて弾いた。
真っ直ぐ飛んできた蓋が見事に命中する。
- 642 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:17:27 ID:YWhnb/9EO
-
(>、<;川「痛っ」
('A`)「だって、お前が『先生』を探すとしたら、その線から攻めるしかないんだろ?」
('、`;川「……うん」
('A`)「じゃあ、それでいいだろ」
2人は、ああだこうだ言いながら携帯電話で地図を調べ出した。
それを眺めつつ、私は額を撫でる。
いい兄弟を持ったものだ。
*****
- 643 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:18:54 ID:3gO3z5s.0
- キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
いやっふぅう支援!
- 644 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:19:25 ID:YWhnb/9EO
-
次の日の朝、兄の車で出発した。
両親には兄弟3人でドライブに行くと伝えておいた。
そんなに間違っていない。
爪'ー`)「何か買ってこうぜ」
途中、弟が空腹を訴えたのでコンビニに寄った。
おにぎりや惣菜、飲み物を買う。
何とはなしに、「あれ」も買っておいた。
.
- 645 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:20:11 ID:YWhnb/9EO
-
3時間もすると県境を越えた。
目的の町には、そこから数十分ほどで到着する。
私は、昨日ミルナさんが別れ際に書いてくれた「心霊スポットリスト」と携帯電話を使って、
一番近いところから行くことにした。
初めは廃ビル。
真っ昼間といえど、人気の少ない場所にぽつんと立つビルの中を、弟と2人で歩くのは怖かった。
静かだし薄暗いし。あと、侵入したのが誰かにバレたらどうしようという恐怖も少々。
次にゲームセンター、その次は大きめの公園。
全くもって不慣れな土地なので、一つ一つの移動にかなり時間が掛かってしまった。
成果の方はといえばゼロだ。
幽霊が出ることもなければ、先生が来た痕跡も見当たらない。
ゲームセンターの店員や公園の管理人に訊いてみたが、先生らしい人は見ていないという。
覚悟はしていた。期待はしていなかった。
それでもやっぱり残念だった。
- 646 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:23:16 ID:YWhnb/9EO
-
('、`*川「──教えてもらった場所は次で最後だわ」
公園を出て、私と兄は車に乗り込んだ。
後部座席で待機していた弟が携帯電話を閉じた。
その動作が少し慌てていたように見えたが、無視しておく。
シートベルトを絞めながら、兄が言った。
('A`)「時間からしても、これで終わりにしねえとな」
夕方が近付いていた。
丑三つ時だけでなく、夕方の「たそがれ時」と夜明け前の「かわたれ時」も、幽霊が好む時間なのだと
私に教えてくれたのは、貞子ちゃんだったか先生だったか。
そろそろ、たそがれ時。
幽霊なんて何時だろうと出てくるときは出てくるのだけれど。
そうは言っても、夕方の独特な雰囲気は、それと分からぬ程度に「恐れ」を擽ってくる。
- 647 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:23:25 ID:hLBqZHsI0
- いい兄弟だな。
- 648 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:25:04 ID:YWhnb/9EO
-
爪'ー`)「その最後の心霊スポットって、どういう場所だよ」
('、`*川「ん。ちょっと待ってね」
携帯電話を取り出し、昨日の内にブックマークに入れておいたオカルトサイトを開いた。
この県内の心霊スポット情報を集めたサイトで、
大雑把な道順まで記されている。
('、`*川「……昔、無理心中があった家だって。
両親と子供、みんな死んじゃったらしいわ」
いつぞやの、心霊写真の話を思い出す。
あちらは第三者により家族全員が殺されたらしいが、
こっちは本人達(子供がどうだったかは知らないけれど)の意志による自殺だ。
爪'ー`)「家って、もう誰も住んでねえの? 中に入る気か?」
('、`*川「空き家みたいだけど……正直、ご近所さん達に見られないように入るのは難しいかも」
- 649 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:25:53 ID:YWhnb/9EO
-
('A`)「とにかく行ってみるしかねえだろ。どう行きゃいいんだ?」
('、`*川「あ、えっとね、まず──」
オカルトサイトが示す道筋は、ある小学校を出発点にしていた。
その学校の名前を、兄がカーナビに入力する。
今まで訪ねた3つの心霊スポットと違い、
これから目指すのは、民家が並ぶ地域の中の、たった一軒だ。
暗くなる前に辿り着けるだろうか。
ひとまずは、小学校を目指す。
- 650 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:27:26 ID:YWhnb/9EO
-
爪'ー`)「……なあ」
不意に、弟が口を開いた。
振り返る。弟は自分の携帯電話に目を落としていて、私のことは見ていなかった。
爪'ー`)「何で姉貴はここまでして、その『先生』を見付けようとしてんだよ」
('、`*川「何でって」
爪'ー`)「大学のゼミ生が探しに行ったって話は、まだ分かるよ。
何年かの付き合いがあるだろうからさ」
爪'ー`)「でも姉貴は、ここ数ヶ月程度の関係なんだろ?
相手の家も電話番号も出身地も知らないし」
──それは。
別に。複雑な理由があるわけじゃないけど。でも。
弟は携帯電話から視線を外し、答えあぐねる私を見た。
しばらく口ごもった後、私は逆に質問を返した。
- 651 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:28:23 ID:YWhnb/9EO
-
('、`;川「どうして急にそんなこと訊くのよ」
爪'ー`)「だって貞子が、」
弟は口を滑らした。
本当に「ついうっかり」といった感じで、この馬鹿は、あ、と声を漏らしていた。
('、`*川「……貞子ちゃん?」
爪;'ー`)「あー」
そこで私は、先程、車に乗ったときに弟が携帯電話を閉じていたのを思い出した。
あの慌てたような仕草。今の発言。
黙って運転していた兄も、私と同じ結論に至ったらしかった。
('A`)「お前、貞子ちゃんにバラしたろ」
爪;'ー`)「うあー」
- 652 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:29:31 ID:YWhnb/9EO
-
('、`;川「あんたねえ、後で怒られたらどうすんの!
あの子本気で怒ると恐いのよ! あんたが一番よく知ってるでしょうが!」
爪;'ー`)「でも、だって、なあ?
何か不安だったんだよ。姉貴が『先生』に憑かれてんじゃねえかと思って、」
弟はまた、「しまった」みたいな顔をした。
右手で口を隠している。
('、`*川「……何それ」
爪;'ー`)「や。あの」
沈黙。
じっと睨みつける私に、弟が折れた。
爪;'ー`)「……どっか、人目につかないような場所で死んじまってたりして……。
それで姉貴のことを自分の方に呼び寄せようとしてるんじゃ、ないか、な、って、……」
弟も私も、怖い話をよく貞子ちゃんから聞いているし、ホラー映画も嫌いじゃない。
だから、そういう考えが浮かんだのだろう。
あまりよろしくない発想だけど。
- 653 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:30:53 ID:YWhnb/9EO
-
爪;'ー`)「いや、死んだって決めつけてるわけじゃねえよ? もしも、だ。もしも。
……そんで貞子に訊いてみたんだ。そういうこと有り得んのかって」
爪;'ー`)「そしたら──貞子は、『先生』がよっぽど姉貴に会いたがってるようなら、
有り得なくもないって言ってた」
先生がどこかで亡くなっているかも、という考えは、私の頭にも、うっすらとあった。
でも仮にそうだとして──仮にでも考えたくはないけど──果たして先生は、私を呼ぶだろうか?
それは絶対にない。と思う。
先生にとって私は、さほど重要な存在ではない筈だ。
卑屈になっているわけではなく、そういうものなのだと割りきっているだけ。
('、`*川「……先生なら有り得ないわ。
あの人は私に会いたがったりしない」
弟の頭を軽く叩いておく。
それから車内は静まり返り、気まずい空気が流れた。
*****
- 654 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:32:46 ID:YWhnb/9EO
-
四苦八苦しつつ、何とか、件の家があるであろう住宅街にやって来た。
空が赤い。夕方。たそがれ。
道が入り組んでいるし、似たような造りの家が多いため、初めて来る人は注意──と
オカルトサイトに書いてあったので、歩いて探すことにした。
車でのろのろうろうろしていたら、ご近所さんに怪しまれるのではないかと考えたから。
('A`)「暗くなる前に戻ってこいよ」
近くにあったコンビニの駐車場に車を停め、兄は私に言った。
私は鞄を持ち、頷いて答える。
兄を残して、私と弟は車を降りた。
- 655 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:34:01 ID:YWhnb/9EO
-
爪'ー`)「……家、入んの?」
('、`*川「入れそうならね」
立ち並ぶ家々とサイトを確認しながら進む。
私が前を歩き、弟が数歩後ろを追う形だ。
歩き始めて3分ほど。
サイトの大雑把な説明では、すぐに迷ってしまった。
('、`;川(面倒くさー)
心中で愚痴る。
本当に面倒臭い。
買い物帰りらしい女性が通りかかる。
思いきって道案内してもらおうか。
いや駄目か。
('、`;川「ねえフォックス」
弟の名を呼び、振り返る。
いない。
- 656 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:34:28 ID:ZsHig2Sg0
- いよいよ最終話か
支援
- 657 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:35:07 ID:YWhnb/9EO
-
('、`;川「……おう? フォックスー?」
名前を呼びながら辺りを見渡しても、弟の気配すらない。
そういえば家を探すのに必死で、ろくに弟と話していなかった。
はぐれてしまったようだ。
はて、どうしよう。
──そのとき、服の裾を引っ張られた。
('、`;川「ほわっ!?」
悲鳴が漏れる。
危うく転びかけたほど跳ね上がった。
胸を押さえながら後ろを見れば、そこにいるのは、5歳にはなろうかという小さな女の子。
- 658 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:36:05 ID:YWhnb/9EO
-
ξ゚⊿゚)ξ
私のリアクションに驚いたらしく、目を丸くさせていた。
互いに言葉を発しないまま、見つめ合う。
やがて──女の子が、泣いた。
ξ;⊿;)ξ
('、`;川「ええっ!?」
あんまりにも唐突に泣くから、理由も何も分からない。
とりあえず彼女の前でしゃがみ、私は女の子の肩や手に触れた。
('、`;川「どうしたの? 何? どこか痛い?」
ξ;⊿;)ξ
女の子が首を横に振る。
必死にあれこれ声をかけるも、言葉による答えは返ってこない。
鞄からコンビニで買ったチョコレート菓子を出し、一欠片、女の子の唇に当てる。
女の子は感触を確かめるように唇を動かし、それからお菓子を口に入れた。
- 659 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:38:56 ID:YWhnb/9EO
-
ξ*; -;)ξ
少しは落ち着いたらしい。涙が途切れてきた。
ポケットティッシュで鼻水を拭ってやる。
('、`*川「……どうしよっか」
参った。
私は、女の子を抱え上げた。
ぽんぽんと背中を叩くと、彼女は私に縋りつき、私の肩に顔を埋めた。
温かさとか冷たさとか、そういう人間らしい温度を感じられない手。
綿が入ったぬいぐるみみたいな、異常な軽さ。
この子、生きてない。
心底参った。
- 660 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:40:05 ID:YWhnb/9EO
-
('、`*川「どこの家の子?」
ξ; -;)ξ
また首を横に振られた。
答える気はないってことか。
('、`*川「じゃあ、君は誰なのかねえ……」
たそがれ。誰そ彼。
「誰ですかあなたは」。なんて。
('、`*川「……どこ行ったらいいかな」
ひどく弱々しい感じがするから私もそこそこ冷静に対応しているけれど、
実際は、結構怖かった。
んく、と、女の子の喉が鳴る。
多分お菓子を飲み込んだ音。
途端に女の子は、私の肩を叩き始めた。
- 661 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:42:09 ID:YWhnb/9EO
-
('、`;川「痛っ、痛いよ、何?」
ξ;⊿;)ξ「やあ、やだ、やああ……」
やっと声を出した。
けど、何かを嫌がるような声をあげるだけで、彼女の意図はさっぱり理解出来ない。
また泣き出したし、どうしろっつうんだ。これ。
もう一口お菓子をあげればいいかなと鞄を探ろうとしたところへ、別の声がした。
(;^ω^)「ツン!」
('、`;川「ひうっ」
数メートル先の角を曲がり、中学生くらいの男の子が走ってきた。
真っ直ぐ私の前まで来て、彼は再び「ツン」と言った。
視線は女の子に向いている。この子の名前か。
男の子は、女の子と私を交互に見遣り、私に一礼した。
- 662 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:44:08 ID:YWhnb/9EO
-
(;^ω^)「ごめんなさいお、うちの妹が」
('、`;川「え。妹さん。あ、え……」
当たり前みたいに女の子の名前を呼んで、当たり前みたいに私に謝る姿に、
混乱というか困惑が深まっていく。
女の子は恐らく幽霊だ。
そんな子に普通に声をかけ、妹だと言う少年は何者だろう。
男の子が手を伸ばしてきたので、私は女の子を彼に渡そうとした。
しかし、女の子は私にしがみついて離さない。
(;^ω^)「こら、ツン!」
ξ;⊿;)ξ
(;^ω^)「あんまり迷惑かけるんじゃないお!」
('、`;川(何なのよう……)
男の子が叱りつけると、女の子の手から力が抜けた。
私から男の子へ、女の子は移動する。
その際、触れ合った男の子の手に温度がなくて、彼も生きた人間ではないのだと悟った。
- 663 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:46:21 ID:YWhnb/9EO
-
あまりに淡々としすぎていてなかなか伝わらないと思うが、私は本当に怖くて堪らなかった。
後ろから肩を叩かれようものなら、それだけで腰を抜かしていたであろうくらいには。
彼は女の子を抱えて、もう一度私に頭を下げた。
(;^ω^)「本当にすみませんでしたお。
お姉さんのためにも、その、僕らのことは気にしない方がいいですお」
無茶言うな。
怖かったので、口の中で文句を消化した。
男の子が踵を返す。
そのとき、彼の肩に顔を乗せていた女の子と目があった。
涙を浮かべた目は、私を睨んだ。
敵意が込められた視線。
──私の本能は、「ついていってはいけない」と告げている。
──私の理性は、「何かの手掛かりになるかもしれない」と告げている。
男の子が角を曲がる。
私は駆け出した。
- 664 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:48:00 ID:RMOv.9Ls0
- ゾクゾクするぜ
- 665 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:48:15 ID:YWhnb/9EO
-
彼が通ったばかりの角を、私も曲がる。
すると、ずっと向こうの角を曲がっていく男の子の姿が、ちらりと見えた。
距離から考えれば、有り得ないスピードで移動している。
私は彼を追った。
何度も同じことが繰り返される。
やがて、5度目に道を折れた辺りで、私は完全に彼を見失った。
その代わりに見付けたものがあった。
他の家々より僅かばかり離れた場所に立つ、一軒家。
塀に表札が掛かっているが、文字は掠れていて読めない。
恐る恐る覗き込む。
ほんの少し昔の和風な家、という感じの佇まいだった。
狭い庭に縁側。朽ちた縁側は、腰掛けたら壊れてしまいそうだ。
縁側の向こうの障子は所々破けている。
そこから部屋の様子が窺えたが、家具や畳はぼろぼろだ。
- 666 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:50:12 ID:YWhnb/9EO
-
荒れた庭や部屋からして──人は住んでいない。
まさか。
私は玄関に向かっていた。
頭の中で警鐘が鳴る。その音を靄が包む。
玄関の引き戸を開ける。
鍵は掛かっていなかった。
ぎいぎいと耳障りな悲鳴をあげながら、引き戸は滑っていく。
右側に、腰ほどの高さはある靴棚。
その前に散乱しているのは、小さな赤い靴と白いシューズ、サンダルと革靴。
どれも埃をかぶっている。
('、`*川「……お邪魔します」
まことに失礼ながら、靴を履いたまま上がった。
廊下も、埃や雨漏りの跡でいっぱいだった。
- 667 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:51:29 ID:YWhnb/9EO
-
どこかで物音がした。
音の方へ進んでみると、どうやら、さっきの庭から見えた部屋に着いたらしかった。
部屋の隅に置かれたテレビは、最近ではあまり見掛けないような古い型のものだ。
真っ暗な画面。
立ち尽くす私と──隣に、あの女の子が映っている。
視線を横に移すと、女の子がいた。
ξ*゚ー゚)ξ
泣き止んでいる。
それどころか、嬉しそうに笑っていた。
あの敵意も見えない。
女の子が私の手を取る。
廊下を指差した。
もっと奥の部屋に行こう、と言われているように感じた。
廊下には男の子がいて、申し訳なさそうに私を見てから目を逸らしていた。
- 668 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:53:13 ID:YWhnb/9EO
-
怖い。
なのに私は女の子に微笑みかけている。
手を引かれるまま、部屋を出ようとした──その瞬間。
近くにあった箪笥の上から、小さな段ボール箱が落ちてきた。
箱は私の眼前で着地し、盛大な音をたてて中身を吐き出した。
中身は錆びた金槌や釘、金属製の巻き尺で、それらが擦り合う音は、けたたましいと言うより他なかった。
- 669 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:55:42 ID:YWhnb/9EO
-
('、`;川「……びっ……くりした……」
咄嗟に身を捩ったときに、女の子から手を離していた。
足元へ向けていた視線を上げる。
誰もいない。
急に体が冷えた。
恐怖が何倍にも膨らみ、足が震える。
壁に手をつきながら玄関へ行き、外に出た。
携帯電話を取り出す。弟からの着信が数件。
弟に電話を掛け、どこにいるんだと怒る声を聞きながら道を戻る。
それから適当に歩き回っていると、兄の車が停まっているコンビニに出た。
少し遅れて弟もやって来る。
何でも、一緒に家を探している最中、私がどんどん先を歩いていき、
どこかの角を曲がった瞬間に見失ったのだそうだ。
- 670 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:57:26 ID:YWhnb/9EO
-
夜が空を侵食していく。
もう行かないと、日が変わる前に帰れなくなる。
('A`)「で、家は見付けられたか?」
('、`*川「……よく分かんない」
爪;'ー`)「人に散々心配かけさせといて、それかよ……」
車がコンビニの駐車場を出る。
結局先生を見付けられなかった。
ちゃんとした手掛かりすら掴めなかった。
あの家は、ほぼ間違いなく一家心中があった家だ。
あからさまに怪しい。
でも二度と行きたくはない。
けど、もしも先生があそこに行っていたら。
どうしよう。どうしよう。
- 671 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 00:59:38 ID:YWhnb/9EO
-
('A`)「ペニサス?」
('、`*川「……はい?」
('A`)「大丈夫か?」
どうかしたのか、と弟が後ろから兄に問い掛けた。
兄は、私がずっと足元を見つめているのが気になったと答える。
('、`*川「ん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
('A`)「そっか。……なんだ、ええと……なんつうかな。役に立てなくて悪かった」
('、`*川「……何言ってんの、すごく助かったわよ。兄さんもフォックスもありがとう」
爪'ー`)「やっぱ、警察に任せるしかないんかな」
弟はほっとしているようだった。
「先生が私を呼んでいる」という先生に失礼な疑念を抱いていたらしいから、その反応も頷ける。
弟なりに私を心配してくれていたのだろうし、別に、不満はない。
私は鞄を開けた。
チョコレート菓子は、女の子にあげた一口分、しっかり欠けている。
あの女の子は、たしかに居たのだ。
- 672 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:01:07 ID:YWhnb/9EO
-
そして、
('、`*川(……あ)
朝、コンビニで買った「あれ」が無くなっていた。
どこかで落としたのだろうか。
*****
- 673 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:02:51 ID:RMOv.9Ls0
- wktk
- 674 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:04:10 ID:YWhnb/9EO
-
帰宅したのは、日付が変わる直前だった。
で、3人揃って父に怒られた。
特に高校生の弟をこんな時間まで連れ回していたのが駄目だったらしい。
生真面目な人だと思う。
兄弟仲が良くていいじゃないかと母が父を宥め、ようやく解放される。
一日中見知らぬ町を回った私達は疲労困憊で、お風呂に入るのも億劫だった。
とりあえずシャワーだけ浴びて、自室に入る。
ベッドに横たわると、眠気が降りかかってきた。
髪は乾いていないし電気もつけっぱなしだけれど、私はそのまま目を閉じた。
眠ってしまいたかった。
このまま起きていても、私は先生のことを考えるばかりで。
そうすると、不安やら後悔やら何やらで苦しくなるから。
眠りたかった。
シーツを握り締める。
先生。
*****
- 675 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:05:02 ID:F.1Gn40YO
- もの書ける奴って、ここまで構想してるなんてやっぱり凄いな
こちとら、ひたすら読むだけしか出来ないから羨ましいわ
- 676 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:05:23 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「──君ってそんなに馬鹿だったっけ?」
目を開けたら真ん前に先生がいて、開口一番馬鹿にされて、本当に訳が分からなくて、
私はひたすら瞬きを繰り返した。
口が動く。言葉が見付からない。無意味な声が落ちるだけ。
('、`*川「えう」
(´・_ゝ・`)「僕の知ってる伊藤君は、1人で心霊スポットに入るような子じゃないよ。
伊藤君ならビビりにビビって、足も踏み入れずに逃げる筈だ」
('、`*川「せ」
(´・_ゝ・`)「あのとき箱を落とさなかったらどうなってた?
君の貧相な想像力でも分かるでしょうに」
('、`*川「せんせい」
やっと、意味のある一言が出た。
ぶわり、全身に感覚が満ちる。
思考が動く。
- 677 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:07:25 ID:YWhnb/9EO
-
私はまず、周囲を確認した。
小綺麗な家具と畳。古い型のテレビ。箪笥の上に、小さな段ボール箱。
電気はついていないけど、明るい。
夕方に見たときのような廃屋じみた雰囲気は無いが、間違いなく、あの家だった。
その部屋の真ん中で、薄っぺらい座布団に座り、
私と先生は向かい合っていた。
破れていない障子の向こう──庭がある筈──からは、例の兄妹が遊ぶ声がする。
(´・_ゝ・`)「聞いてる?」
べらべらと何か喋っていた先生が、私の頬を抓った。
痛い。先生の手を叩き落とす。
体温が感じられない。
すぐさま叩き落とした手を握り、私は、まじまじと先生を見つめた。
いつもの、ワイシャツにグレーのベストとスラックス。
傍らには、折り畳まれたグレーの上着。
目の下に隈なんか無い、一番見慣れた、いつも通りの先生がそこにいた。
- 678 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:08:01 ID:hLBqZHsI0
- 先生…やっぱり…
- 679 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:08:28 ID:YWhnb/9EO
-
('、`;川「先生」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`;川「……先生」
(´・_ゝ・`)「そうだよ」
('、`;川「……これ何? 夢?」
(´・_ゝ・`)「夢だね」
('、`;川「じゃあ、……先生、ニセモノなの」
(´・_ゝ・`)「何を根拠にするのかは分からないけど、本物だよ」
先生の手を離し、彼の頬を触ってみた。
ちょっと不快そうに顔を顰める先生は──私の記憶が作り出したにしては、
あまりにもリアルな「先生」だった。
先生。
先生だ。
- 680 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:08:34 ID:z.fFzfuAO
- ええええ
- 681 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:09:18 ID:YWhnb/9EO
-
('、`*川「せん、」
言葉が詰まる。
いつだったか、私が海の夢を見たとき、私は先生に質問した。
幽霊は夢が好きなのか、と。
先生の答えは、干渉しやすいんじゃないか、なんていう簡潔なものだった。
思考の糸が絡まる。
あんな質問しなければ良かった。あんな答えを聞かなければ良かった。
嫌な想像ばかりが浮かび、私を攻撃する。
夢なんかに出てくるくらいなら、会いたくなかった。
上手く呼吸が出来ない。
思いきり息を吸うと、喉が引き攣って、目元に熱が集まった。
- 682 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:09:55 ID:8k90Fmx6O
- せんせいせんせいせんせいせんせいせんせいせんせい
- 683 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:11:24 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「……君、どうして僕を探しに来たの」
先生は私の手を掴み、言った。
手を下ろされる。
目元の熱が増していく。
('、`*川「どうしてって、だって、……先生いないから……」
(´・_ゝ・`)「君にとって僕は傍迷惑な変人だろう。
どうやってここを突き止めたかは知らないけど、何かしらの努力はしたでしょ。
そうまでして君が僕を探す理由があるとは思えないんだけど」
弟にもされた質問。
私は、また答えに困る。
理由ならある。
あるけど、本人に話すには──身勝手すぎる理由だ。
話したくない。
- 684 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:12:45 ID:ZsHig2Sg0
- 先生…
- 685 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:13:54 ID:YWhnb/9EO
-
それでも私は的確な言葉を探す。
素直に、正確に、先生にも伝わるような言葉を。
だけど、ちゃんと見付けられなくて、結局手近なところにあった単語を繋ぎ合わせるしか出来なかった。
('、`*川「自分、が」
(´・_ゝ・`)「うん?」
──先生を助けたいとか。
先生のために何かをしたいとか。
そういうもの、私の中にはなかった。
私は決して、そんな立派な人間じゃない。
('、`*川「自分が悪者になるのが嫌だったの」
ようやく絞り出した瞬間、熱が溢れた。
流れ落ちる水滴を、先生は、いやに優しい瞳で見つめていた。
- 686 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:15:11 ID:F.1Gn40YO
- 最後な怪奇とは別の読ませどころ持って来たな!
- 687 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:15:30 ID:F.1Gn40YO
- 最後に怪奇とは別の読ませどころ持って来たな!
- 688 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:15:48 ID:YWhnb/9EO
-
(;、;*川「……トンネル行ったとき、先生の様子がおかしいの分かってた。
あのまま放っておくのは良くないって分かってた」
(;、;*川「で、でも、私、『もう変なところに行くな』ってことすら言わなかった。
言っても無駄だって思って、それで、」
俯き、涙を拭う。
すぐにまた溢れてくる。
(;、;*川「まさか先生がいなくなるなんて思わなくて……。
あ、あのとき、私が止めなかったせいで先生がいなくなっちゃったんじゃないかって考えたら、
私、私、すごく悪いことしたような気がして、恐くて」
(;、;*川「……もちろん先生がいないのが寂しいっていう気持ちもあったけど、
でもそれ以上に、ざ、罪悪感、罪悪感があったから、私……」
ひくり、喉が跳ねる。
震える声を抑えるのが、難しくなってきた。
こうして泣いているのも、結局は、自分自身を顧みた上での後悔が大半を占めている。
情けないったらなかった。
- 689 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:17:07 ID:YWhnb/9EO
-
先生からの反応がない。
恐々、顔を上げる。
(´-_ゝ-`)" コックリコックリ
先生は舟を漕いでいた。
(;、;#川「死ね!! 馬鹿!!」
心の底からの、全力の叫びだった。
庭から聞こえていた声が途切れる。
躊躇いがちに「どうかしましたかお」という男の子の問い掛けが障子越しに飛んできた。
男の子も女の子も、私がいることは把握しているようだ。
わざとらしく、いま起きましたよと言わんばかりの動作をしながら、
先生は「気にしないで」と返していた。
2人は明確に相手を認識した上で会話している。
詳しく訊きたいが、それ以前に、まず先生をぶん殴りたい。
- 690 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:20:57 ID:YWhnb/9EO
-
(;、;#川「人が! 人が頑張って懺悔してるのに!!」
(´・_ゝ・`)「長いしつまらないよ」
(;、;#川「死ね!!」
(´・_ゝ・`)「死んでるよ、多分」
先生は笑った。
私の怒りが引っ込む。ついでに涙も。
('、`*川「……そういう冗談、笑えないわ」
(´・_ゝ・`)「冗談のつもりはないけどね」
もっと悪い。
どうしてそんなこと言うの。
私は唇を噛み締め、ずっ、と鼻を啜った。
(´・_ゝ・`)「今度は僕が話そうか。
──『懺悔』した君には悪いけど、僕は、君が何と言おうと
心霊スポット巡りをやめたりはしなかっただろう」
(´・_ゝ・`)「それくらい、あのときの僕は必死だった。
霊の声を聞くようになって……姿を見るのも夢じゃないと思っていたからね」
- 691 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:23:57 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「たくさんの場所に行った。有名なところもマイナーなところも。
遠いところも近いところも……」
先生は障子を見遣った。
口元に笑みを湛えたまま。
(´・_ゝ・`)「それでここに来た」
('、`*川「……うん」
(´・_ゝ・`)「そしたら、初めて幽霊を見れたよ。女の子と男の子。
びっくりした。普通の人間みたいに見えるのに、どこか人間とは違うんだね」
念願叶った割には、いつも通りすぎた。
ごくごく冷静に経緯を話している。
- 692 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:25:59 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「彼らの両親はいなかった。
伊藤君、あの心霊写真覚えてる? 子供の霊が映ってたやつ」
('、`*川「先生が燃やしたやつ」
(´・_ゝ・`)「それ。
……あの子供と変わらないよ。子供だけを置いて、両親がいなくなった。
だから子供は母親や父親を欲している」
('、`*川「……。先生は、見事に父親として捕まったわけ」
(´・_ゝ・`)「そうだね。父親に似てたか何だか知らないが、気付いたらこんな状態だよ。
この家から出られない。外の状態が分からない。
飲み食いしなくてもお腹が空かない」
(´・_ゝ・`)「案外悪くはないけどね。
ただ、生きてるか死んでるか分からないのが気持ち悪いかな。
これで生きてるとも思えないけど、死体が見当たらないから確実に死んでるとも言えないし」
夕方、女の子が私の前に現れたのは、私が先生を連れていってしまうと思ったから邪魔しようとした、らしい。
彼女が泣いていた理由が分かった。
男の子の言葉の理由も。
家の中で私に微笑んだのは、私も「家族」にしようと考えたから。
箱が落ちてきた──先生の仕業だろうか──ことで、それは成功しなかったけれど。
今は、特別に私と話すのを許してくれているそうだ。
- 693 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:27:15 ID:PFGzHVW6O
- 先生…
- 694 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:29:25 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「幼いが故に純粋に寂しがってるだけで、悪い子じゃないんだろう。
現状からすると、いい子とも言えないけど」
('、`;川「……何でそんなに冷静なの」
(´・_ゝ・`)「ん?」
('、`;川「幽霊に捕まってんのよ。
死んでるかもしれないのよ。
どうして普通でいられるの? 怖くないの?」
(´・_ゝ・`)「怖くないよ」
言って、先生は黙った。
見つめ合う。もしかしたら、睨み合う、が正しいかもしれなかった。
そして──先生が口を開く。
(´・_ゝ・`)「君はきっと、僕より優れているのかもしれないね。
こんなこと、フリーター風情に言いたくはないけど」
褒められて、馬鹿にされて、反応が鈍った。
私が先生より優れているなんて、この人が言うわけがない。
何それ、と返すので精一杯だった。
- 695 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:30:43 ID:.xpOq8bU0
- うあぁ
- 696 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:30:44 ID:3gO3z5s.0
- >>1のセリフキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
- 697 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:32:24 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「伊藤君ってさ、怖がりだよね」
('、`*川「……人並みだと思うけど」
(´・_ゝ・`)「でも僕はその『人並み』にもなれない」
物悲しい響きがあった。
初めて聞く声だった。
(´・_ゝ・`)「昔から……子供の頃からそうだった。
怪談の怖さが理解出来ない。
悪いことをするとオバケが来るよ、と親に言われても、だから何だとしか思えなかった。
そんなものより、異常者や凶悪犯が来る方がよっぽど恐かった」
(´・_ゝ・`)「生きている人間の悪意や狂気に対する恐怖は分かる。
でも、死んだ人間は怖くなかったんだ。
そんな、幽霊だけを怖がれない自分も理解出来なかった」
- 698 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:33:24 ID:F.1Gn40YO
- >>696
本当に凄いな
- 699 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:36:27 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「生きていようと死んでいようと人間は人間だ。
なのに、死んでいる人間だけが怖くない。その違いが自分で分からない」
幽霊を見たことがないから怖がれないんじゃないかと、若き頃の先生は考えた。
それが、心霊スポットに行き、霊を探すようになった切っ掛けなのだという。
「人並み」になりたかった。
みんなと同じように、霊に対して恐怖を抱きたかった──らしい。
紛れもない、劣等感がそこにあった。
(´・_ゝ・`)「これは立派な欠陥だと思う。僕は欠けている。
伊藤君やミルナ君達に比べると、よっぽど劣っている部分だ」
('、`*川「……怖がらずに済むのは、羨ましいと思うけど」
(´・_ゝ・`)「怖がらないってことは、触れてはいけないものに気付けないってことだよ。
それは今の僕が証明している」
君子危うきに近寄らず。
そんな言葉が過ぎった。
- 700 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:40:35 ID:7boo55LE0
- 最初に出てきたセリフが最後にまた出てくるパターンは本当ドキドキするな
まさかこんな状態とは思わなんだ
- 701 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:41:58 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「……怖がりな人なら、こんなところには来ない。
今回は僕を探すというイレギュラーな動機があったからともかく、
普段通りであれば、君は近付くのも嫌がる筈だ」
('、`*川「……」
(´・_ゝ・`)「つまり『怖がる』ことは危機回避に繋がるんだよ。
僕にはそれが無かった。
自ら危険な場所に赴いていたくらいだ」
先生は無敵だと思っていた。
でも、彼が言ったように、そんなことは全然なくて。
寧ろ私達よりずっと危険だった。
その結果がこれだ。
何よりも分かりやすくて、馬鹿らしい証明だった。
- 702 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:43:31 ID:PFGzHVW6O
- >>1の言葉が今…
- 703 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:44:11 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「そして僕はやっぱり欠けていた。
実際に幽霊を目の当たりにして、こんなことになっても──まだ、怖くない」
(´・_ゝ・`)「僕には初めから無理だったんだろうね」
先生の声に、私の心臓が跳ねた。
とても嫌な声だった。
低くて。温度がなくて。
私と先生の、──いや、もっと別の何かの距離が開いていく。
また涙が出た。
今度は後悔じゃなく、悲しみだけが涙を作り上げていた。
- 704 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:45:52 ID:YWhnb/9EO
-
せんせい。
何度目になるのか、力なく先生を呼ぶ。
先生は微笑む。
(´・_ゝ・`)「これで、長年求めていたものの答えは出た。
もういいかなって思ってる」
(;、;*川「……」
(´・_ゝ・`)「僕は帰ろうとは思ってないよ。
簡単に帰らせてもらえないだろうし、普通に帰れるかも分からないし」
ふざけんな。
帰りたいって言え、馬鹿。
私が一日捧げて探した苦労はどうしてくれるんだ。
文句は次々に出てきた。
ろくな解決策も浮かばないくせに、子供みたいに泣きながら、必死に先生に苦情をぶつけた。
先生は優しく笑っている。
ありがとう。ごめんね。
先生は私が聞きたくない答えしかくれない。
- 705 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:48:55 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「そろそろ帰りなさい、伊藤君。
これ以上ここにいたら、君までこっちに引っ張られる」
(;、;*川
(´・_ゝ・`)「泣かないでよ。
もう僕なんかに振り回されずに済むんだから、君は喜んでいればいい」
喜べるわけないだろう。
たしかに先生には困らされてきたけれど、
いなくなって清々したなんて言えるほど薄情じゃない。
(´・_ゝ・`)「今までごめんね。正直、楽しかったよ」
私をすっきり送り出したいなら、そんなこと言うな。
なんて酷い人だ。
- 706 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:50:40 ID:RMOv.9Ls0
- しえん
- 707 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:51:32 ID:PFGzHVW6O
- 感情移入しすぎてこっちまで泣きそう
- 708 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:51:59 ID:YWhnb/9EO
-
(;、;*川「わ、私、は、……楽しくなんか、なかった……」
(´・_ゝ・`)「だろうね」
(;、;*川「でも、」
(´・_ゝ・`)「うん」
(;、;*川「でも、先生のことは、そんなに嫌いじゃない……」
(´・_ゝ・`)「うん」
先生は私の手を取り、立ち上がった。
私も腰を上げる。
障子の向こうから声はしないけれど、気配はする。
(´・_ゝ・`)「僕も伊藤君のことは結構気に入ってるよ」
部屋を出て、廊下を歩く。
玄関に着いて、先生は私の手を離した。
先生はもう片方の手に、「あれ」を持っていた。
私の鞄からなくなっていたもの。
先生が靴箱を開け、2段目にそれを置く。
- 709 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:54:17 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「……もう僕のことを探そうとしないでね。
僕は今のままでいい。
なかなか平和で落ち着くし」
(;、;*川「ほ、本当に、帰る気ないの……」
(´・_ゝ・`)「うん。けど君が僕を探しに来てくれてたのは少し嬉しかった。ありがとう。
でももうやめなさい。どこで何があるか分かったもんじゃないよ。
僕はここにいる、帰る予定はない。それが結論」
今更気付いたけど、私は裸足で、先生は革靴を履いていた。
先生が私の隣に立ち、玄関の戸を開ける。
- 710 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:56:14 ID:YWhnb/9EO
-
(´・_ゝ・`)「ばいばい。僕は外に出られないから、ここまでだよ」
先生の顔を見上げる。
5秒、10秒。
私が視線を下ろすと同時に、先生は私の背中を押した。
家の外に出る。
一歩進むと、勝手に、もう一歩。また一歩。
塀を抜ける。
顔を上げると、見慣れた場所にいた。
私の家の近くだ。
振り返ってもあの塀は無くて、ご近所さんちの生け垣があった。
- 711 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:57:10 ID:YWhnb/9EO
-
空は白んでいる。
私は一層泣いた。
声をあげて、年甲斐もなく泣きじゃくりながら家へと歩いた。
コンクリートの表面がちくちくと私の足に痛みを与える。
玄関のドアを開けたところで、視界が暗くなった。
.
- 712 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:57:54 ID:YWhnb/9EO
-
目を開けると、私の自室、ベッドの上にいた。
窓からは朝日が差し込んでいる。
夜が明けた。
私と先生の夜話は終わった。
*****
- 713 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 01:59:45 ID:YWhnb/9EO
-
起きてきた兄に頼み込み、また車を出してもらった。
行き先は、隣県某町の、あの家だ。
到着したのは昼過ぎで、昨日とは違って明るかった。
掠れた表札のついた塀を通り、玄関に入る。
右手側に靴箱。
私は、その靴箱を開けた。
- 714 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:01:30 ID:YWhnb/9EO
-
──私が先生について知っていること。
名前。職業。大まかな年齢。
わがまま。子供っぽい。人を見下しがち。
幽霊が好き。心霊スポット巡りが好き。
あと、コーヒーが好き。
靴箱の2段目。
そこに置かれた、コーヒーの缶を取る。
真新しいそれは、私が昨日コンビニで買ったのと同じもの。
先生に会えたら飲ませてやろうと思って買った缶コーヒー。
缶は空だった。
誰かが飲んだばかりのように、飲み口の辺りの溝には、僅かにコーヒーが溜まっていた。
- 715 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:02:14 ID:diZGy.xE0
- 先生・・・・・・・
- 716 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:02:27 ID:YWhnb/9EO
-
先生は酷い人だ。
本当に。
あれは単なる夢だったのかもしれない。先生はどこかで旅行しているのかもしれない。
そんな希望すら残してくれなかった。
空き缶を両手で持って、また少し泣いた。
*****
- 717 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:02:45 ID:.xpOq8bU0
- よくできてんなぁ
- 718 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:06:08 ID:YWhnb/9EO
-
あれ以来、先生失踪に関する続報はない。
ミルナさんにあの日のことを話したところ、「しょうがない人だな」と言って笑っていた。
笑った後、物憂げに溜め息をついたミルナさんの顔が印象的だった。
もう、あの家には行っていない。
行ったら先生に怒られるだろう。
ちなみに貞子ちゃんには既に怒られた。
兄と弟、私の3人は並んで正座させられて説教を受けた。
本当に恐かった。
一番最近の恐ろしい体験は、その貞子ちゃんの説教。
幽霊を見たり怪奇現象に巻き込まれたりすることは、今のところ無い。
やっぱり先生がいないと平和だ。
- 719 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:06:33 ID:3gO3z5s.0
- 「アレ」とは先生の好きだったコーヒーの缶だったのか……
- 720 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:07:43 ID:RMOv.9Ls0
- ふむう
- 721 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:08:28 ID:YWhnb/9EO
-
( ・∀・)「──ペニサスちゃん、棚の整理してきてくれるかな?」
('、`*川「はあい」
店長の指示を受け、私は返事をしてからレジを出た。
今はお客さんが少ない時間帯だ。
私は、先生と出会った日に「辞めてやる」と決めたコンビニでまだ働いていた。
そんなに人間関係悪くないし。
時給もそれなりにいいし。
それと。
もしかしたら先生が来るんじゃないかという、ほのかな期待があって。
ただしいつまでも待ってやるつもりはない。
クビになったり、就職したり、何かしらがあってバイトを辞めるまで。
それまでは、ここで待っててやらないでもない。
だから、帰ってこれそうなら早く帰ってこい。馬鹿。
- 722 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:09:13 ID:YWhnb/9EO
-
来客を知らせるメロディが鳴った。
私は入口へ振り返る。
('ー`*川「いらっしゃいませー」
.
- 723 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:10:37 ID:F.1Gn40YO
- コンビニの缶コーヒー…、よく考えつくな!
- 724 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:11:02 ID:BeXsEtnIO
- ああもう切ねぇぇぇぇ
- 725 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:12:28 ID:YWhnb/9EO
-
これで話は終わりだ。
フリーター風情の私が、教授センセーのクソジジイに最後の最後まで振り回された話。
いま思い出しても腹の立つような、しょうもない怪談。
それでも、そんなに悪い体験でもなかったように思う。
ただバイトに明け暮れて過ごす日々よりは、随分といいものだった。
- 726 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:12:29 ID:ZsHig2Sg0
- うまいなぁ…
- 727 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:14:36 ID:qZKUIv2w0
- 終わってしまうのか……
- 728 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:15:34 ID:RMOv.9Ls0
- 乙乙
夏から夏の終わりに丁度良い話で楽しかった
- 729 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:18:55 ID:YWhnb/9EO
-
と、まあ、ここまで過去の話を語ってきたわけで。
過去が終われば、当然、今現在に繋がっている。
これから先は現在進行形。
明日、いや、ほんの一秒先がどうなるかは分からない。
バイトに追われる日々か、
新たな出会いがあって、何かが起こるか。
あるいは、また──奇怪で怪奇な夜話が、幕を開けるかもしれない。
とにもかくにも、こんな話に付き合ってくれたことに感謝したい。
- 730 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:22:06 ID:.xpOq8bU0
- いえいえ
- 731 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:24:12 ID:YWhnb/9EO
-
願わくは、私と先生の話で、あなたの夜が特別なものになりますことを。
.
- 732 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:24:59 ID:YWhnb/9EO
-
('、`*川 フリーターと先生の怪奇夜話、のようです (´・_ゝ・`)
完
- 733 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:25:15 ID:pTschvfc0
- 乙!
- 734 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:25:44 ID:z.fFzfuAO
- おつ!
- 735 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:25:50 ID:.xpOq8bU0
- 乙乙
- 736 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:26:07 ID:PngeyFzcO
- うぉぉぉぉここ1ヶ月楽しませてもらいましたありがとう!乙!
- 737 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:26:13 ID:PFGzHVW6O
- 終わった…終わってしまった…
すごく面白かった
少し寂しいけど先生が最後まで先生らしくてよかった!
- 738 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:26:23 ID:uz.aL2OA0
- 乙!!
- 739 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:26:34 ID:ytMJBaDQ0
- 本当に乙です
- 740 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:26:40 ID:9KWP96dYO
- 乙。引き込まれる作品だった
- 741 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:27:09 ID:qZKUIv2w0
- 乙!!
楽しく恐ろしく読ませてもらったよ
- 742 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:27:54 ID:3gO3z5s.0
- とうとう完結したかぁあああ! 乙!!
楽しい夏の夜を過ごせたよ
- 743 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:28:30 ID:YWhnb/9EO
- これにて終わり
読んでくれた方々、絵を描いてくれた方々、
まとめてくれたRESTさん、皆さんありがとうございました
質問・指摘があればお願いします
- 744 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:28:40 ID:7boo55LE0
- 乙!毎日楽しみにしてた
最後は切ないな…
- 745 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:29:09 ID:F.1Gn40YO
- 毎回、面白い作品書くなぁ、感心するわ
- 746 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:32:20 ID:hGxYQkwsO
- 乙でした。面白かったです。
- 747 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:32:38 ID:ZsHig2Sg0
- 乙乙乙
- 748 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:34:46 ID:iOXQyamwO
- 終わりか
頑張った。超頑張ったね
乙
- 749 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:37:23 ID:Apu.otKs0
- 普通の怪談とは違った趣が素敵だった!楽しかったありがとう
- 750 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:40:41 ID:YWhnb/9EO
- すっげーどうでもいいことだけど>>620は>>617宛てだった
- 751 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:41:53 ID:BeXsEtnIO
- ありがとう、面白かった!
- 752 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:45:30 ID:PFGzHVW6O
- モチベ上がってきた
こういう惹かれる話を書けるようになりたいぜ!なる!
- 753 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 02:53:45 ID:F.1Gn40YO
- 皆わかってると思うんだけど、念のため正体明かしてよ!
- 754 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 03:01:25 ID:YWhnb/9EO
- >>753
あい
過去作は、
長編
( ^ω^)七大不思議と「せいとかい」のようです
ζ(゚ー゚*ζ あな素晴らしや、生きた本 のようです
短編
('A`)燃え尽きた後のようです
ξ*゚⊿゚)ξふたりはなかよし(^ω^*)のようです
(*'A`)ふたなりなかだし(゚- ゚*川のようです
川 ゚ -゚)日和のようです (乗っ取り)
( ^ω^)の川 ゚ -゚)ルなナイトのようです (乗っ取り)
( ^ω^)が拳の王となるようです (乗っ取り)
( ^^ω)クリスマスには間に合わなかったようです
( ∴)早く人間になりたいようです
('A`)ドクオには幼なじみがいるようです (乗っ取り)
( ^ω^)ドラゴンボールのようです
【+ 】ゞ゚)は異世界で出会ったようです
川д川おばけやしきのようです
(-_-)ストライクヒッキーズのようです
(・ ∀・) また明日、のようです
爪'ー`)y‐小泥棒のようです
( ФωФ)いつでも変われるようです
lw ´‐ _ ‐ノ v 六度目の大量絶滅のようです
( ^ω^)はボクサーのようです (乗っ取り)
ミンミンミセ*゚ー゚)リのようです
〈::゚−゚〉行灯業者の鐘の声が聞こえるようです
(-@∀@)誇り無き吸血鬼のようです
( ^ω^)姉が孕んだようです
|゚ノ ^∀^)にとってはそれが真実だったようです ほか(( ゚∋゚)大きな古時計・( ^(i)^)ふぐり・('A`)キノコ)
音楽祭・紅白
/ ,' 3 荒巻老人は80代にして妻以外の女性を愛したようです
('A`)おしりをかじらなければ虫になるようです
ξ゚⊿゚)ξ わるいひと! ζ(゚ー゚*ζ のようです
l从・∀・*ノ!リ人 超絶プリティ!流石家のアイドルのようです
川 ゚ -゚)冬の迷い子のようです
( ^ω^)猫娘を拾ったようです
こんな感じ
- 755 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 03:02:47 ID:YWhnb/9EO
- ひとまずおやすみなさい
『幽霊が出るコンビニ』 >>1-24
『心霊写真』 >>32-67
『いわくつきラブホテル』 >>73-96
『遊女の人形』 >>102-132
『憑かれた青年の話』 >>145-172
『祠とキツネ』 >>184-204
『つきまとう影』 >>212-243
『呼ばれる』 >>255-276
『おばけバス』 >>284-302
『長い首』 >>308-346
『可哀想なこっくりさん』 >>355-394
『海の夢』 >>403-430
『猫とノコギリ』 >>439-482
『廃校闊歩』 >>496-524
『プラスかマイナスか』 >>539-577
『怪奇夜話』 >>621-732
- 756 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 03:15:55 ID:e/VoU0ws0
- 面白かったなぁ
ていうか明日からこれねーのかよ、凹むわぁ...
- 757 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 03:19:36 ID:ri7BwHMc0
- 個人的には先生よりジョルジュとツーが可哀想だ…
おやすみなさい、乙。
- 758 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 04:30:49 ID:667rfdYs0
- DDDを思い出すな
3巻まだかよ
- 759 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 07:24:33 ID:KIqKeF1Y0
- 遅くなったが乙!
先生は最後まで先生だったな
何となく幽霊になってもペニサス引きずりまわすイメージだったから寂しい
- 760 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 08:17:42 ID:L906oXPAO
- ひとまずってことはまだなんか書いてくれんのかな?
期待しておく
とにかく乙
- 761 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 08:55:21 ID:gR2nQxg2O
- これから読むわ。ひとまず乙
>>754の中で姉が孕んだようですだけ読んでなかったから今読んでみたが、すげぇな……
- 762 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 09:07:15 ID:3dGcBUvQ0
- おつ!
次回作も期待してるー!!
- 763 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 11:32:27 ID:hGxYQkwsO
- ギコネコの話しで気になった所が有ったので質問。
霊障による手足の切断描写が音だけなのは、読者の幽霊の解釈(猫が切っているのか、はたまた別の存在なのか)に幅を持たせるため?
- 764 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 12:37:07 ID:YWhnb/9EO
- >>763
猫がノコギリ持って一生懸命何か切ってる姿なんて可愛らしいだけかなって……
明確に「こいつがこんな風にやってるんだ!」っていう決定的な描写をするよりは、
色々と隠して若干ぼかした方がホラーには合うかなと思っている
自分は実話系の怪談を見た後に
「こういうことなのか?」「語り手はこう解釈してたけど、別の可能性もあるんじゃ?」
と色々考えるのが好きなので
- 765 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 13:21:22 ID:JNQSnCm20
- >>750
いいもん見せてもらったよ
わくさんもあんたも最高だ
つーか見てたんか、踊るww
- 766 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 13:40:49 ID:hGxYQkwsO
- >>764
そうでしたか。
僕は逆に猫がノコギリを持つファンシーな場面が想像できなかったのですね。
消去法で道場人物からノコギリを持てそうなキャラを探すと
猫赤ん坊ヒートシィ猫を虐待した人たちとなり
この話は猫や赤ん坊の怨みの解釈の他に、「悪事を行う共同体の判断に組みしなかった人が受ける妬みの差別」だったり、「妬みを受けた人の後悔だったり」と解釈できるかなぁと→手足の霊障は生きている人たちの呪いかなにかで、猫や赤ん坊の霊は自分を憐れんだ人に懐いて出て来ただけとか
この話は、この曖昧な描写で色々想像出来て楽しめました
- 767 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 13:45:10 ID:hGxYQkwsO
- >>766
訂正
>猫赤ん坊ヒートシィ猫を虐待した人たちとなり
猫×赤ん坊×ヒート○シィ○猫を虐待した人たち○となり
絵文字が書き込めませんでした(^_^;)申し訳ない。
- 768 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 17:51:35 ID:91.QsD060
- せいとかいの人だったんか…あなたの小説の終わり方はいつもすきだ
- 769 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 20:19:26 ID:2fLNwlJE0
- またおまえだったのか乙
- 770 :名も無きAAのようです:2012/09/09(日) 22:20:23 ID:Nsi1bVWYO
- 乙乙
まだ暑いけど怪談の夏もそろそろ終わりだな
- 771 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 02:26:16 ID:3pULoUqU0
- ここ最近面白いと思った作品を見てると必ずこやつに行き着く件について
- 772 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 07:15:50 ID:JZDdVVKMO
- >>1は凄いな…
- 773 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 12:52:20 ID:QXsQpbjU0
- おもしろかった!!乙!!
- 774 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 17:35:43 ID:KM.keYjgO
- 来てたんだな乙
なんか心霊スポット巡りを平気でしてたけど、やっぱ最後は釘刺すんだな
取り込まれる やめろ って
- 775 : ◆c9sFVHJv2E:2012/09/10(月) 19:44:54 ID:7y6FOO5gO
- 心霊スポット巡りといえば
『怪談新耳袋 殴り込み』シリーズ というホラードキュメントDVDがある
あの有名な実話怪談集『怪談新耳袋』の関係者達(全員おっさん)が、
心霊スポットに殴り込んで霊を挑発する検証モノ
要するに、いい歳した大人が心霊スポットでふざけ倒して、自分達でやっておきながら全力でビビりまくるDVD
女の霊が出るというトンネルで虚空に向かってナンパしたり、シャンパンコールしたり
廃校でこっくりさんやったり、市松人形でAV撮影したり、緑茶が嫌いな少女の霊に緑茶お供えしたり
藁人形が揚げ物みたいになっちゃったり、道路でブリーフ一丁になったり他にも色々
ふざけてないときも一応ある
面白いからオススメしておきたい
可愛い女の子の悲鳴は聞けないが、おっさん達の本気の悲鳴は聞ける
たまにガチっぽい映像が撮れてたりして恐怖も味わえる
オーディオコメンタリーも面白いよ
上記の説明で不謹慎だとか無礼だとか不快だと思った人は見ない方がいいかもしれない
逆に興味が湧いた人は、今すぐお近くのレンタルビデオ店やAmazonへGO
ちなみに先月、最新作の『東海道編』『北海道編』が出たばかり
東海道編はまだ見てないが、北海道編には俺の好きな平山夢明が出ててテンション上がった
このDVDは怪奇夜話を書こうと思った切っ掛けの一つなので、紹介しておく
- 776 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 20:04:24 ID:Ylh5754Y0
- >>775
ひどすぎワロタ
おっさんのガチ悲鳴とか誰得だよwwwww
……さて、ちょっと近所のレンタルビデオ店行ってくるか
- 777 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 20:15:45 ID:R9fA3vUU0
- 俺の物欲が働き始めた
しかも明日は給料日
- 778 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 21:06:28 ID:gASfb82o0
- 性欲かと思ってびっくりした
またホモかと
- 779 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 21:52:50 ID:7kVJmkxE0
- (どうしよう今更ホモだなんて言えない)
- 780 :名も無きAAのようです:2012/09/10(月) 22:11:19 ID:d0TEUFh.O
- なんでホモが居るんですかね・・・
- 781 :名も無きAAのようです:2012/09/11(火) 01:47:41 ID:GGupqQeEO
- 似てるなーと思ったらやっぱりあな本の人か、今回も面白かった、乙!
完結記念に絵投下 ※ネタバレ要素・血表現有
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_011.jpg
- 782 :名も無きAAのようです:2012/09/11(火) 04:29:54 ID:oOD5mtsY0
- >>781
かわいいな
- 783 : ◆c9sFVHJv2E:2012/09/11(火) 09:02:44 ID:Lz7miyNcO
- >>781
可愛い感じなのに怖くてすごい……
何だかノコギリが一番怖かった
ありがとうございます
- 784 :名も無きAAのようです:2012/09/11(火) 09:09:51 ID:pU0whshMO
- >>781
可愛い
でもデミタスが先生というよりホストに見えるwww
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