■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■

ξ ゚⊿゚)ξ魔王と王女が魔王を倒すようです(゚- ゚ 川
1名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 20:54:25 ID:FlkhsUtU0
王道

2名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 20:55:16 ID:FlkhsUtU0

―――これは、後に後世へと語り継がれることになる昔話。
とある国の王女と、世界を恐怖へと陥れた魔王が織りなす物語。

『想う』ことが何より強い力に変わる世界での、お話です。


ですが、その物語を語る前に―――


今はもう滅び去ってしまった、とある王国のお話をしましょう。

3名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 20:56:26 ID:FlkhsUtU0

 その王国の名は、シベリア。

滅びる前までは世界中から人が集まり、活気に満ち溢れ、
他のどんな国よりも栄えていたと伝えられています。

けれど、栄えたものはいつかは朽ち果てる定め。

シベリア王国は、ある日突然、魔王の手下の魔族によって壊滅へと追い込まれてしまいました。
当時、国を治めていたシベリア王と王妃は惨殺され、
運よく難を免れていた王の息子は、幼馴染の少女の手を引いて、命からがら国から逃げ出します。

炎が躍る祖国を眺め、王の息子はその幼い胸の内に復讐を誓いました。
家族を奪い、国を奪った魔王を、魔族を、絶対に許しはしないと。

黒い感情を燃やす少年の横で、幼馴染の少女は、ただただ涙を溢しておりました。
王国を焼き尽くす炎が消えるまで、ただただ泣いておりました。

4名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 20:57:13 ID:FlkhsUtU0





ξ ゚⊿゚)ξ魔王と王女が魔王を倒すようです(゚- ゚ 川






_

5名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 20:58:23 ID:FlkhsUtU0

 昔―――シベリア王の息子が、言いました。


「ぼくは、絵本で見たような勇者になりたい」


 その日初めて会った魔法使いが、言いました。


「わたしは、何でも話し合える友達が欲しい」


 二人の『願い』を聞いた少女は、俯いたまま黙っていました。


「……」


 何も言わない少女の顔を覗き込むように、魔法使いは尋ねます。


「…君の『願い』は、何ですか?」

6名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 20:59:12 ID:FlkhsUtU0

* * * * * *

 * * * * * *


ξ ゚⊿゚)ξ「……また、懐かしい夢を見たものね」


 ここは、ヴィップ城の一室。

揺り椅子に座る王女が、目を覚ましました。
目を擦りながら立ち上がったところで、使用人たちが王女の元へやってきます。


('、`*川「おはよう。とっても綺麗ね、王女さま」

ξ ゚⊿゚)ξ「ありがとう」


 真っ白なドレスを着た王女は、開け放した窓に近づきました。

お城の外では、いつも以上に賑やかな声が飛び交っています。
街を行き交う人たちも、どこか浮かれているようでした。


('、`*川「んー…でも、せっかくの晴れ舞台だっていうのに、
     どうしてそんな浮かない顔をしてるの?」

ξ ゚⊿゚)ξ「……」

7名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:00:01 ID:FlkhsUtU0

 今日は、ヴィップ王国の王女であるツン・デレの結婚式です。

今は無きシベリアに次ぐ大国ヴィップの王女の結婚は、
世界中から注目されていました。

朝から街中が落ち着かないのも、お城中の使用人たちが走り回っているのも、全てはこの日のため。

けれど、そんなよき日だというのに、王女はあまり嬉しくなさそうです。
それどころか、どこか落ち込んでいるようにも見えました。


ξ ゚⊿゚)ξ「うん、まぁ…ちょっと」

('、`*川「まさかこの結婚、嫌なの?」

ξ ゚⊿゚)ξ「違うわよ。違うんだけどね…」

('、`*川「?」

ξ ゚⊿゚)ξ「…あいつ、もう下にいるの?」

('、`*川「ええ、準備はもうとっくに終わって、下でずっとあなたを待ってるわ」

ξ ゚⊿゚)ξ「……そう…」

('、`*川「ねぇ、本当に大丈夫? 魔王にさらわれたショックがまだ…」

ξ ゚⊿゚)ξ「あー、違う違う。大丈夫よ。もう行くわ。あとはよろしくね」

8名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:01:35 ID:FlkhsUtU0

 王女の結婚相手というのは、つい一月前に魔王から王女を救い出した勇者です。

地平線を埋め尽くすほどの魔物を前に、一瞬たりとも怯まずに戦い抜いた勇敢さと、
その物腰の柔らかさを気に入り、ヴィップ王たちもこの結婚には大賛成でした。

さきほどから暗い顔をしている王女だって、勇者に結婚を申し込まれた時はとても喜んでいたのです。
どういう訳か、今はとても落ち込んでいるようですが……。


('、`*川「はい、行ってらっしゃい」


 予定では、太陽が真上に昇る頃に結婚の儀が始まり、
それが終わればヴィップ王国は若い二人に譲られる。


―――そう、なるはずでした。


(゚、゚;トソン 「大変です!! ブーン様が、勇者様が、……さらわれました!!」

ξ ゚⊿゚)ξ「えっ」

('、`*川「えっ?」


 この使用人が来るまでは。

9名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:02:24 ID:FlkhsUtU0








            #1 王女と魔王の話




_

10名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:04:05 ID:FlkhsUtU0

 結婚相手がいなくなってしまったとあらば、当然、結婚式は中止です。

『勇者がさらわれ、結婚式は中止』。

その知らせはヴィップ国民へと伝わり、波紋のように広がってゆきました。
勇者がさらわれた事情を知る使用人は、


(゚、゚;トソン 「どうしてこんなことに…」


 一部始終を話し終え、ようやく一息つきました。

彼女から話を聞いた王女は、説明を聞いても納得いかないようです。


ξ;゚⊿゚)ξ「…確認、するわ。この城に、魔王を名乗る人物が突然現れて、
      ブーンをさらって姿を消したってことね?」

(゚、゚;トソン 「はい…」

ξ;゚⊿゚)ξ「どういう事? 魔王は封印されたんじゃなかったの?」

('、`*川「私もそう聞いてるけど」

ξ ゚⊿゚)ξ「……」


 おろおろとうろたえる使用人たちの前で、王女は腕を組んで、何やら考え始めました。

11名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:05:44 ID:FlkhsUtU0

彼女は、さらわれた勇者の性格をよく知っています。
頼りにはなるけれど、いざという時に限って冷徹になりきれない事があったのも、
分かっていました。

けれど、一国の王女をさらった魔王に情けをかけ、
何のお咎めもなしに見逃したとも思えません。

それでも、魔王が勇者をさらったことは事実のようです。
今は、何故封印されたはずの魔王がいるのか? よりも、勇者を取り戻す方法を探すのが先決でした。


ξ ゚⊿゚)ξ「…勇者と一緒に魔王を倒した、仲間の人は今どこに?」

(゚、゚;トソン 「それが…皆様、各々の道を歩むと……。
      もう、誰がどこにいらっしゃるのか分からないのです…」

ξ ゚⊿゚)ξ「…そう」

(゚、゚;トソン 「ど、どうしましょう」


 王女がさらわれた時、ヴィップの兵隊たちは全員、魔王の城へと向かいました。
けれど、兵隊は魔王の手下と戦うので精いっぱい。

勇者以外は誰一人、魔王の元へ辿りつくことすらできなかったようです。

つまり、魔王を相手に兵隊を差し向けても無駄だということ。


ξ ゚⊿゚)ξ「……」


 これからの事を話し合う使用人たちを前に、王女は拳を握りしめました。
こんな所でこんな話をしている間にも、勇者の身は危険に晒されているのです。

これからどうするかを悠長に考える時間も、魔王と戦う具体的な方法も、何もありません。

12名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:06:45 ID:FlkhsUtU0

ξ ゚⊿゚)ξ「分かったわ。じゃあ」


 誰も勇者を取り戻しに行けないのなら、自分が行けばいい。


ξ ゚⊿゚)ξ「私が、勇者を助けに行く」


 無謀なその考えを、実行に移すだけの覚悟が、王女にはありました。


(゚、゚;トソン 「王女さま! 気は確かですか?!」

ξ ゚⊿゚)ξ「確かよ。彼に代わる勇者がいない以上、話し合いは無駄。
      誰かが行かなきゃならないわ。私は一度あいつに命を救ってもらってるし、」

ξ ゚⊿゚)ξ「…家族を助けるのは、当然の事でしょ?」

(゚、゚;トソン 「それでも、ダメです! あなたはたった一人の王女なんですよ?!
       もしも、もしも何かあったら…」

ξ ゚⊿゚)ξ「そうね。私はこの国の王女よ。でも、王女だからこそ行くの。
      家族すらも守れなければ、この国だって守れないわ」

(゚、゚;トソン 「でも!」

ξ ゚⊿゚)ξ「心配してくれるのはありがたいけど、私は大丈夫。
      だから、何も言わずに行かせてちょうだい」

('、`*川「……」

('、`*川「陛下には、なんて言うつもり?」

ξ ゚⊿゚)ξ「何も言わないで発つわ。あの人たちなら、分かってくれるから」

('、`*川「そう」

13名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:08:23 ID:FlkhsUtU0

(゚、゚;トソン 「ちょ…何納得してるんですか! ペニサスさんからも何か言ってくださいよ!
       王女さま! どうしてもと行くというのなら、どうか護衛をつけてください!」

ξ ゚⊿゚)ξ「そんなもの連れてたら目立つでしょ。一人で行くわ」

(゚、゚;トソン 「一人…」

ξ ゚⊿゚)ξ「一人で行くわ。アンタたちは誰に何を聞かれても、知らないと言い張ってちょうだい」

('、`*川「はぁ……言い出したら聞かないのは、昔からの悪い癖ね」

('、`*川「必ず戻ってくること。これが条件よ。
     一人旅立つ王女を黙って見送ったとあらば、私たちも吊るし首じゃ済まないしね」

ξ ゚⊿゚)ξ「分かったわ。ありがとう」


 使用人たちの協力を受け、王女はお城から抜け出すための準備を始めました。
ですが、国民たちから顔を知られている王女は、
この姿のままお城から抜け出す訳にいきません。

そこで、王国を訪れる旅人たちの恰好をすることになりました。
日よけの布を頭に巻きつけ、動きやすい服に着替えます。

14名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:09:27 ID:FlkhsUtU0

( ゚ ゚)「どう? 私だって分かる?」

('、`*川「分かんないわ。下手なことをしなければ、それで大丈夫よ」

(゚、゚;トソン「王女さま…本当に行かれるのですね…」

( ゚ ゚)「そう言ったじゃないの」

(゚、゚;トソン 「分かりました…。では王女さま、この国を出てからのお話ではございますが…。
      どうか、西方にある森へは決して近づかないでください」

(゚、゚トソン 「西の森は獣人の縄張りです。獣人は…その…人間を酷く憎んでいますから…。
      もし本当に魔王の城へ向かうのなら、真っ直ぐ北へ進んでください…」

('、`*川「一応、旅の荷物として必要なものは用意しておいたわ。
     必要にならなければそれに越したことはないけど、…武器もね」

( ゚ ゚)「二人とも、本当にありがとう」

('、`*川「お礼なんかより、無事に戻って来てくれればそれでいいのよ」

(゚、゚;トソン 「どうか、どうかご無事で…」

( ゚ ゚)「あいつを連れて必ず戻るわ。…じゃあ、行ってきます」


 短剣を差し、鞄を背負い、王女は今まで住んでいたお城を後にしました。
お城の門番も、変装した王女が王女だと気づかなかったようです。

堂々と城門をくぐって行った王女を見ても、何も言いませんでした。

15名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:10:59 ID:FlkhsUtU0

こそこそ行動すればかえって怪しまれます。
なので王女は、未だに混乱と興奮に包まれたヴィップの街のど真ん中を歩き、
あっというまにヴィップ国の外へと辿り着きました。

そこからしばらく北へと歩を進め、国が豆粒ほどの大きさになった頃。


ξ ゚⊿゚)ξ「はぁ」


 ようやく王女は、頭を隠す布を外します。


ξ ゚⊿゚)ξ「……」


 彼女が魔王にさらわれたのは、ついこの前の事でした。

だから、魔王の城のことも、その城主のことも、まだよく覚えています。
あまたの魔族を率いていたのは、血も凍るような性格の女でした。


川 ゚ -゚)


 ―――そう。

今、王女の真正面に立っている女によく似た―――

16名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:12:25 ID:FlkhsUtU0

ξ ゚⊿゚)ξ「……え?」

川 ゚ -゚)

ξつ⊿゚)ξ「……????」


 見間違いだと目を擦ってみても、王女の前にいるのは、
憎たらしい魔王に間違いありません。

勇者に助けられるまで、何度もその鉄面皮を見ています。
ですから、見間違う訳がありません。


川 ゚ -゚)ノ「―――やあ、これはこれはヴィップ王国の王女様ではないか」

ξ ゚⊿゚)ξ「…え?」

川 ゚ -゚)「うん、まぁ言いたい事はよく分かる。分かるから、とりあえず話をしよう。
     だから、こっちに向けている剣を下ろせ」


 憎たらしい魔王に向けた剣はそのままに、王女は魔王に詰め寄りました。
使用人の言う事が確かであれば、勇者をさらったのはコイツです。

17名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:14:09 ID:FlkhsUtU0

ξ ゚⊿゚)ξ「久しぶりね。今度は一体、だれをさらいに来たのかしら?
      勇者を、ブーンをどこへやったの? アンタ、何でここにいるの?」

川 ゚ -゚)「やれやれ、久々に会ったというのに、再会を喜ぶ言葉もなしか」

ξ ゚⊿゚)ξ「再会を喜ぶ? 冗談にしても、面白くないわ」

川 ゚ -゚)「それに、質問も多い。だが、優しい私は一言でお前の質問に答えてやろう」

川 ゚ -゚)「『一体何の話だ?』」

ξ#゚⊿゚)ξ「白々しい。結婚式をめちゃめちゃにしただけじゃ飽き足らず、
      今度は何をするつもりなのかしら?」

川 ゚ -゚)「結婚式がめちゃめちゃ? ……ははぁ、さては勇者に逃げられたな?」

ξ ゚⊿゚)ξ「まだ白を切る気? なら、もういいわ。
      今ここでアンタの首、落としてあげる」

川 ゚ -゚)「あー待て待て、早まるなよ。
     冗談抜きに、お前が何を言っているのかさっぱり分からん」

川 ゚ -゚)「少しは落ち着いたらどうだ?
     そんなんだから、婚約者に逃げられるんだ」

ξ#゚⊿゚)ξ「そうね、落ち着きましょうか。
      アンタの首を刎ねたその後にね」

川 ゚ -゚)「待てと言ってるだろう。お前も大変なのかもしれないが、私だって大変なんだぞ」

ξ#゚⊿゚)ξ「そうでしょうね。殺されようとしてるんだから」

18名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:16:32 ID:FlkhsUtU0

川 ゚ -゚)「だから、その剣を下ろしてくれと頼んでいるじゃないか。
     今の私にとっては、そんなガラクタの剣でも恐ろしい凶器に見えるのだぞ」

ξ ゚⊿゚)ξ「何よそれ…どういう事?」

川 ゚ -゚)「話せば長くなる」

ξ ゚⊿゚)ξ「三行で」

川 ゚ -゚)「勇者に敗れ、あいつの持つ剣に魔力をほぼ根こそぎ奪われた」

川 ゚ -゚)「私の敗北を機に、先代の魔王に王座まで奪われた」

川 ゚ -゚)「余り」

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

川 ゚ -゚)「だから今の私は、魔王でもなんでもないぞ。
     城に居ても面白くないから、ここまで家出しに来たんだ」

川 ゚ -゚)「魔法が使えないせいで、この私がこんな所まで歩いて来たんだぞ。
     移動魔法はおろか、簡単な火の魔法ですら使うのがやっとな私が、勇者を誘拐できるだけの力があると思うか?」

ξ ゚⊿゚)ξ「…じゃあ」

ξ ゚⊿゚)ξ「アンタに覚えがないなら、ブーンを…勇者をさらったのは誰?」

19名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:17:40 ID:FlkhsUtU0

川 ゚ -゚)「はて、勇者は本当にさらわれたのか?
     逃げたんじゃないのか? お姫様に愛想尽かして」

ξ#゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「本気にするなよ、冗談だ。
     まぁ、勇者が魔王にさらわれたと言うのなら、犯人は今の魔王…」

川 ゚ -゚)「『荒巻』という男だろうな」

ξ ゚⊿゚)ξ「…そいつ、強いの?」

川 ゚ -゚)「お前よりは強いだろうさ」

ξ ゚⊿゚)ξ「…それだけ聞ければ充分よ。
      協力、感謝するわ。それじゃあね」

川 ゚ -゚)「おい、聞くだけ聞いて行くつもりか? 今度は私の質問に答えてもらうぞ」

川 ゚ -゚)「お前、どこへ行くつもりだ? 護衛もなしに散歩するには、
     ちょっと遠くへ来すぎではないかね?」

ξ ゚⊿゚)ξ「私がどこへ行こうと、アンタには関係ないでしょ」

川 ゚ -゚)「そんな冷たい事を言うな、悲しいじゃないか。
     僅かではあるが、同じ時間を過ごした仲だろう」

ξ ゚⊿゚)ξ「気持ち悪いこと言わないでよ」

川 ゚ -゚)「まぁそう言うな。お前の魂胆は分かっている。
     勇者を助けに行くつもりなんだろう?」

ξ ゚⊿゚)ξ「……」

20名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:18:42 ID:FlkhsUtU0

川 ゚ -゚)「王女が勇者を助けに行く、なんて滑稽な話だな」

ξ ゚⊿゚)ξ「……」

川 ゚ -゚)「ま、私には関係ないようだからな。では、良い旅を。王女殿下」


 長話を終え、魔王はおどけたように腰を折ってみせました。
王女の脇を通りすぎ、魔王はヴィップの方へと向かって歩いてゆきます。

その背中を目で追いながら、王女は考えました。


ξ ゚⊿゚)ξ「(こいつ、どこへ向かってるのかしら)」


 魔王が進む先には、ヴィップ王国しかありません。

元、とはいえ、魔王が人の住む国に何の用があるというのでしょう。
ろくでもない考えばかりが浮かび、王女は思わず魔王を呼びとめました。


ξ ゚⊿゚)ξ「アンタは、どこへ行くのよ」

川 ゚ -゚)「お言葉ですが、王女殿下。わたくしめの行先など、王女には関係ないのでは?
     王女さまは勇敢にも厳しい旅へ突き進もうとしているのに、
     わたくしめのような、ただの小娘の目的地などをお耳に入れることはありません」

川 ゚ -゚)「どうぞ、勇者どのをお助けして差し上げてくださいませ」

ξ ゚⊿゚)ξ「ぶっ殺すわよ」

21名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:19:40 ID:FlkhsUtU0

川 ゚ -゚)「なんだ、王族の機嫌を損ねないような言葉を選んだのに」

ξ ゚⊿゚)ξ「いいから、さっさと答えなさい」


 再び剣を向けた王女に、魔王は露骨に嫌そうな顔をしてみせました。
そして、渋々ながらに答えます。


川 ゚ -゚)「…ヴィップ以外、何があるというのだ?
     勇者のあの忌々しい剣に魔力を没収され、悲しいことに今の私は、
     ただの人間にすら怯えてしまうくらい弱体化してしまった」

川 ゚ -゚)「だから、コツコツ地道に経験値稼ぎに行こうと思ってな」

ξ ゚⊿゚)ξ「経験値?」

川 ゚ -゚)「勇者が魔物相手にやるだろ? 敵を倒しながら旅をするサバイバル。
     勇者に倣い、私もそれをやってみようと思ってな。
     まぁヴィップほどの人数がいれば、多少なりとも勘は取り戻せよう」

ξ ゚⊿゚)ξ「それってつまり」

川 ゚ -゚)「ヴィップの国民皆殺し」

ξ ゚⊿゚)ξ「待ちなさい」

川 ゚ -゚)「だが断る」

ξ ゚⊿゚)ξ「ぶっ殺すわよ」

川 ゚ -゚)「はぁ…。分かったよ、剣をしまってくれ」

22名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:20:57 ID:FlkhsUtU0

 剣の切っ先を向けられれば、弱体化した魔王はいう事を聞かざるをえません。
どうやら、本当に彼女の魔力は奪い尽くされてしまったようです。

けれど、王女は油断しません。
切っ先を向けたまま、王女は魔王を睨みました。

誘拐され、確かに何もされなかったとはいえ、魔王を許す気はないのでしょう。


ξ ゚⊿゚)ξ「―――そんなに弱ってるなら、私でもアンタを倒せるわけね」

川 ゚ -゚)「おおおおおお落ち着け、お前が私を恨むのは分かるさ。
     仕方ないな、独房に入れて、あんなことやこんな事をしたんだから」

ξ ゚⊿゚)ξ「されてないわよ、捏造すんな」

川 ゚ -゚)「まぁ落ち着いてよく考えてみろ、ここで私を殺しても勇者は戻らない。
     何故なら、勇者を誘拐したのは私じゃないからだ」

川 ゚ -゚)「それより、ここで私たちが再会したのも運命ではないか」

ξ ゚⊿゚)ξ「嫌な運命だこと」

川 ゚ -゚)「そう言うな。これはチャンスだぞ?」

ξ ゚⊿゚)ξ「チャンス?」

川 ゚ -゚)「そうだ。自ら剣を取ってまで勇者を取り戻したいお前と、
     今の魔王…荒巻を殺し、再び魔王の座に返り咲きたい私。
     偶然にも、私たちの目的は一致しているとは思わんか?」

ξ ゚⊿゚)ξ「……」

川 ゚ -゚)「魔王を完全に倒さなければ、お前たち人間は平和には暮らせないぞ」

ξ ゚⊿゚)ξ「それ、アンタが言うセリフ?」

23名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:21:59 ID:FlkhsUtU0

川 ゚ -゚)「お互い、荒巻と戦う必要がある。
     ここでいがみ合っているより、手を組んで共に戦った方がいいに決まってる」

ξ ゚⊿゚)ξ「……」

川 ゚ -゚)「どうだ、悪い話ではないと思うが?」

ξ ゚⊿゚)ξ「…そうね」

ξ ゚⊿゚)ξ「不安はあるけど、一緒に戦うというのには賛成よ。
      アンタは弱ってるみたいだし、寝首かかれる心配もなさそうだしね」

川 ゚ -゚)「だろう。一人で事を急けば、勇者だって取り戻せないかもしれない。
     お互いに裏切りはなしだ、少なくとも荒巻を倒すまでは」

ξ ゚⊿゚)ξ「……」

ξ ゚⊿゚)ξ「仕方ないわね。分かったわ。
      ただし、アンタが変な気を起こした場合は私がすぐに殺すわよ」

川 ゚ -゚)「疑い深い奴だ、裏切りはなしだと言ったばかりではないか」

ξ ゚⊿゚)ξ「魔王の言葉なんか信用してないわよ」


 そっぽを向いた王女に、魔王が手を差し出しました。
どうやら、握手をしようとしているようです。

24名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:22:49 ID:FlkhsUtU0

川 ゚ -゚)「まあいい。では、一時的にではあるが、休戦だ。
     私は元・魔王のクール。クーと呼んでくれて結構」

ξ ゚⊿゚)ξ「…ヴィップ国王女、ツンよ」


 差し出された手を渋々握り返し、王女も自分の名を名乗りました。


かくして、人間の国の王女と元・魔王の奇妙な組み合わせが織りなす長い物語が、
始まりを告げることとなります。

さらわれた勇者を助けに行く王女と、
今の魔王を殺し、再び魔王へと返り咲きたい元・魔王。

二人の物語は、色んな人間や種族を巻き込み、まだまだ続いてゆきますが―――


それはまた、次のお話。

25名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:23:40 ID:FlkhsUtU0



ξ ゚⊿゚)ξ 魔王と王女が魔王を倒すようです

#1 王女と魔王の話 おしまい



_

26名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:26:54 ID:u6jGQQXAO
乙です

王道、だがそれがいい!
面白かったので続き楽しみにしてますお

27名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 23:06:39 ID:/1m6x44U0


28名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 23:16:06 ID:TsPzcNkQ0
王道かどうかまだわからんが、先が気になるね

29名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 02:25:41 ID:ZxMtuppYC
土日くるかな?個人的にこの手の作品好きだから継続してほしいね

30名も無きAAのようです:2012/07/28(土) 08:22:40 ID:SaX74rfk0
ルヴィッサとエスト?

それっぽいく感じた自分は‥‥

31名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 03:56:47 ID:v5NjWqm2O
まだかゴルァ!

32名も無きAAのようです:2012/08/04(土) 13:56:51 ID:D5/r4D7c0
ごめんもう少しだけ時間かかる

>>30
サキュバスクエストか
かなり違うけどそんな感じ

33名も無きAAのようです:2012/08/29(水) 11:33:26 ID:ZJZKmRhUO
放置は甘え

■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■