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( ^ω^)ヴィップワースのようです- 1 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:05:26 ID:6rBbiW5k0
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前スレ ( ^ω^)ブーン系創作板過去ログ(第5話〜第8話後 幕間2話まで)
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- 2 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:07:39 ID:6rBbiW5k0
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─交易都市ヴィップ 【悠久の時の流れ亭】─
クーは、早めの昼食を取りながら、張り出された依頼の中から今日赴く依頼を吟味していた。
川 ゚ -゚)(全く、奴め……人騒がせな)
ブーン一行と共に怪樹の森に囚われたあの一件以来、しばらく依頼は受けていなかった。
一つだけ気掛かりな事があったのと、どうにも気分が乗らないのがその理由だった。
しかし、今朝方この宿のマスターからある言伝を聞かされてから、胸のつかえは取れた。
長らく行方の知れなかったあのお調子者のギコが、ヴィップを発つからと言い残したらしい。
どうやら同伴者とバルグミュラーを目指すらしいが、あの未熟者の腕では命を落としかねない。
安否を確認できたのはいいが、それがまた新しい心配事の種でもあった。
皿に残っていた煮豆を口の中へと放り込むと、それをコーヒーで流し込んで席を立とうとした。
そのクーの前で、一人の男が靴音を止めた。
(釻_ヽ釻)「あんた、クー=ルクレールか?」
- 3 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:08:44 ID:6rBbiW5k0
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川 ゚ -゚)「…………」
突然、肉厚の板金鎧。フルプレートを着込んだ中背の男が語り掛けて来た。
暗殺者ギルドとおぼしき連中が栽培していた、コカやケシの畑を暴いた先の一件を思い出す。
ギコと共に命を狙われたあの時依頼、自分を付け狙う存在には出くわしていないが、警戒は怠らない。
周囲を見渡せば、同業者やマスターの視線もちらちらと自分達二人へと向けられていた。
まさか白昼堂々と人目を憚らず襲ってくるような輩もいないだろう。
訝しむ視線を投げかけたのは一瞬だったかと思ったが、それに気付いたようで、男は自ら名乗った。
(釻_ヽ釻)「……怪しい者じゃない。俺はスタンリー、あんたと同じ冒険者だ」
川 ゚ -゚)「何故、私の名を?」
(釻_ヽ釻)「俺はついさっきこの街に来たばかりなんだが、どうしても腕の良い奴の力を借りたくてね」
そう言ってスタンリーは、マスターや周囲の同業者の方へと顎を向ける仕草を見せた。
- 4 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:09:55 ID:6rBbiW5k0
- 余所から来た一見の客というものは、大抵の場合”訳有り”が多い。
多分に厄介ごとを孕んでいるであろう問題は、高額報酬の裏で大抵危険が付きまとう。
そういった物に関わりたくないという気持ちは、恐らく大半の冒険者が抱いているはずだ。
クー自身もそうであるのだが、この時は周囲に体よく名を利用された形だった。
川 ゚ -゚)「……はぁ。依頼、という事だな?」
(釻_ヽ釻)「あぁ。俺に随伴してもらう事になるが、報酬は高額だ」
川 ゚ -゚)「スタンリーと言ったか。お前の話し方から察しはつくが……それでいて、危険なんだろう?」
(釻_ヽ釻)「最悪は……な。死ぬかも知れん───が、報酬は1500spを山分けだ」
クーの予想通り、高額な報酬。
だがそれを魅力的と思うかどうかは、話を聞いてからだ。
命あっての物種────生きているという事以上に価値あるものなど、存在しないのだから。
川 ゚ -゚)「内容次第では、余所を当たってもらうぞ」
(釻_ヽ釻)「………一応、話を聞いてもらうとしようか」
スタンリーと名乗った男はクーの正面へと座して、ゆっくりと語り始めた。
- 5 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:12:27 ID:6rBbiW5k0
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( ^ω^)ヴィップワースのようです
第9話
「散るは徒花 名は紫苑」
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- 6 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:14:55 ID:6rBbiW5k0
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スタンリーが話してくれた依頼の内容は、ごく簡潔なものだった。
一言で簡単に説明が済んでしまう、”人の業”の類の依頼だ。
川 ゚ -゚)「人斬りか」
(釻_ヽ釻)「そうだ。すでに5人殺されている───皆、見る影も無い程に五体を細切れにされてな」
その犯人の意図は知る必要も無いだろう。
ただ愉しむために、人は人を殺す事だって出来るのだから。
川 ゚ -゚)「異常者だな、そいつは」
(釻_ヽ釻)「あぁ、胸糞の悪い話だ。どれも手口は同じで、遺体の切り口は剣でやられたものだ」
川 ゚ -゚)「そうだとするならば……手練の者か」
(釻_ヽ釻)「あぁ、一筋縄で行く相手じゃあなさそうだが、現場さえ押さえれば俺とアンタの二人でなら行けるだろう」
川 ゚ -゚)「………ふむ」
- 7 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:15:44 ID:6rBbiW5k0
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剣に自信が無い方ではなかった。
話の冒頭から既に察しは付いていたが、単独の快楽殺人鬼であろう。
しかし、そいつを抑えきれるかどうかはまだわからない。
二人一組で挑むのならば相方の力量という一点に、結果は大きく左右される。
(釻_ヽ釻)「ま、今は冒険者の真似事をしちゃいるがね……これでも傭兵稼業は15の時からやってたさ」
考えに表情を強張らせるクーの様子に気付いてそう言葉を掛けてくるあたり、勘も悪くはない。
「それなりに自信はあるつもりだがね、俺自身も」
そう言ってのける彼自身の風貌を見ても、どこかの未熟者とは大違いだ。
恐らくは信頼に足る、背中を任せられるだけの力量を持つ人物だった。
川 ゚ -゚)「場所は」
(釻_ヽ釻)「殺しが起こってるのは、ここから東のリュメさ。あすこじゃ冒険者の人手が無くてな……
それで、募集のしやすそうなヴィップまで来たって訳だ」
- 8 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:16:52 ID:6rBbiW5k0
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交易都市ヴィップからもほど近い、寂れた田舎町。
盗賊ギルドが台頭している治安の悪い場所だと記憶していた。
しかし、そんな凶悪な人間一人が長々と潜伏し続ける事が出来るほどに、広い街ではない。
川 ゚ -゚)「所で、もう依頼は請けたのか?依頼状は?」
(釻_ヽ釻)「あぁ、依頼人には受ける方向で既に話はしてある。
面倒臭そうな客だ。嫌味ったらしい成金野郎だったよ」
川 ゚ -゚)「なら後は、私次第というわけか……」
話に聞く限りでも、血生臭いその依頼。
張り込んでその現場を取り押さえようとすれば、当然犯人とは斬り合う事になるだろう。
ある晩に見かけた、月を背にした一人の暗殺者の顔が薄らと思い出された。
あんなに躊躇やためらいの感情、何一つもはさむ事なく人を斬れる奴が相手ならば、恐ろしい。
しかし、そんな狂人が跋扈しているのを見過ごしておけないというのも、クーの本心だ。
- 9 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:18:47 ID:6rBbiW5k0
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(釻_ヽ釻)「血生臭い殺しの現場は女のあんたにゃきつかろう。実際に調査してみて、
無理だと判断したら打ち切ってもらっても構わない……その場合、300sp払おう」
川 ゚ -゚)「悪くない待遇だが……なぜそこまで私に拘る」
他にも力量のある冒険者など沢山いるのに、と疑問をぶつけた。
恐らく彼はここより多くの古参が集まる失われた楽園亭に行くべきだ。
しかし、スタンリーは笑いながら言う。
(' _ヽ釻)「何、話してみて思ったが───むさ苦しい男より、アンタみたいな美人と歩く方がいいだろう?」
川 ゚ー゚)「ふっ。口説いてるつもりか、それは?」
(釻_ヽ釻)「はは、そんなつもりはねぇんだが。まぁ礼儀の内さ」
冗談も言える男なのだと、クーも笑った。
あの、ブーン一行と力を合わせて窮地を乗り切った後からだっただろうか。
これまで抱いてきた誰かを旅に伴うという事に対しての抵抗感を、クーは忘れつつあった。
- 10 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:21:20 ID:6rBbiW5k0
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へらへらと自由気ままに冒険者稼業をして生きている連中、そんな彼らに
自身の憧れでもある冒険者という職を甞められたくないという気持ちがあったのは、
パーティーの一団をただ群れているだけの連中だと、見下していたからだ。
しかしそんな一人一人にも、旅を続ける理由やそれだけの想いがあるのだと、気付き始めていた。
川 ゚ -゚)「ひとまず付き合おう」
しばし考え込んだ後、クーは言葉を続けた。
条件としては悪くない。
それに、やはりクー自身も見過ごしてはおけぬ問題だからだ。
川 ゚ -゚)「しかし、犯人の特定が難しい場合は、悪いが打ち切らせてもらうぞ。
想像以上に困難な依頼だと判断した場合にも、な」
(釻_ヽ釻)「待ってたぜその言葉───なぁに、地元の盗賊ギルドの協力がありゃあ、すぐよ」
川 ゚ -゚)「……盗人の手助けというのは」
(釻_ヽ釻)「いや、そう悪い奴らでもねぇさ。話してみて思ったがな」
- 11 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:22:20 ID:6rBbiW5k0
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川 ゚ -゚)「………」
クーは内心気が進まなかったが、目撃情報などを集める際には必ずや彼らの力が必要になる。
だから、スタンリーが力強い口調でそう言い切るのを、否定する事はしなかった。
「さて。まずは依頼人、”ゴードン=ニダーラン”に会いに行こうか」
─────
──────────
───────────────
翌々日。
- 12 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:24:16 ID:6rBbiW5k0
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──【 リュメの街 】──
「おい、寄るな!」
打ち捨てられた教会前の広場に、数人の人だかりが集まっていた。
”それ”を目の当たりにしてしまったものの中には、気分を悪くしてその場で胃の中身を吐き出す者もいた。
街の権力者であるゴードン直属の衛兵数人も、おろおろしているばかりで役には立たない。
そんな中、盗賊ギルドの数人は女の死体が人目につかぬよう気遣いながら、痕跡を調べていた。
鋭利な刀傷に骨までが易々と斬り落とされている、手口は同じだ。
人間業とは思えないこの所業─────この街に、とうとう6人目の犠牲者が出てしまった。
民衆の誰かが、口にした。
「──────こりゃあ………酷ぇ……」
( "ゞ)「………」
- 13 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:27:05 ID:6rBbiW5k0
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顔までもすっぱりと輪切りにされているのは、女性。
その女の目元や口元に視線を落としてから、リュメの盗賊を束ねるデルタは切なさを浮かべた。
今朝から姿を見ていなかった仲間である彼女は、
誰かに見つけてもらえるのを、この場所でずっと待っていたのだと。
( "ゞ)(………ジュリア)
彼女の顔の傍に腰を落とすと、彼は手に血が着くのにも構わず、見開いた瞼を閉じさせてやった。
「───くそったれッ!くそぉッ!」
仲間の死に嘆き哀しみ、涙を零すもの。
その犯人に対しての怒りを露にし、地面を拳で殴りつけるもの。
盗賊ギルドの仲間たちの反応は様々だったが、その彼らの長であるデルタはゆっくりと立ち上がると、
背後へと振り返り、無念を口にする部下達のそれら想いを、”冷静”な表情で受け止める。
泣き腫らす部下の一人の肩に、ぽん、と手を置いた。
- 14 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:28:32 ID:6rBbiW5k0
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「お頭ぁッ!どうして───どうしてこいつが………」
( "ゞ)「……お前さん、惚れてるんだったか」
「畜生、畜生!………ぶっ殺してやる……!」
( "ゞ)「………」
”ぎちぃッ”
──────否。
デルタもまた、激情に飲み込まれて理性の箍を外しそうになるのを、必死に堪えていた。
握り締めた拳の中で自分の爪が皮膚へと食い込み、そこから血が滴る程の怒りを、抑えていたのだ。
- 15 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:31:31 ID:6rBbiW5k0
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衛兵達が苦々しい表情を浮かべながら亡骸を片付け、集まった民衆を散らしていく中。
腹の底に溜まった自分の感情を、吐き出すようにしてデルタは広場にて叫んだ。
(#"ゞ)「いいか………もう、他人事じゃねぇぞお前らッ!」
(#"ゞ)「集めた情報は、どんなもんでも俺のとこに持ってこい!
絶対に野郎をこの街から出さないように、交代で街の出入り口への見張りを固めろ!」
(#"ゞ)「───袋叩きなんかじゃ済まさねぇ。野郎を、生かしてこの街から出すな!!」
「合点でさぁッ!!」
「!ッ……お、おぉよお頭!」
「やってやらぁッ!見てろよジュリア!」
彼ら盗賊ギルド同士の結束は、強い。
ましてや、住民同士で助け合って生きていかなくては生計を立てるのが難しい、このリュメでは尚更。
- 16 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:33:39 ID:6rBbiW5k0
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その自分達の街が、そこに住まう気の良い住人や、大事な身内が。
きちがいの人斬りの餌食になるというのは、何よりも許しがたかった。
この狭い街にあって、まだそいつがのさばる事を許してしまっている自分自身にすらも。
( "ゞ)(クソッタレが)
その言葉は、自分に対して向けられた言葉だ。
────気付けば、惨たらしい死に様を晒していた彼女の亡骸は、もう衛兵達によって殆ど片付けられていた。
住民達も皆それぞれの生活へと戻っていき、部下の盗賊達は息を巻いて情報収集の為、何処かへと消えた。
そうして誰も居なくなった広場、最後までその場に残っていたデルタが背に背後を感じて振り向く。
「………ぃ」
( "ゞ)「………?」
そこに居たのは、子供。
- 17 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:35:38 ID:6rBbiW5k0
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みすぼらしい服装をしている彼女は、ぼうっとある一点を見据えていた。
ジュリアの亡骸が置かれていた辺りだろうか。
( "ゞ)「………なんだ、嬢ちゃん」
「………」
何かを口にしたが、その言葉までは聞き取れなかった。
デルタの問いかけにも反応する事はなく、ゆっくりと振り返ると、少女はそのまま走り去る。
多感な子供には、凄惨な殺人現場に何かが視えていたのかも知れない、と思った。
あるいは、殺されたジュリアの血痕を見て、何らかの思いを呟いたのだろうか。
痕跡だけが、まだはっきりと残っている。
遺体が安置されていた周辺の石床は、中心から外側へ向けて放射状に黒く染められていた。
ただ剣に斬られたというだけで、全身の血液が飛散したかのようなこんな飛沫が、上がるものだろうか。
( "ゞ)(……仇は、取ってやるからな)
───────────────
──────────
─────
- 18 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:36:49 ID:6rBbiW5k0
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─────クーとスタンリーの二人がリュメに辿り着いたのは、その晩の事だった
(釻_ヽ釻)「ふぅ。途中何度かアンタを襲っちまいそうになりかけたが、どうにかここまで来れたよ」
川 ゚ -゚)「そんな事をしていれば、今この場に居るのは私一人だったな」
(釻_ヽ釻)「はっ、違ぇねぇぜ姐さん」
一晩を共にする内、クーはスタンリーと随分砕けて話せるようになっていた。
自分の中で起こっている微かな変化には、クー自身まだ気付いていない。
他人と組むのを毛嫌いしていた自分が、こうして誰かと対等に話し、接している事に対して。
また、それがブーン達との一件。
ツン=デ=レインに感情をぶつけたあの時から、微弱な変化をもたらしたのだろうという事には。
(釻_ヽ釻)「辛気臭ぇ街だが、この館だけは大層な造りだろう?」
- 19 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:37:59 ID:6rBbiW5k0
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実質的にこの街を領主より任されている、町長”ゴードン=ニダーラン”の館の前に二人は立つ。
交易都市の家々から見ればさもしい造りだが、広大な敷地の館へと繋がる玄関口には、
二人には理解し難い芸術的造詣を宿した美術品の数々が建ち並んでいる。
川 ゚ -゚)「ふん、富がこんな下らないものに注がれているのか」
(釻_ヽ釻)「豪族崩れが偉そうになぁ……世話しなきゃいけない住人達の事より、見栄が大事なのよ」
どうやら、クーとスタンリーでは意見が合うようだ。
わりかし馬の合う二人なら、連携も取りやすいと思えた。
ぶつくさと文句を垂れながら、絢爛な飾りが施された門をスタンリーが叩いた。
すると、直ぐに黒の正装に身を包んだ召使いと思しき白髭の男が顔を出す。
「……冒険者の方々ですね、お待ちしておりました」
(釻_ヽ釻)「今日は同行する相棒も連れて来たぜ」
- 20 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:39:01 ID:6rBbiW5k0
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川 ゚ -゚)「よろしく頼む」
「あい解りました────ですが、恐れながら外での会話、内まで聞こえておりました……」
(釻_ヽ釻)「そうかい?聞こえるように言ってやったのさ」
わざわざ館内へと響かせるようにして、上向きに声を大にするスタンリーの様子にクーが笑う。
川 ゚ー゚)「ふっ」
「は、はぁ……ですが、旦那様の前ではどうか失礼のなきよう……お願いしたいかと……」
腰を折りながら両手を揉む召使いが、そう釘を刺した上でクー達を招き入れた。
川 ゚ -゚)「善処するさ」
- 21 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:40:05 ID:6rBbiW5k0
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──リュメ 【ゴードン邸内】──
<丶`∀´>「良く来てくれたニダね」
通された一室で、依頼人であるゴードン=ニダーランと出会った。
金糸での刺繍が施された見栄えだけは絢爛なバスローブに身を包み、肩手には葡萄酒が注がれたグラスを持つ。
川 ゚ -゚)「………」
余所の土地から来たのだろうか、特徴的な訛りを残し、少し角ばった頬骨のその男。
思ったよりは覇気の無い、という印象だった。
その彼の様子に口を出したのは、スタンリーだ。
(釻_ヽ釻)「今日は随分と元気がないね、旦那」
<丶`∀´>「………」
ガラステーブルの卓上にグラスをことり、と置くと、ゴードンは目を伏せた。
- 22 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:41:27 ID:6rBbiW5k0
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<丶`∀´>「……今日の早朝、6人目の犠牲者が発見されたニダ」
川 ゚ -゚)「!」
どこか気落ちした様子のゴードンの様子にも、頷ける。
スタンリーが助力を求めてヴィップから戻ってくる四日の間に、また一人殺されたというのだ。
<丶`∀´>「ついさっきまで、家の前に居た住人達が口々にウリを罵ってたニダよ……」
(釻_ヽ釻)「……そいつは、気の毒になぁ」
スタンリーの言葉は、犠牲者へと向けられた者だ。
街の人間の安全を預かる身としては、ぶざまな事この上ない現状。
しかし、領主がこの街の執政に口出ししてこない以上、この男は全責任を負う立場にある。
沈んだ面持ちのゴードンに、少しだけ哀れみは憶えたが。
- 23 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:42:17 ID:6rBbiW5k0
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川 ゚ -゚)「いつからだ?この一連の、人斬り騒ぎが起こったのは」
<丶`∀´>「ウリの記憶では2週間程前からニダ。決まって深夜───未だ、犯人の目撃情報は無いニダよ」
川 ゚ -゚)(たった2週間の間に、6人か……)
<丶`∀´>「今は盗賊ギルドの奴らが街への出入り全てを監視してるニダ……だから」
川 ゚ -゚)(住人の中に、犯人が居る可能性が高いという訳か)
そんな芸当を成し遂げられる者が、そう隠れていられるとは思えない。
殺しに使った武器も、人間の五体を細切れにするぐらいならば返り血に塗れ、多少の血痕は残る。
外部からの侵入の線を消去すれば───恐ろしい事実だが、今も人斬りは、この町に住み暮らしているのだ。
何食わぬ顔で、人の皮を被ったその鬼畜が。
- 24 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:43:21 ID:6rBbiW5k0
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(釻_ヽ釻)「ま、そう気落ちしなさんな」
務めて明るく振舞うスタンリーが、ゴードンの肩を叩きながら言った。
彼もまたゴードンに対して少しは同情する思いがあるのだろう。
(釻_ヽ釻)「ヴィップから俺が腕利きを連れてきたんだ───解決して、やるからよ」
<丶`∀´>「……そうしてくれると、助かるニダ」
川 ゚ -゚)「あんたの為ではないが、私も全力を尽くそう」
(釻_ヽ釻)「そうさ……」
深みのある表情を、スタンリーはクーへと向けた。
依頼の完遂へ向けて本腰を入れる。
打ち切るつもりは無くなったという彼女の決心が、表情からも読み取れたであろうか。
- 25 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:45:00 ID:6rBbiW5k0
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<丶`∀´>「わざわざ、ご苦労だったニダね……」
「少しばかりやつれたな」
と、去り際にスタンリーはゴードンにぽつり漏らした。
必ず次の犠牲者が出るまでに犯人を見つけ出す、と口約束を交わして、
二人は召使いに再び招かれながらゴードンの邸宅を後にした。
外に出ると夜も深くなっていたが、すぐに寝付ける気はしなかった。
・
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- 26 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:45:55 ID:6rBbiW5k0
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──酒場 【烏合の酒徒亭】──
リュメの街では数少ない、男達の盛り場だ。
一歩店内に足を踏み入れると、まだ残る香ばしい匂いと共に店主の声が投げかけられた。
( `ハ´)「……アイヤ、お客さんアルか?」
川 ゚ -゚)「まだやってるか?」
( `ハ´)「悪いがもう店じまい────」
「シナーの親父」
言いかけた店主の言葉を遮ったのは、まだ店内で一人グラスを傾けていた、一人の男の声だ。
- 27 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:47:08 ID:6rBbiW5k0
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( "ゞ)「あんたら、冒険者か?」
川 ゚ -゚)「……そうだ」
少し暗い雰囲気を纏った男がそれを聞いて立ち上がると、隙の無い身のこなしで二人の前に歩いてきた。
白濁している瞳から察するに、目を患っているようだった。
盗賊ギルドの一人だろう、とすぐに察しはつく。
(釻_ヽ釻)「あんたは?」
( "ゞ)「この街の現状を憂いながら酒を飲む一人────さ」
川 ゚ -゚)「………」
少しふざけた口調ではあるが、酒を飲んでいるというのにその表情には緩みがない。
事実、今この街で起きている事件をどうにかしたいのだろうという心境なのだろう。
( "ゞ)「少し、飲まないか?」
- 28 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:48:23 ID:6rBbiW5k0
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( `ハ´)「デルタ!また勝手な事言いやがってアル……」
( "ゞ)「硬ぇ事言いなさんな、親父。今はこいつらの力が必要なんだからよ」
( `ハ´)「………」
厨房に居る店主が腰元に手をおいてしばし嫌そうな表情を浮かべた後、
空いた卓上の一つにでん、と酒樽を置くと、捨て台詞を残して厨房の奥へと消えて言った。
(……飲むなら、勝手に飲むヨロシ!)
( "ゞ)「……さて、こいつでゆっくり話が出来るな」
川 ゚ -゚)「デルタ、と言ったか。あんたは、盗賊ギルドか?」
( "ゞ)「あぁ、そして、今は俺がそいつらを束ねてる───まぁ座りなよ」
デルタに誘われるまま、エールの酒樽が置かれた席へと着く。
- 29 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:49:57 ID:6rBbiW5k0
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カウンターから勝手に取り出して来たグラスを、酒樽の栓を空けて琥珀色の液体で満たしていくが、
どうにもクーとスタンリーは手を付ける気にはなれなかった。
デルタが、切り出してくる。
( "ゞ)「あんたらの依頼に、協力させてくれ」
川 ゚ -゚)「………」
(釻_ヽ釻)「ふむ」
卓に広げた両手を着かせ、半ば頭を垂れるかのように二人へ言った。
盗人などに情報提供を頼むなど、という当初のクー抵抗感は、今では忘れていた。
真摯にものを頼む、その男の態度の前に。
( "ゞ)「共同戦線と行きたいんだ……無論、報酬なんざいらねぇ」
川 ゚ -゚)「珍しいな。情報料に対価を要求する、盗賊にしては」
- 30 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:50:59 ID:6rBbiW5k0
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( "ゞ)「………身内が殺られりゃ、もう他人事ってワケにはいかねぇさ」
(釻_ヽ釻)「なるほど、な」
少し皮肉が過ぎたか、とクーは自分の言葉に一寸後悔する。
デルタに対してまだ解ける事の無かった若干の警戒心だが、やがてそれも剥ぎ取れた。
仲間が殺された弔い、いち早い解決こそを願っているのだという事が、
彼の表情や声から。真剣さがひしひしと伝わって来たからだ。
(釻_ヽ釻)「どの道、あんたらに協力を仰ごうと思ってた所だ───そいつは助かる」
( "ゞ)「そうかい。だが、俺らが協力してやれるのは、野郎を炙りだすまでだ」
川 ゚ -゚)「水面下でお前たちが情報を集めている間、私たちも足を使おう。
現場を押さえた時は、無論私達の領分だがな」
( "ゞ)「………そうだな、お互いに情報を集めた方がいい。野郎は多分、恐ろしくしたたかだ」
(釻_ヽ釻)「まだ、見当もつかないのか?」
- 31 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:52:07 ID:6rBbiW5k0
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( "ゞ)「あぁ。殺しの現場に目撃者がいれば、と思ったんだがな───俺ら以外はブルッちまって、
夜は家に閉じこもったきり……外に出ていける奴なんていねぇさ」
川 ゚ -゚)「なら簡単だ。深夜に外を出歩いている奴が、犯人なんじゃないのか?」
( "ゞ)「あぁ。だが、そう簡単に尻尾を掴ませてくれるとも、思えねぇがな」
(釻_ヽ釻)「………まずは、明日だな」
川 ゚ -゚)「あぁ」
足を使って情報を稼ぐには、今は夜も更けすぎた。
昨日の今日で再び人斬りが外を出歩くと限らない訳でもないが、今日は身体を休める事にした。
- 32 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:52:55 ID:6rBbiW5k0
-
( "ゞ)「明日から、よろしく頼むぜ」
川 ゚ -゚)「………こちらこそ」
最後に、置かれたエールグラスの端をデルタが差し出したグラスのものと軽く合わせると、
ちん、と澄んだ音が酒場内に響いた。
互いの協力の証であるその中身を飲み干すと、まだ一人グラスを傾けるデルタをその場に残して、
クーとスタンリーはゴードンから指定された宿へと向かった。
───────────────
──────────
─────
翌朝。
- 33 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:53:38 ID:6rBbiW5k0
-
昨晩はほとんど寝付く事の出来なかったデルタだが、それでもまだ日も浅い内から外をつぶさに観察していた。
見張り台がてらに使っている、ゴードンの邸宅の屋根の上で欠伸をしていた部下の一人に合図を送る。
( "ゞ)(異常ナシ……ね)
いつもならばこの時間、とうに花屋や商店が店開きの準備をしている頃だ。
だが、それでも人の出歩きがほとんどないのは、今リュメを騒がしている事件のせいだろう。
神経をすり減らしながら、何の事は無い日常の中にも鋭く視線を走らせる。
街中を巡回している内、デルタの足はやがてある場所で止まった。
古ぼけ、打ち捨てられた教会の前。
昨日、仲間のジュリアが惨たらしく斬り殺されていた、あの現場に。
( "ゞ)(………神なんざ、いねぇよ)
- 34 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:54:54 ID:6rBbiW5k0
-
「もし死の間際にジュリアがお前を願っていれば、目の前に居たお前は助けてくれたのか」
心の中で呟いたデルタの精一杯のその皮肉は、届いただろうか。
視線を落とせば、昨晩少しだけ降った雨のせいか、黒く残った血の飛沫は若干洗い流されている。
ふと、目の前で少しだけ扉が開いている廃教会の内部が、気にかかった。
現場に近い為、潜伏先と考えられるのはこの場所だ。
部下達も散々調べたと言っていたが、自分の目でも一度目にしておきたかった。
”ぎぃ”
( "ゞ)「邪魔すんぞ」
誰に聞かせるでもなく、そう言いながら扉を軽く押すと呆気なく開いた。
- 35 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:57:15 ID:6rBbiW5k0
-
入り口に立って中をつぶさに眺める。
今では街の子供たちの遊び場として使われている場所だが、デルタの目からはとても寂しい場所に思えた。
歩を進めると、納得した。
「あぁ。こんな場所では神とやらも、降りて来てはくれないんだな」と。
割られたステンドグラス。
倒れ、致命的な亀裂の入った十字架のモニュメント。
厚い層状の塊と化した、椅子へと積もった埃。
聖ラウンジが根付く事のなかったこのリュメの街。
この場所に神が降り立つ事など、もう無いのだ。
ふと視線を落とした先で、デルタはある違和感に眉を潜めた。
束の間の一瞬だが、自分の肉体が確かに何かの反応を示した。
( "ゞ)(!―――――何……だ)
- 36 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:58:30 ID:6rBbiW5k0
-
胸を締め付けられるような圧迫感。
そして、僅かだが感じたのは、頭の中をかき回されるような感覚。
見回してみるも、辺りには何の存在も認められない。
( "ゞ)(だが……底から上がってくるような……こいつは)
一度気付いてみると、寂しげな印象しか残らなかった廃教会の中に、
とてもおぞましい気配が立ち込めているような疑いの種が芽生えた。
そう。腹の底から、下からこみ上げてくるような嫌悪感。
( "ゞ)「………下かッ!?」
昨晩熟睡出来なかったせいか、常に張り詰めたままの神経。
その中で発揮されたデルタの動物的な勘は、この時冴えていた。
- 37 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:59:27 ID:6rBbiW5k0
-
入り口から牧師が立つ為の教壇へと敷かれた、埃塗れのカーペット。
それを目にした時、他の地面よりも埃の積もっている度合いが少ない、と気付いた。
カーペットの端を掴むと、がばっ、とそれを捲り上げた。
( "ゞ)「………!」
・
・
・
クーとスタンリーは、街の中を巡回しながら被害者の身辺を訪ねまわっていた。
「帰って下さい……」
(釻_ヽ釻)「───あ」
- 38 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 00:59:51 ID:lbCdR28gO
- 前スレが突然消えたので最後の投下まだ読んでない
>>1のURLでファイルシーク使って読めた、先に読んでくる
とりあえず支援
- 39 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:01:05 ID:6rBbiW5k0
-
”ばたん”
これはスタンリーが言い出した事だ。
遺体の状態や、襲われる前後に何かおかしな点はなかったかと、犠牲者の遺族に尋ねる。
結果はどれも門前払い。
それがこうして、5件連続で続いていた。
(釻_ヽ釻)「ちっ、話ぐらい聞いてくれてもいいじゃねぇか……」
川 ゚ -゚)「犠牲者の遺族に同情するさ、私もな」
(釻_ヽ釻)「ったく。失敗だったな、この案は」
川 ゚ -゚)「配慮に欠けていると言わざるを得ない。成功の見込みは薄いぞ」
とんだ空振り─────
だが、最後に一縷の希望を持って、この一連の事件の最初の犠牲者の家へと訪れた。
- 40 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:02:40 ID:6rBbiW5k0
-
”こんこん”
扉を二度叩く音は三度続いたが、しばらく待ってみても住民が顔を出す気配は無かった。
「やめときなよ」
川 ゚ -゚)「?」
不意に、二人の様子を影から見ていたであろう一人の盗賊が声を掛けて来た。
この民家の住人の内情を知っているような口ぶりで。
「ここは子一人、親一人だけで細々やってきた家庭さ………
その母親が切り殺されて、どうやらガキの方は頭がイカれちまったらしい」
(釻_ヽ釻)「イカれた?」
「あぁ……この家に人斬りのクソ野郎が押し入って、ガキが寝てる内に母親を斬り殺した」
- 41 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:04:14 ID:6rBbiW5k0
-
「なぁ、もしガキが目を覚ました時、隣でおっかさんがズタズタになってたら……お前さん方はどう思うよ?」
(釻_ヽ釻)「………」
「まぁ血の跡は綺麗に拭いてやったけどよ……それでも、ガキはまだこの家に一人で住んでる。
―――おっかさんが帰ってくるとでも、思ってるんだかなぁ……」
残された子供への憐憫。
盗賊の話を聞いても、そんな感情しか出てこなかった。
物心ついてしまった子供がその惨状を目の当たりにすれば、精神が壊れても仕方のない事だと思えた。
暗い面持ちで雁首を並べる二人に、「あまり深入りしてやるなよ」と言い残して、盗賊は去った。
川 ゚ -゚)「……一旦、デルタの情報を待つか」
そうして民家に背を向けた時、背後でぎっ、と扉が開いた音に、振り向く。
「……お姉ちゃん達、だぁれ?」
(釻_ヽ釻)「!?」
- 42 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:05:54 ID:6rBbiW5k0
-
その声に驚いたのは、クーだけではない。
視線を落とした先には、先の盗賊の話の中にあった子供が居た。
どこか、ぼうっと視線が明後日の方向へと向けられているかのように感じた。
|щ)'-')「………どうして、ここにいるの?」
川 - )「………ッ」
(釻_ヽ釻)「あっ、おい」
低く屈んで目線をその少女に合わせると、クーは思わず彼女を抱き寄せていた。
歳の頃は、まだ物心ついたばかり───昔両親を失ったかつての自分の面影が重なったのだ。
少女の表情は変わる事がなかったが、やはり虚空を見上げていた。
川 - )「………寂しく、なかったか?」
- 43 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:07:12 ID:6rBbiW5k0
-
|щ)'-')「さみ、しい?」
川 - )「お母さん、もう帰ってこないんだ」
|щ)'-')「そうだね」
川 - )「────ッ……」
何気ない問いかけ、あっさりとその言葉を返した少女の表情へと、肩を掴んで向き直った。
川 ゚ -゚)「今……なんて?」
恐る恐る、変わらず薄らと笑みを浮かべて虚空を眺める少女に、尋ね直した。
しかし、少女からの返答が変わる事はなかった。
- 44 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:08:01 ID:6rBbiW5k0
-
|щ)^-^)「うん、お母さんはもう帰って来ないんだ───だって」
(;釻_ヽ釻)「なぁ、行こう。クー」
川 ゚ -゚)「……だって?」
少女の様子に、不気味さを憶えたスタンリーがクーの腕を取る。
だが、それを軽く取り払って、クーは少女の次の言葉を待った。
|щ)'-')「お花になっちゃったの、お母さん───綺麗だったぁ」
川;゚ -゚)
クー自身もまた、少しばかり背筋が粟立った。
光を宿したその少女の無垢な瞳は、一体何を映しているのか。
母親が殺された事実を認識しても尚、まだその家に一人住み暮らす。
口にする言葉も、理解出来るようなものではなかった。
耐えられなかったのだ、少女は。
- 45 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:10:18 ID:6rBbiW5k0
-
幼い心に植えつけられた、耐え難い孤独、恐怖、不安。
そして近しい人の、子供には理解も及ばぬ程の死に目に遭って、心が決壊した。
───「紫のお花がね、咲いたの………こう、ぱぁって!」────
川; - )「………」
(釻_ヽ釻)「───行こう」
それ以上、どこか違う場所を眺めている少女に声を掛ける事は出来ず、黙って背を向けた。
少女の心が選んでしまったのだろう。
これ以上の絶望を耐えて生きるよりも、全てを忘れ去るという道。
|щ)'-')
二人の背中を、家の前でまだ見送っていた少女。
だが、そちらへ振り返る気にはなれなかった。
川 - )
「一度、デルタと落ち合おう」
そうして、またこの街には夜が訪れる。
- 46 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:39:32 ID:lbCdR28gO
- 追いついたけど、もう終わったのかな?
やっぱり○○○は大事だね
- 47 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:44:34 ID:6rBbiW5k0
- >>46
4時過ぎから再開しやす〜
- 48 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 01:51:05 ID:efrL9HugO
- ω・`)クーはイマイチ強いのか弱いのかわからんwww
- 49 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 03:59:52 ID:96P/g5ak0
- やっぱ・・・これが現行で一番すき
- 50 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:42:35 ID:6rBbiW5k0
- もうちょい完投までズレ込むけど、投下していきます。
皆様ありんすありんす^^^
- 51 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:47:44 ID:6rBbiW5k0
-
──烏合の酒徒亭──
デルタの方から呼び出しがあったのだ。
スタンリーとクーは、他の盗賊ギルド員から伝達を聞き、この場にて落ち合った。
( "ゞ)「来たか」
川 ゚ -゚)「……何か、進展が?」
( "ゞ)「とにかく見てもらいたいもんがあってな───場所を変えるぞ」
クーが浮かない表情をしているのは、あの少女の一件があってからだ。
だが、そんな彼女の表情にも構う事なく、デルタはついて来い、と外へ出た。
( `ハ´)「こらッ!酒代……」
(釻_ヽ釻)「悪いな、親父さん」
到着早々、すぐにクー達も酒場を後にした。
・
・
・
- 52 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:49:06 ID:6rBbiW5k0
-
静かな夜だった。
冷たい風が吹きつけ、肌寒さを感じる。
いつ何時人斬りに出くわす共限らない為、しっかりと辺りを警戒しながら歩く。
(釻_ヽ釻)「なぁ、どこに連れてくつもりだ?」
( "ゞ)「もう………そこだ」
川 ゚ -゚)「───教会?」
デルタが指差した場所は、クー自身にとってもあまり良い思い出の無い場所だ。
しかし荘厳な雰囲気など欠片も残っておらず、ただ打ち捨てられた、という印象を受ける。
廃墟と化した教会は、微かな月明かりを受けてその不気味さを強調していた。
( "ゞ)「行くぞ」
デルタに先導されるまま、その内部へと入って行く。
昔から何一つ変わっていないのだろう、饐えた香りに何処か懐かしさを覚える。
- 53 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:50:18 ID:6rBbiW5k0
-
川 ゚ -゚)「何も……見えんぞ……」
( "ゞ)「あぁ、忘れてた。俺は夜目の効くほうだが、あんたらは松明が必要だな」
(釻_ヽ釻)「携帯用の松明ならある。火打石は持ってるか?」
( "ゞ)「貸しな」
”ぽっ”
灯りを灯してみれば、外観同様の内装がほのかな光に照らされ、10歩先くらいまでの視界が確保出来た。
松明を持ったデルタの後に続いて歩いていくと、突然デルタはその場に立ち止まる。
そして二人へ振り返ると、足元を指差しながら言った。
- 54 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:51:22 ID:6rBbiW5k0
-
( "ゞ)「この、下だ」
川 ゚ -゚)「………蓋、か?」
(釻_ヽ釻)「何だ、こりゃ」
その蓋には、小さく窪んだ取っ手が付けられているようであった。
窪みの中へ指を差込み、スタンリーが力強く引っ張る。
”ごぉんっ”
持ち上がり、反対側へと開いたその蓋の中には───さらに地下へと続く階段が隠されていた。
川;゚ -゚)「こんなものが───」
( "ゞ)「……この地下に、とんでもねぇモンがあった」
(釻_ヽ釻)「中には、何がある?」
- 55 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:52:12 ID:6rBbiW5k0
-
( "ゞ)「いや……”あったハズ”っつぅべきだろうな……ま、着いて来い」
川 ゚ -゚)「………あぁ」
暗い階段を、心もとない松明の灯りに導かれながら一歩一歩降りていく。
饐えた廃墟の匂い───だがそれに、いずれ変化が訪れた。
鼻を突く、一度は嗅いだ事のある匂いだ。
どこまでも続くかと思われた階段は、十数段を下った所で呆気なく行き着いた。
川;゚ -゚)(何だ……この場所は)
( "ゞ)「………俺も、最初は驚いたさ」
(;釻_ヽ釻)「薄気味悪ぃぜ、何だこりゃあ」
見れば、小さな部屋の左右には教典から魔術指南書に至るまで、様々な書物が棚に収められていた。
- 56 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:53:07 ID:6rBbiW5k0
-
そして部屋の最奥、中央には小さな祭壇のようなものが鎮座していたが、
”それ”を奉っていたはずの聖十字は、地面へと転がっている。
ただ、長細い抜け殻のような木箱だけが祭壇の中央に置かれているだけだ。
( "ゞ)「足元を見なよ」
川;゚ -゚)「ッ!」
見れば、ただのボロ布だとばかり思っていたのは、引き裂かれた衣服の端や、
この教会で使われていたすすぼけたカーテン。
それらには、赤黒く血の跡が拭われていた。
酸化して変色してはいるが、まだ新しい。
犠牲者達の血という、確かな手がかりを見つけてしまった。
(釻_ヽ釻)「………どうやら、近づいてきたな」
- 57 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:54:43 ID:6rBbiW5k0
-
川 ゚ -゚)「ここを、人斬りが潜伏先に使っていたのか」
( "ゞ)「あぁ。恐らくは剣に着いた血や返り血を、この場所で拭っていたんだと思うぜ」
「だが、ここにはそれだけじゃねぇ───」
デルタが、そこらの蔵書を手に取ると、ぱらぱらと頁をめくった。
どうやらここで奉られていたらしいモノを管理していた司祭の、手記のようだ。
( "ゞ)「どうやら、奴さん相当追い詰められてたらしいぜ……」
川 ゚ -゚)「人斬りの話か?」
( "ゞ)「いや。ここでそいつを拝んでた聖ラウンジのお偉いさんの話さ」
くい、と向けたデルタの顎先は、祭壇に虚しく佇む細長い箱へ向けられていた。
- 58 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:56:27 ID:6rBbiW5k0
-
(釻_ヽ釻)「ここでの証拠は確かに手がかりになるが、お前さんは何が言いたい?」
( "ゞ)「ま───焦んなよ。読み上げるぞ」
川 ゚ -゚)「………」
ぼそぼそと、呟くように手記の内容を声にするデルタが口にする内容は、
信じる方が難しい───常軌を逸した内容だった。
( "ゞ)『●月×日……私は、大きな過ちを冒していた事に気づいてしまった。
かの剣は持ち手の精神に強烈に干渉し、触れた時には既にその者の支配は完了しているのだ』
( "ゞ)『魔剣───”シオン”そのものによる』
- 59 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:57:43 ID:6rBbiW5k0
-
川 ゚ -゚)「………魔剣、だと?」
(釻_ヽ釻)「…………」
少しだけ、この地下の祭壇に置かれていた物の正体が掴めてきた。
デルタが、なおも続ける。
『”シオン”は、人の血を吸えば吸う程に輝きを放ち、使用者への精神支配を強めていく。
一度たりとも柄に、その刀身に触れてしまえば────シオンが咲かせる”華”を見てしまえば、
もはやその魅力に取り憑かれ、手放す事は不可能になってしまう』
『………最初、ある冒険者から剣を預かって欲しいと渡された私は、それに触れてしまったのだ。
2週間ほど前の事だっただろうか───もう、遅い。今でもシオンが笑っている、私の頭の中で』
( "ゞ)『私がもう”人を殺したくは無い”と思うたび───それを奴は、嘲笑うんだ。』
- 60 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 04:58:44 ID:6rBbiW5k0
-
川;゚ -゚)「………その剣は、封印されていたのか」
(釻_ヽ釻)「祭壇に置かれてる”聖印”を見る限り、そうだろうな」
”聖印”とは、単に十字を模られたモニュメントというだけではない。
聖術を扱える者の精神力が強く篭められており、不浄な存在に対しての魔除けとなる。
もはや効力を失っているであろうそれが、今はクー達の前に虚しく転がっている。
『様々な書物を漁って精神支配を解く方法を探したが、魔術ですらもが手に負えない代物らしい。
もはや私に残された時間は無かった………●月△日、私は自ら命を断つ決心をした』
『この剣の当初の持ち主。そしてこれを作り上げた人物は、一体どれほど怨嗟を宿しているのか。
しかしその答えを知られる事ももう無いだろう───狂人の振りをして、私はここから人を遠ざけた。
使用者が命を落としてシオンの支配対象さえ居なくなれば、後は誰にも触れられずこの剣は忘れ去られる』
- 61 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:00:00 ID:6rBbiW5k0
-
『聖ラウンジの教えに背いて人を、そして自分を殺めた罰が赦される事はないだろう。
だが、この剣はあってはならない───今にも柄に手を伸ばしそうな自分の手に短刀を突き刺し、
辛くもヤツの支配から短時間だけでも逃れている。後は近くの崖から身を投げるだけだ』
( "ゞ)『願わくば、この先誰の手にも”魔剣シオン”が渡らない事を願う────』
( "ゞ)「……だと、よ」
「で、だ────その”魔剣”とやらは、どこにある!?」
手記を読み終えると、両手を広げてそう言ったデルタの背後に転がるのは、もぬけの殻。
ゴードンの話にあったように、2週間ほど前から少しずつ魔剣は力を強めているのか。
もし一連の事件が魔剣の使用者の仕業なのだとすれば、今後ますます犠牲者は増える。
川 ゚ -゚)「……信じたくは無い話だ」
- 62 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:00:58 ID:6rBbiW5k0
-
(釻_ヽ釻)「剣が、人みたいに意思を持ってるって言うのかよ?」
( "ゞ)「人間業じゃねぇあの斬り口を見る限り、そう思うのが妥当だろうよ……あれは、人の業じゃねぇ」
川 - )「それらが事実だとするならば………」
( "ゞ)「あぁ、使用者に罪は無ぇ、のかも知れん」
どうやら、斬り合いは避ける事が出来ないようだ。
この地下に封印を施した人間の話が事実ならば、説き伏せてどうなるものでもない。
使用者を斬る、恐らくはそれでしか解決策が見出す事が出来ない。
そしてその後の”魔剣”をどうするか───決して触れてはならない、それを。
- 63 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:01:47 ID:6rBbiW5k0
-
( "ゞ)「これまで、殺しは二日か……長くても四日おきに起こった」
川 ゚ -゚)「………!」
こま切れになって血の付着した衣服。それらは今回の犠牲者のものだろう。
全てではないかも知れないが、恐らく数名の衣服の端がこの場所にある。
それが意図する所は────
( "ゞ)「今日は殺しはなかったし、この場所にも奴は来てねぇ」
(釻_ヽ釻)「だとすりゃあ……」
明日の夜以降、再び現れるかも知れない。
殺す前か、殺しを終えた後か───魔剣の所有者は、当然この隠れ家の存在を知っているのだ。
この教会へ張り込めば、遭遇する可能性が極めて高かった。
- 64 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:02:49 ID:6rBbiW5k0
-
川 ゚ -゚)「……デルタ、スタンリー、動かした物は全て元の位置に戻しておけ」
( "ゞ)「あいさ……上のカーペットも戻しとかねぇとな」
(釻_ヽ釻)「”魔剣”、ねぇ。ご対面の時はどうやら近いな」
川 - )「───あぁ」
返事をしながらも、頭の中でクーは別の事を考えていた。
もし仮に相対するのが魔剣の所有者だとして、その時自分は、躊躇いなく斬れるのか。
自分の意思とは無関係に人を斬ってしまうように操られた、その人間を殺す事が。
両者ともに罪は無い───あるとするならば、諸悪の根源である魔剣自体に。
しかしそんな呪いの剣を説き伏せる術など持たないクーにとっては。
今はただ、快楽殺人者による犯行こそをと願っていた。
───────────────
──────────
─────
- 65 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:03:33 ID:6rBbiW5k0
-
──【烏合の酒徒亭】──
( "ゞ)「親父、あのマーボウなんたら、頼むわ」
( `ハ´)「アイヤーッ!」
明朝、一同は集まっていた。
打ち合わせは済ませており、後は時が満ちるのを待つだけだった。
(釻_ヽ釻)「俺は神もお化けも信じねぇんだけどよ……」
川 ゚ -゚)「死霊の類を目にした事はないのか?」
(釻_ヽ釻)「あぁ、これで結構怖がりなんでね……薄暗くて人気の無い場所は大ッ嫌いさ」
(釻_ヽ釻)「しかし───人を狂わせちまう剣なんかがあるなんて、なぁ」
川 ゚ -゚)「実際に犯人を捕まえれば、分かるさ」
- 66 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:04:53 ID:6rBbiW5k0
-
( "ゞ)「………」
「あっづ」
店主のシナーが作ってくれた絶品の料理に舌鼓を打ちながら、スタンリーが感嘆を口にしていた。
先ほどから二人の話を聞きながら静かにグラスを傾け続けるデルタの心中は、クーと似たものだろう。
地元で斬り殺されていく人が居る一方で、同じ街に住む住人を惨殺する殺人鬼に仕立てられた人間が居る。
クーが口にした”捕まえる”という時は、そいつを殺す時なのだというのが、デルタにも解っているからこそ。
(釻_ヽ釻)「そういやクーよ、ヴィップって良い街だよな?」
川 ゚ -゚)「拠点としてはな……別に、私は観光などに興味はないが」
(釻_ヽ釻)「勿体ねぇ───決めた!俺は、この依頼が終わったらヴィップを根城にするぜ」
- 67 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:05:40 ID:6rBbiW5k0
-
( "ゞ)「お前さんがたの話題にもならねぇ街で、悪かったな」
何杯目かの酒を一気に飲み干したデルタが、
たん、と音を鳴らしてそれを卓に置くと、そこで悪態をついた。
(釻_ヽ釻)「はは、そうは言ってねぇさ。けど、そうだ……アンタもどうだい?」
( "ゞ)「……俺はボスからの命令でここから動けねぇのさ」
川 ゚ -゚)「ほう、お前より更に上役がいるのか?」
( "ゞ)「まぁ、兄弟みてぇなもんだ」
「それに───これで案外、住んでみると悪くねぇ街さ」
( "ゞ)
そう言って、少し遠い目をしたデルタの白く沈んだ瞳は、やはりいくらか悲しさを秘めていたようだった。
- 68 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:06:23 ID:6rBbiW5k0
-
川 ゚ -゚)「………」
「そうだな、料理はうめぇし───人も良い!」
スタンリーが取り繕うかのように、デルタへ言った。
一緒の方向を向いて、一つの問題へと向かっていく。
その為の”仲間”が居る人間の気持ち。
それが少しずつ、確実にクーの心を氷解させている。
ブーン達と帰還した時、失われた楽園亭のマスターに聞かれた質問。
次に同じことを聞かれたら、自分はどう返すだろうか。
そうして、一時の仲間たちと共に。
────やがて、対決の夜を迎えた─────
───────────────
──────────
─────
- 69 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:07:09 ID:6rBbiW5k0
-
深夜。
──リュメの街──
川 ゚ -゚)(気配を殺せ、音を立てるなよ)
一段と冷え込む夜だった。
吹きすさぶ風が、どこか不気味に聞こえる。
これから起こる事の予兆にも思える、静けさ。
来るとすれば、今日なのか。
星が映える夜空を見上げれば、丁度月を雲が覆う所だった。
(釻_ヽ釻)(来る………気がするぜ)
( "ゞ)(黙ってろ)
三人は、教会へ向かう広場が見渡せる商店の、外に置かれた精算台の下で息を潜めていた。
- 70 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:08:03 ID:6rBbiW5k0
-
これほど静かな夜ならば遠くからでも気配を察する事が出来るとは思うが、
時折スタンリーが台から頭を覗かせては、広場前の様子を見やる。
何回目になるか、スタンリーがまたその動作を行っていた時だ。
さっ、と横切る影が、静かに木扉を押し開けて教会の中へと入って行くのを。
(釻_ヽ釻)(来たッ!)
川 ゚ -゚)(よし……ではッ)
三人が立ち上がったと同時、どこかから静かな夜空に絶叫が木霊した。
(……きゃあああぁぁぁぁぁーッ………)
(;"ゞ)「………ッ」
(;釻_ヽ釻)「何!?」
- 71 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:09:09 ID:AGhHv8VU0
- 支援
まとめつくといいですねー
がんばって
- 72 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:09:17 ID:6rBbiW5k0
-
そこからのクーの判断は、誰より早かった。
ある種、声のした方は本命ではないとの勘もあったからだ。
川 ゚ -゚)「……二手に分けよう。デルタ、様子を確認して来てくれ」
( "ゞ)「分かった……まずそうだったら、すぐに退いて知らせに来りゃいいな?」
(;釻_ヽ釻)「よし、なら確認だ。俺とクーが、教会の中へ雪崩れ込む」
川 ゚ -゚)「その通りだ───気を付けろ、デルタ!」
( "ゞ)「おおよぉッ」
遮蔽物として使っていた精算台を颯爽と乗り越えると、声の聞こえた西方へとデルタは走って行った。
声の聞こえた方は、生きた人間の叫び声だった。
恐らくは死体を見つけるかして、驚愕に怯えている女性が居るだけだろう。
今は、その後に教会へと入って行った人物の方が重要だ。
- 73 :眠い:2012/06/16(土) 05:10:17 ID:6rBbiW5k0
-
(釻_ヽ釻)「先に行くぜ────!」
川 - )(推察が当たっていれば………7人目の犠牲者か)
川 ゚ -゚)(やはり、やるしかないようだな………!)
クーとスタンリーもまた、走った。
纏わりついてくる夜の闇を切り裂くようにして、その先の闇に居る、”魔剣”の所有者の元へと。
スタンリーが教会の扉の前に辿り着くと、それを蹴りつけながらいち早く押し入った。
”バンッ”
(……うおぉッ!)
- 74 :眠い:2012/06/16(土) 05:11:42 ID:6rBbiW5k0
-
どうやら接敵したか───勘は当たっていた。
魔剣の所持者と戦闘に突入したらしき、スタンリーに向けて叫ぶ。
川 ゚ -゚)「待ってろ!」
そして、少し遅れてクーもまた教会の中へと押し入った。
外界から遮断される程の暗闇が、視界の中へ一挙に流れ込んでくる。
そうして、そこで目にしたのはスタンリーの背。
川;゚ -゚)「………スタンリーッ!」
(;釻_ヽ釻)「く、おぉッ……大丈夫だ───」
正面から”魔剣”と向かい合っているのだという事は分かる。
しかし、彼は肩口を刺し貫かれていた。
肉厚の全身鎧、フルプレートを着込んでいるというのにも関わらず。
- 75 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:12:57 ID:6rBbiW5k0
-
(;釻_ヽ釻)「今の内に、こいつをッ!」
肩を貫かれる痛みに耐えながらも、ミトンを手にはめる強みか、スタンリーは
自分に向けられた”魔剣”の刃を掴み、次の一刀を封じているようであった。
この隙に、彼を助け出さなければ。
川;゚ -゚)「………なッ」
(;釻_ヽ釻)「うぐッ!?」
しかし、踏み出したその時、異変は生じた。
貫かれた肩口から、一段と多くの血が吹き出す。
肩部を刺されたにしてはあまりにも異常な量の血は、次第に音を伴う程の飛沫を上げた。
- 76 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:15:05 ID:6rBbiW5k0
-
”ぶしゃぁっ”
(; _ヽ )「う、───がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!?」
川;゚ -゚)
───何故その時、足を止めてその光景を見送ってしまったのか、クーには自分でも解らない。
上げられた飛沫は、闇の中にあっても確かな輝きを放っていた。
美しいとさえ思える、その血の色は、あまりに目に艶やかな”紫苑”の花の色にも似て────
この世の物ではないその花の色に魅入られながら、
ある少女の言葉が、クーの脳裏を急速に過ぎった。
川;゚ -゚)「………そんなッ」
- 77 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:16:24 ID:6rBbiW5k0
-
”ずっ”
(; _ヽ )「あぐぅッ……はッ、ぁ……!」
左肩を貫いていた刃は、すぅ、と抜き取られた。
一瞬にしてもたらされた大量の失血に、間もなくスタンリーはその場に両の膝を着いた。
───(紫のお花がね、咲いたの………こう、ぱぁって!)────
クーもまた、目を奪われてしまっていたのだ。
人間の命が儚く散るような、人間の命で以って咲かせるような、その華の美しさに。
自らがやらねばならない事を思い出した時、全ては遅すぎた。
川#゚ -゚)「スタンリィッ!」
”やめてくれ”───声無きその叫びは、無慈悲な剣には届かない。
- 78 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:17:56 ID:6rBbiW5k0
-
「あはは……」
闇の中で、薄紫に発光する刃が不気味に輝く。
ふぉん、ふぉんと二度程左右へ振られると、それは膝を突く彼の頭上に、ぴたりと止められた。
(; _ヽ )「ク────」
スタンリーの元へ駆け出したクー。
最期にその彼女へと振り返り、名を呼ぼうとしたのだろうか。
────しかし、既に”魔剣”は振り落とされていた。
( _|
|ヽ )
彼の脳天から股下へかけて赤い筋が奔ると、次いで、薄紫の色へと変わる。
”うじゅッ ぶしっ ぶしゃああああああああああああああああああっ”
- 79 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 05:53:08 ID:lbCdR28gO
- まだ続いてたんだ、仮眠を拗らせてしまった
支援
- 80 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:43:55 ID:6rBbiW5k0
-
川; - )「あ……あぁッ……」
そうして彼の全身が左右へと分かたれ倒れ込む時には、一段と大きな飛沫が。
大輪の”紫苑”が教会の天井にまで届きそうな程の勢いを以って、咲き誇った。
しかし、今度はそれに目を奪われる事は無かった。
全身の力が一気に抜けていき、紫苑に彩られた目の前が、真っ白になっていく。
この道中────何日かを共に過ごした、束の間の”仲間”
そいつが、目の前で呆気なく殺されていった、事実の前に。
「………綺麗」
川 ; -;)「──────ッ」
- 81 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:45:00 ID:6rBbiW5k0
-
ワケもわからないまま、視界が涙に滲む。
喪失感か───あるいはこれから行わなければならない事への、絶望に対しての涙か。
地面に両手両膝を突いていたクーが、その声の方へ、ゆっくりと顔を上げる。
川 ; -;)「………」
|щ)゚-゚)「あはっ……またおねえちゃんだ」
そこに居たのは、昨日の昼間に会話を交わした少女。
瞳には、薄らと紫の光を宿している。
幼い子供が携えるにしては長大過ぎるその片刃の剣を、
紫苑の残影を闇に奔らせながら、無意味に薙ぎ振るっていた。
川 ; -;)(魔剣………)
- 82 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:45:42 ID:6rBbiW5k0
-
|щ)゚-゚)「ねぇ────どうしてここにいるの?」
少女は、変わらぬ声で。
そして変わらぬ表情で、また昨日と同じ質問を尋ねてくる。
しかし今度は───抱きしめてやる訳にはいかない。
川 - )「くッ」
涙を拭いながらその場から素早く身を起こし、叫んだ。
川#゚ -゚)「───貴様がッ………!貴様なのかッ!」
|щ)゚-゚)「なにが?」
怒りを、憎悪を。
憤りといえる感情の類の全てを────
幼い少女の精神を支配する───”魔剣”の存在に対してぶつけた。
- 83 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:46:43 ID:6rBbiW5k0
-
川#゚ -゚)「街の人を次々殺し───そして、私の”仲間”を殺してッ………」
|щ)゚-゚)「あはは……」
笑うな、その少女の声色で。
本来無垢な筈のその瞳が、とても邪悪なものに視えてしまうから。
川# - )「そうして……そんな幼子の手までを───」
嘲笑うな、人の死を。
尊いはずの命を、軽はずみに弄んでいいはずがない。
川#゚ -゚)「血で───汚すというのか!? ”魔剣シオン”ッ!!」
|щ)゚-゚)「………」
川#゚ -゚)「………ッ」
その名を呼んだ時、少女の雰囲気はがらりと変わった。
少女の背後、闇の中に薄らと揺らめく存在が、もやのように映る。
そして次に少女が発した声は、既に人のそれではなかった。
- 84 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:47:43 ID:6rBbiW5k0
-
|щ) - )【我ガ名ヲ、知ル者カ】
川#゚ -゚)「ッ!?」
どこまでも低く、地面を伝って腹にまで響くような男の声。
瞬時に総毛がよだつと、腰から小剣を抜き出した。
ほぼ同時に、”魔剣”もまた自身の切っ先をクーの鼻先へと突きつける。
|щ)゚-゚)【ナラバ、永キニ渡ル我ガ怨恨ヲモ知ル者カ?】
川#゚ -゚)「何を……言っている!?」
突如として場に張り詰める空気も、冷たくなった気がする。
恐らくは───今喋っているのが”魔剣”本人なのだ。
|щ) - )【言ッテモ意味ナド、解ルマイガ】
携えた魔剣が、薄紫の軌跡を暗闇で描きながら、ゆらりと構えられる。
少女自身の背丈程もあるその魔剣が放つ剣気は、並大抵のものではなかった。
- 85 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:48:30 ID:6rBbiW5k0
-
|щ) - )【……過チヲ省ミル事無ク、愚カサヲ認メル事無ク……】
川#゚ -゚)(───来る)
とん、とん、と身体を上下させ、拍子を整える。
力を貸してくれ、スタンリー。
半ば祈るように、心の中で彼へと言葉を投げかけた。
|щ) - )【ヤガテ貴様ラハ、死ニ絶ヱルベキナノダ】
少女の頭上に突き上げられるようにして、魔剣がそそり立つ。
やがてそこから、斬撃が打ち落とされる。
|щ)゚-゚)【死ネ───人間】
川; ゚ -゚)「……くッ!」
”ギィンッ”
- 86 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:49:20 ID:6rBbiW5k0
-
紫の軌道は、頭頂部を両断せしめんと放たれた。
子供の背丈からでは顔の正面へと襲い来るその一撃を、剣でいなしながら左へと抜け出た。
川;゚ -゚)(………速い)
|щ)゚-゚)「……えいっ!」
今度は少女自身の、無邪気な声。
自分の剣の迷いを見抜き、惑わそうとしているのか。
事実、クーは今でもまだ少女を斬る覚悟を持ち合わせられずに居た。
川; - )「───くそッ」
しかして振るわれる剣の速度は、合わせるのですら命懸けだ。
プレートアーマーを着込んでいたスタンリーの鎧を、易々と通してしまう程の強度もある。
受けるのならば、力の方向を流してやらなければ剣も折られかねない。
”ぶんッ”
- 87 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:50:26 ID:6rBbiW5k0
-
川;゚ -゚)「ッ」
後方へ飛び退いたところへ、横薙ぎが髪の数本を落とした。
一瞬斬られた、と思ったが────紫苑の飛沫が上がる事は無かった。
首筋に手をやって、生を実感する。
川;゚ -゚)(待てよ……)
”ひんッ”
下から突き上げるような鋭い突きの後、そのまま刃先を捻って斬りこんで来た。
辛うじて脇を開いて突きを避けると、剣を合わせて押し出される勢いのままに距離を取る。
川;゚ -゚)(あるぞ……単純だが、少女を救う方法はあるんじゃないのか?)
苛烈な”魔剣”による攻撃から必死に身を守り続けながらも、クーは必死に頭を回していた。
かすってしまうだけでも、あの”紫苑”の出血により戦闘不能に陥る。
その状況にあって、それを狙うのは極めて困難だった。
しかし、不可能では無いとも。
- 88 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:51:42 ID:6rBbiW5k0
-
|щ)゚-゚)【痛マシイカ、コノ娘ノ命ガ】
川;゚ -゚)「………」
そんなクーの心境を読み取ったかのようなタイミングで、”魔剣”がまたクーを挑発する。
|щ) - )【我ト対峙シテコレホド生キテオレル貴様ノ身ナラ、コノ娘ノ無事ト引キ換エテモイイガナ?】
人心を惑わす、魔の囁き。
しかし、そんな持ちかけに応ずる事など在り得ない。
どんなに悪党で、どんなに保守的な奴であっても、
人間という精神が”剣”ごときに呑まれる事を良しとする者など居ない。
それは少なくとも、クーがこれまで会って来た人物達の中には、恐らくただの一人さえ。
川;゚ -゚)「……人間を、甞めるなよ」
人の力を以って、人が作った”魔剣”を出し抜く。
実行するには命懸けだが、この間合いで放たれる斬撃からなら、ある程度的が絞れる。
- 89 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:52:44 ID:6rBbiW5k0
-
剣を少女の手より叩き落して───再び手に出来ないよう、少女の身柄を抑える。
しかる後に、”魔剣”自身の封印方法さえ見つかれば、全ては御の字だ。
次に来る一刀を、ただひたすらに待ち構えていた。
|щ)ー)【ソレガ答エカ。イインダナ……我ハコノ娘ノ命ナド、惜シクモナイノダゾ?】
魔剣の刀身部分を、首筋を這わせるようにして少女の身に横切らせた。
少し遅れて少女の首からは小さな”紫苑”が”ぷつっ”と舞ったが、安い挑発だ。
川 - )「……まるで、その少女を殺した後でも私に乗り移れるかのような口ぶりだな?」
|щ)ー)【事実、ソウダトシタラドウスル?】
川# ゚ -゚)「しかしそいつは、とんだハッタリだ───”魔剣”」
|щ) - )「………」
- 90 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:53:53 ID:6rBbiW5k0
-
川 ゚ -゚)「お前は何より、少女の身が大事な筈だ。人間をなんやかんやと言いながらも、
――――その実人間に縋らなければ何も出来ない、木偶の貴様にとってはな」
|щ)゚-゚)「……おねえちゃん………助け、て」
川;゚ー゚)「はッ、図星だろう。芸の無い──そうやって、お前自身では何も出来ないのが今露呈されたな」
|щ) - )【……クク、遊ビガ過ギタカ】
再び、魔剣が鋭い剣気を帯びた。
これまでで最速の一刀が来るであろうと、自らを追い詰める。
しかし必ずやその剣を、全力で払い落とすか、弾き飛ばすのだと鼓舞した。
川;゚ -゚)(一瞬に───)
|щ)゚-゚)
少女の変わらぬ表情に動揺を浮かべる事なく、必死に剣を合わせようと身構える。
- 91 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:55:01 ID:6rBbiW5k0
-
紫苑の残影は、蛇がのたうつようにして中空を何度か揺らめくと───
やがてクーの瞳は、斜めからの振り下ろしが来ると見定めた。
川#゚ -゚)(───打ち落とし、だッ!)
刹那、眼前には”死”が迫った。
限りなく近く、僅かな目鼻の先にまで。
そのシオンの刀身をギリギリまで引き付けると、腰を落とし、首を逸らし、顎を引きながら。
自身の身体に毛ほどもかすらせる事なく、それを潜り抜けて避けきった。
|щ)゚-゚)【………!】
最速で、下がっていた剣を肩の後ろまで振り上げる。
狙いが逸れて手指の数本ごとを断ち切っても構わないのだと、一刀にただ全力を篭めた。
川#゚ -゚)「終わりだ───魔剣シオンッ!!」
- 92 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:56:15 ID:6rBbiW5k0
-
少女が握る魔剣の手元、柄の付近を狙い定めて、三日月の剣閃を描いた。
気迫の一撃が、剣同士で眩い火花を一瞬だけちらつかせた。
”バキャンッ”
全力で振り切った。
打ち落としの一刀が、確かに魔剣を少女の手から叩き落した。
─────その、はずなのに。
- 93 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:57:36 ID:6rBbiW5k0
-
不気味な静けさの中で、薄らと瞳を開けたクーは知ってしまった。
川; - )「バカ………な」
瞬く間に、全身から力が抜けていくのが解った。
”自分は少女を救う事に失敗したのだ”と悟っての、絶望。
クーの足元に転がる小剣の刃先だけでは、もう戦う事は出来ない。
”魔剣シオン”の強度の前に、クーは自分自身の心と共に、武器をも砕かれたのだ。
|щ)ー)【クク。サテ……オ前ノ身ヲ、頂クトシヨウカ】
川 - )(───すま、ない)
その言葉は、誰に対してのものか。
死んだスタンリーか、殺されていった犠牲者達か。
どれも違う───うな垂れる自分を押し倒し、目の前で
誰か違う人間の声で笑う、この魔剣に魅入られてしまった少女に対しての言葉だ。
- 94 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 08:58:51 ID:6rBbiW5k0
-
クーの鼻先に自身の切っ先を突きつけながら、純粋なはずの表情には厭らしい笑みが浮かぶ。
川 - )「救えなくて……力……及ばなくて……」
震えるような声で、うわ言めいた言葉を口にした。
自分をシオンの刀身に触れさせた後は、恐らく少女を殺すのだろう。
|щ)゚-゚)【幕ダ】
シオンの刃先が、頬へとゆっくり近づけられる。
やがて、冷たいその感触が─────
”とんッ”
・
・
・
- 95 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:00:17 ID:6rBbiW5k0
-
川 - )「………」
目を瞑ってしばらくの時を経ても、シオンの刀身が撫で付けられる感触は訪れなかった。
代わりに、少女の軽い体重がだらりと自分へと覆いかぶさって来ている。
「遅くなってすまねぇ……無事か!?」
暗闇の中に聞こえる声に耳を澄ますと、それはデルタのものだった。
自分は死んでもいなければ、魔剣に身体を乗っ取られたりもしていない。
瞼を開けると、ようやく少女の額にナイフが突き立っている事に気付いた。
彼女の瞳の奥に宿っていた紫苑の色は、もうどこにも見られない。
|щ)゚-゚)
川 - )「………死ん、だのか」
代わりに、少女の手元から少し離れた場所に転がる”魔剣”
────こいつこそが、生きているのだ。
( "ゞ)「……あぁ」
- 96 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:01:27 ID:6rBbiW5k0
-
川 - )「私───は……」
少女一人を、救う事が出来なかった。
こんなざまで依頼をこなしたなどと、思える筈が無い。
一時を共に過ごした仲間も失って、助けるつもりだった罪の無い幼子までが死んで。
魔剣がこの街に振りまいた災厄は、9人もの犠牲者を出して、この後終息へと向かうのだろう。
せめて最後の一人は、自分であったら良かったとさえクーは思う。
( "ゞ)「―――本当に、遅く………なっちまったな」
無残に身体を二つに分かたれたスタンリーの亡骸に視線を落とすと、
彼の傍らに屈みこんで、デルタは両手を黙して合わせた。
旅の半ば、冒険者が命を落とす事は数あれども。
それでも、このように残酷な死に様を晒さなければならないのは、あまりに惨い。
- 97 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:02:26 ID:6rBbiW5k0
-
川 - )「不運を呼び込むんだ、私は」
不意に口を突いた言葉が、デルタの気に障ったらしい。
( "ゞ)「違ぇだろう、馬鹿が。アンタは───スタンリーの奴に誘われて、自分から飛び込んだ」
( "ゞ)「そこで、こいつは運悪く死んじまったのさ……話は、それで終いだ」
川 - )「違う……私が───誘われたのが、私でさえなければ───」
( "ゞ)「………」
デルタなりの励ましのつもりなのだろうが、今のクーには短気しか浮かばなかった。
一筋の光明が射しかけていた、彼女自身の心。
やがては氷解するはずだった、他者との交わりを拒む気持ち。
それらの感情が再び─────クーをより深く。
より冷たい氷河の奈落へと、容赦無く落とし込んだのだ。
- 98 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:03:11 ID:6rBbiW5k0
-
川 ; -;)「なぁ───神なんて………やはりいないんだな」
仲間というものが、大切な存在に思えてきてしまっていた。
それを大事に思うが故に、失う事への怖さ故に、クーはこの時思った。
( "ゞ)「………あぁ、この場所にゃあ───多分な」
川 - )(もう……私には仲間など、いらない)
ふらふらと立ち上がったクーは、行く先々での壁に持たれかかるようにして外を目指した。
( "ゞ)「あ……おいッ!」
- 99 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:04:51 ID:6rBbiW5k0
-
|щ)゚-゚)
デルタの呼びかけに一度だけ振り返り、その先で少女の亡骸が視界に入ると、
歯噛みしながら拳を打ち震わせてその場に俯き────そのまま、教会を飛び出して行った。
川 - )(───くッ)
遠くなっていくクーの背中に、デルタはもはや
追いかけるのも、声を掛けるのも諦めていた。
( "ゞ)「………これでも、少しは感謝してんだぜ」
あのまま、クーがリュメに戻って来る事は無いだろうと感じていた。
明日からは恐らく、腑抜けた兄貴分の手も借りたい程に忙しくなる。
この事件を巻き起こした魔剣に一瞥くれると、そいつはただ、薄紫の輝きを放っているだけだった。
- 100 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:05:58 ID:6rBbiW5k0
-
しかし魔剣が大人しくしているのは、今に限った話だろう。
新たな所有者を得れば、また同じ様な惨劇が繰り広げられるのだ。
封印するにしろ、破壊するにしても───”魔剣シオン”への処遇は慎重に行おう、と思った。
人を魅了し、人を殺す魔剣が存在するのはいつからだろうか。
そして、シオンと呼ばれるその理由さえも今は定かではない。
この先100年は魅入られる者が出ない様にと、デルタは心の中で祈る。
二人の亡骸が安置された教会を抜け出ると、クーの去ったと思しき方向へぽつりと漏らした。
( "ゞ)「また会った時の為に……お前さんへの報酬は預かっとくさ」
───────────────
──────────
─────
- 101 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:06:45 ID:6rBbiW5k0
-
リュメを抜けた先の森で、クーの脚はただ前へと向いていた。
それは別に、意味のある行為でも、行き先を定めている訳でもなかった。
脚を引きずるようにしながら、一歩一歩、まるで歩く死人のような形相で歩き続ける。
ただひたすらに距離を稼ぐのが、今のクーには少しだけ楽に感じた。
川 - )
明け方の森を歩いた。
真昼の陽が差し込む中を歩いた。
やがて日が沈んでも、ひたすらに歩いた。
空腹や疲労が、どれほど自分の身体を蝕んでも。
あるいは、自分などどうにかなってしまえばいいとさえ思っていたのか。
- 102 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:09:15 ID:6rBbiW5k0
-
脳裏に焼きついた少女の死に顔、自分が救えなかったあの娘の表情は、そう簡単に離れない。
知らず知らずの内に、恐らく彼女は───自らのたった一人の母親を殺していたのだろう。
自分では耐えられそうにもない少女の苦痛や悲哀は、計り知る事など出来ない。
スタンリーが殺され、救いが必要な少女もまた死んだ。
心の様々な場所から侵食しては傷を広げてくる、それらの痛み。
和らげる方法としては、自らを傷つける事くらいしか思い浮かばない。
他者に対して欠片も思いやる事の出来ない性格の人種が、素直に羨ましいと思った。
自分の傷の痛みには敏感で、本当は一人が怖いのに。
無くしてしまえば耐え切れないから───そんな、自分に取っては。
- 103 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 09:41:44 ID:6rBbiW5k0
-
ぽつり、と艶やかな髪の一筋に、雨粒が伝い落ちた。
川 - )「……丁度、いい」
瞬く間に、雨脚は強まっていく。
どうやら雷雨のようだったが─────そうだ、丁度良い。
雷の音が、大声を上げて泣き喚く自分の声を掻き消してくれる。
顔中を濡らす雨粒が、次から次から溢れ出る涙の雫を、覆い隠してくれる。
(……うっく、う、うわああぁぁぁんッ………)
クーは、大粒の雨が激しく降りしきる空を仰いだ。
その場に座り込み、ぬかるんだ地面に身体や衣服が汚れるのも構わず。
久しぶりに子供の頃に戻ったかのように、大声を上げて泣いた。
幸いにして、それは誰にも聞かれる事が無いのだ。
───やがてずぶ濡れた彼女は泣き止むと、また前へと歩き出した。
- 104 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:04:13 ID:6rBbiW5k0
-
・
・
・
<丶`∀´>「そうニダか……」
( "ゞ)「で、報酬の受け取り手が居なくなった訳でさぁ」
リュメを騒がしたのは、ただ一振りの魔剣”シオン”
惨たらしく殺された犠牲者は全部で9人にも昇るが、ただ一つ幸いな事は、
殺意を持って人を殺したのは、デルタを除いてただ一人も居ないという事だ。
全ては、魔剣の所業だった。
その剣を始末するのには───ヴィップやラウンジから
高名な司祭連中を呼び寄せても、足りるかどうかは解らない。
- 105 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:05:04 ID:6rBbiW5k0
-
しかし、事情を話したゴードンが自らの邸宅で預かり受ける、とのたまったのだ。
最新の注意を払い、決して手では触れないように気をつけて運ぶのは手間だった。
しかし、これで現状は奪おうとする輩でも現れない限り、安泰と言える。
何しろ、所持者は不在の状態なのだから。
<丶`∀´>「なら、ウリが預かっておくニダ」
( "ゞ)「はぁ!?」
<丶`∀´>「彼女、クーって言ったニダか……ちょっと好みだったニダ」
(;"ゞ)「いやいや、俺に預けとけよ───渡しとくからよ」
<丶`∀´>「盗賊なんざウリは信用出来ないニダよ。今度彼女が戻って来たら、ウリが直接渡すニダ」
( "ゞ)「俺だってアンタがこの上なく信用ならねぇさ」
- 106 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:08:15 ID:6rBbiW5k0
-
今は効果があるのかどうかが甚だ疑わしい、聖印の模造品のような魔除けと共に、
ゴードンの宝物倉庫の最奥に厳重な封印が施され、眠っている。
しかし、今でもその自我自体は、消えずに残っているのだ。
”かちかち”
遠くヒノモトで生み出された形状───”カタナ”
それを流用した片刃剣である魔剣シオン。
備わった鍔と刀身を収める鞘とが、微かにかち合う。
それは、嘲笑っているようでもあった。
自らを手に取ってくれる主の帰りを、ひたすらに待ち詫びて────
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち
魔剣が宿した深い怨嗟が振りまく災厄は、まだ完全に終わった訳ではなかった。
- 107 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:09:29 ID:6rBbiW5k0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
第9話
「散るは徒花 名は紫苑」
.
- 108 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:11:04 ID:6rBbiW5k0
-
飲まず食わずの状態───そんな身体を引きずって、クーはリュメから更に二日の距離を歩いていた。
やがて、夕日が沈む頃だっただろうか。
歩いた事の無い道をただひたすらに進み続けて、次第に視界には見慣れない人里が飛び込む。
川 - )(………村、か)
冷え切った身体、ぼろぼろの身体。
魔剣を叩いた時に武器も失ってしまった。
野盗にでも襲われた所で、今の自分にはどうする事も出来ない。
「もしそうなってしまえば、それでもいいさ……」
- 109 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:12:58 ID:6rBbiW5k0
-
折れたクー自身の心の剣。
いつもの凛々しく毅然とした賢明さは、疲れ果てた彼女の表情からは伺えなかった。
しかしこの時ばかりは、身体が休息を選んでいた。
川 - )「宿は……借りれる、かな……」
───村の名は”ロア”といった。
かねてより、この村の人々は周辺の森の守神として”月の狼”を称えている。
その景色に吸い込まれるようにしながら、クーはその村へと近づいて行った。
当て所なく進み続ける道の先で、自分を苦痛から解き放ってくれる光明を、捜し求めるようにして。
- 110 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 10:14:51 ID:6rBbiW5k0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
第9話
「散るは徒花 名は紫苑」
−了−
.
- 111 :エンドロールのフェイク邪魔だよね:2012/06/16(土) 10:24:24 ID:6rBbiW5k0
- 燃え尽きた……貴重な休日潰して一晩100レスなら上等。
これから書こうと思う本編長編への導入部に必要なお話を考えて
おりましたら、なぜかこれが浮かんだんで書きました。
了と打ちましたので某妖刀の話はここで一旦区切りますが、某妖刀は一人じゃ倒せないので……
元ネタにさせていただいた原作に比べたら相当なアレですが、まぁそこは。
あ、クーは技量があっても力がないので大して強くはないです。
これから2時間も寝れないですが、頑張って早く起きます。
皆様、支援ありあとあした!(´;ω;`)
- 112 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 13:45:18 ID:lbCdR28gO
- (?_ヽ?)、最初はクーを利用する悪人キャラAAだと思ってた
あんな最後になってしまうとは、剣に憑かれた者倒し3人無事と予想してた
一回で100レス越えなんて最近ではなかった、昔もあったかどうか
さて、100レス越えの代償に睡眠時間削った作者は無事起きたのだろうか
- 113 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 16:42:52 ID:XvGEs.mIO
- 起きられました。
ちなみにPCからだとわりとイケメンなのですが、携帯からだと
彼は文字化けして大変残念な感じになっておるようです・・・
- 114 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 20:37:08 ID:8B0ONmNg0
- 土曜日使って一気読みした
面白い!
- 115 :名も無きAAのようです:2012/06/16(土) 22:50:49 ID:zxGLn7jk0
- 乙
- 116 :名も無きAAのようです:2012/06/17(日) 00:37:28 ID:fvss85P6O
- ω・`)乙。なるほど微妙な強さなわけか。
ω・`)強さ的には
ジョルジュ>ハイン>>>>>>>ブーン>>ショボン>>>>クー>フォックス
ω・`)かな
- 117 :名も無きAAのようです:2012/06/17(日) 00:41:17 ID:Gu9iJ3Ys0
- >>116
ブーンよりショボンのが、ジョルジョよりハインのがつよいんじゃない?
- 118 :名も無きAAのようです:2012/06/17(日) 01:43:59 ID:ndYOJg0E0
- ハイン>ジョルジュ>>>ショボン≧ブーン>クー≧フォックス>>>ツン
イメージ
- 119 :名も無きAAのようです:2012/06/18(月) 06:17:44 ID:LWtr97Do0
- 自分のスレで強さ論議とか行われてると嬉しくてビチ糞垂れ流しそうになるものなんですね。
>>118がイメージ通りかも。
幕間2話を並行して書いてる最中ですので、次の次の休日には投下出来ればいいなーとか思います。
次の本編は前後編で200レス以内には収まる予定。
- 120 :名も無きAAのようです:2012/06/18(月) 21:02:20 ID:d9lO.UDs0
- 乙乙
現行で一番好きだわ
- 121 :名も無きAAのようです:2012/06/19(火) 04:26:28 ID:p5RHXjssO
- 温泉街で繰り広げるファンタジー「別府ワース」
引用元;('A`)はパクリ作者のようです
- 122 :名も無きAAのようです:2012/06/19(火) 05:01:28 ID:Ea5VKO3U0
- >>121
バロッシュwww見るし
- 123 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:07:54 ID:oSZQ7V1E0
-
400年以上昔の話だ。
何故か文献にも殆ど残っておらず、今では各地で言い伝えられるのみの、一部だけが知る史実。
かつて大陸の諸侯、そして人々を恐怖に貶めた齢1000年を数える龍が居た。
曰く、”全てを滅す龍”
曰く、”終末の運び手”
人々からそう恐れられた龍の名は”ツガティグエ”
ただ跨ぐように通り過ぎるだけでも、その街は惨禍に飲みこまれたという。
体躯は山程もあり、爪の一つで何人もの人間が一片になぎ倒されては、吹き飛ばされる。
当時ツガティグエは北西一帯の地域を根城として猛威を振るっており、近隣諸侯は恐怖する。
比類なき力を宿したその龍の前には、人の抵抗などあまりに無力だった。
- 124 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:08:40 ID:oSZQ7V1E0
-
事態を重く見ていた北方諸国を預かる各領主たちは、こぞって幾度も討伐の兵を差し向けた。
しかし、千の騎馬を率いても、万の兵を率いても。
その悪龍を倒す事は──────できなかった。
時の聖ラウンジ騎士団も、もはや壊滅の様相を呈していたらしい。
人々はただ祈り、明日訪れるかも知れない恐怖に我が身を震わせるばかり。
その悪龍討伐に手を拱いていた諸侯を更に畳み掛けたのは、ある小国による独断先行だ。
ツガティグエの脅威に喘いでいたその小国の王は、ある取引を従者を介して龍へと持ちかける。
”年に一人の生贄を差し出す代わり、我が国の安全は保障してほしい”
龍の力を恐れるあまり、かの国の王は自ら進んで生贄を差し出したのだ。
その王の要求を龍が呑んだという知らせを聞いた地元の民の多くには、安堵を覚えた者もるだろう。
しかしながら、次の生贄としていつ白羽の矢が立つか解らぬ一部の若者は、言い知れぬ恐怖だった。
- 125 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:09:26 ID:oSZQ7V1E0
-
年に一人、うら若き生娘や、若く力のある青年達を。
束の間の安息を、その彼らの将来へと続く希望と引き換えに。
そして小国は龍に守られるようにして、少しずつ周囲の諸侯への優位にのぼせ上がっていく。
自国の民を生贄と捧げる事への非難を浴びながらも、悪龍の力に誰しもが手を付けられないのをいいことに。
小国は次第に、生贄を周囲の国からも募って龍へと捧げ始めたのだ。
間もなく、悪龍ツガティグエを”神”と崇める思想が小国へと広まる。
やがて龍の力に酔いしれた小国は、聖ラウンジと対極を為す異教、”龍の国”へと変貌していった。
同じ人間に対しての、完全なる裏切り。
しかして調子付く”龍の国”は、未曾有の脅威ツガティグエに守られ、手出しは出来ない。
平穏の訪れぬ日々に人々は疲れ果て、希望をもたらしてくれる英雄を求めた。
そんな中、龍退治に名乗りを上げた男は、後に真に英雄と称えられる事になる。
- 126 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:10:35 ID:oSZQ7V1E0
-
( ̄ー ̄)ニッ
”ヒロユキ=トゥーランド”
龍の国打倒、それに鼻息を荒げて各国の権力者達が志願兵を募っている場で、彼は自らの力を見せ付けた。
軍馬を易々と持ち上げる程の怪力、人並み外れて恵まれた体格である彼は、すぐにでも
ツガティグエの討伐隊へ組み込まれる程の資質を持っていたのだ。
”すぐに彼を頭として、残り少ない兵力を集中させて万の騎兵で攻め込もう”
そんな声が上がり大陸諸侯の騎士や、領主達の視線が注がれる中、彼は一言でそれを否定した。
”あの龍が────仮に嘘を嘘と見抜けないのであれば、それほどの兵力は必要ありません”
必要な武器は聖ラウンジの清めが施された剣一本。
たったそれだけを用意させて、ヒロユキは一人でツガティグエと戦う事を選択した。
そんな彼の言葉には周囲の誰もが呆れ果て、落胆したという。
- 127 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:11:17 ID:oSZQ7V1E0
-
しかしながら、この時ヒロユキが口にした言葉は、真実となったのだ。
・
・
・
討伐へと赴く前夜、信心深いヒロユキは一晩中もの間を、聖ラウンジの神に捧げる祈りへ費やしたという。
そうしてやがて、悪龍討伐の日を迎える。
度胸があり、そして頭も回る男であったヒロユキは、生贄の一人に扮して機を待った。
その頃には、龍に捧げられる為の生贄の数も、4〜5人の要求へと増えていたらしい。
暮れなずむ夕日の中、断頭台のような丘に捨て置かれた生贄達の前に、やがてツガティグエは現れる。
黒く大きな山と見まがう程の巨大さに息を飲み、最期までの時を数える捧げられた人々。
だがこの時ばかりは、そんな彼らにもまだ一縷の希望が残されていた。
稀代の豪傑”ヒロユキ=トゥーランド”という男と共に、この場に居合わせた事に。
- 128 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:12:11 ID:oSZQ7V1E0
-
”歯向かう心根すらも叩き折られ、最早死を待つだけの人間共”
いつもと同じように、いつもぐらいの数の人間を喰らう。
───人間自身が作り出した流れに身を任せる内、龍はそれに慣れてしまっていたのだ。
だからこそ驕り高ぶった龍は、その日も生贄達を抵抗する事も無い”食物”だと決め付けて、
油断のままに牛をも一口にするその巨大な顎を、あんぐりと開かせた。
しかしヒロユキは、その瞬間こそを狙い澄ましていた。
外套の中に隠されていた聖ラウンジの洗礼を受けた大剣は、ツガティグエの喉元を刺し貫いた。
咄嗟の事に動転した龍が反撃を試みようとした時には既に時遅く、完全なヒロユキの流れだった。
剣はツガティグエの首に、何度も何度も突き立てられていた。
- 129 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:13:47 ID:oSZQ7V1E0
-
一瞬の勝機だけに覚悟を決めて全力で畳み掛けたヒロユキの前に、力を出し切れる事なく。
そうしてついに悪龍ツガティグエは、地を揺るがす大音を響かせながら倒れたという。
明晰なヒロユキの策に落とし込まれた龍は、彼の狙い通りに。
”嘘を嘘と見抜く事”は──────出来なかったのだろう。
その後、死んだツガティグエの身は、石山のように固くその場に在り続けたという。
大陸中の人々にとって永き宿願であった、悪龍討伐。
それが果たされた事で、諸侯はヒロユキを救国の英雄として迎え入れるお祭り騒ぎを始めていた。
( ̄─ ̄)(……………)
しかし彼はただ、その生贄の地で染まった断頭台の丘で何日もの間を、自らが倒した龍の姿を眺めていたらしい。
- 130 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:15:05 ID:oSZQ7V1E0
-
─────
──────────
───────────────
そうして、ヒロユキを婿に、王にと祭り上げる各々の国での動きが始まっていた。
しかし恐らくであるが彼本人はそんな事さえ知らぬままに─────その後、忽然と姿を消したのだ。
生まれ故郷である南東の小さな農村にさえ、戻って来る事は一度としてなかった。
後に失踪した彼の胸中を疑問に思って首を傾げていた人々は、彼をこう揶揄する。
”宿敵を倒した彼は、理想を遂げた事でその後を生きる気力を失ってしまったのではないか”と。
真相を知る者はいない。
永劫の眠りにつこうとしていた龍の内に、あの時ヒロユキが微かな”胎動”を感じていた事など。
- 131 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:16:26 ID:oSZQ7V1E0
-
ヒロユキが姿を消して数十年の時が経ってから、当時の決戦の地はえらく様変わりしていた。
どこかから引かれた水路、それらがかつてツガティグエに喰らわれた人々の血が染み込む丘へと流れ、
石山のようであった龍の遺骸もどこへやら、いつの間にか桃源郷の如し湖へと変貌していた。
龍が北方のこの地に骸となって数十年───どこの誰がこの湖を形作ったのか。
それもやはり歴史の地下深くに埋もれてしまい、今では取り戻す事のかなわない真実だった。
───────────────
──────────
─────
- 132 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:18:54 ID:oSZQ7V1E0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「語り継ぐもの(2)」
.
- 133 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:20:16 ID:oSZQ7V1E0
-
───ロマネスクがヴィップを発ってから、4日。
朝日が少しずつ勢いを増して照りつける中、広大な自然湖が見えて来た。
水面に照りつける陽光の煌きが、まるで昼間に見える星のようだ。
( ФωФ)「久方ぶりに訪れたのであるな……ここにも」
湖の畔にぽっかりと口を開けた洞穴を抜ければ、湖の内側に大きく広がる巨大な鍾乳洞、
”ヒガン鍾乳洞”へと辿り着く。
内部では同じような景観が延々続き、加えて迷路のような構造の為、深部にまで辿り着くのは困難。
聞いた噂では、湖の遥か地下深くにまで鍾乳洞が続いているという。
最奥に何があるのか、単純な冒険者としての好奇心をくすぐる話だが、気を引き締める。
セシルからの依頼は、ここからが本番だ。
- 134 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:20:58 ID:oSZQ7V1E0
-
単独で危険な調査に乗り出す以上、体調管理にも万全を期さなければならない。
そこらの木陰に脚を投げ出して腰掛けると、携えた乾し肉の2、3切れを口の中へと放り込む。
途端に乾きを訴えた喉に、水筒の中に残された残り全ての水で潤いを与えた。
そうして少し空を眺めながら、郷里の妻へと想いを馳せていると、
疲れていた体には、気力と共に力が漲ってくる。
息子は、もしかするともう生まれただろうか。
セシルへの報告を終えた後は、何をすっ飛ばしてでも帰ろうと思った。
( ФωФ)(───あの少年も、今頃は無事に依頼を終えた頃であろうか?)
- 135 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:21:46 ID:oSZQ7V1E0
-
ふと、失われた楽園亭で出会った、幼い冒険者の事を思い出していた。
着の身着のまま、自分で作ったであろう木剣を背負って。
マスターの口添えで、初めての依頼を受けられたはずだ。
だがそこから自立出来るかは、本人次第。
少年は瞳に、復讐の色を少なからず宿していた。
過去というものに囚われて───ただそれだけで、彼は自分の両足を支えていけるのだろうか。
しかし、初心を忘れる事なくあの実直さを貫き通せれば、大成出来そうな気もしていた。
( ФωФ)(……いかんな。我輩も歳であろうか)
昔ならばただ自分の事が精一杯で、若さだけで突っ走った。
あの少年のような悲哀の過去を持つ同業も、数多く見てきた。
- 136 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:22:32 ID:oSZQ7V1E0
-
あまり他人の人生に肩入れするのは、良くない。
自分が世話をした冒険者の死が風の噂に聞こえてくるのは、どうしようもなく切ないからだ。
あの時少年に手助けしてしまったのは、やはり自分が子を授かったせいだろうか。
そうした考えを巡らせていると、いつの間にか陽光は額を汗ばませる程に高く昇っていた。
休息も十分だ、そろそろ行くとしよう────
そう思ったロマネスクだったが、唐突に只ならぬ気配を感じてもたれていた木々に身を隠した。
言い知れぬ気配、耳に聞こえたその音が、はっと彼に気付かせたのだ。
”……ばさっ ばさっ”
- 137 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:23:58 ID:oSZQ7V1E0
-
( ФωФ)(………ッ!)
ロマネスクの瞳を奪ったのは、逆光に黒く翼をはためかせる、確かな”龍”の姿。
実物など数えるほども目にした事はない分、驚嘆に思わず息を飲む。
雄大な空に威風を称えて羽ばたく龍の姿は、ロマネスクは心臓の高鳴らせた。
滅多に見られる事の無い光景、彼を久方ぶりに童心へ引戻す興奮を与えるに、充分だった。
( ФωФ)(しかし、小さい───まだ幼竜といったところであろうか?)
ロマネスクがあんぐりと口を開けてその降り立つ先を見送ると、どうやら
龍は、湖の上に口を開けた鍾乳洞の内部へと入って行ったようだった。
あれは恐らく、ヒガン鍾乳洞の深部にまで繋がっている。
船で湖に漕ぎ出して同じく湖上から入り込もうにも、あの湖上の穴は底知れぬ深さが広がる。
翼の無い人間には到底不可能な侵入経路───正攻法しかない。
- 138 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:25:00 ID:oSZQ7V1E0
-
( ФωФ)「近隣からの目撃談は本当であったか……」
まだ若い───下手をすれば自分と同じくらいの歳の竜であるかもわからない。
しかし、いくら幼いと言えども龍とはその存在自体が脅威であり、学連の魔術師達が幾ら
研究を突き詰めて龍族の事を計り知ろうとしても、未だに100年前の知識と大差ない進歩らしい。
現に彼らが力尽きる時、一体どのような場所で死んでいるのかすらもが、今でも明かされてはいない。
複数の龍が一箇所に寄り集まる事はないだろうとタカをくくっていた
ロマネスクだったが、少しこの場で認識を改めた。
( ФωФ)(出くわすのだけは避けなければならぬが───もしあれが”子”だとすれば……)
そう、親龍だ。
もしかすると、それが鍾乳洞内部にいる可能性も浮かんできた。
幼竜一頭だけが巣食っていると考えるには、いささか楽観的過ぎる。
- 139 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:26:08 ID:oSZQ7V1E0
-
もしロマネスクの予感が的中していれば、この北方領を中心として周辺諸侯は大騒ぎに騒ぐだろう。
問題は、竜がこの鍾乳洞を根城としているのは一時の事なのか、だ。
この場所を竜たちの安寧の地とされれば、ヴィップから北へ向く人々の足も遠のく。
縄張りを侵される事をよしとしない竜が、ヒガンの湖を横切る最中に旅人を襲う事だってあり得るのだ。
調査結果の報告次第では、子竜は親龍もろとも円卓騎士団によって駆逐されるだろう。
子を持つ親としては複雑な心境を表情に薄らと滲ませながら、ロマネスクは大きなその身体を
竜があぎとを開かせて待ち受けるような、その洞穴へと潜り込ませて行った。
・
・
・
鍾乳洞へと立ち入って、およそ一刻が経過した。
- 140 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:26:58 ID:oSZQ7V1E0
-
感覚で言えば、恐らくまだ湖の真下にまでは来ていないだろう。
足場が悪い土地柄、えらく曲がりくねって枝分かれの道も多い為、それほどに距離を稼げない。
そろそろ、地上から差し込んで来ていた日の光もか細くなってきた。
頃合を見計らって、ロマネスクは麻の荷物袋から乾燥させたイグサを動物油に浸した携帯松明を取り出す。
火打ち石でそれに火を灯すと、再び十分な視界が確保出来た。
周囲の静けさは変わらずに、奥へ進むにつれて自然造型物の自己主張が大きくなってきた。
ひやりと感じる霧のような湿気が肌には心地よくも、地面や天井にいくつも突き出る
白く濡れた鍾乳石が、松明の炎を橙色照り返すのと相まって、少し不気味でもある。
やがて、目の前にはまた左右へと枝分かれした道が現れた。
軽く松明を突き出して奥の様子を探りながら思案していると、音が聞こえる。
- 141 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:27:21 ID:dZOsq6XAO
- 最近、投下間隔早いな
支援
ゴメンね、目に付くように上げるよ
- 142 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:28:46 ID:oSZQ7V1E0
-
”ごぉぉぉ……”
( ФωФ)(………風、ではないのである)
遠くから反響するように聞こえたのは、良く人の声に聞き違えるような
洞窟内を抜けていく風の流れによるものではない。
耳を澄まして見れば、それは右側の穴から聞こえているようだった。
( ФωФ)(こんな何も無い洞窟を根城としている妖魔もいるのであるか……迷惑な話よ)
ふぅ、と溜息を吐き出しながら松明の灯火をそこらの壁へと叩きつけて、気取られぬように灯りを消した。
このような狭い場所で突然竜が現れる訳もなし、道の先に居るのは下級妖魔だとの察しはついていたが、
一応は気配を殺しながら、いつでも先手を打てるように薄ぼんやりとした暗闇に乗じる。
壁伝い、少し身を低くしながら進んでいくと、やがて少し広さのある空間へ続いているようであった。
- 143 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:30:06 ID:oSZQ7V1E0
-
(#℃_°#)キキッ
(# ゚_⊃)キッ
薄暗闇で会話のようなものを交わしているのは、緑色の体表に覆われた下級妖魔。
( ФωФ)(ゴブリンか……)
何が楽しくてこんな場所に住んでいるのだ、と文句を言ってやりたい所だが、
竜に出くわしてしまうよりかはよっぽど可愛らしいものだ。
何匹居るかはわからないが、過度に注意深く行動して無駄な時間は過ごしていられない。
( ФωФ)(どれ、これなどいいであるな)
手近に転がる小さな小石を指に摘むと、それをぴっ、と広間の奥へと弾き飛ばした。
(#℃_°#)キキ……ギィッ?
- 144 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:31:27 ID:oSZQ7V1E0
-
二匹ともがそちらの方向へ気を取られ、振り返った瞬間にロマネスクが駆け出す。
”ザリッ”
(# ゚_⊃)ギ……!?
( ФωФ)「寝ておれ」
遅れてロマネスクの気配に気付いた一匹が、振り向く。
しかし小突くように手首を返して放たれた拳の先端が、ゴブリンの鼻先を捉えて打ち抜く。
すぱん、と小気味の良い音がすると、その場に崩れるように一匹が失神した。
- 145 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:32:56 ID:oSZQ7V1E0
-
(#℃_°;#)ギギィッ!?
すると驚いた連れのゴブリンが逃げおおせようとした所へ、足を引っ掛けて転ばせた。
うつ伏せに倒れこんだ瞬間に、振り上げた踵に加減を加えて後頭部へと叩き落とした。
”ごつッ”
(#C_ ;#)ギャッ……ブッ……
硬い岩肌に顔面全体をしたたかに打ち付けて、残る一匹の意識も断絶した。
( ФωФ)「───………っと」
ロマネスクの身長からでは、たとえ妖魔であろうと武器を持った子供と大差ない相手だ。
だが、更に一匹の双眸が先に続く道の奥の暗闇から、ロマネスクの姿を捉えていた。
鼻息を荒げ、手に持つ武器はどうやら拾ったものらしき錆びた一振りの剣だ。
(#'℃_°';#)ゴフゥ……ゴフゥゥゥッ!!
- 146 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:35:27 ID:oSZQ7V1E0
-
( ФωФ)「リーダー格が残っていたのであるか……」
体格は人間並み。それもロマネスクの頭一つ分下という事は、なかなかに恵まれた体躯を誇っている。
それでも、背の剣を抜刀する程の相手ではない。
半身に片手だけを軽く突き出して、軽く構えを取る。
(#'℃_°';#)グオォォォォォッ!!
( ФωФ)「……ま、おぬしらも住処に立ち入られて気が立ってるのであろうが」
知性はまるで感じられないが、獣のように唸り声を上げながら首筋辺り目掛け斬り付けて来る。
野盗の類が振るう剣となんら遜色ない膂力は持ち合わせていそうだ。
そこらの駆け出し冒険者の中には、不覚を取る者もいるだろう。
だが生憎と、踏んでいる場数と力量の差が違いすぎた。
(#'℃_°';#)フゥッ!?
( ФωФ)「我輩も、急いでいるのでな」
- 147 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:36:22 ID:oSZQ7V1E0
-
剣が振るわれるのに合わせて、流れるような動作で脇から背へと潜りぬける。
一瞬ゴブリンがロマネスクの姿を見失ってしまった時には、既に勝負が決していた。
( ФωФ)「───てぇいッ!」
”どッ”
背後から振り返りざまに叩き落された手刀が、深々とゴブリンの首の根元にまでめり込んでいた。
(#'C_ ';#)ギッ……ゴフッ……
どさり、と膝から崩れ落ちて倒れこんだゴブリン。
ぱんぱんと手を払うと、ロマネスクはその背を最後まで見届ける事なく、
踵を返して松明に明かりを灯して、また先へと続く暗闇を照らして歩き出した。
・
・
・
- 148 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:37:31 ID:oSZQ7V1E0
-
( ФωФ)「………さて」
今の所は何ら問題ない。
しかし深部に進めば嫌でも深刻なそれに行き当たる予感がしていた。
下級妖魔と違って龍は警戒心が強く、その感覚自体も人間などよりよほど鋭敏だ。
どれほど上手く気配を殺しても、こちらが龍の姿を認める頃には向こうも存在に気付くかも知れない。
先の幼竜が仮に愚鈍であってくれたところで、もし傍らに親龍がいれば危険度は大幅に跳ね上がるだろう。
龍に対して敵意を持つつもりは決してなかった。
だが、人と龍とは相容れない存在だという事実は歴史が物語っている。
以前ヒガン湖近隣へ訪れた時に住民から伝え聞いた事を、ふと思い出していた。
この地に伝わる”悪龍”の伝承───確か、400年以上も前にこの地に眠ったのだったか。
- 149 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:38:34 ID:oSZQ7V1E0
-
しかし、何せ昔の話だ。
ロマネスクの豪腕を用いても牛や馬を持ち上げる事は出来ないが、実際に龍を討伐した事実から、
英雄の伝承には尾ひれがついて、それが次第に大きくなっては誇張されて伝わったのだろう。
龍の脅威にさらされていた人々は、悪龍亡き後、口々にヒロユキを英雄と称えた。
だのに、それでも彼が人里へと戻らず姿を消した理由は────何だったのか。
( ФωФ)「………英雄も、存外龍の事が嫌いではなかったのであるやも知れぬな」
ロマネスク自身も同じ立場なら少しは彼の心境を汲み取れると思えていた。
- 150 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 18:39:34 ID:oSZQ7V1E0
-
雄大な空のどこかを大きな翼で駆け巡り、数百年にも渡って永らえながら、また新たな生命を育んでいく。
自然をこよなく愛するのは、より繁栄をと、発展をと求める人よりも───龍の方であろう。
ここへ入る前に見かけた龍の姿は、人間というちっぽけな存在であるロマネスクの瞳には、
やはりどこか憧れにも似た感情を抱かざるを得なかった。
ヒロユキが人々の元から去ったのは、もしかすると自分の胸中にも似た、そんな理由なのだろうか。
( ФωФ)(我輩も、昔からその気持ちは変わってないのではあるが)
そんなかつてのこの地の出来事に想いを馳せながら、壁伝いを更に奥へと進む。
心なしか、先ほどより松明の明かりがか細くなっているように思った。
- 151 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:22:50 ID:oSZQ7V1E0
-
そろそろ湖の真下を通り過ぎている頃なのだろう。
深部へ向けて進むに連れて周囲の鍾乳石もより大きく、そして水気を多く含んでいる。
ひんやりとした内部全体の空気は、やがて視覚にも訴える程に薄らと霧のようにもなってきた。
そしてその霧が松明の明かりを弱めてしまっていたばかりに、ロマネスクはこの時ミスを犯した。
(;ФωФ)(………しまッ)
”ふっ”
まるでそんな音を立てて、地面を踏み締めて足裏へ伝わるはずの感触が消えたようだった。
凹凸の多い地形に隠されていたのは、地面に口を開いた大穴。
自然の脅威が、この時は天然の落とし穴として働いていた。
- 152 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:25:16 ID:oSZQ7V1E0
-
残る片足も、湿気に濡れた地面に滑らされて踏みとどまる事が出来ない。
両足は既に穴の中、全身から重力が失われ、ぶらりと宙を彷徨った。
(;ФωФ)「───ぬぅッ!」
しかし、松明を手にしていない残った片手を勢い良く振り上げて、辛うじて穴の端へ手を伸ばす。
少し丸みを帯びているその取っ掛かりをがっしりと掴み留めて、深い闇に
飲み込まれそうになっていた身体に、その片腕が再び重力を取り戻させた。
だが、片腕だけでぶら下っている状態では長くは持たない。
ちらりと下を見やってから、片手に持つ松明を握る力を緩める。
深く続く縦穴の先を明るく照らしながら、灯火は音も無く、見えない程の深部にまで落下していったようだ。
- 153 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:26:39 ID:oSZQ7V1E0
-
(;ФωФ)(まずい、であるぞ……)
松明を離して自由になった片手を繰り出そう、と思った矢先、冷や汗ものの感触が手先に伝わる。
ずり、ずりと地面から離れようとする、命綱の取っ掛かりである丸石。
だが、あとほんの少しだけでも手が伸ばせられれば、この穴から脱出できるのだ。
そぉっと上に向けて開いた掌を昇らせていくロマネスクの顔には、上からぱらりと小粒の鍾乳石が降り注いだ。
もう限界、そう考えて意を決し────ばっ、と素早く片腕に力を篭める。
”ばこっ”
しかし、伸ばした腕は宙を当て所なく彷徨い、空を切った。
(;ФωФ)「!………おッ───おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……………」
- 154 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:27:27 ID:oSZQ7V1E0
-
支えていた腕の骨が軋むような感触もいずこかへ消え去った。
重力から解放されたロマネスクを、次には浮遊感が全身を包み込む。
どこまでも暗く長細い縦穴を、落下していく。
羨むように上を見上げて、何も掴めぬ片腕を虚しく伸ばしながら。
”一体どこまで落ちるのだ”
実際にはそんな事を考える余裕もなかったが、とても長く落ちている感覚だった。
走馬燈が過ぎる間際だからだろうか、下まで転落するのはきっと一瞬のはずなのに、
深い暗闇に閉ざされていく自分の身に起きている出来事が、とても緩やかに感じられる。
しかしこれほど落ちれば、もはや助かりようの無い高さだというのも解っている。
- 155 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:28:19 ID:oSZQ7V1E0
-
(;十ω十)「………ッ」
覚悟を決めて、瞳を痛いほどに強く閉じこんだ。
上下の歯をがっちりと噛み合わせて、そして心の中で謝る。
郷里で帰りを待っているはずの妻と、まだ顔も知らぬ我が子に。
長らく冒険者を続けてきた自分は、こんなにも呆気ない幕切れを遂げるのだ、と。
───しかし、ロマネスクの想像とは裏腹に。
”ざ ばぁんッ”
- 156 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:29:51 ID:oSZQ7V1E0
-
穴の底にまで辿り着いた彼の身に襲うのは五体がばらばらになるほどの衝撃ではなく、
全身を打つ一瞬の激痛の後にまたも訪れた、浮遊感だった。
(;ФωФ)(………なんと)
縦穴の底部に待ち受けていたのは、白い鍾乳石に囲まれて広がる、蒼く澄んだ地底湖。
その湖部分へ着水した事によって、凄まじい落下速度の余波が深くまで彼を引きずり込みはしたが、
奇跡的にロマネスクの命を繋ぎとめたのだ。
しかし、この地底湖もまた底知れぬ青の闇。
潜ってしまえば息が切れてもまだいずこかへと深く続くだろう。
やがて落下の勢いが水中で殺し切られ、次第に浮力を感じ始めた。
妙な水流の流れに引きずり込まれないように必死で掌で水を掻き分け、上へ上へと、水面を目指す。
(;ФωФ)「ごぼッ……ぷっ、ぷはぁッ!」
- 157 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:30:53 ID:oSZQ7V1E0
-
必死で呼吸を取り戻したロマネスクのその声や音は、すぐにぼんやりと耳に帰って来た。
周囲を見渡してみれば、横穴の一つも見えない。
ただ白くすり鉢状に広がる、なだらかな鍾乳石の壁があるだけだ。
ここまで落下してきた穴を見上げれば、その入り口まですら恐ろしい高さがある。
(;ФωФ)「………ッくそぉッ!」
自身の落とし込まれた状況を把握して、ロマネスクは水面を拳で殴りつけた。
必死に全ての方向に首を回して視線を向けようが、脱出口などどこにも見当たらないのだ。
水面の上にあるのは、ただ人一人が腰掛けるのがやっとの、平べったい地盤。
一先ずはそこまで泳ぎ着くと、水分を含んで重くなった身体をその上で大の字に投げ出す。
- 158 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:32:08 ID:oSZQ7V1E0
-
(;ФωФ)「……死ぬのは、変わらぬか」
──(死ぬのは、変わらぬか)──
広く深い地底湖の中を反響して聞こえて来るその自分の呟きに、苦々しく歯を食いしばる。
白く艶めく壁面に映り込む水面の、幻想的なまでの蒼がただただ美しかった。
それらがもたらすのは、ゆるやかに包み込むような、死。
セシルからの依頼を達成出来ずに悔やむ気持ちはあったが、それ以上に悔しい想いがあった。
( ФωФ)(………)
- 159 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:35:02 ID:oSZQ7V1E0
-
暗い気持ちに呑まれつつあったロマネスクが、ふと残して来た妻の顔を思い浮かべた。
反射的にばっ、と身を起こすと───もう一度自分を奮い立たせようと、努める。
( ФωФ)「……死ねんのだ」
自分の言葉が木霊してまた耳へと帰ってくると、今度は少しだけ自分を勇気付けてくれた。
しかして、すり鉢状のこの地底湖の作りでは脱出は困難を極める。
遥か上で嘲笑うようにぽっかりと口を開けている縦穴に辿り着く事も出来ない。
加えて、垂直に伸びるその円筒を昇りきる切る事など不可能なのだから。
ならば、脱出口はこの深い蒼の中にしか在り得ないとすぐに行き着いた。
もしかするとそこから地上へと帰れる道は無いのかもしれないと、希望を自ら捨てる事はしなかった。
- 160 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:36:42 ID:oSZQ7V1E0
-
( ФωФ)(5分………溺死を覚悟して限界まで息を止めても、泳げるのはその程度である)
水気に重くなった麻袋をその場にどちゃ、と置いた。
片道切符だ。
だが、どうあっても故郷へと帰らなければならない。
すぅ、と吸い込めるだけの息を吸い込み、そこで呼吸を止める。
そうしてロマネスクが地底湖へと飛び込もうとした時、背後の水面が波打つ音が響き渡った。
”ばしゃっ”
( ФωФ)「………?」
- 161 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:41:14 ID:dZOsq6XAO
- (´・ω・`)④だよ
- 162 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:45:26 ID:oSZQ7V1E0
-
自分以外に誰かが居るはずなど無い場所。
神秘的な景観にはこの世の物とは思えない程の美しさこそあれど、
たとえ妖魔ですら進んで来ようとなんて思わないだろう。
しかしこの奈落の底にあって、ロマネスクは今、何らかの気配が確かに背中越しに感じていた。
「───あなた………だれ?」
唐突に、動きを止めていたロマネスクの背には声が掛けられる。
人の。それも女性の声のようだった。
この蒼の湖のように澄んだ透明感のあるその声が、涼やかに木霊して耳にまで届いた。
( ФωФ)「………ッ!」
驚きよりも、警戒心よりも先に抱いたのは、好奇心。
”なぜ、こんな場所に女性が?”
冒険者としての本能に後押しされるようにして、ロマネスクは声の主にゆっくりと振り向いた────
- 163 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:46:55 ID:oSZQ7V1E0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「語り継ぐもの(2)」
-続-
.
- 164 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 20:56:59 ID:oSZQ7V1E0
- と、支援もらった所で今日は打ち止めです
最初考え無しに書き始めたロマ編ですが、今後本編の重要な話に組み込まれる事になりそうです。
次の次が本編となりますが、そこから投下間隔はまただらんと伸びるかと。
ちなみに【Boon Roman】様にまとめられてました!!!!!!!!
ttp://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/
失禁して股座を濡らしながら、この場で感謝を述べさせて頂きます。
ありがとうございます各話のサブタイまで本当にありがとうございます
- 165 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 21:42:59 ID:j.Q3WAZ60
- きてたか、乙だぜ!今から読むぞおお
まとめオメデトー
- 166 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 21:43:53 ID:dZOsq6XAO
- たしかBoon Romanって現行一覧やってる人のところだね
もしかしたらローテクブーンも同じ人かな?
(´・ω・`)投下乙だよ
- 167 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 22:04:02 ID:XgPUlRQk0
- 乙
- 168 :名も無きAAのようです:2012/06/20(水) 23:30:15 ID:9y/9CSiw0
- おつ!
- 169 :名も無きAAのようです:2012/06/21(木) 02:36:02 ID:TE.Oo1BEO
- ω・`)乙!ブーンロマン?
ωー`;)しかし、気になるとこで終わりおって…やらしいぜ作者www
- 170 :名も無きAAのようです:2012/06/22(金) 06:29:27 ID:rtB5S0dgO
- この終わりかたは続きが直ぐ来る予感
- 171 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:01:27 ID:hGrdgYdc0
-
( ,,゚Д゚)「綺麗な湖だな……」
ジョルジュと共にヴィップを経って、5日が経った。
道中の用意を甘く見ていたギコは、携帯する食料すらも
十分な量とは言えず、結局途中の村での補給を余儀なくされた。
これまで何事の危険にも巻き込まれずに来れているのは、土地勘があり、
何より身に危険が及ばないよう自衛する知識に長けたジョルジュのお陰だ。
ギコはその彼に、全幅の信頼を寄せながら旅をする事が出来ていた。
ある意味ではおんぶに抱っこ───彼自身の甘さというものは、否めないが。
_
( ゚∀゚)「やっとこさ、ヒガンの湖か……」
( ,,゚Д^)「いっちょ水浴びでもしていかねぇか、ジョルジュ」
そう言って、ギコは少しばかり身体をうずうずさせていた。
自分よりも一回りほど年上のジョルジュに対しても、敬称を使う事はない。
取り立ててそんな事は気にしないジョルジュだが、少し苛立っているのは別の理由だった。
- 172 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:02:09 ID:hGrdgYdc0
- _
( ゚∀゚)「………誰のお陰で予定が遅れてるのか言ってみろ」
地図を持たせて道順を示させようとすれば、間違えようのない所で間違える。
立ち寄った村で買い付けておくように言った品を頼めば、好みを優先してまるで見当違いの物を買ってくる。
そんなこんなで、本来予定通りに行けば今日の朝には辿り着けていたはずの目的地は、まだ遠い。
”城壁都市バルグミュラー”
そこで落ち合うはずの男を、待たせてしまっているのだ。
( ,;-Д-)「あぁ、へいへい……俺のせいですよっと……」
_
( ゚∀゚)「水浴びしてぇなら言え。湖ん中叩き込んでやるからよ」
( ,;゚Д゚)「いや、そいつは勘弁してくれ」
_
( -∀-)「……チッ、至極残念だぜ。龍どもの餌にしてやったのによ」
( ,,゚Д゚)「龍が居たのか?……こんな湖の、中に?」
- 173 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:02:59 ID:hGrdgYdc0
- _
( ゚∀゚)「……よく見ろ」
ジョルジュが指差す方向。
広大な湖の中ほどには、深さのありそうな洞穴が湖上にぽっかりと口を開けていた。
_
( ゚∀゚)「もう入り口は過ぎちまったが、そこが中の鍾乳洞と繋がってるらしい。
この場所で死んだドでけぇ龍の死体に水が流れ込んで、それを形作ってるって話もある」
( ,,゚Д゚)「へぇ…!今でも龍が居るなら見てみたいもんだぜ」
_
( ゚∀゚)「………随分と昔の話よ、400年も前のな」
( ,,゚Д゚)「ふんふん」
話を聞いてしまえば、まるで湖面の穴は龍が開けた口のようだった。
注がれた陽光を湖面にて美しく煌かせる湖。
その景観に見惚れながら歩く行楽気分のギコには、時折ジョルジュが注意を促す。
その都度へへ、と減らず口を端から漏らす彼を睨む瞳の奥には、鋭い光が宿っていた。
_
( ゚∀゚)(………)
- 174 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:03:47 ID:hGrdgYdc0
-
やがて湖を横手に通り過ぎ、大きな崖の割れ目へと差し掛かる。
目の前には、ヴィップ領とを隔てる長く古めかしいつり橋が見えて来た。
( ,;゚Д゚)「うへぇ……渡るのか、これ……?」
所々が老朽化しており、目にも不安定さが見てとれる程だ。
橋の前に一旦立ち止まって躊躇するギコにはお構いなしで、ジョルジュはずかずかと先へと進む。
_
( ゚∀゚)「行くぞ」
その背中を、ギコも慌てて追いかけた。
この橋を渡れば、険しい断崖や荒野ばかりが広がる土地───ブルムシュタイン領。
そしてその先に二人が目指す街、城壁都市バルグミュラーがある。
ここ数十年で城壁都市周辺も随分と開拓されはしたが、それでもまだ十分ではない。
- 175 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:04:37 ID:hGrdgYdc0
-
周辺の騎士団ですらうかつには手を出せぬほどの妖魔の群が、まだ北の地にはひしめく。
それら危険と常に隣り合わせの街が、人と妖魔との境を守るようにして石造りの城壁を築く、バルグミュラーだ。
男達の生業は主に妖魔退治、人鬼が住まう洞窟への調査など。
粗野で暴力的な荒くれ者ばかりが集う街の依頼には、命を切り売りする内容ばかりが並べられる。
”ぎしっ、ぎしっ”
( ,;゚Д゚)「こ、怖えぇぇ……」
これから行く所は、とても命が軽い場所。
そこでは、今二人が渡っているこの危うい吊橋のように、自分の命さえもが。
そこで果たす務めの先に待ち受ける事柄への、覚悟。
それらが果たしてギコには十分かと問われれば。
ジョルジュの目からは、それはまるで足りて無いように見えた───
_
( -∀-)(………)
- 176 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:06:05 ID:hGrdgYdc0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「壁を越えて(4)」
.
- 177 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:06:50 ID:hGrdgYdc0
-
──城壁都市バルグミュラー 【宵の明星亭】──
錆びた鉄扉を開けると、すぐに下品な笑い声や物騒な言葉が耳へと飛び込んでくる。
見れば、卓を挟んで殴りつけられた男が鼻血を噴き出しながら背中から床へ落ちていた。
だが、周りの卓の人間はそんな事を気に留める事もなく、ただ酒を飲みながら談笑を交わす。
女もなく、酒しか娯楽の無いこの場所ではそんな光景は常なのだ。
だが彼がそこへ足を踏み入れれば、途端に酒場の空気が凍りつくかのように一斉に視線が集まった。
(不吉だぜ)
- 178 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:07:42 ID:hGrdgYdc0
-
その彼の事をひそひそ卓の仲間と囁きあう者もいれば、何事も無くまたグラスのエールを煽る者も居る。
仲間であっても必要以上に干渉しあう者達は少ないが、緻密な連携無くして妖魔退治はままならない。
それでも命を落とす者は後を絶たないこの街に身を置きながらも、彼は孤独な一匹狼だった。
/ ゚、。 /「今、帰った」
隆々の胸板を覆うシャツに付着した血は、殆どが妖魔の返り血。
依頼を終えて報告に訪れる彼は、決まってこの宿のカウンター席の端に座り、強めの酒を何杯か飲む。
まだこの街に訪れてから日の浅い者の中には、顔を鉄仮面で覆い隠したその大男の姿を認めると、
驚いたような視線を向けて、こそこそと後ろを通り過ぎて行く者もいる。
こうして何度も彼の帰りを出迎えている宵の明星亭のマスターにとっては、もはや見慣れた光景だが。
- 179 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:09:03 ID:hGrdgYdc0
-
本日渡された報酬は600sp。
危険な妖魔退治には少し見合わぬ額だが、宿代と酒代に消費するだけの彼に取っては十分な額。
「ご苦労だったな、ダイオード」
カウンターの端にどっかりと腰を下ろした彼に、マスターが酒を差し出しながら労いの言葉を掛ける。
/ ゚、。 /「そうでも、ないさ」
ここでは、金払いさえ良ければどんな過去を持つ人物であろうともわけ隔てなく酒を飲ませる。
たとえ、周囲からは”鉄面の死神”と字され忌避される彼、ダイオード=バランサックであってもだ。
それを受け取ると、口元以外を覆う鉄仮面を外さないまま、彼はグラスの端に口を付けた。
身体のそこかしこに負った裂傷による火照りを、強めの蒸留酒で冷ましていく。
- 180 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:10:51 ID:hGrdgYdc0
-
普段から酒を嗜む男でも、ヒノモト産のこの”アワモリ”を一気に飲み干せば赤ら顔になるというものだが、
巨躯に加えて、そこらの武芸者が裸足で駆け出す程の筋量を誇る彼には、なんら影響を及ぼすものでない。
瞬く間にグラスの中身が底をつくと、彼はマスターに尋ねた。
/ ゚、。 /「……今日、着くと言っていた冒険者はどうした?」
「あぁ、そういえば遅ぇな。来る途中で死んでなきゃいいがよ」
マスターが半笑いに口にしたその言葉は、案外ただの冗談でもなかった。
殺人や物取りといった罪を犯して、余所では住処を追われた者達もこの街には少なくない。
挙句、揉め事を起こしてこのバルグミュラーにすらも居られなくなれば、
最後には近隣の野山にて訪れる冒険者達をつけ狙う、野盗の類へと身を堕とす。
近年では野に下るそんな荒くれ者どもも増え、余所から流れてくる冒険者達の障害と問題視されていた。
- 181 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:11:39 ID:hGrdgYdc0
-
/ ゚、。 /「……それでは、困る」
未だ自身の待ち人が顔を見せない事に、心なしかダイオードの瞳には落胆の色が浮かんだ。
「えらく風格のある奴だったがね。まぁ、大丈夫だろうさ」
/ ゚、。 /「………そうか」
マスターの言葉に一抹の安堵を得てか、伏目がちに頷くと、また注がれた酒を煽り始めた。
彼にとっては重要な事なのだ。
その男が、果たして自分の目に適う器の持ち主かどうか。
病でこの世を去った愛息子───そして自ら命を絶った最愛の女性。
その二人が旅立った場所へ自らも行く事こそが、彼の最大の願いなのだから。
- 182 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:13:10 ID:hGrdgYdc0
-
しかし、彼女たちは自ら命を捨てようとする事を許してはくれなかった。
そんな死に方では二人の御許に辿り着けないから、だからこそ、自らを死地へと立たせる。
純朴な木こりだったかつての彼が振るう斧は、いつからか妖魔の首を刈り取る為の、血塗られたものになっていた。
周囲の人間が次々と命を落としていく中を、常に第一線で戦いへと明け暮れた。
それが幸いしてか───いや、皮肉にして。
限りなく求めるはずの”死”を克服し続けるだけの力。
いつの間にかそれは、彼の中に備わってしまっていた。
そのダイオードが求めるもの。
それは、ただ無慈悲で、どんなに理不尽であろうとも。
抗おうにも抗いようの無い、絶対の死を齎してくれる存在。
- 183 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:13:50 ID:hGrdgYdc0
-
/ ゚、。 /(───早く、来い)
ヴィップから訪れる冒険者は、果たしてその為の舞台を整えてくれるだろうか───
歩く死人だと自覚している彼だったが、酒の熱に引き上げられてか、次第に胸は高鳴っていた。
いずれ”龍”との邂逅をもたらすであろう、その男の到着を待ち望んで。
─────
──────────
───────────────
同じ頃。
- 184 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:14:38 ID:hGrdgYdc0
-
( ,;゚Д゚)「あッ、ぅ……なん、で」
自身に降りかかった鮮血の生暖かさに、その心地悪さに。
膝をかたかたと震わせながら、絶句し、驚愕の表情を浮かべていた。
そのギコへと振り返り、どこまでも冷たく蔑する眼差しを向けるのは───ジョルジュ。
_
( ゚∀゚)(………)
その男の身体を貫いているのは、紛う事無くジョルジュが背にする大剣だ。
ぶ厚い鉄塊が胸の中心から、背中へと抜けていた。
「か───ふ……ゥッ」
刃先には鮮血が彩り、ジョルジュ自身の顔や外套をも返り血が汚している。
そうして、串刺された男は短く呟くと、間もなく絶命したようだった。
- 185 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:15:27 ID:hGrdgYdc0
-
( ,;゚Д゚)(………し、死んだのか?)
「う、あぁ……兄貴ぃ!」
ギコの瞳には───瞬く間の、出来事だった。
危うい吊橋を渡りきった後の二人の前に、まず三人組の男が躍り出る。
その彼らがにやにやと吊り上げた口元には髭が伸び切っており、長い山での生活を思わせた。
そして、剣の切っ先をジョルジュ達へと向けてありていな台詞を言ってのけたのだ。
”お前さんがた、身ぐるみ全部置いていきな”、と。
山賊だ、それをギコが認識した瞬間には、もうジョルジュの剣が男を貫いていた。
一寸の躊躇も無く、否応無しにその男の人生を終わらせたのだ。
- 186 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:16:20 ID:hGrdgYdc0
-
ジョルジュより遥か遅れて剣の柄を握り締めたギコは、
呆気に取られた表情でその一部始終を目の当たりにしていた。
( ,;゚Д゚)(………)
身を寄せながら男の胸から剣を引き抜くと、もはや事切れた男の亡骸は、ずさ、と地面へと伏した。
光景を背後で見送っていたあとの子分らしき二人も、今のギコと同じような表情を貼り付けている。
_
( ゚∀゚)「で?………どうするよ、お前らは」
「……ち、畜生がぁ!」
あくまで不遜を貫き、目の前の男どもを食ったような物言い。
しかし、冗談めかしの言葉など投げかけられる雰囲気は微塵も無い。
ギコにはとてもじゃないが、今朝方まで道中を共にした男とは思えなかった。
これほどあっさり、人を斬り殺せるような男だなどと。
( ,;゚Д゚)「や、め────」
- 187 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:17:13 ID:hGrdgYdc0
- _
( ゚∀゚)「ほら、目の前にいるぜ。やってみろよ………仇討ちでも」
この山賊どもとジョルジュとの差は、火を見るよりも明らか。
一人が討たれた時点でもはや勝負はついていたはずだ。
だが、ジョルジュの挑発に看過された男の一人が、剣を構えてしまった。
「なめやがって……よくも、兄貴を!」
無茶だ、やめろ。
そう叫ぼうとしたが、上手く声が出ない。
ジョルジュの背に立つギコは、もはや明らかな動揺に飲み込まれてしまっていた。
「殺してやるぜ、てめぇ!」
_
( -∀-)「そうだな……潔く散るも、良しだ」
- 188 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:17:56 ID:hGrdgYdc0
-
「くッそがあぁぁぁッ!!」
残る山賊の内、一人が激昂してジョルジュへと斬りかかった。
( ,; Д )「………止めろよッ! ジョルジュッ!」
上手くひねり出せなかったが、どうにか彼の背中へそう声を掛ける事が出来た。
”ぶんっ”
刹那、重さを纏った風切り音。
”バヅンッ”
遅れて、山賊の胸当てが一閃に断ち割られる音が響く。
_
( ゚∀゚)
やがて動きを止めたジョルジュが、ギコの方へ振り返る。
右手で繰り出した大剣を振り下ろした勢いは、柄を左手へと持ち替えて、左方へといなし終えていた。
- 189 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:19:21 ID:hGrdgYdc0
-
( ,;゚Д゚)「ジョ……」
ギコが言葉を言いかけた時、胸当てごと肉を切り裂かれた山賊が、その場にどさ、と両の膝を突く。
_
( ゚∀゚)「チッ……仕留め損なったぜ」
「ぐ……うッ」
痛みに表情を歪め、傷口を手で押さえる彼の衣服からは、じわりと血の色が滲んでいる。
苦悶を浮かべる山賊には、もはや戦意など欠片も残っていないだろう。
ジョルジュの剣の抜き出しの速さ、そして圧倒的な速度と質量で放たれた打ち込み。
それらはギコの目にも留まらぬ、全てが一瞬の出来事だった。
「ひッ……」
残された山賊の一人が甲高い声を上げながら、それらの光景にとうとう尻餅をつく。
- 190 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:20:54 ID:hGrdgYdc0
-
( ,;゚Д゚)「もう、十分だろ」
これまでと違う一面を見せる彼の背中に、そう言葉を投げかけた。
だが、ジョルジュはなおもギコが耳を疑うような台詞を口にするのだ。
_
( -∀-)「止めは───お前が刺せ」
( ,;゚Д゚)「な、何言ってんだ……なんで! 俺が……」
「……ヒ、ヒィッ!か、勘弁だッ、勘弁してくれやッ!」
_
( ゚∀゚)「………」
無言でギコから向き直ったジョルジュが、抜刀したまま尻餅を付く山賊の前に歩み出る。
仲間二人を軽々と斬り伏せたその男が、ゆっくりと頭上に剣を振り上げていく光景は、恐怖だろう。
- 191 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:22:35 ID:hGrdgYdc0
-
おののく山賊は、今にも股間を湿らせそうな程に弱々しく泣き叫びながら許しを乞うも、
そのジョルジュの横顔からは、情けをかけてやるつもりなど毛頭感じ取れず、
そればかりか、彼はもはや戦意を失った人間をも、これから斬るつもりなのだと悟った。
_
( ゚∀゚)「なら………俺がやらぁ」
やがて頂点に構えられた剣が速力を得ようとした時、ギコが割って入った。
( ,#゚Д゚)「───止めろって、言ってんだゴルァッ!!」
_
( ゚∀゚)「……あぁん?」
( ,; Д )「くッ……」
ようやく剣を下ろしたジョルジュに掛ける言葉を選びながら、胸を詰まらせた。
信頼の置ける実力者が、その実”人を斬るのになんら厭わない男だ”という事実を目にしての、落胆。
- 192 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:23:28 ID:hGrdgYdc0
-
怒りを露にして、自分よりいくつも年長であり、いくつも経験を重ねているであろうジョルジュに対し、叫ぶ。
( ,#゚Д゚)「何も───何も、殺す事はねぇじゃねぇかゴルァッ!」
_
( ゚∀゚)「………はん」
顔を熱に火照らせるギコとは対照的に、ジョルジュはその彼の言葉を冷笑の元に伏した。
( ,#゚Д゚)「正直、見損なうぜ───アンタにゃ感情が欠落してんのか!?」
言い過ぎているとは、ギコ自身も思っていない。
たとえ悪党であろうとも、目の前で命乞いをする人間を斬り殺すなど許せなかった。
父から譲り受けた妙な正義感からか、この時ばかりは己の判断が、ジョルジュのした事は間違いだと告げる。
- 193 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:24:42 ID:hGrdgYdc0
- _
( -∀-)「───ガキが」
すぅ、と息を吸って、ジョルジュはそこでようやく剣を下ろした。
かと思えば、今度は大剣の切っ先をギコの目の前へと突き出して、
なおも食ってかかろうとしたギコの勢いに水を差した。
( ,;゚Д゚)「!」
_
( ゚∀゚)「いいか、ケツの痣もまだ消えきっていねぇ青二才のガキめ」
_
( ゚∀゚)「偽善って言うんだよ、てめぇのそれは」
( ,#゚Д゚)「なんだとゴルァ!?」
逆上するギコの神経を逆撫でるかのような言葉が、口元に笑みを浮かべたジョルジュが更に紡ぐ。
しかしその瞳は出会った時と変わらず、今は冷ややかでこそあったが、やはり焔の色を宿していた。
- 194 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:25:29 ID:hGrdgYdc0
- _
( ゚∀゚)「……実の所、お前自身は親父さんの仇討ちをしてぇなんて気持ち、てんでねえだろ?」
( ,#゚Д゚)「今は関係ねぇ話だ!俺は───アンタから話を聞いて……自分で選んでこうして……」
_
( ゚∀゚)「自分で選んだ?俺から、てめぇの親父さんの話を聞いたからってか!?ちゃんちゃら可笑しいぜ」
( ,#゚Д゚)「何が───」
話を逸らそうというのか。誰がそんな事に聞く耳など、持つものか。
今ジョルジュがやってのけようとした事は、偽善だとか、自分の旅の理由などとは何の関係も無い。
しかし雄弁を振るうジョルジュの声は、何故だかギコの深い部分に入り込んでくるようでもあった。
- 195 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:27:01 ID:hGrdgYdc0
- _
( ゚∀゚)「……違うな。停滞して、燻って。そんな気はさらさら無ぇ癖に………
てめぇはこの俺に着いて来る事で、そんな自分が変われるとでも思ったのよ」
( ,#゚Д゚)「………」
_
( ゚∀゚)「───俺は、俺の全てを奪った野郎を許せなくて、ただその一心だけでここまで来た。
装備どころか、ろくに服も食い物もねぇ。初めての武器はな、削りだした木の枝だったさ」
_
( ゚∀゚)「10やそこらのガキには、世間様はえらく染みる辛さよ。
だがな───それでも俺はその道を、俺自身で選んだ」
_
( ゚∀゚)「ところがてめぇと来たらどうだ!?今まで考えもしなかった旅の理由を、この俺に預けてやがる!」
( ,;゚Д゚)「───!」
ぎくり、とする思いだった。
- 196 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 05:28:30 ID:hGrdgYdc0
-
この男に出会わなければ、その彼に惹かれるようにしてこうして大きな目標を抱いて旅立つ事は無かったろう。
人の栄える交易都市で、いつまでも根無し草のような日々を送っているだけだったかも知れない。
ジョルジュが自分で自分の道を選んだように、かつて邪龍と戦った傷が元で死んだ父。
”フッサール=ブレーメン”の弔いだとか仇討ちだなどと、本当にそれを考えて今この場にいるのか。
その問いを自らに問えば問うほどに、ジョルジュの言う通り、それは”停滞”への言い訳にも思えた。
決心した、覚悟をした。
そんな言葉を自らに言い聞かせてきた、はずだった。
_
( ゚∀゚)「普段なら……俺一人なら殺しはしねぇ程度の相手だった」
( ,;゚Д゚)「………」
そう言って目線を送った先には、まだ身をかたかた震わせている気弱な山賊の姿があった。
- 197 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 06:12:46 ID:lPyFA01cO
- 早朝投下見つけた、続きまだー!
- 198 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:22:57 ID:hGrdgYdc0
- _
( ゚∀゚)「だが、いざって時に人を斬れる度量もねぇてめぇには、この先一体何が出来るってんだ」
_
( ゚∀゚)「”人は斬れないが悪い龍なら斬れます”ってか?」
( ,;-Д-)「だ、だけど───俺だって、覚悟を決めて」
_
( ゚∀゚)「それだ、その口が言いやがる。随分と大安売りだぜ───”覚悟”なんざ、
腹にこうと決めたら、とっくに自分自身で考えて行動してるさ」
_
( ゚∀゚)「敵はファフニールだけじゃねぇかも知れねぇ、同じ人間のクソ外道どもと、
一戦ぶちかます事だって”俺の旅”には大いにあり得る」
- 199 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:23:45 ID:hGrdgYdc0
- _
( -∀-)「そんな時……てめぇの喉元に剣が迫った時だ。そこで、下らねぇ
善悪の感情なんぞに引っ張られて躊躇しちまうような奴なんざ、ツレとしちゃ御免だわな」
_
( ゚∀゚)「そんなもんに振り回されて、周りに良くしてくれたツレが不運に巻き込まれて死んだりな……
逆に老い先短ぇ爺や婆をだまくらかした挙句、幸せな余生を送ってる小悪党だって見てきた」
_
( ゚∀゚)「俺としちゃあ……人間なんざ。いやさ、妖魔どもも龍族の化けもん共も、そうは変わらねぇさ」
( ,;-Д-)(………くッ)
甘さを痛感していた。
ジョルジュはギコの中身の無い上辺だけのその”覚悟”を、容赦なく責め立てた。
- 200 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:25:04 ID:hGrdgYdc0
-
”お前に俺ほどの覚悟があるか”
ジョルジュは自らの想いの強さを示すかのように、山賊の一人を躊躇なく斬った。
決してそれは万人が諸手を上げて”良い事だ”などと、言えようはずもない。
しかしそれは、時に人を殺めてでも───
その上でも遂げたい程に強く願う理想を掲げているのか。
そして、その為に踏み越えて行かなければならない道々での覚悟があるのかと。
それこそを、伝えたかったのかも知れない。
_
( ゚∀゚)「……まぁ、短い付き合いだったが───俺はお前の親父さんには実際感謝してるぜ」
( ,;-Д-)「………そう、かい」
この先へ踏み出す程の覚悟を持たないお前とは、ここで別れる。
ジョルジュの言葉は、それを告げるようだった。
激しく打ちのめされたギコがその背に声を掛ける事はできなかったが、
先へと進もうとしたジョルジュが、最後にふと足を止めて、彼へと振り返った。
- 201 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:25:48 ID:hGrdgYdc0
- _
( ゚∀゚)「まだ悔いがあるなら、チャンスをやろうか」
( ,,゚Д゚)「……?」
「え……ひぃっ、ひぇッ」
意味深な台詞を口にして、またもジョルジュは残る山賊へと視線を向けた。
_
( ゚∀゚)「そいつを殺れりゃあ、お前をバルグミュラーに伴ってやってもいい」
( ,,゚Д゚)「………」
にやり、と口の端を吊り上げながら、またジョルジュはそんな言葉をのたまった。
先ほどは怒りをむき出しにして食ってかかったギコだが、どうやら今はそんな気にもなれない。
「だ、駄目だッ!やめっ、見逃してくれぇぇッ!」
- 202 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:26:52 ID:hGrdgYdc0
-
情けないその男の悲鳴にも似たその声が、二人の間で叫ばれる中。
ギコは、自分の掌へと視線を落として、それをじっと見つめていた。
その彼が一体どう出るか。
まるで試しているかのように見守るジョルジュの瞳に、やがて光が躍る。
ギコが、ゆっくりと背に手を回して剣を抜いたのだった。
_
( ゚∀゚)「………」
( ,, Д )「………」
「って、えひぃぅぇぁッ」
ギコは両手に掴んだ柄の先、黒く堅牢な”邪龍ファフニール”の尾鱗が覆う剣の刀身を、見つめる。
_
( ゚∀゚)「斬るのか」
ジョルジュは問うが、そうではなかった。
- 203 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:28:08 ID:hGrdgYdc0
-
ジョルジュの言葉に薄らと首を横に振りながらも、今一度意味を考えていたのだ。
父がこの”竜刀・邪尾”を自分に託したのは、どういう思いからだったのかと。
傭兵として家族を養う一方で、父・フッサールは、一人の正義漢だったと聞かされて育った。
幼い頃の記憶しか持たないギコには、そんな父が昔話に出てくるように、遠い存在と感じていた。
命を落とすきっかけとなった邪龍の一部を、死の間際に匠へと預け、それを剣として息子に託した意味────
今になってジョルジュの言葉に開眼出来たギコには、ようやく見えた気がした。
( ,,-Д-)「………いいや」
ジョルジュのように、自分自身を支えてくれる、理想の為の背骨。
それは父が遺したものの中に、少なからず想いとしては宿っているはずだ。
( ,,゚Д゚)「ー──たとえ悪党だろうと、俺は怖くて小便まで漏らしてる奴を、殺す気にはなれねぇな」
- 204 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:28:56 ID:hGrdgYdc0
- _
( ゚∀゚)「……はッ、だろうと思ったぜ」
やはり、血みどろの道すら厭わないような覚悟など、この腑抜けには定まらないのだ。
それを一言笑ってやろうとしたジョルジュだったが、顔を上げたギコの瞳を見て、言葉は飲み込んだ。
( ,,゚Д゚)「だが、この剣に誓って言うぜ───今まで中途半端な気持ちで、悪かったな」
_
( ゚∀゚)「………ほぉ?」
( ,,゚Д゚)「今後、あんたみたくむやみやたらに人を斬るつもりはねぇが、
降りかかる火の粉は掃う。だから連れてけ───俺も、バルグミュラーにな」
その言葉は、自らに行動で示そうとしたジョルジュへの皮肉も込めた。
情けない自分の内面の図星を指されてしまった仕返しに、これくらいはいいだろうと思った。
_
( ゚∀゚)「へッ、お得意の”覚悟”が定まったって奴か」
- 205 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:29:59 ID:hGrdgYdc0
-
( ,,゚Д゚)「ジョルジュ───あんたに言わせりゃ下らねぇかも知れねぇけどよ……こいつぁ、単に正義感って奴だ」
父が息子へと繋いだ想い。
それは肉親であるが故に、極めて都合の良い解釈かも知れない。
だが、自分自身も少なからずそうであるから、こう思えた。
( ,,゚Д゚)「俺の親父は……多分、あんたみたいな目に遭う奴が二度と出ない事を望んでたんだと思う」
_
( ゚∀゚)「………」
口にするとなんだか陳腐で、安っぽくもある言葉。
正義────人の世ならば、その反対にはまた違う正義があるだけ。
だが、人の世を脅かす邪龍に、そんな常識は当てはまらない。
( ,,゚Д゚)「俺の親父を死なせて、あんたの村を滅ぼした邪龍の野郎は、悪さ」
- 206 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:30:45 ID:hGrdgYdc0
-
( ,,-Д-)「……じゃあ、そいつを使って悪だくみしようとしてる奴がもしいたら、そいつらも悪だ」
( ,,゚Д゚)「んで……俺は親父の遺志を継いで、そいつらも邪龍もぶっ倒す。俺が、正義だ」
_
(;゚∀゚)「あぁん?結局何が言いてぇんだよ」
疑問符ばかりを浮かばせるジョルジュを納得させるだけの言葉を捜しあぐねて、ギコが思案を重ねる。
( ,;-Д-)「うーん、俺はあんたみたく口先はうまくねぇから良い言葉が浮かばねぇんだが……」
腕を組んで悩んでいるうち、頭の中でぴぃんと閃いた。
それは至極単純明快で、ギコらしい答えだ。
- 207 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:31:40 ID:hGrdgYdc0
-
( ,,゚Д゚)「まとめるとだが……俺は、俺や俺の親父が信じる”正しさ”の元に、邪龍を討つ」
_
( ゚∀゚)「……ふん。で、何がどうなろうと揺らがないだけの覚悟が、そこにあるって訳か?」
( ,,゚Д゚)「言ったばかりだぜ。身に降りかかった火の粉は、てめぇで掃うさ」
きっぱりとそれら言葉を言いのけて、ギコもまたふん、と鼻を鳴らした。
次にはどんな揚げ足取りの言葉を用意しているのか、ジョルジュが次に言う言葉を
じっと待っていたが、その彼の口から紡がれたのは、あまりに呆気ない台詞だ。
_
( -∀-)「……なら、勝手にしろ」
( ,;゚Д゚)ハァ!?
- 208 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:32:39 ID:hGrdgYdc0
-
思わず目を見開いて、そう言った。
珍しく頭を使って、力強く投げかけたギコの言葉に、さして興味も無さそうに
ジョルジュはずんずん先へと進んで行こうとする。
素早く追いすがって、その肩を掴んで振り向かせた。
_
(#゚∀゚)「……るせぇな、今度はなんだ!?」
( ,;゚Д゚)「いや、いいのかよ───その、着いてって……」
_
( ゚∀゚)「だから勝手にしろって言ってんだろうが。足手まとい」
( ,;゚Д゚)「な、何ぃ!?」
_
(#゚∀゚)「それよか……急いでんだからよ。無駄な事に時間使わせんじゃねぇ」
( ,;゚Д゚)「あ、わ、悪い」
先ほどまでの説教は何だったのかと、小首を傾げながらどこか釈然としない思いを抱く。
互いに抜き出していた剣を収めると、また目的地へ向かうべく、二人は歩き始めた。
- 209 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:33:39 ID:hGrdgYdc0
-
不意に振り返ると、あの怯えていた山賊もようやく立ち上がると、
ジョルジュに斬られて深手を受けた仲間を抱え、何処かへと連れ立とうとしていた。
( ,,゚Д゚)(しかし、惨い事するよな……)
_
( ゚∀゚)「下らねぇ事考えてんじゃねぇだろうな」
( ,;゚Д゚)「いや、別に」
心の中を読まれたかのようなタイミングで発されたジョルジュの言葉が、
またもぎくり、とギコの心音を高鳴らせた。
有無を言わさず胸を貫かれた山賊の男に、少しばかり同情してしまうのは事実だ。
_
( ゚∀゚)「……間違っても、可哀相だなんて思うなよ」
( ,,゚Д゚)「ん?」
- 210 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:34:25 ID:hGrdgYdc0
- _
( ゚∀゚)「俺に殺された奴は、同じ手口で人の2〜3人も殺してるだろうし、女ぁ攫ったりもしてんだろ」
( ,,゚Д゚)「まぁ……無くはねぇか」
_
( ゚∀゚)「誰かに剣を向けた時───同時にそいつは、自分に剣が向けられる事も覚悟しなくちゃいけねぇ」
( ,,゚Д゚)「………」
_
( ゚∀゚)「いつか、痛い目は必ず自分に返ってくるのよ──まぁ、そいつが嫌なら……」
( ,,-Д-)「最初から、しみったれた真似はすんなって話か」
─────
──────────
───────────────
- 211 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:35:25 ID:hGrdgYdc0
-
もうじき二人は、城壁都市へと足を踏み入れる。
そこではギコの口にするような”正義”など、見向きもされない代物だ。
必要とされるのは、ただ己の身を凶悪な妖魔の身から守る為の武具や、それを扱う術。
────夕刻。
彼ら二人の瞳には、ようやく城壁都市の重苦しい外壁が姿を現しつつあった。
暮れなずむ茜に染められた外壁と、荒野の赤土。
その色は、この先控えているであろう血戦を、予感させるものだった。
- 212 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:37:11 ID:hGrdgYdc0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「壁を越えて(4)」
-続-
.
- 213 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:38:36 ID:hGrdgYdc0
-
<<(嘘)予告>>
「……お前みたいな奴も飼われてたんだな」
「問答、無用」
濃紺の装束。
同じように顔を隠す頭巾の目元からは、妖しい双眸が禽獣の光を宿していた。
深く腰を落として片手に突き出した短刀を携える、独特な構え。
(俺の生まれたとこにも、いたっけな)
自分の故郷が発祥のはずだ───確か、こういうのを”ニンジャ”とか言ったか。
「激しく、暗殺」
「来な───胸を、貸してやるからよ」
- 214 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 08:44:06 ID:hGrdgYdc0
-
<<(嘘)予告>>
ξ ⊿ )ξ( ω )川 - )爪 ー )y-(´ ω `)
ヴィップワースのようです
第10話(1)
「孤狼は月厘に哭く」
-7月中に(できれば)投下予定!-
「……可笑シいか」
「───そうなのかな」
「こレから死すルト言うノに」
「何故だろう、ね」
「確かに、貴方は過去最強の力を誇っていたかも知れない、が……その貴方に」
───いつの間にか、武者震いは止まっていた。
「───現大陸最強の魔術師が相手では、どうかな?」
互いに咽るほどに色濃く死を臭わせる、術者同士での戦いが、始まった。
- 215 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 12:00:20 ID:lPyFA01cO
- ギコって出てきた時は空気で人数合わせキャラだと思ってたが
ここへ来て龍を倒す鍵を握る存在になってきたみたい
ところで嘘予告って
①レスまるごと全部嘘
②内容が嘘
③投下予定日が到底間に合いそうもない
- 216 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 13:57:14 ID:uPVUcHKUO
- 記念すべき10話に嘘臭い予告を挟みたいがためだけに急遽書き上げたのでなんかいまいちですた
次は頑張ります
- 217 :名も無きAAのようです:2012/06/26(火) 20:27:25 ID:.H0gTqvE0
- ジョルジュかっけぇなぁ
- 218 :名も無きAAのようです:2012/06/29(金) 04:39:05 ID:38mcw.Ao0
- おお、こんなものがあったのか。…ふうむ、さすがにVIP産のシナリオを元ネタにするのは逆に不味いのかな?
- 219 :名も無きAAのようです:2012/06/29(金) 06:30:57 ID:P/2o7XwAO
- >>218
VIP WIRTH本家の方かw
作品の題材は昔やってたASK公式や有名シナリオが主なので、VIPPERのワーシストさん達が
どんな活動をしてるのかは恥ずかしながら知らんとです。。。
- 220 :名も無きAAのようです:2012/06/30(土) 05:20:41 ID:YTqDNrSo0
- >>219
最近保管庫とろだが一度消えたのち復活するとかいろいろあったけど初期から秀作多いので店シナ以外もお勧めです。
この人のシナリオとか当時はわりと新鮮だった http://vipwirth.gob.jp/search/index.cgi?w=a&s=%83u%83%8D%83%93%83e%83B%83X%83g&a=AND&l=n
- 221 :名も無きAAのようです:2012/06/30(土) 07:00:35 ID:rX0r7S3c0
- >>220
ありがとう、落とした。
折を見て久しぶりにプレイさせてもらいますわ。そして参考にパクr
- 222 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:47:06 ID:sFhAi3KQ0
- 投下し辛いのでage
途中外出してブツ切りするかも知れないので、sageながら……
- 223 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:48:37 ID:sFhAi3KQ0
-
──交易都市ヴィップ──
爪'ー`)「重てぇなこれ。一体何入ってんだよ」
人々が往来する波に揉まれながら、街路の中央で紙袋一杯の買い物を持つフォックスの言葉に、
彼の前を行くツンは、小鼻を膨らましながら小さな胸を反らせた。
ξ-⊿-)ξ「泣き言言わないの。誰のお陰で今こうしてられると思ってるのよ」
爪'ー`)「へぇへぇ、ツン様のお陰ですよっと」
先のロード・ヴァンパイア、ハインリッヒとの戦い。
結局のところツンの”聖術”によって、重傷を負った全員が全員、命を拾う事が出来た。
面々も一時は死を覚悟したものの、それから10日あまりが過ぎた頃には、
すでに激しく生き残りを懸けた戦いの余韻も何処かへと過ぎ去って───
今では、またこうして次の冒険に備えて旅に入用な品を買い揃えているという訳だ。
- 224 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:49:17 ID:sFhAi3KQ0
-
爪'ー`)「……ん?」
買出しを終えたツンとフォックスは、宿へと帰る途中だった。
ふと、フォックスが見覚えのある後ろ姿に眉をひそめた。
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたのよ」
爪'ー`)「ちっと、見知った顔かも知れねぇ」
ξ゚⊿゚)ξ「知り合い?」
爪'ー`)「これ、頼むわ」
ξ;゚⊿゚)ξ「え……ちょっと」
その背中を追いかける為、荷物をツンに預けたフォックスは走って行ってしまった。
どさ、と投げ渡された荷物の重みによろけた彼女一人が、ぽつんとその場に取り残されたまま。
ξ;゚⊿゚)ξ「って……重いんですけど、これ」
- 225 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:50:04 ID:sFhAi3KQ0
-
──【失われた楽園亭】──
( ^ω^)「傷は治ったのかお、ショボン?」
(´・ω・`)「あぁ、もう万全だ」
( ^ω^)「遠出が出来る身体じゃない分、夜通し酒を酌み交わしたおかげかおね」
(´・ω・`)「酒浸りの君らと一緒にしないでくれ。傷に染みた日もあったさ」
( ^ω^)「その割にはショボンだって結構楽しそうにしてたお?」
(´・ω・`)「まぁ、それなりにはね」
- 226 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:50:57 ID:sFhAi3KQ0
-
( ^ω^)「確かに。昨夜は深酒し過ぎて、珍しく酔ったショボンを見たお。
目元も潤んでたおね。”僕は父さんを認めさせたいんだ”って」
(;´・ω・`)「……何、だと……?」
(;^ω^)「本当だお」
ばん、と卓を平手で叩きつけたショボンが、
「その話は忘れてもらおうか」とブーンに詰め寄っていた。
ブーン達以外の冒険者も大体が出払い一息を着いていたマスターは、
頬杖をつきながらそんな彼らのやりとりを眺めていた。
(’e’)(はぁ。平和だねぇ)
お互い死ぬ目に遭ったばかりだというのに、まるでそんな事もなかったかのように振舞う。
それはただ単に呑気だからなのか、はたまた、肝が据わっているからなのか。
- 227 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:52:04 ID:sFhAi3KQ0
-
(’e’)(ま……いっつも切羽詰まってるよりかは、常に余裕を持ってる奴らの方が頼れるもんか)
その言葉は、心の中で思っておくだけに止める。
軽はずみにそんな褒め言葉を彼らに投げかけては、益々もって増長してしまうからだ。
不意に、扉が開け放たれて外気が宿の中に立ち込み、客入りを知らせる。
(’e’)「──いらっしゃい」
( "ゞ)「おぉ……良さそうな店じゃねぇか」
(’e’)「俺のこだわりが光る、料理が自慢の店さ」
( "ゞ)「マスターはあんただな? ……ちと耳に入れときたい情報があってね」
( ^ω^)(おっ?)
- 228 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:53:06 ID:sFhAi3KQ0
-
聞き覚えのある声に、ブーン達の卓の横を通り過ぎてカウンターへ向かった男の顔を、覗きこんだ。
確か、初依頼の時にリュメの街で情報を教えてくれた盗賊だ。
(’e’)「……俺はお前さんとは初対面だが」
( "ゞ)「あぁ、こいつはあんたに直接の関係はねぇかも知れねぇが……って」
( ^ω^)ジロジロ
(;"ゞ)「………何見てんだ」
(´・ω・`)「知り合いかい?ブーン」
( ^ω^)「やっぱり、そうだお!」
宿への来客である彼のすぐ背後にまで忍び寄ってきたブーンが、彼の耳元で大声を上げる。
耳の穴に指を入れて、盗賊は心底煩そうに、その声量に顔をしかめたが。
- 229 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:54:01 ID:sFhAi3KQ0
-
(;"ゞ)「あぁ、いつかの干し肉冒険者か」
( ^ω^)「その節は世話になったおね!」
( "ゞ)「お前さん、この街に居たのか……」
その時、扉が開け放たれて、買出しへと出かけていたフォックスが帰って来た。
ブーンとマスターら三人が集まる方を指差すと、驚いたように言う。
爪'ー`)「やっぱり……デルタじゃねぇか!」
( "ゞ)「へ……? お頭ッ!?」
( ^ω^)「おっおっ、フォックスとも知り合いなのかお?」
( "ゞ)「知り合いなんてもんじゃねぇさ」
- 230 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:54:17 ID:1t6iEZQE0
- きたか!
- 231 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:57:28 ID:sFhAi3KQ0
-
爪'ー`)「そっ、俺とそこに居るデルタは……兄弟みてぇなもんよ」
( "ゞ)「随分としばらくで……お頭」
(´・ω・`)「同じ盗賊業、という訳か」
粗雑な話し言葉が瓜二つな事に、ショボンがなるほど、と頷く。
( ^ω^)「そういえば、ツンはどうしたお?」
爪'ー`)「あ……忘れてた。もうすぐ来るだろ」
(’e’)「んでお前さん、俺への話ってのは何だ?」
( "ゞ)「その前に」
マスターの言葉を手で遮って、デルタがフォックスに尋ねた。
- 232 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:58:17 ID:sFhAi3KQ0
-
( "ゞ)「お頭よ、もしかしてこいつらと」
爪'ー`)y-「あぁ。今はパーティー組んでんだ」
( "ゞ)「……ヘッ。本当に冒険者になってるとは思わなかったぜ」
爪'ー`)y-「楽園亭のフォックス一行って言えば、今は少しは名の知れたパーティーだぜ?」
( "ゞ)「へぇ?」
(’e’)「お前さんが言う程じゃねぇよ」
( "ゞ)「──ま、そんなこったろうとは思ったが」
真っ向からフォックスの言葉を否定したマスターにデルタが同調していた折、
必要以上に勢い良く、入り口の扉が開け放たれた。
”ばんっ”
- 233 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:59:22 ID:sFhAi3KQ0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ぜぇぇ〜ッ、はぁぁ〜ッ」
肩をいからせたような格好で、重そうな紙袋を抱えてよろよろと面々の元へと近づく。
呼吸を乱せて、髪のところどころはぴんと跳ねていた。
( ^ω^)「おっおっ、おかえりだお、ツン」
爪'ー`)y-「よっ、悪かったな」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、アンタねぇ……悪かった、じゃないわよ!非力な私にこーんな重いもの持たせて!」
爪'ー`)y-「いや、すまねぇ。懐かしき友人がそこに居たものでね」
( "ゞ)「………」
ξ゚⊿゚)ξ「?」
- 234 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 22:59:40 ID:bNlxLzBM0
- ギター!ギャィィィン!!
- 235 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:00:19 ID:sFhAi3KQ0
-
フォックスの視線に促がされるまま、デルタと瞳が合ったツンは軽く会釈した。
ショボンの座す席の卓上にでん、と音を立てて重い荷物を置いて、自身もまたその場に腰を下ろす。
ξ;゚⊿゚)ξ「ふぅ……ようやく一息つけるわ」
一堂が会した折を見計らって、マスターが再度切り出した。
(’e’)「──そろそろ、その、俺への話ってヤツを聞かせてもらえるかな?」
( "ゞ)「あぁ……実はここに来る前、悠久の時の流れ亭のマスターに聞いたのさ。
”クー=ルクレール”って冒険者と、あんたは親しいらしいな?」
(’e’)「ん、まぁ……昔は親代わりを務めたもんさ」
ξ゚⊿゚)ξ「………?」
( ^ω^)「おっ?クーさんが、どうかしたのかお?」
( "ゞ)「……何だ、お前さんがたも知ってるのかい。って事は──」
- 236 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:01:37 ID:sFhAi3KQ0
-
爪'ー`)y-「あぁ、前にちょっとな──ちと性格はキツいが、良い女だ」
( "ゞ)「ちげぇねぇ」
一度頷いてから、デルタは言葉を続けた。
その彼が口にした話の内容は───ブーンらにとっても。
そして、まだ幼い頃から彼女の面倒を見てきたという楽園亭のマスターに取っても、捨て置けないものだった。
( "ゞ)「丁度良い……それなら、お頭とあんたらにも聞いてもらおうか──」
・
・
・
- 237 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:02:33 ID:sFhAi3KQ0
-
山を黒く包むのは、大きく広がった雨雲。
その悪天候の中臨むのは、遥か南東の小さな農村を目指す旅路だ。
掌を上にかざすと、ぽつり、ぽつりと雨粒の感触が伝わってきた。
爪'ー`)「さすがにこの天候だと、先行きが不安になるな」
(´・ω・`)「リュメをへ迂回してからだとそれだけ到着が遅れてしまう───険しい山道が続くが……」
( ^ω^)「……構いやしないおね、ツン?」
ξ゚⊿゚)ξ「えぇ。それよりも、彼女の身が心配だわ」
(´・ω・`)「……確かにね。話に聞く限りでも、壮絶極まりない依頼だと誰もが思うはずだ」
爪'ー`)「まぁ、俺でも三日は寝込んじまうかも……な」
- 238 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:03:36 ID:sFhAi3KQ0
-
──デルタの言葉を聞いた彼らは、あの後。
彼女、”クー=ルクレール”の胸中を想い、しばし言葉を発せずにいた。
連続殺人、その事件の影で暗躍していた謎の”魔剣”と対峙した際に、彼女は
目の前で相棒一人を失い、あまつさえ剣の力に魅了され、操られていた年端もいかぬ少女の死を目の当たりにした。
そして彼女は、失意のどん底へ突き落とされてそのまま失踪したのだという。
窮地に陥ったクーを救うため、実際にその少女の命を絶ったのは、デルタだった。
盗賊ギルドの仲間の一人が事件の渦中で殺された事にもそうだが、郷里の気心知れた町の仲間。
たとえどうにも出来ない状況だったといえ、兄弟の一人がそれを手に掛けて、血で汚す痛みを、哀しみを。
ブーン一行の中でデルタのその苦渋を誰よりも汲み取って、そして自分事のように悲しんだのは、
やはり貧民窟で幼い頃から共に育った、フォックスだが。
爪'ー`)「………」
- 239 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:05:32 ID:sFhAi3KQ0
-
今、ブーン一行はそのクーを捜索する為の道程を歩んでいる。
ξ-⊿-)ξ(どうか、彼女が無事でありますように……主の、ご加護を)
クーの為に、そして名も知らぬ少女や、リュメの町の犠牲者達の為にも、ツンは心の内で祈りを捧げる。
共に力を合わせて窮地を乗り切った彼女は、自分の身を投げ打ってツンらを助けてくれた事もある。
マスターの手前、そして何より自らの信じる聖ラウンジ、過去、その恥部による行いへの贖罪の為にも。
嘆きや悲しみに打ちのめされながら南東の村に消えて行ったという彼女の事を、放ってなどおけなかった。
( ω )(クーさん。早まってはいけないお)
デルタは彼女への義理から、楽園亭のマスターへその話を持ってきたのだ。
俯きながら、黙って最後まで話を聞いていたはげちゃびんは、最後に「頼む、お前たち」と言った。
無論、マスターのその気持ちには応えよう。
何よりもそれは───自分達全員の想いでもあるからだ。
- 240 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:06:46 ID:sFhAi3KQ0
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───────────────
──────────
─────
川 - )
───彼女はまどろみの中で、懐かしい故郷の夢を見ていた。
- 241 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:07:46 ID:sFhAi3KQ0
-
セピアに色褪せたその景色の中には、とても優しい母と、勤勉な父の姿があった。
無邪気に両親に甘えていた。
まだ、それが出来た頃の彼女の過去の中で───もっとも幸せな時間。
けれどその夢の中では、いつしか両親は何者かに連れ去られてしまうのだ。
次第に暗闇が周囲を閉ざし、彼女はその場にたった一人で残されて、涙を拭っていた。
しかしその彼女の前に、ある時突然光を伴った一人の旅人の背が映し出される。
眩いばかりの光の中へと消えてゆく彼の背を追いかけて、彼女は走った。
自分に新たな光を、風を吹き込んでくれるであろうという淡い期待を抱いて。
けれど、走れども走れども、大声で叫ぼうが、彼が立ち止まる事は無く、自分は追いつけないのだ。
- 242 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:08:34 ID:sFhAi3KQ0
-
足がもつれて転んでしまった彼女は最後、消えてゆく彼に向けて手を伸ばした。
今この生き地獄に身をやつす自分に救いを与えて、道を指し示してくれるであろう、彼に向けて。
そうして、やがて覚醒しつつあったクーの顔を───大きな掌が、2、3度彼女の額辺りを撫ぜた。
川 - )「………ん、くっ」
( )「…………」
どこか懐かしいような感覚に囚われながら、そしてそれが彼女の寝覚めを誘ったのだ。
- 243 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:09:36 ID:sFhAi3KQ0
-
何度も見た悪夢の果て。
やがて目を覚ました彼女の目には、少しずつ現実の光が入り込んで来ていた。
( )「……起こしてしまったか」
川 ゚ - )「…………ここ、は」
大きな掌が、今も自分の額に触れている感覚があった。
やがて光に目が慣れて、完全に視界が晴れた時だ。
何よりも眩しい光が、更にその先に待ち受けていたのだ。
夢の中でまで、その背を追いかけた───
- 244 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:10:48 ID:sFhAi3KQ0
-
( ゚д゚ )
川 ゚ -゚)
再会こそを、待ち望んでいたのだ。
そして、その彼女の想い人は今───彼女の傍らに、寄り添っていた。
「───今、誰より会いたかった」
「俺も、なんだろうな……”クー”」
彼の懐かしい声を聞いたとき、その胸に飛び込みたい衝動を抑える事は、もはや出来なかった。
気が付いた時には広く厚い胸に顔を埋めていた彼女は──大声でその名を口にした。
何度も、何度も。
嗚咽し、涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら。
「───ミルッ、ナぁぁ……!」
- 245 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:13:02 ID:sFhAi3KQ0
-
( ω )ξ ⊿ )ξ(´ ω `)爪 ー )y-
ヴィップワースのようです
第10話
「孤狼は月厘に哭く(1)」
.
- 246 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:14:25 ID:sFhAi3KQ0
-
川 *゚ -゚)「……どう、して?」
一頻りを彼の胸の中で泣き喚いた彼女は、ゆっくりと傍から離れると、改めてその表情に眼差しを向ける。
ゆっくりとベッドから身を起こして、力の満ち溢れる精悍さを湛えた、懐かしき顔を。
それには疲れからか───少しばかり頬がこけている様な印象を受けた。
( -д- )「………」
問いには直ぐに答えず、「ふっ」と一人語知るように息を漏らしただけだった。
”ミルナ=バレンシアガ”
かつて彼女自身がまだ幼い頃、狂った方向に向けられた聖ラウンジ信徒達の暴走をたった一人で鎮圧し、
無実の罪で幽閉され、拷問に掛けられていた多くの住民達を救い出した、嵐の如き英雄。
両親を異端審問で亡くしたクーには、彼女が冒険者の道を志すに至るまで、崇高とさえ思えた男だ。
- 247 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:15:18 ID:sFhAi3KQ0
-
( ゚д゚ )「……俺は……」
川 ゚ -゚)「………?」
( ゚д゚ )「”拒絶”──されると思っていたんだ、お前に」
俯きながら、自分の掌を眺めたミルナが、寂しげにぼそと呟いた。
彼にしてみれば───いつまでも共に旅を続けたいとさえ思っていた時もあった。
しかし彼女の将来を自らが決めてしまう事に、最期を看取ったクーの両親への申し訳なさを感じたのだ。
過去に大きな心の傷を持つ彼女を、それから庇護してやるのには自らの力では足りないと。
彼女に情が移れば移る程、夜毎考えれば考える程にそれらは沸いて出た。
いつしか彼は旅を続ける上での重荷を、自分の中で作ってしまったのだ。
- 248 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:16:47 ID:sFhAi3KQ0
-
だからこそ、ミルナは失われた楽園亭のマスターの元にクーを預けて、また一人旅立った。
時が経ち大きく成長した彼女と再び出会う場所がこんな辺鄙な片田舎だとは、夢にも思わなかった事だろう。
川 ー )「………恨んだ時も、あった」
( -д- )「………」
弁明はしない。
彼女の本心を知りながらも、甘んじて自らその関係を立った咎。
いつか出会ったら、いくらでも受けようと覚悟していたから。
川 ゚ー゚)「でも、そんな昔の事はもう──忘れてしまったな」
( ゚д゚ )「クー………」
次にまた明るく笑みを投げかけてくれた彼女の表情は、まだあの時と同じように。
聡明な中でも幼さを残した、儚くも健気な少女のものだった。
- 249 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:17:47 ID:sFhAi3KQ0
-
( ゚д゚ )「許してくれとは、言わない──だが、俺もお前に会いたかったのは──」
川 ゚ー゚)「……私もだ、ミルナ」
二人を分かてていた空白の日々は、実に10年にもおよんだ。
それでも、彼らが共に連れ添った2年はその時の中で風化する事なく、
やはり変わらず───愛しくも懐かしき、思い出だった。
話したい事は山ほど積もり積もっていたはずなのに、互いにいざ顔を合わせると、言葉は出ない。
川 ー )(なんで……だろうな)
- 250 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:19:20 ID:sFhAi3KQ0
-
空白の10年を乗り越えて、今という時間に追い付いた。
色を失っていたクーの日常に、また彩りが継ぎ足されていく。
冒険者になった事。楽園亭のマスターは今も元気だという事。
そして、名も知らぬ少女一人を、救えなかった事───
何から話そうか、考えを巡らせながらはにかんでいたクーは知らない。
そのミルナの笑顔は優しげに映ったが、寂しく、哀しみに包まれたものだという事を。
まだ力を宿した瞳の奥に仕舞い込まれた、抗いようの無い苦悩の存在を。
( д )(───”罰”か)
”今”という時は、10年の空白が背負わせた罪。
己の罪こそがクーとの再会を引き寄せたのだと、彼は心の内で一人、神を呪っていた。
- 251 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:20:24 ID:sFhAi3KQ0
-
─────
──────────
───────────────
”罰を受ける為”
ある一人の暗殺者もまた───
たった一つの罪を贖う為だけに、自らを死地へ落とし込んでいた。
その道中で更に多くの罪を纏い、背負いながらも。
('A`)「随分遠回りしちまったな」
寂れた、今では打ち捨てられた村。
- 252 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:21:23 ID:sFhAi3KQ0
-
昔この場所では、多くの村人が気の触れた一人の男に殺されたらしい。
所々屋根の剥がれ落ちた家には、鬱蒼と茂った樹木に覆い包まれて光は差し込まない。
暗殺者ギルドを束ねるエクストの影響力は、各街では言うに及ばず、
既に大陸諸侯の一部の者にまでその息がかかっている。
政略の為に暗殺者ギルドに要人の暗殺を依頼して、それを弱みに握られて、
エクストに資金供給を逆らう事の出来ない貴族もまた、存在しているのだ。
エクストが旨い物を食っている一方で、幾らでも代替の利く子飼いの暗殺者である彼らは、
喪失感やら罪悪感に責め立てられながら、雨の日も風の日も、この場所で震える膝を抱えていた。
辛気臭いこんな場所に押し込められていた時もあったな、と、ドクオは自らの日々を振り返る。
- 253 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:22:19 ID:sFhAi3KQ0
-
殺しの腕を上げていく自分が、エクストから優秀な片腕と扱われる一方。
日に一切れのパンだけを与えられて、ひもじさに喘ぐ者達も居た。
満足に依頼をこなす技量を持たぬ奴は飢えて死ぬか、もう見込みの無い人間はエクストに斬り捨てられ──
そんなこの場所には、エクストという男の闇に心を蝕まれた子供たちが、今も膝を抱えて震えているはずだった。
('A`)(10やそこらは……居るだろうな)
廃村の家屋それぞれに息を潜めているであろうエクストの部下達の存在を、肌に感じる気配で探る。
この場所に今もエクストが居るという確証はないが、仕事の依頼で部下を連れ出す時や、
身を隠したい時には必ずこの場所へは戻ってくるはずだ。
ついこないだまで身を置いていたこの場所も、今や敵地。
ドクオにとっては、遥か昔に存在した故郷のようにも感じられる、遠い場所だった。
- 254 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:23:21 ID:sFhAi3KQ0
-
( ∵)
(∵ )
息を潜めながら無音の足音で村の付近にまで近づくと、歩哨の姿が見える。
('A`)(俺が来る事も、予見してたって訳か)
エクストに対して牙を剥いた自分の情報は伝わっている。
姿を見せれば、子飼いたちとの戦闘になるのは避けられないだろう。
('A`)(見張りは二人……なら)
胸元に手を入れて取り出したのは、丸く束ねられた細いワイヤー。
見た目より相当長さのあるそれを地面に垂らすと、何度かそこで円を模る。
- 255 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:24:10 ID:sFhAi3KQ0
-
その端を口に咥えると、ドクオはするすると手近な樹木へと昇っていく。
村の入り口が見下ろせるぐらいの高さまで昇り切ると、そこで枝を軽く揺さぶった。
('A`)(技を、使わせてもらうぜ)
その木々の擦れ合う音が、侵入者を見張る二人の歩哨の注意を惹いた。
( ∵)「………?」
ドクオが息を潜める方向へと振り返った一人が、もう一人の肩を肘で小突く。
無言のまま意思の疎通を図った二人の歩哨は、一人を前に歩かせて、すぐ後ろを
もう一人がその背中を守るような格好だ。
やがて、木の上のドクオの真下には、二人の男の頭が見えていた。
('A`)「………ッ」
- 256 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:25:18 ID:sFhAi3KQ0
-
( ∵)「!?」
微かな物音。それが真上に息を潜めていたドクオが、
ワイヤーを引いた事によるものだという事にまでは、仮面達は即座に気付けなかった。
そればかりか、物音に注意を引かれて上を向いてしまったばかりに見落とした。
己の足元に垂れてその場に円を形作っている、そのワイヤーこそを警戒すべき状況において。
”シュルシュルシュル!”
( ∵)「──ヒッ、ギュウゥッ……!」
手元に絡み付けたワイヤーを決して離さぬまま、木の枝から飛び降りたドクオは、
そのまま地面へと降り立った。
その動作が済んだ頃には、互いの位置は入れ替わり、仮面の男の一人は首元にワイヤーを
括りつけられたまま締め上げられ、木の上に首を吊るし上げられていた。
瞬く間にして作り上げられた、奇妙な果実。
- 257 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:26:39 ID:sFhAi3KQ0
-
( ∵)「……んなッ」
('A`)「シッ」
すぐ後方を歩いていた筈の残りの歩哨が、目の前の味方が吊り上げられた異様な光景に怯んだ。
”もう助からない”と判断するや、木から突然飛び降りてきたドクオへ、ナイフを振るう。
だが、一瞬だけでも視線を別の場所へ移してしまった隙は、この男を前にしては致命的だった。
ワイヤーを絡み付けた手を離さぬまま、逆の手で抜き出し振るわれたククリナイフが、
彼が大きな声を上げるよりも早く、的確にその喉笛を切り裂いていた。
( ∵)「あが……ッハ……」
(∵ )「ギ───ギッ、イッ!」
- 258 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:27:45 ID:sFhAi3KQ0
-
どれだけ声を上げようとしても、足をバタつかせても。
木の枝を支点として宙空に絞首刑を形作られた仮面の抵抗は徒労に終わる。
あがけばあがくほど、皮膚から血が出るほどにワイヤーは首筋へと食い込んだ。
そうして───やがて彼の呼吸も止まった。
('A`)「悪く思うなよ」
二人の死を確認してから、ドクオはゆっくりと手に絡み付けていたワイヤーを解き緩めては、
歩哨の死体を地面に下ろすと、先ほど喉を切り裂いた者と共に近場の木陰へと移動させた。
ここより先は、侵入が発覚すれば常時3対1以上を強いられる劣勢を覚悟しなければならない。
出来うる限りこちらが拠点へ侵入したという事実の露見は、避けなければいけないのだ。
- 259 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:29:12 ID:sFhAi3KQ0
-
('A`)(さぁ、首を洗って待ってな)
その後、ククリナイフの刃先に付いた血を自らの衣服で拭い落とす。
今も暗殺者として育てられている子供達が住み暮らすその廃村へと、息を忍ばせながら入り込んで行った。
暗殺者ギルド頭目、エクスト=プラズマンを殺す為に。
その彼に育てられた、忌まわしき記憶の残骸であるかつての自分自身をも、ここで死なせてやる為に。
やがて、小雨が降り出し始めた。
限りなく過酷な夜が、まもなく訪れようとしている。
───────────────
──────────
─────
- 260 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:30:32 ID:sFhAi3KQ0
-
峠道を越えたブーン一行は、もう交易都市の灯火が確認できない場所まで来ていた。
このまま無理を押して行進しようとも考えたブーン一行だったが、のまず食わずで
ここまで歩いてきた道程は、女性のツンのみならず、他の面々にも過酷なものだった。
( ^ω^)「燃えやすそうな枯れ木を見つけてきたお」
雨脚が弱まる気配は無い、そう判断して、やむなく山中での野営を選択した。
幸い背丈の大きな木々に囲まれた細道にめぐり合えた為に、火を焚いても子細なかった。
明日の晩には、辿り着く事が出来るだろうか。
リュメの南には小さな村がある。
クーが行き倒れる事なく、無事そこまで辿り着いていてくれれば、迎えにいけるのだ。
- 261 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:31:21 ID:sFhAi3KQ0
-
ブーンが片腕にいくつも抱えてきたその枯れ木を、フォックスらがこしらえていた
石を敷き詰めた急ごしらえの焚火台へと並べていく。
あらかた準備が整ったのを見計らって、ショボンが額に指をかざしてから、何事かを呟いた。
薪の一つに指を差し向けると、ぽぅ、と小さな炎を起こして薪へと燃え移り、野営の準備が終わった。
ξ゚⊿゚)ξ「………ごめん、何か手伝える事があればいいんだけど」
ショボンから借りた外套を羽織って、ツンは寒さに震える身を抱きながら言った。
爪'ー`)y-「なぁに、こういうのは男の仕事だ」
(´・ω・`)「なら、精神力の要る魔法より、火打石を使ってくれると在り難いんだけどね」
- 262 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:32:15 ID:sFhAi3KQ0
-
爪'ー`)y-「減るもんじゃあるまいしケチケチすんなよ」
(´・ω・`)「恒久的に減りはしないが、そうすぐに回復するものでも無いんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
ぱちぱち、と時折火の粉が舞う焚き火をじっと眺める三人の元へ、継ぎ足す為の枯れ木を
また拾い集めてきたブーンが、汚れた手を払いながらどっかりと腰を下ろした。
( ^ω^)「ふぅ、これだけあればばっちりだおねぇ」
ふとブーンがいつもより静まった一同の雰囲気に違和感を感じて、それぞれに視線を向ける。
すると、その空気を作り出しているのは、普段よりもしょげたツンであるという事に気付く。
じぃっと炎を眺めながら身を震わす彼女は、少しナーバスになっているようだった。
- 263 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:33:34 ID:sFhAi3KQ0
-
( ^ω^)「………」
掛ける言葉を模索している内、ツンの方から声が掛かった。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ………クーさんの事、皆はどう思ってる?」
(´・ω・`)「彼女の、事?」
ξ-⊿-)ξ「……うん」
この面々の中で、一番クーの身を案じているのは、ツン。
デルタの話を聞いた楽園亭のマスターが、年輪の刻まれた表情を殊更に渋ませて考え込んでいたとき、
彼がクーの捜索をブーン達へ願い出るよりも先に、それを声高に訴えたのはツンだった。
- 264 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:34:23 ID:sFhAi3KQ0
-
カタンの森での一件から、彼女がクーに対して何らかの拘りを持っているのは、パーティー内の
誰の目からも明らかだったが、その話になると途端に遠い目をする彼女に、それを追求する者はいなかった。
爪'ー`)y-「肝の据わった女だよ、お前さんと一緒でな」
ξ゚⊿゚)ξ「……私?」
(´・ω・`)「はは」
フォックスの言葉に、ショボンが小さく笑った。
彼もまた、同様の感想をツンに対して抱いている。
彼女の破天荒さ、出会った時から今に至るまでずっと変わらぬ彼女を一番見てきたのは、彼だ。
(´・ω・`)「勝るとも劣らないだろうね。彼女や君を怒らせる事は、そんじょそこらの男には出来ない事さ」
- 265 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:36:16 ID:sFhAi3KQ0
-
ツンと論争を始めてしまった時の、周りの緊張感はただ事ではなかった。
女だてらに剣を使うのもそうだが、妖魔を相手に怯むことなく真っ向から立ち向かっていったあの武勇は、
手に何も持たずにたった一人残された壊滅的状況から、奇跡の逆転劇を演出したツンに勝るとも劣らない。
歯に衣着せぬ率直な感想だった。
そのショボンの言葉に少しだけ笑みを浮かべた彼女だが、すぐに瞳には寂しげな色を浮かべる。
ξ ー )ξ「少し、違うかも」
(´・ω・`)「………?」
ξ ー )ξ「彼女……私よりもきっと、強い」
- 266 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:37:30 ID:sFhAi3KQ0
-
( ^ω^)「……ツン。クーさんとの間に、何か?」
ξ ⊿ )ξ「───うん」
─────その後、クーはぽつぽつと降りしきる雨粒の音に紛れるようにしながら、彼らに話をした。
その昔、今は分裂してその信仰を違えた異端弾圧の動きが、聖ラウンジの一部の中にあった事。
かつてクーの居た町が、暴走したその信徒の手によって無実の人々が次々と吊るし上げられていた事。
それに巻き込まれて両親を失ったクーは、今でも聖ラウンジを憎んでいるという事実を。
ξ ⊿ )ξ「皆を引っ張っちゃったのは、私」
(´・ω・`)「………」
- 267 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:38:40 ID:sFhAi3KQ0
-
ξ゚⊿゚)ξ「罪滅ぼしになるって訳じゃないけど……それでも、彼女の事は放っておけないの」
爪'ー`)y-「何もお前一人が背負い込む問題じゃねぇだろ。腐敗ってのはな、どこの集団にでもあるもんだ」
ξ-⊿-)ξ「そうかも知れないわ……だからこれは、私の我侭に付き合わせてるってだけ」
ξ゚⊿゚)ξ「もし皆が乗り気じゃなかったら、私一人でもクーを捜しに行くから、今からでも──」
( ^ω^)「水くさいお、ツン」
ブーンが、そう言ってから、はっとしたようにツンが顔を上げた。
他の二人に顔を向けてみたが、同じように彼らもそう言いたげな表情を浮かべている。
- 268 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:39:44 ID:sFhAi3KQ0
-
( ^ω^)「これまでも、ブーン達はツンに散々引っ張りまわされてきたお」
ξ;-⊿-)ξ(う………)
( ^ω^)「それが今更、ツンを突き放したりするような事を、少なくともブーン達はしないお?」
(´・ω・`)「……そうだね。君がいつも波乱を巻き起こすという事は、出会った時から知っていたよ」
爪'ー`)y-「おいおい、たまに殊勝になってるんだからよ。ここはしょげた様子をもう少し楽しんで──」
ξ#゚⊿゚)ξ「あんだって?」
爪;'ー`)y-「何でもございません」
きぃっと睨みを利かされてすぐに小さく萎縮したフォックスをよそに、ブーンが言葉を続ける。
- 269 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:40:55 ID:sFhAi3KQ0
-
( ^ω^)「──ツンの話を聞いたら、ブーン達もますますクーさんの事は放っておけなくなったお」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
( ^ω^)「だから一緒に助けるお。その為に、ツンは彼女の無事を祈っててくれお?」
ξ* ー )ξ「──うん」
一人で苦悩を背負い込もうとしていた自分が少し気恥ずかしくなるのと同時に、
改めて”仲間の存在”というものに、自分自身が助けられているのだという実感を得る、ツン。
少し俯いて声だけで返事を返したのは、彼女なりの照れ隠しだった。
爪'ー`)y-「そーそー。だからお前さんは、祈ってくれてりゃあいいのさ」
(´・ω・`)「言葉が悪いよフォックス、ツン、君は───」
- 270 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:41:46 ID:sFhAi3KQ0
-
ξ ー )ξ「大丈夫」
フォローを入れようとしたショボンに言われるまでもなく、ツンはその言葉裏を理解していた。
祈る事しか出来ない自分だからこそ、全ての魂の為に。
そしてまだこの地に生きる彼らや、救われぬ日々を送る人々の為にこそ。
今は───失意に深く飲み込まれているであろう彼女と、それを助けようとする自分達の為に。
ξ゚ー゚)ξ「私に出来る事は───これしかないから」
クーへと伝えた己の意思を、今でも就寝前には必ず捧げる彼女の両親の為への祈りを。
頑なに行動として貫き通している慈愛の精神を宿す彼女は、一同の前に顔を上げては、そう言って笑った。
─────
──────────
───────────────
- 271 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:43:03 ID:sFhAi3KQ0
-
──大陸南東の地 【ロアの村】──
川 ゚ -゚)「………美味しい」
空腹と披露に苛まれていた体中に、村人の一人が運んできてくれた暖かな玉蜀黍の甘いスープが、染み渡る。
( ゚д゚ )「食事まですまないな。備蓄だって、余裕はないだろうに」
「礼には及ばねぇです。”旅人には親切にせよ”っていうのが……昔から、ここいらの風習でね」
彼ら二人の元に食事を運んできてくれた老人は、この村の村長だという。
腰は折れ曲がり、杖を突いていてもおかしくはない年齢だろう。
歳相応に落ち着いた年輪が、刻まれた皺として表情に浮かんでいる。
- 272 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:43:45 ID:sFhAi3KQ0
-
「随分とお疲れのようだった……ゆっくりと、休んで行って下せぇ」
川 ゚ -゚)「──ありがとう、ご老人」
「連れのお方もねぇ」
( ゚д゚ )「痛み入る」
「では」、と二人に軽く会釈して、ロア村の村長は部屋を後にした。
その背を見送っていたミルナが、クーがスプーンを置いたのを見計らってから、切り出す。
( ゚д゚ )「クー。ここに来るまでに、何があったんだ?」
川 - )「………」
その言葉に、思わずクーは俯いた。
- 273 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:44:52 ID:sFhAi3KQ0
-
ミルナの話によると、ロア村の入り口手前にて体力、精神ともに限界を迎えたクーは気を失って倒れていたという。
それを発見した村人の一人がこうして村長の家にまで担ぎ込んでくれたのだが、
たまたまこの時、このロア村にはもう一人の冒険者が居合わせた。
今クーの目の前に居る、彼女自身が再会を願っていたミルナだ。
村へと運び込まれてきたクーと、これまで山に篭っていたというミルナがたまたま人里に下りた所で、
そこで運命に引き寄せられたかのように、二人は奇跡的な再会を果たした。
ミルナの言葉に、茫然自失となっていた自分の事を思い返すと、それに至るまでの
出来事がまたふつふつと暗い感情と共に湧き出ては、クーの表情は翳った。
川 - )「自分では、一人で小器用にこなせる、それなりの冒険者でいたつもりだった」
- 274 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:45:41 ID:sFhAi3KQ0
-
( ゚д゚ )「………」
川 - )「だけど───実際にはたった一人の少女すら救ってやれない、半人前だったのさ」
ぽつりぽつり、と悲哀に満ちた表情と声で語り始めたクーの話を、ミルナは真剣な面持ちで聞き入った。
真っ直ぐに彼女の瞳を見据えながら、無言のままに、時折頷いて。
クーは話した。
”魔剣”という恐ろしいものの存在を。
そしてそれに魅入られた少女が、次々と町の人々を惨殺していった経緯。
最期の時には───力及ばず、クーの仲間を殺したその少女もまた、命を落としたという事を。
川 - )「………」
( -д- )「………」
- 275 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:47:38 ID:sFhAi3KQ0
-
部屋の中には、互いの心にも痛い程の静寂が包んでいた。
傍らに居なかった自分では察してやりかねるその彼女の心中を思い、ミルナもまた深い哀しみに暮れる。
彼は彼女の不遇に対して、憤りにも似た感情を沸き立たせていた。
過去に両親を失って、精神に傷を作った少女。
どうしてこうも神という奴は、そのクーの心の傷口をなぞり上げるのだ、と。
それでも彼女は、心で悲鳴を上げながら己を見失いそうになる中でも、
死んでしまった少女の痛みや哀しみを、まるで自分の痛みや哀しみのように感じている。
( ゚д゚ )「………頑張ったな」
- 276 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:48:36 ID:sFhAi3KQ0
-
昔のように、その大きな掌を彼女の頭にぽんと置いて、優しく撫でてやった。
今でも幼い頃の面影を残しながらも、逞しい一人の女性に成長した、クーの頭を。
やがてミルナが、遠い目で呟いた。
( ゚д゚ )「俺も、かつては少女一人救えなかった」
川 - )「………」
( -д- )「その自責の念から、俺は過去を手放して逃げたんだ。現実からな……」
川 - )「それは、私の事か?」
( ゚д゚ )「あぁ───だが、お前は違う。クー」
優しげな表情を彼女に向けて、ミルナは彼女を励ました。
自分もまた、同じなのだと。
- 277 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:50:57 ID:sFhAi3KQ0
-
それでもお前は違う、胸が張り裂かれんばかりの哀しみと絶望を味わってなお、
まだ自分でその痛みを背負い込みながら、しっかりと己の足で立っている。
血を吐き出すような痛みに叫びながらも、お前は自分自身だけで、それを受け止めようとしているのだと。
( -д- )「俺が言ったらお前は怒るかも知れんが───傷はいつか……癒える。時が、癒してくれる」
川 - )「………」
( ゚д゚ )「人は弱い生き物だ───お前の声から耳を塞いで逃げてしまった、俺のように」
( ゚д゚ )「だが、幾多の理不尽を受けながら、傷を負いながらも」
川 ゚ -゚)「………ミルナ」
「……それでも、まだ心を蝕む現実と戦い続けるお前は強いさ、クー───俺などより、よほどな」
- 278 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:52:07 ID:sFhAi3KQ0
-
自らを武の道に投じて、ただひたすらに鍛え抜いてきた鋼の男は、外剛だった。
大陸でも指折りを数える程の屈強にして、知る人ぞ知る拳流門派。
”男闘虎塾”───その筆頭一號生として、”最強”の名に尤も近い筈の彼が。
川 ゚ -゚)「………私は、弱いさ」
そのミルナよりも非力で、かつて震えるだけでしかなかった少女は、内剛であった。
もっとも両親の寵愛を受けるべき年頃の彼女は、その親子の仲を永遠に引き裂かれてしまった。
共に連れ立ってくれた男も何処かへと消えた時、彼女はまだ、その男の後姿に惹かれていた。
女一人では過酷とされるその道を、男連中に混じってまだ幼い頃から歩み始めたのだ。
- 279 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:53:11 ID:sFhAi3KQ0
-
川 ゚ -゚)「そうさ、ミルナ──お前が、支えていてくれないと……私は」
( ゚д゚ )「………」
一人でぬかるんだ記憶の泥沼を歩み続けてきた彼女の前には、今は想い人が居た。
しかしその彼は、彼女の言葉には応えずじっと悲しげな眼差しを向けるだけだった。
ベッドの傍らに置かれた椅子から、ミルナはゆっくりと立ち上がる。
川 ゚ -゚)「……ミルナ?」
- 280 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:54:08 ID:sFhAi3KQ0
-
また、一緒に旅を出来る。
だが、そうとばかり思っていた彼女の想いは、その想い人の口から否定された。
( д )「───できん」
川 ゚ -゚)
( д )「俺は───お前と旅する事は、出来ないんだ」
川;゚ -゚)「ど、どうし……て?」
( ゚д゚ )「………」
- 281 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:55:00 ID:sFhAi3KQ0
-
動揺して、懇願するような声色でミルナの顔色を窺うクーだったが、
やはり彼の瞳は変わらず真っ直ぐに、ただクーの眼差しを押し返すばかりだ。
深く沈んだような色を、悲しげな目元に滲ませて。
川;゚ -゚)「待って──ミルナ!」
( ゚)「………すまない」
救いを求めるように伸ばされた彼女の腕は、もはや背を向けたミルナの視界には入らない。
あるいはそれにも気付いている風であった───意図して、その彼女を突き放そうとするように。
戸を開けて、部屋を後にしようとしたミルナの背に声を掛けるも、彼が立ち止まる事はなかった。
- 282 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:56:10 ID:sFhAi3KQ0
-
川; - )「──どこへ!」
ぱたり、と閉ざされた扉の向こうから、彼の声だけがくぐもって聞こえた。
(お前は、俺なんかと居るべきでは───ない)
川;゚ -゚)「……くッ」
ベッドから飛び上がってミルナを追いかけようとしたが、やはりしこたま募った疲労が効いていた。
勢い良く髪を振り乱したところで、きん、と襲い来る頭痛に顔をしかめる。
(言ったはずだ、俺のようになるなと)
- 283 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:57:30 ID:sFhAi3KQ0
-
川;゚ -゚)「また……また私を置き去りにするのか!ミルナ!?」
(追うな、俺を───)
川; - )「待て!……待って───」
悲痛に叫んだ彼女の言葉は、ミルナには届いていないようだった。
扉越しにあった彼の気配は既に遠のいて、どこかへと行ってしまったように思えた。
頭を押さえながらベッドから立ち上がったクーは、少しばかりふらつきながらも彼の後を追った。
川;゚ -゚)(ここまで来て……そいつは無しだ)
川 - )(今度は許さないぞ───ミルナ)
- 284 :名も無きAAのようです:2012/07/15(日) 23:58:21 ID:sFhAi3KQ0
- もうちょっとだけ続くんじゃ……
- 285 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 00:12:28 ID:AV1Y1swM0
- 支援
- 286 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 00:17:42 ID:52tJgaj.0
- ええんやで
- 287 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:03:44 ID:DZBL.5Tk0
-
───────────────
──────────
─────
満ちた月の光すら僅かにしか差し込まない、夜の闇が訪れた。
木々が覆い隠すかのように存在するその村を、梟の鳴き声が木霊した。
そこに本来居るはずの人間達は、息を潜めては、ただ無言のままに。
訪れた侵入者の命を奪うため、凶刃を振るうだけ。
極力気配を殺しながら廃村へ足を踏み入れたドクオだったが、その表情にもはや余裕は無かった。
( ∵)「!!」
- 288 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:04:29 ID:DZBL.5Tk0
-
(メ'A`)「──くッ!」
流石に気配や音に敏感な暗殺者達を敵に回しては、ドクオの潜入はほぼ筒抜けだったようだ。
既に5人もの同郷の喉や首を切り裂いた。
今相手にしているのは、その彼らが同時に三人だ。
三方向から囲まれて一斉に突き出されたナイフを、一本は屈んで躱す。
最初から脇腹あたりへと向けられた一本には、その柄を握る手首を掴んで軌道を逸らした。
残る一本には右手に構えるククリナイフの腹をかち当てて、倒れ込みながらも難を凌いだ。
( ∵)「フンッ!」
その場から身を横転させると、すぐに今居た場所にナイフが突き立てられた。
- 289 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:05:25 ID:DZBL.5Tk0
-
(メ;'A`)「……ちぃッ!」
残る二本の凶刃が襲い掛かる前に、ドクオは足を絡ませて仮面の一人をその場へと引きずり倒す。
すかさず胸元を掴んで引き寄せた首の横へと刃を刺し入れてから、即座に後転してその場を脱した。
( ∵)「──死ねッ、裏切り者がァッ!」
(メ'A`)「………」
仮面の奥で、押し殺した激情を垣間見せた一人が突っかけてくる。
同じ境遇に喘いでいる、世間からは忘れ去られた者達。
その中でもそいつは、こんな掃き溜めにあっても仲間を、居場所というものを見出したのだろう。
有無を言わさず人殺しの道具に育てられていく日々の中に、彼は同化しようとしているのか。
- 290 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:06:12 ID:DZBL.5Tk0
-
果たしてどちらが正しいのだろうかと考えながら、ドクオは自分に向けられた刃先を眺める。
与えられた役割を、不満一つ漏らさない機械としてこなす日々。
それに対しての自分は、たった一つの下らない理由の為だけに────
( ∵)「ぐ、ぁッ!」
(メ A )(裏切り、ねぇ)
指の数本ごと、突き出されたナイフを寸前の所で切り払った。
血を噴き出した手を押さえて痛みに悶絶する仮面は、もう利き手に刃を構える事は出来ないだろう。
その男の方へと、ドクオが一歩踏み出した。
( ∵)「……ヒュゥッ!」
そこへ、左方より援護に躍り出た一人がその首筋を狙い済ました一撃を見舞う。
- 291 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:07:44 ID:DZBL.5Tk0
-
(メ'A`)「単純、過ぎるぜッ!」
( ∵)「か───はッ……?」
軌道を見切って首を傾けたドクオが同時にククリを握った腕を半ば無造作に伸ばすと、
言葉を失った仮面は、突き刺された己の心臓へと視線を落としてから、ぱったりとその場に倒れる。
そして、指を斬り落とされた痛みでその場に膝を着く、最後の一人の元にドクオが詰め寄った。
(メ'A`)「これで、残るはお前だけか」
( ∵)「──て、てめぇッ!」
人目を避ける暗殺者達の隠れ里に立ち入ってから、もう7人もの返り血を浴びてきた。
どうやら腕の立つ人間も何名かが混じっていたらしく、ドクオもまた身体の端々に裂傷を負っている。
- 292 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:08:32 ID:DZBL.5Tk0
-
それでも戦意が萎えたりしている様子は微塵もなかった。
寧ろ、暗い炎が燃え盛るような、言い知れぬ雰囲気を纏う彼の視線に射抜かれると、仮面は言葉を失う。
(メ'A`)「残る何人かは、目下育成中の”子供達”ってとこか?」
(;( ∵)「……くっ」
ドクオが言い当てた通り、もうこの里に戦える人間は居なかった。
たとえ襲撃者の存在を知っていても、わざわざ恐怖から己を奮い立たせ、
矢面に立つ度胸を持つ”前途有望”な子供など居ない。
それは、幼少の頃この里に居た事のあるドクオを除いては、という話だが。
- 293 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:13:55 ID:DZBL.5Tk0
-
数え切れない程の人間を葬ってきた”黒き手”のエクストに、尤も近い男。
そいつが放つ異様な静けさに当てられて、残る仮面に出来る事はもう、死への覚悟を決める事だけだ。
だが不意に、ドクオは眼下の刺客に対して問いを投げかけた。
(メ'A`)「なぁ。お前は、明るい未来とか考えた事……あるのか?」
(( ∵)「………」
(メ'A`)「まぁ──いいや」
裏切り者である自分と刃を交わしたその一人が、ほんの一瞬だけではあるが、
組織の命令という単純な理由ではなく──とても個人的な感情を見せた気がした。
道具として扱われる日々にまだ心折れる事なく、陽の当たる日々がいつの日にか
自分にも来るのだという事を信じているような暗殺者が、とても珍しく思えたから。
- 294 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:14:39 ID:DZBL.5Tk0
-
突飛な質問に面喰らったであろう彼を尻目に、ドクオが肩をすくめた。
操り人形のようにただ指令に突き動かされるだけの彼らに、己の意思など無いだろう、と。
しかし、間を置いて仮面は確かに呟いた。
(( ∵)「………あったさ」
(メ'A`)「へぇ?」
(( ∵)「この村の仲間とで、いつか俺たちが自由になる日々、だ───」
(メ'A`)「………」
(( ∵)「あんたぐらいの強さがありゃあ……俺だって、エクストの野郎には従ってないだろう」
- 295 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:15:23 ID:DZBL.5Tk0
-
(( ∵)「だがな、俺たちはアンタなんかとは違う。あいつの命令に逆らう事なんて、出来ないんだ」
(メ'A`)「さしずめ、俺がその夢とやらをブチ壊した……って所か」
(( ∵)「………今更、恨み言は言わねぇけどな」
(メ'A`)「殺し屋同士で仲間意識、ねぇ……持った事はねぇから、お前の気持ちはわからんが──」
そう言って、ドクオはまた肩をすくめる。
手に持ったナイフの血を衣服の裾で拭い終えると、彼はそのまま仮面の横を通り過ぎて行こうとした。
見逃された───生きていられる。
(( ∵)「待て」
まだ命ある者ならば、誰もがそう思うはずだ。
- 296 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:16:48 ID:DZBL.5Tk0
-
しかしそれは、こんな場所でも仲間と言えるような同僚を持ち、それをドクオに殺された彼にとって。
名も知らないその手負いの暗殺者にとっては───情けという屈辱以外の、何者でも無かった。
(( ∵)「殺さないのか」
(メ'A`)「逆に聞くけど、殺されたいのか?」
(( ∵)「……こんな中途半端で、俺だけ生かされているよりは、な」
(メ'A`)「ハッ……」
笑ったような表情のドクオが胸元から、小ぶりの短剣を抜き出した。
振り向き様にそれを指先から放ると、刃は仮面の顔のすぐ傍を通り抜けて、彼の背後の地面へと刺さる。
(;( ∵)「ッ!?」
- 297 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:18:19 ID:DZBL.5Tk0
-
意図している所がわからず、後からやってきた緊張感に鼓動が早まり、仮面の奥で顔を上気させる。
そんな彼に踵を返したドクオが、ひどくなで肩のその肩越しに、告げた。
(メ'A`)「お前は、今ので死んだって訳だ」
(( ∵)「何のつもりだ……?」
(メ'A`)「行きな──何処なりとな」
(( ∵)「……どこに行った所で、エクストが命令すればすぐに連れ戻される……」
「俺たちに逃げ場なんて───」
言いかけた所で、はた、と彼は気付いた。
組織を抜け出してから、再びこの場へと舞い戻ってきたドクオの目的を。
長であるエクストが、恐らくはそうでないかと踏んでいた通りの事が、今起きているのだ。
- 298 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:19:04 ID:DZBL.5Tk0
-
(メ'A`)「そのエクストを、俺がこれから殺すんだ」
(( ∵)「──本気、だとは……な」
(メ'A`)「まぁそうなりゃ──お前たちは晴れて自由の身だろうさ」
(( ∵)「………」
「まだ気に食わねぇなら、エクストが死んだ後にいつでも来な」
言い残してドクオは、彼を一人その場に残して歩き出した。
エクストが休憩所として使用していた、村の外れに位置する小高い丘の家屋を目指して。
・
・
・
- 299 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:20:10 ID:DZBL.5Tk0
-
長であるエクストさえ亡き者とすれば、子飼いの暗殺者同士で殺し合いを必要は無くなる。
そうとばかり思っていたドクオだったが、自らを殺して冷徹な殺戮の道具と成り果てていた自分と違い、
まだ心に熱いものを残していた若者を見逃したのは、憎悪の種を撒いただけに他ならないだろう。
彼が本当に仲間だと思える存在を自分が手に掛けたのなら、彼はいつか、自分を殺しに来るかも知れない。
(メ'A`)(ま、そんな最期もアリかな……)
”でぃ”の仇であるエクストを殺し、幼い頃の罪の一つを贖い終えた時───自分はどうやって死のうか。
そんな事を少しも考えていなかった彼は、かつての同郷に殺されるのであれば悪くない、と考えていた。
”ばごんッ”
(メ'A`)「お邪魔するぜ」
- 300 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:20:58 ID:DZBL.5Tk0
-
目に入った住居の扉を蹴破って、その先に視線を向ける。
───思ったとおりだが、どうやらエクストは不在だった。
左右への注意を怠らず、心持ち足音を消しながら入って行くも、やはり誰も居ない。
(メ'A`)「なら……しばらく待たせてもらうとしようか」
そこいらのソファに身をもたれて、連戦による疲労を束の間癒そうとした時、
ふと小さな机の上に置かれた、一枚の羊皮紙に目が留まった。
ドクオにはそれが、自分にとって目に付きやすい位置にわざわざ置かれているように思えてならなかった。
(メ'A`)「この字は───」
- 301 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:21:42 ID:DZBL.5Tk0
-
間違いなく、エクストによる直筆だ。
ご丁寧にも二枚が重なった上の一枚には”ドクオへ”と宛名されていた。
随分と整った文字で書かれているのが、妙に苛立ちを募らせる。
あいつはきっと、おふざけ半分でこの書置きを残したのだろうと。
ぺら、と捲った2枚目には───こう書かれていた。
”あの場所で待つ”
(メ'A`)「………?」
微かな違和感を覚えた。
その文末、羊皮紙の端に小さく書き足されたような文字を目にしてからだ。
- 302 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:22:46 ID:DZBL.5Tk0
-
”──生きてたらな”
(メ'A`)「俺を殺せる奴なんて───」
持ち前の勘の鋭さに加えて、すぐさま想像力を働かせる。
導き出した答えは、この手紙を一度は手にするであろう自分への、闇討ち。
こんな手紙を残す以上、エクストならば半ば冗談めいた、そんな罠も仕掛けかねない。
”…ぎっ”
違和感が確信を得た時、微かに頭上から聞こえた音に、まず身体が動いた。
(メ;'A`)(梁の────上かッ!?)
- 303 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:23:39 ID:DZBL.5Tk0
-
(メ; A )「……クソがぁッ!」
叫びながら振り返り、後方へと身を投げ出す。
直後に響いたのは、全体重量を伴った刺突が、すぐ背後の床板へ突き刺さる音。
”ドンッ!”
その気配を察知する事が出来なかった───侵入者の首を狙う者が、この家屋に潜んでいたのだ。
辛うじてその場の難を逃れたドクオは、即座にその方向へと振り返る。
そこには、小剣ほどの長さの短刀を床板へと突き刺していた男の姿があった。
- 304 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:25:44 ID:DZBL.5Tk0
-
∠ ̄\
|/゚U゚「激しく──暗殺失敗」
全身に纏うは、濃紺の装束。
頭に被る頭巾が、冷徹な表情を浮かべているであろう顔を大きく包み隠している。
妖しく鈍色の輝きを放つ短刀を床板から引き抜くと、深く腰を落として片手に構えた。
露出した双眸には、狂気に満ちた猛禽の光を宿し───
恐ろしく低い体勢から付け狙うように、ドクオの姿を見据えていた。
(メ'A`)「……お前みたいな奴も飼われてたんだな」
- 305 :激しくAA☆失敗:2012/07/16(月) 01:27:18 ID:DZBL.5Tk0
-
∠ ̄\
|/゚U゚「問答無用」
ドクオの問いにはただ、装束の男は短刀を持つ手首をちゃき、と返しただけだ。
一見すると奇抜な風貌だが、”使う男”だという事を、瞬時に判断した。
不可思議な体勢でも揺るぐ様子の無い体重均衡、決して対象への視線を外す事の無い観察力。
無音でいて、流れるように軽やかな一歩一歩の踏み込みと、その間合いから実力を感じさせる。
恐らくは───”自分自身と拮抗し得る”とさえ思う程に。
(メ'A`)(俺の生まれたとこにも、いたっけな)
子供の頃に見た本で、おぼろげながらその存在は知っていた。
異国の暗殺者───確か、自分の故郷であるヒノモトが発祥のはずだ。
確か、こういうのを”ニンジャ”とか言ったか。
- 306 :激しくAA☆失敗:2012/07/16(月) 01:29:12 ID:DZBL.5Tk0
-
∠ ̄\
|/゚U゚「かくなる上は、真剣勝負──」
どうやら、ニンジャの方もドクオを強敵と見定めたようだった。
(メ'A`)「……面白ぇ」
ククリナイフを右手に、それに比べると幾分か小ぶりな短剣を左手に。
それぞれを逆手に構えたドクオもまた、刃先を外側へと向けて、どん、と腰を落とした。
互いに足を床に擦らせながら、猛禽の忍とドクオとの差は、じりじりとだが確実に詰まっていく。
やがて最大限にまで緊張の糸が張り詰めた中で、二人の暗殺者は同時に言葉を放った。
∠ ̄\
|/゚U゚「いざ、尋常に──」
(メ'∀`)「来な───胸を貸してやるからよ」
───その言葉が、闇夜の決闘の幕開けとなった───
- 307 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:41:00 ID:h2JN7YegO
- 追いついた、最近なんか精力的だな
やっぱり逃亡の可能性が低いのはいいな
- 308 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 01:41:58 ID:AV1Y1swM0
- 支援
おやすみなさい
- 309 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:08:36 ID:DZBL.5Tk0
-
───────────────
──────────
─────
──ロアの村 付近──
川;゚ -゚)「はぁッ、はぁッ……」
ちら、とこちらの方角へと消えていくミルナの背を、辛うじて見かけた。
その彼を追うクーは、夜も深まった村付近の森の中を、息を切らせて駆け抜けていた。
- 310 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:10:42 ID:DZBL.5Tk0
-
川;゚ -゚)(捕まえたら、いくら言い訳しても承知しないぞ──ミルナ!)
村の付近を取り巻く”ロアの森”には、昔から伝えられている伝承があった。
それも今では殆どが語り失われてしまったものの、未だ古くからの民の記憶には新しい。
月の満ちる時にだけ現れては、そこへ向けて遠吠える。
山の守神としてかつて崇められた月の狼は、”ムーンロア”と呼ばれていた。
獰猛な野獣の類だと勝手な勘違いをして、それを倒そうと躍起になった人間は、彼に次々と殺された。
しかしムーンロアは本来、彼が天に吠える事で山に恵みを齎す存在であったのだ。
人に仇なす妖魔はその咆哮におののき何人も近寄らず、逆に動植物はその元へとより集まるようになる。
だからこそ月の狼を倒す事は、災いを振りまく事に他ならないと、信じていた人々が居た時代がある。
時が経つにつれてその言い伝えも薄らいでは、付近を旅する者達にそれが知られる事も──次第に無くなったが。
- 311 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:11:43 ID:DZBL.5Tk0
-
・
・
・
( -д- )(知っていれば、か……)
今では取り戻す事の出来なくなってしまった日々。
こうあれば、という夢物語に想いを馳せながら───
ミルナは、月の光に照らし出される己の両手を見つめていた。
不意に、ざわ、と背筋に嫌な寒さが伝わる。
己の身を抱きしめるように、その寒さから逃れるように両手を身へと絡ませた。
( д )(来……た)
人知れず育まれてきた”ムーンロア”の血脈を絶やした者は、過去に誰一人としていなかった。
───彼、ミルナ=バレンシアガが初めてだったのだ。
- 312 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:15:07 ID:DZBL.5Tk0
-
(; д )(───”師父”よ、”メッシュ先輩”方よ……!)
同門の、苦楽を共にした過去の宿敵(とも)や、好敵手達。
それぞれに懐かしい顔を思い返しながら───今日もその思い出たちに縋った。
「助けてくれ」と。
徒手空拳のみを武器として、常勝無敗を築いてきた鋼の男。
しかし己自身だけでは決して打ち勝つ事の出来ない”呪い”の効力に今、恐怖して。
”月の狼”は、確かな魔力をその身に宿していた。
蠱惑的なまでの黄金色を双眸に灯すかの獣の魔力は、満月という日に尤も高まる。
ミルナ自身を含めても、これまで誰一人として知らない事実だが───
月から受けた魔力を咆哮にて周囲へと発散させる事こそが、
ムーンロアが”月の狼”であり、”山の守神”足り得る所以だった。
- 313 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:16:39 ID:DZBL.5Tk0
-
ミルナは確かに、その獣を単身で倒した。
手に何も持たずして、彼の命を奪った。
(; д )「……俺は──違う!……嫌だッ、俺はッ!」
あの満ちた月の日。
ムーンロアの最期を看取った時から、彼は────
「──ミルナ!!」
(;゚д゚ )「………ッ!?」
その声に、驚愕した。
そして同時に、戦慄をも禁じえない。
何故、彼女は自分を追ってきてしまったのだと。
- 314 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:17:46 ID:DZBL.5Tk0
-
川;゚ -゚)「はぁ……やっと見つけた、探したぞ!」
ミルナが振り返った道の先に立つのは、やはりクーだった。
かけがえの無い存在。
絶対に、失いたくは無いその彼女が。
何も知らずに、”獣の領域”へと踏み込もうとしている。
川 ゚ -゚)「さぁ、聞かせてもらおうか──どうして、旅を共に出来ないのかをな」
(;゚д゚ )「く、クー……!離れろ……こっちへ、来るんじゃない!」
川;゚ -゚)「……!?」
言葉を間違えた。
辛らつな言葉で突き放せばまだ良かったと、内心ミルナは舌打ちした。
- 315 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:21:48 ID:DZBL.5Tk0
-
川;゚ -゚)「どうしたんだ……顔色が、おかしいぞ?」
まだ自我を保てているのが、彼にしてみれば奇跡のようだった。
目の前にクーがいるからこそ、意識は少しでも長く繋ぎとめる事が出来た。
まだ未練を残す、人間の意思の元で。
( ゚д゚ )(───ア)
川 ゚ -゚)「………え?」
限界と感じたのは、その一瞬だ。
ミルナもクーも、二人ともが同時に見上げていた。
灰色の雲がかかった空に浮かんで、金色の光を放つ、その月厘を。
その周りには、幾重にも丸く光が編み込まれた────巨大な月の傘を見た。
- 316 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:22:56 ID:DZBL.5Tk0
-
「見る、な………」
川 ゚ -゚)「ッ!?」
( д )「──見な、いで……クレ───クゥッ!」
再び視線を落とした時、既にミルナの身体は”変質”しようとしていた。
突如何かが弾けるような反動を受けて、びくんと大きく仰け反った彼の胸元は、瞬く間に隆起する。
ぞわぞわと耳に届く気色の悪い音の正体は、彼の身体中の毛穴から、急速に伸びる銀色に光る体毛だった。
川;゚ -゚)「ミル───ナ?」
もう、そのクーの呼びかけが届く事は無かった。
けだものに侵食されていく心には、もはや人の言葉など通じないのだ。
- 317 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:25:17 ID:DZBL.5Tk0
-
(# д )「に、げ──オアアァッ!アギィィィッ……!」
全てを口に出来ぬまま、身に起きる異変に耐えかねたミルナが四肢を地面に着くと、
とうとう彼は、二本の脚で地を踏みしめるヒトの姿ですら、無くなってしまう。
川; - )「───こん、な……馬鹿な……」
自分はまた、とても良くない夢を見させられているのか。
クーが目にする信じがたい現実の前には、そんな都合の良い考えが過ぎる。
しかし”ミルナだったもの”が放つ本能的な危機感に、クーの脚はかたかたと震えていた。
どうしようも無く、どこまで逃げても───今という時は無常な現実。
満ちた月光の元に照らされた彼の内で、やがて呼び覚まされた獣性が、吠え声を上げた。
#゚叉「……ァアオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッッッーーーーーー!!」
- 318 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:26:04 ID:DZBL.5Tk0
-
川; - )
その瞬間、ひりひりと肌を突き刺す威圧感が、クーの全身を粟立たせる。
まるで大気が張り裂かれるようなものだった。
耳を塞いでも、鼓膜が打ち震えてしまう程の咆哮。
恐怖に固まる全身では、その光景から目を逸らす事さえ出来なかった。
やがて────その咆哮が止んだ時。
恐る恐る、彼女は天を仰いでいたその獣に声を掛ける。
- 319 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:28:24 ID:DZBL.5Tk0
-
川;゚ -゚)「………ミルナ、なのか………ッ」
クーの目の前にいるのは、かつて彼女が知っていた想い人の姿ではなかった。
全身を、月光を照らし返す程に輝かしい白銀の色に染められた、巨躯の銀狼。
人を惹き込むような瞳の力強さは、確かにミルナにも似ていた。
だが、暗闇の中に映える双眸が宿す対の黄金色には、人としての自我など欠片も感じさせない。
ミ#゚叉゚彡
あるのはただ、長らくの空腹に耐えかねて眼前の獲物に舌なめずりをする、欲望の色。
闘いに明け暮れた一匹狼の成れの果て───悲しい程に本能に忠実な、餓狼の姿でしかなかった。
- 320 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:30:27 ID:DZBL.5Tk0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
第10話
「孤狼は月厘に哭く(1)」
-続-
.
- 321 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 04:44:16 ID:DZBL.5Tk0
- 【全知全能、迅速無比なまとめ様】
ttp://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/
げへへ、こんな稚拙な俺っちの作品をまとめて下さる【Boon Roman】様の提供でお送りしております。
力んでがっちり書き溜めして書こうと思った10話(1)でしたが、やっぱ無理でした。
今後も書き溜めせず、ハイになれる丑三つ時を狙って一気に書いちゃうスタンスで行きます。
CW元ネタは「黄昏の人狼」「狼の親子」をミックスしたものとなります。
次回は6割バトる感じで、個人的には第8話より面白く出来ればいいなと。
支援下さった皆様、ありんした^^^
- 322 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 06:30:28 ID:AV1Y1swM0
- 乙
- 323 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 07:24:29 ID:nhjOQmxk0
- >>266
─────その後、クーはぽつぽつと降りしきる雨粒の音に紛れるようにしながら、彼らに話をした。
ここツン?
- 324 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 07:30:43 ID:nhjOQmxk0
- 乙
投下量多くて面白い
- 325 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 11:40:50 ID:DZBL.5Tk0
- >>323
げぇっ、>>266はすいません、ツンですξ゚⊿゚⊿゚)ξ
- 326 :名も無きAAのようです:2012/07/16(月) 20:46:43 ID:k9XJGquM0
- おつ
丑三つ時の投下か
朝にスレをチェックする楽しみができたな
- 327 :名も無きAAのようです:2012/07/18(水) 20:44:58 ID:d/IdyM/I0
- エメマンブラック2缶買ってきたので、連休を迎える今夜から黙々書きます。
明日の晩はハードセックスがあるので、投下は何日後になるやら。
- 328 :名も無きAAのようです:2012/07/18(水) 23:47:38 ID:GcUxwAbY0
- 俺もハードオナニーがあるから別にいいよ。
- 329 :名も無きAAのようです:2012/07/19(木) 00:01:40 ID:Bmc440CgO
- ω・`;)クーがどんどん不幸キャラになっていってるな…元からかな?
- 330 :名も無きAAのようです:2012/07/19(木) 01:10:48 ID:tJNNctJQO
- キリンファイアブラック〈本日のコーヒー〉400gボトル缶
これこそ缶コーヒーのNo.1だと思う、震災以降見なくなったけど
- 331 :名も無きAAのようです:2012/07/19(木) 01:25:58 ID:I0ghzbBk0
- ハードもSEXも連休も無くなったので、近日投下が遠のきました
余談ですが平沢進を聴きながらチェーンスモーク、いがらっぽい喉と
寝てない頭を醒ますためクリアブラックを流し込む。
それを12時間程度続けるのが健康的な僕のブーン系の書き方です。
- 332 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:47:35 ID:SbeAitYU0
-
雨粒が屋根を叩く音が響く、朽ちかけた住居。
その一室で幕の開けた命の取り合いは、一進一退の攻防が矢継ぎ早に展開されていた。
互いが互いの攻め手を殺し合い、息つく間もなく繰り出される致死打から、巧みに身を躱し続けるものとなって。
(メ'A`)「エクストのお気に入りか?……”期待の新人ッ”」
ドクオが踏み込み、左手で突き出した短刀。
しかしそれを持つ腕を削ぎに来るのを読みに入れ、腕を交差させてククリの刃を横に置いていた。
”ギンッ”
身を引きながら刺突を躱したニンジャの薙ぎ払いを、やはりというべきか、その刀身で受けた。
頭巾に覆われたニンジャの表情こそ窺えないものの、恐らくは眉一つ動かしている様子は無い。
- 333 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:50:26 ID:SbeAitYU0
-
瞬き一つが命に繋がる程に、思考する間も無く二人の間を刃だけが飛び交う。
(メ'A`)「それとも、金で雇われた飼い犬だったか?」
∠ ̄\
|/゚U゚ 「………」
一瞬ニンジャの小太刀を弾き返した隙を突いて、短刀の投擲を見舞おうとも考えたドクオだったが、
ニンジャはドクオの主たる殺傷能力を秘めた歪曲の刃への注意は怠らぬまま、逆手に構える短刀が
いつ投擲されても致命傷だけは免れられるよう、逆の手腕では常に急所への警戒を払っていた。
やりづらい、というのが印象の相手だった。
(メ'A`)(堅ぇ)
- 334 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:51:45 ID:SbeAitYU0
-
∠ ̄\
|/゚U゚ 「……激しく、封殺」
これまでの展開は、正しくニンジャの言葉通りだ。
独特で突飛な体裁き、加えて得物のリーチでは倍程度の差がある現状。
未だに互角を繰り広げていられるのは、ドクオもまた二手という優位性を保っているからだ。
機さえ訪れれば片方のナイフを投擲して手傷を与え、更にもう片方で止めを刺せる。
しかし万一その機を見誤ってしまえば、今度はナイフ一振りだけで戦うにはリーチで劣るドクオの劣勢は揺ぎ無い。
相手もまた、ドクオに負けじ劣らずの肉薄した実力を持つ始末屋。
たとえ腕一本や目玉一つ犠牲にしても、その代わり確実に命を脅かす一撃を放って来ると踏んでいた。
- 335 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:53:37 ID:SbeAitYU0
-
”コォンッ”
今は機を待つ他無い───ただ無心で、ドクオの殺傷範囲外から放たれた一刀を往なす。
だがそこで、予測の範疇には無かった伏兵の存在が明らかとなる。
”ずぐっ”
(メ;'A`)「───ッ!?」
刃を合わせて、確かに。首を狩り取られかねない剣閃は逸らした筈だった。
しかし直後には、右の上腕へと音も無く入り込んだ感触。鋭い激痛。
∠ ̄\
|/゚U゚ 「激しく、手応え──」
途端、ニンジャの打ち込みの苛烈さが上回る。
それまでよりも積極的に首を取りに来ているのが、分かる程に。
- 336 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:55:31 ID:SbeAitYU0
-
ニンジャの動きが良くなったというよりも、それは逆だ。
棒状の太い針のような金属片が、ドクオの左上腕部を貫通している、というだけ。
(メ;'A`)(チッ……俺とした事が)
見落としていた。あるいは思いの他手強い白兵戦こそが真価かと、その存在を忘れてしまっていた。
対象の暗殺や諜報活動を担う”シノビ”が極意とするのは、何も刀剣で斬り合う事だけではない。
時にワイヤーや毒針を使う自分達同様、”シュリケン”や”クサリガマ”といった独自の暗器を用いる。
そうしたニンジャ達の立ち回り方をドクオ自身知識としては知っていたはずだったが、それだけに。
影の合間を縫うかのようにして巧妙に打ち込まれた棒型のシュリケンの痛みに、苛立ちを覚えた。
- 337 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 02:58:46 ID:SbeAitYU0
-
一見すると思い切りの良すぎた小太刀の打ち込みは、その実。
振りの遠心力を生かして投擲武器を放ち、こちらの動きを抑止する為への、布石だったのだ。
油断───状況は不利に追いやられた。
(メ A )(それでも)
先ほどまで命令に従っていた自分の左肩が、今ではまるで鉛のように重く、熱い。
東洋の神秘”ニンジャ”は、ドクオ自身これまでに数える程しか出会わなかった、手強い相手だった。
だが手負いの今、安い命の張り合いをしている今という時。
目の前で互いに殺意を篭めた刃を見舞い合う、今の自分には。
より身近に感じられるのだ───生も、死も。
あの日、自分の命可愛さに”でぃ”を殺した時の自分は、きっと”生きたい”と無意識に願っていたのだろう。
皮肉な事だが、今贖おうとしている”原罪”こそが、歩く死人に等しい今日までの自分を、練り上げた。
- 338 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:00:20 ID:SbeAitYU0
-
(メ'A`)(やっぱ……死ぬ気はしねぇんだ。これが)
原罪───過去───そして現在までの時を経て。
這い寄る死から逃れる術に、長けていると言えるだけの実力を備えた。
常に血塗られた幾夜をも駆け抜けてきた自分だからこそ、それへの自負もある。
他人の生き死に、ましてや自分の命などどうでも良いと思っていたつもりだった。
しかし裏を返せば、自分の命が惜しいからこそ組織の犬として冷徹を演じ、名も知らぬ他人を殺め続けてきたのだ。
そうでなければ、今も沸きあがってくるこの感情には説明が点かない───”負けるつもりなど無い”などとは。
凍て付いたはずのドクオの心の氷壁の奥には、まだ生命への執着という種火があった。
命を賭してでしか掘り起こす事の出来ない記憶の忘れ形見が、あともう少しだけ、先にあるからだ。
- 339 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:01:44 ID:SbeAitYU0
-
∠ ̄\
|/゚U゚ 「──首級、激しく頂戴」
激しく繰り出される小太刀の連弾を、ドクオは辛くも凌ぎ切る。
───距離を取った。
(メ'∀`)「……お前、もう面倒くせぇわ」
───左手にあった短刀の刀身を指先に掴むと、指差すようにしてそれを投げつけた。
- 340 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:03:22 ID:SbeAitYU0
-
∠ ̄\
|/゚U゚ (勝機)
闇を裂く一振りの銀閃。
躱すには、ニンジャの動体視力にとってみれば十分な距離だったようだ。
床に手を着きながら、べったりと身を伏せるようにしてからまもなく。
その背後の壁には、びぃんと音を立てて短剣が突き刺さった。
それを契機としてニンジャはより低く、そして大きな一歩を踏み出した。
短剣を振るい投げてから刹那を経て。
ドクオの眼前には、小太刀の長大さを生かした直突が迫る。
(メ'A`)「──だろうな」
- 341 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:08:30 ID:SbeAitYU0
-
”ぞぶっ”
そのまま、喉元を貫き通した感触が、ニンジャの手元の柄には伝わった。
確かに小太刀の切っ先は、肉を抉っていた。
だが、その後に顔を上げた彼が目にした結果は、想像した物とはかけ離れていた。
∠ ̄\
|/゚U゚ 「………激し、く─────!?」
存命───刀身が穿ったのは、急所では無い。
(メ; A )「くッそッ───痛ぇなんてもんじゃ、ねぇけどよ……」
- 342 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:11:01 ID:SbeAitYU0
-
動揺したニンジャであったが、それに気付いてからは柄に力を篭めて、刀身を引き抜こうとした。
だが、重心を背に預けるのが僅かばかり遅れたために、逆にニンジャの身は引き寄せられる。
身体の中心で盾となるようにして刃先を留める、あえて小太刀に貫かせたドクオの左腕に、力が篭められたからだ。
(メ;'A`)「……”残念”。詰んだぜ、お前」
ほっそりと筋張った腕には確かに刃が通っている。
が、それ以上刺し込む事も、引き抜く事もままならない。
だから、すぐに得物を手放すという選択を、ニンジャは最速で行った。
∠ ̄\
|/ U 「────ッ!!!」
- 343 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:13:02 ID:SbeAitYU0
-
距離を保つため、すかさず背後へと跳躍して、逃れる。
だが、それでもドクオの黒刃の加害範囲にまで寄ってしまった体全体を逃がす事は、出来なかった。
背後の床へと着地してから間もなく。
自らの紺色の装束の首のあたりから、繊維がはらりと垂れるのに気付いた。
その場所を触ってみると───濡れていた。
生暖かく、そして後から後から湧き出るような、ぬめりを伴ったもので。
∠ ̄\
|/ U 「ッぶ、ぐ……!」
”自分の口から、血泡が噴き出されている?”
- 344 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:17:15 ID:SbeAitYU0
-
気付いた時には、既にニンジャの眼下では赤い噴水が音を立てていた。
瞼の上から覆う黒い雲もかかり始める頃には、視線はいつの間にか、無数の梁が伝う天井を見上げて。
(こいつは、俺の生まれでの受け売りだけどよ)
頚動脈を切り裂かれて吹き出る血の赤と、混濁していく意識の黒によって、直に視界は閉ざされた。
──残された数十の時の間に聞こえるのは、ぼんやりと遠くから呼びかけるようなドクオの声だけ。
(”ブッ教”ってぇのの……お偉い坊さんが、言ってた言葉だ)
∠ ̄\
|/ U 「ごぷッ……が、ばぁ」
(───”ショギョウ ムジョウ”、だとよ)
- 345 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:18:54 ID:SbeAitYU0
-
∠ ̄\
|/ U (……その方の、業……まさに”無情”……也……や───)
同じ土地に生まれた、異国の同業者。
その彼の最期に、ドクオは故郷の言葉を餞とした。
”この世の全ての物事は、一時として移ろう時を止める事など無いのだ”という、その言葉を。
二人の勝負の明暗を隔てた”闘法”ですらもが、その限りではなかった。
己の命をも流転の元に曝し、そして凝り固まった型からも逸脱しなければ。
たとえそうまでしても、ニンジャが果たしてドクオの立つ境地にまで辿り着けたかどうかは解らなかった。
- 346 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:21:41 ID:SbeAitYU0
-
全ての命はやがて死へと辿り着き、永久に失われ。
全ての罪にもいずれは、罰という名の裁きが下される。
あえて自らその道を往くドクオは、死に慣れ親しんだだけのアサシンではない。
あるいは、茜に染まったあの砂浜に流れ着いた時から恐らく既に、人としては死を迎えていた。
そこへ、故郷の火酒の熱さと、青臭さを語る狐目のコソ泥の眼差しとが、小さく火を灯したばっかりに。
(メ'A`)「左腕はオシャカ、ね……」
原罪を照らし上げる蝋燭の炎が呼び起こしてしまった。
彼の内に眠る、僅かばかりの”悔恨”というものを。
だから死人は、今彷徨うだけ。
- 347 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:23:16 ID:SbeAitYU0
- 行き着く先は、ただ滅するのみ。
一人と、もう一人の仇を葬った、その後に────
左腕からニンジャの遺した小太刀を引き抜き、携帯した薬草の類で血止めをする。
失血に少し足元はふらつき、指先が痺れつつあった。
取り出した包帯の端を口に咥えながらそこにきつく撒きつけてやると、血色はもう殆ど見られなかった。
(メ'A`)(感覚、無くなりかけてやがんな)
考えにも入れていないドクオだったが、期せずして、舞台は整えられていた。
ドクオと実力を二分できるだけの存在は、もう、一人しか居ない。
当時それに最も近いと目されたドクオが今より挑むは、闇を渡り歩く生きた死神。
これより行われるは、どちらかの血を以って”黒き手”の称号が移譲される、果し合いの儀でもあった。
- 348 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 03:25:47 ID:SbeAitYU0
- 同僚にちと書く時間が奪われたので、今日はここまでで……
ちっとは書き溜めしときます。
- 349 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 07:45:39 ID:FzX7IekE0
- 乙
- 350 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 21:27:11 ID:U1diOASYO
- ちょこちょこ投下乙
(´・ω・`)冒険者…のころから見てるよ
- 351 :名も無きAAのようです:2012/07/21(土) 22:47:09 ID:LMTD4Jfg0
- 乙
ショッギョ・ムッジョ
- 352 :名も無きAAのようです:2012/07/22(日) 13:21:17 ID:/LQvL6wc0
- 一旦乙
- 353 :名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 18:50:21 ID:gs.QWmZwO
- まだかな
- 354 :名も無きAAのようです:2012/09/06(木) 21:53:06 ID:7q2qpqm6O
- オーイ!、>>1
そろそろ出てきていいんじゃないか
- 355 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 00:23:30 ID:jKLspBSgO
- 好きな作品だから気長に待ってるよー
- 356 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 12:21:58 ID:iLNIVHWYO
- しばらく離脱してしまってます、作者です。
今リアルの方がちと色々と大事な時期でして。
完結までの構想はあるので、かなり間は開いてしまうかも知れませんが、
途中で投げる事はないと思います。
申し訳ないですが、このスレは一旦過去ログ行きでもやむを得ないですね。
気長に、忘れた頃にでもまた見て頂ければと思います。
すいません。
- 357 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 14:48:17 ID:6RnQAgZI0
- 面白いから待ってるよ
無理しないでね
- 358 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 19:21:49 ID:gSyFbfJc0
- 了解した
気長に待ってる
- 359 :名も無きAAのようです:2012/09/23(日) 23:31:59 ID:UpORTYWk0
- 待ってるよ~
- 360 :名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 00:14:09 ID:4HeJDXrkO
- 現状報告サンクス
楽しみに待ってるぜー
- 361 :名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 08:12:45 ID:MiuXE8wc0
- 作者が定期報告すれば過去ログには埋まらないはずだよ
別に進捗状況伝えにこなくてもいいから、たまにレスしにくるようにしてほしいお
- 362 :名も無きAAのようです:2012/09/24(月) 08:14:35 ID:/mLwJnAk0
- わたしまーつーわー
- 363 :名も無きAAのようです:2012/09/26(水) 23:00:28 ID:KSMX1JuUO
- いつまでもまーつーわー
- 364 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 00:59:06 ID:yXF9qmm20
- 皆様あざすw
ちょこちょこ書いてはおりやすので、その分ボリュームたっぷりで投下出来るようにしますぜ
- 365 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 19:44:50 ID:uVgg6ERoO
- オーケー、期待して待ってるわ
- 366 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 00:53:30 ID:LFo8lyCcO
- >>364
ω・)ワクワク
- 367 :名も無きAAのようです:2012/10/11(木) 05:14:51 ID:DwiZn3DkO
- これも続き読みたいけど、悪魔召喚師のほうも早めに頼むよ
- 368 :名も無きAAのようです:2012/10/12(金) 21:12:09 ID:z389kG6k0
- >>367
あれは途中から展開が強引だったりしすぎたんですよね。大部分書き直しですわ。
一応最新話は未投下で別PCで残してますが、この作品の過去話読むよりもかなり恥ずかしいっす。
ひとまず本日からの連休で少しでも現行を書きだめますん。
- 369 :名も無きAAのようです:2012/10/13(土) 00:09:55 ID:Y5A8oS4sO
- 作者の人、投下日以外でもちゃんとここ見てるんだな
ワースの完結は作者死亡、ニート化して無気力になる
それ以外はたぶん大丈夫だと踏んでいる
ここはワースのスレなんだが、悪魔の完結の言質素直に嬉しい
- 370 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:34:37 ID:cxH.ljNE0
- ほんと申し訳ない。一度ageさせて頂きますが、以後はスルーして下さい。
複数のメモ帳に場面が散らばって書きづらいので、半端な部分投下します。
- 371 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:37:04 ID:cxH.ljNE0
-
―――――
――――――――――――
―――――――――――――――
《……喰ラエ》
聞こえた声には、もはや返事を返す余裕もなかった。
抗う事など出来ない、抑え付ける事のままならない存在だと、知ってしまっているから。
大事な娘一人を守ることおろか、殺そうとしている自分を、おぼろげながら自覚してしまった。
《喰ラッテ、腹ヲ満タセ》
「………」
- 372 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:40:11 ID:cxH.ljNE0
-
数日前、数週間前までの自分なら───”ミルナ=バレンシアガ”ならば。
決してそんな声に耳を貸す事などなかった。
傲岸不遜を貫き通し、人の理に、それへの義に恥じるような事に荷担する事など、有り得なかったはずだ。
《ドウシタ、食ワセロ》
しかし、もう───自分は以前までの自分では無くなってしまった。
自身の内側で人知れず聞こえるその声を、かき消すようにして叫んでいた胆力も、もう萎えた。
せめてもの抵抗は、水以外の一切を口にせず、緩やかに死に行く事だけ。
そうして山に篭って、数日が経った頃だったのだ。
人が恋しくなって、居ても経ってもいられなくなってしまった折に、麓の村でクーと出逢ったのは。
- 373 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:41:07 ID:cxH.ljNE0
-
少なからず、いや、激しく。
心は揺り動かされる出来事だった。
自ら死を選んだ決死の思いが、再びの生を求めて揺れ動いてしまう程に。
それは、今もなお。
《旨ソウナ肉ガ、目ノ前ニアルノダゾ》
「………」
もはや、己が内に宿ったけだものの声に逆らえるだけの意志力はなかった。
死する時まで、人を喰らう獣として生きていく定めは、”この獣”を打ち殺した自分への罰。
あるいは、もっと昔の出来事がそれに起因しているのかも知れないと、寂しそうに心で笑った。
- 374 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:41:55 ID:cxH.ljNE0
-
「もう、いい」
決して折れる事のなかった筈の漢の心は、諦めに染まっていた。
思い返すのは闘いに明け暮れた日々と、友との思い出。
あれは、いつだったか。
───────────────
──────────
─────
― 15年前 ―
(;゚д゚)「ハァッ……ハァッ」
- 375 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:42:37 ID:cxH.ljNE0
-
5人の門下生に囲まれて息を切らせるのは、まだ表情にどこか幼さを残した少年。
だがその彼の足元では三人の男が鼻血を流して気を失っていた。
「……やっちまえ!」
(;゚д゚)(ふふ)
真に男を磨く場所───その言葉の誘いのままに、彼は山奥に佇む荘厳な門をくぐった。
そうして辿り着いたのは、どいつもこいつも鼻息を荒くして、小さな世界で強さ比べをしたがるだけの男達。
己自身を磨こうという気など更々ないのだ、こいつらは。
群れる事で独力では勝てない個人を押さえつけながら、強さを求めるべき場所において、
下らない上下関係の結びつきなどに固執し、自身の限界などよりも、ただでかい顔をしたいだけ。
- 376 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:43:20 ID:cxH.ljNE0
-
(;゚д゚)(つまらないな)
入門する以前に己が描いていた幻想は、打ち砕かれた。
何の事はない、たかだか15の若造にぶちのめされた事にむかっ腹を立てて、
数を率いてお礼参りに来る有象無象の連中など、何が”漢”か。
さぁ、残りも片付けてくれよう。
そして拳をきゅっと握り締めた折、どこかから声が掛かった。
-=三川
| ノ-_>「お前ら、面白そうな事してんじゃねぇか」
- 377 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:44:20 ID:cxH.ljNE0
-
(゚д゚)「……ッ!」
ふと振り返れば、書物蔵の屋根の上に腰掛ける男に、その場の全員の視線が向けられる。
自分と相対している何人かが、ばつの悪そうな顔で言い訳じみた言葉を口にした。
「しッ師範代、違うんです……こりゃあ──」
見覚えのある顔を見て、ミルナはすぐに思い出す。
打撃にて相手をぶちのめす、ミタジマ流の撃術。
確かそれを門下生達に教授している師範代、”メッシュ”という男だった。
自分を止めに来たか。それでも、構いやしない。
茶々を入れるつもりならば、たとえ師範代であっても容赦しない。
もし彼が掴み掛かってでもきたら、逆上任せに殴ってやるぐらいのつもりだった。
そのミルナの熱気とは対照的に、彼はこの光景を飄々と眺めている。
- 378 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:45:26 ID:cxH.ljNE0
-
-=三川
| ノ-_>「恒例の新人シゴキかと思ったがよ。こいつぁ、見たとこ――」
(#゚д゚)「……しぃやあぁッ!」
関係無い、とばかりに門下生達へ向き直った自分は、一息にその胸下へ迫ると、
言葉を紡ごうとした様子にもお構いなしで、顎を拳で突き上げた。
”パグンッ”
目玉が回転して、即座に男は崩れ落ちる。
「……や、野郎〜〜ッ!」
また一人をぶちのめされた事に逆上はすれど、その彼にかかっていく者はいない。
たった一人の少年の前に、因縁をつけた門下生達ももはや腰が引けているのだ。
しかし少しずつ後ずさる彼らを睨み付けながら、若獅子は更に追撃の牙を突き立てようと拳を固めた。
- 379 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:46:21 ID:cxH.ljNE0
-
だが―――――そこで。
「その辺にしといてやれよ」
(゚д゚)「………!」
いつの間にか、屋根の上で光景を見下ろしていたメッシュの声が、連中へと
飛び掛ろうとしたミルナのすぐ背後から聞こえて、思わず動きを止めた。
それに苛立ちが募ると、彼へと勢い良く振り返る。
-=三川
| ノ-_>「………」
(#゚д゚)「ハッ」
- 380 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:48:12 ID:cxH.ljNE0
-
もはや連中の戦意も失せているだろう。
打ち込まれても対応できるだけの意識を背へと払いながら、ミルナはメッシュの前で
大仰な仕草で肩をすくめて見せた。
-=三川
| ノ-_> 「”ミルナ”、つったっけな……気ぃ晴れたか?」
(#゚д゚)「晴れる訳が、ありませんね」
-=三川
| ノ-_> 「はて?お前さんは無傷……そいつらはズタボロ。こりゃどう見たって――」
(#゚д゚)「はんッ、弱い門弟相手には、随分とお甘い事だ!」
-=三川
| ノ-_> 「……」
- 381 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:50:45 ID:cxH.ljNE0
-
1対1の果し合いに破れ、その腹いせに仲間を連れてくるような手合い。
”私闘”に対しては甘い門派だと聞いていたが、ミルナはメッシュの言葉に拍子抜けしていた。
(#゚д゚)「俺に惨敗してこいつらがもし居なくなったら、貴重なお布施が減るからですかね?」
-=三川
| ノ-_ >「ふぅ……」
(#゚д゚)「それか……弱い門弟しか育てられない流派だと周囲に露見するのが怖いんでしょう?」
-=三川
| ノ゚ _>「―――――あ?」
あまりに挑発的な、ミルナの言葉。
若く、そしてこの歳にしてはあまりに強く。
- 382 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:51:55 ID:X9YVRV1YO
- キター しえん!
- 383 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:51:56 ID:cxH.ljNE0
-
これまで他者との闘争において地べたを嘗めた経験の無かったミルナだからこそ、
何者をも恐れぬその言葉がついぞ口をついてしまった。
それまで閉じているように細目であったメッシュの瞳が、瞬時に見開かれる。
-=三川
| ノ゚ _>「おめぇ……今、なんつった?」
(#゚д゚)「聞こえませんでしたか?なら、もう一度言いましょう―――」
途端に気色ばみ、ごきごきと首を鳴らしながらミルナを見下ろすメッシュ。
その瞳にはそれまでの平静なものではなく、明らかな怒りの色が宿っていた。
(ば、馬鹿!あ、あいつ―――――!)
- 384 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:53:03 ID:cxH.ljNE0
-
遠巻きに観ている門下生達は、逆に少年を気遣う様子でいたのだが、
鼻息も荒く挑発を続けるミルナが、それに気づく節はなかった。
腕で自慢、傲岸不遜な少年であった―――彼には。
-=三川
| ノ-_ >「よーし、良い度胸だ。特別に、俺が実戦稽古つけてやるよ……今この場でな」
(゚д゚)(そら来た)
それは、道場の台所事情を引き合いに出され逆上しての台詞だろう。
それならば存分に受けて立ってやる。
たとえ師範代といえども、こんなヤワな門下生ばかりを弟子にとり、
もはやこの道場の底も見えた。彼を倒したら、今晩の内にここを後にしよう。
- 385 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:53:50 ID:cxH.ljNE0
-
ミルナはすごすごと後ずさっていく軟弱な兄弟子達を背にして、硬く拳を結ぶと、
掌を返してこちらへ手招きを送るメッシュへと切り込んでいった。
―――――
――――――――――
―――――――――――――――
-=三川
| ノ-_ >「……理解、出来たか?」
- 386 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:55:37 ID:cxH.ljNE0
-
(メメ д)「………」
数分の後、大の字に地面に身を投げ出しているミルナの頭上で、メッシュは彼の顔を
覗き込みながら、胸元からハーブを巻いたパイプを取り出すと、それを口に加えてから一度空を見上げた。
烏の鳴き声が、緋色の空に夕暮れの音を告げる。
(メメ;д)「―――ぐ、ぅっ」
天を仰ぎながら、ミルナの両目には涙が滲んだ。
歯を食いしばってそれを堪えようとしたが、余計に悔しさが増すばかりだった。
-=三川
| ノ-_ >「………」
- 387 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:56:23 ID:cxH.ljNE0
-
物心ついた時から山に捨てられていたミルナは誰にも頼らず、誰にも媚びずに。
そうしてたった一人で生き抜いてきた。
字や言葉を教わったのは、決して故郷であった山を離れようとしなかった自分の下に、
定期的に押しかけて来ては半ば強制的に学問を学ばせた、ある僧の教えによるものだ。
ある日を境にぱったりとそれも来なくなったが、こうして大陸の各地を転々と旅するようになったのは、
外の世界に興味を抱くようになったのは、その彼の影響もあったのだろう。
誰の手も借りずに、無頼で生きてきた少年は、武門など軟弱な者達のただのお遊びと思っていた。
―――――今日、この時までは。
-=三川
| ノ-_>「これが、今のお前の背丈だ」
- 388 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:57:20 ID:cxH.ljNE0
-
メッシュの言葉に、涙が、堰を切ったかのようにあふれ出した。
「負けたのだ」と、そしてミルナは実感する。
(メメ;д)「ち……く、しょう……」
齢15にも満たぬ彼だったが、これまで売られた喧嘩は勿論の事、山賊らなどにも負けた事はなかった。
山で培った体力、力。それらが与えてくれた天性の身体能力だけで、そこらの大人をねじ伏せるのは容易かったのだ。
しかし若獅子の牙と爪は、今日初めて出会った男の前に、無残にも打ち砕かれて、へし折られた。
ただ一発の拳を、面長の彼の顎へと打ち当てたその後に。
- 389 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:58:31 ID:cxH.ljNE0
-
-=三川
| ノ-_ >(……おー、イテェ)
少し赤くなった顎をさすりながら、ミルナの頭上でメッシュはしゃがみ込んだ。
徒手空拳を武器とする門派としては最強と名高い”ミタジマ流”
打撃戦を極めた名手である撃術師範代であるそのメッシュを相手に一撃を入れるというのは、
他流派との交流試合でも近頃は稀な相手でしか為し得ない、一流の武術家をもってしても困難な事。
駆け出しからすれば最高の栄誉であるそれを、若干齢15のミルナが成し遂げたという事に
メッシュ自身も内心は驚いていたのだが、果し合いの末に敗れて悔し涙を流す彼にそのように
いたわる言葉をかけるのは無粋と思い、メッシュは言葉を飲み込む。
だから、飄々とした彼なりの口調で、”期待の新人”獲得の為の軽い激励を送るだけに留めた。
- 390 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 13:59:26 ID:cxH.ljNE0
-
-=三川
| ノ-_ >「まぁ……見込みはあるぜ。お前よ」
(メメ;д)「うるさい」
袖で涙ごとその言葉をぬぐい捨てたミルナだったが、再び視界が晴れた時。
目の前には、上から差し出されたメッシュの掌があった。
(メメ д)「……?」
-=三川
| ノ-_ >「俺がお前の頃の歳の時はな、今日ぐらいのメニューでヘコたれて逃げ出そうとしたもんさ」
- 391 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:01:01 ID:cxH.ljNE0
-
-=三川
| ノ-_>「やらねぇか、お前?」
「その涙の分まで強くなれると思うぜ?―――――この”男闘虎塾”でよ」
(メメ゚д゚)「………」
―――――その手を取ったのが、”ミルナ=バレンシアガ”に更なる強さを与える出会いとなった。
若さゆえ、自分の力がどこまで通ずるかを試したいという想いもあった。
この”男闘虎塾”へ入塾すれば、さらに己の糧となるのではないか。
敗北を経て、この時のミルナは思ったのだった。
- 392 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:11:21 ID:cxH.ljNE0
-
その後、ミタジマ流の”筆頭一號生”として看板を背負い立つに至った彼は、
やがて再び広い世界を観に旅歩くようになった。
”螺旋の力”
今ではこの大陸に二人と居ない、人体に眠る奇跡の力であるそれを、奥義として体得し終えた後に。
秘められし潜在能力であるその螺旋の力を引き出す事が出来た者の肉体。
それには―――――住まうのだ。
黄金の体表を持つ、”螺旋の蛇”と呼ばれる生命力の具現化した存在が。
そして”黄金の蛇”は、まだミルナの内底に眠っていた。
魔力に変貌してしまった今の彼の意識が完全に飲み込まれずにいるのは、それが理由だった。
・
・
・
- 393 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:14:34 ID:cxH.ljNE0
-
美しき思い出の中の一つ。
彼女は、優しいあの顔を思い浮かべていた。
一度は失意に飲み込まれそうになった自分を、再び立ち直らせてくれた、彼の横顔を。
『その……なんだ、お前に似合うと思ってな』
(きれい…)
街で買ってきた、安い硝子玉をあしらったリングを、そっと手渡してくれた。
- 394 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:15:31 ID:cxH.ljNE0
-
『ありがとうな!』
言葉だけ聞けば、子供にしては小生意気な台詞にも、彼はにやりと笑みを浮かべるだけ。
少し照れくさそうにしながら、すぐに彼女から振り返り頭を掻いたが。
『まぁガラじゃないが、な……』
ぽつり呟いたのは、聞かない振りをしておいた。
”とくんっ”
- 395 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:16:46 ID:cxH.ljNE0
-
ある時、旅のさなかで彼女が高熱を出した夜もあった。
三里は下らぬ山道を、彼はその身を抱えて奔ってくれた。
『気をしっかり持て!……もう少し、もう少しだ!』
追いすがる山道の暗闇をも、遥か遠くへ置いてけぼりにするほどに、早く。
病からくる高熱と、身体に感じる揺れとが合わさりうなされるまどろみの中、
瞳を開けると微かに映る必死な横顔に、だから彼女は安心していられた。
(あぁ、私はきっと、大丈夫)
その背中に、全てを預ける事が出来たから。
「今こうしていられるように、私を助けてくれた人だから」と。
- 396 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:17:28 ID:cxH.ljNE0
-
彼女は、今一度思い浮かべる。
優しい思い出を与えてくれた彼の、真剣そのものの横顔を。
”とくんっ”
( ゚д)
- 397 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:19:04 ID:cxH.ljNE0
-
―――――
―――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――
川;゚ -゚)「……ミル……ナ?」
”どくんッ”
その名を口にして、もう一度心臓は大きく高鳴った。
つかの間、遠い過去の方へ意識が引き寄せられていたのを、鼓動が引き戻した。
- 398 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:20:14 ID:cxH.ljNE0
-
小さな左胸の奥で、怒涛のように駆け巡る血潮の流れを感じていた。
つい先刻までは、確かに。
あの時と変わらぬ眼差しを向けてくれた彼が、そこにいたはずなのに。
クー自身をかつて旅へと伴ってくれた、憧れの冒険者。
川;゚ -゚)「ミル、ナ……なんだろう?」
有り得ない、という表情をする彼女の前には、月の光を受けて体表を煌かせる、銀色の狼。
光景の一部始終を目の当たりにしてしまった今でも、信じられる事ではなかった。
震えた声で問いかけるクーの言葉は、やはり”彼”には届かない。
クーの目の前に居るのは、ただ牙を剥き出す金眼の猛獣。
ミ#゚叉゚彡
- 399 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:21:12 ID:cxH.ljNE0
-
毛むくじゃらの狼人間、などという域ではない。
一人の人間の身体が大きく膨れ上がり、銀色の体毛を体中から生やして───
そしてミルナは、四足で地を踏みしめる野獣そのものとなってしまった。
その猛禽よりも深い黄金の色を湛えた両眼が、冷たい汗を滲ませるクーの瞳を捉えて離さない。
自らへ向けて踏みしめられた一歩に、クーは無意識のうち後ずさる。
大陸各地を旅したクー自身も見た事が無いほどの大きさの、銀色の獣。
彼女でなければ、逃げ出していただろう。
その獣が纏う雰囲気には、当てられただけで己が捕食されている様さえ浮かぶ。
人としての生存本能がまず、この場に居てはいけないと叫び出しそうな程に。
- 400 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:22:05 ID:cxH.ljNE0
-
川;゚ -゚)「──わからないのか、ミルナ!? 私だ……クーだッ!?」
応じてくれるはずもない―――――彼は、今や人ではないのだから。
目の前の光景全てが、クーには信じる事の出来ないあやふやな現実。
何が起こっている―――――どうなっていると、それらばかりが。
疑問は頭を埋め尽くし、今は逃げなければならないという現実すらをも直視させないほどに
彼女の感覚を鈍らせて、そしてクーはその場で、ただ呆けるように立ち尽くしていた。
川;゚ -゚)(……何が、起きて)
獣と化したミルナは、一歩一歩ゆっくりと両の足を交差させてクーへと歩みを進める。
- 401 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:23:03 ID:cxH.ljNE0
-
ミ#゚叉゚彡「………グルゥッ!」
かぁっと口を開くと、そこには鋭牙が覗いた。
剥き出しの敵意は、人間特有の感情のような”憎悪”では無い。
より単純であり、より原始的なもの。
生物としての本能に基づいて、彼はそれに従おうとしているだけなのだろう。
即ち、食欲。
川; - )(なんという表情をしているのだ)
ミルナは狼の姿へと変貌し、もはや彼自身の理性は失われている。
そして彼は、これより自分を喰らおうとするのであろう事を、遅まきながら理解する。
- 402 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:23:50 ID:cxH.ljNE0
-
気を失いそうになる現実の中で、一つだけ確かな事があった。
姿形は変わってしまっても、なぜだかその吠え声から、クーはミルナの想いを感じたのだ。
ミ# 叉 彡「───ォォオオオオオオォォォォォォッ……ォォォンッ!」
ミルナだった狼が、再び月へと吠えた。
この世に二つとあるか疑わしい程に、てらてらと輝く眩い白銀。
川;゚ -゚)「………泣いて、いるのか?」
まるで、決して手の届く事の無い頭上の月を羨むかのように哭く、獣の哀愁。
クー自身の瞳には、それがどこか誇り高く、崇高さを感じ得る光景だった。
川 - )「……ミルナ?」
- 403 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:24:36 ID:cxH.ljNE0
-
ミ# 叉 彡「……フゥゥ……」
もう一度呟いたその名に、微かに反応した。
クーの呼びかけに、確かに獣は動きを一度止めたのだ。
彼はこの時、抗っていた。
自らの内で暴れだす、御せぬ獣心に対して。
ミ#゚叉゚彡「………」
殺されようとしていた、僅か一欠けらの人心を守る為。
- 404 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:25:28 ID:cxH.ljNE0
-
( ω )ξ ⊿ )ξ(´ ω `)爪 ー )y-
ヴィップワースのようです
第10話
「孤狼は月厘に哭く(2)」
川 - )
- 405 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:26:29 ID:cxH.ljNE0
-
・
・
・
『オれは―――――ナにもの……ダッ、た』
”自分”という意識は、果たして今どこにいるのだ。
何かを思考したはずの一瞬すら、すぐに記憶の彼方へと置き去られる。
全身には力が入らない、故に立ち上がる事も出来ない。
「あぁ、そうだ」と、一つだけ思い出す。
自分は”囚われている”のだという事を。
限りなく自らの欲求に従うだけの魔の牢獄、それに人としての心は、囲繞されているのだ。
- 406 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:27:19 ID:cxH.ljNE0
-
―――――《オ前ハ、獣ダ》
耳を塞いでも、直接語りかけてくるこの声。
それから、逃れる事は出来ない。
『チ……がう……俺、ハ、くー?ヲ……ッ』
今しがた口にした人物の名、それが誰だったかすらをも、思い出す事が出来ない。
―――――《何モ違ワナイ。オ前ハ俺、俺ハ、オ前ダ》
- 407 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:28:22 ID:cxH.ljNE0
-
尚も、内に潜む獣は囁く。
狂ってしまえと、喰らってしまえと。
しかし、壊してはならない大事な物が、確かすぐ近くにあるはずなのだ。
『(オれの名ハ……)』
д )
だから、抗う。
- 408 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:29:07 ID:cxH.ljNE0
-
―――――《獣》
ミ# 叉
しかし、打ち勝つ事は出来ない。
『ッ……ち……ガッ!……アァッ…!』
一度覚えてしまった血と肉の味、鼻腔をくすぐるは、なんとも芳しき柔肌のにおい。
耐えがたきこの空腹には恐らく、それが至福をもたらすのだ。
《月》
- 409 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:31:06 ID:cxH.ljNE0
-
『ミる、な?』
それは、誰の名だったか。
《肉ヲ》
川 - )
『くー?』
それは―――――誰の名だったか?
《―――――血ヲ》
ミ# 叉『―――――食ウ』
僅か一瞬、瞬き一度程度の時の中での、出来事だった。
そこで彼は確かに人として戦い、けだものの声に抗った。
しかし最後の抵抗も虚しく、ミルナの人としての意識はそれきり闇に沈んだ。
- 410 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:33:29 ID:cxH.ljNE0
- ・
・
・
ミ#゚叉゚彡「……ゥルルゥゥゥゥッッ!」
川; - )「―――――あ」
次の一瞬、動けなかった。
逃げる事も出来ずに、ただ彼女は憧れの対象が自身の喉元に牙を剥く眼前の光景に、
緩やかな時の流れの中で身を委ねながら見届ける事しか出来ない。
手には一振りの剣さえ、無い。
まして武器があった所で、彼女は己の力量だけで彼を怯ませられる気さえしなかった。
- 411 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:34:14 ID:cxH.ljNE0
-
川; - )「……私、は……」
両膝から自然に力が抜けて、とうとうクーはその場の地面にへたりこんでしまった。
不運と悲哀の星の元に定められた自らの運命を呪いながら、心の中で言葉を口にする。
”どうしてこうも、私は”
両親の死を乗り越えてから、自分は独り立ちして強くなれたと思っていた。
しかし仲間の死を目の当たりにした自分は、そうではなかったのだ。
薄々内心には感づいていながらも、その事実を認める事なく強がっていたに過ぎない。
見知らぬ少女を助ける事が出来なかった自責の念と、束の間を共にした仲間を失った喪失感。
たったそれだけの事で、誰かの支えがなければ立ち上がる事の出来ない程に弱かったのだ。
そんな自分なのに、全ての心の拠り所を打ち砕かれた心には、もはや―――――
- 412 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:41:02 ID:cxH.ljNE0
-
だからこれ以上、自分の心が痛めつけられる事を拒んだ。
やがて諦念を抱いたクーは―――――そうして目の前の現実から、目を伏せる。
川 - )(もう……いい、や)
最期は、自分が憧れを寄せた人物に殺されるのだ。
疲弊した彼女の心は、そんな現実の前に諦めを選択させる。
嘲るように口元を歪めたクーだったが、しかしその頬は―――――濡れていた。
死を受け入れて瞳を閉じこむ直前に、極めて獰猛な獣の牙が目の前で輝きを放ったようだった。
- 413 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:41:43 ID:cxH.ljNE0
- ・
・
・
―――――瞼を閉じこむ間際、薄ら輝いたのは獣と化したミルナの眼光だと思った。
川; - )(…………)
- 414 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:43:06 ID:cxH.ljNE0
-
しかし、どうやらそうではない。
何より喉元をかぶりつかれそうになったクー自身は、まだ五体満足だ。
意識もはっきりとしている。
―――しかし、この目を開けてしまえば、死が遅れてやってくるのではないか。
その恐怖と緊張が彼女の身を強張らせては、奥歯が瞬く間に磨り減って
しまいそうな程に、クーは顎を力強く噛み締めていた。
そして耐え切れぬ程の、沈黙。
「……ぐッ、ぬッ……」
- 415 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:43:08 ID:/kjEAeekO
- うおぉぉ来てる!支援!
- 416 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:43:59 ID:cxH.ljNE0
-
川; - )(…………?)
声―――――ミルナのものか。
五感全てを投げ出してしまっていたクーだったが、それを認識した途端に、
聴覚が戻りつつあった。そして再び自らの波打つ胸の鼓動が耳へと届き始めると、
意を決したクーは、ゆっくりと薄目を開けながら顔を上げる。
そこには、人の形を成した影があった。
( )
川;゚ - )
- 417 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:45:19 ID:cxH.ljNE0
-
まず思ったのは、何が起きたのか。
その次に到来した疑問は、この後ろ姿の主は誰かという事だ。
微かな月明かりを受けて、クーを背に庇う彼の後ろ姿は―――
いつか見た憧憬の一つに、重なるようでもあった。
( д)
川;゚ -゚)「―――――ッ!?」
- 418 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:46:34 ID:cxH.ljNE0
-
しかし、それは彼のものではない。
見慣れぬ背姿に、しかし、確かに見覚えはあった。
(; ^ω)
ある依頼の最中で、期せずして道程を共にする事になった冒険者。
”ブーン=フリオニール”と、彼は確かそう名乗ったはずだ。
川;゚ -゚)「な……」
その彼が、クーとミルナの間を遮るようにして両の足で、力強く立っていた。
- 419 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:47:22 ID:cxH.ljNE0
-
(; ^ω)「無事ッ、かおッ……!?」
川;゚ -゚)「……なんで……」
(; ^ω)「話は、後だお―――」
ちらと横目で伺うようにクーへと視線を向けていたブーンだったが、
すぐに正面へと向き直る―――――剣の腹で、獣の牙を押さえ付けているのだ。
それも、恐らくもう限界。
ミ#゚叉゚彡「グッ…、ルオォゥゥゥゥゥッ!!」
- 420 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:48:39 ID:cxH.ljNE0
-
(;^ω^)「―――――くッ!?」
ブーンの剣の打ち込みに合わせて噛みついたのか、それともその逆か。
幅広の長剣は、しっかりと野獣と化したミルナの上顎と下顎に押さえ付けられ、
それに抗い刃を押し込もうとするブーンの手元は、巻き取られつつあった。
並みの野生であればこうはならない程の腕力を、彼は備えている。
しかし、月の魔力を浴びたこの”妖獣”の身体能力は、そんなものとは比較にならない。
剣を巻き取られて地面に転がされてしまえば、たちどころに喉元を食い破られる。
それほどの危機感をクーよりも間近に受け止めながら、尚もブーンは抵抗していた。
「やれやれ――――」
- 421 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:51:49 ID:cxH.ljNE0
-
その時、そんな彼らの背に掛けられた声に、クーは振り返る。
直後、彼女の顔のすれすれを抜けて二つの銀閃が奔った。
川;゚ -゚)「……!」
微かな風圧に、それが何らかの投擲物だと気づく。
ミ#゚叉゚彡「グァウッ!?」
”ザウッ”
(;^ω^)「……!」
ブーンの剣を牙でねじ伏せていた獣が、一息に飛び退いた。
直感、それも恐ろしく鋭敏な獣ならではのものだ。
闇の中を切り裂いて自らへと迫る銀の閃光、瞳の間近に迫ったそれを避けるべく、
白銀の巨獣は刹那、怯んだ。
- 422 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:53:18 ID:cxH.ljNE0
-
人間では為し得ない跳躍力と、動体視力。
その獣の顔の付近を掠めて、ナイフは背後の木へと突き刺さっていた。
(;^ω^)「思ったより遅くて、真面目に焦ったお……」
背中越しに声を掛けながら、両腕に力を込めた構えで、ブーンはクーより前に一歩を踏み出る。
そして、どうやらこの場に現れた人物は彼一人だけではなかった。
「一人で勝手に突っ走るんじゃねぇよ、ブーン」
クーの隣に並び立ち、腰からナイフを抜き出す銀髪の男。
その彼の事も、やはりクー自身はしっかりと覚えている。
川 ゚ -゚)「お前は……ッ」
- 423 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 14:57:00 ID:cxH.ljNE0
-
爪'ー`)「……よう、お姫さん」
”グレイ=フォックス”と名乗った、盗賊。
見た目には軽薄そうで、クー自身は虫の好かないタイプの男だった。
しかし、窮地においてはそうではなく、間違いなく彼女の眼からは肩を並べて戦える人物。
少なくとも、今という時においても。
「まだ命がある事を、幸運に思ってもらわなければね」
反対側、また一人クーの隣に立った彼を仰ぎ見て、確信を得る。
- 424 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:03:46 ID:cxH.ljNE0
-
(´・ω・`)「また死なれてしまったりしたら、僕は目覚めの悪い悪夢に苛まれそうだ」
川 ゚ -゚)「ショ……ボン……」
ローブの魔術師、”ショボン=アーリータイムズ”
度胸もあり、また彼が確かな実力を持つ事は、クーは既に知っている。
カタンの森で依頼を共にした冒険者達、ブーン一行の姿が、今何故かこの場にあった。
それに驚きながらも、「まさか」と思った所で、彼女の肩は掴まれる。
「大丈夫ッ!?」
- 425 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:05:25 ID:cxH.ljNE0
-
川 ゚ -゚)「……っ」
声の主に対して振り返ろうとした時、既に彼女はクーの目の前に立っていた。
彼女を眼前の脅威から庇護するように、二人の冒険者と肩を並べながら。
そうして、クーに対して笑みを投げかけながら、言うのだ。
ξ;゚ー゚)ξ「……良かった……無事みたいね」
クーの故郷であるロアリアを惨禍に招いた、聖ラウンジ。
その象徴とも言える司教の娘である”ツン=デ=レイン”は、息を切らせながらも、
言葉を詰まらせるクーに対して。
川;゚ -゚)「お前たち……どうして!」
- 426 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:05:38 ID:UaGhpgG2O
- 来てた、支援
- 427 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:06:11 ID:cxH.ljNE0
-
ξ;゚ー゚)ξ「―――ごめん、話は聞いちゃった」
川 ゚ -゚)「!」
先の依頼、魔剣騒動の後から自暴自棄となった自分は、今ここにいる。
その事を知る手立てがあるとすれば、依頼で一緒になったデルタの手回しだろうか。
そうして彼らはここに来たというのだろうか、それだけの為に。
川;゚ -゚)「判らん―――なぜ、お前たちが」
ξ;゚ー゚)ξ「……言っとくけど、貸しでも何でもない。
込み入った経緯があるんだろうけど、それを聞いちゃったら私達は
”はい、そうですか”――で済ませられる程、大人じゃないの」
川;゚ -゚)「……」
- 428 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:07:02 ID:cxH.ljNE0
-
クーからすれば、他人の為に私情のみで行動する冒険者など、失格だ。
予期せぬ出来事に足元をすくわれ、命を落としてしまう事だってあり得る。
一人を助け出すために、それ以外の全員が命を落として解散したパーティーだって知っている。
そして彼らは、その”失格”の冒険者達だった。
大方依頼から戻らない自分の身を案じた楽園亭のマスターが依頼でもしたか。
――――もしくは、このツンの言う様に、彼らは私情でここまでやってきたのか。
いずれにせよ、この状況では呆れる程のばか者だと思えた。
ミ#゚叉 彡「………グルゥ………」
目の前には、見た事のない妖獣の類と化したミルナ。
それを他の4人が知る術はないが、暗い茂みの向こうから今も黄金色の瞳は5人の様子を伺っていた。
- 429 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:08:37 ID:cxH.ljNE0
-
ブーン達の強襲以降、慎重になっているのだ。
獰猛な野生は、鋭敏な感覚だけでなく、生きる為に本能的な狩りの才能も備わっている。
隙を見て一気に喰らい付くか、あるいは獲物の抵抗が弱まるまで、じわじわと抵抗力を奪うか。
(´・ω・`)「……ああ出られた方が怖い。観察しているんだ、僕らを」
(;^ω^)「フォックス!ブーンの撃ち込みで隙が出来たら、そこを!」
剣をしっかりと構え、引き込まれそうになる獣の魔眼を直視する。
決して怯えを悟られぬように―――――とは言え、場にいる三人の肌はヒリついていた。
そして、たちどころに首を刈られてしまいそうな重圧に、いつかと似たような冷たい汗が流れる。
しかし、この危機は未知ではない。
”同じ程の脅威かも知れない”と感じながらも、それでも”戦える”と、思えた。
- 430 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:10:03 ID:cxH.ljNE0
-
(´・ω・`)(感謝しておこう―――”エルンスト”)
時に、命を捨てる覚悟をしなければならない戦いもある。
しかしそれは、以前の彼らには出来ていなかった心構えだった。
爪;'ー`)「おい。多分こいつは一筋縄じゃいかねぇ。大きな振りは、極力控えろ」
しかし、一度その間際を辛くも潜り抜けた彼らには、単に場数や腕力以上に。
時として大きな力を発揮し、各人の力を限界以上に高める”ある要素”が、芽を伸ばしていた。
- 431 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:12:02 ID:cxH.ljNE0
-
ミ# 叉 彡「―――――……ゥルオオォォォォォォォォォォッッッ!!」
再度、咆哮がけたたましく闇を劈いた。
先程クーの前で見せたそれとは違い、今度は威嚇によるものであったかも知れない。
腹の底がひっくり返り、膝がわらいそうになる恐怖が、自然と頬を伝う汗として滲み出る。
ξ;゚⊿゚)ξ「……退がってッ!」
川;゚ -゚)「止せ、逃げた方が、まだ……」
事実、その咆哮の前にツンの膝は小さく震えていた事に、クーは視線を落として気づいた。
それでも、守ろうとしているのだ。
他でもない、この場にいるクー一人を、4人の命を賭して。
- 432 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:13:20 ID:cxH.ljNE0
-
(´・ω・`)「ここで背中を見せれば誰かは死ぬかも知れない。
態々、この広い森の中で鈍足な獲物を逃がすとは思えないからね」
爪;'ー`)「……あぁ、逃げおおせる所を散り散りに分断されちまえば、それこそお陀仏だ」
(;^ω^)「追い払う―――今は、それ以外にないおね」
川;゚ -゚)「お前、たち……」
武術家としてのミルナの強さを知る彼女だからこそ、彼らが勝てるイメージは沸かなかった。
その気になれば素手で人を撲殺できたかも知れない彼が、今は馬鹿でかい狼の姿をしている。
しかし、その事実を彼らに知らせられるような暇はない。
ただ、覆い包む闇の中で―――――
妖しく死へと引き寄せる金眼の魔獣の前に、彼らの”絆”の力だけが試されていた。
- 433 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:20:26 ID:RLoTgnbo0
- 支援!
- 434 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:20:29 ID:cxH.ljNE0
- 途中支援ありがとうございました。
すんません、今日はここまででまた……
今回は複数のメモ帳にまたがって散らばっていた場面の整理がてら
投下させて頂きまして、ぶつ切り投下申し訳ないのでsageまくっておくんなさい。
まだ多分結構続くんですが、次はもう少し早く投下できればと思います。
- 435 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:21:13 ID:Tpa7RytA0
- 乙
- 436 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 16:21:19 ID:RLoTgnbo0
- >>434
投下乙ー
期待して待ってるよ!
- 437 :名も無きAAのようです:2012/10/25(木) 23:36:29 ID:JDq7jtp20
- 乙!やっぱ面白いわー
- 438 :名も無きAAのようです:2012/10/29(月) 16:07:18 ID:y6GibG1cO
- ミルナの眠ってる”黄金の蛇”に期待
- 439 :名も無きAAのようです:2013/02/06(水) 20:05:24 ID:OZKXUbWA0
- ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_646.png
感想絵祭りで投下したものを、こちらにも投下させて頂く
ゆっくりと続きを待ってる
- 440 :名も無きAAのようです:2013/02/14(木) 12:37:18 ID:lUe12mJw0
- うぉおお!初の感想絵頂きましたぁぁぁぁ!
ありがとうございます、早速保存させてもらいました!
この所時間が無くて全然進まなくて妄想ばかりが膨らむけど、
今日の内に出来るだけ投下させてもらいます。
- 441 :名も無きAAのようです:2013/02/14(木) 18:39:54 ID:dxyS.6Mc0
- マジかよ嘘だろよっしゃぁぁぁ!!
- 442 :名も無きAAのようです:2013/02/14(木) 22:41:11 ID:lUe12mJw0
- ちょっと日付をまたぐことになりそう。スマソ
加筆中
- 443 :名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 09:35:18 ID:ctbJJWLU0
- すいませんが、途中からながら投下になります。
投下し辛いので上げさせて頂きますね。
- 444 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:40:18 ID:ctbJJWLU0
-
川; ゚ -゚)(わざわざ……)
そうだ、わざわざ―――――彼ら4人はこの場所に立ち寄った。
失意の底に沈み、自棄となったクーの身を案じて、わざわざこの辺鄙な場所にまで。
そこが、彼ら自身想像だにしていなかった修羅場だとは、知らぬまでも。
やがてめぐり合った彼らは、それでも退く事を知らなかった。
丸腰であり、外敵に対抗する手段を持たないクーがいの一番に危機に晒されるからだ。
僅かばかりの食料や銀貨を争って、人が人の命を奪う事もある時代。
稀有な存在―――人は彼らの事を、愚直だとさえ思うだろう。
爪;'ー`)「こりゃあ、羆(ひぐま)の方がまだ可愛げがあるぜ」
- 445 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:41:14 ID:ctbJJWLU0
- ミ ゚ ゚ 彡(………)
視線が合っただけでもまる呑みにされてしまいそうな圧迫感の中でも、常に頭を働かせて相手を観察する。
妖魔の類では無く、野生動物では最大の戦闘力を持つ肉食獣である熊といった猛獣。
きっとこいつは、そいつらも軽々と凌駕する。
ばかげた体躯を見るだけで、一般人だろうとその脅威を理解するだろう。
(;^ω^)(………)
たかが、獣―――――この狼と対峙してみれば、そんな言葉は間違っても出てこない。
静かに、だが口元では獲物を仕留めるための牙を光らせながら、まるでこちらの考えを見透かしたかのように佇む。
(´・ω・`)「気を付けろブーン。そこらの獣などより、よほど狡猾だ」
ショボンの言葉通り、こちらを観察しているのだという事が伝わる。
膠着した状態の中にあって、ブーンもまた獣の眼窩に収められた金色を、真っ直ぐに睨み返す。
眼を逸らせば、たちまちに襲い掛かって来る。
- 446 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:41:57 ID:ctbJJWLU0
- ミ ゚ ゚ 彡「……グォゥ」
真正面から獣の威圧感を受け続けるブーンの背はじっとりと汗ばんでいたが、頭は氷のように冷えている。
反射速度、身体能力で野生に遥か劣る人間は、叡智と武器を持って彼らの隙を突く他ないのだ。
しっかりと集中しながら対峙出来ていた。
向こうを先に動かす―――今は、動くべき時ではないと悟る。
あえて脇を軽く開けて、隙を見せる仕草を取る。
決して剣の構えを疎かにはしない程度にだけ、力を抜いた。
(;^ω^)「……っ!」
”ざりっ”
―――――「何歩の距離だった?」
一瞬、そんなどうでもよい考えが巡ったのを振り払って、半ば無我夢中で剣を横へと薙いだ。
猛進する勢いを少しでも削ぎ落とす為。
”ブンッ”
ミ ゚ ゚ 彡「ゥオゥッ!」
がむしゃらな構えから繰り出された斬撃は、あえなく空を切る。
- 447 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:42:51 ID:ctbJJWLU0
-
(;^ω^)「くッ、はッや……!」
並々ならぬ質量と威を伴った、強力なブーンの打ち込みだが、
それも当たらなければ、ただ自身に疲労を募らせるだけに他ならない。
獣の残影があったはずのその場所で、剣先が一瞬だけ獲物を見失った。
見計らってか、飛びのいたばかりの獣の瞳が光る。
ミ ゚ ゚ 彡「……フオォゥッ!」
否、強い殺気によって、ブーンが見せた隙を狙う獣の瞳が、紅く輝いたような錯覚を思わされた。
やがて鋭爪は、月光を照り返しながら闇の中で線を描く。
爪#'ー`)「……やらせるかよッ!」
ミ#゚叉゚彡「グァウルゥッ!!」
しかしブーンを切り裂こうと振り上げられたその前足の根元に、フォックスの投げた短剣が突き刺さる。
- 448 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:43:32 ID:ctbJJWLU0
-
なおも動きは止めようとしなかったが、ほんの僅かな怯みを生み出す事が出来たおかげで、
自身の剣の打ち込み以上に音を伴って振り下ろされたその爪撃から、ブーンは辛うじて加害範囲外に身をかわす。
離れた耳元へも聞こえる風切り音が、獣の一撃が生死を分かつ程の威を秘めたものであると知らせた。
(´-ω-`)(【 我が前に立ち塞がる敵 其はその一切を 業火の元に滅せよ】)
(;^ω^)「ふゥッ――……ショボンッ!」
粟だった肌、しかし崩れた体勢を瞬時に建て直しながら呼びかけた時、
既に名を告げた相手は助力に応じてくれていた。
爪'ー`)「頭ァ下げろ!ブーン!」
(´・ω・`)「【――炎の玉――】」
ミ#゚叉゚彡「ゥ、グルァッ!?」
”どむっ”
- 449 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:44:22 ID:ctbJJWLU0
-
闇夜を染め上げる紅蓮が、爆音と共に獣ごと樹木をなぎ倒す。
―――ショボンの想定では、確かにその筈だった。
問題は単純に、銀狼の反射神経は人のそれなど遥か凌駕していたというだけだ。
(´・ω・`)(外されたかッ……これほどの近距離でッ)
木々の一つに命中した炎弾は、深くその表皮を抉るに留まる。
しかし、ショボンによる魔法詠唱は全くの無駄に終わった訳ではない。
ブーン達のあたりには獣の夜目に対抗できるだけの光量が与えられ、銀狼の姿を焔がはっきりと浮かび上がらせる。
その姿は、月明かりに曝された時と変わらず。
やはり変わらず、美しさすら憶える銀の獣だった。
爪;'ー`)「下がれ、ショボン!!」
- 450 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:45:15 ID:ctbJJWLU0
-
まずい、と感じたフォックスの額に、冷や汗が滲み出た。
二度ほど跳躍し、炎の玉によって炎上しながら朽ちた樹木の壁を乗り越えて、
既に獣はショボンの眼前に躍り出ている。
大きくその口を開いて齧り付こうと。
まだ、驚く程の冷静さを保ち続けていた彼の前に。
(´・ω・`)「―――穿ち貫け、【魔法の矢】」
ミ#゚叉゚彡「グァッ!?」
次いで、閃光が彼の指先から迸ろうとしていた。
避けられる事を予期してか、炎の玉の詠唱直後、ショボンは最速で第二撃を準備していたのだ。
大きな隙を伴う反面、強大な威力を齎す”魔法”。
ショボンは実践にて場数を踏む内に、それの、より効果的な使い方を身につけつつあった。
無論、背中を任せられる仲間の支援を視野に入れた上でだ。
ミ#゚叉゚彡「……ガァルッ!?」
目の前に突きつけられた指先が眩く発光したかと思えば、遅れてやってきた激痛。
致命傷には至らないまでも、閃光は確かに獣の前足上腕部分を貫く。
明らかに怯んだその機を、さらにブーンは見逃さない。
- 451 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:46:15 ID:ctbJJWLU0
-
(#^ω^)「――おぉぉッ!」
”ドンッ”
頭骨すら易々と断ち割るであろう上段構えの打ち込みが、地面にまでめり込む。
ブーンの長剣の切っ先は微かに獣の額辺りを捉えたが、致命には程遠いかすり傷。
獣が大きく飛びのいた先を睨み付けると、その形相は見る間に憎悪に歪んでいるようであった。
ミ#゚ ゚彡ルルゥ...
(;^ω^)(今のは、惜しいおね…)
呼吸と隊列を整えなおしながら、再度剣の柄を握り直してから出方を伺う。
手傷を負わせればあるいは―――そうも考えていたブーン一行だったが、
手負いとなった今、もはや完全に敵意をそぐ以外にこの場を乗り切る手段は無いように思えた。
「倒す」
それでしか、恐らく。
- 452 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:46:56 ID:ctbJJWLU0
- ・
・
・
川;゚ -゚)(強い)
以前に依頼を共にした新参冒険者パーティーは、クーの目からは見違う程に連携が取れていた。
各々の実力も、決して古参の冒険者達が集う楽園亭でも見劣りするものではないだろう。
恐らくこの場に自分一人ならばすぐに食い殺されてしまっていただろうと、クーは思う。
( ;^ω))
ちら、とこちらを覗いたブーンの仕草に、意図を察したツンがクーの耳元で小さく呟いた。
ξ;゚⊿゚)ξ「今の内に……離れましょう」
川;゚ -゚)「………」
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫。勝つわ――きっと」
- 453 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:48:20 ID:ctbJJWLU0
-
肩を抱えて力の篭った眼差しを向けるツンに対してクーは俯く。
彼女自身の為にこの場に参じたブーン一行は、今、命の危険を冒して戦っている。
―――――凶暴なる獣と化した、自らの想い人を相手に。
近い未来に、恐らくどちらかが死ぬ。
いや、ツンの言葉通りになる事を、クー自身も予感できていたのだ。
―――そうなれば、ミルナは?
ツンはきっと考え違いをしている。
この自分の考えなど、彼女は決して理解してはくれないだろうと思う。
それを口にしてなど、ましてや想像してさえならない言葉。
だのにそれは、無意識の内にクーの口を突いて出てしまった。
川 - )「……さ………くれ」
ξ゚⊿゚)ξ「……え?」
ブーン達にも、そして自らの想い人にも伝えたかった言葉。
クーの言葉の意図を察しかねて聞きなおすツンに構わず、クーは立ち上がる。
- 454 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:49:02 ID:ctbJJWLU0
-
・
・
・
”バウッ”
(;`ω´)「………ふッ!」
懐を目掛けた一撃に、大きく身を仰け反らせて腹を空ける。
喰らってしまえば、新調したばかりの皮鎧ごと肉を根こそぎ持っていかれていただろう。
宙に浮いた両手で剣を握り締め、直後、反撃の打ち下ろし。
いっそ怒り狂って齧り付きに来てくれればいくらでもやりようはある。
だが、形相には悪意に満ちた憎悪が浮かんでいるというのに、獣はまだどこか冷静を保って見えた。
またも、機を捉えられなかった。
剣を持ち上げ構えなおすと、再び次の一合に集中力を高める。
ミ#゚叉゚彡「フゥッ……ルゥッ……」
- 455 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:50:03 ID:ctbJJWLU0
-
爪' -`)「落ち着け、ブーン。少しだけ下がっとけ」
(;^ω^)「………?」
爪' -`)「陣形を乱すな。集中力と持久力切らしたら五体のどれか持ってかれるぜ?」
(´・ω・`)「もう一度、僕が」
爪' -`)「あぁ。ブーン、お前はショボンの詠唱中、護衛を務めるだけでいい」
(;^ω^)「……わかったお、フォックスは」
爪'ー`)「防戦を強いらせて悪いが、焦るな」
「どうにか俺が、やっこさんの”眼”を潰すからよ……!」
的が高速で動いてさえいなければ、ほぼ百発百中を誇るフォックスの投げナイフ。
両方が潰せれば最善だが、片目だけでも奪えれば逆上を誘えるだろう。
- 456 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:50:53 ID:ctbJJWLU0
-
そうなれば、より獰猛にはなるが落ち着いて戦えている自分達の方に分があるのだ。
ミ#゚叉゚彡「――ゴルゥ………ルオォォッ!!」
獣の俊足が、今度はブーンの隣に並び立つフォックス目掛けて繰り出される。
背後のショボンを守る為に、二人はここを動く訳にはいかなかった。
焦りに駆られて当然の状況、ブーンが剣を上段に構えながら叫ぶ。
(;^ω^)「フォックス!ブーンがッ!」
爪;'ー`)「へへ……まぁ、焦んな――よッとッ!」
ミ#゚叉゚彡「ッ!」
獣の前足がその身に届くギリギリまで、引きつけたのだ。
寸前になってフォックスが振り下ろした右手の指先から、やがて銀の弾丸が飛び出す。
”ざざッ”
- 457 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:51:41 ID:ctbJJWLU0
-
四つ脚の柔軟性、そして強靭な脚力を生かした神風の如き切り返し。
投擲されたナイフの速度を、見てから避けてしまう程の身体反射を持つこの獣には、攻撃を当てるのは極めて困難。
だが―――より冷静に、より狡猾にと磨き上げられてきた人の技こそが、それにも届くのだ。
”トンッ”
ミ# 叉"彡「……ギャウッ!?……ゥゴフルゥゥッ!!」
深々と獣の左目に刺さった投げナイフが、確実に金眼の一つを潰した。
面から血を流しながら、獣は激痛に耐えかねて吠える。
三回、四回と頭を激しく振り乱す内に、眼窩へと突きたてられたナイフは、やがて勢い無くぽとりと地面に落ちた。
爪;'ー`)「秘技――”影縫い”ってなとこだ……!」
最初に投擲されたナイフは、ダミー。
本命は逆の手の中に隠されたもう一本、そこから最小限の動作で繰り出された二本目が、獣の眼を捉えた。
- 458 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:52:56 ID:ctbJJWLU0
-
東洋の暗殺者から伝わったナイフ術の一つだが、易々と体現出来る技では当然無い。
しかしながらはしっこさや手先の器用さ、非常時においての集中力など。
ナイフ使いとしては類稀なる資質を備えたフォックスにとって、試みようと思えば不可能ではない技だ。
(;^ω^)「――よしッ!」
状況を把握し、剣を手に飛び出そうとしたブーンの肩に、突如荷重が加えられる。
フォックスに引き戻された彼が向けた視線の先では、いよいよ憎悪を煮えたぎらせる獣の姿が映った。
ミ#゚叉"彡「”ウグルゥゥオオオオオォォォォッ”―――!!!」
(;^ω^)「片目を奪った!……今がチャンスだお!?」
縦横無尽、眼を穿ったナイフが刻み込んだ痛みに抗うようにして、地面を掘り返しながら前足を暴れ狂わせる。
なおも自らの方を握り締めるフォックスに向き直って叫ぶブーンを、二人の仲間は諌めた。
- 459 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:53:45 ID:ctbJJWLU0
-
爪;'ー`)「焦んな。手負いの今こそ、こっちから飛び込めばがむしゃらに暴れられてやべぇ」
一歩を引いて状況を見渡す事――それは、時に勇み飛び出す事よりも重要となるのだ。
理性を欠いて暴風さながらに荒れ狂う獣の懐に飛び込めば、その爪牙に肉体を削られるリスクは遥か高い。
だが、相手に手傷を負わせてなおもこちらが慎重に、冷静でさえいれば―――勝率は上がる。
(´・ω・`)「仕上げは任せてくれていい」
斬り込み役のブーン。
そして、それを補佐する二人の働きによって、楽園亭のブーン一行は円滑なチームワークを保っていた。
それでも力が及ばないような窮地においては、ツンが冗談としか思えないような奇跡を実際に呼び起こして。
ξ゚ー゚)ξ「見て。いける……!」
川 - )
ツンが口にした通りの出来事が、彼らの背に守られるクーの目の前で起ころうとしていた。
- 460 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:55:18 ID:ctbJJWLU0
- 本当の意味での死の淵からも生を拾って来た彼らは、今でさえ少しずつ、冒険者としての”高み”を昇っているのだ。
それは、永きに渡って”月の守神”としてこの地周辺に沢山の逸話を残してきた、
ある一匹の妖狼をも―――――屠り去ってしまいそうな程に。
”どん”
十分な詠唱時間を稼ぎ出したフォックスらの働きに満足そうに、ショボンは一際瞳に宿した光を強める。
次の瞬間、赤熱していく彼の掌からは次第に細く小さな炎の帯が発現する。
ξ;-⊿゚)ξ「えっ」
勝てる―――勝てて、しまう。
そう思っていたのは、この場できっと彼女。
クー=ルクレール、ただ一人だった。
(´・ω・`)「これまでも……かわせるか?【炎流――――】」
不可避の焔。不死身のヴァンパイアは殺し損ねたが、一匹の獣程度ならばこの炎に巻かれれば跡形も無い。
焦熱の牢獄に囚われた対象はどうする事も出来ず、魔力と大気を糧に燃焼し続ける炎によって屈するのみ。
- 461 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:56:03 ID:ctbJJWLU0
-
( ^ω^)「なっ!?」
それを知ってか知らずか、彼女は飛び出していた。
あろう事か、隙だらけの背中を獣の方に向けて―――
今まさに魔法を放たんとした、ショボンの目線の先に立ち塞がるようにして。
川;゚ -゚)「………やめてくれッ!」
両腕を大きく左右へと広げているそのさまは、まるで、手負いの獣を守ろうとするかのように。
爪;'ー`)「お、おい!馬鹿ッ、何の真似だそりゃあッ!?」
(;´・ω・`)(―――チィッ……!)
クーの背後、未だ憎悪の眼差しを向ける獣へと狙いを定めていたはずの、ショボンの赤熱した掌に宿った魔力。
暴発しかけた魔力を握り締めた手の内で霧散させると、女性が一人焼け死ぬだけに
終わってしまうような最悪の展開を、すんでの所で食い止めた。
ブーン達が驚くのも、無理からぬ事だろう。
自分の命を奪おうとしていた獣を庇い立てするように、クーは彼らの動きを制止していたのだから。
- 462 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:56:48 ID:ctbJJWLU0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「クー!?……ど、どうして」
川;゚ -゚)(………)
(#^ω^)「危ない、早くそこを退くおッ!」
怒気を孕んだブーンの言葉は、もっともな事を言っている。
それを自分でも理解しているにも関わらず、がんとして動こうとしない彼女は、ただ視線を下に落とした。
(´・ω・`)「何のつもりなんだ、君は」
ミ#゚叉"彡
極力、背後の獣の動向を伺いながら、それを刺激しない程度に声量を抑えながら、ショボンは言葉を選んだ。
それに返してきたクーの言葉は、やはり彼には理解しかねるものであったが。
川; - )「殺さ……ないで、くれ」
(;^ω^)「―――えっ?」
- 463 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:57:38 ID:ctbJJWLU0
-
消え入りそうなほどか細い声で紡がれた彼女の言葉に、ブーンは面喰らった。
この場にいる、クーを守ろうとしていた全員が、恐らくは同様に。
その瞳を覗き込めば、それがたちの悪い冗談の類でないのが解ってしまう。
爪;'ー`)「ッ!?」
思わず激情に駆られて叫び出しそうになったフォックスだったが、クーの開いた両腕の隙間から伺える眼光。
獣もまた、こちらのおかしな様子に困惑しているようだった。
獰猛の獣に対して、極めて近い距離で背を向けるなど「食べてくれ」と言っているようなものだ。
やがて、一拍の間をおいて、彼女はもう一度口にした。
川;゚ -゚)「頼む―――殺さないでくれ、こいつを」
爪;'ー`)「はん、博愛主義ってか?お咎めなら後で聞くぜ、だから今は大人しく―――」
ミ#゚叉"彡(………)
- 464 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:58:20 ID:ctbJJWLU0
-
痛みにしかめた表情は深く皺が刻まれたままだが、こちらのおかしな様子に警戒心を抱きつつも、
数歩で飛び掛って来られる程に、自分達を隔てるクーとの距離は近い。
命を投げ出そうとしているようにしか思えない彼女の言動と、行動。
それを想像だに出来ずにいたブーン達の表情から振り返ると、クーは獣へ向き直った。
川;゚ -゚)「”ミルナ=バレンシアガ”」
(´・ω・`)「………?」
一瞬、一行は彼女の言葉の意味を考える事を余儀無くされた。
だが、敵対心を剥きだしにする野生を前に大きく隙を見せる事は、命を捨てるようなもの。
焦れたフォックスが怒りを露にするのももっともだ。
爪#'ー`)「なんでもいいが……おしゃべりしてる暇はねぇ、早く!」
それに対しクーの口から飛び出したのは、あまりに意外な言葉。
多くの疑問符が頭の中に並べ立てられ、それを整理して答えを導き出そうとすれども。
川;゚ -゚)「人間なんだ……れっきとした!」
- 465 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 09:59:24 ID:ctbJJWLU0
-
(;^ω^)「おっ?」
”おかしくなってしまったのか”と、ブーンは内心に彼女を案じる。
今や自分達の前にいるのは、鋭利な爪や牙を覗かせては、貪欲な殺意に爛々と瞳の金を輝かす一匹の獣。
おおよそ同じ人間になど見える訳がないにも関わらず、強張った表情の中に浮かぶ泣き出しそうな表情が、
クーの言葉に篭められた真剣さを物語っている。
正確に彼女の言葉の意図を理解できたのは、この場において二人だけだった。
にわかに受け入れがたい現実と言えども、”それ”への知識を頭の片隅に残していた二人だけ。
ξ;゚⊿゚)ξ「え……?」
爪;'ー`)「どこをどう見れば人間に見えんだ……どけよッ!」
ミ#゚叉"彡
フォックスがクーを振り払おうと一歩踏み出すと同時、獣はぴくりと反応する。
今すぐに飛び込んできかねない―――一刻を争う状況下、まごまごしている時間などない。
それでも、クーはその場を離れようとしないのだ。
- 466 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:00:15 ID:ctbJJWLU0
-
(´・ω・`)「待ってくれ」
川;゚ -゚)「………」
無言で背を向ける彼女に、ショボンは率直な疑問を投げかける。
(´・ω・`)「本当、なのかい?」
川; - )「………」
言いかけた言葉を飲み下すようにして、ショボンの問いにクーはゆっくりと頷いた。
丸腰のクーは、すぐにでも目の前の襲い掛かられてもおかしく無い。
(´・ω・`)「―――驚いた」
しかし、何故だかまだ向こうは戸惑いを見せているようであった。
それでも、こうして無用な問答をしている隙を見せては、全員の命に関わるのだ。
二人の仲間たちの様子に、ブーンとフォックスは互いに顔を見合わせて怪訝な表情を浮かべる。
- 467 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:01:05 ID:ctbJJWLU0
-
(;^ω^)「解らないお。何を言っているんだお?」
(´-ω-`)「”ライカンスロープ”」
(;^ω^)「おっ?」
ただの妖獣ならば、この大陸に星の数ほど巣食っている。
けれども、その存在は伝承やおとぎ話の中でしか明かされていない。
人の姿と、狼の姿を同時に併せ持つ存在。
ξ゚⊿゚)ξ「………人狼よ」
かつて、異教が崇める神々の中にもその姿を模した神が居たと伝えられる。
だが今のブーン達の目の前にいるのは、ただ獰猛な妖獣が一匹。
仮に事実だとしても、人の身体に狼頭を持つそれとは、よほどかけ離れた存在だ。
(´・ω・`)「”人狼”は事実、過去にも存在していた」
爪;'ー`)「おい、冗談抜かせ。あいつがどうやったら人型に見えるんだよ」
- 468 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:01:53 ID:ctbJJWLU0
-
川; - )「冗談などでは、ないッ……!」
爪'ー`)「……ッ」
爆発しそうな感情を必死で繋ぎ留めているかのように、クーは喉の奥から擦れた声を漏らした。
あるいはフォックスの言葉どおり、冗談であって欲しいとさえ彼女も思っていた筈だ。
それを物語るかのように言葉を紡いでいく彼女の声は、次第に悲痛に満ちていった。
川; - )「この場所で、彼と話していた。つい、さっきまで」
ミ#゚叉"彡
”この狼は、元は人間だった”
訴えかける真剣なクーの声色からは、それが嘘だなどとは思えない。
しかし、それだけがこうして彼女が立ち塞がる理由ではないであろうと、ブーンはふと直感を得る。
(;^ω^)「……知っている人、なのかお?」
- 469 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:03:12 ID:ctbJJWLU0
-
川; - )
誰かの命に固執するという感情の理由は、きっとただ一つだ。
いつかの、娘の幸せを願うあまりに死神の誘いを拒み続けた老紳士の顔が浮かぶ。
「―――――あぁ」
クーにとって大切な一人なのだと、すぐに解ってしまった。
川; - )「彼は、私を―――」
(;^ω^)「それが……一体、何がどうしてこうなってるお!」
クーがブーン達の方へ振り返ろうとした間際、獣の前足がずり、と一歩踏み出された。
微かな初動が、やがて最悪の事態をもたらしてしまう想像が脳裏を駆け巡る中、ツンが叫ぶ。
ξ;゚⊿゚)ξ「危ない!!」
”どんッ”
- 470 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:04:03 ID:ctbJJWLU0
-
ミ#゚叉"彡「ルオォォォッ!!」
川; - )「!」
ブーンの肩に跳ね除けられたクーの身は、呆気なく一瞬宙へと放り出されると、脇の地面に倒れこむ。
正面を切って突っ込んできた獣の突進の直線状から、少しでも彼女を遠ざけるため。
(#`ω´)「!………くおッ」
目の前が暗くなったのは、獣が後ろ足で立ち上がり、ブーンの前に大きく影を落としていたからだ。
頭上で振り上げられた右の前足が視界の端に入ったのを確認すると、とっさに長剣の柄を巻き取る。
刃を寝かせて幅広の刀身側面を自らの肩に押し当てながら、爪撃を迎え入れる構えを取った。
”ゴスンッ”
(; ω )「――のッ、ぉ」
ミ#゚叉"彡「ゴオアァァァァッ!!」
- 471 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:04:45 ID:ctbJJWLU0
-
とっさの防御によって、首への直撃は辛うじて防いだ。
だが、体内で響いて脳を揺らす極めて重い衝撃は、まともに受けるのは得策でなかったようだ。
獣の雄叫びを耳にしながら、長身を誇るブーンの身体は軽々と後方へと吹き飛ばされていた。
(´・ω・`)「ブーン!」
爪;'ー`)「下がれッ、全員離れるんじゃねぇッ!」
目の前にまで迫られた恐怖に抗いながらも、身体は考えるより早く反撃の刃を放っていた。
危機的状況下にあっても弱点を狙い済ましていたフォックスの判断は間違っていなかったが、
一度”痛みを学習”されたせいで、二度目の目潰しは顔を覆った獣の前足に阻まれる。
ミ#゚叉"彡「――フシィッ」
川; - )「……あ……」
爪;'ー`)(まずい)
- 472 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:05:43 ID:ctbJJWLU0
-
ブーンを吹き飛ばした獣の爪が次の獲物を見失った時、獣の視線は、脇に倒れた一人へと注がれる。
帯刀してさえいれば。あるいは、普段の彼女ならばすぐに動き出していただろう。
だが、この時のクーには力なく短い声を発するだけで精一杯だった。
自分を食おうと牙を剥き出す獣を前にしてさえ。
ξ;゚⊿゚)ξ「逃げて―――クーッ!!」
(#´・ω・`)「【魔力の羊歯よ 絡みつき かの者の動きを封じよ―――縛鎖の法!!】」
だが、フォックスの背後で腕を伸ばしたショボンの魔法が、辛うじて間に合う。
倒れこんでいるままのクーを組み伏せるようにして喰らいつこうとしていた獣の牙は、
ショボンの手から伸びた魔力の蔦によって猿轡をかますようにして動きを阻害した。
ミ#゚叉"彡「グッ、……オォアァァァゥ!」
(#´・ω・`)「もって数十秒だ!離れろ、クー!」
- 473 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:06:56 ID:ctbJJWLU0
-
川;゚ -゚)「ぁ……」
尻餅をついたような状態で身を起こした彼女の前には、ギラつき、飢えた狼の牙。
促すショボンの言葉にも、彼女は蝕まれた理性によってその場を動けずにいた。
恐怖という、単純なその感情だけではないが。
爪;'ー`)「へッ!千載一隅だぜ……いつまで寝てやがるブーン!!」
先のハインリッヒ戦でも見せたショボンの戦闘補助魔法。
ほぼ確実に攻撃をぶち当てられるのならば、ブーンが動ける状況下においてこの上ない。
相手は、首をもげば死んでくれるだけ―――随分と分の良い勝負。
(;^ω^)「いわれなくてもだおぉッ!」
肩口に裂傷を負いながらも、ブーンは剣を手に走り出していた。
一方の獣は魔力の蔦に全身の自由を奪われながら、まだ動く事が出来ずにいる。
- 474 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:07:41 ID:ctbJJWLU0
-
彼女には気の毒な事をする事になるのだと知りつつも、もはや機を逃す訳にもいかない。
後からいくらでもクーから憎まれる覚悟をせざるを得なかった。
―――やがて、ブーンは大上段に構えた剣を、獣の頭上へ。
川 - )「…………なんだ」
( ω )「ッ!!」
それは長剣の刃先を振り下ろそうとした、直前になってだった。
ぼそりと呟いたクーの言葉が瞬時にして強烈に耳へ突き刺さったブーンの動きは、それきり止まる。
聞き直すように首を向けたブーンの瞳には、くしゃくしゃの彼女の表情が映っていた。
川 ; -;)「……育ての、親………なんだ」
(; ω )
ブーンはただ、その場に無言で剣を振り上げたままでいる事しか出来なかった。
- 475 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:08:33 ID:ctbJJWLU0
-
この狼が本当に元・人間だとするのならば、これからブーンが行おうとしているのは、
クーのその感情すらをも、彼女の悲痛な願いすらをも断ち切る事に他ならない。
爪;'ー`)(聞くべき言葉じゃなかったぜ)
人というものは、金や名声などいくらでもかなぐり捨てる事が出来る。
即ち、人との縁―――――自らが大切に思う、誰かを想う感情のためならば
彼ら自身にも決して例外ではない親や仲間との”絆”は、天秤にかけられるものではない。
替えの利くものなどなく、ただ一人の人物を失う事の痛みは、ブーンも良く知っていた。
彼もまた、自らの親を失う痛みを知っているからこそ躊躇ったのだ。
それは決して、今この場では彼女に口にして欲しくはなかった言葉だが。
ξ;゚⊿゚)ξ「………」
- 476 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:09:18 ID:ctbJJWLU0
-
以前に対話したクーの瞳からは、両親を奪った聖ラウンジへの憎悪が伺えた事を、ツンもまだ憶えている。
その彼女から、あまつさえその両親の命を奪った仇敵とも言える自分が、またしても彼女から大事な一人を
奪おうとしていたという事実を認識すると、頭を揺さぶられるような衝撃を感じていた。
人の命を脅かす凶暴な獣を前にして、彼女の願いは一つだけ。
川 ; -;)「――頼む」
なのに、それを叶えてやる事は出来そうにない。
(´-ω-`)「長くは持たない……決断を」
これほどの獣性を、人里の近くに放っておく訳にもいかないのだ。
この場をすぐに退散するにしても、クーがこの状態では逃げ遅れ、追撃を受けるすぐ先の未来も見える。
( ω )(意地が悪いお、ショボン)
- 477 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:10:12 ID:ctbJJWLU0
-
クーはきっとこの事実を、今まで知らなかったのだろう。
それでも、これまで何人の人間を喰らってきたのかという考えは、嫌でも浮かんでしまう。
仮に彼が人で、その人格がどうであろうとも。
近隣の村や旅人に対し、必ずや脅威となるであろうこの狼を放っておく事こそが後顧の憂い。
―――――恐らく、クーもそれは理解しているのだ。
だとするならば、やらなければならない事を解った上で、大事な人との別れを惜しみ彼女は涙しているのか。
(; ω )(ブーンの性格で―――殺せる訳がないお)
爪;'ー`)「ちッ!………わぁッたよ!」
ブーンのその胸中を読んだかのように、頭を掻きながらフォックスが叫んだ。
その手には、変わらずナイフが握り締められ―――未だもがく獣の元へ歩みを進める。
ミ#゚叉"彡「ガァゥ…… ガアァッ!」
爪;'ー`)「おめーらが出来ねぇなら、俺がやるしかねぇ」
- 478 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:11:00 ID:ctbJJWLU0
-
川 ; -;)「……やめ、て」
爪;'ー`)「ッ―――もう一つの、目を潰す!………それか、四肢の一つを不能にする」
ξ;゚⊿゚)ξ「でも、そうしたら」
(´・ω・`)(随分と妥協した”最善”だが―――しかし、彼女にとっては……か)
爪'ー`)「俺達がここで見逃して、明日は俺達の知り合いの誰かが食い殺されるかも知れねぇんだ」
川 ; -;)「……」
爪'ー`)「脅威は削げる、死にはしねぇ。わかってんだろ……あんたも」
言葉を聞き遂げると、ブーンは振り上げていた剣をゆっくりと振り下ろし、再びクーの表情を覗いた。
未だ涙に濡れた頬は変わらずだったが、その表情にはある変化を感じ取っていたようだった。
( ω )「―――――任せたお、フォックス」
- 479 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:12:47 ID:ctbJJWLU0
-
川 ; -;)「頼む……ミルナ――元に」
ミ#゚叉"彡(… … …?)
そこからだ、魔力の蔦に絡みつかれたまま暴れていた獣の動きにも、変化が訪れたのは。
一つだけ残された深い金色の瞳が、じっと彼女の瞳を離さずして捉えていた。
ξ゚⊿゚)ξ(……急に、動きが……?)
( ^ω^)「………!」
まさかクーの想いが伝わったのではと、ブーン達もまた光景に見入った。
にわかには信じがたいが、彼がツンの口にした”人狼”であるのならば、人としての部分も残っているのではと。
ほのかな期待を篭めて、彼女はもう一度その名を口にする。
- 480 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:13:31 ID:ctbJJWLU0
- 川 - )「ミル、ナ………?」
打って変わって突如静けさを取り戻した夜の森。
一同の火照った頬を、一陣の夜風が駆け抜け撫ぜる。
この獣にとって、目の前に涙するクーの表情は、何故か心を揺さぶるものだった。
あるいは残された眼がその輪郭を捉えたのか、感情が呼び覚ましたのか。
しかし、そのいずれでもなかった。
”彼”はまだ―――今この時にあっても戦っていた。
無意識の底に幽閉されているはずの、本来の自分と向き合うために。
ミ#゚叉"彡(… … …)
・
・
・
- 481 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:14:13 ID:ctbJJWLU0
-
『み ル な』
・
・
・
何故だか、その声だけはこれまでで一番はっきりと己の内に響いた気がした。
自分という存在自体が霞のように薄らぎ、意識すらもあるかどうかが不確かな中で。
―――――ソウ、ダ。
- 482 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:14:53 ID:ctbJJWLU0
-
先ほどから、自分に語りかけようとしていた声の主だ。
だが、何かを伝えようとする彼の言葉は、ずっと”奴”によって遮られてしまっていた。
暗闇に包まれた水底の、さらにその奥へと沈んだ自分に語りかける声など、届かないのだ。
そして金色の瞳に狂気の色を入り混じらせた一匹の白狼が、またもどこかの闇からのそりと現れる。
ミ#゚ ゚#彡《ナンダ 貴様ハ》
――――――オマエ ハ。
水面に波紋を形作るかのように、今度はしっかりとその言葉が溶け込んできた。
どれだけ叫ぼうとも、決して這い上がれる事のなかった黒の牢獄の中で、確かに。
ミ#゚ ゚#彡《失セロ 貴様ナドニ用ハナイ》
- 483 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:16:13 ID:ctbJJWLU0
-
――――――ワスレル、ナ。
『……オれは、忘レちゃ、いナい』
声の主の問いかけに、何故だか自然とそう言葉を返していた。
だがきっと声色には、深い諦念が染み込んだものに感じられた事だろう。
そうして、そこへ”奴”の呪詛が割り込む。
ミ#゚ ゚#彡《コレハ 俺ノ身体》
そう、確かにそうだった。
自分がこいつを殺したのだと、また嫌な事を思い起こさせてくれる。
- 484 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:17:09 ID:ctbJJWLU0
-
旅の最中、一匹の狼を葬り去った。
奴の呪いこそが、自分という存在をこの場所に縛り付けている。
いかに強く自我を保とうと試みても、朝になれば人の血肉が歯の裏にへばりついている悪夢こそが現実。
自分が今までに何人を殺し、そして何人を食って来たのかすらも知らない。
呪いによって自ら命を絶てないのなら、せめて食欲を精神力で押さえ付け、ゆるやかに死んでいこうと試みた。
だが、人恋しさからか、ある時山を降りてしまったのがいけなかったのだ。
そこで、あいつに会ってしまったから―――――
『あ……イ………ツ?』
一体誰の事を考えていたのか、自分でも解らなかった。
理性を蝕む獣の性とのせめぎ合いの狭間で、思考は混濁する。
- 485 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:17:55 ID:ctbJJWLU0
-
―――――ワスレルナ、オマエジシンヲ。
その言葉に、ふと。
川 )
鮮烈に誰かの後姿が――哀愁が影を落とす女性の背中が、脳裏を駆け巡った。
そこで自分は、その人物が誰かを知っているはずなのだという事を、思い出す。
ミ#゚ ゚#彡《オ前ハ 俺―――俺ハ オ前》
けれどもこうして”奴”に攻め立てられては、思い出すのすら困難だ。
こうして記憶が少しずつすっぽりと抜け落ちて、いずれ自分は自分で無くなってしまうのだろうか。
- 486 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:19:59 ID:ctbJJWLU0
-
―――――ナラバ キケ。
(元に……ミ … ナ)
そこへあの声が、もう一度聞こえてきた。
水面を揺らす波紋は、自分だけでなく―――――この闇の淵をも確かに揺らす。
ぼんやりと見上げた先、もう一対の金色の双眸がこちらを見下ろしていた。
<゚||゚>
^^
この目には眩しいまでの光が、薄ら見えた。
よくよく目を凝らしてみると、その先にいた”蛇”の姿と共に。
- 487 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:22:18 ID:ctbJJWLU0
-
―――――オモイダセ オマエヲ、カタチヅクッタモノタチヲ。
『俺ハ………』
―――――ワスレル、ナ。
『オ、ぼえ……テいた』
―――――オマエガ、ナニモノデアルノカ。
『コの胸ヲ熱クした あノ日々ヲ』
勝手に呼応する感情、やはり言葉は自然に口を突く。
しかしそれを取り戻す事こそが、自分という一人の人間の願いだったのだ。
あまりに遅くなってしまったが、ようやくそれに気付き始めていた。
- 488 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:23:39 ID:ctbJJWLU0
-
―――――ワタシハ イツデモオマエトトモニアッタ。
ミ#゚ ゚#彡《何者ダ―――――”蛇”》
「俺はお前」だと、これまでそれを語り聞かせるようにしながら、あの夜から
ずっと自分に付き纏い続けてきた”奴”の呪縛が、初めて揺らいだのを感じる。
<゚| |゚>《ウシナッテハ ナラナイ》
金色に輝く体表を持つ、この世のものとは思えない艶やかな光を放ち続ける”黄金の蛇”
”奴”と同じ黄金の眼を持ちながらも、その存在はきっと対極に位置する。
呼び起こそうとしているのだ、”俺”を。
そうだ、そろそろ目を覚まさなければならない。
諦めている場合などではないのだ。
この瞬間を逃してしまえば、きっと俺は一生死んだ獣の亡霊にかしづく奴隷だ。
- 489 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:24:49 ID:ctbJJWLU0
-
『キッかけヲくレタからコソ 俺ハ外の世界ニ目ヲ向けタ』
親に捨てられた粗野な山子でしかなかった俺を見つけ、酔狂な事に人の道を説いた神父が居た。
いつからか彼は姿を現す事は無くなったが、彼がいなければ今の俺はなかった。
『世界ハ広いのダト 感ジさせてくレた』
人付き合いが苦手で、闘争ばかりに明け暮れる俺をまともな人間にしてくれたのは、ミタジマ流だった。
共に汗を流す毎日の中で友と呼べる相手も出来て、俺は次第に広い世界へと目を向けるようになった。
―――――ソシテ、オマエハタイセツナモノトメグリアッタ。
- 490 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:25:44 ID:ctbJJWLU0
-
『…………クー』
そうか、そうだった。
ミ#゚ ゚#彡《邪魔ダ 貴様》
もう、お前の支配に縛られる事もなさそうだ。
( д )
『ソうダ。俺は、ミルナ=バレンシアガ』
ぼんやりとだが、俺の意識に直接語りかけるようにして、”黄金の蛇”は言葉を紡いだ。
- 491 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:27:11 ID:ctbJJWLU0
-
彼は、いつからか俺の内に宿っていたのだ。
肉体と精神の内底で眠っていた事を、これまで知らなかった。
自らのものだけと感じていた力の根源―――やがてそれは、意思を持った存在と化していた。
”ミタジマ流の究極秘伝”
元々の素質に加え、万日の稽古に錬を費やしながら、強く健全たる精神の持ち主にだけ
”その姿”が見える事が万に一つもあるのだと、兄弟子達から聞いた事がある。
”螺旋の力”と呼ばれる、人体に眠る特殊な力。
それを制御する事によって体現し得る孔術を極めた者のみが、極稀に出会える。
自らの精神に宿る、黄金の体表を持つと言われるその”螺旋の蛇”に。
<゚| |゚>《… … …》
―――――ワタシハ イツデモオマエトトモニアル―――――
- 492 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:28:17 ID:ctbJJWLU0
-
その言葉を言い残して、黄金の蛇は微かな光の残滓を俺の前に残しながら、暗闇に溶け込むように消えて行った。
やがて浮遊感を得て、少しずつ闇の淵から引き上げられていくのは自らの意識か。
ふと下を見ると、これまで俺を苦しめてきた”奴”がこちらを見ていた。
ミ#゚ ゚#彡
言いたい事は分かっている、そして、”奴”の言った言葉は間違いではない事も。
いくら抑え付けることは出来ようとも、その憎悪はきっと消える事はない。
だからこそそれへの罰を、甘んじて受け入れる。
( ゚д )『解っている……逃げも隠れもしないさ。俺がお前を殺したんだものな』
せいぜい、共に生きてやるさ。
・
・
・
- 493 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:29:10 ID:ctbJJWLU0
- ・
・
・
(;^ω^)「離れるお、クー!!」
ショボンの放った縛鎖の法の効力は、とうに切れていた。
それにも関わらず、これまでブーン達はクーと獣の動向から目が離せずにいたのは失態だ。
万に一つも奇跡が起こる可能性を信じて、マスターから頼まれた娘の命を危険に曝してしまった。
川;゚ -゚)「あ……ッ」
即座にクーの脇を抱えると、引き摺るようにしながら獣から彼女を引き離した。
何が起こっているのか―――――果たして、考える時間は与えてくれるだろうか。
「………ルルルルルオォアァァァァァァァァァァァッーーー!!!」
- 494 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:29:51 ID:ctbJJWLU0
-
ξ;-⊿-)ξ(なんて吠え声……!)
しばらくクーの瞳を覗き込んでいた獣は、突如月を見上げると狂乱の咆哮を上げた。
腹の底にまで重く響くその声は、人間の戦意を喪失させるに十分な畏怖を振りまく。
山々を木霊し駆け巡るその声は、恐らく遠く離れた旅人の耳にも届いた事だろう。
「ア アァ オ ォ ォ ―――――」
やがて、獣の身に緩やかに起こっていた変化に、フォックスが気付き指を差した。
爪;'ー`)「オイ……あれ、って」
(´・ω・`)「!」
ミ# дメ#彡「ガ……ァアッ……オォォォォォッ!!」
- 495 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:30:50 ID:ctbJJWLU0
-
明らかな変化が、獣の身に起こっていた。
その身を染める白銀の毛並みはそのままに、全身や顔までも、形が変わっていく。
その姿はこれまでの獣というよりは、より人に近しく。
川;゚ -゚)(何なのだ)
人から獣になったのならば、その逆も起こり得るのではないか。
クーは僅かばかりの期待を瞳に篭めながらも、その光景を見送る。
しかし、異変は彼女が願った通りの形になるものではなかった。
「―――――ルオォォォォァァーーーッ!!」
それどころか、妖獣の姿は更なる異形へと変貌を遂げていく。
(; ω )
爪;'ー`)
- 496 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:31:50 ID:ctbJJWLU0
-
びりびりと痛みすら伴うような雄叫びに、自然と一行の肌が粟立つ。
やがて途切れるようにして月に向けられていた咆哮が消えゆくと、
白い息を吐き出しながら肩で息をするようなその獣の姿に、ショボンが思わず口にした。
ミ#゚дメ#彡「…フゥゥ……、…フゥゥ……」
もはや、二本の脚で立っている獣の背格好は、”鬼”と呼ばれるオーガの巨躯にも劣らない。
限りないまでに馬鹿げた筋量の肉体と、全身の多くを覆っている体毛。
そして狼頭に加えて、人に限りなく近い肉体を持っている事以外は。
(;´・ω・`)「ライカン――――スロープ」
(;`ω´)「……狼男なのかお……本物の」
やがて”脅威は増した”のだと確信する。
佇まいからでも解る、低級の妖魔などとは別次元に格が違うのが。
ミ#゚дメ#彡「…………フゥッ…………」
- 497 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:32:45 ID:ctbJJWLU0
-
人体の輪郭を残しながらも、四肢の先端にある手や脚は獣としての武器が変わらず備わっている。
不自然な筋肉量と、打撃程度ではびくともしないであろう、人間の胴ほどもある首周りや胸板の厚み。
どうしてこうも自分達は貧乏くじを引くのかと、内心自らを嘲り笑いたい気分だった。
だが、それを表情に出せるほど気持ちの余裕は持てない。
身にまとう闘気は異質で、人をくびり殺すなど片手で造作もないだろう。
対峙しているだけで静かに命を削られているような感覚は、嵐の予感を感じさせた。
爪;'ー`)「誰か説明できるか、この状況」
(;´・ω・`)「”後でゆっくり”……とだけ」
ミ#゚дメ#彡(… … …)
やがて呼吸を整え終えた”人狼”は、鋭い爪をもつ自らの掌をじっと見つめては、
その場で息を呑んでいたブーン達のほうをゆっくりと見回し始めた。
- 498 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:34:53 ID:ctbJJWLU0
-
ξ;゚⊿゚)ξ
(;^ω^)(守りきれる、かおね)
背には、守らなければならない二人の女性が小さく肩を震わせている。
戦意は元より、武器を持ち合わせていないクーにはこの場を離れてもらうしかない。
先ほどまでならば、十分に勝機を見出せた戦いのはずだった。
それも今となっては、三人の戦力を合わせてどうかという、未知数の賭け。
カード勝負でフォックスに負け越してばかりのブーンだったが、それでも勝たなければならない、命の博打。
「……ル……ナ」
(;^ω^)「ッ……来ちゃだめだお、クー!」
ミ#゚дメ#彡(… … …!)
その名を聞いて、かすかに人狼の瞳孔が開く。
もはや各々が武器を携えて出方を探っているさなかでの人狼の反応は、一行の目にも明らかだった。
- 499 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:35:33 ID:ctbJJWLU0
-
川;゚ -゚)「聞こえて、いる……のか?」
ミ#゚дメ#彡
”ざっ”
(;^ω^)「!」
ブーン隣に並び立った彼女は、さらに一歩を踏み出して”人狼”の前に立つ。
すぐに後ろへどけようとしたブーンだったが、それより早くフォックスの叫びが耳をつんざく。
爪;'ー`)「馬鹿野郎がッ!離れろッ!」
そして、その彼の動きを静止したのはショボンだった。
(´・ω・`)(待て―――――!)
爪;'ー`)「?」
(´・ω・`)(先ほどまでと比べて、明らかに様子がおかしい……)
- 500 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:36:39 ID:ctbJJWLU0
-
丸腰のクーを前にして、一歩片足を後ずさったのは銀狼のほうだった。
食欲ばかりが先行しているように見えたさっきまでにも、こちらを貪欲な眼差しを向けながら
出方をしっかりと伺う程度の知性は持ち合わせていたが、今の人狼の姿からは、まるで――――
川;゚ -゚)「なぁ……”ミルナ”ッ!」
ミ#-дメ#彡「… … …」
彼女の言葉は、彼の耳に届いている。
人の心など入り込む余地のない完全な獣性とは違う、人としての人格を持った者の反応。
ξ;゚⊿゚)ξ「聞こえて―――いるんだわ」
( ^ω^)「!?」
ツンの目からはその人狼の様子が、クーの言葉をはぐらかしたかのように映った。
川;゚ -゚)「応えてくれ、私の質問に」
- 501 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:38:33 ID:ctbJJWLU0
-
更に彼に近づこうとしたクーの歩みを止めたのは、人狼。
威嚇の唸りではない、その大きく裂けた狼頭の口から発されたのだ。
ミ#゚дメ#彡「……”クー”……」
爪'ー`)「……んなッ」
確かに、ミルナと呼ばれた人狼はその名をしっかりと口にしたのだ。
低く不規則に震えるような、人間のものではないような声で、人の言葉を。
皆が表情に一瞬で驚きを浮かべたが、何よりもその言葉に安堵したのは、クーだった。
川 ; -;)「ミル……ナ、なんだな……?」
ミ#-дメ#彡「… … …」
両腕を下したまま、彼女の涙ながらの問い掛けを肯定するかの用に、沈黙を保った。
それはこの状況に対して申し開きを拒むかのような合図に思え、彼の人格が残されている事を確信できた。
どういった経緯でこうなってしまったかは解らないが、聞きたい事は山ほどある。
- 502 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:40:04 ID:ctbJJWLU0
-
(;^ω^)(どうやら……)
ξ;゚ー゚)ξ(……うん)
ツンとブーンは無言で視線を交わすと、互いにゆっくりと頷きあった。
構えていた長剣を下ろしながら、彼女の育ての親の命を奪わずに済みそうだという事に、
少しだけ安堵の表情を浮かべる。
両手で涙を拭うクーは、もう今すぐにでも彼のふさふさの胸へと飛び込んでいきそうな様子だった。
爪#'ー`)「……突っ立ってんじゃねぇ!ボケナスッ!」
(´・ω・`)「下がるんだッ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「―――――えっ」
ミ#゚дメ#彡
”パンッ”
- 503 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:43:12 ID:ctbJJWLU0
-
ショボンに襟首を引き寄せられ、急速に移り変わるツンの視界の端に見えたもの。
それは、駆け寄ろうとしたクーの身体が、肩に受けた衝撃に踏みとどまる事も出来ず、吹き飛ばされていく光景だった。
川; - )「か……ハ、ぁッ!」
( ゚ ω゚ )
人狼がクーに行ったのは、腕を広げるようにして単純に彼女を裏拳で振り払う所作。
たったそれだけの動作で、糸の切れた操り人形のように彼女は宙を舞って、地面へと墜落した。
ミ#゚дメ#彡「… … 邪魔だ」
”キンッ”
その逆の腕では、この中ではいち早く動き出していたフォックスが
喉首を目掛けて既に投擲を終えていたナイフが、容易く弾き落とされる。
爪;'ー`)「んだとぉッ」
- 504 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:44:11 ID:ctbJJWLU0
-
ブーンは自らの認識が甘過ぎた事を、倒れ込んだクーの姿を見る事でようやく痛感した。
たとえ姿形が異形であっても、記憶や人格さえ残されていれば分かち合えるものだと。
常に最前をいく自分こそが、もっと慎重にならねばいけなかったのに。
危うく後悔してしまいそうになった―――――が、今はその暇すら惜しい。
(#゚ ω゚ )「……ツン!」
ξ;゚⊿゚)ξ「うん!」
きっと彼女もまたブーンと同様の心境にあっただろう。
安堵を浮かべたその直後、現実に裏切られる。
そんな光景を目の当たりにしても、すぐにやるべき事を見出せるあたりが、強い女性の証拠だ。
一瞬の忘我の後、”クーを頼む”という彼の意図はすぐにツンへと伝わり、駆け出した。
そして再び柄を硬く握り締めて剣を構えると、眼前の”人狼”を睨めつける。
- 505 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:45:15 ID:ctbJJWLU0
-
ミ#゚дメ#彡「そう……クー、ルクレールだったな」
(#゚ ω゚ )「……お前、やっぱり―――!」
考えていた通りだった。
人狼はしっかりと、自我を保っている。
それにも関わらず、親しい間柄であるはずのクーを目の前で跳ね除けた。
あろう事か、彼女が好意を向けていたのもお構いなしに、それを踏みにじるかのようにだ。
(´・ω・`)「なら、お聞かせ願えるかな?”それ”に至った経緯と―――」
爪;'ー`)「そうさな……”育ての親”とやらのお前さんが、今俺達の前でクーをぶっ飛ばした理由だ」
ミ#゚дメ#彡「……下らんな」
- 506 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:46:41 ID:ctbJJWLU0
-
(#゚ ω゚ )「………!」
こちらが敵愾心を剥き出しにした様子など、全く意に介していないのが見て取れる。
そして狼頭の裂けた口元が、まるで人間のもののように厭らしく歪んだ。
ミ#゚дメ#彡「先の問いの答えを教えてやろう」
(´・ω・`)「………」
”読めない相手”だと、ショボンらは会話を布石として今一度人狼の様子を伺っていた。
素直に質問に答える辺りは向こうの気まぐれなのだろうが、静かに詠唱を済ませながらも、
いつでも最速の魔法を放てるだけの準備はしておいた。
場合によっては戦闘を避ける事も可能なのではないか、という考えを抱きつつも。
ミ#゚дメ#彡「”闘争”こそが、俺を形作る全て」
爪'ー`)「………ほう?」
- 507 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:48:06 ID:ctbJJWLU0
-
ミ#゚дメ#彡「……強くなる事。それだけの為に、俺は全てを捨て去ってきた」
(#`ω´)(………)
きっと似たような考えを抱いている大層なバケモノを、ブーンは知っている。
”名だたる妖魔や強力な力を持つ一種族どもは、野蛮な闘争に明け暮れる事しか考えないのか。”
日がな他者の命を奪う事しか考えないのだとしたら、そいつともいつかきっと決着を付けなければならないが。
静かな闘志を絶やさぬままに、ブーンは敵意を篭めた眼差しだけを鋭く向け続ける。
ミ#-дメ#彡「この肉体を手に入れたのは……予期せぬ事だったが」
(´・ω・`)「個人的には、その原因に非常に興味を惹かれるね」
ミ#゚дメ#彡「フン。単純な事……”呪い”だ」
爪;'ー`)「ったく、流行らねぇな……今日び」
- 508 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:49:30 ID:ctbJJWLU0
-
ミ#゚дメ#彡「―――ある満月の日、俺に殺された一匹の狼が与えたのさ―――この”力”をな」
ミ#゚дメ#彡「現に貴様らの前にいるだろう、人が”人狼”と恐れる……俺という存在が」
(´・ω・`)「それが、望んだ結果だとでも?」
ミ#゚дメ#彡「ハッ―――――”好都合”、だったという事だ。強さを追い求める、俺にしてみればな」
(#`ω´)「………」
ここまで会話を交わして、ブーンはようやく思い当たる。
なぜこの人狼は、戦意をこちらにぶつけてこないのかという事に。
人の意識を持っているとしても、中身はそこいらの獣とは比較にならないだろう。
闘争に血道を上げる口ぶりからいっても、戦闘狂の誰かさんならば剣を向けられて黙ってはいないはずだ。
そんな考えに気を取られている内、正面に立つブーンに対し、人狼は問いを投げかける。
- 509 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:51:19 ID:ctbJJWLU0
-
ミ#゚дメ#彡「―――――俺に、勝てると思うか?」
(#`ω´)「……やってみなけりゃ、解らないおねぇ」
意図を辿るには至らないが、気持ちで負けてはならない。
他愛なく柳のように吹き飛ばされたクーを目で追うしか出来なかった、さっきの失態もある。
こちらを試しているかのようにも思える人狼の言葉を、強く押し返す。
ミ#゚дメ#彡「”ロアリア事変”を知っているか?」
ξ;゚⊿゚)ξ「!?」
その言葉が人狼の口から出た瞬間、混濁した意識のクーに対し”癒身の法”を
試みていたツンの視線が、ばっと彼の方へと向けられた。
川 - )
頭部をしたたかに打ち付けたか、未だ彼女が立ち上がる気配はない。
- 510 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:53:29 ID:ctbJJWLU0
-
爪'ー`)「知らんね。故郷以外に興味がないもんでな」
(´・ω・`)「……10年前の当時、異端弾圧の動きが最も過激だった聖ラウンジの中で起きた事件だ」
ξ;゚⊿゚)ξ(………)
ツンにとっても、そして今彼女の腕の中に横たえられたクーにとっても苦々しい事件。
凄惨な宗教戦争の幕を閉じ、やがて”聖ラウンジ”から”旧ラウンジ聖教”という乖離を生み出す大本となった事件。
(´・ω・`)「襲撃者不明の中、武装した異端審問官ら数十名が倒され、うち数名が後にこの世を去った」
ミ#゚дメ#彡「………たった、一人の仕業だ。歳は20を過ぎたぐらいの”素手”の若造、一人のな」
(;^ω^)(………なるほど)
人狼としての姿を持たずともして、それだけの大立ち回りを出来てしまう化け物の肉体が基盤という事だ。
少なくともその強靭さは人狼と化した彼の身に、福音ばかりをもたらす源となっているであろう。
かつて人の身にありながら――――目の前の男は更なる”超越者”となったのか。
- 511 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:54:45 ID:ctbJJWLU0
-
ξ;-⊿-)ξ「―――クーのご両親は、その場所で行われていた異端審問が元で亡くなったはずよ……」
川 - )
(;^ω^)「!」
なおさら、解らなくなっていく。
この男が何を考えているのか、その言動は力を誇示するためか。
(´・ω・`)「その首謀者が、”ミルナ=バレンシアガ”という男な訳か」
爪;'ー`)「異端審問と言やぁ死ぬまで拷問くらうのがお決まりだ……クーを助けるためか?」
ミ#-дメ#彡「まさかな。気まぐれに、力を試しただけだ」
(;^ω^)「あんたは、何を考えているんだお」
これまで溜め込んできた疑問を、率直に人狼へとぶつける。
それによって、こちらの出方は明確に定まってくるだろう。
やはり戦うしかないのか―――――あるいは。
- 512 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 10:55:44 ID:ctbJJWLU0
-
ミ#゚дメ#彡「言ったはずだ。命のやり取りだけが、俺の全てだとな」
(;^ω^)「………なら」
爪;'ー`)
(´・ω・`)
ξ;゚⊿゚)ξ
川 - )
人語を解し、人としての言葉で話す”人狼”
けれども変わらずその雰囲気は異質―――その耳も、目も、口も。
紡ぎ出してくる声さえもが、人が戦慄するには十二分なほどの”強さ”を示している。
これから導き出されるであろう問いの答えに備え、ブーン達の身体は自然と強張った。
- 513 :名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 10:56:53 ID:GNJmErOI0
- 待ってましたと言おうと思ったら、読みふけってしまった
支援
- 514 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/15(金) 11:24:49 ID:ctbJJWLU0
- 一旦小休止……一部顔文字ミスりまくってる上に、地の文がより下手になってる。
後はこのまま尻すぼみで終わる消化試合なんでもうすぐですわ^^^
- 515 :名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 11:26:08 ID:1MNaLSSMO
- 待ってたぜ やっほーい
- 516 :名も無きAAのようです:2013/02/15(金) 21:07:35 ID:pTVLNpC6O
- おーい、小休止長過ぎるぞ!
- 517 :名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 00:06:31 ID:RSw9AMfwO
- 待ってたぞ
もう忘れちまってるから早速読み直すわ
- 518 :名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 00:39:25 ID:ADknHtJI0
- 支援
- 519 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 00:53:55 ID:koW4D9nI0
- よし、遅くなってすんまへんな。続きは朝方になるかもです・・・
- 520 :名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 01:22:02 ID:/u/0va1.O
- 把握、いつもの早朝投下か
- 521 :名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 03:45:50 ID:GPmVxfBUO
- くそう起きれる気がしない
- 522 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 05:23:05 ID:koW4D9nI0
- エピローグに結構時間かかりそうなので、これは更になだれ込むかも知れない。
アルファさんとかを1話から見直してお待ち下さい……ごゆるりと。
- 523 :名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 13:54:12 ID:s7UIQs4A0
- それは半年はかかる
- 524 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:13:16 ID:koW4D9nI0
- くそー、なんで今回こんな長くなっちまったんだ。
今日中に必ず10話終わらす決意を込めて、キリのいい部分まで投下しますわ。
- 525 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:15:11 ID:koW4D9nI0
-
しかし、人狼の口から返答されたのは意外な言葉。
ミ#゚дメ#彡「だがな―――弱者に興味など、沸かん」
(;^ω^)「……な」
ミ#゚дメ#彡「失せろ。貴様らを殺した所で、何の足しにもならん」
突然に背を向けた人狼の姿に、ブーンは狼狽する。
あくまで戦意を向けようとしない、理性的とも言えるような人外の行動に。
互いにやりあえば、きっとただでは済まない事も分かっている。
それによって、仲間の命を危険にさらしてしまう恐れがある事も。
(´・ω・`)(これは……)
- 526 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:16:04 ID:koW4D9nI0
-
胸を撫で下ろすべき、願ってもない展開だった。
あまりに拍子抜けて、こちらが済ました覚悟もどこへやらという風に。
けれども、それは好都合なのだ。
爪;'ー`)「へッ」
(;`ω´)「………」
戦闘を最低限に済ませられるにこした事はない。押し寄せるのは、やはり安堵。
こんな化け物ばかりを相手にしていては、命など幾つあっても足りはしない。
(´・ω・`)「―――それは、”見逃してもらえる”と受け取っていいのかな?」
ミ#-дメ#彡「どうとでも受け取ればいい」
強張らせていた全身の緊張が、人狼の言葉に少しだけ緩んだ。
それでも警戒心はしっかりと保ちながら距離を伺いながら。
後は、去ろうとする彼の背を見送るだけ―――――だったのに。
- 527 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:17:12 ID:koW4D9nI0
-
(;`ω´)「……待つお」
爪; ー )(馬鹿野郎)
穏便に荒事を回避する器量は、いつ見知らぬ地で死ぬかも知れない冒険者にとって、重要なもの。
それでも、この時のブーンにはそんな事はどうでも良かったのかも知れない。
身に及ぶ火の粉の熱さにすら、気にかけてなどいられぬほどに。
彼の中で引っかかったわだかまりは、まだ消えていなかった。
ミ#-дメ#彡「”失せろ”と言ったはずだ」
( `ω´)「………まだ、もう一つの質問に答えてもらってないお」
- 528 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:18:10 ID:koW4D9nI0
-
背中越しに会話を交わす人狼の表情は伺えない。
先ほどのクーへの行動に対し、まだ遺恨を残していたブーンが人狼を引き止めたのだ。
それをむざむざ許してしまった、自分自身への怒りもあったかも知れない。
(´・ω・`)(ブーンッ)
仲間達のサインにも耳を貸さない彼の心情としては、”納得がいかない”というだけ。
(;`ω´)「なぜ、クーを」
ミ#゚дメ#彡「………」
身体ごと振り向いた人狼の瞳には、静かに黄金の色をたたえていた。
見透かすようなその瞳からは、やはり彼の感情が掴み取ることが出来なかった。
- 529 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:18:52 ID:koW4D9nI0
-
・
・
・
(なんだ、この暖かい光は)
ふうわりと、優しく抱擁を得るかのような安らぎに、クーの中の
途切れ途切れの意識は少しずつ引き寄せ合って、やがて薄っすらとその瞼が開いた。
少しずつ取り戻していく視界には、まず彼女の表情が飛び込んでくる。
ξ;゚ー゚)ξ「………良かった」
川 ゚ -゚)「ツ――ン」
- 530 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:20:10 ID:koW4D9nI0
-
彼女にこうして介抱されるのは、自分にとって2度目であろうか。
自然に到来したそんな考えを抱く内に、自分はどうしてこうなったのかをすぐに思い出す。
狼変化したミルナがついには獣人と化し―――――そして、自分を。
川;゚ -゚)「そうだ……ミル、ナは……」
ξ;゚ー゚)ξ「どうやら、戦わずに済みそうよ」
そういって視線を向けた先で、ブーンらとミルナが会話を交わしている光景が映った。
ミ#゚дメ#彡
( `ω´)
川;゚ -゚)(………)
そこにあるのは、決して夢幻などではない。
ただ、もはや人ではない彼の姿があるだけ。
- 531 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:24:55 ID:koW4D9nI0
-
だが、クーの身にはそんなものより驚くべき事が起きたのだ。
目視が困難なほどの力と速さで、彼女自身を拒むかのように弾き飛ばした。
―――他でもない、あのミルナがだ。
川; - )「……うッ……」
この左肩の痛みが、その事実を大げさに騒ぎ立てる。
ツンの聖術のおかげもあって意識を取り戻したクーだったが、内心は穏やかでない。
聖術をもってしても癒えず残る鈍痛は、まるで彼女の心に直接浸透するようだった。
ξ;゚⊿゚)ξ「無理しちゃ駄目よ……もうすぐ」
川; - )「……もうすぐ何だというんだ」
ξ;゚⊿゚)ξ「………それは」
”終わるから”といった意味合いの言葉を、続けようとしたのだろうか。
クーはその彼女の言葉を、真っ直ぐに受け取る事が出来ない自分自身に、やはり嫌悪感を抱いていた。
- 532 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:25:43 ID:koW4D9nI0
-
自らを助けに来てくれた人間を冷たく突き放すような、精神的な余裕の無さ。
かっとなってしまえば、心にもないはずのそんな言葉しか、口に出来ない自分が。
今という時間が過ぎ去り、ブーン達とミルナとの会話が終われば、どうなるのか。
再び彼は自分の前から姿を消し、目指していたはずの安寧の時は―――もはや二度と返らないのか。
川 - )「冗談じゃ……ない」
―――――全てを話してくれても良いはずの間柄だ、逃がしはしない。
このブーン達の力を借り受けてでも、また行方を眩ます事など、許さない。
執念にも似た感情が、今という不条理の前に、自分でも整理が付かない津波となって押し寄せる。
ξ゚⊿゚)ξ「――――クー……」
川;゚ -゚)「ミルナッ」
- 533 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:26:55 ID:koW4D9nI0
-
憐憫の眼差し向けるツンは、心の底から同情してくれているのだとはクーにも解る。
しかし彼女の手の温もりを振り払うと、幾分か肩の痛みに顔をしかめながらも、立ち上がった。
やがて、少し離れたこの場所にもはっきりと伝わる声量で、ブーンが感情も露にミルナへ怒声を浴びせていた。
(#゚ ω゚ )「今―――クーの事をなんて言いやがったおッ!?」
川;゚ -゚)「!?」
会話の内容は掴めないが、次のミルナの言葉を待って、耳を欹てる。
だが、それは彼女にとっては決して耳に入れたくはなかった言葉だろう。
そしてその一言が、この後の彼女の生き方をも変えてしまう程の、大きな意味をもたらす事になるのだ。
ミ#゚дメ#彡「”邪魔”だったのさ……それが、どうした」
川 ゚ -゚)
- 534 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:28:36 ID:koW4D9nI0
-
・
・
・
(;゚ ω゚ )「どうして、クーを……あんたは、親のような存在なんじゃないのかおッ!?」
感情を露に食って掛かるブーンには、やはりそれは納得のいく答えではなかった。
彼女は自分が殺意を向けられたにも関わらず、ブーン達から彼を守ろうとした。
身を挺してでも命を救いたいと行動させた、大事な人物。
だからこそ姿形こそ異形であれとも、一人の女性にそこまでを思わせるミルナという人狼が、
人としての感情すらも失った”ただの怪物”だとは思えなかった。
ミ#゚дメ#彡「”情”というものだ。時に都合良く履き替えられる、そんな感情は俺にもあった」
しかし、声を荒げるブーンとは対照的に、ミルナの言葉は冷水のように浴びせかかる。
(´・ω・`)(よせ、と言いたい所だが……)
川; - )
いつの間にかその場に立ち尽くし、呆然としたクーの様子に気付いたショボンだった。
- 535 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:29:55 ID:koW4D9nI0
-
彼女自身の耳に入れるのは憚られる辛辣な言葉の数々に、その心中は察しかねるが、
無用に人狼の激情を煽るようなブーンの様子も、そして、それをたしなめようとする
彼ら自身の内心も、決して穏やかなものではなかった。
(;^ω^)「あんたは、クーと長く一緒に居たんじゃないのかお!それがなんで、あんな―――」
ミ#゚дメ#彡「”罪悪感”」
川 - )「………!」
ミ#゚дメ#彡「そうした感情が、重くなったんだろう。俺は、その”重荷”を手放したに過ぎん」
全ては、一方的な感情だったのか。
大切に紡いだとばかり思っていた、彼女にとっての想い出たち。
空っぽの心の中で拠り所を支えていたはずの細い糸が、ぷつりと途切れる音が―――
クーの耳には確かに聞こえてしまった。
- 536 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:31:00 ID:koW4D9nI0
-
嘘であって欲しいと願う彼女の表情に気付いたミルナは、せせら笑うように彼女に一瞥をくれる。
川 ; -;)(…………)
ミ#゚дメ#彡「……軽くなったさ。随分とな―――お喋りは終わりだ」
(#^ω^)「くッ…の、言わせておけばッ!」
ξ;-⊿-)ξ「駄目!ブーン……!」
思わず詰め寄ろうとしたブーンだったが、とっさのツンの言葉に反応し、脚を止める。
仲間達の表情からだけでなく、今一度しっかりとミルナの顔を見据えては、改めて気付いた。
獰猛な獣性を持ち合わせながらも、戦いというものに揺るがぬ自信を保った”闘士”としての佇まい。
- 537 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:33:35 ID:koW4D9nI0
-
ミ#゚дメ#彡「ならば―――どうする」
それから放たれるのは、純然たる闘気の奔流―――ある種、穏やかさすら感じ取る事の出来る
黄金の瞳が、場数の違いや力の大小などといった些末なものでなく、単純に物語っていた。
”力の差は、歴然としている”のだと。
(#^ω^)「………ッ」
剣の柄を握った手に震えがきたのを、思わず目で確認する。
飲み込んだ生唾は、喉元に引っかかって周囲に音を漏らしてしまいそうだった。
爪;'ー`)「ツンの―――言うとおりだ」
睨みあったまま動けずにいたブーンとミルナの間を、一陣の夜風と共にフォックスの言葉が抜ける。
争いを止めるように叫んだツンの言葉からも、”得策ではない”とブーンも解っているはずだ。
それでも、このまま彼を行かせたくはなかった。
- 538 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:34:38 ID:koW4D9nI0
-
川 ; -;)
月明かりに照らされた彼女の頬を伝う、消え入りそうな一筋の雫が瞳に映ってしまったから。
ミ#-дメ#彡「力の差にも気付けぬ雑魚か……」
(#^ω^)「だから! ……そいつは、どうかわからないお」
(#´・ω・`)「ブーンッ!」
(#^ω^)「―――手出しはしないでくれおッ!!」
二人を隔てる空気が、瞬時にしてむせ返るほどの威圧感に包まれていく。
剣をミルナの前にかざすブーンの反対の腕は、割って入ろうとしたショボン達を制止するように広げられる。
そこからは”来るな”と言わんばかりの、彼の強い意思が感じ取れた。
- 539 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:36:08 ID:koW4D9nI0
-
(#^ω^)「……これでも、ブーンは200年以上も生きてる吸血鬼を倒した事があるお……」
ミ#゚дメ#彡「死ぬぞ」
「この期に及んで」と、”両者とも”が内心に苦笑を浮かべていた。
ブーンは自らでも、これが冒険者としては失格な行いと理解している。
拾えるはずの命を、あえて火中へと投げ入れるだけの行動をとっているのだから。
しかし、たとえどうあっても譲れない時もある。
自由の風に吹かれて生きる気ままな冒険者家業の自分には、大層な志などない。
ただ―――――今という時は、身勝手な自己満足に過ぎないのだ。
(;`ω´)「―――――”試したい”んだお……あんたを」
- 540 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:37:04 ID:koW4D9nI0
-
ミ#゚дメ#彡「何のつもりか知らんが、”5人の命”と……引き換えにか?」
(;`ω´)「!? やるのは、このブーンたった一人だお」
川 ; -;)(もう……聞きたくない)
向けていたはずの信頼が、培ってきたはずの絆が、彼の口が開くたびにぽろぽろと抜け落ちてしまう。
崩れ去る心の堰堤から溢れ出した悲しみは止まる事なく、感情の残骸となって儚く消えていく。
ξ;-⊿-)ξ
その場に膝を着いて泣き崩れるクーの傍らで、彼女の横顔を覗き込むツンは、すっと息を吸い込む。
意を決したかのようにその顔を上げると、やはりいつもの毅然とした表情の彼女がそこにあった。
「――――いいわッ!!」
( `ω´)「ッ!?」
- 541 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:39:10 ID:koW4D9nI0
-
ミ#゚дメ#彡(… … …)
ξ;゚ー゚)ξ「や、やってやりなさいよッ、ブーン!」
川 - )「………」
クーの肩を抱くツンの顔は強張り、かたかたと震えているようでもあった。
されども力強い瞳の光は変わらず、眼差しはミルナと対峙するブーンへと向けられていた。
ショボンとフォックスからすれば、あまりに理解から外れた彼女の言動。
それでも気丈に振舞うようなツンの瞳に、ブーンはその決心を後押しされる思いだった。
ミルナという”人間”が何を考えているのか、それを知るために、より危険な賭けに臨む事を。
(;`ω´)「どうやら―――お許しが、出たお」
ミ#゚дメ#彡「………一つ。宣言しておこう」
- 542 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:40:16 ID:koW4D9nI0
-
しばし沈黙を保ったミルナが、そう言ってブーンの前に一歩踏み出した。
その口が告げるのは、やはりクーの心を折る容赦のない言葉。
ミ#゚дメ#彡「”お前が死んだら、残った全員を殺す”」
川; - )
爪;'ー`)「………」
(;´-ω-`)「ブーン」
もはや、一触即発。
最後に引き下がる事を願って名を呼んだショボンの言葉にも、
やはりブーンが素直に聞き入れてくれるような様子はなかった。
(;^ω^)「……案ずるなお、ショボン」
(;´・ω・`)「?」
(;^ω^)「なんでか分からないけど……これは勘だけど、お」
- 543 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:41:15 ID:koW4D9nI0
-
ミ#゚дメ#彡「―――来い」
先端に鋭く光る爪を持った、三本の太い指がブーンへと向けられていた。
もはや後戻りなどできるはずも無い、互いが戦闘態勢に入ってしまっている。
それでもブーンは、微かな笑みを一度だけショボンに向けて言った。
(;`ω´)「……そうはッ、ならない気がするんだおぉッ!!」
同時に、懐へ飛び込みつつ腰を入れて放たれたブーンの打ち込みが、開戦の狼煙だった。
”ざうッ”
加減をして力量を試せるような相手ではない事は解っているからこそ、遠慮なしの一刀でいく。
ゴブリン風情ならば一撃で切り伏せてしまうブーンの、紛うことなき全力。
それによってミルナも知った事だろう、彼が中途半端な覚悟で突っかかってきたのではないと。
- 544 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:42:46 ID:koW4D9nI0
-
一見すれば、当たり所などいくらでもありそうに伺える巨躯。
しかしてその身のこなしは、それから想像もつかない程に迅速だった。
夜目に慣れていなければ、彼の動きはその場に残影すら見せたかも知れない。
ミ#゚дメ#彡「………」
(#`ω´)「……ッふ、ぅッ!」
打ち込みを掻い潜りながら、ミルナが剣を振り切ったブーンの背へと回り込む。
ぞくり、と首筋を伝わる悪寒によってそれを察知したブーンは、構えなおすのを諦める。
強引に振り切った剣の勢いのままに踵を軸として、背後へと迫ったミルナに向け、独楽のように薙ぎ振るった。
”ぶんッ”
- 545 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:43:45 ID:koW4D9nI0
-
( ゚ ω゚ )「―――ッ!?」
一瞬の忘我、視線と共にあった長剣の刃先に見えた景色が、そうさせたのだ。
柄を握り締める手へと伝わる感触は、流されるままの勢いに逆らうのがやっとだった。
ブーンの背を取っていたはずのミルナの姿が、見当たらない。
夜風に溶け込んだその姿を瞳で追おうとしたが、その声に動きが止まる。
「―――視えたか?」
(;`ω´)「な……ッ」
獣の息遣いが、頭のすぐ後ろで聞こえた。
潜り込まれて背後を狙われたブーンの咄嗟の切り返しは、誤った判断ではなかった筈だ。
ミ#゚дメ#彡
しかし今、戦慄を禁じえない―――”なぜまた背後にいるのか”と。
- 546 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:45:19 ID:koW4D9nI0
-
その感触には、鳥肌さえ立つほどの思いだった。
背中合わせになるようにして、ブーンの背にはミルナが密着している。
(#`ω´)「――お、ぉッ」
”前方へと倒れこむようにしながら、後ろ手に大振りをかます”
そう考えてすぐに動き出そうとしたブーンの耳へ、嘲笑うかのように明瞭な声が響いた。
ミ#゚дメ#彡「遅い」
”ド ン ッ”
(;゚ ω゚ )「―――かッ……はッ――!」
その一瞬、意識とは裏腹に呼吸が止まる。
予測もしていなかった衝撃に、体中の細胞がその活動を止めたのだ。
ブーンを中心とした足元周辺の地盤が突然沈下し、それは円環を形作った。
舞い上げられた土や石は、まるで緩やかに浮き上がるかのように彼の目の前で舞い上がる。
やがて視界は、突然に切り替わるかのように速力を得て、景色が流れた。
- 547 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:46:28 ID:koW4D9nI0
- ・
・
・
”―――バキャンッ”
(……ブーン……ッ!)
仲間の呼び声が、どこか遠く聞こえた気がした。
再び意識を取り戻す事が出来たのは、何かへとぶち当たる自分の身体が発した音だったか。
一度白むように途切れてから、次には暗転していた景色。
瞼が、思うように開いてはくれなかった。
- 548 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:47:50 ID:koW4D9nI0
-
「――――何秒だ?」
自分は一体、何秒の間の意識を失っていたのか。あるいは、何分もか。
そんな疑問が、ようやく活動を始めた体内の血流たちと共に、ブーンの脳内へと巡り始めた。
思い切り大気を取り入れるが、どれかの体内器官は意思に反して、それをうまく吐き出してくれない。
(; ω )「…ひゅッ……ゴホッ」
何をされたのかもわからぬまま、剣を手にする為の指や脚の無事を、握っては確かめる。
ミ#゚дメ#彡
遠く間合いの開いた視線の先には、未だミルナの姿があった。
意識だけがまだまどろむような夢うつつの世界にいるようだったが、
すぐに全身を覆った骨にまで染み入る激痛が、それを引き締めてくれた。
- 549 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:49:14 ID:koW4D9nI0
-
(;`ω´)「が、はっ………」
どうにか数秒の間だけ、意識を失う程度で済んだようだった。
自分の身体が爆発してしまったかのような感覚があった、それだけをブーンは覚えている。
次の瞬間には、肩や背中を密着させただけの体勢から、
まるで大砲の弾丸になったかのように吹き飛ばされ、意識が飛んだ。
細い木々の一つをへし折りながら、それでもなお止まらなかった彼の勢いは、
どうやら今、彼の背にある、より太い樹木がせき止めてくれたようだった。
ミ#゚дメ#彡「児戯、だな」
(;`ω´)「ふぅ、ぅ……ッ」
ミルナが口にしている”種の違い”としての彼我差は、彼ら二人の間に圧倒的に高くそびえる。
容易く放たれたような最初のたった一撃で、もはや足腰はふらついてしまっている。
それでもまだ戦いを捨てていない剣士としての瞳を、人狼の眼光だけが静かに捉えていた。
- 550 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:50:18 ID:koW4D9nI0
-
ミ#゚дメ#彡「どうした、俺を”試す”んじゃなかったのか?」
(;`ω´)「そいつは、まだ……これから、だお」
ミ#゚дメ#彡「……フハッ」
”ダンッ”
挑発的とも言えるブーンの言葉の後、土煙を巻き上げながらミルナの姿が消えた。
(;`ω´)「……!?」
咄嗟に身構えては、視界から消えたミルナの姿を目で追いかけたブーンだったが、
頭上を照らしていた月から降り注ぐ光が閉ざされた事から、すぐにそちらへ目をやる。
ミ#゚дメ#彡「―――シャアァッ!」
考えられない距離を、たった一度の踏み込みによって跳躍していた。
月に被るほどの体躯がブーンの頭の上に影を形作ると、指先に光る爪が妖しく光を放つ。
- 551 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:52:23 ID:koW4D9nI0
-
(;`ω´)「だ、おぉッ!」
”ズジャッ”
横へ転がり込んで逃れようと試みるも、上手く脚が働いてくれず、どうにか
脇の茂みへと倒れこむような形で、飛び込みざまのその一撃から逃れた。
すぐに立ち上がり剣を構えようとするも、すでにその額には、冷たく嫌な感触があてがわれていた。
ミ#゚дメ#彡「勝てるはずなどない」
(;゚ ω゚ )「〜〜ッ?!」
指差す鋭利な爪の先端が、つぷ、と僅かにブーンの額の肉を抉っては食い込んだ。
しかしその裂傷が広がるのも構わず、ブーンはその場に腰を落とすと、身体を軸とした。
”少しでも間合いを突き放す、横斬りを見舞う”
だが、ブーンがそれを行動に移すよりも早く、またしても先手は打たれた。
- 552 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:55:09 ID:koW4D9nI0
-
”ズドォッ”
(; ω )「……ぐぉ、ごッぼハァッ!」
「腹に破城槌を打ち込まれたのか」
そう錯覚するほどの衝撃に一瞬で胃液が逆流しては、それらをぶちまけながら、
ブーンの身体はさらに後方へと吹き飛ばされていった。
打撃を受ける度に、まるで風に吹かれる柳のようにブーンの身体は容易く浮き上げられる。
意識を刈り取られて完全に気を失ってしまえば、そのまま殺されるかも知れない。
「これでは、とても戦いとは呼べんな」
(; ω )(…こい、つは……や、べぇお…)
- 553 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:56:25 ID:koW4D9nI0
-
すぐ近くでミルナの声が聞こえる、あと数秒でまた攻撃が来るのだ。
血の入り混じった唾を吐き捨てながら立ち上がると、既に意識は朦朧としている。
たった2度の攻撃をその身に受けただけで、心を折られかけてしまっていた。
それでも、まだブーンはこの戦いを続けて、見極めなければならなかったのだ。
この”ミルナ=バレンシアガ”という男の、人としての心の在り処を。
(; ω )(だ…け……ど―――)
・
・
・
- 554 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:57:16 ID:koW4D9nI0
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーンッ!?」
川 - )(………何の為に)
抜け殻のように脱力してしまったクーの虚ろな瞳は、始まった二人の戦いを映していた。
けれども今の彼女にとって、それに意味がある事だなどとは思えなかった。
仮に人の姿のミルナであっても、そこらの武芸者は束になっても敵わない。
まして強さを目指す果てに怪物と化したそのミルナに、彼らとて勝てるはずも無いだろう。
あるいは自分のために戦ってくれているのだろうかと、ぽつり苦笑を漏らす。
川 - )「……捨てられた私なんか、放っておけばいい」
子供の頃に抱いた幻想など、きっと二度と求めるべきではなかったのだと、想いは口を突いた。
- 555 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 14:58:23 ID:koW4D9nI0
-
気まぐれから彼女を助けたミルナが幼い自分の面倒を見てくれたのは、きっと自分の両親を
生かす事の出来なかった罪悪感から―――――そして、それがずっと彼の重荷となっていたのだと。
彼が時折、どこか苦々しい表情を抱いていた事は、現に子供の頃に幾度もあったと思い返す。
それで、クーの前から彼がこれまで姿を消していた理由にも説明は付いてしまうではないか。
川 ゚ -゚)「……不吉で、忌み嫌われた子供だったんだな。私は……」
ξ゚⊿゚)ξ「……どうして、そう思う?」
川 - )「聞くまでもない、さっきの彼の言葉だ」
”邪魔だった”
寄せていた信頼は無残にも砕け散り、
絆とは、幼い思い出に装飾されながら、既に壊れてしまっていたものだったのだ。
- 556 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 15:01:09 ID:koW4D9nI0
-
その言葉を聞いてしまっては、長い間をほとんど自分の力だけで生きてきたミルナの境遇を知る彼女には、
少なくとも自分が彼にとっての邪魔な手荷物でしかなかったのだと、自嘲めいた考えしか浮かばなかった。
肉体の鍛錬ばかりに多くの時間を費やしては、時に危険から庇い立ててくれた。
そんなミルナの姿を見つめていた憧憬は、まだクーの中で鮮やかに残っているのに。
ξ゚⊿゚)ξ「きっと、それは違うわ」
川 - )「………」
”慰めはよしてくれ”と、口にしようと躊躇った。
冒険者を続けていた理由の全てが、再びミルナに出会う為だった。
失意の底で偶然に辿りついた場所で見つけた灯火、しかしそれも幻想に過ぎなかった。
彼のたった一言によって、自分のこれまでは否定されたのだ。
全てが終わってしまったのだと、もう十分だと、それすら口にするのも億劫な程に気力は奪われた。
- 557 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 15:02:02 ID:koW4D9nI0
-
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンも、私と同じことを思ったから……ああしてるんだと思う」
川 - )「………?」
ξ-⊿-)ξ「なんだかね―――」
(――――ブーンッ!?)
ツンが言いかけた言葉は、名を叫んだ仲間達の声によってそこで途切れる。
ξ゚⊿゚)ξ「ッ!」
川; - )「あ……」
見れば、蹴り転がされたブーンが吐瀉物を吐き出しながら、地面にのたうっていた。
すぐに立ち上がろうとするも、既に彼のダメージは脚にまで来ているのだ。
- 558 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 15:03:48 ID:koW4D9nI0
-
川;゚ -゚)「もういい……早く、あいつを助けてやれ……!」
このままでは、本当に目の前でブーン達が殺されてしまうと危惧した。
もはやミルナはクーが知っていた頃の彼ではないが、今ならまだ、聞き入れてくれるかも知れない。
ξ;゚⊿゚)ξ「………うん」
何か言葉を言い含んだような眼差しで暫しクーの瞳を見つめた後、
立ち上がったツンは彼女を残し、小走りでブーンの元へ駆け寄って行った。
”5人全員を殺す”と言い放ったミルナの言葉が頭の中に残っていたが、
クーが知っているはずの彼ならば、彼女のような女性に危害など与えないはずだ。
そうあって欲しいと、願うばかり。
- 559 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 15:04:59 ID:koW4D9nI0
-
ξ;゚⊿゚)ξ
川; - )(未練、か)
ツンの背中を見送りながら、まだ”何か”に期待してしまっている自分の胸をさすった。
自分を探しにはるばる旅してきたブーン達こそを助けるべきだというのに、
理解を超えた出来事の数々にぐちゃぐちゃの頭では、感情の整理がつかない。
自らの立ち位置はどうあるべきなのか――――迫られている選択を、無意識に避けていた。
彼らが希望を運んできてくれるのではないかと、甘い可能性に賭けていたのだ。
・
・
・
- 560 :名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 16:08:44 ID:IGD./tfEO
- 支援
- 561 :名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 23:02:07 ID:6Q.mK21A0
- きてたー!
- 562 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/16(土) 23:05:20 ID:koW4D9nI0
- なお間に合わん模様
- 563 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 01:11:13 ID:9eg9LIS60
- 支援
- 564 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 02:13:28 ID:RSWs2xW2O
- 投下があるだけで嬉しい
ゆったりとしてくれ
- 565 :以下sage信仰でお送りします:2013/02/17(日) 08:14:24 ID:nnJYhgB.0
- 超絶スランプで泣き言書きそうになりましたが、ようやくノッてきました。
逃亡したつもりでお待ち下さい。読んでくれてる方々、すいません。
- 566 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 22:54:14 ID:ivmUUtZMO
- 待ってます
- 567 :名も無きAAのようです:2013/02/17(日) 23:16:50 ID:6QBVU4GsO
- 逃亡はゆるさない
('A`)のやつも続き待ってるから
- 568 :名も無きAAのようです:2013/02/18(月) 01:16:52 ID:W5RelXwgO
- ω・)久しぶりに好きな作品が読めてとても嬉しい。
- 569 :名も無きAAのようです:2013/02/19(火) 03:28:57 ID:5SDvGvmIO
- (#^ω^)まとめ読んで面白かったから、本スレ来て見れば逃亡など許されることじゃないおね
- 570 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:02:31 ID:MFi8FkIY0
-
一度は立ち上がったはずだった。
だが、今度は膝が言う事を聞かなくなり始めた。
「遊ばれているのではないか」と思える程、力の差は明白。
強力無比な打撃が、次第に意思とは無関係に身体の自由を奪っていく。
(; ω )「……ごッふ、ブハァ! ハァッ…」
ミ#゚дメ#彡「立てなければ、死ぬだけだ」
「お前だけでなく、な」と続けた人狼の口角は、よりいかめしく釣り上がる。
ちら、と彼が微かに横顔を向けた先には、ブーンの元へ駆け出してきているツンの姿が映った。
もはや目の前に立っていたミルナのその声に奮い立たされると、
ブーンは必死で己の剣を地面に突き立てて、それを支えに立ち上がる。
―――――けれども、まだ”見極められた”訳ではないのだ。
- 571 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:03:11 ID:MFi8FkIY0
-
(;`ω´)「あ……アンタは――――ッ!」
ブーンが感情のままに叫びを上げようとした時だった。
ミルナの瞳は何かを捉えると、その方向へ腕を凪ぐようにして振るった。
ミ#゚дメ#彡「……!」
”パシンッ”
遅れて響く、甲高い金属音。
地面へ転がったのは、一振りのナイフだった。
ミ#゚дメ#彡「……お前達の順番は、後にするつもりだったがな」
爪'ー`)「へへ。そいつが、そうも行かなくてね」
(;`ω´)「フォックス……!手を出すなって……」
- 572 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:03:53 ID:MFi8FkIY0
-
爪'ー`)「うるせぇ。お仲間が殺されるのをビビッて見てるだけなんざ、まっぴらよ」
ナイフ片手に軽口を叩くフォックスは、片目を閉じてブーンに目配せを送る。
それにブーンが思ったのは、「彼も自分の狙いに気付いたのではないか」という事だった。
ミ#゚дメ#彡「ハッ。最初から3対1でも構わなかったがな―――」
(;`ω´)(… … …)
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!動かないで!」
クーの傍から離れて駆けつけたツンの肩を借り受けて、ブーンは身を預ける。
片腕で彼女は”癒身の法”を施し始めた。
そこでどうやらミルナの注意は、フォックスへと向いたようだった。
ミ#゚дメ#彡「お前の武器は、その子供騙しのおもちゃか?」
- 573 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:04:33 ID:MFi8FkIY0
-
爪;'ー`)「へッ、生憎と……”あんたら”向けな武器がなくてねぇッ!!」
大きな右腕の振りから、勢いをつけて投げつけたナイフがかっ飛ぶ。
半狼に残された野生の勘か、視界外からの攻撃にも反応してくるのは読めていた。
ならば今一度、意識外からの影を縫う一撃ならば――――
”カッ コンッ”
時間差を置いて、乾いた軽い音が二度ほど響く。
ミ#゚дメ#彡「やはり、おもちゃだな」
爪;'ー`)(……効くワケねぇかッ)
一度はミルナの瞳の一つを奪った”影縫い”も払い落とされた。
人狼となった今のミルナの身体能力は、先ほどまでの比ではない。
- 574 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:05:39 ID:MFi8FkIY0
-
飛翔物への反応速度やそれを認識する動体視力も驚異的だが、
更には片腕を緩やかに動かしただけの動作で、それぞれのナイフを払い落としてのける芸当。
無駄な動きによる隙は微塵も見せない。
そしてこの理性的な獣の恐ろしさは、獰猛な野生の皮を被った、冷徹さにあるのだと知る。
ミ#゚дメ#彡「なら、近づいたら何が飛び出す?」
”ドンッ”
地面を蹴り付けると、ミルナは風と同化したかのようにフォックスへ向けて疾駆する。
ブーンとのやり取りでも目の当たりにしたが、実際に迫って来られるのとでは、その脅威も桁違い。
爪;'ー`)(……クッソ速ぇッ!)
- 575 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:06:25 ID:MFi8FkIY0
-
ブーン程の頑強さを持たない彼にとっては、ミルナの生み出す破壊力によって
一撃で戦闘不能になる事もあり得る。それでも、この場所を動く訳には行かないのだ。
しかしその狙いを読み取ったか、フォックスの目論見には少し足りぬ位置で、ミルナは脚を止めた。
”ざっ”
ミ#゚дメ#彡「……囮、か」
爪;'ー`)「ちっ―――ショボンッ」
(´・ω・`)(さすがに、気付かれるか)
筋書きとしては、ミルナの注意を引いたフォックスがその場に留まり、
少し離れた側面からショボンによる”主砲”を撃ち当てるというものだった。
- 576 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:07:05 ID:MFi8FkIY0
-
それも、事前に察知されてしまえばいくらでも反応のしようはある。
もはや再び距離を保ち、ブーンの回復を待ちながら必死で防戦に身を削るしかない。
しかし高等魔法の使い手を前にして、ミルナは余裕ともとれる言葉を口にした。
ミ#゚дメ#彡「魔術師。乗ってやる――――撃ってみろ」
(´・ω・`)「………是非、お言葉に甘えるとしよう」
受けて立つ、とでも言うかのように手招きするミルナ。
既に炎熱を帯びた自らの掌同様に、ショボンの瞳にもその一瞬炎が揺らいだ。
そして発現した炎弾が、彼の手元で一層火力を強めた。
(#´・ω・`)「悪いが、さっきの契約は不履行だッ―――【炎の玉】ッ!」
- 577 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:07:47 ID:MFi8FkIY0
-
尾を引く火の粉が夜空を染め上げて、緩やかな曲線を描く炎弾がミルナの元へ飛び込んでいった。
いかに強力な妖魔であっても不死の怪物でもない限り、直撃すれば身に及ぶダメージは並大抵では済まない。
だがそれを避けようともしないミルナの様子に、ショボンは「侮ったか?」という考えを浮かべる。
しかし、そうではなかった。
眼前に迫る火球を見据えながら、ミルナは直前になって構えを取る。
それはショボンの目からは、まるで”武術”の型を取るかのように見えた。
ミ#゚дメ#彡「―――――”緑 閃”」
やがて月を射抜くかのように高々と振りかざされたその掌に、変化が訪れる。
人狼の掌は薄っすらと緑色の光を纏って、ぼんやりとした輝きを放っていたのだ。
- 578 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:08:42 ID:MFi8FkIY0
-
その尾を引き連れながら、そのまま一直線に斬り込むようにして振り下ろされる。
それは、炎の玉が今まさにミルナへ直撃するという寸前での――――出来事だった。
(;´・ω・`)「……なんだとッ!?」
ミ#゚дメ#彡「”刀 撃”―――――ッ」
”ぴっ”
緑光を帯びた腕から繰り出された手刀は、只ならぬ熱量を秘めた魔力の炎弾を、真正面から断ち割っていく。
同じ性質のもの、魔法でなければ相殺される事などあってはならないはずだ。
しかしその技は、魔術でもなければ単なる物理でもない、不可思議な力を秘めた何か。
”ぴぴっ”
ミルナの元に一瞬だけ留まった炎の玉は、そのまま縦一直線に別たれると、
対象を見失った炎弾の残滓は、彼の背で霧散していった。
- 579 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:10:01 ID:MFi8FkIY0
-
たとえゴブリンでも、低級の魔法ならば扱える種族はあるが、それを獣人が行うなどと聞いた事もない。
魔法を無効化し得るその未知の力への脅威に、ショボンは自身の戦慄を口にする。
(;´・ω・`)「……最悪の相性だ」
ミ#゚дメ#彡(………)
”それ”を放った己の掌を見つめて佇んでいたミルナの隙を突いて、フォックスが叫びを上げる。
爪;'ー`)「挟めショボンッ!」
言いながら、彼は片手に3本ものナイフを同時に投げつけていた。
何かに気を取られて反応が遅れていたミルナは、その内の2本を地面へと
叩き落としながらも、残る1本はそのまま右肩へと受けた。
それが足止め程度にもならない事は、動じる事の無い様子から一目で解る。
- 580 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:10:44 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#゚дメ#彡「……退屈させてくれるな。随分」
(#´・ω・`)「穿て―――【魔法の矢】ッ!」
次いで、最速で詠唱を練り上げたショボンが矢を放つが、
それにも容易く反応して来たミルナは、軽く身を傾けるだけで外させた。
そして、再びミルナがフォックスとの距離を詰めると、唸りを伴って豪腕を彼へと振るった。
爪;'ー`)「ち、ぃッ!」
”ヴンッ”
ミ#゚дメ#彡「もう、打つ手なしか」
大きく身を捩りながら、想像もしたくない威力の拳から辛うじて身を逃がす。
- 581 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:11:43 ID:MFi8FkIY0
-
正攻法で行くならば必ずやブーンの力が必要になるが、まともにこのミルナの攻撃を
もらい、未だ足取りもふらつく彼には、まだツンによる治療が必要なのだ。
だから、今は時間稼ぎをするしかない。
ミ#゚дメ#彡「逃れるだけか?」
爪;'ー`)(必死だぜ……こちとらッ)
”プンッ”
身体の末端を狙い済ました突きを、大きく脇を開いてかわす。
続けざまに脚部の爪を剥き出した蹴りが、閃光の如く下から襲い来る。
見てから反応できる速度ではない、これは半ば勘だった。
下から吹き抜ける風圧を顔に感じたフォックスが、後方へと翻る。
爪;'ー`)(ッぶね……ぇ―――ッ?)
”ぐんっ”
- 582 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:12:26 ID:MFi8FkIY0
-
しかしそこで、突然首に受けた激しい衝撃に視界が揺らぐ。
全力で回避行動を取ったつもりのフォックスにとっては、滑稽とも思える状況だった。
そのまま首を刈り取りに来ると思われた蹴り上げは、膝辺りで止められたフェイント。
意表を衝かれたフォックスは、気づけば衣服の胸倉を掴まれていた。
ミ#゚дメ#彡「相手が俺でなければ、まだ通用するのだろうがな」
そのまま毛むくじゃらの指はフォックスの首を手繰り寄せて、
宙に浮いた彼の身体はミルナの腕の力だけに強く引き寄せられる。
やがて伸びた指が首の両側を圧迫すると、フォックスの表情は苦悶に歪む。
ミ#゚дメ#彡「あとどのくらい力を入れたら、この首はへし折れる?」
爪; - )「ふ、ぐぁッ……!!」
- 583 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:13:21 ID:MFi8FkIY0
-
ぎりぎり、と嫌な音を立てて首を締め上げられながらも、
宙ぶらりんに吊り上げられたフォックスは、脚をばたつかせてなおもがいた。
爪; - )(あ……ッが)
(#´・ω・`)「フォックスッ……待っていろッ!」
捕まっているフォックスの手前、威力を伴った魔法は彼を巻き込んでしまう危険がある。
それでも、対象の身体の自由を奪える”縛鎖の法”ならば問題は無い。
手元で印を結ぶと、ショボンは即座に詠唱の動作に入る。
しかしフォックスを掴んだままのミルナの視線は、そのショボンを捉えていた。
吊り上げたフォックスの身を、背へと振りかぶるかのような動作。
ミ#゚дメ#彡「……返してやる」
爪; ー )「――――ぐうッ、うぉぉッ!?」
(;´・ω・`)「!?」
- 584 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:14:09 ID:MFi8FkIY0
-
拘束されていたフォックスの身体は、小石を放る様な動作のままにミルナから手離される。
浮遊感に逆らえないフォックスの身体が、詠唱も未だ途中のショボンの胴体目掛け、背中から突っ込んだ。
(;´-ω-`)「うッく!」
”ドォッ”
咄嗟に「受け止めなければ」という衝動に駆られたショボンは、
そのままフォックスの身を抱きとめながら、彼と共に後方へ倒れこんだ。
身体に能力に秀でている訳でもないショボンにとっては、それだけでも十分な攻撃。
瞳の焦点がぶれては、目の前に星が飛び出るような衝撃だった。
爪; ー )「ッ……ゴホッ、ゲホッ!」
(;´-ω・`)「い……つっ」
まざまざと見せ付けられた身体性能の差に、無力とはかくも悔しいものか、と痛感する。
先ほどの獣としての姿でいてくれれば、今のミルナに比べて、どれほどやりやすい相手であったかと。
- 585 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:14:52 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#゚дメ#彡「どうした、そんな体たらくで―――俺と張り合えるつもりか?」
あらゆる攻撃に対しても、身一つで完膚なきまでに対応してくる。
そんな鉄壁さに、畏敬の念すら覚えるほどだった。
爪;'ー`)「……なぁ、おい」
(;´・ω・`)「なんだい」
爪;'ー`)「今からでも、謝って許してもらうってなぁどうだ?」
(;´・ω・`)「出来る事ならそうしたいけどね」
ミ#゚дメ#彡
- 586 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:15:33 ID:MFi8FkIY0
-
地を響かせるような威圧感を引き連れながらゆっくりと近づいてくるミルナを前にして、
フォックスは呟くように後悔を口にした。それが出来るような状況に無い事は、異質な
雰囲気を纏うミルナの佇まいからも解ってはいるのだが。
(;´・ω・`)「だが、乗っかったのは僕らだ……”彼”にね」
ミ#゚дメ#彡「……!」
やがて、追撃を加えようとショボンとフォックスの前に立ったミルナは、二人の視線の在り処に気付く。
振り返った先には、”癒身の法”によって立ち直ったブーンが、注意を引き付けながら斬り込んでいた。
(#`ω´)「―――だッおおぉぉッ!」
・
・
・
- 587 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:16:15 ID:MFi8FkIY0
-
川;゚ -゚)「あいつ……まだ!」
彼らとミルナが戦う理由など、どこにも無いというのに。
そう思いながらもずっと戦況を見守りながら虚ろな色の瞳を浮かべていたクーだったが、
彼らの明らかな劣勢に、少しずつ冷静さを取り戻しては、その光景を緊張の面持ちで見守る。
ふと視線を移すと、ツンが崩れ落ちるようにその場に膝を着いていたのが視界に入った。
ξ;-⊿-)ξ
再びブーンを戦線へと送り込んだツンだったが、その彼女の表情には深い疲労が伺えた。
川 ゚ -゚)「……おいッ」
ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫……何でもない、からっ」
- 588 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:17:11 ID:MFi8FkIY0
-
川 ゚ -゚)「………」
先ほどからの戦闘に、彼女は神経をすり減らせていた事だろう。
更には長旅の行程の疲れを引き摺りながらの、聖術の連続使用。
元々体力の無いツンにとっては過酷ともいうべき肉体の酷使に、疲労は色濃い。
ξ;゚ー゚)ξ「それより、さっき言いかけたんだけど、さ」
川;゚ -゚)「なんだってこんな時に……お前の仲間も戦いに加わってしまったんだ。
このままじゃ、さっきミルナが言った通りに全員――――」
ξ;゚ー゚)ξ「殺されると、思う?」
川;゚ -゚)「………ミルナは、元々が達人級の武術家だ。ただでさえ強いのに、それなのにッ」
ξ;-ー-)ξ「………」
- 589 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:17:54 ID:MFi8FkIY0
-
クーは、まだツンの言葉の意味を理解出来ていなかった。
そんなクーの焦燥の表情を目の当たりにしながら、ツンが少しだけいたずらな笑みを浮かべる。
ξ゚ー゚)ξ「私が言ってるのは、そうじゃない」
川 ゚ -゚)「?」
ツンの瞳は、闇夜の森深くにあっても、クーには眩しいほどに光り輝いたものに見えた。
信仰を力と換えるその少女は、”明るい希望を信じている”と告げるように。
ξ゚⊿゚)ξ「クーは……あのミルナさんって人が、あなたを殺すと思う?」
川;゚ -゚)「………」
心のどこかで、もやもやとして引っかかっていた部分。
- 590 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:18:45 ID:MFi8FkIY0
-
あの変わり果てた姿となってしまったミルナを、恐れてしまっている気持ちは確かにある。
正気を取り戻したはずの彼が口にした言葉の数々が、クーの心にとって酷く辛辣なものだったからだ。
”義”や”情”というものに厚いはずの彼を知るクーだったからこそ、信じられない言葉。
失意の水底に心を落とし、自棄になっていた彼女を介抱してくれ筈の彼が、自分を重荷として見ていた事。
それがミルナの本心からの言葉だったのか、信じ切る事が出来ずにいた。
だが、確かにミルナはクーに一時の安らぎをもたらしてくれた。
不幸の連鎖、負を呼び寄せる自分という存在に、嫌気が差してきた頃に。
沈み込んでいた自分を、暗い水底から引き上げてくれたのもまた、ミルナだったのだ。
それは―――あの灰色の空のもと、輝かしい彼の背中を見上げて歩いた憧憬のように。
川; - )「わから……ない」
- 591 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:19:02 ID:HD3ybuFQ0
- 支援
- 592 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:19:32 ID:MFi8FkIY0
-
ツンの言葉に、小さな胸は揺れ動く。
陰鬱さばかりが取り巻く自らの境遇に、全てを投げ出してしまおうと思いながら歩いた。
そこでなまじ安堵を得たばかりに、突き落とされた先での衝撃の落差も計り知れない。
獣となり、そして半獣と化したミルナの姿に驚き、恐れる気持ちを消す事は難しいだろう。
だが、きっと彼を信じていたはずの自分こそが、当初の気持ちを忘れてしまっていた。
ミルナという想い人の事を、信じ切ってやる事が出来ずにいたのだと―――――
ツンの言葉が、微かな光明となって。
まだクーの思い出の中のかがり火に、ほのかな熱を与えてくれるようだった。
ξ-⊿-)ξ「ブーンがどうしてあの人に食ってかかったか、気持ちが解る気がする」
川 ゚ -゚)「………あいつは」
- 593 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:20:37 ID:MFi8FkIY0
-
ξ゚⊿゚)ξ「あいつ、そういう変なとこがワガママなのよね」
川;゚ -゚)「我……侭だって?」
”我侭一つの為に自分の命を危険に晒す事など、普通の人間に出来るものか”
思考の中で留めたその言葉、だが現に今―――クーの瞳はその光景を映していた。
確かに普通の人間になら出来る事じゃない、何の利益も無しに人の助けになろうなどと、
ましてやそれが、自らの命を火中へと投げ打つ事になると知っているにも関わらず。
そう、連中は普通じゃなかったのだ。
ミ#゚дメ#彡「俺の”貼山靠”や”猛虎”を喰らって、まだ立つ事が出来るか」
(;^ω^)「生憎と……頑丈さと、馬鹿力だけが取り柄だお……ッ」
- 594 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:21:57 ID:MFi8FkIY0
-
普通の旅人なら、これほどまざまざと力を見せつけられる以前に、
今のミルナの姿に驚き、慌てふためき脱兎の如く逃げるのが常だろう。
一度旅を共にしただけの間柄、今の世の中ならそこらに掃いて捨てる程存在する縁薄い関係。
しかしツン達は、自分や楽園亭のマスターの為に、わざわざこんな辺境の地まで足を運んだ。
川;゚ -゚)(何故、戦う)
そこで怪物と出くわすとは予期しないまでも、こうして、今戦っている。
そんな損得の勘定も出来ない、自己犠牲の固まりのような馬鹿者達を見たことはなかった。
それが彼らにとっての”我侭”だとでもいうのか。
ξ-⊿-)ξ「クーが自分の身を危険にさらしてまで大事に思った人を、あいつは
悪い人だと思えなかった……だからきっと、その本心を疑った」
- 595 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:23:03 ID:MFi8FkIY0
-
ξ゚⊿゚)ξ「悲しそうな表情をしたクーを見て、いても立ってもいられなかったのよ」
川 - )「私が、可哀相だとでも?」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん。あいつ、天然でそういう所があるから」
川 - )「お前は――――ツン達には、あのミルナが……どう映った?」
”殺す”、”邪魔だった”
それらの言葉は確かに、他ならぬミルナ自身の口からクー達へと向けられた。
手離しに好意的な感情を向けていたはずのクーの心はその事実に心の膝を折られた。
それは、これまでの自分の存在意義を否定されているのと同義だったから。
- 596 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:23:45 ID:MFi8FkIY0
-
しかしそれでもなお―――――それらが彼の本心からの言葉でない。
そう信じられたら、一体どれだけ今の自分は救われるだろうか。
そしてその救いを、クーは無意識に目の前のツンへと求めていた。
仲間達が人を超えた怪物と命がけで戦っている状況にありながら、その口元に笑みを湛える彼女に。
ξ゚ー゚)ξ「………”いいひと”、なんだと思うな」
川 ゚ -゚)「―――――!」
・
・
・
(;`ω´)「おぉぉッ!」
- 597 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:24:36 ID:MFi8FkIY0
-
不屈。
その剣士の姿は、ミルナの印象からすれば一言だった。
殴り合いのためのような人生を送りながら、そして今は人の理から外れてしまった自らをして。
自らでも、驚く程に、この身体は恐るべき力を秘めているのだという事が理解る。
それが人間の限界を遥かに超越しているのは、きっと傍目からにも明らかだと。
それでも、剣士は退く事をしなかった。
ミ#゚дメ#彡(―――――何の、為だ)
その眼に、人外の恐るべき異形の姿を焼き付けながら。
その身に、四肢などやすやすともぎ取ってしまえるだけの力の片鱗を刻み込みながらも。
「何故この男は、自分と戦えるのだ?」
ミ#゚дメ#彡(俺が人だったら、こう言っていたかも知れん)
- 598 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:25:19 ID:MFi8FkIY0
-
正気を取り戻した今となっては、この男達と戦う理由など、こちらさえ持ち合わせていないはずなのに。
(;`ω´)「くッ」
威力と速さはあるが大振り過ぎる打ち込みを、必要な分だけ下がって避ける。
剣に身体全体が振られて、そこでがら開きとなったわき腹へ”迅撃”を叩き込む。
ミ#゚дメ#彡(”良い闘志だ”――――とな)
(;゚ ω゚ )「……ゴォッ、ぶッ!」
巨大な拳による打ち込みで、被弾した上体ごと全身がふわりと浮いた。
皮鎧がへしゃげるほどのダメージは、そのまま内臓へまで伝わったろう。
たたらを踏みながら後ずさるも、襲い来る嘔吐感を精神力だけで抑えつけている。
- 599 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:26:35 ID:MFi8FkIY0
-
爪;'ー`)「ショボン、もう一度!あの絡みつくやつだ!」
(;´-ω-`)「短時間で、高等魔法を連発し過ぎた……少しだけ時間が必要だ」
ナイフを手にした盗賊風が、魔術師にそう促したのを横目で確認する。
だが魔術師の回復を待って、しかる後同時に攻撃した所で、自分を倒す事など出来はしまい。
ミ#゚дメ#彡「構わんさ、いつでも俺の背中を狙えばいい」
爪;'ー`)(………)
安易にまた突っかけてくるような馬鹿でもない、戦力の分析は出来ているようだ。
大勢は決している、こちらの圧倒的優位が揺るぐ事などない。
戯れるような一撃は、ただそれだけでも吹き転がすようにして簡単に人の命を弄べる。
―――――しかし、それでも。
「いいやッ!」
- 600 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:27:28 ID:MFi8FkIY0
-
駆け寄ろうした盗賊らに手を突き出して制止すると、
剣士は口の端に伝った血を拭いながら、強い口調で拒んだ。
(;`ω´)ペッ
血の入り混じった唾を吐き捨てて、なおもこの人狼の前に立つ。
斬撃の全てはことごとく外され、ただ打ちのめされるだけだというのに。
絶望的な力の差を体感しつつも、彼の瞳に灯された炎は吹き消える事がなかった。
そしてその原動力が、ミルナにはやはり理解できなかった。
(;`ω´)「ブーン一人で、十分だお」
ミ#゚дメ#彡(理解らん男だ)
剣士は殴り転がされても、蹴り転がされても起き上がって来る。
すでに今まで浴びたダメージだけで、足腰はその口と正反対の主張をしているのに。
- 601 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:28:14 ID:MFi8FkIY0
-
内心には若干の戸惑いを覚えつつあった自分に、剣士は風に紛れてぽつり呟く。
(;`ω´)「そろそろ教えてくれないかおね」
ミ#゚дメ#彡「?」
(;`ω´)「この勝負……決着はいつになるんだお?」
ミ#゚дメ#彡「………」
男が口にした言葉は、ミルナ自身の狼としての皮を剥ぎ取り、
見せてはならないその部分を、一瞬だけ見透かしていたように思えた。
”最初から、そんな事のために戦っていた?”
決して表情に出す事は無いが、毛の生えたような己の心臓にちくりと針を刺された感覚。
- 602 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:29:08 ID:MFi8FkIY0
-
(;`ω´)「あんたはさっきから、きっと何度もブーンを殺せるチャンスがあった筈だお」
ミ#゚дメ#彡「下らん。お前を殺すのに、全力などまるで必要ないからな」
(;`ω´)「ふふっ。それだお――――」
(;`ω´)「さっきからその強そうな言葉がッ、あんたを弱く見せているお!」
正確な狙いは解らない、しかしこの男は恐らく見抜いていたのだ、こちらの真意を。
この人狼に対して、あろう事か果し合いを望んだのもそのためか。
ミ#゚дメ#彡「………」
この男は確かに試そうとした――――それも、自分の命を捨石にしてだ。
ミルナ=バレンシアガというこの人狼が、人に仇なす脅威であるのか否か、ということを。
そこまで考えて、それはきっと彼女のためであるのだと気付き、ミルナは一度振り返った。
川;゚ -゚)
- 603 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:29:59 ID:MFi8FkIY0
-
クーの視線の先には、自分と戦う冒険者達の姿が映されている。
ミ#-дメ#彡(……そうだ。お前はそれでいい――)
心の中でだけ呟いた言葉は、クーへと届く事はない。
それが正しい。化け物の言葉など、耳に入れる必要がないからだ。
人と獣の狭間にある己自身に、言い聞かせる為の言葉でもあった。
(;^ω^)「あんたは、クーを突き放そうとしているのかお?」
ミ#゚дメ#彡「………」
(;^ω^)「たとえ姿形がそんなでも、あんたはクーにとって――――」
”ヴンッ
- 604 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:30:49 ID:MFi8FkIY0
-
続けて言葉を紡ごうとした剣士の前に、風に揺らぐ剛脚が半月を描いた。
咄嗟に身を屈めて難を逃れたが、当たればやすやすと意識を刈り取れる。
ミ#゚дメ#彡「黙れ」
(;`ω´)「……おッ」
先ほどよりも一層殺気を込めた一撃に、剣士は場の雰囲気が変わった事をすぐに悟ったようだった。
今の自分はどんな表情に歪んでいるのだろうと考えたが、鏡などなくても想像はついた。
きっと、ぶつけようのない衝動を当たり散らそうとしている、醜悪なものだろう。
ミ#゚дメ#彡「お前が、俺の全てを知っているとでも?」
(;`ω´)「わ、解らないおッ!だけど、あんたはちょっとだけズレてるんだお!」
ミ#゚дメ#彡「………」
何がそこまで必死にさせているのか、これほどまでに突っかかってくるのか。
- 605 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:31:33 ID:MFi8FkIY0
-
この化け物を前にしてそんな事を口走れる肝の太さを見る限りでは、きっと
”自分を殺さない”と踏んでいるのを抜きにしても、いずれかの修羅場を潜り抜けた
肝の据わった男なのだろうと思った。
だがその蛮勇も、今の自分にとっては群がる蝿ほどの鬱陶しいものでしかない。
(;^ω^)「最初から3対1でも構わなかった。あんた、さっきそう言ったお」
ミ#゚дメ#彡「?」
(;^ω^)「二人の女性を……クーとツンを、勘定に入れてなかったのかお?」
ミ#゚дメ#彡「ハッ」
あほ面のようでいて、なかなか細かい所で目端の効く男だと笑った。
確かに、女子供を手に掛けるなど、見下げ果てた外道の行いだ。
それこそ、かつてのクーの周りから大事な物を奪っていった、あの異端審問官のように。
- 606 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:32:17 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#-дメ#彡「たまたまだ……それよりわからんな。俺と戦って、お前に何の利がある」
(;^ω^)「あんたに手を焼いたブーン達が、あんたを倒そうとしている時。
クーだけはあんたを大事な人だと……”育ての親”だと―――必死に庇ったお」
(;^ω^)「ブーン達が手の付けられなかったあんたを倒そうとしている中で、ただ一人身の危険も顧みず」
ミ#゚дメ#彡「………ッ」
剣士のその言葉に、かすかに胸が疼いた。
思わず視線を送ってしまいそうになった自分を、抑える。
残っている人としての感情が、今は煩わしくさえ思えた。
( ^ω^)「だから、クーが信じるあんたという人間を、試す必要があったお。
あんたという人間が、本当に人の心まで失ってしまった怪物なのかを――おね」
- 607 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:33:25 ID:MFi8FkIY0
-
( ^ω^)「クーは本当は、あんたと居たいはずだお。だけどあんたは彼女を突き放す。
それはあんたが……望まずしてそんな姿になってしまったからじゃないのかお?」
ミ#-дメ#彡「ふっ。”クーの為”だとでも?」
( ^ω^)「それもあるお……だけど、それはきっとあんたの為でもあるんじゃないかお?」
ミ#゚дメ#彡「俺の、為だと?」
( ^ω^)「今の自分の姿が恐ろしくて、クーに拒まれたりするんじゃないかって。
さっきみたくクーを襲ってしまうんじゃないかって、あんた自身、自分が怖くて」
ミ#-дメ#彡「………」
- 608 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:34:24 ID:MFi8FkIY0
-
( ^ω^)「あんたは、クーの親代わりなんじゃないのかお?
クーの気持ちを汲んで、一緒に居てやるべきなんじゃないのかお」
ミ#゚дメ#彡「………フッ」
気の抜けるような特徴的な語尾で話す剣士の言葉は、自分の頭の中に涼やかに響いた。
見抜かれていたのだ、クーを遠ざけようとしている事も。
それより何より、俺が”俺自身を恐れている”のだという情けない心の弱さすらをも。
なればこそ、甘さを捨てなければならない。何よりも、クーを思えばこそ。
好意を向けてくれていたあいつには、きっとこの上なく酷い形での裏切りになる。
しかしそうする事で、二度と彼女は自分を追おうなどと思わないだろう。
それどころか、自分を憎む事になるはずだが―――それで、いいのだ。
- 609 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:35:09 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#-дメ#彡「ならば、知れ」
剣士の言葉は、自ら望んでこの心を獣のものとする覚悟を刻ませた。
自分は間違っていたのだ。本当に大切なものを守る為に、自分が成すべき事。
いつまた獣と化すか分からない自分をクーから遠ざける為に、どれほどの事をしなければならないかを。
人というものは、何かを守るために何かを犠牲にしていかなければならない。
人としての未練を捨てて、自分はもはや人ではないのだと、それを認めるしかない。
温もりのある”絆”に引き寄せられていた自分自身の心。
今、それを完璧に断ち切らねばならない。
ミ#゚ メ#彡「哀れな命を幾つも喰い散らかしてきた―――人狼の恐ろしさを」
”その為に―――俺は、この剣士を殺そう”
- 610 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:36:20 ID:MFi8FkIY0
- ・
・
・
ブーンの周囲を、幾重にも折り重なった重圧が押し寄せる。
ミ#゚ メ#彡
先ほどまでの雰囲気とは、明らかに違う。
気を抜けば途端に気持ちが萎えてしまいそうになる、人間以上の存在が放つ殺気。
真正面からこんなものを受け続けていては、頭がおかしくなってしまうかも知れない。
(;^ω^)「この”賭け”は……あんたがブーンを殺せなければ、ブーンの勝ちだお」
ミ#゚ メ#彡「――思うのか?」
- 611 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:37:03 ID:MFi8FkIY0
-
”ビュゥォッ”
(;`ω´)「……おッ!」
瞬時にして、これまでに無い本気の打ち込みだと感じていた。
ミ#゚ メ#彡「俺が、貴様を殺さないと――」
低く身を潜りこませるようにして辛うじてその拳をかわしたが、
生身でも自然石すら粉砕せしめるであろう鉄の拳は、代わりに足元の地面を穿っていた。
追撃に備えてすぐに構えを取るが、どうやらその必要はなかった。
むせ返るような殺気の流れに、なんとなくは理解出来ていたのだ。
ミ#゚ メ#彡「さっきの問いの答えだ―――次の一瞬で、”決着”する」
- 612 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:38:11 ID:MFi8FkIY0
-
(;`ω´)(言われ、なくても……!)
次で、終わりにしようとしている。
ミルナは両腕を交差させると、深く腰を落とした。
重心ごと地面へと落とした足裏は地を踏み鳴らし、まるでそこに深く根を張った大樹のよう。
押したり引いたりするぐらいでは、きっとびくともしないであろう大仰な構えだ。
だが、それが単なる大げさな動作でない事は、対峙しているブーンが一番よく理解していた。
ミ#゚ メ#彡「コオォォッ………!」
(;^ω^)(空気が……震えてッ)
充満した闘気――――やがて魔術のものとよく似通った光が、ミルナの右の拳に宿った。
光の中では何かが急速に蠢いているようであり、それ自身が生きているかのように力強さを訴える、金色の光。
まるで生命力をそのまま力と化したように目にも見えるそれが、明確に予兆を告げていた。
ミ#゚ メ#彡「奥義―――――”旋光撃”」
「これが最後なのだ」と。
- 613 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:39:09 ID:MFi8FkIY0
-
拳に宿された光が辺りをもまばゆく照らし、ミルナ自身の体表をも金色へと染め上げた。
魔術の類か、あるいは焼きつくすような熱量を持っているのかは分からないが、これだけは解る。
喰らえば、死ぬかも知れない。
(´・ω・`)「あれは、まずいと思うよ」
爪;'ー`)「仕方ねぇ、お前が魔法を撃てるようになるまで、俺が……!」
ミルナに対峙するブーンの元へ駆けつけようとした二人を牽制してその場に引き止めたのは、
やはり背中越しに掛けられた、他ならぬブーンの一声だった。
(; ω )「来ないでくれおッ!」
爪;'ー`)「あぁッ!?」
(;^ω^)「こいつは、ブーンとミルナのタイマンだお!
わざわざフォックス達が出張る程の事はないお」
(;´・ω・`)「どうして君はいつもそう……!」
- 614 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:40:09 ID:MFi8FkIY0
-
(;^ω^)「そして、よく見ておくお、クー!」
川;゚ -゚)「ブーン……」
(;^ω^)「最後は、クーが見極めてくれお―――この、わからず屋の事をッ」
川; - )(……本気で、ミルナは―――)
離れていても感じる、肌がひりつくような殺気の奔流。
あの拳を叩きつければ、ブーンがただで済むはずがない。
ミ#゚ メ#彡「ハァァァァァッ…………」
疑う余地の無い、紛れもない絶命の一撃を放とうとしている。
どうして、何の為に―――その拳を自分の前で振るおうというのか。
ここに来て、ようやくそれを理解する。
川;゚ -゚)(決別をこそ……望んでいるというのか?……ミルナ)
- 615 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:41:01 ID:MFi8FkIY0
-
ツンの言葉を思い返す。
甘い幻想の日々など、長続きするものではない。
現実は非常に過酷で、常に自分が考えるよりも遥かに厳しいものだ。
幼くして天涯孤独となった自分は、きっとそのままだったらくずおれて、
その場に膝まづきながら、自らの境遇に涙し続ける日々を過ごしていただろう。
だが、クー自身の道を切り開く先行きに、灯りをともしてくれたのは誰だった。
女だてらに冒険者を気取り、険しい山道の中腹で疲れ果て、風雨を凌ぐ洞穴で小刻みに肩を震わせながら、
それでもまた再び歩き出す為の希望を与えてくれていたのは、きっと本人は知らぬまでも―――
何もかもが嫌になるような不安に苛まれた時、嵐のように現れる存在。
クーの心をさらい上げては根こそぎ不安を吹き飛ばし、道を見失いかけた時にまた新たな道を指し示す。
まるで彼自身が、これまでのクーの人生にとって啓示のようなものだった。
- 616 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:42:02 ID:MFi8FkIY0
-
川 - )(ならば―――私は………)
ミルナが指し示すのは二つの道。
そのどちらを選ぼうか、もう、片方に心は傾きかけていた。
新たな迷いの中、道を切り開こうと。
・
・
・
- 617 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:43:04 ID:MFi8FkIY0
-
(;^ω^)「言っとくけど、今のを遺言にするつもりは無いお」
ミ#゚ メ#彡「……お前という男が居た事を、俺の中に留めておくさ」
静かな風が吹く。
けれども、それは熱を帯びていた。
次の一合が、人生最後の瞬間になるかも知れない。
ブーンの中に不安はあれども、集中し、己を保つ事が出来ていた。
( ω )スゥ
この男を打ち負かして、泣きそうな顔で背中を見守る仲間たちの為に。
そして、この男を親と庇ったクーの思いに報いて、本音を引きずりだしてやる為にも。
ミ#゚ メ#彡
白銀の体毛を煌めかせる、右の黄金の拳が放つ光は美しくさえあった。
それは未知の力。魔術による熱でも、ましてやツンの使うような聖術でもない。
- 618 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:44:14 ID:MFi8FkIY0
-
ブーンには知る由もなかった。
人体の各部位に100箇所以上も存在する点、経絡。
それらの奥底に眠る神秘、”螺旋の力”というものを。
螺旋の力を引き出し、そしてその真理に触れ得る資格を持つ者のみが許される。
神か悪魔の寵愛を受けた肉体にしか宿す事のできない、超常の力。
( `ω´)「……来い、だお」
その力を有するミルナが、武人としてどれほどの高みにあるのか。
生え抜きの武芸者であっても、彼の存在を知る者ならば裸足で駆け出す程なのだ。
しかし、関係がない。
ミ#゚ メ#彡「ああ」
知る必要すらない、たとえ知っていても答えは変わらなかっただろう。
- 619 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:45:26 ID:MFi8FkIY0
-
何故ならば、自分の心に従って生きる事―――
そう誰にでも出来る訳ではないが、曲がらない、変わらない。
それだけを芯として生きて、これからも道程を歩もうとしている、この粗野で素朴な冒険者は。
ξ;ー )ξ「頑張……れ……」
川 ゚ -゚)「!」
ツンが決着の瞬間を見届ける事はかなわなかった。
張り詰めた緊張感の中、体力か、精神力か。
あるいはその両方が尽きたツンの身は、慌てて両手を伸ばしたクーの腕の中へ手繰り寄せられる。
再び視線を投げかけた先で、ついに光が動いた。
(#゚ ω゚ )「―――ぜぇぃあぁぁぁぁッッッ!!」
- 620 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:46:10 ID:MFi8FkIY0
-
まだ不敵な笑みを口元に残しながらも気を失ったツンを、クーは地面に横たえてやる。
ブーンとミルナが光散らすその光景を見送りながら、クーは自分の胸に手を当てていた。
ξ;ー )ξ
川 ゚ -゚)「………」
急速に引っ張られた心の在り処を、クーは探していた。
もう自分自身で選択して、それに従うしかない。
心の音に、声に。
- 621 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:47:07 ID:MFi8FkIY0
-
(#゚ ω゚ )「――るあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
強い追い風が、吹いた。
その時、力の限り踏み込む。
ミ#゚ メ#彡「ッ……!」
これまでで最も早い太刀筋に、ミルナは一瞬意表を衝かれる。
ミルナの拳もまた、同じ瞬間にブーンの胸元目掛けて突き出されていた。
しかし、どうやら互いに同じ事を考えていたのだ。
避けるつもりなど毛頭ない、真正面からの打ち合い。
- 622 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:48:16 ID:MFi8FkIY0
-
先ほどまでのやりとりを考えれば、木っ葉のように吹き飛ばされるのはブーンの方。
しかし、今のミルナが放つ拳はそんな生易しいものではなかった。
螺旋の力を引き出したミタジマ流奥義”旋光撃”は、肉や骨でなく”気を断つ”。
即ち、人体における生命力の源を遮断し、せき止めてしまうのだ。
経絡からの気の流れを断ち切る事で、体細胞はその活動を止める。
それが意味するところは、否応なしの”死”だけだ。
無知であるがゆえに、無謀な挑戦。
ミ#゚ メ#彡(―――気迫かッ)
しかし、お構い無しに拳を当てようとしたミルナは、激しい違和感を覚える。
決死の形相で振り下ろされたブーンの剣は、これまでで最も脅威の一撃だった。
- 623 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:49:14 ID:MFi8FkIY0
-
この男の命を断ち切る事で、クーとの繋がりをも断ち切る。
その決心が揺らぐ事は、きっとなかったはずだ。
しかし今、その拳の伸びがブーンの剣の速力よりも劣っていたのは、只ならぬブーンの気迫。
人狼の肉体を得て慢心を得た訳でもなく、単純に踏み込みで出遅れていた。
幾百もの闘争に身を投じて来た男をしてそうさせるほどの、人の、生命を賭す事を厭わぬ一刀。
それは一流の武人としてではなく、まして人狼としてでもなく。
ただ純粋に、ミルナという存在を気圧す程の意志力を剣に乗せた、重い剣だった。
(# ω )「オォォッッッ!!」
”ずしゃっ”
- 624 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:50:14 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#゚ メ#彡「―――ぐッ………ぬゥッ!」
初めてブーンに受けた剣は、ミルナの左の胸から入ると、そのまま斜めに振り抜ける。
間を置いてミルナの胸の前で噴き出した鮮血が、遅れて痛みを認識させた。
振り下ろした態勢のまま、長剣の切っ先は地面へと突き刺さっている。
この一刀に対して、それほどに全力を込めていたのだ。
しかしそれはミルナの拳の狙いを僅かに逸らすも、それを中断せしめる程の手傷ではなかった。
右の黄金に収束した光が、瞬きする間も与えずに一気呵成に押し寄せる。
(# ω )(…………避け、られないお)
そう踏んで、既にブーンは次に動き出す為の力を溜め込んでいた。
避けようともしないのは向こうも同じ、ならば、次に倒せるだけの一撃を放つ為に。
- 625 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:51:56 ID:MFi8FkIY0
-
構うものか、食らいながらでも剣を浴びせてやると歯噛みする。
だが、身体に響く衝撃は、ブーンが想像していたより遥かに小さなものだった。
ミ#゚ メ#彡「―――見事だった」
”ずしゃ”
その言葉と共に、ミルナの光の拳はブーンの無防備な脇腹を掠めるように、胸の下を通り抜けた。
それには五体が吹き飛ぶような衝撃も、内蔵までえぐり貫かれるような威力もなかった。
それなのに――――この感覚は、何だというのか。
( ゚ ω゚ )「…………おっ」
- 626 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:52:52 ID:MFi8FkIY0
-
その一瞬、”時が止まった”と、ブーン自身は錯覚する。
目に映る光景も、耳に聞こえる音も、肌で感じる息遣いも、そのどれもが知覚できない。
それどころか、自分の体がぴくりとも動かない。
荒ぶっていた心臓の鼓動さえもが、聞こえてこない。
立ったまま呆けているような感覚に捕われながら、目の前が白んでゆく。
ミ#゚ メ#彡「… … …」
白い闇の中で眼光をこちらに向けるミルナが、何か言葉を投げかけていたようだった。
それすら聞き取る事が出来ないブーンの身は、もはや力の入らない足腰の支えを失うと、
地面に刺さった剣の柄にもたれるようにして、そのまま意識と共に落ちてゆく―――
生命力そのものが、根こそぎミルナの拳に絡め取られてしまったかのように。
- 627 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:53:42 ID:MFi8FkIY0
-
爪'ー`)「………な」
(;´・ω・`)「ブーンッ!?」
傍目からには、理解の及ばない光景だった。
決して大きく物理的な外傷を伴った攻撃ではなかったはずの一撃。
それにより地面へと膝を付いたブーンの姿が、まるで燃え尽きた後の松明のように見えたのだ。
ミ#゚ メ#彡「……終わりだ」
爪;'ー`)
(;´・ω・`)
川 - )「………ッ!」
- 628 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:54:35 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#゚ メ#彡「まだ死んではいないが、それも間も無く訪れる」
ミルナは、顔だけを二人に向けてそう言った。
たった一発の掠めるような拳がブーンの命を奪うなど、考えられるはずもない。
しかし事実、ミルナの拳はブーンの肉体の生命活動を停止させていたのだ。
爪;'ー`)「ばッ、馬鹿言うんじゃねぇよッ!」
抜け殻のように剣の柄にもたれるブーンの近くへ、フォックスが歩み寄ろうとした。
それに対して釘を刺すように、ミルナは眼光を光らせてぼそりと呟く。
ミ#゚ メ#彡「―――先ほどの言葉を、取り消そう」
- 629 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:55:27 ID:MFi8FkIY0
-
(;´・ω・`)「ツンッ!!」
まだ完全に死んでいないのならば、聖術の力で助ける事が出来る。そう考えたショボンだが、
そう思って視線を向けた先で、クーの傍に横たわるツンの姿を見て、苦虫を噛み潰した。
一瞬視線があったクーのかぶりを振る仕草が、それが不可能な状態である事を物語る。
川; - )
(;´-ω-`)(くッ!!)
ミ#゚ メ#彡「お前たちを見逃してやる……この男の戦いに免じてな」
爪#'ー`)「――てめぇ、どのクチでほざきやがるッ!」
- 630 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:56:42 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#゚ メ#彡「無論、それもお前たちに”その気がなければ”―――の話だ」
言って、顔の前に拳をかざすミルナが、再びその表情に獣性を覗かせた。
激昂するフォックスは今にも飛びかからん勢いであったが、安易にそうできない無言の圧力。
長旅でつのる疲労、そして先ほどの狼の姿のミルナともやり合ってきたフォックス達は、
もう十分な戦力を持って戦えるだけの力を残してはいなかった。
何より、ブーンが戦線に立てない状態で、このミルナに勝ち目はない。
爪#'ー`)「……ナメんなよ……ブーンの野郎の考えに気付こうともしねぇ化け物が」
ナイフを手に、それでもフォックスはミルナの前に歩み出る。
口に出されても許容出来ない現実の前に、内心では選択を迫られていた。
- 631 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:57:40 ID:MFi8FkIY0
-
ブーンを失って、その仇を前にしてみすみす見逃さなければならない屈辱。
だが、もしかするとブーンを助ける事はまだ間に合うかも知れない。
また、ツンの聖術の助けさえあれば――――しかし、今はそれすら望みが薄い。
ミ#゚ メ#彡「そう、俺はもはや、ただの化け物に過ぎん」
(#´・ω・`)「フォックスッ!今は、ブーンを助ける事に全力をッ!」
ミ#゚ メ#彡「……万に一つも賭けてみたらどうだ。ここで怒りに任せて全員死ぬより、
もう死にゆくこの男を助ける事に全力を尽くす方が、懸命だと思うがな」
爪#'ー`)「クソったれッ!畜生ッ!―――どうすりゃいいんだよッ!?」
感情に従ってミルナと事を構えれば、ブーンは助からないどころか全員が二の舞となる。
ショボンの言う通りにする事が最善だとは解っていながらも、割り切る事が出来ない。
一刻を争う状況の中で様々な感情が交錯し、混乱するフォックスの手に持つナイフが、怒りに震える。
- 632 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:58:34 ID:MFi8FkIY0
-
川 - )(………)
横たわるツンの表情へと視線を落としながら、それらの言葉は全てクーへと跳ね返って来ていた。
他の誰でもない自分の為に、この場へ訪れた騒がしい面々。
その中の一人が、自分のこれまで想い人だった人間の手によって、今は命を落とすところだ。
きっと今となってはどうでも良い理由の為に、避けられたはずの戦いで、お人好しの一人が。
その彼の想いに対して――――自分の成すべき事は定まっている。
だが、次の瞬間、この場に居た誰もが予期し得ない事態が生じた。
ミ#゚ メ#彡(………?)
最初にそれに気づいたのは、ミルナだった。
( ω )
- 633 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 04:59:45 ID:MFi8FkIY0
-
微かな気配の残留、もはや命を抜き取られた抜け殻のような男から、それを感じた。
次に僅かな初動、活動を止めた体細胞が、再び活動する事など無いにも関わらず。
その一念は命を断たせてなおも、二の太刀を放つべく死んだ筈の人間を突き動かしたのか。
ミ#゚ メ#彡「な――――」
「………かッ」
身体がそうすべきだと憶えていたのか、あるいは鬼気迫る執念が繋ぎ留めたのか。
完全に意表を衝かれた胸下からの斬撃に、さしものミルナといえど反応は出来なかった。
刀身すらしならせるような苛烈極まる斬り上げは、先ほどの振り下ろしよりも遥かに疾かったからだ。
”バチュンッッッ”
- 634 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:00:56 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#;゚дメ#彡「ッぐ……ご……ぁアッ………!?」
振り下ろしよりも、斬り上げる威力の方が倍に感じた。
事実、閃光のようにミルナの胸元を抜けていった剣は、先ほど与えた切り傷を交差して
遡るかのようになぞらえて、更にはミルナ自身により深い手傷を及ぼしていた。
大量の血液が地面に血溜まりを作り、そこへ片膝を突いたミルナにぴちゃり、と音が聞こえる程にも。
ミ#;゚дメ#彡「何……故――――生きてッ……」
見上げる格好となったミルナが視線を向けた先。
そこには、夜空に向けて天を穿つかのように剣を高々と振り上げたままのブーンの姿があった。
( ω )
- 635 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:02:23 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#;゚дメ#彡「いや……そう、か」
その表情に、これほどの一撃を放つような覇気は伺えなかった。
それどころか、やはり意識すら保ってはいない。
この男の肉体の生命活動は、確かに停止しているのだ。
だが、死んだ肉体をも突き動かす程の執念は、人間の限界という箍を外させて、
己の成すべき事を成すために、再度活動を呼び起こさせた。
死にゆく肉体が呼応したというのだ、意識すら無い中で、執念だけは剥がれ落ちず。
ミ#;゚дメ#彡「これまで―――お前のような男に巡りあう事は……何度あったかな……」
( ω )
- 636 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:03:36 ID:MFi8FkIY0
-
応じる事も無いブーンの姿を見上げながら、深く残痕を刻まれた胸元を押さえつけ、立ち上がる。
誰しもが体得し得ないミタジマ流の奥義を以ってしても、完全に叩き潰す事は出来なかったブーンの一念。
ミルナの身体を流れる武人の血が、騒いでいた。
今や完全に力尽きたであろうこの剣士に、自分なりの敬意を表せよと。
力強く、右の拳に全力を込めて握り締める。
ミ#;゚дメ#彡(実に………実に良い闘志だった)
自分がまだ人間でさえあれば、言葉で健闘を称えてやりたいとすら思う。
死んでいてさえ反撃の一太刀を浴びせてくる程の男に対して、
ミルナは全力を込めて完全に叩き潰す事で、餞とする事を選んだ。
やがて、高々と振り上げられた拳が、意識の無いブーンへと繰り出される――――
”―――トンッ”
- 637 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:04:28 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#;゚дメ#彡「………」
爪'ー`)「………させるかよ、馬鹿野郎が」
五体をバラバラにするつもりで握りしめていたミルナの拳への力が、そこで緩む。
”それだけはさせない”、そう訴えるような決意に満ちたフォックスの瞳が、ミルナを睨めつける。
右肩に刺さったナイフを引き抜こうとした左手を伸ばそうとした所で、それを引っ張られるような感覚。
”グンッ”
(´・ω・`)「今ので確信できた。ブーンは、まだ生きている」
ショボンの手元から地面を這うようにして伝う紫色に発光する羊歯が、ミルナの左腕を締め付けていた。
- 638 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:06:40 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#;゚дメ#彡「どけ、俺は―――この男に……」
「連れて帰る、お前を倒して」
口程にそう言っているのが、彼らの瞳に込められた力からミルナにも感じ取れた。
仲間を見捨てて逃げるような者は、どうやらこの中には一人もいないらしい。
だが、ミルナ自身の昂った感情を諌める為には、ブーンという剣士に敬意を払う意味でも、
彼自身の手で完全に葬り去ってやりたかったのだ。もう助からないと察しているからこそ、
もはや人ではない筈のミルナに、闘争というものを通して武人としての高揚感を齎した彼に対して。
それは人間としての彼と、人狼としての彼との感情が溶け合わさったものだったかも知れない。
( ω )
やがて、風に吹かれるようにして倒れ込もうとしていたブーンの背を、誰かが支えた。
その手から取り落とした剣を、自分の背丈には見合わぬそれを拾い上げると、彼女は顔を上げた。
ミルナの正面に立ち、重そうに剣を構えながらも―――その頬に乾いた涙の痕を残して。
- 639 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:07:32 ID:MFi8FkIY0
-
川#゚ -゚)「私が……相手だッ!」
ミ#;゚дメ#彡(………クー………)
疲弊し、一度は折れたはずのクーの心。
憧れを寄せた男の手に掛かり命を落とす悲劇をも、受け入れようとした。
しかし、その彼女にもう一度力を与えたのだ。
無関係でありながらも、死をも辞さずこの窮地に自らを救おうとする、彼らの背が。
そして、決めた。
どれだけ辛い現在でも、決して逃げ出してはならないと。
繊細で痛がりな自分の心を、もう一度だけ奮い立たせる時だった。
関係の無い自分の為に傷ついていく、彼らの手助けとなりたいという想いに従って。
- 640 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:09:01 ID:MFi8FkIY0
-
離別の時は訪れた―――二人にとって、本当の意味での。
ミルナにとってはそれが本望であり、クーにとっては苦渋の末に決断した選択。
川#゚ -゚)「彼らを殺すつもりなら、まずは私を殺してからにしろ……ミルナッ!」
ミ#;-дメ#彡「震えているぞ。それで、お前にその剣が振れるのか?」
爪'ー`)「……下がれ、クー。こいつは、俺達が―――」
川#゚ -゚)「もうそんな訳にいくかッ!私が、私の我侭がお前たちを巻き込んで―――」
(´・ω・`)「ブーンを助けたい、解る。助かるさ」
「だが、その前にまず……」
言葉を紡いだショボンが、白々しい仕草のまま視線をミルナへと向けた。
(´・ω・`)「退いてくれ」
- 641 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:10:04 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#;゚дメ#彡「………はっ」
迷いの無い正直な言葉に、ミルナは思わず笑みを浮かべる。
(´・ω・`)「ブーンの考え通りならば、今、貴方が戦う理由は無くなったはずだ」
川#゚ -゚)「何を―――ミルナは、ブーンを……!」
爪'ー`)「……心配すんな、こいつぁタフさがウリの一つ。最近死ぬのもクセになってるみてぇでな」
ミ#;゚дメ#彡「お前達は……俺がおとなしく引き下がるタマだと思っている訳か」
(´・ω・`)「そうでなくても、そうしてもらう」
爪'ー`)「こっちから売った喧嘩だ、リターンマッチはまた受け付けるからよ」
ミ#;-дメ#彡「………くく」
- 642 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:11:25 ID:MFi8FkIY0
-
ブーンの生存の可能性を見出したショボンとフォックスにとって、決して引き下がれない場面。
どうあってもブーンに止めをさすつもりならば、死力を尽くして相打ち以下に持ち込む。
ミルナ自身のダメージが大きい所を見れば、戦力が十分でない今でも、勝機は無くもない。
だが内心は決して穏やかではなかった。一度は息を吹き返したかのように動いたブーンの身体は、
今やもうぴくりとも微動だにする事のない状況―――恐らくは、手当するまでの時間が生死を分かつ。
(´・ω・`)(だが、恐らくは………)
元々が吹っ掛けたような戦いに、向こうが乗ってきた。
ならばこんな不躾な申し出にも、交渉の余地があるのではないかと希望はあった。
”ブチッ ブチブチッ”
(;´・ω・`)「お……ッ!」
- 643 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:12:38 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#;゚дメ#彡「そういって逃れるつもりなんだろうが……そうはいかんな」
ショボンの手元から放っていた魔力の流れが、突然に途絶える。
左腕に絡みついていた魔力の羊歯が、無造作に腕を振り上げるような動作で引きちぎられる。
爪;'ー`)「てめぇッ―――まだッ………!」
咄嗟にフォックスの投げ放ったナイフは、はたき落とされそこらの茂みへと転がっていった。
身体の自由が戻ったミルナは、一歩、二歩と前へと歩み出る。
川;゚ -゚)「私がやる……私が、注意を惹きつけるから――お前たちはッ!」
ミ#;゚дメ#彡「まるでおままごとだな、クーよ」
川#゚ -゚)「……止まれ、ミルナッ!」
叫ぶクーの言葉を聞き入れる事無く、ミルナの前進は止まらない。
底知れぬ威圧感を引き連れながら、ゆっくりと確実に彼女の元へと。
- 644 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:14:15 ID:MFi8FkIY0
-
――――だが、クーの目前まで迫った時、ミルナの視線は彼女から外れてその足元へと落ちた。
爪;'ー`)「ショボンッ、ぶっ放せ!」
(´・ω・`)(待て、フォックス。様子が………)
( ω )
ミ#;゚дメ#彡(………)
ブーンの頭上、そこでしゃがみ込むと、ミルナはじっと自らの掌を見つめていた。
何かを行う、その為に具合を確かめているかのように。
川#゚ -゚)「何をする気だ!?お前がそのつもりなら――――」
言いかけて、クーはその光景の既視感に囚われる。
死に掛けた人間の元に立ち、言い聞かせるようにして指先に集中する、その動作。
どこかで見たことがあった―――それはたしか、幼い頃に一度。
- 645 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:15:19 ID:MFi8FkIY0
-
川 ゚ -゚)(………!)
ミ#;゚дメ#彡「再戦だとか抜かしたな―――本気か?」
爪;'ー`)「ブーンが、生きていればの話だぜ……どけよ、そこを離れろ!」
ミ#;-дメ#彡「面白い……なら」
”ずぷっ”
ミ#;゚дメ#彡「―――その時がくれば、お前達にその気が無くても加減はせん」
ブーンの胸に、ミルナの右の手から4本の指先と、更に左手から1本の指が深くめり込む。
それらは骨と骨の継ぎ目を縫うようにして、革鎧を貫通し穴を開ける程、深々と差し込まれた。
- 646 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:16:12 ID:MFi8FkIY0
-
爪#'ー`)「てめぇッ!!」
川 ゚ -゚)「待て……」
フォックスが飛び掛かろうとした一瞬、クーが身体を寄せてミルナとの間に割り込む。
その彼女に浴びせようとした罵声を遮って、なだめるような口調で告げた。
川;゚ -゚)「見たことがあるんだ、あれを」
爪#'ー`)「何だってんだ、止めさそうとしてるだけじゃねぇかよッ」
(´・ω・`)「炎の玉を撃つが、よろしいかな?」
ミ#;-дメ#彡「………そう急くな―――見ても解からんだろうがな」
- 647 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:17:45 ID:MFi8FkIY0
-
―――活殺自在を謳うミルナの門派には、人体を破壊する技があるだけではない。
その対極として、人を活かす為の指技もまた、同じくらいに扱えなくてはならない。
東方の島々では主に医療分野で使われてきた技術を変化させ、経絡を突く事で
それらに眠る人体の力を呼び起こし、生命への活力とさせる孔術へと昇華させたものだ。
無論、環境などによる条件や施術者の技量に左右されるものではあるが。
ミ#;-дメ#彡「ミタジマ流孔術……”湧泉孔”」
( ω )「………ッ」
ミルナの爪がブーンの身体へと食いこむと、そこで彼の身体は微弱な反応を見せる。
それに最も驚きの表情を見せたのは、フォックスとショボンであった。
(´・ω・`)「―――不思議な技だ。もしかして、彼を助けようと?」
- 648 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:19:06 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#゚дメ#彡「死者を救う事など、出来ようはずもない」
爪;'ー`)「おいおい、じゃあそりゃあ一体何の真似だよ!」
川 ゚ -゚)(やはり、これは―――)
ミルナの言葉が、幼き頃のクーの脳裏に焼き付いた痛ましい光景を想い出させた。
異端審問と称した旧・聖ラウンジ教徒達による拷問の傷から、命を落とした両親。
やはり彼はまだ、あの日の事を自らへの十字架と課しているのだと確信する。
自分の両親を救えなかった事への悔しさを、それこそ、失った自分の悲しみと同じように。
ミ#゚дメ#彡「だが、この男にまだ運があれば―――五分もすれば息を吹き返すかもな」
川;゚ -゚)「……ミルナ、お前は……どうして」
- 649 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:20:13 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#-дメ#彡「……勘違いするなよ」
川;゚ -゚)
施術を終えるとミルナはゆっくりと立ち上がり、三人に未だ険しい眼光で一瞥をくれる。
クーとて、完全に敵意が消えて失せた訳ではない。
ブーンを死の淵に追いやっておきながら、しかし今はブーンの手当を施した。
彼への憎悪を残しながらも、波紋を投げかけてくるような言葉は、やはり心をかき乱すのだ。
(´・ω・`)「退いてくれる、そう受け取っても?」
ミ#゚дメ#彡「この男がもし目覚めたら、伝えておけ」
- 650 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:21:35 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#-дメ#彡「そう遠くない内に再び決着を付ける。その時まで―――精進しておけとな」
退いてくれさえすれば万々歳の、駄目で元々の交渉だった。
しかしどうやらその価値はあったようだ。
自らの魔術を徒手空拳で切り裂く程の未知の力、ショボンはそれにある種の希望を見出す。
(´・ω・`)「………いいだろう」
爪'ー`)「―――助かるんだろうな、本当に」
ミ#-дメ#彡「言ったはずだ、俺に死者を救う事など出来ん―――だがこの男が運に見初められていれば」
(´・ω・`)「十分だよ。あなたに感謝するのもおかしな話かも知れないが……
こちらには、奇跡を起こせる聖女様もいるんでね」
- 651 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:22:59 ID:MFi8FkIY0
-
くい、と視線を送った先では、積み重なった疲労に意識を失っているツンの姿。
ξ ⊿ )ξ
ミルナの手技によって微弱に反応した今のブーンならば、彼女の聖術によって助けられる。
叩き起こして鞭打つような過酷を強いてしまうが、あとから自分たちが彼女にぼやかれればいい。
彼には憂慮すべき未来を与えてしまう事になれど、多少は仕方のない事だ。
ミ#゚дメ#彡「そいつの名は、何だ」
(´・ω・`)「”ブーン=フリオニール”だ。再戦のご要望は楽園亭まで……」
爪;'ー`)(バカッ、こいつ―――偽名でも何でも言って取り繕っときゃいいものを……!)
- 652 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:24:03 ID:MFi8FkIY0
-
ミ#-дメ#彡「……憶えておくとしよう」
一同に去来するのは奇妙な感情、奇妙な縁を感じていた。
今しがたまで戦っていた相手と、今はこうして会話をしている事に。
そのやり取りのさなか、クーは足元に視線を落として驚きの声を漏らす。
(; ω )「―――かはッ!」
川 ゚ -゚)「……ブーンッ!?」
爪;'ー`)「お、起きやがったか!」
意識は未だ完全に戻っていないようだが、少しずつブーンの顔には血色が戻りつつある。
息を吹き返し、身体が呼吸を思い出そうとしているのを見て―――助かったと確信できた。
- 653 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:25:25 ID:MFi8FkIY0
-
(´・ω・`)「フォックス!彼をツンの元まで運んでくれ、僕はツンを叩き起こす!」
爪'ー`)「よしきた!……じゃあ狼のおっさん、そういう事だからよ」
ミ#-дメ#彡「好きにしろ」
川;゚ -゚)「………ミルナ」
ブーンが息を吹き返したと分かると、各々即座に行動へと走る光景から、ミルナは既に背を向けていた。
クーは未だブーンの剣を手にしながらも、その背を見送るようにして立ち尽くす。
過去の思い出と現在の想いとが交錯し、ミルナへと掛けるべき言葉を短い時間で必死に模索した。
数々の出来事に感情の整理がついていない頭では、それがうまく見つからないばかりに。
- 654 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:26:38 ID:MFi8FkIY0
-
川;゚ -゚)「――――ミルナッ!!」
ミルナはもう、またいつかのように自分の元を去ろうとしている。
しかしその前に、一つだけ伝えておかなければならない事があった。
思いの丈を振り絞るようにして叫んだクーの声に、そしてミルナは一度だけ足を止めた。
ミ#゚ メ#彡「………」
川 - )「……私は、今まで自分一人で何でもこなせると、自分は強い人間だと思っていた」
川 ゚ -゚)「いや、そうありたいと願って、そう振舞おうとしていたんだ。
ミルナ―――お前と会うために、お前のように強く在りたいと」
ミ#- メ#彡
- 655 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:29:11 ID:MFi8FkIY0
-
川 - )「それは、私がお前に依存していたからだ――――。
私が冒険者を志した理由も、お前に会う為だった」
ミ#゚ メ#彡「どう言いくるめようと、俺はもはや人を食らう魔獣………お前たちと交わる事はない」
川; - )「そうだな、私はもう、お前のようになろうとはしないさ……」
ミ#゚ メ#彡「懸命だ」
”俺のようになるな”
それはミルナ自身が、彼女へと残した言葉。
ミ#- メ#彡(苦々しい……な)
だがそれは自衛の手段だったのだと、クーには見せぬまま口元は自嘲の笑みに歪む。
- 656 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:30:21 ID:MFi8FkIY0
-
罪の意識という十字架や、人一人の人生を背負う事への自信の無さ。
自分という人間がクーを育ててはならないなどとは、体良く並べられた綺麗ごとだ。
心の脆さをクーに見せる事のないまま、自分は彼女を手離したのだった。
川;゚ -゚)「私は自分の弱さに気づいた―――だけど」
ミ#゚ メ#彡
昔よりも成長した彼女は決して、弱い女性などではなかった。
心の弱さに負けた自身とは対照的に、悲劇的な幼少を送りながらも彼女は強く育った。
―――依存の対象を失った今となっても、今振り返れば彼女の瞳はきっと、
強い意思を秘めているに違いない事だろうと思う。
だが決して振り返る事はしないと決めたミルナの背に、彼女は最後の言葉を叫んだ。
- 657 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:32:38 ID:MFi8FkIY0
-
川#゚ -゚)「だけど―――決してお前の事を諦めた訳じゃないぞッ!」
ミ#゚ メ#彡「………!」
たとえ肉体は鋼玉であろうとも、心に亀裂の入ったミルナ。
たとえ肉体は硝子であろうとも、心に折れぬ芯を支えとするクー。
互いに相手を思えばこそ、譲る事の出来ない感情があった。
(お前には―――お前の場所がある)
川#゚ -゚)「お前がどんなでも―――」
(……の…… ……には ……るな………)
深い闇が口を開ける山々へと消えていくミルナの背は、次第に遠くなり。
やがて、彼自身の声も完全に聞こえなくなるまで、クーはその場で彼を見送っていた。
川# - )「私はいつか、必ずお前を………ッ」
- 658 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:33:39 ID:MFi8FkIY0
-
再び訪れた別れの時―――しかしこれは、絶対に永遠のものとはさせない。
それは相手の意思がどうであろうと、自分で決めた事への誓いだった。
川 ゚ -゚)「………追いかけて、捕まえてやるからな」
この別れは、きっといずれ意味をもたらすものなのだとクーは自分の中に答えを見出す。
自分の弱さを受け入れて、自分が旅する意味を誰かに預けていた、弱い自分とも決別した。
その上で、やる事自体は変わらない。
聞きたい事や話したい事が、また山ほど増えてしまった。
一緒に過ごした時間が少なかろうと、想いというものはその分を補うように積み重なってしまうのだ。
- 659 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:34:33 ID:MFi8FkIY0
-
心に荒波を立てた嵐のような一夜が過ぎ去った後、やがて朝鳥達が告げるのは夜明けの合図。
木々の隙間からかすかに覗く光は、日が昇りつつある事だけでなく、朗報をも運んできた。
それは、決意の朝に相応しい。
新たな自分と向きあわせてくれるに至った立役者の、生還の報せだった。
爪'ー`)「―――クー、あいつよ……目ぇ覚めたみてぇだぜ」
川 ゚ -゚)「ッ!」
―――――
――――――――――
―――――――――――――――
- 660 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:35:46 ID:MFi8FkIY0
-
ξ#゚⊿゚)ξ「何勝手に死んでんのよッ!バッカじゃない!?一人で勝手に無理して、
挙句……私とっても疲れてるんですけど!?」
(;^ω^)「す、すまないおツン。けど今回は死神さんとご対面する事もなかったから
ブーンの中ではノーカンということで………それほど、おお事でもないお」
ξ#゚⊿゚)ξ「………ッ!」
”ばちんっ”
不眠での苛立ちも募っていたツンに聞かされたのは、敵に塩を送られながらも
未だ危機的状況にあったブーンが、生死の境を彷徨っているという報せ。
ようやく意識を取り戻したかと思えば、そこへ来てこの脳天気ぶりがツンの怒りを買う。
次の瞬間、ブーンの頬に茜色の手の平の痕がはっきりと出来上がった。
- 661 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:37:02 ID:MFi8FkIY0
-
ξ#゚⊿゚)ξ「もうあんたなんか知らないわよッ」
(;^ω^#)「……と、ともあれ……ブーンの中での賭けは、ブーン一人勝ち、だおね……」
(´・ω・`)「あぁ、君が殺されなければっ……てやつかい?」
(;^ω^#)「やっぱりあいつ、ブーンを殺さなかったお」
爪'ー`)「いや、でもお前、一度死んでるっぽいぜ」
(;^ω^#)「………へっ?」
一時的に仮死状態になった際、確かに肉体としては死んでいたのかも知れない。
だが、無意識化で反撃を繰り出す程の精神力があったのは、どう説明するべきか。
本人でさえ憶えていない出来事を、周囲も説明に戸惑った。
- 662 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:39:42 ID:MFi8FkIY0
-
しかし、ブーンに手当を施したのは、そうさせたミルナ自身だった。
一時は生命すら危ぶまれる出来事があったばかりだというのに、相変わらず
ひょうきんな面々を横目に、少し遠い目をしながらクーは呟いた。
川 ゚ -゚)「……どう、なのかな」
今は分からない、ミルナがブーンを助けるに至った理由を。
しかしいずれは直接本人を問いただして、聞き出してやる事を考えていた。
(;^ω^#)「―――クー……今回は、その……」
川 ゚ -゚)「………」
立ち上がると、物思いに耽るようなクーの横顔を前に俯いて、ブーンは言葉を探していた。
- 663 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:41:02 ID:MFi8FkIY0
-
リュメで起きた事件の事は聞かされている。そして今回も彼女は大切な人間に裏切られた格好で、
今こうして別れを余儀なくされてしまったのだ―――傷ついているはず、そう思って。
しかしブーンの胸中とは裏腹に、じんじんと腫れ上がったブーンの左頬が視界に入ると、
ぷっと苦笑した後に、彼女は冷えた指先を繊細に押し当てながら、その場所を撫ぜた。
川 ゚ -゚)「大丈夫か……?それ」
(;*^ω^#)「い、いやいやいや!!だ、大丈夫だお!こんなもん何ともないおッ!」
爪'ー`)「ニクイじゃねーか、ブーンよぉ」
より一層膨れ上がった丸顔が、瞬時にしてのぼせたように赤みを帯びた。
照れ臭そうに首を振ると、クーの指先が触れない位置にまで慌てて後ずさる。
その場所で、ブーンの背に何かが当たった。
- 664 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:43:59 ID:MFi8FkIY0
-
ξ#゚⊿゚)ξ「あたしのあげた”聖痕”を……こんなもんとは何よッ!」
(;^ω^#)「あ、あの」
”ばちん”
ξ#゚⊿゚)ξ「……命の恩人をもっと敬いなさいよ」
(;# ω #)「………す、すいませんでしたお(理不尽だお……)」
(´・ω・`)(”聖痕”って……そんな俗なものだったかなぁ)
川;゚ -゚)「本当に大丈夫なのか?それ」
(;#^ω^#)「だ、大丈夫ですお。はい」
川;゚ー゚)「………ぷっ」
- 665 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:45:31 ID:MFi8FkIY0
-
頬を左右対称に茜の紋で染めたブーンの膨れ面を見て、そこでクーが思わず吹き出した。
ミルナを前にあれほど度胸がありながら、なんとも情けなく尻に敷かれる現状との落差。
ひょうきんで脳天気なブーンのにやけ面が、何とも面白くて。
川; ー )「うく……あっはっはは……!」
ξ゚⊿゚)ξ「……クー?」
(;#^ω^#)「………」
きっとクーは憔悴しきっている事だろうと気を揉んでいたブーン達だった。
しかし頭上に朝日の立ち上ろうとする中、一際大きな笑い声を上げた彼女の様子に、目を丸くする。
次の瞬間見せた彼女の表情には、ブーン達が危惧したような物憂げな色は浮かんでいなかった。
- 666 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:46:56 ID:MFi8FkIY0
-
川 ゚ー゚)「―――全く、お前たちは馬鹿だな」
(;#^ω^#)「きょ、恐縮する他ないお」
(´・ω・`)(まぁ、間違ってないんだよね……)
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと!聞き捨てならないわね……」
その言葉にツンが食って掛かろうとしたが、なおもクーが言葉を続けてそれを遮る。
疲れた様子はあるものの、意外な程に明るい藍色を瞳に宿したまま。
川 ゚ー゚)「本当に大馬鹿者だ……お前たちは。マスターに言われるままこんな場所まで来て、
自分の我侭なんかの為に、わざわざあんな恐ろしい相手と戦って―――」
- 667 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:48:02 ID:MFi8FkIY0
-
ξ゚⊿゚)ξ「………」
川 ゚ー゚)「それでも……そんな後でもこうして、笑っていられるなんてな」
爪'ー`)y‐「どこの言葉だったか忘れたが、”えんじょい&えきさいてんぐ”が、
人生を楽しむ為のモットーってなとこよ」
川 ー )「フッ」
嵐を伴って現れた男が、クーにとって新たな道を示してくれた。
その男のようにはなれない。その男を救うには、自分という人間は弱かったから。
だが弱い自分を受け入れる事から、きっと新たな道は切り開かれるのだろう。
川 ゚ー゚)「なぁ。その……一つ頼みがあるんだが」
ξ゚⊿゚)ξ「………?」
- 668 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:51:43 ID:MFi8FkIY0
-
一人で生きている、冒険者というものをやれているのだと勘違いしていた。
きっとそれをしてこれたのは、ミルナとの再会という目標があったから。
それを拒む今の彼を助けるには、自分の力だけでは足りない。
それには”仲間”が要るのだ。
川 ゚ー゚)「―――私も、その”大馬鹿者”の一人に加えてもらえないだろうか―――」
失ってみて、初めて気づいた事があった。
失って弱くなる事、崩折れてしまいそうになる事だけではない。
”失いたくないからこそ、人は強くなる事も出来る”のだと。
これまで仕事で顔を合わせるだけの、縁遠い関係だと思っていたもの。
しかしその大切さに気づく事が出来たのは、様々な人物達との出会いがあったからこそだ。
ξ゚ー゚)ξ「……っ!」
- 669 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:54:16 ID:MFi8FkIY0
-
爪'ー`)y‐「へっ……口説いちまうぜ?」
(´・ω・`)「一応だけど、リーダーの意向を聞いておこうか?」
人と人との結びつきは、時に互いに足りない物を補いあいながらも、きっと自分自身を成長させる。
誰かの真似をして孤高を気取るのは、どうやら自分には向いていない。
そんな事を考える為のきっかけを与えてくれた人物を、助けるため。
しかし今はただ、彼らの眩しさに惹き寄せられて―――
(#^ω^#)「そんなもん――――大歓迎だお……!」
- 670 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:56:17 ID:MFi8FkIY0
-
ツンやクーの、互いに抱える複雑な感情、わだかまりはきっとすぐには消えないだろう。
だが、これから苦楽を分かち合うであろう、新たな仲間を迎えるその瞬間。
唯一この場で何も考えていないパーティーリーダーは、即座にその申し出に応じた。
ξ ー )ξ(宿に帰ったら、何を話したらいいかな……)
しかしそれには時間をかければいい、少しずつ、解いていけばいいのだ。
その為の時間を共にする事が可能になった事に、ツンの口元には笑みがこぼれた。
(#^ω^#)「いやはや、マスターに良い土産話を持っていけるおね」
(´・ω・`)「色々あって疲れているだろう――まずは村に戻って、宿を取ろうか」
ξ゚ー゚)ξ「仲間になる以上、嫌な事も全部話してくれていいんだから」
川 ゚ -゚)「あぁ、長くなるかも知れないが……改めて、よろしく頼む」
- 671 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:57:10 ID:MFi8FkIY0
-
一同が手をかざしあい、結束を深める為の簡易的な儀式を行なっていた時だった。
ぽん、と手を叩いたフォックスが、何かを思い出したようにブーンの方を振り向く。
爪'ー`)「あ……そういや、お前さ―――」
ξ゚⊿゚)ξ「?」
(#^ω^#)「何だお?」
(´・ω・`)「あぁ、忘れちゃいけない伝言だったよ」
爪'ー`)「お前、近い内にまた”あいつ”と闘る事になるから鍛えとけよ?」
(;#^ω^#)「はお!?あ、あいつって……」
(´・ω・`)「勿論、さっきの彼の事さ―――君をご指名で”再戦”を熱望のご様子だった」
川;゚ -゚)「………」
- 672 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 05:58:23 ID:MFi8FkIY0
-
(;#゚ ω゚#)「ちょ……ッちょっと待つお!?何勝手に決めてんだお!」
爪'ー`)「いやさ、あの場はあぁでも言わねぇとやばかったんだよ……それに、喰いついてきたしな」
(;#゚ ω゚#)「か、勘弁してくれお!あんなのとガチでやり合うつもりはないんだってばお!」
ロード・ヴァンパイアとの決闘を10年後に控えながらも、本人は知らぬ間に
ライカンスロープとの再戦もスケジュールに詰め込まれてしまったブーンは、一人嘆く。
今の内から猛烈に経験を積んで、すぐにでも達人級の剣士になっておかねば
先々では命が幾つあっても足りやしない。
(´・ω・`)「どうにも、君は怪物に好かれる傾向があるようだ」
川;゚ -゚)「ま、まぁその時は一緒に剣を並べてやるさ」
- 673 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:00:43 ID:MFi8FkIY0
-
(;#゚ ω゚#)「ブーンは意識がなかったお!だからそんな約束は無効だおぉッ!」
(´・ω・`)(しかし……ね)
騒がしいブーンをなだめながら、やがて一時の滞在先としてロア村への帰路につく楽園亭の一行。
あの場でそれほど固くもない口約束を交わした当事者の一人であるショボンは、
一人木々から漏れる日差しを見上げながら、その時の事を思い返していた。
(´・ω・`)(楽園亭と一口に言っても、大陸には腐る程あるし、拠点の街名も聞かなかった……)
(;#゚ ω゚#)「勝手に約束取り付けやがって!ショボンとフォックスめ、見損なったお!」
(´・ω・`)「あぁ……ごめんごめん……」
爪'ー`)y‐「うるせーよ馬鹿」
- 674 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:02:37 ID:MFi8FkIY0
-
”でも、向こうにそんなつもりは、本当はなさそうだけれど―――?”
言ってしまえばやれ無責任だ何だと罵られるのが想像ついたので、その言葉は留めた。
ミルナが”エルンスト=ハインリッヒ”のような本当の戦闘狂ならば、あの場で引き下がったりは
しないであろうなと思えたからだ。
ξ゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)
人狼を想い人に持つ少女の傍には、今、奇跡を起こす少女が寄り添い歩く。
クーが旅の目的をかの人狼とするならば、それにはきっとツンの力が肝要で、
クーの物語を理想的な方向へと導く可能性を担う、重要な人物足りえるだろう。
(´・ω・`)(もし次に出会った時には、そんな形にはならないかも知れないさ)
そうして皆が皆の理想を手助けし合えれば最良だと、そんな事を考えながら歩いていた。
―――――――――――――――
――――――――――
―――――
- 675 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:04:58 ID:MFi8FkIY0
-
( ω )ξ ⊿ )ξ(´ ω `)爪 ー )y-
ヴィップワースのようです
第10話
「孤狼は月厘に哭く(2)」
川 - )
- 676 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:06:29 ID:MFi8FkIY0
-
同じ時、森の深くの大木の一つに背を持たれて、彼は僅かに差し込む日の光を見上げていた。
(;゚дメ )「……人型に戻っても……傷の程度は同じ位か」
左目は失い、胸には深く十文字の刀傷が刻まれている。
あの連中から離れた後に、ややあって自然と人の姿に戻る事が出来た。
”ムーンロア”による精神支配から己を引き戻す事が出来たのは、内なる奥底にて
あの金色に彩られた”螺旋の蛇”と向き合う事が出来たからだった。
もしかすると、もうこの先あの獣(けだもの)による支配を受けずに済むかも知れない。
しかしそんな甘さが、即身近な人物の死に繋がる事もあるかも知れないのだ。
知らぬ間に人を喰らった後の口の中に残った髪の毛の食感は、思い出すだけで怖気が走る。
- 677 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:07:26 ID:MFi8FkIY0
-
(;゚дメ )「中々の……剣士だった」
甘さを捨てて、クーとの繋がりを断ち切るべく放った、必殺の一撃。
それは確かに剣士を死の淵にまで追いやったが、彼の反撃の刃はあまりに強力だった。
ここに来るまで点々と残してきた血痕が、その威力を何より物語る。
しかしその傷が既に塞がりかけている事こそ、自分が人間を逸脱してしまったのだと思い至らしめる。
(;゚дメ )「………この姿で、やり合いたい相手だったな」
既に多量に流してしまった血液で、胸を押さえる手は紅に染まっていた。
呼吸を荒げながら、見事に我を突き通した剣士の闘いは印象深いものがあった。
しかし、やはり一番に思い出すものは―――
- 678 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:08:41 ID:MFi8FkIY0
-
(;゚дメ )「クーめ……俺に似て、強情になりやがった……」
彼女は自分に憧れを寄せつつも、自分に無い物を既に持っていた。
弱い男と、強い女――――傍目から見ればそうは見えないかも知れないが、
ミルナからしてみれば逆だ。外見がいくら強かろうと、中身が伴わないのでは話にならない。
過去から目を背けるように逃げ続け、未だにそれを繰り返している自分自身。
心が脆いからこそ、腕っ節の強さぐらいにしか自信を持つ事が出来ない。
しかしクーはそんな自分とは真逆だ。
幼い頃から、向き合い続けている。
どんなに辛い出来事であろうとも、折れかけながら少しずつ強くなって。
- 679 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:12:27 ID:MFi8FkIY0
-
(;゚дメ )「それに、良い女になっていた―――ふッ……俺があと……5年も若ければ……」
クーに依存していたのは、もしかしたら自分の方かも知れない。
こうして今のような人間らしい感情を与えてくれた彼女を、傷つけたくないからこそ。
耳に聞こえる朝鳥達の鳴き声が、次第に遠くなっていく。
いくら化け物の身体といえども、少しばかり血を流しすぎたようだった。
(;-дメ )「はは――――なんて、な……」
去り際に彼女に残した自分の言葉を、今の情けない姿の自分に当てはめては苦笑した。
次第に、意思とは無関係に切り取られていくような感覚の、意識。
白くぼやけていく視界の端に、幼い頃のクーの笑顔と、さっき出会ったばかりのクーの泣き顔が掠めた。
「少し―――疲れた………な」
何羽かの小鳥が身体のどこかに留まったようだったが、こそばゆくも心地良い感触に目を瞑る。
それらの鳴き声が、まどろみに落ちてゆくミルナの耳には、次第に遠く聞こえていった――――――
―――――――――――――――
――――――――――
―――――
- 680 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:14:36 ID:MFi8FkIY0
-
( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ(´・ω・`)爪'ー`)y‐
ヴィップワースのようです
第10話
「孤狼は月厘に哭く(2)」
川 ゚ -゚)
-了-
- 681 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:26:52 ID:9qnNzZXsO
- 乙です
- 682 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 06:27:34 ID:MFi8FkIY0
- 第10話(2)は >>332-680 までになるかと思います。
とりあえず、途切れまくったしなんか色々残念な感じですいません。
少し反響のあった8話より面白くしようと気負い過ぎてしくじったね。
本年度中に投下がもしあらば、次は( ・∀・)編か( ゚∀゚)/ ゚、。 /編のどちらかにしようかと思います……重ね重ね申し訳ございません……
- 683 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 07:26:53 ID:yuqkJuY20
- 乙
- 684 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 07:52:18 ID:xnb0y9kw0
- 乙
- 685 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 12:18:53 ID:AmQf0B2U0
- 待ってたぞ!
ミルナかっこいいな
- 686 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 18:34:15 ID:MaH6VMt6O
- やっぱ読み応えあるな
- 687 :名も無きAAのようです:2013/05/28(火) 21:32:41 ID:10mQ6EgAO
- 100レス超えだったが一気に読んでしまったよ
- 688 :名も無きAAのようです:2013/05/29(水) 01:58:46 ID:P/M2IKlQ0
- おつ
大好きだ
- 689 :名も無きAAのようです:2013/05/29(水) 17:57:27 ID:Ql2Z5l2Q0
- おつ
次も気長に待つよ
- 690 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:46:34 ID:PiH4YMwA0
-
いつの世も、持たぬ者は持つ者を妬み、羨む。
本人の真意など知らないままに、自己中心的で、身勝手に囃し立てる。
その本心ではおこぼれに与ろうと、あるいは蹴落としてやろうとしながらも。
人が人の中で生きていこうとすれば仕方のない事だ。
力を持たない者は、力を持った誰かに与する事でしか自分を守る事が出来ないから。
ましてや、それは力を示し続ける事だけが周囲からの信頼を募る唯一の手段である、
この城壁都市バルグミュラーにおいては尚更の事だった。
――― 【宵の明星亭】 ―――
「よぉ、傷の具合はもういいのかい」
/ ゚、。 /「………」
返事が帰ってこないのは、いつもの事だった。
- 691 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:47:53 ID:PiH4YMwA0
-
彼に気さくに声を掛けるのは、奇特な同業者の一部を除いてはこの宿の店主だけ。
普段からまともに言葉を交わすこともほとんどないのだが、”そういう男”だとして
認識している宿の店主は、ダイオード=バランサックに対して信頼を置いていた。
「そういえば、スティーヴォの奴を見ねぇな。いつもだったらこの時間に
のっそり起きてきては”メシだメシだ”って騒ぐんだけどな」
/ ゚、。 /「………昨日、一緒だった」
マスターの何気ない問いに、ダイオードはグラスの中の氷を一度揺らしてから答えた。
その様子に、マスターははっと顔を上げると、すぐに合点がいったようである。
都市周辺のゴブリンやオークなどの低級妖魔の排除は、もう目処もついてきた。
しかしその代わり、各所に点在するオーガ洞窟の存在が明るみになり、ここ最近になって
届く依頼は、その探索や討伐を中心とした危険なものばかりが連日続いている。
勿論、全部が全部何事も無く終えられるような依頼ばかりではない。
- 692 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:49:53 ID:PiH4YMwA0
-
「そうか……死んだか、あいつ」
/ ゚、。 /「………」
昨日の顔見知りが、今日になってはいずれ忘れられる存在になっていく。
それも茶飯事であるこの街にあって、店を利用する客がこの世を去っていく事は、
マスターにとってはいつもひどく目覚めの悪い、物憂げな表情にさせる報せだった。
「へへ……あいつ、お前さんの事を”兄貴”とか呼んで付きまとってたっけな」
/ ゚、。 /「………」
ダイオードは、どれほど多くの人間が命を落とす依頼であっても、必ず帰って来る。
鉄仮面で古傷を隠す彼からは、誰にもその表情や人格を窺い知る事が出来ない男。
それだけに、近寄りがたい不吉な存在として奇異の眼差しで見られてばかりであるが。
しかし店主の考えからすれば、こういった寡黙な男こそが戦場では頼りになる存在だった。
- 693 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:50:47 ID:PiH4YMwA0
-
嫉妬や功名心などに駆られる事なく、周囲の冒険者達はこういった男を担ぎあげて、
少しでも互いに死者を減らせてくれれば商売にも身が入るのだろうが。
その架け橋となってくれそうな奇特な男の一人も、またこの世を去った。
「こいつは、スティーヴォの分だ」
新たに取り出したグラスに琥珀色の液体を注ぐと、それをダイオードの隣に置いた。
そこは空席だったが、まだ若かった冒険者の一人を偲んでの一献。
死体を持ち帰ってくる事は出来なかったのだろう。
当然、敵地のエサ箱に飛び込んで行くような彼らには、それは困難を極める。
せいぜい持ち帰ってこられるのは形見の品や、その剣ぐらいなものだ。
それすら無いという事は、恐らくスティーヴォという冒険者は
肉も骨も残らないような凄絶な死に方をしたのだろうと、店主は一人思った。
元々が身寄りの無い人間も多い。
誰か一人が帰らぬものになったとしても、悲しむ人間も少ないのだが。
/ ゚、。 /「………中央の冒険者は、まだ着かないのか」
- 694 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:53:18 ID:PiH4YMwA0
-
「予定よりも随分と遅れているが、恐らく今日辺りだろう」
ヴィップからの冒険者が、このバルグミュラーに来るという。
ここでは質の大小はあれども、人脈や何かで依頼に食いっぱぐれるような事はまずない。
誰しもが平等に、そして均等に”命を切り売りする仕事”にありつくことが出来る。
あそこには古参の腕利きも集うというが、過去にここへと流れてきた冒険者達の中には、
想像以上の過酷さに音を上げて、すぐに古巣へと逃げ帰っていく軟弱者も多かった。
妖魔達と闘争に明け暮れるのが常であるこの街に、馴染むことが出来なかった者達だ。
話に聞く所では、これから顔を合わせる男は随分と大言を吐いているようだったが、
それがこれまでの軟弱者達と同じ結果にならない事を、願うばかりだった。
/ ゚、。 /「死んではいまいな」
「どうだかなぁ。生きるの死ぬのなんざ……この街じゃ思うようにいかねぇからよ」
- 695 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:55:14 ID:PiH4YMwA0
-
ため息混じりに呟くと、少しずつ賑やかになっていく店内に合わせて、
店主はいつもの様に朝の注文ラッシュへと忙殺され始めると、その場を離れた。
いつもの時間、いつもの場所。
ダイオードは誰と関わる事も無く、一人いつもと同じ酒を流し込む。
その彼の背を、少し遠く離れたテーブルから眺める冒険者の姿があった。
眼差しに込められているのは、決して好意的な感情では無かった。
(メ =..=)「……へへ」
風貌だけを見れば山賊の類と何ら変わらないが、顔に刻まれた古傷はいかにもな
古参の冒険者といった面構えだ。傍目にもそれがリーダー格である事は一目で頷ける。
そこへ、気弱そうな男の一人がおずおずと引け腰で切り出した。
「ほ、本当にやるんですかよぅ……?」
- 696 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 11:58:53 ID:PiH4YMwA0
-
卓を囲む4人の冒険者のパーティーは、ダイオードがこの街へと流れ着いて来るまでは、
この界隈で随分と幅を効かせてきた、強面で通ってきた一団だ。
荒っぽい彼らを周囲は忌避して来たが、ミステリアスで恐ろしく腕っ節の強い
ダイオードという男を前にしては、彼らとて周囲と同じように振る舞う他なかった。
しかしその日々は、彼らのような人種にとって耐え難い遺恨を残すものだった。
自分たちの事など気にも留めない、言い知れぬ雰囲気を纏う男の威を借るようにして、
周囲もまた彼らの圧力を気にかけないようになっていったからだ。
(メ =..=)「当たりめぇだ。あの若造にナメられたままじゃ、界隈でいい笑いモンだぜ」
「だけど、兄貴―――そんな事したら俺たちが……」
(メ =..=)「……直接殺る訳じゃねぇんだ。なぁに、何とでもなるさ」
- 697 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:00:05 ID:PiH4YMwA0
-
「そうだよ、ビビってんならお前は俺達から離れて一人でやっていきゃあいい」
「でも……よぅ」
(メ =..=)「いいか、おめぇがあいつにこう伝えて来い。
”討伐依頼の残党狩りの面子があと一人足りねぇから付き合え”ってな」
「だけど、あ、あそこは――――」
(メ =..=)「へッ……知ったこっちゃねぇさ。おら、とっとと行けッ!」
「へ、へぇっ」
自分たちの領分、それを侵される事に対して、連中は良しとしなかった。
功を奪い合い、富を勝ち取る事こそがこの街での冒険者達の存在意義。
- 698 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:02:04 ID:PiH4YMwA0
-
自らの食い扶持を維持する為には、大きな仕事を次々と任されていく信頼を持ち得る
存在は邪魔なのだ。上を行く者が居るならばそれに取り入るか、あるいは潰すしかない。
やがて、リーダー格の男に促されるまま席を立った気弱な男は、ダイオードの元へ歩いて行った。
「これで、あいつも最後ですかねぇ」
近々、ヴィップの冒険者を交えた大規模なオーガ洞窟の掃討作戦が予定されている。
一体どれほどの数が潜んでいるか分からないその場所に招かれるのは、精鋭ばかりだという。
/ ゚、。 /
これまでに無い程大きく広がったオーガの根城、そこを潰しさせすれば、
この街全体の士気の向上や、今後の討伐依頼の難易度もぐっと下がる事などを見込める。
だが、そんな場所にたった一人で足を踏み入れてしまえばどうなるか―――――
(メ =..=)「良い夢見ろやぁ、鉄面皮ぃ」
- 699 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:03:23 ID:PiH4YMwA0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「臨むもの、望まざるもの」
.
- 700 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:11:25 ID:PiH4YMwA0
-
――― 城壁都市 バルグミュラー ―――
_
(;゚∀゚)「ったく……てめぇのせいでとんだ時間食っちまった」
およそ6日間の道程を経て、ようやく目的地へと辿り着く事が出来た。
ギコに憎まれ口を叩きながらも、安堵したジョルジュは少しだけその歩調を緩める。
その間、旅を共にしているギコには心労が絶えなかった事だろう。
いや、そもそもの問題として、まず彼が叱責の数々を重く受け止めていたか分からないが。
( ,;-Д-)「ようやくかぁ、長かったぜ……」
地図を持たせれば見方を知らず、道を間違える事は言うに及ばず、
食える野草やそうでないものとの区別もつかず、毒草を鍋に入れようとしたり。
野営の見張り番に居眠りをしている所を発見してしまうかと思えば、
食糧調達の間の火起こしを任せた所、ジョルジュが帰ってきても尚悪戦苦闘していたり。
などなど、きっと心労が絶えなかったのはジョルジュの方かも知れない。
- 701 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:13:47 ID:PiH4YMwA0
-
_
( ゚∀゚)「宿に行く前に言っておくがよ」
( ,,゚Д゚)「んあ?」
_
( ゚∀゚)「ヴィップじゃお前みてぇな半端モンでもなんとかやれたかも知らねぇが、
ここいらの野郎どもはてめぇの腕だけで生きてる奴らが殆どだ」
( ,,゚Д゚)「あぁ、ナメられんなよって話だろ?聞かされたよ、何度も」
_
( ゚∀゚)「そうだ。一緒に居る俺がこっ恥ずかしいからな……」
( ,;-Д-)「へいへい」
ジョルジュもギコも、互いに身の丈に合わない程の大きな剣を背に負う
冒険者であるが、そのお互いの力量には大きく隔たりがある。
- 702 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:15:15 ID:PiH4YMwA0
-
功名心だけで地元を飛び出して来たようなギコは、まだこの街の血生臭さを知らない。
見かけだけでもそれなりで、ヴィップではそれなりに仕事を回してもらえていたギコだが、
そんなハッタリだけで食っていける程、この街の依頼は甘くはないのだ。
そして何より、ジョルジュの話からすれば”ナメられてはいけない”理由があるのだという。
_
( ゚∀゚)「ここの治安維持隊をまとめるお偉いさんと、俺との間でナシをつけてある」
( ,,゚Д゚)「おうよ、俺たちが”掃討作戦”に加わるって話だろ?今から腕が鳴るぜ!」
_
( ゚∀゚)「………」
ジョルジュの表情が、純真な子供のような反応を示すギコの態度の前に曇る。
そして、これまである意味で恐れていた質問をぶつけてみようと思った。
_
( ゚∀゚)「お前、オーガと戦った事あんのか?」
- 703 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:17:16 ID:PiH4YMwA0
-
( ,,゚Д^)「へへ、当たり前だろ?あの……ブタっ鼻みてぇな連中、
たまに鎧着てる奴は手強いみてぇだけど、話に聞く限り楽勝よ!」
_
(;-∀-)「ブタッ鼻……そりゃオークだ、オーク。それに、戦った事もねぇのかよ」
( ,,゚Д゚)「これから行くのは、違うのか?」
_
(;゚∀゚)「あのなぁ、間違ってもこれからお偉いさんと会う時にはそんな事口走んなよ?
下手すりゃ討伐隊から外されかねないからな」
_
( ゚∀゚)「オーガは、通常一匹に対して三人がかりで戦うのが好ましい―――人鬼だ」
( ,,゚Д゚)「……へぇ」
_
( ゚∀゚)「奴らは、人間を何よりの好物としやがる。俺らの2倍近くもでけぇ図体で、
生意気に戦利品をコレクションするなんて習性もあってな―――」
- 704 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:18:38 ID:PiH4YMwA0
-
人鬼。一体一体でも人間からすれば十分な脅威たりえるが、素手で人間を殴り殺せるだけの
力を持つ彼らが群れをなした時、それこそ本当の恐ろしさを感じる事になるだろう。
戦い方は原始的であろうと、巨大な体躯が併せ持つ耐久力と膂力はただそれだけで脅威になる。
_
( ゚∀゚)「だがこいつは前哨戦だ。ケチな戦いでおっ死んでちゃあ、てめぇの親父さんに申し訳ないと思え」
( ,,-Д-)「実戦は少ねぇが、俺だって簡単に死ぬつもりはねぇ」
_
( ゚∀゚)「はん……ならいいがよ」
( ,,゚Д゚)「当たり前だ―――そう簡単に、くたばってたまるか」
ジョルジュからしてみれば至極脳天気な男に見えるギコだが、
それでも彼はただ楽観的に構えているつもりでもない。
- 705 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:19:49 ID:PiH4YMwA0
-
ジョルジュという男に惹かれ、半ば流されるようにしながらも。
だが今では自分自身で父親の仇を討つという目的を背負っていたつもりだ。
そのための前哨戦で命を落とす―――そんなつもりが毛頭ないのは、
このジョルジュに預けている信頼感のせいもあったかからだろうか。
”この男と一緒にいれば、あるいは”
そう思わせる何かを、やはりジョルジュという男は持っているように思えた。
( ,,゚Д゚)「お……”宵の明星亭”、待ち合わせ場所ってあそこか?」
_
( ゚∀゚)「あぁ。やっと酒入れられるぜ」
決して口には出さないが、この男を目標として強くなっていこう。
そう考えながら、ギコはジョルジュとの仇討ちの旅にそういった期待感も持っていた。
- 706 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:21:04 ID:PiH4YMwA0
-
――― 夕刻 【宵の明星亭】――――
扉を開け放った先には、物騒な強面や手練の冒険者と思える者の姿が数多い。
そこには、交易都市での酒場のように初々しい面々など数える程もいなかった。
泥臭いような、いがらっぽさが沈殿したような空気の悪さ。
それらに一瞬表情をしかめたギコを気にも留めず、ジョルジュはカウンターへと歩を進める。
_
( ゚∀゚)「遅くなって悪かったな、ヴィップのジョルジュが来た……そう、お取次ぎ願えるかい」
「………あぁ、あんたらが」
( ,,゚Д゚)「同じく、ギコだ」
促されるまま席へと着いたジョルジュの隣に、ギコは腰掛けた。
大筋の話の流れは聞かされているものの、この後の細かい打ち合わせについてはこれからだ。
- 707 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:23:19 ID:PiH4YMwA0
-
バルグミュラーの精鋭達と共同で戦線にあたり、依頼達成後には彼らの兵を借りる。
実質無政府状態と化しているこの街を取り仕切っているのは、傭兵団や冒険者たちを束ねる
治安維持ための一団を私兵として持つ、一人の貴族だ。
しかしその彼らでも、存在する妖魔の種が豊富で、その数も無数であるこの地の治安を
治めていくのは困難だという。そこで、近年ヴィップの冒険者や円卓騎士団と連携して
拠点の警護に当たるようになっていった。
「―――責めてる訳じゃねぇが、来るのがちょっと遅かったぜ」
_
( ゚∀゚)「……?」
「今、こっちでは問題が起きてる。ウチで一番腕の立つ奴が、どっかに行っちまった」
( ,,゚Д゚)「別口の依頼にでも行ったんじゃねぇか?」
- 708 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:24:40 ID:PiH4YMwA0
-
「見知った顔が依頼に出向くんなら、その委託をしてる俺が知ってるはずだ。
これまであいつが依頼をこなさず油を売ってる日なんて、俺は見たことがねぇ」
( ,,゚Д゚)「冒険者一人だろ?別に、気にする程の事もねぇじゃねぇか」
_
( ゚∀゚)「………」
「違いねぇ―――だがあいつが居ないと、次の討伐はきっときついモンになる」
”たかが冒険者一人”
ギコの言葉に無言の肯定を示しながらも、集団を率いる力有る”個”の重要性を、
ジョルジュもまた知っていた。窮地に陥り、皆が判断を委ねる対象は必要なのだ。
皆に道を示しながらも状況を押し返す力と、萎縮した精神力を蘇らせるだけの魅力。
音頭を取るのは、肉体的にも精神的にもより頑強な男であるべきだという考えには賛同できる。
- 709 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:26:19 ID:PiH4YMwA0
-
しかし一方で、ジョルジュは自身にもそういう役目を負うだけの能力があると反発した。
経験や力を過大にも過小にも評価せず、それを自分で冷静に分析できているからこそだ。
_
( ゚∀゚)「安く見られたもんだぜ、俺達も」
( ,,゚Д゚)「………」
”俺達”という言葉に少しだけ反応したギコだったが、それに気づかれないよう振る舞う。
今はジョルジュが伝えてある通り、きっとこのマスターにとってギコは精鋭の一人という扱い。
乗っかるようにして下手な小芝居の一つもしておこうかと思ったが、そう出来る雰囲気でもなかった。
「そうじゃねぇ、決してあんたらの腕を疑う訳じゃあないんだが……
あいつが居ると居ないとじゃ、必ずやこっちの被害も変わってくる」
_
( ゚∀゚)「ほぉ」
店主の言葉を聞いたジョルジュは、彼を見るべき所のある男だと思えた。
- 710 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:28:08 ID:PiH4YMwA0
-
治安維持隊から仕事を冒険者達へと卸しているのは他ならぬこの宿の店主だが、
仕事を任せる人物たちを、単なる端な道具や使い捨ての効く人材だとは思っている訳では
ないのが感じられたからだ。
前線で命を張る人間たちを人とも思わぬ扱いをするお役所仕事と比べては、
そういう考えを抱いてくれる側の方が、よほど命の張り甲斐もある。
( ,,゚Д゚)「どこに行ったんだ?そいつ」
「連れ戻してくれりゃあ面倒はねぇんだが……あいにくとな」
( ,,゚Д゚)「じゃあ、俺達ゃまだ動けねぇって事か」
_
( ゚∀゚)「………」
肩をすくめたマスターの前に、ジョルジュは無言のまま盃を傾げる。
彼の”計画”にとって、この前哨戦での失敗は許されないのだ。
- 711 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:29:40 ID:PiH4YMwA0
-
確実にバルグミュラーの傭兵団や冒険者たちの心を掴み、助力を借り受ける。
それには入念に準備を進め、淀みなく”行程”を済ませていかなければいけないのだが、
他者に先を越されてしまえば、下手をすれば目的自体が水の泡となってしまう。
ギコの言葉に焦燥を感じていたジョルジュの表情には、少なからず苛立たしさが見え隠れした。
そんな時、店に入ってくるなり、一人の冒険者が酒場全体に響くような大声を張り上げる。
(メ =..=)「おい、酒だ酒ッ!」
_
( -∀-)「……ふぅ」
他の街でもよく見かける、粗野なゴロツキ。そんな印象を受ける手合いだった。
色々と考えを巡らせてしまっていたジョルジュの思考が、そこで一時遮断される。
今は考えても仕方の無い事かも知れない――――
今は杯を乾かし、今後の事はそれから考えようと。
- 712 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:31:01 ID:PiH4YMwA0
-
(メ =..=)「聞こえねぇのか!早くしろッ」
( ,;゚Д゚)(……態度でけぇな)
(まぁな、俺みたいなのは慣れっこだがよ)
ギコの隣から二席を空けた所に、その冒険者はどっかりと座った。
作り終えた酒を運びながら、店主は男の周囲を見渡した。
いつもならば魚の糞のように付きまとう仲間が必ず一人は居た事を覚えている。
「お待ちどうさん。今日は、お仲間はいねぇみたいで?」
(メ =..=)「うるせぇな……お前に関係ねぇよ」
「すいませんね……はいはい」
届けられたグラスを掴むや否や、彼は一人満足そうに「乾杯」と呟いては、それを傾ける。
- 713 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:34:29 ID:PiH4YMwA0
-
普段ならば話かけたりはしない人種だが、彼のどこか上機嫌な様子を探ろうと、
マスターが軽い世間話を切り出していた。
「お祝いって、何か良い事でもあったんですかい?」
(メ =..=)「へへ……辛気臭ぇ奴の面を見る事が無くなったってとこだな」
「………へぇ?」
それを聞いた店主には、何かが引っかかった。
普段ならば必ず依頼を任せる際に、顔合わせをしているはずの男の姿が見えない。
それに対して、いつもならばテーブルで仲間たちと良からぬ話ばかりしているこの男は、
今日という日に限ってはカウンター席に腰掛けて上機嫌な様子を見せている事。
多くの人々を見てきた店主なりの、勘が働いたのかも知れない。
しかしその符号を裏付ける、ある一つの事実もあった。
- 714 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:35:28 ID:PiH4YMwA0
-
男の元から離れても、店主は少し深みのある表情を見せながら作業をこなす。
時折首を傾げる彼の様子に、ギコは離れた席に座る強面の様子を一度確認してから声を掛けた。
( ,,゚Д゚)「……あの男が、何かあったのか?」
「……いえ、ね」
店主はジョルジュ達の傍で洗い物をしながらも、
強面の方には聞こえないくらいの声量で耳打つように呟く。
「大きな声じゃ言えねぇが、あいつら厄介がってるんですよ。ダイオードの事を」
( ,,゚Д゚)「ダイオードって……さっきの話にあった奴の事か?」
「ええ。元々大した地力も無いのに、ダイオードが来るまではあの強面で周囲から
依頼をカスってたような奴らなんですけど。あいつらもダイオードにはそうそう
手出したりは出来ないみたいでね……」
_
( ゚∀゚)「そこの野郎が、そいつが居なくなった事に関係してるってか?」
- 715 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:37:12 ID:PiH4YMwA0
-
「そうは言えねぇ……けど、朝に奴の子分の一人がさ、
そのダイオードに何か話を持ちかけていくのを見てたんだ」
_
( ゚∀゚)「………」
「ちょっと、知ってる素振りみたいでね。何か一つ引っかかる」
_
( ゚∀゚)「……なら、直接訊いてみるのが早ぇな」
( ,,゚Д゚)「お、おいッ」
店主の言葉に、ジョルジュはすぐに席を立った。
この後の行程に必要とされる人物が消えたとあっては、即座に連れ戻さねばならない。
無駄足を踏んでなど居られない。お預けを食らうのはまっぴらだった。
そのままつかつかと歩いて行くと、ジョルジュは強面の男の傍に立つ。
- 716 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:38:00 ID:PiH4YMwA0
-
(メ =..=)「……あぁ?なんだぁ、若造?」
_
( ゚∀゚)「単刀直入に訊くがよ、お前、ダイオードって奴の事知ってるか?」
(メ =..=)「……はんッ、知らねぇな。死んでんじゃねぇのか、そんな奴」
_
( -∀-)「なるほど」
「ふぅ」と大きくため息をつくと、次の瞬間その場の椅子を転がす勢いで腕を伸ばし、
ジョルジュは強面の男の胸ぐらを一気に掴みあげた。
(メ;=..=)「……んだッ……てめぇ!この野郎ォ!」
_
( ゚∀゚)「もう一度訊くぞ―――知ってるのか、知らねぇのか」
(メ;=..=)「なッ………んむ……」
「ちょっ、ちょいとお客さん!」
- 717 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:39:12 ID:PiH4YMwA0
-
一瞬にして静まり返った酒場中の視線が一身に注がれる中、ジョルジュは片腕で男を吊り上げながら
同じ質問を繰り返す。男はばたばたともがきながらそれを振り解こうとするものの、真っ直ぐに射抜く
ジョルジュの瞳と、大の男を持ち上げながら微動だにしない二の腕の強靭さに、やがて抵抗を諦めた。
(メ;=..=)「へ……ッ!言ったろう、ダイオードの馬鹿はとっくにおっ死んだだろうぜ」
_
( ゚∀゚)「あぁ……?」
(メ;=..=)「俺達は止めたんだ、だけどあいつは一人で行っちまったのさ」
(メ;=..=)「ヘヘ―――あの”鬼の穴”になぁ!!」
_
( ゚∀゚)「………」
苦し紛れに憎まれ口を叩いた男の言葉に、ジョルジュはマスターの方へと振り向く。
深くため息をついて俯く彼の表情には、とても険しいものが張り付いていた。
「………駄目だ、もし本当に足を踏み入れてたとすれば、助かりようがねぇ」
- 718 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:42:35 ID:PiH4YMwA0
-
( ,,゚Д゚)「そこは、危ねぇ場所なのか?」
額に手を当てながら再度ため息をついたマスターの顔には、諦めが浮かんでいた。
命知らずな男と言えど、生存の可能性が皆無の場所にたった一人で赴くような事はしない。
誰かに唆され、あるいは騙されればその地へ足を運んでしまう事もあり得るとは言え。
「危ねぇどころじゃねぇ―――今度の大規模掃討作戦の、予定地だった探索場所だ」
_
( ゚∀゚)「……エサ箱に飛び込んだって訳か」
「斥候で飛び込んだ騎士の話によると……ざっと傭兵20人―――」
( ,,゚Д゚)「!」
「それに冒険者15人、加えて正規兵15人の、占めて50名を集めると言っていた。
それだけの人数を集めて、ようやく対等かどうかってぇ場所なんだとよ……」
- 719 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:43:44 ID:PiH4YMwA0
-
( ,;゚Д゚)「おいおい……それじゃあ……」
「死んだも同然だ」と、マスターは続けた。
知ってさえ居れば、まかり間違っても足を踏み入れるような場所ではない。
しかしその危険を知りもせずに足を踏み入れたのだとしたら、人間などは単なる餌食。
(メ;=..=)「へ、へへ……あの死にたがり野郎は、そこに一人で勝手に行ったのよ!」
_
( ゚∀゚)「そうか―――まぁ、事情は分かった」
手に加えていた力を緩めると、強面の男は尻からその場に落ちる。
尚も下卑た笑いを繰り返す男の襟首を掴むと、今度は強引に引っ張り立たせた。
_
( ゚∀゚)「じゃあ、道中の道案内は任せるぜ」
(メ;=..=)「――――あん?」
_
( ゚∀゚)「おらっ、ボサッとしてんじゃねぇ。行くぞ」
( ,;゚Д゚)「お、おいおい!?行くって言ったって……」
- 720 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:44:50 ID:PiH4YMwA0
-
「まさかとは思うが、あんた……”鬼の穴”に行くつもりじゃねぇだろうな?」
_
( ゚∀゚)「行くに決まってんだろうが。なぁに、連れ戻してすぐ逃げ帰りゃあいい」
(メ;=..=)「バッ、馬鹿かてめぇ〜ッ!?」
( ,;゚Д゚)「………」
「……おいおい」
ジョルジュの破天荒っぷりに、ギコは店主と同様に絶句しながら呆気に取られていた。
じわりと滲んだ手の平の汗を袖口で拭っては、脳裏には早くも嫌な予感がよぎる。
旅先で目的地に到着して早々、早くも命を落とす覚悟をしておかなければならないようだ。
- 721 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:45:58 ID:PiH4YMwA0
-
「無茶だぜ……死んじまうぞ」
冷静に言い放ったマスターの言葉はもっともで、なるべくならギコも頷きたかった。
だがそう出来ない理由は、このジョルジュという男と共に肩を並べておきたいが為だ。
足腰の力が途端に抜けてしまいそうになるほどの、悲しいほどの虚勢だった。
( ,;゚Д゚)「マスター、ツケといてくれねぇかな……なぁに、すぐ帰ってくるからよ」
「………あんたも」
(メ;=..=)「やめろぉっ!お、俺を巻き込むんじゃねぇ!」
暴れる強面をよそに、口から胃を丸ごと吐き出してしまいそうな程に緊張に呑まれた
様子のギコの表情に苦笑しながらも、ジョルジュはにやりと曲者の笑みを浮かべた。
_
( ゚∀゚)「ちったぁ言うじゃねぇか」
( ,;゚Д゚)(あぁ、帰りてぇ)
喉が熱くなるような酒を一気に飲み干して杯を叩きつけると、その場を立った。
- 722 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:47:40 ID:PiH4YMwA0
-
――― 【城壁都市 外周】 ―――
「ぜんたーい、止まれッ!」
「いっち、にっ!」
彼女の一声で見事に足並みが揃うと、暮れなずむ茜色を照り返す
銀色の鎧をまとった男たちは、その場に綺麗に整列した。
ノパ⊿゚)「今日の調練はここまでにしておこう!」
鋭い眼光を見せていた騎士達の隙の無い姿勢も、その一声を聞くや否や
途端に緩やかなものとなり、度重なる疲労にその場で尻餅を突く男もいるぐらいだ。
フィレンクトが課しているノルマを終えても、まだ余力を感じさせるのは
この遠征中を指揮しているヒート=ローゼンタールを含め、僅か数人だ。
- 723 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:48:31 ID:PiH4YMwA0
-
「くっそー、何だって俺たちがこんな場所に送られるんだよ……」
「なんでも、隊長さんのヘマが一因らしいぜ。団長の怒りを買ったとか」
「俺はヒートさんと居られるなら、どこなりと!」
「マゾかお前。気持ちは解からんでもないが、しかしこの運動量……ちょっと尋常じゃねぇ」
「何にしても、ふかふかのベッドが恋しいぜ――――」
酒場へ消えて行くもの、仮設兵舎へと戻って行くもの。
思い思いの行動を取る部下たちの背中を見送り終えると、ヒートは一人
街の外周を一望できる物見櫓へと続く梯子を登った。
- 724 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:49:39 ID:PiH4YMwA0
-
ノパ⊿゚)「ふぅ……良い眺めだな」
”城壁都市”の名の通り、この街は外周を高々とそびえる壁によって囲われている。
かつて、まだヴィップが大陸の歴史上で交易都市と呼ばれるよりも以前から、この地は
人と人の戦争や、あるいは当時今より強力な力を有していた妖魔達との戦いの拠点として、
重要な役割を担っていたのだという。
その名残か、今でも戦士たちの血が染みこむと言われるこの場所の赤土には、
こうして暮れていく夕日こそがよく似合っているように思えた。
訓練に火照った肌には、きな臭さを運ぶ戦地の風が生温い体温のように感じられる。
「あぁ、団長さんじゃないですかい」
ノパ⊿゚)「団長ではないけどな―――レイオブロウ殿は、今日も帰らないのか?」
「あぁ、あのお方は懇親会だか会食だかわかんねぇけど……
俺ら下っ端に前線を任せっきりで、どうせ遊び呆けてるんでさぁ」
- 725 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:51:26 ID:PiH4YMwA0
-
ノパ⊿゚)「ふぅむ………」
荒れ果てたこの地には、作物を育たせるのが非常に難しい。
北には未開の森や山々があり、そこからは未だ多数の妖魔が勢力を伸ばし続けている。
その境に位置するこの街には外敵からの危険も多い為、移り住んでくるのはよその街に
いられなくなってしまった、訳ありの冒険者や傭兵ばかりだ。
そんなこの地を預かる領主、レイオブロウは大陸諸侯からの援助を受けながら、
半ば治安維持隊や冒険者を野放しで、彼らの好きにさせながらこの街を任せている。
覇気が無く、人付き合いの下手なレイオブロウに辛うじて諸侯と横の繋がりがあるのも、
いずれバルグミュラーからさらに北へと人の領域が拡大した時、新たに得られるものが
あるかも知れないという諸侯による打算があるからこそだ。
未知というものに、人は心を惹き寄せられる何かを感じざるを得ないのだろうか。
- 726 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:52:28 ID:PiH4YMwA0
-
「円卓騎士団から補強人員が来るって聞いたから、最初はどんなおっかねぇのが
来るかと思ったけどよぉ……まさかお嬢さんみてぇなのとは意外だったぜ」
ノパ⊿゚)「期待はずれだったか?」
「いいや、びっくりこいたさ。十何人もの面構えのいい騎士さん達が、
あんたの訓練にゃ肩で息をしながら、キツそうにぜぇはぁしてるんだからな」
ノパ⊿゚)「うーむ、鍛え方が足りないんだろうな……明日からもう少し……」
「はっは!妖魔どもと戦う前に、ぶっ倒れねぇで下せぇよ」
ノパ⊿゚)「勿論、掃討作戦の決行日も近いしな!」
今回は、ヒートにとって単なる強化遠征というものではない。
この城壁都市を拠点として、各地に広がりを見せるオーガ洞穴各所の制圧。
人の天敵たる鬼を退治し、少しでも住みよい場所にするために重要な任務だ。
- 727 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:53:45 ID:PiH4YMwA0
-
フィレンクトから直接言い渡された任務ではあるが、以前にツン警護の任に就きながら、
彼女の動向を見失ってしまったという失態を演じたヒート自身への喝でもあるのだが。
「うん……何だ?」
ノパ⊿゚)「何かあったのか?」
ふと、城壁の上から北を見渡していた守衛の一人が、数人の人影に気づいた。
もう夕刻ともなると、依頼を終えた冒険者達は心身をすり減らしながら帰投して来る頃だ。
「いえね、あそこの三人―――今から、どこに行くつもりなんだか」
ノパ⊿゚)「……むッ」
- 728 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:54:42 ID:PiH4YMwA0
-
守衛が指さした方向には、一人の身柄を押さえつけるようにして連れ歩く、二人の男の姿。
妖魔の活動が活発化してしまう夜分に、わざわざ危険地帯へと出歩くのは自殺行為である。
「ちょ、ちょっと!隊長さん―――!」
そして、わざわざ人目をはばかるようにするのは、何か後ろめたい事があっての事か。
何にしても、今はこの地の治安を預かる立場である”円卓”に名を連ねる一人として、
どうにも見過ごしてはおけなかったヒートは、すぐに考えを行動へと移していた。
ノパ⊿゚)「事件の匂いがするな……!」
・
・
・
- 729 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:55:34 ID:G6Zw51Hk0
- きたか!
今から読む支援
- 730 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 12:58:07 ID:PiH4YMwA0
-
――― 【城壁都市北部 某所】 ―――
/ ゚、。 /「………」
外では、既に陽が傾いている頃合いだ。
普通なら引き返す状況だが、先導する男の後について歩き続けた。
細い口を開けた小さな入り口と反して、その最奥は未だ先にあるようだ。
長々と歩き続けたにも関わらず風景が切り替わる事のない一本道は続く。
やがて、周囲の空気が霧雨のような湿り気を帯びてきたところで、先導する男の足は止まった。
(;=゚ω゚)「こ……この先に、仲間がいるんだよぅ」
/ ゚、。 /「………」
強張った笑顔を貼りつけた彼は、ダイオードへと向き直るとおずおずとその顔を見上げる。
その肩は小刻みに震えているようでもあったが、彼はあえてそれを指摘しなかった。
- 731 :上がっちゃったけど途中で…:2013/06/02(日) 13:00:38 ID:PiH4YMwA0
-
(;=゚ω゚)ノ「それじゃ、おいらはこの辺で―――」
だが、伏し目がちに背を丸めながらダイオードの脇を通り抜けようとしたその時、
男の肩は大きな手の平に掴まれると、抗えないぐらいの強い力で引き止められた。
そぉっと振り向いた先には、鉄仮面の奥から深い翆の色をした双眸が男を捉えて、見下ろす。
/ ゚、。 /「―――歩け」
(;=゚ω゚)「……ひッ」
”もしかすると、この男はオーガよりも怖いかも知れない”
有無を言わせぬ圧力に逆らえぬまま、男はまたすごすごとダイオードの
脇と通ると、奥へと続く道の先に立った。
既に泣きそうな表情になっているのだが、もはやそれをひた隠す余裕もなかった。
何故ならば自分は今、地獄へと続く片道の案内人をさせられているのだから。
- 732 :上がっちゃったけど途中で…:2013/06/02(日) 13:02:47 ID:PiH4YMwA0
-
/ ゚、。 /「本当に、居るのか」
(;=゚ω゚)「あ、あぁ……4、5人ぐらいの仲間が―――この先に」
でまかせで取り繕う口調は、自然と早口になっていく。
疑う素振りも見せず黙って着いてきた背後の男は、全てを知っていながら
こちらに従う振りをしていただけなのではないか。
裏切りに気づかれ、離脱するタイミングを僅かでも逃せば、その手斧は
自分の首を叩き落とす為に振るわれるのではないか。
そんな恐怖に苛まれながらも、男はどうにかダイオードの問いかけに答える。
/ ゚、。 /「……6人、と聞いていた」
(;=゚ω゚)「そ、そうだったかよぅ!?……か、勘違いしてたみたいだよぅ」
- 733 :上がっちゃったけど途中で…:2013/06/02(日) 13:04:14 ID:PiH4YMwA0
-
前門の人鬼、しかし後門にも人鬼。
考えれば考える程に思考は緊張感に呑まれ、気弱な男の心を苛んだ。
リーダーの言いつけ通りにこの男を人鬼の住処まで誘導しなければ、
帰ってからの自分の立場が危うい―――それどころか、半殺しの目に遭うだろう。
もう全てを打ち明けてダイオードに対して土下座でも何でもしてしまおうかと
思った矢先、目の前にはようやくぽっかりと開けた大きな空間が飛び込んできた。
(;=゚ω゚)「……い、いないみたい……だよぅ……?」
冷たい脂汗、震える足で一歩を踏み出して暗いその場所の様子を伺う。
――――どうやら、人の気配はなかった。
当然そんなものがある訳はないのだが、”人以外の何者か”の気配も感じない。
/ ゚、。 /「………」
- 734 :上がっちゃったけど途中で…:2013/06/02(日) 13:05:56 ID:PiH4YMwA0
-
(;=゚ω゚)「あ、あれ?おかしいよぅ……待ち合わせ場所、ここだったと思ったけどよぅ……」
もしかすると、本当は先行した冒険者達によってこの場所の
オーガ達は全て狩られてしまったのかも知れない。
少し安心した男は、強気で広間の中央辺りへまで歩を進める。
その後に続くダイオードは、辺りへと頭を振りながら何かを伺う様子を示していた。
(;=゚ω゚)(言いつけ通りここまで連れてきたんだし……兄貴には勘弁してもらうんだよぅ)
湿っぽい空気の中に入り混じった気色の悪い生温さに肌を泡立たせながらも、
やがて向き合ったダイオードに大げさな仕草を見せて、男は困った表情を演出する。
その頭の中では、もう帰った後の事を考えていた。
/ ゚、。 /「―――”味方”は?」
- 735 :上がっちゃったけど途中で…:2013/06/02(日) 13:07:03 ID:PiH4YMwA0
-
(;=゚ω゚)「い……いやぁ、ははは。入れ違いだったみたいだよぅ……引き上げたみたいだよぅ!」
リーダーの言いつけ通りに役目を果たした。
一発ぐらいは殴られるかも知れないが、それも命に比べれば安いもの。
さっさとこの場を引き上げて、いつものように宿へとしけ込んでしまおう。
/ ゚、。 /「なら……生き残れるかは、お前次第だ」
そう――――いつもの、ように。
(;=゚ω゚)「――――え?」
その時、少し目の慣れてきた暗がりの中で、ダイオードが瞳を向ける先に何かが見えた。
間も無くして、甘い考えに浸っていた男の中では何かが壊れる音がした。
- 736 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:08:42 ID:PiH4YMwA0
-
戻れるとばかり思っていた、日常との繋がり。
それには今、目の前の現実という亀裂が走っていた。
゚ ゚ ゚ ゚ ゚ ゚
゚ ゚ ゚ ゚
一つや二つではない。
無数に浮かぶそれは、酷く濁った赤色だった。
(;=゚ω゚)
”瞳”だった。
それに視られていると気づいてからは、胸元を遡って自分の
喉首までを締め付けられるような感覚が、急速に男の身体を駆け巡る。
- 737 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:09:46 ID:PiH4YMwA0
-
(゚ω゚=;)「……ッ!」
゚ ゚ ゚ ゚ ゚ ゚
゚ ゚ ゚ ゚
反対側を見ても、どこを見ても。
男の瞳には同じ光景ばかりが映った。
(;=゚ω゚)「あ――――」
”鬼の穴”を訪れてしまった自らに、後悔をする余裕すらない。
あるのはただ、圧倒的な数の捕食者の前に怯え震える、恐怖だけ。
/ ゚、。 /「声を、上げるな」
- 738 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:11:13 ID:PiH4YMwA0
-
ほんの些細なきっかけで、この数が一度に群がって来る。
動じる事もないダイオードは、周囲に警戒を張り巡らせながら、
叫びだしそうな表情を浮かべていた男にそう言って聞かせた。
/ ゚、。 /「………走れ」
(;=゚ω゚)「ぅ、あ……」
彼が指さした先には、今来た道へと繋がる出口。
この悪夢が描き出したような場所から逃れられる、唯一の光だ。
「あんたも、逃げないと」
そう口にする程の時間も残されてはいない。
動き出せば―――すぐにでも、この数十はあろうかという瞳が襲い掛かってくる。
(;=゚ω゚)「う―――うわぁぁぁぁぁッ!!」
- 739 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:13:10 ID:PiH4YMwA0
-
そんな恐怖に呑まれた男は、次の瞬間ダイオードに促されるままに走った。
男としての意地も矜持も、何もかもをかなぐり捨ててでもいい。
ただ命を繋ぐために、それだけ出来ればいい。
彼がそれを懇願しながら逃げ込もうとした先で、次の瞬間大きな影が動いた。
それは男が心に抱いていた希望への期待感を、暗く遮る。
止めざるを得なかった足元からは、凍りついていくような恐怖が頭の先まで浸透してゆく。
(;= ω )「はァ―――そんッ……!」
ノシ`i゚ 益゚i以「……グッグッグッ……!」
腰みのだけを巻いた筋骨隆々の巨人の姿が、心臓をぎゅうっと強く握りしめる。
人の言葉など聞き入れるはずもない食人鬼を前にして、何歩かを後ずさった所で腰が抜けた。
- 740 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:14:34 ID:PiH4YMwA0
-
(;= ω )「い……いやだッ」
たとえ彼らに哀願してさえ、生き延びたかった。
振り絞るような叫びは、もはや消え入りそうな程にか細く震えるだけ。
(=;ω;)「死にたく―――死にたくないよぅッ……!!」
次々と暗がりに灯りが灯されて、それが大小様々なオーガ達の姿を浮かび上がらせた。
悲鳴を聞きつけ、起き出してきたのだ。
自分たちの根城に”餌”が迷い込んできたのだと。
ノシ`i゚ ゚i以「………フシィ」
ノシ`i゚ ゚i以「ゲッゲェッ」
言語を理解できぬまでも、恐怖に染まる人の声も、表情もきっと理解るのだ。
そしてそれらはオーガにとって、この上なく心地の良い愉悦の音に他ならない。
- 741 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:16:05 ID:PiH4YMwA0
-
やがて何匹かが、人の脚一本ほどもありそうな棍棒を手にしながら、広間の中央へと歩き出す。
(=;ω;)「助けて……助けてくれよぅ」
/ ゚、。 /「………」
”生きたい”と願う男の傍で、その真逆をこそ望んでいる一人の男は、
睨めつける数多の視線に動じる事もなく、血塗られた手斧を肩へと担いだ。
そして、いつものように――――自分の命を矢面に晒し続けるように。
決して己の命を省みることのないその男は、悠然と人鬼たちの行進を出迎える。
/ ゚、。 /「”此処”では―――無い」
・
・
・
- 742 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:19:17 ID:PiH4YMwA0
-
(;メ =..=)「クソ野郎がッ、離せってんだよ!」
_
( ゚∀゚)「うるせぇな……とっとと歩きゃいいんだよ」
暴れる男の首根っこを締め上げながら、ジョルジュは北門を抜けて街中を離れていた。
もうすぐ完全に日没だ。
妖魔の動きが活発となってからでは、きっと店主の言っていたように
その男も、そして自分たちもが、宿へ帰れる事は二度と無くなってしまうだろう。
”もしかすると、もう死んでしまっているかも知れない”と思いつつも、
やがて先導しながら罵詈雑言の限りを二人に浴びせていた強面の様子が、急に大人しくなった。
(;メ =..=)「……こん中だ」
_
( ゚∀゚)「………」
- 743 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:20:12 ID:PiH4YMwA0
-
足元にあるのは、地面に埋もれるようにして少しだけ口を覗かせる縦穴。
目測で横幅を見たところ、3〜4人が通るのでやっとという風にも見える。
入り口の小ささから言っても、多人数を送り込んだ所で行軍には苦心を強いられるだろう。
( ,;゚Д゚)「……なぁ、入るのか?やっぱり」
もしこの場所に多数のオーガが生息しているのであれば、内部には
その空間を確保出来るだけの拓けた場所が、どこかにあるはずだ。
もしその居住域にまでたどり着いてしまっていれば、男の安否は想像だに易い。
_
( ゚∀゚)「おい、中は分岐してるのか?」
(;メ =..=)「俺が知るかよ……一本道らしいって話だけは聞いたがな」
_
( -∀-)「チッ、だとすりゃあ―――」
- 744 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:24:33 ID:PiH4YMwA0
-
(;メ =..=)「言ったろう、俺の子分共々帰って来やがらねぇんだ……とっくに死んでるさ」
_
( ゚∀゚)「はっ。そいつは見事にてめぇみてぇなド腐れの命令を果たした訳か」
(;メ =..=)「―――あでぇッ!」
_
( ゚∀゚)「だが……仮にてめぇの言う通りにしても、一応はこの目でそれを確認しておかねぇとな」
(;メ =..=)「チッ……イカれてるぜ、てめぇら」
引き掴んでいた男の襟首ごと、ジョルジュはその身を地面へ投げ捨てる。
背負う剣の柄を掴んで具合を確かめると、こきこきと首を鳴らした。
_
( ゚∀゚)「おい、寝言しか聞けねぇようなクソの詰まった耳ほじくってよく聞け。
日が落ちても俺らが帰らねぇような事があったら、騎士団なりに事実を伝えろ」
(;メ =..=)「てめぇも死ぬさ」
- 745 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:26:10 ID:PiH4YMwA0
-
_
( -∀-)「ま、そうだな……そん時ゃ、遺留品しか残っちゃいねぇだろうよ」
( ,;゚Д゚)「お、おらぁ死ぬつもりはねぇぞ!」
自分を奮い立たせるように言い放ったギコの言葉だったが、その彼に
冷淡な瞳で一瞥をくれながら、ジョルジュは冷たく言葉を返す。
_
( ゚∀゚)「いつでも死ぬ覚悟はしとけ」
( ,;゚Д゚)「………」
愛想笑いの一つでも返ってくるかと思ったギコの考えに反して、
自身が一目を置く男の反応は冷たく、あっさりとしたものだ。
それによって、危機感に対して実感のなかった自分の目も覚めた思いがした。
_
( ゚∀゚)「確かに伝えたぜ」
(;メ =..=)「………あぁ、分かった」
- 746 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:27:34 ID:PiH4YMwA0
-
侮蔑の視線を最後に一度冷たく投げかけたジョルジュは、
そのまま男に振り返る事なく洞穴の入り口を一歩一歩降りていく。
( ,,-Д-)(……おしッ)
両手で自分の頬を張ってから勢いをつけたギコも、すぐにその後に続く。
二人の男と、更に二人の男がが姿を消していった鬼の棲まう洞穴の前。
気配が遠のいていったのを確認した後で、強面の男はようやく立ち上がった。
全く、気分よく祝杯を上げていた所で馬鹿な連中に気分を害されたものだと。
(メ =..=)「―――ケッ、馬鹿共が。仲良く死にやがれ」
- 747 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:28:24 ID:PiH4YMwA0
-
「誰が報せてやるかよ……」
そう呟きながら振り返った後に、次の瞬間男の視線は数人の人影を捉えていた。
全身鎧を纏う屈強な体格の男たちを両側に従えて、その中央で腕組み構えるのは一人の女。
この強面からすれば娘程も歳の離れていそうな程であり、少女と言っても差し支えない容貌だ。
しかしその顔には、剣呑とした雰囲気がありありと浮かんでいた。
ノパ⊿゚)「……事情を話してもらうぞ」
(;メ =..=)「―――!」
・
・
・
- 748 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:29:33 ID:PiH4YMwA0
-
ノシ`i゚ 益゚i以「グフ……グフフッ」
(=;ω;)「あ……あぅぅ」
退路は絶たれ、周囲からじわじわと包囲するようにして、人鬼の波が群がる。
血色の無い黄土色の食人鬼の表情はどれも一様に、狩りに興じる事への悦楽を感じているのか。
そこには捕食する対象への慈悲も無ければ、少しの躊躇も無い。
自分たち人間が豚や牛を口へと運ぶように、食事を前に舌なめずりをしているのだ。
腰砕けで後ずさる内、やがて男はダイオードの足元にすがるようにして背中を預けていた。
/ ゚、。 /「………」
- 749 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:30:42 ID:PiH4YMwA0
-
やがてさらに包囲を狭まる、人鬼たちが形作る円環。
その中から踏み出した一匹が、無造作に掴み取るようにして二人へ手を伸ばした。
ノシ`i゚ 益゚i以「――グハハァッ!」
”ズ ダ ンッ”
(=;ω;)(ひぃッ……ひぃぃぃッ!)
何かがへしゃげて断ち割れるような音が、耳に震えて響いた。
ぴちゃりと頭にかかったのは、生暖かく、少し粘り気のある液体。
見なくても解る、不快なこの感触は―――鮮血だろう。
さらに身を縮こまらせては、耳を塞ぎながらまぶたを痛い程に閉じ込む。
- 750 :途中で休憩はさみます…:2013/06/02(日) 13:31:49 ID:PiH4YMwA0
-
一人が死んだのなら、次は自分の番だ。
どうせならば先に殺してくれれば良かったのにと、今は楽に死ねる事を考えていた。
「……グゥッ……」
(=;ω;)(嫌だ……嫌だよぅ……!)
耳を塞いでも隠し切れない、人鬼達の獣のような息遣い。
それに入り交じって驚く程早く脈打つのは、自分の心臓の音だ。
生きたいと願う自分の身体が打つ音をかき消そうとするように、時折うめき声が聞こえた。
「殺すなら早くしてくれ」と、狂いながら叫びだしてしまいそうになった時だった。
突然顔を覆うようにして降りかかった生暖かい血の感触に声を上げては、目元を拭う。
- 751 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:33:40 ID:PiH4YMwA0
-
溢れる涙とが入り混じり、赤色に霞む滲んだ視界の中で
やがて彼の瞳が映したものは――――一人の男の背中だった。
一足先に死んだとばかり思っていたダイオードが、オーガの一匹に手斧を叩き込んでいる光景。
/ ゚、。 /「―――ふぅッ!!」
ノシ`i゚ 益゚i以「アギャッバッ……」
”ド シュッ”
片腕を失い、その痛みからかダイオードの前に頭を垂れた一匹のオーガの首が、舞う。
(=;ω;)「――――え?」
ノシ`i 益 i以「アガ……パ……グ―――」
- 752 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:36:37 ID:PiH4YMwA0
-
地面へと転がる”それ”を思わず目で追ってしまった先で、視線が合った。
何かを言いたげに二、三度だけ口をぱくぱくと動かしていたが、それきり言葉を失う。
言葉を発せなくなったのはそのオーガだけではなく、自分自身もだった。
それが現実味の薄い光景である事は、彼もまた冒険者であったからこそだろう。
そこらの大男より一回り以上も大きな身の丈のダイオードをして、オーガというのは
さらにその頭二つ分程も大きさの離れた、”巨人”と評するのが妥当な化け物だ。
戦うならば3人から5人、いつだったか誰かにそう教えられた様な気もするが、
今の自分ならばきっと迷わず”出くわしたら逃げろ”と、そう後続へ伝えるだろう。
/ 、 /「……フゥゥ……」
だが見上げた先ではそんな化け物が首を失って、まるで許しを乞うかのように
たった一人の男の前に両膝を突いては、地面に崩れ落ちていくのだ。
”常人”である彼にとっては、そんな光景に現実味などある訳がなかった。
- 753 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:37:52 ID:PiH4YMwA0
-
ノシ`i゚ 益゚i以「――――パガオッ!」
/ ゚、。 /「………」
背で叫んだ一匹が、勢い良くダイオードへと跳びかかる。
人間ではないのだ。
感情の無い人鬼達は、たかが同族の一匹や二匹殺された程度で怯まない。
”バシンッ”
ノシ`i゚ 益゚i以「ズングバッ!?」
だが、それにはオーガ自身とて驚いた事だろう。
自分たちに比べれば遥かにひ弱な草食動物のような人間一人が、
片方の腕一本だけで、自分の拳を受け止めているのだから。
/ ゚、。 /「………」
(;=゚ω゚)「ば………」
- 754 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:39:44 ID:PiH4YMwA0
-
ノシ`i;゚ 益゚i以「アッ、アガゥッ!バドゥッ」
ギリギリと、耳に聞こえる程の音を立てながら、ダイオードの指は大きな拳へめり込む。
更にはそれを引き寄せながら、右手に掴む手斧の柄を握り締める力をより強めた。
痛みを訴えるその叫び声は、振り下ろされた手斧によって頭蓋ごと断ち切られる。
”ごしゃッ”
「パオ、ナップッ」
(;=゚ω゚)「―――うッぷッ」
ビクビクと痙攣するオーガの身体を、その頭部から流れだした中身の一部分や
多量の血液が噴き出しては伝い落ちていく。無論それはダイオード自身にも跳ね返り、
彼の鉄の仮面や全身を赤く血で染めていき―――思わず、それに吐き気を催した。
- 755 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:42:17 ID:PiH4YMwA0
-
ノシ`i゚ 益゚i以「シィゴァッ!」
そこへ、一匹を仕留めたばかりのダイオードの意を衝いて、側方から棍棒が薙振るわれる。
”ドゴッ”
/ ゚、。 /「―――ヴッフ……!」
(;=゚ω゚)「あ、あぁッ……!」
見ている側が悲痛な声を上げてしまう程に、痛ましい光景だった。
脇腹を殴りつけられた衝撃は凄まじく、直後にダイオードは仮面の内側で血を吹いた。
並の人間であれば一撃で骨がへし折られ、柳のように吹き飛ばされているだろう。
しかし続け様に棍棒が頭に振り下ろされる間際、彼はくの字に折れた身体を起き上がらせると、
愉悦に歪んでいた醜悪なその顔に向けて、左の拳を閃光の如く叩き込む。
/ ゚、。 /「フゥッ――――!」
- 756 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:43:31 ID:PiH4YMwA0
-
”パンッ”
ノシ`i# 益゚i以「……プッ、ガァッ!」
二回りも小さな存在に、まさか素手だけで仰け反らされるとは人鬼とて夢にも思わないだろう。
自身の鼻っ柱を貫かれた衝撃に驚き、一瞬目をぱちくりとさせた所に、もう一発叩き込まれた。
”どすッ”
今度は、振り上げられた右脚のつま先だった。
それが人鬼の左脇腹へ突き刺さるようにして、深々と食い込む。
ノシ`i; 益 i以「ギョボェッ!」
胃液だか体液だか解らぬようなものを吐き散らかしながら、片膝を突くオーガ。
その首を狙いすまして、さして切れ味の良くないなまくらの手斧が、横側から叩き込まれた。
/ ゚、。 /「――――ぬぅぅッ!」
- 757 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:45:26 ID:PiH4YMwA0
-
”ぞぶり”と、筋繊維や骨を断裂させながら押し入った刃は、そのまま腕力だけで
強引に振るわれると、皮膚の薄皮や肉の一部を残したまま反対側へと振り切られる。
千切れ落ちた自らの頭部を抱きかかえるようにしながら、そうして三匹目も地面へと倒れ伏した。
(;=゚ω゚)(な……なん、なんだよぅ……!?)
/ ゚、。 /「…………フゥ…………フゥ………」
”この男は人間じゃない。人の姿をした、鬼そのもの――――”
自分の中での常識の埒外にあるその血塗れの男の戦い振りに、その息遣いに戦慄していた。
そして、彼が字される――――その異名を思い出す。
(;=゚ω゚)(鉄面の――――”死神”)
またたく間に三匹ものオーガを屠った男に対しての、純粋なる畏敬が生まれた。
- 758 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:46:20 ID:PiH4YMwA0
-
自分は恐怖に怯えるだけしか出来ず、訪れる死の足音を待つだけだった。
しかしこの男はその只中に身を置きながらも、微塵も怯まず死に立ち向かうのだ。
彼もまた、このオーガ達同様に人としての感情が無いのかも知れないとさえ思える程に。
耐える肉体、萎えぬ闘志、そして抗う様は―――――男の目には”狂戦士”として映った。
ノシ`i゚ 益゚i以「……アグリッパ」
もしかすると、上手くいけば。
どこかで包囲に穴が開いて、まだ生き延びられるチャンスがあるかも知れない。
(;=゚ω゚)「……何だよぅ?」
だがそこで、二人を取り巻くオーガ達の雰囲気が変わった。
何事かを小声でささやきあいながら、互いに目配せを送っているようだった。
ノシ`i゚ 益゚i以「テケレッパッ!デベロッパッ!」
- 759 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:48:42 ID:PiH4YMwA0
-
/ ゚、。 /「………!」
どうやら―――この男が普通とは少し違うのだと、人鬼達は学習したようだ。
普段は群れとしての習性など持たないオーガだが、目の前で同族が立て続けに殺される
光景を見せられては、警戒して当たらなければならない存在だとして認識したのだろう。
雰囲気からそれを察知したダイオードは背後へ、それから側方へと視線を巡らせる。
神経を張り巡らせながら、オーガ達の接近を迎え撃つ構えを見せていたが、、
にじり寄るようにして少しずつ包囲の輪を狭められて行く中では、彼が出来る事は
飛び出して来る一体ずつを叩く、その瞬間にのみ備えて待つ事だけだった。
しかしそこには、同時に多方向から飛びかかられて、一瞬で挽肉にされる未来が待ち受けている。
(;=゚ω゚)「あ、あァッ……駄目だ、やっぱり駄目だよぅッ……!」
ノシ`i゚ 益゚i以「グシシッ!……ヘルパッ!」
- 760 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:50:13 ID:PiH4YMwA0
-
(;=゚ω゚)「ひっ!?」
赤子の様な声を上げながら、もはや男はダイオードの足元にしがみついていた。
ノシ`i゚ 益゚i以「テグシッ、ガルパァッ!グハハハッ!」
/ ゚、。 /「ッ………!」
少しずつ迫り来るオーガの群れは、それぞれに様々な表情を覗かせた。
時折こちらへ踏み出す様な素振りを見せては、その都度そちらへ振り向くダイオードや
うめき声を漏らす男の様子に、次々と下卑た笑い声を上げて悦んでいる。
人間さながらに、人鬼達は狩りを楽しんでいるのだ。
獲物を甚振りながら追い込む事、それを愉悦と感じるのは人間特有の感情だ。
その醜い部分を現したような化け物達の輪の中心で、男は生涯最後の一瞬を待ちわびる。
- 761 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:51:30 ID:PiH4YMwA0
-
(;= ω )「せめて―――せめて、一瞬で楽にしてくれよぅ……!」
血にぬめった手元を拭っては、再びしっかりと手斧の柄を握り締める。
押し寄せる絶望の影達を映しながらも、それでもダイオードの瞳は違うものを視ていた。
/ ゚、。 /「………まだだ」
この先にあるのだ――――自分が迎えるべき”死”は。
どれほどの死地に落とし込まれても、それに耐えてこれたのはこの感覚ゆえ。
死に場所を望みながらも、皮肉にもそれが縁遠くなっていく程に鍛え上げられた。
抜け殻のような人格を捨ておいて、肉体だけが彷徨い、一人歩く。
”ザンッ”
- 762 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:52:36 ID:PiH4YMwA0
-
/ ゚、。 /「そう――――」
ある時から、こう考えるようになっていた。
神か、あるいは悪魔が奪い去って行った、最愛なる二つの命。
それらが失われた事には、果たして意味があったのだろうかと。
”ズシュッ”
それを追った自分が死のうとも、そこに意味があるのだろうか。
最愛の女性から願い託された生を裏切ってまで、苦しみから逃れた先に。
自分一人だけの命ならば、とうに捨て去ってしまっていただろう。
だが、そうして楽な方へと逃げてしまえば――――
自分を置いて行ってしまった二人の生命が永遠に失われた、その意味までが
無くなってしまうのではないかと、それをこそ恐れるようになったのだ。
- 763 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:54:03 ID:PiH4YMwA0
-
だからこそ、こんな場所では未だ死なない。
自らが死ぬ事に、許しを与えてはならない。
”ドスッ”
/ ゚、。 /「やはり―――此処ではない」
(;=゚ω゚)「!?」
ダイオードの声に、男は思わず頭を上げた。
未だ訪れない痛みに耐えかねた所で、この場に起きた異変を察知したのだ。
呆気に取られるような眼前の光景に、二人を取り囲んでいたオーガ達全員の
視線がそちらの方向へと向けられ、明らかにそれらの様子は浮き足立っていた。
”ぞぶッ”
ノシ`i;゚ 益゚i以「……イグ、ギア……!」
- 764 :今日中に終わらんかも:2013/06/02(日) 13:55:00 ID:PiH4YMwA0
-
ダイオードの目の前に立っていた一匹の喉元から突き出された、鋭利な鉄塊。
それが引き抜かれると同時にオーガは倒れ、やがて剣の主は姿を現した。
その瞳には、まるで生命の原動力を感じさせるような、燃え盛る紅蓮の色を宿して。
_
( ゚∀゚)「お前、ダイオードか?」
/ ゚、。 /「………お前は」
_
( ゚∀゚)「話には聞いてんだろ―――ヴィップから来た、ジョルジュってんだ」
/ ゚、。 /「そう、か」
_
( ゚∀゚)「まぁ縁あって馳せ参じたってなとこだ。どうやら……宴も酣みてぇだな?」
- 765 :そろそろ休憩:2013/06/02(日) 13:56:58 ID:PiH4YMwA0
-
大仰な剣を担いだジョルジュが階層状の広間を見上げた先には、未だ多くの瞳が爛々と輝く。
オーガの群々の視線が一斉に彼へと注がれ、新たな獲物を認めた人鬼は再び警戒を強めた。
その鬼達の棲まう領域の空気が、ギコには一際重く沈んだものに感じられた。
( ,;゚Д゚)「おい!自己紹介なんてしてる場合かよ!さっさとずらかろうぜ!」
_
( ゚∀゚)「……そういう訳だ、とっとと来い」
既に二匹のオーガを斬り倒し、ダイオード達を囲む包囲の一部分は破られていた。
出口までの道が切り開かれた今ならば、駆け出して脱出する事が出来る。
/ ゚、。 /「………!」
ジョルジュらに促されるままに一歩を踏み出したダイオードだったが、
足元で衣服を引っ張られるような感覚を覚えて、視線を地面へと向けた。
そこには、必死な形相を浮かべてダイオードの足首を掴む、無様な態勢の男の姿があった。
(=;ω;)「ま、待って………腰が抜けて、立てないんだよぅ……!」
- 766 :そろそろ休憩:2013/06/02(日) 13:58:30 ID:PiH4YMwA0
-
/ ゚、。 /「………」
一瞬の戸惑いを見せたダイオードに向けて、ジョルジュは叫ぶ。
_
( ゚∀゚)「放っとけ!そいつは、おめぇをここでオーガ共の餌にしようとしたんだろうが」
( ,;゚Д゚)「ジョルジュ、そりゃあ……!」
(=;ω;)「!?……お願いだ、お願いだよぅ!し、死にたくねぇよぅッ」
/ ゚、。 /「………」
振り払われまいと必死で脚にしがみつく、自分をこの場におびき寄せた男。
腕を解かせてこの場に捨て去るのはダイオードには容易だったが、その処遇を決めかねていた。
_
( ゚∀゚)「早く―――」
- 767 :そろそろ休憩:2013/06/02(日) 13:59:20 ID:PiH4YMwA0
-
ノシ`i゚ 益゚i以「……グアラッパォッ、グアラッパォ!」
促すジョルジュをよそに、一匹の合図を機に、再び彼らを阻む包囲が動き出した。
後方から背を狙って飛び出したオーガの攻撃に、足元に荷物を抱えたままの
ダイオードは辛くも手斧を振るう事で、その棍棒の一振りを弾き返して難を逃れる。
/ ゚、。 /「………」
(=;ω;)「あ、あぅぅぅ……っ」
ノシ`i゚ 益゚i以「グ、ルゥウ」
しかしその幸運も、絡みつく男の腕を振りほどかない事にはそう長く続かない。
そればかりか、ダイオードが前のめりに態勢を崩したその隙を逃さず、オーガは彼らを押し包む。
- 768 :一旦この辺で^〜:2013/06/02(日) 14:06:08 ID:PiH4YMwA0
-
再びダイオード達の退路が閉ざされていこうとした、その時だった。
( ,;-Д-)「………畜生」
_
( ゚∀゚)「―――おい」
「お前、まさか」
覚悟を決めて恐怖を押し殺そうとするかのようなギコの表情に、ジョルジュは何かを悟る。
それに掛けようとした言葉は間に合わず、次の瞬間にはギコの背を見送る事になった。
( ,;゚Д゚)「う―――おらぁぁッ!」
「馬鹿野郎!!」と叫ぶジョルジュの声が、真っ白な頭の中に響く。
- 769 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 14:23:20 ID:G6Zw51Hk0
- 上げてすまんかった
相変わらず投下量多くて読みごたえある
一旦乙
- 770 :執筆なう:2013/06/02(日) 14:29:37 ID:PiH4YMwA0
- >>769
とんでもござんす!自分の場合は冗長って言うかもっす
出来れば今日の内に続きをという事で、一旦すんません!
- 771 :名も無きAAのようです:2013/06/02(日) 14:50:43 ID:rABxmXAY0
- 待ってます
- 772 :名も無きAAのようです:2013/07/21(日) 23:48:25 ID:vDNapJOI0
- 松
- 773 :名も無きAAのようです:2013/07/28(日) 01:16:16 ID:.KZcD4MQ0
- 待ってる
- 774 :名も無きAAのようです:2013/08/15(木) 02:11:46 ID:X.QGY/yo0
- 待ってる
- 775 :1度だけageます:2013/08/20(火) 04:07:02 ID:e/DmWKX20
-
圧倒的に体格差のある化け物の群れの中を、剣を出鱈目に振り回しながら突っ切って行く。
闇雲な攻撃など一時凌ぎにしかならないが、僅かでも道を切り拓ければそれで十分だった。
ノシ`i゚ 益゚i以「ダンガパ!?」
( ,;゚Д゚)「―――ッハ」
この馬鹿でかい図体に捕まれば、あっさりと捻り殺されるだろう。
考えたくもない光景を脳裏から置き去り、駆けながら夢中で剣を横へ薙いだ。
自分の背中に受ける多数のオーガ達の視線に怖気の来る思いをしながらも、
それら一切を無視してかき分けるように、ただ一直線に彼らの元を目指す。
後先の事を考えてしまっては、勢いだけのこの度胸を絞り出すのは不可能だったろう。
低く身を屈めながらの姿勢で1匹、2匹とかわしたが、そこで
ダイオードら二人の前に立つ一匹がギコの迫る様子に気づいたか、振り返る。
構うものか―――そう考えていたギコの全身を突如、浮遊感が包んだ。
- 776 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:10:04 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д゚)(――――うお……!?)
足場の悪さが完全に意識から抜けてしまっていたのだ。
運悪く拳ほどの岩につま先を引っ掛けてつんのめり、勢いを失う。
膝を突いてすぐに視線を上げた先には、頭を覆う程の巨大な手の平が迫る。
ノシ`i゚ 益゚i以「ディゴアァッ!!」
( ,;゚Д゚)「……ッ!」
ノシ`i゚ 益゚i以「ガルパッ!」
ダイオード達に向いていた注意の半数は、その場へと急ぐギコに注がれる。
更に1匹、2匹と近づいてくる影を視認すると、次に取るべき行動がすっぽりと頭から抜け落ちた。
忘我―――ギコの頭の中は白く塗りたくられ、数秒の間をまるで、彫像のように固まっていた。
すぐに剣を構えて、自分の身を守る事すら忘れるほど。
”どうする―――ここから?”
- 777 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:12:01 ID:e/DmWKX20
-
確実に冷静さを欠いた思考を引き戻したのは、聴き馴染みのある声だった。
「頭ぁ下げてろ」
ノシ`i;゚ 益゚i以「グ、ゴブルッ」
”ズドッ”
無数のオーガ達の視線が注がれる中で、ギコの意識はその声に手繰り寄せられた。
見れば、頭上ではジョルジュが片腕で放った刺突が、立ち塞がるオーガの喉を抉っている。
_
(;゚∀゚)「勝手に飛び出してこのザマ……ったく、尻拭いする身にもなりやがれ」
( ,;゚Д゚)「―――ジョルッ」
_
(#゚∀゚)「一度に相手出来る数じゃねぇ、続けぇッ!」
( ,;゚Д゚)「お、おぉよッ!」
ノシ`i゚ 益゚i以「……グォパァッ!」
問答を交わす暇もなく、二の句も告げさせないジョルジュの気迫に
圧されながらも、ギコは敵地へと切り込んでいく彼の背だけを追った。
- 778 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:13:12 ID:e/DmWKX20
-
獲物に群がるオーガ達のかいなを剣で振り払いながら、臆する事なく前へと踏み出す。
包囲を突き破り、やがて拓けた視界の先では、血塗れの大男の姿が飛び込んで来た。
その彼の足元で小さく震える男は、完全に腰が抜けているようだった。
無我夢中のままに腕を差し伸べると、肩を担ぐようにして立ち上がらせる。
( ,;゚Д゚)「早くッ、立ちやがれッ!」
(;=゚ω゚)「あ、脚が」
( ,#゚Д゚)「やる気あんのかオイッ!死んじまうぞッ!」
震える足腰と、唇までも真っ青に染まる男の表情。
ギコ自身もまた、その脅威と間近に対面してみて無理からぬ事だと思えた。
ノシ`i゚ 益゚i以「……グッグッグッ……」
”捕食者”に取り囲まれてしまっている窮地に、背筋をすぅ、と悪寒が走り抜けていく。
醜く、悪意に満ちた表情をした人鬼達の巨体は、ギコ達の前を大きな影で覆った。
それらに相対する意思と反して、膝は微かな震えにつかれていた。
獲物を前に舌なめずりする一匹と、目が合う。
- 779 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:14:03 ID:e/DmWKX20
-
ノシ`i゚ 益゚i以
( ,;゚Д゚)(……でけぇ)
/ ゚、。 /「………」
(;=゚ω゚)「た、助けてくれよぅッ」
オーガ達の返り血に塗れたダイオードの対角上。背中合わせになるようにして、
ジョルジュは反対側の一団へと注意を払い、にじり寄るオーガの動きを観察していた。
_
( ゚∀゚)「野郎を一人を抱えて、ここを抜け出るつもりか?」
( ,;゚Д゚)「放っとく訳にはいかねぇだろ」
_
( -∀-)「そいつを餌にすりゃあ、より安全に助かるかもな」
(;=゚ω゚)「そそ、そんなッ!」
( ,;゚Д゚)「何言ってんだよ、バカッ!」
_
( ゚∀゚)「へっ、冗談よ……茶目っ気たっぷりのな」
半分は本気なのかも知れない、と思えた。
- 780 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:14:46 ID:e/DmWKX20
-
男の身体を重く引きずるようにして、この場からの離脱を目論んでいた。
だが目の前には、黒い山脈の様にそびえ立ち並ぶ、牙を生やした巨人の群れ。
無傷での脱出は、不可能かも知れない。
ノシ`i゚ 益゚i以「グフ、グフッ」
( ,;゚Д゚)(隙間が、ねぇ――)
_
( ゚∀゚)「……ちっ」
軽口を叩くジョルジュの横顔から覗く瞳が、何より彼の口ほどに物を言っていた。
刺し貫くような視線でオーガ達の隙を伺う表情は、戦地に置かれた傭兵のよう。
それほどに困難な状況であるのだと、伝わってくる。
外界へと続く縦穴とは、さして距離も無い。
だがそれを途方もなく隔てるのは、人鬼達の壁だ。
先ほどのような突破を敢行して再び成功させるのは、薄氷の上を踏み渡るように困難。
必死でこの場の全員が生き延びる方法を模索しようにも、
少なくとも全員が無事に逃げ切れるような方法などは見当たらない。
表情にまで現れたギコの焦りを見抜いたかのように、オーガの群れはやがて動き出した。
- 781 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:15:58 ID:e/DmWKX20
-
(;=゚ω゚)「うッ、後ろだよぅッ!」
( ,;゚Д゚)「!?」
ノシ`i゚ 益゚i以「―――グァック……クアラルンッ!」
男を担いで無防備な状態のギコの背後へ接近した一匹が、輪の中から襲いかかる。
/ ゚、。 /「ぬぅぅッ!!」
”ドバッ”
だが、それにはダイオードが即座に対処した。
腰の捻りを効かせた打撃が真横に振るわれると、
叩き潰すようにしてこめかみから上を吹き飛ばす。
ノシ`i; 益 ;i以「ンバッ―――」
更に息つく間も無く背後に立った一匹が、ダイオードへ棍棒を振り上げた直後、
振り向きざまに強烈な前蹴りを腹に浴びせてやると、そのまま輪の外側へまで押しやった。
- 782 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:16:57 ID:e/DmWKX20
-
後ろの男は、自分などに比べて遥かに馬鹿強い。背中を任せる事が出来そうだった。
しかしそれだけでは、男を担いだ状態で包囲の輪を内側から突破するのには際どい。
( ,;゚Д゚)「畜生!退けッ、退きやがれッ!」
ノシ`i゚ 益゚i以「グルゥ―――」
( ,;゚Д゚)「くッ……降りろ!」
当たり散らすように怒鳴りつけた所で、人鬼にはたじろぐ様子など微塵もある訳がない。
ならば、と―――ギコは肩を貸す男を地面へと下ろして、背から自らの刀剣を抜き出す。
(;=゚ω゚)「や、やる気かよぅ……無理だよぅ!?」
( ,;゚Д゚)「うるせぇ! 四の五の抜かしてねぇで、そろそろ自分で立ちやがれッ!」
(;=゚ω゚)「う……で、でも、脚が震えて……!」
( ,;゚Д゚)「何とか、出口まで切り開くからよ―――おいアンタ! 後ろは任せたぜッ」
殺意が、四方八方から降り注がれる。
- 783 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:17:48 ID:e/DmWKX20
-
片時の隙も見せられない状況の中、背中にはまだダイオードの呼吸や、
彼が振るった斧がオーガの肉体を断ち割る音が響く事から、彼の安否が伝わっていた。
ギコが言葉を投げかけた相手は、仮面の奥で低くくぐもった声で呟く。
/ ゚、。 /「……出来るか、それが」
( ,;゚Д゚)「わかんねぇよッ、やるだけだッ!」
_
( ゚∀゚)「チッ、面倒な数だぜ」
背を守る男の呟きに、息を切らせながら叫んだ。
そのダイオードが戦闘不能に陥った時は、前後から同時に襲い掛かられて仲良く死ぬだけだ。
身の丈ほどの剣を手に、静かに様子を伺うジョルジュの傍らで、
ギコは自身の呼吸を整えるのに必死だった。
( ,;゚Д゚)「フゥッ……フゥッ……」
亡き父がこしらえてくれた一振りの刀剣に、自分や誰かの命が委ねられる。
暗殺者の一団に追われた時でさえ、相手を斬る事への覚悟は出来ていなかった。
だが、力のみが生死を分かつ状況にこうして置かれてみて、初めて感じた。
命を託した時の、剣の重みというものを。
- 784 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:18:33 ID:e/DmWKX20
-
化け物なら、人間と違って斬り殺すのにも躊躇はない。
しかし、それができた所で切り抜けられる状況とは、思い難かった。
少しずつ暗い思考に呑まれそうになっていた時―――やがて、人鬼達が静寂を破る。
ノシ`i゚ 益゚i以「……クォパオォォォォッ!!」
_
( ゚∀゚)「……ッ!」
突如、一匹のオーガが奇妙な吠え声を上げた。
広々と吹き抜ける洞穴の天井を仰ぐようにして、両手を広げながら。
その叫びに同調した何匹かが、それと同じように耳障りな声色で、続く。
(……クォパオォォォーーーッ……)
不気味に洞窟内を木霊するオーガ達の奇声。
だがある時を境に、再び静寂が広間を満たしていった。
ノシ`i゚ 益゚i以「ググッ……グフッ」
( ,;゚Д゚)(何だ……急に、奴らが退いていく……?)
- 785 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:19:52 ID:e/DmWKX20
-
ギコらを取り囲むオーガらの足が、波が引くようにして少しだけ離れていく。
”まさか、諦めた?”
一瞬浮かんだ馬鹿な考えをすぐさま振り払いつつ、すぐに次の瞬間へと備えた。
つかの間の静けさこそが、ただ恐ろしかった。
その反動に訪れるであろう、嵐が予感できたからだ。
(……グォッラル、ハランバッ!)
_
(;゚∀゚)(野郎、まさか……)
(=;゚ω゚)「あ、あそこだよぅッ!」
どこで聞こえた声かはすぐに解った。
どのオーガ達も見上げているのだ、上を。
暗がりに目も慣れて来ていた今は、はっきりと見える。
上部へと吹き抜けているこの広間の作りは、螺旋状に上層へと上がれる道が出来ているのだ。
恐らくその最も高所と思しき場所に、馬鹿でかい大岩が姿を覗かせていた。
(……アリンバッ!)
( ,;゚Д゚)「こっちに、落とす気かッ!」
- 786 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:20:38 ID:e/DmWKX20
-
ぱらぱらと降り注ぐ小石や土埃。
オーガの一匹がその岩を動かしている。
大岩の位置と現状を比較して、その意図をいち早く正確に
察することが出来たのは、ジョルジュとダイオードだった。
_
(;゚∀゚)「いや……」
/ ゚、。 /「もっと、悪い」
”ズドンッッ”
間もなくして、けたたましい轟音を響かせながら、丸型の大岩は転げ落とされた。
(=;゚ω゚)「…あッ、あぁぁぁッ……」
間を置いて、巻き上がった土煙に閉ざされた視界が晴れた後、無情な現実が姿を現す。
やがて、身を刻まれたかのように切なく声を振り絞った男の膝が、再び地面へ崩れる。
大岩の落下点は、自分たちの頭上などではなかった。
- 787 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:22:09 ID:Uh2LHG3I0
- 待ってたぜ 支援
- 788 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:22:50 ID:e/DmWKX20
-
遥か上層から落とされた岩は、ギコ達が侵入してきた経路である縦穴に、
すっぽりとはまりこむようにして、完全に道先を塞いでしまっていたのだ。
現時点で唯一だった外界へ繋がる通路との分岐点である、よもやその場所へと。
たとえオーガの群れを掻き分けてそこへたどり着いたとしても、
生身の人間の力だけで退かせるような大きさではない。
それをしている内に、袋叩きにあって殺されるのは想像に易かった。
ノシ`i゚ 益゚i以「グォハオッ、グァパゥル!」
( ,; Д )
言葉一つも捻り出せない、絶句であった。
心の中に染みだした絶望が、ひたひたと近づいてくる死の恐怖を痛感させる。
虚勢を張るような気力も、もはやない。
勝鬨を上げるかのように咆哮する人鬼の群れの前に、闘志は急速にしぼんでいく。
ギコの表情ももはや、細く生を哀願するだけの男のものとほとんど変わりはなかった。
ノシ`i゚ 益゚i以「グハハハハァッ!」
ただでかいだけの化け物ではなく、獲物を逃さないための狩りの方法も心得ていたのか。
決して過小評価していた訳でもない、とはいえ、完全に不意を突かれる出来事だった。
そうして、じっくりと閉じ込めた獲物を追い込み、狩りを楽しむのだろう。
- 789 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:26:48 ID:e/DmWKX20
-
(=; ω )「ひゃあぁッ! おしまいだ、もうおしまいだよぅッ!」
( ,;゚Д゚)「……く、っそッ……」
引いた人鬼達の波は、一様に不気味な笑みを貼り付けて、再び四人のもとへと押し寄せる。
こちらの逃げ道を絶った事で完全な優位に立った事から、獲物が絶望していく様への愉悦か。
自分の命が彼方の川へと流されていくような、抗いがたい無力感が上からのしかかる。
その緊張感に耐えかねたギコもまた、諦めを口にした男と同様に
この場で己の身を大の字に投げ出してしまいたいとさえ思っていた。
そこで―――不意に、ジョルジュが沈黙を破る。
_
( ゚∀゚)「おい大将―――つかぬ事を聞くがよ……お前さん、何匹いける?」
/ ゚、。 /「………」
正面から決して視線を逸らさぬまま、ダイオードに問いかける。
少しだけ興奮を押し殺しているようではあったが、いつも通りの声色で。
ジョルジュはこの時、諦念を抱くギコ達とは程遠い場所を視ていたのかも知れない。
まだ何も終わってなどいない、そう告げるように、朱の瞳の奥では炎を揺らめかせて。
- 790 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:28:01 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「この数……上にいる奴らも合わせればざっと50は下らねぇ」
/ ゚、。 /「……それが」
_
( ゚∀゚)「俺は、20までなら確実に殺れる―――だがそれ以上は駄目だ。
刀身がクソどもの油でヌメっちまって、なまくら以下よ」
( ,;゚Д゚)「ジョ――」
/ ゚、。 /「……ハッ」
この状況で、彼は諦めてなどいなかった。
いや、ジョルジュだけではない。
背を向けたままのダイオードが、地面へ”ぶん”、と手斧を薙振るって応えた。
/ ゚、。 /「”30”か―――それしか残らないのは、残念だが」
_
( -∀-)「へッ、言うねぇ」
/ ゚、。 /「40でも、50でも、構わん」
- 791 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:29:27 ID:e/DmWKX20
-
ダイオードもまた、恐らくは彼と同様にやり合うつもりなのだ。
この、退路を絶たれた孤立無援の状況で。
個としての性能差に加え、圧倒的な数的劣勢に立たされながら、
まだそこから生を拾おうと、それだけを考えているのだろう。
_
( ゚∀゚)「あまりに頼もし過ぎて、涙が出てくらぁ……」
( ,;゚Д゚)(こいつら……)
挫けかけていた心や、この場を満たした絶望を叩き折る。
そう主張せんばかりに力強い彼らの言葉は、さながら小さな松明だった。
それでも、ギコのちっぽけな勇気を再び奮い立たせるのには、十分な明るさの。
_
(#゚∀゚)「―――なぁッ!」
以`i゚ 益゚i以「!?」
”ザンッ”
その一言が、開戦の狼煙。
もはや獲物は萎縮しているものだと、高をくくっていたことだろう。
優越に浸る捕食者は、そのジョルジュの踏み込みへの対応に遥か遅れを取った。
咄嗟に腕を前に出して防ごうとしたが、左腕が瞬時に寸断される。
- 792 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:31:34 ID:e/DmWKX20
-
ノシ`i;゚ 益゚i以「オ、グァッ」
切断面から血を吹き出した腕を抱え込むようにして、一匹が膝をつく。
すかさず、おおよそ刃物とは思えない程の鈍い音が響いた。
_
(#゚∀゚)「ふッ!」
”どごっ”
肩に駆け上がり、下段から円弧を描いた振り上げは、顎から脳天にかけてを易々断ち割る。
飛び散った脳漿や返り血を浴びながら、すぐさま円陣の中央へまで飛び退いた。
一連の鮮やかな瞬殺劇に見入っていたギコは、一瞬我を忘れていた。
( ,;゚Д゚)(すげぇ―――!)
”底が知れない”
ギコにそう評価されていたジョルジュは、更に奥底に隠された自身の力の片鱗を見せつける。
冒険の中で鍛えぬかれたであろう技も力も―――凡百のそれではない。
窮地においても曲がらずして折れぬ精神力は、まるで彼が手にする肉厚の大剣と同じようだった。
- 793 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:33:01 ID:e/DmWKX20
-
/ ゚、。 /「ふッ!」
ノシ`i;゚ 益;,以「ブッ……!」
ジョルジュの対角上、輪を抜けだして来たオーガの顎をダイオードの手斧がぶち抜く。
だが昂った鬼の闘争本能は、致命傷を外せば簡単には動きを止めなかった。
顎の一部であった肉を顔の下にぶら下げたまま、ろくに視点も見定めないままに
異音とも雄叫びともつかぬ吠え声をあげ、かいなを振り上げた。
ノシ`i;゚ 益;,以「ブ……ギ、グシュルュァッ!」
”ゴッ”
人間からすれば丸太のような棍棒で見舞った反撃が、ダイオードの脇腹を捉える。
鍛えぬかれた冒険者であろうと、枯葉のように吹き飛ばされるであろう一撃。
骨ぐらいは折れているかも知れない、そんな大振りをまともに喰らったのだ。
だが、倒れるどころか――――その場から一歩も動いてはいない。
/ ゚、。 /「………ぶふッ」
ただ、衝撃に全身を揺るがされたダイオードは、仮面の奥で短く呻く。
ささくれだった雑な仕上げの棍棒は、胸当て以外はほぼ剥き身の彼の地肌を裂き、
ぱた、ぱたと地面に血の雫をいくつか滴らせた。
( ,;゚Д゚)「だ……ッ!」
- 794 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:34:20 ID:e/DmWKX20
-
叫びながら助力へ走ろうとしたギコの前に、続けて目を疑うような光景が映し出される。
相手と同じように手斧を振り上げたダイオードは、負けず劣らずの咆哮を上げた。
/ ゚、。 /「ゴォ―――オオォォォォーーーッ!!」
”グシュッ”
ノシ`i; 益;,以「……ニッ、グ」
身に受けた棍棒を脇で挟み込み引き寄せると、手にした斧でオーガの首筋を深く穿つ。
傷口は胸元までに達し、いかな屈強の妖魔といえども今度は反撃の余力も与えなかった。
肩越しにその光景を見ていたジョルジュが、にやりと笑う。
_
(;゚∀゚)「……おいおい。どっちがオーガなんだか……」
”ガンッ”
言いながら、振るわれた棍棒の一撃を、広刃の側面を盾に受けていた。
打撃の勢いに逆らわず、そのまま後方へと飛びながら威力を逃す。
続けて左右から伸ばされた腕を掻い潜りながら、ジョルジュもまた気迫を口にした。
_
(#゚∀゚)「……負けてらんねぇなぁッ!」
- 795 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:36:21 ID:e/DmWKX20
-
”ズドッ”
ノシ`i;゚ 益゚i以「グヴォェッ」
返す刀で、腕ごと伸ばした大剣と共に懐へ飛び込むと、胸板を貫いた。
倍は近い体躯の数体を、素早い身のこなしで翻弄しながら、
時折伸ばしてきた腕を狙いすますようにして、それらを斬り落とす。
( ,;゚Д゚)「どうする、ジョルジュッ!」
オーガ達の足並みが乱れ、崩れた輪の中から数匹もが群がってくる。
完全なる戦闘状態。無数の敵の檻の中では、勝利となる条件は見当たらない。
だが、自分たちの生存がそれであるとするならば、これからやるべきことは
考えたくもない事だと、ギコ自身も気づいてはいた。
_
(#゚∀゚)「やるしかねぇだろうが! 50だろうが100だろうがッ」
( ,;゚Д゚)「やっぱ、それしかねぇのかよぉ!」
_
(#゚∀゚)「死にてぇならそこで突っ立ってていいんだぜ!」
- 796 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:37:29 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д゚)「な、ワケ―――」
言いかけて、ギコは目の前に落ちた影に気づいた。
そこで複数のオーガが背後に接近しているのを感じ取り、すぐさま前方へと飛び退く。
( ,; Д )「……ッ!!」
”ぶんッ”
少し遅れて、豪音と共に風が髪を揺らした。
転がり込んだ先で視線を向けると、人の顔ほどもある拳を突き出していたオーガの姿。
ノシ`i゚ 益゚i以「グヌゥ、バドゥ」
( ,;゚Д゚)「うっ……おぁぁぁッ!」
無我夢中ででたらめに剣を振るうも、さして脅威を与えるに至らず、
数歩下がった三匹の内の一匹に、それは苦も無く避けられた。
ギコの背中に、遠巻きからジョルジュの怒号が響く。
_
(#゚∀゚)「そのお飾りみてぇな剣を有意義に使いやがれッ!
最後の最期まで命張る度胸がねぇ野郎なんざ、あの世に行っても笑い草だぜ!」
- 797 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:38:24 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д゚)「くっ………」
さらに横から、衣服の端を掴もうと腕が伸びる。
辛くも身を捩って逃れながら、また夢中で剣を振るった。
”ぐっ”
が、それを振り切った後にギコは凍りつく。
実際に、突如として得物に大きな負荷が加えられ、動かす事が出来なかった。
見れば、速力を失った刀身の先端部分を、上下から挟み込むようにしてオーガに捕らえられていた。
( ,;゚Д゚)「な……は、離しやがれぇッ!!」
ノシ`i゚ 益゚i以「カッランバッ!」
( ,;゚Д゚)「う、おおぉッ」
強烈な力で引き寄せられ、引っ張り返す事もままならない。
剣先に込められた力が更に強まると、視界が揺らぐほどの勢いで、
ギコの身は剣ごと地面へと引き転がされた。
投げ出される一瞬、思わず柄を握る力が緩んだ。
腹ばいの態勢から、すぐ近くの地面に転がった剣が視界の端に映る。
やがて背後に、再び大きな影が迫っていた。
- 798 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:39:05 ID:e/DmWKX20
-
( ,; Д )(何……つぅ馬鹿力だよ―――!)
十分に恵まれた体格である自分の身体を、手にした剣ごと容易く放り投げてみせた。
その手で無造作に握らられただけで、骨は悲鳴を上げる事だろう。
鬼の膂力に戦慄しながらも、すぐに身を翻すと、尻を地に着けながら必死に後ずさる。
だが、抵抗を強める獲物達に対して、オーガ達の目の色は変わっていた。
猪のように駆け出してきたオーガは、既にギコの目の前。
自身の首へと伸ばしされるその手を振り払う武器も、今は手の中にない。
ノシ`i゚ 益゚i以「グッグッ」
( ,;゚Д゚)(殺ら、れ――――)
”ドッ”
息遣いまでがはっきりと聞き取れる近距離にまで迫った時、ぴた、とオーガは動きを止めた。
その音と、自分の胸元を抜けだした物体の感触に、思わず視線を落としたのだった。
( ,,゚Д゚)「!?」
ノシ`i;゚ 益゚i以「……ガ、イヂッ……」
- 799 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:40:07 ID:e/DmWKX20
-
_
(;゚∀゚)「おめぇを子守する余裕はねぇんだ、こちとら」
少し息を荒げたジョルジュの剣が、オーガの背中から胸へと抜け出ていた。
がく、と膝を突いた背中に足を掛けて踏みつけると、剣を勢い良く引きぬく。
背へと振り向いたオーガは、顔面を斜めに断ち割られ、そのまま倒れた。
( ,;゚Д゚)「あ―――ありがてぇッ」
ジョルジュの機転で救われた事を知ると、すぐに
後ろに転がってた剣の柄を手に取り立ち上がる。
_
(;゚∀゚)「おめぇの剣はでけぇ。無闇やたらに振り回すんじゃねぇ、止まった所を狙われる」
ノシ`i゚ 益゚i以「グァッ!?」
息つく間も与えられず、また剣を振るう。
見れば、ジョルジュから少し離れた場所には4匹程のオーガが倒れていた。
間もなく、今しがた斬られたオーガで5匹目となったようだ。
- 800 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:41:16 ID:e/DmWKX20
-
_
(;゚∀゚)「はた迷惑な話だがよ、こいつらの注意は大半が俺とアイツに向いてる」
(オオォォォ――――)
言って、顔の横で指差した方向では、ダイオードが狂ったように暴れていた。
( ,;゚Д゚)「あいつ……人間か?」
_
(;゚∀゚)「違ぇかもな」
/ ゚、。;/
鈍色の仮面も、胸板も何もかも、身体の前面は血化粧で紅に染められていた。
鬼気そのものを纏う大男は、周囲を塞ぐ人鬼の群れに対し、ひたすらに手斧を振るい続ける。
ジョルジュ程の身の軽さは無いものの、並外れた筋肉の鎧は、常人ならば命を脅かすほどの
打撃を幾度もその身に受けながらも、真っ向から無骨な鉄の凶器でそれへと叩き返す。
血溜まりの中に立つ鉄仮面の周囲には、胴体の一部を欠損した死体が5〜6匹転がっていた。
- 801 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:43:44 ID:e/DmWKX20
-
_
(;゚∀゚)「あいつの事は心配いらねぇが、てめぇは自分の事をなんとかしろ。
こっちも手一杯なん―――――………」
( ,;゚Д゚)「オイッ、後ろだッ!」
_
(#゚∀゚)「―――でなぁッ!!」
ノシ`i;゚ 益゚i以「アバッ」
振り返りざまに浴びせかけた横斬りが、オーガの腹を切り裂いた。
臓物をはみ出させながら、なおも伸ばそうとした腕を掻い潜り、
地面すれすれの場所で再度反対側から横になぎ払う。
地を踏みしめたままのオーガの足首が一つその場に残り、飛んでいった片足を
追いかけるようにしてうつ伏せに倒れこんだところで、そいつの頭頂部に剣を突き立てた。
そうして瞬く間に6匹目を屠り終えたジョルジュの戦いぶりは、
単純な強さで言えば、恐らくはダイオードに引けを取らなかった。
あまりに場慣れした男の一挙手に目を瞠(みは)りながらも、
ギコは思わず感嘆の息を漏らす。
息を整えるジョルジュの周囲ではまだ4〜5匹が様子を伺っているが、
予想を超えて猛烈な反撃を仕掛けてくる男の前に、棍棒を振りかざしたままの
オーガらは、これまでよりも明らかに強い警戒を示していた。
- 802 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:44:35 ID:e/DmWKX20
-
_
(;゚∀゚)「相手の腕力はこっちよかバカ強ぇんだ、掴まれりゃ終わる。
だが、剣がある以上……得物のリーチ差でどうにかならぁ」
( ,;゚Д゚)「けど、まだ全然ウヨウヨいやがる!これ全部なんざ……ッ」
_
(;゚∀゚)「殺れなきゃ、そんときゃ死ぬだけよ」
今広間にいる分で、ざっと20匹ほどか。
言って見上げた先、螺旋状の合間に見える”巣穴”からは、
更に大小無数の眼光が上層からこちらへと向けられている。
合わせれば、きっと50どころでは済まない数だ。
その中にはまだ未成熟とも言える子鬼のような姿もあったが、
人間にとってはそれでも十分な脅威である事に変わりない。
_
(;゚∀゚)「死にたくねぇなら小さく、細かく動き回れ。あのデカブツの言うことが
単なる大言の類じゃねぇなら、生き残るのもあながち無茶じゃねぇ」
( ,;゚Д゚)「………」
_
(;゚∀゚)「ちったぁ頭使え。多少悪くったってな、生きるためには無い知恵振り絞んだよ」
- 803 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 04:44:41 ID:psUevbKwO
- ④
- 804 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 04:46:25 ID:e/DmWKX20
-
嵐の直中にある――――目のような男。
誰もが死を覚悟するような状況の中で、強い風を起こし、周囲の全てを吹き飛ばす。
死と隣合わせの中でこそ、その男が口にする言葉はどれもギコの胸へと響いた。
空を照らす光も、木々の間をすり抜ける風も届かない。
鬱屈とした地中の洞窟にありながらも、だが強く、風を感じていた。
ノシ`i゚ 益゚i以「グラパァオッ、アォバォッ!」
( ,;゚Д゚)「ジョルジュッ!」
_
(#゚∀゚)「ッたく……忙しいことだぜ」
咄嗟に、ジョルジュの背を守ろうとした。
だが、左右から現れた二匹のオーガがそれを許さない。
面と向かって斬られるならば、多方向から同時に襲えばというつもりなのだろう。
ジョルジュを対象として小さな円がまばらに形作られ、じりじり包囲を狭めていく。
分断されゆく一方で、ギコはうかつに近づくことが出来ずにいた。
続々と群がるオーガの巨体に、ジョルジュの姿は覆い隠されていく光景を見届けながらも。
だが、剣を薙ぐ風切り音や呻くオーガの声に紛れて、まだそこから声だけは届いた。
(間合いを保てッ、殺ろうと思うなッ、伸ばしてくる手足を目掛けて斬りつけろッ)
- 805 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 04:48:07 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д゚)「くっ」
(棍棒で頭潰されねぇように、精々身を低くしてなッ)
取り囲まれながらも、幾度かジョルジュが言葉を発した直後に、
彼が立っているであろう辺りからは血の飛沫が舞った。
恐らく、それはジョルジュのものではないと解る。
だがつかの間の安堵に胸をなでおろしている暇は与えてもくれない。
死中に活をもたらす彼の教えを、即座に実践せねばならない時だった。
ノシ`i゚ 益゚i以「グゥ……? アッバオッ!」
( ,;゚Д゚)「化けもんと戦うのにも、学が要る時代かよ」
ジョルジュの方へと引き寄せられていた一匹が、ギコの存在に気づく。
自分の生命線となる唯一の武器を先ほどのように無効化されれば、
実戦経験に疎いギコでは即、死に繋がる。
まして、一対一であっても安々とオーガを斬り伏せられるような位置に、自分の力量は達していない。
それを自覚した上で、ジョルジュの言葉を反芻するように、つとめて冷静な自分を意識する。
威嚇の為に剣を振り、少しでも脅威を与えて怯ませたい気持ちを抑えつけた。
- 806 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 04:52:16 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д゚)(無駄撃ちはすんな、って事か。そうだ、引きつけて……!)
後ろ飛びで距離を保ちつつ、ちらりと背後を確認した時、
視界の端でいまだ孤軍奮闘するダイオードの姿が視認出来た。
”どばっ ごしゃっ”
/ ゚、。 /「―――フゥッ、フゥゥッ……!」
( ,;゚Д゚)(……かといって、あんな分かりやすい戦い方も勘弁だ)
さきほどよりも数の増えたオーガの死体は、10に達しているかも知れなかった。
毛色は違うが、ジョルジュと同類の化け物じみた手練の威容は、恐ろしくも頼もしい。
一度だけ笑みを浮かべてから、やはり、自分が心配するような男ではないと悟る。
それよりも、今の自分に出来る事をと―――――知恵を振り絞る事こそが最善。
( ,;゚Д゚)(な……あいつッ!?)
(=; ω )「ひぃぃっ、ひぃぃぃっ……!」
そこで、ダイオードの足に絡まるようにして縮こまっていた、あの男の姿が飛び込む。
頭を抱えて地面へとうつ伏せる男の周りには、3匹程のオーガが群がっている。
- 807 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 04:53:47 ID:e/DmWKX20
-
同じ場所からずっと動けず震えていただけの男は、まだ死んでいなかった。
それはダイオードやジョルジュの奮戦に、オーガ達が気を取られていたからだろう。
ノシ`i゚ 益゚i以「フゥゥ……」
(=; ω )「ひぃぃっ、ひぃぃぃぃぃーッ」
( ,;゚Д゚)「何してるッ! 立て、逃げろッ!」
男は一振り、小振りの剣を腰元に携えている。
だが、それを振るうどころか、立ち上がってオーガ達に背を向けて
脱兎の如く駆け出す勇気すら、振り絞る事も出来ないようだった。
それへと意識を逸らしていたギコが、視線を正面へ戻した瞬間、
すでに巨大な拳が目の前にあった。
”ぼっ”
( ,; Д )「〜〜〜ッ!」
ノシ`i゚ 益゚i以「……ガアァァッ!」
狙い済ました反応ではなく、ほぼ無意識での偶然の回避行動。
横方向に倒れ込みながら身を伏せると、首筋を掠めた拳は後方にすっ飛んでいった。
当たっていたら鼻や顔の骨はへしゃげ、再び立ち上がるまでには挽肉にされていただろう。
- 808 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 04:57:52 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д゚)(ちきしょうッ!)
だが、今相手をするべきは正面の敵ではない。
地面を激しく両手で叩くと、すっ飛ぶような勢いでかわした方向へとそのまま駆け出す。
(=; ω )「ひッ!?」
ノシ`i゚ 益゚i以「ムシルムサドゥ……ハンガ、アグン!」
男は後ろから首筋をオーガに掴まれると、その手に締め上げられながら、宙に吊られる。
舌をなめずる一匹の左右からも、二匹がそれぞれ肩に手を掛け、力任せに腕を引っ張った。
罪人が磔にされるようにして宙空で足をばたつかせる男は、激痛に耐えかねて悲鳴を奏でた。
それはオーガ達にとって、この上なく愉快な音色であろう。
(=;゚ω゚)「うっぐ!? あぁッ、あがぁぁッ」
( ,#゚Д゚)「……クソ野郎がぁ!」
五体を引き裂いて、そのまま食い物にでもするつもりか。
その惨劇を阻止する事が出来るのは、今はギコたった一人だけだ。
それを知ってか知らずか、流れる景色の合間で姿を見せるオーガ達を気にも留めず、
真っ直ぐに疾駆したギコは走りながらの勢いそのままに振りかざした剣を、
そのまま隙だらけの背中を見せるオーガに向けて、背後から斜めに叩き込んだ。
( ,#゚Д゚)「うッ―――おおぉぉぉッ!」
- 809 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 04:59:18 ID:e/DmWKX20
-
”ザグンッ”
ノシ`i;゚ 益゚i以「!? アグワッ」
どれほどの手傷を負わせる事が出来るかは、ギコ自身にもわからなかった。
だがその一刀はオーガの肩甲骨を叩き割ると、恐らくは背骨に損傷を負わせ、
手の平の中に寄せた獲物を手放させる程度には、威を伴ってくれたようだった。
よろめき、すぐには反撃もままならかった一匹を捨て置く。
次に、素早く右手の一匹へと目標を変える。
体勢を崩すと、途端に男の首を手放した仲間の様子に動揺をみせた二匹の片割れ。
男の腕を引き抜こうとしてか、完全に伸びきっていたその肘は、狙い目だった。
まだギコの姿は捉えられていない。
背中に撃ち込んだオーガの身体が死角を作り、飛び込んだギコの有利へと働いたのだ。
( ,#゚Д゚)「離せ……ってんだよッ!」
”ぴしゅっ”
ノシ`i゚ 益゚i以「ヌ、グッ」
引け腰で振るわれた剣では両断までに至らなかったが、たまたま腱に近い部分を裂いた。
斬られたオーガは、自分の腕から急激に力が損なわれた事に驚きの表情を浮かべる。
ぶらん、と垂れ下がった己の腕に目を落としては、短く呻いた。
- 810 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 05:01:28 ID:e/DmWKX20
-
(=;゚ω゚)「あ、あんた!」
どくどくと血が溢れ出てくる傷口を押さえ、こちらもすぐには反撃してこない。
反対側でその光景を見ていた一匹が、傍らに転がっていた棍棒を拾っていた。
地面で身を丸くする男の身体を軽々と跨ぐと、そいつは悠然とギコへと近づいて来た。
ノシ`i゚ 益゚i以「サンダッ、アグニッ!」
( ,;゚Д゚)「うッ……あぁぁぁッ!」
”どすっ”
ノシ`i; 益メi以「……ニグ、ガ……」
鈍い音を伴って横へと払った剣は、最初に背中を斬ったオーガの顔面を抉った。
偶然ではあるが不意をついた初撃が功を奏したのだ。
ここにきて、初めて一匹を仕留める事に成功した。
だが、正面から近づく1匹と、更にすぐ隣にも1匹。
がむしゃらな恐怖心に心を掻き乱され、対処すべき優先順位を誤った。
( ,;゚Д゚)(い、いけねぇッ―――抜ッ)
”ぐんっ”
ノシ`i; 益メi以
- 811 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 05:02:31 ID:e/DmWKX20
-
既にこと切れているであろうオーガの顔面に食い込んだ刀身が、すぐには引き抜けない。
深々と顔面から頭部の中枢にまで押し入った刃が、分厚い面の骨や痙攣する筋肉に阻まれ、
動かそうにも、オーガの上半身ごと揺られながらついてくるだけ。
ノシ`i#゚ 益゚i以「ニガラグアァッ!」
赤色の攻撃色に染まった瞳。怒るオーガが、目の前で高々と棍棒を振り上げていた。
どこかでそれを見ていた冷静な自分が、”動け”と囁く。
行動して死ぬも、ぼさっと突っ立って死を受け入れるのも同じ。
それならば、たとえみっともなくともがむしゃらにあがくべきだと。
( ,#゚Д゚)「……おッらぁッ!」
”みしっ”
刃を食い込ませるオーガの頭部を、叩き込んだ蹴り足で強引に突き放す。
そこでようやく手元に掛かる負荷が消え失せ、剣が自由となった。
蹴りだした勢いそのままに、すぐさまそれを回避行動へと反転させる。
間もなく、棍棒は破片を散らせながらすぐ傍の地面に叩きつけられていた。
( ,;゚Д゚)「―――ふぅぅぅっ!」
- 812 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 05:05:12 ID:e/DmWKX20
-
ノシ`i#゚ 益゚i以「アコンカグアァァッ」
”ぶんっ”
だが、回避した先では腕の腱を裂いたオーガが、頭上で拳を固めていた。
大きな拳を頭の後ろにまで振りかぶり、真下にあるギコの顔面を撃ち貫こうとしている。
瞬きする程の猶予も無いのは、足元側で再び棍棒を振り上げるオーガの動きが
視界に入った事からも、もはや明確だった。
膝や顔面を一度に潰される最悪の光景が走馬灯の様によぎる中、ギコは一瞬の閃きに賭けた。
―――要るのは、攻防を兼ね備えた動作。それも、今すぐに。
”だんっ”
( ,; Д )「お―――あぁぁぁぁぁッ!!」
腹のあたりにあった剣を、力の限り天高く突き上げる。
同時に、両足の踵を地面に叩きつけた反動で、腰を浮かせながら膝を丸めた。
”ドッ ゴシャッ”
命が代償となる博打の連続に、それでも引き分け続ける。
夢中で突き出した剣は、ギコの顔面に拳を打ち下ろそうとしていたオーガの喉を貫いた。
ほぼ同時、もう一匹の棍棒がギコの全身に衝撃を伝搬させるほどに激しく、地面を揺らす。
- 813 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 05:08:47 ID:e/DmWKX20
-
”ぱたっ ぱたた”
ノシ`i;゚ 益゚i以
( ,;゚Д゚)「ハァッ………ハァッ……!」
全身に痛みは無い。
あるのはただ、剣の先端を伝って頬へと滴り落ちる、鮮血のおぞましい生温さだけ。
大きく開かれた瞳は、眼下のギコを真っ直ぐに見下ろしていた。
( ,# Д )「――――ッがぁッ!」
”覆いかぶさるように倒れこんでくる”
それを剣の重さから察したギコは、即座に剣を引き抜き、真横に転がってそれから脱した。
全てが、神の齎した奇跡のような状況にも感じられる。
未知の強力な妖魔にこうも囲まれながら、自分の心臓はまだ動いているという幸運に。
その運すらも―――今は生き残るための貴重な要素だ。
( ,;゚Д゚)(生きてる……生きてるなら―――)
”通じている、自分の不器用な剣が”
どんなに危うげであろうとも、二匹のオーガを屠った。
純然たるその事実が、紛れも無くギコに自信を与えてくれた。
勇気もまた、恐れず踏み出すための大きな武器となる。
- 814 :4円あざす!!!:2013/08/20(火) 05:12:00 ID:e/DmWKX20
-
ノシ`i゚ 益゚i以「………グヌゥッ」
そしてゆっくりと立ち上がったギコの前には、今、三匹目が立ちふさがる。
すぐには襲いかからず、少しだけ遠巻きに目を細めるオーガの様子からは、
どうやらギコを獲物ではなく”敵”だと見定めたようにも感じられた。
化け物風情に見初められた所で、嬉しくなどない。ただのありがた迷惑だが。
( ,; Д )「ペッ」
広げた自分の手の平に唾を吐きかけるのは、ちょっとしたまじないだ。
今だけは何にでも縋る―――剣とともに戦うという己の意思を、こいつで固く結びつける。
僅かばかりの自信は、生き残る道への希望を確実に見出しつつあった。
ノシ`i#゚ 益゚i以「ガオパッ!!」
( ,#゚Д゚)(まだ―――やれるッ)
乱戦に引き寄せられてか、ギコの周囲にも1匹、2匹と、影の中からオーガが姿を現す。
先手を打たせて、大振りな棍棒を辛くも避けた。
速度は並ではない、一挙手一投足に注視していなければ、頭蓋は粉々だ。
”びっ”
- 815 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:16:44 ID:e/DmWKX20
-
側頭部を掠めたその感触に、一度心臓を握りしめられた気がした。
だがそこで臆さず退かず、踏み込むと同時に剣ごと身体を前へと押し出した。
振りかかる鮮血の温かみが、また一秒だけ、生を実感させてくれる。
(〜〜〜〜ッ)
( ,#゚Д゚)「……!」
”ドンッ”
そこで、誰かの叫びが聞こえた気がした。
聞き取れなかったのは、周囲の音も遮断する程集中していたが故。
だが既に、肩から横腹にかけての激しい衝撃が全身が揺るがしていた。
( ,; Д )「!?―――ぐっ……が、はぁっ!」
脳を揺らされ、腹を抉りこまれるような鈍痛が襲った。
全身が宙に投げ出されたと気付いた時、次の瞬間には地を滑っていた。
”横から蹴飛ばされた”と気付くよりも先に、剣を支えに立ち上がっていた。
鋭く睨めつけた先では、影の中に潜む鬼たちの巨体が、まだ無数に蠢く。
- 816 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:19:15 ID:e/DmWKX20
-
( ,; Д )「こりゃキツいぜ……せめて、”10”のノルマで、勘弁しやがれ」
”それ以上は勘弁だ”
誰にも聞こえないような声で呟いて、ギコは再び踏み出す。
自ら縛りを口にする事で、自らを追い込み死力を振り絞るための、決意と固めた。
気付けば、背にはギコによって難を逃れたあの冒険者風が縋るように寄り添う。
再び集中し、一撃必死の膂力が込められたオーガ達の攻撃を回避する事に傾注しつつ、
それら動作を阻害するための動きを導き出すべく、頭を全力で回転させていた。
(=;゚ω゚)「うっ、後ろ! やばいよぅ!」
( ,#゚Д゚)「……離れんじゃねぇぞッ!状況つぶさに教えろ!」
群がるオーガ達に囲まれぬよう、弾き出されたようにその場を飛び出した。
一匹ずつしか相手には出来ない、ジョルジュやダイオードのように大立ち回りは出来ないのだ。
だから前後左右、縦横無尽に細かく動きまわっては、その都度伸ばされるオーガ達の腕から逃れる。
( ,#゚Д゚)(デカブツどもの体を盾に……死角を作りながら、細かく……!)
- 817 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:20:32 ID:e/DmWKX20
-
逃げまわる中で、立ちふさがるオーガの巨体を盾に他の数匹の目を眩ましては、離脱する。
時折剣を振るって牽制し、息を切らせながらも逃げ惑う。
暗い地の底に幽閉されたたった4人の人間たちは、凶暴な鬼の餌となるだけの運命だった。
今ギコの背に守られている男の言葉を借りれば、”絶望”以外にあり得ない状況。
だが今、生きている。
更に生きるために、必死に剣を振るって。
絶望を、希望へと覆すために足掻いていた。
(=;゚ω゚)(―――なんで)
( ,#゚Д゚)「ハァアッ!」
”ぴしゅんっ”
弱者は、剣を振るう男の横顔から覗く瞳の輝きに、そしてその背中に見入っていた。
冒険者として大成する事が出来そうもないまま、いい年齢を迎えた。
それなりの暮らしが出来るという理由で、虫の好かない兄貴分の元でこきつかわれて。
そいつの理不尽な命令の末に、こんな湿気た場所で自分は死ぬのだと、諦めていた男が。
振り返れば、荒々しく気勢を上げる屈強な男たちは、競い合うようにして叫んでいた。
(=;゚ω゚)(どうして――――ッ)
- 818 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:22:41 ID:e/DmWKX20
-
”ズバッ ドシュッ”
_
(#;゚∀゚)「こいつで……ざっと”15”ぉッ!!」
”バゴォッ”
/ ;゚、。;/「――――”18”」
何故、戦えるのか。
どうして、そんなに強いのか。
脆弱な騎士団なら、壊滅の憂き目にも遭いかねない。
そんな悪鬼どもの巣窟の只中で、心折られず剣を振るう彼ら。
何より、他人を陥れて殺そうとするような悪事の片棒を担いだ人間を、庇いながら戦うその男。
ひたむきに剣を振るう彼は、生きようと、そして自分をも生かしてくれようとしていた。
その姿に胸を掴まれたように、こんな今際の際で―――熱いものを感じざるにはいられなかった。
( ,;゚Д゚)「ぜりゃあぁぁッ!」
(=;゚ω゚)「うっ……! 右後方から二匹だよぅッ!」
- 819 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:25:55 ID:e/DmWKX20
-
奮戦するギコは、男の目からは決して他の二人ほども強くはない。
だが生死の境で抗いながら、血溜まりの中で幾度も転びそうになりながら、まだ命を繋ぐ。
1匹のオーガを辛くも斬り伏せたそのギコが、振り向きざまに男の方へと視線を送った。
( ,;゚Д゚)「……お前! 剣持ってんだろッ!?」
(=;゚ω゚)「も、持ってるけどよぅ!」
( ,;゚Д゚)「ならそいつを振るうんだよ! 俺が注意を引いてる間に、そいつの脇腹や
足でもどこでもいい、突き刺せ! 二人なら……もっとやれる!」
腰元に結び付けられた細身の剣は、まるで彼自身を投影したように頼りない存在。
ギコの言葉で男はその柄を掴みとりはしたが、それをを抜き出そうとする手はかちかちと震えた。
対峙する事への恐怖が、男の足元にも如実に表れているのが解った。
だがそんな男を鼓舞するようにして、ギコは叫ぶのだ。
( ,;゚Д゚)「俺たちはまだ生きてる!」
(=;゚ω゚)「!」
( ,;゚Д^)「どうせ死ぬならよ……やれる事やってから諦めようぜ……」
- 820 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:27:58 ID:e/DmWKX20
-
ギコの言葉は、諦めや恐れといった感情の中に囲繞された、男の心の門戸を強く打ち鳴らす。
今同様に日の目を見ることのなかった己の人生の中で、それでも生きるために。
何かを燃やさなければならない時があるのだと――――訴えかける言葉が射し込んだ。
剣にかけた手の震えが、若干収まった気がした。
(=; ω )「”イーヨウ=ストラナグア”」
( ,;゚Д゚)「……”ギコ=ブレーメン”ってんだ」
一瞬の間を置いて、それが男の名なのだと気づいたギコは、すぐに小さく名乗り返した。
もしお互いやどちらかが死んでも、名無しのまま逝ってしまうのは悔いが残るからか。
イーヨウと名乗った男の言葉は、ギコに向けて示したそんな彼なりの覚悟だろう。
それをしっかりと受け取ったギコは、オーガ達が住まう上層を見上げながら、
その中で蠢く影が少しだけまばらな数となってきた事に、確かな手応えを感じていた。
( ,;゚Д^)「やってやろうぜ。連中、思いもしねぇだろ……自分らが”エサに殺される”なんてよ」
(=;゚ω゚)「ここまで来たら―――もう死んでやるよぅ! 来やがれよぅッ!」
- 821 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:30:01 ID:e/DmWKX20
-
対峙する事を恐れて震えていたのは、生きる事を諦めたのでは、決してなかった。
恐怖する感情というのはその実、痛いほどに生を願い、それにしがみつこうとする執着の表れ。
だが怯えているだけでは、どうにもならない時がある。
自ら戦う覚悟を持たなければ、生きてはいかれない時が。
それが今なのだと気づいたイーヨウの表情。
まるで少し前の自分を見ているようだと、横目で盗み見たギコは、にやりと笑った。
( ,;゚Д゚)「へっ……少しは見なおしたぜ」
剣を手にしたイーヨウが、ギコよりやや背後で並び立つ。
さらに勝算が増した事で、それに大しての油断はなかった。
気配に、音だけに集中する。
やがては、自分の鼓動の音や、イーヨウとの距離を測る息遣いしか聞こえなくなった。
目標まではあと、5匹だったか6匹だったか。
いずれにせよ自身の成せた偉業を讃えて、今夜の宿では特上の料理を食い散らかしてやろうと思った。
・
・
・
- 822 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:31:24 ID:e/DmWKX20
-
・
・
・
――オーガ洞穴 ”鬼の穴” 入り口付近―――
ノパ⊿゚)「とっとと歩け!」
(メ; =..=)「で、でけぇ声出すんじゃねぇ……ここは奴らの巣穴だぞ」
ノパ⊿゚)「ほぉ? 随分と弱気じゃないか。同業者を騙くらかし、あまつさえ
こんな自殺同然の行いをさせるように仕向けた、豪胆な男の割に」
じめじめと冷たい湿気が覆い包む洞穴を、手縄を施した傷面の冒険者に先導させる。
ジョルジュ達が洞穴内に潜っていってからすぐの事だった。
会話の一部始終を茂みから盗み聞いていたヒート=ローゼンタールが、男に詰め寄ったのは。
「しかし……ヒート隊長、ここは……」
- 823 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:32:41 ID:e/DmWKX20
-
ノパ⊿゚)「間違いない、この遠征の最終日。本来冒険者達と共同で討伐にあたるはずだった、
大規模掃討作戦の予定地だ。ここいらじゃあ一級品のオーガ洞窟だな……」
「団員15名、共に任務に殉じる覚悟は出来ておりますが、今のこちらの戦力では……」
「斥候の調べによると、居住形態からすれば30以上のオーガが潜む可能性があると」
ノパ⊿゚)「2倍から3倍の戦力差か……だったら対等だな、恐れる事はないさ。
それに今の目的は、迷い込んだ民間人の身柄を保護する事だ、掃討する事ではない」
(メ; =..=)「ば、馬鹿じゃねぇかあんたら……相手はあのオーガだぜ?
竜の口に飛び込むようなもんだ、さっきの奴らだって、もう死んでるってのに……」
ノパ⊿゚)「我ら円卓騎士団の練度を見くびってもらっては困るな。
私達が一丸となれば、きっと竜だって倒す事が出来るさ」
(メ; =..=)「………はぁ」
日に何度も、無謀な事を口にする人間を見せられた男は、半ば呆れたようにため息を吐いた。
”ツイてない”
肩を落としながらとぼとぼと歩いてきた先で、ぴた、と足が止まった。
部下に聞いていた話と、食い違う光景がそこにあったからだ。
「これは……どういう事でしょう」
- 824 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:33:50 ID:e/DmWKX20
-
(メ; =..=)「こんな岩……なかったはずだ……」
部下の一人が怪訝な表情を浮かべ、一方でヒートはきっ、と男を睨みつけた。
この道はオーガ達の居住区域へと続いている洞穴のはずなのだ。
なのに、なぜそこで大きな岩が道を阻んでいるのか。
男を連れて行軍する騎士団は、完全な行き止まりに突き当たったのだった。
ノパ⊿゚)「いや……まてよ」
その岩肌は、周りの景色とは明らかに色合いが違う。
そして気づいたのは、その岩の”奥”から何らかの物音がする事だった。
(メ; =..=)「い、言っとくがおりゃあ知らねぇからな! 話には聞いてねぇ……!」
ノパ⊿゚)「……まぁいい、お前への処遇は後にするとして、この岩を退ける手立てが必要だな」
(メ; =..=)「ちょ、ちょっと待ってくれ、あんたらこの中にいくつもりか!
どうでもいいが俺は入らねぇからな!」
「攻城槌など、当然準備は……それに、この大きさが人力で動くとはとても……」
ノパ⊿゚)「外に打ち捨てられた丸太があったろう、あれを使おう」
- 825 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:35:01 ID:e/DmWKX20
-
・
・
・
「1、2の、3!」
”ドオォン………”
結局、騒ぎ立てる傷面の男は洞穴出口付近の木へと縛り付け、一人を見張りに付けた。
外から持ち込んだ一本の丸太を全員で両側から抱え、2度、3度と破城用兵器の要領で大岩へ撃ちこむ。
揺らぎを与えてやる事でそれとの歯車が噛み合った一瞬、10人やそこらでは恐らく
びくともしないであろう大きな丸岩が、大きな音を立てて転がり落ちるようにして道が拓けた。
大岩に隠された道の先では、やはり広大に吹き抜ける広間が飛び込んで来る。
薄暗く、中の様子は暗闇に目が慣れなければ視認しづらい。
「おっしゃあぁっ!」
ノパ⊿゚)「総員、剣を取……」
すぐにでも戦闘に雪崩れ込むだろう、そう覚悟を決めていたヒートが、
団員たちに突入前の準備を促そうとしたその時だった。
違和感が、即座に鼻をついた。
「な、これは……!」
- 826 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:35:32 ID:0nqMBY3.O
- やっぱ面白い、支援
- 827 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:36:18 ID:e/DmWKX20
-
ノパ⊿゚)「!?」
まず気付いたのは、これまでの洞穴内部を歩いた時のような冷気ではない。
そこから伝わってくるのは熱気と、それに入り混じったむせ返るような血の匂いだった。
それも、思い切り吸い込んでしまえば、嘔吐感が押し寄せかねない程に濃密なもの。
(ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……)
紛れて、何者かの息遣いが騎士たちの耳元にも届いていた。
ノパ⊿゚)「……進むぞ」
部下たちに警戒を促しながら、ゆっくりと進んでゆく。
”ぴちゃり”と足裏で音を立てる程の液溜まりは、確認するまでもなく血液だろう。
「これは……こんなまさか。全て、件の冒険者が?」
ノハ;゚⊿゚)(間に合わなかったか……)
にわかに信じがたい光景が、彼ら円卓騎士団の前に広がっていた。
- 828 :>>826そういってもらえると///:2013/08/20(火) 05:37:49 ID:e/DmWKX20
-
血溜まりを形作るのは、そのどれもが見渡す限り、オーガ達の骸だった。
頭部や腕部を損傷して絶命したもの、あるいは斬り落とされたオーガどもの四肢や、
腹からぶちまけたであろう生臭い臓物などが、そこら中に転がっている。
傷面の男の話の中にあった二人の冒険者がこれをやったのだとしたら、一体どれほど
無数のオーガを相手取り、これほどの大立ち回りをしてのけたというのか。
「恐らくは、この死体の中のどれかが……」
「団長! あれを……」
視界が暗闇に慣れた頃、広間を満たす血の湖の上、大きな巨体が霧に浮かんでいた。
動きはない―――だが、その人ならざる体躯が紛れも無くオーガであることを、
遠目からでも全員が一目に確信できた。
ノハ ⊿ )「総員、戦闘準備だ。残党を撃滅する」
「――了解」
- 829 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:43:41 ID:e/DmWKX20
-
歩を進めるにつれ、荒げた息遣いがより一同の耳にはっきりと聞こえてきた。
未だ動きを見せないオーガの手前で、ヒートの左右を二人の騎士が固めた。
剣を抜いたヒートがじりじりとすり足で接近を試みる。
やがて、その影が肩で息をしている様子までもが、はっきりと映し出された。
目の前にまで躍り出て、今まさに白刃を撫で付けんとしたその時、ヒートの動きは止まった。
/;゚、。;/「フゥッ……フゥッ……」
ノハ;゚⊿゚)「ッ!?」
巨影は、オーガではなかった。
同時に人であるかも疑わしい、全身を夥しい量の血に塗れた、鉄仮面の男。
驚きに目を丸くしていたヒートの背後で、団員の一人が声を荒らげた。
「何者かッ!」
/;゚、。;/「…………フゥゥッ」
それに言葉を返すともなく。
鉄仮面はただ無言で、手の中にあった何かをヒートの足元へよこすように転がした。
”ゴロッ”
ノシ`i; 益 i以
- 830 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:45:20 ID:e/DmWKX20
-
ノハ;゚⊿゚)「………」
見ればそれは、目玉が飛び出すような断末魔の表情を浮かべる、オーガの頭部。
だがそれにもまして驚いていたのは、男の容貌の異様さと、彼が纏う言い知れぬ闘気。
いくつも太い血管が這う巨腕や、全身に見える多数の生傷を覆う返り血から導き出されるのは、
その男がこのオーガ達の巣窟に放り込まれながらも、そこで戦い生き永らえたという事実だけだった。
/;゚、。;/「……終わり、か」
「おい! ま、待ちなさい!」
視線を合わせる事もなく、鉄仮面はヒートの脇をすり抜け、悠然と出口へ歩き始める。
彼を制止しようと飛び出していこうとした団員の一人の前に、団長自らが腕を出してせき止めた。
ノハ;゚⊿゚)「いや、いい……”生存者”……だろう」
「まさか……こんな、巨大なオーガ洞穴の中で!?」
ノハ;゚⊿゚)(………)
/;゚、。;/
血の風呂に全身を浸かれば、こうはなるだろう。
それほどの赤をべっとりと塗りつけた大男が、騎士たちの視線を受けながら歩を歩く。
- 831 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:47:25 ID:e/DmWKX20
-
その背中を見送る内。やがてヒートは彼が居た場所を中心として、
両手では余る程のオーガの死体が、円環を模るようにその場に残されていた事に気付いた。
「……今の見たかよ。まるっきり化けもんじゃねぇか」
ノハ;゚⊿゚)(事実、かも知れん……一瞬、見紛うた)
騎士達が去っていく男の背中を指刺しながら、口々に驚きを共有している中で、、
突如洞窟内を木霊するように、どこかから大声でそう叫ばれた。
「おいおい、待ちなよ!」
ノパ⊿゚)「……ッ」
/;゚、。;/「………」
巨躯の鉄仮面が立ち止まるのと同時に、円卓騎士団全員の視線がその方向へと注がれた。
暗闇の中からごとごとと大仰な剣を引きずるようにして歩いてきた男もまた、全身を紅に染めて。
- 832 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:50:37 ID:e/DmWKX20
-
_
( ;゚∀゚)「こっちは公約通りだぜ。”25”だ。先に途中から休ませてもらってたがよ、
……ありゃあ30はいってねぇな、28か、精々29ってとこかね」
/;゚、。;/「……周りに、もう動く奴が居なかった。それだけだ」
_
( ;-∀-)「へっ……どっちにしてもこの勝負、引き分けってとこだな」
/;゚、。;/「勝負をしたつもりなど、ないがな」
ノハ;゚⊿゚)(25匹……オーガを、たった一人で?)
/;゚、。;/「……フン」
鼻を鳴らしながら、鉄仮面はその場から立ち去っていった。
言って、再び出口を目指した鉄仮面の横顔から一瞬だけ覗かせた口元は、
ヒートの目には、不敵に吊り上がっていたようにも映った。
だが、これほど大量のオーガが生息する洞窟に閉じ込められながらも、
その中で戦い生き抜いた男が、一人ならず二人も存在していた事もまた驚きだった。
ノハ;゚⊿゚)「尋ねる。生存者か?」
_
( ;゚∀゚)「おっと……騎士団様か。真打ちの出番を奪っちまった」
- 833 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:53:02 ID:e/DmWKX20
-
ノハ;゚⊿゚)「―――この洞窟に、二人の冒険者が立ち入ったと聞いて踏み込んだ。
あの仮面の男は、あんたの仲間か?」
_
( ;-∀-)「いやさ、俺の連れはどうかねぇ……生きてんだか死んでんだか。
もしかすると、あと二人ぐらいいたはずだがねぇ」
ノハ;゚⊿゚)「おいおい……」
今度は、耳を疑った。
鉄仮面の男との会話からしても、この広間を50匹以上のオーガ達が覆い尽くしていた。
それをたった4人の人間が、返り討ちで皆殺しにするなどと。
並外れた剣の腕だけでは不可能な芸当に、ヒートの驚きは声にまで出ていた。
同じことが出来るだけの力量を持った人間を頭の中で探してはみたが、
思い当たる所では直属の上司たった一人ぐらいしか、思い浮かべる事が出来なかった。
(おいおい。オーガ30匹斬りなんて、洒落にならん逸話になるぜ)
(あぁ、フィレンクト団長でも出来るかどうか……)
(馬鹿。あの人ならそれぐらいいけるさ)
部下たちがまた騒がしくなった所で、洞窟内を捜索にあたっていた数名が大声を上げる。
「生存者を発見しましたぁ!」
- 834 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:55:23 ID:e/DmWKX20
-
_
( ;゚∀゚)「お」
ノハ;゚⊿゚)「何人生還者が出てくるんだ、あんた達は一体……」
_
( ;゚∀゚)「どうでもいいさ、どうせあんたらとは後々―――」
ノパ⊿゚)「?」
そう言い淀んだ彼の視線の先で、オーガの死体にのしかかられて動けずにいた一人と、
傍らで剣を投げ出し、大の字に寝そべって呼吸を荒げる男の姿とがあった。
(もう動けねぇ―――ちょっとこのまま、寝かしといてくれ!)
_
( ;-∀-)「ま……いい。俺も今はただ、とっとと帰って眠りてぇや」
ノパ⊿゚)「ふむ」
何かを含んだ男の様子に一度だけ怪訝な表情を浮かべたヒートだったが、
それよりも身柄の確保や、その後は聞き取り調査、報告書の作成と仕事は山積みだ。
その満身創痍の男の様子は、声だけでもヒート達のもとに伝わってきた。
( ,; Д )「ぜぇ………ぜぇ………」
(=;゚ω゚)「ギ、ギコさん! オイラ達助かった、助かったんだよぅッ!」
- 835 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 05:57:22 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д^)「へ……へへ。ざっとこんなもんよ、連携プレーが良かったな。
あとお前のあの名案がなけりゃあ、や、やばかったかも」
(=;゚ω゚)「でも、お、重くて動けな……うぅ」
( ,;゚Д^)「考えたもんだぜ。混戦に乗じてオーガの死体の下に隠れて、やり過ごそうなんてよ」
騎士団の姿を見て、どうやら二人は安心しきった様子だった。
生還の喜びを分かち合い、瞳を輝かせる彼らの様子は、ヒートの隣に立つ男と、
また先ほどの異質な鉄仮面で表情の伺えなかった男とも違い、よほど常人としての反応だ。
ノパ⊿゚)「……大したものだ」
_
( ;゚∀゚)「まぁ、こんぐらいはやってもらわねぇとな」
彼らに対してヒートは、自然と称賛の言葉が口をついて出た。
じっとその光景を見つめる一方の冒険者の反応は、いささか淡白なものではあったが。
- 836 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:00:19 ID:e/DmWKX20
-
ノパ⊿゚)「……何にしても、こうして全員が生きていたのは神のご加護か」
_
( ;゚∀゚)「違ぇと思うぜ」
ノパ⊿゚)「ふむ……?」
”その心は?”
ヒートが心の中でだけ問いかけたその言葉に、男もまた内心に答えを返していた。
彼にとっては最も身近であり、神が与えたもうた奇跡などよりも、ずっと信頼出来るもの。
それは、途方も無い積み重ねがあればこそ、確実に結果を返す。
_
( ;゚∀゚)(人の強ささ……)
何より、本当に”神”が天にましますのならば、
今の彼自身の行動原理が、丸ごと存在し得ないだろうから。
神があの時、助けてくれたのだとしたら―――
・
・
・
- 837 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:02:14 ID:e/DmWKX20
-
夕刻―――彼らの背で、茜色の日はもう沈みかけようとしていた。
騎士団含む21名が、誰一人として欠ける事なく城壁都市の北門をくぐり、帰投する。
これは、依頼における命の危険が他の地方よりも群を抜くバルグミュラーでは、極めて珍しい。
ましてやそれが、総勢50名を投入する予定だった大規模掃討作戦の現場からともなれば、
戻ってきた男達の姿を一目見ようと城壁にまで登る冒険者がいるのは、十分に頷ける出来事だ。
普段ならば到底そんな多数の眼差しに晒される事はないイーヨウも、
今日という日にはいささか胸を張り、小鼻を膨らしながら宿への帰路を歩む。
(=゚ω゚)「ふふ、あの兄貴の顔……多分一生忘れないんだよぅ」
( ,,^Д^)「痛快だったな、あの驚いた顔ったら……ほっぺた押さえて尻もちついてやがった」
あの後―――洞穴の出口での事。ダイオードを陥れるようイーヨウに指示した傷面の男は、
視線があった瞬間に”い、いよぅ……”などと声をかけるも無視され、無言のまま彼に殴りつけられた。
自分自身を捨て駒にして、あのような危険な場所へと案内させた兄貴分に対しては、
イーヨウなりにこれまで溜まっていた鬱憤が爆発したのだろう。
それには諦めず戦うギコの姿を見て、これまでの弱い自分と向き合えた部分が大きい。
普段からは想像もつかない行動をする事が出来たのは、良い意味で開き直る事が出来たからか。
困難というものは、乗り越えればかくも人を成長させるものなのだ。
- 838 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:04:04 ID:e/DmWKX20
-
(メ; =..=)「―――だ、だからあの野郎も俺の子分でよぉッ! どうして俺だけっ!?」
「黙れ。お前の罪状は守秘義務の漏洩に加えて、殺しの幇助。当分は絞られるだろうな」
(=*゚ω゚)(へへ……いい気味だよぅ)
当事者であるはずのイーヨウが罪に問われる事がない理由はまずひとつ。
その事実があったにも関わらず、当のダイオード自身が全く興味を示さない事。
/ ゚、。 /「………」
ふたつ目は、大規模掃討作戦で上げるはずだった戦果を彼ら4人が
根こそぎかっさらってしまった事から、他の3人と同様に討伐に関しての恩賞を
与えない事と引き換えに、ダイオードを陥れた罪を不問とする事で話がついているからだった。
ノパ⊿゚)「我らが出ずして、掃討が完了してしまうとはな……団長殿にはなんて怒られるか」
_
( ゚∀゚)「へっ、そいつは悪い事をしちまったかな」
- 839 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:06:43 ID:e/DmWKX20
-
ノパ⊿゚)「だが、作戦を前に危険に巻き込んだ責任もあるが……勇気を持って戦ったあんた達に
対する誠意の方が先だな。今夜は我々の方で寝床を用意させてもらおうと思う」
( ,,゚Д゚)「う、美味い料理はあるのか! 肉や豆のスープじゃ、俺の舌はごまかされねぇぞ!」
ノハ;゚⊿゚)「履き違えてもらっては困るが……本来、我々が主導で行うはずだった作戦。
救助の為とはいえ、勝手にあんな場所に立ち入った責任は感じてもらわなきゃな」
( ,;゚Д゚)「………はいはい、すいませんね」
_
( -∀-)「バカ」
ノハ-⊿-)「コホン―――まぁ、騎士団からの見解として言わせてもらえばそうなるがな……」
( ,,゚Д゚)「?」
ノパ⊿゚)「その、なんだ……あんた達の事は、私自身とっても高く評価してるつもりだ」
_
( ゚∀゚)「………」
この遠征中を指揮するヒートの率直な感想は、傭兵などからすれば戦屋冥利に尽きる言葉だ。
- 840 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:08:02 ID:e/DmWKX20
-
”大陸の守護者”などと、一部信奉者の間からもその実力において多大な信頼を集める彼ら、
大陸諸侯にまで武勇を轟かせる”フィレンクト=エルメネジルド”を筆頭とした円卓騎士団に
腕を信頼されるというのは、一人前の腕利きであると認められるのと同義である。
この時ヒートは、各地を放浪して名声を集めてきたジョルジュと、
バルグミュラーに来てから他の地方を訪れる事のなかったダイオードの名こそ知らなかったが。
( ,,゚Д^)「へへ……褒めても何も出ねぇぞ? もらえるもんはもらうけどよ」
ノパ⊿゚)「銀貨にして2000spは下らないと思う。あとは、褒章の一つも渡されるかもな」
( ,;゚Д゚)「な、はぁッ!? に、にせん、今……にせんっつったか!?」
_
( ゚∀゚)「そうさな……まぁ、妥当っちゃ妥当な額か」
( ,;゚Д^)「マジかよ、当分は美味いものをたらふく食えるぜ!」
_
( ゚∀゚)「火晶石が二つばかり買えるな。ありがてぇ事だぜ」
ノパ⊿゚)「火晶石って……そんな物騒な物が入り用なのか?」
_
( ゚∀゚)「まぁな」
炎の精霊を晶石内に封じ込めた、高度な魔術道具。
天然の物は大変貴重で、一部で行える生成は極めて困難であるため、
1000sp前後の大変な高値で取引される事が殆どだ。
その為、そんな物を持ち歩ける冒険者も稀であり、岩盤の発破などが主な用途。
外敵にそれを使う時があるとすれば、オーガどころではない余程の相手の時だろう。
故にヒートは、ジョルジュの言葉に眉をしかめていた。
- 841 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:08:44 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「よぉ、大将」
/ ゚、。 /「………」
_
( ゚∀゚)「今晩は、またあの辛気臭ぇ宿に泊まるんだろ?」
/ ゚、。 /「あぁ……だが」
_
( ゚∀゚)「分かってるさ。ダイオード―――こりゃあ、お前さんを見込んでの仕事の話だ。
今夜は俺もあすこにしけ込む。じっくりとこの後の話をしたい」
/ ゚、。 /「……そのつもりだ」
普段から人を寄せ付けないダイオードだが、この時ジョルジュの言葉に立ち止まり、
”興味を示している”とばかりに、仮面の奥から静かな瞳を彼へと向けていた。
脳天気なギコとは裏腹に、二者の間では既に、ある程度までの話がついている風でもあった。
_
( -∀-)「………」
- 842 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:09:32 ID:e/DmWKX20
-
( ,,゚Д゚)「おいおい、美味い料理が俺たちを待ってるってのに……」
ノパ⊿゚)(私達の配膳が肉や豆のスープと一切れのパンだとは……黙っておくか)
_
( ゚∀゚)「―――そんで、嬢ちゃ……いやさ、隊長殿にも頼みがあってな」
ノハ;゚⊿゚)「うむ、まぁ……聞ける範囲でなら」
_
( ゚∀゚)「ここいらを束ねる、レイオブロウってぇのにお取次ぎ願えるかい」
ノパ⊿゚)「領主のか? まぁ、不可能ではないだろうが……どういう要件だ?」
_
( ゚∀゚)「……難しいようなら最悪、言伝だけでも構わねぇ。
恩賞代わりに、そいつと会って話が出来るだけでもいいさ」
/ ゚、。 /「………」
( ,,゚Д゚)「!」
ダイオードには、まだジョルジュがこれから行おうとしている事の全貌がまだ掴めていない。
しかし、ギコは浮かれ気分から冷水を浴びせかけられて現実へと引きずり戻されるように、
その意図を察してはっとジョルジュの表情へと視線を向けた。
ノパ⊿゚)「恩賞もいらないとは……どういう風の吹き回しだ?」
- 843 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:10:51 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「そうさな―――”悪竜退治に興味は無ぇか”と、そう伝えてくれればいい」
ノパ⊿゚)「!?」
そう口にしたジョルジュに驚き、ヒートは二度ほど彼の表情を覗きこんだ。
真顔でそう言ってのけた男の言葉は、どうやら冗談ではないのだと知って再び驚く。
悪竜といえば、当時は近隣諸侯の頭を悩ませたあの名がすぐに思い当たる。
ここ数十年ばかりは目立った動きがなく、どこに生息しているのか所在も突き止めていない。
だが、人を貪り喰らい好き勝手に振舞っていた邪龍”ファフニール”の名は、もはや
生ける伝承として各地方へと広く伝わっている。知らぬ者など無いはずの、恐怖の名だ。
黒く輝く鋼玉の皮膚は剣や矢も通さず、無敵の堅牢を誇る。
極々々高温の炎のブレスは全てを焼き払い、口を開けば牛馬すら一飲みにするという。
その名を知っていれば、決して挑む者なき―――”天災”にも等しい存在。
- 844 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:12:16 ID:e/DmWKX20
-
ノハ;゚⊿゚)「まさか……”邪龍”の事じゃないだろうな? 今は眠っているのかも知れん。
だが―――ひとたび突付いて起こせば、数万単位の犠牲が出る事になるぞ?」
_
( ゚∀゚)「生憎と……野郎の寝覚めが悪ぃのは、もう経験済みでね」
ノハ;゚⊿゚)「攻撃が通じない相手にも程がある。若竜ならいざ知らず、正直な所では
円卓騎士団総出ですら壊滅するだろう……あれは、”古龍”なんだぞ」
_
( ゚∀゚)「博打になるがな、そこんところの手立てはある」
ノハ;゚⊿゚)「知ってる口ぶりだが、あんたは……まさか遭遇した事があるのか!?」
_
( -∀-)「随分と前にな。明け方頃には、馴染みの村はもう、地図から消え失せてた」
( ,,゚Д゚)「………」
ノハ;゚⊿゚)「こいつは、驚いたぞ……」
ジョルジュの決意は現実味を帯びたものとして、もうすぐギコの前にも姿を表そうとしていた。
それと相対してしまえば、きっと今日のような危機など霞んでしまうだろうと、確信できる。
自分からは遠い過去のように思えていた父の死。
その雄志を伝えに来た男との出会いが、今も少しずつギコを成長させている。
- 845 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:13:50 ID:e/DmWKX20
-
ジョルジュに打ち明けた覚悟や決意というものは、やはり方便なのであるかも知れない。
まるっきりではないが、彼に面と向かって吐き捨てた言葉には、少しだけ嘘の部分があるのだ。
ジョルジュの命を救った自身の父親との、微かにして数奇な運命の繋がり。
そこで全てが失われる光景を目の当たりにした彼は、ギコよりも深い悲しみに暮れたはずだ。
胸中には、もしかすると深く根を張った憎悪ばかりが渦巻いているのかも知れない。
だがそれでも、悲しみを糧にこうして強い男へと成長してきたのだろう。
照れくさいのが苦手なギコは、決して口には出さない。
だが彼に対しての憧れは、想い出の中に生きる誇らしい父と、同じぐらいに強かった。
”ジョルジュという男と、また明日も共に肩を並べて歩きたい”と。
そう―――思える程度には。
旅の終着点では、果たしてどうなっているだろう。
どちらか死んでいるか、あるいは2人とも死んでいるのか。
出来ればそこでも、二人で旅していられる事を願っていた。
( ,,-Д-)「さてと……俺もあのしけた宿で、一杯やるとするかねぇ」
・
・
・
- 846 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:15:09 ID:e/DmWKX20
-
―― 夜分 冒険者宿【宵の明星亭】――
大きな戦果を上げ、陽気に自身の武勇を語らう者。
至る所に包帯を巻き、痛みに顔をしかめながら火酒で火照りを冷ます者。
あるいは身内の人間を失って、嗚咽しながらそれとの思い出を口にする者。
毎夜、様々な人が訪れ、それらの感情が交錯するこの宿で、
今日は特に周囲の同業者たちの目を惹く、ある一卓があった。
/ ゚、。 /ムシャッムシャッ
( ,,゚Д゚)「それ……食うときも外さねぇのか?」
/ ゚、。 /「……外さなくても、食える」
( ,;゚Д゚)「そ、そうか」
あれほどの大怪我を負っていたにも関わらず、まるで応急処置程度の手当で済ませ、
ダイオードはギコ達よりも先に騎士団兵舎を後にし、今こうして食事をしていた。
遠征の指揮隊長であるあの”ヒート=ローゼンタール”には、
無理を言って調書の為の聞き取りを後日への先延ばしにしてもらったのだ。
傷の痛みや、疲労が何よりの理由である。
- 847 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:16:03 ID:e/DmWKX20
-
(おいおい……聞いたかよあいつら、ダイオードと、あの新顔さ)
(鬼の穴を、たった4人で全滅させちまったんだとさ……)
(ほえぇ!あんな抜けた面してっけど、バカ強ぇんだろうなあの兄ちゃんも)
(やっぱあいつはバケモンだぜ……一人で50匹だぜ?あの、オーガをよぉ)
( ,*゚Д゚)「なんか随分注目されてっけど……あんまし悪い気はしねぇな」
_
( ゚∀゚)「50匹も倒すたぁ、恐れいったぜ」
ギコたちがオーガ洞穴で戦った事実は、既にこの城壁都市中を駆け巡っているようであった。
若干会話の端々から現実との齟齬が聞き取れるが、中心人物の二人はさして気にも留めない。
ジョルジュの主張によれば、ダイオードは28匹か29匹、という事なのだ。
- 848 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:17:17 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「訂正しとくけどよおっさん。こいつは10匹倒すとかいいながら、結局の所8匹止まりだ」
( ,;゚Д゚)「ちょ、事実だけど……水差すんじゃねーよ!」
_
( ゚∀゚)「へっ。まぁそいつも、こいつとの連携があったればこそ、だろうがな」
(=゚ω゚)ノ「その通りですよぅ」
流れで居合わせたイーヨウが肯定するように挙手した。
兄貴分が騎士団仮設兵舎へと連行されていった後、イーヨウと”仲間”であった
他の冒険者達は、酒場の隅で存在感を消し去りながら、静かに酒を飲んでいた。
生来の気弱で周りからはあまり相手にもされていなかった彼だが、この後は恐らく
パーティーが自然消滅的に解散したとしても、受け入れてくれる場所はあるだろう。
一度の山場を乗り越えた事でクソ度胸がついた今は、冒険者としては一皮剥けたといえる。
(おぉ〜、でもなぁ……大したもんだ)
- 849 :蛇足に入ります:2013/08/20(火) 06:18:50 ID:e/DmWKX20
-
( ,* Д )「……ったく」
それでも、ギコ自身誇らしいとさえ思える戦果は、周囲の同業を唸らすものだった。
ジョルジュが椅子を乗り出して先で声をかけた卓が、自分の話に沸いたのを見て、
少し気恥ずかしくなったギコは、照れ隠し紛れに目の前の酒を一気に飲み干す。
それでも、ジョルジュ達からすれば、自分は子供同然のような扱いだろうなと自嘲しつつ。
_
( -∀-)(剣のド素人が8匹ブチ殺すだけでも……素直に驚きだがよ)
(=;゚ω゚)「と、ところで……ダイオード……さん?」
/ ゚、。 /ムシャッガツッ
仮面をはめたまま器用に骨付き肉を食らう対面のダイオードに、イーヨウは
途端に一回り小さくなって、小動物のようにおずおずと声をかける。
生還の喜びの方が大きくて、改まってダイオードに謝罪してはいなかったのだ。
いざその時となると、やはり緊張して度胸が要った。
(=;゚ω゚)「あの、やっぱり……お、怒ってらっしゃいますかよぅ?」
/ ゚、。 /ガツッムシャァッ
- 850 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:19:36 ID:e/DmWKX20
-
( ,,゚Д゚)(あ〜、これ怒ってる……絶対怒ってるよ)
(=;゚ω゚)「こ、この度は誠に……我が不徳の致すところでございましてですよぅ……」
/ ゚、。 /バリッ!ガリガリッ
やはり人間、そうすぐには変われないようだ。
今回の件で今までも恐ろしかった大男の正体が、”オーガ達の30匹分は恐ろしい大男”
というのが証明されてしまった今となっては、以前よりも更に繊細な受け答えが要求される。
万が一気分を損ねて、オーガ達同様に脳漿をまき散らす羽目になるのは遠慮願いたいからだ。
(=;゚ω゚)「あ、あのぉ……」
骨付き肉の骨を奥歯で噛み砕きながら、やがて顔を上げたダイオードと目が合う。
その鉄仮面からでは表情が窺い知れず、やはりその寡黙さはどこか不気味だ。
しかし、彼から返ってきた意外な言葉に、イーヨウはほっと胸を撫で下ろす。
/ ゚、。 /「……どうでも、いい」
(=;゚ω゚)「で、でしたら……思いがけず幸いですよぅ」
- 851 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:21:03 ID:e/DmWKX20
-
( ,,゚Д゚)「良かったじゃねぇか。強ぇ男はやっぱり懐も深くなくちゃなぁ。
そう頭ごなしに怒ったりしない所がいいぜ」
_
( ゚∀゚)「薬草採らせて毒草採ってくるような馬鹿は、引っ叩いても構やしねぇがな」
ジョルジュの突っ込みが鋭角にギコの心を抉った所で、全員の食事が終わった。
女を抱きに外へ出た者、身体を休めに酒場の二階へ上がっていく者。
そうして店内の人影の姿がまばらになって来た頃、ようやく話合いの場が整ったようだった。
_
( ゚∀゚)「さて、部外者が約一名いるが……ダイオード」
/ ゚、。 /「……知っている」
_
( ゚∀゚)「もう伝わってんなら話は早ぇ―――とどのつまりが、竜退治よ」
( ,,゚Д゚)「おぉよ」
(=;゚ω゚)ブフォッ
唯一常人としての反応を見せたのは、何気なく居合わせたイーヨウだけだ。
ギコとダイオードは、それに眉一つ動かさず、ジョルジュの話を聞く体勢に入った。
(=;゚ω゚)(りゅっ……竜!?)
- 852 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:22:31 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「単刀直入に言う、お前さんの力を借りたい」
/ ゚、。 /「……望むところだ」
_
( ゚∀゚)「そう言ってくれるとは―――まぁ、思ってたんだがな」
( ,;゚Д゚)(即答かよ、こいつ)
_
( ゚∀゚)「……さっきのであんたを見させてもらった限りじゃ、現状望むべくもねぇ。
素直に頼りにさせてもらいてぇと思ってる、ダイオード」
( ,;゚Д゚)(なんか、ジョルジュが他人を褒めてるとか……気持ち悪ぃな)
二人の会話を目で追うギコが、ぎょっと目を見開いてジョルジュの方を見た。
出会ってからというもの罵られてばかりのギコにとっては、彼が他の冒険者達に
率直な賛辞を送るなど、驚くべき事だった。
もっとも、ダイオードはこちら側というよりも、傭兵稼業に適応した人間なのだろうが。
そういった性質の違いもあるのだろう、冒険者としての資質ならどうだ――と、ギコは
無意味に頭の中で両者の力量を比較してみたりもした。
だが、生存術として多くの知識を身につけたジョルジュと、あの場に50のオーガがいれば
命と引き換えてでも倒してのけたかも知れないとさえ感じさせられる、屈強の闘士ダイオード。
やはりそんなにも毛色の違う二人では、答えは出なかった。
- 853 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:23:32 ID:e/DmWKX20
-
ギコが舌を巻いたのと同様に、さしものジョルジュも認めざるを得ない男なのだろう。
何発もオーガの攻撃をその身に浴びながら、それをも上回る力でそいつらの脳天を
ぶっ飛ばし続けられる人間など、そいつの方がよほどオーガらしい。
/ ゚、。 /ゴキュッ ゴキュッ
( ,,゚Д゚)(こいつ……寝る時仮面どうしてるんだ?)
出会って間もない男だが、共に鉄火場をくぐり抜けた事が影響しているのか、
ギコ自身、早くも彼が信頼に足る人物であるかのような親近感を抱いていた。
”ダイオードはジョルジュの誘いを受け入れるだろう”
それを半ば確信していたのは、自分の身を顧みないあの戦い振りを見た時からだった。
口が避けても本人には言えないが、いわゆる”戦闘狂”の類の男だとは、一目で解った。
もっと輝ける立ち位置があるはずの彼は、粗末な宿に止まり、命を切り売りして質素な飯を食う。
人並みの欲を持っているならば、決してそんな生き方はしないはずだ。
戦う事への欲求、あるいは何か怨念じみたものに後押しされるような―――
鬼気迫るダイオードの戦いに、ギコはそんな印象を受けていた。
無表情の鉄仮面は一拍の間を置いて、あえて両者の距離を遠ざけるかのように言った。
/ ゚、。 /「だが………それが本当の話かどうか、だ」
- 854 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:24:54 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「……本番はレイオブロウの野郎を丸め込んでからだ……兵はいくらいても足りねぇ」
( ,,゚Д゚)「私兵か? つっても、いいとこお抱えは100人ぐらいが精々じゃねぇか?」
_
( ゚∀゚)「領主様お抱えの坊っちゃん騎士なんざ、ハナから当てにしてねぇさ。
ろくに実戦も経験しねぇでお高く留まる事が仕事みてぇな連中は、クソの役にも立たねぇ」
/ ゚、。 /「……知らん世界の、話だ」
_
( ゚∀゚)「竜退治の名声ともなれば、諸侯の連中にとっちゃこの上なく甘い響きだ。
ちょっとオツムの弱い連中に、より現実的な作戦を提案してやる事で食いつかせる」
( ,,-Д-)「まぁ、言う通りになるかも知れねぇな……」
_
( ゚∀゚)「その上で集めさせる兵隊は、言ってみりゃあ俺たちみたいな、ここらの連中よ」
前半のジョルジュの言葉は、少しだけ含みを持たせたものに感じられた。毒という、含みだ。
彼の記憶が投影されているのだろう。それは以前話にあったディクセン騎士団の事だと解った。
名声に駆られた騎士達が無闇に龍の喉元をつついた結果、ジョルジュの故郷は滅びたのだから。
そうでなければ、ギコが今こうしてジョルジュと居る事も、なかったかも知れない。
- 855 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:26:33 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「結局の所、頼りになるのはここいらを寝床にして戦う事で飯食ってるような野郎だ。
そん中でも、一握り……腕が立って、なおかつ特に腹の座った野郎ばかりを集めたい」
( ,,゚Д゚)「寄せ集めかよ……そんなんで、いざという時戦えんのか?」
_
( ゚∀゚)「”依頼に成功すれば、一生遊んで暮らせます”そう言われりゃ、当然集まる。
それに、討伐祭りの音頭を取るのは俺と、もう一つの”頭”を用意する」
( ,,-Д-)「まぁ、世捨て人みてぇな奴ら、ごまんといるからなぁ……」
/ ゚、。 /「もう一つの、頭とは何だ―――?」
”よくぞ聞いてくれた”
そう言いたげに大きく片目を広げたジョルジュが、にやりと口角を吊り上げる。
_
( ゚∀゚)「こいつは驚くとこだぜ。”円卓騎士団”だ」
( ,;゚Д゚)「―――はぁっ!? ちょっと待てよ……流石にそいつは笑い話だぜ。
確かにさっきの件で恩も売れた、けどあのヒートって女も言ってたろ?」
- 856 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:28:34 ID:e/DmWKX20
-
思わず酒場中に響き渡る程の大声を上げたギコの方に、周囲の視線が注がれた。
遠征を指揮する小隊長ともなれば、騎士団内でも一角の人間なのだろう。
邪龍に挑むと聞いた彼女は、このような意味合いの言葉が汲み取れた。
”起こしてはならない存在”なのだと。
それが意味するところは、いつまた現れる脅威を排除しようという意識よりも、
やはり龍族に対する畏怖の念の方が遥かに勝っているに他ならない。
それが円卓騎士団長、ひいては総員の意思であるとは言い切れないが、それでも実現不可能だ。
少なくとも数十の犠牲を伴う危険性のある妖魔との戦いによって売り込んだ実績と、一方で
幾万の犠牲を伴うリスクを、円卓自らに冒させる為の天秤など、到底釣り合うはずもないのだから。
それでもジョルジュは、我が目を疑うようにして自分の表情を覗きこむギコを、鼻で笑った。
_
( ゚∀゚)「何が何でも”円卓”を引っ張り出す。当然、その為の材料も俺には揃ってんだよ。
そして―――そいつがファフニールと喧嘩をおっ始める為の、最後のピースだ」
( ,;゚Д゚)「どうやってだよ? 冒険者ごときの俺たちに、そんな事が出来るのかよ……?」
_
( ゚∀゚)「ったく……忘れっぽい脳みそしてやがんな。その”材料”とやらは、
前にも一度、おめぇに話しといたはずだぜ」
- 857 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:31:12 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д゚)「そうだっけ?……まぁ、こぎつけるまではいいさ。けどどうやってやっつけんだよ。
言っちゃなんだが、あんたは一番近くでそいつを見たはずだ」
/ ゚、。 /「………」
(=;゚ω゚)(……この人達の言ってる事が、理解できねぇよぅ……)
( ,;゚Д゚)「こうしてでけぇ事を話してる間は一見、何とかなりそうな気もするがよ。
………親父の仇竜は、強ぇどころじゃ、ねぇんだろ?」
理解の範疇を超えた言葉が次々と飛び出す卓で、一人蚊帳の外のイーヨウは怪訝な表情を浮かべた。
そして、ここより先は更に実戦を見据えた、より現実的な話になってくる。
ダイオードが新たに加わる事で、ヴィップに居た頃では考えられないような戦力を持ったパーティー。
恐らくはジョルジュですら比べ物にならない頑強な肉体は、そこらの妖魔など一捻りにねじ切れる。
だがたとえ強い”個”をいくつも用意したとして、そこから可能なのは所詮、強い力で武器を振るう事だけだ。
- 858 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:32:12 ID:e/DmWKX20
-
対して相手は砲弾すらも弾くという、鉄壁の龍鱗を持ち合わせる古龍(エンシェントドラゴン)。
大陸はおろか、紛れもなく歴史上で最強の生物に君臨するという齢500超えのファフニールを
斃す事など、たとえダイオードの怪力や、ジョルジュの剣技をもってしても不可能だと確信出来る。
( ,,゚Д゚)「効かねぇ攻撃を何万ぶち込もうが、やっこさんは痛くも痒くもねぇだろ」
_
( ゚∀゚)「ご名答だ」
ジョルジュが何より知っている、兵を集めただけでやり合えるような相手でない事を。
その上で勝算があるというのだから、ジョルジュにはよほどの策があるのだろう。
ダイオード同様、ギコ自身をも納得させ得る具体的な作戦とは、いかなるものなのか。
_
( ゚∀゚)「確かに、まともにやって到底勝てる相手じゃねぇ。けど、取っ掛かりも手札にある」
/ ゚、。 /「………聞かせてみろ」
腰元に結びつけた小さめの麻袋に視線を落とすと、ごそ、とジョルジュは何かを取り出した。
鋭角に切り出された、申し訳程度に丸みを帯びたそれは、美しい宝石の様にも見える。
良く目を凝らしてみれば、その中心にはぽう、と小さく朱色が灯されている事に気付いた。
( ,,゚Д゚)「それ……って」
- 859 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:33:21 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「火晶石だ」
かなり高価な代物だけに、普段は慎重に持ち歩いているのだろう。
また、叩きつけただけで大きな爆発を引き起こすというその危険性が故か、
再び麻袋に仕舞う前に、ジョルジュは繊細な手つきで幾重にも布を巻いていた。
( ,;゚Д゚)「おいおい、そんな良いもんがあるなら、さっきみてぇな時に使ってくれよ」
_
( ゚∀゚)「甘ったれめ。おいそれと使える代物じゃねぇ……
固まってる敵が相手じゃなきゃ、それほど効果的でもねぇしな」
ギコとは違い、ダイオードはそれに冷淡な反応を見せた。
ともすれば、”ふざけているのか”とでも言い出しそうな程に。
/ ゚、。 /「……そんなもので、”古龍”とやらを倒せると?」
_
( ゚∀゚)「へっ、こんなチャチなもんじゃ数十個……いや、
たとえ数百個ぶち当てた所で、野郎の命にゃ届きゃしねぇだろう」
( ,,゚Д゚)「なら、数千個も用意するってのはどうだ?」
_
( ゚∀゚)「俺が仮に城を持つ程の大富豪ならそうしてるかもな……だが、それでも解りゃしねぇ」
/ ゚、。 /「……どういう事だ」
”どんっ”
(=;゚ω゚)(ひっ)
- 860 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:33:45 ID:0nqMBY3.O
- 腹痛と眠気が来たから先に乙を置いとこう
- 861 :あとちょっと:2013/08/20(火) 06:34:15 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「そう急くなよ……お楽しみはここからだ」
はぐらかすようなジョルジュの様子に焦れたダイオードが、卓へと拳を落とした。
身じろぎしたイーヨウの眼前でエールグラスは浮き上がり、いくつかが倒れる。
ジョルジュは、構わずただ饒舌に言葉を紡いだ。
_
( ゚∀゚)「この火晶石っつぅやつの内部には、炎の精霊……
サラマンダーだかの幼精が封じられてるんだと」
( ,,゚Д゚)「叩きつけたり、火ぃつけたりすりゃ爆発すんだろ?」
_
( ゚∀゚)「まぁ俺は魔法なんて2〜3度しか食らった事ねぇし、精霊とか、
どうにも胡散臭ぇその辺ばっかりは信じてねぇんだけどよ」
( ,;゚Д゚)(2〜3回喰らってよく生きてたな)
_
( ゚∀゚)「で、だ……ここからが俺の策なんだが」
一つ咳払いをしてから、掌の中にすっぽりと収まる麻袋を眺める。
やがて、両腕を肩幅より少し大きめぐらいにまで広げて、首を傾げつつ何事かを呟いた。
- 862 :>>860 thx!:2013/08/20(火) 06:35:25 ID:e/DmWKX20
-
_
( ゚∀゚)「ふん……まぁ、これくらいか。こんなもんかね」
( ,,゚Д゚)「何がだよ?」
_
( ゚∀゚)「あぁ―――あんだよこんぐらいの大きさのやつが、よ」
( ,;゚Д゚)「はぁ?こんぐらい……って」
_
( ゚∀゚)「名づけて”爆弾火晶石”―――こいつを使う。
5年前に俺が実際に探し当てて、今は別んとこに置いてあるがな」
/ ゚、。 /「………ほう」
真実だとすれば、晶石単体としてすら自然界に存在するのか疑わしい程の大きさ。
当然そんなものを人の力で生成する事は、魔術界隈からかけ離れた自分たちからしても、
どれほどの困難を窮めるとなるかは想像に易い。恐らくは、不可能なのではないかとも。
だが実際にその威力を決めるのは、その内部に灯る火の精霊とやらの力だ。
口ぶりからすれば、どうやらその点においても抜かりはないと見える。
_
( ゚∀゚)「本当に珍しいもんでな……一度だけ魔術師ギルドの知り合いに呼びかけて
鑑定してもらったが、馬鹿げた大きさに見合った大層いいもんをお持ちらしい」
- 863 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:39:12 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д゚)「下手すりゃ数万spに届くんじゃねぇのか……それ」
実物を見ても解らないだろうが、火晶石の力の源が無数に内包されているか、あるいは
それよりもっとすごい奴が、今か今かと解放の時を待ちわびているのかも知れないなと想像した。
事実、ギコが口にした通り天然で採れる大きな火晶石は、更に異常なまでの高値で取引される。
一介の冒険者風情が生涯を通してもお目にかかる事などまず無いと言っていい、極めて希少な鉱物。
そんな、道楽貴族がコレクションケースの片隅に鎮座させ眺めるようなものを、
ジョルジュは500年を生きる”龍”を殺すための、最大の武器にしようというのだ。
_
( ゚∀゚)「火晶石の破壊力の源は、破裂時に放射される炎と、その周囲を固める晶石の破片が
飛散する事にある。数十個程度じゃ野郎には火傷にもなりゃあしねぇがよ……」
/ ゚、。 /「その大きさなら、威力は数十倍―――いや、それよりも上か」
_
( ゚∀゚)「”だとしたら?”そんなもんをでっけぇ口にでも放り込まれりゃあ……どうなると思うよ?」
( ,;゚Д゚)「いくら龍でも……死ぬんじゃねぇか」
_
( -∀-)「答えは”龍のみぞ知る”、だ―――たとえ至らずとも、鎧の鱗ぐらいはふっ飛ばすさ。
それが出来ただけでも剣をぶち込める、最大の突破口になる」
/ ゚、。 /「………面白い」
- 864 :次回、( ・∀・)編:2013/08/20(火) 06:41:51 ID:e/DmWKX20
-
( ,;゚Д゚)「そっからが……気合の入れどこってやつか」
ジョルジュの発想は、言ってみれば幼稚なものだ。
この拳で倒れないのならば、もっと強い力でぶん殴ればいいといった。
―――単純にして、明快ではあるが。
しかしそれを実行に移せるだけの準備が整いつつあるという現状を作り出したのは、
並々ならぬ打倒への執念を燃やし続けてきたであろう、ジョルジュのこれまでがあったからこそ。
ダイオードの感想と同じ心境を、ギコもまた抱いていた。
( ,;゚Д゚)「なぁ。本当にそいつを倒しちまったら、俺ら、英雄か?」
_
( ゚∀゚)「……400年前の終末の運び手、”悪龍ツガティグエ”をぶっ倒したっつぅ
あの”ヒロユキ=トゥーランド”以来の大英雄になるだろうぜ」
( ,;-Д-)「はは……冗談にも程があるぜ」
”ちょっと前まで燻っていた冒険者風情が、救国の英雄になる”
そんな自分の未来を想像したギコは、居ても立ってもいられない感覚にとらわれた。
_
( ゚∀゚)「その冗談が現実になる時が、必ず来る」
( ,;゚Д^)「案外……あんたも俺みたいな馬鹿かもな。ジョルジュ」
- 865 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:44:30 ID:e/DmWKX20
-
ギコの腕に、武者震いがきた。父親はおろか、孫の代まで語り継げる話になる。
天から見下ろす父に向けて胸を張って誇る事が出来る、その歴史の担い手の一人に、自分がなる。
冒険者、だからか。もしかしたら”男”に生まれた自分だからというだけかも知れない。
それでも、漠然とした理想すら持っていなかったギコの心は、少しずつ形になろうとする
ジョルジュの野望の前に打ち震え、その場所で共に輝ける未来を予感させた。
少し酒も入っているせいもあったかも知れない。
興奮したギコは突然席を立ち上がり、瞳を躍らせながら指を鳴らす。
( ,,゚Д゚)「マスター! エールおかわり!」
「下はもう店じまいだが……珍しく景気の良い話を聞かせてくれた礼だ。サービスにしとくよ」
_
( ゚∀゚)「ったく……本当調子の狂う野郎だがな。
まぁ、よろしくやってくれや―――”大将”」
/ ゚、。 /「……フッ」
_
( -∀-)(けどまぁ、またえらく個性的な面子が集っちまったもんだぜ)
自身の理想のため、復讐のため。
その為に自分を叩き上げて来たジョルジュの本心は、今では当時のものと少し違えていた。
肉親である姉と、己の故郷を滅ぼした邪龍に対する感情。
それは長年に渡って旅歩く中、これまでの憎むべき怨敵というものからは姿を変えつつある。
言ってみれば―――”好敵手”、それに近いものとして。
- 866 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:45:09 ID:Uh2LHG3I0
- 支援そしておつ
- 867 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:47:28 ID:e/DmWKX20
-
悲しみばかりにとらわれず、そこから這い上がり、己が成すべき事を見出したもの。
悲しみに囚われたばかりに、それから抜け出せず、己の行き場を探しているもの。
グラスの奥底で琥珀色に輝くランプの灯火を、同じように眺める二人。
彼らは志を同じくすれども、思惑は少しだけ違っていた。
_
( -∀-)(もうすぐ―――)
何かを失った事で、今の彼らは支えられてきた。
全く違うはずの二人が居るその場所は、まるで彼らを繋ぐ一本の線のようだった。
互いに背中を向け合いながらも、目指したものは共に、失ったものを取り戻すための約束の地。
そこからの彼らを分け隔てるのはたった一つ、道行きの違いというだけ――――
/ 、 /(―――逢えるよ)
やがては訪れる。
コインの裏表のような、それぞれの旅の終わりが。
臨むものと、望まざるものの。
- 868 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:48:32 ID:e/DmWKX20
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
幕間
「臨むもの、望まざるもの」
-了-
.
- 869 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 06:52:48 ID:psUevbKwO
- (´・ω・`)「実に、長かった。あまりにも、長すぎた6月2日だった、乙」
- 870 :くぅ〜疲。:2013/08/20(火) 07:00:16 ID:e/DmWKX20
-
【ありがたきまとめ様】Boon Roman様【遅筆作者にも超寛大】
ttp://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/
ttp://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/vipwirth.html
どうして毎度こんなにだらだら長くなっていくのか自分でも解りません。
やがて、旅(現行)の終わりが訪れるといいんですが。
クソ遅れてすいませんでしたと共に、こんな明け方からの支援に感謝す!
簡単に長期離脱する超ルーズ野郎ですが、また投下させて頂きます……
- 871 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 07:02:16 ID:e/DmWKX20
- >>869
今日は6月78日ぐらいでしょうか……ホントごめんなさい。
- 872 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 09:14:44 ID:YHxcWl5M0
- だが、こうも言える。まだ6月2日深夜1,824時だと
乙お帰り
- 873 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 10:32:23 ID:8nXGZ3qE0
- 乙
- 874 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 14:49:07 ID:1v28L.dUO
- ヴィップワースきたあああああああああ
大好きなんだよ乙乙
- 875 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 20:51:46 ID:GB.8B71.0
- ぃょぅ役に立たないなー思ってたけど働いたな
- 876 :名も無きAAのようです:2013/08/20(火) 21:00:04 ID:7yF/he9cO
- 乙!
ジョルジュが格好いいわー
- 877 :名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 04:31:01 ID:D7GEgloo0
- 俺も骨付き肉食べたらダイオードみたくガチムチになれるかな
- 878 :名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 16:56:14 ID:jgF5/hRY0
- 次がさらに楽しみになって行くんだぜ
乙
- 879 :名も無きAAのようです:2013/08/22(木) 21:46:35 ID:qm0RNqo20
- 皆様あざすあざす^^^ 有り難いご感想にモチベも上がります。
今回の投下分では「壁を越えて」(1)〜(4)までの関連の話でしたが
お次は第6話のケツの方と幕間「愚かさの歴史」の関連となります。
小細工を弄しつつ小難しい感じの地の文が多くなってますが、
出来るだけ戦闘の場面とかは簡潔に書けるように意識しようかと。
- 880 :名も無きAAのようです:2013/08/23(金) 02:20:35 ID:hFGO4e.20
- 乙
次回も楽しみにしてるよ
- 881 :名も無きAAのようです:2013/08/23(金) 03:19:02 ID:o1BK5jVMO
- ω・)乙。ブーンの出番がwwwこのままでは主役(笑)になってしまう。
- 882 :名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 18:53:17 ID:P4uzmb2s0
- 短い話となりますが、次は恐らく新スレ立てないと収まらなさそうなので、
いいところまで埋められるように残レス数見ながら文量調節したいかと。
半端でブツ切るので、ずっとsageておきます。
- 883 :sage:2013/08/24(土) 18:56:18 ID:P4uzmb2s0
-
――【オッサム村】地下――
”こつん こつん”
辿り着いた時、その場で二度ほど硬い音を響かせたところで、靴音は止まった。
地上でも既に陽は没しているが、ここではそれ以上に、異質な空気を纏う闇黒が視界を閉ざす。
「やはり、松明は必要となりますか」
”ぽっ”
( <●><●>)
彼は闇に溶け込む濃紺の外套を、ばさりと翻した。
- 884 :sage:2013/08/24(土) 18:57:11 ID:P4uzmb2s0
-
道の先を照らす光を求めて、掲げた掌の上に魔力の小さな灯を宿す。
何しろ、地上から決して深くはないまでも、今では誰一人として訪れる事の無い霊柩。
予想通りといえばそうだが、灯を前方へ掲げてすら、暗さが上からのしかかってくるような閉塞感。
肌を刺す妙な感覚は、それだけではない。この地がある特別な場所を意味していた。
魔法の松明によって視界に浮かび上がってくる景色は、一面が苔むした石に取り囲まれる。
何かがどこかで、確実に腐れているような。そんな饐えた匂いばかりが鼻腔を刺激するのだ。
広く長く伸びた一本の道は、まるで異界へと続くかのようにその先を黒く塗りつぶしていた。
この場所全体は広大な霊柩であるが、同時に、侵入者を拒む地下迷宮でもある。
”一度踏み込めば、二度と出られない”
常識的に考えれば、今のように発達した魔道や、建築技術が用いられていた訳ではない。
そんなものは迷信で、ただこの地を訪れる者達を追い返すための方便に過ぎぬ。
現に石畳を形成する岩々はなんとも雑に切り出され、いびつに積み重ねただけ、という印象だ。
所詮は―――迷信。
- 885 :sage:2013/08/24(土) 18:58:15 ID:P4uzmb2s0
-
だが、そんな中途半端な気持ちでこの場所を訪れた遺跡荒しの類は、確かにこの墓所で、
石畳の上に倒れこんでは、冷たい風に当てられながら死んでいった事だろう。
そんな哀れなものたちの亡骸と思しき痕跡は、道を歩く上でいくつも見られた。
彼らは単に、この地の事を知らなかったのだろう。
魔道を往く者でなければ、決して立つべきではない場所だと。
生きた肉体を求める死霊達が彷徨い、それでも奥へと進んだ先。
そこには、墓荒らし達が求める金銀財宝などは存在しない。
ただ老いさらばえた人間の亡骸がひとつ、葬られているというだけなのだ。
( <●><●>)「泣き喚く女の姿でもあれば面白いのですが……
些か興ざめですよ、何の出迎えもないのではね」
”オッサム”
地図上にはまだ、辛うじて小さなその名前だけが残っている。
- 886 :sage:2013/08/24(土) 19:01:36 ID:P4uzmb2s0
-
その名は、これよりただ廃村への一途を辿るだけの、今でこそ寂れた村としてだが。
しかし、魔術を究めんとするものならば、殆ど全ての者は知っている。
この場所が、一度は繁栄の頂点に立つ程の、強大な古代魔法国家であった事を。
今でこそ語り失われつつもあるが、誰よりも深くその名を印象に残していたのはこの地域の人々。
地下迷宮の全ては、たった一人を葬るために作られた王墓である。
魔術を用いて他国を圧倒し、国家を最強たらしめ続けた”オサム王”が眠る場所なのだ。
( <●><●>)「ふふ。左右へと続く、無数の道ですか」
一度、二度と、頭を振る。
”下らない”
心底、そう思っていた。
どこまでも奥深く伸びる道も、立ち入った先では何故か無限に続くような回廊も。
ただ広さを確保するだけの建築技術に併用した、魔術によるまやかしに過ぎない。
- 887 :sage:2013/08/24(土) 19:02:20 ID:P4uzmb2s0
-
そうした罠がいくつも張り巡らされているのは、事前準備の段で知っていた。
その全てが虚飾であるという点においては、それはきっと仮初めの繁栄を謳歌した彼、
オサム王そのものの姿を映しだした、皮肉だけは良く出来た墓所であると言える。
( <●><●>)「死霊の類はこの私に挨拶一つも無く……そればかりか、
この子供だましのトラップなどは、バレバレもいいところですねぇ」
男は立ち止まり、そこで中空を撫ぜるように右腕を凪いだ。
”カシンッ カシンッ”
途端に上下左右、予め小さく丸穴が開けられていた場所からは、こうして
スピアがその場所に立つ存在を串刺しにしようと勢い良く飛び出すのだ。
全て、理解っている。
- 888 :sage:2013/08/24(土) 19:03:26 ID:P4uzmb2s0
-
わざわざつぶさに観察などせずとも、予め魔力探知の領域を周囲へ張り巡らせておけば、
迷宮を守るつもりで置かれた、有象無象の小細工など全く通用しない。
こんな場所で死んだ人間がいるのだとしたら、あまりにも浮かばれない最期ではないか。
今となっては錆付きのあまり、槍術の練習用武具であるかのように摩耗した丸い刃。
よしんばそれにわざと引っかかってみたにしても、痛みを感じる事すらないだろう。
視線を落として気付いた――――可哀相にもほどがある。
今では無害でしかないスピアの射出口に付近に横たわる、小さな骨片の哀れな亡骸の姿。
思わず、苦笑の込み上がってくる光景だ。
そんな悲しき亡者たちが行く先に現れるかとも思われたが、どうやら、安らかに眠っている。
彼らたちにとっての”王”の御前であるからか、あるいは生ある人間であるにも関わらず、
そこから嗅ぎ取れるのは同じ死人としての臭いだけだからか。
死者たちは、ただこの背中を見送っているのだろう。
- 889 :sage:2013/08/24(土) 19:04:17 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「……この分では、率直な所大変残念な予感がしますよ。
古代魔法国家の繁栄はおろか、”貴方”の力までもが虚飾なのではないかとね」
賢王か、あるいは愚王か。
恐らくは後者でなければ、一見、嘆き悲しむ民たちによって”丁重に葬られたように見せかけ”、
その実”二度と解放するものが現れないように”と、わざわざ奥底に封じる事に意味は無い。
だが、愚王であるとすれば――――オサム王の力は”本物”である。
別段それに目覚めたのが、生前、あるいは死後に関わらずどちらでもいいのだが。
怨嗟渦巻く力場において生みだされる存在の一つに、
強烈な残留思念や、そこへと引き寄せられる死霊の複合体である”レイス”がある。
例えばあれらは、精神の薄弱な人間ならば、たった一度触れただけで対象を死に至らしめる。
生ある者たちを冥府へと誘うその姿は、死神とも同一視される高位の不死者として恐れられているが、
それよりもさらに高位の霊体があるとするならば、それこそ”死神”の理想像といっていい。
リ ッ チ
”魔導死霊”
- 890 :sage:2013/08/24(土) 19:07:05 ID:P4uzmb2s0
-
負の思念を呼び込む力場にて、溜め込んだ怨嗟を糧として自然発生的に生まれる存在。
ある意味では人から姿を変えたものとして、具現化した大小様々な死霊の類と、根源的には変わらない。
大陸歴800年にも及ぶ歴史の遥か昔より、生命の転換はあり得るものと語り継がれてきた。
死霊術を学ぶ上ではよく愛読した、”死をくぐる門”の中にも、そんな記述があった。
”確かに実在する”のだとは、信憑に足る地位の魔術師達から幾度も示唆されており、
今の大陸歴の中でもどこかの頁には必ずその名を刻み込みながら、そうして今日へと至る。
死霊の一種である以上、朝や昼、陽の差す場所には具現化し得ない不安定さは変わりない。
実在が囁かれながらも、一度も詳細な情報が文献に載ることがなかったのは、
遭遇した人間が例外なく、速やかに取り殺されているからだとすれば、まぁ妥当なところか。
( <●><●>)「同じような一本道ばかり……正直、飽きてきましたよ」
- 891 :sage:2013/08/24(土) 19:07:58 ID:P4uzmb2s0
-
代わり映えの無い道程に肩をすくませながらひとりごち、募らせていた好奇心が削がれる。
間を置いて、再び思考を何一つ阻むものの無い水底の深くへと巡らせた。
魔導死霊を発生させえる”力場”についても考えてみた。
これには自分の中でほとんどの答えは出ているのだが、何の事はない。
平坦な一本道を最奥へと向けて歩き続けるだけの、暇を潰すためだ。
戦争に巻き込まれ、例えば女、子供、老人分け隔てなく、同じ場所で仲良く命を落とす。
あるいは殺人にこのうえなき快楽を憶える暴君が、領民を次々攫っては、虐殺し、蹂躙する。
結果、どちらの力場においても同じく、レイスに匹敵する死霊は生み出されておかしくない。
まさか強い力場が発生する条件とは、悲劇の”質”などではないとは思うが、
単純な数の犠牲だけでも法則が成り立つのだとしたら、それはそれで笑い話だ。
魔術師界隈では特に受けのいい、話の種にはなる。
数万もの民を一箇所に集めて、出来るだけ苦しませぬいた挙句にその生命を踏みしだく。
そんな事で、大陸全土の人々を死に至らしめるような、強力な悪霊が誕生するのではないかと。
思わずそんな妄想を浮かべては、笑いが吹き出しそうになった。
だが、より強力な死霊が誕生するためには、恐らく”質”と”数”、そのどちらもが無視出来ないのだろう。
- 892 :sage:2013/08/24(土) 19:08:50 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「ふふん? あれに見えるは……そうですか。封印は、多重に……」
死霊を生み出す力場を形成する要素に、負の感情をその場へと引き寄せる、怨嗟は必需。
そしてそこからは嘆きの数が多いほど、恨みの根が深い程に、強いものが生まれる。
――――――果たして、そうであろうか?
これを、”逆”に考えてみればどうなるか。
発想の転換というものは、いつの時代も新鮮な発見をもたらすものなのだ。
多くの人間が一人へ向けて負の感情を注ぎ込む場合の、その真逆の場合を想定した。
一人の人間がより多くの人間に対して、
妬み、嫉み、僻み、羨み、憎み、怨み―――忌み嫌う。
それら負の感情をぶつけてやりたい相手は、波打ち際の砂粒の数ほども存在しているというのに、
ただ一つの恨みをも晴らす事すら出来ないのは、当人にとってはどれほどの無念であるのか。
- 893 :sage:2013/08/24(土) 19:09:44 ID:P4uzmb2s0
-
特に、優秀であったり愚鈍であるが故、爪弾きものと扱われ凋落を辿る道中では尚更だ。
”集”の力が強ければ強い程に、”個”の主張は受け入れられず、かき消される。
多数の弱者に葬られる強者も、多数の強者に嬲られる弱者も、きっと同じだけの怨恨を持つだろう。
無論、その逆も然り―――だ。力場を取り巻く環境という”誤差”こそ生じれど。
相対的に、互いの存在は肯定も否定もされ得る。
誰に復讐していいか解らなくなってしまうというのは、特に注視すべき重要な事項であろう。
裏を返せば全てを憎み、誰にでも復讐をしたがる―――そのようにもなり得る。
何よりも大きく複雑に絡み合った負の感情の複合体を支えるのは、生前にてそれら成すべき事を
為せなかった事によって、たとえ自らの死後であろうとも忘れられざる、深くに刻まれた”悔恨”か。
( <●><●>)「これは―――入り口にあったものと同じ……いや、更に複雑に絡んだ術式ですか」
- 894 :sage:2013/08/24(土) 19:10:41 ID:P4uzmb2s0
-
自らの側近による謀略に貶められてか、あるいは分をわきまえぬ行いの末の誅殺。
感謝されるべき立場の者が、裏切りの末に殺されるなどはさぞや”寝苦しい”ことだろう。
ましてやそれが、自らの庇護のもとで共に繁栄を謳歌してきた民々による行いであるとすれば。
そう、この王墓にはより強い思念が引き寄せられる力場として、この上ない条件が揃っているのだ。
これまでの古書物の中でも存在が信じられてきたように、魔導死霊は確かに生まれる。
だが、きっとこれまで現れたとされるものは、精々がレイス程度の力を持った亜種であり、
相対するものとしての力量が足りないばかりに、正確な情報を持ち帰る事が出来なかっただけだと推測する。
そして、その名が冠す通りに魔導死霊というものが他と一線を画する部分は、魔力を宿す事。
取り込まれた肉体の残骸を、ただ引きずっているような低級の不死者などとは明確に違う。
術式を展開するだけの高度な知能が、肉を持たぬ身体となった霊体にも継承されるのが所以だ。
当然、通常の不死者同様にも他の肉体へと入り込み、意思を支配する事も可能であろう。
近隣諸国を強大な魔法を持って攻め滅ぼし、国家に栄光をもたらし続けたオサム王。
だが、彼は隆盛の丘を駆け上がった先、その場所の頂上に辿り着いた時に亡き者とされた。
それは皮肉にも、自らが守ってきた民の手によって、背中から討たれての最期だという。
- 895 :sage:2013/08/24(土) 19:11:38 ID:P4uzmb2s0
-
滅ぼされた他国の者達から、知らず知らずの内に向けられる憎悪。
その地に住まうというだけで、周辺からは力に溺れて戦に明け暮れる狂王と、同列視される。
いつしか、積み重ねられた隆盛が瓦解(がかい)した時の事を、民もまた恐れたのだ。
最強の魔法国家とて、周囲全てが敵となればその地位を堅持し続けるのはたやすいことではない。
民はいずれ自分たちにも向けられる事となるであろう、復讐の刃から逃れるために自らで終わらせた。
富や力を、”持ちすぎる事を恐れる”人間というのもいるということだ。
自らが築いた一時代、自らの国家に存在を否定され生涯を終えた―――哀れなる亡国の王。
”オサム=ザルク=アオスシュターベン”
賢しき愚者―――その彼は、未だこの地に留まっているのか。
( <●><●>)「―――おかしい。何なのです、解呪が……ままならない?」
- 896 :sage:2013/08/24(土) 19:12:22 ID:P4uzmb2s0
-
通路の途中に現れたその石碑には、細かな文字がびっしりと刻まれている。
だがそれは単なる碑ではなく、解呪のための魔力を感知してか、その上に魔法陣が浮かび上がった。
この王墓へと降りてくるための地上にあった封印とは、また術式の違ったものだ。
魔術体系からして、大陸のものとは大きくかけ離れている。
それは確か、東洋に浮かぶ小さな島国のシャーマンが用いる術だった。
もっとも、文献に目を通した所ではそこから学ぶべき物はさほどなかったように思う。
、
更に”解呪の法”を試みようとして押し当てられた指先で、光が奔った。
”バチッ”
( <●><●>)「……違いますね。これは、”妨害”されているのでしょう」
そう、紛れも無く何者かの意思が感じ取れる仕掛けのようだった。
この迷宮に幾つも張り巡らされた罠を作用させるべく残された、遠隔発動式の魔法。
それらはこの解呪の法一つで、どれも容易に脅威を削ぐ事が出来たはずだ。
- 897 :sage:2013/08/24(土) 19:13:08 ID:P4uzmb2s0
-
しかしその中でも、これは特段に固く封印の施されたもの。
解呪しようとしたそばから魔力を寄せ付けず弾く、抗体魔術が掛けられている。
現地式の解呪法を身につけておくべきだったかと、些か後悔の念が浮かんだ。
だが、魔力を受け入れるための水槽から許容することの出来る量を溢れさせてやるか、
あるいはその効力を失うまで反応させてやる事で、抵抗を無力化する事は可能だろう。
本来は、決められた手順を踏むという工程が極めて重要視されるのが魔術であるため、
型破りなそういった手法は好ましくない以前に、あまり見栄えせず褒められたものではない。
だが恐らくは、魔力をこの石碑に感知させてやる事で、何らかの反応を示すはずだ。
( <●><●>)「やれやれ―――王の墓所に辿り着くまでには、あまり無駄な力を使いたくなかったのですが」
- 898 :sage:2013/08/24(土) 19:14:08 ID:P4uzmb2s0
-
言って、再び手を伸ばそうとした時、ある異変に気付いた。
周囲の大気に溶けこむように、ちらちらと輝く何かが集まってきている。
最初は霧状だったそれは次第に粒状へと寄せ集まり、何らかの形を模そうとしていた。
霊体とも、魔力による物質ともつかぬいささか不安定な存在だ。
( <●><●>)「………ッ!」
やがてそれらは、石碑の上で一人の男の顔のようなものを、ぼんやりと映し出す。
( )(……立、ち……さ……れ……)
ひどくくぐもった声で、大きな揺らぎを繰り返す不明瞭な声が響き渡った。
どうやら、単なる死霊の類では無いらしい。
この石碑の封印自体が、何者かの霊魂を内包したもののようだ。
輪郭もおぼろげに揺らめくその男の表情は窺い知れないが、オサム王をこの地に葬った一人か。
- 899 :sage:2013/08/24(土) 19:14:53 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「先ほどから魔力を阻害していたのは、貴方ですか」
( )(……オ…ム……を眠り……覚ま…ては……い……)
( <●><●>)「貴方は何者です?」
( )(………)
名を尋ねてみた所で、会話が成立するものでもないだろう。
王か誰かの手によって封じられた、という訳でもなさそうだった。
あるいは、”警鐘を打ち鳴らそうとしている”風にも見える。
( )(……いち……どは……倒し……は、ず……)
( )(……やつ、は………よみが…り…)
( <●><●>)「ふ、ふはははっ、貴方……もしや王と面識が?」
( )(……人間……に負え……もの……で……は……)
( )(……人の、世…に………わざ、わ……いを……)
- 900 :sage:2013/08/24(土) 19:15:40 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「是非お聞かせ願えませんでしょうかね、王は今、どちらに……!」
( )(……已むを…ず……私、は……命と……かえ……封、じ……)
やはり、問いかけに応じる様子はない。
彼がこの場に縛られているのは、王の眠りを妨げる者が現れる事のなきよう、
墓守としての役目を仰せつかっているのだろう。
だが、これでオサム王の”存命”も確認する事が出来た。
( <●><●>)「……ふぅ」
数年、あるいは数十年の時を経て、地の上に立つかつての民々へ向けた怨念が王を蘇らせた。
魔法国家を率いたかつての王の魂は、今度は遍く不死者の王として姿を変えたというわけだ。
- 901 :sage:2013/08/24(土) 19:16:29 ID:P4uzmb2s0
-
男の霊魂の言葉は殆どがかすれて聞き取れないが、言葉の端々から事の経緯は読み当てられる。
当時、まず”王の帰還”による異変を察したのは、心当たりがあったかつての国民達だろう。
多くの者が呪力の干渉を受け、頭を悩ませた彼らは、やがて王の呪いから解き放たれる道を模索する。
その成れの果てがこの霊魂であり、おおかた復活した王の討伐を託された―――そんなところか。
数百年にも渡って己の思念を後世へ遺す事が出来るあたり、当時としてはかなり力のある魔術師だろう。
自らの命をも投げ打って、一度はオサム王の死霊をこの地に封じ込めたのだ。
( )(……た、ち…………れ……)
( <―><―>)「やれやれ――お話にもなりませんか」
( <●><●>)「ですが、貴方のような方には敬意を払いますよ」
見上げた亡霊の顔を、二本の指で刺す。
小さく呟いて、そこから閃光が迸ると、亡霊の眉間は光の矢に穿たれた。
”ぴしゅんッ”
- 902 :sage:2013/08/24(土) 19:17:11 ID:P4uzmb2s0
-
( ;,.(……う、……お……)
そこからはまるで雲がかき消えるようにして、形を失った男の霊は霧消していった。
最後に、はっきりと耳元で囁くような明瞭な言葉を残して。
(……愚かな、選択だ……)
( <●><●>)「せめてもの餞です。それでは、どうぞごゆっくり……」
この男もまた、永きに渡ってこの地に縛られてきた王の犠牲者。
その死は使命に後押しされたものであるかも知れないが、哀れみを禁じ得ない事に変わりはない。
一度は封じ込められた王の御霊、果たしてそれで彼の憎悪の鎖は解き放たれたのか。
そうではなかろうと―――確信しているからこそ、今この場に立っている。
石碑の元を離れ、再び奥を目指そうとした時だった。
”ごとっ”
- 903 :sage:2013/08/24(土) 19:18:20 ID:P4uzmb2s0
-
完全に男の霊の気配が失せた直後に一度、重い音と共に足元を揺らす。
音の方へと視線を向けると、そこでは、石碑の裏に敷かれた石畳の床が、次々と抜け落ちていた。
( <●><●>)「………!」
”がっ ごごっ”
近寄ってみると、そこだけ周囲の石と比べてはやや真新しいものだけが階下に降り注ぎ、
やがて長年隠されていたと思しき、地下への隠し階段がその姿を現した。
( <●><●>)「フ―――フフッ、フハハッ……どうやら、窮余に残された、最後の力でしたか……!」
闇のしじまの中にぽっかりと口を開けた漆黒は、更なる深淵へと続く道。
この先には間違いなく、冥府へと誘う不死者の王が眠っているのだと確信した。
怒涛に流れこんでくる冷気、肌をびりびりと刺す魔の残り香―――立ち込める死の匂い。
その場所は、死を潜り抜けた存在が手招きをしているようであり、息を呑む重苦しさを感じた。
- 904 :sage:2013/08/24(土) 19:19:10 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「さすがに迫力、ですね……」
やがて、階下へと続く道を覆い隠していた全ての石畳の崩落が収まったのを見計らって、
闇の奥に今も眠るであろう王の霊柩を目指し、その勇み足を踏み出した。
静まり返った更なる地の深くで、靴音だけが等間隔で踏み鳴らされる。
これほど手厚く王を葬る理由は、当初数多く存在したであろう、墓荒らし達の目を欺くためか。
そんなはずがない。
降りていくにつれて、肉体ではなく、鋭敏に研ぎ澄まされた第六感の訴えを感じていた。
肌には緩やかに吹き抜ける風とも感じられるが、しかしそこに滲んでいるのは、凶兆。
膨大な魔力の片鱗が溶け込んだ、颶風(ぐふう)が吹きすさぶ。
”ぼっ”
- 905 :sage:2013/08/24(土) 19:19:51 ID:P4uzmb2s0
-
人一人が辛うじて通れる程度の細い道。
ある程度進んだ所で、その両脇に等間隔で並んでいた燭台に突然火が灯された。
青緑色のその炎には、予てよりそうした仕掛けが施されていたとは感じられない。
まるで、あるものの凱旋を祝しているかのように。
”ぼっ”
歩を進める度に、その先では燭台が青緑を宿す。
復活の魔力に当てられたか、いや―――招いているのだ。
( <●><●>)「………」
やがて、どれほど地下深くまで降りて来たのか。
とうの昔に命ある者としてたどり着ける場所との境界は過ぎ去り、
今自分は、死後の世界に立っているのではないかとの錯覚を憶えた。
そこは荘厳な雰囲気を醸す、大広間の一室だ。
小部屋というにはあまりにも広く、しかし味気の無い作り。
ここから先へと続く道は、もはや見当たらない。
そして、求めていたものはその場所で、静かに佇んでいた。
- 906 :sage:2013/08/24(土) 19:20:31 ID:P4uzmb2s0
-
”ぼっ ぼっ ぼっ”
部屋中に置かれた燭台が次々と青緑の炎を宿していく。
やがてその全景が照らし出されると、魔力の松明ももはや必要なくなった。
広間の中央にはぽつんと、ただ一つの石棺だけが置かれている。
( <●><●>)「クク……クハハ……! ご拝謁、賜りたく……」
返事はない。広間には、その声だけが木霊した。
自然と笑いが込み上げ、心は躍り―――右胸を掴んだ手にも、ついぞ力が込められて。
心持ちゆったりとした歩調となるよう意識して、王の棺の近くへと歩みを進めてゆく。
静かに横たえられる石棺を見下ろせば、その上蓋には幾つもの烙印が刻まれていた。
それらは罪人への咎を意味したものであろうか、もしくは、魔を嫌う封印か。
だが、先ほどの墓守の力が石碑から失われた時点で、既に兆しは告げられているのだ。
やがて灯された燭台の灯火たちが、一斉に揺らめいた。
”王の帰還”―――もはや、復活の時は訪れたのだと。
- 907 :sage:2013/08/24(土) 19:22:39 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「【……災いなるかな、無知なる民よ 幸いなるかな、不死なる魂】」
”コォンッ……”
( <●><●>)「【忘れ得ざる恨みの地 汝を縛る大怨を 決して忘るる事勿れ】」
( <●><●>)「【汝、再び彼の地より 永きに渡る眠りから蘇らん事を賜わん】」
”コォンッ……”
背に負っていた鋼杖、それで一定の間隔を保ちつつ地面を叩く。
石棺の傍らで、未だその中に眠る王を呼び覚ますべく。
本来ならば対人における洗脳などを司る”精神支配の法”がある。
これは、それに強力な触媒となる魔具をもって、術の配列に改竄を施したものだ。
言うなれば”死霊従属の法”といったところか。
死霊や屍鬼の根底に沈む負の思念を呼び覚まさせ、それらの意識を支配する事によって
対象には”術者への服従”という責を与え、自らの言いなりとなるよう、支配下に置く。
- 908 :sage:2013/08/24(土) 19:24:25 ID:P4uzmb2s0
- あと半分を残して、ちと用事で離席…
スレッドはずっと下げておきます。
- 909 :名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 20:16:28 ID:ZSjlpeSc0
- Tさん・・・
- 910 :sage:2013/08/24(土) 20:54:43 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「【掲げよ、汝が築いた栄光を 偲べよ、亡れ打ち砕かれし武勲を】」
( <●><●>)「【伝えよ、忘れられざり其の力を以ってして】」
不死者の王のような超越者と比肩しては、あまりに力なきはずの人間。
だが、限りなく死に触れ得る間近に居ながらして、寄る辺無きものの支えとなるのがその鋼杖。
死霊術を扱う上では本来、それほど強力な触媒を介さずとも、亡者を操る事は出来る。
熟達をみればさらにより多くの数、より強力な不死者であろうと、その限りではないだろう。
だがその対象も、旧暦に史上最強の魔を冠した死霊ともなれば、術を媒介する手助けは欠かせない。
そしてその”支配の杖”には、文字通りにかなりの念が込められていた。
精神を術者の意のままに染める魔具であるそれには、後からはめこまれた紫光を宿す玉石。
これは多くの人間の魂、高純度の負の思念ばかりが封じられた黒魂石を、精製したものだ。
”コォンッ……”
”かたっ”
- 911 :sage:2013/08/24(土) 21:03:49 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「【率いよ、永劫の盛栄を約束されし 汝が黄金の時を取り戻さんがため】」
”かたたっ”
( <●><●>)「【不浄なる血脈を継ぐ者どもに 其の芳名をともに知らしめよ】」
( <●><●>)「【我が、”ベルベット=ミラーズ”の名の元に―――】」
”がっ がたたっ!”
棺が内側から叩かれような音、微かな反応を見せていたそれが、ここに来て一層強まった。
それに伴って、地面へと鋼杖が振り下ろされる間隔も、それに込められた力も増していった。
やがて”名”を口にする時、それはもっとも強く。
”コオォ……ォンッ!”
( <●><●>)「【応えよ―――”オサム=ザルク=アオスシュターベン”】」
( <●><●>)「【今ひとたび 不死なる者の王として】」
- 912 :呪いでキーボ使用不能:2013/08/24(土) 21:07:47 ID:P4uzmb2s0
-
先端に薄紫の玉石がはめ込まれた鋼杖から、その瞬間、幾重もの紫光の束が迸った。
石棺の元へと伸びていくそれらは、まるで籠をでも編みこむかのように折り重なり、
間もなく棺を破ろうとしている王の周囲を取り囲んで、目覚めの光を与える。
同時にその光で、”我が名に屈服せよ”と告げながら。
( <●><●>)「……さぁ、王よ。ともに不死者の楽園を、築こうではありませんかッ……!」
”バヅンッ”
やがて術の終わり際―――それまで棺を多い包んでいた薄紫の光は、突如音を立てて四散した。
直後、広間全体にしゃがれた老人のものであるかのような声が響く。
それは厳かで、重苦しく。まるで、頭の中に直接語りかけるようにして。
極めて不安定な波長の声色で発された言葉は、一拍間を置かなければ到底聞き取れないような声だった。
- 913 :呪いでキーボ使用不能:2013/08/24(土) 21:11:04 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「―――ッ!」
「ナ に
ん ク シ タ
と ち か」
音もなく、少しずつ、確実に。
オサム王が収められた石棺は地面から離れ、ゆっくりと浮遊していった。
固唾を呑んで見守る光景の中では、考えうる中で最悪の事態が予期出来る。
( <●><●>)「―――”抵抗”、された……?」
完全な目覚めを迎えるよりも早く、王の亡骸は支配の杖から放たれた魔力に当てられた。
だが彼は、必中をもって放たれたその術の支配に抗ってみせたのだ。
この為に、どれだけ多くの死を供物としてきたというのか―――苦い表情が浮かぶ。
- 914 :呪いでキーボ使用不能:2013/08/24(土) 21:13:55 ID:P4uzmb2s0
-
棺ごと腰元辺りにまで浮き上がると、横たわる人間が起き上がるかのように頭を起こす。
やがてはその場へと立ちすくみながら、対面するような格好となっていた。
「イ い
ま ド 問
ち ゥ
お ぞ」
棺と上蓋との間、そこからはずり、ずり、と石の擦れ合う音。
触れずにいるにも関わらず、自然とその隙間は押し広げられていく。
やがて、内側から唐突に伸ばされた指が棺の縁をはし、と掴んだ。
血の気が一切通わない土気色。老いさらばえ、朽ち果てた枯骸のような、細長い指が。
間も無くして、霊柩の中で影に潜む、王の眼窩におさまった瑠璃が一つ。
闇よりも昏く―――深く、青い光彩を宿したその瞳が、ただ、こちらを覗いていた。
【+ 】゚)
- 915 :sage:2013/08/24(土) 21:16:07 ID:P4uzmb2s0
-
( <●><●>)「驚かされはします……旧き魔術の使い手と言えども、ここまでとは……」
(#<●><●>)「ですが、この私を前にして……涼しい顔をしていられるのは夢見が悪い……ッ!」
”コォンッ”
更なる魔力を杖へと込めて仕切り直し、再び詠唱。
何度か力強く地面へと突き立てられた支配の杖が、妖しい輝きを帯びていく。
(#<●><●>)「―――従属せよ、主たる我が魔力の下にッ!」
魂の捕縛を司る黒魂石の玉石からは魔力が迸り、またオサム王へと向けられる。
だが、それでも棺の中の彼にまでその魔力が届く事はなかった。
”バリッ バチチッ”
不可視の壁が、その到達を寸前で阻んでいるのだ。
せめぎ合うお互いの魔力は火花のように、やがて目にも眩しい輝きを散らせた。
- 916 :sage:2013/08/24(土) 21:17:19 ID:P4uzmb2s0
-
【+ 】゚)「……ふ、……ム」
弾け飛ぶ魔力の残滓を観察するまでの王の余裕を、脅かすに至らないのは明らかだった。
(#<●><●>)「な、違うゥッ! 抗うのではない……ひれ伏すのですッ!!」
”ぴしっ”
首に青筋を立ててそうして声を荒げた胸下では、微かな異音。
視線だけをそちらに向けたが、気付くのは―――あまりにも遅かった。
”みし、ぱきぱき、びし”
(#<●><●>)「………ッ!?」
手にした鋼杖全体には細かな亀裂が走り、その合間から僅かな光が漏れていた。
- 917 :sage:2013/08/24(土) 21:19:08 ID:P4uzmb2s0
-
強烈な魔術抵抗の余波を受け、杖に秘められた魔力が内部で暴走している状態。
亀裂から剥がれ落ちた欠片は次々と地面へ落ちていき、砂塵と消えゆく。
呆気に取られた表情で光景を見送る内、そして最後に、心臓部の玉石が真っ二つにひび割れた。
鮮やかでさえあった紫の色。そこからは完全に彩りが失われ、瞬時にして黒ずんだ。
もはや効力を失った杖だが、その黒魂石から漏れ出たのは、霞のような死者たちの魂の残骸。
それだけが、まるで主の元へ還って行くかのように、オサム王の元へ吸い込まれていった。
【+ 】゚)「……コレ、は……心地、がナかナか、ヨい……」
枯骸でしかなかったオサム王の身は、杖の力を吸収した事で先ほどよりも幾分か肌艶を増し、
恐らくは生前の自らの姿であろう、威厳ある髭を蓄えた老王の姿へと変貌していく。
- 918 :sage:2013/08/24(土) 21:22:33 ID:P4uzmb2s0
-
しかし完全な姿を取り戻すまでにはまだ力が足りないのか、
棺の中にある半身だけは、生気の抜けた枯骸としての姿を薄っすら影の中に潜めていた。
【+ 】ゞ゚)「ソ――そ、其ノ方、何者、ぞ」
( ;<●><●>)「……くっ、くくく。死後も他者に屈する事無きその魔力、本物でしたか……」
【+ 】ゞ゚)「コ、答ヱよ。其の方、余ニ何と申シたか」
一介の魔術師如きの干渉など問題にせぬ。
ましてや、他者にこの玉座を脅かさせる事などまかりならん。
静かな瑠璃の色が告げる。そこには、獰猛な殺気をも孕んでいた。
【+ 】ゞ゚)「軽々しク王たる我ガ御名を口にしタ罪。ば、万死ヲ以っても贖えヌぞ」
- 919 :sage:2013/08/24(土) 21:23:27 ID:P4uzmb2s0
-
( ;<●><●>)「―――これは、大変な失礼を。私、ベルベット=ミラーズと申す者」
( ;<●><●>)「貴方を縛る封印の軛。私の力によって、それから解放させて頂いたのは他でもありません」
( ;<●><●>)「オサム王よ……是非この私と共に、不死の者達で溢れる楽園の王国を―――」
”ぎゅん”
”ぼきゃっ”
( ;<●><●>)「………なん………」
【+ 】ゞ゚)「―――万死ヲ以っても贖ヱぬと、申シた」
- 920 :sage:2013/08/24(土) 21:24:12 ID:P4uzmb2s0
-
力で従わせられないのならば、せめて助力をも仰ぐ。
破れかぶれ、苦し紛れ、いちかばちか。
そこまでの理想だったのだろう―――死人が生者の声に耳を貸す事などないのに。
あるいは手に負えぬ対象は始末するべきと、対峙していればまだマシだった。
しかし一度平伏させられた力関係は、もはや覆す事かなわない。
右腕はぴんと糸に引かれるようにして上へと巻き上げられ、
肘から先の関節が極めて不自然な方向へと折り曲げられていた。
無手にて死神の前に立ち、弁を振るう。それは命を捨てた者のする事だ。
( ;< >< >)「―――がっ、ぎゃああぁぁぁッ、ぐ、あぁぁぁッ!」
- 921 :sage:2013/08/24(土) 21:25:56 ID:P4uzmb2s0
-
【+ 】ゞ゚)「ツまらぬ」
”べしゃんっ”
( ;< >< >)「が……はうぅッグ―――!」
掲げられた掌が下へ向けられると、不可視の圧力に逆らえず、顎から床へと叩きつけられる。
”自分の魔力を持ってすれば、不死者の王をも従えられる”
分を弁えず、そんな根拠のない自信に支えられていた理想は、脆くも崩れ去った。
力なき者達が、うつろう蜃気楼の中に手を伸ばし夢見た、砂上の楼閣。
その場所に辿り着いた時、多くの者は現実の痛みを知り、夢破れて呆気無く死んでいく。
だが己の理想に殉じられると考えれば、彼らにとってはそれも本望か。
進行の妨げになるのであれば始末するつもりだったが、もうそれには及ばない。
なかなかに見事な手並みであった道先案内人には、一足先にご退場願うとしよう。
そしてここより先は、”こちら”の領分だ―――
- 922 :sage:2013/08/24(土) 21:28:42 ID:P4uzmb2s0
-
【+ 】ゞ゚)「―――しテ、其の方、何者カ」
ついそこで返事をしてしまいそうになったが、まずは一切の物音を外部に漏らさぬようにと、
自己の周囲を対象に張り巡らせておいた封音の術を解いてから、その問いかけに応えた。
「気付いておいででしたか」
見据えた先の虚空に響いたその声に、王は目を細めて小首をかしげる。
へし折られた腕の痛みに喘ぐ男を、間に挟んだお互いの立ち位置。
他者の目を欺く自らへの隠蔽魔法を解き放った時、そこで視線は既に交わされていた。
”ブンッ”
( ・∀・)
【+ 】ゞ゚)「………」
- 923 :sage:2013/08/24(土) 21:29:57 ID:P4uzmb2s0
-
( ;< >< >)「……ッ!?」
唐突に、脈絡もなく姿を現したこちらを見て、さぞや驚いた事だろう。
王の御前で頭を垂れて控える男が、苦悶の表情を浮かべながらも目を丸くしていた。
その彼を見習って、仰々しいまでの仕草で速やかにその場へと膝をついては、
生前にも死ぬほど聞かされたであろう社交辞令を、白々しくもぶつけてみる。
( ・∀・)「かの勇名高きオッサム王におかれましては、御機嫌麗しく」
( ・∀・)「ご拝謁叶えて、身に余る光栄でございます」
【+ 】ゞ゚)「……フ、む……?」
どうやら、その興味を引いたのは自らも持ち合わせない、未知の魔術の方か。
”興味深い”とでも言いたげに、王は顎を撫でながらこちらを見下ろしていた。
- 924 :sage:2013/08/24(土) 21:33:16 ID:P4uzmb2s0
-
気配につながる全てを消して、生命力の残滓はおろか探知すらも反射していたはずが、
それでもこちらの存在に気付くあたりは、やはり王たるもののスゴ味といったところか。
人とは異なる存在に身をやつした存在であるからこそ、より魔の香りにも敏感なのだろう。
【+ 】ゞ゚)「……何、者ぞ」
( ・∀・)「―――前置きはさておいて、先に謝っておかなければなりません」
( ・∀・)「起き抜けに不躾な手合いばかりと引き合わされ、心中はお察ししますがね」
【+ 】ゞ゚)「答ヱよ、何者であルかヲ」
礼を欠いた無作法者達の来訪に怒りが心頭―――血の通わぬ不死者に、そんな不要な感情はない。
ただ、こちらの力量を見極めようとして放たれたものだ。
手の甲を逆向けて、持ち上げるような仕草でその”力”を向けたのは。
- 925 :sage:2013/08/24(土) 21:35:20 ID:P4uzmb2s0
-
”バヂンッ―――”
あるいは王は、先ほどの男と同じ結果がそこに生まれると思い浮かべただろうか。
その通り。確かにそうなった―――自身の放った魔力が、障壁による抵抗を受けて通らない。
そして、その光景をまるで、他人事のようにこうしてこちら側が眺めていられるというのは、
先ほどのオサム王自身をなぞるような、映し鏡としての光景だった。
”ギュグッ…バチッ”
( ・∀・)「すごいな。すぐにでも破られてしまいそうだ」
目の前に展開したのは、上位精霊魔法をも弾く硬度にまで練り上げた魔防障壁。
不可視だった王の力は、その障壁に介入しようとしている今、影響下に晒され頭上で顕在化していた。
人一人を握りしめられるような、浮遊する巨大な手首が。
- 926 :sage:2013/08/24(土) 21:38:37 ID:P4uzmb2s0
-
【+ 】ゞ゚)「……答ヱぬか」
( ・∀・)「ははっ、これはこれは―――つい、見惚れてしまいましたよ」
【+ 】ゞ゚)「………」
手首を返して、今度は広げた掌を突き出した。
にわかに大気中をちらちらと結晶が舞い始めると、それらは王の掌へと収束していき、
一度引いた腕を再びこちらに向けた時、その周囲では無数の氷結した刃が光彩を放った。
十の剣の手数にも勝るであろうそれらが王の手を離れた途端、驟雨(しゅうう)の如く一気呵成に打ち寄せる。
”ギギンッ パキャンッ”
( ・∀・)「すごい速度です」
次々とへし折れては、粉々の氷塊となって散り際にそれらが輝く光景を、頭を振って見送った。
その上では、未だ障壁をこじ開けようとする大きな王の掌が、五本の指全てをそれに突き立てている。
- 927 :sage:2013/08/24(土) 21:41:21 ID:P4uzmb2s0
-
”手”は魔法との同時発動も可能なのだろうか。切り離したものと考えるべきか。
どちらにせよ、見込み以上のものを次々と見せてくれるその力は、感嘆するほかない。
見れば、二指をこちらへと向ける王の姿があった。
再び言葉を投げかけると、一度だけ魔攻の雨あられは止んだようだ。
( ・∀・)「……無詠唱、無反動。強力無比なそれらは、恐らく多元素にも渡るのでしょうね」
【+ 】ゞ゚)「何故、余の前ニ立つ」
( ・∀・)「そう言えば申し遅れました。私、”モララー=マクベイン”と申します」
( ・∀・)「端的に言って、貴方の力を欲しているのですよ。”貴方自身”と言ってもいい」
【+ 】ゞ゚)「……わかラぬ」
( ・∀・)「”お前ほどの魔術師がなぜ”……とでも、お思いでしたか?」
- 928 :sage:2013/08/24(土) 21:42:29 ID:P4uzmb2s0
-
【+ 】ゞ゚)「ヨい……啼イておレ」
そう呟いた王の手元には、紅く、赤く炎が宿された。
虚空を切り裂くような手つきでなぞると、その指先では爆発的な魔力が一点に集中。
広間に光が満ちた次の瞬間、唐突に生み出された炎の球がこちらを狙いすまし、飛んできていた。
( ・∀・)「……一つ、言っておきますが……」
言いながら、己の胸元に寄せて掲げた手の平の内で、自身も炎の元素の力を掴みとった。
まるで襲い来る炎の球が穏やかなまでの速度に感じられるほど、淀みのない緩慢な動作で迎え撃つ。
赤熱した手甲を払いのけ、それに叩き返すように腕を薙ぎ振るうことで、こちらも”同じ業”を送り出した。
”……ごぅッ”
目の前で、大きな一つの火球が四方へと爆散する。
眼前にまで迫った炎の球を、あえてこちらも即時発動させた炎の球にてかき消したのだ。
- 929 :sage:2013/08/24(土) 21:56:15 ID:P4uzmb2s0
-
( ・∀・)「たった今挙げた、今の貴方を支える要素―――この私には、必ずしも必要ではない」
【+ 】ゞ゚)「―――ぬ……ゥ……?」
( ・∀・)「ですが、我が大望の踏み台として―――貴方には、大いに”利用価値”がある」
【+ 】ゞ゚)「驕リ……欲すルか、それ以上の”力”ヲ」
( ・∀・)「……ふふっ、はははっ」
思わず、隠す事の出来ない程の笑いが込み上げた理由は、二つほどある。
力に酔いしれて増長した、自らの傲慢が招いた国家の滅亡。
民による裏切りで命を落とすという非業の死を遂げ、それから蘇ってなおも、
かつての自分の愚かさを棚上げして、もはや失われた威光を振りかざし続ける。
今も、王さま気取りなのだ。
民の逆心一つ見抜けなかった。そんな愚鈍さが急所となったにも関わらず。
そして、口元に貼り付いた笑みがなかなか消せない、もう一つの理由は―――
- 930 :sage:2013/08/24(土) 22:02:48 ID:P4uzmb2s0
-
【+ 】ゞ゚)「……可笑シいか……こレから、死すルトいうノに」
( ・∀・)「……アラマキの爺もそうだが、オサム王よ、貴方は既に”老害”だ」
この大陸の歴史に、やがて神話の領域にまで語り継がれるものを刻み込む。
いずれ肩を並べる、神々が住まう楽園までの切符は、既に手にしたようなものだった。
千の魔法をも使いこなすと言われる”賢者の塔”最強のアークメイジですら。
そして今対峙する、それにも比肩し得る魔を宿す不死の王、魔導死霊ですら。
―――もはや何であろうと、障害になどなり得ない。
- 931 :sage:2013/08/24(土) 22:27:34 ID:P4uzmb2s0
-
( ・∀・)「貴方は過去、大陸最強の力を誇った魔術師かも知れないが―――」
今は、今だけは―――
この力だけが、何より確かな真実をもたらしてくれた。
自分の理想は、限りなく近い所にまで手が届いているのだと。
それを掴んだ先に、その存在を脅かす者が現れる事は、決してない。
「―――その貴方に、”大陸史上最強”の魔術師が相手では、どうかな?」
夢の半ばで消えてゆく者達は、きっと目指したはずの道のりから逸れ、
そこでは片時、互いに身を寄せあう仲間を見つけていくのだろう。
傷を舐め合う、叶うはず無い己の理想に。
環境がと、才能がと、報われぬ我が身、不遇を嘆いて。
願えば結果が出るのではない、彼らには足りないのだ。
理想の為には、それ以外の”全て”を捧げなければならないというのに。
この王のように、過去に縋って足を止める時間は―――今はなかった。
- 932 :今日はここまで。:2013/08/24(土) 22:29:45 ID:P4uzmb2s0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
第11話
「暴食する邪の獣」
.
- 933 :名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 22:32:17 ID:GQaF0psQO
- 乙!
- 934 :名も無きAAのようです:2013/08/24(土) 22:35:09 ID:ZSjlpeSc0
- 乙
- 935 :名も無きAAのようです:2013/08/25(日) 01:10:34 ID:XlDu5Ers0
- 乙
モララー強すぎないかコレ……
- 936 :名も無きAAのようです:2013/08/25(日) 14:04:47 ID:MWiU60BI0
- ワカッテマスが噛ませになるのはワカッテマスた
- 937 :名も無きAAのようです:2013/08/26(月) 04:46:34 ID:G05xJlL60
- ついにモララーが…
乙!
- 938 :詰め込んでみます:2013/08/27(火) 17:38:44 ID:DwUslYDY0
-
( ;<○><○>)(何です……何なのです、この状況はッ)
少しでも身体を動かす度、雷に撃たれたかのような痛みが突き刺す。
熱を持った右腕は、あわやねじ切られるという角度にまで折り曲げられ、
多少首を動かしたぐらいでは、視界にも入ってくれない。
秒刻みで押し寄せる激痛の波に、ベルベットの脳が痛覚からの逃避を始めようとしたころ、
ようやくこの異様とも言える状況を把握するための思考力が、少しずつ取り戻されてきた。
まず恐るべきは、やはりオサム王の力。
【+ 】ゞ゚)「………」
( ;<○><○>)(魔法の”溜め”が、一切無い)
無尽蔵にも感じられるその魔力は、どこから取り出しているのか。
力の顕現する光景を、その術の在り様を、心の中に判然と想い描く。
詠唱を必要としないのには、それが現実と遜色無いレベルで可能であるからだ。
上級の魔法であれば、なおさらその元素を司る精霊の御名を要する。
魔力の形状を心の中で創り、その力をより強いものへと増幅するために。
それは、より強い力を求めればこそ複雑で、瞬時に行うのは困難極まりない。
- 939 :詰め込んでみます:2013/08/27(火) 17:40:50 ID:DwUslYDY0
-
もう一度、オサムは手の内に炎帝の力を引き寄せた。
無詠唱を可能とさせる手段としては、一部に例外もある。
だがオサムは、それを究極的なまでの高みへと昇華させていた。
その姿はまるで、魔術を使うものの王。いや、まさしくそれだった。
たとえ死しても、死霊術などに意思を明け渡すような器でないのだ。
あるいはこの姿となってから、より以上に力を高める事となったのか。
様々な元素における高等魔法を、まるで湯水のように乱発する姿。
古代に一時代を築いた魔導国家の長としての、恐るべき風格を感じた。
氷、炎、そして物理的外傷をも伴うあの巨大な”手”も、意のままに操る。
およそ2年もの歳月を投じて作られた、対・不死者用の支配の杖は、用をなさず。
あまつさえそれに意識を取られたベルベットの身は、瞬き一つの間に戦闘不能にさせられた。
こんな芸当が出来る相手と知っていれば、彼を支配下に置こうと考える事はなかったとさえ思う。
( ;<○><○>)(ですが……、それをッこの男は……!)
( ・∀・)「ただ受けるだけでは芸が無い」
- 940 :詰め込んでみます:2013/08/27(火) 17:41:57 ID:DwUslYDY0
-
その王をして、対等。
直撃すれば死に至る魔法を、風にそよぐ草木のように受け流し続けるこの男は、何者なのか。
オサムの放つ魔法を意に介さない程の防壁を張りながら、更にその上で魔法を重ねがける。
人間にしか見えない姿をしているが、その中身は、同じ種としてあり得ない怪物じみたものだ。
この場に突然現れる事が出来た理由にも、全く説明がつけられなかった。
非常に巧妙に尾けられていたのだとしても、時折生命探知の法を張り巡らせていた。
その気配に気づかない訳がない。だからといって、如何に入念な準備を施したとして、
この場所までに極めて正確な座標を浮かべた、転移方陣なども張れる訳がないのだ。
そもそも、それすらほとんどの魔術師には実行不可能な魔法ではあるが。
王の魔手、突き立てる爪によって徐々にではあるが外側から食い破られようとしていた障壁。
それを好機と見たか、オサムが、間髪入れずに棺の中から手を振るった。
無から生み出された燃え盛る火球が再びモララーへと投げつけられると、直後。
明らかに自然風では無い強烈な旋風が巻き起こり、彼の両足付近で小さな竜巻を作り出した。
僅かに重心を崩して身を傾けた途端、瞬間的に過大な揚力を得たモララーの全身が、浮いた。
足に纏った風の具足は、広間の壁に激突するのではないかという程の勢いで彼を飛翔させ、
踏まれたステップに軽く音が響いたすぐあと、彼がいた場所に極大の炎球が撃ち込まれる。
”ごばぁッ”
- 941 :詰め込んでみます:2013/08/27(火) 17:43:19 ID:DwUslYDY0
-
【+ 】ゞ゚)「風、カ」
( ;<○><○>)(間に巻き込まれれば、死ぬ)
ベルベットは、身を伏せて必死でその場から退散する。
中断無しで降り注ぐ高等魔法の雨、もはやオサムの興味はモララーにしかないようだ。
そこにいる自分には、見届ける事しか出来ないレベルのやりとりだった。
すぐにでも来た道を引き返すべきか。
そうも思ったが、モララーの目的というものにも興味が湧いた。
この決着の行方を見届けた、その後はどうなるのだろうと。
いつの間にか、腕や肩が無意識に震えていた。口内でかち合う奥歯も。
咽るほどに色濃く死を臭わせる、不死者の王。
それをも手玉に取る謎の魔術師の姿は、ベルベットに武者震いを与えるのだ。
( ・∀・)「特等席だ。君も魔術師ならば、楽しむといい」
( ・∀・)「この、”魔の狂宴”をね」
( ;<●><●>)「………」
壁の間際まで這いずり、ベルベットは壁に背をもたれた。
それを横目にしていたモララーが、嬉々とした様子で一瞥くれた。
王を前にした物怖じなど微塵も感じられず、どころか、状況を楽しんでいるようにも見える。
- 942 :全く、中二が全開だぜ!:2013/08/27(火) 17:44:43 ID:DwUslYDY0
-
風のシルフィードの力を、自己を対象に回避として用いる即座の応用力だけではない。
一つ間違えれば障壁を破られ、炎の球の直撃を受けていたかも知れぬさなかで、その胆力。
王と対面する有資格者は、これほどの術者でなければならなかったのだ。
この男ならば、あるいは勝てるのかも知れない―――そう、思った。
【+ 】ゞ゚)「其の方モ、余を、従エられルと思ウてカ」
( ・∀・)「そう、感じますか」
王は感じ取っていた、この男もまた死霊術士だと。
それはベルベットも同様に。
理屈ではない―――同族ならば、それは匂いで感じ取る事が出来る。
実際の臭気ではなく、一見して軟らかい物腰や、他者に不安を与えぬ佇まい。
だがその実、昏き瞳の奥に秘めた冷たさ。
見えるのだ。彼らが生まれつき持った黒い翼が。
- 943 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:45:55 ID:DwUslYDY0
-
【+ 】ゞ゚)「死へと誘ワん余の魔性、人ノ子ニは過ギたる力ぞ」
( ・∀・)「決して軽んじるのでもなく、そうだ、ととらえております」
【+ 】ゞ゚)「………」
”ぱきっ びしぃっ ぱきぱき”
大気すら凍りつかせるほどの冷たい魔力が、王の周囲で再び形をなした。
両手握りの大剣、蛮族が用いる曲刀、敵に投げつける戦輪、頼りない細身の小剣。
精巧に氷という素材で模されたそれらの作りは、名匠が叩き上げたものと露ほどの見劣りもない。
だが同時に、それらは明快なまでの殺意を伴って、モララーの前に切っ先を突きつけ浮かんでいた。
( ・∀・)「それらの刃は、かつて貴方を殺したものたちですか?」
たじろぐこともなく、口元に笑みさえ浮かべて崩されぬ、モララーの余裕。
今度は百の軍勢が一斉に突撃するような、さっき以上の氷刃が一息に彼の元へ押し寄せた。
- 944 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:46:48 ID:DwUslYDY0
-
”ぎんっ ぱきゃっ びしっ”
再度展開していた、新たな魔力の防壁でそれらの勢いを殺す。
阻まれる中で次々に砕けては、氷の粒となっていくものが多かったが、
刃先だけをモララーの側へと届かせるものもあれば、ぶち当たってそれに亀裂を生じさせるものもあった。
【+ 】ゞ゚)「………」
そこで、いくつか残った氷の刃を引き戻す。
残る数は放った分のおおよそ半分。
十数本といったところだが、それは部屋中に散らばり、
個々に意思を持ったかのように様々な動きを見せた。
同時に多方向から襲いかかるつもりだ。
前面から身体の側面よりやや斜め後ろまでの、広範囲を覆う魔防障壁の隙を突いてくる。
壁を背にすればそれほど脅威もないが、それをこそ狙いとしている可能性もあった。
( ・∀・)「なるほど」
- 945 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:48:27 ID:DwUslYDY0
-
防壁を張り巡らせたまま、魔力感知を広間中に張り巡らせる。
また不可視な存在へと姿を変えていた、先ほどの巨大な”手”。
それが広間の天井近くまでの高さに振りかざされ、拳を握りしめたような形状をとっていた。
下手をすれば割を喰うかも知れない。
広間に浮遊する氷の刃に怯えるベルベットの一方では、
モララーはそれらを、そうか、目眩ましなのだな、と見上げていた。
やがて不規則な順序で、散った氷刃が多方向から数本ずつに別れて襲いかかる。
( ・∀・)「これは、図星を突いてしまったかな――」
これまで直立の構えを崩さなかったモララーが、初めてその場に腰を落とす。
左手では前面を守護する障壁の再形成、維持を保ちつつ、交差させた右手で準備した。
後方、側面、足元。如何なる方向から狙いすましたものも弾き落とすだけの、もう一つの盾を。
二重結界だ。
恐らくあの手は、次には魔防を突き破ってくる。
それに備えたより堅固な守りが必要だった。
- 946 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:49:55 ID:DwUslYDY0
-
氷剣の舞に傷んだ障壁を砕こうと、間違いなく狙いすましてくるだろう。
モララーは鋭い瞳で、守りを突き破られるその瞬間を待ちわびた。
残り十本ほどになった刃は、やがて一斉に襲い来る。
同時に、頭上で働く強い魔力の動きを感じ取っていた。
ここだ。
”くんっ”
【+ 】ゞ゚)「―――喚ケ」
( ・∀・)「………ッ!」
だが、その瞬間のモララーは、完全に意表を衝かれた。
最初に張られた一つ目の障壁で、全ての氷の刃は叩き落とした。
そして天井から叩き落とされる巨大な拳に備え、対空へと展開した二つの目の障壁。
それが役目を果たす事はなかったのだ。
王の御手は、モララーの頭上にではなく、その目の前で落とされた。
”ずどぉんッ”
- 947 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:51:52 ID:DwUslYDY0
-
剛烈な破砕音を伴って石畳が易々と叩き割られると、視界を覆う程の砂埃が巻き上げられる。
それに紛れて飛散した礫弾は、たとえ視認出来ていたとしても回避出来なかっただろう。
”……ゴッ!”
( ∀ )「――――ッ」
モララーの身を守護する魔力の全てが、その一瞬消失した。
こぶし大ほどの質量を持った飛礫が、展開した魔防をすり抜けて直撃したのだ。
額から側頭部にかけて叩きこまれたその激しい音と衝撃に揺られるまま、
膝が直角になるほども大きく、モララーは上体を大きく仰け反らせる。
”……バヂンッ!”
しかし、倒れはしなかった。
- 948 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:53:51 ID:074qK3zoO
- 支援だこのやろー
- 949 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 17:54:52 ID:DwUslYDY0
-
腕だけを強く前に突き出しては、強く踏みとどまった。
その無防備を狙いすまし、抜け目なく繰り出されていた巨大な拳を防ぐために。
物理的にも干渉出来る”魔手”を使って、そこからまた別の質量を飛ばして来たのは、誤算だった。
だがそれを受けて、意識が手離されかけた事による無我夢中で行われた防御ではない。
( ∀ )「……はは、あはは。勿体無い。流してしまった」
( ;<●><●>)(堪えた)
そこで勝負が決まったかと息を呑んだベルベットには、そうと見えていなかったであろう。
片腕で地面を跳ね除けると、膝を地に着ける事無く、がくんと項垂れるように、重心を前に傾けた。
モララーの割られた額から流れる赤黒い血は、閉じこまれた右目の上を覆っていた。
その笑みは、屈辱に彩られた狂笑か。
( l;i∀・)「貴方を見つめているものは、もうこの世のどこにもいない」
- 950 :>>948 ありがとない!:2013/08/27(火) 17:57:29 ID:DwUslYDY0
-
類稀な魔術士とはいえ、不死者の前ではどだい、ちっぽけな人間一人に過ぎない。
だがなぜか、モララーの落とす影は、息を呑むまでの存在感を放っていたように思えた。
先ほどからオサムに先手を撃たせては、相殺するか防ぐ事しか出来ていないにも関わらず。
恐らくは反撃に転じる事も可能な魔力を、何故生かさないのか。
読めないモララーの思惑に、ベルベットだけでなくオサムとて、若干の躊躇いがあった。
( l;i∀・)「永劫の時の狭間に残してきた残骸は、そんなにも愛しいのかな」
【+ 】ゞ゚)「………」
( l;i∀・)「死してなおも、耐え難い。色褪せぬ、ただ一つの情念」
( l;i∀・)「それが―――常夜にあるはずの貴方自身を、この顕世へと強く結びつけているもの」
―――オサムにとっては、確かに力ある魔術師だった。
だが、千年ほどの昔にも、これほどの男は数える程に居たはずだ。
- 951 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:00:26 ID:DwUslYDY0
-
【+ 】ゞ゚)「………」
己の寝首を掻くために、敵国から差し向けられたもの。
この名を恐れ、畏怖の念から固く忠誠を誓ったもの。
王たる自分に蛮勇を振りかざし、封印せんとして、立ち向かってきたものもいた。
様々な思惑で付き従ったか、あるいは立ち塞がったものたち。
だが、目の前の男を突き動かしているのは、目に見えるようなものではないな、と思えた。
【+ 】ゞ゚)「ならバ―――贖うカ。貴様ガ」
万の軍勢を率いて、千の国々をも滅ぼしたその威光も、今や失われた。
自らが築いた王国は滅び去り、もはや悼む臣下の声も、畏れを口にする民たちの声も。
何もかもが失われ、もはや忘れ去られようとする存在であるのに。
だが、だからこそ。
身を焼くこの業火が、”贖わせよ”と燃え盛り、逃れられぬ。
そうだ、忘れ去ろうとしている全てのものたちに、畏れの時を、我が声を。
今ひとたび、裏切りの民の末裔に。
地の上に立つ者ども―――全てを、憎む。
- 952 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:01:08 ID:DwUslYDY0
-
【+ 】ゞ゚)「………其の方、余ノ封滅ヲ望む者カ」
( l;i∀・)「言ったはずです、貴方には利用価値があるのだと」
( l;i∀・)「そんな事より―――そろそろ、本気で参られたらいかがです?」
今、痛手を被っているのは王では無く、モララーの方。
( ;<●><●>)(何を……言っている? この男……)
あるいは、それは策のつもりか。
すでに人とはかけ離れた力を見せつけるオサムに対して、意味の無い行為。
挑発することで怒りを引き出し、有利に持ち込もうというのか。
ベルベットにはそれが、悲しいまでの虚勢にも見えた。
【+ 】ゞ゚)「……何ヲ、言うかと思ヱば……」
- 953 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:03:15 ID:DwUslYDY0
-
( l;i∀・)「旧き魔導国家の王ともあろうお方が、砂利を飛ばしてお戯れあそばすとはね」
だが、心ない土塊を必死で説得するかのようなその言葉が、何を変えるでもない。
憤慨するでもなく、呆れるでもなく、オサムはただそのモララーの瞳を覗きこんでいた。
知性は残されていながらも、感情というものを失った不死者の耳には、決して届かぬ言葉。
やがて、なおも言葉を紡ぐモララーのある一言に、オサムはぴくりと眉をひそめる。
( l;i∀・)「……そろそろ、その後ろ手に隠した”奥の手”を見せてもらいたいものだ」
【+ 】ゞ゚)「………」
その言葉にも、王の心がさざめき立つ事は少しもなかった。
だが王は、このモララーの言葉によって、単なる虚勢を張っているのではないな、と思えた。
たかが魔術師の一人二人を相手に、全力を出す必要も無い。
だからこそ、封印から解き放たれたばかりの今この時に、わざわざ使う必要もなかったのだ。
顕界にこの身が馴染むまで、しばらくはこの男と魔法の撃ち合いに興じるのもいい。
だからこそ、初手で殺してしまう事もないだろうと。
そうして、力を抑えて魔法を放っていたのを、この男は見抜いていた。
- 954 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:04:15 ID:DwUslYDY0
-
【+ 】ゞ゚)「……なレば、爆ゼよ。屍に集(たか)ル、死の術士……」
よかろう。
よかろう、見せてやる。
だが、次に放つ攻撃は、間違いなく貴様の命を奪い去る。
波状攻撃に耐え切れず、お前には確実な死が待ち受けている。
ならば、望んだ結果に打ちひしがれよ。
―――突如として膨れ上がった殺気が、広間全体に伸し掛るように覆い包んだ。
魔力によって生み出された無数の氷の彫刻は、そのどれもが更に凶々しい形状をしていた。
瞬く間に広間を埋め尽くしたその数は、今度は100では足らない程だった。
間髪入れずに氷刃は乱舞し、やがて剣風の暴風として吹き荒れた。
- 955 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:05:54 ID:DwUslYDY0
-
”ギンッ ガッ ゴッ バギッ パギャッ”
ジャンビーヤが、クリスが、カタールが、レイピアが、フランベルジェが。
モララーの張り巡らせていた魔防障壁に、一瞬にして亀裂を生じさせる。
微塵の間断すらなく、一部の隙も与えないようにと、降り注ぐ。
”ドギュッ ズドッ ガンッ メシャッ ガギョッ”
次いでエストックが、バゼラードが、ショテルが、ツヴァイヘンダーが、サムライソードが。
一箇所に集約したそれらの威力はより大きな突破力をもたらし、呆気無くその堅固な防壁を貫いた。
( l;i∀ )
嵐の如く吹き荒れる氷刃に、身を護る術は粉々に打ち砕かれた。
再び魔力障壁を陣するための、瞬き一つの時間も与えられることなく、王の右手が襲い来る。
迸る強烈な魔力に顕在化した、圧倒的な質量を目の前にしたモララーは、
その光景に、まるで遠近感のおかしな光景だな、と、ただ嗤いながら。
- 956 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:07:08 ID:DwUslYDY0
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{ ィ==、.'.
'.{圭ニハ'.
. - ミ V圭ニ{ '.
{ ィz.\ V圭ニ .}
'. {圭tz ヽ {圭圭.|
\`寸圭t.\ {圭圭'.
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` 、寸圭z、ヽ }圭圭'.
` 、孑イz\ !圭圭゙.
ヽ`寸圭\_ ,ハ圭圭ハ
r━―‐- . _ \寸圭ニ彡夭圭.八
、 (圭圭≧ニ=- ̄二ニ=- ._ノ)、圭圭圭圭圭: Y
゙ <二三圭圭圭圭圭≧ニ=‐゙圭圭圭斗圭圭y∧
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},圭圭圭圭圭圭圭圭圭弋\
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- 957 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:08:44 ID:DwUslYDY0
-
同時に、これまでヴェールに包まれていた悪魔の右手が、初めてモララーへ向けられた。
極々々低音の冷気を放つ、血の通わぬその手。
触れただけで、それが命を持っていくであろう事は容易に想像がついた。
( l;i∀・)「貴方を弔う者は去った」
その左手が”死の接触”をもたらす瞬間が訪れるか。
あるいは伸ばされた右手の中に身を引き寄せられ、握りつぶされるか。
どちらの手の中にも、等しく生命の終焉が待ち受けている。
”ばきっ ばきばきばきばきばきっ”
( ;<○><○>)(………くッ…………ッ!)
( l;i∀・)「何より、死を恐れた貴方に、今の私の相手は値わない」
- 958 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:10:12 ID:DwUslYDY0
-
その一部始終を見ていた壁際のベルベットは、言葉を失っては目を白黒とさせた。
動物的本能に訴えかけるようなその光景は、彼にどれほどの恐怖を植え付けていたであろうか。
その―――モララーという男の姿、まるで。
”ぐしゃっ みしっ ぱきぼりばりぱりっ”
( l;゚i.∀・)「これからは私が、何より美しい夢を見せてあげよう」
【+ 】ゞ゚)「――――なン、ぞ」
短く、驚嘆に呻いたのはオサムだった。
ぐしゃぐしゃと、何かが砕かれていくような音。
右手の中に納まったモララーの全身の骨が、粉々にへし折れていく音かと思っていた。
だがそれは、何者をも力で屈服させ得るはずの、神の如き左手から発されていたものだ。
手の中で潰し、握り殺したはずのモララーの姿は、依然として健在。
それに引き換え、それを握りしめていたこの手は、半分程が消失していた。
まるで内側から何かに侵食され、食い破れてしまったかのように。
オサムの膨大な魔力が生み出した魔手が、モララーが背に纏う闇黒の中へと、吸い込まれていく。
- 959 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:11:39 ID:DwUslYDY0
-
【+ 】ゞ゚)「ヌ……ウぅッ」
―――未知の魔法、いや、これは旧き言霊か。
ならば、と右の魔手を振るう。
触れるか、あるいは掠めただけでも死に誘われるは、必至。
こちらは霊体であるがゆえに、物理的に干渉する事はかなわない。
だが魔法防御の手段を失っている今ならば、確実に対象の魂に触れられる。
そうだ、覚悟しろ。
3秒先には、お前も同じだ。
二度と夜明けの来る事ない、常夜の暗闇へと堕ちている。
この名を畏れ、血肉を持たぬ哀れな魂となりて、常闇の深きにと没せよ。
この名を讃え、忍び寄る闇の前で汝が過ごした、生涯の夜をこそ恐れよ。
”オサム=ザルク=アオスシュターベン”の名を、永遠なる王の御名と心得よ!
―――間もなく、ひんやりとしたその手が、男の魂に触れられた。
- 960 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:12:27 ID:DwUslYDY0
-
【+ 】ゞ゚)「……ッ」
そのはず、だった。
だが確かに手の内へ引き寄せた”それ”は、目の前に立つ男の魂ではなかった。
手の中にあったのは、漆黒よりも昏い真紅。
真円の紅玉が、そこに握りこまれていた。
目にも見えるほどの、輪廻の渦に沈められた、亡者たちの叫びを覗かせて。
( l;゚i.∀・)「詰みです、王さま」
まずい。
”ヂヂッ……ヂリッ”
モララーの声が届くよりも先に、それを手にした瞬間から身に及ぶ危機を察した。
- 961 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:13:43 ID:DwUslYDY0
-
【+ 】ゞ゚)「ナ……ゼ……だッ!」
手放す事も、投げ放る事も出来なかった。
抗えない力によって、引き込まれようとしているのが解った。
もはや、魔力の手も維持できない。
それどころか、棺の中の肉体から乖離させられた霊体ごと、紅玉の中へと吸い寄せられていく。
( l;゚i.∀ )「【流転の渦中にて 契りの時を賜いし那由多の声々】」
【+ 】;ゞ゚)「……グッ、おぅ――止、セ―――余ヲッ、何とスルか!」
完全にオサムの魂が引き剥がされた時、そこから魔力が失われた事で、
浮遊していたはずの石棺はその場に落下して砕けた。
- 962 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:15:12 ID:DwUslYDY0
-
紅玉の中に渦巻く、嘆く魂たちに溶け合わさる間際で、オサムはその光景を目にした。
年相応の瑞々しさを保っていた自らの肉体から、不朽の魂までもが損なわれゆく。
倒れこんだ際に放り出されたオサム自身の肉体は、土くれと変わらぬ色を宿して、
年輪にも似た皺をそこかしこに深々と刻む、醜い身体だった。
窪んだ眼窩にはめ込まれていた瑠璃の色は、もう、二度と宿される事はない。
誰の目にも明らかな、遠い昔に老いて朽ち果てた、枯れた骸がそこにあるだけだった。
( l;゚i.∀ )「【遍く汝らの望み 解放の時は今ここに約束されたし】」
,; m;ゞ゚)m「なッ、んッ―――オ、アアッァァァッ………ッ!―――」
オサムの魂を引き込もうと足を掴んだ亡者たちには、王たる名も、その威光も通じない。
生命が形造る円環の理から外れてしまった者達は、ただ仲間を欲してそこへと招くだけだ。
いつかまた、揺りかごの中で産声を上げるその時に、一なるものとして融け合うために。
( l;゚i.∀ )「【然ればこそ しばしの片時鎮まれよ 】」
- 963 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:16:05 ID:DwUslYDY0
-
( l;゚i.∀ )「【全なる魂に伝え授ける 胎界に無風の安寧を齎す 言の葉を】」
冷涼なる声だけが、撓(たわ)む意識の外で響いた。
燻し続ける憎悪の炎に身を灼かれながら、堕ちていく―――どこまでも。
,; m;ゞ゚m「……おのレ……オのれ、ヲノれえぇェぇェエッ!」
いくら憎んでも、贖いきれない。
どれほど呪っても、晴らしきれない。
王の凱旋を、恐怖でもって知らしめてやらなければならないのに。
最期の時、オサム王は怨みを口にした。
そこで、自らをその紅玉に封じ込める程の、魔術師の力の源に気付いたようだった。
,; m;ゞ゚m「――――そ、ウか……キ、さまはぁぁッ!」
- 964 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:17:06 ID:DwUslYDY0
-
( l;゚i.∀・)「実によい勝負でしたね、”王さま”?」
それに被せて紡がれた、モララーによる詠唱の最後の下り。
”【封魔の法】”
―――直後に眩いまでの光が放たれ、全てを白の闇に閉ざしていった。
(……忌む、べき……ちから、ヲ……)
・
・
・
- 965 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:18:26 ID:DwUslYDY0
-
霧が晴れたかのように、大広間には沈むような暗闇が取り戻された。
腕の痛みすら忘れる程だ。頭の奥は、突き刺されたように痺れている。
光が過ぎ去るとともに、部屋中を埋め尽くしていた燭台の火は消えていた。
だが、今はまた明かりを灯す必要はなかった。
( ;<●><●>)
”じじ、ぱち ぱち”
( ∀)「………」
,;#ゞ%*;
何かを求めるように手を伸ばした、オッサム王の骸が、部屋の中央で燃えていたから。
「もう、これは必要ないでしょう」
そう言って亡骸に火を放った、黒の外套の男の動きを眼だけで見送っていた。
- 966 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:20:12 ID:DwUslYDY0
-
復活したオサム王は、恐らくは自分ほどの術者が束となってもかなわぬ相手だったろう。
人間というものを実験のための素材や器具としてしか認識していなかったベルベットだが、
この時ばかりはまず、自らの命がまだ失われていない事に、幸運を感じていた。
そして、その王をも上回り、事も無げに封じ込めた魔術師と、引き合わされた事にも。
無残にも、ぼろの紙くず同然に切り刻まれた、不死者の溢れる理想卿という野望。
脆くも崩れったその玉座に、本来御座すべきは―――自分などではなかったのだ。
気がつけばふらふらと、ベルベットは惹き込まれるように男の元へと歩いた。
やがて彼の背にてひざまづいたその仕草は、この場に新たな”王”を迎えるかのように―――
( <●><●>)「同じ道を志す、我が同胞(はらから)とお見受けしました」
( ・∀ )「………」
- 967 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:21:39 ID:DwUslYDY0
-
静かに燃えるオサム王の亡骸を、しげしげと眺めていたその男が振り返った時、
再び胸を引き掴まれるような、大きな驚きを禁じ得なかった。
( ;<●><●>)「ッ!? ……顔の、傷は……」
( ・∀・)「あぁ……これかな? これは、”こういうもの”なのさ」
にわかには、理解出来ない言葉だった。
頭部に叩きつけられた礫弾が残した傷は、確実に額の一部を割り、
流れ落ちるほども勢いのある血が、どくどくと溢れていたように思う。
なのに今は、そこに血痕の一つも残されてはいなかった。
加えて、一目に異形だと感じたあの姿も―――
( ・∀・)「―――それに、死霊術師としての私は、今日で終わりを迎えた」
( <●><●>)「……?」
- 968 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:23:01 ID:DwUslYDY0
-
( ・∀・)「ネクロマンシーなど、踏み台に過ぎなかったという事さ」
( ;<●><●>)「それは……」
馬鹿にされている、というような感覚はなかった。
それというより、まるで何か大きな出来事の一つをやり遂げたかのような口ぶり。
目の前で今、そんな晴れやかな笑みを浮かべる彼からは、やはりというべきか。
鼻腔を突き刺すような死臭でもって、鼻をねじ曲げられるようであった。
これは、極めて鼻の効く”同志”の間でしか、共有できぬ感覚ではあるが。
( ・∀・)「お解りかな?―――腐れ、耄碌した貴方の頭では、まず理解の及ばぬ事でしょうがね」
彼がそう言ったのは、目の前に掲げる真円の水晶に向けてだ。
様々な血が混ざり合ったような、むらのある深紅の中心に、ほのかな紫の光を宿している。
それは時折、何かを求めて揺らめいているような、儚くもある暗い輝き。
( <●><●>)「その中にある光……オサム王の、ものですか……」
- 969 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:25:04 ID:DwUslYDY0
-
( ・∀・)「……神々はかつて、こうした力持つ物を指して”遺物”と呼んだのだったかな」
( <●><●>)「”アーティファクト”……これは、それほどのものだと?」
まじまじと見れば、確かにベルベットが息を呑むほどの美しさがそこにあった。
肩から下を視界に入れる事が出来ないほどくしゃくしゃに折りたたまれた腕の痛みなど、
もはや忘れてしまうほどに、その水晶が放つ生命そのものを閉じ込めたような美に魅せられ、
それが存在している意味に対して興味を惹かれ、心を鷲掴まれて。
ただ彼の表情を見上げて、次の言葉を待った。
( <●><●>)(……この男とならば。いや、この”遺物”を持ってすれば……)
ベルベット=ミラーズの心中は、もう決まっていた。
( ・∀・)「そうだね、”紫紅の宝玉”とでも名付けようか」
- 970 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:26:34 ID:DwUslYDY0
-
( ・∀・)「―――だがこれは、私にとっては”レガリア”」
あるべき時に、そうあるはずのもの。
生命を持つ者である限り、決して立ち入れない領域がある。
そして、決して踏み入ってはいけないはずの領域がある。
自らに許された領分を侵した時、神とはそれに罰を与えるべき存在だ。
だが、その神にも弓引く魔術師は、たった一人でその領域を踏み越えて。
あるべき全ての概念を覆し、破綻させようとしていた。
「正当な”この世の王”としての象徴。輪廻を司る宝珠さ―――」
- 971 :AAズレたらすんません:2013/08/27(火) 18:28:36 ID:DwUslYDY0
-
( ^ω^)ヴィップワースのようです
第11話
「暴食する邪の獣」
-了-
.
- 972 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:31:00 ID:DwUslYDY0
- なんか想像していたよりレス数少なく収まりました。
あとはちょこちょこ適当にスレ埋めて、またいずれ建てたいと思います。
ずいぶん駆け足でしたし、中二度合いが半端無くて死にたくなります。
支援ありがとうございました〜^
- 973 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:33:23 ID:DwUslYDY0
-
忘れちゃいけない。
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いつもお世話になっております。
- 974 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 18:37:30 ID:074qK3zoO
- モララー強いな…、乙ー
- 975 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 20:53:54 ID:o3Mvlkpw0
- 乙
- 976 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 21:19:53 ID:iCpa.cLoO
- 乙
こんな反則もんの相手に立ち向かわなきゃいけないのかショボンは
- 977 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 21:29:30 ID:DwUslYDY0
- ξ゚⊿゚)ξ「えーい」
↓
【+ 】ゞ゚)「ぐおおおお」
- 978 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 00:50:23 ID:.f2Uf1sk0
- おつ
読み応え抜群だ そして好きだ
- 979 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 03:31:17 ID:rn0Qlw7oO
- ω・)ショボン逃げてー
- 980 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 04:22:16 ID:iuBGDzYg0
- ショボンどーすんだ
っていうかこの世界はどうすんだ
- 981 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 05:35:09 ID:nlwjBo5MO
- (´・ω・`)「僕もう囚われの身になっていいや、モララーとやるのはヤダヤダ、準主役だけど」
「モララーのことはブーンさんに任せればいいや、主役だし主人公補正で死ぬことないだろうし」
- 982 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 06:10:24 ID:7Mgn0FxQ0
- 勢いだけのトランス状態で書いたら色々と説明不足な点が多かったんで
次で結構お話を進めつつ埋められたらといいなーとか思いつつクソ長くなりそうな悪寒です
>>981
( ^ω^)「もうあいつほうっとくお」
- 983 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 08:12:55 ID:So6JfaBs0
- ベルセルクのゴットハンド並みの絶望感
- 984 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 14:15:30 ID:7Mgn0FxQ0
- >>983
天使長どの達ほどでは・・・
>>980
モラさんもあまり時間がないんです
- 985 :埋めるぜ〜:2013/08/28(水) 14:43:20 ID:7Mgn0FxQ0
-
レベル帯説明
【LV1〜3】
駆け出しの冒険者レベル。一般的な村人の中での力自慢などが、おおよそ2〜3に当たる。
大陸を歩く冒険者の大半はこの位に位置し、蛮勇を振りかざす者の多くは、命を落とす。
実力相当……動物:熊 妖魔:ゴブリン、オーク、コボルド
【LV4〜6】
命の危機に瀕する修羅場を潜り抜けた経験のある、生存術を多少なりとも身に着けてきた者達。
この辺りから命の危険を伴う職業に身を置く者の一部は、小規模な組織であればそこで頭を張れる。
下級妖魔と戦ってもまず命を落とす心配はない、一人前と呼ばれる者たち。
実力相当……吸血鬼:レッサーヴァンパイア、妖魔:オーガ
【LV7〜8】
数々の修羅場を潜り抜け、相応の実力を身につけた者達。
大陸諸国を見渡しても一握りしか存在しない、知と武勇に恵まれた者達。
宮廷魔術師や盗賊団の長、大教会の司祭、歴戦の傭兵などがこれに当たる。
実力相当……吸血鬼:ヴァンパイア、死霊:レイス、獣人:ライカンスロープ
【LV9〜10】
その道においてある種の境地に到達した、極々一握りの者達。
この辺になってくれば一線を退き、かつての仲間たちを引き連れて趣味で旅歩く者もいるが、
現役ともなれば伝説的な英知や、武勇の持ち主。大陸全土に知れ渡る名は、騎士団からのスカウトも後を絶たない。
実力相当……龍族:ドラゴン(若龍)、吸血鬼:ヴァンパイアロード、死霊:リッチ
【LV11〜】
曰く「英雄」、曰く「伝説」として、末永く後世にまで語り継がれる者達。
その彼らのいずれも噂を知った人々が目にする事は無く、波乱に満ちた冒険の果て命を落としたか、
あるいはまた風のように、誰にも知られぬまま次の冒険を求めて旅立っている。
参考……LV15〜LV20…龍族:エンシェントドラゴン(齢300年〜500年以上)
- 986 :埋めるぜ〜:2013/08/28(水) 14:44:33 ID:7Mgn0FxQ0
-
〜宿帳〜
城壁都市バルグミュラー「宵の明星亭」
【ジョルジュ=レーゲンブレストル】推定LV8
_
( ゚∀゚) 凡庸なる暮らしの中で培われた強い意思
【田舎育ち 不心得者 冷静沈着 利己的 無頓着 進取派 悲観的 高慢 無骨 ひねくれ者】
【ギコ=ブレーメン】推定LV4
( ,,゚Д゚) 凡庸なる暮らしの中で培われた強い意思
【都会育ち 不心得者 猪突猛進 献身的 好奇心旺盛 楽観的 陽気 お人好し 派手 名誉こそ命】
【ダイオード=バランサック】推定LV9
/ ゚、。 / 腕力、耐久力に優れた生まれながらの戦士
【田舎育ち 不心得者 醜悪 猪突猛進 悲観的 内気 謙虚 繊細 過激 愛に生きる】
【イーヨウ=ストラナグア】推定LV2
(=゚ω゚)ノ 凡庸なる暮らしの中で培われた強い意思
【田舎育ち 不心得者 利己的 楽観的 内気 繊細 謙虚 陽気 お人好し 穏健 地味】
- 987 :埋めるぜ〜:2013/08/28(水) 14:51:53 ID:7Mgn0FxQ0
- 〜宿帳〜
所在不定 妖魔・手配犯 etc
【エルンスト=ハインリッヒ】推定LV9
从 ゚∀从 ヴァンパイア・ロード
【ミルナ=バレンシアガ】推定LV8〜10
( ゚дメ ) ライカンスロープ
【オサム=ザルク=アオスシュターベン】推定LV9
【+ 】ゞ゚) リッチ
【モララー=マクベイン】推定LV?
( ・∀・) 類稀な知性を持つ天才型
【都会育ち 厚き信仰 冷静沈着 利己的 進取派 穏健 高貴の出 上品】
【ベルベット=ミラーズ】推定LV5
( <●><●>) 知に裏付けされた実力
【都会育ち 不心得者 冷静沈着 利己的 進取派 穏健 神経質 混沌派】
- 988 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 14:53:55 ID:7Mgn0FxQ0
- 不心得者しかいなかったでござる
- 989 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 16:53:24 ID:nlwjBo5MO
- ( ^ω^)「ぼくは主人公だからLev10くらいあるはずだお」
川 ゚ -゚) 「わたしのLevは20ぐらいにしてくれ」
ξ゚⊿゚)ξ 「フンッ、Levなんて低くたっていいわよ、どうせ1なんでしょ」
(´・ω・`)「ぼくもう闘わないんだ、ぼくのLevはブーンさんにあげるよ」
.
- 990 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 17:55:21 ID:PN1Qgvm20
- ミルナは人間時8、ライカンスロープ時10?
- 991 :名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 18:58:49 ID:AvI32TYYO
- ↑はなんとなくなアレですが。ただし首飛ばすと死にます
- 992 :名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 01:26:49 ID:Wh.TUukAO
- ω・)ジョルジュ達とブーン達は出会ったりはしないのですか?
- 993 :名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 01:47:13 ID:nwR.4n/s0
- どうもー。
それは近いうちにと思ってましたけど、次は時間がかかりそうです…
目的を共通とする事もあるかも知れません
- 994 :名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 01:52:05 ID:PGCDrU5M0
- 誰が一番イケメンかな
- 995 :名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 16:15:43 ID:nwR.4n/s0
- >>994
今だったらしっかりキャラクターの設定考えてから書き始めたでしょうけど
完全に見切り発車だったんで・・・秀麗持ちはフォックスだった気がします
ウホッ って感じで言うならブーンか
- 996 :名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 23:55:54 ID:PGCDrU5M0
- ブーンはウホッ受けタイプなのかww
- 997 :名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 01:55:16 ID:36ZJ4Rmg0
- 落ちろォーッ
- 998 :名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 01:55:57 ID:36ZJ4Rmg0
- 最近めっきり寒くなってきました
- 999 :名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 01:56:53 ID:36ZJ4Rmg0
- ホットコーヒーが美味しい季節ですね
- 1000 :名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 01:57:37 ID:36ZJ4Rmg0
- 皆さんはいかがお過ごしですか
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