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思い出屋さんのようです- 1 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 21:43:03 ID:ildWx2/E0
- 諸事情により避難所から移動して参りました、四話目から先を投下させて頂きます。
酉が無いので本人証明などは出来ませんが、お付き合いいただければ幸いです。
まとめて下さっています、ありがとうございます
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/memory/memory.htm
- 2 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 21:45:58 ID:fCCcJVIYO
-
いつからだろう。
僕が、こうなったのは。
いつからだろう。
彼が、ああなったのは。
いつからだろう。
いつからだろう。
いつからだろう。
逃げ出したい。
逃げ出した筈だった。
逃げ延びた筈だった。
逃げ切った筈だった。
なのに、彼は、僕の前に居る。
- 3 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 21:49:01 ID:fCCcJVIYO
-
僕を見る彼は、とてもにこやかで、優しい。
他の誰かと変わらず、分け隔てなく、ただ穏やかに接する。
まるで、忘れた様に。
僕は、忘れた事など一度も無いのに。
彼は、本当に忘れてしまったのか。
それとも、忘れた振りをしているだけか。
どちらにせよ、この現状は、僕にとって有り難くないものだ。
ずっとずっと抑え込んでいた痛みが、やっと癒え始めた痛みが、また口を開いてじくじくと痛む。
いや、本当は癒える事なんてないのだろう、それでも何とか抑え込んでいたんだ。
でも、目の前でにこにこと僕を見るこの人が。
この人の眼差しが、また、僕を掻き乱してゆく。
逃げ切ったと、信じていた、痛い過去が。
ぐろぐろとした何かが、口を大きく開いて僕を飲み込む。
甘い、助けて、誰か、助けて、せんせい。
- 4 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 21:51:44 ID:fCCcJVIYO
-
みんみんみんみん。
( ΦωΦ)
じゃわじゃわじゃわじゃわ
『直野骨董店 臨時休業のお知らせ』
( ΦωΦ)
みんみんじゃわじゃわ
( ΦωΦ)「フンッ!!」ビリィ!!
【思い出屋さんのようです】
閲覧注意
- 5 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 21:55:58 ID:fCCcJVIYO
-
からんころん。
川 ゚ -゚)「あ」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「お、おま、入ってくんなよ! 張り紙見ただろうが!」
( ΦωΦ)「喧しいわ白目女が」
川 ゚ -゚)「うるせー前回ラストで優しかったくせに!」
( ΦωΦ)「体調の悪い人間は丁寧に扱う、是常識也」
川 ゚ -゚)「うるっせェこの鼻タブ無双が」
( ΦωΦ)「罵ってんのかソレは」
川 ゚ -゚)「うっせばーかうっせばーか私は休むんだこれは大宇宙の意思なんだよばーか」
( ΦωΦ)「理由」
川 ゚ -゚)「あ?」
( ΦωΦ)「直野骨董店店主の元で働く事を代々命ぜられている杉浦家長男に述べろ、休む理由を」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「雨が降ったから」
( ΦωΦ)「晴天です」
- 6 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 21:59:04 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「じゃあ風が吹いたから」
( ΦωΦ)「桶屋儲けまくりんぐ」
川 ゚ -゚)「とにかく店は閉める、決定事項」
( ΦωΦ)「だから理由」
川 ゚ -゚)「月のものが来たので」
( ΦωΦ)「体育の見学理由にはなるが休業の理由にはならん」
川 ゚ -゚)「ばっかおめーアレだぞ、人によっては起き上がれないんだぞ」
( ΦωΦ)「じゃあ今目の前で売り物のスマートボールしてるお前はそんなに大変なのか」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「スマートボールって燃えるよね」
( ΦωΦ)「否定はしない」
川 ゚ -゚)「でも祭りの場になると下手になるよね」
( ΦωΦ)「調整されてんじゃね」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「眠い」
( ΦωΦ)「知るか」
- 7 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:01:48 ID:fCCcJVIYO
-
( ΦωΦ)「だーかーらー、理由」
川 ゚ -゚)「……怖いから」
( ΦωΦ)?
川 ゚ -゚)「思い出を見るのが、怖いから」
( ΦωΦ)!
川 ゚ -゚)「もう、怖いのは嫌だから」
( ΦωΦ)「……お前は、思い出が見えるのか?」
川 ゚ -゚)「…………」
( ΦωΦ)「……やっぱりな、そんな気はしてたよ」
川 ゚ -゚)「…………やだよ、怖いのは」
( ΦωΦ)「だがお前が言ったのであろうが、責任感」
川 ゚ -゚)「実際触れたら、思ったよりずっと怖かった」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「私は、もう二度とあんな思いはしたくない」
- 8 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:04:53 ID:fCCcJVIYO
-
( ΦωΦ)「つまり、逃げるのか」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「お前が言った、思い出を求める人をそのままにするのか」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「そして、姉にすべてを押し付けるのか」
川 ゚ -゚)!!
( ΦωΦ)「よく解った、ならばお前はもう店主ではない」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「つまり、我輩がお前の世話をする理由も無くなった。じゃあな」
川 ゚ -゚)「ま、」
( ΦωΦ)「臆病者と話す事は無い」
川 ゚ -゚)「待て、よ……」
( ΦωΦ)「聞かん」
川 ゚ -゚)「訂正しろよ」
( ΦωΦ)「何をだ」
- 9 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:07:13 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「私は、もう、姉ちゃんの後ろに隠れてない」
( ΦωΦ)「どこがだ、姉の代わりだと常に逃げ道を作るだろう」
川 ゚ -゚)「事実、だろ」
( ΦωΦ)「……」
川 ゚ -゚)「私は、姉ちゃんに頼ってない」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「姉ちゃんは居ない、私は代理で、でも、」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「…………訂正しろよ……ッ」
( ΦωΦ)「何を、だ」
川#゚ -゚)「私は姉ちゃんに押し付けたりなんかしないッ!! 姉ちゃんに迷惑なんかかけないッ!!」
( ΦωΦ)
川#゚ -゚)「今の店主は私だッ! 姉ちゃんにもう迷惑なんかかけないッ!!! 訂正しろッ!!!!」
( ΦωΦ)「ごめん」
川#゚ -゚)「……」
( ΦωΦ)「ごめん、言い過ぎた」
- 10 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:09:58 ID:fCCcJVIYO
-
( ΦωΦ)「……」
こんなに、怒ると思わなかった。
こいつにとっての『姉』と言う存在は、余りにも大きい。
( +ω+)゙「ごめん」
こいつの『姉』は、こいつのコンプレックスであり、
同時に、尊敬してやまない存在である事は、変わらないのか。
小さい頃は、姉の後ろで怯えていたのに。
いつのまにこいつは、こんなに強かになった。
いや、
( ΦωΦ)「ごめんな」
やっぱり、こいつはまだ弱いんだ。
泣き虫だった頃から、変わっていない。
- 11 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:12:11 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「……私も、怒鳴った、ごめん」
( ΦωΦ)「……」
川 ゚ -゚)「……」
( ΦωΦ)「飯」
川 ゚ -゚)「うん」
( ΦωΦ)「肉まんの残りで、ごめん」
川 ゚ -゚)「本気で泣くぞ」
( ΦωΦ)「いやもう、ごめん、三桁は作りすぎた」
川 ゚ -゚)「お前って頭良いフリして実は今世紀最大のアホだろ」
( ΦωΦ)「多少否定できなくてつらい」
川 ゚ -゚)「お前ってばマジあほんだら……もう良いや、食うわ……」
( ΦωΦ)「明日の飯は好きなのにするから……」
川 ゚ -゚)「焼肉」
( ΦωΦ)「また唐突に無茶を」
- 12 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:14:41 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「…………店、頑張る、折れないように」
( ΦωΦ)「おう」
川 ゚ -゚)「また吐いたら、どうしよう」
( ΦωΦ)「看病するわ」
川 ゚ -゚)「わー心強い」
( ΦωΦ)「んな棒読みな」
川 ゚ -゚)「わー心強い(迫真)」
( ΦωΦ)「君が泣くまで罵るのを止めない」
川 ゚ -゚)「そんなお前ひどい」
( ΦωΦ)「このド腐れ低学歴ニート喪女」
川 ゚ -゚)「すんっげぇ心に突き刺さるなそれ」
( ΦωΦ)「鉄面皮不摂生ニート自宅警備員ニートキングオブニートヒキコモリ」
川 ゚ -゚)「は、働いてるわ! ニートちゃうわ!」
( ΦωΦ)「うんうんニートじゃない(迫真)」
川 ゚ -゚)「君が土下座するまで罵るのを止めない」
( ΦωΦ)「返し技……だと……」
- 13 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:17:24 ID:fCCcJVIYO
-
( ΦωΦ)「しかし我輩はそこまで突き刺さるような罵声は」
川 ゚ -゚)「童貞」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「見た目だけマッチョ小心者」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「年齢=彼女居ない歴かつ童貞歴」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「異常性癖」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「生まれた時から悪魔超人顔」
( ΦωΦ)「ごめんなさいそろそろやめてください」
川 ゚ -゚)「黙れロリコンが」
( ΦωΦ)「別に年下の小娘に興味があるわけでは」
川 ゚ -゚)「二次元」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「言い残す事はあるか」
( ΦωΦ)「明日は焼肉にします」
川 ゚ -゚)「よかろうなのだ」
- 14 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:18:39 ID:pDssUArQO
- ロマへたれすぎwww
- 15 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:19:47 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「しっかし客こねぇな、」
( ΦωΦ)「思い出屋の客は縁次第だからなあ」
川 ゚ -゚)「骨董屋は?」
( ΦωΦ)「知らん」
川 ゚ -゚)「私も知らん」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「お前さ、骨董についてわかるの?」
川 ゚ -゚)「全然?」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「腹減ったな」
川 ゚ -゚)「肉まん食うか」
- 16 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:21:44 ID:fCCcJVIYO
-
( ΦωΦ)「しかし、前回の客はインパクトあったみたいだな」
川 ゚ -゚)「心が折れかけるレベル」
( ΦωΦ)「どんだけ」
川 ゚ -゚)「だってあいつ自分で嫁の腕を」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「え?」
川 ゚ -゚)「いや、プライバシーに関わるから黙っとく」
( ΦωΦ)「えっ、ちょ、気になる」
川 ゚ -゚)「きにすんな」
( ΦωΦ)「えぇー……」
からんころん。
( ΦωΦ)「お」
川 ゚ -゚)「んあ」
(,,^Д^)「あの……失礼します……?」
( ΦωΦ)「客であるな」
川 ゚ -゚)「客だな、らっしぇい」
(;,^Д^)「は、はぁ……」
- 17 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:24:18 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「いらっしゃい、直野骨董店、もとい思い出屋へようこそ(キリッ)」
(,,^Д^)「思い出屋……?」
川 ゚ -゚)「この店は思い出を売る店、あなたの手放した大事な思い出をお返しします(キリッ)」
(,,^Д^)「……」
( ΦωΦ)「そちらの棚から、気になった物を持ってきて下さい」
(,,^Д^)「は、はい……わかりました」
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「ノー突っ込みでフィニッシュ?」
( ΦωΦ)「突っ込んで欲しかったのか」
川 ゚ -゚)「ボケ根性が根付いちまったよ」
( ΦωΦ)「飼い慣らされてんなあおい」
- 18 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:25:38 ID:sOWBhcdsO
- いいコンビだ
- 19 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:27:21 ID:fCCcJVIYO
-
ふらふらと、導かれるように辿り着いた骨董店。
そこの店主らしき二人は若く、不思議な雰囲気を纏っていた。
その雰囲気に気圧された僕は、言われるがままに示された棚へと向かう。
用途もわからない古びた道具、古道具独特の匂い、どこか懐かしさを感じられる店。
古い木製の棚を見て行き、一つ一つをじっくりと観察する。
(,,^Д^)「……思い出、かぁ」
店主らしき女性の言葉を反芻し、ふと棚の上を見上げた。
そこにあったのは、お菓子の袋。
僕はそれに手を伸ばし、そっと掴む。
袋はがさがさと音をさせて僕の手に収まり、ポップな色使いのそれを見つめた。
それは、個別包装の小さな飴がたくさん入った、未開封の袋。
見覚えのあるそれに首を傾げながら、店主達の待つカウンターへと戻って行った。
- 20 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:30:12 ID:fCCcJVIYO
-
( ΦωΦ)「いっせーのーせー、いちっ」
川 ゚ -゚)「いっせーのーせー、にっ」
( ΦωΦ)「あ、くそっ」
(,,^Д^)「あの……良いですか?」
( ΦωΦ)「あ、はいはいどうぞ」
川 ゚ -゚)「ん、食べ物は珍しいな」
(,,^Д^)「あ、そうなんですか?」
川 ゚ -゚)「親の手作りとかはあったけど、既製品か」
(,,^Д^)「ですね……昔、売ってた記憶があります」
川 ゚ -゚)「ふーん……ところで、あんたいくつ?」
(,,^Д^)「あ、27です」
川 ゚ -゚)「おっさんに近いっすね」
(;,^Д^)「はっきり言いますね」
- 21 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:33:30 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「へー、飴か……」
(,,^Д^)「はい……でも、」
川 ゚ -゚)「ん?」
(,,^Д^)「僕、甘いものは苦手なんですよね……」
川 ゚ -゚)「あらまあ、それも何か関係してるのかも知れんね」
(,,^Д^)「ふむ……」
川 ゚ -゚)「…………あの」
(,,^Д^)「はい?」
川 ゚ -゚)「医者だったり、しません?」
(,,^Д^)「いえ、教師です、最近こっちに赴任してきたばかりの」
川 ゚ -゚)ホッ
(,,^Д^)?
( ΦωΦ)(そんなにトラウマだったのか……)
- 22 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:35:51 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「んじゃ、思い出見てみますかね」
(,,^Д^)「あ、お願いします、?」
川 ゚ -゚)「……どんな思い出でも、恨みっこ無し」
(,,^Д^)「え」
川 ゚ -゚)「今が、手放した思い出が必要になった時
だからあんたはここに居て、この思い出を買いに来た
その思い出がどんな物でも、どんなに痛々しい物でも、私は責任を持たないよ」
(,,^Д^)「……わかりました、お願いします」
川 ゚ -゚)「よし、じゃあ……」
そっと、カウンターに置かれた袋に白い手が翳される。
指先が袋に触れた、その瞬間、世界は真っ白に塗りつぶされた。
遠くで、声がする。
- 23 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:38:18 ID:fCCcJVIYO
-
ぽたぽたと汗が流れるような、暑い日。
僕は、家から離れた公園に居た。
子供がほとんど居ない、ひとけもまばらな公園。
そのベンチに腰をかけて、子供を見る。
一人で遊ぶ幼い男の子を見つめる僕。
ふと、他に居た子供たちが公園から出ていった。
すっと立ち上がり、その子供に近付く。
砂場で砂を盛る子供の側で立ち止まると、しゃがみこんで声をかけた。
『ねぇ』
『ぇ……?』
『君は、一人なの?』
『……うん』
『じゃあ、お兄ちゃんと遊ぼうか』
『…………うん』
- 24 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:40:10 ID:fCCcJVIYO
-
精一杯、人の良い笑顔。
それを信じたのか、子供は小さく頷いた。
悪いのは、僕じゃない。
『じゃあ、こっちにおいで』
『うん』
『甘い、お菓子をあげるよ、ほら』
『ありがとう、お兄ちゃん』
悪いのは、「知らない人についていってはいけません」と
教えなかった、親や教師の方だ。
- 25 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:41:25 ID:fCCcJVIYO
-
最近の大人は、そう言う事を教えていないんだろうか。
なんて、なんて嘆かわしい事だろうか。
良くない事だ、大変良くない。
だから、僕が教師のかわりに、教えてあげなきゃ。
『お兄ちゃん、どこ行くの』
『ねぇ』
『?』
『せんせいって、呼んでくれるかな?』
『せんせい?』
『そう、せんせい』
『わかった、せんせい』
僕が、教えて、あげなきゃあ。
- 26 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:43:12 ID:fCCcJVIYO
-
僕は、幼い子供が好きだった。
あの誰かの庇護の元に居なければ生きてゆけないような、脆弱さが。
声をかけられた子供が、しかるべき教育を受けて僕を拒んだのなら、僕は何もせずに離れた。
大人たちに何かを言われても、ただ「一人で遊ぶのは危ないと思った」と逃げられる。
でも、しかるべき教育を受けていなかったら。
僕は、この身を呈して、教えてあげなきゃいけない。
庇護の元にあるべき子供に。
ただ、子供が好きなだけ。
ただ、その幼い身体が好きなだけ。
細い手足が、柔らかな皮膚が、何もかもが、好きなだけだ。
その好きだと言う欲求に従い、僕は行動する。
綺麗な新雪を汚すみたいに、子供を撫でる。
少し、少しだけ、歪んでしまっただけで。
僕は、悪くない。
- 27 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:44:18 ID:fCCcJVIYO
-
ついてきた子供は、短いズボンの裾から白い足を覗かせている。
あまり日焼けをしない体質なのだろうか、夏に似つかわしくないほど、白い。
少し濁った目をして、僕を見上げる幼い顔。
愛らしく整った顔は、不思議な危うさを持つ。
繋ぐ手に力を込めた。
汗にぬるつく手のひらが、僕を高揚させる。
辿り着いたのは、ひとけの無い路地裏。
野良猫すら見かけないような、薄暗い空間。
誰も居ない、誰も来ない、誰も見ていない。
何度も足を運んで見つけた、ここ。
『せんせい』
『はい、お菓子だよ』
『ありがとう』
『君の名前は?』
『───』
『そう、───くん』
- 28 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:45:49 ID:fCCcJVIYO
-
『……せんせい?』
『だめだよ』
『ぇ、?』
『知らない人に、ついてっちゃ』
口を手で塞いで、壁に押し付ける。
驚いたように目を丸くする子供は、とても愛らしかった。
だから僕は頬を、首筋を、鎖骨を、ゆっくりと歯を立てながら舌を這わせた。
僕の腕から逃れようと暴れても、小さな子供の力なんて、たかがしれている。
猿ぐつわをして、服を脱がせた。
汗に濡れる白い肌は、どこまでも、いとおしい。
子供の白い肌に生々しい傷をつける。
切り傷、擦り傷、打撲痕、鬱血痕。
赤や紫の痕を残す肌はすべらかで、柔らかくて、たまらなく美しい。
- 29 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:46:43 ID:fCCcJVIYO
-
綺麗な物を汚したくなるのは、きっと人間のさが。
本能的に、何かをけがす事を求めているんだ。
だから僕は、その本能に従っただけ。
弱者を愛で、いたぶり、慈しみ、傷付け、けがして、こわして、ふみちらかして。
僕はただひたすら、その欲望を子供にぶつけた。
愛しい対象へ、愛を叩き付けた。
最初は泣きながら抵抗していた子供は、次第に抵抗をやめた。
息はしているし、意識もある、ただ虚ろな目をその辺りにゆらゆらとさせているだけ。
ごぽりと吐き出してから、僕は立ち上がり、子供の周りへあめ玉をばらまいた。
『ほら、ね、知らない人に、ついてきちゃうから』
にっこりと笑ってそう告げ、僕は身支度を整えて、その場を後にした。
- 30 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:48:01 ID:fCCcJVIYO
-
その後、何度も僕はそこに足を運んだ。
けれど子供は何も言わず、ただ僕についてくる。
そして、大人に見つかったり、捕まる事もなかった。
あんな思いをしても、まだついてくるなんて。
もっと、もっと教えてあげなくちゃ。
結局それは、僕が親の都合で引っ越すまで続いた。
引っ越した後は、ずいぶんと離れてしまったからあの子には会えなくなったけれど。
僕はずっと子供が好きで、好きで、常に子供と触れ合える道に進んだ。
もといた土地に戻ってきたのは
あれから、十年ほど経ってから。
- 31 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:49:36 ID:fCCcJVIYO
-
(,,^Д^)「あ……」
川 ゚ -゚)「……」
(,,^Д^)「そ、か……そうかぁ……」
川 ゚ -゚)「思い出は、受け取られましたか」
(,,^Д^)「はい……はい、しっかりと……」
川 ゚ -゚)「お代は結構です、ですので、その思い出をもう手放さないで下さい」
( ΦωΦ)゙ !
(,,^Д^)「ありがとうございます、店主さん……大事にします」
川 ゚ -゚)「ええ」
(,,^Д^)「…………そうだ」
川 ゚ -゚)「え、?」
「ぼくは、あまいものが、だいすきなんです」
- 32 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:51:04 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)
( ΦωΦ)「……クー?」
川 ゚ -゚)「水」
( ΦωΦ)「用意しておいた」
川 ゚ -゚)「トイレ」
( ΦωΦ)「洗面器と新聞紙とビニール袋はこちらに」
川 ゚ -゚)「ハグ」
( ΦωΦ)「それは非売品です」
川 ゚ -゚)「折れた、心が折れた、もう無理」
( ΦωΦ)「アロンアルファならこちらに」
川 ゚ -゚)「いやもう無理、変態の相手とかマジ無理」
( ΦωΦ)「何なのこの店の変態来客率」
- 33 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:53:22 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「しかも犯罪だし、ガチ犯罪だし、おまわりさん呼んで」
( ΦωΦ)「177だっけ」
川 ゚ -゚)「時報じゃねーか」
( ΦωΦ)「天気予報だよ」
川 ゚ -゚)「どっちにしろ駄目じゃねーか」
( ΦωΦ)「取り敢えず落ち着け、ほら汁粉」
川 ゚ -゚)「暑いから、残暑ド厳しいから」
( ΦωΦ)「ぜんざいもあるよ」
川 ゚ -゚)「お前はどこまで私に嫌がらせをしたいの? 塩昆布はないの?」
( ΦωΦ)「肉まんなら」
川 ゚ -゚)「しょっぱいけど何もかもが違う」
( ΦωΦ)「良いからもう食えって、ほらアズキバー」
川 ゚ -゚)「お前どんだけ小豆買い込んだの?」
( ΦωΦ)「三キロ」
川 ゚ -゚)「正真正銘のアホだよお前」
- 34 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:55:32 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「お前アレだろ、安売りでつい買いすぎて腐らせるタイプだろ」
( ΦωΦ)「違うよ全部調理して冷凍保存だよ」
川 ゚ -゚)「アホだからお前」
( ΦωΦ)「そろそろ自覚してる」
川 ゚ -゚)「家事全般いけると思ったのにお前……そう言う計算は出来ないのかよ……」
( ΦωΦ)「割りとノリで生きてる」
川 ゚ -゚)「肉まんまだ残ってるんだろ」
( ΦωΦ)「すみません」
川 ゚ -゚)「明日は焼き肉だからな、絶対に肉まん食わないからな」
( ΦωΦ)「明後日から肉まん無双な」
川 ゚ -゚)「なん、だと……」
- 35 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 22:58:28 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「……」
( ΦωΦ)「どうした、白目」
川 ゚ -゚)「良かったのかな、あの思い出」
( ΦωΦ)「……持ち主に返した事か?」
川 ゚ -゚)「うん……何か、嫌な感じがする」
( ΦωΦ)「……」
川 ゚ -゚)「私の仕事は、正しかったのかな……」
( ΦωΦ)「気にするな、お前はお前の仕事を全うしただけだ」
川 ゚ -゚)「…………うん」
( ΦωΦ)「先代も言ってたのであろう、思い出屋の仕事はつらい仕事だと」
川 ゚ -゚)「……」
( ΦωΦ)「そして、それを全うすると言ったではないか」
川 ゚ -゚)「そう、だな」
- 36 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 23:01:12 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「うん…………まだ、頑張る」
( ΦωΦ)「うむ、明日は焼き肉だからな」
川 ゚ -゚)「ところでさ」
( ΦωΦ)「ん?」
川 ゚ -゚)「確かお前、私が思い出見れないって言うの信じたよな?」
( ΦωΦ)「うん」
川 ゚ -゚)「でもその割りと直後に、思い出が流れ込んだって言ったのよ」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「その後っつーか、今朝お前『やっぱりか』とか言ってたよな」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)「結構最初から分かる事なんじゃないの? 私が思い出見るの」
( ΦωΦ)
川 ゚ -゚)
( ∩ω∩)"
- 37 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 23:03:56 ID:fCCcJVIYO
-
川 ゚ -゚)「お前って今世紀最大のアホンダラなんだな」
( ∩ω∩)「おま、おまえが、わかりにくい言い方を、するから、」
川 ゚ -゚)「なあロマネスク」
( ∩ω∩)「はひ」
川 ゚ -゚)「お前ってバカだろ」
( ∩ω∩)「はひ」
川 ゚ -゚)「特上ハラミ」
( ∩ω∩)「買っときます」
川 ゚ -゚)「上ロースとバラとハネシタとミスジとイチボとヒウチとカイノミと生レバー」
( ∩ω∩)「スーパーで売ってる部位にしてよ! 卸し問屋にでも行けってか!!」
川 ゚ -゚)「うん」
( ∩ω∩)「即答だよ!! 我輩これほぼ無収入で働いてんだぞチクショウが!!」
ま、元気になったみたいだし。
我輩の財布は痛いが、結果オーライとでも言うべきか。
- 38 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 23:05:31 ID:fCCcJVIYO
-
たとえ、もしそれが
(,,^Д^)「やあ、でぃ君」
(#゚;;-゚)「……先生」
(,,^Д^)「君に、渡したい物があるんだ」
(#゚;;-゚)「ぇ……」
「ほら、お菓子だよ」
我輩たちの知らないところで、動き出すべきではなかった歯車が、動き出したとしても。
けれどそれは、我輩たちの与り知る事ではない。
思い出屋は、手放した思い出を持ち主に返す仕事。
ただ思い出屋の仕事を、全うしただけ。
そうでなければ、そうでなければ、
もう、あいつはこの仕事を続けられはしないだろう。
終わりがすぐそこまで近付いているのは、まだ知らないのだが。
おわり。
- 39 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 23:06:43 ID:UF/VPXxs0
- 乙んつん
- 40 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 23:06:44 ID:fCCcJVIYO
- 支援ありがとうございました。
避難所から移動して来ました
不定期ではありますが、少しの間どうぞよろしくお願いします。
それでは、これにて失礼!
- 41 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 23:08:58 ID:sOWBhcdsO
- キツい思い出が続いたらそりゃ心折れる乙
- 42 :名も無きAAのようです:2011/09/04(日) 23:34:05 ID:pDssUArQO
- 変態! 変態! 変態!
タカラの変態!
普通に退いたわ
乙
- 43 :名も無きAAのようです:2011/09/05(月) 21:03:03 ID:kDCINHkQO
- 今回もくるなぁ…
乙乙
- 44 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:02:10 ID:NvHihuhAO
-
夏が終わりを迎え、徐々に涼しさを感じる事も増え始めた。
学生や社会人は夏の休みを終え、各々が忙しい日々に戻って行く。
常連の幼馴染みや元同級生もその例に漏れず、訪れる回数と滞在時間は減った。
しかし店主には、店にしか居場所がない。
そんな店主は今、散らかった居住区の端に、縮こまって正座をしている。
目の前には、
lw´‐ _‐ノv「調子はどうかな、妹よ」
川 ゚ -゚)「あ……その……上々、です……」
lw´‐ _‐ノv「そう、じゃあ思い出屋としては?」
川 ゚ -゚)「え、あ……はい……あの……上々、で……はい」
本来の店主である姉が、正座をしていた。
【思い出屋さんのようです】
- 45 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:04:10 ID:NvHihuhAO
-
川 ゚ -゚)「あ、の……姉ちゃん……何で、突然……?」
lw´‐ _‐ノv「そろそろ可愛い妹の顔も見たくなったので」
川 ゚ -゚)「あ、はい……恐縮です……」
lw´‐ _‐ノv「そうだ」
川 ゚ -゚)「はひッ?」
lw´‐ _‐ノv「クーにお土産があるの、ほらこれ」
川 ゚ -゚)「わ、わー何この怖い人形……」
lw´‐ _‐ノv「ブービーだかバービーだか言う人形」
川 ゚ -゚)「それ多分ブードゥー人形だと思います」
lw´‐ _‐ノv「YES! YES! YES!」
川 ゚ -゚)「それはダービー君」
lw´‐ _‐ノv「もしかしてオラオラですか?」
川 ゚ -゚)「それ言われる側」
lw´‐ _‐ノv「んもうノリが悪いったら」
川 ゚ -゚)「え、えぇ……」
- 46 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:06:06 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「あとほら、色々あるのよオラオラ、じゃないお土産」
川 ゚ -゚)「わ、わーいトーテムポールだ……」
lw´‐ _‐ノv「あとモアイ像が鼻から水を出し続ける置物」
川 ゚ -゚)「これビレバンとかに売ってる謎の置物じゃないですか」
lw´‐ _‐ノv「(´・ω・`)クッションとかペンケースとか」
川 ゚ -゚)「中学生みたいな事しないで姉ちゃん」
lw´‐ _‐ノv「可愛いと思うよ?」
川 ゚ -゚)「可愛いけど屋外で使う自信ないッスよこれ……」
lw´‐ _‐ノv「元から出ないでしょ?」
川 ゚ -゚)「わーい辛辣ゥー」
lw´‐ _‐ノv「あとほら、PSP」
川 ゚ -゚)「おお」
lw´‐ _‐ノv「Go」
川 ゚ -゚)「産廃扱いだッ!?」
- 47 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:08:07 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「DL買い専と改造割れ専なら」
川 ゚ -゚)「いらないよ! それよりもvitaが良いよ!!」
lw´‐ _‐ノv「じゃあこの半透明な赤ピンクと黒のツートンカラーPSPをあげよう」
川 ゚ -゚)「嫌いじゃないけど絶妙なダサさを誇るカラーリング!! 片割れのカルピスカラーは!?」
lw´‐ _‐ノv「私が使うつもりだったけど、こっちが良いならあげよう」
川 ゚ -゚)「わ、わあい……姉ちゃんとお揃いだあ……」
lw´‐ _‐ノv「それよりモンハンしようよ、一狩り行こうぜ」
川 ゚ -゚)「あ、ああ……3rd?」
lw´‐ _‐ノv「ううん2ndG」
川 ゚ -゚)「また絶妙なッ!?」
lw´‐ _‐ノv「ランゴスタの狩猟数そろそろカンストしそうなのよねぇ」
川 ゚ -゚)「延々と虫取りしてたの……?」
lw´‐ _‐ノv「ボックスがランゴ素材で埋まってるよ、ほら」
川 ゚ -゚)「キモい!ほぼランゴ素材のみでボックスギチギチなのキモい!!」
- 48 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:10:03 ID:NvHihuhAO
-
川 ゚ -゚)「何なの濃汁と特濃だけで1ページ埋まってるとか……わけわかんねぇ……」
lw´‐ _‐ノv「向こう側見てみ」
川 ゚ -゚)「うわああああ黒龍の剛角で1ページ埋まってるううううキモいいいいいいいい!!!!」
lw´‐ _‐ノv「まあモンハン引っ張っても困る人居るから」
川 ゚ -゚)「誰だよこれ振ったの!!」
lw´‐ _‐ノv「それよりほら」
川 ゚ -゚)「な、なんすか次は……」
lw´‐ _‐ノv「かみつきばあちゃん」
川 ゚ -゚)「持ってるよ! ピンクのまだ持ってるよ! 実家の机の引き出しにあるよ!!」
lw´‐ _‐ノv「物持ち良すぎるだろ」
川 ゚ -゚)「そっちはバトエン?」
lw´‐ _‐ノv「ドラクエシリーズのをフルセット」
川 ゚ -゚)「持ってるよ! 巨大なシドー持ってるよ!!」
- 49 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:12:34 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「ではこれを」
川 ゚ -゚)「たまごっちは今も人気だよ?」
lw´‐ _‐ノv「ぎゃおっぴ」
川 ゚ -゚)「すぐ死ぬパチモンじゃねーか!!」
lw´‐ _‐ノv「ついでにこのビーダマンを授けよう」
川 ゚ -゚)「ミラー覗きとロングバレルまだ持ってますから!! 締め撃ちって手が痛いだけだから!!」
lw´‐ _‐ノv「ミニ四駆にハイパーヨーヨー」
川 ゚ -゚)「肉抜きしたブロッケンGとパピヨン持ってますから!!」
lw´‐ _‐ノv「ブロッケン肉抜きってどうなのそれ」
川 ゚ -゚)「持ち味の重量感がさよならします」
lw´‐ _‐ノv「じゃあサイクロンマグナムを授ける」
川 ゚ -゚)「肉抜き途中でやめてヘロヘロじゃねーか!! せめて最後までやってよ!!」
- 50 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:14:47 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「はい、ビックリマンチョコ」
川 ゚ -゚)「未だにファイルに入れてしまってますから!!」
lw´‐ _‐ノv「本当に物持ち良いなおい」
川 ゚ -゚)「何でさっきからずっと20代半ばが喜ぶ懐かしのおもちゃ無双なんだよ!!
どこ土産だよ!! 平成の十数年辺りかよ!!! 私まだ二十歳ですから!!!!」
lw´‐ _‐ノv「全てに反応を返してくれる君が好きよ」
川 ゚ -゚)「全部姉ちゃんの影響ですからアアアアアア!!」
lw´‐ _‐ノv「仮面ラーイダーブラーック!!」
川 ゚ -゚)「アールエークスッ!!」
lw´‐ _‐ノv
川 ゚ -゚)
lw´‐ _‐ノv「はい、これお土産のマサイの戦士」
川 ゚ -゚)「わー数年前に流行ったっぽい飲み物だー、間違いなく腐ってるー」
- 51 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:16:23 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「しかし散らかってるねぇ、元は誰の部屋かしら」
川 ゚ -゚)「す、すみません」
lw´‐ _‐ノv「骨董店の方はどう?」
川 ゚ -゚)「さっぱり」
lw´‐ _‐ノv「だと思ったよ、ほら片付けなさい、少しくらい小綺麗にしなきゃ」
川 ゚ -゚)「えぇー……」
lw´‐ _‐ノv「私と同じ布団で寝たいの?」
川 ゚ -゚)「追い出す選択肢は?」
lw´‐ _‐ノv「何で可愛い妹を追い出すの」
川 ゚ -゚)「姉ちゃん……(キュン)」
lw´‐ _‐ノv「ひとりぼっちは寂しいもんな」
川 ゚ -゚)「あたしって本当バカ」
lw´‐ _‐ノv「知ってる」
川 ゚ -゚)「あんまりだ」
- 52 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:18:36 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「自炊はしてないね」
川 ゚ -゚)「うん全く」
lw´‐ _‐ノv「杉浦の子が持ってきてくれるのね」
川 ゚ -゚)「うん」
lw´‐ _‐ノv「その肉まんの山がそれ?」
川 ゚ -゚)「うん」
lw´‐ _‐ノv「どんなバツゲーム?」
川 ゚ -゚)「そうなりますよねー」
lw´‐ _‐ノv「ほら、片付けたら一緒に遊ぼう」
川 ゚ -゚)「何して?」
lw´‐ _‐ノv「いっき」
川 ゚ -゚)「まさかゲーム名が出てくるとは思わなかったよ」
lw´‐ _‐ノv「じゃあギャル麻雀アイドルはハイレート」
川 ゚ -゚)「知ってる人が居るのかも怪しいゲーム名出さないでよ」
- 53 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:21:05 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「ほらほらゴミは捨てなさい」
川 ゚ -゚)「これゴミじゃなくてFF12」
lw´‐ _‐ノv「どう違うの?」
川 ゚ -゚)「好きな人もいるから! そんな事言わないであげて!!」
lw´‐ _‐ノv「このゴミも捨てなさい」
川 ゚ -゚)「それ聖剣4」
lw´‐ _‐ノv「そんなものは無かった」
川 ゚ -゚)「否定できない」
lw´‐ _‐ノv「この産廃は要るの?」
川 ゚ -゚)「それアイルー村」
lw´‐ _‐ノv「否定する?」
川 ゚ -゚)「個人的には嫌いじゃないけどGは買う気が起きない」
lw´‐ _‐ノv「ぶっちゃけG買うなら産廃買うわ」
川 ゚ -゚)「どんな産廃かは聞かないから」
- 54 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:22:03 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「この神ゲーはしまっときなさい」
川 ゚ -゚)「天外ZEROしまっとくね」
lw´‐ _‐ノv「リメイク出ませんかねぇ」
川 ゚ -゚)「出ませんかねぇ……」
lw´‐ _‐ノv「こっちの神ゲーは? リメイク出るけど」
川 ゚ -゚)「あー俺屍はしまっといて」
lw´‐ _‐ノv「この神ゲーも」
川 ゚ -゚)「蛙のために鐘は鳴るね」
lw´‐ _‐ノv「リメイクまで行かなくても良いから配信してほしいよね」
川 ゚ -゚)「これの為なら産廃買うわ」
lw´‐ _‐ノv「3D機能のいらない子ね」
川 ゚ -゚)「今のところアレを買うならvita買うね」
lw´‐ _‐ノv「まあ確かに、新タイトル気になるし」
- 55 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:24:34 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「うん、多少片付いたね」
川 ゚ -゚)「見事にゲームしか無かったね」
lw´‐ _‐ノv「新旧ごちゃまぜに置くの止めなさいよ」
川 ゚ -゚)「いやあ、つい」
lw´‐ _‐ノv「ところでスーファミとか無いのに何でソフトだけあるの?」
川 ゚ -゚)「本体は実家で行方不明、ソフト吸出しプレイ」
lw´‐ _‐ノv「配布はすんなよ」
川 ゚ -゚)「しねーよ勿体ない、買え」
lw´‐ _‐ノv「モラルあって安心したよ」
川 ゚ -゚)「ゲームはパッケージやソフトを並べてニヤニヤしたい派なんで」
lw´‐ _‐ノv「すっげぇ分かる、充実感ハンパない」
川 ゚ -゚)「まあそのお陰で積みゲー増えるんだけどね」
- 56 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:26:09 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「あ、これ」
川 ゚ -゚)「ん? ……ああ、ディディーコングレーシング?」
lw´‐ _‐ノv「いや、オペレーションウルフ」
川 ゚ -゚)「クソほど懐かしいなおい」
lw´‐ _‐ノv「よく並んで一緒にやったよね」
川 ゚ -゚)「私は横で見てるだけだったけどね」
lw´‐ _‐ノv「あの頃は、まだじいちゃん生きてたね」
川 ゚ -゚)「……うん」
lw´‐ _‐ノv「久々に起動してみよっか、ファミコンは本体あるし」
川 ゚ -゚)「うん、じゃあ貸して……あれ」
lw´‐ _‐ノv「ん?」
川 ゚ -゚)「なんか引っ掛かって入らない、何だろ……」
lw´‐ _‐ノv「あら、基盤の所に何か挟まってる」
川 ゚ -゚)「本当だ、よっ……いしょ」
lw´‐ _‐ノv「あ」
川 ゚ -゚)「あ」
- 57 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:28:09 ID:NvHihuhAO
-
ぶわ、と 世界が白で埋まった。
『おねーちゃん』
『んー?』
『じーちゃんが呼んでる』
『えー、いまいいとこなのにー』
『一緒にいこ』
『んー』
あれは、何だ。
幼い頃の、私達?
- 58 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:30:06 ID:NvHihuhAO
-
『来たよ、じーちゃん』
『ああ、来たかシュール』
『またお仕事のはなし?』
『ん、クールは外で待ってなさい』
『……はーい』
一人、店の外に出される私。
店のガラス越しに見える姉と祖父を見る私。
ガラスに写るその私の顔は、今にも泣きそうな、情けない顔。
『あ』
『ん?』
『なおの、何をしている?』
『ロマネスク……』
『しめだされたのか?』
『…………』
『泣くなよ、アイスやる』
『ん』
- 59 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:32:20 ID:NvHihuhAO
-
『シュー姉は、しごとのはなしか』
『うん』
『……さみしいのか?』
『……』
『……』
『姉ちゃん、とおくにいるみたいで、嫌だ』
『そう、だな……なおのはシュー姉が好きだもんな』
『うん』
幼馴染みに渡されたソーダアイスの袋をぱり、と破いて中身を取り出す。
少し溶けたそれを口に運び、店の中を覗いた。
カウンター前の椅子に座る姉と、カウンターの中に座る祖父。
二人は真面目な顔で話していて、私はそれが嫌だった。
姉ちゃんは、いつもぼんやりと微笑む。
私はその顔が好きで、私より背の高い姉ちゃんが大好きで、一緒にいると幸せで。
でも、祖父と話す姉ちゃんの顔は、まるで私の知らない人。
- 60 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:34:05 ID:NvHihuhAO
-
祖父も姉ちゃんも好き、思い出屋をする祖父も、店も好き。
けど、思い出屋と関わる姉ちゃんは嫌だった。
そんな姉が、不意に、険しい顔をした。
不思議に思った私は、二人の会話に耳を澄ませる。
『じゃ……クー…………店……』
『ああ…………店は……あいつには……』
『よく、聞こえないな』
『うん……』
『ドアの下のとこ、耳あてよう』
『どうして……クーはお店を継げないの?』
『っ……』
『……なおの、』
- 61 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:36:07 ID:NvHihuhAO
-
『へいき、わかってるから』
『……そうか』
『わたしはいや、クーと一緒じゃないならお店は継がない』
『そうわからない事を言うな、シュール』
『いや、わたしよりクーの方がお店に向いてるのに、なのにわたしが継いで離ればなれなんて』
『あいつに店は向かん、クールは弱すぎる』
『嫌だよっ! わたしはクーと一緒じゃないならお店なんて継がないっ!!』
『シュールッ!』
『何が向かないの!? そんなにクーがいけないのっ!? わたしの妹だからっ!?』
『あいつに店を継ぐ資格が無いんだッ!!』
『だからって!? だからってクーと会えなくなるって言うのっ!? 妹とずっと会うなって!? 』
『つらいだろうが、それが宿命なんだッ!!』
『知るもんかそんなのっ!! わたしはクーと一緒に居るッ!!』
- 62 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:38:03 ID:NvHihuhAO
-
べちゃり。
手から、溶けたアイスが滑り落ちた。
会えなくなる?
姉ちゃんがお店を継いだら、私と姉ちゃんは会えなくなる?
生まれてからずっと一緒にいた姉ちゃんに?
なんで、どうして、そんな
『……な、なおの……なおの?』
嫌、姉ちゃんは私の姉ちゃんなのに、私だけの姉ちゃんなのに。
会えなくなるなんて、そんな、宿命だなんて、そんなの、私、
『ッ…………うわぁああああんっ!!』
『なおのっ!?』
- 63 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:40:15 ID:NvHihuhAO
-
店から離れて、逃げ出した。
背中へかけられる幼馴染みの声と、祖父と姉の声。
でも私は止まらずに、店から離れたくてひたすら逃げた。
ああ、私は、
思い出屋が、大嫌いなんだ。
私から姉を奪った思い出屋が。
あの店が。
憎くて憎くて、しょうがないんだ。
- 64 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:42:14 ID:NvHihuhAO
-
いつも一緒に居た。
引っ込み思案で、友達の出来ない私を引っ張ってくれた。
お風呂も寝る時も、いつも一緒。
姉ちゃんは嫌じゃないかって、一度だけ聞いた。
その返事は、私の頭を軽くはたいて、にっこと笑って、
『バカ言わない、わたしはクーと一緒が好きなの』
私は、姉ちゃんが大好きだ。
勉強が出来て、可愛くて、運動神経も良くて、何でも出来る姉ちゃん。
比較されて悲しくもなったけど、それでも、大好きで。
姉ちゃんのいない毎日なんて、想像すら出来ない。
それなのに、姉ちゃんから引き離されるだなんて。
- 65 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:44:09 ID:NvHihuhAO
-
『なおの』
『……』
『シュー姉、探してる』
『……』
『帰ろうよ、なおの』
『……』
『……なおの、帰ろう』
『やだ……』
『なおの、』
『帰ったら……おねーちゃん、いなくなる』
『いなくならないよ』
『いなくなる……』
『なおの……そんなに、シュー姉を困らせたいのか?』
『っ……そんな、じゃ』
『そんなこと言ってたら、困るのはシュー姉だ』
『そん、なの……っ』
- 66 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:46:21 ID:NvHihuhAO
-
『一緒にかえろう、な』
『…………』
『アイス、またやるから』
『……う、ん』
『シュー姉と一緒が良いなら、一緒にいれるようにしよう』
『一緒、に?』
『きっとある、なおのとシュー姉が一緒じゃないなんて、変だし』
『……うん』
『今日はカレーだって、はやくかえろう』
『うん』
私の手を握る幼馴染みの手は、少し汗ばんでいて、私より大きかった。
- 67 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:48:11 ID:NvHihuhAO
-
川;゚ -゚)「ッ!!」
lw´‐ _‐ノv「あら……駄目よ、途中で手を離しちゃ」
川;゚ -゚)「姉ちゃん……今の、……」
lw´‐ _‐ノv「分かるでしょ、思い出の持ち主なら」
川;゚ -゚)「なん、で……私が……」
lw´‐ _‐ノv「思い出屋が売る思い出は、その思い出が必要になった人へのみ」
川;゚ -゚)「この思い出が、今必要だってのかよ……ッ!?」
lw´‐ _‐ノv「そうだよ、わかってるんでしょ? 今クーには、環境に変化が訪れてるんだから」
川;゚ -゚)「…………思い出屋が……思い出を、買うなんて……」
lw´‐ _‐ノv「思い出屋にだって、思い出はある……私にも、クーにも」
川;゚ -゚)「…………見たくない」
lw´‐ _‐ノv「駄目」
- 68 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:50:41 ID:NvHihuhAO
-
川;゚ -゚)「コレが……私が、思い出したくない思い出の持ち主だって言うのかよ……こんな……ッ」
lw´‐ _‐ノv「触れなさい、ちゃんと……受け入れなさい、全部」
川;゚ -゚)「いや…………嫌だ……私は、これは……」
lw´‐ _‐ノv「ゲームの中に引っ掛かってたのは、これ……鍵だよ」
川;゚ -゚)「……」
lw´‐ _‐ノv「いつまで、自分に鍵をかけ続けるつもりなの」
川;゚ -゚)「……私、は」
lw´‐ _‐ノv「続きを、思い出した?」
川;゚ -゚)「いや、嫌だ……見たくない、知りたくない……ッ」
lw´‐ _‐ノv「違う、知るんじゃない、知ってるの、みんなクーの記憶なんだから」
川;゚ -゚)「嫌だッ!! それの、それのせいで、あのあと私は……ッ姉ちゃんは……ッ!!」
lw´‐ _‐ノv「見たくないなら、話してあげる、あなたの思い出は私の思い出でもあるんだから」
川;゚ -゚)「やめ、止めてよ、姉ちゃん……私は……」
- 69 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:53:25 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「クーの一言で、私は家に居られなくなった」
川;゚ -゚)「やめてッ!」
lw´‐ _‐ノv「あなたと、クーと一緒に居るために、私は思い出屋としての修行に出た」
川;゚ -゚)「姉ちゃん、姉ちゃん、やめて、お願いだから」
lw´‐ _‐ノv「そしてクー、あなたは思い出屋店主代理としてここにいる
私の居場所を、あなたが奪ってここにいるの、私が座るべき場所に、あなたが座るの」
川; - )「姉ちゃんやめてよぉおおおおおッ!!」
lw´‐ _‐ノv「また逃げるの? 私から、現実から、そうも逃げ出したいの?」
川; - )「違う、違う違うわたしはただ、姉ちゃんと一緒に、居たくてッ」
lw´‐ _‐ノv「一緒に居たかったから、逃げて、奪って、目をそらし続けるのね」
川; - )「やぁあああああああッ!!!!」
- 70 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:54:05 ID:NvHihuhAO
-
私の中に、ずっと押さえ込んできた何かが、弾けた。
姉ちゃんと一緒に居たい。
そう願っただけだった。
けれどその一言で、姉ちゃんは家から出る事になった。
祖父は言う。
『ならそう出来るだけの力を付けろ』
姉は言う。
『ならやってやる、大人になったらすぐにでも』
姉は成人してすぐ、家から居なくなった。
そして空いた店主の座に、私が座った。
わたしは、何もしていないのに。
- 71 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:56:22 ID:NvHihuhAO
-
ただわがままを言っただけで、店主と言う名誉ある座を手にした私。
それはたとえ代理だとしても、本来なら得られはしない座。
姉ちゃんが、私のわがままで遠くに行ったと言うのに。
姉ちゃんが、苦労して道を模索しているのに。
私はただ、座るべきではない場所に座り、日々を怠惰に過ごした。
首をもたげるのは、罪悪感。
私のせいで、姉ちゃんが大変な思いをしている。
私のせいで、姉ちゃん居場所がなくなった。
私のせいで、私の手で、何もかも、奪い去ってしまった。
私のせいで、私のせいで、私のせいで。
ずっと、その罪悪感を押し潰して座っていた。
だって罪悪感に手にしたままだと、私が壊れてしまったから。
何もかも手放して、目を背けて、
私は姉ちゃんから逃げている。
- 72 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 21:58:53 ID:NvHihuhAO
-
小さい頃、わがままを言ったあの時から。
私は、どこへも進めずに、思い出にとらわれ続けて生きている。
姉ちゃんがいなくなって、悲しくてつらくて苦しくて。
でも、次第に悲しむ事からも逃げ出した。
逃げて逃げて逃げて、行き着く先はここ、思い出屋。
思い出に囲まれて、思い出にとらわれて、怠惰な日々に浸っていた。
私は弱いから、変化が怖くて。
あんなに焦がれた姉ちゃんの事も、考える事が怖くなって。
lw´‐ _‐ノv「思い出になれるのは、その時の長男長女のみ」
川; - )「……」
lw´‐ _‐ノv「特にクー、あなたは思い出にとらわれる弱さが、昔からあった」
川; - )「…………」
lw´‐ _‐ノv「だから、じいちゃんはクーには無理だって言ったんだね」
川; - )「ね、ちゃ……」
- 73 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:00:33 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「でも私はね、クーは思い出屋に向くと思ってるんだよ」
川; - )「へ……?」
lw´‐ _‐ノv「だって私は、クーみたいに弱くないから
弱さはマイナスじゃない、感受性や甘さでもあるの、あなたは心が優しい子」
川;゚ -゚)「姉……ちゃん……?」
lw´‐ _‐ノv「私は意地悪だから……クーにこんな事を言う、意地悪な姉だから」
川;゚ -゚)「そんな、姉ちゃんは……」
lw´‐ _‐ノv「クーは、こんな私にずっと罪悪感を抱き続ける優しい子
私は、そんなクーに怒った様に見せる意地悪な姉なんだよ」
川;゚ -゚)「…………怒って……ない、の……?」
lw´‐ _‐ノv「……クーは、私が店主の座を奪われて怒ってるって思い続けてたの?」
川;゚ -゚)「……うん」
lw´‐ _‐ノv「ばっかだなあ、クーは……馬鹿で優しくて陰気で意気地無しのヘタレだなあ」
川;゚ -゚)「ご、ごめ……ん」
lw´‐ _‐ノv「内向的で繊細で、人の痛みにとにかく敏感で、傍若無人な虚勢の中にこもって」
川;゚ -゚)「あ、ぅ……」
lw´‐ _‐ノv「……だから、クーは思い出屋に向くって言ったのに、じいちゃんったら」
- 74 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:02:49 ID:NvHihuhAO
-
川;゚ -゚)「向く……?」
lw´‐ _‐ノv「そ、人の思い出を大切に扱わない人間が、思い出屋に向くわけないじゃない
人の思い出を手荒に扱うような店で、思い出を買いたいと思う? ……思わないでしょ」
川;゚ -゚)「でも、じいちゃんは」
lw´‐ _‐ノv「じいちゃんがクーに向かないと言ったのも、同じ理由
弱すぎて、思い出に潰されて壊れちゃうと思ったからだよ」
川;゚ -゚)「…………」
lw´‐ _‐ノv「私もじいちゃんも、クーに同じ感想を抱きながら、違う選択をしたの
お互い全く譲らなかったから、大喧嘩して私が家から飛び出したってだけの話」
川;゚ -゚)「へ?」
lw´‐ _‐ノv「私がずっとやってたのは、ただの家出」
川;゚ -゚)「え……ぇ、え? え、ちょ、修行……?」
lw´‐ _‐ノv「思い出屋の修行って何すんだよ」
川;゚ -゚)
川;゚д゚)
- 75 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:05:43 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「まあ私が家出したのが二十歳なってすぐで、喧嘩したのは十何年か前か」
川;゚д゚)
lw´‐ _‐ノv「ぶっちゃけそん時にはもうほとんど和解してたけどな!!」
川;゚Д゚)そ !?
lw´‐ _‐ノv「何で家出したんだよと言いたそうな顔だが、その理由は『なんとなく』としか言い様がない」
川;゚ -゚)「はぁあああああああ!!?」
lw´‐ _‐ノv「あーあと家業継ぐのめんどくさかったから」
川;゚ -゚)「ふざけんなぁあああああああああ!?」
lw´‐ _‐ノv「クソ真面目にたわけた事を言ってるだけだよ」
川;゚ -゚)「余計悪いよ! 何だよそれ!? 私のこの数年は何だったの!? さっきからのシリアスは何だったの!?」
lw´‐ _‐ノv「知らんがな」
川;゚ -゚)「ほぎゃああああああああああッ!!!?」
- 76 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:07:32 ID:NvHihuhAO
-
川;゚ -゚)「もうやだ……私はずっと何を悩んでたの……」
lw´‐ _‐ノv「そんなクーを愛してるよ」
川;゚ -゚)「うるせぇチクショウ……チクショウ……店なんかもう辞めてやる……」
lw´‐ _‐ノv「いや待てよ、続けろよ、私が楽できないだろ」
川;゚ -゚)「ふざけんな!! やだよ!! なんかもう色々と嫌だよ!!」
lw´‐ _‐ノv「妹に遅すぎる反抗期が……」
川;゚ -゚)「誰のせいだよおおおおおおおお!!」
lw´‐ _‐ノv「あ、待ってクー! 私のために店を続けて楽をさせてよ!!」
川;゚ -゚)「姉ちゃんのドチビ! あばずれ! 淫乱幼女!!」
lw´‐ _‐ノv「そんなに褒めるなよ!!」
川;゚ -゚)「もう嫌じゃあああああああああああああ!!!!」
lw´‐ _‐ノv「クー! クー!! 待ってー!!」
lw´‐ _‐ノv
lw´‐ _‐ノv「行っちゃった……実家のクーの部屋、物置状態なのに……」
- 77 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:08:14 ID:NvHihuhAO
-
lw´‐ _‐ノv「……あーあ」
lw´‐ _‐ノv
lw´‐ _‐ノv「…………クーに久々に会えて、本当に嬉しかったのは事実なんだけどな……」
店を飛び出した寝巻き姿の妹の背中を見送り、私は万年床の煎餅布団に転がる。
懐かしい祖父の匂いと、妹の匂い。
そっと細い目を閉じて、私はため息をついた。
いつだって、私はいじめっこだ。
本心を隠さず、言葉で飾って相手を傷付ける。
たとえその内側に、もっと大きな好きと言う感情が隠れていても。
それが姿を見せる事は、まるで無い。
こうやって私は祖父と喧嘩をして、妹を傷付けて、
捕らわれ続けているのはクーだけじゃない、私もだ。
だから、私には思い出屋は向かないと言ったのに。
- 78 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:09:58 ID:NvHihuhAO
-
まぶたを持ち上げ、暗く染み付いた天井を見上げる。
古い木目が、胸をちくちくとつついた。
どうすれば良いのか、どうすれば最善か、最初から分かっていて、今でもわからない。
ただひとつ、はっきりと分かるのは
lw´‐ _‐ノv「クーが帰ってくるまで、店やるかぁ……」
あの子は、帰ってくる。
この大嫌いでしょうがない思い出屋に、あの子は帰ってくる。
lw´‐ _‐ノv「……それまでに、片付けちゃおうかしら」
だってあの子の居場所は、ここなんだから。
どこに行っても孤独を感じるくらいなら、思い出にとらわれるのもきっと悪くはないさ。
ねぇクー、意地悪な姉ちゃんで、ごめんね?
おわり。
- 79 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:11:13 ID:NvHihuhAO
- 本日はここまでー
なかなか投下が出来ず間が空く事が多くて申し訳ないです。
お陰で冒頭を書いた時期は暑かったのにもう寒いです
皆さん風邪に気を付けて全裸に靴下でお過ごしください。
たぶんあと二回くらいで終わりますので、どうぞお付き合いくださいまし。
それでは、これにて失礼!
- 80 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:15:57 ID:6d9UEUXIO
- 乙
後二回で終わるのかー
全裸靴下にネクタイで待ってる
- 81 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:18:45 ID:0R26uMq.0
- 乙
面白かった
靴下重ね履きして待ってる
- 82 :名も無きAAのようです:2011/09/25(日) 22:34:19 ID:twmmHG8Y0
- くるの待ってたよ、乙
シュー…お前って奴は…
- 83 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:15:09 ID:KS7qCuO.O
-
( ΦωΦ)「こんしゃーす、杉浦亭の出前でーす」
lw´‐ _‐ノv「あーい」
( ΦωΦ)
lw´‐ _‐ノv
( ΦωΦ)「すみません間違えましたー」
lw´‐ _‐ノv「間違ってない間違ってない」
( ΦωΦ)「いいや間違ってる今ごろ海外で裏カジノで富豪になってるはずの人が居るなど」
lw´‐ _‐ノv「どこからどうしてそうなった」
( ΦωΦ)
lw´‐ _‐ノv
( ΦωΦ)「シュー姉?」
lw´‐ _‐ノv「はいな」
【思い出屋さんのようです】
( ΦωΦ)「えっ?」
- 84 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:17:37 ID:KS7qCuO.O
-
( ΦωΦ)「白目……クーは?」
lw´‐ _‐ノv「実家へ」
( ΦωΦ)「何でシュー姉がここに?」
lw´‐ _‐ノv「帰って来たから」
( ΦωΦ)「何で?」
lw´‐ _‐ノv「自分の店に帰って来ちゃ駄目なの?」
( ΦωΦ)「あ、いえ……えぇ……?」
lw´‐ _‐ノv「それよりご飯」
( ΦωΦ)「あ、はい……肉まんどうぞ……」
lw´‐ _‐ノv「どんな罰ゲームだよ……ここに来てからずっと肉まん食ってたぞ……」
( ΦωΦ)「いや、クーだと思って……」
lw´‐ _‐ノv「あの子どんな嫌がらせ受けてんのよ……」
( ΦωΦ)「取り敢えずはい、肉まん30個」
lw´‐ _‐ノv「一食分じゃねーか」
( ΦωΦ)「えっ」
lw´‐ _‐ノv「えっ」
- 85 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:19:28 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「美味しいけど血糖値が怖いわーこれ」
( ΦωΦ)「その体長で血糖値て」
lw´‐ _‐ノv「いくら私が身長130cmの美ロリボディつっても二十歳越えてるから」
( ΦωΦ)「合法ですね」
lw´‐ _‐ノv「好きにして良いのよ」
(*´ΦωΦ)「えっ、あ……え……その……」
lw´‐ _‐ノv「照れんなよ困るだろうが」
(*´ΦωΦ)「や、す、すみません……」
lw´‐ _‐ノv「その顔止めろよ戸惑うだろうが、童貞かお前は」
(*´ΦωΦ)「……」
lw´‐ _‐ノv「激しくボケたんだから突っ込んでくれよ……妹が恋しいよ……」
(*´ΦωΦ)(姉譲りだなーあいつ)
- 86 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:21:10 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「全く困ったロリコンだよ君は」
( ΦωΦ)「いえ別にそう言うわけでは」
lw´‐ _‐ノv「気にするな君の嗜好は把握している」
(*´ΦωΦ)
lw´‐ _‐ノv「その顔やめろって……淫乱美幼女ボディのシューちゃんも戸惑うわ……」
lw´‐ _‐ノv←130cm無乳22歳
川 ゚ -゚)←170cm巨乳20歳
( ΦωΦ)←190cm魔乳18歳
lw´‐ _‐ノv「要るのかよ今の補足」
( ΦωΦ)「さあ」
lw´‐ _‐ノv「こんな時だけクールになんなよ」
- 87 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:23:12 ID:KS7qCuO.O
-
( ΦωΦ)「で、店どうすんスか」
lw´‐ _‐ノv「やるよ」
( ΦωΦ)「クーは?」
lw´‐ _‐ノv「一緒にやりたいなーって」
( ΦωΦ)「そのクーは?」
lw´‐ _‐ノv「帰っちゃった」
( ΦωΦ)
lw´‐ _‐ノv
( ΦωΦ)「どうすんの?」
lw´‐ _‐ノv「悩んでたけど悩むの諦めた」
( ΦωΦ)「シュー姉」
lw´‐ _‐ノv「はいな」
( ΦωΦ)「アホだろ」
lw´‐ _‐ノv「シビアだな君」
- 88 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:25:10 ID:KS7qCuO.O
-
( ΦωΦ)「ほらもー、またアホな事言ってあいつしょげたんでしょー?」
lw´‐ _‐ノv「出ていった理由はただの家出だって告げた」
( ΦωΦ)「ふざけんな」
lw´‐ _‐ノv「まさかここでまで怒られるとは」
( ΦωΦ)「それは怒るよ、それはしょげるよ、それは駄目だよ」
lw´‐ _‐ノv「いや、うん、超ごめん」
( ΦωΦ)「無いわ、引くわ、ドン引きだわ」
lw´‐ _‐ノv「ごめんて、ごめんて本当に……そんな怒るなよ……」
( ΦωΦ)「クーに謝ってきなさい」
lw´‐ _‐ノv「あとで」
( ΦωΦ)
lw´‐ _‐ノv
( ΦωΦ)「飯抜き」
lw´‐ _‐ノv「ごめんなさい」
- 89 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:27:15 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「はーあーもークーにもロマ男にも怒られるしもー」
( ΦωΦ)「ロマ男言うな」
lw´‐ _‐ノv「今日中には迎えに行きますよーだ、それよりそっちの棚見てこいよ」
( ΦωΦ)「は?」
lw´‐ _‐ノv「行けよ、あんた背中が煤けてるぜ」
( ΦωΦ)「喧しいわ」
lw´‐ _‐ノv「黙って行け」
( ΦωΦ)「何なのよ急に……分かりましたよーだ行きますよーだ」
lw´‐ _‐ノv「はいはい行け行け」
lw´‐ _‐ノv
lw´‐ _‐ノv「……久々の仕事、かあ」
- 90 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:29:04 ID:KS7qCuO.O
-
( ΦωΦ)「んっとにもう……何なのだシュー姉は……」
( ΦωΦ)「居なくなったと思ったら戻ってきてるし……」
( ΦωΦ)「しかも居なくなった理由が理由だし……」
( ΦωΦ)「アホなんちゃうんかシュー姉」
「聞こえてんぞー」
(ΦωΦ )「我輩は事実しか口にしてませーん」
「ファック」
(ΦωΦ )「やかましい」
( ΦωΦ)「全くもう……大体、なぜにこんな客の様な真似を……」
( ΦωΦ)
( ΦωΦ)(……思い出、手放したのか? 我輩が?)
( ΦωΦ)「…………」
- 91 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:31:27 ID:KS7qCuO.O
-
見慣れたがらくたまみれの棚。
そこはいつも、客の思い出が並ぶ場所。
我輩から見ればがらくたでも、きっと思い出の持ち主からすれば大切なもの。
そんな中に、我輩の思い出も存在するのだろうか。
( ΦωΦ)(我輩の……思い出……)
ゆっくりと、上から順に棚を見る。
見覚えのある物はまだ見つからない。
腰を屈めて棚の下を覗き込む。
埃をかぶったがらくたまみれ。
( ΦωΦ)(あ、)
手放してしまった思い出。
手放したかった思い出。
そのいずれかはわからない、我輩の思い出。
手を伸ばす、くたびれたケーキカップ。
- 92 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:33:30 ID:KS7qCuO.O
-
よれよれの、紙製ケーキカップを手に、我輩はカウンターへと戻る。
そこに座るのは、まるで何年も前からそこに存在していた様なシュー姉の姿。
肘をついて、手を組んで、顎を乗せて。
にっこりと、我輩を見て笑った。
ああ、この人は、
lw´‐ _‐ノv「おいで、ロマネスク」
( ΦωΦ)「う、む……」
lw´‐ _‐ノv「あなたの手放した、あなたの思い出……あなたの中へと返してあげる」
( ΦωΦ)「……」
悔しいほどに、この人はきれいな人だ。
- 93 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:36:37 ID:KS7qCuO.O
-
そっとカウンターに持ってきたそれを乗せると、シュー姉は嬉しそうに細い目を更に細くする。
何でも見透かしている様な笑顔が、悔しくて、大好きで。
小さい頃から変わらない様な、細くて白い手。
ケーキカップに触れた指先に見とれていると、視界は真っ白に塗り潰された。
白い世界。
声がする。
少女の声が二つと、声変わり前の少年の声。
ああ、あの声は我輩。
そして、二つの声は、
『ロマネスク、なにしてるの?』
『こっちおいで、一緒に遊ぼう』
幼馴染みの姉妹が、笑顔で手招きをしている。
我輩は照れながら、二人のそばへと歩み寄った。
- 94 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:38:34 ID:KS7qCuO.O
-
この頃はまだ、シュー姉の背が一番高かった。
シュー姉、我輩、直野と言う階段状態で、それが悔しかった。
女子達と遊ぶ事を恥じた事など一度も無いが、女子に身長で負けるのは悔しかったな。
お陰で今は2m近い身長なのだが。
姉妹はビニールシートの上に、ままごとセットを広げて我輩を呼ぶ。
どうせ父親役にでもなれと言うのだろう、女子はままごとが本当に好きだ。
『ロマネスク、おかあさん役やって』
『まさかの』
『クーが娘でわたしは小姑ね』
『なにその組合わせ』
『旦那が蒸発して嫁と孫だけが残された家にやって来た旦那の母親が嫁をいびるっていう』
『やだよそんなリアルなままごと』
- 95 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:40:36 ID:KS7qCuO.O
-
『あらロマネスクさん、ここに埃がたまってますわ。そんなだからあの子が出て行ったのね』
『ちょ、おま、』
『おかーさん、おなかすいたー』
『えっ、ちょ、』
『あら嫌だわロマネスクさん、娘にご飯も作ってあげないだなんて、母親失格ではなくて?』
『……』
『おかーさーん』
『ほらクーちゃんいらっしゃい、おばあちゃんがご飯を作ってあげるわ』
『結構ですわお義母様、その子は私が育てると言ったじゃありませんか』
『ノリよった』
- 96 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:42:13 ID:KS7qCuO.O
-
『それよりもご自分の息子の教育はどうなっていたんでしょうね、我が子を置いて蒸発なんて』
『まあっ! うちの子が悪いとでもおっしゃるのかしら!?
あなたに妻としての魅力が無かったのが原因でしょう!?』
『あら不思議ですわねお義母様、ならお義母様に連絡くらい行くのではありませんか?
あの人は誰にも、お義母様にも、何も言わずに、突然、消えたんじゃないですか』
『まあぁぁぁっ……! 何て嫁なのかしらロマネスクさんっ! あの子が悪いと言うつもり!?』
『あら、私はそんな事、ひとっことも言ってませんわ?
さあこっちへいらっしゃいクー、すぐご飯にしますからね』
『はーいおかーさん』
『待ちなさいロマネスクさんっ! まだ話しは終わっていませんよっ!?』
『すみませんお義母様、クーがお腹を空かせているので、親としての勤めを果たしますわ』
『なっ……なんって嫁なのかしら……っ!!』
- 97 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:44:28 ID:KS7qCuO.O
-
『ダメじゃんロマネスク』
『個人的には善戦したつもりだよ』
『嫁いびりなのにただの嫁姑バトルだよ』
『知らんよ』
『ロマネスク、おなかすいた』
『ままごと関係なくハラヘリか』
『うん』
『じゃあうち来い、なんか探す』
『わーい』
『わーい』
『ハラヘリ増えとる』
- 98 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:46:37 ID:KS7qCuO.O
-
『参ったな、何も無いか』
『おなかすいたー』
『おなかすいたー』
『あーはいはい……なんか作れるかな……』
キッチンで見つけたホットケーキミックス。
そのパッケージ裏に書いてあった、カップケーキの作り方。
他に食う物も見つからず、我輩はそれを作ってみようと材料や道具を集める。
カップケーキならば火も使わず、電子レンジのみで作れる。安全面でも安心できた。
粉を卵と牛乳で溶き、偶然あったケーキカップに入れる。
それを電子レンジに並べ、数分。
軽快な音をさせる電子レンジを開いてみれば、そこには湯気の立ち上るふわふわのカップケーキ。
甘い匂いを漂わせるそれらを皿に並べ、牛乳をコップに注いで二人の元へ持っていった。
- 99 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:48:22 ID:KS7qCuO.O
-
カップケーキを見た二人の顔は、ぱっと明るくなった。
いいにおい、おいしそう、と口々に言う姿が、妙に嬉しくて。
そしてカップケーキを頬張る二人の顔が、底抜けに嬉しそうで、美味しそうで。
ああ、我輩は、この顔が好きだ。
誰かの喜ぶ顔が。
嬉しそうに、我輩の作ったものを頬張る姿が。
この姉妹が、幸せそうに笑うのが。
( ;ωΦ)「あ……」
( ⊃ω;)
( ⊃ω∩)
だから我輩は、今でも料理を作るんだ。
- 100 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:50:28 ID:KS7qCuO.O
-
ああ、そうだ。
そうだ、我輩は。
直野姉妹が幸せそうに食べるから、我輩はいつも、暇さえあればお菓子を作って。
二人に食べさせては、嬉しそうな顔に、嬉しくなって。
我輩が今でも料理をする理由。
我輩が今、調理系に進みたい理由。
我輩は、二人が好きだ。
( ⊃ω∩)「……」
lw´‐ _‐ノv「受け取ったね、思い出」
( ⊃ω∩)「う、む……」
lw´‐ _‐ノv「今、あなたが必要としている思い出……進路についてだね」
( ⊃ω∩)「……」
lw´‐ _‐ノv「ロマネスク」
( ⊃ω∩)「む……」
lw´‐ _‐ノv「あなたの作るお菓子も、あなたも、大好きだよ」
- 101 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:52:47 ID:KS7qCuO.O
-
( ⊃ω∩)「シュー姉……」
lw´‐ _‐ノv「もちろん、クーも……ロマネスクが大好きだよ」
( ⊃ω∩)「む……」
lw´‐ _‐ノv「クーもロマネスクも、素直じゃないからね……たまには素直になりな」
( ⊃ω∩)「素直クールのくせに……」
lw´‐ _‐ノv「まあ確かに」
( ΦωΦ)「はぁ……進むべき道は、ちゃんとわかった……ありがとうシュー姉」
lw´‐ _‐ノv「どういたしまして」
( ΦωΦ)「代金は?」
lw´‐ _‐ノv「また、あのカップケーキつくってちょうだいな?」
( ΦωΦ)「…………わかった」
lw´‐ _‐ノv「クーと、楽しみにしてる」
( ΦωΦ)「うむ…………クー、迎えに行くか?」
lw´‐ _‐ノv「そうね……んじゃ、一緒に行こうか」
( ΦωΦ)「ん」
- 102 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:54:55 ID:KS7qCuO.O
-
からんころん。
( ΦωΦ)「あれ」
lw´‐ _‐ノv「ん?」
( ΦωΦ)「何で普通に店出てるの?」
lw´‐ _‐ノv「今さっき行くって言ったからじゃん?」
( ΦωΦ)「いや、普通は思い出ひとつ見たらもう終わったから」
lw´‐ _‐ノv「メタ言うなよ萎えるだろうが」
( ΦωΦ)「いやマジで」
lw´‐ _‐ノv「ロマ男の思い出が何の山も落ちも無かったからレス数すくねーんだよ、18レスだよ」
( ΦωΦ)「ドメタじゃねーか」
lw´‐ _‐ノv「しょうがねーだろこのまま最終回だよ」
( ΦωΦ)「最終回は次回だろ」
lw´‐ _‐ノv「めんどくせーからコレが最終回だよ」
( ΦωΦ)「えっ」
- 103 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 21:58:09 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「はいはい実家行くぞー」
( ΦωΦ)「えっ、ちょ、えっ?」
lw´‐ _‐ノv「このまま前後編にする事もなく最終回だよ!」
( ΦωΦ)「投げ遣りすぎるよ!」
lw´‐ _‐ノv「文句言うなよ! 不定期にしたらガチでなかなか書かないんだよ!!」
( ΦωΦ)「自分のせいじゃねーか!! つーかメタはもう良いよ!!」
lw´‐ _‐ノv「言い出したのお前だろうが! 近々俺屍リメイク出るから必死なんだよ!!」
( ΦωΦ)「ゲームしたいだけだよ! ゲームしたいだけだよ!!」
lw´‐ _‐ノv「そうだよ積みゲー必死で崩してんだよ!!」
( ΦωΦ)「グランナイツ積まずにやれよ!!」
lw´‐ _‐ノv「うるせー死ね!!!!」
- 104 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:00:40 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「さ、実家につきましたね」
( ΦωΦ)「そんな平然と」
lw´‐ _‐ノv「過去は引き摺らない良い女なの」
( ΦωΦ)「あーはいはい、おばさーん杉浦ですー」
ノパ⊿゚)「お! 杉浦くん!」
( ΦωΦ)「相変わらずお小さい、クー居ます?」
ノパ⊿゚)「杉浦くんは相変わらずでっかいね! そっちのは私の娘?」
( ΦωΦ)「あーはい、娘さんです、ほらシュー姉ご挨拶」
lw´‐ _‐ノv「おかんただいまー」
ノパ⊿゚)=三⊃#) _‐ノvそ デュクシ
- 105 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:02:12 ID:KS7qCuO.O
-
lw´#) _‐ノv
lw´#) _‐ノv「え?」
ノハ#゚⊿゚)「突然家出してバカ娘!!」
lw´#) _‐ノv「あ、ごめんなさい、もう多分しません」
ノハ#゚⊿゚)「よし!!」
( ΦωΦ)(ちっせー母娘だなあ)
ノパ⊿゚)←120cm 38歳 爆乳
( ΦωΦ)(胸の遺伝子はクーに行ったのか)
ノパ⊿゚)「あ、クーだったね?」
( ΦωΦ)「あ、はい」
ノパ⊿゚)「さっき入れ違いで出てっちゃった」
( ΦωΦ)「なんつう」
- 106 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:04:27 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「なんだ、クーって部屋から出られたんだ」
ノパ⊿゚)「部屋が物置状態でへこんでた!」
lw´‐ _‐ノv「ははは、ざまぁ」
ノパ⊿゚)「シューの部屋もね!」
lw´‐ _‐ノv「ははは、ひでぇ」
( ΦωΦ)「で、クーはどこ行ったのか分かります?」
ノパ⊿゚)「さあ?」
( ΦωΦ)「ですよねー」
ノパ⊿゚)「まあ、でも」
( ΦωΦ)「?」
ノパー゚)「店だと思うよ?」
- 107 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:06:14 ID:KS7qCuO.O
-
にっこり笑うヒートおばさんの言葉を信じ、先ほど来た道を戻る。
シュー姉は腑に落ちないといった顔をしているが、我輩は何となく予想していた。
lw´‐ _‐ノv「むう……クーは店、嫌いなのになあ……」
( ΦωΦ)「ま、行ってみりゃわかる」
lw´‐ _‐ノv「まあね……母さんが言うんだし……」
( ΦωΦ)「おはさんは、そんなに勘が良いのか?」
lw´‐ _‐ノv「アホみたいな顔しといて、なーんでもお見通し」
( ΦωΦ)「親をアホとか言わないの」
lw´‐ _‐ノv「はーい」
( ΦωΦ)(しかし……クーが店、か……)
( +ω+)(逃げられんもんだなあ、因果ってのは……)
- 108 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:08:16 ID:KS7qCuO.O
-
からんころん。
川 ゚ -゚)「ようこそ、直野骨董店へ」
( ΦωΦ)「あ、本当に居た」
川 ゚ -゚)「ロマネスク、こっちにおいで」
( ΦωΦ)「む? ん、ああ」
川 ゚ -゚)「さ、て…………左奥の棚へどうぞ “お客様” 」
( ΦωΦ)「えっ……」
lw´‐ _‐ノv「…………」
川 ゚ -゚)「あなたの心に引っ掛かった何か、それが必ず見付かるはずです……どうぞ、お探しください」
( ΦωΦ)「クー……」
lw´‐ _‐ノv「……良い仕返しじゃない、受けてたってやんよ」
- 109 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:11:13 ID:KS7qCuO.O
-
店に戻った我輩達を出迎えたのは、カウンターに座る仮店主。
先日の姿からは想像も出来ないような、威風堂々たるその姿。
それはまさしく、店主に相応しい風格。
( ΦωΦ)「(クー、どうしたのだ?)」
川 ゚ -゚)「(実家で母さんと話したんだ、姉ちゃんの事と店の事)」
( ΦωΦ)「(ヒートおばさんと?)」
川 ゚ -゚)「(そしたらさ、母さんは『シューにもクーと同じ様な思い出がある』って)」
( ΦωΦ)「(ははーん……だからか、その態度は)」
川 ゚ -゚)「(見透かすのは、姉ちゃんだけの特技じゃねぇよ)」
こいつ、シュー姉が手放した思い出が何か、もう察してるな。
そしてその思い出が、今必要とされていると感付いている。
( ΦωΦ)(こえー女達)
- 110 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:12:31 ID:KS7qCuO.O
-
何やら、今日は色々あって頭がこんがらがるな。
駆け足過ぎる事もあり、疲れが出始めた。
ええと、確かまずはクーが実家に戻ってシュー姉が帰って来ていた。
そしてシュー姉に我輩の思い出を見てもらい、買い取った。
んでクーを迎えに実家に行くと、クーが居なくてとんぼ返り。
店に戻ってみたらクーが居て、今度はシュー姉の思い出を見る、と。
( ΦωΦ)
( ΦωΦ)「もうちょっと落ち着いた進め方出来なかったの?」
川 ゚ -゚)「これプロット無いのよ、説明乙」
( ΦωΦ)「その場のフィーリングだけって一番タチが悪いな」
川 ゚ -゚)「ちょくちょく矛盾あるぞー、はっはっ」
( ΦωΦ)「最終回くらい真面目にさぁ……」
川 ゚ -゚)「えっ」
( ΦωΦ)「えっ」
- 111 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:14:48 ID:KS7qCuO.O
-
川 ゚ -゚)「これ最終回?」
( ΦωΦ)「うん」
川 ゚ -゚)「ふざけんなよ……」
( ΦωΦ)「ああ、うん……諦めろ……」
川 ゚ -゚)「話の流れ的に大盛り上がりするようなのじゃ無いのはわかってるけど、おま……」
( ΦωΦ)「諦めろ……あとメタ萎えるから止めよ……」
川 ゚ -゚)「うん……」
( ΦωΦ)「……あ、そうだ」
川 ゚ -゚)「ん?」
( ΦωΦ)「我輩、調理進むわ」
川 ゚ -゚)「おう」
( ΦωΦ)「そのキッカケがさ」
川 ゚ -゚)「お前んち行った時のカップケーキだろ?」
( ΦωΦ)
- 112 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:16:04 ID:KS7qCuO.O
-
( ΦωΦ)「…………知ってるの?」
川 ゚ -゚)「覚えてたの、あのカップケーキまた食べたい」
( ΦωΦ)「……明日持ってくる」
川 ゚ -゚)「わーいやった」
( ΦωΦ)「……まあ、喜ぶ顔が好きなんだけどさ……」
川 ゚ -゚)「好きなのはシュー姉だろ?」
( ΦωΦ)
( ΦωΦ)「知ってるの……?」
川 ゚ -゚)「分かるわアホ」
( ΦωΦ)「え……死にたい……今すごい……怒濤の死にたさ……」
川 ゚ -゚)「生きてカップケーキ食わせろ」
( ΦωΦ)「うん……」
- 113 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:18:33 ID:KS7qCuO.O
-
何やら、二人がわいわいと話している。
その仲睦まじい様子は、聞いているだけで少し落ち着く。
あの二人は昔から仲が良いからなあ、あの二人なら幸せになれるんじゃないかなあ。
lw´‐ _‐ノv(こんな私でも、一番大事なのは妹の幸せなのよねー……)
棚をゆっくりと眺め、少しだけ笑う。
仲な良い二人と、まさか私が客になるなんてと言う意外性に。
lw´‐ _‐ノv(クーの仕返しか……前、ひどい見方したからなあ……)
lw´‐ _‐ノv(私も、なかなか不器用だね……)
素直になれないのは、私も、か。
- 114 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:20:09 ID:KS7qCuO.O
-
ゆっくりゆっくりと棚を見て、指でなぞって、ぴたりと止まった指先。
そこにあるのは小さくて、色のくすんだ古い錠前。
ああ。
lw´‐ _‐ノv(……鍵を開け閉めするのは、いつもあの子)
あの子は鍵。
私は鍵がなければ何も出来ない、小さな錠前。
私にとってのあの子は、本当に、大事で大事でしょうがない。
あの子が居なければ、私は何も出来ないんだ。
依存しているのは、私。
- 115 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:22:28 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「持ってきたよ、店主さん」
川 ゚ -゚)「こちらへどうぞ、お客様」
lw´‐ _‐ノv「……どんな思い出を、手放したのかしらね」
川 ゚ -゚)「それは、見てみなきゃ、ね」
にこりと、かすかに笑う妹。
ああ、勝てる気がしない。
私はこの子が、大好きだ。
弱いところ、強いところ、泣き虫で弱虫で、意気地無しで意地っ張り。
みんなみんな、可愛い妹。
そんな妹の手が、錠前に触れる。
その手に、私は手を重ねた。
世界は白で、塗り潰される。
- 116 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:24:20 ID:KS7qCuO.O
-
『おねーちゃん、おねーちゃん』
『なーに、クー』
『何してるの?』
『お仕事の、練習』
『……そう』
寂しそうにうつむく妹が、可愛くて、切ない。
祖父から渡された鍵と錠前、そこに刻まれた思い出を覗く、思い出屋の修行。
持ち主のいない状態でも、思い出を見れる様になるための、修行。
私は思い出屋が嫌いじゃない。
でも私が思い出屋に関わると、妹が悲しそうな顔をする。
それを見るのが嫌で、思い出屋を継ぐ事を拒絶していた。
じいっと、私の手元の鍵を見る妹。
その横顔を、じいっと見つめる私。
ふと目があうと、寂しそうに笑った。
- 117 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:26:27 ID:KS7qCuO.O
-
祖父と毎日喧嘩をした。
妹と離れるのが、妹を悲しませるのが嫌で。
祖父は言う。
『クーは思い出に揺れ動かされる、優しさは弱さになる、あの子にこの仕事は向かない』
私は言う。
『私は思い出にとまどわない、でもそれは冷たさ、そんな人間から思い出を買いたいと思う?』
私はクーの様に、思い出のひとつひとつに感情を動かさない。
どんなに悲惨な思い出も、どんなに痛ましい思い出も、顔色変えずに売れるだろう。
けど、そんな冷たい店主から、思い出を買いたいか?
悲しい思い出に同情し、つらい思い出に眉を寄せ、痛い思い出に恐怖する。
そんな、人間味のある店主だからこそ、思い出を買いたくなるんじゃないか?
- 118 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:30:23 ID:KS7qCuO.O
-
祖父が、そんな人間だ。
悲しみも、苦しみも、痛みも、みんな共有して語り合う様な店主だった。
だからこそ、そのつらさを知るのは分かる。
だからこそ、私が店主に合うと言うのだろう。
でも私は、そんな祖父が好きだったのに。
『おねーちゃん……?』
『ん?』
『おねーちゃん、お店をつぐの……?』
『……』
『おねーちゃんと……はなればなれ、なの?』
この、泣きそうな顔で私を見上げる妹が、たまらなく好きなのに。
- 119 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:31:00 ID:Sr14tKJkC
-
妹と離れたくない。
妹につらい思いをさせたくない。
私がどの道を選ぼうが、妹が悲しむ。
私が店主になれば、妹は寂しがる。
私が店主を拒絶すれば妹が店を継ぎ、苦しむ。
なんて四面楚歌な状況なんだろう。
私の選択肢には、ろくのものがない。
『大丈夫だよ……ずっと、一緒だよ』
だから私は、嘘で塗り固めた笑顔を作る。
そうすれば、妹がその時は、笑ってくれるから。
- 120 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:32:42 ID:KS7qCuO.O
-
結局私は、選択肢から逃げた。
祖父とただただ争い、妹の笑顔を裏切り、家を飛び出した。
あの家出は、妹の悲しむ顔が見たくないからしたんだ。
『おじいちゃん……これ、返す』
『見れたか?』
『……見れたよ』
『…………そうか』
『おじいちゃん、私、』
『お前もクーも、店からは離れられないんだ』
『え、』
『お前達には、そう言う血が流れてしまっているから』
『…………』
『すまない……こんな血筋で』
- 121 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:34:05 ID:KS7qCuO.O
-
祖父の悲しそうな顔は、妹とよく似ていた。
その顔を見たくなくて、見たくなくて、私はひたすらに逃げた。
ああ、この思い出は
『おねーちゃん……ずっと、一緒だよね?』
この思い出は、私の、
『すまない、シュール……』
私の、やるべき事。
- 122 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:36:11 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「……分かった」
川 ゚ -゚)「……姉ちゃん、」
lw´‐ _‐ノv「この店、一緒にやろう」
川 ゚ -゚)「え……?」
lw´‐ _‐ノv「つらい思い出を察すれば、私がそれを見る」
川 ゚ -゚)「姉、ちゃん?」
lw´‐ _‐ノv「だから、普段はクーがここに座っていて」
川 ゚ -゚)「姉ちゃん、でも、ここは」
lw´‐ _‐ノv「ここは、私達の居場所……どっちかだけの居場所じゃない」
川 ゚ -゚)「…………姉ちゃんだけ、つらいじゃん」
lw´‐ _‐ノv「私はどんな思い出でも、心を動かさない……人の痛みを、私の痛みとは感じない」
川 ゚ -゚)「ッ」
- 123 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:38:16 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「クーは、思い出を分かち合う店主で居て」
川 ゚ -゚)「姉ちゃんは……思い出をただ売るだけの店主……?」
lw´‐ _‐ノv「そう……でも、私は苦しくないよ」
川 ゚ -゚)「私、は……」
lw´‐ _‐ノv「クーと一緒に居られる事が、私の幸せだから」
川 ゚ -゚)「私も……私も、姉ちゃんと一緒が良い……」
lw´‐ _‐ノv「二人の店主でも、良いじゃん……一緒に頑張ろう?」
川 ゚ -゚)「うん……私は、どんな思い出でも受け入れられる様になるから」
lw´‐ _‐ノv「私は、少しでも心が揺れる店主になる様に」
川 ゚ -゚)「…………よろしくね、姉ちゃん」
lw´‐ _‐ノv「うん、よろしくね……クー」
- 124 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:40:09 ID:KS7qCuO.O
-
何やら、我輩のよくわからない内に二人は和解したらしい。
詳細は分からんが、姉妹が仲良く出来るのは良い事なのだろう。
もっとも、これが先代の望んだ結末かは分からんが。
我輩は毎日、この二人の元に食事を運ぶ日々が始まる事は、分かった。
( ΦωΦ)(……我輩の思い出も、二人の思い出も、ここに繋がった……か)
因果やら、因縁やらは、全て同じ場所に繋がる。
そしてそれは、容易く断ち切れるものでもないのだ。
二人で並んで店に出る日もあれば、片方だけが店に出る日もある。
これが新たな日常、我輩達を取り巻く変化と、縁。
手放したかった、姉と店の思い出。
手放すべきだった、妹と店の思い出。
手放してしまった、愛しい姉妹の思い出。
その三つが絡まって、我輩達はここに居る。
- 125 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:42:07 ID:KS7qCuO.O
-
姉を奪う思い出屋が嫌いだと、悲しみに任せて手放したかったクーの思い出。
思い出屋として悲しみを持たぬために、手放すべきだったシュー姉の思い出。
面倒臭い姉妹に挟まれて、我輩は今日も店の扉を開く。
からん、ころん。
lw´‐ _‐ノv「ようこそ、直野骨董店へ」(゚- ゚ 川
その骨董店は、様々な思い出が渦巻く埃臭い場所
それこそが
思い出屋さんのようです。
【思い出屋さんのようです おわり。】
- 126 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:43:59 ID:8uagdwlcO
- 乙!
すげえ好きだったから終わるの寂しいな…
- 127 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:44:16 ID:KS7qCuO.O
-
lw´‐ _‐ノv「店も片付いたなー」
川 ゚ -゚)「綺麗になってまあ」
( ΦωΦ)「片付けたの我輩だけどね」
lw´‐ _‐ノv「じゃあ、次に来た人が新しい思い出屋の第一号の客だね」
川 ゚ -゚)「だね、感慨深い特別な人だ」
( ΦωΦ)「無視かよ」
lw´‐ _‐ノv「あ、人来た」
川 ゚ -゚)「おお……ドキドキするな……せーので言うよ姉ちゃん」
からんころん。
lw´‐ _‐ノv「ようこそ、直野骨董店へ!!」(゚- ゚ 川
( ^Д^)「直野ー? こないだ貸したエロゲどうなったー?」
川 ゚ -゚)
( ^Д^)「お? 直野のお姉さんこんちゃー…………どしたん直野」
川 ゚ -゚)「お前、朝日が拝めると思うなよ」
(;^Д^)「急に!? 急に何で即死コール!? 何で!?」
川#゚ -゚)「歯を食い縛れエエエエエエエエエッ!!!!」
(;^Д^)「いやあああああああああッ!!!?」
【おしまい。】
- 128 :名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 22:46:06 ID:KS7qCuO.O
-
今まで読んで下さりありがとうございました。
これにて【思い出屋さんのようです】終わりです。
あと二回で終わると言ったな、あれは嘘だ。
ロマネスクの思い出が思ったより短かったのも本当で、間が空きすぎるのも本当
プロットが無いのも本当で、俺屍が近いのは本当、つまり最終回って事だ。
それでは読んで下さった皆様、まとめて下さった文丸さん、今までありがとうございました!
拙い不定期連載ではありましたが、これにて失礼!!
ttp://imepic.jp/20111030/767141
- 129 :名も無きAAのようです:2011/10/31(月) 01:28:25 ID:d7OzTnM60
- おつ。
ロム専だったけど好きでした。
- 130 :名も無きAAのようです:2011/10/31(月) 01:51:16 ID:BUJ7wBSM0
- ゆるゆるなノリで固めた本筋が美しかった
乙乙
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