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( ^ω^)が祖国ロシアの大地を守るようです
1名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:15:36 ID:2dpRiDM20

 ここはロシアの平和な村。
 農民たちが麦の刈り入れをしている。

( ^ω^) 農作業だりー

('A`) 今日もサボろうぜ

( ^ω^) 把握!

 ブーンとドクオは鎌をそっと置いて麦畑から逃げ出して、
 林の中へと駆け込んだ。

2名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:16:42 ID:2dpRiDM20

( ^ω^) ヒャッハー!自由!フリーダム!
      ここまでくればもうトーチャンにもカーチャンにも見つからないお!

 二人はまだ16歳。少年といっていい年齢だった。

('A`) 今日は何して遊ぶ?

( ^ω^) せっかくの秋だし、狩りの季節だお!

('A`) よーし今日も狩りに行くか!

 二人の少年はこっそりと村の神父さんの家の納屋に行くと、
 そこに立てかけてあった旧式の単発ライフルをこっそり持ち出した。

( ^ω^) あの半分寝てる神父さんはいっつも気づかないお!

 が、神父さんはちゃんと気づいていた。
 窓辺からうっすらとカーテンを開けて少年たちを見ていた。

/ ,' 3 やれやれ。黙って持っていくとは、しょうがない若者たちだのう。
    まあ、あいつらも狩りを覚えるいい機会じゃ。いつもちゃんと返してくるし、大目に見てやるわい

3名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:17:32 ID:2dpRiDM20

 ブーンは銃を持って大はしゃぎで林の中に出て行った。

( ^ω^) さっそく装填するおー!

 ブーンは少ないお小遣いで買った黒色火薬をポケットから取り出して、銃口から銃に詰めた。
 そして、拾った弾丸をあつめて空き缶を鍋代わりにして溶かして作ったお手製の鉛球を、
 銃口から滑り込ませて、最後に込め棒でとんとんとつついて装填した。

( ^ω^) 装填終了!

('A`) うはwwwww獲物早く出て来いwwwwwww

 秋の森は木の葉が落ちて見通しがよく、広々としていた。

 赤や黄色の落ち葉で地面が覆われていた。
 ブーンたちはその中をがさがさと足音を立てて駆け回っていた。

( ^ω^) なかなか獲物がいないお

('A`) あせらずじっくりだぜ!

 平和で静かな、村の一日だった。

4名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:18:17 ID:2dpRiDM20

 1942年 もう冬も近い、秋。
 
 世界ではドイツにヒトラーがいたり日本にトージョーがいたり
 悪い奴らが戦争しまくってるらしいと聞くけど、

 そして祖国ロシアも悪のヒトラー軍団に侵略されている、…らしいけど、

 戦地から遠く離れたこの村では、そんなニュースもどこか他人事だった。





( ^ω^)が祖国ロシアの大地を守るようです  第一話

5名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:19:00 ID:2dpRiDM20

 何時間か二人は森の中を駆け回ったが、鹿にも猪にも出会わなかった。

(;^ω^) さすがに疲れたおー

('A`;) おう、水でも飲みたいな

( ^ω^) そうだお!もうちょっと行けば鉄道の給水所があるお!
      あそこなら給水用の川か何かがあるはずだお!

('A`) お前天才だな よし行こう!

 ほどなくして二人は林の中を走る線路のわきに立っていた。
 その線路に沿って歩くと、すぐに給水所にたどり着いた。

( ^ω^) ついたおー

6名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:22:16 ID:2dpRiDM20

 当時の蒸気機関車は、水を沸騰させた蒸気の力で走っているが、
 そのために「石炭」と「水」を定期的に補給する必要があった。

 給水所はそのための施設だ。
 駅と違って、普段は無人である。

 林を切り開いて、広々としたスペースが作ってある。
 そこに列車が止められるだけの線路が敷かれている。

 線路脇には、いちだん高くなった木製のプラットホームがある。
 枕木のタールのにおいがするホームの一番端には、水をなみなみと湛えた給水塔が立っている。

( ^ω^) あっ、やっぱりあの給水塔の脇に小川があるお!

('A`) ヒャッハー!

 二人は小川に駆け寄って水をガブガブ飲んだ。

7名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:22:58 ID:2dpRiDM20

( ^ω^) 水を飲むと落ち着いたお

('A`) ちょっと休んでくか

 二人はプラットホームに上ると、ライフルを脇に置いてごろりと寝転がった。

('A`) あー気持ちいい

 開けた給水所から見る秋の空は綺麗だった。

 そしていつのまにか二人は眠り込んでいた。

8名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:30:22 ID:2dpRiDM20

 どでかい汽笛の音で、ブーンはびっくりして飛び起きた。

( ゚ω゚) ななななな何だお!

 起きると、なんと物凄く長い列車の列がホームに入線していた。
 貨車が何十両もつながれている。

('A`) すげー。列車だ

 二人の田舎村の若者は、汽車なんてほとんど見たことがなかったので、
 本物の大きな鉄道列車を見てテンションが上がっていた。

( ^ω^) ペロ…この感じ…軍用列車!

 これから前線へ向かう部隊であろうか。
 屋根つきの貨車には、軍服を着たロシアの兵隊がぎっしりと座っていた。
 屋根なしのには、大砲や戦車がむき出しでワイヤーで固定されていた。

9名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:31:26 ID:2dpRiDM20

 とそこに、立派な茶色の軍用外套を着たおっさんが近づいてきた。

( ・∀・) あーそこの二人。君たちは近くの村のロシア国民かね?

 ブーンとドクオは顔を見合わせ、それから頷いた。
 おっさんはブーンの脇においてあったライフルにちらりと目を走らせた。

( ・∀・) 君たちは銃が使えるね?

 ブーンとドクオはふたたび顔を見合わせた。

(;^ω^)(な、何だお、このオッサン)

('A`;)(よくわかんないけど偉い人っぽいぞ?)

 オッサンの胸元には共産党員を示す赤い徽章が光っていた。

('A`;)(党に逆らったらろくなことにならねーからな)

10名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:32:08 ID:2dpRiDM20

( ・∀・) 君たち、愛国心はあるかね

( ^ω^) えー、まあ、それはまあ

( ・∀・) よろしい。君たちを、祖国を守る聖なる戦いに連れて行ってあげよう

('A`) えっ

( ・∀・) そこの太いの。君は体が丈夫そうだ。ライフル連隊に編入だ

( ^ω^) ちょwwwwそんなwwwwいきなりwwwwwwww

 と思ったが何が何だかわからないうちにガチムチの憲兵がブーンを貨車に引いていった。

( ・∀・) そっちのヒョロいのは砲兵連隊ね。後ろの貨車で

憲兵「はっ。同志モララー閣下」

('A`) うわなにをするやめ

 ドクオは後ろのほうへ引きずられていった。

11名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:34:58 ID:2dpRiDM20

( ^ω^) まってまって待つザマス!

( ・∀・) 何かね同志。祖国を守る戦いに赴くのは不満かね?

 モララーと呼ばれた将校は、喋りながら、腰のピストルに手をもっていった。

( ^ω^) まさかそんな不満など滅相も(おそロシア…)

( ・∀・) ならばよろしい

( ^ω^) ただ、あそこにおいてあるライフル、あれは村の神父さんからの借り物なんだお。
      あれだけは返しておいてくれお

( ・∀・) これ?ふむ、よろしい。同志よ心配はいらないぞ。

 モララーはプラットホームに置かれた古いライフルを手に取った。

 そうこうしてるうちに給水を終えた機関車は、汽笛を鳴らして発車した。
 それに引っ張られてブーンの乗った貨車も動き出した。

 列車が動き出してほんの間もなく、モララーがライフルを川に投げ捨てるのを、ブーンは見た。

12名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:36:43 ID:2dpRiDM20

( ^ω^) あーあ…徴兵されちゃったお…

 薄暗い貨車の中でブーンは独り言を言った。
 中は寒かった。
 人でいっぱいだが、貨車の中は人が住むようにはできていなかった。

( ^ω^) トーチャンやカーチャンに連絡もできなかったお。
      最初の町についたら、ハガキでも書くお

兵士 そいつは無理だぜ、ボウズ

 暗がりから兵士が話しかけてきた。

( ^ω^) えっ。軍隊ではハガキを書けないのかお?

兵士 いや。つまり「町に着いたら」ってのが無理なんだよ。
    この列車はスゲエ急いでる。休憩無しのノンストップで俺たちを戦場まで送るんだとよ
    給水、給炭以外の停車は一切無しだ

( ^ω^) テラヒドスwwwwww

13名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:37:57 ID:2dpRiDM20

 ガタゴト揺れ続けるうちに、日が落ちて、夜が来た。
 ただでさえ薄暗かった貨車の中は真っ暗になった。

 物凄い勢いで寒かった。
 外では雪が降り出したらしかった。

 そのうち兵隊たちは三々五々横になり、寝息を立て始めた。
 だがブーンは寒すぎて眠れなかった。

 一晩中歯をガタガタいわせて、体を抱えて座っていた。

 真っ暗闇の中から、兵隊の誰かが、何かをスッとブーンに差し出してくれた。
 軍服らしき服と、キルティングの外套のようだった。

( ^ω^) どなたか存じませんが、ありがとうございますだお

 服は臭かったが、寒いよりは余程ましだった。
 ブーンもようやく眠ることができた。

14名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:39:58 ID:2dpRiDM20

 翌朝、太陽が昇って、貨車の中が少しは明るくなった。
 ブーンはあらためて自分の服を見た。

 形は、他の兵士が来ている軍服と同じもののようだった。

( ^ω^) でもよくみると、黒い何かがこびりついてるお。まさか…血?

(;^ω^) あとこの左胸のところに焦げた小さな穴のようなものが開いているのは何でだお?

(;^ω^) …あまり深く考えないことにするお

 パンと少しの水が配給になった。
 昨日から食べていないブーンはがつがつと飛びついた。
 軍用の酸っぱい押し麦パンと、池の水みたいな臭いがする水だった。

15名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:40:57 ID:2dpRiDM20

 ようやく回りのことを観察する余裕ができた。
 ブーンは貨車に乗っている兵士たちを眺めてみた。

 本物の軍人っぽい兵士もちらほらと乗っているが、
 大部分は、年も職業も出身地もバラバラのようだった。
 みな一様に不安そうな顔をしている。

 おそらくは、行く道々で、ブーンと同じようにいきなり徴兵されて連れてこられた人々なのだろう。
 農民もいれば、学校に通っていそうな若者も、都市の紳士らしい人もいる。

 それぞれが真新しかったりボロボロだったりする、同じカーキ色の粗末な軍服を着ていた。
 銃や武器や手荷物は、誰も持っていなかった。

 みんな押し黙ったまま、寒さに震えていた。

16名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:41:57 ID:2dpRiDM20

( ^ω^) みんなもどこに行くのか、知らされてないんだお

( ^ω^) ……

( ^ω^) ドクオとも離されてしまったお。あいつは元気してるのかお…

( ^ω^) 神父様ごめんなさいだお。大事なライフルを川に捨てられてしまったお

( ^ω^) トーチャン、カーチャン… 村のみんな…

( ;ω;) ブーンはいったい、これからどうなるんだお…

 薄暗い貨車の中は、列車のガタンゴトンという規則正しい音だけが響いていた。




第一話 ここまで

17名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 16:45:19 ID:3uU.GGAY0
    |┃三     , -.―――--.、
    |┃三    ,イ,,i、リ,,リ,,ノノ,,;;;;;;;;ヽ
    |┃    .i;}'       "ミ;;;;:}
    |┃    |} ,,..、_、  , _,,,..、  |;;;:|
    |┃ ≡  |} ,_tュ,〈  ヒ''tュ_  i;;;;|
    |┃    |  ー' | ` -     ト'{
    |┃   .「|   イ_i _ >、     }〉}     _________
    |┃三  `{| _;;iill|||;|||llii;;,>、 .!-'   /
    |┃     |    ='"     |    <   話は全部聞かせて貰ったぞ!
    |┃      i゙ 、_  ゙,,,  ,, ' {     \  >>1は労働名誉勲章だ!
    |┃    丿\  ̄ ̄  _,,-"ヽ     \
    |┃ ≡'"~ヽ  \、_;;,..-" _ ,i`ー-     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |┃     ヽ、oヽ/ \  /o/  |    ガラッ

18名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:17:35 ID:2dpRiDM20


 貨車の旅は何日も続いた。
 日増しに気候は悪くなっていった。

 寒い日が続き、外では吹雪になっているらしかった。
 開け放たれた小さな窓からは、時折雪が舞い込んできた。

 詰め込まれた兵士たち(といっても、昨日までは何も知らない農民や工場労働者だった人たち)は、
 何の情報も与えられず、ただ押し黙って、貨車の中で寒さに震えていた。



( ^ω^)が祖国ロシアの大地を守るようです  第二話

19名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:18:18 ID:2dpRiDM20

( ^ω^) もう今日が何月何日なのかよくわからないお

( ^ω^) 貨車の中はヒマだお

( ^ω^) 何もやることがない

( ^ω^) 飯は少ないし、一日二回しかないし

 そのとき、貨車の前のほうが騒がしくなりはじめた

( ^ω^) 何だお?

兵士 遠くで音が…

 ブーンは耳を澄ませた
 たしかにドーン、ドドーン、パラララララと音が聞こえる

20名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:21:02 ID:2dpRiDM20

( ^ω^) 何だおあの音?雷かお?

(,,゚Д゚) 戦闘騒音さ。俺たちゃついに戦場に着いたらしいぜ

 古参兵士らしいのがぼそっと言った。

( ^ω^) 戦闘騒音…
      いよいよ戦争に行かされるのかお…嫌だお、帰りたいお

(,,゚Д゚) 坊主、死にたくなけりゃ、そういうことはあまり声に出して言わないほうがいいな

( ^ω^) えっ

(,,゚Д゚) お前を引っ張ってきたモララーって奴がいただろ。あいつは政治委員だ

( ^ω^) 政治委員?何だお、それ?

(,,゚Д゚) 簡単に言うと、軍隊の中の監視役さ。
     共産党本部のスターリン直属の部下として派遣されている。
     あいつらには、強大な権力が与えられている。軍のお偉方もあいつらには逆らえない。
     軍隊の中には政治委員がワラワラいる。そいつらに今のお前のセリフを聞かれたら、
     裏切者の敗北主義者だの何だの言われて、殺されるぞ

( ^ω^) そうなのかお…

 そうこうしてるうちに戦闘騒音はどんどん近づいてきた
 一度など、飛行機の音らしいブウウゥゥゥゥン…という不気味な音が上を通り過ぎていった。

21名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:24:19 ID:2dpRiDM20

 突然、列車が甲高いブレーキ音とともに、がくんと前のめりになった。
 そして長いブレーキ音の後に、貨車は完全に停止した。

 ほどなくして入り口ドアが開けられた。
 ブーンがそこから乗り込んでから、何日目かにしてはじめて、外に出るドアが開いたのだ。

「さあさあ出ろ出ろ!!」

 荒々しい声が外からして、ドア付近にいた数人が腕をつかまれてひきずり出された。
 その後にはぞろぞろと貨車の中にいた兵士たちが、不安げにドアに向かった。
 ブーンもその列に入った。

( ^ω^) やっと外の空気が吸えるお!

 がやがやとごったがえす人の列に従って、ドアを通って外に出た。

( ^ω^) うおっまぶしい

 貨車の中の薄暗さに慣れた目に、外のまぶしい光が当たって、ブーンは目がくらんだ。

22名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:27:38 ID:2dpRiDM20

 ようやく目が慣れてきたら、そこは異様な場所だった。

 線路のすぐ脇、目の前には、大きな川が流れていた。
 川幅は一キロ、いやもっともっとありそうだ。

 ロシアの陰鬱な空を写した灰色の水面は、ブーンの見晴るかすかなたまで続いていた。
 「ヴォルガ川だ」と誰かが叫んだ。

 そして川の向こうには、…おかしな街があった。

( ^ω^) 何だお…あれ…

 ブーンは手びさしをして、川向こうにある奇妙な街を観察した。

 大きな街らしかった。中心には、たくさんのビルが立ち並んでいた。
 郊外には民家らしき低い一軒家が続いている

 だが、いくつかのビルは、上が壊されて崩れていた。
 そして街のいたるところから、黒い煙がもくもくと立ち上がっていた。
 閃光がひっきりなしに街のあちこちで光って、数限りない爆発音や銃撃音がしていた。

 そしてそんな街の上を、何十機、何百機もの小型飛行機が、
 爆音を響かせて入り乱れて飛び交っていた。

23名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:29:16 ID:2dpRiDM20

「乗れ!!」

 突然ブーンは怒鳴りつけられて、腕を引っ張られた。
 気がつくと、ヴォルガ川に浮かぶ、ボロボロの渡し舟らしきものの上に乗せられていた。

 船の上には50人くらいの兵士たちが乗せられている。
 そして船べりには、サブマシンガンを持った憲兵がぽつり、ぽつりと等間隔で立っている。
 彼らの銃口は、船の外にではなく、船の中のブーンたちに向けられていた。

 ブーンの乗った船はすぐに出発した。
 漁船みたいなエンジン音を立てて、船は川へと滑り出した。

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 諸君!スターリングラードへようこそ!祖国を守る熱き意思を持った同士たちよ!

 船べりの真ん中に立ってる政治委員のおっさんがメガホンでしゃべり始めた。
 船底に鮨詰めに押し込められたみんなは、一斉にそっちを見た。

( ^ω^)(スターリングラード…聞いたことがある街だお。ブーンの村よりはるか西にある街だお。
      そんなところまで連れてこられてしまったのかお…)

24名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:32:42 ID:2dpRiDM20

 空は灰色に曇っていた。
 遠くでまた爆発音がした。炎が上がったのが遠目に見えた。

 川にはたくさんの船が浮かんでいる。
 そのどれもに、兵士が満載されている。

 機械音、爆発音、銃声。
 船に乗っている新米兵士たちはみな一様に、この異様な戦場の雰囲気におびえきっている。

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 諸君らの情熱と祖国の援助があれば、必ずわれわれは勝つ!!
       こちらには豊富な弾薬がある。食料がある。そして戦車がある。大砲もある。
       それに対し、ドイツ軍は何を持っている?何もない!!
       ロシアの冬に凍えはて、哀れにもヒトラーに脅されて踏みとどまっているだけだ!

 ブーンたちの上で政治委員はのべつ幕なしにしゃべり続けているが、聞いている者はあまりいないし、
 そもそも戦闘騒音のせいでほとんど聞こえない。

 だが次の一節だけは、ブーンの耳にはっきりと聞こえてきた。

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 …者、許可なく後退を始める者、それらはすべて裏切者であり、祖国の敵である。
       一歩でも後退を行ったものは、容赦されない。みな、必ず、 その場で、 射 殺 さ れ る ! ! !

25名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:37:50 ID:2dpRiDM20

「危ない!!」

 誰かが空を指差して、叫んだ。
 船上の者たちは一斉にその方向に振り向いた。

 上空に見えたわずかな黒い点が、ぐんぐん大きくなり、やがてそれは飛行機の形になった。

「スツーカだ!!!」

 ドイツ軍の誇る急降下爆撃機、Ju87-通称「スツーカ」。
 この軽快な小型爆撃機は、目標に向かって急角度で降下し、高い精度で爆弾を落としていく。
 地上で戦う者にとっては悪魔のような存在だ。

( ゚ω゚) ひ、飛行機だお… 敵の飛行機がまっすぐこっちに向かってくるお…

 そのときスツーカの翼に、ぱっぱっと閃光が走った。
 とたんにブーン達の船の後ろのほうにバリバリバリと恐ろしい音がして、それに甲高い悲鳴が覆いかぶさった。
 機銃掃射だった。船の中に無数の機銃弾が撃ち込まれたのだ。
 後部にいた兵士たちの何人もが、腕をもがれ、腹を打ち抜かれて、恐ろしい悲鳴を上げ続けていた。

(;゚ω゚) ちょ、空襲怖すぎだろwwwwってえ、あれ?!

 ブーンの隣にいた兵士が、床に崩れ落ちた。
 その足元に濃い赤の水溜りが急速に広がっていった。

 さらにその上に、船べりから転落してきた憲兵の死体が音を立てて落ちて、のしかかった。

26名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:44:31 ID:2dpRiDM20

 ブーンは死体にのしかかられて、船底に倒れこんでいた。
 起き上がろうとしても、床は血でぬるぬるするし、死体は異様に重たいしで、なかなかうまくいかない。

 そうこうしてるうちに、ブーンたちと並んで走っていた隣の船に、大爆発が起こった。
 その爆風はブーンたちの船の中をなぎ倒して行った。
 爆発で空中に放り出された兵士が、次々と川に落ちていく小さな水柱がたくさん上がっていた。

 隣の船は、オレンジ色の火柱が吹き上がって船体が真っ二つに折れて、あっという間に川に沈んで、
 ぶくぶくと泡だけを残して見えなくなった。
 この大爆発は、スツーカの投下した爆弾が、ブーンたちの船を運よく通り過ぎて、隣の船に当たったにちがいなかった。

 兵士たちはパニックに陥って、怪我をしなかった者もたがいに大声で叫び交わした。

「助けてくれ!!」
「どけ、どけ!!!!」

 兵士たちは安全な場所を求めて、物陰を探し回った。
 だが、ぎゅうぎゅう詰めの船内には逃げる場所もなく、どこに動くこともできなかった。

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 静まれ、静まりたまえ、同士たちよ!!

 政治委員がいくらメガホンで叫んでも、浮き足立った新米兵士たちを鎮めることはできなかった。

27名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:47:08 ID:2dpRiDM20

「また来るぞ!!!」

 一人が空の反対側を指差した。
 スツーカの特徴的な翼が、ぐんぐんこちらに迫ってくるのが見えた。

 爆撃の恐怖。
 機銃掃射の恐怖。

 いましがた見たばかりの地獄。
 飛行機は、ぴたりとブーンたちの船を狙っている。

 それで、兵士たちの忍耐の限界が来た。

28名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:49:42 ID:2dpRiDM20

「殺されるぞおおおおおぉぉぉ!」
「もうだめだあぁぁぁ!!」
「逃げろ!!逃げろっ!!!」

 船の前のほうに乗っていた新米兵士たちは口々にそう叫び交わし、船べりを乗り越えて、
 堰を切ったように、灰色のヴォルガ川の水面に飛び込み始めた。

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 こらあっ、貴様ら、逃げるな、逃げるなああああ

 政治委員はひとしきり叫んだが、脱走の列はとまらなかった。

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以 ええい、撃てっ、お前たち、あいつらを撃てええっっっっっ!!!!

 命令するが早いか、政治委員は腰の拳銃を抜き、水面を泳ぐ脱走者たちに乱射し始めた。
 船べりの憲兵たちもサブマシンガンを構え、銃弾の雨をヴォルガ川に叩き込み始めた。

 脱走の波は止まった。
 叫んでいた者も、みな口を閉ざした。
 奇妙な沈黙が、船上に流れた。

 母なる大河ヴォルガの川面は、いまや、兵士たちの血と沈んだ船から流れ出た重油、
 壊された船体の破片で入り混じって、ぐちゃぐちゃになっていた。

 ブーンたちの船を狙っていたスツーカは、いつのまにか飛び去っていた。
 対空砲に狙われるか、戦闘機に追われるかでもしたのだろう。

29名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:54:29 ID:2dpRiDM20

 ブーンたちの船がようやく対岸に着いた。
 ――つまり、ブーンはついに、地獄と化した戦場の街、スターリングラードに着いたのだ。

 そこはまさに、地獄だった。
 肉が焼ける香ばしい匂いがしていた。何の肉かは、考えたくも無かった。
 それに、ゴムが燃えているような不快な匂いもした。
 町全体が硝煙と油煙の奇妙な幕に覆われていた。

 渡し舟が木製の桟橋に横付けされるや否や、ブーンは後ろから押されて桟橋に登り、
 そのまま人波に流されて、幅の狭い頼りない桟橋を、岸辺の奥へと歩いていった。

(;゚ω゚) お、おわっ?!

 突然、ブーンはわけもわからず、後ろから吹っ飛ばされた。
 そして地面にたたきつけられ、しばらく木製の桟橋の上をスライディングした。

(;゚ω゚) いてて…。何…

 くらくらしながらも後ろを振り返ったブーンの目に映ったのは、
 いましがたまで自分が乗っていた渡し舟が、二つに折れて、ものすごい勢いで川底に沈みつつある光景だった。

 さっきまで桟橋にいたはずの何人かの兵士が、あるいは水面でもがき、あるいはぷかぷかと浮いたまま動かなくなっていた。
 イトーイ政治委員の姿は、跡形もなかった。

30名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:56:48 ID:2dpRiDM20

 桟橋の上の別の政治委員がメガホンで繰り返し叫んでいた。

「新兵はこっちにきて、武器を受け取れーっ。新兵はこっちにきて…」

 ブーンはどこにいって、何をしていいのかもさっぱりわからないので、
 とりあえず武器の支給をしているらしい兵士たちの列に並んだ。

 上空をスツーカと、それを追うロシアの戦闘機が乱舞している中、
 ブーンは新兵たちのつくる列に並んで辛抱強く順番を待っていた。

 トラックの荷台に立って、ライフルを兵士たちに手渡している将校らしい兵士がいる。
 彼はブーンの前に並んでいた兵士に、木箱から取り出したライフルを手渡していた。

 ようやくブーンの順番が回ってきた。
 ブーンはその将校に向かって手を伸ばした。
 だが彼はブーンを無視して、ブーンの後ろに並んでいた兵士にライフルを渡した。

( ^ω^) ちょwwwwシカトすんなおwwwwwww

 抗議の声を上げるブーンを無視して、別の将校がブーンの手に何かを握らせた。

( ^ω^) …何だおこれ?ライフル弾が…五発?

31名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:57:45 ID:2dpRiDM20

( ^ω^) いや…弾だけ貰ってもしょうがないし…

 ぶつくさ言ってるブーンだが、もう武器の列からははじきだされて、
 新兵たちがたくさん、呆然と立っている広場みたいなところに押しやられてしまった。

 武器の列をよく見てると、どうやらライフルは一人飛ばしに支給されているようだ。
 そして弾丸も、ライフルを支給した兵士とは別の兵士に、一人飛ばしで支給しているようだ。

( ^ω^) つまりライフルは二人に一丁、弾丸は二人で一装填分の支給ってことかお

( ^ω^) なにが「豊富な武器を支給」だお。頭大丈夫かお…

 広場には武器の列から出てきた新兵が数百人くらいいた。
 そうすると、彼らみんな、ライフルだけか弾だけか、しか持っていないということになる。

32名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 17:59:55 ID:2dpRiDM20

(  ゚∀゚ )「同士諸君!よく聞け!」

 広場にいた政治委員がメガホンでしゃべり始めた。

(  ゚∀゚ )「ただいまより諸君は祖国防衛戦に参加する!
      諸君は私の笛を合図に、いっせいに向こうの建物の制圧に向かいたまえ!」

 政治委員はとある建物を指差した。
 その前には開けた大通りがあって、そこにはドイツ軍の機関銃陣地がいくつも据え付けてあった。

 兵士たちがざわついた。

兵士「し、しかし同士政治委員殿…。あそこには敵の機関銃陣地がありますが…」

(  ゚∀゚ )「アヒャッ!その通り!だから攻撃するのだ!」

兵士「で、ですが、どうやって?
    まさか機関銃の正面に立って突撃しろと…?」

(  ゚∀゚ )「心配いらない。確かに敵のMG-42機関銃は恐ろしい武器だが、その弱点は、弾が有限だということだ。
      貴官たちの人数は、敵の弾丸の数より多い。一斉に突撃すれば、あの陣地は制圧できるであろう!」

 兵士たちのざわめきはいっそう大きくなった。

33名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 18:03:12 ID:2dpRiDM20

兵士「で、ですが、われわれは武器もなく…! ライフルも弾丸も…!」

(  ゚∀゚ )「心配はいらんといっただろう。
      なぜなら、貴官たちの何人かは、この突撃で死ぬ!おそらくは半分以上がな!
      ライフルや弾丸は、その死んだ者から拾えばいいのだ!」

 全員が言葉を失った。
 信じられないといった顔で、政治委員を眺めた。

(  ゚∀゚ )「さあ、行くぞ!行かぬ奴は祖国の敵であるので、前からではなく、後ろからの銃弾で死ぬことになる!!」

 政治委員とその隣にいた機関銃手が、銃口を新兵たちに向けた。
 そして、政治委員は一声叫んで、

(  ゚∀゚ ) ヴィクトリー オア デーーーーーーーーーーーース!!!!!!!!!!

 ピリャピリャピャリャーーーッ!!と、笛を吹き鳴らした。

 ブーンは何が何だかわからないうちに、五発の弾丸だけを握り締めて、
 他の新兵たちと一緒に、一斉に鬨の声を上げて、政治委員の指差す建物に向けてがむしゃらに駆け出した。





第二話 ここまで

34名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 18:07:58 ID:2dpRiDM20
第二話までおわりです

こんな感じのお話として続けていく予定です
感想、要望等あればおねがいします


それではまた次回〜

35名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 18:49:35 ID:FJk4w7R20
投下乙〜( ^ω^)

36名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 18:51:36 ID:CQv8kXbQO
戦争物か…
実際もこんな感じだったとは良く聞くが…うへぇ

期待支援

37名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 19:55:37 ID:rf1p2Suwo

戦争ってのは逃げ場がないの連続か…そりゃ狂うわ…

38名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 20:54:15 ID:A1wFeil2O
面白いが救われないなぁ

楽しみだけど悲しいわ

39名も無きAAのようです:2011/08/14(日) 22:39:21 ID:f5TGyk6AO
まるまんまスターリングラードじゃん

40名も無きAAのようです:2011/08/15(月) 07:40:26 ID:EF.LfKFo0
リアルだな……
乙、戦争物は少ないから期待してるぜ

41名も無きAAのようです:2011/08/15(月) 22:48:06 ID:x7h8CzoQ0
これはきたい

42名も無きAAのようです:2011/08/16(火) 01:07:40 ID:99l6f0.Q0
戦争こえぇなぁ・・・。

43名も無きAAのようです:2011/08/16(火) 23:46:55 ID:ktAd8PGMO
元ネタ有りってちゃんと書けよ
ばれないと思ってんのか

44名も無きAAのようです:2011/08/17(水) 07:08:02 ID:p.MKJz1Y0
>>43
規制

45名も無きAAのようです:2011/08/17(水) 08:02:06 ID:aNlpWd8M0
>>43
アウト

46名も無きAAのようです:2011/08/17(水) 08:21:14 ID:WXe2rmnAO
セフセフ

47名も無きAAのようです:2011/08/17(水) 08:21:16 ID:WXe2rmnAO
セフセフ

48名も無きAAのようです:2011/08/18(木) 13:19:19 ID:nR087YfAO
ぷぅくすくす

49名も無きAAのようです:2011/08/22(月) 20:06:53 ID:cVJoH7QgO
逃げたか

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