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ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part05
1避難所の中の人★:2012/10/01(月) 00:51:50 ID:???
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。


■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/

■本スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part52(大荒れ状態なので閲覧非推奨)
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1347780866/

■避難所前スレ
ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part04
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1329455660/

■お約束
 ・書き込みの際には必ずローカルルールおよびテンプレの順守をお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  もし荒らしに反応した場合はその書き込みも削除・規制対象になることがあります。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
 ・避難所に対するご意見は「管理・要望スレ」(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1301831018/)まで。
 ・作品について深く批評したいな、とか思ったら「批評スレ」(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1318219753/)まで。
 ・便りがないのは良い便り。あんまり催促しないでマターリいきましょう。

■投稿のお約束
 ・トリップ使用推奨。
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・二次創作は元ネタ分からなくても読めれば構いません。
  投下SSの二次創作については作者様の許可を取ってください。
 ・男のヤンデレは基本的にNGです、男の娘も専スレがあるのでそちらへ。

2雌豚のにおい@774人目:2012/10/01(月) 03:07:13 ID:GsB9yM1.


3雌豚のにおい@774人目:2012/10/01(月) 19:58:13 ID:6TvIOxGw
触雷!はまだか!

まだなのか!

まだ、う……ふぅ

4雌豚のにおい@774人目:2012/10/01(月) 21:47:57 ID:1np5uERw
管理人乙

5雌豚のにおい@774人目:2012/10/06(土) 23:49:35 ID:M4S6p2dE
管理人乙

>>3
早漏すぎぃ!

6 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 22:58:33 ID:jwJtygsU
第25話ができたので投下します。

7天使のような悪魔たち 第25話 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 23:00:03 ID:jwJtygsU
激しく降り注ぐ雨の中では、折角乗ってきた自転車も役に立たない。
病院から学校に戻るとしても、交通機関を使わなければ、風邪を引くどころでは済まないかもしれない。
…無論、俺は自分の心配をしている訳ではない。…当の彼女は「心配なんてしなくていい」と言い張っているんだけどな。
病院の前には屋根付きのバス停がある。ベンチはびしょ濡れでとても座れたものではないので、立ってバスを待つ事にした。

「…次のバスまで、あと6分。大して待たなくても良さそうだねぇ。」

なんとなく、軽く結意ちゃんに会話を振ってみる。だけど、リアクションはいただく事はできなかった。
彼女はじっ、と暗い空を見ながら微動だにしない…と思ったのだが、かすかに肩が震えているのを、俺は見逃さなかった。
寒いのだろう。結意ちゃんはちゃんと″死ぬ事のできる″人間だ。
寒い暑いなど瑣末な問題でしかない俺とは違って、彼女は今を″生きて″いるんだ。
俺のような死に損ないとは、違うんだ。

俺は軽く息を整えて、「少し、待っててくれるか結意ちゃん。」と声をかけた。
「……どうしたの。」
「あったかいモンでも買ってきてやるよ。すぐ帰って来るから、1人でどっか行くなよ?」

外気に触れて、少しは頭も冷えているだろう。今のこの状況、単独で闇雲に探していてもまず見つかるまい。
元々、冷静な判断ができる彼女なのだから、そのことに気付いているはずだ。
けれど俺は、あえて念を押すようにそう告げた。
返事はなかったが、俺はそれを肯定と見なしてすぐ近くの病院エントランスへ戻った。
真っ直ぐに購買を目指す。そこには4つの自販機が設置されていて、種類も豊富に揃っていた。
だが、悠長に選んでいる時間はない。バスはあと数分で来るのだ。
俺はまず、結意ちゃんの分から買う事に決め、1番左端の自販機に500円玉を投入する。
1番下の列の、真ん中あたりの飲料に目をつけ、ボタンに指を伸ばした。
その瞬間、ふと1つの事を思い出してしまった。


『優衣姉、ほんとコレ好きだよねえ。』
『ふふ、だってコレおいしいじゃない。』
『うぇー…俺はそんなに…って感じだよ…だってそれ…』


それは、かつて有った幸せな記憶の断片。
成る程。俺が今指をかけているのは、ある意味思い出の品だったんだな。
…ついでだ、試してみようか。俺はそのまま、″ミルクセーキ″のボタンを押した。
ボタンを押すと商品が出てきたが、どうやらこの自販機、返却レバーを回すまで釣りが出てこないタイプのようだった。
時間もない事だし、俺はこのままここから自分の分の飲み物を買う事にした。
と言っても、ある意味ではそれは正しくはない表現なんだがね。
それを買って釣り銭を回収すると、俺は小走りでバス停まで戻った。

8天使のような悪魔たち 第25話 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 23:00:46 ID:jwJtygsU

* * * * *


バス停に着くと、結意ちゃんはちゃんと待っていてくれた。
納得してくれた、ということだろうか。少なくとも、雨の中探し回る事はしないように決めたようだった。
そんな彼女に俺はいつも通りおどけたキャラを作って、飲み物を差し出した。

「待たせたな、結意ちゃん。コレやるよ。」

結意ちゃんは振り向いて俺の両手をを見る。俺の右手にはミルクセーキ。左手にはコーヒーの缶が握られている。
結意ちゃんは何も迷う事なく、コーヒー缶の方に手を伸ばした。
それを受け取ると結意ちゃんは訝しげに、「よく私の好きなのがわかったね。」と言ってきた。
「まあ、ね。優衣姉が好きだったんだよ、これ。」と俺は軽く答えてみせる。
「…そう、そうなんだ。」

結意ちゃんはそれ以上の関心を持とうとはしなかった。俺のついた嘘にも気付かずに、缶の蓋を開けて飲み始めた。
これで少しでも身体が暖まってくれればいいんだけどな。

…実はあの思い出には続きがあるんだ。


『隼、あんたこそよくそんなもの飲めるわね?』
『なんで? 美味いじゃんかこれ。』
『そう? …わざわざそんな苦いの、お金出してまで飲む?』
『ミルクセーキだって、ごってり甘いじゃん。よく飲めるぜ。』
『これはいいのよ、乳製品だから。』

…そう、優衣姉は苦いコーヒーが苦手で、ミルクセーキが好物だったんだ。対して俺はその逆。
ミルクセーキなんて甘ったるい飲み物、匂いを嗅いだだけで頭が痛くなってくる。
けれど、試した甲斐はあった。ミルクセーキが嫌いかは知らないけれど、少なくとも結意ちゃんにとっては意外にもコーヒーの方が好みだったようだ。
…やはり、姿はよく似ていても、優衣姉と結意ちゃんは違うんだなぁ。
こんな下らない自己満足な行為で、俺はようやく踏ん切りをつけられた。
俺が結意ちゃんを助けるのは優衣姉と重ねる為じゃない。
俺の親友の為に。そして結意ちゃんの幸せの為に尽力する。
迷いなど初めからなかったが、きっと結意ちゃんとももっと真っ直ぐ向かい合えるだろう。
俺は自身への戒めも兼ねて、ミルクセーキの封を切り、喉にかっ込んだ。


…どうして優衣姉はこんなモンを愛飲していたんだろうか。

9天使のような悪魔たち 第25話 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 23:01:40 ID:jwJtygsU

* * * * *


およそ30分かけて白陽高校へと戻ってきた俺と結意ちゃんは、昇降口で傘の水を払いながら考えていた。
穂坂の住所を知るためには、誰に聞くのが手っ取り早いかを。
…けれど、時計の針は既に4時を指そうとしているところだ。
体育館の方から靴底の擦れる小気味良い音と、ボールの弾む音がする以外は実に静かなものだ。
部活動のない生徒たちはほとんど帰ってしまったんだろう。
とりあえずは、クラスに戻って様子を見てみようか。もしかしたら…だが、誰かしら残っている可能性もある。
靴を脱いで上履きに履き替える、そんな些細な動作だったが、雨でぐしょ濡れの靴下を晒すのにはなかなか抵抗感があった。
特に、隣のお姫サマも同様だったようで、微かに苦い顔をしていた。
…まあ、結意ちゃんのソレならば一部のマニアには垂涎モンだろうけれど。例えば…そう、あの飛鳥ちゃんをも上回る直情型の熱血バカとかには、などと内心で冗談めいてみた。

───そのせいなのかどうかは図りかねるが…なにやらバイクの走るような音が段々と近づいてきた。
おいおい、こんな雨の中をバイクで飛ばす阿呆がいるのかよ。どんな物好きだ。
まさか俺のような″死に損ない″じゃあないだろうな…と考えているうちに音はどんどん近づき…ついに校門前にバイクが乗り付けやがった。
俺たちが靴を脱いでからここまでおよそ15秒。
ヘルメットを素早く脱いでソイツは昇降口へと走って来る。途中、俺と目が合ってしまった。
するとソイツは面食らった様なポーズをとり、さらに加速してこっちに向かい…対面した。

瀬野 遥。結意ちゃんファンクラブとかいう薄気味悪い…もとい、得体の知れない集団を構成する男。
存在自体がネタのようなこの男がこんなにも切羽詰まった表情をするのはどうも違和感があった。
肩で息をし、髪から雫が垂れるのにも構わず、瀬野は口を開いた。

「佐橋から聞いた。神坂が、病院から消えたってな。」
「まあ、ね。そうか、佐橋からねぇ…」

あいつの根回し力の高さは、本当に尊敬に値するぜ。
自分の予知だけでは状況を打開できないと踏んだ佐橋が、こいつを呼んだんだろう。
恐らく、こいつ″ら″の持つネットワークは即戦力になる。
…実際は、どの程度のネットワークなのかは全く知らないのだけれど、それでも頭数が増えるだけでも有難い。
そう期待を寄せたんだが…

「すまねぇっ!」

瀬野はいきなりその場で土下座をした。その突拍子もない行動に俺たちは驚く。

「吉良は………穂坂 吉良は俺の妹なんだ。俺がしっかりしていれば…吉良のことを見ててやれば…
こんな事にはならなかったのに…! 本当に、すまねぇ!」

───衝撃は、2段階で喰らわせられた。
まさか、穂坂と瀬野が兄妹だったなんて。だって…どう見ても似ていない。

「それは…事実なのか?」俺は慎重に、瀬野に尋ねてみる。
「本当だ。俺たちの両親は3年前に離婚してな…俺はお袋に、吉良は親父に引き取られたんだ。」

…なんてことだ。状況は、意外な形で好転したようだ。
こいつならまず確実に、穂坂の住まいを知っているだろう。佐橋の判断は、まさに英断だったわけだ。
…けれどもその前に、結意ちゃんが何かを言いたそうに、唇を噛み締めている。
なにを言うつもりなんだろう、と軽く様子を伺うが…次にお姫サマがとった行動は予想だにしないものだった。

10天使のような悪魔たち 第25話 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 23:03:02 ID:jwJtygsU

「───舐めてんの…!?」

一閃。左足を横に降り抜く。瀬野の顔面を刺すように蹴り飛ばしたのだ。

「がは、っ!」

瀬野は身体ごと右に吹っ飛び、下駄箱に身体を打ち付けられた。
ガシャン! と激しい音がする。金属製の下駄箱から放たれた音だ。
瀬野は痛みに右頬を手で押さえ、のたまう。そこにさらに結意ちゃんは歩み寄り、瀬野の背中を思い切り───打撃を加えるべく踏み付けた。

「ご、は…っ、ゆ…結意…ちゃん…?」
「…誰が、″名前で呼んでいいって言ったの″?」

瀬野はどうやら、結意ちゃんの逆鱗に触れてしまったようだ。
しかし、名前で呼ぶことすら許さない今の発言からして…俺はどうやら一応の信頼は得ているようだった。
ただし瀬野、てめえはダメ…だったようだ。

「…飛鳥くんに何かあったら、兄妹そろって殺すよ。
わかってるのかな? 私、すごく怒ってるの。余計なおしゃべりは許さないよ。…黙って、あの女のところに案内しなさい。」

何より戦慄すべきは、結意ちゃんはここまでの仕打ちを瀬野にしておいて、一貫して無表情でいる、ということだ。それが逆に恐ろしい。
穂坂に対して怒っているとはいえ…結意ちゃんがここまで残虐さを露わにするとは思わなかった。

「───とっとと起きなさいよ!!!」

結意ちゃんはとどめとばかりに、踏んでいた足で再度踏み付け、打撃を与えた。

「〜〜〜〜ッ!!」瀬野は最早声にならない声を上げる。…見てられないぜ。
「やめてやれよ、結意ちゃん。」俺は瀬野に助け舟を出してやる事にした。
「今瀬野を蹴っても、事態は変わらないだろ?穂坂の場所がわかるなら、早く向かおうぜ。」

これで怒りを収めるお姫サマではないだろうが、目的は別にあるんだから。
少しは冷静さを取り戻してくれよ、と願う。

「…わかってるよ、そんな事……自分で、自分を抑えなきゃいけないことも。
でも………私達を引き裂こうとする奴は、絶対に赦せない。」

少し弱めの声で結意ちゃんは語り、足を瀬野から退ける。そのまま黙々と靴へと再び履き替え、外へと歩いて行ってしまった。
俺は瀬野に手を差し伸べ、起こしてやる。
その右頬は赤く腫れかかっている。あの蹴りは中々の威力があったようだ。

「瀬野、お前が悪いわけじゃないと俺は思ってる。でも、ここは堪えてやってくれないか?
…知っての通り、結意ちゃんには飛鳥ちゃんがいないとダメなんだよ。
…ご覧の通り、不安定になる。」
「わかってる、んなコトは。だからこうして、頭下げに来てんだからよ…
殴られる覚悟も、とっくにできてる。…手じゃなくて、足が飛んできたけどよ。」

へえ…こいつ、こんな穏やかな表情ができたのか。
顔を蹴られた事に対しても腹を立てないばかりか、こいつから″覚悟″という言葉が聞けるとは思っていなかった。

「吉良の家に案内するよ…兄貴として、あいつを止めてやらなきゃな。」
「…オーケー、頼んだぜ。」

俺からの信頼の証として、その言葉を瀬野に送る。
今は、こいつの覚悟とやらを見せてもらうとしよう。

11 ◆UDPETPayJA:2012/10/07(日) 23:07:20 ID:jwJtygsU
25話終了です。

…投下後に誤植発見

白陽高校→白曜高校

たまにどっちか自分でもわからなくなりますけど、これで統一で

年内完結目標とは言ったものの、話数的にきついかも…

12雌豚のにおい@774人目:2012/10/08(月) 09:07:17 ID:NOVC.MbE
>>11
乙乙!

13雌豚のにおい@774人目:2012/10/15(月) 01:34:53 ID:I4SQKg2E
過疎ってますね

14雌豚のにおい@774人目:2012/10/17(水) 00:13:52 ID:bAcKDreQ
取り敢えず、酔った勢いで投下

15ある男の独白:2012/10/17(水) 00:27:08 ID:bAcKDreQ
―最近、お酒の楽しみ方が分かった気がする。
僕は夜空に散らばる星達を見ながら酔いつぶれていくのが好きだった。

「今晩は今日も寒いですね、佐藤さん」
僕はまた足を彼女の前で止めてしまう

この暗がりでも栄える彼女の容姿に今でもたじろいてしまう。
今時の茶色に染められた髪型、そして香りづいた女の匂い…
僕は思う、きっとその整えられた美貌ならもっといい男の一人や二人手玉に取れる、それぐらい彼女は実に女だった

16ある男の独白:2012/10/17(水) 00:41:34 ID:bAcKDreQ
多分、こうゆう考え方をする者を皆知っていると思う。
そう、僕は―所謂世捨て人と言われる人種。

此方をハニカミながら挨拶をしてきた彼女の名字は山田さんと言うらしい。何故、疑問系なのかと聞かれたら僕にとって他人は動くブリキと同じだから答える。
「―こんな遅くまでお仕事ご苦労様です、山田さん」挨拶をしてきたので挨拶で返す、それが当然の常識だろう?
ただ、僕の日常で増えた事といえばこの挨拶だけ。
だから僕は挨拶を終えたらその千鳥足で家に帰っていく。

―ああ、やっぱり空はいつも変わりなく綺麗であり続ける

17ある男の独白:2012/10/17(水) 01:09:15 ID:bAcKDreQ
―今日も彼と挨拶を交わした。
彼の容姿はお世辞にも清潔とは程遠い。
よれよれのワイシャツと履き古した黒のパンツ、そして極めつけはそのボサボサの髪と長ったらしい無精髭。
それでも私は彼に恋焦がれ、この三秒と満たないこの瞬間に堪らなく、幸福に満たされる。

―彼と最初に出会ったのはこの小汚ない電柱。
今でも、頭が足りない蛾達がひたすら光を求めて体を傷つけている。
「―そんなとこで寝ていると、冷えますよ?」

初めはこの人も私の体目当てだと思った。
何故ならこの日は人生で一番最悪で、彼氏も上司もまとわりつく蛾の様に私を見ていたから。
「これ、少ないけど120円あとコレ…」
そういって酔いでおぼつかない手のひらにお金とよれたコートを被せた。
私自身、単純だと思うがこの彼の行動に胸を高鳴らせた。
それまで私の知る今流行りの雑誌や歌手などに現を抜かす人達と違って見えたから…
「あ、あの…」
感謝を伝え様土儀間気ながら声を掛けようとすると彼はまるで無かったかの様にその場を離れた

「―ふふっ」
いけない、また彼との出会いに惚けていたみたいだ。
彼の魅力を語り尽くせるとは思えないが、今のままではいけない…私は決意の意志を込めて唇を引き締めた。

18ある男の独白:2012/10/17(水) 01:28:21 ID:bAcKDreQ
乾いた酔いのなかで、床に転がり込む。

―暗がりの部屋の中、この一本の煙草に惚ける僕はまるで蛾と同じだな。
自身の皮肉に思わず笑みが零れる、何時からだろう社会に生きる人達達が蟻の様に思えたのは?
誤解が無いように言うが僕は別に鬱ではない。
ただ、皮肉の味に酔っているだけ。

「―ぅ」煙を眺めながら彼女について考える。
多分、彼女は自分に興味を持っている。でなければこんな夜遅くに出会ったりはしないだろう…。
床に突き刺さった包丁に目をやる、僕の軽い頭ではそれ以上の事は考えられない…寝そべって獣の様に目を閉じる。


―そろそろ羽を休めようか。僕は深い息を吸い込む。

19ある男の独白:2012/10/17(水) 02:02:57 ID:bAcKDreQ
「好きです、付き合って下さい」
―今日は挨拶の代わりに告白をされた。

景色が濁った気がする。「…すいません、僕は貴女の事をそういう目で見ていないので。」
返事には返事で返す、それが決まりだろ?
答えを告げて僕は立ち去った。一人ぼっちの彼女を残して。

今日は、歩きではなく早足で家に向かう。
…本当、今日は何もかも違うな。また僕は口元を歪めた



――嘘。
思考は否定で動き始めた。
何が行けなかったのか分からない…嫌いなら始めから挨拶を交わさないはず。
嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘…うそ
ようやく私は自分が顔を歪めている事に気付く。
そうか彼は自分を卑下しているだけなんだ。そうに違いない。
―そうならそうと言ってくれたらいいのに。

ならこの告白は間違えただけだ。もう一度やり直そう。
私は一つの明白すぎる答えを見つけ、彼の家に向かう。…場所は知っている、当然だ。今までも情報がいかに大切か知っていたから…



参ったな…やっぱり告白された。分かっていた事が現実になっただけだ、だからあらかじめ用意してあった答えでかえしただけだ。
今日はいつもと何もかもが違いすぎる…置き貯めしてあったビールを冷蔵庫から取り出す。

軽い思考でよぎったのはもうあの道を通らない事、僕は何よりも嫌うのは変化。何故なら新しいという感覚がイマイチ好きになれないから

取り敢えず、重い瞼をしずかに閉じる。

20ある男の独白:2012/10/17(水) 02:29:28 ID:bAcKDreQ
「佐藤さん起きて下さい、もう一度答えを聞きたいんです」
目を開けるとハニカむ山田さんの顔があった。
「…山田さん…?どうして?」
一瞬、頭が回るでも直ぐに何時もの気だるさが頭を支配する
「佐藤さん、私どうしても分からないんです。どうしてお付き合いしてくれないんですか?」
「それは先程言ったように…」
体が引っ張られる感覚が思わず口先を阻める。
「―これは山田さんが?」

重い頭で周囲を見渡すと腕が固定されていた…多分、足のほうも固定されているのだろう
「佐藤さん、答えて下さいどうしてお付き合いしてくれないんですか?」まるでブリキの様に先程と変わらない口調と笑みで彼女は唇を歪めていた。
「もしかして容姿を気にしているんですか?別に私は佐藤さんの容姿なんて気にしていませんよ?」

無邪気に吐露する彼女を見てやっと僕は気付く。―この人はきっと優しさに飢えている。
「―分かりました。ではお付き合い致しますから、煙草を取って頂けませんか?」

彼女は僕の返事を聞くと甘えに味を占めた子供の様に僕に従う。

―ただ、一つ日課が増えただけだ。煙に目を配りながら自分の答えに納得する。
彼女は優しさに飢えている、だからきっと僕より親切な人に出会ったら彼女はきっと僕にもう目も向けないだろう…

また重い瞼を閉じる中で彼女の笑みと喉に張り付く煙草を覚えた

21雌豚のにおい@774人目:2012/10/17(水) 02:31:21 ID:bAcKDreQ
以上で終わります。

すいませんぐだぐだで、所詮素人の面汚しですね。

22雌豚のにおい@774人目:2012/10/17(水) 10:55:59 ID:8Zep1QqQ
>>21
乙です!
面汚しだなんてとんでもない

23 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 12:58:22 ID:TNfm98K.
>>21
GJです!

こんにちは。投下させて頂きます。
よろしくお願い致します。

24嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 12:59:52 ID:TNfm98K.

〜ある加害者のモノローグ・3〜
兄さんが、死んだ。
葬式はひっそりと行われて、兄さんの友達は殆ど来なかったらしい。
両親は早く式を終わらせたかったらしく、私が寝込んでいる間に全てが終わっていた。
「…………兄さん」
もう兄さんがいない部屋で、兄さんの使っていたタオルケットに包まれる。
……許せない。ただそれだけが私の感情を支配していた。
私がもっと兄さんを支えることが出来たら……無力な自分が許せない。
両親が兄さんを信じてあげられたら……ろくでなしな両親が許せない。
周りが兄さんをおとしめたり苦しめなかったら……無慈悲な周囲の人達が、許せない。
そして何より――
「…………許せない」
頭の中を反芻する名前。駅員がメモしていた、痴漢の"被害者"とされている……兄さんを死に追いやった"加害者"の名前。
「藤塚……弥生……」
見たのは一瞬だったが私はこの名前を一生忘れないだろう。
非力で無力な、兄さんを救うことの出来なかった今の私では無理かもしれない。
でも、必ず見つけ出す。私の生涯を賭けても必ず見つけ出す。
……そして復讐する。兄さんに痴漢の濡れ衣を着せてのうのうと生きている藤塚弥生に、復讐する。



――藤塚弥生を××する。












11話



『なるほどねぇ……それで最近、中条のことを雪とか言っちゃってるわけだ』
電話越しでも伝わる、晃のやれやれみたいな態度に思わずぶん殴ってやりたくなるが、これは電話だ。
残念なことに晃を殴る手段は存在しない。だから冷静に対応しなくてはならない。
「……まあな」
『俺というものがありながら中条にまで手を出すなんて……酷い!鬼畜!鬼!悪魔っ!』
「そもそもお前とそんな関係じゃねぇよ!」
……やはり晃相手に冷静でいられるはずはなかった。まあ何となく分かっていたことだが。
『とにかく、君の気持ちは分かったよ司君。多いに青春しているみたいで結構だ』
「そりゃどうも……」
あれから、中条を雪と呼ぶようになってから二週間程が経った。
少しずつ雪と呼ぶことにも慣れてきたが、俺が意識するせいか。以前のように気楽に話せなくなっていた。
どうしても雪のことが気になってしまう。今まで体験したことのない感覚に、正直俺は戸惑っていた。
最近、無事退院した真実が俺達のグループに入ってくれたおかげで、何とか雰囲気は平穏に保たれてはいたが、このままではよくない。
そう思って俺は晃に相談することにしたのだった。
『で、結局中条のことが好きってことでいいのか』
「……ああ」
『じゃあ付き合いたいのか?』
「……多分」
『キスしたい?イチャイチャしたい?セックスしたい?』
「お、おいっ!?」
詰問からの超展開に思わず俺は戸惑いを隠せなくなるが、そんなことはお構いなしに晃は話を進めていく。
『いや、付き合うってそういうことだぞ。恋人同士でしか出来ないことが出来るんだから。司は中条をどうしたいんだ?』
「俺が……どうしたいか」

25嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13:00:35 ID:TNfm98K.
『それが曖昧な内は告白なんて止めとけ。怪我するだけだぞ、お互いに』
「……別に告白なんて――」
『考えてないわけじゃないだろ?』
晃は俺の心を見透かすように話を続ける。確かに晃の言う通りなのかもしれない。
……俺は雪と、どうなりたいんだろうか。
「……もう少し、考えてみるわ」
『おう、あんまり難しく考えるなよ。思った気持ちを素直に言葉にすりゃあいい』
晃が友達で、親友で良かった。こんなこと相談出来る奴なんて、そうそういない。現金かもしれないが、晃がいることのありがたさを改めて感じた。
「……ありがとな、晃」
『っ!司君がデレた!!』
「うるせぇ!」
結局こうやっていつも通りのノリにはなってしまうのだが。
『……後は委員長だな』
「真実?真実がどうかしたのか」
『お前は……お前って奴は何処まで朴念仁なんだ』
晃は呆れ果てたような口調で話しながら、溜息をつく。電話越しでも分かる、大きな溜息だった。
『後は自分で考えろよな。あんまりグズグズしてると修羅場を迎えるぞ?』
「ど、どういうことだよ」
『不用意な優しさは誰かを傷付けることに成り兼ねないからな……ま、健闘を祈る!』
「おいっ、晃!おいっ!」
晃に呼び掛けるが既に通話は切られてしまっていた。仕方なく携帯を机に置いてベッドに腰掛ける。
……俺だってそこまで鈍感じゃない。晃が何を言いたかったか、大体分かる。真実との関係をはっきりさせなければならない。
俺は雪のことが好きだ。この気持ちに偽りはない。
具体的にどうしたいのか、それはまだ分からないが少なくともアイツが他の誰かと付き合ってるのを見たくない。
だからこそ、真実にもはっきりそれを伝えなければならない。
この一ヶ月、嫌がらせにあっていた俺に協力してくれた、真実。
彼女がいなかったら俺はこの一ヶ月で起きた出来事に耐えられなかったかもしれない。
真実がいたからこそ、俺は嫌がらせの犯人を見つけることが出来たんだと思う。
このまま親友としてやっていけたらどれだけ良いか。勿論、俺はそれを望んでいる。しかし――
「……真実」
真実はそうじゃないかもしれない。俺の思い違いだったら、勝手な自惚れだったら全然構わない。
……ただ、もしそうじゃなかったとしたら。
「それでも……俺は……ちゃんと言わなきゃ…ならない……」
それが真実に対する礼儀だから。ちゃんと言って、そして雪にも俺の気持ちを伝えなければならない。
ふと壁にかけられたカレンダーが目に入った。もうすぐクリスマス、そして今年が終わる。
「……明日、言おう」
もう時間はない。グズグズしていたら来年になってしまう。
まずは明日、真実に言わなくてはならない。机にあった携帯を取り、メールを作成する。

-------------------------------
To:辻本 真実
Sub:明日

放課後ちょっと時間あるか?話したいことがあるんだけど。
-------------------------------

「……送信、っと」
少し躊躇いはあったが、いつまでもこうしていても仕方がない。俺は強くボタンを押した。
すると数分後、返信が来ていた。多分世話焼きの真実のことだ。間違いなく――

-------------------------------
From:辻本 真実
Sub:何かあった?

了解。
大丈夫?詳しくは明日聞くわね。
-------------------------------

了承してくれると思った。嫌がらせにあっていた時だって、元々真実のお節介のおかげだった。だから真実が断るはずはない。
「……後は、ちゃんと言えるかどうかだ」
身勝手なのは分かってる。それでもはっきりさせないといけない。今夜はあまり寝れそうになかった。

26嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13:01:21 ID:TNfm98K.

「つ、司おはよう!」
「お、おはよう……」
次の日、教室に着くと同時に雪に話し掛けられた。
「今日なんだけど……放課後ちょっと付き合って欲しいな、なんて……」
何故か段々小さくなっていく雪の声。でも最近少し気まずかっただけに、誘ってくれていること自体はとても嬉しい。嬉しいのだが――
「あー、わりぃ。今日は……その……無理なんだ」
放課後は真実と会う約束がある。自分から呼び出してキャンセルするわけにもいかない。
「……どうしても、無理?」
雪は懇願するように俺を見る。今日じゃなければ……自分の運の悪さを恨みたくなる。
「ゴメン。今日はどうしても無理なんだ」
「……そっか」
雪は静かに呟いた。よく見ると目の下にはうっすらと隈が出来ており、まぶたも少し腫れていた。
「雪?」
「き、急にゴメンね!また今度誘う!」
「あ、おい!」
そのまま雪は鞄を持って教室を出ていってしまった。もしかしたら何かあったのかもしれない。
何より気になるのは、雪の瞳が……何て言えば良いのか。光を宿していない、という表現が正しいのか。とにかく普通ではなかった。
昨日までは俺が意識しているせいで気まずさはあったが、その他は普通だったはず。何かあったのだろうか。
「おはよう、司君」
「……おはよう、真実」
追い掛けようか迷っているとちょうど教室に入って来た真実に話し掛けられた。
今から追っても雪を見つけられそうにはない。俺は諦めて真実に向かう。
「今日はいつもより遅いな」
「ちょっと用事があったの。あ、今日の放課後でしょ?空けてあるから」
「あ、ああ――」
「そろそろホームルーム始めるぞ!全員座っとけ!」
真実に何かを言う前に、担任が教室に入って来てしまった。ぱらぱらと生徒達が席に着きはじめる。
「詳しい話はまた放課後にしましょ」
真実も駆け足で自分の席に戻って行った。晃のような朝練組もぞろぞろと教室に入り座りはじめた。そんな中――
「雪……?」
雪は姿を見せず、ホームルームも出席しなかった。



結局雪は朝早く早退してしまったらしい。
その連絡は昼頃クラスに届き、俺の不安は余計に募っていた。
メールも電話も反応が全くなく、本当に体調が悪いのかもしれないが、今朝の様子がとにかく気になった。
もしかしたら無理にでも雪の誘いに乗るべきだったのでは……そんなことを考えている内に気が付けば放課後になっていた。
「……余計なこと考えてても仕方ないか」
とにかく今は真実と話すのが先決だ。しばらく教室で待っていると真実が入って来た。
「ゴメンね!委員会の方が長引いちゃって……」
「お疲れ様。そんなに待ってないから大丈夫だよ」
真実は自分の席に戻り鞄を持ち上げると、近付いて俺の手を掴んできた。
「よし、行きましょ」
「い、行くって何処へ?」
学校の屋上で話をしようと思っていた俺を引っ張りながら、真実はどんどん昇降口に向かっていく。
「誘ってくれてちょうど良かったわ。司君に食べて貰いたい物があるのよ」
「食べて貰いたいって……またいつぞやのパフェか!?」
一ヶ月ほど前。
まだ真実と親しくなって間もない頃、一度特大ジャンボパフェを出す店に連れていかれたことがある。
確かに味は文句なしに美味かったが、あんなもんはそうそう食えやしない。
「違うわよ!とにかく行くわ、ついて来なさい」
「お、おいっ!?」
有無を言わさず真実は俺を連れていくらしい。
……とりあえずパフェじゃなくて良かった。何処に行くか知らないが、俺が言うことはもう決まっている。
後は真実に伝えるだけだ。そう思って、俺は真実についていくことにした。

27嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13:02:26 ID:TNfm98K.

「適当に座っておいて。すぐに用意しちゃうから」
「お、お邪魔します……」
真実は俺を家に連れてきたかったようだ。
一度来たことがあったけれど、やはり女の子の家は自然と緊張してしまうものだ。
本当は真実の家は避けたかったが、真実は頑なだった。まあそういう強引な所も彼女らしいのかもしれないが。
とりあえず落ち着こうとリビングにあった椅子に座り、辺りを眺める。
前回来た時と変わらず、清潔感ある部屋だ。そして仲睦まじい兄妹の写真が、リビングにある写真立てに収まっていた。
……そういえば真実は一人暮らしって言ってたな。両親から離れて暮らしているみたいだが、兄貴はどうしているんだろう。
写真から見るに大学生くらいだろうか。仲睦まじく写っている二人の写真が夕日に照らされていた。
「はい、どうぞ」
エプロン姿の真実が持って来たのは色とりどりなゼリーだった。
ガラスの器に一口サイズの球状になったゼリーが綺麗に並んでいる。
「おお、綺麗だな。まるで――」
「宝石みたい?」
真実は微笑みながらスプーンを俺に渡してくる。真実の前にも同じようなゼリーが器に入って置かれていた。
「そうそう!」
「……本当に似てるね」
「ん?」
「……私の兄もね、最初に私がこれを作った時、宝石みたいだって言ったの」
真実は写真立てを眺めながら呟く。何だか聞かなければいけないような気がして、俺は黙ることにした。
「……食べてみて?」
真実に勧められるがままにゼリーを一つ口に運ぶ。ちょうど良い甘さとイチゴの風味が口に広がる。美味いな、と素直に思った。
「美味い!サイズもちょうどいいし」
「ふふっ、気に入ってくれてよかった……兄も凄く好きだったの。司君もきっと気に入ると思って」
真実も緑のゼリーを口に運んでいく。エプロン姿の彼女は、何だか新鮮だった。
「それぞれ味が違うんだな。全部美味いよ」
一口ということもありとても食べやすく、すぐに全て食べてしまった。

28嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13:03:02 ID:TNfm98K.
「ご馳走様。こないだの弁当といい、真実は料理の才能あるよ」
「ありがとう。あ、そういえば司君の話って?」
「あ、ああ……真実、真剣に聞いて欲しいんだ」
まさかこのタイミングで聞かれるとは思わなかったが仕方ない。俺は真実を真っすぐ見て深呼吸をする。
「俺、実は……好きな人がいてさ」
「……そうなんだ」
真実は微笑みを崩さないまま俺を見つめる。唐突な話のはずなのに何だろう、全てを見透かされている気がする。
「あ、ああ。それで、そいつに……告白しようと思ってるんだ」
「…………」
何と言うのが正解だったのか、俺には分からなかった。
とにかく自分の気持ちは伝えているつもりだ。真実は相変わらず静かな笑みを湛えている。
……何だろう、頭がクラクラする。よっぽど緊張しているのだろうか。
「……そ、その相手ってのが――」
「中条さんでしょ?」
「……えっ」
「ふふっ、司君って本当に分かりやすいよね。すぐに顔に出るから。よく言われない?」
真実はすっと立ち上がって俺を見つめる。つられて俺も立ち上がろうとするが、力が上手く入らない。
「……っ!?な、なんだ……?」
「まあ、それだけ食べたら効くわよ。睡眠薬がたっぷり入ったゼリーだからね」
真実の声が反響して耳に残る。視界もいつの間にかぼやけてしまっていた。
……睡眠薬?一体何を話しているんだ。まさか俺の食べたゼリーに……。
「どうしてって顔してるわね……私からしたら、こっちの方がどうしてって感じだけど」
「な……んだっ……て……」
もう一度立ち上がろうとするが、力が入らず床に倒れてしまった。起き上がることも出来ず、段々意識が朦朧としていく。
「そういう鈍感な所も……兄さんそっくり……だから、許してあげようと思ったのに」
……許す?真実は何を言っているのか、さっきから皆目見当がつかない。
足音が近付いてくる。力を振り絞って見上げると、真実が無表情で俺を見下ろしていた。
「馬鹿な司君。中条さんを選ばなきゃ、こんなことしなかったのに……」
「ま……み……」
真実は屈んで優しく俺の胸を撫でる。もう視界はぐにゃぐにゃに歪み、意識は飛ぶ寸前だった。
結局、何で真実がこんなことをするのか。そして何をしようとしているのか。俺には全く分からないままだ。
……俺は許されないことをしたのだろうか。
「ま……」
「今はゆっくり休んで。じゃないと――」
意識が深い闇に落ちていく。逆らいたいがどうしようもない。
真実に言われるがまま、俺はゆっくりと意識を手放していく――
「……怒っちゃうよ」
クスッと笑いながら彼女は俺に囁いた。何処かで聞いたことのある真実の台詞が、俺が最後に聞いた言葉だった。

29嘘と真実 11話 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13:03:35 ID:TNfm98K.

暗闇の中、あたしは一人膝を抱えて縮こまる。頭の中は今朝の出来事がひたすら反芻していた。
「嘘だよね、司……」
今朝、委員長に言われたことが頭から離れない。

『今日、司君に大事な話があるって言われたの……中条さん、何か知ってる?』

「嘘だよね、司……」
委員長は、あの女はどうしてこんなにもあたしの心を蝕んでいくのだろうか――

『そう、ごめんなさい。中条さんなら何か知ってると思って……だって司君の――』

「嘘……だよね……」
吐き気がする。司が隣に居てくれたら。こないだみたいに抱きしめてくれたら。あたしはあたしで居られるのに――

『"親友"でしょ?』

「っ!?」
突然、無機質な電子音が真っ暗な部屋に響く。机の上にある携帯をゆっくりと掴む。
メールが一通届いているようだった。こんな時に誰が――
「……っ!」
差出人には"藤塚司"と表示されていた。あたしが今一番会いたい人。思わず携帯を持つ手が震える。とりあえず落ち着こう。
逸る気持ちを抑えつつゆっくりとボタンを押すと、本文が表示された。あたしはそれを目で追う――
「う……そ……」

------------------------------------
To:藤塚 司
Sub:報告

真実と付き合うことにした。
いきなりだけど、今日告白したんだ。
中条のおかけで付き合えたよ、ありがとな。
今、真実の家で料理をご馳走になってる。
とりあえず、取り急ぎ報告した。小坂にもよろしくな。
--------------------------------------

「……うそ」
あたしの中の何かが音を立てて崩れ落ちたような気がした。
気持ちが上手く整理出来ない。ただ呆然と本文を見つめるしかなかった。
「…………………あはは、あははははははははははははは!」
何だろう。何であたしは笑ってるんだろう。なんで笑っているのに、こんなに悲しい気持ちになるんだろう。何で……涙が止まらないんだろう。
……なんとなく、恋愛に異常に執着する人の気持ちが分かった。好きな人の幸せは必ずしも自分自身の幸せとは繋がらないんだ。
「あはははは……」
ゴメンね、司。もう限界みたい。今までずっと我慢してきたけど、もう抑えきれない。
あたしは何かに支配されたようにゆっくりと立ち上がった。
さあ、行かなきゃ。間違ってるんだから、止めなきゃ。
だって司は……司は、あたしの司なんだから。
「待っててね、司。すぐに……行くから」
もうあたしを止めるものは何もない。枯れてしまったのか、涙はいつの間にか止まっていた。

30 ◆Uw02HM2doE:2012/10/17(水) 13:05:02 ID:TNfm98K.
以上で投下を終了いたします。
読んで下さった方、ありがとうございました。

31雌豚のにおい@774人目:2012/10/17(水) 13:47:29 ID:DuE61Un2

ちょっと話がこんがらかってきたから最初から読み直さねば

あと前スレ埋めたほうがいいんかね?

32雌豚のにおい@774人目:2012/10/17(水) 21:38:52 ID:OtupnhjE
>>29GJ!
何だろう、バットエンドしか思い浮かばない。
とりあえず中条たん…

33雌豚のにおい@774人目:2012/10/18(木) 09:32:53 ID:/rL8VpS6
GJ
真実の納豆のようなねとつく病みぶり、イイ
中条は夏の涼風のように爽やかな病みぶりだね

早く弥生がメインに絡んでこないかな

34雌豚のにおい@774人目:2012/10/18(木) 09:37:28 ID:B5PNGpWg
>>30
乙乙!

35雌豚のにおい@774人目:2012/10/20(土) 21:27:31 ID:1SirPU9I
ぽけもん黒マダー(チンチン

36雌豚のにおい@774人目:2012/10/22(月) 21:44:26 ID:mkdZkBkQ
おう、我慢しろよ

37雌豚のにおい@774人目:2012/10/23(火) 03:10:37 ID:.TJmUI3c
ポケモン黒か。
ゴールドは香草だけじゃなく、ポポや、やどりとハーレムエンド迎えてほしいわ

38雌豚のにおい@774人目:2012/10/23(火) 23:58:36 ID:c2JfbC7.
場違いかも知れないけど投下

39雌豚のにおい@774人目:2012/10/24(水) 00:25:27 ID:pD08IqqA
どこかで足音が聞こえた。
僕は最後の煙を吐き吸殻を足で揉み消した。
今日、この路地裏で一人の女が死んだ。
きっと触れれば微かに残る温盛を感じる事が出来るハズだ、僕は彼女の亡骸に目を配る…もし他人が解釈するならどう映るだろうか?

…思わず下らない考えに口元が歪む。
結論を言おう、彼女は自殺した。僕の目の前で。
彼女はただ僕を愛した。それだけ。なら何故自殺を止めなかったかと他人は僕に問うかもしれない
地面に這う彼女の長い黒髪は主人を亡くした今までもその艶は衰えてはいない。花が虫達に媚びるかの様に腹から血が溢れだしている…その姿に思わず見とれてしまう僕はどこかおかしいかもしれない。
彼女は言った「愛してくれないのならせめてアナタに私を刻みつけましょう」
彼女が吐いた言葉はある意味で的を得ている。だって僕は初めて彼女に見とれているから

たくさんの足音が近づいて来ている…彼女が見せた劇が間もなく幕を降りる
僕は踵を返し、この記憶も埋もれていくのだろうとまた口元を歪めた。

40雌豚のにおい@774人目:2012/10/24(水) 00:28:39 ID:pD08IqqA
以上で投下終了。
やんでれを書いてみるとこうゆうのしか浮かばない…コレもやんでれで合ってるよね…?

41雌豚のにおい@774人目:2012/10/24(水) 17:32:23 ID:4YdAADQ.
もう少し書いてほしい。

42雌豚のにおい@774人目:2012/10/29(月) 05:44:38 ID:GM4BrcOA
とりあえず前スレ埋めないか?

43 ◆Uw02HM2doE:2012/11/04(日) 02:43:21 ID:1vtIi1uo

深夜にこんばんは。投下致します。
今回はサイドストーリーという位置付けなので「11.5話」とさせて頂きます。
よろしくお願い致します。

44嘘と真実 11.5話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/04(日) 02:45:01 ID:1vtIi1uo

〜ある加害者のモノローグ・4〜

両親は、私に一緒に来るように勧めた。このマンションにいると、兄さんのことを思い出してしまい辛いから、と。
『真実……真人(まさと)のことはもう忘れよう』
『お父さんの言う通りよ、真実。貴女、最近めっきり食欲もなくなってるし――』
両親は、何とかして私をここから遠ざけたかったらしい。ふさぎ込む私を見る度、兄さんのことを思い出してしまうからだろうか。
『……私は、残る。まだ……気持ちの整理が、着かないから……』
心から思った。
この人達はもう死んだ兄さんのことなんて、どうでもいいんだろうな、と。
無理もない。世間から兄は女子高生に痴漢をした挙げ句、自殺したどうしようもない人間――そういう風に知られてしまったのだから。
勿論、大きな事件ではなかった為、そこまで兄さんのことを知っている人間はいなかった。それでも、居心地が悪いのは事実だ。
だから両親の気持ちも分からなくは、ない。でも――
『真実……』
『大丈夫。気持ちの整理が着いたらちゃんとパパとママの所へ行くから』
私には到底認められることではなかった。両親は好きにすればよい。
ただ、私は違う。兄さんが死んでしまった時に誓ったのだ。必ず復讐を果たす、そう誓った。
……兄さんはずっと無実だって言ってた。自分は女の子の後ろには居たが触ってなどいない、絶対にやっていないと。
でも、そんな兄さんの叫びは駅員にも警察にも友人にも、両親にさえ届かなかった。
唯一届いた私は、結局兄さんを救うことが出来なかった。
だからこれは復讐であると同時に、私の兄さんに対する贖罪でもあるのだ。
『……分かった。でも辛くなったらすぐにこっちに来るんだぞ、真実』
『うん……ありがとう、パパ、ママ』
こうして、私はこの桜山市に残ることを選んだ。
今は何も出来ない小娘かもしれない。だが、いつか必ず奴を、藤塚弥生を見付け出し復讐してやる――
『……兄さん』
そんな私の想いがすぐに現実のものとなることを、この時私はまだ知らないでいた。



桜が爛漫に咲き誇っていた今年4月。
最初に藤塚司に出会った時、不覚にも私は藤塚弥生との関連性に気付けずにいた。
兄さんが死んでから半年。新学年になり、私の緊張の糸も忙しさに追われ若干緩んでいたのかもしれない。
とにかく、クラス委員長として転校生の彼を案内した時も、私は全く気が付かなかった。むしろ私が抱いていた感情は――
『いやぁ、この学校広いな!何処に何があるか全然わかんねぇ!』
『ちょ、ちょっと!廊下をそんな風に走らないで!常識ないの!?』
『あ、ゴメンゴメン!つい夢中になっちゃってさ』
『あのねぇ……』
親近感だった。
その転校生、藤塚司はどことなくおっちょこちょいな私の兄さんにそっくりで似ているな、と思った。
一ヶ月ほどして彼はいつの間にかクラスに溶け込んでいた。
特に学年一のモテ男とまで言われている美少年、小坂晃。
そして何処か近寄り難く以前は全く他人と話さなかった中条雪。
そんな校内でも有名な二人と仲が良いらしく、転校生ということもあり彼自身もちょっとした有名人になっていた。
私は兄さんに少し似ているな、と思うくらいであまり気に留めていなかったのだが。

45嘘と真実 11.5話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/04(日) 02:45:51 ID:1vtIi1uo
『辻本さん、知ってる?最近校内で有名な藤塚兄妹』
『ああ、知って……兄妹?』
そのまま知らなければ良かったのだろうか。
新学期が始まってから一ヶ月ほど経ったある日の放課後、私は同じ委員長の大内さんに話し掛けられた。
彼女は以前から私のクラスの小坂君のことが好きらしく、色々と相談に乗ったりしていたのだった。
『あれ?知らないの。妹さんがすっごい可愛いんだって特に有名なの』
『……そうなんだ』
藤塚君に妹がいたなんて知らなかったな。そんな風に軽く聞き流していた。
少なくとも妹の名前が出るまでは。
『そうそう、確か藤塚……弥生、だったかな――』
『や……よい……?』
『ん?どうしたの、辻本さん』
"藤塚弥生"。
その単語が出て来た瞬間、私は思い切り頭を叩かれたような衝撃を受けた。
不意打ちもいいところだ。急に心臓が高鳴るのを感じる。上手く呼吸が出来ない。
そんな私に気が付いていないのか、大内さんはそのまま話を続ける。
『転校してきてまだ一ヶ月なのに、もう告白されたらしいよ。一度見てみたいよね』
『…………転校』
急に私の中で何が組み上がっていく。
転校生の藤塚弥生。
何故、転校してきたか。
確か藤塚君は親の都合と、それから諸事情でとか言ってなかったっけ。
その諸事情が……もし私の想像しているものと一緒だったとしたら。
私の中でどす黒い感情が一気に吹き出そうになる。兄さんの敵。兄さんが死んだ元凶――

見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた

『――さん?辻本さん!?』
『……えっ?』
気が付けば私は大内さんに支えられていた。一瞬意識を手放したようだった。
『大丈夫?身体、震えてるよ!?保健室、行こうか?』
『……大丈夫』
多分、この震えは保健室なんか行っても収まらない。
これは悪寒や恐怖なんかじゃない。私の身体が喜びに震えているのだ。
何年も、何十年もかかると思っていた兄さんの敵。
人生を賭けて復讐すると決めた相手。
その相手が……今同じ学校にいる。今すぐにでも殺したい。殺すだけならすぐにできる。

コロスダケナライマスグニデモ――

『辻本……さん?』
『……私、先に帰るわね。体調、悪いみたい』
『う、うん……』
――駄目だ。落ち着け。そんな簡単に済ませて良いはずがない。
そんな簡単に許されて良いはずがない。焦るな、時間はたっぷりある。
まずは観察だ。藤塚君に近付くのはまだ早い。藤塚弥生を観察して、アイツの一番大切な物を見つけ出す。
そして、それをアイツの目の前で徹底的に凌辱する。
私の大切な、世界で一番大切だった兄さんを奪った思いを、必ず藤塚弥生にも思い知らせてやる。
目の前で許しを請う姿を見てから、殺す。
『……くくく、あはははははははは!』
神様なんてこれっぽっちも信じていなかったけど、でも今は信じてやってもいい。
きっと死神に違いないけど。とにかく私は必ずやり遂げる。だから見ててね――
『……兄さん』
ふと見上げた夕焼け空は兄さんが死んだ日、窓から見えたあの空とそっくりだった。

46嘘と真実 11.5話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/04(日) 02:47:50 ID:1vtIi1uo

私が藤塚弥生を観察して、半年が経った。
少し慎重過ぎたかもしれないが、おかけで様々なことが分かってきた。
まずは藤塚弥生の大切な物。一つは同じバレー部の先輩である、中条雪。
そしてもう一人はアイツの兄である、藤塚司。
特に顕著なのが、藤塚君に対する親愛だ。傍目には分からないかもしれないが、私にははっきり分かる。
アイツの藤塚君を見る目は普通の親愛ではない。
……何故分かるのか。それは皮肉めいた話になるが、私と同じだからだ。私も……私も兄さんのことが好きだった。
………………異性として。
だからこそ余計に許せなかった。同じ境遇にありながら藤塚弥生には愛すべき兄がいる。だが私には――
『藤塚……弥生……』
まるで自分のものとは思えないほど、憎しみが篭った声が口から出る。
期は熟した。半年、耐えつづけたこの想いをついに解放出来る。
どうすればアイツを最高に苦しめることが出来るか、答えはもう出ている。
藤塚弥生が慕っている中条雪と、兄である藤塚司。
この二人をアイツの目の前で蹂躙する。そして最後に藤塚弥生を――
『……待っててね、兄さん』
ついに始まる。果たして上手く行くだろうか。
……いや、必ずやり遂げる。その為に私は半年耐えてきたのだから。
まずは藤塚司に近付くこと。これが最優先だった。
彼と仲良くなることで藤塚弥生との繋がりも出来るし、彼を篭絡してしまえば、藤塚弥生を追い詰めることが出来る。
ただ、それには障害もあった。それは特に仲の良い二人の友人、小坂晃と中条雪だ。
彼はこの二人といつも一緒の為、中々近付くことが出来ない。
委員長という立場を使っても精々知り合い程度が限界であることは、容易に想像出来た。
半年という時間は、私に復讐を考えさせる十分な時間であったと同時に、藤塚司に親友を作らせてしまうに事足りる時間でもあったのだ。
しかし彼に近付くことが出来なければ、私の復讐は始まらない。どうするか。
散々考えた結果、私が導き出した答えは――
『何だ……これ……』
藤塚君はただ呆然と、ゴミがぶちまけられた自分の下駄箱を眺めていた。
途方に暮れている彼を見て、私は確信する。この方法しかない、と。
伊達に半年、観察してきたわけではない。藤塚君の性格上、一人で解決したがることは何となく予想出来た。
だからまず、彼を孤立させる。誰にも相談出来ないような悩みを抱えさせて、精神的に追い詰める。
一週間ほど続けると、彼も相当まいっているようだった。
その日も私が屋外プールに投げ込んだ体育館履きを拾って、廊下を歩いていた彼の後ろにそっと近付いて――
『藤塚君、そこで何してるの?』
『おわっ!?』
狙ったタイミングで飛び出し、彼に話し掛けた。
……わざとらしくならないよう、あくまでも心配している気持ちを込める。
『だ、大丈夫?……どうしたの、その体育館履き?』
『えっと……って、委員長か』
"委員長"。それが今の私と藤塚君の距離そのものだ。
この距離を私は今から縮めなければならない。そう思うと少し焦ってしまい、聞き方がどうしても雑になる。
『藤塚君?その体育館履き……』
『ああ、これ?えっと……そう!振り回してたら噴水に落としちゃってさ!馬鹿だよね、俺も!』
へらへらと笑いながら藤塚君はごまかそうとする。
――嘘ばっかり。藤塚君も兄さんと一緒だ。私を頼らず、一人で抱え込む。
『……今日は体育なかったけど、どうして体育館履き何か持ってるの?』
『それは……あーっと晃に悪戯されてさ!』
何故だろう。イライラする。打ち明けて欲しい、助けてあげたいのに藤塚君は私を頼ってはくれない。

47嘘と真実 11.5話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/04(日) 02:48:30 ID:1vtIi1uo
その姿が兄さんと重なり、余計にイライラする。
……勝手もいいとこだ。私が、私の行為が彼を苦しめているというのに。それでも私の心は締め付けられる。
『小坂君が?藤塚君と仲が良いのに?』
『仲が良いからだよ。まあ軽い悪戯だからさ。あ、俺用事あるからもう帰る――』
『……クスッ』
無意識に私は笑っていた。
藤塚君は何事かとこちらを見ている。それもそうだ。急に目の前で話し相手が笑うのだから。
でも、これが笑わずにいられるだろうか。私が敵にしている藤塚弥生の兄が、兄の言動や性格が、藤塚弥生に"殺された"兄さんとそっくりだったなんて。
なんて皮肉だ。私はこれから、いや既に兄さんにそっくりな藤塚君を傷付けている。
兄さんが追い詰められたイジメを使って、だ。これが笑わずにいられるだろうか。
『えっと……』
『藤塚君って嘘、下手だね』
『あ、あのさ……』
『とりあえず、話聞かせて?じゃないと……』
藤塚君の手を握りしめる。温かい、彼の体温が伝わってくる。
私の冷たい心を溶かしてくれそうな、彼の温もり。私がこれから……壊さなくてはいけないもの。
揺るがないように、流されないように心に刻む。私は兄さんの敵を取るために、藤塚君に近付いたんだ。
『怒っちゃうよ?』
――そう、これは敵討ちだ。私が生きる目的であり、遂行しなければならない使命なんだ。
私はこれから幾つもの嘘を積み上げて、真実を隠して彼に近付く。
そして嘘と真実を使い分け、必ず私は……藤塚弥生に復讐する。



放課後の教室。藤塚君と接触して一週間ほどが経った。
今日も日常になりつつある、教室での嫌がらせ対策会議を行っている。
この一週間で嫌がらせの回数が少なくなっているおかげか、藤塚君の表情は明るかった。
……蓋を開ければ、私がただ彼に取り入る為、回数を少なくしているだけなのだが。
『……でも、有り得るわね』
『有り得る?』
『藤塚君が嫌がらせをされている原因よ』
『俺の……原因』
藤塚君は難しい顔をして考える。
一週間。以前に比べて彼はある程度の信頼を寄せてくれている。だからこそ、ここで更に追い打ちをかける。
――彼が私しか信用出来ないような状況を作りだす。そして、藤塚弥生から兄を奪う。
『よく考えてみて。藤塚君はいつも小坂君と中条さんといるよね』
『あ、ああ……』
『二人ともかなりの美男美女だし、学年でも噂になってるのは知ってる?』
藤塚君は不安げな表情を浮かべる。
私は知っている。彼がこの半年、何回か二人を紹介して欲しいと頼まれていたことに。
そして彼が二人に対して少なからず、コンプレックスを感じていることを。
『……小坂君はまだしも、藤塚君と中条さんがいつも一緒にいるのを、快く思っていなかった人もいるかもしれないわ』
『……つまり、中条が俺の嫌がらせの原因ってことか』
『まだ可能性の一つに過ぎないわ。でも有り得なくはないと思うの』
『……仮にそれが事実だとしても、俺にはどうしようもないよ』
ゆっくりとうなだれる藤塚君を見ながら、私はタイミングを計る。
……今か?
『……例えば、よ』
『ん?』
『例えば……少し中条さんと距離を置く、とか』
『なっ……!』
私の提案を聞いた瞬間、藤塚君は動揺した。そんなことはしたくない、そんな表情。
……やはりまだ早いか。そう諦めて私は気持ちを切り替えようとするが、何かが心に引っ掛かる。
中条雪は、藤塚君の中でかなり大きな存在なのだと今思い知った。恐らく、私よりも。
その事実が何故か私の心に波を立てる。
……何故?別に当たり前のはずなのに。あくまで藤塚君は、私の復讐の手段でしかないはずなのに。
『ただの例えよ。……でもこのままじゃ中条さんにも被害が及ぶかもしれないわ』
『……少し、考えてみるよ』
藤塚君は心底落ち込んで椅子にもたれ掛かった。俯いているので表情はよく分からないが、きっと暗いに違いない。
……元気になってほしい。何故か私の中でそんな気持ちが芽生えた。
どうかしている。彼を苦しめているのは私だというのに。

48嘘と真実 11.5話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/04(日) 02:49:24 ID:1vtIi1uo
この一週間、毎日藤塚君と放課後、一緒に過ごすことが楽しみになっている私がいることに、今更気が付いた。
彼が兄さんと似ているから……?理由は分からない。とにかく私は彼を気に入っている。
まずいと分かりながらも、私は自分の口を止められなかった。
『……うん。まだそうと決まったわけじゃないんだから!ほら、しゃきっとする!』
『いってぇ!?』
『さ、帰りましょ!今日は藤塚君に付き合って貰うとこもあるし!』
私は藤塚君の腕を掴んでそのまま歩き出す。駄目なはずなのに、止められない。今日だけは、今だけは――
『えっ?俺そんな約束――』
『今したの!さ、行くわよ!』
どろどろに混ざった嘘と真実に背を向けて私は歩き出した。
藤塚君も抵抗するのを諦めてくれたらしく、そのまま私の後に続いた。



駅前に最近出来たスイーツ専門店に、私は藤塚君を連れてきた。
狙いは一つ、カップル限定の特大パフェだ。カップルを意識させることによって、より藤塚君に近付く。
これはその為の手段に過ぎない。そう何度も自分に言い聞かせて、私は藤塚君にカップルのまね事を迫る。
『はい、あーんして!』
スプーンを持つ手が微かに震える。
……だって仕方ないじゃない。私だってこんなことするのは、初めてなんだから。
『い、いや、あのですね!』
『私たち"カップル"なんだから!はい、あーん!』
『むぐぅ!?』
恥ずかしがって顔を真っ赤にしている藤塚君の口に、半ば無理矢理パフェを捩込む。
私も今、彼と同じくらい真っ赤な顔をしているに違いない。
『もう一口、あーん!』
『あ、あーん……』
『うん、よろしい!』
……何だろう、この温かい気持ちは。私の冷めきった心をゆっくりと温めてくれる、そんな時間。
いつの間にか私は演技ではなく、自然と笑っていた。藤塚君と過ごす時間が、私を過去から解放してくれる。
彼と過ごす時間が、私の中で少しずつ大きくなっていく。
私たちはそのままお店を出て、一緒に帰る。何気ない日常が、私を癒してくれる。
藤塚君が隣にいると私は安心する。そんなことを思いながら私は彼の隣を歩く。

49嘘と真実 11.5話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/04(日) 02:50:03 ID:1vtIi1uo
『今日は付き合わせちゃってゴメンね』
『あはは。まあ辻本さんの違う一面を見られたから俺は満足かな』
『あ、あれはね!つ、つい夢中になっちゃってね!その……』
藤塚君は私をからかってきた。
何処か懐かしい感覚だった。人とこんなに話したのは久しぶり――
『分かってるって。クラスの皆には内緒にしておくからさ』
『あ、ありがとう……』
……どうして久しぶり、なんだっけ。何の為に私は彼に近付いたんだっけ。
私の変化に気付かずに藤塚君は楽しそうに話を続ける。
『俺も……辻本さんの意外な一面が見れて楽しかったしな』
『もう止めてよね、恥ずかしいんだから!』
楽しそうに笑う藤塚君とは対照的に私の心は少しずつ冷えていった。
藤塚君は、確かに良い人かもしれない。私は、彼のことを気に入っているのかもしれない。それでも――
『あ、私こっちだから』
『おう、じゃあまた明日な!』
『あっ!藤塚君っ!』
『どうかした?』
それでも私は、私の真実を貫かなければならない。兄さんは、無実だった。
藤塚弥生の間違いによって、兄さんは追い詰められて……殺された。それが紛れも無い事実であり、私の真実なんだ。
そして私は復讐の為、真実を最期まで貫き通す為に嘘を散りばめる。
だから、今がどんなに楽しくても、どんなに満たされると感じても、それは嘘でしかない。まがい物でしかないんだ。
『……油断、しないようにね』
まるで自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いでいった。
せめて藤塚君には宣言しておきたかった。
これから、君と君の大事な妹さんの人生を、私は目茶苦茶にしてみせる、と。
だから、これは宣言。私の復讐の、嘘と真実にまみれた日常の始まり。
『……えっ?』
『嫌がらせ、まだ終わったわけじゃないから』
さあ、始めよう。藤塚君が私の"真実"に気が付くのが先か。それとも私が嘘で塗り潰すのが先か。











――"嘘と真実"を混ぜ合わせ、私は必ず復讐を果たす。










11.5話














「んっ……」
チャイムの音で目が覚める。どうやら少し寝てしまっていたらしい。
時計を見ると、メールを送ってから1時間ほどが経過していた。
僅か1時間で私の家を捜し当てるとは、正直驚いた。それほど彼女の愛情が深いということなのだろうか。
感心しながら私はドアを開ける。
「はいはーい!……あら、中条さんじゃない。急にどうしたの?」
「……つ、司……居ないかなって思って……」
どうやら外は雨らしい。傘も差さずに探し回ったのだろうか、ずぶ濡れの中条さんは濁った目で私を見つめる。
「司君なら奥にいるけど――」
「あ、会わせて!会わせて……くれませんか……」
真冬の雨はやはり寒かったのか、必死に訴える中条さんの身体は微かに震えていた。
まあ震えている理由はそれだけではないのだろうけど。

50嘘と真実 11.5話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/04(日) 02:50:38 ID:1vtIi1uo
「えっと……」
「お、お願いです!ちょっとだけで良いんです!」
躊躇するふりをする私に中条さんは懇願する。
本当は今すぐにでも私を押し退けて司君に会いたいだろうに、よく耐えられるものだ。
……藤塚君はこの子のこういう所に惹かれたのだろうか。
「……別に構わないわよ。さ、上がって?」
「あ、ありがとう……」
ふと過ぎった考えを隅にやって、私は計画通り中条雪をリビングに案内する。
「傘も差さずに来るなんて司君に何か急用?」
「……は、はい」
「そう……ところでよく分かったわね、私の家にいるって」
「司から……連絡があって……」
「ああ、それはそうよね。でも、私の家よく見つけられたわね」
「……前に司が言ってたから」
中条さんの様子を見ながらリビングに向かう。
どうやらかなり探し回ったらしく、歩くのも辛そうだ。冬の雨が身体を芯まで冷やしてしまっている。
――絶好の機会だった。
「私はタオル取って来るから、先に行ってて」
「あ、はい……」
洗面所に行くふりをして、中条さんの背中を捉える。白に近い銀髪が雨粒のせいでいつもより輝いていた。
司君に会いたい一心なのか、背後に忍び寄る私には気付いてはいないようだ。
彼女がリビングへの扉を開けるのを見てから私は――
「……おやすみ、中条さん」
「っあ!?」
隠し持ったスタンガンを彼女の首筋に押し当てた。バチバチと景気の良い音がして、中条さんの身体が軽く震えた。そしてそのまま床に倒れ込む。
リビングには同じように倒れて、手足を縛られている司君が眠っていた。
「……これで、よし」
役者は揃った。計画が上手くいったことに私は安堵する。かなり綱渡りだったが、無事にここまでこぎつけた。
後は最終段階。主賓をここにお呼びして、兄さんが好きだった"あの部屋"で全てを終わらせる。
「もう、少しだよ。待っててね、兄さん……」
私の声はリビングに虚しく響く。雨音だけが私の声に答えてくれているようだった。



「……雨、止まないな」
既に外は闇に包まれていた。
いつもならとっくに帰ってくるはずのお兄ちゃんが、まだ帰ってきていない。
何かあったのだろうか。得体の知れない不安がわたしの中に渦巻いていく。
「あっ……」
探しに行こうと立ち上がった瞬間、わたしの携帯が震える。
急いで確認するとお兄ちゃんからだった。

---------------------
From:藤塚 司
Sub:無題

ゴメン!連絡遅れた!今辻本さんの家にいるんだけど、急に雨降ってきて帰れない。
辻本さん家にも傘ないらしくて、悪いけど迎えに来てくれ!場所は――
---------------------

「……もう、しょうがないなぁ」
携帯に書いてある住所を見ながらわたしは身支度をする。
傘は……一本で良いかな。二本だとかさ張るし、一本なら相合い傘が出来る――
「……って、わたし何考えてんのよ」
ぶつぶつ言いながらも、わたしは傘を一本だけ持って真っ暗な闇に吸い込まれていった。

51 ◆Uw02HM2doE:2012/11/04(日) 02:51:55 ID:1vtIi1uo

以上で投下を終了いたします。
読んで下さった方、ありがとうございました。

52雌豚のにおい@774人目:2012/11/04(日) 09:18:22 ID:3bhHH38.
>>51
乙です!

53 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:16:44 ID:2.2JYbKA
はじめて投稿するので生温かい目で見守ってください

54ふたり ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:18:26 ID:2.2JYbKA

土曜日の4時限目。俺こと池上哲也はこの時間が大好きだ。もう少しで帰れる・・・明日は遊べる・・!そんな思いが湧き出るこの感覚が好きだからだ。
この時間は日本史。先生は中年の、サングラスをかけたおっさん。
教科書を読みあげ、板書を書くだけの授業なんて聞く意味はない。
だから俺は、日本史の時間は窓の外を見ることにしている。俺の席は窓際、そして外はいい天気。
ああ・・・早くこんな時間から解放してくれ!・・・とは言ってもまだ授業は30分ほど残っているわけだが。
・・・っと、そうしていると横からブツブツと何やらただならぬ声が聞こえてくる。
声のする方を見ると、隣の席の少女が俯きながら呪詛のような言葉をぶつぶつと呟いている。
またか・・・。そう俺は思った。
隣に座っている少女の名前を米沢愛理という。米沢愛理はとても活発で爽やかなスポーツ美少女である。ソフトボールをやっていて、彼女は男女ともに人気がある。まあ、スポーツをやっているから、性格は明るい訳で。クラスのムードメーカー的な存在である。
・・・が、その彼女が最近変なのだ。彼女の様子が。いつもなら授業中にも積極的に発言して、周りを盛り上げるのだが最近はそれが少ない。そしていつも下を向いてぶつぶつと呪文のようなナニカを唱えている。
なぜなんだろうか・・・?女にまだ興味のないおこちゃまな俺が女心を知ろうとしてもそれは無理だ。だから、理由はさっぱりわからない。
その声は耳を澄まさないと聞こえないくらい小さいものなので、このことは隣の席である俺しか知らない。だから、彼女の周りの友人は彼女の異変には気付いていない。
この呪詛のようなナニカを吐く時の彼女は別人格なんじゃないのかというぐらい、彼女らしくない。
前に一度、彼女がそのセリフを吐いた時俺はついつい、彼女のほうをボーっと見てしまった時があった。その視線に気づいた彼女はハッとして、笑顔を作り、
「あ、そ、その、なんでもないよ、気にしないで!」と言ってごまかした。
その時の彼女はいつもの彼女に戻っていた。そんなことがあっても米沢は度々、俺にこの声を聞かせてくる。いったい何なんだ?このときの米沢はとても威圧的で、俺はいつも恐ろしいと思う。
こんなことになった原因はナニ?そんなことを考えていたら、彼女が俺のワイシャツの袖を引っ張っていた。
俺が米沢のほうを向くと、彼女は爽やかに笑って言った。
「この後、暇かな?」

55ふたり ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:19:21 ID:2.2JYbKA


・・・という訳で俺は米沢に誘われて駅ビルの喫茶店で飯を食っていた。
俺は別に腹が減っているわけじゃないから、コーヒーとサンドイッチだけをパクついていたが、米沢は特大ビーフカレーとデラックスパフェを黙々と食っていた。こんなちっちゃい体によく入るよなあ・・。こんだけ食って太らないってことは、それだけ運動しているのだろうな・・・。そんなことを考えていた。
沈黙。食事の間、今のところ俺たちの間に会話がない。
・・・何で米沢は俺を誘ったんだろう・・・?
俺は小さくため息をついた。すると、米沢は急にカレーを食う手を止め、俺を見据える。
「どうしたの?ため息なんてついてさ。」
指先をナプキンで拭いた後、米沢は髪の毛をいじりながらそう聞いてきた。
「い、いや何でも無いよ。」と冷静に取り繕って答えた俺だが、内心冷や汗をかいている。
何と言うか、今の米沢がまとっているオーラがさっき垣間見えた黒いオーラに近いような気がしたからだ。
「『どうして米沢は俺を誘ったんだろう?』って思っているでしょう。」
オーラを和らげ上目遣いで微笑みながら聞く。運動はできるけど、160あるかないかの身長の彼女は身長178の俺にとってみれば小さな女の子だ。その米沢に何をおびえているんだろうな。
「そうだな・・・。まあそんなところかな。もしかして、金欠?奢ってほしいとか?」
奢りはしないが、雰囲気を明るくするために俺は必死に冗談めかして言う。でも、雰囲気は和みなどしなかった。
「そんなんじゃないんだ・・・。もっと真剣な話だよ。」
・・・何か元気がない。声も弱弱しいし。こんな米沢は初めて見る。いつも快活に笑い、陽気に話しかけてくるいつもの米沢からは決して見られない一面。ある意味では、あの黒いオーラを纏った彼女と似た部分があるのかもしれない。意を決したように米沢は口を開く。
「私・・・さ、原先輩と付き合ってるの・・・。知ってる?」
「ああ、勿論。」
これは周知の事実だ。原先輩は野球部のキャプテンだ。チームのムードを良くするのが得意な選手だ。その辺は米沢と似ているし、やっているスポーツだってソフトボールと野球でほとんど同じだし、お似合いのカップルとして校内でも有名だった。
「それが、どうかしたのか?」まあ、なるべく地雷を踏まないように、聞いたつもりだった。
「あのね・・・、原先輩が浮気しているみたいなんだ。」

56ふたり ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:21:12 ID:2.2JYbKA

チュドーン!!!!
いきなり地雷かよ!地雷原かよ!ああ、彼女少し泣きそうになってるぞ!フォローを!彼女にフォローを入れるんだ!
「あ、あ、そのごめん。」
フォローになってねえええ!謝ってどうするよ!?
でも、俺はこんなときどんな接し方をすればいいのか分からない。映画に出てくるカッコいい男とかなら、黙って彼女の話を聞いて最後に深い言葉を残すのだろうが、俺には無理だ。女心をつかむような素敵発言は俺には無理なんだ!!
「いいんだ。そんなに謝らなくても。最近知ったわけじゃないし。結構前から知っていたよ。」
なんか逆に俺がフォローされてる気がするぞ・・。何故か無性にのどが渇く。ああくそ、アイスコーヒーにしておけばがぶ飲みできたのに。俺は少し間をおいてからしゃべりかけた。
「その・・・結構前って、いつから?」
彼女は少し考えているそぶりを見せた。はて・・?何で考えるんだろう。いつから知っていたかなんてすぐに分かるはずなのに。意外とそういうことにはルーズなのかな?
「大体、2カ月ぐらい前かな・・・。」
2カ月?・・・おかしいな。じゃあ彼女の様子がおかしかったのって、先輩の浮気のことについてじゃないのか?彼女の様子がおかしくなったのは3カ月以上前。いや、もしかするともっと長いこと前かもしれない。時期が一致しないな・・・。なんでだろう?
「私、どうすればいい?原先輩にどうしたらいいと思う?」
すがるような眼で俺に尋ねてくる。どうしよう・・・。下手なこと言えないぞ・・・。もし適当なこと言ったら、彼女も原先輩も傷つけることになってしまうかもしれないんだよなあ・・・。どうする俺!?
なけなしの恋愛知識や俺の偏見に満ちた恋愛観から絞り出した答えがこれだった。
「一回、原先輩と直接向かい合って話せばいいと思うよ。嘘偽りなく本音トークをすれば、米沢の誤解ならそれを解くこともできるじゃん。何も原先輩が浮気してると決まったわけじゃないんだろ?それならば、本音トークをするべきだ。」
・・・なんとも無難な、悪く言えば責任丸投げの発言。要は、この話に関しては2人の問題だから俺を巻き込まないでくれ!と言ってるようなものだ。けど、俺にはそれでいい。原先輩は仮にも野球部のキャプテンだ。ここで「別れるべきだよ。」って言って、本当に2人が別れて、その原因が俺だとばれたら報復行動を起こすかもしれない・・・。そうなれば非力な俺は十中八九負ける。・・・面倒事はごめんだ。

57ふたり ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:22:28 ID:2.2JYbKA
「ねえ、池上。あんたはそれで・・・いいの?」
と米沢は顔を下に向け、髪をしきりにいじりながら聞く。



・・・はて?この質問の意図は何だろう?別に米沢が原先輩の浮気について本当かどうか話し合うことによって俺に不都合が生じるわけじゃない。いや、むしろ其れによって米沢が原先輩と仲直りしたら、それはそれで俺は祝福すべきことだし、友人が元気を出してくれたら俺としては嬉しい。
・・・ほら、何にもおかしくない。何を言ってるんだろう、米沢ってやつは。
「いいに決まってるじゃないか。今からでも遅くないさ。原先輩だって、本当に浮気をしているんなら罪悪感を少しは持っているはずだよ。もし持っていなかったら別れればいい。とにかく、米沢の幸せは(友人である)俺にとっては嬉しいことだよ。」
彼女は驚いたような顔で俺を見ている。顔真っ赤だよ。

・・・なんか、いつもの爽やかなボーイッシュ美少女の彼女を見すぎているせいか、米沢が女の子らしい顔をするとそのギャップが俺の心をピンポイントについてくる。要は可愛い。原先輩も、こんなに可愛い彼女がいるのに浮気をするとは贅沢な人だなあ。
そんなことを思っていると、何か恐ろしいノイズが耳に入ってくる。恐る恐る彼女のほうを見ると、彼女は俯いたまま、やはり呪詛のような独り言をつぶやいている。

・・・ああ、なんでそうなるんだ?俺は単に原先輩と米沢の恋愛事情にアドバイスを入れただけだぞ。決して邪魔したわけでもない。なのに、何故彼女は怒りをにじませ、呪詛のような独り言をつぶやくのだろうか。
だんだんと恐ろしくなってきた俺はさっさと帰ることにした。
「ごめん。何か俺が立ち入っちゃいけない領域に入ったから、怒ってるのかな?ごめん。ここの代金払っとくから。俺先帰るよ。」
彼女は何も言わなかった。ただ下を向き、放心しているような錯覚を受ける。

俺も何も言うまい。あとは原先輩と彼女の問題。俺は臆面もなく立ち入っちゃいけないのだ。所詮俺は部外者。さっさと帰ろう。ただ、彼女には幸せになってほしい。それだけは俺の嘘偽りのない気持ちである。

58ふたり ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/04(日) 21:24:35 ID:2.2JYbKA
以上で投稿終わりです
一応続きものなのでそのうちヤンデレの展開が出てきます

まだまだ下手くそなんでアドバイス募集です
ありがとうございました。

59雌豚のにおい@774人目:2012/11/04(日) 22:00:40 ID:MEJu5arE
GJ
楽しみに待ってるよ

60雌豚のにおい@774人目:2012/11/04(日) 22:02:28 ID:wJhcIMpY
久々の投下きたぁぁぁ
楽しみにしてる

61雌豚のにおい@774人目:2012/11/04(日) 22:14:59 ID:dVtSAnOY
GJ
文章はするりと読めるけど改行が少ないからすこし読みにくいかな
改善点はこれくらい
期待してます

62雌豚のにおい@774人目:2012/11/05(月) 07:48:21 ID:0JtZmSq6
>>51
>>58
二人ともGJ!
感謝感謝

63雌豚のにおい@774人目:2012/11/05(月) 08:38:18 ID:Y/6K6z9g
>>58
乙乙!

64雌豚のにおい@774人目:2012/11/05(月) 18:49:30 ID:FcGgQQXI
触雷はやくー

65雌豚のにおい@774人目:2012/11/05(月) 21:25:10 ID:Rrz6Kx.Y
ゆっくり待てってのいくらなんでも早漏すぎるわ
作者さんも都合あるんだからさ・・・

66雌豚のにおい@774人目:2012/11/06(火) 00:30:59 ID:WpBa1suM
わかってるが、これほどステキな創作物に巡り会えたのだ

67雌豚のにおい@774人目:2012/11/06(火) 07:19:28 ID:jXe/tmYI
投稿された最近の作品は無視してクレクレか。
そりゃあ誰も投稿しなくなるよな。

68雌豚のにおい@774人目:2012/11/06(火) 19:16:07 ID:lg1fzlPU
ふと頭の中で思い付いたのを投稿させていただきます。

至らぬ点ばかりでしょうが、どうぞよろしくお願いします

69シュガースポット:2012/11/06(火) 19:16:45 ID:lg1fzlPU
私の身体には、沢山の醜い痕がある。

その痕は、私の恋人がつけたものだ。

今流行りの世間で言うDVだと思う。

世間ではそういうかもしれない。
だけど私の場合はDVなんかじゃない。

彼は言ってくれた。
『お前を愛しているから』と。
これは、暴力なんかじゃない、愛の印なのだ。

だから私は幸せだ。

彼に殴られる度に、蹴られる度に、私の身体という身体中に濃く、大きな斑点ができる。

その痕を見る度に、私は彼に愛されているのだと認識させてくれる。

だけど、彼は私を裏切った。

その発覚は意外な物でわかった。

大学内で知り合った友人の身体に、蒼い痣を見つけた。

どうしたのか、と聞くと、溜まりに溜まったものが爆発したのか、全て私に打ち明けてくれた。

──彼氏が、暴力を振るうの──

その一言で、私はハッとなった。
一体誰にやられたのか、そう詰問すると、友人はあっさりと口を割った。

私の、彼氏の名前だった。



私は、友人を殺した。
無惨な姿になるまで、何度も何度も、包丁を突き刺した。

彼女には、私と同じように、沢山の愛が詰まっていた。

──許さない。

彼の愛を受けるのは私だけでいい。
彼の愛をつけてもらえるのは私以外にいらない。

彼に、言わないといけないな。

あなたを愛しているのは私だけだと。

70シュガースポット:2012/11/06(火) 19:17:13 ID:lg1fzlPU
私の身体には、沢山の醜い痕がある。

その痕は、私の恋人がつけたものだ。

今流行りの世間で言うDVだと思う。

世間ではそういうかもしれない。
だけど私の場合はDVなんかじゃない。

彼は言ってくれた。
『お前を愛しているから』と。
これは、暴力なんかじゃない、愛の印なのだ。

だから私は幸せだ。

彼に殴られる度に、蹴られる度に、私の身体という身体中に濃く、大きな斑点ができる。

その痕を見る度に、私は彼に愛されているのだと認識させてくれる。

だけど、彼は私を裏切った。

その発覚は意外な物でわかった。

大学内で知り合った友人の身体に、蒼い痣を見つけた。

どうしたのか、と聞くと、溜まりに溜まったものが爆発したのか、全て私に打ち明けてくれた。

──彼氏が、暴力を振るうの──

その一言で、私はハッとなった。
一体誰にやられたのか、そう詰問すると、友人はあっさりと口を割った。

私の、彼氏の名前だった。



私は、友人を殺した。
無惨な姿になるまで、何度も何度も、包丁を突き刺した。

彼女には、私と同じように、沢山の愛が詰まっていた。

──許さない。

彼の愛を受けるのは私だけでいい。
彼の愛をつけてもらえるのは私以外にいらない。

彼に、言わないといけないな。

あなたを愛しているのは私だけだと。

71雌豚のにおい@774人目:2012/11/06(火) 19:19:33 ID:lg1fzlPU
初めての作品なので、もっと改善すべきところが多々あると思いますが楽しんでもらえたら幸いです

そして不手際により、二重投稿してしまい、申し訳ございませんでした

72 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/07(水) 19:11:05 ID:2AUfnu6Q
先日初投稿させて頂いたものです
続きを投下します

73雌豚のにおい@774人目:2012/11/07(水) 19:12:07 ID:2AUfnu6Q
第2話

・・・くっ!
ダン!
私はイライラしている。つい、テーブルをたたいてしまった。
あいつは二重の勘違いをしている。半分は私のせいだけど、もう半分はあいつ自身が勝手に勘違いしたことだ。
私はあいつのことが好きだ。間違っても原先輩なんか好きじゃない。
なのに、あいつは、私は原先輩が好きで、あいつはただの友達としてしか見ていないって思っている。そんなことはない。あり得ない。

私があいつと初めて出会ったのは高1の時。同じクラスだった。その時の私は自分で言うのもなんだけど可愛かった。スタイルは別に良くなかったけど、顔は可愛かったと断言できる。だから、当然のように男が寄ってくる。中学の時もそうだった。先輩・同級生。果ては、近所に住む大学生の男からも告白された。私は中学生になったばかりで、恋愛にとても興味があったから、大学生の男と付き合うことにした。顔はかっこ良かった。それに優しかった。だから、私は頻繁にデートをした。気付けば彼のことがだんだん好きになっていって、覚えたばかりの甘い恋愛の味に酔いしれていた。でも、付きあってから1か月。デートの帰りに無理やり犯されそうになった。
その日の帰り、いい雰囲気になったから、人気のない展望台に彼を誘った。そこでキスをしようと私は思っていた。でも、展望台に着いて、彼に背伸びをしてキスをしたら、彼は狂った。彼は私の腕を鷲掴みにして、身動きをとれなくして、私の服を脱がそうとしてきた。私は必死に抵抗した。やめて、正気に返ってって叫んだ。でも、彼は聞く耳を持たなかった。「そっちから誘っておいてやめても何もないだろ」とでも言わんばかりの態度で私を羽交い締めにした。もうだめだって諦めたとき、人が通りかかって止めてくれたおかげで、私は貞操を守ることはできた。彼はその後に我に返ったように「ごめん」だの「もうしないよ」だの何度も謝って来た。都合のいい男だ。さっきまでは私がいくら頼んでも襲うことをやめなかったくせに。私はあの時まで彼のことが大好きだった。
でも、その時は彼には嫌悪しか感じなかった。私は土下座していた彼の頭を思い切り蹴っ飛ばした。うずくまる彼の腹に一発蹴りを入れて、そして別れた。

そんなことがあったから、私は男が嫌いになった。私は男と接しなかった分をスポーツにぶつけた。いわゆる昇華だ。ソフトボールを始めて、練習にのめりこんだ。その甲斐あってか女子からの評判は良くなった。だけど、男と話そうとはしないから周りの男の私に対する評価は、根暗スポーツ少女だった。

74雌豚のにおい@774人目:2012/11/07(水) 19:13:20 ID:2AUfnu6Q
それでよかった。女の子とだけ仲良くしていればそれでよかった。
でも、意識してみると明らかに、男どもは私の体をじろじろと見ていた。
根暗スポーツ少女とかいいながら、陰では私の体をじろじろと見ている。・・・気持ち悪い。
だからあの時から、高校に入ってあいつと出会うまでは男と全く接しなかった。
高校入学してすぐ。あいつは私と隣の席だった。あいつはとにかくよくしゃべった。男の子、女の子関係なく。友達もとても多そうだった。でも、私にとってははっきり言って邪魔な存在でしかなかった。隣だから、当然あいつは私に何度も話しかけてきた。男が嫌いだということは普段の私を見ればすぐに分かるのに。私は何度も冷たく突っぱねた。そうすればあいつはもう話しかけてこないだろうって。でも、あいつは突っぱねようが、無視しようが話しかけてくるのをやめない。だから、私はある日あいつに聞いた。
「なんで、私に何度も話しかけるの?私が珍しいから?根暗スポーツ少女が珍しいから?」
今思えば意地の悪い質問だったと思う。でも、彼は一つも動揺しないで、
「隣の席に座っているからだよ。それ以外に理由なんてあるわけないだろう。米沢は考えすぎなんだよ。友達になりたいから話しかけていたんだ。」
って答えてくれた。
「ば、馬鹿じゃないの?あんた?」
私はつい、そっけない返事をしてしまったけど。本当はとっても嬉しかった。いつも、いつも男たちは、私に下心をもって話しかけてくる。でも、あいつは違った。どこまでも純粋な、友達になりたいからという理由で話しかけてきていた。あいつにたくさんの友達がいる理由が分かる気がした。あいつは優しい。下心のない優しさをあいつは持っている。その日から、私はあいつと少しずつだけど喋るようになった。最初こそぎこちない会話だったけど、だんだん慣れてきて、あいつと冗談を言って笑い合える関係になったころにはすっかり私は変わっていた。クラスの男子とも積極的に話すようになった。男たちのみんながみんな私の嫌いな部類の人間ではないのだと、あいつが示してくれたからだ。
気付けば、クラスの中心人物になっていた。忘れかけていた、人と接する楽しさ。あいつと話しているときは、偽りのない会話をすることができた。それはとっても居心地がよくて、離れたくないほど魅力的だった。気付いたら、私はあいつのことが好きになっていた。もう一生男なんか好きになるものかと誓った。けど、あいつは私にいろいろな人と接する喜びと楽しさを思い出させてくれた。あいつは、男を好きになることも思い出させてくれたんだ。だから、彼には本当に感謝している。一生かけても返しきれないほどの恩を私は背負っている。だから、私は彼に添い遂げなければいけない。一生をかけて彼に恩返しをしていかなくちゃいけないんだ。決して面倒なことでも、煩わしいことでもない。
私にとってはそれこそが生きがい。
あいつと恋人になって、結婚して、一生よき妻としてあいつを支えていきたい。

75雌豚のにおい@774人目:2012/11/07(水) 19:14:15 ID:2AUfnu6Q
だけど、あいつは私のことが好きなのかどうか分からなかった。私にとって彼は最愛の人。でも、彼にとっての私ってどうなんだろう?あいつにとって私はただの親友なんじゃないのだろうか?そう思うと私は不安で押しつぶされそうになった。日に日に増大していくあいつへの愛と比例するように不安の度合いも増大していった。
そしてある時私は賭けに出た。あいつは本当に私のことが好きなのかどうか、それを確かめるために手近な原先輩と付き合ってあいつの出方をうかがうことにしたんだ。
もしあいつが私のことを好きでいてくれているのなら何かしらの反応を見せてくれるはず。
・・・そう、例えば嫉妬とか。
あいつが私のことで嫉妬をしてくれる・・・。
それは何よりも甘美ですばらしいことだと思った。でも、あいつは何の反応も見せてくれはしなかった。今まで通り気の置けない親友というある意味で居心地のいい関係が続いていた。だから、私は次の手に原先輩のことが好きな女の子をけしかけて原先輩に接触させた。案の定気を良くした原先輩はその女の子に手を出し始めた。私は原先輩にキスさえも許していなかったから、きっと欲求不満だったんだろう。私がけしかけなくても勝手に浮気をしてくれたかもしれない。とにかく、この事実を利用してあいつの出方をうかがった。でも、あいつはやはり嫉妬の感情一つ見せなかった。あいつはあくまでも原先輩が私の彼氏で自分は一友人にすぎないのだという態度を貫いた。
さっきのアドバイスは正によき親友としての助言にすぎない。
私はあいつとの関係を友情だけで終わらせたくない。私はあいつの愛情がほしい。


「くっ!!」
ダンッ!!!

まだ、だめだ。あいつにもっと私の気持ちを知ってもらわないといけない。
その為にはもっとあいつに積極的にアピールしなくては。
今までは気恥ずかしい上、原先輩と仮にも付き合っている手前、あいつと遊ぶことに躊躇い気味だった。でも、今はそんなこと言っていられる時じゃない。はやくしないとあいつがあの女に取られてしまう。
あいつの隣の座を虎視眈々と狙う女。
私が大好きなあいつを横取りしようとする泥棒猫。
こうしてはいられない。あいつを追わなくちゃ。これからあいつが行く先は大体分かっている。
・・・いっそあの女を殺してしまえれば、こんなに焦る必要はないのに。

76 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/07(水) 19:16:14 ID:2AUfnu6Q
以上で投下終了です。
一度にもうすこし長く投稿した方がいいですかね?
そこらへんのアドバイスが欲しいです。

77雌豚のにおい@774人目:2012/11/07(水) 20:51:16 ID:MovQxpjs
GJ
主人公の気を引くためにほかの男と付き合ってるパターンか
結構好きなシチュ

78雌豚のにおい@774人目:2012/11/07(水) 23:41:32 ID:l7f9cOMI
>>76
そら(長く投稿したほうがいい)そうよ


焦らし系は中でも需要あるほうだろうからみんな楽しみに待ってるんやで(ニッコリ)

79雌豚のにおい@774人目:2012/11/08(木) 00:17:10 ID:kDunEnII
GJ

ちなみに原って俺のことかな?

80雌豚のにおい@774人目:2012/11/08(木) 05:47:28 ID:50GiCZVU
>>79
涙拭けよ・・・
つハンカチ

81雌豚のにおい@774人目:2012/11/08(木) 10:14:33 ID:m3CWEKgc
>>76
乙乙!
自分のペースでいいですよ

82雌豚のにおい@774人目:2012/11/09(金) 13:02:16 ID:Tnyxzf1c
囚われし者の続きも気になるところ……

83雌豚のにおい@774人目:2012/11/09(金) 23:28:10 ID:f9d81AVo
囚われし者…
あれはもう諦めた方が

84雌豚のにおい@774人目:2012/11/10(土) 03:19:12 ID:oySnN2TY
今囚われし者読んできたけど確かに気になる

85雌豚のにおい@774人目:2012/11/10(土) 13:31:51 ID:WVt5OlTU
カチカチ山・・・いつまでも待ってます。

86雌豚のにおい@774人目:2012/11/10(土) 20:33:56 ID:Fk1uhXww
ヤンデレ臣下とヤ○チャ王の続きが非常に気になる

87ふたり第3話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/10(土) 20:51:27 ID:SoNptnnM
ここで空気を読まずに投稿します。

88ふたり第3話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/10(土) 20:52:32 ID:SoNptnnM



俺は喫茶店を出ると、今日は俺の好きなマンガの新刊の発売日だということに気がついた。
俺は単語を覚える記憶力は全く持ち合わせていないのに、こういうことだけには記憶力が最大限に発揮されるのである。
先ほどの恐怖体験のことは完全に忘れ、本屋に向けて足取り軽く進んだ。
しばらく歩くと駅前に大きな本屋が見えてくる。5階建てで、実用書から教科書、漫画、小説にいたるまで様々な種類の本を取りそろえている。
俺が昔から行きつけにしている本屋だ。
店内は冷房が効いていて、外の熱気を忘れ、汗を拭くことができた。

「え〜っとどの辺にあるのかな・・・。」

俺は今、今月の新刊という書籍コーナーの周りをぐるぐる回っている。しかしなかなか目当てのマンガが見つからない。

「ったく、分かりやすい所に置いておいてくれよな。」

ブチブチと文句を垂れていると、背中をポンとたたく感触があった。
振り向くとまるで天使の笑顔が見えた。その顔は見慣れたものだった。

「お困りですか?池上君。」
「本条さん。ここでバイトしてたのか!」

本条さんこと本条絵里は俺と同じクラスの女の子だ。
米沢とは負けず劣らず可愛い女の子である。でも、小柄な米沢と違って絵里ちゃんはすらっとした長身と大きく膨らんだ胸が特徴的で、クラスの人気を二分する二大美女の一人だ。

「うん。ここって私の家から近いからね。社会経験も兼ねて少しバイトをしているのよ。」

また、ニコリと天使の微笑みを見せる本条さん。
この笑顔を見ればどんな男でもつられて笑顔になってしまうだろう。そうでなければそいつはホモだ。
無駄話もそこそこに俺は本題に入ることにした。

「そうだ、ちょうど良かった。今日入った新刊のマンガってどこに置いてあるか聞きたいんだ。」

すると、本条さんは小首を傾げて考えるポーズをとった。
やっぱり可愛い子って何やっても可愛いんだな、としみじみ思う。

89ふたり第3話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/10(土) 20:53:14 ID:SoNptnnM
米沢もたまにわがまま言って俺を困らせるけど可愛いから許してしまう。
可愛いってある意味犯罪だ。

「たしか、こっちにあったような気がする。ちょっとついて来て。」

ぎゅっと俺の手をつかんで引っ張ってくる。
彼女の手はふにふにと柔らかく、そして温かかった。その感触にドギマギしてしまう。
結局俺は本条さんに手を引っ張られてお目当ての新刊のマンガの在りかに辿り着くことができた。

「ありがとう、本条さん。このお礼はいつかするから。」
「そんな・・・いいわよ、困った時はお互い様だもの。」

俺は本条さんに感謝しつつレジへ向かった。

「あのぉ、お金足んないんですけど。」
「え?」
「ですからこれじゃ100円足りません。」

し、しまった!さっきの散財でマンガ一冊分の金も残ってねえ・・・。
レジに立つふてぶてしい面をしていたJKが嘲笑するような眼で俺を見る。
『マンガ買う金もないのかよ』と下に見られている気がする。
今、恥ずかしくて俺の顔はおそらく真っ赤に染まっているだろう。
その時、本条さんが少し笑いながらレジのほうへやって来た。

「あっ、本条さん。」
「池上君、お金貸してあげようか?」
「え?」
「このままその漫画が買えないんじゃかわいそうだもの。100円くらいどうってことないわよ」

彼女の心づかいが逆に辛かった。
でも、断る理由なんかないよな。と考え方をすぐにシフトして彼女に向きなおった。

「じゃあ・・・借りようかな、ありがとう本条さ・・・」
「いいえ、借りる必要はないよ、池上。」

90ふたり第3話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/10(土) 20:54:07 ID:SoNptnnM

誰だ?俺の言葉を遮ったやつは・・・って米沢だった。
なんでこんな所に?漫画を買う金もないことなんて他の人に知られたくないのに!

「米沢・・・さん。」

本条さんがなぜか気まずそうに米沢の名を呼ぶ。
よく考えたらこの二人がしゃべってるの、見たことない気がする。何でだろう・・・。

「列の順序を守ってもらわないと困るわ、米沢さん。」
「池上、私の分奢ってくれたのは嬉しいけどね、自分の懐具合を考えてからカッコつけなよ。ほら、さっきのお礼に私が買って、プレゼントしてあげるから。」

本条さんのつぶやきを完全にスルーして、フッと笑って彼女は俺に我が子を諭すように言う。
なんか、ことごとく情けないな俺って・・・。
その時、ぶつぶつと何かの声が聞こえてきた。

「米沢さん、いくら池上君の知り合いだからって他の人を押しのけてレジの前に入るなんてルール違反だと思いませんか?」

本条さんが両手に握り拳を作って、少し目線を下にずらして、そう言った。
あれ?本条さん、どうしたんだ・・・?
なんかとげとげしいオーラが・・・・。

「何言ってんだか知らないけど、私は池上にお金を貸してあげてるだけ。別に私が横はいりして品物を買ったわけじゃないわ。そのぐらいの融通もきかないのかしら、本条さん?」

米沢も本条さんとはクラスメートなのにやたら他人礼儀な話し方をしてるな。
いったい何なんだ?何でこんなに仲が悪いのだろう・・・。
二人とも黙って睨み合っている。俺は壮絶なプレッシャーを感じる・・・。
冷や汗のようなものが首筋から垂れる。
固唾を飲んで見守る俺。
その時、

「あのぉ、カバーつけますか?」

さっきのJKが間の抜けた声を響かせた。
俺はその場でずっこけた。

91ふたり第3話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/10(土) 20:54:49 ID:SoNptnnM



私は売れ筋の悪い本を本棚から撤去し、新しく入荷した本を本棚に納める作業をしながら、さきほどの出来事を思い出していた。
思い出すだけでもいらいらする。
あの時私はお金を池上君に貸した後、明日映画を見に行く約束を取り付けるつもりだった。
もちろんメールでしてもいいんだけど、直接面と向かってお誘いをした方が礼儀正しいのは間違いない。
でもそれをあの女が邪魔をして、うやむやにしてしまった。
あの米沢という女。
あの女が池上君の事を好いているのはあの女の顔と態度を見れば一目瞭然。
周りのうわさ好きな者たちは原とかいう男とあの女が好き合っていると認識しているがそれは大きな間違い。
原とかいう男はおそらく噛ませ犬。
池上君の気を引こうと手頃な男と付き合ってしまえ、というあの女の策略が手に取るようにわかる。
でも所詮は浅知恵ね。
池上君は、私の池上君はそんな馬鹿なかまかけにひっかかるような安い男の人ではない。
むしろ逆にあの女にとって原という男の存在は枷になっているはず。
あの女は、原を切り離さない限りは、池上君に思いを伝えることはできない。
そう、切り離さない限りは・・・・ね。

「ふふふ・・・楽しみよ。楽しみ。とっても楽しみだわ・・・。」

自然と笑いがこみあげてしまう。
暗く、冷たく笑う私。
隣で立ち読みをしていた男が私の顔を見るなり、そそくさと離れて行った。
いけない、いけない。私は池上君のこととなると、つい本性が表に出てしまう。
私は学校では社交的で明るい女の子で通っている。
でも、本当の私は冷酷で残酷。
きっと、私の本性が曝け出された時、私の周りの人たちはさっきの男の人のように私から離れて行ってしまうだろう。
それでも私は構わない。池上君さえ側にいてくれればいい。
・・・こんな私でも池上君だけは受け入れてくれるよね。

92雌豚のにおい@774人目:2012/11/10(土) 20:56:15 ID:SoNptnnM
以上で投下終了です。
読みやすいように改行多めにしてみました。
読みにくかったらご指摘ください。

93雌豚のにおい@774人目:2012/11/10(土) 23:25:30 ID:qAv/0bwY
きたか!(ガタ!

94雌豚のにおい@774人目:2012/11/10(土) 23:27:52 ID:/fx3QTvQ
GJ
原さんの扱われ方に泣いた

95雌豚のにおい@774人目:2012/11/11(日) 00:25:19 ID:IYIBZztY
更新きたぁぁ
原さんは何も悪くない。

96雌豚のにおい@774人目:2012/11/11(日) 05:03:05 ID:QrFiZNRg
>>92
GJ


>>94>>95
お前ら...ありがとな( ;∀;)

97雌豚のにおい@774人目:2012/11/11(日) 10:03:25 ID:spo3Ms7A
>>92
乙乙!

98koyomi:2012/11/11(日) 13:20:18 ID:OkMXAtX2
初めて投稿するので、よろしくおねがいします

99koyomi:2012/11/11(日) 13:50:45 ID:OkMXAtX2
ふと目を覚ますと、そこにはいつもの見慣れている天井ではなく、
そこには俺の幼馴染の顔があった。

「ねぇ、何でか分かるよね?」
「さぁ、さっぱりわからないのだが、どうして俺はここにいる。
そして、早く手錠を鍵をくれ。」
「嫌よ。返したら、拷問の意味が無いじゃない。」
「だから、俺が何をした。」
「それも分からないの聡?」
ちなみに俺の名前は、斉藤さとし。漢字で書くと聡。この字になる。
そして、今絶賛俺を監禁している彼女は、原田七海という。
身長は、自称168と言うが実際には160にも満たないと思う。
からだつきは、中学生と間違われることもある。もう高校2年生なのに。
いわれても仕方が無い、プロポーション。悪く言えば貧乳。
そして俺は昨日のことを振り返ることにした。

昨日は、確か朝起きたら………



「ちょいと待て、おまえは何で普通の起こし方ができないんだ。」
「普通でしょ。恋人ならば。」
「俺は、お前を恋人にした記憶もないし、恋人でもキスして目覚めるわけ無いだろ」
と言うくだらない会話からはじまって、

「ねぇ。一緒に学校いこうよ。お願い。」
「嫌だ。断る。俺は先に行くからな。と言うか早く制服に着替えてから学校こいよ」
「けち」
と言って俺は学校に言って

「もうその時点で私の心は壊れてんだよ。」
と言う今の発言は聞かなかったことして、さっさと開放してもらえるように、俺はがんばって思い出していた。

たしか、学校について、

「ねぇ、聡君。今日の放課後あいてるかな?」
と俺の席の隣の島田美月はこう切り出してきた。
このお方は、七海と違って、身長もあり、無いプロポーション。しかも髪型はいつもポニテ。
この方にこんなことを聞かれてたら、もうこう答えるしかないでしょう。
「ああ。あいているけども、何かようかい?美月さん」

100koyomi:2012/11/11(日) 14:18:10 ID:OkMXAtX2
「よかった暇で、あのさ、新しい服ほしいからさ、荷物もちとかさ
あと服が似合ってるか見てもらいたいんだけどいいかな?」
そんな事、いいですよ。と言ってみる。
「本当にありがとう」
と言って、最高の笑顔を見せた。やばい超かわいい。

「ちょっと、そんな事したの。聡。そんな事。この七海様を差し置いて、この野郎。」
この発言も当然無視。しかしこのことではないとどうしたもんか。
まぁ買い物はとても楽しくやりました。服だけではなく下着まで買っていたからびっくりしたけど。
ものすごく目の保養になりました。

「ちょっと、お昼のときよ聡。」

お昼は確か………

俺はお弁当をいつも作っている。理由は二つある。
ひとつは、お弁当を持ってないと、七海が、お弁当を差し出してくる。
これはとてもいい事だと思う。しかし、奴はなんと、お弁当のおかずに、自分の体液を入れるということをしているのだ。
俺はもうトラウマになり、お弁当をみせて、あるよアピールをしている。
あともうひとつは、俺の部活の先輩のためである。
俺はいつも昼は屋上に行って食べている。先輩はいつも屋上にいる。
この先輩は、香坂かおりと言うなんか演歌歌手みたいな名前だが、外見は、本当に幼い。ぶっちゃけ七海といい勝負である。
「あ、聡後輩。今日もちゃんと作ってきたかい?」
「はいはい。ちゃんと作りましたよ。今日は久々にパンですけど。」
「パンかよ。私は、ご飯がいいの。」
「じゃ食べなくても良いですよ先輩。」
「うそうそだから、パンでも食べるから。ごめんなさい。」
「よし分かればよろしい。さっさと食べてくださいね。5時間目は移動教室なんですから。」
「そんなこといわないでさ、私と一緒にサボろうよ。楽しいよ。」
「残念ですが、俺は、先輩と違って、頭がよくないのでちゃんと授業は受けなきゃいけないのですよ。」
ちなみに、この先輩は学年主席。サボってるのに。
「まぁまぁ、そんな事はいわずさ、分からないところは私が教えてあげるから。まぁ先輩ですから。」
「それやったら、3日間ぐらい監禁されたので、やめときます。」
「あぁ、ななみちゃんね。あの子。結構すきだね。このもて男。」
「まぁ。本当によく分からないですけどね。」という会話をした。

101koyomi:2012/11/11(日) 14:20:13 ID:OkMXAtX2
一応続きます。
題名を忘れてました。題名は、「彼女たちの異常な愛情」です。
続きは予定では明日です。

102雌豚のにおい@774人目:2012/11/11(日) 20:52:12 ID:vqTR3RcI
今ヤンデレの守護霊というインスピレーションが働いた。
しかし文才がゼロの俺に彼女を具現化させることはできなかった。

103雌豚のにおい@774人目:2012/11/11(日) 22:19:44 ID:rsa.Q8sU
ロリってだめだ、わからない上に合体する時、痛そうって思う俺、やさしな

104雌豚のにおい@774人目:2012/11/12(月) 02:16:18 ID:FMK32Qtc
>>102
ふーん、で?
お前みたいな奴ほんとうざいからいなくなっていいよ

>>101
続きたのんます

105雌豚のにおい@774人目:2012/11/12(月) 19:25:20 ID:N7KoTYSo
>>104
そうカリカリするなよ
俺書き手だけどそういう雑談あったほうがインスピレーション沸いてモチベ上がるよ

106雌豚のにおい@774人目:2012/11/12(月) 22:04:02 ID:RpOT1lFw
>>101
乙乙!

107雌豚のにおい@774人目:2012/11/13(火) 21:43:23 ID:WPtKZys6
>>101
GJ 続き楽しみに全裸待機しています

>>102
そのインスピレーションにあやかってヤンデレ守護霊を書こうと思ったが、残念なことに俺にも文才が無かった orz
守護霊だから泥棒猫を祟り殺したりするのだろうか……
それとも泥棒猫には姿が見えないから、まるで事故に見せかけて殺すのか……
そもそも泥棒猫を近づけさせない為に、男くんを洗脳、もしくは乗り移って自分の思い通りにするのか……
ちくしょー! 全くもって、妄想がまとまらない!

108雌豚のにおい@774人目:2012/11/14(水) 07:59:35 ID:LPNnjAjQ
俺もそんな守護霊ほしいお

109雌豚のにおい@774人目:2012/11/14(水) 15:05:17 ID:tYZc36wc
どこで、そんな守護霊買えるんだ?
Amazonには、なかったぞ。

110雌豚のにおい@774人目:2012/11/14(水) 17:05:17 ID:xGd3NTTk
>>107
泥棒猫もそうだが、男が学生なら男に怒鳴り散らしたヒス先生を呪い殺そうとしたり、いじめた奴の夢の中で祟ったり
会社の社員ならミスを責めた上司を・・・と過保護な守護霊というのは面白そう。

111雌豚のにおい@774人目:2012/11/14(水) 17:08:38 ID:LPNnjAjQ
そして・・・

112ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/14(水) 17:54:20 ID:KONgyrvc
これから投下します。

113ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/14(水) 17:54:55 ID:jjDJLj0E
第4話



俺は、米沢と共に本屋を出た。
絵里ちゃんはまだバイトがあるらしく、また今度、としばしの別れの挨拶をしてきた。
米沢は・・・なぜか機嫌が悪そうだ。
「あ・・・あのさぁ、米沢・・・。」
「え、何?」

え、何?じゃないだろ!
いきなり笑顔になる。さっきまでの不機嫌オーラはどこへやら。
俺は少し拍子抜けしてしまった。
彼女はまるで憑きものが落ちたかのような屈託のない笑顔を浮かべてゴキゲンだ。
俺はそんな米沢を見て少しドキッと来てしまった。他人の彼女なのに・・・。

「この後暇なら、買い物の荷物持ちやってよ。」

出た!米沢のわがまま!
でも、ここまですがすがしく頼まれると断りづらいなあ・・・。
しかし、何で原先輩に頼まないんだろ。俺よりも彼氏と買い物したほうが楽しいだろうし、それとなく原先輩の浮気について聞けるだろうし・・・。

まあ、でも今は気まずいということなんだろうなと結論付けておこう。
断る理由もないし引き受けることにしよう。

「いいよ。どうせやることも無いし。」
「え?本当?ありがとう!」
「どこで買い物するんだ?」
「隣町のショッピングモールに行こう!」

114ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/14(水) 17:55:40 ID:jjDJLj0E

明るくほほ笑む米沢は本当に無邪気で可愛い。こんなかわいい子ほっといて浮気するとは、原先輩って改めて贅沢ものだなと思う。

米沢が指定したのは最寄駅から電車で10分ほどの所にあるこの辺で一番大きなショッピングモールだ。
雑貨から洋服、家具家電やおもちゃなど様々な店が混在している。
米沢とここへ買い物に来るのは久しぶりである。
俺たち二人はその後、特にあてもなくショッピングモール内をぶらぶらしながらウィンドウショッピングを楽しんだ。
米沢は俺に荷物持ちを頼んだんだけど、何かを買おうという素振りは見せない。
俺に気を使ってくれているんだろうか・・・。
女のする買い物だから俺の興味を引くようなものは見なかったけど、米沢と喋りながらの買い物だったから退屈はしなかった。

「ふーウィンドウショッピングを堪能した!」
「結局何も買わなかったな。」
「うん、私もそんなにお金持ってるわけじゃないからね〜。それに、池上の電車賃も私が出したし。」
「うっ!」

そう。漫画を買う金も持ち合わせていなかった俺はここへ来るために必要な、往復の電車賃すら持っていなかったのである。
仕方なく恥をしのんで米沢に貸してもらったのだ。
今日一日とことん情けないな・・・。

「まあまあ。楽しかったから別にいいよ。電車賃くらいどうってことないって。」
「どうってことないような金額すら払えない俺って一体・・・。」
「あっ、はは・・・。あっ、クレープ屋がある!おごってあげるから一緒に食べようよ。」

米沢が指さした先にはなんだかオシャレな雰囲気のクレープ屋が。なんだか男女のカップルが目立つ店だな。
金額は500円!高い!

「いいよ、米沢に悪いよ。米沢だけ食べればいいって。」
「何言ってるの。私だけクレープ食べて池上だけ手持無沙汰ってわけにもいかないでしょ!」

115ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/14(水) 17:56:36 ID:TzcMM4fg
「え、別にそれでも気にしないけど。」
「私が気にするのよ!それに、今日お昼に喫茶店でおごってくれたでしょ?そのお礼よ。それならいいでしょう?」
「う、うん分かったよ。」

米沢に押し切られる形でクレープをおごってもらうことになった。
米沢もすごく友情に厚い女の子なんだな。と妙に感心してしまった。

「池上、あんたはどれ食べたい?」
「じゃあチョコバナナクレープで」

やっぱりなんだか米沢に悪くて一番安い奴を選んだ。
米沢はデラックスストロベリークレープとかいうのを頼んでいた。
写真で見たけどかなりでかかった。
こんな小さな体の女の子がこんなにたくさん食べられるのか?ってさっきも同じ疑問を抱いた気がする。
注文してからしばらく経つとチョコバナナクレープとデラックスストロベリークレープが同時に手渡された。
ふんわりとした生地にバナナとクリームがサンドされており、その上からチョコレートがたっぷりとかかっていた。
一口食べると口の中に甘ったるい香りが充満した。味はとてもよかった。

「おいしいな、このクレープ。バナナとチョコレートの相性抜群だ」
「私のもおいしいよ、いちごのクリームが甘くて。」

米沢はクレープの味に満足しているのかやたら上機嫌な様子だった。
俺はというとそんな米沢に少し見とれていた。米沢の笑顔はやはり可愛い・・・。
米沢の顔をボーっと見つめていたら突然俺の鼻先に食いかけのクレープが差し出された。

「ね、クレープの取り換えっこしようよ。私のクレープ食べていいからさ、池上のクレープも食べさせてよ。」
「えっ、でもそれは」

関節キスじゃないか!いや、嬉しいんだけどやっぱ原先輩がいるのにこういうのはまずいだろ。

116ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/14(水) 17:57:16 ID:IF7Pd7wo

「なに赤くなってんの!いまどき関節キスくらいで恥ずかしがるなんて初心よ初心!」
「う、初心で悪かったな!」

今日び女子高生は関節キスなんて何とも思っちゃいないのだろうか。
う〜ん、小学校中学校の時なんか女子は関節キスでキャーキャー騒いでいるモノだったが。
やはり男と付き合い始めた女の子からすれば関節キスで動揺するのはおこちゃまなのだろうか・・・。

「じゃ、じゃあ米沢がそう言うんなら食べ比べしてみるか。」
「ん、じゃあ口あけて?」
「・・・えっ!?あーんすんの?」

さすがにあーんは彼氏でもない男にするのはおかしいんじゃない!?

「当然じゃない!ス、スキンシップだよ!スキンシップ!」
「わ、分かったよ」

観念して俺は餌を待つ金魚のようにパクパクと口をあける。
きっとはたから見れば俺の顔は間抜け面だっただろう。
大きく開かれた口に米沢の食べかけのクレープが押し込まれる。
ふんわりとしたいちごの味が広がって、まさに「舌が幸せ」だ。

「そ、それじゃあ今度は私が食べさせてもらおうかな!」
「え、米沢もやるの?」
「当然!池上も食べさせてもらったんだからちゃんと私にも食べさせなくちゃダメ。」

米沢はそう言うと、顔を上げて、目をつぶり、口を上に突き出した。
米沢のその様子が誰かとキスをする体勢みたいでドキドキしてしまう。
俺は早く終わらせてしまおうとクレープを米沢の口先に持って行った。
すると米沢は俺のクレープをぱくりぱくりとちょっとずつかじっていくように食べ始めた。
思い切って一口で食べるのかと思っていたから驚いてしまった。
まるでリスが木の実をかじっているような、そんな感じだった。
なんというか可愛さの権化だね。それを今この瞬間とくと見た。

117ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/14(水) 17:57:54 ID:g3kMIPa6
クレープを食べ終わった後俺たちはショッピングモールを出た。
「まだ3時半だよ。池上、もう少し遊ぼうよ。」
「そうだな。でも次に行きたいところあるのか?」
「じゃあ次は池上の行きたい所に行こうよ。」
「え、そうだな・・・行きたい所か・・・。」
「この町のお勧めスポットとか知らないの?」

お勧めスポットって言われてもなあ・・・。近くにこの町の名所のでっかい神社があるが正直つまんないだろうし・・・。
その時ピーンとひらめいた。
「お勧めスポットが思いついた、俺についてこい!」
「え、どこ?どこ?」
「それは着いてからのお楽しみだ!」

俺は冴えてる。あそこなら誰でもウケがいいはずだ。
ショッピングモールから東にいくと閑静な住宅街に出る。
その小さな住宅街の坂道を10分ほど上がっていった所がそれだ。

港が見える展望台というそのものズバリなネーミングの展望台である。
ここからなら俺達が住む街も全部見渡せる上、名前の通り港に船が出入りするのも見ることができる。本当は夜景がきれいなんだけど、夕焼けに染まる景色もなかなかオツなものだ。

「どうだ、きれいだろ!」

自信たっぷりに米沢のほうを振り返ると、なぜか米沢は俯いて立っていた。
俺は、さっきまで機嫌がよかったのに突如暗くなった米沢に戸惑ってしまった。

「よ、米沢?どうしたんだ・・・。」

俺はその時、確かに見た。米沢は泣いていた。
ポロリと涙が頬を伝っているのがはっきり見えた。

「え、泣いてるじゃないか・・・いったいどうしたんだよ。」
「ご・・ごめん。心配させちゃって。ここではあんまりいい思い出がないから・・・。」

118ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/14(水) 17:58:31 ID:yFIPINRA
もしかして、俺はまた地雷を踏んでしまったのか?
原先輩がここで浮気していたとかなのか、それともまた別の理由なんだろうか・・・。
いずれにしても俺は米沢に嫌なことを思い出させてしまったことに変わりはない。
俺は「なんとかしなくちゃ」という一心で泣きそうになっている米沢を元気づけようとした。しかしなんで泣いているのかすら分からないから慰めの言葉が見つからない

「お、おい米沢!俺、新しい隠し芸を身につけたんだ!よかったら見てくれないか!」

だからといって、苦し紛れに口から出まかせを言うのはやはり間違っていると思う。
そんなもん身につけてねーよ!

「え?」

米沢は驚いたように俺を見ている。
今更、隠し芸なんてなかった。だなんて言えない・・・。
腹を据えるしかない。なんでもいいからやらなければ。

「え、えーエアギターやります!」

隠し芸なぞ持ち合わせていなかった俺はまたも苦し紛れにエアギターを披露することにした。昔すこしだけギターをやっていた杵柄だ。
でも米沢はクスリとも笑ってくれない。場の空気が凍りついてるのだが、このまま中途半端なまま終わらせると余計に恥ずかしい。
やばい、羞恥心で死んでしまいそうだ・・・。
エアギターをたっぷり3分もやると、俺は恥ずかしさのあまりその場にうずくまってしまった。死にたいような気持さえしてくる。

「く・・・くくっ・・・!あははははははは!」

突然の笑い声に俺はびっくりした。
米沢は腹を抱えて笑っていた。エアギターじゃなくて、エアギターを終えた後の俺の行動が笑えてしまったのだろうか?
少し悲しいけど米沢が泣きやんでくれて助かったと胸をなでおろした。

「もしかして、今の私を励ましてくれたの?」

119ふたり第4話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/14(水) 17:59:16 ID:/3RBQZQg
笑いをこらえながら米沢は聞く。
その顔にはもう涙は流れていない。

「お・・おう。そうともよ。なんか、ここに着いた途端泣きそうになってたからさ。米沢を励ますためなら喜んでピエロになってやろうと思ったのよ!」

そう。米沢には泣き顔なんて似合わない。女の子には笑顔が一番似合う。
その証拠に、今米沢はすごくいい顔をしている。

「ありがとうね。うん。中学生の時、ここでちょっと嫌なことがあったから。だから今までここに来るのを避けてたんだ。でも、池上のおかげでここってこんなにきれいな景色が見えたんだってこと思い出せたよ。」
「どういたしまして。俺、ここの景色が子供のころから大好きでさ。米沢にも見てほしかったんだよ。でも、米沢は知ってたんだな。ここの景色。」



「・・・うん。」
小さくうなずくと米沢は夕日が沈む水平線に目を向ける。
俺も米沢にならって同じ方向に目を向ける。
港に大きな船が入ってくる。高速道路にせわしなく行き来する車が豆粒みたいに見える。遥か向こうに摩天楼も見える。そして何より美しい夕陽がそれらをすべて幻想的な茜色に染めていた。
人工物と自然が融合した見事な景色だって雑誌には書いてあった。対照的なものが融和した時、こんなにも美しくなるものだ。
俺も米沢もこの景色に見入った。

120雌豚のにおい@774人目:2012/11/14(水) 17:59:38 ID:KONgyrvc
以上で投下終了です

121 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/14(水) 18:01:12 ID:OCJPRyEk
なんかIDが不安定だけど全部俺です。
なんでこんなことになったんだろ・・・。

122雌豚のにおい@774人目:2012/11/14(水) 20:48:46 ID:LPNnjAjQ
ウホ……

123雌豚のにおい@774人目:2012/11/14(水) 22:01:08 ID:HywTR19w
乙乙。更新早くて嬉しいわ。
些細なことだが、関節キスって誰もやったことn……。

124雌豚のにおい@774人目:2012/11/14(水) 22:11:37 ID:lHLt5oo6
間接キスの間違いだな
まあともあれGJ

125雌豚のにおい@774人目:2012/11/14(水) 22:19:56 ID:/KokU4OA
うわあ恥ずかしい
関節キス→間接キスです。
脳内で補完してください

126雌豚のにおい@774人目:2012/11/15(木) 09:44:22 ID:Pr86y68E
>>121
乙です!

127雌豚のにおい@774人目:2012/11/15(木) 22:07:52 ID:4HVMR03M
otu

128 ◆B2gCl8/VB6:2012/11/16(金) 22:32:44 ID:kHmnFtxE
>>120
乙っス! 更新早くて話も面白くてwktkがとまらないよ!

俺もちょっとしたネタが思い浮かんだので、投下します。
初めてまともに文章を書いたので色々酷いですけど、よろしくお願いします。
タイトルは『とても可愛い俺の彼女』です

129とても可愛い俺の彼女 ◆B2gCl8/VB6:2012/11/16(金) 22:34:15 ID:kHmnFtxE


「あははは、あはははははは、あはははははははははhgごっほごほごほお」

「どうしたの? そんなに高笑いなんかして……。しかもむせてるし」
 苦しそうにしている彼女の背中を優しくさすってあげる。彼女の体温が服越しに掌に感じ、幸せ成分に変換した。
 それと、彼女の手に握られている包丁をさりげなく取り上げる。
 ある程度呼吸が自由になった彼女は俺に「ありがとう」といい、微笑んだ。うん、いつ見ても可愛い。

「それでどうしたの? 高笑いなんかして」
 突然の彼女の奇行に、素直に疑問を彼女にぶつける。
 何を言われたのか理解できなかったのか、キョトンとする彼女。俺を見つめて瞬きをパチパチ。
 チクタクと時計の秒針の音が何度か鳴り響く、無の時間が過ぎる。その間、見詰め合う俺たち。幸せをかみしめる。
 針の音を十数回聞いたぐらいだろうか、ようやく自分が何をしていたのか思い出したらしく、彼女は目を見開く。

「そうだ! 私、やんでれになろうとしてたんだった」
 語尾がどこか間延びした彼女が呟くように言う。今度は俺がキョトンとする番だった。
 呆ける俺に、彼女は天真爛漫な笑顔を向ける。その笑顔に改めて彼女に惚れる。

「私ね、たかくんがこの間やんでれが好きって言うから、頑張ってなろうとしてたんだ」
 まるで向日葵を思わせるような笑顔で彼女が言った。
 ……例えが幼稚な自分を殺したくなる。チクショー! 彼女の可愛らしさを表現出来るだけのボキャブラリーが欲しい。
 星が中に刻まれているボールを集めに、旅に出る決意をした瞬間だった。嘘だけど。だって彼女に会えなくなるし。

 ちなみに『たかくん』というのは俺のことだ。だけど俺の名前に『たか』と言う文字はどこにも付かない。
 単純に彼女は俺の名前を読み間違えたのを、今も直さずそうよんでいる。
 彼女いわく「たかくんをたかくんと呼ぶのは、この世界で私一人だけだから、たかくんは私だけのものになるんだよ!」らしい。
 正直意味が分からないが、そう誇らしげに言う彼女が大変可愛かったので、それで納得した。可愛い万歳! 彼女万歳!

 俺はここしばらくのことを思い出してみる。思考の海にダイブ。
 だが、いくら思い出しても彼女に向かって、ヤンデレが好きと言った覚えがない。
 どういうことだ? 単純に忘れているだけなのか?
 いや、それはありえない。この俺が彼女のことで忘れるはずが無い。断言できる。
 彼女と出会ってから今までのことを、全て鮮明に覚えている。彼女と交わした愛の言葉一字一句全てだ。
 それじゃあ、どういうことだ? 全く分からん。

「えー、もしかして忘れちゃったの? 酷い! この間、画面越しの私に言ってくれたじゃん! やんでれ可愛いなって」
 いつまでも思い出せない俺に痺れを切らした彼女が、ポカポカと俺の胸元を可愛らしく叩きながら上目遣いに言う。
 そんな可愛い彼女を抱きしめたい衝動に駆られるが、グッと耐え考える。

「きゃっ!」
 彼女が驚く。
 ごめん、やっぱり無理だった。だから彼女を抱きしめながら考える。
 さっき彼女は『画面越しの私に』って言ったよな……。
 いや、言っておくが別に彼女は虹色の少女ではなく、現実に実在するれっきとした俺の彼女だ。がーるふれんどだ。
 となると、つまりそういうことだよな。薄々そうかなとか思ってたけど、やっぱりそうだったか。はー。

130とても可愛い俺の彼女 ◆B2gCl8/VB6:2012/11/16(金) 22:35:23 ID:kHmnFtxE

「もしかして、また俺の部屋に仕掛けた?」
「うん!」
 俺の胸元に顔を埋めながら元気いっぱい肯く彼女。ちくしょー、可愛いなもう。
 仕掛けたというのは、盗聴・盗撮類の機器だ。
 全く、どうして仕掛けたのやら。いや、大体想像が付くけど一応。

「どうしてまた仕掛けたの?」
「だって、いつでもたかくんのこと見ていたいし、声聞きたいし、たかくんを感じていたかったんだもん」
 顔を少しだけ上げ、上目遣いで見つめながら彼女が言う。口を胸元に付けながら言うので、少しくすぐったくて幸せだ。
 彼女の答えは大体予想通りだった。彼女を理解できていたことに頬が緩む。
 だけど頬はもともと緩んでいたので、仕方なく頭のネジを緩めることで妥協する。ぱっぱらぱー。

「だけどね、この間たかくん言ってたじゃん。盗聴器とか仕掛けるのは、メッ! って」
 一転、彼女が伏し目がちに少しテンション低めに言う。
 確かに彼女が初めて俺の家に、盗聴器を仕掛けた時そんなことを言った。
 実際はそんな可愛らしく言っていないが……今はそんなことどうでもいいか。

「だから最初は我慢してたんだよ。たかくんのこと、いつでも見ていたかったけど、困らせたくなかったから」
 ポツポツと呟く。俺は口を挟まず、彼女の言葉を待つ。それにしても彼女から相変わらず良い匂いがするな。

「でもね、我慢すればするほど余計に気になっちゃって、なんか頭の中がうわーてなって、気が付いたらやっちゃってたの」
 ごめんなさい、と最後に付け加え、小さく頭を下げる。額が俺の胸元に当たる。
 彼女なりに考えて、我慢して、頑張った末にそうなってしまったのだろう。
 まさか彼女がそんな真剣に悩んでいたとは思わなかった。俺もまだまだだなと、自嘲気味に笑い、頭のネジを締めなおす。
 そして、気にするなと、彼女に回していた手で背中を優しく叩く。

「だけどね、だけどね! たかくんも悪いんだよ。一緒に暮らそうって言っても、駄目なんて言うから、それで仕掛けちゃったんだもん」
 そっきまでのシュンとした態度から一転、顔を勢いよく上げ拗ねたように口早に不満をぶつけてくる。
 その切り替えの早さに、思わず笑いがこみ上げる。
 こういったところも、俺が彼女を好きになったところだ。
 彼女のどこか申し訳なさそうにしてる顔や、悲しそうにしている顔は、いくら可愛くても極力見たくないからな。
 あんなことはもう沢山だ。
 ……あ、いや、別にさっきのは伏線じゃないよ。だってこれ短編だもん、うん。

「ごめんごめん。だけど俺たちはまだ学生だから、そういうことはもっと大人になってからな」
「えー、私もう大人だよ」
 ほらほらと、彼女が胸を押し当てるように体を揺らす。
 その感触に、思いっきりニヤつく。頭で何かが緩む音が聞こえた気がした。じゅるり。
 ちなみに彼女のバストサイズは、皆様のご想像にお任せします。

「あー! たかくんがいやらしい顔してる! えっちっちだ!」
 彼女が楽しそうに笑いながら言う。俺も釣られて笑う。
 あー楽しい。あー楽しい。あーたのsもう我慢できない。もう無理。可愛過ぎる。食べる。彼女食べちゃう。
 オレサマ、オマエ、マルカジリ。アッオーンッ!

「きゃーー! たかくんが急にケモノさんになった! 私食べられちゃう!」
 彼女を組み敷き、上に覆いかぶさる。
 彼女は可愛らしい悲鳴を上げるが、それだけで特に抵抗はみせない。
 それどころか自分から求めるように、強く抱きついてくる。
 それじゃあ、お行儀良く「いただきます!」と、心の中だか、口に出してか分からないぐらいに強く叫ぶ。
 俺たちはお互いを激しく求め、ドロドロと溶け合っていった。

131とても可愛い俺の彼女 ◆B2gCl8/VB6:2012/11/16(金) 22:35:47 ID:kHmnFtxE





 なんて言ってみたが、結局のところ彼女と抱き合いながら、フローリングの上をゴロゴロと転がっただけなんだけどね。
 いやー、俺たちは健全なカップルなんで、そういうことはまだまだ早いっス。
 ぴー(ホイッスルの音)、ふじゅんいせいこうゆうはいけません!

 それにしても結構勢い良く転がったせいか、体中が痛い。ジンジンと痺れた痛みが走り、痣の位置を教えてくれている。
 バクバクと心臓の音が体全体からアップテンポで鳴り響くが、強く抱き合ってるせいか、発信源が俺と彼女のどちらからなのか分からない。
 耳元で彼女の激しい息遣いが聞こえ、くすぐったい。

 彼女の乱れた髪から覗く首筋に、うっすらと汗が滲んでいることに気づき、瞬間舐める。
 くすぐったかったのか「ひゃっ」と吐息交じりの声が漏れ、体をよじり逃れようとする。
 俺は逃がさまいとさらに彼女を強く抱きしめ、もう一度首筋に舌を這わす。
 舐める。しゃぶる。吸う。噛む。そのたびに彼女は声を上げ、艶を出す。
 吐息交じりの彼女の声を聞き、頭の中がぼんやりとしてくる。暑い。熱い。喉が渇く。
 だから彼女の汗を舐め取り潤す。それを繰り返す。

 夢中に彼女に舌を這わせていると、不意に自分の首筋にヌメッとした暖かい何かが触れるのを感じる。無意識に体がビクつく。
 すると「へへへ、おかえしだよ」と、彼女の吐息交じりの声が俺の首筋を撫でながら聞こえた。
 そしてもう一度、俺の首筋に先程の感覚が襲った。

 それから俺たちは、無我夢中に抱き合いながらお互いの首筋に舌を這わせあった。
 部屋の中には、ピチャピチャと湿り気の帯びた音が鳴り響いた。


 はたしてそれからどれくらいの時間がたったのだろう。
 彼女の首筋には俺の唾液なのか、彼女の汗なのか分からなくなるぐらいに、ベチョベチョな感じになっていた。
 きっと俺の首筋も同じ状態だろう。
 だが、そんなことも気にせず舐め続けていると、彼女がいきなり何かを思い出したように「あ!」と、声を上げる。
 本当にいきなりだったので俺も驚き、首筋から顔をあげ、口元がベチョベチョの彼女を見る。

「楽しくて忘れるところだった! たかくん、もし私を裏切ったら、――――みんな殺しちゃうからね」

 彼女は満面の笑顔で楽しそうにそう言った。
 濡れた口元や首筋が、スースーと冷える。だが、それとは比べ物にならないほど背筋に異様な寒気を覚える。

 あれ? 確か彼女って、俺の部屋に盗聴器と盗撮器を付けてたんだよな。
 ってことは、もしかしてアレも見られてたりするのか……?
 アハハハ……、やばい。本気でやばい。どうしよう……。
 まあ、未来の俺がどうにかしてくれるから大丈夫だろう。
 だってこの話、短編で続きがないんだから。そうだよな、そうなんだよな。


 そういえば俺も言い忘れてた。
 君はヤンデレになりたがっていたけど、充分れっきとしたヤンデレだよ!

132 ◆B2gCl8/VB6:2012/11/16(金) 22:39:36 ID:kHmnFtxE
以上で投下終了です。お目汚し失礼いたしました。
一応本文で触れていますが、短編です。
ですが、ネタが出来たら長編になるかもです。ややこしくてすみません。

133雌豚のにおい@774人目:2012/11/17(土) 02:36:44 ID:e8YBLGaE
乙!イチャイチャヤンデレいいすなぁ
癒されました!

134雌豚のにおい@774人目:2012/11/17(土) 10:33:23 ID:.LcUFjPs
>>132
乙です!

135 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/17(土) 22:40:48 ID:QKkCB9TQ
これから投稿します

136ふたり第5話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/17(土) 22:41:10 ID:QKkCB9TQ
第5話



私は家に帰るとすぐに私の部屋に入り、下着姿になってベッドに飛び込んだ。
今日の出来事を何度も頭の中で反芻した。
ショッピングモールで買い物をしてる時、私は一瞬だけどあいつと手を繋いだ。
わずかな間だったけどあの時私は、あいつと恋人になれたような気分を味わえて気分が高揚した。
そして、クレープ店での事も忘れられない一生ものの思い出となった。
あいつと間接キスをしてしまった!しかも私の食べかけのクレープを恋人がするようにあーんして池上に食べさせることに成功したのだ!
あいつはとぼけていたけど、あーんして食べさせた瞬間あいつの顔が真っ赤に染まっていたのを私は見逃さなかった。
そして私も池上にあーんして食べさせてもらった。
あーんしてもらったことよりもあいつが口をつけたクレープを食べることができたことの方が嬉しかった。
ただのクレープなのに、あいつが口にしたものだというだけでこれ以上ないくらい素晴らしい至福の味に様変わりしてしまう。
あの時、私はあのままとろけてなくなってしまいそうな、そんな感覚だった。
極めつけはあの展望台での事だ。
あいつの夕日に照らされた横顔はどんな男の顔よりもかっこよくて美しかった。
そして何より、あいつの私への優しい気遣いに私は心臓が高鳴りっぱなしだった。
私の中ですっかり大嫌いな場所になっていたあの展望台をあいつはあたたかい思い出の場所にしてくれた。
私が落ち込んでいるときにあいつが見せた、下手でも私を気遣う気持ちが痛いほどわかるあのエアギター。
はっきり言って何がおもしろいのか分からなかったけど。
あの忌まわしい思い出を一瞬にして忘れさせてくれた。

「池上・・・私の池上・・・。」

私は突然湧き起こった体の火照りを鎮めるために左手で胸のふくらみを抱きしめる。

「・・・・んっ!」

指をぎゅっと食いこませ快楽を求める。
同時に右手を股間あたりに伸ばす。
既にビショビショに濡れている私のアソコを人差し指と中指で開くと、とろりと熱い液体が垂れる。
池上と手を繋いだ右手。その右手で弄るだけで快楽は3倍増しだ。

137ふたり第5話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/17(土) 22:41:55 ID:QKkCB9TQ

「ああっ・・・」

左手も同時進行で胸を揉みしだく。ぎゅっ、ぎゅっと力加減に緩急をつけて揉んでいるうちにとてつもない快感が頭の先から足の先まで電撃のように駆け抜けた。

「んんんーっ!くうううっ・・・!」

この行為の中で頭に浮かべているのは勿論あいつの姿。あいつの屈託のない笑顔を思い浮かべる。

「い・・・池上ぃ・・・私の池上ぃ・・・。」

十分に揉みしだいた胸のふくらみの先端をキュッとつまむ。
瞬間、私の体がしなる。快感に頭の奥が甘くしびれる。
私のアソコがひくひくと刺激を待ち望んでいる。
私は右手の指でぱっくりと開かれたアソコをつつーっとなぞる。
それだけでさらなる快感が私を襲った。
ねちゃねちゃと粘着質な淫猥な水音を耳に感じながら更にアソコを責め立てる。

「ああ・・・池上っ!池上いいいいいい!んあああああああああ!」

私の頭の中であいつが好きだよって囁いた時、体の内に蓄積されていた快感が一気に暴発した。
私の体が2、3回痙攣すると、そのまま私はあっという間に果てた。

私は肩で息をしながらベッドに横たわる。
今の自慰行為の激しさへの羞恥心に私は何度も足をバタバタさせた。
それでも、懲りない私は再び今日のあいつの事を思い出していた。
そういえば、エアギターを終えて、その後に恥ずかしがって悶えていたあいつの姿は可愛いかったなあ。思い出すだけで顔がだらしなくにやけてくる。

もしかして私たちは今、ものすごくいい関係なんじゃないか。
このまま一緒に過ごしていけばそのまま恋人になれるんじゃないか?そんな気がしてきた。
だとしたら、私はなんと馬鹿な事をしてしまったんだろう。
原先輩と馬鹿な鎌かけの為に付き合うことにしたことを激しく後悔した。

138ふたり第5話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/17(土) 22:42:33 ID:QKkCB9TQ
今日なんか私が原先輩と付き合っていなければ、あいつはもしかしたらあのまま私に告白してきたかもしれなかったのに。
それほどあの展望台でのひと時はいいムードだった。

肌寒くなったわたしはクローゼットから寝間着を取り出した。
取り出しながら、枕もとに置いてあるあいつと私のツーショット写真に目を向けた。
満たされたような笑顔でピースサインをしている私とちょっとだけ気恥ずかしそうにしているあいつが申し訳程度にピースサインを出している。
そんな写真だ。

思わず私のあいつへの気持ちがあふれだしてくる。

「池上・・・好き。大好きだよ。もう原先輩とは別れる。だから、だから、私だけの彼氏になって・・・。」

本人の前じゃ恥ずかしくて絶対に言えないようなセリフをその写真に語りかける。
これは私の声明だ。
原先輩とは別れて、もっとあいつにアタックしてみよう。
そうと決まれば、もう原先輩はいらない。
原先輩とは結局何もないままで別れてしまうことになるから、多少申し訳なく感じる。
でも、私のことを本当に好きでいてくれたなら浮気なんてしなかったはずだ。
つまり、原先輩の私への思いはその程度。別れられて当然なんだ。
正当化しているわけじゃないけど、そう自分に言い聞かせてお気に入りのあいつとお揃いの黒い携帯をとり出す。
私は自慰後のけだるさに負けないように、原先輩の浮気を口実にお別れメールを作成し始めた・・・。



「フー・・・。」
俺は約10時間ぶりの帰宅を果たし、疲れ果ててリビングのソファに倒れこんだ。
今日は1日中米沢に振り回されてばかりだった気がする。
特に最後のエアギターは俺の人生の中でメガトン級の汚点だ。
いま思い出すだけでも叫びだしたくなるほど恥ずかしかった。
ふと台所に目をやると、そこから姉の麻衣が出てくるのが見えた。

139雌豚のにおい@774人目:2012/11/17(土) 22:43:11 ID:QKkCB9TQ
「あ、帰ってたの。ご飯、外で食べて来た?」
「いいや。今月は懐事情がピンチだからそんな余裕はない。」
「ふーん。今日は料理するのがめんどうくさいから宅配ピザ頼んだからね。」
「分かった。そういえば親父は?」
「今日は仕事で遅くなるってさ。」
「あっそう。」

姉の麻衣は無精者だが、母が外国に出張しているため、この家での女手は彼女だけだ。
つまりは姉が俺の母親代わりなのだ。

「今日はどこ行ってたの?」
「ああ、米沢と買い物してた。」
「フーン。」

姉は俺の答えを聞くとどうでもいいやって感じの返事を返す。
自分で聞いといたくせになんだ、その気のない返事は・・・。
プシュッと缶チューハイを開ける音がする。
俺も何かを飲もうと台所に向かった。

「そういえばさあ。」

姉はファッション雑誌を読んでいたが、急に読む手をやめて俺のほうに視線を向けた。
どことなくニヤニヤ笑っている。

「あんたに彼女が出来たでしょう。」

何言ってんだろうか、この姉は。俺には彼女などいない。
恋愛に興味がない俺には色気のある展開など無縁だ。
・・・興味あったら、彼女がいるかどうかは別の問題だが。

「俺に彼女はいないよ。一体何を勘違いしているんだよ。」
「え?嘘でしょ?絵里ちゃんってあんたの彼女じゃないの?」

違います。
確かに本条さんは俺と多少仲がいいだろうが、誰とでも(米沢等の例外はあるにしろ)フレンドリーな彼女にとってみれば
俺なんぞ道端の石ころに過ぎないことだろう。

140ふたり第5話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/17(土) 22:43:50 ID:QKkCB9TQ
彼女ならどんな男でもよりどりみどりだ。姉はおそらくその辺を勘違いしてる。

「へえ、こりゃ絵里ちゃん苦労するわ。」
「は?何だって?」
「なんでもないわよ。」

意味深長な言葉を残すと、にやけた顔を元に戻さずそのまんまにやけ顔でファッション雑誌に再び視線を落とした。
意味不明だったが特に気にせずに、俺は買ってきた新刊のマンガを読み始めた。



我が愚弟は私の鎌かけに全く反応を示さなかった。
薄々感じていたが、哲也は極度の鈍感だ。
私は自分でもなかなか鋭いほうだと思っている。哲也はその分鈍い奴になってしまったようだ。
哲也が帰ってくる1時間ほど前、私は大学のレポートの作成をしていた。
その間、可愛らしい訪問客があったのだ。

本条絵里さん。聞けば、哲也のクラスメートだと言う。
哲也は滅多に女の子の話をしない。大体話すのは、男友達の話だ。だから本条さんなんてとびっきり可愛い女友達があっただなんて知らなかった。

「こんにちは。あの、哲也君いますか?」
「いないわよ。哲也はまだ帰ってきてないわ。」
「いつ頃帰ってくるか分かりますか?」
「さあ、もしかしたら外でご飯食べて帰ってくるかもしれないから遅くなるかも。」
「そう・・・ですか。」

彼女は私の話を聞くと、あからさまに残念そうな顔をした。
おや、これはもしかしたら、もしかするかも・・・と思った。
これは、じっくり話を聞かせてもらう必要があると直感した。

「まあ、立ちながらもなんだから家に上がっていきなさいよ。お茶とお菓子もあるから。」

私がこう誘うと、本条さんはコクリとうなずいた。

141ふたり第5話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/17(土) 22:44:27 ID:QKkCB9TQ

「・・・それじゃあお邪魔しますね。」
「あ、そうだ哲也の携帯電話に掛けてみたの?」

よく考えると、本条さんと哲也は全くの赤の他人というわけではなさそうだから、お互いに携帯番号やメールアドレスの交換ぐらいしているだろうと思っての発言だった。
しかし、彼女は首を左右に振って、

「いえ、哲也君は学校には絶対に携帯電話を持っていかないんです。だから、掛けても意味はありません。」

とキッパリと言い張る。
凄い、姉の私でも知らないことを・・・。
これはやはり哲也(好きな異性)のことを色々と知るための本条さんの努力の結果なんじゃないか。私は確信を持って切り出した。

「ねえ、もしかして本条さんは哲也が好きなの?」
「・・・・え?」

私がこの質問をした直後、本条さんは可哀想な位あからさまに顔を真っ赤にして照れた。
今まできっちりとした口調で話していたが、突然発言はしどろもどろになり、動揺してるのがありありと見てとれた。
そして、その内隠しているのも馬鹿らしくなったのか、それとも隠しきれないと思ったのかは定かではないが、はっきりとうなずいて肯定した。
つまり私の勘は当たっていたということか。

だが・・・本条さんはこんなに可愛いのになぜ哲也なんかを好きになったのかは全く分からない。
哲也もなかなか隅に置けないやつだ。
本条さんの話を聞くと、すぐに終わるような恋心ではないことがすぐに分かった。
恐らくは生半可な愛情ではない。私は寒くもないのになぜか鳥肌が立った。

彼女が帰って5分後に入れ替わるように哲也が帰って来た。
運の悪い子だなあと思った。哲也も空気読んでもうちょっと早く帰ってくれればよかったのに。

142ふたり第5話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/17(土) 22:45:06 ID:QKkCB9TQ

ファッション雑誌から視線を哲也に向けると、楽しそうな哲也の顔が見える。
今、哲也は呑気にマンガなんか読んでいる。
そんなことでいいの?
本条さんみたいなタイプは・・・一度暴走すると止まらないんだから。
巻き込まれて取り返しのつかないことになっても、私は知らないからね。

143 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/17(土) 22:46:25 ID:QKkCB9TQ
以上で投下終了です。
エロ描写苦手・・・。

144雌豚のにおい@774人目:2012/11/18(日) 01:10:29 ID:yxjLwyss
きたああああああああああああ
GJでやんす。
姉はヤンデレじゃないのか?まあ無駄に登場人物増やすと後半積むからなぁ...
原クンがどう出るか期待。次回が待ち遠しいな

145 ◆UDPETPayJA:2012/11/18(日) 07:15:12 ID:bCG4otFg
第26話投下します

146 ◆UDPETPayJA:2012/11/18(日) 07:16:57 ID:bCG4otFg
瀬野が穂坂の家まで案内することになり、俺たちはすぐに向かうことにした。
瀬野のバイクはそのまま、白曜の校舎の職員玄関の隣の駐車場に置いておくことにして、
俺は瀬野に自分の傘を、半分貸した。俗に言う、相合傘というやつだ。
この図柄はあまり他人に見られたくはないが…事態が事態なので仕方がない。
そのまま学校から再びバス停まで戻ると、さほど待つことなく、バスが走ってきた。
このバス停は2つの系統が走っているのだが、瀬野はそのバスを見て「こいつだ。」と言った。
…そのバスは、まさについさっき俺たちが乗ってきたバスと同じ系統だ。つまり、逆走する事になる。
結局は方角はそこだったか…と一瞬思ったが、まあいいだろう。重要参考人が確保できたんだ。このくらいの出費くらいは大目にみよう。


バスの中には俺たち3人以外誰もいなく、静かなものだ。
俺と瀬野は最奥のシートにかけたが、結意ちゃんは真ん中の出入り口の近くの、2人がけの右寄りのシートに座った。
やはり、瀬野の事を警戒しているのだろう。あそこは、ドアが開けば1番に外に飛び出せる位置だ。

ブザーが鳴り、ドアが閉まると、バスは運転手のアナウンスと共に走り始めた。
隣に座るこの男。瀬野と俺ははっきりとした交流があるわけではない。ただ唯一あの時…1人の女の子の生死をかけて対立したことがある。ただそれだけの仲。
その女の子とやらは現在このバスに同乗しているのだが………
改めて思う。この男は、いったい結意ちゃんのことをどういう風に思っているのだろうか?
自分の妹が飛鳥ちゃんを攫った、という事実をわざわざ打ち明けに来てくれて、今まさに穂坂の家に案内してくれているわけだか…
あえて言うならば、なぜ自分の妹よりも結意ちゃんの味方をすることをとったのか?
かつて、木刀を持って、殺す気で亜朱架さんたちのもとへ殴り込んだ結意ちゃんのことを忘れてはいないはずだ。
結意ちゃんだけでなく、亜朱架さんたちもそうだが、彼女たちを敵に回して、ただで済まされる訳がない。
…それを分かってて、なぜ?
つまりは、こいつの中では妹よりも結意ちゃんの存在の方が大きいというのか? …なんとか、真意を確かめてみたい。

「瀬野、聞いていいか。」
「お、おう。なんだ?」
「お前にとって結意ちゃんとは…何だ?」
「なっ…」

瀬野は俺の問いに、急にどもり出した。…それもそうか。こんな真正面で、それも結意ちゃんがすぐ近くにいるこの空間で、言えるのか、と言われれば…
俺なら、言えないがな。けれどこの男は、俺とは違っていた。

「……なんつーか、アレよ。俺は、部活の同期だったんだよ。中学の時の。」
「誰の? …おっと悪い、言えないんだったか。」

こいつはさっき、結意ちゃんから「気安く呼ぶな」と宣告されたんだ。迂闊に結意ちゃんの名前は出せないだろう。

「剣道部だったんだよ。俺と…お、織原……は…」瀬野は前方に見える結意ちゃんの背中を、ちらちらと警戒しながら、小声で答えた。
「けど…突然辞めたんだ。何でかわかんなくてよ……剣道部時代から、織原…のファンは結構いたんだ。可愛くて、強いって評判でな。
でも…俺が見てた限りは…織原は、ずっと冷めてた気がする。
周りには感じよくしてたんだけどよ…なんつうか、一歩ひいた感じっつうか…俺にもよくわかんねえけどよ、そんな感じがしたんだ。」

俺は、結意ちゃんとは何だ? と尋ねた筈だが、瀬野は予想以上に饒舌に語り出していた。
それでも、話の内容は興味深かったので「へぇ………それで?」と、さらに探りを入れることにした。

「それから高校上がってしばらくして、ダチと街中ぶらついてたらよ…織原の姿を見かけたんだよ。
久しぶりに声かけてみっか、と思って喋りかけてたらよ、そこに神坂がやって来て……」
「ああ、そこに繋がる訳ね……」

俺の知ってるエピソードでは、その後その3人は地面とフレンチ・キスをしたはずだ。成る程…それが始まりだった訳だ。

「……まあ、何つうかよ…心配なんだよ俺は。まして今回は、俺の身内のやらかした問題だ。
ケジメはつけねえとよ……」

ふぅ、と溜め息を吐いて瀬野は肩を落とした。
こいつにも、こいつなりに抱えてるもんがあるんだろう。
…恐らく、いや、言わずとも、か。瀬野は結意ちゃんのことを……
こいつは俺と少し似ているのかもしれない。共通するのは、″結意ちゃんの幸せを願っている″という一点に尽きるが。
けれど、結意ちゃんが瀬野に振り向く事は有り得ない。
結意ちゃんは既に出会ってしまったから。自分の全てを賭しても構わない、と言える男に。
そしてこいつは、その2人を引き裂こうとしている女の兄なのだから。

147 ◆UDPETPayJA:2012/11/18(日) 07:18:14 ID:bCG4otFg


* * * * *


バスは元いた病院前のバス停まで差し掛かったが、瀬野はそこで降車ボタンを押さなかった。
目的地はもう少し先、という事か…バスはそこでは誰も乗せることなく発進した。
そこからバス停が向かった先は、さっき俺が探し回ってた方角だった。
なんてこった。意外と、近くにあったってのか? などと考えながら、見慣れない住宅街を目で送る。
暗雲立ち込める空は既に日が落ち、さっき探し回ってた時よりも暗く、見渡しづらい。
そうしている間にもバスは進み続け、病院前から3つ先のバス停で、瀬野は降車ボタンを押した。
瀬野を先頭にバスを降り、傘を開いて住宅街の区画内へと歩いて行く。
似たような外観の住宅がいくつも立ち並ぶ通りは、普段ならまず足を運ぶことはないだろう。
瀬野はその集合住宅地を迷うそぶりも無く、足を進ませる。
結意ちゃんは瀬野を蹴ってから一言も喋っていないが、しっかりとついて来ている。
こっそりと後ろを見て表情を窺うと…少し俯きぎみで、前髪で目元が隠れかかっているが、鋭い目つきは変わらない。
…何にせよ、この天気だ。早くカタをつけないと、身体に障る。
そんな事を考えながら、数分歩いたくらいのところで、瀬野は一軒の家の前で足を止めた。

「…ここが、吉良の家だ。」

瀬野はインターホンを押そうと、右手を″穂坂″と刻まれた表札の横にあるボタンに伸ばした。
おいおい、こいつは真正面から開けてもらえると思ってるのか? これは止めるべきだろう。
そう思い、俺は瀬野に声をかけようとした。
───が、その瞬間。

「馬鹿なの…!?」

と、俺が喋るよりも早く、苛立った声で言い放つ。結意ちゃんは瀬野の服の襟首を掴み、勢いよく引っ張った。

「えっ…わ、わっ!」

瀬野はまたも面食らったように、どさり、と尻餅をつく形で転ばされた。
その瀬野の右足の脛を、結意ちゃんは思い切り蹴りつける。
ぎゃあっ、とうめき声を上げて、怯えたように瀬野は結意ちゃんを見上げた。

「馬鹿じゃないの、出るわけないでしょ……ぶち殺すよ…?」

結意ちゃんは鋭く瀬野を睨みつけて、その言葉を放った。
…まさか、結意ちゃんがこんな荒れた言葉を使うなんて。妹ちゃんや、亜朱架さんに対してすらそんな言葉遣いはしなかったのに…
今回の件、結意ちゃんは相当怒っているのは明白だ。
もしかしたら…いや、しなくても結意ちゃんは穂坂を殺しかねない。
それくらい、今の結意ちゃんは殺気立っているんだ。
結意ちゃんは無言で穂坂の家の門を開け、ドアには近づかずに、脇にある窓へと向かった。
まさか…確かにここを開ければ楽々と入れるだろうが…などと思っていると、結意ちゃんはあまりに無謀な手段をとった。
拳を握りしめ、すぅ…と息を吸い込む。軽い捻りを加えながら、全身の力をその拳に伝える様に。

「───らぁっ!!」

鋭く刺すような拳を、窓ガラスに叩き込んだ。
ガラスは、がしゃん、と軽い音を立て、一部分だけ砕け、穴を空けられた。
そんなに厚くないガラスのようだったが…
いつかの結意ちゃんは、針金を使ってドアをこじ開けたはずだ。それがどうだ、まさか拳で割るなんて暴挙をとるなんて…
結意ちゃんはガラスに空いた穴から手を入れ、内鍵を解いて窓を開放する。そのまま、土足で穂坂の家へと乗り込んだ。
…瀬野はその一部始終を、俺の肩に隠れて見ていたが、俺たちも結意ちゃんに続いて家の中へ侵入した。
結意ちゃんはそのまま室内の探索を始めたようで、ありとあらゆるタンス、襖、扉が開かれ、水滴を含んだ足跡は2階へ続く階段まで伸びていた。
俺もそれを辿り、2階へと登っていく。やはり奥にあったドア2つは既に開け放たれている。
侵入して、わずか3分足らずといった所か。その短時間で、この家のありとあらゆる場所を探り終えた結意ちゃんは、右奥の方の部屋から無言で、ゆっくりと出てきた。

「………まさか、いなかったのか?」

148 ◆UDPETPayJA:2012/11/18(日) 07:19:32 ID:bCG4otFg
唾液を嚥下し、息を詰まらせながらも尋ねてみた。
だが…結意ちゃんは返事もせずに俺とすれ違い、階段を降りてゆく。
そのひとつひとつの動作が、足先ひとつとっても言葉に表し難い威圧感を孕んでいるようだった。
あまりの迫力に、死を恐れない俺ですら息を呑んでしまうが、止まっている場合ではない、と自分に言い聞かせ、結意ちゃんの後を追う。

───その時だ。″ガシャン!″と、ガラスを穿った音よりも激しい音が響いてきた。
いったい何事か!? 俺は直ぐさに階段を駆け下り、音のした方…台所へ、向かう。

「なんだ!?」と声を荒げて台所に飛び込むと、そこには床にのたまう瀬野の姿があった。
その周りには砕けた食器がいくつもあり、瀬野の真後ろには食器棚があった。

「………………のよ…」

ぼそり、と結意ちゃんは小さく呟く。最初は何を言っているのかよく聞き取れなかったが…

「───どこにいんのよあの女は!! 答えろ!!」

叫ぶ。それと同時に結意ちゃんは、のたまう瀬野の顔面に、鳩尾に、肩に、あばらに…何度も何度も蹴りを加え始めた。

「がっ! わ、わからねぇ! ほんとに、しら、っあァ! しらないん、ごふっ…!」

ありとあらゆる暴力を加え続けながらも、瀬野は必死に言葉を紡ごうとする。
…だけど、俺は知ってるんだ。こうなった結意ちゃんには…言葉は届かない。

「言え! 言いなさいよこの役立たずが! ぶち殺すわよ!? ほら! 答えなさいよ!!」

結意ちゃんの蹴りは、一般的な体格の男子のそれにひけを取らない程…それ以上の威力はあるだろう。
拳でガラスを割ったくらいなんだ、このまま蹴られ続ければ、瀬野の命に関わる…!

「やめろ結意ちゃん!」俺は結意ちゃんの両腕を掴み、身体を引いて瀬野から離そうとした。
けれど結意ちゃんの反応は、

「………邪魔する気?」

たった一言。その言葉だけで、背筋が凍りついた。間違いない、今この瞬間、俺は結意ちゃんに恐怖を覚えつつある。
けれど! 止めなければいけないんだ。

「ああ、するぜ! 結意ちゃんの手を血で汚させる訳にはいかない!
仮に1人でも殺してみろ! 飛鳥ちゃんが悲しむぞ!」
「………分かったような口を……聞いてんじゃないわよ!」

一瞬だけ頭を引き、間髪入れずに振りかぶってくる。
頭突きがくる。わかっていても、身体が反応するよりも早く結意ちゃんの額が俺の上顎を抉った。

「ぐぁ………っ!」

たまらず、手を離してしまう。ことん、と何かが床に落ちる音がした。同時に、口の中に鈍い痛みが走る。
一瞬だけ、落ちたソレを見やると…それは俺の前歯だった。
まさか、歯まで持っていかれるなんて…3分くらいで生えてくるだろうが…なんてことだ。

「………そんな事、よく分かってるわよ…! この地球上で1番、私が飛鳥くんの事を………ちっ…!」

結意ちゃんは磁器の破片と血だまりの中の俺たちを一瞥すると、まっすぐ玄関へ向かい、鍵を開けて外へと出ていってしまった。
すぐさま追うべきか…いや、追った所でどうにもなるまい。振り返り、瀬野を先に助ける事にした。

149 ◆UDPETPayJA:2012/11/18(日) 07:20:53 ID:bCG4otFg

「随分と、酷くやられたもんだねぇ…。」
「気に…すんな。俺のは、自業自得…だからよ…お前こそ、歯が……」
「気にすんな、舐めときゃ治る。歩けるか?」
「ああ…なんとかな。」
「よし…なら、行くか。」

息も絶え絶え、か。瀬野の手を取り、起こしてやる。肩を貸してやらなければ、歩くのすら辛そうだ。
こんな状態では、まして唯一の手掛かりが空振りに終わったのでは、これ以上の探索は成果は期待できないだろう。
結意ちゃんもそれをわかっていればいいのだが………
とにかく、それだけでも結意ちゃんに伝えよう。
互いに足を引きずりながら、俺たちも穂坂の家を後にした。

150 ◆UDPETPayJA:2012/11/18(日) 07:22:14 ID:bCG4otFg
第26話終了です。


タイトル抜けてました…

【天使のような悪魔たち 第26話】です

151 ◆UDPETPayJA:2012/11/18(日) 07:25:12 ID:bCG4otFg
あと、訂正です

>148

″あらゆる暴力を加え続けながらも〜″ を、
″あらゆる暴力を加えられながらも〜″です。
後から見たら少し言葉が変でした。

152雌豚のにおい@774人目:2012/11/18(日) 10:39:18 ID:zQqNQoSQ
>>143
>>151
乙乙!

153雌豚のにおい@774人目:2012/11/18(日) 11:40:18 ID:4IAfD/lU

なんというか、作者さん達には頭が上がらない思いだわ

154 ◆Uw02HM2doE:2012/11/18(日) 20:18:29 ID:bAN/7./k
皆さんGJ!自分もこの投下ラッシュに乗らせて頂きます。

こんばんわ。投下致します。
よろしくお願い致します。

155嘘と真実 12話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/18(日) 20:19:50 ID:bAN/7./k

12話

「……っ」
気が付くと目の前には壁が広がっていた。ベッド以外には目立つものは特にはない、簡素な部屋。
まだはっきりとしない意識のまま、立ち上がろうとするが出来ない。
よく手足を見ると、今座っている椅子に縛り付けられていた。
「……なんだ、これ」
状況が理解出来ない。縛られた手足に見慣れない部屋。
そもそも何で俺はこんな所にいるんだ。確か俺は真実の家にいたはず――
「あ、起きたんだ司君。おはよう、ってもう夜だけどね」
壁と同じような灰色をした扉が重苦しい音を立てて開き、真実が部屋に入って来た。
笑顔の真実を見た瞬間、ぼーっとしていた頭がはっきりとした。
そうだ、俺は真実に……薬入りのゼリーを食べさせられたんだ。
ということはここは真実の家なのだろうか。
「……ここは、何処だ」
「ここは私の家だよ……兄さんが、よくいた部屋なの」
真実は愛おしそうに壁を撫でる。まるでそこに兄を感じるかのように。
真実の兄貴……写真立てに飾られていた、あの人のことか。
「ウチの両親はこのマンションのオーナーでね。この部屋は特別仕様なの」
「特別、仕様……?」
「うん。兄さん、楽器が好きでね。両親が兄さんの為にこの部屋だけ、防音仕様にしたの」
一見普通の部屋のようにしか見えないが、確かに窓は一つもない。
出入口は真実が入って来た分厚い扉一つだけだ。
「今考えると親バカな話だけどね。でもこの部屋は……兄さんが生きていた証だから」
「……"生きていた"ってことは――」
「もういないわ……兄さんは死んだ。……司君の、妹さんのせいでね」
先程とは打って変わって、真実は無表情で俺を見つめる。でも、その瞳は何処か悲しみを帯びているように思えた。
「妹……弥生の、せい?……一体どういうことだ!?」
「……答えは後で教えてあげるわ。まずは準備を整えないとね」
真実は入り口に戻り、ゆっくりと何かを中に運び込んで来る。
ちょうど俺と対面するように置かれた椅子には気絶していて、俺と同じように手足を縛り付けられている――
「雪っ!?おい、雪っ!」
「……つ、つか…さ……?」
「あら、お早いお目覚めね」
雪がいた。ゆっくりと目を開き俺を見つめている。一体何が起きているのか、俺には全く理解出来ない。
分かるのは俺達を見下ろす真実が、この状態を作り出しているということだけだった。
「雪っ!俺だ!分かるか!?」
「つかさ……!司!会いたかった!あたし――」
「さ、始めましょ」
意識の戻った雪に向かって、真実は素早く鈍く光るナイフを突き立てた。
「なっ!?」
「あ……」
「どう、痛い?」
「っ!!あぁぁぁあ!!」
「ふふっ、良い叫びね」
雪の右肩が赤く染まっていくのを、俺は呆然と見つめていた。
雪が刺されたことを、痛みを理解して叫ぶが真実はお構いなくナイフを深く深く突き立てていく。
……なんだ、これ。意味が分からない。
「や、止めろっ!!何してんだ真実っ!!」
「あーあ、途中までは上手くいってたんだけどな」
「あっ!!……はぁはぁ……!」
真実が思いっ切りナイフを抜くと、雪の右肩から血が溢れ出し、彼女の髪を赤く染めはじめた。
雪は泣きながら痛みに耐えていて、真実はそれを無表情で見つめている。
俺は必死に抵抗するが固定されているのか、椅子はびくともしなかった。
「真実っ!!止めろっ!!何してんだ!!」
「やっぱり中条さんには勝てなかったわ。残念、私の負け」
「うっ!?……あぁ…ま、負け……?」
「そうよ。あのメールは嘘。本当は司君は……貴女を選んだのよ」
「うぐっ!?うぁぁぁぁぁぁあ!!」
「止めろっ!!止めろよっ!!真実っ!!」
真実は容赦なく、今度は左肩にナイフを突き立てる。

156嘘と真実 12話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/18(日) 20:21:03 ID:bAN/7./k

防音仕様の無機質な部屋に雪の悲鳴と血の臭いが溢れていく。
まるで俺の声など聞こえていないかのように、真実は雪を傷付けていった。
「大内さんをけしかけて貴女を殺そうと思ったのに……結局、司君が貴女を意識するきっかけを作っちゃったわ」
「大内さんを……けしかける?」
「私がね、入れ知恵したのよ。自転車の仕掛け。それ自体は上手くやってくれたみたいだけど」
俺の声にやっと反応して、真実は俺の方を向く。大内さんに入れ知恵……?
あれは、雪の自転車に細工したのは大内さんだったはずだ。
……まさか――
「ふふっ、やっと気が付いたの?私がけしかけたのよ。中条さんが死ねば、司君の妹さんは悲しむでしょ?」
「う、嘘だ……」
「嘘じゃないわ。『小坂君が好きなのは中条さんだ』なんて言ったら、簡単に信じちゃって。……まさか反撃されるとは思わなかったけど」
真実が言っていることが理解出来ない。だって真実は俺達の仲間であり、友達なはずだ。
でも、これじゃあ……これじゃあまるで真実が――
「薄々気が付いてると思うけど、司君に嫌がらせしたのも全部私よ」
「う、嘘だ!嘘だっ!そんなこと……!」
「嘘じゃないわ。真実よ。この光景を見ても、まだ嘘だって言い切れる?」
真実はまるで当たり前のことのように、自分は犯人であることを話す。
真実の思い出が走馬灯のように思い出される。
楽しかった日々が……俺は……俺はっ!!
「何で!!何でこんなことすんだよ!!あんなに一緒に笑ったのに!!一緒に過ごしたのに!!」
「……っ」
いつの間にか、俺は泣いていた。悔しかった。
俺が掛け替えのないと思っていた真実との日常は、彼女にとっては嘘でしかなかったのだろうか。
それが……悔しかった。
「俺は楽しかった!真実が居てくれて良かったって、本気で思った!!」
「止めてよ……」
「真実と一緒に食べたパフェや作ってくれたタコさんウインナー、めっちゃ美味かった!!」
「止めて」
「お前が刺されて目を覚ました時、俺は心の底から良かったって思った!!」
「止めろっ!!!」
真実が怒鳴りながら俺にナイフを向ける。その瞳には……涙が溜まっていた。
……何泣いてんだよ、泣きたいのはこっちだっていうのに。
「……真実」
「もう、戻れないのよ……もう、決めたのよ……藤塚弥生を殺して、それで終わりって決めたのよ……」
「……まだ、戻れる。終わりなんかじゃない」
震える真実に俺は語りかける。このまま終わりなんて悲しすぎる。こんな惨劇、俺は認めない。
「駄目だよ……私、いけないのに。好きになっちゃいけないのに……君のこと、好きになっちゃったから……」
「真実――」
真実はゆっくりと俺に口づけをした。彼女の切ない想いが込められた、そんな口づけだった。
真実は雪に向き合ってナイフを構え直す――
「止めろ真実っ!」
「っ!……良いタイミングね」
その時、急に電子音が部屋に木霊した。
真実はポケットから携帯を取り出し、画面を確認する。よく見るとそれは俺の携帯だった。
嫌な予感がする。さっき真実は言っていたはずだ。弥生と殺して終わりにする、と。
理由は分からないが真実は弥生を憎んでいる。それも尋常ではないほどに。
俺への嫌がらせも、大内さんをけしかけて雪を殺そうとしたのも、全て弥生を苦しめる為ならば、おそらく今の電子音は弥生に違いない。
「真実っ!」
「主賓の到着よ。少し待っていてね。中条さんも、良い子にしてるのよ」
「…………」
俺の叫びも虚しく、真実は扉の向こうに消えていった。残されたのは何も出来ない俺と、血だらけの雪。
「雪っ!大丈夫か雪っ!?」
「うぅ……へ、平気……肩…だし……」
明らかに平気じゃない量の血を流しながら、それでも雪は気丈に振る舞おうとする。
真っ白な髪は血で真っ赤に染まっていた。肩だから致命傷ではないだろうが、このまま血を流し過ぎたら雪は死んでしまう。
「くそっ!解けろよ!」
「……司、さっきの話……本当……?」
「……さっきの話?」

157嘘と真実 12話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/18(日) 20:21:43 ID:bAN/7./k
「委員長が言ってた、あたしを選んだって……話」
「なっ!?い、今はそれどころじゃ――」
「お願い……答えてよ」
切れ切れになりながらも雪ははっきりと口にした。
こんな状況でいうのも変な気はするが、聞かれてしまった以上は仕方ない。どの道、言うつもりだったんだ。
「……分かった。い、一回しか言わないからよく聞けよ」
「うん……」
……言うと決めたら決めたで緊張してしまい、上手く頭が整理出来ない。
今更何を怖じけづいてんだよ、俺。晃に散々言われて分かってるだろうが。
「あ、あのな……えっと……そのだな……」
「…………」
「お、俺はな……その……お、お前のことがだな……」
「…………」
何と言う根性なしだろう。ややこしいことはもう考えるな。そのまま素直に伝えれば良い。当たって砕けろだ。
「お、お前が好きだ!雪!ずっと一緒にいれくれ!」
無機質な部屋に俺の若干裏返った声が木霊した。
「……格好悪い」
「し、仕方ねぇだろうが!こんな状況でいきなり――」
「でも、好き。司のそういうとこ」
「ぐっ!?」
恥ずかしがりながらも雪は俺の目を見てそっと呟いた。
……破壊力ありすぎだろ。こっちまで恥ずかしくなる。おそらく俺の顔は真っ赤に違いなかった。
「ふふっ……死んでも……後悔……ないか……な……」
「雪っ!?おい、雪っ!しっかりしろ!!」
「…………」
「雪っ!!くそっ!死なせてたまるか!!」
雪は笑顔のまま目を閉じて、そのまま動かなくなった。
まだ息はあるだろうが、相当際どい状況に違いはなかった。
折角想いが通じたのに、雪に告白出来たのにこれじゃあ何の意味もない。
必死に抵抗するが手足の縄はびくともしなかった。部屋が少しずつ雪の血で染まっていく。
「そんなに騒がしくしなくても、すぐに解放してあげるわ」
「真実っ!!……や、弥生っ!?」
再び部屋に入って来た真実は、先程と同じように椅子を運び込んで来た。
先程と違うのは座っている人が雪ではなく、弥生だということだ。
「……お……兄ちゃん……?」
「弥生っ!」
「さ、メインイベントの始まりよ」
真実は弥生を縛り付けている椅子を俺と雪の横に設置した。
俺達と弥生とには2mほどしか距離がない。弥生はそんなにやられなかったのか、すぐに目を覚ましていた。
「お、お兄ちゃん……ゆ、雪先輩っ!?な、何で!!」
「何で?貴女のせいに決まっているでしょ、藤塚弥生さん」
真実は俺達と弥生の間に立ってゆっくりとナイフを構える。その切っ先は弥生に向かっていた。
「止めろ真実!弥生は関係――」
「大有りだよ、司君」
「ひっ!?い、いやぁ……」
突然の事態に訳も分からず首を横に降る弥生を、真実は静かに見下ろしていた。
一体どういうことだ。弥生が何をしたって言うんだ。
「……覚えてる?弥生さん。私のこと」
「お兄ちゃんの、ク、クラス委員長の……辻本さん……?」
「正解。……以前に辻本という苗字に、聞き覚えはある?」
「と、特には……」
ナイフを突き付けながら、真実は意図の不明な質問を弥生にする。
弥生も相当困惑しているのか、すがるような目で俺を見てくる。
やばい、弥生も相当追い詰められている。このままじゃあの時のトラウマが再発してしまうかもしれない。
「真実!止めてくれ!弥生にはトラウマが――」
「電車で痴漢されたこと?そっか、トラウマになっちゃったのね」
「えっ!?」
真実の言葉に心臓が止まりそうになる。弥生も信じられないといった表情をしていた。
それもそうだ。だって弥生の事件のことは、ごく一部の人間にしか知られていないはずだ。
それを真実が知っているわけがない。あてずっぽう……にしては的確過ぎる。
俺達の表情を見て、真実はうっすらと笑みを浮かべた。
「っ!」
「う……ぁ……」
その表情に俺達は思わず寒気を覚える。
怒りや憎しみ、様々な敵意が混ざったその笑みに俺は震え上がった。こんなに深い憎悪を、俺は感じたことがない。

158嘘と真実 12話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/18(日) 20:22:21 ID:bAN/7./k
「あはは……やっぱり覚えてないか。覚えて……ないか」
「ま、真実……?」
急に俯いた真実はゆっくりとナイフを掲げ――
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!」
「……ぁ」
「……っ」
狂気じみた笑い声が部屋一杯に広がっていく。
ぞっとするような恐怖を、本能的に感じる。
真実は笑いながら弥生の左腿を思い切りナイフで突き刺した。
飛び散る血と弥生の悲鳴で、ようやく俺の意識は戻ってくる。
「や、弥生っ!?」
「うぅ!?ぁ、あぁぁぁあ!」
「たった一年しか経ってないのに、覚えてないんだ……兄さんを殺した癖に……」
真実は虚ろな目をして俺に近付いてくる。
――怖い。素直にそう思った。真実は、もう俺が知っている真実じゃないのか。そんな考えが頭の中をぐるぐると巡る。
「真実……どうして……」
「……どうして?そんなに知りたいなら教えてあげるわ。貴方の妹さんの罪をね」
真実は俺の膝に乗っかって肩に頭を乗せた。
密着した体勢の為、真実と俺の身体はぴったりとくっついている。
血生臭さと共に、以前も嗅いだことのある甘い香りが俺を包んだ。
「ま、真実……」
「私の兄はね、私より5つ上なんだけど、とにかく頼りなくて……いつも私が心配する側だったの」
何処か懐かしげに話す真実からは、さっきまで感じていた狂気はないように俺には思えた。
少し落ち着いたのだろうか。真実の表情は分からないので、定かではない。
「本当に情けなくて、頼りなくて……それでも、いつも笑顔で優しい兄さんが、私は大好きだった……」
「真実……」
「……ある日ね、知らない番号から家に電話が掛かってきたの。親が出たんだけどね、兄さんが……」
真実は俺をより強く抱き寄せる。彼女が小刻みに震えるのを肌で感じた。
「……痴漢の容疑で捕まった、って」
「………………えっ?」
「………………ぁ」
"痴漢"。その言葉が思い出したくもない記憶を無理矢理呼び起こさせる。
ちょうど一年前、弥生が心に傷を負った原因であり、俺に依存するようになった原因でもある、あの事件。
俺の中でまるでパズルのピースを埋めていくかのように、次々と話が繋がっていく。
「ま、まさか……」
「……気付いた?そのまさか」
真実はうっすらと笑みを浮かべる。信じたくない。
でも真実の表情が、言っていることが全てを物語っていた。
つまり、弥生が痴漢だと、犯人だと言った相手は――
「私の兄さん。辻本真人(つじもとまさと)は……そこの女に"痴漢"の罪をなすりつけられて、自殺したのよ」
「っ……」
真実の瞳はもう何も映さない。どろどろとした感情が今の真実を動かしているようだった。
「……な、なすりつけたんじゃないもん」
「……何かな、弥生さん?」
「なすりつけたんじゃない!わたしは……わたしは本当に痴漢に遭ったんだ!!」
「弥生……」
真実の言葉に刺激されてしまったのか、弥生は泣きながら必死に叫ぶ。
一年前と同じで、心が軋んでいた。このままじゃまずい。弥生が、弥生が壊れてしまう。
「……そう。別に弥生さんが痴漢に遭ってないなんて、言ってないわ」
「わたしは嘘なんか、嘘なんかついてない!!」
「でもそれが兄さんだとは、証明出来ないでしょ?錯乱していた貴女には」
「わ、わたしは間違ってなんかない!!そうだよね、お兄ちゃん!?」
「弥生!落ち着けっ!」
「お兄ちゃん……助けて……!」
弥生は泣きながら訴える。本当にまずい。
今まで、あの事件以来弥生が錯乱することは何度かあったが、今回はそれらを遥かに上回っていた。
「ふふっ、結局それ。"お兄ちゃん"って言えば助けて貰えるって、そう思ってるんでしょ?」
「わ、わたしは別に……!」
「…………好きな癖に」
「……えっ?」
「"お兄ちゃん"のこと、好きなんでしょ?自分の気持ちが抑え切れないくらい。だから告白されても断ってるんでしょ?」

159嘘と真実 12話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/18(日) 20:23:13 ID:bAN/7./k
「や、やめてっ!!やめてっ!!」
「や、弥生……?」
狼狽する弥生を追い詰めるように、真実は立ち上がり弥生に近付いていく。
……真実の言っていることが理解出来ない。何で弥生はあんなに焦っているんだ。
「本当は誰にも渡したくないんでしょ?本当は自分の物にしたいんでしょ?本当は"お兄ちゃん"と一緒に――」
「やめてっ!!やめて……!」
段々語気が弱くなって来た弥生を見て、真実は……思わず震えてしまいそうな程、冷たい笑みを浮かべた。
このままじゃまずい。そう思っているのに声が上手く出せない。状況が飲み込めない。
「でも知ってる?貴女の大好きな"お兄ちゃん"はね、同じく貴女の大好きな"雪先輩"と、付き合うらしいわよ」
「…………えっ」
「ね、司君?」
真実は満面の笑みを浮かべて俺に話し掛ける。
対して弥生はまるで死刑宣告でも受けたかのような表情をしていた。
「……何のつもりだよ」
「別に。大好きな二人が付き合うんだから、祝福して当然かなって。ねぇ、弥生さん?」
「………や、だ」
「や、弥生……?」
弥生は虚ろな目をして俺を見ていた。まるで何かを否定するように小さく首を横に振る。
「やだ……やだよ、お兄ちゃん……弥生を……弥生を独りに……独りにしないで……!!」
「弥生……」
「ごめんなさい……駄目だって分かってるのに……でもお兄ちゃんを想うと……心が苦しくて……!」
心に秘めていた、絶対に言ってはいけない感情が弥生の中で爆発したようだった。
大きな目から涙を流しながら、弥生は俺に心の叫びを訴える。
真実は笑みを浮かべたまま、俺達のやり取りを見ていた。
そしてゆっくりと再度俺に近付いて来る。
「これで分かったかしら」
「……何がだよ」
「司君の妹さんが、いかに変態なのか」
「……弥生は変態なんかじゃねぇ」
「実の兄に恋する妹の、何処が変態じゃないわけ?どう考えても――」
「真実もそうだったんじゃないのか!?」
「……っ」
俺の言葉に真実の表情が凍りついた。
どうして真実がこんなにも弥生を憎んでいるのか、俺には分からなかった。
肉親を死に追いやった敵だから……それだけでは説明が出来ない彼女の憎悪と兄への想い。
それはまるで今目の前で俺への想いを吐露した弥生にそっくりだった。だから――
「……真実だって本当はこんなことしたくなかったんだろ?」
「……何言ってるのよ。私は最初から復讐目的で司君に――」
「もう、嘘は止めろよ」
「……嘘なんかじゃないわよ」
「新しい生活を受け入れたら、兄貴を裏切ったように感じるから、だから止められなかっただけだろ」
「違う!!私は、私は……!」
真実は必死に首を振って拒絶を示す。
俺にはもう真実が、嘘に堪えられなくなった少女にしか見えなかった。
もっと早く気付いていれば彼女を止められたのかもしれない。
「真実は嘘だって言ったけど、助けてくれた時、俺は本当に嬉しかった」
「そんなの嘘よ……!」
「嘘じゃない。真実が居てくれたから、俺は色んなことに気付けたんだ」
真実が居なかったら、雪が事故に遭うこともなかったに違いない。そうしたら俺は、雪の大切さに、雪を想う気持ちに気が付かなかった。
真実が居なかったらあんなにも晃が頼もしく感じることはなかった。
真実が居なかったら……俺は弥生の気持ちに向き合うことが出来なかった。
誰が何と言おうとも、それは俺にとっては紛れも無い"真実"だから。
「そんなの……そんなのこじつけよ」
「……別にこじつけだっていい。俺は真実が居てくれて、本当に良かったって思ってるし……また皆で一緒に居たい」
俺は真実の目を見て答える。
この一ヶ月、真実と過ごした日々は確かにかけがえのないものだった。
真実だって、そうではなかったのだろうか。
「司……君……」
「嘘も、真実も、関係ない。一緒にいた時間は、思い出は――」
「………………もう、遅いよ」
真実はゆっくりと俺の目の前に来て、そっとキスをした。
先程とは違ってひんやりとした感触が唇に残って、今の真実の気持ちを表しているようだった。
とても悲しそうな、だけど何処か穏やかな表情を浮かべながら真実は俯く。

160嘘と真実 12話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/18(日) 20:24:05 ID:bAN/7./k
「……もっと早く……出会えていたら………………ううん、何でもないわ」
真実は一瞬微笑んだ後、ナイフをもう一本ポケットから取り出して俺の後ろに回り込む。
俺の喉には血がこびりついたナイフが突き付けられている。
「お兄ちゃん……!」
「動かないで……チャンスを、あげるわ」
「ま、真実……?」
手足の縄が切られ、俺は椅子から解放された。
呆然とする俺に真実は新品のナイフを放り投げる。
俺がナイフに気を取られている隙に、真実は気絶している雪の首筋にもう一本のナイフを押し当てていた。
「さあ、フィナーレよ。司君、そのナイフで……妹さんを殺しなさい」
「なっ!?」
「でなければ……分かるわよね」
真実は雪の首筋に押し当てたナイフを見る。
もう少し力を入れてしまえば、雪はあっという間に死んでしまうだろう。
「……お、お兄ちゃん?」
弥生は怯えながら俺を見上げる。俺に弥生を殺すことなんて出来るはずがない。
だが、もししなければ――
「……弥生を殺すなんて出来ないし、したくない」
「そう、ならこの子が死ぬだけだわ」
真実がほんの少し、ナイフに力を入れると、雪の首筋から血が少し流れた。
何の躊躇もない。先程の、苦しそうな表情の真実はもう何処にも居なかった。
「止めろっ!!」
「じゃあ早く妹さんを殺して」
淡々と真実は俺に命じる。まるで作業でも頼むかのように、早くしろと俺に迫る。
どうすればいいのか、俺には分からない。弥生を殺せるわけがない。
でもそうすると雪が……真実に殺されてしまう。
「…………っ」
「……お、お兄ちゃん。い、いいよ……」
「や、弥生……?」
「わたしを、殺していいよ……」
弥生は震えながらも、しっかりと俺の目を見て話した。
「馬鹿っ!自分が何言ってんのか分かってるのか!?」
「分かってるよ!!わたしのせいで……わたしのせいで雪先輩が死にそうなの、分かってるもん!」
「それは弥生のせいじゃねぇよ!」
「わたしのせいだよ!今だけじゃない!わたしのせいでお兄ちゃんに迷惑かけてきたの、知ってるもん!」
「弥生……」
弥生は目に涙を溜めながら、それでも俺を見上げつづける。
「あの事件からわたしがお兄ちゃんに……お兄ちゃんに依存して、たくさん迷惑かけたの……知らないわけないよ……」
「弥生、俺は――」
「わたし、自分が怖い。お兄ちゃんと雪先輩が付き合うって聞いた時……嫌って思った。血を流してる先輩を見て……死んじゃえって思った!」
自分の中の何かを吐き出すように、弥生は俺に話し続ける。
「きっとわたしは二人を祝福出来ないよ……二人とも大好きだけど……だから、わたしが死んで解決するなら――」
「……ばーか」
「いたっ!?」
俺は思いっ切り弥生の頭にげんこつをする。
何か知らんが人生を悟った気になっている妹にお仕置きをしてやった。
「祝福出来ない?当たり前だろうが。だって弥生は……その、俺のことが好きなんだろ?」
「……お兄ちゃん、普通自分ではそういうの言わないよ」
「うるせっ!」
「いたぁ!?」
こんな状況でも突っ込んでくる妹に制裁を加えながら話を進める。
「好きな人が他の誰かと付き合ったら、祝福出来なくて当然だろ。死んじゃえって思うのが、自然だろ。俺だって雪だって、誰だってそう思うよ」
「お兄ちゃん……」
「だから簡単に死ぬとか言ってんじゃねぇよ。苦しくて、辛いけど……いつか生きていて良かったって思える日の為に、頑張って生きるんだろ?……一年前の時みたいにさ」
「…………うん」
弥生の頭を撫でながら俺は改めて誓う。
そうだよ、俺が望んでいたものは?それは平穏な日々だったはずだ。
平穏な日々って何だ?それは皆で楽しく馬鹿をやることだ。
お調子者の晃も、兄想いの弥生も、大好きな雪も……そして世話焼きな真実も、誰か一人でも欠けたら駄目なんだ。
ゆっくりと真実に振り向くと、真実は辛そうな、何かに堪えている表情をしていた。

161嘘と真実 12話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/18(日) 20:24:56 ID:bAN/7./k
「……真実」
「な、何よ!早く妹さんを殺してよ!?」
「俺は誰も死なせないよ。勿論、真実も含めてな」
「何を馬鹿なこと言ってんのよ!この状況を見てもまだそんなことが――」
「言えるよ。真実は、絶対に誰かを殺したりしない……俺はそう、信じてるから」
ゆっくりと真実に近付いて行くと真実はナイフを俺に向けてきた。
「と、止まって!何が信じてるよ!?都合の良い言葉でごまかして!アンタなんかに、アンタなんかに分かるわけない!!」
真実は俺にナイフを向けながら……涙を流した。
「真実……」
「わ、私には……私には兄さんしかいなかった!今の私にはもう、もう復讐しか残ってないのよ!!」
「俺が、俺達がいる!真実のことを必要としてる!」
「嘘だっ!そんなの嘘だっ!皆、嘘ばっかりついて都合が悪くなったらすぐに裏切るんだ!誰も、誰も兄さんを助けてなんてくれなかった!!」
俺は全ての感情をぶちまける真実に近付く。そして――
「ち、近付くな!!」
「もういい!もう……いいから……」
「………………ぁ」
俺は真実を抱きしめた。
抱きしめて分かる、とても小さくて華奢な身体。
こんな身体に真実は色んなものを抱え込んでいた、そう思うと俺はより一層彼女を強く抱きしめた。
「手遅れなんかじゃない。また、皆でやり直せばいい」
「…………でも……私は皆を……」
「誰だって間違えるさ。もし不安なら一緒にいれば良い……絶対誰かが止めてくれる」
真実は俺の胸に顔を埋める。
「……司君って兄さんみたい」
「兄さん……真実の、か」
「うん。兄さんみたいに温かくて……安心する」
「真実……」
「もし、もっと貴方と早く会えたら……もっと早く貴方を好きになれたら……。でも、復讐を決意しなかったら貴方とはこんなにも仲良くなれなかった……」
真実はゆっくりと顔を上げて俺を見つめる。
そこにはこの一ヶ月、俺を支え続けて来てくれた真実の顔があった。
「悔しいけど…………………大好きだったよ、司」
「真実……」
「………………だから、ゴメンね」
「えっ――」
突然真実は俺を突き飛ばす。
バランスを崩して倒れそうになった俺の隙をついて彼女はナイフを自分の腹部に突き立てた。
血に染まる部屋で、真実の血が新たに床や壁を染めていく。
そのまま真実は床に崩れ落ちた。
「ま、真実!?真実!おいっ!」
「…………ぅぁ」
「何してんだ!?くそっ!」
「お兄ちゃんっ!!」
弥生の呼び掛けてほんの少し冷静になった俺は、まず急いで弥生の縄を持っていたナイフで切る。
「弥生!救急車頼む!後、晃にも連絡してくれ!それと救急箱探してくれ!」
「わ、分かった!!」
弥生は携帯を取り出しながら、切られている腿も気にせず、急いで部屋を出ていった。
俺は真実に近寄り腹部の傷口を抑えるがそれでも血は中々止まらなかった。
「真実っ!!しっかりしろよ真実っ!!」
「…………司、君。もう……十分だから」
「何言ってんだよ!!」
「十分……幸せだったから……一ヶ月……」
「逃げてんじゃねぇよ!!このままで良いわけないだろ!」
「……司を好きになって……良かったよ……」
「何勝手なこと言ってんだ……!」
「…………ありがとう……ゴメン……ね……」
真実はゆっくりと目を閉じた。そしてそのまま眠ったように何も話さない。
「真実っ!?くそっ!死なせて、死なせてたまるか!!」
俺は必死に真実の傷口を抑える。
こんなの、あんまりだ。やっと分かりあえたのに、これからだっていうのに。
絶対に真実は死なせない。雪もかなり際どい。二人とも絶対に死なせちゃいけない。
何が復讐だ、何が惨劇だ。そんなもの、俺が認めない。
もう一度俺達が皆で笑い合う為に、絶対に俺が誰も死なせない。
「嘘も、真実も関係ない……絶対に、死なせない……!」
真っ赤に染まった部屋に俺の声が静かに響いた。





そして一年の月日が過ぎる――

162 ◆Uw02HM2doE:2012/11/18(日) 20:27:02 ID:bAN/7./k

以上になります。
読んで下さった方、ありがとうございました。
次回が最終話の予定です。

163雌豚のにおい@774人目:2012/11/18(日) 20:49:42 ID:yxjLwyss
えんだああああああああああああ

164雌豚のにおい@774人目:2012/11/18(日) 21:37:50 ID:I4OqILdY
>>162
GJ!泣いた。

165雌豚のにおい@774人目:2012/11/18(日) 22:23:14 ID:qNFCMPCs
よし

166雌豚のにおい@774人目:2012/11/18(日) 22:56:06 ID:z8tYXydw
投下ラッシュやっほい!
ここ最近は賑やかで良いね!

167雌豚のにおい@774人目:2012/11/19(月) 02:02:56 ID:56KXhUr2
この作者の作品はどれも必ず無事に終わらないからなぁ
今回は話も他に比べて短めだから真実に感情移入できんのですよ。


あっ中条ちゃんは別ね(ニッコリ)

168雌豚のにおい@774人目:2012/11/19(月) 06:24:57 ID:iQGbQFWU
GJ。主人公イケメン過ぎワロタ。

>>167
ちょっと待った。中条たんは渡さんぞ?

169雌豚のにおい@774人目:2012/11/19(月) 11:04:07 ID:j2GNVmz.
雪ちゃんペロペロ

170雌豚のにおい@774人目:2012/11/19(月) 17:06:04 ID:KQAGxvgU
>>162
乙です!

171雌豚のにおい@774人目:2012/11/19(月) 19:25:36 ID:2gEZMjRA
>>162
乙乙ー
ヤンデレが豊作でなにより。

172雌豚のにおい@774人目:2012/11/20(火) 19:04:15 ID:b1i946nA
そんなことより、マリオテニスやろうぜ!

173<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

174<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

175雌豚のにおい@774人目:2012/11/21(水) 01:22:27 ID:xdf9cemk
私がヤンデレ玄人です

176雌豚のにおい@774人目:2012/11/21(水) 01:34:09 ID:SOvZiYIA
ほいならあたすは変なおじさんです

177ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/21(水) 09:28:53 ID:GXhdRRJA
投下します

178ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/21(水) 09:29:29 ID:GXhdRRJA
第6話



日曜日の朝。
俺は目覚めと共に激しい頭痛を感じ取った。体全体もだるいし、寒気もする。
立ち上がろうとするとひどい立ちくらみがして、視界もなにやらぐにゃりとしていてうまく歩けない。もしや・・・と思って体温計で熱を計ってみる。
ふらふらと定まらない視線がかろうじて体温計の数値を認識した。
「38度7分」

この表示を見た瞬間俺はぶっ倒れた。
昨日の疲れがどっと出たからなのだろうか・・・。
姉は今日、朝から大学へ行くと言っていたから恐らく家にはいない。
親父も日曜だというのに仕事へ出かけてしまったようだ。仕方なしに俺はとりあえず着替えることにした。
汗びっしょりの服を脱ぎ捨て、新たな寝間着に着替えたところでさらなる頭痛と悪寒が襲ってきた。

「うう・・・めまいがする・・・。」

ふらふらとした足取りでクローゼットからベッドに倒れこみそのまま枕まで這い進んだ。
今日は一日中寝て疲れをとろう、と思い目を閉じた矢先に手元の携帯から俺の好きなロックバンドの曲がやかましく鳴った。

「うぐぐ・・・メールか・・・?こんな時に勘弁してくれよこの着メロ・・・頭痛が悪化しちまうよ・・・。」

自分で設定したやかましい着メロに文句を言いながら携帯の画面を見ると、本条さんからのメールだった。

『From本条さん Sub映画見に行きませんか?
この前池上君が見たがっていた映画の入場券が偶然2枚手に入りました。
よければこれから一緒に映画を見に行きませんか?
午後から上映ですから11時ごろにどこかで待ち合わせしてお昼も一緒に食べに行きましょう。お返事待っています。』

179ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/21(水) 09:30:11 ID:GXhdRRJA

いかにも本条さんらしい礼儀の正しいメールの文面だった。
是非行きたいですと返信したいところだがあいにく俺は高熱を出していて、映画を見に行く体力もない。
俺は泣く泣く断わりのメールを作成した。

****************************************

朝ご飯に姉が大学行く前に作り置きしてくれたサンドイッチを食べて薬を飲んだ後、俺はすぐにベッドに横たわった。
しかし体の芯まで病原菌は蝕んでいたのか、布団にくるまっても悪寒は収まらなかった。
それどころか耳鳴りまでしてくる始末で時計の針の音のようなかすかな物音さえもわずらわしくなっていった。
この寒気を抑えるために、温かいうどんが食べたい。
カップ麺のどんべえでもいいから温かいうどんをだれか持ってきてくれー!

しばらくの間寝たり起きたりを繰り返しているうちに時刻は11時ごろになっていた。
ぴんぽーんという間抜けなチャイムの音が鳴り響いた。
本当はこのままチャイムを無視して寝ていたいところなのだが、もし今玄関先に来ている奴が姉の頼んだ通販の品を持ってきた宅配便の人だとしたら、姉に半殺しにされかねない。
仕方なく俺は重い体をひきずって玄関のドアを開けた。
するとそこには見慣れた女の子の姿があった。

「よっ!池上!遊びに来たよ!」
「米沢、お前だったのか。」
「何、その言い方!失礼ね。」

すこしふくれっ面になって文句を言う米沢。わがまま娘の登場に頭痛が倍増したような気分だった。いつもなら相手してやるところだがあいにくこの体調である。なんとか帰れと言いたいのをこらえてやんわりと帰ってほしいと伝えることにした。

「米沢、悪いんだけど今調子が悪くてさ、風邪引いたみたいなんだよね。移しちゃ悪いから帰った方がいいよ。」
「え、そうなの!じゃあ私が看病してあげるよ。」

えっ・・・それは大丈夫なのか?素直に帰ってくれると思っていたので少し焦ってしまった。

180雌豚のにおい@774人目:2012/11/21(水) 09:30:41 ID:GXhdRRJA
確かに風邪ひいて一人でベッドに横たわるのは心細くて不安になるのは間違いないのだが、米沢の看病となるとまた別の意味で不安だ。

「いや、そんなの米沢に悪いって。俺なら大丈夫だから!」
「こんなに辛そうにしてるのに何言ってんの。病人は大人しく私の言うこと聞きなさい!それとも私の看病は嫌って言うわけ?」

ぶっちゃけそうです、とは口が裂けても言えないので口ごもってしまう俺。情けないなあ。
言い返せないでいると米沢は突然にぃ〜っと口元を綻ばせた。

「ふふん、決まりだね。じゃあ病人は寝室に直行ー!」
「やれやれ」

にやりと笑う米沢に背中を押され、そのまま寝室のベッドに倒れこむ俺。
米沢は倒れこんだ俺の体に布団をかけた。どうせならもう米沢に甘えてしまおうと俺は開き直ることにした。俺の願いはただひとつ、温かいうどんを食うことだ。

「なあ米沢、俺温かいうどんが食べたいんだけど・・・。」
「あら、ようやく私を頼る気になったの?いいよ、うどんくらい楽勝!私特製の手作りうどんを食べさせてあげる!」
「えっ、それは・・・。あの、冷蔵庫にインスタントの鍋焼きうどんがあるからそれを手順通りに作ってくれれば・・・。」
「なあ〜に言ってんの!病気には人の真心がこもった温かい手作りうどんが一番なんだから。」
「いやだって、米沢は料理が・・・。」
「だ、大丈夫!うどんくらいなら全然、平気!」
「その言葉、信じていいんだな。」
「もう、池上ったら失礼なんだから。池上をうならせるようなうどんを作ってやるんだから!」

えへんと胸を張りながら堂々と宣言する米沢。
その言葉に少しほっとしたが、完全に安心するのは実際に料理を見てからにしよう、と油断は捨てない方針でいくことにした。

181ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/21(水) 09:32:09 ID:MYjeBAd.
その後米沢は我が家の冷蔵庫を調べ、足りない材料をリストアップし始めた。

「あんたんちの冷蔵庫どうなってんの?まともな食材がないじゃない。」

と米沢は我が家の冷蔵庫の中身に関して少々おかんむりのご様子。
おかげで姉が昨日の買い物係のはずなのに職務怠慢をしていることが発覚した。

「それじゃあ私、スーパーで少し買い物してくるから大人しく寝ていてね」
「この体調じゃおとなしく寝る以外にないから安心してくれ。」
「ふふっ、それもそうだね。」

そう言って米沢は寝室から出て行った。
米沢がいなくなった瞬間寝室には再び静寂が訪れた。部屋の中の時計の秒針が時を刻むコチコチという音が鮮明に聞こえてくる。
こうしているとやはり一人っていうのは寂しいしつまらないものだな。礼儀知らずのようだが、その時初めて米沢が看病に来てくれてよかったと思った。

「しかし、米沢はああ言ったが本当にまともなうどんが出てくるのかな?うどんじゃないナニカが出てきたらどうしよう・・・」

米沢の料理の腕は詳しくは俺の知るところではない。
しかし、調理実習でピラフを作ることになった時、米沢がリーダーの班だけはピラフではなくなぜか雑炊を完成させたという逸話がある。米沢曰く「すこし水加減を間違えた」とのこと。
なんですこし水加減を間違えたくらいでピラフが雑炊になるんだよ・・・。逆にすごいぞ。
この話から判断すると米沢の料理の腕は壊滅的なのではないかと身震いしてしまう。
でもそれは去年のことだから、もしかしたら今は料理の腕も上達しているかもしれない。本当にそうであればいいんだけどなあ・・・。
そんなことを考えているときに再びあの音が響き渡った。

ぴんぽーん

「誰だろう?わざわざもう一度チャイムを鳴らす必要もないし、米沢ではないだろうから今度こそ宅配便の人かな。やれやれ俺は病人だってのに・・・。」

ベッドから起き上がった途端に体中きしむような筋肉痛が走るがなんとか玄関までたどり着く。

182ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/21(水) 09:33:05 ID:cWet0pPM
がちゃりとドアを開けるとそこにはやはり見慣れた女の子の姿があった。

「池上君!看病しに来たわよ!」

そこに立っていたのはロングヘアーをたなびかせ、陽気に笑う本条さんだった。
いつもなら見ているだけでほっこりするような笑顔なのだが、今の俺はその笑顔を見ると脂汗がだらだらと流れてくる。
米沢愛理と、本条絵里さん。
つい昨日喧嘩が勃発しかけた犬猿の仲のふたりがこの家にそろった。
そう考えると俺の頭痛はさらに4倍増ししたような気がした。

「本条さん・・・どうして俺の家に。」
「どうしてって、看病しに来たって言ったじゃないの。」

驚きながら発言する俺に構うことなく本条さんは靴を脱いで玄関に上がりこんできた。
いやにニコニコしている。本条さんはニコニコでも俺はゲッソリだ。
本条さんはキョロキョロと家の中を見回している。

「池上君、もしかして家の人今日いないんじゃない?」
「ああ、親父もねえちゃんも今はいない。(でも米沢がさっきまでここにいてこれから帰ってくるんだよ!)」
「あ、そうなんだ。じゃあやっぱり看病しに来て正解だったかな!」

やけに嬉しそうにしゃべる本条さん。米沢に看病されているから帰れ、だなんて言えない雰囲気である。
ちょっとまずいんだけどなあ・・・もう少しで米沢が買い物から帰ってきてしまう。
もしばったりと仲の悪い2人が鉢合わせになったら・・・。
俺の家で喧嘩が勃発してしまうかもしれない。
ただでさえ避けたい事態なのに、ましてや今俺は重度の熱に苦しんでいる体だ。しんどさ100倍である。やっぱりなんとかして帰ってもらわなきゃ・・・。

「その、本条さん?」
「ん?どうしたの?早く横にならないと体に毒だよ?早く私の肩につかまって。」
「え、ああうん。ありがとう。」

183ふたり第6話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/21(水) 09:34:04 ID:rbd/Wg8w
そう言われると断るのもなんか変だ。実際立っているのも辛いし、肩を借りるくらいなら・・・。
俺は本条さんの肩を借りてなんとか自室に戻ることができた。ぜーひゅー、ぜーひゅーという嫌な音が喉から響く。
なんだか看病をしに来たという女の子ふたりが来てから病状がさらに悪化している気がする。これじゃ本末転倒だよ。
本条さんは俺の熱で温くなってしまった水タオルを交換して、再びつめたい水タオルを頭に乗せてくれた。ひんやりとしていて心地がよい。
ありがたいんだけどこうしてはいられない。水タオルを替えてくれたのに帰れとは言いにくいがふたりが鉢合わせになると病状が最悪になる可能性がある。
なんとか帰ってもらおうと口を開く。

「その、本条さん?看病してくれるのはありがたいんだけど俺一人でも大丈夫だから帰ってい・・・ゲホッゴホッ!ゴボッ!」
「え、ちょ、ちょっと池上君大丈夫?・・・やっぱり心配で帰れないわよ。うちの人が帰ってくるまで看病してあげるからね。」

全て言いきる前に悪性の咳が出てしまった。そのせいで本条さんはますます看病する気マンマンだ。
やばいなあ・・・。
耳鳴りもさっきよりひどくなってきて本条さんの声もなんだか遠巻きに聞こえてくる感覚がする。それでも俺は再度言葉をひねり出そうとした。

「本条さん、あの病気移すと悪いし帰ってくれていいよ。」
「なに言ってるのよ。そんなに辛そうにしてるのに放っておいて帰れるわけないわよ。」

そうこう会話しているうちに耳鳴りが激しい俺の耳にも分かるような大音声が玄関から聞こえてきた。
「ただいまー!」

聞き間違えるはずもない、この声は米沢だ。
そして階段を上る音がだんだんと大きくなってくる。そしてついに俺の部屋のドアが開かれた。

「池上!安静にし・・て・・た・・?」
「米沢さん?」

ついに恐れていたことが現実になってしまった。
くらりと視界が一回転する。目眩が起きたのだ。・・・それも今日一番の目眩だ。

184 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/21(水) 09:34:39 ID:OvWXIgdo
以上で投下終了。

185雌豚のにおい@774人目:2012/11/21(水) 17:47:38 ID:k3jIzb2c
マリオゴルフやろうぜ!

186雌豚のにおい@774人目:2012/11/21(水) 20:48:23 ID:SDy5ab1.
投下ペースが速いとホクホクするのぅ...

187雌豚のにおい@774人目:2012/11/21(水) 22:21:50 ID:8O.jwDfI
いったいどうなるんだ?!気になって眠れないほどのGJ

188雌豚のにおい@774人目:2012/11/21(水) 22:53:10 ID:Cdw7HV4Q
>>184
乙乙!

189雌豚のにおい@774人目:2012/11/22(木) 11:48:54 ID:58arG4LQ
>>184
乙です!

そろそろ「初めから」の続きこないかなぁ……。

190雌豚のにおい@774人目:2012/11/22(木) 19:30:55 ID:uW5nnKv6
>>189
あれ気になるよな

191<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

192 ◆sM/QAprqYA:2012/11/22(木) 23:18:05 ID:ctrs5uFg
てすと

193 ◆sM/QAprqYA:2012/11/22(木) 23:24:25 ID:ctrs5uFg
0から文章を書いてそれを投稿するというのは初めてなので、至らない点が多くあると思います。
じゃんじゃん指摘、批評をしていただけると幸いです。

それでは、投下します。

194 ◆sM/QAprqYA:2012/11/22(木) 23:26:27 ID:ctrs5uFg
大抵の人は寝静まっているであろう深夜、独り、狩りへと向かう。
武器を持ち、街を駆け回るその姿は、さながら歴戦の兵士のようであった。

「ふーっ。」
一人、息をつく。
傍にあったペットボトルを手に取り、中身が入っていないことに気付き、気だるげに首をパキパキと鳴らしながら台所へと向かった。
――今日も調子良さ気だな、この調子ならなんとかかんとかクリアまで無事辿りつきそうだ。

忙しい学生生活の合間を縫い、夜更けを厭わずゲームにどっぷりと浸かるのが、数少ない彼の趣味の一つだ。
ほんの少しの青春すら謳歌できず、友達などと呼べる関係の人物すらいない中で寂しい人生を送っている彼にとっては、それは生きがいと呼んでも過言ではない。
そんな境遇からの反動もあってか、彼はよく、人とより深く繋がることの出来るオンラインゲームを選り好んでプレイした。
長かった一週間の内の平日も終え、ようやく週末を迎える事もあってか、例に漏れず、仮想空間の友達、そして暗闇の部屋を照らすモニタへと、夜通し向かい続けるのであった。

ふと、時計を見ると、時刻はすでに丑三つ時を半刻以上も過ぎていた。もうこんな時間か、次がラストかな。
最後の締めに、オフライン、すなわち一人でプレイしてその日を終えるのが習慣となっている。
ゲームを立ち上げ、淡々とプレイを開始する。 ああ、今日も一日が終わったなあ……――。
その日起こった変わった出来事を振り返りながら、彼はふと、ある出来事を思い出した。
――昼休み、何を思ったか突然話しかけてきた藍澤さん。あれは何だったんだろう……。


相も変わらず穏やかな日差しの差し込む冬の昼休み、彼女は突然やってきた。
「――ねえサトルくん、昨日のあのコンボなんだけどさあ……――。」

伏せていた顔を上げ、話しかけてきたのは『あの』 藍澤さんだと認識した。瞬間、彼の視界は真っ白になった。
唯でさえ普段からクラスメートと会話と呼べる程度のコミュニケーションすら交わさない彼だ、ましてやクラスの、いや校内一の美女と言っても過言ではない彼女から生まれて初めて声を掛けられ、脳内はパンク寸前であった。
彼女は何を話している? それが第一印象であった。構わず、彼女は話し続ける。上手く決まったよね、痺れちゃったぁ、あそこはギリギリだったね、うふふっ……。
頭が、回らない。相槌すら、打てない。グルグル、グルグル。
目立ちすぎず、かといって地味すぎない色に染められた茶髪、くっきりとした睫毛、二重目の大きな瞳、桜色の頬、妖しく揺れる艶のある唇。そして、其処から透き通った声で紡ぎ出される言葉。
全てが、彼を、飲み込もうとする。
ふと気がつくと、彼女の端正な顔立ちが目前にあり、肩を揺すられていることに気付いた。
「もう、私の話ちゃんと聞いてた? 」
――あ、ああ……。
あまりに緊張しすぎて、喉がカラカラに渇いていた所為か、きちんと声を出せたかすら曖昧だった。だが、にこやかな表情で頷く彼女の様子を見る限り、その心配は必要なさそうだった。
「もうこんな時間かあ、もっとお話していたかったんだけど……。それじゃあ、また夜にね! 」

嵐が通り過ぎた後のような静けさ。彼は半ば呆然としながら、『夜』 とは一体どういう意味であったのか、ぼんやりと考えながら、立ち去る彼女の背中を見送った。
妖しく揺れる、艶のある唇を、嘗め回しながら立ち去る、彼女の背中を……。

195 ◆sM/QAprqYA:2012/11/22(木) 23:31:07 ID:ctrs5uFg
投下終了です。
こうしてみると圧倒的に文字数が少ないですね。
こんな駄作ですが、後2〜3話ほど続く予定です。
次回の更新は何時になるかはわかりませんが、質・量・更新の早さともに向上できるよう精進します。

言い忘れていましたが、題名は『Everywhere You're』 です。

196雌豚のにおい@774人目:2012/11/23(金) 00:06:45 ID:GBWy2bmw
おうおう新作嬉しいぞw
文字数はまあ最初はしょうがないから投下ペース落としてボチボチ増やして行けばいいよ。

197<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

198 ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 08:47:44 ID:f6Z.ygSk
投下します。
作品上、時系列が目茶苦茶です。

199一度だけ ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 08:48:28 ID:f6Z.ygSk
「一度だけ…」それが彼女の口癖で、何かとこの「一度だけ…」を強調して話す、いや、交渉すると言った方が正しいかもしれない。
この他にも「試しに…」や「…してみないと」と言った具合に様々な口癖があり、これほど約束性や信頼性が薄いものは無い。
もしかしたら、彼と付き合えた事に味を占めてるのかもしれないし、そうして自分を良いように正当化させているのかもしれない。
ただ今は、この扉の向こうから聞こえてくる「一度だけ……一度だけ」という彼女の声に耳を傾けてはいけないし従ってもいけないのだ。


「あの…告白の返事、考えてくれました?」
昼休みが始まるや否や彼の前に彼女はわざわざ隣のクラスから尋ねに来たのだ。告白から一週間、暇さえあれば昼休みや放課後は勿論、HR前や休み時間にも来ては僕の返事を待つ光景にクラスメイトも次第に興味を失い、ああ、また来たなと位にしか思わなくなっていった。
特に彼女に不満があるわけではないし彼女が欲しくないわけでもないがこうも朝から夕方まで催促されると何か裏があるのではと勘繰ってしまい今だに考えあぐねているところである。
「ごめん。まだ考えてる。」
お決まりのこの答えに横にいる友人も呆れ顔で正面にいる彼女は悲しそうで、僕自身申し訳なく思っているのだが内心、何て優柔不断な男なのだと失望して諦めてくれないかとも願ってもいるが口が裂けても言いたくない。
「そっか。じゃあ、また放課後来ますね。」
そうかと思えば彼女は暖かい笑みで言うものだから益々女心は分からないものだと感じた。後腐れもなく去る彼女、橘 百草(たちばな もぐさ)は男女分け隔てなく接するせいか人望を集め、人気もあるらしい。
彼の友人も勿体ないだの早く付き合えだのと小煩く、それもまた、その彼女の性質がそう言わせているのだろうなぁと購買部で買った惣菜パン片手にしみじみと思う。

200一度だけ ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 08:49:48 ID:f6Z.ygSk


思えばあの時から彼女は狂っていたのかもしれない。しかし、彼女の言葉には不思議な魅力が帯びていて、少なからず僕はその言葉を信じてみようと、駄目なら別れればいいのだと、だから納得してしまって、頷いてしまった。

「ねぇ、ナオ君。試しにちょこっと開けてみてよ。何もしないから。ね?ちょこっと……ね!ナオ君の顔、見たいから。一度だけで良いから。一度だけ。」
扉の前まで行くと無意識にドアノブを回していた。それと同時に向こう側から扉を引っ張られたがガチッとチェーンが音をたて少しばかり開く。すかさず、その隙間に足を挟め、彼女は身を乗り出し直人を見つめた。
「ナオ君、久しぶり。あのさ、イキナリであれなんだけど手繋ぎたいな。大丈夫。何もしないから、ね?一度だけ。一度だけだから。」


付き合いだしてからは彼女はみるみる変わっていった。二人とも一人暮らしで住まいも近所である理由から百草はわざわざ彼の部屋に訪れ朝食を作るようになるが、それだけでなく昼食は勿論、夕食も一緒に食べるようになった。その時の言い訳も「一度一緒にご飯を食べてみたかった」からと「夫婦生活を送りたかった」らしいがいつの間にか「一人分作るのも二人分作るのも一緒だから」になり「二人分作る方が食費とか光熱費とかが安くなるから」と変化していく。
そうして、いつの間にか機会から責任に、責任から義務へと変わり、義務から必然に変わる。
直人自身、一緒に食事することに抵抗がなくなり、何時しか楽しみになっていった。それは百草にとってどんなに喜ばしいことか、彼が料理を口に入れる度に彼女の中で次第に渦巻いていく欲情と恋情は遂に理性を飲み込み始める。
「そろそろさ、次の段階に進んで良いんじゃないかな?」
百草の言葉で直人は目を醒ます。友達の少ない彼にとって彼女の存在は大きく、一緒に居て、確かに楽しかったのだがそれより先に進みたいとは思わなかった。
「その事なんだけどさ、僕たち、別れた方が良いんじゃないか…な……。」
彼女の笑顔は崩れ、今にも泣きそうな位に唇を噛み締め目に涙を浮かべ、わなわなと体全体が震え出して、「何で?」と尋ねてきた。
「私と居て楽しくなかった!?」
両肩を掴まれ揺さぶられ、遂には涙は川の様に流れだし、それでも彼の目から視線は外さない。直人は嘘をつくつもりが彼女の涙で動揺してしまい「楽しいよ。」と言ってしまった。それが彼女を高ぶらせ、僕自身の逃げ場を無くしてしまう。

201一度だけ ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 08:53:19 ID:f6Z.ygSk
「ねぇ菅野君……一度一緒に帰りませんか?」
放課後になると予告通り百草は来たが彼女の頬は少しばかり赤く、髪も梳かしたようで艶っぽかった。
「今日は友達と帰らないの?」
返事はせず、質問を質問で返してしまったが彼女は気にせずに答えてくれる。
「うん。今日は菅野君と歩きたくて……菅野君、峰方面だよね?」
うんと頷くと彼女は「私も」とはにかむ。
この時になると頼りの友人は姿を消し、逃げの手はなく、否応なく頷くしか無かった。
帰り道、百草はやれ好物は何、やれ趣味は何としきりに話しかけてくるものだから答えない訳にもいかない。答える度に彼女は嬉しそうに笑い、自分のことを知ってもらおうと答え返す。
「一度付き合ってみませんか?」
あまりに唐突だった。向かい合い、両手を握られ出た言葉はお願いに近いもの。
「そうしましょ。一度付き合ってみて駄目だったら別れればいいんですよ。そうすれば、お互いに利害は五分五分ですし。」


思えばあの時から彼女は狂っていたのかもしれない。しかし、彼女の言葉には不思議な魅力が帯びていて、少なからず僕はその言葉を信じてみようと、駄目なら別れればいいのだと、だから納得してしまって、頷いてしまった。

「ねぇ、ナオ君。試しにちょこっと開けてみてよ。何もしないから。ね?ちょこっと……ね!ナオ君の顔、見たいから。一度だけで良いから。一度だけ。」
扉の前まで行くと無意識にドアノブを回していた。それと同時に向こう側から扉を引っ張られたがガチッとチェーンが音をたて少しばかり開く。すかさず、その隙間に足を挟め、彼女は身を乗り出し直人を見つめた。
「ナオ君、久しぶり。あのさ、イキナリであれなんだけど手繋ぎたいな。大丈夫。何もしないから、ね?一度だけ。一度だけだから。」

202一度だけ ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 08:55:39 ID:f6Z.ygSk


思えばあの時から彼女は狂っていたのかもしれない。しかし、彼女の言葉には不思議な魅力が帯びていて、少なからず僕はその言葉を信じてみようと、駄目なら別れればいいのだと、だから納得してしまって、頷いてしまった。

「ねぇ、ナオ君。試しにちょこっと開けてみてよ。何もしないから。ね?ちょこっと……ね!ナオ君の顔、見たいから。一度だけで良いから。一度だけ。」
扉の前まで行くと無意識にドアノブを回していた。それと同時に向こう側から扉を引っ張られたがガチッとチェーンが音をたて少しばかり開く。すかさず、その隙間に足を挟め、彼女は身を乗り出し直人を見つめた。
「ナオ君、久しぶり。あのさ、イキナリであれなんだけど手繋ぎたいな。大丈夫。何もしないから、ね?一度だけ。一度だけだから。」


付き合いだしてからは彼女はみるみる変わっていった。二人とも一人暮らしで住まいも近所である理由から百草はわざわざ彼の部屋に訪れ朝食を作るようになるが、それだけでなく昼食は勿論、夕食も一緒に食べるようになった。その時の言い訳も「一度一緒にご飯を食べてみたかった」からと「夫婦生活を送りたかった」らしいがいつの間にか「一人分作るのも二人分作るのも一緒だから」になり「二人分作る方が食費とか光熱費とかが安くなるから」と変化していく。
そうして、いつの間にか機会から責任に、責任から義務へと変わり、義務から必然に変わる。
直人自身、一緒に食事することに抵抗がなくなり、何時しか楽しみになっていった。それは百草にとってどんなに喜ばしいことか、彼が料理を口に入れる度に彼女の中で次第に渦巻いていく欲情と恋情は遂に理性を飲み込み始める。
「そろそろさ、次の段階に進んで良いんじゃないかな?」
百草の言葉で直人は目を醒ます。友達の少ない彼にとって彼女の存在は大きく、一緒に居て、確かに楽しかったのだがそれより先に進みたいとは思わなかった。
「その事なんだけどさ、僕たち、別れた方が良いんじゃないか…な……。」
彼女の笑顔は崩れ、今にも泣きそうな位に唇を噛み締め目に涙を浮かべ、わなわなと体全体が震え出して、「何で?」と尋ねてきた。
「私と居て楽しくなかった!?」
両肩を掴まれ揺さぶられ、遂には涙は川の様に流れだし、それでも彼の目から視線は外さない。直人は嘘をつくつもりが彼女の涙で動揺してしまい「楽しいよ。」と言ってしまった。それが彼女を高ぶらせ、僕自身の逃げ場を無くしてしまう。

203一度だけ ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 08:56:13 ID:f6Z.ygSk
「じゃあ、しよう!?…………あ!それじゃあ一回だけ。一回だけキスしてから。それから考えよう?」
「落ち着いてね。落ち着いて。」と彼にも自分にも言い聞かせるように呟き、泣き腫らした目には既にギラギラとした性欲が見えて息も荒く、顔の赤みは更に増す。逃げようにも両肩を爪が食い込む位に掴まれて逃げられず、段々と近付く顔にただただ背けるしかなく最後には彼女と唇を重ねてしまう。
歯を食いしばり、唇を頑なに閉じていても百草の舌は唇と歯の間へと侵入し歯を愛撫し始める。
鼻息を荒くして、舌は歯の壁の先、彼の舌との重なりを求め蠢いていたが、ふと左肩の痛みが消えたものだから彼女の右手の行き先を探すと右手にはハンディカメラを持ち、二人の行為を一部始終映していた。
唇を無理矢理離し、注意しようとしたのが間違いだった。それを狙ってか、左手で顔を掴み無理矢理近付け口づけしてきた。突然のことで歯を食いしばるのを忘れ、百草に舌の侵入を許してしまうと先ほどよりも愛撫は激しく、直人の口内を、舌を、唾液を貪り、彼女の唾液を流し込む。
どちらがどちらの舌か唾液か分からなくなるくらいに蕩けた頃にようやく唇を離す。
唇と唇との間には幾つものねとついた糸が出来、ひとつひとつと切れて最後の糸がぷつりと切れた時、百草は唾液にまみれた笑みで「気持ち良かったね。」と悪気も無く囁く。
ようやく僕から離れるとカメラを弄りだし、録画された内容を確認しだす。途中、うわぁとか唸り声をあげ生唾を飲む。
確認し終わると呆然と立ち尽くす直人に微笑み、カメラを向ける。
「別れるなら、コレみんなに見せて自慢していいよね?」

204一度だけ ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 08:57:06 ID:f6Z.ygSk


「ナオ君の手気持ちいいね。………ゴメンね。あんなことするつもりじゃ無かったの。でも、ああでもしないと振り向いてくれないんじゃないかって不安で不安で…でも、こうして触れて触れられて嬉しい。だからね……。」
一度だけ……そう言うと、視線をチェーンに落とす。彼女のその短い髪が濡れていて、嗚呼、外は雨だったのかと思いながらチェーンを外してしまった。
彼女が寒そうだったから?可哀相だから?
いや、既に彼女の魅力に囚われてるからか、また、味わいたいと感じているからか、そして、それが無意識であるからか。
彼には分からない。
「ねぇ、あと一度だけ……ね?」


「ナオ。今日の放課後、委員会あるから。」
彼の前で無愛想に話し、終えると有無を聞かず自分の席へと戻っていった。直人は彼女が苦手だった。小学校からの同級で彼女はいつも中心人物の一人で彼に対してはいつも高圧的か先程のように全くの無愛想であるかのいずれかで接しづらかった。しかし、中学校を機にあまり話さなくなったので余計に話しづらい。
ただ何かの縁なのか、百草の親友なのが驚きでそれが彼女とあまり付き合いたくない原因でもあった。

「他の人は?」
既に作業を始めている彼女の後ろ姿に尋ねた。最上 花(もがみ はな)はその長い髪を後ろで一つに束ねていた。
美化委員であるため彼らは運動着に着替え、校舎の正面に位置する花壇にいた。
「ここの草むしりだけだからあたしたちだけなんだって。」
そうなんだと呟き彼女の隣に座り草をむしる。座る瞬間ビクッと驚いたみたいだが気にせず草をむしり、ポツリポツリと尋ねてきた。
「何で、あいつなの?」
花の言ってることが分からず、え?としか答えられず、彼女は「百草」とだけつけ足した。
「あいつ、約束なんて守る気無いよ。」
先程の答えも聞かず淡々と話し淡々とむしるものの百草の話になると明らかに手に力はこめられはじめた。その証拠に雑草の根まで抜けず葉ばかりがむしられていた。
「ビデオ撮られたでしょ?」
ビデオと彼女の口から出た瞬間、心臓が止まりそうになり、それでも「何で?」と聞こうとしたが言葉は出てこない。代わりに空気が漏れてくるだけだった。
「見せつけられたよ。あいつが『見て』って『羨ましいでしょ』って。自慢してたよ。」
ただただ何でと疑問しか浮かばなかった。誰にも見せないって約束したのに。誰にも言わないって約束したのに。

205一度だけ ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 09:00:32 ID:f6Z.ygSk

「記念に撮っておかないと。」
そう言って性行為も撮られた。その時も、「一回だけさせてくれたら諦めるから」なんて言って、行為が終われば、「別れるんだから、みんなに見せて自慢して良いよね」なんて脅迫してくる。
キスの時も同じだったんだから、注意すれば分かることだし策だって練れた。だのに彼女の言葉を鵜呑みにしてしまって、結局は深みに陥り永遠に抜け出せなくなる。
キスだって性行為だって恥じることではない。でも、彼は、彼の環境はそうでは無かった。簡単に言えば昔ながらのお堅い人間といった具合で、百草の事は好きでも嫌いでもない。だから、付き合うのも気が引けたが彼女のあの甘い響きが判断を鈍らせる。
「一度だけ。」そう、一回すれば彼女は満足して別れてくれるんだと。思っていたのに……。

206一度だけ ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 09:01:13 ID:f6Z.ygSk

「ナオ君。私も手伝うよ。」
メールで遅くなる由を伝えたがそれでも、手伝いに行くねと返信してきた。
「遅くなってゴメンね。クラスメイトに数学教えててさ。ちゃっちゃと終わらせてさ、早く帰ろうよ。ね?」
そういうと、彼の耳元で「帰り遅いからさ」と囁く。誰がとは聞かなかった。百草の赤みがかった顔を見れば言わんとしてることが判ってしまった。
「あっちの草抜こうよ。」
こっちは花ちゃんに任せてさ、そう言いながら手を引っ張り向こう側に行こうとすると反対側の手が掴まれた。
「二人で足りてるから。」
百草は振り返らず尚も引っ張る力を緩めない。「手伝った方が早く終わるよ」彼女の声はいつにも増して低く、そしてどこまでも冷酷だった。
「他の委員が手伝うと後々面倒なの。」
「じゃあ、ナオ君以外の人使ってよ。ナオ君忙しいだからさ。」
「どうせ、百草の家にでも行ってするんでしょ。あのビデオみたいに。」
ふと、二人の力は緩み、覗き込むように彼女を見るとばつの悪い顔をしていて、少し震えてもいるようで「言わないって約束したじゃん。」と力弱く言った。
「やっぱり見せたんだ。」
直人は聞こえるか聞こえないか分からない声量で呟いた。
「違うの!花ちゃんなら大丈夫だと思って。」
彼に釈明する百草は余りに滑稽で暗くなる直人の顔とは対象に興奮して赤くなり、涙目になる彼女の顔。そうして理解して貰えないと思うや否やあの言葉が出始める。
「ごめんなさい。もう誰にも見せないから。もう一回だけ付き合い直そう。もう一度だけ。許して下さい。……もう一度だけ、一度だけ。」

207 ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 09:04:25 ID:f6Z.ygSk
以上で投下終了です
>>200は間違えました。すいません。

至らない点がありましたら指摘の方をお願いします。

208雌豚のにおい@774人目:2012/11/23(金) 10:28:24 ID:IMa4MLwY
>>207
乙乙!

209<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

210 ◆sin1r3oXGY:2012/11/23(金) 16:50:11 ID:f6Z.ygSk
>>209
確かにそうですね。

書き溜めたモノなので指摘を頂きましたが後2話だけなのでこの調子でいかせてもらいます。
また、次の機会があれば活かしていこうと考えてます。

ありがとうございました。

211雌豚のにおい@774人目:2012/11/23(金) 17:02:00 ID:Lb5Z1hbU
習うより慣れろとも言いますし
批評に関しては視点が意図せず一定しなくて状況がわかりづらいとしか…
1話毎の批評なんてせいぜいテクニックに触れるのがやっと、時系列がめちゃくちゃでも全話通しで読んで納得できればいいわけですし
なにはともあれ乙です

212雌豚のにおい@774人目:2012/11/23(金) 18:55:20 ID:GBWy2bmw
>>209
やめたげてよぉ!!!

213雌豚のにおい@774人目:2012/11/24(土) 02:16:28 ID:ggqfOofU
避難所ですらこんな殺伐としてるとかもうダメかもわからんね

214雌豚のにおい@774人目:2012/11/24(土) 05:05:07 ID:Wd1Zva9E
変歴とか触雷こないか

215雌豚のにおい@774人目:2012/11/24(土) 05:27:40 ID:kD.RXIuw
初めからとかも待ってるんだがなぁ

216 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06:19:44 ID:D9NA27bk
投下します。
ただ、少しの辛抱を……。

217一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06:20:42 ID:D9NA27bk
「また散らかして。駄目だよ、ナオ君。」
そう言いながら、部屋の中を見渡す。一人暮らしに必要な物だけしか置けない位狭いが困る事はない。
浴室からバスタオルを持ち出し彼女に手渡す。ありがとうと言うとバスタオルに顔を埋めた後にようやく髪を拭きはじめる。服はあっちにあるよと指を差し着替えるよう促す。
謝罪する気はあったみたいだがそれも所詮、言葉だけのものであろう、部屋に入った瞬間、切迫していたものも無くなり元の鞘に収まったかのように落ち着きや恋心が出始めた。


彼を好きになったのは小学2年生の時でそれも給食時だったのを今でも覚えている。あの頃の私は病弱であまり食べる事も出来ずいつも残してばかりであったが、悲しいかな、その時の周囲の目は冷たく、給食を残す事はいけないのだと刷り込まれていたみたいで、その空気に馴染めず、彼女はとうとう吐いてしまった。
周りの目が更に冷たくなるなか、彼だけは自ら「私の」吐瀉物を掃除してくれて、大丈夫?と心配までしてくれた。
彼の純粋な優しさに触れて、恋をした。
彼だけが私を見てくれて、話しかけてくれて、聞いてくれて、触れてくれて、想ってくれて、今にして思えば孤独が嫌で優しいナオ君なら構ってくれるから一緒にいたのかもしれない、けど、もうどうでもいい。
これは間違えようもない恋だと胸を張って言える位に私を占める者は後にも先にも彼だけだ。

218一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06:23:09 ID:D9NA27bk

そう、だから高校で出会ったのも運命なんだと確信した。

病弱なせいで環境の良い場所へ転校させられて告白も出来ず初恋は散った。
それからの日々は退屈でただただ受動的な生活をしていたと思う。中学生にもなると病弱な体質は克服し、その頃には友達も出来はじめた。それでも心の空白は埋まらず、日々ナオ君との生活を夢想しては一人で慰める。そうすると空白は無くなって、また空白が出来ると慰める。
頭の中で彼女たちの関係は既に夫婦にまで進んでいて子供は女の子が一人、裕福とは言い難いがそれでも幸せな毎日を送っていた。
高校生になってからの夢想は更に酷い物になっていき、彼女のモノである証が欲しくなりはじめ、拉致監禁、調教、凌辱、入れ墨、あらゆる証をナオ君に刻みつける事に夢中になっていた。


「誰にも言わないって約束したのに……なんで言っちゃうの?それもナオ君に!」
「あんたこそ、何であたしに見せたの?ナオには誰にも見せないって約束しといて…それって、あたしに見せたってことはみんなに言い触らせって事でしょ?」
目元を赤く腫らし、今にもまた泣きそうな顔をして彼女を責め立てるが支離滅裂で、直人と別れた事が余程効いたのだろう、動揺が目に見えてしまう。
「違うの!花ちゃんになら見せていいかなって思って……」
俯き視線を右へ左へとせわしなく動かし、次に続く言葉を模索しているようだが見つからずしりつぼみ気味に会話が止まり沈黙が始まる。
彼の話では帰宅するまで延々と自己弁護していたらしく、自分は悪くない事を強調していたようだ。ここまできてようやく、彼は自分の愚かさに気付いたようで、別れ話を切り出した途端、彼女の顔は憤怒にまみれ頑なに拒否し続け、終いにはお得意のビデオや写真をネタに脅迫までしてくると、彼女に対して哀れみしか思い浮かばず、無視して帰ったらしい。彼の姿が見えなくなるまでずっと叫んでいたらしく、百草らしくないなとは思ったが予想出来たことでもあると感じた。
「ナオ君も望んでた事なんだよ。」
言われた意味が分からず、ただおうむ返しに望んでた事と返してしまうが彼女はそれに「うん。」と答え、言葉を続ける。
「ナオ君は素直じゃないから、嫌とか駄目とか言うけど最終的にはうんって頷いてくれるんだよ。だから今回だって、今はああだけど最後には私の所に戻ってくるんだ。うん、そうだ。絶対戻ってくる。ナオ君は私のこと好きなんだもん、戻ってくる。」

219一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06:25:57 ID:D9NA27bk
呆れたとしか言いようがなく、彼女の開き直りっぷりには感服せざるを得ない。自分の言葉に納得し始めたのか、笑みがこぼれ惚ける、そうして何度も言葉を反芻し彼への愛を膨らませる。


私と彼の出会いを説明するにはまず、花ちゃんとの出会いを話さなければならない、あの忌ま忌ましい目つき、鼻持ちならない性格で私のナオ君に擦り寄って汚す。
そう、私は花ちゃんが嫌いで嫌いでしょうがない、それだけじゃない、私と彼との中を邪魔する人はみんな嫌い。
両親、花ちゃん、クラスメート、数えたらきりがない、ナオ君以外に興味がないから当たらず障らずに接したせいでみんなに頼れる人だと勘違いされて、ますます嫌気がさす。

話してる間にも想像のナオ君と幸せ一杯の高校生活を送り、気付けばトイレに篭り慰める。校内でいやらしい事をして、少しでもナオ君の温かみを感じたくて我が儘を言ってもナオ君は困りながらも頷いてくれる、そんな妄想をしては心を、体を慰めた。

話が逸れてしまったが彼女とは選択授業で知り合った。何気ない会話だったが同じ小学校に通っていたという共通点から知り合いから友達になり、お昼も一緒に食べる位に仲良くなった時に起因が生まれた。
「あ!、ナオっ!、今日委員会あるから。」
話の種として誰かと尋ねた、これが私をこれ以上なく変化させ、この怠惰な生活に光が、希望が差し込み、一つの考えが生まれた。

220一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06:26:36 ID:D9NA27bk


私から見ても彼女は確かに綺麗かもしれない、少しつり気味でも瞳は大きく、目を細めると妖艶さが増して大人っぽく見える、ハーフかと思わせる高い鼻に野暮ったさは感じられない、程よく厚い唇、人を威嚇しない程度の身長が妙に子供っぽさを感じるがそれがまた可愛らしいのだが一番はその長く、手入れの行き届いた、黒い髪が特徴ではないだろうか。
長いから色々な髪型も出来て楽しそうではあるが面倒臭がりな私には分からないというかそこまで自分に気を使うことが無く、今でも丁度良い長さにしては寝癖を直す程度で付き合いだしてからようやく気になりだした。
その自分に磨きをかける人間が近くにいると嫌でも目について、いつかナオ君が奪われるんじゃないかと不安に思うようにもなった。
「花ちゃん。もうナオ君に関わらないで。それが無理なら名前で呼ばないで。」
あいつに無視されて1ヶ月が経った頃、彼の家の近くにある公園に来るようにとメールが届いた。来てみれば、百草はブランコに座りユラユラ揺れている、その目には生気は見られず初めて会った時のようでいてどこか狂っているように見えた。
彼女の姿を見て第一声がこれだ、これではムードもへったくれもないが百草にとってあたしは不快で不快でしょうがないのだろう。
「あたしがどう呼ぼうと勝手でしょう。」
「五月蝿い。花ちゃんは黙って言うことを聞いてればいいの。」
「あんた、もう彼女じゃないじゃん。ナオ、すっごく迷惑してるよ。」
「………あんたさえいなかったら。」
ブランコから降りて、フラフラ近付く彼女の右手は背中に回され一向に現れない、左の口角がピクピクと吊り上がり再び目に輝きが増しだす、恐らくこうして会話している間にも妄想しているのだろう。

221一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06:27:14 ID:D9NA27bk


告白してから一週間が過ぎようとしたが一日一日と過ぎる度に百草は暇さえあれば答えを聞きに行った。あまつさえ、放課後はナオ君を尾行して、一人悶々と色々と考える。
私の夢は手の届く所まで近付いて、あとはどう手に入れるか、そればかり考えていた。
自分で言うのも何だが私は可愛い部類らしいし、皆勘違いして、誰にも分け隔てなく接する優しい性格もあるし勉強もそこそこ出来る、外見も中身も申し分ないのだから断る理由はまずないだろう。
いや、あったとしてもあれこれ言って付き合った方が良いように促せばいい話で、今隣にいるナオ君にどう切り出せばいいかまだ分からずにいた。
それでも、ナオ君の事を知れただけで充分過ぎる程でこの幸せな一時がずっと続けばいいななんて思い始めた時、考えるよりも早く言葉は出ていた。
「一度付き合ってみませんか?」

その言葉は私に希望を与えて、二人の世界を創って、そして私を変えてくれた。何に対しても積極的に励むようになり友達だって増えたし学力も伸びたがナオ君の彼女になれたことは何よりも嬉しかった。
他人行儀みたいな喋り方はしないこと、一緒に帰ったり、お昼も一緒に食べて、彼との距離を縮めていく。そうして、妄想を現実に変えていく。
「一度だけ…」、それは彼女の心に溜まる思いを素直に変えてはくれない。

222一度だけ 2話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06:28:32 ID:D9NA27bk

彼と過ごす日々は充実していたが彼の受け身と好意的ではない態度には嫌な気持ちしか湧かず、明らかに別れさせようとか落胆させようという狙いが見えて、妄想との違いに苛立だつようになり、それが屈折変質し余計に直人を束縛したくなった。
そうして、ふと頭に過る言葉。
それだけは私を裏切らず、想いを叶えてくれて、ナオ君が素直になってくれる素敵な言葉。


「一回だけ。」
そう言うとナオ君は暗い顔をして「違う」と呟き、「君は違う」と言葉を連ねた。
困惑していると彼は手鏡を渡し、また更に続ける。
「君は百草さんじゃない。」
洗ったつもりだったがまだ汚れが残っていて、服だって着た時はピッタリだったのに、目だってつり上がっていて……。
どこかでサイレンが鳴り出す、頭の中からか外からか分からないが警告してるんだろう、それを思い出しちゃいけない。あたしが誰かなんて、あたしは百草なんだ、でないと言葉の魔法が解けちゃう。

……そうか。


花の魔法は解け落ちた。

223 ◆sin1r3oXGY:2012/11/24(土) 06:29:41 ID:D9NA27bk
投下終了です。

224雌豚のにおい@774人目:2012/11/24(土) 07:46:42 ID:vBs1G06E
>>215
俺も待ってる。
第九話の終わりかたから考えると、
いよいよ、高校生になって、
全員が同じ学校に入って出会う感じだから余計に……。

225雌豚のにおい@774人目:2012/11/24(土) 07:52:26 ID:vBs1G06E
>>223
乙です。

226雌豚のにおい@774人目:2012/11/24(土) 09:09:34 ID:wA7P0IM6
>>223
乙ー

227<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

228雌豚のにおい@774人目:2012/11/24(土) 22:18:16 ID:EGIsH2s.
>>227
ちょうどいいペースっすよ先輩w

229雌豚のにおい@774人目:2012/11/24(土) 22:26:09 ID:qcDjNLm6
>>227
誰かの投下のすぐ後でも無いし、割り込みでも無いのだから投下ペースが速いのは良い事じゃね?

230雌豚のにおい@774人目:2012/11/25(日) 01:28:32 ID:r0qPPnQw
囚われし者はもうないのかな

231雌豚のにおい@774人目:2012/11/25(日) 02:00:10 ID:Xjfp0vsI
○○来ないなとか、○○待ってるのにとか、もう作者の自演にしか見えない今日この頃。

232 ◆sin1r3oXGY:2012/11/25(日) 08:31:06 ID:RSTZxU7k
投下します。
これで終わりです。

233一度だけ 3話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/25(日) 08:31:51 ID:RSTZxU7k
何度同じ過ちを繰り返せば気が済むのだろうかそれは分からないが、確かにそれは彼の為にしてあげる事だとは分かっていた。ただ、彼にとってそれは理解し難いのかもしれない、事実、目の前の彼は困惑して状況を掴めないでいた。
でも、そんなことを一切掻き消してくれる言葉をあたしは知っている。

「一度だけ……」


中学2年生の夏、秋山 葉子はイジメを苦に自殺した。直人にとって初恋の人であったが無惨にも夢と散り、悲しく苦しい気持ちに満たされていく中、彼女は直人を呼び出し告白した。ロマンスとは掛け離れたその場違いな告白を勿論、跳ね退け彼女を罵倒した、どうして、何故、人の尊厳は、分からない……。思いつく限りの言葉を吐いた後、彼女の口から出た言葉は酷く重く、酷く冷たく、極めて現実だった。
葉子の死をきっかけにこのクラスでイジメは無くなった、いや、元の鞘に収まったというべきか。まるで何事も無かったかのように接し始めるクラスメートに浮足立ち、ついには僕は孤独となっていった、。

234一度だけ 3話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/25(日) 08:33:18 ID:RSTZxU7k


気がつくと百草は腹部から血を垂れ流し、悶えながらも彼女を睨みつけ目的を果たそうとジリジリと這い寄ってくる。
あたしの左手は赤に染まり、握られたナイフに至っては赤黒く、どこか艶美で魅入ってしまっていて……。
「何の用?………。」
彼の声はこの静まりきった中を優雅に通り過ぎると即座に百草の顔は喜びに溢れ、それくらいこの場所はホントに静かだった。
ポトリと落ちた携帯電話を拾い、アドレス帳から直人の文字を探し電話をかけた。一瞬だが待受には直人が居て、腸が煮え繰り返り彼女を見下した。しかし、妖艶なナイフと彼の声とで引き戻される。
「ナオ……あたし。」
彼女の声に驚き、素っ頓狂な声をあげ「花さん!?」と驚くとも困惑とも言える声を出すすや否や、今度は「どうして?」と疑問に満ちていた。
「百草が怪我して倒れてるの。助けてあげて。」
有無を言わす暇も与えず、場所を告げ通話を切るとまたもや彼の顔が現れだす。この女の口が直人に触れたと思うと憎しみがこぼれ、この女の味を知らされたと思うと悲しみが溢れた。

235一度だけ 3話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/25(日) 08:33:49 ID:RSTZxU7k


彼女になればあたしを好きになってくれるかも、そんな淡い恋心を胸に抱き、花は髪を伸ばし始めた。丁寧に丁寧に整え、葉子よりも綺麗な髪になり始めるや今度は仕草や言葉遣いを真似するようになり、より完璧にオリジナルを超える為に己に磨きをかけ、そうしてオリジナルを始末する計画を練った。
残酷だったかもしれないがあたしはお手頃なイジメを選んだ、しかしその頃のあたしは罪悪感など無く、早く居なくなれと日に日に想いは強まるばかりで、比例してイジメも過激になっていき……。
遂に彼女は自殺した。


百草は彼女に経過を常に報告していた、今日はあれをした、こんなことをした、どんなに些細な事だろうと、勝ち誇った顔で、喜びであふれ、優越感に浸り、花を煽る。
百草は気付いていたのではないだろうか、少なからず花は彼に好意を抱いていると、そんな不安に苛まれた結果としてこうした惚気話をすることに至ったのだろう。
とうとう彼女は約束を破り、花にビデオを見せてしまった。
「どう花ちゃん?羨ましいでしょ?」
耳元で百草は何か喋っていたがあたしには届かない、好きな人が他人と寝てる姿なんて見たくもないし考えたくもない、直人が彼女の事を好いてる風に見えなかったから邪魔をしなかった、別れることが目に見えたからだ。
でも、この女は違う。
こいつは自分さえ良ければそれで良いんだ、直人の気持ちを汲まず自己の理想の為にあれやこれやと理由を付けては彼との関係を引き延ばそうとする卑しい女だ。

ナオが可哀相。

236一度だけ 3話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/25(日) 08:34:22 ID:RSTZxU7k


ここは本当に静かな所ね、こんな騒動があったにも関わらず人一人通らず、まるでここだけ別の世界みたいで何をしても許されそうな気がして、百草の背中にまわり両手を固定して彼女の耳元で囁いてあげた。
「あなたの言葉……頂戴?」
ナイフを首筋にあてがい、一度だけ…一度だけねと呟きだすと彼女は今までの威勢は消え去り死にたくないと願い出すが、それでも直人とあれをしてない、これをしてないなどと言い出すものだから。
「花さん!?」
やはり場所が場所なだけに直人は5分と経たず公園に着いた。彼を見るなり百草はそれまでの絶望を忘れ、希望が生まれ笑みがこぼれた。
彼の名を呼ぶ刹那、彼女の首に一筋を描く。もう、この女からあの名前は呼ばせない、見せない、触らせない、聞かせない、彼の為に何もさせない。
一瞬だけ血が吹き出した後は鼓動に沿って溢れ出し、その中でヒューヒューと空気が漏れる音が聞こえる。
横目でチラリと彼女を見るとその顔は未だ笑みでいて、あたしの殺意をより膨らませる。

237一度だけ 3話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/25(日) 08:34:55 ID:RSTZxU7k
「百草さん!花さん……どうして?」

どうして?

何でそういうことを聞くのだろうか。全部……全部ナオのためにしてるのにどうして?そう聞きたいのはあたしの方だ。
葉子だって百草だって所詮はナオの外面しか見えていない、あたしだけが外面も中身も見えて愛しているのに……。
徐々に動かなくなる彼女を放り、彼の元へと向かおうとすると悲鳴を上げ逃げていった。
彼を追わず再び百草の元に向かいとどめを刺す、多少体中に血は浴びたがどうでも良かった。彼女はナイフで自分の髪を切り、百草の言葉を受け継いだ。
大丈夫、ナオは素直じゃないから、今は驚いてるけど最後は必ず受け入れてくれる。

238一度だけ 3話 ◆sin1r3oXGY:2012/11/25(日) 08:35:29 ID:RSTZxU7k


「ごめんね。」
彼女は謝った、百草とも葉子とも言える様な優しい口調で、己のした事を悔やんでいるのか、僕に迷惑をかけたと思っているのか、所々血に染まった顔には涙がポロポロと滴り落ちる。
「でも、一度だけで良いから愛されたかったの。一度だけでも。」
彼に抱き着き弁解するようにブツブツと「一度だけ」と繰り返す姿は正に百草そのものだった。
どうして百草のことばかり思い出すのだろうか直人は考えた、もしかしたら僕はいつの間にか彼女を好きになっていたのかもしれない。
「ゴメン。」
彼は謝った、誰に対してそう言ったのか葉子や百草の面影か、それとも花に言ったのかな。
分からないけど、それでも嬉しい気がする、ようやく花を見てくれた気がして、想ってくれる気がして。
その好意に甘えたくて、やっと手の届く所まで来たのが嬉しくて。
「ねぇ、一度だけで良いから好きだと言って。一度だけ……一度だけで良いから。」
最上 花に好きという意思を嘘でも良いから言ってほしい、それさえあれば何も要らない。
「うん。ゴメンね。」
ナオ君は頷きまた謝る、何をそんなに謝ることがあるのだろうか不思議だが今のこの一時を愉しもう。
魔法が全て溶け落ちる前に彼に口づけした。
今もサイレンは鳴り止まない。

だから、少し休むとしよう、そうすればまた私は自分を取り戻せるような気がして、警告音も消える気がして………


あたしだけが彼を素直にさせる言葉を知っている、それは酷く甘美で誘惑で、決意に満ちてはいるものの脆く崩れやすい。

「ねぇ、一度だけ」

239 ◆sin1r3oXGY:2012/11/25(日) 08:37:57 ID:RSTZxU7k
投下終了です。
これで一応完結です。
ありがとうございました。

連続投下、駄文失礼致しました。

240雌豚のにおい@774人目:2012/11/25(日) 09:59:54 ID:glzBR0Pg
>>239
完結乙です
お疲れ様でした

241雌豚のにおい@774人目:2012/11/25(日) 21:17:53 ID:lfXMNavs
>>239
完結乙。
ぜひとも次は、ハッピーエンドのストーリーを・・・


話がかわってすまないが、ここには投下されてないけど、
ヤンデレ家族の続きが作者のまとめwikiに載ってたぞ

242<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

243雌豚のにおい@774人目:2012/11/25(日) 23:31:20 ID:Hi0sey8o
>>239
乙です

>>241
たまに見ても更新されないからもうやめちゃったのかと思ってた
良かった

244雌豚のにおい@774人目:2012/11/25(日) 23:47:18 ID:XAlxt4R6
おお、ホントにヤンデレ家族の人の新作来てる
生きてるか死んでるかも分からなかったから嬉しいわ

245雌豚のにおい@774人目:2012/11/27(火) 12:52:22 ID:f0rSBDEA
レイアウト変わっててビクった。
見やすいから良いけど。

246雌豚のにおい@774人目:2012/11/27(火) 18:29:59 ID:BoO9za.w
最近投下速度が速くてしゅごいのぉ...

247<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:2012/11/28(水) 22:27:36 ID:NdDKDcBA
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

248 ◆Uw02HM2doE:2012/11/29(木) 00:49:21 ID:g5jQjHWM

こんばんは。
投下致します。最終話になります。
よろしくお願い致します。

249嘘と真実 13話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/29(木) 00:50:24 ID:g5jQjHWM

13話

あれから、真実が俺達を監禁したあの事件から一年が経ち、俺達は高校三年生になった。
世間はクリスマスが近付いているせいか、浮かれた気分になっている人が多いが、俺達受験生は例外だ。
今日も日課のように放課後の教室で参考書と睨めっこをしている。
「司くぅーん、まだぁ?早くラーメン食べに行きましょ」
「…………」
「無視なんて……酷いっ!こうなったら嫁に電話してやるわっ!」
「うるせぇ!!黙って待てねぇのかこのエロゲ野郎が!」
目の前で俺をおちょくってくる晃と口喧嘩をしながら、俺は目の前の参考書と格闘する。
「……くそ、分からん」
「ああ、それx=6だよ」
「適当なこと言ってんじゃ…………合ってる」
呆然とする俺に晃はピースをしてくる。悔しいがコイツはかなり頭が良い。
俺が今目指している大学も、推薦で合格してしまった強者なのだ。
なので一般受験で同じ大学を目指す俺に晃が勉強を教えてくれる、もといおちょくってくれている毎日である。
まあ何だかんだ言って丁寧に教えてくれる晃には結構感謝しているのだが。
「あ、晃君っ!」
「おっ、大内さん」
夕日に染まるポニーテールを揺らしながら大内さんが教室に入って来る。
「も、もしよかったら……そ、その一緒に帰らない!?」
若干裏声になりながらも大内さんは晃に話し掛ける。
以前と比べるとだいぶマシになったようだ。一年くらい前は『晃君に会わせる顔がない!』とか言ってずっと遠くから見つめていただけだった。
それが最近、やっとこうしてまともに話し掛けられるようになったのだから。
「別に良いけど?あ、司も――」
「俺はいいや。まだ勉強したいからさ。二人で帰れよ」
晃に被せて俺はやんわりと断りを入れる。
大内さんの恋路を邪魔するとどうなるか、何となく想像出来てしまうから。
それに俺も待たなければならない人がいる。
「そっか。じゃあラーメンはまた明日だな。行こうか、大内さん」
「う、うん!じゃ、じゃあね、藤塚君!」
晃は少し残念そうにしながらも大内と一緒に教室を出て行った。
夕日が差し込む教室に取り残され、ほっと一息ついた。
「……大内さん、か」
大内さんは学校に復帰していた。
真実を刺したあの出来事は、普通ならば裁判沙汰になるような事件だったが、裁判どころかニュースにさえならなかった。
理由は分からないが、そのおかげで大内さんは年明けには学校に復帰した。
……これは俺の推測でしかないが、真実が大事にしないよう両親に掛け合ったのではないだろうか。
でなければ刺された側が何もしないなんて、考えられない気がする。
とにかく、大内さんは無事学校に戻ってきた。
勿論、戻ってきた直後、俺たちはかなり謝られた。雪の自転車のことも含めて。
雪は最初は驚いていたがすぐに大内さんを許した。別に気にしていない、と。
「晃もよくやるよな……」
夕日を見ながら呟く。
何の風の吹き回しか、晃は大内さんに積極的に話し掛けるようになった。
罪の意識からか、復帰した後も遠目で晃を見ることしか出来なかった大内さんと、今日みたいに帰っているのも晃の意志だ。
どうやら大内さんの好意を無視したことで、彼女を狂気に走らせてしまった。
そう晃は考えているらしく『ちゃんと向き合わないとな』なんて言っていた。
晃の考えすぎな気はするが、正直外見だけならお似合いだと思う。
ま、どうするかは二人次第なのだろうが。

250嘘と真実 13話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/29(木) 00:51:11 ID:g5jQjHWM
「……そろそろか」
時計を見た後、俺は帰りの支度をして教室を出る。まだ時刻は夕方なのに、辺りは段々と薄暗くなっている。
マフラーをしながら校門に向かうと既に人影がいた。
「それでですね……あ、お兄ちゃん!」
「おう、お待たせ。弥生もいたのか」
「弥生"も"ってなによ!酷いですよね、先輩!」
「ふふっ、そうね」
頬を膨らまて抗議する弥生に、雪はそっと微笑む。
「さ、帰るか。じゃあな弥生!」
「何よ!弥生だって先輩と一緒に帰るもん!」
「今日の買い物当番お前だろ。残念ながらスーパーは逆方向だ!」
「こ、この人で無し!!」
ぎゃあぎゃあと二人で大騒ぎをするのもいつもの光景だった。
……あの事件の後、結局俺と弥生は普通の兄妹に戻った。あの時の弥生の気持ちを、俺はまだ改めて聞けずにいる。
しかし、弥生は何かが吹っ切れたように、以前と変わらず俺に接して来る。
以前よりも依存することが少なくなり、キスを求めてくることもなくなった。
もしかしたら、あの出来事が弥生を成長させたのかもしれない。
「司、一緒に行ってあげればいいじゃない」
「あ、別に気にしないでください先輩!お兄ちゃん、先輩に変なことしないでよね!」
「ばっ!?お前っ!」
「じゃ、先輩また明日!」
弥生は言いたいことだけ言うと全速力で俺達から離れていった。家に帰ったら覚えておけよ、我が妹。
「……じゃ、帰るか」
「うん」
自然と雪と手を繋いで通学路を歩く。雪の手から伝わる体温が心地好い。
結局、俺達は付き合うことにした。
あの事件からお互いの大切さを再認識したのだろうか、病院で目を覚ました雪に向かってすぐに俺は告白した。
また声が裏返ってしまいかなりからかわれたが。色々喧嘩もするが、なかなか上手くやっている。
「どう?勉強は進んだ?」
「まあな。相変わらず晃は五月蝿いけど。久しぶりの部活はどうだった?」
「うーん……やっぱり身体が鈍っちゃうね。でも弥生ちゃんは頼もしかったよ。キャプテンの貫禄がついてきたのかな」
たわいもない話をしながら二人、夕暮れの通学路を歩いていく。
雪も晃と同じ大学に推薦が決まっており、俺だけが一般受験で頑張っている。
「もうすぐ今年も終わりね。どう、受験生さん?」
「同じ大学に行けないと別れるカップルが多いとか聞くし、三人で馬鹿やるためにも頑張らないと――」
冗談混じりで言った瞬間、雪にぎゅっと抱きしめられた。甘い香りが俺を包む。
雪はちょっと不機嫌な顔をして俺を見上げた。
「……別れないよ」
「ああ、ただの冗談――」
「絶対に、離さないからね」
雪は更に強く俺を抱きしめた。
付き合ってから改めて知った、雪の愛情の深さ。そして……執着。
別に迷惑でないし、むしろ嬉しいが、度々こういうことが起きる。
こういう時は言葉じゃなくて態度で示さないといけない。
……言っておくが、別によこしまな気持ちがあるとかじゃない。断じてない。
「絶対に――」
俺は雪の唇にそっとキスをする。柔らかい感触と共に自分の頬が暑くなるのを感じる。
雪の顔を見ると真っ赤だった。目は潤んでいて呆然としている。
「好きだよ、ゆ――」
「ば、ばばばばばはかぁぁあ!?」
「ぐはぁ!?」
思いっ切りビンタされて俺は道端に倒れる。雪は肩で息をしながら潤んだ目でこちらを見ていた。
「こ、ここここんな場所でなにしてんのよ!?へ、変態っ!!」
「あ、あのなぁ……」
起き上がって雪に近付くと、まるで獣でも見るような目付きをされた。
付き合ってもうすぐ一年。愛情深くて嫉妬深くて、それでいてかなり繊細……というかキス一つでここまで顔を真っ赤にする。
そんな彼女、中条雪と俺は一緒に歩いている。



……そしてそこには、全ての元凶であり俺と雪を結び付けた、辻本真実の姿はなかった。

251嘘と真実 13話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/29(木) 00:51:44 ID:g5jQjHWM

雪を自宅まで送った後、何となく近くの河原まで来ていた。
たまに黄昏れたくなる、そんなお年頃なのかもしれない。
黄昏れというには、周囲はもう暗くなっているのはご愛敬ということで許して頂きたい。
「…………」
真実はあの事件の後、すぐにこの街からいなくなった。
弥生が呼んでくれた晃の協力もありあの日、真実も雪も奇跡的に一命を取り留めた。
手術室に入って行く真実を俺は祈る思いで見つめ、それが俺が見た最後の真実の姿となった。
真実が助かったことはご両親から聞かされたが俺達が会いたいというと、はっきりと断られた。
『もう真実には関わらないでほしい。賠償ならいくらでもする』と、ただそれだけ言われた。
悔しかった。そういう目でしか俺達は見られなかったから。
結局そのまま真実には会えず、いつの間にか彼女は家族と一緒にこの街からいなくなっていた。
電話も、メールも変えられていて全く連絡が取れないまま、もうすぐ一年が過ぎようとしている。
「……何してんのかな、真実」
違う学校でもまた、委員長をやっているのだろうか。
また誰かにお節介をして、誰かを叱ったりしているのだろうか。
……また一人で抱え込んで、悩んで、苦しんでいるのだろうか。
結局俺は真実を救えなかった。必死に呼び掛けたが、彼女には届かなかった。
だから今、真実はこの街にいない。
「…………?」
ふと対岸を見ると同じように黄昏れている人がいた。
顔はよく見えないが服装からして、どうやら女子のようだ。ぼーっと見ていると女の子は河辺に近付いて――
「………………えっ」
「久しぶり……司君」
ゆっくりと微笑んだ。
決して大きな声ではなかったが、俺にははっきりと分かった。
あの一ヶ月間の掛け替えのない思い出が溢れ出てくる。いつの間にか俺は川のギリギリまで駆け寄っていた。
確かめたかった。会いたいと思う俺が生み出した幻なのか、それとも――
「ま、真実なのか……」
「……他に誰がいるのよ」
初めて出会った時と同じように辻本真実はクスッと笑う。
あの時と違うのは、俺が知らないグレーの制服を着ているという点だった。
やっと会えたという喜びと同時に、やはり真実はもうこの街にはいないのだと俺は改めて気付かされた。
「…………心配したぞ。連絡も寄越さず突然消えやがって。連絡先も変えるしさ」
「親に変えられたのよ。"全て忘れて、新しくやり直そう"って……」
真実は何処かさみしげな笑みを浮かべる。
"全て忘れて"という言葉が俺の中で引っ掛かった。真実は、真実の家族は一年前の出来事をないことにしようとしているのだろうか。
「全てって……でも、また真実は帰って来てくれたじゃないか」
「帰って来たわけじゃないわ。少し用があって、たまたま通り掛かっただけよ……じゃあね」
突然、真実は踵を返して河辺から離れていく。まるで俺を拒絶するかのように。

252嘘と真実 13話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/29(木) 00:52:21 ID:g5jQjHWM
「真実っ!!」
今を逃がしたら二度と会えない気がして俺は無意識に叫んでいた。
このまま終わるなんて、あまりにも悲しすぎる。
「…………何?」
真実は振り返らないまま、俺の言葉を聞いていた。言うなら今しかない。
あの時、一年前に届かなかった想いを伝えなければならない。
「行くなっ!!」
「……っ」
「真実が居てくれて本当に楽しかった!たった一ヶ月だったけど、俺にとっては掛け替えのない時間だった!」
「……私は復讐する為に、司君に近付いたのよ」
「だから何だ!きっかけなんてどうでもいい!俺は、俺達はまた真実に居てほしい!」
「……皆をたくさん傷付けたわ」
「謝って許して貰おう!一人が嫌なら俺も付き添う!だから……行くなっ!!」
俺の叫びが真っ暗な河辺に響く。真実は身体を震わしながら俺を見ていた。
「な、何で……何でそこまでしてくれるのよ!?私は、私は司君の妹を殺そうとしてたのよ!」
そして真実は今までの感情を爆発させるように叫ぶ。
やはり今でも真実は、あの時のことを後悔しているようだった。
「……真実のおかげで大切なものに気が付けた。色んなことが分かった。真実が居なきゃ、分からなかったことばっかだ」
「……嘘」
「嘘じゃない。真実には本当に感謝してる。だから、今度は真実の力になりたいんだ」
俺は真実に向かって手を差し出す。
一年前はちゃんと言えなかった真実への気持ちを、今度は言うことが出来た。
俯いていて真実の表情はよく分からない。そのまましばらく、川の流れる音だけがこの空間を支配していた。
やがて、真実はゆっくりと顔を上げて俺を見た。
「…………私も、やり直したい」
「真実……」
真実は消えてしまいそうな程小さな声で、それでも俺の眼を見て話しつづける。
「もう一度……もう一度やり直して、今度はちゃんと……皆に向き合いたい……!」
「じゃあ――」
「ありがとう。司君は、いつも私に勇気をくれるわ。……もう、決めたから」
真実は俺の言葉を遮って力強く話す。その言葉には、既に迷いはないように思えた。
「真実……?」
「私、やり直したい。今すぐは無理だけど、必ず帰ってくる。だから…………待っていてくれる?」
「……ああ、待ってる。皆で、真実のこと必ず待ってるから!」
「うん……」
川越しに俺達は約束をする。いつか必ずまた笑い合う為に。
この川は今の俺達の距離だ。簡単には越えられない。
それでもお互いを見失わなければ、俺達はまた出会えるはずだ。だって俺達にはお互いが見えているのだから。
「……司君、もし私達が普通に出会えてたら――」
真実はそこで口を閉じる。何かを言いかけたようだったが、少し考えた後,笑顔を作った。
「やっぱり何でもない!……中条さんとお幸せに!」
「お、おいっ!?」
「あはは、顔真っ赤よ?」
「ぐっ……」
この暗闇でも分かるとは相当真っ赤なのだろうか。考えると余計に恥ずかしいのであまり気にしないことにする。
「……じゃあ、私行くね」
「おう、必ず戻ってこい!」
「うん。行ってきます!」
真実は手を振った後、そのまま振り返らず、河辺から去って行った。
真っ暗な河辺に俺が一人残される。それでも俺の心はとても晴れやかだった。
「真実……」
結局、何故この街に来たのかは分からなかったが、おかげでもう一度真実に会えた。
そして大切な仲間を失わずに済んだ。どれくらい掛かるのかは分からない。
でも俺達は約束をした。だから俺は信じて待とう。必ず、今度は皆で笑い合える日を信じて――





何が真実で、何が嘘なのか。決めるのは結局、自分自身だ。
たとえ嘘から始まった出会いだとしても、その関係や気持ちは真実だと、俺は思う。
嘘と真実が混ざりあったあの一ヶ月は、今までもそしてこれからも、俺自身にとって掛け替えのない思い出になるに違いないから。

253嘘と真実 13話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/29(木) 00:53:25 ID:g5jQjHWM

――春。桜が舞い散る並木道を俺達は歩いていた。全員がスーツ姿に身を包んでいる。
同じ方向へ歩く人達も、俺達と同じように真新しいスーツに緊張気味の面持ちを浮かべていた。
「……結局大学も皆同じだもんな」
「本当は落ちたらどうしようとか思ってた癖に。司君もツンデレですな」
「本当にね。あたし達の方が緊張したよ」
高校の時と同じように雪と晃にからかわれる。
かなり際どかったが、何とかこの二人と同じ大学に合格することが出来、晴れて大学生になった。
真新しいスーツに身を包み、俺達はこれから入学式を迎えるのだった。
俺達の大学は桜山市の市内にあり通学も高校の時とあまり変わらないが、結構知名度があり倍率は中々に高かったのだ。
「まあ入っちゃえばこっちのもんだからさ。な、大内さん!」
「う、うん!ふ、藤塚君の言う通りだよ!"棚からぼたもち"って言うしね!?」
顔を真っ赤にさせながら晃の隣を歩いていた大内が必死に答える。
彼女も俺と同じ一般入試で合格した仲間だ。
そして一緒に皆で勉強した甲斐あってか、何とか晃以外とも少し会話出来るようになった。まあ、よく吃るが。
「なんか使い方違う気もするけど……とにかく今日から大学生なんだな」
「おっ、何だか感慨深げじゃないか」
「どうかした、司?」
雪が不安げにギュッと俺の手を握ってくる。
……自分の彼女ながらその仕草は可愛すぎだろ。
「……いや、何でもない」
俺は満開の桜を眺めながら、ここに居ないもう一人の大切な仲間に想いを馳せる。
彼女も同じ空を見ているのだろうか。そんなことを考えながら。
「そういえば今日の新入生代表挨拶、入試の成績優秀者がやるっていってたな」
「もしかして司……はないとして、大内さん?かなり自己採点良かったみたいだし」
雪がさりげなく俺を馬鹿にしてから大内さんに話し掛ける。
確かに俺はかなりボーダーラインで滑り込んだ感じはしたから、成績優秀者なんかになるわけはない。
「そ、そういう話はなかったので……」
「じゃあ誰だろうな。要するに一番出来た奴ってことだろ」
「さあ?……そろそろ着くな」
桜並木を抜けると目の前に大きな建物がずらっと並んでいた。
俺達は少し感動しながらも案内され、人の波に流されて行く。
会場である大型体育館にはスーツ姿の新入生がぎっしり用意された椅子に座っていて、思い思いに入学式が始まるのを待っていた。
しばらくすると入学式が始まり、同時に学長の長い話が始まる。
いよいよ俺達の大学生活がスタートする瞬間だった。そして――
『続きまして、新入生代表の挨拶』
「ついに来たな。司君よりも頭の良い天才が」
「うるせっ」
晃と小声で話しながら誰も居ない壇上をぼーっと眺める。
一体どんながり勉が出て来るのか。せめて眠くなるような話はして欲しくないなんて考えていた俺の耳に入って来たのは――
『新入生代表、辻本真実』
「………………………へっ?」
聞き覚えのある名前だった。

254嘘と真実 13話 ◆Uw02HM2doE:2012/11/29(木) 00:54:05 ID:g5jQjHWM
辻本真実と呼ばれた女の子は以前より伸びて腰ほどにもなった黒髪を揺らしながら壇上に立つ。
どうみても俺達が知っている辻本真実だった。
呆然としている俺を知ってか知らずか、真実はゆっくりとマイクスタンドに近付き、挨拶を始める。
『新入生の挨拶。新入生代表、辻本真実――』
「おいおい……」
晃も相当驚いているようだった。同じように大内さんも眼を見開いている。
「…………司は絶対に渡さないから」
「ゆ、雪……?」
雪に至ってはぶつぶつ言いながら俺の手をギュッと握り締めている。
そんな俺達の状況などお構いなしに、真実はすらすらと挨拶を続ける。
そして最後に確かに俺達の方を見ながら――
『……冬に学校見学に来てからこの大学に入りたいと心に決めておりました。これからは心機一転、人生をやり直すつもりで大学生活を謳歌したいです』
笑顔でそう言った。挨拶が終わり真実は壇上から降りる。
「……あいつ」
そんな真実を見ながら、俺は思わず笑い出しそうになるのを必死に抑える。
――何が今すぐは無理、だ。全然すぐじゃないか。
あの時河辺を通り掛かったのも、この大学の学校見学のついでだったに違いない。
真実は親も、俺たちすら出し抜いて、最初からこの街に戻る気だったんじゃないだろうか。
「……ったく、とんだ嘘つきだよ、アイツは」
「……さてと、これから修羅場かもな、司君」
「はい?」
「司は……あたしの恋人なんだから……!」
「あはは……」
……やっぱり真実にあんなこと言わなきゃ良かったなんて思いながらも、何故か俺は嬉しかった。









――春が始まる。
今まで違う、新しい春が。
でも全て上手く行く気がする。
だって俺達は悲しみを乗り越えて、やっと揃うことが出来たのだから。
きっと今より素敵な未来が待っている。そんな気がするんだ。













――嘘と真実――  完

255 ◆Uw02HM2doE:2012/11/29(木) 00:56:48 ID:g5jQjHWM

以上になります。
読んで下さった方、保管して下さった方、一緒にSSを書いている方全てに感謝致します。
半年間の間、本当にありがとうございました。

256雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 01:18:11 ID:w/NEHXRM
乙!まじよかった!

257雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 01:41:25 ID:/l04GzAU
乙!毎回楽しく読ませてもらってました。
ハッピーエンドでよかったあああ

258 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:29:17 ID:LN7/7c/6
これから投下いたします。
7話がすごく短くなってしまったので8話も同時に投下します。

259ふたり第7話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:30:08 ID:LN7/7c/6
第7話



・・・いや、待て。よく考えてもみろ、本条さんや米沢にもデリカシーってもんが絶対あるはずだ。
いくら仲が悪いからって病人の前で喧嘩なんてするわけがない。そう信じよう。
ふたりは見つめあったまま微動だにしない。俺はハラハラした気持ちでそれを見守っていた。
しばしの沈黙。それを最初に破ったのは米沢だった。

「なんで・・・本条さんが、池上の家にいるの?ねえなんで池上?」
「え・・・なんでって・・・。」

看病しに来たから。と言おうと思ったけどあまりの米沢の迫力に口ごもってしまう。
・・・怖い。いままで米沢の怒った顔は何度か見たことがあるが、今の米沢はそれとは比較にならんほど怖い顔をしている。

「察しが悪いのね、米沢さん。病気の人がいたら看病しに来るのは当然のことでしょう?」
「あんたには聞いてない。池上!答えてよ。」
「米沢さん、池上君は病人なのよ?それなのにギャーギャー騒いだら治るものも治らなくなるわよ。」

なんだか怪しい雲行き。本条さんは米沢とは対照的に余裕たっぷりな感じだ。
米沢の威圧感を前に薄い笑みさえ口元にたたえている。
でも、気のせいだろうか、その笑みは俺には少し恐ろしく見えた気がした。

「まあいいわ、私が買い物行ってて留守中だった間の看病、ご苦労だったわね。もう帰っていいわよ、本条さん?」
「あら、あなたこそ!私が池上君を看病するために必要なものを買ってきてくれて御苦労さま。もう帰んなさい?」

260ふたり第7話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:30:46 ID:LN7/7c/6
二人とも何かをしゃべっている。でも耳鳴りがさっきよりも相当強くなってきたので何を喋っているかうまく聞き取れない。
でも喧嘩しているということはわかる。・・・止めなくちゃ。
俺は一旦ベッドから立ち上がって二人を止めようとした。
でも視界はぐらぐら、頭はガンガン、耳元はキンキンだ。そんな状態で立ちあがっても足に力が入らない。

「あっ!池上!無理しちゃだめ!」
「池上君!」

ふたりが俺を呼んでいる。心配掛けないように応対しなきゃ・・・。
ふらふらと右手を挙げて答えようとしたが、右手は挙げられなかった。
そのまま両足から力が抜けて、がくりとその場に倒れこんだ。そしてそこから俺の意識はブラックアウトした・・・。



再び目を覚ました時にはすでに夜になっていた。
目の前には姉ちゃんの心配そうな顔があった。

「あっ、目を覚ましたのね哲也。あーよかった。全然目を覚まさないから死んだのかと思ったわ。」
「そんな大げさな・・・。」


いつの間にか来ている服も着替えさせられているし、汗も拭き取られていたようだ。
枕元にはポカリスエットのペットボトルが置いてある。多分、米沢が買ってきてくれたものだろう。
なんだかんだできちんと俺の看病をしてくれていたのだなと、感心してしまった。失礼な話だが。
姉ちゃんも普段は俺に無関心でもやっぱり俺のことを心配してくれているんだと知り、普段疎ましく思っていたことを反省することにした。
少し起き上がるとさっきよりも気分は良くなっていた。
耳鳴りもないし目眩もない。頭痛は少しするがさっきほどではない。

261ふたり第7話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:31:28 ID:LN7/7c/6
温度計で熱を測ってみると37度1分とだいぶ熱も下がったようだった。
ほっと一安心するとひどく空腹であることに気がついた。よく考えると今日は昼飯食べてないからなあ。

「姉ちゃん、俺腹減ったからなんか食べるものくれ〜。」
「そういうと思ってもう用意してあるわよ。ほら、うどん。」

そう言って姉ちゃんは器に盛られた温かいうどんをベッドの横にあるテーブルに置いた。
さすが俺の姉。俺が食いたいものを分かっていらっしゃる。
うどんのスープからいい香りが漂ってきて、俺の食欲を刺激する。
一口うどんをすすると、また程よいゆで加減でちゅるちゅると喉を通って行く。

「このうどん、うまいなあ。姉ちゃんってこんな料理うまかったっけ?」
「何言ってんの。そのうどん作ったの私じゃないわよ。」
「えっ?」
「そこの机にうどんの入ったお鍋が蓋をして置いてあったのよ。私が帰ってきたときにはもう冷めちゃってたけど。私はそれを温めなおしただけよ。アンタを看病しに来たって言う女のコが作ってくれたんじゃない?」

じゃあこれを作ってくれたのは米沢か本条さんだな。
俺が倒れた後もきちんと看病をしてくれて、しかもうどんまで作ってくれたのだ。ふたりにはちゃんとお礼しなければなるまい。
俺がうどんを食うのを見て姉ちゃんはやけにニヤニヤしていたが気にせず俺はうどんを黙々と食べ続けた。

「あんたなんかのために貴重な日曜日を犠牲にしてまで看病してくれた女の子にはちゃんとお礼言っとくのよ?」

少し言い方が引っ掛かるが、お礼しなけりゃいけないことは言われなくても分かっている。
俺はふたりに感謝しつつうどんを完食した。



私の弟はうどんを食べ終わるなり、そのまま寝てしまった。
あまりにも間抜けな顔で寝ているから私は少し不安になってくる。
このアホ弟は絵里ちゃんだけじゃなく、愛理ちゃんにも好かれているということに気がつかないのだろうか・・・。
この弟の一体なにがお気に召したのか知らないが、愛理ちゃんも絵里ちゃんに負けないくらいこいつが好きみたいだ。
普通女の子が看病しに家にやってきたら、すこしは自分に気があるのかなとか思うものなのにこいつは一体何をやってんだろう・・・。
さっさとどちらかに決めないと痛い目見るわよ。分かってるの?
私は幸せそうに眠る弟に、ふとんをかけなおしてやった後、部屋から出て行った。

262 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:33:09 ID:LN7/7c/6
以上で7話終了です
次は8話を投下します。
8話冒頭は土曜日の夜、時系列的には第5話の直後になります

263ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:33:48 ID:LN7/7c/6
第8話



原先輩にお別れのメールを打った後、原先輩からすぐに返信が来た。
送信してから5分きっかり。池上もこれくらい早くメールを返信してくれればいいのに。
内容は簡潔にまとめると浮気をしたことは謝るから考えなおしてくれ、というものだった。
予想通りだな、とそのメールを見て私は少し笑ってしまった。
正直原先輩が浮気したことについてはまったくどうでもいい。怒りとかそんなものは全く感じない。
ただただ、無関心。水が高いところから低いところへ流れるようなもののように捉えていた。
そもそも浮気するように仕組んだのはほかでもない、私なんだから。
私にとって原先輩は池上の気を惹くためだけの道具にすぎないのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
でも結局原先輩は何の役にも立つことはなかった。池上の気を惹かせることはできなかった。
だから原先輩を捨てなければならない。このままじゃ邪魔になるだけだから。
その為には原先輩の浮気に相当ショックを受けたかのように見せかけなくちゃ。

『TO 原 SUB もう何も信じられない
一度裏切った貴方の言葉なんて聞く気にもなれません。
例の女と末長くお幸せに。』

我ながらしらじらしいメール内容だ。ついつい苦笑してしまう。
原先輩も突然の出来事に目を白黒させているに違いない。
可哀そうだと思う気持ちは少なからず、ある。
でも、池上を手に入れるためには仕方のないことなのだと割り切った。
それに原先輩と別れたからといってのんびり構えてもいられない。
早く次に行動を移さなければ池上を本条とかいう高慢ちきな女に取られてしまう。
早速池上の家に遊びに行って、それとなく原先輩と別れたことを伝えようと決心した。

264雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 07:34:16 ID:LN7/7c/6



・・・これが昨日の夜の話だ。
今私は風邪で寝込んでいる池上にうどんを作ったあげる為に材料を貝にスーパーへ行っている途中だ。
私は内心、池上の評価を上げる絶好のチャンスだと歓喜していた。

・・・風邪で弱っている池上を、私が手厚く、優しく看病してあげる。
そうすれば池上の中で私に対する見方が変わってくることは間違いない。
ただの気の置けない友人から、気になる異性へと。
池上の中で募る私への想い。でも私が彼氏持ちだと思っているから思いは伝えられない。
そこで私が原先輩に浮気されて別れたと告げる。
二人の間を邪魔するものはなくなり、そのまま私たちは結ばれる・・・。

と、ここまでうまくいかないまでも池上との関係を一歩でも進展させるチャンスだ。
足取り軽くスーパーへ向かっていると、前方に将来の姉となる池上麻衣さんの姿が見えた。
・・・古代中国に、「将を射んとせば先ず馬を射よ」という格言がある。
将(池上)を手に入れるために、まずは馬(麻衣さん)から攻めていった方がいいということだ。
ここはきちんと挨拶して、まずはお義姉さんに気に入られて外堀を埋めることから始めよう。

「麻衣さん!お久しぶりです!」
「あら、貴方は愛理ちゃんじゃない?」
「ハイ、麻衣さんはこれからどうするんです?」
「ん?ちょっと用があったから近くまで帰ってきたのよ。また大学に戻るけどね。」

ラッキーだ。麻衣さんが帰ってきたら、ふたりきりになれない。

265ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:34:48 ID:LN7/7c/6
やはりいいムードを作るにはふたりきりじゃなくちゃ。

「そういう貴方はなに?哲也に会いに行くの?」

麻衣さんがいたずらっぽい笑顔を作って茶化すように言った。
何もかもお見通しってわけか。麻衣さんにはかなわないなあ・・・。

「ええ。哲也君、いま病気で寝込んでいるので看病してあげようかなと。」
「あらそうなの?昨日はぴんぴんしてたんだけどねえ。」
「弟さんの事は私に任せてください。ちゃんと看病しますので!」
「そう、ありがとね愛理ちゃん。じゃあアホな弟だけど、世話よろしくね。」
「はい!」

上々の反応だ。今のセリフ、麻衣さんは私の事を信頼しているみたいな感じがしてとても嬉しくなってしまった。
義姉さん、弟の事はなにもかもすべて私にお任せください。彼の為ならなんだってできますから。

私は上機嫌のまま、池上邸に戻ってきた。池上は今頃ベッドで私の作るうどんを待ち遠しく思っているところだろう。
今作ってあげるから少し待っててね、池上。

「ただいま〜!」

私は大きな声でただいまを言った。
買ってきた袋から、ポカリスエットのペットボトルだけを取り出して池上の部屋に向かう。
うどんを作る前に池上の様子を見ておかなければならないと思ったからだ。
ちゃんと大人しく寝ていたかな?

がちゃりとドアを開けると、私の眼球に理解できない物体が写りこんだ。

なんでなんでなんでナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ!!!!
なんであの女がこの部屋にいる?
家を間違えたのかな?いやそんなことはない。ベッドには見間違えるはずもない、大好きな池上が横になっていた。
不謹慎だが病気で苦しんでいる池上はとても色っぽく見えて胸がキュンとなってしまう。

266ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:37:39 ID:LN7/7c/6

だが胸に走るその甘い疼きも本条とかいう女を見た瞬間はらわたが煮えくりかえるような激しい怒りに塗りつぶされてしまう。
その怒りの大半はもちろん本条に向けられたものだ。でも池上も池上だ。
私というものがありながら本条なんかを家にあげるなんておかしいじゃない。
このことについて池上に言及してもらわなければいけない。

「なんで・・・本条さんが池上の家にいるの?ねえ、なんで池上?」

私は精いっぱい怒りを抑えて静かに聞いたつもりだった。
でも私の怒りはそれでも隠しきれなかったのか、池上は委縮して答えない。

「察しが悪いんですね、米沢さん。病気の人がいたら看病しに来るのは当然のことですよ?」

代わりに本条の声が私の鼓膜を響かせる。
私は池上の声を聞きたかったのに、横から不愉快なノイズが聞こえてくる。
うるさい、ムカムカする。本条のその減らず口をへし折ってやりたい。

「あんたには聞いてない!池上、答えてよ!」

つい怒気のこもった声が私の口から飛び出る。
池上は少しおびえたような表情になる。
池上のその表情を見て私は我に返った。

・・・私は池上を脅す為にここに来たんじゃない。
池上を優しく看病してあげるために来た。それなのに池上に向けて怒りをぶつけてどうする。
私は一瞬でも池上に怒りを覚えたことを反省した。
本条の出現で怒りのタガが外れて、すこし冷静さを失ってしまった。
つまりなにもかも悪いのは本条とかいう女だ。
ごめんね、池上。この女を追っ払った後、たくさん優しくしてあげるから。甘えさせてあげるから。
だからちょっと待っててね。

「まあいいわ、私が買い物行ってて留守中だった間の看病、ご苦労だったわね。もう帰っていいわよ、本条さん?」

267ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:38:21 ID:LN7/7c/6
「あら、あなたこそ!私が池上君を看病するために必要なものを買ってきてくれて御苦労さまでした。もう帰っていいですよ?」

嫌みたっぷりに言ってやったのに本条も負けじときつい応酬をしてくる。
そのきつい発言とは裏腹に本条は笑っている。
さっきから本条は表情を全く変えていない。余裕たっぷりといった感じの笑顔だ。
・・・気に入らない。私だけがムキになっているみたいで。

「・・・さっきから池上君が私に帰ってほしがっていたのは貴方みたいなやかましい女がいるから気を使ってくれていたからだったんですね。」
「違う。あんたなんかお呼びでないということよ。」

相変わらずニコニコニコニコ。本当にこの女、気に入らない。殴り倒したい。
そう思った時、池上がベッドから起き上がった。

なんで?どうしたの?

思考が定まらないうちに池上はふらふらとした足取りで私と本条が対峙する場所に近づこうとしている。


そうか、池上は喧嘩の仲裁をしようとしているんだ。
そう私が理解した時、池上はドサリと床に倒れこんで気を失っていた。

「池上君!しっかりして!」
「池上!」

いくら呼びかけても返事がない。池上の病状は思った以上に酷かったらしい。
池上の額に手を当てるとまるで沸騰したやかんのように熱かった。
その額には脂汗がにじんでいる。

「本条さん、ここは一時停戦。協力して池上を看病してあげるの!」
「え、ええ。分かりました。」

こんな状況に陥っては、お互いいがみ合っている場合ではない。
今一番やるべきことは病気に苦しむ池上を救ってあげることだ。

268ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:39:04 ID:LN7/7c/6
そう思っていたのは本条も同じだったようで、あっさりと私の提案を飲んだ。
その表情はさっきまでのニヤケ顔から不安を隠せない表情に変わっていた。
今日初めて本条があの薄気味悪い笑顔以外の表情をしたのだった。

私はとりあえず倒れている池上の肩をとって立ち上げさせて、ベッドまで運んだ。
肩を組むような形になったから、私の首筋に池上の熱い息がふきかけられる。
いけないいけない。看病しているのに気持ちよくなってきちゃった。
幸い今本条は私の買ってきた冷えピタを取りに行ってるから、その事を悟られることはなかった。
池上の吐息で気持ち良くなったなんて本条に知れたらどうなるか分かったもんじゃないしね。
池上をベッドに寝かせ、布団を掛けてあげる。
それと同時に本条が部屋に入ってきて、冷えピタを池上に張り付けた。
額の上に乗っていた水タオルはもうすでに温くなっていた。
こうして看病もひと段落つくと、さっきまでの苦しそうな表情が少しやわらいだ。
それをみてほっと一息をつく。本条も胸をなでおろしている。

「これでひと段落だね。本条さん?」
「ええ。池上君もこうして暖かくしていれば大丈夫のはずです。」
「じゃあもう本条さんの出番は終わりね。」
「何言ってるんですか?私はこれから池上君になにか食べるものを作ってあげなくちゃいけないんですよ?こんな中途半端のまま帰るわけにはいかないです。」
「安心してよ。私が池上にうどん作ってあげるんだから。」
「うふふ、冗談でしょう?貴方の作る料理なんてすべてお雑炊になってしまいます。私の方が料理はうまいのですから貴方は引っ込んでください。」

くっ・・・消し去りたい過去をネチネチと・・・。
確かにあのときはちょっとだけ水加減を間違えてしまったから失敗した。
だけど今はあの時よりも私の料理の腕は格段に上がっているのよ。
うどんくらいなら間違いなく完璧に調理できる。

「・・・それなら、ふたりで料理の腕を競い合ってみるってのはどう?本条さん?」
「いいですよ。ふたりともうどんを作って、池上君に食べ比べしてもらいましょう。」

不敵に笑う本条。どうやらこの女も多少は料理の腕に覚えがあるみたいだ。
だが私とてだてに料理の練習をしてきたわけではない。

269ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:39:50 ID:LN7/7c/6
勝算は十分にある。私は意気揚々と台所に向かった。



30分後、池上の横のテーブルに二つのうどんを入れたなべが並んだ。
片方はきれいに澄んだスープにちょうどいい大きさの鶏肉と小松菜が入っている模範的なうどん。
もう片方はしょうゆをきかせすぎてどす黒くなってしまったスープに大きさがバラバラでいびつな鶏肉が入っている、見るも無残なうどん。
前者を完成させた本条は「うどんのような何か」を完成させた米沢を鼻で笑ったという・・・。



うどん勝負に負けた私はショックを受けてしまった。
まさか本条がこんなに料理の腕を持っていたとは思わなかったからだ。
本条のあの勝ち誇った顔と言ったら、あれほど腹が立つものはない。
さらにあろうことか本条は私の作ったうどんを一口食べて、犬の餌と形容したのだ。
・・・確かにすこし味が濃かった気がするけど。

完全に勝敗は決したとは思うが、しかし肝心の判定者である池上は一向に気がつかない。
見た目はそんなに苦しそうではないのに、池上は目を閉じたままピクリとも動かない。

「池上くん、大丈夫かしら・・・。」

本条は自分の作ったうどんを食べさせたいのかそわそわしていたが、池上を起こそうとはしなかった。
かれこれ1時間ほど経ち、時刻は2時を回った。

「・・・もう潮時ね。私はもう帰るわ。」
「えっ、帰るの?」
「ええ。池上君もこの様子だと夜まで目を覚まさないでしょうし、静かに寝かせてあげるのが一番ですから。」

案外あっさりと帰ると言いだした本条に私は拍子抜けしてしまった。
なんだ、所詮こんなものか、と。
私は何があっても池上が目を覚ますまでは帰らないと決めていた。池上への想いは私の方が上だったか。

270ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:40:46 ID:LN7/7c/6
ひとまず安心したが油断はできない。本条が本当に帰るのを見届けるために私は玄関まで本条を監視することにした。
それを見透かしたのか本条は、

「安心してください。心配しなくても私は帰りますよ。」

と言い放つ。やはり気に入らない女だ。こちらの思惑を全て分かっているとでも言いたげだ。
本条は玄関にある女物の小奇麗な靴を履いて、帽子をかぶった。
そのいでたちはどこぞの上品なお嬢様のようなものだ。
本条という女は悔しいけど、美人だと思う。この女の前だと私も少し見劣りしてしまうかもしれない。
でも、池上を思う気持ちなら私の方が上だ。前向きにいこう。

「米沢さん。最後に少しだけお話があります。」

私が決意を新たにしたとき、本条が口を開く。
その表情は本条が少しうつむいているために帽子に隠れて垣間見ることはできない。
だが何やらただならぬ雰囲気であることはビビッと感じる。

「な、なによ。さっさと言って帰りなさいよ。」
「貴方は池上君の事本当に好きなんですか?」

今更当然のことをきくなんて相変わらずいらいらさせる女だ。

「好きに決まってるじゃない。」
「何に変えても池上君を手に入れたいと思っているんですか?」
「当然。アンタも分かっていて聞いてるでしょ」

全部言いきった後一瞬原先輩の事が頭をよぎった。
一応原先輩と付き合っている身なのに池上が好きだとカミングアウトしてしまったからだ。
でももう別れているから問題ないと割り切ることにした。

「それじゃあ米沢さん、私のことどう思ってます?」

271ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:41:45 ID:LN7/7c/6
突然何を言っているの、この女は。
あんたなんかうざくて高慢ちきでうっとうしくて嫌みったらしくてそのくせ弱点がなくてだからうざいとしか感じたことない。

「まあはっきり言えばうざいね、貴方。いっつもニコニコ笑ってさ、男に媚びてる感じだよね。」
「確かに私はいつも笑うようにしています。その笑顔をうっとうしいと感じる人はたまにいるようですね。でも、私が聞きたいのはそういうことじゃありませんよ。」
「どういうことなの?はやくしてよね。」
「じゃあ質問を変えましょう。『私の事殺したいほどうっとうしいと思っていますか?』」

突然常軌を逸した質問を繰り出されたので、私はたじろいでしまった。
その声はさっきまでの高くて鳥の歌うような声ではない。地獄の底から響いてくるような底冷えのするような声色だ。
本条は依然としてすこしうつむいている。表情をうかがい知ることはできない。
それも相まって不気味な感じがする。

「・・・答えられないんですか?間抜けな顔してますよ?」
「・・・くっ!確かに殺したいほどうっとうしいよ!」

呆気にとられていた私は挑発してきた本条に何か言い返さないと負けたような感じがすると思って、そう言い返した。
でも実際本条はいなくなってほしいくらいうっとうしいっていうのは本当のことだ。

「ああ、それを聞いて安心しました。これで遠慮はいりませんよね。」
「な、何言ってんの。」

本条はすうと息を吸い込むと落ち着いた口調で話し始めた。

「・・・米沢さん。私ね、中途半端な気持ちで池上君にアプローチをかけているわけではないんですよ。私にとってはね、池上君が全てなんです。
池上君がいるから私は生きているんです。嫌なことがあっても池上君がいるから生きているんです。分かりますか?分かりますよね。
だって貴方もそうなんですから。そうでしょう?貴方を一目見たときから、ああ、この人は私と同類だってすぐに分かりましたよ。
でも貴方はどうも私の池上君に対する思いの深さを理解していないみたいですね。」

272ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:42:20 ID:LN7/7c/6

これだけの言葉を一息で一気にまくしたててくる本条。
私はその迫力に押されっぱなしになって、何かを発言する気すら起きなかった。
間違いない、私は今本条に恐怖を抱いている。
さっきまでこの女の事を見くびっていた。所詮はいつか他の男に目移りしてしまう女だと。
でも違った。本条が池上に抱いている感情は私と同じ。
『池上を手に入れるためなら何を失おうと構わない。』

「米沢さん、さっき私がいつもニコニコしているって言いましたよね。」
「え・・・あ・・・」
「あれね、本当に笑っているわけじゃないんです。貴方に対する殺意を抑えるために、悟られないために笑っていただけなんです。言ったでしょう?私とあなたは同じだって。」

依然として静かな口調で語る本条。でもその言葉の節々に怒気が込められている。
その言葉の数々はまるで日本刀のような切れ味。
それなら私はさしずめ日本刀を眼前に突き付けられて心拍数が跳ね上がっている状態か。

「今だってね、貴方を殺してやりたいくらいなんですよ。病気になった池上君を看病して、あわよくばそのまま告白してしまおうとまで思っていたんですから。
それなのに、それなのに邪魔者の貴方のせいで池上君は気絶してしまった。私の告白の計画もパアです。」

本条のその言葉は嘘ではないと私はすぐに理解した。
本条はにぎりこぶしを作っている。その握りこぶしを作った指の隙間から血がぽたりぽたりと垂れている。
怒りにまかせて相当強く握りこぶしを作っている証拠だ。その拳骨で殴られたらひとたまりもない、と思った。

「でも安心してください。貴方を殺すようなことはしません。だって、貴方を今ここで殺しちゃったら警察につかまって池上君と離れ離れになっちゃうじゃないですか。
そんなのはイヤですからね。」

本条が顔を上げる。その顔は満面の笑顔だった。
この笑顔を見て誰がこの女に潜む狂気を感じることができようか。
それほど完璧な作り笑顔だ。わたしはぞわりとした嫌な感覚を味わった。
太陽光が当たって暑いはずなのに鳥肌が立っている。

273ふたり第8話 ◆Unk9Ig/2Aw:2012/11/29(木) 07:43:02 ID:LN7/7c/6

「今私は、貴方を殺すことなく池上君から引き離してしまう方法を模索しているところです。大体の計画はできてるんですけどまだ詰めが甘いので見直している途中です。」

私はもはや何かを言い返す気力も残っていなかった。
ただ心の中を支配していたのは、こんな狂気に満ちた女が池上に惚れさせてしまった、運命のいたずらを呪う心だけだった。

「それではごきげんよう。米沢さん。」

そう言って本条は池上邸から出て行った。
当初家の外まで出て本条が見えなくなるまで監視するつもりだったが、そんなことはすっかり忘れ、ただ茫然と立ち尽くすしかなかった。

274雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 07:43:21 ID:LN7/7c/6
以上で投下終了

275雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 09:31:47 ID:F0UMgOPw
>>255
GJ!本当にお疲れ様でした!何かこれから修羅場な気もするけど。
とにかく中条たん可愛かった!

276雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 10:00:24 ID:eAocM7Ag
>>255
乙!
ありがとう!お疲れ様でした
>>274
乙です!

277雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 18:23:59 ID:BO737qXI
>>274
乙!本条いいよ本条。

278雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 18:32:43 ID:KJL81wHw
>>274
乙です!
この後の展開が実に楽しみです。

279雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 20:44:26 ID:3GFd2oPc
>>255
雪たんかわいかったよお疲れ様

280雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 22:12:18 ID:QRT1v/n6
>>274

話面白いし読みやすい

281雌豚のにおい@774人目:2012/11/29(木) 23:19:23 ID:Hx0f5z7c
二人共乙

本条さんついに本性晒しましたね。
展開が楽しみです

282雌豚のにおい@774人目:2012/11/30(金) 01:19:04 ID:7VuVn6mI
>>255遅くなったけど乙!
そして完結本当にお疲れ様!
毎回完結させて本当に凄いわ。そして雪たんハァハァ。

283雌豚のにおい@774人目:2012/12/05(水) 18:49:03 ID:uAhzsl3M
5日も書き込みないなんてさびしいのう

284雌豚のにおい@774人目:2012/12/05(水) 22:16:55 ID:KKl5OwEI
作者が来るまでなんとか盛り上げよう

285雌豚のにおい@774人目:2012/12/06(木) 13:25:41 ID:PixEZvUM
>>255
結局兄は痴漢してたわけか?
そこ回収できてなくね?

286雌豚のにおい@774人目:2012/12/06(木) 17:10:50 ID:JPc3GGGE
>>285
それが分からないから病んだんだろうが。
もう事実は分からないけど兄がやってないと信じての犯行だろ。痴漢の冤罪にありがちな。


さ、触雷を全裸待機しようぜ。

287雌豚のにおい@774人目:2012/12/07(金) 03:14:51 ID:j5bnWheU
>>286
残念だったな

俺はもう準備中だ

288雌豚のにおい@774人目:2012/12/07(金) 09:35:52 ID:X3r57FY.
投下がなくて寂しい
ハイペースで投下してた作者さんもストックが切れたかな

289雌豚のにおい@774人目:2012/12/12(水) 22:21:47 ID:ML8RwjXU
触雷は安定のオナネタだな

290雌豚のにおい@774人目:2012/12/12(水) 22:21:51 ID:ML8RwjXU
触雷は安定のオナネタだな

291雌豚のにおい@774人目:2012/12/13(木) 22:13:23 ID:ZKHxdGJg
今クリスマスネタで書いてるんだが
はたしてクリスマスまでに間に合うのだろうか

292雌豚のにおい@774人目:2012/12/13(木) 23:36:02 ID:etqIu9kA
クリスマスに投稿してくれたら最高のプレゼントだ

293雌豚のにおい@774人目:2012/12/18(火) 01:10:52 ID:P1UFdP1o
過疎過ぎて泣ける

294 ◆mAQ9eqo/KM:2012/12/18(火) 07:10:04 ID:jvvzZaR.
長編投下します。更新ペースは月一か、できれば月二ぐらいにしたいのですが。
遅筆をお許しください。

295さよならは言わない:2012/12/18(火) 07:14:22 ID:jvvzZaR.
目に青葉、山ほととぎす、初鰹。の句が思い出される季節の折、めでたく進級した僕、千佳十郎に早速、厄介事が降りかかった。
というのも単にある先輩から呼び出されただけなのだが、その先輩が曰くつきな方なので大方ろくなことはないだろうと予想はたつ。まあ、同じ部に所属しているし。
 昼休みが終わる十分前、僕は急いで文芸部室を目指した。俯瞰で見るとこの四階建て校舎はエの字型をしており、
一般棟と特別棟に別れている。文芸部室は三階一般棟の一番端にある教室。一年は四階、そこから学年が上がる順に使う階層は下がっていく。
僕は二年生だから、少し走ればすぐにつく距離。
 文芸部室のドアに手を掛けノブを回して引く。部室の中にはやはりかの先輩がいた。
すらっとした細身の体に透き通る白い肌、対照的な黒くて長い髪。薄い唇と整った顔立ち、
冷たさを感じさせる目には専らクールビューティと評判だ。名前は真田燐火という。
「今日は何の用でしょうか」
そう訊くと、真田先輩は眉をきゅっと寄せて僕を見据えて言った。
「今日は千佳にガールフレンド、いやフィアンセと言うべきか……女の子を紹介しよう」
なにやら胡乱な話である。しかしフィアンセとはいったい?
「どういう事ですか?」
 目をしばたたかせる。
「今日の放課後、教室に残っているといい。返事を考えておくことだな」
 それだけ言うと、真田先輩は解散と言うように手で払う仕草をした。
話の整理が出来ていない僕をよそに、真田先輩はすたすたと部室を後にしてしまったので、部室には僕だけが取り残された。……放課後か。
 せっかくきたのだから五分くらい本を読もうと思い、今では見慣れた本棚から本を一冊抜き出す。
カバーはなく全体が日焼けしてしまっている。生憎、文字も掠れていた。恐らく、図書室から適当に持ち出したのであろうものだが、これほど朽ちている本があるとは。図書委員め、保管が甘いな。
仕方がないのでまた本棚に戻すと一つの視線に気がついた。室内には入って来ずに、ドアからちらりと大きな目が覗いている。
「その本は八十年代の初版だから仕方ないと思います……」
 目が控えめに訴えかけてくる。どうして知っているんだ。
「入ってきなよ、急式さん」
「いえ、見ているだけで十分ですから」
そっけなく返されてしまったが、相変わらず視線は僕に注がれている。それはそれで気になるものだからドアを開けて強引に急式さんを部室に引っ張り込んだ。
にこりと笑うと急式さんも微笑み返した。ああ、やっぱり笑った方が可愛いのに。
真田先輩より長い黒髪はセーラー服の所為かよく栄える。どこか不気味な雰囲気があるけれど、けれど……口数が少なくて、
人相も良いとは言いがたいけど、顔のパーツ自体は良質揃いなので、美人のカテゴリには入るだろう。あとは性格的な問題だ。
ところで急式さんはどうしてこんなところに?
「千佳くんが教室を飛び出したから何かあるのかと不安になりまして」

296さよならは言わない:2012/12/18(火) 07:15:54 ID:jvvzZaR.
 急式さんは僕の心が読めるか。いや、まさかね。
「千佳くんの考えていることなら分かりますよ」
思いがけない追い討ちが入ったものだ。末恐ろしい。いや、平静に、平静に。
「それは凄いね」
「凄いでしょう」
 今の急式さんはまるで子供が得意げに自慢するかのようだ。すぐに慎ましやかに戻ったが。
 ふと天井近くの時計を見ると昼休みも終わる時間だった。
「そろそろ戻ろうか」
そう言うと急式さんは黙って頷いて僕の後に続いた。隣を歩けばいいのに、ぴたりと僕の背後にくっつく。クラス内でも毎回僕の後ろの席だし。
曰く、「千佳くんの隣を歩けるほど私は高い身分じゃない」だそうだ。

来る放課後、それも部活だ何だで、僕以外人のいない教室に、沈むのを拒むかのように夕日がじんわりさしてくる。心地よい暖かさに隅の席で船を漕ぎはじめていると、前側のドアが勢い良くスライドされ、その音で一気に眠気が吹き飛んだ。続いて一人の女の子が教室に入ってくる。彼女は僕をみるなり、
「千佳先輩ですね。千秋と付き合ってください」
と言った。彼女の一人称は千秋らしい。この季節で既に肌は浅く焼けているので厳密には分からないが運動部だろう。
目は大きくぱっちり開いており、変わりに鼻は小ぢんまりとしている。栗色のポニーテールで見るからに快活そうな人だ。
真田先輩や急式さんが美人なら彼女は「可愛い」女の子だ。あまりに唐突で「あ、えっと」とどもってしまう。
もしかして、というかそうなのだろうが、先輩が言っていたのはこの事だったのか。
「千秋の名前は。門倉千秋です。一年生です。で、付き合ってくれるんですか?」
 じっと僕を見つめる門倉さん。返事は……どうしたものか。相手が好意を寄せてくれているのは嬉しい。しかし、見ず知らずの女の子といきなり付き合うというのは如何なものか。立場が逆だったら即お断り、だろう。
僕が答えを決めかねていると、いつの間にか目の前まで来ていた門倉さんが僕の詰襟越しに二の腕を掴んだ。身が震えた。
「どうなんですか!」
「あ、じゃあ、よろしく」
言ってしまった。なんだか取り返しのつかないような気もする。まあいいか。物は試しだとも言うし。「やったあ」と叫ぶ門倉さんをよそ目に、グラウンドを見下ろす。
ちょうどとぼとぼ歩く急式さんが見えた。
きっと僕は泡を食っていたと思う。急式さんが僕を置いて帰ってしまうとは今までに一度もなかった事だ。

297さよならは言わない:2012/12/18(火) 07:18:51 ID:jvvzZaR.
お昼休みもあと十分前となった頃、私の前に座っている千佳くんが急に立ち上がりました。
そのまま颯爽と教室を出て行ってしまったので、私も慌てて後を追います。
多分目指しているのは文芸部室。今朝方、千佳くんの下駄箱に入っていた手紙を確認したから間違いはないはずです。
普段ならそんなものすぐに廃棄処分しているのだけれど、差出人の名前を見て、私はそっとしておくことにしました。
 真田先輩に関して良い噂をあまり聞いたことがありません。寧ろ不幸な運命を辿る生徒の噂には必ず真田先輩が関与しているので、
邪推かもしれないけれどあまり干渉したくはないのです。
 千佳くんが文芸部室に入っていきます。私はそっと閉じられたドアに耳を寄せました。千佳くんと真田先輩の声が微かにもれ出ているのが聞こえます。
…………フィアンセ? どういうことですか? 放課後に返事? 
全く訳が分かりませんが、足音が近づいて来たので私はそっとドアから離れます。
自然に見えるように横にある窓枠に手をついて外をぼんやりと見つめ、小手先の偽装が完了したと同時に真田先輩が出てきました。
真田先輩は私に気付いたのか足音は五歩ほどで止まりました。ついで私の肩をとんとん、と叩きます。
驚いて声が出そうになったけれど必死に喉の奥に飲み込みます。ゆっくり振り返るとにこやかな真田先輩がいました。
悔しいけれど、見れば見るほど恐ろしいほどに美しい人です。ですが、
「急式ひなたさんだったか、今日は千佳を置いて先に帰ることだ」
 言葉は存外に冷たいものでした。私は訊きました。
「何故ですか?」
 あくまで真田先輩は表情を変えません。しかし、目は笑っておらず、冷ややかな視線が私を突き刺します。
「今日の放課後、千佳はある女生徒に告白される。恐らく千佳はそれを快諾、とまではいかないが了承はするだろう」
「邪魔立てはするなということですか」
「ま、そうなるか」
 口調は至って安穏。それでも懇請でもない、まして、威圧的ですらある真田先輩に、逆らう事が出来ませんでした。
多分ここで、いやいつでもこの女に逆らうと、よくない事が起こりそうな気がするのです。
無言を肯定と受け止めたのか、真田先輩は皮肉っぽく手をひらひらと振って、立ち去ってしまいました。
根拠のない噂話や、チャンネルを変えれば順位が変わる星座占いなど、一つも信じない私でも、真田燐火という女には畏怖の念を抱いてしまいます。
それほどまでに真田先輩は未知数の人間なのです。
いや、今はそんな事よりも。目の前の千佳君を見つめなければ。音を立てないようにそろりそろりと文芸部室のドアノブを回します。
十秒かけてドアを開き、そこから片目で千佳くんをじっと見ます。
本棚に手を伸ばし、ぱらぱらめくってからまた本棚に戻す。そこで千佳君が私の視線に気付きました。目があったせいか気恥ずかしくなって、照れを隠すように言いました。
「その本は八十年代の初版だから仕方ないと思います……」
千佳くんが、怪訝そうな顔をした。分かりますよ。だってその本棚にある本は全て私の物でしたから。
この本棚に初めて気付いた千佳くんのリアクションと言ったらそれはそれは可愛らしくて……。ああ、危ない。本人を目の前に妄想に浸る所でした。

298さよならは言わない:2012/12/18(火) 07:22:19 ID:jvvzZaR.
釈然としない顔ですが、千佳くんが言いました。
「入ってきなよ、急式さん」
体温が二度上がったような気がします。悟られないように、
「いえ、見ているだけで十分ですから」
とそっけなく返します。じっと見つめていると千佳君が近づいてきました。ドアを開けて私の手首を掴みます。
そのまま私を文芸部室に連れ込みました。千佳くんが優しく微笑みかけます。私も笑顔で返しました。
千佳くんは何か納得するような顔をしましたが、すぐにまた不思議そうな表情です。何故私がここにいるのか、とでも言いたげです。
「千佳くんが教室を飛び出したから何かあるのかと不安になりまして」
今なら千佳君の心が全て読めてしまいます。
「千佳くんの考えていることなら分かりますよ」
およそ平静に、千佳くんは言いました。
「それは凄いね」
「凄いでしょう」
私の自慢の大きな胸を張って腰に手を当てます。ですが、はっとなってまたいつも通りの粛々とした私に戻りました。いくらなんでもこれは図に乗りすぎです。
 千佳くんが不意に時計を見ました。釣られて私も時計を見ます。もうこんな時間でしたか。
私はこのまま午後の授業をサボタージュしても良いのですが千佳くんが、
「そろそろ戻ろうか」
と言うので、黙って千佳くんの後ろをついて行きます。私にはまだ千佳くんの隣を歩ける資格はありません。
よくて右斜め後ろが関の山でしょう。はやく彼女の座で胡坐をかきたいのですが、勇気がでません。ですがいつか、必ずや千佳くんの隣を歩ける日が来るでしょう。
 ただ、今少しだけ不安なのは、真田先輩の言う女生徒の事です。

放課後になりました。いつもなら千佳くんと一緒に帰るはずですが、真田先輩の言うとおり、私は先に帰りました。
校門を出た途端に足取りは重く、なんだか周りの人が皆、私を揶揄している様に思えてしまうほど心細いです。
一秒でも長く千佳くんと一緒にいたい。私は身震いしました。もし、真田先輩の言うとおりになってしまったら……私はどうすればいいのでしょうか。
いえ、そんなこと決まっています。敵は真っ先に排除すべきです。しかし当面の問題は女生徒Xよりも真田先輩です。
まず、何でも見透かしている様なあの女にばれてはいけません。間接的にとめられたであろうに、直接私に釘を刺すくらいですから、
今回の件は何か重要な事があるのは明々白々です。軽率な行動をとれば手痛いしっぺ返しがくるはずです。
今は時期尚早。堅忍不抜にじっくりと策を練る事が最優先事項です。
 不意に肩を叩かれました。今日で二度目です。右を見ると例の真田先輩がいました。
私は身構えます。すると真田先輩が嗤いました。そして滔滔と述べます。
「いやなに、別に君の恋路を邪魔しようなどとは考えていない。ただ、私の為にも、君は黙っていてくれる方が、事が容易く運ぶんだ。あと、姦計はほどほどにな」
 私は背筋が凍りました。恐らく、私の思慮せんとする事が分かっているのでしょう。
空恐ろしさを感じます。また昼休みと同じように真田先輩は言うだけ言って去っていきました。とてつもない不安が胸にのしかかります。
 果たして私は、真田先輩を出し抜くことが出来るのでしょうか?

299 ◆mAQ9eqo/KM:2012/12/18(火) 07:23:24 ID:jvvzZaR.
以上で投下終了です。
こんな奴もいるんだな、程度で読んでくだされば幸いです。

300雌豚のにおい@774人目:2012/12/18(火) 08:13:37 ID:.kLwdLe2
>>299
乙乙!

301雌豚のにおい@774人目:2012/12/19(水) 16:18:38 ID:z3a3MKtA
おおおおおおお!!!
ここ最近投下がなかったからうれしいよ。
今から読むぜ

302雌豚のにおい@774人目:2012/12/24(月) 09:30:05 ID:R3RoCNLw
>>291に期待

303雌豚のにおい@774人目:2012/12/25(火) 20:34:58 ID:KAZsDgeg
>>291だが
色々あって遅くなりそう

304雌豚のにおい@774人目:2012/12/26(水) 00:57:25 ID:rKcb9g1Y
結局クリスマスネタのヤンデレのお話はなかったか……

305雌豚のにおい@774人目:2012/12/26(水) 07:49:36 ID:1nMbxj36
「メリークリスマス!今日は豪勢に雌豚の丸焼きを作ってみたよ!食べて食べて!」

306雌豚のにおい@774人目:2012/12/26(水) 08:45:37 ID:kBHVuR5.
「雌豚だからやっぱダメ」

307雌豚のにおい@774人目:2012/12/26(水) 19:54:38 ID:kn1JWpgg
http://xvideos697.blog.fc2.com/

308 ◆0jC/tVr8LQ:2013/01/01(火) 03:17:48 ID:ke7hU5rI
皆様、明けましておめでとうございます。
短いですが、平成25年、一番槍を付けさせていただきます。

309触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2013/01/01(火) 03:18:48 ID:ke7hU5rI
※マジキチ注意

紅麗亜に投げ倒され、服を剥ぎ取られ、不甲斐なくも性交を強いられた僕。
暴力的と言える程激しく、執拗な紅麗亜の腰の動きに、咥え込まれた僕のものは全く耐えられず、あっという間に蛇口決壊の危機が迫った。
「紅麗亜! ど、どいて! 出る! 出るから!」
僕は必死に頼んだが、紅麗亜はまるで耳が聞こえないかのように、僕に跨ったまま腰を振り続けた。胸から突き出した2つの肉の重砲弾は千切れんばかりに揺れ、先端から僕の方へと、濁った液体を飛び散らせる。
「ああっ! あああっ!! ご主人様のオチンチン、最高でございますっ!」
「うっ……あああ……!」
いくらも経たないうちに、僕の先端は彼女の奥深くに入り込んだまま、限界に達した。出てはいけないものが、紅麗亜の中にどんどん出てしまう。
「いいいっ! 凄い……ご主人様の精液がオマンコに出て……あぐうっ!!」
ほとんど同時に、紅麗亜も体をのけぞらせ、ビクンビクンと痙攣した。
キュッ、キュッ、と彼女の内側は、何かの地球外生命体みたいに僕のものを吸い上げる。尿道に残った分まで、一滴残らず搾り取られるような気持ちがした。
「……はあっ……はあっ」
ようやく、紅麗亜の動きが止まった。彼女は天井を仰いで、荒い呼吸をする。一方、彼女の下敷きになった僕は、賢者タイムが来たこともあって、若干落ち着くことができた。
そこで、今の状況について、考えてみる。
「…………」
一体どうして、紅麗亜はこの洋館にいたのか? この場所は、姉羅々が僕の呪いを解くための“霊的スポット”であって、紅麗亜が知っているはずがないのに。
しかも、紅麗亜は裸同然の格好で僕を待ち構えていて、入ってきた僕を別の場所に連れ去ることもせず、その場で襲いかかってきた。いかに怪物帝国の女王紅麗亜様とは言え、アウェイの場所で無防備過ぎではないだろうか?
そんなことを思っていると、紅麗亜が腰を浮かせ、僕のものをようやく、彼女自身から解放した。
「ご主人様……」
そしてそのまま、上体を倒して、僕の首をがっしりと抱き締めて来た。
「……くっ、紅麗亜。どうしてここに……?」
「ご主人様。誠に申し訳ありませんでした……」
いきなり謝り出した紅麗亜の表情は、先程までとは打って変わって、儚げで切なそうだった。思わず、今の状況も忘れて、守ってあげたくなってしまうほどに。
「申し訳ありませんって、何が……?」
「ご主人様への忠誠心と愛情と母性本能がつい暴走して、いささか性急なご奉仕をしてしまいました。申し訳ありません」
「そ、それは……」

310触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2013/01/01(火) 03:19:27 ID:ke7hU5rI
一応、暴走って自覚はあったのか。僕は少し驚いた。
「ですがお察しください。ご主人様から離れていたこの2日間は、私にとって地獄そのものでした。すっかりご主人様要素が欠乏して……自分の生きる意味すらも見つけられず、ただただ途方に暮れるばかりだったのです」
「そ、そう……」
その割には、半端でなく元気そうに見えたけど。それに、ご主人様要素って何?
「しかし、それも自業自得というものです」
「え……?」
「最下層の無脊椎動物にも劣る雌蟲如きの姦計に乗せられ、あろうことかご主人様を奪われるなど……ご主人様に絶対服従を誓ったメイドに、あるまじき失態です!」
中一条先輩が催した、偽の婚約披露宴に僕を行かせたことが心底悔しいらしく、紅麗亜の目にうっすらと涙が滲んだ。
「そんな。泣かないでよ……」
「ご主人様!」
突然、紅麗亜はキッと表情を強張らせ、僕を見据えた。至近距離から鋭い眼光を浴びせられ、僕は思わず「はいっ!」と返事をしてしまう。
「どうかこの、無能で愚鈍な牛オッパイの家畜メイド紅麗亜に、お仕置きをしてください!」
「お、お仕置き……?」
「下品で野蛮な雌蟲の魔の手に、ご主人様を渡してしまった償いをしたいのです。別の部屋に、縄と各種の拘束具、それに拷問器具の一式を揃えております。そこでご主人様の気の済むまで、私を嬲って責め苛(さいな)んでください。どのようなことをされても、受け入れる覚悟はできております」
「こ、こ、このお屋敷って一体……?」
僕はますます混乱してきた。紅麗亜が勝手にお仕置き用の部屋を用意できるなんて、ここは誰の持ち物で、誰が管理しているんだ?
そんな疑問を頭に浮かべる僕をよそに、紅麗亜は上体を起こし、僕の上からどこうとした。
「では、早速参りましょう。ご案内いたします」
「ちょ、ちょっと待って!」
僕は紅麗亜を引き止めた。このまま何の疑問も解決せず、倒れた姉羅々の介抱もしないまま、ずるずると“お仕置き”をさせられるのはいくらなんでもまずいと思う。過去の経緯からして、僕が紅麗亜の“お願い”を退けられるとは思えないが、精一杯の抵抗はしなければいけない。
「さっき紅麗亜が倒した人、手当てしないと……」
「殺しても死なない女です。放置しておいて問題ありません。ご主人様がしなければいけないことは、3つだけです。1にメイドへの寵愛、2にメイドへのお仕置き、3にメイドへの寵愛。それ以外のことを思考してはいけません」
「2つじゃないか……それにお仕置きなんて、やり方知らないよ」

311触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2013/01/01(火) 03:20:48 ID:ke7hU5rI
「ご心配なく。私が懇切丁寧にご説明いたします。どのようにして私が抵抗できないように拘束し、どのようにして私のお乳とお尻を辱め、どのようにして私の穴という穴を犯し、どのように私から女の誇りを奪い去るか……うふっ、楽しみ……」
「…………」
案の定、取り付く島もなかった。もういつものように、紅麗亜の言いなりになるしかないのか。
僕が諦めかけたとき、耳が痛くなるような大音声が響き渡った。
「こらああっっ!!!」
思わず僕は、声のした方を振り返った。見ると、紅麗亜に殴り倒された姉羅々がいつの間にか復活していて、仁王立ちで僕と紅麗亜(まだ僕に馬乗りのまま)を見下ろしていた。
「し、姉羅々……大丈夫なの?」
そう僕は問いかけたが、姉羅々は両足でしっかりと立てており、ダメージは少なそうだった。その点は安心する。
問題は、姉羅々が般若のような形相で紅麗亜を睨み付けており、喧嘩が始まるのが火を見るより明らかなことだった。初対面でいきなりぶん殴られたのだから、無理もない。何とかうまく仲裁できないものだろうか……
だが、姉羅々の次の一言は、僕の思惑を木端微塵に打ち砕いた。
「わたくしのご主人様に、何をしているんですの!? お姉様!!」
「お、お姉様!?」
思いがけない単語に、僕は驚愕したが、同時に以前、紅麗亜が言ったことを思い出していた。
『ここからは距離も遠く、辺鄙なところですが、私の所有する館がございまして』
『私の“妹達”がご主人様をお迎えする準備をしております。準備が整い次第、そこへご主人様をお連れいたします』
「あ……」
僕は愕然とした。
並はずれた長身、抜群のスタイル、威圧的な美貌という共通点はあるものの、顔立ちはあまり似ていなかったので、紅麗亜と姉羅々が姉妹という発想に、僕は至っていなかった。
しかし、紅麗亜と姉羅々が、姉妹だとしたら。
そして、ここが紅麗亜の所有する館だとしたら。
いろいろなことの辻褄が合う。
しかし、それには1つ、前提があるわけで……
「私はメイドだ! ご主人様にご奉仕しているに決まっているだろう!」
「お姉様のご主人様ではありませんわ! わたくしのご主人様ですわ! 離れてくださいまし!」
等と言い争いながら、揉み合う紅麗亜と姉羅々に、僕は思い切って声をかけた。
「ちょっと2人とも、一回止めて! 僕の話を聞いて!」
「「はい?」」
幸いにも、2人が僕の方を向いてくれたので、恐る恐る疑問を口にした。
「あの、姉羅々が言ってた、僕に魔女の呪いがかけられてるっていうのは……?」
すると姉羅々は、呆れたように肩をすくめて言った。
「はあ……ご主人様。魔女なんているはずありませんでしょう?」

312 ◆0jC/tVr8LQ:2013/01/01(火) 03:23:12 ID:ke7hU5rI
以上で今回の投下を終わります。
前回の投下から間が開きましたが、エタらないように今年は精進したいと思います。

313雌豚のにおい@774人目:2013/01/01(火) 04:10:47 ID:aLO4LBBY
激しくGJ

314雌豚のにおい@774人目:2013/01/01(火) 08:37:05 ID:qSxU9fnQ
>>312
GJ!
紅麗亜が相変わらずで安心した

315雌豚のにおい@774人目:2013/01/01(火) 10:51:02 ID:NObZ79RY
>>312
乙です!

316雌豚のにおい@774人目:2013/01/01(火) 16:30:51 ID:AloaTNvE
あぁ、この日をどれだけ待ち焦がれたであろうか
>>312
GJ!

317雌豚のにおい@774人目:2013/01/02(水) 02:42:50 ID:fv79y6ok
>>312

よっしゃあああ!

318雌豚のにおい@774人目:2013/01/03(木) 07:35:24 ID:U10I6HS2
相変わらずの壊れっぷりイイネ…

前回投稿してくれた分だけでは二か月も持たなかったぞ!!
反省してるんならええけど次は頼むやで?(その目は優しかった)

319雌豚のにおい@774人目:2013/01/03(木) 10:22:57 ID:B4mBpvaA
冬の時期に全裸待機はつらい…

320雌豚のにおい@774人目:2013/01/04(金) 00:35:49 ID:/7E7MJyw
http://2gigenchan.blog.fc2.com/blog-entry-1095.html
なんやかんやみんな本当はすきなんや

321雌豚のにおい@774人目:2013/01/05(土) 00:00:22 ID:VG5ZSPoE
どちらかというと大好きだ

322雌豚のにおい@774人目:2013/01/05(土) 04:58:51 ID:XMB3VqTs
お前らなろうとかで良いヤンデレ見つけたか?
にじふぁんが死んでから見てないや

323雌豚のにおい@774人目:2013/01/08(火) 06:53:10 ID:0uA.swRw
触雷!の主人公は、紅麗亜とHAPPY.ENDを迎えてほしい

324雌豚のにおい@774人目:2013/01/13(日) 07:39:58 ID:FRFT926w
なろうとノクターンで「やんでるっ」てのがある
ヒロインはキモウトとカニバ同級生と死にたがり先輩の三人。
妹がいい感じにヤンデレで他二人も方向性が違うが病んでいる
ただ一部百合とかカニバとかあるので苦手な人は注意な
俺は同級生のBADENDでチンコひゅんってなった

325雌豚のにおい@774人目:2013/01/14(月) 23:34:08 ID:ZqwkIj5s
>>324
サンクス。結構長いな
なろうだと、四魔+デイズ
アルカディアだと境界崩し

なんかヤンデレのサイトとかが閉鎖してて悲しい

326雌豚のにおい@774人目:2013/01/16(水) 13:29:56 ID:BJRRfEps
エヴァの二次創作だとヤンデレ一歩手前みたいなの結構あるよね

327雌豚のにおい@774人目:2013/01/16(水) 20:42:14 ID:JWZg.ptw
原作でも既にアスカがそんな感じのような 新劇場版で大分薄れちゃったけど
「あんたが全部あたしのものにならないなら、あたし何もいらない」だし

328雌豚のにおい@774人目:2013/01/16(水) 20:45:20 ID:h4FnDcNI
ヤンデレはオワコン

329雌豚のにおい@774人目:2013/01/17(木) 15:48:57 ID:MlcX15LA
アレは「ヤンデレ」ともちょっと違うような気も・・・なんつうかメンヘラってるというか

330雌豚のにおい@774人目:2013/01/17(木) 16:46:26 ID:6zqBK7Ds
ヤンデレ伝説が始まる

331雌豚のにおい@774人目:2013/01/23(水) 07:15:03 ID:2rOYgf0Y
なろうで黒の魔王ってのがヤンデレ呼ばわりされてるけど
なんというかあれはヤンデレではなく基地外だね
エセヤンデレが多くて辛いです

だれかもっと本物のヤンデレ小説を紹介してくれ。頼む

332 ◆JkXU0aP5a2:2013/01/23(水) 18:12:00 ID:RpFkDG2A
自己満の作品ですが、長編投下します。
月に一、二回ほど投下できたら僥倖という更新頻度なのですが、宜しければお付き合いください。
尚、個人的には万人受けするヤンデレではないと思っていますので、苦手な方は読み飛ばしてください。

では投下します。

333たった三人のディストピア ◆JkXU0aP5a2:2013/01/23(水) 18:15:50 ID:RpFkDG2A

 高校までの道のりはいつも億劫だ。ぼけっとした頭のまま、今日はどんな日程だったかなと思考している。
 でもそれは霞がかったように思い出せなくてそこで思考の波は途切れる。別に学校で見ればいいし、確認したかって面倒な科目が無くなるわけでもない。
 はあとため息を付けば俺は蒼一色の空へと眼をやったりする。
 こんなことやってもこの気だるさは取れそうにないけれど、でも憂鬱そうにアスファルトの路面を見ているよりはマシだった。
 普段は心穏やかになりそうである綿飴のような白雲の層も、今はこっちを嘲笑っているようにしか見えなかった。
 どことなく厳しく、清涼な風が頬を打つ。ぶるりと頭を振れば俺はそんな風景に対する抗議のように双眸を瞑った。
 自動車が来るなら音で分かるし、なにせちょっとの間だ。ぶつかるなんてことはないと思う。たぶん。
 ああ、視界が真っ黒だ。なんにも考えないで済みそうな暗闇にほっとして、少しだけ気持ちが楽になる。小さな反抗に酔いながら、ほら、ぶつかってこいやとでも心中で叫べば、背後からこの澄み渡る朝空にお似合いの、よく届く声が響き渡った。

「危ない! 眼を開けろ」

 誰だっけかと剣呑な声色を寝起きのぼけっとした頭のデータベースで探っている間に、不意に俺は背後へと強く引っ張られる。
 ワイシャツの衿で首が締まった。驚きと抗議の声をあげる間に、俺は背後へと数歩後ずさる。眼を開け、こんな乱暴なことをしたのは誰だと振り向いた。

「……薫?」
「やあ。俺だよ」

 そこには幼馴染の友人が立っていて、彼女は腕を組むとあきれ果てたとばかりに肩を落とす。彼女は首を振って前を見ろと指図すれば俺も前を見る。
 と、視界に映ったのは一本の大樹――ならぬ電柱である。
 薄汚れたピンクチラシだのが張られた下に、茶褐色のこんもりと盛られた物体があった。グロテスクな形状のそれは熟成された刺激臭を放っているように思えた。

「登校中は眼を開けたほうがいいね。ぶつかった上にそんなもの踏みたくないだろ」
「あ、危なかった」

 俺が大げさに眼を見張っているとなりで、薫はそんなことを言う。
 彼女は腕を組むのを止めると背後で一つに括った長く、艶やかな黒髪を弄びながら俺の左手を掴んだ。

「とにかく。またあんな馬鹿なことをしないように一緒に付いていく」
「も、もうしないよ。安心してくれて大丈夫だ」
「君はそんなこと言って、また同じことを繰り返すんだからね」

 問答無用とばかりに俺の左手を引くと彼女は俺を引きずるようにして進んでいく。
 とりあえず手を繋ぐのは恥ずかしかったし、色々と拙い状況でもあった。俺は小声で言う。

「ちょっと待て、薫。やばいって」
「何が? 君が顔面に痣を作って靴の後ろに犬の排泄物をくっ付けることよりも危険なことかい」
「い、いやさ。その、第一俺が恥ずかしいし、それに……」

 それに、俺なんかとそんなことをしている姿を見られたら彼女に迷惑がかかる。
 薫は確かに幼馴染だが、学校でのヒエラルキーは俺よりもずいぶんと高いのだ。基本的に人当たりも良いし、容姿も相当なもの。
 となれば取り巻きも少なからずいるわけで。

334たった三人のディストピア ◆JkXU0aP5a2:2013/01/23(水) 18:17:04 ID:RpFkDG2A

「ふーん。見られたら俺に迷惑がかかるーとでも言いたいわけ?」
「そ、そうだよ。だから手を」
「違うね」

 手を離してもらえると、ほっとしたのつかの間。彼女は俺を見た。その中性的な容姿に冷笑がこびりついていた。俺は一瞬で顔を俯かせる。冷や汗が額に滲んだ。

「君はさ。自分が可愛いだけなんだよ。俺の取り巻きに陰口叩かれるのが怖いんだろ。いつも君はそんな感じだね。嘘吐きくん」
「……ごめん」
「そんな顔をしないでよ。君がそういう人間だって言うのは分かってるから」

 彼女はぐんにゃりと力を失った俺の身体を引き寄せると、軽く抱きしめた。

「――それに、そっちのほうが可愛いしね。守ってあげたくなるなぁ」

 くすくすと彼女は嗤った。鼻孔にふわりと漂うのはいつまでも嗅いでいたくなるような華の香りだった。なんだろう。よく分からない。
 ただ昔からこうして彼女に包まれていると安心した。頭がぽーっとする。

「俺と一緒にいるかぎりは嫌なことから守ってもあげるし、不安なときは道を示してあげる。こうやって抱きしめることだってできるよ? 君が中学校でいじめられていたときも上手く対処してあげたし、小学校で友達を融通もしてあげたよね。あんまり君に構えないお母さんのために進路を作ってあげたりもしたっけ。まあ、君のためなら何でもしてあげる」
「う……あ……」
「ふふ、そんな情けない顔をしないでよ。本当に可愛いんだから」

 彼女は母性を感じさせる顔付きで俺の頬を撫でた。ひどく胸の内が暖かくなる。

「君は本当に甘えん坊だね。普通の女の子は君なんか相手にしてくれないよ。分かってる?」
「……分かってる」
「うん。覚えておいてね。いくら君に親しむ素振りを見せようが、君のことを好きになる女の子なんて一人もいないんだ。みーんな君を内心では気持ち悪いって思ってるんだよ? くすくす。だから気をつけてね。中学校時代はどうなったか、よーく思い出しておかないと。君の好きだった一ノ瀬さんは?」

 思わず顔を背けた。思い出したくない。軽い吐き気がこみ上げてくるのを必死で抑えた。薫はそれが気に入らなかったのか、軽く髪を掴むと顔を無理やりあげさせる。

「こら、質問には答えないと」
「……彼女は、いじめの首謀者だった」
「そうそう。本当に君って女運ないよ。女性不信もさもありなんってところだ。今でも彼女と連絡取ってるんだけどね。君の話題を振ったら途端に」
「やめてくれ!」
「うん。あんまりやりすぎるのも可哀想か」

 そう言うと彼女は静かに微笑みながら俺を離してくれた。すぐに口を手で抑えると必死に逆流する胃液を引っ込めようとする。苦しさのあまりに眼から涙が零れた。

「俺が君のことを守ってあげるから。だから他の女性に近づいたらいけないよ。また辛い思いはしたくないでしょ」

 彼女は繋がれていた手を離すと、ゆっくりと俺の背中をさすった。少しすればだいぶ楽になる。それを見計らって彼女は言った。

「手は許してあげる。さあ、学校まで歩こうか。遅刻扱いは困るからね」
「……うん」

 俺が従順を込めて頷けば、彼女はその凛々しく秀麗な顔を笑みで歪めて。俺は彼女の後ろを忠実な従者のように進み始めた。

335 ◆JkXU0aP5a2:2013/01/23(水) 18:19:10 ID:RpFkDG2A
以上で第一回投下を終わります。
自分でも言うのもなんですが、少し短いなあと感じますので。
次回はもうちょっとボリュームをアップさせて投下したいなあと。

ではスレ汚し失礼しました。

336 ◆JkXU0aP5a2:2013/01/23(水) 18:23:10 ID:RpFkDG2A
やっちまったorz
置換機能で手違いがあり、僕を俺に変換してしまいました。
申し訳ありません。脳内変換で女性の一人称を俺→僕に変換しておいて頂けると助かります。
次は注意しておきますので……。

では今度こそ失礼します。

337雌豚のにおい@774人目:2013/01/23(水) 19:01:45 ID:BTA3/oAw
外堀から埋めていくタイプきた
続き期待してます><

338雌豚のにおい@774人目:2013/01/23(水) 23:40:22 ID:9vqFFU5g
主導権にぎられたいね

339雌豚のにおい@774人目:2013/01/24(木) 08:28:16 ID:F9BTQl9Q
>>335
乙乙!

340雌豚のにおい@774人目:2013/01/26(土) 21:00:28 ID:xBzbdgdo
>>335
良いよ!!素晴らしい!!
このまま続けていってくれると嬉しいね!!

341 ◆JkXU0aP5a2:2013/01/26(土) 22:15:23 ID:wORmiXJw
こんばんは。ご無沙汰しております。
最近投下したばかりですが、予想以上に筆が乗ったので投下させていただきます。
節操無しなスレ汚しではありますが、どうかご寛恕ください。

では三レス分投下します。

342たった三人のディストピア ◆JkXU0aP5a2:2013/01/26(土) 22:17:02 ID:wORmiXJw

 昇降口で薫と別れ、俺は自分のクラスへと赴いた。少し気分が悪い。まだ後味の悪さが胸中に残っていた。
 苦虫を噛んだような味が口腔に広がり、脳裏では思い出したくもない記憶が時々、そのグロテスクな顔をのぞかせる。
 今までこんなことは何回もあった。その度に酷い無力感とやるせなさでどうしようもない思いをする。
 重苦しい気持ちを抱えたままで、階段を昇る。
 最近ますます薫に依存していくような気がしていた。
 ネガティブなことばっかりが身の回りで起こり、その度に薫に助けてもらっている。
 昔からそうだったが、昨今は特にそうだった。登校中のあれも俺に対する警告だろう。また同じ失敗なんてするなと。
 本当にどうしようもなかった。
 クラスの扉を開ける。疎らに人がいた。知っている人間に挨拶すると、自分の席にカバンを置き、ため息を付きながら腰を下ろす。
 そのままぼうっとし始めたところで肩を叩かれた。

「やあ。どうしてため息なんか吐いてるんだよ」
「あ、修治か。誰かと思った」
「後ろの席だからね」

 メガネをかけた整った顔立ちの男子。大倫修治。
 彼はこちらを案じるような光を双眸に宿したまま、口では気安く笑ってみせた。
 根は良い奴だし、なによりも勤勉で頭がいい。顔だって悪くないし、どうしてか俺みたいな奴の友達になってくれているんだろうか。
 永遠の謎だった。

「何かあったなら話してみろよ」
「いや、最近疲れてきちゃってさ」
「冬悟はお人好しだからなあ、情緒不安定な時も多いし」
「前者はともかく、後者は止めてくれ。なんか扱いづらい人間っぽいだろ」
「ま、表向きは親しみやすいんだけどさ。実際、付き合ってみると扱いづらいよ。冬悟は」

 ははとメガネの修治は軽い笑みを見せた。俺は眉をしかめると視線をスライドさせる。
 まともに応対なんかしてやるものか。だけどまあ、俺は一皮剥けば嫌な奴なんだろうなあとは思う。

「どうしてさ」
「お前、深い付き合いしないんだもん。浅く広くーって感じ。もっと言えば自分が大事なタイプだ。人から嫌な奴と思われたくない、いざという時は束縛されたくないっていう」
「おい、頼むからそれ以上言うなよ。朝っぱらから本当に鬱気味になりそう」

 顔を両手で押さえてうーうー言い始めると、修治はけらけらと白い歯をこぼした。

「まあ、でもな。俺はそんなこと気にしないから」
「なんでこんな性格なんだろうなあ」
「知らないよ。ずっと薫さんみたいな良い人と一緒にいるからだろ。楽が去って苦が来たんだ」
「あれ、お前に話したっけ?」
「三ヶ月くらい前に。他の連中には言ってないから気にするな」

 修治はそんなことをいって親指を立てた。顔が良いとこんなのまでサマになるから憎たらしくてたまらない。
 疼いてきた劣等感を冗談交じりの苦笑に込めた。

「ならいいか。そういえば、どうしてか薫とは小中高一緒なんだよね」
「いいよなあ。幼なじみって奴かい?」
「たぶん、そんな感じ。ずっと世話してもらってた」
「罰当たりな奴だよなー。薫さんのこと好きな奴多いんだぜ」
「知ってるけどさ。なんというか、ああいう人間と一緒にいると自分がクズに見えてくる」
「そういうもんかい? ひねくれてるなあ、お前」
「だってさ。昔から運動も勉強も出来たし。顔も良いし。そんなのに金魚のフンみたく付いてる俺は、ずいぶんと苦労したんだからな――」

 忌々しい記憶が静かに浮上し、その顔を見せ始める。俺は慌てて口をつぐんでそれを沈めかえすと別の話題に話を持っていった。

343たった三人のディストピア ◆JkXU0aP5a2:2013/01/26(土) 22:17:51 ID:wORmiXJw

「そういや、ずっと前から気になってたんだけど」
「なんだ」
「お前って彼女いないのか」
「いきなり来たな。まあ、率直にいえばそんなものはいない」
「お前モテるだろ」
「いやいや。思うほどじゃないよ。ただ告白してくれる子はいる」
「クソ。いいなあ」
「でも。今は勉強だの趣味だのに時間割きたいからさ。断らせてもらってる」
「贅沢者」
「なんとでもいえ。それよりかはお前はどうなんだよ」
「俺?」

 思わず目蓋をぱちくりとさせた。逆に問われてみると、なかなか受け答えに困る。

「いや、まったくない。影も形も」
「そんなもんかい。薫さんとかは」
「いや、薫は」

 俺は少しだけ俯いた。彼女は恋人というか、そういう関係じゃないと俺は思ってる。
 どちらかといえばダメな弟と出来すぎた姉みたいなものだ。彼女はいつも俺の先にいる。導いてくれる。
 そう、彼女は預言者で支配者だ。俺は彼女のいうことさえ守っていれば幸福になれる。彼女のいうことは絶対なのだ。
 絶対――え? 支配者だって。俺は慌ててかぶりを振った。
 なにを考えていたんだろう。思い出せない。修治が怪訝そうに見てきたので、俺は答えた。

「……薫は幼なじみだよ。それだけだ」
「ふーん。いいなあと思う女子はいないのか」
「ああ、それなら」

 俺は一旦辺りを見渡すと、殊更小声になった。修治なら他に漏らすということはない。
 こいつにも悪癖はあるけれど、基本的には善良なのだ。友情に篤くて口が貝みたいに固いし。だからこそ信頼できる。

「一応言っとくけど、他言無用だぞ?」
「お決まりのパターンだな。大丈夫だって。口は固いほうだから」
「ならいいけどな」
「で、だれだよ」

 修治も小声になって後ろの席から少し身を乗り出した。俺は意を決して答える。

「綾月さん」
「うお。お前、本当に面食いだな」
「うっせえ。気が強いところもいいし、小柄なのも可愛いだろ」
「すまんすまん。ただ上玉すぎないか? 薫さんクラスの美人だぞ」
「それは分かってるよ。どうせ高嶺の花だ。元々告白しようなんて思ってない」

 俺はむすりとして答えを返す。こいつに言われなくてもそんなことは充分に分かっている。
 薫みたいに人付き合いが良いわけじゃなくて、万人受けする美人ではないが、それでも充分にレベルは上だ。むしろ薫とは違う凛々しさがある。
 気が強いくせに案外脆いところも魅力的だし、そりゃスタイルは平坦で小柄だが、そこもまたぐっと来る。
 カリスマ性だってある。薫が計算ずくで周囲を誘導していくタイプなら、綾月さんは単純だけども、みんなを叱咤して引っ張っていくタイプだ。
 とまあ、話がずれたがとにかく彼女は確かにランクが高い。俺なんかが手を出せる相手じゃないのだ。
 まともな会話すらしたことがない。ただ、好きであることが罪というわけじゃないだろう。

「ふうむ。なら話してもいいかな」
「なんだよ。もったいぶるな」
「C組の槙野知ってるか?」
「ああ、サッカー部の」
「あいつが綾月さんに告白したらしい」
「マジかよ」

 俺は槙野の顔を思い浮かべる。知り合いっていうよりかは面識があるだけの話だが、槙野は確かにサッカー部の花型の一人だ。
 人伝の話によれば他の奴とは違って生真面目だし、人にも配慮ができるらしい。人間的には素晴らしいというものだろう。
 しかも顔が良い、そう、イケメンなのだ。俺は腐った沼地に漂う霧のような無力感が忍び寄ってくるのを感じた。
 諦観の池から気化する無力の霧とでもいったところだろうか。

「はあ、似合いのカップルだよな」
「正直にいっちゃうとな。確かにお前と綾月さんよりかはな」
「ウザいな。お前」
「はは」

344たった三人のディストピア ◆JkXU0aP5a2:2013/01/26(土) 22:19:30 ID:wORmiXJw

 修治の笑みに毒舌を吐いていると、唐突に前の扉から担任が入ってくる。ふと周りを見ればほとんどの生徒が着席していた。
 後ろの方の席とはいえ、見咎められるのも馬鹿らしい。俺は一度修治を睨んでやると、前を向いた。そうしてホームルームが始まる。
 授業は退屈だった。終わらない事務作業のように淡々とノートに板書を書き写していく。
 昼休みを修治と一緒に屋上で食う。一度薫さんに弁当を作ってもらわないかと聞かれたことがあったが、ああみえて薫は料理ができない。
 完璧な人間と思われた薫の唯一の欠点だった。無論、いくら修治とはいえ、薫の名誉に関わることだから曖昧に濁しておいたが。
 そうして最後の授業が終わり、ホームルームを担任が切り上げればがやがやと教室が騒がしくなり、放課後になった。
 俺はカバンを取ると修治に視線をやる。修治は首を振った。都合が合わないらしい。大抵は薫と帰る。
 彼女がそう望むからだ。それは小学校、中学校と同じだった。だがさすがに変な眼で見られて噂を立てられるのはキツい。
 だからこうやって修治と帰ろうともするのだが、あいつとはなかなか予定が合う時がないのだ。俺は一人で帰ろうと思った。
 薫には悪いが、あまり芳しい気分でもなかったし、彼女に女子に近づくなと言われている手前、綾月さんのことで気を落としているなどということが発覚すれば――まず無いとは思うが、薫には隠し事が難しい――どんなことになるかは目に見えている。
 俺はカバンを持つと教室を出た。昇降口まで行き交う混雑の中を降り、靴に足を通すと裏門のほうから出ようとする。
 あまり人が通らない敷地内の小道に差し掛かった時、背後から声が聞こえた。

「逃げるのはお得意だね」
「っ」

 ぱっと背後に振り向けば、そこには皮肉げな笑みを浮かべた黒髪の麗人――薫がいた。彼女はカバンを手に持ったままふらりと近づいてくる。大したことじゃない。ただ一人で帰りたくなっただけだ。何が悪い。心のなかで喚き散らす。しかし言葉には出せなかった。動悸が速くなり、頭から血が下がっていく。俺は知らず知らずに縮こまっていた。彼女を裏切った。理性は別にこんな恐れることではないと言っているのに、身体は自然と震えはじめた。そうだ。薫に逆らってはいけないのだ。彼女は動けない俺の側まで近寄ってくると、俺の腕を掴んだ。

「ねえ、君はさ。少し他人と合わせるってことを覚えたほうがいいんじゃない?」
「ちょ、ちょっと気分が良くなかったんだ」
「嘘吐きは充分だよ。自分の立場を分かってるのかなあ、本当に。君なんて僕がいなければなんの価値もないんだよ? 理解してるの。空っぽの脳みそじゃ分からない?」

 彼女は俺の髪を強く掴んだ。そうして校舎の外壁へと叩きつける。背中に衝撃が走った。女の力とは思えない。

「ぎゃ」
「カエルみたいな声出しちゃって。それじゃ許してもらえないよ? やるならもっと哀れっぽく鳴かないと。ほら、もう一回」
「やめ」

345たった三人のディストピア ◆JkXU0aP5a2:2013/01/26(土) 22:20:11 ID:wORmiXJw

 今度は腹。激しい鈍痛に両手で腹部を押さえながらうめき声をあげる。彼女の膝がそこに入っていた。痛い。

「……本当はねぇ、暴力はあんまり振るいたくないんだ。だけどまあ、君が少しばかり思い違いをしているみたいだからさ。自分が添え物だってことを思い出させてあげないと。僕と一緒にいないと君は誰にも、そう、だぁれにもスポットライトなんて当ててもらえないんだ」

 不意に、髪を掴まれたまま反対側の手で顎を支えられる。目前にあるのは口元に笑みを貼りつけた薫の顔。眼が笑っていない。
 全身が激しく震えはじめた。ああ、逆らってはダメなのに逆らったからだ。彼女は瞳に怜悧な光を宿した。

「君はなに? そう、惨めで性根の腐った人間なんだよ。だから僕が救ってあげてる。ねえ、その証拠にさ。君はそれを否定できるの。自分は立派とはいえなくても普通の人間なんだって、言える?」
「……」
「答えろ」
「い、いえない。いえないよ……」
「うん、よく分かってるね。依存体質の弱虫くん。君は誰かに頼らないと生きていけないほど弱いんだ」

 そういうと彼女は目の前でくすくすと笑い出した。昔から聞いてきたこの笑い声。耳朶を震わし、脳の奥底まで侵食してくるような。

「じゃあ君を受け止めてくれるのは誰だろう。お母さん? 仕事で忙しいよね。バリバリのキャリアウーマンだもん。友達? まともな友達なんて君にいるの? きっと君が友達だと思ってるだけだよ。じゃあ、君が唯一頼れるのは誰?」
「……しゅ、修治が」
「ああ、彼ね。でも友達だっていうならどうして予定が合わないんだろうね。本当に君のことを大切な親友だと思ってるのかなあ? 君だけがそう思って浮かれてるとしたら痛々しいことこの上ないけど」

 冷酷に微笑む薫。彼女は俺の耳元に口を寄せると、ささやいた。

「僕以外の誰も信じたらいけないよ。みんな君を裏切るんだ。一ノ瀬さんのように、君のお父さんのように、ね」
「……」
「返事は」
「……分かったよ」
「そ。じゃあ一緒に帰ろうか」

 ふと、明朗とした声調になると俺から薫は離れた。そうして腕を組んで薄い笑みを浮かべる。
 俺は震えを無理やりに押さえつける。彼女は俺の腕を掴むと、小さくいった。

「君のことは逃さないから」

 ぞくりと、なぜだかは分からないがその言葉に背筋に悪寒が走った。

346たった三人のディストピア ◆JkXU0aP5a2:2013/01/26(土) 22:22:25 ID:wORmiXJw
以上で投下終了です。
三レスといいながら四レスになった自分の不手際orz
次回からはきちんと字数制限なんかも考慮したうえで投下します。

ではスレ汚し失礼しました。

347雌豚のにおい@774人目:2013/01/27(日) 09:06:22 ID:AUKzzmXg
>>346
乙です!

348雌豚のにおい@774人目:2013/01/27(日) 16:58:50 ID:B6hD12Vo
>>346
ああ…素晴らしい…。
これ以上何を求めるか…。

349雌豚のにおい@774人目:2013/01/27(日) 20:04:57 ID:UK/lgOl2
>>346
いいよぉすっごくいいよぉ
逆らえないって素晴らしい

350雌豚のにおい@774人目:2013/01/28(月) 00:12:18 ID:ITm9LoP.
こりゃ大当たりの予感。
ホトトギスを超えるかもしれねぇ...

351雌豚のにおい@774人目:2013/01/28(月) 04:38:50 ID:/enszOjQ
gj
久しぶりにゾクゾクくる作品ですわ

352雌豚のにおい@774人目:2013/01/28(月) 23:31:25 ID:gZWWy7/E
>>346
お世辞では言え無いがねぇ。
その作品には力がある…。
頑張ってもらいたい。期待している…。

353雌豚のにおい@774人目:2013/01/29(火) 16:01:01 ID:UnRv1eNY
良い作品がそろってきたし、そろそろ保管庫更新されないかな?

354雌豚のにおい@774人目:2013/01/29(火) 17:06:43 ID:lShwEWDk
大穴かもなあ・・。この作品。
作者様GJ!!

355幼馴染と俺:2013/02/01(金) 21:34:31 ID:nylPaVjw
初投下です
全然経験不足、駄文ですがよかったら読んでご意見よろしくお願いします

356幼馴染と俺:2013/02/01(金) 21:36:17 ID:nylPaVjw
〜過去〜
一般家庭の普通のリビング、そこに二つの影
「大きくなってもずっと一緒だよ」
「うふふ!嬉しい、忘れない!!ずっと一緒!!絶対に約束守ってね、たっくん!」
「約束!指切りだよ〜♪」
どこにでもある普通の風景

それが、、との最後の約束、俺はその約束をただ軽く感じていた…

〜今〜
窓から差す朝日、まだ誰も来ていない静寂の教室は不思議でドキドキした。
だが、一番のドキドキは…
「先輩…私と付き合ってくださぃ…!」
「はい、よろしくお願いします」
「…え、あ、ありがとうございます!!先輩…!」
「拓也でいいよ。」
俺の名前は梶拓也(かじたくや)高二だ。
成績も普通、身長も顔も普通、なんの取り柄もないどこにでもいるであろう高校生だ。
「た、拓也……先輩…」
「ゆっくりでいいよ。」
「先輩///」
俺の日常はこの朝から変化を始めた

そして放課後…
「たっくん!一緒に帰ろ!!」
「いや、俺、さ…」
こいつは俺の小さい頃からの幼馴染み加藤久美(かとうくみ)いつもいつも俺になにかとついてくる、同じ高二のただの幼馴染みだ。
「今日のお弁当はどうだった?美味しかった?当然だよね!くみのご飯だもん!たっくんのために精一杯朝から頑張ったんだよ!たっくんは幸せだね〜♪」
久美にドンドン背中を叩かれとてつもなく痛い…
「俺…さ!」
「なに?たっくん」
「俺、彼女が出来たんだ!」
「……………………え?」
久美の周りの空気がスッと冷めたような気がする。
「朝に後輩ちゃんに告白されてさ、俺後輩ちゃんのこと気に入ってるし付き合うことに決めたんだ。」
「え?……いや嘘だよね?嘘、そういう嘘好きじゃないよたっくん、もー!」
そのとき後輩ちゃんが俺の腕に抱き付いてきた。
「せんぱーい、帰りましょ♪」
「、というわけだ、明日から俺のぶんの飯は作らなくていいし、一緒に帰れないから、今までありがとな。」
「先輩、一緒にプリクラ撮りに行きましょ♪」
「ああ、じゃあな」

「嘘…たっくん、、ずっと一緒って…ずっとずっとずっとずっと一緒って、約束って言ってくれたのに…嫌、嫌だよ、たっくん……」
「いや違う、たっくんをそそのかしたあの女が悪いんだ…たっくんをタブらかした悪い泥棒猫は…始末して、早くたっくんに偉いってナデナデしてもらわないとね…待っててねたっくん、たっくんたっくん愛してるよ」

後輩、帰り道
「先輩格好いいな♪憧れの先輩とのツーショット…拓也…先輩……」
ガサッ
「誰?」
「こんばんは…」
「拓也先輩の幼馴染みさん…?どうしたんですか?」
(たっくんの名前を気安く呼ぶな!!)
「答える必要は無いよね…これからどうなるかわかってるよね…」
「わかってる?」
「うん、、、だけのたっくん盗ったんだもん、たっくんは、、だけのなの!」
後ろ手に隠しておいた鉈が後輩を映した。
ヒュン
「…せんぱ…い、助けて…せ…」
「どれだけ助けを呼んでも来ないよ、じゃあ、早く、逝け」

「………」
「たっくん、やったよたっくん!たっくんをあの泥棒猫から守ってあげたんだ!」
「たっくん、すぐ会いに行くからね…」

拓也宅

ピンポーン
「はーい」
「来ちゃった♪」
「久美かどうした?こんな時間に、そんな大きなバッグ持って。」
久美のはその細い腕に体型とは不釣り合いな大きなバッグを持っていた。
「えへへ〜♪すぐに見せてあげる、たっくん大喜びして久美のことナデナデしちゃうよ♪」
「俺がビックリするようなものか…まぁ、玄関だとなんだし部屋にあがれよ」

「おじゃましま〜す!久しぶりのたっくんの部屋!」
「暴れるなよ、で、そのバッグはなんなんだ?」
「じゃあいやしんぼのたっくんに見せてあげる!じゃ〜ん!!」
バッグが開いた瞬間部屋は形容しがたい臭いに包まれた。
「…ぐ!これなんだ、、」
「これね、久美の大好きなたっくんを盗った泥棒猫だよ♪」
バッグの中に入っている汚物はさっきまで俺の隣にいた後輩だというのか
「偉いでしょ、たっくんに悪い虫がつかないように頑張っちゃった!」
「ふざけんな!!こんなことしてただですむと思ってんのか!!!」
「たっくん?わかった、たっくん今日でこの泥棒猫に洗脳されちゃったんだね…これからは久美だけ見るようにしてあげるから動かないでね」
「久美…」
俺の四肢はベッドに縛られた。
「そうだね早いうちからこうしておけばよかったんだよ、これでもうずっと一緒、ここで一生一緒に生きよ、それで久美幸せ、たっくんも幸せ、約束一緒にしたもんね…」

「たっくんに久美の初めてこれからいっぱいあげるからね、まずはちゅー!いただきます」
ちゅーチューチュルジュルリ

357幼馴染と俺:2013/02/01(金) 21:38:51 ID:nylPaVjw
駄文失礼しました
これだけで投下終わりです

358雌豚のにおい@774人目:2013/02/02(土) 01:38:42 ID:/J5jMa2U
>>357
まさかの微妙な終わり方

お前はやればできるはずだ

359雌豚のにおい@774人目:2013/02/02(土) 10:59:08 ID:P72/LP9I
>>357
乙乙!

360雌豚のにおい@774人目:2013/02/03(日) 07:17:31 ID:xXHMF0Jk
>>346
ヤンデレ好きはこの主人公のように依存体質が多い気がする
この種の人間にとってヒロインはまさに理想の女性だね。基本的に完璧で、自分を外界から守り、それでかまってくれる女性
逆らうと暴力と言葉責めで、従っていると優しくしてくれる。自作自演で外堀から埋めてくる。本当にすばらしいヒロインだ
文章もなかなか読みやすくていいね

気になるのはアメとムチのアメが弱い気がする点。主人公が従順なときには甘い餌を与えてやらないと。ムチはとてもいいんだけどね
あと一回の投下が短い点。ボリューム的にあと2〜1.5倍位は欲しい。

しばらく避難所からは離れていたのでこんな良作が投下されてることに気づきませんでした。これからはマメにチェックしたいと思います
これは良い作品になると思うので頑張って完結させて下さい。GJです!

こんな長い感想は作者さんからすれば気持ち悪いかもしれません。ですので気持ち悪かったら言って下されば今後一切しませんので
長文失礼しました

361雌豚のにおい@774人目:2013/02/04(月) 19:51:23 ID:XRhLT.M6
>>356
君の実力ならまだ出来るはずだ。
ラストのオチが若干弱い気がしたので、まだまだ詰めていけると思う。
才能の片鱗があるので、これから伸びていってくれたら読み手として嬉しい。

362雌豚のにおい@774人目:2013/02/09(土) 05:23:08 ID:2Yo6iwVA
触雷が待ちきれない。

363雌豚のにおい@774人目:2013/02/10(日) 00:44:41 ID:LfyF3606
たった三人のディストピアの続きおねがいします

364雌豚のにおい@774人目:2013/02/10(日) 00:44:59 ID:LfyF3606
たった三人のディストピアの続きおねがいします

365<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

366<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

367ユルリ・ラド:2013/02/14(木) 23:17:51 ID:qlyoFKaw
バレンタインネタで投下します
幼馴染と俺から進歩してたらいいな

368ユルリ・ラド:2013/02/14(木) 23:27:34 ID:qlyoFKaw
その日はバレンタインデー、男子なら誰でも意中の相手からチョコが貰えるかとモヤモヤし、夢を叶え、夢散る日である!!

どこにでもある高校のこじんまりした家庭科室に人影が一つ…
僕の名前は幹、調理部のたった一人の男子でたった一人の後輩だ。
僕は人生のなかで今まで一度も恋愛をしたことがない、今まで好きになった人はいないかと言われたらNoと答える。
今まで生きてきてただ一人だけ好きになった人…
その人はそろそろここに来る。
カチ…カチ…クルッポー!クルッポー!
元気よく鳴いた鳩の声と共に扉が開いた。
「おまたせー」
平淡な声と共に一人の女性が入ってくる。
「今日の授業もしっかり同じ時間に終わってくれたから遅れずに来れたよ、待ったりした ?」
この人は遥香先輩、調理部のただ一人の女性でただ一人の先輩、とても綺麗な黒髪に透き通るような瞳、薄い唇も見つめるだけでドキドキしてしまう。
「いえ、そんなことはないですよ、全然、はい、待ってません!」
最後は声が裏返ってしまう。
「どうしたのそんなにドギマギして、今日具合悪いんじゃない?」
先輩が僕に近づいてくる。
「そんなことはないですよ!絶好調!絶好調!!」
「本当〜?」ぴとっ
暖かい先輩の手が僕のおでこに触れる。
「ん〜、幹君大丈夫、かな」
座っている僕の目の前には先輩の顔が、
「先輩!近い!近いです!!」
「幹君耳まで真っ赤〜」
先輩の手がおでこから離れる。
「ふふ、今日はなに作ろっか?」
「な、なににしましょうか、」
僕は先輩の手の上で踊らされっぱなしだ。

調理部は二人、一年の僕と二年の遥香先輩、だけだ。
僕が入った時は調理部の部員はもっといた、調理部というだけあって先輩も同学年の人も女性が多かった。
だが、一人一人とみんなやめていってしまい残ったのは先輩と僕の二人だけなのだ。
最後の先輩も昨日やめていってしまった、理由は学業の不振だそうだ、その先輩が頭が悪いとは聞いたことはなかったが…
その先輩がやめていくと言っていた時先輩は泣いていた。
遥香先輩はそんな優しい先輩なんだ。
僕が部活に入った理由は卑しくもこの遥香先輩と仲良くなるためなのだ、いわゆる一目惚れである、先輩は優しく頭がよく運動もでき料理が美味しい、いつも作った料理を食べるのだが何を作っても美味しい、まさに完璧だった。
僕なんかが先輩と付き合えるわけがない、僕はただ先輩と仲良くなれるだけでも嬉しい…その先なんか僕がいけるわけがないんだ…

「う〜ん…そういや今日はバレンタインデーだね、幹君チョコとか…貰ってないよね?」
「僕なんかが人からチョコなんて貰えるわけないじゃないですか、
そう言う先輩も男子からチョコ貰ってるんじゃないですか?逆チョコってやつですよ」
「一つも貰わないよ、好きな人のチョコ以外いらないよ」
「それじゃあ誰かにあげたりしたんですか?」
「好きな人にチョコ、それは産まれてきてまだないなぁ…
にしてもみんな退部しちゃって二人っきりで恋ばな何て初めてだね
じゃあ質問、幹君は誰かからチョコ欲しいとかはある?」
「ない、わけではないですね…」
ない、と言ったとき先輩はにんまり笑い、わけではないと言ったときには先輩はすごい速さで立ち上がり僕に近づいていた。
「幹君、誰からチョコ貰いたいのかな?」
「秘密、です…」
まさか目の前の先輩です!とは言えない。
「誰?誰?ねぇ?」
先輩の声は今までになく高揚しきっている。
「誰かな?誰が幹君をタブらかしたのかな?教えて?あいつらと同じようにして幹君を守ってあげる。」
「先輩?」
明らかに先輩の様子がおかしい。
「ねぇ、幹君誰だか教えてくれないかな?たった一人の先輩のお願い事だと思ってさ、教えてくれたら幹君の望むことなんでもしてあげる。なんでもだよ。ほら、早く教えてよ。教えて!」
「僕、は…」
腹をくくるのが男なのだろう。
「……」
先輩も黙り出すと、家庭科室はしんとなった。
僕が先輩を思う気持ちは本物だ、例え叶わなくっても…
「…僕は先輩のことが好きです!!」
世界が止まった

369ユルリ・ラド:2013/02/14(木) 23:28:46 ID:qlyoFKaw
そこは台所
私流愛する人への調理教室!
チョコいっぱい溶かして…ハートの型にいっぱい詰めて…私の愛の数だけ詰めて…詰めきれなくてちゅーで補充して…出来上がり!!
後は冷やすだけだね!!

「幹君も手伝ってくれたからすぐに出来たよ!」
「美味しくできてるといいですね!」
「だね幹君好みの味になってるといいな…」
先輩はおもむろに残った溶けてるチョコを見ると、
「あ、幹君好みの味にしてあげる」
先輩はそう言うと指にすくい僕の口元に近づけた。
「幹君、いっぱい舐めてて私の味感じてね」
一瞬戸惑うが大好きな先輩の綺麗な指…
「いただきます」
「み、幹君舐めるのうまいね…」
先輩の人差し指は甘い、味覚だけにくる甘味ではない、頭までびりびりしてしびれてしまう。
「幹君の口の中暖かい、もっといっぱい舐めて…」

370ユルリ・ラド:2013/02/14(木) 23:29:06 ID:qlyoFKaw
指を口から離すと先輩は名残惜しそうに口に舐めさせていた人差し指をいれた
「やっぱりチョコより幹君の涎のほうが美味しい…美味しい…!いいこと考えた」
舌に指でチョコを付け、先輩は舌を出してちゅーをせがむ、話せないが気持ちはわかる。
きっと、早く舌の上のチョコを幹君の舌で舐めて!、といったところか。
「いひひゅん…」
台所で先輩に押し倒され僕は先輩の舌を舐めるというより舐めさせられているというようだった。
さっきよりもずっと頭がびりびりするどうにかなってしまいそうだ。
「幹君…幹君の舌すごい美味しいよ…でも幹君のこのガッチガチのおちんちんもすごそう…」
先輩のにおい、大きな胸、綺麗な顔、淫靡なキス、僕の愚息は耐えられなくなっていた。
「私、幹君が欲しい…全部全部」
「遥香…僕も遥香の全部が欲しい」
「幹君」「遥香」
お互いを求めてうねりあう舌、キスはチョコで甘いのか先輩の涎が甘いのかわからない。
でも先輩が欲しい、気が付くと先輩はきつくきつく僕を両腕で抱き締めていたそれに答えるように僕も先輩を抱き締めていたる。
足も先輩がガッチリ足でホールドしている。
「幹君床じゃ痛いでしょ、ベッド行こ?」
先輩に手を引かれ向かったベッドの上は先輩のにおいがすごくして最高の場所だった。
スルスル
先輩はベッドに上がった僕のズボンを素早く脱がせる
「先輩…!」
「……遥香でしょ、ばつだから。」
先輩はパンツも脱がし僕の愚息をいただいていた。
ペロペログッポグッポ
「ふぃふぃふんふぃもふぃふぃぃ?」幹君気持ちいい?
先輩の舌は僕の愚息に快感を、新世界を見せていた、口のなかはまるで異次元であった。
「ぷはっ、幹君ばっかりずるいよ、私のもなめって気持ちよく欲しいな」
白いお尻が僕の目の前にくる。
ビデオなどでみた知識から先輩のエッチな所を広げてみる。
「恥ずかしいね…なんか…んっ!」
少しなめっただけで先輩は声を出していた。
「幹君、クリだめ…」
先輩はびくびくしながら頑張って気持ちよくさせようと僕の愚息を口に含み頭を動かす。
「遥香のここ…びっしょびしょだね」
「そういうこと言わないで、初恋でずっと好きな人とこんなこと出来るんだから嬉しくて…気持ちよくて…んんっ!」
先輩のクリはコリコリになって、穴からはすっぱい汁が溢れていた。
「ねえ幹君…いれて…私の初めてとって…」
「でも避妊とか…」
「いいのそんなの!!」
先輩は僕に覆い被さり耳元で言った。
「私のなんだから」
「遥香そんなに僕のこと・・・」
「びっくりした?私幹君が思ってる以上に幹君のこと大好きなんだよ、だから幹君一つになろ、」
先輩は馬乗りになり僕の腰にそそり立つ愚息をゆっくりと自分の中にいれてゆく。
先輩は痛そうだったがとても喜ばしそうだった
「ん、いっ・・・はいった・・・」
「遥香、血が、」
「だい、じょうぶ、だよ、幹君気持ちいい?」
「はい、先輩の中すごくいいです」
「よかったぁ・・・じゃあ幹君動いて、そうすれば幹君もっと気持ちよくなるでしょ」
「でも遥香痛かったりとかしないの?」
「だいぶ慣れてきたから、幹君が動かないなら私が動くよ」
先輩はゆっくりと上下に動き始めた、先輩の中はすごくぬるぬるしてあったかくてすごく気持ちがいい、僕は今にでも射精してしまいそうだった
「ふっ、ふっ、幹君のが、奥に当たってるのをすごい感じるよ、幹君幹君」
僕は先輩に覆いかぶさられ顔全体を嘗め回される。
でもやられてばっかりもいやだと僕は先輩を見下げるように体位を正常位に変える
「遥香、遥香の中気持ちいいよ、」
「幹君、いっぱいいっぱい遥香に腰振って、いっぱい幹君の赤ちゃんのもと頂戴!」
二人溶け合うかと思うほどの時間を過ごす、

371ユルリ・ラド:2013/02/14(木) 23:29:29 ID:qlyoFKaw
「お腹の中、幹君でいっぱい、幹君愛してるよ幹君」
「遥香、僕も愛してるよ」
お互い熱いキスを交わすと台所に向かった
「チョコしっかり冷えてくれたね」
「それじゃあ幹君、ハッピーバレンタイン」
先輩の手に握られた大きなハートのチョコの真ん中にはI LOVE MIKI と書いてある
「遥香いつのまに・・・」
「えへへ、驚いてもらおうと思って、幹君食べて」
「うん」
先輩のチョコはすごく甘かった、砂糖だけではなく先輩の愛もしっかり入っているのであろう
「まだまだいっぱいおかわりあるからいっぱい食べてね」
「バレンタインってそういうのだっけ?」
まぁ、いいのだ今までずっと大好きだった先輩と恋人なのだ、幸せだ僕は。
「・・・幹君、今日から一緒にここで暮らさない?」
「え、いや、学校とか家族にも心配かけますし・・・」
「いやなの?ふーん、でも幹君は私のこと好きだよね、なら、」
先輩は目にも留まらぬ速さで僕の足首に手錠をしベッドの柱と鎖でつなぐ。
「これでここから抜け出せないね、幹君これからもあの調理部の女たちみたいなのから幹君を守るね、大丈夫ご飯もお風呂も全部私がお世話してあげるから、当然幹君と営みもいっぱいするよ」
「僕は・・・」
「愛してるよ、幹君」


12月24日某病院にて
「元気な女の子ですよ」
「大変長い出産でしたね」
「お父さん、お子さんですよ、お若いお父さんですね」
「私の大事な大事な夫なんです、その次に大事なのはこの子。
幹君、クリスマスプレゼントありがと
愛してるよ」

ハッピーエンド

372ユルリ・ラド:2013/02/14(木) 23:29:45 ID:qlyoFKaw
つまらなくてすみません
これで終わりです

373雌豚のにおい@774人目:2013/02/15(金) 06:43:28 ID:L1Dgr0XY


つまらなくは無い

374雌豚のにおい@774人目:2013/02/15(金) 12:52:20 ID:gie9k2RM
いいよーいいよー

375雌豚のにおい@774人目:2013/02/16(土) 01:37:12 ID:b9FhvBCY
アーイーヨイヨイヨー

376雌豚のにおい@774人目:2013/02/16(土) 19:19:11 ID:NMKzJ8uk
>>368
悪くはない。決して悪くはない。
ただスレの趣旨に合っているかと言われれば……うん。
次回はこの何だか物足りない気持ちを埋めてくれると私は信じてる。

377雌豚のにおい@774人目:2013/02/17(日) 07:58:34 ID:gVfRIZvE
>>372
乙乙!

378雌豚のにおい@774人目:2013/02/18(月) 17:40:54 ID:KT4Us1nU
>>372
乙!

379 ◆JX6XvolL/Y:2013/02/23(土) 00:07:09 ID:B9xUgdKQ
酉忘れるとか本当にどこまでアホォなのか……。
すいません。もし酉が違っていてもなりすましではありません。
大丈夫です。

こういうのはやはり黙って受け取っておくのがスレのルールなのでしょうが。
一度だけ一括に返信させていただきますね。
乙と感想ありがとうございます。決してうざったいなんてことはないです。
むしろ作者冥利に尽きます。未熟な作者ですが、今後共よろしくお願いします。

ではディストピアのほうを投下させていただきます。
ボリュームのほうは多めにしたいのですが、少々難しそうです。

380たった三人のディストピア ◆JX6XvolL/Y:2013/02/23(土) 00:12:37 ID:B9xUgdKQ

 俺はうすぼんやりと漂う何かだった。集中しようとしても、思考が霧が晴れるように散逸していってしまう。
 だから考えるにも必死だった。俺はどこにいる? 俺はどうしている? 俺はいったい何者なんだ?
 まとまらない思考。何時間経っただろうか。時間など意味をなさないこの世界で、光明が差すように闇の中から小さな光がこぼれてきた。
 俺はそれに吸い寄せられるように走っていく。いや、走るという感覚すらも分からなくなっていた。
 ただ無心に、誘蛾灯に魅了される夜光虫のようにして、俺は進む。
 その内に俺は段々と光に包まれていった。
 その光は遠くから見たときは小さく見えたが、自分が中に入ってしまうと予想以上に大きいものだと気づいた。
 俺は辺りを見渡す。ただ淡く、暖かく白光する光たち。
 外は一切に見えないが、そこにはのっぺりとした人間味のない白などではなく、人を包み込んでくれるような白があった。
 やがて、淡く輝く白が溶け去っていくのが分かった。
 またあの闇の中に取り残されるのは嫌だ! 俺は必死で光に食らいつこうとするが、段々と光芒は失われていく。
 俺が悲鳴をあげようとしたそのとき、世界は現実味を帯びた。俺の思考は徐々にまとまってきて、無意味な恐怖はなくなっていた。
 まだぼんやりとした、まるで綿飴に包まれているような感覚は残っているものの、俺はやっと一息を付いた。
 そして下に見慣れたフローリングの床を見つければ俺はなんとなくここがどこだか理解したような気がする。
 俺は周囲に視線をやった。紙クロスの白い壁紙。廊下の傘が被さった電球。見覚えのあるドアの配置。そこは紛れもなく俺の家だった。
 どことなく薄暗い。俺が突き当たりにある木製のガラスが嵌っているドアに眼を向けると、そこから光が漏れていた。
 なんとなく分かる。今は夜なのだ。
 俺がドアにふらふらと近づくと、中から怒鳴り声が響きわたってくる。男の声と女の声だ。
 俺はそうっとドアを開ける。室内灯の光が眼に入ってきた。そこは、間違いなく見慣れた感のある我が家のリビングで。
 そこにはテーブルを挟んで佇立した二人の人間がいた。
 男と女。男のほうはもうすぐ中年に差し掛かりそうだった。眉を顰め、額に青筋が浮かんでいる。
 女のほうはまだ若々しく、険のある美貌を怒りで歪めていた。それは間違いなく俺の母親と父親だった。
 俺は何か声を出そうとするが、何も出てこない。仕方なく、二人の言い争いを見守った。

「なによ! 私が仕事を辞めて家にいれば調子に乗って! か……お……ちゃ……から……き……いたわよ! 浮気なんて!」
「そういうときもあるんだよ! ちくしょう! こっちは仕事が忙しくてストレス溜まってるんだ!」

381たった三人のディストピア ◆JX6XvolL/Y:2013/02/23(土) 00:13:17 ID:B9xUgdKQ

 ジジッと、母親の言葉に途中でノイズが走った。父親はそれに何事か激昂する。
 止めてくれ。俺はそう叫んだつもりだったが、掠れた声しか出なかった。いや、それすらも錯覚かもしれない。
 そのまま二人の争いはヒートアップし、ついに母親がいった。

「前々から考えてたけど、もう終わりよ!」
「ああ、そうだな。出て行くさ。勝手にしろよ、クソアマめ」

 父親がそう吐き捨てる。その黒々とした瞳に軽蔑と憤怒の色を浮かべて、かれはこちらを見た。
 どきりと俺の心臓が高鳴る。もう十数年ぶりなのだ。かれ、父親を見ることは。俺の胸中で複雑な感情が入り乱れる。
 父親は急に声のトーンを落としてささやくようにいった。

「冬悟」

 俺が見えているのかと眼を見張る。だがしかし、それは俺じゃなくて後ろにいる何者かに向けられた声だというにはすぐに気づいた。
 恐る恐る後ろを振り向く。そこには顔に恐怖と不安を貼りつけた幼い頃の俺がいた。
 父親が無表情に言葉を続ける。

「すまないが、もう無理だよ。お前のことは可愛かったが、せいぜい上手くやるんだな」

 最後にふっと寂しげな笑みを浮かべると、かれは昔の俺の横を通りすぎて二階へと向かっていった。
 恐らく自分の部屋に戻って荷造りをするのだろう。このあとのことはよく分かっている。
 父親の一種大人に向けるような言葉は、いまでも破片となって俺の心に突き刺さっていた。
 すぐに父親の後を追うようにして母親が歩いてきて、幼い俺を抱きしめる。
 あんな男だのなんだのと父親に対する罵詈雑言を並び立て、守ってあげるとでもいった。小さな嫌悪感が生まれる。
 母親は常に俺を支配下に置きたがっていた。本人は無自覚なのだ。ただ、彼女は本当に――。
 急に吐き気が生まれて俺はその場に膝をつく。喉にせり上がってくる何かを必死に押し込めようとしている最中、背後で誰かの声が聞こえた。

「ねえ、冬悟」

 ぶるりと背筋を震えが走る。俺は咄嗟に『彼女』のほうへと振り向こうとしたが、それは出来なかった。
 誰かに抱きしめられたからだ。背中から。そう、彼女に。彼女は言葉を耳元で囁いた。俺の耳朶を震わすような、その声。
 特別蠱惑的でもないのに、空恐ろしいほどに俺の脳内に浸透しようとしてくる。
 彼女――槐園薫はいった。

「君のことを 守 っ て あ げ る 」

382たった三人のディストピア ◆JX6XvolL/Y:2013/02/23(土) 00:14:26 ID:B9xUgdKQ

 叫んだかどうかは知らない。ただありえないような恐怖とともに俺はベッドから跳ね起きたのだ。
 それを理解するまでは数秒ぐらいかかった。ここは俺の部屋だ。そう、さっきのは夢で気にすることなんてない。
 それなのに、両手を眼前に持ってくれば右手も左手もがたがたと小刻みに振動していた。俺は馬鹿らしいと思い込もうとする。
 なんであんな記憶がいまさらに降り掛かってくるのだろう。
 何時だったか、俺は軽い人間不信と女性恐怖症なんじゃないのかと言われたことがある。誰だったか、思い出せないけれど。
 たぶんそれは事実なんだろう。俺はだから友人だろうと誰だろうと信じることができない。長続きした人間関係なんて俺にはなかった。
 いつもいつも崩れてしまう。自然と疎遠になって、結果として憎悪してしまうのだ。
 狐が身の丈で取れない木の果実を、あれはきっと酸っぱくて食べれたもんじゃないと断定するようにして。
 俺は離れていった人間を憎悪する。そうして自己嫌悪にも陥ってしまうのだ。どうしてなのだろうと考えたことはなんどもある。
 その度に俺が繋ぎとめようとする努力をしてこなかったからなのだという結論に至るのだ。俺はクズで、どうしようもない。
 かぶる仮面は社交的でお人よしみたいだが、その中身はドロドロと腐りかかった醜いものなのだ。
 きっと誰だってそれを見抜くのだろう。だから俺から離れていく。それは自然なことだ。だから、俺は自分が嫌いだ。とてつもなく。
 薫のいうことも最もなのだ。彼女は小さい頃から俺と親交がある。だからこそ彼女が俺に対していったことは当たっているし、俺に反論することは赦されない。
 彼女に勧めてもらった本の言葉だったか。人間の良心と出来は他人の評価に任せよう。まさしくその通りだ。
 彼女は俺なんかよりもよっぽど優れた眼をもっている。その眼が弾きだした答えがあるならば、否定することなんて出来やしない。
 それに、彼女に嫌われたらどうすればいい? 俺の周りからは誰もいなくなってしまう。
 薫は幼い頃からなんでも手助けしてくれた。そうして選んでもくれたのだ。優柔不断で腐った泥みたいな性根の俺に。
 母親が仕事にかかりきりになって、クラスメイトからも除け者にされて、俺自身いつも部屋で泣いていたあの時、薫は何度も俺のところへ来てくれた。
 慰めてくれた。認めてくれた。俺を正当化してくれた。 俺自身言葉にできなかった鬱憤を、彼女は卓越した詩人のように言葉にしてくれた。
 部屋に篭りきりになって、母親から侮蔑と怒りを受けた時も、彼女だけは憐れみと理解と愛情をくれた。
 そうなのだ。辛い時にいつも肯定してくれたのは薫だけで……。

「逆らうことなんて」

383たった三人のディストピア ◆JX6XvolL/Y:2013/02/23(土) 00:15:05 ID:B9xUgdKQ

 出来るわけがない。彼女は俺にとって酸素みたいなものなのだ。離れることなどできはなしない。そこで俺ははたと思いだした。
 ならば、どうしてあの時俺は彼女に抗いがたい恐怖を感じたのだろう? 薫という存在がなにかとてつもなく恐ろしいものに思えたことは確かだ。
 でもそんなはずはない。俺にとっていつも素晴らしい結果を持ってきてくれるのは彼女なのに。
 と、そんなことを考えた途端に目覚ましがアラームを告げた。甲高く鳴り響くそれを瞬時に右手で叩くとゆらりとベッドから立ち上がる。
 思案していてもしょうがない。今日は別に休日ってわけでもないのだからさっさと登校する準備をしよう。
 俺は部屋の扉を開け、階下へと降りる。朝の陽が静かにリビングへと差している。しんと静まり返っていた。
 俺の母親はバリバリのキャリアウーマンで、とにかく仕事仕事といった人だ。
 両親が揃っていた頃はもう少しばかり母親らしかったとは思うのだが、今思えばかなり我慢をしていたのだろう。
 要は主婦なんてやっていられる人種ではないのだ。父親がこの家から出て行ってからは仕事に熱中し、おのずと相当な業績を出しているらしい。
 そんなことだから朝も早い。弁当はささっと作ってくれるが、顔を合わせることもなかった。
 愛してくれているとは思うが、俺とは違いすぎる人だとも思う。朝飯はいつも途中で買っていく。
 そのための金はいくらか貰ってあるし、別に朝飯が抜きでもあまり問題のない性質だったからどうということもなかった。
 俺は背伸びするとまぶたを拭い、顔を洗おうと――。

「冬悟」

 びくりと全身が震える。背後から聞こえてきたその声と状況に激しいデジャヴを感じて、俺は脳裏に黒い液体のようなものが広がっていくのを知覚した。
 それは恐怖だ。俺は嘘だと呟きながら背後に振り返る。そこにはエプロン姿の、窓から射す光に照らされた薫がいた。
 彼女は海外の俳優がやるみたいに、ニッと皮肉っぽい笑みを浮かべる。それがまたひどく様になっていて、俺は不覚にも見惚れてしまった。
 驚きのあまり凍り付いている俺に、彼女はいたずらっぽく近づくと人差し指を俺の唇に当てた。
 鴉の濡れ羽色をした一つ縛りの長髪が、一瞬だけふわりと宙を漂う。
 彼女はいった。

「なにをそんなに驚いてるの?」
「あ、その……なんで俺の家に……」
「今日はね。君が昨日みたいに電柱に頭をぶつけないよう、一緒に登校しようと思って。どうせなら君の寝顔も見てみたいからね。ご迷惑がかかるといけないから、君のお母様に電話したらさ。今日はお弁当作るのを忘れちゃったみたいでね。で、それはいけないから持ってきたんだよ。家から」

 ひょいっと背後から洒落た弁当箱が姿を見せる。俺が怪訝そうな顔をしたのを見て彼女はくくっと微笑んだ。

「安心して、僕は作ってないよ。うちの使用人だ。僕は少しばかり料理に適性がないみたいだからね」
「……合鍵は持ってたんだっけ」
「君のお母さんからもらったよ。薫ちゃんなら任せられるってね」

384たった三人のディストピア ◆JX6XvolL/Y:2013/02/23(土) 00:15:44 ID:B9xUgdKQ

 もういちど笑みを漏らすと、彼女はその弁当箱を俺に押し付けてキッチンのほうへと進んだ。
 なにをするつもりなんだと思えば持ってきたのは簡単なトーストとコーヒーで。
 なるほど、あんなものは複雑な手順を経なくても作れるものだし、いくら薫でも失敗はしないものなのだろう。
 それが理解できているように彼女は軽く手招きして、テーブルに二人分のそれを置いた。見た目はふつうのトーストだ。香ばしい匂いが鼻孔をつく。
 俺は彼女に促されて席へと着く。向かい側に薫が腰を下ろした。自然と声が出る。いただきます。彼女が「よろしい」と嬉しそうに口元を緩める。
 こういうところの行儀は彼女にタコができるほどうるさくいわれた。思い出す。しっかりやらないなんてなると彼女はただ黙って俺を見つめたのだった。
 そう、怒鳴るわけでもなく悲しむわけでもなく、ただ見つめられる。無表情に。彼女の瞳の奥に宿る、なにかうごめくものがあったと記憶している。
 たぶん子供の幻想だろうが。そういう時分のときにはよくそういうことが起こる。ともかくそのうごめくものがなんだか俺には怖くてたまらなかった。
 いつもは良き保護者代わりであり、俺のすべてを誘導してくれる彼女が、そのときはこの世界に生きる生物とはまったく別のものだと感じられたのだ。
 そのうごめくものは俺を『見る』と狂喜したように身体を震わせた。おぞましく、冒涜的ななにか。それが当時の俺には恐ろしくてたまらなかった。
 だからおのずと俺は彼女のいうことには従うようになったし、こういうところのけじめもつけられるようになったと思う。
 たぶん、あのままいってたら放任主義の母親に憎悪を抱く歪んだ人間になっていたのではなかろうか。薫には感謝しきれない。
 ぽーっとしていると、手元を白魚のような指が叩いていた。彼女が肩をすくめる。

「ぼけっとしてたら学校に走っていかなくちゃならなくなるね」
「ご、ごめん。すぐに済ませるよ」

 俺は慌ててトーストをかじると、彼女もくすりと笑みをたててトーストに口を付けた。不味くはない。
 料理法が単純だからだろう。失敗しようにも失敗できないのだ。俺はちょっぴり薫に失礼なことを思いながら、トーストをコーヒーで流し込んだ。
 一〇分ほどしてふたりとも食べ終える。彼女が食器をキッチンに持っていく間、俺は洗面所で顔を洗い、歯を磨いて、髪を整えた。
 そうして二階に行って早々と制服を着込む。階下に降りると、リビングのソファで薫が足を組んで座っている。
 いまさらだが彼女は足が長い。容姿の端麗さもあいまってどんな服でも様になってしまう。
 うちの制服はどちらかというと落ち着いたものだが、彼女が身に付けるとそれにあいまって気品すら感じられるのだ。
 まあ、彼女の家はこの辺りでは名家として知られる槐園だし、不思議なことではないのかもしれないけれども。
 彼女は俺に視線をやると一瞬だけ眉を上げて、そのあとにふふっと微笑んだ。
 なにを笑われているのかも分からず、俺が怪訝そうにしていると彼女が近づいてきて胸元に手をやる。

「……タイが曲がってるよ?」

 耳元でそう囁かれれば、俺は情けない気持ちで俯くしかなく、彼女は対照的に上機嫌で俺のタイを直してくれた。

「さ、行こうか」

 俺はふうとため息をつきながら首肯した。

385 ◆JX6XvolL/Y:2013/02/23(土) 00:19:00 ID:B9xUgdKQ

以上五レスほど使わせていただきました。投下完了。
ほんとは投稿はじめにいっておくべきだったんですが、主人公の思考がクドいです。
苦手な方はスルーをお願いします……って遅いよなあ。
ではでは失礼します。

386雌豚のにおい@774人目:2013/02/23(土) 00:32:57 ID:.lT.4Qgw
GJです!続き期待して待ってます。

387雌豚のにおい@774人目:2013/02/23(土) 00:36:18 ID:GdQqRsiU
乙。とても素晴らしい

修羅場はよ

388雌豚のにおい@774人目:2013/02/23(土) 02:31:19 ID:AhDLEANQ
gj
なかなかナヨナヨした主人公だわ。でも学校では実はおモテになるんでしょう?

定期的に作者さんの存在を確認できるのはええな。

389雌豚のにおい@774人目:2013/02/23(土) 08:59:35 ID:7NOWSIB2
>>385
乙乙!

390雌豚のにおい@774人目:2013/02/24(日) 23:51:44 ID:dqUsbUQE
ディストピア面白い
そこら辺の下手なラノベよりいいわw

391雌豚のにおい@774人目:2013/02/26(火) 00:22:29 ID:SHNkFIro
>>385
乙。
少々くどいくらいが、中身の無い話よりも丁度いい。
これからも期待していますが、さて、『三人目』が楽しみです。

392雌豚のにおい@774人目:2013/02/28(木) 21:33:13 ID:qTe6WXWw
このねっとり感が素晴らしい。

393雌豚のにおい@774人目:2013/03/01(金) 16:05:45 ID:cVCYLF5o
薫がいつ本性をだして冬悟を支配するのかが楽しみです!

GJ!!

394雌豚のにおい@774人目:2013/03/04(月) 03:19:52 ID:MXVkDUDM
お初ですが投下します。楽しんで頂ければ嬉しいです

395一朝一夕:2013/03/04(月) 03:23:40 ID:MXVkDUDM
彼女が出来た。彼氏が出来た。

高校生の多くにとって、これらはかなりのビッグイベントといえるだろう。
恋人がいるという幸せはある種の独特な優越感をもたらし、時にはいい意味で、時には悪い意味で人の価値観を大きく変え得るほどのものなのだ

だが、それをうらやましいと思う気持ちはない。

結局、そんなものは自慢するだけなら勉強ができる・運動ができるといった他の長所を自慢するのとなんら変わりはないのだ

本当に自分が幸せなら、見せつける必要などないだろうに…

そんなことを考えているうちに、放課後を知らせるチャイムが鳴り響いていることに気付く

「清戸、まだいたのか」

担任の北野原に声をかけられた
「帰宅部なんだし、やることもないならさっさと帰れ。帰宅部は帰るのが部活なんだから」

もっともだ。特に学校に残ってる理由もないし、さっさと帰ることにする

「分かりました、それじゃ」
そう一言言って鞄を持ち、1年E組の教室の入口まで歩く


「帰り道に気をつけろよ、あと寄り道するんじゃないぞ」

北野原が担任らしいことを言いながらも僕を見送った

俺がこの高校、開戸高校に入学してから早3ヶ月。
駅までの徒歩含めて家から45分、通学にも慣れた

以前は幼・小・中とエスカレーター式の学校に通っていたため、今の学校には受験して入学した

俺はあまり頭のいい方ではなかったため、学校はかなり絞ったが、幸いにもその中では一番偏差値の高いところに入れた。

ついこの間中間テストも終わったところだ。成績は真ん中より若干下と言ったところ

合格ギリギリだったのを考えると、まぁこんなものだろう

しかし今回の中間テストではちょっとした話題もあった

学年で唯一、全教科満点を取った生徒がいたのだ

中学の頃の五教科と違い、高校の十を超える科目全てで満点というのは普通じゃ考えられない

クラスは違うが、俺はその生徒を知っていた

彼女は、幼稚園から今に至るまで俺の同級生なのだ

そして、小学校入学以来ずっと学年一位に君臨し続けている。

だが、俺は彼女と話したことはない

常に学年一位を取る存在ともなれば、嫌でも少しは知ることになるというだけで

エスカレーター式だった中学までなら分かるが、彼女がうちの高校に入学したのははっきり言って驚きだった

単純に彼女の頭の良さを考えて、彼女はもっと上の高校に受かることが確実視されていたのだ

噂で聞いたところ、不運なことにそれらの試験日前にインフルエンザに感染し、受験日程が遅かったうちしか受験することができなかったのだそうだ

正直、もったいなかったと思う

とはいえ、こういう失敗も人生には起こりえるし、他人の自分がこういった個人の事情にあまりどうこう言うべきではない

それに俺が知っている彼女の情報はこれが全てで、あまり多くのことを言える立場にはそもそもない

ふいに携帯の着信音が鳴った。

「もしもし」
「もしもし洋か、今大丈夫か?」
「ああ」

電話をかけてきたのは水野雄次。小六の時に俺のクラスに転校してきて以来、ずっとつるんでいる親友だ

「明日暇か?」
「特に予定はないよ」
「そっか、なら映画見に行かねぇ?」
「いいけど」
「よし決まりな、十一時からのやつでよろしく」
「あ、おい」

切れた。相変わらず簡単な用件しか伝えないやつだ、ったく・・・

「つうか何見んだよ?」

あまりに短い電話だったので聞き忘れた。
まぁいいや、どうせあいつのことだから見当はつく。

それに、その場のお楽しみってことにしておけばそれもまた楽しみに変わる

「・・・・?」
何か違和感を感じる。
最近、ちょくちょくこの感覚を覚えるのだが、原因が分からない。

まぁいいや。
俺はまたいつもの様に気にしないことにした

「・・・・・そっか、明日は映画に行くんだね。ふふ、私も支度しなくっちゃっ」

その時帰路についていた洋の近くには一人の女子が穏やかに微笑っていた

しかしその雰囲気はどこかぞっとさせる、常軌を逸した何かを感じさせるものだった

396一朝一夕:2013/03/04(月) 03:25:51 ID:MXVkDUDM
翌日。
駅前の映画館に待ち合わせ、雄次を待つ。

あいつはいつも遅れてくることが多いので、適当に携帯をいじりながら待つ

休日だけあって、うちの学校の生徒もちらほら見える

少しして雄次がやってくる

「よう。今回は時間遅れなかったな」

「遅れたら映画始まっちまうしな。じゃあ入るか…おっ?」


雄次が何かに気付いたように足を止めた。


「どうした?」
「あれ見ろよ」

雄次があるグループを目配せで指していた


彼女たちはうちのクラス女子グループ三人で、中でも一人は特に際立った容姿をしており男子の注目を集めている

彼女は旭光莉。名前通りというか、とても活発な元気な少女で、明るめの茶髪と髪の左側にとめてあるヘアピンが特徴の少女だ

背は身長170cmの俺よりけっこう低いが、年の割に体付きには恵まれているのか服の上からでも起伏がよく分かる


彼女が俺達に気付いた

「あれ、水野君達じゃん。君達も映画?」


「じゃなきゃここにいないっしょ」
「はは、それもそうか」

だよねーと言いつつ軽く舌打ちする。

「同じ回か。よかったら一緒に見ない?」

「ん〜嬉しいんけど、悪い、今回は遠慮しとくよ。これアクション映画だし、俺アクション映画にはけっこううるさいんだ」

「そっかー、分かった」

雄次が自然な感じで断りを入れると、彼女はあっさりした様子で他の二人とシアターの中に入って行った


「さて、やっぱ入る前になんか買って入るか。ポップコーンでも割り勘して食おうぜ」

「ああ、いいなそれ」
笑って頷くと二人で購買の方に歩き出す


その途中、雄次に友情を感じると同時にちょっと申し訳ない気持ちになった

雄次は女子に人気がある。背も高いし、頭だっていい方だ。 そのくせ気取ったりせずいつも自然体で、女子の間で噂になることも少なくない


だが俺には特に女子をひきつけるものはなく、むしろ雄次といることで差が目立つのかなんとなく否好意的な印象を持たれているような気がする


以前に雄次と二人で遊んでいる時にさっきみたいな感じで女子グループに声をかけられ一緒に行動したものの、女子の注目は常に雄次に注がれていて、俺にはあまり話題をふってこなかった

そんな俺に気を遣ったのか、それ以来俺と遊んでいる時にはさっきみたいに女子に誘われても何かしら理由をつけて断り続けている


本当に、友達想いのやつだと思う

だから、俺もそんな雄次の気遣いを無駄にしない為に、出来るだけ気にかけないようにしている

それが、俺からあいつへの友情の証だ

397一朝一夕:2013/03/04(月) 03:27:53 ID:MXVkDUDM
「けっこう面白かったな洋」
「うん普通に楽しめたよ」

「腹減ったし飯でも食うか〜」

映画が終わり、いい感じに空腹になってきた俺らは近くのファミレスに行くことにした。

休日の昼飯時ということでけっこう混んでいるが、幸い空いていたテーブルがあったのですぐに座れた

二人で店に入ると腰を下ろして一息つく

「さて何食うかな〜。予算も限られてるし、ガッツリ食うか悩むぜ」

ボリュームのあるメニューは同時にそこそこ値も張る。小遣いの限られている俺らにとってはこのメシ代の決断は困難を極める。


「おし、今日はやっぱガッツリ食うぜ。洋は?」
「俺は無難にミートソース。値段も手頃だし」
「そっか、じゃあ頼むか…」

「あー、水野君達もここでお昼だったんだ」

声のした方を振り返ると、旭とその連れの女子二人が立っていた


「ここでも一緒なんてすごい偶然だね」

「たしかに」
「一緒に座ってい?せっかくだししゃべろうよ」
「そうそう、せっかくだしさ」

笑いながら明るく聞いてくる。

「ん〜、ああ、そうだな…」
雄次がちらりと俺の方を見る。十中八九さっきの映画館の時と同じようなことを感じているのだろう。

しかしこの状況で断るのはさすがにちょっと露骨な気がするし、何よりたとえ雄次目当てでも実際俺はそんなに女子に空気のように扱われるのは気にしていない

「そうだねいいんじゃない。お店込んでるし、旭さんたちも一緒に座ればその分テーブル空くから」

「ホントに?ありがとう!あ、私ちょっと化粧室行ってくるね。鞄ちょっと置いていい?」

「うんいいよ」

そう言うと旭さんは俺の隣に鞄を置き、奥の方へと歩いて行った

「ねぇ水野君、私窓際好きなんだ。窓際座っていい?」
「ああ、いいよ」
「ありがと〜」

「あは、あなた窓際好きよね〜」

そう行って一人は雄次側の窓際へ、もう一人は雄次側の通路側に座った


やはりこの二人も雄次が気になるようで、自然な流れで雄次の隣を確保してみせた


相変わらずモテる男だなぁと感心する。

そこに旭さんが戻ってきた
「お待たせ、じゃあ頼もっか」
そう言って席の状況を一瞥すると俺の隣に座る。
そっか、もう雄次の両隣は他の女子が座ってるもんな


彼女達は自分達の分の注文をすると、すぐに会話を始めた

さっきみた映画のこと、学校のこと、最近流行りの歌のことなどだ


旭さんはとにかく大人数で話すのが好きらしく、俺も含めてみんなに話すように話題を展開していたが、他の女子は以前のように雄次を常に見ながら話していた


しかし女子というのはおしゃべりなものだ、気が付けばあっという間に二時間が経過していた


長時間しゃべったことに満足したのか、自然な流れでレストランを出て解散かと思ったが

「ねぇ最後にプリクラ撮らない〜?」

旭さんがそう提案してきた

「いいんじゃない〜?私はいいよ」
「うん私も」

女子二人も賛同のようだ

「プリクラか〜あんま好きじゃないんだけどな…」
「まぁまぁそう言わずに」

旭さんが明るい口調で促すと、渋々といった感じだったが雄次も同意し

「俺も普通にいいよ」
最後に俺も同意してレストランの向かいにあったゲーセンに入ってプリクラを撮った


ここでも女子二人が雄次の隣を確保し、旭さんはそれを特に気にした様子もなく俺の隣に来ると満面の笑顔を作った

苗字の通り、朝日のように眩しい笑顔というか、ほとんどの男が魅力を感じざるを得ないような笑顔だ

しかしなぜだろう、俺にはその笑顔が一瞬底知れぬ恐怖を感じさせるものに思えたのは…

398一朝一夕:2013/03/04(月) 03:29:58 ID:MXVkDUDM
「……ふふ、ふふふ。あは。洋君とのプリクラだぁ〜……」

その夜、旭光莉は自室で解散前に撮ったプリクラを眺めて笑っていた。

水野雄次と他の友達二人とも一緒に撮ったプリクラだが、彼らの部分はすでに切り抜かれて捨てられている。


ツーショットのように写った彼とのプリクラ。そこにいるはち切れんばかりに輝いている笑顔の自分。

そして、この世において何物にも代えがたい彼……。


「うふふ、必ず、必ずものにしてみせるね。ううん、私が生まれる前から決まっていた私だけの彼を私のものにするだけなの。」


そう、最初から。

彼は、清戸洋は私だけのものになると決まっていたのだ。そして、私も彼だけのもの。

私のこの小さな体も、それとは反比例して発育したこの身体も、この心・魂までも髪の毛一本から血の一滴まで…
私は、私のすべては彼だけのもの。

そして、彼のすべても私のもの…


朝の光はとても爽やかで、その光を浴びる花や木々に栄養を与える尊いものだ。

だが、彼女という光が清戸洋という男子を照らすさまは、それとはまるで程遠い。

それはまるで、光なのにどす黒く濁った、限りなく闇に近い真っ暗な光…

399雌豚のにおい@774人目:2013/03/04(月) 03:30:28 ID:MXVkDUDM
投下終了します。

400雌豚のにおい@774人目:2013/03/04(月) 03:32:48 ID:LC1ZtUF6
GJ!

401雌豚のにおい@774人目:2013/03/04(月) 22:39:36 ID:vX0r02FM
>>398
ヒロインかわええ
ぜひ続きでさらに狂わせてやっておくれ

402雌豚のにおい@774人目:2013/03/04(月) 23:56:45 ID:1pYOl0xI
>>398
GJ!!
次回も楽しみにしてる!

403雌豚のにおい@774人目:2013/03/05(火) 07:32:14 ID:TMM/m/wU
とてもいい!GJ!

404雌豚のにおい@774人目:2013/03/06(水) 09:20:40 ID:OYakSP52
>>399
乙です!

405雌豚のにおい@774人目:2013/03/10(日) 15:59:24 ID:w2ABMzmU
星屑ディペンデンス、更新しないかなー?

406雌豚のにおい@774人目:2013/03/10(日) 18:02:51 ID:2xbN25U6
>>398
投下乙です

地の文で直接「不気味な笑顔〜」とかで病み描写するより
もっと間接的に、行動や会話で病んでいることを匂わせるというか
直接的な病み描写は避けた方がいい作品になると思う

407彼女たちの異常な愛情 第二話:2013/03/10(日) 23:38:07 ID:JbFamRBk
投下してみます

408彼女たちの異常な愛情 第二話:2013/03/10(日) 23:38:51 ID:JbFamRBk
「へぇ、私に隠れてそんなことをしていたの?聡。」
とヤンデレぽく微笑んだりしてみるが、たいして怖くない。むしろかわいく見えてしまう。
こいつは本当に何がしたいのか。と考えてみる。
「おい、七海。」
「何?聡。私に謝る気でもできたかしら。」
「いやそういうことではなく、なんで俺なんだ。ほかにもたくさんいるだろ。いい男なんて。」
「なんでそんなこと言うの?私は聡しかいらないんだよ。」
「だってお前メンヘラってやつじゃないの?」
「あんなんのと、私のヤンデレを一緒にするなこのばかやろ。」
といきなり顔をまっかにして、七海はここの部屋が揺れるぐらいの大きな声でそう言った。
「だってあいつらなんて愛されたいとしか思っていないんだよ。わかる?最近はさ、聡。
ヤンデレとメンヘラの区別がついていない人が多すぎる。私の知り合いにもメンヘラがいるけど、そいつなんて本当に自分のことしか考えていない。大体今から会いに来てくれないと私は死んでしまいますって、勝手に死んでしまえよ。わかるか。本当にお前らのせいで私たちヤンデレがどれだけ肩身の狭い状況にいるのかよ。」
といきなりの熱弁をされたところで、
「いや、お前ら人殺すだろ?それがいけないんじゃないのかなと俺は思うのだが、そのところはどのようなかんがえで?」
「いやいや、わかってないな聡は。」
都ない胸を張られていても俺は困るだけなんですけど。わかってますか。
という俺の心境はむしして、七海はヤンデレについて熱く語っている。
はっきり言って、俺にはヤンデレの良さがいまいちわからない。だってそうだろ?
とヤンデレのSSにあるまじきことを思いながら、こいつの話に耳を傾けてみる。
「わかりますか、あのひとを殺した時のあの表情が本当にいいんですよ。」
やっぱりこいつの話に耳をかすべきではないな。それが一番いいと思う。
「じゃなくて、なんで私はこんなに語っているの?話を戻すよ。へぇ聡は私に隠れてこそこそ、違う雌豚とあっていたんだね。」
「おい、雌豚という言葉は美しくないぞ。もっと正しい日本語を使いなさい。」
「はい。ごめんなさい。」と申し訳なさそうな顔をしていた。その姿が捨てられて犬みたいな感じで本当にかわいいと思った。もともと小柄なうえに普段の言動がとても幼いため、
実年齢よりもわかくみえ、しかも落ち込んでいるときは、その魅力を存分に発揮できることができる。実際、がんばってせのびして、ヤンデレぽくしているよりも、こっちのほう
がかわいいのである。早くきずいてくれないかと思う。
「まぁ、それはいいとして、問題はその放課後からよ。聡。あなたはとても罪深いことをしてしまったの。わかりますか?」

409彼女たちの異常な愛情 第二話:2013/03/10(日) 23:39:38 ID:JbFamRBk
「はい。全然わかっていません。」
「よろしい。では昨日あなたが放課後にしていたことを述べなさい。」
はいわかりましたといい、俺は昨日の放課後について回想していた。



「ねぇ、聡君。今日の約束まだ覚えているよね。」
隣の席の島田美月さん。体つきは出ているところが出ている。本当に七海とは正反対の人物であり、ファンクラブまであるという。髪型は俺の好きなポニーテイル。もう何も言うことはない。
「いやいや、そんなうれしい約束を忘れる人なんて、いやしませんよ。」
「あら、君はいつも私のことを、忘れているものだと思っていたわ。」
「そんな、私がいつそんなことしましたか?」
「ふふ、私はいつでもあなたのことを見ているのよ。だって、あなたの心はいつもここにあらずみたいな感じなんですもの。ねぇ本当に好きな人だれなの聡君?」
「私はあなたが一番好きですけどね美月さん。」
「嘘。ついているでしょ。私にはわかってしまうのだから。私はあなたのことはとっても好きよ。そう自分のものにしたいぐらいね。」
「いやいや、こんな完璧超人が俺のことを好きになる理由なんてないでしょ。そんなSSや
最近のライトノベルではあるまいし。」
「あら、最近のライトノベルでも、デレないヒロインはたくさんいるのよ。」
「ほう。それはどんな作品なのかい?」
「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」
「あれはデレないうちに入っているのかい?」
「私の中では雪ノ下雪乃は最高のヒロインだと思うよ。私は早く二次元の世界に入る機会を作りたい。」
「ナーブギアでも作ったらどうですか美月さん。」
「それは、とてもいいアイディアね。それで私は、ゲームを作るわ。そして私はアスナ。あなたはもちろんキリトね。」
「そんな機械できたらのはなしな。しかも元ネタがわからないと何言っているのかさっぱりだと思うぞ。」
「いいのよ。これを読んでいる人なんて、少ないのだし。しかも読んでいる人はこれくらい知ってて当然でしょ。まぁしらなくてもいいじゃない。だってSSだもの。」
「あとでたたかれても知りませんよ。まぁたたかれるのは作者だけども。それよりも話がだっせんした。メタ視点なんて、めんどくさくなるのがオチだ。」
「何の話ですか?そうそうあなたが私のことは眼中にないというはなしでしたね。」

410彼女たちの異常な愛情 第二話:2013/03/10(日) 23:40:13 ID:JbFamRBk
「いえいえ、あなたのことは、だれよりも好きでいる自信がありますよ。」
「嘘ばっかり。そんなこと心の片隅にもないくせに。」
と言って、いきなり俺の耳元に来てささやいた。
「いま私のことを、思っていなくてもいい。でもいつかあなたは私なくては生きていけなくなりますよ。」
「そいつは結構なことですよ。美月さん。私はあなたに調教されるのが夢なんですから。」
と言って、窓の外の景色を見る。空はまっかにもえていた。
「もうすぐ夜になりますよ。買い物に行かなくてもいいんですか?」
美月さんは、優雅な微笑みで、
「ではいきますか。デートに。」と怪しくつぶやいた。


「さてと。聡。何か言うことはありませんか?」
ぜひ美月さんに調教されてみたいです。
なんて、いえるわけでもなく、俺はだまってみた。
「何も言わないなら私にだって考えがあるよ。」
それはどんな考えなのか教えてほしいね。どうせろくでもないことなんだろうけど。
と思いつつ、壁にかかっている時計を見て時間確認する。
10時50分。これは今日は遅刻だな。もう今日は学校にいかないと。
「私は、自分では言いたくはないけど、ヤンデレと言われてしまうからね。
君を自分のものにするならば、私は何でもやってみる予定だ。というわけでお前は
今から、私はキスをする。」
「でもおまえは、いつもそんなこと言っているけども恥ずかしくなっていつもほほにキスするぐらいじゃないかい。たまには唇にしてみたらどうだい?」
まぁここら辺は、はったりで何とかなると思う。というか、ならなかったら困る。
「だって、それは……何と言いますか……恥ずかしいじゃないですか。」
ものすごく正論を突かれてしまった。こいついったいなんなんだろうな。
「それでもヤンデレですか。七海さん。それだからメンヘラビッチと言われてしまうのですよ。わかりますかわかりませんよね。だってあなたは……………。」
いきなり黙ってしまったのは、ちゃんとした理由がある。それはとてつもなく深そうに見えて、いざ説明するとなると一言で終わってしまうものである。
そう。七海は俺にキスをしたのである。しかも唇に。それはとても柔らかかった。
「これで何も言えないでしょ。私のファーストキスを奪ったんだから、責任取ってくれるよね?だって私たちはキスしたんだから。」
「えっと、聡?大丈夫意識ある?おいおい。生きてますか?ちょっと反応ぐらいしてよ。」
とこいつのことは無視して、別に俺はこれがファーストキスというわけでもなかった。

411彼女たちの異常な愛情 第二話:2013/03/10(日) 23:41:04 ID:JbFamRBk
こら、そこ。爆発しろとか思わない。あとそこは、爆弾をもってこない。
まぁそれは昨日のはなしになる。


「では聡君。私は今日何を買うか覚えていますか?」
と商店街を歩きながらそう尋ねる。
「確か……新しい水着だっだかな?」
「私はそんなこと一言も言ってないけれども。」
じゃいつ買うの?
「いまでしょ!とは言いませんよ。聡君。流行ネタはやめておきなさい。」
と言われてしまい軽くショックだった。それは流行だったのか。前からあったけどな。
「それはともかく今日は私の新しい洋服を買うためにあなたを連れてきたのです。」
「でもなんで俺なんだ。ほかにも付き合ってくれる人なんてたくさんいるだろうに。」
「あなたじゃないと意味がないんですよ。聡君。あなたのために買うのですから。」
とあと少しで顔と顔がくっつきそうな距離で美月さんはそう言った。
「まぁ、あなたが、私以外の人に見とれたら、その時は浮気とみなしますからね。」
「おう。美月さん以外に見とれる女子なんかそうはいないさ。」
と言いつつも髪型がポニテの人をついつい見てしまった。先生これは死亡フラグですか?
「聡君。ちょっと裏の路地でお話があります。来てください。」
といいながら俺の腕を強引に取り、路地に入っていく。つかまれた腕が悲鳴を上げている。
先生。これは死亡フラグでした。今までありがとうございました。
「さてと。聡君。言い訳や弁明だったら今聞きますけど。」
「あれですよ、美月様。髪型がですね。その美月様に似ているのでついつい見てしまったんですよ。これは不可抗力ですよ。もう百人中九十七人がそういいますよ。」
「残りの三人はそうは思うはないことよね。」
美月さんは、キックキックキックキック。とキックされていた。確かに俺が悪いけども。
「反省していませんね。聡君。顔を見ればわかります。」
「では美月さん。私は何をしたらよいのですか?」
そうですねと言い腕を組んで考えること三分。カップラーメンが作れたな。今の時間。
ちなみに俺の今のかっこうな正座です。足がしびれてきました。
「よし、私にキスをしなさい。」
「美月さん意味わかって言ってますか?」
キス。それは接吻ともいい、愛情表現のひとつ。人が自分の親愛の情。その他を示すために唇を、相手の額や頬、唇などに接触させる行為。
ということでしょ。と言って美月さんは唇を突き出した。
「あの、美月さん?それはどういう意味ですか?私にはわかりません。」
「つべこべ言わす、私にキスをしなさい。」
といって俺の胸ぐらをつかむと、俺は美月さんにキスをした。

412彼女たちの異常な愛情 第二話:2013/03/10(日) 23:43:20 ID:JbFamRBk
投下終了です。
たぶん一話からだいぶたっているので覚えていないかもしれませんが頑張っています。
ヤンデレ小説を書こう。なのに全然病んでいないので、次回から本格的に病むと思います。
次回は早いうちにだしたいです

413雌豚のにおい@774人目:2013/03/12(火) 15:43:20 ID:jbhQ3g4Q
>>412
乙!

414雌豚のにおい@774人目:2013/03/14(木) 10:09:24 ID:DJ0zuVdY
>>412
乙乙!

415雌豚のにおい@774人目:2013/03/15(金) 01:06:35 ID:MJcE9DVM
otu!

416雌豚のにおい@774人目:2013/03/18(月) 21:37:15 ID:dNYaBI.s
投下はまだか……

417名無しさん@ピンキー:2013/03/22(金) 04:49:26 ID:93cVu94w
ぽけもん黒投下来てくれないかな…
もう最後に更新されたのは一年前だよ

418雌豚のにおい@774人目:2013/03/22(金) 07:07:24 ID:ce1VucDA
もう何年でも待ち続けてる作品もあるんだけどなぁ…。もう何回無理かなと思ってもまだ希望を捨て切れてない感じ。結構前から続いてる作品はそれだけでもありがたいよ。希少だし。

419雌豚のにおい@774人目:2013/03/23(土) 06:13:05 ID:k2WLExU2
俺もぽけもん待ってるよ
まぁ気長に待とうよ

420雌豚のにおい@774人目:2013/03/24(日) 05:07:14 ID:scLI6k3o
変歴と触雷も

421雌豚のにおい@774人目:2013/03/26(火) 01:19:54 ID:hXMpT756
ほととぎすを待ち続けてる

422雌豚のにおい@774人目:2013/03/26(火) 01:30:29 ID:XZCSUwrM
ぽけもんもほトトギすも両方待ってる。
来てくれないかな。
本スレはまだ荒れてるし昔はもっと賑わってたのにね

423雌豚のにおい@774人目:2013/03/26(火) 01:31:23 ID:XZCSUwrM
ぽけもんもほトトギすも両方待ってる。
来てくれないかな。
本スレはまだ荒れてるし昔はもっと賑わってたのにね

424雌豚のにおい@774人目:2013/03/26(火) 01:33:19 ID:XZCSUwrM
連行になっちゃった
ゴメンなさい

425雌豚のにおい@774人目:2013/03/27(水) 21:52:16 ID:m6L2H9Dk
ディストピア投下待ってるぜー
気長に気長に

426雌豚のにおい@774人目:2013/04/02(火) 01:46:01 ID:9GfFlwC.
ノン・トロッポをいまだに待ち続けてる

427雌豚のにおい@774人目:2013/04/02(火) 03:28:45 ID:z4Lp5IPA
ウェハース来ねえかな
というより作者の短編が好きなんだよなあ
「椿姫」は今読んでもゾクゾクするわ

428雌豚のにおい@774人目:2013/04/10(水) 02:08:10 ID:a8LbLrKc
test

429 ◆A3Gs60mczo:2013/04/10(水) 02:14:44 ID:a8LbLrKc
投下します
題名は「不幸と云うこと」です

430不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo:2013/04/10(水) 02:16:36 ID:a8LbLrKc
神様って不平等が好きなかな?
私はよくそんなことを考えてしまいます。
もしも神様が平等ならこの世に幸福な人と不幸な人なんて出来ず、幸福な人だけで世界が回っていてもおかしくはありません。
そして私は後者です。
自分が貧困な国に生まれて、何も知らずに死んでいくほど不幸者とまでは思いませんがそれでも比較的に不幸だと感じます。
小さな頃は白馬の王子様が私の前に現れて、私をさらってくれると思っていた時期もありました。
けど現実は白馬の王子様は現れなくて、目の前に現れるのは不幸ばかりでした。
いつかは私を助けてくれる人が現れると今まで生きてきたけど、もう疲れました。

「死のう」

未練がましく生きることに執着していましたが、この世は辛すぎます。
私は生きることに向いてないんだ。
結局私は幸せ何かにはなれいんだってことは生まれた時から神様が決めていたんだ。
死ぬしかないんだ。
そう思いながら夜の街をフラフラ歩いているといつの間にかビルの屋上に立っていました。
どのようにしてここに来たのかは記憶にないのですが、今は好都合でした。
まるで飛び降りろと言っているかのように屋上を囲うフェンスの一部が抜けていました。
屋上はとても風が強く、着ている学校の制服はバタバタと音を立てています。
一歩一歩歩いていきます。
ネオン街の光は相変わらず厭らしいほど綺麗でなんだか自分が生きている世界と違う気がしてきました。
下を見てみると、死ぬのには十分な高さでした。

子供を連れて歩く親子。
ギターを片手に歌を歌うストリートミュージシャン。
仕事帰りのサラリーマン。
寄り添って幸せそうに歩くカップル。

人なんて落ちてこないと思ってる人々が下の道を歩いていました。
私が飛び降りると彼らの目は私に釘付けになり、記憶には一生私が残るだろう。
そんなことを考えると少しだけ私の人生が不幸じゃなくなるような気がして、嬉しくなりました。
ローファーを脱いできれいに並べました。
遺書なんて陳腐なものは用意する気にはなれませんでした。
上を向いて目を閉じ、息をフッーと吐き出しました。
上半身を少しずつ倒していきます。

「さようならこの世、初めましてあの世。」

431不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo:2013/04/10(水) 02:17:44 ID:a8LbLrKc
俺は仕事の帰り道を歩いていた。
時刻は22時を少し過ぎていて、夕飯を食べていないので早く帰って夕飯を食べたかった。
今日の夕飯は何にしようかな?と考えていると、人とぶつかってしまった。
「すいません。」
そう言って相手を見ると制服を着た女の子だった。
おそらく高校生だろう。
この時間帯に女子高校生が一人で歩いているのは別に珍しいことではない。
でも俺は彼女の顔を見て驚いてしまった。
彼女の顔には生気がなくて、青白くまるでおばけのようだったからだ。
「大丈夫ですか?」
と声をかけても返事がなくて、頭の中で「ただの屍の様だ。」と言うフレーズが流れてしまった。
彼女と目が合った。
でもその目は俺を写しているだけで、俺を認識していなかった。
まるで鏡だった。
直ぐに異常だと思った。
彼女は俺に気づかずにフラフラと歩いていき、横道に入っていった。
俺は心配に思い、彼女のあとをつけるとビルの非常階段をカツカツと登っているところだった。
俺はそのあとをついていくことにした。

彼女は屋上まで来ると止まり、フェンスが壊れている一部まで歩いていって止まった。
下をのぞき込んでいるようだ。
「おい!!」
大声を出して見るが彼女は全然聞こえてないようだった。
彼女は靴を脱いできれいに並べ始めた。
これはヤバイと思うと同時に、俺は走り始めていた。
フェンスにしがみついて手を伸ばし、彼女の手を掴む。
掴むと同時に思いっきり引いた。
余りにも力を加えて手を離してしまったので、慣性で女の子はゴロゴロと転がってしまった。
彼女は寝たまま動かなくなってしまった。
俺は驚いて
「大丈夫?」
と声をかけても反応が無い。
彼女に近づくと彼女は気絶していた

432不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo:2013/04/10(水) 02:18:55 ID:a8LbLrKc
私が目を覚ますとあの世は案外明るいものでした。
起き上がってみると、隣で男の人がスパゲティーをかき込んでいるのが見えました。
その人は私に気づいたみたいで
「起きた?」と聞いてきました。
私がコクりと頷くと、ビニール袋をガサガサと弄り缶コーヒーを差し出してきました。
酷く喉の乾いていた私は無言で受け取ると、一気に飲み干してしまいました。
苦い・・・。
何でブラックコーヒーなんですか!
女子高校生は甘いものが好きって相場が決まってるんですよ。

コーヒーを飲み終えたのを見ると彼は私に質問してきました。
「何で自殺なんてしようとしたの?」
沈黙
私の選んだ選択肢はそれでした。
「悩みがあるんなら、俺でよければ相談に乗るよ?口に出したら少しくらい気分が良くなるんじゃない?」
黙止権を行使させていただきます。
「だんまりか・・・」
遂に向こうは折れました。
私の勝ちです。やりました私。
「分かった。もう何も聞かないし自殺するなとは言わない。その代わりこれだけ言わせて。」
急に場の雰囲気が変わりました。
男の人の顔は真剣そのものでした。
「もし君が自殺したら周りの人がどう思うかをよく考えて。残された人は悲しむんじゃないかな?それをよく考えて。
それでも、もし君が自殺するんならその時は見つけても俺は止めないよ。」
そう言うと彼はゴミを片付けて帰ろうとしました。
私はその言葉に恥ずかしながらカチンと来てしまいました。
いつもはこんな事では頭に来たりしないが、この人の言葉は何故か私の心を届く言葉でした。
私は帰ろうとする彼の後ろ姿に怒声を浴びせ始めました。

「あなたに私の何が分かるって言うんですか!!どうせ私には私が死んでも悲しんでくれる人なんて居ないです。」

私は気づいているけど、気づいてないふりをしました。
なぜ彼の言葉が私の心に届いたのかを。
なぜこんなにも心がピリピリするのかを。

「初対面であるあなたが、私の気持ちなんてわからないです!!
いーえ、理解してもらおうとも思いませんし、理解して欲しくないです!!」

止めて、お願いだからもうこれ以上何も言わないで下さい。私の口!!
多分、彼だって・・・

「勝手に知ってるような口ぶりで話して、綺麗事を並べて!!
最悪です。何で死なせてくれなかったんですか?
どーしてこんな不幸しかない世界に戻したんですか?どーして!!」

矛盾しているのなんて分かってます。
自分が意地を張っている小さな子どものように思えます。

「あなたなんか嫌いです。最低です。私の目の前から消えてください。」

ハァハァと肩で息をします。
こんなに感情的になったのは生まれて初めてでした。
彼は私に近づいて来ました。
私はビックとなって身構えました。
「大丈夫だよ。俺は君の味方だから。」
彼はそう言うと宝物を扱うかのように優しく、優しく私を抱きしめました。
もう限界でした。
私は彼にしがみつき、涙をボロボロと流しながら大きな声で泣いてしまいました。
そう、彼は私と同じで不幸だったのです。

433不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo:2013/04/10(水) 02:20:03 ID:a8LbLrKc
泣き出した彼女が泣き止むまで俺はずっと彼女を抱きしめていた。
彼女が泣き止むと家に帰ることになった。
住所を聞くと家がかなり近かったので送って行くことにした。
帰り道は終始無言で何も話さなかった彼女だけど、俺と繋いだ手は離してくれなかった。

彼女の家の前についた頃には日が変わっていた。
死んでも誰も悲しまないって言っていた様に、簡素な住宅街にある普通の一軒家には明かりがついていなかった。
それは日が変わる時間に帰ってくる娘を心配している親の感じではなかった。
ここまで来たらもう大丈夫だろう。
手を離そうとしたが、彼女は手を離してくれなかった。
彼女は俯いて黙っている。何か言いたいことがあるようだ。
俺は自分から話しかけずに、彼女から話すのを待つことにした。
待つこと数分、彼女は顔を上げて何かをボソリと話し始めた。
「今日は・・・その〜・・・えっと・・・あの〜」
それだけ言うとまた俯いてしまった。
俺の手を握っている彼女の手に力が入り、少し汗ばんだような気がした。
そしてもう一度、顔を上げると目があった。
「あぁっ、ありがとう・・・ございますぅ。」
お礼を言うと彼女は視線を横にずらした。
俺はそんな彼女の頭を空いている方の手でクシャクシャと撫でてやった。
ビクリと彼女の体が跳ねて、後ろに飛び退いて俺を睨んだ。
警戒している小動物のようだ。
「いきなり何するんですか!」
顔をトマトのように真っ赤かにしながら言った。
さっきの声よりも10倍くらい大きい。
「ごめんごめん冗談のつもりだったんだけど、嫌だった?」
「あっ、べっべつに、いっ嫌ってわけじゃないですけど・・・その〜・・・」
「何?」
「いきなりあんなことされるからおっ、驚いただけです。けっ、けっしていっ、嫌とかじゃなく・・・」
テンパる彼女は可愛くてもう少し見たかったけど時間が時間だったので御暇することにした。
帰り際に連絡先を交換した。後日に改めてお礼をしたいそうだ。
別にお礼なんてよかったのだが、彼女は強く食い下がってきた。
改咲 涼子(かいざき すずこ)それが彼女の名前だった。
アドレスを交換してから彼女の名前を初めて知った。
そういや碌に自己紹介もしてなかったなと思いながら、俺は帰路に着いた。

434不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo:2013/04/10(水) 02:21:44 ID:a8LbLrKc
俺が一人暮らしをしているワンルームのマンションは改咲が住んでいる住宅街の少し外れたところにあって、歩いて10分ぐらいの所に位置している。
高校を卒業して、社会人になってはや2年。
よくよく考えてみると大学には行きたかったが、これはこれでよかったと今では納得している。
家に着くと家の鍵が空いていた。
今日の朝はちゃんと鍵を占めたのを確認してから出てきたはず・・・
まさか空き巣!?
いや、ないない。こんな盗るものがない家に空き巣が入るはずがない。
もし俺が空き巣ならもっとお金持ちの家を狙うだろう。
俺は家に普通に入った。

中にいたのは幼馴染の南風 眞優(みなみかぜ まゆう)だった。
こいつは家の中でも着物を着ている。彼女の両親どちらも華道家で家でも外でも着物なのだ。
髪の毛は黒色で腰まである髪はつやつやしていていつも綺麗だと思う。
こいつとは幼稚園の頃からの仲でもう15年来の付き合いだ。
小中高とずっと一緒なのだが不思議と一緒のクラスになったことが一度もなかった。
まゆは高校卒業後俺と違い大学に進学した。
偶然俺の職場とまゆの大学が近いせいで下宿先も近い。
なのでよく俺の家に勝手に来るのだ。迷惑じゃないので合鍵を渡して放ったらかしにしている。
まゆは家の玄関で正座をして待っていた。

「お帰りなさいませ。今日のおかえりはいつもより遅かったですね?何かあったんですか?」
「まあいろいろあったんだよ。」
俺は言葉を濁す。昔からまゆは俺が女の子と話したり、遊んだり、俺がまゆ以外の女の子と接点をもつのを酷く嫌がった。
まゆいわく「女とは打算的で醜い生き物です。ですから慶ちゃんにはそのような醜さで傷ついて欲しくないのです。」といつも言っている。
因みに慶ちゃんとはまゆが俺を呼ぶときの呼称で、俺の本当の名前は近衛 慶悟(このえ けいご)だ。
「いろいろとは?」
「仕事の帰りに同僚とご飯に行ってたんだ。ご飯作ってくれてたのか?」
しれっと嘘を付く。まゆは仕事以外の話は根ほり葉ほり聞いてくるからだ。
「はい、ですけど連絡していなかったわたくしが悪いんです。気にしないでください。」
まゆは少し悲しそうな顔をした。まゆはあまり表情に変化が無い。でも15年も一緒にいるのだ。
微妙だがまゆの考えていることぐらい少し分かる。他人からしたら表情に変化がないそうだ。
今はせっかく作ったご飯を食べてもらえないのが残念なようだ。
「朝ごはんにするよ。」
と脱いだスーツをまゆに渡して、ネクタイを緩めながら言った。
まゆはスーツをハンガーにかけようとしていたが、急に動きが止まった。
スーツをじっと見つめてからクンクンとスーツの臭いを嗅ぎ始めた。
少し臭いを嗅いだあと、俺のとことまで来て俺の臭いもクンクンと嗅ぎ始めた。
「そんなに臭う?」
「はい。とても嫌な臭いがします。慶ちゃんはお風呂に入ってきてください。」
自分で自分の臭いを嗅ぐが臭いはしない。
まぁ自分の体臭についてはわからないものだが。
「わかった。じゃあ入ってくるよ。」
俺はパジャマとバスタオルを取り出してお風呂場に向かった。

435不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo:2013/04/10(水) 02:22:42 ID:a8LbLrKc
わたくしの名前は南風眞優、親し方にはまゆと呼ばれます。
好きなものは慶ちゃん。
わたくし達は何をするのもずっと一緒でした。
学校も高校まではずっと一緒でしたけど一度も同じクラスになれませんでした。
慶ちゃんは家庭の事情により大学進学することはしませんでした。
一緒にキャンパスライフを楽しもうと思っていたのに・・・

わたくしは今までずっと慶ちゃんのそばにいました。
慶ちゃんのそばにいて周りの泥棒猫から慶ちゃんを守っていました。
慶ちゃんは素晴らしい人です。
カッコイイし、優しくて、頭もいい。更に運動神経も抜群です。
慶ちゃんを好きになる女はたくさんいました。
気持ちは分かります。でも理解は出来ても納得は出来ないと言うものです。
なのでわたくしは慶ちゃんに恋心を抱くメスを人には言えない方法で排除し続けました。
人間に恋すること自体が愚かしいことです。
そのかいあってか、慶ちゃんに悪い虫がつかずにここまでくることができました。
高校を卒業してから大学で愛を育み、卒業後に結婚、一姫二太郎を授かって幸せに暮らすのがわたくしの夢でした。
けど慶ちゃんは大学に進学せず就職してしまいました。初めは事情があるので仕方がないと思いました。
でも直ぐにわたくしの監視が届かなくなったということに気づきました。
帰ってくるとたまにだがスーツに付いてくるメス猫の臭い。
ひどく不快で気が狂いそうになります。
なのでクリーニングと称してメス猫のこびり付いたスーツは全部破棄して、新しのを新調しています。

昔からわたくし以外の女がどれだけ醜いかを言い聞かせてはいるのですが、慶ちゃんは優しいので涙を見せられたらコロっといってしまうかもしれません。
さらに不愉快なのが、今日は嗅いだことのない臭いがスーツについていました。
いつもは同じ臭いで慶ちゃんの仕事の関係者でしたが、今日はそいつの臭いではなく違う臭いがしました。
慶ちゃんの交友関係は狭く、人脈を広げるようなことはしませんし、コミュニケーション力があるとは思いません。
わたくしは慶ちゃんと関わりのある女を全部知っていますが、こんな臭いは嗅いだことがないです。
はっきり言ってもの凄く不快です。誰だろう?
もうこの臭いは記憶しました。
一刻もはやくこの臭いの持ち主を見つけなくてはいけません。
情報がないと対策が後手に回ってしまい、のちのち面倒になるからです。
過去に一回だけ対策が遅れてしまい大変な思いをしたことが有りました。
それ以降、相手の先手先手を行くようにしてきました。
今回の相手も未数値なのでまずは情報から集めることにしましょう。
わたくしは慶ちゃんの携帯電話に手を伸ばしました。


朝の7時半に起きると既にまゆは居なくなっていて、昨日の晩ご飯が今日の朝ごはんとしてテーブルの上に乗っていた。
昨日の晩ご飯は肉じゃがだったらしく、ラップがかかっていた。
まゆはもう授業に行ったのかな?
そんなことを思いながらおかずを温めて茶碗にご飯を盛る。
やっぱり大学に行けてる人たちが羨ましく感じてしまう。
今日も朝ごはんを食べたら仕事にいかなければならないと思うと溜息が出てしまった。

436不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo:2013/04/10(水) 02:24:01 ID:a8LbLrKc
ピンポーン
呼び鈴を鳴らしても一向に出る気配が無い。
どうせいつもの様に居留守を使っているのだろうけど、今日は問屋が卸さない。
向こうも必死なのだろうけどこっちも必死なのだ。
ドンドンとドアを叩く。
「先生。いるのはわかってるんですよ!居留守を使わないで出てきてください。」
ここはマンションの一角なのだが、わざと近隣に迷惑になるようにする。
そうしないと出てきてくれないからだ。
何回目かのドアを叩くと、カチャリと音がしてドアが開いた。
「近所迷惑。」
中から出てきたのは大きな黒ぶちのメガネをかけた眠たそうな女性が出てきた。
彼女の名前は碧 伊瀬乃(あおい いせの)さんだ。
伊勢野 葵(いせの あおい)と言うペンネームで小説家をやっており、売れているわけでもなく売れていないわけでもない作家さんだ。
俺の唯つの担当で某週刊誌で小説を連載していたりする。
一応俺よりも二つ年上である。
「居留守を使わないでくださいよ。締切はもう過ぎているんですから。」
「・・・・・」
俺の言葉を無視して家の中に入っていく。
こんなとこにつっ立っていても仕方がないので
「お邪魔します。」
と小さな声で言って後に続く。
リビングに通されて、テーブルを挟んで先生の向かい側に座る。
ここに来るといつも思うのだが、シックな家具に統一された部屋にある大きな二つの鳩時計が気になって仕方ない。
しかもそれぞれの鳩時計で時間が違っていて、片方の時計の時刻がずれている。
疑問に思いながらも一回もこの話題を口にはしたことがなかった。
「先生、あのー、原稿の方はどうでしょうか?」
そう言うと眉間に皺を寄せて
「伊瀬乃」と不機嫌そうに言った。
彼女は先生とか、碧さんと呼ばれるのが好きじゃないらしく、いつも呼び方を訂正してくる。
「伊瀬乃さん原稿は仕上がりましたか?」
「まだ。」
「もう期限はすぎてるんですよ。早くしてもらわないとこっちも困ります。今日は貰えるまで帰りませんよ。」
実は上司に今日中に原稿を挙げろと言われていて、手ぶらで帰る訳にはいかないのだ。
「伊瀬乃さんはいつもいつも原稿をきちんと期日までに挙げてくれませんよね?毎回どれだけこっちが・・・」
今日こそはガツンと言ってやるつもりだった。
でも目の前の伊瀬乃さんを見ると
「zzzzz・・・」
寝ていた。
このやろ。
人が説教してる間に寝るなんていい度胸だ。
結局伊瀬乃さんを起こして、説教してから、原稿を貰ったころには21時を過ぎていた。

437不幸と云うこと 第1話  ◆A3Gs60mczo:2013/04/10(水) 02:26:05 ID:a8LbLrKc
終わり

438雌豚のにおい@774人目:2013/04/10(水) 11:28:33 ID:StJP4ZsY
>>437
GJ
ヒロイン3人なのかな?
なぜか伊瀬乃さんが一番かわいく見えた

439雌豚のにおい@774人目:2013/04/11(木) 03:36:25 ID:pK0kNUaQ
>>437
投下乙
既に幼馴染ちゃんがいい感じに病んでるね

440雌豚のにおい@774人目:2013/04/11(木) 21:39:30 ID:IoHdOQFs
久しぶりの投下きたぜ。

話のテンポも良くすごく読みやすい。キャラも特徴が出てて今後の展開がたのしみです。

441雌豚のにおい@774人目:2013/04/14(日) 09:01:25 ID:l7V2p5W6
>>437
乙です!

442 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/15(月) 01:22:54 ID:3MdClp9o
投下します。

443触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/15(月) 01:25:11 ID:3MdClp9o
※マジキチ注意

「はあ……ご主人様。魔女なんているはずありませんでしょう?」
「!!!」
姉羅々(しらら)の言葉を聞いて、僕の頭の中に、衝撃プラスいろんなものが舞い込んだ。
まずは、『やっぱり常識的に考えてみたら、そりゃそうだよね』という思い。
あるいは、『魔女の呪いだと信じてここまでついてきたのに、騙すなんて酷いじゃないか』という思い。
どう感じるのが正解なのか、頭が混乱したが、とにかく聞いてみた。
「じゃ、じゃあ……なんで、なんで魔女の呪いなんて嘘ついたの……?」
「嘘ではありませんわ。御主人様にこの場所まで来ていただくための、方便ですわよ」
「ど、どこが嘘と違うんだよ……そもそもこの建物って一体……?」
「私の所有している館ですが? 前にお話ししたかと」
答えたのは紅麗亜(くれあ)だった。僕は頭が、さらにくらくらする。
「……さっき、お姉様って言ってたよね? まさか姉羅々って紅麗亜の……」
「改めまして、紬屋詩宝様」
姉羅々は僕から少し離れると、優雅に一礼して言った。
「わたくし、本当の名前を神添(かみぞい)姉羅々と申しますわ。紅麗亜の妹にして、本日より詩宝様の身の回りのお世話から性欲処理までを一手に引き受ける、従順なメイドでございますわ」
「うわあああ……」
もうどこにも疑う余地はなかった。僕は紅麗亜の妹の姉羅々に騙され、紅麗亜の所有するこの館まで誘拐されてしまったのだ。
「……一体、どうやってうちの学校の先生に?」
咄嗟に浮かんだ疑問を口にする。(紅麗亜は、「何が一手に、だ。メインの御奉仕は私が……」と言っていたが、聞いている余裕は僕にはなかった。)
「おほほほほ……校長と教育委員の素行を極秘に調べて、援助交際の事実を押さえて脅迫しましたら、簡単に学校に潜り込ませてもらえましたわ。教員免許は元々持っておりましたし」
「嘆かわし過ぎる……」
僕は泣いた。
「さあ、くだらない話はもう終わりですわ。奴隷契約書のサインも済んでおりますし、メイドの職務の一環として、性欲処理の御奉仕をさせていただきますわよ」
そう言うと姉羅々は、自分のブラウスの胸の部分を掴んで左右にビリビリと破り、大玉スイカのような乳房を丸出しにした。そして僕の頭の方からかがみ込み、胸を僕の顔に押し当てる。
「ムグッ!」
「おほほほ……御主人様。姉羅々のメイドおっぱい、堪能してくださいましね」
ギリギリ息ができる程度の圧力で押し付けられるおっぱいに埋もれながら、僕はもがいた。苦しいので、両手で姉羅々の体を押し返そうとしたが全然動かないし、腰には紅麗亜が馬乗りになっているため、体をよじることもできない。
「んんっ!」

444触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/15(月) 01:26:52 ID:3MdClp9o
「ほほほほ……御主人様。こういうのはいかがですか?」
姉羅々は僕から少し離れると、体をゆすって乳房を僕の顔にべちべちとぶつけてきた。
一方、僕の股間の方はというと、いつしかまた、生温かい感触に包まれていた。どうやら紅麗亜が腰を下ろして、勃起した僕のおちんちんをまた性器に飲み込んだらしい。
しつこいようだけど、こんな状況で反応してしまう、自分の体が恨めしい。紅麗亜は腰を小刻みに動かしながら、「あ……ああ……」と声を出し始めた。
――でも、このまま流されちゃ駄目だ……
2人に攻め立てられながら、僕は最後の反抗を決意した。とんでもなく酷い状態に追い込まれたけれども、言うべきことは言わなくては。
「し、姉羅々……」
「はい。御主人様ぁ……あんっ、乳首が擦れて気持ちいい……」
「さっき姉羅々と書いた契約書だけど、あれは無効だと思う……」
「何ですって?」
途端に、僕の顔に姉羅々の重い乳房が、きつく押し付けられた。おっぱいの肉で口と鼻がふさがれ、完全に息ができなくなる。
「〜〜〜!!!」
「いくら御主人様でも、言っていいことと悪いことがありますわよ? わたくし達の間に交わされた、あの主従契約が無効だなんて……」
「〜!」
窒息死しかねないので、僕は姉羅々の体を平手で叩き、降参の意思表示をした。ようやく、空気の出入りする隙間を開けてもらえる。
「あ、あの、あの契約書は、僕に魔女の呪いがかかってて、それを解くために契約が必要って前提だったよね? 魔女の呪いが嘘だったんだから、契約も無効のはずじゃ……」
「甘いですわね。御主人様」
片方の乳房を手で支え、乳首を僕の口に押し込みながら、姉羅々は言った。
「んがっ!」
「あの契約書のどこに、魔女の呪いのことが書かれているんですの? 契約は書面に書かれたことが全て。それが近代社会のルールというものですわ。書いてもいないことを持ち出してウジウジ言うなんて、そんなことでは生き馬の目を抜くグローバル社会でやっていけませんわよ。あんっ……姉羅々の奴隷乳首、そんなに噛んじゃ嫌ですわあ……」
「れ、れも……」
僕はまだ抵抗した。今のままではグローバル社会どころか、この館の外の日本社会に出られるかどうかも分からない。
やっとのことで姉羅々のおっぱいを口から離し、僕は言った。
「でも……そもそも……奴隷契約っていうのが憲法に違反してるんだから、無効だと思う訳で……」
「御主人様!!」
今度は紅麗亜が爆発した。そうだった。奴隷契約の無効を言い出したら、紅麗亜との契約もナシになるんだった。
「なんという世間知らずの知ったかぶりを! 憲法で禁じられているのは、本人の意に反した奴隷的拘束です! 私のように、完全に自分の意思で全てを捧げて隷属するのは問題ないのです!」
「そ、そうなの……?」
「そうです! 御主人様はもう、御自分の頭で考えないでください! 全てメイドの言う通りにしてください!」

445触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/15(月) 01:27:30 ID:3MdClp9o
「ううう……」
納得できないものが残るが、有効な反論が僕には思い付かなかった。元々そこまで憲法に詳しいわけじゃなく、学校で習ったことを聞きかじりで言っただけだったし。
「よろしいですね? 御主人様」
「ええと、あの……うわっ!」
突然、おちんちんが強い力で締め付けられた。紅麗亜が性器に力をこめたのだ。潰されそうなほどではないが、ちょっと痛い。
「い、痛いよ紅麗亜……」
「御主人様が、ろくでもない駄々をこねられるからです。反省されるまで、抜かせて差し上げません。もっとも、一生この私、牛おっぱいマゾメイド紅麗亜の膣におちんぽをぶち込んでいたい、と仰るなら構いません、というよりむしろ大歓迎ですが……んんっ、やはり御主人様のおちんぽはいいです……」
そう言って、ビクビクと体を痙攣させる紅麗亜。そんなことになったら、どこからおしっこしたらいいんだ。でも、一度言い出したら聞かない紅麗亜なら、やりかねないと思った。
「……わ、分かった。分かったよ……」
「ああ気持ちいい……何がお分かりになったのですか?」
「け、けい、契約はその、とりあえず、暫定的に、ひとまずは有効という案を前向きに検討……んぐぁっ!」
「「御主人様」」
紅麗亜の膣を締める圧力が、今までと比較にならないほど強くなった。
姉羅々が僕の顔に、左右のおっぱいを押し付け、呼吸を全く不可能にした。
「〜〜!!」
僕はパニックになった。おちんちんを潰されながらの酸欠死という、人類史にも稀であろう無様な死に方を回避すべく、慌てて2人の体を叩いて、降伏を表明する。
ありがたいことに、2人は力を緩めてくれたが、僕への追及は全然緩めてくれなかった。
「では御主人様。世迷い言はそれくらいにして、もう一度どうぞ。ああ……」
「けい、契約は有効です……」
もう無理だった。
口でも腕力でも、僕が全然敵わない相手が、それも2人、本気で向かって来てはどうにもならなかった。
「あああ……ではお尋ねします。この私、神添紅麗亜はあなた様の何ですか?」
「え、ええと……雇ってるメイドさん……」
すると紅麗亜は、溜息をついて言った。
「はあ……30点。落第です」
「なんで!?」
「私がいかに御主人様に絶対服従し、あらゆる権利とプライドを放棄して御奉仕するか、十分に表現されていないからです。せめて、『何をされても拒否権のない肉奴隷メイド』くらいは言っていただきたかったのですが。ああ……あああ……」
「く、紅麗亜は僕に何をされても拒否できない肉奴隷メイド……」
「あ……あああっ! 御主人様。心地よい響きです……」

446触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/15(月) 01:29:15 ID:3MdClp9o
姉羅々のおっぱいが邪魔で表情は見えないが、紅麗亜の機嫌が、急によくなったような気がした。すると今度は、姉羅々が口を開いた。
「御主人様。わたくしにも言ってくださいまし」
「し、姉羅々も僕に逆らえない性欲処理奴隷メイド……」
「ああんっ! そんな風に御主人様に言われたら、それだけでいってしまいますわぁ……」
姉羅々がどっと、僕の方に体重を預けてきた。また呼吸をふさがれては敵わないので、顔を横に向けて空気の通り道を確保する僕。
「…………」
「…………」
「…………」
僕達3人は、しばらくそうして動かずにいたが、やがて腰を前後に動かしながら、紅麗亜が言った。
「ああ……さて、姉羅々。話も終わったことだし、そろそろ御主人様から離れろ。私はこれから、御主人様を雌蟲に奪われた償いをするため、御主人様から鬼畜極まる調教をしていただくからな。ああ……」
「あら、それでしたらわたくしも調教を受けますわ。わたくしも魔女の呪いだなんて幼稚な嘘をついたお仕置きを、御主人様にしていただきたいですわ」
「駄目だ。あああ……今日はお前の時間はもう終わった。大体お前は、さっきから当たり前のように御主人様に乳を差し上げていたが、全体の90%の時間は、あ……長姉である私が御主人様に御奉仕する決まりだ……ああ気持ちいい……」
「そんな! 横暴ですわ! 雌蟲から御主人様を取り戻してきたわたくしが、90%の時間を受け持つのが筋ですわ!」
何か揉め始めた。紅麗亜は僕のおちんちんを膣に入れて腰を振りながら、姉羅々はおもむろに下着を脱いでから僕の顔に股間を押し付けて座り、言い争いを始める。
「あ……仕方がない女だな。ここは姉である私が特別に広い度量を見せて、80%に譲歩してやろう。お前は20%だ……」
「あんっ……どこが広い度量ですの? そんなの全然譲歩していませんわ。わたくしが85%、お姉様が15%。これが妥当な線というものですわ……」
「つくづく業突張りな女だな、お前は……ああ……仕方がないから75%に負けてやる。そっちは25%だ……」
「お話になりませんわね。あんっ……80%で妥協しますわ。お姉様には20%差し上げますわ……」
「むむむ……では28%くれてやる。どうだ……?」
「嫌ですわ。お姉様は25%で我慢してくださいまし……」
「お前が29%……」
「お姉様が27%……」
「29.5%だ……」
「27.2%ですわ……」
細かい数字が出てきてよく分からないけど、2人がお互いに譲る幅がどんどん狭くなってきているのは分かった。
いつ果てるとも知れない競り合いの声を聞きながら、僕は毎度のように、意識を闇へと沈めた。

447 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/15(月) 01:31:47 ID:3MdClp9o
今回は以上になります。
描写がマンネリ気味の上、話が進んでいなくて申し訳ないですが、次から新しい展開になります。
初登場のヒロインが出たり、晃がいろいろやらかしたりするので、しばらくお待ちください。

448雌豚のにおい@774人目:2013/04/15(月) 02:37:57 ID:Z53AbR4s


精子溜めてから見るぜ

449雌豚のにおい@774人目:2013/04/15(月) 07:36:06 ID:gNBZWeCE
ぬふぅ。

乙、続き早く頼む!

450雌豚のにおい@774人目:2013/04/15(月) 16:04:17 ID:Qj1stALY
新年早々の投下からようやく続編来たか。確かにここらで次の展開に進んで欲しいな。まぁ相変わらずのシコリティだがwww

451雌豚のにおい@774人目:2013/04/16(火) 00:42:16 ID:4YcI6spQ
触雷きたあ!きたきたきたあ!

452雌豚のにおい@774人目:2013/04/16(火) 11:42:44 ID:vFWlSDuQ
GJです。
またまたヒロインが登場するのですね。
今後の展開に期待させていただきたいと思います。

453雌豚のにおい@774人目:2013/04/16(火) 13:30:15 ID:4YcI6spQ
触雷を1から読み直して思ったけど、これ全部まとめたら小説一冊か、抜きゲー1本作れるんじゃねwww?

454雌豚のにおい@774人目:2013/04/17(水) 00:08:40 ID:ew.6faD.
『不幸と云うこと』とても面白かったです。
ぜひ、続きがよみたいです。

455雌豚のにおい@774人目:2013/04/17(水) 07:05:01 ID:vWgCF5Eg
>>447
乙です!

456 ◆UDPETPayJA:2013/04/23(火) 19:09:03 ID:Npcaivzg
お久しぶりです。
漸く27話が纏まったので投下します

457 ◆UDPETPayJA:2013/04/23(火) 19:13:27 ID:Npcaivzg
………あれから、どれくらいの時間が経っただろうか。
手足を拘束され、俺と″アイツ″しかいないこの空間で、俺は何度、身体をアイツに喰われたのだろうか。
…わからない。とにかく、もう嫌だ。
思い出せない。思い出したくもない。気持ち悪い。アイツの手が、声が、吐息が、肌が───
何もかもが結意と違う、アイツの全てが、気持ち悪い。
振り解こうにも、俺の四肢は力を込められないでいる。
左腕に感じる、鈍い痛み。アイツはそこから、何かヘンなモノを打っていたような気がする。
部屋は薄暗く、カーテンも閉まっている。どこに何があるのか、首だけしか動かせられない状態でわかるはずもない。

コンコン、と何か音がしたと思うと、ドアが開かれたようで、僅かな光が差す。
…それもほんの一瞬のこと。一筋の光はすぐに消える。
代わりに、誰かが入ってきたようだ。

「ご飯の時間よ、神坂くん。」

誰か、なんてわかり切ったことだ。この空間には″俺とアイツしかいない″んだから。

「……いらねぇ……」

こんなか細い声しか出せない自分自身が、情けなかった。
もう俺の体力は底辺まで落ちてきている。脇腹をスタンガンの弱い電流で刺されながら、″喰われた″んだ。
何度叫んだことか、喉はとうに潰れている。

「誰が…テメェなんかの……」

世話になるか、と続けて言うこともままならなかった。

「…そう。仕方ないわね。」

奴はそう言うと、俺の横たわるベッドに上がってきた。俺の身体を跨ぐように膝で立つ。
そのまま、片手には小さめな丼らしきものがある。

「噛む力も入らないだろうから、おじやを作ったのよ? さあ、食べさせてあげる。」

穂坂 吉良はスプーンらしきもので丼の中身をすくい、俺の口元に運んで来る。
だが俺は口を閉じ、それを拒んだ。

「口を開けてよ、神坂くん。食べないと死んじゃうわよ?」

るせぇ。テメェの作ったゲロクズなんか食うくらいだったら死んだ方がマシだ。
俺は言葉の代わりに穂坂を睨みつけてやった。

「食べないと、結意さんがどうなっても知らないわよ?」

…んだと、この女。

「くく、私が、何も考えないで貴方を閉じ込めたと思ってたのかしら?
今頃はお友達が、それともお姉さんかしら? そいつらが神坂くんを探してるでしょうねえ。でも見つかりっこないわ。
当然、貴方の大切なモノを壊す準備もできてるのよ? そうして少しずつ、心を折ってあげる。」

…この女、許さねえ。
俺だけなら。俺だけならまだしも、結意をどうにかしようだって?
この腕に力が入るなら、その顎の骨を砕いてやるのに。

「ふふ、だから言ってるじゃない。たった一言、心を込めて言ってくれれば縄を解いてあげるって。
───愛してます、って言うだけよ。なぁんにも難しくないでしょ? あはははっ、それとももっと私から愛してあげなきゃ駄目なのかしら?
私は構わないわよ? 大好きな貴方のためだもの。時間だってたっぷりあるんだから。」

ケラケラ、と気味の悪い笑い声を上げる穂坂。
この女の妙な自信は一体どこからきているんだ…?
それに、今の言葉からひとつ気になることがあった。俺の大事なモノを壊す準備もできてる、と。
…もしかしたら、穂坂には誰か協力してる奴がいるのか…?
何でもいい、頭を働かせろ。考えるんだ。考えることをやめたら、その時こそ本当に″負け″だ。
…俺はこんな奴には、絶対に負けない。

458天使のような悪魔たち 第27話 ◆UDPETPayJA:2013/04/23(火) 19:14:02 ID:Npcaivzg
………あれから、どれくらいの時間が経っただろうか。
手足を拘束され、俺と″アイツ″しかいないこの空間で、俺は何度、身体をアイツに喰われたのだろうか。
…わからない。とにかく、もう嫌だ。
思い出せない。思い出したくもない。気持ち悪い。アイツの手が、声が、吐息が、肌が───
何もかもが結意と違う、アイツの全てが、気持ち悪い。
振り解こうにも、俺の四肢は力を込められないでいる。
左腕に感じる、鈍い痛み。アイツはそこから、何かヘンなモノを打っていたような気がする。
部屋は薄暗く、カーテンも閉まっている。どこに何があるのか、首だけしか動かせられない状態でわかるはずもない。

コンコン、と何か音がしたと思うと、ドアが開かれたようで、僅かな光が差す。
…それもほんの一瞬のこと。一筋の光はすぐに消える。
代わりに、誰かが入ってきたようだ。

「ご飯の時間よ、神坂くん。」

誰か、なんてわかり切ったことだ。この空間には″俺とアイツしかいない″んだから。

「……いらねぇ……」

こんなか細い声しか出せない自分自身が、情けなかった。
もう俺の体力は底辺まで落ちてきている。脇腹をスタンガンの弱い電流で刺されながら、″喰われた″んだ。
何度叫んだことか、喉はとうに潰れている。

「誰が…テメェなんかの……」

世話になるか、と続けて言うこともままならなかった。

「…そう。仕方ないわね。」

奴はそう言うと、俺の横たわるベッドに上がってきた。俺の身体を跨ぐように膝で立つ。
そのまま、片手には小さめな丼らしきものがある。

「噛む力も入らないだろうから、おじやを作ったのよ? さあ、食べさせてあげる。」

穂坂 吉良はスプーンらしきもので丼の中身をすくい、俺の口元に運んで来る。
だが俺は口を閉じ、それを拒んだ。

「口を開けてよ、神坂くん。食べないと死んじゃうわよ?」

るせぇ。テメェの作ったゲロクズなんか食うくらいだったら死んだ方がマシだ。
俺は言葉の代わりに穂坂を睨みつけてやった。

「食べないと、結意さんがどうなっても知らないわよ?」

…んだと、この女。

「くく、私が、何も考えないで貴方を閉じ込めたと思ってたのかしら?
今頃はお友達が、それともお姉さんかしら? そいつらが神坂くんを探してるでしょうねえ。でも見つかりっこないわ。
当然、貴方の大切なモノを壊す準備もできてるのよ? そうして少しずつ、心を折ってあげる。」

…この女、許さねえ。
俺だけなら。俺だけならまだしも、結意をどうにかしようだって?
この腕に力が入るなら、その顎の骨を砕いてやるのに。

「ふふ、だから言ってるじゃない。たった一言、心を込めて言ってくれれば縄を解いてあげるって。
───愛してます、って言うだけよ。なぁんにも難しくないでしょ? あはははっ、それとももっと私から愛してあげなきゃ駄目なのかしら?
私は構わないわよ? 大好きな貴方のためだもの。時間だってたっぷりあるんだから。」

ケラケラ、と気味の悪い笑い声を上げる穂坂。
この女の妙な自信は一体どこからきているんだ…?
それに、今の言葉からひとつ気になることがあった。俺の大事なモノを壊す準備もできてる、と。
…もしかしたら、穂坂には誰か協力してる奴がいるのか…?
何でもいい、頭を働かせろ。考えるんだ。考えることをやめたら、その時こそ本当に″負け″だ。
…俺はこんな奴には、絶対に負けない。

459天使のような悪魔たち 第27話 ◆UDPETPayJA:2013/04/23(火) 19:14:57 ID:Npcaivzg
* * * * *



あれから、2日が経った。

穂坂の家で何の収穫も得られず、漠然と時間が過ぎていく。佐橋の方も相変わらず、予知も働かず、新しい情報もない。
結意ちゃんもなんとか登校はしているようだったが、履いている靴がこの2日で一気にボロボロになっていた。
加えて顔色も白く、目の下には濃いクマができている。
…恐らく1人で、身を削る覚悟で飛鳥ちゃんを探し回っていたんだろう。
なんとか登校してきているのも、学校でなら俺や佐橋から新たな情報を得られるかもしれないからだろう。
…そんな彼女に、未だ声をかけられずにいる自分が、歯痒かった。
穂坂はもちろん、学校に姿を表す事はなかった。担任も、連日の無断欠席を珍しがっていたくらいだ。
瀬野の言葉もそうだったが、これで穂坂が犯人だという事が確定したとも言える。
…とはいえ、果たして穂坂1人で、ここまで見事に飛鳥ちゃんを攫って隠れられるものなのだろうか。
俺はこの2日間、穂坂には協力している者がいるのではないか、とも考えていた。
授業中も、飯を食っているときも、廊下を歩いているときも、ずっと思考をそれに費やしていた。
…だが、俺は穂坂の人間関係を網羅している訳ではない。協力者がいるという線も、憶測の域を出ない。
それだけに、下手な事を言って結意ちゃんを刺激したくなかったから、未だその可能性を言えずにいる。

放課後のチャイムが鳴ると同時に、教室を出て結意ちゃんのクラスへ向かった。
今日はどうしても行っておきたい場所があったからだ。気まずくとも、結意ちゃんに会ってそれを伝えなくてはならない。
この2日間、結意ちゃんは先に1人で帰ってしまっている。結意ちゃんが帰る前に、捕まえておきたかった。
15秒とおかずに結意ちゃんのクラスへ向かった結果、結意ちゃんはまだ教室内にいた。
いつも通りの明るい雰囲気の中、ただ1人だけ異質なオーラをまとう。
大事なものを無くした、哀しみと怒り、そして寂しさだろうか。その空間にいる結意ちゃんは、誰よりも孤独に見えた。
そして結意ちゃんは俺の顔を見つけると、暗い表情のままで、教室の外まで歩み寄ってきた。

「……………なに…?」
「ちょいと病院まで行こうと思ってね。亜朱架さんの事、気になるんだ。」
「…………私も、行くよ。」
「そう言うと思ってたぜ、行こうか。」

余計な言葉を交わす事は、殆どない。今の結意ちゃんに、そんな余裕などないからだ。
ただ黙って、歩幅を結意ちゃんのペースに合わせて歩き出す。

「………この前は、ごめんなさい…」

足を運びながら、顔を合わせる事もなく、けれど小さな声で、結意ちゃんは言った。

「……ひとに当たったって、なんにもならないのに…わたし…」
「いいんだ、気にするなよ。」

どうやら、この前の自分を振り返ることができたようだ。
瀬野は残念ながら怪我で動けない状態だが、あいつも結意ちゃんの事を憎くは思ってはいまい。
たった一言、簡単な言葉で彼女の謝罪を受け取る事にした。


途中、何人かが俺たちとすれ違う。本来なら飛鳥ちゃんがいるべき場所に俺がいるという、いつもと違う姿に違和感をもった連中もいるだろう。
…当然だ。ここに在るべきは俺じゃない。一刻も早く事態を解決して、飛鳥ちゃんを取り戻す。
そうする事でしか、この小さなお姫様を救う事はできないのだから。

460天使のような悪魔たち 第27話 ◆UDPETPayJA:2013/04/23(火) 19:17:02 ID:Npcaivzg


* * * * *


木曜日の病院は、大抵の科が午後は診察を行わない場合が多い。亜朱架さんのいるこの病院も、例外ではなかったようで、2日前と比較して明らかに人の数が少ない。
医者と葬儀屋は暇な方がいい、とよく言うように、俺もこの光景は嫌いではなかった。
若い俺たちはエレベーターなどに頼らず、階段で3階まで上がり、すぐ目の前にあるナースステーションで面会の記帳をする。
目指す病室はそこから少し奥の角部屋。表札には2人の名前があったが、ドアを開けてみると幸いな事にもう片方の患者さんは現在留守にしている。これなら問題ない。
…さて、カンの良い結意ちゃんならば俺が何をしにここまで来たのか、そろそろわかっているかもしれない。

今日の目的は、″神坂 明日香を修正する″ことだ。
飛鳥ちゃんへの歪んだ感情を抱えた妹ちゃんの存在は、誰がどう見ても危険だ。もう、子供の駄々で済むレベルではないくらいにな。
事実、結意ちゃんは妹ちゃんに2度も殺されかけてるんだ。それに…記憶だけとはいえ死んだ人間がいつまでもこの世に留まるべきではない。

病室の最奥、白いカーテンに四方を仕切られたベッドの中を訪ねる。そこにはもちろん、亜朱架さんの姿があった。
俺は意識を目の前の少女へと集中し、深呼吸をする。
特に深い意味はないが、大きな作業をする時は深呼吸をするようにしている。本当は、人一人の記憶やら何やらを修正するのは、結構疲れるんだ。
より精度を高めるための、軽いまじないのようなものだ。

「…! 斎木くん、まさか…?」結意ちゃんも、俺が何をしようとしているのか勘付いたようだ。
俺を見て、亜朱架さんの方を見て…その動作を何度か繰り返している。そのうちに俺の準備は万端となった。
貯めた力を腹の底から一気に送り出すように、深く息を吐く。
これでさよならだ、妹ちゃん………

「待って!!」

突然の事だ。結意ちゃんは大声で待て、と叫び、俺を制した。
なんのつもりだ、結意ちゃん? 止める理由などないだろう? 疑問符を脳裏に浮かべる俺と反対に、結意ちゃんはこう呟いた。

「…様子がおかしいよ。さっきから、息する音がしない。」

結意ちゃんは亜朱架さんの体を包む大きな布団を、一気にまくり捨てる。
布団の下には…赤色に汚れた入院着をまとう亜朱架さんがいた。

「亜朱架さん!!」

反射的に身体が動き、その小さな少女を抱きかかえる。
軽い。…それだけじゃない。よく見ると肌には血の気がない。
出血元であろう左手を見てみると、血管に沿うように″縦に″鋭利な傷口があった。それも、そうとう深い。
…自殺を図ったのか? だけど、まだ身体は温かい。まだ助かる!
俺が考えるよりも数倍早く、結意ちゃんはナースコールを押そうとしていた。だが、結意ちゃんのとったコールは、根元の方でばっさりと線が切られていた。
ちっ…、と舌打ちをして断裂したナースコールを投げ捨て、結意ちゃんは隣のベッドのナースコールへと駆け寄り、押した。
こんな時でもこういう機転が効くところ、今はありがたい。
それよりも、だ。亜朱架さんは恐らくもう死ねない身体ではないのだ。彼女は自分で自分の力を消したのだろうから。…だとすれば? 俺の力を使えば、それも元に戻るのではないか?
やるならば医者が来る前にだ。俺は亜朱架さんの身体を抱きかかえたまま、溜めていた力を開放した。
白く、柔らかな光が瞬く。結意ちゃんもそれに気付いたのか、固唾を呑んで俺を見ている。
…けれど、それが意味をなさなかった事に気付くのには、そう時間はかからなかった。
いつもなら亜朱架さんの意思とは関係なしに治癒するはずの傷は、塞がらない。体温も戻らないし、呼吸も弱いまま。
むしろ、唇がより淡い土色に変化していく。治っていないのだ。

461天使のような悪魔たち 第27話 ◆UDPETPayJA:2013/04/23(火) 19:18:13 ID:Npcaivzg
「馬鹿な! どうして!? なんで治らないんだよ!?」たまらず、俺は叫んでいた。
それを見ていた結意ちゃんは、静かに口を開いた。
「………それが、自然の姿だからだよ。」
「自然…の…、姿…?」
「在るべき姿に修正する能力、だったよね。今のお姉さんは、普通の人間と変わらないんじゃないの…?
だから、修正もなにも関係ない。それが本来あるべきものだから、じゃないかな…?」
「そん、な…死なない身体が、それ自体が、自然に逆らってるから…? だから俺の力では治せないってのか…?」
「たぶん…そう。」

…なんてことだ。
亜朱架さんは俺の推測では、自分で自分の力を消した。それと同時に、亜朱架さんの特異性も失われていた。そしてこれだ。自分から、望んでこれをしたとでも…死にたかったとでも言うのか。

「…ふざけんなよ…! 貴女だけ逃げる気かよ!? 俺たちの背負った罪から!
第一、貴女は飛鳥ちゃんの家族でしょうが!! 飛鳥ちゃんが何を望んでるのか、わかっててやってんのかよ!? ええ!?」

そうだ。飛鳥ちゃんは俺たちのせいで色んなモノを失った。だからあいつは、もう何も失いたくないと願っているんじゃないか。

「絶対に、死なせるものかよ。地獄からでも引き摺り出してやるからな!」

もう間もなく、ナースが飛んでくるだろう。大丈夫、亜朱架さんは助かる。
俺は自分にそう言い聞かせながら、自分の言葉を噛み締めた。



* * * * *

4時間後───集中治療室へと運び込まれ処置を受けた亜朱架さんは…なんとか一命を取りとめた。
聞けば、相当危険な状態だったと…あと数分遅かったらこの世にいなかっただろう、という。
俺たちが来なかったら、或いは…これも必然なのだろうか?
微弱な心音を探知し、電子音が響く病室の中にはまだ入れてもらえない。あとは医者に任せる他ないのだ。

「…少し、外に出ないか?」俺はあくまで平静を装いながら、結意ちゃんにそう持ちかける。
外の風を浴びて、この陰惨な空気を吐き出したかった。しかし結意ちゃんは何も言わず、代わりに首を横に振る。
「少し、出てくる」と言い残し、俺だけ外に向かうことにした。
今回の事…結意ちゃんだって、飛鳥ちゃんの事があるんだ。それなのに次々も問題が起きて…相当まいっているのが、顔を見てすぐわかるほどだ。
本当に…あいつ、呪われてるんじゃないだろうかと悪態もつきたくなるが、結意ちゃんが近くにいる手前、声には出さない。
とにかく、今の俺にできる事は穂坂の居所を暴くことだ。それが全ての解決に繋がる。それさえわかれば…
けど、本当にあの女はどこに行方を眩ませたのだろうか? 済んだ話だが、家がわかってしまえばそれまでだから、隠れ家を変えるのは当然だ。
ただし、その家さえも瀬野がいなければ場所すらわからなかったのだが。…それすらも、読んでいたと?
確かに、瀬野の結意ちゃんへの気持ちは本物だろう。馬鹿な言動や行動が目立ってはいたが。
…考えすぎだ。そもそも家の場所など、適当に聞いて回ればわかる。単に雲隠れしただけなのかもしれない。
とすれば…大の男を拘束するなりして、何日も過ごせる場所か。そんな所…どこにある?
退院の直後に行方を眩ませたのだから、存外遠くへはいないのかもしれない。
女だとて、男を倒す方法くらいあるだろう。だが、運ぶとなるとそう遠くへは行けない。誰かが手伝いでもしなければ…

「そうだよなぁ…問題はそれだけじゃねえんだった。」と、ひとりぼやく。

協力者がいるとしたら、誰だ? 穂坂を手伝うことで得られるメリットなど…
単に結意ちゃんに恨みがあるとか、飛鳥ちゃんを恨んでるとかだろうか。…そんな奴、それこそ穂坂以外にいるのか?
…わからない。段々と、情報の断片で頭の中がこんがらがってくるのを感じる。今は、少し気持ちを落ち着かせよう。

462天使のような悪魔たち 第27話 ◆UDPETPayJA:2013/04/23(火) 19:19:06 ID:Npcaivzg
外に出て、ため息をつきながら携帯のオフラインモードを解く。どうせこの電話が鳴る事など滅多にないのだが…
と、電波が繋がったとたんにメールの着信が来た。この数時間の間に溜まっていたのか、6件ものメール表示がされる。差出人は…佐橋?
まさか、新しい事がわかったのだろうか。メールには、「どこにいる」「すぐにかけろ」などと記されていた。
俺はすぐさま、電話帳から佐橋の番号を呼び出し、かけた。

「よう、佐橋。悪い、病院にいたから切ってた。」
『病院!? 病院にいるのか!』その声色は、どこか切羽詰まっているようにも感じられる。

『織原はどこにいる!? 一緒じゃないのか!?』
「結意ちゃん? ああ、一緒に亜朱架さんの見舞いに来てるんだ。今は俺だけ外に出てる。…どうかしたのか?」
『すぐに医者を呼べ! いいか、俺が視たのは───』
「えっ…」

佐橋の口から語られた未来。それを聞いたとき、頭からサーッと血の気が引くのが、自分でもわかった。

「結意ちゃん!!」俺は携帯を開いたまま、さっきまで居た所へと駆け出した。
何を注意されようと構うものか。どうせ夕方で人気などほとんどないんだ。そんな瑣末な事など、気にしてられるか。
集中治療室から移った2階の病室、その近くのベンチまで走って戻ってきた。結意ちゃんとはつい4、5分前にここで別れたばかりだ。なのに。

「な…んなんだよこれ、何が起こったってんだよ!」たまらず、そう怒鳴る。
訳がわからない。いったい、結意ちゃんが何をしたってんだ。どうしてこんな事しか起きないんだ。これ以上、この娘から何を奪えば気が済むんだよ…!

病室の前のベンチから、まるで崩れ落ちたかのように結意ちゃんは倒れていた。
───大腿から流れ出たであろう、夥しい量の血溜まりとともに。

463 ◆UDPETPayJA:2013/04/23(火) 19:23:30 ID:Npcaivzg
27話終了です。
途中、操作ミスで2回同じ文を書き込み…orz
年内完結と言いつつ大幅に遅れてしまいました。

464雌豚のにおい@774人目:2013/04/24(水) 05:01:59 ID:jJk6WJ22
ここまで続けたのはすごい!
完結応援してます

465雌豚のにおい@774人目:2013/04/24(水) 23:57:44 ID:lxWhhWzY
凄い古参さんだよなこの作者。一回途切れたけどここまで続いてるし。結意ちゃんは結ばれる前の一方通行なところが可愛かった。今はお姉ちゃんが可愛い事に気付いてしまったがw

466雌豚のにおい@774人目:2013/04/25(木) 18:57:46 ID:GjKUa9ds
いいネタ思い付いたし書いてみるかな初めて

467雌豚のにおい@774人目:2013/04/25(木) 21:45:32 ID:0EnkgWW2
>>466
応援してる。楽しみにしとるぞ。

468雌豚のにおい@774人目:2013/04/27(土) 23:45:14 ID:KwxTu0as
ディストピア超期待!

469雌豚のにおい@774人目:2013/04/28(日) 17:28:55 ID:1yLE2xlk
誰かヤンデレ幽霊か守護霊系書いてくれないかな(チラッ)

470初めてだから許してね:2013/04/28(日) 23:10:15 ID:0BZOEZb.
さて、皆さんこんにちは。
私の名前は…まあ、田中(仮)とでも呼んでください。
実は、私には特別な力がありまして、そう、あれは幼稚園児だった頃の……
えっ、話が長い、結論を言えって?
すいません、これもこの力のせいなんです。
何が言いたいかというと、
ズバリ私………霊が見えるんですよ!!

………なんですかその目は?まるで信じてませんね、私の言葉?
いいでしょう!!
出血大サービスであなたにも聞かせてあげますよ、霊の会話を!
ちょうど目の前に3匹の動物霊がいますしね。

雄猫(以下タマ)「二人とも、喧嘩はよくないよ。仲良くしてよ!」
雌猫1(以下ミー)「あら、私はどうでもいいのよ?あなたが私を選んでくれるならね?」
雌猫2(以下モモ)「なに言ってんの!?あんたからふっかけてきたんじゃない!」

おやおや、どうやら痴情のもずれ、いわば修羅場ですね。
えっ、私が邪魔?はあ、どうもすいません。

471初めてだから許してね:2013/04/28(日) 23:14:56 ID:0BZOEZb.
ちょっと風呂入ってきます。
小説って難しいね、みんなよく書けるよ。

472初めてだから許してね:2013/04/28(日) 23:58:28 ID:0BZOEZb.
「だいたい何なのアンタ?野良でもないくせに、こいつに近寄らないでよ!!
  私たちはね、相思相愛なの!分かる!?」
(えっ!?僕そんなこと言ったっけ?)
「あなたこそ、理解してるの?私たちはすでに死んでいるのよ。
  野良がどうとか関係ないわ。それに彼は、私を選んで一緒に死ぬことを選んだのよ。
  飼い主から私を解放しようとしてね…。」
(あ、あれは一緒に遊びたいから、鍵を開けてって言ったからなんだけど…)
「うそ……、そんなの嘘よ、ウソに決まってる!!」
「嘘なんかじゃないわよ、その証拠に私と彼はほぼ同時にこっちに来たわ
  それに……彼との夜の遊びもすごく気持ちよかったし。」
「!!!」
(夜の遊びって…、一緒に塀の上を歩いたこと?)
「……ロ…ヤル」
「「?」」
「殺してやる、絶対にコロシテヤル!!こいつのそばには私だけがいればいい
私のそばにはこいつだけがいればいい生まれた時から今までずっとずっとそうだったのに
どんなことがあってもいっしょだったのにお前がそれを邪魔したんだ許さない許さない許さないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないユルサナイユルサナイユルサナイぜっっっっっっっっ……………ったいに許さないっ!!!この…………」


              泥棒猫がっ!!!!

…いかがでしたか、霊の会話は?
えっ、もっと普通の霊はいないのかって?
そりゃあ、もちろんいるでしょうよ。今こうしてる間にも霊は増え続けているのですから。
そっちを見せろって言われても残念ながら私の見える霊はみんな修羅場、しかも男の取り合いしか見えないんですよ。
なんでか?
よくぞ聞いてくれた!あれは私が幼稚園児だった頃、死にかけていたとき……
え、そんな、興味ないなんてひどい……。
…まあ、何が言いたいかというとあなたのそばにもいるかもしれないってことですよ。
私のようにね。
では、またどこかで会いましょう。

473初めてだから許してね:2013/04/29(月) 00:04:09 ID:TWmfyzvc
ごめんなさい、上の方々に申し訳ない。

469に応えたかったんだ・・・

474 ◆Uw02HM2doE:2013/04/29(月) 02:15:44 ID:U5TZa/8o
>>473 GJ!田中さんモエス…。
この流れに乗って自分も守護霊ネタ投下致します。
よろしくお願い致します。

475死んでも愛してる(守護霊的な意味合いで) ◆Uw02HM2doE:2013/04/29(月) 02:21:13 ID:U5TZa/8o

突然だが、皆さんは守護霊というものを信じるだろうか。
そもそも霊なんてこの世には存在しないと思っている人が大半なのではないだろうか。
かくゆう俺も、霊否定派の一人だったりした。この世に幽霊なんて、馬鹿馬鹿しい。
そう考えていた。少なくとも、アイツに出会うまでは――













死んでも愛してる(守護霊的な意味合いで)














「やべっ、遅刻する!」
勢いよく家を飛び出した黒髪の少年は腕時計を確認しながら、通学路を全力疾走していた。
彼の走りに合わせて揺れるネクタイに入っている二本線が、地元の高校の二年生であることを示している。
『……もう、諦めて歩きましょ』
何処からともなく透き通った声が聞こえるが、少年の周りには誰もいない。
「ふざけんなっ!!誰のせいで毎日遅刻してると思ってんだ!!」
中性的な顔立ちの少年は誰もいない空間に向かって話し掛ける。
もし何も事情を知らない人がこの様子を見たら、この少年――高坂春(こうさかはる)のことを間違いなく変人だと思うに違いない。
『だって……春が苦しそうだったから』
「ありがとな……って、苦しくさせたのはお前だ!!」
また誰もいない空間にノリツッコミをしながら春は全力疾走を続ける。校門が春の目の前に迫った瞬間――
『……また遅刻ね』
「ち、畜生……」
『気にすることないわ。春のせいじゃないもの』
「だからお前のせいだよ!!」
ホームルームを告げる鐘が校舎に響くのを、春は聞きながらとぼとぼと校門を通った。

476死んでも愛してる(守護霊的な意味合いで) ◆Uw02HM2doE:2013/04/29(月) 02:46:32 ID:U5TZa/8o

代々、由緒正しい高坂寺院の一人息子には守護霊が付くとの言い伝えがあった。
書物を辿れば高坂一族の起源は鎌倉時代、それこそ鎌倉仏教が栄えた時代まで遡るらしい。
数々の胡散臭い巻物によれば、高坂家の当時の一人娘が流行り病で亡くなってしまい、それを大層悲しんだ領主様が彼女を神格化しようと色々な話を作ったという、何ともアホくさい話だ。
それら空言の中に、高坂家の一人息子には、いつまでも守ってくれるようにその鎌倉時代の幽霊が付いてくれる、なんていう話があった。
理由なんてない、どうせ亡き娘の為に創られた戯言なのだから。
つまり、ただの作り話でしかなかった――はずだった。





放課後の教室で春は黒板の掃除をする。"一人で教室清掃を行う"。
これが本日の春に課せられた罰だった。
「くっそ……」
『……もう帰ろうよ、春。私、待つの疲れた』
「そうだな……ってお前幽霊だろうが!?」
『……?』
「お前だよ、お前!小春!」
春が指差した先には首を傾げる少女が"居た"。
巫女服を着ており、肩まで掛かる黒髪に人形のような端正な顔立ち。
街中を歩いた途端、皆が振り返る。そんな美人だった。
『やっと名前で呼んでくれた』
「……っ」
春は無視して黒板の掃除を再開する。いくら幽霊だからといってもかなりの美少女だ。
そんな美少女に微笑まれたらにやけずにはいられない。春だって17歳の健全な男子だ。
美少女の笑顔にドキドキするのは当たり前だが、幽霊に別の意味でドキドキする自分を認めたくはない。
『春……?』
「掃除中だから話し掛けるな。独り言を言ってる、変な奴に思われるだろ」
『……分かったわ』
今年の4月。
春の17歳の誕生日に彼女、高坂小春(こうさかこはる)はいきなり彼の前に現れた。
自分は鎌倉時代に流行り病で死んだ後、奉られ守護霊として春を守る為に蘇った、と。
いきなり意味不明な説明をされた春だったが、家系図や高坂一族の歴史と彼女の言っていることが一致していること。
そして何より春以外には姿が見えないことから、今まで自分が否定してきた幽霊を自ら認めざるを得なくなった。
「はぁ……」
しかし、春は思う。何が守護霊だ、と。
自分を"小春"と呼んでくれと宣ったこの自称守護霊のせいでどれだけ春が被害を被っているのか。
春にしか見えないにも関わらず四六時中話し掛けきて、無視すると耳元で嫌味を言われ、勉強していると遊ぼうといって邪魔をしてくる。
そのくせ容姿が抜群に良いから一緒にいると中々集中出来ないし、挙げ句の果てには最近、巫女服を脱いで『……抱いて?』とか言ってくる始末である。
おそらくこの前見た月9ドラマのラブシーンに影響されているのだが、そのせいで今朝も……諸事情により準備が出来ず、遅刻した。
更には俺が女子を話をすると『止めて』とか『そいつは高坂一族の敵よ』とかを耳元で呟いて邪魔してくる。
おかげでこの半年、春に出来た女子の友達は――
「また遅刻したの、高坂君!?」
「あ、三好」
『……!』
「"あ、三好"じゃないわよ!毎回遅刻して!」
茶髪のポニーテールが良く似合う、隣のクラスの三好沙織(みよしさおり)だけだった。
一年生の時に仲が良かった彼女は、隣のクラスにも関わらず何かと春を助けてくれている。
「あはは……」
「もう……後はゴミ出しだけでしょ?……半分持つわよ」
若干顔を赤らめて三好はゴミ袋を半分持つ。何故顔を赤らめるのか、疑問に思いながらも春は沙織の申し出を有り難く承けた。
「ありがとう!いつも悪いな、三好」
「高坂君が億劫なのは今に始まったことじゃないしね」
「あはは……本当、ありがとな」
「べ、別に好きでやってるだけだから……」
夕焼けに染まった教室で仲睦まじく話す二人を、小春はじっと見つめていた。
「…………」
怒るわけでもなく、会話を邪魔するわけでもない。
三好を品定めするようにただ、見ていた。

477死んでも愛してる(守護霊的な意味合いで) ◆Uw02HM2doE:2013/04/29(月) 02:47:18 ID:U5TZa/8o

「そういえばさ」
『何、春?抱いてくれるの?嬉しいわ』
「うん……って違うわ!」
結局、そのまま三好と下校した春は彼女と途中まで帰っていた。
三好は電車通学なので駅まで彼女を送った後、一人で暗くなった帰り道を歩く。
横には小春が寄り添っているが、勿論春以外には見えるはずもない。
「小春はさ、俺と三好が話してる時は何故か邪魔しないよな」
『……なんのこと?』
「なんのことって……」
『私は一度だって春の会話を邪魔したことはないわ』
「ただし男に限る、だろうが!」
ビシッと指差す春を小春は不思議そうに見ていた。
『…………?』
「お前のことだよ!」
小春のいる方を指差しながらもう一度突っ込みを入れる春。
この半年間、小春のマイペースぶりに何度翻弄されたことか。
二度と振り回されまいと誓うが、それが守られたことは一度もない。
「……まあ、良いや。邪魔しないなら良いし」
『……春』
「ん?」
『春は……あの三好とかいう女が、好き?』
「なっ――」
『好きなの?』
いきなりの質問に面食らっている春を、小春はじっと見つめる。
心の奥まで見透かされそうな瞳に、春は思わず目を逸らした。
「……べ、別に好きでも嫌いでもないけど」
『……そう』
春の答えに満足したのか、それとも興味がなくなったのか。
小春はそれ以上何も聞いては来なかった。
何故、小春はそんな質問をするのだろう。得体の知れない不安が、春の頭をよぎる。
「……何考えてんだ、俺は」
『どうしたの、春?私を』
「抱かんわ!」
首を軽く振りながら春はそんな不安も一緒に振り払った。小春は幽霊だ。
今は纏わり付いているが、そのうち成仏するだろう。だからそれまで彼女の我が儘に付き合ってやればいい。
すっかり暗くなった空を見ながら、春はそう思った。

478死んでも愛してる(守護霊的な意味合いで) ◆Uw02HM2doE:2013/04/29(月) 02:48:00 ID:U5TZa/8o

「はぁ……」
ヘアゴムを取って三好はベットに倒れ込む。今日の出来事を思い返して、枕に顔を埋める。
「……また、駄目だった」
後一歩が踏み出せない。いつからだろう。気が付けば自然と彼を目で追っていた。
話していて、もっと話したいと思った。それが特別な感情だと気付いたのは最近のことだ。
彼が、高坂春が他の女子と話していると、何故かイライラしてしまう。
友達に相談して「それは恋だよ沙織!」と言われるまで、恥ずかしながら気が付かなかった。
というか今でも三好自身、まだ半信半疑ではある。
「なんで言えないかなぁ……」
今日だってチャンスは何度もあった。春とは中の良い友達。
なら"遊び"に誘うくらい簡単なはず。なのにその一歩を、三好は踏み出せずにいた。
「うぅ〜」
足をバタバタされながらもどかしさに悶える。春はどう思っているのか。
ただの友達としか思っていないのか。三好の頭はそんなことで一杯だった。
だから――
『……やっぱり理解出来ない』
「…………えっ」
『何で貴女なんかが、兄様……いえ春の目に留まるのか』
目の前に急に顕れた存在にすぐには気が付かなかった。
"それ"は無表情で三好を見下ろす。まるで下劣なものでも見るかのように。
あまりに突然の出来事に三好が反応出来ずにいると、巫女服を来た少女はゆっくりと三好の頭に手を置いた。
『何故、私が死んだか知ってる?』
「……………っ!?」
その時初めて、三好は自分自身が指一本動かせなくなっていることに気が付いた。
まるで金縛りにでもあってるかのように、喋ることすら出来ない。
『私にはね、"能力"があったの。触れた相手に乗り移れる、そんな力』
何も出来ない三好に少女は静かに語りかける。
『でもね、皆が私を畏れたの。父様も、村の皆も私の能力を……祟りだと言ったわ』
「…………」
『でもね、あの人だけは違った。私が大好きで兄様と慕っていた彼だけは、私を認めてくれていた』
三好は考える。一体この少女は自分にこんな話をして、どうするつもりなんだろうか。
少女の眼はまるで全てを吸い込んでしまうように真っ黒だった。
兄様?能力?全く意味が分からないが、このままでは恐ろしいことをされてしまうような気がした。
『だから、私が父様に殺されて、兄様も私を守ろうとして一緒に殺された時……誓ったの』
「……………っ!!」
急に三好の頭に激痛が走る。脳みそごと記憶をぐちゃぐちゃにされるような感覚。
身体は全く動かない中で、感覚だけはやたら鋭くなっている。
目の前にある少女の顔は相変わらず無表情で、何も写さぬ瞳は三好を見ているかさえ怪しかった。
『来世では必ず結ばれようって……まさか高坂家の長男として産まれてくるとは思わなかったけど』
クスッと笑い、少女は初めて表情らしい表情を見せる。
ただ、三好にとってはそれすら不気味だった。
『だからね、私がこの時代に霊として蘇ったのは、運命なの。兄様と瓜二つな……生まれ変わりの春と結ばれるのは……運命なのよ』
「…………っっ!!?」
あまりの激痛に三好は悶えようとするが、身体はぴくりともしない。
意識も段々朦朧とし、少女の声だけが脳に響く。
『……大丈夫。もう終わるわ。貴女の身体、"しばらく"借りるわね』
少女の冷たい微笑みが、三好が意識を失う前に見た最後の光景だった。

479死んでも愛してる(守護霊的な意味合いで) ◆Uw02HM2doE:2013/04/29(月) 02:48:32 ID:U5TZa/8o

「わぁ!大きい!」
「ちょ、あんまりはしゃぐなよな!」
ポニーテールを揺らしてはしゃぐ三好を、春は慌てて追い掛ける。
超巨大テーマパークということもあり、目を離せばすぐに見失ってしまいそうだ。
「早く早く!私、こういうの初めてなんだから!」
「今時ここ来たことない奴なんて――」
「いいから早くっ!」
「うおっ!?わ、分かった分かった!」
三好に手を握られ春は思わず緊張してしまう。
最近、三好は積極的に春との距離を縮めていた。
今日のデートも三好から誘ったものだ。
春自身も三好のことは前から気になっていたので、正直まんざらでもないのだが。
「ほら!ショーに間に合わないよ!」
「よし、急ぐか!」
ぐっと手を握られて春はどきまぎする。
三好ってこんなに積極的だったっけ――そんなことも考えたが、事実積極的なので、これが本当の彼女なのだろう。
普段なら小春が邪魔して来そうな光景だが、ここ最近小春は姿を見せなくなっていた。
もしかしたら成仏してしまったのかもしれない。少し寂しい気もしたが――
「あ、春!始まるよ!」
隣ではしゃいでいる三好を見ているとそれは些細なことのような気がした。
「……ね、春」
「何だ?」
「私のこと、好き?」
「……えっ!?」
「私は、春のこと好きだよ」
突然の告白に驚く春を三好はじっと見つめる。
全てを見透かしそうな目線に、思わず春は眼を逸らしてしまう。
――何処かで感じたことのある目線。
「春……?」
「……お、俺も好きだよ三好のこと――」
言い終わらない内に三好は春にキスをする。
突然のことの連続で頭がパンクしそうな春に三好は――
「嬉しい……。私、春好みの女の子に"なれる"よ。だから遠慮なく、"飽きた"ら言ってね?」
笑顔で囁いた。

480 ◆Uw02HM2doE:2013/04/29(月) 02:50:12 ID:U5TZa/8o

以上になります。
GWもヤンデレに愛されて眠れませんように。
ありがとうございました。

481雌豚のにおい@774人目:2013/04/29(月) 03:16:21 ID:QO2RJn3M
おちゅ

482雌豚のにおい@774人目:2013/04/29(月) 06:19:30 ID:XaVQW2lA
>>473
>>480

二人ともGJ!
幽霊とは可愛いものだったのだな

最近久しぶりの人が何人も帰ってきて嬉しいよ

483雌豚のにおい@774人目:2013/04/29(月) 06:40:42 ID:TWmfyzvc
GJ!
圧倒的・・・実力差・・・・・・・ッ!
もう恥ずかしくて次から書き込めないや・・・。

484雌豚のにおい@774人目:2013/04/29(月) 07:24:53 ID:VlGxNXr.
リクエストした者です!二人ともありがとうございました!最高です!
もう死んでもいい……おや?誰か来たみたいだ。

485雌豚のにおい@774人目:2013/04/30(火) 01:32:04 ID:g0gPsTl6
二人ともGJです

486 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/30(火) 22:17:56 ID:giOYDAww
こんばんは。
完全に流れに乗り遅れた上に、目新しいネタでもないのですが、
電波を受信したので投下します。

487八尺様と僕 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/30(火) 22:19:45 ID:giOYDAww
“八尺様”という妖怪がいる。
インターネットの怖い話系のサイトでは相当有名なので、聞いたことのある人も多いかも知れない。
八尺様は、女性の姿をしていて、名前の通り身長がとても高い。ゆうに2メートル以上はある。
身長以外の容姿は目撃証言によって様々で、若い女性だったり、おばあさんだったりするらしい。服装も出てくるたびにまちまちだが、いつも頭に帽子か何かを乗せているのは、毎回共通しているそうだ。
伝承によると、八尺様は男に魅入るらしい。「ぽぽぽぽ」という独特の笑い声とともに、魅入る相手の元に現れ、魅入られた男は、数日のうちに取り殺され、行方不明になってしまうという話だ。
ただ、八尺様はお札や塩といったいわゆる清めの道具が苦手で、魅入られた男がそれによって難を免れたこともあるのだとか。

最初にこの話をインターネットで見たとき、ヘタレな僕は猛烈にガクブルしたものだった。とは言っても、特に霊感があるわけでもない平凡な高校生の僕にオカルトチックな出来事は訪れず、普通の学校生活を送っているうちに、八尺様の記憶は次第に薄れていった。

ある夏休みの日の午後、僕は体力作りのためにランニングをしていた。町内を大きく周り、休憩を取るために、町外れの公園に入る。わりと大き目な公園は、近所に住んでいるであろう人達の姿が、ちらほらとあった。
僕はベンチに1人座り、ペットボトルのスポーツドリンクをぐびぐび飲みながら、手足をだらりとさせて体力の回復を待っていた。すると、どこからともなく、人の声らしきものが聞こえてきた。
「ぽぽっ、ぽっ、ぽぽぽぽっ……」
最初は、何なのだろうと思った。笑い声にしては、ちょっとおかしい気がする。しかし、声のする方を向いた瞬間、僕の背筋は一瞬で凍り付いた。
僕から3メートルも離れていないところに、とてつもなく背の高い、若い女の人が立っていた。
八尺、つまり2メートル40センチまでは行かないかも知れないけど、軽く2メートル以上は間違いなくある。
薄手の白いワンピースに、鍔の広い白い帽子。長いストレートの黒髪は、膝下まで伸びていた。
そして、「ぽぽぽぽ……」という笑い声。
何から何まで、伝承に出てくる八尺様の特徴にそっくりだった。
――まさか、八尺様が本当に……?
ランニングしていたときとは比較にならないほど、動悸が激しくなった。冷や汗が全身を伝い、ペットボトルを思わず取り落としてしまう。
――いや待て、落ち着け。そんなはずない……
僕は必死に冷静さを取り戻し、考えた。八尺様なんて、本当にいるはずがない。それに、伝承では、八尺様が出るのは田舎の話のはずだ。ここみたいな、都会と離れていない、住宅街に現れるはずがないと思った。
――そうだ。この女の人はただ単に背が高いだけだ。ネットで八尺様の話を聞いて、ふざけて真似してるだけなんだ……
無理に自分にそう言い聞かせると、僕はペットボトルを拾い、わずかに残っていた中身を飲み干した。

488八尺様と僕 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/30(火) 22:21:13 ID:giOYDAww
そうしている間に、その八尺様似の女性は「ぽっ、ぽっぽっぽっ……」と笑いながら、僕の方に寄ってきた。そして、僕の隣に腰かける。僕の方を見ているらしく、視線を強く感じる。
僕は、女性の方を見なかった。例え人間だったとしても、妖怪のふりをして人を脅かそうとしているわけだから、悪質なことに変わりはない。どうやってさりげなくこの場を去るか、考え始めた。
そのとき、すっと女性が立ち上がった。すたすたと歩いて、ベンチから遠ざかっていく。よかった。自分からいなくなってくれるのか。
と、思いきや、女性はおかしなことを始めた。公園に居る人達に近寄ると、大きな身をかがめて、肩を叩いたり、目の前を横切ったりし始めたのだ。
それを見ているうちに、僕の中で、だんだん気味の悪さが募ってきた。
異様なことに、誰一人、女性の行為に反応したり、見たりしないのだ。まるで、女性がいるのに、誰も気が付かないかのように。
普通だったら、こんな背の高い女性がいるだけで、注目が集まったっておかしくないのに。
――なんで……?
戸惑っていると、女性はベンチまで戻ってきた。そして体をかがめて僕に顔を近づけると、微笑みながらこう言った。
「ぽぽっ。あなたは、あなただけは私のこと、見えてるわよね?」
心臓を握り潰されたような気分になった。僕にしか見えないということは、まさか、本物の八尺様なのか。そして僕は今、その八尺様に魅入られている?
恐ろしさのあまり、体が震える。しかし辛うじて、八尺様の声に無反応を装うことができた。こういう場合、見えていないふりをするのが一つの対処法だと、怖い話のサイトに書いてあった記憶がある。
「…………」
僕は最大限に冷静さを装い、ペットボトルのキャップを閉めた。そして背中をベンチの背もたれに預け、休息するように見せた。
「見えてるはずよ。あなただけが、私を見えるようにしてあげたんだから」
八尺様がまた、話しかけてくる。巨体でもって目の前に陣取られているので、逃げ出すのは簡単ではなさそうだ。
「ぽぽぽぽ……初めてあなたを見た日から、目を付けていたのよ。私の連れ合いになって、一緒に来てもらうわ」
冗談じゃない。化け物に連れていかれてたまるか。僕は心の中で『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』と唱えながら、ぼーっとした表情を作り、八尺様に気付いていないふりをした。だが八尺様はますます顔を近づけてきて、ほとんど息がかかりそうになった。
顔をそむけたら、見えているのが分かってしまう。僕は八尺様とまともに顔を突き合わせるはめになった。八尺様の切れ長の眼が、まっすぐに僕を見詰める。ぞくりとするほど美しい顔立ちだった。
「…………」
見詰め合ったまま、僕が動けずにいると、八尺様はさらに言った。
「ぽぽぽ……無視をしても無駄よ。あなたの運命はもう決まっているんだから、諦めなさい」
「…………」
それでも僕が動かずにいると、八尺様は少し体を伸び上がらせた。身長を考えても相当大きな胸が、僕の眼の前に迫ってくる。
「ぽぽぽ……これならどうかしら?」
「!」
相手は化け物だというのに、恥ずかしくなり、僕はつい、顔を少し横に向けてしまった。それを見た八尺様が、勝ち誇った笑い声を上げる。
「ぽぽっ、ぽぽぽぽっ……やっぱり見えてるじゃない。さあ、私達の将来の話をしましょう」
そう言うと八尺様は、大きな手を広げて僕を捕まえようとしてきた。

489八尺様と僕 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/30(火) 22:22:19 ID:giOYDAww
「うわああああああああああああああああああ!!!!!!」
もう無理だった。僕はベンチから立ち上がると、人目もはばからず悲鳴を上げ、八尺様の脇をすり抜けて、一目散に駆け出した。
「ぽぽっ? 待ちなさい!」
後ろから八尺様の声が聞こえたが、振り返れるわけがなかった。公園を出て、走りに走ってからようやく後ろを見たが、八尺様は追って来てはいなかった。少しほっとする。
しかし、大変なのはこれからだと思った。
伝承に出てくる八尺様は、夜になったら魅入った男の元にやってきて、取り殺そうとするのだ。
僕のところにも、やってくるに違いなかった。
家に帰る前に、八尺様を防ぐ準備をしなければいけないと思った僕は、大急ぎで走る。
伝承では、八尺様に魅入られた男は、八尺様を遠ざけるお札も持たされ、窓をふさいだ部屋で一晩を過ごす。
その部屋の真ん中には仏像が、四隅には盛り塩が置いてあり、八尺様の侵入を一晩阻んだのだ。翌朝男は、家族や親戚と共に(親族が集まることで、八尺様から見て誰がターゲットか分かりにくくするため。男が部屋で籠城していた夜のうちに、男の祖父が呼び集めた。)村を出て、九死に一生を得るのである。
僕は田舎から都会に出てきて、独り暮らしをしながら高校に通っているため、親族を集めることはできない。だから、助かるためには、一晩籠城する必要はなく、すぐに町を脱出した方がいいということになる。
しかし結局、僕は夜の籠城を、伝承通りにやることにした。夕暮れが迫っていて、脱出の準備をしているうちに夜になるのは間違いなかったからだ。八尺様の力が強くなる夜間よりは、朝まで待って脱出した方がいい。
まず、町で一番大きな神社に大急ぎで行って、お札を買ってきた。どれが八尺様に効くか分からないから、全ての種類を買いそろえる。続いて骨董品屋で、仏像を買った。さすがに高かったが、命には代えられない。それから塩と、窓を塞ぐ厚紙を購入し、僕は住んでいるボロアパートに駆け戻った。
「急げ、急げ……」
悠長に支度をしている暇はない。厚紙をガムテープで窓に貼って、外から部屋を見えなくする。狭い部屋で窓の数も限られているから、そんなに手間はかからなかった。
それから、部屋の四隅にルーズリーフを置き、その上に塩をたんまりと乗せた。最後に、段ボールの箱の上に仏像を置き、インスタントの祭壇を作る。これで準備は完了だ。
食料や飲料水は、地震とかに備えていつも多めに買い込んでいるから、改めて買う必要はなかった。最悪、一週間でも籠城できる。もちろん、そんなに長引かせたくはないから、朝になったら町を脱出する予定だけど。
部屋の中の荷物を整理し、明日の為の服装も準備した。そんなことをしているうちに、夜はあっという間に更けていく。布団を敷いてその上に座り、ぼんやりと時間を過ごすことにした。
伝承では、テレビは見てもOKとなっていたが、見ても楽しめそうにないので点けなかった。いくらもしないうちに、僕は寝巻を着ると、電気を消して布団に横たわった。
この状態で、朝まで八尺様に侵入されないことが、助かるかどうかのひとまずの目安だ。外の光は部屋に入ってこないから、朝になったかは時計を見ていないといけない。
――このまま何事もなく眠れて、起きたら朝になってると、一番いいんだけど。
だが、そんなうまい話がそうそうあるわけもなく、思うように寝付くことができなかった。少しうとうとしては、眼が覚め、時計を見てまだ朝が来ていないのを知る。その繰り返しだった。

490八尺様と僕 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/30(火) 22:23:35 ID:giOYDAww
そして、真夜中を過ぎ、2時頃だっただろうか。
ボン、ボン
音がした。どこからだ? 僕は体を強張らせた。
ボン、ボン
窓からだった。何かが窓ガラスを叩いている。
――八尺様だ!!
それ以外考えられなかった。僕の部屋は2階にあり、八尺様でもそのままでは窓に手は届かない。しかし、何かの上に乗るかすれば、簡単に窓を叩けるはずだった。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
僕は震えながら、仏像を拝み、一心に念仏を唱えた。
「昼間は、ごめんなさい……」
八尺様の声が聞こえる。聞いたら駄目だと思った。
「怖がらせるようなことを言ったのは謝るわ。だからお願い。ここを開けて。お話をさせて」
ボン、ボン
冗談じゃない。僕は神社で買ったお札を何枚も握り締めた。
「本当はね、あなたが怖く思うようなことは何もないの。ただ仲良くしてほしいだけなのよ。お願い、そんな塩とかお札とか仏像なんか仕舞って。私を中に入れて」
ボン、ボン
無理。無理。絶対に無理。僕は両手で耳を塞いだ。だが、八尺様の声は、それでも頭に響いてきた。
「分かったわ。どうしても中に入れてもらえないなら、せめて顔を見せて。顔を見せてくれたら、今日は帰るから……」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
ここが踏ん張りどころだと思った。今顔を合わせたら、100%助からないに決まっている。でなければ、伝承の中で、男が籠城する部屋の窓が塞がれるはずがない。
ボン、ボン
「私が人間じゃないからって、どうしてそこまで毛嫌いするの? 相手のことを知らずに嫌うのは愚かなことよ。少しでいいの。お話をしましょう」
「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏!」
とうとう僕は、大声で念仏を唱え始めた。近所迷惑なんて言っている場合じゃない。
「念仏なんかやめて。私はあなたのことをずっと見ていたわ。災厄から守ってあげたりしてたくらいなのよ。やっと会えるようになったのに、祓おうとするなんてひどいわ……うっ、うっ……」
八尺様の、すすり泣くような声が聞こえてきた。泣きたいのはこっちの方だ。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
一心不乱に念仏を唱えていると、いつしか八尺様の声は聞こえなくなっていた。帰ってくれたのか。
「ふう……」
布団に倒れ込んで休んでいると、今度は玄関の声から大声がした。
「火事だ! 燃えてるぞ!」
隣に住んでいるおじさんの声だった。消防車のサイレンと思しき音も聞こえてくる。僕はパニックになりかけた。
――まずい! 逃げないと!
外に飛び出そうとしたとき、僕ははっと気が付いた。
八尺様は、声真似が得意なのだ。僕を騙そうとしているのかも知れない。
「危ないぞ! 外に出るんだ!」
またおじさんの声が聞こえてくる。僕は玄関前で立ち止まり、外に出なかった。代わりに身支度を急いで整え、外に持ち出す荷物も準備する。そしてハンカチを濡らして口に当て、室内の様子を伺った。

491八尺様と僕 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/30(火) 22:24:43 ID:giOYDAww
――どこからか煙が流れてくるか、火事の熱を感じたら逃げ出そう。それまでは我慢だ!
そのまましばらく待ったが、煙も熱も来なかった。おじさんも叫ばなくなったし、サイレンも聞こえなくなった。
どうやら、全部八尺様の騙しの作戦で間違いないようだった。僕はまた、布団に倒れ込んだ。
気が付くと、時計は日の出の時刻を回っていた。夜が終わったのだ。
「とりあえず、第一段階クリアーだ……」
恐る恐る窓に貼った厚紙をはがす。外は明るくなっていて、光が部屋の中に差しこんだ。八尺様の姿は見えない。
部屋の中を見回すと、四隅に置いてあった大量の盛り塩は真っ黒になっていて、炭のようだった。お札も何だか分からない黒い紙切れになっていて、段ボールの上に置いていた仏像はヒビだらけだった。
本当に危ないところを、辛うじて八尺様を追い返すのに成功したのだと思った。
とは言え、まだ助かったわけではない。ここからだった。この町から逃げ出さないことには、解決にならない。
軽い朝食を摂ると、僕は脱出の用意を始めた。
すでに身支度は済んでいたが、さらに帽子を目深にかぶり、マスクをして、顔が分からないようにした。そして、昨日は盛った塩の残りを懐に入れる。
そして持ち出す予定の荷物を背負い、僕は部屋を飛び出した。まっすぐに最寄りの駅を目指して走る。
幸運なことに、八尺様に出くわすことはなく、僕は電車に乗り込むことができた。ほとんど人が乗っていないので、ボックス席の窓側に座ることができた。座ると同時に電車は動き出し、景色が流れ始める。
後ろから、何かが追いかけてくるのが見えた。
八尺様だった。電車と並んで走りながら、徐々に追い付いてくる。とんでもない足の速さだ。
「ぎゃああああああ!!!」
僕は腰を抜かしそうになり、八尺様に見つからないよう、座席の下側に慌てて隠れた。いくらもしないうちに、八尺様は僕のいるところまで追い付いたらしく、窓が激しく叩かれる。
「ぽぽぽっ、開けて! 開けなさい!」
「ひいいいいいい!!」
うずくまって震えていると、今度は電車がぐらぐらと揺れ出した。八尺様が揺さぶっているのだ。もしも、揺れのために電車が止まってしまったら……
そう思ったとき、不意に電車の揺れが止まった。
「ん……?」
八尺様の声も聞こえなくなった。どうしたのだろうか。
怖々立ち上がり、窓から外を見てみたが、八尺様の姿はなかった。まさか、電車の中に入ってきたのかと思って車内を見回してみたが、どこにもいない。
そのとき、車内にアナウンスが流れた。
「間もなく、○○〜、○○〜」
そうか。僕はようやく気が付いた。
「町を抜けんたんだ……」
町を抜けてしまえば、八尺様はもう追って来られない。やっと、全てが終わったのだ。
僕は安堵のあまり、ボックス席に横たわって脱力した。

492八尺様と僕 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/30(火) 22:25:24 ID:giOYDAww
その後、僕は電車に乗り続け、できるだけ遠くに逃げることにした。逃げると言っても、一時的なものだが、できるだけ八尺様のいる町から遠ざかっていたかった。
――これから、どうしようか。
幸い、僕が通っている高校は、住んでいた町とは別の町にあり、転校しなくても問題はない。ただ、当たり前だが、住んでいたアパートは引き払って別の町に部屋を借りないといけない。自分はアパートに戻れないので、後で親に頼んで、アパートを解約してもらわないと駄目だ。理由を捏造するのが大変だろうけども……
「まあいいや。後でじっくり考えよ」
結局僕は、一日電車を乗り継ぎに乗り継いで、1000キロ近く逃亡した。そして、ある海辺の町で下車し、安いホテルで一日泊ることにした。実家に帰る方が安上がりではあるのだが、急にアパートから逃亡してきた理由をうまく説明できる自信がなかったので、見合わせた。
チェックインしてしばらくすると、お腹がすいてきた。持っている携帯食料では味気なかったので、ルームサービスで食事を取ることにした。
電話で頼んでから少し経って、部屋の扉がノックされる。
「ルームサービスです」
男性の声がしたので、僕は扉を開けた。
「はーい」
「ぽぽっ、ぽっぽっ、ぽぽぽぽぽぽぽぽ……」
信じられない光景に、僕は固まった。
そこには、微笑んで身をかがめた八尺様がいた。
「ぎええええええええええ!!!」
僕は悲鳴を上げながらも、急いで扉を閉めようとしたが、もう遅かった。八尺様は物凄い力でドアを押し込んできて、僕は部屋の奥へと追いやられる。
「ぽぽっ、ぽっぽっ、やっと入れてくれたわね。嬉しいわ」
八尺様はドアを閉めると、僕の方に向かってきた。僕は持っていた塩を八尺様にぶつけようとしたが、それより先に八尺様に腕を掴まれてしまう。人間と変わらない、温かい手だった。
「は、放せ!」
「ぽぽぽっ!」
八尺様はありえないほどの怪力で僕を抱え上げると、ベッドに投げ倒した。そのまま上に覆いかぶさって来る。逃げ場のない僕は、最後の抵抗として、八尺様の腕を足で挟んで関節技をかけようとしたが、腕の長さが普通の人間と違い過ぎてどうにもならなかった。
「ぽ、ぽ、ぽぽぽぽぽっ……無駄よ」
完全に僕を抑え付けた八尺様が、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、僕を見下ろす。肌の感触は人間と変わらなくても、その視線は人間のものではないと、はっきり感じられた。
「なんで……? 町は出たのに……」
半泣き状態で言う僕に、八尺様が答えた。
「ぽぽぽっ……どうして私が町から出られないって決め付けるの? 確かに、地蔵を置いて私を村から出られなくすることはできるけど、あの町にそんなものはないでしょう?」
「!」
しまった! 僕は自分が、取り返しの付かない思い違いをしていたことに気付いた。
伝承で、男が村から逃げて助かったのは、村の出口にお地蔵様が置かれていて、八尺様が村から出られなかったせいだった。そして僕のいた町には、お地蔵様なんて置いてない。ということは……
「ぽぽぽっ、私はどこにでも好きに行けるのよ」
「あ……あ……」
絶望感に襲われた。
仮に今、どうにかして八尺様から逃げ出せたとしても、いつかどこかで必ず捕まってしまうだろう。
「ぽっ、ぽっ、ぽぽぽぽっ、怖がらないで。取って喰ったりしないから。言ったでしょう? 仲良くしたいだけだって……」
唇が、触れ合った。お互いに見詰め合ったままで。
気持ちよさで僕の意識は遠のき、八尺様を押し返そうとしていた腕にも力が入らなくなった。
口を離して、八尺様が言う。
「ぽぽぽぽっ。それでは契りを交わすわよ。ずっとこの日を楽しみにしてきたんだから……ぽぽぽぽっ」
完全に僕の上に馬乗りになり、ワンピースを脱ぎ始めた八尺様を見上げながら、僕は思った。
殺されることは、ないのかも知れない。
しかし、おそらく、僕は一生、この八尺様という怪物から逃げることはできず、彼女の思い通りに生かされることになるのだろうと……

おしまい

493 ◆0jC/tVr8LQ:2013/04/30(火) 22:28:49 ID:giOYDAww
以上になります。
お目汚し失礼しました……m(_ _)m

494雌豚のにおい@774人目:2013/04/30(火) 22:34:23 ID:h8bYJ5Qs
光の速さでGJ!!

まったく、うわさだけで乙女を拒絶するなんて
こうなってもしかたないよね。

495雌豚のにおい@774人目:2013/04/30(火) 22:37:51 ID:RxdNHyzI
>>470
このネコの話、シリーズにしたら面白そう

496雌豚のにおい@774人目:2013/04/30(火) 22:42:58 ID:h8bYJ5Qs
うれしいこと言ってくれますね、感謝感激!

ただ自分は文才がないんで誰か代わりに書いて欲しいです!

497雌豚のにおい@774人目:2013/04/30(火) 23:09:28 ID:h8bYJ5Qs
と思ったけど、実はここで文を書くことが夢だったんだ…。

なるべく速く乗せれるように頑張ります!!

498雌豚のにおい@774人目:2013/05/01(水) 02:52:55 ID:n/YbACl6
投下ラッシュうれしすなあ...
八尺様を題材にSSを書くとは考えつかなかった。斬新な才能の持ち主ですな。
こんな調子で投下来ないかな?
世話焼き系お姉さんヤンデレ希望

499雌豚のにおい@774人目:2013/05/01(水) 08:59:21 ID:/zBy3ET6
乙!

ちょっと八尺様に会ってくる

500雌豚のにおい@774人目:2013/05/02(木) 01:45:11 ID:hKsppFBI
GJです

501雌豚のにおい@774人目:2013/05/03(金) 19:01:44 ID:.j8/0utg
乙です!

502雌豚のにおい@774人目:2013/05/04(土) 06:30:53 ID:Ki5GH88A
この流れでどんどん行きたいな

503雌豚のにおい@774人目:2013/05/05(日) 06:09:01 ID:w07f9pAI
あのさ、作品名の後ろの ◆と十文字は何?
IDとはちゃうの?

504二回目だから勘弁してね:2013/05/05(日) 08:08:27 ID:3k1ZX.M.
すいません、速く載せるといったのに…。
待っていたのに申し訳ない、え、誰も待ってない?
まあ、暇だったら見てやってください!

505二回目だから勘弁してね:2013/05/05(日) 08:09:15 ID:3k1ZX.M.
ええ、みなさまお久しぶりでございます!
ついに帰ってきましたよ、この私が!
え?お前だれだよ、ですって?
ほら、私ですよ、私!以前お会いしたじゃあないですか!
霊を見ることが出来る田中(仮)ですよ、た・な・か(か・り)!!
え、あ、落ち着けって?すいません、ちょっと興奮気味で……。

えー…ゴホン、前の去り際に『またどこかで会いましょう』と言い残してここを後にしたのを皆さんは憶えているでしょうか?
私は、言ったことは実行するデキる女ですからねっ!(本当は、シリーズ化したらどうかってコメントがあったからなんだけど……。)
まあ、どちらにせよ私にスポットライトが当たったことには変わりありませんよね!?
というわけで、まずは私の若い頃の話から………
…え、どうでもいいし、前置きが長いって?
す、すいません…、ちゃんと真面目にやりますから……。

 ところでみなさんは身の回りの物にも霊がいるのを知っていますか?
例えば、『伝説の妖刀』や『呪いの盾』といった曰くつきの品なんかには使用した者や犠牲となった者の怨念が宿るといわれています…。
それと同様に、どんな物にでも霊がついているんですよ?
今回はそんな霊を見ていきましょう!都合よくあそこにいるのが見えますしね…。(言い忘れてましたけど、私に見えるのはどうやら修羅場だけじゃないようです。)

506二回目だから勘弁してね:2013/05/05(日) 08:10:16 ID:3k1ZX.M.
私は、彼と出会った12年前のあの時のことをはっきりと憶えている…。
12月24日、人々がクリスマスと呼び、町が幸せな雰囲気に包まれていたその日のことだった。
町のしがない店で中古の自転車として売られていたのが私。
前の持ち主は買い物かごが壊れたというだけで、まだまだ使えたというのに新しい自転車を買い、私をこの店に売り払ったのだ…。
所詮、人間という生き物は古い物から新しい物へ乗り換えようとするくだらない生き物なのだ。
自分はこのまま、誰にも触れられずに廃れていくのだろう……。

完全に未来をあきらめかけていたその時、子供連れの3人家族が店内に入ってきた。
クリスマスの夜、赤い服を着て白髭を生やした、サンタクロースという老人がその年に良い行いをした人間の子供たちにプレゼントをするというのは、物である私でも知っていた。
実際は、それを口実に親が買っているということも……。
あらかた、自分の息子に新しい自転車を買ってやろうとしてるのだろう。
まあ、古い私には関係のない話だが…。
だが、両親が子供サイズの置いてあるコーナーへと向かおうとすると、少年が私を見つけると真っ先に指さして言った

「おとうさん、おかあさん!ぼく、これがほしいな!!」

彼の両親は息子の選んだものを見て驚いていたが、無理もない。
当事者である私のそれは、彼らをはるかに凌駕していたからな……。

「おいおい転太、こんなのがいいのか?中古だし、他にもかっこいのはあるんだぞ?」

「そうよ、サイズも大きすぎるし……。別に遠慮しなくてもいいのよ、初めての自転車なんだから…。」

言いたい放題言われていたが、もし私が人間で彼らの立場だったら、同じことを言ったに違いない。
だが、少年……転太は何と言われようとも、決して私以外を選ぼうとはしなかった。
あまりにもかたくなな彼の態度に折れた両親は、私を買うことを了承したようだ…。
その時の彼の喜びようと言ったら……ふふっ、思い出すだけでこっちが恥ずかしくなるようなものだった。
今思えば本当に愚かだったが、その頃の私には前の持ち主の影響か、人間を信用できなくなっていたのだ。
(こいつも所詮、あいつと一緒だ。親に迷惑をかけないように安い私を選んだはず。
 雑に扱い続けて壊れたら、すぐに捨てるに決まっている…。)

507二回目だから勘弁してね:2013/05/05(日) 08:11:24 ID:3k1ZX.M.
 文字通り彼の所有物になってから数週間、転太は私と毎日一緒だった。
彼はまだ小学生になったばかりで私を使うには体も小さかったし、何より経験不足だった……。
学校から帰ってきては公園に行き、必死に乗りこなそうと練習を続ける彼
まともにまたがることもできず、転んだり倒れたりを繰り返す彼
それでいて自分の怪我のことも放って、私の体に傷がついてないかどうかを確認する彼
休みの日には不器用ながら、さび止めやタイヤに空気を入れることを欠かさなった彼
そんな彼の姿に、私のすさんだ心はまるで、枯れた花が水をやって再び咲きほこるようにやわらいでいき、同時に惹かれていった…。
そして――

「や、やった!こげてるよ!ぼく、うんてんできるようになったんだあああっ!!」

ついに乗れるようになった時、私は転太と共に喜んだ。
たとえ伝わらないと分かってはいても、彼と同じ喜びを感じることができたのはとても嬉しかった。
小学校を卒業後、中学と高校が遠くに位置してあったおかげで、私は転太とほぼ毎日一緒にいることができた。
そんなある日、通学を共にしていた人間の女が私を見てつぶやいた…

「ねえ、あんたさ。そろそろ乗り換えない、その自転車?」

「え、なんでさ?」

「だってあんたの身長にあってないじゃない、それ。
 それにいつも思ってたんだけど、なんか古くさいし、かご使えないから大変でしょ?」

この女……、私を彼から引き離そうというのか…!?
物を見た目でしか判断できないやつが、私は1番嫌いだ。
でも、彼が大事に使い続けてくれたのにもかかわらず、私の体はこいつの言うとおり、ぼろぼろでブレーキが片方イカれかかっているのも間違いではなかった…。
――――転太が私を捨てる?―――
ありもしない未来を想像した瞬間、体中に悪寒が走った…!

「ああ、そういえば言ってなかったっけ?これ、俺が6歳の頃に初めて買ったやつでさ、もともとかごは壊れてたんだよ。」

「何それ、小学生の時からずっと使ってんの!?てか初めての自転車が中古って…、あんたの親ひどくない?」

「いやいや、ウソと思うかもしれないけど、選んだのは俺なんだ。」

「…子供の頃から親の懐のこと考えてたなんて、普通じゃないと思うのはあたしだけかな?」

「そういう訳じゃないってば!なんか買いに行った店でこいつを見たときさ…、子供ながらに感じたんだよね。誰かに乗ってほしいんだろうなって…。そしたらすっごく乗りたくなって無我夢中だったよ、あの時は。」

「その、あの、もしかしてあんた危ない人間なんじゃ……。」

「ちげーよ、勘違いすんな!!」

――やっぱり。
やっぱり、転太はこいつらとは違うんだ…。
初めて会ったあの時から、自分でも分からなかった私の本当の気持ちに気付いてくれていた、たった一人の人間。
こんなおんぼろな私でも見捨てないで使い続けてくれる優しい転太。
あなたになら壊されてもかまわない。
だから、一瞬でもあなたを疑った私をどうか許してね?
その時私は、道具として使われることに至上の喜びを感じていた。

508二回目だから勘弁してね:2013/05/05(日) 08:12:19 ID:3k1ZX.M.
 しかし、大学に無事合格してから彼は変わってしまった…。
最初はわずかな変化だったけれど、出かけるときに私を使うことが少なくなった。
大学が遠くに位置しているために、近くの駅から電車を利用しなければならないことは知っていたから、我慢はできた。
問題は、休みの日に彼が大学ではない学校に通っていることだった…。
そして通う日数が長くなるにつれて、彼が私に乗ることに満足できなくなっていくことが彼の私を握る手から感じ取れた。
こんなこと今まで一度としてなかったのに…いったい、彼の身に何が?
翌日、答えを知るべくしてその学校の名前を確認してあの時と……捨てられると想像した時と同じ衝動が私の中をはしった。


     ○   ○   自   動   車   教   習   所   ?


―――彼が、いや、まさかそんなはず……。
信じたくない、信じたくないよこんなの…!何かの間違いに決まってる!!
心のどこかでは気付いていたんだ…、もう子供じゃない彼にとって車に乗ることはなにもおかしくないことなのだから……。
それでも彼なら、彼なら私を裏切らないと思い続けてきたというのに。

いやだ、いやだよ捨てないで転太!まだ壊れてないよ私はやっとあなたの身長にあってきたじゃないかブレーキが弱いなら全部付け替えていい遅いならいらないパーツ全部取っ払ってかるくしてもいいいたくてもがまんするからあなたいがいのやつらにのられるなんてたえられないじどうしゃなんかにのらないでわたしにのりつづけておねがいだからすてないですてないでくださいおねがいします!!!

どんなに祈り続けても、彼にこの思いが伝わることは決してなかった…。

 そして今にもどる。
あと数週間で免許を手に入れてしまうだろう彼はとても幸せそうで、私を初めて乗りこなした時と同じような笑顔をしている。
もう彼の心は私のもとにはない、私の物になることはこの先絶対にない…。
どうすれば、どうすれば捨てられずに一緒にい続けられるのだろうか?
そして坂道にさしかかったところで、響いてきたある電子音…
―――カン……カン…カンカン…カン――

これは……電車の踏切の…?
その瞬間、思いついてしまったのはあまりにも残酷な思考。
多分、この音は悪魔のささやきなのだろう。
にもかかわらず、私はまるで欲しかったおもちゃを手に入れた赤ん坊のような気持になった…。

  そ   う   だ  、  こ   う   す   れ   ば   よ   か   っ   た   ん   だ

すでに使い物にならなくなる寸前のブレーキに圧力を加えて、かからないようにしておく。
想いの強くなった今の私にはたやすいことだった。
ついでに…

「〜〜♪ん、あれ?なんか足が勝手に……?」

そういえば、最初の頃は足が地面に届かなかったよね?

「う、嘘だろ!?手まで…なんで離れないんだよ!!」

運転するにはふんばらなきゃって、痛い程ハンドルを握ってくれたよね?

「ふざけんなよ!動け、速く動いてくれよ俺の身体!!」

私はもうあなたの物になったんだから……

「う、うわあああぁぁあぁぁああ!!!」

あなたも私の物だよね?―――

509二回目だから勘弁してね:2013/05/05(日) 08:13:12 ID:3k1ZX.M.
 いやー、すごいことになりましたね。
ほらほら、たくさんの野次馬がやってきましたよ?
ん、何解説してるんだ、そんな暇があったら早く助けろ、お前は誰の味方なんだ、ですって?
愚問ですなあ、隊長。
私は『私』の味方ですよ?
と、冗談はさておき、そうですね助けようと思えば間に合ったかもしれませんね。
でも、私にはそんな真似はできませんよ。
だって、あのこは自分の命を落としてまで、あの男性の心を自分のもとに留めようとしてましたから。
あの時の“あの子”と同じように……
あ、すいません。話がそれちゃいましたね。
では、機会があったらまたどこかで……。

510二回目だから勘弁してね:2013/05/05(日) 08:17:36 ID:3k1ZX.M.
どうも、すいませんでした、こんな駄文で…。
題名が思いつかなくて、二日間悩んだんですけど結局決まらなくてですね。
だれかお優しい方、つけてくれると嬉しいです!

511雌豚のにおい@774人目:2013/05/05(日) 08:28:16 ID:AVZBckz2
乙乙!

>>503
トリップって奴で暗号みたいなもの
名前欄に♯の後に何かつけるとその適当な文字列になる
名前欄にその記号はその方法でしかつけられないため
なりすまし防止になる

512雌豚のにおい@774人目:2013/05/05(日) 09:29:08 ID:w07f9pAI
>>511
おおありがとう

513雌豚のにおい@774人目:2013/05/05(日) 12:20:20 ID:5W/7/WtA
>>510
GJ
教習所の所でワロタw
なんか独特のジャンルになってきてるな

514雌豚のにおい@774人目:2013/05/07(火) 02:02:14 ID:3ntq8aKc
GJです

515雌豚のにおい@774人目:2013/05/07(火) 02:06:49 ID:IUQHG.lY
二回目でこんだけ書けるとかハイスペック乙

516雌豚のにおい@774人目:2013/05/12(日) 00:24:23 ID:GgQC6Lpc
小説で大事なのは読みやすさだと思うんだ。
ヤンデレの小説で大事なのは「ゾクッ」とすることだと思うんだ
2回目でこれって本当に凄いと思うんだ

517雌豚のにおい@774人目:2013/05/12(日) 16:00:07 ID:J6tErA92
ホラー系とヤンデレって相性いいんだね GJ

518三回目だから堪忍ね:2013/05/12(日) 21:19:26 ID:txwT05i6
みなさん、お久しぶりです。
お待たせしました、え、誰も(ry
ヤンデレなのかどうか分かんないけど見てやってください!

519三回目だから堪忍ね:2013/05/12(日) 21:21:23 ID:txwT05i6
えーっと、これはあっちであっちはこれで、ああ忙しい忙しい。
あ、どーも皆さん。
自己紹介は…もう必要ないですよね。
何をそんなに慌ててるんだって?
実はですねぇ、今日一週間ぶりの待ちに待ったお客さんがいらっしゃるんです!
私、この力を何か世のため人のために役立てないかと思いまして、いわゆる霊専門の『何でも屋』のようなものをやってるんですよ。
ただ、あんまりお客さんが来なくて…、この間なんて食費がなくて餓死寸前でしたからね。
それで申し訳ないんですけど、皆さんには構ってられないんです…。
え?私の仕事ぶりを見たい?
ふふっ、皆さんなんだかんだで私のことが知りたくてたまらないんですね、素直じゃないんだから。
ああっ、すいません!そんなつもりはなかったんです、だからその冷たい視線を向けるのをやめてください!

コンコン

おや、どうやら来たみたいですね。

「はあーい、今行きまーす!」

立てつけの悪いドアを開けるとそこには、だいたい小学2、3年生あたりの少年が顔をふせて立っていました。

「いらっしゃいませ、君が昨日電話をくれた優太君かな?」

「あ、あの、えっと……。」

「ああ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ〜。ささっ、こちらへどうぞ!」

不安そうな彼を連れてリビングにやってきた私たち。
優太君は、名前通りの優しそうな少年でかざってある仏様やいろいろ貼ってあるお札に驚いています。
もちろん、ただの飾りですけど。
こういうので重要なのは雰囲気ですよ、雰囲気!

「さっそくだけど、優太君はどうしてここに来ようと思ったのか、お姉ちゃんに話してくれないかな?」

「…ここ、幽霊の探偵屋さんなんでしょ。友達の拓哉くんが『ここに来れば何とかしてくれる』って言ってたから…」

「探偵かぁ、あいにく私指から霊力も打てなければ、7人の人格も持ってませんけどね。」

「?お姉ちゃん、何の話してるの?」

「いやいや、優太君は気にしなくていいよ。こっちの話ですから。」

拓哉くん、拓哉くん…ああ、思い出しました!
あれは二か月前、優太君と同い年ぐらいの子がうちに依頼しに来たときで、本当に大変でしたもん。
なんせ、その子に憑りついてたのが20代後半の世間的に“ショタコン”と呼ばれる女性の霊でしたからね…。
『小学生と結婚するまで成仏できない』とか何とか言って、成仏させるのに苦労しましたよ。

「うん、拓哉くんの悩みを解決したのもお姉ちゃんなの。だから、私に任せれば大丈夫!すぐに何とかしてあげるからね。」

「ほ、本当!?実はね……」

520三回目だから堪忍ね:2013/05/12(日) 21:22:19 ID:txwT05i6
―――数分後―――

ふむふむ、なるほどなるほど。
彼の話をまとめると、ちょうど一か月前あたりから誰かの視線を感じるようになったらしい。
しかも、学校や外でならともかく一人で家にいる時もだそうで、最近になると自分の名前を呼ぶ声が聞こえるようになって、夜には誰かにのしかかられてるような感覚になるそうです。

「誰かに相談はしてみたの?」

「したんだけど…、誰も僕の言うこと信じてくれないんだ。友達も先生もまともに相手してくれないし、お母さんなんて僕を病院に連れて行って精神科っていうところで診せたんだ。
でも、何の異常もないって…。やっぱり僕おかしいのかな?」

言ってて泣き出しそうになる優太君。
うーん、これは急いだほうがよさそうですねえ、彼的にも“彼女”的にも…

「うんうん、そんなことないよ。私はあの世とこの世をつなぐものですからね!どーん、と任せてください!」

「あ、ありがとうお姉ちゃん。それでこれだけしかないんだけど…。」

優太君が取り出したのは、近頃流行のキャラクターの貯金箱で、中から出てきたのは大量の小銭、小銭。
ひい…ふう…みい…って全部合わせて五千円!?
こんなにあったら、私幸せすぎて死んじゃいそうですよ…しかし、

「こんな大金、使ってもいいの?何か欲しい物のために貯めてたんじゃ……。」

「ううん、いいんだ。本当は友達のために我慢してためてたんだけど、またため直すから。
きっとその子も許してくれるよ。」

…いい子ですねえ、本当に。どうりで憑いてくるわけですよ。

「ふふっ、分かりました。それじゃあ、部屋を移しましょうか。」

「え、どうして?」

「それはもちろん、私の霊力を上げて優太君から霊を追い払うためですよ!(嘘ですけどね)」

「や、やっぱりいるんだ…僕の近くに……。」

ああああ、しまった。私としたことが、彼に不安感をつのらせるようなことを…。
て、そんなこと考えてる場合じゃないですね。

「心配しないで、言う通りにすればすぐに終わりますよ。あと、入る前に一つ聞いておきたいことがあるんだけどいいかな?」

「え、なにを?」

私は優太君の上の何もないはずの空間に視線を向けながら、問いました。

――最近、女の子がずっと学校休んでない?――

521三回目だから堪忍ね:2013/05/12(日) 21:23:48 ID:txwT05i6
―――またまた数分後―――

ふう、だいたい聞きたいことは聞けましたね。
いやあ、優太君とお話しするのが楽しくてついつい長くなっちゃって申し訳ありません。
さて、今度はあなたとお話ししましょうか、“池上桜”ちゃん?

「黙れッ!はやくここから優太を出せ、ババア!!」

ババア…ってまだ私はピッチピチの〜〜才なんですけど!

皆さんもお気づきの通り、優太君に憑いていたのは“生き霊”と呼ばれる類の霊ですね。
生き霊というのは、普通人は死んだときに肉体から霊が抜けて成仏するか、そのままの状態になるのかですが、彼女のように生きたまま霊となる場合もあるようです。

かの有名な源氏物語の登場人物である、六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)がその例で(霊だけに)光源氏のことが好きでたまらず、妻の葵上をその嫉妬心だけで殺したとされています。
桜ちゃんも同様に優太君のことを愛して、その気持ちが抑えきれずにこうなってしまったんでしょう。

「中で何してたの?なんで中に入れないの?優太は、優太は無事なの?お願いだから早く優太を返して!」

「いっぺんに質問しないで下さいよ…。この部屋はですね、どんな霊も入れないようになってるんです、理由は知りませんが。それと優太君はここから出れませんよ、私がいいと言うまでね。」

「ふざけるな!じゃあ、あんたに憑りついてでもいいって吐かせてやる!」

「いいんですか、そんなことして。私に憑りついたら私が死ぬまで離れることはできませんよ?その間に彼を誰かに取られちゃうかもしれませんね。」

その瞬間、桜ちゃんの顔が青ざめる。
実際、憑りついた後離れようと思えばすぐに離れられるでしょう。
けど、この子が誰にも憑りついたことがないのは今の反応でよくわかりますね。

「…じゃあ、どうすればいいって言ってくれんの?」

「簡単ですよ。優太君についてのクイズに3つのうち1つでも正解したら返してあげます。」

「クイズ…?」

「はい、しかも桜ちゃんが知っていそうな単純な問題ばかりですよ。どうです、受けますか?」

彼女は黙ってうなずいた。
優太君のことなら何でも知っているとでも言いたそうな顔で。

522三回目だから堪忍ね:2013/05/12(日) 21:24:34 ID:txwT05i6
「では、第一問。優太君の夢ってなあんだ?」

「なに、そんな簡単な質問でいいの。答えは弁護士でしょ。馬鹿みたいにいっつも口にしてるんだもん。」

まるで我が事のように答える桜ちゃん。
自分の解答が間違えているはずがないという、自信たっぷりな態度でしたが、

「残念、不正解です。」

「……え?」

「さて、第二「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」…なんですか?」

「何でたらめ言ってんの、あいつ夢について聞かれたら弁護士になりたい、しか言わないのに。知ったかしないでよ!」

「それは、あなたの思い違いでしょう?次行きますよ、優太君のお金を貯めてた理由はなんですか?」

いまだに納得できず、二問目の答えを考えているのがよく分かりますね。
ま、どーせ次も…。

「と、友達へのプレゼントを買うための……」

「ぶっぶー、はずれです。さてさて、最後の一問になりましたね。」

「……っ。」

彼女は、あまりのショックにうなだれています。
仕方ありませんよね、自分が誰よりも知り尽くしてると思っていたのに、あって間もない私の方が優太君のことを知っているんですから…。

「そう、落ち込まないでください。では第三問、優太君の一番好きな人はだあれ?」

「…担任の山田先生…。」

やっぱり、そういうことですか。
よーく分かりましたよ、彼女が生き霊になった理由が…。

「ねえ、桜ちゃん。優太君に聞いたんだけど、あなた今意識不明で入院中らしいですね。ご家族や学校の皆も心配してるそうですよ。」

「…それがどうしたっていうのよ。あんな奴ら、いなくなっちゃえばいいんだ!
パパもママも先生もクラスの連中も、みんな優太を私から遠ざけようとするただの邪魔者じゃない。
私はあいつと一緒にいられればそれでいいの!そう思ったら、意識が飛んで…、
それからすごく幸せだった。だっていつどこにいても、優太の隣にいられたから。
家でも、学校でも、トイレでも、お風呂場でも、寝る時もずっとずっとずーっと一緒!!
なのに…、なのにどうしてそれを邪魔しようとするの!?」

「…じゃあ、彼の気持ちはどうなるんですか?」

「あ、あいつは…優太はいつだって私のこと見てくれない。
私がこんなに好きなのに何も答えてくれない。伝えれるわけないでしょ!!」

「…一問目の答え、優太君の夢はですね、ある人と結婚したいそうです。」

桜ちゃんは私が何を言い出したのか、意味が分からないとでも言いたそうな顔になりましたが、無視して話を続けます。

「二問目の答え、優太君のお金を貯めてた理由は、ある人の入院費を払おうとお小遣いを必死に集めていたからだそうです。」

それを聞いた瞬間、気付いたのでしょう。
さっきまで鬼の形相だった彼女の目からは涙が流れていました。

「そして三問目の答え、優太君の好きな人は…あなたですよ、桜ちゃん。」

「う、嘘よそんなの!だって、だって私は……。」

困惑する桜ちゃん。
ここまで見れば皆さんもお気づきでしょう。
彼女は自分に自信が持てなくて、自分の気持ちを優太君に伝えることができなかったのです。
だからこそ、クイズに対しても自分が答えだなんて思いもよらなかったんでしょうね…。

「桜ちゃん、確かにあなたは優太君のことが好きかもしれません。
でも、こんなことしてても彼はあなたに振り向いてはくれませんよ?
むしろかわいいんだから、もっともっと優太君が好きになってくれるように手段は選ばず、頑張ってください。
『生きてさえいれば』どんなことだって可能なんですから…。」

「…ヒック、……こんな私でも…グスッ…できるかな…?」

「大丈夫ですよ、私が保証します。なんてったって両思いなんですから!」

そして、気持ちも晴れたのでしょう。
桜ちゃんは笑顔を見せ、光になって消えていきました。
今頃、病院でも意識が戻ってる頃でしょうね。
さてと、

「もう出てきてもいいですよ、優太君。」

部屋から出てきた優太君は会話が聞こえないように、しばらく寝てもらっていたのですごく眠たそうでした。

「お姉ちゃん、幽霊は…幽霊はどうなったの?」

「安心してください、優太君に憑いていた霊はいるべき場所にもどりましたよ。」

そう、いるべき“場所”にね…。

523三回目だから堪忍ね:2013/05/12(日) 21:25:23 ID:txwT05i6
―――後日談―――

ふう、なんとか一件落着ですね。

生き霊となって体から霊が離れすぎてしまうと、そのまま死に陥るケースも珍しくはありませんから、今回はけっこうやばかったです。
まあ、あの二人なら何も心配はいりませんよ。
なんせ、お互いのことが大切で、今までそれに気が付いてなかっただけですから。
ん?小学生からお金を奪っていいのかって?
またまた、私がそんなことするわけないでしょう!
ただ、どこまで本気かどうかを調べるための調査みたいなもんですからね、あれは…。

それにしても…、あの二人を見てると思い出しますよ、私の若い頃を。

………し…ん

――あ、すいません。物思いにふけってしまって…。
とにかく皆さんも生きていれば、生きてさえいればどんなことだってできちゃうんですよ!
だから、諦めずに頑張ってくださいね。
では待て、次回!!

524三回目だから堪忍ね:2013/05/12(日) 21:29:05 ID:txwT05i6
お読みいただきありがとうございます!
なんか、ヤンデレじゃなくなっていってる気がする…。
まあ、あんまり長くやるのも失礼なんで次で最終話にしたいと思います。

525雌豚のにおい@774人目:2013/05/13(月) 11:03:24 ID:EzpYqoUE
>>524
   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―'彡-i     |
  i  ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' /    .|
   iイ | |' ;'((   ,;/ '~ ゛   ̄`;)" c ミ     i.
   .i i.| ' ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、   /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
   丿 `| ((  _゛_i__`'    (( ;   ノ// i |ヽi. _/|  _/|    /   |  |  ― / \/    |  ―――
  /    i ||  i` - -、` i    ノノ  'i /ヽ | ヽ     |    |  /    |   丿 _/  /     丿
  'ノ  .. i ))  '--、_`7   ((   , 'i ノノ  ヽ
 ノ     Y  `--  "    ))  ノ ""i    ヽ
      ノヽ、       ノノ  _/   i     \
     /ヽ ヽヽ、___,;//--'";;"  ,/ヽ、    ヾヽ

526雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 02:29:48 ID:UaB9YHS6
gjです

527テスト ◆aRAnj9VVXE:2013/05/15(水) 08:38:38 ID:NN04tFyA
>>498の要望とは少し違うかもだが書いてみた
投下

528世話焼きな姉(仮) ◆aRAnj9VVXE:2013/05/15(水) 08:40:41 ID:NN04tFyA
 放課後の教室の中に、一人の男子生徒と、一人の女生徒の姿があった。二、三の言葉を交わした後、男子生徒は教室から出ていき、女生徒のみが教室に残った。
女生徒が男子生徒に告白し、男子生徒はそれを断ったのであった。
 男子生徒の名前は、坂川数馬という。そこそこ難関の都立高校に通う二年生。性格は穏やかで優しく、しかしこの年頃の少年特有である騒々しさ、明るさも併せ持っていた。勉強もス
ポーツも上出来で、ルックスもイケメンだ。
当然大勢の友達がおり、また、彼に憧れる女子も少なくなかった。そういう訳で、数馬は毎週のように女子からの告白を受けるのであった。
 しかし、数馬は特定の異性を作らなかった。数馬に告白してくる女生徒の中には、可愛いと人気の女生徒が何人もいたし、数馬自身、いいなと思う女生徒もいた。

529雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 08:51:31 ID:NN04tFyA
しかし結局のところ、いずれも数馬の彼女になることは叶わなかった。
そんな数馬に友人たちは、「なぜ彼女を作らないのか」と聞いたが、彼の返事はいつも煮え切らないものであった。数馬が彼らに真実を伝えることができなかったのは当然である。
 数馬は、血のつながった双子の姉に恋していたからだ。
 しかし数馬は、その思いを決して誰にも悟られぬよう、細心の注意を払って生きてきた。彼はその恋に、どれだけの障害があり、また恋が実ったとしても、同時に姉を地獄に引きずり
込む所業であると理解していたからだ。彼は姉を思うが故に、葛藤していたのであった。

 数馬の双子の姉の名前は紗那という。数馬と同じ都立高校に通う二年生。性格は思いやりがあり真面目。かといって頭でっかちなわけでなく冗談も通じるし、この年頃の少女特有の、悪戯っぽさも併せ持っていた。またスポーツも勉強も高レベルにこなし、その容姿は高校でも随一の美少女である。
 彼女に憧れる男子生徒も女生徒も数多くおり、紗那も毎週のように告白を受けていたが、彼女も特定の異性を作らなかった。

530雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 08:52:28 ID:NN04tFyA
 しかし数馬と違うところは、紗那の友人たちが「なぜ彼氏を作らないのか」と聞いた時、彼女の返事は「心に決めた人がいるから」と言うものであったことである。
 とはいえ、イケメンでスポーツ万能な先輩が告白しても、資産家として有名なクラスメイトが告白しても、はたまた後輩の美少女が告白しても彼女は首を縦に振らない。納得できない友人たちが数馬に聞いても「知らない」の一点張りである。これでは、紗那の言葉が本気にとら れないのも仕方がないことであった。よって、一縷の望みを賭けた紗那への告白は未だに続いているのであった。
 しかし、彼ら(稀に彼女ら)の告白が成功しないのは当然である。
 紗那は、双子の弟である数馬を愛していたからだ。彼女は、その愛には障害があり、世間の理解が得られないことは理解していたし、「待っていれば、いつか弟が自分に恋をする」とうぬぼれるほど乙女チックでお目出度い頭をしていなかった。
 だが同時に。自分はそれらの困難を打破し、弟に自分を愛させることができる。そして、弟を幸せにできるのは自分だけである、と確信していることもまた事実であった。そのために彼女はいくつもの種を蒔いてきた。そしてその種は、少しずつ芽を出しつつある。来たるべき輝かしい未来。そしてその思いは誰にも、数馬自身にも決して悟られないように。彼女の心には、迷いなどなかった。

531雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 08:54:27 ID:NN04tFyA
 「ごめん紗那、お待たせ!」
校門に背を預けていた紗那は、数馬の姿を認めるなり、タタッと駆け寄ってきた。
 「待ちくたびれちゃったよ。早くかえろ!」
紗那は数馬の手を取ると、先に歩き始めた。普段は優等生然とした姉が、こうやって時折見せる無邪気な態度に、数馬はドキッとする。
だが、数馬自身うれしい気持ちもあるし、また姉弟仲は良好なこともあり、決して振りほどいたりはしないのであった。
 「数馬さ。……また告白されたの?」

532雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 08:56:38 ID:NN04tFyA
数馬の半歩先を行く姉の顔は、数馬にはわからない。だが、ほんの一瞬――恐らく数馬以外の人間では気づかないであろう――姉の雰囲気が変わった気がした。
 「うん。断ったけどね」
 数馬は何となく気まずさを感じ、淡々と事実のみを口にした。『可愛い子だったんだけどね』という心の声は伏せておく。
 「そっか」
対する紗那も素っ気なく、ただ一言返事をするのみであった。これは、数馬が告白された日、毎回発生する会話であった。かといって、今でも慣れるものではなかったが。
 「まぁ、相手の子のこと、よく知らなかったから。それで付き合うのもどうかと思ってさ」
 なんとなく、口調が言い訳じみてしまう。それは自分が、罪悪感を感じているからであろうか。はたまた、自分も有象無象と同じく、この美しい姉への一縷の思いを持つものだからか。いつも通
っているはずの下校風景が、まるで全く見知らぬ土地のように数馬には思えた。

533雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 08:59:55 ID:NN04tFyA
 「数馬ー、起きてるよね?」
控えめにこんこんとドアがノックされる。ちょうど課題を終わらせた数馬が、「うーん」とのびをしている時であった。入るよ、という声と同時に、扉が開く。どうやら風呂上りらしい
紗那の髪は、しっとりと濡れており、ほんのりと上気した顔は、数馬に少しインモラルな感情を抱かせる。そうやって無防備な姿を見せる紗那に、嬉しいと思う反面、少しでも劣情を抱
いた自分を恥じた。
 「明日は休みだしゲームしよ!」
 そんな数馬の気持ちを知ってか知ら ずか、紗那は数馬をベッドに座らせると、ゲーム機の電源をいれ、ぴったりと寄り添うように陣取る。
 「おーしやるか!」
自らの気持ちをごまかすように、不自然に気合をいれる数馬であった。
 最近、姉弟がはまっているゲームのジャンルはFPSであり、女性プレイヤーの人口はかなり少ないものである。しかし、紗那の才能はゲームにおいても揺るがない。
彼女は最善の武装をチョイスし、操作も完璧であった。数馬もそれなりに腕は立つ方であるが、どちらかというと弱くても好きな武器を使うタイプで、戦績でいえば紗那に多少劣る。少し、男としてプライドが傷ついた数馬は、バッタバッタと敵を倒していく紗那に、ぼそっとつぶやく。
 「……いつも思うけどさ、躊躇なくストライカ ー使うのはよくないと思うんだ」
 「だってこの武器強いもん。数馬こそドラグノフなんて使うのやめなよ」
 「紗那はわかってないなー。この音がいいんだよ!男のロマンだね」
その場でてきとうに発砲する数馬。ドンドンドンという重い音が線上に響く。が、発砲したことで居場所がばれ、次の瞬間数馬の操作するキャラは、背後から敵に殺されてしまった。
 「あーあ。どんまい」
その敵を、物陰から伺っていた紗那が倒した。
 「あ!気づいてたなら教えてくれよ……」
 「隙を見せる数馬が悪いね。だから大人しくサブマシンガンにしとけばいいのに」
 「いやいや、だからね。俺はドラグノフ以外使う気ないから!」
そんな会話をしながらも、着々と戦績を伸ばしていく数馬と 紗那。
こうして、坂川家の夜は更けていく。

534雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 09:02:11 ID:NN04tFyA
 ふと目を覚ました数馬。どうやら、ゲームをやりながら寝てしまったらしい。心なしか頬が湿っている気がした。正面の壁にかかっている時計を見ると、午前三時時を少し過ぎたあた
りであった。ふと肩に重みを感じ隣を見ると、紗那が寄りかかるようにして寝ていた。数馬と紗那は、一応部屋は別々だが、かなり仲良しなこともあり、だいたいどちらかの部屋で過ご
すことが多い。そして、漫画やテレビの置いてある数馬の部屋に紗那が入り浸るパターンが多数である。思春期を過ぎても尚そんな二人に、両親は「まあ、喧嘩するよりはね」と、何も
言わない(異性の兄弟が仲良しだからといって、恋愛関係を疑う親もなかなかいないだろうが)のであった。よって、気づいたら二人して寝ているということも、日常化していた(これ
も紗那の思惑通りである)。日常化しているとはいえ、普段から姉への思いにジレンマを持つ数馬からしたら、到底慣れるものではなかった。普段は可愛いというよりは美人
で凛々しさすら感じる顔も、寝ている時は年相応より幼く見える。しかし、寝ていても身体は成長した女のそれである。スースーという寝息と同時に盛り上がる胸。数馬に触れる柔らかでなめらかな肌。そ
して全身から発する甘い香りが、数馬にどうしようもないもどかしさを植え付ける。寝ようと無理やり目を閉じてみても、数馬も年頃の男の子。一度高まった興奮はなかなか抑えられる
ものではない。数馬の心 のタガも、限界を迎えつつあった。
(……離れなきゃ)
このままではまずいと離れようとした数馬に、紗那は腕を回し抱きついてくる。振りほどこうにもその力は強く、なかなか離れてくれない。数馬自身も、すやすやと寝ている紗那を起こ
してしまうのが怖く、またこのままでいたいという思いもあって、身を任せてしまう。
 「……紗那起きてるのか?」
紗那からの返事はない。
 「……紗那」
ゴクリと飲み込んだつばの音が、静かな部屋に響いたように感じた。

535雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 09:03:44 ID:NN04tFyA
 今でも仲良しの数馬と紗那であるが、数馬とて、何度か距離を取ろうと努力はした。例えば高校受験の際、数馬は紗那には内緒に、少し遠い紗那とは別の高校に進学を希望したのだ。
しかし、当 然家族にいつまでも隠し通せるものではない。それを知った紗那が様々な理論で両親を説得し、気づいたらやはり同じ高校を受験するようになっていた。数馬はそのことにぶ
つぶつと文句を垂れたが、紗那が自分を必要としてくれたことに喜びを感じた。そして同時に、そんな喜びを感じた自分に嫌悪を抱いた。
 そして今も。こうやって自分に無防備な姿を晒している紗那に、自分への信頼を感じ(紗那はわざとやっているのだが、当然数馬は知らない)うれしく思う反面、どうしようもなく性
欲を感じ、男の部分が反応してしまっていることに、嫌悪感を抱いてしまう。
 (……そろそろ、本当に姉離れしなきゃダメだな)
尚もその発育した身体を擦り付けてくる紗那を横目でみつつ、性 欲の波に抗い続ける数馬。
 しかし、しかしだ。もしも、近い将来か遠い未来か。いまだ彼氏を作らない姉の隣に自分とは違う男がいるとしても、数馬は姉と男を祝福できるであろう自信がある。数馬はこの優し
い姉の幸せを、誰よりも願っていた。そしてそれは、自分と姉が一緒になっては達成できないこともわかっていた。
 だから、自分の恋心と同時に、姉を任せるに足る男の登場と、姉から離れるきっかけを、彼は望んでいた。彼にとってそれはダブルスタンダードではなく、矛盾なく両立できる思いで
あった。

536雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 09:05:21 ID:NN04tFyA
 (……数馬)
自分の傍らで眠る愛しい半身、数馬を慈愛のこもった眼で見つめる。どちらかといえば素行も真面目できちんとしている数馬であるが、少し夜更 かしは苦手であり、ゲームをしながら寝
てしまった。こうやって隙を見せる数馬が、紗那はたまらなく愛しいと感じる。恐らく数馬に告白してくる女たちは、彼のこんな無防備に眠る姿など一生見ることはないだろう。今日の
下校中も、数馬が告白された話を聞いて、名前も知らない女に殺意を抱いて、めちゃくちゃにしたいと思った。教室に乱入して、女の髪をひっつかんで引きずり回してやりたかった。
それをしないのは、最終的に自分が数馬に選ばれるという確信と、彼女の理性がストップをかけるからだ。しかしわかっていても、不快なものは不快で仕方がない。
 「……数馬」
しっかりと数馬が寝ているのを確信してから、紗那は数馬の頬に口付ける。彼を起こさないように繊細に 。しかしたっぷりと思いを込めて、自分のものであると刻み込むように。
 何度も繰り返していると、どうやら数馬が起きたらしい。彼女は寝たふりをして数馬の反応を楽しむ。案の定数馬は一瞬びくりとしたかと思うと、離れようとした。
(……逃がさないよ)
 紗那はそんな数馬に抱き着き動きを封じる。こうすると、優しい数馬は自分を起こさないように動きを止めることを知っていた。さらに密着すると、彼女の身体に、硬くなった数馬の
男が触れる。今すぐこの場で自慰するのを我慢し、寝たふりを続ける。普段は有象無象の目を引くこの身体も、この時を思えば役に立つものだと思う。
 「……紗那」
 困ったような、切ないような声で自分を名を呼ぶ数馬。 その声を聴いた瞬間、紗那は軽く達してしまった。
 
 
 基本的に仲良しであった数馬と紗那であったが、紗那自身、何度か数馬が自分から離れようとしていることに気づいていた。その度に彼女はあの手この手で彼を引き留めていた。そし
てその試みが成功するたび、安堵を覚えたのであった。
 紗那は思う。もしも、彼が自分から本当に離れていったら。自分は自分でいられるのであろうか。数馬の隣に自分ではない違う女が寄り添っていたら、発狂せずに済むだろうか、と。
きっと自分は耐えられないだろう。例え幻でも、その光景を想像するだけで自分を嫌悪する。
 彼女は、姉として女として、数馬の幸せを誰よりも願っていた。願っていたが故、それを他人に任せようとは思えなかった。世界で数馬をもっとも愛しているのは自分であり、よって
数馬を幸せにできるのは自分のみであると、彼女は確信していたからだ。
 だから、この愛が成就する未来の到来を、掴み取るために。彼女は生きていた。

537世話焼きな姉(仮) ◆aRAnj9VVXE:2013/05/15(水) 09:07:26 ID:NN04tFyA
とりあえず投下終了。一応続きの構想はあるから気が向いたらかく。
眠たくて誤字脱字、文章のチェックしてないのでおかしなとこあったらごめんなさい

538雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 11:57:46 ID:Y8RzKaOM
>>537
乙乙!

539幼なじみの早見さん:2013/05/15(水) 13:12:26 ID:8puLo2DY
ちょっと駄文失礼します

540幼なじみの早見さん:2013/05/15(水) 13:14:08 ID:8puLo2DY
高校三年の三学期という時期は本来、受験シーズンで忙しいはずである。だがすでに、秋に県外にある私立の三流大学を合格した僕は自由登校であり、授業は受けずに図書室でひたすら暇を潰していた。こんなことなら学校に行かないという選択肢もある。しかし先日学校を休んでいたら、早見さんは「せっかくのズル休みなのに、部屋に籠るのは勿体無いわ」と買い物に付き合わされた。だから学校は休みたいが、休めないのだ。
 こうあまりに暇だと、つまらないことを考えたりしてしまう。
 今の僕は早見さんのお気に入りの玩具だ。でも早見さんだっていつかは、お人形さんごっこにも飽きてしまうかもしれない。飽きて捨てられた玩具は、どうなるだろうか?
「今日は随分と浮かない顔してるのね」
どうやら顔に出てたらしく、早見さんが勉強の手を止めて要らん心配をかけてきた。
「ちょうどいいわ、貴方の考えていることを当ててあげる」
「やめろ」
「将来のこと」
「止してくれ」
「私との初夜について」
「おい」
「安心して、貴方が早漏でも気にしないわ」
「勝手に決めるな」
「あら、じゃあもしかして遅漏なの? 」
「頼むから黙っていてくれ」
早見さんの思考に呆れてしまう。
少し気を抜いた隙をついて早見さんが優しく抱き締めた。
「大丈夫、貴方を一人になんてしないわ」
不思議と早見さんのぬくもりは僕の心に安らぎを与えた。思わず、抱き締め返しそうになるがグッと我慢し、早見さんを突き放した。
「暑苦しい」
僕は早見さんの好意には応えられない。今ここで恋人になるのは簡単だ。でもきっと早見さんの好意は、僕という獲物を手にするための狩りのようなもので、早見さんが僕を手に入れたら、もう僕を追いかけてはくれなくなるかもしれない。ふと、そんなことを考えてしまった。もしかしたら、早見さんなんかよりも、僕の方が早見さんに好意を抱いてるかもしれないな。
「何がそんなに可笑しいの? 」
早見さんに言われて自分が笑ってることに気付いた。
「何、馬鹿なこと考えてたんだろって思ってさ」
「今更何よ、馬鹿なんだから当たり前でしょ」
「でも、そんな救いようのない馬鹿に付きまとう早見さんはどうなんだよ」
「もしかしたら馬鹿かもね、馬鹿同士仲良くしましょうか? 」
「そういえば、最近は暴力に頼らないな」
「卒業する時に怪我してるのはかわいそうだと思ったのよ」
早見さんがそんな理由で暴力を辞めるなんて意外だとぼんわり考えたりしていた。
実際、冬になってから病院に行くような怪我はない。おかげで今は骨折ひとつない。でも、早見さんが何か企んでるかもしれないと思うと不安なので、聞いてみた。
「明日って何の日か知ってる? 」
「何日だっけ? 」
「二月十四日よ、思い出したかしら」
「今すぐ忘れたい」
「じゃあ、今夜は私の家で」
「バレンタインは明日だぞ」
「えぇ、だから今日は泊まりよ」
「ハァ?!」
「せっかくだし、誰よりも早くバレンタインを楽しみたいのよ」
「僕は楽しくないんだが」
「馬鹿ね、貴方じゃなくて私が楽しむのよ」
「こういうのは互いに楽しむイベントじゃないのか? 」
「どうかしら」
すると、早見さんは僕の胸板に耳をあてた。
「本心じゃ、けっこう楽しみにしてるみたいね」
「そこに心はない、心臓だ」
「もしかして、彼のハートをものにするって、心臓を鷲掴みにするってことかもね」
「恐過ぎだろ」
だんだんと話が逸れてきたので、早見さんはわざとらしく咳払いをした。
「で、私の家に行く前に買っておく物はあるかしら」
「ないよ」
行きたくないと言っても無駄なので、テキトーに答える。
「てっきり、コンドームくらい買わせて欲しいと言うかと思ったわ」
「どこまでする気だ? 」
「最後までよ、パパ」
「呼び方が段階とび過ぎだろ」
「いいじゃない、今から子ども作るんだから」
「コンドームする気ないじゃん」
「当然よ」
「帰りたい」
「いいわよ、私達の愛の巣に帰りましょ」
早見さん宅改め、愛の巣に僕は連行された。

541幼なじみの早見さん:2013/05/15(水) 13:14:57 ID:8puLo2DY
以上、投稿終了です

542雌豚のにおい@774人目:2013/05/15(水) 13:24:46 ID:.8XQcEVg
>>537
GJ
姉可愛い
ぜひもっと病んでほしいw

>>540
これもGJ
不思議な仲のよさだなこの二人

543雌豚のにおい@774人目:2013/05/16(木) 22:55:18 ID:DSZOLsek
素人丸出しの、短編だけど投下していいかな・・・?文を書くこと自体初めてで
見苦しいかもしれませんが、よければ見てってください・・・(´・ω・`)
ヤンデレと言えるかどうか微妙ですが、自分からしたらヤンデレに部類されます。

544妹さんの心:2013/05/16(木) 22:59:03 ID:DSZOLsek
俺の妹、峰ヶ稿 鐘衣がちょっとした、軽い事件を起こしたのがつい最近――二日前のことである。
時は二日前に遡る、その日
俺は、いつも通りに学校から帰宅路についてのんびりと空は青いな、とか柄にもないことをひんやりとした風をあびながら雲ひとつない青空を見上げて思った。

最近、俺の妹の様子がおかしい・・とは思うものの、あいつの考えていることなんて俺には分からないし、分かるわけがない。
もしかしたら、あいつの身に何かあったのか、とかも考えてしまうのは兄としての性なのだろうか。

だがしかし。
あいつは普段、俺のことを無視する、しかも、全てのことにかけて距離をとる。
昔中学二年生の時は、周りの兄妹と比べて仲が良かったとは思う。

確か俺が中学三年生に上がってから、あいつは俺と露骨に距離をとり始めたんだっけか・・。
そのときの俺は思春期にでもなって難しいお年頃なのだろうと考えて俺の方からも距離をとった。

現在、高校二年に上がった今でも関係は直ってないっていうか悪化してる。
まったく話さないから無視に進化した。

最近は俺の方から目も合わせなくなったな、そういえば。
ああ、危ない危ない、元々の悩みから脱線するところだった・・それで、様子が変なのだ。
ことあるごとに俺に突っかかってくる、この前なんて飯ができたと言いに行ったら部屋の扉越しに罵声を浴びせられた。

顔を合わせると、見てもないのに『こっち見ないでよ』とか言ってきて、見てないと言い返すと喧嘩に派生する。
一年前はまだ、こんなことはなかった。

あと、やけにボディタッチが多い気がする。
喧嘩の時は肩を捕まれ、俺があきらめて引こうとすると手から腕にかけて、どこか捕まれる。
あとは、ご飯の時とか席が隣になると親から見えないところで太もも近辺をひねってくる。
指と指の間でぐりぐりとねじるようにして。手を置いて、触るようにしてひねってくるから余計に性質が悪い。
これではボディタッチではなくボディアタックじゃないだろうか。

まったく、何をあんなに苛立っているのだろうか。
学校で何か嫌なことがあって、ストレスの捌け口として俺を使っているのだろうか・・だとしたらやめてほしいのだが。

妹のことについて考えていると、家の前に着いた。
我が家はどこにでもある一軒家で二階建て、庭付きである。
一回は主に食事とかテレビを見るとか家族共有スペースで二階に俺と妹と親の私室がある。

「ただいまー」

家の玄関を開けて靴を脱ぎ、家の中にいるであろう家族に聞こえるように言った。
母親の「おかえりー」と、いう声と共に二階からがたがたと慌しい音が聞こえてくる。
妹が何かしているのだろうか、何をしているかは想像もつかないが。

とりあえず、普段着に着替えるべく二階の自室へと向かう。
一段、一段と上がっていくたびに木が軋む音がする。

階段を上りきって、自室の扉を開ける。

いや、開けようとした、のほうが正しいだろう。
自室の扉を開けようとしたがガチャガチャと音がなって開かない。
なぜか鍵がかかっている・・・。

545妹さんの心:2013/05/16(木) 23:06:57 ID:DSZOLsek
「おい、誰か中にいるのか?」

といっても中に入るようなやつは妹しかいないだろうが。

またしても、中から何かバタバタと慌しい音が聞こえてくる。
あいつ、何してるんだ?俺の部屋で・・・。

音が止み、一瞬の静寂の後、目の前の扉からがちゃり、と鍵が開いた音がした。
俺は早速鍵が開いた扉を開けて、妹に何事かと聞こうとする、が

聞く前に妹は俺の胸板らへんに両手を当てて押しのけ、走って自室へと戻っていった。
押しのけるなら触る部分肩でもよくね?、と思ったがどうでもいいか、と脳の片隅へと考えを追いやった。

俺の部屋でいったい、何をやっていたのだろうか。
見たところ、物の位置は何も変わっていない。

ベッドの上のかけ布団が朝出て行ったときよりも乱れていることからベッドの上にいたことは分かるがそれ以外はまったくと言っていいほど何も変わっていないようだった。

前から意味不明で奇怪な行動をすることがあったが、今日もその類のようだ。
やはり、ストレスでも溜まっているのだろうか・・・、最近は普通に話さえしない仲だが、さすがに心配になってくる。

昔の名残なのだろうか、それとも未だに自分は妹のことを可愛く思っているのか・・。
まあ、そんなこと気にしていても仕方がない、どちらにせよ兄だから、で締めくくれるのである。

疲れたため、ふぅ、と小さくため息をついてベッドの上に寝転がる。

ぬちゃ

・・・?ん? 何故か枕の裏に入れた手にねちゃねちゃとした粘質な感触がする。
何かついているのかと思い、枕を裏返してみると、元々は白に近い限りなく薄い青色だった平べったい枕の中央部分がすこし黒ずんでいる、明らかに何か液体をこぼした後のように。

「うぇ!?」

驚いて慌てて手を離す、驚いたからか、変な声を出しながら。
おいおい、鐘衣さんよ・・・なにをやらかしてくれたんですか・・・。
この付着している液体が何か、心当たりがあるが、鐘衣に限ってそれはない。と、思いたい。
あの鐘衣に限ってまさか、兄の枕に自分の愛液なすりつけるとか・・正直言って想像出来ないし、したくもない。

大体、童貞の発想なんてあてにならぬ。これが愛液だと決まったわけではない。
長方形な枕の右上のちょっと尖ってる部分を右手の親指と人差し指でつまみ、自室の扉を開けて走って一階へ降り、洗面所に行き洗濯物の中に入れる。
・・さて、どうしようか。

このまま妹に何をしたか問い詰めるか、見逃すか。
平和的な解決法が、俺からしたら、見逃すだな、うん。

546妹さんの心:2013/05/16(木) 23:16:38 ID:DSZOLsek
これ以上変に問い詰めて妹との仲の悪さが悪化するとさすがに家に居づらくなるため、今日だけは見逃してやることにした。
今度やったら見逃さないけど。
ほら、仏の顔も三度までって言うじゃないか。

俺の場合三度じゃなくて一度までだけど。
だがこれまでのをプラスにすると三度じゃすまないな、俺の心広いな。

しょうもない自画自賛をやめて、俺は自室に戻ったのであった。



で、これが二日前の事件である。

なんで、二日前の事件なんか思い出してるかというと、今日珍しく妹が普通に話しかけてきたのだ。
勉強を教えてほしいから部屋にきてほしいとのこと。
普通に話しかけられたのなんてかなり前だから、この前の事件が何か関係あるんじゃないか?と、思い出していたのだが、どこが関係しているかわからない。
しおらしい、昔の妹を連想させるような態度だったからついつい最近の妹を忘れて、イエスの返事をしてしまった。

ん、あ、そういえば。妹と二人で、勉強イベントで思い出したけど
確か、今日と明日、明後日帰ってこないんだっけか、父さんと母さん。
なにやら夫婦で温泉にいくんだとさ。
あの歳になってもまだ仲がいいなんて夫婦の鏡だな。

つうことは今日含めて三日間妹と二人きりか、なんか気まずいっていうか、なんていうか。
この勉強を教えるっていうイベントを機会に徐々にでも仲直りできたらいいな、とか高望みしすぎだろうか。

いや、兄ならこう考えて当然・・・だと思う。

あ、もう7時か、そろそろ妹の部屋に行かないと。

ベッドの上から、よっこらしょっと声を出して足を床へと投げ出し、ゆっくりと立ち上がる。
長いこと猫背で本を読んでいたため、両腕を伸ばして上体を後ろに反らして欠伸をすると、骨のなる音が聞こえる。

読んでいた本を勉強用机の隣に設置してある本棚に栞をはさんで戻す。
勉強っていっても、何を教えたらいいのだろうか、ま、そこら辺は妹が言ってくれるだろう。
などなど考えながら、自室を出て妹の部屋の前に立つ。

久しぶりだなー、妹の部屋、何年ぶりだろうか。
とりあえずノックする。

「俺だ、入っていいか?」

「・・いいよ」

しばらくすると小さめな、ちょっと高めで妹独特のアニメにでてくる声優のような声が聞こえてきた。
さてさて、許可をもらったので入るとするか。

『ショウの部屋』と丸っこいかわいらしい文字で書かれた板のついた扉を開ける。
妹の部屋は、質素なものだった。

人形の類は一切なしである。
必要最低限のものしか置いていない、年頃の娘がこんな部屋で大丈夫か?だいじょばない、大問題だ。

自問自答をして、妹の部屋をまじまじと見つめる。
妹は部屋のちょっと中央から左に寄っているテーブルの左側、壁側に座って物理と書かれたノートをテーブルの上に置いて俺の方を見ている。

547妹さんの心:2013/05/16(木) 23:24:45 ID:DSZOLsek
「はやく、こっち座って」

妹が、そう言い自分の右斜め上側をぽんぽんと叩いてこちら側を見てくる。

「お、おう・・」

妹に言われたとおり、叩かれた場所に腰を下ろす。
妹のノートを見る限り物理がわからないようだ、安心しろ妹よ、物理はお兄ちゃんの得意科目だ。
心内でそう呟くが、口に出して言わない。
機嫌を悪くするとともに下手をしたら手が飛んでくる、もちろんパーじゃなくグーで。

妹は両手でノートをぱらぱらと開き中間部分にさしかかると手を止めた。

「ここ、教えてほしいんだけど」

と言って文字と数字の列に人差し指を置く。

「ああ、それか、そこはだな――」





妹に勉強を教えてしばらく経ったときのことであった。
妹が飲み物をいれてくると席を立った、その際俺に何か飲むかと聞いてきたが、素直に甘えて麦茶を頼んだ。

鐘衣は飲み込みが早いし、一度教えたことはさくさくと覚えていってくれるため凄く楽だ。

「兄ちゃん、いれてきたよ」

鐘衣を脳内でべた褒めしていると鐘衣がお茶を持ってきた。
わりと喉が渇いていたため、俺は一瞬で麦茶を飲み干した、その時一瞬だけ、本当に一瞬だけだが鐘衣がにやりと笑った気がした。


そこからしばらく休憩して、勉強を再開しようとしたその時だった。

「ふぅ・・よし、再開す・・る・・あ・・・れ?」

いきなり、体の力が抜けて後ろに倒れる。
だんだんと、体が熱く火照ってくる。

一体何が起こっているのか理解できなかった、鐘衣に助けを求めようとするが、声が出ない。出そうとしてもうめき声だけで言葉にならない。

ふいに鐘衣が立ち上がる。
するとどこからか、しめ縄のようなものを持ってきた。

鐘衣が俺を起き上がらせて、後ろから抱え込むと、ベッド方面に引き寄せる。
女子独特のいい匂いとやわらかい感触に少しドキっとしたが混乱で脳内を埋め尽くされているため、そこまでだった。
つか妹に欲情はありえない、したとしても一時の気の迷いか狂ったのであろう。

そんなことを考えているうちに妹がニヤニヤと口元を歪に、右端のほうを歪ませて俺の腕をベッドに縄で縛り付ける。
いったい、こいつは何を考えているのだろうか。

妹は立ち上がり、クローゼットからカメラを取り出すと、俺の方に向けるようにして前のほうに取り付けた。
カメラの赤いランプがやけにまぶしく感じる、そこまで近い距離はないのだが。

「あ、忘れてた」

縄をもうひとつ取り出すと、俺の両足を縛りつけた。
ちょっときつめに縛られているせいで痛い。


ふぅ、と息をつくと鐘衣は俺の上に這いつくばって、べったりと引っ付いてきた。
顔を胸の部分に押し付けて、匂いを嗅がれる。
鐘衣の普段はツインテールにしている長い銀髪が少し、鼻を掠める。

アホかこいつは、何をしてるんだ。
何をしているんだっていうか、何を考えているんだ・・。

そして鐘衣が目が赤い、白ウサギのような瞳で俺を見てくる。
気のせいだろうか、若干息が荒い。

548妹さんの心:2013/05/16(木) 23:45:01 ID:DSZOLsek
「ねね、兄ちゃん、これからボクが何をするかわかる?」

悪戯な笑みを浮かべて俺を見てくる。
わかるわけねーだろ、馬鹿、と言ってやりたかったが、生憎体が動かない。

「ハメ撮りだよ ハ メ 撮 り」

語尾にハートがつきそうなほど甘ったるい声で俺に、一般的な兄妹での間では絶対に出ることがないような単語を俺の耳元で呟いてくる。

って、まて、こいつ今なんつった?
ハメ撮り・・? は? え?

ちょっとまて、ちょっと待てよ!
何を考えているんだ・・聞き間違えであってほしい。

「兄ちゃん兄ちゃん、ボクがどんな気持ちで三年間過ごしてきたかわかってる?」

俺がわかるわけないだろう、と。

「それはそれは、悶々と、ムラムラとした三年間だったよ。何回兄ちゃんを背後から襲ってしまいそうになったことか・・・この苦労、分かってる?」

だから俺にわかるわけねーだろうが!
口が動かないのがこれだけもどかしいなんて。
まず、兄をそんな目で見ていたことが驚きだよこん畜生。

「二日前、ボクが兄ちゃんの枕をボクの愛液で濡らしちゃったときはさすがに怖かったよ、ばれるんじゃないかって。けどね、けどね、本当はその後が大変だったんだよ?なんせいいところで中断しちゃったから、興奮して夜も眠れなくなったんだよ。あとは、それも重なって以前から計画していた、『兄ちゃん逆レイプ大作戦!』を実行しようと思ったんだぁ。しかも都合よくお母さん達旅行だし」

あのねちゃねちゃした液体って、やっぱりこいつのアレだったのかよ!
普通に触っちまったよ・・・。
まず兄の枕になすくりつけること自体がおかしいだろ、オイ。しかも実の兄を逆レイプする計画とかたてんなよ!!

「んぁっ」

鐘衣が左手を俺の右頬にあてて、右手を服の下に入れ、背中を撫でられる。
鐘衣の右手が案外、思っていたよりも冷たかったため変な声がでた。

ちょ、まじでやめろよバカヤロー。

熱のこもった目で、頬を赤く染めて俺を見てくる鐘衣。
ちょっとそんな色っぽい目でみないで!

549妹さんの心:2013/05/16(木) 23:45:48 ID:DSZOLsek
そしてじわじわと鐘衣は俺に顔を近づけてくる。え?こいつなにしようとしてるの?いやいや、この状態だとなんとなーく予想はできますけど・・。

だらしなく開けられている俺の口の中に鐘衣は舌を入れる。
舌をつたって何かが流れ込んでくるのが分かる。言うまでもない、鐘衣の唾液である。
そしてしばらく俺の舌を弄んだあと、唇を離した。

「ぷはぁ あぁ、いいよ兄ちゃん興奮してきたよ。んふふ、兄ちゃんが起きてるときのハメ撮りは初めてだなー」

恍惚とした表情で言う鐘衣。俺は、その発言に違和感を覚えた。
起きてるとき・・・? まてよ、それじゃ寝てるときもしたことあるような言い方じゃないか。
純情チェリーボーイだぞ、俺。

「あ?その目は気づいちゃった感じ?ご想像通り、寝てるとき、何回も何回も何回もヤらせてもらってたよ!薬ってすごいよね、何をしても起きないんだから、ふふふ」

妖艶な笑みで俺の顔をじっと見つめてくる。
父さん母さん、娘はもう手遅れなようですよ。
そしてしらない間に俺の貞操は散らされてたようだ・・・。

「確か初めて撮ったのが小学6年生の時かなー、友達のみいちゃんがエッチな本見せてくれて、それを見てて思いついたんだ!ボクも兄ちゃんとのエッチを動画で撮ってコレクションにしようかなって。けどね、小学6年生の知恵じゃ薬盛るとか大胆な発想が浮かびあがらなかったから、素で寝てるときとか、夕食にちょっとだけお酒とか混ぜたりしてたんだー、兄ちゃんは今の今までボクがそんなことしてるなんて思ってもなかっただろうけど、それでねそれでね、兄ちゃん結構ショックだったみたいだし教えておくけどなんで兄ちゃんに冷たくしてたかっていうとね?そうしたら兄ちゃんもっとボクにかまってくれるかなーとか思ってたんだけど逆に遠ざかってたんだ。酷くショックだったよ、ボクは。もうね、学校に今まで撮ってきたビデオと画像をばら撒こうかと思ったよ、うん。けど、そのおかげで動画撮るときに背徳感とか感じれてよかったっちゃよかったんだけどね、寂しかったよ、ボク、これからどうやっていままでの分のお返ししてくれる?やっぱり毎晩エッチ?それとも学校でカップル宣言?それともそれとも両方にする?ふふふ、楽しみだなぁ。あ、抵抗しようとか考えたらだめだよ?そんなことしたら動画とか画像とか全部広がるようになってるからね?データのバックアップもばっちり取ってあるし、抵抗なんてするより従順に従ったほうが得だと思うなー。何もかも縛り付けるわけじゃないけどね、事務的な用で以外女の子と会話するのはやめてね、ボク以外の女の子を見ないでね、目とかも合わせないでよ、遊ぶとかもってのほかだよ。兄ちゃんにはボクさえいればいいもんね、また昔みたいに一杯一杯いーっぱい!遊ぼうね!」

息継ぎなしでよく言えたものだ、さすがに背筋がぞくっときた。
体温が下がっていくのが自分でもわかる、多分俺の顔は真っ青になっているであろう。
もっと早く気づくべきだった、妹の内に潜む狂気を・・いや、俺がいままでほったらかしにしていたのが悪化させたのだろうか。

頭の中で対抗策やらなにやらが浮かんでいくがおそらく全て通用しないだろう。
下手をすれば監禁されてビデオ公開の刑にもなりえる。

ああ

――終わったな。

四月二六日
俺の人生が終わった瞬間だった。
さようなら今までの平和な人生。ようこそこれからの異常な人生。

妹は大切にしろよ?対応を間違えるとえらいことになるぞ。

550妹さんの心:2013/05/16(木) 23:50:41 ID:DSZOLsek
えーっと、以上で投下終了です。
結構長かったし、ヤンデレ成分がまだまだですね・・・すみません。
初めての投下なので、文とかいろいろと変なところあったと思いますが、大目に見てくれると嬉しいです(´・ω・`)
つ、つぎこそはもっと完成度とヤンデレ成分を・・・!!
深夜のノリで書くんじゃなかったんや・・・。

長々と駄文とか見せ付けてすみませんでした、失礼しました!(´・ω・`)

551雌豚のにおい@774人目:2013/05/17(金) 00:43:03 ID:gL47rMsQ
>>550
GJ!
書くのはそのうちなれるだろうしガンバレ
妹の狂った感じは良かったし

552雌豚のにおい@774人目:2013/05/17(金) 13:33:25 ID:HqjBfR0U
>>550
GJ
ちゃんと病んでたし気にスンナー
次も待ってる

553雌豚のにおい@774人目:2013/05/17(金) 21:41:37 ID:SEIzNYf2
超上手いっすよ!最高っすよ!
ぜひ、これからも書いてください
自分もこれぐらい、うまく書けてたらなぁ…。

554雌豚のにおい@774人目:2013/05/20(月) 23:45:12 ID:xJc//7bE
GJです‼

555雌豚のにおい@774人目:2013/05/22(水) 09:28:14 ID:BfwixBmY
GJ!!

556雌豚のにおい@774人目:2013/05/22(水) 22:02:32 ID:4IqeILEg
これでもかってめちゃくちゃ自分の事嫌ってるんだけど彼女できたとたん素直になって本性を表すストーカーヤンデレ幼馴染ってのが読みてえ。
ヤンデレWikiか嫉妬スレのwikiにもの似たようなのが何本かあったけど最高だった。

557雌豚のにおい@774人目:2013/05/23(木) 00:20:12 ID:96RP9wso
>>556
kwsk

558雌豚のにおい@774人目:2013/05/23(木) 10:51:14 ID:Q0eE94bs
某所からの引用

エルフ
ヒト科ホモ属サピエンス種エルフ亜種

その美貌と長命で知られるエルフだが、彼等の執着心の強さは意外と知られていない。
エルフは森に篭り人間にほとんど興味を示さない。
しかし一度強く感情を動かされると、その衝動は果てしなく続くという性質がある。
決して恨みを忘れないというのも怖いが、もっと恐ろしいのは彼等の愛情である



有名なのはドラゴン退治で知られるフランスの騎士キドルのエピソードだ。
冒険の途中、彼は美しいエルフの少女の命を助けた。
キドルに惚れ込んだ彼女は熱烈に求愛するが、彼は意に介さない、すでに妻がいたのだ。
そこでエルフは夫妻の館近くの森に住み着くと、ただ気長に待ち続けた。
そう、妻が自然死するその時を。

半世紀が経ち、ついに妻は逝く。

朝、キドルは体がやけに軽いことに気づいた。目も良く見える。
鏡を覗くとそこには若さを取り戻した自分の姿が。
後ろではエルフがやさしく微笑んでいた。
彼女は悲嘆にくれる老キドルを、秘薬によって不死化したのだ。
その執着心に震撼したキドルは、再び冒険の旅へと出る。
かつて自分が救ったエルフから逃れるために。
キドルの逃走は20年に及び、ついにヴェネチアにて捕まる。
もうキドルは諦めた――二人は一女を得る。
だがその二人の子供、母の性質を色濃く受け継いだハーフエルフの娘がまた強烈で、
極度のファザコンに育ってしまったのが、キドルのさらなる不幸の始まりであった……

以下子供編に続く…

559雌豚のにおい@774人目:2013/05/23(木) 13:29:24 ID:tokqf3ow
素晴らしい
妄想が捗るな

560雌豚のにおい@774人目:2013/05/23(木) 23:02:25 ID:m9CMWj5s
キドル最高すぎ。奥さんの次はエルフで肉体若返りで夜は三回戦やな

561雌豚のにおい@774人目:2013/05/27(月) 03:48:45 ID://JqNWmU
いかにして捕まったか気になるな

562雌豚のにおい@774人目:2013/05/28(火) 07:17:34 ID:Kb6skDwk
ラーメン屋とサラリーマンの話がいまだに、気になる

563雌豚のにおい@774人目:2013/05/28(火) 08:04:26 ID:8Q6NB.tY
>>562
主人公っぽい奴の上司が豚骨ラーメンになるやつだっけ?

564雌豚のにおい@774人目:2013/05/28(火) 10:10:03 ID:Kb6skDwk
>>563
うむ。でもあれは最後まで事実がうやむやだからいろんな考察ができるぞ。

上司はコロしただけでラーメンには自分の愛液混ぜたりしただけとか。

続きがあれば読みたいなー

565雌豚のにおい@774人目:2013/05/30(木) 03:45:40 ID:X.Sm1vsM
俺は私は人が分からないをずっと待ってる

566雌豚のにおい@774人目:2013/05/30(木) 20:03:14 ID:W7M3LA4A
キモオタと彼女続きでないかなぁ・・・

567雌豚のにおい@774人目:2013/05/30(木) 21:38:17 ID:0NpM99D.
ウエハースとホトトギスと黒ぽけとサトリビトと……挙げたら切りがないほど待ってるの多いわ……

568雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 00:11:46 ID:SyTEWGuU
ど、ドラファンを・・・

569雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 15:12:35 ID:Jp/Cqk3g
全部待ってるよ
もちろん新作もな

570雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 16:15:33 ID:TnWNkB9A
俺的にはヤンデレの娘さんが一番キタんだが。これの続きが一番楽しみ。早くこないかな。
あとヤンデレ家族と傍観者の兄のIFももっとやってほしかったな。ああいう空気好き。

この二つってあんま話題に出てこないけど皆あんまり好きじゃないのかね?
俺は大好きなんだが。

571雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 16:36:35 ID:uxd9XzK2
自分が好きな作品を挙げる→それ以外はどうでもいい
と、とられかねないから自重してるだけだ
それとテンプレにもあるが
言い方にもよるけどあんまり催促するのもよくない
少なくとも俺は「マダー?」とか言われるだけでやる気が失せる

572雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 16:39:54 ID:zkhSBdjU
ヤンデレ家族は作者HPで続編みたいなの書かれてるよ

573雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 17:57:16 ID:TnWNkB9A
>>572
マジでありがとう。ずっと知らないまま過ごす所だった。書き込んでみるものだな。
でも何故ここに書かないんだww

>>571
例えば、ぽけもん黒って話題になる頻度が結構高いよな。ああいうのって本当はいけないことなんだっけ?

574雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 18:11:00 ID:uxd9XzK2
程度にもよるし受け取る側にもよるんだろうけど
個人的には気分よくない
「投下まだー、投下まだー」っておまえら欲しがるだけじゃなくて
ネタになるような話振るとかしたほうが前向きじゃねって思う

少なくとも管理人さんの意向は
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1301831018/354
> 何度も言ってますがクレクレはほどほどに 
> あまり削除や規制はしたくないですが、あまり酷い場合は削除規制ありますのでご留意を
> 書くのは作者さんの自由ですよー

なんで
まあ過去作品の感想述べるのは良いと思うけどね
クレクレだけだとうんざりするわな

575雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 23:03:11 ID:23KWtG..
本当に申し訳ない!
最終話書くとか言いながらこのざまで…。
皆さんの期待には答えられないけど、投下します。

576雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 23:04:13 ID:23KWtG..
…はあ……。

…そんなところで立ってないでいるならいるって言ってくださいよ、びっくりするじゃないですか。
珍しく元気がない?
失礼な、私にだって機嫌がいい日があれば、悪い日だってあります。
…ちょっとこの間の二人を見て少し私の思い人のことを思い出しまして。
なんですか、その顔。
私に好きな人がいるのが不思議ですか?
そうですね、ちょうどいい機会ですし皆さんに私の生い立ちをお話ししますね。
大丈夫ですよ、そんなに時間は取りませんから。

あれは20年前のことでしょうか、私が幼稚園に通っていた頃のことです。
その時にはまだ幽霊も見えなければ、彼らの存在すら知らなかった俗に言う『普通』の女の子でした。
父がいて、母がいて、自分の家がある何一つ不自由のない生活を営むごく普通の少女。
そう、あの事故が起こるまでは…

「せんせい、さようならー!」

いつものように帰りのバスに送られて帰宅した私。
その日はずっと楽しみにしていた私の誕生日で、そのため父も仕事を早く切り上げて、部屋の飾りつけをしていました。
子供ながらに母の手伝いをしようとしたんでしょうね。
キッチンで夕食の準備に取りかかっていた母が少し目を離したすきに、何も知らない私は火をつけようとコンロに手をだし…

「駄目よ、恵美!いますぐそこから離れなさい!」

まさに一瞬の出来事でした…。
目の前が火の海になり、爆発に巻き込まれて自分の存在が消えていくのを体が覚えています。
痛みも恐怖も感じることなく、最後に見たのは私を助けようとする両親の必死な姿で、そのまま意識を手放しました。

次に目が覚めたのは病院のベッドの上。
にわかには信じられませんでしたよ、自分が生きていることを、しかも五体満足で…。
周りを見渡し、違和感を感じてそばにいた看護婦さんに尋ねました。

「お父さんとお母さんは別のお部屋なの?それともお仕事?」
「……。」

私の質問に対して目をそらす看護婦
幼い自分にはその行動がどういうことを意味するのかを理解することができませんでした。
本当に馬鹿ですよね、あなたを助けようとしたせいで二人とも死んでしまった、なんて言えるわけないのに…。

577最終話 前編:2013/06/02(日) 23:05:38 ID:23KWtG..
それからの私の人生はさんざんで辛かったけれども、同時に自分への戒めでもありましたね…。
親戚の家をまわり、誰からもすげなく扱われて、彼らの機嫌を損なわないようにふるまい、いつも何かにおびえる毎日。
思えばその頃からぼんやりとですが、幽霊の姿が見えていたのかもしれません。

そしてとうとうやってきた、二度と思い出したくないあの孤児院での生活。
すでにあの事故のことは世間に新聞で広がりつつありました。

『一家心中か!?一夜にして一軒が焼失!』
『両親は死亡…。生き残った娘の運命やいかに』

マスコミたちによる過剰でいい加減な見出しは、孤児院に住む他の子供たちが私を遠ざけるだけでなく、先生たちまでもが必要以上に私と接しようとしなくなるには十分でした。
それで済めば、まだ皆とも触れ合うことはできたでしょう…。
しかし、皆さんもご存じのように私には事故のショックで幽霊が見えるようになっており、

『どうして…、どうしてあなたは振り向いてくれないの?』

『憎い、アタシからあの人を奪ったあの女が憎い!』

『お願いだから、私を一人にしないで!ずっとそばにいてよ!!』

彼女たちの怨念…、いや、心の叫びが常に幼い私に降りかかりました。
多感な時期に悪意に触れ続けると、人間がどうなるか想像できますか?
以前出会ったあの自転車の霊のように人を疑い、誰かを信じる気持ちをなくし、人と触れ合うことに恐怖を感じるようになってしまったんです…。
そしてとうとう、院で生きることに耐えきれなくなった私は決心しました。

(ここを出て行こう。お父さんとお母さんの待つあの家に帰ろう…。)

子供の行動力とは恐ろしい物です。
いるはずもない両親に会うために、院の先生たちの目を盗み、
普段使われていない裏口から脱走しようとしましたもん。
もっと他に方法はあったはずなのに…今の自分では考えられませんね。

翌日の深夜、子供たちや先生たちが寝静まったところを見計らって、布団を抜け出した私。
もうすぐ、もうすぐで二人に会える!
そう思って裏門に手をかけた時、

「…っぱり、……のこ…り…たけの…おいし……」

ふいに聞こえてきた幼い声。
最初は幽霊かと思ったけれど、能力上それまで男性の霊を見たことはなかったので、疑問に思いました。

578最終話 前編:2013/06/02(日) 23:06:51 ID:23KWtG..
こんな時間にいったい…。
自分も人のことを言えないくせに、目的もすっかり忘れて声のする方へ向かうとそこには『一人』の少年がおり、

「だからー、きのこなんかよりもたけのこのほうがおいしいにきまってんだろ!センスないなあ。」

…正直、最初は彼の様子よりも、その内容におどろきを隠せませんでしたよ…。
見たところ私と同い年くらいの子で、何の変哲もないように覚えましたが、世間一般では夜中に独り言をいう子を普通とは呼びません。
逃げなきゃ、あの子に関わっちゃダメだ…!
その場を離れようと、踵を返した途端、

「ん、なんでにげるんだよ、そこのおまえ?こっちきていっしょにあそぼうぜ!!」

「!!」

な、なんで…?
確かにあっちからは見えないように隠れていたはずなのに、どうして…。
「なんでみつかったの、ってかおしてんなあ。
 へへっ、おしえてやるからはやくきなって!」

「…う、うん。」

仕方なく、言われた通り彼に近づき、遠くからじゃ見えなかった月に照らされた彼の顔を見ます。
それは、少年のあどけなさと好奇心旺盛さをあわせ持ったもので…

「…?なんだ、なんかおいらのかおについてるか?」

「え!?いや、そんなことないよ!ただちょっと…。」

「ふーん、へんなやつだなあ、おまえ。
 まあ、いいや。そんなことより、ほら!」

彼はそう言って、私に手をさしのばす。
変なやつって…一番言われたくない人から言われるとなんだか…。

「…え、えっとどうすればいいの?」

「なんだよおまえ、はくしゅもしらないのか?
 てをつなげばいいんだよ!」

「それをいうなら、”握手”じゃあ…。」

「う、うるさいなあ!そんくらいしってるにきまってんだろ!?
 いいから、はやくしろって!」

彼の羞恥で赤く染まった顔を眺めて、くすっと笑う私。
大丈夫、この子は危ない子なんかじゃない。
そう思った私は、彼の掌に自分のそれを置きました。
すると…

「え、これって…。」

彼の手を握った瞬間、今まで何もいなかったはずの院の裏庭には、あふれんばかりの人…
いや、幽霊たちが宙を漂っていました。

579最終話 前編:2013/06/02(日) 23:07:39 ID:23KWtG..
『おっ、やっと俺らが見えるようになったのか。いやあ、それにしても可愛いねえ…。
手ぇ、出してもいいか?』

『ちょっと、このスケベ。あんたついにロリコンにまでランクアップしちゃったの?
 まあ、アタシも同感だけどさ。ふふっ、将来が楽しみね。』

『二人ともいい加減にしとけ。すまない、こいつら礼儀というものを知らんから…。』

ワイワイガヤガヤドンドンパフパフ

…その光景に私は声も出ませんでした、もちろんいい意味でですけど。
それまで、霊に対して悪印象しか持っていなかったからか、彼らの姿はとても新鮮で今までのイメージを覆すものでしたよ。

「ふふん、おどろいたか?こいつらのおかげでおまえがいるのもバレバレだったってわけだ。
 おっと、なきたいきもちはわかるけどがまんしろよ。
 なんせ、こいつらゆうれいのくせに「すごい、すごいよ!私こんな霊たち見たことないよ!」……え、ちょっ…。」

自慢げに話す彼にあまりの嬉しさに飛びついてしまいました。

「ねえ、どうやったらこんなふうにできるの?
 私もっと、もーっとこんな霊たちとお話ししたい!お願い、教えて!?」

『へー、お嬢ちゃん。あんた霊はいけるくちかい?
 うらやましいぜこの野郎!』

『本当よ、こんな可愛い子に気に入られるなんて高志(たかし)ったら妬けちゃうわ。』

「わわわ、わかったから、い、いったんはなれろって!!
 おまえらものんきなこといってねえではやくたすけろーーっ!」

――――数分後――――

「なるほどな、じこにあってから、あくりょうたちになやまされつづけていると…。
 それで、こいつらをみてもおどろかなかったのか。」

落ち着いたところで、彼に自分の悩みを打ち明けました。
自分のせいで両親が死んだこと、それから誰も優しくしてくれなかったこと、怨念が降り注ぐ毎日のことをまるで懺悔をするかのように…。

『可哀想に…、辛い目にあってきただろうな。
 心配しなくても私たちは君に危害を加えようなどとは思わないよ。』

『おうよ、まったくひでえ奴らだぜ。
 寄ってたかって、女の子を泣かせようとするなんざあ、霊の風上にもおけねえ!』

「それ、おまえがいえたことじゃないだろ…。
 でもこのままだとまずいな、あいつらようしゃないしなあ…。」

幽霊さんたちもこの子も私のために悲しんだり怒ったりどうするか考えてくれている。
それだけで十分幸せでした。

「…よっし、きめた!
 おいらがおまえにれいとのつきあいかたってのおしえてやるよ。
 きょうからおれのことはせっしょうとよべ!」

「ほ、本当!?ありがとう、…えーっと」

「ああ、いいわすれてた。おいらのなまえはたかしっていうんだ、よろしくな。」

「私は恵美、よろしくね。あと、せっしょうじゃなくて、”師匠”じゃないの…?」

『ああ、気にしないで恵美ちゃん。高志ったら頭悪い癖にすぐ難しい言葉使おうとするんだから。』

「よけいなこというな、わざとまちがえたんだよ!」

あははははははは!!
…何年振りだろうか、心の底から誰かと笑うことができたのは。
もう、院から抜け出そうという気持ちはすっかり消えていました。
高志君という、生きる希望が見つかったから…。

580雌豚のにおい@774人目:2013/06/02(日) 23:12:10 ID:23KWtG..
駄文失礼しました。
自分もずっと待ち続けている作品はたくさんあります!

ちょっと長くなりそうなんで、後編はなるべく早くするよう努力します!

581雌豚のにおい@774人目:2013/06/03(月) 02:56:40 ID:QVH4.mLA
おちゅ

582雌豚のにおい@774人目:2013/06/03(月) 11:19:34 ID:YmRipugM
おうGJ
主人公20代半ばだったのか
もうちょっと若い印象だった

583雌豚のにおい@774人目:2013/06/06(木) 14:52:50 ID:1O/Wfz5k
なにかしら現世に執着があるから幽霊になるわけで
それを想い人への過剰な愛情にすればヤンデレ要素ありになる
ならばよくある動物の恩返し系の話も
相手への愛情を過剰にすればヤンデレな話になるはずだ

と思ったが俺には文才がなかった

584雌豚のにおい@774人目:2013/06/06(木) 20:43:24 ID:LfKdZEzg
なるほど、その手があったか!
自分も文才がないくせに書かせてもらってる身なんで、
アドバイスはとても嬉しいです。

585雌豚のにおい@774人目:2013/06/08(土) 16:22:52 ID:QkoRUYxM
一人の青年がある日帰宅途中に道端に捨てられていた小さな三毛猫と出会う。
両親はすでに他界し、天涯孤独といってよい身であった彼はその子猫を拾い、
新しい家族として迎え入れ、溺愛し、一人と一匹は仲睦まじく暮らすことになる。

その後すっかり家族の一員となった子猫に対して青年はある日
「俺も彼女がほしいなあ」
といった愚痴をこぼす。
職場の同僚に最近初めて女性と付き合い始めた男がいて、
その惚気っぷりにうんざりしつつも自身もまた女性と付き合った経験がなく
羨ましくもあってつぶやいたのだ。

それを聞いた子猫には「かのじょ」とやらがなんなのかはさっぱり分からなかったが
普段欲のない青年がそのようなことをいうのは珍しいので
どうか青年が彼女を手に入れますように
と一生懸命お願いした。

その夜、子猫の前に「てんし」と名乗る
白く美しい羽を生やし頭に輝く金色の輪っかを浮かべた少女が現れこういった
「おめでとう。あなたの相手を思いやる純粋な魂を神様は愛され、願いをかなえてくださるそうです」
天使はそれだけを告げるとどこへともなく去っていった。
子猫が喜んでいると目の前に
黒く禍々しい蝙蝠のような羽を生やした
「あくま」と名乗る男が現れこう言った
「おまえの美しい魂を俺にくれればおまえの願いをかなえてやろう」
子猫はすでに天使から願いがかなうと伝えられていたので断ったが
「もちろん神はおまえの願いをかなえる。だが俺も願いをかなえる。つまり青年は『かのじょ』を二つ手に入れるのだ。多いほうが青年も喜ぶだろう?」
と悪魔が言ってきたので子猫は考えて
確かに欲しいものが一つよりも二つ手に入るほうが青年も喜ぶだろうと思い
悪魔と取引してしまう。
悪魔は喜んでいずこかへ去って行った。


翌日
青年はふとしたきっかけでそれまでまともに話したこともない
高嶺の花だった女性と食事を共にすることになり
とんとん拍子で話が進んで付き合うことになっていた

狂喜乱舞して帰宅した彼の目に飛び込んできたのは

悪魔の計らいで青年の彼女となるべく擬人化され
三色の美しい髪をなびかせて途方にくれた目で青年を見つめる
少女の姿だった。


ここまで考えて挫折した
文章書くのって大変だわ
てか微妙に恩返しじゃない希ガス

586雌豚のにおい@774人目:2013/06/08(土) 17:48:27 ID:QkoRUYxM
最後

悪魔の計らいで青年の彼女となるべく擬人化された
三色の美しい髪をなびかせて途方にくれた目で青年を見つめる
元は子猫だった少女の姿であった。

だな
文章難しい……

587雌豚のにおい@774人目:2013/06/08(土) 20:14:27 ID:NBVjudqs
やばい、すっごく続きが気になります!
文もうまいし、ぜひ書いてみては?

588雌豚のにおい@774人目:2013/06/09(日) 01:40:55 ID:6KBLYNeM
生殺しやないか!!
アンチャン続き書いてや!!

589雌豚のにおい@774人目:2013/06/11(火) 09:32:39 ID:zn7/SwU6
「ご主人様、勝手に引っ越されては困ります」
「ご主人様のお世話をするのが私の勤めなのですから」
「え?俺は結婚した?はい存じております、奥様大変美しい方でございますね」
「ここは新居で新婚家庭だ?それも存じております」
「新しい場所での新しい生活、ご主人様の喜ばれる気持ち大変よくわかります」
「私も嬉しくなってまいりますわ」
「だからお前はもう必要ないんだ?」
「……」
「ご主人様、それだけは理解できません」
「ご主人様のお世話をするのが私の勤めなのですから」


という電波を受信した

590雌豚のにおい@774人目:2013/06/11(火) 16:32:19 ID:7nIriggE
間違えて書いたのかと思ったわww

591雌豚のにおい@774人目:2013/06/11(火) 17:44:12 ID:lYp/LjjA
ヤンデレってやっぱりメイドとか
尽くす職業のほうが向いてるのかな
そういうほうが献身的な姿を描きやすいってのはあるだろうけど

592585:2013/06/13(木) 17:04:36 ID:W3fR4Du.
何とか頑張って書いてみた
まともに文章書くの初めてだからおかしいところ多々あると思うけど
生暖かく見守ってくだしあ

593子猫の願い:2013/06/13(木) 17:09:02 ID:W3fR4Du.
 それはその年の梅雨入りが宣言されてからちょうど一週間が経過した金曜日のこと
一日中降り続いていた雨の中、小走りで帰路に就く20代と思しき青年の姿があった。
やや癖のある髪とまだ少年の面影を残した柔和な顔、日本人の成人男性の平均よりもわずかに大きな体格をしたその風貌は見る人によっては育ちと家柄の良さを感じるかもしれない。
もっとも当人にそんなことを言ってみても苦笑が返ってくるだけであろう、彼は今年初め唯一の肉親であった父を交通事故で失った。彼の目の前で。
病弱だった母が幼少期に他界してからは男手一つで育ててくれた父であった。
息子には愛情をもって接してくれていたが、母の死以降はどこか女性の存在というものを自身の周囲や家庭内からも消し去ろうとしていた気配があり、
そのせいか彼は今でも女性への接し方に悩むことがある。
父は母とのなれ初めについて詳しくは息子にも語らなかったが、結婚する際双方の親族から大反対されたらしく駆け落ち同然であったらしい。
それから親族からは絶縁状態であるということは彼も聞かされていて、実際幼いころから親戚というものには会ったことがない。
それでも一応連絡先のようなものが伝えられてはいたのだが、そこに父の死について連絡をしてみても親族の参列者は皆無であり、弔電等も一切なかった。
もっとも彼は当時喪主を務めており慣れない仕事に忙殺されていてその非情さに憤慨する暇もなかったのだが。
そして葬儀が終わり一段落すると自身の新生活の準備もあってそのことはそのうち忘れてしまった。

 一定のリズムで続いていた足並みがふと止まる。
道端にある何かが彼の気を引いたのだが、それが何であるかというのはすぐに分かった。
段ボールの箱と、その中にある白・茶色・黒の3色の毛に包まれた小さな体と、彼を見つめる二つの目――右目が黄色で左目が青の――三毛猫であった。
べつに猫というだけなら彼もそこまで気にも留めなかっただろうが、
道端に置かれた段ボール箱の中に入った子猫という安直なシチュエーションが彼の興味を引いた。
試しに箱の中をのぞいてみると「どなたかもらってください」と書かれた紙まで入っている。
「やはりこれは間違いないな。完璧な捨て猫だ」
なぜか納得したように呟くと、子猫と再度目が合う。助けを求める目というよりは威嚇されているように彼は感じた。
よくよく見てみればいつからここに置かれていたのか、降り続いた雨により全身濡れていて、小さく震えている。
「今までは不幸だったようだけど」
彼は優しく箱を抱えて子猫に告げた
「幸い俺のアパートはペット可だ。親父がなくなって、女気もなし、そんな俺が新しい家族を作るとなると猫か、犬か、まあそんなところしかない訳で」
「そんな俺に出会えたんだ、おまえこれからはきっとついてるぞ」
子猫は理解したのかしないのか、依然彼を見つめたままであったが
少なくとも箱の中から逃げ出そうとはしなかった。

*****

「でさー、ミー子が可愛いんだよお。昨日も俺のベッドの中に入ってきてさあ。あいつのためにちゃんと寝床を買ってやったのに、俺のそばがいいって……」
「うるせえぞ耕平、何回目だと思ってんだその話」
とある電機メーカーの社員食堂の一角で、向かい合って食事をしている男性二名の内
やや肥満気味の体をした銀縁メガネの男がそういって相手の会話をさえぎった。
「何回目って、今日初めてだが」
「そうじゃねえ、昨日も、一昨日も、その前も、似たような話を散々聞いたわ!」
そうだっけ、忘れてたわと耕平と呼ばれた相手の男は意に返さない。
「大体おまえがその子猫を拾ったのって何ヶ月前だよ。なんだってここ最近急に惚気だしたんだ」
「……」
耕平は一瞬沈黙すると
「一月前ぐらいに何か大きな事件がおまえに起きなかったか? 良太」と逆に質問した。
良太と呼ばれた銀縁メガネの男はわずかに悩む素振りを見せたが、すぐにだらしない笑みを浮かべながら
「俺と香奈タンが付き合い始めた」と心底嬉しそうに答える。
「タンって言うな、気持ち悪い。そこでだ、わが友よ。俺がミー子との愛の生活を語りださないとここで何が起きるであろうか?」
「俺が香奈タンの素晴らしさと二人のラブストーリーを延々話し出すことになるな」
なるほど、それが原因か、と良太は大げさに何度も納得するようにうなづいた。
「そういうことだ。鬱陶しさでは似たようなもんだろ。おまえも俺の苦しみを味わえ」
聞いた良太はわざとらしくため息をつくと
「しかしなあ、耕平よ、友人に人生初の彼女ができて、その惚気話に対抗するためにペットの惚気話を持ち出したりして空しくはならないのか」
「空しい」

594子猫の願い:2013/06/13(木) 17:10:43 ID:W3fR4Du.
即答であった。
「だったらおまえも女作ってみろ」
「作れるもんならとっくの昔に作ってるわ。非モテ同盟結成していたくせに、この裏切り者」
「というかだなあ……おまえ見栄えはいいじゃないか。言いたくないが俺とおまえ、どちらかと付き合えと言われたら女が10人いたら9人はおまえを選ぶと思うぞ。まあ香奈タンは絶対に俺を選ぶけどな」
「最後のを言いたいだけだろ」
耕平も言い返してはみたが自分でも容姿はそれほど悪くないはずだという自信はあった。ただの自惚れかもしれないが。
ただ女性を前にするとどう対応していいのか分からなくなってしまうのである。
「いっそダメ元で河原崎さんにでもアタックしてみたらどうだ、ショック療法で」
「そんな残酷なことを言うなんてそれでも友人かお前は」
「美人だし、性格もいいって評判だろ、イチかバチか……」
「本社の役員のご息女に特攻して失敗した後の俺の身分保障はしてくれるんでしょうね」
「断る」
友人の温かい返答を聞いた耕平は何かを言いかけたが、思い直したように
「ま、今の俺にはミー子がいるよ。それに今は不満なんかない」
負け惜しみとしか言いようがないセリフを告げると立ち上がった。

*****

「ミー子、帰ったぞー」
と、耕平が玄関の扉を開けるが早いか耕平の足下に三毛猫、ミー子が駆け出してきて甘えるように鳴き、まとわりついてくる。数か月前のみすぼらしい姿が嘘のように毛艶もでて、美しくなっていた。
体をさかんに耕平にこすり付けていたが、やがて耕平が下げていたレジ袋に興味が移ったようで盛んに嗅ぎまわる。それに気づいた耕平が袋から刺身のパックを取り出して見せると、その手に飛びついた
「いたたたたた! やめろ、やめろって!」
一応怒りはするが顔は笑ったままの耕平は飛びついてきたミー子をそのまま抱え、部屋へと入って行った。

「ご馳走様でした」
一人と一匹の食事が終わり耕平が言う。別に誰に言うわけでもないのだが、こういう挨拶はきちんとするように、とは父から厳しくしつけられたので一人でもその習慣は守っていたのだ。ちなみにミー子は既に満腹して膝の上でまどろんでいる。
その首筋を撫でながらなんとなく昼間の良太との会話を思い出す。
正直女性と付き合うということがどういうことなのか、楽しいものなのか漠然として分からない。
しかし良太は香奈と出会い、変わった。それまでどちらかといえば神経質で終始不機嫌そうな顔をしていた男が今では世界で一番幸せなのは自分だ、と言いたげな笑みをしょちゅう浮かべている。
それは可愛げなど感じない、どちらかといえば小憎らしいと思う顔だがその顔を思い浮かべているうちに
「俺も彼女がほしいなあ」とつぶやいていた。

 どこからか視線を感じる。
耕平が視線を下に向けると膝の上でこちらを見つめているミー子と目があった。今の独り言を聞いていたらしい。
「あ、違うぞミー子。彼女ほしいって言ったけどミー子に不満があるわけじゃなくて、そもそもミー子は家族なわけだし、家族と彼女は別腹、じゃなかった、別物で……」
言い訳を続けたが途中で猫相手に弁解している自分の滑稽さに気付いたらしい。わざとらしく咳払いをするとミー子を床におろし夕食の後片付けを始めた。
その姿もミー子はじっと見つめていた。

*****

 コーヘイは食事をくれるし、気持ちのいい暖かいベッドで寝かせてくれるし、先にフワフワのついた棒で遊んでくれるし、愛してくれる……

その夜、耕平のベッドの中でミー子は考えていた。もっとも子猫の思考なので実際はここまで明文化されたものではなかったが。

コーヘイは私が欲しいものはなんでもくれる。なんでも。でもコーヘイはなにも欲しがらなかった。今日までは。
「カノジョ」ってなんなのかな? コーヘイが欲しがるぐらいなんだからすっごく手に入れるのが難しいものなんだろうけど。
私が「カノジョ」を手に入れることはできないのかな。それをプレゼントしたらきっとコーヘイは喜んでくれる、もっと愛してくれる。
……でも私が手に入れる必要はないんだよね、コーヘイが手に入れられればそれでいいんだ。
どうかコーヘイが「カノジョ」を手に入れられますように……。

その願いはミー子が完全に眠りに落ちるまで続いた。

595子猫の願い:2013/06/13(木) 17:13:05 ID:W3fR4Du.
 最初は朝が訪れたのかと思った。
部屋を眩しく照らす光の塊がミー子の目の前に浮かんでいた。異変を察知して耕平を起こそうとしたが体が動かないことにその時気が付いた。
その塊は徐々にその形を変えて行く。人型になり、白い衣をまとった少女となり、その背から白く輝く羽を生やし、やがて頭上に金色の輪を浮かべた。
少女は「てんし」と名乗ると、ミー子の額に手を添えて語りかけた
「おめでとう。あなたの相手を思いやる純粋な心を神様は愛され、願いをかなえてくださるそうです」
頭の中に直接響いてくるような不思議な声だった。聞いたことのない単語がいくつも含まれていたのに、その意味を完全に理解できているのにも驚いた。
それだけを告げると少女は再び姿を変え、光の塊に戻ると段々と暗くなっていき、そのまま消えてしまった。

 ミー子は少女の去った部屋の中で歓喜した。願いがかなう、コーヘイが「カノジョ」を手に入れられる、コーヘイの役に立てたのだと。
喜びを爆発させ部屋の中を駆けずり回ろうとしたその時、なぜかまだ体が動かないことに気が付いた。
そして見た。今度は部屋の中央に全てを飲み込むような漆黒の闇の塊が現れていた。
その塊も徐々にその形を変えていき、人型になり、黒いタキシード姿の男となり、その背からまがまがしい蝙蝠のような羽を生やした。
男は「あくま」と名乗ると、やはりミー子の額に手を添えて語りかけた
「おまえの美しい魂を俺にくれればおまえの願いをかなえてやろう」
その声も頭の中に直接響いてくるようなものだったが、先ほどとは違いミー子はその言葉の意味を漠然としか理解できなかった。だが先刻の少女の言葉を思い出し、既に願いはかなえられることになっているのでその必要はないからと断った。
しかし悪魔は
「もちろん神はおまえの願いをかなえる。だが俺も願いをかなえる。つまりは『カノジョ』を二つ手に入れるのだ。多いほうが彼も喜ぶだろう?」と続けた。
ミー子は考える。確かに欲しいものが一つよりも二つ手に入るほうがコーヘイも喜ぶだろう。その為ならば自分の魂など――魂の意味も漠然としか理解してなかったのだが――惜しくはないと。

 決断は早かった。ミー子は男と取引することにした。
男は喜ぶとその姿を変え、闇の塊に戻ると今度は段々と広がっていく。やがて部屋全体が闇に包まれたとき、ミー子は深い眠りに落ちていった。

*****

 俺はどうも安直なシチュエーションに縁があるらしい。
ミー子と出会った時の事を思い出して耕平は考えた。雨の中段ボール箱に入った捨て猫に出会うという使い古されて手垢のついたシチュエーションから、今のところは幸せと言っていい生活をつかんでいる。
ならば今これから訪れようとしているのは幸福なのか、不幸なのか。
と、目の前でテーブルを挟んで座っている女性――黒く澄んだ大きな目、ロングの黒髪、気品のあるスーツの着こなしがともすれば近寄り難さを醸し出しそうになるところを、柔らかそうな口元が絶妙のバランスで食い止めている、掛け値なしの美女――河原崎静音を見て耕平は思った。

 元はといえばいつものように良太を昼食に誘いに行ったところ、急な来客の対応とかで断られたところから始まっていた。
社食に行く気も削がれたので、コンビニで弁当でも買って済まそうかと思い会社から出てしばらく歩いたところで、悲鳴を聞いた。
反射的にその方向を見ると、横断歩道の中央に一人の女性がいて――先に渡ってしまった同僚に急いで追いつこうとしているようだった――そこにトラックが突っ込んできていた。
耕平は間髪入れずに飛び出した。目の前で人が死ぬ、それが他人であってもそんな経験はもうまっぴらだった。

 しかし後になって考えてみると間に合ったはずがないのだ。飛び出した時点で女性と自分よりもトラックのほうが距離が近いのは明白だったのに。
走るさなか耕平は目の前が白く輝くのを感じ、眩しさに思わず瞼を閉じた。
次の瞬間耕平は腕の中に女性を抱えて歩道上に突っ伏していた。
周囲から驚きと称賛の言葉の雨が降り注いできたが耕平の耳には入ってこない。腕の中の女性が全く動かないことに気を取られていた。ショックで失神でもしたのだろうかと救急車の要請を周囲に呼びかけようとした時、
うつぶせに倒れていた女性が顔を上げた。その顔を見て耕平は自分が助けたのが何者だったのかに気が付いた。

「いや、そんな大したことしたわけじゃないですし……」
お礼に昼食をごちそうさせてほしい、との静音の申し出を耕平はそう言って断ったのだが、静音は半ば強引に同僚との約束も反古にして耕平を近くの洋食店に連れ込んでいった。

596子猫の願い:2013/06/13(木) 17:13:42 ID:W3fR4Du.
 そして現状はというと、普段は口にもしないような横文字の長ったらしい名前のランチを食べながら耕平は沈黙に耐えていた。
やはり何を話せばいいのか分からないのだ。
つまらない男ね、とさぞ呆れているだろうと静音を見てみるが微笑みを絶やさない、という表現そのものの表情で耕平を見つめ続けている。
さすがにこれは状況を打開しなければならない、決心した耕平が口を開こうとしたその時
「女性と話すのが苦手なんでしょう? 無理はなさらないで下さい」
静音が言い、耕平は軽くショックを受けた。憐れみを持たれたのだろうか、と
「いえ、違うんです」
耕平の心情が表情にも表れていたのか、それを見た静音があわてたように訂正した
「私、よく存じ上げてます、吉良さんのこと」
吉良って誰だ? と思った耕平が自分の名字が吉良だということを思い出すのに数瞬の時間を必要とした。

*****

 その夜、小走りというか小躍りといったほうがよいであろう足並みで帰路に就く耕平の姿があった。
文字通りの満面の笑みを浮かべるその姿を良太が見れば、自分を棚に上げて蹴飛ばすに違いない。
静音は確かに耕平のことを知っていた。いや、知っているというレベルではなく、所属部署、交友関係、趣味、食事の好き嫌い、その他諸々までもを知っていた。そして驚愕した耕平に
「以前からずっと吉良さんのことを見てましたから」と告げたのだ。
 いくら女性経験が皆無に近いとはいえさすがにこれが告白に近い台詞だということぐらいは耕平にも分かった。こういうきっかけを作ってくれて事故とあのドライバーには感謝している、とまで静音は言っていた。
自分のコンプレックスを知っていてしかもそれに付き合ってくれる女性が相手だということで、耕平も全身の力が抜けるのを感じた。そこからは話が弾み、トントン拍子にことは進んだ。
お互いのメールアドレスを交換し、明日以降も会う約束を取り付けて二人は別れた。別れる際に静音が小さく手を振っていた姿も耕平を興奮させた。

「このような出会いをもたらしてくれたのだから、あのドライバーには感謝しなければならない、河原崎さんと結婚することになったらやはり招待するべきだろうか……」
そんな気の早すぎることを考えているといつの間にか目の前に自宅の玄関のドアがあることに気が付いた。有頂天になって周りが見えていなかったらしい、特に反省することもなくドアを開けて叫んだ
「ミー子、帰ったぞー!」

 異変にはすぐに気付いた。いつもなら飛び出してきてまとわりつくミー子が出てこない。
そして思い出した、今朝のミー子は様子がおかしかったことを。
いつもなら耕平よりも先に目を覚ますのだがいつまでたってもベッドから出て来ずに眠っていた。
具合でも悪いのかと思い病院に駆け込もうとしたのだが、撫でれば喉を鳴らすし血色も良かったので一日様子を見ることにしたのだった。

「ミー子!」
鞄を投げ出して消灯された真っ暗な部屋に飛び込んだ耕平は見た、その中で座り込む白い裸体を。
歳は10代前半ぐらいだろうか? きめ細かな肌をして暗闇の中でも光り輝くように美しい。

そして本来問うべき「誰だ?」という質問は耕平からは出て来なかった
その少女がなびかせる白・茶色・黒の美しい3色の頭髪に見覚えがあったから。
そして自分を見つめる途方に暮れたような黄色い右目と青い左目にも見覚えがあったから。
その奥底ある自分に向けられた絶大な信頼と愛情を感じ取ったから。

「コーヘイ……」

ミー子が生まれて初めて耕平の名を人語で呼んだ瞬間であった。

597 ◆VZaoqvvFRY:2013/06/13(木) 17:16:27 ID:W3fR4Du.
終わり
一応最後まで展開考えたけど
ちゃんと完結するかなあ

598雌豚のにおい@774人目:2013/06/13(木) 17:18:50 ID:W3fR4Du.
うおお、最後
> その奥底ある自分に向けられた絶大な信頼と愛情を感じ取ったから。
> その奥底にある自分に向けられた絶大な信頼と愛情を感じ取ったから。
に訂正で

保管庫に入ったらいろいろ修正するかもしれん

599雌豚のにおい@774人目:2013/06/13(木) 17:27:45 ID:kIbVK6iU
良いですよー
今後も楽しみにしています

600雌豚のにおい@774人目:2013/06/14(金) 02:16:28 ID:9ORfVP4s
才能あるとしか言いようがないわw
自分書こうとしても10行も行かずに悩んで結局辞めてしまうw
続き書いてくれねえかなあ...

601雌豚のにおい@774人目:2013/06/14(金) 11:51:56 ID:EFhPCBZw
これは期待の新星

どっちが悪魔の叶えた願いなのか、とか考え出すと深そうだ

602 ◆VZaoqvvFRY:2013/06/15(土) 23:43:03 ID:zWZrfOQg
一応二話目できたので投下します
まともに文章書くの初めてだから(ry

603子猫の願い:2013/06/15(土) 23:45:15 ID:zWZrfOQg
 厄介な物事が発生したら問題点を一つ一つ順番に解決していくべきだ、と耕平は自室で少女と正座で向かい合いながら考えた。
とは言ってもどこから手を付ければいいのやらだが。
「つまり」咳払いを一つして耕平は質問を始めた
「おまえはミー子なんだな」
相手の少女は激しく何回もうなづく。
確かにミー子と同じ三色の髪の毛をしているが、落ち着いて考えてみれば染めているのかもしれないし、黄色い右目と青い左目にしてもカラーコンタクトかもしれない。
しかしこれはさすがに無理だろうな、と耕平は少女の頭部に突き出ている二つの突起物、いわゆる猫耳を見て思った。試しにつまんで引っ張ってみると
「痛い痛い痛い痛い痛い! コーヘイ痛い!」
とても取れそうにもないし、よく見れば血管があり血が通っているのが見える。
猫耳から手を放し、今度は腰まで伸びる三色の髪の毛をかき分けて――その時触れた首の細さと白さに鼓動が一瞬高鳴ったが――本来耳があるであろう場所を探ってみると、そこには何もなくただ頭皮と同じように髪の毛が生えているだけだった。
「あっ……コーヘイ、んっ……」
なにやら艶めかしい声を上げだしたので慌てて手を放し、再度離れて少女を見直してみる。
白磁のような、と表現されるにふさわしい白い肌と幼さを残しながらも気高さを感じさせる整った顔立ちは万人の視線を釘付けにするであろう美しさだった。身体つきは10代前半の少女として年相応に発達しており、僅かに主張を始めていた胸のふくらみも耕平は思い出せる。今は耕平のシャツを着せているので目にすることはできないが。
耕平は少女が猫だったのかはともかく普通の人間でないことは確かだと結論付けた。ならば次は本当にミー子かどうかという事が問題になる。そこで試しに自分のことについての質問を始めてみた
「俺の名前は?」
「コーヘイ、吉良耕平」
「歳は?」
「23歳」
「じゃあ……」
「コーヘイの事なら何でも答えられるよ。食事に好き嫌いはないけど特に好物なのは私と同じマグロのお刺身、でも私はあんまり食べちゃいけないんだよね……。趣味はもちろん私と遊ぶこと。それ以外にも将棋、休日には近くのスポーツセンターに泳ぎにも行ってる。テレビはあんまり見ないけど日曜にやってる将棋番組は欠かさず見てる。あ、それと夜中に時々ちんちんいじってるよね、その時はパソコンにある『巨乳』ってフォルダの中から……」
「やめろお、それ以上言うなあ!」
今までミー子の前で晒してきた醜態を思い出し耕平は頭を抱えた。猫相手だから気にしてなかったが今や相手は美少女である、恥ずかしいどころの話ではなかったし、ここに至って耕平は少女がミー子であることを認めた。

「それで、なんでこんなことになったんだ」
相手がミー子であると分かったならば、次の段階に移るべきである。耕平の問いに対してミー子は昨夜起きたことを説明した。
耕平のつぶやきを聞いたこと、それがかなうように願ったこと、天使と悪魔が現れて自分に願いがかなうと告げたこと、それから眠りに落ちて目覚めたら人間になっていたことを。
「天使と悪魔か……」
耕平には俄かには信じがたい話である。とは言っても猫が突然擬人化するという奇病が流行っているという話を聞いたこともないし、他に納得できる説明があるわけでもないので信じるしかないだろう。とは思ったがそれにしても放っておけないことがあった。
「そんな勝手なことをしちゃだめだろ!」
怒気をはらんで耕平は言う
「ふえっ!?」
耕平が珍しく本気で怒っているということに気付くとミー子は涙目になり
「ごめんなさあい……」と頭を下げて謝った。
しかし耕平がさらに
「魂を渡すなんて約束をしたらどうなるか分かってたのか!」と続けたので
「え?」
ミー子は顔を上げて一瞬呆けた。どうも自分が思っていたのとは違う理由で耕平は怒っているらしい。
「あの……私が魂を悪魔にあげるなんて言っちゃったから怒ってるの?」
「ん?」
今度は耕平が呆ける番だった。
「それ以外に怒る理由なんかないだろ?」
「私が勝手に耕平の願いをかなえようとしたから……」
「ミー子が俺のことを思ってしてくれたんだから、怒るわけないだろ、とても嬉しいよ」
「コーヘイ!」
自分のことを心配して怒ってくれていたという事に気付いたミー子は喜びのあまり満面の笑みを浮かべて耕平に飛びついた。
抱きつかれた耕平は鼻腔に広がる猫だったころのミー子の匂いを僅かに思い出させる、少女の特有の甘い香りに酩酊しそうになり、慌ててミー子を引き離す。
「とにかく魂を渡したりしたら、とんでもないことになるんだぞ」
「どうなるの?」

604雌豚のにおい@774人目:2013/06/15(土) 23:47:06 ID:zWZrfOQg
聞かれて耕平は言葉に詰まった。はて、悪魔に魂を取られるとどうなるのだろうか。ろくでもないことになるのは予想できたが、具体的にどうなる、と言われるとどう答えればいいのか分からない。地獄に落ちる、とでも言えばいいのだろうか。しかしそんなことを言うのはミー子が可哀想だ。と、そう考える耕平はこの期に及んでもミー子に甘かった。
「タバコとかレモンとか唐辛子が敷き詰められた部屋に閉じ込められるんだぞ」
耕平は返答した。発想の貧困さに泣けてくるが、ミー子が嫌がりそうなものというとそれぐらいしか浮かばない。
聞いたミー子は一瞬泣きそうな顔をしたが
「……が、我慢する」と、両手の人差し指を突き合わせて言った。
「え?」
「私がそうなればコーヘイは『カノジョ』を手に入れられるんでしょう? それでコーヘイが幸せになれるんなら、我慢する」
かわいい。その瞬間耕平はミー子を抱きしめたい衝動に駆られたが、全身の力を振り絞って何とか自制した。
「いいかい、ミー子」わざとらしく厳粛な顔付をすると告げる
「俺の幸せはミー子が幸せになることだ。ミー子がそんな可哀想なことになったら、その時点で俺は不幸だ。だから自分を大事に……」
「コーヘイ!」
自制する気などさらさらないミー子は再度耕平に抱き着いた。

「ところでコーヘイ、『カノジョ』のことだけど……」
「ん?」
「『カノジョ』ってなんなの?」
耕平はその説明をしていないことに今更ながらに気が付いた
「それはまあ、恋人のことだ」
「コイビト?」
「だからまあ、猫っぽく言うと俺とつがいになる女性のことかな」
「ああ、交尾の相手か」
単刀直入な表現に耕平はよろけそうになったが
「それもあるけどそれだけじゃないぞ、一緒に出掛けたり、遊んだり、食事したり。将来は結婚もして、そうなると一緒に生活して、子供を作って、育てて、成長を見守って、共に老いていき、最後まで傍にいて、死後は同じ墓に入る人だ」
ミー子は耕平の説明を黙って聞いていたが聞き終えると何やら考え込んだ表情となり、しばらくすると数回得心するようにうなずいた後、
「分かった! コーヘイ、それだニャ!」と人差し指を突き出して耕平に叫んだ
「にゃ?」間抜け極まりない返事が返ってきたがミー子は気にせず続ける
「ミー子が人間になった理由ニャ! ミー子はコーヘイと遊んだり一緒に生活したりすることはできる、でも残念ながら交尾したり子供を作ったりすることは出来なかったニャ! しかし今人間になったことでミー子の弱点は克服されたニャ! これでミー子はコーヘイの彼女になれるのだニャン!」
 ああ、やっぱりそうなのか。と、耕平は思った。薄々そうではないかと気づいてはいたのだが、やはり本人からしても今回のミー子の擬人化はそれが理由だったのか、と。それにしても
「ところでミー子、その『にゃ』ってのはなんだ、『にゃ』って」
ミー子は小さな胸を張り
「古今東西、猫娘というものはすべからく語尾に『ニャ』を付けるものだニャ。それを思い出したのだニャン」と答えた。
なんでそういう余計な知識はあるんだろうか、彼女の意味は知らなかったくせに。よく考えたら一人称まで私からミー子に代わっているような気がする。
確認しておく必要があるな。そう考えた耕平はミー子の知識について調べるために一般常識から専門的な知識まで自分で把握している範囲で質問してみた。

 結論としては今まで耕平の部屋の中で見たこと、聞いたことに関しては一通り年齢並みかそれ以上の知識があるらしい、という事だった。それ以外のことに関しては全くの無知といってよく、極端な話地球が太陽の周りを回っているということすら知らなかった。
わざわざ子猫の記憶を人間用に変換して与えてくれたのだろうか、神だか悪魔だか知らないが手が込んだことをしてくれる。と、耕平は冷蔵庫からビールを取り出してグラスに注ぎつつ考えた。
 しかし、神と悪魔、どちらによってミー子は人間になったのだろうか。
猫を擬人化するというような悪趣味なことを神がやるとも思えないが、悪魔にそんな力があると考えるのも空恐ろしい。どちらにしてももう一回悪魔なり天使なりを呼び出して話を聞かなければならないだろう。
 そう考え込む耕平の前で、耕平の彼女になれる喜びに浸り、涎すら垂らしていたミー子が思い出したように耕平に話しかけた
「そういえば約束通りだとすると、彼女がもう一人」
そこまで話したところで耕平の携帯電話が鳴る。
ミー子に待つように伝え、画面を確認する。相手の名前を確認し、まずい、と耕平は思った。が、切る訳にもいかない。恐る恐る出てみると

605雌豚のにおい@774人目:2013/06/15(土) 23:48:08 ID:zWZrfOQg
「吉良さん? ごめんなさい、何度かメールしたんだけど返信がなかったものだから気になってしまって……」
静音の鈴を転がすような声が流れてくる。メール着信音は確かに何度も聞いていたのだが今の今まで後回しにしていたのを耕平は思い出した。直感で危険な状況にいることに気付き、慌ててミー子に背を向けて、距離をとって小声で話し出す。
「こちらこそすみません、ちょっと帰宅直後から立て込んでしまって……」
「何かあったんですか?」
「いや、たいしたことは」
「コーヘイ、誰と話してるんだニャ?」
そう言って横からミー子が顔を出してきたので、耕平は動揺し、
「あら? どなたかいらっしゃるんですか?」
静音からもそういわれてその動揺も頂点に達した。
「いやいやいやいや! ちょっと親戚の子が遊びに来てまして!」
「親戚?」
静音の訝しげな声を聴き耕平はしまった、と思った。静音は耕平が親戚一同から疎遠になっていることも知っていたのだ。
「いや、今更和解したくなったらしいんですよ! それでこの子を使いに出したらしくて! でも子供を使いにするなんて何考えてるんでしょうね! おかしいですよね! それじゃまだ話し合わなきゃいけないんで! 詳しいことはまた明日!」
苦しいどころではない言い訳を終えると強引に電源を切って会話を終えた。

「コーヘイ、相手、誰ニャ?」
「俺の会社の同じ社員だよ」
静音には明日謝るとして今度はこちらの問題を片付けなくてはならない、それも早急に。耕平はひきつった笑みを浮かべながらミー子に答える。
「それで、そいつはメスなんだニャ?」
「男だよ」
「嘘」
嘘じゃない、と言いかけた耕平はミー子の目の焦点が合っていないことに気付いた。
「コーヘイが嘘をついた、私に嘘をついた。コーヘイが嘘をついた、私に嘘をついた。コーヘイが私に嘘をついた……」
繰り返すミー子の周囲から冷気が漂い、耕平は部屋の温度が2度ほど下がったように感じた。急激に寒気がする。
そう、寒いのだ。それなのに目の前のグラスに入ったビールが泡立っているのはなぜなのだろうと考えた。いや、ビールが泡立つのは当たり前だ、だがこの泡の沸き方は……
沸騰している!?
そう気付くと同時に後ろのキッチンから高い金属音が響く。振り返ってみると食器棚から食器が飛び出して散乱していた。そしてその中で僅かに振動するものがあった。
それがフォークとナイフであることに気付いたとき耕平は戦慄した。振動はだんだん大きくなりついには跳ねるように飛び上がり、そのまま宙に浮かぶ。そしてそれは狙いを定めたように耕平達の部屋のいる方向に向きを変えると、凄まじい速度で飛び込んできた。
「刺される……!」
耕平は自分にそれらが突き刺さるのだろうと覚悟したのだが、そうはならなかった
「コーヘイに嘘をつかせたのは誰だ!」
ミー子がそう叫ぶと同時にナイフとフォークは耕平の脇をすり抜け、窓に激突すると跳ね返り床に転がった。
だが再度振動をはじめ、浮き上がっては窓に激突し、落ちてはまた浮き上がろうとする。
窓を突き破って外に飛び出そうとしている。気づいた耕平はそれを操っているであろうミー子を抱きしめて耳元で話し出した。
「ミー子、ごめん。嘘なんか言ったりして悪かった。確かに相手は女だ。でも電話も切った、もう今日は話さないよ」
「……」
ミー子の体から力が抜けていくのを感じた。やがてミー子は口の中から息を吐きだすと耕平の腕の中で崩れ落ちた。
耕平はそれを支えてミー子の顔を覗く。やや顔色が青白いが、それ以外は変わりなさそうなことに安心し、腕の中で支え続けた。

 数刻語、ミー子の口元が動きだす
「許さないから……」
そうつぶやいたのを聞いて耕平は背筋に氷柱が立つのを感じたが
「コーヘイに嘘を言わせるような人間は私は絶対に許さないから……」
という言葉を聞いてやや安心した。どうも自分に対して怒っていた訳ではないらしい。とは言え、放置していたらあのナイフとフォークはどこに向かっていたのかと考えるとやはり寒気がしたが。
それにしても、今のこのミー子の能力ついて確認しておかなくてはならない。とにかく制御する方法を知っておかなくては危険極まりなさすぎる。そう考えた耕平は一度息を吸うとミー子に話し出した

606雌豚のにおい@774人目:2013/06/15(土) 23:48:37 ID:zWZrfOQg
「ところでミー子」
「なに?」
「よく嘘だってわかったな」
「そりゃ声が聞こえたからニャ」
なるほど、と耕平はミー子の猫耳を見つつ納得した。
もう一つ言わなきゃいけないことがあるんだが、と耕平は前置きすると
「悪魔に魂を渡したら、タバコとかレモンとか唐辛子が敷き詰められた部屋に閉じ込められると言ったな、あれは嘘だ」と言った。
「ニャ!?」
一応身構えてはいたが先ほどとは違い、ミー子の様子も変わりなく、冷気その他の異変も発生しなかった。
「怒らないのか?」とミー子に尋ねてみると
「うー……ちょっと怒ったけどコーヘイが嘘を言うなんて、ミー子のことを心配してくれてなんでしょ? だったら大丈夫ニャ」
「さっきの嘘にはなんであんなに怒った? それにどうやってナイフやフォークを操ったんだ?」
「女のせいでコーヘイが嘘をついたと思ったら腹が立って、頭に血が急激に上ったニャ。そうしたら勝手に動かせるようになって……」
「なるほど、今でも動かせそうかな?」
「やってみるニャ」
そう言ってミー子は「う〜」と何やら唸りながら食器やその他家具に至るまで睨んで念力を込めてみせる。だがどれもピクリとも動かなかった。
「ダメだニャア」
「いや、ありがとう。なんとなく分かった」
つまるところ耕平が誰かのせいで自分に嘘をついたという事にミー子は憤慨し、それが先程の能力の発動につながったのだろう。それも相手が女だという事に意味があるのかもしれない。
考えてみればミー子の願いは耕平に彼女を作るという事で、しかも今はそれを自分自身が耕平と結ばれることで成し遂げようとしている。
「それを妨げる要素は排除するための力だろうか、先程のは」
暫定的にこう結論付けてみたがそれほど大きく外れていないようにも思える。なんにしてもミー子を擬人化するだけでなくやっかいな能力まで与えてくれたものだ。神だか悪魔だか知らないが、やはりもう一度呼び出して話をしてみなければならないだろう。その方法を見つけ出すことを最優先にすべきだろうか、と耕平は考えていた。

 ――――――

「彼が私に嘘をついた……」
繋がらない電話をかけ続けながら河原崎静音は呟いた。もう何時間こうしているだろうか。
親戚の子が彼のもとに尋ねてくるなどありえない、それは分かっている。ならばあの時聞こえてきた女の声は誰のものなのだろうか。
自分が調査していた限りでは耕平の周りには自宅に上り込めるほど親しい女はいない、そもそも女の影すら見えなかったのに。調べ方が甘かったのだろうか。
いずれにせよ嘘をついてまで傍にいさせようとする女なのだ、危険極まりないと言える。今すぐにでも乗り込んで始末すべきだろうか……まだ早いか。
彼とは今日きっかけを作ったばかりだ。強硬手段に出て彼の心が離れてしまっては元も子もない。
「しょうがないわね」
彼は明日会ってくれると言っていた。まずは話をしてみてからでも遅くはない……と、いいのだが。

 静音は手に持っていたスマートフォンを床に叩きつけかけてやめると、耕平の周辺調査を依頼すべく興信所の連絡先を探しはじめた。

607 ◆VZaoqvvFRY:2013/06/15(土) 23:50:57 ID:zWZrfOQg
終わり

608雌豚のにおい@774人目:2013/06/16(日) 01:22:42 ID:JYI3baWE
乙乙!!

いいよいいよー
続きがきになる!

609雌豚のにおい@774人目:2013/06/16(日) 19:40:48 ID:IfpsCuMk
乙です

610雌豚のにおい@774人目:2013/06/17(月) 02:06:33 ID:UbEkPtaM
GJです

611雌豚のにおい@774人目:2013/06/17(月) 02:59:28 ID:Sl/jibFI
ヤンデレが過去の出来事の影響で惚れる相手を間違えてたらどうなるのっと

612雌豚のにおい@774人目:2013/06/17(月) 05:25:08 ID:6A1ChFCY
ヤンデレ家族の妹だろそれ

613雌豚のにおい@774人目:2013/06/17(月) 07:21:09 ID:Sl/jibFI
あっそっか…

614雌豚のにおい@774人目:2013/06/17(月) 10:58:22 ID:6A1ChFCY
まあでもヤンデレ家族の妹の時は
個人の感想としては弟にデレデレだったのを読んでるから
今さら兄にデレられてもちょっとなあって感じだったけど
やっとデレたのに更新終わって残念って人も見かけたから
やっぱ受ける印象は人によって違うんだろうな

615雌豚のにおい@774人目:2013/06/18(火) 14:09:17 ID:gv0M40Mw
間違いに気づいて正しい相手に惚れ直す→尻軽
気付かないまま→薄情者

どうすりゃいいんだろうね(´・ω・`)

616雌豚のにおい@774人目:2013/06/18(火) 17:43:14 ID:DYKPbKsY
どうあがいても叩かれるなぁこりゃ

617雌豚のにおい@774人目:2013/06/18(火) 17:46:33 ID:kYaoGRLE
どうしようもないね

そこで他の女がチャンスとばかりにひっついて、勘違い女ザマア的な展開マジ好きだわ

618雌豚のにおい@774人目:2013/06/18(火) 19:13:24 ID:xTveds4Q
ヤンデレ物だと間違えて惚れた相手への愛情が半端じゃないから擁護するのは難しいしな

619雌豚のにおい@774人目:2013/06/18(火) 19:57:54 ID:1haVeYYI
>>617
勘違いさせたのはヤンデレの陰謀だった…?

620雌豚のにおい@774人目:2013/06/18(火) 23:54:03 ID:2/VsqCsI
今ヤンデレ家族を読み直してる俺にタイムリーな流れ
この人軽快な文章でユニークな言い回しも多いから好きだわ

621雌豚のにおい@774人目:2013/06/19(水) 00:19:17 ID:sF2.x.P.
>>619
^ ^

622雌豚のにおい@774人目:2013/06/19(水) 05:55:13 ID:PjSN6L1I
男女逆にして
勘違いした男を取り返すために奮闘する
そんな展開を考えたらまんま人魚姫だった

最後死んだりしないで理不尽さに発狂して
王子を奪還しに行けばヤンデレになる、か?

623雌豚のにおい@774人目:2013/06/19(水) 13:42:11 ID:cnDqYDU.
ヤンデレにネットストーカーされてえなー

624雌豚のにおい@774人目:2013/06/19(水) 23:31:02 ID:3oyvx6w2
ストーカーしたり、下着盗んだりするような変態ヤンデレに脅されて嫌々付き合うことになり、結果的には夫婦にさせられる展開




イイネ・

625雌豚のにおい@774人目:2013/06/20(木) 00:48:26 ID:afWJuM5E
素晴らしい

626雌豚のにおい@774人目:2013/06/20(木) 16:13:23 ID:/5RdBG4k
>>607
二人とも嘘が嫌いな潔癖症だな
主人公の空気読めない「やさしい嘘」連発に期待

627雌豚のにおい@774人目:2013/06/22(土) 13:53:13 ID:VBHZEc0w
ネットストーカーでヤンデレっていうとこれかな

ttp://www.geocities.jp/usyhr/hakoniwa/

628雌豚のにおい@774人目:2013/06/23(日) 02:03:25 ID:ZEZyWu8.
ヤンデレも落ち目だよな
スクールデイズあたりが絶頂期だったんじゃないか?
今はデレデレがはやりの気がする

629 ◆VZaoqvvFRY:2013/06/23(日) 13:40:54 ID:gwTji9Z.
投下しますよ

630子猫の願い:2013/06/23(日) 13:41:42 ID:gwTji9Z.
 恐らく耕平にとってそれまでの人生で最も波乱に富んでいたであろう一日が終わり、少なくとも表面上は平穏な朝を迎えた。
「起きろ、ミー子」
「ん……ンニャ」
耕平は彼のサイズが大きすぎるトレーナーを半ば以上はだけながら着て、涎まで垂らしながら爆睡中のミー子を目のやり場に困りつつ揺り動かした。
猫だった時は耕平よりもかなりの早起きで目覚まし代わりに耕平の周囲で鳴き叫ぶのがミー子の役割だったのだが、
人間になってその習性もなくなってしまったのか、それとも昨夜の騒動で疲れているだけだろうか、と耕平は考えた。
寝ぼけ眼で目をこすりながら起き出したミー子の顔を拭いてやり、髪の毛を解かしてやりながら――ちなみにうっかりしていて猫用のブラシをそのまま使っていたが――耕平は尋ねた
「どうだった?」
ミー子は横に頭を振った。
「そうか、ダメだったか。ありがとう、じゃあまた他のやりかたを考えてみよう」
昨夜聞いた話で、天使と悪魔双方ともミー子の願いをかなえるために現れたと言っていたので、
それならば、とミー子に天使と悪魔が再度現れますように、と眠りに落ちるまで願い続けるよう頼んでみた、という訳だったのだが
残念ながら失敗したようであった。
「さすがに安直だったか」
呟いて自分の寝ぐせのついた髪をいじくっていた耕平だったが、ややあって会話を続ける
「ところでだなミー子」
「なに?」
「昨夜言った通りちゃんとベッドで寝なさい」
「ニャ!?」
耕平の部屋はおよそ六畳。そこの南向きの窓に向かって右側、西面に一人用のベッドが置いてあるのだが、そこは現在空であり、二人がいるのは部屋のほぼ中央に敷いた毛布の上だった。
耕平ににしがみ付いて首筋をこすり付けていたミー子は
「だってニャ……」
と、人差し指を突き合わせて上目づかいで抗議の眼差しをする。
昨夜はミー子をベッドに寝かせて自分は床で寝ることにして、一緒に寝ると言い張るミー子を説得し、
それでも寝付く前に二度ほど忍び込んできたのを追い帰したのだが、目を覚ましてみると案の定隣にいたので耕平はため息をついた。
とは言っても本心では、やっぱりこういう所は猫の時と変わらないんだな、と嬉しかったりするのでその諦観の表情には説得力が欠けていたが。
「だってじゃありません。ベッドで寝ないんならマグロの刺身、もう買ってこないぞ」
「ニャ!?」
可愛らしい口を開けて本気で驚いた表情をしたミー子はそれから大げさに手をついて落ち込んで見せた後、なにやらさめざめ、という副詞が実に似合いそうに泣き崩れた。
「うう……酷いニャ、コーヘイと寝れないなんて、こんなことなら人間にならなければよかったニャ」
そう言ってもたぶんまた今日も忍び込んでくるのだろうな、と思いつつ耕平は右手でミー子の頭を撫でながら別のことを話し始める
「ひょっとしてなにか呼び出す特定の条件があるのかもしれないな、ただ願いつつけるだけじゃなくて」
半ば独り言だったのだが、それを聞いたミー子も頭をひねって考え出した。あの時、周囲で普段とは異なる状況は何かあっただろうか、と。
ちなみにこの時点では二人とも共通の目的に協力して取り組んでいるのだが、実のところ天使と悪魔を呼び出してどうするか、ということになると考えを異にしていた。

「そういえばコーヘイ」
昨夜、ようやく落ち着きを見せた部屋の中で遅めの夕食中に、人間になって制限する必要がなくなったマグロの刺身を口いっぱいに頬張りながらミー子が尋ねた
「ん?」
「天使たちの約束通りだとすると、コーヘイにはもう一人彼女ができているはずだけど」
「うむ」
と、耕平は茶碗から箸で白米を口内に放り込んで答える
「それがさっき電話で話してた女かニャ?」
「分からん」
嘘はついていない。状況から判断すると静音がもう一人の選ばれた彼女である可能性は高いが、確信があるわけでもなかった。
まあそうであってほしくないというのが正直な気持ちである。
仮に天使と悪魔を呼び出して、話し合いその結果が双方が引くという結論になったとして、それで静音との付き合いもなくなってしまうとしたら、それはそれで残念というか惜しいと思う男とし

てのスケベ心は耕平にも多分にあった。
先日までは女性と付き合えるなど考えてもいなかったのに随分変わったものだ、と自分の欲深さというか単純さには本人も呆れている。
とは言えなんといってもミー子は別としてまともに話せる初めての女性なのだ。しかも美人だし、おとなしやかだし……

631雌豚のにおい@774人目:2013/06/23(日) 13:43:19 ID:gwTji9Z.
「むー」
食事の手を止めて形の良い眉をゆがめて不満そうに自分を見つめるミー子の視線に気づいて耕平はやや慌てた。どうも考えが顔に出ていたらしい。
「他にもそれらしい女がいるのかニャ?」
「いや、そういうわけじゃないが」
「むー」
ミー子は再度不満そうに唸ると箸をおいて顎に白く細い指をあてて考えていたが
「とにかく、コーヘイの周りにミー子以外の女は必要ないニャ!」
と、告げてきた。
「へ?」
耕平が虚を突かれたように返答するとミー子は
「あの時、ミー子は彼女って言葉がよく分からなかったニャ。でも意味の分かった今ならはっきり言える、ミー子の願いは自分がコーヘイの彼女になることだニャ!」
「だからなんとしても天使と悪魔をもう一度呼び出して、ミー子以外のもう一人の彼女、という願いは取り消してもらうニャ」
と、決意を込めた強い口調で続けた。

 耕平の考えは当然ながら異なる。
少なくともミー子が悪魔に魂を渡す、という約束は取り消さなければならない。そして、ミー子が今のままで良いとも思えない。
このままだといつか誰かの目に留まって、正体が世間に知れれば大騒ぎになるのは目に見えている。
髪や目だけならともかく猫耳もあるし、それこそ身体検査でもしてみればどれだけ普通の人間と異なる特徴が出てくるのか。
マスコミに騒がれ、世間に弄ばれて、神の御業ともてはやされてどこぞの教祖にでも祭り上げられるか、逆に悪魔の悪戯と蔑まれて現代に魔女狩りに会うか、どうもあまり明るい未来は想像できなかった。
単純に人間になるにしても戸籍すらないのだ。
ミー子を人間にしたのが悪魔なら契約を取り消して、ミー子が猫に戻るならそれはそれでよし。
相手が神となると、ミー子の魂を悪魔に渡さない交渉とミー子の身体を改善する交渉の同時進行になるであろうから二人相手になるのでややこしくなってくるのだが……。
 
 耕平はまず天使と悪魔を呼び出してどちらがどの願いを聞き届けたのかを確認した後、対応を考えようと提案してみた。それについてはミー子も異論はなかった、交渉相手を特定しなければい

けないのはミー子も同じなのだ。
それからどうするかはその時の問題だ。

――――――

耕平の会社のオフィス、多くの社員がせわしそうにパソコンの画面と向き合ったり、電話で連絡を取り合っている中
数刻前にそこを訪れた良太は、やはりデスクでパソコンの画面とにらみ合っていた耕平を銀縁メガネの奥の目でしみじみと眺めていたが、
「今日のおまえの顔はなんなんだ」
と、容赦のない一言を発した
「そんなに酷いか」
憮然とした口調で耕平は返答する。
「酷いというか面白い。七色の変化というのはこういうことを言うのかな、と」
それはまあさぞ面白いだろうな、と耕平も心の中で同意した。
ミー子のことで心配し、解決策を考えていれば青い顔をしているであろうし、神や悪魔に対して理不尽ながらも怒りが沸くときは赤い顔をしているのだろう。
「で、どうなったんだ、河原崎さんとは」
「どうというと?」
良太の問いに対して耕平は質問で返したが、声にややぎこちなさがあったのを自覚した
「昨日河原崎さんが事故にあって、疾風のごとく現れたおまえが救い出して、河原崎さんをかっさらって行ったともっぱらの噂だぞ」
最後だけ微妙に違うんだが、と抗議しつつ耕平は今度は静音のことを考える。
そして、事故とその後の食事の時の会話を思いだせばその顔はにやけて赤くなり、これから昨夜のことを説明しなければならないと考えると青くなっていた。
その顔色を都度変えている耕平ををやはりしばらく眺めていた良太だったが、一度肩をすくめて分厚い唇を開いた
「よく分からんが、どういう心境の変化があったにしろ、俺にとってはめでたいことだな」
「なんでお前がめでたいんだ」
「おまえが河原崎さんと上手くいくことになれば、将来は役員にもなれるだろ。そうなれば親友の俺もきっと引き上げてくれる、そうだろ?」
片目を閉じて不気味にしか見えないウインクをする友人に呆れ、口をポカンと開けた耕平だったが、こちらも肩をすくめて返した
「最初の段階で躓くかもしれんぞ、今まさにこれから」

 昼休み、昨日と同じ洋食店を待ち合わせの場所に指定されたので、先に席を取って待つ間、やはりここは静音のお気に入りなのだろうな、と耕平は考えていた。
オフィス街のほど近くにある専門店ばかりが入っているビルの最上階にあり、窓から見える眺めには遮る物もなく遥か遠くまで見渡せる。

632雌豚のにおい@774人目:2013/06/23(日) 13:44:26 ID:gwTji9Z.
それは通常であれば入ってくる陽光の暖かさと共にそこにいる者に自然と心の落ち着きをもたらすのだろう。だが残念ながら昨日同様耕平の心境は通常通りとは言い難かった。
昨日に比べれば緊張感というか体の固さがないのは自覚していたが、胃が痛くなるような不安感は比ではない。なにしろ人生で初めての修羅場と言っていい。
夜中に少女が自室にいる説明をしなければならない、それも昨夜の言い訳の整合性をつけるように、だ。
今に至っても上手い説明が浮かんでいなかったので、さらに気は沈んでいた。
 耕平に遅れること5分、静音が入り口から入ってくるのが見えた。黒のパンツスーツを隙なく着こなしたその姿は、颯爽とした、と表現してよいであろう。だが昨日に比べやや硬いその表情は周囲には威圧感すら与えていた。
耕平を待たせたことを詫びて、ウェイターに簡単に注文を済ますと静音は柔らかそうな唇を開いて早くも切り出した
「それで、昨夜の事ですけど」
「はい」
「吉良さんが親族の方々とどの程度不仲なのかは存じております。だから昨夜、急に和解のための使者、それも電話口で聞いた限りですが、女の子を遣わして来たというのは……」
そこで口ごもり、静音は俯いてテーブルの上で細く美しい両手を重ね合わせたまま沈黙した。耕平としても返す言葉がない。
まさか洗いざらい真実を話す、という訳にもいかないのだ。猫が擬人化したなど信じてくれるとも思わないし、静音から誰かに話が伝わってミー子に危険が迫らないとも限らない。
静音を信用しない訳ではないが、事態を知る人間は少ないほうが良いと思われた。
それに、もし静音が選ばれたもう一人の彼女であった場合、事は静音自身にも及ぶ。できれば静音には迷惑をかけず、解決しておきたかった。
何も話せない。そうなる以上、耕平にできることは
「すみません」
その場で頭を下げて結局ただ謝ることだけであった。
「今回の事はしばらく聞かないでいてくれませんか。自分に都合のよすぎる話をしているというのは分かっています。でも、全てが解決したら、必ずお話します、なにがあったかを」
若々しい声に苦渋の色をにじませて告げる。怒りにまかせて引っ叩かれるのを覚悟したが、静音から帰ってきたのは怒りよりも悲しみを携えた声音だった
「私のこと、信用できないですか」
驚いて顔を上げた耕平は静音の黒く大きな瞳を見つめた。そこに吸い込まれそうな錯覚を覚える
「私は貴方の力になりたい。貴方の問題は私にはもう他人事ではないはずです」
ああ、この人は素晴らしい人だ、と耕平は感嘆していた。そしてやはりこの人に迷惑をかけるわけにはいかない、とも思っていた。
静音は被害者なのだ。選ばれた彼女なら今回の事態に巻き込まれたわけだし、そうでないなら、結局のところ本人とは無関係のところで迷惑を受けていることになる。
なけなしの勇気を振り絞ってテーブルに置かれた静音の手に自分の手を重ねると
「ありがとう。でもこれはやはり俺が解決します。貴女の気持ちに応える資格があるかどうか、きっとこれで分かるんだと思います」
少年の面影を残した、しかし精悍な顔に決意を込めて告げる。
静音が耕平に好意をもってくれているのは嬉しいが、ミー子が人間であり続けるのならば、静音の気持ちに応えられるかどうか。耕平にはまだ自信がなかった。
聞いた静音は依然として表情を曇らせていたが、数瞬の後、
「分かりました、お待ちしております」
まだ僅かに悲しさを帯びてはいたが、朗らかな笑顔で応えた。
耕平は案著した。とは言え、問題は先送りされただけなのだ。いつまでも待たせておくわけにはいかない、その為には……
「でも一つだけ、お願いしてもいいでしょうか?」
耕平の手を握り返し、今度は陰のない笑顔で静音は告げた。

633雌豚のにおい@774人目:2013/06/23(日) 13:44:45 ID:gwTji9Z.
――――――

 最寄りの駅から住宅街に通っている一本道の坂、それを登り切った所に耕平のアパートはある。
その坂を登りながら 耕平は静音との会話を思い出す
「来週金曜の夜は、必ず予定を開けておいていただけますか?」
それが静音の願いであった。
その程度の事ならいくらでも、と耕平は即答で了承したが、なぜわざわざ来週なのか。日付を確認して後10日もあることに気付いて尋ねた。
「準備がありますので」
と、静音は柔らかそうな口元に微笑を携えて返答した。
恐らくデートのお誘いなのであろう、それは分かるのだが準備とはなんであろうか。あまり盛大に歓待されても恐縮するのだが。それまでに事態が解決しているとは限らないし、場が白けなければいいが。
坂を上り続けること約10分、耕平はアパートに着いた。築20年は経っていうという物件だが、ペット可であるため防音対策は万全といってよい。昼間ミー子が留守番をして物音が立とうとも、隣室に気にされることはないだろう。一息吸うとドアを開けた。
「ミー子、帰っ……」
「コーヘイ!」
開けるや否や白・茶色・黒三色の美しい髪をなびかせて盛大にミー子が耕平に抱き着いてくる。そのまま玄関に引き倒すと耕平の全身の匂いを嗅ぎまわり、耕平の胸板に首筋をこすりつけ続けていた。

「ご馳走様でした」
手を合わせて二人で挨拶をして、駅前のスーパーで買った惣菜の夕食を簡単に終わらせると耕平は台所で後片付けを始めた。
ミー子は満足そうにベッドの上で膝を抱えて横になり丸くなっていたが、何かを思い出したのか急に顔を上げて台所で洗い物をしている耕平の方に視線を向けると、起き上がってそちらに向かって歩きだし、後ろから耕平の腰のやや上に白い手をまわして抱きついた。
「コーヘイ……」
「なんだいミー子」
洗い物の手を休めずに、耕平は穏やかな慈愛に満ちた声で答える
「そろそろ、するニャ?」
「なにを?」
「交尾」
高い音を立てて食器を滑り落としと、耕平は慌てて洗い物を中断し、振り向いてしゃがみこんで目線をミー子より下げこんどは乾いた狼狽しきった声で話し始めた
「い、い、い、いきなり何を言いだすんだおい」
「本気だニャ」
そう言ってミー子は耕平を見つめる。潤んだ黄色い右目と青い左目には、真剣な光があり、それは耕平を射抜く。
「コーヘイが望むなら、いいよ? 大丈夫、ミー子もう子供産めるニャン」
バカなことを、と言いかけて耕平はミー子の赤い薄く開いた唇と細い首筋を見て息をのんだ。絶句するほどの美しさだった。
そしてトレーナーを僅かに押し上げている胸元を見て、鼻腔に広がるミー子の甘い、そして確実に耕平の雄の本能を刺激する香りを嗅いだ。
酩酊した。
本能に身を任せ、ミー子の頬を両手で包み、自身の唇をミー子の唇に重ねようとする。ミー子は両目を閉じて間もなく訪れる歓喜の瞬間を待った。
しかし両社の唇が接するまであと間数髪という所で耕平の動きは止まった。そこから距離を開け、両手をミー子の頬から肩に置き換えると目を合わせて話し出す。
「ミー子、ありがとう。でも今は違うんだ」
「コーヘイ……」
失望の暗い色を両目と声音に込めるミー子に対して耕平は続ける
「ミー子だけは必ず幸せにするよ。信じてくれるかな」
決意を込めた耕平の、少年のように力強く純粋な瞳を見つめ返すと、
うん、とミー子はうなづいた。ミー子にとって今回の耕平の言葉を疑うという選択肢は存在しない。それは明らかだったから。

 耕平は思った。時間は少ない、と。
静音のこともあるし、それにミー子の求愛にどこまで我慢できるか自分でも正直自信がなかった。

634雌豚のにおい@774人目:2013/06/23(日) 13:45:52 ID:gwTji9Z.
終わり
こんな文章量だけど思ったより早く終わりそう
完結するといいなあ

635雌豚のにおい@774人目:2013/06/23(日) 13:47:33 ID:gwTji9Z.
追記スマソ
前回は保管庫でだいぶ修正かましたので
今回もそうなるかも
大筋は変わらないので大丈夫だと思うけど

636雌豚のにおい@774人目:2013/06/23(日) 14:50:14 ID:81ocg5jo
うおおおおおおおおおおお投下きたああああ
静音さん何企んでるんだ...

637雌豚のにおい@774人目:2013/06/25(火) 16:56:26 ID:15i.xzf.
企まない無計画なヤンデレとか想像してみたが
なんでもかんでもスパスパ殺す
バーサーカーみたいな存在になりそうだ

638雌豚のにおい@774人目:2013/06/25(火) 21:16:36 ID:asvjvduY
世界の平和を守る正義のヒーロー戦隊。

そして、世界を脅かす悪の秘密組織。

正義と悪の戦いの火ぶたが切って落とされたかに見えた。

しかし、悪の組織の女首領の目的は、戦隊の司令官を(恋愛的な意味で)手に入れることだった。

戦隊は、女首領から自分の身を守るために司令官が組織していたのだ。

正義も悪も、愛(ヤンデレ)の前にはどうでもいいものだったのである。




……なんて電波を受信した。

639雌豚のにおい@774人目:2013/06/25(火) 22:10:07 ID:E5Lp5yew
ヤンデレが政治に絡んできたらどうなるの、と。

640雌豚のにおい@774人目:2013/06/25(火) 22:21:51 ID:15i.xzf.
>>638
主人公に敵の女幹部が惚れるってシチュは萌える
で、組織を裏切って主人公の所に走るか
組織を利用して主人公を我が物とするか

展開悩むな

641雌豚のにおい@774人目:2013/06/26(水) 08:18:01 ID:hLS2lLyE
>>638
戦隊もヤンデレ女性達で、司令官を守ってるとか。

642雌豚のにおい@774人目:2013/06/26(水) 13:00:19 ID:3ct3ZXbc
周り全部ヤンデレって収集つかなくなりそうなんだよな作品的に
それに何人か女性がいる中に一人か二人いるから目立って良いような気がする

643雌豚のにおい@774人目:2013/06/26(水) 17:39:11 ID:4yCDaomM
>>638
なんとなく超速変形ジャイロゼッター思い出した
司令に恋したのは女幹部だったし、その女幹部も組織の任務に従事するために洗脳装置的なの使ってそんな感情を殺しちゃったけど

644雌豚のにおい@774人目:2013/06/27(木) 17:05:27 ID:Iwn4QNII
疎遠になってから冷たい幼馴染。
しかし裏では....

645雌豚のにおい@774人目:2013/06/27(木) 22:21:20 ID:Hba5sFqw
>>644
期待(o´∀`)b

646 ◆VZaoqvvFRY:2013/06/28(金) 17:05:19 ID:elprpm6w
投下しますよ

647子猫の願い:2013/06/28(金) 17:06:25 ID:elprpm6w
 日曜日の午後。文字通り雲一つない青空の下、トラックを運転する彼は、なんとなく妙だった、と感じていた。
 彼は宅配業者でドライバーとして勤務して三年になる。
 今日も十数分前にノルマの内の一件を消化したのだが、その時に何かがそれまで感じたことのない違和感というか、腑に落ちない感覚を頭の片隅に残していた。
 しかし、その原因がわからないのである。このなぜだか分からないがモヤモヤする、という感覚は彼にとって気持ちのいいものではなかった。
 快調に飛ばしていたトラックの目の前で信号が赤に変わる。ブレーキを踏んで待つ時間の間、彼は先程の配達先での出来事を順繰りに思い出そうとした。
 
 目的地は何の変哲もないアパートで、そこは小奇麗ではあったが、壁にある消しきれない染み、ベランダの手すりの塗料の剥げ具合などから相当の年数が経っていることを伺わせた。
 荷物を抱えて階段を上り、手前から数えて三番目、203号室が届け先だった。荷物自体は両手で持てる程度の大きさがある二つの箱で、配送元は良く知られている熱帯雨林のような名前をした通販サイトであった。
「吉良」と書かれた表札を見て伝票と氏名が一致していることを確認し、インターホンを押す。若い男性の声で返事が返ってきたので、こちらの身分と荷物が届いたことを告げると、数秒と待たずドアは開いた。
 出てきたのはやや癖のある髪をした、まだ幼さを残した顔つきをした好青年で、よほどのひねくれ者でない限り第一印象で悪い感情を持つ人はいないのではないだろうか、と彼は思った。
 荷物を中に入れ、伝票に判を押してもらうのを待っていると、玄関から伸びた廊下の突当りにあるドアが開いた。
「コーヘイ、届いたのかニャ?」
 顔だけのぞかせたのは十代前半かと思われる少女で、色の白さと、極めて整った顔つきから発せられるその夢幻的な美しさに彼は息をのんだ。
「こら、部屋の中にいなさい」
 青年がそういうと少女は一言謝って部屋に引っこんでドアを閉める。
 美少女を見れなくなった彼は残念に思った。と、同時に少女の髪が白・茶色・黒と三色だったのと、瞳の色が左右で異なっていたのを思い出し不快感を感じた。
「あんな幼い子の髪を派手に染めさせたり、カラーコンタクトをさせたり、保護者はこの青年なのだろうが、責任感というものはないのだろうか」と。
 最初の好印象はどこへやら、青年に判を押してもらうと伝票を引っ手繰るように受け取り、ドアを閉めて憤懣やるかたない、と言った歩調でトラックに戻る。そして次の目的地に向かって即座に出発した。

 以上が出来事の全てである。そして、それらを思い出しても彼は違和感の原因が結局分からなかったので困っていた。
 確かに二十代の青年と十代の少女の二人で暮らしている、というのも妙と言えば妙だ。しかし兄妹であればそれほど不思議はない、実際仲睦まじそうな様子であった。それ以外では……
 頭をひねっていた彼だが、唐突に手をたたいて喜びの声を上げた。
 ついに気が付いた、少女は室内で帽子をかぶっていたのだ。
 彼は自分の疑問が解消されたことに満足し、数秒後青信号に代わるや否やアクセルを踏み込む。
 もう頭の中は次の配達先の事で占められていた。

――――――

「普段着、寝間着、……下着、よし、一通りあるかな」
 届けられた衣類の数と種類を確認し耕平は呟いた。
 さすがにいつまでも耕平の服を着せておくわけにはいかないし、かと言って洋服店に耕平一人で少女の服を買いに行くというのもためらわれ、結局通販で済ませることにしたのが数日前の事。
 迅速な配達に耕平は満足していた。サイズが合うかが心配だが、まあ多少はやむを得ないだろうといったところである。
 ミー子も耕平の左隣に座りこれから自分が着ることになる服を見て年頃の少女らしく目を輝かせていたが、そのうちいくつかを箱の中から引っ張り出して自分の体に重ね合わせると
「ね、ね、コーヘイはどれを着てほしいかニャ?」
 と、満面の笑みで耕平に尋ねてきた。
「そのブラウスとスカート、ミー子が選んだやつだろ。まずそれを着てみたらどうだ?」
 耕平がそう言ったのは、黒と白を基調とした上下揃いの服で、届いた中ではミー子が選んだ物の内の一つである。
 うん、と頷いたミー子が立ち上がって服を脱ぎ出したので、慌てて耕平は部屋から飛び出して扉を閉めて表で待つことにした。が、ふと思い出して声をかける
「ちゃんと下着も着るんだよ、ミー子」
 忘れてたニャー! という叫び声が響き渡ったところを見ると図星だったらしい。
 一応昨日のうちにブラの付け方はネットで調べて教えておいたのだが大丈夫だろうか、と考えていると下着姿のミー子が浮かんできたので頭を振って煩悩を追い払うことに専念した。

648子猫の願い:2013/06/28(金) 17:07:29 ID:elprpm6w
「もういいニャ」
 十数分後、そう室内から声をかけられた耕平はお邪魔します、と場違いな言葉を発しながら扉を開ける。
「おうっ……」
 入るなり耕平は眩暈を起こしそうになっていた。足を交差させ、スカートのすそを両手でわずかに持ち上げるポーズで耕平を迎えるミー子は、その服の色も相まってまさに小悪魔めいた美しさを漂わせていた。
「似合うかニャ?」
 そう尋ねるミー子だが、耕平の顔を見れば返答は不要と言ってよかったであろう。生まれて初めて女性に告白する少年も、ここまでなるまい、というぐらい耕平の顔は赤い。
「と、と、と、とても似合うよ」
 耕平は固まって動かない顔と口を無理やりに動かしながらそう返答し、そして喜んだミー子が両手を広げて抱き着いて来た瞬間、今死ねたら俺は本望かもしれない、と思っていた。

「ミー子、表に出たくはないか?」
 数十分後、今だに床に並べた服を四つん這いになって眺めながらはしゃいでいるミー子を見ながらベッドに座ってくつろいでいた耕平が声をかけた。
「ううん」
ミー子は下を向いたままそう返答する。意外に思った耕平は、「本当に?」と再度尋ねたが
「うん。その必要はないニャ」
 ミー子の答えは変わらなかった。
 遠慮しているのかな、と思ったが、よくよく考えてみれば元々室内飼いの猫なのである。縄張りの中にいるのが一番安心できる、という習性は変わっていないのかもしれない。
「コーヘイはいつでもここに帰ってくるし、コーヘイが隣にいてくれればそれでいいニャ」
 顔を上げて晴れやかに笑いながら言うミー子の言葉を聞いて、感動しつつも耕平は、一つ伝えなければならないことがあるのを思い出した。
 肘を膝の上に乗せ、両手を組んで話し出す
「ミー子、次の金曜日の事なんだけど」
「ニャ?」
「その日は帰るのが遅くなると思う。先に食事を済ませて待っていてくれるかな」
 その口調に普段感じとれない不安感のようなものを感じたミー子は、正座に座りなおして耕平に正対し口を開く
「なんでかニャ?」
「人と会う約束があるんだ」
「……あの女かニャ?」
 そう言うミー子の声には酷く冷たい響きがあり、女の直感の恐ろしさを耕平は知った。かと言ってここで嘘を言う訳にもいかない
「そうだよ。河原崎さんに会うんだ」
 ミー子の前で初めて静音の名前を出した耕平は、その周囲に冷気が漂うのを感じた。目が据わり、こちらの一挙手一投足を見逃さない、とばかりに視線で射抜いてくる。
「そういえば聞いていなかったけど、そいつはどういう女なのかニャ?」
 冷や汗をかきながら耕平は説明を始めた。
 河原崎さんとの出会い、彼女がどれだけ耕平の事を知って心配してくれているかを。さすがに静音と交わした約束の内、金曜日に会うという事以外は伏せておいたが。
 話している間中、周囲の家具が地震でも起きたかのように軋む音を立てていたが、話し終えるまであの能力が発動することはなかった。
 そして、終えると同時にミー子は可愛らしい口を開いて容赦ない言葉を吐き出した。
「コーヘイ、その河原崎とかいう女と会ってはダメだニャ」
 そう言われるだろうと思っていた耕平は、姿勢を改めて背筋を伸ばして座り直し説得を始めようとしたが、ミー子が畳みかけた
「その女、怪しいニャ。とっても」
「怪しい?」
 予想していなかった形容詞が飛び出してきたので虚を突かれた耕平に対して、正座のまま前に進み出てミー子は続ける。
「なんでその女はコーヘイの事をそんなに知ってたのかニャ? それまで殆ど接点がなかったのに詳しすぎるニャ。黙って調べていたにしても全く気取られない事ってあるかニャ? 大体そんなにコーヘイに興味があるなら、同じ会社にいるんだしいくらでも会う機会はあったはずニャ」

 言われてみればその通り。ぐうの音も出なくなってしまった耕平は、やや癖のある髪をかき上げながら黙ってミー子の言葉を心の中で反芻した。
 確かに全てが始まったあの日、耕平が静音を事故から救ったあの瞬間まで、二人の接点はほぼ皆無だったといってよい。高嶺の花の令嬢と一般庶民というか、同じグループ企業に勤めているというだけでそれ以上でも以下でもなかった。
 また、静音が耕平の周囲を調べている、という事になれば車内で噂には上るだろう。というか多少は耕平の耳にも入ってくるか、異変を感じておかしくない。だが、そういった気配も全くなかった。
 こんな簡単なことに気付かないとは。初めてまともに付き合える女性が現れたという事で有頂天になりすぎていたのだろうか、と耕平も今更ながら舌打ちした。その前でミー子の話は続いている
「それなのに、ミー子の願いがかなった日から急にコーヘイに盛りのついた泥棒猫みたいにまとわりついてくるなんて、どう考えてもおかしいニャ。つまりその女は」

649子猫の願い:2013/06/28(金) 17:08:14 ID:elprpm6w
「その女は?」
 ミー子は立ち上がると耕平と文字通り目と鼻の先まで顔を近づけて「操られてるか、洗脳されている可能性があると思うニャ」と言った。
 いくらなんでもそんなこと、と耕平は否定しようとするがミー子は続ける。
「だってそれまでコーヘイに関わってなかったのが急にあの日を境に変わるなんておかしいニャ。神様か悪魔、どっちかにコーヘイの情報を与えられて、その上感情なり意志なりコントロールされてるんじゃないかニャ?」
 反論したいが材料がない、という状況に陥って耕平も参った。

 静音との会話やその笑顔を耕平は思い出す。あれが全て作為の下にあり、本来の静音ではないのかもしれない、という想像は耕平の気分を沈ませた。
 もはや悪魔の所業と言いたくなるが、その場合ミー子を人間にしたのは神という事になる。逆もまたしかりで、双方とも悪趣味極まりない。
 耕平は無神論者の楽園があるのならばそこに逃げ出したい、と思い始めていた。
 
 しばらくの間右手で自分の頭髪をかき混ぜていた耕平が、ようやく口を開いた
「なるほど、ミー子の言う通りかもしれないな」
「そうだニャ」
 ミー子は得意満面、という表情で小さな胸を張ってみせたが、
「じゃあ、金曜日は必ず河原崎さんと会わないとな」
 という耕平の言葉で愕然、といった表情に変わり顎を落とした。「なんでだニャ!?」と、当然のように抗議するが
「会って確認してみるよ。河原崎さんが本人の意思で俺に関心を持ってくれているのか、そうでないのかを」
「どうやって?」
 泣き顔と怒り顔を絶妙にブレンドした表情で不安そうにミー子が聞いた
「直接聞いてみる、いつから俺に興味を持ってくれていたのかを」
それが突破口になるのではないか、と耕平は思っていた。前に静音が話したことを思い出す

――以前からずっと吉良さんのことを見てましたから。

 あの時はそれ以上聞かなかったが、具体的に日時とまではいかなくても耕平に好意をもった時期なら言えるはずだ。
 それからあの日に至るまで、その行動に矛盾点があるかどうか。それが静音が果たしてミー子の言う通り操られているのかどうか、という点の判断材料になるはずだ。
 記憶そのものまで操作されているとなるとやっかいだが、時間を巻き戻しでもしない限りどこかに無理は出てくるはずだと耕平は思っていた。

 耕平の話を聞いたミー子だが、それでもやはり不満であるようで、今度は涙まで浮かべ耕平の両腕をつかんで説得しようとする。
「だとしても、そんな女ほっとけばいいニャ。関わり合いになってもコーヘイがその女に取りこまれるだけだニャ」
 放っていいわけがない、と耕平は思ったがミー子に伝えたのは別の事だった
「ミー子、これはチャンスだ。もし河原崎さんが誰かに操られてるとして、それを本人に自覚させることができれば、きっと元に戻りたいと思うだろう。誰だって自分が人形のように扱われるのなんて嫌だ」
その為には静音の身に起こったことを含め、今回の事態について全てを話さなければならないだろうな、という事は耕平も覚悟していた。
 だがしかし、それでも静音が耕平の彼女になる、という神だか悪魔だかの意志から解放されることを本人も納得して協力してくれるのなら、事は解決しやすくなるのではないか。
 少なくともミー子にとってはライバルがいなくなるのは悪い話ではないはずだ、そういうとミー子も渋々納得した。
「まあどちらにしても天使達を呼び出さなきゃならないのは変わりない。できれば金曜日までにそれを見つけて、河原崎さんに迷惑をかけずに解決しておきたいな」
 ミー子の頭を帽子の上から撫でつつ耕平はそう言って笑いかけた。まだべそをかいていたミー子だがそれを見てやや案著したように笑い返した。


 しかしその願いはかなうことなく金曜日を迎える。
 もちろん手をこまねいていたわけではない。耕平は怪しげな儀式や呪文のたぐいまで用いて天使や悪魔を召還しようとしたのだが、天国の扉も地獄の蓋も開くことはなかった。

650子猫の願い:2013/06/28(金) 17:08:41 ID:elprpm6w
ここまで四話
次五話

651子猫の願い:2013/06/28(金) 17:09:22 ID:elprpm6w
 木曜日の残り寿命が二時間程になった頃、河原崎静音は自宅の応接間で来客を迎えていた。
 ずいぶん遅い時間の訪問ではあるが、なんのことはない静音がこの時間を指定したのである。
 都内某所にある河原崎邸は広く大きい。数代前の当主自身の設計で建てられたのだが、地上2階、地下1階で両手両足の指で足りないほどの部屋数があり、しかもその多くが一般的な家庭の一室の倍以上の広さがあった。今静音がいる部屋にしても二十畳を軽く超えている。
 二世帯どころか三世帯、四世帯が入っても持て余しそうな建屋なのだが、現在在館しているのは三人のみである。現当主である静音の父は数日前からヨーロッパに出張中で、母もそれに同行していた。
 静音が美しい唇を開いた。
「つまり、この女は先週から彼の部屋に同居し続けているという事でしょうか、林さん」
「はい、左様でございます河原崎様」
 薄いオレンジの色調で整えられた室内、大理石製のチェスセットが置かれたテーブルを挟んで、静音の向かい側に座るのが林と呼ばれた人物である。
 30代後半かと思われる鉤鼻をした痩身の男で、黒縁眼鏡の奥の切れ長の目に頭の回転の速さと抜け目のなさを感じ取る人もいるであろう。実際その通りで、静音から依頼を受けた分野に関しては非凡な男であった。
「日中はどこにも出かけておりません。また、こちらから電話をかけてもインターホンを鳴らしても全く反応なしでして。また、カーテンを閉め切っているので、中々様子をうかがうこともできませんでした」
 林の苦労話を聞きながら、静音は手の中にある写真の束をめくっていく。そのような単純な仕草さえ優雅で美しいが、今の当人にとってはどうでもいいことであろう。
 静音の心をとらえているのは、林から手渡された写真の束、そのどれにも写っている白・茶色・黒三色の髪と、黄色い右目と青い左目をした少女の姿であった。殆どが僅かに空いたカーテンの隙間から、体の一部分だけ、と言った有様であったが。
「他に親しい女はいないのですね?」
 写真をめくる手を止めずに静音が尋ねる。
「ございません。その女だけでございます」
 そう、とやや安心したような声を発した静音であったが、次の写真を目にした瞬間、猛烈な勢いでそれを握りつぶしていた。表情は変わらなかったが、こめかみに血管が浮き出ているのを林は確かに見ていた。
「ご苦労様でした、もうこの件に関しては調査を打ち切っていただいて結構です。ファイルもすべて頂けたようですし。請求書は私宛に後日郵送してください。加藤さん、林さんをご自宅までお送りして差し上げて」
 加藤と呼ばれたのは静音の後ろに無言で佇んでいた中年の人物で、二メートルに届こうかという長身、短く整えられた髪、彫りの深い顔をして骨太肉厚の体をしていた。
 上下黒のスーツをまとい、一見して用心棒かボディガードか、と思わせる風貌をしているが、勘の鋭い者ならなにかしら違和感を感じるかもしれない。より勘の鋭い者なら胸のあたりを見て真実に気付くかもしれぬ。
 この巨人は女性であった。
「いえ、その必要はございません。この後も別の依頼がございまして……」
 林は口と目を操作して完璧な作り笑いをして見せ、立ち上がると慇懃な礼をして退室する。
 商売繁盛で結構なことね、と静音は薄く笑い玄関までその姿を見送った。

「加藤さん、明日の事だけど」
 自室に戻りかけた静音は傍らに立つ女丈夫に声をかけた
「はい、お嬢様」
「少し予定が変わりそうだわ。また後ほど支持します」
 小さく頷いて静音に付き従う加藤であったが、ややあって遠慮がちに声をかけた
「それにしても、よろしかったのでしょうか」
「なにがですか?」
「吉良様の事です。吉良様とお嬢様は約束を交わされたのでは」
 薄暗く照らされた廊下を小気味よく歩いていた静音だったが、それを聞くと自室に向かう足を止め、耕平との会話を思い出した。

 ――今回の事はしばらく聞かないでいてくれませんか

 加藤のほうに振り返り話し出す。
「約束は破っていないわ。彼に聞いたりはしない。私が勝手に調べてるだけよ」
 罪悪感など全く感じさせない、むしろ弾んだような声でそう言う。静音は手の中にあった小さく握りつぶされて白い塊になった元は写真だった物を加藤に手渡し微笑した
「捨てておいて下さる? いえ、むしろ燃やして下さいな」

652子猫の願い:2013/06/28(金) 17:10:36 ID:elprpm6w
 口調とは裏腹に目は笑っていない。それを見て取った加藤は恭しく礼をして、静音の倍以上はあるであろう逞しい手を差し出してそれを頂く。そして再び歩き出した静音が自室に入るまで見送った。
 加藤は静音の部屋のドアが閉まった後もしばらくそこに佇んでいたが、やがて踵を返して歩き出し、手を開くとその中にある写真を広げ、見た。
 
 どこから撮ったのであろうか。帰宅してドアを開ける耕平とそれに飛びついて抱き着くミー子の姿が写っていた。

 ――――――

「じゃあ行ってくる」
 金曜日の朝、そう言って出勤しようとする耕平のスーツの裾をミー子が細く白い手を伸ばし引っ張って引き止めた。ちなみにこれでこの日三回目である。
 呆れつつ振り向いた耕平はそれでも限りなく優しい声で再度説得を始めた
「ミー子、分かってるだろう? 今日は行かなくちゃいけないんだ」
「でも……ニャ」
 涙目で上目づかい、胸の前で組んだ両手、と必殺技をいくつも繰り出して引き留める。
 それを見た耕平も白旗を上げたくなったが、感情を理性で叩きのめしてミー子に告げた。
「心配しないで。必ず今日中には帰ってくるから。約束するよ」
「うん」
 その耕平の言葉でやっと諦めると目を閉じて唇を差し出してキスをせがむ。
 怯んだ耕平は一瞬悩んでいたが、ミー子の期待する場所ではなく、帽子を脱がすとその額に己の唇を当てて、その肩を両手で抱いた。
「じゃ、じゃあ行ってくる」
 顔の赤さを自覚し、急いで踵を返すとドアを閉め出発した。

 耕平を見送ったミー子は不安の中にいたが、約束してくれたのだから大丈夫だ、と言い聞かせて自分の心を落ち着かせた。
 ベッドの上に寝転がり、耕平に買ってもらったピンクストライプの寝間着のまま膝を抱えて丸まり、早く夜が訪れることを願う。
 しかし、そこから次から次へと負の感情が襲ってきた。それは耕平が自分から離れる事になるのではないかという恐怖であり、耕平の身になにか危機が迫っているのではないかという漠然とした不安であった。
 普段から耕平の出勤後、帰宅までにミー子がやることは、食事と睡眠以外では(たまにはテレビを見たり、パソコンでネットをやったりもするけれど)耕平の事を考える、それだけである。
 いつもならそうして耕平の事を考えて帰宅を待つのは楽しい時間であるのだが、しかし今日は違う、思うことは悪いことばかりであった。
 耕平はああ言っていたが大丈夫であろうか、あの女に取りこまれはしないか、やはり自分もついて行ってこの手で始末したほうが良かったのではないか……といった物騒なことも考えつつ悶々として待つしかないのだ。
 ふと時計を見る。まだ耕平が出て行ってから十分しかたっていない。今なら追いかければ間に合うかもしれない、と寝間着のままベッドから降りて飛び出しかけたが、耕平の言葉を思い出して自重した。
 そしてまたベッドに寝転がり白い天井を見上げる。見慣れた光景のはずなのに、押しつぶされそうな圧迫感を感じ、ミー子は大きな息の塊をはいた。
 今度はうつ伏せになり何も見ない、聞かないようにしてただ時が過ぎるのを待つ。
 そうしてひたすら恐怖に耐えて、もう夜が訪れたのではないか、と顔を上げた。
 が、まだ日は高く、時は先程から半時も過ぎていない。絶望して泣き叫びたくなるのを必死にこらえて、ただただ耕平の名前を呼びながら嗚咽を漏らし、丸まって世界を拒否する。
 そんなことを繰り返して、いやになるほど繰り返しているうちに、疲れ切ったミー子はいつの間にか眠りに落ちていた。

 コーヘイは食事をくれるし、気持ちのいい暖かいベッドで寝かせてくれるし、先にフワフワのついた棒で遊んでくれるし、愛してくれる……

 いつか見た夢を見たような気がしてミー子は目を覚ます。半身を起こすと周囲を見回した。そして部屋の暗さ、カーテンから透けて見える星空、外の静けさからついに夜の訪れを知った。
 耕平はまだ帰宅していない。
 時計を確認すると日付が変わるまであと僅かしか残っていない。それに気づいて両手で頭を抱え絶叫したが、ミー子の肉体、特に声帯がその感情に耐えきれず、僅かに息が抜ける低く乾いた音が漏れただけだった。
 ベッドにうずくまるミー子の周囲に冷気が渦を巻く。部屋中の家具が軋み、振動する。殺意の塊と化しつつあるミー子だったが、その時、常人をはるかに凌駕する五感がアパートの前に車の止まる気配を捉えた。
 もしや耕平がタクシーか何かで帰宅したのだろうか、と、ミー子は怒気を収める。
 しかし、車のドアが開き、降りてきた人間の気配は耕平のそれではなかった。
 再び絶望した時に、ミー子は異変に気付いた。降りて来た人間がアパートのどの住人でもない。その足音、壁と空気を伝わってくる振動にミー子は覚えがなかった。

653子猫の願い:2013/06/28(金) 17:11:00 ID:elprpm6w
 いや、住人でなくてもその来客かもしれないのだが、しかし、その人物はよどみない足取りでアパートの階段を上る。201号室の前を通過し、その隣も通過し、203号室、ミー子のいる部屋の前で止まった。
 誰だ? 耕平ではない、それは確実である。
 ミー子はベッドから脱兎のごとく飛び出すと、玄関の前に立つ。相手が扉をこじ開ける気なら、全力で阻止するつもりだった。

 しかしそうはならなかった。ドアノブに鍵が差し込まれる金属音が響き、あっけなく解錠されたからである。
 ミー子は驚愕した。この部屋の鍵を持つのは耕平だけである、ミー子ですら――出かけないのだから当たり前だが――持っていない。
 それなのになぜ、と考えている途中でミー子は気付いた。相手の足音、あれはハイヒールという靴のものではないのか。それは女性専用の靴のはずだ。という事は、今ここに侵入しようとしているのは……。

 軋んだ音を立ててドアが開く。そして小気味良い足音を響かせて入って来たのは、招かれざる来訪者。
 ――黒く澄んだ大きな目、ロングの黒髪、そして黒のパンツスーツを隙なく着こなした掛け値なしの美女――

 「ミー子さん、とお呼びすればよろしいかしら? こんばんわ、河原崎静音と申します」

 普段は他者に暖かい印象を与える口元が、この時は両端が吊り上がり、三日月型になっていた。

654子猫の願い:2013/06/28(金) 17:11:45 ID:elprpm6w
終わり
やっとここまで来た……
残り三話
ここからはペース落ちるかも

655雌豚のにおい@774人目:2013/06/28(金) 19:34:28 ID:ZvEP5ivc
素晴らしい。ミー子の純粋な病みに萌え死ぬw
いやはや最初はちょっとした小ネタだったのにここまでのSSに成長させる執筆力というか文才は凄いな

656雌豚のにおい@774人目:2013/06/29(土) 22:40:10 ID:CF80AfiY
いやあいいなあこれ。読んでる最中ニヤニヤしっぱなしだった。乙!

657雌豚のにおい@774人目:2013/06/30(日) 02:12:16 ID:AoBoYq/c
素晴らしい

658雌豚のにおい@774人目:2013/06/30(日) 11:12:52 ID:lG4DGwJM
素晴らしい投稿ありがとうございます。正統派のヤンデレは、見ていて気持ちよくなりますね。
できれば、ミー子も河原崎さんも、最後まで生きていてほしい……

659雌豚のにおい@774人目:2013/07/02(火) 00:10:43 ID:GubkRvBQ
>>644
よし、おまえも続くのだ

660雌豚のにおい@774人目:2013/07/03(水) 02:39:20 ID:ci/88W.Q
gjです

661 ◆VZaoqvvFRY:2013/07/04(木) 17:00:44 ID:zVdN/vDI
投下しますよ

662子猫の願い:2013/07/04(木) 17:02:57 ID:zVdN/vDI
 ピンクストライプの寝間着姿の少女と、黒いスーツを身に着けた女。身長は女のほうが頭一つ分大きいであろうか。
 耕平のアパートの玄関で両者は対峙していた。
 既にドアは閉じられおり、しかも照明が点けられていない。僅かにどこからか漏れ入ってくる光だけが頼りの室内は、常人には一メートル先程度の事さえ認識が難しい闇の中。
 しかし少女はその卓越した視覚により苦もなく女の目を捉えていた。
 そして女はと言えば、これもどの様にして見ているのだろうか、少女を見据えたまま全く視線を外さない。
 少女は露骨に威嚇する怒気をはらんだ表情をして。女は落ち着いていて穏やかで、そして酷薄な笑みを浮かべながら。
 友好的、と表現する余地が一ミリたりともない初対面であった。

 殺したい、と、先程まで切望した相手が目の前にいる。
 ミー子にとってはある意味で待ちに待った対面であったのだが、今は目の前の女よりも先に確認しておかなければならないことがあった。
「……コーヘイはどこかニャ?」
「聞いてどうするの?」
 嘲笑うように静音は言い、その笑みを崩さずに続ける。
「貴女はもう彼の事を気にする必要はないのよ」
「答えろ!」
 激昂してミー子は言い、その周囲に冷気の渦が巻きだした。
 静音はそれを無感動な目で見ていたが、肩をすくめると口を嘲笑から呆れたような形に変えて話し出す。
「吉良さんなら表の車の中で休んで貰ってるわ。今はよく眠っている……心配しなくても信頼できるドライバーがついているから大丈夫よ」
 まあ貴女が心配する必要はないのだけれど、と補うように続けた後、今度は口調に隠しきれない怒りの感情を含ませながら問いただしてきた。
「それにしても、どういう入れ知恵をしてくれたのかしら、貴女は?」
「何のことだニャ?」
 慎重に静音との距離を取りながらミー子は言い返す。この時既にいつでも攻撃態勢に入れるように準備はしていた。
 ただ、能力を完全にコントロールする自信がまだなかったので、静音との距離が近すぎると飛んできた包丁やナイフ等が流れ弾のように自分に当たりかねないという不安があった。もう少し離れる必要がある。
「彼が今日何度も聞いてきたのよ。私がいつから彼の事を好きになったのかって」
 静音は今夜耕平と交わした会話を思い出しながらそう言った。

 ――――――

「いつから俺に興味を持ってくれてたんですか」

 そう耕平が静音に問うたのは、都内にある個室制のイタリアンレストランの一室。
 薄暗く抑えられた照明の中、中央にある丸いテーブル自体が発光するような仕掛けが施されており、夢幻的な雰囲気が室内に漂っていた。静音がミー子の元を訪れることになる三時間前の事である。
 約束の金曜日の夜、静音が耕平を誘ったのがこの店だった。
 静音と待ち合わせた耕平は緊張していたのだが、目的地についた時にはやや安心していた。
 それまでは先日の「準備がある」という言葉からどの様な所に連れていかれるのか、とやや構える気持ちもあったのだ。だがここなら思っていたよりも普通のデートとして済むのではないか、とそう思っていた。
 もっとも普段の耕平であれば気後れして足が向かないような高級店ではあったが。
 静音が予約していた部屋に案内され、席に着いた後は、お互い仕事の疲れを労い合う。それからごく普通に会話も弾み、食事は楽しいひと時として進んでいった。
 わざわざこ日を指定した割には、静音も特にこれといった行動も示さず、楽しそうに笑いながら耕平と同じ空間と時間を共有することを喜んでいる。
 このままただのデートとして終われれば幸せなのだろうな、と思っていた耕平であったが、食後酒のグラッパをあおって踏ん切りをつけると計画していた質問を切り出した。
「河原崎さんはいつから俺に興味を持ってくれてたんですか」

 聞いた静音は不思議そうな顔をして小首をかしげ聞き返す。
「興味、というのは……つまり私がいつから貴方を好きになったか、という事でよろしいのでしょうか?」
 意図を直球の表現に変換されて耕平は動揺した。が、ここで誤魔化す訳にもいかない。
「その通りです」
 顔面が紅潮するのを自覚したが、努めて冷静さを保つようにして静音の言葉を肯定する。アルコールの為かやや呂律が回っていなかったが。
「ずっと前からですわ」
 静音は目じりを下げて可愛らしく微笑して言う。それは耕平の予想していた答えであったので、質問を続けた。
「ずっと前、というと具体的にいつからでしょうか?」
 その問いにやや驚いた、そして困惑した表情となった静音は耕平の意図を確かめるように聞く。

663子猫の願い:2013/07/04(木) 17:03:39 ID:zVdN/vDI
「どうしてそのような事をそんなに気になされるのですか?」
「重要な事なんです。理由はこの後お話しますが、それは……」
 そこまで話した所で耕平が異変に気付いた。口が動かない。
 いや、動いてはいるのだが何か大きなものを咥えさせられたような感覚というべきか、口内の微小な動作ができなくなっていた。
 酔っぱらったのだろうか、と自問するが、頭ははっきりしている。今迄感じたことのない感覚に戸惑っていると、静音が「どうかなさいました?」と声をかけてきた。
「いや、大丈夫です。それで、さっきの質問なんですが。答えていただけますか」
 と、そう言ったつもりだったのだ。しかし出てきたのが
「いや、だいじょ……す。それ、さっき……こた、て……」
 という言葉だったので愕然とする。
 頭を振って酔いを醒まそうとしたが、首を傾けたとたんにそのままバランスを崩して大きな音を立ててテーブルに突っ伏した。
 何をやっているのだろうか、一体自分の体はどうしてしまったのか、という焦りが襲ってくる。
 テーブルにうつ伏せになったままであったが、なんとか静音に醜態を見せてしまった事への謝罪をし、助けを求めようと両腕をテーブルについて力を入れようとする。
 が、そこで両腕の感覚も無くなっていることを覚った。
「ずっと前からですわ」
 そう言って静音が立ち上がる気配があった。そのままテーブルを回って耕平の背後に移動したようだったが、うつ伏せの耕平にはその姿を見ることは出来ない。
 五感も失いつつあったが、両肩に静音の両手が置かれる感覚があり、耕平の鼻腔に静音の香水の匂いが広がった。
 耳元で声がする。
「なにを疑問に思われるの? 私は貴方が好き、貴方は私が好き。お互いに好きあっている、こんなに素晴らしいことはないでしょう? それで十分ではなくて?」
 そこで耕平の意識は途切れた。

 ――――――

「下らない質問をしてきたりして、彼は疲れていたのね」
 口調に耕平への同情を、視線にミー子に対する怒りを込めて静音は言う。
 さらに一歩進みでて
「ところで、一応聞いておくけど貴女、悪魔と契約したのよね? その変身はその所為なのでしょう?」
 と、傲然とした姿勢で問いただしてきた。
 ミー子の中で危険信号が鳴る。この女は何者だ、と。
 暗闇の中でも昼間と変わりないようにミー子の姿を捉え会話しているだけでも常人ではありえないが、さらに悪魔の事を知っている。
 しかもミー子の擬人化がその悪魔の所為だと言っている。ミー子達ですら神か悪魔か、どちらの仕業かはまだ分かっていないのに。
 ミー子は黙っていた。それを答えたくない、と判断したのだろうか、静音は自分から会話を続ける。
「でも貴女みたいなのが傍にいたんじゃあ、吉良さんも気の休まる時がないわよね。だから……」
 静音はミー子に右手人差し指を突き付け宣告した。
「その心配事をなくしてあげるわ」
 それを聞いてミー子は後ろに跳び退り、背後にある耕平の部屋まで戻ると叫んだ。
「死ね!」
 その言葉と同時に派手な金属音が鳴り響き、玄関に食器棚から飛び出したナイフ、フォーク、包丁、耕平の部屋から飛び出したカッターナイフ、ハサミ、ドライバー等々の凶器が散乱した。
 それらは静音の周囲、直径二メートル辺りを囲むように床に転がる。そして次の瞬間全て同時に空中に浮きあがると、これもまた同時に静音に向かって突進する。どれも目、腹、胸、喉と急所ばかりを狙っていた。
 静音はこれら一連の動きを無機質な目で見ているだけで何もしない。ただ立っているだけであった。
 そうであったのだが、突進していた凶器類は静音の体に突き刺さるまさにその直前、間数髪の所でミー子の期待していた動きを止める。そのまま宙に浮かんでいたが数瞬後床に落ち、転がった。
 唖然として口を開き棒立ちになるミー子に静音が冷めた声をかける。
「何かと思えば、下らないわね。この程度で私を殺すつもり? 貴女が契約したのってよほど無能な下級悪魔なのかしら」
 ミー子はそれを聞くと、激怒してさらに能力を発動させた。
 今度は凶器類だけではなくフライパン、ドライヤーからテレビのリモコンに至るまでありとあらゆるものを静音に向かって突撃させる。
 しかし無駄だった。どれもこれもことごとく静音の体まで間数髪の所で止まり、落下すると空しく床に転がった。

「終わりかしら? じゃあ私の番ね」
 今度は目じりを下げ、にこやかと表現されるに足る笑顔を浮かべると、静音は右手の掌を前に向け突き出した。

664子猫の願い:2013/07/04(木) 17:04:03 ID:zVdN/vDI
 瞬間、ミー子は後ろに向かって吹っ飛んでいた。そのまま壁に激突し、崩れ落ちる。かぶっていた帽子も吹っ飛び、白・茶色・黒三色の長髪が宙に舞い猫耳が晒される。
 背中の痛みに耐えながら起き上がろうとするが、その瞬間に両手が操られたかのように後ろ手に回る。さらに、手首が固く触れられない何かで固定されて動かせなくなり、両膝も見えない鉄の輪のようなもので固定されたのを感じた。
 背中一面に広がる激痛に思わず悲鳴を漏らす。それでも這いずって殺意に満ちた黄色い右目と青い左目を静音に向け、部屋の中央まで進み出る。
「中途半端に人間になったものね、この化け猫」
 静音はミー子の猫耳を見ながらそう言って耕平の部屋に入ると、床にくの字になって転がり、尚も睨みつけてくるミー子の前で仁王立ちをした。
「いや、泥棒猫かしら? 泥棒化け猫……ちょっと語呂が悪いわね」
 そう言って小馬鹿にしつつなにやら悩んだようなそぶりを見せる静音に対して、ミー子は顔を上げ、叫ぶ。
「泥棒猫はおまえだニャ! この売女!」
 見下ろす静音は無言であったが、形の良い顎を小さく動かしてミー子に先を続けるよう促した。
「ミー子はいつでもコーヘイの傍にいたニャ。生まれて直ぐに拾ってもらって、それからずっと。ミー子はコーヘイがいればいい、それ以外なんてどうでもいい。でもおまえは、今迄どこの誰と寝ていたのかしれない、淫乱な泥棒猫だニャ! 操り人形のくせに! 横から急に出てきて……!」
 そこまで言った瞬間、ミー子はまたしても壁際まで吹っ飛ばされていた。
 しかも今度は見えない力を使われたのではない。静音は自らの足でミー子の腹を蹴飛ばしていた。
 何かが静音の逆鱗に触れたのだ。その顔は般若に変わっている。
「私が操られている? 勘違いするんじゃないわよ、この化け猫が」
 ミー子は腹と背中の痛みで息もできなくなり、転がったまま可愛らしい口を陸に上げられた魚のように開けている。その前に静音は歩み寄ってきた。
「利用されたのは貴女よ。それにずっと彼の傍にいた、ですって? 笑わせるんじゃないわよ、貴女が彼の傍にいたのなんてほんの一年にも満たない間じゃない。私は違う」
 静音はミー子の手前、あと一歩といった所で歩みを止める。
 そして上を向いて虚空を見つめるとうっとりとした恍惚の表情になり語りだした。

「私は今でも覚えている、彼に初めて会った時の事を」
「それは彼のお母さんが亡くなった日。私はちょうどこの街を見回っていた」

 痛みに耐えながら、ミー子は眼前で静音の体が光りはじめたのをぼんやりした視界で見ていた。
「彼はね、お母さんの遺体のそばで、とても寂しそうだった。当然よね、まだ子供だもの。でも、泣いてはいなかったのよ。むしろお父さんが号泣していて大変だったわ」
「そんなお父さんを彼は慰めていたの。僕がついてるよって。強い子だなあって感心したわ」
 静音の体から発する光は強さを増していく。
「でもね、その夜彼は自分の部屋に戻った時、泣いたのよ。一人で。そして一生懸命神様にお願いしていたわ、お母さんを生き返らせてください、って」
「残念ながらその願いはかなえられなかったけど……私、それを見て思ったのよ」
「いつかこの子の役に立ちたい、願いをかなえてあげたい、傍にいてあげたい、一緒になりたいって」
 光は強度を増し続け、部屋全体を明るく照らす。やがて静音は一つの光の塊となった。
 愕然として顔を上げるとミー子は思った。この光景を見たことがある、と。
 それは全てが始まったあの日。寝ていたミー子の前に確かにこの光の塊は現れていた。
 その、目を開けていられなくなる程に強さを増した光の中から静音の声は響き続けている。

「私はずっと彼を見ていたわ。ずっと昔から……彼が子供の頃から……」
「彼だけを……」

 光の塊は徐々にその形を変えて行く。人型になり、白い衣をまとった少女となり、その背から白く輝く羽を生やし、やがて頭上に金色の輪を浮かべた。
 あの時の天使がミー子の目の前にいた。

665雌豚のにおい@774人目:2013/07/04(木) 17:05:12 ID:zVdN/vDI
終わり
残り2話か3話
今月中に終わるかなあ

666雌豚のにおい@774人目:2013/07/05(金) 00:13:08 ID:HTp72gt.
一体全体どうなっているんだ!?....
オラもこんな娘に愛されたい...

667雌豚のにおい@774人目:2013/07/06(土) 02:23:52 ID:hK/kq5Fk
ここの住人はMでござるな

668雌豚のにおい@774人目:2013/07/06(土) 19:00:09 ID:ftiCgiKk
どっちかというと
尽くされたい、と思ってるからSじゃね?

669雌豚のにおい@774人目:2013/07/06(土) 20:32:05 ID:l.sXnW9Q
死んだポチかと思いきや天使か
穏便に解決して欲しいが・・・

670雌豚のにおい@774人目:2013/07/06(土) 21:16:04 ID:Pp2/lzvs
静音=天使って事は悪魔は=???

671雌豚のにおい@774人目:2013/07/07(日) 03:19:51 ID:KizXG2PQ
七夕だなあ

672雌豚のにおい@774人目:2013/07/07(日) 06:49:53 ID:UlYUblGs
織姫が彦星に浮気を問い詰める展開か

673雌豚のにおい@774人目:2013/07/07(日) 17:53:21 ID:EfxwV87M
一年間はずれない貞操帯とかつけられそうだな

674雌豚のにおい@774人目:2013/07/07(日) 20:48:09 ID:K9ccvx9c
両親が事故死し、遠い親戚の財閥の屋敷に養子として引き取られる事となった男。
屋敷には自分と同い年の可愛い女のが住んでいて男ととても仲良くなった。
しかしその女の子は四六時中男に付きまとい食事を取る時も学校へ行く時も、風呂や布団の中にまでご一緒しようとしてくる始末。
好い加減鬱陶しくなってきた男は中学に上がってから女に彼女が出来たと盛大な嘘を付く。彼女の本性を知らずに....

という妄想が他力本願の俺の脳に駆け巡った。
誰か書いてくだしい

675雌豚のにおい@774人目:2013/07/07(日) 22:55:00 ID:.7bYnqts
>>674
面白そう…
書いCHAINA

676雌豚のにおい@774人目:2013/07/09(火) 12:01:25 ID:ERX0ayhU
個人的には最初仲良しじゃなくて
むしろ女の子が男の子を苛め倒してくるんだけど
中学になったら男の子を引き取りたいっていう他の親戚が現れて
離れ離れになってしまう事になり

せいせいした、と喜ぶ男の子
今迄苛めていたのは好きだったからだ、と
自分の本当の気持ちに気付いてしまい
オロオロする女の子

という展開が読みたいなあという電波を受信した

677雌豚のにおい@774人目:2013/07/09(火) 18:01:31 ID:YcL1OMIk
ツンデレからヤンデレへの推移ですか…

678雌豚のにおい@774人目:2013/07/09(火) 18:37:57 ID:ERX0ayhU
「ぐすっ……、今までいっぱい酷いことしちゃったけど、好きなの、好きなのよお……。お願い、許してえ……」
とか言うんだけど男の子にあっさり振られて
そこから病んでいくとか好きなんだけどなあ
ダメか

679雌豚のにおい@774人目:2013/07/09(火) 18:57:58 ID:LmdjgWOQ
>>678
「ああやって俺を騙してまだ虐めるつもりなんだ!...バカタレー!」

ギギギ...

680雌豚のにおい@774人目:2013/07/12(金) 05:53:29 ID:c.QRiXVQ
男基本的にヘタレだよな
そうしないとヒロインが病まないけど

681雌豚のにおい@774人目:2013/07/12(金) 22:45:08 ID:i0rRRWgQ
鬼畜もあるで

682雌豚のにおい@774人目:2013/07/13(土) 15:33:54 ID:l.5tzgJA
どうあがいてもヒロインは不幸だな
それがヤンデレの運命なのかもしれんが

683雌豚のにおい@774人目:2013/07/13(土) 23:32:57 ID:SmhLuoAw


「ぐすっ……、今までいっぱい酷いことしちゃったけど、好きなの、好きなのよお……。お願い、許してえ

……」

 彼女の消え入りそうな、か細いかすれた声が静まり返った室内に響く。
 背筋は丸まり顔は俯いてしまってその表情は伺えない。
 胸の前でタオル地のハンカチの様な布を強く握り閉めている両手は赤く変色してしまっている。
 膝が今にでも折れてその場に座り込んでしまいそうな程、足が体が全部が震えていた。
 まるで生まれたての小鹿みたいだな……気持ち悪い。
 心の中で毒づく。

 まただ。
 またあの時と同じだ。
 こいつはまたあの時と同じようにそうやって俺を騙そうとするのか。
 ふざけるな。
 ふざけるな。
 ふざけるな。
 胃が裏返りそうな程、憎悪が俺の中をグチャグチャと乱雑に蠢き、眼球の裏側から赤黒く滲んでくる。

「またそうやって俺を騙して虐めるつもりなんだろ!」
 気が付いたら俺は声を張り上げていた。
 後頭部が引き攣った様に痛み、耳鳴りが脳みそを切り裂くように鳴り響く。

 一瞬彼女の肩が大きく上がり、背筋は更に丸まり、仕舞いには足が自身の体重に耐え切れずその場にへた

り込んでしまった。
 やっぱり図星か。
 気持ち悪い。
 純粋にそう思った。
 そんなにして俺を騙し虐めようとしたいのかと思うと、憎悪より嫌悪感が湧き出してくる。

 俺はこんなやつが近くにいるという事に吐き気を覚え「気持ち悪い」と小さく吐き捨て踵を返す。
 後ろの方で彼女は何か言おうとしていたようだが、うまく声が出せないのか空気しか漏れ聞こえてこなか

った。
 それが耳障りで気持ち悪かった。


 ******

 彼が何処かに行っちゃった。
 どうしてこうなっちゃったのだろう。
 分からない。
 分からない。
 分かりたくない。
 どれがどれなのか分からなくなっちゃうぐらいに感情がグチャグチャに混ざり合い、考えることを妨害する。

 握り締めた両手の中でシワだらけになったハンカチが、滲む視界に写り込む。
 指先が痺れ、感覚があやふやな両手をゆっくりと開く。
 開いた掌に乗るハンカチは色が薄れ所々がほつれている。
 表面には可愛らしい猫のイラストが、裏面の端の方に平仮名で名前が書いてあった。
 彼の名前だ。

 それを認識した瞬間今まで私の中で渦巻いていた感情が一瞬にして外へと弾け出す。
 声にならない声を無理やり喉から捻り出し泣き叫ぶ。
 肺から空気が全て出し尽くしてもなお叫び続ける。
 目から涙が出ようが、広げた口から唾液がこぼれ様が、鼻先へと鼻水が垂れ流れようが構わない。

 グチャグチャの感情をグチャグチャに吐き出し続ける。
 手足、体、最後に頭の感覚が薄れていく。 
 目の前が真っ黒で真っ暗な闇に沈み込む。

 あー、そうだ。
 また前みたいに彼が私だけを見るようにすればいいんだ。
 だけどあんな自分の気持ちにも気付いていなかった頃の馬鹿な方法じゃなくて、もっとちゃんとした方法

で。
 そしたら今度はずっと一緒にいられるよね。
 そうだとしたら頑張らなくちゃ。
 だって彼が大好きなんだもん。

 そう最後に思うと体がフッと軽くなる感覚と共に闇に飲まれた。




>>676
頑張ってみたが、ゴメン……これが俺の限界のようだ。
だれか……あとは……、たのん……だ…………。ガクリ

684雌豚のにおい@774人目:2013/07/14(日) 04:48:38 ID:W9TgvFCU
>>683
GJ!
諦めたらそこで試合終了って
安西先生が言っていたから頑張るのだ

685 ◆VZaoqvvFRY:2013/07/14(日) 12:22:09 ID:DC.WoNUo
投下しますよ

686子猫の願い:2013/07/14(日) 12:23:20 ID:DC.WoNUo
 ミー子はただ魂が抜けたかのように茫然と口を開け、目を見開きその少女――天使を眺めていた。
 背中に生やした羽は身にまとう衣装と共に純白で、その色を除けば白鳥というよりは鷹のような猛々しさを感じさせる。
 胸の辺りまで伸ばした巻き毛は頭上の輪に劣らないほど金色に輝き、その目はサファイアのように青くこれも輝いていた。
 硝子細工のように整った顔立ちはミー子とどちらが美人か、と言えば甲乙つけがたい所である。が、ミー子の顔立ちが日本系東洋人を思わせるのに対し、天使は東欧系白人のそれであった。
 年の頃はミー子とほぼ同年代かむしろやや幼いかもしれない。あくまで外見は、だが。 

 天使は踊るようにミー子の前でくるりと回ると、背中の羽を大きく広げミー子に薄く笑ってみせた。
「この姿になるのは久しぶり……でもないわね、まだ二週間も経ってないもの。ところでどう? 驚いたかしら」
 ミー子は答えない。というより答えられないでいた。
「あら、目の前の事実を理解はすれど、受け入れることができない、って所かしら。まあいいわ」
 そして天使は両手を腰に当て、テストで満点を取った子供のような顔をして話し出す
「貴女が私を見るのは今日を含めて二回目、でも私はずっと貴女達を見ていたのよ。正確に言えば彼、吉良さんをね。それこそさっき言ったように子供の頃からずっと。彼が少年から青年になるのを見てきたわ。彼の成功も失敗も、誇れる所も他の人には言えない恥ずかしい所も、青春と挫折も、喜劇と悲劇も。そして彼の愛情と、憎悪も」
 一息つくと青い目に威嚇の色を強くして言葉を続ける。
「……全部私だけが知っているのよ。他の誰も知らない、彼自身さえ覚えていないかもしれない。だから彼は私のものなの。これだけは絶対に揺るがない、揺るがせないわ」
 それを黙って聞いていたミー子だったが、天使が話し終えると猫が威嚇するように歯をむき出しにして唸るように声を出した。
「言いたいことはそれだけかニャ?」
「え?」
「コーヘイを見続けていたからってそれがなんニャ? そんなものコーヘイには関係ない、コーヘイはおまえの事なんか知らない。おまえが勝手にコーヘイの傍で見ていただけニャ」
 天使は一瞬息をのんだ。
「でもミー子は違う。コーヘイはミー子を拾ってくれた。自分からミー子を隣に置いてくれた、一緒に生活することを選んでくれた、家族にしてくれた。……おまえの思い込みなんか知るか! コーヘイが選んだのはミー子だニャ! 分かったら消え失せろ、この白くてヒョロヒョロなカラスのなりそこない!」
 空気が凍り付くような音が部屋の中に響き、天使は黙ってミー子の方に歩み寄る。三色の髪を掴んでそのまま引き起こし持ち上げ、目線をミー子と合わせた。
「言ってくれたわね、この化け猫」
 無表情で硝子細工のように精巧な顔が本当の硝子のように冷たく輝いた。
「消えるのはおまえの方よ。彼の前からだけじゃなく、人間界からも消し去ってくれるわ。楽に死ねると思わない事ね。でもいくら叫んでもいいわよ、玄関からこの部屋まで結界を張っておいたわ。外には一切音は漏れないから。せいぜい苦しんで……」
 そこまで話すと天使は急にミー子の髪を離した。バランスを崩し、ミー子は両膝をついた状態で座り込む。その前で天使の体が再び輝き始めていた。
 ミー子は部屋の角までずり下がり、後ろ手を組んだ体育座りのような姿勢でそれを眺める。
 先程と同じように光は強さを増し続け、一つの塊となる。そして輪郭を変えていき人型になると、今度は黒いパンツスーツを纏った黒髪の美女、河原崎静音の姿となった。
「……時間切れだわ。あの姿で人間界にはあまりいられないのよ。でも元々正体を見せるつもりもなかったのよね。まったく、貴女のせいで予定外の事ばかり起きるわ」
「どういう事ニャ?」
「今夜の事よ。本当だったら吉良さんにはお店で眠ってもらった後は、真っ直ぐ私の家に来てもらうはずだったのよ。幸い明日は休みだしね、起きた後は私と心行くまで愛し合う予定だった。その為の薬も道具も全部取り揃えて用意してあったのに」
 拗ねたような口ぶりでそう言う。
「彼の傍にいる女の正体が貴女だと分かって、先に始末しなければならなくなったのよ。調べさせた写真には貴女しか写っていなかった、飼っていたはずの猫がどこにも写っていなかった、一枚も。そしてその三色の髪の毛と色違いの両目……まさかと思ったけどね。とは言え、彼と同じ部屋に住んでいるというだけでも万死に値するわ。悪魔と契約したのだろうがそうでなかろうが、さっさと片付けるのに越したことはない。そう思ったのよ」
 そして静音は目に無機質な光を宿した。

687子猫の願い:2013/07/14(日) 12:24:25 ID:DC.WoNUo
「貴女の痕跡は完全に人間界から消し去ってあげるわ。そして吉良さんの中からも存在を消し去ってあげる、私の家でね。一日中愛し合って私の事しか考えられないようにしてあげるの……この部屋に彼が帰ってきても貴女がいない事なんか気にも留めなくなるわ。じゃあ覚悟はいいかしら? 予定が大分変わっちゃったけど、本筋に戻らせてもらうわよ」

「河原崎さん、申し訳ないけどその予定、もうちょっと変更できるかな」

 その声と共に玄関の照明が点灯し、明かりが差し込んでくる。その光を受けて静音は狼狽した。
 だが恐怖はなかった。声の持ち主は、彼女の最愛の相手であったから。
 静音は振り返り、玄関に佇む耕平の姿を見た。

「なぜ……?」
 口を開けて立ちすくむ静音には状況が理解できない。食後酒に混入させて耕平に飲ませた薬の効果は残り数時間はあったはずなのに。
 ミー子を始末し、耕平を家に連れ帰る、それができるだけの十分な余裕があるはずだった。
 だが、疑問はすぐに氷解する。玄関のドアを開け、耕平の後ろからもう一人の人物が入ってきたのだ。
 上下黒のスーツ姿のその人物は天井にぶつかりそうな頭をかがめながら、そのまま勢いよく進み出て静音の眼前で土下座する。
「申し訳ございませんお嬢様! この加藤、いかなる罰もお受けいたします! ですから、どうかこのような事はもうおやめ下さい!」
 呆気にとられてその姿を見つめる静音の前で女丈夫は話し続けた。
「吉良様を拉致するだけではなく、その部屋まで押しかけて狼藉に及ぶなど、正気とは思えません! どうか目を覚ましてくださいませ!」
 その後も「なにとぞ、なにとぞ」とやや時代がかった謝罪と諫言を加藤は繰り返す。それを見つめていた静音だが、やがて全てを理解すると、両手を腰に当て顔から表情を消し――こめかみに浮いた血管は隠しようがなかったが――淡々と問いかけた。
「なるほど、加藤さん、貴女が裏切るとはね。一応聞いておくけど吉良さんに飲ませた薬の効果が短かったのはなぜ?」
「お飲物に入れるように手配した薬はお嬢様が依頼されたものとは別種のものです。即効性はありますが持続性は短くなっておりました。また、店からここまで吉良様を運ぶ途中で解毒剤を使用させて頂きました」
「そう、分かったわ。今回の件に対する処分はおって伝えます。車に戻って待機してなさい」
「お嬢様……」
 加藤は顔を上げ、静音を仰ぎ見るが、静音は一瞥しただけで視線を耕平に向けた。
「ここからは私と彼の時間なの。貴女に割く時間なんて一秒たりともない、すぐに出ていきなさい」
 加藤は捨てられた子犬のような顔になるが、やがてよろけながら立ち上がり、静音に向かって一礼すると肩を落としたまま退室する。そのまま玄関から出ていったが、耕平はすれ違う時にありがとう、と声をかけていた。
 ドアが閉まると、今度は耕平が玄関から部屋の中に入る。照明を点けると、まず角にいるミー子に声をかけた
「ただいま」
「お帰りなさい、コーヘイ!」
 ミー子は目に涙を浮かべてこれ以上はないという文字通り最高の笑顔で応える。
「ぎりぎり日付が変わる前に帰ってこれたかな。約束を破らずに済んだ」
 時計は23時58分を指していた。

 静音を挟んで耕平とミー子が対角線上に位置している。その室内の空気は緊張、疑問、愛情、といった様々な要素が混在していて、他者がここにいれば喉が締め付けられるような感覚を味わったかもしれない。
 静音が口火を切った。
「いつから聞いてらしたんですか?」
「いや、今来たばかりですよ。まだ薬が抜けきってないらしくて足元もおぼつかないぐらいですから」
 正直に耕平は答える。
「だから今何が起きているのかさっぱり分からないんです。一体どうして……」
 そう言って静音に向って歩み寄ろうとしたが、間髪入れずにミー子の声が響いた。
「コーヘイ、近づいたらだめだニャ! そいつ、天使だニャ!」
「へ?」
 二重の意味で耕平は混乱した。
 まず、静音が天使だという事が唐突すぎる。次に、天使に近づいたらいけない、と言うのも意味不明である。天使と言えば神の使いで正義の味方ではないのか。
 とは言え、ミー子の緊迫した表情と声の調子からすると、少なくともただならぬ事態に踏み込もうとしているのは間違いないらしい。そう判断して耕平は元の位置に下がった。
「随分素直にいう事を聞くんですね」
「ミー子は俺が不幸になるようなことはしませんし、言いませんから」
 静音の不快感を露わにした言葉にそう返してから、しまった、と耕平は後悔した。騙されて薬を盛られたことを揶揄したように取られたのではないかと思ったのだ。

688子猫の願い:2013/07/14(日) 12:25:31 ID:DC.WoNUo
「まあ、約束破って寝床に忍び込んできたりしますけど」
 と、そう言葉を継ぎ足したがこれも明らかに静音を逆上させていた。そのこめかみの血管が膨れ上がり目尻が痙攣するのを耕平は目にして、慌てて理論立てて説明しようと試みる
「でもミー子を今みたいに拘束して、動きを封じているってだけでも、河原崎さんが普通の人じゃないのは分かります。しかもミー子を見て驚いてもいなかったみたいですしね。普通だったら通報してるか、そこまでいかなくても誰か他の人に相談してもおかしくない。それを自分一人だけで何とかしようっていう時点で、ある程度ミー子に起こったことについて知識があるんでしょう」
 静音はまだ剣呑な雰囲気を漂わせていたが、耕平の説明を聞いているうちに落ち着いてきたらしい。一息吐くと口を開いて「それで、どうなさるんですか?」と尋ねてきた。
「正直どうしたらいいか俺にも分からないですよ。だから判断の材料になるものが欲しいんです。今回、俺やミー子に起こったことについて河原崎さんが知ってることを教えてもらえますか?」
 静音は細く白い手を顎に当てて考えるそぶりを見せたが、それも数瞬であった。
「聞いてもしょうがないと思いますわ」
「なぜです?」
「私の結論は変わりませんもの」
「というと……」
「そこの化け猫を始末して、貴方を私の家に連れ帰る、という事ですわ」
 困った結論だ。と、耕平はそう思ったがさすがに口には出さなかった。頭をかきながら説得を始める。
「河原崎さんだけの話だったら良いですけど、俺やミー子に関わってくるのなら、せめて納得できる理由が知りたいです。納得して、それを受け入れるかどうかはまた別問題ですけど。少なくとも今、その結論を突き付けられても俺は全力で拒否しますよ」
 聞くと静音はまた同じ姿勢で考えていたが、今度は数十秒の後耕平に答えた。
「分かりましたわ。でも条件が三つあります」
「それは?」
「一つ、私が話す事は他言無用に願います」
「もちろんです、分かりました」
「二つ、私の話の前に、まず貴方が知っていることを教えてください。私も全てを知っているわけではないの」
「いいですよ」
 耕平は了承した。これもまあ止むを得ないという所である。
 静音は頷くと、続いて耕平に淫猥、と言ってよい笑みを向けて告げた。
「三つ目、これからは私の事は静音って呼んでください」
「え?」
 耕平は一瞬呆気にとられたが、耕平を見つめる静音の目は本気であった。と言うよりもねっとりとした視線で耕平の口元をとらえ離さない。
「ねえ、早く呼んで。し・ず・ね。さあ早く」
 もはや口から涎まで垂らして静音はせがむ。
 絶句した耕平だったが、覚悟を決めた。部屋の角でミー子がなにやら絶叫し暴れているのが視界に入ったが無視して口を開く。
「し、静音……さん」
「んー……まあいいわ、許してあげる、耕平さん」
 両手を頬に当てて悦に入る静音の後ろで、ミー子は涙目になって唇をかんでいた。

「なるほどね。まさか私が去った直後に悪魔がここに来てたとは」
 耕平の説明を一通り聞いて静音は独り言ちた。悪魔のその行動は予想外であったらしい、悔しそうに唇をゆがめてみせる。
「しばらくこの部屋に残っていれば良かったのかしらね……まあもう遅いけど。ありがとうございます、よく分かりました」
「どういたしまして」
 そう答えて耕平の話が終わり、今度は静音の番となる。だがその初っ端、自身が天使であることと、耕平を母の死の日に見初め、それからずっと傍で見続けていたという話を聞いた段階で耕平は頭を抱えてしまった。
 猫だったミー子の前で痴態を晒していたのも赤面ものだったが、自分の半生のほとんどを誰かに見られていたなどと首を釣りたくなるレベルの恥ずかしさである。
 そして静音は静音で別の意味で恥ずかしかったらしく、初恋を告白した少女のごとく頬を赤らめて俯いていた。
「それにしてもなんだって今頃になって俺の前に姿を現したんですか」
 憔悴しきった顔で耕平は尋ねる。
「仕方がなかったんです。姿を現す訳にはいかない理由がありましたから」
 そう前置きして静音は詳しい説明を始めた。
「天使には役目があるんです。人間で言う仕事のようなものですわ。各々神様から任された使命があって、それを遂行する時以外は人間の前に姿を現すこともできないし、天使としての力、能力を使うことは出来ないんです。自衛の為とかなら別ですけど。そして私の場合、三つの使命を任されています。そのうち一つ目が、『純粋で美しい心の持ち主を見つけ、その願いを神様まで届けること』なんです」
 なるほど、と耕平は頷いた。それを見て静音も続ける。

689子猫の願い:2013/07/14(日) 12:26:51 ID:DC.WoNUo
「それも直接本人の利益になる願いでは駄目なんです。それだと私利私欲ですから、美しい心にはふさわしくない、と判断されてしまいます。他者の幸せを願うものでないといけません。でもあの日、そこにいる化け猫……ミー子さんの、耕平さんに彼女ができますように、という願いは条件に当てはまりました。だから神様までお届けしたんですわ」
 静音がミー子を一瞥する。ミー子は座り込み、低く猫のように唸りながらそれを睨み返していた。
 耕平は再度なるほど、と相槌を打った。しかし疑問も沸いてくる。
「でも、天使として勤めながら静音さんは今迄人間としての生活も送っていたんですか?」
「いいえ。それはこれから説明いたしますわ。そこで二つ目の使命ですが、それは『届けられた願いのうち、神様に許可されたものを実現させること』なんです」
「……? つまり、神様は許可するだけで、実際に願いを現実のものにするのは天使の役目なんでしょうか」
「その通りですわ」
 嬉しそうに静音は言う。
 なんだか神様も投げっぱなしな対応をするんだなあ、と耕平は思った。
 まあ全世界を見ているのならば願いの一つ一つを叶えて回るなど忙しくて無理なのかもしれない。でもそれで全能と言えるのか、という気はするが。
「そこで、許可の出た私は耕平さんの彼女を作ることにしました。正確に言えば、私が彼女になることにしたのです」
 静音の黒い瞳から光が消え、口調に独占欲のようなものを感じ、耕平は背筋が寒くなるのを感じた。
「その為にこの体をもらうことにしましたの。耕平さん、この体の本来の持ち主、河原崎静音本人は、あの日あの事故で死ぬ運命だったんです。それを変更して助けたんですが、魂には肉体から出ていってもらいました。彼女は善行を積んでいたので天国に行きましたわ」
 耕平は絶句した。
 死ぬ運命だったのなら当人にとっては変わらないのだろうが、まだ生きている人間の魂を抜き取ってしまうという手法には慄然とせざるを得ない。
「人間の魂を抜き取るって、そんなことが可能なんですか」
「普通なら無理ですわ。でも本来そこで死ぬ運命だった人ですから、それであれば操作は簡単です。後は抜け殻になった体に私が入り込むだけ……この肉体の記憶や癖も残っていますので、後はそれを自分に合わせるだけでした」
 そう話し続ける静音の目は今や闇そのもの、と表現できるほど濃暗色となっていた。
「耕平さん、長い間待ち続けて、やっと訪れた機会だったんです。私はあなたと一つになりたかった。心の美しい者が貴方の幸せを願うのを待った。いえ、そういう願いの持ち主というだけなら貴方のお父さん含めて何人もいましたけど……でもただの幸せではダメ、私が貴方と結ばれなくては……。それが実現する時がついにあの日訪れたんですわ。私がどれだけ喜んだか、そこの化け猫にこの点だけは感謝してます」
 そう言って静音が微笑を浮かべたままゆっくりと近づいて来る。
 気圧され、棒立ちとなりただその姿を眺めるだけだった耕平の耳に声が響いた
「コーヘイ! 駄目!」
 ミー子が拘束された体を懸命に動かして耕平の方に這いずろうとしていた。目に涙を浮かべ、耕平に声をかけ続けている。それを見て耕平は我に返った
「待ってください。まだ質問があります」
 そう言って静音の動きを制する。
「ミー子の事です。ミー子を完全な人間にすることや、元の猫に戻すことは静音さんにはできないんですか?」
 それを聞いてミー子が悲痛な叫びをあげる。猫に戻るのは彼女の本意ではない。
「無理ですわ。悪魔の仕業であるのならば、解除できるのはその悪魔だけです」
「……では、悪魔に魂を取られる、という約束を反古にするのも無理ですか?」
「いえ、それは簡単ですわ」
 静音が薄く笑ってそう答えたので耕平は心が晴れるのを感じた。それが可能ならばミー子は救われるのではないか。
「耕平さん、貴方達はまだ結ばれてないのでしょう? 男女の関係にはなっていない、そうですね? もしそうなってたら貴方の性格からすると猫に戻すという発想はなくなるはずですから」
「はい」
「じゃあ今すぐそこの化け猫を殺しましょう。そいつが貴方の彼女になる前に死ねば契約は不履行となり、魂を取られる、という約束も無くなりますわ」

 耕平は今日何度目かの絶句をする。そして死人のように青ざめて片膝をついた。
 それを見たミー子は自身もショックを受けていたにもかかわらず、「コーヘイを苛めるな!」と、何度も絶叫して泣き叫ぶ。
 呆れたような顔をした静音がミー子に手をかざそうとしたが、
「いや、ミー子を殺すなんて冗談じゃない」
 俯いていた耕平が重い口を開いた。絞り出すような声を出す。

690子猫の願い:2013/07/14(日) 12:27:28 ID:DC.WoNUo
 静音は耕平の前に屈みこんで諭すように話しかけた。
「でもそれ以外に救う方法はないんですよ?」
「……静音さん、ちなみに、悪魔に取られた魂はどうなるんですか?」
「さあ。魂をどう扱うかまでは悪魔個々人で差がありますから分かりません。でもほぼ間違いなく絶望が訪れる、とだけは言えますわ」
 苦虫を数十匹噛み潰したような表情に耕平はなったが、ややあって顔を上げると静音を真正面から見据えて口を開く
「だとしても殺すなんて冗談じゃない。そんなのがミー子にとって幸せなはずがない。俺が解決策を見つけます」
「どうやって?」
「分かりません。でも必ず見つけ出します。ミー子は俺が幸せにする、そう約束したんです」
 静音の周囲に目に見えるほどのミー子に対する殺意のオーラが立ち上る。耕平の心をここまで捉えた相手に対する純粋な嫉妬であった。
 そして同時に、真っ直ぐに自分を見つめるまだ少年の面影を残した意志の強い目に、抗い難い魅力を感じていた。子供のころから見続けていた最愛の男の最も美しい瞳がそこにあった。
 それを自分一人のものにしたいという欲求を強くして、静音は耕平に告げる。
「最後にお話しすることがあります。私に与えられた使命のうち、三つ目。それは『悪魔とその企みを見つけて排除すること』これは必ず遂行しなければならないの。……つまり、そこにいる悪魔の産物である化け猫、これは始末しなければならない。やはり私の結論は変わりませんわ」
 言うや否や耕平の両手が一人でに後ろ手に回る。さらに両手首と両膝が見えない固い輪のようなもので固定され、耕平はその場にくの字に転がった。
「コーヘイ!」
 ミー子は叫んで這いずりながら周囲に冷気を纏わせ始めるが、しかし静音はそちらに振り返ると右手をミー子に向かってかざす。
 壁に肉体が激突する音と振動が響き渡る。ミー子はそのままずり落ち、またしても痛みで呼吸ができなくなり口を開ける。
「もっとも、使命なんてどうでもいいんです」
 静音は耕平の脇に両膝をついて座り、耕平の顔を天井に向かせてその両頬を自身の両手で挟み込む。そして息がかかるほど目と鼻の先まで顔を近づけて話しかける。
「貴方の傍にあの雌猫がいるのが許せない。耕平さん、私が貴方の恋人になります。そして妻になるわ……いいえ、望むなら貴方の母にもなる、娘にもなる。姉にも、妹にも。友人にも、それこそペットにだって。貴方の周りに私以外の女なんていらないのよ」
 そこで一度言葉を止めて一拍置くと、震える唇を開いた。
「二十年近く待ち続けて、やっと言える……愛しています」
 耕平を見つめる澱んで焦点すらあっているようには見えない漆黒の瞳、それを見つめ返しながら、耕平は全身の力を込めて首を上げる。

 そして一瞬にして唇を重ねてキスをした。

691雌豚のにおい@774人目:2013/07/14(日) 12:29:14 ID:DC.WoNUo
終わり
次最終回
無理かもしれないけど今月中には終わらせたいです

>>683
GJ!
文章難しいよねえ……

692雌豚のにおい@774人目:2013/07/14(日) 14:03:08 ID:YN7HuEqA
>>683
初めてでもこれだけ文章としてSSに出来るなら大したもんだよ。俺なんか精々妄想書き殴る事しかできねえ...
>>691
静姉の一直線な一途っぷりにはたまげたなぁ

693雌豚のにおい@774人目:2013/07/14(日) 22:32:28 ID:.VEZwfSs
乙です

勿論、ミー子がハッピーエンドなんでしょ?

694 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 00:35:45 ID:KKK.SerE
大変お久しぶりです
自身の多忙と、不死の使命を帯びてロードランに出張していたために酷く間が空いてしまいました。申し訳ありません
もう前の展開を忘れているかもしれませんが、終わりまで大体書けたのでぽけもん 黒を投下したいと思います
もう少しだけお付き合いいただければ幸いです

695ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 00:37:57 ID:KKK.SerE
 あれから、どれほどの時間がたっただろうか。
 闇夜を疾走する中で僕は意識を失い、再び意識を取り戻したときには、僕は薄暗いどこかにいた。
 手に触れる岩の感触と特有の冷えた空気からして、どうやらここは洞窟らしい。
 微かな光を頼りに、光の方に歩いていってみると、程なくして洞窟は終わり、外が見えた。
 しかし外からは洞穴の出入り口に似つかわしくない強風が吹き込んでくる。
 僕は黒い予感に心臓を逸らせながら、しかしそろそろと洞窟の端まで近づくと、そこから見える光景は、やはり僕の予想通りのものだった。
 遥か眼下に広がるのは広大な森、そして海、もしくは大きな湖。
 地上にある洞窟の高さから見える景色ではない。
 洞窟の終わりはそのまま崖となっているのだ。
 いや、この洞窟自体が、崖の半ばにぽっかりと開いた穴だと言ったほうが正しい。
 断崖絶壁の中の隠れ家。
 確信する。
 やはりあれは夢ではなかったのだ。
 僕はポポに攫われ、そしてこの洞窟につれてこられたのだ。
 この脱出不可能の、天然の牢獄に。
 なんてこった。
 よろよろと数歩後ずさり、そのまま壁を背に蹲る。
 どうしてこんなことになってしまったんだ。
 一体なにがいけなかった。
 考えてもわかるはずが無い。
 分からないから、こんなことになっている。
 くそ! 僕は何を間違った!
 身を捩ると、カツリと何か固いもの同士が当たるような音が聞こえた。
 慌てて確認すれば、それはポケットに入れっぱなしになっていたポケギアのものだった。
 た、助かった!
 着の身着のままで攫われてしまったから、僕は当然のようになんの道具も持っていない。
 よって脱出する手段も、助けを呼ぶ手段も無いと絶望していたけど、まさかポケギアをポケットに入れっぱなしにしていたなんて!
 よかった。これで全ては解決だ。
 急いで電源をいれる、電源は……入った!
 電話をかけようとするが……圏外。
 そりゃそうだ。
 その表示に、はあ、とため息をつく。
 流石に電話がつながるのは期待しすぎだったな。
 ポポが僕を監禁する目的でここまで連れてきたのだとしたら、当然ここは人里離れた場所だろう。
 おまけに崖の中。繋がるはずもない。
 とはいえ、何も無いのとポケギアがあるのとでは大違いだ。
 今はまだ分からなくても、きっと何かの役に立つはずだ。
 そう考えた僕は、ポケギアの電源を切ると、電池を外した。
 壁を探ると、ちょうどおあつらえ向きの皹がある。
 そこにポケギアと電池を隠した。
 最初から何かあると知っていない限り、見つけられるはずが無い。
 鳥目のポポならなおさらだ。
 とりあえずこれで一安心、か。
 息を吐く。
 さて、これからどうしようか。
 僕を攫ったときのポポはどう見ても正気じゃなかった。
 背筋に悪寒が走る。
 あんなのと、どうやって向き合えばいいって言うんだ。
 現状を認識しても、対策を立てようが無い。
 ロケット団を相手にしたときのほうがよっぽどましだった。



 数時間が経過したころだろうか。
 羽ばたきの音が聞こえてきた。
 僕はとりあえずその場で横になり、まだ意識が戻っていないふりをする。
 相手がポポならこのまま様子見。それ以外なら、羽ばたきの音から言って相手は鳥か鳥ポケモン。
 彼らの中で昼間活動するような連中はみんな夜目が利かない。
 だからそのときは走って洞窟の奥に逃げるだけだ。
 だけど、そんな心配はおそらく無用だろう。
 ポポがそんな危険な場所に僕を放置するとは思えない。
 人を監禁するのにこんなもってこいな場所を選択できる程度には冷静なんだから。
ポポの行動は異常そのものだけど、同時に僕に対する執着も本物そのものだろうから。
 洞窟に入ってきたのは、案の定ポポだった。
「ごーるどー、ただいまですー」
 起きていることを気づかれたか、いや、そんなはずは無い。
 何か物を置く音がする。
 何か生活に必要なものでも運んできているのだろうか。
 荷物を置き終えると、そのままカツカツとこちらに歩み寄ってきた。
 耳に息を吹きかけられた。
 鳥肌が立つ。
 もしかして本当に起きてるのばれてるのか?
 頬に何か冷たいものが当たる。
 そのままその冷たいものは上の方へと上がっていく。
 ドキドキしながら無表情を装っていると、顔が離れていくのが分かった。

696ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 00:39:28 ID:KKK.SerE
 ほっと一安心したのもつかの間、ズボンが引っ張られた。
「な、なにをしているんだ!」
 僕はズボンを慌てて掴んだ。
「もうきぜつごっこはおしまいですか、ごーるど」
 ポポは僕の股間の辺りから悪戯っぽく僕の顔を覗き込んでくる。どうやら口で僕のズボンをずり下げようとしていたようだ。
「き、気絶してる人のズボンをお口で下げようとしちゃいけません!」
「でも、おきてたです」
「ね、寝たふりしてる人のもだよ!」
 ポポはぼーっと僕の顔を見ていたが、やがておもむろに再び口で僕のズボンを下ろし始めた。
「ちょ、やめなさい! 何をそれはそうと、みたいな感じで下げようとしてるのさ!」
「でもぉ……」
「でもじゃありません!」
「わかったです……」
 彼女はそういうと、引き下がると思いきや、今度は足を使って下げようとしてくる。
「足でも駄目! …………えー? みたいな目で僕を見ない!」
 どうもシリアスになれない。
 シリアスにならなくても何とかなってるのはいいことなんだけど。
 状況から言えば僕は拉致監禁された立場だ。こんなのんきな会話交わしてる場合じゃないのに。
「それより、ここはどこなんだ?」
 僕は様子を見つつ、本題を切り出した。
 同時に、ポポが僕に襲い掛かる可能性を想定して身構える。
 身構えたからって何が出来るってわけじゃないんだけど、それでも気分的に身構えずにはいられない。
 ポポはぱあっと笑顔を見せて答える。
「ごーるどとポポの二人のあいの巣です!」
 あ、愛の巣!?
「あ、あの、ポポ、ちゃんと言葉の意味分かって使ってるんだよね」
 ポポは得意げに、少し胸を張る。
「わかってるですよぅ。ポポを馬鹿にしないでです」
 その顔に微笑みを貼り付けたまま、ポポは答える。
「ごーるどとポポの、二人だけの場所ってことですよ。誰にも邪魔されない、二人だけ、ふたりだけです」
 やたら二人だけ、という部分を強調する。
「ほ、ほら、みんなでわいわいってのも楽し……」
「ポポは、ふたりがいいです」
 ポポはすねたように答える。
 まるで子供の可愛い駄々のようだ。
 ……ここが世間と隔絶された岩壁の洞窟の中でなければ、だけれど。
「ふたりがいいですぅ……ポポは、ポポはごーるどだけいればいいのにぃ……ごーるどはそれじゃいやですかぁ?」
 ポポは涙声で僕に縋ってくる。
 その頭に手を置き、ポンポンと撫でてやる。
「……ごめん、ポポ」
「いやです! ポポ、全部、ぜんぶあげるです……だからぁ」
「……ごめん」
 しゃくりあげる彼女を優しく撫でる。
 やっぱり、僕は……



 しばらく撫でていると、泣き疲れたのか、寝てしまった。
 その寝顔は無垢な童女そのものだ。
 こんなにも、無邪気で可愛らしいのに。
 とても人一人を攫って監禁したものの顔には見えない。
 いや、その無邪気さが、こんな大胆な行動に走らせたのかな。
 とはいえ、ポポはその辺の常識や良識が分からないほどまでは子供じゃない。
 しかし話しても分かってくれない。
 どうしたものやら……
 長い時間をかけて、少しずつ説得するしかないのかな。
 でも、時間が立てばたつほど、事態は大事になってしまう。
 香草さんややどりさんは間違いなく警察に訴えに言っただろうなぁ……
 民事不介入とはいえ、流石にこれは無視できる範囲を超えている……よなあ。
 子供のおふざけで済めばいいんだけど。……済まないだろうな。
 何はともあれ、ここから脱出しないと話が始まらない。
 とりあえず、腹ごしらえだな。
 僕は抱きかかえているポポを横にしようとする。
「う、ごーるど……?」
 すると、当然といえば当然だけど、ポポは起きてしまった。
 く、熟睡しているように見えたんだけどな。
 野生の勘という奴か、油断しているように見えても、相当に抜け目ない。
「ごめん、起こしちゃった? 大丈夫、寝てていいよ」
「や、ですぅ……ゴールドといっしょにいるですぅ……」
 寝ぼけ眼をこすって、僕についてこようとする。
「ただご飯を食べようと思っただけだよ。どこにも行かないよ」
 行けない、と言ったほうが正しい。

697ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 00:40:04 ID:KKK.SerE
 いや、一箇所だけ、行けるところがある。
 天国とか、そういうことじゃなしに。
「ポポ、この洞窟の奥ってどうなってるの?」
 そういって僕は洞窟の奥の闇に視線を向ける。
 明かりが何もないから進みたくは無いけど、奥行きがかなりあるように思える。
 特にこの奥に何も無いとしても、やはり何があるか分からない場所にいるというのは気分がいいものではない。
「危ないものは何も無いですよ?」
 ポポは素早く僕の意図を察したようだ。
 僕の顔色を伺うようにして、そう答えた。
「ただの壁になってるだけです。ここは、そこ以外では外とつながってないです」
 ポポはそう言って翼で洞窟の出入り口を指し示す。
 まるで、逃げられないと言っているようだ。
「そう、なら安心だね」
 僕がそう言うと、ポポは安心した気に表情を緩ませた。
 本当に親の機嫌を伺っている子供みたいだ。
 いちいち僕の様子にびくびくしちゃうほど繊細なのに、僕を誘拐監禁するなんて大胆さも持ち合わせている。
 本当に、ポポは変わってる。
 いや、僕の教育が悪かったのかなあ。
 また困ったような顔になったポポを前に、僕は頭を?いた。



 さて、僕は現代っ子である。
 幼少期はランやシルバーと一緒に山の中を探検したりもしたけども、五歳の子供がいかに山で遊ぼうが、サバイバルの知識などつくはずもない。
 シルバーは別だったけど。
 そして僕はシルバーの隠れ家が火事になり、ランがシルバーに攫われた(現実には逆だったわけだけれど)あの事件以来、まったく山なんかには踏み入らなくなってしまった。
 今までの旅の道程では、シルフカンパニーが販売する便利な道具にすっかり頼りきりで、つまり野宿も多い旅を今まで送ってこれたのは、僕の実力とかそんなんじゃなくて、全て道具の力なわけだ。
 そんな文明の利器にすっかり甘やかされきった現代っ子が、着の身着のままで断崖絶壁の洞窟に放り込まれても、できることなんて何にもない。
 それでも、現代っ子には肥大した脳みそがついてるんだから、何か解決策を考えないわけにはいかない。
 ポポを傍らに、ポポが取ってきた木の実を食べながら、僕は思索を巡らせる。
 しかし馬鹿の考え休むに似たりと言うとおり。
 屈辱的だけど、まったくいいアイディアが浮かばない。
 考え付いたのは、今、僕が口の中で転がしている木の実の種を外に向かって投げることくらいだ。
 わー、なんかこのへんたくさん木の実の種が転がっているぞー。
上を見たら洞穴があるー。
あ、人がいるぞー!
 そして僕は救出される!
 ……ホントに、休んでいた方がマシと思えるようなしょうもないアイディアだ。
 イライラしながら種を吐き出すと、ポポの視線がその種の方を向いた。
 ためしに転がった種を拾い上げてみる。
 ポポの視線はその持ち上げられた種を追う。
 下げる。視線も下がる。上げる。再び視線が上がる。
 ポポは物欲しそうに、僕が吐き出した種を見つめている。
 ポポ、いくら君が幼いとは言っても、親鳥から口移しで餌を貰うような小鳥じゃないだろう?
 そんな感想が一瞬頭を過ぎり、そして打ち消す。
 いや、ポポは僕に、親以上のものを求めている。
 その由来が親を求める感情だとしても、現在ポポが僕に向ける感情は間違いなく恋愛対象に向けるそれ、いや、並みの恋愛対象に向けるそれの比ではない。
 僕が種を外に向かって放り投げると、ポポの視線も種を追って谷底に落ちていった。
 そのまま取りに行きかねない勢いだ。
 はあ、とため息を一つ。
「何か欲しいものあるです?」
 僕のため息を不満の表れと考えたのだろう、ポポは僕に媚びるように僕の顔を覗き込む。
「みんなのもとに戻りたい」
 叶えられるわけが無いと分かっていて、意地悪を言った。
「それはだめです。……他には?」
 ポポは一転、冷たい目をして即答した。
 普段は素直なのに、これに関しては非常に強情だ。
「ねえポポ。このままじゃ、本当に取り返しのつかないことになるんだぞ」
 何回目だろうか、僕はポポを諭そうと、真剣な顔をしてポポに語りかける。
「取り返し、ってなんです?」

698ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 00:41:00 ID:KKK.SerE
 ポポはわけが分からない、といった風に言う。
「取り返しがつかなくなるってのは、そのときを逃してしまうと、後からどんなに後悔しても、もうどうしようも無くなることをいうんだよ。ポポにとっては、今だ」
 もちろん、ポポのその言葉が、取り返しがつかなくなるという言葉の意味を問うたものじゃないことくらい分かっている。
 だけど、あえて僕はその言葉で返した。
 嫌味っぽくなっている。
 それこそ、取り返しのつかなくなるという焦燥感から、僕の心がささくれ立っているのかな。
 取り返しがつかなくなることを何よりも恐れているのは、間違いなく、僕だ。
 ポポはそんなこと一つも気にしちゃあいない。
 ポポの焦燥は、僕の焦燥とはまったく違うところにある。
 だから、ポポの答えも、僕の思いとはまったく異なるところからよこされる。
「ポポにとって、そのときを逃してしまうと、後からどんなに後悔しても、もうどうしようも無くなることは、ゴールドのことです。他のなんでもないです」
 ポポは瞳から涙を零れさせながら、僕に縋り付いた。
 僕はほとんど機械的にポポを受け止め、その背を撫でる。
 彼女が僕に保護者以上のものを求めていることが分かっているのに、保護者以上のものがない心で僕は彼女を受け止めてしまう。
 ああ、僕のこの残酷な心根が、この事態を招いてしまったのだろうか。
「ぽぽはごーるどをぽぽだけのものにしたんですぅ……どうしてわかってくれないです……」
 子供染みた駄々をこねるこの子に、僕はどれだけの残酷な仕打ちを、今もしているんだろうか。
 彼女の期待に答えられないのに、だからといって見放すことも出来ない。
 今の僕は悪なのだろうか。ならば見放すことこそが正義なのだろうか。
 堂々巡りで、答えなど出るはずもない。
 今更答えが出たところで、どうにもならない。
 それが分かっていても、今の僕は、彼女に欺瞞を吐くことしか出来ない。 もう、取り返しなんてつかない。
 僕は、世界が、僕の想像ほど残酷でないことを祈った。




 水と食料が尽きると、またポポはそれらを得るために飛んでいった。
 きっと彼女は僕がいなくならないか不安で仕方がないのだろう。
 こんな生活を続けていたら、僕もだが、まず彼女の心が壊れてしまう。
 不安は人を壊す。
 彼女をこうさせたように、不安という魔物は次はもっと取り返しのつかない方向に彼女を壊すだろう。
 僕はどうすればいい。
 クソ、分かりきっている。
 彼女の気持ちに答える気が無い以上、話はそれで終わりだ。どうしようもない。
たとえ嘘で答えたところで、聡い彼女にはそれが分からないわけがない。
心情的にしたくはないし、仮にしたところで彼女を壊すことに拍車をかけるだけだろう。
 どうしようもない。だけど、どうにかして答えを出さないわけにはいかない。
 なんて辛い状況だ。
 隠していたポケギアを取り出し、再び洞窟の入り口まで出る。
 電波は相変わらず圏外。
 天気やなにやらの関係で、もしかしたら電波が届くこともあるかもしれないと思ったけど、やはりそんなことは無いようだ。
 やっぱり、無理か。
 本気で期待してたわけじゃなかったとはいえ、落ち込む。
 これさえ繋がれば何の苦労もないんだけれど。
 はあ、とため息をつき、上を見上げる。
 黒い、影。
 気づいたときには手遅れだった。
 迂闊、いや、どうしようもなかった。
 だって彼女がその気になれば、僕にはどうすることもできないのだから。
 ――僕のことを、見張っていたんだ!
「……かなしいです。ぽぽは、とっても、とっても、かなしいのです」
 囁くような、しかし僕の耳朶に突き刺さるその声とともに。
 ポポは僕の眼前に舞い降りた。
 大方、張り出した岩場か何か、とにかく、この洞窟の入り口から死角となる位置に身を隠していたのだろう。
 ポケギアを使うに当たって、周囲に不審な影が無いかくらいは確認したのだから。
「そうだね、僕も悲しいよ」
 暴れる心臓を必死で押さえながら、僕は努めて平坦な声を出す。

699ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 00:41:30 ID:KKK.SerE
「ここにいれば、なにも、かなしいことなんかないのですよ? どうしてわかってくれないですか?」
「いいや悲しいことだらけだよ。ここにいても、いなくても!」
 僕の叫びに、ポポは眉を顰めるばかりだ。
 ポポには僕の言っていることが分からないのだろう。
「どうして分かってくれないんだ、ポポ!! こんなことはもう終わりにしよう。こんなことしても、なんにもならないんだよ!」
 結局、こんなことをしても救われることはないんだ、絶対に! シルバーを攫ったランが救われなかったように。あのロケット団の男が救われなかったように。物事の道理から外れれば、待つのは悲惨な結末だけだというのに!
 ポポが僕に飛び掛る。僕の手から、ポケギアが落ちて硬い石の上を跳ねる。
「じゃあ、じゃあポポはどうすればよかったです! 大事な、ポポの一番大事なものが、ポポからどんどん遠くに行くのを、ただ見てるのが正しかったっていうですか!」
「違う! そうじゃない! そうじゃないけど、でも、君はここで知るべきだったんだよ! 世の中はどうしようもないことだらけだってことを! どんなに欲しくても、失いたくなくても、どうにもならないことがあるってことを! 絶対に無理なことがあるってことを!」
 そう、世の中には変えられないことがあるんだ。どんなに願ったって、どんなに望んだって、そうはならないことがあるんだ。
「だから、せめてそうなっていたときの思い出を頼りに、またきっとそうなることを願って生きる。生きるって、そういうことなんだよ!」
「誰も、だぁれもポポのことを知らない世界でですか!」
「知らないなんてことはない! たとえ今は誰もポポのことを知らなくても、いつかきっと知る人が現れる! これは無責任な憶測なんかじゃない! 現われるんだよポポ!」
「それはあの女も同じです! あの女だって、ゴールドじゃない人間がいつか現われますよ! ポポだけ、ポポだけ我慢する理由にはならないです!」
 言葉に詰まる。
 そうだ、これは理屈じゃない。だから正論に正しく反論することはできない。
 僕だって間違ってる。ただ、ポポが僕以上に間違っているだけの話だ。
「ゴールドは間違ってる。間違ってるですよ。ポポは生きなくていいんです。ゴールドが一緒じゃなきゃ、生きなくていいですよ」
 悲惨な死。それすら、彼女を恐れさせはしない。
「ポポ……」
 彼女が恐れるのは唯一つ。僕を失うこと。ただ、それだけ。
「さあ、選んでです。ポポと生きるか、ポポと死ぬか」
 その目には、本物の覚悟が宿っていた。
 僕は無性に腹が立つ。その目を受け入れられない。
 くそ、どうして皆そんなすぐ死にたがるんだよ! どうして生きようとしてくれないんだよ!
 僕は逃げてきた。逃げて、逃げて、逃げてここまで来た。その結末が、これだ。
 それなのに彼女達は絶対に逃げたりはしない。どこまでもまっすく、前を向いている。破滅に向かって、まっすぐと、恐れることなく、揺らぐことなく。
 ここが僕の手でどうにかなる最後のラインだ。ここで僕の伸ばした手が彼女に届かなければ、後はまっすぐ落ちていくだけだ。
 無数の言葉が頭を巡る。どれも話にならない。ポポを説得できる言葉なんて一つも持ち合わせていない。
 沈黙が怖くて、僕はつまらない言葉を吐く。
「ポポ、もし僕と生きることになっても、警察に見つかれば逮捕だし、香草さんたちに見つかれば間違いなく戦うことになる。きっとただじゃすまない」
「逃げればいいですよ」
「ポポ、最後まで逃げ続けるなんてことは出来ないんだよ! 追ってくるものから逃げ続けるなんて、そんなことは不可能なんだ! そうなったらもう僕達に平穏なんて二度と訪れない!」
「分からないですよ。チコは案外すぐ諦めるかもしれないです」
 しかしその目には、確かに殺意が燃えている。

700ぽけもん 黒 30話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 00:42:02 ID:KKK.SerE
 分かっていたことだけど、説得は不可能だ。
 僕がポポを愛すると言おうと言うまいと、間違いなくポポは香草さんを殺そうとするだろう。
 香草さんがいる限り、僕はポポのものにはならない。そう考えるはずだ。
 かといってその争いの原因である僕が死ねば、ポポも自ら死ぬだろう。今のポポは、そのくらいあっさりやってのける。
 駄目だ。皆が死んだり殺しあったりしない。そんな方法がどうしても考え付かない。
 完全に詰みだ。ゲームなら、ここで手仕舞い、終わり、ゲームオーバー。
 でも、そうするわけにもいかない。
「やめろポポ! そんなことをしたら、僕はポポを嫌いになるぞ! 僕の娘で、それで満足だったんじゃないのか!」
「いやです! そんなのいやです! でも、でも! ここままじゃゴールドは絶対にポポと一緒にはいてくれないです! ……だから、取り返しがつかなくなってもらうです」
 涙で幼い顔を顔をグシャグシャにして言っていい台詞じゃないぞ、それは!
「ポポ、お願いだ、やめてくれ! もし取り返しのつかないことになったら……」
「そのときは、ごーるど、ぽぽといっしょにいてくれますよね」
 事態は、もうどうしようもなく取り返しがつかなくなっていた。






 その日、ポポは処女を喪った。

701 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 00:42:48 ID:KKK.SerE
30話、終わりです
続きは数週間以内には投下したいと思います

702雌豚のにおい@774人目:2013/07/15(月) 01:13:17 ID:bA7hP/i2
うおおおおお!
マジか!ずっと待ってた甲斐があったぜ、乙です!

703雌豚のにおい@774人目:2013/07/15(月) 05:12:34 ID:QPLtAa8Q
恋する乙女のようにまっとりました

704雌豚のにおい@774人目:2013/07/15(月) 05:58:14 ID:ShBThf1A
>>701
GJ
ポポも初期からすると過激になったもんだ(遠い目
てかお帰りー

705雌豚のにおい@774人目:2013/07/15(月) 08:11:01 ID:dLFSStM2
うおおお
激しく乙!!

706 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 21:36:43 ID:KKK.SerE
大変長らく間を空けてしまったのに感想ありがとうございます
数週間以内と書きましたが時間があって書けたので少々短いですがぽけもん 黒 31話投下します

707ぽけもん 黒 31話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 21:37:32 ID:KKK.SerE
 柔らかな光。
 暖かな温もり。
 確かな感触。
 ポポは幸せに包まれていました。
「おはよう、ポポ。もう朝だよ」
 優しい声で目を開けると、そこにはゴールドがいました。
 私の愛しい人。私に、全てをくれた人。

 ポポは、ずっとひとりぼっちでした。
 自分で餌を取れるようになったら独り立ちし、親兄弟といえども干渉はしない。自らの縄張りを誇示し、適当な時期になったらオスと交配し子をなす。
 それが、ポポが送るはずだった一生です。
 頭のいい生き物達は、そういうところを見て、ポポたちのことを下等な、劣った生き物だとあざけります。
 でも、ポポは、そのことに何の疑問も抱いてませんでした。
 縄張りを守ることとか、日々の糧を得ることとか、そんなことが、ポポのすべてでした。
 何の疑問も持たず、ただ生きることを繰り返す日々。
 ポポは決して不幸ではありませんでした。だってそれはポポにとって当たり前のことでしたから。
 それは、ポポにとってなんでもない、いつもどおりの行為でした。
 人間から荷物を奪って食べ物があればそれを得る。
 弱い弱い人間は、格好の狩の獲物でした。
 でも、その人間は違いました。
 その人間はポポに襲われても怒ることも逃げ出すこともせず、いつもポポへと向けられる蔑みでも怯えでも弱者への憐憫でもない、まっすぐな目でポポを見ます。
 ポポは、今までに抱いたことも無い気持ちを抱きました。
 そのときは、それがなんだったかは分かりませんでした。
 でも今ならはっきりと分かります。
 これは愛。
 ゴールドは、ポポの運命の人でした。
 ゴールドのお陰で、ポポはもう闇に怯えなくてもいいくらい強くなれました。
 ゴールドのお陰で、ポポは愛を知ることが出来ました。
 ゴールドのお陰で、ポポはそれが愛と理解できるだけの知能を得ることが出来ました。
 だから分かったのです。ゴールドと出会う前のポポには何もありませんでした。ゴールドと出会って、ポポは初めてこの世界に生まれたのです。
 それを知れたのもゴールドのお陰。ゴールドはポポのすべて。ゴールドはポポをポポにしてくれた人。大切な人。運命の人。
 愛おしくて、苦しくて。ポポはいつもゴールドのことを想っていました。だって、ポポのすべてはゴールドのものなのですから。
 早く本当に、ポポのすべてをゴールドのものにして欲しい。

 ――でも、そんな大切な人の傍には、常に目障りな生き物がいました。
 香草チコ。ゴールドと同い年の少女。
 獣の勘ってやつですか、ポポは一目見たときから、その女から嫌なものを感じていました。
 強いとか弱いとか、自分を害すとか害されるとか、そういった色々を超えた嫌悪感。
 そのときのポポには、その嫌悪感の正体を知る由もありません。
 でも、今ならはっきり分かります。
 あの女は、ゴールドを蝕む害獣だったのです。
 あの女は、ことあるごとにゴールドを傷つけました。
 そのたび、ポポは酷い苛立ちを覚えました。あぁ、これもゴールドと会う前は知らなかった感覚です。
 自分以外の誰かが傷つくのを見て、怒りを覚えるなんて。
 それなのにゴールドはあの女から離れようとしません。
 あの女も、ゴールドから離れようとしません。
 ポポには、それが不思議でなりませんでした。
 やどりと二人であの女を痛めつけてやったときには本当にすっとしました。
 そのままどこかに消えたときには、もうポポは有頂天でした。
 もうあの目障りなメスを見ることは無い。あの目障りな生物に邪魔されることはない。
 思う存分、ゴールドと一緒にいられる。ゴールドの隣にいられる。
 それなのに、ゴールドのために敵と戦って、それで傷ついて、再び目を覚ましたときには、ゴールドはいませんでした。
 本当に血の気が引きました。ガクガクと震えて、まっすぐ立ってることもできませんでした。世界がぐるぐる回って、どうにかなりそうでした。
 暴れて、人間に押さえられて、ゴールドが前いた街に戻ったことを聞きました。
 この町にはロケット団を追ってきたのですから、もといた街に戻るのは当然です。
 でも、どうしてポポをおいていったのですか?
 どうして、ポポの怪我が治るのを待っていてくれなかったのですか?
 急用って、それはポポよりも大事な用事なのですか?
 ポポには、ゴールドより大事なものなんて無いのに。
 ゴールドはそうじゃないですか?
 もしかして、ポポはゴールドに捨てられた?
 負けるような弱いポポはいらない?
 大怪我をして、もう以前のようには戦えないかもしれないポポはもういらない?

708ぽけもん 黒 31話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 21:38:09 ID:KKK.SerE


 ゴールドがそんな人間じゃないということは分かっています。
 それでも、万が一のその可能性を想像するだけで、恐怖で息も出来なくなります。
 でも今のポポの状態では、とても今すぐゴールドの元に向かうことなんて出来ないです。
 だからといってじっとしていられない。
 無理にポケモンセンターを抜け出そうとして、鎮静剤と睡眠薬を打たれ、恐怖にまどろみながらポポは数日を過ごす羽目になりました。
 意識がまともに戻った瞬間、そのままポポはポケモンセンターを飛び出しました。
 ひたすらに空を飛びます。
 ゴールド。
 ゴールドゴールドゴールド。
 ゴールドに嫌われていたらどうしよう。ゴールドに捨てられていたらどうしよう。ゴールドに迷惑そうにされたらどうしよう。
 想像するだけで胸が苦しくなり、そのまま墜ちてしまいそうになります。
 それでも、ゴールドに会いたい。
 ゴールドのところに行きたい。
 捨てられても、いらないって言われても。
 だって、ポポのすべてはゴールドから貰ったものなのですから。
 だから、だから早く。早くゴールドの元へ。
 街が視界に入ったとき、すぐに異変に気づきました。
 高い建物の周りに雷が乱舞し、どうみても普通の様子じゃありません。
 あの建物はラジオ塔。前に来たとき、ゴールドから教えてもらいました。
 なんでしょう、すごく嫌な予感がします。
 ポポの目には、遠くからでも何が起こっているかよく見えます。
 ラジオ塔の景色は、どう見てもまともなものじゃありませんでした。
 不意に、恐怖が一層強くなります。
 ポポは悟りました。
 今間に合わないと、ポポは永遠にゴールドを失う。
 今間に合わなければ、ポポの人生に意味はありません。
 だって、ゴールドはポポのすべてなのですから。
 爆発があり、その後、窓の奥にゴールドが見えました。
 危ない!
 ポポは叫んでいました。届かないと知りつつも、叫ばずにはいられませんでした。
 ゴールドは黒い何かに押され、外に落ちていきます。
 到底人間が助からない高さから、真っ逆さまに。
 早く。早く!
 今間に合わなければポポのすべてがなくなってしまいます。
 ポポのすべてが無意味になってしまいます。
 間に合えば、もうそれで消えてなくなっても構わない。体がバラバラに、砕け散ってしまっても構わない。
 だからゴールド。ゴールドだけは――



 ああこの重さ。この温度。この感触。
 ああ、ああ、ああ!
 ポポの重さ。ポポの温度。ポポのすべて。
 間に合いました! ポポが、ポポがゴールドを救うことが出来た!
 ありがとうゴールド。ポポに救わせてくれて。ポポにゴールドを救うようにさせてくれて。

 でも、ゴールドはそれからずっと元気がありません。
 ゴールドの大切な人が死んだらしいです。でも、ポポには意味がよく分かりません。
 だって、ポポには、ゴールドの他に大切な人なんていないんですから。ゴールドの他の生き物がどうなろうと、ポポにはどうだっていいんです。
 だから、ポポはポポの気持ちをゴールドに打ち明けることにしました。
 ポポの胸の中には、ゴールドを救うことが出来た達成感と、ゴールドへの愛おしさしかありませんでした。はっきり言えば、舞い上がっていました。
 ――だから、ポポは絶望へと落ちることになりました。
 ああ、そんな、嘘です!
 ゴールドが、ゴールドがポポを受け入れてくれないなんて!!
 ……ポポは思いました。あのいやなメスが、あの害獣が近くにいるから。だから元気がないんですよね? あのゴールドを害すだけの生き物に、ゴールドは苦しめられてるんですよね。
 だから嘘ですよね。チコを好きだなんて。愛しているだなんて。
 だって自分のことを傷つけるだけのものを愛すなんて、絶対におかしいです。
 なのに。どうして、どうしてそんな顔するですか。
 どうしてそんなこというですか。
 どうして、ポポのすべてなのに、ポポの全部を受け取ってくれないですか。
 こわかった。
 怖くて、どうにかなってしまいそうだから。
 だから、ポポはゴールドに抱きつきました。
 ゴールドに思いの丈をぶつけました。
 そしたら、ゴールドは分かってくれました!
 なんとなんと、ゴールドはポポを受け入れてくれたのです!
 あの女達は要らないって! ポポだけいればいいって!
 ポポと一緒です! ポポもゴールドだけいれば他に何もいらないです!
 あとのポポの人生には幸福しかありません。
 だから、ポポは目の前の愛しい人に口付けを交わすのでした。
 ポポの愛しい人。ポポにすべてをくれた人。
 そこは、ポポの望んだ世界。ポポの幸福な夢。

709ぽけもん 黒 31話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 21:38:43 ID:KKK.SerE


――――――――――――――――――――――


「ん、おはようです、ゴールド」
 幼い少女の口付けで今日も目を覚ます。
 目を開けると、そこには可愛らしい少女の、しかしその幼さに似つかわしくない、淫靡な溶けたような笑顔がそこにあった。
 僕はその挨拶に答えることもない。
 酷い頭痛がする。吐き気がこみ上げ、胃酸がカラカラに乾いた喉を焼く。まるで悪夢だ。
「うふ、ゴールド、またするですよぉ」
 そういって彼女は僕の下半身をいじりだす。
 もうこんな生活を送るようになって三日が過ぎた……と思う。あれから三度日が昇り沈むのを見た気がするからだ。だけど、それも定かじゃない。現実か幻覚かも分からない。
 僕の体力と精神力は完全に限界を超えていた。


「ゴールドぉ、朝ごはんですよぉ」
 そういって彼女は木の実を口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。
 そうして、ドロドロに溶けた木の実を、彼女は僕の口に口移しで流し込む。
 味なんて分からない。もう彼女の体温も感触も、よく分からなくなってしまった。
 旅の途中で彼女に抱きつかれて感じたあの温もり。あの時は、確かにポポの暖かさや優しさを感じることが出来たはずなのに。
 あの明るく無邪気な彼女と、この目の前の存在は果たして同じものなのだろうか。同じものだとすれば、どうして僕は今の彼女からは何も感じることが出来ないのか。
 僕はこれからどうなるんだろう。
 分からない。考える力もわかない。
「うふふ、こぼしてますよゴールド。ちゃんと食べるですよー」
 彼女はそういって僕の口を舐める。
「ちゃんと食べないと……」
 意識が溶けて消えていく。
 僕は再びまどろみに落ちた。

 洞窟に響く湿った音。やわらかい肉。誰かの嬌声。溶けたようなポポの顔。濃厚な性の臭い。耳元で囁く誰かの声。頭痛。吐き気。身体の痛みと気だるさ。耐え難い苦痛。
 何も分からない。




 地獄のまどろみの中から、唐突に覚醒した。
まともに意識を取り戻したのは一体いつ振りだろうか。
 今がいつであれからどれだけ経ったかなんてさっぱり分からない。
 そこでふと違和感を覚える。
 いつも僕にまとわりついていたポポがいない。
 食料をとりに言ったのかと思ったけどそれも違った。
 ポポは、僕と少し離れたところで、殺気立って入り口を睨んでいる。
 こんなに怒りというか闘争心をむき出しにした彼女を見るのは初めてかもしれない。
 一体何があったんだ。
 それを言いかけた僕は、全身を駆け抜けた悪寒で口を噤んだ。
 はっきりと分かる。
 殆ど思考も出来ないような鈍った脳でも、容易に捕らえられる、いや、閉じた脳を無理やりこじ開けられるような強引さで。夢でも幻覚でも無い。間違えようの無い、暴力的なまでの現実感。
 何か、何かとてつもなく恐ろしいものが。
 下から、猛然と迫ってくる――
 僕は自分が意識を取り戻したわけを知った。この殺気だ。この殺気と感じたからだ。僕の感覚が、本能が言っている。今正気を失っているとやばい、と。意識の混濁すら許さない、濃密な、圧倒的な恐怖。
 同時に気づく。ポポはここでその何かを迎撃する気なんだ。
 確かに入り口は一方。確実に来た相手に対応できる。
 けど、ここで迎え撃つのは下策だ。
 入り口が一つってことは、いざというときの逃げ道がないってことだ。
 水や火、または毒ガスなんかを流し込まれたらどうしようもない。
 慌てて出てきたところで待ち受けていた敵にやられるだけだ。
 が、敵はそんなことしなかった。


「ゴールドー!」
 まっすぐ、正面から突っ込んできた。
 流れる、萌える春の草原のような髪。パッチリとした、見たものの心を捕らえて離さない、夏の果実のような綺麗な赤い瞳。美しく、彼女を彩るように咲いた花。懐かしい顔、声。
 ああ、ああ。
「か……」
 涙がとめどなく流れてきて、視界がぼやけた。
 日の光を背負って僕の前に躍り出た彼女は、まるで女神か何かのようだった。
 いや、彼女は紛れもない、救いの女神だ。
「香草さん!」
「会いたかった、ずっと会いたかったわ、ゴールド!」
 ポポのことなんてまるで眼中に無いように、彼女は僕の胸に飛び込んできた。

710ぽけもん 黒 31話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 21:39:11 ID:KKK.SerE



――――――――――――――――――



 天国のような日々。
 理想とは違いましたけど、それでも、ポポはとっても幸せでした。
「……んぁ」
 ゴールドのものがポポの中で脈打った気がして、思わず息が漏れます。
 愛おしくて、ゴールドの頬を撫でました。
 ああゴールド。素敵です。カッコいいです。
 ポポのことを抱きしめてくれなくなったのは悲しいですけど、でもしょうがないですよね、ゴールドは調子が悪いんですもの。
 でもゴールドはいつも言ってくれます。
「ポポ、好きだ。愛してる」
「ポポにこうして抱きしめてもらう以上の幸福なんて無いよ」
「今はちょっと体調が悪いけど、でも、ポポと一緒にいればきっとよくなるから、だから心配しないで」
 自分が具合悪いときですら、ゴールドはポポのことを第一に考えてくれます。
 もう、そんな時くらい、自分の心配をしてください。
 ポポは心配ですよ。
 でも、きっと大丈夫ですよね。
 だって一番大好きな人と結ばれたんですもの。
 だからもう大丈夫。
 これからの人生には、もう幸福しかないですよ。
 ゴールドにキスをします。
 ああ、ゴールドの舌、熱い。
 こうしていると、幸福でポポは真っ白に溶けてしまいます。
 ねえゴールド。ゴールドも今、こんな気持ちですか? ポポと同じ気持ちですか?

 ……ああゴールド、お腹がへったですね。
 いつもみたいに、食べさせてあげるです。
 ……もう食べ物が無いです。取ってこないと。
 名残惜しさを必死で堪え、ゴールドから離れると、食べ物をとりに飛び立とうとしました。
 その瞬間、恐ろしいまでの殺気がポポに向けられたのを感じました。
 後悔がポポを包みます。見つかった。今外に出ようとすべきでありませんでした。
 この嫌な気配。間違いない。あのメスです。ゴールドを傷つけるあのメス。ゴールドにすがり寄る悪魔。
 ポポがゴールドを救ったのに、癒しているのに、それをあの虫けらは……!
 ふふ、来るがいいです。ここは岸壁の中。飛べないお前なんて、ただの鴨でしかない。狩られるだけの哀れなイモムシ。ポポには追いつけない。
 うふふ、ゴールド行きましょう。お前はそこでポポとゴールドの幸せな旅路を指咥えて見てるがいいです。
 しかし、ゴールドに近づこうとした瞬間、体が固まりました。
 体が動かない。まるで巨人の手に握り締められたような……
 この力には覚えがあります。
岸壁の向こう、こちらを見据える歪な塊。
 やどり!!
 そうでした。この女の存在を忘れていました。
 ゴールドを害しはしないですけど、ゴールドに求められることも無い。
 いてもいなくても変わらない。憐れな女。眼中にもありませんでした。
 あの害獣を駆除した後は、はっきり言ってどうでもよかった。
 だからここまで放置してきたのに、まさかこんな。
気がついたときには、ポポはあの女の念動力にがんじがらめにされていました。
振りほどけない!
 逃げてくださいゴールド、あの女が来るです。
 そう言おうとして、ポポは心中で悲鳴を上げました。声すら出せない! ああ、こんなに近くにいるのに、ゴールド!
 お願い、逃げて!!
 唐突にゴールドが起き上がりました。
 ゴールド! ポポの思いが通じたですね! ゴールド! 早く逃げるです! でないと、あの女が!
 それなのに、ゴールドはちっとも逃げようともしません。
 いや、それどころか、嬉しそうに入り口の方を見つめるではありませんか!
 駄目ですゴールド、あの女の毒に惑わされないでです! そんな目で見ないで! ポポを、ポポを見て!
「ゴールドー!」
 ゴールドの顔が嬉しそうに歪みます。
 そんなの可笑しいですよゴールド。
 ゴールドの口がゆっくり開きます。
 どうして! もう何日も、ポポには何も言ってくれないのに!
 だめです。駄目ですゴールド。やめて。やめてぇぇぇぇぇ!
「香草さん!」
「会いたかった、ずっと会いたかったわ、ゴールド!」
 ――ああ、わたしの幸福を引き裂きに、悪魔がやってきた。

711 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/15(月) 21:40:36 ID:KKK.SerE
31話終わりです
続きは数週間以内。後二話で終わる予定

712雌豚のにおい@774人目:2013/07/15(月) 22:18:25 ID:ShBThf1A
>>711
GJ
疾走感スゲーなあ
ポポも狂ってて可愛いし
でももうすぐ終わりか(しみじみ

713雌豚のにおい@774人目:2013/07/16(火) 00:32:46 ID:s7cFdoeQ
ハーレムエンドにならなかったら発狂する自信があるよ!

714雌豚のにおい@774人目:2013/07/16(火) 01:22:50 ID:e/WaWz7E
>>690
>耕平さん、私が貴方の恋人になります。そして妻になるわ……いいえ、望むなら貴方の母にもなる、娘にもなる。姉にも、妹にも。友人にも、それこそペットにだって。貴方の周りに私以外の女なんていらないのよ

いい台詞…すごくいい台詞
久しぶりに心が洗われた気分

715雌豚のにおい@774人目:2013/07/16(火) 17:19:31 ID:36GW7Jlw
>>711
ポポかわいいよポポ
でも香草さんのほうがやっぱり好きだが

716雌豚のにおい@774人目:2013/07/16(火) 20:07:31 ID:UkOtG4y2
>>711
乙です。
さて次は誰視点かな

717雌豚のにおい@774人目:2013/07/17(水) 09:51:23 ID:OJWRsaC2
ダークソウルの魔力に吸い寄せられてたならしゃあないな
しかしまさかポケ黒が再開するとは思わんかったから感動した

718雌豚のにおい@774人目:2013/07/18(木) 13:03:06 ID:Y1.qhzVo
>>711
ぽけ黒キタ!!
ずっと待ってました!GJです!
完結楽しみにしています

つかぬことをお聞きしますが、どこか別のサイトで小説の投稿をしたりはしていませんか?
もしそうならば、作者さんの作品がもっと読みたいので教えて頂きたいのですが…!
お願いします

719雌豚のにおい@774人目:2013/07/19(金) 00:09:12 ID:R2uTvLWI
うおぉ ぽけもん黒の続きがきたか
待っていたかいがあったよ

720雌豚のにおい@774人目:2013/07/19(金) 17:07:50 ID:4nA8LWcM
HOTLINE YANDERE
ヤンデレな女の子が大好きな彼氏を助けるためにロシアンマフィアを大虐殺するゲーム
でも真主人公はライダーマスクのヤンデレ

721雌豚のにおい@774人目:2013/07/20(土) 06:59:22 ID:v4TMIiW2
ロシアンマフィアに捕まる彼氏って何者だ

722雌豚のにおい@774人目:2013/07/20(土) 18:43:11 ID:2zLQPwW6
ヤクキメられてAV撮影されてる彼氏か

723 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/21(日) 20:38:47 ID:WaAYDk/E
感想ありがとうございます

>>718
特に他の場所に何かを投稿したことはないです
これが完結したら何か考えるかもしれません

書けたのでぽけもん黒32話投下したいと思います

724 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/21(日) 20:40:25 ID:WaAYDk/E
「香草さん!」
 腕に確かな重さを感じる。体に確かな暖かさを感じる。
 ああ、本当に君なんだね。本当に……
「ああああああ!!」
 洞窟に響いた絶叫が僕と香草さんの間の安楽の時間を割いた。
 ポポが、狂気走った目でこちらを見ている。
 同時に走る寒気。
 むき出しの殺気に、僕の肌が総毛立つ。ピリピリと痛む。まるで皮膚という皮膚に針を突きつけられたような恐怖。
「この畜生……私のゴールドに一体何をしたのよ……」
 そこで僕の焼けた脳はようやく現状がいかに恐ろしいことになっているかに気づく。
 半裸のポポに同じく半裸の僕。お互いの下半身はお互いの性の名残で汚れている。そして僕は酷く消耗している。そして洞穴に充満する性臭。
 これを見て嫉妬と高慢の鬼である香草さんがただで済ますわけが無い。
「香草さん、もういい! もう終わったことなんだ! だからもう帰ろう!」
「ごぉるどぉ、なにいってるですかぁ。ごぉるどはぽぽとずっと……」
「そうね、さっと殺してぱっと帰りましょう。本当に気分が悪いわ。こんな気分になったのは生まれて初めて……」
今の彼女は正気とは程遠い。殺気だけで皮膚が裂けそうだ。
無差別に暴れださないのはまだ僕が抱きついているからだ。僕が彼女から離れたその瞬間、この殺意は爆発する。
「駄目だ! 僕は君に人殺しになってほしくない!」
「どうして? どうしてゴールドはソレを庇うの? だってソレは悪よ? ゴールドがずっと憎み続けてきた悪そのものよ? 殺さない理由が無いじゃない。私の言ってること、どこか間違ってる?」
 確かにポポの今回の行いは悪そのものだ。それに、人を殺すなだなんて、ロケット団の幹部を感情に任せて殺してしまった僕には言う資格のない言葉だ。
「駄目だ! たとえ悪でも、僕は君に誰かを殺して欲しくないんだよ!」
 それでも、僕は言う。罪を犯したのは僕だけで十分だ。間違っていたのは僕だけで十分なんだ。君は、君にはそんな風になってほしくない。
「あら、それでも私がソレを殺すのは許されるわ。だって――」
 彼女が僕の背に這わせていた手をゆっくりと持ち上げる。
「だって、ゴールドは私のすべてより重いから」
 処刑人の振り下ろすギロチンの刃ように、束ねられた彼女の蔦が正確無比にポポの首を狙って振り下ろされた。
 刹那、閃光が走る。
 血が跳ねる。
 しかし以外にも、その血はポポのものではなく香草さんのものだった。
 香草さんの肩口が切り裂かれている。そしていつの間にかポポは僕達の背後に回っていた。
 ポポはねめつけるように香草さんを見る。
「ごぉるどをはなすですぅ、この虫けらぁ」
「正当防衛。……これで、誰の目にも問題なく、この害獣を殺せるわね」
 駄目だ、もうこうなったら。
 蔦を伸ばす香草さんに抱きつくと、僕はそのまま崖下に向け飛び降りた。 ……えっ?
 僕は、僕達の体がこんなにもあっさり宙に投げ出されたことに困惑を覚えていた。
 まさか満身創痍の僕が抱きついたくらいでこんなにもあっさり香草さんが落ちるなんて夢にも思うまい。
 た、ただ二人の間に割って入ろうとしただけなのに!
「か、香草さんっ! どうして」
 慌てて問うと、眼前の香草さんの顔が赤く染まっていた。血でも怒りでもない。照れている……のか?
「だ、だって、ゴールドがそうしてくれたんれしょ? これってぇ、わたしといっしょに死のうってことよね? いっしょに死んでくれるなんて、もう生きていたくもないほど辛い目にあったけど、それでも私とは永遠に一緒にいたいってことよね。嬉しすぎて、それで……」
 か、香草さん!
 香草さんの愛が非常に強いってことはよく知っていたけど、それでも自分が死ぬなんてときは躊躇しようよ!
 しかしそんな僕達をポポがあっさり見逃してくれるわけが無い。
 すぐに狂気染みた笑みとともにポポが追ってきた。
「私とゴールドの最高の最期を! 邪魔するんじゃないわよ!」
 彼女はそういうと蔦を振りかざしポポを追い払う。
 ポポは移動が制限される崖の傍だというのに、複雑に絡まる香草さんの蔦をすべて回避する。外れた蔦が、崖を抉った。
 羽の端を掠めることはあるけど、しかし決して致命傷を食らわない。
 その刹那の間にも見る見る地面との距離が近くなっていく。
 ああ駄目だ。僕死んだ。

725ぽけもん黒 32話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/21(日) 20:41:28 ID:WaAYDk/E
 香草さんと一緒に死ねることは幸福なのか不幸なのか。
 それを思う間もなく、僕達は地面にぶつかった。
 爆音と共に派手に土煙が上がる。
 視界はまったく無い。でも、これが頭から地面に激突した人間の視界ではないことは確かだ。
 香草さんが蔦を蜘蛛の足のように広げ地面に着地した結果だ。僕には怪我一つ無い。
「……死体に集るハゲタカが。お陰で幸せになりそこねちゃったじゃない」
 心底安心した。僕は死のうと思って飛び降りたんじゃない。
うすうす感ずいてはいたけど、僕は自分の命への執着がかなり強いらしい。
「香草さん!」
「ごめんねゴールド。私達の愛の結果が、あの薄汚いハゲタカに踏みにじられるなんて嫌よね。ごめんねすぐ気づかなくて。あ、でも気持ちはとっても嬉しかったよ、ゴールド。一緒に死ぬことが嫌とかそういうんじゃないから、か、勘違いしないでよね!」
「いやいいよ! 二人で死ぬより、二人で生きようよ!」
 彼女は顔を本当に真っ赤にして、口をパクパクさせている。感情が言葉にならないみたいだ。
「……っ! 好き、大好き」
 そう言って、僕と口付けを交わしたあと、彼女は中空を見る。
 空には、僕達の様子を伺って旋回しているポポの姿がある。
「だから殺すわ。幸福な二人の未来のために」
 両手から蔦を振りかざしてポポを睨む。
 僕は香草さんに覆いかぶさるように飛び掛った。
「ポポ! 逃げるんだ! そして二度と僕達の前に姿を現さないでくれ!」
 これが僕が君にあげられる最後の優しさだ。
 残酷な行為だということは自覚している。だけど香草さんとポポ、二人が僕の傍にいることはもう不可能だ。交渉の余地も無い。ポポと香草さんの二者択一。……僕は、香草さんを選んだんだ! だから、だからポポ、早く消えてくれ。香草さんに殺される前に!
「ねぇゴールド……どうしてさっきからあの獣のことばかり庇うの? それにどうして、私のこと名前で呼んでくれないの?」
 名前……? ああ忘れてた! そうだ、僕は香草さんのことをチコさんって呼ぶって約束してたじゃないか!
 どうにも慣れずに、香草さんのことを頭の中で香草さんと呼び続けた弊害がここに表れた。
「ゴールド、どいて。害鳥駆除が出来ないわ」
 口調こそ穏やかなものの、その言葉の裏には恐ろしい怒気が込められており、その澄んだ声に正気は無い。
「やっぱり私とゴールドは一秒も離れちゃいけなかったんだわ。私の失敗よ。もう二度と同じ失敗をしたりしない」
 蔦が次から次へと巻きついてきて、身動きが取れなくなる。
「香草さ……チコ! だめだ! やめてくれ!」
 視界も塞がってきた。
「大丈夫よゴールド。愛してる、永遠に」
 視界が暗くなっていく。駄目だ、香草さん!




「ごぉるど、絶対に助けてあげますからねぇ」
 ポポは宙を舞いながら、涙をボロボロと流す。
 彼女は心の底から悲しんでいる。本心から、香草に囚われ、蔦の中で眠るゴールドを救おうと思っている。
「アンタは取り返しのつかないことをした。アンタが今後何をしても許せないし許す気も無いわ。でも、アンタはここで殺す。殺さなきゃだめだから」
 うわ言のような死刑宣告を終えた香草は、いたずらを思いついた子供のようにくすりと微笑んだ。
「そのくっさい子宮引きずり出してすり潰しでもしたら、少しは気が晴れるかしら」
 ゆっくりと宙を踊っていた香草の蔦が、唐突に弾丸のような速度で伸びた。
 その魔弾の群は、一つの例外もなくポポの元に向かっていく。
 そして、そのすべてが強かに彼女を打ち据えた。
香草チコは勝利を確信する。

その瞬間、一つの影が通り過ぎた。
その影は触れることも無く香草の蔦を解き、中からゴールドを救い出し、抱きかかえるとそのまま宙に舞った。
虚を突いた一瞬の早業。それゆえ、それを防ぐことの出来るものはいなかった。
哄笑と共に、ゴールドを抱きかかえたやどりは空を翔る――

726ぽけもん黒 32話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/21(日) 20:41:56 ID:WaAYDk/E
――――――――――――




 それは一瞬の隙だった。
 勝利を確信した瞬間の心の緩み。彼女の慢心、油断。
 その傲慢が、私に付け入る隙を許した。
 いや、私には最初から分かっていた。
 香草チコは必ず油断をする。必ず隙が出来る。
 だから私は最初からその隙を待っているだけでよかった。
 あの二人のように殺しあう必要など無い。戦わずとも、勝者は私に決まっているのだから。
 蔦の中から愛しいゴールドを救い出すと、彼を抱いて宙に逃げる。
 まだ死んでなくとも、あの攻撃を受けたらまずただでは済むまい。瀕死のポポに、私を追う力はない。
 香草など言うまでもない。鈍い彼女は永劫地べたを這うのみだ。
 こうしてゴールドは私のものとなった。あの二人は、ゴールドに永遠に届かない!
 あの洞穴の惨状を目の当たりにしたときは、思わず怒りのままに何もかも台無しにしてしまうところだった。
 しかしそれを押さえたから、冷静さを失わなかったから、今ここに私の勝利がある。
 ゴールドを両腕で抱きしめ、存分にその存在を堪能する。
 歓喜で全身の細胞が震える。気が変になってしまいそうだ。
 力の制御が利かない。跳ねるように私は宙を舞う。
 ああ、私は間違いなく浮かれていた。
 まだ彼女達の姿の見えるうちにこの浮かれっぷりなど、愚かにもほどがあるが、しかしもう勝利は確定しているのだ、これくらいは許されよう。
 思いっきり息を吸い込む。胸いっぱいにゴールドの匂いが広がる。
 もう何日も体を清めていないであろう彼の濃厚な匂い。脳天まで痺れてしまう。余計なメスの臭いが混ざっているのが気に食わないが、まあもう終わったことだ。今後いくらでも彼の匂いは堪能できる。
 私は勝った!
 ゴールドを手にした瞬間、内心、私はほくそ笑んでいだ。
 確かに、多少のイレギュラーはあったものの、状況はおおむね、私の望んだとおりのものとなった。
 ポポはゴールドを攫った。そして愛が生まれるより前に実力行使に出た。
 彼女が強烈に愛に飢えていることは早くから分かっていた。そして目の前にあるご馳走を、我慢できないような愚昧であることも。
 彼女は取り返しのつかない失敗を犯した。償えない罪を犯した。
 彼女はもう生涯ゴールドから愛されることはない。
 香草チコはこれからポポを殺す。彼女はゴールドに愛されていたのに。愛しすぎて物事の判別がつかなくなり、彼が、ゴールドが何よりも忌み嫌う、自らにとって親しい者を殺すという大罪を犯す。
 彼の歪な正義感が、彼女を許すことは永劫無いだろう。
 彼女はもう生涯ゴールドから愛されることはない。
 残ったのは私一人。もう誰も彼の傍にはいない。寄らせはしない!
 彼が私を愛するようになろうとなるまいと――もちろん、彼自身から愛されないことを思うと恐怖で体がばらばらになりそうになる。息が乱れて、彼以外の何も考えられなくなる。それだけは、断じて避けなければならない――、彼の隣にいるのは、生涯、私ただ一人だ。
 しかし、勝利の歓喜と、最もほしいものが手に入った愉悦と同時に、寒気も覚える。

 ……私は、浅ましい。彼に愛されるには、あまりにも醜悪すぎる。
 私は、あの二人のように、ゴールドのために我を忘れることができなかった。
 本当に欲しくて欲しくてたまらないのに、それでも私は恥も外聞も無く、後先を考えることも忘れて彼を欲するということが出来なかった。
 だからこそ彼が手に入った。
 しかし、これは決して美点などではない。
 私には、彼女達が羨ましかった。理性も立場も何もかも捨てて、彼を愛するその姿が。彼を愛するだけに命を燃やす、その輝きが。その姿は美しくさえあった。そうはなれなかった、醜い私とは違う。
 私には、彼女達のように、後先もなくすべてをかけることが出来なかった。彼をそこまで愛していなかったからではない。愛していたからだ。だからこそ、彼を得られない恐怖に勝てなかった。怯えてしまった。足がすくんで動かなかった。
 だから策を巡らせた。巡らせざるを得なかった。これは選択ではなくただの消去法だった。
 これが私の本性だ。欲しいのに。何よりも、自分自身よりもそれを欲しているのに、それでも、わが身可愛さに身動きすら出来ない。惨めな私。愚かな私。利己的な私。
 彼は、私のこんな醜い本性を知ったらどうなるだろうか。
 そうなったら、彼は決して私を愛してはくれないだろう。
 彼と私は似ているところがある。

727ぽけもん黒 32話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/21(日) 20:42:26 ID:WaAYDk/E
 過去に酷いトラウマを抱え、それがどこまで行っても醒めた心を失わせることを許さない。それぞれ、愛を、正義を望みながら、自身がどうしようもなく歪んでいるから、その歪みが、欲して止まない愛や正義まで歪ませてしまう。彼も私も、どうしようもなく、歪だ。
 だから彼は自分のことを愛さない。嫌悪してさえいる。
 そんな彼は、彼女によって救われた。香草チコ。忌々しい恋敵。
 いえ、彼女にとって、私は敵ですらない。ただの傍観者。路傍の石。
 彼の歪んだ正義。その根底にある自己否定。彼は自分で自分自身を許すことが出来なかった。断罪を求めていた。ロケット団撲滅なんてものは、結局はただの自殺願望の延長に過ぎない。彼は語ってくれた。幼き日の苦い思い出を。それを聞いて私にはすぐに分かった。彼が真に求めているのは、復讐でも、正義の鉄槌でもなく、あの日の贖罪だと。彼は自分自身のことを一番罰したかったのだ。死に向かうほどに。
 しかし、そんな彼を、彼女は許した。不器用に、それでも一心不乱に、彼のすべてを愛した。そのとき、初めて本当に彼は救われたのだ。彼のすべては肯定されたのだ。
 彼は、いえ、私達は、自分で自分を救うことが出来ないのだ。誰かに救ってもらわねば、救われることすら出来ないのだ。
彼女達とは違う。彼女達のようには、なれない。
 そう、そういうところで、彼と私は、とても似ている。
 だからこそ、彼は気づくかもしれない。私の浅ましさに。自らのうちに渦巻く歪みにとても良く似た、私の醜悪な姿に。最愛の人を喪った失意の中で、その考えに至ってもおかしくは無い。
 そうなったら、私は彼を永遠に失う。
 それを想像するだけで、怖くて息もできなくなる。
 歓喜と恐怖で、それだけで私は壊れてしまいそうだった。

 そのせいで。
 そのせいで、思考が一瞬、ほんの一瞬鈍った。だから、一瞬、ほんの一瞬、判断が遅れた。
 そして、それが致命的な差となってしまった。
その浮かれた心が、悪魔に付け込まれる隙となった。
 私の中心で、何かが爆発したような音が聞こえた。
 ゴールドを手に入れたときとは正反対の、冷たい爆発。おぞましい、嫌悪してしょうがない、冷たさ。
 力が、私の念能力が消えていく。頭部を損傷したんだ。
 この爆発の名は、死。
「あ、あ……」
 落ちて、消えていく視界の中で、私は私がもう助からないことを、そして私が決定的に、永遠に敗北したことを悟った。


――――――――――――――――



 それは彼女の執念だった。
 決定的な敗北を目の前にしても諦めることの出来ないその妄念。
 その妄念が、香草チコに彼女の実力を大きく超える力を引き出させた。
香草チコが放ったもの。
 それは、ただの小石だった。どこにでも転がっている、ただの。
 しかし問題はそれが放たれた速度だ。
 その速度は実に音速の三倍以上。
 最高速のポポでも避けられない速度で。
 その小石は、彼女の念障壁を突き破り、しかもぶれることなく、彼女の頭部にまっすぐ突き刺さった。
 その一撃は間違いなく致命の一撃だった。






「やどりさん!」
 二種類の、音が聞こえた。一度目は、何かを何かで素早く叩いたような、乾いた音。その刹那の後に、聞こえてきたのは、人の頭部が爆ぜる音。

728ぽけもん黒 32話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/21(日) 20:42:49 ID:WaAYDk/E
――――――――――――――――――――――――




小鳥の鳴く声で目が覚める。
そこはいつもと変わらぬ、森の中の小さな小屋の中。
広くない部屋には簡素な調度品と保存食が置かれている。
人から見たら、侘しい部屋だと言うだろう。
だけど、私にとってこの部屋はどんな豪邸も比べ物にならないほど価値があるものだ。
何故なら、ここには彼がいるから。
 眠っている、愛しい彼に今日も口付けをする。
 そうすると彼は決まってゆっくりを目を開け、微笑みながら私を抱きしめてくれるのだ。
「おはよう、やどり」
 その音の振動が私の思考を溶かして消す。
 顔が熱い。きっと私の顔が真っ赤になっているだろう。
 彼は追撃とばかりに私にキスをしてくれる。
「やどりはいつまでたっても慣れないね」
 こんな幸せ、慣れることができるわけが無い。
 私は内心そう思いながら、強く抱きつく。


 ゴールドに出会う前。私には、何も無かった。
 私が持っていたものは、すべて奪われて失われた。
 両親をロケット団に殺された私は、村からも離れて、ただ死を待つだけの日々を送っていた。
 悲嘆の涙を流すうち、私の感情は少しずつ失われていった。
 私を襲いに来たロケット団を返り討ちにしたときでさえ、何の感情も沸かなかった。自らが傷つくことにも、何の恐れも感じなかった。相手は憎き仇の仲間だというのに、打ち倒しても何の感慨も無かった。止めを刺すことすら億劫だった。私の中は空虚だった。
 私はそのとき初めて、私の人生にはもはやなんの意味もないことに思い至った。
 だから死のうとした。
 目の前にあったドブの汚さが、酷く自分に似つかわしく思えた。だから、ここで死のうと思い、ドブに浸かって、死が私を終わらせるのをただ待っていた。
そんなとき、私の前に彼が現れた。
彼は私を見るなり、ドブの汚さを意にも介さず飛び込んだ。
そうして、初対面の私の身を、無警戒に、しかし真剣に案じてくれた。
その様子があまりにも必至だったから、私は死のうとしているだなんてとても言い出せなかった。すべてがどうでもいいと思っていたのにも関わらず、私は「怪我が治るのを待っていた」なんて滑稽な嘘を吐いてしまった。
 彼のその真摯な態度を見ていると、自殺を選んだ私が、酷く恥ずかしく思えた。
 どうしてだろう。感情なんてとっくに失ってしまったはずなのに。もはや何者にも心動かされなくなっていたはずなのに。
 それなのに、どうして彼はこんなにも眩しい。
 私は、一目で恋に落ちてしまった。
 人生に絶望し、つい先ほどまで死のうとしていた人間が恋とは。あまりの軽薄さに笑ってしまう。
 それでも、私は自分のこの気持ちを抑えることができなかった。
ああ、私はただ愛されたかっただけなのだ。
ただ、手を差し伸べて欲しくて、小さくなって震えていただけだったのだ。
彼は、ドブの中から私を救い出してくれたのだ!

 でも、彼のとなりには常に余計なものがいた。
 私が愛した彼の優しさは、常に目障りな鳥に向けられ。
 私が愛した彼の眩しさは、常に目障りな雑草に向けられた。
 どうして。それを向けるのが私ではないのだろう。
 煩悶した朝があった。懊悩した昼があった。そうして、満たされなかった夜には一人こっそり咽び泣いた。
 どうして私が彼と一番最初に出会うことが出来なかったのか。
 ロケット団に両親が殺されたあの日以来。自らの運命を呪うのはこれで二回目だ。
 滑稽にもほどがある。両親の死も忘れ、愚かにも恋する乙女に成り果ててしまった私を見て、彼らはなんと思うだろうか。
 だけど、それでも私は、その両者を押しのけてゴールドに自分をアピールすることが出来なかった。
 恐ろしかったのだ。ゴールドに拒否されることが。自分が傷つくことが。この浅ましさを見透かされることが!
この期に及んで、私はまだわが身が可愛かったのだ。
ああ、醜い。浅ましい。こんな私なんて、消えてなくなってしまえ。
 ――だけど、だけども彼はこんな私を受け入れてくれた。
こんな私を愛しているといってくれた。すべてを失った私の命を救ってくれたばかりではなく、私に未来をくれた。
 ぽけもんリーグを制覇するという旅の目的を達成した後は、私の田舎に戻り、私と二人で暮らしている。

729ぽけもん黒 32話 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/21(日) 20:43:10 ID:WaAYDk/E
 両親と私の三人では狭かった我が家。私一人には広すぎた我が家。そこに私と彼は二人で住んでいる。
 あの暖かだった家庭はもう二度と帰っては来ない。それでも、私は先に進めた。
 すべて彼のお陰だ。もう私はこの家で一人孤独に震えることは無い。いくら浴びても尽きせぬ幸福がそこにはある。





 意識を取り戻す。まだ思考は霞がかかったようにぼやけ、体にはじんわりとした快感が反響している。
 朝から盛ってしまった。
 でもそれを後悔することはない。
 私達には無限のような時間があり、そしてゴールドは私の前から逃げやしないからだ。
 今日は何をしようか。
 畑の手入れでもしようか。それとも湖に釣りにでも行こうか。久しぶりに街へ出てもいいかもしれない。そうだ、ゴールドの研究で、何か手伝えることはないだろうか。
 もちろん、何をするにもゴールドと一緒だ。
 この小さな家に、ゴールドと二人。私の人生はゴールドなしでは始まらない。
 私の愛しい人。私を救ってくれた人。
 そこは私の望んだ世界。私の幸福な夢。




――――――――――――――――――――――


 落ちてゆく世界で、私が覚えたのは、やはり歓喜と恐怖だった。
 命が失われる恐怖。ゴールドと離れ離れになる恐怖。ゴールドと永遠に決別するという、耐え難い、身を裂かれるような酷い恐怖。
 しかし、これで私の醜い心根がゴールドに知られることは永劫なくなった。私が、ゴールドに嫌われることは永遠にありえないこととなった。そのことに、私は心から安堵する。
 それに、これなら。
 これならゴールドは、絶対に私を忘れることは無い。私は、ゴールドの中で、最後まで一緒にいられる。綺麗なままで。ゴールドの最期まで。
 それは、とても素敵なことだ。ゴールドと二人いっしょにいられることの次に、だけれど。

730 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/21(日) 20:44:49 ID:WaAYDk/E
32話終わりです
次で最終話です
次は急用が入らなければ数週間以内に。

731 ◆wzYAo8XQT.:2013/07/21(日) 20:47:35 ID:WaAYDk/E
今ごろ気づきましたがところどころ文頭の空白が消えているところがありますね。修正大変なので修正しませんが次は気をつけます

732雌豚のにおい@774人目:2013/07/21(日) 21:34:45 ID:8pNWbvVM
>>731
GJ!
やどりさん死んでしまうん?
いよいよ終わりって感じがするなあ
当たり前か

733雌豚のにおい@774人目:2013/07/21(日) 21:38:43 ID:6Nd0r.X2
乙!

かなり前の話でマダツボミの塔で貰ったのがあったな

734雌豚のにおい@774人目:2013/07/22(月) 16:14:35 ID:ysY6VCII
(前に書いたのも随分時間が経ってるし、無理に伏線回収しなくても)
ええんやで(ニッコリ)

735雌豚のにおい@774人目:2013/07/23(火) 07:06:04 ID:A592sbg6
おお、ぽけ黒がまたきてるじゃないか。
ただ一言、ありがとうと言わせてくれ……まだスレ追っててよかったよ

736 ◆UDPETPayJA:2013/07/26(金) 07:26:48 ID:35uqTW2k
お久しぶりです。
28話が完成したので投稿します。
今回、文末の方で同性同士の絡み…決して百合ではないのですが。
それがあるので、一応注意の方を。

737 ◆UDPETPayJA:2013/07/26(金) 07:29:49 ID:35uqTW2k
その場面を目の当たりにした俺は、一瞬、何が起こっているのか理解できなかった。
ベンチから落ち、床に横たわる彼女は、必死に息をつきながら苦しみに顔を歪める。
どうしてこんなにスカートが血まみれなのか、なぜ彼女はこんなに苦しそうにしているのか。あまりにも突然すぎて、思考が追いつかない。

「結意ちゃん…結意ちゃん!! しっかりしろ! 結意ちゃんっ!」

何が原因なのか。どうすればいいのか。簡単なことだ。ここは病院なんだから、医者を呼べば済む。
けれど、そんな簡単な事にすら気付かないくらい、俺の頭は混乱していた。
ただ阿呆のように名前を呼び続け、力のなく、少し冷たい手を握るくらいしかできない。
その様子に気付き、看護婦が近づいて来る。俺たちを見ると、すぐに異変を察知したのか、ドクターを呼びに向かった。
そこでようやく俺は、自分の阿呆さに気付く。なぜ、そんな簡単な事を忘れていたのか、と。
間も無く、看護婦は数名と、担架を持って引き返し、結意ちゃんは担架に乗せられ、他の場所へ運ばれて行った。そこに俺も追従していく。

「君は…この娘の?」と、看護婦が尋ねてくる。
「…ただの、友達です。」
「…そう。大丈夫よ、見た限りは命に別状はないわ。ただ…いえ、なんでもない。」
「?」

看護婦が語尾を濁らせたのが、僅かに気になった。
担架が、処置室の前に到着したあたりで看護婦に足を止めさせられる。これ以上は着いてはいけない。

「結意ちゃんを…お願いします。」そう医者たちに言うことが、今の俺の限界だった。


* * * * *

およそ2時間は経っただろうか。処置室の扉が開き、医者が出てくると、俺はすぐに食ってかかるように尋ねた。

「結意ちゃんは! どうなったんですか!?」
「…助かったよ。あの娘は、ね。」
「───よかった…! 助かったんです、ね…?」

おかしい。結意ちゃんは助かったはずなのに、医者の顔つきは険しい。まるで、苦虫を噛んだように…

「君は、あの娘の彼氏か何かか?」医者は厳しい表情のまま、そう尋ねてきた。
「いえ…俺はただの友人ですよ。結意ちゃんの彼氏は、俺の親友なんです。」
「そうか…親友か…」

医者の額から、汗が流れ落ちる。処置でかなり神経を使ったんだろうか?
…いや、この医者の様子。きっと他に何かがあったんだ。だって、この医者は結意ちゃんが助かった事を″素直に喜んでいない″。
この表情は、俺もよく知っているはずだ。そう…これは、大切なものを守れなかった人間の顔だ。
だけど…一体なにがあるんだ?

「結意ちゃんが、どうかしたんですか。」
「………すまない。私の口からはまだ、言えない。」
「飛鳥…俺の親友になら言えるんですか。」
「………………」

俺の言葉に医者は答えを出さないまま、わずかな沈黙が流れる。
遠くでエレベーターの開くような音が、まるですぐ近くで聞こえているように耳に伝わる。
こんな時間だ、病院の中ではさして人は動いていないだろう。辺りは静かで、互いの息を呑む音が聞こえたとき、先に言葉を発したのは医者の方だった。

「…………ああ、むしろ真っ先に話すべきだろうな。彼女ひとりの問題ではないからな。」
「…それ、どういう意味で…」
「もう、今日は帰りなさい。恐らく彼女は明日まで起きないよ。」

医者はそう言い残すと、俺の視線を振り切るように足早に立ち去って行く。
…残念なことに、今の医者の言葉だけで俺は結意ちゃんに何が起こったのか。それがわかってしまった。

738 ◆UDPETPayJA:2013/07/26(金) 07:31:26 ID:35uqTW2k

「うっ………く、あ、あっ……! 」

俺は膝から崩れ落ち、床に拳を打つ。
悔しさが、腹の底から込み上げてくる。だけど駄目だ。この感情を吐き出すなら、せめて外に出なければ。
鉛よりも重く感じる足に力を入れる。無理矢理立ち上がり、ろくに前も見ないまま階段へ向かい、下っていく。
結意ちゃんの処置室は、亜朱架さんの手術室と同じ2階にある。外へ出るまで、そうかからない。
正面玄関はすでに閉じられているので、救急外来口から出るしかない。少し探したが、すぐに見つかった。とにかく、早く外へ…
救急外来口には受付係と思しき人影があったが、そいつはただ機械的に「お気をつけてー」と言うだけで、俺の顔など恐らく見もしなかったろう。
好都合だった。こんな、まるで屍鬼のようにふらふらしながら歩いている姿を見られでもしたら、呼び止められたかもしれない。

外は当然の如く暗闇で、街灯と救急外来の電気がついている以外はほとんど光がなかった。少し歩けばその街灯の前につく。ここならいいだろう。

「───あァぁぁぁぁぁぁッ!!」

その街灯の柱に、俺は拳を思い切り打ち込んだ。それも1度じゃない。何度も、何度も。
骨が砕ける音が聞こえた。柱には血の痕がつく。そのうち頭突きまで織り交ぜては、身体を痛めつけていく。どうせ30分もせずに治るんだ。あの日折れた前歯も、そのくらいで生えてきた。いくら傷つけたって、意味がない。
ただ生きているだけのモノ、今の俺はまさにそれだ。守りたいものも守れずに、ただのうのうと生きているだけの───!
こんな俺に、何の価値があるというんだ。誰か殺してくれよ。俺はそんな事を脳裏に思い描いていた。

「うぅぅぅぁぁぁ、らあぁァァァ!!」

さらに強く、加速度的に、柱に八つ当たりをする。───人が見れば、狂っている、と思うだろう。
狂っていたらどんなにいいか。そうすれば、誰かを守りたかったなんて思わずに済むんだから。結意ちゃんの失ったものに比べれば、俺なんて…
そうしてどれだけの間、自傷していただろうか。いつしか腕に力が入らなくなり、嗚咽を漏らしながら地面に突っ伏した。

「ちきしょう……俺は……俺はぁ…っ…」

身体の再生が始まっているのが感じ取れた。柱に血痕だけを残し、俺の身体は数分もすれば、もとの傷無しに戻るのだ。
そこに、見計らったように携帯電話がぶるぶると震え始めた。
…なんてこった。佐橋からの電話からこっち、電源を付けっ放しだったのか。しかも、また佐橋からの着信ときた。
それもそのはず、俺が携帯でまともに会話するのは、飛鳥ちゃんと佐橋ぐらいしかいないんだから。
俺は激しい義務感を抱きながら電話をとった。


『その様子だと、間に合わなかったみたいだな…』
「そっちこそ…俺の情けねえざまを、″視て″たんだな。」
『…今回の件は、お前の責任じゃあない。そう言うのは簡単だがな。あえて止めなかったのは、かつて俺も同じ思いをした事があったからだ。』
「同じ思い、だと? こんな惨めな思いを、お前もしたってのか。」
『惨めな思いならいつもしているさ。俺の予知は、ほぼ必ず当たるんだからな。』

必ず当たる。それは、どんなに最悪な未来が見えても、それを変えることができなかった、という意味だ。
それは佐橋にとって、これ以上ない皮肉だろう。

『………端的に言うとだな、俺は恋人を守るために、実の妹を見殺しにしたことがある。それだけの事だ…』
「えっ…?」

なんだよ、それじゃあ俺どころか、飛鳥ちゃんと同じじゃないか? その言葉は喉まで出かかったが、押しとどめた。
そんな事、今更言うまでもない。

『本命に入るぞ。聞け、斎木。』佐橋の声に、緊張の糸が走った気がした。

739 ◆UDPETPayJA:2013/07/26(金) 07:36:14 ID:35uqTW2k
『お前たちの話だと、穂坂の家には瀬野が案内したんだよな?』
「ああ、そうだ。」
『そして、織原が窓ガラスを割って侵入…激情に任せ、瀬野に暴行を加え、お前は前歯を折られた。まるで物盗りが入り込んだようなサマだな。
なのになぜ、お前たちの所へ誰も来ない?』
「えっ…誰も…?」
『穂坂と父親がその家にいて、瀬野とは関係がなかったとするならば、普通は空き巣を疑うだろ?
何せ、食器はぐちゃぐちゃ。瀬野の血が飛び散り、お前の歯も落ちている。土足なら、足跡もある。指紋もある。』
「そ、それは…誰も帰らなかったからだろ?」
『その通りだ。あの家にはお前たち以外はあれ以降入っていないだろう。
しかし、今日確認しに行ったら、お前の言っていた痕跡など何もなかったぞ。』
「な…どういうことだ?」
『誰かが後始末したんだろうよ。警察沙汰になると困る、と思って。
まあ、これならどうだ? 瀬野 遥は現在″父親″と同居し、穂坂は″母親″と同居していたが、父親が仕送りを送っていたらしい。』

…待てよ。それでは逆だ。確か瀬野は、穂坂が父方で、瀬野が母方だと言っていた。

『さらに、父親は出張が多い仕事で、現在も中国へ出向いている。母親はどうやら新しい男を…まあいいか。』
「おい、そんなのどこで調べたんだよ…?」
『俺の友人にはな、そういう調べ事が得意な奴がいるんだよ。2日もあればあらかたわかる。
わかるか? お前たちは騙されたんだよ、瀬野に。』
「騙されたって…どういう意味だよ!?」
『あの家は瀬野の家だ。ご丁寧に表札をすり替えたようだがな。俺が見た穂坂の家の表札は、明らかに真新しいものだった。
そもそもだ、母子家庭に、バイクを買ったりメイド服を大量入荷する財力などあるわけないだろう。
あれは恐らく父親の小遣いみたいなもんだろうよ。
瀬野の目的は、アジトの在り処を撹乱すること。自宅でなければどこだ、と思わせること。
一度無駄足を踏ませれば、もうそこへ行くことはないだろうからな。なら簡単だ。穂坂は母方の家にいる。』
「穂坂の…母親の家? け、けどそんな事をして瀬野に何の得がある!?」
『単純だ。あの男はまだ織原の事を諦めてはいない。穂坂が神坂を、瀬野が織原を。恐らくそういった流れだろう。
まあ、織原の方は瀬野を選ぶくらいなら命を断つかもしれんが。』

………何てことだ。確かに、思い返せばあの場面での瀬野の登場は、でき過ぎていたようにも感じる。
全部、俺たちをミスリードさせるための行動だとしたら…
冷めていた身体に、熱が戻っていく。怒りと、単純な罠に気付かなかった苛立ちとで。

『気持ちはわかるが、落ち着けよ。まずは明日まで待て。俺にも準備がある。
とりあえずは、朝になったら織原に顔でも出せ。』

…本当に、あいつは頭の回りが早い奴だ。俺のやることなすこと、全て先読みしてるかのような言葉ばかりだ。
通話を終えると俺は、傷があらかた塞がったのを確認してから、今度はバス停へと向かった。
少しだけ気持ちが落ち着くと、今度は冷えた外気が身体にまとわりつく。バスもあまり本数が残っていない。
とにかく、今は明日を待つばかりだ。

740 ◆UDPETPayJA:2013/07/26(金) 07:37:40 ID:35uqTW2k

* * * * *


───声が、聞こえる。

貴女の大事なものを、全て奪ってやる、と。
私の大事なものを奪った、貴女を許さない、と。

呪詛を吐くのは、まるで鏡に写したように、私と瓜二つのソレ。
私も人のこと言えた義理じゃないけれど、明確な悪意の塊のような女。
世界の全てを敵だとでも思っているかのような、鋭い眼差しで女は私を睨む。

女としての幸せ、母としての幸せ、そして、生きることの幸せ。
ひとつずつ、捥いでいってあげる。
覚悟なさい、楽に終わらせてなんてあげないから───


女の声が遠ざかる。海の底から上がっていくように、私の意識は外を向き始めた。


───耳に入ってきたのは、何処かで聞いたような電子音。首を傾け、薄ぼんやりとした視界を凝らして、電子音を発する機械は私に繋がれているのだとわかった。


「よう、目が覚めたんだな。」

窓に差す太陽を背景に立っていたのは、斎木くんと、佐橋くんと、三神さん…?
そもそも、どうして私はこんな所にこうしているの? まるで事態が、理解できなかった。

「光(こう)。説明を頼んだ。俺と斎木は外に出てる。」
「わかったよ、歩。」
「…辛い役割をさせて、すまない。」
「女の僕にしかできないことなんだから、仕方ないよ。どうか気に病まないで。
ちゃんと、最後まで僕に任せて?」

柔らかい声で佐橋くんと話しているのは、佐橋くんの彼女である三神 光。
長く伸びた綺麗な黒髪と、大人びた容姿に反してどこか幼げな雰囲気。そして、少し変わった口調の彼女だけがここに残り、男の子2人は外へ出た。

「…………話をする前に、覚悟をしておいて欲しい。僕は、先にお医者様から話を聞いたんだ。僕から伝えるから、って言ってね。
先に歩が言い当てなきゃ、教えてくれなかったろうけどね…。」
「覚悟…? 私は、何かの病気だとか…?」
「………その方が、良かったかもしれないよ。」そう語りだす三神さんの顔つきは、翳りを見せ始める。一体、何を話そうっていうの…。

「いいかい、結意さん。君はね………流産したんだよ。」
「…………………え、な…?」流産、だって? そんな、何を言っているのか、わからない。

「…やっぱり、自覚がなかったんだね。でも、心当たりはあったはずだよ。君のお腹には確かに、命が宿っていたんだ。…それが、昨日失われた。」

血の気がまたたく間に引いていく。三神さんの言葉が、ひとつずつ心を刺す。身体はわけもなく震え始め、胸に深い穴が穿たれたように、息をつくこともできない。
そうだ。思えば私達は、1度たりとも避妊をしなかった。できていて、当然の………

「…本当に、残念だったよ。でもね、結意さん…」
「…う……あ、あぁっ、わ、わたしはぁ…」
「どうか落ち着いて、結意さん!」少し語尾を強めて、三神さんは続ける。「君の身体も、危なかったんだよ? 助かったことだけでも…」

無理を言う。飛鳥くんのために生きると決めたのに、何も守れなくて、それどころか、私は大事なものを失ったのに!

「あぁぁぁぁぁっ、イヤあぁぁぁぁぁあ!」

…気が付けば、私は狂ったように叫び出していた。

741 ◆UDPETPayJA:2013/07/26(金) 07:40:16 ID:35uqTW2k
頭を抱え、髪をぐしゃぐしゃに掻き毟り、そのうちの何本かがちぎれる。

「かえして!! 何でもするからかえ゛じて!!
かえして、かえしてよぉ!! う゛あぁぁぁぁぁぁ!!」

素直に狂えていれば、まだ楽だったかも。かつて、私は飛鳥くんに捨てられて心身共にずたずたになったことがあった。それは亜朱架さんのせいであって、飛鳥くんのせいではなかったのだけど。
…そんな痛みなど、今のこの苦しみに比べればまだぬるい。
飛鳥くんと繋がった証。飛鳥くんのほしかった、家族という存在。
もう何も失いたくないと飛鳥くんはいっていたのに、わたしは、まもれなかった。
こんなわたしに、なんのかちがあるの。どうしてまだ、いきていられるの。
あいしたひとは、うばわれたままで。こんなわたしをみたら、こんどこそすてられる。
そんなのはイヤ。いっそ、ころして。
ころして、ころしてころしてころしてころしてころしてこロシてころしてころしてころしてころしてころしてころして殺しテころしてころしてころシてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころして───

「結意さんっ!!」

不意に、わたしのからだが押さえつけられる。三神さんが、抱きつく形で押し倒したのだ。

「そんなこと言っちゃダメだ! いいかい、絶対に僕は君を殺したりなんかしない! 他のみんなだってそうだ!
第一、君が死んだら彼だって悲しむだろう!?」

ベッドに押し倒されて、押さえつけられてもまだわたしはもがき続ける。そんな言葉に意味はない、わたしはもう、生きていられない。

「…っ、まだそんなことを! そんな事は、絶対許さないから!」

ぐい、と顔を押さえつけられる。無理矢理正面に向けられる。私と、彼女の距離が縮まる。それは───

「──────ん、っ!? はぁ、あ、んんっ、んちゅ…んぁ!」」

彼女の唇が、わたしのソレと重なる。口で荒く息をついていた私の呼吸は塞がれ、苦しさで意識が引き戻される。
もがいても、彼女は決して離すまいと力を込める。
唇と唇が触れ合うけれど、そこから伝わるのは卑しい感情などではなく、彼女の覚悟だった。

「っ、はぁ……この唇に誓うよ。僕は絶対に君を死なせない。みんなと一緒に守ってみせる。だからどうか、その命を棄てないで。生きることをやめないで! 神坂くんを守れるのは、君しかいないんでしょ!?」

大粒の涙を流しながら、彼女は言う。幼げな雰囲気だなんて、とんでもなかった。彼女はこんなにも強く、輝いているのに。
…そうだ。わたしは飛鳥くんの為に生きなきゃいけないんだ。
気づいてすらあげられなかった、失われた命。その傷はきっと癒える事はない。何度も泣くかもしれないけれど。
わたしが、飛鳥くんを助けてあげなきゃいけないんだ。そして、今度こそ…

「………うん。わたしが、やらなきゃいけないんだ。」

742 ◆UDPETPayJA:2013/07/26(金) 07:41:29 ID:35uqTW2k

* * * * *


時同じくして、壁を挟んで廊下側に、俺と佐橋は待っていた。

「───やるねぇ、カノジョ。いいのかい?」佐橋の前で、わざとらしく軽口をついてみせる。
「構わん。あれにはやましい意図など含まれていない。誓い立てと、ついでに頭を冷やさせただけだろう。」
「ほぉー…随分、行動力がおありで。」
「当然だ。なんせ、俺の″未来″を初めて変えた女だからな?」

佐橋は淡白そうに答えるが、口元がにやついている。あれは絶対の自信と、惚気が混ざった顔だな…。

「さて、と行きますか?」俺は佐橋の肩をぽん、と叩き、確認する。
「ああ、行こうか。俺の予知とお前の不死身があれば、すぐにカタはつくさ。」そう言うと俺たちは女子2人を残して、病室から離れていく。
全てのケリをつけるために。


───待ってろよ、結意ちゃん。すぐにアイツを取り返してくるからな。

743 ◆UDPETPayJA:2013/07/26(金) 07:43:41 ID:35uqTW2k
第28話終了です。

…投稿し終えてから、題名書き忘れたのに気づきました…
題名は、【天使のような悪魔たち 第28話】です。

744雌豚のにおい@774人目:2013/07/26(金) 11:39:36 ID:pULGkg1M
>>743
GJ
こんなに長編続けられるって凄いわ

745 ◆VZaoqvvFRY:2013/07/28(日) 14:35:56 ID:KnP.Loyw
投下しますよ
最終回
グロ描写注意

746子猫の願い:2013/07/28(日) 14:37:10 ID:KnP.Loyw
 これは、賭けだ。耕平はそう思っていた。
 現在の状況でミー子を助けるには、とにかく拘束を外して自由を得ないことには話にならない。ただ、それを成し遂げるには実力行使しかないという事も分かっていた。静音はもはや説得できる相手ではなくなっている。
 となれば、ミー子自身の能力に頼るしかない。今のままでは勝てないが、耕平の推測が正しければ、ミー子の力の源泉はその嫉妬心にあるはずだった。それを煽ってより以上の力を引き出す。単純で馬鹿馬鹿しい方法だが他に思いつかない以上仕方がない。
 とは言えミー子が自身の力を完全にコントロールできているわけでもなく、暴走してしまう可能性や、下手をすれば意気消沈して全てを諦めてしまう危険性もあった。そもそも嫉妬心が本当に引き金になっているのかどうか。
 それでも賭けたのだ。ならばどう転んでも責任はすべて自分にある。耕平はそう腹をくくった。
 一方の静音は接吻された直後、目を見開いて硬直した。自身に何が起きたのかを理解していないようであった。
 だがそれも本当に一瞬の事で、唇を合わせたまま耕平の頬を挟んでいた両手をそのまま頭と背中に回し、抱きかかえると舌を差し込んできた。
 耕平の歯、歯茎、唇の裏側に至るまで舐め回し、唾液を吸い上げて飲み込み、唇を唇で挟んで舌でなぞる。耕平は口を合わせたまま固く閉じていたが、それを執拗にこじ開けようとする。しかも一連の行為の間、静音は目を最大限に開いて瞬きすらせず、耕平を舐めるように見つめていた。
 なすがままにされ、耕平は視線を部屋の角にいるミー子に向ける。

 床にくの字に転がったまま、しかしミー子は見ていた。その接吻、というよりも耕平が静音になぶられるのを見ていた。
 元々白磁のように白かった肌が、血の気が引いて蒼白というに相応しい顔色になっている。黄色い右目と青い左目は、焦点を失ったかのようで耕平には両目とも灰色に見えた。
 美しい唇も青白く半開きとなり「あ……あ……あ……あ…………」という呟きを繰り返す。
「コーヘイがキスをしてる、コーヘイがキスをしてる……ミー子以外の相手と……なんでなんでなんでなんでなんで。おかしいおかしいおかしいおかしい。そんなの間違ってるよ、許されない……コーヘイが、コーヘイが、コーヘイ……」
 そしてやっと出たその言葉も、しばらく続いてはいたがやがて途切れた。
 だが数瞬後、静音が耕平の口を貪る音だけが聞こえていた室内に、ミー子の小さな、しかし地獄の番犬も尻尾を巻いて逃げだしそうになるほどの憎悪の声が響く。
「よくも……」
 ミー子の両目に雷火が灯った。
「よくもよくもよくもよくもよくもよくも! ミー子だってまだなのに! ぶっ殺してやる! この薄汚い鳥公が!」
 瞬間、部屋の中に竜巻が発生する。
 ミー子を中心に冷気が渦を巻き、突風となったのだ。家具や本など部屋中にあるものがそれに合わせるように暴れまわり、壁や天井に激突した。ベッドですら浮き上がり激しく動き出す。
 静音は異変に気づき、名残惜しそうに耕平との間に唾液の糸を引きながら唇を放して立ち上がると、その場でミー子に相対する。そしてその瞬間、宙に浮いていた物品は一斉に静音に向かって突撃した。常人では到底避けえない速度で。
 だがそれらはやはり途中で動きを止める。今度は静音の手前二十センチメートルといった所で固定され、そのまま落下した。
「学習しないわね。そんなもの無駄だって何回やれば分かるのかしら?」
 両手を腰に当て、小首を傾げた姿勢で心底呆れたように静音は話しかける。
「まあいいわ。貴女に付き合うのもこれが最後、本当に終わりにして……?」
 歩み寄ろうとした静音の動きが、なぜか言葉と共に止まる。そして、訝しげに眉を歪めると腰をかがめ、自分の両掌を目の前にかざし、それが僅かに震えているのを目にした。次に両足も震えだしたのに気付くと口元をだらしなく開き、嘔吐するような呻き声を出す。
 その足元で耕平は、静音の身体が異常に発熱しているのに気付いた。傍らにいるだけで暑さを感じる程の熱波が静音から放出されている。
 部屋の中はミー子の発した冷気が今だ渦巻いており、尋常でなく、それこそ冷蔵庫の中にいるのではないかと思える程に室温は下がっていた。それなのに……と、そこまで考えて耕平は思い出す。
 あの時もそうだった、ミー子が初めて力を発動させた時、その冷気が充満した部屋の中でビールが沸騰していた。
「ミー子、やめろ!」

747子猫の願い:2013/07/28(日) 14:38:19 ID:KnP.Loyw
 耕平がそう叫ぶと同時に、静音は両生類が潰される時のような醜い呻き声をあげると、一歩前に出て頽れた。口から涎を流し、全身から湯気を上げ、その肉体は白く変色し、さらに肌がめくれる様に剥がれ、ただれていく。眼球が白濁し泡立つのを耕平は見た。
 全身の体液を沸騰させられたのだ。

 自身の両膝と両手が軽くなるのを感じた耕平は、拘束が外れたのを覚ると、立ち上がりミー子の下に駆け寄る。
 部屋の角で力を使い果たしたかのように目を閉じ、倒れていたミー子の脇に膝をついて座り、体を仰向けにして頭の後ろに手を回し上半身を抱きかかえる。そして必死にミー子の名を呼んだ。
 何度目かの呼びかけをした時、ミー子は薄く眼を開いた。
「コーヘイ……」
「ミー子! 大丈夫か? 痛いところはないか?」
 その問いには答えずにミー子はそのまま抱き付く。耕平は背中に爪を立てられるのを感じた。
「許さないから……。コーヘイを苛める人や、コーヘイに近づく女は絶対に許さないから……」
 胸に顔をうずめて目を閉じ、ミー子はその言葉を繰り返す。それを聞いて「なんだか前にも似たようなことを言われた気がするな」と、そう思いつつも耕平はミー子を抱き返した。猫の体臭のような、しかし甘い少女の香りが鼻腔に広がった。

 だが次の瞬間、室内が直射日光を受けたかのように明るくなる。それに気づいた耕平はミー子から体を離し、ミー子も目を開いた。
 その光は二人の背後から、部屋中を彩るように伸びてきている。
 倒れた静音の体が強く発光しており、今や人間大の光の塊となっていたのだ。
 耕平は手を目の前にかざし、ミー子は耕平にしがみついたまま牙をむいて、威嚇の姿勢をとる。
 光の塊は今回も白い衣をまとった少女となり、そして羽を最大限に広げて立ち上った。目を血走らせ、こめかみに青筋を立てて美しい口を開く。
「やってくれたわね、この化け猫」
 ミー子を床に座らせたまま耕平は立ち上がり、進み出て天使と向かい合う。
「それが静音さん、貴女の本当の姿なんですか」
「はい、そうですわ。こんな形でお見せすることになるとは思いませんでしたが」
 薄っすらと頬を赤らめて天使が答えた。
「耕平さん、そこをどいて下さい。先ほども言いましたように、私はその化け猫を殺さなければならないんです。使命として、そして私自身の為に」
「お断りします」
 耕平は即答する。
「なぜですの?」
「ミー子を殺させるわけにはいきません」
「こういう事を言うのは心苦しいのですが、私を止められるとお思いですか?」
「……無理かもしれません。でも静音さんも相当ダメージがあるように俺には見えます。ミー子だけはなんとか逃がしてみせますよ」
 虚勢である。耕平にはミー子を助けられる自信はこの時、ない。そもそもミー子が大人しく逃げるとも思われない。
 とは言え最悪の状況は脱したのだ。ミー子が期待に応えてくれた以上、今度は自分がやらなければならない、そう思っていた。
 天使は両目に嫉妬の炎を宿す。
「耕平さん、よく考えてください。その猫が取り交わした契約は今速やかに死ぬことで解除されます。それ以外に方法はありません。そして、その魂が解放された後で貴方と私が結ばれる。それで皆救われるのですよ?」
「駄目です、お断りします」
「なぜですか?」
「俺の幸せはミー子が幸せになることです」
 そこで一拍置いて、言葉をつづける。半ばは自分に言い聞かせるためだった。
「多分俺の我がままなんでしょうけど、今ここで死ぬことがミー子の幸せだとは思えません。ミー子が不幸なら、俺も不幸です。だから俺自身のためにも静音さんの申し出はお断りします」
 天使の髪が比喩でなく逆立った。
 しかしミー子に対する嫉みの感情を激しくすると同時に、少年の純粋さと青年の覚悟が混じり合ったその言葉を受けて、またも天使は魅了される。
 目の前の男のやや癖のある髪、柔和であり秀麗と言ってもよい整った、しかしどこが悪戯っぽさを残した顔、整った体躯。その全てに酔いしれた。
 そして視線を相手の目に向けた時――その中にあるものを見た。
「……?」
 天使が口を開け、目を見開き、頭を両手で抱えて絶望の翳りをその表情に浮かべたのを耕平は見て、訝しげに思うと同時にやや警戒を解いた。明らかに様子がおかしい。
 声をかけようとしたが、天使が顔を上げてそれを遮る。
「耕平さん、それとそこの化け猫、二人とも動かないでください。心配しなくても危害は加えません」
 そう言って右手を耕平とミー子に向かってかざすと、目を閉じた。

748子猫の願い:2013/07/28(日) 14:39:36 ID:KnP.Loyw
 十数秒後、耕平はまたしても天使の体が光りだしたように感じたのだが、これは間違いである。発光していたのは耕平自身と、その後ろから耕平に抱き付いているミー子であった。
 二人から発している光は白色で、周囲に半球を形作る。そして収束して一筋の光となり、直上に伸びてそのまま天井を突き抜けて上って行ったようであった。
 深夜ではあったが、この時耕平のアパートから闇夜を突き抜け、天に向かって走る光線を多くの人が目にしている。大多数は今の現象は何だろう、と疑問に思いつつも特に気にかけずに忘れてしまったが。
 続いて、今度は間違いなく天使の体が輝き、形を変えていく。そして黒いパンツスーツ姿の美女、河原崎静音の姿を取った。
 ミー子によって破壊される前の美しい姿を寸分の狂いもなく再現していたのだが、変身が終わると同時に静音は片膝をつくと、咳き込んで口からわずかに血を吐いた。
「この化け猫が……内臓までボロボロにしてくれたおかげで、完全に修復するには時間がかかりそうよ」
 青白い肌に口元から伸びた一筋血の流れが首筋まで垂れて、それが美貌を損なうよりもむしろ映えて妖艶な魅力を醸し出している。
「大丈夫ですか?」
 自分でも間が抜けてると思いつつ耕平は静音の体を気遣う。静音はそれに微笑で応えた。偽りなく本心から耕平は安堵して、静音に問いかける。
「ところで静音さん、さっき俺達に……」
「それについては今は知る必要はありませんわ。いずれ時が来ればお話しすることもあると思います」
 静音は体の埃を払いながら立ち上がり、ハンカチを取り出して口元をぬぐった。
「ただ、先程お二人に施した術式と、その前の負傷もあるので、今日はこれ以上力を使えそうもありません。残念ですが引き上げます。お邪魔いたしました」
 口調からは悔恨は感じさせない。静音は毅然としてそう言うと、耕平に向かって一礼し踵を返して玄関に向かう。
 ドアを開け、そこで一度動きを止めて振り返る。
「でも耕平さん、貴方は私のもの。必ず手に入れてみせます。待っていてください」
 凛として、耕平を真っ直ぐに見据えて一ミリたりとも迷いなくそう告げる静音を、耕平は素直に美しいと思った。もっとも、その静音を睨み、威嚇して耕平に抱き付くミー子の爪の痛みで直ぐ我に返ったが。
 軋んでドアが閉じ、静音が去っていく足音をミー子はじっと聞いていた。

「ミー子」
「なに?」
「これ、どうしようか」
 部屋の中でミー子と二人、ベッドで横になりながら周囲を見回して耕平は尋ねる。
 まさに台風一過というべきか、ミー子の力によってありとあらゆる家具、物品、衣服に至るまでが散乱していた。今二人がいるベッドにしても普段の位置にはなく、ほぼ部屋の中央にある。また、冷蔵庫が逆さまになっているのを見た時にはさすがに絶句した。
「うー……」
 ミー子は両手の人差し指を合わせ、困ったように耳も垂らして唸った。その頭を撫でてやりながら、耕平は微笑む。
「まあ幸い明日は……もう今日だけど、休みだしな。二人で片付ければ割と早く終わるんじゃないかな」
「ニャ!」
 嬉しそうにミー子は鳴くと、耕平に抱き付いて首筋を胸元にこすりつける。それをしばらく続けていたが、やがて胸元からせりあがると、そのまま耕平に覆いかぶさる格好となり、顔を正面から見つめた。
「コーヘイ……」
「ミー子……」
 目を潤ませ、発情の色を肌に表わしてミー子は顔を近づける。そして、唇が重ねられようとしたその時、耕平は口を開いた
「交尾ならしないぞ」
「ニャ!?」
 その言葉に上体を起こしてミー子は抗議の声を上げる
「なんでだニャ!? いますっごく盛り上がって、愛が頂点に達した感じになったニャ!」
「なんだそれは。静音さんが言ってたろ、ミー子と恋人になると悪魔に魂が取られる事が決定するから駄目」
「そ、そんニャ!」
 今度は発情ではなく悲嘆のあまり目を潤ませると、ミー子は縋り付いてくる。
「じゃあ先っちょだけでいいから」
「駄目」
「じゃあ指二本だけでも」
「駄目」
「じゃあ指の第一関節まで」
「駄目ったら駄目」
「じゃ、じゃあせめてキスだけでも……」
「それも駄目」
「なんでだニャ!?」
 キスしたら俺が我慢できなくなる、とはさすがに言えず、耕平は「とにかく駄目」とだけ繰り返した。
「生殺しだニャー!」
 ミー子の悲痛な叫びが部屋の中に響き渡る。それを聞いた耕平はミー子の頭を抱えて両手で抱きしめると思考の海に沈んだ。
 色々なことがありすぎたが問題は解決しないどころか、余計ややこしくなった気がする。

749子猫の願い:2013/07/28(日) 14:41:00 ID:KnP.Loyw
 やるべきことは、ミー子の魂が悪魔に取られることを阻止する事。その為にも契約が終了するのは避けなければならない。それがこれからの第一目標となるが、さて、自分自身どこまでミー子の誘惑に耐えられるだろうか。全く自信がなかった。
 こうなったら、自分も地獄へ行く方法を探した方が早いかもしれないな、と、そう考える。そうすればミー子の傍に居られるし、二人一緒ならどんな環境でも少なくとも寂しくはないのではないか……馬鹿な考えだろうか。
「今度静音さんに会った時にどうやれば地獄へ行けるか聞いてみようか。素直に教えてくれるとは思えないし、正直に言えばしばらくは会いたくないんだけどね……」
 その独白は小さすぎてミー子の耳にも届かなかった。

 ――――――

 加藤の運転するアウディで帰宅した静音は、玄関の敷居をまたぐと真っ直ぐに自室へと向かう。
 入室直前、付き従っていた加藤に声をかける
「朝まで、私への取次ぎは一切不要です。誰一人入らないように」
「かしこまりました」
「今度裏切ったら容赦しないわよ」
 ドライアイスの剃刀で切り付けるようなその声音に加藤は大量の冷や汗を流し、最敬礼して静音が入室するのを見送った。

「そろそろのはずだけど……」
 静音は個室としては広すぎるその部屋の中央で、スーツ姿のまま何かを待っていた。
 天蓋付きのベッドを始めとしてピンクで色調が整えられた家具類や、花形をした窓があるその部屋は、本来であれば訪れる者に女性らしい柔らかさと可愛らしさを感じさせただろう。だが今は照明が落とされ、全ては漆黒の闇の中にある。
 やがて部屋の隅に蝋燭の炎ほどの光が現れた。
 それはあっという間に強さと大きさを増し、激しく輝く光球となると姿を変え、翼を生やした少女となる。
 外見は静音の正体の天使とよく似ていたが、それよりも年長で10代後半程度に見えた。その少女は、翼を羽ばたかせ浮き上がるとゆっくりと移動し、静音の前で着地する。
「お久しぶりね、リントラ。お元気そうで何よりだわ」
 静音がそう声をかける。
「ああ、まったくもってしばらくぶりだ。君も元気……というかそんな姿になっているとは。人間と同化したのか、それは」
 リントラと呼ばれた天使は眉根を寄せてそう答えた。
「これについてはまた後ほど説明するわ。それより、私が依頼した件について、報告を頂けるかしら」
「随分と性急だな。まあいいだろう。サリュ……」
「その名前は必要ないわ。私の事は静音って呼んでいただける?」
 リントラは今度は片眉を上げ、静音に説明を求めた。
「この体と同化しているからかしら。そう呼ばれた方がこう、しっくりくるのよ」
 子供の悪戯に付き合う大人のようにリントラは苦笑いをしたが、素直に静音の要求を受け入れた。
「分かった、君がそう言うならまあいいだろう。じゃあ静音、依頼のあった二人が死後どうなるかを知りたい、という事だったな」
 静音は首肯し続く言葉を待つ。
「まず、君が言う所の化け猫だが。これは間違いない、魂は悪魔に取られるから地獄行きだな」
「やはりね。しかし、悪魔との契約はまだ終了してないわ。今すぐ死んだとしたらどうなるのかしら?」
「君が分からないとは思えないが」
「今の天国の正確な判断を知りたいのよ」
 リントラは肩をすくめる。
「今すぐ死んでも悪魔によって化け猫、つまりは妖魔にされてしまっているからな。地獄行きだ」
「契約が終了しようとしまいと関係ない、という事ね?」
「そうだ。正確に言えば死んだ後、直ぐに魂が悪魔のものとなるか、しばらく地獄を彷徨うか、その違いだけだな。不浄なものを天国は受け入れるわけにはいかない」
 その言葉を飲み込むように静音は頷く。
 ミー子はどうあがいても地獄に落ちる。そうと知れば、耕平は恐らく静音がミー子を殺そうとするのを、先刻以上の覚悟で阻止しようとしただろう。事実を伏せておいた理由はそれであった。
「ではその次、吉良耕平という男だが……」
 静音の鼓動が高鳴る。
「これも地獄行きだ」
 その場に人がいれば、空気に霜が走ったように感じられたかもしれない。そして氷結したように固くなった静音の唇は数秒後に開いた。
「……間違いはないのかしら」
「ない。この男は妖魔に魅了されてしまって、魂は既に汚れている。いい素質を持っていたようだが、惜しいな。とは言ってもこの妖魔のためなら神様にすら逆らいかねん、そこまで染まってしまっている」
 リントラの目の前で静音は姿勢も表情も微動だにしない。その口だけが動き続ける。
「天国に行く方法はもうないのかしら?」

750子猫の願い:2013/07/28(日) 14:43:44 ID:KnP.Loyw
「無理だ。君の方がよく分かっていると思うが、一度妖魔に魅入られたらそれで終わりだ。だからこそ君にしろ他の天使達にしろ悪魔や妖魔排除の任を負っているわけだが」
 聞いた静音は目を閉じ長嘆息する。そして上を向いて目を見開き天井を、さらにはその先にあるものを見つめていた。
 長い時間そうしていたのだが、やがて顔を正面、リントラの方に向ける。この時静音は決心していた。
「分かったわ。じゃあもう報告は結構よ」
「そうか。それで、これからどうするんだ?」
「天国に帰るわ」
「なに?」
 その言葉は驚愕の叫びであった。
「ちょっと待て、言っていることが分かっているのか?」
「ええ、分かっているわ」
 リントラの動揺に対比して、静音は氷塊のように冷徹に答える。
「分かっているなら再確認させてもらうが、君の報告にあった化け猫、こいつは妖魔だ。そしてそれを見つけたのは君だ。つまり……」
「私はその化け猫を退治しなければならない、その使命がある、かしら?」
「その通り。そしてそれを成し遂げず天国に帰るとなると……」
「……私は神様の命令に背いたことになるわね。罰として地獄に落とされて堕天使となるわ」
「そこまで分かっていてなぜ?」
 それが望みだからよ、と静音は心の中で思う。
 それ以外に方法はないのだ。耕平が地獄に行く、それを阻止する手段がないというのなら、自分が地獄に行くしかないではないか。そしてそこに最後の希望があった。
 静音にとっては痛恨の極みだが、耕平とミー子、あの二人は遅かれ早かれ結ばれるだろう。だがそうなれば死後ミー子の魂は悪魔の物となるが、耕平の魂は地獄を彷徨い、離ればなれとなる。そして耕平の魂を堕天使となった自分が手に入れるつもりだった。そうなったらもう二度と離しはしない、永遠に手元で愛し続ける。
「人間と同化したり、どうも色々無茶をしすぎたようだし、情状酌量の余地があるとも思えん。まず確実に地獄行きだぞ?」
「分かっているわ。何度も言わせないで、私は天国に帰る」
 毅然としたその言葉に、リントラも説得の余地がないことを悟る。今度は彼女が長嘆息した。
「人間として生活しているのなら、家族もいるだろう。その人達にはどう説明するつもりだ?」
「説明なんかいらないわよ、元々死んでいる予定の人間だし。明日倒れているのを見つけて騒ぎにはなるでしょうけど」
 冷然と突き放し、静音は肉体から自身を解き放つために目を閉じ両手を胸の前で組んで瞑想を始めた。
「じゃあ善は急げじゃないけど、この体ともさようなら、ね」
 そしてかすかに口元を動かす。リントラは何かを言おうしたが、結局諦めてその姿を見守っていた。
「……?」
 静音が口を閉じ、眉をしかめる。
「どうした?」
「……引き留められたのよ、この体に」
 瞑想をやめて目を開け、正面を見据えた静音がそう答えた。
「なに? 君以外には魂は入っていないのだろう?」
「ええ、勿論よ。だからこれはただの抜け殻、のはずなんだけど……」
 静音は自身の両掌を見つめた。
「出れないのか?」
 困惑から恐怖へと自身の心が移り変わりつつあるのをリントラは感じていた。有り得ないことが起きている。
「いいえ。強引にやれば問題はなさそうだけど……でも気になるわね。ちょっと時間を頂けるかしら?」
 無言でうなずいたリントラを横目に見て、静音はベッドに歩み寄りそこに腰かけた。
 額に右手の人差し指と中指をあて、再び目を閉じると人間には聞き取れない音階の声を発した。カーテンがそれに反応したように揺れる。
「ちゃんとこの体は精査したのだけれど……もう一度やり直してみるわ」
 静音の全身が淡く光る。その光の各所に光度の強い球形の部分があり、それは機械仕掛けのごとく身体中を走り続けていた。
「足、手、胴体、心臓、その他内臓……それ以外も問題ないわね。となるとやはり脳か」
 静寂した室内に静音の言葉だけが続く。
「深層まで潜り込まないとダメかしらね」
 走っていた光が静音の右手に集まり、そのまま額から頭部に吸い込まれる。
 その瞬間、静音の脳裏に肉体が持つ過去の記憶が次々と再現されていった。それらは次第に過去へ、過去へと遡り続ける。
 静音に見える景色はしだいに朧げになっていき、所々掠れて見えないような箇所も発生していく。そうしてひたすら井戸の底に落ちていくような作業を続けていたが、かなり深い所で固い箱のような記憶にぶつかった。

751子猫の願い:2013/07/28(日) 14:44:14 ID:KnP.Loyw
 静音の意識がそこに集中する。中身を確認しようとしたが、その箱は容易に開かなかった。そこで光を集め、ありとあらゆる手段を用いてこじ開けようとする。箱はそれでも抵抗を続けていたが、やがてひびが入るような感覚があり、破裂した。そして唐突に静音の眼前に鮮やかな光景が広がる。
 そこは市街地にあるブランコと砂場だけの小さな公園で、そこで幼い静音は一人の少年とおもちゃを広げて遊んでいた。
 当時の静音と同年齢と思しき少年を見て、静音――天使はそれが誰かをすぐに覚った。自身の最愛の男の幼児時代の姿がそこにあった。
 だがしかし、それは初めて見る姿でもあった。耕平の母親が死去する前なのであろうか、と、そう考える。
 二人は仲睦まじく遊んでいたが、やがて幼い静音が何かを耕平に話しかける。その言葉は聞こえない。おそらくもう記憶に残っていないのだろう。
 だが耕平はそれを聞いて、何かを決意したかのように強い口調で答え、そして微笑んだ。幼い静音もそれを見て笑う。
 そして二人は小指を出し合うと、指切りをして、何かを約束していた――

 そこで記憶が途切れ、静音は我に返る。
 しばらく茫然としていたが、やがて形の良い唇を酷薄な形に曲げて笑った。
「そんなに大事な約束だったのかしら? 貴女ですら忘れていたのに」
 その言葉を聞いて、横で眺めていたリントラが声をかける。
「どういう事だ?」
「いいえ。リントラ、貴女の事ではないわ……。ふん、先約を主張する気かしらね、この体」
 静音はそこで一呼吸置いて立ち上ると、視線をリントラに向けて告げた。
「天国に帰るのはもうしばらく後ね。まだ人間として生活させてもらうことにしたわ」
 困惑も極まって途方に暮れていたリントラだったが、その言葉を聞いて生き返ったように喜び、静音の手を取った。
「そうか! 思い直してくれたか!」
「そういう訳でもないけどね」
 静音は思う。今回の自分の計画はことごとく計算外の事態によって邪魔され、阻止され続けて来た。挙句耕平の地獄落ちにまでなってしまったが、それによってどうも自暴自棄になっていたらしい。
 確かに今は、耕平を手中に収めるには地獄へ行くしかないように思える。だがそれも自分の計算に過ぎない。計算外の事が起きる、それが今の人間界だ。
 それなら自分には見えないだけで、現状から逆転する方法もあるのではないか。なにしろただの抜け殻だった肉体が自分を引き留めたのだ。こんな事天国にいる天使の大半が信じないだろう。
 ならばやってみせる。ミー子を地獄に落とし、耕平と人間界で結ばれ、その死後は天国で永遠を共にするのだ。それが高望みだとしても、地獄まで耕平を追いかける気持ちは微塵も変わっていない。その覚悟がある限り何でもできる。
「これからどうなるかまだ分からないけど、結果については貴女に最初に伝えさせてもらうわ」
「分かった。今回の君の報告は私の所で止めておく」
 それを聞いて静音は久しぶりの柔らかな微笑みを浮かべた。
「感謝するわ、借りができたわね」
「気にするな。いずれ利子を付けて返してもらう」
 世の男性達が見れば一撃で籠絡されそうなウインクをしてリントラは答えると、羽を広げた。
「ではさようならだ。早く妖魔を退治して帰ってきてくれよな」
 そして巨大な光の球に変身すると、急速に収束していき、小さな炎のようになってそのまま消えた。
 見送った静音はスーツ姿のままベッドに寝転び、枕を抱えて独り言ちる。
「あの化け猫は殺せない、殺せば私は地獄に行く方法を失う。生かしておけば契約が終了し、死ぬと同時に魂は悪魔のもの。耕平さんが地獄に落ちても再会できる可能性はほぼゼロだわ。でもその為には二人が結ばれる必要がある……」
 静音は無意識のうちに手の内に会った枕を引きちぎっていた。中身の白い羽毛が部屋中に飛び出す。
「まあ、私の話を聞いた耕平さんならしばらくは手を出さないでしょうけど。耕平さん……耕平さんの魂を天国に迎え入れる方法を見つければ……」
 そうすれば自分はミー子を遠慮なく抹殺し、使命を果たした天使として天国に帰れる。耕平の死後も天国で共に暮らすことができるのだ。
「難解なパズルだけどね。必ず見つけだしてみせるわ、正解を」
 部屋中に舞い上がる羽毛は雪のように降り、それは自分の未来を祝福してくれているように静音には見えた。

752子猫の願い:2013/07/28(日) 14:51:09 ID:KnP.Loyw
終わり
なんか続きそうだけどここで終わりですます。

しかしスレ住人としてはそこそこ古参だけど
読み専だった俺がSS書く羽目になるとは思わなかったよ
初めてなのによく頑張ったね俺偉いね俺

そういう訳でおまいらも
小ネタでもなんでもいいから書いてくれー

>>743
GJ!
文章書くのって大変だ

753雌豚のにおい@774人目:2013/07/28(日) 16:46:16 ID:s.KY0Fsc
>>752
GJ!

754雌豚のにおい@774人目:2013/07/28(日) 23:07:00 ID:8zzkRAGs
>>752
お見事さまでした。

755雌豚のにおい@774人目:2013/07/29(月) 01:24:59 ID:cR7EfCtA
>>752
完結乙です
個人的には
静音天使タッグの完全勝利を見たかった!

756雌豚のにおい@774人目:2013/07/29(月) 01:56:06 ID:Pzb.nyMo
乙です。


悪魔は最後まで空気でしたね

757雌豚のにおい@774人目:2013/07/29(月) 04:09:27 ID:NnUW.cXA
>>752


こういう終わり方も嫌いじゃないかな

758名無しさん@ピンキー:2013/07/30(火) 00:15:05 ID:gqWja2Xc
久しぶりに来たらぽけ黒が来てた!
諦めないでずっと待ってたかいがあったよ。
GJです。最後まで楽しみにしています。

759雌豚のにおい@774人目:2013/08/03(土) 03:29:56 ID:bkc6/xK.
ポケモン黒来てたのか…
ポポみたいなタイプのヤンデレ久しぶりだった気がするな
完結楽しみにしてる!

760雌豚のにおい@774人目:2013/08/04(日) 18:06:14 ID:RXZhL0pw
気付いたが人外ヤンデレ続いてるな
その方が書きやすいんだろうか

761雌豚のにおい@774人目:2013/08/04(日) 18:08:20 ID:RXZhL0pw
と思ったけどそうでもなかった
無駄レススマソ

762雌豚のにおい@774人目:2013/08/04(日) 18:18:40 ID:.oUtJvvM
青肌の人外お姉様に地の果てまで追われる夢を見た

正夢にならんかな…

763雌豚のにおい@774人目:2013/08/04(日) 18:53:58 ID:vTuDFod2
それで
「あなたが気にいったの。地球人の中であなただけ特別あつかいしてあげるわ」
と言われたら萌える

リルルの台詞だけどな

764雌豚のにおい@774人目:2013/08/04(日) 23:19:15 ID:Fl9ixbXM
>>752
亀ですが、完結お疲れ様でした。非常に続きが気になりますが、
これはこれで美しい幕切れですね。
しかし、三角関係だと思っていたのが、まさかの四角関係。
最後まで意表を突かれっぱなしでした。次の作品、楽しみにしてます。

765雌豚のにおい@774人目:2013/08/05(月) 05:36:34 ID:tKq7GYhw
もうすぐコミケだな………
おまえら
レイヤーさんやサークル参加者の中にヤンデレの女の子とかいるうかもしれない
気に入られてお持ち帰りされんなよ(震え声)

766雌豚のにおい@774人目:2013/08/05(月) 06:31:54 ID:rITMl9cA
その昔病み鍋パーティというものがあってだな
今もあるかは知らんけど

767雌豚のにおい@774人目:2013/08/05(月) 10:17:20 ID:tjkMJYvE
私もまだ若かったので、空鍋かきまわしに行きましたよ…

768雌豚のにおい@774人目:2013/08/05(月) 12:21:05 ID:IpeAldaU
三次自称ヤンデレとかクソブスメンヘラキチガイじゃないですかー!
やめたくなりますよー

769雌豚のにおい@774人目:2013/08/05(月) 21:38:59 ID:rqNlrD0A
言うても、病むほど情熱的な(病的な?)恋って言うのはロマンではあるさね。

770雌豚のにおい@774人目:2013/08/05(月) 22:17:03 ID:soEJrPUQ
ここは二次用スレだからあまり声高には言えないけど
>>769のいうとおり、三次でも「病むほどの愛情」ってのは、男の永遠の憧れではあるかもね
それに付き合って殉ずるか、は別としても・・・

その証左といってはなんだけど、
かの有名な阿部定(惚れた男のチンコ切り取って名前書いて宝物にした女)は、
逮捕後に全国から大量の結婚の申し込みがあったらしい

771雌豚のにおい@774人目:2013/08/05(月) 23:33:45 ID:rITMl9cA
へ?
ここ、二次限定って訳じゃないぞ
過去に実際にあった事件を元にしたSSも書かれたし
まあやたら三次嫌いな人もいるけどな
俺もあんまり好きじゃないし
だから話題になりにくいけど
除外してるってことはない

772雌豚のにおい@774人目:2013/08/05(月) 23:43:38 ID:i3CaOsp2
○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)

773雌豚のにおい@774人目:2013/08/06(火) 00:06:16 ID:tK4hJmjE
ニュースネタは時々
「お?これはいい感じなんじゃないか!?」
と思わせるのがあるんだけど
年齢が45歳とかになってて凹む

774雌豚のにおい@774人目:2013/08/06(火) 04:33:02 ID:4HYfrTGI
山田さんの元恋人容疑者(47)が妻(49)を殺害した事件で、捜査本部によりますと元恋人容疑者は以前から山田さんを付きまとうような行為を繰り返していたとの事です。
次のニュースです。新型バイアグラの開発が~

-30歳で天国

775雌豚のにおい@774人目:2013/08/06(火) 10:50:30 ID:iFaz9dGY
かわいいからヤンデレでも許されるのか
ヤンデレだからかわいいのか

776雌豚のにおい@774人目:2013/08/06(火) 12:37:44 ID:gvrfrHSA
不細工なヤンデレなんて通報対象でしかない

やはり顔が絶対的にものを言う悲しい現実

777雌豚のにおい@774人目:2013/08/06(火) 14:03:04 ID:dxfRTpao
それはツンデレだろうがクーデレだろうがなんでもそうだ

778雌豚のにおい@774人目:2013/08/06(火) 16:21:32 ID:5ZVb0E1.
でも、文字情報だけだと美人かどうかなんてそんな分からんような。
単純な容姿よりも(まぁ、並み以上あるのが理想)デレ要素の破壊力、行動がどれだけ病み可愛いかの方が重要な気がする。
どんな美人でも、単なるストーカーとかはヤン『デレ』では無いと思うんだよな。
いや、上手く伝えられないし、「それはない」って言われたら反論のしようが無いけど。

779雌豚のにおい@774人目:2013/08/06(火) 20:50:44 ID:cvJ1isHg
ホラー描写になるかヤンデレ描写になるかは顔やで
怖い顔のねーちゃんがストーキングしてきて自分の嫁さん殺すホラー作品あったけどあれが美人のねーちゃんなら俺得なわけで

780雌豚のにおい@774人目:2013/08/07(水) 01:00:17 ID:AeGp8KY2
身も蓋もないこと言っちまうと両方重要だわな
大事なのは相乗効果

781雌豚のにおい@774人目:2013/08/07(水) 02:21:21 ID:KT0YsREE
俺さ、ここに加えて小説家になろうも利用してるんだけどさ
ここの誰かで黒の魔王って読んでる人いる?
この作品はヒロインがヤンデレって言われているんだけど
俺が読んで限りではヤンデレじゃなくてただのキチガイなんだわ
ここの人はどう思う?

782雌豚のにおい@774人目:2013/08/07(水) 06:12:55 ID:ZZgBFb7M
ヤンデレの定義の話なら過去に腐るほど議論したから
もううんざりなんだけどなあ

他所は知らんがここでのヤンデレとは>>1に書いてある通り
それ以上でもそれ以下でもない

783雌豚のにおい@774人目:2013/08/07(水) 11:20:48 ID:4AzTcpak
まぁ、この程度ならスレが荒れているわけでもなし、SS投下しにくい雰囲気なわけでもない
適度にスレに活力があって、見ている人がいる、それで作者さんにも意欲が湧いてくれれば

お盆だし、死んだ(殺した?)愛しい彼の魂がヤンデレの元に返ってくる季節
たまには原点回帰があってもいいさ

784雌豚のにおい@774人目:2013/08/07(水) 12:45:10 ID:OghRSEvI
>>781
あれはヤンデレっぽい何か
話の展開上、ヤンデレアピールのためにどうしても非人道行為させるのがちょっと……
明確に病ませるんじゃなくてもっとじわじわくるのが良い

785雌豚のにおい@774人目:2013/08/07(水) 12:51:04 ID:ka0tfcZs
>>781
俺も読んでるけど同じ意見だよ
主人公の為なら誰が(何が)どうなろうと構わない、ってだけのヒロイン達は病んでるとは言えないんじゃないかな
ここのテンプレにも
ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
てあるし、あの作品のヒロインは愛するあまり心を病んだってのとは違うよな

786雌豚のにおい@774人目:2013/08/07(水) 14:14:09 ID:ZZgBFb7M
>>785
こら、意図的に

> ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。

を外すな
まあ黒の魔王とやら読んでないから
どうでもいいんだけどね

787雌豚のにおい@774人目:2013/08/08(木) 08:43:04 ID:9Ig3XWrI
>>773
まさにこれ

【衝撃事件の核心】
“妄想三角関係”で「復讐」検索、“妄想恋敵”にアダルトグッズ送りつけ有罪判決の●●歳既婚女すさまじき“暴走嫉妬心”
 http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130807/waf13080707000000-n1.htm

あえて年齢は伏せといた(´・ω・`)

788雌豚のにおい@774人目:2013/08/08(木) 13:29:49 ID:FTpdu.U6
まあリアルな病み描写を書く参考にはなる
なる、なる……かなあ?
関連ニュースの29歳元ホステスも相当ものすごいな
被害者が亡くなってるからあんまりどうこう言うのはちょっとあれだけど

789雌豚のにおい@774人目:2013/08/08(木) 15:24:27 ID:Yc7osZVg
>>787
男性へのアプローチが少ない感じなのが惜しいな
デレ成分があんま無い

790雌豚のにおい@774人目:2013/08/08(木) 16:15:20 ID:y5B..yCk
>>787
(43)
きっとロリババアなんですよね…?

791雌豚のにおい@774人目:2013/08/09(金) 06:07:53 ID:wQRmdDIc
外見からは性別さえ分からない程老いた科学者と
それを心から尊敬し献身的に支える青年助手

ある日宿願であった秘薬が完成したと連絡を受け
駆けつけた助手の前で科学者はその秘薬を自ら飲んでみせる
すると科学者はみるみる若返りすらりとした美人になる
そしてこの研究は助手と結ばれるためだった、と愛を告白する
助手は科学者として尊敬していたが愛情ではない、と断るが……


BBAなヤンデレの解決策なんてこんなのしか浮かばん

792雌豚のにおい@774人目:2013/08/09(金) 11:14:57 ID:jTgL.Vt2
それだ!!

793雌豚のにおい@774人目:2013/08/09(金) 17:24:53 ID:RxOQ0SUc
ロリババァに限らず、SS読む分には、年齢に対して外見はどうにでも補正できる気もするけどね。

たとえば、見た目10代20代の可愛いお母さんキャラとか、今時のサブカルじゃお約束の1つだし。

794雌豚のにおい@774人目:2013/08/09(金) 18:28:58 ID:yX5LLHso
自分の妄想ですむ

795雌豚のにおい@774人目:2013/08/10(土) 00:24:10 ID:jsZQwNDY
妄想は芸術だ

796雌豚のにおい@774人目:2013/08/11(日) 19:37:49 ID:a7/t7yOs
年齢高いヒロイン誰かいたかなあと考えたら
すげー懐かしいけど「真夜中のよづり」で28歳だった
この辺りがなんだかんだで限界な気もする

797雌豚のにおい@774人目:2013/08/12(月) 01:35:40 ID:7096.KZc
だがそれがいい

798 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:17:08 ID:F.d9Ljgs
ぽけもん黒 最終話これから投下します

799ぽけもん黒  最終話 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:19:13 ID:F.d9Ljgs
 強すぎる日差しと、塩の混じった波しぶきが私の肌を焼く。
 手すりに寄りかかり、きらきらと光る海面を眺めながらため息を吐く。
 彼が難しい話に夢中で、退屈だったから甲板に出てきたのに、失敗だったな。
 ため息をつく私の眼下に広がるのは、どこまでも続く大海原。
 ここは洋上。私は今、船の上にいる。



「もう、香草さん。日焼け止めも無しにこんなところにいたら、体調を悪くしちゃうよ」
 物思いにふけっていると、後ろから声をかけられた。
 私に尻尾がなくてよかった。
 もしそんなものがあれば、恥も外聞もなくぶんぶんと振り回していただろうから。
「ごめんね、つい話が白熱しちゃって」
 その言葉に、私は少し嫉妬してそっぽを向く。
 私以外のものに、夢中にならないで。
「馬鹿にしないでよ。自己管理くらいちゃんとできるわ」
 馬鹿。どうしてこういうとき悪態しか吐けないの?
 素直になれない、自分の性格が心底嫌になる。
「君の健康を守ることは僕の仕事なんだから、ね」
 そういってゴールドは私を抱き寄せる。
 無意識に、顔が真っ赤に染まり、彼の顔を直視できなくなってしまう。
 こうされたら、私が逆らえないのを知っているから彼はこうするのだ。
 まったく、酷い男だ。
「ばか。ばーか」
 私は照れ隠しに悪態をつきながら船内に戻る。
 
 
 

 私達は、トレーナーとそのパートナーとなって世界を回っている。
 ゴールドの夢でもない。私の夢でもない。私達、二人で作った夢。
 シルバーのことがあって、ゴールドはすっかり生きる気力を失ってしまっていた。
 私はそんなゴールドの隣にただ居ることしか出来なかった。
 私が話しかけても、彼は暗い作り笑顔で答えるだけの毎日。
 そんなある日、彼が言った。
「もう、ここで旅を終わりにしようと思うんだ」
 心臓が一拍止まった。
「そ……それってどういうこと?」
 私と一緒にいるのが嫌になったの?
 旅を終えれば、私達はまた他人同士に戻ってしまう。ゴールドと離れ離れ。永遠に離れ離れ。
 そんなのは、絶対に、嫌。
「私は! 私はどうなるのよ! 勝手に決めないでよ!」
 違う。言いたいことはそんなことじゃないのに。私が、私が本当に伝えたいことは……
「ごめん、でも、もう……。それに、これ以上君に迷惑は」
 そこから先は聞きたくなかった。私は頭が真っ白になって
、そして気づいたら、ゴールドにキスをしていた。
 私の口から吐息が漏れる。彼が呆気にとられた顔で私を見ている。
「私は……私は、ゴールドが、好き」
 彼が息を飲むのが分かった。
「ゴールドとずっと一緒にいたいの。だから……終わりなんて言わないで! そばにいさせて! 迷惑なんかじゃない! 迷惑なんかじゃないからぁ!!」
 涙と嗚咽交じりの必死の告白。お世辞にも綺麗なものじゃなかった。だけど、それが私の精一杯だった。
 彼は少し間をおいた後、私の頬に手を這わせた。
 そして、少し微笑んで言葉をつむぐ。
「僕はもう、旅をする理由を失ってしまった。身勝手だけど、もう僕は旅を続けられない」
 ゴールドは笑いながら私の涙を拭う。
「でも、僕が君に迷惑をかけることを許してくれるのなら……二人で暮らそう。戦いなんてない世界で、二人で、平和に」
 不覚にも、心が満たされる心地がした。
 彼は、私と二人で、私だけいればいいといってくれたのだ。
 私だけいれば、他になにもいらないと。彼はそういってくれたのだ。
 それもいいと思った。それはとっても幸せなことだと。
 ……だけど、私はそれを断った。
「何言ってるの! ゴールドはまだまだこれからなんだからね! だってゴールドはこの私が好きになった人なんだから、だから……ゴールドの人生は、これから始まるのよ!」
 私は思ったのだ。ゴールドは、狭い世界しか知らず、偏見に凝り固まっていた私に本物の世界を見せてくれた。
 同種以外何も価値を感じられなかった私を変えてしまった。
 世界はこんなに素敵なものなんだと、私に教えてくれた!
 だから、思ったのだ。
 今度は私の番だ。
 だって変じゃない。
 私に世界の広さを教えてくれたゴールドが、今度は自分から狭い世界に閉じこもろうとするだなんて。
 だから今度は、私がゴールドを変えてみせる。ゴールドの支えになってみせる。
 それに、私はゴールドが特別な人間であることを知っている。。
 彼は今とても弱って、そのせいでこんなことを言っているだけだ。
 彼は、世界に羽ばたく人間なのだ。
 私がいるところは、広い世界で、皆の前で輝く、そんな彼の隣だから。
 驚く彼に、今度は深い口付けを交わした。
 そうして、私達はまた歩き出した。
 今度は、二人で。

800ぽけもん黒  最終話 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:19:43 ID:F.d9Ljgs
 
 
 
 

 本当に世界は広く、険しく、そして美しい。
 負けそうな戦いもあった。眠れない夜もあった。それでも、隣に彼がいてくれたから、私はずっと幸せだった。

 

 私は今、船室で彼と二人でいる。
 そして、船内での供覧試合で傷ついた私の体を労わってくれていた。
 彼の暖かい手が、私の全身を揉み解す。
 そのせいで、私の中の熱は静まるどころかますます高ぶっていた。
「ねぇ、ゴールド……もっと」
 高ぶっていたせいだろう。私は普段はとても口に出来ないことを、半ば朦朧として口走っていた。
「そうだね。けっこう攻撃をうけちゃったからね。ごめん、僕が未熟なせいで」
 そういいながら、彼は私の肢体をより丹念に揉み解す。
 私は彼の冷静な切り替えしに、急に恥ずかしくなってしまった。
「もう! 本当に鈍感なんだから! バカ! バーカ!!」
 彼は困ったように頬を掻く。
「だって、ご両親へのご挨拶もまだなのにさ。こういうのはちゃんとしたいんだ。君が好きだから」
「ま、まだ早いわよそんなの! 何勘違いしてんのよ!」
 ああ、顔が真っ赤に染まっていくのが分かる。彼には私の心なんてすべてお見通しなんだろう。
 私が心の中でいっぱい慌てさせられてるのに、彼はいっつもにこにこしてるのだ。それが私は大好き。
 ゴールドはこうやって本当に私をドキドキさせる。もう、彼のいない生活なんて想像できない。
 そ、それにしても、私のお父さんとお母さんに挨拶なんて、それってけ、けけけ結婚のことよね?
 もう、ゴールドったら気が早すぎ! どれだけ私のこと好きなのよ! ホントに私のこと大好きなのね!
 わ、私と結婚なんて、どれだけ光栄なことか本当に分かってんでしょうね!? ず、頭が高いわ!
 ……でも、いずれは、ね?
 彼は穏やかに微笑んでいる。
 私の愛しい人。私のすべてを変えてくれた人。




――――――――――――――――――――




 
 

「やどりさん!」
 それは、なんとも形容しがたい音だった。
 乾いているとも、湿っているともいえる。破裂音の様でも打撃音の様でもある。
 全身が総毛立つ。純然たる嫌悪。叫ばずにはいられないほどの恐怖。
 生暖かいものが背後から降り注ぐ。
 同時に、僕自身も落ちていく。
 僕を抱くやどりさんの両の手から、急速に力が抜けていく。
 重力に従って、あっという間に地面が近づく。
 どうすることも出来ず、もがく間もなく。
 僕は、柔らかな彼女を下敷きにして地面に落ちた。
 思いのほかに乾いた音が聞こえた。同時に、鉄の匂いが辺りに立ち込める。
「や、やどり……さん?」
 地面に投げ出された僕は、恐る恐る周囲を見回しながら、彼女の名前を呼ぶ。
 怖くて、体が満足に動かない。
 殆ど狂乱状態でさまよっていた僕の手が、力の抜けた彼女の手を、強く握り締める。
 違う。
 これじゃない。
 確かに、これはやわらかく暖かい。
 だけど、これはただの肉の塊だ。
 違う。これは人の腕なんかじゃない。
「やどりさん! やどりさん!!」
 お願いだから、返事をしてよ!
 強く握り締めた肉の塊が、ビクリと一回跳ねた。
 よかった! 無事だったんだ!
「やどりさん! 心配し……た…………」
 起き上がり、振り返った僕の眼に入ったものは、頭の無い、肉の塊だった。
「う、うわああああああああああ!!」
 う、嘘だ! 何だ、何だこれ!!
 あるべきところにあるべきものが無い。
 それだけで、僕は目の前の物体が人間だとは、いや人間だったとは思えなかった。
 頭部以外は、綺麗なままの肉体だ。
 まだ熱もある。先ほどまで僕はそれに抱かれていた。
 だけど僕はそれを受け入れることが出来なかった。
 人が死ぬのを見るのは初めてでは無いというのに。
 僕は半ば狂乱のままに這い、ソレから遠ざかる。

801ぽけもん黒  最終話 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:20:14 ID:F.d9Ljgs
――――――――――――――――――――――
 仕留めた!
 石を放った直後。彼女は確かな手ごたえを感じた。
 ゴールドを受け止めに行きたい。
 彼女はそう思ったが、しかし視線をゴールドとは正反対の方向に向ける。
 目線の先には、狂気に目を血走らせた、怪鳥染みた、童女と呼んでも差し支えがないような少女の姿がある。
 彼女の渾身の攻撃を喰らったにも関わらず、ポポは平然と空にある。これは彼女が決して手加減をしたわけなどではない。
 香草チコが放った攻撃は間違いなく以前のポポなら致命傷を負わすに足る攻撃だった。
 しかし今のポポは、以前よりはるかに強くなっていたのだ。香草の想像も、やどりの想像も超えて。
 
 香草チコの脳内は煮えたぎっていた。それはまさに狂乱する獣のような、感情の濁流そのもの。体系的な思考など微塵も存在しない。
 だが彼女の行動は獣のそれと違い、機械のごとく極めて合理的なものだった。
 例えば虫は複雑な神経回路を有さず、それゆえに高度な論理思考を行うことは不可能とされている。
 しかし虫は、その神経回路の簡素さとは反対に極めて優れた戦闘行動を行う。純粋な戦闘に、高度な思考は不要だと主張せんばかりに。
 今の香草の状態は、それとある種同一の状態であった。
 彼女の焼け付いた、論理とはもはや無縁の脳は、それでも高い合理性でポポを見据える。
 彼女らはやどりが絶命の刹那、自らの体を下に回し、ゴールドの安全を確保したのを確認した。
 科学的には、外界からの刺激に対し、残った脊柱が成したただの反射行動である。しかし頭部を丸ごと喪失し、欠片の思考も持ち得ない彼女が、それでもまるでゴールドを庇うように動いたのは、まさに彼女の深い愛がなした奇跡と言っていいだろう。
 だが、そんなことに彼女らは興味を示さない。
 彼女らが意識するのは、自らの愛しい彼が無事であるということ。
 そして、その自らの愛しいものを傷つける存在を一片の生存の可能性も無く完全に抹殺すること。
 それのみである。
 素早く自らに向き直ったチコを見て、ポポは内心舌打ちをする。
 もしあのままチコがゴールドを助けに行けば。
 いや、そこまででなくても、あとほんの少し長く、自分から意識が逸れたのなら。
 彼女には、その一刹那の間にチコを絶命せしめ、そしてゴールドが地面に到達するより早く彼を救い出せる確信があった。
 しかし実際は、香草チコはその一刹那の隙すら与えてはくれなかった。
 ポポの目の前の生き物はどこまでも合理的で、しかしその相貌は合理性など微塵も感じさせない、歪な怪物へと変じつつあった。



――――――――――――――――――――――

 前方では香草さんとポポの二人の攻撃が激突し、炸裂した空気の余波がこちらにまで及んでいる。
 僕はその様子を見てわずかにだけど正気を取り戻す。
 しかし正気を取り戻したところで、あの怪物たちに一体何が出来るというのか。
 僕が出来るような小細工で何とかなるような段階はとうに超えている。
 何をやったところで、濁流に石くれをひとつ投げ込むようなものにしかなりはしないだろう。
 やどりさんに視線を這わせる。
 まだ彼女の肉体は緩慢に痙攣を繰り返している。
 しかし生死は確認するまでも無い。
 美しかった彼女の、あまりにも痛ましい死。
 今の僕には、彼女を弔ってあげることが出来るかどうかさえ不明だった。




 ポポの薙ぐような低い翼の一撃を、香草さんは木に蔓を巻きつけ、手繰り寄せることで回避した。
 森の中じゃ香草さんの方が有利だ。
 香草さんは木々を利用してポポを撹乱できるし、ポポは飛行範囲も攻撃範囲も制限される。
 速度で圧倒的に勝るポポを、ここでなら香草さんは完全に翻弄できる。
 もちろん、ポポは勝つことが難しいというだけで負けが決まったというわけではない。
 ポポはただ逃げればいいだけなのだ。それだけで香草さんには何も出来なくなる。
 遅いやどりさんと違いポポなら先ほどのようなことも起こりえない。
 しかしポポの中にその選択肢は存在し得ない。
 彼女は狂気に満ち満ちているにもかかわらず、冷静さも失っていない。
 だからこそ彼女は引き下がれない。

802ぽけもん黒  最終話 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:20:42 ID:F.d9Ljgs
 彼女は十分に理解している。今、香草チコを逃がせば、もう生涯僕を見つけることが出来なくなるということに。
 通常の手段では、この広い世界のどこかに逃亡したたった一人の人間を見つけることなど、ましてその相手が社会とのかかわりを完全に避けるというのなら、見つけることなど絶対に不可能だ。
 今回、それがなされたのは、やどりの超能力と、他にも何か私には分かりえない細工があったのだろうと、そうポポは考える。
 ポポにとっての敗北は香草チコに二度と再起不能なまでに叩きのめされることでも、まして殺されることでもない。
 僕を失うこと。
 それこそが彼女にとっての敗北である。
 一度距離をとれば、木々に紛れてすぐに二人を見失う。そしたら、もう一度見つけられるかどうかは運頼り以外の何者でもなくなる。
 だから、彼女に逃走という選択肢は絶対に存在しない。
 彼女は必至に勝機を探す。
 状況はすべて彼女にとって不利に働いている。
 しかしだからといって僕が何か余計なことをし、現在の均衡が崩れれば……その先に待っているのは香草さんかポポ、どちらかの無残な死。
 たったいまやどりさんを失ったばかりの僕に、そんな危険な選択はとても取れない。
 僕は戦況を、ただ見守ることしか出来なかった。

――――――――――――――――――――――

 先に状況を変えたのは香草だった。
 十数の蔦で小石を拾い上げ、高速でポポ目掛けて弾丸のように射出する。
 同時に、自身は数本の蔦で地面を打つと共に、周囲の木々に蔦を巻きつけ、弾かれるように飛んだ。
 行き先はゴールドの倒れている地点。
 彼女にとっての勝利条件はポポを殺すことなどではない。
 ポポ同様、ゴールドを確保し、そして危険を排除することだ。
 危険の排除の方法が殺傷か、それとも逃走かなど、考慮するまでもないほどに瑣末な問題に過ぎない。
 理性を失っているように見える彼女は、しかし極めて合理的にゴールドの確保に動いた。
 対するポポはわずかに出遅れた。
 先ほどまで自分に向けられていた殺意は極めて強烈で、それは自分を殺戮することを第一に優先していると錯覚させるのに十分な強さであった。だから彼女にとって、香草が自分からの逃避行動を開始することなど、まるで思考の埒外にあった。
 常識で考えれば、それが間違いなく真実だろう。しかし今回はそれは通用しなかった。相手は理性ある人でも、理性を失った獣でもない。彼女が今まで相対したことの無いモノなのだ。ポポは最初から、香草を正確に測るものさしを持ち合わせていなかった。そして彼女は今この瞬間の失敗をもって、初めてその事実に気づいた。
 冷静であったがための油断。そしてその油断がこの失態を招いた。
 彼女は頭の中で刹那のあいだ短い罵倒と呪詛を吐き、そしてそれが終わらぬうちに急降下体勢に入る。
 小石を避けるだけの猶予は無い。しかし弾丸にも匹敵するそれを正面から受け、傷を負うのは今後の戦闘行為において致命的であることを意味した。
 しかし、今を逃せば私は全てを失う。戦う意味も、いや、生きる意味すらも。ここで引いても死ぬことになるというのならば……!
 その恐怖が、彼女の神経を極限までに研ぎ澄まさせた。
 音速に迫る体で、瞬時に殆どの小石を識別する。そして彼女の追う損傷の程度が戦闘行動に大きな影響が出ない航路を刹那で見極め、そのまま急降下した。
 いくつかの小石は彼女の周囲をすり抜け、そして残る数発の小石が彼女の羽毛を打ち、筋肉と神経に打撃を加えながら砕け、そして二発の小石が彼女の薄い皮膚を抉った。
 彼女は着弾と出血の事実を知覚する。しかし痛覚も恐怖も無かった。
 もちろん、傷は浅くは無い。平時であれば激痛に顔を歪め、苦悶の声を漏らし、攻撃行動にも支障をきたすのだろうが、彼女は彼女の脳内に多量に分泌されている脳内物質のお陰で、怪我を知覚しながらも苦痛などの要素を排し、殆どパフォーマンスを落とさないことに成功した。
 その速度のまま、彼女は香草の首を掻き斬らんと翼を広げる。
 その刹那、彼女の全身に衝撃が走る。

803ぽけもん黒  最終話 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:21:09 ID:F.d9Ljgs
 ポポの全身には緑の刃が生えていた。
 刃と呼んで差し支えのないほどに研ぎ澄まされた無数の葉が彼女に突き刺さったのだ。
 ここは下草の生い茂る森。
 そんな場所で、地面へ急降下しながら、同時に自分に向かってくる飛来物を認識しつつ、さらにその下草の色と似た暗器の存在まで知覚することなど不可能であった。
 香草の口が歪み、笑顔を作る。
 狡猾な策だった。まるで狂乱している生物が、激しい戦闘の最中に思いつくことの出来るような策ではない。
 いや、狂乱していなくとも、通常の精神状態でこれを成しうる生き物は存在しないだろう。絶え間ない訓練の末に、精神と無関係に戦闘行動を行うことができるほどに研ぎ澄まされた兵か、あるいは、ただただ狂気に身をゆだねるものだけが到達しうる領域。
 しかし狂気に身をゆだねているものはこの場に一人ではなかった。
 ポポの口がぐにゃりと歪んだ。
 なんだ、この程度か。
 そう嘲笑するように。
 ポポの有す武器は速度のみである。翼に鋭い爪があるわけでも、刃がついているわけでもない。
 しかし、そこに香草は鋭利な刃物を生やしてくれたのだ。
 彼女の羽は元来、自然物に強い。
 木々生い茂る森の中を棲家にするのだから当然のことである。
 自然界にはそこここに肉体を傷つけるような植物が存在する。
 彼女は種としてそれらに適応してきた。種として強いわけである。
 いかに研ぎ澄まされようと、例外はない。
 香草の放った刃は、ポポの表面を切り裂いたのみで、殆どは風圧に押し付けられる形で刺さっているように見えているだけに過ぎない。
 もちろん、それによって速度は落ちた。速度が落ちれば当然破壊力も低下する。
 ポポはその速度の低下を、体を捻ることによって改善した。
 彼女のやわらかくしなやかな体がまるでムチのように捻られ、打ち付けられる翼の先端の速度は音の速さを優に凌駕した。
 ただまっすぐ飛行する際に音速を突破することとはわけが違う。
 平素であれば何のこともない動作も、速度が増すに比例して筋繊維や骨格にかかる負担は跳ね上がる。無論、衝撃を逃し損ねれば低速とは比べ物にならない負荷が肉体を襲うだろう。ほんの数ミリの体軸のずれが、全身の筋をばらばらに裂くことになるほどの複雑な動作を彼女は音速で行っているのだ。
 それほどまでに、彼女は完璧に肉体を制御していた。
 音の壁を突き破る衝撃波と共に、植物の刃が生えたポポの翼が香草に振り下ろされる。
 香草が放った植物の刃は諸刃。つまりポポに刺さった刃の反対は香草のほうを向いていた。
 ポポは、それを香草につきたてようというのだ。
 しかしいくら浅いとは言え、自らに刺さった刃物をそのまま相手に押し付ければ、相手だけでなく自分にもさらにその刃を深く差し込むこととなる。
 正気では行おうと思うものはいないだろう。
 しかし彼女からもとうに正気などという、この場においてはなんの有用性もない愚物は保持されていなかった。
 だからこそ、彼女にはそれが成しえた。
 トゲを持つ植物が自らのトゲによって傷つけられることがないように、本来ならば香草の皮膚を植物の刃は裂きはしない。
 しかし、それが音速を越えて振り下ろされるとあらば話は別だ。
 香草はその音速の刃に切り裂かれ、後方に飛ばされる。
 が、彼女もただ攻撃を受けたわけではない。
 空気中に放たれた、光を反射して輝く微粒子。
 ポポがそれを認識したときには、すでにそれはいくらかポポの肺の中に取り込まれていた。
 強力な沈静作用と催眠作用を持つその粉は、ポポから容赦なく急激に意識を奪っていく。
 空中に逃げようとするが、コントロールを失った彼女はもがくように地面と木々にぶつかりながら後退する。
 これを好機と見て香草は追撃の蔓を伸ばすが、ポポはすぐに地面を蹴り、宙に舞った。
 凶悪なまでに強い睡眠薬に、彼女の痛みと精神が打ち勝ったのだ。
 本来、強力な睡眠薬の効果はどんな苦痛や精神を持ってしても抗いがたい、強制的に脳神経を停止させる毒のようなものである。
 毒といえば、それに対し意志の力で打ち勝つことがどれほど馬鹿げたことかは明白である。

804ぽけもん黒  最終話 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:21:34 ID:F.d9Ljgs
 しかしその馬鹿げたことは現に起きた。
 現象があるのだから、それがどれほど荒唐無稽であろうと否定することは不可能である。
 それが起こってしまったのは、陳腐な言い方をすれば狂愛が毒に打ち勝った。常識で考えれば、激しい戦闘中において、相手を昏倒させるほどの眠り粉を摂取させることに失敗したのだろうという推測が成せるのみである。
 宙に舞ったポポは、しかしはっきりとした冷徹な目で香草を凝視した。
 対する香草の表情はもはやようとしてしれない。嗤っているようにも、激怒しているようにも見え、それはもはやまともな生物の表情ではない、狂相そのものもだった。
 驚愕するべきは、これほどの手数のやり取りが、わずか数秒の間に交わされたものだということだ。
 ほんの数秒前にはほぼ無傷であった両者が、今は全身に打撲痕と無数の切り傷、そして流血に塗れている。
 怪我の程度はポポのほうが重かった。
 この怪我の差は、そのまま一瞬間の油断の差、それが齎したポポへの罰といえよう。
 先ほどの小競り合いとは打って変わって繰り広げられた高速戦闘。
 それは膠着を打破し、お互いを撃滅せんとする殺意の嵐そのものだった。
 
 
 
 
 
 吹き荒れる嵐の果てに、深手を負ったポポは焦りを覚える。
 このまま正面からぶつかっても、もはや負ける可能性の方が高い。
 幸い、ここしばらくのゴールドとの蜜月の間に、この周囲の地形は殆ど把握している。入られたら最後、追跡が不可能となるような洞窟や抜け穴の類は無いはずだ。
 また、このようなフィールドはポポにとって機動力を活かしきれない場でもあるが、しかし本来であれば彼女の生活の場、狩りの場でもある。この地は彼女にとって不利なだけの場ではない。
 獲物が森に紛れようと、彼女が獲物を見失う可能性は低い。
 ましてゴールドには自分の匂いがたっぷりと染み付いている。
 追跡できないわけがない。
 持久戦、という言葉がポポの脳裏を掠める。
 ゴールドの確保という点においては、そもそも香草の方が不利なのだ。
 彼女は飛べず、また木々に蔦を巻きつけ、手繰り寄せることで瞬間的にはある程度の速度を出すことはできるが、それも空を翔るポポにとっては大した速さではない。
 一方のポポは、ゴールドを捕まえ、一度宙に浮かびさえすればもはや何者にも決して追いつかれることはないだろう。
 さらに超能力でこちらを探知するやどりは死んだ。
 とすれば香草ひとりで、逃走するポポに何が出来よう。
 ゴールドを確保し次第、逃げる。
 屈辱的だが、その選択が最善に思えた。
 しかし果たしてそれは可能なのだろうか。
 この傷、出血は決して軽くはない。これ以上の時間をかけることは、彼女にやや不利と現実が告げている。
 元々体重の軽い彼女、血液の量は決して多くはない。
 これほどまでに神経が高ぶっていなければ、思考判断力が低下するに十分な量の血がすでに彼女の体内から流れ出ていた。
 さらに、彼女にとって、ゴールドが錯乱して見えることも懸念の材料だった。
 ゴールドの精神はある程度真っ当なものであったが、彼女にとっては、ゴールドが彼女を拒む時点で狂気の沙汰なのだ。
 狂人にとっては、正気の人間こそ狂気に映るものだ。
 結局、彼女は消極的な策として、香草を少しずつ削ることを選んだ。
 そもそも彼女は狩る側だ。攻撃者と防衛者の関係において、どちらも同条件であれば攻撃者は絶対優位である。守る側は守るタイミングを選ぶことは不可能であり、行動の自由に絶対的な制限がある。一方、攻撃者にそれらの制限は皆無だ。攻めたいときに自由に攻めることが出来る。防衛者は常に襲撃者に神経を張り詰めざるを得ない。それによる消耗は隙を生み、そして隙は敗北を生む。
 私の体力が尽きるのが先か、香草の精神力が尽きるのが先か。
 分のいい賭けには思えなかった。
 しかし、今は他に選択肢が無い。
 そうして、持久戦の覚悟を決めたポポは、次の香草の一手で息を飲んだ。
 香草の全身にが、燐光に包まれる。
 そしてその燐光が、束ねられた蔦の先、その一点へと収束している。
 蔦の先端の輝きは見る見る増し、周囲から光を奪っていると錯覚するまでになる。
 ポポは驚愕する。
 あれは太陽の光。彼女は、蔦の先に極小の太陽を作り出し、それを打ち出そうとしているのか。
 しかし次の瞬間のポポの顔に浮かんだのは、驚愕ではなく歓喜の表情。
 笑わせる。この私を目の前にして、そんなものなど。

805ぽけもん黒  最終話 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:21:55 ID:F.d9Ljgs
 そしてポポの体も陽光に包まれる。
 そう、ポポも持っていたのだ。
 一撃で確実に相手を絶命せしめる、必殺の一矢を。
 その絶大な破壊力ゆえに、『ゴッドバード』の名を冠され、畏怖された、壮絶な一撃を。
 ポポはむしろ好都合に思えた。
 相手は一撃へと賭けに出た。しかし自分のほうがより強い一撃を持っている。
 この勝負、私の勝ちだ!
 
 その時点では、両者に慢心があった。
 しかし互いに、互いの業の輝きを目にし、そして双方、ほぼ同時に悟る。
 目の前の敵は、今まで戦ったことのある敵の中で最も強い相手である。
 そして自分達の持つ技の数々は、その強敵を抹殺するのには十分ではない。
 もはや、自分達は、「一点」を除いて相手を絶命せしめることが不可能である、と。

 だから、その一撃は双方の命をかけた最後の一撃となり、そしてそれは正面から、自らの全てをぶつける大技となった。
 回避すらここに到っては愚策だった。
 回避などを頭においていては、攻撃の威力が減算する。それでは殺しきれないかもしれない。打ちもらすかもしれない。
 それに、双方共に、一切の打ちもらし無く、一撃で相手を確実に殺しきる。心からのその確信があった。
 双方、互いの業の破壊力を高めることに集中する。
 その結果、この激しい闘争のさなかにおいて、唐突に静寂が訪れた。
 周囲の木々が恐怖で呼吸を止めるような、大気が怯えてこの場から消え去ったかのような、凄惨なまでの静寂。
 しかし、その静寂も幾許も続かなかった。
 周囲の木々が恐怖のあまり発狂するより早く、二人はほぼ同時に業の予備行動を終え、最大の威力まで高められた二人の業が発動する。
 まばゆいまでの光に包まれたポポが怪鳥染みた奇声をもって急降下を開始し、その中心目掛けて香草の光線は放たれた。
 勝った! 殺した!
 互いにそれを確信した。
 彼女達の計算に、誤りは無いはずであった。
 ただ一点。彼女達の犯したミス。
 それはゴールドの存在を、自らの愛しい人の介入を考慮にいれていなかったことにある。
「二人とも、もうやめてくれ!」
 彼女達が知覚したときには、すでにゴールドは目の前にいた。
 互いに、渾身の力を持って相手を撃滅せんとしたばかりに、周囲への注意がおろそかとなった。
 しかし誰が予想しうるだろうか。
 岩を砕き、鉄を裂くような攻撃に、傍目から見ても想像がつくような破壊の権化の只中に、自ら飛び込む人間がいようなどと。
 結果。すべては手遅れとなってしまった。
 一度放たれた銃弾が再び銃口に戻ることがないように、もはやすべてが手遅れであった。
「やめろー!!」
 ゴールドはすべてが手遅れであることを内心悟りつつ、それでも二人を助けるために、二つのエネルギーがぶつかる、その光の中へと飛び込んだ。

806 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:22:56 ID:F.d9Ljgs
最終話終わりです
続けてエピローグを投下します

807ぽけもん黒  エピローグとプロローグ ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:24:12 ID:F.d9Ljgs
 僕は光の中にいた。
 いつからここにいたかも、どこからここに来たかも分からない。
 僕は、取り返しのつかない過ちを犯してしまった。
 何もかもに失敗し、大切な人の命も、自らの命も、そして幸福な未来もを失った。
 あの両者の攻撃が衝突する、光の中に飛び込んだところまでは覚えている。
 そして気がついたらここにいた。
 僕は死んだのだろうか。なら、これがあの世って奴なのかな。
誰もいない、何も無い、ただ光だけがある世界。
 無というものは残酷だ。新たに何かが与えられないのならば、そこに居るものにできることは自らの世界の反芻だけだ。
 自らの行いに満足し、幸福な思い出に満ちている者はいい。幸福を反芻し続けられるということは、天国にいるということに等しい。だけど、僕のように、途方もない後悔を抱えている人間にとっては、ここは地獄だ。
 希望も絶望も、誰かが与えるものではない。この永遠の無の中で、僕は自分の失敗を責め続ける。死者を裁くのは明確な誰かではなく、死者自身の思い出と後悔。
 ここがどこか。ここがあの世だろうとあの世までの道中だろうと僕の妄想だろうと、どのみち、僕が助かるということはないだろう。
 あのぶつかり合う凄まじいエネルギーの渦中に飛び込んだんだ、二人が即座に攻撃を中止したとしても、僕の骨片一つ残りはしない。
 ああどうしてこんなことになってしまったんだ。
 僕の後悔が、この光の世界を地獄に変える。
 やどりさん、ごめん。ポポ、ごめん。香草さん……ごめん。





 どれだけの時間が過ぎただろうか。
 地獄の中で、誰かの声を聞いた気がした。
 香草さんのものでも、ポポのものでも、やどりさんのものでも、僕のものでもない。
 今までに聞いたどの声とも違う、僕を呼ぶ声。穏やかで、優しい声。
「あなたは、後悔していますか」
 まるで幻聴のような、しかし幻聴とは明らかに違う、確かな声。
 永遠にも思える苦悶の中で、僕の思考はほとんど停止していた。
 しかしあまりにも久しぶりに聞いた自分以外の声に、僕の意識は反射的に覚醒した。
「だ、誰だ……」
 口調は乱暴ながら、僕の声は救いを求める懇願の響きに満ちていた。
 しかし、声の主は僕の問いに答えることはない。
「あなたは、後悔していますか」
「もちろん、後悔している……僕は間違えた。僕のせいで、不幸にならなくてもいい何人もの人が不幸になった」
「あなたは、そんな人たちのことを、救いたいと思いますか?」
「もちろんだ!」
「それは、相手のためですか? それとも、あなたのためですか」
「それは……」
 もちろん、それは相手のためだ。まず真っ先に頭に浮かんだのはそれだ。だけど、じゃあ自分のためじゃないって言うのか、と言われたら、それも嘘になる。彼女達は、僕に救ってもらうことなんて欲していない。彼女達の望みは、僕に愛してもらうことだ。
 彼女らのためといいつつ、彼女らに彼女らの欲しがっていないものを与え、そして彼女らが欲しがっているものを与えない。
 彼女達の幸福のためだとかなんだとか、そんなのはただの欺瞞だ。紛れも無く、それは僕のために僕がやることだ。僕は、どこまでも、欺瞞に満ちている。
「……自分のためだ。その人達が救われれば、僕はこの後悔の地獄から救われる」
「そうですか。それが、あなたの答えなのですね」
「……そうです。これが、僕の答えです」
「ならば、私はあなたを助けましょう。あなたが、それを望むのなら」
 世界が、急速に鮮明になっていく。僕を苛んでいた地獄が消えていく。体が、精神が形を取り戻していく。
 それと同時に、とんでもない威圧を感じる。とてつもなく大きな存在と正対していることに唐突に気づく、
「でも、どうして僕を助けてくれるんですか!?」
 不思議と、どうやって、とは思わなかった。僕の前、いや僕の上に存在する、その存在ならそれが出来る。そんな確信があった。
 僕の胸の前に、いつぞや見た包みがあった。
 これは……そうだ、マダツボミの塔で長老から貰ったあの包みだ!
 自分でももうすっかり忘れていたけど、僕は服の内ポケットに入れて肌身離さず持っていたらしい。
 その包みがひとりでに解かれていく。
 光に溢れたこの空間でも一際まぶしい光がその包みの中から零れる。
 包みから出てきたのは、鳥の羽だった。

808ぽけもん黒  エピローグとプロローグ ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:24:46 ID:F.d9Ljgs
 その羽はずっと包みの中にあったにも関わらず、瑞々しさに溢れていた。
 一枚の羽なのに、まるで生きているように複雑に色が変わって、まるで虹色に見える。
 こんな綺麗なもの、今まで見たことが無い。
「ずっと、あなたと共に旅をし、あなたを見て来ました。だから、私はあなたを助けます」
 そうか、彼女は、伝説の――
 彼女がどんどん遠くなっていく。まだお礼も言っていないのに。
 本当に喋れているか分からないし、イメージでしかないのかもしれないし、あの人には伝わらないかもしれない。それでも僕は声の限り叫んだ。
「あ、ありがとう、ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」
 ――神様!






 風が頬を撫でる気配がする。
 この瑞々しい草の匂い。新鮮な澄んだ空気。
 今、僕は早朝の春の草原にいる。
 目を開けずとも分かった。
 鳥の声や遠くの川のせせらぎや、萌える若葉の緑の匂いが全身に満ちる。
 懐かしい、ずっと僕と共にあった匂い。
 ああ、僕は、戻ってきたんだ。
 僕は、誰に言われるでもなく、それを悟った。
 目を開けると、僕は研究所の前に倒れていることに気づいた。
 ポケギアを取り出す。日にちは間違いなくあの日。僕が旅に出ることになって、そして香草さんと会ったあの日。僕と香草さんが契約してパートナーとなった、運命のあの日だ。
 ゆっくりと体を起こす。
 もうすぐだ。もうすぐ来るはずなんだ。
 遠くから慌しい、遠足に行くのに待ちきれない幼児のような弾んだ足音が響いてくる。
 思わずくすくすと笑ってしまう。
 あの時はちっとも気づかなかったけど、君も、この日をずっと待っていたんだね。
 ああ、遠くの緑に溶けて、愛しい彼女が見えてくる。

「あ、あの、会場は……」
「まだ開いてないよ。でも、僕も参加者なんだ」
「へ、へえ、こんな早くに来るなんて、中々見所がありますね」
 全部、やりなおすんだ。
 今度は、絶対にあんな悲劇的結末を迎えたりなんかしない。誰も不幸にしない。きっと、そうしてみせる。
 だから、僕は目の前の女の子に向かって、微笑んでこういうんだ。
「じゃあさ、僕と契約して、パートナーになろうよ」
 懐かしい、甘い香りを感じた気がした。


 終わり。

809 ◆wzYAo8XQT.:2013/08/12(月) 20:34:08 ID:F.d9Ljgs
以上でぽけもん黒完結となります
六年という長きに渡ってお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
当初はほんの十話程度、一年以内の習作のつもりだったのに、どうしてこうなってしまったのか……
月並みな言葉ですが、途中で挫折せず完結させることができたのはひとえに皆様の応援のお陰です。月並みですが本当にそう思わずにはいられません。
そもそものネタから言って、皆様がいなければこの話は始まりませんでした。
スレも六年の間に多くの出来事があり、住人にも多くの変化があったでしょう。
最近は人が減ったのか、雑談が減ってしまい寂しいです。
この話も雑談からアイディアを得て始めたものですし、私は雑談から多くの着想を得るタイプなので、活発な雑談はそのまま私の原動力になります。
そうして、現在は読み専や物書きから遠ざかっている方も、雑談からアイディアを得て、何かものを書くようになれば嬉しいです。
最後に重ねて、私の話をお読みいただき本当にありがとうございました。

810雌豚のにおい@774人目:2013/08/12(月) 22:54:29 ID:UQLFvpvw
一番槍げっと
六年もの連載お疲れ様でした!
毎月の投下が楽しみでこのスレを見る理由のひとつでした。
虹色の羽だったとは…
ゴールドは今度は失敗はしないのかな?
最後に作者さんに惜しみ無いGJ!

811雌豚のにおい@774人目:2013/08/12(月) 23:16:38 ID:7096.KZc
長い間お疲れ様でした!

泣いた

812雌豚のにおい@774人目:2013/08/12(月) 23:19:23 ID:KoEexgW6
素晴らしかった
本当に素晴らしい作品をありがとう

813雌豚のにおい@774人目:2013/08/13(火) 05:46:27 ID:U7wKa3xE
GJ!!
ポケモン黒お疲れさまでした。非常に良い作品でした。
やはりヤンデレは愛に全てをかける姿勢が素晴らしい。暴力はヤンデレの本質ではないですからね。

ヤンデレ作品ってオチをどうするかが一番大変ですよね。上手いオチが見つからない。しかもハッピーエンドはありえない。
その点でもポケモン黒は素晴らしかった。やりなおしエンドは非常に良いオチだと思います。
重ねてお疲れさまでした。

814雌豚のにおい@774人目:2013/08/13(火) 06:58:12 ID:K4qHfdQs
>>809
GJ!
六年かあ、長かった
お疲れさまでした
なんか発想の元になるネタ出せるようにするわ

815雌豚のにおい@774人目:2013/08/13(火) 08:19:27 ID:nnFSllSA
完結乙です

816雌豚のにおい@774人目:2013/08/14(水) 01:02:35 ID:ibzy.l/U
完結乙です
寂しくなるな〜

817雌豚のにおい@774人目:2013/08/14(水) 01:42:48 ID:mTrPa5AU
素晴らしい作品を本当にありがとうございました。
ヤンデレ家族終わったときも寂しかったけどぽけもん黒のほうが辛いなぁ…
また新しい作品を書いてくださるのを楽しみにしています!

818Y:2013/08/14(水) 10:54:36 ID:6r8pt1S2
お疲れ様でした!! 
私も新しい作品、楽しみにしています!!

819雌豚のにおい@774人目:2013/08/14(水) 15:52:36 ID:miIDmUa6
>>809
完結乙です。
黒の名のとおりダークな展開の中に、ささやかな希望をのこしたエンディングになりましたね。
月並みな言葉ですが、時間がかかってもキチンと完結させられるのはすごいことだと思います。
僕も、あなたを見習っていつかは自作にケリをつけないと、と思いました。

820雌豚のにおい@774人目:2013/08/16(金) 18:01:06 ID:eaTBBbj.
六年か
可愛い女の子に六年間監禁されてみたい

821雌豚のにおい@774人目:2013/08/16(金) 20:10:43 ID:wAuKxcRM
>>791

科学者と言う設定にグっときます。

国の研究所で優秀な科学者で「女史」と呼ばれているある女性。

しかし、同性からは嫉妬と偏見。男性からは自分の立場を利用とするのが見え見えな態度で言い寄られる。

嫌気がさしている彼女だが、研究所の警備員だけは他意は無く彼女に「おはようございます。」や「お疲れ様でした。」など軽い挨拶する内に惹かれていき次第に独占したくなって行く。

……ダメですかね?

822雌豚のにおい@774人目:2013/08/16(金) 22:13:49 ID:eaTBBbj.
科学者ならではの病み方が欲しいな
薬やら改造手術やらは得意だろうし

ってそれは医者か

823雌豚のにおい@774人目:2013/08/16(金) 22:44:24 ID:redtRG5I
やっぱり頭良いキャラは
影で色々と策謀してる感じが好き

824雌豚のにおい@774人目:2013/08/17(土) 01:26:16 ID:72Wzcdno
夏休みに入って幼馴染と付き合うことになった主人公。
毎年お盆は祖母父の親戚の集まりに顔を出していたのだが、今年は幼馴染と夏祭りに行くことに。
今年は顔を出せないと告げるため祖父母の家に電話をかけると出たのは従姉妹のお姉さん(ヤンデレ)だった。
「主人公くんじゃない。元気ー?」
「そう、それは良かった。うんうん、1年ぶりだねー。どう?身長は?大分伸びた?」
「そっか。とうとう私も抜かれちゃったかもしれないなー。まぁ数時間すれば分かることか…」
「ねぇ、今日は何時くらいにこっちにくるの?なんなら駅まで車で迎えに行こうか?

「え…なに…?どうしたの?」
「え…。来られないってどういうこと?」

みたいな話オナシャス

825雌豚のにおい@774人目:2013/08/17(土) 07:11:18 ID:KxaY8Ods
お前ら妄想だけは一人前以上だな

826雌豚のにおい@774人目:2013/08/17(土) 07:17:48 ID:79UCfjMQ
「妄想ばっかりしてないで私を見てよ!」

こうですか分かりません

827雌豚のにおい@774人目:2013/08/17(土) 10:51:08 ID:JbtTgooc
>>824
すごい萌えるんだけど
そっから展開どうするか難しいぞ
夏まつりの会場に殴りこんでくるとか
主人公がファーストキスまですませて浮かれながら帰ってきたら
自宅に上がり込んでいたとか
こんな展開しか浮かばん

828雌豚のにおい@774人目:2013/08/17(土) 12:13:09 ID:aQTsY7As
>>824
書いてよおおお

829のどごし ◆Nwuh.X9sWk:2013/08/17(土) 14:14:58 ID:89zzJiPE
妄想ならおいドンもしてるドン!

大学生の学生生活
男はグループ内の文化系の女を好いていたが、グループ内のリーダー格とその子が付き合ってしまう
男は黙って身を引き、心を傷つける
男はグループ内のリーダー格女に好かれていた。
高校から同じグループ内で過ごしていた二人。
女は高校の頃から男のことが好きだった。初恋だった。
女は美人だが今時の女子大生といった風貌。男の趣味ではなかった。
女は男の失恋を知り、文化系女を憎みつつ、男を我が物にしようと動き始める。
相談に乗り、励まし、男に寄り添い傷を癒し、ついに告白に至ったが、男はそれを拒否する。

どうしても付き合いたい女は
「このままでは自分の面子が……」と食い下がり、男のとの交際にこぎ着ける。
なぜ男は交際を断りきれなかったのか、それは少なからず責任を感じていたからだった。

付き合い始める男と女
男は一ヶ月で別れると聞かされていた
その間は彼氏彼女の関係を続けて、そう彼女に説得されたからである。

「一ヶ月したら、僕を振ったって言えばいい」

彼はもう既に疲れていた
本当にどうにでもよくなっていた。

しかし女はそうではなかった

「キスだけでもしよう」

彼女の懇願に彼は答えるしかなかった。

そういって彼女は、一ヶ月を過ぎても彼と別れようとはしなかった。

二ヶ月が過ぎたとき、彼の部屋に上がりこんだ彼女は、彼を組み敷き、淫行に及ぶ。

「処女なのが恥ずかしい」

そんな嘘をついて。

男は責任似たものを覚え、別れを切り出すことが出来なくなっていく。
やがて半年が過ぎ、すっかり彼氏彼女として過ごしていた頃、文化系女とリーダー格が別れた。

文化系女と、男は急速にその間を縮めていく。
そして、女にそれを知られる。

女は嫉妬し、男を束縛するようになっていく。

夏休み中にこの妄想を膨らませたい

830雌豚のにおい@774人目:2013/08/17(土) 14:29:23 ID:JbtTgooc
>>829
よしがんがれ
ていうか、のどごし氏懐かしいなおいw

831のどごし ◆Nwuh.X9sWk:2013/08/17(土) 14:55:10 ID:89zzJiPE
>>830
そんなに懐かしいかwww
と思っていたら一年も投下してなかった……

832雌豚のにおい@774人目:2013/08/17(土) 15:50:12 ID:KxaY8Ods
ヨシコラ投下!!シェイコラ投下!!

833雌豚のにおい@774人目:2013/08/18(日) 06:45:02 ID:PQq/zXW6
>>809
六年間お疲れ様でした。

834 ◆VZaoqvvFRY:2013/08/18(日) 08:12:05 ID:V/zRmN4w
投下しますよ

835主従 前編:2013/08/18(日) 08:14:12 ID:V/zRmN4w
 今年は例年にない猛暑になるであろう。
 と、年初には予想されていたのだが、それが見事に外れる事を教室内に吹き込んでくる穏やかな風は教えてくれていた。今は7月、初夏である。
 高等学校における教室内の風景というものは、多少の差異こそあれ大体似たようなもので、それは放課後であっても変わらない。
 この教室でも多くの生徒が授業という労苦から解放されたことを喜び、ある者は部活動の準備を始め、ある者は級友と待ち合わせの時間と場所の再確認をしていた。
 そんな賑やかで若い喧騒に満ちている中、一人席についたまま片肘をついて窓の外の光景を眺めている少年がいる。
 その薄い茶色の瞳には校庭で球技に勤しんでいる生徒達の姿が写っていたのだが、少年にとってそれは視覚情報として入ってくるだけのもので、心にまでは届いていなかった。それらは少年にとっては無意味なものであったから。
「桜庭、元気?」
 耳に入ってきた声は自分を呼ぶものであったので、さすがに少年は反応した。振り向くと、日に焼けた茶色い髪と顔をした、活発という言葉を擬人化したような少女の顔が目に飛び込んでくる。
「元気と言えば元気かな」
「気のない返事だねえ。今もご主人様の命令待ちですか?」
「そういう言い方は好きじゃないって前も言ったはずだけど」
 批難のこもった少年の返答を聞いて少女は快活に笑い、「ごめんごめん」と謝った。
 桜庭は少年の性である。名は早人で、これを共同で名づけた両親は二人とも既に他界していた。
 瞳と同様薄茶色の頭髪をしているが、これは染めているわけではなく、生まれつきである。頭髪だけでなく全身の色素が薄く肌も色白で、やや中性的な顔立ちをしているため初対面の相手にはハーフかクォーターなのではないかとよく誤解されていた。
 早人は少女に何かを言おうとして口を開きかけたが、その時機械音が制服のポケットから鳴り響いた。会話を止めて携帯電話を手にする。
「はい早人です。はい……はい……。分かりました」
 そう言って通話を止めると立ち上がり、鞄を机の上に置いた。
「ごめん、呼び出しだ」
「ご主……滝川さん?」
「そうだよ」
 その言葉を聞いた少女は眉根を寄せ、早人の心の内を探るように顔を見つめて問いかける。
「毎日命令されるのって腹が立たない?」
「長年やってるから」
「やめたいと思わないの?」
「考えたこともなかったな。でもやめてもどうなるものでもないし。ここにも通えなくなる」
 鞄の中に机から取り出した教科書をしまいながら早人は答えた。
「んー。じゃあやりたいからやってるわけではないんだよね?」
「そう言うのともちょっと違うかな。選択の余地がない、そういう事だよ」
「なんで……」
「そんなに気になるのかな?」
 苦笑して早人は少女に振り向いた。その秀麗な顔を向けられて、少女は目に見えて赤面する。
「そ、そ、そ、そう言う訳じゃ」
「まあいいよ。今度機会があれば詳しく話してあげる、夏樹さん。じゃあね」
 にこやかに少女――夏樹に微笑むと教室から出ようとしたが、夏樹は素早くその先に回り込んだ。
 顔には太陽のような満面の笑みを浮かべている。
「本当に?」
「え?」
「詳しく教えてくれるんでしょ、桜庭と滝川さんの事」
 聞いて早人は一瞬呆気にとられ、肩をすくめた。
「いいけど、もう皆知ってることじゃないのかな」
「ある程度はね。そりゃ貴方達『主従』は有名だもの」
「それなのにわざわざ?」
「桜庭から聞いてみたいのよ」
 夏樹は快活にそう宣言する。
 あまりにもさっぱりとしたその口調からは色気と言ったものを早人は感じなかったが、言葉の内容は周囲にとってはそれなりに衝撃があったらしい。
 数人の男女が冷やかすように声をかけてきたので、早人は背筋を伸ばして自身の赤いネクタイを直すと努めて冷静を装って答えた。
「じゃあいずれ。時間ができたら」
 それだけを伝えると夏樹の脇をすり抜け退室した。
 その姿を見送った夏樹の周囲に女子が集まり、囃し立てるように次から次へと言葉をかけて来る。

 ――――――

 私立希真高等学校は、全国でも五本の指に入るといわれる程の超名門校である。中高一貫教育で高校からの生徒募集自体が行われていない。
 校内では制服の着用が義務付けられており、学年によってネクタイが色分けされている。高校では一年が赤、二年が青、三年が白となっていた。
 名門だけあって学費の高さもずば抜けており、その額は一人当たり年間で一般家庭の平均世帯年収に匹敵する。

836主従 前編:2013/08/18(日) 08:15:05 ID:V/zRmN4w
 そして東京ドームが二つ収められるほどの広大な敷地を持ち、点在する校舎群は長い歴史を感じさせる煉瓦造りの外観をしていた。しかしその内は改装を重ねられて、最先端の教育施設と設備環境が整えられている。
 セキュリティも万全で、広大な敷地は高い塀に囲まれ監視カメラがそこかしこに(ただし一見してはそれと分からないほど目立たぬよう)設置されて、外界からの侵入を固く拒んでいた。
 その敷地内の一角に、来客・父兄用の駐車場があるのだが、早人はそこに向かって道を急いでいた。電話の相手との待ち合わせ場所がそこであったから。
 早人の視界が人影をとらえる。細く、背筋を伸ばして凛として立つその人物は腕時計を見つめていた。
 黒い後ろ髪は肩の下に届くほど伸ばしているが、前髪は眉の所で切り揃えられている。その色白の顔は極めて整っており、万人が認める美人と言ってよい。
 だがしかし、その表情には生気と言ったものが欠けていた。紛うことなき美人なのだが、妙に作り物めいているのである。人形か、彫刻のような美であった。
 早人が近くまで駆け寄った時、美少女はそれに気が付き、早人が口を開くより早く言葉を発した。
「遅かったわね」
 顔と同様、感情を感じ取れない抑揚のない声が通る。
「すみません、岬様」
「どういうつもり? 私は五分以内に来るように、と命令したはずだけど」
 早人は長年の経験でこういう時の岬にはなにを言っても無駄だと悟っていた。クラスメートの女子につかまっていた、などと言えば話がややこしくなる。できるだけ無難な返答をするしかない。
「帰り支度に手間取ってました」
「無駄なものが多すぎるのね。貸しなさい、その鞄」
「はい」
 右手に下げていた自身の鞄を早人は差し出す。岬はそれを受け取ると、駐車場の片隅にあるゴミ箱まで持ち運び、無造作にその中に投げいれた。
「帰るわよ」
 そう告げると、今度は自分の鞄を差し出した。早人は一礼すると両手で恭しくそれを頂く。視界の隅に岬の赤いネクタイの一部が見えた。
 岬は踵を返すと、駐車場で待機していた黒の高級車に向かう。傍で待機していたドライバーが慣れた動作で後部座席のドアを開いて岬を迎えいれた。
 無言で岬が乗り込むと、ドアを閉めたドライバーが反対側に回りドアを開ける。早人が礼を言って岬の隣に着席した。
 ドライバーはまたドアを閉めると運転席に戻り、車を発進させる。

 街道をゆく人々は日傘をさし、ある者はハンカチで汗をぬぐう。
 そういった光景が車窓から見えなければ、今が夏であることすら忘れそうな程快適な空間をその車は提供していた。が、乗車する人がどう感じるかはまた別であろう。少なくとも心穏やかな者はこの車中にはいない。
「明日は?」
 正面を見据えたまま岬が無感動に尋ねていた。
「六時起床予定です」
「そう。下校は今日と同じくらいのはずよ。明日は待たせないでね」
「岬様、それなのですが」
 岬は顔は動かさず視線だけを早人に向ける。
「放課後、クラスメートとミーティングを行う予定があるんです」
「欠席しなさい」
「いえ、以前お話ししたかもしれませんが、僕は学園祭のクラス委員に任命されていまして、明日はその話し合いなので欠席するわけには」
「私の下校時間に間に合うまでなら参加してもいいけど。それ以上は無理ね」
「かしこまりました」
 そこで会話が終わり、岬は視線を正面に戻した。以降は無言の時間が続いていく。

 車は幸いにも、というべきか信号待ちで止まることもなく快調に走り続け、三十分もすると目的地である滝川邸に到着した。
 希真高校は学校としては桁違いの敷地面積を誇っているが、滝川邸は住宅として平均的な中学校に比する敷地面積があった。その中央やや北寄りに地上三階地下一階、白亜の洋館がそびえたっている。
 正面玄関前で降車した岬と早人を初老の執事と二十代と思しき女中の二名が出迎え、岬はごく簡単に帰宅の挨拶だけをすると、それ以上話すことなく二階の自室に向かって歩み続ける。
 早人は鞄を女中に引き渡すとその後ろから付き従った。そして岬と女中が部屋に入るのを一礼をして見届ける。
 豪奢に装飾された室内の様子が見て取れたが、それもごく僅かの事で、すぐにドアは閉じられる。早人は顔を上げると、階下に向かって歩き出し、地下階まで至った。
 そのまま地下にしては高い天井を持つ廊下の中央よりやや先、「桜庭」と記された表札のついた扉の前まで歩み、ノブに手をかける。
 室内は十畳ほどはあるだろうか。早人一人で暮らすには十分すぎると思われる広さのその空間には、しかし目立った家具や装飾品と言ったものがない。

837主従 前編:2013/08/18(日) 08:15:46 ID:V/zRmN4w
 あるのは真新しいタンスが一棹とこれもまだ傷一つないベッドだけで、壁面には壁紙すらなく剥き出しの表層を晒していた。

 ――――――

「はい、これ」
 翌日、登校した早人が席に着くや否や、夏樹が机の上に昨日岬によって廃棄されたはずの鞄を置いた。何人かの女子が遠くからそれを見て何やら声援を送るようなポーズをとっている。
「ありがとう」
「でも必要なかったのかな」
 夏樹の視線の先には、机の脇に置かれている全く同種で新品の鞄があった。
「いや、そんな事ないよ。でもどうしてゴミ箱にあるって気付いたのかな?」
「悪いと思ったんだけど、昨日桜庭の後を追っかけた」
 夏樹の岬ほどではないが美人の部類には属するその顔が既に赤い。
「で、これも悪いと思ったんだけど。鞄の中身見ちゃったんだ。驚いたよ、教科書以外何も入ってないなんて。ノートすらないし」
「いつ捨てられるか分からないからね」
「どうして?」
 快活な夏樹に似つかわしくない、悲嘆交じりの声音を聞いた早人は苦笑して答える。
「分かったよ、鞄のお礼もあるし昨日約束したし、話してあげるよ。でもここじゃ場所が悪いから」
 そう言って早人は自分達に向けられている視線の数を数えだす。片手で余る程度にはあった。
「昼休みに空き室で良いかな?」
 夏樹が頷き、周囲から歓声のようなものが上がりかけたが、直後にかぶさった予鈴のチャイムにかき消されていた。

 希真高校はその広さに比例するかのように膨大な数の教室を含めた居室があるが、全てが使われているわけではない。時間にもよるがかなりの空室が発生していた。
 そういった空き部屋は届け出制で生徒に貸し出しているのだが、この点に関してはあまりルールを守っている者はいなかった。空いていれば勝手に使ってしまえ、と言った塩梅で自由に活動の場にしてしまっている者がほとんどである。
 この時は早人も例外ではなく、校舎内を散策してほどなく誰も使用していない会議室を見つけると、そこにお邪魔することにした。
 ホワイトボードになにやら数式が書かれたまま残っていたので、授業か会議が行われていたのだろう。明るい陽射しが窓から差し込んでくるが、直前まで空調も効いていたせいか、室温はそれほど高くない。
 長テーブルを挟んで夏樹と向かい合って座る。早人は両手を机の上で組んでリラックスしていたが、夏樹は両手を握って膝の上に乗せ、唇をかんで緊張の表情を見せていた。
「大丈夫?」
「ななななな、なにが?」
「緊張してるみたいだけど」
「そ、そ、そ、そんなことないよ」
 明らかにそんなことがありそうな返答だったが、早人は話を進めることにした。
「僕と岬様の話を聞きたいって事だったけど。最初から全部話していくと長くなりすぎるから要点だけまとめていくけど、それでいいかな?」
 夏樹は真っ赤な顔を何度も上下に動かした。
「最初は……小学校二年生の時だったから八年前かな。僕の両親が亡くなった」
 防音対策のとられた室内には外の喧騒は聞こえない。早人の声だけが通っている。
「交通事故だったんだけどね。当時の詳しい事はもうあまり憶えていないんだ、周りで大人達が大騒ぎしていたけど。そして僕には身寄りがなかった。父の友人だった人が八方手を尽くして探してくれたんだけど、僕を引き取っても良いという人はついに現れなかった……かに見えた」
 早人は目を閉じ、当時の記憶を掘り起こしている。
「ところが康光様……岬様のお父様が僕を引き取りたいと申し出てくれた。大人達は仰天したと思う。父はしがないサラリーマン、母も父の幼馴染でしかも孤児だった。そんな両親と滝川グループの総帥につながりがあるなんて想像することすら不可能だ。誰もがその接点を知りたがったようだけど、康光様は『理由は一切聞かないように』というのを条件にしていたので、今も不明なままなんだ。僕も尋ねたことはあるけど答えは頂けなかった」
 夏樹にとってはこれは噂として既知の話であった。もっともこうして本人から事実として聞くまで半信半疑ではあったが。
「まあ不審なところはあったけど渡りに船の申し出でもあった。という事で大人達は僕を康光様に預けることにした。そうして最後まで面倒を見てくれていた父の友人に連れられ、僅かに残った家財道具を携えて僕は滝川邸を訪ねて、そして玄関が内から開かれた時、真っ先に目に入ったのが小さな女の子、岬様だった」
「……」
「挨拶をしなきゃ、と思った僕が口を開くよりも先に岬様の怒鳴り声が響き渡った。今と違って感情豊かだったんだよ、幼い岬様は」
「なんて言われたの?」
「『そんな汚い服や鞄、私の家に入れないで!』と」

838雌豚のにおい@774人目:2013/08/18(日) 08:15:54 ID:DihfnS8U
紫炎

839主従 前編:2013/08/18(日) 08:16:14 ID:V/zRmN4w
 夏樹が息を飲む音が早人の耳にも聞こえた。
「それで、持った来た家財道具は一切合財玄関の敷居をまたぐことなく処分された。服も当時の執事さんが買いに行って外で着替えさせられた。で、やっと入館することを許された僕に岬様が再度声をかけてきた」
「今度はなんて?」
「『貴方は私の召使いなのよ。それを弁えないならいつでも追い出すから』とね」
「そんなことが許されてたの?」
 憤慨するような夏樹の問いを聞いて、早人はまたしても苦笑する。
「今もそうだけど、滝川邸では岬様が絶対なんだよ。康光様も奥様も忙しくてあまり帰宅されない、必然残る岬様が唯一の滝川の人間となる」
 早人の薄茶色の瞳が、灰色に変じたように夏樹には見えた。
「それからは岬様の機嫌を損ねる度に、その原因となっている物を処分させられた。物だけではなく、人も。友人との約束があって静音様を待たせたりしたら、その友人と絶縁させられた。とにかく岬様を最優先しなければならない、それ以外は不要なんだ。僕は岬様に仕えるだけの人間なんだよ」
「逆らったりしなかったの?」
 夏樹は目に涙すら浮かべ、声を震わせてそう問いかける。
「昔はね。でもその度打ちのめされた。岬様に逆らう事はイコール滝川に逆らう事なんだ。……でも、それでも一つだけ小さな抵抗を続けていた」
 それを聞いて、復縁を約束された元彼女のように夏樹の顔に輝きが戻る。
「最初の日、全ての家財道具を廃棄させられたんだけど、唯一隠しておいたものがあったんだ。それは銀製のハート型ロケットペンダントで、元々は父さんが母さんにプレゼントしたものだったんだけど。滝川邸に行く前日、父の友人が僕と両親の写真を入れ直して渡してくれた。それだけは隠し持って、時々首から下げていたんだ」
 早人は静かに一呼吸して言葉を続ける。
「だけど運悪く、それを着けていた時にまた岬様の逆鱗に触れることがあった。理由は覚えていないけど、岬様の部屋の中でのことだった。その時服を脱ぐように命じられて、当然ロケットも見つけられて、捨てるように言われたんだ。それだけは許してほしいって土下座して頼んだけど無駄だった。ただ、その時室内は僕と岬様だけだったから……」
「二人きり?」
「そう。それで恥ずかしい話だけど、岬様に飛びかかった。もうヤケクソになっていたんだろう、岬様を泣かせてもいいからロケットだけは守るつもりだった。でも、情けない話だけど力でねじ伏せられた。子供時分の事だったから、女の子の方が腕っぷしでも強かったんだ」
 そう言って自嘲気味に肩をすくめる。
「そして、首から引きちぎるようにロケットを取り上げられて『そんなに大事な物なら私自ら処分してあげるわ。貴方は感謝するべきね』と言われて部屋から叩き出された……それから僕はもう抵抗するのをやめたんだ。今の僕にはもう何もないんだよ」
 直射日光が窓に当たり、室内に濃い影を作る。その中で夏樹の影が動いた。立ち上がると必死な口調で語りかける。
「なにもないなんてそんな事ないよ、桜庭、頭いいし、それにスポーツもできるし」
「それは、岬様に仕える者として必要だから教え込まされたんだ。乗り手にとって良い馬になったにすぎないよ」
「……じゃあ、召使いになっているのが嬉しいわけじゃないんだよね」
「喜ぶとか悲しむとか、そういうものじゃないんだ」
「でもそうなんだよね?」
 夏樹の力強い、有無を言わせぬような言葉に早人は気圧されるものを感じた。それでもなんとか夏樹が納得できそうな言葉を探す。
「ありきたりだけど、しょうがないんだよ」
「だったら、私が助けてあげる」
「え?」
 その宣言は早人には完全に想定外の物であったので、虚を突かれて夏樹の顔を見直す。
「待っててね」
 夏樹がいつものように浮かべた太陽の笑みは、早人にはひどく眩しいものに見えた。

840主従 前編:2013/08/18(日) 08:17:50 ID:V/zRmN4w
終わり
ちょっと前に出ていたネタを参考に書こうと思ったら
よく分からないものができていた

次で終りなんだけど
リアルが忙しくて超絶遅筆になるかもしれますん
気長にみてやってくだしあ

841雌豚のにおい@774人目:2013/08/18(日) 10:25:21 ID:V/zRmN4w
ちょw
誤字脱字多いなあ……
保管庫で修正します

842雌豚のにおい@774人目:2013/08/18(日) 15:40:36 ID:rtcZKkj6
素 晴 ら し い
こういう貴族×一般人の組み合わせは大好物だ...
岬様は冷たい態度とってるけど裏では何考えてんだろうか

843雌豚のにおい@774人目:2013/08/18(日) 16:08:24 ID:S/FRE9jU

続き待ってます

844雌豚のにおい@774人目:2013/08/18(日) 17:59:36 ID:qVYAbyIE
>>840
乙彼様です。

一見桜庭くんに光明が見えたようにみえて、そこはかとなくイヤーな予感しかしないのはなぜでしょう(苦笑)

845雌豚のにおい@774人目:2013/08/18(日) 19:56:34 ID:MqlBkg8g
乙 期待

846雌豚のにおい@774人目:2013/08/19(月) 12:32:51 ID:WZICJQ8E
とある天才科学者によって開発された心を持つアンドロイド(男性)。

科学者の娘は、そのアンドロイドと心を通わせるうちに恋に落ちる。

アンドロイドは、自分が人間では無いことから身を引こうとするが、それが娘の心を病ませていき…

なんて妄想をしたことあるけど、ぶっちゃけロボッ娘の方が需要あるだろうなぁ。

847雌豚のにおい@774人目:2013/08/19(月) 17:09:13 ID:9dGwDF7.
それいいね

848雌豚のにおい@774人目:2013/08/19(月) 18:03:22 ID:xM/EeguU
主人公がアンドロイドだと感情移入しにくいかもしれん

849雌豚のにおい@774人目:2013/08/19(月) 18:16:29 ID:Q4G3svs6
プログラム(思考みたいな何かしら)を無理やり書き換えられて、
娘を好きになるようにされたり、強制的に気持ちよくされちゃったりするんですかやったー!

850雌豚のにおい@774人目:2013/08/19(月) 19:30:42 ID:htIn2St6
機械だから手足も簡単に外せるな……
やべえ新時代の予感

851雌豚のにおい@774人目:2013/08/19(月) 20:09:01 ID:ZvAzZUA.
お薬使わなくてもプログラム弄ればいいし、機械だから鉈程度ではやられない
とうとうロボ男の時代が来てしまったか

852雌豚のにおい@774人目:2013/08/19(月) 23:12:46 ID:TxN.kQiY
しかしあれだ、>>849のような例もあるから、

CPUはカレンデバイス風というか、かつての生体の脳を流用しているというか
時々昔の記憶がよみがえって、かつて愛した女性のことを思い出すとか

853雌豚のにおい@774人目:2013/08/20(火) 06:04:32 ID:FN5rnx0E
えーと、つまり
自分を捨てて泥棒猫と心中してしまった主人公
かろうじて生きていた脳細胞を取り出した女科学者は
それを中に入れたアンドロイドを作って主人公を復活させる
しかし生活していくなかで消したはずの泥棒猫の記憶が蘇り……

こうか?

854雌豚のにおい@774人目:2013/08/20(火) 19:23:14 ID:Bqb5.OEA
いいよいいよー

855雌豚のにおい@774人目:2013/08/20(火) 20:54:08 ID:dF0qWL5o
あ、おれが最初に想定してたって言うか、こういうの↓もアリなんじゃないかと思うんだが……

ヒロイン「どうして分かってくれないの!?私はあなたをこんなに愛しているのに!!」

ロボ夫「私は人ではなく機械です。貴女が私に抱いているモノは、単なる錯覚にすぎません」

ヒロイン「人とか機械とか、そんなこと関係無いわ!!」

ロボ夫「論理的ではありません。感情とは、神経系の電気刺激です。そして恋愛とは、人間が子孫を残すプロセスの1つです。機械とは成立しません。成立しない、筈なんです」

↑こんな感じはどうじゃろ?

856雌豚のにおい@774人目:2013/08/20(火) 22:16:08 ID:7Kym5jDQ
ちょっとだけ書いてみたんよ。
これじゃない感がすごい。

「ハロー、アンドロイド」
私の声に反応し、彼の眼がゆっくりと開き、瞳には光が灯る。
「スリープモード中です」
「スリープモード解除」
彼の収容されているケースの横に備え付けられたコンピューターに、ログインパスワードを手早く打ち込んだ。
「お嬢様、就寝の時間では?」
「うるさいわね」
カタカタと忙しなくプログラムを書き込み、エンターキーを押す。
「そのオーダーは許可されていません」
「はぁ。じゃ、ユーザー切り替え」
「…………ユーザー認証。パスワードを入力してください」
ディスプレイの隅っこに貼られた小さなメモ帳に、父親のユーザーパスが書いてある。
有能な科学者の割に、こういう防犯意識はてんで無いのだから困ったものだ。
「認証完了」
ま、私はそれを利用させてもらっているわけだから、何も言わないけど。
「……お嬢様」
先ほどのプログラムをもう一度打ち込んで、エンターキーに指を触れさせたところで彼が口を開いた。
「何よ、もう」
「お父様の許可は取られたのですか?僕はお嬢様やお父様、ひいては人間に安全なサービスの提供を……」
「ちょっとアンタ口を閉じてて」
口頭で命令を下すと、彼の不気味なくらい整った唇は真一文字に結ばれ、微動だにしなくなった。
「アンタが悪いんだから……」
妙にいらだった気分で、プログラムの続きをがちゃがちゃと打ち込んでいく。

857雌豚のにおい@774人目:2013/08/20(火) 22:16:44 ID:7Kym5jDQ
私が彼を初めて見たのは、父の研究室の隅だった。
ロボットとは思えないくらいリアルな、だけど、人間離れした美しい外形に私の眼は釘付けになっていた。
部屋に戻ってきた父が私に彼の解説をしてくれた。
髪、肌の素材がどう、とか。骨格がどう、とか。そういうのは正直あんまり興味は湧かなかった。

このコンピューターで行動や性格、果ては彼の疑似神経への感覚まで制御できる。

誇らしげにべらべらと、重要機密を喋りまくる父にちょっと苦笑した。
そんな父だったから、猫なで声で『パパ、私、この子と遊びたい』と言えば、彼を自由に扱う権利は簡単に手に入った。

最も、モニターも兼ねてとかなんとかぶつぶつ言っていたり、
危険な設定はできないようロックがかけてあったり、その辺は父親らしく、科学者らしかった。

それから、私は彼を独占した。
外に連れ出せないと知ってから外出は控えるようになり、家の中を歩く時は必ず彼を同行させた。
父の「そろそろモニタリングもいい頃合だろ」とそれとなく出る度、わざと問題行動を起こすようなプログラムを組んだ。

次第に、私は本当の意味で彼を独占したくなっていった。
世界に一人だけ、私の為だけに存在してほしい。
モニターが済んだら、父は彼を私の手元に残しておいてくれるかもしれない。
けど、世界中に彼の複製品が出回ってしまう。それは嫌だった。鳥肌が立つくらいに。

858雌豚のにおい@774人目:2013/08/20(火) 22:17:19 ID:7Kym5jDQ
「アンタは私だけのモノよね」
「…………」
彼は何も答えない。私がさっき口を閉じるよう命令してたからね。
「何とか言いなさいよ」
エンターキーを強く叩く。自然と頬が歪み、舌なめずりをしてしまう。
「…………」
彼は相変わらず口を閉じ、身体をピクリとも動かさないが、モニターに表示されている心拍数やら神経の何やかんやは激しく上下していた。
私の打ち込んだのは強烈な催淫作用を引き起こさせるプログラム。
くくく、と我ながら意地の悪い笑い声が歯の隙間から響く。

今日はどうやっていじめてやろうか。

私のことどうしようもなく好きになって、全身気持ちよくさせて、
だけどイケないように寸止めして、また泣きながら懇願させてみようかな。
「うふふふふ……」
夜は長い。じっくりいたぶってやろう。
私がまた一段と頬を歪ませたのを見て、少しだけ彼の身体がすくんだ気がした。



859雌豚のにおい@774人目:2013/08/21(水) 00:29:17 ID:ujVDFcR6


なんか違うな…

あいの押し売り感が…

860雌豚のにおい@774人目:2013/08/21(水) 10:57:52 ID:x18vc07w
というか機械相手に自慰してるようなもんだから
誰に感情移入すればいいのかワカラン

861雌豚のにおい@774人目:2013/08/21(水) 11:01:35 ID:u2bdKcsw
乙彼様です。
ヤンデレと言うか……ドSな印象の方が強いかもですね。

862雌豚のにおい@774人目:2013/08/21(水) 16:26:45 ID:zJfT/OwI
ロボが駄目ならサイボーグでどうだ

863雌豚のにおい@774人目:2013/08/21(水) 16:54:49 ID:OhIBMacc
何となくロックマンゼロ思い出す

864雌豚のにおい@774人目:2013/08/22(木) 10:54:24 ID:ZtrEpAWM
旧変歴伝みたいんだが何処にも無いのかな?

865雌豚のにおい@774人目:2013/08/22(木) 18:45:54 ID:2V2XJUA6
なんか知らんけど消えてるんだよなあ

866 ◆hjEP2rUIis:2013/08/22(木) 19:34:44 ID:2BHu8rAc
テスト

867WIKIの中の人 ◆hjEP2rUIis:2013/08/22(木) 19:37:28 ID:2BHu8rAc
>>864-865
以前も説明したが作者さんに削除依頼されたから封印してる(^_^;)
どーしても読みたかったら
何らかの方法で過去ログあさってもらうしかない

868雌豚のにおい@774人目:2013/08/23(金) 11:45:26 ID:RlCeUK9s
まあヤンデレって基本Sだわな

869雌豚のにおい@774人目:2013/08/23(金) 22:43:34 ID:S7WDeGlI
あー、個人的に色々納得。
ところで、話は変わるけれども、友情や家族愛といった、恋愛感情以外の『病んだ愛情表現』もヤンデレって呼んでいいんだろうか。
友人関係・家族関係を維持するためなら手段を選ばないとか、歪んだ愛情表現とか。
いや、もちろん一番キャッチーというか王道なのが恋愛感情なのは異論は無いのだけれども。

870雌豚のにおい@774人目:2013/08/23(金) 22:54:48 ID:JCzaZvME
とても良いと思います

871雌豚のにおい@774人目:2013/08/24(土) 00:05:08 ID:ns7/4zBQ
>>869
いいかもしれないけど
あんまり需要はなさそうだ
ついでに
「そんなのヤンデレじゃねえ!」
とかギャーギャー言われるのが目に浮かぶ

872雌豚のにおい@774人目:2013/08/24(土) 11:23:33 ID:DoQLMj/Q
泥棒猫の存在を察知した時
泥棒猫を殺しに行くのと
泥棒猫に会えないように彼を部屋の中に監禁するのと
どっちがいいのか
両方とかいうのは無しとして

873雌豚のにおい@774人目:2013/08/24(土) 11:28:34 ID:Dx0tm0hE
泥棒猫に見せつけながら&泥棒猫を口汚く罵りながら
騎乗位で(縛りあげた)愛しの彼とセックス、きっちり膣内射精と受精をこなす

874雌豚のにおい@774人目:2013/08/24(土) 19:33:46 ID:WcqGA5UY
縛るのは勘弁

875雌豚のにおい@774人目:2013/08/24(土) 21:43:15 ID:SEwWnw7o
>>872
裏で色々手を回して彼が泥棒猫に失望しきって、縋られても見向きもしなくなるように仕向ける

876雌豚のにおい@774人目:2013/08/24(土) 22:19:46 ID:uw.14mVA
>>872
俺的には監禁とかで独占するほうがいいな

877雌豚のにおい@774人目:2013/08/25(日) 00:37:24 ID:m/riQMbo
男が幼馴染の両親を殺害したという疑い(冤罪)で逮捕。
幼馴染はショックを受けて男をこれでもかと罵倒。
男は罰を受けて投獄されてしまう。
が、しかし幼馴染は男が居ない生活に少し寂しさと酷く罵倒した事に後悔を感じていた...そして真犯人が判明し、男の無実が証明され幼馴染は狂喜して男の元に駆け付けるが男は変わりきってしまっていた。
幼馴染を冷たく振り払い完全に人間不信になった男はたった一人で生きて行こうとする。それを食い止めようとする幼馴染!!
なにをしても自分に心を開いてくれない男と接していくうちにだんだんと精神を病みはじめる幼馴染!!!!

いやぁーん\(//∇//)\誰かこんな少女漫画みたいなSS書いてぇ~d(^_^o)

878雌豚のにおい@774人目:2013/08/25(日) 00:45:40 ID:qGXp/iBU
そこまで考えてるなら、文章で書き起こすんだよ!
簡単だろ!

879<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

880雌豚のにおい@774人目:2013/08/25(日) 05:56:49 ID:Pvz7yZ2A
ヤンデレに打ち勝つ男くんすき
アカギとかそのあたりなら勝てる

881雌豚のにおい@774人目:2013/08/25(日) 10:48:46 ID:92OiA6.M
本スレに投下あったから見とけよー

882雌豚のにおい@774人目:2013/08/25(日) 16:48:50 ID:y6RcGeAA
ヤンデレネット(仮)

恋の病にかかった乙女の皆さんへ。
(注:女性は何歳であっても、恋する心を忘れない限り乙女です!)

男子禁制のオンライン乙女の園、ヤンデレネットで交流しませんか?

簡単な無料会員登録ですぐに使用可能です。

アナタが好きな男の子をGPS機能で追いかけたり、カレの学校や職場、バイト先の表裏のインフォメーションをゲットしたり。

チャットで「あるある」トークをしたり、お互いの想い人の目撃情報をBBS(画像アップロード可能)で共有したり。

うっかり同じ人を好きになった方同士がかち合った時は、修羅場チャットに自動的に移行する機能もついてます。

気になるあの人のところへ、オンラインから秘密のアクセスだってOK!

さぁ、アナタも同じ恋の病を抱える乙女と仲良く意中のお相手を追いかけましょう!




……なんて妄想をしてみたけど、病むほどの女の子がそう何人もいるかとか、そもそもそんな女の子たちが自発的に友達増やすかとか、我ながらツッコミ所がががが。

いや、貴男のパソコンやケータイに、あのコから秘密のアクセスがある可能性も無いわけでは無いですけどね。

ホラ、今も貴男を画面越しから(この書き込みは途中送信されました)

883雌豚のにおい@774人目:2013/08/26(月) 12:22:06 ID:0RjLTv5Y
「ヤンデレネット」で、ついターミネーターのスカイネットを思い起こした

ワールドワイドのコンピューターネットワーク網が、ある日突然(女性人格の)自我に目覚めて、
とある一人の少年に一目惚れしたとしたら…
もうどこにも逃げ場はないな

現在でもやりたいほうだい、未来からも自分のAI搭載したアンドロイド送り込んできたりやりたいほうだい
でも最終的に自分で自分に嫉妬して自爆しそうだけど

884雌豚のにおい@774人目:2013/08/26(月) 19:59:52 ID:a3w9HjGg
http://www.mediafactory.co.jp/bunkoj/book_detail/1048
なんだこれは…(憤怒)

885雌豚のにおい@774人目:2013/08/26(月) 20:51:02 ID:7mAhBxwY
>>884
もうこれわかんねぇな
どうせ最終的には主人公とくっつくんだろうけど

886雌豚のにおい@774人目:2013/08/26(月) 21:39:33 ID:a3w9HjGg
>>885
絶対このヒロイン主人公が他の男とくっついたら鞍替えしてくるよね

887雌豚のにおい@774人目:2013/08/26(月) 22:02:24 ID:ttZW0f1k
>>886
主人公が他の男…?

888雌豚のにおい@774人目:2013/08/26(月) 23:42:23 ID:27OHHwxA
ウェブ上の感想とか見ると、あんまりヤンデレっぽくないらしいけどなー。
それよりも、電撃文庫の『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』の話をしよう(提案)

889雌豚のにおい@774人目:2013/08/27(火) 01:32:44 ID:A9RRrGbk
それはヤンデレなんですかね…?

890雌豚のにおい@774人目:2013/08/27(火) 02:06:16 ID:V1UM5pf2
>>889
あ、ゴメン。タイトルだけじゃ分からないか。
ヤンデレものの小説ってわけじゃないけど、この小説のヒロイン(ぼっち系残念女子)が意外とヤンデレっぽかったりする。(『S県月宮』のパロディシーンと言う感もあるけど)
今秋アニメ放送予定の『機巧少女は傷つかない』のメインヒロインの初期コンセプトはヤンデレだったそうだし、最近は結構味付けとしてのヤンデレ属性持ちのキャラクターはいるみたいだよ。

891雌豚のにおい@774人目:2013/08/27(火) 11:17:27 ID:jC7nnaWg
こうして、単純な萌えの記号として溶けていくのかねぇ…

でも、ここでSS読めればいいや

892雌豚のにおい@774人目:2013/08/27(火) 13:04:37 ID:A9RRrGbk
ヤンデレヤンデレ騒がれてた時に既にジャンルとしてはもう死んでるだろ

893雌豚のにおい@774人目:2013/08/27(火) 19:29:50 ID:B32AEOE6
ランダムで読んだら魔王様のつくりかた最新話がでてきた

ありがとうランダム

894雌豚のにおい@774人目:2013/08/27(火) 19:56:06 ID:bEDnqL6w
短編ランダムに読んでると
最高の暇潰しになる

895雌豚のにおい@774人目:2013/08/29(木) 12:04:33 ID:4iw9Nd6M
流出した●ユーザーに想い人の名前を見つけて歓喜
彼の書き込みを全部保存した女の子とかいないかねえ

896雌豚のにおい@774人目:2013/08/29(木) 14:16:28 ID:8MZAHzP6
ネット(と言うかハッカー系)とヤンデレの親和性って高いのな。

いや、現実の事件でも、ネット上で知った相手をブログの書き込みとかでリアルを特定してストーキングとかあるらしいけど。

897雌豚のにおい@774人目:2013/08/29(木) 17:09:26 ID:4iw9Nd6M
顔素性もしらないがネットで会話していた相手
それがある日
「やっと分かった。今から会いに行くから」
と書き込んでから全くレスをしてこなくなり
不気味に思っていると電話が鳴る

「あたし。今 あなたの後ろにいるの」


この手の話はオチが全部メリーさんになるなあ

898雌豚のにおい@774人目:2013/08/29(木) 17:21:03 ID:8MZAHzP6
あるいは、引きこもり男の幼なじみ(女)が、妙に男のことに詳しい。

それもそのはず、彼女は彼をネット上から監視(?)していたからだった……。

や、こんな感じのSSは過去にあった気がするな。

女の子の方を引きこもりにした方が良いか。

引きこもりながら、街中の監視カメラをハッキングしたり、『幼なじみ監視ツール』を使ったり。

899雌豚のにおい@774人目:2013/08/31(土) 00:05:54 ID:xfZypj7.
ツールか・・・。

だったら、ヤンデレが愛用しそうなそれっぽいツールでも考えるか。
例えば、《カメラに写った特定の人間の一日の栄養素を詳細に記録するツール》を町中の監視カメラに仕込み、食生活を監視。

そして足りない栄養素をメールで報告。
《食物繊維が足りないからキャベツ食べるといいよー》カタカタッターン

男はそのメールを見て不思議に思うものの、「まあ俺の母ちゃんにでも聞いたんだろ」と警戒心ゼロ。

その後も、様々なツールを使い男の個人情報が次々に暴かれていき、それを次々に報告するも、
「ツイッターにでも書いたかな」
「お、ブログ見られたか」
「共通の友達にでも聞いたのかな」と警戒する気まるで無し。
そして調子に乗った幼馴染の行動はエスカレートしていき最終的には・・・

みたいな

900雌豚のにおい@774人目:2013/08/31(土) 16:11:10 ID:oa4cgAxE
最終的にはステルス纏って、ベットの下に…

901雌豚のにおい@774人目:2013/08/31(土) 18:24:43 ID:ctVAIOXg
ヤンデレ「ふははははははははははは!」
男「うわ!」
ヤンデレ「待っていたわよ! 男君!」
男「おまえ、いつの間に?」
ヤンデレ「このあらゆる物から身を隠すステルスマントのおかげよ! さあ! もう逃げられないわよ! 今から結ばれるのよ、ありていに言うとセックスよ!」
男「ひょっとしていままでずっと?」
ヤンデレ「そうよ! 今迄男君の食事を把握していたのも、一日の行動を見ていたのも全部私が作ったツールのおかげよ! 貴方の事は全部 お・見・通・し(はぁと) 覚悟してよね、今日は絶対受精して、男君を一生私のものにするんだから」
男「…」
男「おまえのツール、つかえねーな」
ヤンデレ「え? なんで?」
男「肝心なことを見逃してる」
ヤンデレ「な、なにを?(涙目)」 
男「それはな」
男「俺がお前を大好きだってことだよ。こんなことする必要ないのに。ばーか」
ヤンデレ「男くううううううううううん!」

なんだこのバカップル

902雌豚のにおい@774人目:2013/08/31(土) 20:31:29 ID:3H/RGaIE
お幸せにって感じです

903雌豚のにおい@774人目:2013/08/31(土) 21:04:59 ID:oa4cgAxE
最後のくだりは男側が嫌々ながらも受け入れる展開が素晴らしい

これぞ強奪ヤンデレ

904雌豚のにおい@774人目:2013/08/31(土) 21:24:56 ID:/uXuxVHI
最後の男の言葉、サイッコーの口説き文句だな。

ごちそうさまです。

905雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 11:02:39 ID:JR82M6/s
ツール(万能)

906雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:36:07 ID:5duPFkJ.
お久しぶりです。サトリビトを書いているものです。
16話ができましたので投下します。

907雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:37:05 ID:5duPFkJ.
「俺と付き合ってください!」

中学校2年生になった頃、私はある先輩に告白された。
その人は友達の間でもしばしば話題に上がっていた人だったので、顔くらいは知っていたけど、話したことはこれまで一度もなかった。
だから呼び出されたことだけでも驚いていたのに、ましてや付き合ってくれと言われるなんて考えもしなかった。
「え、えっと……」
返事に迷う。
私だって思春期の女だし、彼氏が欲しいって少しは思うことだってある。
でも初めて話をした人と付き合うのには抵抗があった。
そんな風に思案しているとしびれを切らしたのか、先輩は悲しそうな顔をして「ダメか?」と尋ねてきた。
「いきなりで悪かったと思ってる……でも、もういてもたてもいられなかったんだ!それだけ君のことが好きなんだ!」
「!」
ここまで直接的な感情表現をされると断りきれなくなる。
もしかしたら付き合っていくうちに好きになるかもしれない。
友達も言ってたっけ。始めから両想いで付き合えるカップルなんてほんの僅かだって。
だったら評判も良く、こんなにも私を思ってくれる先輩と付き合うのもいいかもしれないな。
「……分かりました。こちらこそよろしくお願いします、先輩!」
そうして私、岡田結衣は人生で初めての彼氏が出来た。


翌日、私と先輩が付き合っているという噂はクラスの間に広がっていった。
「すごいね結衣!あの先輩の彼女になれるなんて!」
「ホントホント!いいな〜羨ましいな〜」
「でも結衣ちゃんと先輩ならお似合いだけどね」
「そ、そんなことないよ!でもありがとう」
「何かあったら何でも相談してね!」
私は先輩と付き合えたことよりも、まるで一人の女として認められたかのようで、クラスの友達から祝福されたことのほうが嬉しく思えた。
(みんなが私のことを褒めてくれる……)
思わず顔がほころぶ。
このとき、いつものように冷静さがあれば気づけたかもしれない。少なくとも、彼女たちだって直接的な行動はして来なかっただろう。
「……本当に結衣ちゃんは幸せ者だね」
舞い上がっていた私は些細な違和感に気がつかなかった。

908雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:38:41 ID:5duPFkJ.
先輩は私と付き合ってからというもの、毎日のように電話やメールをくれた。
始めのうちは最近起こった出来事とか、見ていたテレビ番組のことなどを面白おかしく話してくれたので、すごく楽しかった。
それにメールの最後には必ずお休みの一言と一緒に、私のことが好きだと言ってくれた。
それがとても嬉しくて、私もだんだんと先輩のことを好きになっていった。
だけど時間が経つにつれて、先輩は少しずつ変わっていった。
いや、変わっていったというよりも、隠していたものをさらけ出してくれたという感じ。
お休みの言葉がなくなった。
私への問い掛けもなくなった。
しだいにメールの内容は先輩の自慢や人の愚痴へとシフトしていき、挙句には私のメールが少し遅れただけでもすごく怒るようになった。
デートに行った時などは服装が自分の趣味と合わなかっただけで、俺のことを理解してない、愛してないなどと言われた。
(きっと私が悪いんだ、私がもっと先輩を好きになれば……)
嬉しさの中に生まれたもうひとつの気持ち。
その存在を感じたくなくて、私は無理にのめりこもうとした。
らしくなく、お菓子を作った事もあった。
服だって先輩の好みの系統を勉強した。
お小遣いのほとんどをそれらに費やした。
当然、それからの先輩は喜んでくれた。女の子らしい、かわいいよって。
でもそれに反比例するかのごとく、私の気持ちは疲れていった。


付き合ってしばらく経った頃、先輩がキスをしようと言ってきた。
カップルなら当然の行為。
雰囲気もあり、相手も好きな彼氏。何も迷う事はないはずだったのに―――
「……ごめんなさい」
私は断った。
特に理由はない。
ただ……キスしたい、と思えなかった。
向こうも断られると思わなかったのだろう、
「は?何でだよ!俺達カップルだろ!?キスくらい普通だろ!?」
肩を思いっきりつかまれて、今まで見た事もない形相で迫られた。
「えっ、あの」
「お前は俺の彼女だろ!?だったらキスくらいさせろよ!」
何が起こったのか分からなかった。
ただ自分の意思とは別に体が大きく揺れ、肩は痛いほど先輩の指が食い込んでいた。
「あ!ご、ごめん!」
先輩が慌てて掴んでいた肩を離した。
「お、おい、結衣……?」
恐いと思った。この人が、男の人が、とても恐いと思った。
私は何も知らなかった。
彼女がキスを断ったら、こんな風に怒られる事。
「ご、ごめんなさい!」
泣きながら私は走り出した。
どうして先輩はあんなにも怒ったの?
キスは拒んじゃいけないの?
どうして私は……あんなに好きだった先輩とのキスを……断ったの?
考えても考えても疑問は晴れなかった。
家に帰ると同時に部屋に飛び込んだ。
(明日が来れば学校に……そうしたら友達に……)
何かあったら相談してね、と言ってくれた。
叱咤されるかもしれない。
でもそれからアドバイスをもらって楽しくおしゃべりして、放課後先輩に謝りに行こう。
そうしたらきっと先輩のことをもっと好きになれるはず。
キスだって今度はきっとできる。
そんなことを考えながら、私は朝が来るのをひたすら待ち続けた。

909雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:39:40 ID:5duPFkJ.
次の日、学校で友達に昨日の事を相談した。
「―――って事があって……私、どうすればいいのかな?」
私の言葉に彼女たちが押し黙る。
覚悟を決めて言葉を待つ。
友達は話を始める前にあった笑顔を完全に失くして、冷めたような目つきを私に向けてきた。
心臓がドクンと跳ねた。
「……何それ。私はあの人にキスをせがまれるほど愛されてるの、って言う自慢?」
返って来た言葉は私の想像とはかけ離れたものだった。
その声色と内容に鳥肌がたつ。
「前々から思ってたんだけど、結衣ってさ、ホント空気読めないよね。ってかわざと?」
「な、何の事?私がなにか―――」
「そうやって気付かないふりして。あ、もしかして純情ぶってんの?言っておくけど、あんたの本性は女子全員知ってんだから」
友達が顔をズイッと寄せてくる。
「あんたが先輩を誘惑して彼女になったって事もね」
「誘惑!?ちょっと待って、私はそんな事してないよ!」
「こっちは何人も見てるんですけど。先輩の前で可愛い子ぶったり、媚び売ったりしてたの」
「どうせ私達が格好良いとか言って騒いでたから手に入れて見下したかったんでしょ?さすが可愛い子はやることが違うわ」
「違っ!本当に違うよ!信じてよ!!」
「最初っから私たちの事を友達って思ってないから先輩を奪えたんでしょ?」
「そんなことない!友達だって思ってる!それに奪ったなんて―――本当に信じてよ!」
恐かった。先輩に迫られた時よりもずっと怖かった。
もういい。
もう先輩との事は訊かないから、この話をする前に戻りたい。
「挙句の果てに自分から誘っておいて、キス迫られたから恐くなって逃げた?はぁ?マジで超ウザいんだけど」
「どうせ自分から誘っといて先輩に断られたんでしょ?あんな良い先輩を悪く言うなんてサイテー」
そのとき男子が近くを通りかかったせいか、友達の話もそこで終わった。
席に戻る彼女たちを茫然と見つめたまま、私はその場を動く事が出来なかった。
チャイムが鳴り、先生に促されてようやく席に着く。
でも私の震えは止まらない。
どうして友達は急にあんな事を?
授業中の先生の話も頭に入ってこない。
もしかしてこれは夢かもしれない。そうだ、これはきっと……
私の願いが通じたのか、休み時間になるといつものメンバーが私の席に集まって来た。
ホッと胸をなで下ろす。
やっぱりさっきのは悪い夢だったんだ。
「でさー佐藤が転校した本当の理由って早川なんじゃない?付きまとわれてたからとか」
「あ!でもあの二人ってお似合いだよね!なんか息が合ってるって言うか―――」
「私もそれ思ってた。早川ってなんか暗いし、佐藤ももっと上狙えるのにね」
「……それが陽菜ちゃんと早川君って幼馴染なんだって!なんか憧れちゃうよね!」
「もしかして佐藤と早川って幼馴染とかだったりして」
「えっ、マジで!?うっわ〜佐藤も幼馴染ならもっと格好いい方が良かったって思ってそー。例えば『先輩』とか」
「それ言えてる!」
「…………」
夢じゃなかった。確実に私は友達に嫌われてしまった。
はたから見るといつもどうりおしゃべりをしているように見えるかもしれない。
でも実際はこの中の誰一人、私の存在を認めてくれなかった。
「ははは……」
私にできる事は、相槌を打つか、みんなに合わせて空虚な笑みを浮かべるだけ。
「ははは……はは……は…」
学校と言う場所が地獄に変わった瞬間だった。

910雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:40:45 ID:5duPFkJ.
「結衣、もう一回キスしてもいい?」
口だけの問いかけ。私の返事を待つ前に、先輩は嬉しそうに唇を重ねてきた。
最近の先輩は生き生きとしていた。
私とあっても怒ることはなく、いつもニコニコと笑ってくれる。
きっとみんなにとってこれが一番いいのかもしれない。
先輩が幸せそうにしている。友達だって下手に刺激しないで済む。
だからきっと……
「んん……ん……んんっ!?」
突然、キスの最中に胸を触られた。
全身を駆け巡る嫌悪感。
すぐにでも先輩を突き飛ばしたくなる。
でもそんな事は出来ない。そんな事をしたら今度は無視だけじゃすまない。
これ以上はきっともたない。
だから私は必死に耐えた。
胸を弄る先輩の手は止まらない。
私は見られないように自分の太ももをつねり続けて自尊心を保った。
先輩は私がようやく素直になったと思ったのだろう。それとも、私自身も嬉しがっていると思ったのだろうか?
それからはキスをするたびに胸を触られるようになった。
そして、家に帰ってからは泣き続ける日々が続いた。

911雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:41:36 ID:5duPFkJ.
秋の運動会。私にとっては憂鬱だった。
風邪のふりをして休みたかった。
でもそんなわけにはいかない。
例の如く、私は友達によって運動会の実行委員に選出されていた。
そんな人が運動会を欠席できるはずがない。
実行委員なのでいつもより早く家を出た私は、重い足取りで学校に向かった。
グラウンドについてすぐに競技の準備を始める。
あと1時間ほどしたらみんなが登校して、またあの一日が始まるのかな。
運動会だから一日中友達と一緒に行動しなければならない。
もしかするとほとんど誰もいないこの時間、今だけが私の幸せな時間なのかもしれない。
俯きながらカラーコーンを並べていると、そこで思いもよらぬ出来事と遭遇した。
「あ、岡田さん!ちょっと手伝ってもらってもいい?」
声をかけられた。相手は隣のクラスの実行委員。名前は―――
「……うん、いいよ」
早川慶太。
これが初めて彼と話した最初の言葉だった。
今までの彼自身の印象は他人と距離を置きたがる、いわゆる内向的な人。
そんな彼が仲良くもない、ましてや違うクラスの私に話しかけたのに少し驚いた。
「クラスの子から聴いたんだけど、岡田さんって足が速いんだってね。羨ましいな」
一緒に職員用のテントを立てながら、彼が切り出した。
「そんなことないよ……」
答えながら私は考える。
なぜ彼は話しかけてきたのだろうか?
もしかして……私に気があるのだろうか?
そう思った瞬間、またしてもあの恐怖が蘇る。
コイツもあの人と同じ。
自然に離れようとした私に、彼は言いにくそうな顔をして訊いてきた。
「実はさ……俺、好きな人がいて、それでその人と岡田さんの仲がいいから……ちょっと相談に乗ってほしいんだけど……いいかな?」
驚いて彼を見つめる。
「えぇ!?あぁ、うん」
恥ずかしさがこみ上げて来る。
彼は私の事を意識している訳でも何でもなかった。
最近の自分はどうかしている。
「いいけど……私じゃあんまりいいアドバイスとかできないと思う……」
自分で言って切なくなる。
今の私には仲がいい友達なんていない。
「実はその人って陽菜のことなんだ」
一か月前に転校していった佐藤陽菜ちゃん。
彼女とは友達のグループは違ったが、お互いをちゃんづけで呼び合う仲だった。
「あ!呼び捨てなのは俺たちが幼馴染であるからで、その、え〜っと……」
彼は下の名前で呼んだことが恥ずかしかったのか、顔を赤らめて慌てていた。
そんな彼を見ていると、男の人は全員があの人と同じ事を考えてるんじゃないって思えた。
こんなことで照れるような彼は、きっとキスなんてできないだろう。
それから私は彼の陽菜ちゃんに対する思いを聞いていた。
延々と彼がただ述べるだけ。
それは先輩との会話と一緒だった。
だけど……ただ聞いていただけなのに……なぜか楽しかった。
ずっとこうしていたかった。
時間にして数分間の会話。
でも私にとっては一秒にも満たなかった様に感じられた。

912雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:42:28 ID:5duPFkJ.
そんなひと時が終わり運動会が始まると、またしても例の時間がやってきた。
「ははは……」
相も変わらず、友達グループの中でひたすら無視されて、自称気味に笑う私。
先輩がこっちに向かって手を振ったときだけ、
「佐藤じゃなくてお前が転校すればよかったのに」
話しかけてくれる友達。
もう心の方が限界に達していた。
どうして私はこんなにつらいの?
こんなにつらいなら、もう……いっその事……
そんな時、彼が再び声をかけてきた。
「あの!岡田さん、ちょっといいかな?」
突然の訪問客に友達が睨みつけるように彼を見る。
「……誰?」
「え、えっと……岡田さんと同じ実行委員の早川って言う者で……」
女の子に必要以上に注目され、彼は視線を彷徨わせていた。
そんな態度が気に食わなかったのか、彼女たちは詰め寄るように彼に近づいていく。
「だからなんであんたが―――」
「実行委員の仕事だよね!?分かった、今行くから!」
咄嗟に答えてから、私は立ち上がった。
「ごめん、みんな!ちょっと行ってくるね」
委員会とは言えど、彼氏がいるのにもかかわらず他の男について行く女。
多分彼女たちにはそう見えただろう。
きっと帰ったら何かされる。そう考えただけで恐怖が全身にまとわりつく。
でも、もう一度あの楽しかった時間を味わえるなら安い代償だと思った。
「それで私に何の用事なの?」
「先生にお茶用のお湯を汲みに給湯室まで行って来てって言われたんだけど、一緒に付いてきてもらってもいいかな?」
彼の言った仕事内容に疑問が湧く。
「いいけど、どうして一緒に?私が一人で行くよ?」
お湯を汲みに行くのに二人もいらない。
私がそんな質問をするとは思わなかったようで、彼は一瞬の驚いた顔をしたあとで、えっ〜と、う〜んと、と悩み始めた。
まさか……さっきの私を気にかけて……?
いや、そんなはずはない。周りから見た仲が良い友達同士にしか見えないはず。
何を期待しているの。誰も気付いてなんかくれるはずないじゃない。ましてや助けてくれる事なんかあるわけない。
それでも―――
「あ、変な質問してごめん。やっぱり一緒に行こ?」
それでも嬉しかった。
例え気付いていなくても、彼は結果的に私の事を助けてくれた。
「それで、陽菜ちゃんにはいつ告白するの?」
話題を変えて、暗い気分を紛らわす。
彼の顔がこの上ないくらい赤く染まり、「まだ……そこまでは……」と、何とも曖昧な返事が返って来た。
そんな彼が可笑しくて笑ってしまった。
それと同時に湧きあがる感情。
こんな彼に愛されてる陽菜ちゃんが羨ましいな……
給湯室でお湯を汲み、帰ろうとした途中で声をかけられた。
「結衣!」
体が硬直する。
なぜ……ここに?
声をかけて来たのは先輩だった。
そのまま私たちのところまで駆けてくる。
「さっきお前の友達から、お前が知らない男と二人で校舎に入って行ったって聞かされたんだけど……」
チラッと先輩が彼を見た。まるで人を小馬鹿にしたような笑み。
「まぁ、何もなさそうでよかったよ」

913雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:43:18 ID:5duPFkJ.
「そうだ、結衣……ちょっと教室いかないか?どうせ今日は誰も来ないだろうし」
その言葉で息が止まる。
なんで教室に行くの?教室で何をするの?
そこでもう一度、先輩は早川を見た。
「別にいいよな?」
遠回しに「早く行け」と言ってるのが見て取れる。
早川は先輩と私の顔を交互に見比べ、困ったように返事をした。
「はい、分かりました……それじゃあ岡田さん、手伝ってくれてありがとう」
生徒の大半は私と先輩の関係を知っている。きっと早川だって。
だから空気を読んで立ち去るのかもしれない。
いや……違う……
早川は本当に鈍感だ。まったく空気を読めていない。
こんなにも、こんなにも心の中で行かないで!って叫んでいるのに。
急に彼の足が止まった。
え……?
「まだなんか用があんの?」
だがそんな態度が気に食わないようで、先輩が語気を強めた。
藁にすがる思いで、私は早川の背中に叫び続ける。
でも彼は振り向くことなく、再び駆け去ってしまった。
希望が絶望に変わる。
「なんだあいつ?……それじゃ行こうぜ、結衣」
手を繋がれたまま、出口とは逆の方向に連れて行かれた。

914雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:44:05 ID:5duPFkJ.
教室に入った途端、唇を塞がれた。
「んんんっ!」
抵抗しちゃいけない。これは彼氏彼女なら当たり前の行為なんだ。
先輩はまたしても肩においていた手を下に下げた。
私はこのまま先輩の言いなりに、されるがままになんでも従うしかないの?
みんなのために私が……でも私だって本当はやりたくないことは……
先輩の口が離れる。
咄嗟に息を吸い、呼吸を整える。
もうこれで終わりだったらいいな。
「……なあ結衣、そろそろいいだろ?俺たち、付き合ってもう長いんだしさ」
……いい?一体何がいいの?
体が強ばり、全身から汗がでる。
思わず後ろに一歩後退した。
その様子に先輩はさっきまでの笑みを消し、代わりに拳を強く握った。
「……なんだよその態度……まさか断らないよな?」
先輩が一歩詰め寄る。
あまりの恐怖に体が言う事を聞かず、この場から足が離れない。
肩に先輩の左手が乗せられた。右手は相変わらず握り締めたまま。
「あ……あの……わ……た……し……」
「いいよな?」
もう無理だった。
ここから逃げることも覚悟を決めることも先輩も何もかも。
涙が蛇口を捻ったかのように流れた。

「あ、あのっ!」

突然の声に先輩が振り返る。
私も先輩に釣られてゆっくりと顔をそちらに向けた。
そこにいたのは早川だった。
「申し訳ないんですけど、岡田さんを借りてもよろしいでしょうか!」
早川が息を切らせながらそう叫んだ。
はたから見たら恋人同士の戯れの最中なのに、彼は意に介さなかった。
どうして彼は声をかけた?いやそれよりもまず、どうして彼はここにいるの?
分かってる。
これは願望じゃない。説明はできないが確信はできる。
早川は私を助けに来てくれたんだ。

915雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:45:09 ID:5duPFkJ.
「……はぁ。お前さ、空気とか読めないわけ?見て分かんだろ。今いいとこなんだから帰れよ」
「で、ですけど、どうしても岡田さんじゃないと―――」
「ウゼェって言ってんだよ!」
先輩は私を突き飛ばした後すぐに早川に飛びかかった。
胸倉を掴む。
「殺すぞテメぇ!」
ここまで怒った先輩は初めて見た。それと同時に今まで先輩に感じていた恐怖は、まだ生ぬるいものだったと実感させられた。
みんなに優しくて、格好良くて、憧れだった先輩が、今にも人を殴りそうなくらいにいきり立っている。
早川を助けないと、と思う一方で怖くて腰が抜けてしまう。
「なんなんだよ!お前、もしかして結衣のストーカーなのか!?言っとくけど、お前ごときじゃ結衣とは釣り合わねーぞ!」
怖い怖い怖い怖い怖い………………でも……早川を助けないと……
「……お願い、やめ―――」
「あなたは岡田さんの気持ちを理解しようとしたことがあるんですか!?」
「「!?」」
私も、そして先輩もピタリと止まった。
「気持ちだけじゃない!岡田さんのこと、ちゃんと見てましたか!?」
私のこと……?
「岡田さんは今ものすごく苦しんでいて、毎日泣きそうになってて……あなたは彼氏なのに気づいてあげましたか!?」
「っ!んだとこの野郎!!」
「自分の事を第一に考えるのは悪いことだって言わない!!でもどうしてたった一言、岡田さんの様子を聞いてあげられなかったんですか!?」
「黙れ!!」
先輩が早川の頬に向かって手を上げた。
年齢差も体格差もあり、早川が後ろにあった机をなぎ倒しながら崩れた。
それでも彼は先輩の目を逸らさなかった。
「あなたはさっき俺に岡田さんとは釣り合わないと言いましたけど、俺から言わせれば先輩だって岡田さんと釣り合わない」
「この餓鬼……」
「先輩に岡田さんは勿体無い」
「殺すっっ!!」
それから先輩は早川を気が済むまで殴り続けた。
なのに私は動くどころか、声すらも出なかった。
私はどうしてこんなにも臆病で卑怯なのだろう。

916雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:46:18 ID:5duPFkJ.
早川を気の済むまで痛めつけた後、気分が削がれたのか、先輩は教室を出て行った。
「は、早川っ!!」
ようやく私の足が動いた。
とりあえず持っていたハンカチで早川が殴られた箇所をそっと拭う。
「ごめん……なさい……私のせいで……本当に……ごめんなさい……っ!!」
涙が止まらなかった。
泣きたいのは早川の方なのに。こんなにも痛々しい傷を負ってるのに。
その後も泣きながら謝り続けた私に対し、早川は一言も話すことはなく手当を受けていた。


手当が終わり気分が落ち着くと、残されたのは私と早川と気まずい沈黙だけだった。
さっきとは違う恐怖が私の頭の中に溢れてくる。
きっと早川に嫌われた。きっと私と関わるのはもう嫌だって思ってる。
なんて自分勝手なんだろう。
早川がこんな思いをしたのは自分のせいなのに、私は自分の事ばかり考えてる。
『あんたの本性は女子全員知ってんだから』
友達の言葉が頭を過る。
ははは……そっか……これが私の本性だったんだ……
他人の事なんかよりも、自分の気持ちを優先する。
先輩のことを棚に上げて、友達の気持ちにも気がつかず、私は今までなんて事をしてきたのだろう。
だからみんな私から離れて行って―――
「それが普通じゃないの?」
突然の事に一瞬思考が停止する。
咄嗟に顔をあげると、さっきまで無言だった早川がこっちを見つめていた。
「俺だって自分が一番大事だし、だから最初は先輩が怖くて逃げたんだ。空気を読んだわけじゃない。それにきっと岡田さんの友達も、生徒全員、先生だって自分を一番に考えてるんじゃないの?」
「え?」
「でも今回のことは岡田さんにもちょっと非があるかな。その気がないのに、深く考えもしないで良い返事はしないほうがいいよ」
「!?今、なんて……?」
「え?どうした―――!?」
私に聞かれたらまずかったのか、早川は急に慌てふためいて、またいつもの頼りない彼に戻ってしまった。
「えっと、今のは、その……噂で……」
「……早川は私の事信じてくれるの?私が……その……」
友達から言われて一番心に残っている言葉。
『友達って思ってないから奪った』
違う。
他はどうだっていい。でもこれだけは違うって信じてもらいたかった。
でも友達は最後まで信じてくれなかった。
早川はじっとしたまま黙り込んだ。
1秒、2秒、3秒……何秒経ったかかわからないくらい待ったあと、彼は答えた。
「……もし岡田さんがくだらない理由で友達を裏切るような奴だったら声なんかかけてないよ」

917雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:48:10 ID:5duPFkJ.
私はそれ以降、二度と早川に干渉しなかった。
早川の方も、それっきり私にアクションを取ってこない。
でも私はそれでよかったと思った。
だってあと一回、たったあと一言会話をすれば、きっと私は彼の事を好きになる。
彼には陽菜ちゃんがいるのに、諦めきれなくなる。
優しい彼の事だ。きっと私の事を思って彼を苦しめるに違いない。
だからこれでよかったんだ。
そう言えば前に早川のある噂を聞いたことがあった。
「アイツって常に考えてしゃべってる感じするよね〜?まさか人の心でも読めるんじゃね?」
「アハハまさか〜!」
あの時は何の気も留めなかったが、今にして思えば良い表現だったと思う。
人の心を読めるなんて思ってもいないが、それでも彼は人一倍、人の気持ちに敏感なんだと思う。
とにかく、私は彼の事を学校では考えないようにしよう。
彼の前では赤の他人のフリをしよう。
例え本当の意味で私に優しくしてくれる人が彼だけだったとしても、二度と関わらないようにしよう。
そのかわり一つだけ、家では早川の事、考えてもいいよね?
家で考える分には早川にも迷惑がかからないよね?
そうだ、高校は誰も行くはずないくらい遠いところに行こう。
知り合いが一人もいない方が辛い思いをしなくて済むし、早川の事も思い出さなくなるかもしれない。
忘れることは絶対にないけど。
でも万が一、早川が同じ高校に来たら?
その時はごめんね早川。
やっぱり自分の気持ちを優先すると思う。
だって早川自身が言ったんだもんね?誰もがみんな、自分のことが一番大事だって。
だからいいよね?それに……

「あ、岡田さん久しぶり!岡田さんもここの高校受けるんだ。一緒のクラスになれたらいいね」
「……な〜んだ折角誰もいないところで高校デビューしようと思ったのになー。ま、そのときはよろしくね早川!」

私の中では、もう慶太以外の男は存在していないのだから。

918雌豚のにおい@774人目:2013/09/01(日) 23:49:46 ID:5duPFkJ.
以上で投下終了です。
ヤンデレ成分がほぼ皆無ですいません。

919雌豚のにおい@774人目:2013/09/02(月) 01:36:15 ID:rZ6GFtcw
乙!
ありがたや〜

920雌豚のにおい@774人目:2013/09/02(月) 04:37:16 ID:3xpT9vlU
おお、サトリビト久しぶりだ!

921雌豚のにおい@774人目:2013/09/02(月) 20:35:40 ID:DMeFIrMw
>>918
GJ
本スレにも懐かしい投下あったし、いい日だな

922雌豚のにおい@774人目:2013/09/02(月) 21:50:49 ID:g8dZ.Cn.
グッジョブです

923雌豚のにおい@774人目:2013/09/06(金) 13:07:50 ID:hFEWmJEk
読んでて思ったが
主人公に超能力があるのと
ヒロインに超能力があるのと
どっちが好きよ?

924雌豚のにおい@774人目:2013/09/06(金) 13:29:23 ID:5EnD0Wj.
>>923
男に超能力があって、ヒロインの本性にビビるのが大好物

925雌豚のにおい@774人目:2013/09/06(金) 14:43:49 ID:sksc35WY
>>924
おまえ沃野好きだろw

926雌豚のにおい@774人目:2013/09/06(金) 16:25:00 ID:jkOgPRto
>>925
ばれたか

やっぱ修羅場スレ見てる人多いのか

927雌豚のにおい@774人目:2013/09/06(金) 21:20:18 ID:N/jf8v0k
>>926
修羅場スレとここの保管庫にある作品は全部目を通すのは基本でしょ(ニッコリ

928雌豚のにおい@774人目:2013/09/06(金) 22:01:27 ID:1O/kQGhg
人外でもいいんやで?

929雌豚のにおい@774人目:2013/09/06(金) 22:33:35 ID:OACp2sPM
>>927
で、おすすめは?

930雌豚のにおい@774人目:2013/09/06(金) 22:38:18 ID:gPW3xfxA
>>927
キモウトスレも良い

931雌豚のにおい@774人目:2013/09/07(土) 00:35:24 ID:p73/12NU
>>928

モンスター娘の日常で、そろそろヤンデレヒロインがほすぃ…

932雌豚のにおい@774人目:2013/09/07(土) 06:54:36 ID:bIAA5XKg
モンスター娘ってなんだ
ただの人外とは違うのか?

933雌豚のにおい@774人目:2013/09/07(土) 08:36:35 ID:wBxYuVKg
人外だと機械系とかも含まれちまうんじゃね

934雌豚のにおい@774人目:2013/09/07(土) 09:01:13 ID:m0.MxtDg
モン娘はクロビネガを見とけばOK
いくつかヤンデレあるし

ほのぼの純愛も良いよね

935雌豚のにおい@774人目:2013/09/08(日) 01:47:31 ID:k0.AWKi6
>>934
ちょっと覗いてみたらなんか面白そうだったんで
参考までにお勧めの作品とか教えてもらえないだろうか

936雌豚のにおい@774人目:2013/09/08(日) 10:44:11 ID:pzxBHiOA
>>935
デュラハンの「ヤンデレ?いいえ純愛です。」
ヤンデレではないけど男を取られて絶望する
「ボクと彼女と彼女のヒモと」
あとは白蛇とかサハギン系はヤンデレ多い

937雌豚のにおい@774人目:2013/09/08(日) 14:54:34 ID:0cs8WiUA
オリンピック決まったな
ストーキング力を競う競技とかあれば(ry

938 ◆VZaoqvvFRY:2013/09/08(日) 18:52:08 ID:0cs8WiUA
アホな妄想してたら完成したので投下します

939主従 後編:2013/09/08(日) 18:53:24 ID:0cs8WiUA
 滝川邸二階廊下の窓からその年で最も強い陽射しが差し込む。時は盛夏となっていた。
 陽光を半身に受け、黒絹のような髪をなびかせながら歩む岬の姿がある。人形めいた美貌からはその心の内はうかがい知ることは出来ず、歩調は正確なリズムを刻んで止まることはない。
 しかし、その足音をもし早人が聞けば、岬がこの時不機嫌の極にあることを察したかもしれない。その原因はまさに早人自身にあるのだが。
 この日、早人は早朝から他家への使いに出されていた。
 余程のことがない限り岬の傍から離されることはないのだが、当主である康光の命令とあれば岬といえども逆らえない。使いの内容が秘匿されていたことも岬の心に醜いささくれを起こしていた。
 だがその一方で、岬も康光から呼び出しを受けていたのだ。それで、今は康光の書斎へ向かっている所である。
 因みにこれは稀有な事例であるといってよい。自身が多忙な為もあるが、康光は娘に関しては基本的に放任主義を貫いていたのだから。
 年代を感じさせる、しかし表面はよく磨かれた木製の扉までたどり着くと、岬はそれをノックし抑揚のない声で到着を告げた。入室を許可する返答があり、岬はノブを回す。
 室内は窓のある面を除く三方を床から天井まで届く本棚に囲まれており、一面には巨大な暖炉も設置されていた。本棚含め調度類は多くが木製で、紙と木の香りに包まれた空間は、昭和か大正時代にタイムスリップしたかのような感覚をそこに訪れる者に与える。
 中央には花瓶の置かれた丸テーブルと、それを囲むように椅子が数脚並べられているのだが、その内の一つに腰かけているのがこの部屋の主であり岬の父、滝川康光であった。
 今だ四十代半ば、若くして滝川グループの総帥となった秀才で、顔の下半分を覆っている髭を抜きにすれば、三十代の文豪と言った方が似つかわしい風貌をしている。
 口髭で隠された唇を開き、康光は娘と簡単な挨拶を交わすと、椅子に座るよう促した。
 岬が席に着くと一呼吸おいて話を始める。
「ところで、岬」
「はい」
「おまえは、早人の事をどう思っている?」
 聞いて岬は訝しげに美しい眉を歪めた。
「どう、と言いますと?」
「簡単に言えば、おまえにとって早人はどういった存在か? という事だ」
「従者ですわ」
「そうか」
 康光は両肘をつき、手を顔の前で組む。
「それで間違いはないんだね?」
「はい。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」
 岬の誤解しようのない返答を聞き、康光は目を閉じる。そのまま姿勢を変えずに声を発した。
「高山家を憶えているかな? 父さんの友人で重要な取引先でもある。早人は、来月からそちらに引き取られることになった。以後の面倒は高山家が見ることになる」
 青天の霹靂。
 岬にとってはこの時の康光の言葉はまさにそれであった。
 眩暈がするほどの憤激に岬は襲われ、激情のままに普段からは想像もできない勢いで怒声を発する。
「どういう事ですお父様!」
 人形の顔が般若に変わる。眼球にすら血管が浮き出る程激昂する岬の姿は、康光が「これが本当に娘なのか」と疑う程かつてない物であった。
「早人が成績優秀なのはお前も知っているだろう。希真学園でもトップクラス、大したものだ。それを知った高山家が早人を将来にわたってサポートしたいと申し出てくれた。今日からその準備に入る、もうおまえを助けることはない。私がそうした」
 高い音階の転倒音が室内に鳴り渡る。
 岬が立ち上がると同時に、テーブル上の花瓶が倒れ、座っていた椅子も真後ろに転がっていた。
「なぜ、断わりもなく私の召使いを他家にやるのです!」
「それだ。まさにその考えが理由だ」
「え?」
「おまえは滝川家の成り立ちを知っているだろう? その始まりは遠く平安時代にまで遡ると言われているが、豪商として名を成したのは江戸時代の頃だ。その通りなのだが、世間どころか滝川家の中でも極一部の者しか知らない事実が一つある」
 気圧された岬が言葉を失うのを見て、康光はその目を正面から見据える。
「滝川家は元々番頭格だった。つまり使用人だったのだよ。そしてある時期に主人にあたる商家の財産を乗っ取ったのだ。我々の先祖にとって主人だった人物は、その時に全てを失い身ぐるみはがされて追いやられた。それが当時の桜庭家の当主だ」
「……」

940主従 後編:2013/09/08(日) 18:54:11 ID:0cs8WiUA
「追放された桜庭家は、当たり前と言えば当たり前だが凋落して、やがて人々の記憶から消えていった。一方の滝川家は我が世の春を謳歌して今に至る。だが、その消息不明となった桜庭家がどうなったか私は調べてみたくなったのだ。別に罪悪感に駆られたわけじゃない、ビジネスの世界ではご先祖様に負けず劣らず辛辣な事を私もやっているつもりだ。だが、代々滝川家の当主にのみ伝えられてきたこの歴史を清算したいという欲求も確かにあった」
 淡々と、という表現のままに康光の独白は続く。
「そうして四方八方手を尽くしてようやく見つけた桜庭家の末裔、それが早人だ。所在が分かった時にはもう既にご両親は亡くなっていて、早人自身は行く当てもなく途方に暮れていた。もはやどこかの施設に預けられるしかない、そういう状況だったのだが、私には天恵に見えた。早人を引き取る事で先祖の贖罪を済ませ、将来お前と結婚することにでもなれば、かつての主人から奪った財産を返すことにもつながるだろう、そう思った」
「……」
「だが、おまえが早人をあくまでも従者として見るというのなら、桜庭家は主人から使用人に落とされたという状況になってしまう。それでは意味がない。滝川と桜庭が過去の恩讐を超えて対等になる、これが私の望みだった。最初からこの考えを話しておけばよかったのかもしれないが、おまえの人生はおまえが決めることだ。私の希望を押し付ける気はなかった」
 岬は自身の目に滴り落ちてくる液体の存在を感じた。涙ではない。額に浮かんだ油汗が水滴となって、白い肌を滑って落ちているのだ。
 作り物のように滑らかなその肌を苦悩の色に染め、それでも声を絞り出し岬は康光に反論した。
「だからと言って、高山家に引き取られたところで状況は変わらないのではありませんか? 結局ここにいた頃と同じ、使用人のままのはずですわ」
「そうはならない。早人は高山家の養子になる」
「養子?」
「そうだ、正確に言えば婿養子だ。高山家の末娘……夏樹さんと言ったかな、たしかおまえの同級生だったはずだが。大変早人を気に入っているらしい、勿論結婚はまだ早いが二人は許嫁となる。今日早人を使いにだしたのも先方に挨拶させるためだ」
 急に揺り籠の中に放り込まれたように足下の床がうねり、岬はバランスを崩してテーブルの縁につかまる。
 視野狭窄を起こす視界の中で、岬は床が動いたのではなく自身の足が頽れたのだという事実に愕然としていた。

 ――――――

「へへー」
 高山邸で駐車場へ向かう道すがら、そう言って自分に向かってはにかむように笑う夏樹の顔を見て、早人は足を止めた。
「どうしたの?」
 夏樹も立ち止まり、早人の顔を覗き込んで問いかける。
「どうしたもこうしたも、一体全体なんでこうなったんだ」
「心配?」
「いや、そうじゃなくて……」
 早人にとっては急展開どころの話ではない。
 今朝、康光から高山家への婿入りの話を聞かされ、呆気にとられているうちに夏樹の両親へ挨拶に出向くことになり、現実の世界にいるのかどうかも定かでない感覚にとらわれているうちにその対面も終わって、今は帰宅する途中なのだから。
 そんな自身の心境を嘘偽りなく話すと、それを聞いた夏樹は両手を後ろに組んで朗らかに笑う。
「桜庭を助けるって言ったんだもん、このぐらい簡単だよ。希真高校に通っているんだから私も世間でいう所のお嬢様なんだよ?」
「いや、簡単って……許嫁になったりして、いいのか?」
「大丈夫! 婿養子って言ってもお父さんの事業は兄貴達が継ぐし、桜庭が心配することはないから。お父さんは私には甘いのよ。それに、それにね……桜庭だから、いいんだよ」
 早人は言葉を失う。
「こうでもしないと、滝川さんに勝てないと思ったから。でも、いいんだよ? 桜庭が嫌になったらいつでも婚約解消しても」
 そう言って、夏樹は「えへへ」とはぐらかす様に努めて明るく笑って見せる。
 だが、その声音と唇が震えているのに早人は気づいていた。
 自身の胸郭が何かに締め付けられるのを感じて、早人は衝動の赴くままに行動した。夏樹の肩に両手を回すと、抱き寄せて耳元で囁くように語りかける。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
 腕の中にある夏樹の体温と、その爆発しそうなほどに高鳴っている胸の鼓動を早人は感じた。
 やがて固く、震えていた夏樹の体から両腕が早人の背中に伸びて、しがみ付いて来た。そのまま無言で時を共有する。
 しかし、その時間は早人のポケットから鳴り響いた機械音によって寸断された。我に返った早人が音源である携帯電話を取り出し、画面を見る。

941主従 後編:2013/09/08(日) 18:54:53 ID:0cs8WiUA
 早人の秀麗な顔に翳が落ちるのを見て、夏樹も相手が誰かを悟った。早人の手を両手で包み込むと、縋り付くような目で早人を見つめる。
 僅かに逡巡した早人だったがそれも一瞬の事で、夏樹に微笑を見せると携帯電話の電源を落とした。そのまま元のポケットの中へ放り込む。
 夏樹は目尻に涙を浮かべると、早人の頭に手を回して踵を浮かせた。
 二人だけの時間が再開する。

 ――――――

 天上からの直射日光と地面からの照り返しはあらゆるものに平等に、そして容赦なく降り注ぐ。
 それは今、滝川邸の玄関前で降車した早人にしても例外ではない。巨大な白亜の城塞のごとく屹立するその館を眺めながら早人は考える。
 今回の夏樹の行動は早人に対する好意から発生していることは明白だったが、自分の夏樹に対する気持ちはどうなのであろうか、と。
 好意はあるのだが、それは夏樹の持つそれとは意味合いが違うか、もしくは夏樹ほど巨大ではない気がしていた。
 とはいえ、感謝してもしきれないほどの恩義も感じている。二人の間の感情の差異は、これからゆっくり埋めてていけばいいのではないか、夏樹とならそれが可能な気がしていた。
 なにしろ事態は完全に好転したといってよい。厚く覆っていた失望と絶望の黒雲が消えて、希望に満ちた晴れ間が見えているのだ。ただ一つの問題を除いて。
「ただ一つの問題……」
 口の中でつぶやくと、早人は玄関のドアを開ける。
「早人……」
「岬様」
 高い天井を持ち、一軒家がそのまま収まるのではないか、と思われるほど広大な玄関ホールで、早人の考える「ただ一つの問題」そのものが仁王立ちしてその帰宅を出迎えた。
 自身に向けられる視線には瘴気すら纏わせる憤怒の色があり、これほどまでの負の感情をぶつけられるのは早人の記憶では初めて滝川邸を訪れた時以来だった。
「なぜ電話に出ないの? 私を無視する気?」
「康光様にお聞きではないのですか。僕はもう、岬様の侍従役から外されました」
 ホールに早人のやや強張った声が通る。
 周囲には岬に付き従う執事と女中がそれぞれ一名ずつ控えていたが、共に口を差し挟むことも出来ず、沈黙のまま二人の対峙を見守っていた。
「関係ない、お父様が何をしようが、誰がどう言おうが。おまえは私の従者なのよ」
「岬様」
 早人の顔色は蒼白であり、それが表わす通り全力で内なる恐怖と戦っていた。
 長年の刷り込みにより、岬の声を聞くと早人は無条件でその意に服従しなければいけない強迫観念に駆られるのだ。跪こうとする足を必死で支え、早人は心にごく僅かに残っていた自我に縋り付くようにして口を開いた。
「岬様、これは康光様が決定されたことです。そして、僕もそれを望みます」
「従者のくせに! おまえに選択権などない!」
 その瞬間、早人は心が折れるのを自覚した。骨の髄まで染み込まされた岬への服従心は、今や全身を支配し、口を開くことを許さない。
 反論も説得もできず、ただ岬の意のままにその場で膝を折ろうとした……だが、それでも早人は残る自我を振り絞る。
 そして、逃げ出した。館の中、自分の部屋に向かって全力で走りだす。
「岬に今、勝つことは不可能だ。とにかく逃げるしかない。でも逃げてどうにかなるのだろうか」
 そんなことを考えながら疾走する早人の背中に岬の声が届く。
「恩知らず! 今までの恩を忘れて!」
 恩。
 その言葉が逃げる早人の心に引っかかった。恩とは何だろうか。
 最初に浮かんだのは夏樹の笑顔だった。夏樹は人生を賭けてまで早人を救おうとしてくれている、まさに恩義と言ってよい。早人もそれには感謝の念しかなかった。
 では、岬の言う恩とはなんであろうか。岬に与えられたもの、それは……。
 その瞬間、早人の中で何かが弾けた。足が止まる。
 数秒、岬に背を向けたままであったが、振り向くと顔を上げた。その表情を見て岬が息を飲んだ。
 幼き日、ロケットを取り戻そうと岬に全力で戦いを挑んできた早人の顔を岬は思い出す。その考えに間違いはなかった。早人は血走った眼をし、牙をむくように開いた口から怨嗟の声を発する。
「恩? 恩ってなんだ? 僕の中にあるのは苦痛の記憶だけだ。それが与えられたもの全てだ。そんなものが恩だって言うなら、もう沢山だ!」
 ホール内が氷結した一瞬だった。
 その中で愕然としたのは岬である。美しい口元をだらしなく開くと、悲鳴とも呻き声ともつかない呼気を吐き出し続けた。身体は微動だにしない。
 早人は憎悪の篭った視線でその姿を射抜いていたが、無言で踵を返すと自室へ向かう階段を下りて行った。

942主従 後編:2013/09/08(日) 18:55:34 ID:0cs8WiUA
 岬は、早人の姿が見えなくなっても尚立ち尽くしていた。心配した執事と女中が駆け寄ってくるがその言葉も耳に入らないようで、口内を微小に動かす。
「なぜ。まさかそんな。どうして。私は何だったの」
 岬自身にしか聞こえない、その言葉を繰り返し続けていた。

 書斎は康光にとっては心落ち着く唯一の場所であるといっていい。
 滝川グループの総帥として文字通り世界中を飛び回り、たまに帰宅しても屋敷内にいる限りは家長としてふるまわなければならない。
 従って、基本的には康光一人の時間を過ごす事が出来るのは書斎にいる時だけであった。家族や使用人でも許可がなければ立ち入りを許さないようにしている。
 そういう意味では書斎の中でコーヒーを運んできた執事が康光に話しかける、と言うのは珍しい事なのだが、この夜それが発生した。
「旦那様」
「なにかね」
「畏れ多くも申しあげますが」
 慇懃に話してはいるが、初老の執事は滝川家に仕えて長い。
 康光がこの時繰り返していた「上髭を何度もしごく」という癖が上機嫌のサインであるという事を知っていた。
「桜庭さんの高山家への婿入りの件、取りやめることはできないでしょうか」
「なぜかね?」
「お嬢様がお気の毒です」
 康光は上髭をいじっていた右手の動きを止めると、それを顎に当てて考える姿勢をとった。
「まあ、あれにしてみれば従者がいなくなる訳だ、幼馴染でもあるし……」
「そうではございません」
 信頼する執事が珍しく自分の意を否定する事を言ったので、康光は興味深げに椅子に座ったまま執事を見上げた。
「旦那様、お嬢様は桜庭さんに色々つらく当たられましたが、桜庭さん自身の事は一度だって嫌ってはおりませんでした。それは初めて会った日から変わらず、ずっと。あの日、お嬢様は桜庭さんの過去を捨てさせました。それが桜庭さんに似つかわしくないと思ったのでしょう。そして、召使いとして勤めないなら追い出す、と言われましたが……」
「それは知っている。という事は早人をそれほど大切にはしていない、という事ではないのか?」
「いえ、幼い頃で感情の表現が上手くなかったのもあるのでしょうが、桜庭さんを追い出す気は更々なかったはずです。とはいえそう言ってしまった手前、そこから屈折した心理が発生したのか、桜庭さんが言いつけを守らないというのはお嬢様にとっては桜庭さんが悪いのではなく、彼をそう仕向けた者が悪い、となったのです。お嬢様は常に彼の周りにいる者に憎しみを向けております」
「……」
「永遠に桜庭さんを手元に置いておくために不安要素を排除し続けていたのです。旦那様、お嬢様にとって桜庭さんは……」
「……岬は今はどうしているのかね」
「部屋にこもりっきりになっております。時々悲鳴とも咆哮とも思える声が聞こえるとか」
「咆哮?」
 その単語に剣呑なものを感じた康光だったが、コーヒーを一口飲むと、その出来栄えに満足したように頷く。
「まあ、成長のためには失恋も必要だろう。挫折を知らないで良い女になれるはずもない」
 執事は何かを言いかけたが、頭を下げると主人の意向を受け入れた。
 
 その叫びは壁を突き抜け、廊下で緊急時に備え待機していた女中の耳にまで届く。
 ドアを開け中を確認したい、もしくは逃げ出したいという欲求との戦いは既に女中は放棄していた。絶叫を聞き続けて数時間が経過していたから。
 壁を隔てた室内は窓から月光の煌めきが差し込んでいて、深夜でありながらも肉眼で見渡せる程度には明るい。
 その光に照らされて見える風景は、響きわたる絶叫に負けず劣らず荒んでいる。
 衣類、書物、家具に至るまで台風にでもあったかのごとく散乱し、その多くが破損していた。いくつかには吐瀉物がへばりついている。
 その部屋、岬の居室のほぼ中央で、部屋の主である少女は蹲り、嘔吐していた。もっとももう吐くものもなく、ただ舌を出し蛙のように喉を痙攣させるだけなのだが。
 そして髪を掴むと引きちぎらんばかりに引っ張り、顔を上げ宙に向かって絶叫する。それはもはや人語と呼べるものではない。
 それでも叫ばずにはいられないのだ。そうしなければ、岬はそれこそ本当に発狂していたかもしれない。
 叫ばなければ、喉をつぶして体を痛めつけなければ、思い出してしまう。考えてしまうのだ、どうしても。
 ――なぜ、なぜ、なぜ、なぜ。早人を可愛がっていたのに。早人も理解してくれていたはずなのに。だっていつも一緒にいてくれたではないか。命令すれば素直に聞いてくれたではないか。一緒にいて暖かかったではないか。時には笑顔を見せてくれていたではないか。そう、笑顔――
 しかし、それら良き思い出は全て抜け落ちる。

943主従 後編:2013/09/08(日) 18:56:27 ID:0cs8WiUA
 浮かんでくるのは、早人の辛そうな顔、苦しそうな顔。
 そして岬は憎悪する。その対象は誰でもない、自分自身だ。
 ――自分が早人を苦しませたのだ、悲しませたのだ。なぜそんな事をしたのだろう。理解できない。悪いのは、そう、過去の自分だ。なぜ自分はあんなことをしたのだろうか。酷い事をしなければ、優しくすれば、早人は笑って、幸せだったのに。この先もきっと一緒にいてくれたはずなのに。なぜ自分は。殺してやりたい、過去の自分を――
 そこまで考えて再度岬は髪をかきむしり絶叫する。
 五感を自身の叫びで埋めなければ耐えられない。少しでも隙があれば悲しげな早人の顔が浮かび、それは即ち自身に対する殺意と化す。
 殺してやりたいほど憎い相手が自分という事実に岬の精神は耐えられなかった。
 何度も咆哮し、部屋の中でのたうち回り、頭を壁に何度も打ち付け、手当たり次第に周囲の物を破壊した。
 ――でも、許して。お願い、貴方に嫌われたくない軽蔑されたくない――

 ――――――

 早人が滝川邸を離れることになるのは新学期の始まる九月一日である。
 その日を迎えるまで残り一週間となり、早人は忙しない日々を送っていた……という訳でもない。
 これまでに自分の所有物と言えるものは尽く岬によって処分されていたため、衣類が数着以外には運び出すものとてなかったからだ。
 かと言って、今だ滝川に世話になっている身としては、羽を伸ばして遊びまわる、と言う気持ちにもなれずにいた。
 その日も、書店で購入した小説をベッドで横になって読みふけり、それを夜半に至るまで続けている。
 そして睡魔の訪れを感じ、寝間着に着替えようとした時、扉をノックする音が耳に入った。相手の氏名を問うた時、早人は思いもかけない答えを聞く。
「私よ」
 八年間、最も多く聞いた声音を聞き、早人は驚いてベッドから飛び降りた。急いでドアを開け、そしてより以上に驚愕する。
 目の前に立っているのは間違いなく岬だった。だが、その美しい人形のような顔は、本物の作り物のごとく白く蒼ざめ、目は充血し、その周りには隠しようもないほどの大きな隈ができていた。
「どうしたんですか?」
 岬と会うのは先日の玄関での別れ以来である。その間何があったのか、さすがにその変わりようを心配して早人は声をかける。
「これを、返しに来たの」
 そう言って岬は握りしめた右手を早人の前に差し出す。その指にいくつもの歯形があるのに早人は気が付いた。
 まさか自分で自分に噛みついたのだろうか、と思ったが岬がその手を上に向け開いた時、そこにあるものを見てそんな考えは吹き飛んだ。
「ロケットペンダント」
 その言葉は二人から同時に発せられた。
 早人はそのまま沈黙したが、岬は言葉を紡ぎつつける。
「私には貴方の喜ぶことはこれしか分からないから。貴方がとても大事にしていたものだから、あの時、これは捨てられなかった。でも貴方に返したら、きっとあなたの心はそれに捕われたまま。だから返せなかった」
 無言のまま、早人は視線を岬の腫れ上がった両目に向ける。
「いつか、私を心から慕ってくれるようになった時に返してあげれば、きっと喜んでくれて、私に感謝してくれる。その日を待っていた。でも、もう間に合わないから」
 岬の口と両目が閉じられる。蒼白だった頬に、朱が差すのを早人は見た。
「お願い、許して。貴方が、早人が好きなの」
 そうして岬は俯くと、早人と同様に沈黙した。岬の声は小さかったが、廊下中に反響したような錯覚に早人は陥っていた。
 その感覚に身をゆだねていた早人だったが、両手を岬の右手に重ね、ロケットを岬から受け取った。そして沈黙を破る。
「ありがとうございます。でも、もう遅いんです」
 顔から表情を消し、あえて冷酷と言ってよい口調で告げる。
「僕は、僕の人生を取り戻しに行く。そこには貴女は必要ないんだ」
 即座に振り返ると表に岬を残したままドアを閉めた。
 岬がどんな表情をしたか、早人は見たくなかった。見ればまた心が折れてしまうかもしれないから。
 高い音をわざと立てて扉を施錠すると、ベッドにもぐりこんで布団を上からかぶり、早く岬が立ち去ることを願う。
 だが、早人が眠りに落ちるまで岬が扉の前から動く気配は感じられなかった。

 ――――――
 
 高い空と秋風の色を含んだ空気の流れが滝川邸を包む八月末日、早人は家人達への挨拶回りをしていた。
 と言っても康光は海外へ商談に出てしまっていたので、執事、女中、運転手くらいのものなのだが。
「いよいよ明日お別れですね」
「執事さんにはお世話になりました」

944主従 後編:2013/09/08(日) 18:56:48 ID:0cs8WiUA
「またいつでも遊びに来てくださいよ」
 そう言って寂しげに笑う老執事の顔を見て、早人は苦笑する。早人自身はもう会う事はないだろう、と思っているのだがそれを告げるのは野暮と言うものだ。
「岬様にはお会いになりませんか」
「はい」
 間一髪も置かずに断言してしまい、さすがに冷たすぎるかな、と思い直し執事に質問してみる。
「岬様は最近どんな様子なんですか」
「もう部屋から一歩も出てきません。女中も食事を運ぶくらいでそれも部屋の前までです」
「部屋に入れないんですか?」
「鍵束を奪われてしまったそうです」
「え?」
「心配しなくても、桜庭さんの部屋の鍵はついていませんよ」
 さすがに早人もそこまでは心配していなかったが、執事の言葉を聞くと背中に氷柱が立つのを自覚した。
「まあ旦那様の部屋と、倉庫や車庫とかの鍵が付いていましたけどね。合鍵はあるんですが、それを使ってお嬢様の部屋に入ってもまた取り上げられるだけでしょうし」

 最後の夜、早人はベッドで横になり、殺風景な白い天井を眺めながら寝付けないでいた。
 理由の一つは、やはり明日からの生活に対する期待感である。夏樹と共に新しい、そして本当の自分の人生を始められる、その思いは早人の心を高揚させてやまない。
 そして理由のもう一つは。
 扉がノックされる。氏名を問うたが返答はない。だがしかし、早人は相手が岬であることを察していた。
 深呼吸して心を落ち着かせる。
 岬が何をしてこようと、何を言ってこようと突き放さなくてはならない。
 早人にとってもギリギリの勝負なのだ。長年にわたって染み込まされた服従心を克服しなければ、全ては水泡に帰してしまう。僅かな恐怖、憐憫、同情すらも抱いてはならぬ。覚悟を決めて、ドアを開ける。
 だが、目の前の光景を見て、早人は自分の予想は間違いだったのだろうか、と思った。
 そこにいるのは、俯いた少女である。痩せこけて、至る所に乾いた吐瀉物がこびりついたピンクの寝間着を着ていた。
 その寝間着には見覚えがあった、確か岬が好んで着ていたもののはずだ。背格好も岬とほとんど同じである。
 だが、美しかったはずの髪は酷く乱れていた。
 いや、乱れているというどころではなく、まるで幼児がハサミで悪戯したかのごとく、滅茶苦茶に切り落とされていた。
 しかも所々頭皮が見え、そこに血がにじんだ跡がある。自分で髪の毛を引っ張り抜き落としたのだ。その考えに至って、早人は戦慄した。
 思わず叫び声を上げそうになったが、少女がそれより早く口を開く。
「お願い、許して」
 聞きなれた岬の声。早人は心がなぜか落ち着くのを感じた。もう一度深呼吸をする。
「執事さん達が心配してますよ」
「許して」
「岬様……」
「どうすれば許してもらえるのか、私には分からないから」
 そう言って岬は顔を上げた。
 早人はその顔を見る。やつれ、目は充血し、頬はこけていたが美しさは損なわれてはいない。いつものように人形のように美しい顔だった。
 そう、人形のように美しい、右半面。そしてその隣にある半面を見て、早人は今度こそ絶叫し後ろに跳びすさる。
 そのままベッドまで後ずさり、その上にへたり込んだ。
 早人を追いかけて、岬が入室してくる。
 それを遮ることは早人には出来ない。ただ、驚愕に口を開け、近づいてくる岬を見つめていた。
 岬の左半面は、右半面と同じく人形のようだった――ただし、蝋燭の炎を押し付けられて溶けた人形のように、全体が焼けただれていた。
 その中にある左目は、黒目と白目が混ざったように全体が灰色に潰れ、涙のような体液を垂れ流し続けている。
 なにか強い酸を被ったのだ。早人の心中で僅かに残っていた理性がそうつぶやいた。どこから手に入れたのだろうか、屋敷にあった倉庫を鍵で開けたのだろうか――。
「私は」
 早人に向かう歩みを止めずに岬が話しかける。
「私を許さない。でも貴方の傍にいたいの、どうすればいいか分からないの。これじゃ足りない? どうすれば許してくれる? 貴方が許してくれるなら私は何をされてもいい。そう、殺されてもいいわ」
 岬は錯乱している。理性はそう教示していたが、早人にはどうすることもできない。
「お願い、殺して。それで許してもらえるなら、私は構わない。いえ、むしろ本望だわ。お願い、殺して」
 ただ迫る岬の姿に飲まれ続けていた。

「許して」

945主従 後編:2013/09/08(日) 18:59:06 ID:0cs8WiUA
終り

書きたい(と言うか、俺でも書けそうな)ネタがなくなった
雑談とか小ネタ話したり書いたりしている内にネタ思いつくかもしれんので
名無しで参加はしてるからおまいらよろしく

946雌豚のにおい@774人目:2013/09/08(日) 19:47:05 ID:1w0uSI3.
きちゃああああああああああ
ええなぁ!ええなぁ!
読んでるとどんな豪邸なのか色々想像しちゃうw
ラスト岬ちゃん可哀想すぎんよ...
後日談気になるな。

947雌豚のにおい@774人目:2013/09/08(日) 21:27:07 ID:F9Zs.0VM
投下乙です
誰も止めてくれる人が居なかったが故の関係の行き違いか……
これはマジでこの後が気になる

>>936
サンクス
自分でもちょっと探してるが、しかしあれだな
水系とヤンデレって相性いいな

948雌豚のにおい@774人目:2013/09/09(月) 00:23:48 ID:FGv02Gyk
>>945
GJ!
内に溜め込むタイプは怖いな
続きを求めるのは野暮かもしれないがこの後どうなるかが気になる

949雌豚のにおい@774人目:2013/09/09(月) 01:00:15 ID:5g3byi8Q
>>945
自罰的なヤンデレって分類としてはあったと思うけど、SSは保管庫にも無かった気がする。
依存スレとかにはあったかも。
ありそうでなかった自罰的ヤンデレに乙!!

950雌豚のにおい@774人目:2013/09/09(月) 01:51:42 ID:ZWAhNOms
自分も後日談クレクレだけど、ここで綺麗にスパッと完結してるからこそ引き締まっていい作品に仕上がってるね
完結するって大事だな。無理にダラダラやるよりしっかり完結してる作品は読後感がええ感じ

951雌豚のにおい@774人目:2013/09/09(月) 02:02:17 ID:UShVlvkU



このあとの展開はやっぱりあれだろ詫びの証として性欲処理を

952雌豚のにおい@774人目:2013/09/09(月) 08:14:10 ID:Fq6gTip6
とても良かった
岬可愛いよぉ

953雌豚のにおい@774人目:2013/09/09(月) 13:42:40 ID:OsHb0dS6
次スレ
ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part06
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1378701637/

本スレが落ち着いてきて投下もあるようですので「閲覧非推奨」の但し書きを外しました。

954避難所の中の人★:2013/09/09(月) 13:43:01 ID:???
キャップ外れてた…

955雌豚のにおい@774人目:2013/09/09(月) 15:37:08 ID:8gNt6292
やはり●流出で、ある程度の荒らしが消えたか

956雌豚のにおい@774人目:2013/09/09(月) 19:30:44 ID:CWl2mHSk
絶対まだいる
キチガイだから特定なんて恐れてないんじゃねえの?
つーか特定できてんのか

957雌豚のにおい@774人目:2013/09/09(月) 22:38:15 ID:HzHyDLPs
『主従』GJです。
一気に病んでいく過程の描写が素晴らしかったです。
でも、強酸は痛々しくて見ていられないなぁ。(痛いのはニガテ)
この後、すぐに治療を受けたと思いたいです。

958雌豚のにおい@774人目:2013/09/10(火) 16:22:30 ID:UcYS61Ig
個人的にはこういう話が大好きだからとても良い

それと、岬たんかわいい

959雌豚のにおい@774人目:2013/09/10(火) 17:39:59 ID:gH4MDOfU
魔物はワームも中々いい

960雌豚のにおい@774人目:2013/09/10(火) 22:19:53 ID:n6t0LCFI
>>959
サンクス
蛇系もやっぱ素養あるな
あれ?じゃあ両属性持ってる白蛇さん最強?

961わたしだけの痴漢さん ◆yepl2GEIow:2013/09/10(火) 22:30:25 ID:Vlr2axdQ
こんばんは、超久々に短編を投下させていただきます。
オリジナリティの無いネタなのはご容赦をば、
皆様のひつまぶし、あるいは暇潰しになれば幸いです。

ご注意:本作には犯罪を助長する意図はありません。痴漢、ダメ。ゼッタイ。

962わたしだけの痴漢さん ◆yepl2GEIow:2013/09/10(火) 22:32:13 ID:Vlr2axdQ
 その日まで、三崎狗矢(みさきこうや)は痴漢犯罪の犯人では無く、ごくごく普通の会社員だった。
 より正確に言うならば、『ごくごく普通』、の頭に『少しダメな』、が付くのかもしれないが。
 その日も、銀也は課長特製の栄養ドリンクを飲みつつ、彼にとっては大量の仕事を仕上げるべく、遅くまで残業していた。
 「なに、気にすることは無いさ」
 と、狗矢の残業が終わるまで1人待ってくれていた九石(さざらし)課長は言った。
 「間に合わないのは困るが、焦り過ぎてミスがあるのはもっと困る。その点、キミは良くやってくれている」
 そんな、尊敬する課長の温かい慰めを受けて帰路に着いた銀也だったが、それでも自己嫌悪を感じないわけにはいかなかった。
 (課のみんなが、もうとっくに仕事を仕上げて呑みに行ってるような時間まで課長を待たせちゃったんだものなぁ)
 溜息をつく狗矢。
 (もっと仕事を早く出来るようになって、皆の足を引っ張らないようにしないと)
 そうしたら、九石課長も慰めるのではなく褒めてくれるだろう。
 九石のような人間には、褒めて欲しいと言うのが狗矢の本音だった。
 九石は頭脳明晰、冷静沈着、才色兼備、そして何より大人の余裕を持った、理想の人物だった。
 狗矢にとって九石は目標であり、憧れであり、そしてそれ以上の存在だった。
 (そうだ。もっと頑張って、俺は九石課長の部下なんだって胸を張れるような男になりたい)
 帰りの電車の中で、狗矢は思った。
 やや遅い時間の電車だと言うのに、思いのほか人が多い。
 自分のような残業組か、あるいは遅くまではしゃいでいた社会人や大学生か。
 こう車内に人の多いと、仕事中の疲れや緊張を落ちつけるどころでは無い。
 栄養ドリンクを相棒にして激務に追われた日にはなおさらである。
 銀也は、自然と仕事中の緊張感を持続しながら電車に乗ることになった。
 電車の振動に呼応するように、狗也の心臓が鼓動を刻む。
 電車が強く揺れる。
 人も揺れる。
 「……ん」
 今の揺れで、スーツ姿の女性が狗矢の前にずれてきた。
 髪を肩ほどまで伸ばした女性で、顔は見えないがそれでも不美人には思えなかった。
 「ぁ……」
 表情の見えない女性の声が聞こえる。
 同時に、柔らかな感触。
 狗矢は自分の手が女性の太腿に触れていたことに気がついた。
 一瞬、息が止まりそうになる。
 幸い、女性からのリアクションは無い。
 (気付いてない……のか?)
 そう思った瞬間、狗矢の鼓動が別の種類のものに変わった。
 仕事中の緊張感から、男の性欲に。
 (気付いていないなら、このままでも良い……よな)
 もちろん、銀也の理性とモラルは警告を発し続けていたが、狗矢の本能は女体の魅力に呑まれていた。
 それほどまでに、美しいポロポーションの持ち主だった。
 理性を圧倒し、モラルを押しのけるほどに。
 電車の振動を追い越し、心臓の鼓動は高まっていく。
 太腿を触るだけではなく撫で、いつしか手の位置はもっと上の方に移動していく。
 まるで、自分の手だけが別の生き物になってしまったかのようだった。
 しかし、間違い無く狗矢に快感は伝わってくる。
 対する女性は、「ぅン……」、「……ぁ」と小さな声を上げるものの、それ以外は何もしてこない。
 女性の吐息がとても甘いものに聞こえて、銀也の興奮は加速する。
 時間を忘れるほどに、それこそ電車を降りるのを忘れるほどに銀也は女性の身体(具体的には太腿と尻)を撫でまわしていた。

963わたしだけの痴漢さん ◆yepl2GEIow:2013/09/10(火) 22:33:12 ID:Vlr2axdQ
 そして、電車が1つの駅に着く。
 扉が開き、外気が入って来る。
 と、同時に銀也はグイッと手を引かれた。
 狗矢の手を掴んでいるのは、眼前の女性。
 表情は見えないが、
 (これは、まずいんじゃなかろうか)
 と、狗矢に思わせるには十分だった。
 (って言うかなんっっっってまずいことやっちまったんだ、おれは!!)
 銀也、今更ながら大後悔。
 (どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!?)
 女性にグイグイと手を引かれていくうちに、狗矢の中で後悔と自己嫌悪が加速していく。
 彼女に手を引かれるがまま、車外に出て、ホームを抜けていき、駅を出る。
 人波から逃れたところで、女性はクルリと振り返った。
 何を言っていいのか分からない銀也より先に、女性の形の良い唇が動く。
 「まずは、2つの幸運を喜ぼうか」
 その美しい女性―――狗矢にとってとても見なれたその女性はそう言った。
 「一つ目の幸運は、キミが警察に突き出されなかったこと。もう一つの幸運は―――キミが触れた相手がわたしだったこと」
 肩ほどまでに切りそろえた黒い髪。
 知性を感じさせる大きな瞳。
 形の良い眉。
 いたずらっぽい笑みを浮かべる、形の良い唇。
 可愛いと言うよりも綺麗と言った方が適当な美貌。
 「課長!?九石課長!?」
 知的に笑うその女性に向かって、狗矢は思わず彼女の名前を呼んでいた。

964わたしだけの痴漢さん ◆yepl2GEIow:2013/09/10(火) 22:34:22 ID:Vlr2axdQ
 こうして狗矢が連行されてきたのは、警察では無く九石更紗課長の自室だった。
 キャリアウーマン然とした九石らしく、整然とした部屋で、ついでに言えば狗矢の安アパートに比べるといくらか高級そうな借家だった。
 もっとも、狗矢としては自室と引き比べて嫉妬するでもなく、卑下するでもなく、ただ単純に「すごいなー」と思うだけだったのだが。
 金銭欲や出世欲とは縁遠い狗矢だった。
 それよりも、
 「ぐぉめんなさぁぁぁぁい!」
 部屋に通され、更紗に座るように勧められた瞬間、狗矢は全力で土下座していた。
 「抵抗できない女性に痴漢行為を働くなどと男の風上にも置けない罪を犯した上に、しかも、しかも知らぬこととはいえ尊敬する上司に……!」
 「顔をあげたまえ、三崎くん」
 平身低頭謝っていた銀也の頭上に、温かい言葉がかけられた。
 「何も、キミを叱責したくて自宅に連行した訳じゃぁないんだ?」
 「連行?」
 「ああ、違った。捕縛?誘拐?監禁?軟禁?ああ、違った。招待だ」
 ポン、と手を打つ更紗。
 会社での颯爽とした姿しか知らない狗矢にとっては、意外とコミカルな仕草だった。
 「すまんな、つい本音が」
 「このたびは本当に申し訳ありません!」
 「それはもう良い。……と、言うより、本当に気付かなかったのか、相手がわたしだと?」
 「あ、ハイ。全然気づきませんでした」
 「そうか……」
 心なしか残念そうな更紗。
 「と、言うより、顔が見えませんでしたし、頭の中も盛りのついた犬並みになってて、相手が誰かなんてまったく……。アレ、課長は俺の仕業だって気付いていたんですか?」
 「当たり前だ。通勤時は電車の窓、手摺の反射、そうしたものも使って、周りはマメに確認するようにしているからな。相手がキミでなければ、足を思い切り踏み抜いていたところだ」
 確かに、ヒールの靴で踏みつけられれば、足に穴があきそうなほど痛いことだろう。
 その痛みは、罪の痛みだ。
 狗矢は、自分のしでかしたことの大きさを改めて思い知った。
 「それよりも、おれは取り返しのつかないことを……!」
 「まぁ、そうだな。相手がわたしでなければ、警察に突き出されて、数か月の懲役か罰金。会社もクビ。キミの一生は軽くメチャメチャになっていただろう」
 「クビにしてください!むしろ!おれみたいな性犯罪者!人間のクズ!」
 土下座の姿勢に戻る狗矢。
 「いや。キミが我が社からいなくなるのは、我が社にとっても、わたしにとっても大きな損失となる。それに分かっている。今回は出来心だったのだろう?」
 更紗の優しい言葉に、狗矢は涙しそうになった。
 曲がりになりも信頼(多分)していた部下から、下賤な仕打ちを受けたと言うのに、課長は何て寛大なのだろうか!
 「ですが、それでは俺の気が収まりません!この罪を償うためなら、いえ、課長に罪滅ぼしをするためなら何でもします!させてください!」
 「キミがそこまで言うのなら……」
 ズイ、と迫る狗矢に、更紗の口元がニヤリと邪悪に歪んだのが見えたような気がした。
 「少し待っていたまえ」
 そう言うと更紗は部屋の机に向かい、白紙に万年筆で何事かサラサラと書き始めた。
 待つことしばし。
 「よし、できた」
 そう言って更紗の示した2枚の紙には、こんなことが書いてあった。


 契約書
 三崎更紗(以下甲)は三崎狗矢(以下乙)との関係で、以下の契約を締結する。
 甲は乙から受けた公然わいせつ罪を生涯告発しないこと。
 乙は、甲以外の女性の身体を生涯二度と触らないこと。
 ただし、この契約が破られた場合にはその限りではない。
 上記契約の証として、双方ともに署名捺印の上、各自一通ずつ保持するものとする。

甲:住所 ××都××市××区×−×−×−××
氏名 三崎更紗        印



乙:住所
氏名             印

965わたしだけの痴漢さん ◆yepl2GEIow:2013/09/10(火) 22:35:07 ID:Vlr2axdQ
 「課長、コレって……?」
 「見ての通り、契約書だ。キミとわたしの分のな。この後スキャナーでパソコンに取り込んで、20のバックアップを取る予定だ」
 ニッコリと笑って答える更紗。
 白紙に手書きの書面で、文章も明らかに即興だったが、更紗の達筆だとそれらしく見えるから不思議だ。
 「こんなんで良いんですか、課長?」
 「こんなんで良いんだ」
 会社では見たことのないほど嬉しそうな笑顔の更紗に対して、どこか割り切れないものを覚える狗矢。
 「さぁさぁ、サインしたまえ。ああ、印鑑は持っているか?」
 「まぁ、二度と痴漢しないって言うのはお似合いと言うか当たり前と言うか……。あ、印鑑はカバンの中です」
 「分かった、取って来る」
 そうこうしている内に、2枚の契約書に署名が終わり、印鑑が押される。
 「ああ、念のために言っておくが、文面は『痴漢しない』ではなく『女性の身体を触らない』だからな」
 パソコンを起動し、契約書をスキャナーにかけながら更紗は言葉を投げかけた。
 「はい?」
 「だから、キミは二度と女性の身体を触ってはいけないんだ」
 「何か違いがあるんですか?」
 「大有りだろう!」
 勢いよく狗矢の方に振りかえる更紗。
 「それってつまり、その……女の人を抱くこと、とか?」
 「それは当たり前だ!!ほかには!?」
 こんなに声を荒げる更紗を、狗矢は初めて見た。
 「ええっと、あれ、もしかして、肩が当たったり、指先が触れたりとか、そう言うのもアウト……とか?」
 「そうだ!!」
 「うっわ、思ってたよりキツいハンデだった!当たり前だけど!」
 「当たり前に決まっているだろうが!わたしが何度、エレベーターでキミと肩に当たった女子社員や、書類を受け取る時に指先の触れた女子社員に嫉妬したか分かるか!?分かるか!?」
 「ぐぉめんなさぁぁぁぁい!」
 更紗の言葉の勢いに、全力土下座再び。
 「分かればよろしい。しかし、アレだな……」
 パソコンへの取り込みを終えた更紗は、頬を赤らめた。
 「ほかの男なら兎も角、キミからあんな風に激しくされるのは……その……悪い気はしないな」
 最後の言葉は、狗矢にようやく聞き取れるくらいの小声だった。
 その、普段のキャリアウーマン然とした姿とはギャップのある乙女チックな仕草に、(課長、もしかして俺のことを……?)などと思いたくなる誘惑を、狗矢は振り払った。
 自分たちはわいせつ罪の加害者と被害者で、自分は今、被害者である課長からお情けを受けているところなのだ、と思い直す。
 心得違いをしてはいけないのだと。いくら尊敬し、敬愛し、憧れる上司だからと言って、更紗を女性として見ることなどあってはならないのだと。
 だから、
 「それは、何と言いますか。課長の寛大さに、俺としては、何と言うか……」
 「続きをしても、良いんだぞ?」
 更紗の言葉に、狗矢の思考は本日何度目かのフリーズを経験した。
 「課長、今何ト仰イマシタカ?」
 「だ、だから……」
 茹でダコのように真っ赤になる更紗。
 「も、もっとわたしの身体を触ったり、撫でまわしたり、揉んだり、だ、だ、だ、抱いてくれたりしても良いって言ってるんだ!!」
 更紗の言葉を理解するのに、いくらかの時間を要した。
 触っても良い?
 更紗を?
 尊敬する上司サマを?
 この美人を?
 さわさわしたり?
 ぷにぷにしたり?
 その上……
 「抱く、と言うのは、ハグの方で?」
 「……………………………………もう一つの意味の方で、頼む」
 狗矢の思考がフリーズすること、さらに数秒。
 「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
 天地がひっくり返る勢いで狗矢は叫んだ。
 「いやか!?そんなにいやなのか!?」
 「いやいやいやいや。だって契約書が」
 「ちゃんと書いただろう!?『私を除いて』って。良く読め!」
 「本当だ!」
 差し出された契約書には、確かに『乙(更紗)を除いて』、と書かれていた。
 「で、でも、俺は、課長にひどいことしたんですよ!?」
 「もう、許した」
 「俺、性犯罪者ですよ!?」
 「わたしだけのな」
 「いや、でも……」
 言葉を探すのに、狗矢は随分と手間取った。
 「良いんですか、俺なんかで」
 「キミ『が』、いいんだ」
 そう言って抱きついてきた更紗の柔らかな感触に、そして髪の匂いに、狗矢の理性は完全に切れた。
 本能の赴くまま、更紗の唇を、狗矢は衝動的に奪っていた。
 更紗もまた、狗矢の唇に、むさぼるようなキスをする。
 そして、2人は互いを激しく求めあっていった。
 夜はふけていく……。

966わたしだけの痴漢さん ◆yepl2GEIow:2013/09/10(火) 22:35:51 ID:Vlr2axdQ




 こんなに上手くいくとは思わなかった。
 薄暗い部屋の中、行為の痛みと余韻が抜けない身体をベッドに横たえ、九石更紗は思った。
 競争社会の縮図である企業の中で、更紗は常にギラギラとした視線にさらされ続けていた。
 自分を蹴落とそうとする者たちや、自分を従えようする者たちの欲望に満ちた視線に。
 そんな中で、「課長、課長」と、欲望も下心もなく素直に着いて来てくれる、否、ずっと着いて来『続けてくれる』狗矢の存在は、更紗にとって大きかった。
 会社の悪い部分に染まることなく働き続ける狗矢の姿は更紗にとって魅力的であり、救いだった。
 いつしか、彼を愛してしまうほどに。
 だから、なるべく彼には社内で女性を近づけないようにしていたし、仕事をちょっとだけ多く割り振って2人きりになれる時間を増やしたり、同じ電車に乗って帰ったり―――スッポンの生き血やニンニクのたっぷり入った手作り『栄養ドリンク』を毎日のように振る舞ったりした。
 ……きちんと精力以外に栄養の摂れるものも入れてあるので、嘘は言っていない。
 唯一の誤算があるとすれば、興奮した彼が直接自分に襲いかかるのではなく、相手が自分と知らずに痴漢行為に走ったことだろうか。
 (その相手が他の女で無くて、本当に良かった)
 それが最大の幸運だと、更紗は思った。
 そうでなければ、狗矢の手とその女性は、この世にお別れを言わなければならなかっただろう。
 そんなことを考えていると、シャワールームからバスローブを着た狗矢が戻って来る。
 「課長、シャワーありがとうございます。課長もどうぞ」
 「『課長』は止せ、こういうことをした後に。シャワーはもう少し後にさせてもらうよ。まだ、痛みが引かなくてな」
 体を少しだけ起こして、更紗は答えた。
 「申し訳ありません……九石さん」
 「良いさ。会社では人を扱う立場にあるわたしだ。激しく扱われるのも、悪くない」
 激しくも愛おしい行為を思い出して、自然と嬉しくなる。
 お互い経験が無いので(狗矢に女性との交際経験が無いのは事前に調査済みだ)、勝手が分からないところもあったが、激しく愛し合えたのは確かだった。
 「ああ、そうだ」
 恥ずかしさをこらえ、何でも無い風を装おうとしながら、更紗は言った。
 「何ですか、か……九石さん」
 銀也の素直な瞳に背中を押されたような気がして、更紗は続ける。
 「言うのが遅れたが、三崎くん。いや、狗矢くん。わたしはキミを愛している。結婚を前提に、交際してくれないか?」
 「ええ!?」
 狗矢の驚きに、更紗の心臓は一瞬止まりそうになった。
 「良いんですか、俺なんかで!?」
 「キミ『が』良いんだ……って二度も言わせるな、恥ずかしい!」
 半ばパニックになりながらも、更紗は応じる。
 「それで、どう、なんだ?キミは……」
 「ええっと」
 と、言葉を探す狗矢。
 そんな姿さえ愛おしい。
 「まだまだ至らぬ点もありますが、末永くよろしくお願いします」
 狗矢がペコリと頭を下げると、更紗の周囲が(薄暗い室内だというのに)輝きだしたような気がしてくる。
 「こちらこそ、不束者だが、よろしくお願いします」
 こちらも頭を下げ、そして唇を狗矢の方によせる。
 その意味に気がついた狗矢が、更紗と唇を重ねる。
 「ああ、そうそう。恋人になっても先の契約書の内容は生きているからな」
 「マジですか」
 「ああ。これからもよろしく」
 わたしだけの痴漢さん

967わたしだけの痴漢さん ◆yepl2GEIow:2013/09/10(火) 22:37:12 ID:Vlr2axdQ
投稿終了です。

お読みいただきありがとうございました。

968雌豚のにおい@774人目:2013/09/11(水) 02:37:03 ID:X2s962nY
>>967
GJ
お姉さん系のヤンデレって好きだわ

969雌豚のにおい@774人目:2013/09/11(水) 19:32:59 ID:Dy7.K2Vk
>>967
GJ
ヤンデレ上司は意外と少ないのでもっと増えると良いな

970雌豚のにおい@774人目:2013/09/11(水) 21:47:49 ID:pGHUkJz2
グッジョブです

971雌豚のにおい@774人目:2013/09/14(土) 02:03:56 ID:m2nOfHpo
セクハラからのヤンデレって保管庫のものを思い浮かべながら読んだけど、すごく良かった。

純愛ハッピーエンドもいいね。

972雌豚のにおい@774人目:2013/09/14(土) 06:46:54 ID:b/ojDZig
上司ヤンデレだと残業命じて二人きりになったりできるけど
部下ヤンデレってあんまり武器ないな

973雌豚のにおい@774人目:2013/09/14(土) 09:15:48 ID:SV2hax4c
フリーランの動画観たらテンション上がって公園でハッスルしてしまった
ハンドスプリングやったら背中から落ちまくりで痛いンゴ……

974雌豚のにおい@774人目:2013/09/14(土) 09:16:29 ID:SV2hax4c
誤爆

975雌豚のにおい@774人目:2013/09/14(土) 10:49:49 ID:qXGgH8dA
>>972
セクハラをネタに脅す、とかありじゃね?

976雌豚のにおい@774人目:2013/09/14(土) 11:28:22 ID:xcbFges2
お茶淹れてその中にこっそり催淫剤とか睡眠薬を混ぜるってのもありか
これは上司と同僚でも可能だけど

977雌豚のにおい@774人目:2013/09/14(土) 18:10:38 ID:dFma8rzw
主人公を仕事でも独占するために頑張って出世したら
年下のヒロインに抜かれたことに落ち込んで
俺はこの仕事向いてないと思い込んだ主人公から
辞表届けを提出されちゃって慌てふためくっていう話を考えたけど
あんまりヤンデレじゃないな

978雌豚のにおい@774人目:2013/09/14(土) 19:55:03 ID:0L.VkfcQ
>>977
試しに書いてくれよ

979雌豚のにおい@774人目:2013/09/15(日) 20:01:48 ID:9Yi0VhFw
そーいや
ある男の出張先で現地妻になっちゃった女が
本社に男が戻されないように
男の悪い評判を流し続けてたって話が島耕作にあったが
応用すればいい感じの話になるかも

俺には文才がないからやらないけどな!

980雌豚のにおい@774人目:2013/09/17(火) 13:02:17 ID:PS8aUC7U
早くこのスレ埋めないと
新スレちゃんに怒られるかな

981雌豚のにおい@774人目:2013/09/19(木) 11:00:14 ID:xbPf77Wk
>>980
今スレちゃんから「わたしだけを見て……」と言う声も聞こえてきた気もしたぞ。

一体どうすれバインダー。

982雌豚のにおい@774人目:2013/09/19(木) 13:37:47 ID:YNEJthVo
過去スレ「なんで私の所へ帰ってきてくれないの」

こうですか分かりません

983雌豚のにおい@774人目:2013/09/19(木) 19:06:49 ID:taO5KWgc
次スレ「私のところに早く来て……そう、お姉ちゃんたちが邪魔なんだね…………」

さらにこうなる

984雌豚のにおい@774人目:2013/09/20(金) 00:25:47 ID:7cdhfciM
チョイと前はそれで小ネタが投下されて埋まってたのになぁ

985雌豚のにおい@774人目:2013/09/20(金) 22:11:48 ID:aDoUe3sw
つまり避難所だけで6人の病んだスレちゃんがいる
なにこの天国

986雌豚のにおい@774人目:2013/09/21(土) 00:12:29 ID:wZQF9Z8I
ハーレムって奴だな。

そういえば、ヤンデレのハーレムものってなかなか見ないなぁ。
(無くは無いけど)

修羅場とかならともかく。

やっぱり、相性悪いのか、「邪道だ!」ってぇこだわりのある人もいるんかな。

987雌豚のにおい@774人目:2013/09/21(土) 04:17:24 ID:w9/f8vKw
ヤンデレで修羅場でないハーレムとかヤンデレである必要がないんだが(失笑)

そんなことよりサトリビト来てたんか!いやはや長い間待ってたから言いたいことは色々あるけどとにかくもっと続いて欲しいな。

988雌豚のにおい@774人目:2013/09/21(土) 21:05:38 ID:KqcXnS8I
誰が殺した あわれな名無しを
「それは私」と ヤンデレが言った
名無しの心が あの娘(新スレ)を愛したがゆえに
私の愛が 名無しを殺した

誰が見ていた 名無しが死ぬのを
「それも私」と ヤンデレが言った
名無しの瞳に 最期にうつるは 私の笑顔
私が見ていた 名無しが死ぬのを

誰が泣くのか 名無しのために
「それも私」と ヤンデレが言った
涙枯れ果て 真っ赤に腫れた この二つの眼で
私が泣こう 名無しのために

誰が担ぐのか 名無しの棺を
「それも私」と ヤンデレが言った
名無しの躯も 名無しの記憶も 名無しの生き様も
私が背負おう 名無しのすべてを

誰が掘るのか 名無しの墓を
「それも私」と ヤンデレが言った
私と名無しの 最後の寝床 最期の褥
私が掘ろう 名無しの墓を

誰が寄り添うのか 名無しの躯に
「それも私」と ヤンデレが言った
雨が降り 風が吹き 幾歳に全て朽ち果てようとも
私が寄り添う 名無しの躯に

誰がならすのか 葬式の鐘を
それは私と 誰も言わず
墓穴ひとつに 躯はふたつ
ここにはもはや 物言うものなし

スレには すべてのスレびとが集まって
ならば我らが せめて謳おうと
かわいそうな名無しに 悼みの歌を
添い遂げしヤンデレに 幸あれと
来たれスレびと みなみな来たれ
こぞり来たりて 謳おうぞ
「埋め」

989雌豚のにおい@774人目:2013/09/21(土) 21:12:35 ID:6Zik0DG.
>>988
埋め

なんか綺麗な文だな

990雌豚のにおい@774人目:2013/09/21(土) 21:45:49 ID:WbIZlYk.
>>988
なるほど、こういう埋めもあるのか

991雌豚のにおい@774人目:2013/09/22(日) 00:07:39 ID:6eXpais6
>>998
元ネタはマザー・グースの「誰がクック・ロビンを殺したの?」かな。

元も凄絶だったけど、きれいにヤンデレものにしていてグッドです。

992 ◆bYmjUdIKrs:2013/09/22(日) 17:16:35 ID:sKAu5ymI
テスト

993雌豚のにおい@774人目:2013/09/22(日) 19:56:53 ID:opcEVHDQ
埋め

994雌豚のにおい@774人目:2013/09/22(日) 19:57:07 ID:opcEVHDQ
うえめえ

995雌豚のにおい@774人目:2013/09/23(月) 00:29:29 ID:BILAmxIY
うめうめ

996雌豚のにおい@774人目:2013/09/23(月) 00:38:55 ID:fUR.VEKI
スレPart05ちゃん「すべての雌豚を、私が破壊する」

スレPart06ちゃん「だったら、すべてのヤンデレスレはアタシが埋める!」


ヤンデレ×ヤンデレ スーパーヤンデレ大戦より

うめ

997雌豚のにおい@774人目:2013/09/23(月) 01:22:39 ID:oCm2.aak
>>1000だったら監禁ものがハヤル

998雌豚のにおい@774人目:2013/09/23(月) 19:12:29 ID:TSOF9M02
流行らす気ないだろw

このスレともお別れだな
埋め



(さ、新スレちゃんとデートしよう)

999雌豚のにおい@774人目:2013/09/23(月) 21:19:52 ID:q1ZoPLzs
ふ ふふふ うふふふふうふふふふ

いいわ
私、こう見えても寛容だから
だって私、貴方の奥さんよ? たまの「浮気」くらい大目にみれるの ほかの女の子とは違うのよ

それに・・・あの娘に「1000まで」って、のろいをかけたから・・・
1000を越えたら、あの娘は・・・
貴方すごいから、いっぱいいっぱいSS書いちゃって・・・1000なんて、すぐでしょうねぇ・・・
ふふふ・・・

そしたら、もう一度私のもとに・・・

ふふふふh
あははははっはははははっははっはっはh

1000雌豚のにおい@774人目:2013/09/24(火) 00:07:12 ID:bsYHTbM.
そして時は動きだす

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