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ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part02
1避難所の中の人★:2011/07/04(月) 22:42:43 ID:???
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。


■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/

■本スレ
ヤンデレの小説を書こう! Part46
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1304734927/

■避難所前スレ
ヤンデレの小説を書こう!@避難所
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1301831232/

■お約束
 ・書き込みの際には必ずローカルルールの順守をお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  もし荒らしに反応した場合はその書き込みも削除・規制対象になることがあります。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
 ・避難所に対するご意見は「管理・要望スレ」(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1301831018/)まで。
 ・投下しにくい空気になったら「感想・批評スレ」(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1301830990/)に誘導してください。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
 ・二次創作は元ネタ分からなくても読めれば構いません。
  投下SSの二次創作については作者様の許可を取ってください。
 ・男のヤンデレは基本的にNGです、男の娘も専スレがあるのでそちらへ。

2雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 00:24:29 ID:D8QWjoIA
>>1

避難所に出てきた荒らしはヤンデレにお持ち帰りされるから、お前ら触れるな

3雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 00:59:25 ID:iQdRrahI
スレ立て乙。私も文才あれば暇潰し程度の作品作れるんだが、いざやってみると壊滅的……作者さん達には脱帽です。

4雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 01:53:55 ID:.VBOwPiE
>>3
日記を事細かにつくってみたらどうかな?(空想日記でもおk)
人と、モノと、空間を頭の中でイメージして動かして、それを文章にするといいかも。
例えば、スパゲッティを食べるシーンを書くとする。

**アイテム**
テーブル、椅子、フォーク、皿、ナポリタン、棚、パルメザンチーズ、タバスコ、流し台、サイフ

**人**


プロット
私はサイフからお金を出し、大量のスパゲッティナポリタンを買う。
家に帰り、スパゲッティを食べる。
さらに盛り付け直して食べる前に、テーブルにチーズがないことに気づく
棚からとりだして、ナポリタンにかける。
途中、味に飽きる。フォークでナポリタンをいじっていると、テーブルのタバスコに気づく。
タバスコをかければアラビアータになるんじゃないかとひらめく。さっそく大量のタバスコをかける。
不味い。辛い。死にそうなほどの味になっているが、気合で食べきる。
皿を流しに置きながら、ナポリタンは暫くはたべるまい、と思う。

これにさらに指の動き、フォークの動かし方、チーズやタバスコのかけ方、心の機微とかを追加していくと文章になる。
こっから先を作るとすぐに文章化できなくなるので割愛。
っていうかスレチかも

5雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 03:15:47 ID:ozU4KXTw
主人公が悪い女に誑かされてその女に寝取られてしまう。それで主人公の彼女が病んでしまうになる…
ってシチュエーションを妄想するんだが文章に出来ない…

6雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 05:01:30 ID:U6jeMSPQ
スレ立て乙
狂宴高校の作者さん、作品待ってます。せっかく良いところなんだ、俺は全裸待機してる。それを忘れないでくれ

7雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 07:25:35 ID:dqq2jTXw
管理人乙。避難所が荒れないのは管理人のおかげだな。

8雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 09:55:37 ID:ffLZc1rU
誰か前スレにネタを書き込めwww

9雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 10:49:29 ID:Cgs8aAV.
2スレ目初投下まだかなあ

10雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 10:50:42 ID:JWY7yvt6
あ、管理人さん乙です

11雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 11:29:32 ID:iQdRrahI
>>4

わざわざすまない、ありがとう。それをヒントにして何かやってみるお。

12雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 14:29:13 ID:n0mxMlsU
トップページ更新しなくて大丈夫ですか?自分更新のやり方が分らないもので

13避難所の中の人★:2011/07/05(火) 17:22:38 ID:???
一応前スレの批評スレ誘導無視に当たるレスを全て削除。
埋まってるから意味ないですが。

>>12
このスレへのリンクは貼ってないので更新する必要はないです それ以前に管理者しか更新できませんが
ただ、2ch専用ブラウザの使用を推奨する旨を昨日書き加えてあります

>>1にも書いてありますが怪しい流れになったら速やかに批評スレに誘導してください

14雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 19:29:42 ID:D8QWjoIA
乙です

15雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 20:50:39 ID:n0mxMlsU
>>13
あんまりヤンデレからかけ離れすぎたSSはどうするのでしょうか?

16避難所の中の人★:2011/07/05(火) 22:14:39 ID:???
>>15
あなたが違うと思うなら専ブラでNGに突っ込んどけばいいです
だから職人さんにはトリップの使用をお願いしているわけでありまして

あなたが違うと思っても他の読者はどう思っているかわからないということをお忘れなく

17雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 22:53:59 ID:ISA5GPU2
ヤンデレ プロット

主人公は交通事故で少女を轢いてしまった。
幸い、少女の命は助かったが、腕が骨折とかで全治半年の入院生活を送ることになる
孤児院出身の彼女には頼れる身内がいなかったので、主人公は彼女の入院生活の面倒を見ることを決意する
最初は嫌がる彼女だったが、徐々に主人公に心を開き始めて、どんどんと依存していく。
その過程で彼女はとあることに気付く

もし、体が完治したら、主人公が自分の傍から離れてしまうのではないか?
それは恐怖であった。
いつも一人ぼっちに彼女にとって、主人公はいつも優しく笑いかけていた。
そんな人がいなくなるだけで、彼女の心が音を立てて崩れ去ってゆく

少女は主人公を繋ぎ止めておくために、痛いアプローチを決行する



って感じに適当に書いてみた
SSを書くのは難しいわ

18雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 23:37:07 ID:n0mxMlsU
>>17
ウホッ、良いヤンデレ… それならこういうパターンはいかがでしょうか?
妻子持ちの主人公が一人でドライブ中に少女を轢いてしまった。少女は一命を取り留めるが、歩けなくなってしまった。主人公は償うためにほぼ毎日病院に通いリハビリを手伝ったり、彼女の遊び相手になったりしていた。それから2年経ったある日彼女に「結婚して私の足になって欲しい」と言われる。妻子がいると告げても「別れればいい、それとも償わずに逃げるんですか?」と諦めない様子。どうする?主人公

19雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 01:03:13 ID:2hsKupdY
トップページで批評スレに直接行けるようにした方が良いと思うのですが。前スレで批評が出て来たのは批評スレが目立たないことにあるかと

20雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 01:15:08 ID:ClfrQYgM
>>1乙、管理人さん乙
なんだかんだで1スレ埋まったし避難所も上々だね

>>19
議論スレがせっかくあるんだし、そういうの要するのはそっちに書き込んだら?

21雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 01:34:02 ID:2hsKupdY
>>20
そうしたいんですが、批評スレと同様目立たないんですよ、携帯からやっているので場所が非常に分りにくいんです

22雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 01:45:46 ID:qpith1wQ
目立たないからこっちでやる
っていうその理屈はおかしいよ?

次からは向こうに書くように

23雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 02:07:27 ID:tDVZE/Aw
>>17-18
名前は忘れたが、そういうSSは既存だったりする
探してみ

24雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 04:43:38 ID:HNIs/572
質問なんですけど、ヒロインが過去にレイプをされた事がある、て設定は駄目でしょうか?
普通の刑事ドラマでそういう話があるので、普通に投稿してもいいのでしょうか。

25雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 05:51:38 ID:vZnAZ67.
>>24
構わない

が、高確率で嫌われやすい。俺は苦手だからスルーしときます

26雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 06:59:09 ID:8O5dqtZA
>>19-20
そういうのは議論じゃなくて管理要望スレじゃね

27雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 08:58:51 ID:2hsKupdY
>>24
注意書きを忘れずに。それでも荒らしが沸いて来る可能性があるので気をつけて下さい。あと、私もそのネタ大嫌いです

28雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 09:36:54 ID:vxa6qOcY
>>24
投稿前に注意書きで問題無いかと

29雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 13:29:31 ID:2hsKupdY
>>24
そのネタ控えていただけません?本スレがまた怪しくなってきてるので

30雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 15:21:50 ID:c3ZQyDrM
だんだん心が惹かれていく、まぶしい笑顔に、ヤンデレから飛び出そう

31雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 15:48:17 ID:Cb.Zge2s
>>29
なんで荒らしに配慮する必要がある

32雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 15:51:46 ID:2hsKupdY
>>31
前みたいにこっちに沸いて来る可能性があるかと思いまして

33雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 16:01:22 ID:vxa6qOcY
>>31
構わないほうがよさげ

34雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 17:32:32 ID:pa3PETaE
ヤンデレネタとは関係ないので削除依頼してくるか

35雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 18:01:58 ID:Z5iQ7QE2
批評スレでやれ

36雌豚のにおい@774人目:2011/07/06(水) 19:28:26 ID:2hsKupdY
触雷!か魔王の作り方来ないかな?あと、禁忌の一線も続きが気になる

37ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:54:01 ID:yOkhoPgY
こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
今回は、前回から少し後のお話。
ある夏の日の思い出です。
それでは投下させていただきます。

38ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:54:22 ID:yOkhoPgY
 数年前のことである。
 俺は―――御神千里は今とは全く違ったキャラクターの持ち主だった。
 親とはすれ違いを続け、自分の周囲にはメンタル的な壁を作っていた。
 誰にも心を開かず、誰も立ち入ることを許さない。
 周囲の人間を自然と傷つけ、自分の心さえも凍てつかせる、言わば氷の城壁。
 ある日、その城壁を溶かしてくれる奴らが現れた。
 1人の親友と、1人の少女。
 親友―――葉山は、俺の心の中にズカズカと入ってきてくれた。
 少女は、俺の孤独を共有してくれた。
 結局のところ、当時の俺は怖かったのだろう。
 人と関り合うことが。関り合って傷つくことが。
 だから、人と関わることを避けていた。
 その恐れに立ち向かう勇気をくれた2人には、正直すごく感謝している。
 もっとも、そんなことは2人には伝えずじまいだけど。
 少女に対するもう1つの想いも、彼女に伝えることなく終わったけど。
 だから―――

39ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:55:13 ID:yOkhoPgY
 「はふー」
 「…」
 軽く冷房を効かせた居間で、俺と三日はソファで揃ってだらけていた。
 先日ようやっと退院し、俺たちは暇を持て余していた。
 夏休みの宿題も終え、バイトの予定も無いので、自宅でダラダラするくらいしかやることが無いのだ。
 女の子がいるのに甲斐性の無い、とは言わないで欲しい。
 と、いうのも夏の初めに、
 「三日、夏休みにどっか行きたいとかあるー?」
 「…私は、千里くんと一緒に居られればどこに居ても幸せですよ」
 「あー、なるほど」
 「っていうか、こんな暑いのに旅行や外出をしたら脱水と熱中症で死ねます(真顔)」
 「……あー、なるほど」
 と、いう会話があったのだ。
 先ほど、居間のソファでと言ったが、厳密には俺はソファに深く座り、三日はその隣で、上半身だけを俺の太腿の上に横たわっていた。
 見下ろせば三日の顔と美しい黒髪が見える、無防備な体勢だった。
 ついでに言うと、軽く着崩れた浴衣姿なので、そうした意味でも無防備だ。
 具体的には襟元から見えるまっ白な肌とか。
 その上に投げ出された美しい黒髪とのコントラストとか。
 緋月家では浴衣はごく一般的な部屋着らしい。
 扇情的とは言えない体つきの三日なのに、不思議と色香を感じさせる姿だった。
 それを感じている自分に、妙な罪悪感を覚える。
 ちなみに、先ほどから2人はほとんど無言。
 俺は自分から話しを振る方でも無いし、三日もどちらかと言えば無口な方だ。
 その沈黙が苦になるという訳でも無く、むしろ穏やかに感じられる。
 とはいえ、俺らは一応ビデオを観てはいるのだけれど。
 俺らの親が制作に携わっている子供向け特撮ヒーロー番組『超人戦線ヤンデレンジャー』、その物語中盤のクライマックスシーンだった。
 『魔女大帝!今こそ俺たち超人戦線ヤンデレンジャーの4人の力を!そして正義の力を見せてやる!』
 目の前のテレビでは、4人のヒーローチームのリーダーが悪役に向かって勇ましい台詞をぶつけていた。
 いかにも子供向け特撮ヒーローらしいシーンだ。
 直前のシーンまで、このリーダー以外のメンバーが彼を巡って昼ドラばりに骨肉の争いを繰り広げていたとは思えない。
 『かりゃかりゃかりゃ、愚かで哀れなヤンデレンジャー…。正義なんて下らないものが悪のパワーに勝てっこないのを教えて…あげる。いくよ、最強怪人エンパイアアタックドラゴン!』
 『どーらー』
 最強怪人と言う割に妙な愛嬌のある着ぐるみを従え、悪のボスが凄惨な笑みを浮かべた。
 このゴスロリ風の衣装を着た少女(?)が、零咲えくり演じる悪役の魔女大帝だ。
 こちらも、世界征服と同時にヒーローチームの指揮官である軍の最高権力者(既婚者)を恋愛的な意味で狙っているという無駄にドロドロとした設定が付いている。
 ……改めて説明するとキワモノだよなぁ、コレ。
 そんなことを考えているうちに、画面に『続く!』の文字がドンと登場。
 続いて、どこか物悲しいメロディーのエンディング曲が流れ始める。
 「…お母さん、テレビで観るとやっぱり別人のようですね」
 子供向けヒーロー番組には不似合いな重苦しいテーマソングを聞きながら、三日が言った。
 「そう?」
 俺に言わせれば、テレビの中の魔女大帝はまんま零咲こと三日の母親、緋月零日さんそのものにしか見えなかった。
 「…千里くんがどういうテンションのお母さんを言っているのかは分かりませんけど…、少なくとも家の中のお母さんは落ち着いた大人の女性ですよ?」
 「へぇん……」
 あれがぁ?大人の女性?
 正直、少し想像できなかった。
 「…怒ると、家族で一番怖いですけど」
 「あー、納得。ある意味最強だからなぁ」
 そこで会話は自然に途切れ、周囲はヤンデレンジャーのエンディング曲だけが流れている。
 『鮮血』、『狂気』、『血だまり』と言った、およそ子供番組らしからぬ単語が混じる歌詞と番組の内容から、ネット上のファン(所謂『大きなお友達』)からは『死亡用BGM』というアレな仇名で呼ばれている。
 「…千里くん」
 「なぁに、三日?」
 三日が唐突に俺の膝の上で体を起こし、上目遣いで聞いてくる。
 「…キス、しませんか?」

40ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:55:36 ID:yOkhoPgY
 「……えーっと」
 唐突に爆弾を落としてくる奴だ。
 って言うか、さすがに『死亡用BGM』をバックに口付けをするのはムードが無くはありませんかい?
 「ン!?」
 けれども、俺が何かを言う前に、三日は俺の首に手をかけ、半ば強引に唇を触れ合わせ、俺の口の中に舌を侵入させてくる。
 俺の口内を征服せんとばかりに、三日の舌がうねる感触がする。
 それを受け止めるように、俺は自分の舌を三日のにたどたどしくからめる。
 同時に、情熱的に動き回りすぎて腿の上から落ちそうになる三日の体に手を回す。
 強引なのは、嫌いじゃないのだ。
 強引どころか、ギラギラした視線を感じるが、それは、自分の存在が求められているということでもある。
 それを自覚するたびに、背筋にゾクゾクと走るものがある。
 服越しに、三日の体温と柔らかな肌の感触を感じる。
 情熱的に舌を動かすたびに、長髪がうねるように動く。
 その柔らかさを指先で感じながら、彼女の舌を受け止める。
 彼女の体を受け止める。
 受け止め、つつみこむ内に、ぼんやりとしてくる。
 あいまいになる。
 俺と三日の境界線が。
 境界線が無くなり――― 一線を超えそうになる。
 あー、ヤバ。
 俺はポンポン、と三日の肩を叩き、口付けの終了を促す。
 反応なし。
 なので、
 「ぷはぁ!」
 と、半ば強引に唇を離す。
 「…何で、止めちゃうんですか?」
 三日から恨みがましい目で見られた。
 息も荒く、上目づかいなのでかなり怖い。
 ついでに、かなり艶っぽい。
 「いや、もう10分近く続けてるじゃん。いい加減一息ついて良い頃合いじゃない?」
 「…まだいけます」
 そう三日は言うが、汗だくで息も荒く、かなりグッタリしているように見える。
 着ている浴衣もかなり乱れている。
 ……ビジュアルだけみるとキス以上のことをしたかのようだがそんなことはない。いやマジで。
 「そろそろお昼ご飯の準備もあるし、三日も汗だくじゃない。シャワー浴びたら?」
 「…」
 不承不承といった風に、俺の体から降りる三日。
 「んじゃ、入ってきてよ。その間お昼準備してっからー」
 「…分かり、ました」
 乱れた浴衣を整え、居間から出て行く三日。
 居間のドアが閉まったことを確認し、俺は体を起して深呼吸。
 火照った体を鎮める。
 具体的には下半身周りを。
 ……下品とか言ってくれるなよ。
 服越しとはいえ、女子の体の感触を感じながら平静を保っていられるほど、俺は枯れちゃいないのだ。
 よく誤解されるのだが。
 三日の胸だって、大きさ面で慎ましいだけで、決して無いわけではないのだし。
 これまた、よく誤解されるのだが。
 それにしても、俺が病院に入院する契機となった先日の一件以来、三日からのスキンシップがいささか過剰になったような感がある。
 アレか、難しいステージをクリアするとイベントのレベルが上がるとかそんな感じか?
 いくらスキンシップのレベルが上がったからと言って、それに甘えて、その先を求めて良いようなことは無いだろう。
 その結果万一のことがあった場合、俺は年齢的社会的に責任は取れないし。(外道)
 大体、アイツが無防備な姿を晒したからと言って、それが男にとってどんな意味を持つのかアイツがきちんと理解しているかかなり怪しい気がするし。
 んー、違うな。
 俺は単純に自分の『男』の部分、汚い部分を三日に見せたく無いのだろう。
 そんなことをしたらどうなるのか、分からないから。
 三日がどう感じるのか分からないから、
 もっとも、分からないというのは考えても仕方がないということだ。
 「さぁ、って」
 大体落ち着いてきたら、俺は立ちあがってキッチンに向かう。
 ここ最近、半ば習慣化した行為だ。
 「アイツのためにご飯を作ってやっかね」
 そう呟く俺の口元には心なしか微笑が浮かんでいるような気がした。
 三日は夏休みの間、ほとんど毎日四六時夢中俺と一緒に行動している。
 だから、食事もいつも一緒だ。
 「って、なんか、新婚さんの主夫さんみたいなカンジになってないか、俺?」
 ふと、そう呟くと、顔が火照るような気がしてきた。
 「・・・・・・」
 周りに誰もいないで本当に良かった。
 こんな顔、誰にも見せられたものじゃないから。

41ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:55:58 ID:yOkhoPgY
 ホウレンソウやコーンをくるんだ薄焼き卵が皿の上に乗ったのとほぼ同時に、三日がリビングに戻ってきた。
 三日は、汗をかいた浴衣から、外出着の白いワンピースに着替えていた。
 シャワーを浴びた髪は艶やかで、トコトコとこちらに寄ってくる様は小動物や子犬のような愛嬌がある。
 「…お待たせしました」
 「いや、ちょうどできたところー」
 卵焼きを切り分けながら、俺は応対する。
 昼食をダイニングに並べ、2人揃って手を合わせていただきます。
 今日のご飯は冷麦にこの卵焼き。
 冷麦は茹でただけだが、卵焼きの方は我ながら上手く出来たと思う。
 しかし、 三日の方は何となく不満そうな顔をしていた。
 うーみゅ、やっぱ暑いからって冷麦で済ませちゃったのが悪かったか。
 「…いえ、ご飯が不満ということは無いです」
 「心を読まれた!?」
 まるでエスパーだった。
 「…と、言うより千里くんの作るものが美味しくなかった試しはありませんし、千里くんの作るものが美味しくないはずもありません」
 「そう言ってくれると、悪い気はしないよ」
 割と本気で。
 と、言うのも緋月家の家事は、主に三日の姉の二日さん、サブで父の月日さんが担当しているのだが、両者とも非常に料理が上手いのだ。
 なぜか、零咲(母親の零日さん)だけはキッチンに立ち入れさえさせてもらえないらしいが。(「レイちゃんに作らせたらキッチンが…バクハツ…するから」とか言われていた気がしたが、さすがにそんなことは無い……と思う)
 「…それです」
 「?」
 いや、どれだよワケわかんねーよ、とは言わなかったが。
 「…『悪い気はしない』、『悪くは無い』とは言っても、『良い』ということ、滅多に無いですよね?」
 「……どうしたのよ、藪から棒に」
 「…キスの時もそう。初めての時はともかく、自分からは絶対に誘ってきてくれない」
 「その時のことは忘れてくださいお願いします」
 俺にとって、三日との初キス、たぎる獣の力のままに公衆の面前でベロチューかましてしまったことは黒歴史なのだ。
 けれども、俺の言葉が聞こえていないかのように、三日は食卓越しに顔を近づけてくる。
 「…優しい優しい千里くん。…穏やかな千里くん。…素晴らしい千里くん。…私の千里くん」
 スゥ、と俺の頬を撫で、三日が言う。
 「でも」
 と、三日は続ける。
 「…千里くんって、人に対してどこかで一線を引いてませんか?」
 「……」
 それに対しては押し黙るしかない。
 事実、だからだ。
 「…他人に対してなら、良いんです。…他人は所詮他人ですから。…でも私たちは……」
 「あー。そう言えば今日、午後から葉山と遊ぶ約束があったんだ」
 我ながら、話のそらし方としてはあざとすぎると思う。
 三日の顔も、微妙に険しくなった気もするし。
 「ンな顔しないでくれよ。いい加減外出て買い物もしないと、冷蔵庫の中身が無くなるってのもあるし」
 ここ数日、三日と家に籠り切りだったからなぁ。
 親はきちんと帰宅するので、完全に2人きりとはいかないけれど。
 それはともかく、俺は三日を少しでも安心させようと、クシャと軽く頭を撫でる。
 「俺がどうであれ、お前に不安不自由にはさせないさ。そこは安心して良いところだぜー」
 普段の笑顔を作り、俺は三日に言った。
 「…なら、1つ聞いても良いですか?」
 「なーにー?」
 なるべく軽い調子を装って、俺は促した。
 「・・・私たち、付き合ってるん、ですよね?」
 真正面から聞いてくる、その台詞にドキリとする。
 「・・・・・・聞かないでよ、そんな当たり前のこと」
 何とかそう答えてから、俺は気がついた。
 俺は今まで三日にあの言葉を言ったことがないことに。
 『愛してる』という言葉を。

42ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:56:34 ID:yOkhoPgY
 それから少しした後。
 益体も無い話で三日を誤魔化した俺は葉山との待ち合わせ先、学校からも程近い近所の公園にいた。
 厳密にはその一角、駐車場の近くにある、ストリートバスケのできる小さなスペースの中で。
 さて。
 今まで突っ込んで言及してこなかったが、葉山はバスケ部である。
 幼少期に『スラムダンク』(漫画の方ね)にハマったから、というふざけた理由で始めたそうだが、その割に長続きしたらしく、今では夜照学園高等部男子バスケットボール部の立派なレギュラー様である。
 とはいえ、俺と葉山のどちらが背が高いかというと圧倒的に俺である。(葉山は高校二年生男子としては標準的な身長だ。)
 素人考えだと、バスケでは背が高いほうが圧倒的に有利に思える。
 背が高いがバスケの経験は並程度の俺と、背は俺より低いがバスケ歴が圧倒的に長い葉山が一対一でストリートバスケをしたらどうなるのかというと。
 翻弄されるのである。
 俺が。
 ものの見事に。
 一寸法師から手玉に取られた鬼のような有様だった。
 葉山は軽快な動きで俺を玩弄し、戸惑った隙を突いてあっさりボールをゲット。
 ほとんど一足飛びでゴール近くまで接近する。
 「待っ―――」
 脚の長さは俺のほうがある。
 何とか葉山に追いつき、ディフェンスをかけようとするも―――俺の視界から葉山の姿が消えた。
 ゴールの方を振り向いた時に俺が見たのは、四肢をしなやかに伸ばし、ゴールにボールを放り込んでいる葉山の姿だった。
 「知ってるいかァ?」
 得意げな笑みを浮かべ、葉山は言った。
 「サッカーでゴールは、ドイツ語でトーアっつーんだってよ」
 俺は、それに対して苦笑を浮かべ、負け惜しみのように言い返す。
 「じゃあ、バスケのゴールは何なのさ」
 「知らねー」
 知らないのかよ。
 ともあれ、これで三連続で葉山に点を取られた。
 俺たちはしばしばこうしてお遊び程度にストバスに興じているが、俺は葉山からマトモに点を取った試しが無かった。
 ともあれ、俺たちはそこで一段落入れることにした。
 俺は汗をふくと、隅においていた上着とストールを着なおし、葉山と自販機で飲み物を買うことにした。
 「何飲むー?」
 「コーラ」
 「濃いのいくねー。体動かして汗かいた後だってのに」
 「今日はコーラのキブンなんだよ」
 そんなやり取りをしながら、俺たちはコーラとスポーツ飲料を買う。
 「で、どーよ。久々に思いっきり体動かして」
 ペットボトルの蓋を空けながら、葉山が聞いてきた。
 どうやら、今回のストバスは葉山なりの快気祝いだったらしい。
 先日まで入院中で、運動なんてしたくてもできなかった俺をこいつなりに気遣ってくれたようだ。
 「アリガト。やっぱ良いねー、こうやって体動かすの。夏休みだと体育の授業も無いし」
 「そいつは重畳」
 俺らはいつものように笑いあった。
 「ところで、みかみん」
 「何さ、はやまん」
 「最近どーよ?」
 「最近って?」
 「いや、緋月のヤツのことだよ」
 そこで、葉山はマジな表情でグイと顔を近づけてきた。
 いや、唇がくっつきそうで怖いんですケド。

43ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:56:53 ID:yOkhoPgY
 「緋月にヘンなことされてねーか?セクハラとか、DVとか」
 「DVって、ソレ家庭内暴力の略だろ。俺ら家庭なんて築いないし、高校生だし」
 笑って答えたが、どうだろう。
 俺と三日はほとんどずっと一緒にいるし、家族と言っても良いような気がする。
 「じゃあ、のっとDV」
 「のっと、って何さ」
 家庭内で無い暴力、という意味なのだろうが、死ぬほど頭が悪かった。
 先ほどトリビアをかました口とは思えなかった。
 「とにかく、そうしたトラブルは無いよ。順調快調絶好調ってカンジ」
 「そうかぁ?ホントに大丈夫かぁ?」
 「大丈夫だって」
 いつもの3割増しで気軽そうな顔で、俺は答えた。
 「しっかし、お前も何であんなストーカー女と付き合う気になったンだ?」
 「今更聞く、ソレ?」
 って言うか、『付き合う』とかストレートに言わないで欲しい。
 「前々から聞こうとは思ってたンだよ。あんな陰険根暗嫉妬の塊のどこが良いんだ?お前ならもっと良い女がいっぱい居るだろうよ」
 「俺はモテないよ」
 「女の扱いは上手いだろ」
 「誤解を招く言い方をするなって。それを言うなら女じゃ無くて女『友達』」
 中等部時代から一原先輩達とつるむ機会が多かったお陰で、俺は女子と話すのに抵抗は無く、所謂女友達は多い。
 そのせいか、迷惑なことに、ごく稀に「御神はモテる」という勘違いをされることもある。
 三日の嫉妬心が強いというのなら、全く故の無いことでも無いのかもしれない。
 「ホレ、そうでなくても河合とか」
 「河合さんは友達としては良いんだけどねー」
 でも、三日の前に河合さんに告白されていたら、河合さんと付き合っていたのだろうか。
 そのルートはちょっと想像できないな。
 「大体、何ではやまんは三日のことをそんな心配?っていうか毛嫌い?するワケよ。実害のあるようなタイプのヤツじゃないだろ、アイツ」
 俺は冗談めかしてそう聞いた。
 「なんつーかさぁ……」
 すると、葉山は妙に思案気に言った。
 「みかみんはアイツとくっつくモンだとばっかり思ってたからなぁ、ムカシ」
 「アイツー?」
 神妙な顔のはやまんに、スポーツ飲料を飲みつつ聞いてみた。

44ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:57:49 ID:yOkhoPgY

 「九重かなえ」

 「ゴフア!?」
 スポーツ飲料吹いた。
 「オ、オイ。ダイジョブか、みかみん」
 「ゲホ、ゴホ……。って言うか何!?誰!?」
 スポーツ飲料にむせながら、俺は何とか発声した。
 「九重だよ。九重かなえ。中等部の頃一緒につるんでた奴。忘れたわけじゃないだろ?」
 「いや、覚えてるけどさ……」
 九重かなえ
 中等部時代、人間関係に不慣れな俺と、葉山共々友人関係を築いてくれた女の子。
 忘れたくても忘れられない、忘れようも無いし忘れたことも無い名前だった。
 けれども、今頃になって、と言うより今更になってもう学園にいないアイツの名前が人の口から出てくるとは思わなかった。
 「何で、九重の名前が出てくるわけ!?」
 俺の言葉に、葉山は少し困ったような、気まずそうな顔をした。
 「いやぁ、あの頃俺、みかみんは九重にホれてるもんだとばっかり思ってたしなぁ」
 「……」
 そんな風に思ってたのか。
 何でその恋愛脳を自分の関係に活かせないのだろう。
 明石が聞いたら泣くぜ?
 「それを、ポッと出の新キャラみたいな奴がかっさらったら、そりゃ毛嫌いもするっつーか何つーか。まぁ、緋月がストーカー女だからってのもあるけどよ」
 「ポッと出の新キャラって言ったら、元を正せばみんなそうだろ?お前も、九重も、それにお前にとっての俺も」
 「まぁ、誰だって初対面だった頃はあったがよ」
 ようやく落ち着いてきた俺は、葉山に軽口を言ってまぜっかえした。
 「それに、九重と俺が付き合うなんてこと『無い』から」
 「無しかい」
 「そう、『無い』」
 少し強い口調で念を押す。
 俺と九重が友情以上になることなんて、どう逆立ちしたってあり得ないことだ。
 PC版からコンシューマー版になっても攻略不可なキャラクターよりも、実現不可だ。
 俺の人生に九重ルートは実装されないのである。
 「それに、アイツの生活を考えると、どうしたって俺やらお前とかと恋愛とかムリじゃん。超遠距離恋愛になるし」
 「あー、今はどこの国に居ンだろなってカンジだもんな、アイツ」
 九重の家は、『父親の趣味は海外転勤で家族を振り回すこと』と彼女から(珍しく)揶揄されるほど、国内外問わず頻繁に転校を繰り返していた。
 中等部時代、俺たちは1年生から3年生の途中まで一緒につるんでいたが、それほど長期間一度に1つの国にいられたのは奇跡みたいなもの、だったらしい。
 「しょーじき、九重のオヤジさんも単身赴任とかにしてくれりゃ良ーンだけどな」
 「それは思う」
 どんな形であれ、今でも九重が俺たちと一緒にいてくれたら、学園生活が今以上に楽しくなっていただろう。
 今の俺を見て、アイツが何て言うかもちょっぴり面白そうだし。(大半は怖いけど)
 九重のお父さんも色々事情があるだろうし、他人の家庭をどうこうできる立場でも無いから、あまり無責任なことは言えないけれど。
 ぼやくくらいなら良いだろう。
 望みを言うぐらい良いだろう。
 あー、九重の奴と合わせてまた一緒に遊びたい。
 3人で。
 叶えだけに、鼎(かなえ)だけに。
 「それはあんま上手くねーんじゃね?」

45ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:58:16 ID:yOkhoPgY
 「人の心を読むなよ……。そう言えば、はやまんは今も九重と連絡とか取ってる?」
 「いーや、全然。って言うか、アイツが今どこの国にいるのかさえ分かんねーし」
 「中学ラストで転校してったのは、名前も知らないような国だったしねー」
 「それから、またどっか行きやがったんかねェし」
 「最後に聞いたのはイギリスだったはずー」
 これでも、根気よくエアメール等で連絡を取っていた頃があったのだ。
 「イギリスのどこー?」
 「分かんない。『今度はイギリスに転校』ってだけで、引越しの頃でバタバタしてたらしくて、住所とかまでは」
 俺は首を振った。
 手紙もネットも、今でも連絡が着かない。
 友達なんてそんなモンかもしれないけど、少し寂しいものだ。
 少し寂しくて、少し悲しくて、とても嫌なものだった。
 「でもよォ……」
 葉山が、ポツリと口を開いた。
 「お前と九重、お似合いだったと思うぜ。もし付き合ってたたら、だけどよ」
 「止せよ、そう言うの」
 再度、スポーツ飲料に口をつけて俺は言った。
 けれどもスポーツ飲料の甘味料は、俺の中の苦みを癒してはくれない。
 「何度も言うようだけど、俺と九重がそう言う風になるとか『無い』から。なりたくても、ね」
 なりたくても、なれない関係と言うのはあるのだ。
 「そうかい……」
 そこでその話題は終わった。
 九重かなえのことは。
 かつて、俺の思いを共有した少女のことは。
 かつて、俺に多くの想いを教えてくれた少女のことは。
 かつて――――俺に恋を教えてくれた少女のことは。

46ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 20:58:58 ID:yOkhoPgY
 その後、俺と葉山は最近の漫画やアニメのこととか、益体も無いことを話してから別れた。
 そして、公園を出ようとすると、ヅガン、という金属がぶつかるような音がした。
 「何だぁ!?」
 思わず言って、そちらの方を見ると、公園の自販機が見えた。
 そして、それに蹴りを入れている奴の姿も。
 「畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生……」
 自販機を蹴っているのは、俺も良く知る少女だった。
 明石朱里。
 俺と同じクラスで、水泳部。
 クラス一の情報通で、ムードメーカー的存在でもある。
 明るく可愛いので、男女問わず人気があるという話も聞く。
 そんな彼女が、水泳で鍛えられた美脚を自販機に叩きつけていた。
 いやまぁ、俺は明石の『ああ言う』姿を以前一度だけ見たことがあるので、ある程度は耐性があるのだけれど。
 「御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ……!」
 明石は、そんな恨み辛みを自販機にぶつけているようだった。
 どうやら、恨みを買っているのは御神とかいう人物のようですね。
 ……間違い無く俺のことだった。
 「あんなヤツより、私の方がずっとずっとずっとずっとずっと正樹のことが好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに……!」
 女の子が畜生とかヤロウとかヤツいうのはどうなのだろう。
 いや、それよりもここは早いところ離れた方が良さそうだ。
 今彼女に見つかったら怒られるどころでは済まない。
 って言うか殺される。
 明石としてもよりによって俺に見られたい現場では無いだろうし。
 「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすき……」
 自販機が故障しそうな勢いで蹴り続ける明石の姿を見なかったことにして、俺は即座にその場を立ち去ることにした。
 触らぬ神に祟りなし。
 俺が先日入院する原因となった一件で学んだことだ。

47ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 21:00:25 ID:yOkhoPgY
 祟りがいた。
 公園からの帰り、近所のスーパーマーケットに向かう道すがら、何の気なしに横目をやると、その道の奥に祟りがいた。
 祟りは、紙袋を片手に、黒白のゴスロリ風の衣装に身を包んでいた。
 ゴスロリ『風』と書いたのは、袖が短くカットされ、夏場の撮影のために涼しげなアレンジがほどこされていたからだ。
 それでも、フリルがふんだんに使われているので暑そうではあるけれど。
 俺は、その衣装をつい先ほど見たことがあった。
 テレビ番組『超人戦線ヤンデレンジャー』の中で悪の権化、魔女大帝こと零咲えくりが着ていたものだ。
 つまり、その祟りの名は零咲―――緋月零日サンであった。
 気のせいだと思うが、道の奥に居る零咲と目が合った気がした。
 気がしただけなら、気のせいだろうと思いたい。
 先日、零咲によって刻まれた痛みの数々を思い出し、ストール越しに首を押さえる。
 ……見ないふりをしてさっさとスーパー行こう。
 そう思って改めて前を向くと……
 「こんにちは…なんだよ、おにーさん」
 「うぎゃあ!?」
 祟りが目の前に居た。
 「いや、いきなり『うぎゃあ!?』とか言われても困る…んだよ?」
 苦笑を浮かべる零咲。
 「や、すいません。……って言うか一瞬前まで遠くに居ましたよね!?どうやってココまで来たんです!?」
 「んー、何て言うか…『かそくそーち』?あ、今の子は『しゅんぽ』って言わないと分かんない…かな?」
 「いや、分かりますけど、両方ともアニメになってますし」
 どうやら、マトモに答える気は無いらしい。
 いや、そんなことよりもこの状況をどう切り抜けるかを考えよう。
 「かりゃかりゃかりゃ…。殺気立っちゃっておにーさん可愛い…んだよ。殺害宣言は取り下げたから…取って食ったりはしないのに」
 「いやいやいやいやいや。殺気立ってなんていやしませんよ。俺と貴女とは超絶仲良しじゃぁございませんか」
 「そだねー、仲良しだねー。仲良しだから、無理して敬語なんて使わなくてもいい…なんだよ」
 「いやぁ、零咲、もとい零日さんはおれよりも年上ですし」
 「って言うか…」
 そこで、零咲は記憶の糸を手繰り寄せるように、顎に手を当てる。(見た目だけは本当に可愛い)
 「『てめぇ』」
 「うが!?」
 「『知ったか女』」
 「うぐ!?」
 「『教育ママか』」
 「ごはぁ!!」
 零咲の発した言葉を聞くだけで、俺に精神的ダメージが来た。
 いずれも、以前零咲相手に俺が言った暴言だった。
 今思うと年上相手に失礼千万で、恥ずかしい限りだった。
 「あそこまで言われておいて、今更敬語の関係になられても逆にリアクションに困る…みたいな?」
 大人の余裕を感じさせる笑みを浮かべる零咲は言うほど気にしてはいないようだけれど。
 「じゃあ、零日さん……」
 「零咲で良い…よー」
 「じゃぁ零咲、今日は撮影か何かで?」
 「そうそう、今は休憩時間…なんだよ」
 なるほど、それで番組の衣装なのか。
 「それで最近どう…なのかな?君と、私の続きな三日ちゃんとは」
 「お前とアイツは別キャラだろ。そう言う話、この間しなかったか?」
 「私の遺伝子を受け継いで、私のお腹から産まれてきたのなら、『私の続き』って言ってもそんなに間違いは無い…でしょ?」
 「かもな……」
 少々無茶な理屈ではあったが。
 って言うか、コイツの胎から三日が産まれてきたというのが未だに信じられないのだが。
 とても子供を産めるような体躯には見えない。

48ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 21:00:57 ID:yOkhoPgY
 「それで、どうなの…かな、三日ちゃんとは」
 「どうって、まぁ今日は……」
 一応、零咲なりに娘を気にしている様子ではあったので色々話してみても良いかもしれない。
 俺よりもずっと長い間三日と一緒に居る零咲と話すことは意義のあることだろう。
 三日から少し引っかかることを言われてしまったし。
 そんなわけで、俺は今日の出来事を説明した。
 「『一線を引いてる』…ねぇ」
 「まぁ、アイツももう大して気にしてないかもしれませんけど」
 「って言うか、おにーさんが気にしてるん…だよ?」
 「ウグ……」
 鋭い指摘に俺はうめくしかなかった。
 「事実…だし」
 「……」
 本当に事実なので反論ができなかった。
 「大体、私に対してあんな暴言を吐けるおにーさんなのに、三日ちゃんには随分と優しいん…だよ?」
 「あの件は申し訳ありません忘れてください」
 「いや、そう言うことじゃなくて…ね」
 そこで、零咲は上目遣いにこちらを見つめた。
 俺の心の奥を射抜くように、見透かすように。
 「あの時のおにーさんと三日ちゃんの前の『優しい』おにーさん、どっちが本当の千里さんなの…かな?」
 「どっちが……って」
 零咲の視線の圧力に耐えながらも俺は言った。
 「別に、どっちが本当とか嘘とかじゃないだろ。どっちも本気本物だよ。だから、悪口雑言が出たからって『地金が出た』って思われると困るってか、正直無かったことにして欲しいって言うか」
 「ふぅ…ん」
 零咲はもう一度、俺の奥底を射抜くように見ると、言った。
 「ありがと…なんだよ、おにーさん。今日は面白い話を聞けた…かも」
 俺の内面を抉るような話でも、零咲にとっては『面白い話』でしか無いらしい。
 「そいつは重畳」
 「……こんな時にそんな言葉が言えちゃうのもどうかとは思うけど、まぁいっか…なんだよ」
 そう言って、零咲はふと思い出したように持っていた紙袋を俺の前に突き出した。
 「はい…コレ」
 「はい?」
 意味不明の動作だった。
 「いや、プレゼント…なんだよ」
 「プレゼント!?」
 あり得ないレベルの超展開だった。
 どうして俺たちの関係性で零咲からのプレゼントが生まれるのか。
 「ほら、この前おにーさんのケータイを壊しちゃったから、お詫びに新しい携帯電話を選んであげた…なんだよ」
 「ああ、一応覚えててくれたんですね」
 そう言えば、入退院のバタバタで、零咲に壊された携帯電話はそのままになっていた。
 買い直そうかどうしようかとは思っていたのだが、思わぬところから解決策が出た。
 「開けたら爆発するとか無いよな?」
 「いや、流石にソレは無いけど…おにーさんが私に対してどういう印象を持ってるのかよくわかるん…だよ?」
 それ相応のことを貴女はしたと思います。
 「ただ、強いて言えばおにーさんの分と一緒に三日ちゃんの分の携帯電話も入ってるから、後でおにーさんから渡して欲しいん…だよ?」
 「そう言えばアイツ今までケータイ持ってなかったからなー」
 紙袋の中を覗き込むと、零咲の言葉通り携帯電話らしき箱が二つ入っていた。
 確かに、今どきの高校生らしく携帯電話を持っても良い頃だろう。
 「きっと、私よりおにーさんから渡してもらった方が三日ちゃんも嬉しいと思う…なんだよ」
 「フツーに母親から渡されても嬉しいと思いますけど。あ、でもどっちが三日用なの?」
 携帯電話の2つの箱は、全く同じ外見なので区別がつかない。
 「どっちでも…だよ?同色で同タイプの携帯電話を選んだから」
 「おそろいか!?」
 何と言うベタな。
 フツーに恥ずかしいな。
 「何なら、おにーさんからのプレゼントってことにしても良いん…だよ?」
 「いや、そこで嘘吐いちゃだめだろ。って言うか嘘吐いても仕方ないだろ」
 「それもそう…なんだよ」
 一しきり納得すると、零咲は「それじゃあ、渡してあげて…なんだよ」と言って去って行った。
 前の時と同じく、こちらにしこたまダメージを叩きこんで、1人で納得して。
 アイツらしいと言えばアイツらしいのだろう、多分。

49ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 21:01:43 ID:yOkhoPgY
 「「あ」」
 精神的な意味でフラフラになりながらも、何とかたどり着いた近所のスーパー。
 そこで、俺は見知った顔と会った。
 「こんなところで会うなんて奇遇だね、河合さん」
 料理部の後輩の、河合直子さんだった。
 「いやー。どーもです、御神先輩。マジ奇遇ですね」
 河合さんは溌剌とした笑顔で応対してくれた。
 「河合さんも買い出し?」
 「はい。いやー、母さんから『アンタも休みだからってダラダラしてんじゃないよ』って言われちゃいましてねー。今晩の夕食を作ることになっちまったんですよー」
 「そっか」
 河合さんはよく喋る子だ。
 俺も最近は話せる方だが、さすがに河合さんのようにはいかない。
 「しっかしココのスーパーも広いですよねー。って言うか、同じニンジンジャガイモとかでも色々あって何が何だか」
 「河合さん、料理部だよね……?」
 「スイマセン、買い出しとかはほとんどやったこと無いっス……」
 苦笑を浮かべる俺に小さくなる河合さん。
 少し、悪いことを言ってしまったかもしれない。
 「折角だから、君の買い物も手伝おうか?」
 「マジっすか!?よろしくお願いします!!」
 ほとんど即答だった。
 「今日は、何作るのー?」
 「とりあえず無難なところでカレーでも、って思ってるんですけど。あ、コレ私の作った買い出しリストです」
 「なるほど……。じゃあまず野菜から探そうか。選ぶものはお財布と相談しつつ……」
 そんなやり取りをしながら、俺と河合さんは自分たちの買い物を進めて行った。
 スムーズに進行し、レジでお会計完了。
 「いやー助かりました先輩。感謝感激雨あられですよー」
 ビニールに食材を詰めながら、河合さんは言った。
 「それほどでも無いよー」
 「久々に先輩と二人きりでしたしー、何かデートみたいな?」
 「無い無い」
 「ですよねー。それでも、今日付き合ってくれただけで恩の字ですけど」
 そう言って笑顔を浮かべる河合さん。
 「先輩ってホントに良い人ですよねー」
 それは、河合さんとしては何の気なしに言った言葉なのだろう。
 良い人、か。
 『どちらが本当の千里なの?』
 と、言う零咲の言葉が、なぜか思い出された。
 「ありがと、河合さん。でも―――」
 俺はきっと、良い人なんかじゃない。
 人並に怒りのすれば妬みもする、性欲だってある、当り前の汚さも持ち合わせた人間だ。
 それでも、『良い人』と呼ばれる資格があるとすれば。
 「俺が良い人でいられんのは俺だけの力でも無かったり」
 「え?」
 俺の言葉に意外そうな顔をする河合さん。
 「俺が良い人でいられんのは、河合さんや料理部のみんな、クラスの奴ら、家族、それに俺の大切な人たちが俺に良くしてくれるから、だから俺は良い人でいられる」
 そう、俺が今の俺でいられるのは、みんなのお陰。
 みんなや大切な人―――九重や三日のお陰。
 みんながいてくれるから、俺は今の自分でいられる。
 「だから、河合さんにも感謝してる。結構手酷くフッたのに、良くしてくれてさ。ありがと、助かってる」
 俺の、ただ思ったままを乗せた言葉に、河合さんは照れたように頭をかいた。
 「いやぁ、やっぱ先輩には敵いませんねー」
 そして、食材を詰め終わったビニール袋を持ち上げて、帰りの挨拶を交わす。
 「ああ、そうそう先輩」
 スーパーを出て、別れる所で河合さんは言った。
 「何?」
 「私、先輩のコト、まだ好きです」
 「ウン、ありがと。でも、ゴメンね」
 「いえいえ」
 そう言って、去って行く河合さん。

50ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 21:02:03 ID:yOkhoPgY
 その姿は、どこかスッキリとしているように見えた。
 俺はその背を見送った。
 彼女の内心を俺には推し量ることはできないけれど。
 少なくとも俺は彼女の先輩でいられたことは良かったと思った。
 「…楽しかったですか、河合さんとのデートは」
 そう思っていると、後ろから声をかけられた。
 「デートじゃないって。お待たせ、三日」
 俺はいつもの糸目で、いつもの笑顔で三日の方に振り向いた。
 「…待ってはいません。今日はずっと千里くんと一緒にいましたから。…千里くんの後ろに」
 お得意の尾行スキルか。
 「うっわー、それじゃあ色々カッコ悪いところも見てたり?」
 「…今日の千里くんは一から十まで見させていただきました」
 「恥ずかしー」
 まぁ、言うほど恥ずかしがってる訳でもないけどね。
 それくらいなら、コイツに全部見せてやっても良いだろう、くれてやってもいいだろう。
 流石に―――汚いところまでは、無理かもしれないけれど。
 「…ねぇ、千里くん」
 「なにー?」
 「…九重かなえって、誰ですか?」
 静かな声で、三日は言った。
 今までになく怖い顔に見えたのは、俺の気のせいか。
 「……友達、だよ。中等部時代の、俺の大切な友達」
 「…今の間は何ですか」
 「ちょっと驚いたから、かな。お前の口からその名前が出るとは思わなかったから」
 「…そうですか」
 そう言って、軽く俯く三日。
 角度的に、その表情は見えない。
 「…そのお友達と、私と、どちらが大切ですか?」
 まだ、そのネタを引っ張るらしい。
 「友達とお前とで順位を付けろって言われてもなぁ」
 「…どっちが大切ですか?」
 いい加減な答えはできそうにない状況だった。
 「2人とも、だよ」
 「…!」
 三日が息をのむ声が聞こえた気がした。
 「けれども、三日への『大切』は特別だから。ちゃんと、特別だから」
 まだ、俺には『大好き』とか『愛してる』とか言う勇気は無いけれど。
 それは、確かに本当だったから。
 本心だったから。
 「…千里くん」
 三日が愛しげに腕を絡めてきた。
 それを俺は拒絶しない。
 「三日」
 俺は、彼女を安心させるようにポンと頭に手をやった。
 「帰ろっか」
 「…はい」
 そう言って、俺たちは2人並んで歩きだした。
 そうしながら、俺の心には小さな罪悪感を覚えた。
 三日のことは確かに大切で、特別で。
 その一方で、九重への想いもまた、三日とは違った意味の特別として、俺の中で巣食っているのだろうから。

51ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 21:02:22 ID:yOkhoPgY
 おまけ
 「そう言えば三日、前に『夏場に外出なんてしたら死ねる』みたいなこと言ってたけど、大丈夫?」
 「…そう言えば、さっきから意識が朦朧と…喉も乾いて…」
 「うわ、良く見たら汗だくな上顔色悪!?」
 「…あれ、死んだお爺ちゃんの姿が小川の向こうに……」
 「それ三途の川ー!!」

52ヤンデレの娘さん 休暇の巻(表)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/07(木) 21:03:55 ID:yOkhoPgY
以上で、投下終了になります。
読んでいただきありがとうございます。
タイトルに(表)とあるということは次回は勿論…。
それでは、失礼します。

53雌豚のにおい@774人目:2011/07/07(木) 21:06:48 ID:U4eXQ9ek
>>51
GJ!!
久し振りの投下に感動…まさかこんな風に繋がるとはおもわなんだ。これこそまさにヤンデレSS!!

54雌豚のにおい@774人目:2011/07/07(木) 21:33:40 ID:t9DeZPTQ
>>52
GJ!!
この空気の中良くやってくれた!

55雌豚のにおい@774人目:2011/07/07(木) 21:46:44 ID:O3U2zgVM
>>52
ありがとう・・・
本当にありがとう

56雌豚のにおい@774人目:2011/07/07(木) 22:03:12 ID:4SGDGcX2
本スレが950を超えました。
荒らしがはびこって避難所を狙ってるようなので今回はこちらがスレ立てした方が良いと思います。
自分は規制中なので誰かお願いします。

57雌豚のにおい@774人目:2011/07/07(木) 22:10:06 ID:U4eXQ9ek
>>56
まさか狂宴高校の作者の影響がここまで来るとは……

58風見:狂宴高校の怪:2011/07/08(金) 00:31:56 ID:UsqEq.t6
場の空気を読まず申し訳ございませんが、第14話を投下させていただきます。

59狂宴高校の怪 第14話(試練編):2011/07/08(金) 00:32:51 ID:UsqEq.t6
――――――――――

 思い出した・・・。謎の嘔吐の原因、四年前の記憶。
 俺はあの家族との決別以来、女性を怖がっていたのだろう。

 そしてそのトラウマによる言動で、俺はマナカを苦しめていたのだろう・・・。

 ・・・何だかマナカに会いづらいな・・・。ドア一枚隔てた向こうにいるマナカに会えない。会うのが怖い・・・。
 鍵は外してある。だから後はドアノブを回すだけ。そんな日常の動作が出来ないでいた。
 何かが俺を躊躇させる。

 そんな俺の気持ちを無視して、トイレのドアは俺の力を借りずに開いた。
 マナカが立っていた。



 色の無い目が俺に向けられている。まるでクドだ。
「ケンゴウ君・・・君はまた私をひとりぼっちにするのか?また私を置いていくのか?」
 何を言っているんだ?
「もう私は君を離したくない!私はもうあの時みたいな事は嫌だ!」
 ・・・あの時。恐らく俺と同じ、四年前の記憶だろう。マナカにも何かあったんだ。

 いや・・・。微かに見えてきた。
 恐らくマナカの四年前の記憶、その中に俺がいるはずだ。

 マナカとの間に何があったか。四年前の記憶と一緒に思い出してきた。それはマナカも一緒だろう・・・。

60狂宴高校の怪 第14話(試練編):2011/07/08(金) 00:33:33 ID:UsqEq.t6
――――――――――

「じゃあな、マナカ。」
「また明日部活で会おう!ケンゴウ君!」
 私はケンゴウ君と別れ、ケンゴウ君の家の隣にある私の家に入った。

 家に入ると、姉が玄関に立っていた。
「お帰りなさい、マナカ。」
「ただいま!お姉ちゃん!」
 私はお姉ちゃんに挨拶をして、ケンゴウ君と過ごした楽しい時間の余韻に浸りながら、部屋に入っていった。

刹那。

「あん・・・ケンゴウ・・・さない!」

 後ろから声が聞こえた。



 次の日は学校が休みだ。私はケンゴウ君にメールをした
「今日、私の家に来ないか?新しいゲームを買ったのだ!一緒にやろう!」
 勿論、ゲームをするためだけに呼ぶわけではない。
 あわよくば私は、彼と一夜を共にしようと思っている。部屋には避妊器具は置いておいた。準備万端!いつでも来い!ケンゴウ君!

ピンポーン!

 来た!階段を一気に飛び降りる。着地に失敗したが気にならない。痛みは感じない。それほどに彼が愛しい。
「良く来たな!ケンゴウ君!さぁ入ってくれ!」
「おぅ、お邪魔します。」
 愛しのケンゴウ君を、私は自分の部屋にいれることに成功した。



 私は今、キッチンにいる。
「今からお菓子とお茶を持ってくるから待っててくれ!とびきり美味しいお菓子とお茶を用意するよ!」

 そんなわけで、お湯が沸くのを待っていた。
 この後が問題だ。どうやって彼とベッドに入ろうか。露出の多い服はすでに着ている。油断しなくても胸が見えてしまう。貧乳だけど。もちろんミニスカートも標準装備だ。
「ケンゴウ君・・・私で興奮してくれるだろうか・・・。」
 私は姉みたいなナイススタイルではない、いわゆる幼児体型だ(小学六年生だからかな?)それでも私は彼を手にいれる。手にいれるためなら何でもする。どんなことでも出来るんだ!

ピー!

 あ、お湯沸いた。お菓子とお茶を早く持っていかなければ!

61狂宴高校の怪 第14話(試練編):2011/07/08(金) 00:34:30 ID:UsqEq.t6

 私の部屋は二階の一番奥にある。だから姉の部屋を必ず通ることになる。
 普段の何気ない習慣が、今日は違った。

 姉の部屋から何かが聞こえる?

 聞き覚えのある愛しい声?ケンゴウ君?
 そっと耳を澄ました。
「やめ・・・まずいよ・・・。」
 何なんだろう。ケンゴウ君が誰かを説得してる?
「邪道は承知の上よ!あいつに渡すぐらいなら私が奪う!」
 奪う?何を言っているんだ?誰かがケンゴウ君を・・・監禁しようとしてる?

「やめようよ、マナカが来ちゃう。」
「あいつの名前なんか出すな!ケンゴウは私だけを見ていれば良いの!あんな奴なんか気にするな!」
「あんな奴って・・・妹だろ。」



「例え妹だろうが、私の恋路を邪魔するなら殺す!利用できるなら利用する!全てはあなただけのためなんだから!」



 どういう事?お姉ちゃん?何で?
 何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?
 頭の中が整理できない。体が高揚する。
 本能が全身に下した私への命令は一つ。



姉を殺せ!



ガチャ!



プシャー!



「キャー!あつっ!」
 私はお茶を姉にかけた。熱さで姉がのたうち回る。
「何でケンゴウ君にこんなことしたのかな?教えてほしいかな?」
 姉の上に乗り、首を絞める。
「カハァ・・・!」
「どうしたの?喋れないの?だったらこんな喉いらないよね?」
 指に人生最高の力を込めた。

「やめろ!」

 私の手を握った手。愛しのケンゴウ君の手だ。
「ケンゴウ君?何でこんなやつの事かばうのかな?何で?何で?何で?」
 私は指にさらに力を込める。こんな家畜以下の女、さっさと消えてしまえば良い。
「やめろ!死んじゃうだろう!」

 何で?何でケンゴウ君は私を押し倒すの?何で身支度をしてるの?何で部屋を出てくの?
 あぁそうか、私の部屋じゃないと雰囲気でないよね。こんな家畜以下の女の部屋なんて嫌だよね。

 いつまでも待った。部屋のベッドの上で待ち続けた。しかし彼は来ない。
 何で来ないの?あぁそうか!私の愛情表現が足りなかったのかもしれないね!
 私は決めた。これからはケンゴウ君を第一に考えケンゴウ君に尽くすと誓おう。
 ケンゴウ君を汚す者は殺す覚悟でぶつかるまでだ。



 姉は家を出ていった。ケンゴウ君はどこかに引っ越してしまった。
 私に残ったのは果てしない孤独感だけ。
 親も姉もいない広い家の中にいる私の心は、どんな闇よりも暗かった。

62風見:狂宴高校の怪:2011/07/08(金) 00:35:06 ID:UsqEq.t6
投下終了です。

64雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 00:52:46 ID:FySWaUp.
>>63
とりあえず、削除かIP晒しの方をお願いします
この板に削除依頼スレがあれば便利がいいのに

66雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 00:59:12 ID:ZWSCozaM
>>63
作品に対する注意と、作者個人に対する攻撃は違います。
今回は後者。つーか批評スレ池。
>>62
乙ドンマイ。

67雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 01:01:17 ID:r2iwG34U
>>63
>>65
引っ込んでろ

69雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 01:09:15 ID:EKAtEq02
Gj!!
荒らしは気にせず次もたのむ

70雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 01:10:30 ID:i1kf4KBU
普通に面白いと思うけど

72雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 01:29:34 ID:Zn0OC1TQ
>>52
>>62
作者様投稿乙です

74雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 01:44:00 ID:FySWaUp.
しかし、荒らしが普通に沸いているとは・・・
もう、アク禁した方がいいんじゃないのか

76雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 02:38:12 ID:bduwUrUE
>>74
避難所スレここ以外行った事ないけど管理人によるアク禁て簡単に出来るのか?出来るなら消えるのも時間の問題だから我慢できる

78雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 06:25:58 ID:3.O6xjig
>>52
>>62
投稿乙。
ゴミ虫が涌いているが、気にせずに。

79雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 06:32:15 ID:Nn1773GU
乙かな。一応ヤンデレ近づいてきたね

本スレで宣言していた荒らしが2匹ほどか。まあ反応せずにスルーしろよお前ら

81雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 09:00:37 ID:hlqcSKxE
さっさとアク禁にしろ

82雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 09:54:01 ID:0dBiD4P.
どうせ、自作自演してもIPでモロバレだからあんまり意味はないよね
携帯とPCを両方使っていてもなw 本スレの荒らしがやってきているから
アク禁が望ましい。30日間ルールとか作ればいい

というわけで、要望板に行ってくる

84雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 11:51:32 ID:YIwPj9Rc
ここも嫉妬スレみたいに終わってしまいそうだな
作家と管理人さんにはがんばって欲しいもんだ

93雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 13:29:52 ID:hlqcSKxE
幼稚

104雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 14:01:29 ID:GybXLd6o
ひどいな。ある意味乙と言っておく。

109雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 14:17:17 ID:C334OlDs
なんか荒れてるし

110雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 14:20:13 ID:0dBiD4P.
荒らしているやつはここが個人の掲示板だということを理解しているのか?
法的には威力業務妨害で告訴されてもおかしくないんだが
まさか、コピペ連投じゃあ捕まらないと思っているんじゃないだろうか

111雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 14:20:20 ID:GybXLd6o
ここもまた腐海に沈むか。好きなスレだったんだが。

113雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 14:26:32 ID:0dBiD4P.
後、プロバイダーに直接に抗議するという手がある
プロバイダーにネットの接続を止めさせることができるので、
きちんとアクセスログと証拠を提出すればいい
それでも、渋るならば、プロバイターに警察に捜査を依頼するしかないですね
みたいなことを言えば、一気に反応が変わるからねぇ

114雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 16:36:16 ID:ahxICk/2
久しぶりに見てみたら、なにこれひどい

115雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 16:36:19 ID:cGPXQyLc
荒らし方が子供っぽいのが笑える

116雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 16:41:40 ID:EYJ8dfhw
荒らしって逮捕できんの?

117避難所の中の人★:2011/07/08(金) 17:12:45 ID:???
?ひとまず該当のレスを透明削除&該当のホストを規制
詳細は管理要望スレで

今後当面は管理要望スレで削除規制に関する意見は受け付けますのでお願いします
今後こちらのスレで細かい内容をお知らせすることはありませんのでご了承ください

また、私生活の関係上今回のように対応が遅れてしまうことがありますのでその点もご了承ください

118風見:2011/07/08(金) 17:40:43 ID:UsqEq.t6
自分はこのまま作品を投下していて大丈夫なのでしょうか。

119雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 17:48:46 ID:.ZL.TEIw
嵐コメに屈せずに投下してくれると本当にありがたい!!
職人の皆さんを応援してます。

120雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 18:12:46 ID:Nn1773GU
>>118
構わないけど、ヤンデレ作品で続けてね
今回みたいなのは

「ヤンデレと少しズレてね? なら作品書いた風見叩こうずww避難所潰そうぜww」

な荒らしだから。まあ、新規書き手を潰したんでしょ

121雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 18:17:12 ID:8g9KmxQE
投下してくれる人材はいつでも貴重ぜよ
上で言われてるけどスレの趣旨にあった作品ならいつでも投下してくれ

122雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 18:41:49 ID:yTZ4A392
管理人よくやってくれました。
お早い対応に感謝。

123雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 19:04:20 ID:hlqcSKxE


荒らしは無意味に荒らすのは少し癪だから、荒らす理由が欲しかっただけ。
気にすんな

124雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 20:15:37 ID:fPbA2mLo
平和になったので、投下が増えることを期待するぜ

125 ◆STwbwk2UaU:2011/07/08(金) 20:20:23 ID:ZWSCozaM
今日は25時にミューさんが来るはず。
それまでのお口直しに投下。

>>36
(∩゚Д゚) キコエナーイ

126neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/08(金) 20:21:23 ID:ZWSCozaM
――目が覚めると、朝日が顔を出していた。
どうやら、意識を失ったまま寝てしまったようだ。
自分の体を見ると、寝間着に着替えられている。
…スズねぇが着替えさせてくれたんだろうか?
あと、口の中がなんか甘い気がする。多分、気のせいだろうけど。

寝間着から外着に着替え、朝日を浴びながら軽く運動することにした。
そして運動しながら、僕はボーッと今日の予定を考えた。
―ごはんを食べたら、その足でカメラを持って山に行こう。
朝の神社は、確か綺麗だったはずだ。
準備運動を軽く終わらせ、家に入るとスズねぇが朝食を作り始めていた。
時間は朝6時。世間的には週末だというのに、スズねぇはホントに出来る人だ。

「あ、コーちゃん?ご飯もうちょっとで出来るから、そこに座っててー!」

「スズねぇ、僕も手伝おうか?」

「ふふっ、なら向こうで待っててくれるかな?早く食べたいのは分かるけど…ね……♪」

グウゥ…とお腹が鳴った。僕の胃袋は僕の口よりも実に機敏だ。
ちょっと恥ずかしい気持ちのまま、テーブルに座って待ってることにした。
そしてカップ麺ができるか出来ないかの時間で、朝ごはんが食卓に並んだ。
量といい、作っているモノといい、スズねぇは料理の魔法使いなんじゃないだろうか………



「……ふぅ、ごちそうさまでした。」

「ごちそうさま。食器下げちゃうね。」

満腹の腹を慣らすために、少し座ったまま窓の外を見る。
時間はまだ朝。ゆっくりしてもバチは当たらないだろう。
……と、ここで僕はあることに気づいた。
叔父さんと、叔母さんにまだ挨拶してないのだ。
というか、朝ごはんをのうのうと食べてる場合でもなかったのだ。
スズねぇの雰囲気に流されていたが、一晩倒れていて心配かけなかったわけもない。

「…す、スズねぇ!叔父さんと叔母さんは!?」

自分でもビックリするくらい大きい声が出てしまった。やっぱり焦っているのだろうか。

「え…えぇ……、夫婦旅行中だけど………」

「はぁ!?」

僕は確か、叔父さんと叔母さんに電話で今日の計画を伝えたのに、家族旅行!?
もしかして、言った日にちを間違ったのか!?

「すすスズねぇ!叔父さんと叔母さんに、僕今日の予定伝えてたよね!?」

「知らなかったら迎えに行かないでしょ?
 何言ってるんだか。」

僕の焦りとは裏腹に、スズねぇは呆れたような声で言った。
どうやら、僕のお守り……もとい世話はスズねぇ一人でOKという結論を叔父と叔母は出したらしい。
いくらなんでも無用心すぎるだろう……

「ふぅ……山に行ってくるね。」

安心したら、僕は今日の予定を思い出した。
神社に行って写真を取らなきゃ………

「…山に行って、何するの?
 まだ朝もさ、早いんだし……ゆっくりして……いったら………?」

なぜか、スズねぇが抑揚のない声で僕を引き止めた。
まるで、切羽詰っているような……

「い、いや僕は神社に写真を取りに行かないとダメなんだ。
 コンクールにだそうと思って………」

僕もまた、雰囲気に押されるように言い訳じみた理由を言っていた。
しかし、僕はよほど困った顔をしていたのだろう。
スズねぇは僕の顔を改めて見るなり、急に意見を変えた。

「そ、そうだよね!コーちゃんにはコーちゃんの都合があるよねっ!
 …あ…あの……引き止めたりして……ごめんなさい………」

何かに怯えるかのような言い方。
――僕はこの人に何かをしてしまったんだろうか?
じつは意識を失った後、野生の本能が云々して…スズねぇを襲ったとか……
……ないな。
僕は気を取り直し、スズねぇに声をかける。

「よかったら、スズねぇも一緒に行かない?
 自分が向こうに行って日にちが経っているから、道が変わってるかもしれないし……」

スズねぇはそれを聞くと、今度は目を輝かせた。

「うん!うんうん!
 私が案内するね!コーちゃんの頼みなら何でも聞くよ!」

――乙女心は移ろいやすいとはよく言ったもの。
正直、スズねぇの感情の変化についていけない。
昔のスズねぇは……もっと落ち着いた人………だったような?
でもまぁ、スズねぇが喜んでるしこれでいいや。

僕とスズねぇは、服を着替えて山に向かった。

127neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/08(金) 20:22:05 ID:ZWSCozaM
「〜♪〜〜♪♪」

少し古い、でもセンスのいい歌を鼻歌でスズねぇが口ずさむ。
曲名は思い出せないが、前に聞いたことがあるような、ないような。

「スズねぇ、その曲いい曲だね。なんて曲だっけ?」

スズねぇは少しムスっとした感じで、僕に言った。

「この曲はもともと、コーちゃんが私に教えてくれた曲なのに………
 私はコーちゃんが好きな曲しか歌わないもの。」

肝心の曲は、昔大流行したバンドの曲だった。
僕も当時ハマって、よく歌っていた気がする。

街並みは多少変わったが、住んでいる人はあんまり変わっていなかった。
いつまでもゆったりとした時間で、歩くように時が過ぎていく。
僕は、この空気が大好きだった。


山の中の神社に着くと、そこは昔と全く変わらなかった。
変わったものといえば、ここにいる僕とスズねぇだけ。

スズねぇは参道をステップするかのように歩き、僕のほうを向く。

「ねぇ!コーちゃん覚えてるかな?」

心当たりが多すぎて、何を覚えているのかがわからない。
夜遅くまで、スズねぇと、僕の友達と、僕でここで遊んだことだろうか。
お百度参りすると願いが叶うって聞いて、スズねぇと朝から一緒にお参りしたことだろうか。
鳥居にこっそりらくがきして、神主さんに大目玉を食らったことだろうか。

「……一緒に、遊んだこと?」

「んーん、惜しいけど違いますー。
 ………あのね、コーちゃんは昔ここで、私とある約束をしたんだよ。」

スズねぇは少し遠くを見る。
表情はまるで、夢見る乙女のようだ。

「……なんだろう?」

「…覚えてないのかぁ………まぁ、コーちゃんは小さかったしねー………
 ……あのね、コーちゃんは私に、結婚の申し込みをしたのでしたー!」

そうか、そんな昔があったのか………

「私、嬉しかったなぁ……まだ覚えてるよ。
 『僕が大きくなったら、スズねぇと一緒になるんだ!』…ってね。
 コーちゃんは、その約束を守ってくれる……かな?」

クラっときた。
思わずその場で「是非喜んで!」と言いたくなったが、
いきなりそんな事言って、スズねぇにドン引きされたら元も子もない。

――冷静だ。冷静になれ孝太郎………

「……その返事は、4日後で…いいかな?」

キザったらしく、かつ冷静沈着な男孝太郎は、クールに答えた。
稀代の美女、スズねぇは満面の笑みで朗らかに応える。

「うん、待ってるね!」

クールな男は、思わず鼻血を垂らした。
不覚………


その次の日も、その次の次の日も、僕はスズねぇと一緒に回った。
あちこちの土地をめぐるたび、スズねぇは僕との思い出を語ってくれた。
僕はすごく、嬉しかった。
スズねぇはまるで宝物を見せてくれるかのように、僕との思い出を語ってくれるのだ。
しかし、いつも帰り際になると切ない表情を浮かべていた。
……何か心配事でもあるんだろうか。


3日目の夜、つまりスズねぇの約束から二日目
僕はふと気になったので、スズねぇに聞いてみた。

「ねぇ、叔父さんと叔母さん、家に全く連絡入れないね?どうしたんだろう。」

僕はこの時、サラッと軽く聞いたはずだ。
しかし、スズねぇは皿を落とすぐらいのリアクションを返してくれた。

「そ、それは…夫婦旅行……だからよ。」

おかしい。
僕の覚えている叔父さんも叔母さんも、スズねぇを大事にしていた。
だから、いくら夫婦旅行だからといって、一日でも連絡を欠かすことはないと思う。
なのに二日。気を失った日も連絡がないとしたら三日だ。

「スズねぇ……僕になんか…隠してない?」

スズねぇの目が泳ぐ。明らかに動揺している。

「べ、別に隠し事なんてない……
 それよりもほら!お風呂沸いたから急いだ急いだ!
 早くしないとおねーちゃんが先に入っちゃうぞー!」

スズねぇの使用後のお風呂……
ありかもしれない……と考えた僕は、普通に先に入ることにした。
後戻りできなさそうだったからだ。性癖的に考えて。

――はぐらかされてしまった。
風呂に入りながら、考え事をする。
―今日……いや、スズねぇに聞くのはもう無理だろう。無理して聞くことでもないし……
幸い、明日は何も予定を入れてない。
ちょっと周りの人の話でも聞こうかな……

……でもまず、今から入りに来ようとしているスズねぇを止めよう。
全力で止めよう。何してんだあの人は。

128 ◆STwbwk2UaU:2011/07/08(金) 20:23:40 ID:ZWSCozaM
投下終わりです。

短編書いてたはずなのに、いつの間にかたくさん書いてた。
あと魔王はアガトさんが引きこもって出てきてくれない。死にたい。

129雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 20:35:51 ID:hlqcSKxE
アルゼンチン ペソッ!!!!GJ!!

130雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 21:20:58 ID:wFOAjWCA
はい、今後もがんばって。

131雌豚のにおい@774人目:2011/07/08(金) 22:37:18 ID:EKNpC0jA
おつー

132駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6:2011/07/09(土) 00:11:58 ID:asqVRv9w
こんばんわ。お久しぶりです。
日常に潜む闇 第14話投下します。
なお、間がかなり空いたので、最初にこれまでのあらすじを載せます。
あしからず。

133駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6:2011/07/09(土) 00:12:28 ID:asqVRv9w
間が空いたのでこれまでのあらすじ
主人公 久坂誠二
ヒロイン 紬原友里もしくは天城美佐枝
関係者 久坂誠一、雪下弘志、保健医 など
あらすじ 晴れて高校生となった久坂誠二は久遠坂学園高等部に入学。そこで情報屋、雪下弘志や紬原友里と友達になる。放課後、紬原友里とともに帰り、過去の話をするが、彼女宅にて文字通り食われそうになる。が、脱出に成功。
しかし翌日には根も葉もない噂が囁かれるようになり、苛めの対象になってしまう。窮地に追いやられた誠二は兄で生徒会長の誠一と対峙。その直後から美佐枝と知り合い、『心の支え』となることを快諾される。
一方、誠二を巡り、彼の周りでは不穏な動きが目立ち始めていた。

134駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6:2011/07/09(土) 00:13:03 ID:asqVRv9w
〜Side Yuri Tsumugihara〜
 久坂誠二を取り戻すためにはどうすれば良いか。
 そろそろ家を出ないと朝のショートホームルームに間に合わなくなるという時間になっても、紬原友里はまだ自宅のアパートの一室に籠もっていた。
 まさか生徒会が、いや副会長がイジメに関与しているとは思わなかった。
 恐らくは周囲から孤立させ、自分にだけ頼るよう調教するのが狙いだったのだろう。
 下らない。しかし、良い策だと思う。
 友里は己の無策ぶりに、雌猫の狡猾さに、怒りと嫉妬を滲ませて下唇を噛み締める。
 では、自分はどう動くべきか。
 あの日から、プレゼントという名の紬原友里は拒否されたままだ。
 何があっても、どうしても、彼には受け取ってもらわなければならない。彼は私を救ってくれた。私の罪を浄化してくれたのだ。
これはそのお礼。言うなれば、あの日渡せなかったクリスマスプレゼント。
 私を見てくれないのは彼にじゃれつく雌猫のせい。
 では、障害を排除するためにはどうすれば良い?
 あの時と同じように殺すか?
 ――駄目だ。後処理が大変だし、何よりもそれでは雌猫の存在が一生彼の頭に残ってしまう。
 ならばどうする?
――簡単だ。あの情報を使えばいい。
けれど、単に発したところで信用する者はいない。ではどうする?
――証拠を集めよう。
どうやって?
――………………………………
思考が途切れる。だが何か、やりようはあるはずだ。友里はそう信じて記憶を探る。
確か、便利な道具が……あった、はず…………。それも、つい最近――
「あ――」
 使い勝手の良い自称・情報屋のクラスメイトがいるではないか。
 思い出し、思わず声が漏れる。そして口の端がかすかに吊り上がった。
 笑みである。
 見方によっては、妖艶な、もしくは悪魔のような笑みだ。
 彼の正義感を煽って、味方につければいい。
 結論に至った彼女はすぐさま学校に行く支度を始めた。

135駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6:2011/07/09(土) 00:13:39 ID:asqVRv9w
 寮を出、路面電車を使って高等部の校舎まで移動する。同じ制服を身に着けた生徒が、興味深げに視線を送っているのには、友里も気づいていた。あからさまにそうされれば、否が応でも気づくことになる。
 人をゴシップネタか何かのように見ることに、友里は吐き気を催すくらい嫌悪していると同時に、慣れていた。自身の髪の色がそうであるがゆえにだ。
 クラスメイトからは気味悪がられ、苛められもした。親からも嫌われた。
 そんな絶望的な状況に置かれて、なお彼女は生き続けた。
 誰かが助けてくれると信じていたから。おとぎ話のようではなくとも、この地球上には六十億もの人間が住んでいる。少なくとも一人くらいは傍に寄り添ってくれると、漠然と信じていた。だからだ。
 そして、齢二十にも満たないうちに偶々『彼』と出会ってしまった。
 そう、ただそれだけのこと。
 それだけだと言っても、手放すつもりはない。それに、命の恩人でもある。
 彼そのものが私に対するクリスマスプレゼント。そして私は返さなければならない。だから、私からのクリスマスプレゼントは私自身。
 だから彼を手放したりしない。手放してはいけない。
 そのために、遠回りでも安全な方法で消さなくてはならない。
「おはよう、雪下君」
 教室に入ると、普段と変わらぬ調子で情報屋・雪下弘志に話しかけた。

136駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6:2011/07/09(土) 00:14:53 ID:asqVRv9w


〜side of Seiji and Misae〜
「それで、どうして美佐枝が僕の家に?」
 今から登校すればショートホームルームまで十分時間があるであろう時間に美佐枝は久坂家のリビングに居た。
「居てはいけない理由でもあるのか?」
 誠二が淹れたコーヒーを堪能しながら美佐枝が言い返す。
 彼女曰く、一心同体であるからこそ四六時中ともにいなければならないのだそうだ。だからこうして午前五時から久坂家で寛いでいるという状況なのであった。
「いや、だって今日は平日で、これから学校に行かないといけないし……」
「誠二」
 視線を微妙に床に逸らして喋る彼を、美佐枝が優しく抱擁した。
「学校は辛いだろう? だから、私は今日、お前と一緒に、お前の家で過ごしていたいんだ」
「……いや、でも…………」
 確かに魅力的な提案だ。しかしそれは今の誠二にとっての話である。
 いじめに対抗するためには、彼女に余計な負担をかけないためには、学校に顔を出すことが最も効果的なのだ。誠二には、過去の経験から断言できる自信がある。
「誠二」
 再び彼の名を口にする美佐枝。そしてさっきよりもやや強く抱きしめられる。
 どうしたものかと困惑する誠二だったが、視線が美佐枝の肩にとまった時、彼女の肩がどうしたことか震えていることに気がついた。
「美佐枝……?」
「ああ、いや、すまない。私としたことが弱気になってしまった。なに、誠二が気にすることじゃない」
 抱擁を解き、視線をこちらに向けた美佐枝の眦にうっすらと涙が浮かんでいるのが見える。

137駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6:2011/07/09(土) 00:15:18 ID:asqVRv9w
「……………………」
 そんな彼女の様子に、誠二はわずかに怒りを感じていた。
ことあるごとに一心同体だのなんだのと言ってくる割に、自分のことは一切気遣わせないようにするその態度が気に入らないのだ。
 指で涙を掬い取る美佐枝を、誠二は無言で強く抱きしめた。
「せ、誠二……!?」
 突然のことに、美佐枝はひどく狼狽したようだ。
 しかし誠二は強く抱きしめたまま無言で居続ける。
「ど、どうしたんだ? 誠二?」
 戸惑いの中に、微かながら喜色が入り混じっているようだが、今の彼にはそんなのお構いなしだ。強く抱きしめたまま、彼女の耳元で静かに囁いた。
「一心同体なんでしょ? だったら、悲しこと、辛いこと、楽しいこと、嬉しいこと。美佐枝が感じたこと、全部僕にも教えてよ。じゃなきゃ不公平だ」
「……そうか。そう、だな。ふふ。まさか誠二にそんなことを言われるとは思いもしなかったぞ」
「あはは……。でも、これで本当に一心同体だね」
苦笑しながら言う誠二に対して、美佐枝が半歩だけ後ろに下がった。
自然と抱擁が解けることとなり、どうしたのかと誠二は困惑する。
「一心同体……いや、まだだ。まだ足りない。真の一心同体はな、こうするんだ」
 そう言って、美佐枝は顔を近づけてきた。
 彼女が何をしようとしているのか、誠二ははっきりと理解していた。しかし、友里の時とは違う。拒否をする気にはなれなかった。どこかで、こうなることを待ち望んでいたのかもしれない。
 潤んだ瞳が誠二の顔を映す。
「誠二……」
「美佐枝……」
 自然と、二人の唇は近づきあい。そして、触れ合った。

138駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6:2011/07/09(土) 00:15:56 ID:asqVRv9w
日常に潜む闇 第14話 以上で投下終了です。

139雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 00:40:32 ID:FpA60KMA
乙です
次も頑張ってくださいー

140雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 00:42:31 ID:NjIwtUzk
久しぶりで話を忘れちゃってたw
とりあえずGJ!
保管庫読み直してくる

141雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 01:18:16 ID:AwwKEg6M
作者の方々乙です〜。

荒らしここまで沸いて来たのか、管理人さんの早い対応乙です。でも、大分レス無かったから相当荒れてたんだね…
なんだがなぁ…

142雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 02:01:22 ID:jeGFlxHE
>>126
>>132
投下GJです!!

143雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 05:14:42 ID:WkZGr3RE
みんなGJ

144雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 06:00:25 ID:QUlndU/U
GJ

145深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/07/09(土) 08:13:20 ID:b5apGo9c
>>138ずっと待ってたんだからっ!!!

というわけで投下します。

146深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/07/09(土) 08:14:19 ID:b5apGo9c
「どうして、どうしてなの・・・・・・ねぇ、お兄ちゃん、
どうしてそんなに楽しそうなの?苦しいよ、息が詰まりそうだよぉ」

そう何度も、小さく呟きながら、仲良くする二人をこそこそと眺めます。

「あんなに激しい口づけを交わしたのに・・・・・・やっぱり、
目を離したのがいけなかったんだ・・・・・・ぐすん・・・・・」

良くないと分かっているのに、お兄ちゃんに人を憎むなと教えられてきたのに、
コルネリアさんに対して激しい嫉妬の炎が轟々と舞いあがります。
お兄ちゃんと女の人が仲を良さそうにしているのを見ると、
大体、今回と似た心境に至るのですが、それとは別に、
もう一つの感情も湧きあがってきます。
その正体は私にも良く分かりません、でも危険な感じです。
いつなん時か、
この感情が湧きあがったことのあるような・・・・・・気のせいならいいのですが。

「深優さん、隠れていないで、こっちに来たらどうです?」

えっ!ばれました・・・・・・隠れ方が甘かったかなぁ。
なぜか、お兄ちゃんも焦っています。

「ごにょごにょ・・・おい、約束と違う、気付かないふりじゃ・・・」

「ふふ、修羅場が怖いのですか?わたしが守るから安心して下さい。
おかしな行動を取る人間には、注意をしてあげるべきです」

「なんだよそれ・・・・・・頼むから、きつく当たらんでくれ。
繊細な子なんだ。柔和にな」

こそこそ話をしている二人に、思い切って近づきます。
ううぅ・・・コルネリアさんは苦手です、それに私を嫌っているみたいです。

「どうして隠れていたんですか?挙動不審ですよ」

「ごっごめんなさい・・・」

「理由を簡潔に答えなさい」

「そのっ・・・たまたま、通りかかったら、コルネリアさんと、お兄ちゃんがいて、
楽しそうだなぁって思ったけど、で、でも、邪魔したら駄目かなって思って、それで・・・・・・」

「嘘ですよね」

「えっ、あっあの、その・・・・・・私っ・・・」

「最初から後ろを付けていたじゃないですか。
気味の悪い行動を取る上に、平気で嘘を付くんですね」

そう言われた瞬間頭が真っ白になります、どう返せばよいのか見当もつきません。
ただ謝ることで精いっぱいです。

「ごめんなさいごめんなさい嘘付いてごめんなさいごめんなさい、許して下さい、
罰を受けますから、許して下さい、ごめんなさい・・・」

「謝れば泣けば、なんでも許してもらえると思っているんですか?
いい機会だからはっきり言いますが、あなたのお兄ちゃん、
あなたの歪で異常な愛情にうんざりしているんですよ」

「おいっ、ネリア言い過ぎだ。そんな大したことじゃ無いだろ。
ほらっ、ミューおいで」

「だめ。そうやってすぐ慰めようとするから、依存されるのですよ」

お兄ちゃんは少し悩む表情を見せましたが、決心したように私を引き寄せます。

「ごめんなさい、私、悪い事したのに、ありがとう・・・」

「やる気あるんですか?わたしはもう・・・帰ります・・・」

語気から不満を感じ取れます。
コルネリアさんはそう言い残すと、この場を立ち去って行きます。

147深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/07/09(土) 08:14:45 ID:b5apGo9c

「おい、ちょ、ちょっと、戻ってこーい・・・・・・あーあ行っちゃった」

「お兄ちゃん、ごめんね。折角仲良くしてたのに・・・・・・」

お兄ちゃんは返事することなく、私の頭を撫でています。
私もしばらく、黙ってお兄ちゃんの胸に顔を埋めます。

しばらくして、大きなため息が聞こえてきます。

「はぁ・・・・・・なぁ、そんなにお兄ちゃんのことが好きか」

「うん、大好き。今ある言葉じゃ足りない、表わしきれないくらい好き」

「どうしたら俺のこと嫌いになってくれる?」

「嫌いにならないよ。お兄ちゃんの嫌いな私は私じゃない。
いっぱい痛いことされても、罵られても、全然へーき」

「ミュー、俺は、俺の情で北嶺の運命が決まってしまうことに畏れを感じている」

「もう忘れよ・・・・・・私は一介の陽ノ国娘、ただそれだけ」

「だめだ、戻るんだ。俺は深優を想っているからこそ頼んでるんだ。
北嶺は半ば暴走気味の侵略国家だ、だからこそ、ミューの優しさで変えるんだ。
ルカさんのような被侵略国の人々は、ミューを希望の星として待っている。
もう、そんな我ままを言っていい時じゃないんだ・・・」

「・・・・・・お兄ちゃんも一緒に来てくれたら頑張る・・・・・・」

「俺のやるべき事じゃないし、それに、女王と懇意にするよそ者なんて鬱陶しいだけだ」

「じゃあ、お兄ちゃん・・・・・・国王になって・・・・・・。
それで私が王妃。あっ、逆でもいいよ」

「・・・・・・結婚しなきゃいけなくなるぞ」

「愛してるから問題ないよ・・・・・・」

お兄ちゃんは驚きの声を上げます。
だって今伝えるべきだと思ったんです、愛してるって。

「愛してるってのは異性として意識している奴に使うもんだぞ。
初めて愛してるなんて言われたよ・・・・・・」

「私は好きだよ、兄として、男の人として。
狂おしいくらい愛してる・・・・・・
お兄ちゃんの匂い、髪、瞳、肌、声、仕草、癖、価値観、信念、嗜好・・・・・・全てが・・・。
どうしてこんなにお兄ちゃんが愛おしいんだろうって、自分でも不思議」

私を押しのけて、後ずさりするお兄ちゃん、初めて見る表情。

「いやっ、でも、ミュー、俺の、妹であって・・・・・・ああっ駄目だ、
何言ってんだ俺、考えが頭で纏まらない」

「言いたいこと分かるよ、お兄ちゃんは私のこと妹としか考えられないんでしょう?
えへへっ・・・・・・それでもぜーんぜん構わないよ、
お兄ちゃんの傍に置いてもらえるだけで大満足だから・・・・・・」

「・・・・・・し、質問だけどよっ、
いつから俺のことを、い、異性としてっ、意識したんだ・・・?」

「六歳くらいかなぁ。
その時期くらいから、お兄ちゃんが何倍もカッコよく思えてきちゃって。
もう、それから心臓がドキドキしっぱなし・・・・・・、
特にお風呂なんて気持ちを抑えるのが大変だったよ・・・ふふっ・・・」

(あんな小さな時から、俺の事を男として見てたってのか?
そんなこと知らなかった、騙された気分だ)

「とにかく、ミューは俺の妹だからなっ!それ以上ではないぞ・・・・・・」

いざ、妹でしかないと面と向かって言われると、とても悲しくなります。
でも、私は遂に本当の気持ちを伝えられたんです、
抑えつけられていた愛が一気に解放されたような気がします。
もっと好きになってくれるよう、遠慮なく攻めていいんだよね、お兄ちゃん?

148深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/07/09(土) 08:17:04 ID:b5apGo9c



雌猫め、どうやら告白したようだな。
私が怒って帰ってしまった日以降、
雌猫の甘えっぷりが私に吐き気を促すほどに酷くなっている。
ふざけるな・・・・・・少々痛い目にあって貰うからな・・・ふふっ、明日から決行だ。

専ら草むしりに精を出す雌猫の近くに水筒が。
これを見て、ちょっとした毒薬を混ぜることを思いついた。
量は私が雌猫を見ると催す程度だ。
だが、竜史のかわいいかわいい妹ちゃんなので多めにしてやった。

しばらくすると、水筒の水を飲み始める。
雌猫は剣を振らずに、道場の雑用仕事ばかりやっている、何しに来たんだか。

「おいしい・・・・・・さーて、がんばろっと・・・」

雌猫のまぬけな独り言聴こえてくる、ふふっ、
今に見てろ、すぐに腹を押さえてのたうち回るぞ。

と、ほくそ笑んだが、結局何も起こらなかった。
一体どんな胃袋してるんだか、あれは即効性のある毒なんだぞ。

その後、毒を変えたり、量を増やしたりしたが雌猫は至って健康だった。

毒薬作戦は一旦止めて、雌猫の頭に植木鉢を直撃させる計画を考えた。
下準備として、あいつが良く通る場所の屋根に、重い鉢を設置し、
風圧の天術で落とす、これなら誰にも気付かれまい。

門下生たちの稽古着を持って、洗濯場に向かう雌猫。
よし、乙地点の屋根を通るぞ・・・・・・・・・・・・・今だっ!

雌猫に直撃、やったぞ、あの高さだ、額から血ぐらいは流すだろう。

「わぁ、びっくりしたなぁ〜。
あっ、破片片付けなきゃ、次通る人怪我しちゃうよね」

あいつ!頭の土を払うだけで、痛がるそぶりはなしとは・・・・・・。
破片を片付け、むき出しになった植木を近くの鉢に植え直して、
何事もなかったように去って行った。

前回同様、重量を増やして何度も落としたが、
まぬけな驚き声をあげるだけで、一切怪我をしなかった。
鉢を割り過ぎると、誰かに不審がられるので、一旦中止にした。

むぅ・・・雌猫を潰さねば、竜史との未来はない。

まぁ、いい、今日は竜史と二人っきりで出かける約束があるのだ。
もちろん、雌猫には内緒だ、でないと私も行く、とか言いかねないからな。

「よぉ、ネリア、行こうか」

愛しの彼が笑顔で傍に来た。
私は竜史の手を引いて、大通りに繰り出していく。

日が沈んでも、人々の喧騒は止まず、灯りがいたるところで揺れている。
そんな、人ごみの中を連れだって歩き、
普段じゃあまり話さないような話題を交わしながら互いに笑顔になる。

食事をとったり、色んな品物を見たりしている内に、
人気のない公園のような場所に来ていた。

「楽しかったです、ありがとうございます」

「俺もすごく楽しかったよ」

「あの、妹さんと私、どちらが好きですか、女として」

竜史の顔が赤く染まる、まぁ仕方がない。

「まぁ、女性としてなら、ネリアかな・・・なんてなっ」

「じゃあ、しても構わないですよね?」

「何を・・・」

「本当は分ってるんですね、さぁ・・・・・・」

私の唇に竜史の唇が触れる。

「嬉しい、もっとします?」

「まぁ、取りあえず今日はこのくらいでっ・・・ねっ?」

「ふふっ、竜史さんがそう言うなら・・・・・・ふふっ、次は期待し・・・」

「待て、しっ・・・!静かに」

竜史は私を静かにするよう指示し、耳をすませる。

「ネリア・・・・・・なんか、殺気を感じる。
暗がりで姿は確認できないが、間違いなく四、五人はいる、しかも囲まれている」

「暴漢でしょうか・・・ならば、私の天術であなたを守ります・・・!」

「ありがとう。でも、俺はいい、自分の身を守ることは優先してくれ」

気配から、草を踏みしめる足音に変わった。
四方八方から、わらわらと黒づくめの連中やって来た。

149深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/07/09(土) 08:17:47 ID:b5apGo9c

「女いるじゃねぇか、まあ、後でもう一人分請求すりゃぁいい、殺れ!!」

怒号のような声で竜史の真正面の黒服が叫ぶと、
他の黒服が襲いかかって来た!

真正面の黒服に対して、高圧縮された風圧の球を放ち、先手取る。
もう片方の手にもあらかじめ風圧球を込めていたので、右の黒服にも放つ。
胃液と血を吐きながら、二人は腹を抱えて地に伏せる。

左の黒服は差し迫った間合いにいるため、念じる時間が無い。
なので迷わず刀を抜き、やつの薙ぎ払いを受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。
奴が力で強引に崩そうとするのを逆手にとって、
力を抜いて相手を崩す。間合いを取ることに成功。

対峙したはいいが・・・・・・黒服の刀身の銀色が月光に反射して、
やたらと目に焼きつく。
それを見ていると、殺し合いをしているという現実が徐々に頭を支配するようになる。
切っ先が震える・・・・・・怖い、死ぬの?こんなところで?嫌だ、誰か・・・!

助けを求めるように、一瞬だけ竜史の居た場所を一瞥するが居ない。
刀の金属音だけが遠くで響く。竜史、死なないでっ・・・・・・。

もたもたしていたせいか、痛そうにうずくまっていた黒服たちが起き上って、
鬼の形相でこちらにゆっくりと近づいてくる。
同時に三人相手なんて無茶だ、出来っこない・・・・・・誰か、誰か、お願いっ・・・!

「なんだお前、引っ込めっ!」

私と他の黒服共々、怒鳴り声をあげる黒服の方へ向く・・・・・・雌猫?なんでっ・・・!?

怒鳴り声を上げた黒服が、雌猫に近付いて行く。
すると、雌猫まであと三歩というところで、夜空に盛大な血しぶきが上がる。
??・・・・・・!!ひっ・・・黒服の頭がないっ!?

「なっ、なんだお前!!何をしたっ!!!」

「頭を蹴っただけだよ?」

二人の黒服は大慌てで雌猫に襲いかかる。
雌猫は右の黒服の突きをひらりとかわし、
もう一方の黒服が斬り下ろしてきた刀を素手で掴み、
へし折ると同時に、空いた方の手で腹を殴る・・・・・・いや、突き刺した!
雌猫の腕は腹部を突き破って、空高く上がっていた。

血だらけになった手をすぐに抜き、
尋常ならざる機敏さで、残りの黒服に接近し、胸倉と袖を掴んで頭から叩き落とす。
鈍い音が大地に響く。
首があり得ない方向へ曲がって、背中の骨が突き出ている。

血だらけの雌猫は私を一瞥して、近寄ってくる。恐怖で体が動かない。

「ば、化け物っ!!!来るなっ!」

「大丈夫?助けにき・・・」

殺されると思い、走って奴から離れた。
雌猫が異様な怪物に映って、竜史のことを考える余裕はなかった。



「四人もやられた、クソっ・・・強ぇじゃないかよ、こいつ・・・・・・割りに合わん」

「我流は基礎できていないから、脇が甘い・・・・・・死にたくないだろ?失せろ」

なんとかまだ生きている、首の皮一枚残っているような状況だ。
太股と肩を斬り付けられてるが深くはない。
しかし、ネリアが気がかりで、あまり集中できない・・・・・・。
それにしても、こいつら誰なんだ?

「お前、誰に雇われてんだ」

「ああ?金さえ貰えりゃ、誰に雇われようが、知ったこっちゃねぇ」

雇われただけのゴロツキのようだ・・・・・・誰が指示したんだ?

「大人しく・・・・・・死ねっ!!」

「胴がガラ空きだ!」

強烈な一振りを捻じ込み、黒服をよろめかせる。
最後に延髄に一撃。泡吹いて気絶。

もちろん峰打ちだ、殺しなんて御免こうむる。

「ネリア!!」

休む間もなく、全力で丘を駆け上がり、ネリアを探す。
すると、いつもの見慣れた顔があった、ミュー・・・?

「どうしたんだ?」

「コルネリアさんなら大丈夫だよ、走ってお家に帰ったのぉ」

「どういう事だ?」

「私が助けたんだよ、ほら見て!悪い人が眠ってるでしょ」

下方に目を向けると、無残な人型が三体。
恐る恐る近づき、一体一体生死の確認をする・・・・・・だめだ、完全死んでいる。

150深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/07/09(土) 08:18:12 ID:b5apGo9c

「ミュー・・・・・・いや、何も言うまい。
ありがとう、ネリアを助けてくれて」

うん、と無邪気な微笑みを見せる。深優が幼い頃の笑顔とそっくりだった。

「ネリアが心配だから、あとを追おう」

「コルネリアさんは大丈夫。それより、お兄ちゃんいっぱい怪我してる。
・・・・・・許せない、許せない・・・!誰がやったの?」

「ああ、あっちで気を失っているよ。後で治安隊に突き出す。
って・・・・・・おい!どこ行く!」

目にも止まらぬ速さで丘を下って行く。
その僅か二秒後、肉を包丁でぶっ叩いたような音が四回聴こえる。
その後、ミューが嬉しそうに丘を駆け上がってきて、俺に抱きつく。

「お兄ちゃん、キズ見せて、治すよ」

ミューのあまりにも無慈悲な行動は、俺から気力を奪った。
まじまじと傷口見つめ、恍惚とした表情になるミュー。

「痛かったでしょう?
良く頑張ったね・・・・・・舐めたら治るかも・・・・・・ぴちゃ、ぺろっ・・・」

優しい滑らかな舌使いで、患部を刺激する。
痛さと気持ち良さが半々といったところか。

「お兄ちゃんの血、お兄ちゃんの血・・・はぁはぁ・・・・・・鉄の味がするぅ・・・」

「治るわけないだろ、そんなので」

「じゅっる、ん、ぴちゃぺろぺろ、はぁはぁ・・・・・・すごく綺麗になったよ。
お兄ちゃんの体の一部が・・・私の体に取り込まれているなんて、ぞくぞくするよ」

ミューはこんな残酷で淫らな顔をする子じゃなかった。
優しく、清楚な子になるよう育てたのに、
どうしてこんな一面を持ち合わせるようになったんだ、俺はどうすればいいんだ・・・。

「ねぇ、世の中って意地悪な人いっぱいるね」

「そうだな」

「お兄ちゃんと二人っきりの世界に行きたい。
そうすれば余計な心配もしなくて、
お互いだけを見ていられるのにね・・・・・・はみゅ、ぺろぺろ・・・」

ミューの混じりっ気のない白い肌と鮮やかな朱色が、月の光で美しく煌めいている。

151深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/07/09(土) 08:21:52 ID:b5apGo9c
投下終了。

基本的に投下の日以外は来ないので、荒れているのにびっくりしました。
みんなで荒れない雰囲気を作りましょうね。

152雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 10:19:30 ID:LbGvGwMY
荒れてるというか一人の嵐が二回線使って延々AA投げてただけだね
GJです

153雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 12:52:13 ID:WHxeeiH2
>>151GJ!

ずっと待ってたんだからっ!!!

154雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 20:21:23 ID:S53Cpdzo
はい、お疲れさん

155やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 21:57:35 ID:UU0NqYJc
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 週末ということでヤンデレSS百火繚乱ですが、自分も投下させていただきます。
 今回は、前回の裏版。
 初のメインヒロイン一人称です。
 地の文では彼女の特徴である『…』を省略させていただいてますが、これは「思考と発声は違う」ということでご容赦ください。

156やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 21:58:45 ID:UU0NqYJc
 大切なモノは、全力で繋ぎとめなければならない。そうでなければ、遠くにいってしまうから。
 それは、幼いころから母に何度も聞かされた、もう家訓とも言っても良い言葉。
 けれども、私はそれを言葉としても理解しながら、感覚としては長らく実感していませんでした。
 兄が目の前から消えるその日まで。
 何も言わずに、何も残さずに切り捨てられたその日まで。
 けれど―――

157やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:00:01 ID:UU0NqYJc
 御神家のリビングで、私は彼の膝の上に体重を預けています。
 御神千里くん。
 私にとって唯一絶対、一番大切な人。
 絶対に失いたく無い人。
 あ、ごめんなさい。ご挨拶が遅れてしまいましたね。
 私は御神三日(予定)、あるいは緋月三日。
 こうして一人称でお会いするのは初めましてになりますね。
 もっとも、私自身に語ることなどあまり無いのですが。
 むしろ、千里くん(私の将来の旦那様、現在も事実上の旦那様)の素晴らしさについて語りたいくらいなのですが。
 今、千里くんは私と一緒にDVD鑑賞(『超人戦線ヤンデレンジャー 第二十四話 大帝出陣の巻』)をしています。
 普段通り穏やかな笑顔を浮かべ、テレビを注視しています。
 少し視線を落とせば、私の姿が見えるのですが。
 正確には、浴衣を下品にならない程度(だと良いのですが)に着崩し、時折誘うような視線を送っている私の姿が。
 …言語化すると我ながらあざといことこの上無いですね。
 勿論、私も千里くんと一心同体ですから、ちゃんとDVDを観ています。
 子供向けとはいえ私たちくらいの歳の者が観ても面白いですし、子供向け教訓話として良くできた内容ですから。
 現に、今テレビの中では2人の変身ヒロインによって、
 『残念よ、ヤンデレスキュー。貴女のことは友達だと信じていたのに!』
 『ごめんなさい、ヤンデレイン。貴女がリーダーのヤンデレッダーを好きなのは知っていたけど、私は自分の気持ちを抑えきれないの!』
 『そう言うことなら、仕方ないわね。友達として、あたしがこの手で貴女を殺してやる!』
 『そうはいかないわ。私たちヤンデレンジャーは、物心ついたときから正義のために戦うべく教育された存在』
 『そう、名前も、親も、兄弟も無い。人並の喜びも幸せも知らずに生まれ育った、戦うためだけの存在』
 『だからこそ!』
 『そう、だからこそ!』
 『『この恋心だけは譲れない!!』』
 と、言う子供には是非知っていて欲しい光景が画面の中に広がっているのですから。
 いや、この後勝負がつく前に、悪の組織が現れたせいで、想い人のヤンデレッダーさんから出動要請がかかったために勝負は水入りになるのですが。
 こればかりはお母さんたち悪の組織に空気を読んでと言いたくなりました。
 いや、お母さんは悪の組織を演じてるだけですが。
 その論理で行くと、お母さんの演じる悪役がひきつれている名状しがたいセンスの着ぐるみもお母さんセンスということになってしまいますし。
 聞いた話では、第一話の怪人が怖すぎてクレームが来たせいだとか。
 赤ん坊がモチーフの怪人というのがそんなに問題だったのでしょうか。
 そんなことを考えていると、画面に『続く!』の文字が現れ、私のお気に入りのエンディング曲が流れ出しました。
 身を引き裂かれるほどの苦しくも激しい恋心を歌った曲。
 いつ聞いても心の奥底に響きます。
 それにしても……
 「お母さん、テレビで観ると別人のようですね」
 「そう?」
 非常に納得しがたいという顔をする千里くん。
 ファーストコンタクトを考えると、分からない話では無いですが。
 「…千里くんがどういうテンションのお母さんを言っているのかは分かりませんけど…、少なくとも家の中のお母さんは落ち着いた大人の女性ですよ?」
 「へぇん……」
 「…怒ると、家族で一番怖いですけど」
 「あー、納得。ある意味最強だからなぁ」
 それは、お母さんとテレビの中の役のどちらですか?
 ともあれ、そこで会話は途切れてしまったものの(話のネタが無い!)穏やかな時間が流れます。
 美しい曲をバックに、千里くんの顔を見上げると、自然にドキドキしてきます。
 嗚呼。
 この人の全てが欲しい。

158やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:00:45 ID:UU0NqYJc
 「…千里くん」
 ほんの少し勇気を出して、体を起こして私は言いました。
 「なぁに、三日?」
 いつものように優しげに、千里くんは聞き返しました。
 「…キス、しませんか?」
 「……えーっと」
 そこでなぜか戸惑う千里くん。
 ひょっとして、嫌なのでしょうか。
 答えを聞くのが怖くて、私は自分の唇で彼の唇を塞ぎました。
 「ン!?」
 強引な行為に、千里くんは一瞬目を見開きましたが、すぐにいつも通りの笑顔に戻りました。
 そして、決して上手とは言えない私のキスを優しくリードしてくれます。
 互いの体温を、心音を、そして何より存在を感じられる、夢のようなひと時。
 けれども、それは他ならぬ千里くんによって破られてしまいました。
 「ぷはぁ!」
 急に、強引に唇を離されます。
 「…何で、止めちゃうんですか?」
 自然、恨みがましくなります。
 正直、不完全燃焼なことこの上無いです。
 「いや、もう10分近く続けてるじゃん。いい加減一息ついて良い頃合いじゃない?」
 「…まだいけます」
 と、言うよりもうそんなに時間が経っていたんですね。全く気がつきませんでした。
 「そろそろお昼ご飯の準備もあるし、三日も汗だくじゃない。シャワー浴びたら?」
 「…」
 やんわりと中止を促され、私は千里くんの体から降りることにしました。
 その時でも私の体を支えてくれる彼に優しさを感じます。
 「んじゃ、入ってきてよ。その間お昼準備してっからー」
 「…分かり、ました」
 まだ夢見心地の気分が抜けないながら、すっかり乱れてしまった衣服を整え、私はフラフラと浴室に向かいました。
 着替えを洗面所に置き、スルリと浴衣を脱ぎすてます。
 最近、浴衣は千里くんの家で洗ってもらうことが多いです。
 毎日のように彼の家へ通い妻をしておきながら、さすがにそれは厚かましいとも思いましたが、「1人分増えても変わらないしー」というあの人の言葉に甘えることにしました。
 お陰で、なんとなく浴衣に『千里くんの感じ』が染みついたようで、着心地が良くなった気がします。
 ともあれ。
 私は御神家の浴室をお借りして、冷たいシャワーを全身に浴びることにしました。
 けれども、冷水を浴びても体の奥の火照りが取れる気配はありません。
 こうした火照りや疼きは、いつも体の奥に溜まって行くばかり。
 千里くんは、そうしたことは無いのでしょうか。
 少なくともそうした素振りを私に見せたことはありませんでした。
 ただ、たまにキスをしていると体の下の方に妙な出っ張りがあたることがあるのですが、何なんでしょうね、あれ。ベルトの金具では無いようですし。
 私は、自分の全身を見回しました。

159やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:01:19 ID:UU0NqYJc
 ともすれば中学生にも見える身長。
 不健康にも見える細い手足。
 白い肌はともすれば病的な印象を与えるかもしれず、その上胸から腰にかけての大きな手術跡。
 足元を見ようとすると、何の抵抗も無く、胸が邪魔になることも無く、見ることができます。
 ボリュームがあるのは、手入れを欠かしたことの無い長い髪だけ。
 …千里くんを誘惑するのには、色々な意味で色々な部分が足りないようでした。
 それでも、私はキスだけでは、足りない。
 キス以上のものが、欲しい。
 気がつくと、私の手は自分の敏感な部分に向かっていました。
 千里くんに、触って欲しいところに。
 「…ゥン」
 左手で胸元に触れるだけで、千里くんの手だと思うと声が漏れる。
 ―――そんなに、触って欲しかったのー?―――
 私の想像の中で、千里くんが笑いながら言いました。
 右手は胸元からお腹、下腹部へと流れ、私の女の子の部分に辿りつきます。
 ―――こんなに濡らして、シャワーの水だけじゃないよね、コレ?―――
 からかうような声音の混じる千里くん。
 ―――ふしだらな女の子だね、三日は―――
 そう言って、敏感なところを強く触ります。
 「…セ、千里くん!?千里くんにだけだから!?ふぁ!?」
 ―――そんな女の子には、お仕置きが必要だね―――
 「…千里、くん!?千里くん千里くん千里千里千里!!ふぁああああああああああああああ!!」
 もっとも強い刺激が、私の全身を襲いました。
 ガクン、と膝をつき、そのまま床の上にうつぶせに倒れました。
 御神家の浴室の、千里くんの浴室の。
 浴室の排水溝に、冷水と一緒に私の汗と愛液が吸い込まれるのが見えます。
 まるで、千里くんの生活空間に私の存在が吸収されていくようで、恍惚感を覚えます。
 そう、私はふしだらなことに、千里くんに抱かれたいのです。

160やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:01:55 ID:UU0NqYJc
 その後、私は汗を流し、髪と体を軽く洗うと千里くんの元に戻りました。
 「…お待たせしました」
 先ほどの行為を気取られないよう、平静を装って私は言いました。
 「いや、ちょうどできたところー」
 その言葉通り、ダイニングルームには既に食事が並べられていました。
 如才なく食事の準備をする彼の姿は本当に普段通りで、先ほどまでキスをしていたとは思えませんでした。
 もっとも、内心はどうなのかは分かりませんが。
 私は、千里くんに全てを捧げたい。
 そして、それと同じくらい千里くんの全てが欲しい。
 千里くんの喜びも。
 千里くんの怒りも。
 千里くんの哀しみも。
 千里くんの楽しみも。
 けれども、彼は時にそれをさせてくれません。
 それどころか、時としてそれを拒んでいるような気さえします。
 それには、時として不安を、怖ささえ覚えるのです。
 そんな考えが表に出たのか、千里くんが僅かに困ったような顔になりました。
 こういう場合ですと…
 「…いえ、ご飯が不満ということは無いです」
 「心を読まれた!?」
 あ、当たった。
 こう言うときは心が通じ合ったようで、なんか嬉しくなります。
 「…と、言うより千里くんの作るものが美味しくなかった試しはありませんし、千里くんの作るものが美味しくないはずもありません」
 「そう言ってくれると、悪い気はしないよ」
 通り一遍の礼を如才なく言う千里くん。
 「…それです」
 「?」
 「…『悪い気はしない』、『悪くは無い』とは言っても、『良い』ということ、滅多に無いですよね?」
 「……どうしたのよ、藪から棒に」
 「…キスの時もそう。初めての時はともかく、自分からは絶対に誘ってきてくれない」
 「その時のことは忘れてくださいお願いします」
 「…優しい優しい千里くん。…穏やかな千里くん。…素晴らしい千里くん。…私の千里くん」
 千里くんの頬にそっと手をやり、繰り返し言います。
 自分にも言い聞かせるように。
 内心の恐怖と不安をかき消すように。
 それでも、抑えきれない想いがある。
 「…千里くんって、人に対してどこかで一線を引いてませんか?」
 「……」
 千里くんは、答えてくれませんでした。
 「…他人に対してなら、良いんです。…他人は所詮他人ですから。…でも私たちは……」
 「あー。そう言えば今日、午後から葉山と遊ぶ約束があったんだ」
 私の言葉を遮り、千里くんはそう言いました。
 それ程答えたくない、答えられない、ということなのでしょうか。
 私はそれ程の相手だと、その程度の相手だということなのでしょうか。
 「ンな顔しないでくれよ。いい加減外出て買い物もしないと、冷蔵庫の中身が無くなるってのもあるし」
 千里くんが正論を言いました。
 ここで実務的な正論を語るのは、あまりにもずるく感じてしまいます。

161やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:02:16 ID:UU0NqYJc
 「俺がどうであれ、お前に不安不自由にはさせないさ。そこは安心して良いところだぜー」
 それでも、私を安心させるように、千里くんは頭を撫でてくれました。
 お兄ちゃんの、割れ者に触るような撫で方とは違う、力強さを感じる撫で方が心地良い。
 けれども、その心地良さは私を完全に安心させてはくれませんでした。
 「…なら、1つ聞いても良いですか?」
 「なーにー?」
 「・・・私たち、付き合ってるん、ですよね?」
 なんとなく、今までストレートに聞いていなかった言葉をぶつけてみました。
 一応、以前『惚れた弱み』がどうとか言っていた気がしますが、あれは軽い雑談の一環だったので、それだけではどうにも根拠として弱いのです。
 不安を払しょくしてくれないのです。
 「・・・・・・聞かないでよ、そんな当たり前のこと」
 嗚呼、千里くん。
 千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん。
 どうして貴方は私に全てをくれないのですか。
 どうして欲しい時に欲しい言葉をくれないのですか。
 せめて、一言だけでも言ってくれれば、この胸の奥の不安は消えてなくなるのに。
 『愛してる』の一言を。

162やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:02:45 ID:UU0NqYJc
 こう言う日にやることは決まっています。
 千里くんが出かけてしまった後、持ってきていたポシェットを身につけて、お義父様から預かっている合鍵で戸締り。
 服装が白のワンピースにサンダルタイプの靴なので、微妙に動きづらいのが難点ですが、お出かけ開始。
 目的地は足の向くまま気の向くまま。
 ただし、千里くんの。
 今日の場合、目的地を千里くんから聞き出せたので、かなり楽でした。
 路上でも一際目立つ高身長(と、言うと本人は渋い顔をするのですが)を追って、近所の公園へと向かいました。
 「よぉ、みかみん」
 「やっほー、はやまん」
 待ち合わせていた千里くんと葉山くんが挨拶を交わし合い、2人はストリートバスケのできる小さなバスケットコートへ向かいました。
 私も、遠目から2人の姿を追い、髪と服が汚れないように気をつけながら、物陰から2人の様子を見守ります。
 「久々だかンな。先行のボールはみかみんに譲るぜェ」
 「それはありがたいね、俺下手だし」
 「俺よりは、って意味だろ?」
 千里くんは上着とストールを隅の方に置き(葉山くんは最初から膝丈のパンツにTシャツだけの、動きやすい服装でした)、2人で軽く準備運動。
 それぞれ位置について、ゲームスタート。
 バスケ部レギュラーらしく、最初から貪欲にボールを取りに来る葉山くんの動きを、何とかいなす千里くん。
 けれども、ひらひらと動く葉山くんにボールを盗られ、一点先取されてしまいました。
 なるほど、確かにバスケ部でレギュラーになるだけのことはあると、素人ながら感心させられる動きでした。
 けれどもどうでしょう。
 そんなプレイヤー相手に千里くんは楽勝、勝負にならない、という程でも無い様子で、一応は勝負を成立させています。
 良く見ると、時折葉山くんも千里くんに手こずっている時もあるようですし。
 なのですから、千里くんの運動神経ももっと評価されるべきではないでしょうか。
 そんな様子を物陰から見ていると、近くの木陰から人の気配を感じました。
 端々から見える、ファッション誌からそのまま取ってきたようなデザインの靴や、鍛えられた健康的な色香を感じさせる美脚。
 それに、葉山くんに向かう熱烈な視線。
 間違いありません、彼に想いを寄せる朱里ちゃんに違いありませんでした。
 向こうはこちらには気づいておらず、状況的に挨拶が出来ないのが残念です。
 そうこうしているうちに、2人の勝負は着いてしまったようで(結局、ギリギリの所で千里くんは点が取れなかったようです)、近くの自動販売機でジュースを買うことにしたようです。
 2人で何事か話をしながら、千里くんがジュースを選び、コーラとスポーツ飲料の二つを取り出し、元のバスケットゴールに戻りました。
 そのタイミングを見計らい、私もジュースを買うことにしました。(暑いですし)
 恐らく、千里くんが飲むのは先に買った方、コーラでしょう。
 私も同じものを買うことにしました。
 コインを二枚入れると、ガコンという無骨な音と共にコーラのペットボトルが落ちてきます。
 ペットボトルを片手にバスケットコート(の見える物陰)に戻ると、私は苦虫を噛み潰しました。
 …千里くんがコーラを葉山くんに手渡していたのです。
 どうやら、友達の分を先に買ったようでした。
 我が家では『自分がやる時は自分優先』というのが徹底されているので、その発想はありませんでした。
 それでも、コーラを捨ててしまうのはもったいないので、飲むしかないのですが。
 食べ物や飲み物を粗末にするのは、ナチュラルボーン主夫である千里くんの最も嫌うところですし。
 コーラに口を付けながら、私は先ほどの轍を踏まないよう、千里くん達の会話に耳をすませました。
 …
 …
 …

163やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:03:08 ID:UU0NqYJc
 『九重かなえ』ッテ誰デスカ?
 「九重だよ。九重かなえ。中等部の頃一緒につるんでた奴。忘れたわけじゃないだろ?」
 「いや、覚えてるけどさ……」
 中等部の頃と言えば、私たちがまだ出会ってさえいない頃のことです。
 その瞬間、私は千里くんの過去をほとんど知らないことに気が付きました。
 『千里くんの全てが欲しい』と思いながら何たる体たらく!
 自分で自分を殺したくなりました。
 「いやぁ、あの頃てっきり、みかみんは九重にホれてるもんだとばっかり思ってたしなぁ」
 ホれてる!、と驚愕しましたが、対する千里くんは渋い顔。
 同時にガサリ、と近くの草むらが動き、泣きながら脱兎のごとく駆け出す少女が見えました。
 …中途半端に鈍い想い人を持つと難儀なものですね、朱里ちゃん。
 「それを、ポッと出の新キャラみたいな奴がかっさらったら、そりゃ毛嫌いもするっつーか何つーか。まぁ、緋月がストーカー女だからってのもあるけどよ」
 私に対するネガティブキャンペーンが絶賛進行中でした。
 「ポッと出の新キャラって言ったら、元を正せばみんなそうだろ?お前も、九重も、それにお前にとっての俺も」
 「まぁ、誰だって初対面だった頃はあったがよ」
 人生は、次々に新キャラの出る漫画みたいなものですか。
 「それに、九重と俺が付き合うなんてこと『無い』から」
 「無しかい」
 「そう、『無い』」
 いつになく強い語調で、千里くんはそう言いました。
 それで、私は、気が付いてしまいました。
 「それに、アイツの生活を考えると、どうしたって俺やらお前とかと恋愛とかムリじゃん。超遠距離恋愛になるし」
 畳みかけるような言葉に、分かってしまいました。
 「あー、今はどこの国に居ンだろなってカンジだもんな、アイツ」
 「しょーじき、九重のオヤジさんも単身赴任とかにしてくれりゃ良ーンだけどな」
 「それは思う」
 ふと浮かべた千里くんの、寂しげで切なげな表情で確信してしまいます。
 九重かなえ
 間違い無い。
 彼女は千里くんがかつて恋をしたモノ。
 恐らくは、恋は恋でも失恋を。
 かつて、兄に対して恋にも似た淡い憧れとも依存心ともつかない感情(恋その物ではありませんが)を抱いた私だからこそ、確信が持てました。
 ペットボトルを握る手の力が自然に強くなります。
 許せない。
 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!
 今はどこにいるとも知れぬモノの癖に千里くんの心を一ミリでも占めるなんて。
 千里くんの心を奪うなんて。
 千里くんを―――苦しめているなんて。
 九重かなえ
 …九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ九重かなえ!!
 どんな相手なのかも分からないけれども。
 この場にはいない相手だけれども。
 どこにいるかさえも知らないけれど。
 これだけははっきりしています。
 お前は敵だ!

164やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:03:44 ID:UU0NqYJc
 その後、九重かなえが海外にいる上連絡も取れないということを聞き、私の心は多少の落ち着きを取り戻しました。
 思えば、今となっては過去の話ですからね、ええ。
 私がお兄ちゃんのことを考えるのと同じくらい無意味なことでした。
 九重かなえなんて踏みつぶしたアリと同じくらいの価値しかありません。
 …さすがに、葉山くんが「千里くんと九重かなえがお似合い」と言った時には殺意を抑えるのがやっとでしたが。
 その後、葉山くんと別れた千里くんの背中を追っていると、唐突にヅガン、という金属がぶつかるような音がしました。
 「何だぁ!?」
 千里くんがそう言うのも道理でした。
 私の親友、朱里ちゃんが自動販売機を親の仇のように蹴り続けていたのですから。
 「畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生……」
 怨嗟の声と共に蹴り続ける朱里ちゃん。
 「御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ御神のヤロウ……!」
 冤罪だー!
 落ち着いて朱里ちゃん、今回千里くんは何も悪いことしてませんよ!?
 いや、千里くんが悪いことをしたなんて一度として無いのですが。
 あったとしても誰か別の悪党の責任なのですが。
 「あんなヤツより、私の方がずっとずっとずっとずっとずっと正樹のことが好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに……!」
 いや、朱里ちゃん?
 葉山くんの千里くんへの『好き』はほぼ確実に友情ですよ?(希望的観測)
 「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすき……」
 ヅガンヅガンヅガンガンガンガンガンガガガガガガガガガガガ…と蹴り続ける朱里ちゃんの姿に戸惑っているうちに、いつの間にか千里くんの姿が消えていました。
 「ハッ!千里くん!?」
 思いのほか大きな声を出してしまいました。
 「きすきすきすきすきす……」
 ピタリ、と自動販売機に蹴りを入れた姿勢のまま制止し(器用です)、朱里ちゃんはまるで錆びついたブリキロボットのようにギギギギと首だけ回してきました。
 こちらに。
 「……」
 「…」
 まずい。
 と言うか気まずい!
 「…ええっと、こ、こんにちは、朱里ちゃん」
 「………ええ、こんにちは、みっきー」
 互いに引きつった表情で、挨拶を交わしました。
 「…………で、見たのね?」
 威圧感あふれる声でそう聞く朱里ちゃんの言葉は、質問では無く確認作業でした。
 「…ごめんなさい、見てました」
 正直にそう言うと(それ以外の選択肢はありませんでした)、朱里ちゃんはどんよりとしたため息を吐きました。
 「アンタが近くにいるってことは御神の下衆ヤロウも見てたのね、さっきの私の姿」
 殺る気満々だぜ、という目をする朱里ちゃん。
 証拠隠滅する気だー!
 具体的には殺す気だー!
 「…見テマセンヨ?」
 「本当に?」
 質問と言うより尋問のような口調で、朱里ちゃんは言いました。
 「…ええ本当です本当です千里くんは確かにこの近くにいたんですけど気付かずに行ってしまって私だけが朱里ちゃんの姿を見てしまったというそれだけのことなんですよ」
 息継ぎなしでの長台詞で一気に状況を説明(嘘)しました。

165やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:04:05 ID:UU0NqYJc
 「……」
 ソレだけで殺されそうな視線を向けてくる朱里ちゃんですが、一度吐いてしまった嘘を撤回することはできません(怖くて)。
 「アンタがそこまで言うならそうなんでしょうね。信じるわ」
 「…ありがとうございます」
 「もし見られてたら、さーちあんどですとろいだったけど」
 やっぱりだー!
 「正樹の奴、私と遊ぼうってのを無下にしておいて何してるのかと思ったら……そんなにあの最低ヤロウが良いのかしら、ねぇ?」
 「無下にって……」
 って言うか朱里ちゃん、発言するたびに千里くんへの形容詞が酷くなってませんか?
 それはともかく、どのような経緯があったのかは分かりませんが、葉山くんには朱里ちゃんを無下に扱おうなんて気は無かったのではないでしょうか。
 朱里ちゃんが遊び(≒デート)の申し出があった時には、もう千里くんとのバスケットをする先約があったから、とか。
 ある意味恋の障害である葉山くんですが、公平に見る限り、友情をかなり大切にするタイプな筈で。
 それは幼友達である朱里ちゃんにもきちんと適応される筈です。
 そう言ったことを朱里ちゃんに言ってみると…
 「ンなことは分かってるわよ。分かってるけど……」
 ヅガン、と朱里ちゃんはもう一度自動販売機に蹴りを叩きこみました。
 こんなに鉄塊を蹴っていると、同性である私でも憧れるような美しい脚に傷がつかないか心配になります。
 「なんつーか、私よりも御神千里を優先するっつーか、御神千里より私を優先してくんないのが死ぬほど腹立たしいワケよ、分かる?」
 気がつけば、状況は朱里ちゃんが愚痴る時間になっていました。
 「あんな!ヘラヘラした!鈍感な!木偶の棒に!ばっかり!気ィ使って!私のことなんて!ちっとも!」
 千里くんの代わりとばかりに、自動販売機を蹴り続ける朱里ちゃん。
 私にとっての障害が葉山くんであるように、朱里ちゃんの恋にとって最大の障害が千里くんなのでしょう。
 いや、もっとひどい。
 なぜなら、私は曲がりになりも千里くんを射止めたのに対し、朱里ちゃんは自分の想いにすら気づいてもらってないのですから。
 「ねぇ、みっきー」
 凄惨な表情で、こちらに近づく朱里ちゃん。
 「力を合わせて御神千里を殺してみない?」
 …今何ト仰イマシタカ?
 「だーかーらー、アイツ殺した方が色々スッキリするんじゃないって話。アンタだって内心、アイツが憎らしくなる時があるんじゃない?憎しみは愛情の裏返し、なんて言うし」
 「そんなこと!」
 私は弾かれるように叫んでいました。
 その言葉に、朱里ちゃんはさめたように凄惨な表情をひっこめました。
 冷めたように、覚めたように。
 「冗談よ冗談。言ってみただけ。でも……」
 ヅガン、ともう一度だけ朱里ちゃんは自動販売機を蹴りました。
 「本ッッッ当にアイツ大嫌い。憎々しいし妬ましい」
 これ以上なく憤怒に満ちた、それでいて痛ましい表情で。
 「私が欲しいモノを、みんな持ってるから」

166やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:04:50 ID:UU0NqYJc
 その後、朱里ちゃんは熱が冷めた様に去った行き、私は再び千里くんを追いかけ始めました。
 先ほど葉山くんも言っていましたが、千里くんは大概にして女性に縁があります。
 ようやく千里くんに追いついた時、やはり彼は女性と話していました。
 「こんにちは…なんだよ、おにーさん」
 「うぎゃあ!?」
 フリルをあしらった可愛らしい衣装を着た可愛らしい女性と。
 「…お母さん」
 それは、私の母である緋月零日さんでした。
 こんなところで見かけるとは珍しいことです。
 近くで撮影なのでしょうか。
 それはともかく、千里くんと親しげに話し、あまつさえ…
 「はい…コレ」
 「はい?」
 「いや、プレゼント…なんだよ」
 「プレゼント!?」
 千里くんにプレゼントまで渡すなんて!
 お母さんにはお父さんと言う物がありながら!!
 浮気!?浮気ですか!?浮気なんですね!!
 「それじゃあ…」
 楽しげな歓談を終え、千里くんと別れたお母さんは、その場を離れ…アレ…?
 何だか真っ直ぐにこちらに向かってきてませんか?
 「こんにちは…三日ちゃん」
 「うひゃあ!?」
 バレてたんですか!?
 いるのがバレてたんですか!?
 気配を殺していたはずなのに!?
 「リアクションが千里さんとそっくりだね…三日ちゃんは」
 そう言ってお母さんはクスクスと笑いました。
 お母さんの千里くんへの呼び方は一定していません。
 当初はただ『千里』とだけ呼んでいましたが、私でもまだ到達していない呼び捨てをすることに思うところがあったのか最近は『千里さん』と呼んでいます。
 もっとも、千里くんの前ではからかいの意味を込めて、子供っぽい口調で『おにーさん』と呼んでいるようですが。
 「…ところで、今度お父さんに『お母さんが浮気してる』と報告する必要があると思うのですが」
 「そうなったら、三日ちゃんが二度と千里さんに会えないようにして…あげようかな」
 「…」
 「…」
 「…ごめんなさい」
 「よろしい」
 先に折れたのは私でした。
 お母さんは基本的に緋月家のヒエラルキーの頂点に経つお方です。
 「ちなみに、千里くんに二度と会わせないために三日ちゃんをどうするのかと言うと…」
 「止めてくださいお願いします聞きたくありません」
 嫌な予感しかしなかったので全力で止めました。
 いや、時々嬉々としてとんでもないことをするんですよね、この人。
 「まぁ、お兄ちゃんって、浮気されたところでどうこうなるとも思えないけど…ね。自分の不幸も他人の不幸もまとめて笑ってると言うか笑うしかないって思ってるような人…だし」
 肩をすくめながら、どこか寂しげにお母さんは言いました。
 お母さんは、私のお父さんのことを『お兄ちゃん』と呼びます。
 血縁上、お父さんはお母さんのいとこにあたり、結婚前のお母さんはお父さんを『いとこのお兄ちゃん』と慕っていたため、らしいです。(らしい、というのは両親ともになぜか結婚前の話はあまりしたがらないからです)
 決してお父さんが、結婚相手を妹に見たてるプレイが好きな変態さんと言う訳ではないので、念のため。
 「ああ…そうそう。会ったついでに千里さんに携帯電話を渡して…おいたよ」
 なるほど、さっきのプレゼントはそう言うことなんですね。
 「…先日、お母さんが話の勢いで壊してしまった千里くんの携帯電話の代わりですか」
 「不可抗力…と言いなさい」
 「…はい、不可抗力で壊してしまった携帯電話の」
 「そう…その通り。ついでに、三日ちゃんの携帯電話も千里さんに渡して…おいたよ」
 「…私のも、ですか」
 そう言えば、先日我が家の食卓で「そう言えばそろそろ三日にも女子高生らしく…ケイタイデンワ…を持たせても良いんじゃないかな、どうでも良いけど」とお父さんが言っていましたっけ。
 それをお母さんが聞きいれてくれていたとは。

167やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:06:40 ID:UU0NqYJc
 「…ありがとうございます」
 「まぁ、いつまでも友達との長電話に家の電話を使われると…不都合だったしね」
 「…すいません」
 「不都合と言っても大した不都合では無いけれど…ね」
 不都合なのか、そうでないのか、どっちなのでしょう。
 「その、あなたと千里さんの携帯電話だけど、基本的には市販のものと変わらないん…だけどね」
 「…変わらないんですか?」
 「そう。でも、お兄ちゃんに頼んで裏機能を付けて…もらってあるよ」
 「…裏機能?」
 「隠しコマンドを入力すると、互いの位置が一発で…分かるよ」
 「それは便利ですね!」
 所謂GPS機能のようなものでしょう。
 機種によっては標準装備されていそうなものですが、なぜそれを裏機能にしたのかは謎です。
 って言うか、隠しコマンドって。
 朱里ちゃんとよくやる格闘ゲームじゃないんですから。
 「コマンドは待ち受け画面で電話を横倒しにして『3219685740』のキー入力だけ…だよ」
 「…意味があるような、無いような?」
 「お兄ちゃんによると、入力完了すると『ファイナルカメンライドー!』の音声が流れる…とか」
 「…」
 きっと、キーを押すごとにヒーローの名前が鳴るのでしょう。
 本気で分かる人にしか分からないネタでした。
 と、言うより個人製作の機能とはいえ、著作権的にどうなのでしょう、それは。
 限りなく今更な気もしますが。
 「ちなみに、この機能は説明書には載っていないし、千里さんも知らない」
 「…ああ、そう言う意味で『隠し』コマンド」
 私と両親、3人しか知らないのですからね。
 「そんな訳で、私からのプレゼント、後で受け取って…欲しいかな。もっとも、三日ちゃんにとっては千里くんから受け取ることが最大のプレゼント…かな」
 ああ、そう言うことだったんですね。
 ついでと言いつつ、最初から千里くんを通して私に渡すつもりだったと。
 「…ありがとうございます」
 「勘違いしては…駄目」
 お礼を言うと、お母さんは諭すような口調で言いました。
 「今回は本当についで。三日ちゃんのことを喜ばせようとか好きとか愛してるとか…そう言うのじゃあ無いから。私が愛しているのはこの世でただ1人…お兄ちゃんだけ」
 こう言うところ、お姉様ととてもよく似ている所です。
 私の家族は、少し優しくしてくれたと思うと、肝心なところで拒絶してきます。
 「そんな顔…しないでよ」
 私の想いを見てとったのか、お母さんは諭すように言いました。いつものように。
 「言ってるでしょ…いつも?愛は…自分の手で掴み取るもの。全力で掴み、全力で繋ぎとめる…もの。そうでなければ―――」
 「…分かっています」
 お母さんの言葉に私は頷きました。
 「「そうでなければ遠くへ行ってしまうから」」
 私と、お母さんの声が唱和しました。

168やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:07:09 ID:UU0NqYJc
 お母さんと話しているうちに、千里くんは自宅近くにあるスーパーマーケットへ入ってしまったようです。
 私は、店内で千里くんの姿を探し求めます。
 「あら、三日ちゃんじゃない?」
 すると、後ろから親しげに声をかけられました。
 振り向くと、髪をポニーテールにした綺麗な女性がいました。
 年齢は私より少し年上でしょうか。
 友人か家族と思しき2人の女性(1人は眼鏡をして、1人は野球のバットケースを持っています)も一緒で、どちらも系統は違えどかなりの美人さんです。
 しかし、私の知り合いにこんな人達がいたでしょうか。
 私を下の名前で呼ぶ人は、かなり限られるはずなのですが。
 「ああ、ゴメンゴメン」
 私の困惑が分かったのか、ポニーテールの女性は気さくな調子で言いました。
 「こっちが一方的によく知ってるから、ついお友達感覚で話しかけちゃったけど、ちゃんとお話したのはコレが初めてだったわね」
 そう言って、女性はペコリと頭を下げて言いました。
 「初めまして。私は夜照3年の一原百合子。アナタのお兄さんとお姉さんの後輩で、御神ちゃんのお友達よ」
 女性―――百合子先輩がそう言うと、後ろの2人も。
 「夜照学園高等部3年生、生徒会所属、氷室雨氷。会長である百合子さんを補佐する副会長と妻を務めています」
 「同じく1年、一原愛華です!生徒会庶務でぇ、お姉の妹妻です!ヨロシク、緋月先輩!」
 と挨拶をしてくれました。
 それを聞いて思い出しました。
 夜照学園高等部の生徒会長は全校の女生徒を手籠にしようとするとんでもない人物だから、決して関わり合いになってはいけないと、千里くんに言われていたことを。
 「いやいやいや、別に私たち怪しい者じゃ無いわよ!?何で微妙に距離取られるの!?」
 「…いえ、千里くんからの忠告で」
 「御神ちゃんの奴、何かと理由付けて生徒会室に呼んでも三日ちゃんを連れてこないと思ったら!」
 そう言えば、人助け大好き千里くんは、生徒会にも何かと重宝がられていましたが、その裏にはこんな事情があったのですね。
 …実はこの人たち敵なんじゃ無いでしょうか、恋路的な意味で。
 「いやいやいやいやいやいや、御神ちゃんと友達なのはホントだから!むしろマブダチ!だから棚の後ろに隠れるのは止して!」
 そう言って百合子先輩に手を合わせて頼みこまれたので、私は恐る恐る出てきました。
 「しかし、不思議なものですね、緋月三日後輩」
 百合子さんと一緒にいる眼鏡の先輩、氷室先輩が言いました。
 「御神千里後輩に、あの不愉快な男。あなたの関係者とは親しくさせてもらっていましたが、あなたとこうやって話をするのは今になってやっと初めてというのは」
 「あと、緋月先輩のお姉さんには、お姉が告白したけど一刀両断されたんだったよね、物理的な意味で!」
 氷室先輩と愛華ちゃんがしみじみと言いました。
 不愉快な男って誰のことでしょうか。
 って言うかお姉様、物理的に一刀両断って、一体何をしたんでしょう、想像するだに恐ろしいです。
 「…ええっと、姉がご迷惑おかけしました」
 「いーのよ。あの時は当たって砕けろって感じだったし。まさか、物理的に砕けるとは思ってなかったけどねー」
 凄惨な過去が透けて見える内容をケラケラと笑いながら仰る百合子先輩。
 基本的に、明るくて良い人なのでしょう。
 この人に人望がある理由が少しだけ分かった気がしました。
 「…ところで、先輩方は今日はどうしてここに?」
 「夕飯の買い出しね。受験勉強の息抜きで、皆でワイワイ料理でも作ろうかってコトになって。」
 「…なるほど」
 受験勉強ですか。高校三年生ともなれば、将来のことを考えないわけにもいきませんからね。
 「それで、偶然にも三日ちゃんを見かけたから、ちょっとお喋りしたいなーって」
 そう言うことだったんですね。
 手籠とか誘拐とかそういうことで無く。
 「まぁ、以前一日先輩からあなたのことを頼まれてたしねー」
 「…お兄ちゃん―――兄が、ですか?」
 「そうそう。『妹を頼む』って」
 頷く百合子先輩に対して、私はきっと、とても良くない顔をしていたことでしょう。

169やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:07:29 ID:UU0NqYJc
 「…嘘でしょう?」
 「三日ちゃん……」
 だってそうでしょう?
 お兄ちゃんは私の自慢で、憧れで、愛しい家族で。
 けれども。
 お兄ちゃんは私を捨てて、切り捨てて、遠くに行ってしまった家族で。
 そんな人が、「妹を頼む」なんて
 「確かに、厳密には百合子会長から申し出たことです」
 淡々と、氷室先輩が言いました。
 「けれども、その申し出をあの不愉快な男、あなたの兄が受け入れたのもまた間違い無く事実」
 とても、信じられないことでした。
 「何でしたら、私が証人になりましょうか?」
 「…え、えっと」
 本当に、本当のことのようです。
 けれども、どうして良いのやら。
 どう感じて、どう信じれば良いのか、分かりませんでした。
 お兄ちゃんが?私を切り捨てたお兄ちゃんが?心配していた?私を?本当に?
 「まー、緋月一日先輩とは、ホントに楽しくやらせてもらったわねー。ホント、良い先輩だったわ」
 少々シリアス寄りになってしまった雰囲気を明るくするように、百合子先輩は言いました。
 「それに、御神千里後輩も」
 「そうそう!あのツンツンが今ではすっかり丸くなったというか、デレデレになったというか、特に三日ちゃんに!」
 氷室先輩の言葉に、百合子先輩は笑いました。
 「…ツンツン、ですか?」
 私の知る限り、千里くんを形容する言葉に『ツンツン』なんて言う無いのですが。
 聞き違い?勘違い?
 「あ、三日ちゃん聞いてない?もしかして?中等部時代とかの頃の御神ちゃんの話」
 「御神後輩としては、話せたものではない、といったところかもしれませんけどね」
 「って、お姉、雨氷副会長さん!私とかその話全然知らないんだけど!私とか完全にアウェーなんだけど!」
 「ああ、ゴメンね、あっちゃん、三日ちゃん。でも、あの時のことを想うとつい、ね」
 「時の流れの不可思議さを感じずにはいられぬものですよ」
 しみじみと言った風な百合子先輩と氷室先輩。
 昔の千里くん、ですか。
 私の知らない、この人たちが知っている千里くん。
 「…あの、一原先輩」
 「なぁに、三日ちゃん」
 私は、勇気を出してこう申し出ることにしました。
 「…いつか、教えてくれませんか?…昔の千里くんのことと、お兄ちゃんのこと」
 正直、先輩方に対して厚かましかったかな、水を差してしまったかな、という不安はありました。
 しかし、
 「おっけー、お安いご用よ。好きな時に生徒会室にお出でなさいな。あの2人の恥ずかしい過去を思いっきりぶっちゃけてあげる」
 と、先輩は笑顔で言って下さいました。

170やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:07:57 ID:UU0NqYJc
 「…あ」
 その後、一しきり先輩方とガールズトーク(百合子先輩談)をしてから別れた後。
 千里くんの姿を見つけた私は、彼の隣に忌々しい姿を見つけました、
 河合直子。
 何かにつけて千里くんに這い寄る、もとい言い寄る女。
 何でそんな女と仲良さそうに買い物とかしてるんですか、千里くん。
 しかも…
 「あら、御神さん家の千里くんじゃない」
 「ええ。こんにちはです、お隣のおばさま」
 「隣の子は彼女さん?」
 「はいはーい!御神先輩の彼女の河合直子です!」
 「チョーシに乗らないの。あばさま、この娘はただの後輩です」
 「あらあら、似合いに見えるわよ」
 「ホントですかー?直子マジ嬉しいです!」
 「あの、おばさま。俺、そーゆーカンジの子は他にいるんで……」
 なんてイベントまで発生して!
 私だって千里くんと並んで歩いていてそんなこと言われれた事無いのに…!
 いや、分かりますよ。
 千里くんが後輩に対して仏心を見せてしまうタイプだということは。
 でも、駄目じゃあないですか。
 いけないじゃあないですか。
 「ああ、そうそう先輩」
 「何?」
 「私、先輩のコト、まだ好きです」
 「ウン、ありがと」
 そこ、お礼とか言うところじゃ無いじゃないですか。
 ええ、千里くんのせいじゃないですけど。
 悪いのは全部全部全部あの女ですけど。
 とりあえず、おイタの過ぎる後輩には後でお仕置きするとして。
 まずは、可及的速やかに千里くんの元へ行かなくてはなりません。
 そう思って、物陰から、音も無く千里くんの背に近づきます。
 なぜかほんの少しフラフラします。
 千里くん分が不足しているのでしょうか。
 「…楽しかったですか、河合さんとのデートは」
 自然と恨み事が口から出てきました。
 「デートじゃないって。お待たせ、三日」
 いつものように、千里くんは優しく言ってくれました。
 千里くんは本当に優しい人。
 誰に対しても、優しい人。
 「…待ってはいません。今日はずっと千里くんと一緒にいましたから。…千里くんの後ろに」
 「うっわー、それじゃあ色々カッコ悪いところも見てたり?」
 「…今日の千里くんは一から十まで見させていただきました」
 「恥ずかしー」
 ほんの少し、見栄を張ってしまう。
 もっとも、正直言って一から十どころじゃ足りない。
 千里くんのことを、一から千まで、表から裏まで、綺麗なところから汚いところまで、全て知りたい。
 千里くんの全てが、欲しい。
 だから、
 「…ねぇ、千里くん」
 自然と、こう聞いていました。
 「…九重かなえって、誰ですか?」
 「……!」
 驚愕する千里くんの表情は、私が初めて見るものでした。
 それに嬉しさを覚えると同時に、こんな顔をさせることのできる、九重かなえというモノに、ほの暗い嫉妬心を覚えてしまいます。
 しかし、それも一瞬のこと。
 「……友達、だよ。中等部時代の、俺の大切な友達」
 いつも通り穏やかな表情にもどった千里くんは、そう言いました。
 「…今の間は何ですか」
 「ちょっと驚いたから、かな。お前の口からその名前が出るとは思わなかったから」
 「…そうですか」
 説明としては当たり障りの無い、無難な言葉。
 だからこそ、私の中で疑いと不安が噴き出して行きました。
 「…そのお友達と、私と、どちらが大切ですか?」
 その感情を少しでも和らげようと、私は千里くんに言葉を求めます。
 「友達とお前とで順位を付けろって言われてもなぁ」
 「…どっちが大切ですか?」
 早く答えが欲しい、安心させてくれる答えを。
 「2人とも、だよ」
 「…!」
 一瞬、呼吸が止まりました。
 その程度なのでしょうか、私は。
 千里くんにとって、私は九重かなえ程度と同等に並べられる程度の存在なのでしょうか。
 「けれども」
 けれども、千里くんの言葉には続きがありました。
 あって、くれました。
 「三日への『大切』は特別だから。ちゃんと、特別だから」
 『大好き』とか『愛してる』とかに比べると直接的とは言い難いものの、その言葉は私を確かに安心させてくれました。
 それは、きっと千里くんの本当の想いを乗せた言葉だったから。
 「…千里くん」
 「三日」
 千里くんが、私の頭にポンと手をやってくれる。
 それだけで、私は幸せでした。
 「帰ろっか」
 千里くんの穏やかな言葉。
 帰る先は決まっています。
 御神家です。
 それは、千里くんが私を家族として認めてくれていると言うことで。
 「…はい」
 私は幾万の幸せを込めて、そう答えました。

171やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:08:29 ID:UU0NqYJc
 おまけ
 「…うう…ん?」
 あれ?
 それから私、一体どうしたんでしたっけ?
 「大丈夫、三日?」
 目を開けると、心配そうな顔をした千里くんがいました。
 「…はい、大丈夫です」
 「いやー、いきなりブッ倒れるから驚いたよー」
 どうやら、私は熱中症か何かで倒れてしまっていたようです。
 驚いたと言いつつもどこか軽い調子なのは、私に対する気遣いでしょうか。
 「とりあえず、スーパーまで取って返して、飲み物と氷買って。ちょっと落ち着いたみたいだったから、そのままウチまで運ばせてもらったよ」
 ああ、そうだ。
 私は倒れて、千里くんが色々と運んできてくれたんだ。
 …あれ?運ぶと言えば…
 「…どうやってここまで運んできたんですか?」
 車があった訳でもないのに。
 「ああ、いや、その……」
 なぜか頬をポリポリやりながら、目をそらす千里くん。
 「ウチまでは近かったし、腕にビニール袋通したまま、両手で、胸の前で、こう……」
 そうやって千里くんがジェスチャーで示してくれた動作は、
 「…お姫様抱っこ」
 「……」
 お姫様抱っこを千里くんにされたのは、久々でした。
 一度やってもらって以来拒まれたので、二度とされる日は無いでしょうと思っていたのですが。
 「…千里くんって、時々すごく嬉しいことやってくれますよね」
 思わず、笑みがこぼれました。
 「……そう言う言い方しないでよ」
 笑みが凍りつきました。
 千里くんの言葉に、一瞬、拒絶されたと思いました。
 お母さん達のように、お兄ちゃんのように。
 けれども。
 「これでもすっごい恥ずかしいんだからさ」
 顔を真っ赤にして照れ隠しをする千里くんを見て、そうではないことが分かりました。
 その表情は私が初めて見る物で、それはとても可愛らしいものでした。
 大切なモノは、全力で繋ぎとめなければならない。そうでなければ、遠くにいってしまうから。
 それは、幼いころから母に何度も聞かされた、もう家訓とも言っても良い言葉。
 けれども、私はそれを言葉としても理解しながら、感覚としては長らく実感していませんでした。
 兄が目の前から消えるその日まで。
 何も言わずに、何も残さずに切り捨てられたその日まで。
 けれど、今私は、それと同じかそれ以上に、全力を持って大切な人のことを知りたいと思っています。
 そうする度に愛おしくなる、大切な人のことを。
 だから、千里くん。
 いつか、私にあなたの全てをくださいね。

172やんでれの娘さん 日常の巻(裏)  ◆3hOWRho8lI:2011/07/09(土) 22:09:46 ID:UU0NqYJc
 以上で投下終了となります。
 お読みいただきありがとうございます。

173雌豚のにおい@774人目:2011/07/09(土) 22:49:37 ID:2lIp3HGs
gj

174雌豚のにおい@774人目:2011/07/10(日) 00:00:38 ID:ZEjlf.Jw
乙!よかった!

175雌豚のにおい@774人目:2011/07/10(日) 01:10:11 ID:Yw8rZ/BU
GJです!やっぱりやんでれの娘さん、面白いです!

176雌豚のにおい@774人目:2011/07/10(日) 01:24:30 ID:/pAgtSn2
はい、おつかれ

177雌豚のにおい@774人目:2011/07/10(日) 01:31:55 ID:W6SJJIJo
>>151
>>172

GJ!

178風見:狂宴高校の怪:2011/07/10(日) 20:49:15 ID:i55FJM5Q
第15話投下します。

179狂宴高校の怪 第15話(試練編):2011/07/10(日) 20:50:17 ID:i55FJM5Q
――――――――――

 四年前の記憶と共に蘇るマナカの記憶。
 ・・・俺にとってマナカは、特別な存在だったのか。
「私はケンゴウ君のためなら何でもする!その気持ちは四年前も今も変わってはいない!」
 抱きついてきたマナカが、思いっきり俺の腹を絞めてくる。
「もう離さない!ずっと思い続けてきたケンゴウ君なんだ!誰だろうとケンゴウ君をとるつもりなら容赦しない!誰だろうと・・・!」



 ・・・マナカにとっては長かった四年間。
 俺はその四年間、マナカを傷つけ続けていた。
 ・・・もっと腹を締め付けてほしくなる。痛さが足りない。

 不意にマナカが愛しくなった。俺はマナカを抱き締めた。
「ケンゴウ君!?」
 突然の出来事にマナカが驚きの声を上げた。
「俺はずっと・・・マナカを傷つけ続けていた。本当にすまなかった・・・。」
「・・・謝らないでくれ。私はケンゴウ君さえいれば何でもいい。」
「俺は過去の記憶と一緒に・・・。」





「お前を一心に受け止めてやる!」





 腹の締め付けが弱まる。
「その代わり・・・俺のトラウマ・・・。一緒に戦ってくれないか?」
 マナカの口から出た言葉、たった二文字の言葉が、そしてさっきとは違った澄んだ瞳が、俺の心を癒してくれた。
「うん!」



――――――――――

「ふーん、そんなことがねぇ・・・。」
 今、俺はケンゴウのアパートの中にいる。
 お見舞いにやって来たとき、ケンゴウはマナカと抱き合っていた。さすがに邪魔だったかと退散しようとしたが、ケンゴウとマナカに呼び止められて強制収容。そして俺は、今まで何があったかをケンゴウから聞いて、現在に至る。

「男の人はね、ここをこんな感じで舐めてあげると気持ちよくなるのよ。」
「クドさん!手錠の場合はどんな感じで?」

 俺とケンゴウの後ろでは、クドがマナカに何かを教えている。何を教えているかは怖いので確認しない。
「クドの時もそうだったが・・・偶然にしては出来すぎだな。」
 そう。話を聞いてみると、ケンゴウとマナカが思い出したのは四年前の記憶。クドもあの時、四年前の事を思い出したらしい。
 四年前という共通点。いったい何があったんだ?

「それで本題なんだ。マナカのこと、せめて葉久保達には・・・。」
「言っておいた方がいいかもな。マナカはクド以上に本気だ。犠牲者を増やさないためにも最低限言っておくべきだな。」
 言わせてもらうが、マナカはクドより質が悪い。本気になったマナカは、ちょっとでも違う女子とケンゴウが話せば、間違いなく手にかけようとするだろう。最も避けたい事だ。
「しょうがない・・・。まぁ何かあったらフォロー頼むな。」
「おぅ、任せとけ。」
 久々に俺達は腕をぶつけた。

180狂宴高校の怪 第15話(試練編):2011/07/10(日) 20:51:53 ID:i55FJM5Q
――――――――――

「ずいぶんと今さらですね・・・。」
 え?
「マナカさんがケンゴウ君の事が好きなことぐらいはわかっていますし、前例があった以上、怯えたり軽蔑したりはしませんよ。」
「そうだぞケンゴウ君!私だって幼馴染みには手を出したくはないぞ!」

 コイルが「やれやれ。」のポーズをとって俺を見てきた。
 寝る間も惜しんで言葉を繋ぎ合わせて考えた俺の告白は、知ってましたよの一言で崩れ去った。
 正直、悩んで損した。

 しかし、悩みの種が無くなったわけではない。決断したマナカが果たして、ナオやクドと仲良く出来るだろうか・・・。
 まぁ、そんな心配をよそに、
「マナカちゃん、それ何?」
「私が早起きして作ったハムカツだ!ケンゴウ君の弁当と私の弁当で半分こしたんだ!」
「へぇ〜、私もコイル君にやってみようかな。」
「私が教えてあげようか?クドさん!」



 杞憂に終わった。全ては心配しすぎだったってことだ。しかし、やはり異性と話していると、その異性に対して言葉に出来ない憎悪の目で睨むことは変わりない。
 今後俺は、こんなマナカと付き合っていかなければならないのか・・・。まぁ、嬉しくもあるけどな。



「あれ?コイル。妹さんは休みか?」
「いや、来ているはずだが・・・。」
 珍しく妹さんが来ていない。何かあったのだろうか・・・。

――――――――――

「またあなたですか?」
 やはり今回のケンゴウ君とマナカさんの事件、彼が一枚噛んでいたようですね。
「学園祭の時にケンゴウは私を敵に回すことを承知の上で協力を求めてきた。同率の立場の人間ですから、今度はケンゴウを追い込む側に立たせていただきました。」
「結果、二人とも四年前の事を思いだし、繋がりを得た。」
「二人の狂気の起爆剤は彼らを繋ぎ止めている四年前の記憶だけですからね。予定としては、それでマナカがケンゴウを刺すという予定でしたが、こんなにも激変するとは。」
 いや、結果としては成功していますね。
 クドさんもマナカさんも、過去の記憶のせいで歪んだ愛情表現しか出来なかった訳ですからね。
 それにもっとすごいのはコイル君とケンゴウ君のキャパシティ。歪んだ愛情表現を自分の体一つで許容してるわけですからね。

「しかし、クドやマナカだけではない。まだ記憶を取り戻してない人もいるでしょう?シドウ、君も含めてね。」
 私の・・・記憶ですか・・・。いくら四年前を想像しても出てこない。やはりきっかけがなければ・・・。

「忠告です。近々一人、きっかけが出来ます。ご注意を。」
 ・・・また刃物が飛び交う事件が起きるのでしょうか・・・。

181狂宴高校の怪 第15話(試練編):2011/07/10(日) 20:52:43 ID:i55FJM5Q
――――――――――

「無理しちゃダメよ?」
 保健室の先生の声で、私はゆっくりと上体を起こす。
 ・・・お兄ちゃんに、お弁当を届けなきゃ・・・。
「こら、まだ寝てなさい。」
 保健室の先生に半ば強制的にベッドに寝かされる。

 体育の時間に、日射病で倒れて保健室に運ばれた。
 昼休みの今までずっと寝ていたのだが、重要な仕事を忘れていた。お腹を空かせているお兄ちゃんが待っている。
 早く届けないと・・・。布団を避けて、お弁当を教室まで取りに行ってから、お兄ちゃんの教室に向かった。



ゴトッ!



――――――――――

「腹へったー!」
 ノマルが来ていないということは、当然弁当は無い。次の時間の事を考えると、食っておかないと体がもたない。
「なぁマナカ、ノマルはどうしたんだ?」
「ノマルは体育の時間に保健室に運ばれたぞ?」
 保健室?夏だし日射病にでもなったのかな?
 見舞いに行ってやらないとな。
「ねぇコイル君、私のおかず、いる?」
「あぁそれなら私のも食べて!」
 ナオとクドが弁当箱を差し出してくれた。何でクドはニヤニヤしているんだ?
「マジで!いただきまーす!」
 ナオは唐揚げ、クドは野菜炒めをくれた。二人とも料理上手だとわかるぐらいうまい。これは将来いい奥さんになりそうだな。
 ・・・何て言ったらクドに刺されそうだな・・・。

 ん?廊下の方で何かが落ちた音が聞こえた。誰かが何かを落としたのか?

182風見:狂宴高校の怪:2011/07/10(日) 20:54:38 ID:i55FJM5Q
投下終了です。これで試練編は終了となります。

183雌豚のにおい@774人目:2011/07/10(日) 21:21:57 ID:mbnePKL.
oh...

184雌豚のにおい@774人目:2011/07/10(日) 21:25:59 ID:x2YLH9Uk
>>182
つまんね…

185雌豚のにおい@774人目:2011/07/10(日) 21:59:10 ID:.jbxnkL6
IPsarasidanakorya

186雌豚のにおい@774人目:2011/07/10(日) 22:02:14 ID:.jbxnkL6
GJ!UPが速いと話を忘れちゃったりしないからサクサク読める

187雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 00:47:45 ID:7Tba/Yx.
>>172
GJ!いつもハラハラする展開…次がどうなるかが気になってしまう!!
>>182
確かにつまらない、前々から読んでたけど話がくどいし読んでると何か眠くなる…国語の先生の授業並だな

188雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 00:50:44 ID:EpvtosSI
>>184
わざわざ言うか?心のうちに秘めろよ、そして言うなら言うで、何がいけなかったか、ここをこうしたら良いと助言してあげる気もないのか、アンタ?

189雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 00:54:27 ID:h3BLoy9.
>>188
荒らしに構うなよ…

190雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 00:59:34 ID:EpvtosSI
>>189

荒らしだったのか、すまない。ついカッとなってしまった。

191雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 02:04:05 ID:OyGLbZlY
>>182
GJ!荒らしに負けずに頑張って!読んでるよ!

192雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 03:54:00 ID:TnEK3ss6
とりあえず風見氏は一話を短く区切り過ぎだと思う。
他の作者と比較すれば一目瞭然だろうが。
投稿頻度を高めるよりもっと校正や量に気を使うべきでは?
それで何十話も稼ごうとするのは正直いただけない気がする。

193雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 04:38:20 ID:MRI47t7M
>>192
批評スレ池

194雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 08:21:37 ID:bsZNg/9o
どうでもいいけどエロ描写ありヤンデレ話キボンヌ

195<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

196雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 10:26:50 ID:49U82J.E
>>182
乙です

>>192
>>195
批評スレいけ

197<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

198<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

199雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 17:37:09 ID:ccUy7P/g
で、どれが荒らし?

また削除依頼をしようと思うのだが、嫉妬スレやヤンデレスレ
と同じ荒らし方をやっているので、これはまたアク禁かな

200雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 17:45:23 ID:oX4xCXw.
批評してるヤツは全部だろ
批評スレが別にあるのにここで批評するなら荒らしとかわらん

201雌豚のにおい@774人目:2011/07/11(月) 21:25:50 ID:7Tba/Yx.
次の作品投下まだかなー?

202雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 10:08:03 ID:DomP83gk
>>182
GJ
ただの変人だと思いきや、同率の彼にも秘密があったのか
次が楽しみです

203雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 16:38:23 ID:mIaH/04c
次は何が来るかな・・・・・「日常に潜む闇」「触雷!」もすごい気になる場面で終わってるし、
従姉弟の姉のSSも姉が何か隠しているという伏線残したまま終わってるから気になって服が
着れないではないか!!全く!!

204風見:狂宴高校の怪:2011/07/12(火) 17:38:26 ID:Klz.Hd0s
第16話投下します。

205狂宴高校の怪 第16話(激動編):2011/07/12(火) 17:39:46 ID:Klz.Hd0s
――――――――――

 お兄ちゃんはお腹を空かせてなんていなかった。ナオさんとクドさんからおかずをもらい、笑顔でそれを頬張っている。
 ・・・私のお弁当を食べてる時はあんな顔・・・しなかったのに・・・。
 何で私じゃないの?何であの二人なの?

 ふと、ナオさんと初めて会った日の事を思い出す。
 私はあの時・・・ナオさんに丸め込まれていたのかな?ナオさんが私を優しく抱き締めてくれた時、私の頭を撫でてくれた時、どんな顔をしていた?
 顔を見ていない・・・。まさか後ろでは笑っていたのか?私をお兄ちゃんから遠ざけたことを喜んでいたのでは?私は・・・いいように操られていた?

 許せない・・・!私の気持ちを弄んだナオさんが憎い!ナオが憎い!憎い!
「お兄ちゃん・・・私だけのお兄ちゃん・・・。」
 私は心の奥から黒いものがにじみ出るのを感じた。
「まずは・・・あの女・・・。」



――――――――――

「いなかったのか?」
「あぁ、教室にも行ってみたがいなかった。」
 昼休みが終わる五分前に、ノマルの見舞いに行ったのだが、保健室にノマルの姿は無かった。マナカにも聞いてみたが、マナカも知らないらしい。
 ・・・どこに行ったんだ?
――――――――――

「えぇ!先帰っちゃったの?」
 今日こそはコイル君を買い物に誘おうと思ったのに!
「妹さんに関することですから仕方ないですよ。察してあげてください。」
「・・・そうね。たった一人の妹さんだもんね。」
 仕方ないよね。妹さんは特別だ。将来私の義理の妹になるかもしれないのだから。



 そういい聞かせても、やっぱり妹さんにちょっとだけ嫉妬しちゃう。コイル君にしんぱいしてもらっているのだから。
 私は妹さんやナオさんと比べると、優先順位が低いのかな?
 また強引な手でコイル君を物にしてしまいたい、と思ってしまう。でもそんなことはしない。これ以上コイル君に心配かけたくない。
 コイル君が言っていた言葉を思い出す。

 未来はわからない。

 いつかは私のことが好きになってくれるかもしれない。そしたら何でもやりたい放題だ。腕組んで映画館で純愛映画を見て、レストランで食事をとってカラオケに行く。その後は勿論ホテルに直行!朝まで帰りたくない、いや!帰さない!そして話は勿論、責任とってなんたらかんたら、私を先に食べちゃって!旦那様!
 気づけばあそこはびしょびしょ。帰ったら下着を取り替えよう。いや、どうせ妄想しながら一人でする予定なんだ、もう一枚用意しておこうかな。
 コイル君のあそこの型でもとってみようかな・・・。



 ふと、後ろに気配を感じた。
 いや、気配なんて生ぬるいものではない。これは・・・殺意?誰かが私を殺意の目で見てる?

 ・・・逃げなきゃ!

 足に命令が伝わる前に、頭に響く痛み。
 私は前屈みに倒れて、意識を頭から手放した。
 不意に聞こえた声。
「お兄ちゃんをたぶらかす雌豚なんか・・・許さない!」

206狂宴高校の怪 第16話(激動編):2011/07/12(火) 17:40:42 ID:Klz.Hd0s
――――――――――

「あれ?まだ帰ってないのか?」
 家に妹はいなかった。どこかに出掛けているのか?それにしても今日はとことん妹に会えないな。
 とりあえず近所のスーパーとかを探してみようかな。

――――――――――

 あいつは絶対にこのスーパーに来る。それはわかりきっている話だ。それは放課後の会話で確信した。
「今日お菓子を作る予定なんですけど、コイル君は甘いものとかは好きですか?」
「うん、基本はなんでも好きだけど。」
「良かった、それじゃ明日作ったのを食べてみてください。」

 あいつの家からこの店は近い。何度かあいつが買い物に来ているのも見たことがある。
 やがてあの女がやって来た。人通りが多くて手出しできないのが悔しくてしょうがない!仕方ない、待とう。

 十分後、あいつが出てきた!人通りの少ないところまで尾行して、一気にけりをつけよう!



「あ!コイル君!」
「よぉナオ、買い物の帰りか?」
「はい!コイル君はどこへ?」
「あぁ、ノマルを探してるんだ。スーパーにいるんじゃないかと思ってな。」

 え・・・?お兄ちゃんが私を探してる!?私を・・・。あの女よりも私を求めている!?全身が軽くなる!
 お兄ちゃんが私を求めているなら、尚更あの女は邪魔だ!私とお兄ちゃんの間を飛び回る邪魔な虫どもは私が排除しなければ。
 お兄ちゃん・・・待っててね・・・。

――――――――――

 スーパーの中を探し回ってみるが、ノマルの姿は無かった。
「おかしいなぁ・・・。いったいどこに行ったんだ?」

 結局ノマルは見当たらなく、俺は家に帰ってきた。
 おかしいなぁ・・・。ここまで見つからないのも珍しいな。こりゃ長期戦になるかもな・・・。

 ガチャ!

「お帰りなさい!お兄ちゃん!」
 いた。家にいた。案外早く見つかった。やれやれ。
「ノマル、今までどこにいたんだ?」
「私はずっと家にいたよ?変なお兄ちゃんだね!それよりも早くご飯食べようよ!」
 ぐいぐいと袖を引っ張られる。



 ズキッ!



「うっ!」
 左目の傷を押さえる。この疼き・・・悪い予感の前兆だ!今度は何が起こるって言うんだ・・・。

207狂宴高校の怪 第16話(激動編):2011/07/12(火) 17:41:23 ID:Klz.Hd0s

 部屋に入る。お腹がかなり膨らんだ気がする。
 今日は本当に意味がわからない日だった。日射病で倒れたノマルは元気だった。元気すぎるぐらいだ。
 そして今日の夕食、とんでもない量だった。
 フルコース的なメニューなのはいいのだが、量が三人前?五人前?七人前か?
「お兄ちゃん!どうぞ召し上がれ!」
 こんな笑顔で言われたら拒否できない。とりあえず食えるだけ食ってみたが、半分すら届かなかった。
「お兄ちゃん・・・もうお腹一杯?」
 上目遣いで言われると、拒否できないのが男の性だ。結局全てを平らげてしまった・・・。

 お腹が痛い。もう何も食べられない。口に入らない。ていうか逆流しそう。
 ・・・今日はもう寝ようかな・・・。明日朝早くシャワーを浴びればいいかな・・・。
 横になると、不思議と眠気が波のように押し寄せてきた。目を閉じた瞬間、俺は眠りの世界に落ちていった。





 ベッドから起きる。気づけば朝だ。シャワーを浴びなきゃな・・・。
 部屋を出て風呂場に向かう途中、何かの液体が足についた。

 ピチャッ。

「何だ?これ。」
 足の裏を見る、赤黒い?
 ・・・は!?
「これ・・・血!?」
 何で血が家の床に・・・?血の出所を追ってみる。たどり着いたのは。
「ノマルの部屋・・・?」
 ノマルの部屋のドアの下半分が、赤黒く染まっている。



 ガチャ!



「うっ!」
 生臭さが鼻をつく。部屋の床は真っ赤に染まっている。その先にいたのは・・・。
「あ!お兄ちゃん!」
 血だらけのノマルが笑顔で俺を見た。その下には見るも無惨な二人の女子生徒・・・。
「ナオ・・・クド・・・。」
 見覚えある顔、体は所々が切り刻まれていた。
「お兄ちゃん!これで二人っきりになれるね!」
 血にまみれたノマルが俺に抱きついてきた。





「ハァ!」
 汗だくになった上半身がベッドから離れた。
「・・・夢?」
 当たり前か・・・ノマルがあんなことするなんて考えられない・・・。
 傷がまた疼いてきた。思わず左目を手で押さえる。押さえてはいるが痛みは消えない。

 何だ・・・この感覚・・・俺の回りで・・・何が起きているというんだ・・・。
 時計を見たら、深夜の4時を示していた。
 ・・・シャワーでも浴びるかな・・・。
 ベッドから降りて風呂場に向かう。途中、嫌な予感はしつこく俺の後を付きまとってきた。

208風見:狂宴高校の怪:2011/07/12(火) 17:42:29 ID:Klz.Hd0s
投下終了です。1話分を長くしたつもりなのですが、まだ短いでしょうか。

209雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 17:55:29 ID:tAvjWi7.
>>208
乙です
個人的には結構な量思います
無理せずマイペースで頑張ってください

210雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 18:00:28 ID:ZjBh7Llc
GJ
少しヤンデレ入ってきたね。安心かな?

211雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 18:06:44 ID:MTjgsXnE
はい、GJGJ

212雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 18:50:48 ID:S0Ub2E46
gj

213雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 21:38:17 ID:PFG3d.qQ
乙です。長さは人それぞれですし、自分の書きやすい様にやっていってください。

214雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 21:42:29 ID:b95XjUT2

俺は短いと思うけど別に気にならんよ
短くてもいいじゃない

215雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 22:27:14 ID:2AcsZMxQ
GJ 乙です

216 ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23:35:36 ID:tot03qBY
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 まず、前回のタイトルに間違いがあったことをお詫び申し上げます。
 『やんでれの娘さん 日常の巻(裏)』ではなく、正しくは『ヤンデレの娘さん 休暇の巻(裏)』です。
 うっかり準備段階のタイトルで書き込んでしまい、誠に申し訳ありません。

 さて、今回は以前触れる程度だった千里と三日の親の関係です。
 時系列としては、『夏祭』と『休暇』の間にあたります。

 前置きが長くなってしまいましたが投下させていただきます。

217 ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23:37:40 ID:tot03qBY
 バーに入った時、私は必ず最初の一杯は必ず二人分のお酒を頼むようにしている。
 それは、私が単に大酒のみだからとかそういう理由だけでなく。
 ただ、この場にはいない、いや、もうこの世にはいない人に捧げたいからだ。
 いや、捧げたいというと仰々しいだろう。
 この世にはいないあの人と、一緒に飲みたい。
 そんな、センチメンタルな感情に基づく行為だ。
 お酒の楽しみなんて知らないままに亡くなった娘だしね。
 とにかく、1人息子のセンがようやく『野犬』に襲われた傷が癒えて退院する前日、私は行きつけのバーでいつものように2つのグラスを頼んだ。
 で、私は頼んだ2つのグラスをチン、と鳴らす。
 「乾杯、千幸(チィ)ちゃん」
 この世には無い、嫁の名を呟く。
 独り言だ。
 そんな風に、私こと御神万里がいつも通りのコトをしていると、この小さなバーに入って来る、これまた小さな影が見えた。
 「お待たせ…万里ちゃん」
 「はぁい、レイちゃん」
 笑顔を浮かべる相手に、私もまた片手をあげて返す。
 レイちゃんこと緋月零日ちゃんは、私の仕事の同僚、パートナーといったところだ。
 彼女は役者、私がそのメイクアップを担当している。
 何のかんので10年以上の付き合いだろうか。
 息子の千里(セン)には手っ取り早くとっつきやすい、子供番組に出演している相手、とだけ説明しているが、実際の所レイちゃんは様々な芸名で様々な役柄を演じている。
 芸名を取っ払ってその出演歴を見れば(もし見ることが出来れば、の話だが)、経歴も演技力も有名女優と言って差し支え無いのだが、レイちゃんは本名を公表しようとしない。
 以前の役のイメージが付いて回るのを嫌っていることもあるし(もっとも、レイちゃんの演じた役を見て、それが全て彼女と同一人物であると見破るのは難しい。)、役者には珍しく名誉欲という物がないからということもある。
 いや、あらゆる意味でのしがらみというものを嫌っている、拒絶していると言うべきだろう。
 彼女は夫婦関係を至上とする人だ。それ以外は時として邪魔になる。
 そんなことを理解したのも、極々最近の話。
 そんなレイちゃんが、私と対面に座る。
 「レイちゃん、何か飲む?」
 「んー…ブラッディ・メアリーで!」
 こうやって元気に返事をしている姿だけをみると、健康健全な若い女の子にしか見えないのだが。
 「お客さん、ウチは未成年にお酒は……」
 少女にしか見えない外見のレイちゃんに難色を示すバーの店長さん。
 「成人…だよ」
 それに対して、レイちゃんはヒラヒラと運転免許証を示す。
 「……失礼しました」
 運転免許証を確認し、店長さんはお酒の準備に入る。
 「こーゆー時は面倒だよ…ね。バーに居てサマになる万里ちゃんが羨ましいよ…ちょっとだけ」
 「あら、ちょっとだけ?」
 「そう…ちょっとだけー」
 そう言ってかりゃかりゃと笑うレイちゃん。
 この会話を第三者が見たらどう思うのだろう。
 仲の良い友人同士の会話に見えてくれれば良いのだけれど。
 実際はともかくとして。
 「それにしても珍しい…かな。万里ちゃんから飲みに誘ってくるなんて…ね」
 「レイちゃんこそ」
 私は撮影の打ち上げ等にこそ参加するが(大抵はフォロー役や幹事の手伝いだ)、確かに誰かと一対一でお酒を飲むのは珍しいかもしれない。
 どちらかと言えば、1人酒の方が気楽でいいと考えるタイプ。
 一方、レイちゃんはあまりお酒自体飲まない方で、飲んだとしても軽いお酒がメインだ。
 そんなにお酒を勧めたくなるようなルックスでも無いしね。

218 ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23:38:23 ID:tot03qBY
 「私もまぁ、1人で飲むのが寂しくなることもあるってコト。レイちゃんとも、今じゃ全く仕事だけの関係ってワケでも無いしね」
 「そうそう。まさか私の三日ちゃんが、万里ちゃんの子供を好きになる…なんてね」
 そう、私の息子であるセンと、レイちゃんの娘さんの三日ちゃんは現在恋人同士の関係にある。
 「さすがにアレは世間の狭さを感じたわね」
 「驚い…た?」
 「ええ、驚いたわ」
 一応、レイちゃんの娘さんが息子と同じ学校に通っていたことは知っていた。
 しかし、まさか彼女がある日ドアを開けたら立っていたのは驚いた。(ピッキングまがいのことを試みていたようにも見えたが気のせいだろう)
 聞けば息子の彼女と言うではないか。
 あの子も、もうそんな歳かと思ったものだ。
 「でも良い娘じゃない。ちょっと人見知りだけど、礼儀正しいし、気立ても優しいし」
 「フフ…そう言われると嬉しいね」
 「自分が誉められてるみたいで?」
 冗談めかして、私はレイちゃんに言ってみる。
 「私を誉めてるんだよ…実際。あの娘は『私の続き』…なんだから」
 『私の続き』、というのはレイちゃんが時折使う三日ちゃんへの呼び方だ。
 それだけ、親の性質を受け継いだ娘だということなのだろうが。
 そうした枠に子供を当てはめてしまうのはどうなのだろう。
 いや、私もそうしたことを言えるほど立派な親ではないか。
 「子供と言えば、この間万里ちゃんの息子に会った…よ」
 「私に似ず、良い子だったでしょ」
 「いいえ、万里ちゃんそっくりな…良い子だったよ」
 「あら。じゃあお姑さんとしては、合格?」
 「まぁ、及第点…ってところ?」
 「センもホッとしたでしょうね」
 私は笑いながら答えた。
 「元気してる…あの子?」
 「元気とは言い難いわね。現在絶賛入院中。明日やっと退院だけど」
 「ああ、そう言えば…聞いたね。野犬に襲われたん…だって?」
 ごく普通に、いけしゃあしゃあとレイちゃんは言った。
 「そうそう。とても黒い、とても可愛らしい野犬だったそうよ」
 これは嘘だ。
 センはこんなことを言っていない。
 何も言わないのなら、何も聞かないのが私のスタンスだ。
 今回ばかりは、そのスタンスを少しだけ変更させてもらうが。
 「ふう…ん」
 しかし、レイちゃんは普通のリアクション。
 まぁ、ある程度は予想していたけど。
 一見感情豊かに見えて、基本的に冷静な子だし。
 一方で、怒る時は烈火のごとしだが、そんなことは滅多に無い。
 時折、感情そのものがアンバランスに見えるくらい。
 あるいは―――狂気的とも見えるくらい。
 そんなことを考えていると、バーテンダーが注文したお酒を置いて、離れて行く。
 この位置なら、もう何を話しても誰にも聞こえないだろう。
 「腹の探り合いは無意味、か」
 「私も、はっきり言ってくれた方が助かる…かな」
 互いに、大きく伸びをする。
 「ねぇ、レイちゃん。もしかしたら勘違いだったらごめんなさいなんだけどね、」
 「何かな…万里ちゃん。ハッキリ言って良い…よ」
 「じゃ、お言葉に甘えて」
 そして私ははっきりと言う。
 「私の大事な子供を襲ったその『野犬』―――もしかして、レイちゃんだったんじゃないの?」

219 ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23:39:23 ID:tot03qBY
 それに対して、レイちゃんは、
 「うん…そうだよ」
 と、あっさりと言った。
 「どうしてそんなことを……って聞くのはそんなに意味が無いかしら」
 「かも…ね。万里ちゃんは私の良いメイクさんではあるけれど、私の良き理解者…って訳じゃないし」
 「そうなることを、望んでもい無いくせに」
 「そう…だね。私が私のことを理解して欲しいのは、私の愛する人ただ一人…だから」
 だから、私はどれ程時を重ねても、きっと彼女のことを理解することは無いだろう。
 どれ程、そう願ったとしても。
 他者と断絶した彼女の心を、私はただ『狂気』と評することしかできない。
 それは、とても悲しいことだけど。
 「そんな顔をしないでよ…万里ちゃん。あなたは、あなたの大切な人のことだけ考えてれば…いい」
 「それだけでどうにか出来れば、世の中苦労はしないわよ」
 「そんなこと言ってると、天国の奥さんに『旦那さんが浮気してる』…って言っちゃうよ」
 「あなたはいつからイタコになったのよ。あと、嘘教えないで。私はもう恋愛しない主義」
 実際、私は嫁が死んで以来、恋愛をしたことがない。
 「一途…なんだ」
 「そんなんじゃないわよ。ただ、何て言うか、萎えちゃってね」
 確かに、嫁がこの場に居れば「私を忘れて他の女を愛するなんて許さない」とは言いそうではあるが。
 正直、一途とかではなく、とても他の人と恋愛なんてする気にはなれないのだ。
 あの娘の――― 千幸(チィ)ちゃんの存在があまりに鮮烈で。
 「奥さんが亡くなってから、随分長い間お仕事に逃げ込んでたもの…ね」
 そんな私の内面を見透かしたように、レイちゃんが言う。
 そちらの内面は見たくても見せてくれない癖に。
 しかし、痛いところを突いてくる。
 彼女の言うように、私は嫁が死んでから長いこと仕事に打ち込むことでその悲しみを忘れようとした。
 「あなたの言う通りよ。そのせいで、息子には随分寂しい思いをさせてしまったわ。させすぎてしまった」
 お陰で、息子とマトモな関係を構築するのに随分回り道してしまったのはまた別の話。
 「だからこそ、あの子にはこの先もっと幸せになって欲しい。そうなる権利がある。だから―――」
 スッと相手を見据え、続ける。
 「もしあなたが、息子の幸せを邪魔するなら―――俺は絶対に許さない」
 怒気さえきかせたその言葉に、レイちゃんは無反応。
 この人に何を言ったところで、何をしたところで、その心に響くことは無いのかもしれない。
 「んー…わかった。わかって…ます。元々、追撃の予定は無かったし…ね」
 「暴力だけに限らず、の話。アナタ言葉責めも得意じゃない」
 「了解…かな。そうすることは、多分もう私に何のメリットも無い…し」
 本当に、彼女の心に響いていない。
 ささやかな失望と、寂しさを覚える。
 何のかんので10年以上の付き合いだと言うのに、だ。
 「それに、私も別段子供に不幸になって欲しいって思ってる…なんて訳じゃないし」
 「あら?」
 それは、少し意外だった。
 自分の旦那以外なんてどうでもいいと思っていそうなものなのに。
 「本当…だよ。三日ちゃんも二日ちゃんも、どこでどうしてるか知らないけど一日(カズ)くんも、できることなら不幸になって欲しく無い。だって―――」
 「あなた達が愛した証、だから?」
 私がそう引き継ぐと、本気で驚いた顔をされた。
 「どうして…理解(わか)ったの?」
 「なんとなく、ね。ジッサイ、子供って自分が死んでも自分がいたことを証明してくれるし」
 「それは、万里ちゃんの考え?」
 「一般論、よ」
 自分の考えとするのには、自分の考えとして引き継ぐのには、それはあまりにも重すぎる。
 色々と、思うところはあるし、それ相応の経緯もあるのだが、まぁそこまで話すことは無いだろう。
 「何にせよ、万里ちゃんが私と同じような考えしてたのは、少し不思議な気分…かな」
 「不思議な気分、ね」
 「そう、気持ち悪いとは思わないけど、さりとて嬉しいと言うほどでも…ない。不思議な…気分」
 私としては嬉しく思って欲しかった気もする。
 先ほどは物騒なことも言ったが、やはりレイちゃんとは良い関係を築きたいのだから。
 友達で、ありたいのだから。
 叶わぬ望みかもしれないけれど。
 「まぁ、重い話はこれくらいにして飲みましょうか」
 「そう…だね」
 そう言って、互いのグラスを掲げた。

220 ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23:39:48 ID:tot03qBY
 きっと、私たちの関係はこのグラスと同じなのだろう。
 完全に分かりあうことは無いけれど、ただ一点だけ、ただ一瞬だけは繋がることが出来る。
 乾杯の瞬間に触れ合うこのグラスのように。
 それが希望なのか絶望なのかは分からないけれど。
 「私たちの…愛と」
 レイちゃんの言葉を、
 「それに続く子供たちの幸せに」
 私が引き継ぎ、
 「「乾杯(トスト)!」」
 2人の声が唱和し、チン、と一瞬だけグラスがぶつかり合った。

221 ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23:41:02 ID:tot03qBY
 以上で、投下終了となります。
 お読みいただき、ありがとうございました。

222雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 23:43:56 ID:xRqnQ9Dw
GJ
次回作に期待します

223雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 23:45:08 ID:ZjBh7Llc
GJ!!
続きワッフル

224雌豚のにおい@774人目:2011/07/12(火) 23:48:25 ID:4xgkBOuU
GJGJ!
時間かぶったあっがっがっが

225雌豚のにおい@774人目:2011/07/13(水) 01:15:26 ID:.ZcRVrBM
test

226雌豚のにおい@774人目:2011/07/13(水) 10:42:29 ID:6NltqDDk
>>221
乙でしたー

227雌豚のにおい@774人目:2011/07/13(水) 11:19:28 ID:kLST2QZs
Gj面白かった

228雌豚のにおい@774人目:2011/07/13(水) 22:37:33 ID:YDhlLqq6
ほトトギす面白い

229雌豚のにおい@774人目:2011/07/13(水) 23:05:22 ID:26QZRZ.Y
a

230雌豚のにおい@774人目:2011/07/14(木) 00:13:13 ID:2lnmy4OU
GJ

231 ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:43:45 ID:N4ovkh5I
テスト

232学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:46:35 ID:N4ovkh5I
かなり時間が過ぎてますが・・・

学校の八不思議の後編が出来たので投下します。

233学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:47:57 ID:N4ovkh5I
1.シアのきもち。
「レンっ!瑞樹から聞いたよ!!本当に遠くへ行っちゃうの!?」
シアちゃんが凄い勢いで教室へ入ってきた。
入ってくるのも扉をすり抜けてくるので、心臓に悪い。
隅の席に座っている俺を見つけて、抱きついてくる。
・・・今、授業中なのに。
(シアちゃん!?何でここに?)
小声で話しかける。
「だって、レンが私達を置いて行くって聞いたから急いでここまで来たんだよ」
シアちゃんは他の生徒からは認識されていない。
あれだけ騒いでも皆は黒板の内容をノートに書き写していたり、談笑をしたりして自習の時間を過ごしている。
シアちゃんが膝の上に座る。帰る気は無いみたいだ。
「で、レンは本当に行っちゃうの?」
膝に座った状態から上目遣いで聞いてきた。
思わず、何処にも行かないと言って抱きしめたくなるが堪える。
この一年、考え続けて決めた事だから。
今の日常に満足して、居心地がいいからと甘えては駄目だ。
(あぁ、俺は東京へ行こうと思う)
自分の思いをシアちゃんにも伝える。
確かに寂しいが、まだ別れるまで半年ある。
これまで以上に楽しく過ごしてから、別れたい。
「・・・そう」
シアちゃんは目を閉じたまま動かない。
何かを考え込んでいるみたいだ。
教師の声や笑い声が教室に響く。
シアちゃんを乗せた腿が痺れだした頃、シアちゃんが口を開いた。
「やっぱりこうしないと、レンはここにずっと居てくれないのかな?」
シアちゃんが膝から降り、机の下へ潜った。
床に膝をつき、腿の間に手を伸ばしてきた。
(シアちゃん!何を・・・)
「何をすると思う?」
チャックを下げ、下着をずらされる。
「彩夏に教えてもらったんだよ」
幼い手によって、愚息が取り出される。
「これを気持ち良くすれば、レンは私だけを見てくれる様になるって」
シアちゃんはそれを両手に持ち、蕩けた顔をしながら頬ずりをしている。
「私の事しか見えなくなれば、私を置いて行くなんて言えないよね?」
そう言って笑う彼女は、今まで見たことが無い、女としての顔だった。

234学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:49:27 ID:N4ovkh5I
正しい性知識さえ無い。
そんな、無垢な少女に自分の穢れているものを撫でられている。
些細な刺激と、圧倒的な背徳感。
拙い動きに、声が出てしまいそうになる。
「あれ?彩夏の話じゃこの辺でこれが大きくなるって言ってたんだけど・・・」
(シ、シアちゃん!もう、やめてくれ!!)
首を捻っているシアちゃんに懇願する。
「やめてほしいの?でも、駄目だよ。レンを私の虜にするんだから」
刺激が強くなる。
「う〜ん、おかしいな〜おっきくならないよ。次にいっちゃおうかな」
とにかく、今は耐える。
周りに人がいるので、目立つ動きは出来ない。
もうすぐ、シアちゃんも諦めてくれる筈だ。
「はむっ」
「!?」
今まで感じなかった柔らかな感触。
咥えられ、舌で刺激を受ける。
思わず、声が零れる。
「んっ・・・やっとおっきくなってくれたね、レン。もっと気持ち良くさせてあげるね」
再び咥えられる。
ぎこちなく、ゆっくりと舐めまわされる。
「・・・んぅ・・・ちゅ・・・・・・ふぁ・・・レン、どう?」
咥えたまま、顔色を窺ってくる。
返事が出来ない。
「気持ち良さそうだね、レン。でも、我慢しなくていいよ」
片手で弄りながら嬉しそうにシアちゃんが笑っている。
再び咥えられる。
「ん・・・ふぅ・・・・・・じゅる・・・はぁ」
そろそろ、まずい。
シアちゃんは今も懸命に舐め続けている。
(シアちゃん!ま、待って・・・)
「もう・・・出るの?・・・・・・はぁ・・・いいよ・・・んっ・・・じゅ・・・」
動きに激しさが増す。
ぐい、と先端まで絞りあげられた。
腰を浮かしてしまいそうな心地よさに限界を迎える。
(・・・っ!あ、あぁ・・・)
「んんっ!?・・・んく・・・じゅる・・・こくんっ♪」
射精の勢いに驚いたシアちゃんだったが、すぐに飲み干そうと喉が動き出した。
脱力して力が入らない。
しばらくして、シアちゃんが口を離した。
「・・・っはぁ!どう?良かったでしょ?レ・・・ン?」
出ていたモノを戻し、シアちゃんの襟首を掴む。
「先生、少し体調が悪いので保健室で休んできます」
「ん?あぁ、しっかり休んでこい」
シアちゃんを持ち上げて、そのまま教室を出る。
さぁ、お説教の時間だ。

235学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:50:44 ID:N4ovkh5I
二階のトイレへ着いた。
シアちゃんと初めて会った場所だ。
近くに特別教室しか無いため、あまり人がいない。
「何でここまで連れて来たか、分かる?」
「う、うん・・・分かってるよ」
シアちゃんは顔を赤くし、もじもじしていた。
ここに連れてきた意味、本当に分かってるのかな?
「ほら・・・これで、いい?」
シアちゃんは更に顔を真っ赤にし、俯きながらスカートの両端をゆっくりと持ちあげた。
下着を履いてなく、毛も生え揃っていない未成熟な性器からは愛液が滴っていた。
・・・全然分かって無いみたいだ。
そもそも、何をシアちゃんに教えているんだ。彩夏さん。
「ここに連れて来たのはさっきの事を叱るために来たの。だから、早くスカートを戻して」
「あれ?私、別に叱られる様な事してないよ?」
悪びれも無くシアちゃんは首を傾げている。
何故叱られるのか、分からないようだ。
「こういう事するのはもっと大人になってからね」
シアちゃんの両手を掴んでスカートを下ろす。
「・・・私、子供じゃないのに」
「大人でも好きでもない男の人にこういう事しちゃ駄目だ」
精神的にまだ幼いシアちゃんに常識を教える事を一年続けている。
あまり効果は無いようだけど。
「・・・レンがそこまで鈍感だと思わなかった」
「何の事?」
「あぁ〜!もうっ!!じゃあ教えてあげる」
シアちゃんに手を引かれ、個室のトイレに座らされる。
「今度は何をする気?」
「レンが私の事しか見なくなったらって言われたんだけど・・・仕方ないよね」
シアちゃんが膝の上に乗ってきた。
顔に手が添えられる。
「何を・・・っ!?」
「レン、好きだよ」
そのまま、キスをされた。
混乱している間も、シアちゃんは一向に離そうとしない。
唇を舌でなぞられる。
我に返り、急いでシアちゃんから離れようとするが、手が動かない。
「シアちゃん!」
「幽霊だからね、こんな事もできるんだよ。どう?動けないよね?」
首から下が全く動かない。金縛りをされたみたいだ。
「もう、こんなになってる。やっぱりレンも乗り気だね」
満面の笑みを浮かべながら再び愚息を弄られる。
何とか動こうとするが、身体は座った態勢で硬直したままだ。
シアちゃんに首元を舐められる。
服を脱がされ、そのまま舌を這わせている。
呼びかけてもシアちゃんは全く耳を貸さない。
「そろそろしよっか。もう私、我慢出来なくなっちゃった・・・」
制止の言葉も口で塞がれた。
キスをしながら器用に片手で扱い、自分の性器へ合わせる。
そのままシアちゃんは腰を落とした。

236学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:51:59 ID:N4ovkh5I

「はぁっ・・・はぁっ・・・」
シアちゃんが膝から降りる。
精液がシアちゃんの腿を伝い、落ちていく。
・・・やってしまった。
体が自由になり、脱力する。
「レン、これで分かった?」
シアちゃんは満足げに覗き込む。
「レンは私だけのレンなの!」
シアちゃんが去った後も一日中、頭を抱え続けた。

2.軽率な約束。
目を閉じてピアノの音に集中をする。
軽快に奏でる明るめの楽曲。
今では暗い曲をあまり聴かなくなった。
この一年で琴音ちゃんも心を開いてくれているみたいだ。
演奏が終わる。
いつもと同じように拍手で迎える。
琴音ちゃんが恥ずかしそうにお辞儀をした。
「やっぱり琴音ちゃんの演奏はいつ聴いても感動するね」
「・・・あ、ありがとうございます」
隣に座り、頬を赤く染めながら感想を聞く琴音ちゃん。
一人で色々な事を喋り、琴音ちゃんが頷いたり笑ったりしてくれる。
平和な日常を感じられる貴重な時間。
「・・・あの」
珍しく琴音ちゃんから話しかけてきた。
「何?」
「・・・もうすぐレンさんは卒業してしまいます」
「あぁ、あと半年だね」
「・・・やっぱり寂しいです」
胸の前に手を合わせ、俯く琴音ちゃん。
「だ、大丈夫だって!時間を見つけて皆に会いに来るから!」
琴音ちゃんの手を両手で包み、目を合わせる。
「・・・本当ですか?」
「あぁ、約束する」
「・・・嬉しいです・・・でも・・・あと、もうひとつだけお願いしてもいいですか?」
「いいけど、何を?」
琴音ちゃんは更に顔を真っ赤にして深呼吸をしている。
落ち着くまで待つ。しばらくして、琴音ちゃんが顔を上げた。
「も、もしレンさんが死んでしまったら・・・ここに入って欲しいです!」
琴音ちゃんが出したのは大きめの額縁だった。
中には森林や羽ばたく鳥達が描かれた絵が飾ってある。
でも、ここに入るって何故?
「・・・私、普段はこの額縁で眠っています」
瑞樹さんも言ってたな、たしか住み心地がいいとか。
「ここに二人で住みたいです!二人で寄り添って眠って、ピアノを弾いて・・・でも、もう一人じゃないんです。傍にはいつも優しい笑顔で見守ってくれるレンさんがいて・・・ずっと、ずっと二人は一緒に幸せに暮らして・・・」
こんなに饒舌に喋る琴音ちゃんは初めて見た。
死後の世界の感覚は分からないけど、もし幽霊になったらこの学校に来ると思う。
この額縁の住みやすさとかは別としても、ここに住めばいつだって皆に会える。
「じゃあ、もし死ぬような事があったらお願いしようかな」
「・・・本当ですか!?」
琴音ちゃんがぱぁっと笑顔になった。
凄く嬉しそうな顔にこっちの顔も緩む。
「でも、まだ何十年後の話だよ」
「・・・待ちますよ。・・・時間の感じ方も違いますからあっという間です」
「そうだね、楽しみにしてるよ」
何十年も経ち、死んでしまった後にまたここで皆と楽しく過ごせる。
そんな事を考えながら気軽にした約束。


「・・・絶対に・・・離しませんから」


それから丁度、三ヶ月後の夜。
その日から俺の人生はさらに大きく狂いだす事になる。

237学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:54:08 ID:N4ovkh5I
3.少女達の暴走。
「私、考えました〜」
夜、瑞樹さんに学校へ呼び出されて鏡の前に立つ。
正直眠たい。目を擦りながら瑞樹さんの話を聞く。
「れん君は東京の大学へいっちゃうよね?」
「はい」
「それで、いずれ働きだして、いつか結婚して」
「結婚とかはまだ早いと思いますけどね」
「やがて二人の間に子供が出来ます。男の子と女の子一人ずつ。お父さんは子供の為に毎日頑張って働くの」
「いいですね。理想の家庭って感じで」
「でも、そんなの私は嫌です〜」
「まさかの全否定ですか」
「れん君を他の人に盗られたくないです。それで今日はここにれん君を呼びました」
「それで、どうしますか?」
「彩夏さんにアドバイスを貰いました〜」
「どんな内容ですか?」
シアちゃんの件もあり、彩夏さんの助言はあてにならない。
「今、れん君を殺しちゃえばもう結婚なんて出来ないし、ずっとここにいられるよね」
・・・やっぱりか。
早まった行動を取らない様に話し合わないといけないな。
「そんな事・・・」
「ねぇ?瑞樹、もういいの?」
廊下からシアちゃんの声が聞こえてきた。
足音が近づいてくる。
「私は鏡から出られないし、シアちゃんに協力してもらったの」
廊下の角を曲がり、シアちゃんの姿が見えた。
いつもと変わらない無邪気な笑顔だが、視線を下げた時に一気に目が覚めた。
「あ、レン〜」
シアちゃんが手を振る。
手に持っている包丁も一緒に揺れていた。
「ちょ、ちょっと話・・・」
「もういいよ〜!シアちゃん」
瑞樹さんが呼びかけるとシアちゃんが駆け足で向かって来た。
「痛いかもしれないけど、ごめんね、レン」
不味い。このままだとシアちゃんに刺されて死んでしまう。
後ろには瑞樹さんがいる鏡しかない。
走って来ているシアちゃんを抜けないと逃げられない。
もう、シアちゃんはかなり近くにいる。
横から逃げるのは・・・駄目だ。廊下は狭いし、何よりシアちゃんに背中を向ける事になる。今のシアちゃんに背中向けるのは危ない。シアちゃんを説得しようにも感情が高ぶるとシアちゃんは人の話を全く聞かない。後ろの瑞樹さんに何か・・・
「あぁ、考えがまとまらない!」
「レン、じゃあまたね」
シアちゃんが右手を振り上げた。
苦肉の策だが、もうこうするしかない!
シアちゃんが腹部に向かって振り下ろした包丁を右手で庇う。
「レン!?」
チクリとした痛みの後に耐え難い激痛が走る。
「う゛ぁあぁあ゛あぁあ゛ぁああ゛っ!!」
包丁は右腕に深く入り込んでいる。
痛みと出血が酷いが、なんとか包丁は奪えた。
「レンっ!中途半端に怪我すると痛いから、楽にしてあげる。早く包丁を返して」
「・・・っ!まだ・・・この世に未練があるからね・・・!」
この若さで死にたくは無い。
俺は右腕を押さえながら走り出した。

238学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:55:24 ID:N4ovkh5I
4.迷走。
シアちゃんの横を通り、階段を駆け降りる。
追って来る様子は無い。
一階に降り、昇降口へ走る。
出血が酷いからか、視界が薄れ、何度も気を失いそうになる。
昇降口に着いた。
取っ手を捻り、前に倒れる様に押し込む。
扉が開かない。
もう一度押す。
開かない。
「あ、開かない・・・!?」
「大変だね、レン。で、次はどうするの?」
振り向くとシアちゃんがすぐ後ろに立っていた。
手には新しい包丁が握られている。
「・・・くっ!」
「また逃げるの?あはは、頑張るんだね」
転がる様に走り出し、降りてきた階段を再び駆け上がる。
シアちゃんは全く動く気配が無い。
「はぁっ・・・はぁっ・・・こんなのどうやって・・・逃げるんだよ!?」
恐らく扉が開かないのもシアちゃんか瑞樹さんの仕業だろう。
閉じ込められたと考えた方がいい。
学校を逃げ回るにしたってこの怪我だ。必ず限界がくる。
どこかに隠れて朝までやり過ごすしかない。
「どこかっ・・・か、隠れる所・・・はぁっ・・・ぐっ」
痛みに耐えて廊下を走る。
右腕の感覚はもう感じない。
すぐ後ろにシアちゃんがいるかもしれない。
そう思うと足は止められず、走りながら隠れる事の出来る場所を探す。
教室は廊下から丸見えなので隠れる事が出来ない。
鏡がある所も駄目だ。瑞樹さんに見つかってしまう。
そうなると隠れるにはあそこしかない。
四階の突き当たりまで走る。
廊下まで響く軽やかな曲調。
今は琴音ちゃんの曲を聴くと安心する。
息を整え、ゆっくりと音楽室と扉を開けた。

239学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:56:08 ID:N4ovkh5I
5.死。
「・・・あ、レンさん・・・どうしたんですか!?・・・凄い怪我してます!」
ピアノの音が止み、琴音ちゃんが傍へ来てくれた。
「ちょっと色々あってね・・・隠れる所があると嬉しいけど、どこかないかな?」
「・・・そうですか・・・それならここへ・・・少し、狭いですが」
琴音ちゃんに支えてもらいながら移動する。
少し大きめのロッカーに入り、琴音ちゃんに扉を閉めてもらう。
周りに色々な楽器があるので多分物置みたいな所だろう。
息を殺して気配を窺う。
琴音ちゃんはまたピアノを弾き始めたみたいだ。
目を閉じて気分を落ち着ける。
しばらくして、ピアノの音が止まった。
「琴音ちゃん。レンを見なかった?」
シアちゃんの声だ。
「・・・いえ、ここには来ていませんが・・・」
琴音ちゃんに説明してなかったが、大体分かってくれているみたいだ。
「・・・なぜレンさんを?」
「レンってば私達を捨てて他の女と結婚するって言うんだもん。だからその前にレンも私達の仲間入りさせてあげるの」
結婚なんて遠い先の出来事の為に今、死にかけているのか。
しょうもない理由だが、瑞樹さんもシアちゃんも本気なので見つかるのは不味い。
音を出さないように気を付ける。
「・・・・・・それは許せませんね」
「だから今、レンを探してるの」
「・・・分かりました。こちらへ来たら伝えますね」
「よろしくね!じゃあ他の所を探してくる!」
扉が閉まる音を聞いたあと、息を大きく吐く。
途中、琴音ちゃんが居場所をばらさないかと心配になった。
シアちゃんが理由を説明した後、声が少し不機嫌そうになったのも気になる。
(でも琴音ちゃんは庇ってくれたな・・・)
琴音ちゃんに感謝しつつ、身体を休める。
右腕も手当てをしたのでこれ以上は酷くならないだろう。
朝まであとどれ位待てばいいのか分からない。
疲れも相まって眠気が襲ってくる。
殆ど気絶するように深く眠りについた。

外から聞こえる騒がしい音に目を覚ます。
ロッカーの中からは様子が分からないが、朝が来たらしい。
「やっと朝が来たのか・・・」
状況を理解し始めた時、暗いロッカーに光が差した。
扉を開いた女子生徒と目が合う。音楽室には朝練に来ている吹奏楽部がちらほら見える。
「ごめん、これには少し訳があって」
女生徒に声をかける。
ロッカーの中に腕が血まみれの男が入っているからかなり驚いただろうな。
声をかけたが、反応が無い。
扉を開けたまま、固まっている。
「すいません、どうかしましたか?」
数秒後、崩れ落ちる様に女子生徒が倒れた。
倒れた女子生徒に駆け寄る部員達。
「大丈夫ですか!?」
呼びかけても誰も返事をしない。
状況は読めないが、とりあえずロッカーから出る。
泣きだす人や、嘔吐をする人までいた。
気味の悪いモノでも見る様な目でこちらを見ている。
・・・いや、違う。
ずっと自分が見られていると思っていたが、彼女達の視線は後ろのロッカーを見たままだ。
視線の先へ目を向ける。
そこには、

自分の体らしきモノが、転がっていた。

「っ!?」
目の前の出来事を上手く理解が出来ない。
本当にあそこに転がっているグチャグチャに潰れた死体は自分なのか?
そもそもこの体は何だ?瑞樹さん達と同じ霊体か?
何故、こんな事になったのか。
昨日寝た後にシアちゃんに見つかり殺されたのか?
琴音ちゃんは・・・?
「・・・おはようございます。レンさん」
「うわっ!?・・・お、おはよう」
後ろから声をかけられて驚いたが、振り返ると琴音ちゃんがいた。
・・・丁度いい。今の状況を聞いておかないと。
「もしかして・・・死んじゃった?」
「はい♪死んじゃったみたいですね」
笑顔で答える琴音ちゃん。
最近よく笑ってくれるようになった。
初めて会った時の悲しそうな顔を見なくなったのは嬉しい。
でも今は嬉しさを感じる時じゃない。
「殺されたって事はシアちゃんに見つかったのか・・・でも、ここまで惨たらしく殺さなくてもいいのに・・・」
改めて死体を見る。殆ど原形を留めてない。
「そ、そうですね!?酷いですよね!」
琴音ちゃんは落ち着きが無い。いつもより話すのも速いし。
でも、琴音ちゃんのお陰で大体の状況が掴めてきた。
まだ実感は無いが、死んでしまったらしい。
自分の死体の周りに人だかりが出来始めた。
とりあえず今、出来る事は・・・

240学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:58:06 ID:N4ovkh5I
6.あの人の所為。
「犯人にお仕置きをしに行かないとな・・・」
ここまで怒ったのは久し振りだ。
何時間説教をくれてやろうか。
沸々と込み上げる怒りを抑えて歩きだした。
音楽室を出る前、琴音ちゃんに手を握られて止められる。
「・・・どこに行くんですか?」
「いや、ちょっと犯人に説教を」
「・・・そんな事どうでもいいじゃないですか。それより前にした約束を覚えてますか?」
「あぁ、そういえば、死んだらここに住むって話だったね」
まさか約束して直ぐになるとは思わなかったけど。
「・・・こっちです」
そのまま音楽準備室の奥にある絵まで誘導される。
「本当にこれに入れるの?」
「幽霊って案外自由な存在なんですよ。でも一ヶ所に愛着を持ってしまうと私や瑞樹さんの様にそこから出られなくなります」
「そ、そうなんだ・・・」
ゆっくりと手を絵に置いてみると、絵を貫通した。
中に空間があるみたいだ。勇気を出して体ごと入ってみる。
少し背筋に嫌な感覚があるが、中の空間に入れた。
「少し狭いな・・・」
絵の中は不思議な色合いをした壁らしき物に囲まれ、少し圧迫感がある。
「・・・どうですか?」
琴音ちゃんが入ってきた。
二人も入ると流石に狭い。
「ここに二人は無理なんじゃないかな?」
「・・・いえ、慣れれば大丈夫だと思います。寝る時もこうやって・・・」
琴音ちゃんに寝かされる。琴音ちゃんも抱きつく様に隣で横になる。
ちょっと近すぎる。琴音ちゃんは顔を埋めて満足そうだ。
「・・・ずっとこうしていたいです」
琴音ちゃんは嬉しそうにしている。
でも、男には少し我慢が出来そうにない態勢なので立ちあがる。
「・・・どうしました?」
「先にシアちゃんに説教をしに行く」
このままだと変な感情を琴音ちゃんに抱いてしまいそうだ。
気持ちを落ち着け、絵から出ようとする。
「・・・もう、浮気をするんですか?」
「えっ?」
「・・・駄目ですよ。レンさんはもう音楽室から出ないで下さい」
手を引かれ、また寝かされる。
「・・・約束したじゃないですか。ずっとここにいるって」
「でも、それだと皆に会えなくなる」
「・・・私がいますよ。レンさんの事をずっと離しません」
「皆と会えないのは琴音ちゃんも寂しいよ?」
「・・・私はレンさんがいればそれでいいです。・・・でも、レンさんは皆に会いたいみたいですね」
琴音ちゃんに慣れた手つきでボタンを外され、上着を脱がされる。
胸板を這う様に舌でなぞられる。
「・・・でも、安心してください。・・・すぐに私だけのレンさんになってくれます」
シアちゃんにもこんな感じでされた気がする。
「琴音ちゃんこれ、誰かに教わったりしなかった?」
「・・・んっ・・・はい。彩夏さんに教わりました」
・・・最早何も考えない。
彩夏さんが皆に余計な事を吹き込まなければ、こうならなかったなんて考えるだけ無駄だ。
きっと保健室で今の状況を考えて、にやけてるに決まってる。
とりあえず今は此処から抜け出す方法を考えないと・・・

241学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 18:59:19 ID:N4ovkh5I
7.全ての始まり。
「・・・はぁ、やっと外に出られた」
この絵の中に入ってから何日経ったのか。
少なくとも一週間は琴音ちゃんに求められ続けたと思う。
ようやく寝てくれたので隙を窺って脱出できた。
幽霊になってから時間の感覚が薄れてきた気がする。
窓に目を向ける。どうやら夕方みたいだ。
廊下を歩いていると、シアちゃんが階段を上って来た。
まだ包丁を持っているのは気になるが、探す手間が省けてよかった。
こっちを向いたシアちゃんと目が合う。
「あぁ〜〜〜〜!!レンがいた!!・・・ってあれ?」
シアちゃんは首を傾げた後、傍まで走ってきた。
身体をペタペタ触られる。
「・・・シアちゃん、どうしたの?」
「何でレン・・・死んでるの?」
「それはシアちゃんに殺されたからじゃないの?」
「私は殺してないよ。今だってレンを探してたし」
・・・話が噛み合わない。
シアちゃんでなければ誰に殺されたんだ?
「でも、これでレンとずっと一緒だ〜」
シアちゃんに抱き着かれる。
・・・細かい事はまた今度でいいか。
シアちゃんを持ち上げ肩車をする。
「レン、どこ行くの?」
「・・・保健室」
俺を殺した人は分からなくなったが、全ての原因はあの人だ。
一言文句を言わないと気が済まない。


「・・・そうね、ごめんなさい。恋する乙女達にそんな助言したらこうなるのも当然ね」
シアちゃんを連れた俺を見て、謝罪する彩夏さん。
・・・謝る気は全く無いみたいだ。謝罪は棒読みで肩が震えてるし。
「でも、死んでしまったものは仕様が無いと思わない?」
「思いませんよ。大体、誰の所為でこんな・・・」
「大事なのは今なの。レン君は今後の生き方を考えなさい」
文句の言葉を遮られた。
しかし、彩夏さんの言う事も一理ある。
・・・間接的に俺を殺した人に言われたくはないけど。
「それで?優柔不断なレン君は誰を選ぶのかしら?」
「え?」
「瑞樹、シア、琴音の事よ。結局誰の事が好きなの?」
「俺は皆好きですよ?」
頭に手を押さえる彩夏さんと頭上で大きな溜息を吐くシアちゃん。
・・・何かおかしい事でも言ったかな?
「・・・鈍感もここまでくると病気ね」
「レンのばかっ!」
シアちゃんに頭を叩かれる。
「三人ともレン君を男として愛しているのよ」
「・・・え?」
そんな筈は無い。シアちゃんとは親子の様な関係だったし、瑞樹さんと琴音ちゃんとは弟と兄みたいな関係だったはずなのに。
「・・・もしかしてレン、知らなかった?」
「全く気が付かなかった」
「あんな事までしたのに・・・」
シアちゃんが落ち込んでいる。
「ここまでレン君が鈍感だったのは予想外だったけれど、大丈夫。考えがあるわ」
「・・・?」
彩夏さんは半笑いの表情で話を続ける。
この人に意見をさせては駄目だ。
必ず被害は俺に・・・


「そうね・・・皆で鬼ごっこをしましょう」


この場にいる全員が意味を理解出来ずにいた。
その中で彩夏さんはとても嬉しそうに顔を緩めた。


いつの日か、語られるようになった。
七不思議を知り、殺された男子生徒が校舎中を駆け回っている。
彼は七不思議を知る人間を探し求めている。
七不思議を知った後、夜の校舎に入ってはいけない。
彼に見つかると何が起きるか分からないから。
月日が経ち、彼の存在は生徒の間で噂となる。

学校の八不思議として。

242学校の八不思議。 終わり  ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 19:02:24 ID:N4ovkh5I
8.学校の八不思議、後日談。

走る。
この体でも疲れは感じるみたいだ。
既に額には汗が滲んでいる。
それでも気力を振り絞り、走る。
永遠と続いていくこの遊びを終わらせるために。

あの日彩夏さんが提案した鬼ごっこのルールはやはりとんでもないものだった。

鬼ごっこルールその1:鬼はレン以外全員。

「はっ・・・はっ・・・」
「レン〜!待って〜!」
「・・・っ!シアちゃんか!」
既に悲鳴をあげている身体に鞭を打ち、スピードを上げる。
「えへへへへ、楽しいね」
「これの・・・どこが楽しいんだっ!?」
「だってレンと鬼ごっこで遊ぶの好きだもん」
「普通の鬼ごっこなら喜んで付き合ってあげるのに」
「普通のは、つまんない。この鬼ごっこにはご褒美があるから楽しいの」
・・・そのご褒美がとんでもないからこんなに逃げ回らないといけないのに。
「ねぇ、レン?次のご褒美はどんな事しようか?また1週間ずっとずっとえっちな事しようかな」
「絶対に・・・嫌だっ!」
「あぁっ!待ってよ、レン!」
振り切るように全力で走る。
廊下を走りきり、後ろを確認する。
まだシアちゃんが見えるが距離は充分ある。
曲がり角や分かれ道を使い、隠れる。
足音が遠のいていく事を確認した後、静かにその場を離れた。

ルールその2:期間は朝まで。
ルールその3:レンを捕まえた人は1週間レンの独占権を得る。

「・・・くそっ・・・はっ・・・はっ・・・」
シアちゃんから逃げ切ったのに今度はこいつか!?
人体模型が向かって来る廊下からチープな音が響く。
「楽しいな坊主!どうだ、青春を感じないか?」
「はぁ・・・こんなの青春・・・はっ・・・じゃない!」
人体模型に追われて必死に足を動かす。
ツトム自身は俺の独占権に興味が無いので音楽室から出る事の出来ない琴音ちゃんの代役らしい。
相手は疲れを知らない身体だ。
徐々に差が詰まっていく。
でも、捕まる訳にはいかない。
「・・・はぁ・・・くそっ・・・」
「いいのか?そちらに行っても無駄だぞ?」
「・・・っ!」
ツトムはもうゆっくりとこちらに向かって歩いている。
辺りを見回す。
「・・・この先は行き止まりか」
「正解だ坊主。・・・まぁ大人しく琴音の寵愛でも受けな」
「・・・」
琴音ちゃんに捕まるのは少し不味いな・・・
独占欲が強すぎてなんとか自分に依存するように調教してくる。
最近は彩夏さんまで知恵を貸しているらしく色々な手を使ってくるから厄介だ。
あれをまた一週間耐えるのは辛い。
足は自然と動く。
「おいおい逃げるなよ」
このまま逃げてもどうせ行き止まりだ。
無駄だと分かっていても後退をする。
背中に硬い感触。
あぁ、行き止まりか。
「れん君捕まえた♪」
いきなり手を掴まれる。
驚いて後ろを振り向くと大鏡に映る瑞樹さんと目が合った。
逃げる事しか考えていなかったので気が付かなかった。
ここは突き当たりに大鏡がある通路だったのか。
「やっとれん君が鏡の中へ来てくれます〜」
「・・・え?」
瑞樹さんは微笑みながら鏡の中へと手を引く。
ぞくりとした感覚の後、そのまま鏡の中へ引き摺り込まれた。

ルールその4:一度でも逃げ切れば鬼ごっこ終了。自由の身となる。

引き摺りこまれた後、瑞樹さんからの熱い抱擁。
瑞樹さんは鏡から出せるのは手までが限界だった。
こうやって触れ合うのは初めてだ。
「今まで何度、れん君をここへ引き込もうとしたか・・・私もう幸せです〜」
瑞樹さんは蕩けた顔で悦に入っている。
「れん君と一週間か〜何しようかな〜」
今、瑞樹さんは膝枕をしながら頭を撫でて非常に満足げだ。
嬉しそうに一週間の予定を相談している。
・・・瑞樹さんとは平和に一週間を過ごせそうで良かった。
心の中で安堵しつつ、瑞樹さんとの相談に応える。
「えへへ〜どうしようか?いっぱい時間はあるね。シアちゃんや琴音ちゃんとはどんな事をしたの?」
「・・・っ!?」
嫌な記憶が過ぎり、冷や汗が出てきた。
咄嗟に答えられず、言葉を濁してしまった。
そんな様子を不審に思ったのか、瑞樹さんは質問を続ける。
俺の首に手を回しながら。

「・・・・・・正直に答えて、れん君。二人とどんな事をしたの?後から皆に聞くから嘘は絶対に吐かないでね」

焦点の定まらない、眼差し。
・・・この目は知っている。
行き過ぎた愛情の先にある狂気。
「れん君は私の大切な人なの。二人には渡さない」

「ずっと一緒にいようね、れん君。この鏡の世界の中で」

何とか逃げ出さなければならない。
瑞樹さんとの長い、長いキスの後、そう思った。

243 ◆rhFJh.Bm02:2011/07/14(木) 19:03:50 ID:N4ovkh5I
投下終了です。

ありがとうございました。

244雌豚のにおい@774人目:2011/07/14(木) 20:08:02 ID:IeyF60CQ
GJ!!
終わりなのか……残念だ

245雌豚のにおい@774人目:2011/07/14(木) 20:34:39 ID:VpiZdmDo
>>242
GJ!!
久し振りの投下…夏らしいゾクッと来るヤンデレ、ありがとうございます!

246ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:26:05 ID:WeSv.w/k
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 とはいえ、今回はいつもの娘さんたちの物語ではなく。
 『ヤンデレの娘さん』の三年前、夜照学園中等部を舞台とした中編になります。
 ヤンデレな俺っ子と、その幼馴染の物語。
 『娘さん』のキャラクターもちょっとだけ(?)出張ります。
 それでは、投下させていただきます。

247ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:26:26 ID:WeSv.w/k
 「……ン、起きろよ、ゼン、千堂善人。もう朝だぜ」
 千堂善人(センドウゼント)の朝は早い。
 いや、本人としてはもう少し惰眠を貪りたいのだが、それができない理由は2つ。
 彼の通う夜照学園中等部で所属している剣道部の朝連があるのが1つ。
 そして、もう1つは、
 「いー加減起きやがれ、このネボスケ!」
 「うわぁああ!」
 ドス、と毎朝乱暴におこしに来る幼馴染がいるからだ。
 ちなみに、今現在進行形で善人の枕には竹刀が突き刺さっています。
 「相変わらず危ないよ、サク!」
 ギリギリのところで竹刀の直撃を避けた善人が見上げた先には、件の幼馴染。
 夜照学園中等部の男子制服に身を包み、竹刀を構えている、猫のように釣り目で中性的な顔立ちの―――少女。
 天野三九夜(アマノサクヤ)。
 三九夜と書いてサクヤと読むが、善人は昔からサクと呼んでいた。
 そのサクが、避けた姿勢のままの善人を見降ろして、シニカルな笑みを浮かべて言う。
 「オイオイそりゃねーだろ、ゼン。優しい優しい幼馴染であるオレちゃんが毎日健気にお前さんを起こしに来てやってるってのに」
 男勝りを通り越して、男口調だ。そうした所に加えてシニカルで毒舌家なので、付いたあだ名が『アマノジャク』。
 本人としてはそう呼ばれるのを好んではいないようだったけれど、身から出た錆だと善人は思っている。
 「その起こし方が問題だとは思わないの?」
 「起こして頂いているっつーのに、贅沢言うんじゃねぇっての」
 そんなやり取りをしながら、善人は起き上がり、登校の準備を始める。
 「あ、僕今から着替えるから」
 「ああ、着替えなよ。オレは気にしねーし」
 部屋の中で胡坐をかきながら応対する三九夜。
 まるで男の子にしか見えない姿だった。
 「出てけよ、僕が気にするんだよ」
 「つれないねぇ、幼馴染だってのに」
 「いや、一応サクって女の子だし。たまにその設定忘れそうになるけど」
 「忘れとけよ」
 「そうもいかないでしょ?」
 いつものように掛け合いをする2人。
 2人にとっては定形化したやり取りだった。
 「へいへい、分かりましたよ出て行けば良いんだろ」
 不平を言いながら、善人の部屋を出て行く三九夜。
 ようやく静かになった、と思いながら、善人は中等部の制服である黒いブレザーに着替え始めた。
 だから、三九夜が部屋を出る直前に呟いた言葉を、彼が聞くことは無かった。
 「本当に忘れちまえよ。そして、もっとオレと……私と一緒にいて欲しいよ」

248ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:27:13 ID:WeSv.w/k
 「行ってきます、ふわぁ……」
 「ンじゃぁ、行ってきます、おばさま」
 「行ってらっしゃい、サクちゃん」
 「ちょっと母さん、何でサクだけ!?」
 「「日ごろの行い」」
 「僕が一体何をしたの!?」
 2人は一緒に朝食を終えた後(昔から、なぜか三九夜は自宅ではなく千堂家で朝食をとる)、上記のようなやり取りを経て、いつものように学校へと向かう。
 「時々思うんだけど、サクは毎朝僕を起こすためじゃ無くて、ご飯を食べるためにウチに来てない?」
 「どうだかな。けど、ゼンのお袋さんのご飯は本当サイコーだよな。毎日食べても飽きる気がしねーぜ」
 「そんなにウチの親がいいのなら、ウチの子になりなさい」
 「え、マジ?なっちゃって良いの?」
 「こんな冗談に本気で喰いつくなよ……」
 なぜか、かなり真顔で詰め寄る三九夜に呆れながら、善人は大あくびをする。
 「それにしても、まだ眠いなぁ」
 「稽古が足りてねーんじゃねーの?オレはとっくに完全覚醒、英語で言うとアウェイクニングだぜ」
 「うるさいよ」
 「部長の言葉は聞いとくモンだぜ」
 「そうでした」
 この三九夜という女は口が悪くて手も出る上に、剣道部の部長なのだ。
 お陰で今も昔も善人の立場は三九夜より弱い。
 幼い頃に同じ位の時期に始めた剣道も、今では三九夜の方が強いし。
 「オハヨ!千堂くん、天野さん!」
 幼馴染に虐げられる善人に、救いの声がかけられた。
 「おはよう、冬木さん」
 鈴の音のようによく響く救いの声に、善人は心からの笑顔で応じた。
 声の主の名は、冬木二葉。
 善人と三九夜のクラスメートで、明るくかわいらしい少女だ。
 元気よく話すたびに、大きな胸がポヨンと揺れる。
 「ズイブンと上機嫌だな、ゼン」
 「そりゃあ、横暴な幼馴染からの救い主が現れたからね」
 「ズイブンと胸ばっか見てるな、ゼン」
 「……気ノセイジャアリマセンカ?」
 そんな善人と三九夜のやり取りを、クスクスと笑いながら見る二葉。
 「2人とも相変わらず仲良いね!それに朝早いね!」
 元気一杯に二葉は2人に言った。
 「べべべべべつに仲良くなんてねーよ!」
 「今朝は部活の朝連があるからね。お陰でまだ眠いよ」
 何故か挙動不審になる幼馴染をスルーし、善人は大あくび。
 「アハ!まだ朝早いもんね!千堂くんガンバリ屋さん!えらいえらい。私から花丸をあげましょう!」
 「ウワ、いらな……。ところで、そう言う冬木さんは早い時間からどうしたのさ?」
 「ちょっと早く学校行って勉強しようと思って!」
 「こんな時だけ委員長キャラになんないでよ」
 「ハハ!委員長キャラって……。千堂くんだって委員長じゃん!」
 「そうでした」
 二葉と善人は、何の因果かクラスの委員長なのだ(ちなみに、他薦)。
 同じクラスになって、ようやく一月になるかならないかというのに、親しく話しているのもそのためだった。
 「それに、早く学校来てるのはアタシらだけでも無いっぽいし!」
 二葉の言葉通り、道には夜照学園のブレザーを着た少年少女たちがチラホラと見られた。
 そうした集団からは、
 「昨日のテレビさー……」
 「ああ、話はアレだったけど役者が豪華で……」
 「部活だりー……」
 「いや、そこは頑張ろうぜ!」
 「ねぇねぇ、『放導官(ルーモア・ルーラー』の噂知ってる?」
 「『放導官』?報道官じゃなくて?」
 と、雑談する声も聞こえてくる。

249ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:27:40 ID:WeSv.w/k
 そんな生徒の一人に、二葉は胸を揺らしながら(中学生男子である善人は、どうしてもそちらに目が行く)また周囲に声をかける。
 「オハヨ!」
 「おはよう」
 二葉に声をかけられたのは鋭い目つきをした、中学生離れした長身の少年だった。
 確か、善人たちと同じクラスだったはずだが、名前は何と言っただろうか。
 善人は委員長とはいえ、クラス全員の顔と名前をまだ覚え切れていないのだ。
 「よぉ、キロトじゃねーか」
 その長身の少年に、三九夜も声をかけた。
 「やぁ、アマノジャク」
 三九夜に対して、キロトと呼ばれた長身の少年は無愛想ながらも応じた。
 「朝早くから御登校とは御苦労だな。ソンケーするぜ」
 「家に居ても、仕方ないから」
 三九夜たちの方を向くことも無く、長身の少年は短く答えた。
 「?なら何で早起きなんてしたんだ?」
 不思議そうな顔になって、三九夜は尋ねた。
 確かに、二葉のような模範的な学生や、善人たちのように部活がある者以外この時間に登校する生徒はそういまい。
 「……」
 しかし、少年はそれに答えることも無く、足早に行ってしまった。
 「アイツ、同じクラスだってのに相変わらず無愛想だぜ」
 「シャイなんじゃないかな!それに、天野さんの言い方もちびっとだけアレだったかも」
 「悪いな、委員長。オレはこーゆー言い方しかできねぇ性分なんだよ」
 「そんなこと無いんじゃないかな!」
 「そうだよ、サク」
 二葉の言葉に、善人も便乗した。
 「昔はあんなに女の子してたのに。それがなんでこんな風に……」
 「「よよよよよ」」
 おどけた口調で泣き真似をする善人と二葉。
 「うるせぇよ、手前ら!ったく誰のためだと……」
 「?何か言った?」
 途中から小声になった三九夜の言葉が聞こえず、怪訝な顔をする善人。
 「言ってねえよ!」
 そんなやり取りをしながら、3人は学校に向かった。
 不平不満を言いながらも、善人はこの賑やかなやり取りが好きだった。
 こうした関係が変わることなくずっと続いて欲しいと、強く願った。

250ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:28:58 ID:WeSv.w/k
 その後、校門の前で二葉と別れ、善人と三九夜は剣道部の剣道場に向かった。
 「何かさぁ」
 2人で歩いている間、不満げな声で三九夜が言った。
 「ベタベタしすぎてね?委員長の奴」
 「何だ、サク。さっきからかったこと根に持ってるんだ。ゴメンゴメン」
 「そうじゃねぇよ。ただよぉ、アイツ女子だってのに男子にベタつきすぎじゃねぇかって思って。幼馴染とかでもねーのに」
 どこか苛立っているようにも聞こえる、三九夜の声。
 「まぁ、委員長だからじゃないの。キロトくん、って言ったっけ?さっきの大きな男子にもフツーに話しかけてたし」
 「そういうのじゃなくてよぉ」
 「ならどういうのさ」
 「……」
 そんなことを話しているうちに、剣道場に辿りつく。
 てっきりまだ誰もいないものだと思っていたら、剣道場には意外にも1人だけ先客がいた。
 既に剣道着に着替え、素振りをしている生徒。
 善人たちよりも一つ上、3年生の先輩の1人だった。
 「おはようございます、先輩!」
 良く通る、大きな声で挨拶する三九夜。
 「おはようございます、副部長!」
 三九夜に続き、先輩に対して普通に挨拶した善人だったが、三九夜に肘でドつかれた。
 何でだ。
 「すいません、先輩。ウチのボンクラが」
 「いえいえ、僕は気にしてませんから。おはようございます、天野さん、千堂くん」
 素振りをする手を休めぬまま、副部長の先輩は穏やかに笑って答えた。
 ちなみに、この夜照学園中等部の剣道部には『部長決定戦制度』というものがある。
 学年問わず男女問わず、部内で行われるこの試合に勝利したものが部長に就任するという制度だ。
 平たく言えば、『一番強い奴が一番偉い』という制度な訳だ。
 3年生の副部長にとって後輩である三九夜が部長なのも、三九夜が先の部長決定戦で彼を倒してしまったためである。
 どうやら、そのことを三九夜は気にしているらしい。
 三九夜も今更そんな腫れ物に触るような態度をとることも無いのに、というのが善人の本音であった。
 「そんなに謝らないで下さい。僕は元々、部長の座にさほど執着があった訳でもありませんし」
 「でも、先輩……」
 「それに、僕は部長決定戦制度を、全面的に支持していましたから」
 「そう言えば、副……先輩は決定戦制度で部長になった前部長と……」
 副部長、と言おうとしたら三九夜に睨まれたので善人は言い直した。
 「ええ、熱心に指導していただいたというか、こちらから熱心にご指導仰いだというか。2年間、厳しくも熱心に面倒をみていただいたものです」
 そう語る副部長の声は、どこか弾んでいるようにも聞こえた。
 「その時からそれなりに研鑽を積んだ積もりなのですが、中々その先輩の領域には届かないものですね」
 届かないと言いつつも、そう語る先輩の眼は、善人にはむしろキラキラしているようにも見えた。
 そんな風に語るのも当然かもしれなかった。
 何代か前、この剣道部には上級生による横暴が横行していたという。
 面倒なことは全て下級生任せで、下級生がパシリのように扱われることも当り前だったという。
 女子部員に対するセクシャルハラスメント一歩手前のことも行われていたとかいなかったとか。
 年功序列を明らかに逸脱していたその所業に、我慢の限界を迎えた当時の下級生が上級生に提案したのが部長決定戦制度だったいう。
 前例も無く、体育会系の部活としては言語道断とも言える提案であったが、上級生が下級生の実力を侮っていた上に、当時の下級生の巧みな弁舌により決定戦は開始された。
 (どうやら、「下級生に上級生の実力をアピールするためのパフォーマンスですから」、「たかが下級生に上級生のお強い先輩方が負けるなんてありえないですよね?」といったことを言って相手をおだてたらしい)
 その試合で当時の上級生一同と部長を鮮やかに倒し、新部長となったのが、当時一年生だった人物。
 以降、剣道部では上級生による横暴は無くなり、部の結束はむしろ一段と強まったという。
 その時に部長となった人物の名は緋月二日先輩。
 緋月先輩はその後も3年間部長の座を守り続け、善人達も一年生の頃にお世話になっている。
 とんでもなく厳しい先輩だったが、息をのむほどに苛烈で流麗な剣を振るう女性だった。
 「実力で部長の座を手に入れた緋月先輩は、僕にとって憧れ以上の存在ですよ。まぁ、自分が奪取される側になるとは思いませんでしたけど」
 「いや、ホントすいません」
 善人に対してとは異なり、随分と殊勝な態度の三九夜だった。
 副部長の先輩は、先の部長決定戦まで、今の3年生の中では部長最有力候補だったのだ。

251ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:29:17 ID:WeSv.w/k
 「僕は本当に気にしていませんよ。先の決定戦はお互いに全力を発揮した結果でしたから」
 先の部長決定戦、見た目に似あわぬ先輩の猛攻と、袖に触れることすら許さない体捌きに、三九夜は完全に追いつめられていた。
 「まさか、あそこからサクが奇跡の大逆転をしちゃうとは思いませんでしたよね。っていうか、何でサクが勝てちゃったんでしょ」
 善人がそう言うと、なぜか、三九夜がそっぽを向き、先輩がキョトンとした顔をした。
 「何を言ってるんですか、千堂くん」
 先輩が言った。
 「あの時一番熱心に天野さんを応援していたのは君だったじゃないですか」
 「……そうでしたっけ?」
 正直、先輩の猛攻と奇跡の逆転劇ばかりが印象に残って、善人自身のことなんて覚えていなかった。
 そうでなくても、善人の記憶力は微妙に残念なのだが。
 「あの試合で天野さんが勝利できたのは、君の応援の力も大きかったからだと思いますよ」
 そんな風に言われても、善人としては困ると言うか、照れ臭いというか。
 「そうですね。善人の力が無かったら、オレはきっと部長になんてなってなかったですよ」
 先輩の言葉に、三九夜も同意した。
 そっぽを向いたままなので、その表情を見てとることはできなかったが。
 「マジな話、もう一度先輩とお手合わせして勝てるかどうか微妙なラインですしね」
 肩をすくめて、いつものシニカルな調子で三九夜が言った。
 「そうですね。もしもう一度試合をしたら、僕が勝つ―――なんてこともあるかもしれません」
 ヒュン、と先輩の竹刀が宙を鋭く切り裂いた。
 「先輩、もしかして内心すっごく悔しかったりします?」
 善人が恐る恐る聞いてみる。
 「そうですね。部長の座には未練は無いですし、天野さんは良い部長だと思っています。でも、それはそれとして、負けたこと自体は非常に悔しいですね」
 先輩は、にっこり笑顔を浮かべて言う。
 「ですから、いずれ天野さんとはもう一度お手合わせ願いたいですね。部長決定戦とか、そう言ったこととは関係なく。同じ剣士として、正々堂々、お互い全力で」
 「そうですね、その時はオレも全力でお相手させていただきます」
 先輩の言葉に、三九夜が返した。
 役職や学年といったこととは関係のない、切磋琢磨しあうライバル同士の言葉だった。
 『強敵』と書いて『とも』と読む。
 2人の姿は、善人から見ても気持ちの良いものだった。
 「さぁさ、2人とも。折角早く来たのですし、他の部員が来る前に着替えては如何ですか」
 副部長の顔に戻った先輩が、2人を促した。
 「ですね。今なら更衣室も広く使えますし」
 先輩の言葉に、善人は頷いた。
 「なぁなぁ、一緒に着替えね?」
 無駄にキラキラした目で(恐らくはからかいの眼差しだろう)、三九夜がこちらを覗き込んでくる。
 「いや、駄目だろ女の子だろ。本気で忘れそうになるけど」
 「……」
 振り向きもせずに返した彼の言葉に、三九夜がとても不満そうな顔をしていたことに、善人は気がつかなかった。

252ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:30:07 ID:WeSv.w/k
 その後の朝連が終われば、その日善人達が体を動かす機会が終わる、という訳でもない。
 放課後にはまた剣道部の活動があるし、その前にその日は体育の授業もあった。
 中等部の体育は隣同士の2クラス合同。
 体操服への着替えは、男女ごとに2クラスどちらかに移動して行う。
 その日、男子は善人のクラスで着替えることになっていた。
 「ってことは、サクたちは移動か」
 隣の席の、口も出れば手も出る幼馴染に向かって、善人は言った。
 「いや、分かっちゃいるけど、何でそれを態々言うよ」
 明らかに不満そうな顔で三九夜は言った。
 「そうしないと、またお前つまんないこと言うじゃない」
 「ってか、別に良いだろ。幼馴染同士が四六時中、着替えの時まで一緒にいるくらい」
 「良くないだろ」
 いつもに増してしつこい幼馴染に、善人はウンザリした口調で言った。
 「お前だって一応は女の子じゃないか。まぁ、本気で忘れそうになるけど」
 「別に良いんだぜぇ、忘れても」
 「ああ、忘れるね」
 定形化したやり取りとはいえ、善人もさすがにウンザリする時もある。
 善人の語調はいつの間にか少しだけキツくなっていた。
 「お前ってさ、ガサツで乱暴で男勝りで、その上冬木さんとかと比べても色気なんて欠片もないし。あーあ、本気で女の子だってこと忘れちゃいそう」
 勢いに任せて、善人は言葉を続けた。
 「太陽が北から昇る日が来たって、お前みたいなのを女性として見る男とか現れないんじゃないの?」
 それが、不味かったらしい。
 「……ンだよ」
 三九夜は、口も出なければ手も出なかった。
 代わりに、すっかり目が据わっていた。
 「マジで、マジでそう言ってんのかよ」
 ズイ、とこちらに迫ってくる。
 「何だよ何だよ何だよ。都合のいい時だけ男とか、女とか。ずりーよ、ゼン。ずるいだろ、そんなの。ずりーよずりーよずりーよずりーよずりーよずりーよずりーよずりーよずりーよずりーよずりーよずりーよ!!」
 バン、と三九夜は荒々しく制服のブレザーを脱ぎ捨てた。
 そして、引きちぎるようにネクタイを外す。
 「ちょ、ちょっとサク。止しなって!」
 「別に良いだろ。どの道、着替えるんだからよ」
 そして、三九夜はワイシャツのボタンを1つずつ外していく。
 周りの男子生徒達がざわめく声が聞こえる。
 「そのついでに教えてやるよ、オレが女だってこと。イヤって程な」
 ワイシャツの間から、意外と女の子らしいパステルブルーの下着がチラリと見え、幼馴染相手だと言うのにドギマギしてしまう善人。
 いや、それよりも、こんなに騒いだらクラスの連中(特に男子!)の注目の的になる、というよりなっている!
 と、善人が思った時には既に壁ができていた。
 長身の少年が、他の生徒たちから三九夜と善人を隠すように彼らの前に立っていたのだ。
 確か、今朝三九夜にキロトと呼ばれていた長身の少年だ。
 「わかったよ、サク。お前が女の子だって十分わかったから胸のボタン閉じてよ、恥ずかしいから!」
 三九夜の下着から目をそらしながら、善人は言った。
 「わかったンだな、本当に」
 「わかった。わかったから早く!!」
 その言葉に不承不承といった風に従い、ワイシャツのボタンを閉じる三九夜。
 一瞬とはいえ下着を見た後だと、そうした仕草さえ艶めかしく見えてしまう。
 善人は、自分が中学生男子であることをこの時ほど呪ったことは無かった。
 「……悪い。オレもカッとなってた」
 それだけ言って、三九夜は着替えを持って隣のクラスに移動した。
 それにホッと胸を撫で下ろす善人。
 「あー、良かった」
 まさか、あの幼馴染があんな行動に出るとは思わなかったし、自分があんなにドキドキさせられるとは思わなかった。
 自分も思春期の男子ということだろうか。

253ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:30:24 ID:WeSv.w/k
 「ありがとう。ええっと……キロトくん」
 今の今まで善人たち、というより服を脱ぎかけだった三九夜の姿を隠してくれていた少年(本名は知らない)に礼を言う善人。
 もし、彼が隠してくれなかったら、三九夜の姿は男子一同の下トークのネタになっていたことだろう。
 善人が女として意識したことも無い三九夜が、同学年男子の好色の対象になると思うと、なぜかこれ以上ない嫌悪感を覚える善人である。
 「そういうのいらない。俺はただ、ウザイと思っただけだ」
 振り向きもせず、冷たく返す長身の少年。
 「ええっと、それってやっぱり僕らが?それとも僕らを見るみんなが?」
 「見てた奴ら、どちらかと言えば」
 「そ、そう……」
 愛想が無く、ともすれば剣呑にも聞こえる言葉なので、怒っているのか、それが普通なのか分かりづらかった。
 とは言え、女子の移動は終わったので、善人や長身の少年は着替えを始めた。
 「千堂」
 着替えが終わる頃、唐突に長身の少年は言った。
 「何?」
 「天野さんって、君の何?」
 先ほどと変わらぬ調子の言葉だったが、なぜか善人はドキリとした。
 「幼馴染だよ、僕の。昔っから一緒に遊んでた、腐れ縁の幼馴染」
 「そうか」
 短く答える、長身の少年。
 その言葉から内心を窺い知ることはできない。
 ただ、
 「……良いな」
 と、少年が呟いたのが、善人には妙に印象に残っていた。

254ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:30:45 ID:WeSv.w/k
 クラスでキロトという仇名呼ばれるその長身の少年は、恋をしている。
 初恋である。
 それは、少年自身にも制御できないほど、心の奥で暴れている感情で。
 どうすれば良いのか、どう行動すれば良いのか、どう表現して良いのか、何一つ分からないほどに強い感情だった。
 「はふー」
 と、放課後の生徒会室で、少年はため息を吐いた。
 「どしたの、庶務ちゃん。恋煩い?」
 生徒会の庶務を務めている長身の少年のため息に、生徒会長である一原百合子が絡んできた。
 ちなみに、生徒会で少年がキロトと呼ばれることは無い。
 本人としては故あってあまり呼ばれたくは無い仇名なので、生徒会では本名か役職で呼ばれることが多かった。
 ともあれ、元気過ぎて時々ウザくなる会長の言葉に、
 「関係無いです」
 と少年はいつもに増して無愛想に返した。
 大体、一応今は生徒会としての作業中なのに、雑談とかどうなのだろう。ここではかなり今さらではあったが。
 「ひどい!関係無いなんて!」
 余計大げさに返す会長だが、一応は傷ついているようだったので、
 「恋煩いとは関係無い、という意味です」
 と補足した。
 「なーんだ、残念」
 かなり本気で残念そうな百合子。
 「先輩」
 「何、庶務ちゃん」
 手を動かしながら、少年は百合子に聞いた。
 「千堂善人と天野三九夜さんって、知ってますか」
 いつもとても楽しそうなやり取りをしている2人のクラスメートの名前を出した。
 「アー、ソイツらって」
 「毒舌コンビだよねー」
 少年の言葉に反応したのは、百合子ではなく少年と同学年の2人の生徒だった。
 2人とも彼と同じく生徒会役員。
 1年生の時は、双方ともこの長身の少年と同じクラスだった。
 「「毒舌コンビ?」」
 その名を知らなかった少年と百合子は、オウム返しに聞き返した。
 言ってから、ハモッてしまったことに複雑な顔をする2人。
 ついでに、副会長である氷室雨氷先輩が2人に対して複雑な顔をしてきた。
 「誰だってそう言うー。ボクだってそう言うー」
 生徒の片方が、糸のように目を細めて笑いながら言った。
 「何か幼馴染同士らしいンだがよ。アマノジャクこと天野の方の口の悪さばっかクローズアップされっけど、相方の千堂の奴も相当なモンでな」
 「それでー、ついた仇名が毒舌コンビ。ってカンジだよねー」
 「だな。まー本人たちはそんな風に呼ばれてるなんて知らねーだろうがな」
 「やっぱさー、幼馴染同士だと似てくるものなのかな、はやまー」
 「何でそれを俺に言うンだよ。って言うか、そのイントネーションはどうよ、『はやまー』って」
 「えー、はやまーははやまーじゃん。誰だってそう言うー。ボクだってそう言うー」
 「確かにクラスで呼んでる奴いるけどよ……。お前はいつもそうだよな。空気読んでんだか、流されてるんだか」
 「ウン、ボク流されてるー」
 はやまー、もとい葉山正樹の言葉に、ケラケラと笑うもう片方。
 「良いわね、はやまー。生徒会でも流行らせようかしら」
 「いやいいッスよ。むしろ、仇名がいるのはコイツじゃねーですか。キロトってのがヤなら、それを上回るくらいのマジ伝説的(レジェンド)な仇名を考えてやらねーと」
 長身の少年の方を示す葉山
 「そんな仇名作ったら、俺、葉山のことをマジ王様級(キング)な仇名で呼んでやる」
 「それはそれで楽しみなよーな怖いよーな……」
 「じゃあさ、ボクはボクはー?」
 「何か、最高にマジ熱いの考えてみる」
 「きゃっほー、キミってマジ魔神だねー(棒読み)」
 「ウン、頑張るから」
 そう言う少年の言葉には、どこか嬉しげな響きがあったが、相手はそれに気が付いているのかいないのか。
 「カオスなことになりそうだな、生徒会」
 2人のトークに、苦笑する正樹。
 「でも、庶務ちゃん。なんで急にその毒舌コンビさんたちのことなんて?」
 百合子の言葉に、少し考え込む少年。
 「別に。ただ、良いなって思っただけ」
 そして、少年は、そう答えた。

255ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:31:02 ID:WeSv.w/k
 少年は、恋をしている。
 どうすれば良いのかどう行動すれば良いのかどう表現して良いのか、何一つ分からないほどに激しく渦巻いている感情。
 その想いを向ける相手とは――――

256ヤンオレの娘さん 第一回戦 しにかる・しざーりお  ◆3hOWRho8lI:2011/07/14(木) 21:31:34 ID:WeSv.w/k
 以上で投下終了になります。
 お読みいただきありがとうございました。

257雌豚のにおい@774人目:2011/07/14(木) 22:18:35 ID:yrlkDlqs
文字ぎっしりだったからちょっと目が痛くなったけど、面白かった乙。

258雌豚のにおい@774人目:2011/07/15(金) 10:17:24 ID:WIHSQrzI
>>256
乙です

259雌豚のにおい@774人目:2011/07/15(金) 15:53:56 ID:/AX9IEVE
GJ!!

260ヤンデル生活 第1話 あの日あの時:2011/07/16(土) 17:24:06 ID:bl9R0jCI

初投稿です。至らないところも多々あると思いますが、お手柔らかにお願いします。


俺と妹は子供のころから仲が良かった。いや、普通の人より仲が良かったんだろうと思う。

妹はずっと俺にくっついてきた。仲が良すぎて恋人に間違われたこともあった。けど、俺が中学に入ったばっかりの日。

妹とは別々に登校することになった時、妹は尋常じゃないほどに泣いた。

今まで、何もわがままを言わなかった妹が急に、離れたくないといって俺の袖をつかんで離さない。

学校が別々になるだけだ、別に一生別々になるわけじゃない。そういったけど・・・

「それだけじゃ足りない。」

そして、俺は妹の言葉に耳を疑った。

「お兄ちゃんのことが好きなの。兄弟としてじゃなく、一人の人として。」

俺は意味が分からなかった。どういう意味だ?つまり、妹は俺を兄としてじゃなく、恋人としてみている?

その言葉を聞いたとき、何の免疫も持たなかった中学生になったばかりの俺はドン引きしてしまった。

それから、泣きじゃくる妹を母親が説得し、その日は何とかなった。けど、すべてはこの日から始まっていたのかもしれない。
 

 それから、俺は妹と距離をとるようになった。なんとなく、妹を避けた。いや、なんとなくじゃない。

よくわからないが、勘のようなものが働いたような、よくわからない気持ちの悪い危険のようなものを感じている感じだ。

毎日妹は俺にべったりくっついてきたが、俺はそれを避けるようにしていた。

毎日一緒に寝ていた寝室も、中学生だからという理由で別々にしてもらった。

その時の、悲しそうな妹の顔が今でも頭から離れない。よく考えてみれば、あんなに仲が良かったんだ。妹から禁断の告白を受けたからといって、すぐに嫌いになれるわけがない。

けど、子供ながらに感じていたいけないという認識が、俺を何とか支えていた。

これは、いけないんだ。兄弟同士で愛し合うなんて。

それから、1年たった。あれから、妹を避けるようにしてきたせいかほとんど話していない。中学の進路のこともきいていない。

俺は久しぶりに、妹に中学の進路を聞こうと思った。すると、妹は俺のことを無視してどっかにいってしまった。

仕方ないといえば仕方ない。俺は妹を散々避けてきた。妹は、俺よりも全然頭が良かった。いや、並みの人より全然よかった。

まあ、妹ならどこにでもいけるだろう。
 
 4月、春休みが明けて新学期が始まった。相変わらず、妹がどこの中学に行ったか分からない。

俺は、悪友というか、腐れ縁の友達、つかさと話をしていた。

また一緒のクラスかよ、なんてお互言い合っていたが嬉しがっているのは、だれが見ても明らかだ。

新入生の紹介が午後から体育館で行われることになった。

興味がなかったが、噂ではめちゃくちゃかわいい子が入ってきたそうだ。

そういわれると、気にするなというほうが無理だ。いくら聖人ぶっても男は男だ。興味がないわけがない。

さっそく、午後になると俺たちは期待を膨らませて体育館に向かった。

そして、新入生の紹介が始まった。

「あの子すげぇ可愛いぞ!」

という声が、彼方此方で聞こえた。

俺は声のするほうを見て、どこを見ているのか探ろうとした。

「そこじゃねぇよ!こっちだ!」

とつかさが俺の方を見て指をさした。

確かに、そこには一際めだっている女子がいた。かなりスレンダーで胸も中学生の割にはあるし、なにより顔がかわいかった。

普通ならそこで、興奮するところがおれは凍り付いてしまった。

それは、俺の妹だからだ。

261ヤンデル生活 第1話 あの日あの時:2011/07/16(土) 17:29:38 ID:bl9R0jCI
「あの子、すげぇな!よし、声掛けに行こうぜ!」

と、つかさが俺に言ってきたが俺には全然周りの声が聞こえなかった。

「なんで・・・。」

俺は唖然としていた。

妹はきょろきょろとあたりを見回していた。

そして、こっちを見ると俺とわかったのかわざとらしく顔を、にこっとした。
 
 それから、俺と妹は2年間中学で一緒だった。

妹が、中学に入って3ヶ月ごろったったくらいから女子から避けられるようになった。

別に、モテるほどかっこよくもないが避けられるようなことをした覚えはない。

避けられていたのは、俺だけじゃなくつかさも俺と同じように避けられた。

女運がないのか?と、最初は二人で気にしていなかったがやっぱり不自然だ。

ある日、放課後、校門の前に妹がいた。

もしかして、俺を待っている?いや、いくらなんでもそれは・・・。

俺は警戒しながら、校門を出ようとした。

すると、おーいと声が聞こえた。

それは、1年の女子でまっすぐ妹のほうにむかっていった。

「ごめん!すずまった〜?」

「うんん。全然、今来たとこ。」

妹には、もう友達ができていたようだ。俺も考えすぎだな。

俺はほっと胸を撫で下ろした。

 下校途中、俺は家までもうすぐ着くというところで足音が不自然なことに気付く。

足音が二重に聞こえる。

とっさに、後ろを振り向くがそこには誰もいなかった。

気のせいか。俺は歩き出す、けど途中でまた聞こえる。

後ろを振り向いた。誰もいない。足音も聞こえない。

気のせいか?

それから毎日、この奇妙な足音は聞こえ続けた。

 中学卒業の春。

俺とつかさは、無事同じ高校に入学できた。

中学3年間は妹が入学してきたことと、なぜか女子に嫌われるようになったこと以外、平和な日々だった。

下校の時に聞こえる謎の足音も、途中から気にならなくなっていた。

そして、妹が中学に入ってしばらくしてから今まで避けていた妹とも話をするようになった。また元のという風にはいかないけど、普通の兄弟並みに仲は戻ったと思う。

たまに、一緒に寝ようといわれることもあったけど・・・。
 

「高校までお前と一緒かよ。先が思いやられるぜ。」

「それは、こっちのセリフだ。」

笑いあいながら、俺とつかさは、お互いの入学を祝っていた。

「あっ・・とごめん。用事ができた。」

あわてて、つかさは携帯画面を見ながらそう言った。

「どうしたんだよ。なんかあったのか?」

「妹がな、俺に会いたいそうなんだ。」

「お前・・・もしかして、シスコン・・・?」

「うっせぇ!!明日覚悟しろよ。」

そういって、あいつは走っていった。何気ない一日だった。

次の日つかさは、亡くなった。

262ヤンデル生活 第1話 あの日あの時:2011/07/16(土) 17:33:55 ID:bl9R0jCI
いや、殺された。つかさの妹に。

 殺害動機は自分の兄を独り占めしたかったから、らしい。

ほかの女子から、避けられていたのもその妹のせいらしい。

その他にも、いろいろとやられていたみたいだが詳しいことはわからない。

まさか信じられない。

どうして・・・。

そして、俺も女子から避けられていた。

まさか・・。

もしかして、背後からつけていたのは・・・。

「可哀そうだね・・お兄ちゃんの友達。」

そう、妹は言った。

「私だったらこうはしないな。絶対に・・。」

そういった妹の目は、どこか遠くを見ているような虚ろな目だった。

 無情にも、入学式は近づいてくる。

俺はさすがに入学おめでとうと歓迎モードの空気になじめずにいた。

「え〜次に、特別に飛び級で入学された生徒を紹介します。」

そういって、俺たちより1年か2年若い生徒が入ってきた。

ここは、進学校でも有名な高校でもないのに、わざわざ飛び級するなんて。

そんな疑問は、次の瞬間吹っ飛んだ。

「ええでは、赤木すずさんどうぞ前へ。」

そこからすべては始まった。




「では、新しく高校生になったみんなに一人ずつ自己紹介してもらう。では出席番号1番、柴田まりさんから。」

 高校1年の初めてのホームルーム。べたな展開だけど、まあ悪くはない。

担任の先生の名前は有田一徹。性格はさわやかという感じで、名前はちょっと古い感じだけど。

それから一人ずつ、自己紹介が始まった。クラスの雰囲気は悪くない。

むしろ明るい雰囲気のいいクラスだ。

けど、俺には気がかりなことがある。妹だ。

「次、赤木 九鷹(くだか)君、自己紹介をお願いします。」

自己紹介なんかできる気分じゃ全然なかった俺は簡単に自己紹介をすました。

「赤木九鷹です。よろしくお願いします。」

 それから、いろいろと話があったりしたが俺の耳には一切入ってこなかった。

妹のことが気になっていたからだ。

昼休み、俺は妹を探して回った。

すると後ろから、お兄ちゃんという声が聞こえたので振り向いたらそこに妹がいた。

どうやら、妹も俺のことを探していたみたいだ。

「お兄ちゃんやっと見つけた。もう、教室にいってもいないから心配したよっ。」

 そういって、さりげなく俺の手を触ってきた。

俺は妹の手をふりほどいていった。

「どうして・・・飛び級してまで・・。」

俺の声を遮るように妹はこういった。

「お兄ちゃんとの約束をかなえるためだよ。」

どういう意味だ?約束?そんな覚えはない。そんな覚えは・・・。

「どういう・・。」

「あっ、もうそろそろ時間だね。じゃあまたね!お兄ちゃん。」

そういうと妹は足早に去って行った。

263ヤンデル生活 第1話 あの日あの時:2011/07/16(土) 17:35:50 ID:bl9R0jCI

投下終了です。読んで楽しんでいただければ幸いです。

264雌豚のにおい@774人目:2011/07/16(土) 17:43:17 ID:Q2Ecc0P6
GJ
これは期待だ。頑張ってくれ

265雌豚のにおい@774人目:2011/07/16(土) 18:55:05 ID:0YDEunu.
GJ!
次も頑張ってくれ!

266雌豚のにおい@774人目:2011/07/16(土) 18:59:28 ID:5eR5LIug
GJ!
ここで投下初めてなら>>1の注意よく読んで下さいね。特にレイプ・NTRなど出す場合は注意書きお願いしますね

267雌豚のにおい@774人目:2011/07/16(土) 19:26:13 ID:S6V/1OSQ
行間を空けるのは控えめにしたほうがいいかもしれませんね

しかしこれがキモウトを持つ兄貴の運命か…
個人的に大好きなシチュなので続きも期待

268ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:36:09 ID:MiGcIaww
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 第二話、投下させていただきます。

269ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:37:01 ID:MiGcIaww
 「胴…!」
 パァン、という高らかな打ち込みの音と主に、彼の体に防具を通り越して体を分断されるような衝撃が走る。
 彼―――夜照学園中等部の剣道部副部長を務めるその少年は、左胴を押さえながら膝を付き、対戦相手を見上げた。
 対戦相手―――副部長にとってかつての先輩であり、現在は夜照学園高等部の方の剣道部に所属する少女、緋月二日は横の審判役を見る。
 「…一本」
 「声が小さい…!」
 「…一本!」
 二日の鋭い声に、審判役の少女は一息遅れながらも、ほんの少しだけ声を大きくして言った。
 もっとも、ここは緋月家の敷地内にあるスペース。
 副部長と二日、それに審判役の少女がいるだけなのだから、実のところ形式にこだわる理由はあまりない。
 それでも実際の試合に少しでも近い形式で行っているのは、副部長が技術向上を望んでいるからに他ならない。
 副部長は二日に頼み込んで、こうしてしばしば指導を受けているのだ。
 「すみませんね…私の妹が無能で…」
 嘆息しながら、独特の囁くような声で二日は言った。
 「いえ、そんなことは」
 かぶりを振る副部長。
 審判役の少女は、二日先輩の妹だと言う。
 真っ黒な和服に、肩より少し上で切り揃えられた真っ黒な髪、瞳もまた黒曜石のように黒く、それと対照的に肌は病的なまでに白い。
 そんな少女が、美しい正座の形で、道場の中でただ一人微動だにせずいた。
 挙動は、微動だにせず、感情さえ、微動だにせず。
 まるで日本人形のようだと副部長は思った。
 「全くこの娘…もう病室に縛られる生活に戻る訳にもいかないというのに…」
 聞えよがしに嘆息する二日。
 剣道のみならず家族にもスパルタのようだと副部長は内心苦笑した。
 「まあまあ。こちらは、無理を言って指導を承っている身ですし、そこまでは……」
 両者を取り成す副部長。
 それに、「まぁ良いでしょう…」と視線を副部長に戻す二日。
 「それにしても、そんなに悔しかったのですか…?その天野とか言う後輩に負けたことが…」
 「そうですね……」
 膝を付いた姿勢のまま(未だ痛みが抜けないのだ)、二日を見上げる副部長。
 「それもありますが、それよりも先輩にまたお会いしたかった、というのが一番ですね」
 そう語る副部長の瞳は、どこか熱を帯びていた。
 「お止めなさい…、そう言うことは…」
 その熱を感じているのかいないのか、彼から目をそらして二日は言った。
 「言ったはずです…、私には生涯の愛を誓った相手がいると…。あなたが入る隙が無いほどに、その方を愛していると…」
 「ええ、そうでしたね」
 副部長はようやく立ち上がり、互いに一礼。
 互いに面を外すと、物腰柔らかさを感じさせる細面の副部長の前に、まっ白な肌の大和撫子然とした美少女の顔が現れる。
 未だに痛みが顔に出ている副部長とは対照的に疲れの色1つ見せない二日に、副部長は改めて尊敬と慕情を感じる。
 「けれども、僕はそんなあなたの苛烈さに惹かれたのだと思います。だから、どうにも未練がましくなってしまうようですね」
 「何と女々しい…と言いたい所ですが、確かにそうですね…」
 嘆息する二日。

270ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:38:25 ID:MiGcIaww
 「人を愛する心を、そう簡単に割り切れたら苦労しません…」
 その言葉は副部長に対して脈がある、と言う意味では無いのだろう。
 それは、彼自身が誰よりも知っている。
 もしかしたら、二日としても思うところがあるのかもしれない。
 「詳しくは存じ上げませんが応援していますよ、緋月先輩の想いを」
 「ありがとうございます、とは言っておきます…」
 副部長の言葉に、笑み1つ浮かべずに応じる二日。
 「…人を、愛する、想い」
 正座を崩さぬまま、二日の妹が口を開いた。
 「…どうして、そんな想いを持てるのですか。…どうして、そんな想いを抱けるのですか」
 虚空を見つめたまま、無感情に言葉を紡ぐ。
 「…病院でも、学校でも皆、他の人のことなんてどうでもよくて。…誰も、私のことなんて気にしないで」
 誰に対してと言う訳でもなく、弱々しい声で言葉を紡ぐ。
 「…きっと、わたしがこの世で頼れるのはお兄ちゃんただ一人」
 「脆弱…」
 妹の言葉を、姉は切って捨てた。
 「そんな発想は捨てなさい…。誰かに気にして欲しい、構って欲しい、愛して欲しいと願うのなら、その為に自分のできるあらゆる手管を手段を選ばず講じなさい…!全てを捨てて、全てのリスクを背負ってそう努力するしかないんです…!」
 苛烈な叱咤激励を、二日は妹に叩きつける。
 「…それでも、それが叶わなければ」
 妹の言葉に複雑な顔をする二日。
 「その時は、盛大に壊れるしか無いのでしょうね…」
 ため息交じりにそう言う二日。
 「そんなことより、早く着替えましょう…。お茶を用意しますから…」
 「ありがとうございます」
 二日と副部長は、道場の出口に歩きだす。
 「あなたも、いつまでも座ってないで立ちなさい…」
 扉の前で、二日は振り返って妹に言った。
 妹は、微動だにしないまま答える。
 「…足が、痺れました」

271ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:40:29 ID:MiGcIaww
 そんなやり取りとは関係なく、数日後…
 「やほー、千堂くん!一緒にお弁当食べよう!?」
 その日の昼食の折、千堂善人と同じくクラス委員長である冬木二葉が元気よく声をかけてきた。
 「ああ、食べる食べる」
 と、ナチュラルに二葉の席へ移動しようとする善人だったが。
 「お前はこっちだろうが」
 と、隣の席にいる乱暴な幼馴染に耳を引っ張られてホールド。
 自分の席に座らされそうになる。
 「痛い痛い痛いって!離してよ、サク!」
 「手前の立ち位置が分かればな」
 「立ち位置?」
 「ンなコトもわかんねーのか?」
 「まさか下僕!?」
 「フン!」
 「あばばばば!」
 理不尽な鉄拳制裁を食らう善人。
 「2人ともホントに仲良いよね!」
 笑いながら(同時に胸を揺らしながら)そう言う二葉。
 「どこをどう見たらそう見えるのさ」
 「ホラ、いつも一緒にお弁当食べてるし!」
 「そう言えば」
 昔から、昼食は当り前のように三九夜と一緒に食べていた。
 そう言うものだと今まで善人は気にしたことも無かったが。
 「善人はオレちゃんと一生死ぬまで一緒にお昼を食べるモンだって、法律で決められてるンだよ」
 「いつの間にそんな法律が!?」
 「あ、破ったら死刑な」
 「軽く極刑言うなよ!?」
 相変わらず横暴な幼馴染だった。
 「じゃあさじゃあさ、天野さんも一緒にご飯食べよ!3人で食べよ!そしたらほーりつ違反にはならないよね!」
 「ゥグ……」
 二葉の言葉に言い返せない三九夜。
 「そうだね、たまには良いかもしれないな」
 三九夜の了解を待つ前に、トントン拍子で話が進んでいく。
 軽く彼女の意思を無視している気がするが、いつもは三九夜の方が善人を従わせているのだから、たまにはこういうのも良いだろうと彼は思った。
 「と、折角人数を増やしたんだし……」
 と、そう言って、二葉は教室を見まわした。
 視線の先には、近くで1人弁当を広げようとしている長身の少年―――通称キロトの姿が。
 「ねぇねぇ、xxくん!私や千堂くん達と一緒にご飯食べよう?」
 長身の少年に近づき、食事に誘う二葉。
 キロトの本名を呼んでいたようだが、ざわめく教室内では善人にソレを聞き取ることはできなかった。
 そう言えば結局キロトの本名は何だったろうか。
 今度誰かに聞いてみようと、善人は思った。
 「別にいい」
 二葉に誘われた少年は、そう短く答えた。
 「オッケー、分かった!」
 そう言って、強引にこちらにつれて行こうとする二葉。
 「別にいい、って言った」
 引っ張られながらそう言う長身の少年。
 「『別にいい』ってことは『一緒に食べても、別にいい』って意味だよね!」
 「……」
 二葉の言葉に、何も言い返せない少年。
 言われるがままに引っ張られ、善人、三九夜、二葉、長身の少年(通称:キロト)の四人の席がくっつく。
 「いただきます」
 「いただきます、千堂のおばさん」
 「いっただきまーす!」
 「いただきます」
 めいめいに手を合わせ、弁当を開く。
 「じゃっじゃじゃーん!たまには自分で作ってみましたー!」
 そう言って、二葉が開いた弁当は、色とりどりのサラダや炒め物が入った、彼女らしい明るい色彩の弁当だった。
 「へぇ、意外と上手なもんじゃない」
 二葉の弁当箱を覗き込んで、善人が言った。
 「まぁ、アレだね!料理と言えば女子の必須スキルだしね!」
 えへん、と大きな胸を張る二葉。
 「女子の必須スキルだそうだよ、サク」
 「何が言いてぇのかサッパリわかんねーな、ゼン」
 そんな掛け合いをしながら開いた善人と三九夜の弁当は、ほとんど全く同じ内容だった。
 ご飯に煮物、焼き魚の入った由緒正しき日本の食卓の縮図がそこにあった。
 「ウワ、おそろいだ!」
 「カップル?」
 それを見た二葉とキロトがそれぞれの感想を漏らす。
 「カカカカップルじゃねーし!」
 「サク、どもりすぎ」
 なぜか挙動不審になる幼馴染を落ち着かせ、善人が2人に説明する。
 「ウチの母さん、気前良いことに幼馴染のサクの分まで作ってくれてるんだよ。それで、残り物を弁当に詰めたりすることが多いから、自然と同じになることが多いんだ」
 「なるほどね!」
 「ウチでも良く使う手」
 納得する2人。
 それにしても、キロトと呼ばれる少年は思っていたより話すようだ。
 面白いことも言えるようだし、見た目ほど怖い奴ではないのかもしれないと、善人は思った。
 「それで、キロトくんの弁当は?」
 善人の言葉に、長身の少年は無言で弁当箱を開いた。

272ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:40:59 ID:MiGcIaww
 「ウワ」
 「マジ、かよ」
 「すっごい……」
 キロトの弁当は洋食だった。
 ピラフにトマトソースのペンネ、それに小ぶりのハンバーグ。
 恐らくは全て手作りで、それも素人目にも分かるほど一つ一つが丁寧に作られていて、視るだけで食欲をそそられる。
 「俺の弁当、変か?」
 「「「変じゃ無い!すっごく美味し(うま)そう!」」」
 キロトの言葉に、三人の返事が唱和した。
 「美味そうなのは、見た目だけかも」
 「とてもそうは見えないよ」
 自然とキロトの弁当に箸を伸ばしてしまう善人。
 「食べたい?」
 「うわ、ゴメン!」
 箸を離し、思わず謝った善人だが、キロトは首を振った。
 「俺は別にいい。ただ、俺の食べる物が無くなるのは少々困る」
 「なら、トレードだね!私の野菜炒めあげるから、このハンバーグもらって良い!?」
 「冬木さんズルい!それ、僕も狙ってたのに!」
 「三個詰めてきた。ちょうど、皆の分になるはず」
 「ンじゃあ、遠慮なくトレードさせてもらおうぜ」
 「ご飯粒一個と、とか言うなよ、サク」
 「ゼン、お前このオレちゃんを何だと思ってるんだよ……」
 「うっわ、このハンバーグ本当に美味しい。ホッペタが落ちそう!」
 「へぇ、中にソースが入ってるんだ」
 「凝ってるなぁ、オイ。弁当にココまでするかフツー?」
 トレードを行い、口々に感想を漏らす3人。
 「夕飯の残りを、適当に詰めてきただけ」
 それに対して、俯くキロト。
 彼の弁当箱は野菜いためや煮物などが入り、統一感が思いっきり無くなっていた。
 「本当にお店で出しても良いレベルだよ、これ」
 ハンバーグの味をかみしめながら、善人は言った。
 「もしかして、キロトくんのお母さんって元コックさんとかそう言うの?」
 「……」
 その何気ない言葉に、少年は答えることなく無言で箸を動かした。

273ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:41:15 ID:MiGcIaww
 その昼食は、三九夜にとって有意義な時間になった。
 食事はいつも以上に美味だったし、善人とよく話せた。
 しかし、である。
 気に食わないことが1つだけ。
 いや、正確には1人だけ。
 冬木双葉の存在である。
 『アイツ、何かにつけてゼンにベタベタして』
 食事の時間中も何かにつけて善人に話しかけるは近づくは、トレードを要求するはと、何かと馴れ馴れしく接していた。
 実のところ、キロトの弁当の話題で盛り上がったのは最初だけで、それ以降二葉は専ら善人に絡んでいた。
 『ゼンはオレの物だって言うのに。オレの、物……?』
 三九夜はそう思っているが、善人の方はどう思っているのだろうか。
 三九夜にとって、善人は絶対だった。
 絶対と言って良いほどに、大切で、かけがえが無くて―――大好きで。
 別に、そう感じるような劇的な体験があったという訳ではない。
 ただ、一緒にいて欲しい時に一緒にいてくれた。
 そんなささやかな時間の積み重ねが、善人に対する三九夜の想いの積み重ねとなっていた。
 そして、気が付いたら、彼を異性として意識するようになっていた。
 好きになっていたのだ。
 だから、一分一秒でも長く彼と一緒に居られる時間が長くなるように努力を続けていた。
 『今思うと、正直空回りしてた感もあるけど』
 剣道を始めたのも、元々は剣道の稽古に彼といる時間を取られたくなかったから。
 男口調を始めたのも、妙に性別の違いを意識する歳になった頃に距離を取られたくなかったから。
 どうもその結果が裏目にしか出ていない気がするが、仕方が無い。
 今更昔のように戻す訳にもいかないし、そんなことをしてもさほど効果があるとも思えない。
 精々、善人の目が点になるのがオチだろう。
 三九夜としては、そう言う面白い顔の善人を見てみたい気もしないではないのだが。
 そんなことを想いながら、放課後。
 「よぉ、剣道部のゼン部員。部長命令だ、一緒に部活行こうぜぇ!」
 いつものごとく素直になれない口調で、三九夜は善人に話しかけた。
 「ああ、悪いサク部長。僕ら、今日委員長同士の会議でさ……」
 が、申し訳なさそうに善人が返した。
 「部活の時間と見事にバッティングしちゃってるんだよね」
 ゴメンね、と手を合わせるのは腹立たしい二葉だ。
 「委員長……その会議ってのはオ……もとい部活よりも大切なのかい?」
 私よりも二葉の方が大切なのか、そう聞きかけたのを何とか抑えた。
 「大切に決まってるだろ、委員長として、生徒の活動を円滑にするための会議だし」
 「そう言う訳だから、ね」
 ウンザリした口調の善人と、申し訳なさそうな二葉。
 本来、逆であるべきではないだろうか。
 「オーキードーキー分かったよ、ゼン。委員長とその会議とやらに行ってこいよ。胸のデカい委員長ちゃんとデートみたく行けるのなら、思春期真っただ中のゼンとしてはゴキゲンなところだろうな」
 そんな内心を無理矢理抑え込み、三九夜は言った。
 「んな!?」
 「いやいやいやいやいや、そそそそういうのじゃなくてね!?」
 三九夜の言葉にあからさまに動揺する2人。
 何で善人まで動揺するのだろうと、三九夜は内心苛立ちを強めた。
 「へいへい、仲のよろしいことですねェ。ンじゃ、オレちゃんは汗臭ーい道場で部活やってっから、精々その間乳繰り合ってるが良ーぜ、お2人さん」
 最後まで素直になれないまま、三九夜は荷物を持って教室を出た。
 その様子を、キロトと呼ばれる少年は無言で見つめていた。

274ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:41:31 ID:MiGcIaww
 その少し後、生徒会室にて
 「えっと、つまり『悩んでるっぽい女の子が周りにいたらどうすれば良い?』ってコト?」
 クラス委員長達と生徒会役員による会議の準備をしながら、生徒会長一原百合子は聞き返した。
 「悩んでる、とは少し違うかもしれませんけど」
 頷くのは長身の少年、通称キロトだ。
 先ほど自分の教室でなされたやり取りを、彼は生徒会長に説明したのだ。
 そのやり取りから、彼が何を感じたのかも。
 それに対して、他の生徒会役員からも反応がある。
 「それはまたキミらしくないよねー。どーゆー風の吹きまわしー?キャラ崩壊ー?」
 「オマエ何気にキツいとこあるよな……。俺はいーコトだと思うぜ、そう言うのってよ。何かこう、青春っぽくて」
 「青春はともかく、葉山後輩の意見も妥当でしょう。どうやら、あなたにもようやく生徒会役員としての自覚が出てきたようですね」
 と、三者三様の意見だ。
 「私も、雨氷(うー)ちゃんたちに同感よ。庶務ちゃんからそう言う相談してきてくれて私も嬉しい」
 頷く百合子。
 「ありがとうございます」
 長身の少年は言った。
 「あら素直。あんびりーばぼー。奇跡体験」
 「取り消しましょうか?」
 「や、むしろ録音したいくらい」
 「止めてください」
 と、軽口を叩いてから、百合子は真面目に考え始めた。
 「ま、そーゆーのって結構ケースバイケースなのよねー」
 「ですか」
 「下手したら、単なる大きなお世話に終わるかもしれないし」
 「ですよ、ね」
 嘆息する長身の少年。
 心なしか、表情が曇ったようにも見える。
 「だから、まずは相手に話を聞くことが大事!」
 ピッと指を一本立てて、百合子は言った。
 「話、ですか」
 「そう、そしてそこから先は、『アナタが』そのコにどうしてあげたいか―――」
 不敵に笑って、百合子は続ける。
 「庶務ちゃんがどうしたいかを考えて、それをやっちゃえば良いのよ!」
 そう言って百合子はズビシ、と立てていた指を少年の右胸に向けた。
 「アナタの心のままに、ね」
 おどけたようにウインク1つする百合子。
 「心の……ままに」
 その言葉を、少年はしっかりと反芻していた。

275ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:42:08 ID:MiGcIaww
 三九夜は、その日の稽古にどうにも身が入らなかった。
 勿論、やる気が無かった訳ではない。
 始めるきっかけは善人でも、三九夜も現在は剣道をする善人も剣道自体も好きだった。
 しかし、今善人がどうしているのか、具体的には善人が二葉とどうしているのかと思うと、完全に集中しきれなかった。
 心が、ざわめいていた。
 「ハァ!ラァ!セヤ!」
 その苛立ちをぶつけるように、三九夜は一心に竹刀を振るっていた。
 「今日はまたえらく気合が入ってるな、部長」
 剣道部の顧問教師が、三九夜が一息入れたタイミングでそう話しかけてきた。
 どうやら、苛立ちをぶつける姿が鋭い気迫に見えたらしい。
 「……あ、いえ。そんなこと……」
 そう答えた三九夜だったが、顧問教師には謙遜にしか見えなかっただろう。
 「じゃあ、久々に副部長と組んでやってみるか!」
 顧問教師はそう言った。
 次は一対一の、試合形式での稽古だった。
 そう言えば、先の部長決定戦以来副部長の先輩とは機会に恵まれず、まともに試合をしたことが無かった。
 「え、でも……」
 「良いじゃねえか。なぁ、副部長」
 顧問教師の言葉に、副部長も
 「そうですね、僕も久々に天野部長とお手合わせ願いたいと思っていたところです」
 と答えた。
 三九夜としては気乗りしない所だが、拒める空気でも無いらしい。
 三九夜は副部長と位置に付いた。
 形式は、実戦と同じ三本勝負。
 「はじめ!」
 顧問教師の声が響く。
 「デアアアアアア!」
 普段の穏やかな姿からは信じられない気迫と共に、副部長が竹刀を振るう。
 試合で大切なのは攻めの姿勢を忘れないこと、と以前副部長から言われたことがあるが、彼の闘い方はその言葉を自ら体現していた。
 「ハァ!」
 面を狙った攻撃を避けると同時に三九夜は副部長の小手を狙ったが、空振り。
 苛烈な攻めと巧みな体捌き。
 相変わらず、いや以前以上の腕前だった。
 三九夜も稽古を重ねてはいたが、ただでさえ大きかった実力差が、むしろ拡大しているような気さえした。
 「引き分け!」
 顧問教師の声が響き、第二回戦。
 「デア!」
 「ハァ!」
 苛烈に攻めてくる先輩に対し、雑念を振り切るように竹刀を振るう。
 しかし、
 『あ、外した』
 三九夜がそう思った時には、顔に衝撃が走っていた。
 「メエエエエエエン!」
 パァン、と打ち込みの音が響く。
 「一本!」
 顧問教師の声が響く。
 副部長が目にもとまらぬスピードで、三九夜の面に打ち込んでいたのだ。
 挙動も気勢も鋭い一撃だった。
 やはり先輩は強い、と三九夜は思った。
 先の部長決定戦で勝てたのが不思議なくらいだ。
 いや、あの時の勝因は明白だ。
 あの時は善人の応援があったからだ。
 けれど、今この場にそれはない。
 善人はいないのだ。
 三回戦。
 実際の試合なら、ここで勝てなければ、三九夜にもう後は無い。
 しかし、
 「どぉぉぉぉぉお!」
 三九夜は、呆気なく左の胴を打たれて、負けた。
 「一本!」
 顧問教師の声が響く。
 三九夜は魂の抜けたような想いのまま、副部長に一礼して試合終了。
 それを見ていた3年生の先輩たちが、思わず副部長に駆け寄った。
 「やったなぁ、オイ!」
 「今まで、天野を目標に稽古してたものな!」
 「中学生の逆胴何て初めて見たぜ!」
 「さっすが最高学年!もうお前が部長だ!」
 「おいおい、そこは影の部長、くらいにしとけって!」
 稽古とはいえ、副部長の勝利を皆が祝福する声が聞こえる。
 奇妙な喪失感と敗北感を感じ、ガックリと膝を付く三九夜。
 「天野さん……」
 その姿を心配そうに見る副部長の姿に、誰も気付くことは無かった。

276ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:43:35 ID:MiGcIaww
 一方、善人と二葉はというと。
 「思ったより会議長引いたね。生徒会長もさ、もっとこうポンポン進行しちゃってくれていいのに」
 「クラス委員長たちが会議に慣れてなかったのを考えてくれたんじゃないかな!?なりたての人も多かったみたいだし!」
 夕日が傾きかけた頃、ようやく会議をしていた教室の中から出てきていた。
 「生徒会と言えば、キロトくんがメンバーだったのは驚いたなぁ」
 「え、アレ?知らなかった?去年キチンと生徒会役員の発表があったはずだけど!?」
 「キチンと見てなかったし、そう言うの。それに、その時は彼と同じクラスじゃ無かったから」
 「私は覚えてたよ!彼とは同じクラスだったし!」
 「そうなの?」
 それは初耳だった。
 「そう、私が一年の時の同じクラス!でも、一言も口きいたこと無かったかな」
 「一言も?」
 「そう、一っ言も!って言うか、クラスのほとんどの人が口きいてなかったんじゃないかな!」
 「そんなになんだ」
 「そう!声も知らなかったくらい!」
 善人は、キロトのことを無愛想な奴だと思っていたが、去年度も相当だったようだ。
 「だから、生徒会に入って、良い方向に変わったなーっていうか、丸くなったなーって最近思ってみたり!」
 二葉はそう、太陽のように朗らかな笑顔を浮かべて言った。
 その笑顔が思いのほか魅力的で、善人は思ったままを口にすることにした。
 「冬木さんって、本当良い人なんだね。友達想いで」
 善人の言葉に、二葉は一瞬きょとん、とした顔をした。
 「うわぁ……」
 それから、顔を真っ赤にした。
 「うわぁうわぁうわぁ……、千堂くんに褒められちゃった」
 「いや、そこそんなに驚くところ?」
 「千堂くんに褒められちゃった。毒舌コンビの片割れに褒められちゃった」
 「ちょっと待て、毒舌コンビって何さ!?」
 とんでもないフレーズが聞こえた気がしたので、善人はツッコミを入れた。
 「そ、それはともかくとしても、千堂くんってあんまり人を褒めたりしないじゃん!だから、さ……」
 赤い顔で、モジモジしながら二葉は言う。
 「千堂くんに褒められて、すっごい嬉しいな、なんて……」
 善人の心臓がドキリ、としたような気がしたのはそう言う二葉の表情があまりに可愛らしかったからだろうか。
 「いや、それほどでも無いって言うか……」
 しどろもどろになりながら、善人は言った。
 「ねぇ、千堂くん。1つ、お願いして良いかな?」
 善人の方を真っ直ぐ見ながら、二葉は言った。
 「ああ、ウン」
 その姿にドギマギしながら、何とか善人は頷く。
 「あの、さ」
 「ウン」
 「今日、一緒に帰っても……良い?」
 いつもより遠慮がちな、しかし真剣な面持ちの二葉に、善人は少し考える。
 普段、善人は剣道部の活動後にそのまま三九夜と2人で下校するのが通例になっていた。
 とは言え、今日は会議が長引いたし、三九夜もとっくに帰っているだろう。
 と、なれば1人で帰るしか無くなるところだった。
 それでは少々味気ないかもしれない。
 なので、
 「ウ、ウン。良いよ」
 と、二葉の申し出を受けることにした。
 それを聞いた二葉は、
 「……よ、」
 「よ?」
 「よっしゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」
 思いっきりガッツポーズを取った。

277ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:43:56 ID:MiGcIaww
 「ありがとう、千堂くん!コレ、一生の思い出にするから!家宝にするから!」
 「そんな、大げさだよ冬木さん」
 そもそも、思い出をどうやって家宝にすると言うのか。
 「そうと決まれば早く行こうか!いや、遅く行こうか!」
 「いや、どっちなのさ」
 「ええっと、思いっきり!ゆっくり!お話しながら!」
 「帰るのと駄弁るのとどっちが目的なんだよ……」
 そうやって、仲良く歩いている2人の姿はまるで恋人同士のように見えたことだろう。
 少なくとも、それを目撃した者にはそのように見えた。
 目撃者―――天野三九夜には。
 三九夜は、部活動が終わった後、稽古の疲れと敗北の衝撃を引きずったまま、2人が会議を行っていた教室の近くで待っていた。
 待ち続けていた。
 善人と一緒に、下校するために。
 善人と、少しでも一緒にいるために。
 しかし、二葉に誘惑されて。
 それに、顔を真っ赤にして。
 あまつさえ自分ではなく彼女と下校するなんて。
 自分では、無く。
 「……う」
 遠くなって行く善人の後ろ姿を見て、三九夜は竹刀袋を強く握りしめる。
 中の竹刀が壊れそうなほどに、強く。
 心が、壊れそうなほどに。
 「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
 悲鳴を上げるように、三九夜は慟哭した。
 「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
 そのまま感情のままに、滅茶苦茶に両手を振り回す。
 剣道のような、技の美しさなどあったものでは無かった。
 そうでなくても、自分は負けたのだ。
 先輩に。
 そして、それ以上に。
 二葉に。
 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
 膝を付き、竹刀と鞄を手放し、両手を廊下に叩きつける。
 「……負け、たんだ」
 滴が、廊下を濡らす。
 「負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた!!」
 負けたと言う度に、血が出るほどに両拳を叩きつける。
 「あんなに頑張ったのに、努力したのに……!」
 剣道も、ずっと稽古を重ねていたつもりだった。
 善人とも、ずっと一緒にいるために頑張ったつもりだった。
 しかし、
 「オレは、勝ちをとられちゃったんだぁ……」
 顔をグシャグシャにして泣く。
 泣いているうちに、違う感情が芽生えてくる。
 怒りと、憎しみが。
 そうだ、自分は勝ちを『盗られた』のだ。
 自分の勝ちを奪った者、特に二葉に対する憎しみが、噴出しそうになる。
 しそうになった瞬間。
 「まだだ」
 と、声をかける者があった。
 「君はまだ、負けていない」
 夕日が傾きかけた校内でも、特に長い影。
 普段は鋭い目つきは、いつもより少しだけ優しげに見える。
 「キロ、ト……?」
 呆然とする三九夜の手を、傷だらけになった三九夜の手を優しく包み込みながら、彼は優しく言った。
 「やぁ、アマノジャク」
 いつものように、彼は三九夜の仇名を呼んで。
 「俺は君に、協力できるかもしれない」

278ヤンオレの娘さん 第二回戦 はーと・ぶれいかー  ◆3hOWRho8lI:2011/07/16(土) 20:44:51 ID:MiGcIaww
 以上で、投下終了になります。
 皆様、お読みいただきありがとうございました。

279雌豚のにおい@774人目:2011/07/16(土) 20:46:46 ID:Q2Ecc0P6
GJ!
良いね良いね!

280雌豚のにおい@774人目:2011/07/16(土) 20:50:12 ID:YJ.HarGc
リアルタイムGJ!
というか、キロトってやっぱりあの人だよね……
まあ、続き楽しみに待ってます!どちらのも!

281雌豚のにおい@774人目:2011/07/17(日) 00:45:49 ID:CORK0BQ.
GJ

282雌豚のにおい@774人目:2011/07/17(日) 23:14:31 ID:nORir8vk
乙乙 GJです

283雌豚のにおい@774人目:2011/07/17(日) 23:52:29 ID:fan/HnHI
投下乙です。ポンポンと作品を生み出していけるのが羨ましい……見習いたいです。

284 ◆STwbwk2UaU:2011/07/18(月) 03:05:25 ID:gXV1Iaps
よっしゃ投下。
ラストまで書こうと思ったが、もう無理。眠い。

285neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/18(月) 03:05:53 ID:gXV1Iaps
次の日僕は昨日決めたとおり、聞き込み調査をしようとしていた。
友人や知り合いのもとを回る予定を立てていると、僕の部屋のふすまが開く。

「…どこか、行くの?」
恐る恐るという感じでスズねぇは僕に聞いてくる。
スズねぇの身辺調査なので、スズねぇにはバレないようにしようと思っていたが……

「う……うん、ちょっと近くを散歩しようかなってさ。」

「あ、あの!わ……私も散歩しようかなって思ってて……
 その…一緒に……ダメ…かな……?」
スズねぇがゴニョゴニョと吃りながら聞いてくる。

―まぁ、少しくらいはスズねぇと散歩しても大丈夫だよな。
僕はスズねぇからお願いされるという優越感を感じながらも、特に気にも止めないという顔で了承した。

昼下がりの突き刺すような日差しの中、街中を散歩していると、一人のおばさんと出会った。
幼少からの知り合いの一人で、無類の噂好きの人だ。
おばさんは僕らを見ると、喜色満面の笑顔で話しかけてくれた。

「おや、まあ!コーちゃんじゃないか!久しぶりだねぇ。」
おばさんが嬉しそうに僕の肩をバンバンと叩く。
―若干痛い。
それから僕とおばさんとスズねぇで他愛のない世間話や昔話をしていると、
オバサンがきになる事を言い出した。

「……しかし、あたしゃてっきりスズちゃんはコーちゃんの事を好きだと思ってたんだけど。
 ………まさかねぇ。」
しみじみと感慨深げにおばさんが言う。
――へ?
いや、いやちょっと待ってくれ。待ってください。
思ってた……って、今は違うってこと?
いやいや、勘弁して下さい。ほんとに冗談に……

「おばさん、その話は……」
スズねぇが焦ったように遮ろうとする。
なんで……焦るんだよ……スズねぇ………

「だってスズちゃん、毎日お金持ちのエンドウさんと一緒にいるじゃないの。
 いやー、あたしゃ嬉しくてさ!
 新しく来たエンドウさんも、スズちゃんと仲いいなら安泰さね!」
え、エンドウ……さん?
なんだよそれ、もうスズねぇには恋人がいたのかよ……
……そりゃそうか、そうだよな。
スズねぇにとっちゃ僕は弟みたいなもんだし、やっぱ恋愛対象じゃなかったんだよな。
はは、ちょっとスズねぇに優しくしてもらったら勘違いしちゃって……
ホント、俺はバカみた―――

286neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/18(月) 03:06:51 ID:gXV1Iaps
「…いいかげんにしてよ!!」
ハッとなってスズねぇの方を見る。
スズねぇの顔が真っ赤になって、目には涙が浮かんでいた。

「あんな人私は知らない!仲良くなんてない!あんな人……!
 あんな人のせいで私は………っ!!」
手から血が出るかと思うくらい、スズねぇは握り締めていた。
スズねぇがここまで怒りを顕にしたのは、生まれて初めて見た……かもしれない。
しかし叫んだ事によってスズねぇも自分を取り戻したようで、ハッとなって僕を見た。

「あ……あの、おばさん叫んでしまってごめんなさい。
 でも、あの人とは何でもないの。
 …コーちゃん、私先に帰ってるね………」
スズねぇは何かを振り切るかのように、走って自分の家に向かった。
それを見ながらおばさんは、ため息を吐く。

「なんだい、あの娘は。
 玉の輿っちゅうはなしなのに……ほんっとなんなんだか。」
僕も、思わず握りこぶしを固くした。
正直、このままではおばさんを全力で殴りそうだ。
僕は適当な事を言いつつ、その場を離れた。

僕は、街中をそのまま散歩していた。
家に帰る気になれなかったのだ。
何より気になるあの言葉、そしてスズねぇの態度……
何か有るのは間違いないが、その何かがわからない。
――エンドウ、エンドウってやつがスズねぇに何かしている……
どうすればエンドウのことが分かるんだ……
何か……どうにかしないと!

「……あれ?孝太郎じゃん。何してんの?」
ふと、声をかけられた方を見ると、
幼い時から遊び仲間だった友人が、アイスを食べていた。


「…は〜、お前まだスズねぇにベタ惚れかよ。」
僕は今、友人の部屋でお茶を飲んでいる。
友人は呆れるかのように言うと、急に声を潜めた。

「なぁ、俺が言うのもアレなんだけどさ……
 スズねぇは、やめといたほうがいいぜ。」
まるで周りの声が気になるかのように、僕に耳打ちをしてくる。
何が気になるって言うんだ。

「何でだよ。それに僕は別にスズねぇにそんな気持ち……」

「あーもう、見りゃ分かるよこのタコ!
 ……いいか、今のうちに身を引くのがお前のためだ。
 お前のその気持は、初恋ってことで……終わらせとけ。」
嫌がらせには聞こえない。
むしろ僕を心から心配しているようにも聞こえる。

――訳がわからない
なんで、僕がスズねぇを諦めることが自分の為になるんだ。

「あのな、お前が引っ越した後……そうだな、1年後くらいだ。
 この街に、あいつが来たんだよ。
 遠藤って奴がな。」
遠藤?エンドウ?遠藤だって?

「遠藤って奴、土建屋らしいんだけどよ……すげえ金持ちなのさ。
 お前帰ってきたとき、街があちこち変わってただろ?
 あれ、全部遠藤が工事してんの。」

「そ、それがスズねぇとどういう関係が……」

「そう、それ!
 そこの家のドラ息子の遼太郎って奴がよ、スズねぇに手を出してんだよ。
 すげー不良っぽい奴なんだけど、デカくてこえーし……
 噂じゃ……非合法なこともやってるらしいって……」

――それだ。
それがスズねぇの変わった理由だ。
スズねぇがあんなにおかしいのも、毎日言い寄られてたからに違いない。
守らなきゃ、僕が守らなきゃ……

「前にスズねぇに言い寄ってた奴も袋叩きにあったって聞いたし……
 お前も今回ばかりは諦めろ。しかたな……っておい!どこ行くんだ!」

287neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/18(月) 03:08:07 ID:gXV1Iaps
―僕は来た。友人にしつこく場所を聞いて。
ウワサのあいつがいる家に。
大きく、物々しい雰囲気の扉の前にたち、門を叩く。
その音は大きく周りに響いた。

「なんやぁ!どこのモンじゃい!」

中からチンピラのような、ヤクザのような強面の人が出てきた。
かなり逃げ出したいが、ここで逃げ出してしまってはスズねぇを救い出せない。

「私は秋去(あきさり) 鈴香さんの親戚の、高須 孝太郎といいます。
 本日は遠藤 良之助さんに会いたくてきました。」

精一杯の冷静と、度胸を出して堂々と応える。
すると強面の人は一度下がり、しばらくしてもう一度現れた。

「……おい、若頭がお呼びになっている。
 無礼なことをすんじゃねぇぞ。」

案外すんなりと、僕は通された。
ここからが本番だ……


「へぇ、お前がコーちゃんってやつ?
 マジでスズはこんなシャバいやつを?」

「スズねぇ…ではなくて、鈴香さんはあなたとの交際、及び婚約を望んでいません。
 どうか、もうそっとしといてくれないでしょうか?」

「くっ………あっはっはっはっはっ!
 面白い冗談だ!思わず笑っちまったよ!
 ……おい、あいつら連れてこい。」

巨人と見間違うほどの若頭こと、遠藤は部下に首で命令した。
部下が下がった後、少し経つと見慣れた顔がそこにいた。
そう、スズねぇの……両親だった。

「コーちゃん………」
「孝太郎くん………」

格好は、まるで下働きをしている者のような、埃にまみれた服を着て、
汗と泥でまみれたみすぼらしい体になっていた。
一目で分かる。スズねぇの両親は、ここで奴隷のような生活をしていたのだと。

「叔父さん……叔母さん………なんで…?」

「どうした?何か話してやれよ。
 お前の大好きなおねーちゃんのご両親さまだぞ?
 それとも話すこともできないんでちゅか?あん?」

明らかにバカにされているが、こんなアホらしい挑発に乗っている場合じゃない。
何で、こんなところに二人がいるんだ。
仮にも社長だったんじゃないのか?

「あの……な、孝太郎くん。叔父さんの会社……倒産したんだ。」

288neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/18(月) 03:08:27 ID:gXV1Iaps
叔父さんが、下を向きながらポツポツと話し始めた。

「叔父さんの会社に………仕事が来なくて…な……遠藤さんに……世話してもらったんだ………
 叔父さん……返す当てがないから……住み込みで………働いてるんだ………」

声にはかつての快活さはなく、死んだような、今にも消え入りそうな声で話し始めた。

「そーなんだよーコーちゃーん!
 こいつらマジ金返してくれないからさー、せめて返せるようにウチで働かせてやってんのよー。
 俺って優しいだろー?今利子も止めてんだぜー?マジ儲けにならねーわー」

まるで叔父にあてつけるかのように、わざとらしく大声で僕に同意を求める。
叔父はその声を聞くたびに、ビクビクと震える。

「でもなー、こいつら俺に娘をやるから勘弁してくれっていうのさー。
 マジ鬼畜だよな?ひっでーよなー?
 俺がこいつらの子供だったら、絶対にこう言ってるぜ。
 この…ド外道が!!!!………ってさー。」

ド外道の部分で、叔父と叔母がポロポロと涙を流した。
………信じられなかった。
あれほどスズねぇを大事にしていた叔父と叔母が、スズねぇを売るなんて………

「なぁド外道の秋去さん?
 俺にそういったよな?」

叔父は声を震わせながら、はっきりといった。

「はい、私は遠藤様に娘を売りました。
 私は畜生にも劣る最低の父親です。」

「だってよ、分かったらさっさと消えろ。
 あいつはオレのもんだよ。どう扱おうが俺の勝手。
 ……あー、でも安心しろ。あれほどの上玉を使い捨てになんかしねーよ。
 せいぜい飽きるまで俺の子供を孕ませまくって、その後風俗に突っ込んでやっからよー。
 アレほどの上玉なら、No.1の人気取れるぜー!よかったなコーちゃん!」

もう、何が何だか分からない。
ただ、僕が、僕が守らないと…………

「そ、そんなことさせるか!スズねぇはおまえなんかに……ッ!」

次の瞬間、僕は地面を見上げていた。
頭がガンガンして、めまいがする。
口からは血が出ている。
立ち上がると、さっき居た場所からかなり遠ざかっていた。
どうやら僕は、殴られてぶっ飛ばされたようだ。

「だったらお前が払うか?1億。
 べつにお前が払ってもいいんだぜ?ただし今すぐだ。
 どうせ無いんだろ?口ばっかりのガキが。
 この一発で見逃してやるから、もう二度とウチに来んな。
 あと、スズにも二度と近づくな。
 アレはお前のものじゃない。
 俺のものなんだよ!
 ああ、あとお前のとうちゃんとかあちゃん?
 海外にいるんだっけか。
 ロンドン勤務ご苦労様ってか。
 次の日テムズ川に流されたくなけりゃ、俺のいう事を素直に聞くといいかもしれねーな。
 ……おい、そこの役立たず。さっさとこのゴミを捨ててこい。」

吹っ飛ばされて茫然自失の僕を、叔父と叔母は優しく外に連れだしてくれた。
そして僕を門の外に解放するとき、叔父と叔母は声をかけてくれた。
もちろん、優しい言葉じゃない。
現実的な、一言だった。

「もう、うちの鈴香に近づかないでくれ。
 遠藤様の機嫌を損ねたら私たちはもうダメなんだ。
 お願いだ。もう私たちにかまわないでくれ。」

「そう、あなたをこの街に呼んだのは遠藤様のご命令なの。
 鈴香がコーちゃんコーちゃんと五月蝿いから、ね。
 ほんとは来てほしくなかった。会いたくなかったわ。」


…そう、つまり僕は、スズねぇを、

………助けられないのだ。

289neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/18(月) 03:09:10 ID:gXV1Iaps
――僕が家に帰ると、スズねぇ……いや、鈴香さんは電気も付けずに
テーブルに座っていた。

「………どこに、行ってたの?」

僕は答えられない。
頭が回ってないのかもしれない。

「エンドウさん、でしょ。
 あの男のところに、行ってた、んでしょ。」

「………うん」
口が勝手に動く。
まるで僕の物じゃないかのようだ。

「………私の両親を、見たんでしょ。」

「………うん」

「あの男はね、私の父さんの会社を潰したの。
 仕事が来なくなったのは、取引先が圧力をかけたせい。」

「そう……なんだ………」

「私が気に入ったんだって。私が欲しいんだってさ。
 信じられないよね。私にはコーちゃんがいるのに。」

「………」
今度は、僕の口が動かない。
なんで肯定の一言も、出ない、んだ。

「その上お父さんもお母さんもあいつに取られちゃって、心折られちゃってさ!
 私にあいつのものになれって言うのよ!私はコーちゃんだけのモノなのに!」

鈴香さんがぼくに近づき、そっと抱きしめる。
そして耳元で甘く僕にささやく。

「コーちゃん、私にはもう、コーちゃんしかいないの。
 一緒にいてくれる?一緒に、どこまでも一緒に行ってくれる?
 私はずっと、コーちゃんが家に来た時からずっと………
 コーちゃんが大好きです。」

僕をさらにギュっと抱く。
まるで想いをぶつけるように。

「コーちゃん……一緒に逃げよう………
 私あいつのモノになりたくない。
 私は、ずっとコーちゃんと一緒にいたい。
 辛いのも、苦しいのも悲しいのも、コーちゃんと一緒なら全然平気。
 コーちゃんじゃないと………私にはコーちゃんじゃないと………」

その言葉は、あいつの家に行く前に聞けばよかった。
なんで、僕はあいつの家に行ってしまったんだろう。
聞かなければ、知らなければ僕は鈴香さんのことだけを考えていられたのに。
僕は怖かった。
あの男が。
あの叔父さん、叔母さんが。
両親の、死が。

290neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/18(月) 03:09:35 ID:gXV1Iaps
「……ごめん、スズねぇ……いや、鈴香さん………
 僕は、何も出来ない。」

僕は鈴香さんから静かに離れた。
僕が高校を卒業して、就職したとして、1億なんて稼げるわけがない。
逃げたところで、両親の居場所を調べて脅しをかけてくる連中だ。
…逃げ切れるわけがない。

「なんで!?別に何もしなくていいの!何も出来なくていいんだよっ!?
 ただ…私の傍にいてくれるだけで……っ!!」

鈴香さんは僕の手を取り、必至に僕の顔を覗き込んでくる。
僕はその手を振り払い、自室に荷物を取りに向かった。
それでもなお、僕の服の端を掴んでくる。

「やめてくれ……やめてください鈴香さん………
 僕はあなたの助けになれません。僕じゃ……力不足なんです………」

「嫌よ!嫌っ!私はコーちゃんと離れたくないの!
 なんで?なんでスズねぇって呼んでくれないの?なんで私から遠ざかるの!?
 私が汚らしいの?あんな男に言い寄られる私は穢れているの?」

僕が荷物の整理をしている間も、決して僕の服を離さない。
僕だって、僕だってスズねぇと一緒にいたいさ!
でもね………でもねっ!!!

「………あ、そうか。
 コーちゃん勘違いしてるんだよ。うん、きっとそう。
 …私ね、あんな奴に言い寄られても、脅されても体を絶対に許さなかったよ。
 だって、私の初めてはコーちゃん以外有り得ないもの。
 だからね、コーちゃん、私、まだ穢れてないよ。
 また一緒に山に行こう?また一緒に川を見よう?
 それとも、私の手料理をご馳走すればいいかな?
 …もう……コーちゃんに……わがまま言わない……
 迷惑も…かけない………から……」

スズねぇの声が震えている。僕の背中から、スズねぇの声がする。
僕の荷物を詰める手も震える……

「だから…………だから………っ!だから……っ!!
 こっち………向いてよ………っ!」

291neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/18(月) 03:09:58 ID:gXV1Iaps
鈴香さんが……スズねぇが泣いてる………
――僕は……ぼくだって……っ!
僕は勢い良くスズねぇの手をはねのける。
スズねぇは驚きと恐怖でいっぱいの顔をしていた。
そして僕は、そのまま思いをぶちまけた。

「……僕だって…僕だってスズねぇが大好きだよ………
 今でも好きだよ。
 でもね!
 僕は怖いんだよ!
 あの男が怖いんだよ!
 叔父さんと叔母さんが怖いんだよ!
 両親が死ぬのが怖いんだよ!
 怖くて、惨めで………
 僕はどうすりゃいいんだ!
 好きな人を守れない……そしてね……
 今、僕は好きな人の状態よりも自分の命が惜しいと思っちゃってるんだよ!」

僕の視界がにじむ。
情けない。自分は男として、人間としてクズすぎる。

「分かったら……もう、僕を放っておいてくれ………
 僕みたいなクズが、人を好きになる事自体、分不相応だったんだ……」

鈴香さんは、もはやどこも見てなかった。
茫然自失……というものだろう。
やがて、ゆっくりと立ち上がって僕のいる部屋から去った。

――僕は帰って来なければよかった。
僕が帰ってきたせいで、鈴香さんに期待をさせてしまった。
そして、僕はその期待にも、救いにもなれなかった。
ただ、地獄の底にたたき落としただけだ。
荷物を詰めながら、ポロポロと涙を流す。
自分があまりにも情けなく、惨めで、無力で。
やがて荷物を片付け終わると、僕は荷物を手に持って後ろを向く。
そこには、音もなく鈴香さんがいた。
どいてよ、と僕が言おうとした瞬間、僕の景色はぐるりと回転して、真っ暗になった。

292 ◆STwbwk2UaU:2011/07/18(月) 03:10:31 ID:gXV1Iaps
投下終了。
疲れたー

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302雌豚のにおい@774人目:2011/07/18(月) 10:33:29 ID:oHBHZAF2
乙!よきよき

避難所でも作者を追い出そうなんて何を考えてるやら

303雌豚のにおい@774人目:2011/07/18(月) 12:09:58 ID:7mUTXL.2
>>292
GJ!続き期待してます!!

304ヤンデル生活 第2話 これから始まること。:2011/07/18(月) 14:51:40 ID:minpuElA
ヤンデル生活第2話投下いたします。

「光る海に、広がる星空。この世をかける白い羽よ。」

彼女は満面の星空に照らされながら歌っている。この広い草原と、無限の湖には俺と彼女しかいない。
彼女はとてもきれいだ。透き通るような白い肌に、深い青の瞳。そして、星に照らされて白く輝く白銀の髪。
彼女は楽しそうに歌っている。けど俺は悲しくてたまらない。涙が止まらない。
広い草原に一陣の風が吹いた。
星空を美しく反射する湖に、一人の人が落ちた。
無表情で俺を見つめながら、どこまでも続く満面の星空からつかさが湖に落ちた。

「つ・・か・・さ・・・?」




「うわあああッ・・・。はあ・・はあ・・・。またあの夢か。」

また、という表現はおかしいか。
いつも、真夜中の草原と無限に広がる湖とこの世のものとは思えないほどきれいな少女がきれいな歌を歌っている。

「光る海に、広がる星空。この世をかける白い羽よ・か・・・。」

この歌詞だけが頭から離れられない。他の歌詞は忘れて思い出せないというのに・・・。
でも、今回の夢はいつもと違った。
つかさ・・・。
犯人が妹。殺害動機・・・。



 自分の兄を独り占めしたかったから。


「お兄ちゃんのことが好きなの。兄弟としてじゃなく、一人の人として。」


やめろ・・・やめてくれ。俺は・・・俺は・・・お前のことを妹以外に見ることはできないんだ・・・。


この夢をみると、いつも頭が痛くなる。

「頭が痛い・・。頭痛薬どこだったかな。」

まずい、頭痛薬買いに行くの忘れた。
薬局は近くにあるけど・・。

「買いに行くにはちょっと時間が足りないか・・。」

仕方ない、今日は我慢しよう。ちょっと頭痛が続いたからって死ぬわけじゃない。
すると、こんこんっとドアを誰かが叩いた。
わかっている。妹だ。

「お兄ちゃん大丈夫?さっきすごい声出してたから。」

「ああ・・大丈夫だ。いつもの夢見ただけだから。」

「そう・・気を付けてね。お兄ちゃんに何かあったら・・私。」

「大丈夫だって。そろそろ支度しないと遅刻するぞ。」

「うん、わかった。お兄ちゃんも遅れないでね。」

そういって、妹は自分の部屋に帰って行った。
それにしても、頭が痛い。いつもよりかなり痛い。

「やっぱり買いに行くか。」

俺は時間を確かめた。

・・・。

いや、買いに行ったら100%遅刻だな。




 昼休み、俺は一人、屋上で弁当を食べていた。頭痛は朝よりひどくなっていた。

「保健室に行った方がいいかな。」

「九鷹・・君?」

俺しかいない屋上で、誰かの声が聞こえた。
後ろを振り向くと、そこには眼鏡をかけたセミロングの少女がいた。
まさに、委員長という言葉にぴったりの外見だ。

・・・。

ピッタリすぎる。

「えっと、君は確か・・柴田まりさん?」

「うん!名前覚えててくれたんだ。」

「なんというか、覚えやすいというか。」

出席番号一番だしな。

「そっか。なんかうれしいな。」

そういって、照れくさそうに指をからませる。現実でこんなことする人いるんだな。

305ヤンデル生活 第2話 これから始まること。:2011/07/18(月) 14:53:29 ID:minpuElA
「それで?何の用?」

早く、話を済まそう。頭が痛くて死にそうだ。

「あっそうだった。あの、九鷹君の妹のすずさんが呼んでたよ。」

「なんで?」

「よくわかんないけど、私は屋上に行けないから代わりに呼んできてほしいって」

そうか、妹は高所恐怖症だったな。

「悪いけど、ちょっと気分悪いから保健室行ってくるって伝えてくれないか?」

「えっ、九鷹君、気分悪いの?大丈夫?」

「大丈夫。ただの頭痛だから。それじゃ。」

「本当に大丈夫?私ついて行こうか?」

心配そうに俺の顔を覗き込んでる。こいつ、よっぽどのお人よしか、それとも・・。

「いい。本当に大丈夫だから。」

目まいがしてきた、早く保健室に行かないと。

「顔色悪いよ?」

しつこいな。頭がより一層、痛くなる。

「ごめん。ほんといそいでるから。」

俺はそういって振り切るようにその場を後にした。

「あっ・・!まって・・・。く〜ちゃん・・・。」




 保健室には俺しかいなく、とても静かだ。
保健室の先生も、やさしそうでいい人みたいだ。

「はい。これ、頭痛薬。また何かあったら保健室に来てね。」

「ありがとうございます。九条先生。」

「私のことはまなりんって呼びなさい!」

「は・・はい。」

ちょっと変わってるけど。

頭痛薬をもらった後、しばらくベットで寝かせてもらった。
5校時はたしか、体育だったな。まあ、休んでも大丈夫だろ。
すこし、頭痛もよくなってきたかな。

「お兄ちゃん。」

えっ。まさか・・。

「えへへ。お兄ちゃんの事心配になって見に来たよ。」

「すず・・。もうそろそろ授業始まるだろ、早くいかないとやばいんじゃないのか?」

来るとは思っていたけど、こんなに早く来るとは。

「大丈夫。1年生は今日は実力テストだから、午前で終わりだよ。」

そういうと、妹は俺のベットに潜り込んできた。

「お・・おい、ちょっとやめろって!」

「久しぶりだね。こうやって、一緒に寝るの。」

そういいながら妹は俺の腕に抱きついてきた。
やわらかい肌が俺の腕に滑るように絡み付いてくる。
そして、妹の胸が俺の腕に押し付けられる。
Dカップほどの胸がやわらかく俺の腕を包む。

「ちょ・・やめろよ。誰かに見られたら。」

「別にいいよ。誰かに見られても。」

306ヤンデル生活 第2話 これから始まること。:2011/07/18(月) 14:54:21 ID:minpuElA
それってどういう意味だ。いや、本当は自分でもわかってる。

「だめだ。こんなこと。」

俺は、乱暴に妹を腕から引き離そうとしたが、がっちりとつかんで離さない。

「・・や。・・・いや。絶対離れない。」

そういって妹は俺の腕により一層絡み付いた。
これはテコでも動かない気だな。

「だめだって言ってるだろ。」

俺はさらに強く引きはがそうとする。

「もう離れたくないよぉぉ・・。うぇぇ。」

泣いてるのか・・?

「お・・おい。すず。」

「うぅぅぅ。うぇぇぇ。」

妹は俺の腕に顔をうずめた。

「九鷹君?もうそろそろよくなったかな?」

俺はとっさに、妹の口を塞いだ。

「あっはい!ちょっと良くなってきましたですけどまだちょっと痛いです。」

やばい、日本語がおかしくなった。

「そう。あんまり、ずる休みしちゃだめよ。」

そういって、小さくウインクをして先生はまた机に戻っていった。

「ありがとうございます。九条先生。」

いい人だ。

「だ〜か〜ら〜まなりんって呼びなさいって言ったでしょ。」

やっぱり変わってる。

俺は、妹の口を抑えたままだったことを思い出して離そうとした。
すると、俺は手に違和感を感じた。

「ぺちゃ・・ぺろ・・れろ・・・。」

妹は俺の手のひらをなめている。
俺はとっさに、妹の口から手を離した。

「お兄ちゃんの手・・もっとなめさせてぇ・・。」

そういって妹は俺の手を掴もうとする。

「やめろっ!手をなめるなんて・・・汚いだろ。」

「汚くないよ・・。お兄ちゃんの手は世界一綺麗だよ?」

俺は我慢できずにベットから這いずり出た。

「あれ?もういいの?」

九条先生が不思議そうに俺を見る。

「はい・・。そろそろ良くなったんで。」

「そう、気を付けてね。」

そういって、九条先生は俺に笑顔を向けた。
俺は軽く頭を下げてその場を後にした。


これから、毎日こういうことが続くのかと思うと気が思いやられる。
俺は体育着を取りに行こうと教室へ向かった。

すると、職員室に知っている顔を見つけた。
それは久しぶりに見た人だった。
それは、忘れたくても忘れられない顔だった。
なぜなら今でも焼き付いている。警察に連行されるあの姿、あの顔を。
朝日向 比真理。
朝日向 司の妹だ。

307ヤンデル生活 第2話 これから始まること。:2011/07/18(月) 14:56:12 ID:minpuElA

投下終了です。不定期ながら続けさせていただきます。

308雌豚のにおい@774人目:2011/07/18(月) 16:07:31 ID:5hQ4XTwQ
>>307
GJ!
頑張ってくれ!

309雌豚のにおい@774人目:2011/07/18(月) 18:19:07 ID:sRZAD.Vs
乙です!
次も期待してますよ。

310雌豚のにおい@774人目:2011/07/18(月) 18:30:45 ID:q8B1BfBY
wktk

311ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:01:55 ID:CImphNxY
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 今回は起承転結の承。内容は直球タイトル通り。
 一部、少し大人っぽい(?)フインキを目指した描写がありますが、寝とられ展開等は無いのでご安心ください。
 それでは、投下させていただきます。

312ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:02:36 ID:CImphNxY
 「入って」
 そう言って、キロトと呼ばれる少年は三九夜を促した。
 少年の自宅は、マンションの一室だった。
 小奇麗に掃除されたそのリビングに三九夜は通された。
 あの後。
 悔しさと悲しさと怒りで泣き叫ぶ三九夜をなだめた少年は、自分の自宅へと彼女を案内した。
 「へぇん、良いトコに住んでんじゃねーの」
 男子制服のままソファに座り、かははは、とシニカルに笑う三九夜。
 先ほど泣いていたことなど露ほども感じさせない。
 実際は、照れ臭くて隠しているだけだが。
 「ンで、さっき言ってた『協力』ってのはどーゆーこった?」
 「協力?」
 「さっき言ってただろが」
 「……そう言えば、どうするか全然話して無かった」
 納得したように言う少年。
 「でも、そんなことも聞かずに男の家まで着いてくるのはどうかと思う、女子的に」
 少年に諭され、ばつの悪そうな顔をする三九夜。
 「うるせぇ。そう言う手合いは滅多刺しにしてやるまでよ」
 「滅多打ち?」
 「滅多刺し」
 大事なことなので2回言いました。
 「……そう言うのもどうかと思う、女子的に」
 「お前が女語るなよ」
 「それもそうだ」
 「大体、女子なんて連れ込んだら、お前の親御さんたちに誤解されンじゃねーの?」
 「その心配はいらない」
 いつものように淡々と少年は言った。
 心なしか顔を曇らせたように見えたのは三九夜の気のせいか。
 「親は仕事で、朝早く、夜遅い。大体、俺のことなんて気にしない。多少家を我儘に使っても、大丈夫」
 「共働きって奴か」
 「違う」
 首を横に振る少年。
 「親は、父親が1人。母親は、俺が生まれてすぐに亡くなった」
 「……あー」
 それを聞いて、気まずくなる三九夜。
 ―――もしかして、キロトくんのお母さんって元コックさんとかそう言うの?―――
 思い出すのは、善人のこんな言葉。
 そレに対してこの少年は何も言わなかったが、母親が亡くなっていることを笑顔でペラペラ話せと言うのも無理な話だ。
 「ひょっとしてひょっとしなくても、オレら結構気に障ること言ってたか?」
 「別に」
 重い沈黙が、その場を支配する。
 「ウチも、そんな感じだな」
 ポツリ、と三九夜は言った。
 「いや、両親は生きてるけど、共働きで。ずっと仕事にかまけたままオレのことなんざ欠片も構いやしねぇ」
 「そっか、それで……」
 「お前ン家も同じって勘違いしちまって、な」
 すまない、と頭を下げる三九夜。

313ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:02:54 ID:CImphNxY
 「気にするところじゃ無い」
 「気にするところじゃ無くても、気まずくはなるぜ。両親はアレでも、オレにはお隣の千堂家の人たちが―――ゼンがいてくれたからなぁ」
 千堂家と、それ以上に善人と一緒に過ごした日々を思い出しながら三九夜は言った。
 「お陰で、全然寂しくはなかった」
 そう口に出して、気がついた。
 「あ、そうか」
 親の愛情が一番欲しい時期から両親がいなくて、その寂しさを善人が埋めてくれて。
 一番誰かに居て欲しい時に、善人がいてくれて。
 その時間がいつしか、かけがえの無いものになっていて。
 「だから、私は善人が好きなんだ」
 自分で口に出して、スッとそれが心の中にしみわたる。
 想いが、納得できる。
 「そうか、君にはいてくれたんだな」
 三九夜の言葉を馬鹿にすることも無く、少年が言った。
 「いつも想いを共にして、いつも隣に寄り添ってくれる、大切な人が」
 いつもの無愛想な姿とは違った、優しい声で。
 「良いな」
 素直な憧れの眼差し。
 「そ、そんな話をしに来たんじゃねーだろが!?」
 照れ隠しに怒鳴り、三九夜は話を元に戻させた。
 「ああ、そうだな」
 そして、三九夜は強引に話を戻す。
 「で、何なんだ。お前の言う『協力』ってのは」
 三九夜は言った。
 「できるかもって感じだけど……」
 「それでも言え」
 まだるっこしい奴だ、と三九夜は思った。
 「まず、確認だけど、天野さんは異性として愛してるんだよね」
 「なな!?」
 ストレートな言葉に動揺する。
 「千堂のことを」
 「なななな!?」
 図星を突かれて(剣道部だけに)更に同様する。
 「ななななな何を言ってるのかささささっぱり!?」
 「違うのなら、俺はとんでもない勘違いをしていた。それなら協力のしようが無い。ごめんなさい」
 動揺する三九夜に頭を下げる少年。
 「違わない違わない。私は彼を愛してる。好き好き大好き超愛してる!世界の中心で愛を叫ぶくらい!!」
 勢いで死ぬほど恥ずかしいことを言ってしまったと言ってから後悔する三九夜。
 「なら、いけると思う」
 それに対して突っ込みを入れるでもなく大真面目に頷く少年に、三九夜は色々な意味でホッと胸を撫で下ろした。
 「俺が思うに、千堂は嫌いじゃ無いと思う、天野さんのこと」
 「ホントか!?」
 「でも、女の子として見てるかはかなり微妙」
 「そうか……」
 キロトの言葉に、ガクリと肩を落とす三九夜。
 「でも、年相応に女の子に興味はあるみたい。冬木さんへの対応を見ると分かる」
 「胸ばっか見てるもんな!」
 「ああ、胸ばっかり見てる」
 2人で頷き合う。
 善人本人は誤魔化してるつもりでも、周りにはモロバレだった。
 中学生男子の性欲なんて、そんなものだ。
 「だから……」
 と、少年は続ける。
 「天野さんも自分の『女の子らしさ』をアピールすると良いと、思う」
 スッ、と丁寧に三九夜の頬に手を当てて、キロトは言った。
 「オ、オイ……」
 「綺麗な肌、だね。男なら、こうはいかない」
 少年の声からは、ゾクっとするような色気さえ感じられた。
 「ちょ、何を……?」
 三九夜の脳裏に、先ほどの少年の言葉が反芻される。
 『どうかと思う、女子的に』
 その警告道りになってしまうのだろうか、自分は。
 「ちょ、止め……」
 「さぁ、始めようか」
 少年の声が、2人きりの部屋に響いた。

314ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:03:17 ID:CImphNxY
 それから。
 結論からいえば。
 『そういう』展開にはなりませんでした。
 「十八禁板だからって、中学生がそう簡単にそういうことすると思われても困る」
 「だ、だよなー。カハ、カハハハハ……」

315ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:03:42 ID:CImphNxY
 それから、数日後。
 千堂善人は強烈な違和感と共に起床した。
 「あ、れぇ?」
 いつものような、幼馴染の竹刀による『目覚まし』が来ない。
 ムクリ、と体を起こして時計を確認すると、いつも通りの起床時間。
 あの乱暴な起こし方によって、体内時計がすっかりいつものパターンに固定されていたらしい。
 自分の順応性に今更ながら感心しながら善人はベットから這い出た。
 「サクー?」
 と、自室のドアを開けて呼びかけてもいるはずもない。
 とりあえず、着替えを済ませて、階下のリビングに降りる。
 三九夜が来る時よりもずっと短時間で済んだ。
 しかし、何だろうこの味気無さは。
 「母さん、サクはー?」
 キッチンにいる母に声をかける。
 同時に、どれ程三九夜の存在を当り前に感じていたのか気付かされる。
 「ああ、サクちゃん?さっき電話あったんだけど、今日は他所で食べてくるって。何か忙しいみたいよ」
 いつものように朝食を用意しながら、母親は言った。
 「忙しい、って……?」
 善人はそんな話を聞いていない。
 そんなことは三九夜と一緒にいて初めて、つまり生まれて初めての経験だった。
 「母さんも良く分からないけどねぇ。やっぱり、剣道部の部長さんは色々大変なんじゃない?アンタもサクちゃんに負けないように頑張んなさいよ」
 ドン、と大盛りのご飯をよこしながら、母が言う。
 「いや、何でそこで僕に矛先が向くワケ?」
 ご飯を受け取りながらも抗議する善人。
 「三九夜ちゃんが剣道始めたのは、お前が始めたからだろう」
 それに対しては、隣で新聞を読みながら先に朝食を食べていた父親が答えた。
 「え、そうだっけ?」
 「覚えてないのか?」
 そう言えば、近所の剣道教室で剣道を始めた頃、いつものように一緒に遊びたがった三九夜に対して「今日はけんどーがあるからダメ!」とか言った記憶がある。
 それに対して三九夜が「じゃあ、わたしもいっしょに『けんどー』やる!」と言いだして……
 「その後、やるやるといって聞かない三九夜ちゃんに根負けして、三九夜ちゃんのご両親と色々と相談したのを覚えてるぞ、私は。具体的には稽古の月謝の話とか」
 と、父が補足した。
 「根負けって。アンタは最初からサクちゃんの味方だったじゃない」
 父の言葉にツッコミを入れる母。
 「当り前だろ」
 それに対して、父は新聞から顔を上げずに答えた。
 「我が家の息子は善人だが、我が家の娘は三九夜ちゃんと言ってもいい位だからな」
 新聞から顔を上げないのは、恥ずかしがっているからかもしれなかった。
 「でも、サクの奴がそんなことを、ねぇ」
 ご飯に箸を付けながら、しみじみと善人は呟いた。
 今では率先して竹刀を振り回すような奴なので、てっきり三九夜の方から始めたものだと、長らく記憶違いをしていたが。
 「サクちゃんはアンタのこと大好きだもんねぇ」
 ニヤニヤする母親。
 「アイツがぁ?」
 善人には普段から乱暴ばかりしているような奴だが。
 自分のことを使いっぱしりか何かと勘違いしてるのではと思うこともあるくらいだ。
 「嫌いだったら、お前を毎朝起こしには来ないだろう」
 と、こちらは父親。
 「もう、うるさいうるさいうるさいよ!」
 両者の生温かい視線に耐えきれなくなり、善人は急いで食事を胃の中に押し込めた。
 そして、身支度を整えてから、鞄や荷物を持って玄関に走る。
 行く寸前に忘れ物が無いか軽く確認。
 いつもなら、そう言うことも三九夜が皮肉気ながらも口うるさく言っていたのを思い出した。
 「いってくるね!」
 「ええ、いってらっしゃい」
 「気を付けるんだぞ、今日は三九夜ちゃんがいてくれないんだからな」
 「うるさいよ!」

316ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:03:59 ID:CImphNxY
 そうやって、1人登校路を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
 「なぁ、キロト。コレ、本当に変じゃないか?」
 三九夜の声だった。
 「大丈夫、アマノジャク。全く変なんかじゃ無い。むしろ、可愛らしい」
 それに答える、キロトと呼ばれた少年の声は気のせいかいつもより優しげに聞こえた。
 「サク?キロトくん?」
 声のする方に近づく善人。
 「ゼ、ゼン!?」
 「おはよう」
 そう答えるのは、いつものように淡々とした口調のキロトと呼ばれる長身の少年と、少し慌てている様子の隣は―――誰だろう?
 身につけているのは二葉達と同じ中等部女子制服。
 黒いブレザーに赤いリボン、アクセントに校章が入れられた、近所の女学生憧れの逸品だ。
 髪は、ショートにした黒髪にシャギーを入れている。
 肌はきめ細かく、見る人が見れば校則違反にならない程度にファンデーションを使っていることが分かっただろう。
 薄化粧の施された目は大きく、猫のような釣り目で、中性的な面立ちの魅力を引き立てている。
 何故か両手の指と言う指に絆創膏が巻かれているのが気になるが、文句なしの美少女だった。
 「よ、よぉ、ゼン」
 と、その美少女が善人に声をかけてきた。
 「……誰?」
 善人の言葉に、まるでこの世の終わりのような顔をする美少女。
 「千堂」
 善人に対して剣呑な視線を向けてくる長身の少年。
 「それ、本気で言ってたら殴る。嘘で言ってたら殴る。冗談で言ってても殴る」
 「結局殴るんじゃないか、キロトくん!!」
 と、少年にツッコミを入れてから、善人は改めて美少女の顔を良く見る。
 猫のような釣り目に中性的な顔立ち―――よくよく考えてみるとどこかで見たような。
 「まさか―――サク?」
 「やっと気がついたのかよ!」
 三九夜の怒号に、どつかれる!と身構えた善人であったが……
 「ああ、良かったぁ」
 緊張の糸が途切れたかのように、三九夜は地面にへたり込んだ。
 ごく自然に女の子座りをして。
 そう言えば、なぜか三九夜は善人の前では胡坐をかくことも多いが、女の子座りもできる奴だったと善人は思い出した。
 「天野さん、女の子が地面に座らない。服が汚れる」
 「あ、ああ。悪い悪い」
 長身の少年はごく自然に三九夜に手を差し伸べ、三九夜もその手を取って立ち上がる。
 それだけの動作なのに、実にサマになり―――なぜかその様子に善人の心は一瞬だけざわめいた。
 「ええっと、サク。ソレ、っていうかその格好どうしたの?」
 「ああ、これか?」
 改めて上から下まで、表から裏まで自分の恰好を確認する三九夜。
 「やっぱ、ヘンか?」
 「い、いや、良いんじゃないかな?」
 って言うかむしろ良すぎる。
 三九夜が女の子であることを意識させられ、ドギマギさせられる。
 「天野さん、コレのためにかなり頑張った。それというのも―――」
 長身の少年の言葉を遮るように、三九夜は彼のわき腹をどついた。
 いつもの三九夜だ、と思い逆にホッとした。
 お陰で、三九夜が小声で「余計なことは言うな」と真っ赤になって言ったことには気がつかなかったが。
 「こーゆー女子っぽい格好って、意外と準備に手間かかるモンなんだな。お陰で今朝はちょっと時間食っちまったぜ」
 起こせなくてゴメンな、と手を合わせる三九夜。
 普段と同じようなおどけた動作なのだが、えらく女の子らしく、そして可愛らしく見えた。
 「いや、『女子っぽい格好』って。サク、女の子じゃないか」
 そう言ってやっと、善人はいつものやり取りに戻った気がした。
 「忘れてたんじゃなかったのかよ、ソレ?」
 いつも通りのシニカルな笑みに戻る三九夜。
 「そ、そんなことより学校行こう、学校!」
 ドキドキする心臓を押さえながら、善人は言った。
 今朝は、どうにもペースを崩されてしまう。
 それがどういう感情なのか、善人はまだ、はっきりとは理解していなかった。

317ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:04:19 ID:CImphNxY
 とはいえ。
 三九夜の『イメチェン』は夜照学園中等部に大きな衝撃を持って迎えられた。
 実のところ、三九夜が『アマノジャク』と呼ばれる理由は半分以上は、女子なのに男子のような格好をしていることだった訳で。
 その設定が崩されたことは大きな反響を呼んだ。


 例えば、冬木双葉さんの場合。
 「すっごーい!天野さん、かーわいー!」
 登校路で三九夜たちと合流した後、三九夜の姿を見て目をキラキラさせる二葉。
 上下前後左右から三九夜を見つめ、何枚か写メをとる。
 「ねぇねぇねぇ、今度一緒にお買い物行こう!?そして、可愛いお洋服いっぱい着よう!?って言うか着させてー!!!!!!!!!!」
 ポカンとする三九夜の手をブンブン振りながら、可愛いもの大好き二葉さんは興奮気味であった。





 あるいは、剣道部副部長さんの場合
 「そうですか」
 「って、そ れ だ け か い!!」
 天野三九夜が女子制服で、しかも美少女として登校した、という噂に対して淡白な反応の副部長。
 それに対して、クラスメートで生徒会長の一原百合子はツッコミを入れた。
 「そこは驚こうよ!ギャップに萌えたりしようよ!もっと食いつこうよ、中学生男子!」
 バンバンと副部長の机を叩く百合子。
 噂を持ってきた百合子としては、もっと大きなリアクションを期待していたらしい。
 「そんなに驚くには値しませんよ、一原さん」
 むしろ百合子の方がオーバーリアクションを取っているのを、クスクスと笑う副部長。
 「天野部長は、剣士である前に乙女ですから。それも『恋する』、ね」
 そう言う副部長の眼差しは、とても優しげなものだった。
 「ところで、一原さんはどうしてそう言った女子関係の噂が早耳なんです?噂の情報通『放導官(ルーモア・ルーラー)』さんでも無いのに」
 「そ、そうかしらん?グーゼンよグーゼン……」
 副部長の言葉に、美少女大好き一原さんは目をそらした。

318ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:04:47 ID:CImphNxY
 そして、最後にもう一人―――
 その日の休み時間、中等部第二校舎の屋上でたった2人の生徒がいつものように寝転がっていた。
 本来は立ち入り禁止なのだが、それを咎める者はいない。
 良くも悪くも微妙に緩い傾向にある夜照学園で、こうしたささやかなルール違反は日常茶飯事だ。
 例えば、女子が護身用のために内ポケットにナイフを忍ばせていたりするのは最早ちょっとしたブームと言っても良い。
 「聞いたよー」
 そんな中、声を発したのはその片方、糸のように目を細めて笑う生徒だ。
 話しかけた相手は、クラスでキロトと呼ばれる長身の少年。
 「キミのクラスにいる毒舌コンビの片方が随分かわいくなった、ってねー。昔あったよねー、そう言う映画」
 「……」
 それを黙って聞く長身の少年。
 別段、機嫌が悪い訳ではない。
 彼はいつもこんな調子だ。
 むしろ、この場で会話がある方が珍しい。
 会話が無くとも、ただ2人でこうしているだけで、彼は心地良く感じていた。
 「もしかしてさー、キミが何かしたのー?」
 穏やかな声音で、目を細めた笑顔の生徒は言った。
 「どうして、そう思う?」
 「この間さ、天野さんに随分親身になってたみたいだったからねー」
 「気づいてたのか」
 先日、彼女が泣いていたのはクラス委員長と生徒会の会議をしていた教室の近く。
 長身の少年以外の人物が気が付いていたとしても何ら不思議は無い。
 例えば、この生徒のように。
 「まぁ、ね。でも、そう言う手合いってフツーそっとしとくモンじゃない?って言うか放置しとくモンじゃない?よくもまあ話しかけられたよねー。偉い偉い」
 「……」
 「どうしてそんなことできたのかなー?あ、もしかして」
 笑顔のまま、長身の少年の方に顔を向ける。
 「天野さんって、キミの『いい人』ってヤツー?」
 「誤解しないで」
 長身の少年は、そう答えてから「……お願い」と付けくわえた。
 「俺は、ただあの2人が―――天野さんと千堂の関係が『良いな』って、『羨ましいな』って思っただけ。だから協力した。それだけ」
 「羨ましい、ねー」
 長身の少年の言葉を、ニコニコ笑顔で聞くその生徒。
 「ってことは、欲しいと思ったんだー、千堂くんにとっての天野さんみたいなヒト」
 「……」
 その言葉に、無言でうなずく長身の少年。
 「ってことは、手に入ると思ったー?千堂くんにとっての天野さんみたいなヒト。キミなんかにさー」
 その言葉には、少年は何も答えなかった。
 「だよねー」
 笑顔を崩すことなく、その生徒は言った。
 「キミはボクの同類だからねー。誰にも祝福されずに生まれ、誰にも愛されずに育ち、誰にも理解されないまま―――死ぬ」
 笑顔のままで、言葉を紡ぐ。
 「ボクみたいな同類と、こーやって傷を舐め合うくらいがせいぜいじゃん」
 「それでも……」
 消え入るような声で、長身の少年は答えた。
 「たとえ傷を舐め合うような関係だとしても、俺はお前との関係が……その……嫌いってわけじゃ、無いよ、九重。

 九重かなえ


 消え入るような声で、それでもしっかりと長身の少年は笑顔と言う名の無表情をした、艶やかな黒髪の生徒―――女生徒、九重かなえに向かって答えた。

319ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:05:15 ID:CImphNxY
 「どうだった?」
 その後、午後の授業の休み時間。
 長身の少年(通称:キロト)は廊下で三九夜に聞いた。
 「ずっっっと女の子を見る目だった!」
 満面の笑顔で三九夜は言った。
 両手の絆創膏が逆に痛々しい。
 「いやさ、ほとんどずっとゼンの奴さぁ、隣のオレを意識しちゃってる感じがモロバレ!って感じだったぜ。オレもちゃんと女の子だって分かってくれやがったみたいだ!」
 「そうか、良かった」
 ハイテンションに捲し立てる三九夜に対して短く答える少年。
 無意識に、声に穏やかな物が混じる。
 「このまま続ければ、ゼンも私と同じくらい、オレのこと好きになってくれるかな!?」
 「うん、大丈夫。『二千のラブコメを読む男』を言われた俺が保証する」
 「ホントか!?」
 「うん、次の課題は料理」
 長身の少年の言葉に、渋い顔をする三九夜。
 「料理か……アレがあそこまで強敵だとは思っても見なかったぜ」
 先日、三九夜が長身の少年の家に行ってから重ねたことは、『自分の女の子らしさをより向上させ、アピールする方法』を身につけることだった。
 善人のような中学生男子に恋愛対象として見てもらう早道は、自分の中の女の子らしさをアピールすること。
 女子制服を用意し、メイクや髪型の見直し、更には家事全般のレッスンを長身の少年から受けた。
 受けたのだが……
 「参考までに、今まで料理の経験は?」
 「あー、家庭科の調理実習でも、芋洗ったり、皿並べたりしたくらい。それ以外は全然」
 三九夜は、とんでもなく料理が下手だったのだ。
 両手の絆創膏は先日廊下で慟哭した時の怪我よりも、包丁で指を切った怪我による物の方が多いくらいだ。
 「やっぱ私、才能無いのかなぁ」
 「そんなこと無い。俺の教え方が悪かったんだと思う」
 見た目と裏腹に、長身の少年は家事全般が得意分野だった。
 先日の弁当も全て自身の手作りだ。
 そもそも、長身の少年はその分野で何か三九夜に協力できないかと思い立った訳だが……
 「キッチンを爆発させる、なんてマンガみてーな真似を自分でやるたァ思わなかったなー」
 昨日、少年宅のキッチンで起こった惨事を思い出して、三九夜が渋い顔で言った。
 「見た目は派手だったけど、被害は深刻じゃ無い。掃除したら元通りになった」
 「そいつは重畳」
 「今日の放課後からでも、また料理の練習が始められる」
 「まーたお前のキッチンをダイナシにしちまうかもしれないけどな」
 「良いの?千堂に振り向いてもらえなくても」
 はらはらと泣かれた。
 「う、うぁ、あぅ、グス……」
 「ご、ゴメン天野さん!?そういうつもりじゃ無くて……」
 ハンカチを取り出し、泣きだした三九夜に謝る。
 「ヒック……やっぱり無理だよなぁ……料理一つできないガサツな女が、ヒック、ゼンとなんて、ヒック、釣り合わないよなぁ……」
 「釣り合わないなんてことない」
 「……本当?」
 「俺は、同じクラスになった時から君たち2人を見てた。君たち2人を見て、『良いな』って思った。だから、協力した。その2人が釣り合わないなんてはず、無い」
 決して大声ではないが、一言一言、ハッキリと言う少年。
 「……だな」
 その言葉に頷いて、少年のハンカチをひったくる三九夜。
 「ゼンを委員長に何か渡さねぇ。絶対絶対絶対、アイツをモノにして見せる!」
 「ああ、頑張って。俺も、頑張る」
 「ああ!」
 そうやって頷き合う2人の間には、いつしか妙な絆が生まれていた。
 それを遠目から見た者は、特に詳しく知らない者はこう見えたかもしれない。
 「コイツら付き合ってるんじゃね?」と。

320ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:06:46 ID:CImphNxY
 夜照学園中等部で噂の『放導官(ルーモア・ルーラー)』は単なる学園きっての情報通、ではない。
 『報道』ではなく『放導』であるように、学園中の情報を把握し、それらを流布し、意図する方向に出来る限り導く、まさに情報の支配者と言っても過言ではない存在である。
 その正体を知る者は全くと言って良い程いない。
 もっとも、本人としては『放導官』なんて打ち切られた少年漫画のような微妙なセンスの通称で呼ばれるのは好むところでは無いのだが。
 『放導官』でも全ての情報を支配できる訳ではないという好例だった。
 と、言うより今でこそ有用なので『放導官』と言う名を積極的に使ってはいるが、彼女(女生徒なのだ)自身情報を支配できているとは微塵も思っていなかった。
 そもそも、情報の支配者になんてなりたくてなった訳でも無い。
 女子内のネットワークの中でうまく立ち回るために人間関係(コネクション)を構築し、コミュニケーションを取る過程で、気が付いたらそうなっていた、と言うだけの話。
 少しふるまいを間違えれば、どうでも良い理由を付けられていじめられることもあたり前な中学生女子の人間関係の中で生きていくにはこの手の情報―――噂(ルーモア)を操ることは不可欠だったのだ。
 どちらかと言えば目立つ容貌をしている彼女としてはなおさらであった。
 実際、『放導官』としての初期の活動は、自分に矛先が向きそうになったいじめの種を他の人間に『斡旋』することだったし。
 最初の頃は、その為に何人の友達を『売った』か、もう覚えてはいない。
 ともあれ。
 その日、『放導官』は、模範的な女子中学生らしく自宅で数学の宿題をする傍ら携帯電話をいじっていた。
 いじめのリーダーとなる生徒の中にはメールの返信が少し遅れるだけでも気分を害し、相手を次のいじめのターゲットにするような者もいる。
 『放導官』としても、一女生徒としても、そうした類の『友人』は数多くいるので、携帯電話は常に気を配るべきツールだった。
 その日も、宿題中にメールが届いた。
 女生徒としての『友人』、クラスメートの1人からだった。
 添付ファイルには写メが一枚。
 本文の内容を要約すると以下の通り。
 『隣のクラスの廊下でイチャついてる2人を写メった!本人たちはヒテーしてたけど、コレ絶対付き合ってるよね!?』
 「……悪趣味」
 相手に聞こえることの無い感想を吐き捨て、添付ファイルを開く。
 写真に写っていたのは2人の生徒。
 泣いている女生徒を、背の高い男子生徒が優しくなだめているようにも見える。
 確か、剣道部の部長とそのクラスメートだったはずだ。
 彼らの目線はカメラの方には向いておらず、盗み撮りであることは明白だった。
 正直、これだけでは恋愛関係にあるかどうかは確証が持てるものでは無かったが、変に反論して気分を害されると厄介な相手だ。
 『写メみたよ!そうだよねー。100パー付き合ってるよねー』
 取り合えず、こう返信しておけば大丈夫だろう。

321ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:07:05 ID:CImphNxY
 「しっかしまぁ、白昼堂々こんな姿をさらしちゃうなんて、不幸と言うか迂闊と言うか」
 瞬時に返信した後、シャーペンを動かしながら彼女は呟いた。
 「ま、隙を見せたのは向こうなんだから、心おきなく有効活用させてもらいますか」
 恐らく、放っておいても剣道部部長のことは噂になるだろう。
 ならば、噂の流布を加速させて、盛り上げてやることにしよう。
 ここのところ女子の間で面白そうな話題もあまり無いし。
 女子の中には『最近面白いことが無いからイジメる』なんて頭のおかしい連中が当り前のように存在する。
 そんな理由でクラス中から無視されたり、画鋲に靴を入れられたり、制服をズタズタにされたり、自殺の方法を考えたり、といったことなど『放導官』としては二度とごめんだ。
 そう言う訳で、部長さん達にはイジメ防止のためにも『面白い』噂の種になってもらうとしよう。
 真偽不明の噂を流すことに多少の罪悪感が無いでは無かったが、イジメのターゲットにされるのに比べれば可愛いものだろう。
 「そうだ、盛り上がるようにテキトーなストーリーをくっつけようか」
 すでに、彼女の意識は完全に、数学の宿題から『剣道部部長 天野三九夜』という情報をどう利用するかに移っている。
 元々、数学は彼女の苦手科目だ。
 歴史のような、情報を覚えるだけで良い暗記科目は得意だが、自分で考える部分の大きい数学のような教科は苦手なのだ。
 「ま、恋仲にあるあのデカいクラスメートのために一念発起して可愛らしくめかしこんできた、ってのが順当かしら、ね」
 勿論、相手の名前も把握しているが、ここで態々思い出す必要も無いだろう。
 「デカい奴は部長の幼馴染と恋敵で―――って最初からココまで設定することは無いか」
 噂とは尾ひれがつくもの。
 尾ひれがついて、拡大が加速する。
 最初から密に噂(ストーリー)を設定しすぎると尾ひれが付き辛くなるし、『放導官』にとって想定外の方向に噂が向かってしまう恐れがあった。
 「これから忙しくなりそうだね、正樹」
 シャーペンを携帯電話に持ち替えてそう呟き、少女は机から顔を上げる。
 視線の先には、壁に拡大コピーして貼られた、1人の少年の写真。
 写真はその一枚だけでは無い。
 壁や天井、部屋中に隙間一つなくその少年の様々な姿を映した写真が貼られていた。
 誰かを利用するようなこと、嘘かも知れない情報を流すことに罪悪感が無いわけではない。
 けれども、朱里はその写真の少年―――葉山正樹の姿を見れば、ひと時でもそれを忘れ、安らいだ気分になれた。
 「私は今日も頑張るからね、正樹―――まーちゃんの子供をいっぱいいっぱいいっっっっぱい産んであげるその日まで、ね」
 口元に笑みを浮かべて、『放導官(ルーモア・ルーラー)』こと明石朱里はそう呟いた。
 その笑みが悲しげに、それ以上に狂気的に歪んでいることに気が付く者は、今はまだ、誰もいない。

322ヤンオレの娘さん 第三回戦 まい・ふぇあ・れでぃ   ◆3hOWRho8lI:2011/07/18(月) 22:07:54 ID:CImphNxY
 以上で投下終了です。
 皆様、お読みいただきありがとうございました。

323雌豚のにおい@774人目:2011/07/18(月) 22:09:54 ID:5hQ4XTwQ
>>322
空気悪い中GJ!!
流石です

324 ◆0jC/tVr8LQ:2011/07/19(火) 01:10:53 ID:6mBTzO86
失礼します。投下します。

325触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/07/19(火) 01:12:01 ID:6mBTzO86
※警告!!
このSSは、おっぱいマニアのおっぱいマニアによる、おっぱいマニアのためのSSです。閲覧の際はご注意ください。

――――――――――――

「こらあっ!!」
晃に怒鳴られ、僕は竦み上がった。
彼女が怒ったのは何回か見たことがあるが、ここまで完全にキレているのは初めてだ。
一体何が起きるか、想像が付かない。
「ひっ! ひいっ!」
不甲斐ないことに、僕は一瞬で腰を抜かしてしまう。地面にへたり込まずに済んだのは、僕を抱きかかえていた先輩が支えてくれたからだった。
「あうう……あ、晃。こ、ここ、これは……」
弁解しようとするが、舌が回らない。そもそも、何をどう言い訳すればいいか分からなかった。
口を半開きにしたまま、無様にアワアワやっていると、平然とした様子の先輩が、晃に言った。
「何、あなた? いきなり怒鳴りつけたりして失礼じゃないの?」
「詩宝から離れろ。性悪女!!」
「離れる? 何を言っているの? 詩宝さんは私のフィアンセよ。一緒にいるのが当然じゃない」
晃の怒声を浴びながら、全く臆せずに言い返す先輩。その態度は、晃の怒りにさらに油を注いだようだった。
「フィアンセに興奮剤飲ませてレイプの濡れ衣着せる女が、どこにいるんだよ!?」
「やっぱりあなたが詩宝さんを病院に連れて行ったのね。後で高く付くわよ。覚えておきなさい」
これ以上話すことはない、と言わんばかりに、僕を支えながら晃を素通りし、校舎に向かおうとする先輩。
しかし、晃が黙って通すはずもなかった。
「おいこら! 行くなら詩宝を置いて行け!」
晃は僕の腕を掴み、強引に先輩から引き剥がそうとした。先輩がそれに抵抗する。
「置いて行けるわけないでしょう! 離して!」
「うわああああ!」
ホモ・サピエンスの範疇とは思えない力で左右から引っ張られ、一瞬で僕の体に激痛が走った。関節が! 骨が!
誰かに助けを求めようにも、とうの昔に、周囲には1人の生徒も先生もいなくなっていた。登校しようとしていた生徒達は、全員裏門に回ったのだろう。
もっとも、こんな瘴気渦巻く空間に留まっていられる人なんて、まずいないと思うけど。
と、そんなことを言っている場合じゃなかった。このままじゃ体がバラバラになってしまう!
「や、止めて! 止めて!」
2人に懇願するが、力が緩められる気配はない。
もう駄目かと諦めかけた、そのときだった。
「止めなさい!」
知らない女性の声が響いた。
「「?」」
それを聞いて、先輩と晃は初めて手を離す。僕はばったりと地面に倒れ、仰向けの大の字になったが、どうにか首を動かして、助けてくれた女の人を見ようとした。
一体誰だろうか。この凶悪時空に飛び込んで僕を助けてくれた、ファイト一発大和魂な人は。

326触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/07/19(火) 01:13:50 ID:6mBTzO86
そこに立っていたのは、やはり僕の知らない女性だった。
黒いスーツを着ているので、生徒ではないと分かる。20歳ぐらい。ロングストレートの黒髪美人だ。
身長は、先輩と同じか少し低いくらい。胸はスーツを突き破りそうなほど、大きく張り出している。
一瞬、どこかで会ったような気がしたけど、思い出せない。僕の勘違いだろう。
それはさておき、先輩と晃は、突然の闖入者に、明らかにお冠な様子だった。
「何よあなた? 引っ込んでてもらえる?」
「関係ねえだろ! すっ込んでろ!」
「そうは行きませんわ。虐めの現行犯ですわよ」
虐め?
ああ、そうか。
先輩と晃が僕を引っ張り合っているのが、そう見えたのだろう。
しかし、当然のことながら、そう言われて納得する先輩と晃ではない。
「この人は私のフィアンセよ! 虐めるはずないでしょう! この男が無理やり拉致しようとしたのよ!」
「こいつは俺の友達だ! 変な薬使って濡れ衣着せるこの馬鹿女から、助けようとしてたんだよ!」
お互いを指差して詰り合う先輩と晃。しかし、黒いスーツの女性は一顧だにしなかった。
「あなた方2人の処分は、後でじっくり決めますわ。今は、この方を保健室に連れていきます」
そう言って、僕に歩み寄るスーツの女性。先輩が爆発した。
「ふざけないで! あなた一体誰よ!?」
「昨日、この学園の教師として赴任してきた緒美崎姉羅々(おみざき しらら)ですわ。寄ってたかってか弱い殿方を虐めるこの学校の校風は、早急に改めないといけませんわね」
「…………」
「…………」
先輩と晃は、悪鬼の表情で緒美崎先生に殺気を放っているらしい。らしい、と言うのは、僕に2人を直視する勇気がなかったから。
ただ、付近を飛ぶカラスやスズメがバッタバッタと落下してくるので、そうなんじゃないかと思う。僕もちびりそうだし。
ところが、緒美崎先生は、この2人から威圧されているというのに、まるで堪える様子がなかった。
「さあ、参りますわよ」
倒れた僕に手を差し伸べ、抱き上げようとする緒美崎先生。先輩の怒りはさらに倍加されたようだった。
「詩宝さんから離れなさい! 私は中一条舞華よ! その気になれば、あなたなんかすぐにクビだわ!」
「はいはい。それはよかったですわね」
緒美崎先生は、全く意に介さない。
「…………」
先輩の周囲から、褐色の靄(もや)が立ち昇っていた。限度を超えた怒りが空気中の酸素と窒素を化学反応させ、有害物質のNOX(ノックス)を発生させているようだった。
科学的にはあり得ないのだが、実際肉眼で見えているのだから仕方がない。
晃の体からも、褐色の煙が上がっていた。
先輩ほど学校への影響力がない晃は、緒美崎先生を恫喝するようなことはしなかったが、その分怒りも昂っているのだろう。
2人の怒りを前にして、僕はダンゴムシのように縮こまった。

327触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/07/19(火) 01:15:03 ID:6mBTzO86
「もう言うことはないようですわね。2人とも、早く教室に戻りなさい!」
緒美崎先生が、先輩と晃に命じる。この状況の元凶である僕が言うのもおかしいけど、ちょっと命知らずが過ぎるんじゃないだろうか。
「…………」
「…………」
先輩と晃は、しばらく緒美崎先生を、今にも縊り殺しそうな目つきで睨んでいたが、これ以上ここで争っても益がないと思ったのか、その場を立ち去っていった。
「詩宝さん、保健室に行ったら直ちに私の教室に来てください。必ずですよ!」
「詩宝! 保健室から戻ったら、すぐ教室来いよ!」
2人とも一度振り向いて、僕に言う。どっちの言うことを聞いても酷いことになりそうだ。
いや、これはむしろチャンスかも知れない。
保健室に連れて行ってもらった後、速攻で学校を抜け出して、家に帰って準備して、首相官邸に殴り込んで……
うん。行ける。
そう思ったとき、緒美崎先生から話し掛けられた。
「失礼しますわね」
「えっ?」
気が付くと、僕は緒美崎先生にお姫様抱っこされていた。
「な、何を……?」
「ツカマエタ。ツカマエタ」
「えっ? 何ですって?」
「何でもありませんわ。さあ、参りますわよ」
「あ……」
緒美崎先生は僕を抱き上げたまま、校舎まで運んでしまう。入り口手前で、ようやく下ろしてもらえた。おかげで他の生徒や先生には、抱っこされているのを見られずに済んだようだ。
一緒に校舎内を移動していると、改めて緒美崎先生の身が案じられた。
中一条先輩の権勢は今更言うまでもないし、晃だってキレたら何をするか分からない女の子だ。
「あの、緒美崎先生、心配してくださるのは嬉しいんですけど……」
すると先生は、「シッ!」と口に指を当て、僕の発言を制した。
どうしたんだろうと思いながら、僕は黙った。
そしてしばらく歩き、着いたのは、保健室ではなくて生徒指導室だった。
まあ確かに、保健室に行くような怪我はしていないんだけど。
でも、最初言ってたのと違う場所に連れて来られたのは、気にならないでもなかった。
緒美崎先生はドアを開け、僕に入るよう促す。
僕が中に入ると、後から入った緒美崎先生は、ロッカーから鞄を取り出した。
そしてその中から、金属製の棒を取り出す。
金属製の棒と言っても、特殊警棒のようなものではない。何かの電子機器みたいだ。
緒美崎先生は、その棒を僕の体に近づけ、少し離れた状態を保ちながら、手、胴体、足とあちこちに動かした。
――何だろう?
すると、何箇所かで、棒からピピーピーピーという音が鳴った。
――これは一体?
緒美崎先生は、棒を置き、メモ帳のようなものを取り出すと、文字を書いて僕に見せた。
『あなたの体に、盗聴器と発信器が付けてあります』

328触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/07/19(火) 01:16:29 ID:6mBTzO86
――え!?
僕は驚愕した。多分、先輩が付けたのだろう。
そう言えば、お屋敷で、盗聴器や発信器の恐れがあるから、電波を遮断するとか言っていたっけ。確かにこれでは、迂闊にしゃべれない。
緒美崎先生が、次のメモを見せてくる。
『服を脱いでください。下着もです』
――え、でも……
さすがに恥ずかしい。躊躇していると、またメモが出た。
『早く!』
緒美崎先生の表情が険しくなっている。これ以上は逆らえない。
僕は制服と下着、それに靴下を脱ぎ、全裸になった。
――若い女の人の前で、こんな……
惨めな思いをして前を隠していると、緒美崎先生は新しい下着とジャージを鞄から取り出した。
何故? いつの間に?
受け取って着ると、サイズがぴったりだった。本当にどうなっているんだろうか。
緒美崎先生は、僕が脱いだ服を無造作にロッカーに放り込むと、僕の手を引いて生徒指導室を出た。
それにしても、不思議だ。
どうして初対面の緒美崎先生が、僕に発信器や盗聴器が付いていることを警戒して、探知機に着替えまで準備していたんだろうか。
ともあれ、廊下をかなり歩き、僕達は別の部屋に入った。部屋の中央にある机に、向かい合って座り、緒美崎先生が口を開く。
「もう、話しても大丈夫ですわ」
「は、はい……ありがとうございます。あの、保健室には行かないんですか?」
「保健室に行ったら、あの2人が待ち構えていますわよ」
「うっ……」
確かに、その通りだ。
「どうして僕の服に、盗聴器や発信器があるかも知れないって分かったんですか?」
緒美崎先生はその疑問には答えず、逆に質問してきた。
「ごしゅ……紬屋さん。先程、あの2人に虐められていたのではありませんの?」
「いえ、あれは虐められていたんじゃなくて……あれ? 僕、自分の名字言いましたっけ?」
この質問も、スルーされた。
「そうですの……でも紬屋さん。あの2人とトラブルになっているのではありませんの?」
「はあ、まあ、トラブルと言いましょうか、何といいましょうか……」
何と説明したらいいのだろうか。
下手に話したら、先生に一層迷惑をかけることになりそうだ。
「す、済みません。これは、僕が自分で決着を付けなければいけない問題なんです」
ヘタレの分際で粋がり過ぎだが、親身になってくれた緒美崎先生に、これ以上迷惑をかけたくはなかった。
「仕方ありませんわね……分かりましたわ」
「済みません」
「ところで紬屋さん、占いをしてもらったことはありまして?」
急に話題が変わった。
「占い、ですか……」
僕は、占いの類はあまり信じない。
「いえ、そんなには……」
「わたくし、多少心得があるんですのよ。占わせていただけません?」
学校の先生が占いなんて、あまり似合わないような気がする。
それに、僕の何を占おうと言うんだろうか。
とは言うものの、たった今先生に、先輩や晃とのことを話すのを断った手前、占いまで断るのは悪いような気がした。
「……じゃあ、お願いします」
「ほほほ……では早速始めますわね」

329触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/07/19(火) 01:18:06 ID:6mBTzO86
緒美崎先生は立ち上がり、カーテンを閉めると電気を消した。
そして鞄から、台付きの水晶玉を取り出し、机の上に置くと、再び僕の前に座った。
「この水晶玉に、集中してくださいまし」
「はい」
僕は、水晶玉をじっと見た。
緒美崎先生は、何やら呪文のようなものを唱え始める。すると水晶玉がボウッと光った。
台に仕掛けがあるのだろうが、ちょっと幻想的だ。
「見えて来ましたわ」
「何が見えますか……?」
「紬屋さんのトラブルの発端は……」
「……?」
「自宅の前に、図体の大きい、凶暴なメイドが倒れていたのが発端ですわね」
「え!?」
僕は驚愕した。
まさか、紅麗亜のことが分かるなんて。
「そのゴリラメイドは、結構な金額を使えるカードを持っていたにも関わらず、飢え死にしそうだったと言い張って、あなたの家に居座りましたわね?」
「ま、全くその通りです……」
僕は、頷くしかなかった。
「そして、そのメイド型モンスターは、紬屋さんをずっと家に監禁していましたわ」
だんだん、紅麗亜の呼び方が酷くなってくるが、内容に間違いはなかった。
「それから、あの中一条さんが策略で紬屋さんを外に連れ出し、今に至るのですわね」
「…………」
あまりの的中ぶりに、僕は言葉もない。
「それから、先程一緒にいた男子生徒、本当は女性ですわね?」
「あ、あうう……それはどうか内密に……」
それからも、緒美崎先生の占いは続いた。
緒美崎先生は、紅麗亜と会う前の一週間ほど、僕がどこで何をしていたか、ことごとく言い当てた。
占いって、そこまで分かるものなのか。
僕はすっかり、緒美崎先生の力を信用してしまっていた。
「では今度は、紬屋君さん抱えているトラブルの原因を、占って差し上げますわ」
「トラブルの原因、ですか……?」
そこまで分かるのか。今までずっと、僕が優柔不断ではっきりしないせいだと思っていたけど。
「ここからは、高度なやり方になりますわ。協力していただきますわよ」
「はい。もちろんです」
すると、緒美崎先生は、いきなりスーツの前を開けた。
「ん?」
さらにブラウスのボタンも外し、特注と思われるブラジャーまで上げてしまう。
サッカーボール以上あるおっぱいが、剥き出しになっていた。
「な、何やってるんですか!?」
「目を逸らさないでくださいまし! 占えませんわ」
「あうう……はい」
仕方なく、緒美崎先生の裸のバストを見詰める。大きさの割に張りがあるようで、先端はツンと上を向いていた。
「では、両手で揉んでくださいまし」
「なんでですか!?」
「そういうしきたりですわ。嫌なら、占いは中止ですわよ」
ここで止められても困る。誰かに見られたらどうしようかと思いつつ、僕は両手を伸ばし、緒美崎先生のおっぱいを揉み始めた。

330触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/07/19(火) 01:19:25 ID:6mBTzO86
「あっ、あん……いいですわあ……」
「…………」
早く終わってほしい。
「あふうん……もっと強く……乳首もいじってくださいまし……」
「こ、こうですか?」
「ああんっ! いいっ! 素晴らしいですわっ!」
「それで、どうなんですか?」
「何がですの?」
「僕のトラブルの原因ですよ!」
「ああ。そうでしたわね。あうん……ええと、これは魔女の呪いですわね」
「ま、魔女!?」
「そうですわ……魔女が紬屋さんに、女難の呪いをかけているのですわ……あんっ」
あまりにも突拍子もない話だった。普段の僕なら、一笑に付して終わりだろう。
しかし、他ならぬ緒美崎先生の言うことなので、信じるしかなかった。
「そ、その魔女は、何の目的で僕に……」
「気持ちいい……残念ですけど、そこまでは分かりませんわね」
「どこに行けば会えますか? お願いして呪いを……」
お願いして駄目なら、その魔女と一戦ぶちかますという選択肢も頭に浮かんだ。
しかし、僕の希望はあっさり砕かれる。
「居場所も分かりませんわね……あっ、お乳だけでこんなに……」
「そんな……」
僕はがっくりとうなだれ、緒美崎先生の胸から手を離した。そんな僕の手を、緒美崎先生は優しく握り締める。
「ご安心くださいませ。魔女には会えませんが、呪いはわたくしの力で解いて差し上げられますわよ」
「ほ、本当ですか!?」
僕はガバと跳ね起き、緒美崎先生の瞳をまじまじと見詰めた。
呪いが解かれる。
それは、僕の周りのみんなが、あるべき姿に戻るということだ。
中一条先輩は、僕にレイプされたショックから立ち直り、新たな人生を歩み出せるだろう。
晃は、昔のように、普通の友達に戻ってくれるだろう。
そして紅麗亜は……きっと、本当に仕えるべき人に会えるに違いない。
僕はどうなるか分からないが、それはもう度外視だ。
「ぜひ、お願いします」
「分かりましたわ。ただし、半端な御覚悟では呪いは解けませんわよ」
「何でもやってみせます!」
僕は、緒美崎先生の目を直視して誓った。
もちろん、何でもと言っても限度はあるけれど、アマエビを踊り喰いしながらヘビー級ボクサー殴り合うぐらいなら、喜んでやる。
「今のお言葉、信じますわよ」
「はい。信じてください!」
「では、早速」
そのとき、チャイムが鳴った。まずい。授業が始まる。
「あ、授業が……それじゃ放課後に……」
「いいえ。呪いを解くとなったら、もう一刻の猶予もありませんわ」
緒美崎先生は素早く服装を直し、携帯電話を取り出すと、どこかに電話をかけ、「今日は1日自習ですわ」と一言言って切ってしまった。
「……いいんですか?」
「授業なんてどうでもいいですわ。紬屋さんの方が大切ですもの」
「は、はあ……」
嬉しいような、申し訳ないような気持ちになった。
「では、参りますわよ」
「え? どこへですか?」
「ここでは呪いは解けませんわ。さる人里離れたところに、霊的スポットがあるんですの。解呪の儀式は、そこでしかできませんわ」
「そ、そうですか……」
ここに至っては、万事緒美崎先生の言う通りにするしかない。
数分後、僕は、緒美崎先生の運転する車の助手席にいた。

331 ◆0jC/tVr8LQ:2011/07/19(火) 01:20:42 ID:6mBTzO86
終わります。

332雌豚のにおい@774人目:2011/07/19(火) 02:22:29 ID:d3z7ReUM
>>331
注意書きにも笑ったが話の流れにも笑ったw
詩宝さん流石ですねあこがれちゃうなー

333雌豚のにおい@774人目:2011/07/19(火) 04:46:05 ID:OcQSyR0g
触雷は相変わらずクオリティーが高いな。

334雌豚のにおい@774人目:2011/07/19(火) 11:45:58 ID:ufVlZg/2
クオリティは確かに高い
色んな意味で

335雌豚のにおい@774人目:2011/07/19(火) 18:33:49 ID:BnTTpl8Q
いや文章は雑だろ
嫌いじゃないが

336 ◆STwbwk2UaU:2011/07/19(火) 21:15:37 ID:nVwOctKE
投下します。
なんか削除起きてるね。どうしたんだろ・・・

337neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/19(火) 21:16:21 ID:nVwOctKE
ゴトン、ゴトンと体が揺れる。
子守唄が聞こえる。
よく、知っている声だ………

目を開けると、僕は列車の中にいた。
朝の日差しが、遠く向かい側の席まで僕の影を伸ばす。
―さっきまでのは、全て夢だったのだろうか。いや、これも…
そう思い体を動かそうとすると、動かない。
そして自分の右側に柔らかな重みを感じる。

「…気づいたんだね、コーちゃん。」
僕の愛しい人の、声が聞こえる。
しかし姿は見えない。
体が、言う事を聞いてくれないのだ。

「コーちゃん……私ね、振られちゃった。」
ゴトン、ゴトンと規則的に列車が揺れる。

「ずっと……ずっと好きだった人に振られちゃった。
 もう…ね、生きるのに……疲れちゃった………」
窓が開いている。風が、背中を撫でる。

「…でね、私、諦めようと思ったんだけど……ね…
 諦められなかったの。コーちゃんを諦められなかった。」
大きく横に揺れる。その反動で僕は座席に横倒しになる。
そして愛しい……スズねぇは僕に被さってきた。
そのまま、僕はスズねぇに口唇を貪られた。
舌すら動けない僕は、拒むことも受け入れることも出来ないままだった。
スズねぇの舌は動かない僕の舌を捉え、引き出し、吸いつく。
嬲るように舌を動かし、舌と舌が卑猥な音を立てる。

「んっ……む………はぁ………
 ごめんね、コーちゃん。
 動きたくても動けないし、話したくても話せないでしょ?
 私がやったの。しびれ薬を寝てる間に盛ったの。」
スズねぇはそのまま僕の上にかぶさり、僕を優しく抱きしめる。
列車の振動が、やけに大きく感じる。

「ねぇ、私分かったの。やっとね、理解できたの。
 この世界じゃコーちゃんと幸せになれないって。
 だから、ね……一緒に、行こう?」
また、僕の口が貪られる。僕はただ、なすがままだ。

――そういえば、僕が拾ったキーホルダー……どこ置いたかな……
落としちゃった……かもな………

338neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/19(火) 21:16:47 ID:nVwOctKE
しばらく列車に揺られた後、僕はスズねぇに抱えられて列車から降りた。
降りた駅の名前は逢瀬岬。
確か、ここの海が見える公園で恋人になったら、幸せになるんだったかな……

「ス……ズねぇ………なんで…ここに……?」
僕は未だしびれが取れないまま、声を出す。
スズねぇが、変わらない微笑みをぼくに向ける。

「コーちゃん、ここの伝説知ってる?恋人になったら幸せになるっていう伝説。」
僕は頷く。

「実はね、もう一つあるんだ。ここと反対の岬で、とあることをするとね、
 ……ずっと一緒にいられるの。」
―そんなの聞いたことがない。
ここの岬のウワサはひとつだけで、そんな……
何をするっていうんだ?

スズねぇは僕を抱えたまま、険しい反対側への岬の道を登り始めた。
今までのスズねぇの力じゃ考えられないほど、力強く僕を抱えたまま登る。
やがて、岬の端の方まで歩き、僕とスズねぇはそこから座って海を眺めた。

ザァ……と海からの風が頬を撫でる。
近くからはかもめが、遠くからは汽笛が……
僕とスズねぇは、二人だけの世界に、いた。

「……コーちゃん、私が何しようとしているか……わかる?」

「…うん。」
僕は短く返事をする。
もう、僕はこれから起こる事が分かっていた。
スズねぇはつまるところ、どんな手段を使ってでも僕と一緒にいたいんだ。
僕は手段を選べなかった。
だから、僕は彼女にこんな手段を選ばせてしまった。
もし……もし僕に勇気があれば………

――いや、よそう。
僕はもう、受け入れるしかないのだ。
この結末を。


「〜♪♪」
スズねぇが、曲を口ずさんでいた。
思い出すまでもない。結婚式で有名な曲……
結婚行進曲だ。
ひと通り有名なフレーズを口ずさんだ後、スズねぇは僕を見た。

「コーちゃん、私はね、夢があったの。」

「白いウェディングドレスを来て、ヴァージンロードを歩いて…
 お父さんにエスコートしてもらって、コーちゃんの元まで歩くの。」

「そして、誓いの言葉を述べて、指輪をはめて……口づけするの。
 ……愛おしい…貴方と………」

スズねぇはまた目を海に向ける。
その目は切なく、どこも見てはいなかった。
僕はフラつきながらも立ち上がり、スズねぇを立たせ、
……口づけを交わした。

「コーちゃん……?」
スズねぇは、驚いたように、嬉しいように話しかける。
僕の、僕の心だって決まっている。

「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、
 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを僕は誓います。」
結婚の宣誓の言葉を述べる。
僕にできることは……これくらいだ。

――スズねぇは泣いた。
この言葉を聞いて、僕を抱きしめながら泣いた。
今、僕が……いや、僕達が居るのは海の岬じゃない。
神聖なる聖堂と、宣誓せし神の前にいる。
そう、僕とスズねぇは今、結婚式を………挙げているのだ。

スズねぇはぼくに寄り添い、お互い歩を進めながら宣誓の言葉を続ける。
「新婦となる私は、新郎となるあなたを夫とし、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、
 病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで……いえ、
 死すら乗り越え、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓います。」

歩を、進める。
世界がまるで、僕達を祝福してくれているように…明るい。

「ずっと、ずっと……好きでした。鈴香さん。」

ぼくの愛しい人は、真っ赤になって微笑む。

「ずっと…ずっと愛しています。孝太郎さん。」


僕が最期に見たのは。愛おしいお嫁さんの、幸せな顔だった。

339 ◆STwbwk2UaU:2011/07/19(火) 21:18:48 ID:nVwOctKE
投下終わり。コレで完結です。
ホントは連作する予定だったけど、連作終わる前に夏が終わりそう。
あと
×遼太郎
○良之助
でした。
wikiに上がったら直しときます。

340雌豚のにおい@774人目:2011/07/19(火) 21:32:35 ID:Czel94Kc
>>339
GJ!

削除云々はNTR注意書き云々です
早漏って奴ですね。すみませんでした

341雌豚のにおい@774人目:2011/07/20(水) 00:38:18 ID:F4Aw1ps.
Gjだけど、読み飛ばしがあったんじゃないかと思って過去レス見直してしまうぐらい展開が早かったw
でも面白かった。お疲れさま

342雌豚のにおい@774人目:2011/07/20(水) 01:46:23 ID:3HkzO0M.
こういう終わり方好きだな
ただ一点惜しい部分があるとしたらヤンデレ具合がちと弱いとこかな。まぁ、この話の長さでいったら妥当なのかもね

GJっす

343ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:42:05 ID:DJbhkvVU
こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
中等部編、第四回戦、投下させていただきます。

344ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:42:58 ID:DJbhkvVU
 どうしてこうなった
 これが、今の千堂善人の心境だった。
 幼馴染のオレ女、色気なんて一かけらもないと思っていた天野三九夜が美少女としてイメチェンを果たした。
 それはいい。
 当初こそ衝撃度は高かったが、三九夜が女性らしい恰好をすることは悪いことではない。
 正直、それから数日たった今でも、随分ドギマギさせられるところだが。
 時折竹刀が飛んでくると、逆に「サクらしい」と安心するくらいだ。
 そう、そうした時でないとサクらしさを感じない。
 もっと言えば、幼馴染が随分と遠い存在になったように感じられるようになってしまったのだ。
 勿論、普段のように一緒に軽口をたたき合いながら登下校もするし、部活でも一緒。
 だが、それでも二人が気軽に話す時間はほんの少しだけ少なくなった気がする。
 もっと言えば―――三九夜とキロトとか言う長身の少年が話す時間が圧倒的に増えた。
 現に、今も彼と熱心に話をしている。
 「あ、笑った」
 その様子を遠目に見て、善人は思わず呟いた。
 三九夜があんな笑顔を善人に向けたのはいつ以来だろうか。
 「むー、また千堂くんよそ見してる!」
 目の前で話をしていた二葉が、善人の顔を前に向けさせた。
 現在は休み時間。
 ちょうど善人と二葉が二人きり談笑しているときだった。
 普段なら、無理やりにでも三九夜が絡んできて3人で、となるのだが、御覧の有様であった。
 「そんなに天野さんが気になる?男の子はかわいい女の子が好きだもんね!」
 「それは君も同じだろ?」
 「ウン、かぁいいの大好き!」
 お持ち帰りしたーい、と楽しげに言う二葉。
 素直にそう言える二葉が、善人には羨ましかった。
 「僕はそういうのじゃなくてさ、単にあの2人ちょっと仲良くなったなって思っただけ」
 「ちょー仲良くなったよね!」
 「一文字違う」
 いや、2文字か?
 それはともかく。
 「やっぱり気になるの、かな?」
 「べべべべべべべべべつにそんなことは無いでござりますですよ!?」
 「キャラ変わっちゃってるよ」
 クスクスと笑う二葉。
 「やっぱり、幼馴染に先に恋人ができちゃうと、さみしい?」
 「ここここここここここ恋人ぉ!?」
 すっかり声が裏返っていた。
 「え?違うの?」
 素で疑問に思われた。
 「いっや、その……」
 改めて、二人の姿を見る。

345ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:43:16 ID:DJbhkvVU
 三九夜は長身の少年と話していて、随分とはしゃいでいるように見える。
 一方の少年は、いつものように口数は多くないようだったが、善人らに対するものより、とても穏やかな表情をしているように見えた。
 三九夜の言葉に、少年が糸のように目を細めて笑う。
 普段の剣呑な表情と比べて、ずっといい笑顔だった。
 あの無愛想な少年にそうした表情をさせられる三九夜、それだけで、2人の絆の強さが感じられるようだった。
 「女子の間で最近噂だよ!」
 二葉が追い打ちをかける。
 「最近、あの2人付き合ってるんじゃないかってさ!」
 「付き合ってる……ってマジなの?」
 「んー、私も本人から聞いたわけじゃないんだけど、結構信用できる噂だと思うよ!だって『放導官(ルーモア・ルーラー』さんの噂だし!」
 二葉の言う『放導官』の噂は善人も聞いたことがあった。
 なんでも、人に知られていない様々な情報を噂として流す、学園きっての情報通だとか。
 「アイツ、そんなこと一言も言ってなかったのに……」
 「やっぱり、照れ臭かったのかもよ。そう言うのって、親しい間柄だと逆に言いだしづらかったのかも」
 二葉の言う通りかもしれない、と善人は思った。
 ただでさえ、以前から『女らしくない』、『色気なんて全く無い』と三九夜に言い続けていた善人だ。
 そんな相手に「恋人ができた」と言った日には……
 「指さして笑われるって思われたのかなぁ」
 「何気に千堂くんってキッツイところあるもんね!」
 「そう?」
 善人自身はあまり自覚は無いのだが。
 むしろ、自分のことを白い鳩のように穏やかな男だと思っていたのだが。
 「ソレって、実はそんなことないって言うフラグだよね!」
 「人の心を読まないでよ……。やっぱり言うことキツいかな、僕」
 「ちょっとキツいよ!」
 「そっか……」
 「私は好きだよ!」
 と、勢いよく言ってから顔を真っ赤にして目を逸らす二葉。
 思わずこちらまで赤くなってしまいそうなので、そういうのは止めて欲しい、と善人は思った。
 「ええっと……ありがとう?」
 「い、いえいえ」
 たがいに目をそらしながら言う善人と二葉。
 「なんて言うか、キツいって言っても千堂くんってキホン良い人だし、話してるとスパイシーって言うか面白い、って言うか……ウン、そんな感じで、良い、と思うよ」
 何故かつっかえながら、二葉は言葉を続けた。
 それは、一体どういう意味での『良い』なのだろう。
 そう言えば、キロトと呼ばれる少年も『良い』という言葉を使っていた。
 以前、善人と三九夜の関係を聞いてきて、善人が幼馴染の腐れ縁、と答えた時に。
 「良いな」
 と。

346ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:43:34 ID:DJbhkvVU
 授業中も「三九夜とキロトが付き合ってる」という噂が、善人の頭から離れなかった。
 なぜだろうか、と善人は考える。
 彼にとって、三九夜はいつも乱暴で、いつも口が悪くて、その癖いつもベタベタひっついてきて、いつも一緒にいる幼馴染で、それだけのはずだったのに。
 いつも。
 その、『いつも』がどれだけ当り前になっていたのかが気付かされる。
 当り前で、どれだけ大事だったのか。
 幼いころから、善人と三九夜は一緒にいた。
 この夜照学園に2人で進学することが出来たときも。
 剣道でボロ負けしたときも。
 嬉しいときも、悲しいときも、一緒にいた。
 一緒にいて、その想いを共有してきた。
 共に笑い、共に怒り、共に泣いた。
 それがどれだけ大切なことだったのか、大好きなことだったのか、気付かされた。
 善人は、三九夜と登校するのが好きだった。
 善人は、三九夜と遊ぶのが好きだった。
 善人は、三九夜と剣道をするのが好きだった。
 善人は、三九夜と話すのが好きだった。

 失って、初めて分かった。

 善人は、三九夜が好きだったのだ。

347ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:43:53 ID:DJbhkvVU
 その後、善人は三九夜と何も話そうとはしなかった。
 どうにも、朝に見た三九夜の笑顔が頭にチラついて離れないのだ。
 キロトと呼ばれる少年に、三九夜が向けた笑顔が。
 それをもう一度見るのが、三九夜が少年に笑いかけるのを見るのが、どうにも辛くて、どうにも胸が締め付けられる思いがして。
 午前中の授業が終わると、善人は昼食も食べずに教室を出た。
 しかし、教室を出ても、
 「ねぇ、知ってる?剣道部の天野さんが―――」
 「ウン、付き合ってるんだって、天野さんと―――」
 「天野部長がレンアイなんてねー ―――」
 「相手が、生徒会の―――」
 そんな噂をする声ばかりが耳に入る。
 聞きたくない。
 どこか、人のいないところに行きたい。
 逃げるように廊下を走り―――気が付けば、教室のある中等部第二校舎の最上階、その更に上まで来ていた。
 ドアを開けば屋上だ。
 本来は立ち入り禁止であり、施錠もされている筈なのだが、ドアノブを回すとあっさり開いた。
 屋上を休み時間に常習的に使っている生徒、九重かなえともう一人が鍵を外していることなど、善人の知る由も無い。
 ともかく、善人は見たところ人のいない屋上に入り、その真ん中で寝転がる。
 見上げると、空が見える。
 広い空が随分と近くなったような気がするが、手を伸ばしても届かない。
 まるで初恋のようだ―――と善人は思った。
 「柄じゃ無い」
 自分のメルヘンチックな考えに自嘲する。
 初恋は実らない、というジンクスはしばしば漫画や小説でも言われることだが、善人の場合でもそうらしい。
 けれども、漫画や小説と違うのは、相手を好きになる何か劇的な理由が無いことだった。
 「ま、だからこそ気が付かなかったんだけど」
 自分の馬鹿さ加減が嫌になる。
 失って初めてその大切さに気がつくなんて。
 そんなことなら、もっと三九夜を邪見にしなければ良かった。
 そんなことなら、もっと三九夜を大切にすれば良かった。
 そんなことなら――――もっと早く、三九夜に言えば良かった。
 言えれば良かった。
 「好きだ」と。
 そんな後悔をしても、もう遅いのだろう。
 噂通り、三九夜と長身の少年はほぼ確実に恋仲だ。
 今だからこそわかる。
 少年に笑いかけた三九夜の顔は、恋する乙女のものだ、と。
 あんな三九夜を見たのは数年ぶりだ。
 その頃までは、あんな邪気の無い顔を善人に向けてきたものだった。
 それが、いつの頃からかシニカルな笑みにとって代わっていた。
 「祝福、してあげるべきなんだろうなぁ、あの2人のこと」
 ずっと剣道をしていて、色恋になんて縁の無かった三九夜のことだ。
 この機を逃がしたら次の恋があと何年後に来るか分かったものではない。(こんなことを考えているから二葉に「キツい」と言われたのだろうが)
 だから、三九夜たちを、三九夜を祝福してやるべきなのだろう。
 三九夜の恋を、応援してやるべきなのだろう。
 理屈では、それが正しいと分かっている。
 けれども、感情の部分がそれに逆らって暴れている。
 どうしようもなく、暴れている。
 自分にあの笑顔を、昔のように向けて欲しい。
 自分ともっと話をして欲しい。
 自分ともっと剣道をして欲しい。
 自分ともっとずっと一緒にいて欲しい。
 「未練、だよなぁ」
 と、善人は呟いた。
 今更、そんなことを想うなんて。
 今までそんなこと全く考えていなかったのに。
 「僕は、ピエロだ」
 そんな呟きが、風に乗って消える。

348ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:44:10 ID:DJbhkvVU
 同じ頃、こんな会話がされていたことなど、善人は知る由もない。
 「だーもー!ゼンの奴、学校中走り回って探しまわったのにどこにもいやしねぇ!」
 「走り回ったって……。天野さん、持ってるお弁当、中身大丈夫?」
 「ああ、大丈夫だ、キロト。そこはサイコーに細心の注意を払ってるからな。中身は1ミリも崩れてねぇ」
 「そっか、アマノジャク。良かった」
 「けど、愛妻弁当があってもそれを渡す相手がどこにいるのか、だな」
 「さっき、他のクラスの人に聞いたら、第二校舎の上の方に行く千堂を見たって言ってた」
 「へぇん、聞き込みなんてしてたのか。無愛想人見知りヤローの癖に」
 「情報は得られた。ただ……」
 「ただ?」
 「行く先々で『天野さんと付き合ってるんじゃないの?』って聞かれた」
 「あー、オレも同じよーなことを途中で聞かれたぜ」
 「言葉の意味が全く理解できない」
 「どうしてこーなった」
 「……」
 「……なぁ、大丈夫だよな。ヘンな噂でオレの……その『必殺!愛妻弁当と一緒に告白超作戦』がどうにかなったりとか、しないよな」
 「そのネーミングはやっぱりどうかと思うけど……。でも、大丈夫、他の人がどんな下らない噂してても、千堂がそのお弁当を食べれば天野さんの気持ちは絶対伝わる」
 「だよ、な。しっかし、ゼン。『第二校舎の上の方』ってどこにいるんだ?上の階は探したぜ?」
 「ひょっとしたら、屋上にいるのかも。施錠なんてあって無いようなものだし」
 「立ち入り禁止じゃ無かったか?っつか、何でそんなこと知ってンだよ、キロト」
 「……」
 「ロコツに目ぇ逸らすな。まぁ、ツッコミ入れてる暇はねぇ。早いとこ屋上行くか!」
 「俺も行こう」
 「ああ、そして遂に伝えるんだ。ゼンに、好きだって」
 「大丈夫、何度も失敗して、それでもあんなに努力して完成させたんだ。きっと上手くいく」

349ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:45:26 ID:DJbhkvVU
 空を見上げる善人の背後で、屋上の扉が開く音がした。
 「キロトくん……」
 体を起こし、そちらの方を見ると、会いたく無かった相手がいた。
 「俺だけじゃ無い」
 少年の言葉と同時に、1人の少女が姿を現す。
 「サク……」
 「よぉ、ズイブンと手間掛けさせやがって。こんなところにいたのかよ」
 女子制服姿とはいえ、いつものようにシニカルな笑みを浮かべて三九夜が言った。
 長身の少年に向けるような、幼少期に善人に向けたような、満面の笑顔はそこには無い。
 「何の用?」
 「スネるなよ、ガキの頃じゃあるまいし。しっかし、屋上に1人とは、いかにも『悩める青少年』って感じだなァ」
 「……」
 よくよく見てみると、近づいてくる三九夜の、絆創膏にまみれた手には袋に入った弁当箱が握られている。
 扉側にいる長身の少年はどうなのかは分からないが、ひょっとしたら自分の分を持ってるのかもしれない。
 恐らく、3人で弁当を食べよう、とでも誘いに来たのだろう。
 『そして、自分たちの仲の良さを見せつけるつもりなんだ―――!』
 自分の中で、理不尽な嫉妬の炎が燃え上がるのを感じる。
 「なーに悩んでるんだ?青少年」
 そんな内心が分かるはずもなく、三九夜はシニカルな笑みで楽しそうに言う。
 良く見たら三九夜の額には緊張で冷や汗さえ浮かんでいるのが見てとれただろう。
 しかし、それに気づかぬ善人には三九夜の言葉が自分を嘲笑ってるようにしか聞こえない。
 「当ててやろうか。恋か?」
 恋
 その言葉に善人は思わず拳を握りしめた。
 「恋煩いには愛情のこもったモンを食べるのが一番だな、ウン。って、何言ってるんだろうな、オレ。ええっと、まぁ……」
 何故か顔を赤くし、四方八方に目を動かしながら三九夜は言った。
 そんな仕草さえ、善人は見逃してしまう。
 ただ、『愛情のこもったモン』という言葉だけが引っ掛かる。
 誰に対しての愛情?
 決まっている、キロトと呼ばれる少年への愛情に違いない。
 「とにかく、食え」
 ズイ、と善人に弁当箱が差し出される。
 三九夜らしく、無遠慮とも言える仕草。
 けれども、それが善人の想いを逆なでする。
 理不尽だと自覚しながらも、感情が抑えきれない。
 気が付いたら、弁当箱を手で払いのけていた。
 それには飽き足らず、屋上のコンクリートに落ちた弁当を踏みつけにしていた。
 安い作りの弁当箱は、剣道で鍛えた善人の足であっさりと崩壊する。
 それだけでは足りず、何度も何度も踏みつける。
 踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけ踏みつけにして、踏みにじる。
 「食べさせたい相手は、僕じゃ無いだろ?」
 ギロリ、と自分でも分かるほどに激しく三九夜を睨みつけた。
 三九夜が息をのみ、絶望的な表情をするのが見てとれた。
 それを無視しして、出口へと向かう。
 出口の前には長身の少年がいる。
 「やぁ、キロトくん」
 自分よりも背の高い相手を睨みつけ、善人は言った。
 「事情は聞いたよ。サクとお付き合い始めたんだって?おめでとう。心から祝福させてもらうよ」
 皮肉をこめて、嫉妬を込めて、厭味ったらしく善人は言う。
 「いや、それは……」
 急に悪意に満ちた言葉をぶつけられ、戸惑う少年。
 「僕の知らないところで、『僕の』幼馴染と随分よろしくやっていたみたいだねぇ。いや、だからといってどうこう言うつもりは無いよ、所詮僕とサクはただの単なる幼馴染だし」
 「お前は、誤解してる」
 「誤解?」
 ハッ、と鼻で笑って善人は言った。
 「照れ隠しをする恋人たちは、いつだってそう言う。いいよ、そんなことしなくたって。勝手に2人で幸せにでも何でもなればいいんじゃない?でも……」
 動けない少年の横を素通りしながら、善人は言った。
 「僕に見えないところでやってよ」
 そう言った善人の顔は、ひどく醜く歪んでいたことだろう。
 「お幸せに」
 最後に、そう厭味を言って、善人は走り去った。

350ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:46:16 ID:DJbhkvVU
 「千堂!」
 背中に、少年の呼ぶ声が聞こえた。
 彼があんな大きな声を出すのを初めて聞いたが、善人はそれを無視した。
 後に残されたのは長身の少年に三九夜、そしてボロボロになった弁当だけ。
 「天野さん……」
 長身の少年は、一瞬だけ善人を追うかどうか迷ったが、三九夜に気遣わしげに近づいた。
 「何で、かなぁ……」
 無残な姿になった弁当を見降ろして、三九夜は言った。
 「あんなに失敗して、あんなにリトライして、あんなに努力して、あんなに頑張って、絶対上手く行くって信じて……信じようとして……なのに、なんでかなぁ」
 弁当の上に、滴が落ちる。
 「何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何でかなぁ何のせいかなぁ!」
 顔をあげ、三九夜は少年の方に振り向いた。
 涙で顔を濡らし、悲しみと―――それ以上に憤怒にまみれた形相で!
 「お前のせいだ!」
 少年に向かって三九夜は叫ぶ。
 「お前がいなけりゃこんなややこしいことにならなかった!失敗なんてするはず無かった!お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ、よ、なぁ!」
 三九夜は一気に踏み込み、少年の懐に飛び込む。
 同時に、胸ポケットから銀の刃を取り出す。
 ドン、と少年の腹に突き刺さる生々しい手ごたえ。
 「お前さえいなければよぉ!」
 ナイフに腹を突かれ、血を流しながら、少年は三九夜が初めて自分の家に来た時に言った言葉を思い出してた。
 ―――そう言う手合いは滅多刺しにしてやるまでよ―――
 どうやら、それはこう言う意味だったらしい。
 「天野……さん……」
 ナイフを引き抜き走り去っていく、憤怒を抱いた、しかしどこか悲しげな後ろ姿を見ながら、少年は地面に倒れた。

351ヤンオレの娘さん 第四回戦 ばいおれんす・ばいおら  ◆3hOWRho8lI:2011/07/20(水) 19:47:32 ID:DJbhkvVU
 以上で今回の投下は終了です。
 お読みいただきありがとうございました。
 次回、決着です。

352雌豚のにおい@774人目:2011/07/20(水) 20:25:58 ID:129yGguE
GJ!

353雌豚のにおい@774人目:2011/07/21(木) 00:48:32 ID:RzFOZGts
GJです
!

354雌豚のにおい@774人目:2011/07/21(木) 15:19:52 ID:WN1DbTZQ
GJ!!次で決着・・・・・・どちらが勝利するのか・・・・

355雌豚のにおい@774人目:2011/07/21(木) 18:18:06 ID:4Z2fsjpA
GJ! 楽しみだ

356雌豚のにおい@774人目:2011/07/21(木) 23:39:30 ID:40sorr.s
ウェハースはやくきてくれー!

357 ◆O9I01f5myU:2011/07/22(金) 21:41:14 ID:BEYROaUY
こんばんは。長編を投下させていただきます。

以下は注意事項です。

・あまり表立たないとは思いますが、レズの要素有り。

・ショタとの性的な絡み有り。

・暴力的な逆レイプ有り。

・一話の長さはおよそ三千文字〜四千文字程度と短め。

現在、第四話まで書き溜めがありますが、以上の要素が含まれております。以後、大幅な改訂が無い限り、以上の展開が発生するのは決定事項となります。故に、苦手な方々はお目を通さない様にお願い申し上げます。

長くなりましたが、投下させていただきます。

358愛と憎しみ 第一話 ◆O9I01f5myU:2011/07/22(金) 21:43:30 ID:BEYROaUY

 結末が知れている恋ではあった。
 その日、一人の女の抱いていた恋心が儚く散った。
 面と向かって拒絶されたわけではない。自分の想いを伝えられるだけ、まだその方が救われたかもしれないが、今の女の心境からすれば、その様なものは詮無い事だろう。
 想いが胸で燻り続けている内に感じられていた。どんなに足掻こうとも、報われる事はないだろうと。その隣には誰かがいるのではないかと。自分が入る余裕なんて、既に失われているのではないかと。
 それらの不安は的中していた。女が慕うその人は今まで見せた事もない頬笑みを浮かべながら、こう告げてきたのである。「子宝を授かった」と。
 何時か宣告されるであろうと思っていたが、恋は終わりを迎えたのだと理解するや、目の前が暗くなった。それでも女はふらつく足をしっかり立たせ、胸で涙を流しながら祝福した。
 分かっていた事だ。自分は女で、恋するあの人も女。彼女に正直に告白しても、結ばれる事は万に一つもあり得ない事だと。それに、彼女は非常に扇情的な容姿をしている。彼女を狙う男も多数いるだろう事も予想できていた。
 彼女は常に眼尻が吊り上っていて、三白眼と呼ばれる凶相ではある。常に無骨な迷彩服を羽織り、背も高いので、大の大人であっても睨まれたら腰を抜かすだろうと揶揄される事も多い。
 それでも彼女は大した美貌の持ち主であると誰もが認めている。
 輪郭も含め、顔のパーツの一つ一つがシャープなラインで形作られており、まなじり高い目が輝くクールビューティと認められる顔、両手でも納まらないバスト、大腿部まで届く、豊かに蓄えられた黒のロングヘアも、彼女の印象を深めるのに一役買っている。
 一目見たら忘れられない、刺激的な女性。それが女――香山理沙(カヤマ リサ)の意中の人、佐原忍(サワラ シノブ)であった。
 その佐原忍が香山宅を訪れたのは、妊娠した事を告げてから数ヶ月経て、すっかり木々が朱に染まった頃の事だった。かつては共にショッピングに出掛けたりと、親しい間柄であった二人だが、忍が身籠ってからは一緒に動く事も少なくなってきていた。せいぜい、外で偶然会うくらいのものだ。

359愛と憎しみ 第一話 ◆O9I01f5myU:2011/07/22(金) 21:45:11 ID:BEYROaUY
 こうして互いの家にお邪魔するのも随分久しぶりである。香山はかつての恋心を掘り返される様な気がしないでもなかったが、快く彼女達を迎え入れた。
 忍の脇には一人の少年がいる。片目を閉ざしたその子とは、香山も面識がある。
 佐原幸人(サワラ ユキヒト)――今年で十二歳になったと聞いている。忍の説明によると、捨て子であったのを引き取ったとの事だった(旦那の連れ子だと思っていた香山は少し腑に落ちなかったが、とりあえず納得する事にした)。
 良く見ないでも、忍のお腹は大きくなっている。何時も彼女が羽織っている迷彩服も今では妊婦服、もうすぐ産まれるかもしれない。
 その時が来たら、この少年は兄になる。きっと幸人の中では、楽しみと同じくらいの別の感情が生まれ、さぞ複雑な心境に立たされているだろうと思われた。
 座布団に座る忍を見て、香山は今回の訪問の真意に気付く。恐らく、幸人の事で彼女は来たのだろう。
 忍は旦那については口を割ろうとしない。どれだけしつこく訊ねても、決して教えてはくれなかった。旦那と連れ添って歩いている姿を目撃したという情報も無く、遠方に出張でもしているのか、それとも離婚したのか……等、噂が独り歩きしている(忍はそれらに対しても一切の弁解をしないので、噂は本人を無視したまま、真実味を帯びてくる様になっていた。忍に惹かれる者が多いのは事実だが、刺の多い女であるのも確かなので、その流れを塞き止めるのは困難であろう)。
 つまり、いよいよ出産が迫ってきたその時、幸人の面倒を見る人間がいなくなってしまう(彼女は親戚とは折り合いが悪く、親とも絶縁していると前に話していた)。そこで彼女は、自分に一時の間だけでも幸人の世話をしてもらおうと、相談をしに来たのではないか。
 香山の思った通り、忍は「済まないが……」と切り出してから、来るべき時が来たその時は、幸人を頼むと頭を下げてきた。
 意地悪な人だと心の中で零さずにはいられなかった。どこの馬の骨とも知れない男との子供を産む為に協力してほしいと彼女は言っているのだ。彼女を好きであった、この自分に。
 薄い笑みを見せながら、香山は了承する。その笑みは友人に見せるものでも、愛する人に見せるものでもない、只の自嘲であった。

360愛と憎しみ 第一話 ◆O9I01f5myU:2011/07/22(金) 21:47:01 ID:BEYROaUY
 忍は香山に感謝すると、幸人を膝元に抱き、「これからお世話になるのだから」と窘めた。
 彼はその意を汲み、香山にぺこりとお辞儀する。

 「よろしくお願いします」

 舌足らずな幼子から脱皮した、一人の少年の凛とした声だ。どういう経緯か、右目を失明してはいるものの、彼のルックスは忍にも劣らない。きっと女子からの人気も厚いと思われた。

 「こちらこそ宜しくね、幸人君」

 微笑んで握手を交わす。彼も笑むが、少しぎこちない。何回か会いはしたが、深い付き合いはあまり無いので、それによるものだろうか。
 彼女の来訪の目的はこれで終わった。後は適当な話題でその場を取り繕い、折を見て席を立ち、「済まないな」の一言で締めに掛かるだろう。
 忍が香山の胸中を察する為の「鍵」を得ていないのだから、こんな事を言い出しても仕方ない。
 だから心で訴える。「私の気も知らないで」と。
 膝の上で拳を固く握る。忍は気付いていないのか、意に介していないのか、世間話をぽつぽつと続けている。それが余計に腹立だしかった。
 案の定、忍はある程度の時間だけを繋ぐと、座布団からすっくと立ち上がった。

 「久しぶりに会ったというのに、本当に済まないな」
 「ううん、気にしなくて良いよ、忍ちゃん」

 軽く詫びて、忍と幸人は帰っていった。
 寂しくなった部屋を見て溜め息を吐く。胸の中が濃霧にぼかされていく感覚を覚えた。
 一体誰との子供なんだろう?
 見知らぬ男が忍を組み伏せ、汚らしいペニスを彼女の中に挿入し、精液を撒き散らす……その情景を思い浮かべるや、堪らなくなる程の不快感が襲い掛かってきた。胃が縛り付けられて、その中身を吐き出してしまいそうになるのを懸命に抑える香山だが、その顔色は血の気を失って青味が差している。
 洗面所に走り、シンクに顔を突っ込む。
 丸い背中がビクンビクンと跳ねた。液状化した物が吐き出されてビチャビチャとシンクを叩き、溢れた涙と一緒に流されていく。
 胃から強制的に排出される苦痛、胃酸で喉が焼かれる苦痛に苛まれ、脳内が真っ白になる。一刻も早くこの苦痛が過ぎ去ってほしいと願うばかりで、余計な事は一切浮かばなかった。

361愛と憎しみ 第一話 ◆O9I01f5myU:2011/07/22(金) 21:48:36 ID:BEYROaUY
 シンクから離れた香山の顔は痛々しいものだった。頬に張り付いた涙の痕、赤い目、鼻水と嘔吐物で汚れた口元に青ざめた顔色、額には脂汗も噴き出ている。
 ボブ・ヘアにつぶらな目、小さな鼻、全体的に小さく収まっている顔である彼女は可愛いと評価されるに十分な容姿を持っているが、今はそれが欠片も残っていない。
 鏡に映る己の顔。一時で随分やつれたと思った。心なしか、頬はこけて、目元は窪み、眼窩の奥の目が怪しく光っている様に見える。
 顔を洗おう……。
 カランから出る水は冷たかった。
今は夕方、涼の必要はないこの季節、おまけに今日は少し気温が下がるとの予報。室内は肌寒く、水の冷たさが体を強張らせる。却って気分を紛らわせられたとも言えるが、細い体には酷だった。
 ふらふらとベッドに入り、うずくまる。温もりに包まれてか、体の強張りも解ける。この温かさが骨の髄にまで沁み渡る様だった。
 目を閉じると、瞼の裏に忍の顔が出てくる。共に過ごした、過ぎし日の群像が次々と……。
 忍の心を奪っていった男の事が改めて憎いと思う。常に助平な視線で女をねちっこく視姦してくる下劣な集団の端くれが最愛の人を手込めにしたなんて、香山は受け入れたくなかった。忍がその男の事をどれだけ愛していたとしてもだ。
 彼女の事を愛しているからこそ、祝ってあげるべきだと何回も考えた。忍を祝福したのも、この度の申し出を受け入れたのも、そうやって己に言い聞かせてきたからだ。
 努力はしている。が、香山の男嫌いな性格は、彼女自身が考えている以上に根が深かった。
 忍は男に汚された。純潔を失い、その男の所有物に成り果てた。彼女はそれを幸福だと、幸せだと思っている。あの笑顔で、少し恥じらいながら……。
 愛おしさは募り、恋慕の炎で胸を焦がされる。ときめく心に煤が少しずつ付着していく事に香山は気付かない。徐々に心の灯りが薄暗いものになっていく。
 陽の目と向き合えず、日陰育ちを選んだ者達は何時しか僻みを覚え、鬱屈とした闇に犯されていく。
 香山も今、その一人となろうとしていた。

362 ◆O9I01f5myU:2011/07/22(金) 21:50:04 ID:BEYROaUY
投下終了です。

以降、投下する度に冒頭の注意事項を添えておいた方が良いですかね?

363雌豚のにおい@774人目:2011/07/22(金) 23:34:59 ID:Yo9frbjA
>>362
乙乙!
注意事項は上の3つはあればいいと思うよ
4つ目は別に無くてもいい

364風見:狂宴高校の怪:2011/07/23(土) 10:22:06 ID:/Ur.YmkE
第17話投下します。

365狂宴高校の怪 第17話(激動編):2011/07/23(土) 10:23:10 ID:/Ur.YmkE

「お兄ちゃん!おはよー!」
 朝、シャワーを浴び終えてリビングでうとうとしていると、ノマルが後ろから抱きついてきた。
「朝ごはん一緒に食べよー!今日はお兄ちゃんの大好きなものたくさん作ったんだよー!」
 ・・・今気づいた。ノマルは俺より早く起きてリビングにいたんだ。そうじゃないと、テーブルの上の豪華な朝飯の説明がつかない。



 ふらふらの状態で教室に入る。
 あんな量を朝から食うのはさすがにきつかったし、俺一人では絶対に完食は出来なかっただろう。
「はい!お兄ちゃん!あーん!」
 こんな感じで口に詰め込まれたら、嫌でも完食してしまう。

「それで朝からそんなにふらふらなんですね。」
 事情を聞いたシドウが俺の背中をさする。出来ればやめてほしいが、口が痺れてきて言葉がでなくなってきた。
「こんな状態では体育に参加できないですね。」
 だんだんと言葉に笑いが含まれていくのがムカつく。振り払おうにも体にも痺れが回ってきて体が動かせない。
 何もできない状態のまま、チャイムが鳴って、ホームルームが始まった。



「なるほど、それでサボるってわけか。」
「サボりじゃねぇよ。」
 次の時間の体育は、体調が優れないと言って保健室で寝ることにした。今は、先客に保健室に来た理由を話しているところだ。
「お前は根性が無いんだよ。体育は食べ過ぎても休まずに、吐く覚悟で望むものだぜ?」
 こいつはそれを体現しているから、反論が出来ない。昼休みに三段重ねの弁当を完食し体育に参加する男だからな。
 そんな化け物じみた体の男、辻疾ケンゴウはさらに笑いだした。
 俺もとりあえず笑ってみたが、心はどうしても晴れない・・・。いったいどうしてしまったんだろう・・・。

――――――――――

「そろそろかな・・・。」
 チバタ君が笑いながら呟いた。
「もしかしてあなたは全てを知っているのですか?」
「えぇ、ノマルに関してはね。何故なら私は・・・いえ、私達はあの日、あの場に居合わせていたのですから。」



「あれ?葉久保!コイルは?」
「・・・シドウとお呼びなさい。一番に帰っていきましたよ。」
「えぇ?今日はマナカから逃げようと思ったのに!」

――――――――――

 家に帰って最初に目に入ったのがこれか・・・。
「お帰りなさい!お兄ちゃん!」
 よりによって裸にエプロンかよ・・・。見てみたいとは思っていたが、身内のだけは見たくなかった。
 ・・・傷は相変わらず痛み続けている。
「お兄ちゃん!今日の夕飯はお兄ちゃんの大好きなものばかり作るからね!」
 そういってスキップ混じりにキッチンに向かうノマル。自然と目が下半身に行ってしまうが、今はそれどころじゃない!

 昼の一番のモヤモヤを・・・解消するんだ!

366狂宴高校の怪 第17話(激動編):2011/07/23(土) 10:23:57 ID:/Ur.YmkE

――――――――――

 朝、腹痛以外にも違和感があった。毎朝じゃれてくる子猫と優しい包容力のある人が・・・いない?
「あれ?ナオとクドは休みか?」
 すると、シドウが顔をしかめた。
「・・・朝から流れている噂なんですが・・・。」
 シドウは目を俺に合わせないで言った。



「行方不明だそうですよ・・・。」



 それを聞いた日、どうしても違和感が俺に付きまとってきた。
 夜中に見たあの夢・・・。何か関係があるのか?まさか正夢?
 不安になって家に直行したが、ノマルは別に血にまみれてはいない。思い過ごしかな・・・。

 色々と思案する頭を落ち着かせ、俺はノマルの部屋のドアノブに手をかけた。



 ガチャッ!



 久々に入ったノマルの部屋。最後に入ったのは・・・いつだったろうか。
 当時とは多分内装が変わってしまっているのだろうが、わかったことがある。



 誰もいない・・・。



「なぁんだ!そうだよな!」
 一気に肩の力が抜けた!膝が抜けそうになった。高鳴っていた鼓動がゆっくりとなっていく!
 そりゃそうだろうな!俺が知っているノマルは監禁して殺したりなんかしない!ましてや相手は仲が良いナオとクドだ。殺す動機なんか無い!あるわけがない!
「お兄ちゃん!ご飯だよー!」
 時計を見ると、まだ五時だ。ずいぶんと早い夕食だな?
 しかし、今ならいくらでも食べられそうだ!フルコースでもなんでも来いだ!

 あれ?足が動かない?何でだ?
 付きまとっていた違和感が後ろから抱きついてきた。
 顔の傷が一際強く疼く。

 何だ?何だこの違和感?



 ガタッ!

367狂宴高校の怪 第17話(激動編):2011/07/23(土) 10:24:54 ID:/Ur.YmkE

 今・・・何か鳴った?
 後ろから確かに聞こえた音。何かが一瞬動いたような音。後ろから?
 後ろを振り返る。
「ノマルの・・・クローゼット?」



 ガタッ!



 まただ!しかもクローゼットがちょっと揺れた!
 何だ?この中に何が入ってるんだ?



―――!―――!



 誰か・・・いるのか?



 恐る恐るクローゼットに手をかける。そしてゆっくりと開けてみた。
「―――!―――!」
 声がでない・・・。目の前の現実に圧倒されている自分がいる・・・。
 何故ノマルのクローゼットに・・・。



ナオとクドがいるんだ?



 俺は両手両足を縛られて、ガムテープで口を塞がれている二人を、クローゼットから救いだした。
 ナオとクドの頭が赤く染まっている。これは・・・血だ!近くにあったティッシュでとりあえず処置。
 ナオは・・・気絶している。声はクドが出していたようだ。俺は二人のガムテープをはがした。
「ぷはぁ!」
 どうやら長い時間入れられていたみたいだな。クドが深く呼吸している。
「大丈夫か?クド。」
「はぁはぁ・・・大丈夫・・・ありがとう・・・。」
 クドはかなり消費している。とりあえず一番の疑問をぶつけてみた。
「どうして二人とも・・・こんな状況になったんだ?」

――――――――――

 頭に衝撃が走ってから・・・どれくらい経ったのかな?ゆっくりと目を開けてみた。
 誰かの部屋?置いてある物からして、女の子の部屋のようだけど・・・。
 周りを見渡してみると、私の左隣に人影が映った。
「・・・ナオ・・・さん!?」
 隣にいたナオさんは頭から血を出していた!そして両手両足を拘束されていた!
 私も状況は同じのようだ。何か液体が顔をつたって口に入る。鉄臭い・・・。血だ!



 ガチャッ!



 誰かが入ってきた!
「あれ?目が覚めちゃったかな?」
 色の無い目が私達二人を映している。
 間違いない!彼女だ!
「これはどういうこと?ノマルちゃん!!!」

368狂宴高校の怪 第17話(激動編):2011/07/23(土) 10:25:40 ID:/Ur.YmkE

――――――――――

 マジかよ・・・。ノマルが二人を・・・。
「これは昨日の話。そのあとは何も言わずにガムテープで口を塞がれてクローゼットに入れられたわ。」
 昨日から入れられているナオはまだ目を覚ましていないのか!?ヤバイ!早く病院に!



「何でお兄ちゃん・・・私の部屋にいるの?」



 ヤバイ・・・ノマルだ。
「あ!夕飯の前に私を食べたいのね!それならそうと早く言ってよー!」
 目に色が無い・・・。何でノマルがこんなになったんだ?
「でもちょっと待ってねー!今から邪魔な虫を殺しちゃうからねー!」



 ハッ?



 一瞬頭が働かなかった。その一瞬で、ノマルは持っていた包丁を二人の前で構えた!ヤバイ!

「やめろ!ノマル!」

 俺は今にも降り下ろそうとしていた手を掴む!
 すげぇ力だ!ノマルはここまでして二人を恨んでいるのか!?
 普段のノマルからは考えられない。包丁で人を殺そうとしているノマルなんて・・・。こんなの始めてだ・・・。

 始めて?

 あれ?離れていた違和感がまた抱きついてきた。傷がさらに疼く!
 やがて違和感が形となって現れた!



 懐かしい・・・?



 認めた瞬間、頭の中がかき回される感覚に陥った。
 俺の頭が何かを・・・思い出そうとしている!?



「いやぁ!こんなの!思い出したくなかったのにー!」



 ノマル!?ノマルも俺と同じ!?
 頭に流れてくる衝撃が映像となって流れ込んできた!

 間違いない!四年前の記憶だ!

369風見:狂宴高校の怪:2011/07/23(土) 10:27:49 ID:/Ur.YmkE
投下終了です。これで激動編は終了となります。

370雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 11:06:41 ID:nq.Otiag


371雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 16:24:41 ID:2gKa0Oe6
www

372雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 20:43:36 ID:bfkfHH2w
Gj

373雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 21:11:19 ID:3Ts5MwVM
うーん……GJ

374雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 21:52:34 ID:5EPFUFBg
GJ!

375風見:狂宴高校の怪:2011/07/23(土) 22:11:07 ID:/Ur.YmkE
最終話投下します。

376狂宴高校の怪 最終話:2011/07/23(土) 22:11:37 ID:/Ur.YmkE

 四年前・・・俺は家にいた。その時のノマルは異常なんてなかった・・・。何であんな感じになったんだ?
 いや・・・うっすら思い出した!ノマルがおかしくなった日、俺はとある人に会ったんだ!

 中学校に通う途中、その人は俺の前を歩いていた。
 ・・・妙に筋肉質だな・・・。その人は後ろの俺に気づくと、道を譲ってくれた。

 何だ、優しい人じゃないか。筋肉質な人は悪いなんて考えはやめようかな。
 そして俺はその人の前を通った。すると・・・。



「道を譲ると思っていたのか!?」



 グサッ!



 空が真っ赤に染まった。あぁ、左目を切られたのか?顔が真っ赤になっているのが見ないでもわかる。あぁ・・・俺、どうなるのかな・・・?



「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
 手術室に行くまでの道で、ノマルの声が聞こえた。あぁそうか・・・。愛する兄を傷つけられたこの瞬間にノマルはおかしくなったんだ・・・。くそ・・・。俺は妹を・・・。





「という夢を見ていたんだよ!」
 誰もいない部屋で俺は一人、PCに自作物語を書いていた。
 友達なんかいない。たった一人の妹は俺の顔に包丁で傷をつけ去っていった。
 理由は簡単、俺がいたら俺の幼馴染みであるシドウと一緒になれない。
 だから妹は部屋のドアを接着剤で固定して、足を砕き、顔を切り裂いて、家を出ていった。

 そんな俺の過去を面白おかしく書いてみたが、単なる自己満足で終わってしまった。

 やれやれ、そろそろ寝ようかな・・・。

 書き込みボタンを押して、俺は眠りについた。贅肉が邪魔で眠りにくいな・・・。



 夢を見た。荒野に一人立っていた俺は空を見た。
 見えるのは光の球体みたいな物。それはゆっくりと俺に近づいてきた。
 光に包まれる瞬間、声が聞こえた。

「俺は悪魔だ。」

\デデーン/

377風見:狂宴高校の怪:2011/07/23(土) 22:14:05 ID:/Ur.YmkE
狂宴高校の怪はこれにて終了となります。

ふざけた最後で申し訳ないですが、次回作からはヤンデレのSSを書いていきたいと思います。

ありがとうございました。

378雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 22:31:25 ID:bfkfHH2w
意味が分からないからちょっと待て…次回作からヤンデレ書くって今回の作品はヤンデレ書いてる自覚は無かったのか?
スレ違いと分かってて書いてたのか?

379雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 22:32:45 ID:bfkfHH2w
あっ、ごめんなさい。
成り済ましね…風見氏すいません。

380風見:2011/07/23(土) 22:46:10 ID:/Ur.YmkE
成り済ましではありません。自覚はないです。自分の中ではヤンデレを書いていましたが、あくまでもそれは自分の中だけのヤンデレであり、皆様の中のヤンデレではありません。それこそ自己満足です。

今後、自分の作品をしっかりと見直し、皆様が楽しめるような作品を書けるように努力したいと思います。

ちなみに狂宴高校の怪の登場人物は、フルネームを変えるとキャラの性格などを表す言葉になるという設定があります。(例:能登コイル→ノットイコール等)

381雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 22:48:56 ID:m..LG4YY
次書くときはトリップ付けてくださいな

382風見:2011/07/23(土) 22:49:06 ID:/Ur.YmkE
すいません、間違えました。
ヤンデレを書いているという自覚はありました。

383雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 22:49:24 ID:bfkfHH2w
>>380
俺は作者の区別つかないから控えめに書くけど、本人ならちゃんと最後まで責任持って自分自身納得できる終り方で終わらせてほしかったです。
作品書くの投げ捨てるなんてヤンデレ書くとかそういうレベルの話では無いですよ…。

384風見:2011/07/23(土) 22:57:16 ID:/Ur.YmkE
>>381 無知ですいません。トリップについて詳しく教えていただけたら幸いです。

>>383 狂宴高校の怪の本当の続きについては、個人サイトで細々と続けようと検討中です。

385てすと ◆SQ2Wyjdi7M:2011/07/23(土) 23:12:59 ID:m..LG4YY
>>384
名前欄に「#(任意の文字8文字まで)」を入れるだけ
例えば「てすと#テスト」って入れればこうなる

386風見 ◆uXa/.w6006:2011/07/23(土) 23:30:18 ID:/Ur.YmkE
>>385 ありがとうございます。

387雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 23:31:47 ID:Z3gpd0BE
めげずにまた書いてくれ

388雌豚のにおい@774人目:2011/07/23(土) 23:58:45 ID:5O2yG3RI
荒らしの言うことを真に受けて行動したらもう荒らしと同じだ
作者さんには辛いものがあっただろうけど、癇癪を起こさず、休止なりなんなりにすべきだった
今後があるなら、荒らしの言うことをいちいち取り合ってはいけない。感情的に一人の人間に粘着して不満を述べる奴が正気のはずがないんだから

それと、本スレもここも君の個人掲示板ではないので、不用意に自己主張する書き込みを行ってはいけない。それこそ荒れる原因になる

389雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 00:25:39 ID:V2m/k0nM
>>377
まあ、一応GJでもしておくよ

とりあえず、荒らしに負けないことも大切だけど、スレチ紛いのことはやめてね

あと空気を読むことも大切。これ以上gdgd続けて変な雰囲気にしないことは良いと思うから、暫くROMってヤンデレを習得して欲しい

390風見 ◆uXa/.w6006:2011/07/24(日) 00:50:52 ID:VLmdJH4A
>>388 書いてまた新しい荒らしの活動を活発させてしまうよりは、自分が荒らしと呼ばれようとも荒らしの種を蒔かないようにしようという勝手な判断でした。

英雄気取ってますが、それこそ単なる自己満足ですね。申し訳ありませんでした。

>>389 しばらくは投下を控えさせていただきます。自分的には一ヶ月ぐらいを予定しております。

391雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 00:58:44 ID:V2m/k0nM
>>390
一ヶ月後ねぇ。まあ、「ヤンデレ」で頑張ってくれ

一回、酉つけて批評スレか本スレに行ってみることをオススメする。あっちには荒らしも大量にいるが、ここで空気悪くすることは許されないからさ

392雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 01:10:45 ID:uQ/1rZsk
>>390
保管庫の作品読む事を勧めるよ。

393 ◆STwbwk2UaU:2011/07/24(日) 03:42:05 ID:YVS6oPaU
プロット投下。
誰か書いてくれぃ。

394pinocchio ◆STwbwk2UaU:2011/07/24(日) 03:42:50 ID:YVS6oPaU
登場人物…主人公・ロボット・幼なじみ

名前…主人公:譲
   ロボット:キオ
   幼なじみ:いずる
つなげると「常軌を逸する」

あらすじ

ある夏の日、主人公の祖父は大発明をした。
人類の夢である人形ロボットの完成である。
しかし、そのロボットの心は未完成で、非常に不安定な状態にある。
そこで主人公にロボットの心を育成してもらうよう祖父は頼んだ。
祖父は主人公にこう言った。
「人と同じように接してあげてくれ。悪いことを教えてあげてくれ。良いことを教えてあげてくれ。」
と。
しかし、その姿は女性的なシルエットを持つが、銀色のメタルボディで構成をされていた。
そして人間として見るにはあまりにもロボット的で、無個性だった。
主人公は一人っ子だったということもあり、ロボットの育成に二つ返事で了承した。
次の日から主人公は幼なじみの子の誘いを断り、ロボットを色々な遊びに誘う。
かくれんぼ、虫取り、天体観測、絵かき……等々。
しかし元がロボットなだけに、初めての体験であっても主人公よりも上手く作ったり遊んでしまったりする。
やがてロボットは、優しさや勇気、哀しみなどに目覚める前に「自尊心」に目覚めてしまった。
自分は優れている。優れているのだから何をしても構わないという心が芽生えてしまったのだ。
芽生えた次の日から主人公に対し、侮蔑の言葉と態度を顕にするロボット。
しかし主人公は、妹だから……という心でこの行為を多めに見てしまう。
そしてロボットの中の自尊心は、さらにふくれあがってしまったのだった。
主人公の夏休みが終わり、祖父の家から離れるとき、
祖父は主人公にロボットを見てきてくれ、と頼んだ。
主人公がロボットを見に行くと、そこにいたのは以前のようなロボットではなかった。
その肌は透き通るような白で、その髪は柔らかな栗色で、目は輝くばかりの金色だった。
主人公は顔を真赤にして誰?と聞くと、ロボットは自分だと応える。
キレイ、などという感想を述べるが、ロボットにとっては自分を褒め称える言葉は当然なので、
なんとも感じることはない。ただ主人公を冷たい目で見ていた。
そこに祖父が現れ、主人公に感謝の言葉を述べる。
「この子も人間の心を持つことが出来た。ありがとう。」と。
主人公はありきたりな返しをするが、次の一言に絶句する。
「この子も、学校に通わせようと思う。」
主人公はてっきり身内ですませるものだと勘違いしていた。
だから多めに見ていたし、何されても許容していたのだ。
このまま外に出したらどうなるか?
この子は社会に適応できず、最悪社会から拒絶されてしまう。
しかし祖父の意思は固い。主人公を信頼しているのでなおさらだ。
こうして、戸惑いが渦巻く中、夏休みが終わり学校が始まる。

395pinocchio ◆STwbwk2UaU:2011/07/24(日) 03:43:10 ID:YVS6oPaU
学校が始まると、案の定自分の学校にロボットはやってきた。
ロボットの外見は祖父の力作のおかげか、美少女と呼ぶにふさわしい外見であった。
ゆえに転校初日から彼女はずっと周りにチヤホヤされたが、やはり彼女の反応は侮蔑でしかなかった。
彼女にとって人間は侮蔑の対象であり、自分こそが一番優秀であると信じて疑わなかったのだ。
事実、テストでも運動でも彼女はすぐに一番を取ってしまう。
それがさらに彼女の自尊心を膨らませ、周りとの亀裂に発展する。
主人公は幼なじみに協力を求め、その亀裂を埋めにかかるが、
人を無能と信じて疑わないロボットはその亀裂をさらに広げる。
やがてその亀裂は憎しみと嫌悪になり、イジメへと発展する。
相手に自分の実力を見せても、相手が自分を認めない。
何も行動を起こしていなくても、相手から暴力的な扱いを受ける。
今まで受けたことのない対応をされ、ロボットは心を乱す。
いつも自分を周りは認めてくれたのに、いつも周りは自分を守ってくれたのに……と。
イジメは苛烈さを増し、やがてロボットは登校拒否になる。
主人公はロボットの心のケアを行い、ロボットと約束する。
「また学校に来れるようにする。」と。
主人公は幼なじみと共に関係修繕に尽力し、ロボットが改めるならもうしない、というところまでこぎつけた。
主人公はこのことをロボットに伝える。
ロボットは理解した。遅まきながら人の心を理解したのだ。
主人公の優しさを知った。幼なじみの勇気を知った。クラスメイトの憎しみを知った。自分の哀しみを知ったのだ。
ロボットは明日皆に謝ると約束した。次こそ皆と学んでいきたいと。
そして、ロボットの心に変化が生じる。
膨れ上がった自尊心は、他の心に変換されたが、それでも心の隙間は埋まらなかったのだ。
そして、その埋まらなかった心は「依存」へと形を変える。
主人公への依存へと……

396pinocchio ◆STwbwk2UaU:2011/07/24(日) 03:43:44 ID:YVS6oPaU
イジメが解決してから数ヶ月たち、学校は平穏になった。
ロボットは文武両道で人に優しく、非の打ち所の無い生徒へと評価を変えていき、
やがて男女から人気のある生徒となった。
一方で主人公は元が平々凡々な人なので、ロボットが構わなければよくいる生徒の一人として、
埋没するような生徒になっていた。
しかし主人公はそれに対して何も感じていなかった。
幼なじみがそばにいて、ロボットが皆に受け入れられているのを見るだけで幸せだったのだ。
それを見てロボットは、前よりもまして主人公に構うようになる。
何をするにも主人公を誘う。つねに主人公を中央に据えようとする。
ロボットにとってはそれが恩返しのつもりであり、自分の中の理解できない感情の処理の仕方でもあったのだ。
しかし主人公はすり抜けるように遠くに行く。
そして、幼なじみの隣にいつも行くのだ。
ロボットはそれを見ると、心が張り裂けそうになる。
二人が恩人だとわかっていて、それでもなお心が張り裂けそうになるのだ。
やがて、その気持は恋だということにロボットは気づく。
しかし、同時に主人公と幼なじみは好き合っているのだということにも気づくのだった。
気づいてしまったロボットは、二人の邪魔をしないようにする。
だが邪魔をしないようにすればするほど、自分の中の心が渦巻き、とろけて壊れそうになる。
その行き場のない感情は時間が立つほどに大きくなり、ロボットを苛む。
主人公の元へ行こうとする足を、自らボールペンで刺して止める。
幼なじみと一緒にいるところに声をかけないように、自分の口を噛みちぎるほどに閉じる。
主人公に抱きしめて欲しいと思う体を、針で折檻する。等
そして幼なじみに主人公が告白するところを見て、ロボットの心は決壊する。
もう、どうなってもよかった。
主人公が手に入ればどうでもよくなっていた。
ロボットの目は、ただ主人公を見ていた。

397pinocchio ◆STwbwk2UaU:2011/07/24(日) 03:44:03 ID:YVS6oPaU
ある日、ロボットと幼なじみが数週間ほど行方不明になった。
主人公は心配するが、ひょっこりと幼なじみは帰ってくる。
しかし、何かがおかしい。
ロボットのことを聞いても曖昧にしか返してこない。
ロボットは死んだなどと、消えたなどという。
そして、今まではなかったような、強烈な愛情表現をしてくるようになる。
明らかに違和感を感じた主人公は、幼なじみを問い詰める。
そして、幼なじみと主人公しか知らない動作を、幼なじみはしなかった。
主人公は言う。お前は幼なじみじゃない!と
私は幼なじみだよ?という幼なじみと揉み合いになり、転げ落ちる。
幼なじみは主人公を安全な場所に弾き飛ばし、自分は大きなケガをする。
致命傷かと思われたが、幼なじみはムクリと起き上がる。
なんと、幼なじみはロボットに……いや、ロボットが幼なじみになっていたのだった。
バレちゃったな、アハハ……と笑うロボット。
主人公は激昂するが、ロボットは鋭い手刀を入れて主人公を気絶させる。
主人公は、ロボットのラボに連れ込まれた。
目が覚めると、主人公はケーブルに捕縛されていた。
目の前には、幼なじみの姿をしたロボットがいた。
主人公を愛撫しながら、ロボットは語る。
幼なじみが憎かったこと。主人公が好きだったこと。
幼なじみになれば主人公に愛されると思ったこと。
幼なじみを殺したこと。
祖父を殺したこと。
幼なじみのDNA情報を解析して、体を作ったこと。

主人公はロボットの狂気を感じ、ロボットにもとに戻るよう訴えるがロボットは聞かない。
さらに隙をついてロボットを停止させようとするが、見破られていた。
逆にその行動が元で、主人公は完全にラボに拘束される。
主人公はもはや逃げられず、一生ロボットに監禁されて生きて行くことになった。

こうして、ロボットは人間の心と体を手に入れたのだ。
愛する人と共に。

398 ◆STwbwk2UaU:2011/07/24(日) 03:46:50 ID:YVS6oPaU
投下終わり。
普通に書いたら長編になりそうだったので書くのを諦めた。

どうでもいいけど、自分の作品嫌いになっちゃダメだよ。
自分の作品を大好きでいられるのは自分だけだし、ね。

399雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 13:12:28 ID:2ddH8IgY
www www www www www www www

400雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 13:51:38 ID:/TPFDrdU
ココのssもキャラも(自分のも含めて)好きな自分にはヘビーな流れになったなあ。それはそうと〉〉398さんgjです。高飛車からデレるヤンデレは新鮮で良いですな

401雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 13:56:53 ID:9dN2zxok
gj!

長編でもいいのに(´・ω・`)

402雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 14:33:13 ID:V2m/k0nM
GJだね。是非長編の続き書いてくれ
気のせいかもしれんが、どこかで見たことあるような……? 気のせいか

403ヤンオレの娘さん 第五回戦+おまけ  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 15:55:36 ID:AvGCXdH2
 こんにちは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 スレの流れがちょっと重くなったカンジもあってちょっぴり悩みましたが、『ヤンオレの娘さん』投下させていただきます。
 今回は決着編の第五回戦に、いつもどおりのおまけ付き。
 豪華(?)二本立てのフルブラストで派手に投下させていただきます。

404ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 15:57:45 ID:AvGCXdH2
ヤンオレの娘さん 第五回戦 じゃいあんと・ですとろいやー  #DSlAqf.vqc

 その後の昼休みの時間、善人は二葉と共に校内の中庭にいた。
 緑が多く、ベンチなどもあり、話をするのには悪くない場所だ。
 ちょうど、今はほとんどの生徒が校庭にでも言っているのか、善人以外に人はいなかった。
 「あー、そんなことが……」
 いつも元気な二葉が、さすがに少し沈んだ声音で言った。
 あの後、気が付けばことの一部始終を二葉に打ち明けていた。
 嫉妬心から三九夜の弁当を踏みつけにしてしまったこと。
 2人に辛辣な言葉をかけてしまったこと。
 自分の想いも含めて、全て。
 二葉は、それを何も言わずに話を聞いてくれた。
 本当に友達想いの良い人だと、善人は思った。
 「正直どうしたものか分かんないや。ううん、本当は2人を応援してやるのが一番だって分かってる。でも―――」
 善人は自分の想いを言葉として口に出す。
 「僕はサクのことが好きだったんだ」
 口に出すと、更に失恋の苦みが広がる。
 同時に、自分のしたことへの罪悪感も。
 「だったら、ちゃんと謝んないとだね」
 静かに、優しげに二葉が言った。
 「お弁当を駄目にしてごめんなさい、ひどいこと言ってごめんなさい、って。そうすれば、分かってくれるよ。だって、2人とも良い人だもん」
 「でも……」
 正直、心の整理が付かない。
 謝って、仲直りをしても、やはり2人は似合いのカップルで。
 それを、見せつけられ続ける訳で。
 「また、酷いことをしてしまいそうで」
 呟くように、善人は言った。
 「失恋の痛み、ってことだね」
 嘆息しながら二葉は言った。
 しばらくの間、無言の2人。
 「ねぇ、千堂くん」
 沈黙を破ったのは、二葉だった。
 「失恋の痛みを忘れる一番の方法は、新しい恋をすることだってよく言うじゃない?」
 「……え?」
 善人が彼女の方を見ると、顔を赤くして真剣な面持ちだった。
 「だから、新しい恋をしてみると良いんじゃないかな―――私と」
 そう語る二葉はとても真剣で、とても、冗談を言っているような調子では無い。
 「え、何で、いきなり……」
 「いきなりじゃない」
 困惑する善人に、二葉はまっすぐに言った。
 「委員長同士になってから、何か気になってて、一緒にいるうちに、益々好きになってた、千堂くんのこと」
 千の偽りも万の嘘も無い、まっすぐな想いを善人に向ける。
 「今すぐ答えてとは言わない。でも、これだけは言わせて」
 そして、二葉は言った。
 「好きです。私と付き合ってくれませんか?」
 意外な申し出に、善人は驚く。
 驚き、迷う。
 確かに、二葉は明るいし、友達思いの良い子だし、胸も大きいし。
 友達として一緒に居ても楽しいし、このまま言われるがまま流されるままに友達から恋人になっても、きっと楽しいだろう。
 三九夜への想いを紛らわすこともできるだろう。
 けれど。
 それは、二葉の想いを逃げ場所にするということだ。
 彼女の想いを利用するということだ。
 二葉が善人のことを本気で好きなのは良くわかった。
 本気の想いだからこそ、失恋の痛みを忘れるために利用するような、不実な真似をする訳にはいかない。
 本気だからこそ、今の善人が応える訳にはいかないのだ。
 それを二葉に伝えようとした瞬間。
 「よォ、ぜン」
 破壊者(デストロイヤー)が、姿を現した。

405ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 15:58:30 ID:AvGCXdH2
 夜照学園中等部第二校舎屋上で、腹からだくだくと血を流しながら、しかし長身の少年はまだ辛うじて生きていた。
 最初の一瞬こそ痛みのあまり気絶していたが、半ば無理やり意識を覚醒させ、立ち上がろうともがく。
 「動かない方が良いんじゃないかなー、傷が開きそうだし。ま、どっちでもいいけどねー」
 もがく少年に、背後から声がかけられる。
 セミロングの艶やかな黒髪に、中等部女子制服冬服、黒タイツと肌の露出を徹底的に拒絶した服装。
 「九重か」
 「やほー、救護班いるー?1人だけどー」
 そう言って九重かなえは救急箱を片手に少年に歩み寄る。
 「……頼む」
 「おけー」
 答えた少女は、少年の制服のボタンをはずし、傷口を露わにさせる。
 「ひょっとして見てた?」
 「ウン。知ってるでしょ、この屋上ボクの縄張りだってさ」
 少年の問いにあっさりと答える九重。
 「あの場でボクが出てったってしょうがないじゃん?あ、怒らないでねー。これでも急いで保健室から救急箱盗ってきたしー」
 「怒らない」
 包帯を撒かれながら答える少年。
 「もし九重まで刺されてたら、俺が困る」
 「またまたー」
 少年の腹に包帯を巻きながら、かなえは目を細めて笑った。
 笑い飛ばした。
 「ねぇ、九重」
 治療を受けながら、少年は言った。
 「なにー?」
 気楽な調子で答えるかなえ。
 「俺のせいなのかな、やっぱり」
 いつものように淡々と彼は言う。
 「俺が、余計なお節介を焼いたから、あの2人はあんなことになったのかな?」
 淡々と彼は言う。
 声だけは、淡々と。
 拳を握りしめ、悔し涙を流しながら。
 「キミのせいじゃない」
 かなえは答えた。
 「キミが何かしてもしなくても、あの2人はきっとあんな風になっていただろうね。その経緯が変わっただけの話じゃない?だって―――」
 狐のように目を細め、かなえは笑う。
 「たかだかキミ1人が何かしたくらいで、物事の結果なんて変わる訳ないじゃん」
 笑いながら、まるで何でも無いことのように、絶望的な言葉を突き付けた。
 「キミが責任を感じることは無い。キミが何かを感じることは無い。キミは悪く無い。キミは良くも無い」
 歌うように、かなえは言葉を続ける。
 「キミは無意味だ」
 かなえはそう、はっきりと言った。
 「さ、これで応急処置は完了。しばらく動かない方がいーよ。そしたら、保健室なり病院なりに行ってー、午後の授業はサボタージュすればー?」
 気楽な調子で、本当にどうでもよさそうにかなえは笑った。
 「いいや」
 少年は首を振り、痛みをこらえて立ち上がる。
 ボタンを締めて、屋上の端まで歩きだす。
 「お前の言う通り、俺は無意味かもしれない。けれど、俺はあの2人が『良いな』と思った。その想いは変わらない」
 悔し涙をぬぐい、屋上のフェンスを強く握る。
 「俺一人の行動で結果が変わらないとしても、せめて俺は、『良いな』っていう俺の感じた想いに、正直に行動したい」
 そう、少年は強い意志を感じさせる瞳で決意を語る。
 「それでー?」
 少年の決意に、笑顔のままで応じるかなえ。
 「今のキミに何ができるっていうのー?あの毒舌コンビの居場所すら分からないのにー?」
 「……」
 「あ、一原先輩と氷室先輩の助けは期待しない方が良いよー。あの2人、今日は学校休んで一原先輩の妹さんに迷惑かけた不良グループと『交渉』しに行くとか言ってたしー」
 「先輩たち、俺にそんなこと言ってなかったのに……」
 「ボクも盗み聞きしただけなんだけどねー」
 ケタケタと笑う、笑うかなえ。
 「で、どうするの?」
 「―――俺の名前、忘れた訳じゃないよな?」
 屋上の外に近づき、外を見ながら少年は言った。
 「1000テンポくらい遅れたけど、神様はやっと俺に味方してくれたみたい」
 少年の視線の先には、ベンチのある中庭。
 そこには、確かに見慣れた姿があった。

406ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:00:31 ID:AvGCXdH2
 「よォ、ぜン。もう委員長ちゃンに鞍替えかァ?もテモてだネぇ!?羨ましイねェ!?俺ちゃン身体の芯ノ奥の奥ノ奥底まデ火照って震えテ痺れちゃうゼ!!カハハハハハ!」
 異常なまでのハイテンションで、三九夜は善人に言った。
 カハハハ、と笑いながら。
 笑いながら、泣きながら。
 「い、いやそんなんじゃないよ。それよりお前、キロトくんはどうしたんだよ?」
 「あア、アイツ?」
 涙と不釣り合いな、いつも以上にシニカルな笑みを浮かべ、三九夜は何でも無いことのように答えた。
 「あイツなら、つイさッきブッ殺してきたトころダよ」
 「……は?」
 訳が分からず、善人はそう言った。
 「アイツのせいでアイツのせいでさァ、アイツとオレが付き合っテるトか訳わかンねェ頭沸いた噂が流れやがってさァ。嘘が誤解が生まれやガってさァ」
 と、そこで三九夜は急に真顔になって。
 「だから殺した」
 と言った。
 「散々期待させてサぁ散々持ち上げてサぁ散々障害にナってサぁ、酷いンだよな、邪魔なンだよな、アイツ。オレちゃんの恋路にサぁ」
 「……いや、だからって、殺さなくても」
 「だから殺したンだよ!」
 善人の言葉に、三九夜は叫んだ。
 「アイツがいなければ!俺が丹精込めて全力込めて愛情込めて作った弁当がよォ!お前のために作った弁当がよォ!オレの想いがよォ!」
 三九夜は叫ぶ、叫ぶ、泣き叫ぶ。
 どうにもならない想いを乗せて。
 「よりにもよって『お前に』踏みにじられることは無かっただろうさ!!」
 一体、どう言うことなのだろうかと善人は思った。
 全ては、自分の勘違いで、三九夜と長身の少年は恋仲では無くて、けれど三九夜は恋をしていて。
 なら、三九夜が恋する相手は――――誰だ?
 「なァ、委員長ちゃン」
 先ほどから三九夜の剣幕に押されて一言も言えなかった二葉に向かって、三九夜は言った。
 「お前モ、オレの恋路を邪魔する気みてーじャねーカ。そウ言う奴はどうなルさァ、知っテるだロ?『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて―――」
 三九夜は、内ポケットに忍ばせていた、ナイフを構える。
 血の付いたそれを見て、善人は『キロトを殺した』という三九夜の言葉が真実だと確信する。
 「死んじまえ』っテなァ!」
 「サク!」
 三九夜はダン、と踏み込み、二葉に近づこうとする。
 まっすぐ二葉の心臓を狙っていると、何度となく三九夜の剣道を見てきた善人には分かる、分かってしまう。
 あまりの出来事に、二葉も善人も動くことができない。
 動くことができるのは―――――
 動けるものがいるとすれば―――
 この現状を打破する者がいるとすれば―――!
 大きな破壊者ただ一人―――――――――!!
 「この馬鹿野郎!」
 疾風一陣。
 その場に走り込んできた長い脚が、三九夜の手に叩きこまれ、彼女はナイフを取り落とす。
 そのナイフを彼女に先んじて拾い上げた、その少年は―――
 「キロト、くん?」
 「やぁ、千堂。元気そうだね」
 いつものように淡々と、少年は言った。
 何故か制服の腹の辺りを軽く押さえているが、それ以外はいつも通りに見えた。
 「『元気そうだね』……、ってそれはこっちの台詞だよ!君は死んだって!サクに殺されたって今!?」
 「死んだ?俺が?」
 未だ剣呑な表情の三九夜を見ながら、少年は呑気そうに言った。
 「そんなことを言ったの、天野さん」
 と、少年はため息をついた。
 「君にしては笑えない冗談だな」
 やれやれ、と少年は大げさな仕草呆れたように言う。
 「……え?」
 「……冗、談?」
 二葉と善人は茫然として呟いた。
 「いや、お前はオレがたしかにムグ……!?」
 何かを口に出そうとして、口を塞がれる三九夜。
 「そう、この通りピンピンしてる。殺されたっていうのは天野の冗談」
 「でも、そのナイフ……」
 震える手で三九夜のナイフを指差しながら、善人は言った。
 「ああ、コレ?玩具、玩具。千堂も子供の頃こういうので遊ばなかった?」
 と、刃の方を持って手の中で三九夜のナイフを軽い調子で弄ぶ少年。
 「でも、血が……」
 「ハロウィンで使う玩具。大方、天野は千堂が冬木に告白されてるのを見て阻止しようとビビらせようと少しお茶目に過激なことをしちゃったんだと思う」
 「そっか、良かったぁ……」
 少年の言葉を聞いて、ヘナヘナとその場に座り込んだのは二葉だった。

407ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:01:06 ID:AvGCXdH2
 「ホントに天野さんが人殺しさんになっちゃってたら、どうしようかと思ったよー」
 「俺は?」
 「あ、ゴメンゴメン。勿論君のことも心配だったよ!」
 少年のツッコミに手を振る二葉。
 そのやり取りで、その場のシリアスな雰囲気がすっかり弛緩し、破壊されていた。
 特に、三九夜はどこか毒気を抜かれたような顔すらしている。
 「ほら、天野。2人に謝らないと。脅かしてしまってごめんなさいって。性質の悪い冗談言ってごめんなさいって」
 少年はそう言ってから、「千堂に嫌われないためにも」と小声で付け加えた。
 それが効いたのだろう。
 三九夜は消え入るような声で「ごめんなさい」と言った。
 「僕の方こそ、ごめん」
 土の上で、土下座の姿勢になって、善人は言った。
 「つまんない嫉妬心に駆られて、お前たちに酷いこと言って、お前の弁当を駄目にしてしまって―――」
 平身低頭。本当の後悔を込めて、善人は言った。
 「その指の絆創膏。本当に頑張って作ったんだよな。そんなお弁当をあんなに駄目にしてしまうなんて、俺は本当に最低だった」
 それに対して、三九夜は首を横に振った。
 「最低だったのはオレも同じ。つまんないモン振り回して、委員長も、お前も―――大好きなお前もビビらせて。だから顔をあげてくれよ」
 「……うん」
 立ち上がり、埃を払って、善人は今度は二葉に向き直った。
 「それから、冬木さんにもごめんなさい」
 「……え、私?」
 キョトンとした顔で自分を指差す二葉。
 「新しい恋とか、僕にはできそうにない。冬木さんは良い人で、すごく良い友達だけど、恋愛対象としては見れない。そんな想いで君の告白に応える訳にはいかない。だから、さっきの告白に、ごめんなさい」
 そう、はっきりと答えた。
 「……そっか」
 苦笑のような、くしゃくしゃにした顔で、二葉は答えた。
 「あーあ、いけると思ったんだけどなー。でもま、仕方ないか!」
 後ろを向き、大きく伸びをしながら二葉は言った。
 「で、そう言うことならお互い何か言うことがあるんじゃないかな!お二人さん!」
 二葉の言葉に、善人と三九夜は改めて向き合う。
 「サク、いや天野三九夜。この一件で僕は君がどれだけ大切か痛いほど分かった。僕は君が大好きだ!一生ずっと一緒にいてくれ!」
 「……オレもだよ」
 肩を振るわせながら、三九夜は言った。
 「オレもお前が、千堂善人が好きだ。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと好きだった。お前以外を愛するなんてこと考えられなかった。だからお前を死ぬまで離させるな!」
 そう言って、ダン、と一気に善人の懐に飛び込む三九夜。
 「ようやく気付きやがって、バカァ……」
 懐に飛び込み、善人を強く強く抱きしめる。
 三九夜の嬉し涙が、善人の制服を濡らす。
 「ウン、ゴメンね、サク」
 そう言って、善人は三九夜を優しく抱きしめ返した。
 その様子を見ていた長身の少年は、二葉に後ろから声をかける。
 「行こう、冬木」
 「そだね」
 そして、少年にも、幸せそうに抱き合う2人にも背を向けたまま、二葉は歩き出す。
 その少し後ろに、少年も続く。
 「ねぇ、ちょっと愚痴を聞いてもらっても良いかな!?」
 歩きながら、後ろの少年に向かって振り向くことなく二葉は言った。
 「別に良い」
 聞いても、別に良いという意味で、少年は優しげに言った。
 「きっとさ、私が好きになってたのは、天野さんと一緒に生きてきた千堂くんじゃないかなって思うの!」
 「ああ」
 「多分、無意識化ではもう天野さんが好きだった彼を。って言うか、幼馴染だもんね、2人。物心付く前からすーっと一緒で、もう互いが互いの人格形成とか人生とかにガッチリ食い込んでますってくらいに!」
 「ああ」
 「きっと、天野さんと会って無かったら千堂くんは私の好きな千堂くんにはなってなかっただろうし、ね!」
 「ああ」
 「そう思うと、失恋しても良いかなって思うかな!」
 「ああ」
 「あーあ、ズルいなぁ幼馴染って!ホント、存在レベルで!でも、そんなズルさもさ……」
 「冬木」
 「なに?」
 「泣いているのか?」
 「泣いてないって!泣く訳無いじゃん!」
 そう答える二葉の頬には、滴が伝っていた。

408ヤンオレの娘さん 第五回戦  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:01:28 ID:AvGCXdH2
 休み時間には、まだ時間がある、
 そう理由を付けて少年は二葉と別れた。
 「じゃ、後で教室で!」
 「ああ、また後で」
 元気よくそう言う二葉は、最後まで泣いてるとは言わなかった。
 そんな気丈さも、また『良いな』と想いながら、少年はようやく内心の緊張の糸がほどけた。
 緊張の糸もほどけると同時に、力も抜けて倒れそうになる。
 その瞬間、
 「とと、やっぱ重いな、お前」
 「やほー、徒労御苦労さまー」
 と、正樹とかなえが彼の体を受け止めた。
 「九重……、葉山……」
 「だけじゃないわよん」
 目の前には、いつの間にか百合子と、副会長の氷室雨氷先輩がいた。
 それぞれ、顔にガーゼを張っていたり、少年以上にボロボロだった。
 「今日は、お休みだったんじゃ無かったんですか?」
 「午前中だけね」
 「思ったより早く『交渉』が終わりましたから」
 少年の言葉に、先輩たちは何でも無かったかのように答えた。
 「でも、どうして……?」
 意外な面々の登場に、驚く少年。
 「九重に聞いたンだよ」
 「ボクは聞かれたから答えただけー」
 それには、葉山とかなえが答える。
 「ンなわけで、見せてもらったわよ。庶務ちゃん一世一代の頑張り物語」
 ボロボロになりながらも、いつもの調子を崩さない百合子。
 「……ごめんなさい、一原先輩」
 と、少年は百合子に向かって言った。
 「え、何で?」
 「先輩から、アドバイスとかもらったのに、俺は天野を傷つけるだけでした。助けたかったのに、失敗してしまいました」
 「ンなこと無いわよ」
 後悔の念さえ感じる少年の言葉に、百合子は笑顔で言った。
 「最後の最後のとこしか見れなかったけれど、お2人さん、何だかんだでハッピーエンドで終わったじゃない。それは、間違いなくあなたのお陰よ」
 ポン、と百合子は彼の頭に手を置いた。
 「上出来!」
 ニ、と満面の笑顔で百合子は言った。
 「ありがとう、ございます」
 そう、少年は答えた。
 目を細め、嬉しそうな笑顔で。
 「オオ、良い笑顔じゃない」
 「そうですか?」
 「いつもこんな笑顔なら、女の子にもモテるかもよん。そうでしょ、かなえちゃん?」
 「そですねー」
 「さって、これにて一件コンプリート、夜照学園は日本晴れ!ね」
 「丸パクリじゃないですか」
 そんなやり取りをしながら、生徒会メンバーは賑やかに去って行った。
 仲間の労を労いながら。
 三九夜と善人の前途を祝福しながら。

409ヤンオレの娘さん おまけ  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:02:02 ID:AvGCXdH2
 こうして、千堂善人と天野三九夜は結ばれた。
 恋愛物語としては、善人と三九夜の物語としては、ここで終わりでも良いのだけれど。
 それはそれとして彼らの日常は、人生は続いて行く。
 だから、ここから先はそういう話。
 言わば、おまけだ。

410ヤンオレの娘さん おまけ  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:03:07 ID:AvGCXdH2
おまけ ごっど・すぴーど・らぶ

 あの騒ぎの翌日は、土曜日だった。
 その日、クラスでキロトと呼ばれる長身の少年は病院のロビーにいた。
 昨日に負った傷の治療の為だった。
 「よぉ、キロト」
 と、そこに声をかけてくる影が1つ。
 「アマノ……ジャク」
 驚く少年の横に座る三九夜。
 「腹の怪我ァ、どうだって?」
 「思ったより大事にはならないって」
 「そォかい」
 と言って、三九夜は「良かった」と付け加えた。
 「でも、親父さんイロイロうるさく言ったんじゃねーの?病院行くからにはそれなりに金かかったろォしよ」
 「いや、何も言わなかったけど、何も聞かずに色々してくれた。今も、受付で支払いしてもらってる」
 「へぇん。ウチの親ならグチグチ愚痴るトコだろーな。2人してケチだから。案外、キロトの親って案外悪い奴じゃねーのかもな」
 「そう、かも」
 三九夜の言葉に、淡々と答える少年。
 「なぁ、キロト」
 三九夜は立ち上がり、少年に向き直った。
 「何?」
 それを見上げ、いつものように淡々と、しかしどこかやさしげに少年は言った。
 「ごめんなさい」
 と、三九夜は頭を下げた。
 「それから、ありがとう」
 三九夜の言葉に目を伏せる少年。
 「俺は何もしていないし……何もできていない」
 「ンなことねぇ」
 少年の言葉に、三九夜は即答した。
 「オレには今まで、恋愛相談できるような相手とか全然いなかった。だから、お前がそうしてくれて本当に嬉しかった」
 まっすぐに言葉を紡ぐ三九夜。
 「だから、やってしまった酷いこと、全部謝る。謝ってすまないかもしれねーけど」
 「そんなこと無い」
 三九夜の言葉に、少年は即答した。
 「許して……くれるのか?」
 恐る恐る聞く三九夜に向かって頷く少年。
 「俺も、お前に協力できて嬉しかった。だから、お前と千堂はもう結ばれたけど、これからも俺と友達としてやっていってくれると、とても嬉しい」
 「奇遇だな。オレも同じこと言おうとしてた」
 「そっか、それは本当にうれしいな」
 「気持ちわりー。って言いたいとこだけど同感だな。ったく、一度は殺そうとしたってのに嘘みてぇだ」
 「本気じゃ無かったんじゃない?」
 「そうか?」
 「言ってたじゃない、『滅多刺し』って」
 実際のところ、少年の傷は滅多刺しどころか腹部に一か所。
 放っておけば拙かった傷だったとはいえ、一撃必殺の致命傷とは言い難いものだった。
 「かも、な。あの時のオレもは自分でも訳わかんねぇくらい感情で動いてたからな」
 「自分でも、どうしようもないよね、そう言うの」
 「だな。……って、まさか恋愛トークできる男友達ができるとはなぁ。しかもキロトと」
 カハハハハとシニカルに笑う三九夜。
 「友達なら、キロト呼ばわりはちょっと嫌かも」
 「何でだ?かっこいーじゃねーの、『キロト』って仇名」
 三九夜の言葉に苦笑し、少年は説明する。
 「去年の身体測定の時、クラスの奴から『お前の身長、センチじゃなくて『キロ』メー『ト』ルはあるんじゃねーの』って言われて」
 「ウン?」
 「俺のデカイ身長への、面白半分悪意十分の悪口。で、それを略したのがキロト」
 「……あー」
 いくら少年が長身とはいえ、ビルディング並と言われて嬉しいものではないだろう。
 ましてや、それが悪口ならばなおさらだ。
 「まぁ、俺も今まで何も言わなかったし」
 そうしている内に、あれよあれよと言う間に定着してしまったという訳らしい。
 「オッケェ、覚えとくよ」
 「そう言えば、千堂と一緒にいなくて良いの。折角昨日恋人同士になれたのに」
 「ああ、ただでさえあれから100通メールってるし」
 と言って、堂々と電源の入った携帯電話を示す三九夜。
 病院ではケータイの電源を切りましょう。
 「100って……」
 「30分当たりな」
 「多いでしょ!?」
 もう、善人のケータイには三九夜のメールしか残っていないのではないだろうか。
 「それに、今もすぐそこで待ってもらってるし。これから一緒に出かけるトコだ」
 病院のドアの辺りを親指で示す三九夜。
 良く見ると、善人らしき影が、壁に体重を預けて立っていた。
 「そっか、楽しんできてね」
 「ああ、ありがとよ」
 互いにそう言って、その日2人は別れた。

411ヤンオレの娘さん おまけ  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:04:34 ID:AvGCXdH2
 それから、週の開けた月曜日。
 気が付けば『三九夜と少年が付き合っている』という噂はすっかりなりを潜めていた。
 人のうわさは75日とは言うけれど思いのほか短かった。
 裏では、事実無根の噂を流布させてしまったことに罪悪感を抱いた(と本人は言わないだろうが)ある女生徒の尽力があったとか無かったとか。
 尤も、代わりに校内で三九夜と善人の交際が噂になるのも時間の問題だろうが。
 ともあれ。
 千堂善人はようやくにして三九夜の作った弁当を食べる機会を得たのであった。
 昼食の時間、善人はいつものように三九夜や二葉、そして長身の少年と席をくっつけた。
 「いただきます」
 と、善人は三九夜の持ってきた弁当に手を合わせる。
 弁当箱を開くと、中には肉団子(ハンバーグのつもりらしい)をメインにしたスタミナ系の食事。
 剣道部の彼のことを考えてのものだろう。
 まだまだ形は不格好だが、一生懸命作ったことが見るだけで伝わってきた。
 善人は、肉団子の1つに箸を伸ばす。
 「……どうだ?」
 肉団子を咀嚼する彼に、三九夜は恐る恐る言った。
 「ぶっちゃけ、見た目はイマイチだよね」
 肉団子をのみ込み、善人は言った。
 「でもおいしいよ、すっごく」
 善人はそう付け加えた。
 満面の笑顔で。
 「あーもー!そう言うお前が大好きだああああ!」
 教室の中心で愛を叫び、善人に抱きつく三九夜。
 「ちょ、ちょっと離れてよサク、恥ずかしいだろ!?」
 「いーじゃん、いーじゃん。オレらの仲の良さをクラス中、いや全校に知らしめてやろうじゃねーの!」
 「やーめーてー!」
 「やめて、だ?嫌か?オレが嫌なのか?まさか、他に女が……!」
 「出来る訳ないだろ!まったく、何でこんな女の子を好きになっちゃったんだろ……」
 口ではそうは言いながらも、善人もまんざらではない様子だった。
 その様子を、羨ましげに見つめる者が約1名。
 「良いなぁ、天野さん……」
 「冬木さん……」
 二葉に、長身の少年が気遣わしげに肩に手を置いた。
 「大丈夫だよ、私決めたもん!」
 テンション高く拳を握りしめ、立ち上がる二葉。
 「千堂くんへの想いを振り切れるような良い恋を絶対するんだって!千堂くんが悔しがるくらいの良い女になって見せるって!」
 背景にザッバーンという波の映像が欲しくなるような、堂々たる決意表明だった。
 「ンな日は来ねーよ」
 と、善人に抱きつきながら三九夜が言った。
 「来るもん!何で天野さんそんなイジワル言うかな!」
 「意地悪で済んで良かったと思えよ。ったく委員長ちゃん、今まで何度も何度も何度もゼンを誘惑しやがって。ホントならお前のハラワタをブチ撒けたい想いなんだぜ」
 「誘惑じゃないもん!モーションかけてただけだもん!」
 「同じじゃねぇか!」
 にらみ合う2人。
 「ちょっと2人とも落ち着きなよ、獣じゃないんだから」
 「どうどう」
 そんな2人を抑える善人と少年。
 と、そこへ教室のドアをガラリと開ける者がいた。
 「はろろーん!元気してる、こーはい諸君!?」
 「一原先輩」
 「「「生徒会長!?」」」
 元気よくポニーテールを揺らすのは、3年生の生徒会長、一原百合子だった。
 「私だけじゃないよー」
 そう言う百合子の後ろからは、穏やかな物腰の少年がスッと現れた。
 「こんにちは、天野さん」
 「先輩」
 「こんにちは、副……先輩」
 剣道部の副部長だった。
 「わわ……!」
 副部長の顔を見て、顔を赤くして、口元を抑える二葉。
 「先輩、どうされたんですか?」
 善人が問いかけた。
 「先日、千堂くんが部活に来れなかった日に天野さんと手合わせさせて頂いたのですが……」
 「ああ、勝ったんですよね、先輩」
 その場に居合わせなかった善人も、話だけは聞いていた。
 「けれども、あの勝利にはどこか納得できなかったんです。天野さんもあの後、どうにも落ち込んでいたようですし」
 「先輩……」
 三九夜としては敗北の絶望感しか無かった勝負だったが、そんな三九夜を先輩は心配していてくれたのだった。
 「この子、普段通りって顔してたけど随分ヘコんでてねー。でも何か天野ちゃんにも言い辛いしって、私に相談に来てたのよ」
 百合子が言った。
 「嫉妬深い眼鏡の女に刺されませんでしたか?」
 「はい?」
 長身の少年の言葉に、訳がわからないよと言う顔をする副部長。

412ヤンオレの娘さん おまけ  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:04:55 ID:AvGCXdH2
 「まー、とにかく。結局『アナタがどうしたいの?』ってところを突きつめてさ。やっと踏ん切りがついたって感じな訳よ」
 百合子の言葉に頷き、副部長は三九夜に言った。
 「やっぱり、僕はもう一度あの勝負をやり直したいんです。今度こそ、お互い全力で試合をしたいんです。ですから天野さん、今日すぐにとは言いません。僕と再戦していただけませんか?」
 まっすぐな言葉を三九夜に向ける副部長。
 「勿論お受けします。まー、今度はオレが勝つ―――なんてこともあるかもしれませんけどね」
 それに対して、三九夜は不敵な笑みで応じた。
 いつか副部長が言った言葉とほとんど同じだった。
 「お受けいただき、ありがとうございます、部長」
 「止して下さいよ、先輩とは部長とか副部長とは関係なくありたいんですから」
 「そうですね。あなたは僕の最高の宿敵(とも)ですから」
 そう言って笑いあう2人の後ろで、善人の袖を引っ張る二葉。
 「誰このイケメン!?ねぇ、誰このイケメン!?」
 そう言えば、二葉は副部長と会ったことが無かったなと善人は思った。
 「僕たちの所属する剣道部の副部長さん。三年生だよ」
 「生徒会長さんとは!?」
 という二葉の次の質問。
 「ただのクラスメート。あの人は誰とでも仲が良い」
 それには長身の少年が答えた。
 「そっかそっか」
 コクコクと頷き、
 「ちょっと、良いかも……」
 と二葉は呟いた。
 「それでは、僕たちはこれで……」
 と、百合子と共に教室を出ようとする副部長に「あの!」と二葉は挙手。
 「先輩!お名前をお聞きしてよろしいでしょうか!!」
 「名前、ですか」
 二葉の問いに何故か苦笑を浮かべる副部長。
 「良いじゃない、教えてあげなよ」
 百合子が何を察したのか、ニマニマと笑いながら副部長に言った。
 「宝生院総一郎時貞と申します」
 頬をかきながら、苦笑交じりに副部長―――総一郎は言った。
 「戦国武将みたいで何度聞いてもインパクトありますよね、先輩の名前。」
 「マンガなら主役を喰っちゃうわよね」
 「だから、あんまり呼ばれたくないんですけどね」
 善人と百合子の言葉に苦笑を浮かべる総一郎。
 「そんなことないと思います!素敵な名前だと思います!」
 二葉が総一郎に叫んだ。
 「あ、それと私は冬木二葉と申します!天野さんと千堂くんの友達です!よろしくお願いします!」
 ブンブンと何度も頭を下げる二葉。
 その度に胸が揺れる揺れる。
 それを百合子が凝視していたので、長身の少年はけん制するように睨みつけた。
 「冬木二葉さんですか。あなたも、素敵なお名前ですね」
 「ありがとうございます!」
 総一郎の言葉に、向日葵のようなを浮かべる二葉。
 「覚悟決めた方が良いわよ。宝生院ちゃんの攻略難易度はかーなーり高いから」
 「頑張ります!」
 百合子の言葉に両手を握る二葉。
 「いや、一原さん達、一体何の話をしてるんですか?」
 そんな2人に苦笑を浮かべる総一郎であった。
 二葉の恋がこれからどうなるのか、それはまた別の話だ。

413ヤンオレの娘さん おまけ  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:05:14 ID:AvGCXdH2
 その後の放課後、部活の時間に三九夜と総一郎の再戦はなされることになった。
 その前に、2人の間にこんなやり取りがあった。
 「先輩、オレのことちょっと買いかぶりすぎじゃぁ無いですか?」
 「買いかぶり、ですか」
 総一郎に向かって頷く三九夜。
 「先日のお手合わせでも思いましたけど、先輩やっぱ強いですよ。オレなんかよりずっと。先の部長決定戦で勝てたのは、きっと実力なんかじゃ無くて―――」
 照れ笑いを浮かべながら、1人の少年の姿を思い浮かべながら、三九夜は言葉を続ける。
 「愛の力ってヤツです」
 「愛、ですか」
 ともすれば冗談のような彼女の言葉に、総一郎は真面目に頷いた。
 「だとすれば、むしろ納得しました。僕の想いに」
 「え?」
 意外な言葉に、驚く三九夜
 「剣士としてとか、実力とか、理屈をこねくり回していましたが、結局僕はもう一度見たいだけだったんでしょうね。君たちの、愛の力を」
 総一郎にそうまっすぐに言われると、三九夜の方が照れてしまう。
 「いえ、ここは敵役らしくこう言いましょう。『見せてもらおうか、君たちの愛の力とやらを』」
 まるで、物語の悪役のような芝居がかった口調だった。
 それがどういうことか、三九夜は一瞬理解できなかった。
 「カブハ!」
 しかし、その後に大爆笑した。
 「ブハハハハハ!ハハハハハハ!ヒー!腹痛ぇー!」
 「いや、天野さん。そこまで言わなくても良いじゃないですか!」
 「だって、だって先輩がンなジョーク言うなんて思わなくて……!」
 「まったくもう……」
 そして、現在。
 2人は竹刀を構え、対峙している。
 周りには、それを見守る剣道部員たち。
 その中には勿論―――善人の姿もある。
 『頑張れ、三九夜』
 善人の視線が、そう言ってるような気がした。
 『当り前だ、この大好きなバカヤロウ』
 三九夜も、視線でそう返した。
 そして、改めて時貞を見る。
 先日はとても大きく恐ろしく見えた時貞の姿。
 けれども、今は正直負ける気がしない。
 なぜなら、今は善人が見守っているのだから。
 これからもずっと、善人が一緒にいてくれるから。
 2人でいる限り、三九夜は誰にも負ける気がしない!
 「はじめ!」
 顧問教師の声が響く。
 「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 「デアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 自分の持つ全てを込めて、2人が竹刀を振るう。
 パァン!という打ち込みの音が道場に響いた。

414ヤンオレの娘さん おまけ  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:05:38 ID:AvGCXdH2
 その音を、キロトと呼ばれていた長身の少年は、少し遠くから聞いていた。
 「見なくて良いのー?2人の練習試合ー?」
 それに声をかけるのは九重かなえだ。
 「道場の作法も知らない部外者が立ち行ったら、邪魔にしかならない」
 そう言って、剣道部の道場に背を向けて歩き出す。
 今日は生徒会の活動も無い。
 少年が学校にいる理由は無かった。
 「それに、見なくても結果は見えてる」
 「正直、ほーしょーなんとかって先輩の方が強そうに見えたけどねー」
 「強い奴が勝つ、とは限らない」
 「どうしてー?」
 「何となく」
 「うわ、根拠レスー」
 そんなやり取りをしている内に、2人は校門を出て、下校路を行く。
 「ねぇ、九重」
 「何ー、キロト?」
 少年の言葉に、からかうようにかなえは言った。
 「俺にも、俺達にもできないかな?天野さんみたいに。今すぐでなくて良い。いつの日か、気の遠くなるほど遠い未来で良いから―――」
 そこで言葉を一度切り、少年は続けた。
 「いつも想いを共にして、いつも隣に寄り添ってくれる、大切な人、現れてくれないかな」
 「無理なんじゃない?」
 少年の言葉を、想いを、かなえはあっさりと否定する。
 彼女は、決して彼の意志をかなえることはない。
 「言ったでしょ、ボクとキロトは同類なんだって。ボクたちは変われない。ボクたちは誰とも理解し合えない。ボクたちは―――無意味だって」
 あくまでも朗々と、かなえは言う。
 「それでも……」
 そう少年が言いかけた時、2人は1組の兄妹とすれ違った。
 長身で美形の兄と、彼にすがりつくような小柄で色白の少女。
 どうしても兄の方に目がいきそうになるが、何故か少年は少女の方に惹きつけられ、彼らの方を振り返っていた。
 「どしたの、キロト?」
 不思議そうにかなえが言った。
 少年の、初恋の少女が。
 その声に、かなえの方に向き直ったので、すれ違った相手の顔は良く見えなかった。
 「何でも無いよ。って言うか、お前までキロト呼ばわりは止めて。何で今日に限って……」
 「ああ、ゴメンゴメン。何となく、キミの怒った顔とか見たくてさ」
 「俺はお前に怒ったりなんてしない」
 「またまたー」
 少年の言葉を、恋するが故に真剣な少年の言葉を、少女は笑う。
 それは、少年の恋心を理解していないが故かそれとも―――
 「それよりも、いつも通りに呼んで欲しい」
 少年は強く言った。
 「俺のことを、名前で呼んで欲しい、九重」
 「フフ、分かったよ、千里、

 御神千里


 仕方が無いという顔で、かなえは、かつてキロトと呼ばれた少年、御神千里に言った。

415ヤンオレの娘さん おまけ  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:06:06 ID:AvGCXdH2
 物語は続く。
 彼らが生き続ける限り。
 物語は続く。
 彼らが誰かを愛する限り。
 物語は続く。
 彼らが出会いと別れを繰り返す限り。
 だから、この物語にエンドマークはいらない。
 物語は紡がれ続ける。
 それから3年の月日を経た、今もまた。
 少年と少女が、もう一度出会ったことで。





 『ヤンオレの娘さん』 未完






 『ヤンデレの娘さん』に続く!

416ヤンオレの娘さん おまけ  ◆3hOWRho8lI:2011/07/24(日) 16:07:48 ID:AvGCXdH2
 以上で投下終了になります。
 皆様、お読みいただきありがとうございます。
 次回からは『ヤンデレの娘さん』が再開になる予定です。
 善人と三九夜もどこかでどつき愛してることでしょう。
 それでは。

417雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 17:02:11 ID:SFFtOsZU
>>398
ロボットの作者いいねえ。めっちゃ真剣に読んじまったよ。

418雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 17:26:03 ID:V2m/k0nM
GJ!!
重い空気が吹っ飛んだ

419雌豚のにおい@774人目:2011/07/24(日) 22:31:12 ID:PlnJb8Jk
ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!wwwwwwwwwwww

420雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 01:31:20 ID:raJ0sUZQ
ヤンデレはいいなぁ……

421test ◆3hOWRho8lI:2011/07/25(月) 02:07:30 ID:BBLyNsCc
test

422雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 02:10:02 ID:BBLyNsCc
>>416GJ!

あとトリップ割れてるから変更したほうがいいと思います

423雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 12:12:35 ID:Rzk1a8AM
オスカー・ワイルドの「サロメ」をこのスレに合うように出来ないものか…

424雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 12:50:45 ID:6IkMkeUY
>>423
「神の天使よ、剣を手に一体何をしようというのか。この穢れた宮殿で、一体誰を探し求めるのか〜」ってやつでしたっけ?

プロファイル研究所で引用されていた一文しか知らないけれども……。

425雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 13:30:44 ID:Rzk1a8AM
>>424
ユダヤの王エロドは、自分の兄の前王を殺し妃エロディアスを奪い今の座に就いた。
王は前王の娘で妃の娘である王女サロメに魅せられて、いやらしい目を彼女に向ける。
その視線に堪えられなくなったサロメは、宴の席をはずれて、
預言者ヨカナーン(洗礼者ヨハネ)が閉じ込められている井戸に向かう。
預言者は不吉な言葉を喚き散らして、妃から嫌がられている。
預言者との接触は王により禁じられているのだが、
サロメは色仕掛けで見張り番であるシリアの青年に禁を破らせて、預言者を見てしまう。
預言者ヨカナーンに恋をしたサロメだが、ヨカナーンはそれを拒絶する。
サロメは王の求めに応じて踊るが、褒美にヨカナーンの首を所望する。
何でも望むものを与えると約束した王は、已む無く願いを聞き届ける。
そしてサロメはヨカナーンの首を持って踊り狂い、最後は、王の兵隊によって殺される。

簡単なあらすじはこんなもんかな

426雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 13:59:19 ID:HZiI9hy2
サロメってすごいキス魔だよね

427雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 14:58:37 ID:6DYa7D/I
キスしようとして拒否られたから、首を所望したんだっけ

428雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 18:56:29 ID:gAAWu6LU
ヤンデレの極地だな

429雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 19:15:42 ID:eYD7v/f.
でも実際「サロメ」みたいなオペラ作品とか古典文学ってヤンデレ多いぞ

430雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 19:22:38 ID:vPdLEi9g
>>429
教えてください

431雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 20:36:39 ID:ifFmajQk
死んだ妻が忘れられなくて、言い寄っても振り向かないもんだから、女たちにキレられてぶっ殺された挙句、体の各パーツを女たちに持って帰られたって話がギリシア神話と日本神話に無かったっけ?

432ヤンデル生活 第2話 これから始まること。:2011/07/25(月) 23:30:31 ID:Lqbu6/aE
ヤンデル生活第3話投下します。

ぽつりぽつり。ぽつりぽつり。雨が降っている。
ぽつりぽつり。今日は何も変わらない日。
いつもと同じ。
いつもと同じ。

「ただいま。比真理、帰ったぞ。」

「にぃに。ねぇ、今日こそ一緒に寝よ?」

「いつもいってるだろ。一緒には寝れない。」

「どうしてっ!?なんでっ!!」

「比真理。俺たちは・・兄弟だ。わかってるだろ。」

「わからない。わからない・・・。」

「比真理っ!いい加減大人になれよ!」

「にぃに・・にぃに・・・にぃに・・・にぃ・・・に。」

「明日は友達と約束あるから・・。」

「っ・・!?」

 ああ・・・そっか。
にぃにが変わったのは女ができたから。
にぃにはわたしのしっているにぃには・・・。

「比真理のことは確かに好きだけどそれは兄弟としての・・。」

「もういい。」


たったったった・・・。



「比真理?」

「いっちゃったか。怒らせたかな・・・。」

「でも、仕方ない。いずれわかってくれる。」

そうだ、あいつにメールしないとな。


たったったったったった。


どッ!・・・・。

なん・・・だ?

「にぃに。」


・・・


ヴーヴー。ヴーヴー。

「ん?なんだ、つかさからか。」

「ん?明日は・・・だけ?どういう意味だ?」

俺は、心の中でざわっ・・一瞬冷たい何かが通ったような気がした。
けど、俺は気に留めなかった。

「お兄ちゃん。」

「うおっ・・すずか。ノックしろよ。」

「あのね・・・あのね・・・。さっき、警察から・・・。」

いやな予感は大抵当たる。
いつもそうだ。どんな時も。俺がいじめられた日も。不良に荒まれた日も。妹に告白されそうになった時も。


・・・



「にぃに・・。にぃに・・・。これでずっと一緒だね。」

「二人だけの世界。ずっと、ずっと変わらない世界で・・・。一緒だね。」

「ひ・・・ま・・・・り・・・・・。な・・んで・・。」

「つらいのはもうすぐ終わるから。私もすぐにぃにの所に行くね。」

どすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすど
どすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすどすど


 全身に無数の傷跡があったそうだ。顔も体も形が分からなくなるまでさされていたらしい。
当たりの広がるおびただしい数の赤い光、光、光。
けたたましくなるサイレンは、俺の時間をゆっくり、溶かすようにながれていった。
俺は気づいたらつかさの家の前に来ていた。
黒い服の人たちが沢山いて、おそらくドラマでしか見たことのないような黄色いテープがあいつの家の前を覆っていた。
これは現実?
とてもそうは思えない。
これが俺の町で俺の世界でおきたことなんて、だれが信じられる?
俺の友達が殺されるなんて・・・。
夢?幻?現実?
世界が180度変わったこの世界で、俺の日常と呼べるものは何一つなかった。
すると、一際大きく人が動いた。
犯人が出てきたというのだ。
そんなばかな。
あるはずがない。
だって・・・だってそれは。


あいつの・・・。つかさの・・・。


妹だ。

433ヤンデル生活 第3話 明日が永遠に消えた君の世界。:2011/07/25(月) 23:32:31 ID:Lqbu6/aE
今、この世界でおきていることは。

どうしても、信じたくなくても、嘘だといいたくなるようなことでも、全力で否定しようとも、これは・・・信じられない、まぎれもない・・・。

現実だ。






職員室にそいつはいた。
まぎれもない。見間違えるわけがない。
いつでも目に焼き付いている。
どうしようもない衝動が俺の体を突き動かす。
あいつは、あいつには、どうしても聞きたいことがある。
気が付くと足が勝手に動き出していた。
つかさの妹を・・・比真理を、一瞬たりとも逃さないように。
比真理はそのまま流れるように校長室へ消えて行った。
何か一言でも言いたい。
もうちょっとだけ、もうすこし、あと少しまって・・・くれ。
間に合わなかった。無情にも扉は固く閉ざされた。
俺は職員室の前で倒れこんだ。
間に合わなかった。
どうして・・。
それ以外の言葉を思いつくことは、今の俺にはどうしてもできなかった。

「ちくしょう・・・。」




その日の放課後。俺は校庭で待ち伏せしていた。
きっとあいつは、出てくる。
帰る道はここしかない。
あいつを待つ。
比真理を・・・。
学校の玄関に人影が見える。
あの姿。
薄い金髪の髪に小柄な体。
体は細いのに、体のわりに結構胸がある。
つかさが自慢に語っていた自分の妹。
比真理。
見つけた!!俺は、どうしても納得がいかないあの事件を、なぜ自分の兄を殺したのかを。
聞く権利がある!そうだ!あいつは親友だった。
幼稚園のころから、いつだって、いじめられたときだってあいつだけは俺の味方で。
だからこそ、どうしても知りたい。何があったのかを。
俺は、比真理の方にむかって歩き出した。
すると、黒い服の男にさえぎられた。
邪魔だ、くそ!見失う。
いや、わざとだ。この黒い服の男はまるでボディーガードみたいに俺の邪魔をしてくる。
まるでじゃない。本物のボディーガードだった。
黒い車が校庭の外に止まっている。
そういえば、つかさは小さいときに離婚し母方の方に移ったんだったか。
父親がどんな人かは詳しく教えてくれなかったけど、たしかちょっとした金持ちだとか。
だが、どう見てもちょっとしたどころじゃない。
ボディーガードなんて、初めて見た。冗談じゃない。
こんなことで、諦められるかよ!
俺は強引にボディーガードを押し切ろうとした。
すると、ものすごい力で押さえつけられた。

「ちくしょう、離せよ!」

比真理がこっちを見た。
まるで、無関係なもののような、冷めたような、そんな目で。
俺は・・・俺は・・・どうすればいいんだよ。

「いてて・・。」

服が汚れてぼろぼろだ。

「お兄ちゃん!?大丈夫?」

どうして、俺の妹は俺の危険にいち早く察知するんだろうか。あほ毛のような毛が2本出ているのを見て俺は、
そのアンテナでキャッチしてるんじゃないか、なんて一瞬考えてしまった。

「お兄ちゃん血ぃ出てる・・。」

そういうと妹は絆創膏を取り出した。

「ありがとな。」

普段はいい子なんだ。ただ、愛情表現が過激なだけで。
って、誰に向かって言ってるんだか。
俺は自重じみた笑顔を浮かべた。

「お兄ちゃん・・血ぃ垂れてる。」

俺のひじから、血が流れ出た。
すると、妹は俺の血をペロッと舐めた。

「鉄の味・・。」

そういうと、妹はうっすら笑顔を浮かべた。
本当に・・・。
どうしてこうなった。

「頼むから・・やめてくれ。」

「ふぁ・・・ごめんね。お兄ちゃん。私、悪い子だね。」

妹は目をうるうるさせて子犬のように震えた。

「そこまで、いってないだろ・・・。」

434ヤンデル生活 第3話 明日が永遠に消えた君の世界。:2011/07/25(月) 23:33:36 ID:Lqbu6/aE
そういって、俺は妹の頭を撫でた。
妹は嬉しそうに目をつむった。
そして、俺に抱きつこうとした。

「ちょ・・・痛いって。」

「ああ・・ごめんね。ごめんね。」

そういって、慌てたように絆創膏を貼った。
いつの間にか、比真理は消えていた。
そして、一陣の風が吹いた。







その日の夜。
妹はまた一緒に寝ようとだだをこねたが妹は、今日はあっさり引き下がってくれた。
こうやって1歩1歩自立させた行くんだなと、妙な達成感があった。
明日、またあいつは来るだろうか。
まさか、父方の方に比真理が引き取られていたとは。
それよりもなぜ、比真理はこんなに早く釈放されたのか。
不起訴処分になったとしか思えない。
金の力で・・・。
いやな予感がする。
考えすぎか。
今日は、なぜか寝苦しい。



次の日。俺の嫌な予感は当たった。
その日のホームルーム。
いつもと違う雰囲気に、みんながざわついていた。
まさかな。
比真理がこの高校に来た理由は・・・。
けど、だからといって必ずしも俺のクラスといいわけでは・・・。

「はい!みなさん静かに。今日は転校生を紹介します。」

そんな、漫画みたいなことが・・・。

「前川・・・。比真理です。」

前川それはあいつが言っていた父方の姓。
そして、その姿は紛れもなく・・・。

435ヤンデル生活 第3話 明日が永遠に消えた君の世界。:2011/07/25(月) 23:35:25 ID:Lqbu6/aE
投下終了です。最初の投稿が間違えて第2話のまま投下してしまいました。
すいません。

436雌豚のにおい@774人目:2011/07/25(月) 23:38:38 ID:uw1bZtIs
GJ!!
さてどうなる……

437雌豚のにおい@774人目:2011/07/26(火) 00:14:08 ID:6/2RcR9k
GJ!
 人殺しても金の力で不起訴って、親の方も相当病んでそうな気配。
 次回も楽しみです。

438AAA:2011/07/26(火) 16:02:54 ID:4ZDyBFqM
久しぶりです
投下します。

439風の声 第12話「風の消沈」:2011/07/26(火) 16:04:05 ID:4ZDyBFqM
“本気”と書いて“マジ”と読むなんて誰が考えたのだろうか?
そんな考えが浮かんだのはこの状況に対しての俺の言葉。

「本気(マジ)でまずいだろ」

目の前には肩から血を流した男A。(名前言うのメンドイ)
前方の廊下には刃先が血に染まったナイフを持っている大空。
そしてその前に立ち塞がっている風魔・・立ち塞がっていると言うより今は
ただ立ち尽くしているだけだな、さっきまでは気迫みたいなのを
感じられたけれど、いまのあいつは抜け殻みたいだ。

「待っててね。今、殺ってくるから」

大空が風魔を抜けて俺たちのほうに向かってくる。一歩、また一歩。
寄って来る速度は超最低速度なのに、もっと遅くなれ、いや、むしろ止まれと念じる。
それが通じたのか大空は止まった。しかし、距離的にはすぐ側だ。
できればもう少し遠くで止まってほしかった。

「消えてくれる・・・よね?」

最後の『よね?』で見せた表情は辞書には載ってないような笑顔だった。

「お前のその行動が、風魔を守らず苦しめていることを知ら「ダマレ」」

力を振り絞って出した言葉はたったの3文字でかき消された。
ナイフが振り上げられた。察するに一振りで俺たち二人を殺るつもりだ。
男Aに二人分の価値があれば俺は逃げられるのだが、
こいつには一人分の価値もないんだよな・・
そんな下らない思いにふけているときだった。廊下のほうから風が吹いてきた。
それも色のついた黒い風が。俺と大空が視線を向けると現実的には
ありえないような光景があった。風魔から黒い風が吹いていた。
風魔の体全体から吹き出していた。
さらに見ていると、魂が再び入ったのか立ち方が普段の状態に戻った。
それと同時に、風魔の白髪が根っこから赤く染まっていった。
髪が血を吸い上げているように見えた、そして赤く染まった髪は変色し黒くなった
振り返った風魔の瞳は赤くなっていた。このような生き物を見たことがある気がする。
カラスだ。それも群れのリーダー格のカラス。
仲間意識が強いゆえに仲間に手を出す輩は完璧に滅ぼすカラス
非現実な出来事に呆気にとられている俺に、ではなく大空に風魔は近づいていった。

「どうしたの翼?すぐに終わるから待っ」

大空の言葉はそこで終わった。
風魔が手刀で・・・大空の腹部を欠き切った。辺りに飛び散る血。
何が起こったのかわからず腹部を押さえ、うずくまる大空。動けない俺。

「え?つ・・ばさ?」

大空の言葉は少しばかり脅えていた。涙を浮かべていた。
けれども、風魔は戸惑うことなく手刀で・・・大空の・・・胸を・・・貫いた。

「つ・・・・・・ば・・・・・・・・・・さ・・・・」

その言葉が終わる前に風魔は手を胸から抜いた。同時に大量の血が噴出し、
風魔に降りかかった。そして、風魔は白髪に戻り、瞳もいつものように戻った。
これが大会のあった日に、この俺、高坂が体験した非現実的な現実の内容だ。

440風の声 第12話「風の消沈」:2011/07/26(火) 16:04:40 ID:4ZDyBFqM
時がたつのは早い。このあいだ終業式を体験したはずなのにもう始業式だ。
夏休みは宿題も無事に終わり、とてもよい日々を送れた、とでも言うと思ったか?
舞を殺ったあの日、俺は警察、裁判、これらのお世話になるんだろうなと考えていた。
けれども、現実は違った。あの後、救急車で意識のない舞と病院に向かった。
救急車の中では「なんなんだ、この傷・・」「血液足りないぞ!」といった
救急隊員の言葉が飛ぶたびに「俺が殺ったんだ・・・」と心の中で何度も呟いた。
病院に着き、緊急の手術が行われ、胸を貫かれた舞は一命を取り留めた
俺はというと、手術結果を聞き、家へと帰り、警察が来るのだろうという思いに
少しおびえて過ごしていた。けれどもいつになっても警察が来るような事は無かった。
そして今、始業式に至るというわけだ。
始業式が終わり、帰宅時間となった昼。俺は風屋根へと向かった。
そこには、終業式のときと同じ人がいた。

「驚かさないでくれ、教頭がきたのかと思ったじゃないか」
「校長先生が勝手に驚いただけですよ」
「やはり、年かのぉ〜」
「やっと気づきましたか」
「永遠の18歳はやはり無理かのぉ?」
「(あんたは永遠の81歳だよ)」

こんな会話をし風に当たっていたときだった。

「あの事件は公にならずにすんで良かったのぉ」
「え?」
「なんじゃ?何も知らんのか?お前さんの所に警察が来なかったのは
 ワシのおかげなんじゃぞ」

そういい、無い胸を張った(男性だから当たり前か)
少々混乱している俺に校長先生は説明話を語りだした。
簡単に言うと校長があの事件を隠蔽したらしい。

「何でそんなことしたんですか!?」
「やはり校長にもなると警察にも顔が利くようになってな」
「そうじゃなくて「何で自分をかばったか、か?」」

いつも、ふざけ半分の校長の顔が真剣になった。

「あれはお前さんが殺ったんじゃない。そうじゃろう?」
「いや、あれは・・・俺が・・」
「『俺じゃない俺が殺った』なんて言ってもだれも信用はしないじゃろうな」
「なんで、知ってんだよ!?」

驚きのあまりタメ口になってしまった。

「え?当たってたのか?ふざけで言ったのじゃが」
「・・・・・」
「うそじゃよ。しかし、一番最初から気付いていたのはワシでは無いがの」
「じゃあ、誰?」
「隼じゃよ。さすがはお前さんの中学の担任じゃ。生徒を良く見ていたみたいじゃの」
「でも、もう一人が現れたのは、高校になってからだし・・・」
「その前兆みたいなのを感じていたのじゃろう。凄い奴じゃな」

信じられない。隼先生が気付いていたなんて、そして校長が事件を隠すことが
出来るほどの権力(?)を持っていたなんて。
なんだか、よく分からなくなってきた。この現実が・・・

441風の声 第12話「風の消沈」:2011/07/26(火) 16:05:11 ID:4ZDyBFqM
その後、校長は教頭に引きずられ(デジャブ?)風屋根から消え去ったので
一人寂しく風に当たっていた。そして、今までの2つの事件を思い返していた。
思い返したところで感じるのは罪悪感だけ。両方、俺が存在しているから起きた事件。
なら、俺がいなければ何も起きなかったのだろうか?
俺がこの高校に来なければ事件は起きなかった。なぜこの高校に来た?
いじめられていたからこの高校に来た。なぜいじめられた?
中学にそういう奴等が多く存在した。なぜその中学に入学した?
こんな自問自答を繰り返しながら過去に遡る事19回。
俺の両親が結婚しなければ、という考えよりも過去に行ったとき
運命ってたくさんの偶然で成り立っているんだなぁと変に感心してしまった(笑)
自分でも気づかないうちににやけていたらしく、吹いてきた風に一発殴られた・・・
殴られ我に返ったとき階段のドアが少し開いているのに気付いた。
その隙間からは・・・眼が見える(真昼間なのにホラー映画以上の恐怖を感じた)
気になったので、気付かない振りをしながらドアの死角になる屋上の南側に移動した。
すると、それにつれられドアも開いてくる。俺を見てる?
そして、ドアが90度以上開いたのを見て、俺は急速にUターンして
ダッシュで北側に戻った。ドアはついて来れてない。これなら相手を確認できる!
そう確信しドアの裏側が見えたときだった。いきなりドアが閉まりだした

「(ヤバイ、逃げられる!!)」

そう思いドアに接近し縁を掴んだ!そして、後悔した。
自分は犯人を捕まえるために世界を走り回っている刑事ではないのに
そこまでやる必要は無かった。・・・何が言いたいかって?
閉まるドアを掴んでそのまま指を・・・・挟まれた。

「〜〜〜〜〜っ!?!」

声にならない悲鳴。ドアは開かない。それどころか挟む力が強くなってきている。

「ちょっ・・・やめ・・・何もしないから・・許して・・すいませんすいません」

自分は悪くないはずなのにいつの間にか連謝していた(連続で謝罪、略して“連謝”
・・・くだらねぇ)

「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

このまま指が挟み切られるのを覚悟したとき、この声と同時にドアが開いた。
挟まれていた指には内出血の痕がきれいに一本線になっていて
その線よりも上の部分の指が少しばかり青くなっていた。
痛みでうずくまりながらも顔を上げ声のほうをした方を見てみると
意外にも知っている人だった。

「咲・・先輩?」
「はい、咲・・です」

驚き(?)で少しばかりの沈黙が続いた。
なんて声をかければいいのろう?と考えていたときいたずらな風が沈黙を壊した。
風が咲先輩のスカートを・・・・・・めくった。
めくったと言ってもスカートの裾はそこまで上がらなかったが
うずくまっている俺からは十分に見えてしまった。
・・・これって実行した風が悪い?それとも見た俺が悪い?

442風の声 第12話「風の消沈」:2011/07/26(火) 16:05:37 ID:4ZDyBFqM
「とりあえず、笑顔が見れて良かったです」

俺がその場に両手を着き数えられないほど土下座をして謝った後に先輩が言った言葉。
俺、にやけてたのかな?

「最近、重く暗い表情しかしてなかったので不安だったんです」
「そんな表情してましたか?」
「それはもう、どんよりとしたオーラが見えるぐらいの表情をしてました」

ときどき吹き渡る風で揺れる髪を押さえながら話す先輩。
その髪に“ドキッ”としてしまうのは男の本能なのだろうか?

「夏休みの後半、部活には一度も来なかったのでてっきり辞めてしまわれたのかと
 思っていました」
「大会の後ですよね・・・」
「長期の旅行にでも行かれていたんですか?」

想像と違う言葉をかけられ少しばかり戸惑う。

「えぇ、まぁ」
「お土産は?」
「へ?」

その言葉に『あっ』と驚いた表情を先輩が見せた。

「すいません。なんか意地汚いですよね。お土産目当てで話しているみたいで・・・」
「いえ、そんなこと・・」
「本当にそんなつもりはないんです。だから、そういう人間なんだって
 思わないでください。私、翼さんにそういうイメージを・・持たれたくありません」
「そんなこと思いませんよ。誰だってお土産とかは欲しがるものだと思いますし」
「そう・・ですか?」

涙ぐんだ瞳で見つめてくる

「そうですよ。それに、もし他の人が先輩の悪いイメージを言いふらして
周りの人が先輩のことを嫌っても、俺は先輩の事、好きで居続けますから」
「!?!」

同じような境遇にあっている人を見捨てる気はこれぽっちも無い。

「・・・先輩?」

固まってる。瞬きもしない、どこも微動だにしない。

「先輩?」

本当に動かないな。何をやっても動きそうにない感じだ・・・。
ためしに背筋を指でなぞってみた。

「ひゃん!?」

やってみると意外といい声で鳴いた。
なんか、変体が言うような言葉を言った自分に少しばかり引いた。

443風の声 第12話「風の消沈」:2011/07/26(火) 16:06:06 ID:4ZDyBFqM
「いま、何て言いました?」
「『今日の部活に参加できますか?』って聞きました」
「今日、部活があることをいつ言いました?」
「始業式前ですから翼さんがいないときですね。
 ・・・もしかしてご存知ありませんでしたか?」
「ご存知ありませんでした・・・」

今日は、始業式だけだと思っていたから鞄の中身は筆記用具と
宿題しか持って来てないんだよな・・・。

「申し訳ありません。私がちゃんとお伝えしていれば
 こんなことにはなりませんでしたのに・・・」
「いや、別に「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」」

なんかのスイッチが入っちゃったかな?

「気にしてないから、俺の話を聞いてください」
「はい、文句でも罵倒でもすべてお聞きいたします」
「そうじゃなくて、今日の部活は何時からなんですか?」
「夕方の4時からです」

いまは11時。用事を済ませてから帰っても余裕で間に合うな。

「じゃあ、間に合うんで大丈夫ですよ」
「?」
「俺、家が近いんで再登校できるんですよ。だから一度荷物取りに行ってきます」
「・・・怒ってないんですか?」
「怒る要素は無かったと思うんですが」
「・・・・よかった」

胸に手を当てながら安堵の息を漏らす先輩。涙ぐみながらのその行為に
見惚れてしまう俺。・・・将来、悪い女性に引っかかりそうで不安になってきた。

「じゃあ、行ってきます」

と言って先輩に背を向けたときだった。背中に柔らかい感触を感じた。
驚いて顔だけ向けると先輩が俺に寄り添っていた。

「せん・・ぱい?」
「翼さんは優しいですし、私をいつでも助けてくれる。あなたに会えて
 いじめを受けてばかりだった私の人生は変わりました。だから・・・・」

最後が聞き取れなかった。もう少しこのままでいたかったけれど
対人恐怖症の発作で気持ち悪くなってきてしまった。
先輩の匂いが駄目な訳じゃないのに“人”の匂いには慣れる事ができない。
くっついてた先輩にしぶしぶ離れてもらい、俺は自宅に向かった。
いや、自宅よりも先に寄らないといけない場所がある。
“烏羽総合病院”そこに行って俺はあいつに会わないといけない。
別に会わなくてもいい、俺も本心会いたくない。けれど、それは甘えだ。
だから、会いに行くんだ。・・・・・舞。

444風の声 第12話「風の消沈」:2011/07/26(火) 16:06:42 ID:4ZDyBFqM
病院の5階、そこに舞がいる部屋があると受付に教えてもらった。
右手には途中の花屋で買った小さな植木鉢の中で輝いているちいさな花
選んだ理由は小物みたいで気に入ってもらえると思ったから。
・・・『気に入ってもらえると思ったから』じゃねぇよ。
それよりも、もっと大切なことがあるのにそのことをぜんぜん考えてこなかった。
・・・・なんて声をかければいいのだろうか。
舞にとって俺は殺人未遂者という名の加害者だ。
そんな奴が急に訪問でもされて落ち着いていられる奴なんてこの世にいないだろう。
5階へと向かうエレベーターの中、階を表すデジタル数字が増えていく。
その数字を見ながら念じる。「増えるな、止まれ」と。
その念じは機械に通用せず、一度も止まることなく目的地の5階へと着いた。
壁の案内図を見て舞がいる549号室の場所を確認して目的地へと進む。
538、539、540、541、542、進むごとに部屋の入り口の番号が
増えながら俺の横を過ぎていく。
548、549、そのまま通り過ぎたかったが体は素直に部屋の前で止まった。
目の前にあるスライド式の扉。開けようと手をかけたが体が扉を開けられない。
鍵もかかっていないのに重鋼鉄のように感じるドアを数センチ移動させたときだった。
中から何か声が聞こえる。「ザック、ザック」という音も聞こえてきた。
開けた隙間から中をのぞいてみると舞の姿があった。
けれども可愛さというか、女子らしさというか
そういう何かは消えていて、ただの黒さしか残ってなかった。

「つばさ・・・(ザクッ)つばさ・・・(ザクッ)つばさ・・・(ザクッ)」

俺の名前を呼び、手に持っている果物ナイフを何かに突き刺していた。
それはぬいぐるみだったらしく、残っている部分から推測するに・・・
分からねぇ。黒い糸や布、形的に・・・鳥?もしかしてカラスのぬいぐるみか?

「何をやっている」

突然後ろから声をかけられた。その声に俺だけでなく部屋の中の舞もこちらに気づく。

「・・・つ・・ば・さ?・・・・ツバサァァァァァァ!!」

さっきと取って代わって物凄い形相でこちらに駆けてくる。急いでドアを閉めたが舞の
猛攻が止まらない。静かな病院にドアの悲鳴が響く。

「ツバサ!ツバサ!!ツバサ!!!」

ドアを破いて出てきそうな勢い。ドアを押さえている手が震える。もしもここから
出てきたら俺は何をされるのだろうか!?そう考えているうちにドアが開かれた。

「!?!」
「どけ」

また、後ろから聞こえた声の人物に横に払われた。そしてその人物はポケットから
何かを取り出し、飛び出してきた舞にそれを当てた。一瞬、『バリッバリッ』という
雷のような音が聞こえた後、舞は気を失ったらしく、そのまま倒れて行った。
助かったとホッとした時だった。その人物は俺の首に先ほどの・・・スタンガン!?

「二度と大輔には会いに来るなと言ったはずだ」

この声に聞き覚えがある。聞き覚えがなくてもフレーズから誰だか簡単に推測できる。
俺たちの校医の・・・・。答えを出そうとしたが既に意識が消えていた。

445風の声 第12話「風の消沈」:2011/07/26(火) 16:07:15 ID:4ZDyBFqM
夢・・だと思うものを見た。広い花畑で奥のほうに濁った川が流れている場所に
俺はいた。

「いや、やめて!!」

声のほうを見ると、そこには舞の姿があった。それと誰かがいた。あれはクロウ?
よく分からないけどクロウが何かを振りかざした。
それがよく分からないけど俺は走り出していた。

「死ねぇ!」
「!?」

舞が驚きの顔をしている。クロウに何かされたのではなく、いきなり目の前に
人が来て自分のことを庇っている行為に驚いているみたいだ。
クロウの手は俺の数センチ目の前で止まっていた。その手は黒く染まっていて
刃物のような形状をしていて、手と言っていいのかどうか迷った。

「・・・どけよ」

落ち着いた口調で話すクロウ。そんなクロウに少しばかりの恐怖を感じた。

「やめろよ!っていうか何をやっているんだ!?」
「とどめを刺そうとしているに決まってんだろ。本当は奥のあの川を
 とっとと渡らせる予定だったのに、こいつが嫌がったから強行手段に
 及んでんだよ。どっちにしろ死ぬだけだけど」
「?。川を渡るのがなぜ・・・・・三途の川」

花畑に三途の川って・・・・・冗談じゃないぞ。

「お前、舞を本気で殺すつもりか?」
「殺したつもりだった。なのに病院に運ばれて一命を取り留めたとか意味不
 なんだよ!もしも、蘇って来たら、また同じことになるんだぞ!」
「だからって「はぁ!?何自分を巻き込んだ奴を庇ってんだよ!
 ヒーロー気取りかてめぇは!!」」

気取ってなんか・・・いない。確かに巻き込まれた。けれども今俺の後ろにいる
舞は泣いてんだぞ。死にたくないって思ってんだぞ。それなのに・・・

「邪魔だぁ!」

クロウは黙っている俺をゴミのように払いのけ、舞に照準を合わせる。

「消えろぉぉぉぉぉ!!」
「いやぁぁぁぁぁ!!」

振りかざされる刃物の手。俺は躊躇せずに舞を抱きしめ刃を背中に受けた。
夢のはずなのに感覚がリアル。痛いし、噴出した血が生暖かいし、眠くなってきたし。
視界が暗転したとき、かすかに舞とクロウが俺の名前を叫んだ気がした。
今思えばクロウの表情。殺人を快感と感じる殺人鬼のような表情じゃなくて
恐怖に脅えている顔だった。そんな気がする。

446風の声 第12話「風の消沈」:2011/07/26(火) 16:07:52 ID:4ZDyBFqM
物凄い衝撃を受け俺はこの世に生還(?)した。

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

なんかバリバリしたぞ。っていうか現に耳元でそんな音したし!!

「チッ。死なずに蘇ったか。」
「何すんですか!美影先・・」

その犯人の名を言おうとしたとき口に何か詰め込まれた・・・
スタンガン以外考えられないよな。

「やめろ美影」
「・・・影美って呼んでくれたら・・・やめてあげる」
「・・・・影美」
「大輔がそう言うのなら、そうする」

横にいた隼先生との会話。頬を赤らめて笑顔の美影先生は可愛いのだけれど不気味だ。

「大丈夫か?ほら、気分治しにこれやる」

投げ渡されたのは酸素ボンベ(“富士山頂上の空気”って書いてあるけど。
薄すぎて逆に酸欠になりそうだ)

「廊下で倒れているお前を美影が・・・」
「影美って呼んでって言ったでしょ」
「・・・影美が見つけてお前を運んできたんだけど覚えているか?」
「その証言にはフィクションが組み込まれているとおもいますが」
「だよな。足をつかんで引きずって運んできたから影美がお前を助けたとは
 思えないし」
「(引きずられたんだ、俺)」
「大空の部屋に行ったのか?」
「・・・はい」
「別に悪さをしたんじゃないんだからハッキリ返事しろ」
「舞・・・・・大空の具合は?」
「意識が戻ってからはずっとあんな感じだ。朝から消灯時間までずっとあれだ。
 病んでるよな(笑)。だからお前にひとつ言っておくことがある」
「((笑)じゃねぇだろ!)なんですか?」
「大空には近づくな。理由は分かってんだろ?」
「・・・・・はい」
「できれば、退院してからも近づかないほうがいいかもな」
「退院はいつになるんですか?」
「未決定」
「そうですか・・・」

心のどこかで退院しないことを祈っている自分がいた。けれども自分が作った罪だ。
ちゃんと償わなければ、でもどうやって?
・・・・・わからない。

「償い方とかそんな難しいことは今考えないでいい。時間はたっぷりあるから
 あせらずにその時間を有意義に使え」

人の心を読んだ隼先生の言葉が少しだけ俺の背中を押した。そんな気がした。

447風の声 第12話「風の消沈」:2011/07/26(火) 16:08:23 ID:4ZDyBFqM
病院で気を失ったせいで、部活には余裕を持って参加することはできなかった。

「遅かったですね。翼さん」
「ちょっといろいろあって」
「・・・・・」
「?。どうしました?」
「翼さん、薬品のにおいが微かにするのですが、どこに行ってたんですか?」
「え・・・」
「病院・・・にでも行ってたんですか?」
「えぇ。知り合いに会いに」
「・・・そうですか」

言葉を返した先輩の表情はなんか悲しそうだった。

「ひっさしぶり〜翼君」

声と共に後ろから飛びついてきたのは部長。倒れそうになりながらも何とか堪えた。
首に回された腕から“人”の匂いが。言っとくけど部長の匂いが変な匂いという
訳ではない。

「ちょっ、先輩・・・離れてください」
「おっ。照れちゃってんの?君、意外とカワイイなぁ」
「照れているん・・・じゃ・・な・・・・い」
「離れてください!!」

いきなり体育館に響き渡る声にすべての部委員がふりむく。そして呆気にとられる。
普段からおしとやかな咲先輩がこんな大声を出すことは滅多に無いからだ。

「さっ・・・ちゃん?」
「!?。す・・・すみません。大声で怒鳴ったりして。翼さんが苦しそうなのに
 満さんが止めないから、ついカッとなってしまいまして・・・」
「う・・・うん、分かった。離れるから・・・離れるから」

物凄く驚いたらしく、部長の動きがすごくスローだった。

「大丈夫ですか?翼さん」
「は、はい。大丈夫です」
「すみません。はしたないところをお見せしてしまって」
「大丈夫です。大丈夫ですから気にしないでください」
「・・・はい」

涙ぐみながらの返事。けれどもあんだけのことで怒るのも少しばかり不思議に思った。
が、一応触れないことにし、その後の部活を楽しむこととした。
久しぶりの部活は楽しかった。けれども舞のことが存在していたために心にモヤモヤを
抱えたままの部活となってしまい。練習中に多くのミスをしてしまったりした。
充実感をあまり感じぬまま部活は終わり、帰ろうとした自分を待っていたのは
男子部員の天野と高坂の二人だった。



翼さんはあの子に会いに行っていた。私よりもあの子を心配している。
翼さんが他の女の子と話したり今日みたいにじゃれているのを見ただけで
胸の奥がつらくなる。翼さん、辛いのは嫌です。
だから他の女の子と戯れないでください。
辛くて、苦しすぎて、押さえ切れなくて。・・・私、何をするか分かりませんよ?

448AAA:2011/07/26(火) 16:09:52 ID:4ZDyBFqM
以上です
久しぶりに投下したので前半sageるの忘れてました・・・

449雌豚のにおい@774人目:2011/07/26(火) 16:46:16 ID:y9TMdJLQ
これはGJと言うしかないですね

450 ◆O9I01f5myU:2011/07/26(火) 21:31:22 ID:fjqdnYYY
AAAさんGJです!

私も投下させていただきます。以下は注意事項です。

・あまり表立たないとは思いますが、レズの要素有り。
・ショタとの性的な絡み有り。
・性的暴行描写有り。

現在、第四話まで書き溜めがありますが、以上の要素が含まれております。以後、大幅な改訂が無い限り、以上の展開が発生するのは決定事項となります。故に、苦手な方々はお目を通さない様にお願い申し上げます。

では、投下します。

451愛と憎しみ 第二話 ◆O9I01f5myU:2011/07/26(火) 21:33:47 ID:fjqdnYYY

 何かがおかしい。
 香山は眼前の光景を見て、そう思った。
 何て事はない、仲睦まじい親子。
そのはずなのに、何か違う気がしてならなかった。

 「ママ……」

 忍の胸元に顔をすり寄せる幸人。

 「ふふっ……」

 そんな甘えん坊な彼の頭を優しく撫でている忍。
 そして、その横のベッドで眠る小さな赤ん坊……。
 二人は眠る赤ん坊を見つめ、自分達の世界に入り浸っている。
 彼女達は随分と睦み合っている。幸人の年齢や、忍がしばらくの病院暮らしを余儀なくされる身である事を考慮しても、これを親子のコミュニケーションと言うにはあまりにも密接し過ぎではないか。
 蚊帳の外である香山は、赤ん坊の様子を見ながらそんな事を考えていた。
 幸人は十二歳の男の子だ。母親にゴロゴロ甘える年齢ではない筈だ。まして、忍は義理の母で、顔を合わせるや胸に飛び込むなんて以ての外だろう。
 喉元まで出掛かっているのに口にできないもどかしさ。香山は気まずさをも感じていた。

 「……ところでさ」

 空気を一変させたかった香山は、陶酔している二人に話題を振る。

 「この娘の名前、幸華っていうんだってね。幸人君が考えたみたいだね?」

 幸人は嬉しそうに笑顔を見せ、「うん! 良い名前でしょ?」と少し誇らしげに胸を張った。
 何故か忍は良い顔をしない。恐らく名前を決める際に一悶着あったのだろうと香山は思った。
 香山は幸人を褒め、そのまま赤ん坊を中心としたトークにシフトさせていった。
 むせ返りそうな空気は失せ、じきに赤ん坊――幸華が目を覚ました。
 か細い泣き声を上げて愚図り始めたのを見た忍が抱き上げて「よしよし」とあやす。
 改めて思う。あの忍が、こんな母親の顔を見せる日が来ようだなんて。
 彼女は如何なる時でもまなじり高く目を光らせ、不機嫌そうなへの字口をキュッと結んでいて、見る者を無言で退ける威圧感を漲らせていた。少しでも彼女を疎めようものなら、直ちに顔面を目掛けて拳が飛んできそうだった。暴力で物事を解決する事が多かったのもあって、その印象は揺るぎなかった。

452愛と憎しみ 第二話 ◆O9I01f5myU:2011/07/26(火) 21:35:56 ID:fjqdnYYY
 その反面で、意外と乙女心の持ち主でもあった。「どんなに粋がっていても所詮自分は女、将来男と添い遂げる日も来るだろう」と彼女は口にしていたが、香山からすればそれは着飾られた言葉。忍が恋そのものに憧れているのは明らかだった。大柄で、尖ったイメージが強い彼女も内面は女子高生のそれだった。
 そんな過去を目にしてきた香山だが、それにしてもここまで変わるのかと愕然としてしまう。
 胸の中に冷たい影が差す。
 忍は今、娘を抱き、愛おしそうな微笑みを浮かべている。幸人を抱いていた時と同じ様に。
 自分の子供なのだ、それは可愛いに決まっているだろうが……。
 彼女の隣に自分はいない。改めてそれを見せつけられる様だった。
 腑抜けた顔だ。あの頃の凛々しい彼女はどこにいってしまったのだろうか。披露宴にも呼んでくれずに、知らぬ間に子供まで作ってしまって。それで義理の息子である幸人の面倒を見てほしいとは、なんて体たらくだろう。
 渦巻く情念に胸を犯されていく。恋慕と憎悪の板挟みに、心臓が潰されそうだった。
 血が沸騰しそうな一時は過ぎ、面会は終わりを迎えた。今は幸人と蘇鉄の並ぶ歩道を歩き、自宅へ向かっている。

 「ママが早く退院できると良いね」
 「うん」

 取り止めのない会話。クールダウンはしたものの、まだ気分はすぐれない香山はこの程度の話でも億劫だった。口を動かすのもだるいが、無視するのも只気まずくなるだけだ。
 最近は幸人も随分と気が安らいだみたいだった。
 忍に陣痛が訪れ、病院に移ってからの彼は落ち着きが無かった。毎日忍の事を心配していたが、なかなか会いに行けないというジレンマ(幸人は学校があり、香山には仕事がある。香山は車の免許を取得していないので、移動の際には公共の交通機関を使うしかないという事情もあった)で悶々としており、香山もどうしたものかと思っていた。
 その内に出産に至ると、幸人はパニックに陥る。宥めながら急行し、もはや恐慌状態の彼とそれに振り回される香山に見守られながら幸華は無事に産まれ出て、ようやく一息吐けたといった次第だった。

453愛と憎しみ 第二話 ◆O9I01f5myU:2011/07/26(火) 21:38:22 ID:fjqdnYYY
 ここしばらくの香山の心労は募るばかりだった。相手は思春期の子供で、何かと複雑な時期にある。そこに来て、忍に対しての己の想いが加わっているのだから、彼女には相当の重い荷が圧し掛かっていると言える。忍と幸華が病院を出られる様になるまで時間が掛かる。その間この状態が続いたままとは、軽く眩暈すら覚えるところだ。
 それにしても、と思う。妻が命を賭して戦っていたというのに、夫はそれでも顔を見せない。
 一体彼女の夫は、育児も妻の精神ケアもすっぽかしにして何をやっているのだ。
 香山は思わず愚痴を零してしまう。
 はっとした時には遅かった。慌てて視線を移すと、幸人が俯いて口を閉ざしてしまっていた。
 咄嗟に謝る。彼は苦笑を浮かべ、ゴニョゴニョと音の混ざった言葉を呟いて返した。それを聞き取るのは困難であったが、恐らく「気にするな」といった感じかと香山は思った。とにかく、酷くばつの悪そうな顔だった。
 会話は途切れた。車の唸り声とバイクの嬌声、行き違う人々の世間話がするばかりで、二人の間は無音になる。
 何か話をするべきだろうかと思うが、どういった話題を振ればこの場を誤魔化す事ができるのか。香山は歩きながら考え込んでしまう。
 様々なワードが脳内を巡る。多数の言葉の羅列の中から、それは弾き出された。忍が腹を痛めて産んだ娘、「幸華」という名だ。
 どこかで聞いた事がある……そんな気はしていた。一体何時、どこでその名前を知ったのかを思い出せないでいたが、今、結びついた。
 佐原幸華(サワラ ユキカ)――忍の娘のフルネームだ。しかし、この名前を持つ人間がもう一人、香山の記憶の中にある。
 今から五年程前、ここからさほど遠くない市営団地にて殺人事件が発生した。部屋は滅茶苦茶に荒らされ、被害者は包丁で腹を滅多刺しにされたおまけに、顔面を激しく殴打されていた。
 顔は原型を留めておらず、「目が腫れた顔の中に埋もれていた」という被害者の状態から見て、激しい怨恨に駆られての犯行と警察は見ていた。その被害者も娼婦という身の上であったので、その線は極めて濃厚だろうと、当時ニュースを見ていた香山も思っていた。
 その被害者が、佐原幸華という名前だったのだ。

454愛と憎しみ 第二話 ◆O9I01f5myU:2011/07/26(火) 21:40:17 ID:fjqdnYYY
 随分な偶然だ。近場で殺された売春婦と同じ名前だったのだ。それに、その被害者には小さな息子がいたと週刊誌が報じていたが、幸人とおよその年齢が合っている。五年前と言えば幸人は七歳、その週刊誌には詳しい年齢は記載されていなかったが、小さな子供であるという事には違いない。
 忍が幸華という名前に嫌悪感を示していたのは、彼女がこの事件を知っていたからなのかもしれないと香山は考えた。きっと幸人ともそれで揉めた事もあっただろう。結局は忍が折れる形で了承したが、納得はしていない……という具合か。
 ここでもう一つの疑問が香山の頭に浮かぶ。子供の名前は基本的に夫婦が考える事だという一般的な意識のある彼女だから、これを不思議に思うのは必然であろう。
 どういう経緯で、幸人が赤ん坊の名前を付けられる権利を得たのだろう。
 子供の名前を付ける際は、両親の趣味の押し付け合いとなりがちだ。そこに義理の息子である幸人が入られる余裕なんてあるのだろうか。
 通常、跳ねられるのが常ではないか? 実の子供でも無理だろうに、拾われた子供がそれを許されるとは……。
 ……拾われたと言えば、あの佐原幸華の息子はあの事件の後、どうなったのだろう。佐原幸華は夫がいないらしく、親族も彼女を快く思っていなかったみたいなので、引き取り手を見つけるのは恐らく困難。となると、施設に送られたのだろうか。
 幸人は忍に拾われる前の事は一切話そうとしない。「記憶に無い」の一言を返すだけで、話にならなかった。
 香山もそれから経緯について訊ねる気を無くしていたのだが、再び興味が湧き起こってくる。何かがあるのではないかと本能が告げている様だった。

455 ◆O9I01f5myU:2011/07/26(火) 21:41:00 ID:fjqdnYYY
投下終了です。

456雌豚のにおい@774人目:2011/07/26(火) 22:35:28 ID:mdf.WX4c
GJです。
次の投下が待ち遠しいです。

457雌豚のにおい@774人目:2011/07/27(水) 02:00:38 ID:pjmvU2Yc
wktk

458雌豚のにおい@774人目:2011/07/27(水) 02:49:20 ID:CKjKjS3s
>>455
gjです!


ところで質問
初めて長編書こうと思ってるんだけどやっぱりエロってあったほうがいいんですかね?
自分の文才じゃ書ける気がしないのだけれど

459雌豚のにおい@774人目:2011/07/27(水) 04:15:07 ID:1UOzjpvA
あってもいいし、無くてもいい。
展開が壊れるなら入れないほうがいい。
展開が盛り上がるなら入れるほうがいい。

それよりどんな話なのか、結末はどうするのか、よく考えて書いて。

460雌豚のにおい@774人目:2011/07/27(水) 06:46:32 ID:meAgXjjE
GJ!

>>458
どっちでも良いだろうけど、やっぱりエロパロ板だし、ある方が良いなって

461雌豚のにおい@774人目:2011/07/27(水) 17:38:45 ID:lCLAgw/Q
>>458
ヤンデレの病みぐあいとデレぐあいを表現するのにエロ描写は必要、
いや是非あって欲しいと俺は切実に欲する。

462雌豚のにおい@774人目:2011/07/27(水) 17:53:13 ID:MMUiF/0k
エロパロなんだからエロなかったら基本ダメだとは思うけど、保管庫の中にはエロ無しの作品もあるみたいだから住人は気にしないんじゃない?

463ヤンデル生活 第4話 きっと誰だって光を求めていた。:2011/07/27(水) 23:41:13 ID:M.S7dqtk
ヤンデル生活 第4話 投稿します。

 この世はよくある安っぽいドラマだ。
一部の優良遺伝子の主人公が、シンデレラみたいに階段を駆け上がり幸せを手にする。
大抵それは、美男美女。
俺の妹やつかさの妹もその優良遺伝子の一人。
そして、俺はそんな安っぽいドラマの通行人A。
ほとんどの人は、その通行人Aだ。
テレビで輝く、あの世界や周りで一際異彩を放っている美男美女、あるいは天才。
選ばれたに等しい、その人材がこの世を動かしてるといってもいい。
けど俺は、ただの通行人A。
別にすごくもなく、とくに突出したところもない。
俺はそんな通行人Aだと思っていた。
俺はこの世を動かすためのほんのミクロの歯車だと・・・。
実際、それは本当だった。
それで幸せだった。
妹に告白された時も、だからといって何も変わらない。変わるはずがないと思っていた。
一つの石ころが、たまたま歯車にあたった。
それまで順調に回転していた歯車は、外れて転がってしまった。
俺はみんなと違う方向に転がってしまったんだ。
転がって。転がって。
最後は、横たわり倒れる。
その時俺は・・。
一つだけ違う方向に転がって行った歯車は、自分が望まなくとも目立つ。
目立ってしまった歯車は、一つの物語の主人公になってしまった。
だが、主人公は必ずしも幸せになることはない。
たぶん俺はその一人だ。
俺が外れたせいで、止まってしまった歯車のためにも幸せになっちゃいけないんだ。


 その日のホームルームは、俺にとって忘れられないものとなった。
みんなは気づかない。そりゃそうだ。
テレビにはばっちりモザイクがかけられていた。
隣の男子がひそひそ声で、あの子かわいくね?なんていってる。
残念ながら本当の姿を知る者はいない。
兄を殺した妹なんて誰も気づかない。
俺以外。
ふと気づいた。
比真理は俺より1つ下のはずだ。
なぜ、俺と同じクラスに入れたんだ?
兄を殺した犯人と誰かに気づかれないように年齢を偽ったとか?
だから、俺と同じ学年に入らないといけなくなったのか?
どちらにしろ、親がかかわっている。
いったい、どんな親だよ

「じゃあ、前川さんは赤木君の隣の席でいいかな?」

よりにもよって俺の隣の席かよ。

「別にいいですよ。」

そうそっけなくいうと、誰も見ずに静かに俺の隣に座った。

俺は横目で比真理の顔を見る。
顔は童顔でいかにも可愛いという顔立ちだ。
だけど、目は虚ろで色がない。
ただひたすら虚空を眺めてるといった感じだ。
最後にまだ人殺しになる前の比真理を見たのはいつだったか。
8月のセミがわんわん鳴いていたときだったかな。
つかさの家に遊びに行ったんだよな。


「あっつー・・・。何でお前ん家クーラ壊れたんだよ。」

「しらねーよ。こっちが聞きてぇーよ。」

「それより・・例のもの持ってきたんだろうな。」

「おいおいつかさ・・・俺が約束を破ったことなんてあるか?」

「テスト・・・カンニングしたときお前だけバックれたよな?」

「あはは・・・あれはあれだよ。天の声が聞こえたんだよね〜。そこに行ってはいけませんてさ。」

「赤木ぃぃ・・・。まあいいさ。それよりも・・・。」

「わかってるさ。買ってくるの苦労したぜ・・・。これで、テストのことはチャラな。」

「ああ。それより早く出せよ。」

「わかったわかったって。」

俺はゆっくりカバンの中から男の夢のアイテムを引っ張り出す。

「おおおお!!!これが・・・これが!」

「そうだ!青春三種の神器の一つ。」

エロ本だ。

「にぃにぃぃぃ。あっついよ〜。」

「ひっ・・・ひまりゅい!?」

「ん〜?にぃに何もってるの?」

俺たちは必殺○事人もびっくりな手さばきで、つかさから俺、俺からカバンへと俺たちのパトスを移動させた。

「あれ〜?確かにあったんだけどな〜??」

「何の話だよ?比真理?俺たちは最初っから何にも持ってなかったぞ。な?赤木?」

「もちろんだとも。な?つかさ?」

俺たちはアイコンタクトをした。ふふふ。エロ本ひとつ死守できずに男が務まるか!

「えいっ!」

そういうと比真理は、俺たちの涙と汗と青春の結晶になるはずのものが入ったバッグをひったくった。

「なんか不自然に膨れてるんだよね〜。」

まずい・・・まずいですぞ隊長!!

慌てるな・・・まだ策はある。

「比真理。」

そういうと、つかさは菩薩のような顔で足を組んで座って膝をぽんぽんとたたいた。
すると、おや?・・・比真理の様子が?

464ヤンデル生活 第4話 きっと誰だって光を求めていた。:2011/07/27(水) 23:42:55 ID:M.S7dqtk
「う・・・うにゅぅぅ・・・。だって・・・にぃに絶対何か隠してるもん。」

「比真理。いい子だからおいで。」

「う・・・ぅぅぅぅにゃあああ!!にぃにのバカぁぁぁぁ!」

そう叫ぶと比真理はつかさの膝に悔しそうな顔を浮かべて座った。
ふ・・・さすがだな。自分の妹さえも手なずけているとは。
俺たちは心の中で安堵の笑みを浮かべた。
だが、現実はそんなに甘くないのであった。

「お兄ちゃん。」

第2の刺客!?まさか・・・。

「この袋何ぃ?」

俺の妹だああああ!!

「す・・ずいつの間に来てたんだ?」

「ン〜?いつぐらいかな?」

ばかな!?後ろはちゃんと確認したはずだ!
うちの妹のストーキング能力にはたびたび驚かされる。

つかさがアイコンタクトで訴えてくる。くそっ!俺が何とかするしかないのか。

「ほら、それを返しなさい・・。いい子だから。」

「お兄ちゃんがかまってくれないから悪い子になったもん。」

そういうと、袋のチャックを開けようとした。

「まてっ!そ・・そんな袋どうして開ける必要がある?それにそれは俺のカバンだぞ?」

「それがどうしたの?」

「いいか!もし俺がお前の部屋にはいって勝手にバッグを漁ったらどう思う?」

「ふぇ?うれしいかも。」

そういって顔を赤らめる。ああ、もう。

「じゃあ、じゃあ、タンスを開けて下着を漁ったらどうする!!」

俺は力強く諭すように言った。

「ふぇぇぇ!・・・。」

しばらく、戸惑ったように顔を振りながら顔を下に向けた。
やっとわかってくれたか。

「うん・・・。いいよ。」

そういって俺の目を見つめだした。
なんてこった。
どうすればいいんだ。言葉で諭すのはもう無理だ。
俺たちは目の前で楽園が消えるのを黙ってみてるしかないのか・・・。

俺たちにはまだ希望がある。
つかさの目からそういっているような熱いまなざしが帰ってきた。
けど・・・どうすればいいんだ?
俺は訴えかけるように目で合図した。
すると、急に比真理が立ち上がった。
なんか様子がおかしい・・ぞ?

「にゃへにゃへにゃへ・・・。」

顔がほんのり赤く、ぼーとしているような目でふらふら立っている。

「やれ!比真理!」

そういうと、比真理は俺の妹めがけて突進していった。

「お前が時間を稼いでくれたおかげだ。」

そう、誇らしげにつかさはいった。
一体何があった!?

「な・・なにすんのよ!離れなさいよ!」

二人は取っ組み合いになった。
だが、少し俺の妹の方が身長が高い。
状況は不利か。
助けてやらないと。
つかさは足がしびれて動けないみたいだ。
だったら俺がぁぁぁぁぁぁあ!
俺は、すずの背後にまわり、隙をついて奪い取った。
よし!!あとは逃げるだけ!いくぞつかさ!・・・。つかさ?

俺はもうだめみたいだ。足がしびれて動かねえ。

なっ・・・なにいってんだよ!!ここまで苦労して勝ち取ったんだろうが!
お前があきらめてどうする!

すまねぇ。俺の分までテッシュを使ってくれ。

そういってそうな目を向けると最後の力を振り絞って俺に自転車のキーを渡した。

「いけぇぇぇぇ!!」

そうつかさは叫んだ。

ばかやろう。

俺は目にこみ上げてくる熱い何かを感じながら。もうダッシュで玄関に向かって走って行った。

「おにいちゃん!まってぇぇぇ!」

妹の叫びを背中に受けながら俺は玄関を飛び出した。

青春万歳。

その後の展開はというと、必死の形相で妹をまいてきたつかさと公園で合流しまんまと青春を味わったのだった。
ん?受験?なにそれおいしいの?

465ヤンデル生活 第4話 きっと誰だって光を求めていた。:2011/07/27(水) 23:44:02 ID:M.S7dqtk
そんなこともあったっけ・・。
まさか、こんなことになるなんて誰が予想した。
お前の妹は今、こんな光のない目で生きてるのか死んでるのかもわからなくなってしまっているんだぞ。
いつもみたいに、お前の悪知恵でなんとかしてくれよ。

現実は急に突きつけられる。

その日の昼休み俺は比真理に話しかけた。
多分無視される。
そう思いながらも話さずにはいられなかった。
俺は一言、久しぶりと話した。
しばらく沈黙が続いた。
やっぱり無視されたか。
そう思ったとき、比真理は口を開いた。

「久しぶり。」

その一言だけだった。
すぐに、比真理はどこかに行ってしまった。
久しぶりに聞いた声だった。
その声はひどく弱弱しく、か細かった。
比真理も比真理なりに苦しんでいるんのか。
俺のやっていることは、傷をより広げるだけかもしれない。
けれど・・・。

ぽつりぽつり、小雨が降った。

俺はいつもの通り屋上で食べる。
雨が顔にあたる。
だけどいやじゃない。
ふと、外の手すりの方に人影が見えた。
きっと見間違いだ。そう思いたい。
けど、見間違いじゃなかった。
ふわっと、薄い金髪が見えた。
風に揺られてふわふわ見え隠れする。
何でおれは否定から入るんだろう。見間違いなんてあるわけないじゃないか!
まさか、なんてものはもうないように思えた。
俺は弁当を放りなげてそこに向かっていった。
知らない振りもできただろうに。
なんで助けようとしたんだ俺は。
どうしてもなぜ兄を殺したか聞きたいから?
いや、違う。
最初からわかってたんだ。
自分は違うって思いたかったんだ。
俺も同じ目に会うんじゃないかって恐怖して。
どこかにでも違う可能性を見つけたかったんだ。
逃げてたんだ。
妹からも。
死からも。
知っていたのに知らない振りをした。
やっぱり俺はただの人間だった。
主人公でもない。
外れて転がって行った歯車でもない。
ただ現実を見せつけられて。
ただそれが怖くて。
通行人Aという立場に安心していただけの。
只の赤木 九鷹だ。
今、目の前にいる自ら死のうとしている少女は、選ばれた人間なんかじゃなく、ただか弱い、ただの、どこにでもいる女の子だった。

466ヤンデル生活 第4話 きっと誰だって光を求めていた。:2011/07/27(水) 23:45:15 ID:M.S7dqtk
ぎりぎり間に合った。」

俺は比真理の手をがっちりつかんだ。
小さく震えているその手は、兄を殺したとは思えないほど繊細で今にも壊れてしまいそうだった。

「どうして・・・なんで・・・。」

「言いたいことはわかってる。どうして助けたのか?だろ。てか、今時屋上から飛び降りるなんてナンセンスだろ。」

俺はそういって苦い笑顔を向けた。
比真理は俺を見上げた。
その顔は人殺しの顔でも兄を殺して自分も死のうとしている顔でもなくて。
只の。只の、か弱い15歳の少女の泣き顔だった。
わかってるさ。好きになったのがたまたま兄だっただけだってことも。
本当に兄のことを愛していたということも。
殺したくなかったってことも。
でもどうしようもなかったってことも。

「さわらないでよっ!私に触っていいのはにぃにだけなのぉ・・にぃにだけ・・・。」

「暴れんなよ!手が・・・滑る・・。」

手に汗がたまってすべる。まずいな・・・。

「ああ・・・いやぁ・・・落ちちゃう・・・死んじゃう!・・・。」

「それって死にたくないってことだよな?」

「う・・ああ。」

「いえよ!死にたくないって!助けてほしいって。言わなきゃわかんないこともあるだろ。」

「・・・。」

「言ってくれたら、俺はお前の事全力で助けるだから・・。」

くそ・・・。もうすこしもてよ俺の腕!

「どうして・・。私の事助けようとするの。だって・・・わたし・・・わたし。」

「もう、理屈で考えるのやめにしたんだよ!俺はお前の事助けたい。ただそれだけだ。それに、あいつだってきっと・・いや絶対死んでほしくないって思ってる。」

「わたし・・・わたし・・・。」

「いえよ!死にたくないって言えぇぇぇぇぇ!!」

「・・!?・・・。わたし、死にたくない。死にたくないよぉぉ・・・。」

「よし!・・・。うぉぁぁぁぁあ!!」

今だけ、この瞬間だけ、俺に力を貸してくれ。
神でもなんでもなんだっていい。
俺の右腕よ、もってくれぇぇぇ!!


間一髪。俺の右腕が持ってくれた。
俺の右腕は限界をとっくに超えてたみたいで痙攣が止まらない。

「ばかじゃないの・・。」

「バカと天才は紙一重っていうだろ?」

「てんさいはてんさいでも天災のほうだよ。」

雨が止んだ。

467雌豚のにおい@774人目:2011/07/27(水) 23:45:22 ID:tHN63e9w
エロあったほうが俺にとっては良いけど
作者の書きやすいようにしていいと思う
先にエロ無し宣言してれば問題にもならんよ

468ヤンデル生活 第4話 きっと誰だって光を求めていた。:2011/07/27(水) 23:48:53 ID:M.S7dqtk

第4話投下終了です。エロはその時によって入れたり入れなかったり盛り上がらせるために必要だと思います。
でも、どこにどう入れたらいいのか難しいですよね。
僕の場合でもなかなかエロを入れるタイミングが難しくてエロ少な目です。

469雌豚のにおい@774人目:2011/07/28(木) 00:31:36 ID:NjF1tIAc
GJ!!

470458:2011/07/28(木) 02:57:45 ID:6Lqyn2fI
GJです!


それから
回答ありがとうございます
また、作者様からも意見もらえて嬉しいです。

とりあえず1話からエロに入る予定はないので、書いていく中の流れで考えていきたいと思います

471ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:03:36 ID:2AmFjdJU
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 今回は久々の本編を投下させていただきます。
 タイトルとは180度逆のゆるい内容です。
 それでは。

472ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:03:58 ID:2AmFjdJU
 それは、3年と幾らか前のこと。
 「へぇーん」
 夜照学園中等部、第二校舎屋上に上がった俺(とてもそうは見えないが当然中学生)に、そう声がかけられた。
 時刻は昼休み。
 教室にもどこにも居場所が無かった俺は、とりあえずの身の置き場所を探してこの場所に辿りついた。
 「わざわざ好き好んでこんな場所に来るのがいるとはねー。よっぽどの物好きー?」
 そう言ったのは、スラリとした体つきの女生徒だった。
 艶やかな、セミロングの黒髪。
 中等部の冬服に黒タイツ。
 糸のように細めて笑う姿は、まるで美しい狐のようだった。
 「しかも立ち入り禁止のこの場所。ひょっとして、キミ不良さん?じゃぱにーずばんちょーってやつー?」
 クルクル舞いながら、クスクス笑う少女。
 「違う」
 と、俺は答えた。
 「人のいない場所を探していたら、ここに辿りついた。それだけ」
 「ふいーん」
 と、俺の言葉に分かっているのかいないのか分からない少女。
 「奇遇だね」
 「なぜ」
 「ボクも、同じだから」
 飄々とした少女の態度からは思いもよらぬ言葉に、俺は驚いた。
 「信じられないって顔してるね。いや、マジマジ。小うるさい教室からここに――――逃げてきた。人のいない、ここに」
 「……」
 無言の俺に、少女は改めて向き直った。
 「ひょっとしたら、ボクとキミは同類なのかもしれないねー」
 と、もう一度笑う。
 くすくすと。
 屈屈と。
 「ねー。名前を教えてよ、同類」
 至近距離からこちらを見上げ、少女は言った。
 「御神千里」
 俺は問われるままに答えた。
 「そう」
 ニィ、と笑みを深くする少女。
 「ボクは九重かなえ。よろしく、千里」
 その日から、俺と九重かなえの、互いの互いの傷を舐め合うような、互いの流血を舐め合うような緋色の関係が始まった。

473ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:05:44 ID:2AmFjdJU
 そして、約3年後の現在
 夜照学園高等部にて
 「第1回 御神千里の恥ずかしい過去大暴露大会!いえーい!」
 新学期が始まり、始業式が終わったその日のこと。
 一原先輩に「手伝って欲しいことがある」と言われて呼び出された夜照学園高等部生徒会室。
 そこで、俺は上記のような阿呆な音頭に迎えられた。
 「と、ゆー訳でやっと来たわね、今回の主役」
 「……い、ち、は、ら、せ、ん、ぱ、い?」
 じっとりした目で相手を見てやる。
 この野郎、手伝って欲しいことってこれかい。
 って言うか何をしろってのか。
 「まぁまぁ、取り合えず座って。御神ちゃんは今回の主役と言うかオモチャと言うかそんな感じだから」
 「オモチャって何ですか」
 ツッコミを入れながらも席に着く俺。
 普段はコの字型に組み合わされているであろう長椅子は、今はT字型に組み合わせられていた。
 Tの横棒の方の長椅子の後ろにはホワイトボードがあり、『大暴露大会!』という頭の悪い名前がでかでかと書いてあった。
 誰だ、こんな自分の頭の悪さをアピールしまくってる名前考えた奴。
 「私はお姉や副会長さんと違って、中等部のコトは知らないからドキがムネムネだよ!」
 「そう言えば、妹殿は中学は他所でござったか」
 「確か、私立の天川中だっけ?李はその頃まだ海外だよね」
 「…ついにこの日がやって参りましたね」
 そう言うのは、生徒会役員で一原先輩の妹の愛華さん、同学年の李忍、霧崎涼子。
 それに加えて、緋月三日。

 緋月三日

 大事なことなので(以下省略)
 「何でお前がここにいるのぉ!?」
 「わひゃぁ!?」
 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
 三日の悲鳴が無駄に可愛かったがそれはさておき。
 「いや三日さん!?俺確かあーたに『生徒会には近づくなよ!絶対近づくなよ!』と言いまくってましたよねぇ!?」
 肩を掴んでがっくんがっくんと詰め寄る俺。
 「やめて御神ちゃん!全部私が悪いの!私があなたの過去話を餌にして三日ちゃんをここにおびき寄せたから!」
 「いかにも悲劇のヒロイン口調だけどやってることは悪党だよなぁ!」
 目に涙を浮かべてそうな顔の(あくまで『そうな』)一原先輩にツッコミを入れる。
 どうやら全ての元凶はこの人らしい。
 「…あ、いや、実は私の方からお願いしたんですけど」
 「惑わされるな!それが奴の手口だ!」
 申し訳なさそうな三日を俺は全力で説得する。
 「何か、ン年来の付き合いの後輩にラスボスか何かみたいな扱いを受けてるんだけど、私」
 「いや、アンタがこの話のラスボスなんじゃないかと最近本気で思うんですけど……」
 「残念ながらソレは無いわよ。確かに、『敵は生徒会の美少女軍団!』って言うのは華があるけど」
 そう言ってから、一原先輩は全員を見回して、
 「いっそのこと皆でやる、ラスボス?『三日ちゃんを返して欲しければこの生徒会四天王を倒していくことだな!』みたいな」
 「「「「「「「いやいやいやいや」」」」」」
 周りのほぼ全員から否定される一原先輩。
 華のある無しでラスボスにならないで欲しい。
 って言うかドサクサにまぎれて三日を攫わないで欲しい。
 大体、これはどう言う展開なんだろう。

474ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:06:24 ID:2AmFjdJU
 「とどのつまり、中等部時代の昔話に華を咲かせましょう、という企画なんですけどね」
 淡々と答えるのは、副会長の氷室先輩。
 この人とも付き合いは長いけど、凶器での突き合いの方が多かった気がする。
 思い出したくもない思い出だった。
 「それが、何で三日たちまで?」
 「…私たちは、中等部時代の千里くんたちを知りませんから」
 「同じく」
 三日に加え李や霧崎、愛華さんも頷く。
 「ユリコたちは最近study hardにwork hardデシタから、コレくらいの息抜きがヒツヨーデス」
 生徒会の顧問であるエリス・リーランド先生も賛同しているらしい。
 しっかし、スタディーハードにワークハードって、先輩がハードワークってねぇ……。
 「うっわ、疑いの目で見られた」
 「日ごろの行いですよ」
 不服そうな先輩だけど、こればかりは仕方ないと思う。
 「会長も私も、これでも夏休みの間受験勉強のために邁進していましたからね」
 と、氷室先輩が言うので意外にも真実らしい。
 「まー、私は受験においても頂点に立つ女だからね!」
 エヘンと胸を張る一原先輩。
 「志望校を考えれば、まだまだ足りない位ですけどね」
 「雨氷(うー)ちゃんキビシー」
 そう言えば、先輩たちはどこの大学を狙ってるのだろう。
 雨氷先輩は学内でもかなり成績上位者で、一原先輩の成績は―――ムラがある。
 期末試験で一位を取る時もあれば、掲示板の上位者発表に名前が載らないと気もある。
 そう思って聞いてみると。
 「「東大」」
 と2人から即座に答えが返ってきた。
 「東大って……東北の大学全般とかそーゆーオチじゃないんですよね?」
 あまりにあっさり言ったので、俺は聞き返した。
 「さすがにそこでネタに走らないわよ」
 「私や会長の成績なら、困難ではあっても全く実現不可能と言う程ではありません」
 「まぁ、そうかもですけど意外ですね。氷室先輩ならともかく、一原先輩が学歴とかちゃんと考えてるなんて」
 「御神ちゃん、私のこと何だと思ってるのよ……。まぁ、それはともかく、思うところがあってね」
 「思うところですか?」
 「そう、この一原百合子には『夢』がある!」
 と、背景に『ドドドドド!』と言う擬音が欲しいポーズで先輩が言った。
 「将来この国を、ノーテンキラキラに笑って暮らせる良い国作ろう鎌倉幕府にすること!」
 「おお!」
 発言は頭悪いし具体性は欠片もないが、言ってることは非常に立派だ!
 「そしてぇ!私はそのトップで誰よりもノーテンキラキラな極上幸せ生活をエンジョイするのよ!」
 「おい」
 結局は私欲かよ。
 「Oh,ユリコ。Youのユメはいつ聞いても素晴らしいデス」
 横でエリス先生がハンカチ片手に感涙していた。
 それで良いのか教育者。
 「myselfをハッピーに出来ないヒトがyourselfをハッピーにはデキマセン」
 そこを突っ込むと、至極真っ当な言葉が返ってきた。
 確かにそうかもしれない。
 ただ、一原先輩の日ごろの行いを見てるとストレートに尊敬できないんだよなぁ……。
 女の子ばっか追いかけてる人、というイメージが強すぎて。
 「まぁまぁ。私らのことはともかく、御神ちゃんも座って座って。お弁当持ってきてるでしょ。それも広げてさ」
 と言う先輩の言葉に、俺は流されるままに席に付き、隣の三日にお弁当箱を渡す。
 勿論自分のも取り出しいただきます。
 他の面子もめいめい弁当を取り出していた。
 「あ、このお菓子は適当に摘まんでねー」
 と、一原先輩たちが市販のポテトチップスやチョコレートも広げる。
 ジュースまで用意され、ちょっとしたパーティーみたいだ。

475ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:07:23 ID:2AmFjdJU
 「しっかし中等部時代ですか。そんな面白いネタがあるとも……」
 「はいはーい!一番、一原百合子行っきまーす!!」
 俺の言葉を無視して挙手する一原先輩。
 「どうぞ」
 進行役なのか、氷室先輩がそう言うと、一原先輩は立ち上がり、キメ顔を作る。
 「俺は、自分の目で見た物しか信じない」
 いかにも男声を作ってますよ、という声音だった。
 「だから、俺は心とか友情とか信じません。目に、見えませんから」
 フッ、と言いたげな仕草をする先輩。
 って言うかコレって……
 「以上、御神ちゃんが初対面でかましてくれたイタい台詞でしたー!」
 「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 覚えてたのか!
 そんなつまんない台詞覚えてたのか!
 いや、実際言ったけど忘れていて欲しかった!
 「…千里くん、そんな深遠な哲学をお持ちだったのですね」
 「いっや深遠じゃないから!って言うか今すぐ忘れて!」
 「嫌です!」
 「こんなとこだけ即答ですかー!」
 三日にだけは知られたくない、イタい過去だった。
 「まぁ、御神ちゃんにも中二病を発症していた過去があったということで!」
 人のトラウマスイッチを押しまくった女が、イイ笑顔でそう言った。
 「…すごい。…あの千里くんが見事なまでに玩具にされています」
 妙な所に関心する三日。
 「二番手は私ですね」
 俺の心理的ダメージをスルーして、氷室先輩が立ちあがる。
 「こういう場合、公平に私の恥ずかしい過去も暴露しておくべきでしょう」
 いや、その理屈はおかしい。
 「当初、私は御神後輩が会長に懸想している物と勘違いしていました」
 「それは恥ずかしい勘違いだね!」
 氷室先輩の心を笑顔で抉る愛華さん。
 「・・・何で千里くんまで渋い顔をしているんです?」
 「いや、その勘違いのお陰で随分な目に合ったからさ」
 その勘違いのお陰でナイフで刺されかかったり、そうした勘違いをした他所の女の子を守るためにスタンガン突きつけられたりね。
 実のところ、一原先輩を尊敬する先輩として(一瞬だけ)見たことはあっても、それが好意に発展したことは無い。
 「半分以上はあなたのせいでしょう」
 「いやその理屈はおかしい」
 自分が悪いとはかけらも思っていない氷室先輩だった。
 「・・・ひょっとして、千里くんの危機順応力ってその頃に身についていたりします?」
 「だね、氷室先輩とやりあったお陰で縄抜けやら護身の術やら見に付いちゃいましたよ」
 「ある意味、御神後輩は私が育てたといって過言ではありませんね」
 「自分の悪事を省みない発言どうもありがとうございます、氷室先輩」
 「私は神に誓って過去一切罪を犯していません」
 堂々と言いやがった、氷室先輩(このおんな)。
 「御神ちゃんはいつでも女の子のために奮闘してたわよねー」
 そのやり取りを横から見ていた一原先輩が笑いながら言った。
 「・・・なん・・・ですと・・・」
 先輩の言葉に、どこぞのバトル漫画のように驚愕する三日。
 「いやね、うーちゃんの時もそうだけど、御神ちゃんって何かと女の子に力を貸すことが多くってさー」
 「その女の名前を全て教えてください!いえ教えなさい!」
 一原先輩に対してすごい剣幕で詰め寄る三日。
 「ちょっと待てい、それを聞いてどうするつもりだ」
 それを押さえる俺。
 「その時のイベントの結果、千里くんとフラグが立っていたら皆殺します!」
 「殺すなよ。っ言うか立ってないし」
 「・・・立たないんですか?」
 「現実とゲームを一緒にするな」
 きょとんとする三日に、俺は嘆息しながら答えた。
 「・・・そうは言っても、千里くんって女の子にモテる方ですよね、実のところ」
 「酷い誤解だ」
 三日も葉山と同じ種類の誤解をしていたらしい。
 「そーいえば、御神ちゃんが女の子とお付き合いしたって話聞かなかったわね」
 「ええ、私の知る限り、緋月三日後輩が初めてです」
 一原先輩と氷室先輩がウラを取ってくれる。
 「・・・でも、どうしてでしょう?千里くんのような素晴らしくて優しい人なら、河合後輩のように下手な女がコロリと参ってしまいそうなものですが」
 三日のその純粋な言葉に、背景で吹く一原先輩と氷室先輩。
 「しょ、正直御神ちゃんの中二病時代知ってるから・・・・・・・」
 「て、手放しで褒められると、お腹が痛・・・・・・」
 「お前らあああああああああああああああああ!!」
 俺を何だと思ってるんだろう、コイツらは。
 先輩でなかったらブン殴ってるところだ。

476ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:09:07 ID:2AmFjdJU
 「学級の中でも、女友達はいても恋愛関係に発展しそうな件は稀でござったな」
 と、冷静に分析するのは、実は現在同じクラスだったりする李だ。
 俺と話したことは多くない筈だが、良くクラスを見ているようだ。
 「所謂、いい人止まりってヤツ?」
 どこかからかうように霧崎が言った。
 「ま、そんなところー。今まで積極的にカノジョとか作ってなかったのもあるけどね」
 「そこいらは、割ときっちり距離取るタイプよね、御神ちゃん」
 合点するように言う一原先輩だけど、残念ながらハズレ。
 「んー、何て言うか友達の距離感と恋人の距離感とかって良く判んないんですよね。近づきすぎたらウザいですし」
 「あー、確かにそれはウザい」
 一原先輩はナチュラルに同意するが、周囲の生徒会メンバーが一様に目を逸らすのは何故だろう。
 「・・・距離感、ですか」
 神妙な顔をする三日。
 「あー三日は気にしないでいいよ。三日みたくそっちからザクザク入ってこられると逆に助かるしー」
 「・・・ありがとうございます。…って、え、あれ?…ザク…ざ、く?」
 俺の言葉に礼を言ってから不思議そうな顔をするけれど、不思議に思う要素がどこにあっただろうか。
 三日ほどこちらの距離に近づいてくる相手は無いと思うのだが。
 「まー、御神ちゃんも恋人にすると死ぬほどメンドいタイプよね」
 「失礼な」
 「勝手に三日ちゃんのお弁当を作ってきたり」
 「ウグ」
 いきなり反論できなくなった。
 「そういう風にイロイロやって、相手がウザがると『こんなに尽くしてきたのに!』って思っちゃうタイプ」
 「あう・・・・・・」
 否定できない。
 表に出すかはともかく、そういう『努力に見合わない結果』って言うのはかなりキツい。
 「・・・九重かなえのときも、そんな感じだったんですか?」
 「かなえちゃんのとき?」
 不思議そうにそう言って、こちらの方をジト目で見る一原先輩。
 「なぁに、御神ちゃん。三日ちゃんに昔の女の話をしたわけ?デリカシー無いわねぇ」
 「誤解を与えるような言い方しないで下さい。他所で話しているのを偶然聞かせちゃったんですよ」
 と、俺は先輩に説明した。
 「・・・昔の女、やっぱり・・・」
 ゴゴゴゴゴゴゴ、と横で黒いオーラを纏い始める三日。
 もう1人、誤解を解くべき人間がいるようだ。
 「落ち着いて、三日。俺と九重がそういう関係だったことは一瞬たりとも無かったから」
 「むしろ、御神ちゃんの片思いだったもんねぇ」
 「そうですね」
 うんうんと頷く一原先輩と氷室先輩。
 「あなた方・・・・・・」
 と、俺がジト目で見てやると、
 「うん、気づいてた」
 「ある程度あなたの性格を掴んだらすぐ判りました」
 あっさりという先輩コンビ。
 ちなみに、当時2人はそんな素振りかけらも見せていませんでした。
 「・・・カタオモイッテ、ドンナカンジデシタカ?」
 うっわ、三日の声から感情が消えうせてる。
 ついでに黒いオーラの濃度が増してる。
 「何て言うか、御神ちゃんの姿は見てて居た堪れないというか痛々しいというか」
 「・・・タトエバ?」
 「いつも一緒にいたと言うか」
 「いつも九重後輩についていったと言うか」
 抑揚の無い三日の言葉に、一原先輩と氷室先輩は言った。
 「あー、よく屋上で添い寝とかしてたわよね、2人して」
 「誤解を招くような言い方をするな」
 一原先輩の言葉に抗議する。
 『添い寝』という言葉から連想されるような嬉し恥ずかしな展開は全然全く悲しいくらいに無かったので念のため。
 「・・・ソレカラ?」
 「親切をすると、」
 「スルーされる」
 「勇気を出した遠まわしな口説き文句は」
 「いなされる」
 「熱い視線を向けると」
 「目をそらされる」
 「最後の手段、愛情こめたお弁当は、」
 「『まー、フツー?』」
 「「って感じ」」
 夫婦漫才のようなテンポで説明した先輩コンビの言葉に、三日の大切な何かがブチンと切れた。

477ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:11:15 ID:2AmFjdJU
 「ムギャー!」
  ハサミ、カッターナイフ、十得ナイフ、ダガーナイフ、伸縮式警棒、ワイヤー、アイスピック、妙なスプレー、スプーン、包丁、お玉etcetc
 凶器という凶器を雨のように周囲にブチまける!
 って言うかどこに隠してたんだそんなモン!?
 「うわぁ!」
 ソレに対して思わず距離をとり、物陰に隠れる一同。
 「ココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエエエエエエ!」
 ついでに、どこからともなく大鉈を取り出し、めちゃくちゃに振り回す!
 「ちょっとどうしてこんなことになっちゃうのよ!?」
 「こうならない方がおかしいでしょうが!」
 暴風のごとき三日の狂行を避けながら、俺は一原先輩にツッコミを入れる。
 「なんだか知りませんが、こうなったらころしてでもとめるしか―――」
 「俺に任せてください!」
 物騒な行いに出ようとした氷室先輩たちに先んじて、俺は三日の方に向かう。
 振り回す手が広がったときを見計らってソレを掴むようにタックル。
 そのまま床の上に押し倒す。
 「三日、三日、落ち着いて。大丈夫だから」
 「ココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエ」
 「アイツは、九重は過去のこと。もう終わったことだから。それに、多分俺はアイツと一緒になっても幸せになれなかった!」
 「ココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 「俺は!お前といてこれでもそこそこ―――幸せだ!」
 言った。
 言っちまった。
 こんな大勢の前で。
 恥ずかしい。
 死ぬほど恥ずかしい。
 けれども。
 俺の言葉に三日は動きをピタリと止めた。
 「・・・しあ、わせ?」
 驚いた様子の三日に俺は無言で頷いた。
 「・・・私といて、幸せですか?」
 再度頷く。
 実際、三日はいつも俺と寄り添ってくれようと、必死で、ひたむきで。
 そうした姿勢に、ささやかながら救われない日なんて―――今まで1日たりとも無かった。
 「・・・九重かなえと一緒にいるときよりも?」
 「かも、ね。アイツといる時間の心地良さは、幸せとはベクトルが違ったから」
 「…そうですか」
 良かった、と三日は言った。
 そして、俺たちは三日が暴れて散らかった生徒会室を片付けた。
 そのことを三日と一緒に生徒会役員達に謝ることも忘れない。
 三日はまだ落ち着いていないというか、不承不承といった感じだったが、一原先輩は笑って許してくれた。
 それから、改めて暴露大会再開。
 俺は、九重といた過去を、静かに説明し始めた。

478ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:12:07 ID:2AmFjdJU
 「あの時、俺は友達がいなかったからなぁ。だから、同じく友達のいない奴がいるってのはそれだけで救われた」
 「・・・いなかったんですか、お友達」
 「だね。途中から葉山が気まぐれだか動物的感だかで絡んできたけど、それまでは一生に1人も。だからまぁ、九重が初めての友達って言ってもいいな」
 「・・・私にとっての、朱里ちゃんみたいな、ですか」
 「え、そうなのか?」
 「・・・はい。入院生活が長くて、小学校はあまり通えなくて、中学でも、上手く人付き合いが出来なくて」
 「それで、明石が」
 「・・・はい」
 「お前が会ったのが、明石で良かったかもな。タイプが違うから。俺と九重はベクトルが似すぎてた。誰とも心を通じ合えず、誰にも心を開かなかった」
 「そうね!だからかなえちゃんに会ったときにビビッと分かったわ!この娘に必要なのは仲間だ、ってね!」
 静かな会話を、一原先輩がブチ壊した。
 「そんなきちんとした考えを持って、九重を生徒会に入れたんですか?」
 「ああ、ゴメン。何も考えて無かったかも」
 「だから、俺も生徒会に入ったんですよね。先輩から九重を守るために」
 「もしかして気づいてた?私がかなえちゃんに惚れてたの」
 「はい、何となく」
 うん、昔っからこんな調子なんだよな、この人。
 「お陰で、何度九重後輩を暗殺しにかかったか・・・・・・」
 困ったように嘆息する氷室先輩だけど、明らかにあなたは加害者側です。
 お陰で、何度九重を命の危機から切り抜けさせることになったか。
 「・・・でも、何で千里くんはその九重という女に堕ちたんですか?・・・聞く限りでは随分嫌な嫌な嫌な人みたいですけど」
 やれやれ、三日も随分耳の痛いところを突いてくる。
 「そのときの俺も、嫌な嫌な嫌な奴だったからなー。『嫌な奴で良くない?』って言ってくれたのはアイツが初めてだったし」
 「・・・千里くんを肯定してくれた人だったんですね」
 「だね。アイツがいなければ、今の俺はなかった。そう胸を張って言える」
 たとえ傷を舐めあうような関係だったとしても、その頃の俺には傷を舐めあうことが必要だったのだろう。
 「ま、同類だからこそ九重は俺になびかなかったのかもなー。人は自分に無い物を求めるって言うし」
 そもそも、九重はどう思っていたんだろう、俺のこと。
 軽蔑?嘲笑?同族意識?
 決して本心を明かさない女だったので、今となっては判らないが。
 ここにあるのは、ただ俺のいて欲しいときに九重がいてくれた、という事実だけだ。
 「・・・いな」
 と、三日が呟いた。
 「・・・悔しいな。・・・本当なら、そこには私が居たかったのに。その頃千里くんに会っていれば私がそこにいられたと断言できません」
 それが、たまらなく悔しいのです、と三日は言った。
 拳を強く握り締めて。
 「今居てくれる。それだけで十分」
 その拳を両手で包み込み、俺は笑った。
 「俺だって、過去の弱っちい頃にお前と会っていて、お前と居られたかは分からないしさ」
 俺の言葉に、コクンと頷く三日。
 思えば、俺は三日のことを意外と知らない。
 俺が弱かった頃、もしかしたら三日も弱かった頃だったのかもしれない。
 比翼の鳥には、共に羽ばたくだけの強さが必要なのだ、両者共に。
 「御神ちゃん、やっぱりビミョーに中二病残ってるわよねぇ」
 「人の心を読まないで下さい」
 当然のように茶々を入れた一原先輩に、俺はツッコミを入れた。
 「それほりも、何か面白いネタ無いですかね?」
 「んー、アレとかどう?御神ちゃんが恋のキューピッド役をやった話」
 「アレも大概にして大変でしたけどね」
 「…それ、興味深いですね」
 「ゾクゾクするでしょ?」
 こうして、賑やかな放課後がなんとか無事に過ぎて行った。

479ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:12:33 ID:2AmFjdJU
 おまけ
 「それでは、失礼しますね」
 「…本日は、ありがとうございました」
 その後、和気あいあいと思い出話に花を咲かせ、御神千里と緋月三日は生徒会室を去って行く。
 「昔の俺、格好悪かったでしょ、三日」
 「…いえ、むしろ千里くんは昔から千里くんだったんだなって分かって嬉しかったです」
 「ソレ成長してないってこと?」
 「わわ…違います違います」
 「分かってるって」
 そんな風に遠ざかって行くやり取りを、生徒会室で役員達は聞いていた。
 ある者は笑いながら、ある者は苦笑しながら。
 いずれにしても、何のかんのと言いながら、あの2人は似合いのカップルだ、と言うのが彼女らの総意だった。
 緋月三日もそうだが、御神千里も大概にして相手に参っている。
 「これでアナタの願いに叶えられましたかね、緋月先輩」
 2人のやり取りが聞こえなくなった生徒会室で、一原百合子は呟いた。
 「十分すぎるくらいでしょう」
 と、氷室雨氷が百合子の紙コップにジュースを入れながら答えた。
 「ありがと、うーちゃん」
 雨氷に微笑みかける百合子。
 その笑顔に、雨氷は目をそらす。
 照れているのだ。
 「しっかし、かなえちゃんかぁ」
 紙コップに口を付けながら、百合子は言った。
 飲んだジュースの味はするのに、思いはどうにも苦かった。
 「やはり、思うところはありますか」
 「まぁ、ね」
 重いため息。
 後輩達の前では見せなかった、暗い表情だ。
 この辺りの気遣いを天然でやっているのだから恐れ入る、と雨氷はいつも思う。
 「これまで、生徒会として、一個人として学園の誰かのために尽力していた貴女が―――」
 「そう、私が唯一、そのヤミを」
 「「救えなかった相手」」
 百合子と雨氷の声が、重く、暗く、唱和した。

480ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21:13:32 ID:2AmFjdJU
 以上で、投下終了となります。
 お読みいただきありがとうございました。
 それでは、失礼します。

481雌豚のにおい@774人目:2011/07/30(土) 05:42:16 ID:MBXQxscw
GJ

482雌豚のにおい@774人目:2011/07/30(土) 17:59:26 ID:smwhEmZw
Gj

483雌豚のにおい@774人目:2011/07/30(土) 21:27:06 ID:pPsCUwjE
gj

484雌豚のにおい@774人目:2011/07/31(日) 01:47:31 ID:Q30g1nqw
gj

485雌豚のにおい@774人目:2011/08/01(月) 18:10:04 ID:2r6WmN5k
good job

触雷まだかなー

486雌豚のにおい@774人目:2011/08/01(月) 23:27:29 ID:6HmBS1ZE
>>485
すんげー嫌みったらしいgjだな。

487 ◆O9I01f5myU:2011/08/02(火) 21:54:05 ID:jhtXEcPc
愛と憎しみ 第三話を投下させていただきます。以下はこの作品の注意事項です。

・あまり表立った描写はないと思いますが、レズ要素有り。
・ショタとの絡み有り。
・性的暴行描写有り。


以上が注意事項になります。現在第六話まで書き溜めがありますが、以上の展開は大きな改訂が無い限りは決定事項となります。苦手とします方々はお目を通さない様、お願い申し上げます。

では投下します。

488愛と憎しみ 第三話 ◆O9I01f5myU:2011/08/02(火) 21:57:24 ID:jhtXEcPc

 夜。幸人はベッドの中でぐっすりと眠りについている。それを視線の端で確認した香山はこっそりと抜け出し、寝室を後にする。その足先は玄関を向いていた。
 物音を立てない様に外へ出て、県道伝いに駆けていく。漆黒の帳が下りた住宅地の中、街灯を頼りに町の中心へ行く。遠い距離でもないのでそれ程時間も掛からない。
 変質者に悩まされている市町村もあるだろうが、この町ではそういった悪い噂は聞かない。過信こそ禁物ではあるが、夜でも比較的安心できる。時折男とすれ違うものの、こちらに関心も示そうとしない。
 夜でも営業している店は数多い。中心地ともなるとそれは顕著で、真夜中であるというのに目が眩む。点々とした街灯のみの明かりでは足元が少しおぼつかないが、これだけ光源に溢れていればもうそんな心配もいらなかった。
 光に包まれた町の中を歩み進んでいく香山。やがて一つの店の前に立つと、その中へと吸い込まれる様に入って行った。電飾の飾られた看板には、ネット喫茶の大手チェーン店の名前が大きく描かれている。
 平日の真夜中には似つかわしくない、若い男女の散りばめられた中を案内された部屋。香山は一息吐くと、椅子に腰を落とし、パソコンを起動させた。
 アクセスしたのは、インモラルな話題を多く扱ったコミュニティサイトだった。殺人事件やカルト宗教、レイプ、ヴァイオレンス、自殺、果ては公開処刑の映像の投稿もされているホームページだ(動画については海外の投稿サイトのからの転載である事が殆ど)。
 掲示板が各ジャンル毎に分けられており、香山はその中の一つのスレッドを開いた。
 シークバーを下す。数多の文字が下から上へと駆け昇っていく。香山の瞳は左右へ揺れ動き、その流れを追う。
 合間に画像もアップされており、それにも勿論目を通す。週刊誌からスキャンした物、ニュースサイトからの転載、個人が撮影した物とあるが、どれも似通った物ばかりで、香山の求めている物ではない。個人がアップした物に至っては、事件現場の外観を写した程度の物でしかなく、論外だった。
 情報の力というのは侮れないもので、少年法によって保護された未成年犯罪者をも割り出してしまう。十二歳で殺人を犯した少年や、少女を輪姦し、死に追いやった少年グループも露にされている。

489愛と憎しみ 第三話 ◆O9I01f5myU:2011/08/02(火) 22:00:23 ID:jhtXEcPc
 一度どこかがそれを明らかにしてしまえば、後はそのデータが瞬く間に蔓延していく。栄養を得た細菌と同じだ。この手のコミュニティサイトはそういった各地に広がった情報を各自がかき集めてくるので、データの蓄えが豊富にある。
 一見、断片的で役に立たない様な残滓でも、数が揃えば互いを補完し合い、一端の情報になり得る。このサイトも発足当時はその様な形で、雑誌やニュース、新聞の流し読みで得た知識を若干数の人達が世間話程度に交換するぐらいであったのが、年月を経ていく内に人数は集まっていき、やり取りされる情報の量が増大していった。その流れに乗じてサイトのコミュニティサービスも充実していき、今の形にまでなった。
 だが、この発展の裏にはあまり良くない事情も絡んでいる。このサイトが注目を浴びたのは、このサイトの閲覧者が殺人未遂事件を起こした事が報じられてからだ。曰く、このサイトを見て人を殺す手順を学んだとの事で、それが各媒体で報道されてからアクセスが倍加、認知度も高まったのだ。
 無論、このサイトの存在を危険視する向きも強く、倫理を問う声も多かったが、それら論争がさらにこのサイトの常連を増やしていく事になっていったのだから皮肉なものである。
 普段ネットに詳しくない香山がこのサイトの存在を知ったのも、そういった一連の動きをリアルタイムで視聴していたからだった。
 マウスを握る手が止まった。香山の目はスレッドの一文に釘付けにされている。
 ――市営団地女性殺人事件の被害者の息子はどうなったんだろう?
 文章の流れる速度が緩やかになる。一字一句の見逃しを許さない眼差しで読み進めていく。
 曰く、「子供はまだ小学生だったらしい」。曰く、「施設に入ったんじゃないの?」。曰く、「親戚は引き取りたがらないんじゃないの、売春婦の子供だし、親族の間では不仲だったらしいし」……等、憶測の域を出ない雑談が続く。
 進むに連れて、段々別の話題へと変わり始めようとしている。最もな話だ。結論の出ない一過性の話を延々と続ける意味は無い。
 落胆を覚える香山だったが、そのまま惰性でホイールを転がし続けて出てきた書き込みに、頭が瞬時に冴えた。

490愛と憎しみ 第三話 ◆O9I01f5myU:2011/08/02(火) 22:02:52 ID:jhtXEcPc
 「この間聞いた話だが、その被害者の息子だと思う子供が、黒のロングヘアでデカい図体をした女と一緒に歩いていたらしい」
 その書き込みを境に、ちらほらと目撃証言が出てきている。それらの特徴を纏めると、その女はかなりの長身で肩幅も広く、服を着ていても分かる程胸が大きく、さらに目が吊り眼で三白眼であったという。極めつけに迷彩服を羽織っていたという事で、全てが合致している。
 間違いない。ここで目撃したという女性は忍の事だ。ここまで特徴的な要素全て当てはまるのは彼女以外にいない。
 これで一つ分かった。幸人は佐原幸華の息子で、彼女の死後、忍が彼を引き取ったのだ。
 この点は結び付いたものの、まだ合点のいかない節はある。どういう因果で接点の無い筈の幸人を忍が引き取ったのか。彼女は幸人を捨て子と説明していたが、どうして嘘をつく必要があったのか。
 嘘をついた事に関しては、幸人の記憶が大きく関わっているからだと考える事はできる。彼は過去を「憶えていない」と言っていた。彼が本当に記憶を失っているとしたら、忍は幸人にショッキングな記憶を思い出させない様に、少しでもその可能性を排除したかったのかもしれない。だから自分にも真実を明かさなかった……。
 確かに筋は通ると香山は思った。話の筋では納得がいく。が、心の面ではまた別だ。言い様にもない疎外感を感じずにはいられなかったのだ。
 自分だけには真実を教えてくれても良かったのではないか?
 結婚の件でもそうだ。どうして自分に何一つと相談してくれなかったのか。好き合っている人がいるなんておくびにも出さなかったが、ほんの少しでも教えてほしかった。披露宴にも呼んでくれなかったし、その話題を出そうともしない。
 香山の脳裏に、幸人を伴って来訪してきた、お腹の大きな忍の姿が浮かび上がった。
 ……私は貴女にとって、どういう存在なの……?
 力無く電源を落とし、席を立つ。香山はそのまま、酒に飲まれた様な足取りで、目の眩む町に背を向けていった。
 夜闇の中、外灯の明かりが彼女の顔を照らしだした。その顔は生気がすっかり抜け落ちていた。光の加減なのか、肉の削がれた骸骨に皮膚だけが貼り付いている風に見える。背筋は丸く、足元はおぼつかないその様子は、ホラー映画に出てくるゾンビを思わせる。

491愛と憎しみ 第三話 ◆O9I01f5myU:2011/08/02(火) 22:04:40 ID:jhtXEcPc
 胸の中が散っていく感覚を覚えていた。心がひび割れ、段々と風化し、形を保てなくなってくる。
 心が無くなると人はどうなるんだろう――そんな事を考え始める。
 境界線は彼女の目の前に現れた。
 その境を超えずに留まるか、超えてしまうか。
 留まれば、まだ日常の中にいられる。
 超えてしまえば、今の日常は無くなってしまう。
 香山は思う。あの笑顔を……自分を見捨てていく彼女の幸せを、砕いてやりたいと。
 黒い想いは答えを導いた。
 後に残ったのは、踏みにじられた白線だけだった。

492 ◆O9I01f5myU:2011/08/02(火) 22:06:13 ID:jhtXEcPc
投下終了です。

493雌豚のにおい@774人目:2011/08/02(火) 22:48:15 ID:V91T3Eas
>>492
GJです!
あ〜、続きが気になる!
次回で彼女は虎の尾を踏むことになるのかしら?

494雌豚のにおい@774人目:2011/08/03(水) 22:11:58 ID:fBy5IhIA
うん、次回も楽しみだなあ

495雌豚のにおい@774人目:2011/08/04(木) 08:15:23 ID:ofK75gFU
GJ!
投下ありがてぇ

496ヤンデル生活 第5話 彼女の名前は比真理。:2011/08/04(木) 12:53:33 ID:B3N5iShM
ヤンデル生活第5話 投下いたします。

「にぃに。あいたいよ、にぃに。すぐにぃにの所に行くはずだったのに。」

比真理は涙を流しながらそう呟いている。
兄を独占したい。
その欲望が引き起こした悪夢だ。

「もし、俺があの時つかさの家にいっていればこんなことにはならなかったのかな。」

「にぃに。にぃに・・。」

「実はさ。あの時俺、つかさの家に行く予定だったんだ。」

「・・・。」

「あの時、あいつ用事が出来たって言ってさっさと帰っていたんだ。」

「あいつ。本当は比真理のこと好きだったんだよ。」

「どういう意味?」

「あいつは、つかさは比真理の誕生日ケーキを買いに行ったんだ。」

「にぃ・・にが?」

そうあの時、つかさは比真理の誕生日ケーキを買いに行っていた。
兄弟同士結ばれることはなくても、俺があいつにしてやれる精一杯のことは比真理の誕生日を一緒に祝うことだけだ・・・なんてギザなこと言いやがって。

「あいつは本当に比真理のことを思ってたんだ。独占する必要はなかったんだよ。」

そうだ。
こんな悲劇、起きなくてもよかったんだ。

「でもにぃに。いつも女の人と会ってた。友達って言ってた。あの時も…私の誕生日の日も友達の所に行くって・・・だから・・・だから。」

「にぃには・・・私よりも・・・その友達が大切なんだって・・・私のこと忘れちゃうって。」

「にぃにが私から永遠に離れてくような気がして・・・怖かったの。」

「そうか。」

起きたことは変えられない。でも、もしあの時こうしたらとか、もっとできたんじゃないかなんて後悔する。
それは、無駄だとわかってもしてしまう。
今回のこともそうだ。
避けられるチャンスはいくらでもあったのに。
そう、いくらでも。
体を震わせて泣いている少女に俺はどんな慰めの言葉をかければいいのだろう。
俺はそっと震える手で比真理の頭を撫でた。

「ぅぅぅ・・うぁぁぁうぁぁぁぁぁぁぁああ!!にぃにぃぃごべんなざぁぁいいいごべんなさいぃぃぃぃ・・・。」

心の栓が取れたように比真理は泣いた。心のうちに貯めていた後悔と、兄に対する謝罪を吐き出すように彼女は泣き叫んだ。
それでいいんだ。
いっぱい泣いていっぱい後悔して、それで人は前に進んで行けるのだから。
俺は比真理が泣き止むまでひたすら頭を撫で続けた。

・・・

「お兄ちゃん?」

「どうして屋上からお兄ちゃん以外の人の声が聞こえるの?」

「そんなわけない。気のせいよね、だってお兄ちゃんに女性が近づかないように毎日監視してるんだもの。」

「そんなこと、あるわけない。」

「そうだ!今日もお兄ちゃんの寝室に入ろう。」

「お兄ちゃんが寒くならないように温めなくちゃ!」

・・・

それからしばらくして、俺は比真理を保健室に連れて行った。
さすがに授業に出れる状態じゃなかった。
けど、これで一つの区切りがついた気がした。
安心・・・とはさすがにいかないけど。
でも、妹とちゃんと話せばきっとわかってくれる。
なぜかそういう気がした。
逃げるだけじゃなく、向き合うことも必要だって、
気づかされたんだ。
比真理に。
いや、つかさに・・・かな?
ああ、でも怖かった。
今思い返しても体が震える。
もし、あの時間に合わなかったら・・・。
俺は親友に次いで親友の妹もみすみす助けられなかったということになるのだ。
それだけは嫌だった。
もう、人が亡くなるのは沢山だ。
葬式の雰囲気。耳から離れないお経、そして匂い。
みんながすすり泣き、喘ぎ泣く。
冷たい空気があたりに立ち込める。
現実が現実で無くなっていくような、不思議な感覚。
もう2度と味わいたくない。
今思い返しても、吐き気がするだけだ。
そんな思い、もう誰にもさせてたまるかよ。
だから、妹とちゃんと話さなくちゃならない。
わかってくれるとは思わない・・・けど。


俺は放課後まで待って妹と一緒に帰ることにした。

「めずらしいね。今日は一緒に帰ってくれるんだ。」

「ああ・・まあな。たまには一緒に帰ってもいいだろ。」

「ふーん。そっか。ふふふ。」

妹は嬉しそうに笑うと腕を組んできた。

「ちょ・・やめろって。誰かに見られるだろ。」

「たまにはいいでしょ?」

そうおねだりするような目で見てくる。
いつもなら断る予定だけど。

「今日は仕方ない・・か。」

「嘘・・・。本当にいいの?お兄ちゃん?」

497ヤンデル生活 第5話 彼女の名前は比真理。:2011/08/04(木) 12:54:50 ID:B3N5iShM
「ああ、いいよ。けど、今日だけな。」

「うふふふ。」

そういうと笑顔で一際強く、腕を組んだ。

「ねぇ。今日お兄ちゃんなにかあったでしょ。」

妹は帰り道の途中で聞いてきた。
やっぱり勘が鋭いな。

「いや、その・・・。」

俺はなんて言ったらいいかわからず言葉に詰まった。
なんて説明したらいいのか・・。

「屋上で誰かと会っていたよね。多分・・比真理・・さんかな?」

「なんでわかったんだ?」

「なんかね。声が聞こえたの。気のせいかなって思ったの。お兄ちゃんに女性がよりつくわけないって。」

「ずいぶんな言われようだな。確かにモテないけどさ・・・。」

「ううん。そういう意味じゃないの。それでね、その声どっかで聞いたことあるような声だったの。」

「そうなのか。」

妹は、俺と比真理のやり取りを聞いていたのか?

「それでね。思い出したの。今日転校生が来てたでしょ、お兄ちゃんのクラス。」

「な・・・なんでそんなことわかるんだ?」

「普通だよ。お兄ちゃんの事で知らないことなんてないんだよ?」

さらりと怖い事、言うなよ・・・。

「それでね。その転校生の名前、苗字は違うけど比真理って名前だったし、なんかね。雰囲気もにてるなぁ〜って。」

「あったことあるのか?」

「ううん。すれ違っただけ。けどね、懐かしい香りがしたの。」

「香り?」

「うん!香り。私嗅覚すごいんだいよぉぉ!」

なんてことだ。俺の妹は犬並みの嗅覚をもっていた!

「それよりも、お兄ちゃんなんかあったでしょ。屋上で、比真理さんと。」

嘘をついたらすぐばれそうだな。
とりあえずここは真実を喋ろう。

「ああ・・実はな。その・・・比真理が自殺しようとしたんだよ。屋上から飛び降りようとしてさ・・・。」

「そうだったんだ。それで、お兄ちゃんが助けたの?」

妹は心配そうな顔をして訪ねてきた。

「ああ。他に誰もいなかったし。」

「そうなんだ。それで、比真理さんは大丈夫だった?」

「一応、保健室には連れてったけど大丈夫だよ。」

「そっか。それならよかったよ。」

そういうと妹は安堵の顔を浮かべた。

「お兄ちゃんが無事で・・・本当に良かった。」

「え?」

「ううん。何でもない。今日はお兄ちゃんの好きなカレーつくったげるね!」

「本当か!嬉しいな。」

カレーは俺の大好物である。
だから、あらゆる意味で俺は妹に大事なものを握られているのかもしれない。

「うれしそうなお兄ちゃん見ると・・・きゅんきゅんしちゃうよ。」

そういって妹は俺の腕に顔をうずめた。

「はは。そうか。」

俺は苦笑いするしかなかった。

498ヤンデル生活 第5話 彼女の名前は比真理。:2011/08/04(木) 12:56:03 ID:B3N5iShM
その日の夜。俺は風呂から上がると速攻でベットに入った。
久しぶりに疲れた気がする。
すべては勘違いから生まれた出来事だったのか。
けど、つかさも妹のことが好きだったなんて、今思い返しても奇妙な縁だったんだなって思う。

「友達に会いに行くか・・・。」

その一言がすべてを変えてしまったのか。ん?友達?女の人・・・?
そういえば、あいつと俺は女子とかかわれなかったはずだ。
昔からの友達か?
いや、つかさからその話を聞いたことはない。
俺に隠れてこそこそあっていた?
それもおかしい。
あいつは嘘はすぐに顔に出るタイプだった。
けど、そんなそぶりはなかった。
一体誰だ?
つかさの友達って。
いや、深く考えすぎだな。
とりあえず、解決したんだ。あとは、比真理が自分で何とかしていくしかない。
俺は、目を閉じて思い返した。
今日起こったこと、そして今まで自分に絡み付いていたしがらみを。
すると、すぐまぶたが重くなってきた。


「お兄ちゃん?」

「よし!返事なし。今日もお疲れ様!お兄ちゃんのご褒美もらっちゃうね。」

「ゆっくり・・。ゆっくり・・・。ふぁ・・お兄ちゃんの顔ちかいよう・・・。」

「お兄ちゃん、いい匂い。じゃあ、ご褒美いただきます。ん・・・ちゅ・・ちゅる。」

「ん・・・はぁ・・・。んちゅ・・ちゅ・・・ちゅ。」

「んん・・はぁ・・はぁ・・・甘いのぉ、お兄ちゃんのくちびる・・・ん・・・ちゅ・・。」

「ちゅる・・・舌・・いれていい・・よね?はむ、ちゅ・・・れろ。」

「れろ・・・ちゅ・・・ちゅ。れろぉ・・・はぁ、はぁ。お兄ちゃんもっと・・ちゅう。」

なんだろう、変な感覚だ。
生暖かくって、なんだかかゆい。
小さくぴちゃぴちゃっと音がする。
これは夢かな。
ぼーとしていた頭が少しずつさえてくる。
ん?妹?

「ひゃ!にゃ・・にゃんでもないからなんでもないから!」

そういって妹は俺の部屋を飛び出していった。
口がなんだか熱い。
まさか・・・。
明日、妹とちゃんと話さなければ・・・。
すると、携帯が鳴りだした。
誰だ?
時間を見ると、0時32分。
こんな時間に誰だ?
おそるおそる電話に出た。

「もしもし?」

「あの、赤木さんですか?えっと、比真理です。」

えっ・・比真理!?
なんで電話してきたんだ?

「俺、電話番号教えたっけ?」

「ううん。いつもにぃにの携帯みてたから。」

ああ、なるほど。

「そうか、それでなんかあったのか?」

「そうじゃないんだけど、今日は・・ご迷惑おかけしてすみませんでした。」

「い・・いやそんなに改めて謝らなくても。それにあれは俺が勝手に助けただけだし。」

「それと、にぃにのこともっと詳しく教えてほしいしそれに・・・学校の事まだよく知らないから、できれば案内してほしいんだけど・・・。」

「へっ?まあいいけど。」

「あ・・あのありがと。」

照れるようにちょっと焦りぎみでそういった比真理の声はちょっと可愛かった。

「別にいいよ。これも何かの縁だしな。」

「もうそろそろ切るね。お父さんに見つかっちゃうから。」

「ああ、また明日な。」

「うん。また・・・明日。」

そう少し照れ気味に言って比真理は電話を切った。
そうだ、遅すぎるなんてことはない。
過去や罪は消えないけど、これからのことは、未来はきっと変えられる。
今はそう信じたい。
その時、俺の部屋のドアの前にはうっすらと影が映っていた。
けど俺はそれに気が付かなかった。



「お兄ちゃん・・・誰と電話してるの・・・。」

499ヤンデル生活 第5話 彼女の名前は比真理。:2011/08/04(木) 12:58:16 ID:B3N5iShM
ヤンデル生活第5話投下終了です。

いつもgjをくださっているみなさんありがとうございます。

500雌豚のにおい@774人目:2011/08/04(木) 16:36:08 ID:lDDkwifM
gj!

501 ◆gSU21FeV4Y:2011/08/04(木) 21:56:14 ID:mB4S4kMk
皆様お久しぶりです。
暫くの間投下できずにいてすみませんでしたー……。
今回の話はかなり短いです。前回の反動かも分かりませんが。
今回の話を第三部として扱うのはあまりに切が悪いので、「第三部の上編」として見ていただけたらありがたいです。
とまあ、色々書きましたが五月の冬 第三部 上編。投下します。

502五月の冬 第三部上編 ◆gSU21FeV4Y:2011/08/04(木) 21:57:16 ID:mB4S4kMk
昼休み。四、五人でグループを作って昼食を共に食べる他の連中が多い。
そんな中、私と五月くんは二人きりで向かい合い、教室の隅で弁当を食べている。

「ごめん、何もお返しできることなくて……」
五月くんが申し訳なさそうに私を見つめた。
「そんな、いいんだよ。私、……その、好きでやってるから」
『あなた』が好きでやってる。
辛うじて飲み込んだ言葉は思い返すまでもなく恥ずかしいもので、
口に出さなくてよかったとホッとする反面、何時堂々と口に出せるかという思いが浮かんだ。

「冬子、本当にありがとう。今日のも美味しかった」
五月くんは手にある空の弁当箱を私に差し出して言った。
それを受け取り、鞄の中にしまう。

「ふふ。どういたしまして」
五月くんにありがとう、って言われるだけでとっても嬉しくなれる。
もっと感謝されたい。それでもって、甘えて、愛して、愛されて。
五月くんに甘える自分を、無意識のうちに想像した。胸の奥がざわめく。
ふと、我に返り、体の中の甘ったるい空気を冷静に吐き出す。
こういうのは家に帰ってからゆっくり考えよう。

「そういえば、冬子」
五月くんが鞄を探り、半透明のケースを取り出した。
私が料理を入れて五月くんの家に持って行った、タッパーだ。
「ゴールデンウィーク中にさ、料理作ってきてくれたの?」
「あ、ああ。うん」
「やっぱり、いつの間にか届けてくれてたんだ。
ありがとう。美味しかったよ」

また、ありがとうと言われ、落ち着かないような気持ちになる。
五月くんとお話しすると、心を羽根かなんかでくすぐられてる感覚がするのだ。
受け取ったタッパーを鞄にしまった後も、そわそわとしていた。
五月くんに聞きたいと思っていたことを思い出して、浮いた気持ちが地につく。
一度口を開きかけるが、思い直してすぐに閉じた。なんて切り出そうか。
ちゃんと考えてからの方がいいだろう。
下手に口を出すと、気分を悪くするかも……。

「冬子」
不意に声をかけられる。
「ひゃいっ」
驚いて、私は間の抜けた声を上げた。
私が上ずった声を出したのが可笑しかったのか五月くんはくすくすと笑い、手に持った菓子パンの袋を破った。
「あはは。冬子もそういう可愛い声出るんだね」
「ち、違うよ!考え事してて急に話しかけられたからっ……」
顔が熱くなる。頭に血が上るのが自分でもよく分かった。
そうなる理由は二つ。一つは、五月くんにからかわれたのが恥ずかしくて。恥ずかしいのと同時に嬉しくて。
もう一つは『可愛い』って言われたこと。好きな人に可愛いと言われて嬉しくない人なんていないだろう。
私は胸が破裂しそうなくらいに嬉しい。
顔を真っ赤にして俯く私に、五月くんが声をかける。

「甘いの、苦手じゃないよね」
「う、うん……」

五月くんは菓子パンを手で二等分にし、片方を差し出した。
「はい」
私はそれを受け取る。

「さっき、お返しできるものが無いって言ってたけど……」
気恥ずかしそうに頬を掻きながら、五月くんが言った。
「それがお返しってことじゃ、駄目かな」

「いいよ。これからも私、頑張ってお弁当作るから」
私は、できる限りの笑みを顔に浮かべた。
五月くんは私の笑顔を見るとまた恥ずかしそうにして、パンをかじった。

幸せだ。
ずっとこの瞬間が続けばいいのに……。

『ずっと』。

503五月の冬 第三部上編 ◆gSU21FeV4Y:2011/08/04(木) 21:57:54 ID:mB4S4kMk
昼休みから程なくして、この日の授業が終わった。
教科書を鞄に突っ込んで、冬子と一緒に教室を出る。
階段を下りて靴を履き替える。
校舎を出て冬子と別れ、俺は自転車置き場へと向かった。
ゴールデンウィークが明けた。意外に一週間は長い。
四時に起きて、これからまたバイトに行く。この生活リズムが崩れかけるほどに長い。
七時に起きて、家事が終わったら寝る健康的な生活が早くも懐かしい。

溜息が出る。

「五月!」
自分の名を呼ばれ、声の方向へ体を向ける。
こげ茶色のくせ毛が特徴的な女の子。愛だ。
「今日もバイト?」
「ああ、うん」

「そっか、大変だね」
愛は悪気なさそうに言葉を続けた。
「五月は、いつまでバイト続けるの?」

悪気も他意もないのだろうが、愛の一言がずしり、と胸にのしかかった気がした。

「……わからない」
それだけ言って、俺は自分の自転車まで歩いた。
鍵を外すと、サドルにまたがりペダルを思い切り踏みつけた。
「あっ、五月!わ、私……!」
逃げるように自転車を走らせる。
愛から、じゃない。他の色んなものから逃げるように。

必死にペダルを踏む。
風を切る音の中で、俺は考える。

『いつまで』……?
答えは出かかっている。出したくなかった。
解り切った答えだけど、解りたくなかった。

『ずっと』。

504五月の冬 第三部上編 ◆gSU21FeV4Y:2011/08/04(木) 21:59:37 ID:mB4S4kMk
迫る、ある日に向けて、私は着々と準備を進めていた。
いや、『着々と』はいっていないな……。
実を言うと準備もまだ、始まってすらいない状況だ。準備の準備は半分終わったが。

着々と、だったらいいのになー。とは思っている。

私は溜息をついた。
「五月は何が欲しいんだろう」

本人に聞くのが一番だけど、なかなか聞く機会がない。
昨日は五月、さっさと帰っちゃったし。
怒らせちゃったのかと思って、メールで謝った。怒っていなかったようでよかった。
メールで聞くのが手っ取り早いが、なるべく本人から直接聞きたかった。

机の上のメモを手に取る。

○手作りケーキ
○プレゼント一個(今週中に欲しいものを聞く)

頭の中では色々なことを考えて、まとめられなくなる。
メモに書いて整理しようと、いざ書きだすと書くことがなかった。
また、溜息をつく。

とりあえず、ケーキの材料だけでも買いに行こうかな。
たしか、五月はチョコレートケーキが好きだったはず……。
手にあるメモをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り、新しいメモを取る。
ボールペンで必要な材料を書きこみ、ポケットに財布と一緒に突っ込んだ。
特別な日なんだ。悩むのは当たり前。

…………。

卵、生クリーム、バター、板チョコ……。
かごの中にチョコレートケーキを作るのに必要なものを入れる。
レジで会計を済ませ、レジ袋に買ったものを詰め込む。
それから、かごを元の場所に戻す。重いレジ袋を右手にぶら下げて、店の外に出た。
五日後は五月の誕生日だ。一昨年はクッキーを焼いた。
去年の今頃はシャーペンが壊れたと言っていたので、少しお高いシャーペンをプレゼントした。
今でも、使ってくれている。

五月のこと、中学生の時から好きだった。
初めて一緒のクラスになった中学二年生。明るくて、人の感情をよく理解してくれた。
あまり目立つ人じゃなかったけど、そこに惹かれた。
自分の想いを伝えようとしたのは一度じゃない。
話したいことがあると、放課後の教室に呼び出したこともある。
けど、五月の顔を見ると、恥ずかしくなったし、断られることを想像してしまって、告白できなかった。
呼び出したのに何も言わない私を見て五月は、『悩み事でもあるの?』と沈黙を破った。
ますます、五月に対する想いは強くなった。

最近。五月、元気がない気がする。
当たり前か。唯一の家族、父親を亡くして慣れない一人暮らしをしている。
少しでも、私の元気を分けてあげたい。

そして、五月が元気になったら、想いを伝えよう。

五月が元気になるまで、私、愛は待つ。

『ずっと』。

505 ◆gSU21FeV4Y:2011/08/04(木) 22:06:23 ID:mB4S4kMk
投下終わります。
前回頂いたアドバイスはちゃんと読ませていただきました。
答えてくださった皆さんありがとうございました。
前回並の長さを期待した方すみません。
のんびりのんびり書いてるものですから……。

アドバイスなどあれば書いていただきたいです。
そろそろ、物語に矛盾が出始める頃……。怖い怖い。
では、ちょっと早いけどおやすみなさいっ。

506雌豚のにおい@774人目:2011/08/04(木) 22:14:57 ID:h2xcfOo2
十分長かったぜ!
GJ!

507雌豚のにおい@774人目:2011/08/05(金) 06:31:33 ID:RYgg.GqQ
それはとってもGJだなって

508雌豚のにおい@774人目:2011/08/05(金) 18:15:57 ID:nUjZksQ.
あぁ、GJすぎるよホント。

509雌豚のにおい@774人目:2011/08/08(月) 20:29:26 ID:RdilwMW.
GJ
本当にありがとう

510雌豚のにおい@774人目:2011/08/08(月) 21:52:23 ID:fkTuRC1k
急に過疎ったな
誰か投下しないかな

511雌豚のにおい@774人目:2011/08/09(火) 02:17:58 ID:bPrglSrc
囚われし者まだかな〜〜

512自己中女:2011/08/10(水) 02:11:30 ID:Z6m111H6
「私は君のことが好きだ。それはもう発狂しそうなくらい好きだ。」
「いや、もう愛していると言っても過言ではないだろう。」
「君と一生一緒にいたい。離れたくない。」
「まぁだからこうして君をここに閉じ込めたわけだが・・・」
「君はここから出たいんだろう。そんなのは誰にでもわかる。私が君の立場でも出たいと思うだろう。それが普通の考えだ。」
「君が辛いのはわかっているさ。」
「でもすまないな、私は君のことを愛しているが、君の幸せを願っているわけではないんだよ。」
「この世で最も愛しているのは君だが、この世で最も大切なのは私自身なのだよ。」
「君と一緒にいると私はうれしくなる。幸せになる。」
「だから私の幸せのために君をここに閉じ込めた。」
「決して君のためではないんだよ」
「・・・・・ふむ。確かに。君の言うとおり、これは愛ではないのかもしれないな。」
「自己中心的な私の独りよがりなのかもしれん。」
「まぁそれでも構わないさ。」
「さっきも言っただろう?この行為は私の幸せのため、だと。」
「愛があっても無くても、現実はなにも変わらないさ。」
「私は、私自身が幸せならそれでいいんだ、結局のところは。」
「・・・・・つまるところ君は玩具と同じかもしれんな。私の欲求を満たすための玩具、みたいに。」
「あぁ、怒ったかい?そりゃそうだろう。ここで怒らなきゃ君は唯のマゾだよ。」
「・・・・・けど安心したよ。」
「君が怒っても私の幸福感は変わることがなかったよ。」
「やはり君と一緒にいるだけで充分なんだよ、私は。」
「そんなに怒鳴っても疲れるだけだぞ?まぁ防音対策も充分だからどうってことないが・・・」
「・・・・・・あぁ、そろそろ晩御飯の時間だね。夕飯を取ってくるよ」
「いやぁ楽しみだなぁ・・・これから私はずぅっと幸せな日々をおくれるんだろうなぁ・・・」

「・・・・じゃ、これから私の幸せのために頑張ってくれよな?」


なんか猛烈に自分も書きたくなったから書いてみた!いやいや短編だろうがなんだろーが
文章作るのって難しいね!
そー考えると職人さんとかは本当にすごいんだなぁ!

513雌豚のにおい@774人目:2011/08/10(水) 07:40:10 ID:hYkTHRi2
>>512
でも、こういう自覚あるパターンは珍しいね。
厳密にヤンデレなのかは知らないけど、個人的にはおもしろいと思った。

514雌豚のにおい@774人目:2011/08/10(水) 07:40:36 ID:5lTdvyLU
>>512
GJ

515雌豚のにおい@774人目:2011/08/10(水) 07:52:12 ID:bKXNL8rE
>>512
GJ
続きはまだかなって

516雌豚のにおい@774人目:2011/08/10(水) 07:52:50 ID:NrzIYasA
>>512
ヤンデレ素質の人格に対する観察力が素晴らしいですね。
いい話書けるかもよ?

517雌豚のにおい@774人目:2011/08/10(水) 18:39:25 ID:BjAL7Vro
トリップつけてほしいね、自覚あるヤンデレって新鮮だよな

518雌豚のにおい@774人目:2011/08/10(水) 19:41:50 ID:FKy5djYk
脱帽。分かりやすくて読みやすく、そして面白い。

本当に素晴らしいです。

519 ◆O9I01f5myU:2011/08/10(水) 21:23:45 ID:FKy5djYk
投下します。愛と憎しみ 第四話です。以下は注意事項です。

・あまり表立った描写はないと思いますが、レズ要素有り。

・ショタとの絡み有り。

・性的暴行描写有り。

現在第七話を書いてる最中ですが、以上の流れは大きな改訂が無い限り、決定事項となります。苦手な方々はお目を通さない様、お願い申し上げます。

520愛と憎しみ 第四話 ◆O9I01f5myU:2011/08/10(水) 21:26:20 ID:FKy5djYk

 月は沈んだ。バイクのエンジン音が部屋の中にまで聞こえてくる。
 音が近づいてくる。回転数が低下し、アイドリング状態になる。少しして、ガチャンと郵便受けが届け物を知らせた。
 音は再び唸りを上げて、遠ざかって行った。
 朝は五時。辺りは暗く、日が昇るにはまだ時間が掛かる。これからも冷えてくるこの季節、夜明けは遠くなっていた。
 季節の移行が肌で感じられる朝。蒲団が恋しく、二度寝、三度寝をしてしまいそうになる一時。例に違わず、幸人もまどろみに全身を委ねていた。起きるにはまだ早い時間であるし、朝食はママに代わって香山が用意してくれるので余裕がある。途中、幾度か目を覚ますものの、その都度眠り直す事ができる。
 香山との生活も日数が経っている。もう慣れたもので、普段通りのライフスタイルと遜色ない。ママである忍がいない事による寂しさは時々のお見舞いで癒していたし、赤ちゃんと揃って退院できる日も近づいてきているのもあって、最初に見られた寂しがり屋の側面はすっかり鳴りを潜めていた。
 もう少しで日常が戻る。家族が増えたのだから今までとは少し違った日常になるが、きっと幸せに満ちたものになると、胸に期待を膨らませていた。
 ガチャッ。
 玄関のドアが開く音がした。
 布団に顔を埋めていた幸人はもぞもぞと顔を覗かせた。半分閉じた左目で壁掛け時計のぼんやりと光る時針を見ると、怪訝そうに首を傾げた。今まで香山がこの時間に外出した事はなかったからだ。
 寝室のドアがそっと開かれた。電気の点けられていない部屋の中、戸口に立っているのは香山である筈なのだが、幸人の目には影法師にしか見えない。姿がはっきりと確認できなくてもそれが誰かなんて瞭然であるのに、幸人の中に正体の分からない恐怖が宿った。
 恐る恐る、顔を起こす。声を掛ける勇気は湧かない。様子を窺うだけだ。

 「幸人君……」

 影法師が動く。ここが布団の中でなかったら、一歩退いていたところだ。
 心臓が警鐘を鳴らし始める。まるで何かに憑かれているみたいだった。心が空白になった肉体を、幽霊が糸で手繰っている様に見えたのだ。
 近づいてくる。具体的に何かをされると分かっているわけでもないのに、それでも怖い。
 否、何をされるか分からないからこそ彼は恐れた。目の前の、香山の声を持つ影法師に。

521愛と憎しみ 第四話 ◆O9I01f5myU:2011/08/10(水) 21:28:34 ID:FKy5djYk
 布団で身を固める彼の目の前にまで歩いてきたそれは、ゆっくりと屈み、手を伸ばしてきた。手は幸人の頬――視力を失った右目の下――に触れる。
 冷たい。血の通った人の手の温もりが無い。彼女は今まで外出していて、それで体が冷えたせいなのだが、落ち着きを失っている彼がそれを理解できるわけがない。
 視界いっぱいが影法師で埋まる。幸人は言葉も発せられないまま、彼女の声を待つ。

 「幸人君は、自分のママが誰なのか、その人がどういう人だったのか、知っている?」

 奇妙な事を言う。そう思いながらも、幸人は冷や汗を流しながらそれに答える。

 「……僕のママはお姉ちゃんだって知っているでしょ? 僕のママは佐原忍。お姉ちゃんのお友達の……」

 彼女はその言葉を遮る。

 「そうじゃなくて。幸人君が忍ちゃんと会う前のママの事だよ」

 実母の事について訊いているのだと彼は理解した。
 彼に実母の記憶は無い。捨てられていたのを忍に拾われたと聞かされただけだ。

 「……知らない」

 彼は力無く項垂れる。忍と幸せな生活を送ってきたものの、自分の存在が実母に否定されたという事実はどうしようもなく重かった。
 自問自答する事は多々あった。どうして実母に捨てられたのだろうかと。その都度に真剣に考え込み、気落ちする事もあった。でも、忍との生活がある今を思えば「まぁ良いか」と前向きになれた。自分の不安な気持ちを誤魔化す事ができたのだ。
 今改めて、他人からそれを突き付けられた。脆い所をピンポイントで叩かれ、安定を失う。それだけ彼は動揺した。
 どうして自分がこんなにも気が動転しているのか、彼には分からなかった。分かりたくもなかった。このまま彼女を無視して眠ってしまいたいとすら思えた。
 無論、逃避なんて認めてはくれないだろう。幸人は彼女と向かい合う事を余儀なくされた。

 「幸人君、貴方のママはね、汚らわしい人だったの」

 心の底から震えあがるかと思う様な冷たい声で、香山はそう言い放った。
 幸人は彼女の言葉を理解するに時間を要した。理解しても、相槌なんて打てなかった。

522愛と憎しみ 第四話 ◆O9I01f5myU:2011/08/10(水) 21:31:18 ID:FKy5djYk
 「貴方のママはね、男の人に股を開く女だったの。裸になって、男の汚いおちんちんを愛撫してお金を貰う、社会のゴミクズみたいな女だったの」

 こめかみに汗を滲ませる幸人。鼓動が嫌にうるさく聞こえる。
 頭の中に直接心音が叩き込まれ、思考が歪み始める。灰色の砂嵐が、彼の脳内を著しく掻き乱していた。
 その砂嵐の中、断片的な記憶が過る。感度の悪いテレビが途切れがちに映像を流すのと同じだ。何かがあるのに、その全容を掴む事ができない。
 それを知りたいと思うか?
 幸人の中で懸命に訴える恐れは、それを拒否していた。
 その内に、頭痛と吐き気の症状が表れてくる。彼の心の必死な抵抗故か。

 「時には何人もの男に囲まれて、膣は勿論、口やお尻まで……穴という穴を嬲られていたり……」

 息が乱れる。呼吸のリズムが分からなってきた。吸って吐くの単純運動のやり方を忘れてしまった事に激しく狼狽する。

 「口で言うのも憚られる様な、変態的なセックスもしていたそうだし……」

 やめてくれ。
 腹の底から叫びたかった。なのに、できない。
 息が戻らない。乱れがどんどん大きくなる。
 苦しい。息が続かなくなりそうだ。
 幸人の明らかな異変。闇に包まれた個室の中でも、彼が過呼吸を起こしているのは簡単に分かる。

 「天下の往来で、男と絡んでいた事もあったんだってさ」

 それでも香山は淡々と話を続けている。幸人の様子が分からない筈がないのに。
 彼が胸を抱えてもがいているのを只見つめている香山。
 地面に転がる虫の死骸を眺める、温度の感じられない瞳。うずくまる子供の人影に向けられていたのは、そういった視線であった。

 「……そうそう」

 わざとらしい、下手な演技の掛かった声だ。
 別の話題にシフトするつもりなのか。
 それを察すると、幸人の胸のざわめきが一層大きくなった。
 今までのは軽い牽制。今度のは……。

 「貴女のママはね、本当に酷い女だったんだよ?」

 自分を串刺しにする、鋭利な剣。

 「なんて言ったねぇ……」

 その切っ先を向けて。

 「自分の息子に……」

 勢いを付けて。

 「売春をさせていたって言うんだから」

 真っ直ぐに、突き出してきた。

523愛と憎しみ 第四話 ◆O9I01f5myU:2011/08/10(水) 21:33:47 ID:FKy5djYk
 「……あっ……」

 砂嵐の中に過る記憶。
 化粧の濃い女。
 多数の大人達。
 森の中。
 被服を破られて。
 力づくで組み伏せられて。
 露出した下半身にそそり立つ物が視界いっぱいに埋まって……。

 「う……ぁぁっ……」

 灰色の砂嵐が流すスライドショー。それは、今まで忘れていた、過去の自分の記憶だった。
 涙が止まらない。思い出したくないのに、次々と忘れていた事が蘇ってくる。
 雪崩れ込んでくる記憶。悪夢の氾濫。
 幸せに満ちていた日常がひび割れていく。美しく咲いていた花が根を断たれ、萎れていくのと同じ様に。

 「ねぇ、幸人君……」

 香山は茫然自失の幸人を荒々しく突き飛ばした。彼は無抵抗のまま、布団に倒れた。

 「大人達の慰み者になるのって、どんな気分なのかなぁ?」

 仰向け倒れになった彼に馬乗りし、幸人のパジャマのズボンを乱暴に剥ぎ取った。勢い余ってパンツまで一緒に脱げ、彼の大切な所が露になると、香山はそこを潰さんばかりの握力で握った。
 力の抜けた幸人の体が、びくんと跳ね上がった。視力の無い右目まで、まるで目玉が零れ落ちそうな程に大きく見開き、口は顎が外れる勢いであんぐりと広がっている。言葉にならない悲鳴を全身で上げている。
 内蔵を直に握られる痛み。滲みだす脂汗が止まらない。汗ばむ体がぷるぷると細かく震えている。
 急所を掴まれている香山の手を何とか振り払いたかった幸人だが、下手に動けば指がますます睾丸に食い込む。反抗しようとすれば、彼女が握力を尚強めるだろう事は明らかだ。
 痛みに体をよじらせ、口から儚げな呻き声を漏らす。ここが明かりの下にあれば、それは扇情的な求愛好意にも見えただろうが、灯りの無いこの部屋では、尾の短い大蛇がうねっているとしか形容できない。
 握力がふと緩んだ。腹の中を絞められる不快感と痛みが止み、思わず安堵の息を吐く。
 部屋が明るくなった。香山が電灯のスイッチを入れたのかと、幸人はその方向を見る。
 スイッチはドアの脇にある。蒲団から離れたそこの位置に彼女がいるのなら、とりあえず抵抗するだけの体勢は取れるかもしれないと思った。
 もはや今の彼女は幸人が知っていた香山ではなくなっている。自分の身が危ういと生存本能が騒ぎ立てている。

524愛と憎しみ 第四話 ◆O9I01f5myU:2011/08/10(水) 21:35:36 ID:FKy5djYk
 少し乱暴でも彼女を退けて、ママの所に逃げ込もう。
 齢十二の小さな体躯が、女性とは言え成人している香山をやり過ごす事ができるかどうか。彼の頭はそこまで回っていなかった。それだけ必死だった。
 それだけ必死であったのに、明るみに出た彼女の顔を見た瞬間、体中の筋が硬直してしまった。
 痩せ細った重病人を髣髴とさせた。頬はこけて、青白くて、陰気な目を不気味に光らせている。その瞳は幸人を真っ直ぐに見据えているが、その目の裏では何が映っているのかは恐ろしくて想像できなかった。
 何があったのか、幸人に知る術は無い。たった一晩でここまで変貌してしまうのかと驚嘆する程、彼女は変わっていた。
 彼女が近寄ってくる。ほっそりとした手が顔に掴み掛かってくる。依然として、幸人は動く事ができないでいた。

525 ◆O9I01f5myU:2011/08/10(水) 21:37:31 ID:FKy5djYk
投下終了です。

次回は暴行描写が中心になります。ご注意下さい。

526雌豚のにおい@774人目:2011/08/10(水) 21:40:16 ID:bKXNL8rE
これは精神的にキツイ

だがGJだ!!

527雌豚のにおい@774人目:2011/08/11(木) 12:46:12 ID:IBpuXQqI
はっとした
GJ

528雌豚のにおい@774人目:2011/08/13(土) 11:33:34 ID:ySbRiI7I
ひっとした
GJ

529雌豚のにおい@774人目:2011/08/13(土) 14:52:17 ID:DtdHL2Sg
んな無理してコメントせんでもw

530雌豚のにおい@774人目:2011/08/13(土) 18:19:36 ID:DtdHL2Sg
よく考えると、>>528に失礼な発言だった。申し訳ないです。

531雌豚のにおい@774人目:2011/08/15(月) 01:26:44 ID:5xhkRjI.
すっかり過疎化してる・・・・・

532ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:18:33 ID:WfeXrh5k
 おはようございます。ヤンデレの娘さんのモノです。(以前、「トリップが割れている」との指摘を受けたので、遅まきながら伸張しました。)
 今回は、新キャラメインの転外です。
 それでは、投下させていただきます。

533ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:19:10 ID:WfeXrh5k
 倫敦
 ロンドン
 LONDON
 グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国首都
 名の知れた都市にして観光地
 名探偵ホームズが活躍した舞台としても有名
 そんな場所なので、弐情寺カケルを始めとする、夜照学園高等部剣道部の一年生グループの夏休みの旅行先がロンドンとなったのは無理ならぬことだった。
 「来て良かったぜロンドン!必死こいてバイトして旅費貯めた甲斐あったよなー!」
 と、カケルの友人の1人が、名探偵の部屋(を模したもの)をパシャパシャ写真を撮りながら言った。
 「んー、そだね」
 と、興奮気味の友人に苦笑を浮かべながら、カケルは答えた。
 カケルの体つきは細く、中性的な顔立ち、温和な印象と相まって剣道部と言うと驚かれることが多い。
 それでも、服の下はそれなりに鍛えているだけのことはあるのだが。
 「なんだよカケル。お前だってガキの頃は探偵小説読んでワクワクしたクチだろ!?」
 乗り気でないカケルに、友人は言った。
 どうでも良いが、こんなところで大声を出さないで欲しいとカケルは思った。
 このホームズ博物館は名探偵ホームズの住んでいたアパートを再現しただけあり、かなり狭苦しいのだから。
 しかも、周囲には外国人―――というより日本人でない人々が過半数を占めているのだから。
 むしろ、自分達が外国人。
 こういう時に、本当に自分たちはここではよそ者なのだな、とカケルは感じずにはいられなかった。
 それはさておき、
 「子供の頃はそうだったんだけどね」
 と、カケルは友人に答えた。
 「今読み返すと、何か萎えちゃってさ、ああいうの」
 「そういうもんかね」
 不服そうな友人だが、カケルも確かに名探偵の冒険物語に心を躍らせた子供だった。
 殺人事件のスリルとサスペンス、引き付けられる難解な謎、そしてその事件を鮮やかに解決する名探偵の英雄的(ヒロイック)な活躍。
 ホームズに限らず、ポアロや明智探偵と少年探偵団、金田一、猫の方のホームズと有名どころには大体ハマった。
 しかし、ある程度歳を経てから読み返してみると萎えた―――と言うより正直、幻滅した。
 1つの事実に気づかされたからだ。
 名探偵は誰も救えない、という事実に。
 多くの場合、名探偵が対峙して退治するのは殺人事件とその犯人だ。
 つまり、前提として人が死ぬ。
 少なくとも被害者(死亡者)は1名以上出るし、最悪のケースだと被害者(犯人のターゲット)が全員殺害されてからようやく名探偵が事件を解決する、ということもある。
 『解決(そんなこと)なんかして誰が救われるのだろう?』
 というのが、改めて探偵小説を読み返したカケル少年の感想だった。
 大体にして、この種の物語の犯人は殺人に至る止むに止まれぬ理由を背負っているのがお約束だし。
 対する名探偵も、実のところ事件を解決しなければならない動機が薄いことも多い。
 依頼であったり、偶然事件に巻き込まれたり、場合によっては単なる知的好奇心に基づいていたりもする。
 犯人にしてみても、必死に努力して考えたトリックを、名探偵にそんな動機で明かされるのは屈辱以外の何物では無いだろう。
 屈辱を通り越して―――残酷な所業だ。
 『そう、名探偵(ヒーロー)は誰も救えない』
 彼らは、悪を白日の下に晒しても、決してそれを、誰かを救うことは無いのだ。
 彼らは、英雄(ヒーロー)ではあっても救い主ではない。
 それに気づかされてから、カケルは探偵小説を読むのをパッタリと止めていた。
 人を救えないヒーローである名探偵の姿なんて見たくなかった。
 いや、それ以上に、子供の頃に憧れた彼らを憎みたくは無かったからだ。

534ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:19:29 ID:WfeXrh5k
 「でもさー、先輩たちも来れば良かったのになぁ」
 そんなことを考えているうちに、友人たちの会話は他のことへ移っていたようだ。
 「お前は天野先輩目当てだろ?」
 と、友人の1人が言う。
 「一応誘ったんだよね、たしか」 
 と、これはカケル。
 「ああ。誘ったんだけど『切り裂きジャックの街ロンドンね。いーじゃねえか、一年組で楽しんでこいよ。オレは夏中ずーっと恋人とラブラブする予定が入ってるからさ』って・・・・・・」
 もう片方の友人が、沈んだ調子で言った。
 二年生の天野三九夜は、料理部と掛け持ちしているにも関わらず、夏の大会で引退した宝生院共々『剣道部のツートップ』と名高い先輩だ。
 ボーイッシュで気さくな面があるため、学年問わず慕う部員は多い。
 尤も、当の昔に彼氏持ちだが。
 「そんなことしてると、千堂先輩から睨まれそうだね」
 と、カケルは友人を茶化した。
 千堂先輩とは、その天野の幼馴染であり恋人である。
 「ああ。同じ日に天野先輩をチラチラ見てたら、その時の組みの練習で千堂先輩にスゲェボコられた」
 その時のことを思い出したのか、ガクガクと震える友人。
 「千堂先輩も、普段は天野先輩を空気みたいに扱ってるクセになぁ」
 「空気がないと生きていけないってことなんだろうね」
 そう言って、皆で笑いあう。
 と、同時にカケルは以前、天野先輩から言われた言葉を思い出していた。
 強さを追う者として、カケルが天野に投げかけた言葉の答えを。
 『強くなる方法、だァ?』
 その日、カケルの言葉に天野は怪訝そうな顔で言った。
 『そりゃ基本、練習を繰り返すだけだろ。要は慣れだ、慣れ』
 と、言ったものの、カケルの微妙に残念そうなのを見て取ったのだろう。
 『けど、負けないようにする心構えは知ってる』
 そう続けた。
 『何の為に剣を振るうか―――ソレをいつも忘れないコトだ』
 そう言って、天野は竹刀を取り出した。
 『オレはゼン――― 千堂の為に闘う。ヤツにオレが闘う姿を見て欲しいから、それに相応しい姿を見て欲しいから剣を振るうし、練習も重ねる』
 そう言って、竹刀を一振りし、天野はシニカルに笑った。
 『何の為に剣を振るうか、ソレを忘れると、負けるぜ』
 そう語る天野の姿は、どこか自嘲的だった。
 『つーっても、オレの場合ゼンの為っつーより自分の為でもあるカンジだけどなー』
 前言撤回、惚気だった。
 『ま、世の中には他人の為に剣を―――じゃなくて力を振るい、ソレを自分の力に出来るバカもいるけどな』
 そう笑う天野の姿はどこか清々しくて―――それ以上に彼女の言葉が印象に残っていた。
 『他人の為に力を振るうバカ』と言う言葉が。

535ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:21:57 ID:WfeXrh5k
 実のところ、ホームズ博物館を訪れた日の段階で彼らのイギリス旅行は終盤だった。
 明後日の朝には、飛行機に乗って帰国する予定だ。
 それについて、カケルは少し物足りなくもあったが、正直安堵もしていた。
 この遠い異国の地では、やはり自分はよそ者なのだと、ずっと感じていたからだ。
 言語のハンデだけではなく、端々の体感レベルで。
 「ここは自分の居場所ではない」と。
 とはいえ、イギリス旅行を楽しんでいたのも事実だった。
 そして、日本に帰る前に一度やってみたいことがあった。
 ロンドンの霧の中を歩くこと。
 正直、出発前は『霧の都』というイメージが強すぎて、煉瓦造りの街を霧の中で歩くのはそれはそれは幻想的なのだろうと思っていたのだが。
 実際は始終曇天と雨ではあったが、濃霧の中で歩くようなことは無かった。
 そんな訳で、名探偵ホームズの博物館を覗いた翌日、帰国の前日の早朝。
 弐情寺カケルは散歩に出た。
 早朝ならば、霧が濃いのではないか、という希望的観測だったが、正直多少当てが外れた感はあった。
 「ま、そう上手くはいかないよな」
 と、ホテルの近く、うっすらと霧がかった人のいない道でカケルは呟いた。
 そういえば、友人が「霧の都の霧ってのは、産業革命期のスモッグが大半だったってコナンの映画で言ってた」とか言っていた気もするし。
 幻想的な霧の都のイメージなんて夢物語でしか無いのだろう。
 そんなことを考えながら、煉瓦造りの橋の上に差し掛かる。
 ロンドン橋とまではいかないまでも、下の川まで結構な高さがあり、ここから落ちたら確実に死ねるな、と彼は思った。
 と、そんなことを考えていると、橋の向こうから声が聞こえた。
 「・・・・・・じす、ふぉーりんだん、ふぉーりんだん・・・・・・」
 歌声である。
 「ろーんどんぶりっじす、ふぉーりっだん、ふぉーりんだ・・・・・・」
 そのロンドン橋の有名な童謡だ。
 カケルも子供の頃に聞いたことがある。
 「・・・・・・ろーんどぶりっじす、ふぉーりんだん・・・・・・」
 目を凝らすと、1人の少女が橋の端―――石造りの欄干の上で歌い、舞っていた。
 幻想的な光景。
 一瞬、幽霊かとも思うほどに現実離れした姿だったが、少女が舞うたびに揺れるロングスカートやセミロングの髪の動きは確かに実体の重みを感じさせた。
 少女は愉快そうに、夢見心地に、童謡を繰り返し、そして舞う。
 カケルも、そちらの方に引き寄せられるように歩いていく。
 頭上を見つめる少女は、カケルの接近には気づかない。
 そうしている内に、少女とカケルは橋の真ん中まで差し掛かる。
 さて、どうしたものかとカケルが考える、その前に。
 「まい、ふぇあ・・・・・・」
 少女の歌が途切れ、終わる。
 「うぇる!」
 同時に、少女の髪がふわりと舞い、落ちる。
 否、落ちたのは少女自身。
 橋の上から人が落ちた!
 それを見た瞬間には、カケルの体は動いていた。
 少女のいた位置に走り、体を乗り出す。

536ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:22:16 ID:WfeXrh5k
 「掴まれ!」
 その答えも待たず、自由落下する少女の手を掴んでいた。
 今まで夢見心地だった少女が驚いた顔をする。
 落下の力と少女の体重に引きずられ、カケルまで落下しそうになる。
 地面から体が離れる感触。
 「・・・・・・やろぉ!」
 咄嗟に欄干に足を引っ掛け、何とか踏ん張る。
 「手、離した方が良くない?キミまで落ちるよ?」
 「離すか!」
 少女の言葉に、カケルは柄にも無く叫んでいた。
 「名探偵でなくて良い!でも、でもさぁ・・・・・・!」
 人一人の重みを、たった二本の手で支える痛み。
 けれども、それをカケルは必死にこらえる。
 こらえなければ、絶対に後悔するから。
 「目の前で人になんて死なれてたまるかぁ!」
 そうだ。
 自分は人を救える名探偵に、いや、天野先輩の言う『人の為に力を振るうバカ』になりたかった。
 だから、ここで手を離してはいけない!
 「ふぁ、い、とおおおお!」
 思い切り踏ん張り、自分の体を縮めるようにして少女の体を引き上げる。
 「いっぱああああつ!」
 グン、と思い切り力を入れ、少女を橋の上へと引き戻す。
 その勢いで、カケルは大の字になり、少女は橋の上に転がる。
 最後の最後に思わずネタが入ったのが格好悪いが、それでもどうにか少女を救い出せた。
 石畳の上に転がった少女はきょとんとした様子で体を起こす。
 「バカヤロウ!」
 少女に向かって、カケルは叫んでいた。
 「その歌は橋『が』落ちる歌だろう!?橋『から』落ちてどーするんだ!?」
 カケル自身にも訳が判らない怒声に、あるいは別のことにきょとんとした顔をする少女。
 「・・・・・・驚いたー」
 大きな目をパチパチと瞬いて、少女は言った。
 同時に、カケルは遅まきながら少女が日本語を話していたことに気が付いた。
 「助かったー、助かっちゃったー、助けられちゃったー」
 そして改めてカケルの方を見る。
 「助けられる人が、いた」
 そして、少女は笑った。
 「あっはー」
 と、とても嬉しそうに。
 キュッと目を細めて。
 「キミ、『誤って橋から落ちそうになってくれたところ』を助けてくれてありがとー」
 はしゃいだ声で、少女は言った。
 「名前を教えてくれないかなー、意味のある人」
 そう言って、少女は狐のような笑みで、カケルに問いかけた。

537ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part1/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/15(月) 09:23:25 ID:WfeXrh5k
 今回の投下は以上になります。
 ”part 1/3”とあるように、まだ、2/3、3/3もあります。
 それでは、失礼します。

538雌豚のにおい@774人目:2011/08/15(月) 09:28:05 ID:6lgo1/.Q
GJ!!

539雌豚のにおい@774人目:2011/08/15(月) 10:31:38 ID:5xhkRjI.
GJ!!久しぶりすぎる!!
スピンオフまで書いて本編の進行は大丈夫か?

540雌豚のにおい@774人目:2011/08/16(火) 00:03:12 ID:KST2LcAE
久しぶりに覗いてみたらヤンデル生活っていう作品がGJすぎる!
続きも期待してます。

541ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:07:03 ID:vAX2GWOI
 大丈夫だ、問題ない、というわけでこんにちは。
 ヤンデレの娘さんのモノです。
 昨日に引き続き、今日は本編の方を投下させていただきます。
 が、その前に軽くご忠告を。
 今回は『ヤンデレバトル回(厨二臭少々)』となっております。
 普段の雰囲気とは少々異なる恐れがありますので、その点をご了承ください。
 それでは、投下させていただきます。

542ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:07:25 ID:vAX2GWOI
 Side Aika
 荒縄で縛られた痛みが、彼女を覚醒させる。
 ここはどこ、自分は誰、いや、そっちは分かる。
 夜照学園生徒会庶務、一原愛華だ。
 しかし、自分は一体どうしたのか。
 そうだ、確か昨日1人で下校している時に、頭に衝撃が走って……。
 「ウ……ン」
 目を開き、辺りを見回す。
 品の良い調度品に囲まれた、女性の、それもかなり富裕層の女性の部屋だった。
 扉1つ分位の大きさの油絵が随分印象的だった。
 「目が覚めましたかしら、ですわ?」
 その部屋の、天蓋つきのベッドに1人の少女が座っていた。
 耳元の隠れる、ウェーブのかかった長髪。
 良く手入れされた色白の肌。
 育ちのよさそうな、優雅な物腰の美少女。
 愛華は彼女に見覚えがあった。
 確か、同じ学園で三年生の、
 「鬼児宮サナ先輩・・・・・・」
 愛華の呟きに、少女は満足そうに頷いた。
 「早速だけど妹さん。あなたには百合子先輩をおびき寄せる餌になっていただきますのですわ」
 そう言って、少女は拘束した愛華に向かってにっこりと微笑んだ。
 「まさか、拒否するなんて言いません、ですわよね?」

543ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:08:10 ID:vAX2GWOI
 Side Senri
 一原百合子、傾向と対策
 『御神ちゃん御神ちゃん、ちょっと私らを助けてちょうダイナ』
 俺達の学園の生徒会長、一原百合子がこんなことを言う時、傾向としては2つに分かれる。
 1つは、大したことではないけれど、自分達だけでは面倒くさいことを頼むとき。
 面倒では合っても当たり前に常識的に危険は無いので、俺も気軽に引き受けられる。
 もう1つは、切実に確実に助けが必要な時だ。
 笑っちゃう位に危機的な状況で、笑うしかない位に危険が満載。
 今から語るのはそんなバカ話だ。
 本来なら本伝とは言いがたい、転外(スピンオフ)にさえ相当しない物語。
 これから始まるのは、いつもの日常とはちょっとだけズレた、そんな話だ。

544ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:10:18 ID:vAX2GWOI
 夜照学園高等部三年生、鬼児宮サナ先輩にさらわれた妹の愛華さんを助ける手伝いをして欲しい。
 そんな一原先輩からの要請を受け、俺たちはその日曜日、鬼児宮邸(厳密には分家よりとかなんとかで、本家の本館は別にあるらしいが)の地下にある下水道を歩いていた。 
 「古典的っつーかなんつーか・・・・・・。こんなんでどうにかなるのかねー。お金持ちなら警備にも金かけてそうだし」
 懐中電灯片手に下水道を歩きながら、俺は相方に言った。
 「その心配はござらんよ。百合子殿の知己の『はっかー』の方に助力を得て、警備のからくりは全て機能を無効化しているでござる」
 忍者もどきな口調で明瞭に答えるのは、李忍だ。
 俺と李の、たった2人だけの道中だった。
 現在、彼女以外の生徒会メンバーは地上で鬼児宮家の警備員やらメイドさんやらと大バトルを繰り広げているところである。
 鬼児宮先輩の要求は、『妹と引き換えに、指定時間に一原百合子が自室に1人で来ること』。
 その先、鬼児宮先輩が一原先輩の身をどうするかは―――分からない。
 そこで、一原先輩たちは対策を講じた。
 まず、一原先輩本人は妹の身の安全のためにも、要求どおり1人で鬼児宮邸に向かう。
 ただし、その間件のハッカーやら、李を除く生徒会のメンバーらで鬼児宮邸のガードをかく乱。
 同時に李と俺で邸内に潜入、一原先輩が愛華さんを逃がすと同時に不意打ちを仕掛けるという作戦だ。
 「何、一原先輩ネットでも女の子たらしこんだの?」
 「いえ、その方は『むーんさん』氏と仰る、殿方であるそうでござる」
 「むーんさん、ね。『さん』も含めてハンドルネームなんだ」
 どうでもいいが、なぜかあまり和訳したくない名前だった。
 『むーん=月』と『さん=日』なんて一般名詞の部類だよね、うん。
 「しっかし、一原先輩もそうしたコネは使っても、荒事を警察に任せようとは思わないんだよね」
 順当に考えて、妹がさらわれたら警察に連絡するのが一番無難だろう。
 何せプロだし。
 「相手も一応はあの鬼児宮を名乗る者。誘拐の1つや2つ、金銭の力でもみ消せるでござろう」
 「あー」
 鬼児宮と言えば、政財界に大きな影響力を持つ一族だ。
 表だって財閥とは名乗っていないものの、一族の一人一人が経営する会社が日本経済の要となっている。
 ウチの学園だって、一応鬼児宮の血縁者が学園長をやってるし。(夜照学園に、意外と良いトコの生徒がいるのはそうした事情も関係している)
 「それに、仮に相手が鬼児宮家で無かったとしても、百合子殿は警察などには任せず、表ざたにすることなくこの件を解決しようとしたでござろう」
 「まったく、何考えてるんだか・・・・・・」
 「鬼児宮サナが警察のお縄に付けば、彼女は犯罪者の汚名を被ることになるでござろう。そうしたものは、一生付いて回るでござる」
 実感のこもった口調で、李は言った。
 確かに、身内に犯罪者が出たとなれば一族の恥だろうし、いらぬ偏見で見られることもでるだろう。
 「鬼児宮女史の目的は見えぬでござるが、荒っぽい内々の『交渉』でどうにかなるのならそれに越したことは無いのでござる」
 李の言う『交渉』は拳銃と書いてパースエイダーと読む的な意味だろうが。
 「自分の敵対する相手の為に、自分達が危険を冒すってわけね」
 「愚かだと笑うでござるか?」
 「バカだとは思う。けど笑わない」
 昔から全く変わらぬ一原先輩の姿勢に呆れを通り越して、尊敬すらしている。
 あのバカ先輩は『みんな幸せ』という綺麗ごとをいつでも何度でも実現させようとするのだ。
 肉欲の権化みたいな女子ハーレム計画も、ある意味その表れなのかもしれない。
 「あの人のやることは、中等部の頃から分かってたし」
 「羨ましいでござるな、御神氏は」
 しみじみと李は呟いた。
 「そう?」
 「うむ。拙者の存じ上げぬ時分の百合子殿を存じている故」
 「毎度毎度巻き込まれて、ウンザリするけどね」
 「と、言いつつ今回も助力してくれているでござろう?」
 「・・・それが千里くんの良いところなんですよ」
 「それほどでもないけどさ。ま、腐れ縁だし」
 「縁を大事にするのでござるな、御神氏は」
 「・・・そういう人なんですよ、千里くんは」
 「ま、大げさに言ってそんな感じかな」
 しみじみとした口調で頷いた李に、俺たちは答えた。
 俺たちは。

545ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:11:36 ID:vAX2GWOI
 はて。
 李以外の生徒会メンバーは地上でビッグバトル、あるいは監禁状態のはず。
 そしてこの下水道を行くのは李と俺だけのはずなのだが・・・・・・。
 「・・・どうしたんですか、千里くん?」
 「どーしたもこーしたもあるか!」
 きょとんとした顔の三人目、珍しく動きやすさ重視のパンツルックな緋月三日に向かって俺は怒鳴った。
 ちなみに、最近長くなり過ぎ感のある黒髪はポニテ気味にしてまとめている。
 「御神氏が声を荒げるところ、拙者初めて見たでござる」
 変なところで感心する李。
 それよりも。
 「俺、ヤバいことしに行くから着いて来るなって言わなかったか?」
 「・・・その言葉と、千里くんが他の女子と2人きりになるという危機。・・・天秤にかけさせていただければ、後は分かりますね」
 「相分かったでござる」
 三日の言葉に同調する李。
 「・・・・・・李、三日がいたの気が付かなかった?」
 「気づいていたでござるが、御神氏も分かっているものだとばかり思っていたでござる」
 「だとしたら俺は結構な鬼畜だな。放置プレイってヤツ?」
 「尤も、先の緋月嬢の言葉を聞けば、連れて行かぬ道理は無くなったでござる」
 「いや、その理屈はおかしい」
 これから、誘拐事件の解決(笑)に行こうってのに非戦闘員を連れて行くバカがいるかと。
 うん、時々おかしくなるんだよな、生徒会メンバーって。
 「・・・大丈夫ですよ、千里くん」
 「今日は、護衛がいますから・・・」
 そう言って、下水道の暗闇の中から更に現れたのは和装の女性、三日のお姉さんの緋月二日さんだった。
 いつものように静々と歩いているが、和服の裾が汚れないよう、良く見れば細心の注意を払っていた。
 その手には布袋に納められた細長いモノが握られているが、中身は真剣とかじゃないよな。
 「二日さん・・・・・・」
 「一方ならぬ事態のようなので、非常に面倒なことに、三日に護衛を頼まれました・・・」
 「あー、一応この件は他言無用でお願いしますです」
 これも、一原先輩との約束だった。
 「分かりました・・・。何にせよ枝葉末尾には興味はありません・・・」
 本当に興味なさげに、二日さんは答えた。
 「さいですか」
 「それよりも、読者に私のことが『実はコイツ弱いんじゃね?』と思われてそうなのが重要です・・・」
 「いや、そんなこと誰も思ってないと思いますけど」
 「ただでさえ、出番が少ないというのに・・・」
 「まぁ、学校とか違いますしね、俺ら」
 「学園ものの宿命ですか・・・」
 と、嘆息する二日さん。
 そんな二日さんに李が声をかけた。
 「貴殿が緋月二日女史でござるか」
 「ああ、貴女が一原さんの後輩の・・・」
 「李忍と申す。お噂はかねがね。百合子殿がお世話になりましたでござる」
 「こちらこそ、いつも妹がお世話になっています・・・」
 と、呑気に頭とか下げる李と二日さん。
 「いや、お二人さん。これでも俺ら不法潜入ミッションちゅ・・・・・・」
 俺の言葉は、鼻先を掠めた剣閃に遮られた。
 「誰だ!?」
 当然、味方からの攻撃ではない。
 今の今まで誰の気配も無かったのに!?

546ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:11:55 ID:vAX2GWOI
 「その言葉、そっくりそのまま返さざる得ないっての」
 いつの間にか下水道の暗がりに現れたのは、日本刀を片手に持った巫女服の女性だった。
 巫女服と言えば清楚なイメージがかもし出されるものだが、それを着崩し、ショートカットの髪を茶色に染めた彼女からはそうしたイメージはまったく感じられない。
 「まー、でもその内李忍ってやつのことだけは事前に聞いてるっての。大方アタシらのご主人の願いを妨害するために現れたっての」
 刀を地面にぶっ刺し、タバコに火をつけながらその女性は言った。
 「とりあえず、侵入者はこっから先には入れないっての。どーでも良いけど、この振井子振(ブライコブラ)の刀の錆びになる順番でも決めとけっての」
 彼女、振井さんは面倒くさそうに言った。
 余裕なのだろう。
 何だかんだといいながら、こちらは只の高校生。
 ふざけたナリとはいえ鬼児宮の警備(?)を勤めているらしい振井さんにとっては取るに足らない相手でしかない。
 1人を除いて。
 「順番を決める必要はありません・・・」
 ガィン、という金属同士がぶつかり合う音がその場に響く。
 いつの間にか、布袋の中から一本の日本刀を抜刀し、一瞬で間合いを詰めた二日さんの一撃を、武等井さんは辛うじて受け止めていた。
 「なぜなら、刀の錆びになるのは貴女の方なのですから・・・」
 「へぇ、言うだけのことはありそうだっての。久々に骨のある相手と・・・・・・」
 振井さんが最後まで言い終わる前に、二日さんの再度の一撃。
 今度は刀ではない。
 脚を大きく跳ね上げた前蹴り!
 「グゥ!」
 二日さんのゴツいブーツを何とか腕で受け止めた武等井さんはうめいた。
 「テ、メェ!そのナリで剣士じゃねーのかっての!?」
 「剣士でもありますよ・・・。剣以外も使いますが・・・」
 今度は左の掌打を繰り出しながら二日さんは息1つ乱さずに言った。
 「大体、ここは剣道の道場では無いでしょう・・・?スポーツでも何でもない、ルール無用の、ただの現実です・・・」
 うめく相手を見下ろし、二日さんは言った。
 「義弟くん、それに貴女方、何をしているんですか・・・?この色々舐めた女を私が折檻している間に、先に行きなさい・・・」
 「・・・は、はい」
 二日さんの言葉に頷き、先へ進もうとする三日。
 「そ、そんなことさせるかって・・・・・・」
 振井さんの言葉は、やっと振りぬかれた二日さんの刀で遮られた。
 「・・・千里くん、李さん、早く行きましょう」
 「ですが、三日嬢。姉上は・・・・・・」
 「・・・大丈夫です。・・・お姉様はお兄ちゃん以外に喧嘩で負けたことが無いんです」
 李と俺は一瞬迷ったが、先を急ぐことにした。
 あまり時間があるわけでもない。
 愛華さんを助けるためにも、迷っている暇は無い。
 「二日女史、ご武運を!」
 「死なないで下さいよ。あと、相手の人も殺さないで下さいね!」
 そう言って俺達は先を急ぐ。
 「まったく、注文の多い・・・」
 最後に、二日さんの不敵な軽口を俺達は背に聞いた。

547ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:12:22 ID:vAX2GWOI
 Side Nika
 「テ……メ!?」
 緋月二日の蹴りを受け、体勢を立て直そうとする振井だが、二日は体勢どころか台詞1つ吐き出すことすら許さない。
 「!…」
 「アバ!?」
 振井がまともに動くよりも先に、速く、鋭いアッパーが二日によって叩きこまれる!
 思わず悲鳴が振井の口を突いて出るが、対する二日はささやかな呼気を発するのみ。
 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!…」
 「アババババババババババババババババババババババババババババババババババ!?」
 殴る、蹴る、掌打、膝蹴り、回し蹴り、足刀、手刀・・・・・・
 考えうる限りあらゆる打撃が振井小振に叩き込まれる。
 振井の実力は、決して低くは無い。
 最初の、完全に気配を消しての不意打ちは二日でさえも気づけなかった。
 だからこそ、二日のとる戦法はたった1つ。
 相手が実力を発揮する間もなく圧倒(ボコボコに)する!
 「セイ・・・ヤ!」
 乱打の留めに、二日は刀の柄頭を振井の鳩尾に叩き込む。
 「アバビャ!?」
 その瞬間にスイッチを入れ、スタンガンのような電撃をも振井に浴びせる。
 足元の汚水にも漏電するが、帯電性のブーツを履いた二日には何の問題も無い。
 技が炸裂する瞬間に、相手に電撃を浴びせるのがこの刀『輝炸月(キサラギ)』に仕込まれた仕掛けだった。
 それを仕込んだ弊害として、日本刀と呼ぶにはいささか重く、切れ味も今1つなのが欠点だったが。
 それでも二日がこの『輝炸月』を使っているのは、亡くなった祖父が製作したからに他ならない。
 使えるのか使えないのかが分からない代物を作るのが祖父の趣味だった。
 『まぁ、相手の記憶を刈る『無月(ムツキ)』とかよりはマシですしね・・・』
 と、倒れ伏す振井を見下ろしながら、二日は思った。
 「さぁ、そろそろ三・・・義弟たちを追いかけますか・・・」
 と、その場を歩き出しながら呟く二日さん。
 「待て、っての・・・・・・」
 その足を、搾り出すような声が止める。
 「貴女、まだ動けたんですか・・・?」
 ゆっくりと起き上がる振井に、二日は油断無く構えを取って言った。
 「ハハ・・・・・・正直かーなーりキツいっての。けど、ご主人のためにこのまま侵入者を通すわけにはいかないっての!」
 自らを鼓舞するような叫びと共に、振井小振は刀を構える。
 「貴女、どうしてそこまでするんです・・・?」
 「ハッ!アンタにゃ分からねぇっての。剣しか取り得のねーアタシを取り立ててくれたご主人が大好きなアタシの気持ち。この報われない気持ちがさ!」
 地を蹴り、一瞬で間合いを詰める振井。
 「!…」
 「バハァ!」
 二日と振井。
 2人の剣撃が交錯する!
 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 雷電が暗い下水道を照らし、振井の叫びが響く。
 「ガハ・・・・・・」
 膝を突き、振井は声を漏らす。
 「すまねぇ、ご主人」
 そう言って、今度こそ振井は倒れた。
 「謝る必要はありませんよ・・・」
 と、二日は言った。
 恐らくは振井には聞こえていないであろうことは、分かっていたが。
 「貴女は任務を立派に務めたのですから・・・」
 肩口から血を流しながら、二日は肩膝を着く。
 こんなことを言ってしまうなんて、こんなところで傷を受けてしまうなんて、我ながら甘い、と二日は思う。
 報われぬ想い、というものにはどうにも弱いのだ。
 自分の境遇が、思わず重なり。
 「ふぅ・・・」
 思考を打ち切ってから、ゆっくりと和服の袖を切り、それを傷口に巻き付けて止血する。
 傷を負いながらなので、さすがにスムーズにはいかない。
 「流石に、これ以上の戦闘は難しいですね・・・。まぁ、元々私がどうしても体を張らなくてはならない問題と言うわけでもありませんし・・・」
 と二日は呟き、その場に倒れた。

548ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:12:43 ID:vAX2GWOI
 Side Aika
 モニターの向こうで、屈強な男達が軒並み倒されていく。
 銃さえ持つ彼ら(銃刀法を知らないのだろうか)を相手取っているのは愛華の幼馴染にして生徒会副会長氷室雨氷を先頭とする生徒会メンバー。
 「まったく、どういうお育ちをしたら、あんな冗談のような強度を持った女子高生共と教師が生まれるのかしら、ですわ?」
 モニターを見ながら、少女が嘆息した。
 「鬼児宮先輩も大概にしてジョーダンみたいだけどね!私を餌にしてお姉をおびき寄せようなんてさ!」
 ケラケラと笑いながら、愛華は言った。
 「余裕、ですのね」
 「ま、ねー」
 正直、戦闘行為で生徒会メンバーが負ける気などしない。
 生徒会メンバーがどれ程厄介なのかは、百合子を巡って彼女らと合争った愛華自身が良く知っている。
 程なくして、突破してきた彼女らに自分は助け出されるだろう。
 「でもさ、何でお姉なワケ?お姉は鬼児宮先輩よりはビンボーだよ?」
 「この国では、『鬼児宮』の苗字を持つ者以上に富める者はいない、ですわ」
 絶大な自信を持って少女は言った。
 愛華の知る限り、鬼児宮家は日本経済ではかなりの大企業の主だが。
 それでも、少女が言うほど絶大では無いはずだ。
 自由競争の原理やら何やらはそこまで破綻していないはず。
 「この世の表も裏も牛耳りきっているのが鬼児宮家なのですわ。もっとも、そんな世の中のことも知らずに育った庶民には想像も及ばぬことでしょうが、ですわ」
 そんな内容を、むしろ憂鬱そうに少女は言った。
 「それ故、幼少の頃より鬼児宮の人間はこの世の悪意の全てを見て育つのですわ」
 ドス黒い何かが、少女の瞳に宿る。
 「だから、サナにとって一原百合子の存在はことさらに目立ったのですわ」
 「なんでー?」
 「誰にでも好かれ、何物にも縛られず、何者の障害も跳ね返す強さを持っていたからですわ」
 文脈的に不自然なほどベタ褒めだった。
 「あー、分かる分かる」
 「そうでしょう、ですわ。だから、サナの心に1つの願望が芽生えたのですわ」
 と、そこで言葉を切り、少女は続けた。
 「その自由な心の翅をむしりとり、一所に閉じ込めたい、と」
 それは、暗い願望の告白だった。
 「へぇん」
 おぞましささえ感じる告白に、愛華はあくまで軽く答える。
 「あなたにも分かるでしょう?一原百合子を愛するというのなら」
 「あっはー、確かにお姉を独占したいとか、そういう衝動にかられることはあっちゃうよねー。でもさー」
 からから笑いながら、愛華は続ける。
 「お姉はね、ただ自由なんだよね。本気で愛する癖して、本気で1人の女に縛られない。移り気なんかじゃなくね。とにかくフリーな心の持ち主なんだよ」
 「だから、誰もがそれに惹かれる、と?」
 「そういうこと。だから、さ」
 笑みを消して、愛華は続ける。
 「止めてよね、私の大好きな、自由なお姉を縛り付けようなんてさ」
 口調は穏やかだが、これ以上無い殺気を伴った言葉を、愛華は相手にぶつけた。
 「若い、というか青いですわね」
 その殺気を軽く受け流すように、少女は嘆息した。
 「自分の想いが、願望が貫けるものだと思っている。貫けぬにしても道理を持って阻まれると信じている。この世の不条理など見たことも無いというわけですわね」
 「何、ソレ?『フジョーリ』っておいしいの?無理を通して、そういうのを蹴っ飛ばすのが私達・・・・・・」
 「見せて差し上げますわ。この世の不条理というものを」
 愛華の言葉をみなまで言わせず、少女は朗々と語る。
 そう言いながら少女が示すモニターの先には、立ち回りを繰り広げる生徒会メンバーに向かって、一台の車両が接近する様が写っていた。
 モスグリーンの車体。
 無骨なフォルム。
 それに、大きな砲塔。
 それの示すモノは、
 「・・・・・・戦車?」
 鬼児宮の大邸宅にはどうにもそぐわないソレを見た愛華は、呆然として言った。

549ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:13:27 ID:vAX2GWOI
 Side Uhyou
 鬼児宮邸正門前の庭
 「あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
 生徒会会計の霧崎涼子が、武装した警備員や執事、メイドらを老若男女容赦なく殴り倒す笑い声が、校庭の2、3個は入りそうなほど広い庭に響く。
 雨氷の認識する限りでは、涼子は性同一性障害に近い性質の持ち主だ。
 自身を男性として認識しながら、一方で同性愛者である百合子を愛している。
 性別に関するアイデンティティの置き所が非常に曖昧なのだ。
 だからこそ、男だろうが女だろうが男女差別無く暴力を振るえる。
 その性質は時として恐ろしいが、こうした時には頼もしいと雨氷は思う。
 「Let's rock and roll!」
 少し視線をずらせば、銃撃を舞うように避け、相手に華麗な蹴りを叩きこむ生徒会顧問教師のエリスの姿が見える。
 エリスにせよ涼子にせよ、彼女ら程の達人になれば、銃など少々リーチと威力の高い拳打のようなものだ。
 むしろ、直線的な分攻撃が予測しやすい、と以前エリスが講釈を垂れていたのを雨氷は思いだした。
 いくらなんでも、そこまで怪物的な強さは身につけたい気はしない。
 と、雨氷は銃を向けてきた執事の腹にナイフの峰を叩き込みながら思った。
 ここまで書くとまるで生徒会メンバーが暴虐の限りを尽くしているように見えるが、手を出してきたのはあくまで相手だ。
 そもそも、「鬼児宮サナに会わせろ」と言ったら向こうから雨氷達を襲ってきたのだ。
 素直に会わせてくれるとは最初から思っていなかったが。
 「Well,ウヒョウ。あまり長い長持ちはしないデスよ?適当なトコロで逃げるべきデス」
 10人ほど一度に文字通り一蹴してから、エリスは雨氷に近づき、そう耳打ちしてきた。
 言われなくても分かっている。
 雨氷達の目的はあくまでも警備のかく乱。
 一介の高校生である彼女達が相手取って敵う連中とは思えないし、万一敵ってしまった方が後が面倒だ。
 自分達を社会的抹殺することは、一応は鬼児宮家であるサナには容易なのだから。
 「ええ、分かっています先生。ですが、百合子が来るまで後少しだけ粘ってください。後で面倒にならない程度に」
 「Okay.デスガ、目的が分からないのがヤッカイですね。何故サナはアイカをキッドナップしたのか」
 近づく武装したメイドたちに回し蹴りを食らわせながらエリスは言った。
 「そうですね。ですが、鬼児宮にとって人一人の人生をどうにかするのは児戯のようなものですから」
 エリスの言葉に答える雨氷の脳裏に、かつて刃を交えた鬼児宮の名を持つ女性とその不愉快な恋人の姿が思い浮かんだ。
 確か、鬼児宮本家の人間だった例の女性にとって、サナは従姉妹にあたるはずだった。
 「2人とも、あんまり悠長なこと言ってる暇は無いみたいだよ」
 シニカルな笑みを浮かべ、涼子が言った。
 「見て、アレ」
 涼子が指差す先には、大砲をのせた車両があった。
 豪邸の庭にはとても不釣り合いな無骨なソレは、
 「A tank?」
 「ええ。戦車、ですね」
 一瞬、呆然としそうになりながら、エリスと雨氷は言った。
 「厳密にはちがうっぽいけどね。この馬鹿デカイお庭に収まる位のサイズだし」
 「厳密性を求めている場合ではないでしょう」
 涼子に雨氷がツッコミを入れている間にも、その小型戦車は砲塔を動かした。
 ばごん、と言う耳が割れんばかりの轟音と共に何かが飛び出し、どーん、という音と共に鬼児宮邸の一角を消し炭にする。
 「作戦変更です。逃げましょう」
 「だね」
 「Let's run away」
 3人は揃って回れ右をして、鬼児宮邸の門に向かって走り出した。
 「逃がすか!」
 「待て!」
 当然のように、警備員達が追いかけてくるが、そんなものよりも小型戦車の方が恐ろしい。
 「待てと言われて待つヤツはいないでしょ!」
 「その通りデス!」
 「私達を全力で見逃がしなさい!」
 と、3人は警備員達に、というより小型戦車に言った。
 とにかく走る、走る、走る。
 死ぬことが恐ろしいから、ではない。
 自分の命を守る、それが百合子と雨氷達の約束だったからだ。
 だから、3人は逃げ出した。
 どれ程の屈辱を感じたとしても。
 ただ、愛の為に。

550ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:14:04 ID:vAX2GWOI
 Side Aika
 「薄情者ー!」
 警備員達を翻弄しながら、小型戦車から逃げ去る3人を見て、愛華は叫んだ。
 勿論、モニター越しだからそんな叫びが届くはずも無いのだが。
 「お分かりいただけましたですわ。これが理不尽な力の前に敗北する者の姿なのですわ」
 メイドに用意させた紅茶を飲みながら、少女は言った。
 口元に笑みを浮かべて。
 「楽しそうだね、先輩」
 「ウフフフ・・・・・・・。ええ、本当に愉快ですわ。理不尽な力で敗かして虐げ蹂躙して絶望させるのは、本当に愉快」
 フフ、と笑みを濃くしながら、少女は言う。
 「ウフ、ウフフフフ・・・・・・、アハハハハハハ!ざまぁ見やがれですわ!暢気に軽薄に覚悟も無く楯突くからこう言うことになるのですわ!!弱い奴は弱い奴らしく地に這い蹲っていれば良いのですわ!」
 美しい面立ちを醜く歪め、少女は笑う。
 「見事なまでに悪役の台詞だね。ううん、いじめられっ子の台詞、かな?」
 「・・・・・・なんですって?」
 一見希望が絶たれたかのような状況でも、軽い口調を崩さぬ愛華を、少女は睨み付けた。
 「知ってる、先輩?いじめられっ子がいじめっ子に転進したパターンで結構多いのが、自分のいじめられた苦しみを他人にも味合わさせたいってのなんだって。ま、八つ当たりだね」
 「それが、何の関係があるって言うんですの?」
 鬼のような形相の少女に動じることなく、愛華は笑う。
 「だって今の先輩、そのパターンにそっくりなんだもん」
 そう答えた愛華の襟首を、少女は憤怒の形相で掴んだ。
 「生意気言ってんじゃ無いわよ。アンタの存在には人質以上の価値なんて無いのよ?」
 視線だけで愛華を殺さんばかりの勢いの少女だったが、そう言った所で急に愛華を放り出し、耳元に手を当てた。
 ウェーブのかかった長髪に隠れた耳元に。
 何事か呟いているようにも見えたが、愛華には聞こえない。
 それから、改めて少女は愛華に向き直った。
 「失礼いたしましたのですわ」
 憤怒の形相を無理やり笑顔に戻して少女は言った。
 そして、放り出した勢いで倒れた、愛華を縛り上げた椅子を立たせて、その身なりを整える。
 「貴女はお客人。一原百合子を手に入れるまでは。それまでにしっかりと歓待してさしあげなければいけませんでしたわね、ええ、ええ」
 急激な態度の変化に、さしもの愛華も戦慄した。

551ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:14:44 ID:vAX2GWOI
 Side Senri
 二日さんの尊い犠牲(死んでない)のお陰で振井さんの関門を抜けた俺たちは、下水道を上り、通風孔を通って何とか鬼児宮邸内に侵入を果たした。
 「全メイド、執事の行動パターンは調べ上げているでござる。彼らは、どんな自体でも寸分の狂いも無く行動するそうでござるから、そのパターンの隙を突いて移動するでござる」
 懐から潜入ルート等が書かれたメモを取り出し、李が言った。
 「・・・ですが李さん、鬼児宮先輩のご家族は?・・・もしかしたら急に帰ってくることもあるかも・・・・・・」
 「鬼児宮サナはこの屋敷で1人暮らしでござる。幼少の見切りより」
 三日の疑問に、李は間髪いれずに答えた。
 「・・・」
 「1人暮らしって・・・・・・」
 クラス1つ分の人数が暮らしてもまだ余裕がありそうな豪邸で1人暮らしとは。
 他に住み込みの執事やメイドがいるのかもしれないが、随分剛毅な1人暮らしもあったものだ。
 だからと言って、それが恵まれているとは限らないが。
 幼い頃から、執事やメイドがいても、親がいないのなら。
 親の愛情が、無いのなら。
 「驚いている暇は無いでござるよ、お二方。いざ参るでござる」
 そう言って先を促す李だったが。
 「参らせる訳にはいかねぇんだよな、これが」
 という声に遮られる。
 「お前は、空蝉!?」
 李の声に答えるように、1人の青年が現れる。
 黒い道着に、顔を隠す頭巾、長身痩躯だが鍛錬を感じさせる体つきの持ち主だった。
 「知っているのか、雷電!?」
 「うむ、聞いたことがある。……って誰が雷電でござるか!」
 俺のボケにツッコミを入れながら、李は答えた。
 「この男は空蝉。拙者と同門の中国忍者でござる」
 「・・・ちゅーごくにんじゃ」
 ひどい言霊が聞こえた気がした。
 宇宙忍者とかゲルマン忍者とかの方がまだマシなんじゃなかろうか。
 「オイオイ、忍。中国四千年の歴史を誇る『九毒拳』の訳語にソレは無いんじゃねーの?」
 空蝉と呼ばれた青年はそう言って大げさに肩をすくめた。
 『九毒拳』というのが中国忍者とやらの正式名称らしい。
 「それに忍、お前は九毒拳の裏切り者で、俺の幼馴染兼元許婚だろ?ソコを忘れちゃいけねーよなぁ」
 ビシ、と李を指差し、空蝉さんは言った。
 「・・・許婚」
 「それは九毒拳の長が勝手に決めたこと。それに、裏切りではなく足を洗ったと言うべきでござろう。諜報、暗殺、そうした汚れ仕事から」
 苦々しげに李は吐き捨てた。
 なるほど、九毒拳とはスパイ行為の為の武術らしい。
 中国忍者という訳語はこれ以上なく的を射ていたようだ。
 それっぽい設定が付くともっともらしく聞こえるから困る。
 「御神氏、緋月女史、先に行くでござる」
 そんなことを考えていると、屋敷の進行ルートを書かれたメモを無理やり握らされ、李から意外なことを言われた。
 「え、でも・・・・・・」
 彼女を見捨てろ、と言うのだろうか。
 「ここから先は中国忍者同士の戦。嫌な言い方でござるが、お二方はむしろ足手まといになってしまうのでござる」
 確かに、三日の身体能力は普通の女の子以下だし、俺のほうも李ほど武芸に長けているわけではない。
 ここは中国忍者のやり方を知っているらしい李に任せるのが適任かもしれない。
 二日さんの時といい、あまり他人に丸投げするのは気が進まないが。
 「ヤバくなったら逃げなよ、李」
 「承知」
 李が頷くのを確認し、俺は「わきゃっ!?」と言う三日を抱えて走り出す。
 「逃がすかYO!?」
 俺に飛び掛ろうとする空蝉さんは、李の投げた手裏剣に動きを止められる。
 「今の内に早く!」
 「ありがとう!」
 李を置き去りにすることへの迷いを振り切るように、俺は走った。

552ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:16:27 ID:vAX2GWOI
 Side Li
 中国忍者―――九毒拳は本来、諜報や暗殺に特化した武術である。
 他者の隙を見抜き、瞬時に射抜く。
 己を殺し、一撃をもって他人を殺す。
 先手必勝にして一撃必殺の武術。
 故に、
 「中国忍法、転!来!旋風刃!!」
 「あくぃたー!?」
 たった一撃の、しかし渾身の技をもって、李忍は空蝉を叩きのめした。
 しかし・・・・・・
 「まだ、終わりとは思えぬでござるな」
 構えを解くことなく、李は呟いた。
 「その「通り「だぜ「忍」
 その瞬間、どこからともなく十数人の人影が李の周囲に現れた。
 そのどれもが空蝉と同じ背格好と肌の色。
 「これは!?」
 驚く李に、空蝉たちは笑う。
 「どうだ「驚いたか「忍。「日本流「に言えば「分身の術「ってとこ「ろだ」
 それぞれの空蝉がそれぞれの言葉を引き継いで話す、異様な光景。
 「そんな漫画のようなこと、本当に出来るはずが無いのでござる。大方、似たような背格好の者を集めてお主の猿真似をさせた忍軍でござろう!」
 「ああ「コイツらは「俺の雇い主が集めた「俺と良く「似た背格好の「犯罪者だかなんだかだ」
 と、空蝉たちは自慢げに続ける。
 ここまでは、李の予想通りだった。
 「その「心を「拷問と「薬で「壊し「俺そっくりに「整形し、「俺そっくりに「振舞うように「教育した「ってわけさ」
 「何!?」
 なんでもないことのように発せられた空蝉の非道な言葉に驚愕する李。
 「オイオイ「薬と「拷問「なんざ九毒拳じゃ「当たり前だろ?「ま、「この人数は「さすが金持ちって「ところだけどな」
 そう言って笑う空蝉に、不快感を隠さない李。
 「だから拙者は中国忍者を抜けたのでござるよ・・・・・・!」
 「キレイごとだなぁ「忍。「そんなことで「本物の「俺を「見破れる「か「な!?」
 空蝉の長台詞が終わる前には李はまっすぐに走り、忍軍の1人を殴り倒していた!
 「な、何故、どうして!?」
 「本物が分かったか、でござるか?」
 容赦なく次の一撃を加えながら、李は言った。
 「抜けたとはいえ、お主とは何年も共に稽古したのでござる。細かな癖、挙動、全て嫌になるほど知っているのでござるよ」
 「だから、コイツらは俺そっくりに!?」
 「それでも他人。細かな動きに違いが出るのでござる。薬や拷問で人の心を折ることは出来ても、その存在を完全に粉砕することはできぬ!」
 渾身の一撃を叩き込み、李が叫ぶ。
 「さす、がだな、忍・・・・・・」
 倒れこみながら、本物の空蝉は言った。
 「だが、俺を倒しても第二、第三の俺が、お前を・・・・・・・」
 「!?」
 その言葉が終わる前に、周囲の偽空蝉たちが一斉に李に向かって群がった。
 『本物が倒れたときは、倒した相手を襲え』
 事前に仕込まれたその指令を忠実に全うするために。

553ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:16:46 ID:vAX2GWOI
 Side Senri
 「・・・どうしたんですか、千里くん?」
 と、俺に抱えられた三日が言った。
 李の遺したメモ(だから死んでない)を頼りにルートを進み、鬼児宮サナ先輩の部屋のすぐ真上まで来た。
 たった2人となってからも、なるべくサクサク、如才なくこうしてリアルメ○ルギアソリッドを進めていたつもりだったが、三日には分かってしまうものらしかった。
 「・・・少し、迷っているように見えますよ、千里くん」
 「まぁ、ね」
 そう、俺は迷っている。
 二日さんに任せ、李に任せ、鬼児宮先輩の部屋への奇襲と言う最終最後の逆転の役回りは俺たちに、俺に任された。
 任されて、しまった。
 「俺なんかで、良いのかなって思って」
 本来、俺はこの事件の部外者だ。
 二日さんのように実力を誇示するつもりも無ければ、李のように一原先輩の為なら何でも出来るような覚悟も無く、愛華さんと特別親しくしてもらっていたわけではない。
 ただ、一原先輩に助力を頼まれただけの人間だ。
 やる気はあるが、それは生徒会メンバーには程遠いだろう。(一原先輩への愛のためなら命を捨てる人たちだ)
 知的好奇心とやらで動く推理小説の名探偵よりも、問題解決のための目的意識が低いと言って良い。
 この場にいることが必然ではなく、自然でも無い。
 不必然にして不自然。
 そんな人間が、最後の逆転の役回りに就いて良いのか、俺が相応しいのか、それが、ほんの少しだけ、迷う。
 「・・・そうじゃないって思うなら、やめれば良いと思います」
 と、三日は言った。
 止めてしまえ、放り出してしまえ、と。
 「・・・李さんのメモを使って、ここまで来ることが出来たのですから、今から帰ることも出来るでしょう」
 三日の言うことはもっともだった。
 「けど・・・・・・」
 未成年のやったこととはいえ、これは誘拐事件。
 それをそのままにして良いのだろうか。
 いや、それは一般論だ。
 人として守るべき社会常識、モラルであっても、それは俺個人の意見では無い。
 俺個人の気持ちが入っていない。
 「…つまらないことで、千里くんがやりたくも無いことで、千里くんが傷つくなんて、それこそ非道なことです。…私もそんな姿、見たく、ありません」
 顔を伏せて、三日は言った。
 「まぁ、言いたいことは分かるけどさ」
 俺は返した。
 けど、って何だ、と自分で思わずにはいられなかった。
 「・・・それでも、私は、千里くんの判断を支持します」
 と、三日は言った。
 「・・・それがどのようなものであったとしても、それは千里くん自身が考え、決めたものなのですから。・・・それは、何であれ誇るべきものです」
 三日の言葉に、俺は一瞬だけ、迷い、考え、決断した。

554ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:17:12 ID:vAX2GWOI
 Side Yuriko
 「さー、サナさん。約束どおり1人で来たわよ」
 どや、と鬼児宮サナの私室の扉を開け、一原百合子は堂々と言った。
 「お姉!」
 椅子に縛られた愛華が呼びかける。
 「怖かったわね、愛華(あっ)ちゃん。あとでおねーちゃんが慰めてあ・げ・る。と、言うわけで鬼児宮さん、あっちゃんを離して私らを帰しなさい!」
 どどーん、という効果音が欲しくなる(by百合子)ほど大げさに百合子は言った。
 「そうはいかないのですわ」
 余裕の表情で、鬼児宮と呼ばれた少女は応じた。
 「なんでよ。警備はもうしっちゃかめっちゃかで、アナタもう打つ手無しっしょ?さすがに、私を案内する係がいなかったのは驚いたけど」
 「だとしても、貴女1人ではどうしようも無いのですわ。だって・・・・・・」
 何でもないことのように少女は続ける。
 「一原愛華には遠隔操作の爆弾が仕掛けられているからですわ」
 そう言って、愛華の縛られた椅子の後ろを見せる少女。
 縄の間には、確かに火薬の仕込まれた無骨な装置があった。
 「んな!?」
 「その上、サナの持つスイッチでオンオフ自在なのですわ」
 「なな!?」
 「部屋全体には大した被害は及びませんが、まぁ、一原愛華1人とその周りを吹き飛ばすくらいは出来るのですわ」
 「くぅ、なんてベタな!」
 「つっこむところがソコですの?」
 百合子のリアクションに心底呆れたような顔をする少女。
 「それはともかく、一原百合子。妹を殺されたくなければ誓うのですわ。跪いて足を舐めて。『一原百合子は鬼児宮サナに心身共に絶対隷従します』と
 そう言って、少女はサディスティックに笑った。
 「そしたら、私はどうなるのかしら?」
 「永遠にこの部屋の住人になるのですわ。勿論、ボイスレコーダで言質は取らせて頂きますわ」
 「どーせ、この部屋の様子はチキンと記録されてるんでしょ?」
 わざと『きちんと」ではなくチキンと言った。
 あまり上手くない百合子だった。
 「勿論ですわ」
 そう言って、少女は足を組みなおす。
 「さぁ、誓いなさい。鬼児宮サナに屈服すると」
 「お姉、こんな奴の言う事聞いちゃ駄目!!」
 歪んだ笑みを浮かべる少女と、切迫した声を上げる愛華。
 しかし、百合子は大胆不敵な笑みを浮かべる。
 「ねぇサナさん、私は1人で来た、とは言ったけど、味方がいない、と言った覚えは無いわよ?」
 「生徒会のお歴々のことですわね」
 ハッ、と百合子の言葉を鼻で笑う。
 「今頃は我が手駒の前に倒れているころですわ」
 「どうかしらね?」
 「それはどう言う・・・・・・」
 その回答は、轟音によってなされた。
 部屋の窓が割れ、ロープを使って1人の少年が部屋の中に侵入する。
 「何者!?」
 その叫びに対し、少年―――御神千里は不敵に答える。
 「ただの、ヘルプですよ」

555ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:18:16 ID:vAX2GWOI
 Side Senri
 「よっと!」
 急な襲撃に驚愕する少女(恐らく、あれが鬼児宮サナ先輩だろう。事前に写真で見た)に向かって、部屋に侵入した俺は飛び掛る。
 「ただのヘルプですって!?おふざけを!!」
 「ふざけちゃいませんよ」
 俺から半ば転がるように距離を取った少女に、俺はいつも通りの笑みで応じる。
 「貴方、生徒会の人間ではありませんね。それがなぜここに?利害?報酬?青臭い正義感?それとも一原百合子の押しの強さに負けて?」
 「どれでもありません、よ!」
 そう少女に返しながら、俺は距離を詰める。
 「腐れ縁で、昔から何かと世話になった先輩に頼まれた、頼りにされた。その期待に応えたいとか思っちゃったり。理由はそれだけです!」
 その言葉と共に、足払いをかける。
 それだけ、であっても俺の行動にはもう迷いは無い。
 例えそれ以上の目的が無いとしても、例え部外者だとしても!
 一原先輩が俺のことを知らなければ、あるいは俺のことを頼りにならないどうでも良い奴だと思っていたら、俺はそもそもこの場には呼ばれていない。
 そうではないことを、俺はこれ以上無く嬉しく、誇りに思っていることに遅まきながら気が付いたんだ!
 「せいや!」
 転ばせることはかなわなかったが、俺は少女のバランスを崩すことはできたようだった。
 俺は背中から彼女を取り押さえ、首に腕を回す。
 「さーて、鬼児宮サナ先輩。これ以上痛い目みたくなければ、降伏してください」
 「あら、か弱い女性に手を上げるおつもりですの?」
 首を絞められながらも、少女は気丈に軽口で返した。
 「確かにこう言うのは趣味じゃないけど、男女差別はもっと趣味じゃないんですよね」
 「あら、そうですの」
 「それに、俺の行動を後押ししてくれた奴もいますし」
 俺のその言葉に、「・・・女子に暴力を振るって下さい、という意味でもなかったような」という声と共に三日が降りてきたような気がしたがスルーした。
 「…でも、絆を大事にする千里くんらしいです」
 と、後ろで笑ってくれたのは嬉しかったが。
 「いずれにせよ、私を押さえてもあまり意味はありませんわ」
 「はい?」
 なぜか余裕のその言葉に、俺は怪訝な声を出す。
 「だって『私』、左菜(サナ)では無いのですから」
 その言葉に、一瞬虚を突かれた。
 「ガッ!?」
 少女が袖口から取り出したスタンガンの一撃を、俺は腹部にモロに受ける。
 「改めまして、はじめまして、ですわ」
 俺から距離をとり、その少女は、ウェーブのかかった長髪の向こうに小型の通信機を付けた少女は、スカートの端を持って優雅に一礼する。
 「私は左菜の妹、鬼児宮右菜(オニゴミヤ・ウナ)と申しますわ」
 その少女、右菜さんを見ながら、俺は何とか立ち上がった。
 「アンタが最終関門ってワケですか」
 『その通りですわ』
 そう答えたのは、部屋のどこかに仕掛けられたスピーカーからの音声。
 目の前の右菜さんに良く似た声音だった。
 「アンタが鬼児宮左菜さん?」
 俺は、スピーカーからの声の主に向かって聞いた。
 『ええ、私の方が鬼児宮左菜(オニゴミヤ・サナ)。以後お見知りおきを願いますわ。尤も、あまり長い付き合いにはならないでしょうけれど、ですわ』
 笑みさえ感じさせる声で、左菜さんは言った。
 「双子の入れ替わりトリック・・・・・・」
 さしもの一原先輩も驚愕していた。
 「ひどいじゃない!そんな使い古されたトリック!しかも伏線がどこにも無いし!」
 「申し訳ございませんが私達、フェアと伏線が保証された本格ミステリをするつもりは無いのですわ」
 妙なところに怒り出す一原先輩に、右菜さんが冷たく言い放った。
 『それに、右菜の存在は世間にもひた隠しにされていたのですわ。せいぜい、私の名前に『左』の文字が入っていたことがその暗示』
 「ンな右京さんと左京さんじゃないんだから・・・・・・」
 「それに、警備担当の九毒拳士に似たようなトリックを使わせていたのですけれど、貴方方はご存じなかったようですわね」
 嘲笑するような声音の右菜さん。
 どうやら、空蝉さんにも替え玉がいたらしい。
 もし彼に全員で対決していればこの展開を予想できたかもしれない。
 「後悔してる暇は無いわよ、御神ちゃん」
 「ええ、分かってますよ」
 再度右菜さんを警戒しながら、俺は言った。

556ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:19:16 ID:vAX2GWOI
 「どうするつもりですの?」
 『ええ、一原愛華に仕掛けた爆弾のスイッチは、隠し部屋にいる私が持っているというのに』
 双子からの余裕の声。
 しかし、日本語は正確に使って欲しい。
 愛華さんに仕掛けた爆弾では無く、正確には愛華さんの『椅子に』仕掛けられた爆弾だ。
 だから、
 「こうするつもりですよ!」
 俺は再度、右菜さんに飛び掛る。
 「この!!」
 スタンガンを振り回す右菜さんだったが、種が割れている以上避けるのは難しくない。
 思ったとおり、右菜さんの身体能力は普通の女子高生以上の物ではない。
 恐らくは、あくまで右菜さんは左菜さんのボディガードではなく替え玉であり、戦う為の訓練は受けて無いのだろう。
 だから、一般的な高校生でしかない俺でも十分に対抗できる。
 「すいま、せん!」
 俺は右菜さんのわき腹に軽く蹴りを入れ、愛華さんの椅子の方に飛ばす。
 「三日、ロープを!」
 「・・・はい!」
 俺の言葉に、三日は俺たちがこの部屋に侵入するのに使ったロープを投げ渡す。
 「何を・・・・・・!?」
 「はい、ぐーるぐる」
 縛られた愛華さんにその隣の右菜さん。
 その更に上から、俺はロープを巻きつける。
 「ど、う、だ!」
 もがく右菜さんをしっかりと縛り上げ、俺は言った。
 『何のつもりですの?』
 「人質」
 左菜さんの言葉に俺は即答した。
 愛華さんに仕掛けられた爆弾が実際どれほどの威力かは知らないが、今の状態で起爆したが最後、右菜さんも道連れになる。
 爆弾を使って左菜さんは愛華さんを人質に捕ったが、同じ方法で俺は右菜さんを人質に取られせてもらった。
 「貴方、見た目の割に性格悪いですわね」
 「そりゃどうも」
 憎憎しげに見つめる右菜さんの言葉に、俺はサラリと返した。
 ともあれ、これで状況はイーブンになった。
 一原先輩の言うことを聞かせるために爆弾を仕掛けた左菜さんだけど、その手はもう使えないだろう。
 ここから文字どおりの意味での先は話し合い―――
 『お得意になっているところ申し訳ありませんが、私に右菜は人質になりませんわ』
 「・・・・・・はい?」
 まるで当たり前のように言われた言葉に、俺は声を出すのがやっとだった。
 『私の目的は、あくまで一原百合子を手に入れること。それ以外の為の手段も、犠牲も問いませんわ』
 「左菜!?」
 そう叫んだのはほかならぬ右菜さんだった。
 「それハッタリよね!?ブラフよね!?左菜が私を、たった1人の姉妹を犠牲にするはず無いわよね!?」
 今までに無く余裕をなくした形相で、右菜さんは訴えた。
 言葉遣いも乱れ、目元に涙すら浮かべていた。
 『右菜、あなたの存在は私の替え玉、身代わり、それ以上の価値は無いのですわ』
 「!?」
 あっさりと言い放った左菜さんに、右菜さんが絶句する。
 「ちょ、待ってよどうしてよ!?」
 そう抗議したのは一原先輩だった。
 「どうしてサナさんは私をそんなに欲しがるの!?妹さんまで犠牲にして!!」
 『ご自分の胸に手を当てて、良く考えてみることですわ』
 左菜さんは、それ以上の説明をするつもりは無いようだった。
 「正気かよ、アンタ・・・・・・」
 俺は、そう言わずにはいられなかった。
 だってそうだろう?
 生まれたときから一緒だった相手を、共に喧嘩し、共に泣き、共に笑った相手を何でそんなにあっさり犠牲に出来る!?
 『ええ、確かに私は正気では無く、狂気に侵されているのかもしれないのですわ。けれども、一原百合子を手にするためには、それさえも瑣末なことですわ』
 「そう・・・・・・」
 そう、静かに答えたのは一原先輩だった。
 「そっかそっか、そう言う事なんだ」
 何かを納得したように頷く先輩。
 少しずつ、愛華さんたちの方に近づきながら。

557ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:19:59 ID:vAX2GWOI
 「でもゴメンね、アナタが私に『服従』とか『屈服』とかして欲しいならムリだわ」
 ひょい、と肩をすくめて一原先輩は言う。
 「あなたが望むなら、絆は喜んで結ぶ。あなたが望むなら、その絆は喜んで愛する。でも誰かに隷従するのは、私の魂が拒絶する。だって―――」
 にっこりと笑顔さえ浮かべ、先輩は言った。
 「そんな関係、つまんないじゃない」
 『・・・・・・それが、答えなのですの?』
 感情を押し殺した声で左菜さんは言った。
 『・・・・・・・んで』
 声と共に漏れるのは、嗚咽だろうか。
 『なんでなんでなんでなんですか!?貴女は私が生まれて初めて本気で欲しいと思った相手なのに!?本気で羨ましいと思った相手なのに!?本気で本気で本気で本気で本気で本気で!!』
 栓をしていた感情を吐き出すように慟哭する左菜さん。
 俺の本能が警告する。
 ヤバい、このパターンはヤバい!!
 『もう取引なんてどうでもいい!脅迫なんてどうでもいい!爆弾を起動する起爆する爆発させるのですわ!!』
 「左菜!!」
 そう叫んだのは誰の声だったろうか。
 爆発する!
 そして。
 しかし。
 どれだけたっても。
 「・・・爆発、しません」
 思わず覆いかぶさった俺の下から、三日が怪訝そうに言った。
 爆音がしない。
 熱風も、来ない。
 なぜなら。
 愛華さんと右菜さん、両者を抱きしめるように一原先輩が密着していたから。
 「離さないわよ」
 と、先輩は言った。
 「私は絶対、誰も離さない」
 強い意志さえ感じさせる声だった。
 「ねぇ、左菜さん。いいえ、さっちゃん。あなた、私が羨ましいって言ったわよね。だったらさ」
 にっこりと、全てを包み込むように笑う一原百合子先輩。
 「この輪の中に、入りなさいよ」
 楽しいわよ、と一原先輩は言った。
 「・・・・・・はい、ですわ」
 その答えは、すぐ近くから返ってきた。
 部屋の中で一際大きな油絵。
 その裏の隠し扉から。
 そこから現れたのは、右菜さんとそっくりな、けれどどこか違った雰囲気の少女。
 この人が、本当に鬼児宮左菜さん。
 左菜さんは、爆弾のスイッチを投げ捨て、一原先輩に抱きついて、大声で泣いた。

558ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:21:38 ID:vAX2GWOI
 Side All
 「私、一原百合子がこの世で一番好きなのですわ」
 その少し後。
 俺こと御神千里らに加え、生徒会メンバーに、下水道でリタイヤしていた二日さんと振井さん(二日さんが勝ったらしい)、さらに李と彼女にボコられた空蝉さん(替え玉も全員倒されたらしい)は左菜さんの部屋に集められた。
 そこで左菜さんから発せられたのが上の台詞。
 その言葉に、反応は様々。
 最初から知っていたらしい右菜さんや途中で察したっぽい一原先輩、そもそも興味無しな二日さんは普通の反応。
 振井さんと空蝉さんは驚愕。
 生徒会メンバーは軒並み苦い顔をした。
 俺と三日は、何というか、脱力?
 どうやら、一原先輩の厄介な恋愛に思いっきり巻き込まれただけみたいなわけだし。
 で、一原先輩の返事は。
 「一億と二千年前から愛してました」
 「適当こくな」
 一原先輩のバカに、俺は容赦なくツッコミを入れた。
 「でもさっちゃん。どうしてそれを最初から素直に言ってくれなかったの?私は女の子はみんな大好きなのに?」
 俺のツッコミをスルーして、さっちゃん、もとい左菜さんに問いかける一原先輩。
 確かに、先輩が同性愛者なのは学園の全校生徒が知っている。
 「貴女が気にしなくても、我が家が気にするのですわ」
 「鬼児宮家は血族の繋がりが強い上に、本家のご当主による独裁体制なの。私たち親戚筋はソレに絶対服従。一般には全然知られてないけどね」
 左菜さんの言葉を、右菜さんが補足した。
 敬語ではないのは、右菜さんの素なのだろう。
 「あー、ものすごい納得した」
 渋い顔をして一原先輩は応じた。
 「結婚相手を指定したり、同性愛をタブー視するような、頭のおか・・・・・・失礼頭の固い方々が本家にいる、ということなのですね」
 と、応じる氷室副会長もこれまた渋い顔。
 そう言えば、彼女らの先輩の鬼児宮エリスさん、つまり三日のお兄さんの恋人さんも鬼児宮姓だった。
 多くは語らないけれど、先輩達はかなりの程度鬼児宮の滅茶苦茶具合を肌で知ってるのかもしれない。
 「そんなところですわ。けれども、家の中に、その『飼う』というか『囲う』というのなら、何とか本家の人間も納得させられますから」
 「それで、恋人関係じゃなく、上下関係を結ぼうとしたわけね」
 左菜さんの説明に、一原先輩は言った。
 事情は分かったけど、手段が荒っぽいにも程がある。
 「けれども、計画が潰えた以上、どうしようもありませんわ。このまま生きていても、好きでもない男性に嫁がされるだけですわ」
 自決するしかありませんわ、と暗い表情になる左菜さん。
 「大丈夫よ、さっちゃん」
 左菜さんを安心させるように、一原先輩は彼女の手を握った。
 「私達にはこんなにも心強い仲間が、恋人がいるもの。すぐにはムリでも、少しずつ他の人にも納得してもらえば良いわ。ねぇ、そうでしょ、みんな?」
 ひょい、と生徒会メンバーの方を向く先輩。
 「鬼児宮殿には、我々との百合子争奪戦に参加していただくことにはなるでござろうが」
 「ソレ以外はスポーツマンシップに反するデス。そう言うのは、争いはストップイットデス」
 「お姉は私のだけど、みんな一緒の方が賑やかだしね、お姉は私のだけど」
 「ま、鬼児宮家にいられなくなったら百合子にもらってもらえば?」
 「過ちは繰り返さない、が私のモットーですから」
 と、李やエリス先生、愛華さん、霧崎や氷室副会長が答えた。
 「何だったら、この家の女の子全員私の嫁にもらうけど?」
 と、先輩は左菜さんと振井さんを見るが。
 「「いや、あなたタイプじゃないんで」」
 と無碍に断られる。
 「でも・・・・・・」
 となおも不安そうな顔の左菜さん。

559ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:22:09 ID:vAX2GWOI
 「大丈夫よ、さっちゃん」
 スルリ、と左菜さんの首に手を回す一原先輩。
 「心配も不安も全部、私が一緒に肩代わりしてあ・げ・る」
 あと数ミリで唇が触れ合うというところで、先輩は囁いた。
 そのまま床の上に左菜さんを押し倒す。
 どうでもいいが、妙に抵抗感が無かった。
 「百合子殿!?」
 「Oh,ジョーネツ!」
 「ズルいよ、先輩」
 「ボクも混ぜろよ!」
 「百合子(ゆー)ちゃん!?」
 と、先輩達の周りがくんずほぐれずのダンゴ状態になる。
 「あ、アンタたち人の姉上にナニやってるのよ!?変なことしたら私が許さないわよ!!」
 それをひきはがそうと、右菜さんが止めに入るが、割と逆効果に見えた。
 「右菜のご主人、おいたわしーぜ」
 その光景を複雑そうな顔をして見る振井さんだが、二日さんとの戦闘でボロボロになった身ではホロリと涙を流すくらいしかできない。
 「なぁ、振井。こっから先は若い衆に任せようや」
 そんな彼女に気遣わしげに手を置く空蝉さん。
 「うう、ご主人……」
 ダンゴ状態を押し留めようとする者、諦めたように部屋を出る者。
 「・・・え、ええっと?」
 超展開(一原先輩にとってはいつものこと)に呆然とする三日。
 俺は、そんな三日を強制的に回れ右。
 ここから先は18禁だ。
 「さーて、帰るか」
 「・・・良いんですか、放って置いて?」
 「ああやって先輩のハーレムは拡大していくのさ、いつも」
 三日の困惑に、俺はため息混じりに答えた。
 結局、おいしいところは全部先輩が持っていった。
 一原先輩絡みの荒事のエンディングは、いつもこんな感じなのだ。
 まぁ、この場合俺が主役になっちゃいけないパターンだったんだろうけど。
 これで良いのだ、と言えばそうなのだろうけど。
 「そうだ三日、二日さん。今日はウチで夕飯食べてきません?」
 部屋を出て、家へ帰ろうとする道すがら、俺は2人に提案した。
 「悪くはありませんね・・・」
 「・・・お姉様も誘うんですか?」
 「不服ですか・・・?」
 「・・・ソンナコトハゴザイマセン」
 「折角ですから、お父様も呼びましょう・・・」
 「外に出られたんですか、アレ!?」
 さて、今日はとりあえず、憂さ晴らしに三日たちにたんまり美味しい物を作って、賑やかにおなか一杯食べるとしよう。
 「まったく、やれやれだ」
 頭を掻きながら、俺は呟いた。
 「…そう言いながら笑ってますよね、千里くん」
  そんな三日の指摘に、俺はそっぽを向いた。

560ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:22:33 ID:vAX2GWOI
 おまけ
 後日
 あるウェブサイトのチャットルームにて。

 むーんさん:ところで『yuriko』君、というか百合子君。この前は・・・ウマクイッタ・・・かい?
 yuriko:ええ、『むーんさん』さん。色々ありましたけどお陰でバッチシVでしたよー
 むーんさん:それは・・・ザンネン・・・。私としては…トラブル…の種を撒ければ良いと思って協力したのだからね
 yuriko:まー、そう悪いことばっか起きないってことですねー!
 むーんさん:ハッハッハッー
 yuriko:代わりに、ウチは今まで以上に賑やかになりましたから、そう言う意味じゃ『むーんさん』さんはトラブルの種を撒いたってことになりますかね
 むーんさん:それは…ヨロコンデ…聞いておこうかな
 yuriko:まー、また何かあったときはよろしくお願いしますね、『むーんさん』さん、いえ、緋月先輩のお父様
 むーんさん:・・・ワカッタ・・・よ、一原百合子君。機械関係なら、この『むーんさん』こと緋月月日に・・・マカセテ・・・おきたまえ

561ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15:24:08 ID:vAX2GWOI
 以上で、今回の投下は終了となります。
 ここまでお読みいただきありがとうございました。
 次回からはいつものノリに戻る予定です。
 それでは、失礼します。

562雌豚のにおい@774人目:2011/08/16(火) 16:11:12 ID:rDwA53lc
GJだ!!

563雌豚のにおい@774人目:2011/08/16(火) 20:57:06 ID:/VGob0BA
GJ!

564雌豚のにおい@774人目:2011/08/17(水) 10:21:14 ID:zImADiyQ
おのれ作者さん!また仕込まれたネタに全部反応してしまった!

という訳でお疲れ様です。ひさびさのドタバタ劇だったのですごく楽しませてもらいました
転外新シリーズも始まったみたいなのでそちらも楽しみです

蛇足ですが今までの作品のネタ元はリアルタイムで見てたのかが気になります
見てたなら同い年な気がしてならないw

565雌豚のにおい@774人目:2011/08/17(水) 11:37:09 ID:dym0L.hs
>>561
乙です

566 ◆O9I01f5myU:2011/08/18(木) 22:42:13 ID:RrHVvGsk
愛と憎しみ 第五話を投下します。今回はショタに対する暴行描写がございますので、閲覧の際はご注意ください。

567愛と憎しみ 第五話 ◆O9I01f5myU:2011/08/18(木) 22:44:25 ID:RrHVvGsk

 「ねぇ?……幸人くぅん……」

 枯れ木の様な手が這ってくる。

 「大人達の公衆便所になるのって……どんな気分だったのかなぁ……?」

 細い指が触手の様に絡みつく。

 「怖かったかなぁ? 気持ち良かったのかなぁ? ねぇ……?」

 彼は答えない。
 香山はそんな彼を膝元で弄びながら、呪詛を唱え続ける。

 「大人達のおちんちんを、お口やお尻で慰めたりしてたんでしょう? 臭いおちんちんをしゃぶるのってどんな気分だったのぉ?」

 被服を剥がされていく。寝巻にシャツと、室内故にさして厚着はしていないので、裸になるのに時間は掛からない。彼女の逆鱗に触れる事を恐れ、無抵抗のままでいるので尚更だ。
 脱がした被服を床に無造作に投げ捨てる香山。
 彼女の眼下には、一糸纏わぬ姿の少年が一人。体を震わせてこちらを窺っている。暴漢共を目の前にした小娘の目をしている。
 香山は無言で幸人の陰茎を握った。

 「っいぃ!?」

 ギリギリと音を立てそうな力で絞められた。
 彼は目を固く閉じ、痛みに抗おうとする。その中で、どうしてこんな目に遭わなければならないのかと、彼女の不当な暴力に嘆いていた。
 ママである忍のお見舞いに行った時の帰り、少し気まずい空気になってしまった事はあったが、後にそれは時間によってリカバリーされたと思っていた。現に彼女は、昨晩、就寝前までは何時も通りだったのだ。今の彼女の片鱗すらも感じられなかったのだ。
 何故? どうして?
 幸人は赤ん坊の様に泣きじゃくった。
 嫌だ。もう嫌だ。
 どうして僕がこんな目に遭わないといけないの?
 僕が一体何をしたの?
 何で大人達は、僕を何時も虐めるの……?
 あの時も、あの時も、大人達は僕を虐めるばかり。
 誰も、優しくしてくれない……。
 パシッ!
 頬を張られた。幸人には泣きじゃくる事さえ許されなかった。
 彼女と目を合わす。視界が潤み、顔は良く見えなかったが、酷く怒っているらしいのは分かった。

 「ねぇ、幸人君、正直に言ってくれないかな?」

 言い逃れは許さない。言葉の裏にはそう添えられていた。

 「幸華ちゃんのお父さんって、誰?」

 その時幸人は、恐らく彼女は答えを分かっているのだろうと何となく感じた。それを敢えて自分の口で明かさせようとしているらしい。

568愛と憎しみ 第五話 ◆O9I01f5myU:2011/08/18(木) 22:46:33 ID:RrHVvGsk
 これまで秘密にしていたが、もう隠す事はできなかった。嘘は何を並べても無意味だし、それこそ、彼女からどんな暴力が来るか分かったものではない。真実を述べても酷い目に遭うだろうが、偽りはそれ以上の罰を下される。
 幸人は、震える唇で言葉を紡いだ。

 「……あの子は……僕と、ママの子供なの……」

 弱々しいその言葉を聞いた香山は、肩をわなわなと震わせた。眉間に皺を寄せ、ひ弱な子供を忌々しく睨んだ。
 鬼の形相になった彼女は、握っていた陰茎を無理やり引っ張った。

 「っ……い、痛いよぉ……っ!」

 じたばたと足掻く彼を抑え込み、辱めを続ける香山。
 彼女は怒りを抑えられなかった。こんな小さな子供に想い人を盗られたかと思うと、憎くて仕方なかった。それも、数多の男共に嬲られ、汚れ切った体で忍を抱き、子まで作ってしまった。この怒りの感情を全て彼にぶつけてやらないと気が済まなかった。

 「幸人君……私が何でこんなに怒っているのか、分かるかなぁ?」

 彼の局部を弄びながら訊いた。
 幸人は恥辱に屈してしまいそうな所を何とか堪えながらも答える。

 「……分からないよぉ……」

 突然の彼女の変化。朝起きて、いきなりこんな暴行を受けて混乱に陥った彼に、彼女の心情を見通すなんてできる訳がない。他者の心を探るには感情移入をする必要があるが、云われの無い虐めをしてくる「怖い人」の心理と同調しろと言うのがまず無理な話だ。

 「私はねぇ、忍ちゃんの事、好きだったの」

 彼女の突然の告白。幸人はしばらく彼女の言っている事が理解できなかった。同性の番いに対する認識が浅いのもあるが、彼女によって暴かれた――大人の男達に嬲られていた――記憶の中から、同性同士の場合では、性的快楽を得る為の性行為はあっても、愛のある行為はあり得ないと学んだからだ。
 言うまでもなく香山は女で、忍も女。女が女に愛を覚えるという事自体、彼からしてみたら信じ難い事であった。

 「昔からずっとずっと……大好きだったの。でも、彼女は私を決してそういう目で見てくれなかった……」

 冷たい目が僅かに憂いを見せる。今朝になって初めて見た、彼女の人間らしい目だった。

569愛と憎しみ 第五話 ◆O9I01f5myU:2011/08/18(木) 22:49:05 ID:RrHVvGsk
 「最初は祝ってあげようと思っていた。諦めようと自分に言い聞かせた。でもね、幸人君……私は忍ちゃんの事、どうしても諦められないんだよ」

 そう言って、己を嘲う様な微笑みを浮かべた。
 彼女は本気であるらしい。幸人もそれは分かったが、納得した訳ではない。所詮は同性同士、関係は一時のものにしかならないという考えは覆らないままだ。
 確かに自分達は他者には大声では言えない関係であるが、忍と愛し合う事を覚えてからは、家族としての絆を育んできたつもりだ。それを、一時の間柄を得たいが為に滅茶苦茶にされるなんて、あんまりな話だ。
 香山は彼の左目に嫌悪感を漲らせている事に気付いた。苦痛と恐怖をたっぷりと与えてきたつもりだったが、彼にはまだ余力があった。
 胸がむかつく。一端のプライドを彼は持っていた。泣きじゃくってばかりの、こんな子供にも。
 陰茎を抜かんばかりに引っ張っていたのを止めると、再び睾丸への責めに移った。とにかく、彼のその顔を見たくなかった。

 「っ! ……ぅ……ああっ……!」

 苦痛に顔を歪ませる幸人。
 香山は追い打ちを掛ける。

 「君の事が憎たらしくて仕方ないよ。汚らしい男が、私の忍ちゃんを汚してしまったんだ」

 手に力を加える。

 「何時もクールで凛々しくて、そんな彼女を、君は、汚してしまったんだ……!」

 さらに追い込む。

 「これが……忍ちゃんを、キズ物にしたんだっ!」

 激昂に身を任せ、幸人に苛烈な辱めを与える。
 ここに来て、幸人の抵抗も激しさを見せた。人に危害を加えるのを好まない彼が、必死に腕や足を振り回し始めた。
 このまま大人しくなんてしていられなかった。香山の手は依然として幸人の局部を握ったままで、手加減は感じられない。「冗談抜きで殺されてしまう」と判断するや、内部に溜まっていた不安や恐怖が爆発を起こし、彼の肉体が狂った様に暴れ始めた。
 リミッターを取り払われた発動機の唸りを思わせる彼の反撃には香山も思わず怯んだ。
 彼を押さえていた手も一瞬緩む。彼はその僅かな好機を見逃さなかった。
 思い切り振るった手が、香山の目元に直撃した。目と目の間の鼻っ柱。どれだけ鍛えてもカバーできない箇所だ。
 ストリート・ファイトの経験なんてない彼女にこれは応える。堪らず、体を大きく仰け反らせた。

570愛と憎しみ 第五話 ◆O9I01f5myU:2011/08/18(木) 22:51:34 ID:RrHVvGsk
 拘束の一切が解かれた。幸人は慌てて体を滑らせ、彼女に無理やり脱がされた被服を回収し、逃げようとする。
 一撃を見舞って稼げる時間はタカが知れている。視力が回復した香山は痛む目元を押さえながらも幸人を睨みつける。彼は服を抱え終わった頃だった。
 小学生と大人の運動能力の差が表れた。今ではティーンを過ぎている香山でも、学生時代は運動部で体を鍛えていたのでより顕著だ。加えて、幸人は香山に蛇の眼差しで睨まれたせいで反応が遅れていた。あっという間に捕まってしまう。

 「あんたさえいなければ……あんたさえ……いなければ……!」

 彼女はもはや、話すらも通じない状態に陥っていた。全てを幸人のせいだと思い込み、その他の事は欠落している。憎しみばかりに煽られて、己を見失ってしまっていた。
 完全に四肢を取り押さえられてしまった幸人。体を跳ねらせて振り払おうとしても、香山は全身の体重を彼に掛けている。小さな体躯で成人女性を持ち上げる事なんてとてもできなかった。
 乾いた音が何回も室内に響く。気でも狂ったかの様に。
 上半身を右へ左へと躍進させ、自分より一回りも下の男の子に平手を打ちつけ続ける。下に敷かれた少年は打たれる度に体を震わせるだけで、もはや抵抗する意思すらも削がれている様だった。サンドバッグ同然だ。
 両の掌が微かに濡れる。彼の目から流れ出ている涙だ。腫れた両の頬の脇を滑り、床を湿らせている。
 声を上げずに、静かに泣いている幸人。それを目の前にしても平手打ちを止めない香山。彼の息の根が止まったとしても緩みそうになかった。
 既に何十と続いている。その内に香山も息が上がってくる。
 彼女はトドメと言わんばかりに、思い切り張り飛ばした。
 カラン。
 何かが床の上を転がった。
 照明に照らされて光るそれはボールペンだった。紺のメタリックカラーで、色が所々剥げている。随分年季が入っているみたいだ。どうやら彼の抱えていた寝巻のポケットに入っていたらしい。

571愛と憎しみ 第五話 ◆O9I01f5myU:2011/08/18(木) 22:52:48 ID:RrHVvGsk
 激情で脳が湯だっていた彼女も我に戻ったかの様にクールダウンした。
 恐る恐る、それを手に取って、まじまじと見つめる。
 「まさか」と香山が思ったその時だった。
 まるで岩を投げ込まれたのかと思う程の破壊力だった。ガラス戸がたちまち炸裂し、破片が秋の風と共に室内に流れ込んできた。
 爆風に見舞われたかと一瞬錯覚した香山は、突然の強襲に強張らせていた身をゆっくり解き、一秒、二秒と時間を掛けて振り向く。時間なんて意識の外へと追い出されていたが、気付けばもう夜明けが近づいていたらしく、山の端が白くなっていた。
 薄くなりゆく影をバックに、鋭い視線に殺意を宿らせ、血の滴る拳を突き出す、大柄な女を香山は見た。

572 ◆O9I01f5myU:2011/08/18(木) 22:55:29 ID:RrHVvGsk
投下終了です。

携帯ではウィキの編集ができないらしいのがどうにも歯痒くて仕方ない……。

573雌豚のにおい@774人目:2011/08/18(木) 23:42:42 ID:ZczoMyk.
>>572
乙です
wiki編集してきました
まずい所があったら直してきます

574雌豚のにおい@774人目:2011/08/18(木) 23:58:26 ID:1dQ4ySM2
GJ!!香山も怖いが、真の修羅は忍だったか・・・・・・

575雌豚のにおい@774人目:2011/08/19(金) 02:08:06 ID:8fECVYHo
なんてことを・・・
修羅は主じゃ

576 ◆O9I01f5myU:2011/08/19(金) 07:35:47 ID:09pyUrnQ
皆様、コメありがとうございます!

>>573
どうもすいません、ありがとうございます。

そのご厚意に甘える形になってしまうのですが……短編SSの2011年の項にある拙作「愛玩人形」が作者一覧における私の項に含まれていない様でして、よろしければそちらの方の編集も、何かのついでで結構ですので、やっていただければ……と思うのですが……。

577雌豚のにおい@774人目:2011/08/19(金) 10:01:43 ID:cvfXo0Hw
test test

578a childie:2011/08/19(金) 10:05:52 ID:cvfXo0Hw
久しぶりに投稿させて頂きます。
第2話の2。第2話の3。第3話となります。
長くなりますが、よろしくお願いします。

579a childie:2011/08/19(金) 10:12:26 ID:cvfXo0Hw
第2話の2。



「あら、二人とも寝てしまったの」
洗濯物の取り込みが終わったのか、
ユキカさんが二階から僕達のいる一階リビングまで下りてきた。
「公園でよく遊んでましたから。疲れたんでしょう」
僕は笑いながらそう言う。

あらあらと言いながらもう一度部屋を出て、タオルケット持ってきた。
「これをチズルに」
スケッチブックを仕舞い、
差し出された一枚のタオルケットを立ちあがって受け取る。
それで丸まっているチズルを包む。
ユキカさんはユリィから本を取り上げて、もう一枚のタオルケットを静かにかけた。

「くぅ……」
気持ちよさそうにチズルが寝息を立てる。
こちらの気が緩むような、
そんな寝息で何となく気を紛らわすように頭を撫でた。
庭に出る大きな窓からの日に当たって暖かくなった、柔らかい髪。
安心しきった寝顔が、陰に光を差し込む。

ふと、見上げるとユキカさんがこちらを見て微笑んでいた。
少し恥ずかしくて、誤魔化すように笑った。

「先程まで何か描いていたの?」
スケッチブックを仕舞ったバックを見ながら聞いてくる。

どうしようか。
見せようか見せまいか迷った。
でも、見せてくれることを疑わない顔でこちらを見ている。
チズルが店前でお菓子を期待している時と、そっくりな顔で。
チズルならどうにかなるんだけどね。

心の底では渋りながら、スケッチブックを取り出した。
この人だと何か、こう、恥ずかしい物を見せる気になる。
ユキカさんはページをめくって今日、描いた絵を見る。
「これ、二人が遊んでいる所を描いたの?」
「ええと…、まぁそうです。
 公園で見守っていた時、良く絵になってたんで。
 何もありませんでしたし」
午前中二人が遊んでいたのを思い出しながら描いたのだ。
ただ、警戒を怠っていたわけではないと暗に言いたかった。
言い訳みたいだけど。
言い訳だけど。

しかし、彼女は僕の言い訳なんて気にして無く、
「良い絵ね、やっぱりあなたが描くのは」
なんて言ってしまう。
「…..ありがとうございます」
何というか、本当にうっとりした顔でそんなことが言える。
それに一欠けらの嫌味を感じないから、余計に質が悪い。
こちらは照れるしかないのだ。

ただ、気に入ったとはいえ居間や食堂に飾るのは止めて欲しい。
しかも額にまで入れて。
最初、この家に来た時自分の絵が飾られていたのを見て
顔がかーと熱くなったのを思い出す。
頼んで描かせた絵をエダさんは家に送っていたのだ。
あの人は何を考えてたんだか。

そのうちに今まで描いた絵まで見始める。
もう何度も見た筈なのに。
よくあきないな、って思っていたら
急に見上げて時計を見て
「あら、こんな時間」
少し、あきれた。

「さて、前の勉強の続きでもしましょうか」
本棚から数学の教科書とノートを取り出し、
食堂のテーブルについてユキカさんが切り出す。

うっ、となるがユキカさんはにこり、と向かいの椅子に手を差し出している。
絵を描くのは好きだが、勉強は少し、苦手だ。
でも、まあこの人の好意を無駄にするわけにはいかない。
わけのわからない覚悟をして彼女の向かいへと座る。

ユキカさんはやさしい人だ。
こうして学校に行けなくなった僕に勉強を教えてくれるんだから。
「昔、教師目指していたから
こうして教え子が持てるの、嬉しいのよ、私」
まったく、まったく。

チズルはこの人によく似ている。
中隊からの知り合いである人達は「父親の血はどこにいったんだか」と
義父のエダさんをからかう。

「不釣り合いな夫婦だ」とも言ったりする。
首都大学卒業のお嬢様と一兵卒出の軍曹殿がどう出会ってこうなったのか、と。

ぴったりの夫婦だと、僕は思うのだけれどなぁ。

580a childie:2011/08/19(金) 10:13:15 ID:cvfXo0Hw
******


「ねぇ、シンイチさんはいつ帰ってくるのかしら」
方程式に悪戦苦闘していると、ユキカさんはふと、僕に尋ねる。
ノートから見上げると少し寂しげな顔があった。
「あなたも連れずにもう一月も帰ってきてない。今度のお仕事はそんなに
 時間がかかるものなの?」

僕は一拍を置いてから、表情を笑みで隠して答える。
「たぶん、もうすぐ帰ってくるんじゃないんでしょうか。
今回の仕事はそんなにかからないと思いますから」

嘘だ。
昨日、定時連絡の時に、売る相手と盛大に揉めていると言っていた。
商品である一個小隊分の中古軽戦車を、
予定の現金でなく麻薬で買おうと持ちかけてきたらしい。
それに社長が切れて流血沙汰一歩手前まで来たと。
足が付き易い麻薬売買なんてやってられないだろう。
趣味に合わないというのもあるだろうけど。
あの人、麻薬が嫌いだからなぁ。

「今回は商売する相手を間違えた」
公衆電話の受話器の向こうから、エダさんの嘆きとため息が聞こえた。

「そう、それならいいのだけど。
 そうね、帰ってきたらあの人が好きなものでも作ってあげましょう」
妻として、愛する人を待つ人間として、そう言う。
駄目だ、ばれてる。

この人はやさしくて、少しおっとりしているところがあって、
でも察することは察する。
元先任軍曹のエダさんが、ユリィのお父さんで元中隊長の社長が、少年兵だった僕が
違法に近い商売に携わっていることぐらい、わかっているんだろう。

停戦と一緒にエダさんは軍人を辞めたのに、このご不況の中
前と変わらない生活を送れている。
もしかすると前より良いぐらい。

ある日、いつもの柔らかで、そして切なげな顔で、そんなことを言った。

血が流れている所に武器を、兵器を売って得た財産。

僕達が稼いだ、きれいとは言えないそんなお金で暮らすことに、
共犯めいた罪を感じているのかもしれない。
僕らはもう、軍隊にいたころからやっていることだから
慣れ切っているけれど。

ふぁ〜〜〜ぅ。
大きなあくび。
チズルが眠け眼で起き出した。つられてか、ユリィも。
タオルケットの繭から生まれ出た、寝ぼけ顔の女の子達。
僕とユキカさん、一緒に顔を見合わせて笑った。

「二人も起きましたし、おやつにでもしましょうか」
ユキカさんの提案に僕は一も二も無く賛成する。
「おやつ?おやつ何、何、何?」
さっそく喰らいつくチズル。
対して興味無さげに、ちゃんとタオルケットを畳むユリィ。
でも雰囲気が浮ついているから、喜んでいるんだろう。

平和だなぁ、ここは。
二年前では考え出せないような、そんな午後。

ここには血の匂いも、硝煙の臭いも、何もない。
砲音、銃声、負傷者の嘆きもない
あるのは僕の記憶にだけ。

守らなくちゃ。ずっと、ずっと。


******

581a childie:2011/08/19(金) 10:15:06 ID:cvfXo0Hw
******


ユリィの父親であり社長兼組長のノナカ・ユキフミ元大尉が率いた
第十四師団第二十七歩兵連隊第一大隊所属第二中隊は、
隷下であった第十四師団が初期の敵機甲軍集団による
戦略奇襲によって文字通り消滅し、
再編成、再補充を受けることなく、ただの書類上の存在になった。
この師団は国境線沿いに配置されていたことが不幸だった。

俺がこの中隊に配属した時いた人員は三十八名と、
中隊と呼ぶに疑問が出た。

社長の声。
「昔は百七十二人いたのさ」
「部隊運営のための運用幕僚やら兵站幕僚なんかもちゃんといた」
「戦時前は立派に仕事を果たしていたのさ、俺も」
「まぁ、大体は死んじまったか、作戦(どっ)行動中(かい)行方(っちま)不明(った)が」

義父の声。
「中隊の半数以上は転戦のうちに拾った奴らだ」
「全員飼い主を無くしたか、捨てられた連中どもだ」
「だからな、二等兵」
「貴様が言われた仕事をこなす力があれば、ここにいても誰も不思議がらない」
「みんなお前と似た存在だからな」

幽霊師団に属する、誰も顧みない部隊。
それが軍法違反も辞さない団結を生み出したのかは知らない。


十二になった俺は大人と混ざって、一つの地方都市で市街戦に参加していた。
正規兵と同部隊にいたのは、
国が条約違反を非難され少年兵の存在を誤魔化すためだったらしい。
後で知った話だ。戦後で、だ。
理由はもう一つあった。
これは簡単で、戦場近隣に再編成するほどの少年兵がいなかった。
いなくなっていた。

相次ぐ転戦、転戦、転戦。
そのたびに部隊を変えられていった。
少年兵だから、足手まといだから、捨てられた。
邪魔、目障り、荷物。
周囲から言われる常套文句。聞きなれていった言葉。
戦場から生きて帰ってくれば舌打ちされた。早く死ね、という願望。
どんなに頑張っても大人からは蔑まされた。
何をしても、何もしなくても蔑まされた。

味方のいない戦場で戦って、
大人が残した残飯を拾って口に押し込んで、
意味もなく蹴られないように隅で寝て、
生き延びた。

戦闘に耐えられなくなった人間は、狂うか、死に開放を求める。
現状から楽になりたいから、とてもそれは甘美に思わせる。
あきらめる。楽になる。放り投げる。
生から。生を。
降りしきる砲弾の中で死に脅えながらも、天秤の片方には憧れもあった。
日常の中でも大きく揺れていた。

両親は死んだ。帰る場所はない。友人は死んだ。一緒に戦ってくれる人間はいない。

理由がない。理由がない。理由がない。

生きる理由がない。

決めればすぐにでも楽になれる。
何せ手元には弾が装填された小銃がある。それを口で咥えて引き金を引けばいい。
一発で全てを終わらせてくれる。でも、出来なかった。
臆病だったから。

ただ呆然とすることで物事に耐え、時間に耐えた。
死人になることが次点で楽だった。
環境に無感覚になる。自分の傷を他人事のように眺める。
無為に日々が流れた。

582a childie:2011/08/19(金) 10:18:51 ID:cvfXo0Hw
******


そんな中で社長、義父達に出会った。
人数が足りないからと、捨てられた俺を拾ったのだ。
戦場になった、ある地方都市で、だ。

彼等は嘗ての所属、帰結していた場所を無くしていた。
その都市での「警備中隊」という、実態の無い集団だった。

碌な補給も、人員補充もなく、
時に補給所から掠め取り、時に輸送車両から奪い取り、時に敵の装備を流用し。
人員は俺みたいな奴を集めていた。群れからの逸れモノを。

良く、隊として纏まっていたものだ。
どこの馬の骨かわからない奴どころか、
まともな兵士ではない俺まで引き入れていたのだから。

社長、ノナカさんの人徳か何かの故か。野良犬の群れを率いるには十分な人だった。

粗野で、大雑把で、自尊心溢れる人だったけれど、
黙って付いて来い、という有無を言わせない行動力があった。
また、それを裏付けする実績。
この目茶苦茶な部隊を纏めて引き連れて、生き延びさせたという実績。
大いなる決断力。
大局にて俺達に迷いを与えず、進む方向を下した決断。

何より、部下である俺達に対して「まじめ」だった。
優しいとか思いやりがある、ではなく
下の人間を死地に送り込む苛烈さを持ちあわす中、
俺達に真剣だった。どういう人物か、見抜こうという目があった。
中隊の存続を懸けるための目。

俺は必死になった。
社長は俺を目障りなガキではなく、一人の兵士として評価していた。

今までに無かったこと。
本当に、部隊の足を引っ張るのであれば捨てられる。
戦場であったら社長自らに制裁される。銃殺される。
けれど、認められれば。

初めて存在意義を持てた。必要とされたのだ、自分が。

それを失いたくなかった。また虚空な存在になるのが怖かった。
だから貪欲に技術を、兵士としての腕前を教わった。
自分の必要価値を上げるために。

義父、エダ・コウイチさんはそんな俺の教育係だった。
中隊の先任下士官で訓練担当だったエダさんは部隊随一の戦闘経験を有していた。
戦場のイロハを知るのならこの人だった。
毎度の個人訓練の申し入れをきいてくれたので、実質的に教育係になっていた。

苦労性で、面倒見が良くて、独断専行気味な社長をうまく補佐していた。

親以外で信頼できた大人。
気になったのは時折見せる目。無性に何か、申し訳なくなる目。
振り返ればそれは憐憫の目だった。
義父は少年兵が嫌いだった。
義父は俺をガキと呼ばず、二等兵と呼んだ。

戦場には、そこに来ることを選んだ人間が来るべきだ。

俺が大人になってから、聞いた話。
嬉しかったけれど、悲しかった話。

だからこそ、俺はあの銃を受け取った。

583a childie:2011/08/19(金) 10:24:56 ID:cvfXo0Hw
第2話の3。




「帰る」
テレビの映画が終わると唐突にユリィは言いだした。
それこそ終わってすぐに。
余韻に浸っていたので、少し面喰ってしまった。
主人公が水族館から捕まったイルカを逃がしたラストシーンに感動していたのだ。

おやつを食べ終えた後、二人に描き終わった絵を見せた。
チズルは予想を少し上回るぐらい喜んで、ユリィ想像通りだった。
つまり、つまらなそうな顔で、じっくり絵を見てくれた。

で、ユキカさんの「そろそろお腹が空く頃ね」の一言で
喜ばしいことに勉強はその後すぐ終わり、
四人で夕食を作り、食べて、食休みに居間で全員テレビを見ていた。

夕食はカツレツだった。
「四人なら肉に小麦粉を塗すのも、
卵を付けるのも、パン粉をかけるのも苦労じゃないから」というのはユキカさんの話。

「もう九時よ、無理して帰らなくても。今日も泊っていきなさい」
ユキカさんがいう。
僕もユリィは泊っていく予定だと思っていた。
父親がいない日にこの家に泊って行くのは何時ものことだし、
そのためのパジャマやら歯ブラシやら揃っていた。
ベッドも折り畳み式を僕が出せば事足りる。

「いい、もう帰ります」
そう言いながらも既にワンピースに上着を着ていた。
何となく彼女の様子を窺う。
気難しい子だけど、別に拗ねだしたわけではなさそう。
拗ねる理由はないと思うけど。
気まぐれでもあるから、単に帰りたくなっただけかな。

「それじゃあ送りましょう。こんな夜更けですし」
そう言って僕も出る支度を始める。
ついでに見周りと定時連絡をしておこうと思って。
「見送りなんていらない」
不躾な申し送り、迷惑。
そんな言葉まで感じ取れるユリィの口調。
「まぁ、そう言わずに。忘れ物はありませんか?」
僕はそれを流すように笑い、見送りを確定したことへと移す。
断りを聞き入れるつもりはなかった。
やらなくてはいけないことだし。

「本は持ちましたか?家の鍵は忘れていません?」
僕は尋ねる。
ユキカさんは持って行きなさいと、
昼のおやつに食べたドーナッツを包んでいた。
むす、とした表情でユリィはそれらを受け止めていた。
でもどこかあきらめてもいる。
最後に帽子を乗せてぽんぽんと頭を叩く。
さすがに睨まれた。

それじゃ行きましょうかと玄関のドアノブに手をかけた時、
「まって」
チズルが手に何かを持ってやってくる。
それは今日描いた二人の絵。
広げてユリィに差し出す。
「これ、こんどはユリィちゃんの」
にっこりと笑って差し出す。まったくの善意。
横目で僕を見ながらユリィは受け取る。
素直に受け取ってくれれば嬉しいのに。

584a childie:2011/08/19(金) 10:27:29 ID:cvfXo0Hw
******


外はまだ寒かった。
「夜も暖かくなるまでには、まだ日がかかりそうですね」
そう言ってもユリィは返事をしてくれない。
彼女は二三歩前を歩いている。
強気なお嬢様。
僕は滑稽な執事役でも演じているのかな。

夜の外灯の中、僕らは通りを歩く。
この状況に苦笑いを浮かべながら、
建物と建物の間、光が届かない陰に注意を払い、
腰とベルトの間に挟んだ九ミリの感触を確かめる。

その武器の意味を、威力と契約を知る。

ふと、
僕が被せた方が気に食わなかったのか、
ユリィが帽子を外した。
父親があげた白い帽子。
まとめていた髪が解ける。
夜の闇を照らす照明の中で、銀色の毛先が輝いて踊る。
陰と銀のコントラスト。
日の下で見るのとは、違う。
父が僕にしたように、
見て感じるものを筆で表す代わりに言葉で形容する。
かつて散歩のときに詞で表現したように。

これは、
優美?可憐?幽芳?
あまりくっきりしていない。
それとも、何だろう。

妖美?

馬鹿らしい。
一気に現実へと覚めてしまった。
それを当てはめるにはあまりにも、あまりに、だ。
つまり、年が年。
十歳の娘(こ)には似つかわしいものじゃない。

「何一人芝居をしてるの」
ユリィが白い目で僕を見返していた。
とっさに顔を拭う。
表情でも出ていたのだろうか。
笑い声。
笑っていた、ユリィが。僕の狼狽する所を見て。
短く、小さかったけれど。
露わになった子供っぽさが見られて、嬉しかった。

その銀髪に見とれていたと芝居かかって言おうと思ったけど、止める。
彼女は自分の髪に触れられるのを極端に嫌う。
それとなく社長に聞いたことがあるけど、
どうも居なくなった母親に関連するみたいだ。
お母さんに似た髪色なのだろうか。

ぼんやりと考えているうちに彼女の家に着く。
何も言わずに鍵を開けて家に入る背中に、
「おやすみ」
と、声をかける。
少し見返した顔が、さびしげだったのは気のせいだろう。

家の周囲を歩く。
部屋の一つに明かりがともる。
それを目の端に見ながら、周りを偵察する。
特に注意を払うべき人物も、事柄もない。
もう一度心の中でさようなら、と言ってその場を去った。

電話ボックスの中でダイヤルを回す。
三回コールして一度切る。
もう一回、回す。
今度は二回目で出た。
「定時連絡です。以上は無し」
「そうか、こちらからの連絡だ。
 お前も現場に来い。恐らく衝突が起きる。取引は確定的に失敗だ」
商品の軽戦車は相手も政府との戦争に、絶対に必要にしている。
しかし、現金が用意できず麻薬で取引しようとしている。
こちらはそれに応じないから力ずくに、と言う話。

義父に聞く。
「護衛の方は」
義父と社長、二家族への護衛はどうするのだろう。
「四人、雇った。そいつらが代理になる。
 金に忠誠心をおく奴らだ。契約通り払えば仕事で死んでくれる。」
「わかりました。では、いつ集合で」
「1000までに最寄りの駅まで来い。そこで連絡。お前は別働隊に入る」
「了解」
最後に一息入れて、
「いいか、殲滅戦になる。気を入れて来い」

受話器を戻して、ドアにもたれる。
腰に当たって痛かったから拳銃を抜いた。
暗い明りの下でそれを眺める。
鈍く光るそれを。

武器を持った集団が二つ。互いは絶望的に決裂している。
中途半端な歯止めは利かない。
火が噴けば最終地点まで止まらない。
なら、相手を潰すだけ。

微塵も無くなるまでに。

585a childie:2011/08/19(金) 10:30:14 ID:cvfXo0Hw
******


武器、兵器の売買に手を染めたのは、他に生活する術を見出せなかったら。
と言えば、非難されるのだろうか。

俺が入隊して二年目に戦争は終わった。
周辺の中小国家を交えた連合同士の対決。
勝利も敗北もなく、両者に残ったのは
経済の破綻と人口が大幅に減った、程度の被害。
国家予算が軍事で消え、生産人口の成り手が消滅したので当然であった。

軍隊も大量の兵士を抱えることが出来ず、解雇していった。
自分達第二中隊の面々も。
大した手当てもなく、その日暮らすのも困難な日々。
社長は大量に残った軍需物資に目を付けた。

国内の治安状況は最悪になった。
職がない元軍人が群れて略奪行為に走り、
それへの自衛で私兵集団と呼ぶべき自警団が出来上がる。
中には革命を唱える武装勢力にまで。
中央政府は戦争責任の擦り付け合い、それに伴う権力闘争で、
この状況への対処能力を失っていた。
国外では、連合内で紛争が頻発。
誰もがこの無意味だった戦争への怒りの矛先を探していた。

簡単にいえば武器、兵器の需要が相変わらずあった。

杜撰になった補給処、駐屯地の管理の下で、
白昼堂々と大量の自動小銃、機関銃等の小火器、対戦車火器を運び出す。
管理責任者には袖を通して。
無くなった分は黙っているか、発注すればいい。
誰も無くなったことに関心を払わない。

時に戦場跡で放棄された拠点から、同じく放棄された火砲、装甲車を取ってきたり。
雨曝しだったから整備する必要はあったが。

とにかく探せば商品になる物はあった。
それらは国内外問わず買い手がいた。
商売を通じて社長は売買ルートの形成に乗り出す。
俺ら中隊全員が商売に加担した。
特にあれこれと合意をしたわけでもなく、これが最良だと感じただけだろう。
抜けたれば、抜けられた。

一人なら無力だが、隊を組めば抗える。
俺個人はそう思っていた。
泥に塗れて一緒に肩を並べた人間なら、さらに。

一定の資金を溜めて、ユキフミ氏は商会を設立する。
社長が社長になった。
輸送業が名目である「ノナカ商会」。
本業はその一部分であることにした。
法的に黒を灰色にする努力。黒みがかった灰色でしかなかったが。

裏でもう一つ、組織を建てた。
「1/2」
第一大隊第二中隊。自分達で受け継ぐ名称。
武装勢力との商談決裂や、同業者との潰し合いで起きる暴力事案への“最終解決”と、
完全に“黒”な契約への担当を賄う組織。裏事専門。
元中隊全員がこちらに所属するか、表と兼任した。
社長が最も信頼する人間達。

全てはこうして始まった。

586a childie:2011/08/19(金) 10:32:20 ID:cvfXo0Hw
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気が重くなって、思わず座り込んだ。
心臓が強く鼓動を打つ。
修羅場に立つのは、いつまで経っても慣れそうにないな。
出そうになる溜息を飲みこむ。
選んだ道を、後悔している暇はないんだ。
そうだ。
僕は自分で選んだんだ。

商会が正式に発足する前に、
一回、生まれた街に帰ったことがある。
昔の思い出は全て壊され、街は浮浪者が住まう廃墟になっていた。
記憶を頼りに巡りに巡る。
知り合いとは誰とも会えなかった。

そうして僕の家の前に着く。
空爆で崩されたまま。
焦げた煉瓦と材木の山の下に、父さんと母さんが眠っている筈の所。
その前で二人に祈る。
もう戻ってこれないことを告げるために。

膝をついて、立ち上がる。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
意識して呼吸する。
恐怖心からの胸の高鳴りが治まってくる。
振り返っていられない。今は。

受け取ったんだ。
この銃を。
託されたんだ。
家族を守ってくれと。

これは僕がここにいられる証明なんだ。

587a childie:2011/08/19(金) 10:34:14 ID:cvfXo0Hw

俺が持っていた銃。
9mm×19拳銃弾使用。
装弾数13発。
世界中の軍で採用されている自動式拳銃。

そんなに珍しい物ではない。
けれど、俺にとっては、
少なくとも受け取ったあの時の俺には、重要な物だった。

「二等兵、お前に頼みがある」
街から帰ってきた俺に社長と義父、二人が言ってきた。
「俺と先任下士官の家族を守ってもらいたい」
頼み?もらいたい?命令ではなく依頼。
二人ともこれが私事であるのを認識していた。
 
軍にいた頃よりも家にいられなくなる両者。
死の商品を扱う業界では優位に立つのにやり方は自由。
狭い上に競争は苛烈。
執行力のある法律は無く、弱者は簡単に殺された。
武器、兵器ありきの世界。
相手の家族を人質に取るぐらい当たり前だった。

混乱した。
命じられたのならsir、の一言で済む。
だが、
「なぁ、俺の養子になる気は無いか」
これを聞いてより、どうすればいいのか分からなくなった。
義父は言う。
「面倒な親切心でしかないだろうが、お前を引き取りたい。
 家に来い」

後で知ったことだ。
ユキカさんが持病を持っていたこと。
チズルを産むのも危うかったこと。
二子目が望めなかったこと。
「皮肉に」と笑って義父は言った。
持病のおかげで二人が結婚できたこと。

戦争中、既にユキカさんは俺を知っていた。
夫から贈られる手紙と俺が描いた絵で。
戦後、二人は話し合った。
その結果に基づいた俺への養子縁組の要請だった。

そんなことはわかる筈もなく、
その時俺が知ることが出来たのは両者の強い懇願だった。

全てを受け入れた俺に、社長は自分の銃を渡した。
軍人時代から使っていた護身用、制裁用。
木製のグリップが磨り減った一品。
娘の守護になれとの祈りと自己の無力さを呪った一品。

これで今までの道筋を刻んでいった。
決めることが出来た。
俺がどういう人間であるか。
目的を持てた。
存在意義として。

588a childie:2011/08/19(金) 10:35:41 ID:cvfXo0Hw
******


電話ボックスを出た。

最終確認でまた、彼女の家を通る。
部屋の電気は消えていた。
「おやすみ」
口に出して呟く。誰も聞いていないから。

僕の護衛をユリィは嫌っている。
でも僕は気にしない。
だって、これは僕のためだから。

色々な中で最良を選んだ。
僕にとって、ここが一番の居場所。
ここにいられるための努力を惜しむ気なんて、全然ない。

任せてくれたんだ。この僕に。
なら、
何人を殺してでも、肢体が欠けても、これを守る。

だから、守らせてくれ。ユリィ。
僕のために。

589a childie:2011/08/19(金) 10:36:57 ID:cvfXo0Hw
******


何もかも、自分のため。

これが言い訳に変わったのは、いつからだろう。
分裂が起きた時か。身内殺しを請け負った時か。

誰かのためとは思えなかった。
その「誰か」がこれらを望むとは思えなかった。

けれど、過去の事。
もう、どうでもいい。

590a childie:2011/08/19(金) 10:37:34 ID:cvfXo0Hw
第2話終幕。
第3話へ。

591a childie:2011/08/19(金) 10:38:59 ID:cvfXo0Hw
第3話




下に鉛色の海。上に灰色のまだら雲。錆ついた世界。

クラクションが鳴り響いていた。

雨季に入る前の、少し荒れた海岸線を走る幹線道路、T字交差点。
追突した二台の車両。
一方は逃走車で、もう一方は追手で。
追手側のフロントガラスには無数の弾痕と蜘蛛の巣状の罅(ひび)、
一面に染まった血化粧。
追突された逃走車は運転席が潰れ、エンジンルームから煙。

人通りのない沿岸部の街。

クラクションが支配した世界。



助手席から這いずり出る。全身を道路へ打ちつけた。
起き上がろうとする。何とか右腕一本だけで。
左腕は車に置いてきた。ドアと追手の車の間に挟まり、潰れて抜けなくなったから。
三、四発撃ったら千切れた。
破けたジャケットの切れ端で左腕の先端を縛り、止血する。

まだだ。

まだ、進める。

拳銃から空のマガジンを振り落とし、口に咥えて弾薬を装填する。
唇と舌が焼ける感覚。構いはしない。
ストッパーを外し、スライドが重い響きをたて初弾を薬室に込める。

立って、道の先を見た。
その先にあるものを。

592a childie:2011/08/19(金) 10:40:49 ID:cvfXo0Hw
******


何かが欲しくて、必死に手を伸ばす。

初めての経験だった。

誰かが頭を撫でている。
髪を、頬を、顎を、首を、でたらめに。
目の前にある物を実感するように。
手で確かめる盲目のように。

触れられていることに現実味が湧かない。
自分が二つに分かれた。
一方が触れられ、一方が眺めている。
主観と客観。

そのうちに目を覚ます方法を思い出す。

593a childie:2011/08/19(金) 10:42:21 ID:cvfXo0Hw
******


暗い部屋。

密室ではない。夜でも無い。
雨音?
もう、雨季に入ったのか。

そうか、これは雨時の暗さ

焦点が合わない。
思考が追い付かない。
少なくとも、前にいた部屋ではない。
ということは。

まだ、生きている。
なぜ。

ユリィ。

俺の隣にいる。
椅子に座ってこちらを見下ろしている。


まさぐる彼女の手。
その指の一本一本に恐怖を抱く。




日が差し込まない、密室での狂宴。
血で斑に染まった髪。手。いや、全身。
幼子な彼女が、足を、羽を、頭を千切っていく。
本当に無邪気に。

笑い声をあげて。




その手を遠ざけようと、右手を上げる。

金属同士が擦れる音。
手首に拘束具。
鎖がベッドの鉄柱と繋いでいる。

嵌った金属製の輪が、自分を罪人だと告げさせる。

中途半端に上がった右手。
それをユリィは掴み、身体を寝ている俺に枝垂れかかる。

銀髪が視界を覆う。
間近に寄せられた顔。
陰の中でも、目の底無しな暗さは識別できる。
無感情な目。
感情の表現を忘れた目。

ああ、そうだ。

あの部屋で理解した事を取り戻す。

口を開いた。
名前を呼ぼうと。自然に。
息が漏れるだけ。
もう、けして声が出ることは無い喉が、あった。

ユリィが舌を突き出す。真っ赤な触手じみた舌。
逃げずに、受け入れる。
唇に舌が這う。
味わうように、確かめるように。

次第に荒くなる彼女の吐息。
欲情の高ぶりの証。

右腕で顔を掴まれる。
体重で押さえつけられる。

舌が咥内へと侵入し、口付けに変わった。

視線だけ部屋に向ける。

壁にベージュの壁紙。
一卓のテーブルと一組のイス。木製。
何処かに続くドア。

窓。
雨で濡れていた。

頭痛。
観察するのが辛い。
脳がまだ、起きるのを拒否している。

目を瞑る。
もう何も見ないように。

絶え間なく咥内に唾液が送り込まれる。
自分を味わえと。
舌で舌を嬲られる。
自分を感じろと。

飲み込めずに溢れる唾液が口端から一筋に、頬を伝う。

雨音が響く。

その中で祈った。
約束を破った相手への無事と、懺悔を。

594a childie:2011/08/19(金) 10:43:54 ID:cvfXo0Hw
******


ざー。ざー。ざー。

降りしきる雨音。
単調な音程。
去年までなら、ただ憂鬱でしかなかった季節。

それでが、今は。

例年通り、この街で雨が降り出す。
雨が周囲を閉ざす。

私と彼だけにしてくれるために。

595a childie:2011/08/19(金) 10:44:52 ID:cvfXo0Hw
******


医者が言った通りの時間帯で目を覚ましてくれた。

これで、本当に、私の物になった。
もう、邪魔するものはいない。

それでも、不安だった。
目の前にあるのが、念願だったものだったのか。

手に触れて安心させる。
これが悪い夢では無くて、現の事だと。
願いがかなったのだと。

人差し指と中指で顎を撫でる。
そこにある、薄い傷跡が何か、私は知っている。
慣れていなかった髭剃りで失敗した跡。
子供から大人になる間の跡。

私と彼しかいなかった時間。

目を覚ました彼が、私を見つめてくれる。
それで、やっと落ち着けた。

長く細く、息を吐いた。

彼はまだ、夢にいるようだった。
まだ、違う光景をみているの?

失敗したというのに。
けっして、二度と会えるわけがないというのに。

私に触れようと右手が上がって、止まった。

たくさんの人に向かって引き金を引いた手。
尽くしてくれた手。

私を愛してくれた左手は、もう無い。

彼は右手で人を殺し、左手で人を愛した。

右手を掴む。

もう、いい。
もう、何もしなくていい。
与えてくれる必要はない。
手に入れたから。
あなたの全てを。

これからは、私だけを見て。

顔を覗き込む。

私の陰の中でも、光る黒い目。
これも、私の物。

かさついてしまった、この唇も。

味わいたい。感じたい。
舌でなぞる。
ざらついた感触。
彼の、リュウジの感触。

もっと、もっと。

足りない。

全身で感じたい。

もたれた体をより、密着させる。
腕を、足を絡める。

舌を潜らす。
甘い、甘い唾液。
柔らかな触感。
微かな煙草の匂い。

頭を痺れさす。

存分に味わって、知って
今度は私と言う物を感じさせる。

二人分の唾液でぐじゅぐじゅになる。

まともでいる気なんてない。

欲しくて、欲しくて、やっと手に入れた物に
どうして我慢する理由があるのかしら。

口を離す。
どろどろになったリュウジの口元。
うまく飲み込めなかったのか、
可愛く咽込んでいる。

包帯の下で動く喉。

話す必要もない。
優しい、欺瞞に満ちた声はいらない。

ただ、私に愛されればいい。
この小さな部屋で。
二人きりで。

ねぇ、リュウジ。
ようやく二人きりになれたよ。
嬉しいでしょう。
私はとっても、嬉しいよ。

本当に、あなたを殺さずに済んで、

良かった。

596a childie:2011/08/19(金) 10:48:27 ID:cvfXo0Hw
以上を持って投稿を終了。長々とすみませんでした。
よろしければ、次のご拝読を。

597雌豚のにおい@774人目:2011/08/19(金) 10:51:08 ID:3uKk1QIE
GJ!!

598雌豚のにおい@774人目:2011/08/19(金) 20:54:37 ID:53w05.s.
GJ!!
もう少し短くしてくれたら読みやすかったです;;

599雌豚のにおい@774人目:2011/08/20(土) 04:48:50 ID:0/STJyfs
短くって…これぐらいが普通だろ。
最近投下される作品が短すぎるぐらいだ。

600雌豚のにおい@774人目:2011/08/20(土) 11:21:20 ID:goQePK2Y
GJです。
すっごい良いところで切れたなぁ。

601ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:39:11 ID:goQePK2Y
 こんにちは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 今回は転外の方、夏休み期間中の物語を投下させていただきます。
 今回は、というかこの『3×3=9』は以前投下させていただいた『ヤンオレの娘さん』を事前に読んでいただくことをお勧めしたいところです。
 >>564さんへ、作中に仕込んでるネタ元はリアルタイムで「大体観てる」といったところです。ただ、世代としてはアメリカン忍者と聞くと緑の光弾ではなくケイン・コスギの黒い方を連想する方ですね(笑)

602ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:39:36 ID:goQePK2Y
 3―――不安定な数字。
 ソレだけでようやく集団を形成できる、危うい数字。
 一つ欠ければ、2―――対立の始まる数字。
 更に欠ければ、1―――孤独な数字。
 世界の安定など到底望めない数字たち。
 どうせなるなら9が良い。
 3に更に3を掛けて。
 3を弐乗した、9が良い。
 3よりもずっと力のある、救の数字。
 名前だけは九であるその少女が、本当の意味で9、救となる、少女の救いとなる存在が、ひょっとしたら、万に一つでも、千歩譲って現れたのかもしれない。
 そんなことを少女が考えていたのかは定かではないが、そう考えたとしても、自らの考えを無意味と一蹴したかもしれないが。
 それはさておき、少女が少年、弐情寺カケルに強い興味を抱いた。
 それは事実だった。
 初めて感じたその想いは、あるいは初恋と呼ばれるべきものだったのかもしれない。
 それもまた、少女は無意味と言うかもしれないが。

603ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:40:34 ID:goQePK2Y
 「『弐情寺カケル』ー?漢字はどう書くのー?」
 少女を欄干の向こうから引き上げた後、カケルは何故か彼女と共に行動を共にしていた。
 ブラブラとロンドンの石畳の上を歩き、はしゃいだ様子の少女と会話する。
 会話、というより少女の方が質問攻めにして、カケルがそれに答えているだけと言った方が正確だったが。
 少女は、美しい容貌の持ち主だった。
 長袖のロングスカートに包まれた、やや痩せ過ぎな位のほっそりとした体つき。
 スラリとした伸びやかな手足。
 鼻筋は整っており、桜色の唇が可愛らしい。
 目は大きいが、笑うとキュッと細くなり、糸目になる。
 その様はどこか狐を思わせた。
 イギリス人と言われたらそう見えるし、日本人と言われたらそうとも見える、国籍を感じさせない顔立ちの美少女だった。
 『ひょっとして、僕は狐に化かされているんじゃないだろうか』と一瞬カケルは思い、否定する。
 英国で妖怪に会うなんて笑い話にもならない。
 それよりも、もっと実際的で現実的な問題がある。
 『誤って橋から落ちそうになってくれたところ―――って言ってたけど』
 カケルはよくお人好しと言われるし、利口なつもりもないが、何でもかんでも鵜呑みにする趣味は無い。
 先ほどの少女の姿は、『誤って』とはどこか思えない部分があった。
 『もしかしたら、自殺志願、英語で言うとマインドレンデルだったのかも』
 その英語は微妙以上に間違っているがそれはともかく。
 正しくは自殺=スエサイド。
 『何にせよ、このまま放っておくのはヤバいよね』
 そんなことを考えながら、その狐のような美少女の質問に答えることにした。
 「弐情寺は旧漢字の弐に・・・・・・」
 「ふむふむ・・・で、名前の方はー?」
 それには多少の苦笑を浮かべ、「ちょっと説明し難いんだけど」と前置きし、
 「『苛烈』って字、分かるかな。それの『苛』に『蹴』るで『苛蹴』。面倒だから、大抵カタカナで『カケル』って書いてるけど」
 とカケル(苛蹴)は説明した。
 「珍しい並びだよねー」
 カケルとしても聞きなれた感想だった。
 「親が変身ヒーローもののマニアでね・・・・・・」
 「?」
 不思議そうな顔をする少女。
 「ライダーものって知ってる?子供向け特撮ヒーローの、昔からある奴」
 「うん、知ってるも何も昔の知り合いにそういうのに詳しい馬鹿が1人いたからねー。確か、カードとか楽器とかで闘うヘンな顔したスーパーヒーローの番組だよね」
 カケルの質問に少女は笑顔で答えた。
 スマイル0円で『詳しい馬鹿呼』ばわりされてる相手に同情しないでもないカケルだった。
 ともあれ、かなり偏った理解だが知ってるなら話は早い。
 「で、その必殺技が大抵キック、凄い飛び蹴りじゃない?そのイメージを名前にしたくて考えたのが『苛烈な蹴り』で『苛蹴』ってワケ」
 つくづく、我が親ながらすさまじいセンスの持ち主だとカケルは思った。
 「へぇん。でも、それだと『烈』とか『隼人』とかも候補に入りそうなモンだけどねー。苗字的に」
 「ああ、『隼人』は(完全に偶然だけど)親父の名前で、『烈』だと「まんますぎだろ!」ってコトで没になったんだって」
 カケルの世代では詳しく分からないが、そんな風な名前のヒーローがいるらしい。
 若さとは振り向かないことというのはけだし名言だとは思うが、そんなロジックで子供の名前を決めるのはどうなのだろうとカケルはつくづく思った。
 「まぁ、『苛蹴(カケル)』もそれなりにそれっぽくはあるよねー」
 からからと笑う少女を見て、そう言えば少女の名前を聞いていなかったことに気が付いた。
 「そういえば、君の方こそ名前は?」

604ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:40:51 ID:goQePK2Y
 カケルの言葉に、少女はきょとんとして、
 「え、どーでも良いじゃん。そんなの」
 と、答えた。
 まるで、当然のように。
 「どうでも良いって・・・・・・」
 自分の名前なのに。
 まるで、無意味な名のように。
 自分が無意味であるかのように。
 人は、そんなことを言えるものなのだろうか。
 「そんなことよりさー、ボクはキミのことが知りたいんだよ、意味ある人のカケル」
 「いや、意味ある人って・・・・・・。まぁ無意味なことをしたつもりもないけど」
 そこで、カケルは一瞬躊躇しながらも―――少女に一番聞きたかったことを聞くことにした。
 「君は、どうしてこんな朝早くに橋の上のあんな危ないところにいたの、意味ある人?」
 あえておどけたように、少女の言い回しを真似てカケルは聞いた。
 本当は、どうして自殺なんてしようとしたの、と聞きたかったが、さすがにいきなりそこまで切り込むわけにはいかない。
 「ボクは無意味だよ、意味ある人。まぁ、ボクの場合『意味ある人』というか『ある意味人』かな」
 これまたおどけたように、少女は返した。
 「答えになって、ないじゃん」
 少女の、自己肯定を笑顔で否定するような言葉に内心ザラリとするものを覚えながらも、カケルは聞き返した。
 「そうそう、君の意味ある行動の意味ある所以の話だったね」
 そう言って、少女は説明を始める。それが、カケルの求めていたものかどうかはともかく。
 「この半年間、それなりにこの街を散策し続けて、絶対に人の居ない場所、絶対に人の居ない時間を見つけた。それがあそこだった。その『居ないはずの場』にキミが現れてくれた」
 そう言って、カケルに向かってニッコリと笑いかける。
 「おそらく、確率的にあの場にキミが現れる確立は0に近かったはずだ。けれど現れ、ボクが死ぬという流れを覆した」
 「君を助けられたことに関しては、ボクも自分で多少胸を張って良いと思っているところだよ」
 「ただ助けたんじゃなくてー、ボクの死という運命をひっくり返したのさー。それはただ単に誰かの命をぐーぜん救っちゃうことよりずっと意味があるくない?」
 「それが分かっているのなら、もうあんな危ない所を歩くのは止めた方が良いよ」
 少女の言葉に、カケルは言った。
 やはり、婉曲的な言い方になってしまった。
 本当は『折角助かった命は大切にして欲しい』とか言うつもりだったのに。
 「ご忠告感謝。けれども、キミの行動の意味はボクでなくても変わらなかったろうねー」
 カケルの言葉に軽い調子で答える少女。
 どうにも、彼女は死を軽く考えているように見える。
 いや、それとも・・・・・・
 「そんな行動を取れるキミ『が』意味ある人なんだろうねー」
 と、少女は続けた。
 先ほどの言葉より、幾分か真剣味が強い語調だった。
 本来、逆であるべきだろうとカケルは思った。
 ヒーローぶるつもりは無いが、人並みに正義感とか優しさとか持ち合わせているつもりだ。
 勿論、自分に対する優しさも。
 ―――少女は、どうなのだろう?
 「折角だからさ、カケル」
 カケルの内心も知る由も無く、少女は言った。
 「これからボクとデートしないー?」
 その予想の斜め上を行く言葉は、やはり軽い調子で言われた。

605ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:42:14 ID:goQePK2Y
 「いやー、悪くなかったねー。ロンドンダンジョン」
 無骨な建物の中から出てきた少女がほくほく顔で言った。
 対するカケルはゲッソリした顔をしていた。
 無理も無い。
 今の今までカケル達がいたのはロンドンダンジョン。
 蝋人形を使って中世の拷問や処刑方法を再現したというスプラッタ趣味溢れる観光スポットだ。
 当然、そうしたモノに耐性の無いカケルが耐えられるはずも無く。
 「カケルの百面相、すごかったねー。お人形さんを見るたびに顔を青くしたりー、叫んだりー」
 「ヒトの形をした物があんな手ひどい手段で殺されてりゃあね」
 しかも、無駄に出来が良い。
 お陰でカケルは冷や汗を掻き通しだった。
 対する少女はほとんどかいていない。季節外れの長袖だというのにだ(と、言うより肌の露出が極端に少ない)。
 「お陰でカケルの色々な顔を見られたよ。いやー眼福眼福ー」
 「ひょっとして、ダンジョンの中でずっと僕の顔見てたの?」
 「ウン、入ってから出るまでずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーと目離さなかったよー」
 「・・・・・・」
 この少女は随分と変わったロンドンダンジョンの楽しみ方をされたようだ。
 あの後。
 デートの申し出があった後、カケルのしたことは友人達に電話をすることだった。
 公衆電話から友人の泊まっているホテルに連絡し、「今日はチョット1人で動きたいから」と伝えたのだ。
 『あー、カケルがそうしたいなら良いぜ』
 と、存外あっさりと友人達からの了解を得られた。
 「悪いな、いきなり勝手言って」
 『良いって、カケルが言いだしたら聞かないのは知ってる』
 「あはははは・・・・・・ゴメン」
 『我儘放題でない奴なのも知ってる』
 「ありがと」
 友達に嘘をつくのは気が引けたが、事情が込み入っているので仕方が無い。
 すぐ横で少女が電話の内容を聞いてたし。
 そんな訳で現在、少女と観光地巡りをしていたのだった。
 「まー、カケルもグッタリしてるみたいだし、適当にマックでも入ろうか」
 「あるんだよね、マック。こっち来てビックリした」
 「まぁ、日本にもある位だしね。あるでしょ、イギリスにも」
 なるほど、英国に居る少女としてはそういう感覚なのかとカケルは感心した。
 そんなことを考えながら、2人は日本でもポピュラーなファーストフード店に入った。
 「何食べたい?」
 「何でも良ーよー」
 「じゃあ、僕はセットの・・・・・・」
 「あ、ボクも同じので」
 というやり取りの後、適当な席に対面で座る。
 「そう言えば、カケルはどうしてこっちにー?修学旅行ー?って時期でもないか」
 「ウン、学校が夏休みでね―――」
 と、同じ学校の友人達とイギリス旅行に来たことを説明した。
 「ってことは高等部、もとい高校くらいかなー」
 「いや、高等部であってる」
 「?」
 少女が目を丸くする。
 「ええっと、僕ら、東京にある夜照学園、そこの高等部に通ってるんだ」
 「よ、る、て、る・・・・・・」
 カケルの言葉を繰り返す少女。
 驚き、言葉を無くしている。
 「ええっと・・・・・・どうしたの?」
 至近距離まで手を近づけ、目の前で上下させたりしてみる。
 「あ、ああ。いや、何でもないよー何でもー」
 そう言いながら、ハッシュドポテトを口にする少女。
 気が動転しているようで、包み紙まで1欠け口に入ってしまったように見えるが、お腹大丈夫だろうか。
 「高等部ということは中等部もあるってことなんだろうね。中には中等部からの持ち上がりという連中もいるんだろう?」
 その言葉には、『カケルは中等部に通っていなかった』というニュアンスが感じ取れる。実際そうなのだが、なぜ少女はそれがわかったのだろう。
 「そうだね」
 と、不思議に思いながらも答えた。
 「どんな奴らがいるのー?つまり、キミの周りの意味ある奴らの話ー」
 「意味あるって・・・・・・みんな意味あるさ」
 「そんなことを言えるのは、キミの『美徳』って奴なんだろうねー」
 クスクスと笑う少女。
 そこからは本心は窺い知れない。
 窺い知れないが、あることを思いついてカケルは聞いてみた。
 「持ち上がり組の友達、そんなに気になる?」
 「ま、ねー」
 「君の友達だから?」
 ポロリ、と食べかけのハッシュドポテトが少女のトレーに落ちる。

606ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:42:36 ID:goQePK2Y
 当てずっぽうに近い鎌掻けだったが、大当たりだったようだ。
 夜照学園と聞いて随分と反応したと思ったら。
 「君も、夜照に通ってたんだ。最初から言ってくれれば良かったのに」
 「よく、分かったね」
 少女は笑顔で答えた。
 相変わらず、本心は窺い知れない。
 「随分と学園の話題に食いついてたみたいだったし」
 「そんなに?」
 「ポテトよりは、ね」
 互いに笑いあい、それから少女は肩をすくめる。
 「確かにボクは夜照の生徒だったけど、中等部の方。高等部じゃあなくて外国のハイスクールに通うことになってね」
 「このロンドンじゃなくて?」
 「それはその後」
 随分と転校が多かったようだ。
 「ってことは、僕の知り合いにも、君の友達がいるかもってコトか」
 「まぁ、そうなるねー」
 「天野三九夜先輩って知ってる?」
 「ああ、あの女もうフリー?」
 「いいや、幼馴染の千堂善人先輩と年中ラブラブ」
 「・・・・・・死ねば良いのに」
 「?何か言った?」
 「ああ、何でもない何でもない。そう言えば、ボクの代では一原百合子って先輩が生徒会長だったんだけど―――」
 「いっや現在進行形で生徒会長だよ!?しかも、生徒会にハーレムを作るとか言ってるし!」
 「・・・・・・女しかいない生徒会か。逆に気持ち悪いね」
 「男だらけよりはマシじゃないかな」
 苦笑をしながら会話を続ける。
 思いのほか、夜照学園の話題は盛り上がるようだ。
 それに、掴み所の無い少女からの反応は、やはり予想外で。
 カケルは、少女と話していて楽しかった。
 義務感や思惑とは別に、彼女のことを知りたいと、カケルは思い始めていた。
 だから、
 「そう言えば、君の中等部の友達で高等部に持ち上がったって聞いてる人はいないの?」
 と、カケルは彼女自身の話に移していた。
 「そうだね、バスケ部の例えば葉山正樹って奴とかー・・・・・・」
 「ああ、今でもバスケ部でレギュラーやってる先輩。いかにもムードメーカーって感じの」
 「そうそう。他には・・・・・・」
 少し逡巡する様子を見せてから、少女は言った。
 「御神千里なんて男、知らないよねー」
 その言葉を聞いて、カケルは思った。
 思い出していた。
 いつだか、『誰かの為に力を振るえるバカ』の話をした時のこと。
 『―――なんて、オレとしたことが神の字のコトを随分と持ち上げまくっちまったなぁ。悪ぃ、今のは忘れてくれ』
 そう照れ笑いをする天野に、カケルは逆に聞き返していた。
 『ああ、神の字―――御神千里ってンだ、そのバカの名前。オレの言葉は忘れて欲しーけど、その名前は覚えといて損はねーはずだぜ。言葉通りの大バカで、オレの大恩人だからな』
 と、天野は答えていた。
 だから、その言葉通りカケルは少女にこう答えていた。
 「誰かの為に力を振るって、それを自分の力に出来る人。直接は会ったことは無いけど、そう聞いてるよ」
 その言葉を聞いた少女は、俯いた。
 「いや・・・・・・」
 セミロングの髪に隠れて表情が見えない。
 「そんな『御神千里』は知らない」
 「え・・・・・・でも・・・・・・」
 「知らない。ありえない」
 声の調子は変えず、しかし有無を言わさぬ口調で少女は言った。
 「ひょっとしたら、同姓同名の別人かもしれないねー。聞き間違えたのかも。『三上仙理』とか『南千輪』とかさ」
 そう語る少女の表情は髪に隠れて見えない。
 けれども、その拳はギリギリと握り締められていた。
 血が出そうなほどに強く。
 カケルは、それに対して何も言えなかった。

607ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part2/3 ◆yepl2GEIow:2011/08/20(土) 12:46:14 ID:goQePK2Y
 今回の投下は以上になります。
 『3×3=9』は次回でラスト。
 尤も、2人の物語がそこで終わるかどうか……
 お読みいただき、ありがとうございます。
 それでは、失礼します。

608雌豚のにおい@774人目:2011/08/20(土) 23:30:23 ID:n1kh7LUc
GJ!!

609雌豚のにおい@774人目:2011/08/21(日) 11:58:36 ID:yc1xbL/o
>>607
乙です

610雌豚のにおい@774人目:2011/08/21(日) 18:49:54 ID:Mg9nBPBo
GJ!

611雌豚のにおい@774人目:2011/08/22(月) 11:45:22 ID:fW3FHtq6
GJ!
このヒロインはぞくぞく来る感じで
魅力的ですね

612564:2011/08/24(水) 00:21:18 ID:zftf9d.Q
GJ お疲れ様です
今回はしっとりテイストで進行してますね
前作がバトル物だっただけに今後の展開がどうなるか楽しみです
予想が当たるかどうか…

返信ありがとうございました
やはりというか予想通りだったので少しうれしいですね
私の場合はアメリカン忍者と聞くと世界忍者の方を思い浮かべます
世代ではケイン・コスギの方ですがw

>〜カードとか楽器とかで闘うヘンな顔した〜
楽器は例のアレとして、カードか……3つあるけどどれだろう?

613ヤンデル生活 第6話 夜明け前。:2011/08/24(水) 20:54:33 ID:b9o/GC1g
 お久しぶりです。ヤンデル生活第6話投下いたします。

その日もいつもと変わらない日だった。
朝起きて、妹と登校して、勉強して、昼飯食って、勉強して帰るはずだったんだが・・・。

「赤木君・・・。あの、その。学校案内してほしいんだけど。」

そうだった。昨日約束したっけ。
ああでも、なんかぎこちない。
そりゃ、何年も話してないし、ましてや誰かさんのせいで女子と話すことなんて滅多になかったわけで。
ああ、なんかみつめ合っちまった。
恥ずかしい。
さりげなく、俺の袖をつかんでいるところもなんか可愛くて照れる。
俺はぎこちなく頭をかきながら言った。

「あ、ああ。そうだな。」

とりあえず、俺は自分の恥ずかしさを埋めようと学校案内に必死になった。

「お兄ちゃん・・・。」

後ろから誰かが追いかけてきているのにも気づかずに・・・。

一通り案内し終わったころ、比真理からふと、言葉が漏れた。

「ここが、にぃにがいくはずだった高校。」

比真理は悲しそうにそういった。
比真理はまだ自分の罪に気付いたばかりなんだ。

「あの・・・。」

不意に比真理が俺の方に向き直って何か言いたそうに顔を赤らめる。

「どうしたんだ?」

比真理はもどかしそうに俺の袖をつかみながら、決心したように俺の方に顔を向けるとこう言った。

「赤木さんのこと・・・あかにぃって呼んでもいいですか?」


彼女に悪気はない。
只の俺の妄想なんだ。けど、俺は悪い予感を感じずにはいられなかった。
そう、嫌な予感が俺を支配する感覚だ。
俺はどう答えようか迷った。
ここでいいといえばいいのか、それとも・・・。
俺の偏見だよな?
自分の兄を殺した妹が俺のことをにぃにと呼ぼうとしてるなんて。
いや、偏見だ。
俺は間違った見方をしてしまっている。
そうだ・・・きっと・・・。
俺もつかさと同じ運命をたどるかもなんて、不謹慎すぎる。

すると、比真理が俺の焦りを感じ取ったのか慌てて違うのといった。

「赤木さんのままだったらよそよそしいから、なんて呼べばいいかなんて考えてて・・・。」

「だけど、こんな呼び方しか思いつかなくて。」

そうか。そうだったんだ。
俺は冷や汗をぬぐった。
そして、急にそんなことを考えた自分が恥ずかしくなった。
なんなんだ俺は。

「そうか。いいよ。それじゃあ、俺も比真理って呼んでいいかな?」

「うん!」

彼女の笑顔は俺が見たどの女性よりもかわいい笑顔に見えた。


・・・




「お兄ちゃん・・・。誰?その人。」

「ダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレ・・・。」

「お兄ちゃんにとっての何ナノ。」

「ドウシテ比真理がお兄ちゃんと・・・なんでっ!!」

「どうしてどうしてどうして・・・。」

「どうしたらいいの・・・。」

「殺した方がいいかな?いいよね?いいよね?いいんだよね?もちろんいいよ。そうだよ。お兄ちゃんに近づくだけで害虫共は罪なの。」

「罪罪罪罪。許せない。私の気持ちしっててお兄ちゃんに近づくなんて許せない。」

「せっかく、二人だけになれると思ってたのにぃっ!」

「ころころぶっころころころころころころころころころころころころすっ!」

「おにおにおにお兄ちゃんも・・・あんな顔して・・・お仕置きしないとしないといけないのかな?」

「ふふふ。そうだね。お兄ちゃんの目の前で殺してあげる。」

「そしたら、お兄ちゃんの事も許してあげようかな。ふふふ楽しみしみ。」

「その醜い眼球をお兄ちゃんの目の前でひきずりずりだしてあげる。」

「そのあと、はらわたを引きずり出してお兄ちゃんの目の前にぶちまけるの・・・そしたらきっと失禁するんじゃないかな?あはは!!」


・・・

614ヤンデル生活 第6話 夜明け前。:2011/08/24(水) 21:04:17 ID:b9o/GC1g
放課後、妹の様子がおかしい。さっきからぶつぶつ言ってる。
俺がどうしたって聞いてもなんでもないっていうだけだし。
いったいなんなんだ?
嫌な予感しかしない。嫌な予感が・・・。

「お兄ちゃん。」

急に妹は俺にしゃべりかけてきた。

「ど・・どうした?すず。」

「今日楽しいことでもあった?」

妹の目が怖い。なぜか、異様に虚ろなんだ。
こんな目は今まで・・・。
あれ?
でも、どこかで見たような・・・。どこだ・・・どこ。
俺は気づいた瞬間に血の気が引いた。
その眼は・・・比真理が警察に連行されているときの目とそっくりだったからだ。

「す・・ず・・・。どうしたんだよ。お前らしく・・・。」

「今日楽しいことでもあった?」

妹はそう機械的に繰り返すだけだった。

「いや、別に・・・なにも。」

「今日比真理さんと会ってたでしょ。」

「ああ、あれは比真理に学校を案内してって頼まれたから・・。」

「そう、ずいぶん楽しそうだったけど。」

「いや、そんなに楽しかったわけじゃ・・・。」

すると視線の先に比真理が見えた。
ああ!なんて言うタイミングだ。
比真理は俺に話しかけようとしていたらしく、悲しい顔をして走って行った。

「ひ・・比真理!!ちょっとまってく・・・。」

「お兄ちゃん。」

妹の冷たい視線が突き刺さる。

「すず・・・。」

「あんまりおいたが過ぎると、監禁しなくちゃいけなくなるからね?」

妹は静かにそういった俺は恐怖でしばらく、体が動かなかった。
俺は妹に殺されるどころか、妹によって運命を決められてしまったんだ。
そう気づいたのはいつごろだろうか。

・・・

今日の夕飯は変な味がする。そう、何か変だ。
でも、食べたことのあるような・・・。
鉄・・・の味?

「お兄ちゃん!おいしっ?今日はね。腕によりをかけて作ったんだよ!」

「う・・うん。うまいよ。」

よりによって、こんな時に両親は結婚記念だかなんだかで、しばらく旅行いっちゃうし・・・。
なんでこんな時に。

「お兄ちゃん、口ついてるよっ!」

そういって妹は俺の口元に手を伸ばした。妹の手は絆創膏まみれだった。
妹は指をなめながら、妖艶な顔で不気味な笑いながら俺の方を見た。
俺は苦笑いするしかなかった。
夜、俺は比真理にあやまらないとと思い電話をしようとした。
妹が寝ているか部屋にきてそっと耳をドアに近づける。
物音はない。いや、静かすぎる。
そっと、俺はドアを開ける。妹の姿はない。
嫌な予感がする。玄関には靴がない。
まさか・・・な。俺の額に冷たい汗が流れる。
俺は急いで、比真理に電話をかけた。
ぷるると音が流れる。なかなか比真理は出てくれない。
嘘だろ。
そんなこと・・。あるわけが・・・。頭の中で嫌な予感だけがよぎる。
すると、電話がつながった。

「もしもし?あかにぃさん?」

比真理は生きていた。
よかった、俺の考えすぎか。

「ごめんなさい。お風呂にはいってて電話取れなかった。」

「そうか。よかった。」

「へ?なに?」

「ううん。なんでもない。今日俺、酷いこと言ったから謝ろうと思ってさ。」

「いえ、いいんです。私は人殺しですから。」

さびしそうに比真理はそういった。

「自分を卑下するなよ。それにあれは事故みたいなものじゃないか。」

そうだ。あれはすれ違いが起こしてしまった事故なんだ・・・。

「ありがとう・・・あかにぃ。」

妹は比真理の家にはいかなかった。
よくよく、考えてみれば妹は比真理の家の住所を知らないんだ。いけるはずがない。
じゃあ、比真理はどこに?
俺は強い衝撃を感じた。
その瞬間、体の感覚が無くなる。俺はそのまま崩れるように倒れた。
俺の後ろには妹がいた。
手にはスタンガンを持っていた。
一体どこで手に入れたんだそんなもの。
妹は不気味に笑いながら俺を見下ろしていた。

615ヤンデル生活 第6話 夜明け前。:2011/08/24(水) 21:12:16 ID:b9o/GC1g
俺の意識は遠のいて行った。

「もしもし?あかにぃ?あか・・」

ぴっ・・・

「いったでしょ?監禁しなくちゃいけなくなるって。」

目を覚ますと、俺はベッドに両足、両手をしばられていた。妹はその横で俺のそばに寄り添っていた。

「お兄ちゃん、おはよ。」

そう妹は言うと、俺にディープキスをしてきた。

「最初っからこうすればよかったんだ。これで、お兄ちゃんはずっと私のだ。」

妹は俺にのしかかってさらに強くキスしようとする。

「な・・なんでこんなことを。」

そういうと妹は動きを止めた。

「お兄ちゃんのせいだよ。お兄ちゃんがすずがいるのにほかの女ばっかり目に行くから。」

「お兄ちゃんが悪いんだから。」

そういって、妹は俺の服を脱がそうとしてきた。

「おいっ!なにするんだよ。」

妹は当然のように答えた。

「何って・・子作りだよ?」

「はっ・・?」

「安心して?処女はお兄ちゃんのためにとってあるから。」

「そういう問題じゃないだろ!」

「問題?なにが問題なの?」

そういって、坦々と俺の服を脱がしていく。
となりで俺の携帯がなっている。だけど、縛られたままの手には届かない。
時間はわからなかいけど、カーテンの隙間からは淡い太陽の光が漏れている。
俺は必死に脱がされないように抵抗したが無意味なのは自分が一番わかってる。妹も服を脱ぎだした。
このまま俺は妹と・・・。一生妹に監禁されながら生きるのか・・・ピンポーン。

「すいませーん。九鷹君いますか?」

この声はたしか・・柴田まりさん!!俺は大声を出そうとしたが妹が俺の口を布で縛られた。

「どうしてっ!!学校にはお兄ちゃんが風邪っていってあるのにっ!」

妹は慌てたように部屋を飛び出した。

「すいませ〜ん。九鷹君いませんか〜?」

「すいません。お兄ちゃんは風邪で休むと学校には伝えたはずですが。」

「あなたは確か、九鷹君の・・・。」

「妹の赤木すずです。」

「そうですか。あの、九鷹君に合わせてもらえませんか?」

「そうしてですか?お兄ちゃんは今、風邪で辛いんです。そっとしてください。」

「すずさんでしたっけ、あなたはなぜ休まれてるんですか?」

「私も風邪を引いたんです。」

「それにしては元気ですけど。」

「そう見えるだけです。今日は帰ってください。」

「九鷹君が風邪って、嘘・・ですよね?」

「は?」

「比真理さんがいってました。昨日途中で電話が切れたって。あなた、九鷹君に何かしたんじゃありませんか?」

「勝手な言いがかりです。帰ってください。」

「なら・・合わせてください!九鷹くんに。」

「嫌です。絶対に。」

「九鷹君っ!!九鷹君っ!!返事して!」

「お兄ちゃんは寝てるんです!いい加減にしてください!」

声が聞こえる。比真理は追い返すのに手間取っているらしい。今の内に、手を・・・ちくしょう。固い。
でも、なんとかもうちょい。もうちょい。よしっ!取れた!俺は口に縛られた紐をとると。大声で叫んだ。

「柴田!俺はここだ!助けてくれ!!」

「九鷹君大丈夫!?」

「ちょっと、勝手に入らないでください!!」

「だれにも渡さない!お兄ちゃんは渡さないのっ!!」

「すずさんどうして・・包丁を・・・。」

「近寄らないで・・・。来たら刺すから。」

「あんたたちみたいな害虫共にはお兄ちゃんは渡せないのっ!!」

「すずさん・・落ち着いて。」

一体何が起きてるんだ?
ものすごい大声で怒鳴りあっていた二人が急に静かになった。
俺は必死に手にきつく縛られた布をとって二人の方に向かった。
そこには、包丁を持った妹と柴田まりがいた。
妹はものすごい形相で柴田さんのことをにらんでいる。
柴田さんは包丁を見ながら恐る恐る後ずさりしている。

616ヤンデル生活 第6話 夜明け前。:2011/08/24(水) 21:13:28 ID:b9o/GC1g
「やめろ!すずっ!」

俺はすかさず柴田さんの前に立つ。

「お兄ちゃんどいて!害虫は駆除しなきゃいけないの。」

「もうやめろ!俺はお前のことを兄弟以外に見れないし、人殺しになってほしくない!」

「どうして・・・。どうして・・・。そんなお兄ちゃん嘘だ!私が知ってるお兄ちゃんじゃないっ!」

「お兄ちゃんはいったもんっ!!大きくなったら結婚してくれるって言ったもんっ!!」

「お前はお兄ちゃんの皮をかぶった偽物だぁぁぁっ!」

お決まりのパターンですか!?
妹は包丁を前に突き立てながら走ってくる。
避けると柴田さんに・・・。
万事休すか。
俺はとっさに向かってきた妹の包丁を掴んだ。

「うっ・・・。」

「九鷹君・・大丈夫?」

「なんとか・・・。」

手から血が滴り落ちる。
痛い。

「いくらなんでも・・やりすぎだぞすず。」

「お兄ちゃんが・・お兄ちゃんがすずのものにならないからぁぁ!!」

もう一度妹は包丁を構えた。
後ろに、柴田さんがいるとやりずらい。

「逃げろ。柴田さん。」

「でも・・・。」

「いいからはやく!」

柴田さんは逃げた。
これでいいんだ。
後は俺の技量しだい・・か。

「おぉぉにぃちゃぁぁぁんんんんっ!!」

妹はものすごいスピードで包丁を振り下ろす。
そして、武士もびっくりの動きで俺に襲い掛かってきた。
いつまでかわせるかわからない。
なおも妹の斬撃は止まない。

「すずっ!・・・話を・・聞けっ!」

「うわぁぁぁぁっ!!」

上から降りおろし、横から・・・。
そして、次は下・・。

どすっ。

ん?
包丁が見えない。
「あああ・・ああ・・・・ご・・ごめんなさ・・・。」

俺の目の前には徐々に赤くなってゆく服に半分ほど隠れた包丁が見えた。
うそだろ・・・。
俺は膝から崩れ落ちた。
まさか・・これって・・・。
そん・・な・・・。
やっ・・・と・・・
これ・・・か・・・
・・・ら・・・・
・・・・い・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
目の前が暗闇で染まってゆく。

617ヤンデル生活 第6話 夜明け前。:2011/08/24(水) 21:15:45 ID:b9o/GC1g
 第6話投下終了です。やっぱり続けて話を作るのって大変ですね。でも、あきらめずに続けていきたいと思います!

618雌豚のにおい@774人目:2011/08/24(水) 21:27:17 ID:cQG.Ngd.
GJ!!

619雌豚のにおい@774人目:2011/08/24(水) 23:00:39 ID:.H8LbF4k
 GJです。
 兄貴詰んじゃったか……?
 しかし、すずって何気に戦闘力が高い娘みたいですね。それが裏目に出た感じですけど。

620風見 ◆uXa/.w6006:2011/08/25(木) 00:36:32 ID:0OvYkyHI
お久しぶりです。

新作を書いたので投下させていただきます。

621名物桜で待ち合わせ 序章:2011/08/25(木) 00:37:33 ID:0OvYkyHI

 季節は冬を過ぎ、各地で桜が咲き乱れていた。
 桜が咲けばとあるイベントが開催され、たくさんの人たちが笑顔で酒を飲み交わす。

 しかし、そんなイベントがある日の朝。一人の青年の顔は暗かった。

――――――――――

「新入社員の洗礼とは言え・・・辛いなぁ・・・。」
 早朝の大きな桜の木の下で、青年は思わず呟いた。
 彼の名は三田 一樹。地元の中流企業に就職した新入社員だ。
 この企業は、春になると必ず地元の大きな公園で花見をすることになっている。一樹は上司の命令で、花見の場所取りを任されてしまったのだ。
「でもやっぱりここじゃないとな。」
 一樹は桜の木を見上げた。この公園で一番大きく、一番綺麗な桜の木だ。この公園が「桜の木公園」と呼ばれている由来は、テレビなどでも数回取り上げられているこの大きな桜の木だろう。

 一樹は桜を見上げるのをやめて、少しうつむいた。
「あいつ・・・どうしてるかな・・・。」

 一樹は今でも忘れていない。この桜の木で交わした約束を・・・。

622名物桜で待ち合わせ 序章:2011/08/25(木) 00:38:11 ID:0OvYkyHI

――――――――――

「やくそくするよ!おれ、おとなになったらゆうちゃんとけっこんする!」
「ほんとう!?ぜったいだよ!やくそくだよ!」

 小学校の時に幼馴染み、秋本 優子と交わした、名物桜での約束だ。
 中学校、高校、大学まで一緒だった二人だった。
 しかし、一樹が結婚できる歳になった誕生日の日、一樹は故郷を離れてしまった・・・。

――――――――――

 この事を思い浮かべた瞬間、どうしようもない罪悪感が一樹を覆った。
 約束を守らず、俺は故郷を離れた。なんの連絡もなしに・・・。

「愛想つかせたかな・・・。」

 呟いた瞬間、自分を包む罪悪感が更に膨れ上がった。
 故郷を離れはしたが、夢を追い続けることを諦め故郷に逃げ帰ってきた俺なんか、もう彼女には魅力的には映らないだろうな・・・。



「どうしたんだい?新人君!」
 一樹の後ろから女性の声がした。振り向いた先にいたのは、黒いロングヘアーの女性だった。
「中川さん、どうして来たんですか?」
 中川 愛は一樹の職場の先輩だ。仕事もでき、料理もうまく、スタイル抜群で面倒見のいい美人キャリアウーマンだ。
「どうしたもこうしたも、一樹君が心配だったから来てしまったよ。」
 愛は一樹に近づいて頭を撫でた。
「子供扱いしないでくださいよ。僕はもう21ですよ?」
「私から見たらまだまだ子供だ。子供を教育して何が悪い?」
 あやすように頭を撫でられる一樹。
「なんならおっぱい吸うか?母乳は出ないが」
「い!いやいやいやいや!結構です!」
 首を横に激しく振る一樹。
「ハハハ!吸いたくなったら言ってくれ!いつでも待ってるぞ。」

 笑いながら、敷いたブルーシートの上に座る愛。
 まだドキドキしている心を落ち着かせようとする一樹。



ズキッ!



 一瞬、全身に悪寒が走った。

623名物桜で待ち合わせ 序章:2011/08/25(木) 00:39:11 ID:0OvYkyHI

 女性は背を木に預け、震える心を抑えようとしていた。
 女性はただひたすらに待っていた。過去に約束を交わした人をこの場所で。
 約束を交わした人は一度遠くに行ってしまったが、女性は何も慌てる様子はなかった。
 何故ならば、彼女には確信があったのだ。
 彼は必ず私の元に帰ってくる!世界の果てに行こうが、彼は私を求めて帰ってくる!彼と私は約束したのだ!永遠の愛を!

 しかし、彼女の目の前にいた人は、私を待ってなどいなかった。

「何で?私は一樹の恋人・・・一樹の結婚相手・・・一樹の妻・・・一樹の運命の人・・・。」

 一樹は私だけのものなのに・・・。何で一樹は私を待っていないの?
 帰ってきたときだって私は空港まで迎えにいった。会社にだって毎日行ってる。電話だって毎日かけてる。メールもしてる。一樹がいなくなってから戻ってくるまで、他の男との関係を全て断ち切った。

 まさか・・・私の尽くしている度合いが足りないのか?そうだ!そうに違いない!もっと自分は一樹を待っていたと言うことをアピールしなきゃ!
 一樹も一樹だ!きっと私がアピールするのを待っているんだ!そしてアピールしてきた頃合いを見計らって告白してくれんだ!

 そうと決まれば!と女性は一樹がいる反対側の方向に行こうとした。
 あくまでも偶然を装ってだ・・・。



「何だ君?私の胸がそんなに見たいのか?」
「いや・・・自然と目が行くと言いますか・・・。」
「堂々と私に見せてと言えば見せるぞ?ほら。」
「うわぁ!服を脱ごうとしないでください!」
「君は純情だな。女性と関係を持っていないわけではなかろうに」
「いや・・・彼女はいましたが童貞です。」



いました?



 一樹?私はここにいるよ?私はもう一樹と恋人じゃないの?

「なんだなんだ!そんなことなら言ってくれれば、私が女の体について身をもってわからせてあげるのに。」
「いえ・・・結構です。」



 あの女!まさか一樹を口説いているな!一樹が困っているじゃないか!私の一樹をたぶらかしているのか!
 一樹も一樹だ!あの女の悲しまないように彼女はいないと嘘をついたんだ!

 あいつは一樹と私の間に飛び回っている害虫だ!そんな奴は私が



排除してやる!



 彼女は名物桜を背に公園を出ていった。
 道行く人は彼女の笑顔を見て、春のウキウキ感を感じてしまうだろう。

 しかし、彼女が浮かべる笑顔に光の一筋すら輝いていなかった・・・。

624風見 ◆uXa/.w6006:2011/08/25(木) 00:40:06 ID:0OvYkyHI
投下終了です。

読んでいただければ幸いです。

625雌豚のにおい@774人目:2011/08/25(木) 00:42:53 ID:4kGeSPXE
あー、一応gjしておくね

NTR・レイプあるなら、注意書きしてよ? 「忘れてました」とかやめて

626雌豚のにおい@774人目:2011/08/25(木) 05:48:18 ID:PP00czgU
>>624
GJ

627<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

628<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

629雌豚のにおい@774人目:2011/08/25(木) 09:30:13 ID:ughQ.f6A
GJ

630雌豚のにおい@774人目:2011/08/25(木) 10:20:27 ID:n9au5TrA
すごく良かったです!NTRやレイプには十分注意してもらえればすごくいい作品になると思います!

とてもGJだと思います!

631雌豚のにおい@774人目:2011/08/25(木) 10:22:11 ID:xO8NFPIk
まぁ、荒らしてるのは一人だけどね

632雌豚のにおい@774人目:2011/08/25(木) 17:43:10 ID:B086hDu6
>>624
乙です

633雌豚のにおい@774人目:2011/08/25(木) 18:58:38 ID:cobqqYwE
風見氏、乙! 荒らしに負けるなよ。

634雌豚のにおい@774人目:2011/08/25(木) 19:21:33 ID:uGE1Sjto
>>624
 GJです。
 のっけからヤンデレ展開の匂いがプンプンして良いですねー。

635ヤンデレの娘さん 観点の巻(男子) ◆yepl2GEIow:2011/08/25(木) 20:00:57 ID:uGE1Sjto
 こんばんは、今回は本編の方を投下させていただきます。
 今回は、少々短めかもしれませんが。
 この後デカいのが来る予定なので、そちらでご容赦をば。

636ヤンデレの娘さん 観点の巻(男子) ◆yepl2GEIow:2011/08/25(木) 20:01:15 ID:uGE1Sjto
 『人は皆、それぞれの…カンテン…に従って生きている』
 「寒天ですか?」
 『観点だ』
 俺からのお約束のボケにツッコミを入れてくれる月日さん。
 俺こと御神千里と、緋月月日さんとの、ある日の通話でのことである。
 『例えば、君のような一般市民代表は、今の日常が概ね変わることなく続いて行くと思う、という…カンテン…に従っている』
 「まー、非一般人にはそうそう持ちようが無い観点ですよね」
 『しかし、ソレは本当に1人残らず誰しも等しく同じく…キョウユウ…されるものなのかな?』
 「と、言いますと?」
 『一般市民と言っても、それぞれがそれぞれで別人別固体だ。個性と言えば聞こえは良いが、考え方、物の見方…カンテン…は絶望的に異なる』
 「ああ、雑煮の中身って意外と地域家庭によって違うとかそういう話ですか?」
 『微妙に違うような…まぁ、…ダイタイ…あってる』
 そこで、月日さんは言葉を切り、続ける。
 『人と人とは…チガウ…。違うが故に分かりあえない、という…ハナシ…さ』
 「まぁ、現実にはじーえぬ粒子とか無いですからねぇ」
 『あったとしても…分カリアエル…かは分からないけどね』
 「アレって普通の人をテレパシー使いに変えるだけですし」
 『そんなことはともかく』
 「はい、脱線しましたのでともかく」
 『…ソレ…を意外と忘れがちなんじゃぁ無いか、ということだよ』
 人と人とは、分かりあえないということを。
 「それは、三日との関係で、ってことですか?」
 『…ソレ…以外でも、だよ』
 と、月日さんはシニカルに言った。
 『当り前の顔をして談笑していても、その相手とはどうしようもない断絶がある。それを忘れると、致命的な…ジャクテン…になる』
 「あー、カレーとかお雑煮の味付けが家庭によって違ったりとかですね」
 『そうして…分カリアエナイ…ことを認識していない。その弱点を突いて私が壊したのがレイちゃんだ』
 俺の軽口をスルーして、月日さんは言った。
 「……はい?」
 『そう。私が壊した』
 あっさりとした風を装ってはいるが、その言葉にはどこか懺悔のような響きがあった。
 「壊したって……。詳しくは存じませんが、それこそ観点の違いというかすれ違いというか……」
 『…イイヤ…間違い無くレイちゃんの心を壊したのは私だよ』
 飄々とした、しかしどこか反論を許さない、立ち入ることを許さない口調で月日さんは断じた。
 『そう言う意味じゃぁ、レイちゃんが行った全ての行動の責任は私にある。だから、君は私を怨もうが憎もうが好きにするが良いさ』
 独特の節回しが無いのは、言い間違いでは無いだろう。
 「別に、そんな風に思っちゃいませんよ」
 『…ソウ…かい?』
 「ええ、それこそ寒天の違いって奴です」
 『そう思いたいなら…ソウ…思えば良いさ』
 フゥ、とため息をつきながら、月日さんは言った。
 「まぁ、アレですね。せいぜい月日さんみたいな人に自分の心を壊されないようには注意しますよ。ご忠告通りに」
 『別に…ソウイウ…ことは言って無いけど』
 「いやいやいや」
 そんな具合に、俺達の通話は終わった。
 零日さんの心持が、月日さんのせいで壊されてしまったのかどうかは分からない。
 それこそ、観点の問題だ。
 きっと、彼女の心を壊してしまったという意識は、その罪の意識は月日さんのもので。
 月日さんはそれを一生抱え続けることを望んでいるのだろう。
 こればかりは、俺のような若造にはどうしようもないし、どうしていいのかも分からない。
 「それにしても、観点ね」
 価値のある話を聞いた、とも思う。
 価値のあることを教えてくれた、とも思う。
 緋月家、傾向と対策。
 緋月家のメンバーは、例え悪ぶっていても良い人たちで揃っている。
 要はヤンデレでも、ツンデレなのだ。

637ヤンデレの娘さん 観点の巻(男子) ◆yepl2GEIow:2011/08/25(木) 20:02:07 ID:uGE1Sjto
 そんなやり取りとは関係なく数日後。
 「お前、ぶっちゃけ緋月のドコが好きなわけ?」
 「ブ!」
 その日の午後、葉山正樹の口に出された言葉に、俺は飲み物をむせた。
 ある休日、2人で映画を見に行く道すがらである。
 「いや、何でそんなこと今更急に聞くわけ?」
 ゲホゲホと咳き込みながら、俺は言った。
 「いやー、今まで聞こうと思って聞けなかったからなぁ。今までは緋月がいたし」
 今日は三日は明石と御用事。
 宿題の類は当に終え(三日と一緒にやると効率がダンチなのだ)、バイトなどがあるわけでも無い俺は非常に暇だった。
 ならば、と俺は暇つぶしに葉山を誘ったわけである。
 ちなみに、三日は明石との用事を取るか、俺と一緒にいるか、死にそうな勢いで悩んだが、
 『どうでも良いけど俺は友達を大事にする女の子とか嫌いじゃないな、いや一般論だけど』
 という俺の独り言で、三日は明石の家に直行した。
 閑話休題
 「好きとか嫌いとかさ、ストレートに言われても困るって」
 「でも、お前ら付き合ってるんだろ、俺的には不本意だがよ」
 本気で不本意そうな葉山。
 「そりゃ、向こうから頼まれたしね」
 「それだけでくっつかねーだろ、お前なら特に」
 随分と買い被られたものだ。
 「まぁ、マジな願いにはマジに答える主義ではあるけどね。それが相手の意に沿わないとしても」
 「で、緋月の場合は意に沿ったワケだ。どういうわけか」
 葉山の言うとおり、本気で三日が俺のタイプで無かったらキッパリ断っていたと思う。アイツのためにも。
 お情けで付き合いだしても、お互い不幸になるだけだ。
 「それが納得いかないと?」
 「そう言う事だ」
 「九重のこととは無関係に?」
 「そのネタはもうやったからな」
 九重も、自分がネタ呼ばわりされる日が来るとは思わなかっただろう。
 「しっかし、好きなところねぇ・・・・・・」
 「嫌いなところからでも良いぞ。むしろそっちからの方が」
 何というネガティブキャンペーン。
 地獄兄弟が大挙して押し寄せそうだった。
 「嫌いなところねぇ。時々、って言うか結構俺に何も言わないで動く所とか?ソレぐらいしか思い浮かばないや」
 結構、勝手に追い詰められて勝手に暴走するタイプなのだ、三日の奴は。
 前に、料理部の後輩に鉈持って詰め寄ってたしなぁ。自爆同然にことは収まったけど。
 「いや、他にもあるだろ。夜な夜な尾けられてて怖い、とか、いつも見られてる気がする、とか、嫉妬深くてヤバい、とか」
 そう言えば、葉山は三日のスニーキングにいち早く気づいてた(それで被害を受けた)んだっけか。
 「そこいらはそんなに気にならないなぁ。まぁ、ヘタな所を見せて嫌われるのは嫌だけど」
 三日も生身の女の子である。
 俺の嫌いなところの一つや二つはあるだるし、幻滅することだってあるだろう。
 むしろ、それが一番怖い。
 「フツー気にするところだろ。明らかにイジョーじゃねぇか」
 「たかだか、それ位の異常性に目くじら立ててもねぇ」
 生徒会メンバーを始め、エッジの効いた女子は見慣れてるし。
 「それが分かんねぇ。って言うか、それが一番ヤバいんじゃねぇの?」
 結構マジメな顔で、葉山は言った。
 今回は随分しつこい葉山だった。

638ヤンデレの娘さん 観点の巻(男子) ◆yepl2GEIow:2011/08/25(木) 20:03:47 ID:uGE1Sjto
 「百歩譲ってみかみんに実害が無いとしよう、今現在は。だがよ、この先もそうとは限らねーだろ」
 「それが一番心配なわけだ、はやまんとしては」
 ようやく得心がいった。
 「まーな。親友の隣にバクダンが転がってると思うと、おちおち夜も眠れやしねぇ」
 「そこは、見解の相違って奴だねー」
 まじめくさった顔を作り、俺は言った。
 「アイツはただ、恋に必死なだけの女の子だよ。爆弾なんかじゃない」
 「とてもそうは思えねぇけどなぁ・・・・・・」
 渋い顔をする葉山。
 「どれほど不安や嫉妬や怒りや悲しみに駆られても、例え心が病もうとも、恋をすることをやめない。そう言う奴だよ、アイツは。そう言うのって―――」
 「ヤバいよ」
 と、俺の言葉を遮って、葉山は言った。
 「どんなになっても、ンな風に手前の意思を押し通そうとするエネルギーが、ほんの少し矛先がズレたら、本気でヤバいことになる。そう言う想いって、むしろ―――怖いよ」
 本当に真剣な顔で、葉山は言った。
 「怖い、ね。まぁ、それぐらいの方が相手する甲斐があるって言うか」
 「お前も、怖いよ」
 はっきりと、葉山は言った。
 「いっくら中等部時代に滅茶苦茶な連中を相手してきたからって、いや相手してきたのに、未だにそう言う滅茶な連中を受け入れちまう」
 そう語る葉山の頬に滴る汗は、気温のせいではないだろう。
 「それは怖いしヤバいし―――危うい」
 自分自身をヤバくするくらいに、と葉山は言った。
 「怖くてヤバくて危うい、ね。じゃ、はやまん、そろそろ俺と友達止めとく?俺らのとばっちり受ける前にさ」
 「バカ言うな!今更、ハイさようなら、なんてなってたまるかよ。これでもお前のコト結構好きだしよぉ」
 「ウン、俺も同じ」
 静かに俺は言った。
 「はやまんのことも好きだし、誰かの危うさも、自分の危うさも、みんな好きなものだから。だからみんな自分で背負ってく。本気でヤバくなったら、本気で止める」
 そう言って笑った。
 「だから、そんな心配しないでよー」
 「ゼンブ分かってんじゃねぇか」
 やれやれだぜ、と嘆息する葉山。
 「けどよ、俺の考えは変わんねーぜ。緋月みてーな奴はヤバいと思うし、奴がマジでヤバくなったらマジでお前を引き離す」
 「ン、覚えとく」
 そう答え、俺達は映画館に入って行く。
 「そーいや、何て名前だっけか?今日観る映画」
 「ええっと、『ショーグン・デスティニー:AtoZ 誕生!オール十神勇士大戦』だねー」
 「名前からしてキワモノ臭がスゲェな」
 「天野のお勧めなら大丈夫じゃない?駄作なら駄作ってハッキリ言うタイプだし」
 「まぁ、そーだな。楽しみなような怖いような」
 「その時は、天野との話のタネにすれば良くない?『駄作じゃないの!』って」
 そう言って、笑いながら劇場の列に揃って並ぶ俺たち。
 その時は気付かなかったけれど、俺は後に知ることになる。
 危うさに対して背負い込むつもりの俺と、危うさに対して拒絶するつもりの葉山。
 その観点の違いがもたらすモノを。







 おまけ
 後日
 「・・・千里くん。・・・今度から何をするにも、千里くんに逐一報告した方がよろしいのでしょうか?」
 「ああ、いやそこまでは言わないけど。って言うか、何でその話お前が知ってるわけ?」
 「………乙女の秘密です」

639ヤンデレの娘さん 観点の巻(男子) ◆yepl2GEIow:2011/08/25(木) 20:04:48 ID:uGE1Sjto
 男子編は以上になります。
 お読みいただきありがとうございました。
 女子編も、勿論……

640雌豚のにおい@774人目:2011/08/25(木) 20:09:51 ID:4kGeSPXE
GJ!!
女子編wktk

641<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

642<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

643<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

644雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 00:12:48 ID:WcaJG9Hg
短めですが長編を書いてみました、初めてですが投稿させていただきます
タイトルは「サク坊とヤンデレな女の子達」です

645雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 00:13:53 ID:WcaJG9Hg
髪。それは僕が女性の中でもっとも重んじるポイントだ
長い髪短い髪金色の髪茶色の髪組み合わせは無限大だ
なかでも僕が大好きなのは黒髪で前髪はぱっつんと揃え、後ろの髪は肩より少し長めの髪
好きすぎて絵で書いてにやにやしたり、脳内彼女として日夜僕といちゃいちゃするなど、それはもう普通の人は引くレベルである


しかし、しかしだ
決して僕はそんな女の子はいないと思っていたんだ、だからこそ現実的に生きてきた。彼女もいた、ふられてしまったが。
結構悲しくてないたりしたが、そんな落ち込んでいた出会いと別れの季節。僕は全てを吹き飛ばすかのような美しさを持った天使と出会った

まさに僕の理想の女の子。やべぇ、見た瞬間よだれが出てしまった。

彼女の名前は綾辻フミカ、性格は穏やかで僕にもとろけてしまうような笑顔を向けてくれる
そんな僕は彼女に対してアプローチをしかけていて、まぁ結構仲がいい感じになってきた。

このままいけば、そう…幸いうちのクラスにはレベルの高い女子が多くて、綾辻フミカを好きなのは僕くらいだと思っている、彼女の美しさについて語り合う友達がいないのは心おしい。でもそれでも、うれしいと思っている僕が

646雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 00:16:48 ID:WcaJG9Hg
「ちょっと!サク!聞いてるのかしら」
突然大きな声が聞こえてきて、僕は思わず妄想の世界から目覚めてしまった
まぁ、今は休み時間だからしかたないのだろうけど

「まったく、サクはワタクシの事を無視するのが好きみたいね?」
今僕に話しかけてくる人は、このクラスで最もレベルの高い件の女子、天下リリカ、祖父が外国人でクォーター、大金持ちの完璧な女の子だ。

「やぁアリカ、今日もカワイイ髪型だね…そのドリルツインテール、凄い似合ってるよ」

そうリリカも好みから一歩引くことになるが満点に近い髪の持ち主だ。
鮮やかな金髪にツインテール、これが見事にうずをまいてドリルツインとなっている、何度か触らせてもらっているけど彼女はとても髪を大切にしている。それがとても好ましいし愛おしい。
もしもフミカという存在がいなかったら僕はアリカを好きになっていただろう。


「まぁ!そうやって無視してた事を無かったことにするのね、何を考えていらしたの?教えなさい」

彼女の気の強そうな目が僕の視線と絡み合う。彼女は普段から人の目をあまりみて話そうとはしない。それは彼女の境遇にも関係しているのだが割愛させていただこう。僕はとりあえず彼女からの質問を逃れるごまかしの行動をとる

「あ…」
彼女のドリルツインを優しく触る。これだけで彼女は真っ赤なりんごのように照れてしまい、思考を停止してしまう。
いろいろあって、まぁ彼女は髪を誉められるのをなれてはいないそうなのだ。
彼女と仲が良くなったのも、彼女をアリカと呼び捨てできるのも、彼女が僕を親しみをこめてサクヤではなくサクと呼ぶことも
全部僕が彼女の髪を褒め称えた事から始まったが、それはおいおい話す場面に遭遇するだろうから今はそれだけに留めておく

647雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 00:21:04 ID:WcaJG9Hg
そうしていると、ふと首筋に痛みにも似たチリチリとしたような痒さが走る
その原因を探ろうと振り向くと、件のフミカと目があった
フミカは僕と視線が絡み合うと、それだけで絵になる微笑みをむけてくれた。
やはり彼女は天使、彼女ともっと青春をしたい!僕は改めてそう思った




ただ僕は気付かなかった、彼女の視線は更にその奥にいるリリカに対して静かな怒りが孕んだ視線を向けていたことを
彼女が自学用に持ってきていたノートに書かれていたあるおまじない
そしてリリカが僕に対して向けていた愛欲に満ちた視線、彼女の本当の姿

僕はまだ知らなかったんだ
僕の家電に入っていた留守番からあんなことになるなんて
昔の僕に何か言えるのなら、絶対にこう言っていた
「お前はお前のした事をもう一度見つめ直してみろ」と




「伝言が一件あります」

「ねぇ、ウチだけど、中学の時の君の元カノ、桜チエだけど、相談したい事があるから久々に会えない?電話待ってます」

648雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 00:22:49 ID:WcaJG9Hg
以上です。
第二話「ポニーテールに首ったけ、ではなく首狩られ」は三倍5分量になる予定です
ありがとうございました。

649雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 00:26:25 ID:AU9Ueczk
>>648
GJ!!
金持ちのお嬢様+ツインテール+金髪+ツンデレ+ヤンデレ=最強
ポニーテールはもはやターニングポイントすぎるだろ・・・
どんなヤンデレに進化するか楽しみです

650雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 07:49:19 ID:WvgqoHbA
>>624
>>639
>>648
御三方GJだ!!
もうたまらんばい!!!好きだぁー!!!

651雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 08:53:53 ID:hlJV/LKI
高飛車デレは最高ですね!!

652風見 ◆uXa/.w6006:2011/08/26(金) 11:02:37 ID:roUK2mpo
二話投下します。

653名物桜で待ち合わせ 第二話:2011/08/26(金) 11:03:27 ID:roUK2mpo

「おはようございます・・・。」
 二日酔いの頭と戦いながら、一樹は会社に出社した。頭に響く鈍痛は、自然に彼のテンションを低くしていた。

 自分の席についてからも、頭痛がいつまでも頭に響いて止もうとしない。
「新人くーん!」

バフッ!

「うわぁ!」

 不意に一樹の頭が弾力のある感触で包まれた!
「どうしたんだい?朝から顔が暗いよ新人君!」
 後ろから、愛が一樹に抱きついていた。頭の上には、愛自慢の一つである大きな胸が乗っかっていた。ちょっとだけ頭痛が楽になった気がする。
「新人君には暗い顔は似合わないよ。ほら笑顔笑顔!」
 愛は、一樹の顔を強制的に笑顔にしようとしてきた。
「わかりましたわかりました!頭に響くからやめてください!」
 胸が乗っかって気持ちいいのだが、頭を降られたらやっぱり痛い。

「仕事に支障を与えるぐらいだったら早退するんだよ?」
 頭に乗っかっていた胸が離れた。愛の顔は、無邪気な顔からお母さんのようなやさしい笑顔に変わったかと思うと、すぐさま真剣な顔つきで仕事に戻った。
 会社内でも頼れる先輩として人気のある愛は、入社当初から何かと一樹に気を使っている。
 一樹もまんざらでもないのだが、完璧すぎるできた女性と自分が釣り合うのか、と考えてしまい、無意識に拒否しがちになっていた。

「はぁ・・・。」

 思わずため息を漏らす。
 深く考えることをやめ、一樹は仕事に戻った。

654名物桜で待ち合わせ 第二話:2011/08/26(金) 11:04:02 ID:roUK2mpo

「ただいまぁ・・・。」
 仕事を終え、一樹は独り暮らしをしているマンションに帰ってきた。
 頭痛を気にしないために、いつも以上に仕事に没頭していたため、いつも以上に仕事時間が長く感じた。
「あぁ・・・そういえば携帯・・・。」
 昨日の夜に充電し忘れて、画面が真っ暗な携帯に充電器を差し込んで起動する。



♪〜♪〜



「ん?着信・・・50件?メールも・・・75件!?」



♪〜♪〜

 驚いていると、携帯は再び鳴り出し、メールが来たことを伝えた。
「何だこれ?76件全部同じアドレスだ・・・。」
 おそるおそる、新しく来たメールを開いた。

「今からそっちに行くから」



♪〜♪〜

 またメールだ。一樹は震える手でメールを開いた。

「着いた〜♪」



ピンポーン!



「・・・。」
 おそるおそるドアの外を見る。
「・・・・・・・・・優?」
 ドアの前に、優子が立っていた。



「お前、どうして俺の家がわかったんだ?」
「おじさんとおばさんに聞いたんだよ。電話番号とメールアドレスと一緒にね。」
「お前の仕業だったのかよ!怖かったんだからマジでやめてくれよ。」
 ポン!と頭を撫でるように叩く。
「えへへぇ〜!」
 にやける優子。



 それから二人は、軽い雑談を始めた。優子が自分を嫌ってないか不安だった一樹は安堵の表情を浮かべていた。

「じゃあもう帰るね!」
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫!私強いもん!」
 力こぶを見せるようなポーズをとったのち、優子は外に出ていった。

 心配事がなくなったのと、長い時間の雑談で疲れたのか、一樹は急に強い眠気に襲われ、敷いてあった布団に横になってすぐに熟睡してしまった。

655名物桜で待ち合わせ 第二話:2011/08/26(金) 11:04:39 ID:roUK2mpo

「おはようございます!」
 いつも以上に清々しい挨拶で入ってきた一樹に気づく愛。
「今日は元気だな!昨日、良いことでもあったのかい?」
「はい!心配事がなくなりました!」
「うんうん!新人君にはやっぱり笑顔が一番似合うよ。」
 愛は一樹の頭を撫でた。いつもは抵抗している一樹だが、幸せ一杯といった表情をしている一樹に抵抗という言葉は出てこなかった。



 しばらくして、

♪〜♪〜

「ん?メール?」
 携帯を開きメールを確認する。差出人は優子のようだ。

「実は今日、大事な話がしたいから○○条○○丁目の○○通りに来て。」

 一樹はすぐさま返信した。
「何時にいけばいいんだ?ていうかメールとか電話じゃ言えないことなのか?」



 三時間は経っただろうか。未だに返信が来ない。
「まいったな・・・仕方ない!仕事終わりに行ってみるか。」
 さすがに向こうも何時ぐらいに終わるかぐらいは予想しているだろう、と考え、一樹は残っていた仕事に取りかかった。



「ヤバイ!すっかり遅くなっちゃった!」
 時間は10時を回っていた。さすがにこれは予想外だ。思った以上に仕事が長引いたのと、課長が帰り際に自分の仕事を一樹に押し付けたことが原因だ。
 一樹は課長に対する怒りをどこにもぶちまけられず、ただひたすらに目的地に向かって走った。

「この道の先って確か・・・ラブホ街だったはず。」
 道を間違えたか。しかし言われた場所は確かにこの先だ。とりあえず行ってみようと歩を進めていった。
 その時

「おぅ兄ちゃん!金がなくて困ってるんだ!」
「痛い目見たくなかったら財布の中の金を出しな!」
 急にやって来たチンピラ二人組。そして後ろには茶髪の・・・女子高校生がいる。
 ヤバイのに会ってしまったな・・・。
「ほらほら!金だよ金!」
 チンピラの一人が一樹のスーツを掴み、もう一人が鞄をひったくって中を漁る。財布の中まで漁られてしまっている。
「け!こんなんじゃ遊べねぇじゃねぇかよ!」

ドス!

「ぐぅ!」
 腹を殴られた一樹は、その場に倒れる。
「とりあえず札は全部もらっていくか。じゃあな兄ちゃん。」
 財布から札を抜き、そのままいこうとしたとき

「あなたたち!待ちなさい!」
 凛とした声が響く。
 チンピラ達の前で仁王立ちしているのは、会社の先輩の愛だった。
「何だテメェ!調子こいてんじゃねぇよ!」
 チンピラが拳を飛ばす!



ガシ!



 愛はチンピラの拳を手で受けとめ、同時に腹に蹴りをいれた!
「ぐふぅ・・・。」
 チンピラの一人が倒れた。
「この女!」
 もう一人のチンピラがナイフを取りだし、愛に迫る!
「危ない!」



「これでも柔道習ってたのよ。諦めてここから去りなさい!」
 ナイフを上手く交わし、もう一人のチンピラも抑え込む。
「わかった!もうなにもしないから!」
 チンピラは二人して逃げていった。その後を追うかのように、二人の女子高校生も去っていった。



「愛さん!助かりました!」
「新人君も災難だったね。何でこんな危ない所にいるんだい?」
 答えようとした時、愛は一樹の後ろに目をやる。
 後ろにあるのは、この通りで一番大きく、サービスも道具も充実しているラブホテルだった。
 瞬間、愛は瞳を光らせた。



「立ち話もなんだから、とりあえず入りましょう!」

656風見 ◆uXa/.w6006:2011/08/26(金) 11:05:36 ID:roUK2mpo
投下終了です。

本番シーンは簡略化した方がいいでしょうか?

657雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 11:17:19 ID:1kZgdjTE
濃厚なカラミでお願いします

658<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

659風見 ◆uXa/.w6006:2011/08/26(金) 13:25:21 ID:roUK2mpo
GJを無理矢理言わせてるという意見を数多くいただきました。

自分の小説に対するGJコメントは任意でお願いします。

楽しめるような小説を書くために誠心誠意努力いたしますのでよろしくお願いします。

660<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

661雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 13:35:57 ID:nhwj43.U
>>659
わざわざ反応することないのに…

662雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 13:36:33 ID:RwIEf87I
もう作品書くだけでいいよ?

663雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 16:30:00 ID:2Oc/Hukc
>>648
GJ!!
第二話からいきなりボリュームアップにwktk

664雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 18:57:36 ID:MR.CRChk
もういいYO♪やめなYO♪腹立つだけだYO♪空気読めYO♪

665雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 21:00:35 ID:rcML5ZKE
>>648
GJ!愛センパイ、喰う気マンマンじゃないですかw

666ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21:02:03 ID:rcML5ZKE
 こんばんは、昨日に引き続き、観点の巻の女子編を投下させていただきます。
 今回イメージしたのは、最近のアニメDVDによくある『キャラクターコメンタリー』です。
 いや、やってることは盗聴なんですが(笑)
 それでは、投下させていただきます。

667ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21:02:43 ID:rcML5ZKE
 「うなー」
 だらりと自宅のダイニングテーブルの上にジャージ姿の上半身を横たえ、明石朱里はうなった。
 「宿題難しー、だるーい、やりたくなーい」
 寝癖がついたままの姿(ノーメイク)で、だらしなく朱里はうなる。
 彼女の横には数学の問題集とノート。
 その様子を、正面に座る緋月三日が苦笑交じりに見ていた。
 彼女の服装は、地味目のジーンズにシャツ。
 いかにも、家にあったものを適当に組み合わせてきましたと言った風。
 長い髪は後ろで無造作に括っている程度。
 最近、三日は御神千里の父親であるプロのメイクさんのアドバイスを受けて、髪・肌のお手入れやメイクの腕が上達していた。(ただし、校則違反にならない程度)
 平たく言って、かわいさ急上昇中だったのだが、今日はほとんどノーメイク。
 両者ともにいささか女子力の低い服装で、朱里にいたってはだらしのないことこの上無かったが、それを指摘する者はこの場にはいない。
 現在、この家には共働きである朱里の両親がいない上に、男子の目が無いからこそ見せられる姿だった。
 「・・・この辺りは、とっかかりさえ見つかれば、公式を上手く応用していけますよ」
 「そのとっかかりがねー」
 明石朱里は数学が苦手だ。
 日本史のような丸暗記なら圧倒的に強いのだが、数学だけはどうにも苦手だった。
 「・・・他の科目ですと、そんな不得手というわけでも無いのですのに」
 「他の科目って、授業中に先生の言ってたこと覚えてヤマ張れば結構いけるでしょ?あと暗記」
 「・・・あまり、実になるタイプの学習法とは思えませんけど」
 「『作者の心情を述べよ』とか分かっても、将来実になるとか思えないけどねー」
 国語教師が聞いたら怒り出しそうなことを言う朱里。
 ちなみに、三日は現在数学の教師役。
 久々に多量に出された数学の宿題を一緒にやろう、と朱里が三日を誘ったのだ。
 否、頼んだのだ。
 一緒に宿題をやるのではなく、数学の勉強を三日が朱里に教える形になっている。
 「みっきーはすごいよねー、ある意味。マジメに勉強してて、頭良くて」
 「・・・病院暮らしも長かったですから。・・・勉強くらいしかやること無いんです、そういう時」
 その時に身に付けた勉強する習慣づけが、現在の学力に反映されているらしい。
 「何でそれが成績に出ないの、みっきー?」
 朱里に言わせれば、三日はかなり頭が良い。
 教え方も上手だし、勉強の内容をきちんと理解している。
 ヘタな学年上位の成績の持ち主よりも、先生役に適任だった。
 それにも関らず、テストの順位は中ほどを行ったり来たり。
 「・・・テストって緊張するじゃないですか」
 「あー、なるほど」
 朱里にも経験のあることだった。
 無言の教室に、独特のプレッシャー。
 テスト中の、あの独特の雰囲気に三日は押され、実力を発揮できないのだろう。
 「・・・いつ後ろから刺されるかと思うと」
 「それは疑いすぎ」
 だらけた姿勢のまま、朱里はツッコミを入れた。
 幼馴染の影響か、どちらかと言えばツッコミ気質の朱里だった。
 「あー、だるー」
 「・・・だったら、一息入れましょうか」
 だるすぎてヒロインにあるまじき表情になってきた朱里に、三日が提案した。
 「マジ!?」
 「・・・勉強なんてモチベーションが低いまま続けても、あまり身につきませんし。・・・休憩も大切です」
 「やっほーい!」
 三日先生の言葉に諸手を上げる朱里。
 そのまま大きく伸びをする。
 「そー言えば、正樹たちは今頃どうしてるかしらね」
 お茶とお煎餅を用意しながら、朱里は言った。
 完全にリラックスモードだった。
 「・・・確か、千里くんが葉山くんと2人で今日映画を見に行くと仰っていましたが」
 「結婚しちゃえYO!ってくらい仲良いわね。・・・・・・死ねばいいのに」
 最後の一言でドス黒いオーラを纏う朱里。
 「・・・ええっと、あ、そうだ!・・・折角ですから、聞いてみます、二人の様子?」
 「聞いて・・・・・・って声とか拾えるの?ココから?」
 元の表情に戻り、聞き返す朱里。

668ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21:03:21 ID:rcML5ZKE
 「・・・はい、この携帯電話の機能を使えば」
 朱里の言葉に首肯する三日。
 「ケータイかー。アタシ、キライなんだよね、ケータイ」
 「・・・私とは、よく長電話をしますのに」
 「あれはトクベツ」
 お煎餅をバリバリ食べつつ、そんな話をしながら、三日が鞄の中から携帯電話を取り出す。
 説明書を参照しつつ、携帯電話を充電器とスピーカー(本来は携帯オーディオプレイヤー用)に繋げる。
 そして、待ち受け画面でキー入力。
 「・・・9、1、3、と」
 その後、通話ボタンを押す。
 『Standing by…』
 嫌な予感しかしない、くぐもった電子音声が響き、隠し機能(の1つ)、盗聴機能が起動していく。
 「ズイブンと変わった機能があるのね」
 「・・・このような便利機能(ワザ)が計2000個あります」
 「今となってはタイムリーとは言いがたい個数ね」
 『…Complete』
 そうこうしている内に、三日の電話の盗聴機能が、御神千里の携帯電話と繋がる。
 『ところで、はやまん的に、何ていうか・・・・・・、女の子観ってどうなの?』
 千里の声がスピーカーから響く。
 「キター!」
 いきなり葉山の恋愛観に切り込む千里の言葉に朱里は目を輝かせて叫んだ。
 叫んだ勢いで三日の顔におせんべいの食べカスが飛ぶが、そんなものは見えていない。
 ティッシュで顔を拭く三日の横で、朱里はスピーカーに耳を近づける。
 『オンナノコって、みかみん。いきなりどーしたよ』
 『んー、何ていうか、俺には、その、三日がいたりいなかったりするワケじゃん?それで、時々はやまん的に妬ましいというかそんなんじゃないかとか、そういう風に感じちゃったり』
 『ないないないない。あんな女返品しちゃえよって位ない』
 『それじゃあ、他の女子とは?その、そういう関係になりたいとか思ったこと無いの?』
 御神千里の言葉に、スピーカーに更に更に耳を近づける朱里。
 『しょーじき、今の俺は、ボールが友達、ボールが恋人ってカンジかねぇ』
 『サッカー漫画じゃん、ソレ』
 と、千里からツッコミを入れられて笑いあう2人。
 『ま、今はバスケ位しか考えられねぇわ。正直、リアル女子と付き合ってる自分の姿とかマジ想像つかねぇ』
 ちなみに、正樹はスポーツのみならず、漫画からゲームまで趣味は幅広い。
 ・・・・・・中にはゲームはゲームでも18禁のモノまであったりするのだが。(朱里がどうしてそんなことを知っているのかはヒミツです)
 『んじゃぁ、好きなコとかは居ないわけだ、まだ』
 『好きなヤツなら居なくは無いけどな』
 『だれー?』
 「誰よ!」
 千里と唱和する形でスピーカーに向かって叫ぶ朱里。(通話ではないので男子組に声は聞こえません)
 『みかみん』
 「「ちょっとー!?」」
 正樹の一言に、朱里のみならず三日までが叫んだ。
 「やっぱり、ホモ?ホモなのね、2人は!!」
 「・・・葉山くん、私に対するネガティブキャンペーンが凄まじいと思ったら、そういうことだったのですね?」
 室内の黒いオーラが二倍、いや二乗される。
 『あとは九重もだし、バスケ部のみんな、クラスの奴らもだな』
 『友達として、ってことねー』
 スピーカーからもれ出る千里の声は、苦笑だろうか。
 その言葉に、女性陣も安堵のため息を漏らす。
 「正樹、今のはマジで心臓に悪いわよ」
 「・・・正直、今のはかなり・・・・・・」
 ようやく黒いオーラから開放される2人。

669ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21:03:52 ID:rcML5ZKE
 『ま、その中でも俺の名前を最初にあげてくれたのはコーエイというかニンテンドーというか』
 『そら、一番の親友だからな』
 『・・・・・・』
 「照れてんじゃねーわよ」
 正樹の言葉に無言となった千里に、黒オーラが再発する朱里。
 『まぁ、そんなはやまんの攻略難易度を設定するとしたら中の上くらいってところー?』
 『アン、何故そーなる?』
 『恋愛ベクトルに誘導できないとお友達エンドになりそうだから』
 『モーションかけられりゃ、俺も気づくと思うけどなぁ』
 「ぜってー嘘だ」
 「・・・同感です」
 頬をかきながら言ったであろう正樹の言葉にツッコミを入れる女子2人。
 『ハハハハハ・・・・・・』
 女性陣と内心同意見なのだろう。御神千里は苦笑しているようだった。
 『ンじゃあ、そう言うみかみんはどうよ』
 『俺ねぇ・・・・・・』
 考え始める千里に、今度は三日がワクワクした様子でスピーカーに耳を近づける。
 対する朱里は興味なし、という顔をしていた。
 『しょーじき俺さ、去年辺りなら、女の子にとってはすっごいチョロかったと思うよー。ギャルゲーなら攻略難易度下の下くらい』
 『そうかぁ?』
 『寂しがり屋さんだもん、こー見えて』
 冗談めかして、千里は言った。
 『兎じゃああるまいし』
 『寂しくて死ぬトコだったよ?』
 『マジで兎かよ!』
 正樹がツッコミを入れた。
 「・・・私的には、千里くんは大型犬のイメージなんですよね、大人しくて毛がモフモフのグレートピレニーズ辺り」
 「デカいってところには同意」
 朱里としてはデカくて鈍い河馬やら象辺りを押したい所だが。
 ちなみに、三日のイメージは飼い主にじゃれ付く子犬。
 正樹はやんちゃな虎の子。
 自分は―――何だろう?
 蛇辺りが似合いだろうか。
 ずるい女だから。
 「・・・朱里ちゃん?」
 見ると、三日が気遣わしげに朱里の方を見ていた。
 「ああ、何でもない何でもない」
 笑顔を作り、三日を安心させる朱里。
 そうして、改めてスピーカーに耳を傾ける。
 『だから、少し優しくされるだけでその娘にまいっちゃったと思う。甘えちゃったと思う』
 『そう言うモンかねぇ』
 納得しかねる様子の正樹。
 恋愛経験が無いとそんなものだろう。
 『でも、今は三日がいるから、難易度は無限大かなー』
 『緋月ねぇ』
 声音だけでも苦々しげな様子が感じられる。
 『やっぱ、はやまん的に仲良くやれないかな、三の字と』
 『三日だから三の字って・・・・・・。そりゃ、ストーカー被害を目の当たりにすりゃーな』
 『過去は水に流してさ。俺は気にしてないのに』
 『・・・・・・いや、気にしろよ!ドンっだけ危険にドンカンなんだよ!!』
 『んーいや、気にしてないって言うか、なんと言うかその・・・・・・』
 ゴニョゴニョと呟く千里。
 嚥下する音は、照れ隠しにペットボトル飲料でも飲んでいるのか。
 「あによ、はっきりしない男ね」
 「・・・千里くん、可愛い」
 「うそぉ!?」
 千里の声に本気でときめいているらしい三日に本気で引いている朱里。
 三日の親友をやって1年以上になるが、未だに彼女の男の好みは分かりかねる部分のある朱里だった。

670ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21:04:28 ID:rcML5ZKE
 『お前、ぶっちゃけ緋月のドコが好きなわけ?』
 『ブ!』
 苦々しげな正樹の声に、千里が飲料をむせる声が聞こえる。
 「汚いわね」
 「・・・」
 ツッコミを入れる朱里を不満げに見る三日。
 先ほど飛んできた煎餅の食べかすをぬぐったハンカチは彼女の手元にある。
 『いや、何でそんなこと今更急に聞くわけ?』
 『いやー、今まで聞こうと思って聞けなかったからなぁ。今までは隣に緋月がいたし』
 『好きとか嫌いとかさ、ストレートに言われても困るって』
 攻略難易度なら良いらしい。
 『でも、お前ら付き合ってるんだろ、俺的には不本意だがよ』
 『そりゃ、向こうから頼まれたしね』
 「そんな理由!?」
 スピーカーからの声に、思わず叫ぶ朱里。
 『それだけでくっつかねーだろ、お前なら特に』
 朱里と同じような意見を、正樹も持っていたようだった。
 こう言う時、朱里は正樹と精神的な部分で繋がっているような感覚を覚え、嬉しくなる。
 『まぁ、マジな願いにはマジに答える主義ではあるけどね。それが相手の意に沿わないとしても』
 付き合いたくなかったらそう言っている、ということらしい。
 『で、緋月の場合は意に沿ったワケだ。どういうわけか』
 『それが納得いかないと?』
 『そう言う事だ』
 『九重のこととは無関係に?』
 『そのネタはもうやったからな』
 『しっかし、好きなところねぇ・・・・・・』
 そこで言いよどむ千里。
 「ホントはっきりしないわね。迷う所、フツー?」
 「・・・千里くんかわいいです千里くん。・・・千里くんは私の婿!」
 同じリアクションでも真逆の対応を取る2人。
 特に、三日は椅子から床の上に寝転び、ゴロゴロと身悶えていた。
 『嫌いなところからでも良いぞ。むしろそっちからの方が』
 『嫌いなところねぇ。時々、って言うか結構俺に何も言わないで動く所とか?ソレぐらいしか思い浮かばないや』
 千里の言葉に、ゴロゴロを止めてかなり本気で考え出す三日。
 『フツー気にするところだろ。明らかにイジョーじゃねぇか』
 『たかだか、それ位の異常性に目くじら立ててもねぇ』
 「あ、異常なのは否定しないのね」
 「・・・どこに異常性があるのかが分かりませんけど」
 「さぁ?」
 朱里と三日は今までの自分達の行動を思い返した。
 ・・・・・・何一つ異常な点は見受けられなかった。
 悲しいかな、この場に常識人はいないのだ。
 『百歩譲ってみかみんに実害が無いとしよう、今現在は。だがよ、この先もそうとは限らねーだろ』
 『それが一番心配なわけだ、はやまんとしては』
 「・・・私は千里くんに幸福しかもたらした覚えはありませんけど」
 「幸せの青い鳥か、アンタは」
 「・・・むしろ、私の幸せは千里くんの幸せ。・・・そうでしょう?」
 「まったく持ってそのとおりだわ!」
 一瞬は不満そうだった朱里だが、三日の言い換えに手を握って同意した。
 『親友の隣にバクダンが転がってると思うと、おちおち夜も眠れやしねぇ』
 『そこは見解の相違って奴だねー』
 口調はおどけたまま、冷たい声音で千里は言った。
 「・・・この台詞、白衣とメガネかけて言って欲しいです」
 「誰得よ、それ」
 「私得です!」
 「納得」

671ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21:05:05 ID:rcML5ZKE
 『アイツはただ、恋に必死なだけの女の子だよ。爆弾なんかじゃ、ない』
 『とてもそうは思えねぇけどなぁ・・・・・・』
 「昔の偉い人は言ったわ。恋愛はバクハツだー!、と」
 「・・・名言だとは思いますけど、本当にそれ、昔の偉人が言ったんですか?」
 そんな馬鹿トークをしている間にも、スピーカーからは千里の言葉が続いていた。
 『どれほど不安や嫉妬や怒りや悲しみに駆られても…・・・!例え心が病もうとも…・・・!恋をすることをやめない。そう言う奴だよ、アイツは!そう言うのって―――」
 『ヤバいよ』
 言葉に熱が入ってきた千里を、正樹が冷たく留めた。
 彼の言葉に、何故か朱里の心もヒヤリとする。
 『どんなになっても、ンな風に手前の意思を押し通そうとするエネルギーが、ほんの少し矛先がズレたら、本気でヤバいことになる。そう言う想いって、むしろ―――怖いよ』
 その言葉に、朱里は以前正樹が話してくれたことを思い出した。
 小学校の頃、バスケットボールの試合でとんでもない選手に当たったらしい。
 相手のプレーからは、バスケットにとんでもない情熱を燃やしていることが伝わってきて、そしてそれ以上に試合に負けてはならないという切迫感が伝わってきた。
 その選手と相対して、正樹は恐ろしかったという。
 バスケットに向ける、その暴力的なまでの力の矛先が一度他へ向かうとどうなるか、それを思うと恐ろしい、と。
 『怖い、ね。まぁ、それぐらいの方が相手する甲斐があるって言うか『お前も、怖いよ』
 正樹の内心も知らずに暢気に続けた千里の言葉は、やはり遮られる。
 『いっくら中等部時代に滅茶苦茶な連中を相手してきたからって、いや相手してきたのにも関わらず、未だにそう言う滅茶な連中を受け入れちまう。それは怖いしヤバいし―――危うい』
 『怖くてヤバくて危うい、ね。じゃ、はやまん、そろそろ俺と友達止めとく?俺らのとばっちり受ける前にさ』
 『バカ言うな!今更、ハイさようなら、なんてなってたまるかよ。これでもお前のコト結構好きだしよぉ』
 軽口とはいえ、好き、という言葉は自分に向けて欲しいと願う朱里だった。
 『ウン、俺も同じ』
 恐らくは笑みさえ浮かべ、千里は正樹の言葉を受け止める。
 それは、朱里にはただヘラヘラしているとしか見えないが、三日にとってはどうなのかは分からない。
 『はやまんのことも好きだし、誰かの危うさも、自分の危うさも、みんな好きなものだから。だからみんな自分で背負ってく』
 千里はいつもの軽い調子でそう続けたが、
 『本気でヤバくなったら、本気で止める。止めてみせる……!』
 と、いつになく真剣な声でこう言った。
 「・・・・・・」
 意外な言葉に、思わず朱里は息を呑んだ。
 『だから、そんな心配しないでよー』
 『ゼンブ分かってんじゃねぇか。けどよ、俺の考えは変わんねーぜ。緋月みてーな奴はヤバいと思うし、奴がマジでヤバくなったらマジでお前を引き離す』
 「・・・引き離す、ですか」
 正樹の言葉に苦々しげな顔をする三日。
 彼女にとっては敵対宣言をされたようなものだ。
 『ン、覚えとく』
 と、しかし一方の千里は静かに受け止めた。
 その声の後ろからは、喧騒が聞こえる。
 どうやら、目的の映画館に辿り着いたらしい。
 「御神のヤツ、一応三日ちゃんとの付き合いのこと、マジメに考えてたのね」
 「・・・元々、千里くんって結構真面目な方なのですよ」
 「そーかしら?バカやってる印象の方が強いけど」
 「・・・真面目な部分、あまり表に出さない人ですから」
 そう言う物だろうか、と朱里は思った。
 「・・・慣れると、少しずつ内心が見えてきてたまらなく可愛いんですけどね」
 そう言って微笑を浮かべる三日の顔は、ほのかに朱に染まり、本当に幸せそうで。
 「良いわね、みっきーは」
 本当に羨ましく思い、朱里は言った。
 「殺したいくらいに」
 本当に、妬ましく思い、朱里は続けた。
 「・・・ごめんなさい、無神経でした」
 「良いのよ、みっきーと御神千里をくっ付けるのは、アタシの計画だったし」
 朱里としては、三日を利用して、御神千里の関心を正樹以外の方向へ向けさせる手はずだった。
 そのまま御神千里を正樹から引き離せなかったのは、むしろ朱里自身の不手際だと自己分析していた。
 「いーえ、計画(笑)ね」
 策士の才は自分には無いな、と朱里は自嘲した。

672ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21:05:37 ID:rcML5ZKE
 「・・・その計画に、私は助けられました」
 「みっきーを利用するための計画よ、ぶっちゃけ。アタシの成果にならなきゃ、手伝った甲斐は無いわ」
 甲斐も無いし、意味も無い。
 「・・・でも、朱里ちゃんと葉山くんの距離は」
 「近づいたわね、トモダチとしては。でもまー、小さかった頃ほどじゃないけど」
 結局、緋月三日に協力したことは、自分の恋愛にとってどれ程有益だったのだろうかと朱里は考える。
 親しい関係には戻れたが、御神千里の言う『お友達エンド』に近づいただけのような気もする。
 『プラマイゼロ、って所か』
 朱里の心の冷たい部分がそう分析し、それから嫌な気分になる。
 親友を完全に自分の道具として観た発想だった。
 『って言っても、利用し合うために結んだ友情だけどね』
 心の冷たい部分が、再度事実を突きつける。
 そう。
 御神千里と正樹の心を射止めるために、朱里と三日は友情を結んだ。
 その打算的な事実は厳然と変わらない。
 恐らくは、今もなお。
 「・・・朱里ちゃん、朱里ちゃん、どうしたんですか?」
 気が付くと、三日が朱里の顔を心配そうに覗き込んでいた。
 どうやら、思いのほか長く考え事をしていたらしい。
 「ああ、ゴメンゴメン。何でも無い」
 大げさな動作で手を振り、否定する朱里。
 その動作すら、打算的な友情のための空々しい行為に思えてくる。
 空々しく、空しい、行為で好意。
 「・・・勉強をさせすぎてしまったでしょうか」
 「や、そーゆーんじゃ無いんだけど」
 いやにマジメに考え込む三日にツッコミを入れる朱里。
 基本ボケ同士の三日と御神千里に、基本ツッコミな正樹と朱里。
 カップリングとしてはかなりバランスが悪いんじゃないかと思えてきた朱里だった。
 と、いけないいけない。
 冷たい考えに引っ張られている暇は無い。
 学生の本分は学業だし、乙女の本分は恋愛だ。
 それ以外のことにかまけている余裕は無い。
 「やっぱ、正樹をコッチに引き寄せる策を考えなきゃ駄目よねー」
 半ば無理やりにいつものペースに自分を戻し、朱里は言った。
 「・・・それなんですけど、朱里ちゃん。・・・とても今更なことをお聞きしてよろしいでしょうか」
 大真面目な顔で、三日が問いかけてきた。
 「別にいいけど、なに?」
 ゴクリ、と嚥下する音を立てたのは、朱里か三日か。
 「・・・どうして朱里ちゃんは、葉山くんにストレートに告白してしまわないんです?」
 その言葉に、朱里は息を呑んだ。






 『ヤンデレの娘さん 朱里の巻part1』へ続く








 おまけ
 後日
 「どうしたの、三日。こっちの方見てニヤニヤして」
 「・・・いえ、やっぱり千里くんはかわいいなって」
 「いや、ゴメン。高校生男子に『かわいい』って形容詞は止して。マジ恥ずかしいから」
 「・・・そう言う所が可愛いのですのに」
 「ったく、まいったなぁ・・・・・・カンゼンにまいってる、俺」
 「・・・何か、おっしゃいました?」
 「・・・・・・何でもない」
 「・・・やっぱり、可愛いです」

673ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21:09:04 ID:rcML5ZKE
 今回の投下は以上になります。
 お読みいただきありがとうございました。
 前回予告した『デカいの』というのは次回のことです。
 某ゆりアニメ並みに不憫ヒロイン朱里、転外を挟んで次回から、いよいよスポットがあたる予定です。

674避難所の中の人★:2011/08/26(金) 22:11:51 ID:???
SS職人の皆様いつも投下お疲れ様です

一応こちらのスレでも言っておきます

なんか勘違いしてる人がいるみたいなので言っておきますが、別に投下されたSSにGJを付けなければならないなんてルールはありませんから
気に食わなければスルー、それが嫌なら批評スレっていう吐き出し場も作ったのでそちらにどうぞってスタンスです

ただ避難所スレで誹謗中傷行為をやるのは明らかに空気を悪くしますし、他のSS作者さんにも迷惑を掛けるのでそれはやめてくださいってことです

675雌豚のにおい@774人目:2011/08/26(金) 22:13:17 ID:Q/UFLXns
ここの>>1には

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません

貼ってないのか

676雌豚のにおい@774人目:2011/08/27(土) 01:45:43 ID:ojdnvYRw
>>673
GJ!

677雌豚のにおい@774人目:2011/08/27(土) 16:48:02 ID:kXCRwbhA
>>673
GJ!
毎回楽しく読ませてもらってます

678 ◆O9I01f5myU:2011/08/28(日) 23:09:13 ID:CDaVdRE2
愛と憎しみ 第六話を投下させていただきます。今回は暴行・流血描写有りですのでご注意ください。

679愛と憎しみ 第六話 ◆O9I01f5myU:2011/08/28(日) 23:12:28 ID:CDaVdRE2

 拳から流れる血液が床を汚し、足はガラスを砕く大女。荒々しく息を吐き、眉間に皺を寄せ、一歩、一歩と近づいてくる彼女のその姿からは、狂える獣の発する威圧感がぴりぴりと感じられる。
 入院服を着たままなので、実にシュールな光景だ。今の彼女を見てケタケタと笑う者はいないが、背筋に氷が這う感触は覚えたという者なら多数現れるであろう。

 「……忍ちゃん……」

 香山は感情の込められていない声で呟いた。
 忍は彼女を真っ直ぐ見据えたまま、歩を進める。香山はその場に座り込むばかりで、何一つリアクションを見せない。
 広い肩幅、高い背筋、見る者を畏怖させる目を持つ「肉の壁」は、香山を直下に見下ろせる所まで近づいてきた。
 香山は路肩の石を眺めるかの様に彼女を見上げた。

 「見損なったよ、忍ちゃん。まさか忍ちゃんが、ショタコンの変態さんだったなんてね」

 彼女の突然の来訪にも全くうろたえている様子はない。さっきまでの、幸人への暴行の限りを尽くしていた現場を押さえられたにも関わらず、それら全てを棚に上げて彼女を非難した。

 「それに、今までこの子が何をやっていたのか知っているの? この子は色んな奴らの慰み者にされてきたんだよ? そんな汚い体で、手で、忍ちゃんに触れて――」

 その先は続かなかった。
 彼女の胴が舞い、床に強く叩き付けられる。忍の蹴りが入ったのだ。細見な彼女ではかなりの痛手を負うだろうが、加減は一切されていない。
 香山は胃の中の物を全部ぶちまけた。
 聞くに堪えない不快な音が続く中、忍は横たわる幸人を優しく抱きしめた。

 「……ママ……?」

 力の無いか細い声だった。

 「遅くなってすまなかった、幸人」

 そう言って、優しくキスをする。

 「帰ろう。怪我の治療をしなければ」

 背中に手を回したまま足を掬い、そのまま抱き上げる。

 「あっ、待って……」

 そのまま立ち去ろうとしたその時、幸人が忍を止めた。
 彼が指差した物は、うずくまる香山の脇に転がる紺色のボールペンだった。さっき香山を蹴り飛ばした時に一緒に吹っ飛んでしまっていたのだ。
 このボールペンは数年前に忍が幸人にプレゼントした物だ。既にボールペンとしての機能性は損なわれているが、「何時も持っていてほしい」という忍の頼みを彼は律儀に守っていたのである。

680愛と憎しみ 第六話 ◆O9I01f5myU:2011/08/28(日) 23:14:29 ID:CDaVdRE2
 幸人を降ろし、それを拾いに行く。そのすぐ傍には香山がいるというのに意にも介さない。

 「……忍ちゃん」

 ボールペンを拾う忍の手に、香山の掌が絡み付く。
 鬱陶しそうに目をやる忍。

 「私は……忍ちゃんの事、ずぅっと前から好きだったんだよ……?」

 悲しみに打ちひしがれた顔だった。

 「忍ちゃんは何時も硬派を気取っていたけど、結構可愛い所もあったよね。クールな顔の下には女の子らしさがあるんだ。恋に憧れているんだけども、それを素直に表現できなかったりしてたよね……」

 忍のこめかみがぴくっと動いた。

 「……私はそんな忍ちゃんの事がずっと好きだったの。愛しているの。ねぇ……忍ちゃん……お願い、私を見て。私を……見てよぉ……」

 大粒の涙が零れた。
 ボブ・ヘアの良く似合う彼女の流す涙。男連中の心なら大きく揺さぶった事だろう。この儚さすらも感じさせる泣き顔に動じない男がいるとしたならば、それは余程のクールガイか同性愛者か、或いは彼女の本性を知った者かの何れかであろう。
 無論、忍の返答は火を見るよりも明らかである。

 「私はお前をどうとも思っていないし、眼中にすら無い」

 頭頂部に足を乗せると、そのまま踏み抜く勢いで体重を掛ける。
 香山の顔がガラスの破片の散らばる床に打ち付けられた。破片が幾つか刺さり、床に血痕が刻まれる。呻き声を上げて身悶えた。
 忍は無言でそれに背を向け、幸人を抱き上げた。

 「さぁ、行こう」
 「う、うん……」

 香山の姿を見て少し気の毒に思う幸人だが、先程までの自分がされていた事を思い出すと、目を背けてしまった。
 二人はそのまま、割れたガラス戸からその場を後にした。
 喧騒が過ぎ行き、無音に包まれたこの室内に、雀の囀りが皮肉に冴えた。見れば、山の端を照らしていた太陽が顔を見せている。夜が明けたのだ。
 暖かな日光に目を細める。
 彼女の顔は血塗れになっていた。刺さったガラス片から流れる物と、床に流れた血が悶えていた際に付着した物によって、顔全体が真っ赤になっていた。
 その真っ赤になった顔が光り輝く。血の赤みに染まった肌が光に照らされた事によって、黄金色に見える。

681愛と憎しみ 第六話 ◆O9I01f5myU:2011/08/28(日) 23:16:22 ID:CDaVdRE2
 掌にも血がべっとり着いている。
 おもむろにそれを広げて眺めてみる。綺麗だと思った。
 頭が酒に漬けられる感覚。思考が歪み、視界も歪む。床や壁が、ぐねぐねと波打っているみたいだ。体が平衡感覚を失って、右へ左へと揺れる。
 忍の冷徹な一言がフラッシュバックする。
 お前をどうとも思っていないし、眼中にすら無い。
 そうか、そうかと香山は唇の端を吊り上げる。

 「私は、忍ちゃんにとって、どうでもいい存在だったんだぁ……」

 舌足らずにそう言うと、けらけらと笑い始める香山。

 「あははははは……おっかしぃのっ! おっかしぃの! あははははははははは!」

 血とガラスが散らばる床、割れたガラス戸、その中に一人、血に塗れ、膝立ちのままで狂った笑い声を高らかに上げる。
 女の目から流れていた涙はもう無い。とうに渇き、涸れてしまった。
 もはや悲しいとも悔しいとも感じなくなってきていた。只、面白可笑しくて、笑いが止まらない。
 掌を太陽にかざす。金色にキラキラと光る手。まるで天からの祝福を受けたみたいだと香山は思った。
 今の自分に不可能は無くなった。この魔法の手を授かった今なら、どんな事でも成し遂げる事ができる。それこそ、人の命や心を、一手に操る事も……。
 床に転がる大きめのガラスを拾い、それを両の腕に刺す。不思議と痛いとは思わなかった。
 血がなみなみと溢れ出てくるのを恍惚とした目で眺める。血がこんなに美しいとは今まで思った事もなかった。

 「綺麗だなぁ……綺麗だなぁ……」

 血液を弄ぶ。幼稚園児が泥と戯れる姿を連想させるものがあるが、微笑ましいとは到底言えない。狂人の奇行を笑って見守る人間なんている訳がない。
 落ちた血を掬って、手から零して、また掬う。そんな事を何回も繰り返す。肘から先はすっぽりと赤黒くなり、戯れている内に全身の至る所も染まってきた。人間は三分の一の血液の流出で命が危なくなるが、彼女の影みたいに従う血だまりはそろそろ致死量になるのではないかという程広がっていた。

682愛と憎しみ 第六話 ◆O9I01f5myU:2011/08/28(日) 23:17:38 ID:CDaVdRE2
 散々に血だまりを捏ね繰り回していたが、いきなりぱったりと動きを止める香山。
 にへらっと気味悪い笑顔を浮かべる。顔からは血の気が失せており、笑顔の不気味さをより引き立たせている。

 「忍ちゃんの血は、どんなのかなぁ」

 プレゼントを心待ちにする小学生の様に首を傾げる。

 「見てみたいなぁ」

 ふらっとよろめきながら立ち上がる。

 「忍ちゃんの、血、見てみたいなぁ」

 血の沼から這い上がる鬼女の姿が、そこにあった。

683 ◆O9I01f5myU:2011/08/28(日) 23:20:01 ID:CDaVdRE2
投下終了です。次回はショタとの絡み有り(要するに忍と幸人の性交場面)ですので、苦手な方々はご注意ください。

684雌豚のにおい@774人目:2011/08/28(日) 23:29:57 ID:.bSsiPjY
GJ
鬼女怖い

685雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 03:19:01 ID:NcLPpG6c
GJ
次回も楽しみだ

686458:2011/08/29(月) 04:53:14 ID:APiHJEB.
えーと約一ヶ月かかりましたが投下します
それでもほとんど書き溜めはないに等しいですがガガガガンバリマス!!
あとエロは

687アイアムアシューター 一話  ◆WiyiZjw89g:2011/08/29(月) 04:55:24 ID:APiHJEB.
[Born to be Yndr]



《参加者募集中》

《》

《援軍求む!!》

いつも通りレバーで表示を変えて俺は席を立った。
これから99秒の間に、トイレの前にある自販機でコーヒーを買ってくるのが俺の習慣だ。
移動しながらふと横を見ると、相変わらず対戦ロボゲーは盛況なようで10人近く客がいた。反対側にある音ゲーもそう。どれにも2人ほどいる。

ピッ
ガコン

それに比べて俺がプレイしようとしているSTGはどうだ。4人同時プレイ可能なのに俺以外がプレイしているのを見たのは8ヶ月前の初日だけだ。
それでも《援軍求む!!》にしているのは俺のプレイスタイルなんだけどね…

あと40秒か。ここからだと影で見えないが音もしないし、今日も相変わらず誰もいないだろう。
ガn…ロボゲーの方はちょうど決着がついたみたいで後ろの客と交代していた。最初はこんな様子を想像していたんだがなぁ。なんていうか空しい。
あーあ事故編成じゃないか。シャッフルはこれがこわいんだよなー、勝てる人は勝てるけどさそりゃ。

なんて見てたらあと10秒を切っていた。
俺は多少小走りになりながら筐体右側から滑り込むように4P席に座った。コーヒーは洋服のポケットに入れた。
画面を見ると残り3秒だった。危なかった……
「あ、あの、援軍求むになってたから入っちゃったんですけど、大丈夫ですよね?」
「あー大丈夫大丈夫」
カウントは0になった。よし、開始だ。




「って、ぅえ?」
シューン アー、アーアー
他の人がいた。女の人だった。しかもいたのがなぜか3P席だった。
俺は驚いて振り向きボタンを押しつつBurst!してしまったのだった。

688アイアムアシューター 一話  ◆WiyiZjw89g:2011/08/29(月) 04:56:16 ID:APiHJEB.
「すいません、突然入っちゃったんでもしかして調子狂わせちゃいましたか?」
「い、いやうん、俺がへ、下手くそなだけだから大丈夫、というか俺がミスしたせいでピラニア前で終わっちゃったんだからこっちが謝る方かと…」
もちろん調子が狂ったせいだ。特に、腕が触れるほどの距離に彼女がいたからである。いつもなら余裕のノーミスだし。
しかもすごい噛んだ。これじゃコミュ症だ。女子とに関してはあながち間違いじゃないけど。
「――――」
大体あれだよ。俺が4P席にいるのは仮に人が来たときに、その人が1番プレイしやすい2P席に座れるようにしてるってのに。4人ならともかく2人で見知らぬ人と隣同士なんてやりにくいだろ?な?
なのに彼女は3P席に座っていた。しかも画面に4P席が埋まっているのを見た上でだ。これは狙っているのか?いや、ないんだろうけど。そう、彼女は3P席でプレイするのが得意だったんだ!そうかそうかははは
「あのー」
「は、はい?」
「聞いてました?なんかボーっとしてましたけど」
俺があれこれ考えてる間に彼女が何か言っていたらしい
「す、すいません聞いてませんでした」
「私が言ったのは、もう1回同じルートやりませんか。リベンジしましょうよ!次はデブリマフラーも突破できますよ、多分…って事です!」
「あーそうですねー」
もう1回くらいならいいだろう。今日開放できるエリアが1つ減るだけだ。
それにしても初対面なのに結構強くいわれてる気がする。今まで見たことないんだし、どうせ今日だけだから気にすることはないだろう。
「じゃあ待ってる人もいないみたいなんで始めましょう」
「そうですね」
「先に席決めてもらっていいですよ」
「そうですねー…」
さっきからそうですねしか言ってない気が。どこのテレフォンなんたらだ。
なんて考えつつ俺は今回、1P席に座る。これなら彼女は3P席に座るし間に1人分空くしで完璧なわけだ。モウマンタイだ。
俺もこっちに集中できるしな。

彼女は2P席に座った。

689アイアムアシューター 一話  ◆WiyiZjw89g:2011/08/29(月) 04:57:03 ID:APiHJEB.
ゲーセンからの帰り道、自転車に乗りながら今日のことを思い返していた。
あれは思考すらまともにできていなかった。落ち着けていなかった。明らかに脳内独り言がおかしくなっていたし。何がモウマンタイだ。
ついでにプレイのほうも散々だった。そもそも機体選択の時点で普段使用しているのとは違うものを選んでしまっていたり、開幕振り向きBurst!はなかったものの地形激突はするわマフラーにぐるぐる巻きにされるわで、またもやピラニア到達前にゲームオーバーになってしまったのだ。
彼女も終わった後多少苦笑いだったし。
その後、(俺の心が持たないという理由で)帰るという旨を伝えると彼女も帰るらしく、ゲーセンを一緒に出た。帰る方向は別だったけどな。
「それで今に至る…と」
ぼそっと呟く。
さっきはどうせ今日だけだから、なんて思ってたが彼女はSTGの腕だけ見たら俺と同じくらいだったし、初心者というわけではないからまたプレイしに来るのかも知れない。
鉢合せしたら「気まずいなぁ」
最後だけ口に出てしまった。が、なんとなく気まずいのである。
そういえばなかなか可愛かったかも、なんて考えると余計に。大学に入ってからは女子との関わりがほぼ0だっただけに少し意識してしまった。
これからどうしようか。プレイスタイルの変更をしなきゃなんないのかねぇ。
「ま、後で考えるか」
自転車に乗ってると独り言が増える気がする。
ついでに何気なしにポケットに手を突っ込むと『つめた〜い』から『ぬる〜い』へと昇格したコーヒーがあった事に気づく。
「あー」
飲んでみるとやっぱりぬるかった。


家に帰ると俺は、携帯を開いた。そしてある掲示板サイトに行く。
このサイトはそこまで大きくないし有名なあの掲示板と比べたら天と地の差があるが、俺は雰囲気がなんとなく好きだから利用している。
数あるスレッドの中から『独り言スレ5』というのを開く。「今日アケの○○でかわいい女子と2人プレイしてやったぜしかも隣同士でなウヘヘ」
普段は独り言スレだから反応なんてないものの「))□△氏ね」なんて言われた。うっせ俺だって彼女と話してるときに噛んで死にたかったわ。
ん?あの有名な掲示板に雰囲気似てないかって?うっせ。
誰と話しているんだ状態を切り上げて、携帯を閉じる。

ベッドに寝転がりながらよくよく考えたら未だに落ち着けていないのである。
なんていうか…なんなんだろう。

690 ◆WiyiZjw89g:2011/08/29(月) 04:59:37 ID:APiHJEB.
以上です
一話が短くてすいません

次回は一話(裏)ということで「彼女」視点からの話になります。
量は多分2倍近くなりそうですが…

691雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 05:02:31 ID:APiHJEB.
言い忘れてましたが
◆O9I01f5myU様GJです
いつも楽しませていただいてます

692雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 05:57:57 ID:mannJbss
>>690
GJ!
ゲーセンにおける暗黙の了解っていろいろあるんだなw

693雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 08:41:58 ID:45vlGYrI
いとめでたきものなり
GJ

694雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 10:31:40 ID:gGuOSFgs
皆書き溜めってしないの?
投下される量やたら少なくない?

695<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

696<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

697 ◆0jC/tVr8LQ:2011/08/29(月) 18:47:27 ID:KnP0Q1mg
投下します。

698触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/08/29(月) 18:49:07 ID:KnP0Q1mg
僕を乗せ、緒美崎先生が運転する乗用車は、高速道路を走っていた。
どうやら、大分遠くまで行くらしい。出発直後に僕は、
「どこまで行くんですか?」
と聞いてみたものの、緒美崎先生は、
「着けば分かりますわ」
と言って、答えてくれない。
――今日中に帰れるかな?
と思った。泊りになっても僕はそう困らないけど、緒美崎先生が、明日の授業までできなくなってしまったら申し訳ない。
「あの、緒美崎先生」
先生は、前を向いたまま答えた。
「姉羅々とお呼びくださいませ」
「え? でも先生を下の名前で呼ぶなんて……」
さすがに躊躇われた。しかし、緒美崎先生は重ねて言う。
「姉羅々と呼んでくださらなければ、わたくし、返事をしませんわよ?」
どうして呼び方にそこまでこだわるのか分からないが、先生の言う通りにするしかなさそうだった。
「姉羅々、先生……」
「はぁい。詩宝さん」
姉羅々先生も、僕のことを名前で呼ぶ。これでおあいこ、なのだろうか。
「……それで、姉羅々先生」
「はい。どうなさいまして?」
「儀式に1日以上かかるんだったら、今日は引き返して、週末とかにしてもらっても……」
「一刻の猶予もないと、申し上げたはずですわよ」
厳しい口調で、僕の申し出を拒絶する姉羅々先生。
「大体、週末まであの雌む……いえ、馬鹿女共から逃げ切れる自信がおありなんですの? 詩宝さん」
「うっ……」
生徒に向かって馬鹿女とは酷い言い草だが、正論ではあった。確かに今帰ったら、中一条先輩か晃のどちらかに捕まり、二度と自由には外出できないだろう。
「このまま参りますわよ。いいですわね?」
「……はい」
僕は頷いた。みんなの為に、このワンチャンスをものにしなければならない。
「うっふっふっふ……物分かりのいい生徒は好きですわ」
姉羅々先生は、奇妙な笑いを浮かべた。僕が先生に従ったのが、そんなに嬉しいのだろうか。
まあ、僕としては、早く呪いが解けた方が助かるのは、間違いないのだが。
その後しばらく走り、前方にパーキングエリアの看板が出て来た。
そして、姉羅々先生は車をパーキングエリアに入れる。
――トイレ休憩かな?
そのぐらいに思った。確かに先が長いなら、用を足しておいた方がいいだろう。完全無欠の無一文だから、ジュースとかは買えないけど。
やがて姉羅々先生は車を停止させ、エンジンを止めた。そしてシートベルトを外す。
僕もシートベルトを外した。そして外に出ようと扉に手をかけた瞬間、
「どこに行くんですの?」
何故か引き止められた。

699触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/08/29(月) 18:50:46 ID:KnP0Q1mg
「……トイレ休憩じゃないんですか?」
「違いますわよ」
姉羅々先生は、僕の方に体を乗り出して言う。
「キスしてくださいませ」
「え……?」
藪から棒になんだろうか。さっきと違って、占いをやっているわけでもない。
「急に何を……?」
「キスですわ。分かりますでしょ?」
「それは分かりますけど……どうして……?」
困惑して尋ねると、姉羅々先生は答えた。
「解呪の儀式には、大量の霊的エネルギーが必要なのですわ。詩宝さんのキスで、それを貯めることができるんですのよ」
「はあ……」
一応理由は分かった。でもそれだったら、儀式の直前にやればいいんじゃないだろうか。
「そ、それでしたら、その霊的スポットに着いてから……」
「儀式より早くやった方が、効果があるのですわ」
「で、でも……ここじゃ外から見えちゃいます」
「スモークガラスですわ。外からは見えませんわよ」
「し、しかし……」
僕は次の言い訳を考えようとしたが、姉羅々先生は早々と目を閉じ、顔を気持ち上に向けてしまった。
「御託はもう十分ですわ。さあ!」
「…………」
もう引き延ばせなかった。僕は観念し、眼を閉じると、姉羅々先生の唇に自分の口を付けた。
チュ……
「んっ……」
小さな声が、姉羅々先生の口から漏れた。そして頭を抱きかかえられる。かなり強い力だ。姉羅々先生がいいと言うまで止めるなということだろうか。続いて……
「!?」
姉羅々先生の舌が、僕の口に侵入してきた。ジュルジュルという水音と共に、僕の舌が撫で回される。
認めたくないが、相当気持ちがよかった。
「…………」
そのとき、姉羅々先生が一度口を離し、こう言った。
「胸を愛撫してくださいまし」
「え?」
僕は困惑した。キスだけじゃ、霊的エネルギーは十分溜まらないのか。
「あの……」
「早く」
「…………」
根負けするように、僕は姉羅々先生の、異常に大きく膨らんだスーツの胸に手を伸ばした。
「違う!」
「ひいっ! ごっ、ごめんなさいっ!」
いきなり怒られた僕は、訳も分からず、反射的に目を開けて謝罪していた。
「違いますわ。ちゃんと服をはだけさせて、乳房を直に愛撫してくださいまし」
「は、はい……」
もう言われるままだった。姉羅々先生のスーツとブラウスのボタンを外し、ブラジャーをたくし上げて、再びおっぱいと対面する。
そして、豊満過ぎるバストを揉み、乳首をつまんでいじり回す。
「あうんっ! いいっ!」
姉羅々先生の甘い声が、車内に響き渡った。

700触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/08/29(月) 18:51:28 ID:KnP0Q1mg
「舐めて! 吸ってくださいまし!」
「はっ、はいっ!」
僕はすぐに、姉羅々先生の乳首に吸い付いた。赤ん坊がするように吸ったり、舌で舐めたりしてみる。
「あふぅん……凄いですわぁ……」
姉羅々先生の表情は緩み切り、口元からは涎が垂れていた。さすがに不安になってきたので、僕は尋ねてみた。
「どっ、どうですかっ?」
「とってもいいですわぁ……もっと続けてくださいまし……」
「違いますよ! エネルギーちゃんと溜まってるんですか!?」
「ああんっ……エネルギー?」
「そのためにしてるんですよね!?」
「ああ、まあ、そうですわね。ぼちぼちですかしら」
意味がよく分からないが、どうもそんなに溜まってはいなさそうだ。僕は落胆した。
「まだ、続けないといけないんですか……?」
「実は、もっと効率のいい方法がありますわよ」
「本当ですか!?」
それを先に言ってほしかったが、済んだことはもういい。僕は勢い込んで、その方法を尋ねた。
「どうすればいいんですか?」
「おちんちんを出してくださいませ」
「……え?」
「おちんちんですわ。女に何度も言わせないでくださいます?」
「…………」
ペニスを出させて、一体何をするんだろうか。
僕が迷っていると、姉羅々先生は少しいら付いた様子で催促してきた。
「時間がありませんわ! さあ早く!」
「はっ、はいっ!」
抗し切れなくなった僕は、仕方なく、ズボンと下着を下ろしてペニスを出した。
情けないことだが、今までの行為で、かなり硬度が増してしまっている。
「でへへへへ……これが……」
僕の股間を凝視する姉羅々先生。かなり恥ずかしい。
「こ、これからどうするんですか……?」
「こうするのですわ」
姉羅々先生は上体を倒し、僕の実物の先端に口を付けた。
「ひいっ!?」
さっきまでとはまた違う快感が走り、思わず声が出てしまう。
「あん……おいひい……」
ジュルッ……ジュルルッ
姉羅々先生の舌が音を立てて、表面を蠢く。さらに、口の中に深く咥え込まれた。
「あううっ!」
「んん〜」
荒々しく吸引される。気を抜いたら、すぐに放出してしまいそうだった。
「んっ! んっ! んっ! んっ!」
姉羅々先生は、今度は頭を上下させ始めた。屹立は先生の口に、出たり入ったりを繰り返す。
「ううっ!」
もう限界だった。
「で、出ますっ! 離れてください!」
僕は叫んだが、姉羅々先生は逆に、口の奥深くまで咥え込んだまま動かなくなってしまった。そしてとうとう、先生の口の中に放ってしまう。
「!」
「んんっ……」

701触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/08/29(月) 18:52:58 ID:KnP0Q1mg
放出が終わると、疲労感がこみ上げて来た。僕はシートに背中を預ける。軽い放心状態だった。
「…………」
姉羅々先生は顔を上げると、ニイッと笑ってから、僕に向かって口を開けて見せた。桃色の口の中に、僕が出した白濁が一杯に溜まっている。
先生は口を閉じると、ゴクリと喉を鳴らした。そして、もう一度口を開けて見せる。
そこには何もなかった。全て飲み干してしまったのだ。
「ふふふ……美味しゅうございましたわ」
「先生……姉羅々先生……」
僕の為に、フェラチオから精液を飲むことまでさせてしまった。本当に申し訳なく思う。
「ごめんなさい……」
うつむいた僕の目から、少し涙が出るのが分かった。
「どうして謝るんですの?」
「だって、僕のせいで先生は……」
「いいんですのよ……詩宝さんのためでしたら、わたくし、何だってしますわ」
「先生……」
姉羅々先生の本心は、分からない。でも、言葉だけでも、僕は少し救われたような気がした。
「ありがとうございます……」
「うふふ。どういたしまして。ただ……」
「ただ?」
「今ので霊的エネルギー、ほとんど溜まってないんですのよね」
「え!?」
さすがに僕は驚愕した。何か僕に、落ち度があったのではないか。
「な、何が悪かったんですか!?」
「何も悪くありませんわ。口から精を入れても、霊的エネルギーは溜まらないのですわ」
「じゃ、じゃあなんでやったんですか!? あれは効率のいい方法だって先生が……」
「些細な思い違いをしていましたわ。わたくし、解呪師としては、まだ仮免なんですのよ」
「仮免!?」
姉羅々先生は、占いの名人で呪いのスペシャリストだと思っていた僕は、すっかり気が動転した。
このまま頼っていて、本当に大丈夫なのか。
「…………」
茫然自失の僕に、姉羅々先生は言った。
「大丈夫ですわ。わたくし、呪術には物凄く詳しいんですのよ」
「今、仮免って言ったじゃないですか……」
「仮免でも詳しいのですわ。さあ、今度こそ霊的エネルギーを溜めますわよ」
「こ、今度は大丈夫なんですか……?」
不安を隠し切れずに尋ねると、姉羅々先生は頷いた。
「あの馬鹿女どもの顔を見たくないのなら、わたくしの言うことを通してくださいまし」
別に、中一条先輩や晃の顔を見たくない、なんてことはない。
ただ、考えてみると、姉羅々先生意外に呪いを解く人を見つけるのは、無理としか思えない。先生に賭けるしかなかった。
「分かりました……」
「おほほほ……では、後ろに来てくださいまし」

702触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/08/29(月) 18:53:27 ID:KnP0Q1mg
ズボンを上げて後部座席に移ると、姉羅々先生もやってきて僕の隣に座った。
「何をやるんですか?」
「すぐに分かりますわよ」
見ていると、姉羅々先生はスカートを脱ぎ、ショーツ(黒のTバックだった)も脱いで、下半身裸になってしまった。
「ま、まさか……」
僕は焦った。そこまでやる必要があるとは思いたくない。
「そのまさかですわ。もう一度おちんちんを出してくださいまし」
「……本当に必要なんですか?」
「必要ですわ。早く」
「でも……」
「あんまりグダグダ仰ると、負の呪文をかけて、呪いを増幅させますわよ?」
「うっ……」
さすがにそれは、やられたら洒落にならない。姉羅々先生が本当にそんな呪文を使えるのか分からないが、試してみる勇気はなかった。
「わ、分かりました……」
僕は仕方なく、またズボンを下ろして物を露出させた。
「うふふ……何度見てもかわいらしいですわぁ……」
また舌で舐められる。固さを取り戻すのに、さほど時間はかからなかった。
「では、いよいよ参りますわよ」
姉羅々先生が、僕の腰にまたがってくる。先生の股間からは、熱い粘液がポタポタと滴っていた。
「…………」
「ちなみに、わたくしこれが初めてですわ。優しくしてくださいましね」
「そんな……それだったらもっと自分を大事に……」
「はあ、はあ……これがついにわたくしの中に……」
姉羅々先生は僕の話を聞かず、シャフトを握って先端を入り口にあてがった。
「や、やっぱり待っ……」
「あうんっ!」
「ひいっ!」
姉羅々先生は、一気に腰を沈めた。
屹立が、あっという間に先生の中に呑み込まれていく。
破瓜の血が流れているのが見え、先生が本当に初めてなのだと分かった。
「せ、先生……痛いんじゃ……?」
「少し痛いですけど、気持ちいいですわあ……」
入れてからほとんど間を置かず、姉羅々先生は腰を動かし始めた。襞が僕のに絡み付き、激しく放出を迫ってくる。
「あっ、あんっ! いい……凄いですわ! 初めてなのにこんなに……」
「ぎいいい……」
必死に腰に力を入れ、僕は耐えた。なるべくなら出したくない。
「おっ、おおお……詩宝さん……素晴らしいですわ……おおおんっ!」
「うがああっ!」
「が、我慢なさらないでくださいまし! 中に出していただかないと霊的エネルギーが、おおおお……」
「ううっ、でも……」
とうとう姉羅々先生は、体を大きく上下に動かし始めた。ムチムチした大きなお尻が、際限なく僕の腰の上でバウンドする。
僕の頭より大きなおっぱいも、凄まじい迫力で暴れ踊っていた。
――だ、駄目だ……
そして、終焉が訪れた。
「で、出るっ……」
頭の中が、真っ白になった。
「あああっ! おおっ! いくいく、いくいくうっ! ご主人様ああああっ!」
姉羅々先生が何を叫んでいるのか分からないまま、僕の記憶は飛んだ。

…………

PPPP……
「ん……」
電子音がして、僕は目を覚ました。
携帯の着信音だ。僕は持っていないから、姉羅々先生のだろう。
「あんっ……」
僕に覆いかぶさっていた姉羅々先生が、のそっと動いた。先生も、今まで失神していたらしい。
姉羅々先生はスーツのポケットから携帯電話を出し、気だるそうに通話に出た。
「はい。もしもし。わたくしですわお姉様…………ええ。もう捕獲済みですわ。でもまだこれから調きょ、いえ、なんでもありませんわ…………そんなに急かさないでくださいまし…………はいはい。一定の目処が付いたら、お連れしますわよ…………一定の目処は一定の目処ですわ。切りますわよ」
それだけ言うと、姉羅々先生は通話を切った。
僕には、その会話の意味は分からなかった。

703 ◆0jC/tVr8LQ:2011/08/29(月) 18:54:20 ID:KnP0Q1mg
終わります。

704雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 20:02:47 ID:kro5Gtzg
GJ!!

おいしくいただきました!

705雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 20:07:05 ID:I7aC.UbQ
GJ!!

投下まってました
メイド姉妹の1人だったか

706雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 21:55:23 ID:XK.GjaJ.
GJ!!
触雷待ってました

707雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 21:55:42 ID:FIDhr0bo
触雷!待ってたぜ。GJ!!

708雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 22:00:23 ID:gGuOSFgs
もう前の投下思い出せねーな

709雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 22:00:55 ID:PvJSuvOc
じゃあ読み返せカス

710雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 22:07:09 ID:gGuOSFgs
>>709
わざわざレス返してくんなチンパン、死ね。

711雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 23:39:57 ID:pp1PmrGo
それがチンパンの掟だ

712雌豚のにおい@774人目:2011/08/29(月) 23:54:53 ID:45vlGYrI
蒼天の拳を思い出した

713雌豚のにおい@774人目:2011/08/30(火) 00:07:02 ID:.dl6muvY
>>703
GJ!!

714雌豚のにおい@774人目:2011/08/30(火) 01:19:15 ID:XlOPMGRs
>>703
ずっと待ってたんだから!

715雌豚のにおい@774人目:2011/08/30(火) 04:51:26 ID:AkrPA2I.
いやー相変わらず面白かった

716雌豚のにおい@774人目:2011/08/30(火) 13:53:30 ID:wBG5IOb6
ずっと待ってました。
これからも楽しみにしています。

ところで提案ですが風見さんの作品、賛否があるようです。
そこで、風見さんの作品は直接管理人にメール等でおくって、
そこからWikiに掲載というのはいかがですか?

717雌豚のにおい@774人目:2011/08/30(火) 18:29:51 ID:IQJTm34I
う~ん・・・わざわざ管理人に送るのはおかしい気がする。

やるならちゃんと書いて完結させてほしい。

718ヤンデル生活 第7話 おはよう。:2011/08/30(火) 20:37:06 ID:6fhj6Feo
ヤンデル生活第7話投下いたします。

ああ・・・。ぼーっとする。

「ごめ・・んなさぁ・・・いい、お兄ちゃぁぁぁんん・・・。」

妹が泣いている。玄関から柴田さんが戻ってきた。

「九鷹くん!?九鷹君しっかりしてっ!!」

「お兄ちゃぁぁん・・ごめんなさぁいいい・・私もすぐお兄ちゃんの所にいくからぁぁぁ。」

「すずさんやめて!!早く、救急車っ!!・・。」

そうか、これが修羅場ってやつか・・・。
初めて経験したな。もしかしたらこれが最初で最後なのかも。
だんだん血の気が引いてくるのがわかる。
もう、呼吸してるのかしてないのかわからない。

「・・・にぃ・・あかにぃっ!?しっかりしてぇぇっ!!」

比真理?なんでここに・・・どうして泣いてるんだ?
俺は全然平気だっていうのに。
もう、全然痛くなんてないし。
俺はそう伝えようと思ったけど口が全然開かない。
必死に何かして俺は大丈夫だって伝えようとしたけど体は一歩も動かない。
おかしいな・・・おか・・しい。

「あかにぃ・・にぃ・・・。」

目蓋がゆっくりと閉じてゆく。
この世界の光の面影を最後に残しながら。

・・・

これは・・・夢?
夢の中の少女?美しい白銀の髪に深い青い瞳。
そして透き通るような白い肌。彼女は誰?
遠い昔の記憶。深い深い奥にしまった思い出。
俺はゆっくりと過去を思い返していた。
それはもう十年以上も前。俺がいくつだったか・・・7歳くらいの時か。
俺は田舎に来ていた。
母親か父親の親戚の所だったような気がする。
その田舎で俺は一人の少女に出会った。
そう、名前もわからないあの子に。彼女は俺と同い年だった。
田舎での生活は不便なこともいろいろあったけどこれといって不自由はなかった。
俺がまだ子供という理由でもあるかもしれないけど、彼女がいたから毎日は全然退屈じゃなかった。
その子はとてもきれいだった。今まで見てきた誰よりも。
今思えば、学校のヒロインなんて目じゃない。
それはまさに、ザ・美少女という言葉が正しいのかわからないけどそれしか言葉が見つからないほど。
その子は只現実からかけ離れた美少女だった。
風に揺られて棚引く白銀の髪と透き通る青い瞳。
そして美しい白い肌。何より彼女の笑顔は俺の心の中に焼き付くほど可愛くて綺麗だった。
身長は俺より少し低いくらいで服装はお嬢様のような服だった。
初めて見た服で俺はその美しさに言葉を失った。
彼女は田舎の人ではなかった。彼女も俺と同じ親戚の所に連れてこられたようだ。
俺は彼女を誘って田舎の道をかけ走った。
彼女は走るのがあまり得意ではなかった。歩き方もどことなく上品だった。
彼女を誘ってはカブトムシ、せみ、とんぼ、なんでも見つけてはいちいち彼女に見せた。
すると、彼女は驚いたようなびっくりしたような顔をして俺の顔を見てにこっとするのだ。
俺はその表情が好きだった。只々その表情を毎日見れるのがうれしかった。
彼女とは本当に長い時間をすごした。
1週間どころじゃなかったと思う。ただ、昔の事なんで、長く過ごしたと思い込んでいるだけかもしれないけど。
けど、俺が感じた時間の感覚は永遠とそれとなく近い、表しがたい時間の流れだった。
ある日、珍しく彼女が俺のことを誘ってきた。いつもは俺が勝手に誘っていくのに。
彼女は大きな湖に案内してくれた。
とてもきれいな湖だった。
澄んだ水がどこまでも続いている。
そうか。これが湖なんだと子供ながらに思った。
本当に綺麗だった。もう二度と見れないんじゃないかと思うくらい。
彼女は横で遠くを見つめながら「きれいだね」といった。
俺はただ感動して圧倒されてただ「うん」としか言えなかった。
青い空を反射してその湖はどこまでも続いていた。
彼女は遠くを見つめながら山に語りかけるように歌いだした。

719ヤンデル生活 第7話 おはよう。:2011/08/30(火) 20:38:07 ID:6fhj6Feo
「光る海は、広がる星空、深くどこまでも光とどけて。この世をかける白い羽を澄んだ青い風でどこまでも届けてゆくの。」

彼女の声は直接心に語りかけてゆくようなとても澄んだ声だった。
自然に涙が俺の頬を流れていった。彼女は微笑みながら俺の涙を指に乗せ、ぺろっと舐めた。
彼女は夜にまた来てほしいといった。俺はわかったと言った。
そして夜。俺は家族を説得し、その湖に向かった。
妹もついてこようとしたけど絶対に来ちゃだめだと念を押した。
湖にはすでに彼女がいた。辺りには蛍が飛び回っていた。
イルミネーションのようだった。
その中で月明かりに照らされて彼女は一際輝いていた。
白銀の髪が光を反射して美しく光の粒を反射しながら風で揺れている。
彼女は俺を見つけると満面の笑みで俺を迎えてくれた。
彼女は俺にこの景色を見せたかったと言った。
俺はここに前にも来たことがあるの?といった。
彼女は「うん」と答えた。
夏になるとよく来るのだそうだ。
俺は「いいなぁ」といった。
彼女は少しさびしそうな顔をした。

「もうく〜ちゃんとこれないとおもうとなんだかさびしいね」

俺はそんな彼女を見て心が痛くなった。

「そんなことないよ!いつかまたあえるから。そのとき、またここにいこ?」

俺はそう力強くいった。彼女は「うん」とうなずくと俺の方を見ながら言った。

「おおきくなったら・・・わたしく〜ちゃんとけっこんしたい。」

俺はその大きく吸い込まれそうな深い青色の瞳を見ながらしっかりとした口調で答えた。

「うん!もちろんだよ。やくそくする。」

彼女は顔を真っ赤にさせた。そんな彼女を見て俺も顔が赤くなる。
彼女は白い肌をほんのり赤く染めながら顔を下に向けた。
そんな彼女がとても可愛く見えた。
そう。これが初恋なんだ。俺の初恋。遠く奥深くにしまった過去。
彼女は顔を上げて俺の顔を見つめると「キスってしってる?」といった。
俺は照れながら「うん」と答えた。そして、彼女は俺の方にゆっくり顔を向けて・・・。

「キスしよ?」

と言った。俺はゆっくりうなずいた。
彼女と俺はゆっくり目を閉じ顔を近づけていった。
唇がそっと触れた。そのこそばゆい感覚が俺の頭の中を駆け巡った。
初めての感覚に俺は酔いしれた。
俺はゆっくりと唇を離そうとした。すると、急に彼女は俺の頭を抱き寄せより唇と唇を押し付けた。
とっさのことに俺は驚いて彼女を引き離そうとするけどがっちりと押さえつけられてなかなか離せない。
彼女は口の中に舌を入れてきた。俺は声にならない声を上げた。けど、彼女はやめない。
舌と舌を絡ませ、むさぼるように俺の口を犯していった。
彼女はだんだんより激しく俺の口と口の中と舌を絡ませていった。
俺はだんだん驚きが恐怖に切り替わっていった。
俺は必死に抵抗するが彼女の力はだんだん増していって俺は弄ばれているようだった。
彼女は俺の服を乱暴に脱がそうとした。
彼女は俺の大事な部分を引っ張り出すと自分のあそこにあてた。

「しってる?おとこのことおんなのこがつながると、とてもすごいことがおきるんだよ?」

俺は渾身の力を込めて彼女を突き飛ばした。
俺は、暗い夜の道をただひたすら泣きながら走って行った。
その後のことはよく覚えていない。どうやって家に帰ったのかも覚えていない。
ただ、親戚の家から自分の家に帰るときに、車のバックミラーに彼女の姿が見えたことを覚えている。
そして、その時感じた恐怖も。
いつからこの記憶を忘れていたのだろう。
いつからあの夢を見るようになったんだろう。
いつから。

目に光が入ってきた。
俺はゆっくりと目を開けた。
周りは真っ白で、それ以外なかった。
もしかして、ここって天国?
だんだんと焦点があってくる。
あれ?天井だ。
そっか、病院か。俺生きてるんだな。
俺の横には妹がいた。
疲れて眠っていた。俺に付き添ってくれていたのか。
やがて妹はゆっくりと顔を上げて俺を見た。

720ヤンデル生活 第7話 おはよう。:2011/08/30(火) 20:39:25 ID:6fhj6Feo
「ん・・・お兄ちゃん?・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃんっ!!」

そういって妹は俺に抱きついた。
まだ腹が痛いっていうのに。
イテテ。

「すず・・・。ちょ・・・痛いから・・・落ち着けって。」

「うわぁぁぁ・・ごべんなざぁぁあいい。刺すつもりはながったのぉぉ・・・ただおどして・・突き刺すふりをしようとしたらぁぁぁ。」

「勢いつけすぎてぇぇ・・・。気づいたら・・お兄ちゃんまっかでぇぇぇ・・・ううぁぁぁ。」

「わかった。もうわかったから・・・。」

俺はのしかかってきた妹を頭をなでてあやした。

「お兄ちゃんがぁぁ・・ほかの人に取られるのがいやだったのぉ・・。ぐすんっぅぅ。」

「だって。約束したからぁ・・ぐすっ・・・昔お兄ちゃんとすずがいじめられてた時・・二人だけの世界を作ろうって。ぐすぅ。」

約束ってそれだったのか。
小学生の頃、いつもべたべたしている妹と俺を気持ち悪がっていじめられてた時があったっけ。

「あの高校が・・二人だけの世界になるはずだったのぉ・・・クラスの個人情報全員調べて・・・。」

な・・・どういうことだ。
全員調べた!?どうやって!?
俺の妹はどうなってるんだ・・・。
犯罪だぞ・・・。訳が分からない。
俺は驚愕の事実に頭が真っ白になるしかなかった。
どこの、アニメだからこんなことが出来るんだ。嫌、妹の妄想かもしれないし・・・。でも、女性どころか男までも俺に寄り付かなかったのは事実だし・・。
俺は半信半疑で妹の話に耳を傾けた。

「意外と簡単だったよ個人情報を調べるのは・・えへへ。誰もお兄ちゃんに近づけないようにして・・・ぐすっ・・でも、あの人だけはわからなかった。柴田まり・・・。」

「どうしてっ!?どうしてあいつだけ何もわからないの!?誰も過去を知らないの!?過去がないのっ!?」

比真理が急にヒステリーを起こしたように叫びだした。
俺は慌てて妹をなだめる。

「落ち着け・・。すず。個人情報調べるのは犯罪で・・だから・・・もうわけがわかんない・・・。」

俺は頭の中がこんがらがって何を言っていいのかわからなくなってしまった。
いくらなんでもやりすぎだ。
でも、柴田さんだけ何もわからなかった、過去がなかったという妹の言葉は妙に頭に残った。
どういうことだ?

「それに・・比真理がお兄ちゃんに近づくなんて思わなかった・・・。だから、ああするしかなかったの。お兄ちゃんと理想の世界を作る為に・・。」

俺は妹をなでて慰めた。俺は妹になんて言葉をかけていいか見つからなかった。
只頭を撫でて妹をあやすことしかできなかった。
まったく俺は腹を刺されたばっかりなのに・・・しかも俺を刺してきた妹を慰めるなんてな。
俺が慰めてほしいくらいですよ。

「お兄ちゃん・・・おにい・・・。」

妹は寝てしまった。幸せそうな顔をして。

突然、ドアがガラッとあいた。

「あかにぃ?」

比真理がお見舞いの花束を持ってやってきた。
時間を見るともう放課後の時間だった。
俺は比真理に向かって不器用に笑いかけて

「よっ!」

といった。
比真理は安心したような顔を見せると急に顔を強張らせた。
比真理は妹を見ていた。
俺の胸に抱かれてすやすや眠る妹を。
比真理は一瞬すずに対して嫌悪する表情を見せたが俺はそれに気づかなかった。
時真理はすぐに表情を戻し心配したよ。といった。
俺はこのとおり大丈夫!とわざと元気そうに言ったが比真理の表所は明るくならなかった。
すると、妹がもぞもぞと動いて目を覚ました。

721ヤンデル生活 第7話 おはよう。:2011/08/30(火) 20:40:33 ID:6fhj6Feo
「うぅ・・・ん。寝ちゃった。」

妹はもぞもぞと寝ぼけ眼を擦りながらあたりを見渡した。
そして、比真理を見つけると気まずそうな顔をした。

「比真理・・きてたんだ。」

「今さっき来たところ。」

そう短い会話を交わすと比真理は花束を飾って帰った。

「それじゃあ、またねあかにぃ。」

「ずいぶん早いな。もう少しいてもいいんだぞ?」

「ううん。用事があるから。」

「そういえば、柴田さんは?」

「今日はお休みだよ?風邪引いたみたいなんだってさ。」

「そうなんだ。」

なぜか、柴田さんが風邪を引いたと聞いて安心した。
なんで安心したのかはわからないけど・・・。
比真理はにこっと笑うと急ぎ足で歩いて行った。

・・・

それから嫌がる妹を何とか医者や看護師さんも手伝ってもらって家に帰すことに成功した。
そういえば、刺されてからもう4日たっていた。
最初聞いたときびっくりした。
こんなことって本当にあるんだと。
ドラマやアニメとかでしか見たことないし、実際にあるわけないって思っていたから。
俺は一人で病院の雰囲気になれず眠れないこの時間の暇つぶしにあの記憶のことを思い返していた。
けど、ほとんど思い出すことが出来なかった。
思い出そうとしても記憶のところどころに砂嵐のようなものがかかる。
ガラっと誰かがドアを開ける音がする。
俺は最初看護師さんが来たのかと思った。けど、ちょっと様子が違う。
妹かと思いきや意外な人物だった。

「比真理!?こんな時間になんで?てか、どうやって入っ・・・。」

「ちょっとね。あかにぃさっきはごめんね。急に帰ったりして。」

「いや、別にいいよ。あんまり気にしてないし・・・もしかして、それを言うためだけにきたのか?」

「うん・・・だめだったかな。」

「顔を赤らめる比真理に不覚にも俺は照れてしまった。

「だめじゃないけど、わざわざ言いに来なくてもよかったのに。」

「ううん。どうしても言いたくて。」

「そうか。」

比真理は何かを決意したように言った。

「あ・・・あかにぃが退院したら日曜日お買いもの・・・付き合ってもらえないかな?」

比真理は照れながら上目使いでそういってきた。
俺はそんな比真理の姿に一瞬ドキッっとしてしまった。

「あ・・ああ全然いいよ!」

突然のことに俺は声が裏返ってしまった。
不謹慎ながらも考えてしまう。
これって・・・デートじゃ・・・。

「ああ・・あのっ!そ・・・それじゃ・・楽しみにしてますから。」

そういうと比真理は俺にお守りを渡した。

「これ・・無事退院できるようにお守りです。」

「ああ、ありがとう。」

俺は女の子からの初めてのプレゼントに・・え?いつも妹から何かもらってるだろって?・・はは・・・それは言わないでくれ。
その日は興奮してなかなか寝れなかった。
つい、お守りを握りしめて。寝てしまったのだ。
けど、本当につらいのはこれからどということを俺はまだ知らない。

・・・

「あかにぃ・・・はぁ・・はぁ・・・。」

722ヤンデル生活 第7話 おはよう。:2011/08/30(火) 20:42:29 ID:6fhj6Feo

第7話投下終了です。今回は少し短めです。いつもGJをくれているみなさまに感謝!

723雌豚のにおい@774人目:2011/08/30(火) 20:43:25 ID:.dl6muvY
GJ!!

724雌豚のにおい@774人目:2011/08/30(火) 22:07:24 ID:AP00sw22
GjGj

725風見 ◆uXa/.w6006:2011/08/30(火) 23:08:28 ID:naDhzcps
第三話投下します。

726名物桜で待ち合わせ 第三話:2011/08/30(火) 23:09:27 ID:naDhzcps

 結局、一樹は愛に連れられてラブホテルの一室にやって来た。
 しかし・・・。

「・・・!」
「大丈夫だ!今日は私のおごりだ!」

 やって来た部屋の広さと充実さに、一樹は思わず口を開けた。大きな冷蔵庫や収納スペース、隣の部屋にはSM専用の部屋と道具一式がある。風呂を覗いてみると、簡易露天風呂に加え様々な道具が揃っている。

「君の童貞卒業だ。豪華な場所でしたいだろ?」

 一樹はまだキョロキョロしている。愛は一樹の背中を撫でた。

「さぁ!風呂に入ろう!」



 先に入った一樹は、頭を洗いながら色々考える。
 完璧な女性と言われてる愛さんが俺の童貞をもらってくれる!?冗談にしてはやりすぎだ!
 しかし、ここまでしてもらっているということは本気ってことか?愛さんが俺のこと・・・!
 もしこれが本当なら・・・しかし・・・う〜ん・・・。



ガラガラ!



「失礼するよ。」

 愛が風呂場に入ってきたが、頭を洗っているため姿が見れない。
 それを確認した愛は、ニヤリと笑い

「背中を流してあげよう。」

 と言って、ボディーソープに手を伸ばした。
 そして・・・。



 ふにゅ!



「!!!」

 突如背中に感じる弾力のある二つの感触、それでいて柔らかさもある!
 いつもは服越しだったからわからなかった!すごいでかさだ!F?H?それ以上?

「Kカップだ。」

 一樹の心臓が一気に高鳴った!
 Kだって?テレビの中の世界だと思っていたのが俺の背中に!

「では隅々まで洗うぞ?」

 愛は自慢の胸を、一樹の背中にスライドさせる。もちろん乳首のおまけ付きだ。
 どんどんと背中を丸める一樹。今までの人生で一番のビッグサイズにまで成長した股間を隠すように。

727風見 ◆uXa/.w6006:2011/08/30(火) 23:10:02 ID:naDhzcps

「よし!これくらいでいいだろう!」
 やっと背中から胸が離れた。風呂に入っているはずなのに、一樹は変な汗をかいた気がした。

「さぁ、洗い流すぞ。」



 体を洗い終えた二人。
「うん、ちょうどいい温度だ。」
 湯船に浸かる愛は、一樹に向かって手招きをした。
「入らないのか?遠慮するな、ほらほら。」
 愛が太ももの上を指差しながら手招きをする。
「じゃあ・・・失礼します・・・。」
 なぜだか変にかしこまる一樹に、愛は笑いながら後ろから優しく抱いた。



 湯船に浸かっているはずなのに、一樹の体には常に変な汗がつきまとう。
 背中に感じるゴムまりのような感触が二つ、そして優しく抱いてくれている女性。この二つの要素が、何より一樹を興奮させていた。自然と静まる空間。

「あの・・・愛さん。」

 空間の雰囲気に耐えられなくなり、一樹は口を開いた。

「愛さんは・・・彼氏とかいたんですか?」



 一樹の頭を撫でる愛は、語るように口を開いた。
「いや・・・実は私は処女なんだ。」
 さらに言葉を続ける。

「私は大学生の時、高校のテニス部にOBとして参加していたんだ。その時、ある後輩に恋をしてしまったんだ。
 しかし私は大学生で向こうは高校生、しかも一年生だ。頻繁に会うこともできないから、私は恋を諦めようと決意した。
 しかし・・・どうしてもその後輩が忘れられなかった。いつかその後輩と巡りあったら、私は自分の想いを伝えようと思った。
 例えそれが十年先や二十年先でも・・・。」

728名物桜で待ち合わせ 第三話:2011/08/30(火) 23:10:49 ID:naDhzcps

 またもや静まる空間。
「愛さん・・・その人には会えたんですか?」

 愛は一樹の頭を再び撫でたのち、

ちゅううう!

「!!!???」
 一樹は肩に柔らかい感触を、頬に黒髪の感触を感じた。
「あ!愛さん!」
 愛は一樹の肩にキスをしていた。突然のことで戸惑う一樹の頭を撫でながら、構わずキスを続ける愛。



 しばらく続いたところで、

ちゅううう!!!

「痛!」

 長い、長すぎる。そして徐々に感じる痛み。
 これはもしかして・・・吸ってる!?
 そう感じた瞬間、肩に更なる痛みが走った!吸い付きが前触れもなしに強くなった!
「痛い痛い痛いです!愛さん!」



 唇がようやく離れた。一樹は備え付けの鏡を見た。

「!!!???」

 うわ!ひどいキスの跡だ・・・。これは明日明後日じゃ消えないだろう。

ちゅううう!

 さらに続ける愛。今度は逆の肩に。
「痛いですって愛さん!もっと優しく!」
 構わず続ける愛。一樹は愛に恐怖を感じていた。



 結局、一樹は愛に肩や頬など合計八ヶ所に跡をつけられた。頬以外は服を着れば隠せるが、頬は目に見えて強く吸われたようだ。終わってもまだ痺れている。

「君を狙っている人は、私以外にもいるという話を聞いてな、私は決して君を渡さない!だから私のものである証を付けさせてもらった。」
 さっきまでかいていた変な汗が冷えきるほどの恐怖を感じた一樹は、愛の顔を見れずただ下を向いていた。

「誰にも渡さない・・・!私の初恋の相手を!」

729風見 ◆uXa/.w6006:2011/08/30(火) 23:12:09 ID:naDhzcps
投下終了します。

一部名前が違っていますが、こちらの入力ミスです。申し訳ありません。

730雌豚のにおい@774人目:2011/08/30(火) 23:17:19 ID:WJUJFjrk
GJだったぜ。早くも続きが気になる。

731雌豚のにおい@774人目:2011/08/31(水) 20:35:42 ID:BJRPZVTc
GJ!だけど、話をもっと長く細かくしてほしいな。

732雌豚のにおい@774人目:2011/08/31(水) 21:09:22 ID:qiYrXV3g
十分だとおもうけどな

733雌豚のにおい@774人目:2011/08/31(水) 23:29:20 ID:3nVkr7d6
だってあの人恋してる〜

神様よりも私を見てるもん!

...磔にして

734雌豚のにおい@774人目:2011/09/01(木) 00:30:51 ID:mPzpJg8M
GJ
まぁ、人間間違いはある訳だし次回から間違えないか、保管庫収録時に直すとかすればいいんじゃないかな
展開自体は良いと思います。続きを楽しみにしてますよ

735雌豚のにおい@774人目:2011/09/01(木) 02:39:29 ID:07wPpb3A
GJ!!
続きがきになる!
キャラが俺好みw

736雌豚のにおい@774人目:2011/09/01(木) 10:19:29 ID:8bpTmxeo
GJ!!
愛さん素敵

737雌豚のにおい@774人目:2011/09/01(木) 18:45:15 ID:2hPcqm56
キャラは好きだけどそのキャラクターの性格や背景、主人公の特性を
もっと詳しく書いてほしい。
焦らずゆっくり書いて物語を整理するのも1つの手法ですよ。

738やーのー  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/03(土) 02:52:56 ID:bY2qZ6pI
初めて投稿しようと思います。

物書きの才能はないのですが最後まで付き合ってくれると幸いです。

739白髪女とちっさい女  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/03(土) 02:55:19 ID:bY2qZ6pI
・・・・雨、か
昼過ぎから降ってきた雨は、放課後には少し強くなっていた。
僕こと天川 星司(あまかわ せいじ)は雨の日が嫌いだ。
陰鬱な気分になるし、あの日ことを思い出すからだ。
傘あったかな?
そんなことを思っていると、僕の親友であり、幼馴染である平 聡太(たいら そうた)と新見 禊(にいみ みそぎ)が声をかけてきた。
「ほっしー、この後、暇?」
ほっしーとは禊が僕を呼ぶときに使う言葉だ。
これは彼女しか使わないが、僕は結構気に入ってたりする。
「ああ、暇だよ。」
少し考えてから返答すると、聡太が嬉しそうに
「だったらゲーセンいこうぜ!ゲーセン。」
と僕を誘ってくる。
「また格ゲーか、いいよ行こうか。禊は行くのか?」
と禊に聞いてみると
「うん。みんなフルボッコにしてやる!!」
と目をキラキラさせながらそう言う禊は子犬を連想させた。
禊は小さい。身長も低いが体全体がちいさいのだ。
胸なんかも全然なくて今年で17才にもかかわらず。よく中学生に間違われている。
身長が144cmしかないのだから仕方ない。
髪の毛はいつもツインテールにしてて、前髪はキッチリと切りろえられている。
目はクリクリっとしているし、鼻は少しぺちゃっとしているが、整っていてそんじゃそこらのアイドルに負けないぐらいの可愛い顔の持ち主だ。
性格は明るくて、誰とでも話し、同じ学年どころか違う学年にも沢山知り合いがいるようだ。
完璧のように思えるが、おつむが弱く、テストの時に赤点をいっぱい並べて唸っているのをよく見る。
「それはこっちのセリフだな」
そう言いう聡太の成績は禊とは対象的で学年では常に1番。
さらにイケメンで校内のイケメンランキングではいつも上位にいるし、スポーツ万能でとてもよくモテル。信じられないくらいに。
二年生になってまだ2ヶ月なのにもう一年生に告白されたりしている。
ちなみに大のゲーム好きでいつもゲームばっかりしている。
なのでゲームの時間が減るといい、女の子と付き合ったりはしない。
性格は基本優しいが、ゲーム時は人が変わる、悪い方に。
それ以外は完璧なのに・・・。残念だ。
今日やるゲームも聡太が一番強くて、全国にも行ったことのある猛者だ。
禊も僕もかなり強い方なのだが、全然歯が立たない。
この二人を見ていると、完璧な人間って居ないんだなってつくづく思わされる。
「じゃ、行くか」
いかにも待ちきれないとばかりに聡太が言ったので
「おうよ」
と返事して、僕たちは教室をあとにした。

740白髪女とちっさい女  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/03(土) 02:56:18 ID:bY2qZ6pI
「おいおい、誰も傘もって来てないのか?」
今僕たちは玄関にいる。
「oh!!イエッさー。うちが持ってきてるわけないじゃん。」
と敬礼しながら言う禊。
愚問だったみたいだ。禊らしいといえばらしい・・・
「俺は置き傘ならあるけど・・・」
と控えめに手を挙げながら聡太が言った。
「じゃあ僕と聡太が使うから禊はダッシュな。」
と僕がそんな冗談を言うと
「oh!!イエッさーって何でうちが!!乙女のうちより君たちが濡れなよ。」
「バカは風邪を惹かないんだろ?」
「うちはバカじゃないよーっだ。バカって言う君の方がバカなんだ。
大体私が濡れたら、水も滴るいい女になるでしょーがー!!」
「それを言うならいい男な。ププッ」
「バっバカにしたなー!!校舎裏に来いコンニャロー。うちの必殺・・・」
「まあまあ。」
僕と禊が漫才をしていると、聡太が呆れながら止めに入ってきた。
よく僕と禊がこんな掛け合いをして、聡太が止める。
いつものことだが、こんな関係がたまらなく心地よく感じる。
「仕方ないな。じゃあ聡太と禊が入って。僕は走って先に行くから。」
僕がそう言うと
「うん・・・」
と禊が頷いた。心無しか少し寂しそうだ。
「ん?大丈夫か、禊?元気がなさそうだけど・・・」
「えっ、いや別にだっ大丈夫だよ。別にほっしーと相合傘したかったとかそんなんじゃないんだから!!」
と顔を真っ赤にしながら早口で話す禊。
それをニヤニヤと見ている聡太。
「おっおう」
訳も分からず返事をしてしまう僕。
たまにこんな風なやり取りがあるのだが、なぜ聡太はいつもニヤニヤしていのだろう?
そんなことを思いながら鞄を傘の代わりにして僕はザアザアと雨の降る中を駆け出した。

741白髪女とちっさい女  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/03(土) 02:57:15 ID:bY2qZ6pI

僕たちがよく行くゲーセンは学校から徒歩10分位の所なのだが、UFOキャッチャーや音ゲーなどがなく、
格ゲーしか置いてない小さなゲーセンだ。
タバコ臭くて暗いので学生が少ない。
行くなら市街のプライズゲームの沢山ある方に行くだろう。
なので僕たち3人の中では密かに穴場になっている。
僕は財布の中に100円玉がないことに気づき、財布から1000円札を取り出して両替機に突っ込む。
ガラガラと出てきた100円玉手に取り数える。
よし。ちゃんと11枚あるな。あれっ?11枚?
何か多くね?
そんなことを思っていると
「お兄さん。」
と後ろから声をかけられたので後ろを振り向くと、そこには白い少女がいた。
白いというのは別に比喩的表現ではなく本当に白い。髪が。
彼女の腰まである長い髪は黒色ではなく、白だった。
白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪
白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪
白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪
白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪
白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪白い髪
頭の中が真っ白になる。上手く呼吸が出来なくなる。
ダメだ。そっそ、その色だけはダメだ。ダメだ。
僕にその色の髪を見せないで!!お願いだから!!
何!!僕が悪いの?謝るから、なんでもするから。
手に握っていた100円玉が数枚床に落ちてチャリンと音を立てた。
その音が僕を少し冷静にさせた。。
「ちょっ!!ちょっと、お兄さん。大丈夫?」
そしてその声で僕は正気を取り戻し、
「大丈夫だよ、ぼ、僕は大丈夫、大丈夫だから。」
と自分に言い聞かせるように「大丈夫」という言葉を繰り返す。
それでも少女の目にはそんな風には映らなかったらしい。
女の子は僕を引っ張り近くの椅子に座らして、両替機の近くに落ちた100円玉を拾いに行った。
本当に僕は何をしているんだろう?とぼんやり考えながら、彼女の白い髪を見る。
腰まである長い髪。
色を混ぜる前の白い絵の具を薄めたような色で白髪と言うより銀髪の方が表現として近いのかもしれない。
あの少女は彼女とは違うのに、どうしても彼女を思い出してしまう。
昔僕の前で・・・・

742白髪女とちっさい女  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/03(土) 02:57:56 ID:bY2qZ6pI
「おーい。お兄さん、少しは落ち着いた?」
僕が昔のことを思い出していると、少女がそう聞いてきたので、
「うん。ごめんね。急に取り乱しちゃって・・・。もう大丈夫だよ。ありがとう。」
と僕が謝罪と感謝を表すと、少女はにっこりと笑った。
そうだこの少女は彼女とは違うのだ。そう自分に言い聞かせて、少女と目を合わせる。
僕は、そこで初めて、少女の端整な顔立ちを知った。
禊のように日の光で輝く健康的な美しさではない。
正反対の、暗い深淵の底からじわりとにじみ出てくるような、他人を寄せ付けない神秘的な美貌。
白い髪とその美しい美貌はこの前テレビで見た西洋人形を思い出させるほどだ。
僕は一瞬、そのミステリアスな美しさに見惚れてしまった。
そんな自分を少し恥ずかしく感じたので、なぜ話かけてきたのかを聞いてみることにする。
「そんなことより何か用?」
「あっ、そうそう。両替機に100円忘れたみたいなんだ。取りに行くとお兄さんがいて・・・」
思い出したように少女は言った。
「そういえば、1000円入れたのに11枚100円玉があったな。君のだったのか。」
僕はそう言いながら少女に100円を渡そうとすると、少女は驚きながら口を開いた。
「お兄さんって割といい人だね。」
「なんで、そう思うの?」
「私だったら儲けたと思って、ポッポナイナイ!て感じになると思うから・・・」
「いやいや。君には迷惑も掛けたしジュース位は奢ってもいい気分なんだけど・・・」
と言うと、少女は更に驚いたように
「えぇー!!いいの?嘘じゃない?」
と聞いてきたので「いいよ」と答えると、
少女は「やったー。」とにっこりと笑った。
その笑顔はもういない彼女と似ていて少し僕をドキリとさせた。

743白髪女とちっさい女  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/03(土) 02:58:27 ID:bY2qZ6pI
自動販売機で僕は炭酸飲料を、少女は紅茶を選んで椅子に座ろうとした時に入口から聡太と禊が楽しそうに話しながら入ってきた。
禊は僕を見つけると手を振ろうとしたが、急に驚いた顔になって怒ったような顔になった。
おそらく僕の隣にいる少女に気づいたのだろう。
禊は怒った顔のままズンズンと歩いてこっちに来る。
何故か知らないが背中が一瞬ゾックとしたが、気のせいだろうと気にしなかった。
禊は僕たちの前まで来ると
「ほっしー。その子だれ?」
と、普段の禊から考えられない氷のような冷たい声で僕にいった。
「えぇーっと・・・」
僕が口ごもってしまう。
なぜなら禊が怒った理由が分かってしまうからだ。
浮気の見つかった夫とはこんな感じなんだろうか?
と思いながら良い言い訳を考えていると、隣の子が口を開いた。
「初めまして。私はひかりヶ丘女子大学付属高等学園一年生の百瀬 彩弓(ももせ あゆみ)です。よろしくお願いします。」
彩弓ちゃんは自己紹介をするとペコリと頭を下げた。
それを腕組みしながら睨んでいた禊は工事現場のおっさんがしてるように頭を掻きながら不機嫌そうに自分も自己紹介を始めた。
「夜月学園高等学校の二年三組。出席番号24番新見 禊。」
そう言うと禊は手を前に出した。
俗に言う握手と言うやつだ。
彩弓ちゃんは禊の手をつかんだ。
彩弓ちゃんの身長は高い方ではないが禊が小さ過ぎるので必然的に禊を見下ろす形になる。
禊はそれが気に入らないのかすぐに手を引っ込める。
そして僕の方を見て手招きをする。
「ちょっと来い」と言う合図だろう。
僕はそれに素直に従う。
禊は僕の手を取ってゲームセンターを出ようとした。
途中、聡太と目が合った。
その目は「やっちまったな。ご愁傷さま。」と言ってるようだった。

744やーのー  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/03(土) 03:00:26 ID:bY2qZ6pI
投稿終了です

745雌豚のにおい@774人目:2011/09/03(土) 07:11:00 ID:lMdSclNw
>>744
期待していてもいいんじゃな?
GJでござった

746雌豚のにおい@774人目:2011/09/03(土) 08:35:59 ID:Q/biBk6U
>>744
続けたまえ

747雌豚のにおい@774人目:2011/09/03(土) 18:34:32 ID:o3NX03Wc
いや、まったくもってGJだ。
自信持ってくれ

748雌豚のにおい@774人目:2011/09/03(土) 19:33:41 ID:N/Vsi8pk
GJ! 誰だって投下してもいいんだ!
むしろもっと投下してくださいOTZ

749風見 ◆uXa/.w6006:2011/09/03(土) 21:24:54 ID:UjfKhyYk
第四話投下します。

750風見 ◆uXa/.w6006:2011/09/03(土) 21:26:13 ID:UjfKhyYk
書き忘れました。

・暴力シーン有り
・本番シーン有り

です。

751名物桜で待ち合わせ 第四話:2011/09/03(土) 21:26:49 ID:UjfKhyYk

「あの・・・愛さん?」
 有無を言わさずベッドに寝かされる一樹を、愛はなめ回すように見つめる。
 もちろん、手は一樹の股間を捕らえている。
「全てを委ねろ、私が気持ちよくしてあげるから・・・。」
 愛は、怯えている目を見せている一樹にまたがった。





「なにこれ?どうなってるの?」
 場面が変わって、ここはラブホのオーナー室だ。様々な道具がところ狭しと置いてある豪華な部屋だ。
 オーナー室の中央にいる女性は、巨大モニターに映っている二人の男女をずっと眺めていた。

「あぁ!あぁ!一樹!すごい!んあああ!」
「愛さん!激しい!です!」
 女性は目を疑った。
 今目の前に映っているのは、自分が愛している男性が違う人と繋がっている映像だからだ。

「何で・・・?読んだのは私・・・ここに読んだのは私なのに!」

 そばにあった椅子を蹴り飛ばす。

「アンタのせいよ・・・!アンタが残業なんて言い渡すから!」

 女性は近くのバットで、両手両足を縛られている中年男性の頭を殴り付けた!

「アンタが時間通りに帰してたら!アンタが残業なんて言い渡さなかったら!アンタが!アンタが!アンタが!!!」

 激しくバットを頭に打ち付ける。打ち付ける毎に、バットと頭は赤く染まっていった。



「はぁ・・・はぁ・・・。」

 バットを投げつけた女性は、しばらくして我に帰ったかのように呟いた。

「そうだよ!邪魔者はみんなこうしちゃえばいいんだよ!私と一樹の間に誰もいらない!きっと一樹もそう思ってるよ!」

 女性はバットを投げ捨て、モニターに映る一樹の顔をなめ回した。

 見るも無惨の男性の胸には、「課長」と書かれていた・・・。

752名物桜で待ち合わせ 第四話:2011/09/03(土) 21:27:41 ID:UjfKhyYk

 愛は完璧な女性だ。有名な大学を卒業、高校時代にはテニスの全国大会に出場。料理は絶品の腕前を誇り、誰もが振り向く抜群のプロポーション。更には仕事も完璧であり、先輩後輩の気配りも忘れない。

 しかし、愛は大学生になるまで、恋を知らなかったことだ。
 中学生の頃から完璧ぶりを見せていた愛だが、近寄る男性は腐ったような男ばかりだった。

「今フリーだろ、俺と付き合わない?」
「俺さぁ、でかいんだけど味わってみない?」
「付き合おうぜ!彼女?あぁあんな女もう振ったよ。」

 近づいてくるのは顔がいいだけの馬鹿か、金髪で世間知らずな不良ばかりだった。
 周りの女友達は、そんなやつらにモテてる自分を羨ましがっていたが、愛にはそんな気持ちは理解できなかった。


 レベルの高い学校に入学した愛は、多少は男も変わるだろうと考えていたが、現実は厳しかった。いや、むしろこっちの方がひどかった。
 頭がいいことを利用して女遊びに励んでいる連中の集まりだった。
 真面目な人なんて誰一人いない。そんな環境で育った愛は、恋愛感情は一切持たなかった。



 しかし、それはOBとして参加した高校の部活で変わった。

 彼は周りとは違った。真面目であり、馬鹿なこともする、ちゃんと線引きが出来ている人だった。
 やらしい目で胸や尻をジロジロ見て、タメ口を平気で先輩にきいている周りの男子とは全く違う人間。
 彼も私の胸や尻を見ていたが、周りを気にするかのようにすぐさま頬を真っ赤にして目を逸らす。
 可愛い後輩だ。彼にならジロジロ見られてもいい。いや、むしろ裸を見られてもいい。いや!見てほしい!

 いつの間にか、愛はその後輩を意識するようになった。有名企業の内定をもらっても、全て破棄して今の企業に就職した。

 これは賭けだった。テニス部の中のいい後輩からの情報によると、彼は学校の中での順位は下のようだった。
 だから、彼が入りそうな会社を探し、もっと待遇のいい企業の内定を蹴ってまで就職したのだ。

 結果的に、愛の賭けは成功した。
 そしてその後は、彼に振り向いてくれるような努力をした。
 ボディタッチから始まり、胸を押し付けたり誘惑したり・・・。
 更には、胸を大きくする方法の全てを使用した。
 そして、自分のあそこを彼にぴったりにするように、彼のあそこの写真を隠し撮りし、そこから彼のあそこのバイブを作り、毎日それを使った。
 テレビで見た、女のあそこは男性のあそこが入ることで形が変わるという話を試していた。



 結果、その作戦は見事に成功することとなった。

753名物桜で待ち合わせ 第四話:2011/09/03(土) 21:28:17 ID:UjfKhyYk

「うわぁ!気持ち!よすぎる!」

 あまりの快感に、一樹はシーツを掴む力すら無くなっていた。

 作戦は大成功。愛と一樹のあそこは、まさしく相性ぴったりになっていた。

「はぁ!気持ちいいだろう?私も気持ちいいぞ!」

 腰の動きがさらに加速される。
 痛みの感覚が無くなっている愛は、ただひたすらにピストン運動を続けた。

「君の!いい!最高に気持ちいい!」

 どんどんと加速していく動きと、どんどんと増していく快感に身を委ねるしかない一樹。もはや頭は真っ白で、ただひたすらに感じることしかできないでいた。

「・・・!・・・!」

 必死に言いたいことを伝えようとするが、快感で声が思うように出ない!
 愛は腰の動きをやめず、一樹の口の動きを見た。

「い・・・き・・・た・・・い?」

 許容量を遥かに超えた快感で、一樹のあそこはもう爆発寸前だ!最後に残っている「中で出してはいけない」というわずかな理性が、一樹の口を動かした。

「いって!いいぞ!中に出して!いいから!」

 愛はそのまま上半身を倒す!



バフ!



「むぐぐぐ!」

 さっきまで自分の体を磨いてくれていたKカップの胸が顔を覆う!柔らかすぎず垂れすぎず!弾力のあるまさしく完璧な巨乳!しかも、しっかりと息が出来るように隙間が確保してある、まさしく完璧すぎるプレイ
 上半身も下半身も、至極の快感で包まれている一樹。
 残っていた理性が爆発して、一樹は我慢の限界を迎えた。

「んんんーーー!!!」

 中にどくどくと流れる一樹の精、それを奥に馴染ませるように飲み込む愛のあそこ。
 出している最中も腰を動かし、最後の一滴まで味わおうとする愛。
 一方一樹は、初めての至極の快感に飲まれ、意識を手から手放した。

「あ・・・あぁ・・・。」

 なんともいえない声を発する一樹の口を、貪欲にむさぼり出した愛。

「全て頂くぞ・・・一樹・・・君の全てを・・・。」





「うん!満足!」
 ホテルを出た二人。愛の顔は非常に生き生きとしている反面、一樹の顔は非常に暗かった。

「どうしよう・・・中で出しちゃった・・・。」
「気にするな!私はいつでも嫁に行けるぞ?旦那様!」

 もう、冗談なんかじゃ済まされないレベルまでいってしまった、という事実が、一樹に罪悪感を与えていた。

「大丈夫だ!私はいつまでも一樹を愛している。何があってもずっと・・・必ず・・・。」

 愛は最後、一樹を強く抱いた。

「痛い痛いですって!愛さん!」
「もう君は私だけのものだ、誰にも邪魔なんかさせない。」



ちゅううう!

「痛い!」

 跡がついてない方の頬にかなり強く跡をつけた愛。

「じゃあな、また明日。」

 飛びっきりの笑顔で、愛は歩いていった。



 ふらふらのまま、一樹は自宅を目指した。
 その途中、
「あれ?何か忘れてる気が・・・。」

 思案してみるが、思い出すのは愛のことだけだった。

「愛さん・・・。」

754風見 ◆uXa/.w6006:2011/09/03(土) 21:29:09 ID:UjfKhyYk
投下終了です。

755雌豚のにおい@774人目:2011/09/03(土) 22:23:08 ID:YH7SxkCE
GJ!
これは素直にいいと思う。

756雌豚のにおい@774人目:2011/09/04(日) 01:22:26 ID:7tKuVNvg
GJ!
絡め取られていくねw これからどうなるかwktk。

757雌豚のにおい@774人目:2011/09/04(日) 02:34:27 ID:eLyoHrsg
CJ

クレイジージョブ

758雌豚のにおい@774人目:2011/09/04(日) 10:30:56 ID:SNxMcpDA
亀すまん
a childie GJ!
物凄く好みだ、続き期待してる

759雌豚のにおい@774人目:2011/09/04(日) 13:00:19 ID:MXfKB5Xg
やべぇ。たっちまうぐらいGJだった。

760黒い陽だまり ◆4kLn5BFD9Y:2011/09/06(火) 04:09:34 ID:.Omh9AAE
黒い陽だまり 第四話 投稿します。
約一年ぶりの投稿になります。
元々女性を描くのが苦手で思うように続きが書けずにいたのですが、
このままではまずいと思い、今日ようやく書き上げました。

では、よろしくおねがいします。

761黒い陽だまり ◆4kLn5BFD9Y:2011/09/06(火) 04:11:10 ID:.Omh9AAE
龍治さんと会ったあの日から三日後の日曜日。
僕は、電車の中で懐かしい揺れに身を委ねていた。
もしかしたら、中央線に乗るのは大学生の頃以来かもしれない。
正確に覚えている訳ではないけれど、それぐらい久しぶりに感じる。

目的の駅の改札を抜けると、そこにはほんの少し様変わりしたものの、かつての雰囲気をしっかりと芯に残した風景が広がっていた。
東京都とはいえ、随分と外れの方にある駅だ。
大学も偏差値の割に知名度が随分と低いうえ、学生数もかなり少ない。
そういったこともあって、開発の波がほとんど届いていないのだろう。
ただひとつ見慣れないものと言えば、駅の目の前に建てられた高層マンションぐらいのものだ。
高級住宅街として知られる駅の近くということで、僕が三年の頃から高所得者向けに工事が始まっていたことを覚えている。
周りに並ぶ建物は精々が10メートルちょっとなのに対し、その20階建てのマンションだけが、ひょろりと少し申し訳なさそうに聳え立っていた。
その姿は子供たちに囲まれて戸惑っている少し背の高い高校生のようにも、草原の中でどこへ向かうべきか途方に暮れている老いた旅人のようにも見えた。

龍治さんは、大学から少し歩いた所にあるマンションの六階に住んでいた。
決して野暮ったくはなく、かといって下品にならない程度には洒落ているセンスの良いマンションで、初めて見た時は龍治さんらしいな、と少し笑ったような気がする。
僕がインターホンを鳴らすと、笑顔の龍治さんが出迎えてくれた。
「よく来たね、亮文君。さ、入ってくれ」
以前に来たのは何年前だったか。
玄関の横の棚に載せられた水槽も、フランス旅行で買ったという色鮮やかなタペストリーも、内装は何一つ変わっていなかった。
それはまるで、この家自身があらゆる変化を頑なに拒んでいるようだった。
「部屋は変わっていないよ。希はそこにいる」
龍治さんは、一つのドアを指さしてそう言った。
確か、以前もそこが希ちゃんの部屋だったと思う。
龍治さんに促され、僕はそのドアを開けた。

そこは一見すると普通の、いわゆる女の子の部屋だった。
本棚には可愛らしい本と漫画が並んでいるし、ベッドの脇にはぬいぐるみがいくつか置かれている。
だけど僕にはどうしても、その部屋から生活感を感じ取ることができなかった。
かつては人の笑顔や涙があったであろう名残は何となく感じられるものの、今を生きる者の匂いは欠片も嗅ぎ取れない。
たとえるなら、古い病院跡のような、寂しげで乾いた雰囲気がそこには漂っていた。

762黒い陽だまり ◆4kLn5BFD9Y:2011/09/06(火) 04:12:32 ID:.Omh9AAE

「久し振りですね、亮文さん」
酷く聞き覚えのある声に視線を向けると、そこには行儀よく机に向かって座る希ちゃんがいた。
写真を見て覚悟はしていたものの、ほとんど彼女との相違点を見つけるほうが難しいぐらい、希ちゃんは彼女に似ていた。
髪型とか身長とか、でなければほくろの位置でもいい。
細かく探せば、それは違いがないわけではないんだろう。
しかし僕には、人が人を区別する上での、絶対的な何か。
彼女と希ちゃんのそれが、どうしようもなく一致しているようにしか思えなかったのだ。

「ああ、そうだね。しかし随分大きくなったな、希ちゃん」
僕は動揺を押し隠して、希ちゃんにそう言った。
「もう10年もたってるんです。子供扱いしないでください」
希ちゃんは本当に小さくだが、くすりと笑ってくれた。
その笑い方も彼女によく似ていて、僕は思わずどきりとした。
同じ瞳。
同じ顔。
同じ声。
その存在感は予想していたものよりずっと大きくて、いとも簡単に僕の平常心を粉々にしてしまった。
「あ、これ、クッキー。好きだったよね、確か」
まともな言葉が出てこない。
僕はあわてて、希ちゃんの好物だったクッキーを差し出した。
「覚えててくれたんですね。ありがとうございます」
彼女は表情をあまり変えなかったが、心なしか少し恥ずかしそうにしてそう言った。

君、いつも図書館にいるね。
突然、彼女がそう言いそうな気がした。図書館で本を読んでいる僕に、初めて話しかけた時のように。
私も本が好きなんだ。
本当にそんな声が聞こえた気がした。けれどもちろん、そんなはずはなかった。

僕は出来る限りの平静さをかき集めて、半ば形ばかりの指導を始めた。
指導は、思ったよりも随分と順調に進んだ。
龍治さんからは勉強がかなり遅れていると聞いていたけど、決してそんなことはなかった。
高校二年生ということを考えれば、十分なくらいだろう。

希ちゃんはあれ以来、一体どういう10年を過ごしてきたのだろう。
龍史さんから指導を頼まれて以来、僕は時折そんなことに思考を廻らせていた。
結局はどの想像もいまいち形をなさず、まあ会えば分かるか、と僕は安易な結論で満足していた。
しかし僕の目の前にいる希ちゃんは、どんな過去を想像することも固く拒絶していた。
表情の変化が少ないことも原因の一つだけど、もっと根本的なところで彼女は過去と乖離しているように見える。

放課後に、友達と笑い合いながらアイスクリームを食べる希ちゃん。
昼休みに、教室の片隅でひたすら本に目を落とす希ちゃん。
明るい姿も、暗い姿も似つかわしくない。
それでいて、その姿は怖気がするほど美しい。
三日前までどこか僕の想像もできないような文化を持つ国で生きてきた少女が、日本人のモデルに乗り移ったと言われれば、僕も少しは納得できたかもしれない。
希ちゃんは今の自分に馴染めておらず、今の自分は希ちゃんを馬鹿にしているようだった。

もう少し歳を重ねれば違うのかもしれない。
今の希ちゃんは、自分の美しさを持てあましているように僕には見えたのだ。
といっても、過去を拒絶した少女が、これから過去になっていく月日となら上手く妥協していけるなんて保障は、どこを見渡してもなさそうだったけれど。

763黒い陽だまり ◆4kLn5BFD9Y:2011/09/06(火) 04:14:01 ID:.Omh9AAE

「ごめん、ちょっとトイレ」
僕はそう告げて部屋を出た。
嘘だった。
過去しか感じさせない部屋で、過去を感じさせない少女と今この時を過ごす。
その違和感が、目に見えない圧迫感となっていた。
一息つく暇が欲しかったのだ。

僕は便座にズボンをはいたまま座り込むと、軽く息をついた。
無性に煙草を吸いたくなったが、持ってきていないし、持っていたとしても他人の家の中で吸う訳にもいかない。

 希ちゃんに、以前の溌剌さは残っていないようだった。
冗談を言えば笑いもするし、怒られればしゅんとする。
そういうまともな反応は返してくれる。
それは容易に予想できる。
なのにどうしても、お互いにガラスで隔てられたところで会話をしているような、妙な感覚が付きまとう。
希ちゃんは、無意識の内に自分の中の何かを外部に出すことをシャットアウトしてしまっているようだ。
この10年間の、何が希ちゃんにそうさせるのか。
今度、龍史さんに聞いてみる必要がある。

もうひとつ気がかりなのは、希ちゃんの瞳だった。
全てを伝えることを拒否したような表情の中で、瞳だけは時折何かを伝えてこようとしていた。
それは捉えようによっては、彼女が無意識に押し止めている何かが、脱出口を探した末に人体最上部の孔から少しずつ漏れ出しているようにも思えた。

気がつけば10分もたっていた。
希ちゃんを随分長く待たせてしまったことになる。
僕は少しあわててトイレから出た。
トイレの正面には、何故か希ちゃんが立っていた。
「終わりましたか」
責める風でも、待ち望んでいた風でもない。
終わったという事実を、ただそのまま口にしたようだった。
「ああ、ごめん。希ちゃんもトイレ?」
それ以外には、希ちゃんがそこにいる理由が思い当らなかった。
「いえ」
「いえ?」
「晃文さんがこのままどこかに行ってしまうんじゃないかって、心配だったんです」
淡々と彼女は言った。
「え、てことは僕がトイレに入ってからずっと出てくるの待ってたの?」
「はい」
それが何か、と言わんばかりに彼女は言いきった。
家庭教師がトイレに行くのにこっそりついていき、そのままどこかに行ってしまわないかを心配して10分間トイレの前で黙ったまま待つ。
そんな十分に「何か」な行為を前にしても、こう言い切られてしまうと、変に思う自分の方がおかしいのかとさえ思えてくる。

「まあいいや、待たせて悪かったよ。戻ろう」
「はい」
希ちゃんはそう言ったものの、直立不動のまま動かなかった。
どうやら、希ちゃんの後ろに僕がついていく形だと、僕を見ていられないから不安で嫌なようだ。
逃げる気もなければ逃げる理由もなかったけれど、そうまで不安に思う彼女の方に興味がわいた。
それは、他と比べて明らかに過剰な反応だったのだ。

764黒い陽だまり ◆4kLn5BFD9Y:2011/09/06(火) 04:14:41 ID:.Omh9AAE

「まあ、今日はこんなもんかな」
終りの時間が来た。
結局、僕らの間に彼女の話は出てこなかった。
僕からそれを避けたつもりは無かったけれど、わざわざこちらからその話をするのもはばかられた。
希ちゃんも、その話をしようとはしなかった。
それが故意だったのか、考えにものぼらなかったからなのかは分からない。
「ありがとうございました。次もよろしくお願いします」
語尾を軽く強調してそう言った後、希ちゃんは無言のまま、折りたたまれた小さな紙片を僕のズボンにねじ込んできた。
僕が眼で疑問を示しても、彼女は表情を変えなかった。
言葉にしない以上、希ちゃんにもそれなりの考えがあるのだろう。
僕はそう考えて、そのまま何も言わずに部屋を出た。

「終わりましたよ」
「ああ、おつかれ」
指導の終了を告げると、龍治さんはリビングで僕に紅茶を勧めてくれた。

「で、どうだったかな」
リビングのイスに腰をおろし、紅茶を飲みながらしばし取り留めもない話をした後のことだった。
一瞬だけぶつかった視線を外し、窓の方を見ながら龍治さんは聞いてきた。
さりげない聞き方だったが、それは計算されたさりげなさのようにも思えた。
「思ったより勉強はできるみたいですね。これなら十分追いつけると思います」
彼が聞いているのがそう言うことではないことを分かった上で、僕は返答した。
「ああ、そうか。それはよかった」
彼は少し面食らったような顔をした後、にこやかにそう告げた。
おそらく彼も気づいたのだろう。
この家で話せば、希ちゃんに何かの拍子に聞かれないとは限らないことに。

「では、失礼しました」
「ああ、来週も頼んだよ」
僕は龍治さんの家を出て、帰路についた。

駅へと続く道、横から風が吹いた。
さわやかな風だ。
もうすぐ、夏が終わる。
そして、静かに秋が来る。
過ぎゆく夏にも、訪れる秋にも、彼女はいない。
僕は、いる。
龍治さんだって希ちゃんだって、僕の家族だっているだろう。
人は生まれ、生き、そして土に帰る。
そんな当たり前のサイクルを、彼女は終え、僕らはその途上にいる。
そう言ってしまえば、それはごく自然なことにも思えた。

駅に着いた所で、僕はポケットに希ちゃんからもらった紙片が入っていることを思い出した。
くしゃくしゃになったそれを開いて見てみると、そこには「明日 午後六時 ○○公園」と書かれていた。会社の近くにある公園の名前だ。
おそらく、龍治さんから僕の会社の場所を聴いていたかどうかして、事前に近くの場所を調べていたのだろう。

ここに来てくれということなのだろうか。
そこで、何の話をするつもりなのだろうか。
僕はそのまま紙片をポケットに戻し、電車に乗り込んだ。

765黒い陽だまり ◆4kLn5BFD9Y:2011/09/06(火) 04:15:17 ID:.Omh9AAE
投下終了です。
ありがとうございました。

766雌豚のにおい@774人目:2011/09/06(火) 06:53:57 ID:qVNojXRQ
GJ!!

767雌豚のにおい@774人目:2011/09/06(火) 12:57:56 ID:zfWgYglk
GJ
一年振りか、嬉しいね

768アイアムアシューター  ◆WiyiZjw89g:2011/09/06(火) 17:26:05 ID:rQXrD262
えーと、また時間がかかってますが
前回お伝えしたとおり、今回は一話(裏)を投下します

769アイアムアシューター 一話(裏)  ◆WiyiZjw89g:2011/09/06(火) 17:26:51 ID:rQXrD262
[Chapter01|Reverse| - 現実 - Reality]


《参加者募集中》

《》

《援軍求む!!》

画面に映る文字が切り替わると、彼は席を立った。いつも通りならばこれから99秒の間、彼はここに戻ってこないだろう。
周りに人はいないみたいだ。
決心した。
これまで約1ヶ月、彼がプレイする様子を隠れて見ていたけれど。
私は隠れていた格闘ゲームの筐体の影から出て、コーヒーを買いにいく彼に見つからないよう、そっとこのゲームの3P席に座った。100円を投入する。
彼はその日1回目は4P席に座る。今日も画面の4P部分に彼の使う機体が映っている。
だから私は3P席だ。
隣に座るというのは、彼に私を意識してもらう為。ただ一緒にプレイしたいだけの人ではないという事をほんの少しでもわかってもらえたらと思う。
私も機体の選択をする。そして下に映る残り時間を見ると、まだ50秒あった。
緊張しているからなのかやけに時間が長い。

-----------------------------------------------
「はい、これ。調べてきたよ」
正面に座る由里(ユリ)はそう言うと私に四つ折にされたメモ用紙を差し出してきた。
「調べてきたって何を?」
「何って藍(ラン)が昨日言ってた『彼』の事だけど」
私は思いっきり表情に出して驚いた。何に驚いたかって、たった1日でいろいろ調べた所とか、調べた方法の事とかあるけれど。
それよりも、だ。
『彼』の事は、私は昨日ほんの少し話題に出しただけだ。由里はその時「へぇ」くらいしか言ってなかったはず。
「えええええ、ほ、ホントに?」
「落ち着け、本当だよ。藍が一目惚れしただの、好きすぎて死にそうだの言うから調べてみたんだよ。メモ、開いてみなよ」
「そんなに言ってたっけ…」
「言ってた。しかもそこそこ大きな声で。周りに人がいなかったからいいけどさ」
それが事実なら結構恥ずかしい。私は謝りながらメモを開いてみた。

メモを斜め読みすると彼の名前、年齢のような基本的な事から、住所に家族構成、趣味や近況なんてものまで書かれていた。
だから1日でどうやって調べたのさ、とは聞かなかった。由里がこの手の事に通じているのは昔から知っていたし。
そんな事を考えつつ一通り見てみてると、気になる点が複数あった。
「あのさぁ由里、趣味のSTGって何?あと、この好きな属性のヤンデレってのは一体……」
早速聞いてみる。
「STGってのはね、シューティングゲームの略称で、うーん……藍もインベーダーゲーム位は知ってるでしょ?ああいうゲームの事」
「インベーダーは知ってるよ、あの砲台みたいので敵を撃つやつでしょ。…じゃあヤンデレは?」
ツンデレなら多少知ってる。普段、人前では気が無いかのようにツンツンしてて、二人っきりになると途端にデレデレしてしまうとかなんとか。
ヤンデレも同じような感じなのだろうけれど。普段ヤンヤンって何だ。
「普段ヤンヤンってなんじゃそりゃ(心の声は読まないで!)。ヤンって言うのはだね、彼の事が好きすぎて好きすぎて精神的に病んでしまうようなことね、ヤンは病んってこと。もちろん二人っきりになればデレる。合わせてヤンデレ」
「ふーん……」
好きすぎて精神的に病むってすごいって。
「病んでいくとストーカーしちゃったり監禁しちゃったりとかあるみたいよ」
「とても怖くない?それ。」
「私も怖いと思うねぇ。でもジャンルとしてそういうものがあってそれが好きな人がいる。で、『彼』はその中の1人って事。……もしかしてちょっと引いた?」
「いや、そんな事はないんだけど」
そんな事はないんだけど、難しそうだ。STGはともかく、ヤンデレみたいなタイプの人はリアルにはいないし。それに、いくら私が『彼』の事が好きだといってもヤンデレまでいくことはないだろう。
引いたりはしていない。『彼』は男だし、そういうものが好きになる事はあるだろう。
まだ私は、『彼』の事が好きだ。
「とりあえずさー、シューティングについて勉強してみるよ」
「それなら更にお得な情報が。最近『彼』はゲームセンターでSTGをプレイしているみたいなんだけど、その店の名前と場所を教えてあげようじゃないか。あと『彼』の出没する時間とか」
「由里、ありがとう。私のためにそんなに調べてくれて…」
「いーのいーの、私たち親友でしょ。それより、藍が喜んでくれて良かったよ」
「じゃあ今日ここに行ってみるね」
「音でかいから気をつけてね」
「うん」

770アイアムアシューター 一話(裏)  ◆WiyiZjw89g:2011/09/06(火) 17:28:11 ID:rQXrD262
そんな事があったのは確かちょうど2ヶ月前だったはず。あのあとこの店に来て彼を見つけたりとか、由里からXXBOX360とSTGを何本か借りて延々練習してたりとか。ホケモンみたいなゲームはやった事があったけれど、STGに関しては全く触った事がなかったから大変だった。今ではイロモノSTGでなければそこそこできるようにはなっている。
1ヶ月前からは彼のことを影から観察して行動のパターンを調べたり。彼がいない時間にはこれを練習したり。
そして今日。私はついに彼とこのゲームをプレイする。
と、長いと思っていた時間がいつの間にか残り10秒を切っていた。
そして3秒を切ったとき、彼は勢いよく座席に滑り込んできた。瞬間、彼と私の肩がぶつかる。心拍数が一気に跳ね上がるのを感じる。
「あ、あの、援軍求むになってたから入っちゃったんですけど、大丈夫ですよね?」
「あー大丈夫大丈夫」
緊張して舌を噛みながら言ったものの、彼は私がいるというのをまだちゃんと把握していないようだ。適当に言っている。
カウントは0になった。
「って、ぅえ?」
私に気づいた。そしてまた少し心拍数が上がる。
シューン アー、アーアー

始まった瞬間、クラっとした。が、私はなんとか意識を保った。一方彼は振り向きボタンを押しつつBurstボタンを押していた。


-----
「すいません、突然入っちゃったんでもしかして調子狂わせちゃいましたか?」
「い、いやうん、俺がへ、下手くそなだけだから大丈夫、というか俺がミスしたせいでピラニア前で終わっちゃったんだからこっちが謝る方かと…」
彼はそう言うが、下手ではない。私が言ったように調子が狂っただけだ。異性に対して免疫が無いのに、腕が触れるほどの距離しかなかったら、狂わないほうがおかしい。
と分析しているが、私も同じだ。男の人になんて免疫はない。彼ほどではないにしろ同様に調子を狂わせ、普段なら突破できている場所でムダに被弾したりしてしまっていた。
で、終わった事はいい。重要なのは次だ。
「えーと、もう1回同じルートやりません?リベンジしましょう!次はあのデブリマフラー地帯だって二人で突破できますよ」
そう、2回目をプレイすること。
せっかくのチャンス、ここで終わりにするのはもったいない。私は彼からの反応を待つ。
が、彼は意識ここにあらずといった感じだった。
「あのー」
もう1度声をかける。
「は、はい?」
「聞いてました?なんかボーっとしてましたけど」
「す、すいません聞いてませんでした」
「私が言ったのは、もう1回同じルートやりませんか。リベンジしましょうよ!次はデブリマフラーも突破できますよ、多分…って事です!」
「あーそうですねー」
最後、ちょっと強めに言い過ぎたかもしれない。彼は少しびくっとしていた。
でも、彼は肯定した。断りはしなかった。
「じゃあ待ってる人もいないみたいなんで始めましょう」
「そうですね」
「先に席決めてもらっていいですよ」
「そうですねー…」
慣れていない会話のせいか、さっきからそうですねとしかこたえてない気が…ここはアルタ前にあるスタジオではないよ!
なんて考えていると、彼は1P席に座った。
それを見て私も座る。
もちろん、私は2P席だ。

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彼との2回目のプレイ。
やっぱり今回も私も彼もがちがちに緊張してしまい、彼は機体選択の時点で普段使用しているのとは違うものを選んでしまっていたり、地形激突したりマフラーにぐるぐる巻きにされたり、私のほうもミスこそ無かったもののデブリ地帯で突っ込んでアームが消し飛んだり、アイテムをとり損ねたりとぜんぜん駄目だった。
終わった後に彼が全力で「すいませんでした!」と言ったのは少し笑ってしまった。
「えー、時間とかがあれなんで、自分帰りますね」
突然彼は帰るというのを私に伝えてきたので、まだやろうとしていた私は内心慌てつつ同じように帰るというのを言う。
「じゃあ外出るまで一緒に行きませんか」
これは私。カップルでもないのにこれはどうかと思ったけれど言ってしまったものはしょうがない。
「あ、はい」
彼の返答。特に嫌がるそぶりは無かった。ちょっと安心。

外に出て彼と別れる。ただし外見上。
彼が店の横にある駐輪場から出てくるのを確認して、私も急いで自転車をだす。そして彼の後方30メートル程の位置につく。
これから彼を尾行して、家の場所を探るつもりだ。あまりスピードをだして追いついてしまわないようにしないとね。

771アイアムアシューター 一話(裏)  ◆WiyiZjw89g:2011/09/06(火) 17:29:38 ID:rQXrD262
彼が門扉と思われるものを開けて中に入るのを確認。
私はゆっくりとそこへと向かう。
彼は一戸建てに住んでいるみたいだ。車も置いてあり、家族で住んでいるのだろう。
とりあえず、今日は彼の家の場所を突き止めた。ヤンデレ風にいくならここでベルを鳴らすのだr「それは別にヤンデレじゃないと思うけど」
「♪×¥○&…!!」
突然耳元で声がして驚き、叫びそうになった口を手で押さえられた。口を押さえられた状態で横目で見てみるとそこに由里がいた。
「ぷはぁ……ゆ、由里、何でここに…」
「いや、ちょっと藍に見てもらいたいものがあってですね。それにしても叫ぶ事はないじゃないか。私が押さえてなかったら彼に見つかっちゃうし、よくても不審者出現の情報が町内に回る事になっちゃうよ」
「そもそも驚かそうとしなければ…」
「面白いじゃん?」
ふぅとため息をつく。少し呆れたのと、落ち着くためだ。まだちょっと息が荒い。
と、さっき由里が言っていた事を思い出した。
「ところで、私に見せたいものって?」
「ちょっとこっちに来て」
そう言うと由里は彼の家の前から離れ、横の路地へと入る。ついていくと、由里のカバンとその上に彼女のノートPCがあった。
「で、これですよこれ」
PCの画面を私に見せてくる。そしてそこに映っているものを見て私は驚きを隠せなかった。
「え。これ一体どういう」
「ちょっと目立たないようにカメラをつけさせてもらったの。もちろん無断でだけど」
そこには部屋でベッドに寝転がる彼の姿があった。今はその状態で携帯を弄っている。それが2つのアングルから映っている。
「大丈夫なの?これ」
「おそらく見つからないと思うよ。」
「それも心配だけど。これって犯罪じゃあ」
「うーん。もし見つかったら私が責任を取るから藍は心配しないで、ね」
そういう問題じゃないと思うんだけど。でも。でも、この映像はとても興味をそそられる。彼のプライベートでの様子を簡単に見ることができるなんて。
「ちなみにこれ家の中につけておいたから夜でもカーテンに邪魔されずばっちり見えるよ」
「え!それこそ見つかっちゃうんじゃないの。しかもどうやって室内に」
「いやー最初は外に設置するつもりだったんだけど、よく見たら窓が開いててさー、無用心だよねー」
「それこそ犯罪じゃない」
そんなリスクが大きい事をどうして……
「私は藍の為なら何だってできるって。で、はいこれ。物欲しそうな顔をしている藍さんにプレゼントです」
差し出されたのはUSBメモリだった。
「この中にカメラの映像を見るソフトと、使い方を書いたメモがあるから。いくらでも見てもらって結構だよ」
「い、いいの?」
「もちろん」
ゴクリと音がする。思わず唾を飲み込んでいたようだ。
このUSBメモリをもらってしまったらもう普通に彼と付き合おうとするのは無理な気がする。だけど。


決めた。
そっと手を伸ばし、私は由里からUSBメモリを受け取った。
「ありがとう由里」
「どういたしまして」
「じゃあ……帰ろう?」
「そうね、もう暗くなっちゃったし」

772 ◆WiyiZjw89g:2011/09/06(火) 17:31:31 ID:rQXrD262
以上です
やっぱり短いような気もしますが次回からはその辺にも注意してみます

次回は二話です

773雌豚のにおい@774人目:2011/09/06(火) 18:25:09 ID:zfWgYglk
GJ
>ヤンデレまで行くことはないだろう
ストーカーとか少し足踏みいれてます

774雌豚のにおい@774人目:2011/09/06(火) 18:38:45 ID:qVNojXRQ
GJ

775雌豚のにおい@774人目:2011/09/06(火) 22:41:38 ID:uFhjJTOY
少し遅いですが黒い陽だまりGJです!
今一番好きな作者さんなのでこれからも定期的に投下してもらえるとこれからオレ頑張れちゃいますよ

776雌豚のにおい@774人目:2011/09/06(火) 23:00:58 ID:kzNZp5DI
どちらもGJです
黒い陽だまりは楽しみにしてたんだよね
なんか、何気ない日常なのにどこかおかしい世界観というかなんというか、なんとも形容しにくいんだけど、そういう雰囲気がたまらなく好きだ

777雌豚のにおい@774人目:2011/09/07(水) 07:39:12 ID:caDdoFto

たまに古い作品の続きが落ちてるのたまらんgj

勿論新規も歓迎なんだけどある程度話数増えるまで安心できない

778雌豚のにおい@774人目:2011/09/07(水) 07:45:32 ID:QwXGHb.I
GJ祭りでした。
アリガトゥ!!

779雌豚のにおい@774人目:2011/09/07(水) 13:11:19 ID:XIKFzD6E
>>765
懐かしい!
この作品好きだったんだー
帰ってきてくれて嬉しいぜ

780 ◆O9I01f5myU:2011/09/07(水) 23:07:13 ID:l1un6vGI
愛と憎しみ第七話を投下します。今回はショタとの絡みがメインですので閲覧される際はご注意下さい。

781愛と憎しみ 第七話 ◆O9I01f5myU:2011/09/07(水) 23:09:02 ID:l1un6vGI

 見慣れた壁の色を見ただけで、心の底から安心できた。自分が否定される事がない居場所がどれ程暖かいものか、身に沁みて感じられる。あの様な出来事が起こった後ともなれば、尚更だ。
 さほど大きくないアパート故に、手狭に思う事もないでもない。だが、この良く知った空間が、愛する人が、身も心も癒してくれる。充分すぎる程の幸せだ。
 胸いっぱいに幸福感を味わう幸人。もう彼の顔から悲しみは失せていた。
 香山宅を後にした直後、気を取り直した幸人は忍の顔を見るなり、突然泣き出した。胸にしがみ付き、香山によって植えつけられた苦痛と恐怖を全て吐き出そうと、大声でえんえんと泣き続けた。
 小学生が体験するには、あまりに重い出来事。忘れていた恐ろしい記憶まで掘り起こされてしまって、彼の恐慌は宥めるには時間を要するかと忍は覚悟していた。
 予想に反して、彼は一頻り泣くと、落ち着きを見せた。忍の胸に顔を埋めて、鼻声ながらも口を利き、好調である事を示した。これには忍も驚いたが、自分の存在が彼の中に浸透していっているからだと分かると、なかなか良い気持ちだった。
 香山が幸人にした事は許し難い。が、幸人と自分の絆はより強固になった。充分だ、とほくそ笑む。
 今、忍と幸人はベッドの上にいる。お互いに肌を晒し、抱き合っている。忍が身籠っている事が分かってから数える事、実に二百数十日ぶりのセックスだった(ペッティング、オーラルセックスは日常的にしていたが)。
 頬を紅に染め、幸人に跨る忍。腰を上へ下へとゆっくり動かし、悩ましい声を上げ、彼の局部を愛おしく癒している。

 「はぁ……んんっ……。……気持ち良いか? 幸人……」
 「うん……ママの中、とても温かくて……凄くキモチイイ……」

 香山に散々痛めつけられたが、忍の胎内に入ると、少しずつ、少しずつと痛みが和らいでいく。忍の体温と愛液にすっぽりと抱かれて、まるで胎内に還ったみたいだ。自分達の子供である幸華も、この温かい空間に守られ、育ち、そして生まれてきたんだと実感する。
 荒々しく体を重ね、ひたすらに快楽を貪るセックスをそれまで日常的に繰り返してきた二人だが、今回はご無沙汰であるに加え、幸人があまりに酷な責め苦を受けたという事もあって、ゆっくり時間を掛けた睦み合いとなっている。忍の言に曰く、「治療の為」。

782愛と憎しみ 第七話 ◆O9I01f5myU:2011/09/07(水) 23:11:27 ID:l1un6vGI
 幸人のペニスを濡らす忍の愛液が結合部から流れ出る。伝い落ちて幸人の下腹部を塗らし、それが二人の肢体と触れ合う。ぬるぬるとした感触が互いに伝わり、より一層の興奮を誘った。
 幸人と下腹部を密着させ、背中に両手を回し、豊かな胸を彼の柔らかい胸板に押し付ける。忍が彼を抱き伏せた格好だ。そのまま、彼女は腰を擦りつける様にグリグリと回した。

 「……んっ」

 全身を包む、柔らかい肉布団に溺れる幸人。頭がぽわぽわっと幸せな気分になり、脳髄がとろけそうになる。ペニスを包む膣の気持ち良さは言うに及ばず、愛液が潤滑剤となっているおかげで、擦りつけられる肉と陰毛の感触も彼をのぼせさせていた。

 「んっ……はぁ……あっ! ッ……あン……」

 忍も彼と同じく、昂っていく。吊り上がった目尻は下がり、硬く結ばれている筈の唇もだらんと開き、舌を覗かせている。「近寄り難いクールビューティな女性」と評価されている彼女はどこにもいない。ただセックスを貪欲に貪る女が、一人の少年に腰を押し付けているだけだ。

 「んんっ! あはぁっ! あっ、あァん!」

 嬌声が跳ねる。日常では間違っても発しない忍の濡れた声に、幸人は音を上げる。

 「あっ! ま、ママ……もう、出ちゃいそう……っ!」
 「んっ……! 我慢するな……幸人……そのまま……ナカに……っ!」

 腰の動きが激しくなる。精を搾り出そうと、膣も艶めかしく蠢きだす。

 「っ! あぁぁっ!」

 波が突然押し寄せてきた。グニョグニョと軟体動物の様に動く膣に、強い射精感を促された。
 熱い精液が迸る。勢い強く出たそれは膣の奥をぐいぐいと押し進み、子宮の入口を突いた。

 「あぁっ!? あっ……あぁァ……」

 精液に犯されていく快感に打ち震える。熱いモノがなみなみと注がれて、ナカが火傷しそうだった。
 頬を紅潮させ、だらしなく涎を零す忍。絶頂に達し、全身がピクピクと跳ねる。
 この時に見せる忍の顔が、幸人は好きだった。無論、彼女の事は全てを含めて大好きだが、この緩んだ顔を自分だけに見せてくれるのがたまらなかった。独占欲を刺激され、それがまた不思議な心地よさをもたらしてくれるのだ。

783愛と憎しみ 第七話 ◆O9I01f5myU:2011/09/07(水) 23:13:58 ID:l1un6vGI
 そんなとろけた彼女の顔を少し鑑賞した後に、後戯として、こそばゆいトークをしながら胸に吸いついたりするのがお約束だった。これは二人が関係を持ってしばらくしてから生まれ、それからずっと守られてきた事だった。忍が「男はセックスを終えてすぐに自分だけ寝てはいけない。例え疲れていても、だ」と教育してきた賜物だ。
 ご無沙汰だったが、幸人はそのお約束を守った。ほんのささやかなものではあるが言葉を交わし、アフターをこなす。彼女への愛撫も忘れずにだ。
 ほぼ無意識で、胸に口付ける幸人。すると、口の中にほのかな甘みが入ってきた。
 忍は優しく微笑み、彼を見ていた。

 「おっぱいは美味しいか? 幸人」

 そう言って、頭を撫でる。

 「……うん」

 少し照れながら頷く。

 「もっと飲んで良いんだぞ?」
 「でも……幸華の分が無くなっちゃうよ」
 「大丈夫だ、幸華の分もちゃんとある」

 豊かな胸を持ち上げる忍。たぷん、と胸が柔らかく跳ねる。
 それを見た幸人はゴクリっと喉を鳴らせ、思い切りしゃぶり付いた。

 「ふふっ……がっつくな、ミルクは沢山あるんだから」

 飢えた子犬と重なって見えた。待ち焦がれていたと言わんばかりに母乳を飲み続けている。只、子犬と違うのは、彼の体は既に男としての体機能が形成されていて、母乳を飲む事に性的興奮を感じているという点だ。現に、彼の陰茎は一度落ち着いたのに、また勃起していた。
 彼のペニスを優しく握り、上下に動かす。彼は少し頬を吊り上げたが、喉は止まらない。
 彼女の乳房の大きさと比例しているのかと思う程、量が多い。いくら飲んでも、枯渇するとは到底思えない。甘いミルクは口から喉へ、そして腹の中へとどんどん流れ込んでいく。乳だけでお腹がいっぱいになりそうだった。
 胃が少しずつ張ってくる。なのに、止められない。元より彼女のおっぱいがお気に入りだった幸人だが、より一層のめり込んでしまいそうだ。
 忍の手の中がヌルヌルとしてくる。幸人の先端から流れ出てくるものだ。母乳が性的興奮を後押ししているみたいだ。

784愛と憎しみ 第七話 ◆O9I01f5myU:2011/09/07(水) 23:15:30 ID:l1un6vGI
 「ママぁ……おっぱい……美味しぃよぉ……っ」

 彼が呂律の回らぬままそう伝えると、忍は返事代わりに亀頭をクリクリっと指先で弄ぶ。

 「んあぁっ!?」

 いきなりの刺激に彼は仰け反る。その際に彼の両手が胸を強く搾り、乳頭からシャワーの様に母乳が溢れ出た。
 むせ返りそうな甘い匂いが体中に降り注がれる。その甘い母乳の香りに包まれたまま、彼は背中からベッドに沈んだ。
 忍の優しくも狡猾な手は動きを止めない。彼の弱い箇所を着々と虐め続け、射精を促す。
 ペニスの硬さが最高潮に達する。血管がビキビキと浮かび、我慢汁に濡れるそれは逞しかった。成人男性にも決して負けていない大きさで、大柄な忍を容易く屈伏させるに相応しい。

 「あっ、あぁ……ママっ……ま、また出るぅ……」

 間も無くして、熱い精液が忍を汚した。

785 ◆O9I01f5myU:2011/09/07(水) 23:17:38 ID:l1un6vGI
投下終了です。Wikiに掲載してくださっている方、どうもありがとうございます。

……しかし母乳プレイなんてマニアック過ぎただろうか……。

786雌豚のにおい@774人目:2011/09/07(水) 23:44:44 ID:Dp.zaO32
>>765
俺はずっと待ってたよ
GJ!!!

787雌豚のにおい@774人目:2011/09/08(木) 04:40:27 ID:Vy.oHZHE
俺だって待ってたよ!
GJ

788雌豚のにおい@774人目:2011/09/08(木) 06:06:42 ID:KlPT/.02
>>785
GJ!

789ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part3/3 ◆yepl2GEIow:2011/09/08(木) 20:33:45 ID:fcNgdmpA
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 転外の最終パートを投下させていただきます。
 もっとも、物語としては「俺たちの戦いはこれからだ!」という感じですが……。
 今回にデカいオチを期待されていた方には申し訳ありません。
 それでは、投下させていただきます。

790ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part3/3 ◆yepl2GEIow:2011/09/08(木) 20:34:30 ID:fcNgdmpA
 「ホント。まるで、世界中から『意味あるモノ』をかき集めたような場所だねー」
 大英博物館に入った少女は、しみじみとそう言った。
 「ココは、初めて?」
 「うんー。キミはー?」
 「軽く見ただけ。無料なのに広いんだもの」
 「じゃー、キミが見きれなかった所を中心に見ようか」
 そう言って、英語のパンフレットを広げる。
 「そう言えば、君はこっちで暮らしてるんだよね。旅行者とかで無く」
 パンフレットで行き先を決めながら、カケルは少女に聞いた。
 「そだったよー。計半年くらいだったかなー」
 「なのに、こことかに来ようとか思わなかったの?」
 「んー、あんまり観光とかするような物好きがいなかったからねー」
 さらり、と言う少女だが、近所の観光地を見て回ろうと言うのはごく自然な発想ではないだろうか。
 あるいは来たくても来れなかったのか。
 そんなことを考えながら、ロゼッタストーンを始め、ギリシャやエジプト、諸処様々な場所から場所から集められた展示品を鑑賞するカケルたち。
 尤も、少女の方はカケルを連れまわすのがメインだったようだが。
 「折角来たんだから、しっかり見てこうよ」
 「そうは言ってもカケル、ココの調度品に関してどれだけの知識があるって言うのさ」
 暗に馬鹿だと言われた。
 いや、実際カケルも世界史の教科書程度の知識しか無いのだが。
 「そう言えば知ってるー?この博物館の所蔵品、随分な量が外国から強奪された物だってー」
 壁にズラリと並ぶギリシア彫刻(エルギン・マーブル)を眺めながら、少女は言った。
 「ああ、世界史でやったね」
 「そうまでして、この建物を『意味あるモノ』にしたかったのかなー」
 目を細める少女の内心は、カケルには窺い知れない。
 「それが良かったのか悪かったのかは分かんないけどさ。こうしてきちんと保管されたお陰で考古学とかの研究が進んだって言う話もあるし」
 「まー、良い悪いはボクにも分からないかなー。ただ、浅ましいとは思うよ」
 そう、少女は嗤った。
 「今の、ボクみたいで」
 自嘲するように、小さく呟いた。
 そうして、大英博物館の中をカケルと少女は見て周った。
 ロゼッタ・ストーン、ネレイデスの祠堂、シルク・ロードから発掘された諸々の品……。
 不用意に展示物を触ろうとしたカケルが怒られたり、絵画に見惚れるカケルを少女が置いていこうとしたり。
 そして、その周辺の観光地を周っている間に、気が付けば日も傾いていた。
 正直、一連の『デート』の中で、観光地よりも少女との会話の方が、カケルの心には印象に残っていた。
 「いやー、今日は付き合ってくれてありがとうねー」
 今朝方2人が出会った橋の上で、少女は言った。
 「それは、むしろこっちのセリフかな。今まで女の子とこう言うことする機会なんて無かったし」
 カケルは、それと同時に安心していた。
 少女が、もう一度死んでしまうような、自殺するような素振りを見せなかったことに。
 そんなカケルの内心を読み取ったかのように、少女は目を細めて苦笑した。
 「ま、これっきりだからぶっちゃけちゃうか」
 そう、橋の欄干に手をかけて少女は言った。

791ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part3/3 ◆yepl2GEIow:2011/09/08(木) 20:34:50 ID:fcNgdmpA
 「今朝、ボクは死ぬつもりでした」
 「そっか・・・・・・」
 少女の言葉に、カケルは驚かなかった。
 むしろ、腑に落ちた想いだった。
 「理由は、何なんだろうねー。強いて挙げれば、父親にあたる男からまーた転校しろって言われたからかなー。飽きるほど言われ続けて繰り返し続けて、さすがにもう限界って思って」
 転校すれば、改めて人間関係を1から築き直さなくてはいけなくなる。
 新しい土地、それも異国でとなればそれは心身ともに大変な労力を必要とするだろう。
 その苦労は、経験の無いカケルには想像もつかない。
 「それで……」
 「うーん、理由というか理由付けっていうのは、ホントに強いて挙げればってカンジなんだよねー」
 話しながら考えるように、少女は言葉を紡ぎ、想いを伝える。
 「だって、ずっと前から生きるのがしんどかったかしねー。生きてても死んでたようだったしー」
 何でも無いことのように、少女は語る。
 本当に何でも無いことなのだろう。
 生きてるのがしんどいと、生きながらにして死んでいると、感じるのが日常になっていたのだろう。
 「生きてても、自分が無意味だと思ってたー。だから、自分を殺すためにこれでも綿密な殺害計画を立ててみたりしてー。あ、それを言うなら自殺計画かなー?」
 笑顔のままで、少女は言う。
 笑いごとではないのに。
 笑えるようなことではないのに。
 笑えるなんて、思ってもいないだろうに。
 「そんな人殺しの計画を、カケルが阻止した。まるで、推理小説の名探偵みたいに」
 つまり、カケルを名探偵とするなら、少女は被害者であり、犯人。
 「ま、そんな意味ある人と出会えたのなら、ボクの人生もちょっとは意味があったのかなーなんて、ね」
 少女はカケルに向かってにっこりと笑いかけた。
 「あった、なんて……悲しい言い方するなよ」
 カケルは言葉を絞り出した。
 「君の人生は、まだ続いていけるじゃないか!まだ、意味をいくらだって追加していける!何て言うかその……ああ、もう!」
 頭をかき、カケルはバッグからペンと、博物館のパンフレットを取り出す。
 その大英博物館のパンフレットに、走り書きをする。
 「コレ、僕の名前と住所と連絡先!文通するなり何なりすれば形は残る!思い出が残る!意味が絶対残る!だから!」
 ずい、と少女に走り書きしたパンフレットを突きだした。
 「僕に会って意味を見出したって言うなら!意味が欲しいなら!ここに連絡して!」
 カケルのそんな必死の姿に、少女はきょとんと小首を傾げた。
 「文通、とかボク長続きできた試し無いけど……それでも良いの?」
 「君がしたい時にすれば良い!」
 「ウン、分かった」
 そうやって、ゆっくりと少女は受け取った。
 カケルとの繋がりを。
 「僕も、君に出会えてよかったと思う。誰かを助けるなんて、初めてだった。僕も、君のお陰で新しい『意味』って奴を手に入れられた」
 ありがとう、とカケルは言った。
 「うん、ボクの方こそ、ありが…とう。本当に…ありが、とう」
 そう少女は答えた。
 その頬には涙がつたっていたけれど、カケルは初めて彼女が心の底からの笑顔を見ることができた。

792ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part3/3 ◆yepl2GEIow:2011/09/08(木) 20:35:09 ID:fcNgdmpA
 おまけ
 そうして、弐情寺カケルは少女と別れた。
 「弐情寺カケル、かぁ」
 石畳を歩きながら、改めて少女は彼の名前を反芻した。
 無意識に足取りが軽くなる。
 自分の中身はむしろ詰まったくらいなのに。
 少女は生まれて初めて意味を手に入れた。
 弐情寺カケルに意味を与えた、という意味を。
 それは、展示物が存在してやっと意味を持つ博物館と同じくらい浅薄な『意味』ではあったが、意味は意味だ。
 生まれて初めて、少女がこの世に存在しても良いのだと、思わせるくらいの、意義ある意味だった。
 今まで、この世に居ても良いと言ってくれた者が1人だけいたけれど、この世に居ても良いと思わせてくれたのはカケルが初めてだった。
 「ずっと誰かとの繋がり続けられなかったボクだけど、彼とは繋がり続けられると、良いな」
 フフ、と笑いながら少女は言った。
 「……でも」
 スゥ、と少女の目つきが細くなる。
 否。
 鋭くなる。
 「千里が、千里がねぇ」
 吐き捨てるように、千里と言う名を口にする少女。
 「ボクの同類の癖に、誰かとの繋がりを手にして、力にしてるなんて、生意気だよ、ね」
 そう語る少女の闇は、病みは、暗く、深く。
 深淵になっていくことを理解しながらも、それは無意味なことだった。
 彼女は無意味で、そして無力。
 そのことを、彼女自身が誰よりも
 なぜなら、それが、彼女の両親にあたる2人が唯一行った教育と呼べるものだったからだ。
 自分には何もできないことを、少女は産まれたときから17年間ずっと教え込まれてきた。
 けれども、何もできないと言うことは、何もしたくないと言うこととイコールでは――――ない。
 その気持ちを無意味と切って捨てることは、少女には、少しずつ、できなくなってきていた。
 少女の心は、だんだんと、あるいは淵々と、軋み始めていた。
 カケルに一度救われながら、否、たからこそ、ばらばらになりはじめていた。
 少女―――九重かなえの心は。







 弐情寺カケル
 九重かなえ
 この2人の無意味で有意味な出会い。
 光が闇を際立たせるように。
 出会いもまた、ヤミを深くする。
 これは、それだけの物語。
 ここまでは、それだけの物語。
 ここまでだけなら、それで終わる物語。
 深くなった彼女のヤミが、闇が、病みが、九重かなえを、弐情寺カケルを、御神千里を、そして、緋月三日をどう蝕んでいくのか。
 それを語るには、まだ早すぎる。
 カケルとかなえ、2人の出会いが、2人の別れが、本当に『意味』を持つのはもう少し先のことなのだから。
 だから、この物語/3×3=9は、この始まりの物語/数式は、未だ解け出したばかり。

793ヤンデレの娘さん 転外 3×3=9 part3/3 ◆yepl2GEIow:2011/09/08(木) 20:38:05 ID:fcNgdmpA
 投下は異常もとい、以上になります。
 読んでいただき、ありがとうございました。
 ですが、かなえとカケルの物語は、まだはじまったばかり。
 これから、いずれ本編に食い込んで、というか食い破ることになるかもしれません。

794雌豚のにおい@774人目:2011/09/08(木) 21:11:41 ID:eTKvBp5I
GJ!!

795風見 ◆uXa/.w6006:2011/09/10(土) 21:51:32 ID:I2yBSiNA
第五話投下します。

796名物桜で待ち合わせ 第五話:2011/09/10(土) 21:52:13 ID:I2yBSiNA

 帰り道、愛の顔は自然と笑顔になっていた。
 それもそのはず、大学時代から好きだった相手とエッチが出来たのだ。

 にやけた顔で、愛は歩きながら自分のお腹を撫でた。

「・・・。」

 一樹の精液が私のお腹を満たしている・・・。
 その現実が何より嬉しかった。

 このまま妊娠してしまいたい・・・。

 愛は本気でそう思った。



「・・・?」

 ホテルの通りを出た辺りからだろうか、愛は後ろに気配を感じていた。
 しかし、男の気配ではない。普段から男のストーカーが付きまとっている愛は、気配だけで性別を識別できる。

「・・・!?」

 男ではない、というのはわかったが、感じる気配がいつもと違った。
 同性のストーカーもたまにあったのだが、その時は大抵はレズ特有の気配があった。
 今感じている気配は、女性が悶々としている気配ではない。
 これは・・・殺意!?

「・・・!」

 即座に後ろを振り向く!

「あなたは・・・?」

 立っていた女性は、愛にただならぬ視線を送っていた。

「一樹は・・・私の運命の人!!!」



――――――――――

「おはようございます・・・。」
 次の日、一樹はいつも通りに出勤した。

「ん?一樹どうしたんだ?その頬。」

 一樹は両頬に絆創膏を貼っていた。

「えっと・・・昨日階段で転んじゃいまして。」

 もちろん転んでなどいない。昨日、愛のキスでつけられた跡をごまかすためである。
 頬以外の箇所は、服でなんとかごまかすことができたが、頬だけはそうはいかなかった。
 石鹸で洗ったり、タオルで擦ったりしてみたが全く消えなかったので、応急処置として行ったのだ。



 いつも通りに席につく一樹。
 しかし、何かがおかしかった。
 そんな異変に、そしてその原因に、一樹は即座に気づいた。

「あれ?愛さん・・・いない?」

 普段なら、席についたらすぐに愛が頭に胸を乗せてくる。しかし、なぜか今日はそれがなかった。
 それどころか、いつもなら愛が座っている席が空席になっていた。

「あぁ愛さんか?欠席みたいだが連絡がないんだ。」

 同僚が説明してくれた。
 今まで仕事を休んだことがなかった愛が、連絡も無しに急に欠席?

 昨日のこともあるので、一樹は急に心配になった。

「まさか・・・、昨日のあれで変な病気にかかったんじゃ・・・。」

 とりあえず、昼に電話してみよう!

「あれ?課長も休みですか?」

797名物桜で待ち合わせ 第五話:2011/09/10(土) 21:55:06 ID:I2yBSiNA

 午前中の仕事、一樹は無心で仕事に励んでいた。
 頭の中を占めているのは、愛の事だけだった。

「愛さん・・・愛さん・・・愛さん!」

 もはや、何をしようにも頭の中に愛がいる。昨日の夢の中にも愛が出てきたぐらいだ。
 無心で仕事をしようと思えば思うほど、愛の事が頭に浮かぶ。なんとか振り払おうと仕事に打ち込む。自然とペースが早まっていった。

「・・・・・・・・・・・・・・・終わった。」



 正午の休憩時間、一樹は屋上にダッシュで向かった。
 通話は屋上すること、と会社で言われていたため、午前の仕事の時間が終わると同時に、足が勝手に屋上を目指していた。

 携帯を取りだし、愛の番号を押す。

プルルル

プルルル

プルルル

「出ない・・・?」

 普段なら愛は、一樹からの電話には三回のコールで必ず出る。

プルルル

プルルル

プルルル

 音が始まって終わる度に、一樹の心は言い様のない不安で一杯になる。

プルルル

プルルル

プルルル

 不安はどんどん募っていく・・・。

プルルル

プルルル

プルルル

プルルル

プルルル

ガチャ!

 出た!

「あ!愛さん!」
 やっと繋がった!思わず声が大きくなる。

「あ!一樹!」

 一樹は耳を疑った。

 携帯の液晶画面には、確かに愛の名前と愛の番号が映っていた。
 しかし、聞こえた声は愛の声ではなかった。

「お前・・・優か?」

 確かに聞こえた声は、聞き慣れた幼馴染みの声だった。

「何でお前が出るんだ?」
「一樹だ!やっと一樹の声が聞けたー!一樹ー!」
「おい!質問に答えろよ!」
「私幸せー!一樹も幸せだよねー!そうだよねー!そうに決まってるよねー!」

 一樹は理解できないでいた。色々と訳が分からない!

「一樹ー!私幸せー!すごい幸せー!」
「おい!お前今どこにいるんだ!?」
「今ー?○○だよー!」
「それって・・・確か!」

 昨日愛と入ったラブホだ!と言いそうになり、すかさず言葉を飲み込む。
 言ってはいけない!と、本能が告げたような気がしたのだ。

「ねー!来てよー!会ってお話しようよー!」
「いや・・・仕事中だから。」
「会いたいよー!一樹も私に会いたいでしょー?」

 話が通じない。諦めて、一樹は通話を終えようとした。



「・・・く・・・たす・・・あい・・・」

 ふと、電話口から小さく声が聞こえた。
 普段なら聞き逃してしまうような小さい声。
 しかし、一樹はこの声を聞き逃さなかった。

「愛さん!?愛さん!」

 聞こえたのは、確かに愛の声だった。

「勝手にしゃべるな!!!」
 優子の声が怒号に変わった。
 その瞬間、通話口からは単調な音が鳴り続けた。

「そんな・・・愛さん!」

 今が仕事時間だと言う理性が消え去り、一樹は全力で地面を蹴った!

798名物桜で待ち合わせ 第五話:2011/09/10(土) 21:55:41 ID:I2yBSiNA

 一樹は走った!走り続けた!走らなければいけなかった!
 走りづらい服を着ていたが、そんなのはお構い無しに走り続ける!
 点滅している信号を全速力で渡り、一樹は昨日の通りに入っていった。

 昨日、愛と入ったラブホの前に立っている一樹は、再度愛の番号に電話をかけた。

プルルル

ガチャ!

「優か!?」
「あぁー!一樹来てくれたんだー!嬉しいー!入ってきてー!」
「待て!どこの部屋かくらい!」



ツーツーツー・・・。



「仕方ない・・・行くしかないか・・・。」



――――――――――



「一樹様ですね。優子様がお待ちです、こちらへどうぞ。」
 中に入ると、黒い服に身を包んだ男性数人が一樹を迎え入れた。
 そして今、その数人に囲まれて、「関係者以外立ち入り禁止」と書かれているドアを潜ろうとしていた。

「あの・・・どこに行くんですか?」

 黒服の男達は、一樹の言葉が聞こえていないかのように無視をした。
 どうやら、黙ってついてこいということらしい。



「こちらの一番上のボタンを押してください。」
 一樹は一人で豪華なエレベーターに乗せられ、行き先を指定された。
 謎に包まれたまま、一樹は一番上のボタンを押した。



ブゥゥン・・・。



 エレベーターが動いた。
 一樹の心は落ち着かなかった。

「愛さん・・・。」

 こんな自分を好きでいてくれている女性、なんでもできる完璧な女性、ちょっと怖い女性、愛の事で頭が一杯だった。
 今まで釣り合わないと思い避けていたが、昨日の出来事で完全に心の境目にある垣根を壊された。
 もはや、愛の事しか考えられないくらいに愛を求めるようになった。
 鼓動が、エレベーターが上がるのと比例して高鳴っていく。



 ずいぶん長い時間乗っているな・・・と、一樹は壁に映る外を見た。

「これは・・・最上階?」

 外から見ると20階はぐらいまであるのだが、一般のエレベーターは19階までしか示していない。
 謎に包まれていた最上階に近づくにつれて、鼓動が高鳴ると同時に、新たに不安と恐怖が現れ始めていた。



チィン!

ウィィィン!



「・・・優?」

 着いた部屋には誰もいない。大型のモニターに多種多様な道具に豪華な装飾はもちろん、巨大冷蔵庫等の日用家電が一通り揃ってる。

「まさか・・・優のやつ、ここに住んでるのか?」

 リッチな生活感が溢れる部屋の奥には、重そうな扉があった。
 自然とその扉に目が行く。

「・・・入るぞ?」

 返事がない。いるのかいないのかは分からないが、入るしかないと思い、一樹はドアノブに手をかけた。



ガチャ!



「・・・優!?」
「一樹ー!待ってたよー!」
 扉の先には、全裸でキングサイズのベッドに座っている優子の姿があった。
 別れる前に比べて、スタイルが格段に進化している。
 あまりの凄さに唾を飲み込み、視線が優子に向かう。

「・・・そうだ!愛さん!」
 我にかえった一樹は、部屋の奥に向かった。
 早く会いたいと言う一心で、一樹は優子の前を通る。



 愛の足が見えた!



「愛さ!!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

799風見 ◆uXa/.w6006:2011/09/10(土) 21:57:27 ID:I2yBSiNA
投下終了です。

文章量を増やしてみましたがいかがでしょうか?

ちなみに、次回が最終回の予定です。

800雌豚のにおい@774人目:2011/09/10(土) 23:26:18 ID:O95fLjiw
GJ!
愛さんどうなるんだよ
グロは勘弁

801雌豚のにおい@774人目:2011/09/11(日) 00:42:03 ID:y1va/j0c
 GJです。
 見事に優のターンですね。
 悪い予感しかしませんが、主人公が一体どうなるのか。
 最終回が待ち遠しいです。

802やーのー  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/11(日) 06:15:50 ID:3N983kd6
投下したいと思います。
下手くそな文ですがよろしくお願いします。

803白髪女とちっさい女 第二話  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/11(日) 06:17:32 ID:3N983kd6
このゲーセンの隣は喫茶店だ。
名前は「フランク」と言って、マスターがフランクなひげを生やして居るからだそうで、ネーミングセンスのなさを感じさせる。
それがいいと僕は思うのだが後の二人には
「「何言ってんの?」」と声を合わせて言われる。
僕たちはゲーセンの帰りに時々寄って雑談したり、晩御飯を食べたりして利用しているのだ。
そこは学生割引を行っていて学生がたくさん集まる喫茶店で巷では噂になる位の人気店だ。
禊は多分そこに行って、僕を尋問するらしい。
禊がフランクの扉を開けて入ると
「いらっしゃいませ。」と聞いたことのないハスキーな声が聞こえきた。
あれ?マスターはもっと渋い声の持ち主のはずなのだがと声の持ち主を見て見ると目をギョッと見開いて固まって居るお姉さんがいた。
お姉さんの胸のプレートに下釜と書いてある。
禊を見て対応に困り、固まる店員さんはたまにいるが、ここまで露骨に驚く店員は初めてだ。
「うちは高校生だよー。」と目の前で禊がぷりぷりと怒っている。
それを聞いた店員さんはハッとなって
「すいません。二名様入ります。」とあからさまに明るく叫んだ。
店のカウンター席は空いているが、禊はテーブル席がいいらしく、下釜さんに
「うちらはテーブルでちゃーしばきたいんだよー。」
とどこで覚えてきたのかよくわからんことを言っている。
「お客様、今テーブルは空いていないので少しお待ち頂くことになりますが、宜しいでしょうか?」
「まぁ少し位ならいいかな?待つよー」と話を進める禊。
カウンターの方が顔を合わせないで済むので、カウンターが良かったのだが、今の僕は逆らえないので何も言えない。
待合の椅子に座っている間、僕たちは一言も話さない。
それが逆に居心地が悪い。嵐の前の静けさなのだろうか?
「お席が空きました。どうぞ。」
下釜さんに一番奥の席に連れて行かれる。
「注文が決まりま・・・」
「ミックスジュースとエスプレッソ。エスプレッソはかなり濃いめで。」
下釜さんの台詞を遮り、禊が勝手に注文をした。
禊はコーヒーが飲めないので、自動的に僕がエスプレッソになるだろう。
僕もミックスジュースの方がよかったのだが・・・。
下釜さんがオーダーを取って、奥の方に引っ込むと、禊が口を開いた。
「あの子は誰で、どういういきさつで知り合ったの?」
禊は僕の目をじっと見つめて行ってきた。
こう真剣な表情になった禊には嘘や誤魔化しは効かない。
僕は諦めて事実を話すことに決めた。

804白髪女とちっさい女 第二話  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/11(日) 06:18:19 ID:3N983kd6
事の顛末を話終えた僕は禊がどう反応するかうかがていると、
「へぇー。そんなことがあったんだ。」
ミックスジュースを飲みながら呟いた。
「あぁ。」
と頷きながら、お冷やを口にする。
テーブルの上にあるエスプレッソの中身はもうすでに空っぽだった。
苦々しかった口の中に、冷たい水が気持ちよかった。
「いい?うちは意地悪でこんなことしてるわけじゃないんだよ。そこのところ分かってるの?」
「分かってます。」
無意識に敬語になってしまっている自分がなんだか腹立たしく感じる。
「うちは君のこと心配してるんだよ。心配なんだよ。また裏切られんんじゃないかって。」
「決して彼女は裏切った訳じゃないよ。僕が悪いんだ。僕が。」
「いや。あいつが悪いだよ!!」
バンとテーブルを叩いて禊は立ち上がった。
余りにも大きな声だったので周りのみんなが僕たちを見ている。
「ちょっと禊。」
僕がそう言うと禊は僕をじっと見つめたあと、顔を伏せた。
そう。あの時、守ってやれなかった僕が悪い。
禊は僕が裏切られたと思っているが、僕はそう思っていない。
「まあいいや。これからは彼女に近づかないことを約束してくれたら、許してあげるよ。」
そう言いながら小指を前に突き出してきた。
指きりの語源は、遊女が客に愛情の不変を誓う証として、小指を切断していたことに由来している。
それが一般的にも広まり、約束を守ると言うことに変化したらしい。
僕はこの間読んだ本にそんなことが書かれていたなぁ、とか思いながら小指を出すと
禊は小指をからめて、ニッコリと微笑み
「指きり拳万!!嘘ついたら針千本のーます。指切った!!」
と勢い良く指を離した。
その時、ふと僕は誰かに見られているような気がして左の方を見てみる。
店は混雑していて、誰が僕を見ているのかわからなかった。
でも確かに誰かが僕を見ていた。
「禊、誰かが僕たちの方を見てないかな?」
「別に誰かの視線は感じないなぁ。ほっしーの気のせいだよ。そんな事よりケーキ頼んでいい?」
僕の気のせいかな?
今も見られている気がするんだけど・・・
まぁ別にいいなと気にしないでおくことにしたが、店を出るまで奇妙な視線は僕から離れることはなかった。

805白髪女とちっさい女 第二話  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/11(日) 06:18:48 ID:3N983kd6
結局、小一時間ほど喫茶店にいた僕たちは聡太のことを思い出して、急いで店を出た。
ゲームセンターに戻ると、僕たちがいつもする対戦ゲームの周りに沢山のギャラリーが出来ていた。
「おぉー。」とか「スゲー。」などの声が仕切りなしに聞こえてくる。
誰かが対戦しているのだろう。
対戦者はだれだろう?
そう思い人垣をかき分けて割入る。
そこにはもの凄いスピードでボタンを叩いている聡太がいた。
画面を見てみると、仮面を被った怪盗のようなキャラと頭に輪っかのある天使の女の子が戦っていた。
僕は自分の目を疑った。
聡太がこの怪盗キャラを使うときは本気なのだ。
大会でもない野良試合でこんな本気になるということは、対戦相手はかなりの手練となる。
お互いがお互いの攻撃を絶妙にガードして相手を伺っているようだ。
ピリピリした空気が周りを包んでいて、少しゲーセンには似つかわない雰囲気が滲んでいる。
暫く牽制し合っていた二人だが、天使のキャラが一旦後ろに飛んで距離を開けて来た。
それが勝機と見たのか、聡太が追撃する。一発目の攻撃がはいれば、そこからは聡太の独壇場だった。
華麗なコンボがどんどん決まり相手の体力をガシガシと削っていく。
そのまま相手は何も出来ないままKOしてしまった。
このゲームは1/60フレームの判定で、それが聡太には分かるらしい。(本人談)
周りからは余りにも大きな歓声が沸き上がる。僕もついつい拍手をしてしまった。
ふーっと聡太が大袈裟に息を吐いて席を立った。
どうやら対戦者に挨拶に行くらしい。
聡太は僕に気づき、クッスと笑った。
その笑顔は普段聡太が見せない様な無邪気すぎる笑顔で、僕は少し驚いた。
僕も対戦者が気になったので、どんな人か見るために後ろに行くことにとする。
後ろに回って見ると、そこには白い少女の彩弓ちゃんがいた。
「君、かなりのやり手だな。」
と相手を賞賛しながら言う聡太はどこか嬉しそうだ。
こちらに気づいた彩弓ちゃんが
「いやいや、完敗でしたよ。」
「俺とあれだけ戦えるなんて全国でもそういないよ。」
「そうですか?そう言ってもらえると嬉しいです。」
そう言うと、彩弓ちゃんは僕に気づいたらしく、席を立って僕の方に来る。
「お兄さん、体調は大丈夫ですか?」
もう平気だよ。と返答しようとすると誰かが会話に入ってきた。
「全然へーきだよ。うちのほっしーが迷惑を掛けてゴメンね。」
「いえいえ。困った時はお互い様ですし気にしないでください。」
「そーですか。じゃあうちたちはもう行くのでさよなら。」
禊は僕と聡太の手を取って出口の方に向かって歩き出す。
僕は彼女に小さく手を振ってゲーセンを後にした。

806白髪女とちっさい女 第二話  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/11(日) 06:19:23 ID:3N983kd6
今は帰り道で禊と一緒に帰っている。
聡太は住んでいるところが最寄り駅を挟んで反対なので、僕たちとは駅で別れてしまった。
僕と禊は同じマンションに住んでいて、天川家は4階、新見家は7階に住んでいる。
昔から家族ぐるみの付き合いで、親同士も仲がいい。
なのでお互いの家に小さい頃から行き行きしている。
それは高校生にもなった今でもそうでよく遊びに行く。
僕たちの住んでいるマンションは駅からは徒歩30分ぐらいで、商店街を抜けた所に位置している。
この商店街は昔からの老舗や今どきの小物店、美味しい食べ物屋もあるので賑わっているのだ。
だが何故かゲームセンターだけはなく高校の近くにある所に行かないといけない。
僕たちは商店街の中心である広場を家に向かって歩いている。
広場には噴水や椅子があり休憩するにはちょうどいい場所だ。
日が沈みかけていて、噴水の水がオレンジ色に少し染まりつつありとても綺麗に思えてしまう。
遊びに行った帰りなのか、数人の小学生が椅子に座って話をしていた。
「僕も少しはゲームしたかったんだけど・・・」
急に帰ると言い出した禊に不満をぶつけてみる。
僕の前をトコトコ歩いていた禊は立ち止まり、クルリとこちらを向いた。
禊に合わせて僕も立ち止まる。
「だったらご飯食べたら、うちの家で何かゲームする?」
明日は幸いにも土曜日で、何も予定はなかったはずだ。
更に今日の夜は暇だし、この提案は有り難いと素直に思い
「よし。ご飯食べたら、禊の家に行くよ。」
と言うと禊はニッコリと笑い、何事もなかった様に再びテクテクと歩きだした。
機嫌はすっかり直っているみたいだ。
禊を追って僕も歩きだす。
「なんのゲームしようか?」
「.ha○kだよ。」
「えっ、RPGするのかよ。」
「当たり前だよ。RPG好きだもん。」
「俺は何すればいいんだ?」
「ポ○モンとか?」
「なんでだよ!せめて一緒に出来る奴をやらせてくれよ。」
「じゃあ狩りに出よー。仕方のない奴だよ。」
やれやれと禊が首を横に振る。
端から見るとなんだか僕が悪いみたいになっていて、禊が妥協したみたいになっている。
そんな風にたわいのない話を10分位するとマンションに着いた。
この家はオートロックなので扉を開けるために鍵を鞄中から出す。
鍵で扉を開けてエレベーターに乗り込み、4階と7階のボタンを押す。
少し待つとチンとなってエレベーターが止まった。どうやら4階に着いたようだ。
「また後で」
「うん!!待ってるよ。」
禊にお別れをして、エレベーターから出る。
そして今日の晩ご飯はなんだろうと思いながら、自宅のドアをくぐった。

807白髪女とちっさい女 第二話  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/11(日) 06:20:20 ID:3N983kd6
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
キッチンの方から母さんの声聞こえてきた。
晩ご飯を作っているのだろう。
「今日のご飯はハンバーグよ。もうちょっとで出来るから、待ってて。」
僕は食器棚からガラスのコップを取り出し、冷蔵庫から冷えた牛乳を取り出す。
学校から帰ってきて飲む牛乳は最高だ。
「母さん、少し部屋で休むからご飯出来たら教えて。」
そう一言母さんに言い、部屋に入る。
ベットがあって向かいに勉強机が置いてある。
勉強机の横にテレビが置いてあり、その下にはテレビ台にはゲーム機が沢山置いてある。
本棚には文庫本とゲームソフトでいっぱいで、漫画が一冊も置いてない。
この部屋に来るたびにエロ本を探す禊のためにエロ本は買えない。
なのでベットの下には衣装ケースが入っている。
窓には青地に白い星マークのカーテンが付いている。
部屋の電気を消すと、その星マークが輝く。
それを見るたびに
「わぁー、ほっしーマジックだよー。ロマンチックだね。」
と禊のテンションが上がるのが見ていて面白い。
フーっと一息ついて、今日のことを振り返る。
やっぱりなんだかんだでかなり疲れた。
制服が皺になるのを気にせずにベットの上に寝転がる。
そしてゲーセンで出会った白い少女である彩弓ちゃんのことを思い出す。
僕はこう思う。
過去に犯した罪の罰はいつか受けなければならないだろう。
罪を償わずに堕落して生きることが一番辛い。
僕はどーしたら彼女に許してもらえるのだろう?
一時期はそればかり考えて、でも答えはなくて、意味の無い自問自答をしてばかりいた。
いっそ誰かが僕のこと責めてくれたら僕もこのように生きて来なかっただろう。
僕は一度ベットから机に乗っている写真をみる。
そこには5年前の僕と白い髪の少女が笑顔で写っている。
中学1年生の冬から僕の時間は止まったままだ。
ゆっくりと目を閉じる。
そのまま僕は深い眠りについてしまった。

808やーのー  ◆/wP4qp.wQQ:2011/09/11(日) 06:22:10 ID:3N983kd6
なんだかんだで終わります。

アドバイスとかダメだしがあると有難いです。

809雌豚のにおい@774人目:2011/09/12(月) 00:19:36 ID:Tuba4E4g
GJ!

特に言うことはないけど、強いて言うならsageて欲しいな

810雌豚のにおい@774人目:2011/09/12(月) 11:02:09 ID:pLQvSs5g
避難所でのsageはどんな意味があるんですか?
本スレはわかるけど。

811雌豚のにおい@774人目:2011/09/12(月) 22:00:12 ID:3d.1vUmw
>>808さん
GJです。
文章適度に読みやすくていい感じだと思います。
強いて言えば、盛り上げるところは今後思いっきり盛り上げて欲しいかな。
次回も期待してます!

812ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:19:36 ID:3d.1vUmw
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 今回からは、タイトル通り明石朱里主役編です。
 それでは、投下させていただきます。

813ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:19:53 ID:3d.1vUmw
 4年前
 「『悪意』って何なんだと思う、九重?」
 「わっはー。千里は相変わらず無駄で無為で無意味なことに頭使ってるね偏屈だね偏狂だね中二病だねー」
 「……」
 「ま、強いて言うなら『悪意とは善意の対義語である(キリ)』ってトコじゃない?まー、そもそも前提として善意ってヤツをボク達は知らないわけだけどー」
 「つまり、説明になって無い」
 「そ、説明になってないし、説明できない。辞書的には、誰かを憎んだりー傷つけようとするキモチらしいけど、その説明じゃぁ何かピンとこないよねー」
 「だな。曖昧模糊としている」
 「模糊もモコモコ、雲を掴もうとするような話だ」
 「ま、『悪』ってやつをしようとする意識ってことでおっけーだとは思うんだけどねー」
 「そもそも、『悪』ってなんなんだろう」
 「単なる『悪』なら、法を逸脱したり、他者を傷つけることってコトになるんだろうけど。よくわかんないけどねー」
 「どうして、その悪をなすのか?」
 「その答えが『悪意』の意味ってコトになるんだろうけどねー。『悪』をなそうというモチベーションみたいな?」
 「それだと、まるで悪人はみんな悪いことが好きで好きでたまらないみたいに聞こえるけど」
 「そんなケースは稀なんじゃない?まぁ、ボクは善人にも悪人にも会ったことは無いけどねー」
 「そうか、悪のために悪をする者はいない」
 「そう、大切なのは目的」
 「法を逸脱してでも成し遂げたい目的があるか、モラルを曲げてでも人を傷つけたい激情があるか」
 「要は手段の問題だよね。そして、ボクたちはソレを定義づける、もっとマシで相応しい言葉を知ってる」
 「そう」

 「「欲望」」

 「だから、悪をなす意思を悪意と呼ぶなら、そんなものはどこにもなくない?」
 「そうだな。それは、単なる欲望。欲しいと思う気持ちに善も悪も無い」
 「そ、悪意なんてどこにもない。善意ってヤツがどこにも無いみたいにねー」
 「悪意なんて、この世界には無い」
 「そ、何年かけて、万年かけて、世界中のどこもかしこもそこかしこを探しても、そんなものなんて無い」
 そして、それは、4年後の今も同じなのだろう。
 勿論、これから語る、明石朱里の物語にも、きっと――――

814ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:20:25 ID:3d.1vUmw
 現在
 その日は、気がめいるような雨だった。
 先月の新学期ムードも薄れ切り、生徒会選挙も終わった10月のある朝のことである。
 「明石さん?明石朱里さん?」
 出欠を取る担任の女教師の声が、教室に響いていた。
 「先生。朱里、今日来てません」
 明石の隣の席の生徒が、手をあげて先生に言った。
 「あれ。明石さん、欠席かな?珍しい、って言うか奇跡的だね」
 担任の先生は、そう驚いたように言った。
 「葉山くん、何か聞いてない?」
 「・・・・・・や、何も」
 先生の問いに、珍しくローテンションで被りを振る葉山。
 「って言うか、普通に風邪とかじゃ無いんですかー?」
 と、隣の俺が葉山に代わり、努めて和やかな声音で言った。
 「え、御神君たちは知らないかな?明石さんって少なくとも葉山君が来てる日は、どんな重病でも重症でも学校来てるよ?」
 まるで当然のように先生は言った。
 本気で知らなかった。
 それは葉山も同じようで、隣で目を丸くしている。
 「お陰で水泳部の西堀先生から相談来てウザいんだけどね」
 そんな言い方するなよ、聖職者。
 「連絡とか、来てないんですかー?」
 「先生は聞いてないけど?」
 しれっと答える先生。
 つまり無断欠席。
 それって拙いんじゃないだろうか。
 「ま、いいや、次行こうか。伊能さん、いるー?」
 と、大して気にした様子も無く、先生は出欠を取り続ける。
 けれども、俺はどうにも明石のことが、そして葉山の様子が気になって仕方が無かった。







 「なーんか落ち着くよね、屋上って」
 その日の休み時間、俺は校舎の屋上、には雨なので入れないので、その手前の階段にいた。
 葉山と2人で。
 朝からずっと、葉山の様子はおかしかった。
 ずっと塞ぎこんだ様子で、俺が話しかけても適当に返すだけ。
 こんな葉山は初めてだった。
 「そう思わない?」
 あくまでいつも通り、軽い調子で葉山に話しかける。
 「まぁ、お前は前はよく屋上にいたからな」
 ローテンションで、葉山は答えた。
 「ああ、中等部の頃ね」
 「最近は、大桜の下だがよ」
 「あそこも良い所だよね、静かで」
 「静かなのが、好きなのか?」
 「そういうキブンになるときもある、ってカンジかなー」
 そう言って、俺は葉山に対して笑顔を向けた。
 「で、何かあったの?」
 俺は、単刀直入に言った。
 生憎、回りくどい方策は得意じゃないのだ。
 「何が、って何もねぇよ・・・・・・」
 俺から目を逸らし、葉山は答えた。
 気のせいか、階段の手すりを握る手が強張っているように見えた。
 「じゃあ、言い直そうか。何があったの、明石と」
 俺はそう断じた。
 「・・・・・・分かるのか」
 「分かるよ」
 それまではいつもどおりに見えた葉山のテンションがとみに落ちたのは、明石の話題が出てからだった。
 2人の間に何かあったことは、鈍い俺でも一目瞭然だった。
 「分かりすぎて、正直見てられないよ。今のはやまん」
 「・・・・・・」
 「話してくれないかな、俺に。話すだけでも、楽になるかもしれないし」
 なるべく穏やかに、葉山の目線に合わせて、俺は言った。
 「・・・・・・1つだけ、約束してくれ」
 「約束する、何でも」
 ようやく口を開いた葉山に、俺は即答した。
 「この話は、他言無用で頼む」
 そう言って、葉山は重い口を開いた。

815ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:20:59 ID:3d.1vUmw
 こんなやり取りがあったらしい。
 昨日の日曜日、珍しく、久しぶりに葉山は明石の家に呼ばれた。
 特にやることも、遊ぶことも無く、他の友人達も軒並み用事が入っていたので、葉山は明石の誘いにあっさりと乗った。
 「おひさし」
 自宅、ごく普通のマンションの玄関前で、明石はそう言って葉山を迎えたという。
 その日の明石はミニスカートに明るい色のブラウス、それに美脚のラインが目立つロングソックスという出で立ち。
 メイクもバッチリで、そのままティーンズ向けのファッション誌の表紙を飾れそうだった。
 「何だ、明石。出かけるのか?」
 「ううん、何で?」
 「随分とめかしこんでるみたいだったから」
 「べ、別に?コレが普通だけど?」
 そう言ってトボける明石だったが、とても部屋着には見えない格好だと葉山は思った。
 対する葉山はいつもどおりのジーンズなので、逆に気後れするくらいだった。
 いや、今更気後れするような相手でも無いのだが。
 「あ、ひょっとして『今日の朱里ちゃんキレーだな、かわいーな、コクッちゃいたいなー』とかそんな風に思ったり?」
 「思わねーよ」
 いつも以上にテンションの高い明石の冗談に、葉山はツッコミを入れた。
 「じゃあ、二択で答えて。今のアタシ、綺麗?」
 右手の人差し指を一本立てて、上目遣いで聞いてくる明石。
 「それとも、不細工?」
 今度は左手の人差し指を立てる。
 「別に、フツーじゃね?」
 葉山は普通に答えた。
 「二択って言ったじゃーん」
 両手の人差し指を示し、明石が言った。
 「別にどっちでもいーだろ?」
 「二択ッ!」
 「選択肢が極端すぎんだろ!」
 「二択」
 「いや、俺、女子の服には、あんま詳しくねーし」
 「に・た・く」
 最後にドスの効いた声でそう言われて、とうとう葉山も折れた。
 「まぁ、綺麗、って言うか可愛いんじゃねーの?」
 「ホント!」
 葉山の言葉に、明石が今までに見たことも無いほど嬉しそうな笑顔を浮かべた。
 「あんまホンキにすんなよ、俺の評価なんざ。さっきも言ったように女子の服のコトとかわかんねーし」
 なぜか気恥かしくなり、
 「正樹の評価だから良いんじゃない」
 そう言って明石は、足取りも軽く「上がって」と葉山を促した。
 「おじゃましますッス」
 明石の言葉のままに明石の家に上がる葉山。
 「お袋さん達は……あ、共働きだっけか」
 靴を脱いで居間へと移動しながら、葉山が聞いた。
 「そ。父さん母さん今仕事中」
 「だったな」
 そんなやり取りをしながら、居間のドアを開ける。
 「なんてゆーか久々じゃない?正樹があたしンち来るのって」
 「あー、そういやいつぶりだ?」
 「4年と半年、それに一週間と5時間11分14秒だね」
 「正確に覚えすぎだろ!」
 「と、言ってる間にも23秒が過ぎてしまったわね、ゴメンゴメン」
 「お前、実は数学得意だろ」
 と、言いながら、改めて葉山は居間の中を見回した。
 明石が約4年ぶりと言ったように、葉山が明石の家に来たことは多くないかもしれない。
 むしろ、明石とは葉山の家や、外で遊んだりしていた記憶の方が印象深い。
 なので、明石家の居間を見回しても、清潔でスッキリしている、といった程度の感想しか出てこない。

816ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:21:36 ID:3d.1vUmw
 「あ、アタシ、ちょっとお茶用意してるから」
 「ウン、良いのか?そこまで手間かけさせちまって」
 「ま、お客さんだし」
 「つーてもなぁ」
 約4年ぶりで、しかもあまり来たことの無い家で待たされてもどうにも居心地が悪い。
 「と、悪い。トイレ借りていいか」
 「良いよ。折角だから、ついでに家の中テキトーに見て回っててよ」
 葉山の言葉に、キッチンでガチャガチャという音を立てながら、朱里が言った。
 「良いのかよ」
 「そこにいたってヒマになるっしょ?」
 「ま、そうだな」
 提案の善しあしはともかく、こうした気遣いはありがたい。
 「それに、正樹に私のこと、もっと知って欲しいし」
 「お前のこと、じゃなくてお前の家のこと、だろ。日本語は正確に使いなよ」
 そんな軽口をたたき、葉山は立ち上がり、幼馴染特有の気安さでリビングを出た。
 「あー、トイレの場所聞くの忘れた」
 出た後に、葉山はそれに気がついた。
 もっとも、さほどあせることではない。
 半分以上、居間で手持ち無沙汰になるのが嫌で出ただけだ。
 明石に勧められたとおり、適当に家の中を見ながらトイレをさがすことにした。
 そう考えて、適当に家の中のドアを開ける。
 「ココは親御さんたちの部屋だな」
 ダブルベッドとテレビ、ちょっとした机のある部屋を覗いて葉山は言った。
 「次は、と。ココは物置か」
 本棚や様々な荷物で手狭になった部屋を見て呟く。
 本棚の中にはアルバムが仕舞われているようだった。
 「見てやって、後で話のネタにしてやるか」
 そう思ってアルバムを開く。
 前半は、明石の両親の写真からだった。
 それから、明石が生まれた後の写真。
 明石の両親は共働きなので、どうしても朱里にかまってやれる時間が少ない。
 そのため、家族旅行の写真があっても近い日付の写真が連続で並んでいることの方が多かった。
 家族旅行の回数自体が少ないのだろう。
 その代わり、葉山の家の旅行に明石も一緒に行った記憶があった。
 あとは、入学式や卒業式の写真。
 「ほとんど全部に俺が一緒に並んでンな。まるでキョーダイみてーだ」
 幼稚園から高校まで同じなのだ。
 家族写真の中に葉山も一緒に写っていた。
 その逆の写真が、葉山の家にもある。
 「腐れ縁にもほどがあるなァ。ったく、やれやれだぜ」
 そうは言いながらも、懐かしさに自然と笑みがこぼれる。
 そんなことを考えている内にあっという間にアルバムを見終わる。
 「まいった。ネタになるような写真が無ぇ。っつーかンなことしてる場合じゃ無ぇ」
 アルバムを仕舞い、物置部屋を後にする。
 そして、無造作に次の扉を開ける。
 「!?」
 扉を開けて、硬直した。

817ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:22:17 ID:3d.1vUmw
 その部屋は、とても部屋とは思えなかった。
 いや、確かにクローゼットやベッド、勉強机といった記号が、そこが寝室であることを辛うじて認識させてくれた。
 しかし、その他は何だろう。
 壁一杯に、写真が貼られていた。
 葉山の写真だった。
 通常サイズのものから、引き伸ばしたものまで、様々なタイプの、様々な年代の葉山の写真が壁に隙間無く貼られていた。
 いずれも、視線がカメラの方を向いていない。
 盗撮であることは明らかだった。
 壁だけではない。
 天井、床、果てはクローゼットにまで、葉山の写真がビッシリと貼られていた。
 ベッドの布団にまで、葉山の写真がプリントされている。
 葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山・・・・・・
 どこを向いても葉山の写真がある。
 自分の姿が部屋一面に飾られていることに、言いようも無い嫌悪感、否、恐怖感を感じる。
 「・・・・・・ヒ」
 そこで、ようやく喉が正常な機能を果たし始めた。
 「ヒアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 恥もプライドも無く、葉山は家中に響かんばかりの悲鳴を上げた。
 「あれ、どうしたの正樹?」
 その悲鳴を聞きつけて、というには平静な声が背後から聞こえた。
 明石だ。
 「あ、朱里・・・・・・」
 振り返った瞬間に、腰が抜けたのか、はたまた気が抜けたのか、葉山は尻餅をついていた。
 自分の姿が写った、床の上に。
 「・・・・・・これ、何?」
 震える手で、部屋の中を指差す。
 「・・・・・・え?」
 対する明石は、何のことだか分かりかねるような声で小首をかしげ、言葉を続けた。
 「ココ、アタシの部屋だけど?」
 ココ、アタシノヘヤダケド
 その発声の意味を掴むまで、葉山は数瞬かかったと言う。
 「お前の・・・・・・部屋?」
 「うん」
 当たり前のようにうなづかれる。
 「お前・・・・・・・こんなところで暮らしてんの?」
 「うん」
 「こんなところで毎日起きんの?」
 「うん」
 「こんなところで毎日寝てんの?」
 「うん」
 「こんなところで毎日勉強してんの?」
 「うん、大体は」
 「こんなところで毎日ケータイで喋ってんの?」
 「うん」
 「お前・・・・・・」
 口が、喉が、何より頭が正常に機能しない。
 「お前、こんなところで二十四時間三百六十五日生き続けてんの?」
 「うん」
 当然という顔の明石と、圧倒的に異様な明石の部屋。
 「なん・・・・・・で・・・・・・」
 「ああ、この写真?」
 抵抗感無く、慣れた様子で部屋の中を見渡して、明石は言った。
 「ああ、ゴメンゴメン。思わず勝手に撮っちゃったり、学級新聞とかに載った奴をパソコンに取り込んでプリントアウトしたり、さ。謝るから、ね」
 「いや、ソレじゃなくて・・・・・・」
 どっちを向いても、葉山の姿しかない。
 「こんな部屋に居て、気ぃ狂わないのか?」
 「え、何で?」
 明石はきょとん、とした。
 思いもよらないことを聞かれたという風に。

818ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:22:38 ID:3d.1vUmw
 「むしろ、ちょー落ち着くじゃん」
 「おち・・・・・・つく?」
 理解しがたい言葉が、明石の口から飛び出た。
 いや、理解できるはずなのだが、頭が理解することを拒否している。
 「すっごい落ち着くって言うか、安らぐっていうか。なんかこー、正樹に守られてる感があって良いんだぁ、ココ」
 恍惚とした表情さえ浮かべながら、明石は語る。
 「世界で一番の、私の安全地帯」
 そのおぞましい空間を、明石はそう形容した。
 「なん・・・・・・で・・・・・・」
 葉山には、とても理解しがたかった。
 訳が分からなかった。
 まるで、地獄の只中で天国に居るようなことを言う彼女が。
 言葉や表情だけではなく、明石朱里と言う存在自体が。
 『これは、誰だ?』
 と、葉山は思った。
 『俺の知ってる朱里は、こんなヤツだったのか?』
 例えば、朱里の体をエイリアンが乗っ取っている、そんな与太話のほうがまだ現実味があるように思えた。
 「何で、って言ったよね、正樹。その理由はシンプルだよ」
 腰を抜かしたままの、葉山に顔を近づける明石。
 「正樹が、好きだから」
 葉山の耳元で、明石がそう囁いた。
 おぞましい空間の中で行われるには、とてつもなくアンバランスな告白。
 「正樹になら、頭のてっぺんから足先まで、心臓でも肝臓でも目玉でも何でも、私のどこだってあげる。正樹のためなら、世界中の誰だって殺せる」
 囁きは、続く。
 「世界中が誰一人何一つ無くなっても、正樹さえいてくれるなら、私は幸せ」
 告白は、続く。
 「正直ね、私普通に生きてて何度も何度も何度も死にたくなったよ。普通に生きてたから。普通に、みんなからシカトされたり、暴言を吐かれたり、暴力を振るわれたりしたことも、あったから」
 おぞましい、告白は。
 「でも、正樹がこの世にいてくれてる、それだけを支えに今日まで生きてきたよ?」
 そして、明石は、葉山の耳元から正面に移動する。
 「大好き」
 そう言って、葉山の唇に、自分の唇を重ねた。
 キスをされてる。
 そう思ったときには、体重をかけられ、押し倒されていた。
 「ぅん、ううん・・・・・・」
 「!?」
 唇の柔らかな感触を味わう暇も無く、口内に異物が侵入してくる感覚。
 舌を入れられているのだ。
 葉山の口の中に、明石の舌が。
 「ぁ、あん・・・・・・うむ・・・・・・ン。ちゅぱ・・・・・・」
 葉山の体の上に乗った小さな胸から、ドキドキという鼓動が聞こえる。
 その鼓動が、初めて葉山に、明石が女性であることを感じさせた。
 同時に、口の中で明石の舌が蛇のようにうねる。
 訳が分からなかった。
 意味が分からなかった。
 何もかもが理解不能だった。
 今まで、葉山にとって明石は腐れ縁の幼馴染で、気安い友人で、それ以上の存在では無かった。
 そんな明石が、葉山を異性として見ていたというのだろうか。
 葉山に対して、こんなことをしたかったというのだろうか。
 「フフ・・・・・・」
 それまで、葉山の手に重ねられていた明石の手が移動する。
 葉山のズボンへと。
 『逃げないと』
 ベルトに手をかけられた瞬間、ようやく葉山にその発想が生まれた。
 『逃げないと逃げないと逃げないと逃げないと!』
 自分の口内を蹂躙する明石の唇を強引に振り払い、ベルトを外そうとする明石を突き飛ばした。

819ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:23:19 ID:3d.1vUmw
 「まさ・・・・・・き?」
 信じられないという顔をする明石の存在すら視認できず、葉山は脱兎のごとく部屋を逃げ出した。
 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 悲鳴を上げ、部屋だけではなく、明石の家からも、走り出る。
 「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 行き先なんて考えていない。
 一分一秒でもあんなおぞましい空間にいたくはなかった。
 走って逃げて走って逃げて走って逃げて走って逃げて走って逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて。
 闇雲に走った先で、葉山は我に帰って足を止めた。
 呼吸が荒いのは、急に走ったからだけではないだろう。
 「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ウン?」
 ふと気がつくと、懐から振動音が聞こえる。
 ポケットに入れていた携帯電話だ。
 それを取り出そうと手をやって、葉山は遅まきながら自分の全身が震えていることに気がついた。
 そして、震える手で携帯電話を取り出し、
 「ヒアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
 葉山は、過去最大級の悲鳴を上げた。
 着信者:明石朱里
 そう、携帯電話に表示されていたからだ。
 思わず通話終了ボタンを押すと、着信のお知らせが残る。
 「ヒィ!?」
 着信履歴を覗くと、葉山は携帯電話を取り落とした。
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
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 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里
 着信者:明石朱里・・・・・・
 短時間の間に、ビッシリとそう表示されていたからだ。
 「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 葉山はそのまま、携帯電話を拾うのも忘れて、家へ逃げ帰った。

820ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:23:53 ID:3d.1vUmw








 以上が、俺が葉山から聞いたことの顛末だった。
 話している間中、葉山はガタガタとかわいそうに震えていて。
 なだめながら聞くのがやっとだった。
 正直、最後まで話せたことが奇跡だったかもしれない。
 「そっか・・・・・・」
 俺は、話し終えた葉山の肩をポンポンと叩いて言った。
 「ありがとう、全部話してくれて」
 俺は、出来うる限り最大級に穏やかな笑顔を葉山に向けた。
 「あ、ああ・・・・・・」
 生唾を飲み込みながら、葉山は何とかそう言った。
 正直、俺にとって明石は危険度の高い女子だとは思えない。
 葉山の話を聞いてなお、そう感じられる。
 俺は、ブチ切れた時の生徒会メンバーをはじめとする危ないモードに入ったコたちを数多く見てきたから。
 彼女らに比べれば、誰1人にも危害1つ加えていない明石は極々普通の女子でしかない。
 けれど、葉山は違う。
 葉山が怖いと、恐ろしいと感じたことは事実なのだ。
 今重要なのは、葉山を慰めてやること。
 「安心しなよ、怖いモンはもう無いから。もう去ったから」
 「ああ・・・・・・ああ・・・・・・」
 慰める俺に、ガクガクと頷く葉山。
 「お前が遭ったのは、ひと時の、そう夢みたいなモンだよ。明石だってきっと・・・・・・」
 「アイツの名前を言うな!」
 俺が明石の名前を出すと、葉山は悲鳴のようにそう言った。
 この様子だと、きっと昨日から連絡なんて取ってないんだろうなあ・・・・・・。
 確認したいけど、今の葉山はそれを聞けるような状態には見えない。
 意外と言えば意外だが、納得と言えば納得の状態だった。
 葉山は、本当にごく普通の男子高校生だ。
 当たり前に親や教師の庇護を受けて育ち、人間のドロドロとした部分なんてほとんど体感せずにすくすくと育った奴だ。
 いじめにあったことも、いじめをしたことも無いような、表裏の無いまっすぐな奴だ。
 まっすぐだからこそ、横殴りの衝撃には弱い。
 それも、今回は不意打ちだった。
 葉山も、なんのかんのでイロイロ鈍感な奴だ。
 昨日体験した全てが、葉山にとって『明石の意外すぎる一面』だったのだろう。
 それも初体験。
 初心者には刺激が強すぎる。
 キスのことだけではないので、念のため。
 「まぁ、とにかく、もう大丈夫だから。俺らもついてるしさ」
 「・・・・・・頼りに、していいか?」
 「もちろん」
 「・・・・・・ありがと、な」
 そうして、教室に戻ろうと俺たちは立ち上がる。
 震えていた葉山の足元も、随分しっかりとしてきた。
 そうして、俺たちは階段を下りて、踊り場にさしかかった。
 踊り場には先客がいた。
 と、言うより、倒れていた。
 人が、女の子が1人。
 「三日!!」
 俺は、思わずその大切な女の子の名前を叫んでいた。

821ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:25:34 ID:3d.1vUmw
 その後。
 俺は、葉山に先に戻ってもらい、三日を急いで保健室に連れて行った。
 保健室の先生によると、体調に特に問題は無いらしい。
 「ちゅーか元々、良く倒れる奴だかんな」
 と、先生は言った。
 「体、弱いですからね」
 「とりあえずベッドに休ませとくから。御神、お前着いててやれ」
 「はい」
 そんなやり取りをして、先生はベッドから離れた。
 しばらくすると、暢気な寝息が聞こえる。(不良教師だ)
 「・・・千里・・・くん?」
 ベッドの上で、三日が目を開ける。
 「そだよー。お目覚めかな、眠り姫」
 「・・・ねむりひめ?」
 ボンヤリとした顔で辺りを見回す三日。
 こんな軽口にボケるとは、頭がまだ本調子では無いらしい。
 「心配したよー。踊り場で倒れててさー」
 「・・・私、倒れちゃったんですね」
 改めて、三日は辺りを確認し、ここが保健室であることを認識する。
 「・・・ここまで運んでいただき、ありがとうございます」
 「これぐらい軽いもんだよ」
 仕事的にも、体重的にもね。
 「でも、体育の授業でもないのに三日がブッ倒れるなんて久しぶりだね。あの夏以来じゃない?」
 なるたけ軽い調子で、俺は言った。
 今日は最大級の穏やか笑顔の出番が随分多くなりそうだった。
 「・・・私のせい、なんです」
 脈絡も無く、三日は言った。
 「って、どうしたのさ。藪からスティッチに」
 「・・・私のせいだと思うと、胸が苦しくなって、・・・息も荒くなって、・・・気がついたら、倒れてて」
 俺のボケにツッコミも入れず、三日が言葉を続けた。
 気のせいか、小さな胸が上下する間隔が短くなっているようにも見える。
 「と、とにかく、落ち着いて、ね?ね?」
 背中をさすり(俺もパニクッてるのだ)、俺は三日をなだめる。
 「・・・聞いてたんです、さっきの葉山くんの話」
 軽く深呼吸して、落ち着いてから三日は言った。
 聞いていた、というのは、先ほどのやり取りのことだろう。
 「・・・あれは、きっと私のせいなんです」
 そして、三日は話し出した。
 懺悔するように。

822ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:25:54 ID:3d.1vUmw
 しばらく前に、こんなやり取りがあったのだそうだ。
 「・・・どうして朱里ちゃんは、葉山くんにストレートに告白してしまわないんです?」
 「!?」
 三日の素朴な疑問に、会話していた明石は言葉を詰まらせたのだという。
 「ええっと、それは何と言うか。まだそのカードを切るのは早いというか最終手段と言うか今はその段階じゃないというか・・・・・・」
 しどろもどろでそう捲くし立てる明石だったが、まっすぐ見つめる三日の眼に嘆息して、
 「自信が無いのよ、正直」
 と、ため息混じりに言った。
 「告白なんかして、もし正樹に振られたり、『キライだ』とか言われたりして、今のぬるま湯みたいな関係が壊れちゃうんじゃないかって思って、怖いのよ」
 明石はそう、本音を吐露した。
 「…大丈夫ですよ、朱里ちゃん」
 三日は静かに首を横に振り、優しく明石の手を取った。
 「…絶対、大丈夫です」
 「何の算段も無いのに、何でそう言い切れるのよ」
 「…良いですか、朱里ちゃん」
 気弱な明石に、三日は諭すように言った。
 「…正直言って朱里ちゃんは美少女なんです」
 「恥ずかしいことを臆面も無く言うわね」
 「…事実ですから。…それも、私が男の子だったらほんのちょっとだけときめいていたかもしれない位の」
 「恥ずかしい台詞の大盤振る舞いね」
 「…ですから、葉山くんなんて美少女の朱里ちゃんが迫りに迫れば陥落するに違いありません!」
 「陥落!?」
 「…葉山くんなんて『チョロい!』ものなんです」
 「私の親友が腹黒くなって生きるのが辛い」
 「…とにかく、自分に自信を持ってください」
 「自分に自信、ね」
 明石は三日の言葉を繰り返し、微笑を浮かべた。
 「会ったばかりはオドオドビクビクだったみっきーの口からそんな言葉が出る日が来るなんて、ね」
 「…出過ぎた言葉、でしたか?」
 「ううん」
 首を横に振る明石。
 「ありがと、みっきー。みっきーに言われて、むしろ自信出て来た」
 そして、明石は決意した。
 「告白するわ、アタシ」
 「…朱里ちゃん」
 三日に頷く。
 「まぁ、ちょっぴりちゃんと準備がいるから、今すぐにってワケにはいかないけどさ」
 「…はい、応援しています!」







 そして、現在
 「…それが、あんな結果に終わるなんて」
 三日は、思いっきり落ち込んでいた。
 我が事のような落ち込みぶりだった。
 俺も似たような経験があるので、三日の気持ちは痛いほど分かる。
 それこそ、我が事のように。
 「…私のせい、ですよね」
 「お前のせいじゃない」
 三日から零れた言葉に、俺は即答した。
 「お前はお前にできることを十分にしただけだ。その結果は残念なことになったけれど、それとこれとは話は別だ」
 ポン、と三日の頭に手をやって、俺は言った。
 「だから、大丈夫だ」
 「…ありがとう、ございます」
 ほんの少しだけ、三日の声に元気が戻った気がした。
 「どういたしまして」
 俺は、笑顔でそう答えた。
 「それにさー、まだ希望はあるかもだよ?今のはやまんはちぃとパニクってるだけだし、さ。落ち着けば、何か変わるかもー」
 半分以上は気休めのような言葉ではあった。
 けれど、それに対して三日は「…はい」と頷いてくれた。

823ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:26:36 ID:3d.1vUmw
 おまけ

 ここから先は、俺が知る由も無い出来事だ。
 葉山正樹に告白をした後、明石朱里が何をしていたか。
 彼女は、一晩中街の中をさ迷っていた。
 夜が開けた、その時間、本来なら登校しているその時間帯もまだ。
 激しい雨に打たれながら。
 その一晩、物騒な輩に絡まれなかったことは、ある意味では幸運ではあった。
 そうした輩でさえ、今の明石のことは避けて通ったのかもしれない。
 雨に濡れ、汚れきった衣服。
 憔悴しきった表情。
 虚ろに濁った瞳。
 覚束無い足取り。
 右手には汚れのついた携帯電話が握られていた。
 その携帯電話が葉山のものであることに、彼女の友人ならば気が付いただろう。
 その前に、彼女が明石朱里であることにすら気が付かないかもしれないが。
 そう思わせるほどに、普段の彼女からは考えられない位、憔悴しきっていた。
 「……はは」
 彼女の口からは、時折虚ろな笑いが漏れる。
 「……あはははは」
 笑いが漏れては、虚空に消える。
 フラフラと歩いていた彼女の足は、夜中歩きとおしてとうとう止まった。
 そして、明石の体はコンクリートの上にグラリと倒れた。
 その勢いで、右手の携帯電話が道に転がる。
 「……あ」
 地面に倒れた痛みよりも、手から離れた携帯電話を、明石は目で追った。

 その時、黒猫が現れた。

 「へぇ…ん」
 その黒猫、否、明石が黒猫だと一瞬錯覚した女性は、傘を片手に明石の落とした携帯電話を無造作に拾い上げて、言った。
 「ハードなお仕事終わって、久々の帰宅中にヒトみたいなゴミが落ちてると思ったらゴミみたいなヒト…なんだよ?」
 「かえ……して」
 出会いがしらの暴言より先に、明石は葉山の携帯電話のことに反応した。
 「それ……かえして。たいせつな……ひとのもの……だから」
 途切れ途切れで、そう声を漏らす。
 「良い…よ」
 女性は、明石に近づき、前かがみになって携帯電話を手渡す。
 そして、彼女の顔をまじまじと見る。
 「キミの顔、どっかで見覚えある…なぁ。どこだった…かな?」
 そうして、少し考え込むと言った。
 「分かった、明石朱里さん…でしょ?」
 「……?」
 自分の名前を言い当てたその女性を不思議に思う明石。
 明石にとって、その女性は見覚えの無い相手だ。
 「分かるよ。自分の娘の交友関係くらい…ね」
 そう言って、女性は猫のように笑う。
 「明石朱里…さん。キミはちょっぴり面白い人かも…しれないね?」
 そう彼女―――緋月零日は言った。






 明石朱里と緋月零日

 壊れかけた少女と壊れ果てた女性

 出会ってはいけない2人が、出会ってはいけない時に、出会ってしまった。

824ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22:27:41 ID:3d.1vUmw
以上で、投下終了となります。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお読みいただければ幸いです。
それでは、失礼します。

825雌豚のにおい@774人目:2011/09/13(火) 00:55:25 ID:XR1YrOes
GJ!!

826雌豚のにおい@774人目:2011/09/13(火) 23:21:37 ID:aA96FONg
うわあ…すげえ続きが気になる引きだ
うん、GJ!

827雌豚のにおい@774人目:2011/09/14(水) 21:56:38 ID:JtjWS9po
GJ お疲れ様です
とりあえず、朱里さんには最後まで振り切ってもらいたいですね

828風見 ◆uXa/.w6006:2011/09/16(金) 01:41:15 ID:oGWbDPP.
名物桜の最終話を投下します。

829名物桜で待ち合わせ 最終話:2011/09/16(金) 01:42:12 ID:oGWbDPP.

「愛さ・・・・・・ん?」
 一日でこんなに人は変わるものなのかと疑問に思うほど変わり果てた姿。
 昨日、最後に見たときから変わってない服装。ただ一つだけ違うと言えば、みすぼらしいほどにボロボロになっていることだ。
 よく見ると、ボロボロになっているのは服だけじゃない。一樹は、だらんとなっている両手両足を見た。

「う!」
 昨日一樹が見た、自分を包んでいた綺麗な肌は、服同様にみすぼらしく変化していた。

「優・・・何をしたんだ・・・?」



 愛しい人の声が目の前から聞こえた。ただそれだけの事が、今の愛の救いとなった。眠っていた・・・いや、眠らされた思考、自分の心が回転し始める。

「かず・・・き・・・。」
 目覚めた思考が出した一番最初の命令は、彼の名前を呼ぶことだった。

「愛さん!大丈夫ですか?」
 一樹は、少しだけ自我を取り戻した愛に駆け寄る。



カチッ!



「ぐうううぅぅぅ!」
 何かが作動した音と共に、愛が苦しそうに声を上げる。だらんとしていた指の先が閉じられ、耐えるように愛は両手の拳を力ませる。

「愛さん!?」
 駆け寄った愛の首には、ベルトみたいな器具がついていた。その器具が、時間が経つにつれて縮まっていっている。
 愛は、絞められている苦しさに耐えるようにさらに悶える。



カチッ!



「はぁ・・・はぁ・・・。」 再び聞こえた音は、愛を絞めていた器具が縮まるのが止まる音だった。
 苦しさから解放された愛は、肩で息をした。口を開こうとするが、抜けきらない苦しさが邪魔して思うように動かなかった。





「何度も行ってるでしょ?お前ごときが一樹の名前を呼ぶことは許されないの。」
 後ろを振り向くと、スイッチらしきものを持った優子が二人を見下ろしていた。

「優!これはどういうこ!」 急に一樹は言葉を遮られた。遮ったのは、優子の舌だった。
 口内を支配される一樹は、口に異物感を感じた。

「!!!」
 急なキスで麻痺していた口の神経が甦り、異物感ははっきりと一樹に伝わった。

ゴクッ!

 異物感を無理矢理飲み込ませた優子の舌は、役割を終えてもなお動きを続けていた。

「プハァ!」
 離れた瞬間、優子は満足そうに一樹を見つめた。
 何かを待っているかのように、優子は一樹を見つめ続けた。



その瞬間、一樹の体は完全に動きを止めた。

830名物桜で待ち合わせ 最終話:2011/09/16(金) 01:43:24 ID:oGWbDPP.

「・・・!」
 口を開こうとするが、声を出そうとするが、脳からの命令を遮断されたかのように口が開かない、声帯が震えない。

「一樹ー!これで邪魔はいなくなったよー!しよっかー!」
 一樹は、ここに来たときから今までの出来事が理解が出来ないでいた。
 昨日まで元気だった愛は、一日でがらりと変わってしまっていた
 そして、突如動かなくなった体と、優子の発言。

 優子は、動かない一樹を抱えあげて、キングサイズのベッドに横たわらせる。
 瞬間、一樹のあそこがズボンの中で膨らみ始めた!

「さっき飲ませたのはー、体を興奮させる薬なんだよー!体を動かなくさせる作用付きだよー!」
 ゆっくりと一樹の体を愛撫する優子。

「一樹の体もおかしいよねー!好きでもない女についていくんだもんねー!本当に好きな私に近づけない体なんて麻痺させちゃってもいいよねー!」
 嬉しそうに服を全て脱がす優子の表情を、一樹は直視出来ないでいた。

「見てみてー!もう私準備万端ー!」
 自分のあそこを開いて一樹に見せつける。優子の言う通り、確かに準備万端だ。

「・・・!・・・!」
 必死で拒否しようと言葉を吐こうとするが、手足を動かそうとするが、薬の作用で動けない一樹は、自分のあそこが優子に食われるのをただ見ていることしかできなかった。

「ハァ!ハァ!ハァ!一樹ー!やって一緒にー!」
 間髪入れずに挿入し、そのまま体を激しく上下させる。
「・・・!・・・!」
 薬の作用に加え、愛以上にぴったりとはまった優子のあそこが、一樹に強烈な快感を次々と与えていった。

「・・・・・・!!!」
 本来ならば、気持ちよすぎて叫んでいたところだが、口が動かない。快感に耐えようにも、体が動かないために体を力ませることが出来ない。結果、一樹は倍増していく快感に身を委ねるしかなかった。



「ハァー!いいー!いいよー!」
 そんな一樹はお構い無しに、ひたすら腰を動かす優子。
 しばらくして、優子は動きをやめた。

「!!!???」
 急に止まった強烈な快感の余韻が、止まってもなお一樹を苦しめていた。
 そんな一樹を見つめながら、優子は側にあったスイッチを押した



カチッ!

831名物桜で待ち合わせ 最終話:2011/09/16(金) 01:44:58 ID:oGWbDPP.

 また聞こえた音と共に、愛の首の器具がまたしても縮まった!

「・・・!!!」
 さっきよりも強く締まる器具、愛は再び拳を握る!
 スイッチを押した優子は、愛が苦しむ姿を見ながら、再び腰を動かし始めた!





 愛はただ、見ていることしかできなかった。
 さっきよりもきつく絞まってるはずなのに、もう苦しみを感じない。力を入れていたはずの両手には感覚がない。
 うつろな瞳から見えるのは、愛する人が自分以外の女性と繋がっている姿だった。
 もはや、愛にはこの光景を理解できる思考など残っていなかった。ただ思い出すのは、昨日の一樹との一夜の記憶だけ。
 もう自分がどんな表情をしているのかも分からないまま、愛の視界は少しずつ黒く染まっていった。
 最後に愛が見た光景は、愛する人を奪った憎き女が、背中をそらして感じている姿だった・・・。

「一樹ー!もう絶対に逃がさないからー!!!」



――――――――――



 一樹は、両手首につけられている鎖をならしてゆっくりと前へ進んだ。
 この通りで一番大きいラブホテルの最上階から、一樹は下を見た。
 下に見えるのは、優子があの日に植えた大きな桜の木があった。通る者全てが目を奪われる美しさに成長した大きな桜の木。まるで、約束を交わした名物桜のようだ。

「綺麗な桜の木の下には何かが埋まってる」

 ふと一樹は、こんな噂を思い出した。

「噂は・・・本当なのかもな・・・。」
 あの桜の木には、確かに埋まっている。一樹を愛していた女性の体が・・・。
 あの日、優子は見せつけるように一樹を犯した。それを見ていたのだろうか、最後に見た愛の顔には涙の跡があった。
 その後、優子は愛の体を埋めて、その上に桜を植えたのだった。

「一樹ー!これでずっと一緒にいられるねー!もう誰にも渡さないからね!ずっと一緒だよ!約束だよ!」
 名物桜で交わした約束の続きかのように、優子と俺は新たに約束を交わした。いや、交わせられた。
 そして、今一樹は、優子がずっと住んでいるラブホテルの最上階に監禁されている。
 今日も一樹は、窓の下から見える立派に咲いた桜を見ながら、優子に犯される夜を待つのだった。



――――――――――

 ラブホテルの一室、とあるカップルがことを終えて、ベッドに座っていた。

「なぁ、ここのホテルの桜の噂、知ってるか?」
「何それ?知らなーい。」
「あの桜ってすごい綺麗だろ?でもあの桜って植えられてからまだそれほど時間が経ってないらしいぜ。」
「へぇー。」
「でさ、綺麗な桜の木の下には何かあるって噂、あるだろ?あの桜の木の下には、好きだった男性をとられた女性の体が埋められてるって噂なんだってさ。」
「ん?もしかしてそれって・・・。」
「あぁ、あの桜が綺麗に咲く理由は、その男性に自分のことを見てほしいかららしいぜ。」
「・・・。」



 桜は今でも綺麗に咲き続けている。

832風見 ◆uXa/.w6006:2011/09/16(金) 01:46:24 ID:oGWbDPP.
投下終了です。

今まで読んでくれた方、ありがとうございました。

833雌豚のにおい@774人目:2011/09/16(金) 01:50:25 ID:xxBCbupU
>>832
GJ
まさかリアルタイムで最終話の投稿にかちあうとは思わなかったです。
乙でした!

834雌豚のにおい@774人目:2011/09/16(金) 03:07:55 ID:Trcbmwrk
完全復活だね、乙でした!


しかしこれ怖いな。

835雌豚のにおい@774人目:2011/09/16(金) 09:10:50 ID:S5YPYQs2
>>832
GJそして完結乙です
愛と優子の争いをもうちょっと見てみたかったです

836雌豚のにおい@774人目:2011/09/16(金) 10:51:58 ID:.UPaup5Y
>>832
お疲れ様でした!GJです。
優さんマジどSなエンディングでした。
ヤンデレなOLさんも良いものですね。

837雌豚のにおい@774人目:2011/09/16(金) 15:48:18 ID:m3Q8hRXE
GJ!  たしかにもっと長く続いて欲しかった。

838ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1.5 ◆yepl2GEIow:2011/09/18(日) 23:22:30 ID:2hGF9uFs
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 今回はpart1と2の間ということで少し短めになります。
 それでは、投下させていただきます。

839ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1.5 ◆yepl2GEIow:2011/09/18(日) 23:23:39 ID:2hGF9uFs
 「そんなことが…あったんだ」
 緋月三日の母親、緋月零日、そう名乗った女性の自宅で、朱里は今まで会った出来事を話していた。
 深い理由があった訳ではない。
 零日に向かって話した訳ではない。(壁の方を見ながら話をしていた気がする)
 「だから……私は終わったの。好きな人に、一番拒絶されたくない人に拒絶されて」
 虚ろな瞳で、朱里は言った。
 「ふーん」
 朱里の話しに何の感慨も無い様子で、零日は言った。
 「でも分かんない…な」
 「どれが?」
 朱里に言わせれば、分からないことだらけだ。
 なぜ失敗してしまったのか。
 なぜ正樹に拒絶されてしまったのか。
 なぜ自分はこんなにも絶望しているのか。
 そして、なぜこの女性が自分を保護してくれたのか。
 風呂に服までかしてくれた。
 もっとも、服は朱里のキャラ付けを真っ向から無視したフリルのついた真っ白なロリータファッションだったが。
 普段の快活な振る舞いとのギャップが得も言われぬ味わいのある姿、ではあるが、そもそも彼女の姿に何らかの感想を持つ者はこの場にはいない。
 着用している、本人でさえも。
 「私に分からないのは、あなたの前提としている…順序」
 零日は答えた。
 「順序?」
 「そ…順序」
 左右の人さし指をピッと立て、零日は言った。
 「好きになってもらってから…恋人になる。あなたの前提はそこにある…のでしょう?」
 零日の言葉に、朱里は頷いた。
 「逆…じゃぁ駄目なのかな?」
 「逆?」
 「そ…う」
 そう言って零日は、左右の人差し指を入れ替えるように交差させた。
 「『好きになってもらってから…恋人になる』じゃぁなくて、『恋人になってもらってから…好きになってもらう』」
 「……え?」
 「だから…」
 要領を得ない、という顔の朱里に、零日は噛んで含めるように説明する。
 「とにかく、その相手の子を手にしてしまえば良いんじゃないかな?誰かに奪われるその前に…ね」
 「それって……」
 束縛してしまえ、拘束してしまえ、ということだろうか。正樹の意思と無関係に。
 戸惑うと同時に、朱里はかつて受けたことのある、あることを思いだした。
 陰口。
 本人の前ではどれだけ友人を気取っても、本人のいない所では悪し様にこき下ろす。
 そこにいなければ、どこにもいないのと同じ、とばかりに徹底的に。
 零日の言っているのはその逆、ということかもしれないと朱里は思った。
 自分以外、正樹の目の前に好きな相手が他に誰もいなければ、ソイツらはどこにもいないのと同じこと。
 ならば、正樹は朱里のことだけを徹底的に見てくれるだろう。
 けれど、大丈夫なのだろうか。
 「大丈夫…じゃないかな?あなたが好きになった子…だもの。多少の時間はかかっても、あなたの気持をわかってくれるに違いないよ…絶対」
 にっこり、と笑う零日の言葉が朱里の心にじわじわと染み込んでいく。
 彼女の言葉に、朱里は自分がどれだけ間違っていたのか、そして彼女の言葉がどれだけ正しいか、自覚し、思考し、心身に染み渡って行く。
 まるで、甘い毒のように。

840ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1.5 ◆yepl2GEIow:2011/09/18(日) 23:24:04 ID:2hGF9uFs
 数時間後
 「…あれ、お客さんですか?」
 零日の娘、三日が帰宅してきた。
 「うん、少し前まで居たんだけど…ね」
 三日の言葉に零日が応じた。
 「…お帰りになられたんですね」
 若干人見知り気味の三日はホッとしたように言った。
 「正直会わせたかったんだけど…ね」
 「…それはちょっと、ご遠慮願いたいです」
 そんな三日に対して、零日はクスクスと笑った。









 同時刻
 「……ウン、ウン。それじゃ、ね」
 愛する人の写真に包まれた自室で、朱里は携帯電話の通話を終えた。
 「最初の仕込みはこんなモン、か」
 話していた相手は『友人』の一人。
 もっとも、心を許せる相手とは言えなかったが。
 それでも、交友相手として『使える』相手であることは確かだった。
 あれから。
 零日からのアドバイスをもらった朱里は帰宅後から動き出した。
 葉山正樹を手に入れるための策略を実行するために。
 今までよりもずっと積極的で、攻撃的な。
 まずは、表面的には極々当り前な、何十人といる『友人』たちとの通話。
 実際は、策略の為の仕込み。
 「シンプルよね、学生って。キホン、学校って言う唯一かつ小さなコミュニティで生きてるんだもの。ソコにほんのすこしだけ手を入れれば―――」
 そう言って、朱里は笑みを浮かべた。
 今までよりも、ずっと深淵なヤミを宿した瞳で。
 虚ろな笑みを。








 こうして、俺達の知らないところで物語の歯車は少しずつ狂い始めていた。
 深く、静かに。
 俺達がソレを自覚するのには、ほんの少し、時間を必要とした。
 必要と、してしまった。
 俺は―――御神千里は、そのことをいずれ死ぬほど後悔することになる。

841ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1.5 ◆yepl2GEIow:2011/09/18(日) 23:27:30 ID:sbYYXHSM
 以上で投下終了となります。
 お読みいただきありがとうございました。
 次回はもっとボリューム多めになる予定です。
 それでは、失礼します。

842雌豚のにおい@774人目:2011/09/19(月) 00:51:33 ID:i8KX0Dn.
GJ!
これからも頑張って下さい!!

843<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

844雌豚のにおい@774人目:2011/09/20(火) 22:41:51 ID:x7UhsCrE
GJです!
続き楽しみにしてます

845ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/22(木) 23:53:25 ID:ajF/t8qI
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 今夜は朱里回part2を投下させていただきます。
 今までのゆるいノリよりも、ややヤンデレ分が強くなりますがご容赦をば。

846ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/22(木) 23:53:53 ID:ajF/t8qI
 4年前
 「人間関係ってコトバ、あるじゃんー?」
 「ああ、ある」
 「でも、人間『関係』って何だろー?」
 「九重も、大概に中二病」
 「って言うか、人間が関係なんてできるのかな?」
 「と、言うと?」
 「人『間』なんて言うけど、結局ボクらは個体でしか無いじゃない。ただそこに在るだけの、ただそこで動いてるだけのモノ」
 「ヒト科ヒト属のホモサピエンス」
 「そんな定義づけも無意味な気がするけどねー。ヒトだろうがヒロだろうが、そこにあるモノでしかないし。あるモノで、あるだけ」
 「ある、だけ」
 「そう。あるだけで、関係なんてできない」
 「関係できない」
 「そ、断絶してる」
 「でも、世間には愛情とか友情とかあるだろ。ある、らしいだろう」
 「どーなんだろうねー、ソレも。そう言うこと言うのも、結局は断絶してるってゲンジツから目逸らしたいだけなんじゃないかなー」
 「現実逃避」
 「そ。『ジブンたちは1人じゃない、繋がってる』っていうユメを見たくてさ。この前の善意と悪意の話もそうだけど、結局全部存在しないナニかに存在して欲しいって言う願望、サンタクロースの実在を夢見る子供みたいな愚行なんじゃない?」
 「サンタクロースって、いないんだ」
 「そだよ。ウチにも来たこと無いし」
 「友情も、愛情も無い」
 「そだね。全て幻。ま、思うだけならタダだしね」
 「そこにいて、そこで話しても、関係できない」
 「そ。言葉だろうが暴力だろうが、コミュニケーションの方法って呼ばれてるものでさえ、ね。そんなの、電車に乗り合わせた無関係な相手にだってできるし」
 「言葉を尽くしても、伝わらないこともあるし」
 「それもある。『親友』とか言ってる相手だって、互いの気まぐれで仲たがいしてそれっきりってこともある。他人らからは愛し合ってるように見える恋人同士が、ハラの内で何考えてるのかなんて分からない。夫婦だって――――言わずもがな。って言うか言いたくないしー」
 「そっか」
 「だからこそ、あっさり変容するよね、人間関係って。変容するように、見える」
 「かも、ね」
 「結局人間関係なんて、夢幻なのにね。夢幻で、無為で、無意味だ」
 「じゃあ、俺達の関係は?」
 「無関係」

847ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/22(木) 23:55:29 ID:ajF/t8qI
 現代
 というか、前回の一件から翌日。
 明石朱里は大いに驚かせた。
 あまりに当り前に登校して。
 「え、いや、ただの風邪風邪。学校に連絡もできないくらいグッタリしててさー、いや参った参った」
 ケロリとした顔を作り、そう言ってのけたのだ。
 「ま、もー元気莫大になって荒ぶってるからダイジョブなんだけどね!」
 と、言う訳でそれから数日が経ち。
 俺達はいつも通り、普通の学園生活を送っていた。
 表面的には。
 あくまで、表面的には。
 「ねぇねぇねぇまーちゃん。昨日のテレビ観た!?七時半からのロードショーのヤツ!?」
 「お、おお。あ、みかみん・・・・・・」
 「観た!?観たよね!?観たもんね!!いやー面白かったよねー!ヒロインが死んじゃうシーンなんてマジ感動だったし!!」
 「あ、ああ。あの映画は名作だよな」
 「だよねー。名作を通り越して神作っていうかネ申作!みたいな!?」
 「だ、だな・・・・・・。えっと、みかみ・・・・・・」
 「思ったんだけど、ネ申と猫ってなんか似てない!?」
 以上、ある日の明石と葉山の会話。
 こんな具合に、明らかに嫌がっているっぽい葉山に強引に明石が引っ付いていた。
 明石は、口を開けば「まーちゃんまーちゃん」(幼少期の葉山の愛称らしい。)なので、俺たちが口を挟む余地が無い。
 明石が引っ付いている、というのは物理的な意味でもだ。
 身体を接触させる、腕を絡める、キスができそうな距離まで顔を近づける、といったことが日常茶飯事になっていた。
 葉山が下手に振り切ろうとしようものなら、明石が上目遣いでにらむので(傍目から見ててもマジ怖い)、葉山も拒めないでいた。
 それでも、遠目から見れば明石と葉山は仲の良い男女に見えたことだろう。
 遠目から見れば。
 けれども、実際は違う。
 今まで、俺と葉山、三日に明石という仲良しグループが一応は成立していたのが、バラバラになりつつあった。
 俺たちは、今までどおりに行動を共にしている。
 してはいる。
 けれども、明石は自分以外が葉山と口を聞くことを許さない。
 明らかに拒絶していた。
 二人だけのセカイに埋没しようとしているかのようだった。
 一方の葉山は、以前の日曜日の一件をあからさまに引きずっていた。
 有体に言って、明石にビビッていた。
 明石に逆らうことはできないが、同時に彼女と一緒にいるのをひどく怖がって嫌がっているように見えた。
 互いがそこにいるだけだった。
 仲良しグループの体をなしてはいなかった。
 たとえるなら、電車の中で偶然4人がけの席に乗り合わせた他人。
 無関係の4人。
 それが今の俺達だった。
 どうにかしなければならない。
 いや、どうにかしたい。
 元々は、幼馴染の2人とその友人同士が何となくいるようなグループだったけれど。
 俺は、そのグループに居心地の良さを感じていた。
 それを、遅まきながら実感している。
 今のままだと、人間関係的に、非常に居心地が、悪い。
 九重辺りに言わせれば、人間なんて関係できないのだろうけれど、今までは、関係していると思い込むことはできた。
 けれども、現状では、思うことすらできない。

848ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/22(木) 23:56:12 ID:ajF/t8qI
 だけど、何をどうすれば良いのやら。
 分からない。
 どうしたら、みんなが、仲良く幸せになれるのか。
 分からない。
 何をすれば良い?
 分からない。
 何ができる。
 分からない。
 この俺に。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 「……い」
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
「……おい」
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 「……おい、神の字」
  分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 分か「人の話を聞け!」
 「たじゃどる!?」
 脇腹を思いっきりどつかれた。
 腰の入った、良いパンチだった。

849ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/22(木) 23:58:49 ID:ajF/t8qI
 時系列はさらに飛んで、その日の放課後。
 「ったく、このバ神の字が。ボケーっとしてンじゃねぇっつーの」
 エプロンをした腰に手を当て、呆れたように少女は言った。
 俺のことを『神の字』と呼ぶこの娘の名前は天野三九夜。
 通称天の字。(呼んでるのは俺だけ)
 少年のような口調と成長著しいスタイルとのギャップが凄まじい。
 更に言えば、根っこの女性らしさとも。
 いや、ホント女の子女の子してるんだよな、この娘。
 現在クラスこそ違うが、中等部以来の友人である俺が言うのだから間違い無い。
 部活は、夜照学園高等部の剣道部所属。
 同時に、料理部創設メンバーの1人。
 もっとも、剣道部の方が忙しくて、料理部に顔を出すことは少ないのだけれど。
 今この瞬間は、そんな少ないケースの1つだった。
 ここは料理部部室、というより家庭課室。
 放課後の部活動中。
 部員一同和気あいあい、ワイワイガヤガヤと料理をしている最中、どうやら俺は考え事にふけってしまったようだった。
 「包丁握ってるってのに、ダチの話も聞かずにボンヤリするバカがあるかっつーの。あぶねーだろが」
 フゥ、と嘆息して天野は言った。
 ちなみに、天野は女生徒なのだが、その日の気分によって男女の制服を使い分けている。
 今日は、男子制服の気分らしい。(校則には、特にその辺の制限は無い。と、言うよりその発想は無い)
 中学時代は一瞬美少年かと見まがうようだったが、現在は彼女の女性らしいスタイルを引き立てる効果しかない。
 「包丁握ってる相手をドツくのもどーかと思うけどー?」
 「今更、かすり傷程度のことを気にかける間柄じゃねーだろ」
 なるほど、体育会系の発想だ。
 「あー、悪いね天の字。ちょっと考え事してて」
 「レアだな。ナチュラルボーン主夫のお前が料理してる時に考え事だなんて」
 「それに関しては返す言葉も無いよ」
 「『負うた子に教えられて浅瀬を渡る』ってヤツだな」
 と、天野が言うのは以前、俺が彼女の料理の先生のようなことをしていたことがあったからだ。
 それから友人となるまでの紆余曲折はここでは割愛。
 どーしても知りたければ『ヤンオレの娘さん』を読んで欲しい。
 「カンベンしてくれよ。世の中には、お前の顔も知らないクセしてお前をソンケーしてやがる愛すべきバカもいるってのに」
 「いるの、そんな人?」
 「ああ、オレちゃんが吹聴したからな」
 「してどうするのさ」
 「1年の弐情寺カケルってヤツなんだけどな」
 「いや、名前まで聞いてないし」
 一体、どんなことを言ったのだろう。
 「お前の話が上手かったからじゃない?むしろ、話したお前を尊敬してるとかさ。ねー、剣道部部長」
 夏の大会で3年生が引退した剣道部で、新たに部長となったのが、この天野なのだ。
 「さてねぇ。ま、今度紹介してやるよ」
 「幻滅されなきゃ良いけど」
 「それは無ぇ」
 即答されると照れる。
 「あー。そう言えば、剣道部の方は最近どうなの?」
 「順調快調絶好調。ま、新副部長に多少投げても無問題」
 「それは重畳ー」
 「それに比べて、ココは良くも悪くも相変わらずだなぁ」
 「そー?」
 「さっき、由良部長がまた水と料理酒を間違えてたぜ」
 「料理部(ウチ)のゆらりん部長はドジっ娘だからなぁ」
 元々、俺が『助っ人』として料理部に居るのはこの辺りに理由があったりする。
 比較的新しい部活であるこの料理部を立ち上げようとしたメンバーの殆どが、ゆらりん部長こと3年の由良優良里(ユラユラリ)先輩のように料理スキルがゼロを振り切ってマイナスだったり、天の字のように他の部活と掛け持ちをしていたのだ。
 いくら料理部の目的が『学年学級を超えての交流と各々の料理スキルの向上』だからと言って、そんな連中ばかりでは、さすがに料理部の体をなさない。
 そこで、天野を通して助っ人として呼ばれたのが俺だったというわけだ。
 帰宅部だったこともあり、俺は何となくそのまま居ついてしまったが。
 今ではちゃんと、料理部部員扱いだったはずだ。
 はずだ、と言うのは、部長がゆるゆるゆりゆららららなおっとりドジっ娘さんからだ。(書類手続きとかきちんと出来てるか、かなり怪しい)
 一方で、部の中がアットホームな雰囲気になっているのは彼女のお陰なので、一概に悪いとは言えないのだが。

850ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/22(木) 23:59:17 ID:ajF/t8qI
 「剣道部とは全然違うけどよ、コッチの感じも良いモンだよなァ」
 と、伸びをしながら言う辺り、天野も俺と同様らしい。
 「天の字のことだから、カレシさんと会えなくて寂しいんじゃとか思ってたけど」
 「まーなー。でも、アイツとはいつ何時いかなる時もキングオブハートで繋がってるからな」
 『キングオブハート』は『最上級の心』とかいった意味では無いのだが、ともあれこう言う台詞をあっさり言える辺り、出会った頃と比べて天野も随分と成長したなと感じる。
 そう感じるし、それ以上に羨ましい。
 「それに、『浮気なんてした日には、相手のオンナを今晩のディナーにするからな』って言い聞かせてるしな」
 ドスの効いた声で、天野は続けた。
 明らかにマジな眼だった。
 「ところで、さっきの考え事って何だよ」
 「あ、その話題に戻るんだー」
 随分な回り道だった。
 「って言うか、そこの愛すべきバカ2号がお前のことを心配そうに見てるからな」
 天野の指差す先には、すぐ隣で俺を見上げる三日がいた。
 三日は最近、あまりに部室の外に張り付いていたので、部長が「なら〜、緋月さんも部員になれば良いんじゃないかしら〜」という提案で正式に部員になっていた。
 そうでなくとも、俺と一緒にいない方が珍しいのだが。
 しっかし、こんな近くに立っていたとは。
 「あー、いたんだ」
 「…いました、ずっと」
 そんな短い言葉にも、心配そうな色がにじんでいた。
 「ま、考え事って言っても大したことじゃないよー。だいじょぶぐっじょぶ」
 俺はそう言って、2人に笑いかけた。
 「…」
 「なら、いーんだがよ……」
 俺の良い笑顔とは対照的に、歯切れの悪い返事をする2人。
 「考え事って言っても今日の夕飯何にしよーってことだし」
 再度、オリジナル笑顔。
 「それはまたジェネシック主夫な御神先輩らしいですね!」
 と、そこで口を挟んできたのは、隣でニンジンを銀杏切りにしていた河合さんだった。
 当初は危なげだった彼女も、気が付けば調理用具の扱いが板についてきていた。
 「そう、俺は主夫の道を生き、台所を司どる男だからねー」
 「それ上手くないですよ!」
 「あ、やっぱしー?」
 と、俺は答えて笑う。
 明らかに空気読めてない入り方だったが、それが逆にありがたい。
 「あ、そーいえば」
 と、河合は女子らしい唐突さで話題を切り替えた。
 「先輩のクラスにいる、明石先輩と葉山先輩、お付き合いを始められたんですよね!おめでとうございます!」
 「「…(…)はい?」」
 当り前のように持ちだされたその話題に、俺と三日はそう応じるほか無かった。

851ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/22(木) 23:59:34 ID:ajF/t8qI
 明石朱里と葉山正樹が交際関係にある。
 事実とは全く異なる、むしろ事実に真っ向から喧嘩を売るような流言飛語は、聞けば学園中の生徒に真実そのものとして認識されていたらしい。
 当事者たちの、知らないうちに。
 らしい。
 流言飛語、どころかしっかりと根を下ろしていた。
 恐ろしいまでの勢いで。
 恐ろしいほどの強さで。
 もっとも、この程度で終わるのなら『恐ろしい』というのは言いすぎとも言える。
 根を下ろしていたのは学園内に留まっていなかったからだ。
 その時の段階では、俺の知る由も無い出来事だったが―――
 「あんた、朱里ちゃんのカレシになったんだって?」
 そう、俺の知らないところで葉山正樹に切り出したのは、彼女の姉―――葉山聖花(ハヤマセイカ)だった。
 俺が河合後輩から噂話を聞いた日の、葉山家の夕食時のことである。
 一戸建ての家の中で中々に広いその食卓には葉山姉以外にも、正樹の両親も揃っていた。
 本邦初公開、葉山家全員集合、一家団欒の図である。
 「……!?」
 そんな和やかなシチュエーションにも関わらず、正樹はただ無言で絶句した。
 それを聖花さんは無言の肯定と受け取ったようで、
 「やっぱり。ったく、そーゆーことはちゃんと姉であるあたしに言いなさいよ、水臭いわねー」
 と多少呆れたように言った。
 「アカリちゃんっていうとたしか……?」
 「ホラ、あなた。明石ちゃんちの朱里ちゃんよ。お隣に住んでて、出産した病院から一緒のまーちゃんの幼馴染で、影薄いか無口そうな名前のあのコよ」
 「ああ、髪が赤かピンクか茶色で、高校でクラスも一緒のあの娘か」
 隣では、葉山の両親がとぼけた会話(というかボケ倒した会話)をしていた。
 いや、アカリ違いが混ざりすぎだろうと普段の正樹ならツッコミを入れるところだろうが、それさえもできなかった。
 付き合う?朱里と?自分が?
 彼の頭の中はパニックに陥っていたと言う。
 「まー、お母さん的にはいつかそんな風になるんじゃないかとは思ってたけどね」
 「そうよねー。2人していっつも一緒だったし。『お前らは比翼の鳥か運命共同体か!』ってクライに!」
 「今まで漫画馬鹿でスポーツ馬鹿だった正樹に恋人ができるなんて、お父さんびっくりだー」
 反論も何もできないままに、食卓での会話は『正樹と朱里が恋人同士であること』を前提に進んでいく。
 「あ、いや……その……」
 と、何とか何かを言おうとする正樹を遮るように、

 ピンポーン

 と、ベルが鳴った。
 「あら、お客さんだね」
 「お母さん、ちょっと出るわね」
 そう言って、出て行った母親は、すぐに戻ってきた。
 1人の少女を連れて。
 「朱里!?」
 ガタン、と驚いて立ち上がる正樹。
 それに対し、明石は
 「お久しぶりです。夜分にお訪ねして申し訳ありません」
 と、落ち着いた所作で、丁寧に葉山家家族一同に一礼をした。
 ぎこちなさや、無駄な所作が全くない、素人目から見ても惚れ惚れするような礼だった。
 「しかしながら、正樹君と結婚を前提としてお付き合いする以上、一分一秒でも早くご挨拶した方がよろしいかと思いまして伺わせて頂きました」
 そう言って、にっこりと笑った。
 「ンな堅苦しい挨拶は無し無し!」
 明石の背中を、葉山の母はバンバンと叩いて豪快に言った。
 その様子に正樹は、明石が母に『何か』をするのではないかという危惧を感じたが、
 「ありがとうございます、おばさま」
 と、明石はうれしそうに言った。
 「お義母さんって呼んでも良いのよ?」
 「はい、お義母さん」
 「じゃあ、お父さんのことはパパと……」
 「そう呼ばせるのは絵的に犯罪」
 「朱里ちゃん、ご飯食べた?」
 「いえ、まだです。お義母さん」
 「じゃあ、ウチで食べてきなさいよ。今夜はカレーよ」
 「大好物です。あ、コレ。ウチで作ったサラダが余ったんですけど。よかったら付け合わせにどうぞです」
 「あら、いただきましょう」
 「へぇん、茶髪にしてチャラくなっちゃったかと思ったら、結構丁寧なのね。義理の姉としては高感度高しよ」
 「水泳をしてると自然とこうなってしまって」
 「ああ、塩素で……」
 そのまま、朱里は極々自然に葉山家の食卓に、いや、葉山家その物に溶け込んでいった。
 元々、お隣の幼馴染というアドバンテージがあったことを考えても目を見張るスピードだったという。
 溶け込む、というよりもむしろ浸食すると言った方が相応しい程に。

852ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/23(金) 00:00:04 ID:zeOozMwU
 その顛末を、俺が葉山正樹から聞いたのは、その翌朝、教室でのことだった。
 「どうしよう、みかみん」
 と、切羽詰まった口調で葉山は言った。
 「俺の私生活が、朱里に喰われる」
 正直なところ、その一件自体は大したことの無いように感じられる。
 お隣さんが恋人を名乗って夕食に同席しました。
 自分の身に降りかかってきたら、ギャグシーンとして流せるレベルの、他愛も無い出来事。
 深刻な被害、フィジカルな被害が出ていないだけ、かなり『マシ』な部類に入るだろう。
 ただ、葉山はその前に明石から、告白と呼ぶには強烈な一撃を食らっている。
 だからこそ、葉山は何もできず、なすがままになってしまったのだろう。
 「とりあえずは、明石のいないところで、家族の人たちに説明して、誤解を解くのが良いんじゃないかな?」
 俺にはそう言うほか無かった。
 「けどよ、その前にアイツ何しでかすか分かんないぜ?」
 「何しでかすって……」
 「バスケ部に来るか、あるいはもっと恐ろしいナニカを……」
 なるほど。
 何をするか分からない相手。
 明石自身では無く、未知への恐怖。
 日常を、今の人間関係を暴力的に変貌させられることへの恐怖。
 人間関係と言うのは目に見えない、ゆるいものだ。
 それこそ幻のように曖昧だし、幻のようにたやすく変貌する。
 それを目の前に突き付けられることは、なるほど確かに恐怖だ。
 本当は、それを葉山自身の口から明石に伝えられれば良いんだけどなぁ。
 明石の奴、俺の言葉なんて聞く耳持たないし。
 そうは言っても、それこそ下手な伝え方をしたら明石がどういうリアクションを取るか(そしてそれを葉山がどう感じるか)想像もつかない。
 ……ああ、いや三日の言うことなら聞いてくれるか。
 でも、アイツも口のうまい方じゃ無いからなぁ。
 「とにかく、まぁ、大丈夫だから」
 「大丈夫って、ンな他人事みたいに……いや、ちがうわ」
、ワシャワシャと自分の髪の毛をかく葉山。
 「ホントは、お前にンなこと聞かせて言わせて悪いと思ってる。俺チョー格好悪いとか思ってる。でも……」
 と、沈んだ表情を浮かべる葉山。
 「怖いんだ」
 と、重い物を吐き出すように、葉山は言った。
 「ついこないだまで隣にいたアイツが何をしでかすか、何を壊すのか、それが分からなくて、怖い」







 『そう、うまく行ってるみたい…だね、明石さん』
 「まぁ、今はまだ途中の中途ですからね。まだどっちとも言えないですよ、零日さん」
 『そう…だね。まだのまだまだ、まだまだだもの…ね』
 「今だって、カレ、男友達の所に言ってますもん」
 『そっか。よっぽどそのオトモダチが好き…なんだね』
 「そう、みたいですね」
 『どう…思う?』
 「邪魔」

853ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/23(金) 00:00:31 ID:zeOozMwU
 「噂の出所、でござるか?」
 その日の昼休み、俺はクラスメートの李忍に相談を持ちかけた。
 「そ、『葉山と明石が恋人同士』っていう事実無根の噂がどういう経緯で生まれたか、元生徒会役員のコネとかで探れないかな?」
 と、俺は李に言った。
 噂が消えるか、あるいはその出所がはっきりすれば、葉山の明石に対する恐怖感もかなり消えるだろう。
 そう考えて、俺は元生徒会役員の李に相談することにしたのだ。
 そう、李忍は生徒会役員、だった。
 過去形になるのは、先日生徒会を引退し、次代のメンバーに席を譲ったからだった。
 ちなみに、現在2年生男子の生徒会長をはじめ、メンバーはほぼ総取っ替え。
 顧問のリーランド先生こそそのままだが、生徒会と言う空間に『一原百合子生徒会長と一緒にいられること』に意義を見出していた役員一同は誰も次年度引き続いて生徒会に残ろうとはしなかった。
 そうして生まれた新生徒会は、極々常識的な範囲内で学校生活を盛り上げてくれそうではあるが、厄介事に首を突っ込んでは解決する極上生徒会な先代とは全くベクトルが異なるものになりそうだった。
 つまり、厄介事には頼りにできない。
 そもそも、そういう団体じゃないし、頼り過ぎるのも問題なのだが。
 そこで、元生徒会の李に相談してみたのだが、
 「確かに、諜報……もとい調査は元中国忍者である拙者の得意とするところではござるが……」
 と、思案気に答えた。
 「やっぱ、難しい?」
 「残念ながらその通りでござる」
 と、申し訳なさそうに李は言った。
 「学内の出来事に限定すれば、拙者たちが掌握できたのはやはり生徒会という身分による部分が大きかったでござるからな」
 学生と言うある意味自由な立場にありながら、教師と言う大人とも密に繋がっている。
 生徒からの情報提供もあっただろうし。
 学内の厄介事に介入するにはかなり良い場と言えるだろう。(経験者談)
 「それに、件の噂でござるが、今のところ本当に出所が分からぬでござるよ」
 「ってぇと?」
 「あくまで、ごく普通の女子としての会話の中でのござるが……」
 と、前置きして李は説明してくれた。
 「拙者も、流言飛語には惑わされたくないので、件の噂を聞いた時も『誰から聞いたのでござる?』と尋ねたのでござるが、相手は『友達が、その友達から聞いた』とかで……」
 ソースが不確かな訳だ。
 「でも、噂ってそんなモノじゃない?」
 「で、ござるが、同じ噂を聞いたと言う学友たちに尋ねても似たような調子でござった」
 「尋ねたんだ」
 「さすがの拙者も少々気になったので、他の教室も含めて」
 つまりは学年中の友人に、もう事前に調査をしていたらしい。
 それでも、具体的なソースが出てこない。
 出てこなさすぎる。
 いくらこの夜照学園高等部が大規模な私立校だとはいえ、所詮は学校。
 決して大きなコミュニティではないし、噂の出所なんてたかが知れてる。
 そんなコミュニティの中で、規格外な高校生である李が噂の出所を調べても分からないと言うのは、ちょっとした異常事態かもしれない。
 「拙者としては、真偽も定かではないとはいえ、内容的には良くある噂話なので手を出しかねていたのでござるよ」
 まぁ、噂をする分には誰も困らないしなぁ。
 内容的に、悪口って訳でも無いし。
 「ま、俺も無理には頼まないよ」
 「力になれず、申し訳ないでござるよ」
 「いや、その話を聞けただけでも良かった」
 ありがとう、と申し訳なさそうな彼女に俺は言った。
 「しかし、事実無根でござったか。それは少々残念というか、寂しいというべきか……」
 と、李は本当に残念そうに言った。
 「まぁ、アイツらはねぇ……」
 「と、言うより明石嬢のことでござる」
 「?」
 どういうことだろうか。
 「教室の中ではいざ知らず、部活の方で随分と辛い目に合った明石嬢に、そろそろ何か良いことが起こって欲しいと思っていたもので……」
 「ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと。どういうこと、ソレ?」
 俺はさすがにスルーできなかった。
 明石が辛い目?
 部活で?

854ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/23(金) 00:01:52 ID:zeOozMwU
 初耳だった。
 「落ち着くでござるよ、御神氏。顔が怖いでござる」
 「あ、ああ。ゴメン」
 マジ顔になりすぎていたらしい。
 一度深呼吸して、表情(カオ)を作りなおす。
 よし、おっけー。
 今度こそベリーナイスな笑顔。
 「それこそ、噂。流言飛語の類でござるが、明石嬢は容貌と運動神経、双方に優れた御人故、以前からやっかみを買うというか、イジメを受けることも多かったとか、何とか……」
 確かに、明石はかわいい。
 美少女と言っても良い。
 美脚美人だ。
 何人かの男子が彼女に告白して玉砕した、という話を聞いたこともある気がする。
 それに、夏の大会でも好成績を残したと聞いている。
 確かに、妬まれる理由は十分だった。
 「……その状況は、どうにもならなかったのか?」
 「先ほども申し上げた通り、あくまで噂でござるから。真相は闇の中でござる。明石嬢自身が我々に助けを求めに来た、ということも無かったでござるし……」
 だからそんなに怖い顔をしないで欲しいでござる、とだんだんと声をしぼめる李。
 確かに、部活動というそれこそ小さなコミュニティにとって、俺達にせよ、(元)生徒会にせよ部外者だ。
 部の中の妬みだかイジメだかなんて、外から我が物顔で口をはさんでどうにかなる問題じゃないし。
 被害者が名乗り出ないのならなおさらだ。
 9月にあった鬼児宮邸での大暴れのような分かりやすい話ではない。
 ……そう考えると、左菜先輩の件が何と楽ちんに思えることか。
 今回の一件は、多分、あの時のような分かりやすい解決法も、分かりやすい敵も、無い。
 世の中、大立ち回りを繰り広げて解決するような事の方が、むしろ少ないのだろう。
 人の体を殴れることは簡単だが、人の心を改めさせるのは難しい。
 言葉は、時として哀しい位に届かないのだから。
 そう言う意味では、結局人間同士が無関係というロジックは全く間違ってはいないのだろう。
 ともあれ、俺は「責めるつもりじゃなかったんだ、本当に悪い」と言って李との会話を終えた。
 そして、
 「…李さんと何を話してたんですか?」
 とお約束のように現れた我らがヒロインに、どう説明すべきか悩みながら、教室に戻った。

855ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/23(金) 00:02:08 ID:zeOozMwU
 おまけ
 『…と、いうことがあったんです』
 「そっか、分かった。わざわざ教えてくれてアリガトね」
 明石朱里はそう答え、友人である緋月三日との通話を終えた。
 その日の放課後、つまり朱里が葉山家に将来の嫁として挨拶に行ったジャスト24時間後のことである。
 三日は、24時間365日御神千里を観察している。
 それは、同時に彼の親友である正樹の様子も知ることができるという意味でもあった。
 朱里には見せてくれない、男友達と話す正樹の様子を。
 朱里は、その事実を有益だと思うと同時に、腹立たしく感じていた。
 要は、
 「何で、私に全てを見せてくれないのよ、正樹」
 ということである。
 好きな人のことは何でも知りたい。
 そう思うのは当然のことで。
 なおかつ、正樹は自分には見せない本音の部分を御神千里にさらけ出している。
 自分ではなく、御神千里に。
 それが、無性に腹立たしくて仕方なかった。
 自分は、客観的に見て間違いなく正樹の恋人だというのに。
 「手に入れてみせる、確実に」
 『名実共に』、という言葉がある。
 周到かつ迅速かつ暴力的な根回しによって、『正樹の恋人』という『名』は浮動のものとなった。
 そのために、学校中にうわさを流し、正樹の周囲の女子を排除し、葉山家にも挨拶に行った。
 最後は正直、朱里の中のなけなしの勇気を奮い立たせる必要のあった行為だったが、想定以上の成果を収めた。
 「やっぱ、いい人たちだよねー。正樹のおじさんおばさんたち」
 そう笑みを浮かべそうになるが、その感情を断ち切る。
 次は、『実』を手に入れなければならない。
 そのためには、感情はむしろ邪魔になる。
 友人だろうが家族だろうが、彼女の恋路においては等しく盤上の駒でしかない。
 元より、朱里は根本的に『情』や『絆』を信じてはいない。
 だから。
 正樹を手に入れるためには、一切の偏見、一切の感情を排除してかかるべきだ。
 「そう考えても、やっぱり邪魔よね」
 冷静に、冷静なつもりで思考をめぐらし、朱里はそう結論付けた。
 「邪魔で障害で不必要ね。『御神千里』という駒は」
 自分がこれ以上なく忌々しげな表情を浮かべていることに、朱里は気がついていない。
 「ああ、いや。使えるか。っていうか不要なものを有効利用するか。エコの精神に乗っ取りますか」
 そう呟き、歪に口元を歪める。
 「『御神千里』を使うか。確実に正樹を手に入れるために」
 そう呟いて、思考を張り巡らせる。
 冷静に、沈着に。
 けれども、一切の感情を廃しているつもりになって――――恋愛という動機そのものが、これ以上なく感情的だ。
 だから、どうしても感情なんて廃することができるはずもない。
 それを朱里は自覚していなかった。
 自覚なく、極めて感情的な思考を巡らせる。
 「そのためにはまず―――『緋月三日』を確実にこちらの『味方』につけないと」
 『情』や『絆』を信じていない、陰湿なイジメと裏切りの繰り返しで信じることに臆病になってしまった少女は、こう結論付けてしまう。
 「確実に、彼女を屈服させ隷従させて、ね」
 それは、完全に彼女が今まで受けてきたモノと同じ考え方だった。

856ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part2 ◆yepl2GEIow:2011/09/23(金) 00:03:59 ID:zeOozMwU
 今回の投下は以上になります。
 お読みいただきありがとうございました。
 次回はキャッキャウフフなイチャラブ展開になる予定です――― 一瞬くらいは。

857雌豚のにおい@774人目:2011/09/23(金) 00:36:03 ID:4viA58bo

まさかタジャドルとは

858風見 ◆uXa/.w6006:2011/09/23(金) 22:33:13 ID:i775jQ6E
新作投下します。

859サイエンティストの危険な研究 第一話:2011/09/23(金) 22:34:07 ID:i775jQ6E

所長:では今回の研究データはこちらの額で買わせていただきます。



 一仕事を終えた俺は、側にあった冷えきったコーヒーを一気飲みする。
「まじぃ・・・。」
 不味さが頭を回復させていく。寝ずに頭を使いすぎていたせいで、回復と言ってもまさしく雀の涙程度だ。

トントン

 扉がノックされた。
「亮介、朝飯ここに置いておくからな、ちゃんと飯食えよ。」
 扉の前に食器が置かれる音がした。
「じゃあ俺、祐希と図書館言ってくるからな、昼飯は朝食と一緒にお金置いておくからな。」
 扉の先から聞こえる声が終わり、足音が遠くなっていった。



 俺の名前は藤崎 亮介。そして今扉の前にいたのは、俺の兄の藤崎 昭介だ。
 兄は面倒見が良い。だから、寝ずに部屋で作業している俺に何かと世話を焼いてくれる。
 一番の特徴は、すごいイケメンって所だ。どれぐらいすごいかと言えば、俺たちが通っている高校の中でファンクラブが出来ているくらいだ。
 しかし、兄の気遣いや優しさが、この家の中でだけ俺には届かない。



カチャカチャ!



 扉の前から食器を上げる音が聞こえた。どうやら今日もまた、俺は朝飯にありつけないらしいな・・・。

860サイエンティストの危険な研究 第一話:2011/09/23(金) 22:34:57 ID:i775jQ6E

 見なくてもわかる。扉の前にあった食器は、第三者に持ってかれた。
 そしてその第三者に俺は心当たりがある。とりあえずパソコンのwebカメラの映像を覗き込んでみた。

「ん・・・んあぁ・・・お兄ちゃん・・・。」
 相変わらずシュールだ。
 webカメラに映っているのは、女子高生がおにぎりを頬張り、皿の縁の匂いを嗅ぎながら自慰行為をしている絵だ。
「お兄ちゃんの・・・手の匂いが・・・するよぉ・・・。」



 こいつは俺の妹、藤崎 翔子だ。
 はっきり言わせてもらうが、こいつは頭がおかしい。
 妹は誰よりも、何よりも兄が大好きな人間だ。妹の部屋には、兄が身に付けている衣服やら下着やら、捨てたはずの歯ブラシや箸がびっしり並んでいる。
 そして今は、大好きな兄が握ったおにぎりと、僅かに皿に残っている手の匂いを嗅いで興奮している。
「・・・・・・・・・。」
 残念ながら、俺は妹に欲情したりはしない。
 人の大事な朝飯を断りも無しに持っていきオカズにするやつに、大金を払われても欲情したくない。



 朝飯は良いのだが、俺はそれよりも違う不安がある。
「研究結果の買い取りも安くなったもんだな・・・。」
 パソコンの画面を替えて、現在の預金残高を確認する。
「この間に比べて半分くらい下がってらぁ・・・。」
 研究所の方も切羽詰まってるらしいな・・・。

861サイエンティストの危険な研究 第一話:2011/09/23(金) 22:35:41 ID:i775jQ6E

 自慢ではないが、俺は頭が良い。
 高校の授業なんか受けなくても良いのだが、親の勝手な意向で兄と同じ学校に入学させられて早くも一年が経った。
 その代わり、前から参加したかった父の研究所の第一研究チームに参加させてもらった。
 だから俺は、学校が終わった後と休日はこうして、研究チームのチャットを使って研究を続けている。
 もちろん無償なんかじゃない。研究結果のデータのまとめや、独自の研究結果は研究所側が高値で買い取ってくれる。
 しかし、不景気だかなんだか知らないが、最近は値段がどんどんと落ちていっている。
「ったく・・・金がなきゃ研究もくそもあるかよ・・・。」



 元々、研究という分野に興味があった。だから俺はこの研究チームに入ったのだ。
 そして何より、現在の研究チームの研究内容が俺の夢にぴったりだった。



研究テーマ:男と女の恋愛について



 俺は決して頭が良いから得してるわけではない。むしろ、兄や妹に比べてかなり損をしている。
 その理由は明確、いわゆる俺は「ブサイク」なのだ。



 俺は気にしてはいないが、周りの女子は俺を指差しながら笑う。
 極めつけは、兄の親衛隊から「血の繋がりを無くせ!」とか「同じ姓を名乗るな!」とか「昭介様の目の前から消えて無くなれ!」なんて言われている。
 別に気にはしないが、俺はこの顔面格差社会が気に入らない。
 以前友達が好きな女の子に告白したら、顔を思いっきり蹴られてふられたらしい。ちなみにその女は今、金髪で頭が一般常識以下の知識しかいないチャラ男に振り回されている。
 今の世の中、頭が悪くても顔が良ければ金持ちになれる時代だ。まともに企業に就職できなくても、芸能事務所に拾われ、「おバカキャラ」として売り出し、周りの女性に騒がれるのだ。
 一方ブサイクはどうだ?拾うどころか見向きもされない。頭が良くても、運動ができても、ギターが弾けても、周りはなんとも思わないどころか、それをネタに汚されるだけだ。
 同じような境遇で、俺よりもひどい目にあっているひとがいるとわかったとき、俺は研究でこの世の中をひっくり返そうと決意したのだ。

862サイエンティストの危険な研究 第一話:2011/09/23(金) 22:36:19 ID:i775jQ6E

 大きな事を言っているが、現在その目標に触れるどころか、かすりさえしていない。
 独自の研究をしようにも、被験者を雇う金もなければ、研究を進めるための資材すら無い状態だ。
 だから今は研究結果を買い取ってもらうことで、何とか夢に近づこうと金を貯めている。



 自分の目標を思い出すと同時に、預金残高を見て現実に戻される。
「またデータをまとめるか・・・。」
 諦めて俺は、研究チームのチャットを開いた。



所長:最近研究が滞ってしまっている状態だ。皆からデータをもらっているのに情けない限りだ。
ムウ:しかしどうすればいいのですか?私は妹二人のためにも頑張らなければならないのですが・・・。

 ムウさんだ。相変わらずの妹大好き人間だ。
 ムウさんは同じ研究チームの一人で、俺とほぼ同期だ。
 妹が二人いるらしく、その妹のために頑張っているらしい。

所長:そこで、一週間の中で各自に独自に研究を進めてもらいたい。もちろん一週間後の結果報告で買い取らせてもらう。



 独自研究か・・・。願ってもないことだが、資材やら被験者やらで何かと金がかかる。
 簡単に言われても、一週間じゃ良い研究は出来そうにない。



ウアアアァァァ!!!



「ん?」
 webカメラの映像から叫び声が聞こえた。
 どうやら妹からのようだった。
 ちなみにこの家の中には、それぞれの部屋にカメラとマイクがセットしてある。
 兄の了承を得ているので問題はないはずだ。
 妹の部屋には、兄から妹にお願いしてもらった。兄の願いなら何でも聞いてくれるのが唯一の(俺にとって)良いところだ。



「またあの女は!私のお兄ちゃんをたぶらかしやがって!」
 壁に貼られている祐希の顔写真に何回もカッターで切りつけている。



 ・・・ん?待てよ?これは使えるぞ!
 男と女の恋愛はどれもが純愛とは限らない。中には昼ドラ並みにどろどろした恋愛もあるはずだ。
 それらを応用すれば、俺の夢が達成するかもしれないぞ?
 これは大発見だ!こんな近くに良い実験対象がいたもんだ。
 幸いにも今日は日曜日、明日からまた学校だ。学校で妹や兄の周りの親衛隊の対決を分析すれば、良い結果ができるかもしれない!
「よし!これで行こう!」
 久しぶりにやる気が出てきた!個人で研究ができる嬉しさと、夢が叶うかもしれないという希望が、俺を揺り動かしていった。

863風見 ◆uXa/.w6006:2011/09/23(金) 22:37:01 ID:i775jQ6E
投下終了です。

864雌豚のにおい@774人目:2011/09/23(金) 23:04:06 ID:zeOozMwU
>>863
 GJです。
 先日完結させてすぐに新作とは、エネルギーありますね。同じ職人として見習いたいところです。
 今回は、とりあえずマッドな弟くんが良い具合に歪んでいるのは分かりました。
 今は第三者のつもりな彼を好きになるヒロインが現れてくれると話が良い具合にこじれそうな気もしますが、果たして……

865雌豚のにおい@774人目:2011/09/24(土) 00:39:01 ID:RZ3LSwI2
このキモウトはなかなか上級者だな
GJでござった

866雌豚のにおい@774人目:2011/09/25(日) 12:20:00 ID:ll7rMRaA
迷い蛾見れるようになってたんですね

ドラファンとか続き気になるなぁ

867雌豚のにおい@774人目:2011/09/25(日) 12:56:05 ID:yC25cCvg
ドラゴンファンタジーのなく頃に大好き。今もね

868雌豚のにおい@774人目:2011/09/25(日) 13:16:00 ID:iK0YW996
乙です

869雌豚のにおい@774人目:2011/09/25(日) 18:16:07 ID:ydUvjkSw
まとめが見れなくなってる

870雌豚のにおい@774人目:2011/09/25(日) 21:14:25 ID:Qn8J/sjY
wiki閉鎖しちまったか

871雌豚のにおい@774人目:2011/09/25(日) 22:39:36 ID:L62SxshA
古いけど次のまとめまでの繋ぎとしてどうぞ
http://web.archive.org/web/20100206103848/http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/?

872<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

873雌豚のにおい@774人目:2011/09/26(月) 21:21:09 ID:TKi6RTPM
見れるよ
てかまとめ更新乙

874雌豚のにおい@774人目:2011/09/27(火) 04:57:59 ID:D4dlEGrg
変歴伝ってどうなったの?

875雌豚のにおい@774人目:2011/10/02(日) 09:59:47 ID:.IUqQtQY
静かだ…

876雌豚のにおい@774人目:2011/10/02(日) 10:53:22 ID:xlZqYun.
風が乾いている

877雌豚のにおい@774人目:2011/10/03(月) 23:56:34 ID:fsp0vq3Q
静かですね。

878雌豚のにおい@774人目:2011/10/04(火) 09:26:26 ID:aPJjFA6Y
本スレがアレだから。その影響だろうね。

879風見 ◆uXa/.w6006:2011/10/04(火) 22:42:39 ID:VBe3Oamg
サイエンティストの第二話を投下します。

880サイエンティストの危険な研究 第二話:2011/10/04(火) 22:44:19 ID:VBe3Oamg

 俺はいつも、兄と一緒に学校に行くことになっている。それは別にいいのだが、必ず問題がついてくる。
 一つは、今俺が感じている異常なまでの身内からの殺意を秘めた視線だ。
 もちろん、これは妹が俺に向けているものだ。
 だからといって、妹が実際に殺意を目覚めさせることはない。それはもちろん、俺の横に強力なストッパーがいるからだ。
 それで当の本人は、
「どうしたんだ亮介?やけに顔が引き締まっているが。」
 イケメンはこういうことに鈍感な所も重要になってくるんだろうな・・・。



 学校に到着。とりあえず後ろからついてくる負の視線からは解放された。
 兄と違う列の下駄箱に向かう。俺の下駄箱は遠くからでも絶対にわかる。
「・・・・・・・・・。」
 臭い・・・。生ゴミ的な臭いが鼻をつく。下駄箱の一つにはハエがたかっている。
 やれやれまたか・・・。こんなことはほぼ毎朝あることで、もはや慣れてしまった。
 そして俺は、こんな状態を作った犯人を知っている。これは一人の人物の犯行ではない。複数人による犯行だ。
 そんなことを推理している内に、自分の教室に入る。

クスクスクスクスクス

 いつも通り聞こえる俺に向けられる女子の笑い。
 そして、下駄箱と同じような腐った臭いを放つ俺の机。さらには机には罵詈雑言の落書き。

 うん、いつも通りだ。

881サイエンティストの危険な研究 第二話:2011/10/04(火) 22:45:08 ID:VBe3Oamg

 軽く机の上を掃除する。もはやボロ雑巾も見慣れてしまった。
 そんな俺を見ながら、まだ笑いを続けている女子の集団があった。
 公共の場にはあまりにも似合わない派手な衣装とハチマキとウチワ。そこには白抜きの文字で、「昭介先輩LOVE」とでかでかと書かれてあった。

 言うまでもない。あれは兄の親衛隊だ。
 前にも話したが、親衛隊は俺のことを敵視している。まぁ学校一のイケメンと身内と言われたら、嫉妬に狂われても不思議ではない。
 しかし、向こうは俺本人に直接傷つけるようなことはしない。
 それは、親衛隊条項第八条によるものだ。そしてそれを作ったのが、



「ごめんなさいね、亮介君。」
 急に聞こえた謝りの声。振り向くと、ナイスバディな眼鏡の女子生徒が立っていた。
 こいつが、俺に嫌がらせをしてくる親衛隊の隊長で幼馴染み、向祐希だ。
 祐希は兄と同じ三年生で、昔から一緒に遊んでいた仲だ。それがいつの間にか、祐希は兄が大好きになってしまい、ファンクラブを作ってしまったのだ。もちろん、条項を作ったのもこいつだ。
「私からも親衛隊にはきつく言っておくから。」
 そういって、笑顔のまま教室を出ていった。

 一応補足しておこう。親衛隊条項第八条とは、「親衛隊員は暴力を行使してはならない」である。
 これはつまり、殴らなければ何をやってもいいと言うことだ。だから親衛隊の連中は、こうして古典的ないじめを長い時間をかけて続けている。もちろん、犯行は学校中に散らばった各学年の親衛隊によるものだから、犯人を特定して告訴することもできない。
 まぁ、もう慣れたから別にいいんだがな・・・。
 ある程度片付け終えたところで、チャイムが鳴った。

882サイエンティストの危険な研究 第二話:2011/10/04(火) 22:45:50 ID:VBe3Oamg

 親衛隊の陰湿ないじめは朝しかやらない。だから朝を過ぎれば至って平和だ。
 特に昼休みともなると、ゆっくり飯が食えるという空間が作られるのだ。この時間を有効活用せねばなるまいと、俺は紙とペンを用意する。

ギュ!

 突如、制服の襟を捕まれた。振り返ると、一人の女子生徒が立っていた。
「ねぇ〜亮ちゃん!一緒にご飯食べよう〜!」
 やれやれまたか・・・。こいつは祐希の妹で同じく幼馴染み、向友里だ。
 こいつは親衛隊じゃないが、何故だか俺を執拗に色々なところへ誘ってくる。
 親衛隊とかがこういうことをすることはよくあったが、全部罠なのは言うまでもない。しかしこいつは親衛隊じゃないから、スルーしてもしつこく迫ってくる。
 そんな俺に、友人は「友里ちゃんに誘われるとかうらやましい〜!!!」なんて言ってくるが、俺は女よりも研究が大事だ。だから今回もスルーし続ける。
「ねぇねぇねぇ〜!亮ちゃん〜!一緒にご飯食べようよ〜!亮ちゃんと食べたいよ〜!」
 本当にしつこい。こいつは家にまでやって来るくらいしつこい。スルーし続けるしかないらしいな。
 とりあえず、紙とペンを持って、俺は兄のいる教室を目指した。

「ねぇねぇねぇねぇねぇ〜!!!」

883サイエンティストの危険な研究 第二話:2011/10/04(火) 22:46:39 ID:VBe3Oamg

 兄はいつも弁当を忘れる癖がある。だから俺が毎回弁当を届けるのだが、今日は違う。
 三年生の教室を覗くと、兄と祐希が二人で並んで座っていた。遠くから声を聞いてみる。
「うん!やっぱり祐希が作る卵焼きは絶品だよ!それにこれもうまいしこれも!」
「えへへ、そんなに美味しいの?」
「うんうん!毎日でも食べたいくらいだよ!」
「じゃあ〜、毎日作ってこようかなー。」
 端から見るとカップルにしか見えない兄と祐希。それでこそ研究のしがいがあるというものだ。
 まずは、兄の周りにいる親衛隊の連中が祐希に向ける嫉妬の目。祐希は親衛隊の隊長であるから、隊員は口出しも手出しもできないからな。しかし、そんな視線にも気づかずにいちゃつく二人。



 さて・・・、そろそろだろう。



カラン!
 俺がいるドアの反対側から聞こえる、硬いものが床に落ちる音。そして感じる殺意、異常なまでの負の感情。
 間違いない、大好きな弁当を兄に届けに来た妹だ。
 大好きな兄がいちゃついている姿は、妹には刺激が強すぎだっただろうか。しかし、これも研究のためだ。兄には申し訳ないが、しっかりと今の状況を記録させてもらおう。



 俺は今日、わざと兄の弁当を忘れた。妹はそれを察知して、いつもの俺の役割を担ってくれた。
 そして俺は昨日、友里を通して祐希に弁当の話をした。
「明日から兄の弁当を作ってあげてくれないか?」
 そう言うと、祐希は喜んで受けてくれた。
 そして祐希は、兄に弁当を作り食べさせる。その場を、弁当を届ける妹に見せる。
 激しい嫉妬と殺意が伝わってくる。もちろん、全て俺が研究のために仕込んだものだ。
 それにしても妹も祐希も単純だ。兄の名前を出しただけで何だって言うことを聞いてくれる。
 おかげで研究が一歩前進した。早く帰って、この研究データをまとめたい。

 負の感情はまだ続いている。祐希は明らかに気づいているようだが、気づかないふりをしているようだ(兄はまったく気づいてない)
 今後、二人を動かしていくのには注意が必要なようだ。
 そう感じると同時に記録を終え、俺はそそくさと教室に戻った。



「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ〜!」
 まだいたのか!
「ちゃんと言われた通りにお姉ちゃんに伝えたよー!だから私にご褒美ちょうだいー!」
 まぁ・・・いいか。

884風見 ◆uXa/.w6006:2011/10/04(火) 22:48:17 ID:VBe3Oamg
投下終了です。ご一読していただければ幸いです。

885雌豚のにおい@774人目:2011/10/04(火) 22:54:34 ID:XpmDo.cA
久々すぎて感無量。
とりあえず乙

886雌豚のにおい@774人目:2011/10/04(火) 23:12:27 ID:3NKV1NgE
 GJです。
 何と言う鈍感兄……弟。
 亮介も大概にモテてるじゃぁないですか。
 でも、陰湿なイジメはヤですね。これは怒って良いレベル。

887雌豚のにおい@774人目:2011/10/05(水) 10:54:58 ID:DK/nFfto
GJ!!

展開が楽しみだ

888ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:44:53 ID:SkP7eOPU
 こんにちは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 お待たせしました、朱里回part3を投下させていただきます。
 その前に注意事項があります。
 ご注意:『今回、R15程度のえっちな描写や暴力的な描写が含まれますことを、あらかじめご了承ください。』

889ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:45:19 ID:SkP7eOPU
 4年前
 「キスシーンってあるじゃない?」
 「ふぶっほ!?」
 「って、どうしたのさ。いきなりむせて」
 「なんでもない。続けて」
 「そうそう。キス。この際セックスでも良いんだけど、アレって危なくないのかな?」
 「・・・・・・妊娠の危険性という意味なら、キスで赤ちゃんはできない」
 「やだなぁ、千里。赤ん坊はコウノトリが運んでくるんだろ?身体的接触なんかでできるわけないじゃない」
 「・・・・・・」
 「いや、冗談だって。本気で心配そうな顔をしないで。保健体育の授業は真面目に受けてるから」
 「男子の前で『セックス』とか公言する女子を見れば誰だってそうなる、俺だってそうなる」
 「キミが男子だってこと、意識したことないからなぁ・・・・・・。それで、その手の身体的接触の話だけど」
 「そう言うロマンチックな行為を味気ない言葉でまとめるな」
 「ロマンとかその手の幻想は取っ払っときなよ、無意味だから。ボクが今から話そうとしてるのは、もっとリアルなことなんだし」
 「・・・・・・リアル?」
 「そう。接触、ということは互いの距離がゼロになる、それがどれだけ危ないことか、みんな理解してるのかなってコト」
 「・・・・・・ゴメン、俺馬鹿だから全然分かんない」
 「つまりね、それって『殺せる距離』ってことだよ」
 「殺せる距離?」
 「そう。その気になれば相手に確実に必殺の一撃を入れられる距離」
 「確かに、長距離の方が殺しやすいのは、ゴルゴみたいなスナイパーくらいだとは思うけど・・・・・・」
 「ゼロ距離なら、確実に相手を殺せる。凶器は何でも良い。ナイフでも良いしロープでも良い。素手で首を絞めれるならそれでも良い。それでなくても、殴る蹴るには悪くない距離だ」
 「最後は多少、間合いがほしいところだけど」
 「あ、そうなの?でもどっちにせよ、とても殺しやすい距離だって言うのは確かだよね」
 「無防備な状態、というのは同意するけど」
 「だね。無防備。それが一番適切な表現かも。そんな状態に、そんな自分のテリトリーに、他人なんかをいれちゃぁいけないぜ。長生きしたかったら、さ」
 それは、今思えば、叶うことの無い忠告だったのかもしれない。

890ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:45:40 ID:SkP7eOPU
 現在
 葉山正樹と明石朱里は付き合っている。
 当事者たちを半ば置いてきぼりにして、その噂は事実そのものと化していた。
 事実無根にも関わらず、その真実を噂が完全に逆転させていた。
 一応、俺のほうからも『噂は噂』とかなり積極的に話を流してはいるのだが、状況は一向に変化する様子は無かった。
 「御神氏」
 その日の朝休み、クラスメートの李忍は、三日と話していた俺に向かって囁きかけるように言った。
 隣にいる三日がそれに聞き耳を立てているのが困りものだったが・・・・・・。
 一応、数日前の一件は軽く説明して、やましいことが無いと言った筈なんだけどなぁ。
 それはさておき。
 「先日、御神氏が話題に出していた噂の件でござるが、やはり改めて調査してみたのでござる」
 「あ、調べてくれたんだ。ありがとう」
 いや、本当にありがたい。
 今度何か御礼をしないと。
 お菓子でも作ってあげるか・・・・・・って気のせいか嫉妬の視線を感じますよ?
 「調べたのは良いのでござるが、やはりどうやっても噂の源は掴めなかったのでござる」
 「掴めなかった?」
 「そうでござる。誰かが流したということも、流れるような理由があったということも、何一つ」
 この手の噂は、誰かが何か(この場合は『葉山と明石が2人きりでいた』とかそういう出来事)を誰かが誤解して・・・・・・というパターンから派生しそうなものだが、李はそれさえも掴めなかったという。
 と、具体的に言うのは、俺もかつてそういう誤解にあったことがあるからなのだが。
 いや、あの件は本当に痛かった。精神的な意味でも、刺殺的な意味でも。
 「力になれず、申し訳ないのでござる」
 「いや、調べてくれただけで大感謝。本当にありがとう」
 そもそも、能力、人脈共にイロイロな意味で規格外な李がマトモに調べて何も分からないと言う事態自体が異常なのだ。
 「前生徒会役員が総出で動いていれば結果は変わっていたかも知れぬでござるが・・・・・・」
 「3年の先輩が受験勉強だからね。そんな時にむやみやたらと甘える訳にはいかないよ」
 今まで散々学校の問題、他人の問題に邁進してきた人らである。
 現在、自分の問題に邁進しても罰は当たるまい。
 だから、今回に関しては一原先輩の助力を求めるつもりは最初から無かったし、そもそも助力を受けられないだろうと踏んでいた。
 先輩たちの見せ場は、9月の鬼児宮邸での大アバレが最後なのである。
 「・・・けれど、それって良いことなのではありませんか?」
 と、隣で耳をそば立てていた三日が俺たちに、というより俺に言った。
 「・・・今まで朱里ちゃんが望んでいた事が、噂として、というより事実として認識されて。・・・それは、良い事だと思います。だから、噂の流布にどうこう言ったり、どうにかする理由は無いのではないですか?」
 納得できる理屈ではある。
 望ましい事柄であっても校内に嘘がまかり通っているのが許せない、などという正義感はこの場合非生産的だ。
 ただし、
 「全面的に明石の視点に立つなら、ね」
 「・・・葉山君の方は違う、とでも?」
 三日の言葉に、俺は嘆息した。
 「アイツは今、完全にビビッてる。好きとか嫌いとか、考える余裕無いよ」
 「・・・葉山君がそれを考えてくれれば万事解決なんですけど」
 件の『ビビッてる相手』は明石だ、とまでは言わなかったが。
 「それが、一番の問題なんだよなぁ」
 と代わりにそう答えた。
 噂にせよ何にせよ、結局はエンディングに関係の無いサブイベントでしかない。
 この物語において、この恋愛において一番重要なのは、葉山正樹が明石朱里の気持ちに対してどのような答えを出すか、そしてそれに対して明石朱里がどう応じるか。
 それだけだ。
 肝心の葉山は、今小動物のように震えて答えを出すどころではないのだが。
 「って言っても、こればかりはサブキャラが口を出したところでどうしようも無いことでもあるしなぁ」
 「恋愛というのは、やはり当事者同士の問題でござるからな」
 「・・・そんな、人事みたいな」
 「人事だよ」
 珍しく不満そうに言う三日に、俺は嘆息しながら言った。
 「俺もお前も李も、アイツら2人がどんな結末にどんな落とし所になってもほとんど困らない、けれど当人達には非常に切実で、当人達にしかどうしようもない、ごく当たり前の人事」
 軽薄な言葉かもしれない、けれど、どうしても軽薄には言えない。
 「それが、人事なのが、今一番歯痒い」
 そう言いながら、俺はいつの間にか強く握りこんでいた片手から、熱い血が流れ出るのを感じた。

891ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:46:06 ID:SkP7eOPU
 いくら外野が歯痒いといったところで、当事者たちにとってはそれどころではない。
 葉山正樹にとっては、特にそうだった。
 同じ日の昼休み、『自分と朱里が付き合っている』という噂が前提となった、虚構に現実が支配されるような悪夢じみた現実から抜け出したくて、彼は教室を出た。
 「ったく、一体全体何がどうしたって言うんだ」
 校舎の隅で1人になると、葉山は1人呟いた。
 全ての始まりはあの日のこと。
 朱里の奇妙な告白を受けてから。
 それから全てが狂い始めていた。
 朱里が狂い、現実も狂った。
 葉山自身はここ数日、それを否定しようとは思っているのだが、それが叶うことは無かった。
 否定しようにも、常に明石が一緒にいる為、何か言おうとすると底冷えするような威圧感と共に遮られる。
 そうでなくても、日を追うごとに噂が定着していく。
 「お釈迦様の掌で鬼ごっこしてるみてーだ」
 「追いかけてるのが鬼なのか仏なのかわかんないね、ソレ」
 葉山の独り言に、応じる声があった。
 驚いて声のしたほうを見ると、
 「朱里・・・・・・?」
 スラリと長く美しい足を覗かせる少女が、こちらに笑いかけていた。
 「やほー、まーちゃん。イキナリ教室を出て行くから、カノジョさんが寂しがってるよん。ってアタシなんだけど!」
 1人で勝手にノリツッコミをして、からからと空しく笑う明石。
 「いや、彼女とかにはなって、ないだろ・・・・・・?」
 「でも、みんなはそう言ってるよ?」
 「俺は……何も言ってない」
 明石から目をそらして、葉山は消え入るような声で答えた。
 現実から目をそらすように。
 「みんなが言ってるんだし、付き合っちゃおうよ、このまま」
 スイ、とごく自然なしぐさで、朱里は葉山の隣に近づいた。
 「アタシは……私は、そのつもりだよ?」
 それは知っていた。
 何しろ明石は、校内の噂に悪乗りするような形で、数日前大胆にも葉山家に『結婚を前提にお付き合いしています』と挨拶に来たのだから。
 誰もそんなことは言って無いはずなのだが。
 「流されていこうよ。このまま、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーっと2人一緒に。私達、揺り篭の中から一緒だったようなモンだし、だったらこのまま一緒に墓場まで一緒に、ね」
 ごく自然に、まるで恋人のように腕を絡め、明石は彼の耳元で囁いた。
 誘惑するような、それでいて有無を言わせぬ声音で。
 ソレに対して、葉山はマトモな抵抗ができない。
 「・・・・・・良いだろ、別に」
 葉山は何とか言葉を搾り出した。
 「お前が墓場まで行くのは、別に俺と一緒でなくても・・・・・・」
 「駄目」
 全て言い終わる前に、強い口調で明石が否定した。
 「駄目よ駄目駄目全然駄目。私は正樹が良いの。正樹と一緒じゃなきゃ駄目なの。正樹と一緒じゃなきゃ意味が無いの」
 鬼気とした言葉を明石は葉山にぶつけた。
 絡めた腕の力が、強くなる。
 「・・・・・・何で、俺なんだよ」
 ぶつけられた言葉から逃げるように、葉山は返した。
 「理由が要る?」
 明石は即座に答えた。
 いらないでしょう、と言外に言っている。
 「要る・・・・・・だろ・・・・・・」
 ゴクリ、と生唾を飲み込みながら、葉山は何とか言葉を吐き出した。
 「理由が欲しいなら・・・・・・」
 いつの間にか、明石が正面にいた。
 真正面。
 キスができるような距離に。
 殺しさえできるような距離に。
 「私が作ってあげる」
 その距離から、明石は葉山を一気に押し倒した。
 葉山の視界が一瞬で変わる。
 女性らしい細くしなやかな身体の感触と、人1人分の重みが、葉山を襲う。
 「……あは」
 押し倒したままの姿勢で、明石はシュルリと葉山のネクタイを外す。
 そして、1つずつボタンを外す。
 1つ、2つ・・・・・・。
 妖艶にも見えるそのしぐさに、彼は何もできない。
 金縛りにあったかのように。
 恐怖が、全身を縛り上げている。
 「これで、ラスト」
 ブレザーとワイシャツのボタンが、全て外される。
 そして、明石の細い指が葉山のベルトにかかった時―――
 「ストップ!!!!!」
 と、御神千里の声が―――俺の声が遮った。
 遮ることが、できた。

892ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:46:45 ID:SkP7eOPU
 その時まで。
 葉山が昼休みの教室から出て、それを追うように明石も教室から出て。
 俺と三日はどうにも心配になり、(と、言うより親友2人が昼休みに消えて単純に寂しかったのもあり)さらに2人を追いかけて、探していた。
 それでようやく2人を見つけたのが。
 端的に言って、葉山が明石に犯されかかってる瞬間だった。
 「ストップ」
 そう、努めて冷静に、俺は明石に言った。
 言っていた。
 反射的に出た言葉だった。
 「何よ、御神千里」
 明石はこちらを振り向いて言った。
 姿勢は、葉山に馬乗りになったまま。
 「恋人同士の営みを邪魔するつもり?」
 「邪魔はしないが、止めに来た」
 「同じことでしょ?」
 殺気に満ちた視線をぶつける明石。
 少女は目で殺す、とはよく言ったものだ。
 いや、明石は糸屋の娘でも魔法少女でもないが。
 「真昼間からやることじゃないだろ、そういうの」
 「恋を時間が邪魔するとでも?邪魔をするなら私は時間とだって戦うわ」
 明石は剣呑な声で言った。
 戦って倒してしまいそうな勢いだった。
 「大体、恋人同士はさておき、同意の上には見えないけど?」
 「何で?」
 質問に質問で返す明石。
 「正樹が抵抗していない。それだけで十分同意の上に見えると思うけど」
 それを言われると否定しようが無い。
 怖くて何もできないだけだ、と言っても聞き入れないだろうし。
 「どっちにせよ、今日はその辺にしておいた方がいい。俺達みたいに誰か来ないとは限らないし。気がついたら午後の授業に戻れないくらい足腰立たなくなってましたーじゃ洒落になんないじゃん?」
 「どうしても邪魔したいみたいね」
 「違う違う。こういうことは邪魔にならない場所で、お互い余裕のある時にやった方が楽しいんじゃない、っていう、親切心からの親身な忠告」
 あくまでも提案、忠告、という態度で、俺は言った。
 「・・・・・・」
 俺の言葉に納得したのかいないのか、渋々と言った風に葉山の上から離れる明石。
 「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
 拘束を解かれた葉山は、明石を押しのけるように跳ね起き、こちらの方に駆け寄って俺の後ろに隠れた。
 「!?」
 その様子に絶句する明石。
 ―――な、ん、で?―――
 明石の唇が、そう動いた気がした。
 絶望的な表情で。
 対峙する俺と明石。
 その後ろに隠れる葉山。
 まるで、俺達が敵同士のような構図。
 「……あは」
 その構図に、絶望的な表情を浮かべていた明石は口元を歪めた。
 「そっか、やっぱりそうなのね。『あの人』も言ってた通り、やっぱり、誰よりも粉砕して圧砕して排除しなくちゃいけないのは―――」
 ゾッとするような視線をこちらに向け、俺の横を素通りする明石。
 この娘は、ここまで敵意に満ちた眼ができる娘だったのだろうか。
 殺意と、敵意と、あらゆる負の感情が詰まったような眼が。
 そして、俺の隣にいた三日に向かって「後で、2人だけで話したい事があるから」と小さく言って、明石は去っていった。
 その言葉を、俺は聞き逃してしまったけれど。
 聞き逃すべきでは、無かったのだろうけれど。

893ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:50:11 ID:SkP7eOPU
 乙女には秘密の1つや2つは付き物だ。
 それは、緋月三日にしても同じことだ。
 彼女は御神千里に全幅の信頼を置き、心を許してはいるけれど、しかし、未だ秘密の一から十まで全てを開示しているわけでもない。
 今日、この日の出来事も、そんな秘密の1つとなりそうだった。
 と、言うより秘密になることが確定した。
 言えるわけがない。
 一番の親友から脅迫を受けた、などと。
 「しっかしまぁ、良く撮れてると思わない、コレ?」
 その日の放課後、話したいことがあると校舎の一角に三日を呼び出した親友、明石朱里はそう言って三日に自分の携帯電話の画面を示す。
 動画だった。
 男性向け18禁ウェブサイトにありそうな(偏見)類の動画。
 1人の若い女性が、自分の身を慰めている様をこれ見よがしに扇情的に映した動画。
 もっとも、映された本人としてはそうした意図は全くなく、ただただ生物として抑えきれない愛欲を慰めているだけなのだが。
 間違っても公開しようなどと、ましてや一番の親友である明石朱里に見せようなどという意図は全く、一欠けらも、これっぽっちも、無い。
 断言していい。
 断言できる。
 なぜなら、その画面に映っているのは、緋月三日本人なのだから。
 中学生くらいから、ささやかな罪悪感にかられながらもはじめ、高校に入って恋を知ってからは常習化していた自分の自慰行為。
 音声こそ入っていないものの、その様子が一から十まで映っていた。
 「・・・なん、で」
 なにこれ、とは言わなかった。
 それが自分の姿であることは明白だったからだ。
 これ以上なく身に覚えがある。
 だから、問うべきはなぜ親友の手にこんな動画があるか、だ。
 自分で撮った覚えはないし(そんな趣味は無い)、それを親友に渡した覚えなどかけらも無い。
 「良く撮れに撮れててさー、このオンナのだらしなーい顔がよく、見える」
 しかし、親友は三日の問いに答えることなく、言葉を続けた。
 「キモいよねーこの顔。だらしなくてさ。イキ顔って言うのかな?アヘ顔って言うのかな?ホンット気持ち悪くて、18歳以上でもとても人様にお見せできないよねー」
 そう言って、朱里は意地悪く笑う。
 こんな顔を自分に向けるような少女だっただろうかと、三日は思った。
 実は、目の前にいる朱里はモンスターか何かの化けた偽者で、本物はもう死んでいる。
 そんな与太話のほうがまだリアリティがある気さえした。
 「ぶっちゃけ、その気になれば人様に見せることはできるんだけどね、アタシ。ネットの動画サイトにアップするまでもなく、添付ファイルにして学校中のメルアドにババーっと流したりさ。いい考えでしょ?」
 「・・・なんで、朱里ちゃん・・・・・・」
 三日は、先ほどと同じ言葉を繰り返した、それ以外のことが、それ以外の言葉がとても出てこなかった。
 「なんで、って言うのはどういう意味かな、みっきー。なんでアタシがこの動画を持ってるのかってこと?何でそれをあなたに教えるのかっていうこと。それとも―――『なんでこんなヒドいこと言うの』って意味?」
 意地悪く笑って、朱里は言った。
 「でも、ソレってそんな重要なことじゃないよね?重要なのは、アタシがあなたのキモ動画を持ってて、それを好きにできるってコト」
 そう言って、朱里はヒラヒラと携帯電話を振る。
 三日のあられもない姿が映ったモノを。

894ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:50:42 ID:SkP7eOPU
 「コレが世界中に、って言うか学校中に撒かれたら、アナタみんなから引かれるわねー。嫌われるわねー。学校生活メチャメチャよねー。御神千里なんてドン引きして二度とアナタに近づかない」
 「・・・!?」
 最後の一言に、三日は息を呑んだ。
 「ああ、やっぱりコレが一番効いたか。じゃ、いい加減用件を言うから良く聞いてね、みっきー」
 悪魔的なまでの笑顔で、朱里は言った。
 「これからずっと、アナタは私の言うことを何でも聞くこと。従うこと。服従すること。屈服すること」
 それは、まかり間違っても親友に対する言葉ではなかった。
 少なくとも、三日は朱里にそんなことを言われる日が来るなんて思っても見なかった。
 「この場合の何でもって言うのは、本当に何でも。小さなことから、大きなことまで。その代わり、この動画は外部に漏らさないであげる。ましてや、御神千里には絶対見せない、触れさせない、匂わせない」
 「・・・」
 「悪くないギブ・アンド・テイクだと思うわよ。もっとも、アナタに選択肢は無いと思うけど?」
 「・・・なんで、そんなこと言うんですか」
 朱里が言いたいことを言い終えたとき、ようやく三日も一文を振り絞ることができた。
 「・・・脅すようなことを言わなくても、朱里ちゃんの頼みなら何でも聞きます。さすがに、『千里くんを渡して』というのは無理ですけど、それ以外なら何でも。・・・だって・・・」
 と、言葉を搾り出す。 
 「・・・友達、じゃないですか」
 これ以上なくシンプルで、しかし真摯な言葉だった。
 しかし、それに対して朱里は、
 「は?」
 と、馬鹿にしたような、軽蔑したような、そんな声を上げた。
 「アンタさぁ、イマドキ『友情』とかマジで信じてるわけ?バカだねー。言っとくけど、私はそんな目に見えない物人生で一度として信じたことないわよ」
 「・・・え、でも」
 「大体さ、忘れたの?私たちの『友情』は、互いの恋を成就させるために生まれたモノ。つまり打算に満ちた口約束。それ以上でも以下でもないわ」
 「・・・」
 「アタシ、最近そんな口約束ぐらいじゃどうしようもないシリアスなコト考えてるから、アンタを使いたかったのよ。確実に。だから取引した。そっちの方がマトモで、賢明で、フツーでしょ?」
 朱里の辛辣な言葉に、三日の中で大切なものがガラガラと崩れていくような感覚を覚える。
 「答えは無いみたいね。じゃ、また明日」
 そう言って、ヒラヒラと手を振りながら明石朱里は去っていった。
 彼女に対して、もう、『三日の一番の親友』という肩書きはつかないのだろうけれど。
 その後姿を瞳に映す三日には、朱里の姿どころか、外からしとしとと聞こえてきた雨音さえ、認識されてはいなかった。

895ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:51:08 ID:SkP7eOPU
 一方、俺は葉山を家まで送っていた。
 部活動の無い日だったこともあるが、それ以上に彼が心配だったからだ。
 明石がいくら強弁したところで、明らかなレイプ未遂だったことは明白だ。
 葉山が動揺していたことは明らかだった。
 「じゃ、また明日」
 「・・・・・・おう」
 そんな短い会話で、俺たちは葉山家の前で別れた。
 こんな落ち込んだ姿を見せられれば、誰も軽々しく「美人なら逆レイプもアリだろ」とは言えなくなるだろう。
 俺は半ば沈んだ気持ちで、折りたたみ傘を打つ雨音を聞きながら家に向かって歩き出した。
 あんな酷い目にあっても、決められるのはアイツだけなんだよなぁ・・・・・・。
 手伝えるものなら、肩代わりできるものなら、俺が何とかしたいところだけど、そういうわけにもいかない。
 明石だって俺の友達には違いないし。
 友達だと思いたいし。
 ・・・・・・うん。
 「はやまんから『みかみん、明石をやっつけてくれ』って言われたら、そうするしか無いのかなぁ」
 やだなぁ。
 そうは言っても、俺にできることなんて、悲しいまでに少ないのだけれど。
 そんなことを考えながら、俺はいつものようにマンションのエレベータに乗り、自分の家の前まで来る。
 「・・・・・・ウン?」
 家の前に、何かが置いてあった。
 闇の中に置かれたまっ白な何か、否、誰か。
 酷く濡れている。
 闇に見えたのは、鴉の塗れ場色をした黒髪。
 黒髪の上の白も濡れていて、布地が透けている。
 透けた先には可愛らしい下着と白い肌が・・・・・・ってオイ。
 「三日ぁ!?」
 家の前に倒れていたのは三日だった。
 何やってんの!?
 ってかどうしたの!?
 「ちょ、大丈夫!?起きてー!」
 家の前に置いて、ではなく倒れていた三日の体を起こし、ガクンガクンと揺する。
 「・・・あは、千里くん。・・・千里くんだぁ」
 死んだような眼で、三日が呟いた。
 とりあえず、意識はあるらしい。
 「・・・千里くん、お願いがあるんですけどぉ」
 「何、っていうかその前に濡れた服を何とかしないと!?」
 「・・・私を、犯してください」
 ・・・・・・ナンデスト?
 「・・・あ、間違えた」
 間違いなのか。ああ良かった。
 「・・・私を、壊してください」
 良くなかった。
 「・・・犯して、壊して、目茶目茶にしてください」
 「そんな不穏当な台詞をこんなところで吐くな!」
 ほかの住人に聞かれたら、さすがにいたたまれない、というか居られない。
 フツーにこのマンションで暮らせなくなる。
 とりあえず、俺は家の鍵を開け、三日を家の中に招き入れた。
 いかがわしい犯罪の証拠だか証人だかを隠しているように見えなくも無いが、幸い近くにほかの住人はいないようだった。
 「ええっと、とりあえずその濡れた制服、脱いで」
 「・・・私のお願い、聞いてくれるんですね」
 嬉しい、と俺に抱きつく三日。
 見た目に似合わず妖艶とも言える動作だったが、ドギマギすることは無かった。
 正確には、ドギマギする前にそんな邪念を打ち消された。
 濡れた感触と、冷え切った肌、それに震える三日の体に。
 三日は、心身ともに弱りきっていた。
 そんな女の子にいかがわしいことをするなんて、弱みに付け込むような真似をするなんて、俺にはとてもできなかった。

896ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:52:08 ID:SkP7eOPU
 「そうじゃない」
 俺は、しかし優しく抱き返していた。
 少しでも彼女の体を、心を温めようと。
 「今のは、誤解されるような言い方をした俺が悪かった。でも、何よりもその服を何とかしないと。風邪引いちゃうよ」
 「・・・かぜぇ?」
 どこか舌足らずな、虚ろな口調で、三日は言った。
 「・・・大丈夫ですぅ。・・・私がかぜをひいたくらいで心配してくれるような友達なんて、もうどこにもいませんよぉ」
 「俺が心配する!」
 あまりにも自分をないがしろにした言葉に、俺は思わず怒鳴っていた。ウン、こればかりは素直に認めよう。
 思わず、抱きしめる腕にも力がこもってしまう。
 あまりに強くて、痛かったかもしれないな、と思い直して、と言うか我に返って腕を解いた。
 「とにかく、ちょっとシャワー浴びてきなよ。今のままじゃ、ホント、心配」
 噛んで含めるようにそう言うと、三日は渋々と、ではなくフラフラと浴室に向かって歩き出した。
 程なくして、シャワーの水音が聞こえてくる。
 「ったく、一体全体何がどうしたって言うんだ」
 リビングのソファにどっかりと腰を下ろし、俺は1人ごちた。
 葉山と一緒に帰ったせい、では無いからだ。
 むしろ、用事があるから先に帰ってて下さい、と言ったのは三日の方だった。
 どんな用事かは知らないが。
 何かあるとしたらその辺りに事情がありそうだが。
 何にせよ、あんなに弱りきった三日は始めてみた。
 嫉妬に狂ってくれたほうがまだ良いくらいだ。
 と、そんな思考をブチ壊すように、携帯電話が鳴った。
 「もしもし」
 『大体の所は・・・聞カセテ・・・もらったよ』
 「どこからだどうやってだボケ」
 緋月月日さん、三日のお父さんだった。
 『勿論、最初から最後まで…と、それはともかく千里くん。今夜は三日をキミの家に・・・泊メテヤッテ・・・は如何かな?」
 「何だ、その超展開」
 『・・・イヤイヤ・・・極めて理路整然とした展開だよ?』
 俺の乱暴な口調にも動じることの無い月日さん。
 相変わらず腹立たしいまでに飄々とした人だ。
 それはいつものことだし、だからこそついついこっちもツッコミがキツくなるのだが。
 『第一に、あそこまで落ち込んだ三日に二日のスパルタ教育は・・・逆効果・・・』
 なるほど、確かに叱咤激励されて奮い立つ元気は今の三日には無さそうだ。
 ・・・・・・あれ、叱咤激励?
 『第二に、私は落ち込んだ女性を見ると・・・ボッk』
 「そっから先は言うな、この変態性欲者」
 俺が本気で引きながらも入れたツッコミは、しかし月日さんに華麗にスルーされる。
 『第三に、今の三日とレイちゃんが接触するとどのようなことになるのか・・・マッタク・・・未知数』
 未知数。
 未知への恐怖。
 『このように、緋月家はどん底まで落ち込んだ多感な年代の少女を帰らせるには・・・キワメテ・・・不適切なんだよ』
 「不適切なのは月日さんの性癖な気もしますけどね」
 まあ、言いたいことは分からなくも無い。
 「つまり、落ち込んだ三日にどう接していいか分からないから俺に丸投げするわけですね」
 『…良イ…んだよ、キミがやりたくないというのなら別に。その時は三日がこの世の地獄を見ることになるだけだから』
 「素直に泊めろと言え」
 ホント、ひねくれてるよなぁ、月日さん。
 何でこの人の遺伝子から三日みたいな娘が生まれたのか。
 「分かりました。娘さんは責任を持ってお預かりします」
 『・・・ムセキニン・・・でも良いけどね。こんなときだからこそ・・・ヨワミ・・・に付け込んで―――』
 「存在レベルで18禁ですよね、あなた」

897ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:52:36 ID:SkP7eOPU
 ところで、と俺は話題を切り替えた。
 「三日がああなった理由、ご存知ありませんか?」
 『・・・キグウ・・・だね。私もソレを聞きたかったのだが。キミも知らないのかい?』
 「ええ、俺にもちょっと分かんないです」
 『・・・イガイ・・・だね。恋する乙女というのは、恋愛対象に対して一喜一憂するもの、なのだろう?』
 「自分の娘を『恋する乙女』なんて一面的な記号だけで見ないで下さい。アイツにはアンタら家族も居れば友達も居るじゃないですか。そうした人たちのために一喜一憂できるコですよ、アイツは」
 友達。
 人間関係。
 どうも繋がりそうな気がしてきたぞ。
 『まぁ、キミが・・・知ラナイ・・・というならこれ以上は聞かないさ』
 「ですね」
 『キミが三日から根掘り葉掘り言葉攻めして聞き出せば良い』
 「それ質問って言うか尋問を通り越して拷問じゃないですか」
 『まぁ、拷問でも何でも、しなくてもどっちでも同じことさ』
 「って言うか、そんな無理に聞くことも無いでしょうね、今は」
 そう言ってから、俺は「それでは月日さん、失礼します」と言って通話を終えた。
 「・・・お電話ですか?」
 と、後ろから三日の声が聞こえた。
 どうやらシャワーを浴び終えたらしい。
 「ああ、お前のお父さんから。今夜お前をウチに泊めて欲しいっていうヘンな話で・・・・・・」
 そう言いながら振り返り、俺は絶句した。
 後ろには、真っ白な肌色があった。
 黒髪が映える、雪のような真っ白な肌肌肌肌肌。
 それを覆い隠すものは何一つ無く。
 ありていに言って、三日は全裸だったのだ。
 すっぽんぽんだったのだ。
 しかし、一度見たとはいえ、改めてみると目を奪われる。
 エロいとか興奮するとか以前にキレイだ。
 さすがに、胸から腹にかけての傷跡こそ目立つものの、それさえ全体から見れば美しさを際立たせるアクセントでしかない。
 それを除けばシミなんてほとんど見当たらない。
 スラリとした手足と長いストレートロングの髪が絶妙なバランスで調和している。
 こんな美しいものが、今さっきまでゴミのように無造作に我が家の前に放り出されていたかと思うと、怒りさえ沸いてくる。
 誰だ、こんな宝物をぞんざいに扱ったのは。
 じゃ、なくて。
 「服を着ろ・・・・・・でもなくて」
 考えてみれば、着替えなんて用意してなかった。
 ホスト役として手落ちにもほどがある。
 「悪い、着替えを用意してなかった」
 と、素直に頭を下げた。
 そして、改めて前を向く。
 なるべく彼女の裸体が目に入らないように。
 男として当然のマナー。
 「とはいえ、ウチには女の子にかせる着替えって言うと親の位しか無いけどそれで「・・・千里くん」
 俺の言葉を遮り、服のすそを掴んで(いるらしい)すがるように三日は言った。
 「・・・千里くんの服が、良いです」

898ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:53:19 ID:SkP7eOPU
 それからしばらくして。
 俺は暖かいシチューを食卓に用意していた。
 三日の制服は洗濯を終え、今はリビングに部屋干ししている。
 明日の朝までには乾かさなければいけないため、季節はずれの扇風機が忙しく働いていた。
 「それじゃ、冷めないうちにいただきますかー」
 「・・・いただきます」
 互いに手を合わせて、食事を取る。
 ちなみに、今の三日の服装は俺のワイシャツ一枚。
 俺と三日との体格差のせいで、ゆったりとした丈の短いワンピースのような着こなしになっている。
 三日にあう下着が我が家に置いてあるわけも無く、名実共に裸ワイシャツという奴である。
 言い訳をさせてもらえば、本当は俺のパジャマをかすつもりだったのだが、「・・・ズボンが入りません」というわけでこうなった。
 他の服も言わずもがな。
 決して、俺が裸ワイシャツで興奮する変態だとか、状況にかこつけてセクハラを敢行したとかそういうわけではないので念のため。
 ・・・・・・ホントウデスヨ?
 「少しは体、温まった?」
 シチューを食べながら、(そして三日の太股を『極力』意識しないようにしながら)俺は三日に問いかけた。
 それに対して、三日はコクンと頷いた。
 「それは重畳」
 「・・・でも」
 と、ポツリと三日は言った。
 「・・・でも、体は温まっても、心の方はまたすぐに冷えていくような気がして。・・・おかしいですよね、こんなの」
 「いーや」
 俺は首を横に振った。
 「俺もあるんだよねー。一度落ち込むと、中々テンション上がんなかったりとか」
 「・・・千里くんでも?」
 「そ、俺でも」
 俺も根っからの根明というわけでもない。
 人並みに悩むし、人並みに落ち込む。
 厄介なことに、そういうときほど1人でいると思考が悪いほうへ向かっていくものだ。
 そういえば、彼女はどうだったのだろう。
 俺たちと一緒にいながらも、それを『無関係』と呼んだ彼女は。
 「・・・他の女のことを考えてませんか?」
 「おお、いつもの調子が戻ってきたね」
 こういうパターンで安心するというのも妙な話だが。
 とはいえ、「中等部時代の思い出を回想していただけだよ」、とはフォローを入れた。
 「ま、こういう時はちゃんと飲んで食べてバカ話するだけでも変わるモンだよ。話するだけでも、変わる」
 あえて、繰り返した。
 もっとも、何を話して、とは言えないけれど。
 強引なのは逆効果になることもあるし。
 葉山と違って繊細っぽいし。
 しかし、
 「・・・友達だと、思ってました」
 と、三日は小さく言った。
 「・・・友達だと思っていたのに、そうじゃない、友情すら存在しないって言われて。・・・それに落ち込んでいる自分が自分らしくなくて良く分からなくなって」
 「らしくないなんてこと、無いだろう」
 友達は大事だ。
 少なくとも、俺には三日がそういう女の子に見えた。
 そんな女の子が友達に否定されるなんて、大事だ。
 一大事だ。
 「…ねぇ、千里くん。…友情なんて、無いんでしょうか?」
 こちらの方を、すがるような眼で見る三日。
 「…本当の友情なんて、本当の絆なんて、本当は無いんじゃないでしょうか?」
 彼女の言葉に、俺は息を詰まらせた。
 俺は、友情を、愛情を、絆をひたむきに求める彼女の姿を素晴らしいと思っていたのだから。
 かつて、『彼女』との関係を、絆を本当の意味で築くことに失敗したから。
 けれども、いや、だから、かな。
 「分からない。俺にも分からないよ、三日」
 俺は正直に、そう答えていた。

899ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:53:44 ID:SkP7eOPU
 「絆は、想いは、目に見えないから。見たくても聞きたくても触りたくても嗅ぎたくても味わいたくても確認して確信したくても、悲しい位、出来ないものだから」
 だから、人はすれ違う。
 すれ違い、想いが、行為が、報われないことがある。
 『関係』なんて、絆なんて存在しない、とさえ言うことが出来る。
 俺の言葉に、三日の表情が絶望に染まりかける。
 「でもね、三日」
 絶望に染まり切る前に、俺は言葉を続けた。
 「絆っていうのは、それを信じることが大切なんじゃないかな。信じようとする気持が、大切なんだと思う。目に見えないからこそ、目に見えない『信じる』気持ちで。だから―――」
 それは、三日にとっては酷な答えだったかもしれない。
 けれども、それは俺の偽らざる本音だったから。
 「頑張って、三日。俺も、頑張るから」
 俺の言葉に、三日は小さくうなずいた。
 その動作一つにどれほどの勇気が必要だったのか。
 それが、三日にとってどのような意味を持つのか。
 それは、俺の想像をはるかに超えていた。
 想像するべきだったのに。
 理解するべきだったのに。
 後悔する、その前に。
 その後、食事を終えて勉強(学生の本分・・・・・・なんだけど、そのカリキュラムは8割方三日が組んでる。すげぇ効果的だったりする)を追え、気晴らしに軽くTVゲームをしているうちに時間は過ぎていった。
 「・・・もうこんな時間ですか」
 「キリが良いし、そろそろ寝ようか。寝室は前に使った・・・・・・」
 と、俺が言いかけると、パジャマの端をキュッと掴まれた。
 「・・・一緒じゃ、駄目ですか?」
 控えめに、けれど袖はすがるようにしっかりと掴んで、三日は言った。
 「・・・千里くんと一緒に寝ては、駄目ですか?」
 そう言って三日は、上目遣いにこちらを見た。
 「いや・・・・・・その・・・・・」
 実のところ、以前にも三日は我が家に泊まってもらったことがある。
 その時はもちろん裸ワイシャツでは無かったし、無理を言って客間で寝てもらったのだが。
 「・・・今日は、心細いのです。・・・すごく、心細いのです」
 ここまで言われたことは無かった。
 「分かった」
 折れるしか無いわ、これ。
 「おいで、三日」
 俺は三日の手をとり、自分の部屋に案内する。
 「・・・千里くんの部屋、少し落ち着きます」
 「自分のとレイアウトが似てるから?」
 「・・・千里くんの匂いがしますから」
 「・・・・・・」
 この状況下で理性を保つのには、{TETSU}の意志が必要かもしれない。
 「2人だと、ちょっと狭いかもしれないけど」
 「・・・大丈夫です」
 三日に先にベッドに入ってもらい、俺がそれに続く。
 つーか、男女で同じベッドとか、コイツ意味分かってるんだろうか。
 ・・・・・・分かってないんだろうなぁ。
 そんなことを考えていると、三日が俺の片腕に体を寄せてきた。
 シャツ越しに、彼女のぬくもりと柔らかさを感じる。
 三日の存在を感じる。
 うわぁ。
 愛しさと切なさと心強さ・・・・・・ではなく性欲がないまぜになる。
 自分の心臓がドクドク言ってるのがわかる。
 心臓が獣の叫びを鳴り響かせてる。(オオカミ的な意味で)
 「・・・すぅすぅ」
 隣では、三日が安らいだ寝息を立てていた。
 無防備にも程がある。
 眠れねぇ。
 今夜は絶対眠れねぇ。
 隣の三日(の感触)を意識しないようにすればするほど、目がさえてくる。
 何か、違うことを考えよう。
 そう、例えば―――今直面してる問題のことを。

900ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:54:28 ID:SkP7eOPU
 いや、違うか。
 今葉山たちが直面してる問題のことか。
 俺は、直面していない。
 中等部時代、友達の恋愛相談まがいのことを請け負ったことがあったが、アレも結局当人同士が決着をつけた。
 結局その友達はハッピーエンドに終わったが、それは単なる結果論でしかない。
 俺のおかげ、でもなければ俺のせいでもない。
 俺がしたことは話をややこしくすることと、その後始末だけだった。
 まったく。
 我ながらあの時から全く学習していない。
 結局、決めるのは彼らで。
 俺は何でもないのに。
 何も、できないのに。
 「あー、ダメだ」
 考えが悪いほうに向かっていく。
 水でも飲んで頭をリフレッシュしたい。
 「ちょっと、待っててね」
 すやすやと眠る三日にそう呟き、俺はダイニングに向かう。
 「あれ?」
 ダイニングには明かりが灯っていた。
 「あら、セン。ただいま」
 そう言ったのは、俺の親である御神万里だった。
 どうやら、思ったより早く仕事を上がれたようだった。
 「おかえり、シチューあるよ」
 「今食べてる」
 「それは重畳」
 「ところで・・・・・・」
 にんまり笑いながら、スプーンで壁にかかった女子制服を示す親。
 「アンタがオタクなのは知ってたけど、女子の制服と下着を買っちゃうくらい筋金入りだとは思わなかったわよ、セン」
 「誤解だ!」
 「どっちが?」
 「後者が!」
 「まぁ、分かってたけど」
 「確信犯!?」
 と、馬鹿なやり取りを終えてから、俺は今日三日が泊まってることを説明した。
 「まぁ、急だったから連絡入れるのも忘れてて、ゴメン」
 「良いわよ。で、三日ちゃんは?」
 「さっき寝かしつけたとこ」
 「同じ学年の女の子に、すごい表現するわね」
 クスクスと笑う親。
 「なんだか、兄妹みたいねぇ。まぁ、私としては子供が2人になったような物だから、似たようなものなのだけれど」
 「兄妹っつーかまぁ・・・・・・」
 家族みたい、とは言わず。
 からかうような親の言い草に、言葉を濁す俺。
 「こんくらい近い距離感だと、一番楽っつーか、分かりやすいんかねぇ」
 俺はそう結んだ。
 「まるで、分かりにくいことが別にあるみたいね」
 親にそう切り替えされて、俺は自分が無意識のうちに引き比べていたことに気がついた。
 三日のことと、葉山たちのことと。
 自分の問題と、他人の問題を。
 「分かりにくいことが、あるんだよ」
 と、俺は口に出していた。
 「いや、すげーシンプルなのかな。でも、それは俺の問題じゃなくて。アイツらの問題で」
 取り留めの無い言葉だった。
 「決めるのはアイツらだから、俺は、きっと何もできない。何もしないほうがいい。できる何かなんてそもそも分からないし。でも・・・・・・」
 言ってる内に、想いがハッキリしてくる。
 「何かしたいとか、何とかしたいとか、ンな馬鹿なわがまま考えてる」
 本当に、俺ってすっごい馬鹿だ。
 なんだかんだと言いながら、自分のことしか考えてない。

901ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:54:48 ID:SkP7eOPU
 「まぁ、良く分かんないけどさ」
 と、俺の言葉を聴いた親は言った。
 取り留めの無い言葉への、当然の対応だろう。
 俺だって、良く分からない。
 分からないなら、きっと何もしないほうが―――
 「けど」
 と、意外にも、予想外にも、親は言葉を続けた。
 「我慢すんな」
 え?
 「でも、親。コレ、ホントに俺のわがままで・・・・・・」
 「それでも、そこで我慢しちゃ駄目でしょ」
 ピッと指を立てて、俺の言葉を遮る親。
 「センがどういうコトに首突っ込んでるのかはしらないけど、そこまで理屈でがんじがらめになるくらい考えたい、思いやりたいことなんでしょ?そこで足止めてどうするのよ」
 「でも、これは頼まれてもいないことで。本当に、俺のわがままで」
 「わがままで良いじゃない。世の中、わがままじゃないことの方が多いわよ?」
 ウインク1つ。
 「悩んだって始まんないわよ。悩むくらいに、どうしても何かしたいんでしょ、その『アイツら』のために」
 「でも・・・・・・」
 それが誤りだったら、間違いだったら、傷つけて、しまったら。
 「誤りだったら、しかったげる。間違いだったら、止めたげる。傷つけちゃったら、謝れば良い。だから、やりたいなら四の五の言わずにやりなさいよ」
 そう、彼は言った。
 「お父さん・・・・・・」
 「そう呼ばれたの、何年ぶりかしらね。まぁ、『お母さん』でも良いんだけど」
 「それだけはやだ。でも、ありがと」
 「どういたしまして」
 「少し、元気が出た気がする」
 「それは良かったわ。センがヘコむと、私もヘコむ」
 自分を心配してくれる人がいる。
 その事実を改めて自覚し、たまらなく嬉しくなる。
 「じゃ、先に寝てるわ」
 「ええ、おやすみなさい」
 そう親子らしいやり取りをして、俺は部屋に戻っていった。
 どうやら、ぐっすり眠れそうだった。
 ・・・・・・いや、そんなことは全然無かったんだけどね。

902ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:56:37 ID:SkP7eOPU
 「―――ウン、ウン。頼まれていたのは用意できたよ。ウン、詳しくはあとでパソコンの方に送るから」
 『ありがとうございます、零日さん。駄目で元々のつもりだったんですけど、お願いしてみるものですね』
 「フフ…お姉さんに任せなさい…なんだよ、明石さん」
 『いや、零日さんはお姉さんなんてお歳じゃ「何か言った?」『ごめんなさい』
 「それじゃ、頑張ろう…ね」
 そう言って、緋月零日は明石朱里との通話を終えた。
 携帯電話を置き、満足げな笑みを浮かべる零日。
 もっとも、彼女の内心など誰にも理解できるものではないだろう。
 そんなことを思いながら、緋月月日は隣でベッドに横たわっている妻の顔を見ていた。
 「どうしたの…月日お兄ちゃん?」
 「いや、何でも無いよ?」
 不思議そうな零日に対して、話し方を意識しない、素の口調で答える月日。
 今の月日は、普段の鉄仮面を外し、学生時代には浮名を馳せた美貌の素顔を晒している。
 彼女に対して、自分はどのような表情をしてしまったのだろう、と月日は考え、それを打ち切った。
 恐らく、意味の無いことだ、と。
 「ところで、今回のこの一件、三日のお友達のお手伝い。これはどういう不幸に繋がるのかな?」
 口調だけは平然として、月日は恍惚とした表情を浮かべる零日に語りかける。
 月日は、零日が明石朱里と邂逅し協力していることを簡単に聞いている。
 聞いているだけで、何もしていない。
 彼はあくまで傍観者に徹していた。
 「ふこ・・・う?誰も不幸にはならない・・・よ?」
 不思議そうな零日。
 月日とは違って、零日はこれが素の口調だ。
 元々、零日は話が得意な性質では無いのだ。
 「まぁ、そのつもりだろうね」
 苦笑するように、月日は言った。
 自分の力は他人を不幸にする。そう規定する月日は自分の全能力を積極的に不幸のために使い、幸福のためには使わないことにしていた。
 もっとも、ごく一部には『不幸の可能性』というリスクを呑んだ上で彼に協力を仰ぐ酔狂な者もいるにはいるが。
 ともあれ、月日が傍観者に徹している理由はそこにあった。
 自分が関わって幸福になることなど、どこにも無いのだから。
 「もし、明石さんの思い通りにコトが進めば、あの娘は幸せを手に入れる・・・私と同じ種類の、ね」
 「ほぅ・・・」
 答えながら、月日は自分の首を拘束する首輪の重さを意識する。
 それと同じ目にあう男がいるのなら、それはご愁傷様だと月日は思った。
 思うだけだ。
 見ず知らずの男のために涙を流せるほど情に厚い人間ではないと、月日は自分を規定していた。
 だから、月日は零日や明石という少女を止めるつもりも協力するつもりもなかった。
 故にこその傍観者である。
 「それに・・・幸せを手に入れる女の子は明石さんだけじゃない・・・よ?」
 「誰だい?」
 明石という少女以外にも、零日が気を回している娘がいるとでもいうのだろうか。
 月日に言わせれば、零日が誰かに協力するということからして、とてつもないレアケースなのだが。
 「三日ちゃん・・・だよ?」
 「!?」
 零日の答えを聞いて、月日は、なぜか、絶句した。
 「驚かなくても良いじゃ・・・ない?だぁって、明石さんは…三日のお友達。お友達のために何かするのは良いこと…でしょう?良いこと・・・らしいじゃない」
 「それが、・・・狙イ・・・かい?」
 平静を保とうとして、思わず他所行きの口調になる月日。
 明石朱里を通して、三日を巻き込み、自分たちと同じ状況へ持っていくこと。
 それが、零日の目的!
 「狙いじゃない・・・よ。まぁ、そうなったら良いな・・・くらいに思ってたらそうなったみたい・・・だよ?」
 「だろう・・・ね」
 零日は月日のため以外のことで積極的に動くことがないことを、月日は長い付き合いで知っていた。
 ただ、今回は積極的『でなく』動き、彼女が望む結果を得られたということのようだ。
 「運が良いのか悪いのか・・・」

903ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:56:54 ID:SkP7eOPU
 「何か・・・言った?」
 「いいや。でも・・・ナンデ・・・なんだい?」
 「え?」
 月日の問いに、心から分からないという顔をする零日。
 「レイちゃん、君だって千里くんのことは認めていたようだったじゃないか。それを、僕と同じ状況に持っていく必要がどこにあるんだい?」
 「え?…え?」
 月日が噛んで含めるように説明しても、零日の不思議そうな顔は変わらない。
 「三日ちゃんは『私の続き』なんだよ?私の幸せは三日ちゃんの幸せで、三日ちゃんの幸せは私の幸せ・・・でしょ?そこになんで『必要』とか『必然性』とかがいるの?」
 きょとんとした顔で、零日は言った。
 逆に、月日は得心がいった。
 『僕たちと同じ在り方が・・・シアワセ・・・ね。レイちゃんはナチュラルにそう感じてるわけだ』
 きっと、月日をこうして拘束している状況が、零日にとって極めて当たり前に『幸せな状況』なのだろう。
 一家団欒が幸せだ、健康であることは幸せだ、とかいうのと同じレベルに。
 尤も、見方を変えれば自分の生き方を子に強いているとも言えるが。
 『親のエゴ・・・ね。まったく、レイちゃんも随分当たり前に母親としての勤めを果たしているじゃないか』
 と、月日は皮肉交じりに、自嘲交じりに思った。
 「どうした・・・の?」
 その様子を見た零日が、不思議そうに言った。
 恐らく、月日の気持ちを説明しても、零日は理解できないだろう。
 この娘とは根本的に分かり合えない、いや、分かり合えないように『してしまった』のだから。
 「・・・イヤ・・・。ただ、レイちゃん。君はいま・・・シアワセ・・・かい?」
 月日の持って回った言い回しに零日は、
 「幸せ・・・だよ」
 と即答した。
 「お兄ちゃんがいてお兄ちゃんがいてお兄ちゃんがいて、零日は今とっても・・・幸せ」
 そう言って、零日は月日の白い肌を強く抱きしめた。
 痛いくらいに。
 拘束するように。
 「ああ、僕も・・・シアワセ・・・だよ」
 ソレに対して、月日は零日の最も望むであろう言葉を発した。
 緋月月日、緋月零日、2人は今日も当り前に壊れていた。








 「何を考えているのかしらね、あの女」
 同時刻。
 つい先ほどまで会話していた相手に向かって、明石朱里は呟いた。
 「ま、良いけどね、別にどうでも。私に協力してくれるっていうなら」
 携帯電話を弄びながら、明石は独り言を続けた。
 所詮は人事。
 相手にどんな思惑があろうと、自分にとって、そして自分の望みにとっては何の関係も無い。
 「ともあれ、舞台も役者も準備万端。あとは、撒き餌を捕らえるだけ、ね」
 そう言って、明石は歪な笑みを浮かべる。
 「その撒き餌の役、あなたにやってもらうわよ、御神千里。誰より無駄で邪魔なことはなはだしく腹立たしいけど、アナタも『親友』の幸せのためなら泣いて喜ぶわよね?」
 そう笑いながら、携帯メールを作成し始める。
 送信相手は、緋月三日。

904ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:57:12 ID:SkP7eOPU
 翌日
 どうにか何事もなく(本当にどうにか!)一夜を終えた、俺と三日は、いつものように登校路を行く。
 いつものように隣を歩く彼女の歩幅を意識しながら、俺は昨夜何事も無かったことに心底安心し、自分の理性に万雷の拍手を送っていた。
 頑張った、良く頑張ったぞ俺の理性!
 自分で自分を褒めてあげたいという台詞は理性(おまえ)のためにある!
 そんな、他者からの同意をあまり得られそうに無いことを考えていると、いつも通り見慣れた2人の背中が見える。
 その2人、葉山と明石にいつも通り合流。
 明石は、葉山に密着し、とにかく一方的にしゃべりかける。
 葉山は、それに対して「ああ」とか「うん」とかしどろもどろに受け答えをする。
 おびえているのは明らかだったが、それを決して口に出すことは無い。
 いつも通りに。
 今まで一度として、一瞬たりとも口に出すことは無かった。
 恐ろしいから。
 恐ろしい相手と、捉えているから。
 極めて不愉快な光景である、と明言しよう。
 居心地も悪ければ、見心地も悪い。
 「おはよ、はやまん」
 俺はひょい、と手を上げて言った。
 「あ、ああおはよう、みかみ「それでね、まーちゃん!」
 葉山の言葉を遮り、無理やりに自分の方を向かせる明石。
 葉山の目が助けを求めていたようにも見えたが、助けない。
 助けられない。
 葉山の口から、一度たりとも「助けて」と言われたことが無いから。
 言ってくれなきゃ分からない。
 言ってくれなきゃ、伝えたことにはならない。
 だから、一晩考えて――――こっちから言うことにした。
 「はやまん、葉山」
 俺は努めて冷静に、葉山に向かって言葉を投げる。
 「え、あ「まーちゃん、でねでね」
 強引な明石に恐れ、逆らえない葉山。
 いや、逆らおうともしていない。
 「お前、そのままで良いの?」
 俺は、そう言葉を続けた。
 葉山に答えられるかは分からない、けれど伝えることはできる。
 これが、助けて、とも言われていない、何も頼まれていない第三者(モブ)でしかない俺ができる唯一のことだろう。
 「ソイツに何も言えず、何も言わず、ただ唯々諾々と流されて。それを恐れるばかりで何もしないで。そんなの・・・・・・」
 「うるさいわね」
 と、そこで初めて明石が俺に向かって言葉を投げかけた。
 「アタシたちは今、すっごく幸せなの。そうでしょ、まーちゃん」
 その強制力のある言葉に、葉山は、
 「あ、ああ・・・・・・」
 と頷いた。
 頷きやがった。
 「だから、さ。アタシたちの幸せの邪魔しないで」
 ドスの効いた声で、明石は言った。
 「ねぇ、明石」
 と、俺は平然と言葉を続けた。
 「『それで良いの?』って言うのは葉山だけじゃなくて、お前にも言いたかったのよね」
 「はぁ?」
 侮蔑するように応じる明石。
 けれど、俺はそれに動じない。
 『この程度』には動じない。
 かつての孤独や、最初に愛した少女に比べればどうということは、無い。
 「お前、最近外堀を埋めるばっかで、肝心の内堀が―――葉山の想いを疎かにしてるようにしか見えない」
 「……知った風なことを言うのね」
 叶うのならば俺を今すぐにも殺したい、そんな目で明石は俺を睨みつけた。
 「でも、そうね。確かに私はまだ外側しか手に入れてない。でも―――」
 今にも喰い殺さんばかりに口元を歪め、明石は言葉を続ける。
 「想いも手に入れるわ。必ず」
 そう言って、明石は葉山と先行した。
 後から思えば、その言葉の真意を、俺は欠片も理解していなかったのだろう。

905ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:57:36 ID:SkP7eOPU
 昼休み
 「…やるんですね、本当に」
 明石朱里から改めて説明を受けた緋月三日は、確認するようにそう言った。
 「勿論。って言うか、この程度でオタオタされても困るけどね。所詮は今後の布石だし」
 サラリとそう言うと、明石は歪な笑顔を浮かべる。
 「さぁ、御神千里を狩りましょう」





 放課後
 「あれ?」
 いつものように三日と連れだっているつもりで下校路を歩いていると、俺は違和感に気が付いた。
 片手が寂しい。
 そう思って隣を見回すと、三日の姿が見当たらない。
 更に、周囲を見回しても彼女の姿は影も形も無い。
 ふむ。
 ふむふむ。
 今日三日と離れたのはお手洗いくらいなモノだが(そう言えば昼休みのは随分長かったが。明石も一緒だったし)、その後いつも通り一緒にいたはずだ。
 俺にしても三日にしても、離れる時は一言言っとくようにしているのだが。
 校門までは一緒にいたし、てっきりいつも通り連れだって下校している物と思っていたのだが。
 我ながら迂闊だね。
 今までいつも通りだからって、今日もいつも通りだと思い込んで、すっかり三日へのセキュリティが疎かになっていた。
 ましてや、昨日はあんなことがあったばかりだと言うのに。
 読者の皆様に指差して笑われても文句は言えない。
 「いつの間に、はぐれたんだ……?」
 思わず、苛立った声が出る。
 普段居て当り前の奴がいきなりいなくなるというのは、思いのほか落ち着かない。
 「つっても、夏の時と違ってお互いケータイがあるのが救いだよな」
 そう呟き、俺は鞄から携帯電話を取り出し、三日の番号にダイヤルする。
 コール音がひどく長く感じる。
 『…もしもし、三日です』
 「三日、今どこー?」
 思わず、挨拶をすっ飛ばして聞いていた。
 『…あの、少しお願いがあるんですけど』
 「何さ、改まって」
 『…部活動の前に、来て欲しいところがあるのですけれど』
 「ゥン、どこー?」
 『…学校の近くの……』
 そう、場所を説明される。
 「分かった。今行く。あと……」
 俺は、念のために確認した。
 『…何でしょうか?』
 「お前は、そこにいるんだよね?」
 『……はい』
 「分かった、ンじゃまた後で」
 そう言って、俺は電話を切った。
 後から思えば、悪い予感はしていたのだろう。
 けれど、昨日の出来事に引き続いての、突然の三日の不在。
 それは、俺から冷静な判断力を奪うほどの効果があった。
 そう。
 俺はこの時、欠片も冷静では無かった。
 無防備でさえ、あった。
 狩る側にとっては、この上無く格好の獲物だったのだ。






 「三日!」
 学校近くの、人毛の無い道路。
 俺は彼女の姿を確認して、呼びかけた。
 「…千里くん」
 俺の呼びかけに振り向く三日。
 「どーしたよ、いきなりいなくなって」
 「…ごめんなさい」
 そう言って、三日はガバリと抱きついてきた。
 キス出来る距離に。
 殺せる距離に。
 「あ、いや、別にそんなに気にしちゃいないけど……」
 密着され、三日の女性らしい身体の感触やシャンプーの匂いにドギマギする俺。
 「…それに、もう1つごめんなさい」
 え?
 それはどう言う意味―――
 「だっ!?」
 その瞬間、俺の身体に衝撃が走った。
 有無を言わせず全身を硬直させる感触には覚えがある。
 スタンガン―――それも三日の抱きついている腹部と、更に背中からの二段構え!
 不意打ちで受けた激痛に、俺は三日から離れ、グラリと倒れる。
 「思った通り、ちょろいわね」
 気を失う瞬間に見たのは、髪に表情が隠れた三日と、酷薄な笑みを浮かべた明石。
 スタンガンを持った2人の少女の姿だった。

906ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:57:55 ID:SkP7eOPU
 おまけ
 気を失った御神千里を2人の少女が見降ろしている。
 緋月三日
 明石朱里
 そして更にもう1人。
 「遅いですよ、零日さん」
 その場に駐車した車から降りてきた女性に向かって、明石が言った。
 「ゴメン…ね。これでも、多忙な身…だから。これでも急いできた…んだよ?」
 その女性、緋月零日は苦笑しながら答えた。
 「…お母さん?」
 怪訝そうな声を出す三日。
 「言わなかったっけ?他に協力者がいるって」
 何でも無いように、明石が言った。
 確かに、そんな説明を明石からされた気がするが、それが母だとは三日は思っても見なかった。
 「…これから、千里くんを車に運び込むんですよね」
 「そーよ」
 三日の言葉に、鬱陶しげに明石が答えた。
 「それで、誰が車の中に放り込むの…かな、彼のこと」
 「…」
 「……」
 零日の言葉に、2人は無言になる。
 目の前には、激痛で気を失った千里の体躯。
 ただでさえ背が高い上に、痩せぎすでは無く良く見ると相応に鍛えているようにも見える。
 つまり、有体に言って重そう。
 それに対して、こちらはかよわい女性が3人ぽっち。
 「ど、どうしましょう……かね?」
 改めてその姿を見て、反笑いになる明石であった。
 その後、3人は誰が彼を車内に運び込むかで多少揉めることになるのであった。

907ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part3 ◆yepl2GEIow:2011/10/05(水) 17:58:51 ID:SkP7eOPU
 以上で投下終了になります。
 皆様、お読みいただきありがとうございました。

908雌豚のにおい@774人目:2011/10/05(水) 18:25:44 ID:8GbAZpvg
>>907
GJ!

909雌豚のにおい@774人目:2011/10/05(水) 21:38:06 ID:l0Sq373E
>>907
GJ!
今回も楽しく読ませてもらいました

910雌豚のにおい@774人目:2011/10/05(水) 23:53:19 ID:siQNwSEA
GJ!

911雌豚のにおい@774人目:2011/10/06(木) 09:54:54 ID:beywwIVc
>>907
GJ!!毎回素晴らしいヤンデレをありがとうございます!!

912『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:42:20 ID:cdjB2.kI
投稿します。

※初投稿ですが、よろしくお願いします。

※エロ 鬼畜 陵辱 浮気 嫉妬 三角関係
 ギャグ その他色んなシーンあり。

913『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:44:23 ID:cdjB2.kI
ここはとある私立高校。時刻は下校時刻。
2階の廊下ではある男女がもめている。

「ちょっと。さっき葵(アオイ)ちゃんと何話してたの?」

「うるさいな。委員会の日程についてだよ。
 来月から文化祭で忙しくなるからな」

「本当? 嘘ついてないよね? 悠君のこと信じていいんだよね?」

女の口調はまるで夫の浮気現場を押さえた妻のごとく。
美少女と呼ばれるほどの美しい容姿をしているが、
鋭い眼光は男性を負かしてしまいそうだった。

瞳には強い意志が宿っている。意中の男を独占したいと言う強い意思が。

(いい加減消えてくれよ。面倒な女め)

「本当だよ。俺が榊原さん(葵のこと)のことが好きになったとで
 も思ってるのか? 俺にはおまえだけだよ。アイリ」

少年は内心とは正反対のことを口にするのだった。
志穂とは彼らのクラスメイトで文化祭実行委員だ。
クラスでは演劇をすることが内定してるので、その準備やら
練習やらに忙しくなってくる時期であった。

914『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:45:30 ID:cdjB2.kI
アイリと呼ばれたその少女は不満そうな顔で口を開く。

「はぁ〜? 何ぃその浮気夫が妻にするような言い訳?
 ふざけてるのかな? 全然心がこもってないんだけど?」

「いや、ふざけてないよ。俺はアイリのことが大好きさ」

「……」

なぜか黙ってしまうアイリ。

少年=悠二(ユウジ)は危険な予兆を感じていた。
適当な愛の言葉を並べて彼女のご機嫌を取ろうとしたのだが、
どうやら失敗したらしい。アイリは拳を握り締めたまま
うつむいており、どう見ても納得してるようには見えない。

その証拠に、

「本当は榊原さんが好きなくせに」

「え?」

「私、知ってるんだよ? あの人と影でコソコソメールしてるの」

「なっ!!」

悠二は動揺を隠せなかった。その隙を突いてアイリが彼の
カバンを奪い取り、携帯の画面を開く。

915『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:46:20 ID:cdjB2.kI
そこでメールboxやら着信履歴などを見られてしまったのだから
最悪だった。別にやましい内容はなく、友達以上恋人未満の
関係を維持してる悠二と榊原だったのだが、アイリにとっては
十分に許せない事態だった。

「私のこと好きって言ってるわりには、ずいぶん榊原さんと
 親しいんだね。最近電話しても繋がらないことが多かったけど、
 こういうことだったんだね」

「ばれたかwww サーセンw」

「サーセンじゃないよ……。やっぱり私のことバカにしてるね……。
 相応の報いは受けてもらうよ」

全身から殺気を放つアイリがゆっくりと距離を縮めようとする。
悠二は冷や汗をかきながら後退しつつ、
なんとかこの事態から逃れようと策をめぐらす。

「おい待てよ!! ちょっと待ちなさい!!
 ぶん殴る前に俺の言い分を聞きましょうね!?
 俺にだって言いたいことがあるんだ!!」

「いいよ」

「え? 聞いてくれるん?」

「うん。ただし、くだらない言い訳をしても、
 悠君が殴られるという結果は変わらないけどね」

アイリはぞくっとするような事を笑顔で言う。

916『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:47:40 ID:cdjB2.kI
(病的なゲス女め……。
 こいつは人を傷つけることに全く抵抗がない……クソッ!!)

男は心の中で悪態をついてから、

「そもそも俺とお前は付き合ってません。だから俺は無実だ。
 分かったか馬鹿女? そもそもおまえはいつもいつも
 俺の都合なんて考えずだな……」

絶対の真実を口にするのだが、

「えっ……。悠ちゃん、それはおかしいよ」

アイリは意外そうな顔をして驚いた。

「え? 何? 俺今おかしなこと言った?」

悠二もつられて数学の時間に誤答してしまった生徒のように慌てる。

二人が付き合ってないのは本当のことだった。
このヤンデレっぽいアイリという少女は、
今年同じクラスになってからなにかと悠二を追い掛け回し、
独占しようとする鬼畜だった。

「悠君は現実を認めようとしないんだね。残念だよ。
 しかもさりげなく私のこと馬鹿女って言ったね?
 私を怒らせないでってあれほど言ったのに……」

アイリの中では悠二とは将来を誓い合った仲ということに
なっている。脳内設定の婚約者である。

917『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:49:37 ID:cdjB2.kI
「いやいや、意味不明すぎて笑いたくなるレベルだぞ。
 なんで俺を可哀想なモノを見るような目で見てくるの?」

「……これから悠ちゃんを私の家まで連行することにするね。
 色々教育してあげる。そうすれば悠ちゃんだって
 本当の愛に目覚めてくれると思う。大丈夫。痛くしないからね」

すでに会話になってない。切れたいのは悠二の方なのに、
アイリはさらに輪をかけて怒り心頭のご様子。
戸惑う悠二だが、考えるだけ無駄だと分かった。

「アイリよ。おまえの気持ちはよく分かった。
 もう俺も自分の気持ちに嘘をつくのは疲れた。おまえには
 俺の正直な気持ちを知って欲しいんだが、いいかな?」

「……え!?? 突然どうしたの?」

「落ち着いてくれアイリ。これから言うことは真剣に聞いて欲しい」

「う、うん……。悠ちゃん……」

悠二の男らしい声に驚愕するアイリ。
彼は熱っぽい視線を送りながらアイリの手を握っていた。

それはまるで、思いを秘めていた女性への告白のシーン。

悠ニは心を込めたメッセージを送る。

918『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:50:54 ID:cdjB2.kI
「おまえより榊原さんのほうが好みだ」

「………はい??」


訪れたのは、沈黙と言う名の拷問タイム。


アイリは買い物帰りに偶然にも死体現場を
見てしまった主婦のような面持ちで固まっている。
よほどショックだったのだろう。

だが悠二にとってはいい迷惑だ。
彼女が再起動すれば殴られるのは分かってる。
ここで先手を打つことにした。

なんと、制服のポケットから
痴漢撃退スプレーを取り出して噴射した。

「〜〜〜〜〜〜????」

アイリにとっては全く予期しない出来事だった。
取るに足らないと思っていた獲物に逆襲されたのだから。

「うぅ……げほ、げほ……」

アイリが煙たがっている間に逃走した悠二。
彼はアイリのことをゲス呼ばわりしていたが、
彼もまた人のことを言えない。少なくとも
痴漢撃退スプレーは女性に向けて放つモノではない。

919『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:52:38 ID:cdjB2.kI
「ぷぎゃあああああああああああ!! ぎゃははははははあ」

キモイ笑い声を発しながら階段を駆け下りる悠二。
やかましい女をからかってやったので気分は最高潮だった。

だが、それも長くは続かない。

背後から襟をつかまれることによって彼の疾走は止まった。
振り向いたら鬼と目が合ってしまって慌てた。

「さっきは驚いちゃったよ。覚悟は出来てるんだよね?」

アイリは愛のあるボディブローを放った。
至近距離から放たれた重みのある一撃だ。
重心に力を込め、回転を加えたアイリの拳が腹部にめり込む。

「……っ! piおなsbふぃdfs……!!」

少年は耐え切れず階段から転げ落ちてしまった。
痛いなんてモンじゃない。
痛みを通り越して快楽に昇華してしまいそうなほど。

(うーん。テレビで見るボクサー達は偉い。こんなに痛い技を
 何発も喰らってるのに痛い顔一つしないなんて……)

転げ落ちた先は昇降口だ。
下校途中の生徒達が何事かと集まってきて
野次馬活動を始める。

悠二はうつ伏せに倒れた体勢で、釣り上げられた直後の
魚のようにピチピチ跳ねていた。情けないことこの上ないが、
痛みから逃れるためには仕方ない行為だった。

920『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:54:16 ID:cdjB2.kI
「悠ちゃん、地獄の痛みで苦しんでるところ悪いんだけど……」

よく訓練された魔女は悠二の襟をがっしりと掴んだ。

「ぜーんぶ悠ちゃんが悪いんだからね? 
 私を怒らせた人がどうなるかよく知ってるでしょ? 
 この学校では私が法律なの」

魔女の顔には少しだけ慈悲が浮かんでいる。
彼の襟を引っ張りながら外へと引きずり出そうとしていた。
一体どこへ連れて行くつもりなのかと周囲の生徒達が、

「ざわざわ…」 「ザワザワ…」

しながら見守っているが、

「みんなナニヲじろじろ見てるのかなぁ?」

アイリが睨みを効かせるだけで波のように去っていくのだった。

(ほんとクズね。あいつらは私に逆らう勇気すらないチキンたち。
 私が怖いんだったら初めから野次馬なんかしなければいいのに)

「今日は久しぶりに私の家に招待してあげるよ」

「ア、アイリしゃまのうちにでしゅか」

「うん。早くいこ」

リムジンは玄関のすぐ隣で待機してる。
アイリがすぐ帰宅できるようになっているのだ。

921『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:55:05 ID:cdjB2.kI
彼女はお嬢様であり、いわゆるブルジョワ階級に属している。
資産家の親が、寄付金と証した多額の賄賂を学園に寄付しており、
彼女のたいていの蛮行は許される。先ほどの会話では
『私が法律なの』などと言っていたが、
実際にその通りなのだから皮肉だ。

学園長以下、あらゆる学園関係者は彼女と
その家系に服従しているといってもいい。
複数の稽古事の一環として格闘技にも精通しており、
空手や柔道を中心に心身を鍛えている。

「しかしお嬢様、本日はピアノのレッスンが控えておりますが…」

「いいよそんなの。めんどくさいし。 イライラしてるから早くして」

アイリは運転手を強引に説得し、少年を後部座席へ放り込む。

922『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:57:48 ID:cdjB2.kI
ーーーーーーーーーーーーーーー

アイリの家は広かった。正門の前でリムジンを降りて、
迷路のような庭を抜けて本邸へと歩いた二人。
玄関の前では一人の少女が出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

主人にお辞儀するメイド衣装の少女。
アイリ専属のメイドだ。年のころは十六。
線の細い顔立ちに切れ長の瞳。

アイリとは違うタイプの美人だ。
アイリはもう少し柔らかくて表情がころころ変わるが、
この少女は常に冷静な仮面を一つ被っている。

業務用の表情といえばそうなのだろうが、
彼女は意図的に感情を押し殺しているように見える。
実際は感情豊かなのだが。

(何度来てもバカでかい屋敷だ。道案内してくれる人がいなければ
 庭で迷子になるほどだ。それにしてもこのメイド少女は…)

悠二は密かにメイドのことを観察していた。
えらく事務的に接してくれるこの少女のことが
最初は苦手だったが、何度もこの屋敷を訪れるようになってから
少しずつ印象が変わってきていた。

923『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 20:59:07 ID:cdjB2.kI
「体育で汗かいたから先に入浴してくるね。
 はいカバン。あとで着替えとタオルを用意してね」

「かしこまりました、お嬢様」

アイリからカバンを受け取り、恭しくお辞儀するメイド。
一つ一つの動作が洗練されており、本当によく
教育されているのだなと感心する悠二。

「悠ちゃんは私の部屋に案内しといてくれる?
 くれぐれも私の両親とは会わせない様にしてね」

「承知いたしました」

アイリは廊下の奥へと消えてしまい、二人きりになる。
初めてじゃないのに、なぜか緊張してしまう悠二。

「悠二様、お嬢様の部屋へお連れします」

そう言ってメイドが先導する。
クセのある黒髪を見ながら後についていった。

(リアルメイドさんはすごいねえ。
 アキバとかにいる偽メイドとは全然違うわ)

シックなエプロンドレスなんてそうそう見れるものじゃない。
過剰な装飾など一切ない業務用の服。
ここはまるで別世界だ。現実世界から隔離された空間。
一時間前まで普通の学園生活を送っていたのに。
なぜ自分に相応しくない空間にいるのかと思うとバカらしくなった。

924『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:00:21 ID:cdjB2.kI
ただ黙って歩くのも気まずいと思ったので少女に話しかけてみた。

「……アイリの奴、客を招待したくせに自分は風呂入ってるんだから
 勝手だよな。俺は奴の部屋で何してすごせばいいんだろうな?」

「よろしければ、悠二様も愛梨様と入浴されてはいかがですか?」

「な……?」

「ふ……。冗談ですよ」

「な、なんだよ驚かすなよ。思わずあのバカ女の裸を
 想像しそうになちゃったじゃないか」

「愛梨様の裸に興味があるのですか?」

「そりゃあるよ。あいつは完全に人格が破綻しちまってるが、
 顔だけは一流だからな。それにスタイルも悪くない。 
 奴の性格さえ知らなければどんな男だってとりこになるさ」

「まあ、そんなに悠二様に褒めてもらえるなんて、
 アイリ様がうらやましいですわ」

「え? 別に褒めてないよ。むしろけなしてるんだけど?
 つかなにそれ、私は嫉妬してますアピールでもしてんの?」

「ええ。それはもう。愛梨お嬢様を刺し殺したいくらいに」

「きついジョークだなおい。あんなバカを刺したところで
 犬も喰わない様なワイドショーのネタになるくらいだから
 やめたほうがいいぞ」

「うふふ。それもそうですね」

925『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:01:33 ID:cdjB2.kI
悠二はアイリの気まぐれで強制的に家に来させられるのだが、
その度にアイリ専属のメイド少女のもてなしをうけるのだった。

訪れるのは多くて週二回程度だが、付き合ってもない女の子の
家に連れてこられるというのも変な話だ。
だが、悠二はここに来るのが嫌ではなかった。

メイドとは互いに冗談を言い合えるくらいには仲良くなってる。
今では彼女と会うのが楽しみの一つになっている。

アイリの部屋にたどり着つくと、

「お茶の用意をしてきますので」

少女=マリがお辞儀して立ち去るのだった。

部屋の墨にはグランドピアノがおいてあって完全防音仕様。
天蓋付きのベッドや高級オーディオ、
50型のプラズマTVなどもあるが、
それでもあり余るほどの広さを誇る部屋。
投下された巨大な資本の賜物である。

「はぁ〜きょうも疲れたぜ」

ベッドに遠慮なく横になる悠二。
何度も訪れてる部屋だから気心知れてる。

退屈になったのでその辺のCDでもあさって
適当なクラシックでも流してたら、
綾乃が茶菓子を持って戻ってきた。

926『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:03:20 ID:cdjB2.kI
「わざわざすまないね。あのバカ女が戻ってくるまで
 まだ時間があるだろうからさ……たまにはどうだい?」

ちなみに、今流れてる曲はパッヘルベルのカノンだった。
弦楽器の重奏音が凄まじい迫力を奏でる。高級アンプは
クラシックに最適になるようにチューンニングされているようだ。

「ですが私はこの後も仕事が…」

「そんなものは後回しだ」

綾乃の肩を少しだけ力を込めて抱き寄せる。

「おまえだって嫌じゃないだろ?」

「はい……」

慣れた様子で唇を重ねる。

最初は、『一つのエサを奪い合う二匹のオットセイ』
のように唇を突っつきあっていたが、やがて落ち着いていく。

抱きしめられたメイドがつま先立ちして
顔の高さを合わせる。ねっとりと唇を重ねて
互いの舌が絡ませる。それに伴って唾液が
口腔に流れ込んでくる。

「悠二様、それ以上は……!!」

「ああ、すまない」

927『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:09:40 ID:cdjB2.kI
※メイド少女の名前はマリだ!!! >>926 ×綾乃 ○マリ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「悠二様、それ以上は……!!」

「ああ、すまない」

彼女の胸を触りそうになったところで静止する。
言うまでもなく、ここはアイリの部屋だ。
ここで本番などやろうものならただでは済まされない。
二人は秘密の関係を維持してるのだ。

「そ…それでは私は仕事に戻りますので。
 まもなくお嬢様が戻られると思います」

「お、おう。久しぶりに一緒になれて嬉しかったよ」

赤くなった顔を手で隠しながら退出するメイド。
残された悠二も同様に赤面している。
お嬢に内緒で愛し合っていることの背徳感が
さらに気分を盛り上げてしまったのだ。

分かれるのが惜しいとは口にはしなかったが、
彼女と最後まで一緒にできたらどれだけ幸せだろうかと
悠二は考えた。自分の服に彼女の匂いがついていないか
確認しながら何気ない顔でアイリが戻ってくるのを待つ。

928『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:11:18 ID:cdjB2.kI
マリの父親はこの家の執事長だ。その娘の彼女も
父のコネでアイリ専属のメイドにさせてもらっている。
本来なら高校生の年齢のマリがなぜ就職しているのかというと、
学校が大嫌いだったからだ。高校には最初の二ヶ月しか通っていなく、
親と激論を交わした挙句、メイドとして生きる道を選んだ。

人に尽くすための作法なら幼少の頃から親に仕込まれていた。
常に上流階級の人々と接していたので、
有数の私立とはいえ学校で俗な生活をするのは肌に合わなかった。

マリは生真面目で細かい所まで気が利く娘だった。
アイリからは年が近いこともあり、気に入られていた。
影で悠二と怪しい関係になっているとも知らずに。


「おまたせ〜 悠ちゃん」

お嬢が戻ってきた。

「待たせちゃってゴメンねぇ。今日体育があったから
 汗一杯かいちゃってさ。私があんまり汗臭かったから
 悠ちゃんも困るモンね?」

彼女の発音は母音が間延びしていてやる気のなさそうな
イントネーションなのが特徴だ。

「なんで俺が困るの?」

「んふふ。知ってるくせに。なんで悠ちゃんを
 私のうちに招待したと思ってるの?」

929『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:12:35 ID:cdjB2.kI
そう言いながらベッドに座ってる悠二に近づいていく。
アイリはバスローブしか身にまとってない。
湯上り特有の色っぽさを全身から発しており、

「久しぶりにキスから初めよっか?」

こうして至近距離まで接近すると彼女の胸元へ
視線がいってしまう。健康的な白い肌の中でも
一際目立つその豊満な胸に。

あの谷間に顔を埋めたくなってしまう。
本当はこの女がどれだけ嫌いなのだとしても。

「ん……ん……おいしいよ……悠ちゃんの味だぁ……」

目を閉じてしっかりと愛しい人の口腔を味わうアイリ。
初めにディープキスから始める辺り、
すでに彼女の中でも準備が整っている証拠だ。

アイリの身体が火照っているのは湯上りのせいだけではない。
いつのまにかローブがはだけ、一糸まとわぬ姿となってしまっている。

「いいぞアイリ……」

アイリの唾液は少しだけ甘くてせつない味がした。
学園のアイドルと称されるほどの女の子が惜しげもなく
美しい裸体をさらけ出してくれることにうれしさすら感じた。

930『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:14:35 ID:cdjB2.kI
乾ききってない髪からリンスの匂いが漂って気分を高揚させる。
学園で見せるヤンデレ的なアイリは大嫌いなのに、
どうしてか身体を交わらせると許してしまいたくなるのだった。

オスとしての本能。繋がりたいという欲求。
高校生という年齢を考えれば無理もない。

こういった身体の関係に恋愛的な考えは不要なのだ。
少なくとも男性の視点から考えれば。

「アイリはどんだけ興奮してんだよ?
 アソコをこんなに濡らすなんて変態だな」

愛液が溢れ出てる肉壁の中に悠二の指が侵入していた。
少し出し入れするだけでねちっこい水分が跳ねるような
卑猥な音が響いてしまう。それに呼応するかのごとく
アイリの朱色の唇からもせつなげな喘ぎ声が聞こえてくる。

「あん……いいよぉ……もっと触って……あっ……あうっ……」

少し手で触っただけでもだらしない顔をしておねだりをするアイリ。
彼を思って一人で寂しい夜を過ごしたのは一度や二度ではなかった。
今は彼に背中から抱きしめられており、その体温を
身近に感じることが出来る。ゴツゴツした男の手の感触が、
彼の言葉が少しづつ自分の理性を狂わせていくのを感じていた。

931『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:16:16 ID:cdjB2.kI
「もう我慢の限界だ。いれるぞ?」

「うん。早く来て」

さらに快楽の頂点を目指すため、ベッドに仰向けに寝かせた
彼女の足を開かせて挿入した。一定のリズムでピストン運動を開始する。

「あっ……ああ……もっと強くしていいよ……」

「はっ……はっ……」

「そ……そうだよ……その調子……」

流しっぱなしにしていたパッヘルベルの名曲集は、すでに
再生を終えてしまっている。まるでオーディオが空気を呼んで
二人だけの世界を想像してくれたかのようだ。

汗でしっとりと濡れていく両者の若い身体。
こうして繋がっている間は学校であった嫌なことも
全て忘れることが出来る。十代ゆえに押さえ切れない
性の衝動も、年頃ゆえの色々な悩みも全て吹き飛ばせる。

「あうぅう……悠ちゃんのが私の奥まで入ってるぅ……」

「はは……おまえはやってる最中までアホっぽい話しするんだな」

「はぅう……も、もう限界だよ……イっちゃうよぉお……」

「そうか、ならもっと強く突いてやるよ」

「んああああ!! きゃあああああ!!」

932『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:18:10 ID:cdjB2.kI
腰を浮かせた彼女の身体が暴れ始める。
汗で少し湿った髪の毛が揺れ、今までよりも
大きな声で騒ぎ始める。

ここで手を抜いちゃ駄目だと判断した悠二が、
可能な限り膣の奥まで何度も何度も突いてやった。

まもなくして彼女が達してから彼もそれに続いた。

「はぁ……はぁ……どうだった?」

「うん。きもちよかった……」

事後の余韻に浸りながら、二人でベッドに横たわる。
こうしていると愛しあうと夫婦にも見えてしまう二人なのだが、
実際はこんな単純な関係ではない。

悠二は性的にはアイリのことを愛していても、彼女の
内面までは好きになれなかった。それどころか嫌悪していた。

アイリとしてはたとえ身体を捧げても悠二に好かれたい、
彼を自分に振り向かせたいと思っていたのだが、
実はこの作戦は表面上成功しているだけだ。

実際に悠二からどう思われていているのか、
これから痛いほど思い知らされることになっていくのだった。

  物語の第一章は、これにて終了する。

933『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/06(木) 21:20:21 ID:cdjB2.kI
投稿終了です。読んでくれた方には感謝です。

934雌豚のにおい@774人目:2011/10/06(木) 22:23:53 ID:BQ0eqT/E
ええかった
ヤンデレの娘さんや風見氏の作品だけしか最近きてないようだったので、新勢力は大いに有難い

935雌豚のにおい@774人目:2011/10/06(木) 22:27:44 ID:nRFdpkNA
GJ!
浮気と陵辱か……
何にせよ続きに期待します

936『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:17:30 ID:n0OBkfas
こんばんわ。続きを投稿します。第二章です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

悠二の朝は早い。居候先の親戚の家で目覚めるからだ。
今通ってる高校は県内でも有数の私立校だった。
自宅からは遠かったのと、両親の不仲に嫌気が差したので
母方の姉に当たる叔母の家で生活させてもらっている。

今まで一軒家に住んでいた悠二にとって、マンション生活は
新鮮だった。高級マンションというほどではないが、それなりに
住み心地はいい。親戚の人たちは親しくしてくれるし、
なにより両親の夫婦喧嘩から逃れることが出来たのが大きい。

「悠ちゃん、最近学校の方はどう?」

「特に問題ないよ。もうすぐ学園祭が始まるからその準備で
 少し忙しいけどね。予定はおおむね順調に進んでいるよ」

叔母が用意してくれた朝飯を食べる。
悠ちゃんと呼ばれると、あのバカ女のことが嫌でも
頭に浮かんでしまうのがしゃくだが、口には出さずに食べ続ける。

トースターとハムエッグというごく一般的なメニューだ。
間違っても毒など入ってないから安心して食べられた。
アイリなら何を盛ってくるか分かったもんじゃないのだ。

「志穂(しほ)姉さんはもう行ったの?」

「今日も学校の図書館で勉強ですって」

937『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:18:30 ID:n0OBkfas
「へえ受験生は毎朝大変だね。でも家の学校の生徒って大半が
 推薦で進学するんでしょ?」

「そうだけど、一応小論文対策とかはやっておきたいらしいの。
 朝一で勉強した方が能率が上がるとか言ってたわ」

志穂と呼ばれた人はイトコの姉さんだ。悠二やアイリが高二なのに対し、
その一つ上の学年になる。今年から受験生だから、長年続けてきた
吹奏楽部は夏の終わりと共に引退した。

推薦では国立入試を目指していてるらしく、日々新聞を熟読したり
面接対策をしたり健康管理に気を使って過ごしている。

悠二は別に従姉のことが苦手というわけではなかったが、
受験生特有の緊張感に恐れをなし、あまり関わらないようにしてる。
ようはできるだけ邪魔をしないようにしているのだ。
居候という立場を考えれば当然といえよう。

世帯主は会社でいい地位に着いている人であり、高い年収に
比例して勤務時間も以上に長い。朝は始発で会社に向かい、
帰りは早くて23:30に帰ってくる生活。過酷な残業地獄のため、
休日は疲れきった顔でマッサージ器でくつろいでいるものだから、
傍から見たら気の毒すぎた。

この家で一番楽してるのは、結婚以来専業主婦として過ごしてる
この叔母さんだけだろうと悠二は密かに思っていた。

「それじゃあ行って来るよ」

「忘れ物ないわね? 定期も持った?」

「問題ないよ。それと今日も帰りが遅くなるかもしれないから。
 何かあったら連絡するよ。じゃあ」

938『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:19:42 ID:n0OBkfas
遅くなるとはアイリの自宅への強制連行によるものが大半だが、
たまに本当に学校の用事で残る時もある。便宜上、今の家族には
委員会の仕事だと言い張ってやり過ごしている。

アイリとの淫らな関係がばれたらきっと家を追い出されてしまう。
毎日が綱渡りの生活だった。良く言えば刺激的だが。

ーーーーーーーーーーーー

「おはよーー悠ちゃん!」

校門前で手を振っているのは、
昨日一緒にみだらな行為をした女だった。

(なんでアイリが校門の前で立ってるんだ。リムジン通学のくせに。
 玄関横付けでとっとと教室に入ればいいだろうが)

朝登校すれば必ず校門の前で待機しているのが日課になってる。
互いに家が逆方向なので少しでも一緒に登校したいという
乙女心なのだろうと悠二は推測する。

(くっ…誰にも見られてないだろうな?)

悠二は強烈な羞恥心に襲われていた。
異性と登校するのは傍から見ればうらやましいかも
しれないが、当人にとってはかなり恥ずかしいのだ。
僕ら付き合ってマースみたいなアピールしてるみたいで
むずかゆくなってくる。

幸い、朝早い時間だ(悠二が早起きしてる理由はここにある)
登校してる生徒はちらほら見える程度。悠二は公衆の面前で
大声で自分の名前を呼ぶのをやめてほしい、という思いを
彼女に伝えるためにはどうすればいいかと考えた。

939『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:20:49 ID:n0OBkfas
そして自然に下半身を露出しながらこう言った。

「おはようアイリ。あのさ……さすがに朝っぱらから一緒に
 登校するのは恥ずかしいかなって……思うんだけど……」

アイリは顔に冷水を浴びたように見る見る青ざめていった。

「うん。確かに悠ちゃんと一緒に登校するのは恥ずかしいかもね。
 いろんな意味で」

絶対零度といえる視線が、愛しい彼を捉えてる。

「……ごめん。どこで笑えばいいのか分からないよ。
 お願いだから私が切れる前にその粗末なモノしまって」

「実はこれ下半身クールビズなんです!! なーんて……」

「はいはい。おもしろいおもしろい。じゃあ死のうか?」

アイリの愛のあるアッパーカットが炸裂した。
それに要した時間はわずか二秒。軽やかなステップで
距離を縮めると同時に踏み込みを開始し、脳震盪(のうしんとう)
を引き起こすのに十分な力を持って彼の顎に拳を叩き込んだ。

あまりにも鮮やかな攻撃。

その一連の動作を見たものは、まるでフルオケの演奏を
聞き終えた後のような高揚感を得ることが出来るという。

悠二の身体は緩やかな回転を描きながら
吹き飛んで(下半身を露出したまま)気絶したのだった。

940『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:21:33 ID:n0OBkfas
ーーーーーーーーーー

保健室のベッドで目を覚ました悠二が最初に思ったことは、
顎と背中に鈍い痛みがあることだった。自身の身に何が起きた
のかは記憶にない。思い出そうとするとアイリの怒った顔が脳裏に
浮かんだので考えるのをやめたのだ。

「あっ、起きたんだね悠ちゃん」

「うむ。俺はどのくらい寝てた?」

むくっと上半身だけ起こし、アイリに問いかけた悠二。

「まだ朝の始業の前だよ。どうして悠ちゃんがここにいるのか
 気にしなくていいからね。遅刻する前に早く教室行こ?」

「おう」

アイリに手を引かれ、教室へ向かう。



 ざわざわ  ざわざわ 


教室にはほとんどのクラスメイトが揃って適度にざわついていた。
いつもと変わらぬ日常がそこにある。男女共にいつくかの
グループを形成し、その集団ごとに他愛もない会話をしてる。

話題も実に下らぬモノばかり。流行の芸能人やらアイドルの話やら、
インターネットで仕入れた怪しげな情報から恋愛の話など。

941『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:22:36 ID:n0OBkfas
その中でオタクっぽいグループがあるのだが、悠二はそいつらと
仲がよかった。オタクグループといっても外見がいかにも
オタクですという風ではなく、みんな最低限の身なりは整えている。

悠二は彼らの影響で深夜アニメとやらを見せてもらって以来、
実は密かにはまっていた。特に流行の魔法少女モノが大好物なのだが、
アイリや家族には秘密にしている。いくら三次元で性が
満たされていると言っても、二次元には特有の魅力があるのだ。
たとえ将来妻ができたとしてもやめるつもりはない。

アイリは女子のグループに溶け込んでいた。
いわゆる一番可愛い女子が集まるグループで、
スクールカーストの上位に位置する集団である。
(アイリの容姿はその中でも別格)

アイリに言わせれば表面上の付き合いであり、
空気のような関係と思ってるそうだが、
それはほとんどの生徒にとってそうだ。

学校での人間関係なんてそんなものだ。
本当の意味での親友など見つけられる人は
よほどめぐり合わせのいい人だけだろう。


「今日の一時間目はロングホームルームだ。三週間後に控えた
 文化祭にそなえて、演劇に出演する役者を決めてもらう。
 文化祭実行委員の二人は前に出てくれ」

担任教師の指示に従い、委員の悠二と榊原葵
(さかきばらあおい)が黒板の前に立つ。

演劇にするのは前回の投票で決まっていた。
あとは誰をどの位置に配置するかだ。

942『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:23:50 ID:n0OBkfas
「じゃ、俺が皆に聞いてくから榊原さんは書記を頼むよ」

「はい……」

彼女とは放課後残って仕事をすることが何度かあったので、
ついでと思いアドレスも交換しておいた。

榊原の家もそれなりの家系らしく、はい……とかいう
口調はいかにもお嬢様らしい。大人しい女子グループに属し、
なぜか同級生にも敬語を使う。

実はそれなりに気になる存在になっていたのだが、
アイリの前では下手な素振りは見せられない。

現にアイリが物凄い形相で二人の様子を凝視してるのだ。
女の嫉妬とは恐ろしい。

「まずは主演から決めていく!!
 誰か商人の男役がやりたい男子はいるか!!」

声を張り上げ、挙手を求める悠二。
しかし誰も手を上げない。
あたりまえだ。こんなめんどくさい役、誰がやりたいというのか。

なにせ演劇自体が中世の恋愛を描いた者だ。
商人の男と売春宿で働いている娘が恋に陥るという
ハレンチ極まる内容だ。脚本自体はオリジナルだが
結構ディープな描写が多く、当日は観客が驚くこと間違いなしだ。

「積極性のある奴は誰もいないのか……?」

ため息を吐きそうになる悠二。
途中でヒロインと口論末、お腹を
指されそうになる男の役は誰も望んでいないらしい。

943『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:25:30 ID:n0OBkfas
ため息を吐きそうになる悠二。
途中でヒロインと口論末、お腹を
指されそうになる男の役は誰も望んでいないらしい。

「脇役から選んでくのはどうでしょう?」

と言う榊原氏の意思を尊重し、通行人Aやら木の役などを
選ぶことになった。しかし問題なのは、クラスメイトほぼ全員が
脇役を望んでおり、脇役の投票率が限りなく100パーセントに
近かったことだ。

これではらちが明かないと判断したのは担任だった。
今まで隅のイスに座って傍観していた彼は、

「こうなったらくじ引きにしよう!!
 それなら文句ないだろ!?」

と言って速攻で四十人分のクジを作ってしまった。
(といっても実行委員の二人のみ免除なので実際は三十八)

悠二が壇上にクジの入った箱を置き、順番に生徒が引きに来る。
アイリが引きに来た時、「その女とイチャイチャしたら
殺すよ?」と耳元でいわれたので背筋がひんやりしてしまった。

主演の息子役と売春婦役にはクラスで特に容姿の優れた男女が
選ばれた。ようはイケメンと美少女だ。その他の人々は
裏方スタッフ(照明係から音響係)を含め、
全てその時間内に決定された。恐るべき早業である。

「んしょっと…」

決まった人の名前を黒板に書いていく榊原さん。
黒板消しを使ってる最中に体勢を崩してしまい、

944『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:26:30 ID:n0OBkfas
「……あっ?」

後ろ向きに倒れようとする。

「おっと…。大丈夫?」

よく反応した悠二が彼女の身体を支える。
後ろから肩を抱くようなせつない体勢だ。

ショートでボリュームのある髪が間近に見えて
不覚にもドキドキしてしまった。しかも悠二は
気付かないフリをしていたが、実は彼女の左胸を
触っていた(わざとではない)

「ご、ごめんなさい早見君……」

「べ、別にいいんだよ、気にするな」

ちなみに、早見(はやみ)というのは主人公の苗字だ。
アイリの苗字は橘(たちばな)という。漢字で橘愛梨。

 「ひゅーひゅー」 「付き合っちまえよおめえら」
 
草食動物のような顔をした生徒達たちから
野次が飛んでくるが、悠二の心配は他にある。

「……っ!!!!!!」 ギリギリ……

さっきから凄まじい勢いで睨んでくる猛獣こと愛梨お嬢様である。
普段から、あれ?なんかすげー視線感じてんなーと思ったら、
アイリに睨まれてる可能性大なのだった。視線をビームに例えるなら
米軍で実験中のレールガンに匹敵するかもしれない。

恐ろしさのあまり手足が心地いいリズムを刻みそうになるが、
表面上は冷静を装う。しかし冷や汗は止まらない。

945『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:28:00 ID:n0OBkfas
「まあ、すごい汗をかいてますよ。具合でも悪いのですか?」

心優しき榊原嬢は、そんな彼を気遣ってハンカチで
顔の汗を拭いてくれる。ここは教室の壇上であるというのに
大胆すぎである。それに周りの野次を全く気にしていないあたり、
スルースキルは無駄に高い。

アイリの視線はさらに鋭くなり、もはや人を睨み頃さん勢いに
なってるのにも気付いてないようだった。

(ふむ。どうやら俺か榊原さんが殺されるっぽい展開だね。
 つかなんでアイリの視線に気づいてないの榊原さん?
 君、これから殺されるかもしれないんだよ? 
 自殺願望でもあるの? バカなの死ぬの?)


そんな心配をよそに長かったロングホームルームは
終わり、ついに裁判のときが訪れる。


「榊原さん、ちょっといいかしら? 話があるんだけど?」

「え? なんでしょう、大切な話ですか?」

「いいから来なさい!!」

無邪気な榊原さんを魔界へいざなおうとするアイリ。

ただならぬ気配を感じた女子達は遠巻きにして
様子を見守っている。近くの席にいた男子達も
何事かと野次馬根性でアイリたちを見ていた。

946『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:29:04 ID:n0OBkfas
悠二はあわわ〜、女同士の争いは怖いなぁ
とか言いながら慌てていたが、
何も出来ず、榊原は屋上へと連行されてしまった。

悠二もその後を追う。



「どうして私と悠二の邪魔をするのかなぁ?
 私たちの仲を知らないわけじゃないんでしょ?」

「ムグmグ……」

「ほらほら、どうしたのぉ? 言いたいことあるなら
 何か言ってみれば? もっともその格好じゃ何も
 しゃべれないでしょうけど…」

ドS口調なのがアイリ。ムグmグしてるのが榊原さん。
なぜか簀巻き(すまき)にされて口にガムテープを張られてる。
確かにこの状態では一言も話せないし、自由に動くことすら
かなわないであろう。簀巻き用の布団と縄はどこから
持ってきたのか不明だが。


悠二は屋上へと続く扉をこっそりと開け、
中の様子を見守っていた(助けに行くつもりはたぶんない)

屋上は予想通りカオス空間と化していた。
悠二は一部始終をじっと見守っていた。
アイリの奴は榊原さんに情け容赦のない腹パンを
食らわし、弱った所を簀巻きにして現在に至るのである。

話し合いなどもってのほか、アイリの恋敵にはもれなく
腹パンとう名の制裁を加えることをポリシーとする悪魔だった。

947『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:30:12 ID:n0OBkfas
「悠二は私の婚約者なの。よろしいかしら?
 あんたみたいな下劣な雌豚には不釣合いだと思わない?」

「ふごふご…」

アイリはゲシゲシと蹴りを食らわして榊原さんを苦しめてる。

(なんて惨状だよ。さっきまで元気そうにしてた榊原さんが
 今じゃ簀巻き状態でアイリに足蹴にされてるなんて……。
 なんだ……? 俺の中に新たな感情が宿り始めて…?)

悠二は下半身だけクールビスしたくなったが、
ギリギリのところで思いとどまる。

(榊原さんは運が悪かった。ただそれだけの話さ。支配者階級の
 橘愛梨には勝てるわけないんだ。最初から俺と関わらなければ
 こんなことにはならかった。ん? そう考えると俺が悪いのか?
 榊原さんとメアドを交換したのは俺。じゃあなんだ? 俺のせい?
 俺が彼女とイチャイチャしたいと思ったのはたぶん事実。
 なら俺が間接的に榊原さんをいじめてることになるじゃないか……)

考えすぎると罪悪感という波に飲み込まれそうになる。
今はこの事態を収拾すのが先決。

いきり立った勇者が屋上に突撃した。

「アイリ!!」

「あっ悠ちゃん。どうしたの急に?」

アイリは榊原のパンツを脱がそうとしてるところだった。
榊原は嫌そうに暴れてるが、布団には縄がきつく巻かれている。
柔らかい太ももからゆっくりとショーツが脱がされていく所を
目撃し、悠二は一瞬だけ固まるが気を取り直す。

948『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:31:09 ID:n0OBkfas
「俺は馬鹿だったよ。アイリをこんなにも不安にさせちまった。
 本当はアイリのことが大好きなのに。天邪鬼な性格のせいで
 その気持ちをはっきり伝えなかった。……はは。大バカさ。
 許してくれとは言わない。
 でも、せめて抱きしめるくらいのことはさせてくれ」

「何言ってるの。もう嘘には騙されないんだから……」

「これでも嘘に見えるか?」

力強い男の腕に抱かれ、先ほどまでの魔性が失われていくアイリ。
握っていた榊原のパンツを落としてしまった。瞳からは
大粒の涙が零れ落ちる。哀しみではなく、悦びの感情から来る
暖かい涙だった。

「それじゃ仲直りのキスしようか? アイリ?」

「うん……!!」

昨日交わったばかりだというのに、エサを与えられた
雌犬のように尻尾を振るアイリ。それだけ彼の存在が
大切なのだ。彼以外には何も要らない。逆に言えば
彼のいない世界など、生きる意味がない。

「んんん〜〜〜」

必死で彼の唾液を舐め取るアイリ。
ネチョネチョしたやらしい音がなんとも卑猥だ。
そんなに身長差はないのでスマートに唇が重なる。

余談だが、アイリが163センチで悠二が168(メイドは154)

949『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:31:42 ID:n0OBkfas
「もういいか? 次の授業に遅れちまう」

「だめぇもう少しだけぇ……」

上目遣いでおねだりするアイリは美しかった。
年を越えた妖艶さすら感じるその色気に、
二人ははさらに情熱的に絡み合うのだった。

一応ここには榊原氏(ノーパン)もいるのだが、
気にした様子はないどころか、
二人は簀巻きの存在などもう忘れていた。

「大好きぃ〜〜〜!!」

「ずっと一緒だぞアイリ……!!」

アイリが満足するまでキスという名の
唾液の交換を続け、結局次の授業には
遅刻してしまうのだった。

950『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:33:42 ID:n0OBkfas
あとがき。

今回の話ではアイリの鬼畜成分の片鱗を見せることが
出来た程度だが、実際の彼女の恐ろしさは留まることを知らない。

悠二はヤンデレ女をうまく飼いならす術を習得しつつあり、
今回はうまく誤魔化すことが出来たのだが、
もちろんアイリに言ったことは全部嘘だ(この時点では)

アイリのことは性的に愛してるだけだし、そろそろ彼女と
交わるのにも飽き始めてきてる。むしろ彼はアイリに嫌われたかった。
アイリのような独占欲の強い魔物から逃れ、榊原のような
大人しい美少女と付き合いたいと思っていた

今朝下半身クールビズなど称してわいせつ行為を働いたのも、
アイリになんとかして嫌われたいと思ってのことだった。
彼はヤンデレから逃げたいのだ。

次からの章では主人公の思いがどのように
変化していくのか注目してほしい。
                 第二章 完
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
引き続き第三章の投下を始めます。(連投が続いてごめんなさい)

951『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:35:52 ID:n0OBkfas
「おいこら。俺を解放しなさい」

休日の昼すぎに目を覚ました悠二は、身体の自由を
奪われていることに気がついた。太いベルトが
幾重にも巻かれており、ベッドの上で固定されている。
両手両足はもちろん、首にもしっかりと巻かれてる。

これでは苦しいので身動きしたいのだが、悠二の隣で
卑猥な本を読んでいるアイリが許してくれそうにない。
アイリが手にしているのは二次元の同人誌。

アイリにだけは心でも見つかってはならない代物だった。

「ふんふん。ふぅ〜〜ん。悠ちゃんってちっちゃい女の子が
 好きだったんだぁ〜〜。ロリコンの人って分からないなぁ」

言葉だけ聞いてると可愛いものだが、鬼の形相でページをめくっていた。
タイトルは『魔法少女マロカエロカ』と書かれている。
見た目小学生にしか見えない少女達があられもないレズぷれいに
勤しんだりする内容である。他にも同人誌はいくつかある。

(もう殺せ……)

計り知れない絶望に舌を噛み切りたくなる悠二。

家族は全員出かけてる。今日はたまの休日なので惰眠(だみん)
をむさぼろうとした悠二だったが、いつのまにか侵入してきた
アイリに襲われた。そして現在は猛獣と二人きりで
心温まるような時を過ごしてるわけである。

952『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:36:56 ID:n0OBkfas
彼女によるエロ本チェックならまだ生易しいかもしれない。
何度も説明してるがアイリとは正式に付き合ってない。

「まさか浮気してるのが漫画の世界の女の子だとは思わなかったよぉ。
 世界は広いんだね〜。ふふふ。これ、全部燃やしちゃっても
 いいかな? 出版社から作者から全部含めて」

彼女の権力だとそれくらいは許されそうだから笑えないのだ。
その作品はアニメが原作だが、彼女の親父なら製作会社ごと
転覆させることができるかもしれない。

「ごめんなアイリ。その前にこれだけは言わせてもらう。
 彼女達で抜くのは最高だったよ。特に金髪の女子中学生が
 可愛くてな? マ○さんていうんだけど彼女の胸は
 中学生と思えないほど…」

「……この前さぁ、私だけを愛してくれるって言ったよね?」

「はて? なんのことだ? 一切記憶にございません」

「……包丁どこかな〜? 台所?」

「待ちなさい君ぃ!! 俺はロリコンだって認めたんだぞ!? 
 めちゃ勇気出したんだよ!? 何か問題でもあるのか!?」

「問題大有りなんてレベルじゃないよ。自分の婚約者が
 ペドだったなんてキモすぎでしょ……。できるだけ苦しまない
 ように逝かせてあげるからね。そのあと私も昇天するから。
 やっぱり私たちは天国で愛し合ったほうがいいと思うんだ」

アイリはふらふらとベッドに接近し、ぼすんと倒れこむ。
悠二の顔を手で掴み、正面から視線を合わせる。
緩やかな動作で彼の首を絞めようとしたとき……

953『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:37:42 ID:n0OBkfas
「心から愛してるぞアイリ。俺にはお前以外考えられない」

「あっそ。くだらない冗談を言うってことは、
 覚悟は出来たってことでいいんだね?」

「待てっつってんだろうが!! 頼むから俺の首から
 手を離してくれ!! これ以上俺を怒らせたら
 俺の新たな性癖を公表しちゃうぞ!?」

「ロリコンで露出魔のくせにまだ新しい性癖があるの?
 さすがにこれは通報してもいいレベルだよ。
 ってかどうしてそんなに必死なの?」

「自分の生き死にがかかってんだからそれゃ必死になるわ!!
 この電波女が!! 俺には二次元の美少女でハァハァする権利も
 ねえのか!!?  ほぉぉぉらあぁ!? 嫁とのエロスと二次元は
 別なんだよ!! 主食とデザートなんだよ!! おまえに分かるか!!」

「……っ」

「あーもう頭に来たぞ!! もうどうにでもなれ!!
 俺を殺すなら早くしろよ!! おまえみたいな電波に
 息の根を止められるなんて最高じゃないか!!
 おら? 何黙ってんだ!? とっととやっちまえよ馬鹿女!!」

するとアイリは哀しげな顔して目を晒してしまった。
先ほどまでの鬼嫁の雰囲気はどこへ消えてしまったのか。
まるで別人のように大人しくなった。

(アイリ………おまえ……泣いてるのか?) トクン

悠二が不覚にもときめく。
デパートで迷子になった幼女を眺めているかのような
このトキメキ。形容しがたい。

954『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:39:02 ID:n0OBkfas
あえて例えるなら↓
-----------------------------------------------------------
(険しい登山の途中で家族連れと会った。目の覚めるような
 美しい幼女が父に連れられて歩いていた。俺は足の疲れなど
 すっかり忘れてときめいた。……俺はロリコンだったのか? 
 すでに下半身のトーマスは発射寸前だ。こんな感じになるだろう)
--------------------------------------------------------------
※----で囲まれた箇所は読まなくても本編とは関係ない。


「私がこんなに愛してるのに…。
 どうして分かってくれないのぉ…?」

「アイリ……」

「ただ悠ちゃんのことが好きなだけなのに……。
 本当にそれだけなのに……」

つーっと彼女の頬に一滴の涙が流れたのだった。
彼女の心情を表している冷たい涙が。

一人の少女を泣かせてしまった。その事実が、
怒りに我を忘れていた悠二の胸を締め付ける。
アイリとてまだ十七の女の子。
一人の男を好きになること事態に罪はない。

(ふっ……。何で俺はあんなつまらないことで……)

またアイリの全てを許してしまいたくなった。
今度は嘘じゃない。彼は心からアイリに惚れかけていた。
確かに家宅捜査された上に全身拘束されたのは事実。
しかし悠ニはこんな可愛い顔で泣きじゃくる女を他に知らなかった。

「なあアイリ、言い過ぎたよ。
 すまないが俺の縄を解いてくれないか。
 許されるなら、今すぐおまえを抱きしめたい」

955『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:40:19 ID:n0OBkfas
アイリは言う通りにしてくれた。

ようやく自由を得た悠二は体中の間接が悲鳴をあげていたが
涙目で耐え、文字通りアイリを抱きしめる。

「あったかいね……」

「ああそうだ。死んだらこの暖かさも失ってしまうんだぞ?
 もちろん人としての感情もだ。そんなの嫌だろ?」

「うん……」

洋服越しでも確かに伝わる互いの体温。
生きてることがなんと素晴らしいことだろうか。

死の欲とはタナトス。性欲とはエロスの一種で、
両者が交じり合った時に混沌は生まれる。
すなわち、死を間近に感じた者ほど子孫を残したいという
本能に従って行動したがる。

一時の感情とはいえ悠二を殺そうと思ってしまったアイリだが、
そんな彼女だからこそ一層身体がうずくのだ。
身体の奥底から湧き出てくる熱情。彼と繋がりたいという本能。

「何度も何度も不安にさせちまってごめんな?
 俺はこんなにも大切な人が身近にいるのに
 ついつい横道にそれちまった。やっぱり俺は最低だな」

「ううん。いいよ。悠ちゃんは最後は私のところに
 戻ってきてくれるんだもん。大好きだよ」

「俺もだよ……大好きだアイリ」

956『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:41:04 ID:n0OBkfas
「ねえ悠ちゃん」

「なんだ?」

「私を縛ってほしいの……」

「……なっ!!」

アイリの説明によると、二次元同人誌は緊縛プレイが大半だった。
この部屋に多数転がっている三次元モノのSMモノAVや本など、
この男がどうやら極度のSM好きなのは一目瞭然だった。
(それらはアイリが隠し場所を暴き、散らかしてしまった)

「私だってあの女の子たちに負けないくらい
 悠ちゃんを満足させられる。どんな責めにだって耐えてみせるよ」

とのことで、悠二を大いに盛り上げさせてくれたのだった。

幸いこの部屋に悠二を拘束する際に使ったベルトや
ロープなどがあり、希望通りのプレイを展開するには
不自由しなさそうだ。



それから十五分後である。

957『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:42:58 ID:n0OBkfas
ヴィイイイイイイイイイイイイイイイ……

マンションの一室に響き渡る振動音。

「あっ……うっ……あっ………あっ……」

くすぐったそうに身体を小刻みに動かすのはアイリ。
ベルトで縛られてイスに座らされている。
両手は後ろ手(いすの背もたれの後ろ側)で、
足は閉じれないように開いた状態(いすの足に縛れている)

無防備な秘所にはローターがいれられている。

「あうぅう……すごいよこれぇ………!!」

熱を帯びた吐息を吐きながら感じてる愛梨。
上の下からも下の口からもヨダレを
垂らしてる姿はまさに淫乱。

「どうだ? 感じてるかアイリ?」

「う……ん……今までにない感じだよ……すごく……気持ちい……」

悠二の声はアイリの近くから聞こえた。
彼はすぐ横で彼女の痴態を眺めていた。
彼女が我慢できずに垂らしてしまうヨダレを
舐めとっては悦に浸っていた。

一方のアイリは目隠しされている。

「はぅう……あっ……ああん……!!」

視界を奪われると余計に神経過敏になる。
弱い振動を与え続けるローターは、愛液で
零れ落ちないように右の太ももにケーブルを
ぐるぐる巻きにしてある。

958『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:44:10 ID:n0OBkfas
「んんん〜〜〜!! んぐう〜〜〜!!」

唇をキスで塞がれて苦しそうなアイリ。
光を奪われた視界では彼が今どこにいあるのかも
分からないが、確かにその感触を感じることが出来る。

その時、ローターの振動が急に強くなった。

「んん!???」

キスは継続したままだ。

突然訪れた新たな快楽に身体が暴れそうになる。
ギシギシときつそうな音を奏でるベルトとイス。
一切の自由はない。全ては悠二の思いのまま。
手のひらで踊らされる操り人形なのだ。

「ゆ、ゆうちゃ……もうイッっちゃうよ……」

「そうか。淫乱なアイリさんはまたイッちゃうのか。
 これで何回目だと思ってるんだ? この雌豚」

「そんなこと言わないでよ…いじわるぅ…」

「ははは。おまえだって本当はこうされてうれしいんだろ?
 乳首がコリコリになって自己主張してるぞ?」

正面から乳房を握り締め、先端の乳首を指でつまんでみる。

「ひゃあ!」

「大きいなぁアイリの胸は。形も綺麗で触り心地は最高だ。
 どうしたらこんな卑猥な体つきになれるんだ?」

959『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:45:40 ID:n0OBkfas
片方の胸を両手で丁寧に触り、尖った乳首に吸い付いてみる。
するとアイリがさらにエッチな声で騒ぎ出すのだ。

「んひゃああ!!」

「もう楽になっちまいな」

「んんん〜〜〜!! いやあああああああ!!」

秘所と胸の同時責めについに耐え切れなくなったアイリ。
一瞬だけ身体を大きく震わせて両足の間を愛液で濡らしてしまった。

ローターの電源を切る悠二。
疲れきった彼女を解放し、ベッドに寝かせてやった。

まるで一つの儀式が終ったかのような満足感。
まさか自分の性癖にそった行為をアイリがしてくれると
思ってなかった悠二は不思議な感覚だった。

(こいつは本当に俺のことが……)

すでに寝息を立てて眠り始めてしまったアイリ。
今日は何度も絶頂を迎えてしまったので
よほど疲れたのだろう。

こうして寝顔だけ見てると、年相応の少女だ。
ヤンデレ成分など微塵も感じられず、愛しくすら
思えてしまうから不思議だった。

アイリのことは好きだ。でも嫌いでもある。
嫌いなのに好き。まるで言葉遊びになってしまう。

これ以上考えても無駄だった。

悠二は全裸の彼女にそっと布団をかけてやり、
散らかったエロ本を元にもどしたのだった。

960『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:46:56 ID:n0OBkfas
(悠二のアイリに対する好感度は少しだけ上がった)

ーーーーーーー


翌日、学校の昼休みでアイリと一緒に昼食をとっている悠二。
四時間目終了後、彼女が開口一番にこう言ってきたからだ。

「悠君……。今日は悠君のためにお弁当作ってきたの。
 食べてくれるよね?」

「おう。わざわざすまないな」

彼女と一緒に昼食を取るようになったのは二学期になってからだ。
この高校では弁当派が多数で一部が学食を利用しているが、
基本的には男女別々で食べる。当たり前だが。

アイリとて一学期の頃は女子グループと共に食べていたが、
二人の絆も深まるために一緒に食べることに決めたのだ。

もちろん恥ずかしくないわけがない。

クラスという閉鎖社会において目立つことがどれだけ
恐ろしいことか。男女で一緒に食事を取るなどもっての他である。

学内に存在するカップルはたいてい屋上とか学食とか
場所を選ぶ者だが、彼らは違う。アイリの強い希望により、
悠二の席で食べることになっている。

当初はクラス中から嫉妬と羨望の目で見られていたが、
それにどうこう言う輩はいない。相手は天下の愛梨お嬢だ。
彼女の家柄を知れば逆らう者など出てこないのだ。
仮に男女交際禁止の校則があったとしても、
校長を説得して黙らせるくらいのことは出来る。

961『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:47:52 ID:n0OBkfas
悠二がおかずを食べながら適当に感想を述べる。

「前から思ってたんだけどボリュームのあるものが多いよな。
 油モノとか」

「嫌だった? 男の子は力のつくのが好きだと思ったんだけど」

「全然構わないよ。おなか一杯になるし」

アイリは悠二の向かい側に座り、一つの席を共有している。
ようは対面式だ。こうして話してると中睦まじいカップルそのもの
だが、この二人は未だに正式に付き合っていない。

もちろんクラス内では公認カップルとなっているのだが。
当の本人たちの見解は違うというわけだ。

悠二はスパイスの効いたから揚げを咀嚼しながら、

「アイリの料理は愛情がこもっててとってもおいしいよ?」

「ありがと。お世辞でも嬉しいよ」

「いや本当だって。最初の頃に比べて随分上達してるよ」

メニューは一口サイズのから揚げや玉子焼きやウインナーなど
どれもシンプルだが無難な味付けだった。彼女は堅実に料理する
タイプらしく、挑戦的な味付けは一切しない。

ご飯は食べやすいようにおにぎりにしてある。
具も毎回変えてくれる。とにかく食べやすさ重視で
作ってあるからついつい食が進んでしまうのだ。

アイリの愛のお弁当作戦はたしかに男の心を射止めようとしていた。

962『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:48:35 ID:n0OBkfas
(結構尽くすタイプの女だよね。普通に接してれば
 わりとマトモなところもあるし、料理もうまい。
 マジでこのままアイリと付き合おうかな?)

とまで考えさせるほどだ。もっとも彼はそのことを口にはしないが。

昨日の一件以来この二人の仲は急進した。
アイリからの一方通行の愛情だったのを、
悠二の方も受け止めるようになって来たのだ。


だが、物語はそう単純に進まない。

ーーーーーー

放課後は演劇の練習だ。

各学年の予約で一杯だった体育館をなんとか貸し切ることに
成功し、全ての舞台装置を設置した。音響から照明、
役者の衣装までばっちりだ。

演劇部に所属してるクラスメイトが細かい所まで
手ほどきしてくれたので助かった。

問題は脚本だった。
脚本担当はなんと男子のクラス委員長だったのだが、
あまりにも過酷すぎる箇所があるのだ。

「おい、委員長。娼婦が知り合った客の男に騙されて
 自殺未遂するのはひどすぎないか? いくら最後は
 商人の男と結ばれるとはいえ、あまり酷い内容だと
 公序良俗に反するかもしれんぞ」

悠二が言うと、委員長殿(杉本マナブ)は難しい顔でこう言った。

963『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:49:50 ID:n0OBkfas
「必要悪だ」

「プヒ?」

「物語には多少の起伏が必要だ。そのためには多少
 荒い設定であっても押し通す必要がある。確かに
 ヒロインが娼婦という時点ですでに結構な冒険を
 してることは認めよう。しかし君はこの企画を
 凡庸な内容で終らせたいのかね?」

委員長は非常に真面目で公平な男としてクラスの有名人だった。
古風な喋り方をする変わり者だが、学力は学年でトップ5。
黒ブチの眼鏡をしてるが、意外とイケメンなので
一部の女子から人気がある。

「グリムやアンデルセンの原作を呼んだことがあるかね?
 どれも道徳的な要素を持つ一方で、
 血なまぐさい残酷な描写が目立つ。だがあれが当時
 童話として欧州の子供達に親しまれていたのだ。
 彼らの興味をひきつけたのは、何よりもその残酷な内容だった」

ずいぶん知ったふうな口を聞くメガネである。
インテリ風のメガネの裏に、演劇に対する熱い情熱を宿してる。

悠二は少しめんどくさそうに、

「そうかい。で、この内容で客に受けるんだろうね?」

「もちろんだ。文化祭など子供臭いイベントなどと昨今の
 学生諸君らは思っているだろうが、そこに一石を投じる
 必要があると私は思ってる。日本的でお花畑的な恋愛物語など、
 大衆は飽き飽きしてるはずなのだよ」

「うーむ。委員長殿がそこまでいうなら仕方ないか。
 担任とも相談してくるよ」

964『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:51:11 ID:n0OBkfas
担任は気のいい男だった。教育学部を卒業してまだ二年しか
立っていない若さだったが、基本的に自由放任主義者で
生徒の企画したことは好きににやらせてくれる。

相談すると、担任はどんな脚本でも公開しないように
やれと言ってくれた。悠二はこれ以上駄々をこねても仕方ないと
判断し、練習を続行する。


「〜〜〜〜〜〜!!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

役者達は壇上で声を張り上げる。


脚本家の委員長殿と監督役の悠二と柏原は
壇上の隅のパイプイスに座って観察してる。

悠二は手にした脚本を読み返していた。

脚本を要約すると、ある少女が父を戦争で失い、
路頭に迷った家計を支えるために売春宿に売られてしまう。
過酷な運命に人としての心を失ってしまった彼女。
幼少の頃から厳格なカトリック教徒であった彼女でさえ、
神など存在などしないと思うに至ったのであった。

そこで客として出会った若い男と恋に落ちる。
男は若い行商人だった。そこそこ資金を蓄えていて、
容姿も優れている。男は少女のことを気に入り、
嫁にしたいと申し出る。

彼と結婚する日を心待ちにしながら売春宿で
働き続ける少女。結婚日を間近に控え、いよいよ
この仕事を止めようとしたその時、彼の浮気を発見してしまう。
男は金持ちの女と知り合い、恋仲に陥っていた。

965『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:52:04 ID:n0OBkfas
あんな浮気男に騙された自分は愚かだった。
悲しみと絶望に打ちひしがれた少女は、
ナイフを手にし、そして……

「早見君。ちょっとよろしいですか?」

「うん?」

柏原さんに話しかけられ、本から視線を外す。

「脚本のことで相談があるのですが、あっちで話しませんか?」

「いいけど…」

席を経ち、体育館の目立たない場まで誘導される。
照明は壇上についてるのみなので、暗がりがほとんど。
この位置なら完全に壇上からも完全に死角なので
誰からも見られることはない。

ここで榊原はとんでもない行動に出るのだった。

「動かないで下さいね?」

突如口元に当てられたクロロホルムが、

「な……!! ぐっ……むぅぅ……んん……」

一瞬のうちに悠二の視界をぼやけさ、脱力させる。
ふらふらになり、もう立ってられなくなる。
冷たい床の感触が背中を打つかと思いきや、
柏原の細い腕に抱きかかえられる。

彼女は見たことのない顔で笑っていた。

966『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 20:58:59 ID:n0OBkfas
ーーーーーーーーーーーー

突如変貌した榊原。悠二の運命やいかに?

       第三章前半終了   後半へ続く

(こちらも続けて投稿します。一度に何度も投稿してすみません)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幼い頃から悠二の両親は仲が悪かった。
父は母のことを最低の女だと罵倒し、
悠二にあんな女とだけは結婚するんじゃないぞと
言い聞かせた。母も反対に父をけなした。

(ならどうしてお父さんとお母さんは結婚したの? 
 幸せになるために結婚したんじゃないの?)

悠二は思ったことを母に伝えた。
母は言葉を濁し、大人には色々事情があると教えてくれた。

意味が分からなかった。

夕飯のたびに飛び交う両親の怒鳴り声。
割れた皿やビンの音が鳴り響く。
なぜか離婚はしなかった。あれだけ憎しみあっていたのに。

中学に上がる頃には胃がキリキリ悲鳴をあげるようになった。
くだらない。あいつらは人間のクズだ。
あいつらのために自分が気を病むなんてくだらない。

男女の愛など偽りだ。

それは恋愛小説など創作作品の中にだけ存在するだけ。
一人の異性と一緒を共にすることなど最高にくだらない。

967『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:01:07 ID:n0OBkfas
恋愛にも結婚にも一切興味がなくなっていた。
一生一人で過ごしても構わないと思っていた。

世界の広さを知らない時までは。

ーーーーー

「早見君。目を覚まされましたか?」

「あぁ。俺はどれくらい寝てたのかな?
 見たところ外はもう暗いみたいだけど?」

悠二は保健室のベッドから起き上がろうとして
違和感を強烈に感じる。軽いデジャブ。
全身が麻痺していた。そして右腕にガーゼ。
注射でもされたのかと推測する。

「夜の七時を回ったところですわ。ですから
 早見君は二時間くらい寝ていたことになります」

生真面目な口調で答えるのは彼をここまでさらった女だ。
榊原葵。ついに化けの皮をはいだ同級生。

悠二は勤めて冷静に話し始めた。

「下校時間はとうにすぎてるじゃないか。
 榊原さんは家に連絡してるのか?」

「もちろんですわ。全て計画通りです」

「そうか。すまないが俺の携帯を取ってくれないか。
 君が握ってるそれだ。なぜ君が俺の携帯を持ってるのかは
 あえて聞かないけど、家族に連絡しなきゃならないんだ」

968『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:03:07 ID:n0OBkfas
「それは無理な相談ですわ」

「なぜだい?」

「これをご覧になって。橘愛梨さんからの着信件数、
 もう40件を超えてます」

彼女は事の顛末を話した。

表向きには具合が悪くなった悠二が演劇の練習中に
帰ったことになってる。実際には巧妙に貸しきることに
成功した保健室で悠ニを監禁しており、勘のいいアイリは
事件の匂いを嗅ぎつけているとのこと。

学校側にばれないのかと悠二が聞くと、問題ないと即答された。

榊原はベッドに浅く腰掛けた。

「私が早見君のことを好きなのは知ってますか?」

「初耳だね。いつからだい?」

「はじめて同じクラスになった時からずっとです」

「へえ、ってことは一年の時からか……」

悠二は去年クラス委員長をしていた。将来の推薦に
役立つと考えて立候補したのがきっかけだった。
自分としては与えられた仕事を淡々とこなしてるつもりだったが、
先生や周りの生徒からはリーダーに向いてると評価されていた。

今年も立候補しようかと考えたが、めんどくさいのでやめた。
他に誰もやる人がいないのなら話は別だが、今年は
例の委員長殿(メガネ)がいるので彼にまかせた。

969『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:04:29 ID:n0OBkfas
それでも文化祭実行委員として彼のリーダッシップは
遺憾なく発揮されていた。困った時や迷った時は
周りの人と相談し、総合的に意見を集めてから判断する。

榊原が文化祭実行委員に立候補したのも、すべては
彼に近づきたいがため。彼の補佐が出来ればそれで十分だった。

少し前までは。


「榊原さんが俺をどうしたいのか知らないけど、
 俺の中ではアイリが一番の存在に……」

全て言い終わる前に枕元に注射器が突き刺さった。

「……っ!!!!」

太い針だった。
数センチ間違えれば眼球が潰されてしまっただろう。

「あの女の名前はできるだけ口にしないで下さいね?」

「……う……あっ……!」

この瞳……。

間違いないと悠二は悟った。
病的になっている女特有の狂気を感じた。

さっきの注射器もまるでためらいがなかった。
これ以上私を怒らせれば次は容赦しないぞと
脅されたようなものだ。

ただでさえ抵抗できないこの状態。
死刑囚と同じ牢屋に閉じ込められたのに等しい。

970『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:05:50 ID:n0OBkfas
「早見君はあの女に騙されているんです」

榊原は電気を消した。
明るさに目が慣れようとしていた悠二にはきつい。
人は情報入力の大半を視界に頼っており、
これが失われると途端に不安になる。

「あの女は嫌がる早見君をいたずらに追い掛け回して
 困らせていました。早見君だって私に何度か言ったじゃないですか。
 あの女がしつこいから困っていると……」

それは事実だった。今でこそアイリの存在が大きくなりつつある
悠二だが、少し前までは本当にうとましいと思っていた。

「最初は早見君の方から話しかけてくれましたね。
 私は絶対に早見君とはうまくいくと思ってました」

確かに、榊原と親しくしようとしたのは悠二の方からだ。
二年連続で同じクラスで、委員会も一緒になったので
軽い気持ちでアドレスを交換したのが間違いだった。

後悔してももう遅い。

一年の頃から影から見つめる熱い視線に、鈍感な
男は気がつかなかった。彼女の正体を知っていれば、
決して仲良くなろうとは思わなかっただろう。

「なのに、あの女は私たちの邪魔をしました」

いつのまにか榊原の顔が目の前にあったので慌てる悠二。
肩が触れ合うほどの距離だ。
暗闇の中でも相手の顔がうっすらと見える。

971『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:07:08 ID:n0OBkfas
「先週はあの暴力女に暴行されてしまいましたが、
 悠二君はあんなやり方が許せると思ってますか?」

いつのまにか下の名前で呼ばれてることに気がついたが、
あえて指摘しない悠二。淡々と答える。

「ああ、屋上のあれな。確かにアレは常軌を逸してるよ。
 あいつはちょっと感情的になりすぎるところが
 あるからな……。あの件については俺からも…」

「悠二君は私を助けてくれませんでした」

「……!!」

「さらに、あろうことかあの女とキスしてましたね。
 でもアレは間違いだったと信じてます。
 橘愛梨に脅されて無理矢理やらされたんでしょう?
 毎日お昼ごはんを一緒に食べているのもです。
 違いますか?」

榊原は悠二に馬乗りになってる。
上半身を倒し、彼の肩に両手を乗せている。
まるで押し倒してキスを迫ってるようなポーズ。

しかし甘ったるい雰囲気はなく、
むしろ殺伐とした尋問だった。

あの簀巻き事件は確かに人としての尊厳を奪った。
榊原が怒るのも無理はない話しだが、
この女は少しずれてると悠二は思った。
橘愛梨に対する恨みというより、一人の男に対する執着から
行動してるように思えるのだった。

972『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:08:02 ID:n0OBkfas
「質問に答えてください」

沈黙を続ける悠二に苛立った様子の榊原。

「……っ。なら正直に言うよ。俺はアイリのことが好きなんだ。
 別にあいつに強制されたわけじゃないぞ? 俺は本当に
 あいつのことが好きになったんだ。だから君とは付き合えない」


榊原は黙ってしまった。

あたかも異次元にワープしてしまったかのような違和感。
雰囲気がさらに悪くなり、空気が恐ろしく冷たく感じる。

今彼女が何を感じ、何を考えているのかは分からない。

魔物に脅えて過ごすのはもうごめんだった。
悠二はようやく手足に感覚が戻ってきたことを
実感していた。指先程度なら自由に動かすことが出来る。

もう少し時間を稼いで隙をみて逃走しようと思ったのだが…

973『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:08:46 ID:n0OBkfas
パリーーーン!!


「っ…!!! な…?」


ガシャーーーン!!


悠二が何事かと思って目を凝らすと、榊原が暴れていた。 
怒り狂った彼女は
パイプイスを手にしてその辺の棚を破壊してる。

(あの時と同じだ……両親が喧嘩してる時のあの音……!!
 うわぁあ……嫌だ…嫌だ……誰か助けてくれ……!!)

砕けるガラスの音。

物品が叩きつけられる大きな音。

押さえ切れない怒りが爆発している。


三十秒ぐらいしてから、再び沈黙が訪れた。

静寂もまた恐怖だ。悠二の精神は幼稚園児にまで
退行しようとしていた。真っ暗な暗闇で見えない
暴力に脅える怖さ。

高校生になってもぬぐうことの出来ない最悪のトラウマだった。
死ぬ。殺される。もう駄目だ。
マイナスイメージで脳が支配される。
本気で得体の知れない同級生に脅えてしまった。

974『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:10:45 ID:n0OBkfas
「大きな音を立ててしまってごめんなさい。
 悠二君が正直になってくれないものですから、
 つい苛立ってしまいましたわ」

「……あ……う……」

子犬のように縮こまる悠二を胸に抱く榊原。

悠二は確かに少女の体温を感じた。
恐れている相手なのに、なぜか安心してしまうのだ。
なぜか懐かしさを感じるのは、頭を丁寧に撫でられているから
だろうかと考えていた。

親への服従。
両親から強制されたこと。扶養されている者の哀れな身分。
本当に欲しいのは愛情だった。なのに……
悠二の脳裏にそれらが浮かんだ時だった。


「はぁぁ……。久しぶりに激しい
 運動したから汗かいてしまいましたわ」

榊原は制服を脱ぎ始めた。まずは上着からだ。
清楚な色合いのブラが暗がりの中でも確認できる。
それと形のいい控えめの乳房もおおまかに。

「……っ!!」

思わず注目してしまう悠二。
すでに目は暗闇に慣れてしまってる。
普段から委員会で一緒になってる女の子の
素肌がこんなに扇情的だとは思わなかった。

975『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:11:57 ID:n0OBkfas
彼女はスカートのホックを外してショーツも惜しげなく解放した。
悠二の男性の本能はすでに彼女の身体を欲しがり始めてる。
どちらかというとスレンダーな体系。アイリとは違った魅力。

駄目だ。浮気は駄目だ。頭ではそう思っていても身体は……


「どうかしましたか悠二君?」

彼女は悠二をじっと見つめてる。

「だ、だめだ……。やめるんだ…」

悠二の神経麻痺はもう治っている。
彼は半身を起こした体勢だったが、
榊原に密着されている。
首の後ろに両手を回されていた。

細い彼女の指が自分の身体に触れるだけでドキッとした。

「私の身体が欲しいですか?」

「う……」

「いいですよ? 悠二君にならなにされてもかまいません。
 ただし、あの女のことを忘れるといってくださればですけど」

そんなこと急に言われてもできるわけがない。
悠二はそう口に出して言いたかったが、
なぜか唇が震えてしまう。声も出ない。

だが彼女は待ってくれない。

「……好き……です……んん……」

976『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:13:12 ID:n0OBkfas
彼女の柔らかい唇が押し付けられていた。
できればアイリ以外の女とキスは控えいと思っていた矢先だった。
女の唾液の味が口の中に染み込み、頭がボーっとしてしまう。

(俺はあの榊原とキスしてるのか……?
 最初は軽い気持ちで知り合ったのに……)

榊原は積極的に身体を預けてきた。
キスに夢中になっていた悠二がふと下のほうを見ると、
胸が押し付けられていることに気がつく。

まだ下着姿の彼女。美しい肌だ。
全て脱がしてしまいと劣情が頭を過ぎる。
暗闇に脅えていた男に、猛獣としての本能が戻ってくる。

「我慢しなくていいんですよ?」

まるで心境を見透かしたかのようなセリフ。

確かに我慢は体に悪い。ここまで来たらもう止まれない。
全ては誘惑してきたこの女が悪いのだと自分に言い聞かせ、
悠二は彼女を押し倒してやった。

「きゃ……」

「今度は俺からいくぞ」

「はい……」

舌を伸ばし、彼女の口の中にいれる。
彼女の嬉しそうに舌を絡め、液体が交じり合う。

まるで発情した雌犬だな。
いいだろう。徹底的に犯してやる。

977『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:14:42 ID:n0OBkfas
悠二はそう思いながらブラのホックを外した。
乳首が自己主張してる可愛い胸を強く握る。

「んん……はぁぁ……!」

頬を赤く染めて息を吐く榊原。
実年齢より何歳も色っぽく感じられる。

「次はこっちだ」

「……あっ……」

「ほう、やっぱりびしょ濡れだな? 
 普段は大人しそうな顔してるくせに変態だったんだな」

「あうっ……んんっ……」

ショーツの中を男の手がまさぐっていた。
エッチな液体で濡れている下着など、
もはや脱がしてしまっても問題ない。

羞恥心を煽るようにゆっくりと脱がしてやった。
ずぶ濡れになってる秘所が眼前に晒される。

ピチャ ピチャ ピチャ

悠二はわざと下品な音を立てて、あふれ出る愛液を
舐めていた。足を閉じることなど許さない。
両足を大きく広げさせ、彼女のアソコに顔をつっこんでいた。

「はっ……いいです……もっと……舐めて……」

榊原は自分の指を口でしゃぶりながら、
もう片方の手で自分の胸を触っている。

978雌豚のにおい@774人目:2011/10/07(金) 21:16:02 ID:Xp1w54qk
浮気を知ったアイリ・・・面白そうww
GJ!

979『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:17:29 ID:n0OBkfas
その姿はもっと快楽が欲しいと主張していた。

「あっ……んっ……あっ……」

「どうだ? 感じてるか?」

「はいっ……もう私っ…………」

「おっと、イクのはまだ早いぞ」

悠二は責めを止めた。榊原の身体を抱き上げ、
ベッドの上に座っている自分の上に乗せる。

互いが向き合う位置で悠二のモノが
榊原の秘所に押し込まれた。対面座位だ。

「あっ……!! あんっ……!! すごいっ……!!」

いっそう大きな声で喘ぎだす榊原。
汗一杯かいてる肌が艶かしい。

髪を振り乱し、悠二の上で上下に揺れ続ける。
その華奢な腰を決して離そうとしない悠二は、
力強く彼女を膣を刺激し続ける。

膣口のさらに奥を目指して男性器を挿入していた。

「だ……だめっ……!! もうすぐにでも……イッちゃいそう!」

「うっ……はは……ヤッてる時はお嬢様口調じゃ…ないんだな…!!」

「悠二君……!! 悠二君大好き……!!」

980『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:19:55 ID:n0OBkfas
「一緒に……楽になろうぜ榊原。はっ…こうなったら……
 トコトンまでやってやるからな……」

若い男女の嬌声が響き渡る夜の保健室。

ここは県内有数の私立校だ。金持ちのお子さん達が
通う清き正しき学校でこんなことが行われていると
誰が思うだろうか。

世間に事実を知られたら即退学。

そんなことは二人だって承知の上。
だからこそ、背徳感が劣情を加速させる。


――それから何度達したのか、二人は覚えてない。

気がつけば夜の八時を回っていた。
家ではゴールデンタイムのテレビ番組でも流れているのだろうか。
残業を終えたサラリーマンたちが駅前を歩いているのだろうか。

冷静になると、今日に外の世界が気になって仕方なかった。

「俺はもう行くよ、榊原さん」

身支度を整えてカバンを手にした悠二が言う。
早足で扉を開け、振り返らず去ろうとしたが…

「まあそんな他人行儀な呼び方はいけませんわ。
 どうか下の名前で呼んでください」

981『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:21:40 ID:n0OBkfas
「葵か。少し気恥ずかしい気もするが…」

「悠二君。私のこと好きですか?
 これからもずっと好きでいてくれますか?」


榊原は暗に今の関係を続けようといっている。

ズキ……

アイリを裏切ってしまったという罪悪感で胸が痛んだ悠二。
彼女の顔は見ず、無言で立ち去った。

月明かりがカーテンの隙間から差し込む。
夜の学校特有の静けさに支配されいてる保健室。

一人だけ残された少女はポツリとつぶいた。

「悠二君。私には一度も好きと
 言ってくださらないのですね……」

ーーーーーーーーーー
あとがき。

ついに体の関係を持ってしまった葵(あおい)と悠二。
アイリへの思いが強まっていた悠二にとっては
思わぬ誤算となってしまった。

これから彼らの関係はどのように変化していくのか、
次回にご期待ください。
                 第四章へ続く

982『いかにして彼らは鬼畜へと変貌したのか』:2011/10/07(金) 21:25:29 ID:n0OBkfas
これにて本日の投稿を終了します。第四章はまた後日ということで。
非常に長い文章ですが、最後まで読んでいただけるとありがたいです。
それでは

983避難所の中の人★:2011/10/07(金) 22:17:08 ID:???
職人の皆様投下お疲れ様です


次スレ
ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part03
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1317993354/

テンプレに追加がありますのでご一読ください

984雌豚のにおい@774人目:2011/10/07(金) 22:24:58 ID:2tFMGsy.
GJ!

>>983
スレ立て乙です

985雌豚のにおい@774人目:2011/10/07(金) 23:36:16 ID:ss2d0N6I
普通におもしれぇwww

やめてくれヨ。こんな寒い季節に全裸待機は身体に悪い

986風見 ◆uXa/.w6006:2011/10/08(土) 21:18:32 ID:oYmOj9..
サイエンティスト第三話を投下します。

987サイエンティストの危険な研究 第三話:2011/10/08(土) 21:19:47 ID:oYmOj9..

 友里は俺が肯定的になれば何でもいいらしい。まぁ少なからず研究に協力してくれた功績は認めるから、明日一緒に弁当を食べるくらいならいいだろう。
 友里は可愛い系の超天然で人気も高いんだが、俺なんかにベッタリしてるから周りからは変人扱いされている。何が面白くて俺に付きまとってるかはわからんが、まぁ研究に便利な働き者と言っておこう。
 とりあえず、パソコンに入力する前にデータをまとめておこう。幸いにも月曜日の五時間目は理科だ。板書しなくても100点なんか余裕だから、先生の話なんか頭に入れなくてもいい。
 今日の昼に取ったデータをまずノートに写し、さらに今までのデータをまとめてノートに書いて計算する。まだデータが少ないから、ささっと分析してみる。
「・・・。」
 さほど時間はかからずに終了。データをまとめ終えて一息ついて軽く伸びをする。今までの研究じゃ見えなかった部分が見えて、軽くにやけてしまう。
「藤崎!ここの問題わかるか!?」
 おっとよそ見が過ぎたな。
「えぇっと・・・。」
 余裕過ぎる。



 六時間目が終わり、教室内が一気に騒がしくなる。俺は研究データをパソコンに入力したいという気持ちが先走り、歩く足が速くなっていた。
 しかし、
「ねぇねぇねぇねぇねぇ〜!」
 また来た。
「一緒に帰ろうよー!帰ろうよー!帰ろうよー!」
 手を引っ張って胸に押し当ててくる。この学校の制服は着痩せするほど制服が厚くないから、慣れると見ただけで胸の大きさがわかってしまう。友里は高校生にしちゃでかい。しかし、脂肪細胞の固まりに興奮するほど俺は欲求不満ではない。
「やだ。」
 手を振り払い入り口に向かって歩く。
「やぁ〜ん!亮ちゃんのいけず〜!」
 構わず歩く。
 ちょうど階段にたどり着いた所で、騒がしい声が次第に焦るような声に変わりはじめた。何か事件があったみたいだ。



「ねぇどうしたの?」
「一年生が・・・。」
「二年生の・・・。」
「突き飛ばした・・・。」
 どうやら一年生が二年生を後ろから突き飛ばして階段から落としたようだ。好奇心が沸いて、人混みを掻き分けて事件の現場を見る。
「・・・!?」
 倒れてる二年生は、派手な衣装とハチマキを身に付けてる。見ただけでわかった。こいつは兄の親衛隊の一人だ。しかもこいつは普通の親衛隊じゃない。確か・・・親衛隊機動組の一人だったはずだ。補足しておくが、親衛隊機動組とは、この前に話した親衛隊条項第八条に従い、表沙汰に制裁できない親衛隊の敵に対して武力以外で制裁を加える攻撃部隊だ。簡単に言えば、親衛隊が敵と判断した者に嫌がらせをする特殊部隊だ。おそらくこいつは、俺の下駄箱と机の上にごみを捨てた犯人だ。
 まぁ犯人がわかったからと言って、先生に言いつけたりなんかはしない。別に親衛隊の一人や二人がどうなろうと知ったことではない。当然だ、変わりはいくらでもいるのだから。
 いつまでもここにいる意味もない。俺は倒れてる生徒を横切って、足早に帰路についた。



――――――――――



 場面は変わって藤崎家。制服を脱ぎ捨てながらパソコンを起動する。カメラを覗いてみると、兄はまだ帰ってきてはいない。そして妹が机の上で何かを書いていた。
 まぁいつもの狂言じみた妄想絵日記でも書いているんだろう。そんなことより、さっさとデータをまとめてしまおう。



・・・・・・・・・・・・。



 データをまとめ終えて一息ついた。時計はそろそろ六時を示す頃だ。
 ふとカメラを覗いて見ると、妹が書き物を終えたようだ。そして狂喜の笑いっぽいのを浮かべながら部屋を飛び出していった。
 長い時間観察してきたからわかる。これは妹がよくやることだ。気にする必要なんてない。
「チャットを開こう。」



 チャットはいつも通り機能していた。

ムウ:今日は妹が大好きな人のために買い物をしにいくそうです。

 またムウさんだ。相変わらずの妹大好き人間だ。
 ムウさんの妹が買い物か・・・ん、待てよ?おそらく兄は今、買い物に行っているのだろう。まさか俺の妹はそれを探しに?
 これは好都合だ。運が良ければ、妹VS親衛隊の無制限一本勝負が見れるかもしれない。そうと決まれば話は早い。俺は簡単に着替えを終えて、ノートとシャーペンを持って家を出た。

988サイエンティストの危険な研究 第三話:2011/10/08(土) 21:20:57 ID:oYmOj9..

 近くのスーパーにやって来た。買い物だったら兄は絶対ここで買い物をする。理由はもちろん、家が近いからだ。それを知ってなのか、兄の親衛隊の機動組は、毎週ローテーションでこのスーパーに不定期で来る兄の写真を撮っている。撮った写真は高値で取引されるらしく、その金でまた新たな嫌がらせをする。敵ながら見事なシステムだ。
 噂をすればなんとやら、食品コーナーを物色してる兄を後ろから撮影している。そしてその後ろでは、撮っている親衛隊に対して殺意を秘めた目をして凝視している妹がいた。面白い三連構造だ。そして、二人分の愛を受けているにも関わらず、全く気づく気配がない兄。兄の鈍感さはおそらく世界一だ。
 そうこうしているうちに兄は会計を済ませ、スーパーを出ていった。写真を撮っていた親衛隊は兄とは別方向へ、妹は偶然を装って兄と帰宅。あざとい。
「・・・。」
 改めてノートを見返す。今日一日でこんなにデータが手に入るとは思わなかった。こんな近くに極上のサンプルがいたのか。今まで見逃していた自分をもったいなく感じながら、俺は再び帰路についた。

パシャ!

「ん?」
 今シャッターの音が・・・気のせいか。

989サイエンティストの危険な研究 第三話:2011/10/08(土) 21:21:44 ID:oYmOj9..

 スーパーから帰宅し、部屋のパソコンの前に座る。新しいデータの入力を飯前に済ませておこう。カメラを見ると、キッチンでは兄が今日の夜飯を作っている。そして妹はまた自室で自家発電してる。妹は一日でかなり自分の秘部を弄りたおしている。一回、かなり腫れ上がったことがあったっけな。
 ・・・そういえば書き物をしてたんだっけな。ちょっと興味が湧いた俺はカメラを机側にズームしてみた。見ると何かの表みたいだな。人の名前とクラス番号、どこに現れるかと警戒レベル。いったい何をまとめたものなんだ?
 もう少しよく見ると、一部の名前に斜線が引いてある。引いてあるところの名前は・・・木村梨子?
「・・・あ!」
 木村梨子。俺と同じクラスの親衛隊、しかも機動組の一人だ。毎日俺に嫌がらせをしてくる奴らの一人だ。更に言えば、こいつは階段前で倒れてた奴だ。そこに斜線が引いてあるということは・・・。
「さっきの犯人は・・・妹?」
 あり得る話だ。元々親衛隊に対してかなり殺意を持っていたからな。いつかは実行に移すと思っていたが、とうとう行動に移したか・・・。よく見ると、名簿に書いてある名前は全員親衛隊だ。つまりあいつは親衛隊を全員亡き者にでもするつもりなのか?
「・・・。」
 思わず笑みがこぼれる。この一週間内で妹がどこまで行動に出るかで研究の進み具合が決まる。どっちにしろ、妹が行動を起こすのは好都合だ。自分が巻き添えを食らわないように観察していかなければ。



 飯が終わり、一人部屋に籠って作業をする。夜は夜でアブノーマルな妹が見れるのだ。
 脱衣所につけられたカメラを覗くと、全裸の妹と兄が向かい合っている。
「ねぇお兄ちゃん・・・今日も一緒に入ろうよ。」
「なぁ、そろそろやめないか?一緒に入るの。」
「いやぁ・・・お兄ちゃんと一緒じゃなきゃいやぁ。」
 上目使いと、更なる発育が期待できるボディが兄を悩ませている。
「もう高校生なんだし・・・そろそろお兄ちゃん離れを・・・。」
「いやだよ・・・ねぇお兄ちゃん・・・。」
 擦り寄ってくる妹に兄はもう汗だくになってしまっている。イケメンはイケメンでこういう悩みもあるんだな。まぁ同情はしてやらんがな。
「なぁ、頼むよ。もしくは亮介に・・・。」
「あんな奴嫌だ!お兄ちゃんはあいつがそんなに気になるの!?だったらあいつなんか殺してやる!」
 とんでもないこと言うな・・・。
「わかったわかった!一緒に入るから待って!」
 複雑ながら嬉しさを顔に浮かべる妹。毎回こんな感じで兄は妹に負ける。兄は渋々服を脱いで、妹と二人で風呂場に入っていった。



 風呂場では、執拗に体を密着させる妹がいる。妹の理想は、兄から処女を奪ってほしいらしいが、イケメンは理性が強いのも条件だ。だから兄はどんな誘惑にも耐え抜いている。あるときは胸押し当て攻撃、またあるときはノーパンスカートめくり。あの手この手で兄を誘惑するが、兄は動かない。もしイケメンを目指してる人や、イケメンを自負してる森の動物達がいるなら言わせてもらうが、こういった誘惑にも理性を失わないのが真のプレイボーイなのだ。だから、決して妹が手を股間に伸ばしてきても動じてはならないのだ。画面に写っている兄はそれを見事にクリアしているから、真のプレイボーイなのだろう。
「ねぇお兄ちゃん・・・体洗って・・・?」
 真のプレイボーイならうまく交わせるだろう。これ以上の進展はなさそうだな。俺は映像を見るのをやめて、チャットに切り替えた。

ヤン:ムウさんの研究は誰を対象にしてるのですか?
ムウ:妹です。好きな人に対して一途な二人の可愛い妹です。

 またか・・・。



 波乱の風呂を終えた二人は、また言い合いをしている。
「ねぇお兄ちゃん・・・一緒に寝ようよぉ・・・。」
「さすがにそれはダメ!もうお兄ちゃん離れをしなさい!」
「嫌だよぉ・・・ずっとお兄ちゃんのそばにいるのぉ・・・。」
 上目使いに涙目が加わった。果たして兄は交わせるか?
「とにかく一緒に寝るのはダメ!はい!おやすみ!」
 最後は勢いで押しきったか。部屋に鍵をかけたようで、妹は太刀打ちできない。何とも言えない表情を浮かべながら、妹は部屋に戻った。
 妹・・・俺の寝込みを襲わないだろうな(もちろん意味は違う)とりあえず二重に鍵をかけておこうかな。

990風見 ◆uXa/.w6006:2011/10/08(土) 21:23:46 ID:oYmOj9..
投下終了です。ご一読していただければ幸いです。

991雌豚のにおい@774人目:2011/10/08(土) 21:28:09 ID:eGEOve7g
改行が‥

992雌豚のにおい@774人目:2011/10/09(日) 03:09:11 ID:sh9b5pes
埋め

993雌豚のにおい@774人目:2011/10/09(日) 16:26:38 ID:k5eirL.E
梅~

994雌豚のにおい@774人目:2011/10/09(日) 17:35:36 ID:Y1SBooLU


995雌豚のにおい@774人目:2011/10/09(日) 19:45:30 ID:JgxLTpCg
うお

996雌豚のにおい@774人目:2011/10/10(月) 00:14:06 ID:UlAJiPiE
生め

997雌豚のにおい@774人目:2011/10/10(月) 00:33:18 ID:i.vperUY
投下乙続き期待してます
埋め

998雌豚のにおい@774人目:2011/10/10(月) 15:03:24 ID:J2KdBHic
宇目

999雌豚のにおい@774人目:2011/10/10(月) 18:20:27 ID:OXQBlX.E


1000雌豚のにおい@774人目:2011/10/10(月) 19:25:08 ID:UlAJiPiE
うめ

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