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ヤンデレの小説を書こう!@避難所
1避難所管理人★:2011/04/03(日) 20:47:12 ID:???
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。
■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。
■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/
■本スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part45
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1301403977/
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
  あまり流れが長引くようであれば批評用スレへどうぞ→http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1301830990/
 ・避難所の管理や要望に関してはこちらへどうぞ→http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1301831018/
■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
 ・版権モノは専用スレでお願いします。
 ・男のヤンデレは基本的にNGです。

2名無しさん:2011/04/03(日) 21:48:37 ID:T4exgIBU
避難所制作乙

3名無しさん:2011/04/03(日) 21:49:50 ID:T4exgIBU
避難所制作乙

4名無しさん:2011/04/03(日) 21:50:47 ID:T4exgIBU
すまん。ミス

5名無しさん:2011/04/03(日) 21:53:48 ID:4JIP8vyQ
乙です

6名無しさん:2011/04/03(日) 23:12:21 ID:KIhHKB6g
製作乙です!

7名無しさん:2011/04/03(日) 23:12:34 ID:q2VxkfOE
乙です

8名無しさん:2011/04/04(月) 10:48:00 ID:N.HA4Fnc
避難所製作乙です

9名無しさん:2011/04/04(月) 11:32:51 ID:u/zs0BT.
やっとできたのか…1乙

10名無しさん:2011/04/04(月) 13:02:20 ID:SjshuAfU
批評スレがあるってことはここは作品オンリーなのか?

11避難所管理人★:2011/04/04(月) 13:23:53 ID:???
>>10
ひとつのSSの話題ばかりになって投下しにくい空気になったら誘導してください
基本的にはGJも感想もこのスレに書きこんで問題ないと思います

12名無しさん:2011/04/04(月) 13:50:05 ID:FFvdA/wY
避難所おつです。

13名無しさん:2011/04/04(月) 22:48:55 ID:wgb1TNhI
避難所が盛り上がったらいいのになぁ

14名無しさん:2011/04/04(月) 23:08:45 ID:m/2x/b2A
おつ

15深優は泣いた:2011/04/05(火) 01:15:59 ID:tpEbVLGc
よっしゃー、避難所どうも。
さっそく投下します。

16深優は泣いた:2011/04/05(火) 01:16:56 ID:tpEbVLGc

第三話

俺は決意した。
行く事に決めたのだ。
なんだかんだ言って、このような機会を待っていたのではないか。
先生から話を持ちかけられて以降、心臓の鼓動が止まらず、
悪い動悸かと思ったが、ただ単に心底喜んでいるだけであった。
先生にその旨を三日ほど経ってから伝え、後処理、下準備に奔走する事となった。
一周間が過ぎた現在でも、準備の真っ最中で、勤め先にはすでに辞表を出し、
親戚や友達、世話になっている人たちへの挨拶回りも大体済ました。
それにほぼ毎日、先生の部屋であちらの事を聞いている。
先生は何度も菱島を行き来しているため、かなり詳しく、期待をかき立てられる。

ただひとつ、ミューの事が心残りだ。
連れて行ってあげたいと思って、先生に七、八回ほど説得を試みたが、
首を縦に振らず、なぜかと聞くとミューのためにならないからと言う。
だが、今夜こそ先生をうんと言わせるつもりだ。
俺は先生とは逆で、連れて行ってあげる事こそがためになると思っており、
それはなぜかと言えば、ミューは引っ込み思案で社交性があまり無く、人見知りが激しい。
そんな事では後々苦労する事になる。
なので、様々な人と関わり合わねば生活が難しい菱島へ連れていく事によって、
人間的に成長する事が出来る。
・・・よし、行くか!

開きっ放しになった道場の門を跨ぎ、修練場を通過し、
二階の先生の部屋へ向かう。

階段を登りきると、佇むミューが目に飛び込んできた。
「お兄ちゃん」「おやおや、ミューさんじゃないか」

「えっ・・なんでさん付けぇ?」「いや、何となく」

「そっかぁ・・。あっ、あのね、私の部屋に来て。
お兄ちゃんに見て貰いたいものがあるの。いやなら大丈夫だからっ」
ミューは指を胸の上で絡ませて、いつものいじらしい姿になる。
小さいころから、ミューが無意識に良くやる癖の一つである。
いいよ、と頷くとミューは嬉しそうにしながら、
俺の手をしっかりと握って歩み出した。

17深優は泣いた:2011/04/05(火) 01:17:29 ID:tpEbVLGc

ミューの部屋に行くのは二週間振り、
と言っても俺がずっと断っていただけだが。
ミューが障子襖を引くと、眼前に部屋一面が広がる。
自らで作った小物類を始め、ぬいぐるみなどがいたるところに並べられており、
趣味である散文書、詩集などが右手の本棚にきっちり収納され、
正面には小さな机と障子窓、
右手には押入れと座布団が3枚積み上げられてある。

「うん、相変わらず綺麗な部屋だ、感心感心」

「ありがとう・・。ねっねぇ、お兄ちゃんこれ見て!」
ミューはなにやら人型の三頭身くらいの人形を見せた。

「えーと、誰?」「お兄ちゃんだよっ!」

またかい。一体何体俺を作るつもりだ。
しかも、妙に特徴を捉えていて、誰が見ても竜史と答えそうだ。
周りを俺がたくさんの俺の分身に囲まれているという異常な状況。怖。

「こわっ、あっ、じゃ、じゃなくて!本当に上手だな〜でかした!」

「えへへ・・・。お兄ちゃんに褒めてもらうと、
また作りたくなっちゃうね・・。ありがとね
最近はこのお兄ちゃんを抱っこして眠ってるんだよ!」

(まだ、そんなことしてるんだ・・・喜んでいいのやらなんやら・・)
「そっ、そーなんだっ。あっ、これはミューかな」

「うん!見て見て、お兄ちゃんと手を繋ぐことができるんだよっ!」
そう言うと、ミューらしきぬいぐるみを俺の分身と繋げた。

「面白い仕様だね・・」「仲良しだって事を表したかったのっ!」
ミューは無邪気な笑顔で二つのぬいぐるみをまとめて抱きしめた。

なんか変な怖さを感じたので、話題を変える事にする。
「あーそういやぁ、ミューは人形で抱き枕やめるって言ってなかったけ」

「ごっ、ごめんなさい・・寂しくてつい・・・、
お兄ちゃんが一緒に寝てくれなくなったから・・・」

「当り前じゃないか。ミューはもう十六だぞ。
こんな年になって一緒に寝てる兄妹はいないよ、むしろ、
二、三年前までたまに眠ってあげてた俺が変だったんだ」

ミューは俺が俺自身を卑下した事に気付いて、慌てて否定する。
「お兄ちゃんは悪くないよっ。私が世間知らずだっただけ。
嫌がってる事知らないで、わがまま言ってごめんね・・・・」

俺も即座に否定返し。
「違う違う、全然嫌なんかじゃないよ。これはミューとの良い思い出」

「本当?ありがとう・・。
じゃぁ・・・・良い思い出はいっぱいあった方が良いよね?
じゃぁ、今日一緒に・・・お眠り会しようよ・・」「ええっ!結局それ?」

「最近寒くなってきたし、お兄ちゃん、冷え症でしょう?
私、寒さに強い方だから、体温が高い方なの。
だから・・わ、私を・・・湯たんぽ代わりにしたらきっと・・温かいよ。
それに、お兄ちゃんが近くにいると、よく分らないけど体が凄く火照っちゃて、
もっと温かくなるの。・・・・・・ど・・・どうかなっ!・・・」

ミューはうっとりしたような表情とうるんだ瞳で答えを待っている。
ミューは服、装飾品、玩具、お菓子など、年頃の娘が欲しがる物をねだったりする事は、
物心付いた以降はほとんど無かったように記憶している。
物を贈られる以外は自分でなんでも作っていたから、こんなにも上手。
とにかく、わがままを言う事自体ほとんど無い、全く手のかからなかった子。
だから、これくらいのささやかなお願いは聞き入れてあげたい。さて・・・。

18深優は泣いた:2011/04/05(火) 01:17:57 ID:tpEbVLGc

悩んでいると、先生の部屋から呼ぶ声が聴こえた。
ミューに失礼だが、渡りに船だと思って、また後でなと言うと、すぐに部屋を出た。

お兄ちゃんは出て行っちゃいました。残念です。
一日に一回は会っておしゃべりをしないと、夜明けを迎える気になりません。
そう言えばお兄ちゃん、出ていく時、助かったって顔をしていませんでした?
嫌われたり、飽きられちゃったりしているのかなぁ・・・。
気のせいならいいですが、ここ数年お兄ちゃんとの距離を感じます。
一緒にお風呂もお出かけも、私の部屋でお泊まりしてくれる事も無くなりました。
私がもう少し小さかった頃までは、一緒に遊んで、勉強して、眠って、働いてと、
永遠に離れる事なんてあり得ない、と信じていました。
どこに行くときもお兄ちゃんの後ろに付いて行って、
事あるごとに抱きついて、抱っことかおんぶとかして貰いました。
要するに、お兄ちゃんと体を密着させて、肌をすりすりするのが好きなんです。
ああ、お兄ちゃんはここにいるんだ、こんなにも近くで優しく守ってくれるんだ、
という究極の安心感がそこにあります。
ただでさえ最近、二人の都合で顔を合わす機会が減ってきてるというのに、
お兄ちゃんだけ菱島に行ったら、かなりの溝ができてしまいます。
菱島の件ですが、ここ一週間、先生に連れて行って下さるよう頼んでいますが、
一向にお認めになりません。
きっと私のためをお思いになさって、頑なに拒んでおられるのでしょう。
でも私は、どうしてもお兄ちゃんと離れたくないのです。
あちらで何が起きようとも、
完全な自己責任でもって受け入れる覚悟はできております。
なにを大それたことを、とお思いになるかもしれません。ですが本気です。
こんなにもわがままで欲深い私をどうかお許しください。
もし行けないとなると、それは胸が張り裂けそうなほど辛い事で、
考えるだけで涙がでそうになります。
お兄ちゃんは私の全てであって、元気をもらう事によって私は生きているのです。

なんだか、虚しくなってきました。
お兄ちゃんに会って褒めてもらったばかりだというのに・・・。
すぐこんな事を考えるから気持ちが沈むんです、悪い癖です。

負の感情を振り払うように、やるべき家事はないか考え、
庭に洗濯物が干しっぱなしになっている事を思い出しました。
さっそく取り掛かろうと、部屋の襖に手をかけました。
襖の取っ手に手を掛けたところで、
反対側からの力によって襖が力いっぱい引かれました。
開かれた空間には、お兄ちゃんが立っていました。

とても興奮した様子で
「喜べ、連れてってやるって!さぁ、ミューも先生の部屋に来い!」

驚きのあまり、言葉がでませんでした。
急いで向かうと、入ってすぐに先生が声をお掛けになりました。

「深優の気持ちを理解できないで済まなかった、わしは真に頑固じゃったの」
と申し訳なさそうにされました。
先生は私の事を思ってこそ、この決断をなさって下さったのに、
無理やり私が反故にしてしまったようで、
心苦しくも思いましたが、喜びのほうが心を多く占めました。
みっとも無いですが、うれし涙を流しながら先生に何度も感謝を表しました。
ですが、一緒に行けるという事は、
同時に私の出自がお兄ちゃんに知られるという事でもありました。
先生はこの場で例の秘密をお告げになりました。
あんなにも嬉しそうに私の背中をさすりながら喜んでいたお兄ちゃんが、
今までに見た事も無いくらい動揺して、
本当かどうかの確認を何回も繰り返していました。
私は何も言えないまま、終始やり取りを聞いているだけでした。

19深優は泣いた:2011/04/05(火) 01:18:44 ID:tpEbVLGc

そのうち、外も大分暗くなっていたので、先生に促され、お開きなりました。

「ではまた明日の、竜史。深優、今日でできる準備は全てやってしまうように」
襖の境目越しからそう言うと、先生は部屋の襖を閉じました。

お兄ちゃんは何か言いたげな表情でしたが、
「じゃ、遅いんで俺は帰る。ミュー、お休みなさい。準備しっかりやっとくんだぞ」
とだけ言って、階段を降りはじめました。

私も何も言わず、お兄ちゃんを見送るため後ろに付いて行きました。
どういった事を言えばいいのか、見当がつかなかったからです。
きっと、お兄ちゃんも同じ気持ちになっていたのではないでしょうか。
結局、普段の見送りと同じような形となり、
あの事が誰の口からも聞かれる事はありませんでした。

20深優は泣いた:2011/04/05(火) 01:20:03 ID:tpEbVLGc
以上投稿終了。本スレも雰囲気良くなるといいね。

21名無しさん:2011/04/05(火) 06:49:11 ID:FFvdA/wY
よかったです。
投下ありがとうございます。

22名無しさん:2011/04/05(火) 10:12:00 ID:N.HA4Fnc
>>20
投下乙です
しばらくは無理そうですね・・・

23名無しさん:2011/04/05(火) 12:33:39 ID:49dgvsOk
頑張れヤンデレ小説スレ!!!

24名無しさん:2011/04/05(火) 22:38:38 ID:HasWJNSM
>>20
GJ
その投下がヤンデレスレを救う一歩となってるんですよ

今こそヤンデレが一つになってスレを盛り上げる時です
がんばろう、日本
がんばろう、ヤンデレスレ

25名無しさん:2011/04/06(水) 00:09:22 ID:u/zs0BT.
よかったGJ!

26名無しさん:2011/04/07(木) 10:00:19 ID:5ZoiJc2k
早く作品来ないかなー

28避難所管理人★:2011/04/07(木) 17:24:35 ID:???
>>20様投下お疲れさまでした。

管理スレ>>3様の提案を受けて名無し&削除を設定しました。
名無し=雌豚のにおい@774人目
削除=<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
他の案などがあれば管理スレへどうぞ。

29girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/07(木) 21:25:44 ID:0tpXFGR6
girls council 二話。
投下します。

30girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/07(木) 21:26:18 ID:0tpXFGR6
  第二話

自宅と言うモノは一番落ち着ける場所だ。
 「結局にぃにぃはどうするのかな?」
俺の目の前には、セミロングの黒髪で、どこかおっとりとして、幼い雰囲気をまとった少女、鳴宮美帆がいた。俺の妹。俺とは一つ違いで共に宮越高校に通っている。
もぐもぐと。動く口元が可愛いし、俺への呼称、〝にぃにぃ〟とは素晴らしいな。
……とかはともかくとして。
本当によくできた、本当に可愛い妹だ。どこに出しても恥ずかしくないくらいの。
……どこにも出す気はないけど。
 「……一応、入るよ。でも間違いなく女子生徒会の人気は落ちるだろうなぁ、俺が入ることで。篠原は何を考えているのやら」
ただいまの時刻は二十時十五分。
現在二人で夕食中。美帆が作ってくれた料理を俺達は今食べているわけだが、これがまたうまい。良くこんなにうまいものを作れるなと、感激する。
やっぱり本当によくできた、本当に可愛い妹だ。どこに出しても恥ずかしくないくらいの。
……どこにも出す気はないけど。大事な事だから二回言ったぜ。
何ならもう一度言おうか?
 「ふぅん……そう、なんだ。でも、わたしはやめた方がいいと思うなぁ。だってにぃにぃだし。にぃにぃだし。……にぃにぃだし、にぃにぃだし、にぃにぃだし」
俺だから何だというんだ。と、心の中で少し文句じみた事を呟くものの、でも、やっぱり〝にぃにぃ〟と呼ばれるのが嬉しい。
そんな毎日の日課と化している妹愛でを脳内で行いつつも、今妹と話している内容――第二生徒会書記に俺が任命されたことについて、もう一度おさらいしてみることとしよう。
第二生徒会、通称女子生徒会会長篠原瑞希の脅迫により、俺は書記にさせられた。
うん、一行で終わったな。
つまり、今夕食を食べながら、書記に任命された事を話しているところだ。
初めに話した時は「へぇ。にぃにぃ生徒会役員さんになるんだ。格好いい〜」と笑ってくれたのだが、どうも……女子生徒会だと知ってからの美帆は少しおかしい、狂っているとさえいっても良い。いつもは優しい子なんだが、時々何だか機嫌が悪いように話す時がある……どうしてだろうか。
 「……………誰も話しかけないと思ってたのに、甘かったか」
ぼそぼそぼそっと、何かを美帆がささやいた。
生憎俺には聞こえなかったのだが、うつむいて箸を握りしめながらささやいているその姿は、なんだか呪いをかける仙術師の様だった。
 「み、美帆、どうした?」
 「……………何でもないよ、にぃにぃ」
じゃあもっと明るい顔してくれよ。
とか思いつつ、そこから会話が途切れたまま、妹との楽しいディナータイムは終わった。

 「はぁ、疲れたな」
夕食後、風呂に入った後の俺は妹と顔を合わせることなく自室に戻った。
ベッドに横たわった瞬間から体中から抜けていく疲労感と、侵入してくる眠気は、いつもよりも多く感じられた。確実に篠原のせいだけどな。
 「…………篠原、瑞希か」
転校してから一週間。
素晴らしいくらいに俺の悪評が学年中、いや、学校中に広まってしまっていた。
だから俺は一人だった。
だから俺は悲しかった。
だから俺はつらかった。
だから俺は寂しかった。
だけど俺は、誰とも交われなかった。
だって誰かと関係を持てば、その誰かも俺と同じように軽蔑の対象になるから。
篠原瑞希だって知らないわけでは無かろうに。
三年生で生徒会会長をしている彼女に、俺の噂が伝わってないわけないのに。
どうして俺に近付いた?
どうして俺に話しかけた?
どうして俺を誘った?
どうして俺を必要としてくれたんだ?
分からない、何も分からない。
 「………考えるだけ無駄か」
結局そういう結論に落ち着く。俺がいくら考えたところで、その結果もたらされたモノが果たして事実にどれだけ近くなりえるのか。恐らくかすりもしないだろう。俺程度の頭であの毒舌篠原の考えを理解しようだなんて、それこそバカなことだ。
でも、それでも。
どれだけ強がった言葉を並べて、考えて、表現しようとしてみても、俺の心の大半は温かい気持ちに包まれていた。――それは感謝の念。
……ありがとう。
こんな俺に話しかけてくれて。本当に、寂しかった。本当に、つらかった。
 「あり、がとう……しの…………は、ら」
どうせ聞こえるはずはないんだけれども。
俺は篠原に感謝した。そして世界は暗闇に包まれる。
今日は心地よく、寝むれそうだった。

―――ちゃんと聞こえたよ、拓路君。

31girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/07(木) 21:27:16 ID:0tpXFGR6
 「ちょっとそこから飛び降りてみてくれないかしら、鳴宮君」
 「………………は?」
第二生徒会、通称女子生徒会室(五階)に、俺は二度目に足を踏み入れていた。
そこには相変わらず、美しい容姿をまとった悪魔、篠原瑞希が、豪華なイスに優雅に座っていたのだが、お互いに何も話す事がないまま、一時間ほど経っていた。
ただ座っているのに飽きていた俺は、手持ちの小説を読んでいたのだが、不意に話しかけてきた篠原の一言によって、ピクン、と、小さくはあったけれども、俺のアホ毛は揺れた。
ギギギ、とでも言いそうな。ロボットが動き出すときみたいな音を出しながら俺は篠原の方を向いたのだが、何もなかったかのように平然と座っていた。
 「まったく。あなたはもしかして日本語を理解していないのかしら? それとも耳が壊れているのかしら?」
 「いや待て。俺は日本語を理解しているし耳も壊れているわけじゃない……と信じたいために聞く。その、今何て言った?」
 「ちょっとそこから飛び降りて無傷で着地してくれないかしら、鳴宮君」
 「さっきと言っていた事と微妙に違う! ハードルが三千メートルくらい高くなっただろ!」
 「何だ、聞こえているんじゃないのよ。嘘はいけないわ」
 「ごめんなさいねぇ! マジで俺の脳か耳が壊れているんじゃないかと疑ったから聞き返したんだよ!」
良かったね、俺の脳と耳。どっちも悪くなかったよ。
悪いのは目の前の悪魔だったんだ。
 「なら、ほら。早く飛び降りてみて」
 「ほら、じゃねえ! そんな当たり前の行動みたいな感じで提案するな! それに俺が飛び降りることに意味はあるのか? いや、意味があったって飛び降りないけどさ!」
 「え、どうして?」
 「心底意外そうな顔するな!」
俺の憤りを目の当たりにした篠原は一度、はぁ、とため息をついたかと思うと、飽き飽きした顔で、眉間に指をあてながら、心境を吐きだした。
 「………………暇なのよ」
 「暇で人を殺そうとするなよ!」
俺は勢いに載せて指を篠原に向けたのだが、そんなモノに目もくれず、落胆したような声で話し始めた。
 「だって今日は、会計が来るって聞いていたから待っているのに……なかなか来ないのし」
その言葉を聞いて、俺は篠原の昨日の一言を思い出す。―――会計は副会長が今日連れてくる算段になっているの。―――とかなんとか。
 「会計って……そういや昨日言ってたな。副会長が連れてくるって」
 「そうなの……まったくあの子は何を―――」
バタンッ、と。
大きな音が背後から聞こえた。
恐らくこの後に「何を考えているのかしら」と続くはずの篠原の言葉はその音に遮られ、それと同時に俺たち二人はドアの方を見た。
 「………………」
そのドアからは、一人の女の子が入ってきた。決して勝手にドアが開いたとかいうような超常現象の類ではない。
その女の子、霧島翼(きりしまつばさ)は息を切らせて、すぐに机に伏してしまったためにこちらの姿を見てはいなかっただろうが。……畜生、超常現象の方がずっと良かった。
まったく、運命と言うのはひどく強引で、ひどく勝手で、ひどく残酷なモノだな。
 「会長ぉ〜聞いてくださいよ。ボク一生懸命に探したんです。でもどの子も「部活があるからごめんね〜」とか「あんまり目立つ事はしたくないから」とか言って断るんですよ〜」
あくまで、こちらを見ないままに、霧島は幼声で会長に現状報告をする。
 「そんな過程は聞いていないわ。結果を簡潔に、五文字で述べなさい」
そんな霧島の口調とは真反対の篠原は、少し苛立ちを見せながらも、言葉を返した。
つか、五文字って……何気に難しいな。
 「無理でした」
あ、できた。
 「よろしい。いや、とてもよろしくない」
篠原は素直に五文字で言えた霧島の事を褒めようとしたが、途中で任務が、会計を見つけるという任務が、果たせていない事に気付きそのクールな顔で平然と告げた。
 「くそぉ〜。……そう言えば、会長は書記を見つけて―――」
 「ッ!」
不意に、目があった。
顔をあげた霧島の大きな瞳と、彼女から目を離す事の出来なかった俺の細い線のような瞳とが、自然にあってしまった。
互いに驚いたまま声が出せない中で、霧島が一言、呟いた。

32girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/07(木) 21:27:52 ID:0tpXFGR6
 「……タクジ」
どこか懐かしい声。
 「…………………タクミチ、だ」
そしてようやく俺も一言発する。
――俺の名前、拓路はよく〝タクジ〟に間違えられる。
そして俺の事を、〝タクジ〟と呼び続けた少女が昔いた。
恐らく世界中で、俺の事を〝タクジ〟と一番多く呼んだ人間だろう。
 「え……でも、どう、して? タクジはこの学校の生徒じゃないはずなのに」
俺の指摘にもお構いなしに〝タクジ〟と呼ぶところは昔と変わっていないのだが、変わったのは外見。まず、当り前だが背が伸びた事。
最後に会ったのは小学二年の時だったから、あれから四十センチ近く伸びているだろう。
後、髪の色が黒から茶色になった。染めたのだろう。
そして何より、女性らしい体つきになった。
エロい意味で言うつもりはないが、良い体をしている。
でも、そんなことは、俺には、どうでも、良い。
 「……………転校、してきたんだ」
 「転校? ボクそんな話一つも――」
 「そういえば、あなたインフルエンザでここ一週間休んでいたわね。昨日から来ていたみたいだけれど……彼の噂とか聞いてないの?」
俺の事を少しも知らないという霧島の態度を見かねて、篠原が弁解してくれた。
 「噂? ッて……あぁ、あれね。そう言えば誰かが言っていた気がするけど、聞き流してた」
えへへ。とでも言わんばかりに霧島は頬を緩ませた。
その緩んだ顔が幼いころの霧島の顔にマッチする。
外見は変わったと言ったが、やっぱりあまり変わっていないのかもしれない。
でも、そんなことは、俺には、どうでも、良い。
 「え、ッていうことは、今年度前期の書記って……タクジの事?」
 「そうよ」
篠原が肯定を示した瞬間、霧島の顔に笑顔の花が咲いた。
 「そっか。そっか、そっか、そっか、そっか、そっか! うんうんうんうん」
そして激しく自分の体を抱きしめながら、まるで踊るように一回転した。
 「またよろしくね! タ・ク・ジ」
本当に顔に「今ボクは幸せです」とでも書かれているような霧島は俺に手を出した。
それは握手を求める、親愛の儀式。
でも、そんなことは、俺には、どうでも、良い。
しつこいかもしれないけど、大事な事だから三回言ったぜ。
 「……………」
黙ったままの俺に、
 「どしたの、タクジ? ほら」
霧島の手が伸びてきて、掴もうと――
 「…………………あら、こんなところにゴミ虫が」
どことなく不機嫌そうな声を出した篠原。何やら俺をひどい言葉で形容したかと思ったら、それこそ光速で、突然その両の手で俺を突き飛ばした。ドーン、と。
漫画なら可愛らしくこんな擬音語がついてくれるのかもしれないが、今の俺を襲った衝撃はそんなモノでは表現しきれない。適切ではない。
あえて言うなら、ドッカーン、だ。……この擬音語もちょっと可愛すぎるな。
とにもかくにも俺は、ゴロゴロゴロと部屋の隅まで吹っ飛んだ。
 「かか、会長! 何をやってるんですか」
その一瞬の出来事を見ていた霧島は慌てふためく。
 「いえ。ただここに大きなゴミ虫がいたから」
 「ゴミ虫じゃないです! タクジですよ。まったくもぉ…………ほら、タクジ、立てる?」
少し頬を膨らませた霧島は俺に近付いて来て、無理やりに手を掴もうとした。
 「――――ッ!」
それを俺は……振り払った。パチンッ、と。
 「……へ?」
 「ぁ…………………俺、今日帰ります」
まだ今の出来事に脳の処理が追い付いていない霧島に対し、俺は一人で立ち上がり、篠原に一言告げてこの部屋を出た。
畜生、本当に胸糞悪いな。
―――俺が女子生徒会室を去った後。
 「にゃ、にゃに?」
想定外の出来事に、呂律が回っていない霧島と、
 「………………また今日も、言えなかった」
誰にも聞こえないほどの小さな声を発した篠原がいた事を、俺は知らなかった。

33girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/07(木) 21:28:11 ID:0tpXFGR6
あ〜あ。マジねえよ。
こんなに早く過去話とかありえねえって、普通。まだ二話だぜ、二話。
と、誰に説明するわけでもなしに、俺は一人、心の中で悪態をつきながら帰路につく。
いつも見慣れた街並みを歩きながら、ふと立ち止まり、空を見上げた。
吸い込まれそうなくらいの大きな暗闇が、どことなく、今の俺の心境に似ていた。
 「…………」
でも、それでも。
いずれは語らなければいけなかった事が、今、回ってきただけだ。しょうがない。
諦めるしかないな、俺。がんばって説明しろ、俺。
フハハハハ。しかし安心しろ。この俺、鳴宮拓路には人に語りたくない過去など山ほどあり、〝鳴宮拓路と霧島翼の小学生時代〟なんてその中の一つにしか過ぎないのだからな。
まだ私は、秘密の過去を二回残しています。みたいな感じの。
 「…………むぅ」
だから、その……つらい事には、たくさん、慣れてるんだよ。
…………ま、嫌な事は手短に終わらせて、美帆のうまい飯でも早く食べよう。
そのために、この件については四百文字程度で、語らせてもら―――

 「まだ早いですよ、にぃにぃ」

 「その話はまだ早いです」

 「だって今は二話なのですから」

 「それに、にぃにぃが語らなくたっていずれは霧島さんが自ら語ります」

 「にぃにぃは、世話を焼き過ぎです」

 「それに、その話には〝わたし〟が出てきちゃうじゃないですか」

 「嫌だなぁ」

 「にぃにぃには、矛盾に気付いて欲しくないなぁ」

 「嫌だなぁ」

「にぃにぃには、世界が違うことに気付いて欲しくないなぁ」

「にぃにぃには、今、思い出す必要も、知る必要も、ない事だからね」

 「だから駄目ですよ――にぃにぃ!」
ビリッ、と。
青い閃光が走ったと思うと、俺の体は地面に吸い寄せられた。
―――暗転。世界が闇に包まれた。
 「篠原さんに話しかけられて、生徒会に誘われて、浮かれ過ぎです。ちょっと調子に乗りすぎましたね、にぃにぃ。悪い子には……お仕置きです」

34girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/07(木) 21:29:05 ID:0tpXFGR6
終了です。
また良い雰囲気に戻ってくれることを期待しています。

35雌豚のにおい@774人目:2011/04/07(木) 21:43:18 ID:2.ht1Bno
GJ
続き楽しみです!

36雌豚のにおい@774人目:2011/04/07(木) 21:47:42 ID:5ZoiJc2k
>>34
生徒会長がどう病んで行くか楽しみです

37雌豚のにおい@774人目:2011/04/07(木) 22:51:01 ID:2vf8J.Mw
妹キャラ変わったww

38 ◆STwbwk2UaU:2011/04/08(金) 01:15:04 ID:FRUSX36M
てすてす
避難所作成のお祝いに投下

39天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/08(金) 01:16:02 ID:FRUSX36M
「あの蔵には近づいてはいかん。悪魔がおるでな。」

おじいちゃんにそう言われたのに、近づいちゃったのはなんでだろうか。
あまつさえ、かってにカギをあけて、中に入っちゃったのはなんでだろう。

ヒマだったからかな?
ぼうけん心がくすぐられたからだろうか?
それとも、…さびしかったからかな。


ギギギッときしむドアをあけ、おさけのニオイがたちこめるくらの中で、
ぼくはなぜか一人の女の子と出会った。

そのかみはハチミツみたいな色をしてて、
その目は真夏の空のような真っ青な色で、
そのすがたは、まるでおはなしの国のようにしんじられないほどかわいかった。

「何だ貴様は。誰に断って我の前に立つ。」
声もかわいい。

――なに言われてるか、よくわからないんだけどね。

40天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/08(金) 01:17:35 ID:FRUSX36M
とりあえず、なんかモンク言われてるのは分かったので、とりあえずはんげきしてみた。

「おまえこそ、このくらにはいっちゃだめだって大人の人に言われてないのかよ?」
どうだ、ぐうの音もでまい。
しかし、目の前の女の子はケロっとした顔で…いや、はなで笑ったような顔でぼくに言った。

「じゃあその大人に言えばよかろう?『ぼくは蔵の中で女の子を見ました。あいつは悪いヤツです。』…とな」
こんどはぼくがぐうの音も出なかった。
そんなこと言ったら、ぼくがこっそりくらに入ったことバレちゃうじゃないか!
でもぼくはあわてない。なぜならクールだからだ。ホームズもあわてなかった。ふふん

「じゃあ、ていせんきょうていだ。ぼくも言わないから、きみもだまっててよ。」
「…はぁ?」
なんだこいつ、これほどじょうほしても気にくわないってのか。
それとも、ぼくの言い方が悪かったのかな?
なら、これならどうだ!

「つまり、ぼくと遊ぼうってことだよ。どう?」
「…貴様は、何を、言ってるんだ?」
もっとへんなこと言われた。くやしい。
でも一人前のネゴシエーターはこんなことじゃくじけない。スマーイル。

「今なら、ぼくのお母さんが作ってくれたチョコもついてくるよ?」
「……いや、だから」
彼女がなにか言う前にたたみかけろ!足りないものは気合だー!
「それにぼくのもってるオモチャもかしてあげる。」
「………あのな」
「それにぼくのとっておきのおもしろい話もついてくるよ!ほーら、一緒に遊びたくなってきただろう?」
チラッと彼女を見ると、ポカーンとしている。
なんだろう、すごくみじめになってきた。泣きたい。

「………ぷっ、あははははははは!」
なぜか彼女が泣きながら笑い出した。泣きたいのはぼくなんだけどね。
「……なにがおかしいのさ」
「ふふ…貴様…いや、君があまりに必死だったのがつい…ね」
彼女の笑顔はとってもキレイだったんだけど、言ってることがなかなかにざんこくだった。
ぼくは心にけっこうなダメージを受けた。…気がする。

「でもまぁ、君の努力に免じて、我は君と遊ぶことを特別に許してやろう。」
や、やった!ともだちゲットだぜ!
「じゃあ、よろしくね!…ええと、ええと………」
あれ?ぼくは彼女の名前知らないや。
「あの、名前は?」
彼女は少しうでを組んで考えた後、サラッと言った。
「好きに呼べ。」
彼女みたいなの、あんまり見たことないな…
なんて呼べばいいんだろう……ううん……
ふと、頭にひらめいた。
昨日読んだじゃないか。あのおはなしを。

「………アリス。君はアリスだ。」
「アリス?まぁ、ネーミングセンスは悪くはないな。」
よかった。彼女も気に入ったようだ。
ぼくは、前もって練習していたトモダチへのとびっきりの笑顔で、彼女にあくしゅを求めた。
「よろしくね!アリス!」
「ああ、よろしくな。」

――こうして、ぼくは初めてのトモダチを手に入れた。

41天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/08(金) 01:18:17 ID:FRUSX36M
その日から、ぼくは何度もこっそりくらをおとずれた。
なぜか彼女…アリスはいつもそこにいた。
ぼくはアリスとかくれんぼをしたり、
アリスの知っている昔話を聞いたり、
ぼくのとっておきの話をしたり、毎日のことを話したり、将来のゆめを語ったりした。
………後半はぼくしか言ってないんだけどね。

ある日、ふとタルの中が気になってのぞいているとアリスに怒られてしまった。
「子供が触れていいもんじゃない。もっと大人になってからだ。」
しぶしぶタルからはなれると、アリスがおもしろい話をしてくれた。
「天使の分け前というのを知っているかな?
 ワインやブランデー、ウィスキーが作られる時、ほんの少し量が減ってしまうんだ。
 これは天使がお酒を作るのを手伝う代わりに、お酒を貰っていくということから来ている。」
アリスはゆびを立てて、ぼくにウンチクをたれている。ぐぬぬ。
「あくまには取り分はないの?」
う、なんかどうでもいいしつもんをしてしまった…
しかし、アリスにはこうかはばつぐんだ!
「悪魔…悪魔…か…」などとブツブツ言いながら下を向いてしまった。
これはやばい!トモダチをがっかりさせるなんてオトコのハジだ!

「あ、あくまにも何かいいのがもらえるよ!」
ま、またもいい受け答えができてない。っていうかアリスも顔あげてよっ!
……と思っていると、アリスがキッとこっちをむいた。ちょっとこわい。

「なぁ、もしも我が悪魔だとしたら……君はどうする?」
「べつに?それよりなんかしようよ!」
アリスの目に光がない。めっちゃこわい。

「真面目に答えろ。
 我が悪魔だったとしたらどうする?
 泣いて逃げるか?命乞いをするのか?
 それとも何か要求するのか?契約するのか?
 我を倒すか?悪魔を殺して名声を得たいか?
 君ならどうする?我をどうしたい?」

何言ってるかよくわからないっていう。
ただ、アリスをどうしたい?って言われると、答えはひとつだけ。

「ぼくはアリスと遊びたいんだけど、それは答えにならないの?」
「……ッ!!!」
アリスがすっごいおどろいた顔を見せた。ぼくはなんかまずいことでも言ったかな……

「アリスがあくまだと、ぼくと遊べないわけじゃないんでしょ?
 トモダチっていうのは、そんなのでこわれるものじゃないよ!」

…ってお父さんが言ってた。ぼくもそう思う。
アリスはためいきをつくと、なぜか笑い出した。

「……くっ…あはははは!君は本当に面白いな!
 こんなことで悩んでた自分がバカみたいだよ……ありがとう………」
やっとアリスは笑顔にもどってくれた。……よかった。
しかしアリスは今度は悔しそうにしていた。なんで?

「君は我に色々なものをくれるが、我は君に与えられるものが無い……
 せめて、我が天使であれば…「天使の分け前」のようなことができれば……
 すまない…」
ああ、前にあげたチョコのことを言ってるのか。
あれはおいしかったし、なんかお返ししたくなる気持ちもよくわかる。うんうん。

「トモダチは見返りを求めないものさ!」
これもお父さんの言葉だけど、ぼくもだいたい同意。
チョコはちょっとおしかったけどね。
「……そう…なのか……いや、そうなんだな!
 そう、我と君はトモダチなんだな!」
「そのとおり!それじゃ星を見に行こうよ!」
「ああ!見に行こう!」
その日はずっとアリスははなうたを歌っていた。トモダチ、トモダチと口ずさんで。

42天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/08(金) 01:19:12 ID:FRUSX36M
アリスとトモダチになってから3ヶ月がすぎた。
アリスがこわくなった日から、アリスはやけにぼくのとなりに座ってくる。
ぼくだってオトコなんだから、となりに女の子が座るのははずかしい。
なので、ちょっとはなれようとする。
するとすごい泣きそうな顔をされる。弱った。
そして、ぼくがお気に入りの本を持ってきた日に、ちょっとびっくりすることが起こった。

ぼくが持ってきた本を二人で読んでいると、ふとアリスの首にチョーカーが見えた。
黒いベルトに、ロザリオがぶら下がっているチョーカーだ。…気づかなかった。
「アリスって、首にチョーカーつけてるの?」
「あ…ああ、付けているっていうより付けさせられてるというか…」
つけさせられてる?どういうこと?
「なんで、つけさせられてるの?」
「こ、これはその…な…」
アリスがゴニョゴニョとしたあと、なにか決めたように自分のひざをたたいた。
「ああもう!君とはトモダチだから、我は隠し事をしない!」
なんかかくしてたのか。きのうポストを緑にしてたのを、見てたとかじゃないといいな。

「これは…封印だ。」
ふういん?実に聞きなれないです。
「前に言ったな……我は悪魔だと。
 これは、とある聖職者に付けられた封印術具だ。
 このチョーカーが外れない限り、私はこの蔵から離れられない。
 力を行使できない。何も出来ない。
 ……これがなければ…くそぉ……」

だから、何言ってるかわからないってば!

「ええと、ええと、つまり…チョーカー外したいってこと?」
「ああ、この忌々しいチョーカーさえなければ…!」
もったいないなぁ。だって…

「にあってるのになぁ……」
「………えっ?」
アリスの顔が真っ赤だ。なんかトマトみたい。
「アリスが困ってるなら手伝う!そのチョーカー外そう!」
ぼくが決意して立ち上がると、アリスがあたふたとしだした。

「あ、い、いやこれは術者以外がとると外した者に呪いをかけるっていうか、
 べ、べつに無理してとらなくてもいいっていうか、
 そ…その……君が気に入ってくれてるなら………そのままでいいっていうか………」
うん、よくわかんない。
むしる!

43天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/08(金) 01:19:56 ID:FRUSX36M

アリスの首に手をかけると、アリスが真っ赤になって、
「はぅっ」とか「ふぁっ」とか、
とってもなやましい感じの声をあげる。
それにつられてぼくも顔真っ赤なんだけど、チョーカーがベルト式だったおかげで、すぐ外すことが出来た。

――最初に僕が見たのは。真っ赤な閃光だった。
くらがはげしくゆれる。
まばゆすぎて目の前が見えない。
つんざくようなひめいがあちこちから聞こえる。
もう何が何だかわからない。ぐるぐるといしきが回った後、
ぼくはジャイアントスイングよろしくいしきをどっかに飛ばした。


目がさめると、青い目がぼくをのぞきこんでいた。
目にはなみだがたまっている。
「よかった……もう起きないのかと思った………」
外を見ると、そろそろ朝日がのぼろうとしていた。これは大目玉だなぁ。
「アリス、きみは大丈夫だった?」
「あぁぁ…君が生きている…生きている………」
アリスがぼくを抱きしめる。すごくいいにおい。
ふと、手にいわかん。
手を広げてみると、アリスのつけていたチョーカーをにぎっていた。
ずっと抱きしめているアリスをなんとかひきはがして、話を聞いてみることにした。

「あの光ってなんなの?」
「…封印が解けた証だ。今、私は力に満ち満ちている。」
なにやらアリスさん、やけにふきげんですね。
「それよりも体はどうだ!?痛いとか!苦しいとかおかしいところはないのか!?」
今度は必死な顔でぼくのかたをゆさぶる。今とってもかたがいたいです。
「べつになんもないよ!むしろたくさんねて早起きしちゃったよ!」
アリスさん今度はホッとしたようです。女の子ってこわい。
ぼくがぼやーっとアリスを見ていると、アリスが真っ赤になって立ち上がった。

「き、君には本当に感謝している。まさか封印まで外してくれるとは思わなかった。
 そこで、なにか一つ君の願い事を叶えてやろう。
 何でもかなえてやる。
 力が欲しいか?ならばくれてやろう。
 それとも金が欲しいか?
 それとも永遠の命が欲しいか?
 …何でも言え。君が望むことをかなえてやる。………やっと………」

ぼくのねがいごと…ううむ…
とくに今ほしいのはないんだよね………
でも、叶えてくれるなら。ぼくはこれを言おうかな。

「それじゃあ、ぼくとずっとトモダチでいてください。」

またもアリスはポカーンとした顔をした。
なんだよ、ぼくとトモダチはいやだっていうのかよ………ちぇっ…

「れ、歴史に名を残す英雄とかになりたくないのか?
 死ぬまで金に困らない大富豪になりたいとも思わないのか?
 この世の終わりまで、生きていたいと思わない…のか?」
え、えいゆう………ちょっと心が動いた。
でもオトコは一度決めたことを曲げない。だって男の子だもの。
「きょ、興味ないよ!ぼくはただ君といっしょにいたいだけだし!」
少し声がプルプルしてる。仕方ないよね。えいゆうだもの。
「ほ…本当に……本当…なのか……?」
アリスは目になみだを浮かべている。…かわいい。
「おとこに二言はない!」
「う…ぁ…うわああああああああっ!」
アリスは僕に抱きついて大泣きしてしまった。女の子を泣かせちゃうとは一生のふかく……

44天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/08(金) 01:20:25 ID:FRUSX36M

ぼくはアリスの気が済むまでいっしょにいてあげた。
やっと話が出来るふいんきになったので、ごはんを食べるために帰ることを伝えた。
「それじゃアリス、ぼくは朝ごはん食べてくる。」
「あぁ、いってらっしゃい。………また、夜中来てくれる…か?」
やけにアリスが弱々しい。一体どうしたんだろう。
「あたりまえだよアリス。ぼくらトモダチだもの。」
「ああ!我と君はトモダチだ!ずっとずっとトモダチだ!」
ああ、そういえばアリスに言わないとダメだな。トモダチなんだから。
「アリス、女の子は我とか使っちゃだめだよ。私とかいうのがふつーなんだ。」
「そ、そうか!次からそういうことにするよ!
 だ、だから今夜も一緒に遊ぼう!絶対だからなっ!」
…やっぱなんかオドオドしてる。なんで?
「…じゃあ、また夜中にね?」
ぼくはアリスに手を振って、ご飯と二度ねをたのしんでくることにした。
だから、

「私…私私私私私私私私私私私私私私私私……
 私は……アリス………
 彼の………トモダチ………
 ふふっ…早く会いたいな………」
彼女のひとり言を聞くことはできなかった。

45 ◆STwbwk2UaU:2011/04/08(金) 01:21:30 ID:FRUSX36M
投下終了です。
次の投下でラスト。

P.S.
本スレに誤爆した…死にたい…orz

46雌豚のにおい@774人目:2011/04/08(金) 02:42:49 ID:76mB5TLo
あんた・・・中々GJだな?

47雌豚のにおい@774人目:2011/04/08(金) 06:36:55 ID:yUwLpSTM
>>45
GJ
アリスかわええ

48雌豚のにおい@774人目:2011/04/08(金) 09:00:52 ID:u/zs0BT.
これは純粋に面白いと思った。GJ!

49雌豚のにおい@774人目:2011/04/08(金) 10:12:58 ID:N.HA4Fnc
>>34
>>45
投下乙です!
誤爆どんまい・・・

50雌豚のにおい@774人目:2011/04/08(金) 12:20:33 ID:HasWJNSM
>>45
アリスがいちいちかわいい
なのに次で終わりなんて悲しすぎる…

51雌豚のにおい@774人目:2011/04/08(金) 12:42:58 ID:q2VxkfOE
GJ!!

52雌豚のにおい@774人目:2011/04/08(金) 13:05:06 ID:5ZoiJc2k
悪魔とヤンデレを合わせるとは……アリスがどう彼を独占していくのかが楽しみですね…

53 ◆aUAG20IAMo:2011/04/08(金) 15:26:26 ID:KrQclMBs
かなり間が空いちゃいましたが、投下します
17:00時の女の子の最終話です

5417:00時の女の子 結:2011/04/08(金) 15:27:07 ID:KrQclMBs
17時の女の子は、その日から来なくなった
代わりにくるようになったのは、17時に鳴り響く電話のコール音

「もしもし」
『おにいちゃん、わたしだよ』
「はいはい、ミユだね。いつものことだから言わなくても分かってるよー」

そうして、その日にあったことを嬉しそうに俺に報告する
友達とおしゃべりしたこと。俺たちがプレゼントしたゲームの進行状況。それを新しくできた友達とやった、とかその他色々
京都に行って、ミユは社交的になれたみたいだなと、なんだか俺まで嬉しい気分になってくる
でも、これは電話だ。いつまでもおしゃべりしているというわけにはいかない
今ミユは恵理子さんの実家に住んでいるらしいし、そうすれば恵理子さんの両親もいることだろう
いつまでも俺がでしゃばっていていいはずも無いな

「そろそろ切るよ。兄ちゃんもご飯作ったり、風呂入ったりしなきゃいけないしね」
『えっ!? まだいちじかんしかはなしてないよ、もっとおしゃべりしようよ!』
「でも、ミユのお爺ちゃんやお婆ちゃんもいるでしょ? ずっと兄ちゃんと話してたら怒られちゃうよ」
『………うん』
「じゃあね。あと、兄ちゃん来週までずっとお仕事だから、水曜まではちょっとお話できないよ」
『………おにいちゃん、いつあいにきてくれるの?』
「う〜ん。まだちょっと分からないな。でも、そのうちにきっと京都に行くよ」
『はやくあいたいよ。また、おひざにのってあそびたい』
「いつか行ける日が決まったらまたミユに教えるよ。だから、今日はもうバイバイな」
『じゃあね、おにいちゃん』

俺は、だんだんとミユと疎遠になっていった
ミユのことが嫌いになったとか、忘れてしまったと言うわけじゃない
ただ日々の忙しさに追われ、以前のように直接会っているわけではないミユと接する機会が減ったというだけの話だ
休みの日はこうして電話もする、でもそれも何時間も話しているということは無い
ミユはいつももっと話したがるけれど、俺はこれでいいと思っている
京都の中学ではミユも何人か仲のいい友達ができたと何度か聞いている
だから俺のことは仲の良かった兄ちゃんだと思って忘れてほしい………はやっぱり寂しいから、思い出にしてほしい
それがミユのためにもなるし、あちらのご家族にも心配をかけないことになるだろう

それからしばらくして、俺はもっとミユと疎遠になるようなことが起きた

5517:00時の女の子 結:2011/04/08(金) 15:27:43 ID:KrQclMBs
「その冷蔵庫は三階売り場の面点にして! それから42番の照明器具売り場は電球切れてたから誰か補充に行って!
 ……大変お待たせいたしました、わたくしが店長の―――あっ、し、失礼します。もう少々お待ちください
 ちょっと何やってんの!? なんか割った音が売り場まで聞こえたけど……あーあーあー、替えの電球割っちゃったのか
 それじゃ清沢さんと三井さん売り場出て。俺はちょっと電球買ってくるよ。ああ、逸れは店長じゃなきゃ駄目なんだ
 お金の管理もあるしね。あとごめん、お客様待たせてるから速く出てね。それじゃ行ってくるよー」

もう、うちの電気店は毎日がてんてこ舞いの忙しさ
前店長が人事移動でいなくなった代わりに、新たに正社員に雇用された俺が店長に就任することになった
………んだけど、バイトなんかじゃ考えられないほど毎日が忙しく、朝早く出勤して帰るのは夜中
面倒くさくなってスタッフルームに泊り込むことも珍しくない
休みは一週間に一回、なんだけど休日に呼び出されることもザラで、あまり休んでいるとは言い難い
それでも明日はお休み。しかも本社から明日だけは俺への取次ぎを社に回すようとの命令が出た
たぶん過労死するんじゃないかと思われたんだろうなぁ

「店長、お疲れー」
「うい、お疲れー。俺明日休みだからしっかり店見ててくれよ」
「へいへい。で、店長は今日どうです? 久々の休みを祝って飲みに行きません?」
「いやぁ。俺は模範的店長だから、仲間の誘いを断ることはできないなぁ」

そうして3件を仕事仲間と梯子して、六日ぶりの自宅に帰ったのは日付もとっくに変わった午前二時
そんなこんなで家にはロクに帰っていないし、携帯の番号は教えていないからミユとはもう一ヶ月くらい話していない
お別れ会の時に教えようと思ったんだけど恵理子さんにこっそり頼まれて教えるのは止めた
何で教えないほうがいいのかとは思ったが………今日、眠気をこらえながら留守番電話をかけてみて、ようやく思い知った

[コレマデニ オアズカリシテイル メッセージハ 73ケンデス
 1ケンメ サイセイヲカイシシマス
 どうしていつもいないの? おはなししようよ。おにいちゃん、ねえ、いないの? でんわでてよ
 わたしはいつでもいいよ。あさでもよなかでもいつでもいいよ。おにいちゃんのこえがききたいよ
 おにいちゃん、おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおに
 ピーーーーーッ 2ケンメノ メッセージヲ サイセイシマス
 おにいちゃん、さみしいよ。わたしのことみすてないでよ。だいすきなんだよ
 おにいちゃんがきてくれるのをまってるんだよ。でんわをかけてくれるのをまってるんだよ
 はやくしてよ。おにいちゃんがいなきゃ、わたしもうだめなんだよ。わたしはおにいちゃんがだいす
 ピーーーーーッ 3ケンメノ メッセージヲ サイセイシマス]

留守電からとうとうと流れてくるメッセージ
それを聞いていると、なんだか仕事疲れと酒と相まって胃が痛くなってきた

5617:00時の女の子 結:2011/04/08(金) 15:28:19 ID:KrQclMBs
この留守電もう止めたほうがいいんだろうか
そうは思っても、ミユが一生懸命吹き込んだメッセージを無碍にするのも気が引けて、ついつい聞いてしまう
それでももう71件は聞いたし、最後まで聞いてみよう。そんで、明日はちゃんと電話に出てあげよう
そのときは、俺はまだそう思っていた

[ピーーーーーッ 72ケンメノ メッセージヲ サイセイシマス
 …………………………………………………………]

ん? なんだ? 故障か?
ああ、これはミユじゃなくて他の人が電話番号間違えてかけてきたってやつかな?

[………おにいちゃん、わたしのこと、きらいになったの?
 わたしはおにいちゃんのことがだいすきなのに。あいしてるのに。
 おにいちゃんがきてくれないなら、わたしがおにいちゃんのところにいくね
 もう、ぜったいにはなれな]

え………なにこれ
声のトーンが全然違う。舌っ足らずな口調はそのままだけど、沈んだトーンがミユとは思えない声になってる
それに、行くってどういうことだ? 恵理子さんが連れてきてくれるってこと?

[ピーーーーーッ 73ケンメノ メッセージヲ サイセイシマス
 菊池恵理子です。突然申し訳ありません。じつは昨日から美幸がいなくなってしまったんです
 警察には通報したのですが、とても心配です。美幸と仲良くしていただいていたあなたなら
 どこか美幸の行きそうな場所を知ってるのではないかとお電話させていただきました
 もしも行きそうな場所に心当たりがあるなら、ご連絡いただきたく思います
 それでは失礼します
 ピーーーーーッ メッセージ サイセイヲ シュウリョウシマス]


日付を見るとこの連絡が来たのは三日前
そんで、もしもミユが見つかっているなら絶対に連絡が来ているはず
そこは間違いない。恵理子さんはそういうところはすごくマメな人だ。連絡漏れは十中八九考えられない
心当たりという問題じゃない。どうやってかはわからないけれど、ミユはここに来ようとしている
それを早く恵理子さんに伝えなきゃ。そう思って受話器を取るが、どうやら俺自身の限界が来たらしい
酒が頭にもすっかり回って、さっきから世界がぐるぐる回って見える
ちくしょう、こんなに飲むんじゃなかった
俺が意識を手放して床に伸びる前に、無意識にそんなことを呟いたような気がした

5717:00時の女の子 結:2011/04/08(金) 15:28:35 ID:KrQclMBs
ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン
二日酔いの頭に、連続して鳴るチャイムが響く
なんなのよもう。新聞はいらないよ、洗剤も野球のチケットつけても無駄だかんなぁ……
だいたい今何時よ。日がまだあんま出てねーぞ。常識の無い新聞屋だ
えっと……んだよもう、まだ5:00じゃねーか。せっかくの休みなんだから10:00まではグッスリとだなぁ
………5時?
あっ、と声が掠れた喉から出る
ちょっと前まで、[午後5時]に鳴ってたチャイム。それが同じように[午前5時]に鳴っている
どうして来れたのか。どうやって来たのか。そんなことを考える前に、俺は反射的にドアを開いていた

「おにいちゃん、あそぼ」

髪はぼさぼさ。デザインが変わったブレザーも中のシャツも土や埃まみれ
それでも嬉しそうに微笑む、よく見知った女の子が、玄関先で待っていた

「み、ミユ……お前、どうやってここに………?」
「おこづかいあつめて、でんしゃにのったの。でも、とちゅうでおかねなくなっちゃったから、あるいてきたんだ」
「歩いてって……三日間もか?」
「うん。おなかすいちゃったけど、おにいちゃんにあいたかったから、がんばったんだよ」
「…………」

明らかにミユの行動は常軌を逸している。俺はただミユが寂しかった頃にいっしょに遊んでいただけの友達
それをこんなに思いつめるなんて、絶対におかしい
でもそんな理屈はどこかに吹き飛んでしまい、ドアに飛びついた時と同じように、俺は反射的にミユを抱きしめていた

「………ごめんな……俺、駄目な兄ちゃんだな……」
「そうだよ。わたしをほっといたら、ぜったいにだめなんだよ」
「……ごめん。今から朝ごはん作ってやるから、もう少し待ってくれな……」
「わたしおなかぺこぺこだから、いっぱいたべるよ」
「ああ」

ミユをシャワーを浴びさせてやり、その間に俺は米を研ぎながら考える
俺の、言うなればほんの一時の気まぐれのせいでミユはこんなに思いつめてしまったんだ
だったら、俺は今回の件の責任を取る必要があるんだろう
恵美子さんやあちらのご家族には何と言われるだろうか。許してもらえないかもしれない
職場はあるんだろうか。せっかく正社員になれた慣れ親しんだ職場を離れることにも抵抗がある
それでも、俺はもうミユを放ってはおけない。俺もなるだけ早く京都に引っ越そうと思う
なによりも、ミユの足でも数分か数十分で到着できるアパートを借りなくちゃな

58 ◆aUAG20IAMo:2011/04/08(金) 15:31:51 ID:KrQclMBs
投降終了です
あまり悲劇的結末を書けないので毎度こんな感じの話になっていますが
少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです

59雌豚のにおい@774人目:2011/04/08(金) 19:05:38 ID:FRUSX36M
>>58
とってもGJです。
5時の縛りを最後に持ってきたりとか、歩いてまで主人公の家に行くあたりは
けっこうグッと来ました。
もうちょい続いて欲しかったな…
次回作期待してます。

60雌豚のにおい@774人目:2011/04/08(金) 22:15:41 ID:N.HA4Fnc
>>58
投下乙でした

61雌豚のにおい@774人目:2011/04/09(土) 00:58:12 ID:5ZoiJc2k
お疲れ様です!!次の作品に期待であります。次は「忍と幸人」が来て欲しいです。

62雌豚のにおい@774人目:2011/04/09(土) 03:10:02 ID:hjOx4k1g
>>45>>58
お二方ともGJ!

63雌豚のにおい@774人目:2011/04/09(土) 03:12:10 ID:q2VxkfOE
GJです!!

64 ◆STwbwk2UaU:2011/04/09(土) 08:36:08 ID:FRUSX36M
次の投下で終わりといったが
ありゃ嘘だ。

ごめんなさい、ラストまでいけんかった。

65天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/09(土) 08:36:48 ID:FRUSX36M
今彼女のうでには、ぼくが作ったアームレットがついている。
あのチョーカーがあまりににあってたので、外した後にロザリオで作ってみたのだ。
それ以来、アリスはそのアームレットを見てニヤニヤしている。

……あの日も、アリスはアームレットを見ていた。


「ふふ…ふふふ……」
もう、何度目かわからない彼女のひとり笑みをぼくはながめていた。
作ったちょうほんにんのぼくがいうのもなんだけど、アリスに悪いことしていたチョーカーだ。
正直、気に入る理由がちょっとわからない。
というか、アリスは持っててだいじょうぶなのかな?
「ねぇ、アリス……」
「んん?何かして遊ぼうか?」
こっちにはじけるような笑顔を向けてくる。かわいいんだけど…顔が赤くなっちゃう。
「あの、あのさ!そのロザリオは、持っててもだいじょうぶなの?」
急にアリスの顔が青ざめた。まるで今にもたおれちゃいそうだ……

「わ…私にこのアームレットを外せと言うのか……?
 私はこの贈り物を身につけるにふさわしくない…のか?
 ……た、頼む、私からこれを取り上げないでくれ……
 これは…これは君から貰った大切な……」
えぇ、なんでそっちにいっちゃうんだ?
「違うよ!そのロザリオはもともと悪いモノだったんでしょ?
 …アリスに何かあったら嫌だなって。」
ぼくもあさはかだったなぁ…ふつうに買ったのをプレゼントしてあげればよかったのに。

「な、なんだそういうことか…それについては気にしないでくれ。
 既に封印自体は無くなってしまったので、ロザリオに新しく封印の施しをしないかぎり
 これはただのアクセサリーだ。何の悪影響もない。
 ………いや、このアームレットは特別なものだったな。
 なんといっても…きっ…君が私にプレゼント…してくれたものだからなっ!」
アリスさん、顔真っ赤です。

アリスが下を向いて「私も何かプレゼント…」とかゴニョゴニョしてるのをよそに、
ぼくのおなかはせいだいにふまんをうったえた。
今は夕方。そろそろ晩ごはんの時間だ。
「アリス、ぼく晩ごはん食べてくる。」
聞いてない。っていうかまだ顔が真っ赤。たいちょうが悪いのかな?
トントンとかたをたたいて注意をよんでみた。
「ぅっひゃう!?ななな何だ!?」
かぜをひくと、ねつで頭がボーッとなるよね。アリスかぜでもひいたのかな?
「ねぇ、体だいじょうぶ?気分とか悪くなってないかな?」
女の子はオトコより体をだいじにしないとね。
「わわ私は全然気分悪くないぞ!むしろいつもより気持ちいいくらいだ!
 だって私の隣に、今君がいてくれてるから…!
 あのその、だ、だからもうちょっとそばにいっても…」
なんかさいきん、アリスと話が通じてない気がする。
アリス、疲れてるのかな?
ここで、ぼくの頭に豆電球が光った。
「……ねぇアリス、いっしょにごはん食べにいこうよ。」
ぼくのおかあさんの料理を食べたら、きっとアリスも元気になる。
われながらいいアイデアだ。
「あ…えっ?ど、どこに?」
アリスが急にろうばいしはじめた。
「いや…ぼくんちだけど……」
というか、アリスの家ってどこだろ。よく考えたら知らないな。
まぁ、ごはん食べながらアリスにきこう。
もっとアリスのこと、知りたいな。


「………残念だが、それは出来ない。」
………えっ?
考え事をやめてアリスを見ると、アリスはにが虫をかみつぶしたような顔をしていた。
ぼくとごはん食べるのがいやだったとか?
そ、それならしかたないね。しかたない。
「すまない、私はここから離れることは出来ないんだ。」
え?ふういんとやらは外れたんじゃないの?
まえに言ってたこととちがう。…なんで?
もしかして、ぼくって嫌われてる?
…いしきしたらけっこうきついな。心がはりさけそうだ。
「あ…違うぞ!君と一緒に行きたくないわけじゃないんだ!ただ私は…」
アリスが何か言ってる。何言ってるんだろう。ぼくの悪口じゃなきゃいいな。
ははは、よく、きこえない。帰ろう。

「アリス、もういいよ。ぼくは帰る。」
ドアを開けて、ギギギっときしませながら閉める。
なにかぼくを呼ぶ声が聞こえた気がした。
言わなきゃよかった。きょぜつされるのがこんなにつらいなんて………

………帰ろう。

66天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/09(土) 08:38:01 ID:FRUSX36M
次の日のめざめは、かこさいあくの気分だった。
アリスに嫌われたことしか思い出せなかった。
家庭教師に勉強を教わってても、
黄色と黒のストライプにポストをぬって、はいたついんの人をはっきょうさせても
ずっとアリスのことを考えていた。
おそらく二度と会えないだろう、ぼくの初めてのトモダチ。
仲直りできるだろうか?
今日もくらにいてくれるだろうか?
どうすれば、また話せるだろうか?
…こういう時は、あいてのよろこぶプレゼントがいいってメイドさんが言ってたけど、
ぼくはアリスの好きなものを知らない。
アリスはぼくに、自分のことを何も教えてくれない。
ぼーっと、窓の景色をみる。
…そろそろ秋だ。あのくらに、たくさんのブドウが運ばれるんだろうな。
秋…秋………
そうだ!モミジをたくさん集めて、アリスに渡そう!
金色のモミジなら、アリスもよろこんでくれる!
そうときまればコートを着よう。モミジがりだ!

…なんか、体が重いなぁ。あと、なんかむねがくるしい。
耐え切れずに、ちょっと咳き込む。
……口の中がてつの味でいっぱいだ。
抑えた手を見る。今日ケチャップを食べてないのに、真っ赤だ。
かあさん、ぼくの体がなんかおかしい。
いたい、くるしい。
くるしいよ…




僕は、その日街へ降りた。
病院に、入院するためだ。
そしてそのまま、5年の歳月が過ぎた。

67天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/09(土) 08:39:05 ID:FRUSX36M
――今年もまた、秋が来る。
窓の外は、緑色の気配をすっかり薄め、赤と黄色の色彩に溢れていた。
アリスと離れてしまって5年、僕の病気は一向に快方へ向かうことはなかった。
お医者様も様々な薬を試してくれたが、全て無駄に終わった。
そして今、僕は外へ出る準備を進めている。
病院に許可は取っていない。脱走するのだ。
先月辺りに、こっそり両親と医者の話を聞いたところ、
僕は雪を見ることが出来ないらしい。
つまり、冬を迎える前に死ぬってことだ。
……冗談じゃない!
こんな病院で死ぬなんていやだ!
僕はまだアリスに謝ってないんだ!こんなところで死んでやるもんか!
手持ちかばんの中に、紅葉を入れる。
あの時渡せなかったが、今から渡しに行こう。

もう、覚えてないかもしれないけど……


馬車に揺られること3時間、僕は昔の実家にいた。
今では祖父母しか住んでないこの家だが、僕の拠り所はこの家しかない。
生まれ育ったのも、初めて友達ができたのも、全部ここだ。
死ぬなら、ここで死にたい。
……じいちゃんに挨拶に行くか……


「そうか、お前は決めたか…」
じいちゃんはそれ以上、何も追求しなかった。
そこから先は、今までの生活や昔話をたくさん話した。
あと、こっそり蔵で遊んだことも…謝った。
じいちゃんはただ笑うだけで、僕を責めたりはしなかった。
ただ、蔵を持ち出したことで、僕はあることを思い出した。
「そういえばじいちゃん、蔵の悪魔って何?」
するとじいちゃんは、椅子に深く腰掛け、ゆったりと話しだした。

「昔、この地方に悪魔がいてな。
 村を襲い、人を殺し、病を流行らせる…ひどい悪魔がいたんじゃよ。
 そこで我らが先祖の聖騎士が悪魔を討伐し、封印したんじゃ。
 封印した場所はちょうどあの蔵の位置。……まぁ、お伽話みたいなもの。
 ……そうそう、悪魔の名前は『レッドアイズ』と呼ばれてたはず。
 その名のとおり、血のように真っ赤な瞳をしていたそうじゃ。」

真っ赤?真っ赤だって?
アリスの目は真っ青だ。どういうことだ?
僕は嘘をつかれてたのか?みんなで僕をかついでいたのか?
な、なら僕は何を信じればいいんだ。
友達なんていたのか?アリスは本当に友達だったのか?
ポロポロと、涙が出てくる。
じいちゃんは、そんな僕を優しくなでてくれた。
その後、体と心の疲れから、僕は眠ってしまった。



――ぱちん、と薪が弾ける音で目が覚めた。
時間は深夜。
この時間はアリスと遊んだ時間だ。
僕は躊躇なくコートを羽織り、蔵へ向かった。
もう、どうでもよかった。
僕はもう死んでしまう。相手が嘘ついてようと嫌われてようと。
ただ、もし会えるなら一言言いたかった。

「ありがとう。」って…

サク、サクと枯葉を踏みしめる。
かばんから、紅葉を取り出す。
―もし誰もいなくても、この紅葉を置いていこう。
やがて、僕は蔵の前にたった。
いつも見ていた蔵は、かつて無いほど大きく見えた。
ドアに手をかけ、軋ませながら開けた。
そして蔵の中の闇に身を投じる時、何故かとぷん、という水の音が聞こえた気がした。

68天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/09(土) 08:39:51 ID:FRUSX36M
「なんだ…これは……」
僕の第一声はこれだった。
蔵の中のあちこちに、血の跡がある。
ひっかき傷のようなものも見える。
この光景を一言で表すなら

狂気。

進むどころか、入ることさえ忌避したくなる光景であった。
しかし、何故か僕の足は勝手に進んだ。
まるで目的地が分かっているかのように。
蔵の窓の近くと通るときに、月光の下に何か本が置かれていた。
手にとってみると、それは僕の本だった。
何度も読んだ、お気に入りの本…
「不思議の国のアリス」
どこかに行ってしまって、なくしたかと思っていた本があった。
ふと思い出した。
これはアリスと一緒に読むために、チョーカーを外した日に持ってきたんだった。
あの後の経験がすごすぎて、本のことを忘れていたかもしれない。
アリス………

アリスを思い出していると、下から何か音が聞こえた。
泥棒だろうか?それとも……
僕はゆっくりと階段を降りて、その存在を確かめに行った。
だが、その存在は僕の想像を超えていた。

階段の下で待っていたのは
変わらぬ姿の
アリスだった。

69 ◆STwbwk2UaU:2011/04/09(土) 08:42:19 ID:FRUSX36M
投下終了です。
次こそ多分ラスト。
多分ね!

70雌豚のにおい@774人目:2011/04/09(土) 09:00:54 ID:461sk7Cs
続き待ってるぜ

71雌豚のにおい@774人目:2011/04/09(土) 10:15:09 ID:dkZzRSRU
gj!神作乙だ!アリスの病み具合とラストが気になりすぎる

72雌豚のにおい@774人目:2011/04/09(土) 11:45:08 ID:N.HA4Fnc
>>69
投下乙です

73雌豚のにおい@774人目:2011/04/09(土) 14:33:57 ID:HasWJNSM
いいぞいいぞ!
これはかなりの名作だ。アリスがどうなってんのかすごい気になる!!

74雌豚のにおい@774人目:2011/04/09(土) 15:22:38 ID:uqsmcZbs
続き楽しみに待ってます!

75雌豚のにおい@774人目:2011/04/09(土) 23:09:13 ID:cnZ33.dA
書き手さん乙です。

76雌豚のにおい@774人目:2011/04/10(日) 07:51:08 ID:P43ZorVU
GJです!
アリスがかわいすぎる!

77雌豚のにおい@774人目:2011/04/10(日) 09:59:42 ID:AkVn.MlE
アリス可愛いな狂気的な意味で

78雌豚のにおい@774人目:2011/04/10(日) 18:37:30 ID:5ZoiJc2k
次の作品投下来ないかな?

79雌豚のにおい@774人目:2011/04/10(日) 19:18:23 ID:/eH8fmcM
長編かける人って凄いなぁと思う。
と言うことで短編を書いてみる

80雌豚のにおい@774人目:2011/04/10(日) 19:23:42 ID:KrQclMBs
>>79
C'moooon!

81 ◆O9I01f5myU:2011/04/11(月) 21:21:41 ID:vZqUPmGs
避難所管理人さん、お疲れ様です。私もこの場をお借りして投稿させていただきます。
忍と幸人 第三話です。よろしくお願いします。

82忍と幸人 第三話:2011/04/11(月) 21:23:36 ID:vZqUPmGs

 誰かが捨てていったらしい――そこら辺に転がっていた週刊誌を流し読みしていると、二階の一室が乱暴に開かれた。中から出てきたのは、あの女と幸人の二人だ。大方の予想通り、女は濃い化粧をバッチリと決めている。幸人も口紅を塗る等の軽い化粧をさせられたみたいで、見る限りでは女の子そのものだった。これから仕事に向かうのだろう。
 気だるそうに女が階段を降りていく。幸人は一言も喋らずに後を追う。その顔は母の背中を眺めているが、目は力無さげに半分閉じている。どこか遠くを見る様な視線だ。
 「スイッチ」が切り替わっている。これからその体を弄ばれるから、感覚を司る神経をみんな切り離してしまったのだ。幸人はそれを体現する様に全身を脱力させている。今彼の目の前に私が現れても、思い切り抱き締めたとしても、彼は私を認識してはくれないだろう。ゼンマイ人形みたいに私を素通りしていくだけなのは目に見えている。
 国道沿いに二人が歩いていく。
 距離を保つ事を意識して尾行する。夕闇の訪れはまだ少し浅いが仕方ない。
 帰宅ラッシュの時間帯なのも気掛かりだ。私のすぐ傍を幾つもの車両が矢継ぎ早に通り過ぎていくが、すぐに走り去ってくれるのならともかく、信号に捕まって渋滞されてしまうと尾行もやり辛くなる。
 パトカーが視線の端を過ぎて行った。女も幸人も平然としている。
 コツコツと歩く。時折電柱に身を隠して様子を伺うが、二人はどうも黙りこくったままみたいだ。楽しく談笑するとは思えないが……一言も口を利かないで淡々と歩く様はどうにも不気味だ。
 足が痛むのだろう、幸人は偶に足を止める事もあるが、やはり母に咎められるのを恐れてか、すぐに遅れた分を早足で詰める。身売りに連れ出される娘そのままの絵面だ。昼間は路上で花を売り、夜は路地で春を売る「花売り娘」を髣髴とさせた。
 その背中を歯軋りしながら見つめる。エンジンの唸り、タイヤと路面の擦れる音に包まれている内に、脳が熱気を発している様に感じ始めてきた。
 視野を二人の背中にガッチリと固定する。些細な異変も見逃す事が無い様、監視を怠らずに続ける。僅かな見落としが、そのまま仕留め損なう原因になるのかもしれないのだから。

83忍と幸人 第三話:2011/04/11(月) 21:25:28 ID:vZqUPmGs
 国道沿いのレジャー施設、コンビニ、カーショップ……次々に通り過ぎる。それ程時間は経っていないが、一体どこに向かうつもりなのだろうか。
 ここら近辺に性風俗店は無いはずだから、「出勤」するなら車やバス、タクシーを用いるのがセオリーだろうが、仮にも公安委員会に届け出をしている正規の店に所属しているのなら、子供を連れたままの出勤なんて許されないだろう。必然的にどこかで客と待ち合わせる形になるはずだが……。
 もしかしたら、待ち合わせの場所で客の車に乗り込み、さらに別の場所に移動するのかもしれない。そうなるとそれ以上の追跡は断念しなければならない。せいぜいできるとしたら、その車のナンバーを書き留める事ぐらいだが、そのナンバーの解析を合法的に行うのなら国家権力に頼らなければならなくなる。
 警察には依頼したくない。となると、策が尽きてしまう。逢引する相手の顔を携帯で撮影しておくつもりではあるが、それもどこまで役立てられるかが疑問になってくる。あの女には私が満足する形で懲らしめてやりたい。その為にも、警察に動いてもらうのはまだ後に回したい。
 今後の段取りはこの尾行で分かった情報を元に組んでいく。なるべく長引く事が無い様に短期で終わらせる。

 「……む?」

 足を止めて、電柱に隠れる。二人が横断歩道前で立ち止まったのだ。その横断歩道は国道を横切り、渡った先の近くには森の中へと続く薄暗い道がある。そこが目的地なのか。
 信号が青になった。二人が歩道を渡り始めた。すぐに追いたいが、この信号が一旦赤になって、次に青になるまで待たなければならない。今の内に下手に渡ろうとすれば、二人に近づき過ぎてしまう。
 赤になった。また車が右へ左へと走りだす。交差する車の影の向こうに見える二人の背中がどんどん遠くなる。間も無く見失ってしまった。
 気持ちが逸るが、歩行者用信号はまだ青にならない。二人が暗闇に消えて時間が経っている。気持ちが少しずつ焦っていく。
 ようやく青になったのを見た私は、少しでも早く追いつこうと思い切り地面を蹴った。
 停車した車の前をすぐさま横切り、森の中へと駆け込む。確かこの先はハイキングコースになっていたと思ったが、その手前に公園がある。二人がいるとしたら公園周辺になるだろうか。

84忍と幸人 第三話:2011/04/11(月) 21:27:29 ID:vZqUPmGs
 公園に着いた。この森の中の公園はなかなか広大で、端から端まで何百メートルとある。その脇の木陰は「よろしくやる」には打ってつけだろう(男の同性愛者による待ち合わせがここで行われているとの事で結構有名らしい。彼らもそのまま仲良くやってしまっているのかもしれない)。
 木々がざわめき、風が吹いた。結構強くて生温い。その風に音が乗ってこないかと期待して耳を澄ましてみるが、何もそれらしい物音は聞こえてこない。
 「まだ」なのか、それとも音源が遠いのか……。
 周囲を睨み、辺りを探してみる。闇はますます濃くなっていく。夜目が利く者達を羨ましく思う。
 広い野原の中、薄暗闇の中、闇雲に足掻く。耳に入るのは風の音ばかりだ。ただ彷徨うばかりで時間を浪費するだけ。
粘り強く木と木の合間を縫って歩くが、人影らしいものは無い。
 見当違いだったのだろうかと思う様になってきた。或いは、どこかで私が付けていた事がバレて姿を眩まされたのか……。
 額を拭う。汗でびっしょりだ。今夜もきっと寝苦しい夜になるのだろう。吹く風は温くて不快感をより煽るばかりで少しも気持ち良くない。
 幸人はどこに行ってしまったのだろう……。
 薄い闇に囲まれて人恋しさが募ったのだろうか。少し心許無くなってきた。
 最初から警察に通報するという手段に踏み切ってしまえば随分楽だったのにと、ふと思う。が、そう思えてもなお、それをする気になれない自分に笑ってしまう。
 私はこんなに頑固だっただろうか。それとも、狂ってしまっただけか……。
 ……いや、元々私は狂っていたのだろう。きっと。
 私は狂っているのだ。小さな子供に抱いたのは庇護欲ではなく、彼の全てを独占しようとする黒い欲望なのだ。彼の綺麗な顔立ちとか弱さ、私に甘えてくるあの魔性の頬笑みに惑わされ、踊らされているのだ。あの子を汚す者達に抱いた憎しみは嫉妬だったのかもしれないとすら思える。
 二十を迎えた女が、年端のいかない少年に惹かれた――前にニュースで女性教諭が教え子と関係を持ったという事件を報じていたが、今の私はまさにそれだろう。もし私が幸人に抱いている感情が外部に知られたら、きっとニュースで嘲笑された女教師と同じ視線を向けられるに違いない。
 もう自分は引き返せない事を自覚する。いや、引き返すつもりにもならないのだ。

85忍と幸人 第三話:2011/04/11(月) 21:30:16 ID:vZqUPmGs
 体を起き上がらせる。全身が熱を持ち、汗腺から蒸気が放出されている。
 胸に燃える何かに身を委ねた気がした。それは何故か、とても気持ちが良い。炎に焼かれる苦しみが快楽になった様な……不思議な感覚だった。
 また強い風が森の中を通り抜けた。
舞う木の葉と塵の中、両目が見開く。今度の風は私に情けをくれたのか、ゴォッという音の中に微かな人の声が聞こえた。
 慌てて振り返ると、そこには数人……六、七人の男達がいた。
 まさかと思った。私は草木に紛れ、その後を追った。
 彼らが向かった先は公園のトイレの背中、そのまたしばらく進んだ所だった。大きな木が目印代わりにそびえ立っている。
 そこに、幸人とあの女がいた。
 男達はあの女と話をしているみたいだが、ここからではよく聞き取れない。交渉をしているのか?
 男達が何かを手渡した。金だろうか。女は何やら満足そうにその場から離れ、こちらに向かってくる。さっと身を隠すと、あの女はそのまま私の傍を素通りした。家に帰るつもりなのか……念の為、注意深く監視するが、何事も無く消えて行った。
 幸人と男達に視線を戻す。よく見えないのでじわじわと近寄っていく。物音を立てない様に細心の注意を払う。
 携帯を録画モードに設定する。まだ距離が離れており、男達も幸人に気を取られているのもあって、音には気が付かれなかった。風の音が誤魔化してくれたのもあるかもしれない。
 気を取り直して距離を詰める。男達は幸人を囲んであれこれと話し掛けているが、幸人の反応が薄いので、段々まだるっこしくなってきている様子だ。

 「いいや、このままやっちまおう」

 男達が幸人に手を掛けた。一人はシャツを捲り、一人はズボンをずらす。手が空いた男達は自分のジッパーを降ろして陰茎を露出させている。
 携帯のライトを光らせる。男達は一様にビクッと肩を跳ね上げた。

 「今、記録させてもらっている。お前達、自分が何をしているか、分かっているな?」

 携帯をポンポンと叩き、録画している事を強調する。男達は慌てて股関を隠すがもう遅い。

86忍と幸人 第三話:2011/04/11(月) 21:33:01 ID:vZqUPmGs
 「何だお前は!」

 一人が気丈に食い掛かってきた。

 「その子の……友達だ」

 活力の見出せない目をしたままの幸人を見つめ、そう返す。私が見えていないはずはないのだが、何一つと反応を見せてくれない。分かってはいたが少し悲しい。

 「その子が夜な夜な大人達の慰み者になっているという噂を聞いたので、尾行させてもらった。これをバラされたくなければ、私の言う事に従ってもらおうか」

 連中の目線が私の携帯に集中する。ある者はうろたえ、ある者は眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいる。
 じわじわと、私の死角に回ろうとする奴がいるのを視界の端で捉える。威嚇程度にこちらも睨みつけてやると、その動きをピタッと止めた。こいつ、私の隙を突いて携帯を強奪しようとしていたのか?

 「さぁ、どうする? 私としては寧ろ穏便に済ませたいというのもあるのだが、それもお前達の返答次第だぞ」

 面子をざっと眺める。どこにでもいそうな面だ。特別に変態そうな顔をしているわけでもないし、犯罪者とは到底思えない、ごく平凡な顔だ。年齢層はおよそ二十代か三十代程で、中肉中背、本当に特徴らしい特徴が見られない容姿だ。
 私の脅かしにどう出るだろうか。まぁ、こちらは図体がでかいとは言え一人の女で、向こうは複数の男だという事を考えればオチは予想できるが。
 男達が目配せをしているのを見て、どうも予想通りの事の運びとなりそうだと思った。
 静かに草を踏みしめて、ゆっくりと私の目前に展開する。私を頂点とした、扇形の並びになった。その形を保ったまま、さらにこちらに近寄ってくる。その顔は血気盛んと言うよりも、引くに引けない切羽詰った感の溢れるものだった。
 それなりに喧嘩慣れしている奴もいるらしい。さっき、私に食い掛かってきた男だ。こいつは他の奴らよりも少しだけ肉が付いているみたいだ。

 「アンタの要求は呑めないね」

 そいつが言った。

 「今ここでその携帯を壊してしまえば証拠は残らないだろう?」

 確かにその通りだ。この携帯の録画データを消されれば、それでもう物的証拠はこちらには残らない。
 お前達にそれができるかは知らんが。

87忍と幸人 第三話:2011/04/11(月) 21:35:25 ID:vZqUPmGs
 一人の男が木の棒を手に殴り掛かってきた。私はそれを腕で受けとめ、空いている右の拳を思い切り顔面に打ち込んでやると、そいつはまるで風船人形みたいに宙を舞った。背中から受け身も取らずに落下し、じたばたと悶える。
 奴らはその光景に随分怯んだみたいだが、なかなか根性はあるらしく、正面から挑んできた。
 一人の胴に蹴りを入れる。その脇に備えている奴の繰り出してきた拳を止め、頭突きを見舞う。背後から首に巻き付いてきた腕には、そいつの脇腹に肘鉄を喰らわして振り払った。それぞれが紙切れみたいに散っていく。
 周囲を確認しようとしたその瞬間、頬に痛みが走ると同時に視界が揺れた。さっき私に怒鳴り散らした、あの男の一撃だった。
 まともに入ってしまった。やはりこの男は他の奴らよりかは強いみたいだ。
 視界がチカチカするが、持ち直す。

 「アンタ、随分と強いねぇ。それに、なかなかのべっぴんさんときた」

 ヘラヘラ笑っている。相当の自信家であるらしい。

 「俺はこいつらと違って喧嘩には慣れている。アンタは体はデカいが所詮は女――」

 勝手に一人語りを始めている。隙だらけだ。
 羽織っていた迷彩のジャケットを奴の眼前に投げつける。視界を失ったその一瞬を突き、力一杯、奴の股間を蹴り上げてやった。

 「んぉっ」

 断末魔が聞こえた。
 魂が抜かれた様に地面に伏すのを確認し、奴の頭に被さったジャケットを剥ぎ取る。そこには、泡を蟹の様に吹き、白目剥いて気絶している顔があった。
 馬鹿め、油断するからだ。
 埃を払い、ジャケットを羽織り直す。生き残った二人はやり合う気概も無くしたか、顔を青ざめて震えていた。その奥にいる幸人は相変わらず、興味も無さそうにこの場を傍観していた。

 「まだやるか?」

 指の骨を鳴らす。二人はブンブンと首を振った。

88 ◆O9I01f5myU:2011/04/11(月) 21:36:08 ID:vZqUPmGs
第三話投下終了です。

89雌豚のにおい@774人目:2011/04/11(月) 21:39:56 ID:5ZoiJc2k
>>88
待ってた!!忍は幸人を救い出せるのかどうか幸人の母親をどう締め上げるか…展開が気になる…

90雌豚のにおい@774人目:2011/04/11(月) 22:07:33 ID:FRUSX36M
>>88
GJ!
幸人の迷彩服好きは多分奥さんの影響っぽいね。

91雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 02:02:45 ID:vs5rmApw
>>69の続きが本スレに来とるね
避難所で投下してきたSSの続きを本スレに投下するってのはどうなんだ?

92雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 08:19:22 ID:N.HA4Fnc
>>88
乙です
>>91
作者さん次第だから別にいいんじゃない

93雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 08:23:52 ID:R/54AEJ2
コメントから見るに、投下後に被せないようにしたみたいだな

94 ◆UDPETPayJA:2011/04/12(火) 09:26:32 ID:oGzxMSGI
投稿の前に、

本スレで不用意に荒らしを煽ってしまうようなコメントをしてしまった事を、改めてお詫び申し上げます。


20話投下します。

95天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA:2011/04/12(火) 09:27:56 ID:oGzxMSGI
入院生活といえば、誰もが一度は甘いイベントに遭遇する事を考えるのではないだろうか。
隣のベッドに美少女が入院していたとか、看護婦さんとドキドキ体験とか、そういったものに、少なくとも俺は淡い期待をしていた。
だが、何をどう間違えたら、こんな風になるのだろうか。

今俺は、自分の病室と同階の、娯楽待合スペースのソファに座っている。
向かいには、ぱっと見で30代前半に思える、ざっくばらんな印象の男が、片膝にあぐらをかき、頬杖をついて座っている。
俺達の間には小さな机があり、その上には正方形の板が一枚、さらにその上には、白と黒の両面のチップがいくつも乗っている。
正方形の板には、さらに細かく64個の正方形を作るように線が描かれており、4つのスミのうち、3つは白面のチップが乗っている。

向かいにいる男(俺は"おっさん"と呼んでいる)は、指先にチップを挟むように持ち、黒い面を上向きにして、板面に置いた。

そう、俺達は俗に言う、オセロというゲームをしているのだ。

「これで積みだな、坊主。」
「…くあぁ〜! なんで角3つ押さえたのに負けるんだ!? おっさん強すぎだぞ!?」

オセロは一般的に、角さえ押さえれば大きく有利をとれるゲームだ。
序盤から中盤にかけては、俺の方が有利に動いていた。それなのに、いつの間にか黒面の数が白のそれを上回っていた。

「まぁまぁそうしょげるなって。おっさん戦ってて楽しかったぜ?」

おっさんはどこまでも軽妙な口ぶりで、そう言った。
ちなみに今までの戦績は、24戦24敗。一度たりとも勝った事がないのだ。

「さて、今日はこの辺で切り上げとくかい。んじゃな、坊主。」

おっさんは勝負がつくと、オセロを手早く片付け、娯楽スペースにもとあった場所に戻し、去って行った。

「ちくしょう…今日も勝ち逃げされた。」


おっさんと俺が勝負するようになったのは、ほんの数日前だ。
傷もだいぶ治ってきた辺りで、暇潰しに病院内をぶらぶらするようになった頃、たまたま俺は娯楽スペース付近を通りかかった。
その時、一人でオセロをしている変なおっさんがいたのだ。
詰め将棋ならぬ詰めオセロかよ、と思い俺はその場を離れようとした。すると、

「おい待て、坊主。」

といきなり呼び止められたのだ。

何だ、喧嘩売ってんのか。と思った俺はおっさんの側へ行き、「何だよ」と返した。
だがおっさんは次に、こう言った。

「お前、強そうだな。どうだ、おっさんと勝負しないか?」
「は? 勝負?」
「そ。こいつでよ。」

96天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA:2011/04/12(火) 09:29:02 ID:oGzxMSGI
それ以来、俺達は一日2〜3回は勝負する仲になったのだ。
しかしおっさんは、本当に強かった。おっさん曰く、俺は今までの対戦相手の中で1番強いらしいが、それもどこまで本当なんだか。
だが俺は、負けっぱなしではいられない性分だ。

俺は今日の対戦を思い返しながら、自分の病室に戻った。

「あら、やっと帰って来たわね。」

病室には姉ちゃんが来ていた。俺の頼んだ品を持ってきてくれたようだ。

「入院生活が暇だからってオセロって…」
「ちょっと腕を鍛えたかったんだ。助かったぜ、姉ちゃん。んじゃ早速…」

姉ちゃんは俺の意思を先取りしたかのように、オセロの板面を開いた。
それを受けて俺も、ベッドに腰掛けた。

「鍛えるって言ったって…飛鳥に勝てる人なんかいないでしょう。
私だって、小学生の時のあんたに勝てなかったんだから。」
「それは昔の話だろ? とりあえずクリアマインドを会得するまで協力してくれよ。」
「何よ、そのクリアなんとかって…」

姉ちゃんはぶつくさ言いながらもチップを手にとり、対戦する意欲を見せた。

「先攻は私ね……」
「ほい。……」
「………」
「………」
「………やっぱりあんた強いじゃない…。」
「そうか?」

板面は、あっという間に白で埋め尽くされてしまった。

「姉ちゃん…ぶっちゃけ弱い?」
「あんたが強いのよ! 全く、変なとこばっかり器用なんだから…
やるなら結意さんとか隼とかとしなさいよ。数年経ってもボロ負けなんて、正直へこむわ。」

姉ちゃんは板面があるのも無視して、ベッドへ突っ伏す。
はたから見たら幼女のふて寝にしか見えないが、それを言ったら余計機嫌を損ねるので、心の内に留めておく。

「ああでも、やっぱあんたの声聞くと、安心するわ。」
「何で?」
「さあ…何でかしらね?」
「!」

姉ちゃんは一瞬だけ、不思議な表情を見せた。
それは、今まで姉ちゃんからは見たことのないものだった。
だけど俺は、その感情をよく知っている。

「ねぇ、飛鳥。私の中には、明日香の記憶が受け継がれてるの。…もし、明日香の感情も…」
「やめてくれ、姉ちゃん。」

俺は姉ちゃんが言い切る前に、言葉を遮った。

97天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA:2011/04/12(火) 09:30:05 ID:oGzxMSGI
「俺は、姉ちゃんとずっと一緒にいたいんだ。…それを言ったら、そうもいかないだろ?」
「飛鳥…うん、そうね。ありがとう。」

姉ちゃんはベッドから顔を上げ、散らばったオセロをまとめだした。
俺もそれを見て、一緒に手伝う。
チップを集めているうちに、何度か手が触れ合う。姉ちゃんの手は、少し冷たかった。
オセロを綺麗に箱にしまうと、姉ちゃんはベッドの横にある椅子の上に置いた。

「じゃあ…私、そろそろ行くわね。また明日ね。」
「ああ。知らないおじちゃんに声かけられてもついてくなよ?」
「何よそれ? 私だってもう21なんだからね? もう…」

ぱたん、と病室のドアは静かに閉められた。

客人がいなくなり、病室には静寂が漂う。
ベッドはいくつかあるが、この病室には俺しか患者がいないのだ。
見舞いにきてくれる連中以外と、会話することなんざ殆どない。
そういう意味では、あのおっさんとのオセロも、寂しさを紛らわせる事にはなっているのかもしれない。
あるいは、あのおっさん自身も…?

* * * * *

病室から逃げるように出た私は、少し距離をおいてから、そこで胸を抱えて座り込んでしまった。
押し潰されるような、締め付けられるような苦しさが、ずっと消えないのだ。
それはもう何日も続いている。

「ん…? あんた、神坂の姉さんじゃないか。」

頭上から、声がした。やや低めで、少し気だるそうに話す口調には覚えがあった。

「佐橋君…? お見舞いかしら?」
「ああ、暇潰しにな。」

感情のぶれがばれないように、笑顔を作って顔を上げた。

「あの子、オセロの対戦相手を探してるのよ。」
「オセロ? それはまた唐突だな。」
「よかったら、対戦してあげてちょうだい?」
「ああ、そうさせてもらうよ。ところであんた…何で今にも泣きそうな顔してるんだ?」
「えっ…!?」

作り笑いが、できてなかったのだろうか。それに、今にも泣きそうって…
私が、そういう風に見えたというの?

「あんた自身、わかってないはずがないよな?
どうしてあんな真似をした? 神坂の妹の記憶を引き継ぐなんて、危険だとわかってただろう?
現にあんたの心は、明らかに不安定じゃないか。」
「…私が、あれと同じ事を繰り返すと、思っているの?」
「可能性はある。人の心ってのは、時にはそれだけ強くもなるし、弱くもなる。」
「知った風な口を訊くわね。でも、貴方には理解できないでしょう!?」

図星を指されたためか、語気が少し荒くなった。
それに気づき、私はため息をひとつつき、呼吸を整えようとする。

「理解はできない。だが、かつてそうやって苦しんだ奴が、身近にいたもんでな。」
「身近に…?」
「光がそうだった。あいつは、二つの心を持っていたんだ。
今でこそ落ち着いているがな。」

佐橋君はそう言うと、視線を反らして飛鳥の病室の方へと歩いていった。
もう言うことはない、という事だろう。

98天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA:2011/04/12(火) 09:30:58 ID:oGzxMSGI
…私だって、こんな状態になるとは思っていなかった。
あの日、明日香の遺体を弔いに行った時。明日香の痕跡をこの世から消したくない。私はそう願った。
その瞬間、明日香の見て、聞いてきた全ての事が頭の中に流れ込んできたのだ。
知らなかった、では済まされない。
でもあの娘の背負いつづけていた心の闇が、こんなにも重く、胸を締め付けてくるなんて。
そういう意味では、私は何もわかっていなかったに等しい。

−−−飛鳥を自分だけのものにしたい。

その感情を、私は必死に抑えつづけている。
それは、絶対に知られてはならない秘め事。
色んな事があって、ようやく訪れようとしている、みんなが望んでいた平和な日常。
私自身がそれを壊す存在になど、なりたくない。
力の抜けた足腰に鞭打ち、私は病院の外へと向かった。

自宅から病院へは、私は明日香の使っていた自転車で来ている。
今の季節は大分肌寒いが、少しは気が紛らわせられる。今の私にはちょうどいいくらいだ。
疲れを知らない私の体は、いくらペダルを漕いでも暖まらない。
自転車でも20分以上はかかる距離を飛ばして家に着く頃には、体は冷えきっていた。
自転車を所定の場所にしまい、家の中に入る。
中は、私一人で過ごすには広く、静かすぎる空間だ。
…飛鳥も、私がいない間は同じ思いをしていたのだろうか。
自分一人だけが取り残され、誰にも必要とされない、という思いを。
飛鳥はまだいい。あの子には結意さんがいるから。
だけど、私を愛してくれる人は何処にもいないのだ。
そう考えたと同時に、自嘲の笑みが浮かんだ。
そんな人がいたからって、何になるのだろう。私と同じ時間を生きられる人などいやしない。
第一、私は子孫を残せない体なのだ。だから、そんなもの必要ない。
次第に、思考がネガティブに堕ちていく。その時、私はさっきの飛鳥の言葉を、不意に思い出した。

『俺は、姉ちゃんとずっと一緒にいたいんだ。』

ぞくり、と体中に電流が走った。
飛鳥は、私を必要としてくれている。ずっと一緒にいたい、と言ってくれたじゃないか!
そう思い始めると、もはや理性で抑えることはできなかった。
これは明日香の記憶の影響だ。私自身が望んでいる事じゃない。そう頭でわかっていても、微熱を帯び始めた体を、抑えられない。
何でもいい。あの子の痕跡があるものが欲しい。私はふらふらとした足取りながらも、飛鳥の部屋へ真っすぐに向かった。
部屋の扉を開け、中に入ると、そこには私が望んでやまないものがあった。

「あは………飛鳥の匂いがするぅ…」

違う。こんなのは私じゃない。なのにどうして、体は止まらない?
床に膝をつき、飛鳥のベッドに顔を埋ずめる。
だらしなく体を弛緩させながらも、右手は乳房をまさぐり、左手は下着の中へ向かっていた。
すでに下着の中は粘液が滴り、指先に執拗に絡みついてくる。

「はぁ、はぁ…あすかの…においぃ…」

99天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA:2011/04/12(火) 09:31:41 ID:oGzxMSGI
ベッドシーツを噛み締め、唾液を含ませ、それを思い切りしゃぶる。
鼻孔から感じられる飛鳥の残り香、ベッドから伝わってくる(ような気がする)、飛鳥の温もりがより一層、体の感度を高め、私の理性を壊す。
指先を秘裂に埋め、ナカを静かに、徐々に大きく掻き乱す。
幾度となく背筋を貫く快感の前に、私はもう何も考えられなくなっていた。

−−−欲しい。

何が?

あの子のすべてが−−−

ただそれだけの思いで、私は自分を慰めていた。

「ひゃ、あんっ…あすかぁ…あすか、あすかぁぁぁ!」

誰もいない、静かな部屋に私の声が響く。
絶頂を迎え、体中の力が抜ける。そうすると私の関心は、他のものへと移っていった。

瀕死に追い込まれた私を飛鳥が迎えに来てくれたあの日、この家には結意さんがいた。
あの子と彼女は、愛し合っている。つまり、このベッドを…

「…っ、うわあぁぁぁぁぁぁ!」

赦さない。なんであんな奴が飛鳥を!
飛鳥の隣にいていいのは私だけだ!
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ−−−−−

そこで、はっ、と私は我に帰った。
ゆっくりと周りを見渡すと、ベッドシーツはぐしゃぐしゃになり、引きちぎられた痕跡も見受けられた。
…私は、なんて事をしてしまったのだろう。

飛鳥を思って、自身を慰めた事は度々あった。だけど、こんなにも特定の対象に憎悪を抱いたのは、初めてだ。
それも…結意さんに対して、だなんて。

100天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA:2011/04/12(火) 09:32:35 ID:oGzxMSGI
私は、あの事件の後、この力を自身の手で消去した。
こんな悪魔の力をもう使う必要はない、あの時はそう思っていたから。
だけど今は、その判断は正しかったんだと、より深く思い知らされた。
仮に、再び今のように錯乱したとしよう。その時、あの力があった場合、私は何をする?
…考えただけで恐ろしい。それこそ、私は悪魔と化すだろう。
皮肉なことに、力を失って初めて、あの力の恐ろしさを知ることができたのだ。

「もう………頭がおかしくなりそうよ………」

あの娘の想いが、記憶だけになっても今なお、消えずにいるなんて。
私は、間違っていたの?
このままではいつか私は…飛鳥を傷つけてしまう。
明日香が、飛鳥を手に入れるために手段を選ばなかったように。

101 ◆UDPETPayJA:2011/04/12(火) 09:33:12 ID:oGzxMSGI
第20話終了です。

102雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 09:38:26 ID:N.HA4Fnc
>>101
乙です
荒らしは何発言しようが荒らしたいだけですから
気にしないで下さい

103雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 16:50:19 ID:3kdmOva2
>>102誤爆乙。黒歴史をあまり掘り返さない方がいいぞ。 >>101gj!明日香かわいそうだな。あのままだと、ジレンマ起こして、また、飛鳥を手段選ばずに手に入れようとしそうな希ガス

104雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 16:59:03 ID:5ZoiJc2k
天使のような悪魔は久し振りの更新ですね、このまま復活ラッシュになれば良いのですが

105雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 17:01:14 ID:3kdmOva2
>>101は結構保管庫でも、話題あったから、嵐が勝手に評価をつけているだけ。リバースだって終わった時、皆残念がってた。 俺が言うのもおかしいがこれで、この話おしまい。

106雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 17:44:11 ID:5ZoiJc2k
次は何が来ますかね…作品は出るようになりましたが、投下が少ないのが寂しい感じです

107雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 19:17:10 ID:FRUSX36M
>>101
GJ!
続き超絶に読みたかった!
ワクワクが止まらん!

>>106
か か な い か ?
君の投下で救われる人がここらへんにいます。

108雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 19:35:55 ID:74ftCFhI
最近、ここの力になればと書き始めたが

凄いな、全然進まん
作者さんたちへの尊敬の念が更に強まったぜ

109雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 20:04:12 ID:vZqUPmGs
>>108
一日に四百文字書く……とか、最初は小さな目標を定めておいて、コツコツ書いていくとやりやすいかもですよ。

110雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 20:15:54 ID:FRUSX36M
エクセルさん使って計算してみた。
一日大体2500字書いてる。数字って凄い。

111雌豚のにおい@774人目:2011/04/12(火) 21:33:24 ID:5ZoiJc2k
書いてる作家さんもスゲェが、計算した人もスゲェ…次の作品投下まだかな?全裸だから風邪ひいちまうぜ…

112雌豚のにおい@774人目:2011/04/13(水) 07:59:21 ID:vZqUPmGs
二千五百文字! 凄いなあ……。

私は文字数が分かるワードのヤツ使ってるけれど、調子が良くてようやく二千文字程度だわ……。
昨日は千七百文字書いたけど、一昨日は六百文字……やる気にムラっけがありすぎる……。

113AAA:2011/04/13(水) 13:35:35 ID:F6GxV0Wo
とりあえず、こっちに投下します。

114風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:36:40 ID:F6GxV0Wo
7月の終わり、学校で儀式・・・ではなく、終業式が朝の猛暑の中行われた。
全校生徒が蒸暑い体育館で終わりが見えない校長の話を聞いている頃
俺は人気の無い校舎の屋上でただ1人、風に当たっていた。
夕美が目の前で倒れたあの事件から1ヶ月が経ったのに
俺は理由も分からない責任に縛られていた。
救急車で運ばれた夕美は手首を縫う手術を受け
2日後に意識不明のまま実家の方の病院へと移された。
移される時に来た両親は『夕美の事は気にするな』と言ってくれたが
俺が夕美の事を気遣っていればあのような事にはならなかった。
けれども『気遣うって具体的にどうすればよかったんだ?』という考えが浮かび
その先の考えが見つからず苦悩する日々が続いていた。

「本当は?」
「いや、この気持ちは本物だし」
「と見せかけて?」
「いや、だから・・」
「と言いつつ?」
「くどい!!」

ムカつく質問をしてくるほうを振り向くと、そこには・・・老人?

「なんでここにいるんですか。校長」
「ここが職場じゃから」
「いやそういう意味じゃなくて、今、終業式の真っ最中ですよね?」
「そうじゃな」
「ここにいていいんですか?」
「だから、ここが職「同じボケは通じませんよ」
「ちょっと飽きたから教頭の目をぬすんで抜け出してきたんじゃよ」
「『校長先生の話』は終わったんですか?」
「抜け出した時がそれだった気がするんじゃが・・・年を取ると記憶がなぁ」

こんなのが校長でこの学校は大丈夫なのだろうか?
親指を立てて「大丈夫。問題ない」とか言ってるけど、問題ありすぎだろ。

「そういう君はなぜここにいるんじゃ?」
「日本は自由の国ですから、自由に行動してるだけです」
「じゃあ、ワシも」

残念だけど、あんたら教師は『職務』という名の鎖で縛られているから自由はないんだよ。
風に当たって涼もうと思っていたのに、隣の老人の所為で全く涼めない・・
そんな事を思っていた俺に隣の老人は意外な話題で話を振ってきた

「そういえば妹さんの事聞いたよ」
「!?」
「何でも殺し損ねたとか・・」
「誰です?そんな誤情報流してるの」

1人思い当たるけど。

「美影くんじゃよ」

ですよね〜ww

115風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:38:55 ID:F6GxV0Wo
1ヶ月前、夕美は隼先生がいる『烏羽総合病院』に運ばれた。
手術を受けているあいだ、隼先生は話し相手になってくれて俺の不安を和らげてくれていたのだが
その光景を美影先生に見つかり、俺は半殺しにされた。
危うく、親よりも先に河を渡る事になりそうだった。

「『殺そうとした妹を病院に連れてくるとは考えが狂ってる』と、彼女は言ってたぞ」

だからそれ誤解だし。先に校長の誤解を解きたいところだけれどなんて説明すればいいんだ?
『妹が自分で手首を切りました』なんて言ったら、たぶん理由を追求されるだろうな。
『妹が俺に溺愛してて振られた腹いせに・・・』本当の事言っても信用されるかどうか・・・
とか考えていたのに俺はそれを校長に話した。
本当のことを言って信用されなかったら嘘ネタを考えればいい。そんな事を考えていた。

「・・・・・」
「と言う訳なんですよ」
「・・・・・・・・・」
「(さて、嘘ネタを「うらやまし〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぃ!!」
「!!?」
「妹に溺愛されるとか、どこのエロゲーだよ!!ww」
「こ、校長?」
「『お兄ちゃん』とか『兄貴』なんて呼ばれちゃったりして・・ヒャッホーーーーー!!」
「・・・」
「あぁ、ダメだ。ワシはお前を孫としか見ていない。
 お前がどんなにワシの事を好きでいてくれても、それはダメなのだ」
「(あれ?妹ネタではしゃいでたんじゃ?つうか、妄想の世界に行っちゃったし・・・)」
「おぉ。見ない間にこんなに成長したんじゃな、よし今日は朝まで寝かせないぞ」
「・・・」
「もっと、もっとじゃ!!もっと強くやってくれーーー!!」

頭の奥底で何かが切れる音がした・・・



「ちょっ、待って・・老人をいじめちゃダメじゃろ」

何が老人だ。あんなオタク以上の妄想をしやがって。
まぁ、さすがに殴りすぎたと自分でも思ってはいるけど。

「いい年をした老人がオタクの真似事なんかするものじゃないと思いますが」
「真似事ではない!オタクだ!」
「(自慢できる事じゃねぇだろ)」
「じゃあ、逆に聞くが、こんな老人を愛してくれる女性がこの世にいると君は思っているのか?」
「へ?」
「こんな老人を愛してくれるのは2次の女性だけだぞ!じゃからワシは自分がオタクだという事を
 恥だと思わん!」
「・・・」
「そもそも貴様のようなリア充がおるからワシらは荒んだ目で見られるのじゃ!」
「・・・」
「リア充、爆ぜろ!」
「・・・校長」
「なんじゃ!」
「生徒に向って爆ぜろはないと思いますが・・・」
「たとえ生徒でもリア充は全員敵じゃ〜〜〜〜!!」

・・・この脳みそ、叩いたら直るかな?

116風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:40:00 ID:F6GxV0Wo
「それで、君はどうしたいんじゃ?」

叩いたらいつもの校長に戻った。血の跡が生々しいが、あえて触れないでおく。

「妹とは今までの関係でいたいんです。けれども、次にあったときにどのように振舞えばいいのか
 分からなくて」
「・・・君は大丈夫だ」
「は?」
「悩みの理由がわかっているという事は答えもいずれわかるという事じゃ。
 問題のない数式を答えるのは不可能だが、問題が存在する数式は試行錯誤すれば
 解くことができる。そんな感じじゃ、分かったか?」
「・・・なんとなく分かるんですが、一つ聞いてもいいですか?」
「なんじゃ?」
「その“試行錯誤”のやり方が分からなくて悩んでるんですが・・・」
「・・・それぐらいは自分で見つけんと人生は楽しくないぞ。
 ゲームだってそうじゃ。チートを使えば楽に進めることはできるが全然楽しめん。
 苦があるから楽があるのじゃ」

誤魔化したな。あと、例えがゲームって・・・。
そんな事を考えていたらドアが勢いよく開いた。

「校長!こんな所にいたんですか!!」
「ゲッ、教頭」
「さぁ、おとなしくお縄についてもらいましょうか」
「フッ、簡単に捕まる物か!風魔君、一緒に変身じゃ!」
「へ?」

戸惑う俺をよそに校長が上着を脱ぐと違和感を感じる物が現れた.
まさか・・・玩具のライダ●ベルト?

「へん『ガシッ』
「ほら、行きますよ校長」
「あぁ、待って、せめて変身だけでも「いいから行きますよ」
「イヤァ〜〜『バタン』
「・・・・・」

後に残されたのは俺と、その俺の周りをいつものように吹く風だけ。
校長の話(ほんの一部だけ)を頭に刻み、他を記憶から消そうとしたとき
再びドアが勢い良く開いた。そこにいたのは

「やっぱりここにいた」
「・・・舞」

目の前にいるのはいつもの舞、のはずなのにそれを取り巻く風は異状に黒かった。
「何か嫌な予感がする」と耳のそばを通った風が言っていたのに
俺は舞に目を奪われ、聞いていなかった。

117風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:40:55 ID:F6GxV0Wo
「そういえばさ」

黒い風に気を取られ話題を振らない俺を気遣ってくれたのか、舞が口を開いた。

「最近暗いけど、何かあったの?」
「いや・・」

思えば、こうやって舞と会話するのは1ヶ月ぶりだ。
ほとんどが俺の無視による会話の終了だった。

「1ヶ月も暗いから、少し気になったの」
「・・・」
「翼の家に救急車が来てたけど、もしかして、それと関係があるの?」
「え?」

何で舞が救急車の事を知ってるんだ?
事件の事は誰にも話していないから、病院にいた先生2人と校長以外は知らないはず。
なのに何で?

「あの日、心配になったから家に行ってみたの」
「・・・よく家にまでこれたな」
「アドレス交換した時に住所知ることができたから」

何でだろうか、少しばかり心臓の鼓動が早くなっている。
別に不穏や恐怖に感じることでもないだろう
住所を知ってるんだから家にこれて当たり前だ。

「ねぇ、あの日、何があったの?」
「いや、たいした事じゃない」
「ねぇ、何があったの?」
「だから、何もなかったって」
「何を隠してるの?」
「隠してるわけじゃ「じゃあ教えてよ」

目の前の舞はものすごい笑顔。なのに怒っている様に感じる。
その感情を感じ取った為か腕に鳥肌が立ちまくる

「ねぇ、教えてよ」

校長と同じことを聞かれているのに答えられない。
話すのが怖い、のどが渇く、瞳孔が開いているのが自分でも分かる。
俺は何でこんなにも恐怖を感じてるんだ?
何で?

「翼?」
「!?」
「おしえてく・れ・る・よ・ね?」

気付いたら舞は俺に密着し、黒い風が取り巻く視線で俺を・・睨んでいた?
その恐怖から、俺は首を縦に振ることしかできなかった。

118風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:44:44 ID:F6GxV0Wo
「へ〜、そんなことがあったんだ。大変だったね」
「・・・あぁ」

何で俺は屋上の冷たい床の上に正座しているのだろうか?
舞の威圧感に負けたからかな?本当に俺って精神面弱いよな・・・。
舞には校長に話した言葉でそのまま説明した。とりあえず理解はしてもらえたようだ。

「で、何でその事を隠していたの?」
「別に、話す必要も無いと思ったから」
「話さなくていいことなの?」
「え?」
「人に相談しないで、自分で解決できるような事で1ヶ月も悩んでたの?」
「・・・」
「そうやって苦しんでいる姿を見せ付けられてる側の気持ちも考えてよ。
 私は翼を助けたい、前にも言ったよね?『翼は私が守る』って」

見せ付けられている側の気持ちねぇ・・・。
いつからだろうか。辛い事や苦しい事があっても人に相談できないようになったのは。
自分でも気付かないうちに当たり前になっていたと思うと、少しばかり悲しくなってきた。
俺ってば本当に心を許せる人がいなかったんだな・・・。

「だから、翼は私に頼っていいの。ううん、私だけを頼ればいいの」
「だけ?」
「そう。翼に近寄る人間はすべて翼に不幸を招く。
 だから、唯一翼に不幸を招かない私だけを頼ればいいの」
「・・・それって、他の人とは関わるなって事だよな?」
「そうだよ」
「でも、会話とかは「ダメ」
「挨拶」
「ダメ」
「会釈」
「ダメ」
「アイコンタクト」
「視界に入れちゃダメ」
「・・・全て無視?」
「そう」

さいごの『そう』が少しばかり明るく嬉しそうに感じ取れた。

119風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:45:45 ID:F6GxV0Wo
「・・・考えとく」
「何言ってんの、考えるも何も明日から、ううん今からそうするの」
「まさかとは思うけど・・・本気で言ってたのか?」
「え?冗談だと思ってたの?」
「・・・」

答えられなかった。聞いてきた舞にものすごい恐怖を感じたし、
黒い風がいっそう増して、話す気が失せた。

「ねぇってば、冗談だと思ってたの?」
「悪い、今日は先に帰る」
「逃げないでよ」

その場を離れようと屋上のドアに進行方向を向けた俺の両方の腕を両手でつかみ
力づくで180度回転させられ、舞と真っ向正面になった。
舞の周りの黒い風は濃さと同時に吹き荒れる力も強くなっていた。
時々、黒い風から気味の悪い声が聞こえてくる。

「私は翼を守ろうとしてるんだよ。なのに、どうして私から離れようとするの?
 私から離れたらまた災いに巻き込まれるんだよ?なのにどうして!?」
「ちょっと、落ち着け・・・あと腕痛い」
「おかしいよ。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。
 安全な人がいるのに自ら危険な人達のところに行こうとするなんて。
 ・・・もしかして、妹さんに何かされた?」
「だから・・・手、離せ」
「そっか、妹さんが・・・・」

ダメだ。俺の話なんか聞いてない。そもそも舞ってこんな奴だったか?
いつも、俺のそばにいて気を掛けてくれたりはしていたけど、だけども今の舞は明らかに異常。
100人に街頭アンケートを取ったら・・・考えるの面倒になったからやめよう。

「翼」

不意に舞に呼ばれる。視線を向けると光のない目と目が合った。

「翼は私が治してあげる」
「は?」
「このあいだの事で妹に変なことされたんだよね?
 だから、私の考えを、提案を、思いを全て否定するんだよね?」
「否定・・って」
「今日から、ううん。これから一生私の側にいなよ、そうすれば安心して暮らせるよ?
 うん、決まり!じゃあ、ずっと一緒にいるために一緒に暮らそう。
 翼の家が学校に近いから、翼の家で・・ううん学校なんか行く必要ないよ」
「ま・・い?」
「ナァニ?」

俺の呼びかけに答えたのは・・・俺の知っている舞じゃない。
舞ならばこんなに恐怖を感じるはずがない。目の前にいるのは俺の嫌いな・・・ただの“人”。
その考えが頭によぎった瞬間、全身に鳥肌が立った。
早く離れたい、逃げたい。これがいない場所へ。
周囲を見回すと舞の黒い風が俺たち2人を囲んでいた。
外部から誰も入れない。内部から誰も出さない。そんな風の考えが感じ取れた。

「っ!?」

舞の手を振り解き、黒い風を突っ切り転がるようにして校舎に入ると
逃げるように帰宅・・・じゃない。舞から・・・ただ逃げた。
小説で表現されるように『何も考えずにただ走った』をしたかった。
けれども、何も考えないようとすればするほど、舞のあの目が想像の中から俺を見つめてきた。
家に着き、深呼吸をして自信を落ち着かせようにも全然落ち着かない。逆に鼓動が早くなる。
ふと携帯に手をやると、不在通知が20件、着信メールが46件と画面に表示されていた。
すべて、舞・・・あの“人”からの物だった。それを見た瞬間、さらに恐怖が押し寄せてきた。
けれども、明日からは夏休みだ。その“人”とは会う機会が無いと安心しようとしたのだが
『あいつは俺の家を知っている』『夏休み中でも部活があって、あいつに会う』
そう思った瞬間、体から力が抜け玄関に座り込んでしまった。
そのとき、背後のドアの向こうから音が聞こえた。
驚いて自身が音を立てた瞬間、その音は人の声に変わった。

「あ、いた。ねぇ・・・・あけて?」

120風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:47:12 ID:F6GxV0Wo
8月上旬、部活の大会のために市内の体育館に向う俺の側には“人”がいた。
終業式のあの日、家に入れず同棲を阻止した物の常に一緒に行動するようになっていた。
24時間休みなし、これがバイトの条件だったら法律違反で相手は逮捕(?)俺は助かる。
けれども、プライベートにはそんな法律はない。今朝もよく眠れてない。
俺は隣でニヘラニヘラと笑っているこの不幸の根源が憎い。ウザイ。殺したい。
そして、そんな黒い感情を抱く自分が嫌いになっていた。

「今日の大会、応援するから優勝してよ。私も頑張って優勝目指すから応援してね」
「・・・・あぁ」

前なら『優勝は無理でも1勝ぐらいはしたいな』とか『初出場で優勝するのは無理だろ』
といった、すこしネガティブな返答ができたけれども、今では返事だけ。
こいつとはあまり会話をしたくない、という考えが頭の中に在住している。

「おーい、ふうま〜〜!」

考え事をしていたせいか意外と早く目的地についた気がした。声の主を探すと・・・いた。
会場となる体育館の入口にこちらに向って手を振る天野の姿があった。
・・・手、振りすぎ。他学校の生徒がお前を生暖かい視線で見てるぞ。

「意外と早かったじゃん」
「まぁな」
「でさ「近づかないでよ」

天野との会話を遮る大空の一言。

「あ、悪い・・」
「何度言ったら分かるの?今ので4回目、次やったら本気で殺すから」

夏休みが始まってからの部活はいつもこんな感じでのスタートだった。
部員(男子)の人達は最初気にせず、俺に話を持ちかけてきてくれたりしたが
今は、舞の姿に対して少しばかりの恐怖を覚えたのか、あまり話しかけてこない。
離れていった天野に高坂が「お前すこしは空気読め」なんて言っていたのがすこし耳に入った。
そしてその後に、「大会終了後に実行するから」という言葉も聞こえた。
・・・何をする気なんだろう?

「おはようございます。翼さん」

さっきの天野の行動で“人”の気分が悪い方に傾いているのを察してくれ。

「またあんた?自殺者」
「私は生きていますのでその呼び方はおかしいと
 何度もおっしゃっているじゃありませんか。大空さん?」
「自殺者の声なんか私には聞こえない」
「そうはいいますが私の声が聞こえているからこうやって会話が成立しているんですよね?」
「うるさい。とにかく近づかないで」

毒嶋先輩ってこんなに強気な人だったけ?ていうか会うたびに強くなってきてる気がする。

「さっちゃん、そろそろ体育館中に移動するから・・・ね?」
「満さんがそうおっしゃるのなら・・・」

そう言うと毒嶋先輩はどこか寂しそうにしながら部長と共にその場を離れていった。
そしてこちらの舞はというと・・・いつの間にか俺と腕を組み、俺に笑顔を向けていた。
“人”と密着、“人”の笑顔・・・・・・・・・気持ち悪い。

121風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:48:29 ID:F6GxV0Wo
今回の大会は団体戦、俺の試合のときに応援していた“人”は
天野や高坂の時はブーイングを放ってきた。
そのせいか、俺たち男子は1回戦で負けた。・・・全敗という最悪の負け方。
一方女子は決勝に進出、部長と毒嶋先輩のダブルスは息があっていて見事な試合だった。
そして、シングルスに選ばれた“人”の試合が始まろうとした時だった。

「翼」

試合開始前の練習のラリーを終えた舞が耳を疑うような事を言ってきた。

「試合がんばってくるから・・・・ハグ・・して?」
「・・・ハ?」
「お願い・・そうしたら私頑張れるから」
「やだ」
「ね?おねが「やだって言っただろ」
「じゃあ、優勝したらキスして?」
「・・・それもやだ」
「どうして?」
「やだって言ってるんだから素直に引き下がれよ」
「『どうして?』ってこっちが聞いてるの!!」

巨大な体育館に響き渡るヒステリーに染まった舞の声。
観客席の人や隣で試合をしていた他学の生徒達の視線が一気に集まった気がした。

「ねぇ?私が質問してるんだから翼は答えればいいの。それ以外の言葉は聞きたくない!
 それとも何?理由がいえないの?『やだ』しか言えないの?ねぇ、どうなの!?」

こいつはなんなんだよ。こいつの考えが分からない。こいつが分からない。
こいつにとって俺は何なんだよ?なんでも願いを叶えるランプの魔人とでも思ってんのか?
人の気持ちを潰してでも自分の欲望を叶えたいこいつがウザイ、ウザイウザイウザイウザイウザイ
ウザイウザイウザイウザイウザイウザイウザイウザイ、ムカつく、超ムカつく、ぶっ殺してぇ。

「大空さん。試合が始まりますよ」

負の思いを抱えていた俺は毒嶋先輩の言葉で我に戻った。
俺じゃなくて舞に対しての言葉なのに・・・

「黙ってよ、私は今翼と話してるの」
「大空さんが試合に勝ってくれないと優勝する事ができません。
 つまり、翼さんにいろんな事をしてもらえなくなりますよ?」
「・・・・チッ」

舞はあきらめて、コートへと向っていった。先にコートに入っていた相手選手は
今のやりとりを見ていたせいか少しばかり怯えているようにも見えた。
そんな怯えたような表情を見せていた選手に舞は負けた。
舞が負けた瞬間、女子からは落胆の声が漏れたが、
俺は心のどこかで『良かった』などと思っていた。
女子は優勝を逃し、舞は俺からの『××』を逃した。
・・・何上手いこといってんだろ、俺。
こんな事が言えるなんて、少しばかり余裕があるのだろうな。
もしもこの余裕が無くなる様な状況になったら、俺はどのような行動に出るんだろうな・・・

122風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:51:09 ID:F6GxV0Wo
大会が終わり、帰路につこうとしたときだった。
両手を補則され猛スピードで引きずられた。
誰だ?両手を見ると右手に天野、左手に高坂

「え?ちょっ、何を「いいから黙ってろ!」

高坂に言われ口をつむぐ俺、そのまま引きずられタクシーに無理矢理乗せられ、
その場所を後にした。
タクシーが動き出す瞬間、体育館から慌てて出てきた舞と目が合った・・・



何なのあいつらは。翼をさらった、翼に触れた、私の翼に・・・・
許さない、今まで甘く見てたけど、あの2人は絶対に許さない・・・



タクシーが止まったのは自宅のマンション前だった。
ジャンケンに負けた天野がタクシー代を払い、
俺は2人に連れて行かれるままに自宅へと帰ってきた。

「じゃ、話を聞かせてもらおうか」
「話って?」
「大空の事」

高坂が真剣な表情で聞いてくる

「なんで?」
「最近の大空、なんかおかしいだろ。お前が関係していると思っているんだが・・」
「・・・」
「それに、最近付きまとわれてるじゃん。迷惑じゃねぇのかよ?」
「それは・・・「スゲッー広いな、おまえん家!!」
「!?」
「・・・」
「なんだこのベット!超フカフカ〜〜!!」
「・・・・」
「風呂もでっけー!!声が響く〜〜。ヤッホー!!」
「・・・おい天野」
「何?高坂」

しばらくお待ち下さい

「・・・スイマセンでした。反省してるからもう殴らないで・・」
「ならよし。じゃあ話を戻すけど、風魔は大空のことどう思ってるんだ?」
「どうって・・まぁ少し異常だと思ってるし、迷惑って言えば、そうなるし」
「なんかあったんか?」

あまり思い当たらない。思い当たるといえば『翼は私が守る』って言葉。
舞が以上になる前にも言っていた言葉、たぶんこれがキーなんだと思う。
けれども今の現状、守るというよりも束縛と言った方が合っていると思う。
舞が何をしたいのか全然分からない・・・。

123風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:52:04 ID:F6GxV0Wo
「舞は、小中での経験で対人恐怖症になっている俺の事を守る。みたいなことを言った。
 その守り方の方向性を間違えたんじゃないかと思う。」
「え!?お前女子に守られてんの?ダッセ〜!」

天野の言葉に少しだけ心が傷つく。察してくれた高坂が天野に拳を一発お見舞いしてくれた。

「つまり、お前の事を守るために他の人を寄り付かせようとしないってことだよな?」
「そうだな」
「で、お前はどうしたいの?」
「どうしたいって?」
「このまま一生大空に守られる人生を追うのか、
 それとも大空の束縛から逃れ一人で社会に羽ばたくのか」
「それは、『ピーンポーン』

「後者の考えがやっぱりいい」と言う俺の言葉はインターホンによってかき消された。

「はーい、いま出まーす」

家主でない天野が玄関へと向う。けれどもこの景色に少しばかりの違和感を感じた。
その違和感に高坂も気付き、俺に話しかけてきた。

「なぁ、このマンション、1階にオートロックのホールがあったよな?
 何で玄関前のインターホンが鳴ったんだ?」

同感。そして同時に恐怖が湧いてきた。天野を止めないと、玄関に向って天野に叫ぶ

「開けるな!!」

けれどもその言葉を出す必要は無かった。
玄関には肩から血を出している天野と、紅く染まったナイフを持っている舞の姿があった。
舞がナイフを再び振り下ろそうとしているのを見て俺は廊下を走り、
天野の首根っこを掴みリビングの方へと投げた。
天野は人形のように投げられリビングにいた高坂に受け止められた。
・・・怪我人を投げるとか俺って非道だな、なんて考えが頭をよぎった。
けれども、今はそんな事よりも目の前の舞をどうにかしないといけない。
医者でもなんでもない俺が見て分かるぐらい、舞の精神は不安定になっていた。

「つばさぁ、無事だったんだぁ」

ケタケタと笑いながら俺を、俺だけを見つめてくる舞。

「そこどいてよ、あの2人を消せないじゃない」
「なんで、消そうとする・・」
「だってあの2人、翼に触れたんだよ?翼を引きずったんだよ?
 私と翼が話している時よりも、ずっと楽しそうに翼と話してるんだよ!?
 そんな奴等いらない!翼は私が守るの!翼には私だけで充分なの!!
 ・・・だから、そこ、どいて?」

そんだけの理由で人を殺そうとするのか?そんな簡単に人を殺そうと思えるのか?
目の前の舞を落ち着かせたい。ちゃんと話をしたい。けれども俺にはそんな技術も根性もない。
早く何とかしないと、こう考えているあいだも舞いは一歩ずつ近づいてくる。
このままじゃ、本当に2人が殺される。
2人を殺させたくないし、舞に人殺しをして欲しくもない。
けれども、それを可能にできる考えが浮かばない。
ただ、両方とも守りたいのに。ただそれだけなのに、何でできないんだよ!
焦る、イラつく、不安になる、恐怖に蝕まれる、俺は何も出来ないのかよ!?

「だから、お前は甘いんだよ」

124風の声 第11話「風の甘え」:2011/04/13(水) 13:54:00 ID:F6GxV0Wo
「嫌いな“人”に優しさを見せるとか、そんな生き方無理なんだよ!
 生き物は何かを傷つけて生きているんだ。
 何も傷つけずに生きるという考えが浮かぶ時点でお前は終りなんだよ」

この声は・・・クロウ?

「時間が無ぇ、俺の質問に答えろ。『どっちを傷つけ、どっちを守る?』」
「なんだよそれ・・・」
「おまえ自身が考えて、選ぶんだ!」
「どっちも守りたい!それだけは譲れない!」
「選べ!」
「いやだ!」
「いい加減にしろ!!」

拳がとんできた。頬に痛みが、そして心に重く響く拳だった。

「このままだと、両方とも守れないぞ!」

両方・・とも?

「俺はお前自身だ!この言葉の意味が分かるか!?」
「・・・どういう意味?」
「今の俺の心境は、今のお前と同じだという事だ!」
「・・・もしかしてクロウも、辛く苦しんでいるのか?」
「・・・それ以上は言わない。さぁ、早く選べ!」

・・・わかったよクロウ。
俺は選ぶ。他者を傷つけないために、俺はこっちを傷つけようと思う。
けれども、俺には実行できないと思う。だから、クロウ。
・・・お前がやってくれないか?

「甘ったれが・・・」



目が覚めた。どうやら現実に戻ってきたみたいだ。
いる場所は自宅のリビング、壁や床にはところどころ赤い斑点がついている。
そして目の前には俺が選んだ方が血まみれで倒れていた。
自分の手が生暖かい血で染まっている。
ごめんクロウ、自分がやりたくないからといってお前にこんな事をさせてしまって。
けれども、やりすぎだ。『傷つける』って俺が想像していたのをはるかに越えてるぞ。
そう心の中で呟き、目の前の血まみれで倒れている人に心のそこから謝罪する。
もしも俺に力があればこんな事にはならなかったのに・・・。

本当にごめん・・・・・舞・・。

125AAA:2011/04/13(水) 13:54:51 ID:F6GxV0Wo
以上です。長文をダラダラとすみません・・

126雌豚のにおい@774人目:2011/04/13(水) 14:14:32 ID:3kdmOva2
>>125きたああああああ!待ってました!クロウ何気良い奴。クロウは色々とアドバイスしてくれるからこれから鍵になるな

127雌豚のにおい@774人目:2011/04/13(水) 19:35:28 ID:5ZoiJc2k
風の声が復活する日が来るとは……嬉しすぎる!!まさに復活ラッシュ!あと、保管庫に忍と幸人の3話が更新されてないのですが

128雌豚のにおい@774人目:2011/04/13(水) 19:44:39 ID:bq34Jn7Q
てすてす

129雌豚のにおい@774人目:2011/04/13(水) 20:46:06 ID:oHkJnhg6
保管庫、girls councilの第二話も更新されてないね。
>>125
GJです!

130a childie:2011/04/13(水) 21:33:13 ID:bq34Jn7Q
えー初めて投稿させてもらいます。
一応エロ描写らしきものあり。

131a childie:2011/04/13(水) 21:34:52 ID:bq34Jn7Q
雨が降っている。
無情な雨が降っている。
地面に雨粒が叩きつけられる、
いつまでも、いつまでも続く音が耳に響く。

あの日もそうだった。
義父が死んだ日、妹の葬式の日、自由を逃した日。
悲しいことはいつも雨の日に起きていた。
けれど、雨の日は嫌いになれない。
雨は何でも流してくれる。
血や涙や感情。何もかも、無差別に。
妹の葬式の日に泣いた時も、顔を伝う雨が全て流してくれた。

そのことを思い出す。思い出して、まだ自分を失っていないことを知った。

薬漬けにされてどのくらいが経つのだろうか。三日、四日ではないだろうな。
怪我が大分、塞がっている。彼女の享楽で幾度となく傷口が開いたのに。
ベッドの上で、点滴で生かされ薬で朦朧とした意識で過ごすうちに、
時間というものの概念が失ってしまった。
記憶もいずれ。
拾ってくれた義父、義母、友人、妹、一緒に夢見た人、全て失う。

知っていた。これが人格破壊だと。
彼女の復讐。
彼女は俺を人から物に変えるつもりだ。生きたまま物に落とすつもりだ。

それは地獄なのだろうか。
それとも、天国?

雨が窓を叩く音。
その中に彼女の喘ぎ声が混ざる。

薬から覚めれば、彼女は常に目の前にいた。
今は、飢えていたかのように俺の上で快楽を貪っている。
発情期を迎えた獣のようで、加減も理性もない。
それはいつまでも続く。
果てても、果てても続く。
彼女が気を失うように尽きるまで目合は終わらない。

捕まった時を思い出す。
組から逃げて捕えられた俺に、彼女が行ったのは持っていた拳銃で撃つではなく、
喰らいつくような口付けだった。

今まで起きている現状が理解できない。
夢のように現実感がわかない。
俺は復讐を、制裁を受けている筈だ。だが、これも復讐なのだろうか。
何故、俺は彼女と寝ているのだろうか。
何故、彼女は俺と寝るのだろうか。



誰かが頬を歪ませ嘲る
「お前は知っているだろうが。」



いや、それは思い違いだ。勘違いだ。的外れだ。
認めるわけにはいかない。

確かに俺は彼女に好意を抱いていた。
だが、彼女はどうだったか知らない。
知りたくない。

それも彼女が長になるのと同時に捨てた。
俺は彼女のガードではなくなり、正式に組織の歯車になった。
組のために、彼女のために。

そして、それが家族のためになるように。

132a childie:2011/04/13(水) 21:36:39 ID:bq34Jn7Q

彼女が最後を迎えようとしていた。
声にならない絶叫が、監獄の中で木霊して響き渡る。
快感の全てを喰らい尽くそうと、彼女は自分の中に深く俺を突き挿した。

突然だった。雨音の中で白昼夢を見ていた俺には。
俺は彼女に包まれ、拘束するように締め付けられる。
それは衝撃になり、背筋を通って薬で鈍っていた脳へ届いた。
我慢する理由も、堪える理由もなかった。

自分の中にあった緊縛の糸を彼女は切り落とし、
解かれたそれを、精液として彼女の中に放った。
空の感情の中で、それを放った。

彼女は狂喜の中で受け取る。
絶叫が切れ、背を弓反りに汗にまみれた体を痙攣させ、果てた。
彼女から互いに繋がった一部を通じて震えが伝わる。
快感と苦痛が合わさった物になって体の中を暴れまわり、
彼女に絶望に似て白く濁った体液を吐き出させる。

叫びたい。叫んで、この感覚から逃れたい。
だが、喉が潰れた今は叶わない。

今日で幾度目かの性交の終焉。
酸欠で視界が無くなりかけていた脳が、身体に重みを感じた。
痙攣していた身が、空気が抜けるように崩れ、彼女が俺の上に倒れこんでいた。
白い体には上がった体温で赤が差していた。
互いに体が平静を取り戻そうと、荒く息をついている。

彼女の震えが止まらない。
顔の真下にある胸に伏せた彼女の頭を、乱れた銀髪を、
片方だけ残っている鎖で繋がった右手で撫でた。
陰が覆う監獄での彼女の銀色で長い髪は、
とても綺麗で、朧げで、手に絡みついた。

その手を彼女は強く掴む。
そして、俺の顔を覗き込んだ。嬉しそうに、笑みを浮かべて。

「許さないわよ。優しくしてくれたって。絶対に」

俺は彼女の笑顔が好きだった。
棘がある中にどこか拗ねた甘えを、その笑顔から見つけられたから。
俺は彼女の碧い目が好きだった。
その眼で沢山の感情を俺に見せてくれたから。

けえど、今は。
好きだった笑みの中には、大量の憎悪があった。
好きだった碧い眼は、狂気で暗く澱んでいた。

「裏切り者」
「裏切り者」
「裏切り者」

彼女は繰り返す。俺に、自分が犯した罪を再度確認させるために。

そう、俺は彼女を裏切った。

133a childie:2011/04/13(水) 21:38:02 ID:bq34Jn7Q
一緒に夢見た人がいた。その人との自由な生活という、形の無い物に憧れた。
憧れて、手に入れたくて、彼女を裏切った。
天秤で量ってしまった。どちらを望むか。

喉が潰れていて良かった。
見苦しい言い訳をせずに済むのだから。何も言わなくていいのだから。
もう何も口から漏れることはない。
何事も、黙って受け入れられる。
俺は彼女に微笑んだ。

その眼に悲しみが、浮かんだ気がした。
たぶん、気のせいだろう。

俺の微笑みを見て、より一層の笑みを浮かべてから、彼女は口付けを行った。
長く深い口付け。
どこまでも執拗に彼女の舌が俺の舌に絡みつき、離れることがない。
窒息する程まで吸い続けられる。

とても白くて脆そうな細い腕が、片方だけ残った右腕に蔦のように絡みつく。
指と指を絡ませて、けして逃そうとしない。
視界が彼女の右手で塞がれる。
ただ、重なり合った皮膚と舌と唇で彼女を知った。

暗闇の中で自分の犯した罪を、その重みを感じる。
早く死人になってしまおう。
死人は何も言わない、物だ。
望むことはしないし、誰も裏切ることはしない。
このままなら、そう遠くない日になれるだろう。

顔に何か滴が落ちた。雨が届かない、この監獄で。

顔から右手がどかれる。
彼女が、ユリィが泣いていた。


*****************

134a childie:2011/04/13(水) 21:39:06 ID:bq34Jn7Q
私は貪っていた。
飢えを満たすために。
けれども、いくら彼を貪っても満たされることはない。
本当に飢えを鎮めるには彼の全てを、
髪の毛一本残さず喰らい尽くすまでは、とても止みそうには思えなかった。

雨が降っている。
もう何日もなる、長い雨。雨季を知らせる長い雨。
雨が入らない、この巣箱で私と彼はびしょびしょに濡れていた。
私は自身の欲情による発熱で汗をかき、愛液を生んで濡れていた。
彼は皮膚との重ね合いで私の汗に塗れ、性交で愛液に塗れ、
私の舌での愛撫で唾液に塗れ、濡れていた。
蝕んでいた。

果てのない欲情に身を任せ、愛苦を重ねる。
暗く燃えたぎる欲情で身を焼き、踊り狂うように腰を動かす。
腰を振るうたびに、愛液がじゅるじゅると泡立つ。
結びつき、彼が私の奥底を突くたびに身体に雷光の閃光が駆け廻り、快感で頭が痺れる。
終わりのない欲望の道を、息を切らしながら、ただ駆けた。

最初、彼が組織から逃げたと聞いた時、
心の中にぽっかりと、穴が開いてしまって何も感じられなかった。
それから自分が今、奈落に落ちている錯覚を感じた。

彼が捕まるまで、死にたくなるほど悲しくて、殺したくなるほど憎くて、
ひそひそと、一人泣いていた。
寒くて、孤独な部屋で泣いていた。

幾つもグラスを割った。憎しみにかられて。
何度も自分を傷付けた。悲しみにかられて。

彼が捕まった時、瀕死の彼を生かすよう言った。
自分の手で復讐をとげたかったから。
約束を破った彼を、逃げ出した彼を許せなかった。

けれど、ベッドの上で拘束されている彼を見た時、私は気付いた。
彼はもう組織の人間ではない。

彼と私との間には何もない。
今までずっと堪えていた欲求を、欲望を叶えることが出来る。

それを理解してしまうと、どうしようもなく下腹部が熱くなった。
また傷で弱り、無防備に眠る彼の姿は、より私を欲情させた。
喉がごくりと鳴った。

135a childie:2011/04/13(水) 21:39:55 ID:bq34Jn7Q
彼を男と見たときから、苦しみは始まった。

最初は認めたくなくて、わざと無視していた。
今までただの幼馴染で目付役にすぎなかった人間に、
そんな気持ちを抱き始めたことを、認めたくなかった。

でも、自分の身を盾に私を守ってくれることから、
意識せずにいられなかった。

その頃には、周囲に私に向けて放たれる害意があることを理解したのと同時に、
何も言わず、血を流して私を守る彼の存在が欠けることが出来なくなったことを知った。
以前は彼の同伴を、邪魔としか感じられなかったのに。

整っているとはとても言えない、ぼさぼさの黒い髪が、
いつも眠そうで、それでいて私を安心させる黒い眼が、
私のために銃を握る無骨な手が、指が、何もかも愛おしく感じさせた。
無理に目を逸らしていた私を焦がした。

男と女がどういうものか知るようになると、
彼に抱かれる夢を見てしまう始末になってしまった。

そばにいるなと喧嘩までした。
彼がそばにいると体がかっと熱くなる自分が恥ずかしくて仕方なかった。
それでいて、彼がいないと探している自分もいて、もどかしかった。

素直になれないでいた私は、とても愚かだった。
父の死で、コインが裏返るように変わった。

私は父の後継者として組織の長へと祭り上げられた。
あの人の娘だったから。
それだけだった。

後継者になって、彼が私のガードから外された。
幹部連中が長い間自分のそばにいた彼を危険視したから。
連中は彼が私を誑かせて組を乗っ取ることを、被害妄想の中で考えていた。

初めて一人になって怖かった。
なにより離れたことで、より一層に彼への欲情を感じてしまった。

彼は殺し屋をさせられ、たくさんの人を殺し、殺されそうになった。
いつ銃弾に当たって、死んでもおかしくない。
それを考え、彼を永遠に失ってしまうことに恐怖した。

私は彼が忠実に仕事を行うのは、私のためだからと思うようにした。
見かけても、すぐ無言で立ち去る彼を見て、そう思うようにした。

そう思って、いつか二人で静かに暮らすことを願い、
夜は彼を牲に自分を慰めた。
彼を思って湿る性器を、自分で慰めるしかなかった。

いつか組織を抜けて一緒に暮らせる日を願って、ひたすら一人耐えた。

だから。

だから、私を捨てて逃げた彼を許せなかった。
絶対に許せなかった。

それとも、

怪我を負ってまで私を守った彼と約束した私が馬鹿だったの?
ずっと、ずっとそばにいてと約束した私が?

もしかして、

私のためでなく、あの女のため?
血が繋がってもいないのに妹と呼ぶ、あの女のために働いたの?

けれど、

もうどうでも良かった。
もう、彼を手にいれたから。

136a childie:2011/04/13(水) 21:41:27 ID:bq34Jn7Q
「はぁ…..、んぁ…….」
私は喘ぎながら、自分の中で彼の熱を感じていた。
目をつぶって、もっとたくさん感じたくて彼を中に打ちつける。
繋がっている部分から、お互いの熱でとろとろと溶けてしまいそう。
とろとろに溶けて、一緒に混ざりたい。一つになりたい。

「ぅん….、ん……..!」
身体の奥から絶頂が迫る。
もっと、もっと。
ひたすら快感を求めて狂い、唾液を垂らしながら彼を貪る。
結ばれている所は愛液でじゃぶじゃぶで、激しく動くたびに卑猥な音を奏でる。

求めれば求めるほど足りない。

肌を重ねるたびに物足りなさを感じてしまう。
彼は蜜が入った、とても甘い水で、いくら飲んでも喉の渇きが癒えない。
でも、飲まずにはいられない。
口から零れるのも構わずに、次から次へと飲み干す。

甘い蜜は官能的で、麻薬のように私を虜にする。

「………………………….!!」
何か耐えられない衝動が身に迫っている。
何度も味わっても言葉に出来ない、この最果て。
声にならず、ただ叫ぶ。
彼から放たれる全てを一滴残らず奪い取ろうと、体が沸点に達する。
破裂しそうな激情に、愛しい彼の刃を突き立てた。

衝動が私を貫く。
残虐な喜びが、貫かれて空いた穴から湧きあがる。
快感に意識を粉々にされ、真っ白な頭で注がれる精液を感じた。

****

少しずつ、視界が戻ってくる。
気付くと彼の胸の上に倒れていた。
部屋が暗い。昼前に仕事を切り上げ、この巣箱に戻ってから
もう世界は夕刻へ近づいている。
そのまま彼に体を預け、内に広がる充足感に酔った。

彼を手に入れた最初の二日間は無我夢中でよくわからなかった。
お腹をすかせた狼の私は、必死に肉を貪っていた。
疲れて失神していたのを見つかった時、体中が彼の血に染まっていた。

吸っても足らない息も、止まらない震えもそのままに横たわる。
ことん、ことん。
胸の下で鼓動する彼の心臓の音。
彼の大きな手が私の頭を撫でる。
嬉しくて、震えが大きくなった。
心臓の音と大きな手が安らぎを与え、まどろみそうになる。

急に憎しみが湧いた。

撫でている右腕を掴み、怒りで笑みを浮かべながら彼の顔を見下ろす。
無表情な顔がそこにあった。

「許さないわよ。優しくしてくれたって。絶対に」
そう、宣告する。

「裏切り者」
「裏切り者」
「裏切り者」
罪状を忘れさせないように繰り返し呟く。
許すことはないと絶望を与えるために。

彼は何も語らず、
ただ、終わりを知っている殉教者の目で、私を微笑んだ。

留めようもなく出てくる悲しみ。
何とか憎しみで、怒りで塗りつぶし、
復讐を理解しているのに満足して、より大きな笑みを浮かべた。

そのまま彼に口付けをする。顔を見られないために。
迫ってくる気持ちから逃れようと舌を深く潜らせる。
泣きそうになって彼の目を塞いだ。

手と手を握る。
もう二度と逃がしはしないと、きつく強く握る。
怖かった。また失ってしまうことが。
巣箱に閉じ込め、薬で、鎖で繋いだのに、まだ怖い。

ねぇ、幸せでしょ?
顔を離して、言葉にせず問いかける。
堪え切れずに零れだした涙が、彼の顔に落ちた。
右手で愛しい顔から汚い滴を拭いながら問いかける。
ようやく一緒になれたんだから。ねえ、嬉しいでしょ?

ねぇ、幸せでしょ?
ねぇ、リュウジ?

137a childie:2011/04/13(水) 21:42:48 ID:bq34Jn7Q
以上を持って投稿終了。
続きます。たぶん。

138雌豚のにおい@774人目:2011/04/13(水) 21:45:55 ID:FRUSX36M
>>137
いい感じ、まさにヤンデレって感じだ。
続編楽しみにしてる。

139雌豚のにおい@774人目:2011/04/14(木) 00:08:44 ID:psnujnrY
GJ!ゾクゾクした。

140雌豚のにおい@774人目:2011/04/14(木) 01:20:17 ID:JeIOs.QU
斬新な作品だなぁ。組の話は新鮮だから是非、良い作品に仕上げてほしい・・・。だからこれはGjとしか言い様がない

141雌豚のにおい@774人目:2011/04/14(木) 01:22:49 ID:JeIOs.QU
組の話とは斬新だな。良い作品に仕上げてほしい。だから、gjとしか言い様がない

142雌豚のにおい@774人目:2011/04/14(木) 01:25:02 ID:JeIOs.QU
すまん。ミス

143雌豚のにおい@774人目:2011/04/14(木) 01:25:39 ID:JeIOs.QU
すまん。ミス

144雌豚のにおい@774人目:2011/04/14(木) 01:27:39 ID:JeIOs.QU
>>140-143すまん。なんか、俺のpspおかしいわ・・・

145雌豚のにおい@774人目:2011/04/14(木) 10:43:47 ID:N.HA4Fnc
>>125
>>137
乙です

146避難所管理人★:2011/04/14(木) 17:58:27 ID:???
職人の皆様投下お疲れ様です。私も1読者として楽しませていただいております。
ローカルルールに表記してありますが、ここは1レス120行までの投下が出来ますので1レスにより多くの文章を詰められるようになっています。
切りの良いところでレスを分けたりするようなこともしやすくなっておりますのでぜひご利用ください。

>>91
ここはあくまで避難所なので、本スレが平常運行ならそちらに投下していただいても全然おkだというスタンスです。
本スレが異常な流れになっていて投下できないような状態になった場合にこちらをご利用ください。

147雌豚のにおい@774人目:2011/04/14(木) 23:52:19 ID:vlvLZIkc
避難所に気が付かなかったよ
とりあえず専ブラ登録した

148 ◆STwbwk2UaU:2011/04/15(金) 02:35:24 ID:FRUSX36M
そうだ、僕は18禁表現を書いた。ならばどうする、ここにアグネスを呼ぶか?
来いよアグネス、僕はロリコン。そして、ヤンデレ界の変態だ。


ラストまで投下。

149天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/15(金) 02:36:35 ID:FRUSX36M
動け…動いてくれ僕の足……
金縛りにかかったように、体が全く言う事を聞かない。
「それとも、間に合うように待っててくれたのか?だとしたら私は実に嬉しい。」
頬を撫でる。体が震える。
「さて、それじゃあ……君を私の好きなようにさせてもらおうかな。」
そう言うと、ふわりと僕の前に立つ。
ちょうど、扉と僕の間に立つように。
やがて、僕の顔を手で挟み、僕とレッドアイズは目を合わせる。
赤い、どこまでも真っ赤な瞳。
意識が……吸い込まれる………
………
……




――目を覚ますと、僕はさっきの部屋にいた。
両手、両足は動かない。見えない糸に縛られているかのようだ。
そして僕の胸の上で、レッドアイズは顔を擦り付けていた。
「私の物…私だけの…」
うわ言のようにレッドアイズがつぶやいている。
やがて、僕が起きたことに気づいたのか、目が合った。
「……僕をどうする気だ。」
レッドアイズを睨みつけながら言う。
正直、虚勢以外の何者でもないが、少しでも恐怖を思い出そうものなら、
僕はもう立ち上がれない。

「言っただろう?お前を食べたいと。」
僕の首筋をレッドアイズが舌でなぞる。
全身にゾクゾクするような快感が走った。
「くっ……殺すならさっさと殺せ……!」
僕は快感を否定するかのように、レッドアイズをどかせるために体を揺さぶった。
「おっとっと……暴れるなよ…躾が悪い子には……こうだっ!」
先程まで舌を走らせていた部分に牙を突き立てる。
血が流れ、その血をレッドアイズは嬉々として飲む。
「がっ…!」
僕は抵抗をやめ、ブルブルと震えた。
「おや…?あまりに痛すぎたとでもいうのかな?少し…噛んだだけだというのに。」
レッドアイズは口元の血を拭い、官能をそそる艶やかな笑みを浮かべた。
…そう、僕はたしかに痛いと感じた。
だが抵抗をやめたのはそれが理由じゃない。
痛みをはるかに上回る快感が自分を襲ったからだ。
なんなんだ?この快感は……?
だが、まだ僕の心は折れていない。
レッドアイズを睨みつけ、再度反撃を開始する。

「…アリスはどこにやった、レッドアイズ。」
僕が彼女をレッドアイズと呼んだ時、彼女は悲しげな表情を見せた。
まるで君までそう呼ぶのか、と言わんばかりに。
そして決意を秘めた赤い瞳で、僕を見ながら言い放った。

「アリスは、もういない。君が私をレッドアイズと呼ぶのならな。
アリスは君から生まれた。君だけの存在だった。
君が全てだったのに、君がすべてを否定した。
だから私は奪う。君を奪い尽くす。君にだって渡さない。」

そう言うと、僕の服を引き裂いた。
僕の肌が顕になり、外気に触れる。
「これが…君の裸……実に素敵だ……あぁ……」
まるで心を奪われたかのように、顕になった上半身に体を擦り付ける。
レッドアイズの甘い匂いが、さっきよりも強く匂ってきている気がする……

少しの間僕の体をレッドアイズが蹂躙していると、
何かに気づいたように顔を上げた。
その顔は驚きから、喜び、そして狂喜へと変化した。

「……!ふっ……ふふふ………あはははははははははははははは!
 そうか!その紋様、呪われていたのか!
 くっくっくっ…もう会わないといったのはそういうことか…ははは…ははははははははははっ!!」
も、紋様?僕には何も見えない……が…

「好都合だ!実に好都合!
 もう、君はどこにも行かなくていい。ここにいろ。
 死なせたりなぞするものか!君を誰にも奪わせたりなんてしない!
 だから……安心して私のものになれ………

 あはは!あははははははははははは!」


レッドアイズは笑いながら、僕の胸に両手を置いた。
次の瞬間、まるで炙り文字のように、僕の全身から紋様が浮かぶ。
その紋様は微細に動き、まるで蛇のようだった。

こ、これが紋様ってやつか!

蛇で言うところの、頭にあたるような部分が僕の心臓に到達している。
なんとなく分かる。僕の心臓はこいつに食われていたんだ。
だから、僕はしんでしまうのか……

150天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/15(金) 02:37:03 ID:FRUSX36M

…っ!目が…眩しい……
レッドアイズが、赤い閃光に包まれている。
その閃光は両手を伝い、僕の体に流れ込む。
そして、蛇のような紋様に「楔」のような紋様が次々と付け加えられていく。
そして楔が増えるたびに…焼けるように体が痛い!
まるで蛇を縫いつけて動けなくするかのように、楔が打ち込まれていく。
やがて頭以外の全てに楔が打ち終わった。
「あははははははははははは!あーはははははははははは!」
まだ哄笑は止まらない。
レッドアイズは両手を離した。
右手を、天高く構える。
レッドアイズの笑みが深くなると同時に、
僕の左胸はレッドアイズに貫かれた。
そして次の瞬間、ぷちゅっという音が、ダイレクトにぼくに聞こえた。

……ぼくの心臓が、潰れた!?

レッドアイズがゆっくりと僕の左胸から手を抜く。
左胸を見る。
――穴どころか、傷一つ無い。
そして、自分の奥底から聞こえる鼓動。
僕は……死んでない…のか?
なら…あれは一体…?

151天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/15(金) 02:37:40 ID:FRUSX36M

――下半身に、鋭い快感がっ!
心臓に気をとられていたからわからなかったが、
僕のズボンは既に脱がされていた。
そして情けなくもそそり立つ僕の分身は、
――レッドアイズに、舐められていた。

「ん……ちゅっ……んむ…ぁ…」

蕩けた表情で、僕の分身を愛おしそうに舐めている。
「な、何をして…うぁ……」
レッドアイズの舌が筋を舐め、レッドアイズの口が僕の鈴口に吸いつく。
「ん…じゅる…ここがいいのか…?ふふふ…ちゅ…」
あまりの快感に腰ががくがくと震える。出る…出てしまう!!
「や、やめろ!離れ…ああああああああああああ!!!」
「ん…むぅ…!ん…ぐ…んぐ…」
どくん、どくんとレッドアイズの口の中に出してしまった。
しかしレッドアイズは口を離さず、僕の分身に吸いついている。
「んむ……ぷぁっ……随分と、溜まっていたんだな?
 私の口の中が君の精液でいっぱいだ。」
口周りにこぼれた精液を嚥下しつつ、僕を蕩けた目で見つめる。
僕の分身はというと、あれほどレッドアイズの口に出したというのに、
未だに天を仰いでいた。

「ふふっ……まだ出し足りないのかな?
 もう一回シてもいいんだが、まだ君にやりたいことがあるんだ。
 …これほど元気なら、もう口でしなくても大丈夫そうだ。」
レッドアイズはそう言うと、スカートの中にゆっくりと手をかけ、
白いものを取り出した。
あれは、まさかパンツ?
……ってことは、これから僕がするのは…
「いやだ!やめろレッドアイズ!僕は友達とそんなことしたくない!」
確か、セックスとかいうやつだったはずだ!
あれは、愛するオトコとオンナが行う行為で…
僕とアリスはそんな関係じゃ……!
「さっき言ったはずだ。トモダチはやめだと。」
レッドアイズ…アリス…がまたがる。
アリス?…レッドアイズ?なんだか…わからなくなってきた。
「もう…我慢出来ないんだ。
 君を…私のものにしたい…」
熱に浮かされているかのように、アリスは僕の分身を、彼女の大事な部分に摺りつけている。
「やめてくれ…アリス……僕らは…友達じゃないか……」
視界がぼやけている。泣いているのか……僕が…
アリスと呼ばれた彼女は、ビクっと震えると動きを止めた。
そして何か言葉を紡ぐかのように、口を数回動かすと、口を噤んだ。
そして自分に言い聞かせるように、ぼくに言った。

「私はもう、トモダチをやめる。
 もっと、もっと深いところで君と繋がりたい。
 もう離れたくない…そのためなら何だってする……
 君は私を嫌うか?
 嫌うがいい。憎むがいい。
 その程度の覚悟……私は出来ているっ!!」

次の瞬間、僕の分身は、彼女と繋がった。

152天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/15(金) 02:38:09 ID:FRUSX36M
ぐちゅ、ぐちゅという音が、部屋に広がる。
僕は、食われていた。
僕の分身は吸い付かれ、揉みしだかれ、しごかれていた。
僕よりも小さな娘の、体の中で。

「ん…ふっ…気持ちっ……いいか……っ?」
アリスが腰をグラインドさせる。そのたびに僕が嬌声を上げている。
「私っ…は…ぁっ!…気持ち…ふぅっ…いいぞ……っ!」
時折、僕の分身の先端が何かに触れる。
触れるたびにその何かは僕に吸いつき、僕の中の子種を催促する。
「や、やめてくれアリス……そんなことしたら…うぅぁっ!…」
「…どうだ…?こうしたらたまらないか?」
ペタンと膝を付き、円を描く様に腰をふる。
繋がった部分から、ずちゅずちゅという卑猥な音が聞こえる。
アリスの蜜壺は僕をきゅうきゅうと、僕を逃さないかのように締め付ける。
「ひぁっ、な…なかで大きくなったな……で、出そうなのか?出るのか?」
――奪われている。
僕の、全てが。
それがたまらなく愉悦を呼び、僕の脳髄をとろけさせ、神経を焦がす。
僕は、奪って欲しかったのだろうか?
世界から、家から、僕から。
いや、僕は奪って欲しかったんだろう。
彼女と一緒にいたくてたまらない、彼女とずっと仲良くしたい僕から。
アリスが深く、強くストロークを繰り返す。
「…ぐっ……うっ……」
僕は、残ったプライドでせめて射精だけはしないように我慢をしていた。
そんな僕を見て、アリスは意地悪く、そして艶やかに笑った。
「……知っているか?私は悪魔でも……人間に近いんだ。」
動きが止まる。蜜壺がキュウと締め上げる。
「だから、今ここで出されたら…私は孕むかもしれない。」
僕の分身の先端がちゅうちゅうと吸われる。これは…多分…子宮……
「だから……さ………私を……」


――孕ませて


「う…あ……うわああああああああああああああああっ!」
気づくと、僕はアリスの中に射精していた。
恍惚の表情で僕の子種を受け止めるアリス。
「あはっ!あはははははははははっ!出た!出してくれたっ!」
アリスがお腹をさする。まるで愛おしいものがそこにあるかのように。
「おいで…おいで…こっち…私はこっち……」
まるで、僕の精子を誘導するかのように、自分のお腹に語りかけるアリス。
そんな彼女を見ながら、僕は意識を失った。

153天使の分け前、悪魔の取り分 ◆STwbwk2UaU:2011/04/15(金) 02:39:16 ID:FRUSX36M

目を覚ますと、彼女が僕の隣で寝ていた。
すっかり情事の後は片付けられており、まるで嘘のようだった。
しかし、腰に甘く残る快感が、真実だと何よりも強く告げていた。
アリスがすぅすぅと寝ている。
僕は彼女が愛おしくなって、彼女の髪を弄ぶ。
透き通るような金髪を弄んでいると、彼女が起きた。
「……君……か?」
どうやら、まだ彼女は夢のなかのようだ。
「アリス、いやレッドアイズ……君は……どうしてこんなことを……」
分かっている。分かっているけど聞きたかった。

「そうか、私は君を汚してしまったんだな。
……そうだよ、私は君が好きだった。
君を愛してる。今も、昔も。」
僕はどうしようなく愚かで、鈍くて、最低な奴だった。
それでも、そんな僕を彼女は愛してくれている。
僕も好きだった。彼女を独占したかった。
ふと、気になる。
今の彼女はレッドアイズだろうか、それともアリスなのだろうか。
「ねえ、君はレッドアイズなのか?それともアリスなのか?」

「レッドアイズも私。アリスも私。どっちも君のことが好きな、私。
 でも、私を名前で呼んでくれるというなら、
 私は君につけられた名前で呼ばれたい。
 アリス…って……」
そうか、僕はとんでもない勘違いをしていたんだ。
怖いレッドアイズも、僕の好きなアリスも、彼女の一部。
そして彼女は、僕の好きなアリスなんだ。
彼女……いや、アリスは僕を抱きしめながら、夢見心地のような声で言った。
「この部屋は、君の置いていった本を元に作ったんだ。
 君と、いつまでも一緒にいられるようにね。」
 私はアリス。そう、不思議で、甘く優しい世界に誘われたアリスだ。」
アリスが僕を見る。
真夏の空のような真っ青な色の瞳で、僕を見る。
「そして君は私をこの世界に誘った。そう、君は私の白うさぎだ。
 ああ、もう決して離さない。私だけの白うさぎ…」
アリスはそう言うと、僕に口づけをした。
僕も、もうアリスのそばを離れない。
彼女こそが、僕だけのアリスなのだから………




――我を封じし人の子らよ
 我はもはや世を混沌に落とそうとはしない。
 人々を恐怖に陥れることもやめよう。
 そして……そうだな、この蔵で作られるワインは
 我が力を持って極上のものになるようにしよう。
 そのかわり、貴様らの末裔の子は頂いていく。
 これが…私の天使の分け前……いや、

――悪魔の取り分、だ……




とある村にある蔵は、10年に一度、極上のワインが作られることで有名である。
その蔵で造られるワインは決して醸造による減少はなく、常に作られたものが、作られただけワインになるという不思議なものだった。
だが、その蔵で出来るのは葡萄の種類の如何に関係なく、
血のように赤く、深い色をたたえたワインであった。

154 ◆STwbwk2UaU:2011/04/15(金) 02:42:28 ID:FRUSX36M
終わり。
最後まで付き合ってくださってありがとうございました。
童貞がエロシーンに挑むとこんな感じになります。よくある。

次回作は
1.新兵が強化兵にヤンデレされる
2.悪魔なショタが聖騎士にヤンデられる。
3.リザードマンのヤンデレハーレム

のどれかを書きます。多分。いつか、きっと。
取り敢えず、アリから地球防衛して寝ます。おやすみ。

155雌豚のにおい@774人目:2011/04/15(金) 07:29:56 ID:vZqUPmGs
乙であります! 面白かった!

アリス可愛いよアリス。

次回作>>
個人的には2を書いてほしいなあ。

156雌豚のにおい@774人目:2011/04/15(金) 08:44:12 ID:u/zs0BT.
1にしか興味が湧かないだす

157雌豚のにおい@774人目:2011/04/15(金) 11:00:07 ID:N.HA4Fnc
>>154
乙でした
凄い選択肢だ・・・

158雌豚のにおい@774人目:2011/04/15(金) 16:51:04 ID:5ZoiJc2k
GJ!!
リザードハーレムが良いかと思います

159雌豚のにおい@774人目:2011/04/15(金) 18:58:21 ID:461sk7Cs
3だと卵に精子かけて!受精させて!とか
あたし変温動物だからずっと温めててね?とかいうのかね

1も2も読みたいけど先に読みたいのは1かなぁ

160雌豚のにおい@774人目:2011/04/15(金) 20:17:32 ID:TIQ7am/o
1と2だな。先に読みたいのは1

161雌豚のにおい@774人目:2011/04/15(金) 20:21:46 ID:TIQ7am/o
あと、いい忘れた。本スレでも天使の分け前は人気だったようだね。いや、ホントに神作だったよ。作者名もがんばって覚える事にする。期待してるから今後も読み手としてよろしく

162 ◆O9I01f5myU:2011/04/15(金) 21:13:18 ID:vZqUPmGs
忍と幸人 第四話を投下させていただきます。

第三話を保管していただき、ありがとうございました。

163忍と幸人 第四話:2011/04/15(金) 21:14:54 ID:vZqUPmGs

 殴り倒した連中を服従させる事に成功した私は思った以上の収穫を得た。奴らが幸人を犯そうとした録画映像の事もあるが、連中には他にも、幸人やあの女を度々利用している顧客との繋がりがあったのだ。どういう因果かは知らない。友人や会社の同僚という事もあるだろうが、そんな事は別にどうでも良い。このおかげで、他に十人近くの新たな顧客の存在を知った。一人を締め上げて吐かせたところ、そいつらは結構な常連みたいで、内一人の男は月に三回も利用しているのだそうだ。
 風俗店の金の相場なんて知らないが、一万や二万は余裕で掛かるだろう。一ヶ月で三回も通うとは相当のめり込んでいるみたいだ。
 そいつは幸人を指名した事は無いそうだ。何時もあの女――サユキというそうだが本名ではないだろう――と乳繰り合っていたらしいとの事だった。
 あの女――サユキにかなり入れ込んでいるみたいで、デートの約束を取り付けようと躍起になっていた事もあって、ちょっとした評判にもなったそうだ。すぐさま、冷やかしとからかいの対象になり、内輪では「マジで惚れちまったらしい」と笑い種だったという。
 そんな話を聞いていて、何となくそいつの容姿が浮かんだ。体型は瘠せていて、人付き合いが苦手。いつも挙動が不審な男……性格も臆病で、恋愛もロクに経験していなさそうなイメージだ。
 娼婦は相手の好みに合わせようとするから、男はその演技に乗せられ、娼婦に想いを寄せてしまう事があるらしい。女の方がその想いを許している内は良いが、一度それを「商売上やむを得ずの事」だと拒絶した日にはどうなるだろうか。熱心に入れ込んでいた男側は一体どんな反応を見せるのだろう。
 その考えから、「この男を利用できないだろうか」と思い浮かんできた。早速、その男と面識のある一人を脅迫して連絡を取らせ、顔合わせの日時を取り決めた。
 ファミレスで待ち合わせ、実際に会ってみると、思わず噴き出しそうになってしまった。私が適当にイメージした人物と実物の身体的特徴が見事に合致していたのだ。ほっそりと痩せ、頬がこけた顔を見た時は思わず口を手で押さえてしまった。「……どうかしましたか?」と恐る恐る訊ねられ、その場を取り繕うのに苦心した。

164忍と幸人 第四話:2011/04/15(金) 21:16:53 ID:vZqUPmGs
 外見だけでなく、内面までイメージ通りだと思った。彼は目を右へ左へと泳がせて、こちらと視線を交わそうとしない。しゃべり方も所々の音が弱く、プツリ、プツリと言葉が途切れて聞こえる。まるで電波の悪いラジオを聴いているみたいだ。
 彼――名前は針巣と言うらしい――には、「お前と共通の趣味を持つ女性がいて、その女性が是非会ってみたいと話していた」と「連絡役」に伝えさせている。彼は猟奇殺人のオタクで、何かにつけてはその話題を持ち出してくる程の熱狂ぶりだそうだ。私もその系統の話にはある程度の知識があったので、顔を合わせる口実にもってこいだった。
 少し気まずい対面の後にすぐその話題になったのだが、針巣の知識はかなりの物だった。著名な連続殺人犯のバックグラウンド、人物像、書籍から引用したのかと思わせる程精密な心理分析……流石に「殺人オタク」と呼ばれるだけはある。所有している文献もかなりの量になるそうで、現在進行形で増え続けていると自慢していた。
 オタクというのは、意中の物が話題に挙がるといきなり饒舌になる。針巣も例外でなく、途切れがちな話し方こそ変わらなかったものの、次々に話から話へと繋げていって、私に口出す暇を与えなかった。私も知識があるとは言えども、彼には遠く及ばない事を思い知らされ、ただ聞き役に徹する事しか許されなかった。
 特に、感情の移入具合には目を見張った。犯罪心理を分析する際は高度な感情移入を要求されるというから、その点では彼に適しているかもしれない。犯人の気持ちになりきる彼は、まるで何かに憑かれたと思う程、恍惚としていた。
 彼のその感性は素直に評価できる。優秀とも言って良いのではないか。
 それに、私にとっても都合が良い。
 弾む会話が波の引き際になった頃、次が来る前に私は切り出した。

 「あ、そうだ。ついでに一つ訊きたい事があったんだ」

 次のテーマを持ち出そうとした出鼻を挫く形になったらしく、少し拍子抜けした針巣の顔が印象的だった。自分のペースを乱されて不快感を覚えた男が見せる顔だ。ほんの一瞬だったが、確かに苛立ちを含んでいた。
 それをかき乱そうというわけではないが、ストレートに突っ込んでみた。

 「サユキに好意を持っているそうだな?」

165忍と幸人 第四話:2011/04/15(金) 21:19:29 ID:vZqUPmGs
 目が丸くなった。トークに没頭していた時は落ち着いていたその瞳の動きが、また左右に揺れ始めた。
 「……何で?」と彼は小さく訊いてきた。一時は得意げに伸ばしていた背筋も、水を失った植物を連想させる様に萎れていった。売春婦に恋心を持ってしまった事を恥と自覚しているのだろうか。

 「サユキは確かにプロポーションも良いし、美人だ。娼婦と言えども、あれ程の器量の持ち主を物にできたら、さぞ鼻が高いだろうな」

 針巣は俯いて、その顔をこちらに見せようとしない。

 「彼女に再三デートのお誘いを掛けているとも聞いたぞ。周囲に女性の好みそうなアクセサリーや服を訊ねて回っていた事もな。大方、彼女への貢物だろう」

 針巣は「貢物」という一言に反応したのか、キッとこちらを睨んだ。すぐに元の様にオドオドとしてしまったが、その時に見せた鋭い眼光に針巣の本気を見た。
 この男はあの女に本気で惚れていて、何とか手に入れたいと思うあまりに己を見失っている。あの女に「これ買って」と言われれば、貯金をはたいてでも買うだろう。頼まれ事をされれば睡眠時間も削るだろう。針巣にとっての中心が全てあの女に移ってしまっている。 
 あの女に心臓を握られている。哀れな男だ。

 「……貴女には関係の無い事でしょう」

 酷く萎縮し、見るからに弱々しいその小男が、ボソボソとした小声で言った。相変わらず視線を合わせようとしない。

 「ああ、関係は無いが……娼婦の常套手段に引っ掛かったままでいるのが気の毒に思えてな」

 彼は黙った。水をちびちびと口にして、テーブルの上を見つめている。
 今、彼の中では私に対しての反発心が渦巻いている事だろう。何時それが殻を破って表層化するだろうか。
 針巣は挫けずにデートの約束を結ぼうと努力を続け、ようやくそれを取り付ける事ができたらしいと「連絡役」から聞いている。私が敢えてそれを知らないかの様に装っているのは、彼の出方を窺う為の餌だ。彼の大本の性格は分かったが、少し奥まった部分についても、僅かでも良いから確認したかった。

166忍と幸人 第四話:2011/04/15(金) 21:21:34 ID:vZqUPmGs
 針巣は実に都合よく、それに乗ってくれた。

  「でも……僕は彼女と……」

 口から洩れ出た空気の中に混ぜられた、ささやかな抵抗だった。周りの話し声やウェイトレスの運ぶ食器の触れ合う音に誤魔化されそうになるのをかろうじて聞き取る。恐らく半分近くは聞こえなかっただろうが、これで十分だ。
 内心でほくそ笑む。とりあえずは役に立ちそうだ。

 「……すまない、差し出がましい真似をした」

 テーブルに両の手を付いて頭を下げる。

 「い、いえ……」

 彼は狼狽しながら、それだけ言った。
 サユキとの話題はこれで終わりとなった。時間潰しに、また彼にお得意のトークを披露する様に促してみるが、先程の後を引いているのかキレが幾分悪くなっており、非常にやり辛そうに見えた。 淀んだ空気はとうとう清まる事もなく、その内に針巣は「この後予定があるので……」と腕時計を見せながら、逃げる様に席を立ってしまったので、そのままお開きとなった。
 夕方の町並みを眺めながら家へと戻る途中、頭の中は常に幸人の事で回っていたが、それと並行して、あの女が如何に悲惨な末路を迎えるかも妄想していた。
 あの時の針巣はきっとこう言いたかったのだろう。「それでも僕は、彼女との関係を進展させている」と。私の忠告が全く耳に入っていないか、或いは認めていないか……どちらにせよ、それが娼婦の常套手段である事に彼は理解していない。風俗やキャバクラに金を注ぎ込む男達と同類だ。いずれはどこかしらに捻じれが生まれる事だろう。
 針巣はサユキに対して、どれ程の憎しみや悲しみをぶつけるだろうか。包丁で彼女を滅多刺しにするだろうか。鈍器で頭部を潰れるまで殴るだろうか。それとも――これは一番面白くないパターンだな――ただ無様に泣きついて愛想を尽かされるだけか……。

167忍と幸人 第四話:2011/04/15(金) 21:26:42 ID:vZqUPmGs
 針巣の行動に依存する為、安定性が著しく欠けているのは言うまでも無い。それでも、針巣は上手く誘導できれば有用な駒になり得る可能性を孕んでいる。情念の拗れは殺意の源としては十分だからだ。
 確実に仕留めるのであれば、私が直接動けばそれが良いに越した事はない。あんな女一人を潰すのは雑作も無い事だ。それを避けて別の手立てを模索しているのは、ボロを出した時のリスクがあまりに大きいからだ。日本警察も国際的に見れば優秀な組織である。僅かな気の緩みが獄中送りに直結してしまう。
 その事を頭に置いてみれば、一番良いのは私ではない誰かに代行してもらう事だ。針巣は今のところ、その最有力候補であるに違いない。
 ただ、どの様に針巣を誘導するかを考えなければならない。どうやって針巣の中に眠る爆弾の導火線を着火させるかが一番の問題だった。
 傍から見れば、針巣がサユキに食い物にされているのは明白だ。本人にそれを痛感させられれば良いのだが、どの様に仕組めば良いのだろうか……。
 一番効くのはあの女の本性を見せる事か。普段自分に見せている笑顔の裏側では、自分を徹底的に搾取しようと目論む醜いハイエナが潜んでいる……だなんて知ったら、彼が信じていたモノは瞬く間に砕け散るだろう。それを手元に保管できる手段があれば……。
 ……そうだ。幸人はあの女と共に暮らしているのだ。彼に頼るのが一番簡単ではないか?
 勿論、あんな女でも幸人の母親なのだから、多分素直に話しては彼は協力を渋るだろう。彼に気付かれない様に工夫をする必要がある……。

 「おっと、失礼」

 歩行者にぶつかった。考える事に夢中になっていたせいで少しも気付かなかった。
 私とぶつかった男は私を見上げると、ヘコヘコしながら去って行った。あちらも雑誌を読みながら歩いていたので前方不注意になっていたみたいだ。
 彼の手にある雑誌に目が行く。どこかで見た事がある雑誌だと思って首を捻る。
 あれは確か……私が幸人達を尾行する前にそこら辺で拾った週刊誌だ。芸能人のプライバシーを侵害する様な内容がてんこ盛り、広告の欄では怪しい出会い系サイトの宣伝が大きく掲載されている、他愛もないゴシップ誌だ。

 「……そう言えば、あれには盗聴器についての記事があったな」

 今度の古紙回収の時に出そうと思っていたが、それはもう少し先送りとなりそうだった。

168 ◆O9I01f5myU:2011/04/15(金) 21:27:47 ID:vZqUPmGs
第四話投下終了です。

169雌豚のにおい@774人目:2011/04/15(金) 21:51:56 ID:5ZoiJc2k
GJです!!
針巣を逆上させて母親を殺させるか……まさに計画通り

170雌豚のにおい@774人目:2011/04/15(金) 22:07:22 ID:FRUSX36M
>>168
GJ!
忍さん計画的すぎだろ…なんということを……

あと、皆のリザードマンハーレムの「無かった事」感には泣いた。
俺得すぎたか………

171雌豚のにおい@774人目:2011/04/16(土) 13:56:54 ID:N.HA4Fnc
>>168
乙です

172雌豚のにおい@774人目:2011/04/17(日) 20:05:35 ID:5ZoiJc2k
次の作品投下まだかな?

173girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:25:44 ID:0tpXFGR6
girls council 第三話 投下します。

174girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:26:31 ID:0tpXFGR6

第三話

 「例え話をしましょう、鳴宮君」

 「女の子が、一人います」

 「可愛い可愛い、女の子です」

 「骨があれば肉がある」

 「肉があれば皮がある」

 「目があれば口がある」

 「心臓だって脳だってある」

 「どこからどう見ても、あなたと変わらない〝人間〟に見えます」

 「でもその女の子には〝感情〟がありません」

 「嬉しいと感じることすら、悲しいと感じることすら、痛いと感じることすらできません」

 「さて、この女の子は、はたして〝人間〟でしょうか?」

 「…………」
ふざけた話だ、と。
俺は無下に扱おうとした。だってそうだ。この俺の目の前にいる少女、篠原瑞希はいつだって突拍子もない事を言い出し、いつだって俺の事を嘲るために頭を使う。
そんな篠原がいきなりこんな事を言い出しては、また俺を陥れる策ではないかと考えるのは当たり前だった。
 「〝バケモノ〟なんじゃないのか、そんな気持ちの悪い奴は」
だからこんなぶっきらぼうな言い方で、無責任な言い方で、返答した。
 「………そう」
だから篠原の瞳を、俺はこんなにも歪めてしまったのだろうか?

175girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:27:04 ID:0tpXFGR6
俺が篠原瑞希に銃口を突き付けられてから、もう一週間、つまり、入学してから二週間も経った。
 「……………」
おかしい。
 「……………」
絶対におかしい。と、俺は心中焦りまくりだった。
何がおかしいかと聞かれれば何もおかしい事はなく〝正常〟であるのだが、俺こと鳴宮拓路と、目の前に豪華なイスに優雅に座る少女、篠原瑞希との関係は〝正常〟であることこそが〝異常〟であるために、俺は焦っていた。
……何も言ってこない、だとッ。
あの篠原が、だ。
いつも通りに生徒会室に来て、いつも通りに暇な時間を過ごしながらももう二時間は経った。もうすぐで完全下校時刻であるのに、篠原は俺に向かって何一つ言ってこない。
嘲る事も、貶す事もしない。無茶ぶりも言ってこない。
何だ、この平和。何だ、この違和感。
もしやこの目の前にいる少女は、俺の知る篠原瑞希とは別モノではないのだろうか。
偽物?
そう言った非現実的な事を考えた方がよほどしっくりくる。
暴言がない今。幸せなはずなのに、心にどこかモヤモヤ感を持ちながらも、じれったくなった俺は篠原に話しかけた。
 「なぁ、篠原」
 「死ねばいいのに」
 「即答! え、何その死刑宣告、ひどくね! でもそんな篠原にいつも通りを実感してしまう俺が一番駄目な気がする!」
良かった。とりあえず偽物ではないようだ。……良かったのか?
 「あなたの駄目さ加減に今さら気付いたのかしら」
 「……いや、俺が駄目なことぐらい、俺が一番よく知っているさ」
俺は後ろめたさからか。視線を篠原に合わせることに億劫になって、何もない、目の前の空間に焦点を合わせた。
 「そう、なら良かったわ。あなたはボタンの押せない携帯電話みたいなモノだもの」
 「そこまで駄目じゃねえよ!」
 「あぁ、ごめんなさいね」
 「……何だよ、謝るなんてお前らしく――」
「携帯電話は科学の結晶。いくらでもリサイクルのしようがあるわ。こんな埋め立てゴミと同じに扱ったらばちが当たるわ」
「あぁ今、携帯電話に謝ったのね! ……つか、人を埋め立てゴミ扱いするな!」
「ではあなたは何ゴミだって言うの?」
 「ん? まぁ、何ゴミかって言われたら……生ゴミかな……。って、違う違う違う! まず俺はゴミじゃない! お前の考えは根本から間違っているんだよ!」
 「人の考えを根本から否定するなんて、えげつないわね」
 「お前の俺に対する態度が一番えげつねえよ!」
ハァハァハァ、と。
息を荒くしそうになった俺は、あの初めて会った時の――ごめんなさい。こんなところで性的興奮をしないくれないかしら――という勘違いも甚だしい言葉を思い出して息をひそめた。ふっ、篠原。お前に同じ事は二度言わせんッ!
 「ごめんなさい。こんなところで性欲の権化みたいな顔しないでくれないかしら」
 「今度は顔を責められた! しかも性欲の権化って何? 俺そんな欲求不満じゃねえよ!」
 「……あなたが欲求不満でないことくらい十分に承知しているわ。一日に一度は〝抜いて〟いるものね。……ずいぶん〝妹モノ〟が好きみたいだけど」
ピタッ、と。世界が停止した。
 「…………………………………ちょっと待て、お前が何故知っている?」
やばい、冷や汗が止まらない。
 「乙女の感よ。分からないことなんて無いんだから」
 「半端ねえ、乙女の感!」
 「半端ないのは……昨日のあなたの股間の膨張率じゃないかしら」
 「や、やめろ」
 「ちなみに昨日は……〝お兄ちゃん、私がしごいてあ・げ・る 〜発育しすぎた妹に迫られる兄〜〟だったかしら」
 「やめろおおおおおおおおおおおおお! そんなことにお前の中にある数少ない乙女を使うなぁあ!」
え、ちょ! 何で知ってんだよお前はああああああああ!
俺ちゃんと確認したぜ! 周りに誰もいないことを確認してから〝して〟たぜ!
部屋にも鍵かけたし。カーテン閉めたし。
どんな透視機能が付いてんだよ、乙女の感!

176girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:27:33 ID:0tpXFGR6
………………、とかなんとかそんな感じで。
乙女の感と呼ばれるプライバシーを無視した未知の特殊能力について、俺は思考の半分以上を使用していたのだが…………………うん。やっぱりおかしいな。
頭の片隅で、そう俺は素直に思えた。
出会ってから一週間。相手を知っていると言うにはまだ早すぎる期間。
だから俺は篠原の癖や本質まで知っているわけではない。
今俺が篠原で知っている事と言えば、見た目や表面上の人との接し方だけだったりするけれど。ただそれだけで、本当の篠原を知った気にはなれないけれど。
でも、それでも。
今篠原が〝機嫌が悪い〟ということぐらい、俺にでも分かった、読み取れた。
だから。
 「何でお前機嫌悪いんだよ」
率直に聞いてみた。
先ほどまで性欲とか話していたのが嘘みたいに。真剣なまなざしを、篠原に向けて。
 「やめて」
 「…………何を?」
篠原の拒絶的単語に、俺は端的に聞き返した。アホ毛を一房、揺らしながら。
 「〝気持ち悪い〟」
 「……あのな、篠原。こっちは本当に心配して―――」
 「そうじゃない。あなたの容姿的な意味で、言ったんじゃない。私はあなたのその卑屈な態度に言ったのよ」
 「卑屈? 俺がか」
 「そうよ。だってよく考えてもみなさい。あなたは〝何もしていない〟のよ。それなのに、あなたはそんな下手にでて……。本当はあなた怒っても良いのよ。こんな生徒会にいきなり引きずり込まれて、私にいろいろ言われて……霧島とも何かあったみたいだし。それにあなたは、いつだって…………………あの時だって」
最期の方になると、篠原の声はしぼんで聞こえなくなってしまったが、そんなことよりも。
俺は篠原が、ここまで弱気な言葉を発するのを初めて、いや、初めて会った時にもあったし二回目か、に見たので、はっきり言って拍子抜けしていた。
 「お前……自覚あったのか」
 「自覚しても行動に移せない事もあるのよ」
 「ん……あ、あぁ、そ、そうか」
 「…………………」
 「…………………」
一気に部屋が気まずくなってしまった。
俺は篠原を見ている事が出来なくなって、視線を外し、部屋内のあちこちに視線を転々とさせていた。そのまま二分ほど経過したところで、
 「………………………………ぼそぼそ」
もうすぐ完全下校である事に気付いた。
 「ぼ、そ……ぼそぼそ…………………ぼそぼそぼそッ!」
だから俺は、そろそろ帰ろわ、とかいう無難な話題で、この気まずい雰囲気を消そうとしたんだ。
 「な、なぁ、篠原……そろそろ俺〝帰るわ〟」
 「ぼそぼそぼそぼそ……………ッ! か、カか、か、かエる?」
 「あ、あぁ……うん」
したんだが。
どうも篠原の返答がおかしい。なんだか、すごく何かを怯えているようで、すごく驚いたようで、すごく……泣きそうな、そんな感じの返答だった。
それに、さっきからぼそぼそぼそぼそ、何か独り言を言っているようなのだが、聞き取れない。そんな変な点が重なった俺は、篠原の方に振り返ってみることにした。
 「嫌、やだ、やだよぉ」
でもそこには篠原はいなかった。
正確には、俺の知っている篠原瑞希はいなかった。
 「し、篠原?」
 「やだ、やだよ。行かないで、行かないで……拓路君。ごめんなさい。謝るから……、ごめんなさい、謝るから。ごめんなさい、謝るから! 今までの事、全部謝るから。全部全部謝るから。だから………えぐっ……き、きりゃいに、な、にゃ、にゃらないで」
ぎゅ、っと。
俺の制服の袖の裾を、小さく掴む篠原。
顔は伏せていて見えないが、身体が小刻みに震えている事や、途中途中に言葉が乱れることからも、泣いているということは明白だった。
いつもの威厳ある、クールな篠原とは全く別の、真逆の態度。
いつもは寅みたいなくせして、いまは親からはぐれた子猫みたいだった。
 「いつも、いつもいつもいつもいつもいつも。た、拓路君は、か、かか、勝手に帰って……いつも私のせいだって、わ、分かってるのに………………。ご、ごめんにゃ、ごめんなさい。謝るから何だってするから。あの時の事だって、しっかりゆうから。き、きりゃわないで………お願いだから」
 「あ、の……と、とりあえず、落ち着こうか。はい、深呼吸をしよう」
俺は篠原の態度に焦っていたから、あの時とか、拓路君と呼び方が変わっている事にも気付かなかった。
とりあえず、篠原を落ち着かせるのに夢中で。
ただ夢中に、篠原背中を撫で続けた。
 「大丈夫、俺はどこにも行かないよ」
とかなんとか、格好をつけたセリフを口から出しながら。

177girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:28:12 ID:0tpXFGR6
 「もう、大丈夫なのか?」
 「……………えぇ。格好の悪いところを見せてしまったわね。早く忘れてちょうだい」
 「………いや、あれだけ衝撃的なモノを忘れるなんて―――」
 「忘れなさい」
 「…………はい」
結局。
下校時刻も過ぎて、運動部の声が外からしなくなった頃。
篠原は泣きやんだ。と、思ったら、いきなり元通りの篠原に戻った、と言うわけだ。
何事もなかったかのように、ぴたりと。
……本当に、さっきのは何だったのだろうか。
 「では、帰りましょうか」
 「あー、あぁ。そうだな」
踵を返した篠原は、帰り支度をし始める。
それに合わせて俺の方も支度をし始めた。
 「………………なぁ、篠原」
 「なにかしら」
泣いたことで、少しすっきりしたような声をあげた篠原に、俺は二つの事を言ってやることにした。
 「二つ、言いたい事がある」
 「…………なにかしら。愚図ってないで早く要件を言いなさい。時間の無駄よ」
 「じゃあまず一つ目。この間の……ほら、女の子の話に対する回答」
 「あなたは〝バケモノ〟だと言ったじゃない。気持ちの悪いと言ったじゃない…………それがすべてでしょ」
 「あー、ごめん。それ撤回するわ」
 「………じゃあ、あなたは何と回答してくれるのかしら」
二人とも、帰り支度をしているので目は合わせていない。
声のコミュニケーションのみだったが、篠原が興味を示しているの手に取るように分かった。
 「その女の子は、感情がないことはないと思うぜ。だってそんな〝普通〟じゃない〝異常〟な女の子の近くには、いつだって優しい主人公の男の子がいると思うからな。女の子の悩みの種に主人公がぶち当たって、女の子を助けたりしたときなんかに、女の子は感情を――〝恋〟を知るんじゃないのか? それが〝異常〟な女の子の〝普通〟の話だろ、違うか?」
 「ッ! …………え、えぇ。その通りね。本当に、その通りだわ」
何か思い当たる節があったのだろうか?
強く篠原は肯定した。
 「そして後もう一つ。篠原、お前勘違いしてるぜ」
 「勘違い……この私が?」
 「おう。さっきお前言ったよな、本当はあなた怒っても良いのよ。こんな生徒会にいきなり引きずり込まれて、私にいろいろ言われて……とかなんとか」
 「確かに言ったわね。……その通りでしょ」
 「違う」
俺ははっきりと、そう、断言した。
それに驚いて、篠原は俺の方を向いてきた。俺も篠原の方を向いた。
二人の視線が、互いを捉えた。
 「お前の考えは根本から間違っているんだよ」
 「人の考えを根本から否定するなんて、えげつないわね」
 「そうだよ、俺はえげつない」
さっきも同じ様なことを言ったが、今回は終着点が違う。
俺は認めた、自分がえげつない事に。
 「俺は最初に言うべきだったんだ」
 「何を?」
 「お礼を、さ」
 「ッ!」
篠原の瞳に、揺らぎが生まれる。
 「俺は、さ……親父の事とか、中学の時の一件で、その……誰とも話せなかった。寂しかったし、つらかった。………でも、お前は違った」
 「……………」
 「篠原は、俺に、話しかけてくれた。噂を知らないわけがないのに、それでも……俺に生徒会と言う居場所を、人とふれあう場所を作ってくれた」
そして、この後に続く、おれの〝ありがとう〟の言葉。
ただの五文字の言葉なのにどこか恥ずかしくなった俺は、篠原から視線を外して、多分、真っ赤になった顔で、言った。
 「だから、そ、その……ありが―――」
 「大丈夫」
しかし、俺の言葉は、俺の唇は、篠原の人差し指によって止められた。
「そこから先の言葉は――――もう、一度聞いてるから」
 「一度? 何の事だ?」
 「何でもないわ。ただの……乙女の感よ」
そう言って篠原は、柔和な笑みを浮かべた。
それはそれは、今まで見た事のないような、可愛らしい、年相応の笑みで。
……やべえな。めちゃくちゃ可愛い。
こうして俺の一日は幕を閉じた。

178girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:28:37 ID:0tpXFGR6
そして俺は、気付いた。
嫌で。
本当に嫌で、目をそらしていた事―――今日の日付。
六月二十九日。もうすぐ夏が来る手前。
そして、今日が親父の釈放の日。

――――――六月二十九日、親父は死んだ。

 「拓路、お前の見ている世界が違うことに気がつけ! いいか、お前の傍にい――ガハッ!」
約十年ぶりに外に出られた親父の、電話口に聞こえた死ぬ直前の奇妙な言葉と、
 「えっへへ〜。にぃにぃ〜………………これでやっと、ね。二人っきりだ」
親父の葬式中に、俺にすり寄ってきた美帆の無気味な笑いは、何を意味していたのだろうか?
俺には、分からなかった。
分かりたくも―――なかった。
梅雨が止んで、暗い雰囲気をすべて打ち払ってくれると信じていたのに。
これから、俺の心が、闇に病んでいくことになるなんて――――――


――――――――この時の俺は、自分の周りで何が起こっているのかを、まだ知らなかったんだ。

179girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/18(月) 00:29:05 ID:0tpXFGR6
終了です。
ありがとうございました。

180雌豚のにおい@774人目:2011/04/18(月) 04:08:48 ID:FRUSX36M
>>179
GJ!
コメディタッチのスタイルは苦手なので、
こういうの書ける人はすごいと思います。
…これもひとつの才能か。

181雌豚のにおい@774人目:2011/04/18(月) 10:41:27 ID:N.HA4Fnc
>>179
乙です

182雌豚のにおい@774人目:2011/04/18(月) 12:33:07 ID:vlvLZIkc
ギャップ萌えだ

183 ◆aUAG20IAMo:2011/04/18(月) 15:08:33 ID:KrQclMBs
久しぶりに書けたので投稿します

184弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 9:2011/04/18(月) 15:09:30 ID:KrQclMBs
なんだか、みんなおかしい
僕に何も言わずにエリスちゃんを連れて行ったエレキインセクトたちも
なにか……何と言っていいのか分からないけど、無理に背伸びしようとしている姫も、なんだかおかしい
さっきまであんなに元気だった姫が突然医務室に運ばれたという報告を受けたのも、何かおかしいと感じたことの一つだ
確かに何も相談無くエリスちゃんを連れてきたのはちょっとまずかったかもしれない
まだ結婚なんて露ほども考えていないし、隠し立てするつもりも無い
けれども、みんなは何かを僕に隠している
ポイズンタイガーたちはみんな口が堅いし、隠していることを喋らせるのは到底無理だろう
唯一口の軽いエレキインセクトも、ミリルさんが横にいればお手上げ。何を隠しているのか聞き出すのは困難
だったら、お見舞いついでに聞き出そうと思って、今僕は医務室の前にいる
伝令烏の言うには軽い貧血のようなものみたいだし、大丈夫だとは思うんだけどね

「姫、僕だよ」

軽くノックをして、返事が無いのを確かめてから入る
案の定、姫は眠っていた。人も魔族もちゃんと眠れているのは健康な証拠だと言うし、ちょっとだけ安心する
聞き出す事はできないにしても、愛娘がちゃんと休めているのは親として素直に嬉しい
それに急ぐことも無いだろう
僕の仕事は今のところ無いし、ここで姫が起きるのを本でも読みながら待っていてもいい

「…………?」

いや、変だ。何かおかしい
前髪を少し撫で付けた時に感じた姫の寝息が不規則と言うか、妙に荒い
僕は何の力も無いから、有事の際はせめてみんなの邪魔にならないようにと、ちょっとした救護の方法くらいは心得てる
もっとも魔族専門の方法だから人間の姫に当てはまるのかは分からないけれど、姫が狸寝入りしてるんだってことはわかった

「姫ー、寝たふりしても分かるよー。起きなさーい」

柔らかいほっぺたをぷにぷにつついてみる
あ、ちょっと笑った。間違いなく起きてるよ
そういえば、最近色々と忙しくてこんなふうに二人でいる時間っていうのはあんまり取れなかったな
よく手入れされて指通りのいい髪に触れながら、ぼんやりと思う

そんな時だ、急に上体を起こした姫が、僕に口付けてきたのは

185弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 9:2011/04/18(月) 15:09:59 ID:KrQclMBs
いけないとは思いつつも、姫と唇を重ねるのは珍しいことじゃない
いや、むしろしない日のほうが少ないかもしれない
ちょっと前までは、いつまでも甘えん坊だなあと思って許されていたこと
だけど姫ももう16歳だ
もう自分の意思で好きな人を決められる年齢だし、もしかしたら僕自身も結婚するかもしれない
もうそろそろ、この過ぎたスキンシップをやめにするべきだろう

「離れなさい」

キスを終えても、僕を見つめたまま背に回した腕を放そうとしない
こんなふうに命令するように言ったのは初めてかもしれない
大事な愛娘だからとちょっと甘やかしすぎちゃったかな
優しく素直で、みんなに愛されている姫
その姫にこんなことは言いたくないけれど、もうそろそろ父親である僕から自立しなきゃいけないんだ
それでも僕から離れようとしないから、ちょっと無理矢理肩をつかんで引き離す
……みんなからは僕は姫よりも弱いと思われてるみたいだけど、力は僕のほうがあるらしい
女の子と比べてる自分に情けなくなるけれども、ほんの少しだけ安心している僕がいた

「姫、もうこんなことはやめよう」
「こんなことって何? 抱き合うこと? キスすること? それとも……こういうこと?」

突然強く僕の腕を振りほどいた姫の顔が僕の肩に乗る
そして尖った八重歯が首筋の皮膚を破り、痛みが走る

「イッッ!!」
「やるもんか、やるもんか……魔王様の髪の毛一本血の一滴だって、あんな女にあげるもんか……」
「痛いよ! 姫やめなさい!」
「ボクのだ……魔王様は、お父様は全部ボクのなんだ。ボクだけのお父様なんだっ!」

血が流れだすと歯が首筋からはなれて、かわりにぴちゃぴちゃとその血を舐めとる音がする
その背徳的な淫靡さに、僕は動くことができないでいた

186弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 9:2011/04/18(月) 15:10:24 ID:KrQclMBs
「……姫、どうして、エリスちゃんのことを知ってるの?」
「お父様の鞄に入っていた手紙を見たの。あの女の父親からの」

うかつだった
そんなものが入っている鞄を姫に渡した僕のミスだ
できるものなら数十分前の自分を殴って気づかせてやりたいくらい
それでも、そんな後悔をしても事態が好転するはずも無く、無常にも姫の言葉は続いていく

「ねえ、お父様はなんであんな女を連れてきたの?
 ボクがいるのに。僕はお父様のためだったら何でもできるのに
 娘がほしいのだったら、ボクがなってあげる
 結婚したかったのなら、ボクがお嫁さんになってあげる
 自分の子供がほしかったのなら、ボクがお父様の子供を生んであげる
 それとも、あの女じゃなきゃ駄目なの?
 誰よりもあなたを愛している、ボクじゃ駄目なの?」

首に舌を這わせながらの声に、何も言い返せない
僕の自慢の可愛いお姫様。それでも、この娘を怖いと思ったのはこれで二度目だ
最初はそう、姫が自分の本当の父親と姉を殺した5年前、血に染まったエントランスホールでの出来事
あの時と同じ感情を、今の姫に対して感じていた

「落ち着いて。僕たちは、父娘なんだよ」
「うん。ボクはお父様のこと大好きだよ
 でも、お父様としても、男性としても、ううん、あなたの全てを愛しているの
 だからあの女は許せない。お父様をボクから奪おうとする、あの女だけは」

そう言って、スカートの中から何かを取り出してくる
ほんのりと光を帯びた乳白色の短剣
昔、一度だけ見たことがある短剣
ああ、もう二度と見たくないと思っていたあの短剣
それは、ポイズンタイガーの牙から削り出した、あの猛毒短剣だった

187弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 9:2011/04/18(月) 15:11:02 ID:KrQclMBs
「お父様、抱いて 
 お父様にボクを女にしてほしいの。そうすれば、お父様はボクとずっといっしょにいてくれる
 死が二人を分かつまで。死んでからもずっと、離れることはなくなる
 そうでしょ? お父様は、初めて女の子になった娘の、責任とってくれるよね?」
「……………………」

僕は、どうすればいいのだろう
姫の手には、ほんの毛筋ほどの傷で死に至らしめる短剣
それが忌々しいくらいキラキラと光っている
結局のところ、僕に許された選択肢は二つだけ
ここで姫といっしょに死ぬか、姫を抱くか、そのどちらかしかないみたいだ
正直に言えば、どっちも嫌だ
死ぬのは論外だし、今までずっと娘だと思っていた子を僕の手で女にするなんて許されるはずも無い
……僕としても、初体験が娘となんてちょっと……その……あの、ねぇ……
たしかに、姫は女の子としての魅力はある
細い体と綺麗な金髪、おっぱいもお尻も小さいけれど、それでも美しい姫だと思う
これが娘でさえなければ、僕だってこんなに葛藤することも無かったろうに
そして姫は下を向いて悩む僕に抱きついたまま、片手で器用に僕のシャツのボタンを外していく
それがいけないことだと思いつつも、その手を払う勇気はどうしても出せなかった

「はぁ」

最後に僕ができる精一杯の抵抗は、わざと大きくため息をつくことだけ
もっとも、姫がそんなものを意に介するとは思えないんだけれどもさ

188 ◆aUAG20IAMo:2011/04/18(月) 15:14:02 ID:KrQclMBs
投降終了です
かなりブランクがありましたので、以前の文章と違和感を感じるかもしれませんが
もしもそういったことがありましたらすみません

189雌豚のにおい@774人目:2011/04/18(月) 20:45:17 ID:FRUSX36M
>>188
GJでした!
姫をください。

190雌豚のにおい@774人目:2011/04/18(月) 20:58:48 ID:i5mwzWWw
GJでした
久々の投下嬉しいです

191雌豚のにおい@774人目:2011/04/18(月) 21:01:39 ID:P43ZorVU
GJです
久々で内容忘れてしまった……!orz

192雌豚のにおい@774人目:2011/04/18(月) 22:01:12 ID:TIQ7am/o
待ってました!姫様も本格的だな。そろそろ、第3のピークに入りそうだな

193雌豚のにおい@774人目:2011/04/19(火) 10:39:14 ID:N.HA4Fnc
>>188
お久しぶりです
乙でした

194避難所管理人★:2011/04/19(火) 17:45:15 ID:???
IDを日付制に変更しました。
試験的な導入ですので、荒れるようなら予告なしで戻すこともありえます。

流れが怪しくなってきた場合には「感想・批評用スレ」への誘導をお願いします。

195雌豚のにおい@774人目:2011/04/20(水) 13:33:49 ID:EooS0LxM
乙です

196雌豚のにおい@774人目:2011/04/20(水) 22:16:19 ID:0LBmWeSg
>>194
管理乙です。

197雌豚のにおい@774人目:2011/04/22(金) 12:03:24 ID:P2OMf7Rs
次の作品投下まだかな?

198深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/04/23(土) 02:08:16 ID:E6QwOv/U
作品投下します。

199深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/04/23(土) 02:08:35 ID:E6QwOv/U

第四話

今日は記念すべき出発の日だ。
東日がやっと顔を出したくらいの早い時間帯に、修練場に集合しているミューと俺。
他の三人はまだ来ていないようで、先生は「渡島準備じゃ」とか言って、
俺が来たのを確認するとどっかへ出かけて行った。

ミューは隣でわくわくしながら熱く菱島の事について語っていた。
正直かなり眠く、頭が回らないので、あまり話を聞く気がしないが、
ミューの上機嫌さを見ていると、軽く受け流してしまうのも悪いなと思い、
ある程度質問や受け答えをしてやる事にした。

「あのね、お兄ちゃんっ!菱島って正式名称じゃないんだよ。
菱形をした島だからそう呼んでるだけだって。本当は『凱苑』って言うの」

「へぇ〜」(知ってるけど・・・)

「銀髪の人たちが先住民さんとして住んでいたのだけど、
百五十年前に大飢饉が発生したの。
これは神様の怒りに触れたからだって。
それで豊かさを求めて、東にある大きな本島、
黒髪の人たちが住むここ陽ノ国列島に多くの先住民さんが移り住んできたの。
それで一時期、菱島は人口不足になっちゃたんだけど、
軍事的な迫害から逃れてきた
紫髪赤眼のヴェイルハマ人さんが定住するようになると、
菱島は復興し発展しはじめ、たくさんの民族が住むようになったの」

「へぇ〜」(知ってるけど・・・)

「もともと菱島は陽ノ国の文化圏だったから、
便宜のため、みんな陽ノ国語と自国語を喋るようにしてるんだよ。
でもね、いろんな民族街があって、それぞれで文化を大切にしてるよ。
ちなみに、先住民さんより、ヴェイルハマ人さんの方が力が大きいよ。
すごく商売が上手で、頭がいい人たちなんだって。
だから、菱島の一番偉い人はヴェイルハマ人さんなんだよ」

「へぇ〜」(知ってるけど・・・)

「あ・・・もしかしてうるさかったかなぁ・・・?」

どうやら、つまらなそうにしてるのがバレたようだ。
いや、厳密にいえば眠いからなのだが。
取りあえず謝る。
「ごめん、ちょっと眠たくてさぁ。
今日の事いろいろ考えていて全然昨日の夜寝てないんだよ」

ミューはうんうんと頷ながら賛同した。
「お兄ちゃんも?私だけじゃなかったんだぁ〜。
生まれ育った故郷を離れるってきっと辛い事だよね。
それに私、この町出た事すらほとんど無いのに、
遠い遠い見知らぬ町へ行くんだもの・・・不安でしょうがないの・・・」

「一人で行くわけじゃないだろ。
先生も俺も向川さんも、紅子も銀次郎もいるじゃない。
なーんにも怖い事なんかありゃしないよ」

「うん・・・みんながいるものね、ありがとうお兄ちゃん。
あっ、励ましてくれたお礼にって言うのかな・・・嫌じゃなかったら、
私の膝を枕に使って・・・下さい・・・ダメ・・・?」
ミューはちょっと照れくさそうにひざまずきをする。
柔らかそうなふともも・・・じゃ遠慮して・・・って、じゃないじゃない。
妹の膝枕で気持ちよさそうに寝ている姿なんて
誰かに見られたら恥ずかしくてしょうがないし、先生がいつ帰ってくるかも分らん。

「寝心地良さそうだけど・・・一度寝たら、起きれないかも。
遠慮しとくわ、また今度お願い」

「あのね、先生なら当分帰ってこないよ・・・お隣(小琉ノ町)に行くって」

「そうなのか・・・つーかなんでわざわざあっちまで行くんだよ。

200深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/04/23(土) 02:09:47 ID:E6QwOv/U
港ならすぐそこだろ」

「転送師さんを迎えに行ってるんだよ」

な、な、なんとナント何と。船で行くとばかり思っていたが、転送術とは。
「おいおい本当かよ!最近失敗事故があったじゃん。
なんでも、頭の上半分だけどっかに転送して、その人死んじゃったらしいじゃん!」

「でも・・・失敗する方が珍しいから、大丈夫じゃないかなぁ・・・。
お兄ちゃん、不安なの?」

「ああ・・・不安で落ち着かねぇ、体が半分になるかも知れないんだぞ。
ちくしょう、逃げる事は今更できんよなぁ。
あっそうだ、目でもつぶって他の事考えればいい!
そうすりゃあ、少しは気持ちを沈められるよな!?よしっ、早速・・・」
そう自分に言い聞かせて、人べんが付く漢字を考える事にした。
信、仕、任、伐、儚、仇・・傾、偕、使、依・・・仔・・・便・・偲・・・・
伺・・・・・係・・・・・・・・・むにゃむにゃ・・・もうむりぽ・・・。


「お兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ・・・・もしかして眠てる?」
すやすや寝てしまっています、これぞ早技です、びっくりです。

お兄ちゃんは壁にもたれ掛ったまま静かな寝息を立てています。
ものすごく可愛い寝顔で、よだれが垂れてきそうなくらい大きく口を開けています。
いつ見ても愛おしく感じます。
このまま眠ってしまっては、首を痛めるかも知れないので、
お兄ちゃんのそばまで寄って正座をして、
ゆっくりと慎重にお兄ちゃんの頭を私の膝の方に倒して、膝枕の形にします。

ぐっすり眠ってしまっているので、
今なら口付けをしても、ほっぺをぷにぷにつついても、
びっくりされる事はなさそう。
はぁ・・・お兄ちゃんを見ていると心がなごみます。
優しくて、強くて、かっこよくて、頭がよくて、なにより私を愛してくれている。
そんな人が私の膝で眠っているのに、どきどきしないわけ無いじゃありませんか。

・・・・・・・あっ、お兄ちゃんよだれが出てる、拭かなきゃっ。
拭き物が手元に有りませんでしたので、ためらわず中指でそっとすくいます。
わっ・・・お兄ちゃんのよだれ・・・どうしよっかなっ。
服で拭きとるのは行儀が悪いし・・・うん・・・仕方ないよねっ。
お兄ちゃんが眠りの底にいることを再確認して、
中指に付いたよだれを口の中でじっくり味わい・・・いやっ、
私ったらなんてふしだらな行為を。
あんっ、ごめんなさい、でもこれは仕方のないのです。
難しく言えば、必然的なる本能的衝動なのです。
はぁん・・・このよだれ、お兄ちゃんの味、
ねっとりとほのかに温かく濃密な蜜の味。
きっと、激しい接吻だともっと凄いんでしょうね、
頭がくらくらするようです、あっ、これは小説からの知識です。
お兄ちゃんにしてみれば、兄妹の関係にある私が兄の近くでイケナイ事をして、
性的な事を考えているなんて夢にも思っていないのでしょうね。
なんだか騙してるみたいで心苦しくもありますが、
なんだかちょっと興奮します、背徳感のある行為だからでしょうか・・・。

複雑な気分になりながら、お兄ちゃんの頭を撫でていると、
艶やかな黒が窓の外に見えたような気がしました。
私が目のまたたきをする間もないほどの時間で、
正面入り口から、綺麗な黒髪をなびかせてあの人が突進してきました。

「あわわわわっ、おっ遅れて申し訳ない!一生の不覚!
罰として同行を認めないというのはご勘弁願いたいっ!
次回からはこのような規律を乱す行為を起さぬよう努めるゆえっ!
であるからっ・・・うんたらかんたら・・・かくかくしかじか・・・」
異常な身のこなしで、眼前に現れたのは紅子お姉ちゃんでした。
かなり慌てながら、事情を力説しています。
とりあえず、お兄ちゃんと私しか集まっていない事を説明して、
お姉ちゃんに落ち着いてもらいます。

「あ・・・あのねっお姉ちゃん、ちょっと聞いて・・・」
私の声が小さい事、
お姉ちゃんが詫びの姿勢になりながら訴えている事とが相まって、
なかなか私の存在に気付いてもらえません。

201深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/04/23(土) 02:10:22 ID:E6QwOv/U

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・やっと気付いてくれたようです。

「おやっ、深優ちゃんそんなとこに!・・・って、なぜに膝枕っ!?」

えっとぉ・・・なんて説明しようかな。
あ・・・お姉ちゃん、大きな声出しちゃダメぇ。
「お兄ちゃん起きちゃうから、ちょっとだけ静かに・・・あっ・・・」

「先生来たかぁ〜〜むにゃむにゃ・・・来てないならあと五分・・・、
なぬ!?一体どういう状況なんだ俺!」
わっ、お兄ちゃん飛び上がるように起きちゃいました。
もっとお兄ちゃんの髪を撫でていたかったです・・・。

お姉ちゃんは顔を膨らませて不機嫌に。
「ボク、キミを見損なったよ。
年頃の妹に膝枕を強要するなんてねっ。ふん〜だっ!」

身に覚えのない疑惑をかけられたお兄ちゃんは当然焦ります。
ごめんなさい、お兄ちゃん。
「いやいやいやいやっ、これはおそらく誤解だよ。
起きたばっかだから、自分でも意味がわからないというか」

「助平な人はほっといて、深優ちゃん、先生まだかな?」
お兄ちゃんの弁解は流すようです、ちょっとかわいそうです。

「えっ、うんっ。
朝早くから隣町にね、転送師さん呼びにいったみたいなの」
と言った瞬間、お姉ちゃんの顔が引きつりました。

「て、て、て、て、テンソウ師・・・あわわわわっ、転送師っ!
うわ〜〜〜、ボクてっきり船で行くのかと思っていたよっ。
ボクんちの近所のおじさん、
それやって頭が半分くらいごっそり無くなって死んじゃった!
そんな危険な事を朝っぱらからやるなんてねっ、ガクブルだよっ!ぶるぶる」

「でも・・・失敗する方が珍しいから、大丈夫じゃないかなぁ・・・。
お姉ちゃん、不安なの?」
さっきもこの台詞を口にしたような気がします。

「そうさっ、失敗なんてするわけないもんねっ。
ねっ深優ちゃん!?
挑戦する前からおどおどするなんて、カッコがつかないじゃないか。
・・・うう、でも手の震えが止まらない・・・はっ!そうだ。
いとへんのつく漢字を考えよう、うんっ!それがいい。
よぉし行くぞう、始め!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんにも浮かばないや・・・」

「馬鹿すぎだろ、自分の名前はどうした」「変態兄に言われたかぁないやいっ!」

「変態でもなんでもいいから、この事は口外すんなよ、本当頼みますわ」

「へ〜んだ、どうしよっかなぁ〜〜、うひゃっ!そうだ。
キミに贖罪の機会をくれてやるっ」

「うわっ、めんどくせぇ話に発展したなぁおい」

「もし、庭で斬り返しの受け役をやってくれるんであれば、
眠っているふりをしながら、
実は深優ちゃんのおっきな胸を至近距離で見上げ、
『すげぇー、ミューのおっぱいでか過ぎてミューの顔が見えねぇ、
これならこっちの顔も確認できないだろう、しめしめ』って考えながら、
巨乳を満喫していたことは言わないであげてもいいよっ」

「え〜と、どこから突っ込めば良いのやら」

そうなのお兄ちゃん・・・?私、心の準備がまだ・・・でも嬉しい・・・。

「ほーら、深優ちゃん赤くなるくらい怒ってるじゃないかぁ、謝らないとぉ」

「どー見ても、照れているように思えるのだけど」

二人ともはずれ・・・興奮してきちゃったから赤くなってるの、ふふ・・・。
あのお兄ちゃんが私をし、し、視姦しているなんて。
言ってくれれば脱いだのにっ・・・、触って貰っても全然構わないのに・・・。
膝枕という、ほのぼのとした光景の裏で、こんな事が・・・。
もう落ち着いて膝枕してあげられなくなっちゃいます、
はあん、体が疼いてきちゃった・・・はぁ・・・いけないいけない。
いつまでもひとり妄想の世界にいちゃだめ、会話に参加しなくちゃ。

202深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/04/23(土) 02:14:28 ID:E6QwOv/U
終了です。
病み部分が少なくて申し訳ない。
これからヒートアップしていくつもりですので、しばしお待ちくだされ。

>>188
いい仕事してるねぇ。戻ってきてくれてうれしいよ。

203通りすがりの駄文ライダー:2011/04/23(土) 10:50:17 ID:VrXj/TMc

みなさん、おはようございます。

今まで、読むの専門でしたが物語を書いてみようと思い駄文で書きました。

文章はかなり森見登見彦さんの文章に近いっていうか劣化コピーのような駄文になっています。

あらかじめご了承下さい。

なお、上中下となると思います。

タイトルは「本日も監禁日和Act:太郎」です。

では、駄文投下します。

204本日も監禁日和Act:太郎 1◇通りすがりの駄文ライダー:2011/04/23(土) 10:57:45 ID:VrXj/TMc


「目が覚めた?太郎?」

聞きなれた声なのに別人の声のように聞こえるのはたぶん、気のせいだろう。

「太郎が起きないから寝てる間に太郎の事縛っちゃった」

僕の体がベッドに縛られているのも気のせいだろう。

「痛くない?大丈夫?」

もう分かってしまってる自分が嫌だ。

だけど、このままで居たいし僕は彼女を彼女が僕を愛するように、イヤ、それ以上に愛している。


「じゃあ、しようか?」

長い黒髪を腰あたりまで伸ばし「彼女こそが大和撫子!!」と学校中の男が声を合わせて言う。(教師も含む)

みな、朝に挨拶されただけで一日中鼻の下を伸ばし続け、
昼に挨拶された者は5、6時間目の授業など全く手につかずその日の内に告白し玉砕し帰りに初めて煙草を吹かそうとする。
夜に挨拶された者は制服じゃなく私服の彼女を見てその美しさにその夜に己の股をまさぐる。

なぜ、そう分かるかって?僕もその中の一人だったからだ。


なぜ、その一団から抜け出せたのかと言うと僕は彼女の幼なじみというアドバンテージを持っていたのだ。

周囲に居たクラスメイトたちには口々に「お前なんぞの彼女にはもったいなさすぎる。」「俺の方が絶対に幸せに出来る等の罵詈雑言が飛んでくる。

最初は気にしていなかった。

だが、時が過ぎるにつれ僕の心の中にまるで加熱しすぎたカレーのようにふつりふつりと怒りが込み上げてきた。

「こんな蛆野郎どもに僕の可愛い可愛い彼女を幸せになど出来るはずない。」
気付けばそう思っていた。

僕は彼女に依存し狂ったような愛を持ち始めていたのだ。


そして…来たる今月のエイプリルフール。

僕は彼女にこの地下室に閉じ込められた。

理由は…


「外にはいっぱいいっぱい太郎を狙う害虫がいるから私と一緒に居ないとダメなんだからね?」

彼女はいじめられていた。

理由は、僕と付き合っているからだ。

エイプリルフールの日、僕は彼女をいじめているリーダー格のドブスを呼び出し話の決着をつけようとした。

それは、期末考査なみの苦戦を強いると思われていた。

しかし、小テストのように話はあっさりと決着がついた。

彼女はいじめをやめると言ったのだ。

僕は心の中で勝訴と書かれた半紙を堂々と見せ付けるように掴み世界中を駆け巡った、これが本当の堂々巡りである。

「でも…」

でも?その言葉により僕はウイニングランを止めた。もうちょっとで一周周りきれたのだが…
少し不機嫌になった。

そして、ドブスの口からこんな言葉が放たれた。

205本日も監禁日和Act:太郎 2◇通りすがりの駄文ライダー:2011/04/23(土) 11:00:35 ID:VrXj/TMc




「あなたが私と付き合わないと優里へのいじめをやめないわ」
「ふざけるな!!」

僕は少しの間も開けずそのふざけた言葉に「ふざけるな!!」と返した。

今ほど「ふざけるな!!」と使うのに適した状況は他にないと思う。

優里は無論、僕の彼女の名前だ。

ドブスと言ったが彼女は見た目はドブスではない。

そう、見た目だけは。

見た目はハーフのような金髪を肩まで伸ばして顔には余裕たっぷりの笑みを浮かべている。
周囲の男ども(無論、教師も以下略)は罵られたいというマゾヒストな考えをもっていた。

僕は全くそんな事は思わなかった。
可愛く美しい彼女が居るからだ。

しかし、高飛車な金髪女は僕にこう話しかけてきた
「あなた、面白い男ね。
あたしの彼氏にしてあげ「嫌だ。」なんですって!?」

金髪はヒステリックな金切り声をあげた。

その後の僕の言葉がいけなかった。

「僕には君とは違って品のある美しい彼女が居るんだ。」

「だから、君の彼氏になんてなりたくない。」

彼女は近くの机を蹴飛ばしどこかに走り去っていった。

その後、蛆虫(クラスメイト)が数を束ねて僕を襲ってきたがもっとも僕と彼女の仲を引き裂こうと必死だった下衆をひたすら椅子を使って殴った。

取り巻きもだんだんボロ雑巾になっていく下衆を見て逃げていった。

彼は、椅子恐怖症になり学校を去った。

僕は正当防衛を主張しなんとか停学を免れた。

椅子を手にもっていたおかげかもしれないが…

それが、3月の始めたりのお話。

その日から金髪女とその取り巻きの優里へのいじめが始まった。

我が校は1月から一学期が始まり6月の末に一学期が終わる。

そして、2ヶ月の夏休みを経て9月10月11月と3ヶ月を二学期とする二学期制度である。

大学へはそのままエスカレーターなので受験の心配はない。

話が反れてしまった。

すまない、本題に戻ろう。
優里に僕は何度も謝った。

だが、優里は「大丈夫よ太郎、心配しないで。」と言うばかりだった。

後々、考えれば彼女はこの時、猫を被っていたと思える。

女とは怖い生き物だと実感した。

そして、物語はエイプリルフールへ戻る。

結論から言うと金髪は優里に恐れをなして僕らに手出しをしなくなった。

まぁ、文字数的には一旦切った方が良いだろうと作者が言いだしたので一旦切る事にする。

続きは僕のいとしい彼女の優里が語るそうだ。

楽しみにしてもらえたら嬉しい。

ではまた…。

206通りすがりの駄文ライダー:2011/04/23(土) 11:10:44 ID:VrXj/TMc


以上で一旦投下終了させていただきます。

先人様たちの偉大な作品のところにこんな駄文を投下しすいませんでしたm(__)m

次は優里視点で書きたいと思っています。

病み分は次に大量に出したいと思っています(笑)


では、失礼しましたm(__)m

207雌豚のにおい@774人目:2011/04/23(土) 13:08:59 ID:x7d8Ldb2
>>206
GJ!!金髪のあまりのツンデレぶりが可愛すぎる!!

208雌豚のにおい@774人目:2011/04/23(土) 13:49:17 ID:bQCrzUYc
>>206
投下乙です

209雌豚のにおい@774人目:2011/04/23(土) 14:47:16 ID:sHTwhRiQ
>>206いいねぇ!いいねぇ!最っ高だねぇ!      金髪の女が好きになった。よほど、違う学校ではもてたんだろうな。だから、断られるのは予想してなかったんだろうな

210雌豚のにおい@774人目:2011/04/23(土) 16:40:12 ID:b.6oX/vo
乙カレー食べたい

211雌豚のにおい@774人目:2011/04/23(土) 17:06:44 ID:4FwatSGw
ツン可愛いお

212雌豚のにおい@774人目:2011/04/23(土) 18:38:11 ID:zKL4OWkY
>>206
GJGJ!
期待してますぜ

また本スレが訳解らんことになってる こっちまで波及しないことを祈るか

213雌豚のにおい@774人目:2011/04/23(土) 19:48:52 ID:dEHl3Ntk
ツンヤンデレは最強だと思うんだ二大ジャンルのあわせ技!
つまりはそういうことだ

214雌豚のにおい@774人目:2011/04/24(日) 01:08:11 ID:76mMeoTU
金髪ハーフにいじめられるなんてたまりません。

215雌豚のにおい@774人目:2011/04/24(日) 02:12:06 ID:AayEbPzA
>>203
GJです。
相変わらずの安定感。続き期待してます。

>>206
乙乙!
金髪ハーフから・・・ベジータのにおいがする・・・

216雌豚のにおい@774人目:2011/04/24(日) 02:19:35 ID:eRJf9cz6
少し遅くなりましたが避難所管理人様ありがとうございます
wikiの方の掲示板を管理人していた方もご苦労様でした

217雌豚のにおい@774人目:2011/04/24(日) 11:46:37 ID:dH8TT27I
乙!

218雌豚のにおい@774人目:2011/04/24(日) 12:54:45 ID:vTZApF8Q
次の作品投下まだかな?

219雌豚のにおい@774人目:2011/04/24(日) 20:44:44 ID:7wpGR3OA
>>212だって、本スレの住人はにわかの上にバカだから仕方がない。すぐに、「自演乙」とかほざく程、人疑ってるし、俺が「このスレと別れるの悲しいな」みたいな事を言って本気で悲しんだのに、人の心も知らずに「お別れ厨乙」だってよ。ふざけんのも体外にしろよ。あれはガチでキレたわ。おまえ、空気読めないから半年ROMって心情の察しかた学べって言いたかったわ

220雌豚のにおい@774人目:2011/04/24(日) 20:48:40 ID:AayEbPzA
>>219
熱くなるなよ
何か書くからさ

221雌豚のにおい@774人目:2011/04/24(日) 21:13:39 ID:m9Ad.91Y
>>206
俺の友人と似た文体だ
そいつも森見ファンで、どことなく懐かしいぜ

今後ともガンガレ

222 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:06:09 ID:HA9NLNwA
21話完成しましたので、投下します。

223天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:08:00 ID:HA9NLNwA
「うーん………ここだな。」
「じゃあ、私はここ。」
「はっ!? お前、なんつー汚ねぇ手を!」
「うふふ…私の勝ちだね。」

白一色で統一された病室には、今日も客人が訪れていた。
正確に言えばそいつは毎日来ているのだが、いつも他の連中が来る時間帯を避け、少し遅めに来るのだ。
だから今現在、白い病室にはオレンジ色の夕日が差し込み始めている。

「ったく、お前にこんな才能があるなんて思ってもみなかったぜ…。」

その見舞い客…まあ結意なんだが、結意はなぜかベッドの上に正座で、俺と向き合っている。
俺はもう3回は結意とオセロで対戦しているのだが、一回も勝てないでいる。
その強さは、あのおっさんを彷彿とさせる。

「お前こういうの苦手だと思ってたんだけどなぁ…意外と頭いいのな。」
「うーん…そうかな?」
「こないだの、9月の試験はどんな感じだったんだよ?」
「あれなら、確か先生に『学年で10番代に入った』って言われたけど?」
「は、はぁ!? 10番代だと!?」

この野郎、十分頭いいじゃねえかよ! 俺なんて試験の一週間前にスパートかけて、やっと及第点だったのに!
普段はバカっぽいのに…いや、バカと天才は紙一重、って事なのか…?
しかしこいつの凄いところは、それを自慢っぽくではなく、当たり前のように、さらりと言った事だと思う。

「ふぅ…なんかもう…今日はもうオセロはいいわ。」
「もういいの? 飛鳥くんって、割と飽きっぽいよね。」
「そんなことはないぞ。ただ俺は…集中力があんまりないんだ。」

そういう性分でもなければ、もっと勉強もできただろうし、何かしらの部活動に入ってバリバリやっていたかもしれない。
だが俺は、そういうのとは真逆に位置する人間なのだ。

「んー…じゃあさ、何か賭けをしてやろうよ。その方が面白いでしょ?」と、結意がひとつの提案をしてきた。
「賭け? つったって、俺何も持ってないぞ?」
「なら…負けた方から一枚ずつ脱いでくってのはどう?」
「お前は俺の身ぐるみを剥ぐ気か!?」
「やってみなきゃわからないよ?」

結意はさらっ、とそう言ってチップを半分を分け、次のラウンドの準備を始めた。

「わーったよ…ったく。」

俺は軽くため息をつきながら、チップを一枚手に取り、空中に投げる。
落ちてくるそれを手の甲と手の平で挟むようにしてとり、ゆっくりと手の平を退ける。
いわゆるコイントスだ。

「黒…俺の先攻な。」

224天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:09:19 ID:HA9NLNwA
かくしてラウンド4開始。適当にチップを置き、後攻に移る。
もはや勝てる気などしないので、チップを置く手は逆にさくさく動いた。
結意はそれをニヤニヤしながら見て、的確に手を返してくる。
どうとでもなれ、と思いながら手を進めていると、あっという間に板面上には40枚近くのチップが並んでいた。
現在は、白の方が有利だ。

「やっぱりこうなるんじゃねえかよ…。」

黒の置ける場所はだいぶ限られてきた。だが俺は適当に、手前のマスに黒を置いた。

「…お? 意外ととれたな。」
「あ…!」

結意の顔からニヤニヤが消えた。
今の俺の攻撃で、4マスほど黒が増えたが、俺は板面をよく見てみた。

「ほぉ…まだイケるな。」

対して結意は白をひとつ置くが、白いチップは大して増えない。
そこから俺は慎重に手を打ち続ける。白が圧倒していた板面は徐々に黒が増えていき、
角をひとつ押さえる事にも成功し、遂に最終局面。
残ったマスは二つ。黒と白の数はざっと見て半々くらい。俺は角にある黒に合わせて黒をひとつ置いた。

「ふぅ………俺の勝ち、だな。」

白を置くスペースはなかった。返せる黒いチップがなかったのだ。
もうひとつ黒を置き、ギリギリ白を上回る事ができた。

「…飛鳥くん、やっぱりこういう時は強いよね。」

負けを認めた結意はベッドの上で膝立ちになり、スカートの中に手をかけ、
当初の規定通りに布を一枚…

「っておい! 脱衣ゲーでパンツから脱ぐ奴があるか!?」
「え、だって飛鳥くんこういうの好きでしょ?」

結意は軽く首を傾けてウィンクをし、笑みを浮かべた。

「お前は相変わらずだな…そういや、あの時もノーパンのお前に追い回されたな。」
「あははっ、懐かしいねぇ。…あの日こそは、飛鳥くんを振り向かせてみせる、って思ってたからね。」

結意とこういう関係になった、記念すべき(?)日を振り返る。
それ以前から結意は筋金入りの変態だと思っていたが、今思えばその変態ぶりも、俺ありきだったんだろう。

「でも飛鳥くんもひどいよねぇ。こんな美少女の告白を87回も断るんだもん。」
「確かにお前は美少女だが、自分で言うな自分で。」
「おまけにやっと既成事実を作れたと思ったら、乱暴にされるんだもん…もう。」
「あ、あれはお前も悪いだろ!? いいから早くパンツ履けよ!」

早いもんだ。結意と付き合い出してから、もうふた月が経とうとしている。
その間に、本当にいろんな事があった。俺達は、特に結意は何度も命の危険に晒されもした。
なのに結意は、いつも明るい笑顔を俺に見せてくれる。

「ったく…そういや前から訊きたかったんだけど、、結意はどうして俺を。」

好きになったんだ? と尋ねてみた。

225天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:10:26 ID:HA9NLNwA
「うーん…やっぱり、初めて会った時の印象が強いからかな?
それで、同じ学校だって知って、止まんなくなっちゃった。」
「え、やっぱそんなもんなの?」
「そうだよ?」

なるほど。だけど、それでは俺の求めていた答えにはなっていない。
結意と出会い、追い回されるようになってから今の今まで、特に一時は結意を傷つけていた事もあった。
中でも、毎日の弁当の件とか、だ。

「よく俺の事嫌いにならなかったな…。」

俺はさりげなく独り言のように、しかし何かしらのリアクションを期待して零した。

「そうよねぇ。普通あれだけの事されたら、嫌いになるよねぇ…。
お弁当は毎日棄てられるわ、幼女が好きとか実はゲイだとか嘘つくわ。
私、真剣に一時期悩んでたんだからね?」
「あれは…その…今は、悪かったって思ってるよ。」
「うん、知ってる。」

結意はオセロが散らばるのにも構わずに、膝で歩き俺に抱き着いてきた。
鼻孔をつく石鹸の香りと、心地良い体温を感じ、俺の腕は自然と結意の体を抱き返す。

「全部、赦してあげるよ。」

結意のその言葉を聞き、俺の心はひとつ、重しが外れたような気がした。
だが、まだ全てが終わった訳ではない。問題は次から次へと、降りかかっている。

「…ありがとよ。」

結意を悲しませない為には、その全てを終わらせなければいけない。

* * * * *

俺が望むのは、平和な日常。結意がいて、姉ちゃんがいて、みんながいる日常だ。
ついこの前まで、そんな風には思いもしなかった。
ただ、失ったものたちがあまりに大きすぎた。
それが、俺を取り巻く環境も変えていった。
例えばこうして病院のお世話になることさえも、俺にとっては初めてなのだ。

今日で、俺の病院生活は終わりを迎える。
傷はほぼ全て問題なくなり、まだ激しい運動を控えなければならないものの、日常生活を送る分には支障はない。
片付けも午前中に終わり、退院前には姉ちゃんが迎えに来てくれる予定だ。
だが、俺は退院の前に決着を、文字通り白黒をつけなければならない。

「よう、坊主。」

おっさんはいつも通りに、娯楽ロビーの一角に座っており、テーブルにはオセロが並べられている。

「さあ、勝負しようぜおっさん。」
「今日はやけに自信ありげじゃないの。」
「ああ、今ならあんたに勝てる気がするぜ。」

コイントスで先攻を決め、おっさんからチップを打ってきた。
次に俺が、白いチップで反撃をする。
そうして互いの手は交錯し、板面にはいくつものチップが積まれる。

226天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:11:50 ID:HA9NLNwA
「おぉ? 少しはやるねぇ、坊主。」
「へっ、気が抜けねーけどな。」

俺はまず、俺から見て右上の隅のマスに黒を置くことに成功した。
そこを軸に、黒をなるべく塗り変えられないように粘る。
おっさんは少しずつ攻めてくるが、縦列がうまく連鎖し、右下の隅も押さえることに成功する。
その頃にはマスは残り、10個ほどとなっていた。
現在、黒がわずかにリードしている。角は黒と白がそれぞれ2マスずつ押さえている。

「なぁ、おっさん。」
「ん、なんだ?」
「俺、今日で退院なんだ。」
「…そうかぁ。」

おっさんの眉がぴくり、と動いた。
しかし互いに手は止まらない。ひとつ、またひとつ、マスは埋まってゆく。

「ま、病院なんざ長居すべき場所じゃねえ。
坊主、平凡ってのは実は一番難しいって事、覚えとけ?」
「へっ、言われなくても。」

イヤってほどわかってるさ。
俺は最後の1マスに、白を置いた。その周辺にあった黒は、6つほど白に覆る。

「人生っての、こいつらに似てると思わないか?」

おっさんはオセロを指差して言う。俺は、

「ちょっとした事で簡単にひっくり返るからか?」と答えた。
「当たり。坊主、お前の勝ちだ。」

黒いチップは30枚。対して、白いチップは34枚ある。
つまり、俺はおっさんに勝ったのだ。

「ありがとよ、坊主。いい暇潰しになった。んじゃ俺は、ぼちぼち行くわ。」

おっさんはいつものようにオセロを片付け、もとあった場所にしまう。
まさに勝手知ったる、か。

「おっさんも、さっさと退院しろよ?」
「はっ、おっさんはまだ先が長いのさ。何しろ年長者なもんでね。」

おっさんは後ろ手に手を振り、ぺたぺたとサンダルを鳴らしながら去っていく。こちらを振り返る事は、なかった。

俺は時計を見て、姉ちゃんが来る頃だと思い、1階の中央へ足を向けた。


その後俺は何度となくこの病院を訪れる事になるのだが…おっさんの姿はこれを機に見ることは一切なかった。

* * * * *

1階、中央ロビー。

俺はやや人が多い中を、姉ちゃんの姿を探して回る。
あれだけ色んな意味で目立つ存在は、そうはいない。見つけるのはごく簡単だと思っていたが…
会計、内科、食堂、売店…あちこち探し回っても、姉ちゃんはいなかった。
少し時間が早かったのだろうか。仕方なく俺は会計前のロビーに戻る。
すると今度は、恐らく今現在で一番会いたくない人間がいた。

「退院おめでとう、神坂くん。」

227天使のような悪魔たち 第21話 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:12:50 ID:HA9NLNwA
穂坂 吉良は今日も文化祭の時と同じ、ツインテールに髪をセットして、ダッフルコートを着こんでいた。
コンタクトレンズを着けているであろう瞳は目尻を柔らかに、作ったような笑みを浮かべる。

「やだ、そんなに警戒しないでよ…。今日はちょっと話があって来たの。」
「なら、さっさと済ませてくれ。」
「もう…。少し、外歩かない?」
「外、ねぇ…」
「入院してたんだから、息詰まってるでしよ?」

確かに、もうずっと娑婆の空気を吸っていない。姉ちゃんが来るまでの間だ。
穂坂は返事を待たずに出入口へと歩き出す。俺もそれに追従する形で、歩を進めた。

久しぶりに吸う外の空気は、入院前よりも冷たく、吐く息に白い色をつける。

「私宛てに、匿名で手紙が届けられたのよ。」穂坂は何の前置きもなく、語り始めた。
「その中には写真が一枚と、一文だけ印されていた。」
「それが、何だってんだ?」

どうせ穂坂が持ち込むネタなんて、マトモなワケがない。
俺の中での穂坂に対する意識は、『小煩い委員長』から、そこまで下落していたのだ。

「文には、『人殺し。』とだけ書かれていたわ。これが、その写真のコピー。」

俺は、穂坂が懐から取り出した写真を受け取り、見てみた。

「………っ! 穂坂、お前がここまで汚い奴だとは思わなかったぞ!」

その写真には、木刀を振りかざしている、血に汚れた制服を纏った結意と…
横たわる黒髪の女が写されていた。
間違いない。斎木優衣が白陽高校に襲撃してきた時の写真だ。
しかもご丁寧に、ほぼ正面、やや斜めから全体を写すように撮られている。

「あら、私は匿名の手紙と言ったはずだけど?
でも、今なら私の胸の中にだけしまっておけるわ。もちろん…貴方が口を滑らせても、アウト。」
「ちっ…」

俺は写真を、乱暴に穂坂に突き出して返した。

「てっきりくしゃくしゃに丸めるかと思ったけど?」
「コピーを握り潰したって、意味がない事くらいわかってる!」

だが、この写真はまずい。
こんな写真だけでは、あの日の顛末を全て語りきれない。それどころか、結意がただの殺人者にされてしまうだけだ。
事実、斎木優衣の屍体は、行方がわからないのだから。

「…言えよ。俺はお前に、何をすればいい?」

この時、俺はすでに間違いを犯してしまっていたんだ。
適当に言葉でごまかしてこの場を離れ、隼や姉ちゃんに相談すればよかったんだ。
なのに俺の頭には、自分でどうにかする、という発想しかなかった。

「そうね…じゃあ、退院の手続きが終わったら、私の家に来てちょうだい。」

その間違いが、結意をさらに傷つける事になるとは知らずに。

228 ◆UDPETPayJA:2011/04/24(日) 22:14:38 ID:HA9NLNwA
入院編終了です。

229雌豚のにおい@774人目:2011/04/24(日) 22:19:07 ID:AayEbPzA
>>228
GJGJ!
また主人公に修羅場フラグが……カワイソス

230雌豚のにおい@774人目:2011/04/25(月) 14:10:10 ID:m4Ks6ZV.
>>228
乙です

231雌豚のにおい@774人目:2011/04/25(月) 20:52:58 ID:Rje3M2Tc
>220のおかげで頭が冷めた。ありがとう。 >>228GJ主人公災難だな

232雌豚のにおい@774人目:2011/04/25(月) 22:07:12 ID:bYcSd4N2
うーん、久々になにか書いてみようかな?

最近ヤンデレ系の書いてないし
短編頑張るかな

作者様がた、GJです

233雌豚のにおい@774人目:2011/04/26(火) 11:54:16 ID:HE2HRyak
次の作品投下まだかな?

234雌豚のにおい@774人目:2011/04/27(水) 21:04:40 ID:CYkDrztI
動きが無い・・・

235 ◆STwbwk2UaU:2011/04/28(木) 21:49:33 ID:QzRUl12w
みんな元気?
久々に投下する。
今回の目標は「投げないで書く」

236魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/04/28(木) 21:50:08 ID:QzRUl12w
父上が死んだ。
原因は、勇者気取りの悪魔殺し共が、なぶり殺しにしたからだ。
時間をかけて体力を奪い、魔力を奪い、四肢を奪い、心を奪った。
父上の死に様は、今でもはっきりと目に焼き付いている。

―許さない。

赤く染まった指先で、魔法文字を書く。
父上は魔王だった。父上を失った国は、今混沌の中にある。
家臣は元王子の僕を亡き者にし、新しい国をつくろうとしている。

―許せない。

赤く染まった手で、魔法円を描く。
今作っているのは、転移魔法陣。
もはやこの世界に僕が居る場所はない。
力が無いからだ。
弱すぎたからだ。
父上すら助けられなかった我が身に、何の価値があろうか。

――自分が、許せない!

赤く染まった腕で、魔方陣を動かす。
自らの血で書かれた魔方陣は赤黒く発光し、成功を示した。
これから僕は、人間界に向かう。
力を手に入れるために。
全てを取り戻すために。
全てを手に入れるために……っ!!


赤黒く発光する陣に足を踏み入れる。
強固に施錠した扉が、激しい振動を伴いつつ歪む。
おそらく、追っ手が来たのだろう。あのクソ家臣共の。
だが、もう遅い。
僕の体が光に包まれ、足から消えていく。

覚えていろ…
絶対に戻ってきてやる。
父上の代わりに、お前らを皆殺しにしてやる。
覚えていろ……!覚えていろよっ!!!

237魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/04/28(木) 21:50:33 ID:QzRUl12w

――気づくと、僕は森の中に倒れていた。
周辺の魔力は圧倒的に薄く、明らかに魔界ではない。
つまり、転移に成功したのだ。
「……くっくっくっ、ふははははははははははは!!」
笑いがとまらない。
あいつらは暫くは追ってこれまい。
そのうちに、僕はこの世界に散らばる4つの至宝を手に入れる。
この至宝は、父から子、つまり我が王家に口伝で伝わる至宝なのだ。
あのクソ家臣共は知らないだろうがな…!
口伝によれば、この至宝を集めし者は絶大なる魔力を手にするという。
……楽勝だ。
こんな、魔力の薄い世界で、僕より強い奴なんぞ存在するわけがないっ!
勝った……圧倒的勝利……っ!
ははっ……ははははははははは……っ!


僕は魔力の薄さから来る多少の息苦しさを覚えつつ、森の出口へ向かった。
だが、ゾワリを背中を悪寒が走る。

―感じたのだ。自分より圧倒的に強い存在を。

……そうだ、忘れていた。魔力だけが絶対的な強さではなかった。
何よりあのデビルバスター共も大した魔力を持っていなかったではないか……っ!
ここより少し離れたところ、おそらく南東。
間違いなくこっちに気づいている。こっちに向かってきている。
今の僕では間違い無く負ける……くそっ!
どうすれば、どうすれば…どうすればどうすればどうすれば……

足りない血気の中、頭にひらめく。
もしもこいつが魔力を感知してこっちに向かっているのだったら?
……これしかない、これにかけるしかない。
生体感知なら僕は間違いなく死ぬ。しかし、魔力感知なら…魔力を封印すればいい!

僕は躊躇いなく舌を噛みちぎる。
余った舌を吐き捨て、溢れる血を用いて口の中で封印の術式を行う。
その間も強力な力を持つ存在は、確かに、そして素早くこちらへ向かってきている。
間に合え!間に合ってくれっ!!

――血が止まり、自分の体から魔力の存在を感じられなくなった。
封印の術式は……間に合った。
代わりに僕は見た目相応の、人間の少年程度の力とほんの少しの魔力しか使えなくなってしまったが、
ここで命を失うよりはましだ。
余った血を吐き捨てると、草木がこすれ合う音が聞こえた。
……どうやら来たようだ。
僕の存在に気づいてくれるなと思いつつ、音の方向を見ると……


――少女が、立っていた。

238 ◆STwbwk2UaU:2011/04/28(木) 21:52:10 ID:QzRUl12w
まさかの2レスで投下終了。
明日から本気出す。
あと深優の人は早く続きを書くんだ…っ!
いや書いてくださいお願いします

239雌豚のにおい@774人目:2011/04/28(木) 22:10:34 ID:TKz2PJ1g
過疎杉うんこ

240雌豚のにおい@774人目:2011/04/28(木) 22:29:01 ID:me8FyJ1I
>>238
GJ 期待してますぞ
しかし舌噛み切ってよく死なないな…

241雌豚のにおい@774人目:2011/04/28(木) 23:10:01 ID:CI2ZO9zc
>>238
おうGJ
これはまた先が気になる終わり方

242雌豚のにおい@774人目:2011/04/29(金) 12:03:04 ID:QiKlkFvY
>>238
続きが楽しみだGJ

243 ◆STwbwk2UaU:2011/04/29(金) 21:13:49 ID:caqx2rjc
今日も投下
明日も(できれば)投下
毎日投下(できたらいいな)

投下します

244魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/04/29(金) 21:14:37 ID:caqx2rjc
目の前の少女は、艶のある黒い長髪をなびかせて、
逆光の中を立っていた。
逆光の中でも映える緑の瞳が、僕を捉えて離さない。

「……おかしいわね、ここら辺から確かに感じたんだけど…」

その声にハッとした。
そうだ、こいつが……強い力を感じた存在だ。
服装をよく見ると、所々に十字架をあしらった鎧を身に纏い、
その全ての武具から悪魔祓いの魔力を感じ取れる。

――聖騎士。

脳裏に、恐怖が浮かぶ。
悪魔殺しのエキスパート。
神の代行者、執行者。
人類の守護者。
…つまり、我らが魔族の「天敵」だ。

「……ふぅん?」

目が、僕を捉える。
僕は急いで目を背けた。
こんな奴に目をつけられたら、今の僕だったら一瞬で灰になる。
頼む…頼むから魔力感知であってくれ……っ!

「ねぇ……ここらへんでアンタより凄い魔力持った奴見なかった?」

……この一言を聞いて、僕は半分安心した。
何故なら、僕の思惑が「当たり」だったからだ。
しかし、本来の目的から考えると既に失敗している。
今、自分がここから生きて抜けられるかは、
見つけてしまったこの少女の気分次第ということになる。

「ひ……らな…い…」

舌が足りないせいで、言葉がうまく発することができない。
そして何よりも、血が足りないせいで頭が回らない。
倒れてしまいそうだ…

「おかしいわね…さっきまでものすごい魔力をここで……」

何かを言っている。
脳が、言葉を認識してくれない。目の前が……暗い。
くそっ……自分の最期すら分かることが出来ないのか……

「…ねぇ?聞いてる?……って、ちょっと!…………」

もうダメ…だ……チクショウ……



――また目を覚ますと、空が真っ赤に染まっていた。
口の中に違和感がない。……どういうことだ?
起き上がると毛布が落ち、自分より少し離れたところであの少女が夕日を眺めていた。

「……気がついた?」

少女は僕が起き上がったのを見て、声をかけた。
顔が夕日に照らされて、赤と黒のコントラストに染まっている。

「どうして、助けた?」
聖騎士は悪魔に情けをかける理由が無いはず。
何故殺さなかったのだろう。

「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず…ってところかしらね。
 大体、貴方程度の悪魔を倒しても意味ないのよ。
 ……貴方、インプでしょ?」
…話は簡単だった。
つまり、殺すにも値しない弱小悪魔と勘違いされているのだ。
今の自分に対し、間違いは確かに、無い。

「………」
屈辱がグルグルと渦巻く。
しかし、それを口に出したところで何になるというのだ。

「何も言いたくなきゃそれでいいわ。
 これを恩に思ったら、人様に迷惑をかけないことね。
 私は西に用があるから、もう行くわ。」
…西?西だって?

「……待て。いや、待ってください。」
そうだ、西には至宝がある。
コイツを利用すれば、至宝の在り処まで……
いや、その途中まででも安全な旅をすることができる!

「何よ?」
怪訝な顔で僕を見る。

「僕も、西に用があるんです。お邪魔でなければ…一緒に行きたいのですが。」
「はぁ?本気で言ってるの?
 私、聖騎士なのよ?……見習いだけど。」
あれで……見習いなのか!?
本職の聖騎士というのは如何程のものだというのだ……

「構いません。連れていってくださるというのならば、
 雑用なり何なり好きなように使ってくれて構いません!」
そうだ、目的のためなら僕は手段を選ばない。
泥だって啜ってやる。靴だって舐めてやるっ!

「あ…ぅ…わ、分かったわよ!………仲間の人達にはなんて言おう……」
僕の気迫に押されたのか、彼女は僕の同行に了承してくれた。

「ところで、西に何をしに行かれるのですか?」
「ああ、言ってなかったわね。
 聖騎士の出番っていう時点で、多分想像は大体付いてるでしょうけど……

 ―悪魔討伐よ。」

245魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/04/29(金) 21:15:25 ID:caqx2rjc
その日の夜、彼女は剣を抱えたまま寝てしまった。
自分も寝ようと思うが、景色に魅入られてしまった。
空に輝く満天の星と、自分を包む柔らかな自然。
―魔界とは違う。
魔界は極端な気候と風土しかない。
しかし、ここの世界は調和している。
そう、光と闇が混ざり合うかのように、調和している。
もしもあんなことが無ければ、僕はこの世界を純粋に見て回りたかった。
今はただ、何もかもが憎い……
……寝よう。



次の日、西へ歩きながら、悪魔討伐について訪ねてみた。
「西方にね、巨大な魔力を持つ悪魔が居るの。
 このままだとその地の人達が危ないから討伐に行くってわけ。」
こんな聖騎士が出るほどの悪魔……
よほど強大で、屈強な悪魔なのだろう。
―何故か、父上が脳裏に浮かんだ。

その後も色々なことを聞いた。
彼女の名前はリーザということ。
彼女の他に、本職の聖騎士が複数人参加すること。
彼女が、曰く聖騎士のエリートなのだということ。
昨日の悪魔は、見つけ次第絶対に討伐したいのだということ。
…目の前にいるんだけどね。

「…そろそろ合流地点ね。」
僕と彼女、リーザの目の先には村があった。

「この村で、貴方とはお別れ。
 ここからは、私は仲間と悪魔を討伐に行くわ。」
なんとなく予想してたが、やっぱり悪魔の元までは連れて行ってはくれないようだ。

「……僕も手伝いに行っては、ダメですか?」
「ダメ」
「…どうしても、でしょうか。」
「ええ」
「そう、ですか。」
言い分は分かる。
要するに足手まといなのだ。
インプ程度の魔力しかないものが、手伝えることなど無い。

「……あなたのおかげで、旅先の話し相手に苦労しなかったわ。
 また、縁があったら……会いましょう?」
彼女は少し寂しそうに微笑むと、後ろを振り向かずに村へと入っていった。

……人は、ダメと言われたらついやりたくなるものである。
それはこの僕も例外ではない。
好奇心は猫をも殺すという。
封印のことすら忘れ、好奇心のままに行動した僕は、

――地獄を見る羽目になる。

246 ◆STwbwk2UaU:2011/04/29(金) 21:16:37 ID:caqx2rjc
投下終わり。
毎日更新でけたらいいね。うふふ

247girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/29(金) 21:49:12 ID:ceW0ck.s
>>246
GJです。続きが楽しみです。
毎日更新頑張ってください。

girls council 第四話 投下します。

248girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/29(金) 21:49:40 ID:ceW0ck.s
第四話

――――これは、六月二十九日の出来事である。


ブルブルブルブル。―――携帯のバイブが鳴る。

先ほどからしきりに。止まらない。
本当に十秒間隔ぐらいで、俺のポケットの中で振動している。
 「くそ、くそ、くそくそくそくそくそぉ!」
ふざけている。ありえない。信じられない。認めない。こんなの、認めない。認められるか。俺、鳴宮拓路は心の中で嘆く。本当にどうして、こうなってしまったのだろう。
どうして……どうして。降りしきる雨なのか、それとも瞳から流れる涙なのか、分からない。ただそれを服の袖で拭う。そしてひたすら夜の路地を走る。
人にぶつかっても、謝る事を忘れ、電柱に肩をぶつけても、倒れないように走る。
ただひたすら……〝あいつ〟から、逃げるように

ブルブルブルブル。―――携帯のバイブが鳴る。

 「あ…………ぁぁあああああ」
路地を曲がったところで〝あいつ〟の姿が見えた。にたぁ、と言う擬音語がつきそうな感じに口元が歪んで、虚ろな瞳を俺に向けている。
俺は突如、吐き気に襲われて口を押さえつつも、叫び声をあげながら逆の方向へ走りだす。
ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな。
どうして、どうして、どうして、どうして。
いつから俺の世界は違えてしまった? いつから俺の周りは変化してしまった?
〝いつ〟〝どこで〟〝誰が〟〝何を間違えた〟?

ブルブルブルブル。―――携帯のバイブが鳴る。

もう数百以上携帯が振動を続けたころに、俺は、小さな路地をいくつもくぐりぬけて、人目の付かない公園の木によしかかった。息の乱れと、走っただけが理由ではない、体中を濡らす雨に混じった汗や、心拍数の多さから俺は立ち止まっていた。
 「ハァハァハァ……」
胸元を押さえて、息の乱れを露わにする。
―――ごめんなさい。こんなところで性的興奮をしないくれないかしら―――
 「ッ!」
……不意に。
思い出してしまう自分がいた。
いきなり銃口を突き付けてきた少女。
いきなり俺を罵倒した少女。
いきなり生徒会に誘ってきた少女。
そして俺の事を―――精一杯愛してくれた少女、篠原瑞希の存在を。

ブルブルブルブル。―――携帯のバイブが鳴る。

 「………ざけんなよ。どうして、こんな………こんなことに」
瑞希…………瑞希、瑞希、瑞希瑞希瑞希ィ!
俺は悔しくて、寂しくて、つらくて、虚しくて、温もりが欲しくて。
拳を血が滲むほどに固く握りしめながら、あの裏表のある、本当は寂しがり屋で泣き虫な篠原瑞希を思い出す。ちくしょう……俺は、俺は……。

ブルブルブルブル。―――携帯のバイブが鳴る。

 「………………」
俺は放心状態になりかけつつも、先ほどからなり続けている携帯電話を開いた。
―――新着メール 三百八十六件。
 「はは……ハハハハハハ」
それを見た俺は、力なく、そして、狂ったかのように笑いだす。
その通り。
この〝物語〟に出てきている以上、狂っていないモノなどいないのだ。
世界ですら、狂っているのだ。

ブルブルブルブル。―――携帯のバイブが鳴る。

 「ッ!」
そして、三百八十七通目のメールが届く。雨の冷たさ以外で震えていた手を押さえて、メールを開いた。……見た瞬間、俺は、もう固まるしかなかった。
 『何がそんなにおかしいの? 教えてよ』
 「………………」
一瞬にしてクールダウンした俺は、ゆっくりと、ゆっくりと、後ろを見た。

 「見ぃつけた、キャハ」

〝あいつ〟が笑顔で待っていた。
 「…………はは、ハハハハ」
……あぁ、分かった。分かったぜ。
全部あの時からだ。全部あの時から狂ったんだ。
一年前の……今日みたいに雨が降っていた、親父が死んだ―――六月二十九日。
あの日から、俺の世界は、狂い始めたんだ。
だからちょっと。
後悔のために、反省のために、懺悔のために。
狂った日の、そして狂った日からの俺の一年間の日常を、思い出してみる事にしよう。
どうせ今さら、無駄な事なんだけれども。

249girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/29(金) 21:50:44 ID:ceW0ck.s

――――これは、六月二十九日の出来事である。

 「にぃ〜にぃ! 傘忘れちゃだめだよ。今は晴れてるけど……昼からの降水確率は七十パーセントなのです!」
朝から機嫌が良さそうに、笑顔満開と言って様子で、傘を手渡してくる少女が目の前にいた。俺、鳴宮拓路の妹、鳴宮美帆だ。……笑顔も可愛いなぁ。と思う俺は、少々頬を緩ませつつ、でもそんな感情がばれては格好悪いと思い、一度咳払いしてから、傘を受け取った。
 「ん……ごほん。そうなのか? ……ありがとな、美帆」
ポン、と美帆の頭に手を置いた。そして撫でる。
 「えへへ〜」
喉を触られた猫みたいに、ふにゃ、っとした顔になった美帆は気持ちよさそうに目を細めた。あぁ、可愛いなぁ。
なで、なで、なで。
 「ふにゃ〜」
なで、なで、なで。
 「にゃにゃ〜……に、にぃにぃ、ちょっとくすぐったいよ。もっと優しく」
 「ん、ごめん……って、何やってんだ俺は」
美帆があまりにも気持ちよさそうに目を細めていたので忘れかけていたが、俺は今から学校へ出向くところだったのだ。そう思い出した俺は、少し……いや、かなり名残惜しくもあったが、美帆の頭から手を離した。
 「にゃ〜……にゃ! ………にぃにぃ〜、なんでぇ」
どうやら名残惜しかったのは、俺だけではなかったらしい。
とろん、とした瞳で美帆が見てきたのだが、緩む頬を引き締めて、美帆にいってきます、と言った。
 「………………まぁ、今日はわたしにもやる事があるし」
そんな事を呟いた、美帆がいたのも知らずに。

登校中もそうだし、学校についてからもそうだったけど。
指を指す事はないものの、こちらの方を向いて声を小さくして話している者ばかりだった。
 「あれが、噂の鳴宮拓路?」
 「そうそう。……何でも親は人殺しなんだってぇ。それに本人も中学の頃に喧嘩したとか。遺伝ってやつ? 怖い怖い」
 「え〜、ほんとに?」
 「…………」
畜生。ちくしょう。
本当の事だから反撃もできないし、本当の事だから悔いて反省することしかできない。
そしてそれは、恐らく誰にも伝わらずに、自分の中だけにしまわれるものになってしまう。
俺は……どうしたらいい。
畜生。ちくしょう。
すでに百回単位で考えた事だ。でも、それだけ考えても答えが出た事はない。
いつも堂々巡り。いつも思考の迷子。いつも袋小路。
そんな風に思っていたら、なんだか気が重くなってきて。
昼から雨が降るらしい空を、じっと眺めた。ふざけたくらいに晴れ晴れしている、ふざけたくらいにむかつく空を。
 「…………………」
感傷に浸っていた俺は背後からの気配に気づかなかった。
 「なぁにやってんのさ、タっクジ!」
突然。俺の体が、吹き飛んだ。
 「うおぉ!」
後ろからきた衝撃に耐えられなかった俺は、前に倒れこんだ……ならまだ良かったのだが、それ以上の大惨事。華麗な二回転をコンクリートの上で決めた俺は、え、何? 敵襲! と叫んでしまいそうなぐらいに驚いてしまい、とっさに後ろを向いた。
誰だよ、こんな危ない事したらいけませんって、お母さんに習わなかったの! とか、俺の背後に立つんじゃねえ! とか叫んでやるつもり満々で。
「ふごっ!」
しかし。
「はわぁ!」
俺の視界に、人が映る事はなかった。映ったのは暗闇。そう、振り返った先には暗闇しかなかった。闇、黒。そんな言葉で表現されるような……まぁ、なんか妙に良い匂いと柔らかい感触があるのをなくしたら、ホントにそう表現されるほど、光の一点もなかった。
だから俺は、視覚と言う名の人間の八割を占める外的干渉機能を失ってしまったのと同じ様なモノだ。

250girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/29(金) 21:51:05 ID:ceW0ck.s
 「ちょっ、タクジ、そこ……だめっ――きゃっ!」
 「……………」
この暗闇を打ち破ろうとして、もがいてみたのだが……むぅ。
なんというかやっぱり可笑しな声が聞こえてくるな、主に上の方から。それに、顔を包み込むこのいい匂いと柔らかい感触が気になる。一体なんだ、俺に今何が起こっているんだ?
 「も、もう!」
 「ふごっ!」
突然。もがいていた俺の体が、またしても吹き飛ばされた。
先ほどと何が違うのかと言われると、俺の回転が前転ではなく後転になった事だろう。
とりあえず俺は、華麗な後転を二回繰り返した。
頭が割れるほどの激痛に苛まれ、回転が止まった時には、空を見上げてコンクリートに寝そべる形になっていた。
 「い、痛い」
 「あ、だ、だいじょ―――ふ、ふん。えっちぃタクジには、それぐらいの罰があたらないとだめだかんね!」
綺麗なソプラノボイスが聞こえた。それは過去から変わる事のない声。
途中で言い淀んだ末に、結局俺が悪いみたいな感じにセリフを繕ったその声は、俺の事を何度言っても〝タクジ〟と呼び続けるその声は……間違いない、霧島翼だな、と。
ここまできてようやく、俺は先ほどから自分に不意の行動を仕掛けまくってくる相手が霧島だと知った。
 「…………」
その事実が分かった瞬間、俺は痛かった頭の事など忘れたようにクールダウンした。
無言のまま、俺は立ち上がって制服についた砂をはたき落とす。
 「た、タクジ、大丈夫?」
そんな俺の姿を見て、さすがの霧島も手を差し伸べようとしたが、その手を俺は露骨にかわした。するりと。
 「ぁ………」
そのそぶりを見て、霧島の顔が一気に泣きそうになった。
その変化に驚いた俺は、周りに誰もいないことを確認してから、できるだけ、傷つけない程度に、懐かれない程度に、霧島に話しかけた。
 「…………俺は大丈夫だから。早く行こうぜ、遅刻するぞ」
 「あ……うん!」
まだちょっと不満があったのだろうか? 少し言い淀んだ霧島だったが、すぐに明るい顔になって歩き出した俺についてくる。
 「あ、そうだタクジ。今日も生徒会に行くんでしょ? だったら会長に言っといて。ボクは今日用事があるからいけないって」
霧島が俺と自然な形で腕を組む。ぽよんぽよん。ぱふぱふ。
 「………分かった、分かったから……とりあえず離れろ!」
俺は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
ちくしょう、どうして女の子はこんなにも柔らかいんだ?
……………………………、そういえば……。
結局あの暗闇の正体は、何だったんだろうな?

251girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/29(金) 21:51:28 ID:ceW0ck.s
とかなんとか。つい十数時間前の事を、今日は珍しく俺より先に帰ってきてない美帆の事を待っている際に、暇すぎて本日体験した〝霧島翼と謎の暗闇事件〟を思い返していたが、いつの間にか眠っていたらしい。俺が気付いた時にはすでに時計の針は二十三時頃であった。
 「うわ、やっべ」
リビングで寝てしまっていたために、すぐさま自室へ行こうと思い立った俺は、近くに置いてあった携帯電話に新着メールがある事に気付いた。
それを何気なく開くと、俺が待ちわびていた美帆からのメールだった。つい一時間前くらいの。
 『にぃにぃ、ごめんなさい。今日はどうしても帰れそうにない用事が出来たの。だから先に寝ていて。ごめんね、夕食作ってあげられなくて。明日は、明日は絶対、必ず作るから、楽しみにしててね』
 「………」
ぐうううう、と腹が鳴った。
そういえば、美帆がいないから何も食べてなかった。俺は仕方なく、常備してあったカップラーメンを作ることにした。ぬぅぅ、美帆よ、明日は頼むぞよ。とか思いながら。
 「……………」
湯を入れて俺は待っていたのだが、途中で固定電話が鳴りだしたので、俺はいやいやながらも出ることにした。
ラーメンが伸びない事を祈って。
無駄だったけれども。

 「た、拓路か………?」

 「ッ! お、親父か!」
その声を聞いた瞬間、肝が冷えた。この声の主が、ほかならぬ親父だと。
そしてこの時俺は初めて、今日が親父の出所日である六月二十九日であると知った。
 「親父、てめえ!」
なんてことしやがったんだ! お前のせいで俺たち家族がどれだけ苦しんだ事か、本当に分かってんのかよ! とか何とか叫んでやるつもりだったのに、そんな時間はなかった。

 「聞け、拓路。俺はすべてを謝る…………〝お前と母さん〟にも苦労をかけたと思う。だが…ガハッ! い、ぃまは、聞けぇ」

 「お、おい……親父? ど、どうした」
親父の声はかすれて、しかも何かを吐きだしたようにせき込んだ。
俺は言いたかった文句がすべて頭の中から吹っ飛び、親父の事を心配してしまった。

 「拓路、お前の見ている世界が違うことに気がつけ! いいか、お前の傍にい――ガハッ!」

―――プツ。
 「お、おい、親父? おい、どうした親父! 返事しろよ!」
そう、これが親父の言った最後の言葉であった。
これが約十年ぶりに、声だけの再会を果たした父親の最期。
―――翌日、六月三十日。親父は心臓と喉を貫かれた状態で、市内の公衆電話の中で見つかった。その手に、何かを言い残したかったかのように、強く、固く、受話器を握りしめたまま。
そして、その夜の通夜での出来事。
元々親戚の少ない親父は、人殺しと言う事もあってか、集まったのは十人にも満たなかった。でも、俺はそんな中で、本気で泣いてしまった。
誰もが同情の眼を向けてきて、それが無性に腹立たしくて、外に出て電柱を殴った。
何度も、何度も、何度も。
拳が痛むくらいに。心を、ごまかすくらいに。
 「大丈夫だよ、にぃにぃ」
 「……………」
不意に、背後から声がした。
美帆の、声。嬉しそうな、美帆の、声。
 「わたしがいるからさぁ」
ぎゅっと。背後から抱き締めてくる美帆の体は、温かいはずなのに、俺には冷たい氷のように感じた。
 「えっへへ〜。にぃにぃ〜………………これでやっと、ね。二人っきりだ」
ふざけたくらいに、ふざけた俺の人生は、ふざけたくらいに残酷で、ふざけたくらいに無情だった。そんな事を考えているうちに、親父の言葉が、脳裏に浮かぶ。
〝お前と母さん〟、〝世界が違う〟、〝お前の傍に―――

 「だめですよ、にぃにぃ………余計な事を考えちゃ!」

――ビリッ、と。
俺の首筋に青い稲妻が走った。
――暗転。世界は暗闇に包まれた。

 「でも、まだ安心できないか…………まったく、誰が〝とどめ〟をさしたんだろうなぁ〝お父さん(あのおとこ)〟の」

―――美帆……お前じゃないのかよッ!
薄れゆく意識の中で、そう俺は、歯を強く噛みしめた。
どうせ起きるころには、全部忘れているんだろうけれど。

252girls council ◆BbPDbxa6nE:2011/04/29(金) 21:53:02 ID:ceW0ck.s
投下終了です。
相も変わらず変な文だと思いますが、読んでいただければ幸いです。
ありがとうございました。

253雌豚のにおい@774人目:2011/04/29(金) 22:49:31 ID:caqx2rjc
>>252
GJGJ!
なんか佳境に入ってきた!
あと霧島さん影がうs・・・いや、なんでもない

254雌豚のにおい@774人目:2011/04/30(土) 11:31:18 ID:X0MtFI9Q
次の作品投下まだかな?あと、保管庫に「弱気な魔王と愛され姫様」の最新のがないんですが

255雌豚のにおい@774人目:2011/04/30(土) 11:51:35 ID:7BlPWHOA
>>246
GJです
早く病みやデレが見てみたいぜ

256雌豚のにおい@774人目:2011/04/30(土) 20:48:42 ID:oF3Hns0Y
GJ
霧なんとかさんでてこなくて寂しい

257雌豚のにおい@774人目:2011/05/01(日) 11:34:01 ID:hNQYDa86
次の作品投下まだかな?

258雌豚のにおい@774人目:2011/05/01(日) 15:13:08 ID:hQp9MbMU
ワクワク

259雌豚のにおい@774人目:2011/05/01(日) 18:50:12 ID:IceNFK6M
ヤンデレデレデレデン♪

260言の葉:2011/05/01(日) 20:30:25 ID:cP3ZCu9M
時間があるので投下してみようと思います。駄文ですがもしそれでもよろしければよんでくださるとさいわいです。

------ピピピピ--ピピピピ-----
-----もう朝か・・・・今日からまた学校か・・・・朦朧とする意識の中でそう思いながらむくりとおきて着替えた。
「環おきるのがおそいわよ!瑠璃はもうご飯を食べて学校にいっちゃったのに・・・」
ご飯をよそいながらおこっているのは俺の母である新城 澄 40を超えているはずなのに24,5歳に見えるをどなぜか若々しい。
「わかったよ、さっさと食べてあいつに捕まる前に学校にいかないとな。」
殆ど飯をあじあわない胃にかき込むように食べて急いで家を出た。
ガチャ-----ふう、いないようだあいつがくるまえにダッシュだな・・・・・・
「今日は何でそんなにはやいの?あんたいままでそんなに早く起きなかったのに。」
後ろを振り向いてみると------げ、みつかってしまった・・・・・こいつに捕まると毎朝罵声がすごくて朝からテンションが下がるからあいたくなかったのだが。
「む、なによ。その不満そうな顔は。」
「いやそうでもない」
「嘘よ!今絶対嫌な顔したでしょ!」
「いやしてないっt「したじゃない!せっかく私が待ってあげてるのになにそれ。」
出会って早々理不尽な事を言ってくる彼女は、幼馴染である周防 刹那である。
見た目は、ハーフ特有の金髪ロングに蒼目で鼻はたかくすっととおっていてきれいな二重に胸は・・・・・Cぐらいか?
「さっさとしないとおいていくわよ!はやくしなさいよのろま!」
ひどい言い様だな、まあ、こいつは昔から自己中の我が儘女だしなれればどうってことは・・・・・あるか・・・
いつもこいつにあわせるってのもしゃくだな・・・・・・・あ、ちょっと驚かせてやるか。
「おいおい、何も刹那といくなんていってないだろ。実はな、春休みに彼女ができたんだよ。」
「だから、また学校でな。」
そういいながら、我が儘女から逃亡した。
だがその時の俺はきずかなかった。刹那が呟いたことばを・・・・・
「環君・・・・冗談でもひどいなあ・・・ハハは・・ふひ・・帰ったらお仕置きしなきゃねえ・・・ふふふふ」

261言の葉:2011/05/01(日) 20:31:36 ID:cP3ZCu9M
投下終了します

262雌豚のにおい@774人目:2011/05/01(日) 20:36:45 ID:IceNFK6M
GJ
先の展開が気になるよ

263雌豚のにおい@774人目:2011/05/01(日) 21:06:46 ID:p8Ovewhs
>>261
GJ!
自分のペースで続編をかいちゃってくれぃ。
期待しまくり

264雌豚のにおい@774人目:2011/05/01(日) 22:10:35 ID:YhPHajUQ
そういや最近保管庫の方全然更新されてないね。

265 ◆STwbwk2UaU:2011/05/02(月) 00:18:56 ID:6/WMhMO.
二日続けて投下出来なかった口先だけの屑野郎が投下しますよ。
皆は自分に対し、怒ってもいい。

投下。

266魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/05/02(月) 00:19:17 ID:6/WMhMO.
僕にはやることがある。
一刻も早く西へ向かい、至宝を回収しなければならない。
一刻も早く4つの至宝を集め、力を手に入れなければならない。
一刻も早く父上を殺した悪魔殺し共を見つけ、復讐しなければならない。
一刻も早く国を再建して…

――分かっている、分かっている。
頭の中では分かっていても、行動に移せない時がある。
今が、ちょうどその時だった。
何故かリーザと別れると言う段になってから、
僕の心には「離れたくない」という気持ちが占めるようになった。
この感情を何といえばいいのか、僕は知らない。
ただ切なく、心が少し苦しいということだけは分かっている。

僕はリーザの後を付けている。
感知の全てを遮断する魔法を使って。
彼女が周りに気を使いながら、
一つポツンと建っている建物へ向かっている。
おそらく、そこが合流地点。
何故僕は後を付けているんだろう。
リーザにお別れを言われたんだろう?
ならば一刻も早く西へ向かうべきだろう。
いやしかし、しかし敵戦力となる聖騎士の強さを知っておくのも大事だ。
将来襲ってこないとも限らない。
そうだ、これは当然の行為なんだ。

…そうだ、僕はやましいことはしていない。
この地にいる悪魔の存在を確かめたいだけだ。
うまく行けば、同行してくれる仲間にもなるだろう?
そうだ、だから僕は、何もやましい事を…していないんだ……

リーザが、合流地点の建物に入るのを確認すると、
僕は壁にくっつき、知覚強化の魔法を唱えた。
―内部の様子が手に取るように分かる。

内部には、リーザに近いかそれよりちょっと強いくらいの存在が二人。
そして、一人だけやけに飛び抜けて強烈なヤツがいる。
おそらくリーザを10人まとめても叶わない程の。
これが本職の聖騎士の力か……
話してる内容も聞き取れる。
どうやら、ここから少し北西にある地域に向かうようだ。
魔力による環境の変動……魔獣の召喚…ふむふむ……

ふと、僕の方へ一番強い存在のヤツが歩いて来る。
ちょっと嫌な予感がしたので、壁から離れる。

――この時の僕は、おそらく冴えていた。

離れた次の瞬間、壁が消えた。
僕が立っていた部分の壁だけが、きれいなほどに。
中の様子が見える。
顔の右目に一閃の傷跡がある男の聖騎士が、僕を見ている。
リーザが驚いたように傷跡のある聖騎士を見ている。
他の二人の聖騎士も、同じように見ている。
そして、傷跡のある聖騎士だけが、僕を捉えていた。

「姿を見せろ、悪魔。」
バレていた。いつからバレていた?
いや、しかし僕の感知魔法は完璧な――

右手の感覚が消える。
ドサっという音とともに、遠くに吹き飛んでいるのが……僕の手。
痛い、痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいたいたいたいたい

「あ、貴方は!」
リーザが僕に駆け寄る。僕は痛さのあまりに魔法をとき、うずくまっていたようだ。
切られた部分は焼かれたように熱く、激しい痛みを訴えてくる。

草を踏みしめる音が響く。
目の前に、聖騎士がいる。
目は冷たく。一切の容赦のかけらも見えない。
怖い。
何故僕は付いてきてしまったんだろうか。
そうだ、リーザは聖騎士と会うといってただろう。
見つかったらこうなると……分かっていたんじゃないのか……

剣が振り下ろされる。
死を前に、時間はスローモーションに感じるのだと、本に書いてあった。
確かに、時が遅く流れているように感じる。
動けない自分に対し、ゆっくりと死が迫ってくる。
―ちくしょう、僕の人生はこの程度なのか……
僕は生きることを諦め、目を閉じた。



……?
何時まで経っても剣が振り下ろされてこない。
ふと、見上げると、

――リーザが、剣と肩で、受け止めてくれていた。

267魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/05/02(月) 00:19:38 ID:6/WMhMO.
「……リーザ、どきなさい。」
傷跡のある聖騎士は、厳かにリーザに語りかける。
僕からは彼女が、どういう顔をしているか見えない。
しかし、聖騎士に顔を向け、凛とした声でこう言った。

「いいえ、退きません。
 何故なら、この子は私の……友達だからです。」

――僕が、友達?

「悪魔が、友達?
 リーザ、悪いことは言いません。正気に戻りなさい。
 悪魔は、滅すべき存在です。」

そ、そうだ、その通りだ。
悪魔と、人間は分かり合えない。分かり合えないはずだ。

「彼と私は、話し合いました。
 例え一日でも、話し合えれば、心が分かれば友人となれるはずです。
 そして彼からは、確かに激しい憎しみと使命を感じました。
 しかし、それは我ら人間の世界に対するものではありません。」

……僕の心が、読まれていた?
分かっていた?
何だよ、何なんだよ。
僕の苦しみが、分かるっていうのかよ!

「ふむ、どちらにせよ中身を聞かれたので、
 事が済むまで同行してもらいましょう。
 少しでも怪しい素振りを見せたら、滅します。」

傷のある聖騎士は、剣を収めて街の外へ向かっていった。
そして、リーザが僕の方を向く。

「…なんで来たの!?あれほどダメっていったじゃない!」
「よく分からないんだ、ただ、リーザと離れると思ったら、つい…」
自分でも、わからない。
なんで、なんだろう。

「つい…じゃないわよ!死ぬところだったのよ!?」
「そんなことよりリーザ、さっきの話って……」
そうだ、僕はリーザを利用するだけのつもりだった。
そのために何でも、己の感情すら押さえ込んだはずだ。

「……そうね、あなた今、自分の顔を見たことがある?
 ひどい顔よ。憎いっていう気持ちしか見えてこないわ。
 …でもね、哀しいっていう気持ちも見えたの。」

「僕…僕の何を……」
何を、知っているって、言うんだ……

「何も知らないわ。だから貴方のことを深く聞くことをやめた。
 …私たちの教義にはね、心に傷がある人を追い詰めろなんて、書いてないの。」
言葉が出ない……
人間なんかに心配されるなんて、
忌むべき聖騎士に心配されるなんて、僕は悪魔失格なんだろう。
それでも、優しさが身に、染みた。

「…それに、私も楽しかったし……ね…
 私も…寂しかったから、貴方と友達になりたかっていうのは、本当。
 …できれば、貴方が悪魔じゃなかったら良かったんだけど。」

「う……ぐっ…っぅ……」
ポロポロと涙が溢れる。
きっと、そうだ…きっと僕は、寂しかったんだ。
寂しくて、悔しくて、憎くて、哀しくて。

「まぁ、暫く同行することになったから。
 話したくなったら、貴方のこと教えてね?」
リーザが僕の手を拾ってきて、接ぎ、その後自分の方の治療を行った。
僕は下を向き、ただ地面を見つめているだけだった。
やがて、思いついたように指を鳴らしてぼくに言った。

「そういえば、貴方の名前聞いてなかったわ。
 教えてくれるかな?」
そういえば、彼女に名前すら伝えていなかった。
本当なら、真の名を教えちゃいけない。
けど、彼女になら、教えてもいい気がしてきた。

「僕の名前は…アガト……」
僕がそう言うと、彼女は花が咲いたように笑い、僕の手をとった。

「そう、よろしくね!アガト!」

彼女の手は、暖かかった。

268 ◆STwbwk2UaU:2011/05/02(月) 00:22:02 ID:6/WMhMO.
投下終わり。
つながりがおかしくなってないか心配になってきた。

>>255
もーちょい仲を深めないと、デレたりヤンだりが難しい。
我慢してくださいな

269雌豚のにおい@774人目:2011/05/02(月) 07:58:44 ID:c8tQFAUg
乙乙
書きたいように書いてくださいな

270雌豚のにおい@774人目:2011/05/02(月) 10:15:05 ID:0yAS9h6w
GJです!

271言の葉:2011/05/02(月) 16:53:47 ID:vN3BsAII
第2話投下します


ふう、やっと刹那から離れることができた。あいつも黙ってれば美人なのがもったいないところだな。
まあ、学校では、猫をかぶっていて人当たりがよい優等生で男子生徒からも結構告白されてるみたいだ。
さっさとだれかとくっついてくれればたすかるんだがなあ・・・・・・
そう考えているうちに学校についてしまった。
クラスに入ると同時に腹部に強い衝撃を感じ、見てみるとそこには・・・・・・
「あ、ごめんなさい。まえをちゃんとみてなかったです。」
そこにはちんちくりんな美少女が俺の前にいた。この子は、同じクラスの篠崎 薫さんだ。
「ああ、こちらこそごめんな。そろそろホームルーム始まるみたいだし座ったほうがいいですよ。」
「おっと!そうでした!」
そういうがはやいか疾風のごとく自分の席へはしっていった。
まったくいそがしいこだな。


-----1〜4時間目の授業を終えて昼飯を食いに屋上に向かった。
屋上はあまり人がないから落ち着いてすごせるからいいな。
そんな時-----バンッ
「あら?彼女とたべるんじゃあないの?なんでひとりでたべてるのかしら。」
「今日は一人になりたい気分なんだよ。ほっといてくれ。」
「いいえ、あんたには私と食べる義務があるんだからしっかりとその義務をはたしなさい!」
毎日のことだからなれたがいい加減ほうっておいてほしいものだ。
「一人で食べるのが嫌なら彼氏でもつくればいいだろ?お前はもてるんだし。」
「そういう貴方だってもてるじゃない。あんたのいったいどこがいいのかしらね。理解に苦しむわ。」
「相変わらずの毒舌だな。」
「毒舌なのはあんたにたいしてだけよ。」
「はあ、お前も“言葉ずかい”が丁寧なら美人なのにもったいないやつだな。」
「・・・・・・・・・・・・え」
「まあ、俺に対してだけだからまだいいほうか。刹那も彼氏を作っていちゃいちゃやってくれ。」
「あと、彼女ができたんだから朝と昼は見逃してくれ。彼女に勘違いされちまうからな。」
・・・・・・・ん?反応がないぞこいつ
「お〜い、聞いてるか??」
・・・・・・もういいか飯食ったし。
固まったままの刹那をほうっておいたまま俺は教室に戻った。

272言の葉:2011/05/02(月) 17:01:13 ID:vN3BsAII


一日の授業も終わりやっと長い一日から開放された・・・・
・・・・それにしても昼の刹那少し変だったがありゃだいじょうぶなんだろうか。
荷物をまとめていると机の中に紙が入っているのに気がついた。
・・・・ん?これはひょっとして・・・・・・
なん・・・・だと・・ラブレターだと・・・・
その手紙には「放課後、屋上でまってます。」としか書かれていなかった。
これはいくしかないな・・・・これは人生最大の大イベントの予感だ。
そうと決まればいざ参らん。
手紙をポケットにしまい屋上へ向かった----------------------


投下終了です。毎度短くてすいません;;

273雌豚のにおい@774人目:2011/05/02(月) 19:24:04 ID:6/WMhMO.
>>272
イイヨイイヨー
次の回は盛り上がりそうだw

274雌豚のにおい@774人目:2011/05/02(月) 20:07:39 ID:/wJDKxfY
“言葉ずかい”じゃなくて“言葉づかい”じゃないの?

275深優は泣いた:2011/05/02(月) 21:28:21 ID:k3EUTXwg
>>272どうも、お疲れさん。
短い話もすっきりしてていいよね。
>>274
単に誤入力しただけでは?気にしない気にしない。

投下します。

276深優は泣いた:2011/05/02(月) 21:29:30 ID:k3EUTXwg

第五話

太陽は真上から際限なく降り注ぎ、
冬の間、眠っていた生命達に始まりの号令をかけるかのよう。
つまり現在は春で、ほんの少し暖かさを感じる昼時なのだ。
ふぅ、実に気持ちのよい日だ、大地の喜びの声がこだまするようだ。

とまぁ、こんな風に黄昏れるのには理由がある・・・先生がまだ来ないからだ。
隣では、ちびっ子が愚痴を垂れてやがる。
二つしか違わないミューは何一つ文句を言わず待機しているのはもちろんの事、
道場の雑巾がけ自発的にこなしおり、紅子と違いが露わになっている。
見た目も中身も意識せずして逆転してしまってる、
これぞ人の面白さ・・・って違うか。

「あ〜あ、ボクこんなに早く来たのに待ちぼうけをくらうなんてさぁ、
ごはん食べたいなぁ・・・おうちに戻ってもいいかなぁ〜」

「チビスケ、おめぇも何かやれや」

「う〜ん、ボクさっき張り切りすぎたから疲れちゃった」

「昼時だからここでメシ作って食わせてやろうかと思ったが、
仔牛みたいに寝そべってる今じゃ、食わせてやれんなぁ」

「うにゃっ!?ごはんを餌に、ボクに掃除させようって言うのかい?
・・・キミもワルだなぁ、ボクが腹ペコなのを良いことに・・・。
しかーしっ、背に腹は代えられない・・・それ乗った!」

「おうおうそうかい、じゃ、
あっち側拭いてくるかミューを手伝うか、どっちか選んでくれ」

「キミを手伝うって選択肢は?」

「ねぇよ、俺は大丈夫だから」

「ふぅ〜、やっぱりキミは分ってないんだなぁ〜。
深優ちゃんは完璧超人だから手伝ったら余計邪魔になるじゃないか。
それに引き換えキミはおっちょこちょいだから、ボクが助けてやらないとね。
キミは昔っからボクがいないと、なーんにも出来ないんだからなぁ〜」

「過去を捏造すんな」

「ふっふーん、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないかっ」

あーめんどくせぇ、この手の不毛な話は早めに切り上げるが得策。

「はいはい、お守感謝いたします。
で、早速なんだけど、今からちょっとこの梯子昇るから、押さえといてくれ」

「ひぁ〜あんな高いところ拭くのかい。
・・・あれ・・・この梯子・・・亀裂入ってるよっ、危険じゃないかい」

「・・・うわぁ・・・本当だ、使いもんにならねぇなぁ。
乗ったら死ぬな・・・うーん、どうすっか?」

紅子は少し悩んだ表情を見せたが、なにか思いついたのか、突然奇声を発した、
俺の耳元で・・・ああもうっ、うるせぇなぁ、なにが『ひゃぁっ!』だよ。

「失敬失敬、我ながら良い案を思いついたものでねっ、心して聞きたまえ」
得意げな口調で俺をチラ見する。
大人みたいな言い回しでいきがってる、背伸びしたい子供にしか見えねぇが、
たぶんこれ言ったら怒るんで心に仕舞っとく。

277深優は泣いた:2011/05/02(月) 21:30:02 ID:k3EUTXwg

「肩車だぁーーーーーーー!ビシッ!」

「・・・普通だなぁおい、さっきから頭に浮かんでたわ」

「いいからほらほら、早くしないと餓死するよぉ?」
言葉で急かすと同時に、俺の腕を真下に引っ張って屈まそうともする。

ちっこい紅子が乗りやすいように体の向きを反転してやると、
反対側で掃除に熱を入れて頑張っていたミューが、
こちら側をじっと見つめているではないか。
肝心の掃除をせず、
おしゃべりばかりしていたアホ二人組が目立つのは当然の事だが、
あれほどまでに悲しそうな表情と佇まいで対峙されるのは、
いまいち良い心地がしない。
うーん、そんな顔する理由がわかんねぇ・・・呆れてんのかな?

紅子の照れのこもった声にはっとさせられた。
「キミっ、早く上げておくれよぉ。
この格好すごく恥ずかしいんだからなっ・・・!」

「ああ、すまん、よし、しっかり掴まっておくんだぞ」

そうか、肩車されてる奴は、太股の付け根付近まで裾がめくれあがって、
下半身がなかなか恥ずかしい事になるな。
こいつの私服、裾が膝上の服ばっかりだから、
こいつの太股見慣れてるんだよな、だからなーんも感じねぇな。
まぁそれは良いとして、紅子、今何色の下着履いてんだろう・・・、
・・・って・・・目覚めるな俺!
さっさと持ちあげるか・・・かるっ・・・。

「あわわっ・・・!わっ、たっか−い、良い眺め。
ボク、これくらいの身長欲しい、あっ、やっほー深優ちゃん」
手をひらひらさせて、呼びかける。
ミューが愛想笑いのような笑みを浮かべて、律儀にも手を振ってやってる。
ホント無邪気だねこの子は、ミューの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。
いや、ミューは綺麗好きだから無いな、昨日爪切ってたし。

「ねぇねぇキミ、ボクを久しぶりに肩車してどんな気分だい?
びっくりするくらい良い発育ぶりに驚いたかなっ!?」

即座に客観的事実を告げてあげた。
「全然変わってない印象を受けますね〜、逆にあまりのまな板ぶりに驚いたわ」

「にゃぁにを言うんだい!?
このニブチンっ、こんなに密着してて気付かないってないよぉ。
最後に肩車させてやった、五年前の夏の大琉祭り以来、
日々成長成熟を重ねてきたってのにさっ、ひどいやっ」

「えっ、5年前も行ったのか?去年行ったのは何となく憶えているけど」

「あの時期ボクが足を骨折してたのは分るよね」

骨折・・・?ああ!あれか、すっかり忘れてた。
理由は確か・・・
「他人の家の柿を勝手に取ろうとして、塀から落っこちたやつか。
しかもあれ渋柿で、かぶりついたお前、あまりの渋味と痛さで涙目になってたな!」

「そんな恥ずかしい事してないやいっ!キミこそ捏造するなっ!
・・・いや待てよ・・・そんな事あったような・・・
ひゃ、百歩譲ってそんな汚点があったとしてもだね、それが原因じゃないねっ!
稽古中に相手の木刀が両膝に当たって、片方は皿が粉々、ま、名誉の負傷さ」

「なんかそんなのあったなぁ、まあ、あれは災難だったな、なぁミュー?」

急に声を掛けられたからなのか、ミューの反応が少し遅れる。
「・・・えっ、あっ、うん、凄く痛そうだったよ・・・。
私、当事者のお姉ちゃんより先に、見てるのが辛くて泣いちゃった・・・」

「そう、道場のみ〜んなが共有すべき永遠の悲劇から一周間後、大琉祭さ。
ボクはみんなに迷惑をかけるからって、
家でしくしく泣きながら引っこんでたんだよ。
もう寝よって思ったとき、キミが来たのさっ!
いや〜あのときのキミ、
ボクと二人っきりで行きたくって堪らないっ、て感じだったね」

278深優は泣いた:2011/05/02(月) 21:30:38 ID:k3EUTXwg

そうかあれか!
でも最後だけ違うぞ・・・反論したら長くなりそうだからここは抑えよう。

「お前を背負って、一通り屋台やら催しものやらを回って、
うんで、最後に恒例の花火が打ちあげられるとき、
ちっこいお前を案じて、肩車してやったんだよな」

紅子は嬉しそうに足を小さくバタバタさせる。
つーか、少しくらい俺の負担を考えて欲しい。

「な〜んだっ、憶えていてくれてるじゃないか。
妹に発情するだけの男になったと思っていたけど、
ボクの思い過ごしのようだったねっ!ごめん!」

紅子は歪曲発言をかました後、消え入るような小さな声で、
恥じらいがちに、姿勢を下向きにやや屈め、間を置いて続ける。

「あのとき嬉しかった・・・キミは意外とかっこいいところあるよね。
やっぱりボクはキミの・・・ごにょ・・・ごにょ・・・かもね・・・」

尾っぽの部分が全然聴こえなかった、紅子、常時大音量のお前らしくないぞ。
耳に入って来なかった部分を聴き返そうとしたが、おどけたような声に遮られた。

「にゃーーんてねっ、ボクがこんな事言うわけないじゃないかっ!
へっへーん、どきどきしたかい?
うんじゃぁ、さっさと拭いて終わらせるよっ!」

お前が中断させたんだろうが、とは言わずに頷いてやった。
それにしても、あいつなんて言ったんだろう・・・ま、どうせ下らん事だろう。
これ以上馬鹿やってるとミューに愛想尽かされちまうからな、
気合い入れてかかるか。
・・・ミューなんでそんなに悲しそうなんだ、なんか・・・ごめん・・・。

その後も紅子とタメ口叩きあいながら、一応の作業を終わらせた。
体の骨をポキポキとならす柔軟体操のような事をやりながら、
今だに熱心に掃除をしているミューに目を遣ったら、ちょうど視線があった。

「あ、あのね、お兄ちゃん、ちょっと届かないところがあって・・・」

ん?まさか・・・。

「肩車してくれたら届くかも・・・ダメ?」

またか。
まぁ・・・可愛い妹のお願いを聞いてやらない理由はない。
というわけで、了解の返事をしてミューの傍まで近づく。

「ごめんね・・・重たいけどすぐに終わるから我慢してね」

紅子のときと同じような動作でミューを持ちあげる。

「よぉし、しっかり支えておくからよろしくな」

「うん・・・なんだか小さかった頃に戻った気分・・・わくわくするよ」

先程までの物悲しい雰囲気を感じなくなった。
よく分らんけど良かった、ふぅ・・・。
ミューは紅子と違って、黙々とテキパキ丁寧に汚れをふき取っていく。
早い、早い、ほんと手際がよい、みるみるうちに綺麗になっていく。
いま三人で励んでる掃除も、
ミューがこの道場に対して感謝の気持ちを伝えようとして始めたものだ。
昨日も一人で同様のことをやっていたらしい。
出発前からそんな疲れることせんでもと思うが、
打算的なところがほとんどないので、仕方がない。

ってなことを考えている間にミューから、ありがとう、もういいよ、
といった言葉がかけられたので、下ろしてあげる。

「神棚をお掃除してあげられなくて、すっごく気になってたんだ。
うふふ、これで心置きなく旅立てるね」

「そうだなぁ。
よーし、さっさと飯でも食うか、おーい、なぁ紅子?」

「竜史っ、あっちの高いところ、よ・ご・れ・て・る!
もう一肌脱いであげるから、肩車しておくれよぉ」

なんで急に掃除したがるんだ、お前はあまのじゃくか。
紅子は俺の裾を引っ張って自身の担当場所に連れて行こうとするが、
それとほぼ同時に、逆方向へ何らかの力が働く。
玉石のような白さを持った両手が、がっちりと掴まえているようだ。

279深優は泣いた:2011/05/02(月) 21:31:19 ID:k3EUTXwg
ミューさんでした。

「私、まだ綺麗にしていない部分を思い出したの・・・だから、ね?」

「深優ちゃん、悪いけどボクが先に使わせてもらうよ!」

「お姉ちゃんは十分頑張ったと思うよ、休んでてもいいんじゃないかな?」

「深優ちゃんこそ頑張りすぎ、あとはボクらに任せなよ!」

なんなんだ、このおかしな状況は。
ただ一つ言えることは腕が取れそうなくらい痛いと言うことだ。
特にミュー、そんなに手首を強く握らないでくれ、外れる。
湛山先生、向川さん、銀次郎、早く来てください、なにやっとるんですか。

その願いが通じたのか、先生だけ飄々と現れた。

280深優は泣いた:2011/05/02(月) 21:32:02 ID:k3EUTXwg
投稿終了です。

281雌豚のにおい@774人目:2011/05/02(月) 22:27:56 ID:vE.uKIhY
>>280
GJだ!!
だいたいの役者は把握できた!この先の展開に期待!!

282雌豚のにおい@774人目:2011/05/02(月) 23:52:48 ID:6/WMhMO.
>>280
GJ!
待ってたんだぜーっ!
続きも期待だー!

283雌豚のにおい@774人目:2011/05/03(火) 09:43:21 ID:KVK.ixs.
>>280
乙カレー 続きが気になるー

284避難所管理人★:2011/05/03(火) 12:54:32 ID:???
管理・要望スレにてこちらに本格的に移動してはどうかというような意見が書き込まれましたので、それに関する議論用のスレを立てました。
本スレでやるべきだとは思うんですがちょっと無理そうな荒れっぷりなので…。
また、それに伴ってIDをスレ別固定にしました。議論が一段落つけば元に戻しますのでご容赦ください。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1304394551/

285雌豚のにおい@774人目:2011/05/03(火) 15:23:20 ID:.5R4Pb12
>>280
GJ
みゅーかわいい

286雌豚のにおい@774人目:2011/05/03(火) 19:51:52 ID:FssIKwEg
次の作品投下まだかな?

287忍と幸人 ◆O9I01f5myU:2011/05/05(木) 00:21:48 ID:j9.VA8uo
忍と幸人第五話を投下します。

今回はちと性的な描写がありますのでご注意ください。

288忍と幸人 第五話:2011/05/05(木) 00:23:30 ID:j9.VA8uo

 「これ、くれるの?」

 幸人が明るい笑顔を見せてそれを受け取る。

 「気に入ってくれたかな?」
 「うん! ありがとう、お姉ちゃん」

 幸人が持っているのはボールペンだ。色は紺のメタリックカラーになっていて、なかなか見掛けは良いと思う。幸人は結構お気に入りの様だ。

 「出来れば、何時も肌身離さず持っていてほしいのだが……」
 「分かった。大切にするね」

 ボールペンをポケットに仕舞う。本当に嬉しそうで、ニコニコと微笑みが絶えない。
 普段は公園で二人の時間を過ごすところだが、今回は場所を変えて私の部屋へと彼を招待している。彼も私がどんな所に住んでいるのか興味があったみたいで、随分と乗り気だった。
 「お姉ちゃんのお部屋って色々な物があるね」と彼が言った。「そんなに珍しくはないはずだが」と思って、さっと自室を見渡す。壁には額に入った、大海原を駆けるヨットが描かれたジグソーパズルとカレンダーが掛けられており、その脇にテレビとパソコンがある。部屋の角には本棚――そう言えば新しい本棚を買おうとしてすっかり忘れていた――が置かれていて、その手前の床に書籍が山積みにされている。ベッドはパイプで組んである簡素な奴で、あとは小物が入れられているベニヤの棚が壁際に並ぶ程度。どこでも普通に見掛けるレイアウトだと思う。

 「僕んちはママの物だらけだから……。化粧品とかバッグ、あとお洋服かな」
 「幸人は何か集めてたりとかはしていないのか? 例えばホラ、本とかゲームとか……」
 「ううん。みんなママの物。僕が好きに使える物は無いの」

 首を振って答える幸人。彼は事も無げに言うが、それを聞いていた私の胸の中は落ち着きを失っていた。
 あの女に対する殺意だ。蓄積されていたそれがさらに水嵩を増し、頭の頂点にまで達しそうだった。

289忍と幸人 第五話:2011/05/05(木) 00:25:28 ID:j9.VA8uo
 体の中に詰まったこの怒りを発露する事はできない。幸人が目の前にいるのだ。せっかく遊びに来てもらった彼を怖がらせてしまうなんて以ての外だ。顔に出す訳にはいかない。
 彼の頭を撫でる。やり場の無いこの感情を昇華させたい思いのせいなのか、何時しか幸人との距離を縮ませていた。彼はこちらを見上げ、可愛い左目を向けている。
 目と目が繋がったのを合図に体を密着させ、彼お気に入りの胸枕で彼の頭を包み込む。彼もそれに応える様に私の背に両手を回し、より体を押し付けてくる。冷房が利いている室内、お互いの体温は丁度良い温かさだった。
 私よりずっと小さい体躯の温度を味わっている内に気分が昂ってきた。鼓動が頭の中にまで響く様になり、呼吸が乱れ始める。思考は停滞し、夏の日照りとはまた違った熱さが脳を犯している。私は紛れも無く、発情しているのだと思った。それと同時に、自らを抑える事ができなくなってきている事を自覚する。
 彼の顔に両の手を添え、胸から離す。彼はこれから私が何をしようとしているのかがまるで分からないみたいで、クエスチョンマークを浮かばせている。
 舌で唇を湿らす。端からつつっと一筋零れる。すぐ前にある彼の可愛い顔を私の色で染めたいという支配欲……それに背中を押され、彼の唇と私の唇は結ばれた。
 彼は左目を見開いていた。突然の事に事態が飲み込めないのか、瞳を慌ただしく揺らしている。
 眼尻が緩む。幸人が慌てている顔は可愛かった。距離を離そうともがくのを無理やり捕まえ、唇の感触をとくと感じる。やがて舌で彼の口を抉じ開けて、口内全てを蹂躙するにまでなった。

 「ん……んんぅ……」

 目を硬く閉じ、私の舌を受け止める幸人。頬にほんのりと朱が差してきている。
 彼の口の中を堪能し、唇を離す。ぬるぬるした糸が引かれる。唾液で口の周りが汚れた彼のとろけそうな顔は、とても卑猥で扇情的だった。

 「おねえちゃん……」

 呂律が回らないらしく、赤ちゃんみたいにたどたどしい。彼の熱い頬に手を添えると、それにしな垂れかかってきた。
 再び口付けを交わす。今度は唇が触れる程度の軽いもの。貪り合うのではなく、初な恋人同士がする様な、キスの定番、親愛の印。

290忍と幸人 第五話:2011/05/05(木) 00:27:42 ID:j9.VA8uo
 彼も吐息を荒くしている。あの女の言うにはまだ精通を迎えていないらしいが、彼も私との一線を越えた触れ合いにドキドキしてくれている。
 胸が熱くなる中、彼に拒絶されたらどうしようかという不安もあったが、それは杞憂だった。彼は私との過激な触れ合いを経ても「スイッチ」を変えていない。あの、感情が抹殺された機械人形の顔は見せていない。血の通った、私を狂わせたあの顔のままだ。
 理性の壁はひび割れた。一度亀裂が入れば、加速度的に崩壊は進む。私は高まる心臓の音に鼓舞していた。
 彼の体に手を這わす。長い髪の毛も優しく撫で、ちょっと緊張しているらしい彼の心を和らげようとする。

 「おねえちゃん……」

 私を繰り返し呼ぶ幸人。

 「どうした?」

 髪をやさしく手櫛で梳きながら返す。

 「すごく……胸が苦しいの……」
 「ドキドキするのか?」

 そう訊くと、コクンと恥ずかしそうに頷いた。
 初な反応だ。数多の客を相手にしてきたとは思えない程、初々しい。
 背中を擦ってやると、背筋を軽く震わせながら吐息を零した。背中に性感帯があるのかと思わせる程に感度が良い。

 「私の事、好きか?」

 呆けた様子の幸人の目を見つめて問い掛ける。彼はコクンと頷いて、「好き……大好きだよ」と、消え入りそうな声で答えてくれた。
 もじもじする彼の唇を甘噛みする。その中で「私も、大好きだ」と彼に伝えると、彼の左の眼尻が下がった。その時にお互いの心が繋がったのを実感した。今まで感じた事のないその高揚感は、酷く中毒性の伴う快感だった。
 如何なる時でも羽織っている、お気に入りの迷彩服を床に落とす。糸で繋がれた人形の様なたどたどしい手付きが、自身の服をめくっていく。
 私は、私が私でなくなってしまったみたいな、奇妙な感覚に犯されていた。体の感覚が麻痺してしまったかの様だ。自分の意識が体から離れて、何かに操られた肉体の行動を独立した意識が第三者の視点から見つめている……。衝動に駆られた人間の心理とはこういう状態なのだろうかとぼんやり思った。

291忍と幸人 第五話:2011/05/05(木) 00:30:11 ID:j9.VA8uo
 私はシャツ、ブラと手に掛けて、それを躊躇いもせずに解いた。覆うものを無くした裸体を幸人の前に堂々と晒す。彼の視線は私の胸に釘づけにされている様だった。
 彼の大好きなおっぱいを両手ですくい上げ、寄せて見せた。「触っても良いんだぞ?」と言うと、幸人はそろそろと近寄り、ぽふっと頬を吸いつかせた。乳頭を彼の口元に寄せてみると、彼は――意識してか、果ては無意識か――それに食らいついてきた。
 「大きな赤子」は出るはずもない母乳を飲もうとしたのか、乳首を吸い始めた。その吸引はピリピリとした快感を生み、私を震わせた。
 キモチイイ……。
 ほうっと息を吐く。頭が段々と白くなっていく。
 快楽の波がいきなり大きくなる。思わず体を跳ね、声を漏らした。幸人が乳首を甘噛みしたのだ。

 「……ん……あぁっ!」

歯を立てて乳首を責められる。そればかりか、両手で乳房を揉みしだいて、出ない乳を無理やり絞りだそうとする。

 「……ゆきひと……」

 呼んでも返事をしない。幸人は私のおっぱいにしか眼中にないみたいで、一生懸命になって乳搾りしている。
 可愛い……。私のおっぱいを……私を食べている……。
 彼は責めをさらに強めた。乳頭に止まらず、乳房そのものを頬張り、強く歯を立ててきた。

 「っ……痛っ!」

 あぐあぐと何回も噛みついてくる。噛み付いたまま胸を引っ張ったり、両手で思い切り乳房を握り潰してきたり、彼の責めは加減を無くしてきていた。それでも私は、彼のその愛撫に酔いしれていた。
 痛いのに気持ち良い快感が、私よりずっと小さい彼の手によって与えられている……。その私を支配したがっている彼の強い欲望に当てられたのだろうか、体の火照りはますます強くなる。

292忍と幸人 第五話:2011/05/05(木) 00:33:06 ID:j9.VA8uo
 幸人と目が合った。そのほんの一瞬の事ではあるが、さっと頭の中が冷めた。彼は両目を開けてこちらを見つめていたのだ。普段閉ざされ、開ける事のなかった右目がうっすらと開き、その白く濁った瞳を私に見せている。勿論視力を失っているから私を映す事はないはずなのだが、その目は私の見てくれだけではなく、心の中まで見通そうとしている様に思えてならなかった。

 「……っ!?」

 体がビクンと跳んだ。電気ショックを受けた様な衝撃だった。直後、汗が一気に背中に噴き出してくるのが分かった。そして、乳首には強い痛覚が……。

 「ゆっ……幸人……っ!」

 甘噛みされたなんてものではない。力の入った歯を乳首に立てられたのだ。噛み千切られると恐れた程痛かった。咄嗟に幸人の頭を両手で押さえる。
 彼は黙ってこちらを見ていた。また右目が開かれる。焦点も定まっていない、機能を失ったその目を真っ直ぐ私の視線と交わしている。
 あのスイッチが変わった時の顔ではないのに、彼の右目はその冷たい側面を担っている。感情が無く、人をそこら辺の石ころ程度にしか認識できないガラスの眼球がそのまま彼の顔に埋め込まれている。幸人の顔は涎でぬらぬらと光り、頬も赤い。左目はとろんと弛緩して、涙を浮かべている。息も荒々しく、私を犯そうとする雄の衝動に突き動かされているのが一目で見てとれるのに、その右目は死体のそれと何ら変わらない。
 体が何かに呼応したのだろうか。脳に伝わる快感がさらに増している気がする。幸人の手と口の温もりがより感じられ、全身の筋肉が強張っていく。もはや愛撫と言えない程の執拗な責めなのに……。
 頭の中が真っ白に弾けるまでに、そう時間は掛からなかった。

 「お姉ちゃん、大丈夫?」

 体中が快楽の海に漬けられる中、幸人が私の顔を覗き込んできた。

 「あ、ああ……大丈夫だ」

 息も絶え絶えにそう言う。彼は頬を赤くし、少し気恥ずかしげだ。

293忍と幸人 第五話:2011/05/05(木) 00:35:29 ID:j9.VA8uo
 「結構大胆だな、幸人。少しびっくりしたぞ」

 私が茶かすと、彼は顔をさらに紅潮させ、しおしおと身を小さくする。小学校に上がっている歳でありながら、おっぱいを貪欲に欲していた己の姿を省みたのだろう、申し訳なさそうに委縮している。

 「ご、ごめん……」
 「気にするな。お前さえ良ければ、いつでも胸を貸してやる」

 頭をぽんぽんとはたく。幸人の顔はしばらくトマトのままだった。
 楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、気がつけばもう四時を過ぎていた。幸人は何時もの様に母の影に怯えた様子を見せつつ、腰を上げた。
 片足が不自由――外傷によるもので、いずれは治るらしいが――な彼を一人で歩かせるわけにはいかないので、あの女と鉢合せする危険性を思いながらも、彼を抱えて家まで送った。これまでと違い、幸人と私は図らずも、ボーダーラインを跨ぎ始める地点まで来た。あの女に私達が揃っているところを見られたら、恐らくすぐに見抜いてくるだろう。
 幸人を送る道中は必要以上に神経を尖らせた。その反動か、無事に送り届けられた時は一気に力が抜けた。家に帰り着いた今もだるく、ベッドに身を任せてから微動だにできない有様だ。
 ストレスだけでなく、心から剥離した欠片から生まれ出てきた何かが、胸を内側から叩いてくる。欲望と情念が入り混じった「想い」が唸りを上げながらグルグルと回っているのが分かる。
 ここまで来たからなのか……。不確定要素の多いこのプランに私は期待している。だからこそ、その局面に至るその瀬戸際で、全てが覆るのを恐れているのかもしれない……。
 だが、反対に、愛しいあの子が手に入る事の期待が募っていくのも感じる。
 ヘッドホンを付けてみる。遠い所の音声が耳に入ってくるのを確かめた。その中に、幸人の愛らしい声もある。
 ふふふ……幸人……私はあらゆる汚い手を使ってでも、お前を助け出してやるからな……。

294 ◆O9I01f5myU:2011/05/05(木) 00:36:58 ID:j9.VA8uo
投下終了します。

295雌豚のにおい@774人目:2011/05/05(木) 02:41:35 ID:OnpdYfDw
キターーーー!!
待っていたぞ……とうとう忍さんが動き始めた…どのように母親を追い詰めるかな…そして、幸人はおませ過ぎる!!うらやまっ……いや、けしからん!

296雌豚のにおい@774人目:2011/05/05(木) 07:57:05 ID:p3wruYTc
GJGJ!
まさにうらやまけしからん!
本スレにも避難所にも面白い作品が沢山だー

297雌豚のにおい@774人目:2011/05/05(木) 08:08:58 ID:jUBnc0Rc
GJ!乙だぜ!

298雌豚のにおい@774人目:2011/05/05(木) 11:00:38 ID:OnpdYfDw
さっき保管庫見て来たんですけど、「忍と幸人」の4話・5話無いですよ。

299 ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:33:50 ID:X.3iyClg
非常に、お久しぶりです。長らく放置してすみません。
ワイヤードの続き、投下します。

300ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:34:43 ID:X.3iyClg
第二十話『千歳の選択』


運命なんてないさ。
誰だって自分の生き方を選択する。
どんな辛いことがあったって、どんな幸運につつまれていたからって、今いる世界は、自分をとりかこむ全ては、自分の選択の結果なんだ。
しかたない、とか、そんな聞き分けのいい言葉でなにもかも諦めて、なにかのせいにして。
そうやって生きてたら、きっと、自分なんて存在はそこには居なくなっている。
だれだって選ばなくちゃならない。
なにもかも投げ出したまま、未来に到達することなんてできないんだから。


    ♪      ♪      ♪


「千歳」
その日の授業が終わり、放課後になった。千歳はぼんやりと窓の外をみつめている。
御神枢が現われてから、もう一週間がたった。どたばたするものかと思ったが、案外平和で、何もトラブルは起こってはいない。
枢もわりとクラスになじめてきたようで、ナギやイロリ、深紅とも仲良くなっていつも一緒にわいわい遊んでいる。
こんなのも、悪くない。
「千歳、おい、千歳!」
「――んぁ?」
「呆けていたな。まぬけな顔だ。ほら、よだれを拭け、みっともない」
ナギがハンカチを取り出して千歳の口を拭く。
昔から使っているキャラもののハンカチだ。舐められるのは嫌いなのに妙に子供っぽいのがナギだ。
「ん、もう誰も教室にいないな」
「ああ、とっくにみんな帰ったよ」
「イロリと……みんなは?」
「あいつらなら、家庭科室を借りて料理をしている」
「料理か。なんのために?」
「私が知るか」
ナギはむすっとした顔で千歳の頬をつねった。
「いてーな」
負けじとナギの頬をひっぱる。ナギの頬は柔らかく、むにっと横に伸びた。
「変な顔」
「お前こそ」
「……」
「……プッ」
「ふっ、はははははは!!」
そして、二人は笑いあった。
「なぁ、ナギ」
「なんだ、千歳」
「お前って、可愛いんだな」
「っ……!」
「もっと笑えよ。いつも笑ってれば、イロリにも、深紅にも、枢にも負けない。まあ――百歌には僅差で劣るが」
「――っ――ぉま――!!」
ナギは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「ほ、褒めるなら、百歌のことくらい抜きにして言えないのか、このシスコンめ!!」
「ははっ、悪い悪い。なんていうか、こんなこと面と向かって言うの、恥ずかしくてさ。つい」
「つい、じゃない! お前、私をなんだと……!」
そこまで言って、ナギは口を止めた。
千歳の目。
千歳は、まっすぐにナギを見つめていた。

301ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:35:04 ID:X.3iyClg
「ナギ、お前をどう思ってるって?」
「……」
「答えて、欲しいか?」
「……千歳?」
ナギの胸が高鳴る。
千歳がこんなにまっすぐに、真剣な目で見つめてくるときは。決まって何か大切なことを言うときだ。
とても大切なこと。千歳にとっても、ナギにとっても。
だが、大切だからと言って双方に幸せなこととは限らない。
それは、千歳の心を傷つけてしまうかもしれない。あるいは、ナギの。
「……少しだけ、考える時間をくれ」
「ん。そうだな。変なこと言っちまったな。すまん」
「いや、いいんだ。ただ、私が……」
臆病なんだ。
自分の中の真実と向き合うことができない。

こんなに近くにいるのに。本当の気持ちがいえない。
誰もが、こんな苦しみを抱えている。

――あなたが好き。

それだけで、いいのに。

「よし、ナギ。今日はちょっと遊びに行かないか!」
「お、おい、いきなり何を」
「どうせ暇だろ!? ちょっとくらい付き合えよ!」
千歳はナギの手をとって走り始める。
(ったく……)
この男は。千歳というやつは、わかりやすい性格をしているが、全然意味のわからないことをするときがある。
こんなデートの誘いがあるか。バカ、女の子に嫌われるぞ。
(私も、女の子だけど)
女の子。
千歳と一緒にいるために、ずっと自分は女の子であることを表に出そうとせずにいる。
恋人になりたいわけじゃないから。ただ、大切な場所だから。
千歳の近くが、自分の唯一の居場所だから。
女であろうとすれば、恋をするか、そうでないかしかない。
だけど、千歳は男として、人間として魅力的で、それにつりあう女の子が既に何人もいる。
自分は、そうじゃない。女としての、なんの魅力も持ってはいない。
だから女ではなく、ただの幼馴染のナギになった。

それでいい。それでいいんだ。

(――でも)
繋いだこの手を、放したくない。



    ♪      ♪      ♪

302ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:35:26 ID:X.3iyClg
「ちーちゃーん!! 私の特製ケーキ食べてくれるよねー! 愛情特盛、お届けしちゃうよー!」
「ふふふ、イロリさん、料理とは計算です。愛情など、緻密な計算と理論に基づいた私の料理の前では無力! 千歳君もきっとこのケーキを食べてくれるはず!」
「あらあら、まだわかっていらっしゃらないのですね。料理においてもこのわたくしがナンバー1ですのよ。この御神枢、苦手なものなどございません。むしろ全てが得意科目。料理も例外ではありませんわ」
それぞれ言いたいことを言いながら扉を勢いよくあけ、イロリ、深紅、枢が教室に飛び込んだ。
が。
「あれー?」
「誰もいませんね」
「千歳様はいずこに?」
目当ての千歳はそこにはいなかった。
「もう、ナギちゃんに帰らないよう見張っててって言ったのに!」
「誰が一番料理が上手いのか対決は延期ですね。(勝手に決めた)審査員の千歳君がいないのであれば」
「まったく、わたくしのケーキを食べられないなんて、千歳様も随分愚かな選択をしてしまいましたわね」
「なにー、ちーちゃんをバカにするなー! そもそも枢ちゃんのケーキより私のケーキのほうがおいしいんだから!」
「言いますわね、御神家秘伝のレシピに貧弱一般人がかなうかどうか、今から確かめてもよろしくてよ」
「まあまあ、醜い争いは止めてくださいよお二人とも。どうせ私の圧勝なんですから」
「「黙れメガネ!!」」
「私の扱い酷くないですか!?」
「こうなったら私たちで食べあって対決だ!」
「望むところですよ。ふふ、このおいしさにきっとお二人は床を転げ回った挙句窓の外に向かって『うまいぞー!!』と叫ぶことになるでしょう」
「千歳様のために作ったというのに、不本意ですが仕方ありませんわ。明日まで待てば鮮度が落ちてしまいますものね。ここで決着をつけることといたしましょう」
三人は三つの机をくっつけ、ケーキを置いた。
「どれどれ、じゃあ私は深紅ちゃんのやつから」
イロリはどこからともなく取り出したフォーク(『いろり』とひらがなで名前が書いてある)を深紅のケーキに突き刺した。
三分の一くらいを切り取って口に運ぶ。なんとも一口がでかい。
「むぐむぐ。もぐうぐぐうぐぐ、ぐもももも!!」
「食べながら喋らないでください!」
「ごくん。……ふ、ふん、ま、まあまあと言ったところかな。丁寧には作ってあるけど地味って感じ」
「よだれ垂れてますけど」
「そ、そう、愛情だよ、愛情が足りない!」
「精神論ですか?」
「これはもっと調べる必要があるね、もう一口!」
「残りの三分の二は私の分と枢さんの分なのでダメです」
「えー!!」
「露骨に嫌そうな顔してますね」
「次はわたくしですわ!」
枢が続いて差し出す。見た目は普通のケーキ。御神家秘伝のレシピと言っていたが、どれほどのものなのだろうか。
イロリと深紅は、おずおずとフォークを口に運んだ。
「……ど、どうですの?」
「まずっ」
「産業廃棄物ですね。産廃ですね」
「なぜ二回言いましたの!?」



    ♪      ♪      ♪

303ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:35:41 ID:X.3iyClg
「千歳、手を」
「ダメだぞ、ちびっこが手を放したら、迷子になるからな」
「バカ、放せ!」
ナギは千歳の手を無理やり引き剥がした。
「ったく、何のつもりだ、遊びに行こう、だなんて。だいたい毎週遊んでるじゃないか」
「家でゲームしてるだけだろ。たまには外で買い物ってのも悪くない」
「インドア派なんだよ私は! 買い物なんて女の子の遊びだ!」
「だったらお前も楽しめるな」
「っ……」
いつもの近くの商店街ではなく、少し離れた繁華街まで来た。
きらびやかなショウウィンドウが立ち並ぶ。ナギは目がちかちかするような気がした。
似つかわしくない。
「そ、そうだ、ゲーセン。ゲーセン行こう」
「タバコくさいだろ、却下だ」
「私とゲーセン以外に行くところなんて無いだろう」
「そんなことは無いさ」
千歳は少し顎に手を当てて考えた。
「なあ、ナギ。そういえば、その髪、伸ばしてるのか?」
「ん、この髪か? いや、切ってないだけだ。髪形とかいちいち気にしないしな」
「じゃあさ、美容院行かないか? 髪型、変えてみようぜ」
「はぁ? 脳に蛆でもわいたか? 美容院なんて、生まれてこの方行ったことがない」
「だから初めて行くんだよ」
「お、おい!」

304ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:36:00 ID:X.3iyClg
「はい、どうですか?」
美容師に言われ、鏡を見る。
無理やり連れて行かれた美容院。幸い予約なしでもすぐにカットしてくれた。
希望の髪形はなかったので、美容師には千歳の要望が伝えられた。
「――これは」
昔の――千歳に出会ったあのころの自分が、そこにいた。
サイドをリボンで縛ったショートヘア。小学生のころの髪型だ。
髪型にはいちいちこだわっていない。その時の長さとか状態のままなことが多い。
しかし、小学生のときは、リボンで自分を飾っていた。
それは、母がそうするよう、リボンをプレゼントしてくれたから。
千歳のことを母に話したとき、母はとても喜んだ。
――じゃあ、おしゃれして、素敵な女の子にならなきゃね。
そういって、嬉しそうにリボンをくれた。
「おー、似合ってる似合ってる」
「千歳、どういうつもりだ」
「どういうつもりって、どうもこうも無いだろ。たまには髪型かえねーのかなって、思っただけさ」
「このリボンは」
「ああ、それは俺からのプレゼントってことにしといてくれ」
「プレゼント? 貰う覚えはないが」
「俺の気まぐれに付き合ってくれたお礼だよ。あと、普段から世話になってるからな」
――世話になっているのは、昔から私のほうだ。
その言葉は飲み込んだ。千歳はそんなこと全く考えてはいない。そういうやつだ。
自分と関わった人間が幸せだったり、喜んでいたり、無事で過ごせていたりするだけで、幸福になれる人間だ。
たとえ、自分がどれだけ傷つこうが。
「ずいぶん派手に短くしちまったが、よかったか? なんか、俺のわがままで髪型変えさせちまったな」
「別に、かまわないぞ。むしろ、体が随分軽くなったし、涼しいからな」
「そうか。うん、やっぱりその髪型が可愛いぞ」
「か、可愛いはやめろ! そういう世辞はいらない!」
「お世辞じゃないんだけどなぁ」
「ぅー……」
(なんなんだ、今日の千歳は)
なんだか、妙に絡んでくる。それに、歯が浮くような台詞ばかりだ。
別に、嫌じゃないけど。
恥ずかしい、じゃないか。

305ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:36:27 ID:X.3iyClg
「なあ、ナギ」
「なんだ」
「あの服、お前に似合いそうじゃないか?」
「……服なんて、母さんが買ってくれる分で充分だ」
「いや、でもお前だいたいパーカーと短パンだろ? たまにはスカートも穿いてみると、気分転換になっていいんじゃないのか?」
「知らん。スカートなら制服で着てる」
「試着してみるだけでもいいって、とりあえずあの店入ろうぜ!」
「お、おい!」
千歳はナギの手をとって、明らかにお洒落な雰囲気といった感じの店に入った。
「店員さん、この服の、もっと小さめのサイズ――この子くらいのやつ、あります?」
「いらっしゃいませ。はい、今お持ちしますね」
愛想の良い、若い美人な店員が千歳の声を聞くと、すぐに店の奥に入っていく。
「どうせ、私のサイズなんてないだろ」
「自虐すんなって、お前くらいの身長の子も案外いるもんさ」
「ふんっ」
そうこうしているうちに店員が戻ってくる。その腕には、ショウウィンドウで見たあの服がかけられている。
「なっ」
「し、試着するだけだからな!」
「はいはい。まあ着てみろよ」
「お客様、こちらへ」
店員はナギを試着室まで導いた。
ナギはぶつくさと小声で悪態をつきながら、試着室へ入る。
「とっても可愛らしい方ですね。妹さんですか?」
店員は、人懐っこい笑顔を浮かべ、千歳に話しかける。
「あ、いえ、同級生なんですよ、これが」
「まあ、素敵です! プレゼントですか?」
「はい、そのつもりで」
「まあまあまあまあまあ!! お安くしますね!」
「ははっ、ありがとうございます」
随分テンションの高い店員だ。
が、まあ悪い人ではなさそうだし、流しておいていいだろう。
少しすると、試着室のカーテンを少し開けて、ナギが顔をだした。
「き、着たぞ」
「ああ、見せてみてくれないか?」
「わ、笑うなよ?」
「笑わねぇよ」
「うそだ、絶対笑う!」
「笑わない! 笑ったら三回くらい殴っても良い!」
「くっ……わかった。じゃあ出てやる」
ナギは顔を真っ赤にしながら、おずおずとカーテンを開ける。
「……!」
そこにいたのは、紛れも無い美少女という生物だった。
「こ、これは……!」
店員も、おおげさにゴクリ、と唾を飲み込む。
「変……だよな、やっぱり」
ナギは顔を赤らめながらもじもじと体をくねらせる。
こんな女の子らしい格好をしたことが無いナギには、そうとう堪えるのだろう。
だが、むしろそういう態度が女の子らしい。
「い、いや、変じゃない。変じゃないっていうかむしろ……」
「むしろ、なんだよ……」
「可愛すぎてビックリした」
「は、はぁ!? 冗談も大概にしろよ! 本気で怒るぞ!」
「いや、マジだって! だよな、店員さん!」
「はい! お客様、まるでお姫様みたいです。とっても素敵ですよ! お持ち帰りしたくなってしまいます!」
最後のは聞かなかったことにしよう。
「も、もういいだろ! 脱ぐ!」
「やめろって! せっかくだから着て行こうぜ! いいですよね、店員さん」
「はい。お会計、こちらになります」
電卓をぱちぱちと押し、千歳に差し出した。
ショウウィンドウで表示されていた価格より随分と低い。これなら財布への負担もそう重くは無いだろう。
というか、これ70%オフとかになってるんじゃ……。
「こんなに可愛いカップルを見せてもらったんですから、そのお礼です」
「カップルって……!」
ナギは何かいいたそうな顔をしていたが、千歳はこの店員の言うことだからとスルーした。

306ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:37:02 ID:X.3iyClg
「ったく、今日はなんなんだ一体……」
なんだか今日は千歳に振り回されてばかりだ。
嫌なわけじゃないが、外で何かするのは疲れる。歩いたりするだけではない、知らない人と顔を合わせなければならない。時には、話すことも必要だ。
人間と話したり、つきあったりするのは、案外体力のいるもので、そう何度も何度も一日の間に繰り返したくは無い。
「千歳、今度はどこに行こうって言うんだ」
「ああ、次が最後だ。もう日が沈むしな」
そういって、千歳はナギを連れ(例によって手を繋いで、だ。ナギはもう振りほどく気力もなかった)、来たのは湖だった。
「湖なんて、なにも面白くないじゃないか」
「そういうなって、知ってるだろ、この湖は――」
「ぁ――」
目の前に広がっていたのは、光の世界だった。
「この時期の、この時間帯に丁度夕日の光を上手く反射して、すげぇ綺麗になるんだよ」
ナギは目を見開き、何もいえなかった。
始めてみた。こんな綺麗な世界。
美しいものになんて、興味はなかったし、きっと出会っても目を奪われることはなかったろう。
だが、何故だ。
こうして今、心を捉えて放さないこの景色は。
「……千歳」
「なんていうか、今のナギに似合う景色じゃないか?」
その湖に沈む夕日の光は血の様に真っ赤で。しかしグロテスクではなく、むしろ暖かい。
「この光の世界から来た、お姫様みたいだな――ってのは、なんかクサすぎるな」
「――これを、見せたかったのか?」
「いーや」
千歳は首を振った。

307ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:37:20 ID:X.3iyClg
「本当は、俺がお前にプレゼントをしたいって、そんな殊勝なことじゃないんだ。ただ、俺がここで見たかったんだ。夕日でも、この湖でもなく、お前をだよ、ナギ」
「私、を……?」
「その髪も、そのリボンも、その服も、そしてこの場所も。全部ナギのためのものだよ。きっと、今は、お前はこの世界のお姫様なんだ。クサい台詞だけど、やっぱりこういうしかない」
「ば、バカ……恥ずかしいんだよ、お前」
「俺もそう思う。なんか、今日の俺、変だよな」
「変だよ……おかしいぞ、千歳。なにか悪いものでも食ったのか? 絶対、絶対におかしい!」
ナギは、顔を真っ赤にして、千歳をにらんでいた。若干目が潤んで、涙目になっている。
「お、おい、悪かったよ。だから怒らないでくれ」
「怒ってない! 怒ってなんかいない……ただ、なんで、私なんだ。私は、お姫様なんてガラじゃない。もっと――イロリとか、枢とか、そんなぴったりなやつがいるだろう。それに、あの二人はお前のことが……その、好き、なんだろ? だったら」
「お前じゃなきゃダメだったんだ。それは間違いない」
「な、なんで!」
「それは……」
千歳は少し目を伏せ、微笑んだ。
「なあ、ナギ」
「……なんだよ」
「好きって、なんなんだろうな」
どきり。
心臓がはねる。
好き。
好きという言葉。
こんな、こんな気持ちにさせておいて、その言葉を使うのか。
「なんていうか。そう、イロリも、枢も、俺に言ってくれたんだ。好きってさ。こんな、俺にだぞ」
「……」
「好きって気持ち。俺には良くわからない。誰かを独り占めにしたいのか、ずっと一緒にいたいのか。でも、俺には百歌がいる。家族がいる。家族に感じる『好き』と、そうじゃない人に感じる好きって、どう違うんだ?」
「わかるわけ、ないだろ……。私に」
「……だから、答えを探そうと思ったんだ。大切なこと。ずっと一緒にいたいということ。その気持ちの答えを」
「……千歳、お前は……」
「そうやって考えて、考えて……。俺が一番大切に思ってて、守りたいって、一緒に居たいって思う人が、誰か。その人なら、気付かせてくれるかもしれないと思ったんだ」
「やめろ……」
それ以上、ききたくない。
この気持ちが、どんどん大きくなる。
千歳の声、千歳の目、千歳の息遣い。千歳の暖かさ。
それを感じるたびに、どんどん大きくなって、とまらなくなる。
今もこの胸のどきどきが止まらなくて。
張り裂けそうで。
その先に行ったら、きっと。

「ナギ、俺は――」

308ワイヤード 二十話   ◆.DrVLAlxBI:2011/05/05(木) 19:40:42 ID:X.3iyClg
投下終わります。久々なんですが急展開です。
ここからは各ヒロイン毎に分岐します。千歳が誰を選択するかによって病むキャラと被害にあうキャラがかわります。
たぶん最初に書くのは百歌編かと思われますが、気まぐれに変わる可能性もあります。

落書き、今回のナギ。髪型こんな感じです。お洒落な服とかわからないので適当です、ダサかったらすみません ttp://up3.viploader.net/jiko/src/vljiko047281.jpg 

ではまた。

309雌豚のにおい@774人目:2011/05/05(木) 19:41:49 ID:dZ8R02kg
マジか……俺ワイヤード好きだったんだよ。まさか続きがくるとは、ありがてぇありがてぇ。

310雌豚のにおい@774人目:2011/05/05(木) 19:41:57 ID:jUBnc0Rc
>>308
GJだぜ!ワッフルワッフル!

311雌豚のにおい@774人目:2011/05/05(木) 21:19:26 ID:zOCPzrtw
>>308
GJすぐるでしょう?
全裸待機だヒャッハー

312雌豚のにおい@774人目:2011/05/05(木) 21:58:54 ID:p3wruYTc
>>308
GJGJ!
どんどん復帰する人が出て、まさに夢のようなゴールデンウィーク・・・
いや、ヤンデレウィークだった。

313雌豚のにおい@774人目:2011/05/05(木) 22:00:42 ID:98nfOneg
ワイヤードと言い、黒ぽけと言い、人気作家達が復帰するとは、その上に悪魔の分け前や深優は泣いたとかの期待の新人とかが増えてくるし、破竹の勢いだな

314雌豚のにおい@774人目:2011/05/06(金) 00:13:57 ID:sgDOsI.6
>>308
GJ!
ワイヤードが戻って来てくれて嬉しいぜ!
最高にGJ!
上の方に同じく素晴らしい
ヤンデレウィークだった!

315雌豚のにおい@774人目:2011/05/06(金) 00:16:42 ID:2ytZYwv2
次の作品投下まだかな?

316雌豚のにおい@774人目:2011/05/06(金) 06:36:27 ID:myC/DxZM
>>308
懐かしいいいい!
まさかまたナギにあえるとは

317雌豚のにおい@774人目:2011/05/06(金) 11:08:09 ID:OnpdYfDw
今年のゴールデンウィークは作品ラッシュ+復活ラッシュであった……作者の皆様…良いゴールデンウィークをありがとうございます。

318 ◆STwbwk2UaU:2011/05/07(土) 00:41:52 ID:p3wruYTc
ワイヤードの人の後とか恐れ多いレベル

だが投下。

319魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/05/07(土) 00:42:49 ID:p3wruYTc
私こと、神魔王国第四討伐部隊所属
聖騎士見習いのリーザは今、荒野を歩いている。
旅の途中で出会ったアガトという悪魔は、今私の隣を歩いている。
首には逃げられないよう、捕縛の首輪がつけられていた。
正直な話、どうして私は彼と、悪魔と旅をしているのか自分でも分からなかった。
ただ、ひとつだけ言えることは、
…今、彼と一緒に旅をしていて、ちょっとだけ楽しいということだ。
彼はおそらく、私より3〜4才くらい下…多分。
つまり、私のほうがお姉さんなのだ。
今まで同年代の子が近くにいなかったし、いつもどこでも私は
「最年少」という扱いだった。
みんな年上。みんな偉い人、私とは違う人。

だから、悪魔とはいえ私と同じくらいの年の子と一緒に旅ができるのは、
私にとって初体験で、この上ない喜びだった。
幸いこの子はインプで魔力が弱く、一人で旅をするのは難しい。
彼も何か目的があるみたいだし、見習いとはいえ聖騎士の私がそばにいれば安心なのかもしれない。
―旅というものはこんなにも楽しく感じるものだったんだろうか……

「―ここらで少し休憩しましょう。」
傷跡のある聖騎士様が指示を出す。
あの人の名前はトルスティ様。異国生まれらしい。
他の二人の聖騎士様は私とほぼ実力は同じくらいだが、トルスティ様は別格だった。
過去幾多もの名のある悪魔を葬ってきたというだけあって、
実力、経験、風格、どれをとっても一流の名にふさわしい聖騎士。
…私もいつか、あの人のような素晴らしい聖騎士になりたいと思う。
ちなみにアガトはショッキングな出会いをしたせいか、
トルスティ様のそばには絶対に近寄らなかった。

ちなみに、アガトの名前は私以外は誰も知らない。
何故なら、アガトは私に「誰にも言わないで欲しい。」と言ったから。
友達に頼まれたら守るのは当然。
だから他の人からは「インプ」とか「そこの悪魔」とかという言われ方をしている。
そのたびに私は彼の名前を知っているという優越感に浸ってしまうわけだが……

「…ザ、リーザ」
トルスティ様に肩を叩かれ、ビクっとなる。
どうやら私はボーっとしていたようだ。
「大丈夫ですか?これから貴方にとって初めて本格的な悪魔討伐になりますが……
 緊張しているのですか?」
緊張などしているわけがない。
むしろ興奮している。
西方の悪魔を倒せば、私は聖騎士として認められるのだから。
「……いえ、大丈夫です。」
言葉に力をみなぎらせ、トルスティ様に返答をする。
「いい顔です。日が暮れるまで歩いたら今日は終わりです。」
トルスティ様は抑揚のない声で頷きながら言った。
――絶対に、こんなところで躓いてたまるか……っ!



その日の夜、野営ポイントまでたどり着いた私たちは、
ゆっくりとストレッチングをし、携帯食を食べて明日に備えた。
私たちは軽い聖域を作り、邪悪なるものを入れないようにして就寝した。
…一応見張りはいる。アガトだ。
アガトは聖域に入れない。よって自分の魔力で何とかしなければならない。
私は抗議したが、鶴の一声とでもいうのだろうか、
トルスティ様の意見によって、アガトは一人聖域の外にいなければならなくなったのだ。
私は気が気でならない。
朝起きたらアガトが死んでいた。なんてことになっていたらどうしよう。
せっかく友達になれたのに。そんなお別れなんて悲しすぎる……
嫌だ、私はまだ一緒にいたい。
色々と話しをしたい。
もっと、仲を深めたい。
悶々と、私の中で何かが蠢く。

――気づくと私は、聖域を出て、アガトのそばに向かっていた。

320魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/05/07(土) 00:43:13 ID:p3wruYTc
アガトは、空を見上げていた。
その顔は哀しそうで、ポツリ、ポツリと何かをつぶやいていた。
……彼の心は深く傷ついている。
私たち聖騎士は修道士としての教えも修めているので、告解をすることもできるが
私には彼がそれを求めているようには見えなかった。
―己の欲せざる所は、人に施す勿れ。
東方のなんとかという人も、人の嫌がることはやめろと言っていた。
私も何も言いたくないときはあったし、暫くはそっと…何も聞いてあげないでおこう。

「今日は、星がきれいね。」
そっと側に立ち、彼と同じ方向の空へ顔を上げた。
するとドシン…という鈍い音が聞こえた。
アガトの方を見ると、先程まで腰掛けていた石から転げ落ちていた。
「なっ…なっ……なっ……!?」
顔が真っ赤になっている。驚かせちゃったかな?
でも、なんか仕草がとても可愛かった。
頬を緩ませながら、もう一度空を見上げる。

「ねぇ、知ってた?
 流れ星に3回願い事を言えれば、その願いは叶うんだって。」
「…願い、事?」
「そう、願い事。
 貴方も何か叶えたいことがあるなら、星に願いを込めてみたらどうかな?」
「僕の…僕の願いは……」
彼はそう言うと、ブツブツと小声で何かをずっとつぶやいていた。
私はなんかモヤモヤとなって、彼の隣に座って、彼を自分の近くに引き寄せた。
「貴方、また今日寝てないでしょ?
 私が起きててあげるから、代わりに少し寝るといいよ。」
アガトは真っ赤になって私の側から離れようとする。
ふん、アガトが寝るまで私は離れませんよーだ。
「き、君こそ寝るといい!
 ぼぼ僕は悪魔だから、君とは違うんだっ!」
「…そうね、あなたとわたしは違うわ。」
「だろう!?なら早くあっちに……」
「私のほうがきっとお姉さんだもの。
 年下の貴方は私の言う事を聞くべきよ。そうじゃない?」
私がこう言うと、彼は観念したようにため息を吐いた。

「…分かった。分かりました。
 お言葉に甘えて、少しだけ休ませてもらうね。
 ……ありがとう。」

彼はそういうと、私に体を少し預けて寝てしまった。
私は半身に心地良い重みを感じながら、空を見上げていた。
――願わくば、この旅がうまくいきますように……



次の日、移動の準備を整えながら、
私はトルスティ様に聞きそびれたことを聞くことにした。
ちょうどアガトにトルスティ様が向かって行ったので、聞けなかったのだ。
「トルスティ様、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「何かな?リーザ。」
抑揚がなく、表情のない顔でトルスティ様は答えた。
「あ…のその、わ、私は悪魔の、その、名前を、あの、し…知らないのですが」
トルスティ様の言葉には何の圧力もないのに、言葉があたふたとなってしまう。
するとトルスティ様はふと口を緩ませて言った。
「そういえば、同行してる二人には言ったのですが…
 あなたには言っていませんでしたね。」
何故かホッとする。この人は尊敬できるんだけど、なんか苦手なのかもしれない。
先生……そうだ。
この人見てると訓練所の先生思い出すんだ。
トルスティ先生……うん、なんかすっごいよく合う。
「コホン、それじゃ悪魔について情報を……」
ゴクリとつばを飲む。

「依頼された村人からの話ですが、
 これから討伐に向かう悪魔は、双眸が血のように赤く。
 強力な魔力を操るそうです。
 そこで村人たちはその悪魔をこう呼んでいるらしいですよ。


 ――レッドアイズと。」

321 ◆STwbwk2UaU:2011/05/07(土) 00:43:48 ID:p3wruYTc
投下終わり。
本スレこぇー

322雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 00:53:59 ID:jUBnc0Rc
乙だぜ!
本スレは荒れまくってるおかげで、逆にスルーできるくらいじゃないかと

323雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 01:20:27 ID:OnpdYfDw
投下お疲れ様であります!!レッドアイズ……なんだろう、トルスティ様がリーザに殺されそうなフラグびんびんやん

324ウェハース ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/07(土) 02:56:21 ID:L7ycfpd2
乗るしかねえ!!このビッグウェーブに!!
短いですけど、投下いきます!!

325ウェハース ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/07(土) 02:56:56 ID:L7ycfpd2
何も大したことはない。

そういう風に装っているのが分かった。当たり前のように、そこにずっといたように。
小町は僕の家族を取り込んでいた。 肉親以外の親戚よりも近く、兄弟よりも少し遠くに腰を下ろして。 僕の『彼女』のポジションに納まっていた。

母さんは上機嫌に笑い、妹は実の兄より懐いていた。

それから時折僕を見ては、「どう? 上手くやれたでしょう?」と言わんばかりの顔で小町は僕に微笑んで見せた。

「そろそろ、お暇します」

切り出したのは小町からだった。 時計を見ると七時を少し過ぎているくらいだった。

「えー、お姉ちゃん、穂波と一緒に晩御飯食べよー!」

困ったように見せる表情が少し、演技に見えた。

「こーら、ホナちゃんワガママ言わないの、お姉ちゃん最初に言ったでしょ、お兄ちゃんに会いに来ただけだって」

母さんは穂波を宥めながら、小町に目配せをする。
『よかったら、晩御飯一緒にどう?』声になって聞こえてきそうだ。

「ごめんね、ホナちゃん。 また今度ね」

僕に言っているように聞こえる。

「駅まで送るよ」
「ありがと」

小町は満面の笑みで僕に応えた。

326ウェハース ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/07(土) 02:57:30 ID:L7ycfpd2

「どうしてって……」

小町は困ったように眉間に皺を寄せて、熟考しているように見せた。

「私が平沢君に言うのがおかしいかな?」
「そうだろ、なんで僕にちょっかいかけるなって言うんだよ」

家の前の通りを左に折れたところで僕は話を切り出した。
なんだか家の近くでは切り出しにくかった、何でだろう。

「だって、平沢君が鬱陶しいんだもん」
「平沢は僕の仲の良い友達だ、ちょっかいなんて言い方許さない」

言い切ると同時に小町の目が僕を捕らえた。
縮こまりそうになるけど、何とか耐える。 ここで引くワケにはいかない。

「ふぅーん」

意味ありげに小町が僕を投げかけたそれは、宙に居座って中々空気に溶け込まずに居座り続けた。

「平沢君ってモテるよね」
「は?」

鳩が豆鉄砲を食らったような……、そんな顔をしてたと思う。
小町は構わず続けた。

「面白さとか知識量なら断然真治だけど、でもやっぱり受けがいいのは平沢君だよね」
「いきなりなんだよ」

小町は笑みを崩さずに僕の手のひらを握ろうとする。 僕は拒絶するみたいにそれを避けた。
小町の手が空を掴む。

327ウェハース ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/07(土) 02:58:01 ID:L7ycfpd2

「劣等感とか無かった? 遊ぶ約束を採りつけようとしたらデートするから駄目って言われた事はない?」

ズキンと心の何処かが軋む音がした。
まるで踏んではいけない所に体重をかけてしまったみたいな嫌な音だ。

「無いよ、一度も」

嘘は言っていない。 だって言われるまで考えたことも無かったのだから。

彼女は笑みを絶やさない。 むしろさっきよりも深くなっているようにも見えた。
見透かされてはいない。 心は見えないんだ。

「二人でいるとき人はどっちに話しかけてた? 真治? それとも平沢君?」

__逡巡。
___思考。
____検索。

彼女の手がまた僕の手に触れようとして、空を掴む。
避けた。 かろうじて。

「誰も真治を評価なんてしないよ?」

___真治。

小町がそう呼ぶだけで、「くん」を付けないだけで食道の辺りがキュッと緊張した。

「傍から見れば上手く両立出来てたかもね、額縁と絵画みたいにさ」
「どういう意味だよ、それ」

キッと小町を睨むが、小町は調子を崩さずに続ける。

「そのままの意味だよ、平沢くんは絵画で、真治は額縁。 もっと酷い言い方をするなら金魚の糞だね」
「そんな事……言うな」


「それは、誰を庇ってるの?」


気付けば手が握られていた。

「捕まえた」

そう聞こえた気がして、ハッと顔を上げた。
僕はいつの間に視線を沈殿させていたのだろう。

328ウェハース ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/07(土) 02:58:27 ID:L7ycfpd2

彼女はまだ笑みを残したままで、僕だけが戸惑っていた。

「当の平沢くんは違うかもしれないね、あの人は意図せずやってる可能性もあるから。 でもそういうのが一番無神経で腹が立つよね。 あくまで善人で、そう思った人が自己嫌悪しちゃう……そういうのってさ残酷だよ」

毒気を含んだ彼女の言い分が妙に心地よく感じた。

「そんなこと無いよ」

搾り出すように、そう言った。

しばらくして、コツンと額に何かが当たり、自分の体温ではない温度との差を感じた。
さっきまで僕を掴んでいた手はいつの間にか首に回っていて、綺麗な黒髪が僕の顎先や肩に触れていた。

「誰かに言って欲しかったんでしょ? 真治」

握りこぶしを作る。

「可愛そうな私の真治」

ぞくりと、背中に何かが走った。

「いいよ、気付かなくても。 平沢くんを遠ざけるのも私のせいにしてもいい」

唇を何かが覆った。 思わず身を固くして目を閉じたが、それはそれ以上踏み込まずに少しだけ湿り気を残して離れた。
優しさを利用してもいいという証明としてそれをしたのだ。

「ねぇ、真治。 お願いがあるの……」

優しさとはなんなのか、もう僕には分からなくなっていた。
でも彼女の言葉はとても心地よくて、そこにしか居場所が無いように聞こえて、弱りきった僕にはそれに対する応答も出来なくなっていた。

応えない僕に小町は微笑みかけるだけで、追求はしてこなかった。
「私は真治が大切で、大好きだから、返事はいつでもいいよ。 勿論怒らないし、態度も変えない。 だって私たちは愛し合ってるんだから」

329ウェハース ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/07(土) 03:01:51 ID:L7ycfpd2
短すぎるね、だってここが一番切りやすかったんだもん
以上、ウェハース第十一話でした
◆STwbwk2UaUさん、久しぶりの投下に待ちきれずにあまり間隔を置かずに投下してしまいました。
申し訳ございませんでした。

330雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 04:33:12 ID:w9DxZ9mE
GJ!
久しぶりすぎて感動した
小町の策士っぷりがたまらん

331雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 07:14:05 ID:p3wruYTc
>>329
GJGJ!
気にするなーっ!
むしろ神作家に挟まれた自分はオセロのごとくいい作品扱いされそうだ!
っていうか小町さんすげぇ

332雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 07:16:28 ID:p3wruYTc
>>329
GJGJ!
気にするなーっ!
むしろ神作家に挟まれた自分はオセロのごとくいい作品扱いされそうだ!
っていうか小町さんすげぇ

333雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 07:17:42 ID:p3wruYTc
か、書き込みボタンが…orz
興奮しすぎて手が……

334雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 08:01:36 ID:jUBnc0Rc
>>329
GJだぜ!

335雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 10:56:09 ID:jqs7qr1Y
ウェハースきてたあああああ!!!!!!

336雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 12:01:18 ID:OnpdYfDw
なんというGJ……この復活ラッシュ…この避難所で一体どんな奇跡がおこっているのだ…

337雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 13:44:37 ID:zNZqv.x6
そんな>>333の熱意にもGJ!

それにしてもここ最近はすごいね。こりゃ、もうしばらく全裸待機だな

338雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 14:38:41 ID:Dl8hYcps
この流れなら言える!
無形さん帰ってきてください

339雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 18:19:52 ID:dix5x1sc
>>338おまえ、イケメンすぎて、感動と笑いがこみ上げてきたわ。無形さーん!ここはいいところだー!帰ってこーい!

340雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 19:05:18 ID:N1rEp3OI
>>331
ネタ振りだな、任せろ。
長編の一話を打ち込み、ひっくり返し返そうではないか。

341雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 19:22:25 ID:p3wruYTc
>>340
いい作品期待してる!

342雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 20:55:28 ID:OnpdYfDw
次の作品投下まだかな?

343雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 21:45:53 ID:/.nM74IY
この流れにのって「キモオタと彼女」の続きこないかな……?

344雌豚のにおい@774人目:2011/05/07(土) 23:16:16 ID:OUCkuZ06
頑張ってください

345 ◆BbPDbxa6nE:2011/05/08(日) 03:01:06 ID:5tFhSyRk
girls councilの作者です。
今はすごく盛り上がりつつあるので、軽い短編を目指して書いてみました。

※下ネタが絡んでくるので、好かない人は見ないほうがいいです。

では投下します。

346にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE:2011/05/08(日) 03:01:55 ID:5tFhSyRk
今日は、世間一般的に言われる卒業式だった。
卒業式、なんて聞くと別れの涙や出会いへの期待をイメージするのではないだろうか。
ちなみに俺はと言うと、高校の三年間と言う学務期間を終えて、無事に合格した県外の大学への進学が待ち遠しく思えていた。つまり後者だ。…………とかいう、青春めいた事は今回の話には関係はない、事もないかもしれないが。
とにかく、今日一日の騒動の始まりは、後輩の一言であった。

卒業式が終わり、生徒たちが帰路につく中で、三年間着続けた丈の長いブレザー(一年の時に買ったのだが、予想以上に身長が伸びなかった)を一度ビシッ、とキメて、俺こと佐波礼人(さなみれいと)は、校舎を懐かしみながら歩いていた。一年、二年、そして三年の教室を順に見ていくと、自分の成長過程が目に見えて分かるようでちょっと嬉しかった。
 「佐波先輩」
そんな最中、不意に。背後から声がかけられた。
その声の綺麗なソプラノボイスから、声は後輩である秋宮奈留(あきみやなる)だと俺は即座に分かる。
ショートカットの黒髪で、百五十センチあるかないかくらいの小動物みたいな身長で、いつも大人ぶってクールにふるまっている可愛い後輩が、秋宮奈留である。
秋宮は俺と同じ図書委員として一年間共に働いて行くうちに、仲良くなった数少ない後輩の友達だ。そんな秋宮から話しかけられた俺は少し嬉しくなりつつも、振り向いた。
 「よ、後輩」
 「……………奈留です」
できるだけフランクに、片手をあげて話しかけた俺であったが、〝後輩〟と呼ばれたのが気に障ったのだろう。頬を少し膨らませるようにして、それでもクールぶって、秋宮は訂正を促してきた。
 「はは、ごめん。でも、秋宮、でかんべんな。恥ずかしいし」
俺が話している途中から、秋宮の様子が少し不機嫌に変わる。奈留と呼んで欲しかったのだろう。ぶっすぅ、とした顔で、ちょっと睨むような可愛い顔で、俺を見ていた。
しかし、言葉を言い終わるくらいから、何かに気付いたのだろうか……急にほっとしたような嬉しそうな顔をした秋宮は、いつものクールな彼女からは考えられないような仕草を――小さくガッツポーズをした。それに小さく喜びの合槌を入れて。
 「………………………っし」
 「お、珍しいな。何がそんなに嬉しいんだ?」
 「ッ! ぁあ、ん……ごほん」
先ほどの自分の行為を思い出して恥ずかしくなったのか、秋宮は一度咳払いをして……。
そして、今回の騒動の始まりの一言を、言った。

347にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE:2011/05/08(日) 03:02:38 ID:5tFhSyRk

 「先輩……それ、わ、私にくれませんか」

いつもクールな秋宮には珍しく、頬を少し朱色に染めながら指を指した。
その綺麗な白い指……雪のように、と言うのは少し幻想的で儚げで、まるで病人を指すような表現になってしまうが、そんなマイナス的な意味ではなくプラスの意味で。
芸術品、と読んでも過言ではないような指が、俺に向かって指されていた。

―――俺の〝股間〟の方に向かって。

 「………………エ?」
つい、カタカナ発音。
 「お、ぉ、お願がいしましゅっ」
あ、噛んだ! あの秋宮が噛んだ、超可愛い!
脳内保存! 八TBぐらい使うぜ! 脳の奥底に保存中・・・・よし、OKだな。
…………とかいう俺の頭の中の一瞬の格闘は置いておくとしてだな。
え、いや……あの、え?
ちょ、秋宮……お前、何がしたいんだ? いや、その……は?
とか何とか。
俺の頭の中がフリーズを起こしてしまった。
あの、秋宮が、だ。あの、クールぶって頭の良くて可愛い後輩の秋宮が、だ。
俺の……股間を、欲しがるだとッ! え、それってやっぱり……物理的に?
………………………………………いや、無理っしょ。
 「いや、あの……お願いされてもね、うん、うん……う〜ん、うん! よ〜し秋宮、保健の勉強はしてきたか? これはな、着脱式じゃないんだよ、分かるか? マジックテープとかでつながっていて、ビリビリとかするような仕様じゃないの、分かるか? ……って言うか分かれ、これは取れないの!」
結局俺は、秋宮を説得にかかった。かかりつつ怒った。
秋宮も頭の悪い子じゃない、つか俺より頭がいい。だから俺が説明したらきっと分かってくれるはずさ。
そう信じて。
 「……嘘」
裏切られたけど。
 「嘘じゃねえよ! これだけは嘘でも勘違いでも無く言えるぞ! この世の男性全てが共感できるわ!」
再び不機嫌そうになった秋宮は俺の発言を嘘だと捉えたようで、いいからとっとと渡せ、みたいな感じで、じとぉ、とこちらを睨んできた。……睨みたいのはこっちだ。
 「え、でも……引っ張れば、こう……ブチッと」
秋宮は空中で何かを引っ張るようにジェスチャーする。〝ナニ〟かを……な。
その瞬間俺の体がぶるり、と大きく一度震えた。
 「怖えええ! 超怖えよ! ブチッと……何? 俺そんなにデンジャラスでバイオレンスな体験したくねえ!」
俺は憤りをあらわにした。だってそうだ。怖すぎるだろ、男ならみんな分かってくれると共同意識すら持っている事だ。しかし、俺の怒りをどうとらえたのか、秋宮は下を向いたかと思うと、思いつめたような顔をしてぶつり、ぶつり、と何かを話し始めた。
なになに、と俺は恐る恐る耳を澄ます。
 「……もしかして、先輩………………………他の誰かに、あげる約束とか、したん――」
〝ナニ〟をあげる約束……ナニそれ、怖い!
 「するか! してたまるもんですか! いい加減にしねえとこの温厚で知られる俺でもキレちゃうぜ! つか、初めてだよ、お前みたいな要求してきたのは生まれて十八年、今日が初めてなんだよ!」
俺が、初めて、と言った瞬間。
沸騰したお湯のように、湯気を出すような勢いで顔を真っ赤にした秋宮が、両手でほほを押さえて、体を左右にゆすり始めた。ふ〜らふ〜ら、と。
 「は、初めて……………先輩の、初めて、えへへ……もらっちゃったぁ〜」
年よりもずいぶん幼く見えるその姿は、すごく愛らしいものなのだが、今話している会話内容からすると、すごく恐ろしい。
 「そんな初めてはいらん!」
 「もぅ……照れなくても、いいのに………先輩」
 「照れた部分は無いですよね、秋宮さん!(←なぜか敬語)」
やばいぜこの子、会話が全く通じない。あれ、おかしいなぁ、いつもはこんなはずじゃないのに。それにどちらも日本語で話しているはずなのに……地方によって認識の仕方が違うのかな、と。わけのわからない逃避思考をしてみたり。
俺のツンデレ(デレ抜きバージョン)が通用しない、だとッ。いや、ツンになった記憶もないけどさ、と。わけのわからないキャラづけをしてみたりと。
もう、俺の頭の中は、怒りと焦りとで混ざり合い、まともな思考が出来ていなかった。
 「じゃあ……その、ですね……私が、して、あげますから」
そんな奇妙な悶絶を繰り返す俺を見てか見ずしてかそんな事は知らない、どうでもいい。
 「…………へ?」
がさ、ごそ、がさ、と。大事なのは、秋宮がカバンの中をがさごそ探り出した事だ。
やばい、悪い予感しかしないぞ、と。俺は心底焦りまくりで、冷や汗に浸っている気持ちになった。

348にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE:2011/05/08(日) 03:03:50 ID:5tFhSyRk
 「ん……っと……………にゅむぅ……にゅわふぅ……………?」
秋宮が必死にカバンの中身を探るのだが、その度に口から漏れる声がなんとも……。
 「え、何その声! にゅむぅ、にゅわふぅ……超可愛いんですけど!」
先ほどからテンション高めの俺だが、先ほどの冷や汗が、逆に気持ち良くなるくらいにテンションが上げられそうだろ思った。それほど可愛かった、にゃむぅ、にゅわふぅ。
何だろう、これが〝萌〟ってやつなんだろうか。俺はそちら方面にはすごく疎いのでよく分からないが、秋宮を抱きしめたくなるほどの衝撃が走った事は確かだ。
マジ可愛いっす、秋宮さん!
 「………………ぁった……」
ついに秋宮は目当てのモノを見つけたらしく、それをカバンから引き抜いた。
引き抜いた瞬間から……俺は硬直するしかなかった。
 「………………………………………………………………ぇ、ちょい、待とうか」
言葉が出なかった。だって、秋宮の右手には、裁縫の時に使う大きな裁ち鋏が握られていたから。
そしてその太陽に銀色に反射している鋏が、じょきん、じょきん、と。秋宮の手によって規則正しく音を奏で出した。
どくん、どくん、と。俺の心臓が美しい独奏を始めた。
胸が、心臓が、高鳴る……恐怖で。
マ、マジ怖いっす、秋宮さん!
 「いや、その……な。お、落ち着け、頼む落ち着いてくださいお願いですからって、ぎょわっ!」
先手必勝、と言わんばかりに、俺が平和的会話的民主的(?)解決を行おうと提案していたのに、秋宮は鋏をこちらに向けて突っ込んできたので慌ててかわす。
もちろん、俺の股間辺りを狙っていたのは言うまでもないだろう。
 「く……せん、ぱい! 大丈夫、ッ、ですって」
こら、お母さんに人にはモノ向けちゃいけませんって習わなかったの! とか言って怒ろうと思うにも、秋宮のさらなる追撃に俺はよけることしかできない。
そしてその合間を縫って、返事を返した。
 「何が! この状態で何が大丈夫なんだよ、危険なことしかねえよ!」
 「どうせ、もう……使わないからッ……いらないっ、でしょ!」
 「いるわ! 使わないって何、失礼すぎるだろ! お前は未来から来た人間か? 俺の未来を知ってるのか? 魔法使いになる気なんてさらさらねえからな、俺は!」
いや、しかし……。彼女いない歴=年齢の俺は、まさか、本当に……。
いやいやいやいや、希望を持て、俺。がんばるんだ、俺。きっと素敵な出会いが待っているさ。とか思っていると油断して鋏の先が一度ブレザーを擦れた。
 「きょぇ!」
 「……………まほう……つかい?」
そんな一瞬の俺の危機にも動じず、秋宮は先ほど言った魔法使いという言葉を反芻していた。まぁ、秋宮には意味が分かっていないようだが。……いいんだよ、これは童貞たちの自動的就職先だからさ。
 「チッ、このままじゃ……………ぁ、そうか」
俺は秋宮の攻撃をかわしながらも、この状況を打開する一つの先を考えた。
それは秋宮に背中を見せて。
 「ダッシュ!」
 「ぁあ!」
結局、逃げる事にしました。
よくよく考えると、対面している必要はなかったんだ。
 「……どうして、逃げるんですか、先輩。くださいよ、私だけにくださいよ! ねぇ、先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩! ねえ、お願いですから先輩、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ! 先輩、逃げないで! 私だけに、ね! どうして……………………どうしてッ……………………先輩ッ!」
でも。
それで終わらないのが今回の話。
クールなはずの、いや、はずだった秋宮は、その鋏をじょきん、じょきんと鳴らしたまま、どこかうつろな表情で、ちょっと狂ったラジオみたいに同じ事をいいながら、俺を追っかけてきたのだ。
 「いいいいいいいいいいいいいいっぃぃぃぃぃぃいぃやああああああああああああああああああああああああああ!!」

349にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE:2011/05/08(日) 03:04:30 ID:5tFhSyRk
ツンデレラさんに会いました。
 「あら、こんなところで、奇偶ね…………………(やっと見つけたわ)」
 「…………………………でたな、ツンデレラ」
 「ツンデレラゆうな! このあたしが話しかけているのよ、もっと喜んだらどうなのかしら」
 「……………わーい」
 「殺しますわよ!」
秋宮から逃げ出した後。
何とか、追いかけてこない事を確認した俺は、蛇口から出る水を飲んで息を落ち着かせているところだった。そんな時に、背後からの気配。
秋宮様、ごめんなさい! でもホントにこれはずれないんですよ、マジで、着脱式じゃないんです許して下せぇ。とか言いながら慌てて振り返るとツンデレラさんがいた、と言う事だ。
ツンデレラ―――本名、宮藤雅(みやふじみやび)。金髪ツインテイル、ツンデレ、三年のクラスメイト。
これが主な特徴。どこかのご令嬢らしく、最初の頃の一人称は〝わたくし〟だったのだが、「慣れない事を頑張るのも結構だが、個性をなくすのは感心しないぞ。自分の言いやすい方で良いだろうが、俺みたいな友達の前ぐらい、な」と言ったところ〝あたし〟になったのであった。(しゃべり方はお嬢様っぽいけど)
宮藤の事を俺がツンデレラと呼ぶのは、「べ、別にあんたに言われたからじゃないんだからね。あ、あたしが、こっちの方がいいからであって……勘違いしないでよね!」とか一人称騒ぎの時に俺に言い返したことにあった。
 「まったく……これでもあたしは宮藤財閥の令嬢、あなたとは住むところが違いますのよ。そんな人間と話せるなんて、普通、鼻血を出して号泣モノよ」
 「いやだな、そんな光景見たくもない」
鼻血と涙のコラボとか、ツンデレラと話す時はティッシュ常備だな。
 「ところで………あなたは………………」
 「?」
突然、ツンデレラが俺の体を、じとぉ、と見つめてきた。
え、何? とか聞こうと思って口を開こうとした時に、急にツンデレラはにやけた顔になって、呟いた。
 「まだですわよね……………………っし!」
妙な小声と、ガッツポーズを決めて。
………………あれ、この光景、どこかで見た事があるぞ。
 「佐波礼人!」
 「ふぁ、は、はい」
記憶の糸を探ろうとしたところで、ツンデレラさんの声がかかる。
 「あ、あたしは……別に欲しくないのですわよ。えぇ、これっぽっちも、ちっとも。………でも、どうせあなたにはもらってくれるような人はいないでしょうから、あ、あたしがもらってもよろしくてよ!」
 「え、あの……何を? ってか、何の話?」
 「だ、だから………それ、ですわよ」
 「それ?」
ツンデレラさんは、指を指した。
俺の方に向かって指された指の後を追うようにして、視線は動く。そして止まる。
 「…………………」
そう、その指は指されていた。

―――俺の〝股間〟の方に向かって。

350にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE:2011/05/08(日) 03:04:54 ID:5tFhSyRk
 「お前もかよ!」
 「ふえっ!」
俺は思いっきり、腹の底から怒鳴った。
本当に、ツンデレラさんが一度跳ねた。
「ぃ、ぃぃぃいきなり叫ばないで、これだから庶民は」
びっくりするじゃない、とツンデレラさんは少し涙目(←可愛い)になるが、そんなモノは関係ない。
恐怖、再びである。
 「庶民とか金持ち以前の問題だ! そんなもんねだるなよ! 女が持っててもどうにもならないモノだぜ、これ!」
俺は自分の股間に指を指しながら話す。
はたから見れば、女の子に股間を指差しながら話す男の図と言うのは少々犯罪チックの様な気がしないでもないが、今はそんなことは気にしていられない。
これは男のシンボルの問題だ。
 「女がって……まさかあなたそれ男に――」
 「そりゃそうだろうよ! それ以外の用途ありえねえから!」
男に生まれつきついているものですからね! ほとんどの人は生涯を共にする仲間ですから…………息子かな?
 「だ、駄目よ。ダメダメダメダメ、そんなの……駄目、絶対だめ!」
駄々をこねた子供のように、首を振って、いやいや、をするツンデレラさん(←可愛い)。
 「いやいやいやいや。そんな可愛らしい言い回ししたってここだけは譲れないぞ!」
さりげなく、ツンデレラさんの可愛いという事を言ってみたのだが、ツンデレラさんはまるで聞いてなかった。瞳が虚ろになって下を向いて独り言をぶつぶつつぶやき始めた。まったく聞こえないか細い声で。なんだか、呪いみたいだ、とか思いつつ。
 「……………………そんな………部屋を盗撮しているとこにはそんな〝気〟は一切なかったのに。そういう本や動画には、金髪系が多くて喜んだのに。どうしてッ! ……いつ、道を間違えたの? いつ、どこで、誰が? ッ………………………あたしが知らない情報があったなんて。諜報部員のやつらは死刑ね。家族ともども島流しにしてやるわ……………あの女の入れ知恵? それともあっちの女?…………はないか。自分も対象外になることなんてやらないだろうし………て言うか相手は誰? サッカー部の宮田? 野球部の清水? まぁ、誰だとしても手を打っておくとして……ぶつぶつぶつ」
 「お、おーい。ツンデレラ?」
 「………でも、これはすぐに強制しないとまずいわね、これからの二人の未来に支障が出る可能性があるわ……………せっかく、同じ大学にも行けるしと思って軽く考えていたけど、ここまで重傷なら………いっそここで……………………ぶつぶつぶつ」
駄目だ。
俺が、話しかけても見向きもしな―――
 「……………にゅむぅ…………にゅわふぅ。あぁ、やっと見つけた……………せぇんぱい。どうして逃げるんですかぁ? さっき、私が、話して、いましたよねぇ」
じょきん、じょきん、と。
規則正しいハサミの音と、秋宮のにゃむぅ、にゃわふぅ、の可愛いボイスを聞いた途端に、俺は走り出していた。
 「もう、ご勘弁をおおおおおおおおおお!」
ツンデレラさんを置いて、また追いかけっこが始まってしまった。

後はこんな事の繰り返しの連続だった。
秋宮から逃げ切ったところに現れた、幼なじみである、南雲美夏(なぐもみなつ)に遭遇。
 「礼、わたしにさぁ〜……それ、くれるんだよね。だってもう十年以上経つんだもの。もちろん私を選んでさ、渡してくれるよねぇ〜」
後ろから抱きついてきたと思うと、股間に手を伸ばしつつあったので、頬を赤らめつつ俺は振り払った。
 「十年以上の付き合いのやつにでもな、これをやれるわけないだろ!」
そして口論している最中に、鋏を持った秋宮が追い付いてきた。
反対側の道に逃げようとしたら、そこからはビリビリビリビリ青い火花を出すスタンガンを持ったツンデレラさんがいたので、再び恐怖!
とっさに、部屋の中をすり抜けてベランダを渡って違う教室から逃げ出した。

逃げ回っていると今度は、友人の妹である電波系少女、冨和葵(ふわあおい)に遭遇。
宇宙が誕生してからうんたらかんたらと言う設定から話しだして。
世界のあちこちから発信される電波を受信するのが自分の役目だと言い出して。
俺の股間を指差しながら――
 「…………あなたのそれから有害な電波を受信した、それは危険……………だ、だから、わ、私に渡して」
と、頬を赤らめながら、それを隠すように顔をそむけながら(←可愛い)言ったので、
 「これは人畜無害です」
「にゃわぁ、ま、待って!」
と可愛い電波さんを振り払って、再び疾走開始。

351にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE:2011/05/08(日) 03:05:38 ID:5tFhSyRk
これが代表的な人たちで、後のち、風紀委員やら生徒会長やらいろんな人が俺の股間にむけて指を指しつつ、くれくれ、と言ってくるので、学校中を逃げ続けた。
なんだろう。
今日の俺の股間には、人を引き寄せるブラックホールでもついているんじゃないだろうか。
 「……………いやいや、まさか……」
そう思って、男子トイレに入った俺は、〝ナニ〟を確認してみたのだがいつも通りだった。
じゃあ何が問題なんだろうか、何? もしかして〝ナニブーム〟とか起こってんの?
とかバカみたいな事を考え続けて三十分。俺はある事に気付いた。
 「あれ、男子トイレにいれば……あいつ等はいってこれないじゃん」
あ、じゃあ俺ここにずっといればいいんじゃね?
そうだ、そうしよう。
 「………別に、女子が、男子トイレに入るのは………良いと思いますよ、先輩」
 「きゃああああああああああああ、いやあああああああああああ、入ってこないでえええええええええええええ!!!」
なんだかんだで今日一番に俺は驚いてしまった。
安心した瞬間にこれである。もう、やめて欲しい。
 「ちょ、つか、何でお前はここが分かったんだよ!」
俺は秋宮に向かって指を指しつつ、最大の疑問を言う。
 「………奈留です」
しかし、それに秋宮は答えずに、あえて自分の名前を出した。
つまりは、奈留、と呼べということだろう。
 「秋宮、何で――」
 「……………今回は妥協しません。奈留」
 「な、奈留ちゃん」
 「奈留」
 「な、奈留は、何で俺がここにいるって分かったんだ?」
俺が奈留と呼んだ瞬間に、顔がものすごい緩んだのだが、その緩んだ顔のまま、少し頬を赤らめて、こう言った。
 「ぁ、ぁあ、あ、愛の力です」
一世一代の告白だ、とでも言うかのように秋宮は緊張しているように見えた。
 「え、なに、目(eye)の力? お前ってそんなに目が良かったっけ?」
しかし、俺はどうしていきなり秋宮が目の話をし出したのかよくわからなかった。しかもいきなり英語だし。……窓から俺の姿が見えたから分かったのだろうか?
だとしたらすごく目がいいんだなぁ、秋宮は、と。俺は感心していると、むっ、としたような顔になった秋宮が、止めていた鋏をまた、じょきん、じょきん言わせ始めた。
そしてその鋏で、俺の体をちくちく刺し始めた。
 「………………………………………………この鈍感。えいっ、えい、えい」
 「にょ、ちょ、い、痛い! 何でこんなことすんだよ?」
 「……………勝手に、私から逃げた、罰」
 「いや、それはお前が――」
 「だから罰として、それをもらう、それで良い」
 「だから、無理―――――」
じゃきん、と。
いや、ジャキン、と。
今まで以上に鋭い音を立てた鋏が、俺の首筋に触れた。
驚いた俺は、秋宮に視線を送るが、秋宮の顔も今まで以上に恐怖を掻き立てられるような
そんなものだった。
ゴクリ、と唾を呑んだ。
 「これ以上は言わないよ、先輩…………私、さっきから何度も言っているのに、先輩はほかの女の子と話したりして………一体何を考えているのかな? 先輩のモノは私のモノに決まっているじゃない」
何そのジャイアン方式。とは口が裂けても言えない。
 「その逆も同じ。なのに先輩は………でも、分かってる。私全部、分かってる。………きっと最後には、私の元にくるって………信じてた。先輩も、意地悪だなぁ…………」
いつもクールな秋宮だが、それ以上に今はクールだった。
声なんて絶対零度並み。
 「でも…………あんまり、意地悪ばっかりだ、と――――」
微動だにできない俺の耳に口を寄せて、秋宮は一言、それは俺に男のシンボルを差し出す決心をするのにふさわしい一言をくれた。

 「―――殺しちゃいますよ」

ゾクリと体が恐怖で震えた。

352にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE:2011/05/08(日) 03:05:58 ID:5tFhSyRk
 「じゃ、じゃあ……その、先輩、く、ください」
戻った。
いつものクールで可愛い後輩の秋宮奈留に戻った。
先ほどまでのがまるで嘘のように……。
もじもじした態度ではあったが、手を差し出した。
 「う、うぅぅぅぅぅぅううう。さ、さよなら……我が息子よ」
俺は泣いていた。涙を流していた。十八の男が大泣きである。
秋宮に俺のシンボルを渡すと決心した。
それはとても痛そうだが、それ以上に、男としての尊厳が無くなることを意味していた。
つか、もう男じゃなくなるし。
父さん、母さん、ごめんなさい。
俺は……俺は………。
唇を噛みしめながら、秋宮から受け取った裁ち鋏を見た。
うん、こいつなら、一刀両断してくれるだろう、と。そう信じて。
 「いざっ!」
俺は〝ナニ〟を外気にさらした。ズボンから、そしてパンツから出す感じで。
しかし、覚悟を決めていた俺に、意外なところからストップがかかった。
 「にゃ、にゃ、にゃ、にゃわあああああああああああああああああああああ。な、にゃにしてるんですか、先輩!」
 「へ? だって、おま……奈留が欲しいって」
 「何をですか!」
 「え、何をって……〝ナニ〟をだろ?」
 「ちち、違います! 私が欲しかったのは―――」
秋宮は、俺の股間の方を指差しながら、こう叫んだ。

 「―――先輩の第二ボタンです!」

 「…………第二ボタン?」
 「はい、第二ボタンです」
そう言われた俺は、自分のブレザーの第二ボタンの位置……と言うよりも、この学校のブレザー自体二つしかボタンがないので、下の方のボタンの位置を見た。
すると、普通はへその少し下あたりに来るはずの第二ボタンは、俺の場合は丈が長いせいで丁度股間辺りに来ていた。………ん、むむむ?
 「と、言う事は……もしかしてあれか、卒業式だから、制服の第二ボタンが欲しいとかいう、あの伝説級の青春行事の事か?」
 「そ、そこまで過大評価しなくても良いかもしれないですけど、そうです、それです」
つまり、だ。
秋宮奈留も
ツンデレラさんも
南雲美夏も
冨和葵も
その他大勢も。
もしかして、もしかすると……俺の第二ボタンが欲しかっただけ、とか?
 「………まぁ、本当の、事を言うと………心臓に近い方がいいかも、と思いましたけど、結局……どちらも心臓に近くはないですからね」
 「な、なんだよ………もしかして今回のこの騒動って全部――」
 「はい、先輩の早とちりですね」
 「……………………」
それを聞いた俺は、ブチリと第二ボタンをちぎると、秋宮に渡してやった。
 「わ、わわわ、ふわあぁ…………にゅむぅ……にゅわふぅ………」
それを受け取った秋宮は、まぁ喜んでくれたようだ。
そして何より、にゅむぅ、にゅわふぅは可愛いな、と実感しつつ、なぜか瞳からは、今日の徒労感と虚しさを清算するような涙が二筋流れていた。

―――本当に、何だったんだろうな、俺の卒業式。




あ、そうそう。
次の日に、昨日――つまりは卒業式の日に、俺にかかわった女の子が秋宮奈留以外に死んでしまったというのはまた別の話…………なのかな?

353にゅむぅ・にゅわふぅ・じょきん、じょきん ◆BbPDbxa6nE:2011/05/08(日) 03:08:54 ID:5tFhSyRk
投下終了です。
題名に深い意味はありません。

girls councilのほうも進めたいと思いますが、ときどきまた短編を書くかもしれません。
読んでくださった方々には、深く感謝いたします。

354雌豚のにおい@774人目:2011/05/08(日) 03:09:02 ID:jUBnc0Rc
GJだぜ!

最近はドンドン投下されていくなぁ
全く喜ばしい限りだ。色々復活おめでとうだぜ

355雌豚のにおい@774人目:2011/05/08(日) 09:46:52 ID:myC/DxZM
>>353
ワロタ
けど最後こええよw

356雌豚のにおい@774人目:2011/05/08(日) 10:12:34 ID:zOCPzrtw
これが所謂エロゲ主人公か…

357雌豚のにおい@774人目:2011/05/08(日) 15:46:47 ID:OnpdYfDw
次の作品投下まだかな?

358あっぷるてぃーとこーひ-みるく:2011/05/08(日) 15:56:36 ID:k9CD6REU
Part45の548のシリーズの続き

 私は気が付くとまた彼女を見かけたカフェへと向かっていた。
何故なのだろう。彼女が忘れられない。

「あ、あの、お客様、ご注文は…」

店員の声で我に返る。ずっと考えていたせいで店員に気が付かなかったらしい。
何を頼もうか考えてなかったのでとりあえず思いついたものにした。

「あ、えっとコーヒーを一つ」

間も無くして温かいコーヒーが運ばれてきた。手に取ろうとしたら思いのほか熱く、冷めるまで待たざるを得なかった。
天井へと立ち上る湯気を何気なく見つめていると頬を風が撫でた。
私が座っている席は出入り口に近かった。窓は開いてないからきっと誰かが入ってきたのだろう。
出入り口に目をやると其処には彼女がいた。
 今日は制服を着ている。彼女はきっと学生、顔立ちや体形から見て大学生なのだろう。それならば私とあまり変わらない。
温かいコーヒーを頼んでよかった、私は心からそう思った。
じっと彼女を見つめていると目が合った。急いで視線を逸らす。
鏡を見たらきっと私の顔は紅色に染まっているだろう。
彼女は席に着く鞄から勉強するのだろうか、ノ−トと教科書らしき物を取り出した。
嗚呼、勉強する彼女も知的で美しいな。
思わずにやけてしまった。

359 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 20:49:41 ID:/ej2yWxw
初めまして。
GW中にちまちま書いてたの投下しますー。
見直しが雑、というかほとんどしてないので、
めちゃくちゃな文章になってるところがあります……。
しかも、こういうSS書くのも初めてなので。
素人クオリティなんだと、生暖かく見守ってください。

一応、三部から四部に分けて書く予定です。
遅筆なので、GWのひまを使っても一部のみしか書き終えられませんでした。
目標は無事完結。前述のとおり遅筆です。
長くなるかもしれませんが、よろしくお願いします。

360五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 20:50:59 ID:/ej2yWxw
かなり急な坂道を自転車を引いて歩く。
自転車を引く手が汗で滑る。千葉 五月(ちば さつき)の住む町は坂が多く、交通のアクセスが悪い。近いからという理由で入試を受け、今年から通うことになった七里南高校まで、約一時間もかかる。以前までは十分ほどで通えるほどの近さだったが、引っ越したことで、かなりの距離を自転車で通う羽目になった。
一時は本気で違う学校に通うことを考えていたが、面倒な手続きが必要だったり、学校が受け入れてくれないなどの理由で、必死に毎朝自転車を引いて歩いている。

学校の自転車置き場に自転車を置き、鍵をかけたところで後ろから声をかけられた。中学で一緒だった、友人の槻田 愛(つきた あい)が俺に挨拶をした。
「おはよう、五月。もう一人暮らしは慣れた?」
「おはよう。料理はまだ慣れない。旨く作れなくて……」
「そっか、大変だね……なにか私にできることがあったら言ってよ?」
「うん、そのうちな」
そのうちは大抵の場合来ない。

愛は中学の時から世話焼きで、色々な人に世話を焼いていた。
俺も何度か委員会の仕事を手伝ってもらったことがある。
手伝ってもらったことがきっかけで、その後友人になった。
一緒の高校になったのは、入学式で顔を合わせた時に初めて知り、顔なじみがいないと思っていただけに少し嬉しかった。

「じゃ、またね!」
教室の前で愛と別れた。愛は隣のクラスだ。

入学式が終わり、普通の授業が始まってから二週間。
俺は友達を作らなかった。
あえて作らなかった。というより、作るだけの余裕がなかった。

学校は大体午後の四時頃に終わる。
午後五時から午後九時までバイトをし、夕飯を作って食べ、
風呂に入り、その日に出た課題を終わらせ、アイロン掛けを済ますともう十一時半になっている。
高校生の寝る時間としては普通じゃないか?と思うかもしれないが、
翌日のことを考えるとこれはかなりキツイ。

午前四時に起きてバイト先に向かう。
それからバイトをして七時にバイト先で着替えて、学校まで自転車で走る。朝食は食べない。
八時に学校に着くが、そのころにはもうくたくただ。
前日の疲れがほとんど残った状態で、以上のことをするのだから。


学校で話すだけの人間は居るが、それ以上親しくなろうとは思わない。
今日もいつも通り、自分の席に座ってただ何もせず前を見ていた。

俺も、好きでこんな生活をしているわけじゃない。
新しい友達を沢山作るぞ!と思っていたし、部活だって、やるつもりでいた。


友達も部活も遠ざかるのを見ているだけだった。俺は。

361五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 20:54:28 ID:/ej2yWxw
俺には物心ついた時から母親がいなかった。
これを聞いたのは最近だが、母は父の頑固さに嫌気がさして出て行ったらしい。
嫌気がさすほど頑固かな、と俺は疑問に思った。
どちらかというと柔軟な人だと思っていたけど。

三月の中旬だった。高校が決まって、教科書も買い。
高校生活への準備が整った頃だった。
父親が脳卒中で逝った。
悲しかったが、それ以上に忙しく、泣く暇もなかった。
祖母はまだ健在なので、葬式に関してはまかせっきりだった。
そのかわり、集まった親せきに出す食事や、葬式後の片づけなどは俺がやった。

「君、智さんの息子さん?」
俺が大勢の親せきや知り合いにあいさつを終えた後、見知らぬ女性が話しかけてきた。
智というのは父親のことだ。
「はい、五月といいます」

「ここじゃ、なんだし。近くの店で話さない?」

「え、いや……通夜がありますし」

「遠慮しないで、奢るよ。まだ食べてないでしょ?
話って言ってもすぐ終わるから……ね?」

そういえば夕飯がまだだった。
通夜は少しの間だけ、祖母に任せておいても大丈夫だろう。

「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん、行こうか」

その女性に連れられて、近くにあるファミレスで食事をした。
彼女は黒いスーツに身を包んでいた。
背は高いほうで、170くらいあるだろう。
髪は綺麗な黒い髪を後ろで束ねてポニーテールにしていた。
色白で端正な顔立ちをしている。美人だ。


どこかで見た顔だけど……気のせいかな。

「えーと、お名前なんて言うんですか?」

ちょうどカルボナーラを食べ終わった彼女に尋ねた。
慣れてなくてずっと息苦しかったので、俺はネクタイを少し緩めた。
トンネルが開通したように、息苦しさが消えた。鼻から大きく息を吸う。


「あれ?言ってなかったっけ?名前」

「はい」

彼女は備え付けてある紙のナプキンで、口を拭い、話した。

「私は沢瀬 陽子(さわせ ようこ)。
よろしくね、五月くん」

知らない名前だ。

「父とは……どういう関係なんですか」

俺が疑問を投げかけると、彼女はばつが悪そうに左の頬をかいた。

「えーと、お父さんが亡くなられたばかりで……、
こういう話をするのは……その、あんまりしたくないんだけど」

「妙に渋りますね」

「あー、ごめんね」

彼女は気まずそうな顔をして、今度は右の頬をかいた。

「智さん。君のお父さんに、お金を貸してたんだ」

「借金ですか……」
思わずため息を漏らす。
そういう話は父から一度も聞いてなかった。
父にも何か事情があったのだと思うが、少し失望した。

362五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 20:56:06 ID:/ej2yWxw
「そうなんだ。こういう時だし、あんまり話したくなかったんだけど……」

「それで……いくらくらい……」

「うん。ちょっとまってね」

そういうと鞄を手に取り中からファイルを出しページをめくった。
俺は、きっと大した額ではないと、高をくくった。
そうしないと不安でたまらなかったからだ。

「そうだねー。君のお父さん、かなり頑張ってくれてたから……、
だいぶ減ってるの」

パラパラとめくりながら、今度は鞄から電卓を出して素早く打ち始めた。

「うーん。そうだね。これくらい残っているんだけど……」
俺の目の前の皿をどけて、電卓を置いた。
「四、零、零、零、零……」
途中で読むのを躊躇った。零の数が多い。
「大体四百万くらいかな。端数はよけて」

胃が裏返しになったような感覚に陥る。のどがかさかさに渇いて、全身の毛孔から冷や汗が噴き出る。

俺が返すのか?

父さんはもう死んだんだ……。

「か……、返せるでしょうか……、俺に……」
「不可能じゃないとは思うけど……」

しばらく沈黙が続いた。
やっぱり、俺が払うのか……。

大きくため息をついて、コップの水を一気に飲む。
「毎月いくら払えばいいですか」
沢瀬さんは驚いた様子で俺を見た。
「払う気あるんだ」

「そりゃー……借りたものは返さないと」

「私はてっきり泣きついてくるかと思ったけど。
もしくは親族の誰かに払ってもらう気なの?」

「いや、自分で……払うつもりです。
他人に迷惑はかけられませんから」

本当は迷惑かけたい。自分でなんか払いたくない。
けど、そこまで迷惑をかけられる親せきは居ない。
というより、四百万もの借金をぽんと返してくれるような親切で金持ちの、なおかつ親しい親せきは居ない……。


「そう、びっくりだな。正直」
沢瀬さんは俺の目を見て、微笑んだ。

363五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 20:57:31 ID:/ej2yWxw


6時限目の終業のチャイムが鳴る。
「起立、礼」
がたがたと椅子を鳴らし、その場に立つ。
そしてため息をつきながら礼をする。
この一連の動作も疲れた体には辛い。
全身の細胞が鉛みたい、とは言いすぎだが体が重い。


「あのー……五月くん、これ」
教科書を鞄にしまって、帰る準備をしていると、クラスメイトの一人が話しかけてきた。
右斜め後ろの席の……稲葉さん、だったっけ。
手には折り畳みの傘が握られていた。

稲葉さんは女子にしては背が高いほうで、160代後半くらいある。
長いストレートの髪は、つやのある美しい黒をしている。
色白で綺麗な顔をしているが、少し幼さが残っている。

「ああ、稲葉さん。どうも。そういえば、貸してたっけ」
差し出された傘を受け取る。
「あああの、その、助かりました……ありがとうございます」
「いや、気にしないで……」
受け取った傘を鞄に突っ込んで、急ぎ足で教室から出る。

バイト先は住んでいるアパートのすぐ近くにあり、
学校からは遠いため時間に余裕がほとんど持てない。
自転車置き場まで行き、自転車の鍵を外す。
自転車にまたがり、ペダルに足をかけたところで呼び止められた。
「ねーねー、五月ー。一緒に帰ろう!」
「愛……」

ああ、そうしようか。と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
俺にそんな余裕はない。

「あー、ごめん、えーと、やることがあって……」
「そ、そっか。一人暮らしだと忙しいもんね!」
「ああ、ごめん。じゃ!」
足に力を入れる。ペダルを強く踏み、自転車を走らせる。
「あっ、じゃあねー……!」
愛の声が途端に遠ざかる。

「いつまで続くのかな……」
肺に溜まった煙を吐くように、溜息をついた。
少なくとも高校に通ううちは続くのだろう。

自転車のペダルをさらに強く踏み込み、速度を上げた。

364五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 20:58:44 ID:/ej2yWxw
六時間目の終業のチャイムが鳴る。
「起立、礼」
いつも通りの動作をこなし教科書と筆箱を鞄に入れ、帰る準備を始める。
稲葉 冬子(いなば ふゆこ)は鞄の中に入っている折りたたみ傘をみて、小さく溜息をつく。

この傘は、私の左斜め前の席に座っている五月くんが一昨日、貸してくれたものだ。


一昨日、雨が降っていた。
朝は降っていなかったので、傘は持ってこなかった。
そしたら、昼休みに降り始め、六時間目が終わるころにはバケツをひっくり返したような雨になった。
この季節にこう、激しい雨が降るのは珍しいな……。
ほかの人は天気予報を見たのか、いつも用意してあるのか、
鞄から折り畳み傘を取り出し、あるいは傘立てから傘を取り、それらをさして帰っていく。
今度から天気予報は見るべきだな……。
私は下駄箱の前で外を見ながら溜息をつくと、思案に暮れた。

「あのー、俺使わないんで、もしよかったら使いませんか、傘」

横から、声をかけられた。
五月くんだ。私のこと気づいたのかな。
いや、この余所余所しい話し方はきっと覚えてないんだろう。

「いやでも……」

「いいからいいから、使ってください。
自転車乗りながら傘させないし……傘持ってるんですか?」

「いや、持ってないです……」

「じゃあ、はい」

紺色の折り畳み傘を手渡される。

「あっ、あの!」

五月くんは急いでいたようで、傘を私に渡すと走って外に出ていった。
話すタイミングを逃した。


雨の中を走る五月くんの背中を見つめる。
視線に気づいたのか、五月くんが一度立ち止まり、こちらを振り返った。
目が合う。
首をかしげ、またすぐに走って行った。



「あのー……五月くん、これ」
私は彼に借りていた傘を差し出した。

昨日はなんて話しかけるか迷っているうちに五月くんが帰ってしまって、傘を返せなかった。

「ああ、稲葉さん。どうも。そういえば、貸してたっけ」

名前で呼んでくれないことに少し寂しさを感じる。
私のこと、気づかないのかな……。

五月くんが私から傘をとるとき、五月くんの手が私の手に触れた。
無意識に体が跳ねる。心拍数が急に上がり、顔が熱くなった。
動揺を必死に隠し、口を開く。

「あああの、その、助かりました……ありがとうございます」

何度も何度も会話をシミュレートしておいたのに、
頭が回らない。うまく言葉が出ない。


「いや、気にしないで……」


私が予想外の出来事にしどろもどろしているうちに、
五月くんは傘を鞄に入れて教室から出て行ってしまった。

ああ、五月くん……。
不意に胸を力いっぱい掻き毟りたい衝動に駆られたがこらえる。

大きくため息をつき、私も下駄箱へと向かう。



私は小学生の時、いじめられていた。
やり口が陰湿で上靴や持ち物を隠されたり、陰口を言われたり。
今となっては思い出すと鼻で笑ってしまうような事ばかりだったが、
当時は泣いてばかりだった。

泣きながら隠された物を探している時、一緒に探してくれた。
泣き止まない私を慰めてくれた。
友達がいない私と遊んでくれた。
私を好きでいてくれた五月くん。

何度、持ち物を隠されても、陰口を言われても、
五月くんと一緒にいるだけで幸せだった。

子供の私は五月くんとずっと一緒だと思い込んでいた。


小学四年生の時、親が離婚した。
理由は私にはわからない。
ただ、離婚することを母親から知らされたとき、
まったく驚かなかった。なんとなく、納得してしまった。
父も母も私との会話はあるけども、お互いはあまり会話をしてなかったように思う。

お父さんとお母さん、どっちが好き?
そう聞かれた時すぐにこっち、と答えることをしなかった。
私は、お母さんはここに住むの?と聞いた。
母は言った。
「ううん、もっと都会の町に行くの」

「お父さんは?」
一言も言葉を発さない父に代わって母が答えた。
「お父さんはね、ここに残るんだって」

母が私の肩を両手で抱き、ゆっくりと言った。
「冬子、よく考えて答えて……。
お父さんとお母さん、どっちと一緒に住みたい?」

私は…………。


「お父さん」

365五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 21:00:00 ID:/ej2yWxw
私はこの町に残る父を選んだ。
特別、父と一緒に住みたいとは思っていなかった。
この町に残るのであれば、選ぶのは父でも母でもどちらでもよかった。
五月くんと一緒にいたかった。
ただそれだけだった。


「冬子、引っ越しをするぞ」
母が出て行ってから、少したってからのことだった。
父が嬉しそうな顔で私に言った。

「この町から出るの……?」
私は嫌だった。
せっかく、五月くんのために父と暮らすことを選んだのに……。
五月くんと離れなくてはならないのか。

「ここから少し離れたところの、新しくできたマンションに決めたんだ」

「そっか……なら……」

「冬子はこの町が好きか」

「えっ……ああ、うん」

それから少しして、移住先に荷物を運んだ。
父は近くに小学校があるからそこに通うように。もう手続きも済ませてあるからと、私に言った。
その話を聞いて愕然とした。

私は五月くんと一緒にいたいから、父とともに暮らすことを選んだのに。

引っ越しが終わった後すぐ、五月くんに電話した。

今までのお礼、親が離婚したこと、転校すること。
話している途中で泣き出してしまった。そんな私を五月くんは、電話口越しに優しく慰めてくれた。

泣いて何度もしゃくりあげながら、五月くんに言った。

最後になるかもしれない、会って話したい……。

元の家から、移住したマンションまで、高校生になった今となっては大した距離ではない。
しかし、子供の私は子供ながらに、子供だからこそ分かっていた。
違う学校の子と友達でい続けることのむずかしさ。
同じ町の、遠い距離。

待ち合わせ場所を決めると、すぐに五月くんが来てくれた。

公園のベンチに座って、二人で話をした。
涙は少しおさまっていたが、五月くんを見るとすぐに目からだらだらと涙があふれた。
電話口で話した時と同じように、泣いてしゃくりあげる私の背中を撫でながら五月くんは私を慰めた。

もう泣かないで、冬子……。

うん……。

小学校がちがくなっても、中学校で一緒になれるよ……。

中学校もちがったら……?

その時は高校で一緒だよ……。

うん、そうだね……。

また一緒に遊べるよ……。

うん……。

約束しよう……指切りだ……。

366五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 21:00:53 ID:/ej2yWxw
それから二年……転校先の小学校を卒業し、中学校に入学した。
中学校で五月と一緒になることはなかった。
近くに中学校があり、そこに通うことになった。
入学する前に、父に近くじゃないほうの学校に行きたいと言ったが、
近くにあるのになぜわざわざ遠いほうに通いたいんだと尋ねられた。
父を納得させられるだけのまともな理由を言えなかった。

母が出て行ってから、父は再婚することなく仕事一筋だった。
父は仕事のため、家事ができない。
そのため自分が家事をしていた。
通学に時間を取られると、家事が大変になるし、勉強もできなくなるだろうと諭され、泣く泣く近くの中学に入学することを承諾した。


中学に入った後何度か、五月くんに電話しようと思ったけど、踏ん切りがつかなかった。

以前のように話せるか……?
以前と同じように接してくれるのか……?

時間がたてばその不安は積もった。

高校で一緒になる。彼の言葉を思い出した。
中学校で一緒じゃなかったら、その時は高校で一緒。

高校で一緒になることを決心したその日から、私は変わった。不安も次第に消えていく。

五月くんがどの高校を受験してもいいように、勉強の量を増やした。
そのおかげか、学年トップには届かなかったが、三年間は常に十位以内をキープした。

いつか、五月くんに食べてもらえるのを夢見て、料理の練習もした。


勉強や料理の練習より、ずっと厄介だったのは肝心の五月くんの志望校。
これを探るのが一番手間がかかった。

中学三年時の、冬。
五月くんと一緒に下校する友人達。その集団の後をこっそりつけ、別れた五月くんの友人の一人の後をまたつける。

頃合を見計らって話しかける。
そして、志望校を聞き出した。

「あの、五月に用があるなら俺から伝えてあげようか?」

そう言う彼に、私は嫌悪感を覚える。
あからさまに私へ媚びた口調と媚びた目。
本人に悪気はないのだろうが、何とも私はこの媚びた姿勢が嫌いだった。

「いや、結構です。ただ約束してください。
私のことを絶対に、絶対に五月くんに話さないで」


私はそれだけ言うともと来た道を戻った。
やっと、志望校が分かった。
やるだけのことはやった。もし、これで高校が違っていたら……。

その時は、五月くんのことを忘れよう。

いつからだろう。初めて会った時からか、あるいは彼に会えなくなった時からか。
呆れるくらいに一途。私は五月くんのことが好きだ。


ずっと片思いだった訳だ、この五年間。
しかも、一度も顔を合わせなかった。

五月くんが私を忘れていても……無理はないかもしれない。

367五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 21:02:04 ID:/ej2yWxw
早くに起きて、バイト先に行き、それから学校へと向かう、授業をこなし、バイト先に行き、家に帰って寝る。
この生活にも慣れてきた。

以前、祖母に一人暮らしをすることを話したら、家賃だけ負担してくれることを約束してくれた。
これによって月々の返済に余裕ができた。
もし、家賃も自分で払うことになっていたらバイトの時間がもっと増えていたことだろう。
本当に助かった。祖母に本気で感謝したのは後にも先にもあれっきりだ。

ロッカーを閉め、床に置いた鞄を取り、更衣室から出る。
裏口から出て、停めておいた自転車にまたがりいつもの通学路を走る。

頬を撫でる風もすっかり暖かくなり、春の匂いが鼻をくすぐる。
もう四月も末だ、もう少しで黄金週間がやってくる。
以前までは飛んで喜ぶくらいだったが、今年は、今年からは安易に喜べなくなった。
バイトだ。少しでも早く借金を完済するため、時間がある今のうちに少しでも多く金を稼いでおく。
仮にも高校生だ。テストで赤点を取ったら追試を受けなければならないし、その追試も逃したら留年もある。

だから、テスト直前だけはバイトを減らしてもらうように約束してもらった。


急な坂を自転車を押して歩く。
ここら辺は本当に坂が多い。一日の消費カロリーのうち半分はこの道を使っての登下校に消えていると思う。

今日は銀行に行って振込みをすませようかな……。

坂の頂上、自転車に再びまたがり、今度は一気に下る。

父の借金を知った日に、振込先を沢瀬さんから教わった。
特に何日と決めないから、月に一回振り込んでほしい。完済したら知らせるから。
と言われ、口座番号をかいた紙を渡された。

いつになったら完済できるのかな……。

最近、溜息が習慣づいてきた気がする。吐き出しかけた溜息を無理やり飲み込んだ。

自転車に鍵をかけ、教室に向かう。
朝食を食べないことは慣れたが、昼食が圧倒的に足りない。空腹だ。
ぐーぐー唸る腹を抱え、上靴に履き替える。

「おはよう、五月っ! 今日も元気かな!」

空腹に愛の声が響く。

「ああ、おはよう……元気だよ」

「どうしたの?どう見ても元気なさそうだよ」

「いや……ちょっとな」

そういうと階段を上ってさっさと教室に行く。

「ところでゴールデンウィーク暇?」

愛が俺の顔を覗き込んで尋ねる。

「えーと、そうだな……」

二日くらい午後だけバイトの日があったな。
時間足りるかな……。
ああ、でも買い物行かなきゃ。
課題も出るだろうしなー……。

考えてるうちに教室の前に来た。

「あっ、じゃあ後で暇な日メールしてねっ!絶対だよ?」

「はいはい。じゃ、また」

別れを告げると教室に入り、いつもの席に座る。
空腹がピークを過ぎ、幾分か楽になった。
大きく息を吸い込んで、吐く。肺の中の空気を入れ替える。

貧乏暇なしって本当だな……。

368五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 21:03:36 ID:/ej2yWxw
四時間目の数学は非常に眠くなる。
俺の席は窓際の一番前で、春の日差しが差しこんでくる。
ぽかぽかしていい気もちだ……。
睡眠の世界にぐいぐい引き込まれる。
抗うことのできない眠りの快感に俺は身をゆだねた。

はっとなって目を開けると、授業は既に終わっていたようで、
皆グループで集まって昼食を食べ始めていた。

下手したら昼休みが終わるまで寝ていたかもしれない。

座ったまま伸びをし、大きく欠伸をする。
少し疲れているのかもしれないな……。

パンを探って鞄の中を引っ掻き回していると、目の前に稲葉さんが立っていることに気づいた。

「あの、五月くん……」

「どうかしたの?」

「その、もしよかったら一緒に食べませんかっ!」

彼女の手には弁当が二つ。赤いチェック柄の布に包んであるのは彼女のだろう。
もう片方の紺色の布に包んだ弁当は……彼女が両方食べるのだろうか。
彼女は見かけによらず大食いなのかな……。


「弁当? 別にいいけど……」

俺がそういうと、彼女は自分の席から椅子を持ってきて俺の机のそばに置いて、それに座った。

鞄の中からパンを取り、封を切ってかじりつく。

「今日もパン一個ですか……」

少々呆れたように、彼女が言った。
本当は弁当を用意してガッツリ食べたいけど、いかんせん時間がない。

「ああ、そうだけど……。
ところで稲葉さんはそれ、どっちも食べるの……?」

俺は彼女が机に置いた二つの弁当を指さして言った。

「え! あ、その、これは……」

途端に顔を真っ赤にし、しどろもどろになった。
大食いのこと気にしてるのかな……。
だとしたらまずいこと言ったかも。

空になったパンの袋を鞄に押し込んで、彼女に向き合って弁解する。

「ごめんそういうつもりじゃなくて……、
ただ気になって聞いただけだから……!」

そういうと、彼女はきょとんとした後、突然にんまりと笑って。

「ああ、もしかして、食べたいんですか?」

「え、いや、そういうんじゃなくてね……」

「あげますよ、一個。和風と洋風、どっちがいいですか」

「ん…………。和風で……」

「じゃあ、はいどうぞ」

彼女はにこにこしながら、紺色の布に包んだ弁当箱を僕の前に置いた。
まともな昼食は実に三週間ぶりだ。
弁当箱を開ける前から、俺は大量に分泌される唾を飲んだ。

「ありがとう……」

「ふふ……。いいんだよ。五月くん、食べて……」

「じゃあ、いただきます」

「……ッ! こ、これはァ!」

一言で言うと、彼女の弁当は美味しかった……。
中までしっかり味が通っているのに煮崩れを起こしていない肉じゃが。
その上、味の加減が絶妙で辛すぎず、薄すぎず、それでいて甘い。
きんぴらごぼうもごぼう特有の泥臭さがなく、旨味が生かされぱりぱりとした触感と胡麻の香りが素晴らしかった。
だし巻き卵のふわふわとした触感。塩焼きにされたアジの歯ごたえ。

これらをおかずに口にほお張る白米。少し涙が出た。
食事って偉大だ……。


「ふー。ご馳走様でした……」

「お粗末さまでした、ふふっ……」

「ありがとう、すごくおいしかった」

「本当?」

本当だ。空腹は最高のスパイスというが、それを抜きにしても彼女の弁当は美味しかった。

「うん、本当においしかった。久しぶりにあんなおいしいの食べたよ」

「ならよかった、口に合うか心配してたんですけど……」

「え……?」

「ああっ、いや、なんでもないです」

この弁当、もしかして……、俺に作って持ってきたのかな?

369五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 21:04:54 ID:/ej2yWxw
四月も末。
日差しが暖かくなり、風も穏やかだ。

五月くんの席は窓際の一番前。窓から差し込む日光がぽかぽかと、暖かくて気持ちがいいのか、
こっくりこっくり居眠りをしていた。
疲れているのかと少し心配するのと一緒に、彼の眠る姿に愛おしさを感じた。

四時限目終了のチャイムが鳴る。
先生が出ていくと、皆仲のいい人と集まって一緒に昼食を食べる。

入学してからすでに三週間。五月くんはまだ誰とも一緒に昼食を食べていない。

しかも毎日、お弁当ではなくどこかで買ってきたパンを一つだけ食べる。
そのため、五月くんの昼食はとても早くに終わる。
食べ終わった後は、ただ座っているだけだ。


今日は、朝早くに起きてお弁当を作ってきた。
自分のではない。五月くんにだ。
彼も毎日の昼食がパン一個じゃあ物足りないだろう。
きっとお弁当を作ってくれる人が家にいないんだ。
話すいいきっかけになると思ったし、私の作った料理を食べてもらえる。私は一石二鳥だと考えた。

鞄から紺色の布に包んだお弁当を
そっと取り出し、大きく息を吸い込んで五月くんの席まで行く。

「もしよかったら一緒に食べませんかっ!」

370五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 21:08:24 ID:/ej2yWxw

…………。


「ご馳走様でした……」

「お粗末さまでした、ふふっ……」

五月くんに私の作った料理、食べてもらえた!
嬉しくて、つい笑みがこぼれる。

「ありがとう、すごくおいしかった」

「本当?」

五月くんが洋風と和風、どちらを選んでもいいように両方、腕によりをかけて作っておいた。
でも、もしも口に合わなくて、彼が気を使っているのではないかと少し疑う。

「うん、本当においしかった。久しぶりにあんなおいしいの食べたよ」

「ならよかった、口に合うか心配してたんですけど……」

「え……?」

「ああっ、いや、なんでもないです」

思わず口に出た言葉を、訂正する。
あなたのためにお弁当を用意しました。なんてこと言えない。

ふと気が付くと、彼が私をじっと見ていた。
恥ずかしさから顔が熱くなる。

「どうかしましたか……?」

「いや、どっかであったっけ? 前に」

「傘借りました」

少しいじわるをしてみた。
五月くんの困った顔に胸がきゅんとなる。

「んー……それより前にさ」

「んふふ。どうでしょうか」

私は牽制するように笑う。
五月くんのほうから私を私、冬子だと気付いてほしい。
あと、もう少しで気づいてもらえるかもしれない。興奮からか、少しドキドキしてきた。

371五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 21:09:10 ID:/ej2yWxw
彼女をじーっと見ると彼女は視線に気づき頬を赤く染め、もじもじとした。

「ど、どうかしましたか……?」

俯いて、上目づかいでそう言う彼女。

「いや……どっかであったっけ? 前に」

弁当を作って持ってきてくれるような知り合い、俺の周りにはいない。はず。

「傘借りました」

「んー……それより前にさ」

「んふふ。どうでしょうか」

彼女が悪戯っぽく笑った。

過去に、俺は互いが中学、もしくは高校で一緒になることを約束した女の子がいた。
名前は沢瀬 冬子

中学の入学式の日。

まっさきにクラス表の中から彼女の名前を探した。
何度探しても彼女の名前は見つからなかった。

中学三年へ進級するころにはもう、約束のことを忘れかけていた。
彼女の名前がクラス表から見つけられなかったときに、無意識にもう会うことはないんだろうな。と思った。

高校へ入って、クラス表から彼女の名前を探すことはしなかった。

ちらっと、彼女と彼女との約束について思い出したが、きっと別の高校に行ったと思ったし、なにより五年間も連絡ができなかった。
向こうから連絡が来ることもなかったので、冬子は俺のことを忘れたのだと、自分の中で結論を出した。

そう思っていたら、同じクラスに冬子がいた。

子供のころの面影が残っている。冬子だ。
俺は確信した。あの約束をした冬子だ。

しかし苗字が変わっていて、話し方がよそよそしかった。
別人か、はたまた俺を忘れたのか。

いま、確かめる。

「冬子か……?」

これだけで伝わるか?
俺の言いたいことが。

372五月の冬 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 21:10:49 ID:/ej2yWxw
彼はしばらく考え込んだあと、口を開いた。

「冬子か……?」

私はにっこり微笑んで答える。

「……やっと一緒だね」

それを聞いた五月くんは、微笑んでつぶやいた。

「五年間、長かったな……」

373 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/08(日) 21:16:06 ID:/ej2yWxw
投下終わりますー。長々とすみませんでした。
一部終わりです。まだ病みは出ていませんが、二部から病ませるのでよろしくお願いします。
一部というよりはプロローグみたいな感じでしょうか。

登場人物の視点がばしばし変わって読みづらいと思います。
こうしたらもっと読みやすくなるんじゃないか、などのアドバイスあればぜひ聞かせてください。
そういや明日は月曜日ですね……。

では。

374雌豚のにおい@774人目:2011/05/08(日) 21:17:16 ID:jUBnc0Rc
乙ー
次も期待期待

375雌豚のにおい@774人目:2011/05/08(日) 21:23:24 ID:p3wruYTc
>>373
GJ!
凄い力作だ。
続きに凄い期待してる。

376雌豚のにおい@774人目:2011/05/08(日) 21:42:02 ID:OnpdYfDw
GJ!!
ちょっと人物視点がコロコロ変わるから混乱したけど奥が深いですね……次が楽しみです

377雌豚のにおい@774人目:2011/05/08(日) 23:02:48 ID:XB1LghIs
>>373
こういうのもイケルのでこの調子でどうぞ頑張ってください
GJでした

378雌豚のにおい@774人目:2011/05/08(日) 23:05:52 ID:vH75Z.1g
GJ
ストレートにすきあってほしいんだけど病んじゃうのがみたい
なんだろう…

379雌豚のにおい@774人目:2011/05/09(月) 17:07:06 ID:OnpdYfDw
次の作品投下まだかな?

380雌豚のにおい@774人目:2011/05/09(月) 21:48:29 ID:wtMxLKO2
>>373これは・・・。こういうの荒れるから言いたくないが、10年に一人の逸材だと感じた。

381 ◆J9zPo6rgI.:2011/05/09(月) 21:59:21 ID:RvIBnJ5A
>>373お疲れさん、盛り上がってるねぇ。

投下します。

382 ◆J9zPo6rgI.:2011/05/09(月) 21:59:45 ID:RvIBnJ5A
第六話

「なぁーにやっとるんじゃ・・・まあよい。
ああそうじゃ、待たせて申し訳なかったのぅ・・・お連れになったぞ、このお方じゃ」

「なっ!」「あひゃっ!」「えっ・・・」
待機組一同、驚く。
それもそのはず、転送師として紹介されたその人は、
ゆうに九十を超えるであろう、杖をついたご婦人であった。
俺はそういうオチもあるのかと、少し勉強になった。

「あわわわ・・・ボクこんなところで人生終わるなんていやだよぉ・・・、
ねぇねぇ、竜史、もしもの事があったらキミも一緒に死んでくれるよね?」

当然、紅子も不安に感じており、思わず気違いじみた事を口走ってる。
ということはミューも・・・。

「うわぁ、凄く腕の立ちそうな転送師さんだね。
お兄ちゃん、お姉ちゃん、一安心だね・・・
はっそうだ、ふ、不束者ですが、よ、よろしくお願いします・・・」

逆だった。
この子の無垢なズレっぷりに、ただただ感服するほか無い。

早速その転送師さんは、地面に変な文字やら紋章やらを、
真っ白な石灰で修練場のど真ん中にゆっくりと書き込んでいく。
さっき綺麗にしたばっかりなのにな。
こういう儀式って庭でやるもんだと思ってた、どこでもいいのね。

・・・・・・・・・・・・・転送師さんの行動があまりにも遅い(失礼)ので、
間を埋める、並びに気持ちを落ち着かせるため、先生に気になっていたことを質問する。

「先生、ほかの二人は?」

「おおぅ、昨夜に出発時期をずらしたいと申し出て来てのぉ」

なぬ?まさか・・・怖くて逃げたのでは・・・向川さんに限ってそれはないか。
銀次郎ならあり得るが・・・つーか俺も逃げ出したい気分だ。
少しばかり震え上がっていると、不意に小声で声をかけられる。

「失敗なんてあり得ないよ、だって先生が選んだ人だもん、大丈夫。
それにね、私とお兄ちゃんが離れたり別れたりすることは、どう考えてもあり得ないもの。
永遠にそんな日は訪れないんだから、ね?」

俺の気持ちを察して、ミューが分厚すぎる励ましの言葉を掛けてくれた。
気が抜けて抜け殻みたいになっている紅子にも同様の事をしている。
ミューって臆病かと思えば、落ち着いたりして良く分らないところがある。

じっと待つ事30分、ようやく準備を終えたようで、
転送師さんが年季の入った腕であれこれ指示してくれた。
ぞろぞろと全員が円の中心に集まったところで、転送師さんの動きが急に鋭利になる。

「むむっ、この中に転送に対しての耐性が・・・著しく低い方がおります・・・
そういった方が居りますと・・・成功率が・・・格段に低下し致します・・・」

一同ざわつく、一気に悲劇が現実味を帯びてきたのだから当然である。

「誰だい!?ボクはまだ死ねないもんね。
あっ、たぶんキミだね、船でおととい来やがれってんだ」

「アホ、まだ俺って決まった訳じゃないぞ、お前かも知れん」

「わしは何度も利用しとるからな、除外じゃの」

「私だったらどうしよう・・・うう・・・私っぽいなぁ・・・」

転送師さんそっちのけで、奇妙な犯人さがしに興じる。
このおかしな喧騒を打破するかのごとく、転送師さんがゆっくりと犯人を告げる。

「前髪がきれいに切り揃えられた・・・そこの小さなお方です、そう、あなたです・・・」

紅子は、新顔と思われる悲痛なびっくり声を発した。ご愁傷様です。

「わひゃぁっ!!ボクなのっ?絶対違もんねっ!」

「あなたです・・・間違いありません・・・あなただけ極端に耐性を感じません・・・」

「・・・ボクどうなるのさ、危険物過ぎて転送されないの!?」
先生が割って入り、
興奮してるんだか悲しんでるんだか分らない紅子に残念な決断を下す。

「・・・紅子・・・渡島を諦めるか、残りの者と船で行くかにせんといかんの」

「えーーーそんなのってないよっ・・・ボクすごく楽しみにしてたのに・・・
みんなと行けないなんてさ・・・」

「ちゃんと待っていてやるからよ、まあ、ゆっくり来いよ」

「またすぐに会えるから・・・そんなに悲しまないで・・・グスン」

「こういう事もあろう、いつまでも駄々をこねてはのぉ、一人前にはなれんの」

「うぅ・・・みんなの言う通り、かなぁ・・・船で行くよ」

紅子は口惜しそうにしながらも、納得してくれたようだ。
悔しさからか紅子は半泣き、ミューはしくしく大粒の涙を流す、涙腺弱すぎだろ二人とも。かく言う俺もなんだか泣けてきた、まぁ、大琉の人間は涙もろいっていわれてるし。

383 ◆J9zPo6rgI.:2011/05/09(月) 22:01:10 ID:RvIBnJ5A



「キミと深優ちゃん、ちょっとこっちおいで」

お姉ちゃんが手招きしています、何か言っておきたいことでもあるのでしょう。

「なんだよ、観光場所の下調べか?やっておくから心配すんな」

「ちがーう!勝手に推測するんじゃないっ。
うん?・・・いや、それもやっておいて欲しいではあるけど・・・
オホンっ、それはともかく、キミに注意を喚起してあげようと思ってね」

「なんだよそれ、早く言えよ」

「兄妹一つ屋根の下であることを良い事に、深優ちゃんにいたずらしたら許さないから!」

「・・・何言ってんだチビ介、あっ、ほーら、ミューがきょとんとしてるぞ。
ったく・・・妹にそんな事する兄貴がいるかってんだ」

「分らないよっ、深優ちゃんは顔と性格はあどけなさがあるけど、
体つきが魅力的すぎるから、男が近くにいたら食われちゃうねっ!男は狼だよ!」

「あのなぁ、ミューはあくまで妹なの、それ以上の感情は湧かんよ。な、ミュー?」

そう言われた瞬間、胸が締め付けられ、言葉が出るのに少し時間がかかりました。
お兄ちゃんは私を、妹としか見ていないのは知っています。
この現実を本人から直接突きつけられるのがとてもつらくて、
こういった感じの話題、流れになったとき、現実と向き合うのが恐ろしい一心で、
卑怯にも話題を変えようと必死になります。
私は基本的に行動も思考も鈍くて遅い、のろまな子ですが、
お兄ちゃんの事となると敏感に反応します。
・・・でも今回は先に言われてしまいました、遅かった・・・。

「・・・うん・・・そうだね・・・ただの妹だものね・・・」

こう返すのが常であって、私の精一杯です。

「迫られたらあの撃砕拳をお見舞いするんだぞぉ」

「・・・うん・・・ありがとね、お姉ちゃん・・・、
でももうちょっと痛くない打撃にするね・・・」

大して鍛錬をしている訳ではないのに、生まれたときから力が凄く強いんです。
お兄ちゃんが持つことすら苦戦していた大槍を片手で簡単に持てます。
なぜでしょうか?誰も理由は分からないようです。
それはともかく、お兄ちゃんを殴るなんて死んでもできません、
でもお姉ちゃんの圧力に押されて、頷いてしましました、私は信念が弱いです。

「おい!あれ食らったらほんとシャレにならんぞ、お兄ちゃん、おなかに穴空いちゃうぞ」

「深優ちゃん、あとっ、一緒にお風呂とか添い寝とかも絶対にダメだからね!
お嫁に行けない体になっちゃってもいいのかい?うーん、あとそれとねぇ・・・、
手を繋いだり抱きしめたりするのも厳禁、付け込まれる恐れ有り!だからね」

お兄ちゃんそんな人じゃないよ、それはお姉ちゃんも良く分かっているでしょう。
そこまで私の事、心配しなくていいんだよ、今日のお姉ちゃん少し過保護だよ・・・。

「ミューちゃん、いろいろな初体験があるかも知れないけどね、
兄妹の団結力で乗り切るんだっ、いいね。
そんでもって、ボクが来るまでお・と・な・し・くしているんだよ・・・すぐ行くからさ!」

「ありがとう、お姉ちゃんを迎える準備しておくねっ!」

勢いよく、私に別れの抱擁してくれました。
いつもの元気なお姉ちゃんです。
ただ「大人しく」の部分をなんで強調したのかがちょっと分かりません。
お姉ちゃんなら私が元々大人しくて、何事にも奧手なのは知っているはずですが。

お兄ちゃんは、私たちのやりとりが終わるのを待っているようなので、
お姉ちゃんの肩を軽くたたいて気付かせます。

「紅子、よくこんな恥ずかしい事べらべら喋れるなぁ・・・まあ、
ミューを心配する気持ちも分からんでもないよ、だから、天に誓って約束する、な?」

「ホントの本当、真のまことかい、信用してもいいんだね、キミのこと」

お姉ちゃんがお兄ちゃんの袖を掴んで真剣に懇願しています。

「ああ、そうしてくれ」

「深優ちゃんだけじゃない、あっちで他の女の人にちょっかいなんて出したら、
国賊ものとして痛いお仕置きするからね!分かったかい?」

「分かってるって、そんときは自分で腹切るよ。
よぉ、どうだ、格好いい台詞だろう」

お兄ちゃんが、自慢げに鼻をならした瞬間、その懐に飛び込んできました。
周りにいた人たちは、みんな呆気にとられます。

「キミにお仕置きしていいのは、ボクだけなんだからね・・・」

384 ◆J9zPo6rgI.:2011/05/09(月) 22:01:32 ID:RvIBnJ5A

顔を埋めているせいでこもって聴こえるはずですが、私には明瞭に声を拾えました。
言い終えたあと、照れ隠しなのでしょうか、そのまま玄関門の方へ走って行き、
すぐに、姿が見えなくなりました。
お兄ちゃんは、走り去った跡を見つめ、はははっと照れ笑い、
お姉ちゃんにこんな事をされるとは思いもよらなかったでしょう。

私も同じです。
だって突然で、しかも意味深な事を言うのですから。
あの光景を目の当たりにしたためか、胸の鼓動が次第に早くなっていくのが感じられ、
自分でも一体今どういう感情が支配しているのか理解できません。
強いて言うなら、負の感情がぐちゃぐちゃに混ざった感じで、
悲しいのか、嫉妬なのか、悔しいのか、驚きなのか、判別がつきません。

ただ今分かったことは、
お姉ちゃんはお兄ちゃんの事を異性として好きかも知れない、ということです。
薄々、前々からそうじゃないのかなって、思う部分がありましたが、
確信に近いものに変わりました。

そうであるとすれば、お姉ちゃんと恋敵同士って事ですか?そんなの嫌です。
でもお兄ちゃんが女の人と親密になっていくのも嫌です。
私はどうすれば良いのでしょうか。
こんなわがままで醜い思考に至ってしまう自分が恐ろしく嫌いです。

・・・また私は泣いてしまいました。

「ミュー、どうして・・・泣いてるじゃないか・・・」

「ご、ごめんなさい、この涙は、きに、気にしないで、すぐに泣き止むからっ・・・」

「ほっとけないよ」

「私、お兄ちゃんの手をね、煩わせたく、ないの、だから、ちょっとだけ、待ってて」

出発前なのにこんな雰囲気にしてごめんなさい。
先生もお兄ちゃんも意気揚々と出発したかったはずなのに・・・、
すぐに泣いて迷惑ばかり・・・早く涙を止めなきゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「おーい、ミュー大丈夫か?」

「うん、先生、お兄ちゃん、待っていてくれて、ありがとうございました」

涙は引いていましたが、目はまだ赤く、
顔を見せるのをためらいましたが、振り向いて頭を下げました。

「おう、じゃ、円の中に入りな」

そう促されて、円の中に足を踏み入れました。
足下の円を見ると、引かれた線に沿って、微弱ながら金色の光を発しています。凄いです。

「竜史、紅子はわしも何か言っておったか」

「いやぁ・・・全然だったねぇ」

「恩師であるわしを差し置いて、
何も言わずに去っていくとは・・・あ奴らしいと言えば、あ奴らしいがのぉ・・・」

「まぁまぁ、先生いいじゃないの、あいつなりに感謝してるって」

「むぅ・・・納得いかん・・・」

お兄ちゃんと先生のやりとりを見ていると、表情がほころび、ほっとします。
私は自然と笑顔になっていました。

先生とお兄ちゃんの雑談やあちらでの段取りの確認などが終わった頃になると、
転送陣の強烈なまばゆい光が、三人を包みます。
鳥の鳴き声、風が道場を揺らす音、中心街から聴こえる鐘の撞かれる音、
全てが遮られ無音空間へと変化していき、意識もだんだんなくなって行きます。
・・・ちゃんと成功すると・・・いいなぁ・・・・・・・・。

385深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/09(月) 22:02:59 ID:RvIBnJ5A
投下終了です。

題名忘れてました失敬。

386雌豚のにおい@774人目:2011/05/09(月) 23:00:57 ID:88hGs76E
gj!
だんだん黒化への階段をのぼっていってるなぁ

387雌豚のにおい@774人目:2011/05/09(月) 23:01:36 ID:vH75Z.1g
GJ
泣きキャラってあんまいなかったな、かわいい

388雌豚のにおい@774人目:2011/05/09(月) 23:26:33 ID:OnpdYfDw
紅子がスゲェ怖い…なんだろう……ヤンデレ好きの直感が…

389雌豚のにおい@774人目:2011/05/10(火) 00:07:43 ID:p3wruYTc
GJ!
ミューさんより、紅子さんが先に目覚めたな。
ロリ美女 VS 幼なじみロリ

……ファイッ!

390雌豚のにおい@774人目:2011/05/10(火) 01:36:17 ID:6TDwvnEg
凄い投下ラッシュだな……GJ!
ただもう少し早く、あるいは一緒に戦ってほしかったな。
スレが荒れてても堪えて投下してはバッシングを受けていた作者達が
気の毒でならないわ。

391雌豚のにおい@774人目:2011/05/10(火) 03:21:00 ID:OnpdYfDw
>>390
そんな黒歴史は忘れて次の作品投下を待ちましょう……そろそろ「弱気な魔王と愛され姫様」と「忍と幸人」来ないかな…

392雌豚のにおい@774人目:2011/05/10(火) 06:47:53 ID:j9.VA8uo
>>391
書き込み時間が上手い具合にカウントダウンになってますねw

393雌豚のにおい@774人目:2011/05/10(火) 07:20:14 ID:a3VObeuA
みゅーちゃん可愛すぎて生きていくのがつらい、最高だ。

394雌豚のにおい@774人目:2011/05/10(火) 15:16:55 ID:OnpdYfDw
次の作品投下まだかな?

395雌豚のにおい@774人目:2011/05/10(火) 23:05:04 ID:wtMxLKO2
>>392不覚にもワロタwww

396雌豚のにおい@774人目:2011/05/11(水) 12:28:21 ID:OnpdYfDw
作品投下が来ない…ゴールデンウィークで力尽きたのか?

397避難所の中の人★:2011/05/11(水) 16:49:19 ID:???
ローカルルールを大幅に更新しました
削除・規制等の対象について言及しているため必ず目を通しておいてください

398雌豚のにおい@774人目:2011/05/11(水) 22:13:42 ID:XnFcDi4A
投下の催促多すぎだろ
少しは自重するべき

399雌豚のにおい@774人目:2011/05/11(水) 22:35:21 ID:j9.VA8uo
きっとみんな充電中なんだよ。

今にまた投下ラッシュが訪れるさ。

400雌豚のにおい@774人目:2011/05/12(木) 09:37:24 ID:iv34jsSE
かなりが間が開いてしまいましたが投下します
「弱気な魔王と愛され姫様」最終話です

401弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:38:08 ID:iv34jsSE
それから二年、僕たちの周りは大きく変わった
人間たちのと間に二つの懸け橋ができたことで、名実共に共存が可能になったんだ

「ほらエレ様、しゃっきりしてくださいな
 今日中にあと九つのお城を回らなくちゃいけないんですよ」
「……だりぃ。もう飛ぶの疲れた。ミリルは乗ってるだけだからいいだろうが、俺はきついんだぞ」
「その代わり交渉はみんなわたくしがやっていますわよ。ほらほら、頑張りましょう」
「くぁ〜〜〜、スカルエンペラーの広範囲転移魔法が欲しいぜ、ったく」

一つ目はミリルさんとエレキインセクト
エレキインセクトはまだあの戦いでの恨みを持つ人がいるからあまり表舞台には出ない
その代わりといってはなんだけど、ミリルさんがすごく頑張ってくれている
もともとは没落してしまったとはいえ名士の家の出
しかも夫は魔王直属軍の将軍の一人なのだから、どちらの陣営にしても影響力は計り知れない
人間と魔族にとっては最大の懸け橋だ
それでもう一つなんだけど、正直僕は意外すぎてびっくりした
まさかこんなことになるなんてね。男と女は本当に分からないものだと思ったよ
……偉そうな事言ったけど、今もわかんないんだけどね

「………」
「………ということで、我々魔族は人間との共存を望んでるッス。そんでそれは、セリク王息女、エリス嬢も同意してくれたッス」
「(コクコク)」
「我々としても争いは好みません。魔族との共存は喜ばしいことですし、しかもかのエリス姫が同意となれば
 わが国としても協力したいと思います」
「おお、ありがてえッス!」
「〜〜♪」
「しかし一つお聞かせ願いたいのですが、あなたはどなたなのですか?
 魔族、しかも高位の方なのはその出で立ちからも分かるのですが。それに、何故エリス姫をお連れしているのですか?」
「ああ、また説明すんの忘れてたッス! ワシはスカルエンペラー、魔王直属軍将軍の一人ッス
 そんでワシがエリスちゃんを連れてんのは、もともとワシの患者で仲良くなった友人だからッス」
「!」
「あたっ! 叩くのはやめてほしいッス………(伝心魔法:恋人なんて、やっぱワシなんかふさわしくないッスよぉ……)」
「!!!」
「あたたたたた!!エリスちゃん!折れる!折れるッスゥゥゥゥッ!!」
「……あの、エリス姫は目も耳も不自由だとお聞きしていましたが」
「ああ、ワシらが治したッス。耳がまだ全快には程遠いんで言葉は不自由ッスが、近いうちに全快させてみせるッスよ」
「素晴らしい技術ですな。我々もぜひ学びたいものです」
「隠す事じゃねーッズ。治療法はみんな等しく知るべきことッス」

402弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:38:30 ID:iv34jsSE
もう一つは、スカルエンペラーとエリスちゃん
以前に目を治してから、エリスちゃんが主治医?であったスカルエンペラーに一目惚れ
それから今もずっと彼女の猛アタックが続いてるんだ
スカルエンペラーの城内個人医院に押しかけ看護婦さんとして就職する
ミリルさんやシアンちゃんくらい四六時中思い人の傍にべったりくっついてる
休みの日はいっしょに医学の勉強。押しかけとはいえ看護婦さんとして彼の役に立ちたい、って言ってたらしい
仲が良くて何よりだし、もうつきあっちゃえばいいのにとも思う
でも容姿にはまったく自信がないスカルエンペラーが言葉を濁してエリスちゃんに叩かれる
もしくはよけいにべったり張り付かれる、というのがいつもの光景になっちゃってるんだ
エリスちゃんの父親であるゼリク王も始めは躊躇していた
けれど、目を治した本人が娘の思い人だと分かってちょっと苦い顔をしながらも祝福してくれたんだよ
もともとは政略結婚として僕に嫁ぐはずだったエリスちゃんだけど、相手が将軍クラスなら身分としても問題なし
めでたしめでたしだ

……でも、姫とエリスちゃんはすっごく仲が悪いんだよね
エリスちゃんは姫がスカルエンペラーを怖がらせたことを今も怒ってるし
姫も姫で今はともかくもともと僕の婚約者として来たエリスちゃんが気に食わないみたい
ミリルさんやシアンちゃんはお姉様って言って慕ってるだけに
二人には仲良くなってほしいと親心として思ってしまう今日この頃だ



それからもう一つ
実は僕、魔王をやめちゃいました
もともと魔族の全てを背負って立つなんて僕には荷が勝ちすぎてるし、自信もなかったしね
本来なら新魔王が経った時点で旧魔王は処刑されるのが魔族のならわし
それでも現魔王の決定により僕は処刑どころか秘書官を任せられている
で、誰が今の魔王をしているのかというと………

403弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:38:55 ID:iv34jsSE
「ほらほら起きて起きて。もう朝だよー」
「むぅ〜〜。ねえお父様、今日のボクのスケジュールは?」
「朝から夕方までずーっと各国王への顔見せを兼ねた挨拶回り」
「ええーっ! あれ退屈だよぉ〜」
「ブツブツ言わないの。僕もついていくから頑張ろう」
「当たり前だよ。だってお父様はボクの秘書なんだから」

うん。僕の娘……兼、妻になった姫が魔王をやってるんだ
就任会議で[若すぎる][人間じゃないか]なんて意見が出ることも覚悟してた
でも蓋を開けてみれば、満場一致で一発可決
姫がどれほどみんなに慕われてきたのか良く分かるね
でも変わった事といったら、僕が[先代様]、姫が[魔王様]って呼ばれるようになったことくらい
それに魔王になっても相変わらず、みんなのマスコット的な扱いは変わっていないみたいだ
ああ、それから新し法律ができたんだっけ

[高位の魔族は秘書(および副官)と常に行動すること。これにはプライベートタイムも含まれる]
[異種間結婚は大いに奨励するものである]
[高位の魔族は離婚を許さない]
[婚姻者を誘惑、不倫関係になった者は、誘ったもの、応じた者共に厳罰に処す]
[夫婦は仲睦まじくあるべき事。仕事よりも家庭を大切にすること]

この五つ
姫が会議にかけたら即可決されちゃったんだよね、これ
何でこの法案がすぐに承認されたのか、その会議の議長に聞いてみた結果がこれ

[魔王様は我々魔族の繁栄のためを思ってこの法案を提出しましたです
 そのお気持ちを無碍にすることなんてあたし達には絶対にできませんです
 それに、かわいいじゃないですか。先代様を放さないための法案を作っちゃうなんて
 その上法案には[高位の魔族]ってなってるです。ってことは、隊長にもそれが適応されるです
 そうすれば、あたしも隊長とず〜〜〜〜っと………し、私情なんかじゃないです!
 えっ?浮気程度で厳罰は厳しい? 何を言ってるですか!浮気なんて絶対に許さないです!
 もしも隊長にそんな女が現れたら裁判なんか必要ありませんです! あたしの毒で昇天させてやるです!!]

何が問題かって、議長一人と副議長二人なんだよ
議長がシアンちゃん。副議長がミリルさんとエリスちゃんなことかな
夫達は小難しいことは嫌いだといって出なかった結果がこれ(スカルエンペラーはたまに来るけど)
普段の会議はとっても理知的に進むんだけど、こういった男がらみの法案は過程をすっ飛ばして一発可決されちゃうんだ

404弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:39:17 ID:iv34jsSE
この法案が可決されてから、また姫は僕をお父様と呼ぶようになった
これでもうお父様を取られることもないだろうから、背伸びするのはもうやめたと言われたときは
不覚にもドキッとしちゃったなあ

「早く顔洗って目を覚ましなさい。着替え持ってきてあげるから」
「着替えさせてー。ボクまだ眠いよー」
「バカなこと言わないの」
「……魔王の命令なのに」
「良妻はそんなこと言いません」
「ぶー」

もうすぐ成人しようっていうのに、女の子が頬を膨らませるものじゃありません
でもその姿を可愛いと思ってしまうのは親バカ兼妻バカなのかな
もう少し強く言ったほうがいいのかな?
と思ったとき、突全姫に強く手を引かれ、ベッドに倒れこんでしまった

「ボク、また新しい法案を考えたんだ」
「……言ってごらん」
「[魔族の血統を絶やさないために、世継ぎを作るための営みも公務の一つとしてみなす]っていうのは?」
「あのねえ、それはちょっと―――」
「では、その法案を会議場に持ち込んできます」

窓の外に偶然(って姫は言ってるけど……)休んでた伝令烏がそう言って、止めるヒマもなく飛び立っていった
そうして呆然としてる僕の首に姫の手が回され、強く抱きしめられる。その間、数分

「お父様、大好き。絶対放さないよ」
「あはは……もともと僕は法律でがんじがらめになっちゃってるよ」
「大丈夫。万一法律が撤廃されても、お父様はボクからもう離れられないんだよ。ねっ、[お祖父ちゃん]」
「!?」

僕の手が姫のおなかに当てられる
ぼ、僕がお祖父ちゃん?
お祖父ちゃんってことは、つまり僕の娘の子供?
でもでも、それってもしかして僕の子供でもあるのだからお祖父ちゃんはおかしい?
でもでもでももしかしたらひょっとして、あああああああ………

すっかり混乱しながらも、不意に飛び込んできた第三者、伝令烏の言葉ははっきりと聞こえてきた

405弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:39:34 ID:iv34jsSE

「魔王様、法案は可決されました。会議開始早々にミリル様、シアン様、エリス様による強行採決と相成りました
 なお、そのお三方もこれより法で定められた新公務のご予定となるそうです。では」

言うだけ言ってすぐに空に飛んで行ってしまった。一言文句を言ってやりたかったのに
ちょっとだけため息をつきながら視線を戻すと、姫は満面の笑みを浮かべながら僕を見ていた

「姫、僕がお祖父ちゃんって、それは」
「うん。お父さん兼お祖父ちゃんになるんだよ。これからねっ」

これからってことは、まだ僕はお祖父ちゃんになったわけじゃないらしい
やられた。見事に引っ掛けられちゃったみたいだ
まあもっとも、新しい公務ができたからにはそうなるのも時間の問題なんだろうけどさ
深く唇を吸われながら、ちょっとだけ苦笑いをした




8年前、僕が魔王に就任した際にさらってきた女の子
可愛くて、優しくて、誰からも愛されるお姫様
僕の大事な愛娘
そして新魔王であり、僕の大切なお嫁さん
大変なこともあった。辛いこともあった。でも、僕はこの娘を連れてきたことを後悔はしない
娘だった女の子と肌を重ねることに抵抗はない、と言えば嘘になる
でも、姫はもう子供じゃない
その姫が僕を愛するというのならば、僕もその気持ちに応えよう
もう、子供あつかいはしない

「一つ、聞きたいことがあるんだ」
「法を取り消す方法は秘密だよ。それに、魔王であるボクの承認がなくちゃできないからね」
「そうじゃないよ。姫の、本当の名前を教えて欲しいんだ。昔一度だけ聞いたけど、忘れちゃったんだよね」
「ボクの、名前?」
「うん。僕はこれから姫のこと、名前で呼びたいんだ。もう君は僕の娘じゃなくて、僕のお嫁さんなんだからね」

406弱気な魔王と愛され姫様・第四幕 最終話:2011/05/12(木) 09:39:48 ID:iv34jsSE
一瞬だけ呆然としたけど、僕を見据えた瞳からみるみるうちに涙が溢れ出す
顔を真っ赤にしながら、本当に嬉しそうに笑ってくれた

「やっと言ってくれた。ボクのこと、お嫁さんって……」
「待たせちゃったかな?」
「遅すぎるよ。そう言ってくれたら結婚式を開くんだって、ずっと決めてたんだよ」

そう言うと、ベッドサイドの棚の一番上から小箱を二つ取り出す
その中には、シンプルな銀の指輪が一つづつ

「ボクの名前は彫ってあるの。あとはお父様の名前だけ」
「あ、そういえば僕の名前も……あはは、二人ともお互いの本名を知らないで結婚したんだね」
「笑い事じゃないよ、もう。それじゃあ、せーの、でお互いの名前を言い合おうよ」
「うん」

ちょっとワガママで、とっても嫉妬深くて、独占欲が強すぎるお嫁さん
ここで名前を聞いてしまえば、もう絶対に引き返せなくなる
それでも、何一つ恐怖を感じることもなく、素直に声を出すことができた

「「それじゃ……せーの!」」








おしまい

407 ◆aUAG20IAMo:2011/05/12(木) 09:43:25 ID:iv34jsSE
投下終了です。いきなり最初にコテ付け忘れてました、すみません
あと全体的に病み少ないです。まだまだ書いていきたいと思っているので、反省点ですね
それでは、今まで長々と付き合っていただきありがとうございました

408雌豚のにおい@774人目:2011/05/12(木) 09:53:55 ID:OnpdYfDw
GJ!!
完結か……早かったような短かったような……あれ?デッドガンマンだけ嫁さんいないような……

409雌豚のにおい@774人目:2011/05/12(木) 13:21:35 ID:jUBnc0Rc
GJ!

410雌豚のにおい@774人目:2011/05/12(木) 20:56:04 ID:c7yohJM6
魔王様もとうとう終わったか・・・。寂しいな・・・。4作目期待してますね!

411雌豚のにおい@774人目:2011/05/13(金) 06:33:53 ID:B1QS7xKw
お疲れさまです!
荒れに荒れてる本スレがあるなかで
ヤンデレスレを支えてくれた作品の一つだと思います。

それにこのスレには珍しく誰も不幸になってない
ハッピーエンドでほんわかしました。

次回作楽しみにしてます。GJ!

412青鬼の鬱日和  ◆OfnaLGvHtQ:2011/05/13(金) 23:56:52 ID:.g/yGQrw
久しぶりすぎて忘れられていそうですが、第三話 投下します

413青鬼の鬱日和  ◆OfnaLGvHtQ:2011/05/13(金) 23:57:25 ID:.g/yGQrw
  青鬼の鬱日和 第3話



 「で、どうだった?」

 理不尽極まる謹慎処分を受けた翌日午後4時半。
 俺はとある調査を依頼し、その調査報告を聞いていた。
 「昨日の件について俺はどういう扱いになっているんだ?」
 
 『最悪も最悪。酷い噂になってるな』
 
 電話越しに面白がっている風の声が届く。
 相手の名は木嶋 美樹。
 小学時代からの付き合いであり、今現在、同い年で唯一交流のある女子だ。
 
 どういう情報網をもっているか知らないが、コイツは自分の通う学校に関
するコトは裏の事情まで知っている。
 本人は趣味であると語るが、教頭の裏金やら教師の不倫、イジメを行って
いるグループの構成など幅広く知っている。
 
 『例のファンクラブだったかのメンバの何人かは君を退学にしろとかで担任に
直訴してるし、君が澤本絵里を強○したなんて噂も流れているくらいだ。』

 「誰がンな事するか!こっちから願い下げだあのアマぁ!」

 『まぁ君は素行こそ荒れてる所が目立つけど疎遠だったからといって実の姉に
手を出すほど道を踏み外しちゃいない筈だ。』

 調査を依頼するにあたって諸々の事情を説明したがコイツは俺と澤本絵里が
姉弟であることも既に知っていた。
 何を何処まで見通しているのか、底なしに恐ろしい女だ。

414青鬼の鬱日和  ◆OfnaLGvHtQ:2011/05/13(金) 23:58:21 ID:.g/yGQrw
『今頃、噂を信じた女子が目つきを鋭くして澤本絵里の送迎をしているだろうね。』

 「冗談抜きに俺の評価が地に堕ちてんじゃねーかよ、オイ」
 『ご愁傷様』
 「小学からの付き合いだろ!?少しはフォローしてくれてもいいんじゃないか?」

 『だが断る!』
 
 「バッサリ斬られた!?」
 『そんなわけで学校での評判は諦めて、君にはリアル・ストリートファイターとし
て名を馳せてもらおう』
 「どんなわけだコラァ!」
 不毛極まる言い争いが始まろうとした時、玄関の戸が開く音がした。
 途端に頭が痛くなってくる。
 
 「ただいまー」

 我が姉、帰宅せり。
 つい最近増えた住人の足音を聞き、俺は会話を打ち切り携帯電話をしまう。
 全く違う足音が二つ、三つか?
 帰ってきた姉の他に上がってきた人間が居る。
 木嶋の言っていた護衛だろうか。
 見つかったらややこしい事になるのは必至。
 
 俺様の厄日は、まだ終わっちゃいなかったZE!

 ……自分で言って悲しくなってきた。
 まさしく泣き寝入りといった感じにベッドへと身を沈め、考える。
 
 俺は無事に新学期を迎えられるのだろうか。
 異論はたくさんあるが、あれだけの事を仕出かして退学にならなかったことが
既に奇跡的だ。
 内申書には大きく傷がついただろう。
 智弘(及び自称・親衛隊一同)がしたことは恨んでも恨みきれん。
 だからといって暴力に物を言わせる報復行為は今度こそ退学になるだろう。

 呻きながら考察を続ける俺は、気付かなかった。
 災厄の足音はすぐそこまで来ていた事に。

415青鬼の鬱日和  ◆OfnaLGvHtQ:2011/05/13(金) 23:58:49 ID:.g/yGQrw
美樹・Side


 通話が切れたことを表示し続ける携帯電話を手に、私はため息をつく。
 電話越しに聞いた孝助の声は、ハリボテの威勢で悲しみと疲労を隠していた。
 外面の『青鬼』と違って弱々しい、私だけに見せてくれる内側の表情。
 だからこそ、私は自分自身の行いに後ろめたさを覚えずにはいられなかった。 

 孝助は私のことを信頼してくれている。
 その信頼に私は半分応え、半分裏切った。
 私が話した情報はほとんどが、事実。
 
 だけどな、孝助。
 噂を流したのは私なんだ。

 信頼はコツコツと積んで築いてゆく。だが一回の裏切りはそれを大きく壊してしまう。
 積み木の城を突き崩すように、砂場の山を蹴るように。
 99の信頼に1の裏切りが混ざっただけで信頼は大きく塗りつぶされてしまう。
 だから『半分、裏切った』。
 
 噂は尾鰭を付け、末端に至れば内容は別物になっている。
 半信半疑だろうがこのテの噂は人の信用を揺さぶる。
 荒々しい雰囲気をもつ孝助ならイメージも合うし、何よりただの噂だとキッパリ言い
切れるほど仲のいい者が孝助の周りにはいない。
 ……私とあの女を除いて。

416青鬼の鬱日和  ◆OfnaLGvHtQ:2011/05/13(金) 23:59:14 ID:.g/yGQrw
学校に戻っても孝助の周りに味方は居なくなっているはずだ。
 関わりの無かった者は今後も関わりを持たず、中には嫌悪を抱く者もいるだろう。
 関わりのあった者は尚更顕著に嫌悪感を表わす。
 そして唯一の味方として、私が残る。

 いつからか判らない。
 私は孝助に対して他の者には感じない不可思議な感覚と妙な独占欲を覚えるよ
うになった。
 ソレが世に言う恋心やら愛などという代物であると思い至るのには長い月日を要した。
 同時に孝助に対する独占欲も募ってゆく。
 
 「孝助、私はずっと孝助の味方だ」

 思わず笑みを浮かべてしまう。
 だがニヤニヤと笑っている場合ではない。
 
 この噂にしても孝助を孤立させるための第一手。
 あの女を退けるためには何か別の手を打たねばならない。
 
 孝助と添い遂げる未来を夢見、私は笑みを浮かべた。

417青鬼の鬱日和  ◆OfnaLGvHtQ:2011/05/14(土) 00:00:21 ID:.g/yGQrw
投下終了します。

418雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 00:02:48 ID:p3wruYTc
>>417
GJ!
久々の投稿乙乙です!

419雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 00:03:50 ID:jUBnc0Rc
GJだ!

420雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 00:14:21 ID:XELnpuVk
お二方ともにGJ!

421雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 01:31:58 ID:QjT9wWos
やっとキタコレ!

魔王最終回ってマジか、なんか寂しいが、今までお疲れ様と楽しめる話をありがとう。

青鬼待ってましたー!姉さんの行動に期待です。

皆さんの作品が癒しになりますわ。

422のどごし ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/14(土) 02:00:15 ID:jAUgBx.o
毎週金曜の二十六時に投稿するように調整して頑張ってみます
とりあえず、投下いきます

423ウェハース十二話 ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/14(土) 02:01:01 ID:jAUgBx.o

陰性。 少し残念に感じる結果だった。

残念に……、思った。
子供さえ出来てしまえば彼を独占出来ると思ったから? 彼が私だけを心の中に置いてくれると思ったから?
なぜ私はこんなにも彼に執着するのだろう。
愛されたかったから?
誰からも愛される彼に特別愛されることで何かから開放されたがっているの?

彼は不思議な人だった。
ふくよかな体型と同じで角のない性格で、表情豊かで、とても臆病で。

あの顔。
私にしか見せたことないんだよね。

撮ったビデオを見るたびに、薄気味悪く笑っている自分に気が付く。
両親がいないときに暗い部屋で、私にだけ染まっていく真治を見るたびに。

快感だった。今までに深く何かに執着したことの無かった私はそれまでの『ツケ』を清算するように彼にのめり込んで行った。

彼の体を調べるように舌を這わせ、彼の脳を支配するように聴かせ、彼に私を浸透させた。
夢中だった。 文字通り夢の中でも彼と出会った。

真治は私だけのものだ。 何度もそう言い聞かせて、信じた。
私はまたビデオを見ている。

母さんが下の階で寝ているのに、ビデオを見ている。

前までは我慢できたけど、今は駄目だ。 一日おきに見ないと、何かが崩れてしまう気がする。
彼の恥ずかしい顔を、彼の諦観の瞳を、脳に焼き付けるように、そっと指で画面に触れてみる。

静電気みたいなものが指と画面の間に走る。

きっと愛の稲妻だ。
チリチリと、稲妻が毛を逆立てるような感覚に酔いながら、画面の中の彼に意識を集中していく。

私は彼が好きだ。
彼がやれと言うのなら、人を殺せる。 二言は無い。

424ウェハース十二話 ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/14(土) 02:01:38 ID:jAUgBx.o

彼には家族がいる。
理解のある両親に、可愛い兄妹。
でも正直に言って私は彼女たちにあまり興味はない。
ただ仲良くしておいた方が彼との距離を縮めるの便利だと思ったからそうしているだけだ。
それ以上の価値は見出せない。

家族になりたい。

彼と切れない繋がりが欲しい。

彼と彼の家族を見ていて、彼の隣を歩くほどそう思った。

切れないものとは、何か?
恋人? 親友? 恩人?

そうだ、血縁関係だ。 この世でもっとも固いもの。
得難いモノ。

子供だ。

だから迫った。

彼が薄情なことを言うから。
こんなにも愛しているのに、こんなにも欲しているのに。

そのときに脳裏によぎったのは、ビデオを見ているときの私。

「真治の弱みは握ってるんだから、やってしまえ」

薄気味の悪い笑みを浮かべながら、私は私の背中を押した。

意味がなくとも人は生きていけると言う。 意味がなくても人は生きなければならないと言う。

きっと彼じゃなくてもいいと人は言う。
思いだけでも、体の繋がりだけでも、それを本質的な部分で体感できなければ意味が無いのと同じように。
彼じゃないといけない理由は私には分からない。

でも、意味が無くとも生きていかなければならないとすれば、存在しなければならないとするなら、私は彼の傍にいるということを条件に生きたい。 生きてゆきたい

それは願いであり、思いでもあって、私自身の体感の経験から導き出された言葉だから。
無意味だからこそ、生き方も愛し方も自由なのだ。

425ウェハース十二話 ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/14(土) 02:02:06 ID:jAUgBx.o

「あなた、邪魔なの」

ついに私は、私の本性をさらけ出した。 相手は真治ではない。 真治の最も仲の良い友人、平沢だ。

「なんだよ、いきなり」
「だから言った通りよ、あなた邪魔なの」

平沢君はやれやれといった様子で、ため息を吐いて私の眼を見た。

こいつ、嫌いだ。
その感情だけを向ける。

「あのさ、藤松。 あんまりそういうこと俺に言わない方がいいぜ? 真治のこと好きなのは分かったけどさ、俺に殺気立っても仕方ないだろ」
「あなたがいるから真治が私だけに集中してくれないの、言ってること分かる?」

いいや。 平沢はそう言って首を横に振る。

「第一、アイツがお前のことを本当に好きで、藤松さんと惹かれあっているのなら藤松さんは俺の事なんて気にならないハズだ」
「いちいち都合良く講釈を垂れるのはやめてくれる?」

私の一言に平沢はムッとする。


「取り付く島も無いな、聞くけど話をしに来たんだよね?」
「ううん、お願いしに来たの」

素直な私の感想に平沢は面食らったみたいで、一瞬驚いてから、すぐに立て直した。
お願いしに来たのは本当のことだ。 懇願とは少し違うけど命令しに来た訳でもない。 だからお願いをしにきたと言うのが一番ベターで、私の心情を反映している答えだと思った。

「うーん、でもそれってさ命令になるんじゃないの?」
「私の言った意味はそういうのじゃないんだけど、平沢君の捕り方次第になるのは仕方ないよね。 それが会話だし」
「……藤松の喋り方、普段のアイツに似てきたな」

普段の……、それに腹が立った。
まるで私よりも彼を知っているような言い様にだ。

「そういうの、今聞いてないから」
「ふー、分かった。 アイツと喋ってから考えてもいいか?」
「いいよ」

またもや平沢が驚いたような顔をする。 今度は露骨にだ。

「いいのか? アイツに喋るかもしれないんだぞ?」
「別にかまわないけど。 私からも真治にお願いしようと思ってたし、いいよ」

平沢は眉間に皺を寄せて私をジッと見据える。 言葉のサーシャを見抜こうとしているのだろうか?
大丈夫なのに、裏なんて無い。 本当の気持ちなんだから裏があるわけが無い。

「分かった、もう行っていいか?」

面白味も無い話だから仕方ないけど、平沢君は話す前よりも不機嫌になって帰っていった。

426ウェハース十二話 ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/14(土) 02:03:02 ID:jAUgBx.o

『今電話イイ?』

検査のために使った道具を丁寧に包装して捨ててから、真治にメールを送った。
一応心配しているだろうから、その日の内に伝えておこうと思った。

『いいよ』

五分も経たない内に返信が来た。
すぐに電話帳の機能を選択して彼に電話をかける。

「もしもし」

布が擦れる音と、彼の受話器を通したときの声が聞こえる。
それだけで少し心が上気するのが分かる。

「妊娠の検査、簡易だけどしてみたよ」
「どう……だった?」

緊張感が伝播してきた。
嘘を吐いてもいいかな、そんな考えが脳裏をよぎった。
でも……、駄目だ。 この人には嘘吐いちゃ、駄目だ。 なんとか踏ん張って、努めて明るく言った。

「陰性だった」

出来なかった、とは言わなかった。 残念がっている事を彼に悟られないようにした。

彼と話すとき、言葉を交わすとき、私は少し緊張している。 どう答えれば彼に良く思われるかずっと考えている。

「そう……」
「ねぇ」

でも。

「なに?」

今はそれを忘れてみようと思う。 体感したくなった、と言い換えてもいい。

「どう思った? 出来なかったって聞いて」
「……」

受話器の向こうの沈黙がひたすらに辛かった。 まるで鋸の歯を優しくあてがう様なキリキリとした痛みが心を消耗させていく。

「……、気にしないから正直に言っていいよ」
「……良かった、と思う」

悲しくなかったと言えば嘘になる。
やっぱり、嫌だったんだな。

「小町は、どう?」
「私は……」
「少し……、残念だったかな」

また、緊張し始めたのが分かった。
嫌われたかもしれない。 なんで彼の言うことに同意しなかったんだろう。
そのことをすぐに後悔した。

427ウェハース十二話 ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/14(土) 02:03:34 ID:jAUgBx.o

「小町……」

語尾が妙に暗く聞こえた。 悲しんでいるのだろうか。

「ごめん、気にしないで」

__それからの会話はあまり覚えていない。

ずっと緊張していて、さっきの自分の返答ばかりに気がいってしまって集中できていなかった。

「じゃあ、明日また同じ時間に向かいに行くから」
「うん、穂波も待ってる」

真治と約束をとりつけるのが精一杯だった。

電話を切って、すぐに部屋に戻った。
ベッドの下から真治を隠し撮りした写真ばかりを集めたアルバムを引っ張り出してキツく抱き締めた。
無性に怖かった。

自分のミスから真治を失うのが、あの瞬間に容易に想像できてしまった。
おぞましいビジョン。 それを垣間見た。

「そんなことあっちゃいけない」

リモコンでデッキを起動させて、真治と私の情事を再生する。

「真治が私から離れていったら……、私、アタシ……」

消音と表示されていた文字が消えたのに妙に驚いた。 それほど動揺しているのが分かる。

「そうだよ、真治が私を嫌いになるワケないよ、だって、私たちは惹かれあってるんだから」

落ち着かせるように反芻していた呪文に嗚咽が混じったのはそんなに遅くなかった。

「そうだよ、アタシには“コレが”あるんだ」

画面が一瞬フェードアウトして画面が暗転した瞬間に自分の顔が写った。 薄気味悪く笑っている私だ。

『真治は私と別れられない、別れさせてあげない』

彼を振り向かせるのにどれだけ苦労したんだ、どれだけのモノを捧げて今があると思っているんだ。
絶対手放さない。
だから今よりもずっと、彼に従順に生きなければならない。

「愛してるよ、小町」

真治の声を出来るだけ思い出しながら言葉の型に当てはめて、ひたすら脳内で再生する。
ただ、あのビジョンをかき消すように、ただひたすら。

428のどごし ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/14(土) 02:05:13 ID:jAUgBx.o
投下おしまい
また来週会えたら読んでみてください

429雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 03:11:48 ID:OnpdYfDw
GJ!!
投下ラッシュキターーーー!!テンション上がって来たぜ!!!ヒャッハー!!!

430雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 06:38:53 ID:jUBnc0Rc
来たのか!
GJ!

431雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 12:29:56 ID:X/QXFnBk
test test

432a childie:2011/05/14(土) 12:31:19 ID:X/QXFnBk
2話目、投稿させていただきます。

433a childie:2011/05/14(土) 12:32:23 ID:X/QXFnBk

ある日。
ある少年が、
空爆で破壊され崩れた自分の家の前で、ただ座り込んでいた。
家は燃えていた。
そこには彼の両親がいた筈だ。
ただ、幸運か不運か少年は一人生き残った。

その日、その街ではありふれた光景の一つ。


またある日。
とある場所で銃声が響く。
死人が転がる部屋。硝煙と血が漂う空気。死と生の一瞬。
対象に銃口を向ける男。
それはかつての少年。
銃口を向けるはかつての戦友であり、仲間であり、今の敵だった。

それは世界で沢山ある悲惨な事柄の、ほんの一つ。

434a childie:2011/05/14(土) 12:33:13 ID:X/QXFnBk

男がいた。
笑えるぐらいに臆病な男がいた。
悲しいぐらいに臆病な男がいた。

筆を握って絵を描く方が似合っている手で銃を握り、
不格好なまでに似合わない傷を身体に拵えていた。

二人の女を必死に守るために精鋭足る衛兵を演じ、
いつのまにか一人の女に誠実な騎士と勘違いされるようになった。

身丈に不相応な役目を背負い、
愚直に責任と向き合って勝手に潰れた、憐れな人間。

彼が演じるは喜劇か?
それとも悲劇か?

435a childie:2011/05/14(土) 12:34:53 ID:X/QXFnBk

「まだぁ?」
痺れをきかせてチズナが聞いてきた。
目の前にまだかと目を輝かせながら待っている。
ユリィは気にしてないとソファで本を読んでいるけど、
時折こちらに視線を向けてくる。
「もうちょっと、待って」
僕は笑ってそう言う。
薄く淡い赤の色鉛筆を取り出し、
ユリィが着ているワンピースを仕上げていく。

休日、昼ご飯を食べ終えた後の、ゆったりとした空気が流れていた。
そんな中で日向ぼっこをしながら、ユリィとチズナの二人を題材に
絵を描いていた。
絵を描いてあげるとチズナは喜んでくれる。
ユリィは黙って受け取るけど、喜んでいると思う。たぶん。

絵を描くのは好きだ
最近は自分のためにではなく、二人のために描くことが多いけど。
描いている間は夢中になれる。
そうすれば、少しの間だけ他のことを忘れていられる。

たまに絵がうまいと言われることがある。
下手な絵を褒められると恥ずかしいから、御世辞半分に聞いている。
絵の描き方については父さんが教えてくれた。
だから褒められる時、
父さんの教え方が良かったんだと思っている。

父さんは売れっ子の絵描きとは言えなかったけど、
父さんが描く風景画を好きだと言って買っていく人はいた。
僕も好きだった。
学校から帰ると、いつも父さんと作業場に籠って絵の手伝いをしたり、
描き方を教わっていた。
母さんは絵に夢中な僕らにあきれ顔をするけど、よくお菓子を作ってくれて
作業場で三人食べていた。
母さんの得意な紅茶のシフォンケーキが僕は好きだった。



チズナが待ちくたびれてきたのか、
ソファのクッションを抱えてうとうとし始める。
僕と一緒に日向に当たっているから、暖かくて気持ちいいのかな。
見るとユリィもソファでうたた寝をしていた。
二人とも午前中は近くの公園で遊んでいた。
それから、お腹一杯にご飯を食べたんだから眠くなる。

空気の入れ替えに軽く開けてある窓から
一筋の風が迷い込む。
それは開けっぱなしの本のページをめくり、
彼女の自慢の、綺麗で長い銀髪を散らした。

初め、自分が彼女達二人の間に無理矢理入ってきた
邪魔ものに思われていた。
仕方ないけど。
二人は、はたから見れば姉妹のように見える。
チズルは母親と同じ栗色の髪をしているから見分けることは簡単。
でも、
彼女が生まれてからの今まで六年間、ユリィは一緒に過ごしている。
僕は二年前やってきた新参者。
しかもチズルの兄という立場を与えられてやってきた。
顔をでかくして居座っているつもりはないけど、
嫌われてしまうのは当然だった。

「リヴィングデッド」
ユリィは僕をそう呼ぶことがある。
よく絵本や物語に出てくる怪物の一種。
言ってしまえば動いている死体である。
本で知ったのかわからないけれど、
彼女が僕を嗤いたい時、使ってくる。

心臓に良くない言葉だ。
言われるたびに、ぐさりと刺さってくる。
一応、難しい言葉を使いたいだけなんだと思ってユリィに、
その言葉をあまり人に使わないでね、と笑いかける。
自分に良く似合ってる、という思いを感じながら。

最後に背景を描き終え、絵が仕上がる。
でも見せたい二人は夢の中にいる。
色鉛筆を元通りにケースに戻して、
脇に置いておいたキャンパス生地の肩掛けバックを開いた。
中にあるのは九ミリ口径のオートマティックと小さなスケッチブック。
ケースをバックに入れ、代わりにスケッチブックを取り出す。

表紙を開いて、画用紙をめくっていく。
暇があればこれに描いていた。
全部埋まってしまって、もう描き込めないけど。
これと鉛筆一本。
どんな時でも持ち運んでいた。

描いている間は夢中になれる。
そうすれば、少しの間だけ他のことを忘れていられる。
辛いことが多かった戦場で、それを知った。

僕は一度、そこで死んだ。

まだ生きているから形容でしかないけれど、
今の自分と、戦争が始める前の自分との間に途切れが感じられた。
足元のおぼつかなさ、浮遊感。
この世界にいることに現実味が湧かない。
僕はユリィの悪口を笑うことしかできない。

死んだ時に、手に持っていたものは全部、無くしてしまった。

そんなものでスケッチブックは一杯だった。

436a childie:2011/05/14(土) 12:36:52 ID:X/QXFnBk

長い時間が経って、表紙はよれてしまっている。
染みが付いている部分があったり、日に当たりすぎて黄ばんでいたり。
絵が薄れて見えないページもある。
それでも棄てないでいる。
ゴミとして捨てようとして、何となくページを開き、
また元に戻す。
その繰り返しだった。

スケッチブックには昔、
街に住んでいて好きだったもので埋め尽くされていた。

通っていた学校、教室。遊んだ友人。
人懐っこい近所の三毛猫。
よく買い物に行かされたパン屋。
そこで売られているクリームパン。
街を通る小川。
父さんが模写していた桜の木。
絵を描いていた作業場。
母さんが料理する台所。
そこで作られていた焼き菓子。
紅茶のシフォンケーキ。
家。
街で暮らしていた家。

良かった思い出を思い浮かべ、
必死に目の前のことから逃れようとして描かれた絵。

あの時の俺は忘れていたわけではない。
それら、その人達がもう存在しないことぐらい。



警鐘はされど、起きる筈が無いと考えられていた戦争。
友好的だと思われていた隣国。
そうあるべき現実。
誰もが望んだ幻想は、概してそう成りえない。

突然始まったと言われる戦争は、
侵攻してきた隣国の戦略破綻で泥沼に化した。
磨り潰れていくような戦闘の繰り返し。

兵士が足りなくなった国家は
武器が持てるなら無差別に動員するようになる。
俺も根こそぎ動員されたうちの一人だった。
十歳の俺でも戦力になると見做された。

俺と同じような連中、少年兵と呼ばれた連中は、
非正規戦力として一括りにされて前線に飛ばされた。
使い捨てても惜しくない戦力。
何も知らず、教えられずに旧式装備で駆り出されるは、
死守命令下での正規軍の殿。
敵主力誘導のための囮。
前線の最前線である前哨陣地での見張り。

まともな戦場に立ったことはない。
その前に自分がいる境地がまともでないことすら分からなかった。

部隊を率いたのは懲罰人事でやってきた士官で
各小隊どころか一個中隊に一、二人。

最初にいた中隊には同じ街出身で友人だった人間がいた。
三回戦闘に出て再編成した時には、知り合いは誰もいなくなった。
抗い方を知らない俺達は
作戦が終わると良くて全滅、大抵壊滅に陥っていた。

父さんがくれたスケッチブック。
義父の中隊に出会うまでの二年間、生き残った理由は今でも見つからない。

437a childie:2011/05/14(土) 12:40:21 ID:X/QXFnBk
以上を持って投稿終了。
読んでくださった方には感謝、感謝。

438雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 13:56:12 ID:TIy/j1yM
gj!

とてもおもしろかった!
続き楽しみです

439雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 17:16:18 ID:jUBnc0Rc
GJ!
続き待ってる

440深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:06:05 ID:xYocYX82
>>436
くぁー2話目やっときたか、長かった・・・お疲れさん、続き楽しみに待ってるよ!

では早速投下しまーす。

441深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:08:18 ID:xYocYX82


第七話

・・・ここは何処でしょうか・・・。
たった今目が覚めました、どうやら無事に転送されたようです。
落ち葉の布団で眠っているような体勢になっていましたので、急いで体を起こします。
辺りを見渡すと、鬱蒼とした草木で太陽が遮られ、
おそらく夕刻に近いのでしょうか、両条件が重なってとても薄暗いです。

肝心なのは、お兄ちゃんと先生もちゃんと近くにいるかどうかです。
もちろん居るはずだと信じて二人の名を呼び、周囲に目を配ります。
・・・ですが呼べど探せど二人の気配、姿を確認する事が出来ません。
二人が身が心配でならないし、薄暗い中ひとりぼっちでいるのが不安なのもあって、
早くこの状態から抜け出そうと必死になって探します。

「お兄ちゃん〜!せんせ〜!私ここだよ〜!」

ダメです反応はありません。
歩いていて分りましたが、どうやら最初に目が覚めた場所に戻ってきているようで、
これでは出口が見えるはずもなく、思ったより複雑で広い森の様です。
さらに先生から貰った羅針盤もなぜかしっかり機能しません。

・・・陽も落ちかけています、本当に暗いです、どしたらいいのでしょう。
先程から、心細さから泣いてしまっています。
とうとう私の足は止まって、大木の根元にしゃがみ込んでしまいます。

「グスン・・・お兄ちゃん会いたいよぉ・・・どこにいるのぉ・・・」

つらい気持ちになったとき、思い出されるのはお兄ちゃんの顔。
一週間に一度も忙しくて帰ってこれない事も珍しくなかった先生に代わって、
近所の女性達が私の面倒を代りばんこで見てくれましたが、あまり長居はしてくれません。
でもお兄ちゃんだけは、私が十二歳になる頃まで、
お家にいっぱい来てくれて、お泊まりもたくさんしてくれました。
いつも玄関先でお兄ちゃんが来るのを座って待って、来たら腕に飛びついたものです。
私の人生は今までお兄ちゃんを中心に回っていた、と言っても過言ではありません。
したがって、お兄ちゃんの強烈過ぎる存在感が、
私の頭に他の人が入り込む余地を無くしているのです。

442深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:08:59 ID:xYocYX82

私はお兄ちゃんのことが恋しくなると、ついつい独り言を始めます。

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん、
私とりぼっちはいやだよぉ、どうしておかしいよ変だよ、なんでお兄ちゃんがそばにいないのどうして、ねぇ誰か教えて、こんなことあっていいの、ねぇお兄ちゃんそうおもうでしょ。いるんなら返事をして、私こんなにたくさんお兄ちゃんの名前を呼んでいるのにどうして。聞えなかったの?そうなの?じゃぁもう一回だけ言うね。お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん・・・聞えた?じゃあ、さすがにお兄ちゃん隣にいるよね・・・・・・いない!やっぱりいない・・・なんで・・・!お兄ちゃん私のことがきらいになったの!?私はこんなにお兄ちゃんの事を愛しているのに・・・ひどいよ・・・ううん、ごめんなさい、私の愛が足りないからなんだね、じゃぁどうすればいい?・・・うん分った、お兄ちゃんとの楽しい思い出を語れば嫌いにならないでくれるの?うふふ、お兄ちゃんたら私の愛を確認したいのね、そうだよね不安だよね、私もその気持ち凄く分るよ。私なんか最近いつもお兄ちゃんのぬいぐるみに話しかけてるもん。でもぬいぐるみは本物じゃないから全然返事をしてくれないの、やっぱり私の愛しい愛しい愛しい本物のお兄ちゃんが良いよ、朝起きたらお兄ちゃんが隣で気持ちよさそうに寝ていた、なんてことおきないかなぁって眠る前想像しちゃう。でも私の想像が現実になったことなんて一度もないんだよ。そうそう、夢も同じでね、一週間に一、二回は見るんだけど正夢だったことなんて一回もない。えっ・・・夢の内容?ほとんど、お兄ちゃん絡みなんだよ、でもごめんなさい、内容は恥ずかしくて言えないの。お兄ちゃんが私を変な目で見るようになっちゃうかも知れない内容なの、でも夢って生理的現象だからしかたないよね、でも私眠る前にちょっとだけ夜空にお願いするの、お兄ちゃんと私の誰にも邪魔されない、全てのしがらみから自由な世界で寄り添って愛し合う夢をみますようにって。あっ・・・お兄ちゃんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいお兄ちゃん、私調子に乗って逸らしちゃったね、ごめんなさい。次から気をつけるから嫌いにならないでねっ・・・。えーっとね、お兄ちゃんとの楽しい思い出を語らせてくれるんだよね、うん余裕だよこんなの、日付、時間、場所、状況、服装、言動全て憶えているよ、えっ?当り前だよ、私が憶えていないわけないよ、おにーちゃんの妹だもん・・・さぁ、準備はいい?じゃぁ行くよ・・・」

寂しさから逃避するため、お兄ちゃんとの楽しい思い出を回想していたら、

「おっぱいおっきいおねーちゃんどうしたの?」

不意に背後から声をかけられます、赤い装いの小さな女の子のようです。
陽ノ国的な装いに、やや小麦色の肌、銀色の髪であることから、
菱島にいることは間違いないようです。

「・・・・・・えっ、私の事・・・?」

「うん。やさいうってるおみせで、めろんってあったの。それくらいおおきい」

「そんなに大きくないよ・・・」

「おおきいよー。ミアもミアのおねーちゃんもひんにゅーだから、うらやましいなぁ」

「ふふ・・・そっか、ねぇ君、ミアちゃんって名前なの?お家はこの近く?」

「うん。おっぱいおねーちゃん、このきにすんでるの?」

「ううん、ちょっと遠い所に私のお家はあって、今は迷子になっているからここにいるの」

「うーん、そーかぁ。おにーちゃんってだぁれ、すきなひとぉー?
ひゃっかいくらい「おにいちゃん」っていってたから、きになったー」

思いもよらなかった質問にどう答えようか迷いましたが、正直な気持ちで答えました。

「うん・・・すっごく仲良しで大好きだよ、でも残念、片思いなの。
本当の気持ちを伝える勇気がなくて、今のもどかしい状態に至る、って感じかな・・・」

「じゃぁもし、こくはくしたくなったら、あいしてるっていったらいいよぉ。
おかあさんがこれのほうがすごいって」

「ふふふ、助言ありがとう。
でも、言われたら本人が困ると思うから、大事なとき以外使わないでおくね」

「えーっ、おっぱいおねーちゃん、それじゃぁおそいよー。
だれかにとられちゃうよぉ、いいのぉ?
みあのおねーちゃんがいってたよ、すきなこをじぶんのものにしたければ、
せっきょくてきにしつこく、からだでゆうわくすることがだいじだって。
これってどういういみー?おしえておしえて」

443深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:09:53 ID:xYocYX82

えっ・・・どうしよう・・・こんな小さい子相手に答えればいいのかなぁ。
嘘をついたり無視するのは良くないし・・・なんて言おうかなぁ・・・。
そうだ、ちょっと包んだ表現にしてみよう。

「積極的は、好きな人にたくさん自分の気持ちを伝えること。
しつこくカラダで誘惑は・・・え〜とその・・・
もっと深く仲良くなってくれれば・・・私からご褒美がありますよっ、
ていうのを何度もちらつかせる、恋の駆け引きみたいなもの・・・こんな感じ、かなぁ・・・」

「どんなごほうびくれるのぉ?おいしい?」

「・・・それはねっ・・・好きな人が喜ぶようなことしてあげるの・・・」

「う〜ん、それってからだでするの?」

「うん・・・」

「どんなふぅーに?」

「えっと、それはその・・・私・・・経験がないから詳しくは・・・」

「う〜ん、おっぱいおねーちゃんもしらないんだぁ・・・・・・あっ!みあわかった!
みあのおとうさんとおかあさんが、よるにふとんでしてるのだよ、ぜったいそうだぁ。
あれね、すっごいんだよ、あかあさんのかわいいこえとか、
おうちのゆかがゆれるおともきこえるよ。
きのうね、かくれてみていたら、
おとうさんにみつかってげんこつされたんだよ、いたかったなー」

「そ、それはそうだよっ・・・ミアちゃんにはまだ早すぎるよっ・・・そ、そんなこと・・・」

「う〜んわかったぁ・・・。
ねーねー、おっぱいおねーちゃんは、おにーちゃんにごほうびあげないの?
仲良しなんでしょー、おっぱいおおきいからいろんなことできそー」」

「うん・・・そうだね・・・お兄ちゃんが私を受け入れてくれるのならいつでも・・・」

「やさしいしきれいだしおっぱいもおっきいから、
すぐにおにーちゃんのおよめさんになれるとおもうよー」

「うん、ありがとね・・・」

・・・お嫁さんかぁ・・・そう言えば八歳の頃、
お兄ちゃんにお嫁さんに貰ってほしいってお願いしたことありました。
そしたら「ミューが十七歳になったら貰ってやる」と約束してくれました。
私は約束状なるものを作って署名させ、
よく引き出しから取り出しては、心をときめかせて眺めていました。
現在もそれが財布に入っています。
十七歳の件ですが、実はあと四日で十七の誕生日を迎えます、ですが期待はしていません。
お兄ちゃんからすれば、幼い私のお願いが本気だとは思えるわけありませんですし、
遠い過去の遊びの一場面を律儀に憶えているわけもありません。
でも、お兄ちゃんが私に嬉しい期待を持たせてくれたことに感謝です。

すでに涙は乾き、心にも余裕が出てきました。
焦らずとも、すぐに二人に会えるような気がしてきました。
陽は完全に森から姿を消し、夜の闇へと変化しつつあります。

「ねぇミアちゃん、もう暗いから帰った方がいいよ。
お家近いんでしょ、私送ろっか?」

「うん!こっちだよ!」

ミアちゃんが元気よく私の手を引っ張りながら、草をかき分けて進みます。
一応、均された細い道があるのですが、
そこを歩いてゆかないとなると、おそらく近道なのでしょう。
暗くてほとんど前が見えず、不慣れに歩く私と違って、
手馴れた足取りで分け入って行きます。

444深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:11:20 ID:xYocYX82

少し傾斜のある崖を下っていくと、集落の明かりを発見しました。
土壁は白く塗られ、紐や石でしっかり固定された大きな藁葺屋根のついた家が、
不規則に並ぶ、陽ノ国の典型的な村落風景でした。
異国感を感じる部分はありますが、
私たち陽ノ国人と源流で繋がっているような気がして、感慨深くなります。
村を眺めているうちに、

「みあちゃんこの村に住んでるんだ、きれいな村だねっ!」

「うん!
あっ、そーだぁ、あのね、おっぱいおねえちゃんもいっしょにごはんたべよっ!」

「・・・気持ちは嬉しんだけど・・・ごめんなさい、私探している人達がいるの」

「おにーちゃん?」

「湛山先生っていう人も探してるの」

そう教えると、ミアちゃんが嬉しそうに反応しました。

「わぁ!さっきミアのおうちにきてたよー。
つよそうなおじいちゃんでしょー?かっこいいかたなもってたよ」

「えっ!その人ミアちゃんのお家に来てたの?あとほかに誰か一緒にいなかった!?」

「いたよっ!なまえわかんないけど、おれのみゅーがーってさけびながら、ないてたよ」

間違いありません、あの二人です・・・嬉しすぎて興奮を隠せません。
しかし、すぐに焦る気持ちへと入れ替わりました。
今もいるとは限らないからです。

「お願い・・・今すぐミアちゃんのお家に連れてって!」

「こっちだよ、ついてきて」

ミアちゃんは私が焦っていることを悟ったのか、走って誘導します。
かすかな明かりに目を凝らし、見失わないよう注意を払って追いかけます

二百歩ほどの場所で、みあちゃんの歩みが止まります。
止まった先には大きな家があり、
ミアちゃんは門をくぐり中庭を抜けて、玄関に入っていきました。
私は合図があるまで門外に待機です、人様の家ですから。

「ただいまー、おっぱいおねーちゃんつれてきたよ。
あー、なんでついてこないのー!こっちきてー」

「ごめんなさい・・・勝手に入ったらまずいかなって思って・・・」

許可を貰ったので、私も玄関におじゃまさせてもらいます。
廊下にはミアちゃんによく似た女の子が立っていました。お姉さんかな?
即座に明瞭と挨拶をしようと試みましたが、初めての場所、初対面の人、
とだけあって緊張してへんてこな挨拶になってしまいました。

「は、はじ、はじめまして、い、いしはし深優ですっ、こんばんっわっ・・・」

その人は私を見るなり振り返って、廊下奥に向かって大声で

「旅の人ーー!みゆうっていう人来たけどーー!この人じゃないのーー!」

期待と緊張で、どきどきしながら縮こまっていたら、みあちゃんが

「ねっ?ミアのおねーちゃんっぜんぜんおっぱいないでしょ。
ちょっとだけわけてあげてよー、ついでにミアにもちょーだい」

「み、みあちゃんっ・・・人前ではみゆうって呼んで・・・恥ずかしいからっ・・・」

「みーあー!ずっと深優さんのこと、おっぱいおねーちゃん、って呼んでたの?
失礼でしょ!それに勝手に抜け出して・・・あれほど駄目だって言ったのに!げんこつ!」

ミアのお姉様のお叱りとともに、鉄拳制裁がミアちゃんにごつん、と打ち下ろされました。

「いたーい、おねーちゃんはすぐ殴る・・・
もうっ!きょうからミアのおねーちゃんは、おっぱいおねーちゃんだもんっ!」

「だーかーらっ、その呼び方失礼でしょって!制裁!」

ミアのお姉さまの容赦ないげんこつを目の当たりにし、あたふたしていたその時です。
後ろから誰かが小走りでやってきます・・・・・・お兄ちゃん!!

445深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:11:57 ID:xYocYX82

「ミュー!怪我ないか!」

「お兄ちゃん!怪我はなかった?だいじょ・・・」

言葉を全て紡ぎだす前に、お兄ちゃんに力強く抱きしめられます。
その瞬間、冷たい夜風で冷えていたはずの体が一気に温かくなり、涙が溢れてきました。
お兄ちゃんの腰の辺りに手を回し、ゆっくりと抱きしめ返します。

「・・・お兄ちゃんと離れて・・・半日も経っていないのにね、
果てしなく長く感じたの・・・でもきっと、すぐにお兄ちゃんに会えるって信じてた・・・」

「そうか、ごめんなぁミュー、すぐに見つけくれなくって・・・寒かったろ・・・」

「お兄ちゃんこそ・・・寒い中探してくれたんでしょう?
・・・私全然寒くないよ、だってお兄ちゃんが温かくしてくれてるから」

そう答えると、お兄ちゃんは、はっとして少し抱きしめる力を緩めました

「あっそーいやぁ、俺ずっと走りまわってたから汗かいてるかも・・・臭い?」

「そんなことないよ、お兄ちゃんの匂い大好き・・・お陽さまの匂いがする・・・」

大胆にも、お兄ちゃんの胸に顔を深く埋め、匂いを一気に私の体へ取り込みます。
はぁ・・・はぁ・・・お兄ちゃんの匂い・・・なんでこんなに良い匂いなの・・・?

「ミュー!ちょっと人が見てるから・・・」

「私まだ、お兄ちゃんまだ繋がっていたいよ・・・ごめんなさい、
もうちょっとだけ、このままでいさせて・・・大好きだよお兄ちゃん、苦しいくらいに・・・」

お兄ちゃんに会えたという興奮で理性が保てません、猛烈に甘えてしまいます。
あとで、ちゃんと謝ります、だから今は・・・こうしていたい・・・。

「おっぱいおねーちゃんあとひとおしだよー、がんばれーひゅーひゅー、
あっ、おねーちゃん、ぽかーんってなってるーまだまだこどもだー」

次第に、安堵感からか瞼が重くなってきます・・・・・・。
私はそのまま・・・眠りの淵に落ちてゆきました・・・・・・。

446深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/14(土) 22:16:49 ID:xYocYX82
以上第七話でした。

a childieもそうなんだけど、
非日常系とか特殊な設定の作品とが最近よく投下されているね。

447雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 22:20:14 ID:jUBnc0Rc
GJ!
続きwktk

448雌豚のにおい@774人目:2011/05/14(土) 22:47:06 ID:p3wruYTc
>>446
GJ!イイヨイイヨ!
日常系はどーも書けない。

449リッサ:2011/05/15(日) 00:53:01 ID:bGk.6IDk
こんばんはです、今回はこちらで投稿させていただきますね。
後半戦も完成しましたので、やや荒いかもですが投下させていただきます。
ではお楽しみにー

450リッサ:2011/05/15(日) 00:53:59 ID:bGk.6IDk


駅から学校に至るまでの道のりは開発もされていないせいか本当に何もない、しかし広い道と歩道、そして木々の合間を抜けたその先、一
本道を外れ、歩道の奥に向った先にそれはあった。
この何もない歩道のさらに奥まった場所に存在する、レストランと地下のダンスホールを備えた複合型の廃墟だ。
設計者や所有者は良く解らないが、どうやらその昔計画された、この辺一体の開発計画に合わせて作られたものだったらしい。
僕は自転車を近くに止め、そして黄色いテープやロープでくくられ立ち入り禁止になった内部に侵入し、そっと裏口の扉を開ける。
裏口の鍵は消火器を収納する鉄製のボックスの内部にある、たぶん今もそこにあるのだろう。

ぎいい…と不快な音を立ててさび付いたボックスの取っ手を引き、中に置かれた…といってももう誰も使うことはないであろう、錆だらけの
消火器を無視して鍵に手をかける。
鍵に付いていたプラスチック製のキーホルダーは二人で取ったプリクラのシールが貼られていた。
この鍵すらもあと数年も放置しておけば、シール同様に劣化し、ゆっくりと朽ち果てて行くのだろうか。
愛との思い出と共に全ては塵のように、時間という空間に霧散して消えていく、そんな考えが脳を巡る、嗚咽は出なくても、目から流れ出る
涙は止まっていなかった。
愛…愛、何で君は死んでしまったんだ、僕は、そう僕は…君を受け入れた、あの時選んだ結末は二人だけがハッピーエンドへと続く路だったはずだ。

愛のことを考えること自体は僕の心をマイナスの思考で縛り続けるようなものだった、それこそ全身を鎖で縛り付けて泥沼に飛び込むようなものだ。
僕の思考はあれからどれほど努力をして、何とか生きていこうと考えて、それでも全くといっていいほど後ろを向き続けている。
しかし手はまるで別の生き物のように動き、がちゃりと音を立てて廃墟の鍵を開ける。
薄暗い廃墟の内部に置かれているのは彼女が用意した家財道具の数々だった、どうもこの廃墟自体もよく解らないが彼女の父親が所有している物件の
ひとつだったらしい。

「ここを僕たちの新居にしよう…なあに、世間や学校なんてもう僕らには必要ないじゃないか?最初からこうすればよかったんだよ…最初から、ね?」
あの日、思い切り頭部を殴られ気絶した僕をどうやって彼女はあの身体でここまで運んできたのか、僕にはよく解らない、少なくとも相当な距離はあっ
たはずだ、冷静に考えればこの家財道具なんかもどこから持ってきたのか…愛が死んだ今となってはよく解らない。
ひとえに愛の力のなせる技なんだろう…愛だけに、彼女は誰よりもそれに忠実だったのだろう。
愛は僕にここで暮らそう、世間から離れて二人きりになればきっと幸せになれるはずだ、もう誰のことも気にしなくてもいいんだから…そう、まるで子供が
いたずらのいいわけでもするかのような口調で僕に語りかけた。
彼女も多分おびえていたのだろう、この期に及んで僕に拒絶されるということに、僕に嫌われてしまうのではないかということに。

451リッサ:2011/05/15(日) 00:54:52 ID:bGk.6IDk
すみません、タイトル忘れてました

「日曜日の朝が来る」



悪く言えば愛は我侭だった、誰よりも愛情を欲し、それを最大限に求めるあまりに壊れていたのだろう、そしてそれを突破して、僕を不幸にすると考えるよう
な事に及んでまで僕に嫌われることを気にしていた、ナルシストで我侭で、それでいて愛に飢え、誰よりもそれを求めていた。
不快だったか?いや、構わなかった、救いたいなんていう言葉は多分ただの虚飾だ、僕も彼女が欲しかった、愛していた。
埃の溜まった室内を歩き、二人で何度も夜を共に過ごしたベッドに横になる、広い室内に点った野外灯の明かりは煌々と辺りを照らしていた。
うちっぱなしのコンクリートに僕との思い出の写真を貼り、机にはレースのテーブルクロスを置き、そして寝室も出来るだけ女の子らしく飾り付けた。
キッチンや風呂、トイレを完備した、元レストランホール件二人の愛の巣、愛の城としか言い様の無いその建物の中で、それでも彼女は手錠で拘束された
抵抗すら出来ない僕におびえていた。
昔からの付き合いだ、恋人の考えなどよく解る、彼女は結局僕を不幸にしても心の飢えは満たされない、それどころか一番大事なものを失っていくということを
恐れていたのだろう、たった一言の拒絶が、ナイフよりもはるかに精神を傷つける武器になる…そんな事すら忘れるほどに彼女は僕を必要としていた。
僕は彼女に囁いた、君が望むならこの全ても受け入れようと、この命を捧げようと、人生の全てを捨て去ろうと。
覚悟は出来ていた、愛する彼女が自分の他に誰も傷つけないのなら、自分のみを求めてくれるなら、地獄の果てまでもそれに付いて行こうと。
結果僕はどうなったか、愛はその言葉をいぶかしむどころか僕をあっさり解放した、そして言葉で愛を求める彼女を抱きしめて何度もキスをした、そして
稚拙ながらも愛を誓い、お互いに言葉を交わし、濃厚なキスを交わして交じり合った。

幸せだったか?もちろん幸せだった、今まで誰かに愛された記憶の、その全ても持ってしても足りないほどに僕は満たされた。
そして彼女もそう言ってくれた、君とならどこまでも行けると、ずっと一緒に居ようねと。
そして今、僕は一人取り残された、幸せな時間の後に待っていたのは深い深い悲しみと、絶望より深い孤独と悲しみだった。
涙目を堪えてごろりとベッドに横になる、埃っぽいベッドに染み渡る香りは何処か愛のものが混じっているように感じられた。
確実に、今この場所に、彼女の思い出は残っていた、僅かな残滓でも、たとえ地球に隕石が落ちて人類全てが滅んでも、残り続けるであろうそれに僕は涙を
流すしかなかった。
忘れることも消し去ることも出来ないのだ、思い出が、あらゆるものの全てに染み付いている。
僕はそれを求めていた、帰ることのない日々だと解っていても、その全てが戻ってくることを願わずにはいられなかった。

あの日…ここでの生活を始めてから数日たったある日、愛は忘れ物を取りに行きたい、と言って出かける用意をしていた。
僕も行こうかと言ったが、それでは彼女はまたおかしくなってしまうかも知れない…そう気を利かせたのがいけなかったのだろう。
それとも気を利かせずにそう提案したとして、彼女は許してくれただろうか?今では永遠に解らない、笑顔でまた日常生活に戻れただろうか?
ずっとずっとそんな問答を繰り返す、そう、ここは日常と隔絶した、彼女の用意してくれた唯一の空間…それこそ愛の胎内…などと形容したらやはり
笑われるだろうか?
一日たっても戻らない愛を心配して、そっと戻った愛の家で、僕を待っていたのは残酷な現実だった。

452リッサ:2011/05/15(日) 00:55:30 ID:bGk.6IDk

愛はあの日、家に帰る途中でトラックに跳ねられ、二日後に死亡した、安らかな寝顔ではあったが、口元に出来た傷の縫い後が生々しく、そして人形の
様になった白い肌は僕の心を破壊した。
そう、破壊したと言ったほうが正しいだろう、あの日から今日に至るまで、僕は置き去りにされた愛の日常の残滓となんら変わりない、それこそ愛に依存
しきっていた子供のようになっていたのだ。
二人の失踪に関しては両親に事情を話し、また愛を責めないでくれと土下座してまで頼み込んだ、もちろん僕が生きている以上、死人を責めることは出来
ないだろう、両親にしたってそうだ、いまさらしゃしゃり出てきて僕のことを愛している云々と言われてもお寒いだけだ。

僕だって愛情が欲しかった、甘えたかった、でもそれを両親は完全には満たしてはくれなかった。
枯渇していた愛情を、僕は愛という存在を愛し、愛されることで満たし続けていたのだ。
愛は僕の全てだ、誰よりも僕を理解してくれた、辛いときに一緒に泣いてくれた、話を聞いて慰めてくれた、寂しい僕を迎え入れてくれた。
それなのに、ここに戻ってきても、彼女の家に帰っても、もう愛はどこにも居なかった、残っていたのは思い出だけだった。
彼女は悪いことをしたのだろうか、僕ははっきり言える、何もしていない、愛は悪くなかったと。
そして愛の葬儀も終わり、結局僕は裕香ちゃんの好意に甘えて、愛の家での滞在を続けていた。
一人で居るよりは自殺する可能性も低いだろう…多分了承した両親もそう考えていたんだと思う。

でも、それでも結局今日、学校に通ってみても…僕は何一つ変わっていなかった、抜け殻は永遠に抜け殻のままだったのだ。
もう限界だった、このままどこか遠くに行ってしまおうか、いや、そんな気力もない、外にも出たくない…出来ることなら、あの部屋ではないここで
そう…ここで永遠に愛を思って、泣いて悲しんで過ごすのも悪くない、ここは一番強く思い出の残っている場所だ、だからこそ、ここにいたかった。
意識がベッドに飲み込まれるように沈んでいく、とても眠い、あまり動く気にはなれなかった。

453リッサ:2011/05/15(日) 00:55:49 ID:bGk.6IDk

僕は眠り続けた、幸いに食事などとる気は起きなかったし、風呂に入るような気力もなかった。
ただ睡眠のみを必要として、赤ん坊のように眠り続ける…そんなことを繰り返していた。
もうどうなっても良かった、生きているのが苦痛なら、後は死を待てばいいだけの話だ、そう考えてまた欠伸をする。
酷く胃が痛い、しかしまだ眠い、もう一眠りしよう、そう考えてベッドに横になる。
その時がちゃり、と、鍵を開けた扉をあける音がする。
誰だろうか?控えめな足音は次第にこの部屋に近づいてくる。
物取りだろうか?それにしては音が小さい…しかし別にいまさら命乞いをする理由も必要もなかった、来るなら来いだ、来るものは拒む理由もない。
そう思いゆっくりと首を上げる、その先に居た人物に僕は声を上ずらせた…ごくりと喉がなる、そしてゆっくりと声を出す。
「誰だ……?…裕香…ちゃん?」
彼女…斉藤裕香は姉と全く同じ服装と、髪型をして僕の前に現れた、そう、あの日、永遠の闇に旅立った姉の愛に合わせる様な服装のまま…。
彼女なりに僕を心配してやってくれているのだろうが、それでも今の僕にその姿は辛すぎた。

「はい…ここにいたんですね…でも、今は…愛と呼んで下さい、そのほうが…その、きっと…和明さんも癒されると思いますから…ほら、私、妹ですから…」
「無茶を言うなよ、君だって知っているだろう?君と愛は似ても似つかない…それに…そんなことをして何になる?君は好きでもない僕の前でその姿をして
…それで幸せになれるのかい?そんなのお互いが傷つくだけじゃないか!?」
「そんな事…そんな事ないです!私!私は…傷つきなんかしない!お姉ちゃんになってみせる!いや、僕になら…僕になら…また和明を癒すことが出来るんだ!
僕はもう君を一人にはしない…だから行こう?和明…僕には君のその姿を見ているのは辛すぎるんだ、もう悲しませたくない、君が涙を流すところなんて見たく
ない…そうだよ、事故にあって死んだのは裕香だったんだ!それなら問題はない…そう、問題はない、だから、だからぁ…行こうよ?行こうよ和明…僕はもう
何も…何も失いたくないんだ!!」
最後には声はうわずり涙目になり、ひくひくとしゃくりあげるような声で彼女は言った、愛をまねた口調はずしんと心に響くものがあった。
無理をして姉の服を着て、嘘でもいいから僕を現実に引き戻そうとしているのだろう…その姿には見るに耐えない辛いものがあった。
涙を流してうわずった声で、それでも彼女は愛のマネをしてまで僕を求めている?…いや、求めているのは多分僕と同じ、日常が戻ってくることなんだろう…。
愛は愛されていた、彼女にも、そして周りにも…本当に消えるべきは僕だったのかもしれない、コレだけ周りを悲しませて、僕も同じところに行こうとしている
のだから…彼女を…裕香すらもここまで追い詰めて何になる、僕はこれほどまでに尽されて、それでいて何になった?…ぐるぐると頭の中で問答を繰り返す。
僕は最低だ…やっぱり誰も愛してはいけなかったんだ…それでも、それでも…愛のことを好きだった、愛していた…だから傷ついて…そして裕香すら悲しませた。
しゃくりあげた裕香に震える手でハンカチを手渡す、そして精一杯の笑顔を浮かべて立ち上がる、そう…せめて、この子だけでも、悲しませてはいけないんだ…僕はもっと
強くならなくてはいけないんだ…。

「行こう、裕香ちゃん…ここはやっぱり来てはいけない場所なんだ…もう、愛はいないんだからね」
力なく、それでも相手に伝わるように、にっこりと笑顔を浮かべ、そのまま手をとって歩き出そうとする、全身酷い筋肉痛でよろける僕に彼女は肩を貸した。
「…はい、でも、約束してください?ひとつだけ…」
「何だい?出来る範囲でならするけど…」
「お姉ちゃんのこと、忘れようとか思わないでください…きっと、受け止めようとするから余計に辛いんですよ?流されてもいいんです、泣いてもいい…だ
けど…だけどそれでもいつか、前を向きながら歩ければ…それでいいんです、だからそうして行きましょう?」
「うん…そう、だね…止めようとしても涙は止まらないものね…そうだよね…無理して忘れることなんてなかったんだ…そうだよね?」
そういい終えると僕はまたわぁわぁと声を上げて涙を流した、裕香はそれをそっと抱きしめる、そして二人で声をあげて泣いた。
悲しみは続く、でも生きる…生きていく、ということは、その不運を受け入れることなんだろう、なら、愛が死んだことで涙を流すのも、立ち止まるのも問題
ではない、いつか、いつか前に進むために、そのために人は涙を流しているんだ。
心なしか心の痛みは少し軽くなった気がした、微笑む裕香はお世辞にも愛には似ていないけれど…それでも、それでもとても…愛によく似た笑顔だった。

454リッサ:2011/05/15(日) 00:56:12 ID:bGk.6IDk

彼女の涙が収まるのを待って僕は廃墟を後にした、レストランの鍵は裕香に手渡して…いずれ気持ちが落ち着いたらここも綺麗に整理しようと考えていた。
日にちは金曜を過ぎて、さらに土曜日の夜だった…僕のことは皆探していたらしいが、最悪の事態を考えて皆自殺スポット周辺の探索を行っていたらしい。
「きちんと探してくれた人に謝らないとね、僕は死んでいませんって…」
「そうですね、でも…なんだか大分痩せていて…その、幽霊みたいですから、帰ったらきちんと食事とか、取りましょうね?」
一日中眠り続け、痩せこけていた僕の姿を見て、彼女はそう呟く、僕は手渡されたお茶とおにぎりを貰い、それを食べた後にこくりと頷いた。
自転車に乗って帰る途中、僕の心は次第に平静を取り戻し始めていた。
途中、いつも通る道を曲がり、商店街に向う途中の信号近くに自転車を止めた、この信号の交差点をわたる途中で愛は車に引かれ、そのまま命を落とした。
道路には備えられた花がまだ残っていた、僕はそこで手を合わせる、時刻は夜の11時50分、そろそろ日曜日になる時間だ。
「ねえ、裕香ちゃん…明日は掃除をしようか?」
手を合わせた僕に続くように手を合わせる裕香、その目を見て僕は提案した。
「はい…私も手伝います、だから…明日も、一緒にいましょうね?和明さん…」
裕香は僕の手をぎゅっと握り返す、僕も笑顔でそれに答えた。
何日被りに無理なく笑い、食事を欲しいと思って取った、生きている、僕は生きている、悲しいけど、それでも前に歩むことを選んだ。
そう考えて、少し嬉しくなれた、幸せになろう、そう考えられた。

その時、突然激しいクラクションが聞こえた、見れば目の前にはトラックが迫ってきている、慌てて僕は裕香を路肩に押し出す。
ばぁん!!というと音と、全身に響く衝撃、僕は一瞬酷い痛みと浮遊感を味わい…ぐしゃりと、道路に落ちた。
「い…いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!和明さん、和明さん!!!」
必死な裕香の声、でも僕の身体は動かない、痛みもあまり感じない、ありえない方向に手足は向いている、痛みも、血液の熱も、飛び出た臓器も、それ
すらもよく解らなくなった。

目の前が暗闇に包まれる、そしてそのまぶたには笑顔の愛が焼き付いていた。
やっと逢えた、逢いたかった、夢でもいいから逢えて幸せだと…事前に決めた覚悟すら覆すようにそう思った。
次第に世界からは色が無くなってゆく…真っ暗になる、真っ暗に…そう、思考も次第に途絶えていく。
でも、その暗闇に飲み込まれていく感触は、間違いなく愛の抱擁を受けた時と同じ感じがした。
暗い、暗い、でも暖かい、そして、幸せな気分だ、とても満たされた気分だ。
もう何もいらない、そう、一番欲しいものを手に入れられたんだ、僕に日曜日の予定は必要なかった、朝が来ることもなかった。

それでもいい、愛も…そして僕も死んだんだから、この結末なら…もう、本当に二人で居られるのだから…

FIN

455リッサ:2011/05/15(日) 00:56:30 ID:bGk.6IDk
以上で終わりになります、合間をあけて書いてしまった分、尻切れトンボというか、文章が違いすぎるとか、そういうのもあるかもしれません
すみませんです、ヤンデレかというと少し怪しい気もしますので。
この話自体も去年の夏に愛猫が死に、涙が止まらなくなって、お使いの帰りに赤信号の交差点に突っ込みかけた経験とか、そういうものを元に
書いて見ましたので…ペットロスというものの辛さとか、精神的に満たされない、逢いたい人間への渇望と、病みとか色々混ぜてヤンデレ作品の
ようにならないかな…と思って書いてみた作品です、一番病んで彼岸に旅立ってしまったのは主人公でしたが…。
楽しんでいただけたら幸いです、それでは失礼しました。

456雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 07:23:14 ID:jUBnc0Rc
>>455
GJだぜ!!
結局、トリはバレちまったのかな?

457リッサ:2011/05/15(日) 14:23:33 ID:bGk.6IDk
>456
こんにちはです
そのようですのであちらでの投稿はやめておこう、ということにしました

458雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 17:57:26 ID:OnpdYfDw
>>457
GJ!!
こっちでドンドン投下していってくれ!

459雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 18:18:28 ID:nWopuHto
>>455
GJです!
長編モノが書けないタチなので本当に尊敬します。
さいごまでかけない…

初めて投下させていただきます。
めちゃめちゃ既存くさい単発モノですが、暇つぶしにでもどうぞ

460かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:19:43 ID:nWopuHto
『かずなりくんかんさつにっき こんどうさくら』

かずなりくんは、私のとなりに住む男の子で、幼馴染です。
かずなりくんは私と同じ中学校の同じクラス。でもあんまり喋りません。
小学生のころはとても仲が良かったけど、中学生に上がった頃から遊ばなくなってしまいました。
でも、私はまだかずなりくんのことが好きです。
幸いなことに、私とかずなりくんのへやは向かいにあるので、窓からよく様子が見えます。
だから、最近の私は暇さえあれば、ずっとかずなりくんの部屋を眺めています。

なので、今日からかずなりくんの一日を観察・記録することにしました。
その観察結果を、不定期に記録していきたいと思います。

461かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:20:31 ID:nWopuHto

○月12日・・・晴れ

今日は土曜日。
かずなりくんが起きたのは、休日にもかかわらず午前六時でした。
かずなりくんはサッカー部に所属していて、だから休日の日も朝練習があるのです。
青のアーガイルチェックのパジャマから学校指定のジャージへ着替えると、かずなりくんは朝ご飯を摂って、学校へ出かけて行きました。
サッカーをするかずなりくんはとても格好良くて、よく女の子が応援に来ています。
そのこっちの気持ちも、よくわかります。かずなりくんは本当に格好いいのです。
午後三時に部活が終わると、かずなりくんは部活友達と一緒に、そのままファーストフード店に寄りました。
駅前できた、新しい店舗です。
結局そのあとゲームセンターにも行き、かずなりくんが家に帰って来たのは午後六時ごろでした。
今日のかずなりくん家の夕ご飯は、かずなりくんの好きなハンバーグのはずです。
かずなりくんの喜ぶ顔が目に浮かぶようで、私はくすりと笑いました。
かずなりくんは夕ご飯を食べてお風呂に入ったあと、ゲームを三十分ほどやって十時ごろに寝ました。
眠くなってきたので、今日の観察は、これまでしたいと思います。
おやすみなさい、かずなりくん。

462かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:21:13 ID:nWopuHto

○月15日・・・晴れ

今日は火曜日。
最近、かずなりくんは長谷川さんと一緒にいることが多いです。
長谷川さんはとなりのクラスの女の子で、可愛いと有名です。
勉強も出来て、体育も得意で、よく告白されているそうですが、なぜか全て断っているそうです。
長谷川さんは、最近昼休みに私の教室に来て、それからかずなりくんを呼び出します。
二人は同じ委員会なので、活動の打ち合わせをしているのです。
かずなりくんは、長谷川さんといるとよく笑います。そして、ちょっと顔が赤くなります。
なぜでしょうか。不思議です。

463かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:21:56 ID:nWopuHto

○月18日・・・くもり

今日は金曜日。
かずなりくんはいつも通り六時に起床しました。
今日は、サッカー部の朝練が無い日なので、かずなりくんはゆっくり仕度をし、学校へ出かけました。
登校途中に同級生の須山くんと合流し、八時ごろ、かずなりくんは学校へ到着しました。
それから午前の授業でかずなりくんは3回発言し、給食を食べ終え、昼休みになりました。
かずなりくんが次の授業の準備をしていると、他のクラスの女子がかずなりくんを呼び出しました。長谷川さんです。
今日の長谷川さんは、いつもと様子が違いました。委員会の打ち合わせでもなさそうです。
長谷川さんとかずなりくんは中庭に行き、二人で向き合って何かを話しました。
ここからでは、会話がよく聞き取れません。
なんて言っているのか分からないけど、長谷川さんの顔は赤くなっていました。
そして緊張した面持ちで、何かを伝えています。
かずなりくんは、真剣な顔でそれを聞いて、それから照れたように笑いました。
結局、なにを話していたのか、私にはよくわかりませんでした。
二人は別れると、かずなりくんは午後の授業を終え、部活をして帰宅しました。
今日のかずなりくんは、ちょっと早めに九時ごろ眠りました。
おやすみなさい、かずなりくん。

464かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:23:02 ID:nWopuHto
○月21日・・・くもり

今日は月曜日。
かずなりくんは五時半に起床して、朝の支度をして、早めに家を出ました。
今日はサッカー部の朝練習があるのです。
かずなりくんは家の前の十字路にさしかかると、急に手を振りました。
その先にいたのは……なんと、長谷川さんでした。
待ち合わせをしていたのでしょうか。長谷川さんは、かずなりくんと並んで歩き出しました。
二人は学校に着くまで、笑い話をして、楽しそうに歩いていました。
これはどういうことなんでしょうか。なんで、長谷川さんが?
私は考えて、ふと思い当たる節があったことを思い出しました。
金曜日の昼休み。あれは、今日待ち合わせすることを約束していたのではないでしょうか。そうです。きっとそうです。
長谷川さんの家はかずなりくん家の近所だし、長谷川さんは陸上部に所属しているから朝練習があるのです。
かずなりくんと長谷川さんは学校の門で別れて、それぞれ部活動へ向かいました。
かずなりくんは、その日一日普段通りに過ごして帰宅しましたが、心なしか嬉しそうでした。
十時半、かずなりくんが就寝しました。
おやすみなさい、かずなりくん。

465かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:23:42 ID:nWopuHto

○月23日・・・くもり

最近、妙な噂が流れています。
かずなりくんと長谷川さんが、付き合っているというのです。
そんなの嘘ですよね。嘘に決まっています。
クラスの男子がかずなりくんをひやかしても、かずなりくんは曖昧に笑うだけでした。
嘘、ですよね。

466かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:25:40 ID:nWopuHto

○月24日・・・晴れのち土砂降り

今日は木曜日。
朝登校する時は快晴だったのに、下校時になって急にひどい雨が降り出しました。
かずなりくんは、朝、お母さんに折り畳み傘を持っていくように言われていたので、きっと雨にぬれることはないでしょう。
今週の土曜日にサッカー部の練習試合を控えているかずなりくんが風邪でも引いたら、それこそ大変です。よかった。
一方私は、天気予報には雨マークなんて一つも無かったから、折りたたみ傘も持ってきませんでした。
私が昇降口近くで土砂降りの空を眺めていたら、なんと、かずなりくんが私に話しかけてきました。
なんと、かずなりくんは、一緒に傘に入って帰らないか、と私に言ってきたのです。
最近は全然喋っていなかったのに。どうして。
私は平静を装って、いいよ、そんなの悪いし、と伏し目がちに言いました。
それでもかずなりくんは引きません。
結局私は折れて、傘に入れてもらうことになりました。
ざあざあ音を立てて降る雨。かずなりくんの肩がこんなに近くにあります。
うそみたいです。それこそ、手を伸ばせば届く距離。
私は緊張して、自分がどんな顔をしているのかさえ、よくわかりませんでした。
ひとしきり沈黙が続いた後、唐突にかずなりくんが話を切り出しました。

――ひさしぶりだな、一緒にかえるの。むかしは……ほら、小学生くらいのときは、よく一緒に帰っただろ?
えっと、突然ごめんな。戸惑っただろ。最近あんまり喋ってないからな、俺たち。

かずなりくんのこえは小さかったけど、不思議と激しい雨音の中でもよく聞えました。


――あのさ、おれ…………彼女、できたんだ


え。
私は実際にそう呟いていたかもしれません。
どこかで予想はしていました。だってかずなりくんは、最近妙に長谷川さんと一緒にいることが多かったから。
でも、それをかずなりくん本人の口から告げられるとなると、想像以上に辛かった。
私はその事実を認めることができませんでした。無意識に、事実を心が否定する。
うそ、うそ、うそ。……うそでしょ?
めまいがしました。みみなりもしました。ずつうもしました。
外の世界が、だんだんとおくなっていきます。
かずなりくんのこえが、だんだんとおくなっていきます。

467かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:26:03 ID:nWopuHto

――相手は、2組の愛子……じゃなくて、長谷川さん。
向こうから告白してきたんだ。実は前から気になってて……それで、付き合うことになった。

うそ……うそ、うそ、うそ、うそ。

――今日は、それを言いたかったんだ。
さくらとは幼馴染だし……お前とは付き合い長いから、やっぱりちゃんと言っておきたくてさ。

うそ、うそ、うそ、うそ、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!
呪詛のように否定を唱えます。
私はそんなこと、信じたくない。だって、嘘でしょ。かずなりくんが、かずなりくんが、かずなりくんが…………

――嘘よそんなの、信じないッ!!!

――…………さくら……?
え、なに、お前、なに言ってるんだよ……?

かずなりくんが驚いた顔で私をみています。雨は依然として強く、私の肩を濡らします。
嘘。嘘なのです。だって、ありえない、そんなの。嘘よ。嘘に決まってるでしょう?

――ねぇ。なんで。なんで。なんで。なんでよ。ねぇ。

――は? なあ、どうしたんだ、さくら。ちょっと落ち着けよ。なあ。

――なんで。なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでッ!!?
お願い。答えて。教えて。かずなりくん、本当のこと言って? ね、言って。

――お、おい! さくら!?

――言ってよ。かずなりくん。言ってってば。言えよ。言え!!

――さく、ら……

――違う、違う違う違う違う全然違うよ!!昔のかずなりくんはそんなんじゃなかった!!
なんで!? なんで嘘ですって言ってくれないの!?
かずなりくんが付き合うなんて嘘! かずなりくんが誰かのモノになるなんて嘘!
私そんなの信じないから!!

――さくら!!!

かずなりくんが叫んで、私ははたと我に返りました。
私は混乱すると、いつの間にか思考が口に出ているのです。歯止めが利かなくなるのです。いやな癖です。
かずなりくんの手にしていた傘が、ぱたりと足元に落ちました。
たちまち二人の全身を雨がびしょぬれにします。

――さくら。今までお前に黙ってたのは、悪かった。ごめん。
でも、おれ、決めたんだよ。だから、

――かずなりくん。

私とかずなりくんは雨に打たれながら、向かい合って立ちつくしました。
奇しくもあの日の……18日の、かずなりくんと長谷川さんのように。
私はかずなりくんの言葉を遮るように、改めてもう一度、その愛しい名前を呼びます。

――ねえ、かずなりくん。
もういちどたずねるから、よくきいて。

……長谷川さんとつきあうって、そんなの、うそだよね?


おびえたような表情で、それでも私を真っ直ぐに見据えて。そんなかずなりくんの口が、言葉を形作ります。
そして、かずなりくんが導き出した、その答えは――――

468かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:27:02 ID:nWopuHto

○月27日・・・雨

かずなりくんは、毎朝長谷川さんと登校するようになりました。
二人の部活がない水曜日は、帰る時も一緒です。
今度の休日、二人は水族館に遊びに行くそうです。
長谷川さんが、楽しみだねって笑って、かずなりくんも、嬉しそうに笑いました。


○月29日・・・くもりのち雨

朝、七時半。かずなりくんが、家を出る時間です。
きっとあの十字路には、長谷川さんが手を振って待っているのでしょう。
私はかずなりくんを追いかけるのをやめました。
私のかずなりくんは、もういないのだから。


○月1日・・・小雨

クラスのおとこのこに いじめらめれていた わたしを、
かずなりくんは、いつもたすけてくれた。
あのひの かずなりくんは、もういない。わたしのとなりに、かずなりくんは、いない。


○月3日・・・土砂降りのち雷

かずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくんかずなりくん……………………どうして。

469かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:27:46 ID:nWopuHto

○月5日・・・くもり

――え。あの、なにか用ですか?

長谷川さんが、怪訝そうな顔で私を見る。
肩で切りそろえられた黒髪。清楚そうな可愛い服。細くて引き締まった身体。長谷川さんはやっぱり可愛かった。

――えっと、あなたは……ああ、近藤さくらさん。たしか、かずなりくん家のとなりに住んでる人、だよね?

……気安く呼ばないでよ。

――え?

うるさいうるさいうるさい黙れ、そんな顔で私を見るな。

――かずなりくんなんて、あんたなんかが気安く呼ばないで!!

――こ、こんどうさ……

――かずなりくんは私のなのに……幼稚園の時、結婚しようねって約束したのに……小学生の時、いじめられてた私を助けてくれたのに……夏休み、一緒にいっぱい遊んだのに……なんで、なんであんたがッ!!!
死んじゃえ!!!
あんたなんかあんたなんかあんたなんか――――――――――しんじゃえばいいのよ。

長谷川さんが、目を見開いて、落ちる。
長谷川さんの大きな瞳に、私の顔が映っていた。
私の瞳にも、ひきつった長谷川さんの顔が映っているのかな。


……ねえ、長谷川さん。階段の最上段から落ちたら、痛い?

470かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:28:42 ID:nWopuHto



かずなりくん。

もうあの忌まわしい女は消えたの。

だから、かずなりくんは私と、ずっと……


きゃあっ!!?


…………

………………痛い。

…………………………どうして?


どうしてかずなりくんは、私を殴ったの?

どうしてかずなりくんは、泣いているの?

どうしてかずなりくんは、赤い長谷川さんを抱きしめてるの?

どうしてかずなりくんは、私を睨んでるの?

どうしてかずなりくんは…………私に死ねなんて言うの?

471かずなりくんかんさつにっき:2011/05/15(日) 18:29:32 ID:nWopuHto

――だいすきなだいすきなだいすきな、
おおの かずなり様へ。

これは、私からかずなりくんへのラブレターで、そして、遺書です。
突然ですが、私は死ぬことにしました。
だって、かずなりくんが私に死ねって言ったから。
かずなりくんがのぞむなら、私は死にます。
かずなりくんだけには嫌われたくないから。私は、かずなりくんが好きだから。
でも、ごめんなさい。
死ぬ前に、この想いだけは伝えたかったの。
かずなりくんは、昔から私を守ってくれました。
小学生の時、いじめられていた私を、かずなりくんはいつもかばってくれた。ありがとう。
人見知りで友達が少なかった私だけど、かずなりくんはずっとそばにいてくれた。
幼稚園の年長組の4月24日、覚えてる?
かずなりくんは忘れちゃったかもしれないけど……かずなりくんが、大きくなったら結婚しようって私に言ってくれた日です。
でも、小学生のあの日、私は転校しちゃって。
それから戻って来た後も、私とかずなりくんはなんとなく気まずくなっちゃって。
でも、私はずっとかずなりくんが好きでした。
だから、この日記の最後のページは、私からかずなりくんへの手紙で締めくくろうって決めたんです。
ごめんね、いろいろごめんね。そして、ありがとう。
私はやっぱりかずなりくんが好きです。だから私は、かずなりくんを好きなまま死にます。
本当に本当に、かずなりくんが好き。
さようなら、かずなりくん。

――こんどう さくら より





「…………かずなりくん、この日記、見てくれるかな……見てくれたら、いいな。

……なんで、こんなことになっちゃったんだろ……怖いよ。落ちるの、怖い……。

……ごめんね、かずなりくん。ごめんね、はせがわさん。


  

ばいばい。みんな、ばいばい」





私は、泣きながら笑って、学校の屋上のフェンスを蹴った。

472あとがき:2011/05/15(日) 18:32:26 ID:nWopuHto
以上です。
続きも続編もありません。一話完結!

拙い文章ですが、スレの応援になればと思い投稿いたしました。
では、お粗末さまでした。

473雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 19:13:14 ID:dUdeTcQI
>>472

GJ!
救いようのないバッドエンドが最高ですね。
さくらが不憫や……

474雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 19:15:54 ID:qQfzNTDQ
さくらちゃんテラヤンデレ
王道な感じの短編だが基本は大切ですよね
GJです

475雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 21:36:51 ID:zNZqv.x6
というかここ最近は投下の頻度がすごいね

なんか最近充実してるなって思ってたけどこの事だったのか。作者さん方GJです

476雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 22:09:44 ID:jMHtvCco
すごく・・・良いです・・・

もうヤンデレに目覚めたわ

477雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 22:58:47 ID:c7yohJM6
本スレの住人、リッサさんを叩くとかばかだろ!これだから、新参は困る!あの有名な、ヴァギナ・デンタータやマリオネッテ、化け物屋敷を作った作者をバカにするとは。ヴァギナなんか確か、イラストが投下されている程有名なのに!まあ、リッサさんの作品だったとはこないだまで気づかなかったけど・・・。それでも、許すまじ!

478雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 23:04:17 ID:jUBnc0Rc
>>477
俺が言うのもあれだけど、そういうの良くないよ。煽りたいの?迷惑っていうのかな?

479雌豚のにおい@774人目:2011/05/15(日) 23:52:01 ID:p3wruYTc
>>477
気持ちは分かるけど、ストレートに出すのはよろしくない。
SS書こうぜ。GJ贈ろうぜ。
怒りをそういう形にできれば、君も立派なSS書きだ

480雌豚のにおい@774人目:2011/05/16(月) 00:24:03 ID:.5LFMJPs
ここも荒らしが来てるっぽいね。たぶん本スレにいるのと同じだと思うけど。

481雌豚のにおい@774人目:2011/05/16(月) 00:27:38 ID:V9Dodeyc
どれが荒らしなの? とっとNGするか IPを晒すべきではないか?

482雌豚のにおい@774人目:2011/05/16(月) 00:35:59 ID:jUBnc0Rc
落ち着けよ

483雌豚のにおい@774人目:2011/05/16(月) 02:21:55 ID:OnpdYfDw
管理人さーん! ID:c7yohJM6のNGと削除お願いします

484雌豚のにおい@774人目:2011/05/16(月) 06:40:49 ID:jUBnc0Rc
>>483
落ち着けよ

485雌豚のにおい@774人目:2011/05/16(月) 07:10:30 ID:3lx6j6Zc
そんなくだらないことより次の投下をまとうぜ…

486雌豚のにおい@774人目:2011/05/16(月) 10:25:41 ID:IkoKM2Gc
俺が、俺達がヤンデレだ!!!!!

487雌豚のにおい@774人目:2011/05/16(月) 19:28:07 ID:OnpdYfDw
次の作品投下まだかな?

488雌豚のにおい@774人目:2011/05/17(火) 00:07:01 ID:c7yohJM6
>>486刹那www

489雌豚のにおい@774人目:2011/05/17(火) 00:14:46 ID:c7yohJM6
すまない。本スレの奴等の発言にイラついて・・・。半年、ROMからそれで、許してください・・・

490雌豚のにおい@774人目:2011/05/17(火) 07:28:01 ID:942hSjIs
本スレはまだ荒らしがいるから、中傷する発言があっても「本スレの奴ら」とくくってしまうのは間違いだと思う。本スレでも避難所を応援するコメントもあったし。
それに貴方の発言自体が特定の作者を馬鹿にしているように聞こえるので、誤解を避けるよう以後不用意な発言は気をつけた方が良いと思います。

491雌豚のにおい@774人目:2011/05/17(火) 07:57:36 ID:E7y3LKbQ
ようするにスルーしろってことだな

492雌豚のにおい@774人目:2011/05/17(火) 14:33:49 ID:Dl8hYcps
>>432
続き待ってました
GJ!!

493雌豚のにおい@774人目:2011/05/17(火) 22:42:22 ID:VX6G9B3M
日を跨いだあたりに初投下します

494雌豚のにおい@774人目:2011/05/18(水) 02:08:34 ID:nX8aBKP2
>>493 wtkk

495雌豚のにおい@774人目:2011/05/18(水) 07:58:20 ID:OnpdYfDw
>>493
これは全裸待機せざるを得ないな……

496雌豚のにおい@774人目:2011/05/18(水) 15:50:35 ID:SRfnHyf2
この避難所に逃げてきた。
まだつづいてるぞ。あらしの議論戦(?)が・・。

497496:2011/05/18(水) 15:51:37 ID:SRfnHyf2
補足;向こうでは(本スレ)

498雌豚のにおい@774人目:2011/05/18(水) 16:23:25 ID:jUBnc0Rc
どうでもいいよ

499雌豚のにおい@774人目:2011/05/18(水) 16:47:19 ID:OnpdYfDw
次の作品投下まだかな?

500 ◆STwbwk2UaU:2011/05/18(水) 22:08:38 ID:p3wruYTc
投下がないので投下。
あと二日で土曜日。

501魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/05/18(水) 22:09:27 ID:p3wruYTc
囚われのマヌケこと僕、アガトは今魔境と化した地域を目の前にしている。
情けないことだが、僕は傷跡のある聖騎士に捕縛の首輪を着けられ、
そのまま悪魔討伐の旅路に連行されているのだ。
聖騎士にとっては人間の敵という見方の為か、僕の道中の扱いは散々であった。
休憩時は常に「悪魔除け」の聖域を貼られ、僕は休む間もなくそのまま見張りをし、
渡される食料は基本的に水だけである。
悪魔の扱いとしては間違ってはいない。むしろ聖騎士という立場を考えれば優遇している。
悪魔を無理やり聖域の中に突っ込んだりしたら、それこそ僕は一瞬で蒸発する。
そして高級な悪魔たる僕は、水だけで暫く生きていける。
悪魔にとって、魔力が命だ。比喩でも何でも無く。
人間も呼吸が出来なければ死ぬように、悪魔も魔力が尽きれば死ぬ。
よって、自分の中に残存する魔力が、消費される魔力よりも多ければ生きていけるのだ。

では、今どこから魔力を僕は供給しているのか?
――答えは大気と、血だ。
大気に満ちる薄い魔力と、己が血に封じた魔力を糧に生きている。
……自分の血肉を食って生きていると思ってくれていい。
そして血を摂るたびに、どうしても水が足りなくなる。
そこで僕は、水を貰っているのだ。

―魔力をよこせなんて言ったら、何されるかわかんないしね。


「今日はここまでです。明日、魔境に踏み込みます。」
傷跡のある聖騎士が皆に言った。
正直な話、目の前でお預けを食らったかのような気分だ。
魔境に入れば、魔力の充填も周囲の魔力も使い放題になる。
この捕縛の首輪だって外せるだろうし、傷跡のある聖騎士からも逃げれるだろう。
しかし問題はリーザだ。
彼女には恩もある。このまま逃げるのは王族の礼儀にも反してしまう。
何かしらの礼をしなければならないのだが、今手元には何も無いのだ。
出来ることと言えば、聖騎士共が休んでいる間の見張り程度。

「…では、そこのインプ。今日も見張りをお願いします。
 余計なことをしないように。」
今日もあの聖騎士に命令されて、見張りをする。
…言われんでも、リーザに恩あるかぎり見張りくらいしてやるさ。ふん。


―今日もまた、星空を見上げながら考える。
数日前にリーザは僕に言ってくれた。
流星を見つければ、願い事は叶うのだと。
所詮こちらに伝わる迷信だとはわかっちゃいるが、それでも僕は願わずにいられなかった。
父上を殺した奴への復讐を。
自分を追い出した世界への報復を。
王国の復興を。
力を……

「今日もまた、星空を見上げているの?」
リーザがまた、聖域から出て僕の近くに来ていた。
僕の顔が真っ赤になる。
「また見張り代わろっか?それとも、一緒に星空でも見る?」
リーザが素敵な笑顔で僕を見る。
一番休んでほしい人が、一番僕にかまってくれる。
嬉しくないわけがない。でもそれ以上に、僕の中に罪悪感は溜まってゆく。
僕は少したりとて、彼女に恩を返せてない。
彼女の無償の優しさは、深く僕の心に刻んでいく。

――何も出来ないという、無力感を。

「……君は休みなよ。僕が見張りをしているから。」
気恥ずかしさと、罪悪感のあまりにそっぽを向きながら返事をすると、
何故か僕の横が、とても暖かくなった。
リーザが、僕の隣に寄り添っていた。

「じゃあ、休ませてもらおうかな。
 …君の隣で、さ。」
前に一緒に見張りをしてからというもの、ずっとこのような状態が続いている。
魔王を目指すもの、この程度でうろたえてはいけない筈なのだが
正直、旅の中でこの時間が一番きつい。
心臓は高鳴りを続け、顔は赤く、体温は上がったままだ。
コンディションを通常に戻すためにも魔力を使うので、これこそ魔力の無駄遣いの極みである。
しかし、この時間をやめようとは思わない。
なぜなら、僕にとって一番居心地の良い時間だからだ。

――彼女も、同じように感じてくれていると、嬉しい……

502魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/05/18(水) 22:10:04 ID:p3wruYTc
―魔境に入れば、僕の魔力は回復すると思っていた。
訂正しよう、この魔境は地獄だ。
翌朝、準備が終わると僕たちは魔境へ突入した。
魔境範囲、魔力の強さなどを鑑みて、この魔力の持ち主は悪魔の中では中の下くらいの強さだ。
この世界で、ギリギリ魔界とリンクさせることができる程度の魔力と言い換えればいいだろうか。
つまり、弱い。
おそらくこの中の聖騎士一人いれば討伐される程度の魔力だ。
しかしこの魔境の恐ろしさは魔力じゃない!

狂気。

そう、魔力が狂気を帯びているのだ。
遠いせいか、その濃度は微弱だが、間違いなく危険極まりない。
狂気を帯びた魔力を浴びれば、思考能力が少しずつ壊れ始める。
つまり、狂気が伝染して発狂するのだ。
そして高位の悪魔ほど、その狂気をダイレクトに受けてしまう。
つまり、僕は今毒ガスの中を歩いているようなものだ。
周りの魔力を使って、絶えず精神回復の魔法を唱えている必要がある。
……プラスマイナスゼロだ。くそっ!!


「…あっ……がっ………あああああああああああああああああああああ!!!!」
暫く歩いていると、聖騎士の一人が頭を押さえて叫びながらうずくまった。
「だ…大丈夫!?」
リーザや仲間がその聖騎士に駆け寄る。
僕は思わず叫んだ。

「誰か!早く浄化魔法を唱えろっ!」
―次の瞬間、その聖騎士は浄化の光に包まれていた。
後ろを見ると、既に傷跡のある聖騎士が唱えていたのだ。
忌々しいが、やはり本職。狂気への対応も知っていたようだ。

「…大丈夫ですか?このロザリオを身につけていなさい。
 貴方は心の精進を怠っていましたね。」
荒く息を吐く聖騎士に、ロザリオを渡しながら精進の怠りを諌めていた。
……教師か?こいつ。


やがて狂気に満ちた土地を、ドラゴンなどの怪物を蹴散らしながら進むと、
一つの屋敷が見えてきた。
狂気と魔力はあそこから漏れている。
だが、一つの疑問が僕の中に浮かんだ。

――これは、本当に悪魔なのか?…と

中の生命反応はおそらく2つくらい。
しかし、悪魔にしては何かがおかしい。
波長とでも、雰囲気とでも呼べばいいのだろうか。
悪魔とは似ても似つかない。
むしろ、この雰囲気はどちらかというと…リーザや…聖騎士どものような……

キンッと、鋭い金属音がした。
傷跡のある聖騎士が、鞘から剣を抜いたのだ。

「さぁ、行きますよ皆さん。
 ……悪魔狩りです。」

503魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/05/18(水) 22:11:05 ID:p3wruYTc
悪魔がいると思われた館は、強固な結界に守られていた。
しかも、かなり限定的な。
館の地下室の一部のみに対し、まるで千年の封印でもしているかのような
厳重な結界が敷かれていた。

「この結界を解きますので、解除されたのを確認したら先に突入し、
 そのまま悪魔を討伐してください。
 決して余計なことは考えないように。」

傷跡のある聖騎士は念を押すかのように伝えた後、上へ向かった。
おそらく、もう一つの生命反応がある部屋へ。

聖騎士が生命反応へ近づく。
そのとき、僕は気づいてしまった。
聖騎士と、生命反応の波長が似ていることに。

つまり、こいつらが悪魔と言っているこれは………

上の生命反応が消えた。聖騎士が討伐………いや………

――殺害したのだ!

そうだ、こいつらは魔力が強いだけの人間だ。
悪魔?とんでもない。
ただ魔力が強いだけじゃないか!
しかし、リーザや他の聖騎士は気づいていない。
まるで憎き天敵を討伐するかのような面持ちをしている。
伝えるべきなのか?
いや、既に知っているのか?
知っていて、同族を殺すというのか?
お前らの敵は我ら悪魔ではないのか?
本当に、こいつらは…聖騎士…なのか…?


思考が逡巡している間に、結界が解かれ、目の前の扉が開く。
聖騎士とリーザがすぐさま中に突撃した。
しかし、中で生命反応が消えず、リーザたちの動きも止まったままだ。
僕も我に帰り、急いで後を追う。
そこで見たものは、
魔方陣。
魔方陣の四方に、生贄たる子供と女の亡骸の残骸がある。
どうやら、この魔方陣を用いて封印をしていたようだ。
とんでもない強力な。
そして、その中央には
はちみつ色の髪の色を持つ、赤き瞳の少女が
膝を抱えて、座り込んでいた。

504 ◆STwbwk2UaU:2011/05/18(水) 22:12:25 ID:p3wruYTc
投下終わり。
初投稿頑張ってー

505雌豚のにおい@774人目:2011/05/18(水) 22:18:12 ID:8rIWiuZM
GJ!! 楽しくなってきましたね

506雌豚のにおい@774人目:2011/05/18(水) 22:21:34 ID:OnpdYfDw
投下お疲れ様です!!レッドアイズ……とうとう動くのか…そして、リーザの病みを早く見たいでガンス

507雌豚のにおい@774人目:2011/05/18(水) 22:23:37 ID:jUBnc0Rc
乙ー
続きwktk

508 ◆STwbwk2UaU:2011/05/18(水) 23:28:07 ID:p3wruYTc
>>506
展開を早めよう。
プロット修正するわ

509 ◆aUAG20IAMo:2011/05/19(木) 10:31:21 ID:t4WgwQzo
投下します
一応長編になる予定です

510禁忌の一線 1:2011/05/19(木) 10:31:52 ID:t4WgwQzo
「姉さん、飯持って来たよー」
「………」
「今日は下で食える? それとも入っていいかー?」
「…………」

[I'm a thinker.I could break it down.♪
I'm a shooter. A drastic baby♪]

着信
ってことは今日は無理ってことかね?

「もしもし、姉さん?」
『……ごめん、出れない。持ってきて………』

許可を得たので遠慮なく部屋に入る
すると、まあ、なんということでしょう
目の前にはゴミ屋敷が広がっているじゃありませんか。これには匠も思わず苦笑い
よくこんなところで二年間も引きこもっていられるなと感心してしまいます
他人が怖いと言っているので、こういう部屋のが安心できるのかもしれんが
で、姉さんは……いた
ベッドと壁の狭いスペースに細い体を無理矢理ねじ込んでる

「狭いとこが落ち着くの?」
「……うん。もしもパパやママが急に入ってきても、すぐに隠れられるし」
「今日は水曜。お袋はパートで22:00まで帰ってこないし、親父も出張に行ってるぞ」
「あ、そっか」

だからサンドイッチくらいしか作れんぞ、という前に、皿の上のタマゴサンドがもうなくなってる
まるでハムスターみたいに両手で持って一生懸命食べてる姿は、わが不肖の姉ながらも可愛いと想う

「……野菜、嫌い」
「ハムサンドのトマトとレタスくらい食べなさい」
「……うう」
「昨日は何にも食ってないだろ? 我慢して食べてくれよ
 ただでさえ不健康な生活してんだから、せめて栄養くらいはキチンと取ってくれ」
「心配してくれてる?」
「当たり前だろ」

そう言うと、嫌そうな顔をしながらもハム野菜サンドにかぶりついてくれた
えらいえらい、と二年間ろくに整えられていなかった長髪を撫でる
その髪からは、お風呂にもあまり入ってくれないので独特の異臭がする
けれども、俺は気にもせずに撫で続けていた

511禁忌の一線 1:2011/05/19(木) 10:32:18 ID:t4WgwQzo
俺は竹村 良(りょう)、19歳の浪人生
んでこれは姉の沙織(さおり)。二つ年上の元大学生
そこでずっといじめられていたらしく、対人恐怖症を発症
大学は休学状態で引きこもってる
両親も初めは黙認していたけど、今じゃ我慢の限界が来たのかドア越しに怒鳴ったりしてる
しかも飯を二日にいっぺんしか作らなかったりしてんだから陰湿なもんだと思う
だから、二人が家を開ける水曜と金曜
その日だけは、ロクに料理できない俺の飯とは言えどもしっかり姉さんに食べてもらってるんだ
しかし食えない日も確かにあるため、すっかり痩せちゃってる
本当はもっと食わせてあげたいんだが、お袋にバレると面倒くさいことになる
俺はもう説教慣れしちゃってるが姉さんはいちいち怯えて泣きそうになる
だからこそコッソリと食べさせてあげるしかないんだよこれが

「……けぷ。ごちそうさま」
「はい、おそまつさま」

それじゃ、さっさと洗い物しなきゃ
皿洗って拭いて棚に戻す。お袋に気づかれないための証拠隠滅はお手の物よ
……しかし、服をつかまれたままでは下の階に行けないのだが

「姉さん、ちょっと放してくれん? かたづけしなきゃいけないからさ」
「…………五分だけ」

ああ、五分だけいっしょにいてほしいってのか。いじらしいねぇ
なんてふうに思うのは、俺の姉さんのことを良く分かっていないやつだ

「五分で片付けること。すぐに帰ってきてね」
「へーいへい」
「絶対だよ。五分で帰ってきてよ」
「何度も念を押さなくても分かってるよ」

まったく、対人恐怖症のくせに寂しがり屋って矛盾してんじゃないのか? よく分からんが

512禁忌の一線 1:2011/05/19(木) 10:32:46 ID:t4WgwQzo
しかし、この展開は予測できていたため、他の洗物やゴミは既に片付けてある
だから5分で戻るなんて余裕だ。タイムアタックだってできちゃうぜ
皿洗って、拭いて、棚に戻して、うっかり小皿落として割って、掃除機と雑巾で片付けて、割れた皿は庭に埋めた
……ちくしょう、10分オーバーか

「ただいまー。ゴメンちょっと遅!?」

額のど真ん中に目覚まし時計がクリーンヒット
ちょっとまて、これわりとガチで痛い

「……遅いよ。良に何かあったのかと思って、下の階に降りちゃうところだったんだよ
「そりゃ、もっとのんびりしてればよかった。……おー、痛」
「あっ、血……」

あんまり深くはないが、少し切れて血が出たみたいだ

「あ、こんなのツバつけてバンソーコーはれば大丈夫だろ」
「…うん、わかった」

分かったって何が?
そう思ったときには、俺の体は姉さんに包まれていた
171cmの姉さんに比べて俺は156cmしかない。うるせえ、チビって言うな
そのまま、姉さんは薄い胸に俺の頭を抱えながら、額の傷を丁寧に舐めている
おいばかやめろ
歯ぁちゃんと磨いてないだろ。それに体も臭うぞ
と考えるが、んなの自分で虚しくなってくるような嘘だ
本当はこう思ってる

[姉とは言え、濃厚な女性の匂いに包まれながら額に舌を這わせられてるなんてラッキー!]

とさ

「はい。あとは自分でやってね。ここに絆創膏なんてないから」
「あっ……わ、わかった」

しまった、つい名残惜しくて声が出ちまった

「あっ? どうしたのかな、もっと舐めてほしかった?」

久しぶりに姉さんの笑顔を見たような気がする
それがこんなふうに俺をからかうような笑顔でなければもっと嬉しかったんだがな
だから、ちょっとふてくされたような顔を作り、姉さんに背を向ける

「うるせー。姉さんこそ対人恐怖症のクセに何でこんなことができるんだよ」
「良だから、よ。決まってるでしょ? この世界でたった一人の私の味方の良だからできるの
 それと……パパもママもいない日くらい、わたしから目を背けないで、こっちを向きなさい」
「だああ!背中にくっつくな! いいからちょっと離れてろ!」

頼む、今は、今だけはそっとしておいてくれ
俺の下半身の射突型ブレードがさっきのことでのっぴきならない状況になってる姿なんて、死んでも見せられるか

513禁忌の一線 1:2011/05/19(木) 10:33:06 ID:t4WgwQzo
それからしばらく、姉さんとなんでもないようなくだらない話をした
今やってる勉強、最近見たテレビ、俺の友人のこと
本当になんでもない会話。それでも、姉さんは本当に楽しそうに聞いてくれた

[アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー アイムシューターートゥートゥートゥートゥー♪]

「……電話?」
「いんや、アラーム。もうそろそろお袋が帰ってくる時間みたいだ」

そう言うと、ぎゅっと強く手を握られる
最近のお袋は、姉さんがらみのことだったら意味もなく、どんなことでも声を荒げてくる
俺が姉さんの部屋に入ってたなんて知られたら、二人して怒られるに決まってんだ
何で起こられてんのか最後までわかんないままな
タチが悪いったらありゃしない

「ね、ねえ……」
「明日な。お袋が買い物に出ている間にでもまた来るよ」
「良!」

二度目だ。一日に二度も姉さんに抱きつかれるなんてはじめてだぜ
しかも姉さん泣いてるし。俺なんかやっちまったのか? 
今の射突型ブレードはどうにか矛を収めてるってのに、また臨戦態勢に入っちまいそうだ

「私、知ってるよ。良が浪人しても予備校に行かないのって、私のためなんでしょ?」
 私をこの家で一人ぼっちにしないためなんでしょ?
「ばっ、バーカ。んなわけねーだろ。単に俺は勉強が大嫌いなだけだっつーの」

くそっ、図星だ
親父もお袋も姉さんにきつく当たるなら、せめて自分だけはいつも姉さんの傍にいてあげようと思ったんだ

「ありがとう。良がいるから私は生きていられる。良のためなら、私―――」
「ね、姉さん、ちょっとそろそろお袋が帰ってくるから!な!? ごめんな!明日また来るから!」

そう言い残し、転がるようにして部屋を飛び出して一階の風呂に飛び込む
証拠隠滅のために姉さんの残り香を消すためだ
しかしさっきは、目の前に禁忌の一線が見た気がした
あそこを超えれば、自分達は地獄に落ちると直感的に感じた一線
今までも、少し先のほうに、侵してはならない領域をちらりと垣間見たことはある
もちろんそこを越えるようなことはしない。急いで引き返してきた
けれども、今日の一線はいつもよりもずっと近くにあり、姉さんは自分の意思でそこを越えようとしていたように感じた

―――俺の手を握ったまま

514 ◆aUAG20IAMo:2011/05/19(木) 10:34:51 ID:t4WgwQzo
一話投下終了です。
どれくらいの長さになるか自分でもまだ良く分かっていませんが、最後まで書いていきたいと思います
楽しんでもらえたら嬉しいです

515雌豚のにおい@774人目:2011/05/19(木) 10:45:13 ID:OnpdYfDw
GJ!!
この姉…怖い……夜中に包丁持って襲いかかるところ想像しちまったわ…

516雌豚のにおい@774人目:2011/05/19(木) 11:35:17 ID:F0xuARZI
GJ

でも風呂と歯磨きぐらいはしよーな

517雌豚のにおい@774人目:2011/05/19(木) 17:08:21 ID:jUBnc0Rc
乙ー
続き期待

518雌豚のにおい@774人目:2011/05/19(木) 18:26:55 ID:ef3K4TB6
続きが気になる!GJでした

519雌豚のにおい@774人目:2011/05/19(木) 19:49:58 ID:KuMi62YU
姉の怖キモっぷり良いね!
キモウト派だけどそんなの関係なしにドキドキできそうな作品
続きも楽しみに待ってるよ!

520 ◆O9I01f5myU:2011/05/19(木) 21:31:50 ID:j9.VA8uo
投下します。忍と幸人 第六章です。よろしくお願いします

521雌豚のにおい@774人目:2011/05/19(木) 21:32:40 ID:OnpdYfDw
次はどんな作品が来るかな……「魔王の作り方」の病みや「忍と幸人」の恋路もすげい気になる

522忍と幸人 第六話:2011/05/19(木) 21:34:29 ID:j9.VA8uo

 私と顔を合わせた途端、「また貴女ですか」と言いたげな顔を見せた。案の定ではあるが、この間の件は相当彼には耳障りであったみたいだ。

 「偶然だな、針巣さん」

 気軽に声を掛けるが、針巣の顔色は晴れない。挨拶を返そうともしないばかりか、さっさと私の眼前から立ち去ろうとするので、それを体で遮る。細くて小さな体躯でこちらを見上げる彼は依然として小心者のそれだった。おどおどとして、唇をぼそぼそと動かすだけで、こちらにはっきりと物を言おうとしない。

 「ちょうど良かった、この間の事でまた話をしたいと思っていたんだ。一緒にそこらの喫茶店にでもどうだ?」

 あからさまに嫌そうな顔をする針巣は「この後用事があるので、御遠慮します」と身を屈めて脇を通り抜ける。逃がすつもりはないのでその手を強く捕まえ、「そんなに時間は取らせない」と強引に引く。彼としても黙って成すがままにされるのには我慢ならなかったのか、「ちょっと……」と私を突き離そうとしたが、少し彼に顔を向けたらすぐにおとなしくなった。
 通りに面した、少し洒落た喫茶店に入り、窓際の席に着く。とりあえずコーヒーを注文して一息吐いてから話を切り出した。

 「まだサユキとは関係があるのか?」

 彼は顔をしかめて視線をテーブルに落とし、お手拭きを弄りながら「それが何か?」と返事した。

 「サユキの事について少し調べてたら色々と分かった事があってな、それを知らせようと思ったんだ」

 彼は俯きながらも目だけチラッとこちらを見上げた。
 サユキは客の性格を見抜くのが得意な女だ。そいつがこの先有効な寄生先だと見抜くや、その被寄生体の弱みを握って、骨の髄までしゃぶろうとする。搾り取るだけ搾ったら、後はゴミとして捨て、また新しい寄生先を探す。
 サユキは金が何よりも大好きな女だ。その大好きな金を一手に巻き上げる事も、あの容姿を以てすれば十分可能な上、体を売っている内に何人かは心も欲する様になってくる事もあの女は知っている。そういった、多くの客の内の一部を食い物にする事であの女は私腹を肥やしてきた。

523忍と幸人 第六話:2011/05/19(木) 21:36:53 ID:j9.VA8uo
 勿論、針巣もそういった「食い物」の一人で、日頃の貢物の事を考えればここ最近においては一番のカモだろう。おまけにプレゼントの大部分は売り払ってしまっているというのだから、本当に良い様にされている。
 それらを話した上で訊いてみた。

 「サユキに何かプレゼントをして……その後彼女と会った時、それを身に着けていたか?」

 針巣はこちらに向けていた目を下げ、黙り込んだ。返す言葉が無いところを見ると、彼自身にも少しは心当たりがあったという事か。それにも関わらずサユキとの接触を絶たないとは、この男はどこまで愚鈍なのだろう。
 これだけ鈍いと、口でいくら言ったとしても頑なに拒み続けるだけで、時間の無駄にしかならなそうだ。

 「……ですか」

 次に進もうとした時、彼が何かを口にした。

 「何?」

 彼が恨めしそうにこちらを睨み、言い直した。

 「あなたに何が分かるというんですか」

 子供の姿が針巣と重なって見えた。その目は大人に抵抗する反抗期の子供が見せるものとよく似ていた。

 「さっきから知った様にベラベラ喋っていますが、貴女は僕達をどうしたいんですか。この前もそうやって口出ししてきましたが、一体何様のつもりで……。僕と彼女の事で貴女は何を知っているんですか。そんな訳を知った様な顔でさっきから……」

 下水道の隅を這うネズミが途端に活発になった。空気と入り混じった言葉は発音もしっかり正されて、賑やかな店内でも良く通る。
 針巣のその抵抗は胸中の燻りを煽るものだった。沸々と募る苛立ちが途端に燃え盛った。それが顔に出たのか、針巣も気押されている。

 「あの女が自分の子供にも売春させる奴だという事を知った上で付き合っているのか?」

 グラスの中を干す。それに映った自分の顔は酷いものだった。眉間に皺を寄せ、元々吊り上っている目がさらに鋭くなって、小さな瞳が蛇と見紛う光を放っていた。

 「え、ええ……。彼女が息子の幸人君にも……その、体を売る商売をさせているというのは知っています。彼女もその事については心を痛めている様で……その話題が出なかった日はありませんでした。何時も何時も幸人君には辛い目に遭わせてしまっていると……」

 脳が蒸発しそうだった。この男はそんな戯言を真に受けているというのか。

524忍と幸人 第六話:2011/05/19(木) 21:40:52 ID:j9.VA8uo
 いや、素面だったらそんな三文芝居に化かされる筈がない。この男がそれを鵜呑みにしているのは酔っているからだ。売春に身を落とした母子を自分がいずれ助けようという甘ったれた幻想に酔っ払い、現実から目を逸らしている。
 腕の中を巡る血が熱かった。許されるのなら、このドブネズミの四肢が千切れるまで踏み潰してやりたかった。内臓が、骨が、筋肉が、互いの境界線を無くして混ざり合うまで……。

 「彼女は時々、涙ながらに僕に話してくれます……。いつかは家族みんなで、穏やかに暮らしていきたいと……」

 テーブルが大きく音を立てた。この男の口から出てくる不快な吐息がピタッと止まると同時に、店内も一気に静まり返った。テーブルを叩き割る勢いで振り下ろした右手が観衆の視線を浴び、それまで和やかだった空気は痛々しさを伴うくらい冷たくなっていた。

 「……失礼、少し興奮した。どうか気にしないでいただきたい」

 客と店員に詫びる。何とも言えない、複雑そうな顔が並んでいるのは気まずかった。
 周囲が少しずつ元の雰囲気に直そうとし始めるのを見てから針巣と向き合う。彼は顔面蒼白になってこちらの様子を窺っていた。耳に障る戯言も、今では一言と発せそうにない事が分かると、胸の苛立ちが少し落ち着いてきた気がする。
 気を取り直して、迷彩服のポケットに忍ばせていたレコーダーを出し、彼の眼前に見せる。怯えながらも怪訝そうに関心を持ったのを確認すると、それを静かにテーブルに置いた。

 「これはレコーダーだ。中には何が入っていると思う?」

 物言いたげな彼の心中を察し、話を次々に進めていく。

 「この中には、私が幸人に頼んで(盗聴なので頼んだも何もないが)録音してもらった、サユキの本音が吹き込まれている」

 針巣の両目が見開いた。この男でも気が付いただろうか。私が今まで話していた内容は、この中身によるものだという事が。

 「お前があの女を心から信じているというのならこれを聞くが良い。そうすれば、今まで抱いていた甘い幻想が全て虚構だったという事が分かる。如何に自分が己を見失い、あの女に踊らされていたか、それを骨の髄から感じられるだろう」

 針巣は恐る恐る、レコーダーに手を伸ばした。再生ボタンに触れるのは大分躊躇していたが、その震える指は長く宙を漂うのに疲れたか、ゆるゆると下りていった。力無くボタンが押され、レコーダーは音声の再生を始めた。

525忍と幸人 第六話:2011/05/19(木) 21:44:35 ID:j9.VA8uo
 喫茶店内はすっかり賑わいを取り戻していた。こちらに向けられていた視線も今は無く、楽しげな一時からこの区画だけが完全に隔絶されている。同じ空間におりながら、この席だけは流れる空気が異質で、体中の繊維一本一本にテンションが掛かってくる。自分のすぐ後ろの席からは温かく、楽しげな談笑がするというのに。
 流れる音声が針巣の顔を見る見る内に変貌させていく。レコーダーから流れるサユキの音声は幸人からの質問に答える形で進行しているのだが、そのどれもが針巣への好意を微塵にも感じさせず、むしろ、針巣が盲目的に己を慕うその姿を揶揄する始末だった。無情な現実だった。
 針巣は顔を覆い、テーブルに突っ伏し、何も言わなかった。
 レコーダーの再生が終わると、彼は丸めた体をガタガタと震わせた。それが悲しみによるものなのか、怒りによるものなのかは私に判断する術は無い。そんな些細な事、知ろうとも思わない。

 「これが、お前が愛していた女の本性だという事だ」

 役割を果たしたレコーダーを仕舞い、コーヒーをゆっくり傾ける。コーヒーは少し温くなっていた。

 「これに懲りたら、少しは女を見る目を養う事だな」

 私の声が針巣の耳に入っているとは思えないが、選別の一言を残し、席を立った。彼はやはり顔を上げようとしなかった。
 「ここは私の奢りにしておこう」と伝え、会計をさっさと済ませる。店を後にする際に横目で針巣の後ろ姿を盗み見ると、まるで何かに憑かれている様で、印象的だった。
 蘇鉄の並ぶ歩道を歩く中、彼の困惑に歪んでいく顔を思い浮かべる。一瞬とは言えども私に啖呵を切ってまで見せた男があそこまで砕け散っていくのは酷く愉快だった。
 痴情のもつれとは、往々にして創作物のネタになりやすい。心のコンディションのアップダウン――葛藤――があるからだ。
 その心の揺さ振りがドラマを一つ一つと生み出していき、レールを組んでいく。そして、情念はジェットコースターの様にその上を落ち続けたり、駆け昇ったりと、忙しなく飛び回る。今の針巣は、グングンと上昇していたコースターが突然絶壁に差し掛かり、急下降をしている……といったところだろう。レールを踏み外して地表に激突……大事故となるか、再び上昇するか、それは本人次第だ。

526忍と幸人 第六話:2011/05/19(木) 21:47:29 ID:j9.VA8uo
 もし事故に繋がるとしたら、加速度を増した勢いそのままにぶつかるのだから、無事では済まない。上へと続くレールへ乗る事ができれば、下降時の加速を活かして一気に駆け上る事も不可能ではないが……。
 針巣の鎮痛な様を思う。直後に「まぁ不可能だろう」と結論した。あの男が逆境に堪えられるとは到底考えられなかった。
それで良い。後は針巣がどう動くか。がっかりさせないでほしいのだが。
 夕焼け空の下、烏の声を耳にしながら家に帰り着く。
 部屋をざっと見渡す。ここは居間と自室を兼ねた一室、私一人だけの空間。ここに幸人を招いた時は手狭に感じたものだった。
 この狭い一室で、私と幸人は濃厚な一時を過ごした。
 その時の情事を思い出す。物に囲まれた中で睦み合い、幸福の絶頂へと達したあの時の記憶は私の体を火照らした。
 妄想が湧きあがってくる。いくらでも幸人の一つになれる、愛と肉欲の日常。自分より二回り近くも下の少年を抱く日々。倫理の一切が排されたインモラルの生活……思い浮かべただけで疼いてくる。これでもかと言うくらい、たくさん幸人を愛してあげよう。
 が、狭い部屋だ、住居も変える必要が出てくるかもしれない。その時は幸人の希望も取り入れてあげたいと思う。勿論、すぐに実行に移せるわけではない。どれ程の時間を要するかは分からないが、何時かは叶えてみせる。
 気持ちが逸る。鼓動も勢いを増している。家事も思う様にはかどらず、足取りも怪しい。完全に、妄想に神経を犯されていた。

527 ◆O9I01f5myU:2011/05/19(木) 21:48:10 ID:j9.VA8uo
投下終了です。

528雌豚のにおい@774人目:2011/05/19(木) 21:55:45 ID:jUBnc0Rc
乙~
カオスになってきたでござる

529雌豚のにおい@774人目:2011/05/19(木) 22:05:32 ID:/.nM74IY
>>527
GJですよ!
更新待ってました!
続きが楽しみ♪

530雌豚のにおい@774人目:2011/05/19(木) 22:07:14 ID:OnpdYfDw
GJ!!
言ったそばから投下が来たのにビックリ…しかも肝心な所で終わりとは、なんという焦らしプレイ!続きが気になる!!

531のどごし ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/21(土) 17:41:04 ID:IAfhlHSE
ウェハース第十三話投稿します

532ウェハース第十三話 ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/21(土) 17:41:56 ID:IAfhlHSE

「えっ?」

僕の膝を枕にしていた小町がいきなりボリュームの大きい声を出した。
そんなに驚くことだろうか?

「痩せるって、なんで?」
「そんなに驚くことでもないだろ」

小町は状態を起こし、首を横に振った。

「私体型とか気にしないから大丈夫だよ」

少し声が焦っているように聞こえる。 何でだ。

「いや、小町と付き合ってからさ僕と小町の体型のギャップに驚いてるんだよね」

小町は物凄く華奢だ。それに対して僕はなんと言うか骨太って感じ。
二人して街を歩いているときにガラスを見ると、おおよそこの二人が付き合っているとは思えないほどに容姿に差があるのを実感する。
その時には、いつも下を向いてしまう。 隣で嬉しそうに腕を組む小町、そしてうな垂れている自分。 ますます嫌になる。

「そう……、じゃあ私も手伝うよ。 カロリー計算とか全部してあげるね」
「はぁ?」

小町は僕の上に座り、腕を僕の頭の後ろで組む。
息がかかるほどの距離。 小町は最近この距離で僕と話すことが多い。 なんというか、ものすごく密着してくる。

「昼ごはんと、運動量だけでも変えたら激変するからね」
「んー、じゃあ夜中走ろうかな」
「ダメだよ、いきなり走ったりしたらシンスプリプトになっちゃうから」

シンスプリプト? なんだそりゃ?

「じゃあ、歩きだな」
「うん。 何時ごろにする?」

付いて来る気か?

「小町も歩くの?」
「うん」

嬉しそうに、抱きついてくる小町。 胸が押し付けられて、石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。
艶のある黒髪からも、なんだか不思議な香りが……。 きっとスゴく高いシャンプーなんだろうな。

「喋りながら歩いた方が有酸素運動してるって気がするでしょ?」
「ああ、確かに」

533ウェハース第十三話 ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/21(土) 17:43:18 ID:IAfhlHSE

最近、やけにボディタッチが増えた気がする。
セックスの回数も減ったけど、それだって四日に一回はやってる。

何かと横にいる気がする。
それに、媚びるようになった。
今まではそんなこと無かったのに、最近は僕の意見を酌もうとしているのが分かる。

「私もそう思ってたの」

そう言って、僕の体のどこかに触れる。
どうしたんだろう、何があったんだろう。

「ねえ、キスしてもいい?」
「えっ、うん。 いいよ」

じゃれる様に、唇を奪う小町には一片の邪気も感じない。

小町のキスはとても長い。 絡み方と言っていい。
入念に、それこそ隙間をなくそうとしているくらいに丁寧に長い間をかけてする。

「んっ、はぁ、むぅ……」

鼻孔の呼吸で間に合わなくなるほど、一回一回を真剣にこなす姿勢は少し怖い。

「はぁ、ふふっ」

キスを終えた後は決まって潤んだ眼で微笑む小町の顔はスゴく色っぽい。
その後は短いキスを何回か繰り返し、抱擁の強さを微妙に変えたりして過ごす。

まどろむ様な優しい時間が過ぎるのは存外早い。 小町はその事を知っているのか、時間の経過を僕に全く知らせようとしない。
というか、僕に時計を見せようとしない。
いつまでも二人で抱き合っていたい、埋めあっていたい。 そういう感じに粘性を覚える。
小町は、きっと平沢や、武藤を嫌悪している。

「俺も言われたんだよね、神谷に近づくなって」

武藤から聞いた話だと、ものすごく怒ってるように見えたらしい。
言われたのは昼休憩の後、理由はおそらく、僕と平沢たちが昼食をとっていたからだ。

武藤には謝って黙っておくように頼んだけど、この分じゃあ僕の友達以外に飛び火するのも時間の問題かもしれない。
小町に抱かれるたびにそう思う。 そして僕と彼女の温度差も。

534ウェハース第十三話 ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/21(土) 17:44:24 ID:IAfhlHSE

「真治君、あの……」
「うん?」

媚びる様な、それでいて感知して欲しそうな目配せ。

「あのね、携帯を、その……」
「えっ、ああ、ドライブモードね。 はいはい」

小町は僕との時間を過ごすとき携帯の電源を切っている。
そして僕にはせめても、とドライブモードにするようにせがむ。 これが僕が時間に気づかない原因の一つ。

二人して隔離する、現実から僕と小町のいる部屋だけが時間も世間からも。

そういえば最近、『あのビデオ』の事は口に出さなくなった。
聞くことも無いけど、いつかはあれについても話をしなくちゃいけないんだろう。
僕たちの間には色んな物があって、関係が成り立っているように見える。

小町は自分から望んでこの関係に、僕は一度関係を終わらせようとした。 この差は絶対的だ。

いつか、いつか遠くない日に一度は全てを清算させる日が来る。
その日から僕と小町はどうなるんだろう。

途方も無いことだとは思わなかった。
自分は彼女と関係を持って、結ばれた。 だからきっと関係を見直す。
いつか、必ず。

「そろそろ、携帯を見ていいかな?」
「……、うん」

時計を確認するのに、了解を得なければならないなんて、どうかしてるのかも知れない。

携帯の電源ボタンを押して、ディスプレイを抱きついている小町の頭越しに見る。
七時過ぎか、四時から今まで三時間も抱き合ってたのか。

「小町、降りて」
「ん……」

袖をギュっと掴んで、小町は掴んだ袖の方へゆっくり移動する。

「帰るの?」
「うん? まあ、そろそろかなぁと」
「まだ、七時過ぎでしょ? 前は九時までいたんだから、もう少し……いなよ」

小町は袖を離して、腕を組んでくる。 この絡み方、最近多い気がする。

「九時に帰った時に言ったろ、母さんに釘刺されたって」
「う、うん。 分かった、ごめん。 じゃ、じゃあ家まで送るよ」
「いいよ、帰り道小町が独りになるだろ」
「そんなの、気にしないのに……」

正直、この時の小町を説き伏せるのが一番苦労する。
母さんに釘を刺されたのは本当だけど、今は小町のおかげで成績もいいから昔みたいに五月蝿くは無い。
ただ単に、僕が小町から離れようとしているだけだ。

535ウェハース第十三話 ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/21(土) 17:44:51 ID:IAfhlHSE

玄関まで小町は腕を組んだまま、僕はそれに何も言わない。 これ以上小町の機嫌を損ねると危ない気がするからだ。

「じゃあ、小町……」
「……うん」

名残惜しそうに、拘束を解く。
出来るだけ丁寧に靴を履いて、小町と対面する。

「明日、いつも通りに迎えに行くから」
「うん、用意して待ってる」

少し心が痛んだ。 本当は一人で登校したい。 そう思ったからだ。

「最後に、キスしてもいい?」
「うん、いいよ」

最後にまで、小町は体の接触を試みる。
多分、繋がっていないのではないかと、小町も思っているんだろう。
触れた瞬間、やんわりと体感する皮膚越しの他人の体温。 小町には皮膚が邪魔に思えて仕方ないのかもしれない。
でも、きっと皮膚越しじゃないと僕は火傷してしまう。 直感できる、それほどまでに差があるんだ、僕たちには。

「行くよ」
「うん、バイバイ。 また明日」

小町の家を出て、石畳の住宅街を一人で歩く。
心が窮屈な所からいきなり広い場所に出た気体みたいに一気に霧散する。

やけに高くなった空に息を吐く、もう秋も半ば。
そろそろ、駅が見えてきたころに三時間ぶりに携帯が振動した。

「小町だよな、やっぱり」

少しの間気づかない振りをしようか迷った後、また深く息を吐いて携帯の返信メールを打った。

536のどごし ◆Nwuh.X9sWk:2011/05/21(土) 17:46:29 ID:IAfhlHSE
はい投稿終わりです。
ホームページって作ってる方多いんでしょうか?

537雌豚のにおい@774人目:2011/05/21(土) 17:52:15 ID:cD/B./fI
お疲れ様です。
いつも楽しみにしてます。

初書き込みなのでsageとかできてますように

538雌豚のにおい@774人目:2011/05/21(土) 18:10:49 ID:OnpdYfDw
>>536
GJ!!
ようやく作品投下来た……ずっとコメも投下も止まってしまったから寂しかったぜ!

539雌豚のにおい@774人目:2011/05/22(日) 15:26:52 ID:oX5qWhYU
>>536 あまり知らないですが何人かはいますね

540雌豚のにおい@774人目:2011/05/22(日) 15:27:29 ID:oX5qWhYU
>>536 あまり知らないですが何人かはいますね

541雌豚のにおい@774人目:2011/05/22(日) 21:37:32 ID:OnpdYfDw
次の作品投下まだかな?

542忍と幸人 ◆O9I01f5myU:2011/05/23(月) 21:40:56 ID:j9.VA8uo
投下します。忍と幸人 第七話です。よろしくお願いします。

543忍と幸人 第七話:2011/05/23(月) 21:44:41 ID:j9.VA8uo

 トリップした頭を覚醒させたのはその日の晩、幸人宅の盗聴をしていた時の事だった。最初は取り立てて聞き入る事もない雑音や、あの女のぼやき事ばかりだったのが、ある時から状況が一変したのだ。耳に入ってきたのは呼び鈴の音と何者かの声、それに応対するあの女の声……どうも針巣が訪ねてきたらしい。
 意外と行動が早かったな。
 私は迷彩服を羽織り、イヤホンを繋いだ受信機を胸ポケットに入れた。手早く支度を済ませて家を後にし、真っ直ぐに幸人のいる公営団地に向かう。
 耳に入ってくるのは針巣とあの女との会話ばかりで、幸人の声は入ってこない。
 幸人は周囲にいないのだろうか? それとも、黙って二人のやり取りを見つめているのか……。
 針巣の声が耳に響く。
 「君は言ってくれたよね? 何時かはこの稼業から足を洗って、その時が来たら僕と一緒になってくれるって!」
 大人の男にしては情けない、弱々しい叫びだ。サユキはそれに対し、「ええ、いきなりどうしたの、針巣さん」と宥めようとする。余裕に満ちている声だ。
 「僕は君の助けになるならばと、君が喜ぶ顔が見られるならばと、色々と援助をしたりプレゼントも贈った。日々の疲れを癒せると思って食事に誘ったりもしたよね。君はその都度、何時もありがとうって言ってくれたよね」
 サユキに泣きつく針巣の姿が容易くイメージできた。
 「ええ、そうね。針巣さんには毎回助けられて、本当に感謝しているわ。貴方は恩人だから、私が借金を全て片付けられたら……一緒になりたいと思ってる。貴方の気持ちは本当に嬉しかったもの。それを実現できたらどんなに良いだろうって、どんなに素敵だろうって……」
 分かり切ってはいたが、これには開いた口が塞がらない。あの面の一体どこからこんな身の毛のよだつ言葉が出てくるのか。一度対面しているだけに、余計に気持ちが悪い。思い切りその口の奥にまで拳を打ち込んで悶絶させてやりたくなる。

544忍と幸人 第七話:2011/05/23(月) 21:47:22 ID:j9.VA8uo
 サユキの媚びへつらいに戸惑ったか、針巣の口が止まる。サユキが口から垂れ流す虚言に時折呻き声で答えるぐらいで、明らかに勢いが削がれているみたいだった。
 舌打ちをする。このままサユキに言い包められて終わってしまう節が色濃くなってきている。もっと胸の中にある不信感を吐露してしまえと毒づくが、無駄な後押しでしかない。肩ががっくりと落ちそうになった。
 あの女の不愉快な顔が公然とのさばり続けるというのか。冗談ではない。
 最悪、私自身が動くしかないか……。
 拳に血が滲むかというところで、ふと力が緩んだ。針巣が言葉の壁に包まれながらも一抹の抵抗を試みたのだ。

 「……そう言えば、僕が贈った鞄とかネックレスはどうしているの? 君が実際に着飾ってくれたのってあんまりないんだけど……」

 今日、私が指摘してみせたポイントだった。今までノータッチだった事に一言も二言も言いたかったが、はっきり問うただけでも上等か。
 サユキは少し言い淀んだ。言葉に迷いながら出した返答は意外と素直だった。「売った」の一言だ。
 針巣はそれを聞いて失った調子を取り戻したらしく、少し舌の回りが良くなった。「何故、どうして」と早口で問い掛け、彼女に詰め寄っていく。サユキは段々と疎ましくなってきたか、声色が変わってきているのがイヤホン越しに聞き取れた。縋りつく針巣を振り払おうとするサユキが目に浮かぶ。
 針巣の追及はさらに深みに行った。私が針巣に聞かせた盗聴内容の話だ。
 盗聴したという事実を察せられないかと思ったが、それは不要な心配であった。針巣の言は端的な物であったし、おまけにはっきりと「言っていただろう」と問い質すのではなく、「言っていたのではないか?」と確認する口調であった事も幸いした。皆まで口にすれば――本人は知らなかったとは言えども――幸人もただでは済まないであろう事を意識したのだろう。
 サユキは業突く張りで、さらに気が短い女だ。顔を合わせた時に見せたヒステリックな態度を思えば明らかだ。針巣のしつこい責めにいい加減辟易している事だろう。
 二、三やり取りをして、とうとうサユキが隠していた素顔を見せた。

 「グダグダうるさいね! 鬱陶しいったらない!」

 耳に突き刺さるサユキの声。彼女に問い詰めていた針巣は言葉を止めた。

545忍と幸人 第七話:2011/05/23(月) 21:49:49 ID:j9.VA8uo
 「ああそうよ! そうですよ! アンタなんか好きでもなんでもない! アンタはただ、私に都合の良いカモでしかないの!」

 立場は変わって、今度はサユキが全てを暴露をし始めた。その言葉の一つ一つが針巣を傷付けていく。

 「ちょっと優しくしてあげただけで自分が好かれているなんて幻想抱いちゃってさ、ホントにアンタは良い客だったわ。頼んでもないのに服や鞄にネックレス……色んな物を持ってきてくれちゃってさ、笑っちゃうわ! それで私の嘘も見抜けずにホイホイ貢いでくれちゃって……童貞を捨てて良い気になって、脳みそパープリンになったかと思ったわよ」

 言葉は止まらない。何時息継ぎをしているのか、よくもまぁここまで悪口が出てくると感心する。
 公営団地が見えた。耳には針巣の啜り泣きが微かに聞こえている。

 「これだから彼女もできやしない童貞野郎はうざったいのよ! 少し図星を突かれたら泣きだして! 全く……。もうアンタの顔なんか金輪際見たくもないわ! さっさと出て行って頂戴、根暗の童貞野郎が!」

 ガタン、ガタンと物が激しく叩きつけられる音がした。何かが倒れる音、崩れる音……男と女の怒声も……様々な音が混ざって一度に入り込んでくる。
 音が止んだ。誰かが荒々しく息づいている。サユキが針巣を殴り倒したのか。
 そう思っていたら、「な、何よ」と、明らかに動揺したサユキの声がした。

 「……してやる……」

 それに答える形で耳に響いた針巣の声は、腹の底から這い出てきた呪詛の声だった。

 「殺してやる……!」

 あのひ弱で、骨が皮を被っている体付きの針巣からこんな声が出るとは驚いた。
 ガタガタッと部屋の中を掻きまわす音と恐怖に染まった女の悲鳴、何かが倒れた音、その後に何かを激しく打ち付ける音が断続的に続く。くぐもった呻き声もそれに合わせて聞こえていたが、しばらくして途絶える。が、憎しみの込められた打ち付けはなお続いていた。

546忍と幸人 第七話:2011/05/23(月) 21:53:14 ID:j9.VA8uo
 階段の死角に回り、身を屈める。盗聴器から送られている音声は静かなものだった。ただ一つ、嗚咽を混じえて息づいているのが聞こえるだけだ。
 しばらく続いていたが、それが次第に遠のいていく。ドアが開かれる音がして、針巣が降りてきたのはあの騒動から十分近くは経っていた。
 死角からその背中を見送る。精も根も尽き果てたとはあの事を言うのだろう、風に吹かれればそのまま飛んで行ってしまいそうだった。
 針巣が闇夜に消えて行ったのを見届けてから、階段を上って部屋を覗いてみる。予想通りではあったが、それは惨憺たるものだった。テーブルの上に置かれていたのであろう、インスタントの食料品と皿がバラバラに散らばっていて、椅子も足が折れた状態で横たわっている。置き時計は文字盤が飛び、中の物がぶちまけられていて、二度と使えそうになかった。電気スタンドも傘と電球を粉々にされ、転がっている。床でキラキラと光っている欠片は鏡の様で、手持ち鏡か何かが力任せに割られたらしかった。
 それら普段目にする品々の無残な残骸はそれぞれが赤黒く染まっている。その残骸達に囲まれる形で倒れている女……サユキの腹から流れ出ている赤い水がそうさせていた。
 サユキの死体を調べてみる。脇に転がっていた包丁による刺殺――それも滅多刺し――が直接の死因であろうが、顔にも多数の打撲跡がある。顔面が変形する程のかなり痛々しいものだ。あの時の打ち付ける音はこれだったみたいだ。
 かつては美しかったその容姿はすっかり見る影を無くしていたが、ボコボコにされたこの醜い顔面は、この女の本性を体現しているとも言える。
 サユキだった肉塊を早々に見捨て、部屋の奥に入る。畳の敷かれた四畳と少しのその部屋の片隅に彼はいた。
 ――針巣について少し訊ねてみてくれないか?
 彼が遊びに来た日の帰り際、彼に頼んだ事だった。
 ――針巣という過去の知り合いがいて、彼がここら辺に住んでいるらしい事を聞いた。もしかすると、幸人のママが何かを知っているかもしれないので、それとなく訊いてもらえないだろうか?
 そんな名目で彼にお願いすると、彼は素直にそれを信じて了承してくれた。そのおかげで、針巣について、あの女の本音を握る事ができた。

547忍と幸人 第七話:2011/05/23(月) 21:55:39 ID:j9.VA8uo
 少し胸が痛む気がしないでもない。自分を散々虐待してきたとは言え、実の母親が殺されたのだ。それも針巣は、殺すだけでは飽き足らず、死後も痛めつけるのを止めなかった。
 人が人を殺す――それを彼は目にしたのだろう。ショックのあまりか、放心状態となってしまっている。あの人形になっている時とはまた違った様子だが、反応が薄いに変わりはない。
 頬を軽く叩き、強く名を呼び掛ける。しばらく続けてようやく彼が反応を見せた。

 「……おねえちゃん……」

 衰弱した声だった。飢えと渇きに苦しむ者が上げるとしたらこういった感じになるのかもしれない。

 「大丈夫か、幸人」

 彼の頭を胸で包み、ぽんぽんと頭を撫でる。頭の中の整理ができたのか、彼は次第に感情を見せ始め、嗚咽を上げて涙をボロボロと零した。

 「怖かったな……怖かったな……」

 よしよしと慰めるが、彼の塞き止められていた感情を止めるには至らない。赤ん坊が大声で泣く様に、幸人も大声を上げて泣いた。ついさっきまでは細かった声が、どこにそんな体力があったのか、あっという間に太く大きくなっている。

 「おねえちゃん……ママが……ママが……」

 頬を濡らし、話し辛そうな彼がようやく喋ったのがそれだった。
 彼の長い黒髪を手櫛で梳く。あの時、あの女はこの黒髪を千切らんばかりに引っ張っていた。幸人は痛みに顔を歪ませ、それでも文句を言う事すらもできなくて……最後には心のスイッチを切り替えて人形になってしまっていた。
 そんな事が日常的に繰り返され、そればかりか売春までさせられていた。にも関わらず、幸人は母親の死をここまで悲しんでいる。
 そうか……幸人、お前はまだあの女の悪夢に憑かれているんだな……可哀想に……。
 彼の涙と鼻水で塗れた顔に両手を添え、口付けをする。
 幸人、もう大丈夫だ。あの女は地獄へ堕ち、永遠の苦しみに身を焼かれ続けるんだ。今まであの女がそうしてきたのと同じで、今度はあの女が地獄の鬼達に食らい尽くされる。永遠に……。
 唇と唇の触れ合いに緊張の糸が切れたのか、彼は意識を手放した。
 彼を静かに抱き上げ、その部屋を後にする。この部屋の主はもうこの世にはいないのだから、幸人がここに留まる意味はない。

548忍と幸人 第七話:2011/05/23(月) 21:57:10 ID:j9.VA8uo
 今後、この部屋に纏わりつく噂は人を遠のかせ続けるだろう。殺人事件が発生し、床が血に染まった部屋に住む酔狂なんてそういない。この部屋は朽ちるまで、そこに横たわる女の棺桶となるのだ。
 視線を左右にやる。忘れてはいけない物は瓦礫の陰にひっそりとあった。私が幸人に贈った紺のボールペンだ。この騒ぎのおかげで少し傷が付き、色が剥げてしまっている。
 おもむろに拾い、迷彩のジャケットの胸ポケットに忍ばせる。これをここに置いたままにするわけにはいかない。幸人と私の掛け橋になってくれたのもあるが、何より警察の手に渡ったら面倒だからだ。
 ボールペン型盗聴器――ペン軸の中に集音マイクが内蔵されていて、かつ普通のボールペンとして使用する事も可能。数万の出費は決して安いものではないが、結果から言えばお釣りが来る買い物だった。

549忍と幸人 ◆O9I01f5myU:2011/05/23(月) 21:59:03 ID:j9.VA8uo
投下終了です。

セリフとト書きの間の空行をいくつか忘れている……しまった……グダグダしてる……。

550雌豚のにおい@774人目:2011/05/23(月) 22:08:38 ID:jUBnc0Rc
乙~
続き待機

551雌豚のにおい@774人目:2011/05/23(月) 22:42:55 ID:OnpdYfDw
>>549
GJ!!
投下お疲れ様です!キレた針巣も恐ろしいが、ここまで仕組んだ忍も怖い…知恵も力も兼ね備えた怪物ですな…

552雌豚のにおい@774人目:2011/05/24(火) 01:04:08 ID:8wmymsvo
>>536
>>549
GJ
久しぶりにきたけどやはりヤンデレはいい

553雌豚のにおい@774人目:2011/05/24(火) 02:14:30 ID:1jUhFoWU


554雌豚のにおい@774人目:2011/05/24(火) 21:09:43 ID:blmKVXU6
こんなスレがあったのか
なんてスバラシイ、ココが桃源郷か……

555雌豚のにおい@774人目:2011/05/24(火) 22:17:05 ID:OnpdYfDw
>>554
いいえ、天国とヘブンです。
次の作品投下まだかな?

556雌豚のにおい@774人目:2011/05/24(火) 23:12:05 ID:pYSIEAn6
乙です

だがボールペン型盗聴器という言葉で某少年探偵団が出てきてしまった

557雌豚のにおい@774人目:2011/05/25(水) 14:24:45 ID:rzLjWKfw
☆真一

558雌豚のにおい@774人目:2011/05/25(水) 15:59:50 ID:OnpdYfDw
次の作品投下まだかな?

559雌豚のにおい@774人目:2011/05/25(水) 19:46:29 ID:Dl8hYcps
催促鬱陶しいからやめれ

560雌豚のにおい@774人目:2011/05/26(木) 19:28:58 ID:vDsS1sW6
さすがにどういですかね・・・・まだかというのはおもっているだけでいいとおもいます。毎回機械のようにおなじせりふですし

561雌豚のにおい@774人目:2011/05/26(木) 22:13:32 ID:DZWfd5s.
>>560
新参者か?スレなんて同じ様なセリフだらけさね。
問題なのはむしろお前。サゲろ。
さすがにどうい?日本語でおk

562雌豚のにおい@774人目:2011/05/26(木) 22:25:09 ID:jUBnc0Rc
とりあえず>>558はそろそろ催促を自重しろ。まあ、こんなこと言ってもどうせ意味無いんだろうな

今までのレスからしてそんな感じがする

563雌豚のにおい@774人目:2011/05/26(木) 22:26:34 ID:mRU1mPFg
「次の作品投下まだかな?」

このセリフはもはや荒らしだろ本スレでも使いまくりやがって

564雌豚のにおい@774人目:2011/05/26(木) 23:30:38 ID:SRfnHyf2
ごめんなさい。

565雌豚のにおい@774人目:2011/05/27(金) 00:19:26 ID:p3wruYTc
本スレに続いて避難所までひどい空気なんだけど
投下しづらい

566雌豚のにおい@774人目:2011/05/27(金) 00:28:02 ID:6InfeItA
逆に作者でもこういうところに投下するんだったら
少しぐらいの罵詈雑言はスルーしてもらえないと
まず2ch自体に向いてないと思う

いくら作者が貴重とはいえ、無理に投下してもらうのも
忍びないからな

567雌豚のにおい@774人目:2011/05/27(金) 00:32:58 ID:OCJkHbsY
作者がそんなレスすんなよ
荒らしの思うつぼだぞ

568雌豚のにおい@774人目:2011/05/27(金) 06:05:44 ID:jUBnc0Rc
>>565
じゃあ、投下して黙らせろよ
このくらいで一々弱音吐かれてもどうしようもない。スルーって知ってるだろ?

569雌豚のにおい@774人目:2011/05/27(金) 15:52:42 ID:WyTJb3dE
もう余計な事書かないで投下を待ってるって事はできないんかよ

570雌豚のにおい@774人目:2011/05/27(金) 18:30:31 ID:OUCkuZ06
本スレもここも変わらないな。

571雌豚のにおい@774人目:2011/05/27(金) 21:05:14 ID:2ytZYwv2
「わたしをはなさないで」は、名作

572 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/27(金) 23:02:10 ID:/ej2yWxw
五月と冬が思った以上に筆が進まず……。
つい、今日は短編に浮気してしまいました。
ヤンデレってストーリーと絡めるのがすごく難しい気がします。
自分だけですかね(´・ω・`)

ヤンデレかどうか曖昧ですが……。
ドMヤンデレという趣旨で、短編を書いてみました。
今回、二度目の投稿ですが、またもや見直しが雑です。眠いせいです。多分。
アドバイスを是非いただきたいです。

投下します。

573Beside a Brook ◆gSU21FeV4Y:2011/05/27(金) 23:05:05 ID:/ej2yWxw

家庭的で、可愛らしくて、素直で、恥ずかしがり屋で……。
彼女に対する俺の印象というのはそんな感じだった。

俺は今、正座をして彼女の説教を聞いている。
何度目だろう、こうして彼女にお叱りを受けるのは。

俺の中で嫉妬深いという印象は、彼女に対して持っていなかった。
クラスの女子生徒と話をすると、放課後彼女の家に無理やり連れて行かれ、説教。
女子とのメールを制限され、制限を破ると説教。

最近は嫉妬深さがさらに酷くなった。
ある時、彼女も興奮していたせいもあっただろうが、
視界に私以外の女の子を入れないでと言われたことがあった。
そらぁ、無理ってものですよ、沙世ちゃん。

彼女、沙世の説教は長い。
今日は授業中に隣の席の女子が落とした消しゴムを拾ったことで説教を受けている。

「あのねぇ、進一くん。落ちた消しゴムなんて、自分ですぐに拾えるでしょう?
なんでわざわざ君が拾うのさ。
まさか浮ついた気持ちを持っているわけないよね……?」

「まさか。沙世、俺は君だけを……」

「うるさいっ!」

右の頬をぶたれる。
以前に右の頬を打たれたら左の頬も差し出せ、というのを聞いたが……。
今の自分にそんな余裕ない。

574Beside a Brook ◆gSU21FeV4Y:2011/05/27(金) 23:08:25 ID:/ej2yWxw
目の前の彼女は怒りに我を忘れている。
怒りの対象は俺か、はたまた相手の女子か。

俺はほとぼりが冷めるまで、ただ謝るしかない。
謝って、沙世への愛を口に出す。
我ながら滑稽というか……自嘲的な笑いが漏れる。

彼女はふぅーっと息を吐く。
この溜息を合図に説教が終わる。いつものことだった。

「じゃあ、もういいから……」

彼女は椅子を出し、俺の前に置いた。
俺は正座の体勢から立ち上がり、置かれた椅子に座る。
彼女の態度は急に変わる。
先ほどまで、鬼神のごとく怒っていたのに、急にだ。
急に、俺に甘える。

「ね……いつもの……」

彼女は俺の首に手を回し、唇を重ねた。
舌を彼女の口内へ侵入させ、舌を絡め合う。
口の中を愛撫すると彼女の顔は紅潮し、艶やかな喘ぎ声を漏らし始める。

「んぅ……ふぅん……う……」

彼女は顔を離し、床に寝転んだ。

「……おねだりは?」

「進一……意地汚い私を踏んで……慰めてください」

いつも、しているやりとり。
スムーズなやりとり。様式美のようにも思える。

「ん、上出来」

彼女の言葉を聞いて、満足したふりをする。
寝転んだ彼女のお腹を優しく踏む。
あぅ、と小さく喘ぎ、沙世は呼吸を荒くした。

「もっと……強くぅ……」

「はいはい……」

575Beside a Brook ◆gSU21FeV4Y:2011/05/27(金) 23:10:26 ID:/ej2yWxw
踏む力を少し強める。
沙世はいじめられて喜ぶ。簡単に言えば、言ってしまえば変態だ。

「変態、踏まれて喜んでんの?ドマゾ」

「あああっ!もっと!進一くん!」

彼女はお腹への痛みに、体をくねらせる。

付き合ってから何度目かの説教の後に、さっきは悪かったと謝罪された。
そのときだった、お仕置きを頼まれたのは。
嫉妬深い私を許してほしい。嫌いにならないでほしい。

最初のうちは、ほんとに軽く。
彼女を大切に思っていたから。もちろん今もだが。
お仕置きなんてとても……。俺は気にしてないから……。
そういったが彼女は聞かなかった。

お仕置きされないと、私の気が済まない。進一くんにはひどいことを言った。

彼女は何を言ってもその一点張りだった。
渋々、彼女にお仕置きをした。

それから先も何度か。渋々だ。

何度目かのお仕置きの時に、彼女の性癖に気づいた。
お仕置きをされている時の彼女の表情を見ていて、次第に自分もいじめるのが快感になってきた。

説教をされている時と、その後。
立場は真逆になる。

576Beside a Brook ◆gSU21FeV4Y:2011/05/27(金) 23:12:30 ID:/ej2yWxw
沙世のお腹を一定の間隔で踏む。
怪我をしない程度に。快感に繋がる痛みになるように。
愛をこめて踏む。

「ふっ、ああぅ、うん」

踏むたびに喘ぎ声が漏れる。

「進一くん……あっ、ふう、えあ、お腹っ、以外も」

「ん、お腹以外って?」

沙世のお腹をゆっくりと踏みまわす。
強弱をつけることで、彼女により快楽を送ることができる。

「あ、の、胸とか」

「とか?」

今度はぎゅーっとお腹を圧迫する。

「うううぁぁあ、はぁっ、下もぉ……」

「まあ、いいや。胸、踏んでやるよ」

左足で胸を、右足でお腹を継続して踏む。
沙世の顔に一筋、汗が伝っている。
彼女の表情はとろんとしていて、踏まれて幸せなのだろう。

胸を踏まれた彼女は喘ぎ声を高め、快感に身をよじっている。

「ふぅ、ふぅん、はっ、ふっ」

沙世は太ももを擦りあわせ、切なそうな表情を浮かべている。

「うはぁあ……、うぅあ、し……たも」

「え?もう一回」

「し……た……うぁ……も」

577Beside a Brook ◆gSU21FeV4Y:2011/05/27(金) 23:14:16 ID:/ej2yWxw
ここで素直に沙世の秘部を踏んでも、駄目だ。
わざと、聞こえないふりをする。
そうすれば、彼女はもっと喜ぶ。

「何?聞こえない」

右足をお腹から離し、沙世の顔を踏む。
少しずつ、少しずつ。徐々に踏む力を強める。

「ああああっ!」

「ほら、早く」

右足で沙世の顔を圧迫しつつ、左足で胸を撫でまわす。
彼女のスカートの中の太ももが艶めかしく蠢いている。
手は自由であるのに、自分でそこを触ろうとはしない。
あくまで俺に踏んでほしい、のだ。

「わ、私のぉ」

「ん?」

ぐりぐりと顔を踏みにじる。
踏みにじるといっても苦痛にならない程度に。

「私のおまんこを踏んでください!」

「よく言えました」

沙世の股間を左足で踏む。足の指を動かして、そこの周りも愛撫する。

「顔を踏まれて、足で慰められて、恥ずかしくない?
こんなんで感じて……ド変態」

顔と股間にぎゅーっと圧力をかける。

「ううぁ!もっもう、あっ!」

「何もうイクの?」

右足の圧迫を少し緩め、ゆっくりと股間を撫でる。

578Beside a Brook ◆gSU21FeV4Y:2011/05/27(金) 23:15:40 ID:/ej2yWxw

「ああっ!イカせてっ!進一っ!」

「どうしよっかなー」

わざとらしく、言う。
足で、パンツの上から割れ目を広げる。
パンツはべちょべちょに濡れていて、履いていた靴下が湿ってしまった。

「んぅあっ!も、もう……!」

「あー、しょうがないな」

沙世の足を手で押さえ、股間に密着させた足をぶるぶると震わせる。
俗に言う、電気あんまだ。
彼女は焦らされた反動からか、激しく身をくねらせ、快感に悶えた。

「ああああああ!」

絶頂とともに叫び声とも取れる喘ぎ声を出し、身を反らすと、沙世はぐったりとなった。

呼吸は荒く、顔も紅潮していたが、表情はいつも通りの彼女だ。

彼女を抱き起し、お姫様抱っこで床からソファまで運ぶ。
自分で歩けるよ、と恥ずかしそうに笑う沙世が愛おしかった。

「お疲れ様、ちょっと物足りないかな?」

そういって、沙世に軽くキスをした。

「お疲れ様……少しね……」

にっこり微笑んだ彼女は可愛らしかった。

それを見て満足した。
自分ののどが渇いていることに気付き、冷蔵庫のドアを開ける。

579Beside a Brook ◆gSU21FeV4Y:2011/05/27(金) 23:16:54 ID:/ej2yWxw
開けた瞬間。

首に衝撃が走る。

全身の力が抜け、後ろに引き倒される。

「……進一くん……」

倒れた俺の目には沙世が映っている。

「私だけを見て……」

彼女の手にはスタンガンが、ある。
それを俺の首筋に当てた。

恐怖で歪んだ俺の表情を見て、彼女は心配するなと言いたげに微笑んだ。

「気絶するだけだから……ね?」

鋭い音と共に、意識が遠のいていく。
その鋭い音はスタンガンの衝撃音か。
はたまた意識の糸が切れた音か。

どっちも大差ない。

俺が目覚めたとき、どうなっていることだろうか。
ゆっくりと、まぶたが落ちる。

580 ◆gSU21FeV4Y:2011/05/27(金) 23:21:16 ID:/ej2yWxw
投下終了です。短編は書いてて楽しかったです。
病んでるのかどうか、微妙なラインですが……。
もっと、ほかの方の作品を読んで勉強したいと思います。

では、お休みなさい〜。

581雌豚のにおい@774人目:2011/05/27(金) 23:24:08 ID:qQfzNTDQ
>>579
GJ!!
リアルタイムで読んだ
沙世ちゃん良いな
良い感じにいっちゃってるようだ

582深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/28(土) 01:08:57 ID:xYocYX82
>>580
マゾキャラ・・・・・・実は俺が書きたかったタイプのキャラなんで、楽しめつつ参考になりました。
五月の冬はかなり期待しています。まぁ、ゆっくりあせらず自分のペースで。

自分的にはヤンデレは絡め易い方だと思う。でも俺は想像力が無いんで、絡ませるのに一苦労です。

というわけで、投下します。

583深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/28(土) 01:09:28 ID:xYocYX82

第八話

「お世話になりました。このご恩、忘れません」

「おう、アンタの大先生とやらが見つかるといいな!早く追いかけな。
それと、あっちの話色々聞けて楽しかったぜ」

俺をこの家に残し、ミューを一人探しに行った先生を追いかけるため、
一泊した家のご主人に礼を言って、足早に背を向けて歩き出す・・・・・・
といきたいところだが、ミューが森で仲良くなったというミアちゃんとやらと泣きながら、
別れを惜しんでいるため、事はそう運ばない。

「おっぱいおねーちゃん、みあのおねーちゃんになってよぉ・・・・・・
もっととまっていってよぉ・・・・・・もうミア、たんこぶいらなーい」

「ごめんミアちゃん・・・・・・そういうわけにはいかないの。
でも、またいつか絶対来るからね、約束するよっ・・・・・・!」

「ほんとぉ・・・?」

「うん・・・・・・また会いに来るから、ね?」

「いやぁだーーあ、おっぱいおねーちゃんがいなきゃミアひんにゅーになっちゃう」

うーん、ミアちゃんもなかなか頑固だ、これは手強い。
痺れを切らしたミアの姉がミアちゃんにげんこつ。普通に痛そう。

「こら!迷惑かけちゃだめでしょ、深優さんも竜史さんもやる事があるの!
竜史さん達、駄々っ子押さえておきますから早く行ってくださいな」

「そ、そうですか・・・・・・では、皆様ご達者で。おい、ミュー行くぞ」

ミアちゃんの泣きっぷりを見て、
もらい泣きをするミューの手を引き、その場を後にする。

「出会いがあれば別れもある。またいつか会いに来ればいいじゃないか」

「うん・・・・・・お兄ちゃんの言う通りだね・・・」


・・・・・・・・・この集落は森の出口に近いので、なんなく外に出る事が出来た。
外の世界は、見渡す限りの若葉色の大平原であった。
俺の住んでいた大琉ノ町は、海岸沿いで、丘林が無数にあり、
住宅が密集した所であったため、広大な草原など無かった。
ミューはとなりで目を輝かせながら、一足先に駆け出す。

「はぁ・・・・・・どこまでもきれいな緑色・・・・・・びっくり・・・・・・」

「ああ、世界は広いんだな・・・・・・来て良かった」

二人で感動しつつ、西へ向かって進む。
さきほどの森のときもそうであったが、初めて見るような草木、花、動物、虫、人工物。
陽ノ国のものと似ているようで似ていない・・・・・・異国に来たんだと強く感じた。


・・・・・・・・・・・・十町ほど歩いた頃であろうか、
まえから三人組みの帯刀した男が歩いてくる。
よからぬ気配を感じたので、やや進行方向を変える。
それを見た奴らは一斉に俺たちに向かって走り出した・・・・・・どうやら賊らしい。

「ミュー!走れ!振りかえるな!行け!」

ミューは俺の百歩ほど後ろで花摘みをしていて、二頭目の冠を作っているところだった。
語気を荒げた命令を聞くなり、駆け出そうとするミューに、
奴らの狙いであろう金銭等の入った袋を投げ渡した。
そしてミューの後ろ姿を懸命に追いかけたが、いかんせん俺は足が昔っから遅い。
少しも持たないうちに、奴らに距離を詰められてしまった。
ミューさえ逃がせば上出来だと考えた俺は、
反転すると同時に抜刀し、迎え撃つ姿勢で臨んだ。
勇ましく対峙したのはいいものの、命を脅かされるような場に出くわした経験はない。
心臓の小さい俺は、恐怖に体が震えて仕方がなかった。
だって死ぬかもしれないんだぞ?

「な、な、なんだよっ!」

「おめぇが思ってる通りだよ、花の輪っかなんて被りやがって」

真中にいた頭らしき男が凄みのある声で脅す。
右には眼帯男、左には斧を持った太り気味の大男。
全員濃紫色の髪をしていて、どうやらヴェイルハマ系らしい。

「はっ、こいつ震えてやがる!ちょろいな・・・・・・黒髪?東から来たのか」

「なんだよ、ふざけんなっ!・・・・・・金なら三分の一やるから、さっさと消えてくれ」

「ガキ・・・馬鹿言え、有り金とあの水色の女を貰う・・・おめぇは死にな」

死ねって・・・・・・やっぱり賊か?ほんとついてねぇ。
三人相手にやれるのか?ミューにも気を配らなくちゃいけない。
だが、やるしか・・・・・・先手を打つ!

584深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/28(土) 01:10:12 ID:xYocYX82

正眼の構えから、右横になだれ込むように胴を狙って斬り上げる!
決まった・・・!眼帯男は全く反応できず、腹を抱えて地に堕ちる。

すぐに地面を蹴り上げ、残りの二人と間合いを取る。
頭格の男が怒りを込めた表情で雑に刀を振り下ろす、しかし俺には鈍いっ!
一撃をかわすと同時に、逆袈裟斬りをお見舞いをする。
眼帯男は少量の血しぶきをあげて、ひざをつく。
・・・いける!斧のやつと一対一!

「どうだ!お前も諦めて帰れ・・・頼むからっ・・・・・・無用な血を流したくない」

「悪いなあんちゃん、俺はあの女が欲しい、遠くからでも上玉だってわかるぜ。
つーわけで、大人しく死んでくれ」

にやついた表情で斧片手に突進してきた。
一直線の残像を描いた強烈な振り下ろしが俺の右横を掠めるっ・・・早い!
奴の振りは異常に早く、かわしたり、受け止めたりするだけで手一杯。
攻撃の手を考えさせる暇を全く与えない、容赦ない押し。

五回目の振り下ろしだろうか、その一撃は俺の前面で空を切り、大地に深く刺さる。
好機と見て、やっと反撃・・・・・・しかし、体当たり気味の諸手刈り!まずい!
突然突進してきた奴にガッチリと固定された俺の体は、
空高く抱え上げられ、地面に背中から落とされる。
そして思いっきり右肩を踏みつけられる!
息が苦しく激痛が全体に走り体が動かない。
くそ!やられた、肩外れてるな・・・・・・そう思う間もなく、
奴は胸部を思いっきり踏みつけ、俺をいたぶる。
呼吸が苦しすぎて力が入らず、抵抗空しく負けた。

俺はミューが走り去って行った方向に目を凝らし、逃げてくれることを願ったが、
こちらに走って駆け寄ってくるのが確認できた。
・・・なんで来るんだ、来るな・・・!

「おっ、お兄ちゃん、を、見逃して・・・・・・下さいっ!お願いします・・・・・・!」

ミューは跪き、泣きながら必死に懇願する。
とても体が震えている・・・・・・きっと恐ろしくて仕方がないのだろう、
なのにそれでも俺を・・・・・・俺はなんて不甲斐ない!

「・・・・・・まだまだガキみてぇな顔してるが、いい体してる・・・・・・そそるぜ。
おい娘!こいつ返して欲しいか?」

「はい、お願いします!お兄ちゃんは、もの凄く、いい、人で、
・・・・・・私、お兄ちゃんがいないと・・・・・・お兄ちゃんは全てなんですっ!
お金ならこれで全部ですっ・・・・・・私の刀も差し上げますから」

「はっ、兄貴かよ、人種が違うじゃねぇかよ、ハハハ、まぁいい俺には関係ねぇ。
金目の物は全部貢いでもらうぜ、こいつの刀もな。
おい娘!こっち来い」

ミューは体を縮こませながら近づいてくる。
普段のミューで考えられない勇気、限界を振り切ってるに違いない。

「・・・・・・お兄ちゃんの刀だけは、と、取らないでっ、貰えますかっ・・・・・・
すごく大事にしているものなので・・・・・・」

「いいからこっち来い!」

奴は強引にミューの手を引き、自らの体に引き寄せる。
有無を言わせない態度でミューの体をまさぐり、首筋や顔に舌を這わせた。

「へっ!なんで泣いてるんだ?そうか、こんな弱っちい兄貴を情けなく思ってるからか。
じゃぁ今日から最強の俺が兄貴だ、うれしいだろ?
それにしてもよぉ・・・・・・綺麗な肌をしてるし、体も柔らかいな、最高の揉み心地だ。
ああ、今すぐ犯してやりてぇ」

ミューの着衣は乱れ、体中奴の唾液だらけで、唇も強引に貪れている。
奴の言う事を何でも聞いて、全く抵抗せず、玩具のようになすがままにされている。

「グスン・・・・・・私のこと、好きにしていいから、お兄ちゃんを離してあげて・・・・・・」

あまりに残酷な光景に耐え切れなくなった俺は、
無駄な足掻きだとは思いつつも、力を振り絞って奴の足に噛みついた。

「!?いてぇだろがクソ野郎!」

ガハッ・・・・・・肺を潰された・・・・・・踏みつけんなよ、容赦ねぇな。

「イラつく野郎だ、お前の首を晒してやる」

そう言うと、五歩先に転がっていた斧を取り、高く振り上げる。
今度こそ完全に終わった、ミュー、本当にすまない・・・・・・。

585深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/28(土) 01:11:03 ID:xYocYX82

そう観念した瞬間、奴がもの凄い早さで視界から消えた!
何が起こったのだろうか、二十歩先まで飛ばされている。
霞んだ視界でミューに目を遣ると、足を高く突き出した状態で制止していた。
まさか、あんな巨漢を足蹴にしたっていうのか?

「お兄ちゃんを誰からも奪われない、危害を加える者は全て私が・・・・・・」

呪詛のような呟きを発しながら、奴に近付いていく。
奴は顔を真っ赤にしながら、ミューに向かってがむしゃらに振り下ろす。
ミューは余裕でかわし、顔面に強烈な突きを入れる。
その一撃で奴の右顔面が陥没し、大きくのけ反る。

その後は完全なるミューの一方的攻勢で、大きな豚の肉を叩いているよう。
なんせ奴の白地の服は、殴られすぎて真っ赤な鮮血で染まっていたからだ。
俺は唖然として言葉も出なかった、ミューの言動と異常な強さに。
返り血をふんだんに浴びても、表情からはなんらの感情も読み取ることができず、
淡々といつもの仕事をこなしているかのように見える。
あの愛嬌のある表情をするミューと同一人物なのか疑う。
はっきり言って、奴らより今のミューのほうが畏怖の対象であるかのようだ。

百発近く殴られ続けた斧男は、完全に動かなくなる。
ミューは前触れなく向きを変え、軽傷を負っているほかの二人に近づいていくが、
奴らはそれに気付き半乱狂になって逃げていく。
それを見届けると、俺の方へ小走りしてきた、天真爛漫な笑顔で。

「お兄ちゃんすごいでしょ〜、私悪い人やっつけたよ、もう大丈夫だよっ。
褒めて褒めてぇ、いつもの頭なでなでするのして欲しいな〜えへへ・・・・・・」

ミューの瞳は、異常なまでに純粋な混じりっ気のない清らかさを湛えていた。
俺の頭に一瞬で、ミューであってミューではないことに
衝撃的な変わりようを目の当たりにしたためか、むしろ頭はすっきりし、体も軽く感じる。
にもかかわらず、返す言葉が見つからない。

「・・・・・・そっか、お兄ちゃん体が痛いんだ。
私が近くの村まおんぶしてあげる、それですぐにお医者さんに診てもらおうよ。
ねっ、お兄ちゃん?・・・・・・頷くだけでいいから、
・・・・・・なんで返事をしてくれないの?何かまずいことしちゃったかなぁ」

できれば触れたくなかった事だが、勇気を出して尋ねる。

「・・・・・・斧持ってる男、なんで動かないんだ?」

「お兄ちゃんに酷いことしようとしたから、ちょっとだけお仕置きしたよ。
でも、すぐに動かなくなっちゃった」

「死んだってことか・・・・・・?」

「うん!兄妹愛は偉大だねっ!」

手を汚させてしまったことに深い罪悪感。
天を仰いだ。
堪らずゆっくりと上体を起こし、ミューを抱き寄せた。

「あ・・・・・・私を抱きしめてくれるの・・・・・・嬉しい、頑張って良かったなぁ。
ふぁ〜、やっぱりお兄ちゃんの匂い大好き、いい匂い・・・・・・落ち着く」

「もう何も考えるな、言うな、思い出すな、何も起きなかったんだ、いいな?」

「うん分かったぁ・・・・・・」

「分かればいいさ・・・・・・おい、眠たそうだな」

「うん・・・・・・お兄ちゃんに抱かれるとすぐに眠たくなってきちゃうの、何でかな」

「ミュー、眠って今日のことは忘れろ」

「ありがとう、私、世界一幸せな人だね、
お兄ちゃんがこんなに大事にしてくれるもの・・・・・・
お兄ちゃんは私がずっとずっと守るからね・・・・・・」

もう少しやりとりしたところで、ミューはすやすや眠ってしまった。
ミューをおぶって、近くの町まで移動しようとしたが、
悪人とはいえ、盗賊の奴にも手を合わせ冥福を祈らねばと思い立ち、
血だらけの草地へと歩み寄る。
・・・・・・もはや肉塊と呼べるものになっており、一瞬で吐き気を催した。

横たわる屍を前に、俺はむせび泣いた。

586深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/28(土) 01:12:42 ID:xYocYX82
投下以上です。
お休みなさ〜い。

587深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/05/28(土) 01:22:50 ID:xYocYX82
すいません、>>584の中盤あたりに脱字あり。
wikiに張られたときに直します。

588雌豚のにおい@774人目:2011/05/28(土) 03:35:09 ID:OnpdYfDw
お二方GJです!!
深鈴は久し振りの投下ですね、短編もかなり久し振りですが…長編と短編が両方来るなんて…今日は吉日だ!(ヤンデレ的な意味で)

589雌豚のにおい@774人目:2011/05/28(土) 06:32:04 ID:jUBnc0Rc
乙です

590雌豚のにおい@774人目:2011/05/28(土) 13:10:46 ID:vH75Z.1g
GJ
紅子のときは普通だと思ってたけどみゅーちゃんはしっかり切り替えられる子でしたか

591雌豚のにおい@774人目:2011/05/28(土) 20:31:35 ID:kS6pN3Rs
お茶会おもしろすぎ
作者さん 今どうしているのかな?

592雌豚のにおい@774人目:2011/05/28(土) 20:35:25 ID:cYrU4khg
>>591
四面楚歌ってサイトで同人活動とかやってたと思う

593雌豚のにおい@774人目:2011/05/28(土) 20:38:57 ID:kS6pN3Rs
>>592
ありがとう

594雌豚のにおい@774人目:2011/05/28(土) 22:39:28 ID:vH75Z.1g
これはいい情報もらった
ありがとう

595雌豚のにおい@774人目:2011/05/29(日) 00:28:29 ID:zNZqv.x6
お茶会はここでたびたび話に出てくるぐらい評判が良いよね

596雌豚のにおい@774人目:2011/05/29(日) 00:34:38 ID:FmLH/Ph2
GJ!!
みゅーちゃん兄者の愛を確かめたかったんかな
満願成就ッッ!! 悪者粉砕ッッ!!

597雌豚のにおい@774人目:2011/05/29(日) 13:00:31 ID:/ej2yWxw
>>586
乙です。
みゅーちゃん半端ないですね。
どういう血筋というか……いろいろ気になります。

598雌豚のにおい@774人目:2011/05/29(日) 22:56:01 ID:DZWfd5s.
みんな覚えているだろうか

あれからもう少しで一年経つのか
ほととぎす

599雌豚のにおい@774人目:2011/05/29(日) 23:02:12 ID:OnpdYfDw
ほととぎすねぇ…何か先輩が暴走した所でおわっていたような…

600雌豚のにおい@774人目:2011/05/29(日) 23:16:09 ID:zNZqv.x6
やめてくれ!
せっかく意識しないようにしてたのに思い出しちゃったじゃん!!


嗚呼、無形氏は何処に…

601 ◆O9I01f5myU:2011/05/30(月) 00:21:05 ID:j9.VA8uo
upてすと

佐原忍
http://pic.vc/?znaRRGsC

自作のキャラクターを描いてみたのを貼ってみたり。見られるだろうか……。

アップローダーとか、どこのものが良いのだろう……。


……ほととぎすか。私も好きでした。

602雌豚のにおい@774人目:2011/05/30(月) 00:41:34 ID:rzLjWKfw
素子っぽい

603雌豚のにおい@774人目:2011/05/30(月) 00:44:54 ID:j9.VA8uo
素子とは何ぞ?

604sage:2011/05/30(月) 00:58:00 ID:HxupGV9A
あいつはイッちまったのさ

605sage:2011/05/30(月) 03:10:23 ID:aNFYsYqg
>>601
俺の思っている忍のイメージと違う・・・・
俺の想像していた忍を5分で描いて投下イラストに載せてみました

606雌豚のにおい@774人目:2011/05/30(月) 09:57:50 ID:myC/DxZM
二人ともGJ
絵の描ける人はいいなあ

607雌豚のにおい@774人目:2011/05/30(月) 12:51:59 ID:rXWPK6mY
>>603
横からだが多分攻殻機動隊

608 ◆O9I01f5myU:2011/05/30(月) 14:15:27 ID:j9.VA8uo
>>605
五分で……だと……。
絵上手いですね。マジ羨ましい。

そして、ありがとうございます。書いて頂けるとは思わなかった。嬉しいです!


>>607
攻殻機動隊のキャラクターでしたか。
検索してみよう。

609雌豚のにおい@774人目:2011/05/30(月) 22:22:22 ID:wRRkdNRo
いや、あんたらsageくらいは最低限しましょうよ

610雌豚のにおい@774人目:2011/05/30(月) 22:24:21 ID:OnpdYfDw
何か結構sage忘れやすいよな……

611避難所の中の人★:2011/05/30(月) 22:36:32 ID:???
ID変動に戻しました
以後、議論しなければならないことが出てこないかぎり変更はありません

612雌豚のにおい@774人目:2011/05/30(月) 23:15:47 ID:PbtGn4VU
>>611
おつー

613雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 00:18:40 ID:Cr1nhhTs
>>611
乙です

ここの掲示板ってsage必要なの?
スレ4つしかないけど

614雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 00:28:57 ID:UyVCN6lI
地球は>>611乙の養殖じょ…ってこれは違うスレ


初投下させていただきますたった2レスですが
設定が小1ということで、小1までで習う漢字しか使用していないので大変見難いです。申し訳ございません

ついでに投下直前にネタが近い作品をこのスレで見つけてしまったのは秘密
だが私は謝らない

615雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 00:29:46 ID:UyVCN6lI
7 月 16 日(土)
きょうからなつやすみがはじまりました。きょうは雨がふったのでいえでしゅくだいをしました。

7 月 17 日(日)
きょうはともだちのしょうくんたちと学校の校ていでサッカーをしました。りつくんが3かいごーるしてすごいとおもい

ました。とてもたのしかったです。

7 月 18 日(月)
きょうもはれたので学校のプールであそびました。こうきくんはおよぐのがとてもはやかったです。

7 月 19 日(火)
ちかくにすんでるあいちゃんがいえにあそびにきてくれました。やんでれ?ごっこというものをやりました。あいちゃ

んがちょっとこわかったです。(あいちゃんにおしえてもらいました)

7 月 20 日(水)
きょうもあいちゃんがあそびにきてくれたので、すこしだけしゅくだいをやってからあそびました。(あいちゃんにおし

えてもらいました)

7 月 21 日(木)
きょうはあつかったのですいかをたべました。おいしかったです。(あいちゃんにおしえてもらいました)

7 月 22 日(金)
しょうくんたちとあそぼうと学校へいってたら、ぐうぜんあいちゃんとあったのであいちゃんもいっしょにさっかーを

しました。(あいちゃんにおしえてもらいました)

7 月 23 日(土)
おとうさんとおかあさんといっしょにデパートへいきました。おひるにデパートでそばをたべました。おいしかったで

す。(あいちゃんにおしえてもらいました)

7 月 24 日(日)
きょうはすこししゅくだいをしました。そしてかん字のしゅくだいがおわりました。むずかしかったです

7 月 25 日(月)
あいちゃんがいえにきていっしょにしゅくだいをやりました。あいちゃんがおしえてくれたおかげで、にっきのかいて

なかったところがかけました。

7 月 26 日(火)
ゆうがたにあいちゃんからでんわがきて、あしたあそびにきてほしいといわれました。やりたいことがあるそうです。

たのしみです。

616雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 00:30:26 ID:UyVCN6lI
「ねえおかあさん、こんなかんじでいいの?」
「ええ、小学1年生とは思えないくらい完璧にできてるわ。お母さんだってゆーくんを捕まえるのに2年かかったのに」
「……」
「そうなの?」
「これは遺伝だけじゃないわね、天性の才能なんじゃないかしら」
「えへへ、おかあさんにおしえてもらったからだよ。それじゃおかあさん、わたしはれんくんのところにもどるね!」
「ここまできたら、あとはあなたに任せるわ」
「な、なぁ彩花、やっぱり蓮君を家に帰してあげたほうがいいんじゃないn」
「ゆーくん。せっかく愛が頑張ったのよ、それに人の恋路は邪魔してはいけないの。それとも……もしかしてゆーくん

、あそこの奥さんが気になるの?蓮君を家に帰してあの女に取り入ろうって考えてない?ゆーくんどうなの?私よりあ

の雌なの?私よりも?私よりも?ねぇどうなの?答えてよ!ねぇ答えてよ!」
「ち、違うって俺は彩花が一番――――――」

------

「きょうはあいちゃんのうちにおとまりしました。あいちゃんのあとうさんとおかあさんはとってもなかがいいみたい

です、と」
「れんくん、なにしてるの?」
「にっき。またわすれちゃうからいまかいてるの」
「べつにかかなくたっていいんだよ?わたしがおしえてあげるし。それに……」
「それに?」
「わたしがね、きょうかられんくんのおせわをぜんぶしてあげるの。しょくじだっておふろだってねるのだってべんき

ょうもね。だかられんくんは学校にいくひつようもないし、そのにっきだってせんせいにださなくてもいいの」
「え、学校いきたいよ。しょうくんたちともあそびたいし。おかあさんもしんぱいするよ」
「れんくんのおかあさんからもちゃんとゆるしてもらったからしんぱいしなくていいんだよ?わたしにぜーんぶまかせ

てくれればいいの。きょうかられんくんのいえはここで、ここがれんくんのすべてなの」
「おかあさんがゆるしてくれたの?で、でもいやだよ。ぼくはかえりたいよ!」
「だめよ。そとにでたられんくんにわるいむしがたかるんだから。あとは、これを、れんくんの手と足につけて、っと


「なにこれ」
「くさり。これでれんくんはここからでられないの」
「や、やだ!とって!とってよ!だれか!た、たすけ…む、むぐ……」
「ん……ぷはぁ……れんくん、だいすきだよ。これからいっしょうよろしくね?」

617雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 00:31:21 ID:UyVCN6lI
終わりです
駄文でほんとすいません
こんな感じでいいんでしょうかね…

618雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 00:32:56 ID:UyVCN6lI
あれ、なんか変ですね
申し訳ないです

619雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 02:18:33 ID:Vg2DuJvY
乙です。

そんなへりくだる事は無いですよ! 自信持って投下してくださいな。

しかし、小学生にして意中の子を……なかなか恐ろしい。

620雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 07:25:32 ID:Pg.YB46I
GJ!!
何と言う策士…世の中も末じゃのう……

621雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 22:02:52 ID:1owWJxQU
策士のヤンデレと言うのは意中の相手に全く気付かれずに外堀を埋めて気付いたころにはクモの巣にかかった蝶のように…というのを言うのだよ、ワトソン君

622忍と幸人 ◆O9I01f5myU:2011/05/31(火) 22:32:41 ID:Vg2DuJvY
投下します。忍と幸人 第八話です。よろしくお願いします。

「忍と幸人」は今回で最終話になります。

623忍と幸人 第八話:2011/05/31(火) 22:34:41 ID:Vg2DuJvY

 ――市営団地女性殺人事件・痴情のもつれか。
 ニュースを見ても、新聞を読んでも、今でもどこかにその記事は載っている。
 子連れの娼婦が自宅にて、無残な死体で発見されたこの事件は大々的に報じられた。娼婦が殺人事件に巻き込まれる事自体にそれ程の物珍しさは感じないが、「子連れ」であったという点がポイントだったのだろうか。自分の子供にも売春させていた疑いが露になるとその煽りは一層強くなり、熱中症関連のニュースはたちまち隅に追いやられた。
 警察の事情聴取――私達が現場の発見者である以上、捜査協力は免れなかった――には、私は直接見てはいないという事で当たりさわりのない回答をした。
 ――幸人とは公園で知り合ってから互いによく遊んでいる仲で、その家庭事情も知ってはいた。警察や役所で相談するべきだと思ってはいたが、母を愛しているらしい彼の様子を見ると憚られた。それでもやはり心配になって様子を見に行ってみたら怪しい男とすれ違い、何かと思って部屋を覗いてみたら、彼の母親が血を流して倒れていた……。
 警察からは早めの相談をしなかった事について注意はされたものの、凶器に残っていた指紋との不一致、現場を見ていた幸人の証言のおかげで疑いを掛けられる事はなかった。じきに犯人は針巣だと警察は踏み、指名手配に走る。
 事件が発生してから今日で二ヶ月経っている。針巣は未だに捕まっていない。今頃どこで潜伏しているのか、生きているのか死んだのか……それらはさっぱり分からない。ニュースでは日を追う毎に、針巣の同僚や関係者の弁によって、彼の人物像が公に明かされていくが、その当人の行方はというと誰にも答えられなかった。
 膝元でゴロゴロと甘える頭をそっと撫でる。気持ち良さそうにしている。
 サユキ――本名を幸華というそうだ。皮肉な名前だ――の親族は皆、関わり合いになるのを拒んだ。どこの馬の骨との子供なのか分からない幸人を引き取ろうとはしなかった。
 まぁ当然と言えば当然だし、私としても願ったり叶ったりだ。私は幸人を引き取りたいと訴え、幸人本人も「お姉ちゃんと一緒がいい」と希望してくれたので、すんなりと話は決まった。
 そして幸人は今、私と一緒にこうして暮らしている。悲願は果たされたのだ。

624忍と幸人 第八話:2011/05/31(火) 22:37:28 ID:Vg2DuJvY
 「お姉ちゃん……」

 猫なで声で甘える幸人の鼻先を指でつつく。

 「違うだろ、幸人。私の事はママと呼びなさいと言っただろう?」

 照れながらも彼は微笑んで、「ごめん、ママ」と言い直し、再び膝に顔を埋める。胸が満たされるのを感じながら、「よしよし」と髪の毛――あの後散髪したので、かつての長髪は無い――を梳く。

 「ママ、今日はオムライスが食べたいなぁ」

 昼の献立のリクエストだった。

 「そうか。分かった」
 それだけ返し、後は彼の甘えたい様にさせる。膝枕をして貰いたければ膝を貸し、胸に顔を埋めたいなら頭を優しく抱き込める。幸人も最初は遠慮がちだったのが、今では随分と甘えん坊になった。時間さえあれば私と密着したがり、肌の触れ合いを楽しんでいる。
 こうなっている時、彼は自分が満足するまで離れたがらない。私がトイレに立つのにも嫌そうな顔を見せるし、他の物事への関心も薄くなる。私と寄り添う事を何よりの喜びとしているみたいだ。
 私は幸人を心から愛している。そんな大好きな彼が私を欲しているのだ。これに喜々せずにはいられない。心がいっぱいになったその勢いで、ちょっとエッチなスキンシップに進んでしまうのも日常茶飯事だった。
 至る度にラインは後退していく。最初はおっぱいの愛撫だけだったのが、体を隠す衣は日を追う毎に取り払われていき、私は裸に、幸人も下着姿になって抱き合う形になった。おっぱいに吸い付くばかりの行為からちょっとしたペッティングになった訳だが、オーラルセックスに発展するのも時間の問題かもしれない。

 「ママ、それ貸して」

 将来を夢想していたら、幸人は何時の間にか膝から顔を上げて、こちらに両手を差し出していた。
 その意図が分かった私は笑って了承し、さっきまで肩に乗っかっていたそれを手渡す。

 「ママの匂いがする……」

 私が羽織っていた迷彩服を全身に包み、幸せそうにしている。
 これも最近の彼のお気に入りだ。どういう理由かは知らないが、幸人は私の迷彩服がお気に召したらしいのだ。頻繁に羽織っては、床に裾を引きずりながらパタパタと走り回っている。幸人はまだ体が小さいから、上着でもマントみたいな感覚なのかもしれない。足の具合も好調になってきたのもあって、良く振り回している。

625忍と幸人 第八話:2011/05/31(火) 22:40:16 ID:Vg2DuJvY
 「ママ、何時かこれ、頂戴?」

 一頻り遊んでから、この一言を添えて返してくるのがお約束だ。

 「幸人がもう少し大きくなったらな」

 私がずっと身に着けていた物を今度は幸人が使う……悪い気はしない。私もこのジャケットを気に入っているが、幸人が欲しいのなら惜しみなく譲るつもりだ。只、今はまだジャケットの方が大きすぎて、服として使うには重い――冬服なので生地も厚い――だろうから渡せられないが。
 迷彩服を返してもらった時、テレビのニュースが忌まわしい画面を映し出したのを傍目に見る。素早くリモコンを取り、テレビの電源を落とす。
 幸人が「どうしたの?」と不思議そうに訊いてくる。私はそれに「散歩に行こうと思ってな」とはぐらかせると、彼も察する事なく乗ってくれた。

 「ちょうど良い腹ごなしだね」
 「そうだな」

 手を繋いで外へ出る。
 テレビの内容に感付かれなかった事に安堵する。さっきの画面には、あの事件に関する続報が流れていたのだ。せっかく幸人のショックが薄れてきているのに、それを下手に掘り起こしたくはない。

 「今日も暑いねー」
 「まだしばらくは暑いままだ。水分は忘れずにな、幸人」

 照り返しの強いアスファルトからは熱が立ち上がり、上からは直射日光が降り注ぐ。熱に包まれたこの中では、やはり何よりも冷たい飲み物が欲しくなる。この季節の自動販売機は本当に魅力的だ。
 何時もの公園に着く。定位置は販売機脇の、あのベンチだ。
 木陰に覆われたこのポイントで一息吐く。販売機で買ったコーラが熱い体によく沁みた。
 ふと砂場を見てみると、かつて幸人が一人で山を作っていたそこは、子供達で賑わう様になっていた。男の子も女の子も一緒になって、楽しそうにはしゃいでいる。
 幸人は何も言わず、黙ってコーラを飲んでいる。
 幸人はここ最近、実の母親である「あの女」の話題を出さなくなっていた。あの女に関わる事の全てが記憶から抹消されたのかと思う程だ。
 本当に彼が忘れてしまったのか、それとも忘れようとしているのか、どちらかは分からない。はっきり言えるのは、以前に口を滑らしてあの女の名前を出した時、彼は反応らしい反応を見せなかったという事ぐらいだ。

626忍と幸人 第八話:2011/05/31(火) 22:42:45 ID:Vg2DuJvY
 彼には「スイッチを切り替える」という心の防衛機構を備えていた。これと似た防衛機構の働きによって、本当に記憶が部分的に消えてしまったのではないかと考える事はできるが、これについては究明しようと思わない。忘れているのならそれに越した事はないし、忘れようとしているのであれば黙って見守るまでの事だ。あんな女が自分の母親だったなんて、早く忘れてしまった方が良いに決まっているのだから。
 大切なのは昔より今だ。今は私と幸せに暮らす事だけを考えていれば良い。

 「……あっ、そうだ、ママ」

 コーラを飲み終えた幸人がこちらを振り向いた。
 「何だ?」と答える。

 「僕、もし引っ越すんだったら……富士山が良く見える所がいいなぁ」
 「ほう?」
 「随分前の事だけど……クラスの子が旅行に行ってきた時に富士山を見たんだって。凄く綺麗で大きくて……テレビで見るのとは全然違うって言ってたの」

 幸人と暮らし始めて日々思う事の一つは、部屋の狭さだ。彼を迎える前から分かっていた事であったが、どうにも余裕が無い。幸人も欲しい物がいっぱいあるだろうに、部屋の狭さを気遣ってか遠慮してばかりだったので、彼に引っ越し話をしてみたのだ。どこに引っ越すかは幸人の希望にできる限り答える事も付け加えてだ。
 すぐに答えるのは難しいだろうと返事を急かす事はしなかったのだが、割と早かった。もしかしたら、前々からの夢だったのかもしれない。

 「何時かそうしよう。すぐには無理だが……」

 あの女が母親だった時は、そんな夢を一言呟くだけでもう折檻だっただろう。欲しい物は買ってもらえないし、身嗜みも許されない劣悪な環境に長くいた彼は本当に不憫だ。私に対して僅かに遠慮を残しているのもその名残かもしれない。

 「本当に良いの?」
 「ああ。まぁ気長に待っていろ」

 幸人の肩に手を回し、胸元に顔を持ってくる。
 ベンチから伸びる影を見下ろす。二人の影は互いの境目を越え、掛け合わせられている。
 私達は今、一つになっている……。
 言い様のない幸福感に頭がクラクラする。倫理も禁忌も存在しない、欲望と情念の混沌に犯される快楽は脳を刺激し、肌を震わせた。汗ばむ肌が一瞬冷え切り、鳥肌が立つくらいに……。

627忍と幸人 第八話:2011/05/31(火) 22:44:09 ID:Vg2DuJvY
 恍惚としたまま視線を見上げる。時計はもうすぐ正午を知らせようとしていた。
 静かに、ゆっくりと一息吐いてから、「行こう」と幸人の腕を取る。彼は「お昼ご飯の時間だね」と席を立つ。
 のんびりとした歩調で家に帰る。家に帰れば食事の一時だ。家族水入らずでオムライスを味わって……その後は床に寝転びながらお互いにじゃれ合うか、ゲームに興じるか。どちらでも良いが、さてどうしよう。
 こんな生活がこれからずっと続く……なんて素敵な世界だろうか。
 熱くなるこの感覚に、思わず舌舐めずりをするのであった。

628忍と幸人 ◆O9I01f5myU:2011/05/31(火) 22:45:48 ID:Vg2DuJvY
以上で「忍と幸人」投下終了です。どうもありがとうございました。

629雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 22:49:14 ID:gxUPhMrU
GJです。

630雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 23:27:24 ID:E9Yyl0zs
GJ!

631雌豚のにおい@774人目:2011/05/31(火) 23:31:51 ID:Pg.YB46I
もう終わっちまったか……寂しいのぉ…

632雌豚のにおい@774人目:2011/06/01(水) 02:41:41 ID:KCzM2ZYE
お疲れさまでしたー
二人のこれからを思うとドキ2ですね!

633雌豚のにおい@774人目:2011/06/02(木) 00:03:27 ID:eUh7jDO2
遅くなったけど乙乙

>>632
二人のこれからが晴れのち病みなんじゃないの?

634雌豚のにおい@774人目:2011/06/02(木) 09:58:45 ID:Vxni9pcg
>>633
もしかしたら、娘の幸華が出来るまでの話も出るんじゃない?

635雌豚のにおい@774人目:2011/06/03(金) 18:03:10 ID:l3qwp1Wo
>>634
調子にのるな

636雌豚のにおい@774人目:2011/06/03(金) 22:20:19 ID:BimajhBQ

俺はいたって普通の高校生だ。
俺の家族は父親と母親そして妹が1人のどこにでもいる普通の家族だ。
けれど、最近妹の様子がおかしいんだ。


それは、いつもの日曜のけだるい朝。
今日友達からの遊びの電話も来ないし、とりあえず暇な日曜だった。
そういや、今日は妹は用事があるとかで家にいないんだっけ。

・・・

男なら考えてしまういけない事。
妹の部屋という禁断の間。
ちょっとした好奇心だった。暇だったし。
まさかこんな事になるなんて。

ちょっとだけ、のぞいてみよう。
いや、でももし帰ってきたら・・。
俺は携帯の時刻表をみる。
妹が帰ってくるまでまだ少し時間がある。
俺は期待と少しのエロ心を持ちながら妹の部屋に向かって歩いていった。
妹の部屋の前に着いた。
ドアには名前が書いてあり、その周りにはピンクのフリフリがついている。
いかにも、女の子らしい部屋だ。
ドアを少し開けて中をのぞいてみる。
部屋は電気がついてないせいか真っ暗だった。
いや、電気がついていないだけでこんなに真っ暗になるのか?
俺は、手探りで部屋の電気のスイッチをさがした。
すると手に何かあたりひらひらと部屋の中に落ちていった。
真っ暗の部屋に落ちてしまったせいで、どんなものかは確認する事が出来なかった。
チラッと見えたそれは写真のようなものに見えた。
やっと、スイッチを探り当てた。
ぱちっとスイッチを入れるとぱっと明るくなって目がチカチカした。
部屋は全体的ピンクでベットまでピンクだった。
そして、窓にはピンクのフリフリのカーテンが飾ってあるのだろうと普通は思う。
俺の予想は大きく違った。
窓にはピンクのカーテンの替わりに、びっしり写真が貼り付けてあった。
窓だけじゃない、そこらじゅうの壁という壁に写真が貼り付けてあった。
部屋が真っ暗だったのはこのせいだったのか。
よく見るとその写真は俺だった。
そこらじゅう俺の写真。
昔の写真から、最近の写真まである。
いつどこで・・。
俺はそのまま硬直したまま動けなかった。
どういうことだ。
妹がそんな目で俺を?
いやいや、そんなばかな。
だって・・そんなそぶり・・。
俺は妹の部屋を見ながら激しく動揺していた。
そのとき、がちゃ!っという音が聞こえた。
「お兄ちゃんいるぅ?忘れ物しちゃったぁ!」
そういうと、勢いよく部屋に走ってきた。
俺はとっさに妹の部屋のクローゼットに隠れた。

637雌豚のにおい@774人目:2011/06/03(金) 22:23:50 ID:BimajhBQ
もし自分にヤンデレの妹がいたらと妄想して書いてしまいました。
すいません。

638雌豚のにおい@774人目:2011/06/03(金) 23:17:56 ID:9riZgZxg
許すから続きキボンヌ!!!

639雌豚のにおい@774人目:2011/06/03(金) 23:37:51 ID:qr2N/Zjo
ガチで書いてくれ

640雌豚のにおい@774人目:2011/06/04(土) 00:04:29 ID:9Rh9W55o
続き書き込みます。もしヤンデレの妹がいたらと妄想しながら書きました。

クローゼットに隠れてまもなく妹が部屋に入ってきた。
「あれ?電気なんてつけたままだっけ?電気消すの忘れちゃったのかな?」
俺は体中から冷や汗がでるのを感じた。
人間って本当に恐怖を感じると冷たい汗をかくんだな・・は・・は。
妹は部屋をなめ回すように見ると、一枚の写真を手にした。
「今日はこのお兄ちゃんにしようかな!」
そういうとおもむろにその写真を自分のズボンの中に入れた。
「ふぁ・・。お兄ちゃん・・おにいちゃん・・・オニイチャン・・・。」
俺はその様子をクローゼットの中から呆然としながら見ていた。
今まで普通に接してきた妹が・・。まさか・・・。
「いけない。もうこんなに時間たってる。」
そう言うと早足に部屋を出て行った。
そのとき、妹の足元に落ちている写真にきずいた。
まずい!あの時俺が落とした奴だ。
気づくな・・気づくな・・気づくな・・!
俺の必死の願いもむなしく妹は気づいてしまった。
「あれ?何でコレオチテルノカナ?」
血の気が引くってこういうことを言うんだろうな。
妹の言葉がなぜかスローモーションのように聞こえた。
妹はまっすぐクローゼットを見ている。
ゆっくり・・ゆっくり・・俺の隠れているクローゼットに近づいてくる。
「モシカシテ、オニイチャン・・イ・ル・・・ノ?」
まずい・・まずい・・。
恐怖で手の震えが止まらない。
もうだめだ。
「すず〜?まだぁ?」
そのとき、妹の友達の声が聞こえた。
「今行く〜!」
助かった・・。人生でこんなに緊張したのは初めてかもしれない。
「いるわけないよね・・。」
そういうと、妹は玄関に向かって走っていった。
完全に声が聞こえなくなるまで待ち、俺は息苦しいクローゼットから出た。
「はぁ・・はぁ・・・まじかよ。」
俺はしばらくその場から動く事が出来なかった。
俺はこれから妹とどう接していけばいいんだ・・・。

641雌豚のにおい@774人目:2011/06/04(土) 00:17:42 ID:ev9axJI.
>>640
うん、すごく良い。

642雌豚のにおい@774人目:2011/06/04(土) 01:38:53 ID:9Rh9W55o
続き書き込みます。今度は妹目線で書いてみます。

今日は本当についてないなぁ〜。
今日は友達と部活の練習だからズボン付けてきたのに。
お兄ちゃんを一緒に「連れて行く」の忘れちゃったし。
部屋の電気を消すのも忘れちゃったし。
でも・・クローゼットからお兄ちゃんのにおいがしたの。
気のせいかな?
今日はお兄ちゃんの様子がおかしいの。
私と目をあわせようとしないの。
どうしてかな?
私嫌われるような事したかな?
知らないうちに私、お兄ちゃんに嫌われちゃったのかな?
そんなことないよね?
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
「おいどうした?」
「ぶつぶつ何言ってるんだ?おい!しっかりし・・」

私はお兄ちゃんだけいればいいのいいのいいのいいのいいのいいのいいの。
それなのに・・・お兄ちゃんに・・お兄ちゃんに嫌われたら私・・・・。

「おい!どうしたんだ!?すずか!!お前らしくないぞ!」

「私らしいってなに?ねぇ?それってなに?なに?なに?」
「私はお兄ちゃんだけいればいいの。私はオニイチャンシカイラナイノ。」
「す・・ず・・か・・・。」

どうしてそんな目で見るの?どうして私から遠ざかっていくの?嫌・・嫌・・。

いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

「いやぁ・・だよぅ・・うんぐ・・ぐす。お兄ちゃんに嫌われるの嫌ぁ・・うわぁぁん。」


「お・・おい泣くな。悪い悪かった。俺が悪かったから!」
そういってお兄ちゃんは私をそっと抱きしめたの。
いつもは私がお兄ちゃんに抱きついてるのに、お兄ちゃんから抱きしめてくれたの。
あ〜あ。今日は本当についてないなぁ。
でもね。今日はお兄ちゃんが抱きしめてくれたからいいの。
「よしよし。ごめんな。」
「ふぁ・・お兄ちゃんの手きもちぃ・・・。」
お兄ちゃんがなでなでしてくれたからいいの。
これって好きってことだよね?
これって私のこと愛してるって事だよね?
これって相思相愛って事だよね?
もう、写真だけじゃ辛いの。お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・・オニイチャン。
「じゃあ俺・・明日早いからそろそろ寝るな。」
あっ・・まって・・もうちょっとだけ。あと少しだけねでなでして。
「まって・・おにいちゃ・・。」
「それじゃあな。夜更かしするなよ?」
がちゃ。

・・・

オニイチャン・・サビシイヨ。


昔は一緒に寝てくれたのに。
昔は一緒におふろはいってくれたのに。
どうして逃げるの?
恥ずかしいからって・・もう、一緒に寝るのもお風呂入るのもしないのは当然だっていって。
私は違うよ?
いつも、お兄ちゃんの事ばかり考えてるんだよ?
私は全然恥ずかしくないよ?
一緒に寝るのも、お風呂はいるのも。
ああ・・そうか。
あの女のせいだね?
オニイチャンにツキまとう。アの女。
オニイチャンの幼馴染だとかイってオニイチャンをたぶらカしテ。
アんしんしてね?
オニイチャンはワタシガ・・・・。

643雌豚のにおい@774人目:2011/06/04(土) 02:03:17 ID:2t69aI7U
GJです。続き期待してます

644雌豚のにおい@774人目:2011/06/04(土) 02:03:34 ID:2t69aI7U
GJです。続き期待してます

645雌豚のにおい@774人目:2011/06/04(土) 02:45:20 ID:aEqbgwyI
良い!俺も続き期待!
>>644重要だから2回言ったんだな。分かるぜ。

646雌豚のにおい@774人目:2011/06/04(土) 10:48:45 ID:iF9Cl/r6
過疎

647雌豚のにおい@774人目:2011/06/04(土) 11:11:48 ID:QMhBjohU
続くのかな?

648雌豚のにおい@774人目:2011/06/04(土) 16:54:23 ID:iF9Cl/r6
ところで保管庫更新はどうなったはてな

649深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/05(日) 03:32:07 ID:lXA2OcXg
土日のぐらいしか書く暇がない・・・。
まぁ、そんなことは置いといて、第九話投稿します。

650深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/05(日) 03:32:25 ID:lXA2OcXg

第九話

お兄ちゃんと再会してから早五日。
目的地である「凱苑の都」まで、あともう一歩。
今私たちは、都に一番近い村のお茶屋さんで休憩を取っています。

今でこそ、何事もなく穏やかな旅を続けていますが、
盗賊の方たちに襲われた日はとても大変でしたね。
実を言いますと、私、あの日の記憶がほとんどなくって、
頑張って思い出そうとするとお兄ちゃんに必死で止められます。
お兄ちゃんの勇姿を思い出したいだけなのに、どうしてなのでしょうか?
理由を尋ねると「ちょっとだけ流血沙汰があったんで鬱になる」と答えます。
でも、お兄ちゃんがそう言っているので、そうなんだと思います。
なのでもう気にしない事にしました。

「おい、ぼーっとしてどうしたんだ?ミューも食わないと」

「ちょっと、お兄ちゃんこと考えていただけ。
・・・・・・・先生どうしているのかな、私のせいでこんな・・・・・・」

「先生の強さと生命力があれば近いうちにふらっと姿現すだろ。
深く考えんなよ、信じろって」

「・・・・・・うん、そうだね、先生だもんね、早く会いたいなぁ〜」

隣で美味しそうに団子餅を食べています。
お兄ちゃんの微笑ましい姿を見ていたら、なんだかお腹が膨れてきました。

「私の分も良かったら食べて、はいっ」

「いや、ミューも好きだろ、ミューが食べなって」

「ううん、自分で食べるよりお兄ちゃんに食べて貰う方がいいの」

「道中お腹すくかもよ」

「大丈夫、お兄ちゃんから元気貰ったから」

「そ、そうか・・・・・・そこまで言うなら・・・・・・貰うぞ!」

嬉しそうに口へ運んでいきます、とっても和む光景です、癒されました。

食べ終えたのでお会計を済ませ、店を出ます。
出て間もなく、お兄ちゃんは、厠に行きたくなったと言ってまた店の方へ戻りました。
なので、多種多様な人々が行き来するのを興味深く眺めながら、
目立つところで待っておくことにします。



急にしょんべんしたくなったなぁ、まったく、頻尿体質は困る。
そう心の中でぼやきながら、厠の戸に手を掛けたとき、後ろから呼び止められる。
盗賊の一件もあって、警戒しつつ振り向く。
そこには、深紅の長い髪に、くっきりした顔立ちの、褐色肌の綺麗な女が立っている。
直剣を帯刀し、北嶺風の軽装と何かの紋章を付けており、
おそらく国直属の兵士ではないだろうか。

「悪いわね、お急ぎのところ、先に済ませてからでも宜しいわよ」

「あっ、いやぁ大丈夫ですよ。で、何か?」

「そう。では、少しじっとしていて貰えるかしら?」

そう注文をつけられたため、
俺は手を柄に置き、いつでも抜刀できる状態にした。

「あら・・・・・・貴方に何ら危害を加える気はないわ。
ただ、少しの間あなたにこの石をかざしたいだけなの」

女は、俺の返事を聞くまでもなく、水色透明な宝石の付いた首飾りをかざす。
するとどうであろうか、やや強い光を放つ。
この色を見ていると、ミューが頭に浮かんでくる、瞳の色にそっくりなのだ。
不思議がる俺をよそに、女は、やっぱりか、といった納得の表情で宝石を見つめていた。

ここだけの話、俺は女の魅惑的な顔立ちと表情に心底見とれていた。
くっきりした目鼻輪郭に、程よく厚みのある唇、小麦色の健康的な肢体、
規則的に波をうった深紅の髪・・・・・・どれをとっても、俺には美しすぎた。

「どうしたの、そんなに驚くこと?それとも私に見とれていたとか?ふふっ・・・・・・。
冗談よ、この石が何で光ったか聞きたいんでしょ?」

「あ・・・・・・ああ!そうだ、それですよ、教えてください」

「わたくしたちが探してるある女性に対してだけ、最高の輝きを放つの。
それってどういいことか分かるでしょ、ステキな剣士さん?」

651深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/05(日) 03:33:32 ID:lXA2OcXg

「え〜と、つまり俺を探していたということですか?」

「違うわ・・・・・・あなた男でしょ、全然分かってないじゃないの。
石が強く光る、
それは彼女の「気」の残滓が貴方に残り香としてまだ残っているという証拠よ。
それも、たっぷりとね・・・・・・まるで抱き合ったことがあるみたい」

「いやぁ〜俺全く女性に縁遠いんですよ。
付き合いしても突然振られるんですよ〜、何か変な力でも働いているんですかね、ハハハ」

「身の上話は申し訳ないけどどうでもいいわね。
もう単刀直入に言うわ、水色の髪をした北嶺系の娘を知らない?」

水色の髪、北嶺、女の子、探している・・・・・・そうか!
こいつら先生の言ってたアレか・・・・・・なんて鈍感なんだ俺は!
心の急激な揺れを隠し通そうと思ったが、
俺はあいにく、思ったことが顔に出る人間なので、鋭そうな奴には簡単に感ずかれる。

「知っているのね、貴方。
隠し立てはしないほうがいいわ、もう手遅れよ。
さぁ、どこにいるのか教えなさい」

「知りません・・・・・・」

「さっきからこの茶屋にいるだけで、石が光を放ってるいるの。
もうすぐそこに姫が居られるのは間違いないわ。
否定しても彼女のためにはならないわ、ただ単にもとの鞘に収まるだけ。
もちろん、貴方には莫大な金銭が王から下賜されるわ」

「俺はその娘を知らないんで関係ないですけどっ、
ひとつ言わせてもらえば、現状に満足して戻りたくない、
という場合もあるんじゃないですか」

「あら、なんでそう思うの?
ふふっ、思ったより深く彼女のことを知っているようね」

「さぁ?・・・・・・そもそも!勘違いははっきり言って迷惑です。
では他をあたってください、これにて」

立ち去ろうと後ろを向いた瞬間、やわらかい感触が背中に伝わる。
なんと俺に後ろから抱きついてきた。
美人に抱きつかれて無表情な男がいるだろうか、むろん、俺は全身が紅潮した。

「ねぇ、もし居場所を教えてくれたらわたくしのこと好きにして構わないわ。
それに剣士さんなかなかわたくしの好みよ、
剣士さんもこういうこと嫌いじゃないでしょ?
あっ・・・・・・もしかして、姫にこんな感じの事されたりしたのかしら?」

女性特有の包容感と匂いで自律心が狂いそうになるが、
迫り来る誘惑を振り払い、彼女を突き放す。

「初対面で急に抱きつくなんて・・・・・・おかしいですよ、もう行きます」

彼女はごく自然といった足取りで、俺の後についてくる、それも上機嫌に。
ミューは軒下の入り口付近で待っているのであろうから、
このままだと二人を鉢合わせにしてしまう。
変な宝石持っていたしな、どうしたものか・・・・・・。

幸い裏口があるようなので、まずそこから出て、人ごみの中を駆け、そこで撒けばいい。
かなり浅はかだが、考える時間がないので仕方がない。

裏口の扉まであと五歩というところで、後ろが急に騒がしくなった。
喧騒の所在に目を向けると、女が男数人に荒っぽく絡まれているではないか。

「おいお前!『エル・メア国』の犬だろう?よく澄まし顔でうろちょろできるな」

「・・・・・・いったい何なの貴方。
無礼にもほどがあるわ。
貴方のような、いかにも卑賤の出のような人種に知り合いはいないわね」

「なんだとっ、お前らが俺たちに何をしたか知ってるだろ!」

「ごめんなさい、思い出せないわ」

「なんだと・・・・・・ふざけるのも大概にしろ!」

「ふふっ、冗談よ。
一年位前から、私たちが導いてあげることになった劣等部族の方々でしょう。
なぁに?反乱のための準備?ふふっ・・・・・・可愛いわね」

「導いてあげるだと!?
互いに調和を持って平穏に生活していた数多くの部族を、
暴力で従わせ、分別なく破壊し、全てを奪っていっただけでなく、
北方の平原に住む我らが同胞たちを今だに奴隷のように酷使し続けている!
血に飢えた獣のような貴様らを、同胞に代わって天罰を下しているのだ!」

「意見発表会はこれで終わり?
ふふ、私はやることがあるのでくつろいでいて頂戴ね。
優秀な者が民草を率いるのは太古からの理、これ覚えておきなさい」

「おい、どこに行く?
逃げる前に貴様は・・・・・・我らの積年の痛みを知れ!」

女は彼らを見下すように一瞥し、立ち去ろうとする。
しかし男たちは、刀を抜き臨戦態勢に入っている、間違いなく女を殺す気だ。

場の殺気立った雰囲気でしばしの間動けずにいたが、
逃げる隙が出来たと考え、扉を蹴って裏口へ駆け出す。
案の定、女の足音は聴こえず、代わりに金属の激しい衝突音が辺りに響く。

652深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/05(日) 03:34:27 ID:lXA2OcXg

店の前に続々と集まる野次馬たちを掻き分けて、ミューの姿を探す・・・・・・居た!

「ミュー、おいで、もうこの村を出よう」

「うん、なんだかお店の中が騒がしかったけど・・・・・・なにか起きたの?」

「なーに、酔っ払いがいちゃもん付けてるだけだよ・・・・・・さっ、笠被って」

ミューの髪色はあまりに目立つ、なので麦藁の笠を被るように指示する。

「でも今日は曇りだよ、日はあまり強くないよ、さすがの私でも大丈夫」

「念には念を入れて被っておけ、ぶっ倒れても知らんぞ」

「うん・・・・・・見捨てられたくないから被る」

ミューは日差しの弱い寒冷地帯で生まれたためか、
日差しと暑さに弱く、すぐに肌が赤くなる。
普段はこれを理由に被り物をすすめるが、今の場合は単なる方便であって、
北嶺の使いに見つからないようにするがためである。

村を抜けて舗装された道をしばらく歩いていたら、
ミューがためらいがちに尋ねる。

「お兄ちゃん・・・・・・あのね、何か変なもの触った?」

「え、いやぁ特に。たぶん俺の加齢臭と思われ」

「違うよ、お兄ちゃんの匂いはいい匂いだよ。
なんかね、お兄ちゃんの匂いとは別に、良くない匂いがするの。
ねぇ、もうちょっと近くで嗅いでみていい?・・・・・・くんくん・・・・・・」

いつも思うんだが、ミューって犬っぽい。
従順かつ献身的で寂しがり屋、甘え方とか癖もそれとなく犬っぽい。
そんな犬っぽいことをしているミューの表情が突然曇る、そんなに臭うのか。

「やっぱり女の人の匂い・・・・・・。
いつ、どこで、どうして、なんで、だれに、どうやって・・・・・・?」

「いやいや・・・・・・匂いじゃそんなこと分らんでしょ」

「私ね、お兄ちゃんのことならなんでも分るんだよ。
心の内以外は全部知ってるよ。
だから、お兄ちゃんのとそれ以外の人の匂いは明確に区別できるんだよ」

「そ、そっか・・・・・・。でも俺、女の人に触れてない、ホントだって」

「・・・・・・お兄ちゃんがそう言うならそうだよね。
てっきり、女の人に後ろから抱きつかれたのかと思ったぁ」

「ハハ、そ、そんな、お、おいしい場面に出くわすわけないじゃんっ、ないない」

正直冷やっとした。俺と女子のことに関しては鋭い。

ミューが俺の袖を引っ張りながら、上目使いで見つめてくる。
これは最近恒例のおねだり。
俺にギュッと強く抱きしめてほしいらしく、なんでも病みつきになってしまったたとか。
妹とこんなことするのは良くないと思いつつも、悪い気はしないんで甘やかしてしまう。

「私の夢はお兄ちゃん専用の抱き枕なの、
だからお兄ちゃんの跡が付くくらい強く抱いて・・・・・・」
 
思えばミューは昔っから、俺が紅子以外の女の子と仲良くするのを快く思わないどころか、
ささやかで控えめな妨害行為(俺的にはそう感じる)にまで手を伸ばしていた。
最初のうちは、そんなやきもちを焼くミューが可愛く思えて仕方が無かったが、
ミューが成長するにつれ、依存度を増し、行きすぎじゃないかと思い始めた。
ミューが十二歳のころから徐々に距離置き、その結果まぁまぁ落ち着き、現在に至る。

「見つけましたよ、姫!」

なっ!?嘘だろ!後方からあの妖艶な声がする。
心臓を矢で射抜かれた心地になった。振り向くとそこにあの女がいた。
ミューは突然声をかけられたことに怯え、俺の後ろに隠れる。

653深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/05(日) 03:34:51 ID:lXA2OcXg

「ハハ、あの人数でよく無事でしたね」

女は俺の存在など空気であるかのように無視し、
怯えるミューの足元で膝をつき、へりくだった姿勢になる。
「お目にかかれて至極光栄であります。
わたくし、姫ご生誕の地であらされるメア国の近衛兵長、セン・ルカと申します。
姫を永らく捜しておりました」

「いやいや、だから人違いなんだって」

「貴方は黙りなさい、しらを切るつもり?
わたくしは姫に話しかけているの。
姫、さぁ参りましょう、今すぐにも馬車の手配を致します。
王は都の特級区に滞在しておられるので、すぐ会えるかと」

ルカはスッと立ち上がり、右手を空に掲げると、手のひらから紫色の光が伸びた。
これはあっちでも見た事がある、のろしの代わりに合図に用いる光術である。

「姫、なぜご返事して下さらないのです?怯えることはありませんよ。
むしろ安心して良いのですよ、よく頑張りましたね、
東方の辺境の地での質素な生活、辛かったでしょうに
これからは何不自由ない明るい生活が待っていますよ」

!?なんで東方だなんて分かるんだ。

「剣士さん、さっきは分からない振りして悪かったわね。
実は数カ月前から姫が陽ノ国の大琉ノ町にいることは分かっていたの。
ふふ・・・・・・南夏(みなつ)竜史さん。
そして、我らが姫君は射師橋(いしはし)深優。
なんという運命的な偶然、姫の母君も『ミユウ』というお名前でした」

こいつは何でも周知しているらしく、俺は開き直った。

「だったら何なんだ、深優の意見が大事なんだろうが。
なぁミュー、怖いのは分かる、
でも勇気を出して気持ちを俺とルカさんに教えてくれ」

「子なら親に会いたいに決まっているわ。
それにしても、本当に美しくなられた、ミユウ様にそっくりです」

ミューは良く耳を澄まさないと聴き取れないような声で、ゆっくりと発言する。

「私、ひ、陽ノ国人だから・・・・・・もう、戻ることは考えていません。
ただ、お父さんお母さんの顔は見たいけど・・・・・・」

ルカは、いけません、とでも言うように首を横に振り、迫るような勢いで説得する。

「血の繋がった温かい両親、兄弟がいなくて寂しかったでしょう?
あんな貧乏な家に拾われ、その上放りっぱなしに雑用の毎日、
そして、見た目の違いから周囲に後ろ指を指されてきたそうですね。
私の幼少時代も、姫の苦痛に及ばずながら似た経験をしました。
姫・・・・・・もう、このような苦行を甘んじる必要はありません」

「辛いこともいっぱいあったよ・・・・・・でもね、生まれて今日までずっと幸せなの。
だって、お兄ちゃんが傍にいてくれるから、そう、これからもずっと一緒に生きていくの」

ミューの俺の袖を引く力が一段と強くり、俺の顔を瞳をまっすぐ見つめる。
強い愛情深さを感じるような笑みで。

「兄代わりの男をとても慕っているとは聞いたがこれ程までとは・・・・・・。
・・・・・・・分かりました、
取り合えず王への謁見をなさってくれるということで宜しいのですね?」

「はい・・・・・・あ、あのぉ、お兄ちゃんも良いんですよね・・・・・・?」

「王の部屋に他国の者は原則として立ち入り禁止なのですが」

「・・・・・・お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ怖くて・・・・・・お願いします」

姫であるらしいミューの願いを断れるはずもなく、ルカは渋々了解する。
しばらくして、壮麗な馬車がやって来てそれに乗り込んだ。
ミューは目的の地まで終始、手を握って離さなかった。

654深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/05(日) 03:37:24 ID:lXA2OcXg
投下終了です。
病み部分が相変わらず微量。
短い中でいろいろ話を詰み込むって本当に大変ですね。

655雌豚のにおい@774人目:2011/06/05(日) 09:34:10 ID:yJm5DckQ
GJ!

656雌豚のにおい@774人目:2011/06/05(日) 12:10:20 ID:NmuO1IBQ
GJ
前回十分病んだし、やりたいようにやっちゃってください!

657雌豚のにおい@774人目:2011/06/05(日) 17:43:37 ID:G6Dl4Bno
来てくれ ウェハース!!

658ヤンデル妹:2011/06/06(月) 00:36:03 ID:ySaUzkQA
みなさんうまいです!GJ

なので僕も続きを書きます。僕がヤンデレの妹がいたらと妄想して書いたやつの続きです。

今日は月曜日。
妹の信じたくない秘密をしってしまってからもう1日たってしまった。
昨日の夕方、妹の様子が急におかしくなった。
いや、たぶん・・確実に俺のせいなんだけど・・。
あれから、いつも母親が作ってくれていた弁当を、妹が作りたいといってきた。
急に料理に対する情熱が燃えたんだとか、なんとか・・。
まあ、それ自体は別にいいんだけど・・・。
弁当をもってきた妹の手が絆創膏まみれなのは驚いた。
そんなわけで、今昼休み。
恐る恐る、弁当を開けてみると結構ちゃんとできていた。
うん、味もなかなか・・いける!
将来いい奥さんになりそうだな。
にやにやしながら弁当を食べてる俺は他の奴らから見たら気持ち悪いだろう。
まあ、そんな心配する必要はないんだどな。
いつも一人で、屋上で。
すずめと一緒に食べているからな。
そうです。
俺には友達がいないのです。
あることが原因で・・。
「城間くんっ今日も一人でお弁当?」
そういってきたのは俺の幼馴染の上間 はるか。
ひらがなではるかだ。
そういえば、こいつだけは俺のこと嫌いにならなかったんだっけ。
「あれ〜?それいつものお弁当とちがうね!」
女の子ってこういうの本当っ・・・・に!敏感だよね。
「もしかして、妹さんが作ってくれたの〜?」
あらら、本当に女性って超能力でもあるのかね?
「ま・・まあな。」
「ふ〜ん。そうなんだ。」


「むかつく。」


はるかは、俺には聞き取れないくらい小さな声で何かをぽつりとつぶやいた。
なんだろう・・笑顔の裏にものすごい気迫を感じるんだが・・。
「ってか。俺と一緒に飯食って大丈夫なのかよ?」
「全然大丈夫!きっと、いつか城間君の誤解も解けるよ!だから・・そのあいだ・・。」
そう、はるかは顔をほのかに赤らめながら言った。
その反応になぜか俺も顔が赤くなる。
その時、タイミングよくチャイムがなった。本当にこういうときってタイミングいいよな・・・。はぁ・・。
「いけない。私次の体育、水泳だったんだ。ごめんね。いっしょに食べられなくて。」
「いいって。早くいかないと遅れるぞ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
「おっ・・おい!はるか?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい。だからだから・・。」
虚ろな目でそういうとまるで、捨てられそうな子犬のような声で
「捨てないで・・。」
と、ぎりぎり聞き取れるくらいの小さな声でそうつぶやいた。
「なっ!なにいってんだよ!俺がはるかを捨てるわけないじゃん!」
「本当?・・本当?・・本当・・・?」
そう、すがるような目つきで言った。
なぜか、その眼を見ていると心が苦しくなった。
「ああ、本当だ。約束する!」
俺はそう、力強くいった。それがどういう意味になるのかも知らずに。
「うれしい・・うれしい・・。」
「そっ・・それじゃあもう行くね!絶対!!絶対次はいっしょにたべるから!」
そういうと、あわてるように駆け出して行った。
あいつおっちょこちょいだから、コケそうだな〜。
・・・やっぱりコケた。
って、こうしてる場合じゃない。
俺は、最後にとっておいたハンバーグを急いでかきこむと、教室に向かって走った。
気のせいか、そのときハンバーグについているケチャップから鉄の味がした。
まさか、そんなはずはないよな?

659雌豚のにおい@774人目:2011/06/06(月) 01:46:29 ID:Lskam8FI
続きをもっと

660雌豚のにおい@774人目:2011/06/06(月) 01:51:59 ID:d9WlKLkQ

自分の身体で弁当作るネタ画像が自動再生したが問題ない

661ヤンデル妹:2011/06/06(月) 08:49:49 ID:FebmqocQ
続き書き込みます。今度は、はるか目線で書き込みます。

城間君とはもう、幼稚園の頃から一緒だったな。

臆病で引っ込み思案だった私に初めて話しかけてくれたのは
城間君だった。
いつも私を連れ回して一緒に遊んでくれたっけ。
あのとき二人で交わした約束。
今でも覚えているかな?
あの時私、城間君に大きくなったらお嫁さんにしてくれる?って聞いたら。
「うん!もちろん!」
っていってくれたよね。
私、すごく嬉しかった。
もちろん、城間君も覚えているよね?
うん、そうだよね。それならいいの。
でも、一つだけ許せないことがあるの。
城間君に群がってくる・・女、女、女、女。
すぐ目を離すとこれだもん。
だからね。これは仕方ないことなの。
城間君の悪い噂が流れれば、誰も城間君に近かなくなる。
そうすれば、城間君は私だけのもの。
ごめんね、城間君。
でも、私と二人っきりになれた方が城間君も嬉しいでしょ?
でも、妹さんだけは城間君のこと嫌いにならなかったな~。
どんなに悪い噂流しても、
「お兄ちゃんがそんなことするはずない!!」
っていって。
城間君の妹さんだから手荒な真似はしたくなかったのにな~。
あっ!もう、放課後だね。
今日も、城間君の隣を歩かなくちゃ。
だってそれが奥さんのつとめでしょ?
城間君待っててね。
絶対に城間君は私だけのものにして見せるから。

エロ少な目ですいません。次の話では、少しエロ的なものを加えます。

662コオロギ:2011/06/06(月) 16:52:58 ID:Q9vns0WY
書いていい?

663雌豚のにおい@774人目:2011/06/06(月) 17:02:55 ID:N1H15V.c
書きたまえ

664雌豚のにおい@774人目:2011/06/06(月) 19:43:30 ID:/0iX70Ts
構わん
続けろ

665雌豚のにおい@774人目:2011/06/06(月) 21:15:12 ID:N1H15V.c
kaitelureyo onegaidayo

666明日が来る!:2011/06/06(月) 21:51:01 ID:Q9vns0WY
初投稿です。

明日が来る!
プロローグ

その日は、蝉が鳴いていた。
小さな蛍が射し込む木漏れ日を見上げている。
二人の兄が歪んだ笑みを浮かべ、静かに蛍を見下ろしている。
「おらぁっ! 他人事みてえにボーッとしてんじゃねえぞ!」
二人の兄のうち、右側の方が、蛍の腹を蹴り上げる。
「ぅぐ……」
激痛に呻きながら、蛍は思わず膝を付く。吐瀉物の匂いが鼻を突く。じんわりと霞む視線の先に、涙を浮かべながらこちらを窺う冴の様子を捕まえる。
「立てっ!立たないかっ!」
左側の兄が蛍の胴着を引っ張り上げ、無理やり腰を上げさせる。
冴は身体が弱い。せめて、冴だけは守らなければ……
蛍は今日立ち上がる。二人の兄と向き合うことはしないけれど。
蝉が鳴いている。

涙が頬にべとつく。飲み込んだ吐瀉物の名残りが気持ち悪い。嗚咽は尽きることなく、蛍の胸を突き上げた。「今日はこれだ」
左側の兄が蛍にビー玉を突き出した。
右側と左側。並んで立つ二人の兄を、そう認識するようになったのはいつ頃からだろうか。
勿論、二人の兄には名前がある。しかし、二人の兄が「右と左」である。と名乗っても、蛍は別段驚きはしなかっただろう。
「うぐっ……はぁっ……」
兄の振り撒く恐怖に支配され、蛍は声にならない悲鳴を上げた。
「さあ、食べるんだ」
左が押し付けるようにして、蛍にビー玉を握らせる。

蝉が鳴いている。

世界はどこまでも残酷だ。そこまで考えて、蛍はそれを訝った。
特別世界は残酷なんかではない。関心がないだけなのだ。遠巻きに眺めることしかしない冴のように。
――いや、あるいは冴は心配しているかもしれない。絶対庇ってくれなくともだ。
しかし、この場合実際行動しないことは、これ以上ない罪悪のように蛍は思う。
ビー玉を口に含む。歯に当たって、ころりという音が耳にうるさかった。

蝉がうるさい。

射し込む木漏れ日が目に痛かった。


――限界が近かった。

667コオロギ:2011/06/06(月) 21:57:54 ID:Q9vns0WY
書き貯めてくる。

668明日が来る!:2011/06/07(火) 01:11:47 ID:AAT5zjkU
遠くから父の声がして、二人の兄は逃げるようにして立ち去った。
「…………」
道場の裏手に蛍は立ち尽くし、尽きることない自らの嗚咽を、他人事のように聞いていた。
このように過ぎ行く蛍の幼年期は、決して明るい未来を指し示したりはしない。絶望と苦痛とで縛り付けるのみだ。
腹が軽く鳴る。
ビー玉では膨れることのない腹を、蛍はひたすらうらめしく思った。
きっと母が、昼食を用意しているだろうが、蛍はそれを当てにせず午後の日課であるランニングに向かう。
いつものコース。いつもの予定。
お腹が少し張っていて、妙な違和感がある。時折、こちりこちりと鳴る音に、蛍は口をへの字に曲げる。それでも、先日のアレよりは精神的ダメージは少ないように思われた。
大学病院に差し掛かり、駐車場の敷地から病棟の三階辺りを見上げると、いつものように手を振った。
(笑わなきゃ)
大袈裟なくらい元気よく手を振る蛍にあどけない笑顔で答える少年が『里村 静流』と名乗ったのは一月前のお話。
蛍は中庭の日光を避けたベンチに腰掛け、いつものように静流を待つ。
「おはようさん」
白く小さな少年。静流が、にこっと微笑みかける。彼……あるいは彼女なのかもしれない。蛍にはどうしても男女の区別がつかなかった。ただ、そうであればいいという理由から、静流のことを男の子だと思うようにしている。
「今日も、お願いしていいですか?」
のんびり言う静流は、蛍の隣に腰掛けて足をぷらぷらさせている。
「うん、そう……」
「冴は元気ですか? 最近、浮かない顔をしています」
(そっか、昨日は冴の通院日だったっけ)
と、つらつら考える。同時に、遠巻きに見つめる心配そうなあの目付きも。
「知らない」
そんなことより、と蛍は考える。最近、静流は一層、白く細くなって行く。ここで蛍が昼食を取るようになって一ヶ月が経とうとしている。そのことと密接な関係があるように思えてならない。
「胴着に血が付いています。訓練、ですか?」
蛍は首を振って否定する。いじめられて強くなったという話は聞いたことがない。
「そうですか。いつものように、治療行為をしても?」
静流は小さく首を傾げ、上目遣いに問いかけてくる。
蛍の返事は玉虫色だったが、静流はそれを肯定と受け取ったようだ。一つ頷いてベンチの下から薬箱を取り出した。

669明日が来る!:2011/06/07(火) 02:16:30 ID:AAT5zjkU
「…………」
蛍は肩を竦めた。静流が準備がいいのは昨日今日始まったわけではない。しかし、この場合、恵まれない自身の環境を気遣われての行動に思えてくる。
「今日は手品を見せてあげます」
静流は手慣れた様子で、血の滲んだ蛍の口元を消毒し、指の擦り傷に薬を塗りつけ、絆創膏を張り付ける。
「はい、動かないで……」
静流が人差し指で唇の端を撫でるようにして、軟膏を塗りつけてくる。
蛍はそれがくすぐったい。治療を受けながら、身じろぎする。ここまではいつもの光景だった。そして、白く小さな手を蛍の目の前でひらひらさせる。
何も握ってはいない。
それから左の手のひらを、ゆっくりと確かめるようにして、蛍の腹に押し付けてくる。
「な、なに……?」
狼狽えながらも蛍は、静流の手を振り払うようなことはしなかった。こんな小さな手に乱暴なことなどできない。よくできた大理石の彫像のようで美しくもある。それを振り払うなど思いもよらぬことだった。
「んっ……」
静流は、ぐいぐいと腹を押してくる。探るような動きだ。ややあって、ぱっと手を開く。
そこには、色とりどりのビー玉が7個握られていた。
「……!」
蛍は、ぎょっとした。何を言っていいかわからない。酷く狼狽える。
「蛍は、ビー玉が好きなのですか?」
静流は、また首を傾げる。
「ちっ、違うっ! そんなもの好きじゃないっ!」
どう説明していいかわからない。蛍はしきりに唇を舐め回し、
「それは……それは……」
と口ごもる。
「唇を舐めないでください。せっかく薬を塗ったのに、取れてしまいます」
静は、にこっと笑う。
「手品でした。驚きましたか?」
「……面白くない」
「はい。笑ったら、軽蔑するところです」
「……帰る」
「はい。さようならです」
蛍は踵を返し、その場を立ち去った。眉は根っこのほうが寄っている。
(何も持ってなかったはずだ。どこから……手品じゃないっ……」
そこまで考え、先ほどの静流を思い出す。
寝間着姿の静流は可愛かった。蛍はいつも癒される。
病院は、冴を治すことはできない。だが、蛍にとってはかけがえのない場所になりつつある。
「うふふっ」
蛍は笑った。それはいまだ幼い彼女なりの年齢にふさわしいあどけない笑顔だった。

670明日が来る!:2011/06/07(火) 02:21:34 ID:AAT5zjkU
投下終了。
ヤボ用が重なって遅くなってしまいました。ごめんなさい。
また来ます。おやすみなさい。

671雌豚のにおい@774人目:2011/06/07(火) 02:25:10 ID:ur4OiLjM


672 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:11:34 ID:KYVdVBUQ
皆さん乙です。

ようやく書き溜まったので、五月と冬第二部投下します。
かなり、長いです。そして、以前と同じく雑です……。
ご容赦ください。

673五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:12:30 ID:KYVdVBUQ
昼休みの終了の鐘はすぐ鳴ってしまって、冬子と長いこと話せなかった。
席に着く前に冬子に今日は俺と一緒に帰ろうと約束した。

「えっ、いいの……?」
冬子は椅子を引きながら驚いた様子でこちらを見た。

「うん。話したいこととかいっぱいあるし……ほかの人と帰る約束とかなければだけど」

「や、私も話したいことがいっぱいあって……」
教室の扉ががらがらと音を立てて開く。先生だ。

「じゃあ後で」
そう言って目くばせをすると、冬子はこくりとうなずいた。

――――。

「起立、礼」

今日は職員会議らしく、五時間目で授業が終わった。
掃除を済ませ、帰る準備をする。
先に準備を済ませた冬子が俺のそばに来る。

「五月くん」

「うん、行こうか」
教科書を鞄に突っ込んで、肩にかける。
疲労の溜まった左肩にずっしりと、教科書の重量を感じる。
今日は金曜日。明日からゴールデンウィークだ。
ゴールデンウィーク中のバイトは午前九時から午後の三時までなので、
一週間ほどいつもの早起きをしなくてもいい。

上靴を脱いで下駄箱に入れる。
外靴を取って履いた。

「冬子、自転車とってくるから、待っててもらってもいい?」

「うん」
昇降口の前に冬子を待たせて、自転車を取りに行く。
籠に鞄を入れて、自転車の鍵を外す。
自転車に乗って、昇降口まで走る。

「行こうか」
冬子の前で止まり、自転車を降りる。

「うん」

時刻は十五時。
自転車を押して、冬子と並んで道を歩く。

バイトは十七時から。
冬子と歩いて帰っても、時間が余るくらいだ。

「……五月くんは」

「うん?」

「ダイエットでもしてるの?」
冬子は心配そうな表情で俺に尋ねた。

「毎日、昼食がパン一枚ってお腹すかないかな。
ここ最近やつれてるよ」

「えーっと……弁当作る暇がなくて」
苦笑いで答える。
実際、自分でも少しやつれたかと思う。

674五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:14:38 ID:KYVdVBUQ
「ダイエットじゃないんだよ」

「そうなんだ……」
冬子は少し考えるようなしぐさをした後に、こちらに向き直って言った。

「私が作ろうか?」

「えっ、いや、いいよ」

「でも……」
冬子は今にも泣きそうなくらいの表情を浮かべた。

「五月くん、死んじゃうよ……?」
思わず、ぷっと吹き出しそうになったが、あながち冗談でもないなと思い、唸った。

「んぐー……」
朝食抜き、昼食はパン一個。夕食は並の量。
この食生活を続けて、まだ二週間ちょい。
体の異変と言えばやつれたくらいだと思う。
若いと言ってもバイト、家事、学校の三つをいっぺんにこなすのだ。
体を壊してもおかしくない。
学校を一日休むだけで、五月は勉強面で大きく遅れをとる。

昼食を作ってくれるという提案は、かなり嬉しいことだった。

「でも、いいの……?」
友人とはいえ、五年ほど前に別れたのだ。
五年ぶりに再会して、初っ端から迷惑はかけられない。

「うん、一人分増えるだけだし」

「そうか、かたじけない……」

冬子がふふっと笑った。

「五月くん、武士じゃないんだから……」

「うむ」
そう答えて、今度は二人して笑った。

それから、彼女が転校してからのことを聞いた。
何度か俺に連絡しようかと思ったけど、踏ん切りがつかなくて連絡をしなかったということを聞いて、
少し、安心した。
冬子がてっきり、俺のことを忘れたのかと思っていたからだ。

一通り冬子の話が終わり、疑問に感じたことを質問した。

「ところで、苗字変わってたのはなんで?」

「ああ、えっと。親が離婚する前は母親の姓を名乗ってて……。
お母さん、そういうのこだわりがあったみたいで」

「そうなんだ。今は家事はお父さんが?」

「ううん、私がやってる。
お父さん、仕事が忙しくて。五月くんは?」

「え、あー、今一人暮らししてて」

「そうなんだ……」
少し大きめの交差点に当たる。

「俺ここ曲がるけど……」

「そっか、じゃあまたね」
冬子は手を振って、交差点の横断歩道を渡っていった。

左に曲がって自転車に乗りこむ。

一軒家の庭で躍る鯉のぼりを見ていると、
風で散った桜の花びらが頬をかすめた。

675五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:15:30 ID:KYVdVBUQ

――――。

枕もとで携帯が鳴った。
眠りの世界から引き戻され、重い瞼を持ち上げる。
携帯を開けてみると、メールが来ている。

送信者は愛。
ゴールデンウィーク中の暇な日を教えてほしい、とある。

そういえば、昨日あいつ言ってたっけ……。
後でちゃんと返信しておかないと。

布団から起き上がり、目をこする。
カーテンを開け、部屋に朝日を取り入れた。
今日はいい天気だ。窓を開けて空気の入れ替えをする。

洗面所で顔を洗い、タオルで顔を拭いた。

久々の朝食だな……何を作ろう……。

ふと、玄関のドアの郵便受けに、何かが挟まっているのに気付く。

回覧板か……?

郵便受けから、その何かを引き抜いた。
背表紙が赤く、表紙がピンク色をしたノート。

疑問に思って表紙をめくった。
そのノートの中身は、疑問をさらに深めるものだった。
食べ物の名前が羅列してある。

クリームパスタ。グラタン(チーズは控えめ)。シチュー。
水餃子。きなこ餅。辛い物(辛すぎるのは駄目)。
レタス。トマト。ナス……。

何だ、これ……?

そのページは食べ物の名前だけで埋まっている。

首を傾げる。
ページをめくろうとしたとき、インターホンの音が部屋に響いた。

ノートを置き、ドアを開ける。

「おはよう、五月くん」
冬子が居た。

「冬子……」
名前を口にすると、冬子はにっこり微笑んだ。
彼女はワイシャツの胸にリボンをして、黒いカーディガンを上から着ている。
黒い無地のロングスカートをはき、それが彼女の黒い髪にとてもよく似合う。

「こんな朝早くからどうしたのさ……」
俺は部屋を振り返り、時計を見る。

「まだ、六時だぞ……」

「ごめん……なさい……ご飯まだかと思って……」
そういって、冬子は俯いてしまった。
手には重そうな、中身の詰まった鞄を提げている。

「……作ってきてくれたの?」

「……うん」

「そんな、わざわざ……」
冬子は自分のために朝食を作ってきたのだ。
わざわざ作って、ここまで持ってきた。
それに、インターホンで起こさないように、
ドアの前で俺が起きるのを待ったのだろう。
無下に断るのも悪いと思い、ドアを開け、彼女を招き入れる。

「ありがとう。狭いけど、上がって……」

676五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:16:18 ID:KYVdVBUQ

「お邪魔します」
冬子は靴を脱いで、部屋に上がった。
床に置いといたノートを取る。

「これ、冬子の?」

「うん……中身見た?」
冬子はノートを俺の手から取り、彼女の鞄にしまった。

「えと、最初のページだけ……」

「そう……」

そういうと冬子は鞄から幾つか、タッパーを取り出した。

「電子レンジ借りてもいいかな?」

「ああ、そっちにあるから……」
俺の指した方向に向かって、冬子は電子レンジの扉を開けた。
冬子が持ってきた料理を温めている間、俺は二人分の食器を出した。

677五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:17:09 ID:KYVdVBUQ
腹をさすって、溜息をつく。
今日、もしも冬子が来なかったら、こんな満足感を味わうこともなかったろう。

ふと、なぜ冬子が俺の家の場所を知っていたのか。
疑問が浮かぶ。が、そんなこと、別段気にしてどうなるということでもない。
すぐに、意識を別のところに切り替えた。

冬子はテーブルの上の皿を片づけて、流し台へ持って行った。
本来なら、この家の主である俺が片づけるべきなのであろうが……。

「五月くん、スポンジはこれ使えばいいかな?」

「え、お客に皿洗いさせられないよ」
立ち上がって、流し台のそばまで行く。

「いいよ、私、こういうの好きなの」

「でも……」

「いいのっ!」
冬子は俺とのやり取りを楽しむように笑い、スポンジに洗剤をつけ皿を洗い始めた。

「じゃあ、よろしく」
笑いかけると、冬子はすこし赤くなって俯いた。
その仕草に胸をくすぐられたような感覚を覚える。

畳の上に腰を下ろし、体を捻ってほぐす。

時計を見ると七時半。
八時半までにバイト先へ行かなきゃいけない。

「冬子ー」
皿洗いをしている冬子の後姿に声をかける。

「はーい」

「俺、八時半にバイト行くんだけど……」

「そう……」

「冬子はどうする……?」

「えと……五月くんさえよければ……」
冬子は蛇口をひねり、水で食器をすすぎながら言った。

「あの……ここで、帰るの待っててもいいかな……?」

678五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:17:57 ID:KYVdVBUQ

「んー……冬子がそうしたいなら……」

「あ、ありがとうっ!」
振り返って五月くんに笑いかける。

「何時に帰ってくるの?
私、洗濯とか掃除とか……なんでもするから!」

「えっ、いや、えと……午後の三時に帰るけど」

「じゃあ、ご飯作っておくね!」

「あ、ああ、ありがとう……」
五月くんは立ち上がって、伸びをした。
そして、パジャマの前のボタンを外し始める。
つい、ぼーっと着替えを見てしまう。

「見るなよ、エッチ」
ふざけた様に五月くんが笑った。

「あっ、ごめん……」
慌てて目をそらした。顔が熱くなる。

皿洗いを終わらせ、手を拭いた。
五月くんは着替え終わったようで、鏡の前で寝癖を整えていた。

「じゃあ、鍵置いておくから……」
五月くんは靴を履いて、玄関の扉を開けた。

「行ってらっしゃい!」
微笑んで手を振ると、五月くんははにかんで手を振りかえしてくれた。

「行ってきます」
五月くんが外に出て扉が閉まる。
大きくため息をついた。

「さて……と」
することを確認する。
掃除、洗濯、五月くんが帰ってきたときの軽い食事……。

五月くんに頼まれた洗濯物を運び、洗濯機に放り込む。
洗濯機のスイッチを押すと、がたがたと音を立て始めた。

洗濯の間に掃除を済ますことにし、掃除機のコンセントを繋いだ。
掃除機をかけようと部屋に入る。布団が敷いてあった。

「布団片づけてなかったんだ……」
掃除機を置いて、布団を畳もうとしたところで手が止まる。
つい、布団を撫でる。

「…………この布団」
胸が締め付けられる。あふれ出る唾液を飲む。

大きく息を吸い込んで吐いた。

「少しだけ……」
五月くんの布団に倒れこむ。
掛け布団を畳んで抱きつき、ごろごろと布団の上を転がる。
布団の匂いを思い切り吸い込む。
思わず溜息が漏れる。

679五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:19:26 ID:KYVdVBUQ
「……はぁ……五月くんの匂い……」
しばらく、布団に抱きついたまま匂いを嗅ぐ。
ふと、全身をくすぐられるような感覚を覚える。
自分の胸を撫で、体を布団に擦り付ける。

「……んぅ……あ……」
抱きついていた布団を離し、広げた。
体の奥が熱くなる。

「ごめんね……五月くん……」
布団の中に体を潜らせる。
カーディガンを脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンを外し、ブラを取る。
自分の乳首を擦る。体の奥から熱い吐息が漏れる。

右手で乳首を、左手をスカートの中に突っ込んで、秘部を愛撫する。

「ん……はぁ……ふぅ……」
布団の匂いと、自分の分泌液の匂いが混ざり合って鼻を通る。
背徳感を感じるが、もう、いまさら関係ない。
むしろ、脳の中で背徳感が快感に変換される。
好きな人の布団の中で、自慰をする自分。

これ以上はいけない。という理性。
もっと感じたい。という本能。
二つが混ざり合い、体の中をさらなる快感となり駆け巡る。

「んぅ……あ……っく……」
頬に汗が伝う。吐息はさらに熱く。
自分の体を慰め、愛撫する手指の動きは、さらなる快楽を求めて激しさを増す。

呼吸が早くなり、火照る顔には一筋、もう一筋と汗が流れる。
快感の波が押し寄せてくる。

「……はぁっ……あっ……!」
足をぴんと伸ばし、全身を反らす。
秘部から全身に、どろりとした甘い絶頂が注がれる。
軽く痙攣したような、感覚。首の後ろがピリピリと痺れる。

「五月……くん……」
絶頂の快感が身から引き、大きくため息をつく。

しばらく余韻に浸ってから、体を起き上がらせる。
ブラをつけ、着衣の乱れを直す。

パンツに手で触れると、べとべとになっている。
こんなこともあろうかと、カバンの中には替えの下着が一組だけ入っている。

……我ながら、変なところが用意がいいと思う。
下着を替え、布団を畳んで押入れにしまった。

680五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:20:17 ID:KYVdVBUQ
「ただいまー」
玄関の扉を開ける。
玄関で服についた水滴を落とした。
ちょうど、バイト先から帰るときに雨が降り始めたのだ。
靴を脱いで部屋に上がる。

「おかえり、五月くん」
ふと目をやると、洗濯かごの中身が消えていることに気づく。
よく見ると、部屋の床も綺麗になっている。
冬子が掃除をしたらしいとすぐに分かった。

「ありがとう……なにからなにまで……」

「気にしないで、私こそお邪魔しちゃって……」

冬子は申し訳なさそうに俯いて、上目づかいにこちらを見た。

「いや、そっちこそ気にしないで……本当、助かってるし」

「そっか、ありがとう。軽い食事作ってあるから、食べて。
お昼まだでしょ?」

「ん。ありがとう」

冬子は盆に料理をのせて、テーブルまで運んだ。
クリームパスタだ。
ベーコンとほうれん草が入っていて、視覚から食欲をそそられる。

「じゃあ、いただきます」

「ふふ、どうぞ」
パスタを箸で口に運ぶ。

「うん、おいしい」

「本当?よかった……」

「冬子は料理が上手だね、きっといい嫁さんになれる」

「えっ、そんな、あは……」
冬子は顔を真っ赤にして照れる。
彼女の表情を見て、思わず笑みがこぼれる。

「ふぅー。ご馳走様」
量は少し足りない感じがするが、今の時刻は午後の四時。
夕食間まであっという間だ。足りないくらいがちょうどいい。

「あ、そうだ、勉強教えてほしいんだけど……いい?」
食器を流し台に運び、水にさらす。

「うん、いいよ」
鞄の置いてある部屋に行き、数学Ⅰの問題集と筆箱を鞄から取る。

「12ページから……えっと」
ぺらぺらとページをめくる。

「16ページまでだよ」
冬子はにこにこしている。
問題集をテーブルの上に置く。椅子に腰かけると、冬子は俺の隣の椅子に腰かけた。

「じゃあ、とりあえずできるところは自分で……。
分からないところあったら言ってね」

「ん。ありがとう」
ノートを開いて、問題と答えを書いていく。
かりかりという音が部屋に響く。
冬子が俺の手元を凝視している。俺と冬子の距離が思ったより近くて、少し緊張する。

「五月くん、そこの公式違う」
冬子の声で我に返った。

「えっ、ああ、そっか……」
慌てて計算式を消し、新しい計算式を書きこむ。
それから何度か冬子に教えてもらったり、訂正をされたりで、久々に実のある勉強をした気がする。

俺が問題集を閉じるころ。時計を見ると六時近くになっていた。

681五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:23:20 ID:KYVdVBUQ
「そろそろ家帰った方がいいんじゃないか?」
五月くんは時計を見て言った。
帰れ。と言われているわけじゃなく、
単純に心配してくれているのだと分かっていても、寂しさを感じる。

「うん……そうだね」
私は椅子から立ち上がり、スカートの皺を整えた。
五月くんはカーテンを閉めようと窓際まで歩くと、あー、と声を上げた。

「すげぇ雨……」
その声を聞いて、私も窓際まで行き外の様子を見る。
ザーザーと雨に打たれている屋根が、音を立てている。

「冬子ー……どうする?傘貸すよ?」
五月くんの眉がハの字に下がっている。
申し訳なさを感じる。

「もしかして、自転車?」

「うん……」
私がそう言うと、五月くんは大きく息を吐いた。

「雨、止むまで家に居る?」
心の中でガッツポーズをする。
表情は申し訳なさそうな顔のまま保って、私は謝罪した。

「うん、ごめんね……」

「気にするなよ、家事をしてくれたお礼だ」
五月くんは微笑んだ。

「夕飯にしよう」

682五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:24:43 ID:KYVdVBUQ
五月くんはそっぽを向いて言った。
まるで、私に表情を見られたくない様に。

「いいの?」

「むぅ……冬子が嫌じゃなければ。
夜中に自転車ひいて帰るのもあれだろうし……」

「うん、ありがとう。
……じゃあ、お言葉に甘えて泊まらせてもらうね」

「着替えとかは我慢してね……悪いけど」

「うん」

「パジャマは貸せるけど……下着はないから」

「ありがとう」

「さて……お風呂沸いてるけど、先と後どっちがいい?」
風呂。という単語に思わず反応する。
先に入るか、後に入るか。
五月くんは私に気を使って、どちらがいいか聞いたのだろうが。
正直かなり迷った。

先か後か。どちらも大きく意味が異なってくる。
先をとれば、私の浸かった湯を五月くんが使うことに。
後をとれば、五月くんの浸かった湯を私が使える。

どちらがより……。
はっと我に返る。
何を私はこんなことに真剣になっているんだろう。
これじゃ、変態みたいじゃない。
そう思うと顔が熱くなった。

ひとまずやましい気持ちを冷ますことにする。

「わ、私が後に入るよ」

「そっか、じゃあお先に失礼」
五月くんはタンスからタオルと着替えを取り出し、部屋を出る。
部屋を出た直後、思い出したようにくるりと私の方を向いた。

「そういや、ここの風呂、脱衣所がないから……」
五月くんは照れるように頬をかいた。

「えと……お互い見ないようにしようね」

「あ……うん……」

683五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:26:15 ID:KYVdVBUQ
部屋を出て、風呂場に向かった。

風呂の戸の前で、衣服を脱いでいく。
普段は家に一人きりのため意識してなかったが、
冬子が居ると思うと何か、くすぐったいような恥ずかしさを覚えた。

脱いだ服を洗濯かごに入れ、風呂場に入る。
体を流し、髪を洗う。お湯で泡を洗い流し、湯船につかる。

浴槽のふちに肘を置き、大きく溜息をつく。
ネガティブな溜息ではなく、どちらかというと幸福感から漏れた溜息だ。

思えば、冬子と再会して二日。二日だ。
昔、友人だったと言っても、五年前の話だ。
彼女と以前と同じように、仲良く話せていることに喜びを感じる。
会話にぎこちなさがあったのは最初だけ、
二日という短い期間で、彼女との距離は五年前と同じに縮まった。

俺が、中学生の時。
冬子のことを忘れたと思っていたけど……。
それは、冬子に忘れられたと思い込んで、
卑屈になって、自分から無理に忘れたのかな……。

浴槽の湯を手ですくって、顔にばしゃりとかける。

もしかしたら、ずっと心の奥底。

俺は彼女を想っていたのかもしれない。

浴槽から出て、風呂場の戸を開けた。
湯気と共に風呂場からゆらりと出る。
五月とはいえ、雨が降っているのだ。部屋の空気が冷えている。
火照った体に対して、その冷えた空気が心地よい。

タオルで体を拭く。
下着を身に着け、上からパジャマを着る。
洗面所で歯を磨き、部屋に戻った。

「冬子ー、上がったよー」

684五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:27:45 ID:KYVdVBUQ
――――。

五月くんはタオルと着替えを持って、部屋から出た。

また顔が熱くなる。きっと赤くなっているのだろう。
悟られないよう、顔を隠すように五月くんに背を向けた。
戸のしまる音がする。きっと、五月くんはお風呂に入ったんだろう。
五月くんがお風呂に入ってる間に、頭を冷やそう……。
目を閉じて、深呼吸をする。

ばしゃばしゃとお湯の流れる音がする。
五月くんは今、体を洗っているのだろうか。
だとして、どこをどうやって洗っているの……。
また、はっとなり頭を抱える。

「だ、駄目だぁ……」
自分に幻滅する。こんな、変態じみたこと……。
聴覚を別のところに集中させよう。
そう思ったとき、目に入ったのは棚にあるCDプレイヤーだった。
勝手に借りていいものかと迷ったが、使わせてもらうことにした。

電源を入れると、すでにCDが入っていたようで曲がすぐに始まった。

人のざわめき声と雑音の後、演奏が始まる。
世界的に有名だった、今もなお有名なバンドのものだ。

一曲、二曲と曲が終わる。
三曲が終わろうとフェードアウトをした。

「冬子ー、上がったよー」
声に振り向く。
パジャマを着た五月くんが後ろにいた。
髪が濡れている。少し胸がドキドキした。
お風呂上がりの五月くん……。

「お次どうぞ」
彼はタオルで髪を拭きながら、にっこりと笑った。

「うん、ありがとう」

「CD聞いてたんだ」

「あ、うん。ごめんね、勝手に借りちゃって……」

「いいっていいって。俺、これ好きなんだよね、この曲」
今流れているのは四曲目、軽やかなリズムとメロディ。

「少しずつよくなっていく、君が僕と一緒になってからは」
五月くんは押入れから布団を出し、畳に敷きながら言った。

「そういう歌詞なんだ。これ」

「今日はいい日だった?」
そう私が聞くと、五月くんは照れたように笑って、うん、とうなずいた。
胸をぎゅーっと締め付けられるような感覚。

「じゃあ、私入るね」
私は椅子から立ち上がった。

「ん、ちょっと待ってて」
五月くんはタンスからタオルとパジャマを一着出すと、私に手渡す。

「ありがとう」
脱衣所はないらしい。ということは、風呂の戸の前で服を脱ぐのだろう。
五月くんが覗きをするとは思えない。
というより、五月くんにならむしろ……。

頭をぶんぶんと振る。なんか私、変だ。

685五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:29:54 ID:KYVdVBUQ
衣服を脱いで、戸の横に置く。
戸をあけ、風呂場に入る。

まず体を流し、次に頭からお湯をかぶる。
髪を丁寧に洗う。泡を流した後、リンスをつける。
そのまま、体を洗う。
全身もいつもより、丁寧に丁寧にスポンジでこする。

髪と体にお湯をかけ、泡と髪についたリンスを流し、湯船につかる。

ふぅーと溜息をつく。ぬるくても風呂はいい。
浴槽に頬杖をついた。

思えば、五月くんを慕い続けて五年。
再会したのは……昨日。
以前と同じように、何の違和感も無く話せている。
嬉しくてたまらない。

五月くんは私を忘れてなかった。

浴槽のお湯を手ですくって、頭にかける。

五月くんに私の気持ちを伝えたとして、受け入れてくれるだろうか……。
もし、断られたら……。

頭をぶんぶんと振って、ネガティブな考えを消す。
最初から失敗することを考えたら、相手に失礼だ。
告白するのも、もっと先のことになるだろうし……。
今は、深く考えないでおこう。

風呂場から出て、体を拭く。
髪をタオルで拭き、丁寧に乾かす。

戸の横に置いておいた衣類から下着を取り、着る。
五月くんに借りたパジャマを身に着け、洗面所で新品の歯ブラシを借り、歯を磨いた。
それから部屋に行く。

五月くんは電卓をたたき、ノートに向かって何かを書きこんでいた。
彼の背後から手元を見ると、家計簿をつけているようだ。

「まめなんだね、五月くん」

「ん、ああ、一人暮らしだしね……」
ノートに数字を書きこんでいく。
私は隣に座り、それを眺めていた。
ぼーっと五月くんの書く字を目で追う。

最後の項目に数字を書き終えたところで、五月くんはノートを閉じた。
大きく伸びをしてあくびをする。

「ふあ……あ……」
五月くんは時計を見て、目を擦った。

「俺もう寝るけど……」

「あ、じゃあ私も……」

「冬子はこっちの布団で……」
布団を指さして、五月くんは言った。
敷かれた布団は一つだけ。

「じゃあ、電気消すよー」
五月くんは電灯のひもを引っ張り、電気を消した。

「お休み、冬子」

「お、お休み」

五月くんは畳の上に直接横になり、薄い毛布を一枚かけているようだ。
私はおずおずと尋ねた。

「五月くん……寒くないの?」

「んー?平気平気。気にしないでいいよ」

「でも……」

「いいからいいから」
私はその言葉を聞いて、躊躇いながらも布団にもぐった。
五月くんは疲れていたのか、すぐに寝息を立て始めた。
私も目を瞑り、五月くんの寝息を聞く。
私は今までにないくらい幸せな気持ちで、眠りについた。

――――。

足の冷え。布団の擦れる音。雨の匂い。
意識が蕩けた夢の中から、現実へ帰る。
重い瞼を無理やり持ち上げ、足の方を見る。
布団から露出して、部屋の空気にさらされている。

寒いはずだ……。

布団の中に足を戻す。ぼさぼさになった頭を掻いた。
ふと視線を動かすと、すぐそばに五月くんがいることに気付く。
よく見ると、布団に彼の足が入っている。

寒いのかな……。

私は五月くんの腕を取り、体を布団の中に引き入れた。
彼の体温が肌に伝わる。心が優しい気持ちでいっぱいになる。
五月くんを抱き、頭を撫でる。

686五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:33:21 ID:KYVdVBUQ
玄関の床を靴のつま先でこつこつと蹴る。
冬子はしゃがんで、靴の紐を結びなおしている。
現在時刻は八時。昨日の雨は止んだが、晴天にはまだ少し遠い。

「じゃあ、行こう」
立ち上がって、彼女は言った。
二人で玄関を出て、俺は扉に鍵をかけた。
アパートの自転車置き場で、彼女は今日、何度目かのお礼を述べる。

「本当にありがとう。私、お邪魔しちゃって……」

「いいっていいって。むしろ、家事手伝ってもらって助かったよ」
俺がそう言うと彼女は表情を明るくした。

「本当?家事ならいくらでもできるから……いつでも呼んでね!」

「うん、ありがとう。また今度お願いするよ」
今度っていつだ。自分に問う。
答えは返ってこない。

冬子と二人、横に並んで自転車を走らせる。

バイト先の店の前で冬子と別れる。
冬子に「五月くんが仕事をしているところを見ていきたい」と言われたが、
「勘弁してくれ」、と帰るよう促した。


カップラーメンを陳列棚に置いていく。
一つ、また一つ。
以前。中学生の時なんかは、こういう単純作業が堪らなく嫌だったが……。
今は、楽しいと思うことはないが、嫌だと思わなくなった。
何もかも忘れて、作業にうちこめる。

借金。食器にこびりついた油汚れみたいだ。

借金がなければ。と思う。
友人、部活、趣味。
他にやりたいことは腐るほどあった。もう、腐ったようなもんだ。

しゃがんだ姿勢から立ち上がる。
頭からすーっと血が引いていくのを感じた。
足元がふらつく。床に手をついて、深呼吸をした。

少し、やっぱり少し疲れているのかもしれない。
この連休中に体力を回復しておこう。
ふらふらと、更衣室に向かった。

服を着替え、店から出た。
近くの銀行に寄る。
ATMの前で口座番号の書いてある紙を睨む。
通帳を機械に差しこんで、画面に表示されている番号を指で触れる。
父が死んでから一か月半。今回が二度目の振込だ。
毎月六万円から七万円。
毎月それだけ支払って、完済に何年かかるのか。
考えたくもない。

陰鬱な気分で、ATMの前から遠ざかる。
ありがとうございました。と機械が声を発す。
無機的、それでいて明るいその声に、余計気分が沈んだ。

携帯を開くとメールが来ている。愛からだ。

一通目はゴールデンウィーク中に暇ある?家事手伝ってあげるよー、と書かれている。
そういえば、昨日のうちに返信してなかった。
愛には悪いことしたな……。

メールの画面を閉じて、アドレス帳から槻田愛の名前を出し、電話をかけた。

687五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:36:33 ID:KYVdVBUQ
ゴールデンウィークの予定を教えてほしい。
そう五月に言ったのは、一昨日。
昨日、五月にメールを送ったが、昨日のうちにメールは返って来なかった。

携帯のボタンをかこかこと押す。

一昨日は、五月と帰ろうと思っていた。
予想外の出来事に私は声をかけることができなかった。
五月は女の子と一緒に教室を出て、一緒に帰って行ったからだ。

唇を噛む。思い出しただけではらわたが煮えくり返りそうだ。

五月にメールを送る。
携帯を畳んで、溜息をついた。

ふと、机の上にある、うさぎのぬいぐるみが目に入った。
衝動的に近くにあった鋏を引っ掴む。

まず耳を根元から切り、鋏を逆手に持ち替えた。
鋏をうさぎの腹に突き立てた。
乱暴に何度も突き、裂いて、綿を引き出す。

我に返ったとき、ぬいぐるみは元の形を保っていなかった。
肩で呼吸しながら、床にある綿の塊を眺めている。
その時、携帯が鳴った。

綿の塊をゴミ箱に放り込み、携帯をとる。
画面には五月と表示されている。

「もしもし」

「あー、もしもし、ゴールデンウィークの件だけど」

「う、うん」

「明日は午前中空いてるけど、愛は大丈夫か」

「うん、もちろん……」

「返信遅れて、ごめんな。バイトだったから……。今終わったところで」

「あ、バイトか……大変だね」

「昨日は……バイトと、ちょっと色々あって返信を忘れてた。ごめんな」

「いいっていいて。
五月、料理上手く作れないって言ってたよね……。
明日お昼作ったげるから。あと家事も手伝うから!」

「あ、ああ、ありがとう。何時頃来る?」

「えと、ちょっと早くてもいい?」

「ああ、まあ、少しなら……待ち合わせはどこで……」

「ん、私直接行くからいいよ」

「そうか……あれ、家の場所知ってたっけ?」

「えっ!ん、五月この前教えてくれなかったっけ?」
嘘だ。一度も五月から住んでいるところの話なんか聞いていない。

「そうだっけ。じゃあ、悪いけど……」

「うん、明日お邪魔するからね」

「ああ、また明日」

「じゃあ……」

ぷつりと通話が終わる。ツーツーと携帯から音が鳴った。
携帯の画面を見つめる。

落ち着いたいい気分。
五月と少し話をするだけで、胸が幸福感で満たされる。
ゴミ箱の中にある綿の塊のことや、
五月の隣にいた女のことなど、すでに頭になかった。

私はゆっくりと携帯を閉じた。

688五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:37:09 ID:KYVdVBUQ
銀行に寄った後は家に帰り、夕食を作って食べた。
風呂から上がった後に家計簿をつけ、早めに寝た。
バイト中に立ちくらみをしたので、体に気を使ったのだ。

翌朝。
七時に目を覚まし、現在の時刻、八時半までに朝食と歯磨き、洗顔を済ませた。
昨夜、早めに寝たのが良かったのか、体調は上々だ。

ゴールデンウィークを過ごす高校生の中では、比較的健康的な朝なんだろうな。
畳の上で長座体前屈をしながら思った。

布団を片付け、伸びをして大きく欠伸をする。
ちょうどその時、部屋にインターホンの音が鳴った。

「五月ー、来たよー!」

「あいよー」
立ち上がって、玄関まで向かう。既に扉は開いていた。

「おはよう!」
愛は右手を挙げてあいさつした。
肩より少し下に伸びた緩い癖毛を、後ろで三つ編みにしている。
ストライプ柄のパーカーを着て、デニムスカートをはいている。

「おはよう。どうぞ、汚いところだけど」

「ほんとにね。お邪魔しまーす」
そんなことはない、って言ってほしかったんだけど。
愛は俺の心中を察したのか、クックと笑った。

「汚いほうが掃除のしがいがあるって!」
愛はぱしぱしと俺の背中を叩く。
冬子とは全然違うな。と思った。
その違いに嫌悪感を覚えることはない。むしろ違いは見てて面白い。

「さて、掃除道具貸したって」
指で方向を指し示す。

「そこの隅に掃除機あるから……、俺何かすることあるか?」

「五月、仕事ってのは自分で見つけるものだよ」
ふふんと鼻を鳴らして、得意げに愛は言った。

「……じゃあ、風呂掃除するかな」
それを聞いた愛はうんうん、と頷いて掃除機をかけ始めた。

愛に対しての印象は、中学のころとあまり変わっていない。
明るくて、思いやりがあって、世話焼きで、少し意地っ張りだけど、さっぱりした性格。
委員会の仕事を手伝ってもらったことをきっかけに、友人になった。

愛は俺と二人きりになった時、悩みを漏らしたことがある。
委員会の仕事を教室に残って片付けていた時だ。

他人に劣等感を感じているということを、俺に話した。
身長は平均より少し下で、そばかすがある。髪は綺麗でないし、くせ毛でこげ茶。
成績が特別良いわけではなく、運動も苦手。

私は何一つ他人より優れている所が無い。

自嘲気味に笑った彼女に、俺は慰めの言葉をかけたか覚えていない。
自分のことは印象が薄くなるからかもしれない。

風呂の水を抜いて、浴槽をスポンジでこする。

689五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:38:09 ID:KYVdVBUQ
さっき、五月に汚いところだと評された部屋の床は思ったよりきれいだった。
隅の方まできちんとゴミがとられていた。
軽く掃除機をかけて、棚の隙間や後ろを盗み見る。
五月だって高校生だ。しかも一人暮らし。
一冊くらいあはーんな本があってもおかしくないだろう。

私が本を見つけ出して、からかって、
顔を真っ赤にした五月が私の手から本をひったくる。

想像を膨らませ、丹念に部屋にあるいくつかの棚の隙間を調べたが、
それらしき本は見つからなかった。

もしや床かも……?
畳の膨らみの下に本があったりして……。

畳の上を注視する。
視界に入った、畳に走る黒い一筋の線。
しゃがんでそれをより近くで見る。
髪の毛だ。右手で拾い上げる
長い。五月のものじゃなさそうだ。

女の髪の毛……?

ふと頭をよぎる、彼女の後姿。
下唇を噛む。

あの女、ここに来たな……!
ばたりという戸のしまる音で我に返る。
五月が腰をトントンと叩きながら、部屋に入ってきた。
うー、とうめき声をあげて、畳の上にうつ伏せになった。
「愛」

「んー?」

「腰痛い」

「その年で腰痛ってヤバいんじゃないの」
右手に持っていた髪の毛をゴミ箱に投げ、
うつ伏せになっている五月の腰に跨った。

「うっ、お、おも……」

「重いとか言ったら引っ叩くからね」

「じゃあ、退いてくれ……」

「まあまあ」
座る位置をずらし、指で五月の腰を指圧する。
ぐっぐっと力を入れると、次第に五月の筋肉の緊張がゆるんできたようだった。

「おー、こりゃいいなー……」
五月はうつ伏せなので表情は見えないが、きっと目を細めていることだろう。
腰を指圧した後、背中に移る。
よっぽど疲れているのか、腰も背中も固まっていた。
私の指で五月の体のこりをほぐしている。
そう思うと、とてもうれしかった。

「ねえ、五月」
背中から、肩に場所を移す。

「一昨日、一緒に帰ってた女の子、誰?
もしかして彼女とか?」

少しからかうように言う。
そうでもしないと、落ち着かないから。

「まさか、友達だよ」

「へー……一緒のクラスの人だよね?
ずいぶん仲良さそうだったけど、へへ」

「小学校の時の友達でね、途中で転校しちゃって……。
中学も違ったんだけど、高校で偶然一緒になったらしくて」

「そっか……」
少し安心した。

肩と、二の腕を親指で押す。
続いて首も。どこもかしこも凝り固まっている。

「あ、そういえば、五月。
お弁当どうしてるの?」

「え、あー、何とかなってる」

「本当かなー?もし、よかったら私作るよ」

「いや、本当だよ。大丈夫だから、ありがとう」
そっか。残念だ。腰の付け根をもう一度指で押す。
腰が痛いって言ってたし、念入りに。

「あー、ごめん、愛……俺……寝ちゃうかも……」

「寝たいなら寝ればいいよ」

肩、腕、首。
太もも、ふくらはぎ。

もみほぐしているうちに五月は眠ってしまった。
押入れから枕とかけ布団を取る。
枕を五月の頭の下に入れ、上から布団をかけた。

690五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:40:07 ID:KYVdVBUQ
寝ている五月の顔をまじまじと見つめる。
中学の時と比べると、幾分か横顔が大人っぽくなった気がする。
寝息を立てて、本当に気持ちが良さそうに寝ている。

キス……しても起きないかな。
野暮な考えが頭に浮かぶ。
付き合っていないのに、両想いでもないのに。
勝手に……。

指で五月の頬を突く。起きる気配はない。
心臓が激しく波打つ。
ゆっくりと上半身を曲げ、顔を近づける。
唇が触れたか触れないかというところで、素早く顔を離した。

息が止まる。
してしまったしてしまったしてしまった。
頭、顔、胸、全身、熱い。

胸に手を当て、大きく深呼吸をする。

が、突然鳴ったインターホンの音に、心臓は再び慌てた。
五月を見ると、変わらずの寝息を立てている。
立ち上がって、玄関に向かいドアを開けた。

開けた瞬間。体が凍りついた。

「……誰ですか、あなた」
あの女だ。背が高くて、黒く長い綺麗な髪の毛。

「……友人です」
何故この家を知っている。

「そうですか」
部屋の中を覗き込むように、彼女は背伸びをした。

「五月くんは……」

「寝てます」
だからとっとと帰れ。

「そうですか、なら起こさない方が」

「ええ、よろしいですね」

「……すみません。
申し訳ないですが、これ、五月くんが起きたら、渡してくれませんか」
鞄からタッパーを取り出して、私に持たせた。

「では、お邪魔しました……」

扉が閉まる。
私は手にあるタッパーを見た。
中身は料理だ。タッパーに入ってはいるが、詰め方や色合いが上品だった。

ずるいな……。劣等を感じる。
誰もが私より上だ。

溜息をついて、台所の隅に受け取ったタッパーを置いた。

691五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:41:23 ID:KYVdVBUQ

頬の痛みで、一気に眠りから覚醒した。
横に座っている愛が、俺の頬をつねっている。

「いだいいだい……何をしてるんだよ」

「いや、なかなか起きなかったらどうしようかと」
ニヤニヤとサディスティックな笑顔を浮かべる彼女の手を、頬から剥がす。

「揺さぶられれば起きるよ」
そういって、愛の頬をつねった。

「いだだだだ!ごめんごめん!」

「痛がり方が大袈裟」
ぱっと手を離す。
愛は涙目になりながら頬を抑えている。

「いてて……起きたことだし、お昼にしようか」

「ん、ああ。そうしようか」

愛は得意げに台所から料理を盛った皿を二つ運んできた。

「へへ、じゃーん。オムライス作ったんだー!」
テーブルの上に置かれた皿には、ケチャップで顔を書かれたオムライス。

「随分かわいいオムライスだね」
そう言うと、愛は照れたように少し顔を赤くした。

「ちょっと子供っぽかったかな」

「そんなことないって、食べよう」

「そ、そっか……。じゃ……」

二人で手を合わせた。


「いただきます」

692五月と冬 第二部 ◆gSU21FeV4Y:2011/06/07(火) 20:45:13 ID:KYVdVBUQ
投下終わります。
長々とすみませんでした……。

やっと、物語の土台ができた感じです。
後半は勢いで書いたので、かなり荒削りです。
何かアドバイスあればぜひ、聞かせてください。

693雌豚のにおい@774人目:2011/06/07(火) 21:33:28 ID:nphiEmWI
GJ
愛ちゃんは分かりやすいけど冬子もよくよく考えればもう病んでるな

694雌豚のにおい@774人目:2011/06/07(火) 21:55:28 ID:9teDElA6
GJ!!
冬子の照れるとこが可愛い…
ちょっと話が長すぎるような感じがありますからもう少し短くまとめてみた方が良いと思いますよ

695雌豚のにおい@774人目:2011/06/07(火) 22:11:18 ID:PkKmqmsM
GJ!
演出がとってもいい。
難癖つけるとしたら、視点がいつの間にか違う人になってることくらい。
話に関しては好きな長さでどぞん

696雌豚のにおい@774人目:2011/06/08(水) 02:02:26 ID:OuTOxh7E
GJ!
話は長い方がいいな。次が楽しみだ!

697雌豚のにおい@774人目:2011/06/08(水) 03:00:54 ID:WZI1g7x6
乙華麗!
読み辛くないからこの長さでいいと思うし、視点についても地の文の語り口で区別できるから無問題では
今後も頑張れ〜

698雌豚のにおい@774人目:2011/06/08(水) 11:02:22 ID:d5GZTnas
gj!
一気に読んでしまったぜ

699ヤンデル妹:2011/06/08(水) 23:50:54 ID:DN5rxcpA
GJ!!とてもよかったです!

自分はあまり長く書けないので羨ましいです!

というわけで、もし自分にヤンデレな妹がいたらと妄想して書いた話のつづきです。

今日は暑い夜だ。
家のクーラーが今日に限って・・・
壊れてしまった。
そのせいもあるけど、一番の理由は。

俺の隣で腕枕している妹のせいだ!!

なぜ、こうなってしまったのか。
それには深いわけが・・いてて腕がしびれてきた。

・・・

「ただいま~っと、あれ?今日は誰もいないのか?」
いつもなら、母親がここで
「手を洗ってきなさい。」
というはずなんだが。
まあ、いいか。
俺はその時背後に誰かいることに気づかなかった。
そいつは、疾風のように現れ俺の鞄を引ったくっていく。
「お兄ちゃん・・またニンジン食べてない。」
お前は何処の忍者だ!!
「すずかだって知ってるだろ?俺がニンジン食べられないの・・」
俺はだいのニンジン嫌いだ。
ニンジン好きの皆さんや、ベジタリアンさんには悪いけど・・
あんなもん馬が食べるも(ry
「お兄ちゃんは私が作る食べ物は嫌いなんだ。」
そう言うと、妹は急にブツブツ何かいいはじめた。
「お兄ちゃんにとって私なんて・・ブツブツ。」
このままじゃダメだな。
普通に慰めるだけじゃ無駄だ。
仕方ない、久しぶりにあれをやるか。
「悪い悪い、あれやるから許してくれ。」
「ブツブツ、ブツブツ、ブツブツ。」
聞こえてないのか?
ええい、こうなったら・・
俺は、無理やり妹を自分の膝へ座らせた。
「ひゃっ!!お兄ちゃん!?」
そして俺は、手慣れた手つきで・・
妹の首を、猫をあやすように掻くのだ。
そうすると、あら不思議。
目がトロンとしてくるのだ。
「ふにゃああ・・にゃん。」
そう言うと妹は、俺の胸にうずくまってきた。
デカイ猫を飼ってるような気分だ。
「にゃ・・うにゅ~・・ん。」
こういう顔してると本当にかわいいなって思う。
確かに、あの時見ちゃいけないものを見たし
妹に対して嫌悪感が全くなかった訳じゃない。
でも、こいつは俺のたった一人の妹なんだ。
俺は妹をそう言う目では見れないけど。
それでも、大切な妹なんだ。
「うにゃ・・あむ。」
不意に妹が俺の腕を噛んできた。
これは、頭をなでなでしてほしいという合図だ。
「わかったわかった。」
俺は複雑な心境で妹の髪を撫でた。

・・・

あれから、数時間たったあとも妹は俺の膝から離れない。
てか、お風呂とご飯作るとき意外
ずっと俺の膝の上だ。
「なあ、そろそろいい加減・・」
「だあめっ!!」
「これは、お兄ちゃんがニンジン残した罰なんだから!」
これは、暫く離れそうにない。

700ヤンデル妹:2011/06/09(木) 00:46:56 ID:QRLMq/3A
「はい!お兄ちゃん!あ~ん・・。」
「いいってもう・・自分で食べれるから。」
「だめだもん!」
「これは、お兄ちゃんがニンジン残した罰だもん。」
断固譲る気無しですか。
ああっ、でも妹にあ~んさせられるなんて。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
ここに親がいなくてよかった。
「はあい!よく食べました。」
「俺は幼稚園児ですか!」
「だって、ニンジン残したお兄ちゃんが悪いんだもんね。」
ニンジンにまた新しくトラウマが出来そうだ・・

それから、親が帰ってくるなり俺のことをロリコン呼ばわりしてきた。
どうやら、母親はガールズトークに花を咲かせていたらしい。
妹には、お母さんの代わりにご飯作ってくれたの?
えらいわ~!とお手とえらい待遇が違うんですけど!?

・・・

なんか今日は疲れたな・・早く寝よう。
そう思ってドアにてをかけたとき
腕を引っ張るように捕まれた。
誰なのかはわかっている。
「お兄ちゃん・・今日は一緒に寝よ?」
それは予想外の言葉だった。
「へ?」
「だあかあら!お兄ちゃんと一緒に・・」
「そっそれって・・」
何て言うかすごく複雑な気分だ。
妹と一緒に寝るのは何年ぶりか。
いや、そんなことよりもいかに傷つけずに断るかだ。
「あれ」を見ている俺はどうしても
妹と一緒に寝ることを阻止しなければならない。
「どうしたんだよ急に。」 
「今日はお兄ちゃんと寝たい気分なの。」
「寝たいきぶんって・・はは!おかしなこことを言うな~はは・・」
だめだ!うまい断りかたが思い付かない!
「お兄ちゃんニンジン残してるし・・・」
ニンジントラウマ確定だな。

・・・

というわけで、今に至ると。
隣で静かに寝息をたててる妹のせいで全然寝られません。
寝息が腕に当たってなんとも言えない。
ああ、誰か助けてえええ!!
こうして、波乱の夜はふけていった。

・・・


俺はあそこに感じるむず痒さで目が覚めた。
いつの間に寝ていたんだろう。
外はまだ真っ暗だ。
ふと、隣に妹がいないことに気づく。
あれ?どこいったんだ?
そして俺は気がついた。
俺の布団の中に誰かいること。
そいつは俺のあそこを口にくわえていること。
そして、そいつは紛れもなく俺の妹だということ。
「ん・・ちゅく、ちゅく、んはっ!お兄ちゃんおいし・・はむ。」
夜はふけてゆく。

701雌豚のにおい@774人目:2011/06/09(木) 01:21:15 ID:/btqz4Eo
メモ帳か何かに書き溜めするべきだと思う

702雌豚のにおい@774人目:2011/06/09(木) 03:17:17 ID:5lJrYCWE
>>701
家ではマイフェス、外ではjotaでSS書いてたりしたわ
BS押したらページが戻って本文欄真っ白とかも

703雌豚のにおい@774人目:2011/06/09(木) 09:40:14 ID:snfjBuEI
>>700
GJだ

704雌豚のにおい@774人目:2011/06/09(木) 16:10:17 ID:MJUi2Dik
wktk

705雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 00:29:10 ID:LetClCBY
書き込みすらもなくなるとはな

706雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 01:32:23 ID:1klFGVzc
気長に待とう

707雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 01:32:35 ID:1klFGVzc
気長に待とう

708雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 02:33:12 ID:FPxeMY6Y
>>706->>707
すでに気長じゃないって突っ込みたくなるw

709雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 02:54:11 ID:fTDq4YXQ
まぁ、そのうち来るさ。「魔王の作り方」が来てくれればな…病み出すって言ってたから

710雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 07:03:58 ID:nlRc1qaE
これから病み出すって所で投下が途絶えている作品が多くて残念だね、しかし・・・

711雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 11:14:33 ID:vEG3e9B2
マジ(>人<;)大勝利\(^o^)/

本スレも過疎っぷりw


荒らしに負けちゃったんだねw

712雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 11:20:11 ID:yxpYY.DM
14歳少女ののヤンデレが一番美しい俺は紳士。従姉妹や義理の姉妹だともう、ね。堪らん

713雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 13:09:06 ID:2yHtxUjk
>>712
14歳だと妹ってパターンが多いよね。
14歳でなおかつ、義理であるとか従姉妹って設定は比較的少ないから寂しい……。

このwiki見つけて小説読んで、本気でストーキングされたいと思った。
俺、変かな。

714雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 15:29:10 ID:fTDq4YXQ
>>713
それが普通だ!!このWikiではもっと恐ろしい内容のSSもあるでよ

715雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 16:45:27 ID:VIhQSjzE
話変わるが金髪もなかなか

716雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 19:36:48 ID:jGd0eQhU
色白金髪ロリ義妹なヤンデレヒロインですね、わかります

717雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 19:49:30 ID:fTDq4YXQ
白髪・白肌・赤目のアルビノも素晴らしいですぜ

718雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 19:51:44 ID:yxpYY.DM
>>716にオッドアイで完璧、碧眼でグッドな感じの俺得

719雌豚のにおい@774人目:2011/06/12(日) 23:17:15 ID:9hY0Ep/c
らふぇあんさんぐらんでだっけ?題名ははっきり覚えてないけど帰ってきてくれないかな
あの人の面白いのに残念で仕方ない

720雌豚のにおい@774人目:2011/06/13(月) 00:44:48 ID:C3zidI1I
無理だろうなあ
一度書き辞めた人が復帰することってまずないし
未完の長編の多いこと多いこと
仕方ないことだと思うけどね

721雌豚のにおい@774人目:2011/06/13(月) 11:04:43 ID:RgmKkoQw
マジで誰か投下してくれ。

722雌豚のにおい@774人目:2011/06/13(月) 17:14:36 ID:E8k6KpTs
待ってりゃくるでしょ。GWの時はGWだったから

723 ◆O9I01f5myU:2011/06/13(月) 22:23:43 ID:fesjSVeM
短編投下させていただきます。拙作の後日談的な話です。

ショタとの絡み有りです。
病み成分は薄いです……。

724愛玩人形:2011/06/13(月) 22:25:33 ID:fesjSVeM
 星屑の散りばめられた空をバックに、神々しい輝きを見せる今宵の月は、見事なまでに丸々としている。
 宵闇に身を落として眠りにつく草花も見上げるその月明かりは、動物達の中に生きる潜在的な力を呼び覚まさせるという。
 何がそうさせるのか、誰がその様な事を言い出したのか、そんな事はさっぱり分からない。が、今こうしてその明かりに照らされて浮き上がる彼を見た時、彼女が言い様の無い興奮を覚えたのは確かであった。
 彼女の吊り上がった目は白目の部分が少し多く、ぼやけた明かりにも良く映えた。それは爬虫類に似ている。草むらの陰に潜み、今か今かと獲物を捕らえようとする目だ。
 それが如何に言い得ているかは、相対する彼の様子を見れば明白だ。まだ小さい体を毛布に隠し、壁際にまで後退している。その顔は恐れと羞恥が混在しており、頬を赤く染めながらも目は怯えていた。
 彼女は体格に非常に恵まれている。身長は二メートル近くあり、肩幅も広い。それでいて、女性らしい部分――主に胸――も豊かに成長している。月明かりしか光の無い今、そのグラマーな体躯は影になってしまっているものの、大きな図体は闇を背負い込んでいる分、より威圧的に彼の目に映る。それがじわりじわりとにじり寄ってくる度に彼は小さな体をさらに縮込ませようとした。

 「幸人……」

 夜の闇を一身に背負った女――忍(シノブ)が口を開いた。

 「隠す事はない。恥ずかしがるな」

 忍の顔が明かりに照らされた。

 「正直に言ってみなさい……」

 彼女は舌舐めずりをして、言葉を繋げた。

 「今、何をしていたんだ?」

 詰め寄られる彼――幸人(ユキヒト)は顔も毛布に包んだ。顔を彼女に見られたくなかったのだろう。忍が毛布に手を掛けても、強情に足掻いた。力の限り毛布にかじり付いて、それを剥ぎ取られまいとした。
 バサッという音がした。幸人がしがみ付いていた毛布が床に舞い落ちたのだ。
 無くした毛布の代わりに両腕を体に絡める幸人。彼は今、下半身だけが裸になっていた。

725愛玩人形 ◆O9I01f5myU:2011/06/13(月) 22:27:32 ID:fesjSVeM
 恥辱が恐れを上回った。彼はすっかり顔を真っ赤にし、俯いた。彼の隠そうとしているそれは、今の彼の思いに関わらず、懸命に自己主張している。
 忍が手を這わす。左手は幸人の頬に、右手は体……少しずつ下に、もぞもぞと……。

 「幸人、言いなさい。お前は今、何をしていた?」

 一文字一文字、はっきりと発音して問う忍。
 幸人はそれでも答えない。それどころか、この状態において尚逃れようと悪足掻きをする。
 「イヤイヤ」と逃げ続ける彼に、忍は段々と下に這わせていた手でそこを握る。そこはぴくぴくと脈を打ち、先端には僅かな粘り気があった。

 「あっ――」

 彼は目を見開いた。局部を触られた事によってか、その目は涙で潤っている。
 頬に流れる涙を舌で舐めとる忍。その間にも彼の両目を視線から外さない。左目はクリアに輝いているのに、右目は白く濁っている。
 忍は舌で右目を特に愛撫する。使えなくなったその片眼を味わい尽そうと、ねちっこく舌先を動かし、幸人を虐める。
 彼の息が荒くなる。忍は微笑みながら、彼の大切な所を弄ぶ。

 「素直に言いなさい。何も怒りはしないから」

 彼の頬や唇、鼻に額……顔のあちこちにキスをする。その接吻の一つ一つが幸人の脳に刺激を与え、負荷を掛けていく。
 その内に脳はショートを起こす寸前にまで追い込まれ、過負荷に堪えられなくなってきた。幸人は震えながらも唇を動かした。

 「あの……お、その……」

 増していく心臓の鼓動に全身が振り回される感覚に幸人は戸惑った。発音が上手くできないのだ。舌も回らないし、肺も収縮してしまったかの様に息苦しい。
 そんな体の不調に甘えて、この場から逃れられたらどんなに良いだろうと脳裏に思う彼だが、一度目に入ったら最後まで決して逃さない彼女が相手ではそんな事は到底望めないのは四年間の生活で良く理解していた。
 今、自分をじっと見つめてくる忍の顔がすぐそこにあるが、絶対に言い逃れは許さないと黙しながら訴えている。この彼女の折檻から解放されるには、正直に話すしかなかった。

726愛玩人形 ◆O9I01f5myU:2011/06/13(月) 22:30:02 ID:fesjSVeM
 「……オチンチンを……その……ベッドに擦っていたの……」

 全身の血液が一気に上り、頭が炸裂しそうだった。
 オナニーを……自分の陰部を愛撫して快楽を得る事をつい最近に知った彼は、たちまちその強烈な快感の虜となっていた。偶然、ベッドのシーツに陰部を擦ったら妙に気持ち良くて、怖いもの見たさでそれを続けていたら、どんどん気持ち良さが募り募って、止まらなくなってしまったのだ。
 それでも最初は射精までは踏み切れなかった。下腹部から陰茎を伝ってくる感触に抱いた恐れが払拭できず、それがブレーキとなっていたのだが、それは常習化してから間もなく瓦解した。それがつい昨夜の事だった。
 射精の気持ち良さを覚えた彼は、それをもう一度体感しようとしていた。ママである忍もとっくに寝静まったとばっかり思っていたので、パンツを汚してしまった失敗から学んでティッシュをこっそり用意し、行為に及んだその矢先、なんと突然忍が起き上がった。
 忍は前々から感付いていた(一緒のベッドで寝ているのだから当然と言えば当然なのだが)。夜中にモゾモゾと落ち着きなく蠢くものだから気になってはいたものの、眠気によって頭がしっかり働いていなかったのもあってみすみす保留していた。今回彼女が動いたのは、昨夜の痕跡が見られるパンツが洗濯機に放り込まれていたのを見つけたからだ。
 忍と幸人は同居した頃から近しい関係にあったが、幸人はこれまで自身の性器に触れられるのは嫌がっていた。
 忍は幸人のかつての経歴――実母に強要されて売春をさせられていた――が多分に関わっているのかもしれないと思っていた。彼の普段の態度と言動から、今は当時の記憶が殆ど残っていないらしい――自分は捨て子であったという忍の言を信じる程だ――にしても、彼のトラウマを呼び覚まさせる事を警戒し、彼とセックスするのは待つ事にしていた。
 ところが、それは単なる考えすぎだったのではないかと今では思う。過去に散々な性的虐待を受けていたのは事実であるものの、幸人はこうして一緒に暮らしてからは人並みに成長を続けていたのだから。人並みに自慰行為までこうして覚えるくらいなのだから。

727愛玩人形 ◆O9I01f5myU:2011/06/13(月) 22:32:21 ID:fesjSVeM
 忍は杞憂であったと自身で判断すると同時に、抗い難い衝動に襲われた。彼女は前々から幸人と結ばれる事を夢見ていたのに、それを抑え続けていた事による反動だ。飢えた猛獣とも言えそうな彼女の変貌はこれによるものだった。
 彼女は否定するだろうが、傍目からすれば欲求不満に苛まれた婦女そのものである。

 「幸人……」

 目を見つめて彼に訊く。

 「オチンチンを擦ってみて……どうだった? 気持ち良かったか?」

 敢えて訊く事でもないはずだが、忍は彼の口からそれを聞こうとする。当然幸人はすぐには答えられない。もじもじとするばかりで顔も上げられないでいる。「どうしても答えないと駄目なのか」と全身で哀願するが、忍はそれを黙殺するだけで、話は進まなかった。

 「……うん……」

 蚊の羽音でも掻き消される声で、幸人は頷いた。
 それでも忍は充分だった。その返事を耳にするや幸人の背に手を回し、思い切り抱き締め、熱いキスを交わした。唇が触れ合うなんて生温いものでなく、舌と舌が絡む深い繋がりだ。幸人もディープキスは今更講釈を受けるまでもなく知っているので、うろたえずに受け止めるが、突然の責めで多少の動揺は見られた。
 ねっとりと、愛を舌で語らった二人。忍はそのまま幸人の陰部への愛撫を再開した。

 「ま、ママ……っ!」

 ビクンと大きく体を跳ねる。恥も極限にまで達している彼はもう訳が分からなくなっていた。義理とは言えど――籍が変更されていないのは幸人の知らないところだが――母親と裸で抱き合う日常を思えば今の事態もさしたる事ではないはずなのに、自分のを触られる事は異様に恥ずかしい。

728愛玩人形 ◆O9I01f5myU:2011/06/13(月) 22:34:32 ID:fesjSVeM
 それでも、段々気持ち良くなってきてしまうのは男である以上避けられぬ性。幸人も抵抗を止めて忍と手に委ねる様になってくる。忍も彼がおとなしくなってきたのを見て、手の動きをより強くさせる。
 陰部を握る手がぬるぬるとしてくる。限界が近いのだ。
 幸人が絶頂にまで達するその瞬間。忍の中に、彼を求める女の欲望の他に、成長を喜ぶ母親としての気持ちも僅かに入り込んだ。顔に綻びを見せたのはそのせいだろうか。
 その顔は白く汚れても変わらなかった。笑みを浮かべたまま、幸人の精液を顔、胸、下腹部……と受け止める。

 「ま……ママ……」

 荒々しく息を弾ませる幸人。熱っぽい頬に下がった目尻、ぽかんと開けた口からは一筋の涎が落ちている。
 唇の脇に飛んだ幸人の精液を舐め取る。初めて精液の味を知るが、お世辞にも美味とは言えない。ビニールを溶かした物に、塩を極薄めに混ぜたみたいだと思った。しかし、目の前にとろけそうな顔をした幸人がいる今なら、この奇妙な味の液体も飲めそうな気がした。
 幸人の萎えたかけた陰部を口に含んでみる。彼は離そうとしたが、忍が彼の尻に回した手によってがっちりと抑えられてしまう。
 忍の口の中に入った自身の陰茎に伝わる感触に背筋を震わせる。竿に上顎、亀頭に口蓋垂が当たっているのが浮いた頭でも分かった。忍の口全体が幸人の大切な所を愛おしく包みこんでいる。
 温かい愛撫に、幸人のそれは再びそそり立つ。十一歳の少年のモノにしては随分と立派だ。
 忍はごくりと唾を飲む。大腿に粘液を流し、それを貪欲に欲している。幸人を食べてしまいたい欲求の強さを物語っている。
 夢遊病を思わせる動きで彼に圧し掛かり、手を添え、自分の膣に導く。幸人は荒い呼吸のまま、それを見つめているだけ。為すがままにされる。

 「幸人……」
 「……ママ……」

 自身をゆるゆると降ろしていく。

 「……愛して……る……ッ!」

 幸人の肉棒が忍の中を貫いた。
 処女を散らした証拠、破瓜の血が流れる。忍は顔を苦悶に歪ませ、幸人はペニスをきつく締めつけてくる快感に身を悶えさせている。

729愛玩人形 ◆O9I01f5myU:2011/06/13(月) 22:37:33 ID:fesjSVeM
 「あぁっ……ママぁ……ッ! ……お、オチンチンが……苦しいよぉ……ッ!」

 きゅうきゅうと締め上げられる強い刺激。精子を搾り取ろうとする膣内の責めに、幸人は何とか堪えようとする。

 「っう……ぐっ……!」

 眉間に皺を寄せる忍。肉体的にタフであると自認する彼女にも、この痛みに堪えるのは難しかった。大の男が束になっていても撃退してきた実績のある彼女とて、内臓へとダイレクトに伝わる痛覚には分が悪いみたいだ。

 「あっ……あああっ!」

 幸人が嬌声を上げると同時に、忍の中に温かい物が流れ込んできた。
 普段のまなじり高い目付きのキレがすっかり削がれてしまった。情欲に浸り、全身を快楽に溶かし込んだ女の顔を見せる忍。
 彼女を知る者が見たら我が目を疑うだろうが、その様な事は絶対に起こり得ない。彼女のこの幸せそうな顔を見られるのは幸人だけなのだから……。
 幸人は二回も射精した脱力感によって誘発された眠気に意識を奪われ、忍も物足りなく思いながらも処女を喪失した痛みの前に屈伏し、二人の初体験は幕を降ろした。
 くてっと横たわる幸人の寝顔を見つめながら、自分の服部を撫でてみる。一度で受胎したとは思わないが、命の胎動が始まる可能性を忍は感じた。
 幸人との子供……きっと幸人に似て、可愛らしい容姿を持って生まれ出てくるだろうと予想する。妊娠、出産、育児生活、家族の団欒……将来像がおぼろげながら次々と紡ぎ出されていく。
 幸人はパパになり、そして自分の夫となる。なんて幸せな事だろう。
 今夜の事で彼もセックスの気持ち良さに気が付いたはずだ。今後は自分の体を一層強く求めてくる様になり、ますます深く依存してくる形になる。
 売春させられて、その実母も惨殺されて打ちひしがれる彼を優しく受け止め、そして溢れんばかりの愛を注ぐ……。
 一緒に生活をして四年、幸人は既に忍の手中にあった。彼は彼女の愛に染まり、純白に戻る事は二度と無いだろう。忍が望んだ「自分を愛してくれるお人形」は、着々と形作られているのだ。

730 ◆O9I01f5myU:2011/06/13(月) 22:38:19 ID:fesjSVeM
投下終了です。

731雌豚のにおい@774人目:2011/06/13(月) 23:01:43 ID:E8k6KpTs
GJだ!
待っていたぞ!

732雌豚のにおい@774人目:2011/06/13(月) 23:15:37 ID:fLQH9tpc
おおおおお!
乙ですっ!

733雌豚のにおい@774人目:2011/06/14(火) 01:21:31 ID:H3S7D0Fw
GJです!!
これが幸華誕生秘話か……11歳って…すげぇ

734雌豚のにおい@774人目:2011/06/14(火) 22:45:10 ID:CNWaniDE
11歳の保健体育ですねっ

735ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:01:47 ID:5bzKfcHY
 お久しぶりです、ヤンデレの娘さんのモノです。
 今回は番外編を投下させていただきます。

 百合な人たちの視点で進行するので、百合要素が苦手な方はご注意願います。

736ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:02:22 ID:5bzKfcHY
 それは、別れと出会い、そのそれぞれのそれ以前。
 それは、御神千里と緋月三日が夜照学園高等部に進級する以前。
 開幕前の舞台で演じられる物語。





 10人が10人振り向く美少女と言うものは実在する。
 氷室雨氷に言わせれば、一原百合子がそれにあたる。
 それは、2人が恋愛(同性愛)関係にあるが故の身びいき、というわけではない。
 現に今、この夜照学園高等部校舎屋上の、雨氷のいるほんの数メートル先で、
 「好きだ、一原!付き合ってくれ!」
 「ゴメン、無理!」
 というやり取りが行われている。
 ちなみに、前者が2人のクラスメートの男子(名前は覚えていない、雨氷にとって百合子以外は些事である)、後者が手を合わせている百合子である。
 男子と百合子はその後も二言三言言葉を交わしていたが、「無理なものは無理、だからしょうがない」という百合子のキッパリとした態度にトボトボと屋上を去って行った。
 どうして無理なのか、というところまでははっきりと説明していないし、できない。
 百合子が同性愛者であるという秘密が不用意に知れ渡ったら、どのような偏見の目にさらされるか分かったものではない。
 だから、彼女らの関係はよほどのことが無い限り、よほど信頼のおける相手以外には秘密にしておこう、というのがこの頃の2人の共通認識だった。
 「お疲れさまでした、一原さん」
 「どーも、うーちゃん」
 男子が去ったのを確認して、雨氷は物陰から出て百合子に声をかけた。
 ちなみに、『うーちゃん』とは百合子から雨氷に対する長年来の愛称である。
 2人は小、中、高と行動を共にしている幼馴染同士でもあるのだ。
 もっとも、雨氷の方は照れ臭くて人前で百合子の愛称を使うのを止めてしまっていたが。
 高校生にもなって『ゆーちゃん』という愛称を使うのはいささか以上に勇気が必要なのだ。
 「なんつーか相変わらず、男の子(トモダチ)の告白を断るのは心苦しいわよねー。てか何度目だっけ、こう言うの?」
 「今月に入って10件目かと」
 「多いわね……」
 「ええ、まるで盛りの付いた犬のようです」
 「妹ならぬ、くらすめえとは思春期、ってトコね」
 「殺しておきましょうか、今の彼」
 「クラスメート相手に何サラっと恐ろしいコト言ってるのよ」
 とはいえ、それは無理ならぬことではあった。
 高等部に進級したときに、綺羅星のごとき美少女達が来たと学校中の話題をさらったからだ。(これは、2人と中等部からの学友たちが彼女らの美貌を伝え広めたからでもある。女子は噂好きなのだ)
 結果、百合子と雨氷は双方ともに男子からの注目を集めることとなった。
 特に、美人で明るい百合子に年頃の男子が惹かれるのは当然のことと言えた。
 当然の、ことと……
 「……やっぱり、殺しておきます」
 「いやいやいや」
 スッと学生鞄の中に手を入れ、歩きだそうとする雨氷の肩を百合子が掴んだ。
 細くたおやかな百合子の指の感触を味わいたいのを我慢しながら、雨氷は口を開く。
 「だって、盛りの付いた雄犬が、いつ一原さんを性的な意味で害するか分かったものでは……」
 「さすがにそれは無いわよ、エロゲじゃあるまいし」
 とはいえ、と百合子は続けた。
 「私も考えてはいたのよねー。前々からの思春期男子ーズから無駄で無意味にモテちゃうのには。彼らにも悪いし……」
 異性愛者なら嬉しい悲鳴と言ったところなのだろうが、同性愛者であり、男性を友人としか見れない百合子にとっては本当に困った状況だった。
 同性愛者であることを知らない男子の友人たちを結果として騙しているようで、本気で悪いと思っているらしい。
 雨氷に言わせれば、百合子にそんな気を遣わせる男子達が悪いのだが。
 「あんな連中、気に病むことはありません。どうせ、一原さんの体目当てに決まっています」
 「まー、何割かはそういう下心はあったでしょうね。思春期的に考えて」
 「やっぱり殺してきます、今まで告白してきた連中全員」
 「だから駄目だって」
 再度肩を掴まれた。
 「なら、どうしろと」
 無表情なりに不満を顔に出す雨氷に、百合子は不敵な笑みを浮かべた。
 「私に良い考えがある」
 「失敗しそうな台詞ですね」
 何故か野太い声を作って言う百合子に雨氷は思わず突っ込みを入れた。
 「台詞(ソレ)は気にするな、よ。これは私の考え、どれ程のものかは実行してみれば分かるわ。とりあえず着いてきて」
 そう言ってクルリ、ときびすを返す百合子。
 答えは聞いてないということらしい。

737ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:03:58 ID:5bzKfcHY
 「上級生の教室に向かうのですか?」
 「流石に今回ばかりは身内だけじゃどうにもできそうにないものね。ヘルプを求めてみるつもり」
 「今考えたんですか?」
 「ウン、今考えた」
 相変わらず感情で生きている娘であると、雨氷は思った。
 階段を下り、上級生の教室へ向かうらしい百合子の少し後ろを、雨氷は着いて行った。
 上級生クラスのある階の廊下を威風堂々、足早に進む百合子と彼女の一歩後ろを行く雨氷に、上級生の男子たちが振り返る。
 上級生のクラスの階に、一年生の百合子たちが着たことへの驚きや、とびきりの美少女である百合子と雨氷への注目が一気に集まる。
 その視線に、雨氷は顔をしかめそうになるのを何とか抑えた。
 こうして好意と好色(と雨氷は感じている)の視線が普通に集まっているということは、自分と百合子の性質が知られておらず、彼らと同じ異性愛者だと思われているということでもある。
 それは、今現在においては雨氷の、ひいては百合子の身が守られているということでもある。
 人は、自分とは違うモノに対して決して優しくなど無いのだから。
 もっとも、当の百合子はどこ吹く風。
 目的地に向かってズンズンと大股で歩む。
 他人の目に対して、百合子はあまりにも無頓着だった。
 無防備、とも言えるし、雨氷はそう感じていた。
 『なればこそ―――』
 と、雨氷は思う。
 『一原さん―――ゆーちゃんは私が何としてでも守らなくてはならない』
 両手で持った学生鞄を握りしめ、強く思う。
 信念と呼んで良いほどに強く。
 それは、今はまだ学校の違う百合子の所のボンクラ妹達(恋敵にしてある意味では同志)にはできない役回りだから。
 それが、自ら望んだ役回りなのだから。
 百合子の方はそんな雨氷に気付く様子も無く、ある上級生クラスの教室のドアをガラリと開く。
 「ちわーッス!緋月先輩居ますかー!?」
 そんな百合子の派手で唐突な登場に、上級生たちの視線が一瞬驚きに変わる。(雨氷は、その一歩後ろで控えめに一礼した。最低限の礼儀である。)
 驚かなかったのは、たった1人。
 髪の色は鴉の濡羽。
 瞳の色は深淵な黒。
 それとは対照的に肌は陶磁器のように白い。
 顔立ちは、性別を感じさせない位に整っていた。
 一原百合子が10人が10人振り向く美少女なら、その男は100人が100人振り向くような美形だった。
 緋月一日
 役割は、生徒会長。
 百合子と負けず劣らず破天荒な彼は些細なきっかけで親しくなっていた。
 少なくとも表面上はそのように見えると、雨氷も思っていた。
 友人と歓談していた一日はその顔立ちに似つかわしい優雅な所作で席を立ち、雨氷たちの方に向かってくる。
 「雷鳴のような大音声を上げずとも、僕には十分に聞こえるぞ、一原」
 見ただけで女性を虜にしそうな美しい笑みを浮かべ、一日は言った。
 その完璧なまでに美し過ぎる笑みに、雨氷はむしろ不快感を覚え、眉をしかめそうになる。
 あまりに完璧すぎて、作り物にしか見えないのだから。
 「あっはー、すいません。でもでも、私のモットーは元気爆発頑張ぞー、なんで。何事も派手に愉快にしなきゃ気が済まないというか自然にそうなっちゃうと言うか?」
 「良くわからんが、まぁいい。それで、今日はどう言った要件だ?」
 女子的なハイテンションでまくしたてる百合子に動じることなく、先を促す一日。
 ちなみに、他の先輩たちはもうそれぞれの行動に戻っている。
 「今暇ですか?」
 「暇と言えば暇だな」
 「ンじゃ、ちょっち外良いっすか?」
 「教室では駄目なのか?」
 「人多いじゃないですか、ココ」
 「確かに、少々観客が多いな」
 一日の言うように、教室内には未だ生徒が多く残っていた。
 勉強会を開く勤勉な者もいれば、取り留めの無い会話をしている者も多い。
 ふと、雨氷の眼にクラスメイトと話をしている1人の女生徒が映った。

738ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:04:20 ID:5bzKfcHY
 百合子たちと負けず劣らず、いやそれ以上に目立つ外見の女生徒。(何しろ金髪である)
 名前は確か、鬼児宮フィリア。
 外国人とのハーフであると同時に大会社の社長令嬢である。(夜照学園は、学費が平均よりも高くないのにも関わらず、施設やカリキュラムのレベルが非常に高いとされるので、様々な層の生徒が入学してくるのである)
 また、とんでもない美少女であり、誰がつけたか『月光の君(レディ・クレセント)』という通称まである。余談だが、その通称がつけられた当時、高等部では遅れてきた『マリ見て』ブームのただ中だったとか。
 以前噂を聞いて、何の漫画だと思ったきりだった先輩だったが、なぜか眼に付いた。
 まっ白な右手を頬にあて、雨氷たちから少し離れた席で友人たちと優雅に談笑しているだけの彼女が、なぜか彼女がこちらの方を見ているような気がしたのだ。
 「つーワケで緋月先輩はお借りしますんで、夜露死苦!」
 一日と話をしていた先輩たちにそう言う百合子の台詞に、雨氷は意識を戻される。
 「何だ、一原。お前も緋月にコクんのか?」
 話しかけられた先輩が、冗談めかして百合子に言う。
 「あっはー。それは無いですよ」
 「そんなことはありません」
 百合子と雨氷がほぼ同時に否定する。
 「ンじゃま、クレヨンしんちゃん曰く『じゃ、そう言うことで』」
 「『じゃ、そう言うことで』だそうだ」
 百合子のおふざけに一日が笑顔でのり、雨氷が軽く一礼した。
 そういうことってどういうことだよー、という上級生のツッコミを背に受けながら3人は教室を出る。
 去り際に、雨氷は軽くフィリアの方を見た。
 右手を頬にあて、穏やかな笑みを浮かべながら友人たちと談笑している。
 こちらの方を見てさえいない。
 なのに、なぜか。
 突き刺すような殺気を向けられているような気が、した。

739ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:05:22 ID:5bzKfcHY
 「こんなところで良いか」
 不自然なまでに人気の無い廊下の隅で、指揮者のように手を広げる、やはり完璧すぎる所作をしながら一日は言った。
 「はい、オッケーっす」
 「それで、用事というのは何かな?」
 百合子の言葉に美しい笑顔を浮かべ、一日は聞いた。
 計算しつくされた、美しい笑顔。
 美しすぎるからこそ、その笑顔が演技であることが雨氷にははっきりと見えた。
 だから、
 「その前に、無礼を承知で言わせていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
 百合子の一歩前に出て、雨氷は言った。
 「どしたの、うーちゃん?」
 不思議そうな顔をする百合子。
 「僕は構わないが」
 雨氷の眼光に動じることなく一日は言った。
 この場合、動じる様子を見せることなく、と言うべきなのだろうが。
 「折角人がいない、緋月先輩もご冗談のような演技はお止めになってはいかがですか?」
 淡々と、しかし不躾とも言える一言を、雨氷は叩きこんだ。
 「演技、か」
 笑顔を崩さず、一日が言った。
 「ええ。一原さんは軽妙軽薄な言葉を使わせていただきましたが、私たちは何も無意味無目的に、緋月先輩に来ていただいたわけでは無いので。むしろ、とても重要なお願いをしたいと思っています」
 実のところ、雨氷はその話の詳細を知らないのだがソレはともかく。
 「ですから、そのような演じきられた、嘘で塗り固められた態度と笑顔を向けられると、はっきり言って―――」
 一瞬、逡巡してから雨氷は言葉を続ける。
 「不愉快です」
 雨氷自身でもどんな顔をしているのか分からなく様な思いを叩きつけられ、しかし一日は演技を崩すことなく、その中性的な顔を困ったような形に変えた。
 「不快不愉快不都合と言われても、正直いささか困るところではあるな」
 一日はそんな台詞を言った。
 「困る、ですか」
 「ああ。僕にとって演じるというのは呼吸よりも当り前のことだからな」
 「確かに、緋月先輩が演劇部の花形(スタァ)でいらっしゃるのは存じておりますが―――」
 「ああ、違う違う。そういうことじゃない。むしろ逆だ。僕が演劇部の役者なのは単純に当然の帰結だ」
 「当然の帰結、ですか」
 「ああ、僕の知り合い風に言うと…トウゼンノキケツ…という奴だ」
 言ってから、一日は「やっぱり使いづらいな」と顔をしかめた。
 「人が複数人集まれば、そこはもう舞台だ。演じるべき状況があり、演じるべき役割がある。状況に則し、他人の言葉(セリフ)に合わせ、自身も行動する。それはもう演技だ。『この世は舞台、人は全て役者にすぎない』プラトン以来の常識だろう?」
 そう言う一日の姿は、確かに舞台上で見るものと変わらなかった。
 変わりようが、無かった。
 「とはいえ、安心はしても良い。その演技の裏側に悪党の顔が潜んでいるとかそう言った役柄では無いからね、僕は。君たちの願いには真摯に真剣に対応するし、必要とあれば全力で力を貸そう」
 「という役回り、ですか」
 「そう言うことだ。何せ、生徒会長だからな」
 自分の役は自分が一番把握しているよ、と一日は言った。
 『やはり、不愉快』
 と、雨氷は学生鞄をギリと音がするほど握りしめて思った。
 感情というのものを完全に度外視した、一日のもの言いに。

740ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:06:23 ID:5bzKfcHY
 「あー、そろそろ良いッスか?」
 と、そこへ百合子が言った。
 「今の話を聞いてましたか、一原さん」
 「ごみん、何か難しそうなこと言ってたから後半聞き流してた」
 雨氷に対して両手を合わせて百合子が言った。
 「ともあれ、何でも言ってくれ、一原。生徒会長とはそういう役だ」
 「んじゃー、遠慮なく言っちゃってぶっちゃけちゃいますね」
 微妙にかみ合ってるのかいないのか分からないトークだった。
 「私、みんなにカミングアウトしようとか思っちゃってるんですよ」
 「カミングアウト?何を」
 「私、レズなんです」
 「レズか」
 動じない一日だった。
 「格調高く言って、百合なんです」
 言わなくて良い。
 「そうだったのか?」
 「言ってませんでしたっけ?」
 「聞いてないな。聞こうともしなかったが」
 「言おうともしませんでしたしね」
 「それで、君の望みとは?」
 「ジブンで言うのも難ですけど私ちょっとモテるじゃないですか、男子に。無駄に」
 「らしいな」
 「さすがに、先輩ほどじゃないですけど。学園の女子全員をフッた先輩ほどじゃ」
 「それは噂だ。話半分に聞いておいて欲しいな」
 「ういっす。で、ですね、私らの場合、男子にモテても問題じゃないですか、っていうかヤバいじゃないですか」
 「確かにヤバいな、男子の方が」
 「だから、いー加減どうにかしようかと思ってですね―――」
 そこで、百合子は軽く勿体をつけた。
 自身の『良い考え』、現状をひっくり返す秘策を彼に伝えるために。
 「全校生徒の前でカミングアウトしようと思うんですよ」
 ゴン、という音が雨氷の耳朶を打った。
 それが、自分がひっくり返って頭を打った音だと気付くのに数秒かかった。
 「ちょ、大丈夫、うーちゃん?」
 「頭が痛いです」
 「そりゃそーでしょーよ、あんな盛大に頭からズッこけたら。あ、今日のパンツは黒なんだ」
 「二重の意味でです……」
 あと、パンツを覗かないで下さい、と起き上がって身なりを整えながら雨氷は言った。
 頭の痛みが引いてくると、逆に怒りが沸いてくる。
 「って言うか貴女は馬鹿ですか!?今の今まで信頼できる相手以外には苦心と腐心と細心の注意を重ねて自身の秘密を隠し続けてきたというのに!?しかもそれを!?全校生徒の前でカミングアウト!?学校中の生徒を敵に回しますよ!?」
 「うん、それに関しては返す言葉も無いわね」
 「だったら何でそんなことを!?しかもこの不愉快な男にまで!?」
 一日を指差しながら雨氷はまくしたてた。
 普段の冷静沈着の仮面が完全に取れているが、そんなことを気にしている余裕はない。
 「それはね、うーちゃん」
 興奮しきった雨氷を落ち着かせるように、諭すように百合子は言った。

741ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:06:53 ID:5bzKfcHY
 「私の性癖を知れば、確かに嫌な気分なる人は出てくると思うわ。でも、だからって隠し続けてると、男子の友達に望みの無い以上の恋をさせて傷つけちゃう」
 珍しくまじめな表情で、百合子は言う。
 「どちらにせよ、人を傷つけるなら、私は自分の心のままに生きたい。生きられるようにしたい」
 百合子はそうキッパリと言ったのだった。
 その表情を、雨氷は美しいと思った。
 恋愛関係にあるが故の身びいきかもしれないが。
 それでも、その百合子の姿を、男とか女とか、恋愛とかそうでないとか関係なく、1人の人間として美しいと思ったのだ。
 「……惚れた弱み、ですね」
 「何か言った?」
 「いえ、何も」
 小さく呟いた言葉を誤魔化し、雨氷は嘆息しながら言葉を続ける。
 「分かった。分かりました。貴女がそこまで思って考えた上での結論ならば、私は何も言いません。言ったところで貴女が考えを変えるとも思えませんし。それにどんな状況でも私のすることは変わりません」
 手にした鞄を握りなおし、雨氷もはっきりと言う。
 「例えどんな時でも、私は貴女を愛し、貴女を守ります」
 その雨氷の言葉に百合子は笑みを浮かべた。
 「頼りにしてるわ、うーちゃん」
 「ええ、任せてください、ゆーちゃん」
 何年か振りに互いに愛称で呼びあい、2人は手を取り合った。
 「互いの絆を確認しあう良い場面の最中に難だが―――結局、一原は僕にどんな役を所望なんだ?」
 半ば話から取り残された形になっていた一日が、無駄に様になった苦笑を浮かべつつ言った。
 「貴方なんて背景の木がお似合いです」
 割り込まれたことに不愉快な視線を向ける雨氷。
 それをまぁまぁと落ち着かせながら、百合子は一日に言う。
 「先輩には役と言うか背景と言うか、それよりも場を提供して欲しいんですよ。私の秘密を全校生徒にカミングアウトする場みたいなのを」
 「劇場主の役、いや大道具担当、といったところか?」
 「どうせやるなら、派手にやりたいですからね。具体的には今度の全校集会の時とか、生徒会長の言葉とかの時間の間とか後とかで、私が壇上に上がる時間とかをちょっとで良いので作っていただけないかな、と。ちょー裏方になってしまって申し訳ないんですけど。」
 「ふむ…」
 百合子の言葉に、思案顔になる一日。
 「ふと疑問に思ったのだが、それを僕に断られたらどうするつもりだったんだ?その上、俺は君たちの秘密を知ってしまった」
 「あー、それは考えてませんでした」
 「しかも、労力の割に僕個人には何のメリットも無いという」
 「それも考えてませんでした!」
 「…思ったんだが、一原は『愚者』のタロットも驚くような大馬鹿者なんじゃないか?」
 冗談めいた口調で、一日は言った。
 「だが、そうした馬鹿は嫌いではない。協力しよう」
 そのまま笑顔を浮かべ、一日は言った。
 雨氷たちが見た彼の表情の中で、一番砕けたものに見えた。
 「その代わりと言っては難だが、こちらからの条件として、今後入学してくる、僕の一番下の妹には手を出さないことでも約束してもらおうかな?」
 「可愛いんスか!?」
 新しい女の子の話題にさっきまでの真剣な表情が嘘のように目を輝かせる百合子。
 「…手出すなっつったよな…」
 「ハイ、ワカリマシタデゴザイマス」
 かなり本気でドスの効いた口調で言う一日に、思わずカタコトで答える百合子。
 どうやらこの男、かなり筋金入りのシスコンらしい。

742ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:08:31 ID:5bzKfcHY
 「まー、ジョークはともかく。その下の妹さん?もウチの学校に入学されるんですね。上の妹さんに続いて」
 「…とても冗句には聞こえなかったが…、まぁその予定だ。入試への学力面でも問題ないが、色々あっていささか人見知りが過ぎるというか何と言うか。僕無しでは呼吸もままならないのではと、我が妹ながら今後が心配なところだ」
 やれやれだ、と大げさな仕草で一日は言った。
 そう言いながらもどこか嬉しそうなのは、よほど下の妹とやらが好きだからなのだろう。
 ちなみに、もう1人の妹(剣道部エース)の方とは犬猿の仲。時折口げんかをしている姿を雨氷たちも見たことがある。
 何だ、この態度の落差は。
 「分かりました!そう言うことなら、もし下の妹さんが入学してきたら、後のことは私らに任せて下さいな!」
 パン、と手を叩き百合子が言った。
 「ほぅ…」
 疑わしいとまではいかなくとも、こいつ冗句で言ってるんだろうな、という目を向けてくる一日
 「いやマジで。私にもこんなに可愛いわけが無いってくらい可愛い妹いるんで、先輩の気持ちがちょい分かりますし。先輩が卒業した後でも、その妹さんのことは大船に乗ったつもりで任せてください!」
 「…ふむ…」
 あっさりとそう言った百合子に、一日は目を丸くしていた。
 人の恋人に向かって何信じられないみたいな顔してるんだこの野郎とか馬鹿の顔してるんじゃないとか雨氷は内心思わないでもなかった。
 「いや、そう言ってくれると正直嬉しいな。『僕は良い後輩を持った』などと手垢のついた台詞が必要なくらいだ」
 本当に嬉しがっているのかは、雨氷には判断がつかないが。
 「いえいえ、こんくらいお安いゴヨーダーGT……かは分かりませんけど、私がやりたくてやりたいって言ってるだけですから」
 「だとしてもだ。何せ…」
 笑みを浮かべて一日は言う。
 「僕も、妹達といつまで一緒に居てやれるか分からないからな…」
 そう言う一日は、達観したような、強い意志さえ感じさせながらも、どこか寂しげに見えた。
 「まぁ、兎に角だ。君の望みは聞いた。時間を作るのはそう難しくは無いだろう。後は、あまり角が立たないように生徒会の者達や先生方とのコンセンサスを取っておかないとな」
 「先生たちには、英語のエリちゃん先生からお願いします。あのヒト、何故か何かと私らに良くしてくれるんで。まぁ、この後、私らからもお願いしてみますけど」
 エリちゃん先生、というのは百合子たちのクラスの授業を持っているエリス・リーランドという若い教師だ。明るく聡明だが何故か何かと百合子『だけ』を贔屓するのが玉に瑕だった。
 「心得たよ」
 そう言って、一日は指揮者のように手を広げた。
 「さぁ、こんな所で閉幕といこうか。この世は全て仮面劇(ページェント)。また明日この舞台で会おう」
 そう言って、彼は去っていく。
 「ええ、それじゃまた」
 その後ろ姿に手を振りながら、百合子はふと言う。
 「あ、先輩。同じ仮面なら、仮面劇より全員参加の仮面舞踏会の方が人生多分楽しいッスよー!」
 「面白い見解だな、覚えておこう」
 一瞬だけ振り返り、笑顔を浮かべて一日は夕闇の中に消えて行った。

743ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:09:14 ID:5bzKfcHY
 おまけ
 「さって、これからが忙しくなるわねー」
 一日と話をしてすぐ後、しんと静かな階段を降りながら、踊り場で大きく背伸びをして百合子が言った。
 「そうですね。先生のところに行くのもそうですが、実際に何を言うか原稿を組まなくてはいけませんし、一原さんのとなると必然的に私のことにも触れざるを得ませんし……」
 「んー、単に私がレズなんですーって言うだけで良いと思うけどねー。詳しいこととか、うーちゃんのことまで突っ込まなくても」
 「もう少し考えてください。それに、貴女だけを矢面に立たせるつもりはありませんよ。って言うか、ここまでハイリスクなことしなくても良かったのでは?」
 「リスクの無い人生なんてつまんないじゃない。人生はちょっとしたダイボウケンだもの」
 「訳がわかりま……」
 突き刺さるような殺気が、雨氷を射抜いた。
 「!?」
 反射的に後ろを振り返る雨氷。
 同時に、放課後だというのに自分たちの周りには誰一人として他の生徒がいないことに気付く。
 いや、1人だけ。
 階段の上を見上げると、そこにたった1つだけ人影があった。
 夕闇に映える、白い肌。
 金色の髪。
 頬に当てられた右手。
 レディ・クレッセント
 鬼児宮フィリア
 「緋月さんと何を話していたのかしら」
 フィリアが口を開いた。
 口には笑みさえ浮かべているが、決して声を荒げているわけではないのに、拒否することを許さない響きが、彼女の声にはあった。
 「鬼児宮先輩、相変わらずお美しいですねー。って、いつの間にいらしたんスか?」
 フィリアの殺気だった雰囲気に気づいているのかいないのか、百合子が怪訝そうな声で言った。
 「答えてくれないかしら、一原百合子さん、氷室雨氷さん」
 頬にあてられた右手の細い指が神経質そうに動く。
 「答えなくてはいけませんか?」
 百合子の一歩前に出て、雨氷が言った。
 「答えられないようなことなの?」
 フィリアは笑顔を崩さずに答えた。
 ただ、頬にあてた指がまた神経質そうに動いた。
 カリ、と。
 「や、別に別に答えられないよーなってワケじゃ・・・・・・」
 「緋月先輩には、少々個人的な頼みごとを聞いていただいていました」
 空気を読まない百合子の能天気な声をさえぎり、代わりに雨氷は答えた。
 「頼みごと、個人的な、ねぇ・・・・・・」
 雨氷の言葉をかみ締めるように、フィリアは言った。
 頬の指がまた、カリカリと神経質そうに動く。
 頬をかいているのだ。
 所謂『お嬢様』であるフィリアには、およそ似つかわしくない素振りであった。
 笑顔とは対照的に、『お嬢様』然とした所作を捨てるほどに苛立っているのだろうと、雨氷には見えた。
 だが、何故そこまで苛立っているのかが分からない。
 分からないからこそ、不気味。
 「それで、その頼みごとというのは何なのかしら?」
 「・・・・・・」

744ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:11:00 ID:5bzKfcHY
 答えることに躊躇する。
 うかつな答えを返しては、自分たちの秘密について話さないわけにはいかなくなる。
 百合子はそのあたりの覚悟をとうに決めているようだが(何も考えていないだけかもしれないが)、雨氷は未だ慎重だった。
 迷っていると言っても良い。
 味方か敵か分からない相手(ほぼ確実に後者!)に話すには、あまりにもリスクが高い。
 雨氷は脳みそをフル回転させていた。
 「何なのかしら?」
 そんな雨氷たちに対して、頬を神経質そうにかきながらフィリアは一歩ずつ近づいてくる。
 「何なのかしら何なのかしら何なのかしら?」
 カリカリと頬をかく音がやけに大きく聞こえる。
 「ねぇ、早く答えて頂戴答えてくれないかしら答えてよ答えなさいよ答えて答えて答えて答えろ」
 カリ、カリカリカリカリ・・・・・・、と血が出るんじゃないかと言う勢いで頬をかくフィリア。
 「答えないの答えないんだ答えないなら・・・・・・・!」
 カリカリカリカリカリガリガリィ!
 半ば反射的に動いていた。
 雨氷は常に持ち歩いている学生鞄、その隠しポケットから大振りなナイフを取り出し、フィリアの攻撃を受け止めていた!!
 ナイフのグリップごしに重い衝撃がビリビリと伝わる。
 「駄目じゃない氷室さん、そんなモノを学校に持ってきちゃぁ・・・・・・。校則違反よ一日に嫌われるわよぉ」
 確実に雨氷の心臓を狙った『攻撃』―――右手の袖口から取り出した『何か』を受け止められたフィリアは言った。
 自らの爪で頬から血を流し、口元にはその場に見合わぬ笑みが浮かんでいた。
 「先輩こそ、ソレは校則違反じゃないんですか?」
 「ああこれ?これはただのペーパーナイフよ。ペェェェエパァァァアナァァァアイフ。知ってるでしょ?」
 再度互いに距離をとり(どちらかと言えば雨氷たちのほうが下がった形だった)、手の中の凶器をくるくると弄ぶフィリア。
 確かにソレは雨氷たちの知るペーパーナイフと同じシルエットを持っていたが、ずっと厚みがあり、縁の部分は鋭くとがっている。
 とどのつまり、グリップの無いただの刃を、フィリアは刃の腹の部分で持っていた。
 『って、ただのナイフじゃないですか!?』
 思わず叫びたくなるのをこらえる雨氷。
 「ねぇぇぇえ、それよりも一日と一体何を話してたのか、私まだほとんどなぁぁぁあんにも聞いてないのぉぉぉぉお。いい加減一秒も早く教えてよぉぉぉぉお」
 明らかな狂気の色を瞳に浮かべ、フィリアは言った。
 「誰が言うか!」
 即答の後再度飛び掛る雨氷。
 「お前はゆーちゃんの敵認定決定!ゆーちゃんは私が守る!だからお前を全力を持って打ち貫くのみ!!」
 「あらそぉぉぉぉお!?」
 ガキィン、と再度刃が打ち合う。
 続けざまに二度三度と振るうが、いずれもフィリアの『ペーパーナイフ』もといナイフに受け止められる。
 受け止められただけではない。
 フィリアは雨氷が『自分はこう動く』と考えたのとそっくりそのまま同じ動きでナイフを振るい、雨氷の攻撃を受けていたのだ。
 まるで鏡写しの様に。
 「一体何の・・・」
 「冗談ですか、とかじゃないわよぉ?私はこれでも戦う技術を持たなぁぁぁい」
 「はあ!?」
 フィリアの発言に素っ頓狂な声を上げてしまう雨氷。
 雨氷はこれまで、様々な手段で百合子に近づく者たちを排除してきた。
 比較的穏便に済む相手もいれば、屈強な男もいた。
 だから、様々な交渉手段―――つまりは闘うための訓練を重ねてきた。
 そんな雨氷が素人に遅れをとる道理は無いはずだった。
 本来なら。

745ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:11:27 ID:5bzKfcHY
 「だから貴女の動きを演じさせてもらったのぉぉぉぉお」
 「演じる・・・・・・、『仮面劇(ページェント)』」
 フィリアの言葉に、ふと一日が口にした言葉を思い出した。
 「一日はそう呼んでくれてるわ、ね!!」
 再度、フィリアが動く、雨氷と全く同じ動きで。
 違ったのは雨氷より一瞬だけ早いこと!!
 「うーちゃん!?」
 後ろから、百合子の悲鳴が聞こえる。
 何とか後ろに跳んだお陰で、致命傷はまぬがれた。
 ただ、雨氷の制服と肌は切り裂かれ、赤い血が滲んでいる。
 「あぁぁぁあ、助けとかは期待しないでぇぇぇね。ココはちょっとした人払いの技術を使わせてもらってるからぁぁぁあ」
 「人払い・・・・・・?」
 「あなたたちも、さっきまで同じ技術(モノ)の恩恵を賜っていたはずよ。不思議に思わなかった?放課後の廊下を誰一人通らなかったことに」
 そう言えば、先ほどの会話で随分騒いだのに、誰も通らなかった。
 「あれが、意図的に・・・・・・?」
 そうだとしたら、一体どんな手管を使ったというのだろう。
 「そう、あの時やったのは一日だったけどねぇぇぇえ。お陰でどこで何を話してるのか分からなくて大へぇぇぇんだったのよぉぉぉお?」
 あの不愉快な男の技術を『演じた』とでも言うのだろうか。何という出鱈目な、と思う間もなくフィリアが再度距離を詰め、ナイフで切りかかってくる!
 いや、これはフェイント!?
 「が!?」
 腹部に叩き込まれた膝蹴りに、眼鏡が吹き飛び、一瞬頭の中が真っ白になる。
 「ばいばぁぁぁい」
 無防備になった雨氷の首筋に向かって、フィリアのナイフが振るわれ―――
 「鬼児宮先輩、ストップ!言います!」
 その瞬間、百合子の声が響いた。
 「へぇぇぇえ。でも、このコさぁぁぁあ、私を敵だって言ってたけどぉぉぉお?」
 雨氷の首の皮一歩手前でナイフを止め、フィリアは百合子に言った。
 「敵じゃありません。だって、私たちは先輩の恋愛の邪魔、しないですもん」
 え、と雨氷は言いそうになった。
 「ふぅぅぅうん?」
 ス、と雨氷からナイフを離し、フィリアは言った。
 「……え?」
 あっさりとした対応に、雨氷は思わず呟いた。
 どういうことなのだろうか。
 と、いうかそう言うことなのだろうか。
 「ぶっちゃけ、先輩は緋月先輩のことが好きなんですよね?」
 「……」
 百合子のストレートな言葉に、フィリアが沈黙する。
 それが、これ以上のない答えだった。
 「好きな男の子が女の子に呼びだされて気になんのは分かりますけど、先輩が心配するようなことは全然ですよ。何たって、私らレズですから」
 「嘘をつくなら、もっとマシな嘘をついたらぁぁぁあ?」
 「いや、マジでマジで。先輩のことなんて生まれる前からマジラブってたくらいですから」
 「それは生まれる前から出直してきなさぁぁぁいな。何せ、こっちは一日のことを前世から好きだったくらいの勢いだもの」
 「そりゃ残念っす」
 肩をすくめて百合子は言った。
 普通に残念そうだった。
 あんな告白でオーケーされると思ったのだろうか、百合子は。
 と、言うか雨氷としては自分の前で他所の女に堂々と告白とかしないで欲しかった。殺したくなる。

746ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:11:47 ID:5bzKfcHY
 「まぁ、そう言うことなら許してあげる」
 「あ、話した内容とか言った方が良いですか?」
 「それはどうでも良いわよ」
 狂気めいた雰囲気を薄れさせ、しかし冷めた様子でフィリアは言った。
 「私と一日のことに関係が無いなら、何もかもどうでも良い」
 そして、そう吐き捨てるように言ったのだ。
 そして、ナイフをくるりと弄び、懐に仕舞う。
 「全く、無駄な時間を使ってしまったわ」
 ため息交じりにフィリアは言った。
 まるで雨氷達のせいと言わんばかりだが、雨氷としてはむしろフィリアのせいで災難に会ったという気分だ。
 「じゃあ、また。もう二度と会いたくは無いけど」
 「そんなこと言っちゃってさては先輩ツンデレですねいやなんでもないですごめんなさい」
 フィリア(と雨氷)にすごまれ、平謝りする百合子。
 「ああ、そうそう。もし本当に一日に恋愛的な意味で近づいたら、その時は殺させてもらうから」
 なんでもないように言うフィリア。
 「あっはー。そりゃ嘘でも本当でもありえないですよ。私×鬼児宮先輩ルートならともかく」
 「だから、それこそありえないわよ」
 そう言って、今度こそフィリアは去っていった。
 それと時を同じくして、雨氷達の耳に人の話し声が聞こえてきて、やがて階段を行き来する生徒の数が増えて行く。
 「傷とか大丈夫、うーちゃん」
 「こんなのかすり傷ですよ。……それにしても、あらゆる意味で出鱈目な女でしたね」
 フィリアの姿が消えたのを確認してから雨氷は言った。
 「いや、それうーちゃんだけは言っちゃいけないと思う」
 まるで雨氷がマトモでないかのように言う百合子。
 失礼な。
 「それにしても・・・・・・」
 珍しく思案気に、というより迷うように百合子が言った。
 「緋月先輩と鬼児宮先輩、大丈夫なのかしら」
 「大丈夫、といいますと、何が?」
 「色々よ。上っ面を見る分には分からなかったけど、あの2人、何て言うかこう、とっても危なっかしい気がしてね」
 危なっかしい、というのは雨氷には分かる。
 自分を役者と自己規定し、本心がどこにあるのか分からないあるのかすら緋月一日。
 他者を傷つけることに一片の躊躇も無い鬼児宮フィリア。
 いや、後者に関しては雨氷も似たり寄ったりの部分はあるけれども。
 一日とフィリア、双方共にかなり極端な精神性の持ち主であることは間違いが無いようだった。
 今でこそ辛うじてバランスが取れているが、2人が揃ってその精神のバランスを崩したら、一体どんなことになるのだろうか。
 「どうなるか分からないことを考えても仕方ありませんよ。それに、そこから先はあの2人の問題。私たちにはどうしようもないことでしょう」
 「まぁ、そうだけどね」
 「どの道、卒業されれば無関係になる相手ですし」
 「まぁ、薄情ね」
 冗談めかして言う百合子。
 そして、2人は中睦まじく放課後の廊下を歩いて行った。


 それからほどなくして、百合子たちのカミングアウトがなされ、学園中が騒然とすることになるのは、また別の話。
 そして、百合子の一日とフィリアに対する危惧が現実となるのも、また別の話だ。


 それは、別れと出会い、そのそれぞれのそれ以前。
 それは、御神千里と緋月三日が夜照学園高等部に進級する以前。
 開幕前の舞台で演じられた物語。

747ヤンデレの娘さん 転外 ぺぇじぇんと◇9znZNYtb1U:2011/06/14(火) 23:12:22 ID:5bzKfcHY
以上で投下終了です。
お読みいただきありがとうございました。

748雌豚のにおい@774人目:2011/06/15(水) 00:41:58 ID:W3lviOs.
>>747
GJ!!投下ラッシュだ!!これで勝つる!

749雌豚のにおい@774人目:2011/06/15(水) 06:18:31 ID:LQN6D38E
GJ!
投下くるようになったかな?

750雌豚のにおい@774人目:2011/06/15(水) 08:25:58 ID:p6a91DmQ
>>747
GJなんだけど酉の付け方間違ってるぞ

751雌豚のにおい@774人目:2011/06/16(木) 00:03:08 ID:lFCwh6Uw
>>747
GJ!

あと質問なんだけど、一年前とかの一話とかしない未完の長編って引き継ぎいで、書くとかあり?

752雌豚のにおい@774人目:2011/06/16(木) 00:07:44 ID:bT.2EyZE
>>751
一応作者の了解とってないとマズイんじゃないかな?

753雌豚のにおい@774人目:2011/06/16(木) 00:59:21 ID:zSFkhV6Y
やめといたほうが無難

754雌豚のにおい@774人目:2011/06/16(木) 01:02:59 ID:WMGrekOI
>>751
ぜひお願いしたいけど、作者の許可は必要だよね

755雌豚のにおい@774人目:2011/06/16(木) 01:04:47 ID:ueK0WTxc
>>751
そうしたい気持ちは分らなくないが、作者の持ち味で作品は出来るからね…

756 ◆STwbwk2UaU:2011/06/16(木) 01:50:47 ID:mRL7kPeQ
久々に投下。
難産だった。

757魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/06/16(木) 01:52:14 ID:mRL7kPeQ
「貴方…が…悪魔……?」

リーザが戸惑いつつも、少女に向かって話しかけている。
少女は微動だにせず、床を見つめている。
その目は何も映さず、目は濁りきっている。
リーザは恐る恐る手を伸ばすと、少女は何かに気づいたように立ち上がり、
壁まで歩いた後、じっと触っていた。

「ない…ない……ないないないない………
 ない!ない!!ないないないないないないないないないない!!!!!」

触っていた手は緩やかに、やがて激しく壁を触り始めた。

「は…はは……あは…は…」

やがて力尽きたようにその場に崩れ落ちると、少女は力なく笑い始めた。

―常軌を逸している。
もはや、この娘は正常な精神を持っていないのだろう。
いや、ここが狂気の発生源だと考えれば……しかし……
こんな幼い娘が……

「ど…どうしたの?だ、大丈夫ですか?」
リーザが声をかけ、再度その少女の元まで歩いて行く。
リーザが後数歩で接触するというところで、少女の雰囲気がガラリと変わった。

「……触るな、下衆が。」

その声は、一切の憐憫を含まず。この世の全てに侮蔑を投げつける。
目の前の少女の魔力が、急激な速度で膨れ上がる。
風もない湿った地下室に、彼女を中心に空気が渦巻いているのを感じる。

「ああ、心が軽い。ありがとう!我がお父様を救ってくれて!」

可憐を匂わす笑みをこちらに向ける。
しかしその目は底冷えし、少しでも動こうものなら殺すと言っているかのようだった。

「そこに転がっている死体はなんだか知ってるか?
 あはははっ!
 その死体、なんだか分かるか?ん?」

声はあくまで容姿相応の……しかし……

「それはね!我が母と弟と!妹の死体だ!
 あはははは!笑えるか?笑えるだろう?
 笑えよ。」

殺意が溢れ、体が固まる。
少女は軽い足取りでリーザの元へ向かった。

「お父様を殺したのはお前らじゃないな。お前らからはお父様の魔力を感じない。
 ……殺した奴が来るまで世間話でもしようか。
 …なぁ?聖騎士様?」

少女の顔が邪悪にゆがむ。
リーザの顔を、静かに撫でている。
僕も、リーザも、他の聖騎士も……何かに縫い付けられたかのように動けない。
冷や汗が全身から絶えず噴き出る。まるで心臓を鷲掴みにされているかのようだ。

「せっかくだから、自己紹介からいこうか。
 我はお前ら下衆が呼ぶ、レッドアイズとも、西方の悪魔とも呼ばれるものだ。」

少女はリーザから離れ、部屋の中央にある魔方陣をなぞるように歩き出した。

「まぁ、お前ら人間っていう存在は、少しでも他人と違うと全てを否定したがる。
 我が父が、母が、魔力があるだけでお前らとなにか違ったのか?
 違わなかった。同じ血の通う人間だと思っていた。」

 顔は上にあげない。裸足のペタペタという音が嫌に大きく聞こえる。

「例えば我は、母が言うにはただの人間だったらしい…が?
 ……ふっ、まぁご覧のとおり封印されて閉じ込められていたわけだ。
 封印したのはお父様だがな。」

母と思われる亡骸の手を取る。
亡骸の手は力なく、その娘の手を受け入れていた。

758魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/06/16(木) 01:52:57 ID:mRL7kPeQ

「ああ、ああ、ああ、我がお父様を誤解しないでくれたまえ。
 別に私を封印したいがために母や弟、妹を殺したわけじゃあないんだ。
 むしろ、これは母と弟と妹の、最期の願いを聞き届けた結果だよ。」

まるで何かに言い訳をするかのように、おどけた調子で話しながら、さらに魔方陣を歩く。

「そう、殺したのはお前ら。
 お前ら人間だよ。
 わざわざ我が目前で、見せつけるかのように心臓を槍で突いた。
 目を短剣でくりぬいた。耳を剣で削いだ。
 ……痛かっただろう?
 うん、うん………」

すっかり骨となってしまった、弟と見られる少年の亡骸をそっと抱きしめた。
弟は何も言わず、少女の抱擁を受ける。

「我は怒りに震え、無いと思われていた魔力が覚醒した。
 とびっきり強烈なやつがね。
 ……だが、安心してくれ。
 見ての通り、封印されてしまったわけだ。
 お父様の望みは、静かに、平穏に、家族と暮らすことだからね。
 母と弟と妹を失っても、残った娘を棄てられなかったのだろう。
 ……例え、それが自分を一生縛る鎖となっても……
 こんな娘、捨ててしまえば……よかったのに……」

キンッと音がする。
トルスティからロザリオを貰った聖騎士が、剣を抜いて斬りかかった!
太刀筋は完璧に少女の肩口を捉えている。
僕は二等分された少女を見るかと思いきや、その剣は肩に触れるか触れないかの部分で止まっていた。
少女の目には、呆れが浮かんでいた。

「聖騎士様、聖騎士様。
 あなた様は人が話してる時は、聞くという教育を受けなかったのでございますか?
 私よりもまっとうな人生をあゆまれ、人々の尊敬を受けてきたのでございましょう?」

聖騎士の剣に力がこもっているのが見えるが、その剣は少しも動かない。
剣の横を滑るように少女が懐に入り、手を構える。

「お仕置きだよ、聖騎士様。
 お前の心臓を…よこせ。」

この時、僕はきっと目の前の光景が信じられなかった。
何故なら、あれほど強固に、幾重にも魔法がかかった鎧が、
飴細工のように壊れ、少女の手が胸を貫通したのだから。

聖騎士は、何度も痙攣をした後、ひときわ大きい痙攣をして動かなくなった。
少女は飽きたように聖騎士を壁に投げ捨てると、何事もなかったかのように話を続けた。

「それで、今お前ら人間どもがお父様を殺したわけだ。
 感謝してるよ。もう何も心残りがないのだからな。
 父を、母を、弟を、妹を殺したお前ら人間に復讐できるのだからな……」

力なく項垂れる、妹と思しき少女の亡骸の髪を、静かに梳いた。
妹は何も語らず、ただ少女の慈しみを受ける。

「何を…!やっているのですか!!」

扉を乱暴に開けながら、トルスティが入ってきた。
もはや動かない聖騎士を一瞥し、トルスティは剣を抜いた。

「大事な戦力をむざむざ殺されるとは……
 ええい!悪魔よ、神の御許へ行きなさい!」

トルスティの魔力が高まり、この場を支配していた少女の魔力を上回った。
それに釣られるかのように、リーザと他の聖騎士も戦闘態勢へと入る。
しかし、
少女はそれをつまらなそうに見たのち、妹から離れて部屋の中心に立った。

759魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/06/16(木) 01:53:52 ID:mRL7kPeQ
「もはやこの体に未練はない。
 力が欲しい。我が父を、母を、弟を、妹を奪った奴に復讐するための。」


魔力がさらに高まる。
拡散していた狂気も魔力も全て少女に凝縮されるかのように集まっていく……


「我は許さない…許さない許さない許さない許さない許さないゆるさないユルサナイユルサナイ
 絶対に!この世界を!!!!!」


命が、波動が、全てが人間から変化していく。
まるで悪魔になるかのように……
いや、まさしく……その波動は……


――魔人転生。
今、僕は一つの破滅的な結末を見ている。
己が種族を辞め、新しい種族に変わろうとしている少女を見ている。
…生まれた種族を棄ててしまったものは、須らく不幸である。
なぜなら、その選択肢を選んだ時点で殆どの者は心を壊してしまっているからだ。
人間という枠を超え、悪魔となるほどの狂気を抱くあの少女は
どれだけの地獄を見たというのだろう。
あれほどの魔力を持っているなら…未来の進む先が違ったなら……
名のある魔道士にも、知の源たる賢者にもなれただろうに……


「我は悪魔。我が名は、レッドアイズ……
 貴様ら人間に、仇なす者。
 あは…ははっ!あはははははははっ!……ははははははははははははは!!」

僕の哀しみも、もはや彼女に取ってはただの迷惑なものにしか感じないだろう。
少女を殺すための戦いが、始まろうとしていた。

760 ◆STwbwk2UaU:2011/06/16(木) 01:56:21 ID:mRL7kPeQ
投下終了です。
次はリーザさんのターン。

あとなんか著作権云々の話があるようなので一応
自分の作品に関しては2次創作?とかパロとか好きなようにしていいです。
設定も好きに使ってください。
そんな物好きな人はいないと思いますが…

761雌豚のにおい@774人目:2011/06/16(木) 08:01:40 ID:ueK0WTxc
>>760
GJ!!
久し振りの投下お疲れ様です!これが産みの苦しみか…リーザさんの病みがまだとはなんという焦らしプレイ!

762雌豚のにおい@774人目:2011/06/16(木) 14:56:36 ID:lFCwh6Uw
確かにそうですよねー。
ちらほらと書きたいのあったがあったもんで

すいませんでしたー

763雌豚のにおい@774人目:2011/06/16(木) 17:55:56 ID:ueK0WTxc
>>762
でも、復活して欲しい作品があるのは確かですよね。例えば、「風雪」と「黒い陽だまり」なんかすごいいい所で終わってますしね

764避難所の中の人★:2011/06/16(木) 19:20:51 ID:???
職人の皆様投下お疲れ様ですー

>>751
作者からの了解が取れない限り絶対にやめてください
これが原因で荒れたのを何回も目にしておりますので

765雌豚のにおい@774人目:2011/06/17(金) 19:22:11 ID:CR5Gih4.
>>760 GJ 続きが気になるよ!

766雌豚のにおい@774人目:2011/06/18(土) 07:31:15 ID:BYxgUvao
wikiみれないんだが俺だけ?ちなみにスマホ

767雌豚のにおい@774人目:2011/06/18(土) 17:55:48 ID:iz1cN3ow
ヨユーぶっこいて見れるんだが
時間も立ちまくったし誰か直したか?

768雌豚のにおい@774人目:2011/06/18(土) 18:15:00 ID:cVZLhi6g
十時に見てみたけど、何事も無く閲覧できましたよ。一時的な何かかね。

769雌豚のにおい@774人目:2011/06/18(土) 21:52:19 ID:/fTQq/yY
チャイルドロックとかじゃない?

770雌豚のにおい@774人目:2011/06/18(土) 21:59:41 ID:4kBN1jlQ
おもしろい冗談だね

771深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/19(日) 01:55:09 ID:2hVCGM7g
今話以降からは妄想垂れ流しでヤミヤミドロドロにしていきたいと思います。
一話から読むのダルいって人は今話から読んでも大丈夫だと思います。

では投下しま〜す。

772深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/19(日) 01:57:13 ID:2hVCGM7g

第十話

財の限りを尽くした絢爛な館で、父親である北嶺王とミューは、
十六年振りの再会を果した。
ただ残念なことに母親はすでに逝去したらしい。
王は再会に非常に感激していたが、ミューはあまり嬉しそうではなく、
国に戻るようにとの要請も頑なに拒んだ。
ミューは王にそれはなぜかと訊かれ、こう答えた。

「私は陽ノ国人、だからぁ、つまりね・・・・・・これからもお兄ちゃんのとなり・・・・・・」

ミューは自らが特権的な高い地位にあることを知っても、
なんらためらいもなく今までの自分であることを望んだ。
そして、どうしても俺と離れたくないらしく、
しきりに俺の名前を持ち出しては嬉しそうに今までとこれからを語っていた。
とても頑固なミューに王も折れて、帰化の話は頓挫した。

王との会話が一段落した頃、ミューと俺はここに泊めさせてもらうことになった。
で、今は“そふぁー”とかいうふわふわした椅子で、ミューと向かい合ってくつろいでいる。

「すげぇ食事だったな、ミューがこんなにいいところの出だったなんてね」

「そうだね・・・・・・何もかもが新しいし、唐突すぎてちょっと信じられないなぁ・・・・・・」

「ま、そのうち慣れるよ。ここが本来の居場所だったわけだし」

「そうかなぁ・・・・・・いつまで経っても慣れるような気がしない・・・・・・。
だってもうすでに陽ノ国が恋しくなっているもの」

「はは、そうか?俺はここが刺激いっぱいなんで、帰りたいとは全然思わんな」

「でもいつかは帰るんだよね?
そのときはお土産もいっぱい持って、一緒に帰ろうね・・・・・・」

「おいおい、今日お父さんに会ったばっかりだってのに、
帰化する気まったく無しってのは、お父さんに気の毒過ぎるって」

そう言ったためか、ミューの表情が曇る。
席を立ち、隣に座って密着してくる。

「ちょ、ちょっと、まずいって。
王の娘とこんなことしてたら、お父さんに首刎ねられるって!
ただでさえ部屋をこっそり抜け出してきたんだろ。
国同士の問題にも発展しかねないぞ」

引き離そうとするが、しっかりと腕を抱え込まれていて動けない。
上目遣いで俺を見つめ、声の調子を落として尋ねてくる。

「お兄ちゃんが私の出自を知った日から、ずっと気にかかっていることがあるの。
それはね、お兄ちゃんが私への態度を変えてくるんじゃないかって。
でも、そんなこと無いって信じたい・・・・・・だから、今のは照れ隠しなんだよね?
私はいつまでも変わらず、お兄ちゃんだけの深優だよっ」

深優の重要性を大いに知って、態度を全く変えないなんて無理がある。
しかし、素直に心内を明かすなんて、酷なので出来ない。
ミューは北嶺へ戻るべきなのかも知れない、と思っていることも当然に。

実は王と個別で会話したんだが、そん時どれだけ深優が必要か聴かされた。
唯一の後継ぎで、何よりずっと思い続けていた、我が娘を。
まぁ、俺の行動一つで国が左右されるなんてあってはならない事、
だから俺は深優が北嶺へ戻る気になるよう協力する決心をした。

謁見後、仲の良ささが度を過ぎると王の怒りを買うので、
距離を置いて欲しい、とルカさんに頼まれた。
なので、さっさと有言実行しなきゃいけないが、今日はやけに甘えてくる。

「もちろん、いつもの甘えん坊な深優に写っているぞ、俺の目には、な・・・・・・」

「えへへ、じゃぁもっと甘えちゃうよっ・・・・・・お兄ちゃんが苦手な攻撃!うりゃ!」

なぜか俺のふとももをさすってきた、
くすぐったい・・・・・・相変わらず次の手が読めないなミューさんは。
でも、こういう戯れは今日で終わりだ、ミューももう大人にならなきゃな・・・。

773深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/19(日) 01:58:49 ID:2hVCGM7g

「こら、変な気分になるだろっ」

「お仕置きにどこでもさすっていいよ・・・・・・変な気分に私もなりたい・・・・・・」

「どこでも良いっていったら、おっぱいでも良いってことになんぞ!」

変な気分になったせいか、ついつい失言してしまった。
ミューの前では模範者たれって思っているのだが、やっぱり俺には無理だわな。

「はぁ・・・お、お仕置きなんだから仕方ないよねっ、あんまり痛くしないでね・・・・・・!」

ミューは赤らみながら目を閉じ、少しだけ胸を張る。
ほんとにノリが良いね、この子は・・・・・・えっ?もしかして冗談じゃない?

「で、でもやっぱり・・・・・・お兄ちゃんになら痛くされてもいいかなっ・・・・・・」

どうやら本気で期待しているらしい。
ん・・・・・・そうか、この状況を利用して逃げれるな、
ミューは絶対俺の頼みを聞くからな。

「いいかミュー、俺が開けろと言うまで目を開けちゃダメだぞ」

「はぁん、お兄ちゃんって焦らす人なんだね・・・・・・うん、いいよぉ・・・・・・。
兄妹の交流って絆を確かめる意味でもすごく大事だからねっ・・・・・・」

息が荒くなっているミューを横目に、心の中で「お休み」と呟き、部屋を出た。



う〜ん・・・・・・まだかなぁ、五分くらい経ったかなぁ・・・・・・焦らしすぎだよぉ。
でもまさかぁ、お兄ちゃんがあんな大胆な発言するなんて。
私にとってはお仕置きじゃ無くてご褒美だよ、お兄ちゃん?
前々からこういう事されたいと思っていたから、とっても嬉しいよ。
はぁ・・・・・・早くお兄ちゃんの温もりを敏感なところで感じたい、早くぅ。

まだぁ?長いなぁ・・・・・・うぅ、どれだけ待てばいいのぉ・・・・・・
もぅ・・・・・・ちょっとだけ目を開けるよ?
ん、あれ?お兄ちゃんの姿、正面にはなし・・・・・・後ろかなぁ?

変だなぁおかしいなぁ・・・・・・いない、どうして?ああ、そっか!隠れているんだ!

「お兄ちゃんどこぉ?もしかして、かくれんぼ!?」

返事はありません。
きっと私に見つけて欲しいのだと思います、
かなり広いお部屋なのでちょっと手こずるかもです。

「そ、そうだよね、妹の胸を触るのはちょっと恥ずかしいよね、うん・・・・・・。
分った、よぉし、気持ちを切り替えてお兄ちゃん探すぞぉ〜えいえいおー」

私の鼻はお兄ちゃん特有の甘美な匂いを正確に嗅ぎとれるので、
一発で見つけちゃいますよ?

くんくん・・・・・・ん?扉の方に匂いを感じる・・・・・・
まさかお兄ちゃん私に何も言わず出て行っちゃったの?

「お兄ちゃん〜、今から三十秒以内に出てきたら、ミュー特製肩叩き券五百枚あげるよ?」

私の声が虚しく響くだけでした。こっそり出て行っていまったのでしょう。

お兄ちゃんと別れた後は、どんなに賑やかな場所であろうと、
暗く寒い寂しい空間に様変わりしたように写ります。変でしょうか?
この空間照らしている先ほどまで明るいと感じていたロウソクも、螢の光程度に感じます。
ドキドキから一転して、一気に気持ちが沈みます。

同じ館にいるのに、離れ離れというのはもどかしくて堪りません。
会いたい・・・・・・初めて泊る場所なのに一人は辛い、一緒に眠りたい。
そう思い、探すために部屋を出ましたが、
世話役として紹介してもらったルカさんに通せんぼされてしまいました。

「どこへ行かれるのですか?早くお休みなられた方が」

「あぅぅ、平気です・・・・・・それよりお兄ちゃん見てませんかぁ?」

「わたくしごときに敬語などおやめ下さい、普段通りにお声掛けを」

「分ったぁ、ルカさん。
あ、一つ言いたいんだけどぉ、自分を下げちゃダメだよっ。
あっ、これお兄ちゃんの口癖、えへへ」

「・・・ありがとうございます。
では、ご質問の件ですが、申し訳ありません、行方は存じません。
そもそも、彼と常に一緒にいるという事は控えて頂きたいのですが。
あなたはメア国唯一の後継ぎ、万が一のことが有りますから」

「お兄ちゃんは優しいよ、何もしないよ」

「いいえ、そう言う事では無くてですね、
もう依存する事自体をもう止めにすべきなのです。
彼も言っていました、ミューを宜しくと、決して嘘ではありません」

774深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/19(日) 01:59:15 ID:2hVCGM7g

「・・・・・・お兄ちゃんがそんな酷いことはずないよ・・・・・・。
そんな恐ろしい嘘言うのやめてよ、その言葉を聴くだけで胸がキリキリ痛むの・・・・・・」

ルカさん酷いです、そんな嘘でお兄ちゃんと私を裂こうだんなんて。
嘘でも少しだって聴きたくない、そう思い耳を押さえました。

「確かに長年連れ添ってきた兄と別れることは辛いでしょう、
しかし、姫を必要とし、待っている人々は数え切れないほどいます。
さぁ帰りましょう、姫の本当にいるべき場所へ、なにも怖くは有りませんよ」

「いやぁ・・・・・・離れたくない
・・・・・・離れ離れになるくらいなら死んだ方がまし・・・・・・」

「・・・さすがにその物言いは大げさでは」

「やっぱりルカさん分ってないっ!
私が軽い気持ちで、兄ちゃんと一緒に居たいとでも?それとも、ただの我がまま?
違うよ、私は物心ついたときから、
どんなことがあっても死ぬまで寄り添っていくと決めているの。
私はお兄ちゃんに一生を捧げる覚悟でいるの、真剣なの、本気なの!
それなのにルカさん、今日出会って今日離れて下さいだなんて、ひどいよ・・・・・・
私は、どんな苦難が立ちはだかっても、実のお父さんにお願いされようとも、
例え私の選択がみんなから見て間違っていようとも、どれだけの人を敵に回そうとも、
お兄ちゃんへの愛を貫く・・・・・・」

私が熱くなりすぎたため、ルカさんは大層驚いて、言葉を失ったようです。

「・・・・・・それほどまでに彼を愛していらっしゃいましたか・・・・・・」

「ねっルカさん、分ってくれたぁ?」

「はい・・・・・・と言う事は、南夏殿のお願いは絶対なのですか?」

「うん、お兄ちゃんがやれって言ったら何でもやるよ。
でも、お兄ちゃんってとっても優しくて妹思いだから、無理難題は頼まないよ」

「なるほど、姫の固いご意思、理解致しました。
ですが、姫の選択がどれだけの影響を我らが国に与えるかをご理解頂きたく存じます」

「うん・・・・・・そうだよね・・・・・・でも私、今はまだ心の整理がつかなくて。
だから、お兄ちゃんから離れる勇気なくて・・・・・・」

「はぁ・・・・・・南夏殿は中庭へ涼みに出て行きました」

「えっ、本当!?ルカさんありがとう〜、じゃぁ行ってきます」

私とすれ違いざまにルカさんが、

「少しは王の御心情もお察しください・・・」

廊下を進み、中庭にたどり着きます。
そこで少し目を凝らし姿を探すと・・・・・・いました、
木製の長椅子で腕組みをしています。

「お兄ちゃん発見・・・・・・もう、いきなり居なくなっちゃうなんてびっくりだよ」

「・・・・・・ああ、すまんすまん、暑さで俺の体が勝手にここに導かれてよ」

「そんなに暑かったんだぁ・・・・・・隣に座るよ、よいしょっと」

「なぁミュー、すごく丁寧にされた中庭だな。
あの良くわからん置物もかなり値が張りそうだ・・・・・・さすが大国の主の別荘。
ふぅ・・・・・・なぁ、ミューに提案があるんだ、明日のことなんだけど」

「なぁに?」

「俺だけ道場に行くわ、ミューはしばらく残れ」

775深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/19(日) 01:59:49 ID:2hVCGM7g

「っ・・・・・・!どうして、嫌っ、急にそんなっ・・・!
誰かにそう言えって脅されたの・・・?」

「違う、完全に俺の考えだ」

「・・・・・・やだよぉ、お兄ちゃんのいない日々なんて拷問・・・・・・」

「せっかくお父さんと会えたわけだし、もうちょっと絆を深めろ。
それにミューはもともと北嶺の人間なわけだし、
なにより次期国王、いろいろ北嶺のこと学んで来い。
これはミューのためを思ってだ、分かってくれよ、な?
少しの間でいいから。
それに、なにも俺は消えてなくなるわけじゃぁないしな」

動揺する私の肩を掴み、落ち着かせようとしてくれます。
ぼろぼろ涙を流しながら首を何度も横に振る私を必死で説得します。
お兄ちゃんの真剣な眼差しを見ているうちに、
こうも頑固な態度を取り続けるのはとても良くない気がしてきて、
ついに首を縦に振ってしまいます。

「そうか、分かってくれるか、それでこそお兄ちゃんの妹だ」

「・・・・・・お兄ちゃんの言うこと聞きたいけど、
きっと、離れ離れになっているうちに、体がお兄ちゃんを求めてしまって、
おかしくなると思うの。
だからぁ、その、なんていうのかなぁ・・・「お兄ちゃん」をたくさん補給しておきたい」

「つまり・・・?」

「濃密な口づけをしてくれたら・・・・・・少しの間頑張れるかも・・・・・・」

お兄ちゃんは顔を真っ赤にして、身振り手振りで拒否します。

「だっ、ダメだ!兄妹の範囲を完全に超えてる。
それに俺が初めてだなんて、もったいない」

「何で・・・・・・?私たち世界で一番仲のいい・・・兄妹なんだから、
これくらいのことは想定内だよ・・・・・・・」

「急に大胆になったな・・・・・・どうしたんだ?」

「大琉にいた頃は、お兄ちゃんと微妙な距離があって、
どこまで踏み込んでいいのかがあまり分らなかった・・・・・・。
でも今回は、朝昼晩ずっと一緒に居られることになって、分ったの。
案外お兄ちゃんが私のこと嬉しそうに抱きしめてくれるってこと。
だから、今なら深いところまで迫れるかなって・・・・・・調子に乗ってごめんなさい。
したくないなら断っても全然平気だよ・・・・・・」

「ミュー・・・・・・そのさぁ・・・・・・まぁ、う〜ん・・・・・・」

私は黙ってお兄ちゃんの決断を待ちます。
きっとこんなお願い、断るでしょうね。

「いいよ、ちょ・・・ちょっとだけだからなっ!」

予想外の返事に、嬉しさが込み上げてくると同時に胸の鼓動が急加速します。

「うそ・・・・・・嬉しい・・・・・・」

「ただし、二週間はいる事」

「・・・・・・お兄ちゃんの温もりをそんなに長く感じられないんだね、すごく怖いよ・・・・・・」

「もちろん、二週間我慢したら、俺のところに帰ってきていいからな」

「うん、分った・・・・・・あの、じゃあ早速・・・・・・」

「ああ、じゃぁこっちからな」

776深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/19(日) 02:00:08 ID:2hVCGM7g

!・・・・・・あっ、お兄ちゃんの顔がこんな近くに、はぁはぁ・・・夢みたい。

お兄ちゃんは一瞬だけ唇を触れさせると、離れようとしましたが、
私は強引にもお兄ちゃんの体を引き寄せて、再び唇同士を接着させます。

「っ・・・!ミュー、そんな強引に、洒落にならんぞっ・・・!」

「はむ、むちゅ・・・ぷはぁ・・・・・・たったあれだけじゃ満足できないよ。
すぐに気持ち良くしてあげるから、お兄ちゃんも舌をだしてぇ・・・・・・はぁむ・・・・・・」

お兄ちゃんの乾いた唇を私の唾液で湿り気を与え、
固く閉じられた唇の隙間を、舌でこじ開けるようにして進入します。
お兄ちゃんの歯ぐきを這うように何回も往復させ、裏側までしっかり舐めます。

「んん・・・・・・んっ、ぷはぁ・・・・・・
ミューはこんな淫らな子じゃ・・・・・・」

「えっ、何にも変じゃないよ、お兄ちゃん。
お兄ちゃんが好き過ぎるから、一旦火が付いたら止まらないだけ・・・・・・。
お兄ちゃんの唾液美味しいよ、今まで食べたもので一番美味しい、すごく甘いの。
あっほら、私の唾液も飲んで?はい、交換」

お兄ちゃんの顔はとっても恥ずかしそうです。
その表情を見ていると、とっても可愛らしく思えて、ぞくぞくしてきます。
次第にお兄ちゃんは抵抗しなくなったため、一方的に口内を隅々まで貪ります。

「むちゃ、ぴちゅぷはぁ、くちゅ、お兄ちゃん大好きだよ、はむ、ちゅぱぁ、
いつまでも一緒に居ようね、くちゃ・・・じゅるぅ、ぱっ・・・・・・はぁはぁ・・・・・・
気持ちいい、お兄ちゃん?私は気持ち良すぎてどうにかなっちゃいそう。
まだまだ行くよ?お兄ちゃんも私を犯す感じでねっとりと口を奪って欲しいな・・・・・・」

気付けばお兄ちゃんを押し倒す形になっていました。
私はどちらかと言えば、
お兄ちゃんに押し倒されて激しくされたいと思っているたちですが。

ここぞとばかりに、お兄ちゃんの体に全身を擦りつけて体の疼きを沈めます。
だって、今回は接吻だけの約束だから、それ以上の行為に走ってしまったらまずいよね?
だからこれで抑えているの・・・・・・でも、これだけでも十分体が刺激される・・・・・・。

「はぁむ・・・んっ、じゅるっ、はぁんっむふぅ・・・・・・
お兄ちゃんのざらざら舌の感触が堪らないっ、最高だよ」

お兄ちゃんは舌を引っ込めて抵抗しますが、
そんなのお構いなしに、舌を執拗に絡ませます。
舌や唇、歯茎だけだはなく口内の肉壁も丁寧に念入りに、
滑り気を洗い去るような舌使いで、熱い吐息をもらしつつ、巡回します。

「ねぇねぇ、お兄ちゃんの朝晩の歯磨きは、私の接吻でいいんじゃないかな?
私のほうが歯磨き道具より、綺麗に歯垢もぬめり気も隅々まで磨きとるよ?
お兄ちゃんの口が不衛生な方が私的に嬉しいからっていうのも有るけど」

目を閉じて何も言ってくれなかったお兄ちゃんが、やっと口を開いてくれます。

「ちょっと愛情表現が行き過ぎじゃないのかな、気持ちは嬉しいけどさ・・・・・・」

「うんん、逆だよ、まだまだお兄ちゃんへの愛が足りない。
はいっ、だからもう一回・・・・・・」

「おっ、俺さぁ、疲れちゃったから寝室戻るわ」

「疲れてるんなら仕方ないね。うん、じゃぁどっちの部屋で眠る?」

「いや、別々だよ・・・・・・」

「・・・・・・私お兄ちゃんと明日から会えなくなるんだよ?
だからお兄ちゃんの体温を感じさせて・・・・・・?隣で眠るだけ、なにもしないから」

「じゃぁ、俺の部屋で・・・・・・」

「うんっ、いこいこっ!」

777深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/19(日) 02:01:07 ID:2hVCGM7g
以上です。みなさんお休み、良いヤンデレの夢を。

778雌豚のにおい@774人目:2011/06/19(日) 02:18:47 ID:5r9mdsNA
GJっす
おやすみん

779雌豚のにおい@774人目:2011/06/19(日) 11:20:36 ID:UQrsdne6
>>777
GJ!
そして、おはよう!

780雌豚のにおい@774人目:2011/06/19(日) 12:12:10 ID:pRjYUK.I
GJ
みゅーハメ外しすぎだろ…

781雌豚のにおい@774人目:2011/06/19(日) 14:59:31 ID:PegItWwc
GJGJGJ!

782雌豚のにおい@774人目:2011/06/19(日) 16:15:07 ID:hBjBKQ3w
GJ
こういうハメの外し方好きよ

783ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:19:14 ID:jWW4PdQE
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです(トリップの付け方、あってますかね?)
 今回はお待たせしましたの後編です。
 属性てんこ盛りのXXロリの大暴れ。特殊語尾とかってやっぱり難しいです。
 それでは、投下開始します。

784ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:20:09 ID:jWW4PdQE
 突然だけど、前回の三つの出来事!
 一つ!夏だ祭りだダブルデートだ!
 二つ!三日ちゃんが射的の景品を1つ正確な射撃で撃ち落した!(どんどんぱふぱふー)
 三つ!御神千里・・・おにーさんと零咲えくりがで出会ったのだ・・・なんだよ」
 「って零咲ちゃん零咲ちゃん、零咲えくりちゃん」
 俺はパロネタ(パクリ?)全開中の、前を行くロリっ娘に声をかけた。
 お待たせしました、御神千里っす。
 「どうしたの・・・かな、千里おにーさん」
 「いや、いきなりそんなネタかまして何人が分かるのさ」
 「ふえ、アニメや特撮番組でオープニングナレーションはお約束…なんだよ?」
 「アニメじゃないよ・・・・・・ってそれよりも」
 つい今しがたまで、うるさい位に響いていたお囃子や喧騒が、どんどんと遠ざかっていく。
 「お祭から随分離れちゃったけどまだかかるのかい、えくりちゃん」
 俺の横を歩く零咲(レイサキ)えくりちゃんを見降ろし、俺は言った。(俺は、別に彼女のファンという訳でもないし、初対面の女子を「えくりん」とかアレな愛称で呼ぶ度胸はない)
 数分前、メタ的に言って前回ラストに俺の目の前に現れた彼女に頼まれ、俺はお祭をしていた神社近くの森の中を進んでいた。
 「もー…ちょっとのちょっとちゃん…なんだよ、おにーさん!」
 そう言って俺のことを上目づかいで見上げる零咲ちゃん。
 って、あれ?
 この構図妙な違和感が無くないか?
 違和感というか、既視感?
 けれど、そんな既視感も零咲ちゃんがにぱっと浮かべた笑顔の前に胡散霧消する。
 太陽のような笑顔だった。
 ちなみに、以前読んだ雑誌のインタビューによれば、『えくり』という彼女の芸名は英単語の"eclipse"(「エクリ」プス)から取られているそうな。
 けれども、月蝕や日蝕を意味するその単語のイメージと彼女自身の姿は全く逆としか言いようがない。
 例え今この瞬間、月も日も無くなって、世界が闇に包まれようとこの笑顔があれば全人類が救われようというものだ。
 いや、実際夜だけどね、今。
 その上、神社から少し離れた、ちょっとした森のようなところを歩いているから、足場は悪いは暗いはで、少し歩きづらい。
 その上、周りに人はいないときている。
 零咲ちゃんのような小さな子が、1人で来なくて本当に良かった。
 って、1人?
 何かが、おかしくないか?
 俺は、当り前のようにちゃんと2人で、零咲ちゃんと2人きりで歩いているけれど。
 何か聞くべきことを、何か知るべきことを俺は知らないんじゃないか?
 「それにしても、おにーさんにはびっくりなんだよ。二つ返事で付いてきてくれる・・・なんて」
 「それは自分でも驚いてる。ってか、零咲ちゃんもよく初対面のおにーさんに『お願い』なんてできたねー。えらいえらい」
 「こう言うと大抵の男の人は言うことを聞いてくれるんだ・・・なんだよ!」
 えへへー、と笑いながら元気一杯に言う零咲ちゃん。
 ・・・・・・どうやら、この歳でかなり強かなようだった。いや、実年齢は知らんけど。
 「それに、初対面だけど全く知らない訳じゃなかった・・・なんだよ。千里おにーさんのことは万里のおにーさんから聞いてた…なんだよ」
 「ウチの親から?」
 「『良い子なのが欠点なくらいの出来た息子だー』って。何で良い子なのが欠点になるのか判らないけど・・・なんだよ?」
 「あー、まぁそれはさておき」
 色々あったからなぁ、今は普通だけど。
 その辺のことは今は話すつもりはない。
 「私達の番組も、ちゃんと観てくれてるっていうし」
 私達の番組、というのは零咲ちゃんが出演している特撮ヒーロー番組のことだ。
 「基本的に好きだかんね、ああ言うの。水戸黄門とかもそうだけど、最後は絶対みんな幸せのハッピーエンドじゃん。安心して観れるって言うか」
 「現実とは…違って?」
 何でも無いことのように、零咲ちゃんは言った。
 「や、そこまでは……」
 「正義とか努力とか勝利とか友情とか、そんな綺麗事ばっかりじゃ、本当は幸せになんてなれない…んだよ。努力は報われないし勝利は約束されてないし…友情は裏切られる」
 「零咲……ちゃん?」
 年齢に見合わないほどネガティブな内容を、まるで本当に当り前の雑談をするような口調で零咲ちゃんは言った。

785ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:21:29 ID:jWW4PdQE
「それでも、私は幸せになりたいから、頑張ってるだけ…なんだよ!」
 にっこり笑顔を浮かべ、零咲ちゃんは言った。
 「さ、もう少し…なんだよ、おにーさん。早く早く」
 「とと、待ってくれよ」
 先導する彼女に、まるで当り前のように着いていく俺。
 うーみゅ、それにしても父性本能をくすぐるロリッ娘とはいえ、どうしてこの初対面の女の子の頼みごとを速攻で聞くことにしたのかねぇ、俺。
 白い肌、黒髪、小柄な体躯―――そうしたところに、もしかしたら三日の姿が被ったからかもしれない。
 そんなことを考えていたからだろう。
 零咲ちゃんのたった一言を、聞き逃すべきでない一言を聞き逃してしまったのは。
 「そう、私たちは幸せになる…なんだよ。私も、『あの娘』も。どんな手段を使ってでも…」

786ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:23:03 ID:jWW4PdQE
 一方―――
 「いなくなっちゃったいなくなっちゃったいなくなっちゃったいなくなっちゃったいなくなっちゃったいなくなっちゃったぁ・・・」
 千里が姿を消したことに気付いた直後。
 地面にすわり込み、ぼろぼろと涙を流しながら、三日はうわ言のように繰り返す。
 「オ、オイ。どーしたってンだよ緋月!?」
 「大丈夫よ、三日ちゃん。センならすぐに戻ってくるわよ」
 葉山と万里が、いきなり泣き出した三日に声をかけるが、全く効果が無い。
 それどころか、三日には2人の姿も声を認識していないようだった。
 2人どころか、誰の姿でさえも。
 「ダメね。今のみっきーは何も見えてないし聞こえてないわ」
 手にした携帯電話を閉じて、明石は言った。
 「明石さん、三日ちゃんは前にもこういうことが?」
 万里の問いに、明石は頷いた。
 「去年、彼氏クン――― 千里さんの姿を見失ったときとかに、何度か。彼の姿をもう一度見つけるまで、こうして動きを止めてしまっていました」
 去年というのは千里と交際を始める以前のことなので、見失った、というのはとどのつまりストーキング中だったのだが、話がややこしくなるので明石は意図的にそれを説明しなかった。
 「ンじゃあみかみんのヤツに電話して、アクセル全開(マキシマムドライブ)で戻ってきてもらわねーと!」
 葉山が叫んだ。
 正直、彼は三日のことをあまり快くは思っていないが、女の子がいきなり泣き出したことにかなり慌てている。
 「ムリっぽい。さっきからかけてるけど、全然繋がらないのよ」
 手の中の携帯電話を示し、明石は言った。
 そんなことをしていると、何事かと思った祭客たちが彼らの周りに集まって来る。
 「だーもー!見せモンじゃねぇからギャラリーはどっか行きやがれ!」
 「すみません。この娘は大丈夫なので」
 葉山と万里が周りに向かって言う。
 「ここじゃ、人が多すぎるわね。みんな、取りあえずどこか離れたところに移動して、三日ちゃんを落ち着かせましょう」
 万里の言葉に、葉山と明石は頷いた。
 それを確認した万里は、三日の体を「チョットごめんなさいね」と言いながら、軽々と持ち上げる。
 「スゲ・・・・・・。お姫様だっこ」
 「乙男(オトコ)のたしなみよン♪」
 驚く葉山に、万里は冗談めかしてウィンクを返す。
 そのまま三日の体をその場から運んで行く万里。

787ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:23:26 ID:jWW4PdQE
 「ま、ここいらで一息つきましょうかー」
 そう言って、万里は神社の裏手近くに、三日を座らせる。
 「三日ちゃん、三日ちゃん」
 頬をぺちぺち叩いて、少女に声をかけるが、相変わらず「ごめんなさいごめんなさい」と言い続けるばかりで万里の言葉に答えない。
 「ダメね。こっちが完全に映っていないわ」
 そして、万里は飾り気の無い携帯電話を取り出して千里の番号を呼び出すが、コール音だけが空しく響く。
 ため息とともに携帯電話を閉じる。
 「フダンは意外と応答早いンですけどね、アイツ」
 「そうね」
 同じく携帯電話を見つめる葉山の言葉に、万里も応じる。
 「さしずめ、爆弾は爆発寸前、その鍵はどこにあるか分からない―――ってトコロかしら」
 「どこの映画ッスか」
 万里のもの言いに、葉山が言った。
 「大体、鍵なんてかわいーモンでも無いですよ。一体全体どこほっつき歩いてるのやら」
 少々、イラだった調子で葉山が言う。
 「どっかで女の子でも引っ掛けてるんじゃない?―――ってキャラだったらいっそ放置するんだけどね。……あのヤロウ」
 こちらはあからさまに舌打ちさえしている朱里。全身から真っ黒いオーラさえ見えそうな勢いである。
 「オ、オイ、朱里。お前アイツに何か恨みでもあるのか?」
 恐る恐る明石に言う葉山。
 明石の黒オーラに若干引き気味だ。
 「え、冗談冗談マイケルジョーダン!何でもないよん!」
 黒オーラを一瞬で誤魔化し、イエイとばかりにぶりっ子笑顔を浮かべる明石。
 急な誤魔化しなので、明らかにギャグがつまらないのはさておき。
 「なら良いんだがよ……」
 と、葉山が冷や汗交じりに言った瞬間、
 「誰!」
 今までブツブツ呟いていた三日が狂ったように叫んだ
 「誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!誰!千里を隠したのは!」
 今までの笑顔が嘘のような、悪鬼羅刹のごとき形相で、三日は叫ぶ。
 「オ、オイ。緋月落ち着…」
 いきなり叫びだした三日をなだめようと、葉山が言う。
 「あなたなの!?千里を隠したのは!?」
 「か、隠したって、オマエ……何言ってんだよ」
 三日の剣幕に気押されながらもツッコミを入れる葉山。
 「だぁってそうでしょう!?千里が私に何も言わないでいにゃくなるはずがありません!」
 周囲を歩く祭客たちが振り返るのも見えず、三日は叫ぶ。(噛みながら)
 「お兄ちゃんの時とは違うんだからぁ!」
 一しきり叫ぶと、叫び疲れたのか脱力して倒れそうになる。
 「三日ちゃん……」
 その背中を万里がトンと優しく支える。
 しかし、そんな万里の気遣いも認識していないかのごとく三日は唇を動かす。
 「…そうよそうに決まってます。あの人が、私の大切な人が私の前から永遠にいなくなるなんてこともうあるはずが無い無い無い無い無い無い無い。…だから」
 と、三日はまるで自分に言い聞かせるように呟く。
 「…探す」
 そう言って、三日はおぼつかない足取りで一歩踏み出す。
 「ちょ、三日ちゃん!?」
 「…探す探す探す。海の底までも地の果てまでも千里くんを探し出します。誰が隠していても関係ない。どこに隠していても関係ない。絶対に取り戻して見せます。だから…」
 万里の言葉も聞こえない様子でで、彼女は虚ろにわらう。
 「…待っていてくださいね、千里くん」
 そして、彼女は闇へと消える。

788ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:24:51 ID:jWW4PdQE







 「えっと、あれを・・・取って欲しいかな…なんだよ!」
 木の枝に引っかかった風船を控えめに指差して、零咲ちゃんは言った。
 祭の行われている神社の境内から少し離れた、人気の無い、高い木の下。
 俺と少女はそこにいた。
 その木に引っかかった風船を取ることが、零咲ちゃんの頼みごとということらしい。
 風船は、木の少し高い位置に引っかかっている。
 少し高い、と言っても大人ならちょっとした三脚を使えば十分捕れるだろう。
 しかし、零咲ちゃんのようなちんまいロリッ娘が手を伸ばしたくらいでは届くような高さではない。
 木登りに向いているような木にも見えないし、そもそも零咲ちゃんの服装は明らかにそれに適さないゴス浴衣だ。
 自分よりずっと背の高い俺に声をかけたことは、彼女にとって正解だった。
 でも、何か違和感あるんだよなー。
 「おにーさん・・・取ってくれる!?」
 とはいえ、そう言う零咲ちゃんを無碍にする訳にも行かない。
 親のヤツの仕事仲間だしね。
 「ちょっと待っててねー」
 俺はそう言って、彼女に笑いかけた。
 改めて、風船の方を見上げる。
 手を伸ばして届く高さじゃない。
 いや。
 手を伸ばしたくらいで届く高さじゃない。
 だから。
 俺は少し下がって、軽く勢いを付けてジャンプした。
 「あだ!?」
 勢いを付けすぎたせいで、俺は木の枝に頭をぶつけてしまう。
 当然、カッコ良い着地など出来るはずも無く、地面に尻餅をつく。
 かなりカッコ悪い。
 「アハハ、いったー」
 俺は左手で頭をさすりながら笑った。
 俺の右手には―――しっかりと零咲ちゃんの風船が握られている。
 ゲットだぜ、だ。
 「アハハハハー」
 「かりゃりゃりゃりゃ!」
 俺につられて、少女も笑う。
 笑い声の割に、思ったよりも控えめな笑顔だった。
 でも、この表情どこかで見たような……?
 「思ってたよりも・・・すごいんだね、おにーさん」
 俺の方を見上げ、零咲ちゃんが言った。
 「親友がバスケ部でね」
 そう言って立ち上がり、俺は少女に風船を差し出す。
 「はい、これー」
 「ありがとう…なんだよ、おにーさん」
 そう言って、長い袖の中から出た小さな手で風船を受け取る零咲ちゃん。

789ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:25:49 ID:jWW4PdQE
 「ありがとうに・・・頭を撫で撫で千石撫子ちゃんしてあげるー…なんだよ!」
 そう言って、絶対的な身長差のある俺の頭に向かって手を伸ばし、一生懸命うーんと背伸びをする零咲ちゃん。
 「届か・・・ないんだよ!」
 零咲ちゃんは元気一杯に言った。
 「だねー」
 彼女の可愛らしい仕草に、俺は思わず顔を綻ばせた。
 とはいえ、ここは彼女のために身をかがめて、手の届く位置まで頭を下げるのが年長者の対お

 ぴゅいん!

 「・・・・・・!」
 甲高い音と共に、何の前触れも無く、何の脈絡も無く、俺の両脚に焼けつくような痛みが走った。

790ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:26:34 ID:jWW4PdQE
 一方―――
 「しっかし、まいったわねー」
 雑踏に消えた三日を探しながら、御神万里は呟いた。
 闇に消えた三日を探して早10数分。
 すぐに見つかるだろうと思った三日の姿は未だに見つからなかった。
 小柄な三日はすっかり雑踏にまぎれてしまったらしい。
 「葉山くん、明石さん。そっちはどう?」
 万里は手にした携帯電話に向かって問いかける。
 2人の高校生は、千里が姿を消したことに気付いたその場所で待っていてもらっているのだ。
 『駄目です。さっきから息子さんのケータイにかけてるんですけど、応答ありません』
 『フダンは意外と応答早いンですけどね、アイツ』
 「そう、ありがと」
 電話越しに答える明石と葉山に、なるたけ穏やかな声で万里は言った。
 『それにしても、あの娘があんなふうになるのをもう一度見るとは思いませんでしたよ』
 明石が、無感動な声でそう言った。
 実際のところは彼女も親友の奇行に少なからず動揺しているはずなのだが、実際そうに違いないのだが、明石はそうした様子を表に全く出していなかった。
 若いうちから精神的にそこまでしっかりしていると、逆に危うく思えるのだが―――という思考を切り替え、万里は明石の言葉に応答する。
 「三日ちゃんは、以前にもあんなことが?」
 『ええ。去年、御神千里―――くんの姿を見失うようなことがあった時に、何度か』
 明石が変わらぬ声でそう答えた。
 去年というのは三日と千里が交際を始める前、三日が千里をストーキングしていた頃のことなのだが、神ならぬ万里にそうした事情まで分かるはずもない。
 「教えてくれてありがとう、朱里ちゃん」と言うだけである。
 「2人はそのまま、センに連絡を取り続けてくれないかしら。私は、しばらく三日ちゃんを探すから」
 『俺も行きましょうか?1人より2人で探した方が……』
 万里の言葉に、葉山がそう申し出た。
 「気持ちは嬉しいけど、アナタまでいなくなっちゃったら大変だし。ここはオトナにまかせて、ね」
 無用なとばっちりを受けても、とは万里は言わなかった。
 『……まぁ、分かりました』
 内心、友人たちのことが心配なのか、長い間の後に葉山は答えた。
 それを最後に、彼らは通話を終了した。
 「さしずめ、爆弾は爆発寸前、その鍵はどこにあるか分からない―――ってトコロかしらねー」
 三日の姿を探そうと、辺りを見渡しながら万里は軽口をたたいた。
 実のところ、万里にはそもそもの原因、千里が姿を消した理由にはいくらか心当たりが無くは無いのだが―――だからといって何もしないわけにもいかなかった。
 『彼女』1人のことならともかく、千里や三日がどうなることか――――どうにも予想がつかない。

791ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:27:04 ID:jWW4PdQE
 「……ク!」
 足首を襲った突然の痛みに、俺はうめいた。
 痛みだけではなく、血もだらりと流れているようだ。
 不意打ちのような傷に、思わず膝を折り、顔をしかめそうになるが、そこは根性で我慢。
 何だか知らないが、目の前の少女に心配をかけるわけには―――
 「さすがに・・・一回だけじゃ届かない…なんだよ?」

 ぴゅいん!

 ぴゅいん!

 少女の邪気の無い言葉と共に、もう二回の痛みが脚を襲う。
 「がぁ・・・・・・ぐ・・・・・・!」
 今度は、先ほどよりもより深い傷ができる。
 立っていられない。
 俺は、今度こそ膝を付き、倒れていた。
 「ウン・・・これで手が届くんだよ!」
 少女は満足そうに笑って、膝を突いた俺の、随分と位置の低くなった頭を撫でた。
 「かりゃりゃりゃりゃ!」
 無邪気な笑顔である。
 無邪気すぎるほどに。
 無邪気すぎて、逆に邪気を感じるほどに。
 「なでなで・・・だよー!」
 少女の手が俺の頭を撫でる。
 先ほどは微笑ましささえ感じた彼女の動作だが、今となっては危機感すら感じる。
 同時に、微かに感じていた違和感が全て具体化する。
 どうして、彼女のような芸能人がマネージャーも連れずに1人で行動していたのか。
 どうして、見ず知らずの俺に声をかけたのか。
 どうして、こんな人気の無いところで『風船を手放した』のか。
 いや。
 どうして、こんな2人きりの状況を演出したのか。
 「手が届くようになって、おにーさんが逃げれないようになって一石二鳥…なんだよ!」
 零咲ちゃんが、決定的な一言を言った。
 つーか、一欠けらも俺の被害を顧みていない。
 「零咲ちゃん・・・・・・、やっぱ今のは・・・・・・?」
 俺の頭を撫でる零咲ちゃんを見上げ、俺は言った。
 零咲『ちゃん』?
 いや、この女がそんなかわいらしいモノではないことは、俺はもう十二分に分かっているはずだ。
 「そう・・・レイちゃんがやったんだよ!」
 そう言ってにっこりと笑う零咲の右手に、銀色のワイヤーが手繰り寄せられる。
 ナイフなんかよりもずっと目立たない、しかし人の肉を切り裂くほどの細く長いワイヤー。
 どこぞの殺人鬼よろしくそれを使って、俺の脚を切り裂いたのだろう。
 浴衣の裾、切れちゃってるだろうなぁ。
 折角今日のために買ったのに。
 「こんなにしても激痛で叫ばないなんて・・・思ったよりも感心…なんだよ!」
 零咲がこの状況には場違いなほど屈託の無い笑顔で言った。
 叫ぶ。
 そうだ、叫んで助けを呼ばないと!
 「でもでも、叫んでも・・・叫ばなくても結果は変わらないけどだよ!ここは人のいる場所からは少し離れているし・・・そうでなくてもお祭はお囃子や人の声でうるさいんだよ!」
 うるさくて・・・嫌いなんだよ、と零咲ちゃんは言った。
 俺は、そんな言葉は無視して懐の携帯電話に手をやる。
 しかし、感じるべき硬質の手ごたえが全く無い。
 「探し物はココ・・・なんだよ、おにーさん!」
 そう言って少女が取り出したのは、飾り気の無いデザインの黒い携帯電話だった。
 俺の携帯電話だった。
 「いつの間に・・・・・・!」
 「おにーさんが風船をガン見してた時…なんだよ!」
 ガン見言うな。

792ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:28:29 ID:jWW4PdQE
 俺は、風船を取る時にどうやって取るか、ということしか考えていなかった。
 完全に、零咲を意識から外していた。
 そこに隙ができたのだろう。
 携帯電話が奪われるような。
 「同じときに・・・ワイヤーの仕掛けもしていた…なんだよ!」
 「器用すぎだろ」
 真面目な話、この娘はマトモな相手ではない。
 戦闘能力なら、一原先輩率いる生徒会メンバーと同等かそれ以上だろう。
 その上、人を傷つけても何とも思わない厄介なメンタルの持ち主だ。(この傷、放置しておくと割とヤバそうなレベルだ)
 救いがあるとすれば、取っ組み合いになれば体格差で俺が有利ということだろうか。
 もっとも、零咲のワイヤーはかなり見辛く、その上自在に操れるようなので、俺が勝てる状況に持っていけるかどうかはかなり微妙だが。
 って言うか。
 殺人ワイヤーとか、それ何て少年ジャンプ?
 俺ついさっきまでむしろラブコメディー的物語展開の中にいたハズなんですけど。
 それが何で親の仕事仲間に鉢合わせして襲われてる訳?
 西尾維新先生だってこんな超展開やらないぞ。
 「それで、零咲ちゃんの本当の望みは何なんだい?人気の無い所に俺をおびき寄せて、脚切って走れないようにして。まさか、本当に風船を取って欲しかっただけって訳じゃないんだろ?」
 悲鳴を上げる脚を無視して、俺は言った。
 「そこまで・・・分かってるんだんだよ!」
 先ほどの俺の言葉を受け、零咲ちゃんは言った。
 「その口癖、ムリに付けると噛みそうにならない・・・?」
 俺は、痛みを我慢しながら軽口をたたいた。
 時間稼ぎだ。
 俺が逆転突破の糸口を掴むか、あるいは人が来て状況が変わるまでの。
 「レイちゃんは、お兄ちゃん・・・の頼みでおにーさんに会いに来たのだ…なんだよ!」
 「お兄ちゃん?」
 おにーさん、とは違う。
 新しい登場人物だ。
 そいつが、この状況を作り出した諸悪の根源、全ての黒幕らしい。
 その男はきっと、お兄ちゃん、なんて可愛らしい呼称の似合うような相手ではなく、冷酷非道な邪悪そのもののとんでもない男なのだろう。
 「ねぇ、零咲ちゃん。全力全開で土下座してでも頼むから、その『お兄ちゃん』って人のことを教えてくれないかな・・・?」
 「いー・・・よ!」
 零咲ちゃんは、拍子抜けするほどあっさりと頷いた。
 この状況を作り出した極悪人。
 人を人とも思わぬ外道。
 まさに、俺の敵。
 その男の名は・・・!
 「緋月月日お兄ちゃん・・・なんだよ!」
 「あんの変態いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
 アイツか!
 よりにもよってアイツか!
 どんだけ俺の周りを引っ掻き回したら気が済むんだ!
 なぁにがニンゲンシケンだふざけんな!
 しかも『お兄ちゃん』だぁ!?
 どう考えても実の妹って展開は無いよなぁ!?
 こんなガキを妹キャラにして楽しんでるとかどんだけ変態なんだよ!
 不幸萌えは結構だけど俺に萌えてんじゃねぇ!

793ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:28:50 ID:jWW4PdQE
 ぴゅいん!
 「人の悪口を言っちゃいけません・・・なんだよ!」
 月日さんを変態呼ばわりした俺の頬に、零咲のワイヤーが飛ぶ。
 「ごめんなさい・・・は?」
 思い切り俺を見下ろして、諭すように語り掛ける零咲。
 言ってることは正しいんだよな。
 状況に合わないだけで。
 「ごめんなさい」
 「よろしい」
 俺の答えに笑う零咲。
 「けれど零咲。何で君が月日さんの頼みを?って言うか会ってどうしろってのさ?」
 「質問は1つずつ…なんだよ、おにーさん!」
 ワイヤーを操る右手を示しながら、零咲は笑顔で言った。
 よく笑う娘だ。
 あまりにも笑いすぎで、逆に笑顔が嘘くさく見える。
 演技くさく、見える。
 「でもでも…レイちゃんはちゃんと二つとも答えてあげる…なんだよ!えらいでしょ!?」
 「えらいえらい」
 ぴっと指を立てる零咲に、俺は軽い調子で返した。
 「まず、レイちゃんがお兄ちゃんの頼みを聞いたのは…レイちゃんがお兄ちゃんのこと大好きだから…なんだよ!」
 「そうだろうとは思ったよ!」
 「身も心も何もかも全部とっくに捧げちゃってるくらい…なんだよ!」
 「全部とか何もかもそう言うことは若い身空で軽々しく言うモンじゃありません!」
 「お兄ちゃんのことでレイちゃんの知らないことは何もないし…私のことでお兄ちゃんの知らないことは何も無い…なんだよ!」
 「あの人のことだから糞ロクでもない部分もコミなんだろうなぁ!」
 まったく、あの男は何をしてるんだ。
 変態ではあっても紳士的だとは思っていたのだが、その認識を改める必要がありそうだ。
 「これだけ言えば…1つ目の質問の答えにはなったかなだよ!」
 「まぁ、納得はしたかなー」
 って言うか、これ以上聞きたくない。
 月日さん、登場するたびに外道感が増してってる。
 「2個目の答えは…」
 「ほうほう」
 「おにーさんを殺すこと…なんだよ!」
 「なぜそうなる!」
 俺のツッコミに、零咲は「あ…れ?」と頬に手を当てて考えるような仕草をする。
 「うーん、ちょっとだけ違ったかなー…なんだよ?」
 「そうそう違う違う」
 勘違いで殺されてたまるか。
 「『気に入らなかったら…コロシチャッテ…良いよ』って言われてた…なんだよ!」
 「月日さん前編と言ってること違ぇ!?」
 あと零咲声真似上手ぇ。
 「会って…話をしてみて、殺していいかいけないか決めてみてってこと…なんだよ!」
 会って……?
 「もしかしてあの人、『…ニンゲンシケン…』とかなんとか言ってなかった?」
 「そうそうそれそれ…なんだよ!」
 俺の質問に無邪気に答える零咲。

794ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:29:33 ID:jWW4PdQE
 って、ちょっと待てよ?
 何でこの娘が3人目なんだ?
 俺の予想では三日の母、緋月零日さんが来ているはずなのだが。
 お仕事でむっちゃ忙しい人だとは聞いてるけど。
 代役?
 「ヒーロー番組観てる子供たちのアイドルを、こんな試験の試験官やらせんでも良かろうに……」
 「こんな試験って…どういう意味かな、かな?」
 「キャラ、ブレてるぞ」
 「かな、かな…なんだよ?」
 「どっちにせよパクリ感は否めないけどな」
 「素人さんに駄目だしされた!?」
 そんなに驚かれても。
 実際、その通りだし。
 それはともかく。
 「月日さんは一体何を考えてるのかって話。君だって、この一件のためにかなり無理したんでない?」
 「月日お兄ちゃんのためにすることは無理でも努力でも何でもないこと…なんだよ!」
 胸を張って言う零咲。
 良い娘だなぁ。
 アブないけど。
 俺の命を現在進行形で危うくしてるけど。
 「ンじゃあ、月日さんのためにも、お互い早めに終わらせちゃおうか」
 笑顔の零咲に、俺は優しげな様子で(様子だけ)言った。
 正直、いつまでも脚から血をダクダク流してるわけにもいかない。
 「ウン…なんだよ!」
 零咲が笑顔で頷いて、ふと思い出したように言葉を続ける。
 「そう言えばとてつもなくどうでも良いことだから忘れてたけど…おにーさんの試験結果は会ってすぐくらいには出していた…なんだよ!」
 「そう言えばとてつもなくどうでも良くないことだから可及的速やかに聞かせてー」
 可及的速やかにとこの状況から抜け出すために、俺は先を促した。
 「おにーさんの試験結果は…」
 しかし、零咲はそう言って口元に三日月型の笑みを浮かべた。
 目の笑っていない、凄惨な笑みを。
 「これ以上なく不合格!」
 同時に、零咲の両手が舞う。
 その動きが見えるか見えないかという段階で、俺は既にその場を移動している。
 間一髪、ワイヤーの風切音だけが通り過ぎる。
 飛んできたワイヤーを避ける、なんて恰好のいい動作では無い。
 ほとんどその場を後ろに転がったようなものだ。
 「お願いだから、お互い早めに終わらさせて欲しいかな…なんだよ、おにーさん」
 体勢を立て直した俺の方に、悠然と近寄り、上目遣いで俺を見上げる零咲。
 その動作に、思わずドキリ、とする。
 「どうしたのかな…おにーさん?」
 その仕草は魅力的だった、だけではない。
 その仕草は、あまりに見覚えのあるものだったからだ。
 いや、零咲の動作の所々は、俺が驚くほどよく知るものばかりなのだ。
 「どうにも、お前が三日の奴に似てるように見えてね。いや、見た目とかだけでなく、ちょっとした仕草とかがさ」
 俺の言葉に、ニヤリとした笑みを浮かべる零咲。
 「おにーさんがそう思うのは当然…なんだよ」
 その語る零咲の表情は、俺なんかよりもずっと大人びて見えた。
 ついさっきまで、随分と年下の女の子に見えていたのに。
 「三日ちゃんは私の続きなのだから…なんだよ」
 そして、彼女は虚ろなほどに漆黒の瞳でこちらを見据える。
 「そうだこうしようよ…なんだよ、おにーさん」
 「どーしようってのさ」
 三日そのままな上目遣いのまま、零咲を言った。
 「三日ちゃんのことを聞かせてみて欲しいかな…なんだよ」

795ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:30:06 ID:jWW4PdQE
 一方―――
 「チッ!」
 何度かのコールの後、明石朱里は再度小さく舌打ちをした。
 携帯電話のモニターには『御神千里』の文字が映る。
 その文字を明石は憎々しげに見た。
 「何で、私がアイツなんかのせいでダブルデート(仮)を邪魔されなきゃいけないのよ……」
 隣の葉山に聞こえないように、明石はそう小さく呟いた。
 明石は、千里のことが嫌いだった。
 自分の想い人の隣というポジションを占有し、自分の親友の想われ人という立場を占有している。
 その上、そのことに何の有難味も感じていないかのような顔でヘラヘラしている。
 どちらの立場も、明石が羨むほどの物なのに、だ。
 いや、流石に三日の恋人になるつもりは無いが。
 しかし、千里と正樹の仲の良さは何なのだろう。
 2人とも交友関係は決して狭くは無いが、この2人の関係は別格のように見える。
 17年の付き合いのある自分よりも近しいではないか。
 ホモか、ホモなのか。
 どちらにせよ今すぐ代わって欲しいポジションだった。
 『羨むってことは、嫌悪というより嫉妬なんでしょうね』
 そう心の中で呟く。
 ドロドロとした感情が、心の中で渦巻いていた。
 そもそも、明石は『幼馴染』という現在の自分のポジションをあまりよく思っていない。
 正樹とは親友と言うには遠すぎて、さりとて女として接してもらうには近すぎる。
 歯がゆいと言っても良いし、嫌悪していると言っても良いし―――自己否定的なまでに憎悪していると言って良い。
 「こんなコト考えるのも、あの男のせいだ」
 今度は口に出してそう言い、再度千里の携帯電話をコールする。
 見つけたらボロボロになるまでボコボコにしてやろうなどど思いながら。

796ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:30:35 ID:jWW4PdQE
 その頃、ボロボロでボコボコになった俺こと御神千里はと言うと。
「聞かせる?」
 零咲の言葉に、俺はいかにも怪訝そうに答えていた。
 「アイツの人となりを知りたいのなら、俺の話より、実際会って話すのが一番でしょ。って言うか近くに居るはずだから俺と一緒に会いに行こうぜ」
 「そんな言葉でお兄ちゃんの試験を逃れようなんて、いくらなんでもあざといかな…なんだよ」
 俺の戯言を一刀両断する零咲。
 「まぁ、わざわざ聞くまでもなくないか、って思ったのはホントだけどねー。実際、零咲は三日の親戚か何かなんだろ?」
 外見からも当て推量をして、俺は言った。
 多分、零咲の本名は緋月なんとかとかその辺なんだろう。
 まあ、月日さんとは『親戚のお兄ちゃん』と呼ぶには歳が離れすぎてるようだから、そこら辺はあの変態の趣味なのだろうけど。
 でも、見た目的に一番似てるのが、外見ではなく所作だってのが気になるけど。
 「多分、おにーさんの推測は遠からずとも当たらずってところなんだとは思うけど…あたし的にそこはどうでも良い…なんだよ!」
 遠からずも当たらずって、入れ替えただけなのに、受けるイメージが180度変わる言葉だな。
 「おにーさんから見た『緋月三日』…というのを聞かせて欲しーんかな…なんだよ!」
 「あ、なるホロ」
 「と、言うより…聞かせる以外の選択肢は無いんだよ」
 ゾッとするほど静かな声でそう言って、ゴス浴衣の中から再度右手を示す零咲。
 その気になればすぐにでも俺を殺せると言わんばかりに。
 「もし聞かせてくれたら…試験結果の見直しを考えてあげても良い…なんだよ!」
 「ンなこと急に聞かれてもなー」
 俺はそう言って頬をポリポリやった。
 凶器持った相手を目の前に。
 「さっきから思ってたけど…あたしを前にしておにーさんも動じない…なんだよ!」
 「カッコつけてるだけだよ。内心ブルッブル」
 「あたしの続きのために…そこまですることも無いかもなんだよ!」
 「今のやりとりだけでどうしてその結論に辿りつけたのは謎だけどなー」
 「でも…そうなんでしょ?」
 「まぁそうかなー」
 「あんな弱い娘のために…なんだよ?」
 怪訝そうな顔で言う零咲。
 「あんな惰弱で脆弱で虚弱で最弱な娘のために、何でまたおにーさんはそこまでするのか、そこまでする価値を見出しているのか、あたしは分からない…なんだよ?」
 「弱い、ね」
 やんわりと零咲を見据え、俺は言った。
 「そりゃどーかな?」
 「どう言う意味なのかな…なんだよ?」
 「言葉どおりの意味さ」
 勤めて静かに、俺は言葉を紡ぐ。
 「零咲、さっき『友情は裏切られる』って言ったよね」
 「?」
 俺の唐突な言葉に、きょとんとする零咲。
 「でもさ、そもそも裏切られるレベルの友情、裏を返せば裏切られると感じるほどに信頼できる友情―――人間関係を構築するのってマジ大変じゃん。相手がその信頼にこたえてくれなかったら、裏切られたら、傷つけられたら……なんて考えたらできないし」
 「…それで?」
 「ソレをアイツは、三日はやってるわけよ。俺との人間関係を繋ぐために。自分の想いを伝え、想いを繋げるために。全力で、命がけでね」
 俺が1人ではできなかったことを。
 俺にはできなかったことを。
 だから―――
 「それを強いと言わずに何て言うのさ」
 迷い無く、俺は断言する。
 「俺けっこー尊敬してるのよ、三日のコト」
 笑いながら、誇らしげに、断言する。

797ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:32:01 ID:jWW4PdQE
 「けれど・・・」
 零咲が静かに口を開く。
 まるで、詰問するように。
 「おにーさんはほんのひと時とはいえあたしと行動することを選んだ。あの娘と離れることを…選んだ。その選択は無かったことにはならない、一度した間違いは無かったことにはならないならないならないならない…ならない」
 先ほどまではまがりになりも浮かべていた笑みを消し、無表情に零咲は言う。
 「だから…結果は変わらない。どんな想いがあったとしても、あたしの言葉に応じた瞬間、あたしと係わり合いを持とうとした瞬間、きみの不合格は確定…した」
 言葉と同時に、零咲の右手が舞う。
 ワイヤーが舞う。
 「!?」
 咄嗟に転がり、ギリギリのところで避ける。
 今日のために買った浴衣の裾がずたずたにされる。
 「1度確定したことは決して…無かったことにはならない。だからあたしはきみを…絞め斬り殺す」
 再度、ワイヤーが舞う。
 横に転がるが、それを追いかけるようにワイヤーが風を切る音が聞こえる。
 「くぉ!?」
 追いかけてくるワイヤーを、思い切り後ろに跳ぶことで避ける。
 ようやくワイヤーの追撃から逃れられた。
 両足は勿論痛いが、今度こそ根性で我慢。
 とはいえ、そう何度も続けられるとも思えないけど。
 「無様に・・・あがくのね」
  一歩ずつこちらに歩み寄る零咲。
 「無様なあがきで、無様なもがきさ。これでようやく三日とおそろいになれる」
 「頑張るね…無意味に。きみはもう全体的に根本的に潜在的に最終的に劇的に決定的に断定的に…終わっていると言うのに」
 「終わってるなんて……」
 もう一度大きく距離を取り、俺は言った。
 正直、軽く息が荒い。
 正直、軽くヤバい。
 対して、零咲は傷一つなく、息一つ切らさず、一歩一歩こちらに近づいてくる。
 ワイヤーは、まだ使ってこない。
 けれど、次に使われたときが俺の最期だろう。
 武器の性質みたいなものは少しずつ分かってきた。
 まず、右手からしか出せないこと。
 次に、すぐに二撃目が来ないってことは、武器としての間合い自体はさほどでも無いであろうということ。
 もっとも、そんなことが分かっても何の意味も無い。
 見えない上に、どこから来るのかも分からない攻撃なんてどうしようもないのだから。
 体力的にも、もうそうそう何度も避けられるモンでもないだろうし。
 死にたい、と思わないけど。
 死ぬ、とは思った。
 あーあ。
 死ぬ時は、ヒロインのロングヘアにハグられて死ぬって決めてたんだけどなぁ。(艶やかな黒髪ならなお良し)
 でも、まぁ、何のかんので楽しい人生だったし。
 親とも何のかんので仲良くなれたし。
 良い方には変われたと思うし。
 色んな人とも会えたし。
 大切な人とも出会えたし。
 悔いは無い、かな。
 そう、思った。

798ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:32:24 ID:jWW4PdQE
 「ああ…そうそう。1人で死ぬのは寂しいだろうから先に…教えておいてあげる」
 けれど。
 「きみを殺したら三日ちゃんも…あたしの続きもきちんときみのところに送ってあげる」
 零咲のその言葉に、俺のおめでたい思考は吹っ飛んだ。
 「言った…でしょう?あの娘は…弱い。きみはそこにある種の強さを見出したようだけど、それでもきみがいなくなって耐えられるほどのものじゃあ…無い」
 だから…苦しむ間もなく、送ってあげる。
 零咲はそう、光の無い目で言った。
 その瞳には何の感情も見られない。
 だからこそ分かる。
 この女は確実に三日を殺す!
 「いやいやいや、とりあえずソレは慎んでご遠慮したいところなんだけどねー。いやマジで」
 マジで、死ねない。
 あきらめモードは、もう終わりだ。
 バン、と脚を叩き、しっかりと立つ。
 「どう…して?」
 こちらに近づきながら、無表情に言う。
 そこに、感情的な動作は何一つ無い。
 ただこちらを見ながら唇を動かすだけだ。
 「アイツが死んだら……」
 零咲を見据えながら、俺は言う。
 「アイツは死んだら苦しむことも泣くこともできない。誰にも笑っても怒ってもくれない。俺と祭を周ってもくれない。趣味の悪いぬいぐるみを欲しがったりもしない。部活の後輩とケンカしたりもしない」
 アイツとの楽しい時間を思い返して、俺は言う。
 「それが無くなるなんて、マジありえないから。あって、たまるか」
 俺は、静かにそう言った。
 静かなのは、そこまでだったが。
 「アイツに指一本でも触れてみろ!俺はどんな手段を使ってでも確実にお前を殺してやる!」
 叫ぶ。
 俺は叫ぶ。
 抑え込まれいたものを
 「そんなことを言うのは―――あの娘を愛しているからなのかな…なんだよ?」
 零咲に、ストレートに聞かれた。
 ド直球だった。
 その場にそぐわないとも思える、けれどもこれ以上なくふさわしいとも言える言葉に、俺は一瞬言いよどむ。
 「そ…そう言う気の効いたセリフは―――最終回に取っておくモンだろ」
 俺は、そう答えた。
 その時、零咲の懐から振動音が聞こえる。
 「ケータイかい?」
 「きみの…ね。話してみるかな…なんだよ?」
 俺が頷くと、零咲は無造作に俺のケータイを投げ渡す。
 開閉するのももどかしく、俺はディスプレイを確認する間もなく着信ボタンを押す。
 『山に棄てられるか海に棄てられるか、嫌いな方を選べ』
 無感情ながら随分とドスの効いた声だが、どうにか分かる。
 明石だ。
 「悪いね、明石。今すぐヤボ用が終るから、そしたらフルスロットルでそっちに戻『アンタのことはどうでも良い』
 俺の言葉をさえぎり、明石は言葉をかぶせた。
 もしかして怒ってるだけではなく、焦っている、のか。
 どうして?
 『そんなことよりも、三日がそっちに行っているかどうか5秒以内に答えなさい』
 明石が三日のことを渾名で呼ばないのを、俺は初めて聞いた。
 「三日が?アイツに何かあったのか!?」

799ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:33:00 ID:jWW4PdQE
 その答えを聞く寸前、俺の携帯電話はガシャン、と地面に落ちた。
 同時に、ガクンと、俺の体に衝撃が走る。
 瞬時に体が拘束され、口はふさがれ、挙句の果てに足が地面を離れていた。
 先ほどの木の上に縄で吊り上げられた、と気がつくのには少々の時間を要した。
 木の上で、かなりの高さがある。
 誰がやったのかは考えるまでも無いだろう。
 どうやら、零咲の奴はワイヤーだけでなく縄まで使いこなすらしい。縄跳びとかさせたらサイコーに上手いんじゃないのか?
 殺されなかっただけマシとはいえ、かなりキツい体勢だ。特に、体中、特に首の辺りには窒息しそうなほどギリギリと縄が食い込んでくる。
 「ふぅん…」
 俺の足元で零咲が言う。
 「登場するには悪くないタイミング…なんだよ、三日ちゃん」
 俺の足元で、零咲の前に三日が現れる。
 悪くないなんてものじゃない。
 最悪のタイミングだ!
 「…どうして、ここにいるんですか?」
 感情の失せた目を向けて、三日は言った。
 髪をまとめていた簪はどこかで落としたのか。
 髪はほどけて乱れ、浴衣の裾は枝に引っ掛けたのかボロボロになっていた。
 鬼女もかくや、というありさまである。
 「ちょっと驚いた…なんだよ。この辺には事前に人払いの技術を使っていたのに」
 「…それを私に伝授してくれたのは、あなたでしょう?…質問に、答えてください」
 「さぁどうしてなんだろう…ね」
 それに対して、何でも無いような口調で零咲は言った。
 俺の携帯電話を拾い上げ弄びながら。
 三日に見せつけるようにしながら。
 それにしても、改めて零咲と三日を見比べると―――全然似てない。
 今まで似てると思っていたのが嘘のように似ていない。
 零咲より三日の方がずっとしなやかな体つきだし、
 零咲より三日の方がずっと艶やかな髪だし、
 何より、零咲より三日の方が、ずっと必死だ。
 生き汚い位に必死だ。
 けれども、そんなコイツの姿を、俺は美しいと思う。
 そう思っている間にも、足元で会話は進行している。
 「どうなんだろうというよりもどうしてなんだろうと言うべきかな…なんだよ?どうして―――希望があるなんて寝惚けたことを言えるのかなぁ」
 グシャリ、と零咲の手の中で粉々になる。
 握力だけでなく、恐らくは例のワイヤーを使ったのだろう。
 粉々になった携帯電話は、血まみれになりながら無残に地面に落ちる。
 「ねぇ、どうしてどうしてどうしてかなぁ?幸せなんて刹那の焔!一瞬で粉々になるなんてこと、カズくんのコトで痛い位に学んだと思ってたんだけどなぁ!?」
 零咲の責め立てるような言葉に、三日が茫然としたような顔をする。
 「そう!Time up!全ては手遅れ!!三日ちゃんの大切なモノはもう!この私がこんな風にバラバラに粉々にブチ壊してブチ殺した後でした!残念無念!またの挑戦をお待ちしております、なんだよ!!」
 両手を広げ、零咲が宣言した。
 それが現実であるかのように。
 あまりにもあっさりと、それだけに真に迫った、真実であるかのような言葉。
 「…どうして、そんなことを?」
 茫然とした顔で、憔悴しきった表情で、三日はその言葉だけを絞り出した。
 「私がしたのは時計の針を勧めただけのこと…なんだよ」
 そう言って零咲は三日に近づき、血の付いた手で頬を撫でる。

800ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:33:26 ID:jWW4PdQE
 「私と三日ちゃんは全く持って同じ…なんだから」
 慈しむように、愛おしむように。
 「私が何もしなくても、三日ちゃんは遠からず不幸になっていた。大切な人を失うか、大切な人に拒絶されるか。確実に不幸になっていた。今のまま…だったら」
 「…どうして」
 「だって」
 言って、零咲は微笑んだ。
 誇らしげに、それでいながら泣きそうな顔で微笑んだ。
 「私がそうだったから」
 だから、あなたもいずれそうなる…んだよ、と零咲は言った。
 確信を持ってそう言った。
 「幸せを求めるならそれ以外のすべてを捨てなくちゃ。その為の全てのリスクを背負わなくちゃ。その為なら大切な人を不幸にするくらいでなくちゃ。自分自身でさえ不幸にしなくちゃ。どれ程その手を汚そうと。どれほど罪を重ねようと。それが貴女のためなんだから。それがその人のためなんだから。そうにきまってるそうでないなんてありえない。だって…」
 あくまで穏やかに三日の頬を撫でながら零咲は続ける。
 「貴女は私そのもの…なんだから」
 「…貴女は私」
 「そう、貴女は私。違う肉体違う人間として存在していることが不自然なくらいに同一」
 「…不自然…同一」
 「だから、もっと私に近づきなさい。そうしないと貴女は押しつぶされてしまう。この現実に。この先の不幸に」
 慈愛さえ感じさせる口調で、母性さえ感じさせる表情で零咲は言う。
 零咲の虚言が、見る間に三日の精神を蝕んでいく。
 でもな、零咲。
 お前は最初から最後までミステイクだ。
 間違いと勘違いしかしていない。
 なぜなら、零咲と三日は圧倒的なまでに違うから。
 細かなモーションが似ていても、上っ面の属性が同じでも、それでもお前たちは違うんだよ。
 零咲にあって三日に無いものも多いだろう。
 そして、それと同じくらい三日にあって零咲に無いものも星の数ほどある。
 例えば、短い間でも俺と積み重ねてきた時間とか。
 それがもし零咲にあったら、こんな致命的なミスは犯さなかったんだろうなぁ!
 「これからどうするの、三日ちゃん?探せば彼の死体ぐらいは見つかるかもしれないし、私を殺せば彼の仇くらいはとれるかも…なんだよ?」
 足元で、そんな会話が聞こえる。
 「…う」
 零咲の言葉に、三日は俯いた。
 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 そして激情のままに零咲の首に手をかける。
 「三ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ日ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 手をかける、その瞬間に俺は落ちて来た。
 2人の前に、ドシンと盛大に音を立てて。
 いや、ドシンなんて生易しいモンでも無いけれど。
 「…千里、くん?」
 信じられないものを見るような目で、俺の方を見る三日。
 「よぉ、三日。随分と心配かけてすまないけど、ご覧の通りピンピンしてるよー」
 俺は潰れた蛙のような姿勢で、三日に無理矢理作った笑顔を向けた。
 正直、ピンピンなんてしてないけど。むしろ地面に叩きつけられた衝撃で全身痛いけど。

801ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:33:46 ID:jWW4PdQE
 「あなた…どうして?」
 「だーから、お前は三日と別物なんだよ」
 地面に這いつくばった体制のまま零咲の方に顔だけ向ける。
 「若いくせに幼いくせにさっきから知った風な口を聞きやがって。仮面ライダーだって一号二号とかぱっと見似てても全然違うだろ?それに比べてもお前と三日は一欠けらも似てねぇっつの」
 「質問に…答えて。かなりきつく縛ったのに。恐ろしいほどの高さに釣り上げた…のに」
 「縄抜けは得意なんだよ。この知ったか女、その程度のことも知らなかったのか?」
 「そんなこと…」
 「三日程度ならフツーに知ってることだぜ」
 そう、零咲と三日が本当に同キャラなら、俺を吊り上げるのに縄なんて使わない。
 俺に告白したその日に、アイツはそうしようとして、俺にあっさり縄抜けされてしっぱいしたのだ。
 失敗して、知っている。
 俺と時間を、着実に重ねている三日なら。
 勿論、俺との時間をさほど重ねていない零咲が知らないのも無理ならぬ話ではあったが。
 たかだか2カ月足らずの時間、1クールアニメにも満たない期間だが―――されど2カ月近い間、確実に俺と三日は時間を積み重ね、少しずつ互いを理解して行っている。
 零咲とは違って。
 「大体、こんな最悪にたちの悪いドッキリまがいの方法でてめぇの思想を押しつけようなんざどーゆー了見だっての。自分の理想を子供に押し付ける教育ママかお前は」
 「…」
 教育ママ、という言葉になぜか図星を突かれたような顔をする零咲。
 「三日はお前のようにはならない。お前みたいに不幸に耽溺したりしない。お前に無いものをたくさん持っているからな。お前の持たない仲間も十二分に持っているからなぁ」
 「それ…でも」
 フラストレーションが溜まりに溜まりまくっていた俺の長台詞に圧倒されていた零咲が口を開いた。
 「それでもこの娘が不幸に陥りそうになったら!取り返しのつかないことになったらどうしてくれるのよ!この娘はこんなにも弱いのに!!」
 その叫びには、確かに三日を心配する響きがあった。
 「その時は、俺が必ず守る」
 その言葉は、俺の口から思った以上にスルリと出た。
 「どんな馬鹿でかい不幸や困難が三日を襲っても、その時は俺が必ず支えになる守りになる騎士―――になってみせる。三日の不幸程度で三日を見捨てたりはしない。手放しなんてしない。だって―――」
 次の俺の一言は、嫌な人は読み飛ばして欲しい。さすがに、これは台詞はクサ過ぎる。
 「三日が俺の隣からいなくなることの方が俺にとっての不幸だ」
 そう、三日の方を見ながら言って―――俺の意識はそこで途切れた。

802ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:35:47 ID:jWW4PdQE
 おまけ

 ここで俺が死んだら中々に格好良すぎで出来過ぎな展開なんだろうけど、そんなことがあるはずもなく。
 俺が気絶した直後、タイミング良くウチの親が俺を見つけてくれたらしい。
 何でも「えくりちゃんのメイクアップの時嗅ぎ慣れたお香のような匂いがしたから」らしい。
 思い返して見れば、あの樹の周りには奇妙な匂いがしていた気がする。
 人払いの技術、とか零咲が言っていた気がするが、その辺の手品のタネはそこにあるのだろう。
 無意識に人間が嫌う匂いを立てる、とかそんな蚊取り線香みたいな感じの。
 とはいえ、それで全てが大団円といくはずもなかった。
 と、言うのも俺の体のことである。
 零咲のワイヤーでズタズタにされた足首に、駿河問いもどきの拘束、加えて木の上と言う高所からの落下。
 俺の体には割と洒落にならないダメージが叩きこまれていたらしい。
 そんなわけで、俺は急きょ病院に運び込まれることになった次第である。(零咲はいつの間にか紛れて姿を消していた。)
 夏祭りどころでは無くなってしまった。
 同じく祭に来ていたはずの生徒会メンバーと会えなかったのは残念だったし、お約束の花火を見られなくなったのも心残りだし、何よりダブルデート(?)を台無しにしてしまって皆には申し訳なかった。
 明石には恨みがましい目で見られたことだろう。
 もっとも、この辺り、俺は意識を失っていたのでよく覚えていないのだが。
 全ては後に親から聞いた話。
 と、言う訳で翌日。
 グルグルの包帯まみれで俺は病院に居た。
 足首の怪我に全身打撲その他諸々で絶賛入院中である。
 その怪我の内、一番ひどいのが落下によるものというのが笑えない。
 自業自得じゃねえか。
 「まー、入院が短期で済んだのは不幸中の幸いってトコかしら」
 病院の病室、俺の寝るベッドの隣で、親は事態を笑い飛ばすように言った。
 この人は今回一番の功労者にして苦労人の筈なのだが、それをおくびにも出さない。
 「まぁ、そうと言えばそうなんだろうなぁ……」
 親の言葉に、俺は力なく答えた。
 「…元気出して下さい、千里くん」
 その隣で三日は言った。
 三日とウチの親は俺が病院に運ばれる諸々のバタバタにずっと付き合ってくれて、今も俺に付いていてくれている。
 一時期は仕事中毒を通り過ぎて仕事に毒殺されかかったような有様で、子供のことなど顧みることなどできなかったあの親がそんなことをしてくれたことに俺はストレートに驚いているし、素直に嬉しくも思う。
 三日に対しても、今回は奇妙で微妙な事態に巻き込まれた被害者だというのに、一緒に居てくれて、感謝してもしきれないくらいだ。
 葉山と明石は早々に帰った。葉山は残りたがっていたが「いてもできることなんてないじゃない」という明石の至極真っ当な建前で強制的に帰らされたのだそうな。
 今回のことを、親には「野犬に襲われた」と説明してある。
 ここまでやってもらって本当のことを言えないのは心苦しいが、零咲の奴が十中八九緋月家の縁者であることを考えると、色々とややこしいことになる可能性が高かったからだ。
 最悪、緋月家、というより三日と距離を置くことを強要される可能性もあるし。(良識ある大人としては妥当な対応ではあるのだが)
 まったく、零咲も面倒なことをしてくれたものだ。
 「…そりゃあ病院なんて退屈ですし、ご飯は美味しくないですし、検査は面倒ですし、点滴は痛いですけど、慣れればそう悪いところじゃありませんから」
 幼い頃は入退院を繰り返していたという三日が言うとかなり真に迫った内容だった。
 つーか、本気で病院が嫌いなのね。
 「いや、別にそう言うことを気にしてる訳じゃ無いんだけどねー」
 「…?なら、どうしたんです?」
 俺が切り返すと、三日が不思議そうな顔で聞いてきた。
 本気で不思議そうな辺り、今の俺は目に見えて元気が無いのだろう。
 と、言うよりあからさまにヘコんでいた。

803ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:36:13 ID:jWW4PdQE
 「なんつーかさぁ、今回、俺、無警戒にみんなから離れて、無防備に怪我して、無意味に皆に心配と手間かけちゃってさぁ……」
 胸の奥に溜まっていた感情を、ゆっくりと吐き出していく。
 「今回の俺、サイコーに情けないなって思ってさぁ」
 非現実の世界のヒーローになりたいとも思わないし、勇敢な騎士になれるとも思わないけど、せめて、大切な人たちが心配する顔なんて見たくなかった、させたくなかった。
 大切な人たちと繋がっている者として。
 「子供なんて親に心配をかけるのが仕事みたいなモンよ、そう気にしすぎる物じゃないわ」
 ポンポン、と俺の肩に手をやって親が言った。
 こう言うところ、本当に父親らしくもあり、まるで母親の様だとも思う。
 こう言う普通の関係になるまで、随分かかってしまったけど。
 と、そんな風に物思いに沈んでいると、親の懐から振動音が聞こえる。
 「あら、ケータイ」
 「ココ病院」
 「電源切っとくの忘れてたみたい」
 ダメね、と頭に手をやって、親は言った。
 似合わない似合わない。
 「ちょっと外で電話してくるわ」
 「おっけー」
 仕事の電話なのだろうか、俺は病室を出る親を見送った。
 病室は俺と三日の2人きりになる。
 「…仕方ないですよ、今回ばかりは」
 親が姿を消して少ししてから、俺を慰めるように三日は言った。
 「…あの人は我が家でも強さが別格ですから、生き残っただけでも幸いかと。だから、今回私そんなに怒って無いじゃないですか、千里くんが他所の女と一緒に居たのに」
 「いや、お前今回怒って良いと思う」
 繰り返しになるけど、三日は被害者だからな、今回。
 「…千里くんに?…それともあの人に?」
 「んー両方?ってか、あのナリで強さが別格なのか、零咲は」
 「…いえ、単純な殴り合いならお兄ちゃんやお姉様の方が勝るんですけど、あの人は年季が圧倒的に違いますから」
 「年季……?」
 「…私たちには想像できないほど何度も追いつめられて、その度に手段を選ばないで…、それを心身が壊れるくらい繰り返してきたあの人は、もうほとんど人間じゃあない」
 「人間じゃ、ない」
 確かにそうかもしれない。
 零咲は、月日さんに頼まれたからという程度のモチベーションで、俺の生死さえ自由に出来るような空間を作って見せた。(俺が迂闊だったのもあるとはいえ)
 その上で、一度は俺を殺しにかかり、三日を精神的においつめてみせた。
 躊躇も何も無く、他人の心身を踏みにじって見せた。
 月日さんのため、という題目のためだけに。
 どれ程他人と傷つけ合えば、そんなメンタリティが生まれるのだろう。
 争いの世界で生きていない、むしろ争いを積極的に避けて生きている俺などにはとても到底想像もつかない。
 「や、人を化物みたいに言われても困るかな…なんだよ、割と」

804ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:36:55 ID:jWW4PdQE
 「うおおい!?」
 当り前のように病室のドアを開けて入ってきたのは零咲だった。
 当り前のようにこちらを驚かせるのは止めて欲しい。心臓に悪い。
 零咲は見た目だけは相変わらずちっこくて可愛らしいが、服装は昨晩のゴス浴衣ではなく、ややフォーマルな服装で、髪もツインテールではなくストレートにおろしている。
 こうして見ると髪型もあって見た目だけは本当に三日に似通っているが、心なしかかなり大人びた印象を受ける。
 「……」
 昨日の今日なので自然と警戒し、ベッドから体を起こそうとする。
 「無理しない方が良い…んだよ、おにーさん。怪我、まだ全然治って無いんでしょ?」
 そもそもの原因である零咲にそんなことを言われても嬉しくも何ともなかった。
 とりあえず、どこから三日を逃がすかということから考えないと……。
 「やぁ、零咲。今日は殺し損ねた俺をわざわざ殺しにでも来てくれたのかな?」
 なけなしの勇気で、軽口を叩いたりしてみる。
 言葉面だけはハードボイルド気取りだが、内心はガクブルのハーフボイルドだ。
 「そんなこと言わないで欲しいかな…なんだよ。今日は、ソレを取り下げに来たんだから」
 零咲は苦笑して言った。(これまた大人びた余裕を感じる笑みだった)
 それにしても、取り下げるとは意外な展開だ。
 「それは、月日さんの気まぐれ?」
 「うーん、外れ…かな?そもそも、おにーさんの生殺与奪は私に一任されてたし」
 本当に月日さんは関係ないらしい。
 いかにも全ての黒幕っぽいこと言ってたので、ちょっと意外。
 まぁ、あの人は騒ぎの横で傍観者諦観者気取っている方がしっくりくるか。
 「…なら、一体どうして?」
 こちらも心なしこわばった表情の三日が問いかける。
 「正直、一回は本気で殺っちゃおうかとは思った…なんだよ。けれど」
 って言うか、絶対吊り上げてあのまま窒息死させるつもりだったろ。
 ご丁寧にも首に縄を括りつけてくれて。
 「けれども、それは初対面の段階で千里おにーさんを見限ってたから…なんだよ。そこからおにーさんは見事に評価をひっくり返してくれた…なんだよ。花丸をあげるー…なんだよ」
 わしゃわしゃと俺の頭を撫でる零咲。
 今の俺はベッドに座っているので、頭を撫でるのにワイヤーを使う必要は無い。
 「…何かしたんですか、千里くん?」
 と、三日が聞いてくるが、正直覚えが無い。
 「正直、おにーさんのコトはその場のノリで三日ちゃん以外を優先させるような、三日ちゃんをその程度にしか考えていないようなコだと思ってたんだけど…」
 どうやら、零咲は俺をかなりカルい男だと思っていたらしい。
 失礼な。
 「それは勘違いでした、謝ります」
 語尾に『…なんだよ』を付けること無く、零咲は俺に向かって殊勝に頭を下げた。
 「…え?」
 あまりに殊勝過ぎて三日がそんな声を漏らすが、俺としてもビックリだ。
 「私の拘束を振り切って、三日ちゃんのところに帰って来たおにーさんを見て分かった。きみは私たちと同じタイプの人間だ…って」
 「同じタイプ?」
 いや、正直零咲と同類と言うのは心外と言うよりあり得ないと思うのだが。
 タイプが全然違うじゃん。
 「自分の幸せのために、自分さえも犠牲に出来るタイプの人間、ということ」
 補足するように零咲は言った。
 「この歳で自分と同じ部分にしか共感できないというのも悪い癖だって言うのは分かっているんだけど、その一点できみのことを認められるかなーなんて」
 この歳でって、零咲は俺より年下じゃん。
 ロリじゃん。

805ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:37:19 ID:jWW4PdQE
 「まぁ、良いけどね」
 俺としては、紆余曲折あるとはいえ『三日のために行動した』という一点だけは零咲を認められるポイントなのだが。
 それで許してしまう俺も俺だが、まぁ子供相手にこれ以上ムキになっても大人げないか。
 「改めて、三日のことをよろしく頼みたいんだよ、千里」
 大人びた笑みで、如才なく零咲は言った。
 「いや、お前によろしく頼まれてもな。本当に教育ママみたいだぜ、零咲」
 「その点に関しては二の句を告げないなぁ」
 見た目に似あわない大人びた苦笑を浮かべて零咲は言った。
 「母親だし」
 ……今、なんと仰いました、零咲さん?
 「…千里くん、もしかして何も聞いてませんでした?」
 よほどすごい顔をしていたのだろう、俺の顔を見た三日が怪訝そうな顔でそう言った。
 零咲は悪戯が成功した子供のようにクスクスと笑っている。
 「…千里くんは先ほどから芸名の『零咲』とだけ呼んでますけど、この人の本名は緋月零日」
 零咲を手で示し、三日が言う。
 「…お父さんの旦那さまで、私とお姉様、そしてお兄ちゃんのお母さんです」
 「ちなみに、今年で36歳!」
 三日と零咲が連チャンで爆弾を落とす。
 「……はい?」
 零咲、もとい緋月零日さんのちんまくて可愛らしい姿を見やり、俺は何とか言葉を絞り出した。
 ……ソレってつまり、零咲は俺よりずっと年上で、36歳の人妻で、月日さんとの間に三人の子供を作って出産して……それで……?
 「三日のお母さん……?」
 「ウン!」
 零日さんは、見た目相応に、実年齢不相応に元気よく頷いて言った。
 「改めて、三日ちゃんをよろしく頼みたいな…なんだよ、『おにーさん』」
 零日さんのそんな台詞が俺の頭に入るはずも無く。
 「はいーーーー!?」
 許容量を超えた俺の絶叫が、病院を震わせた。





 (人間試験)
 (試験官:零咲えくり=緋月零日)
 (御神千里―――合格)

806ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20:38:59 ID:jWW4PdQE
 以上で投下終了です。
 お読みいただきありがとうございました。

807雌豚のにおい@774人目:2011/06/19(日) 21:51:04 ID:yDrsX0Uc
投下おつです!西尾維新臭を感じないでもない文章、読みやすく面白いです。

808雌豚のにおい@774人目:2011/06/19(日) 23:20:32 ID:X5bjJGR.
投下乙!
かなり長くて読むの大変だったが
GJだったぜ!

809雌豚のにおい@774人目:2011/06/20(月) 02:32:55 ID:9dfllBbM
GJ!!
本編投下は久し振りですね

810雌豚のにおい@774人目:2011/06/23(木) 22:54:00 ID:ZxR7K81Y
Gj

811雌豚のにおい@774人目:2011/06/24(金) 02:37:23 ID:R1jEt.oY
ヤンデレの娘さんも復活した!次は誰が来るかな?

812雌豚のにおい@774人目:2011/06/24(金) 22:53:58 ID:et/WS/AA
今日も、素晴らしき書き手たちに乾杯。

813狂宴高校の怪 序章:2011/06/25(土) 13:28:40 ID:OYjEOtgk
恐れ多くですが書かせていただきます。書き溜めがまだないので更新に時間がかかるかもです。

 目が覚めた。何も変わらないいつもの天井。何も変わらない日常。
 当たり前のことを思って俺、能登コイルはゆっくりと体を起こした。

「あ!お兄ちゃん!おはよう!」
 笑顔で挨拶をする俺の妹、能登ノマルは今日も元気だ。「あぁ、おはよう。」
 いつものように挨拶を交わして、俺は身支度を済ませ食卓についた。

 ピンポーン!
 おっと、迎えが来たみたいだ。
「コイル君!まだ寝てるのか!?」
 インターホンではなく、大声で直接俺に言葉を送る。
「うるせぇ!今いくから待ってろ!」
 半分食べ終わっていた食パンを牛乳で流し込んで、横の鞄を手に取って、俺は家を出た。
「いってきまぁす!」

 俺と肩を並べて一緒に登校してる男子生徒は、幼馴染みの葉久保シドウだ。
「君は今日も僕を三分待たせたね。いつになったら一分を切るんだい?」
「宣言するぜ。今後一切切らない。」
 俺は笑った。シドウも笑った。変わらない登校風景だ。

 学校に着いた。俺もシドウも、この私立の共学の縁郷高校の二年生だ。いつものように下駄箱に靴を入れると、
「よーコイル、葉久保、おはよう。」
 やって来たのは男友達その1、名は辻疾剣恒。筋肉質だがどこか憎めない男だ。

「・・・シドウとお呼びなさい。」
 葉久保はさらりと剣恒に言った。なぜだか知らないが、シドウは名字で呼ばれることを激しく嫌う。だから必ずと言っていいほど、初対面の人(剣恒を除く)にはこのフレーズを言う。
「おっとすまねぇ。つい呼んじゃうんだよ。」
 階段を登りながら、剣恒は笑いながら謝った。

 窓際の一番後ろ、前にはシドウ、横は空席。いつもの風景にちょっと嬉しく思える。 しかし、今日はいつもと違っていた。この時はまだ、これから自分に、そして友人達に何が起こるのか、想像もつかなかった。

――――――――――

 チャイムの音が響き渡る。何かの始まりを告げるかのように・・・。

814狂宴高校の怪 第1話(禁断編):2011/06/25(土) 15:56:36 ID:OYjEOtgk
――――――――――

 お兄ちゃんは学校に行った・・・。家には私一人しかいない。
 お兄ちゃんは毎日、シドウさんと一緒に学校に行ってる。シドウさんを待たせないために、自分のペースを保ちつつ急いで準備するため、朝は私との会話はない。
 ・・・苦痛でしかない。会話したい。出来ることなら一緒に学校にも行きたい。通う場所は同じなんだから・・・。

 しかし、今日はそんな毎日の習慣を逆手にとった。だから私はこの時間、高校では朝のホームルームが始まる時間に家にいるのだ。
 私はゆっくりと、お兄ちゃんの部屋に入る。朝起きたばかりでまだ暖かい。私は布団に潜った。頭まで布団を被った。
 お兄ちゃんの匂いがする。体が高揚して、いつのまにか私はあそこを弄っていた。
 すごい・・・。夕方にやるときより興奮する。
「はぁ・・・はぁ・・・お兄・・・ちゃん・・・。」

――――――――――

「今日は転校生が来ているので紹介するぞ!」
 クラス内が歓声に包まれた。今は5月だ。この時期に転校生が来るとは意外だな。

「入ってきなさい!」

 入ってきたのは女子生徒だった。美少女と呼ぶにふさわしい。クラス内(主に男子)は静まり返った。

「皆慈ナオって言います。よろしくお願いします。」
 ペコリと頭を下げた。クラス内に拍手の音が響いた。
「じゃあ皆慈は後ろのあそこの席に座ってくれ。」
 先生が俺の隣の席を指差した。
 女子生徒―――ナオは席に座り、隣の席にいた俺と、違う方の隣にいたケンゴウに軽く会釈をした。
「よろしくお願いします。」

815狂宴高校の怪 第1話(禁断編):2011/06/25(土) 16:15:45 ID:OYjEOtgk
 ナオは気さくな性格をしており、シドウやケンゴウと話している所に混じって、一緒に会話したりしていた。
 今日1日で、俺たちはナオとかなり仲良くなった。
 放課後、いつものようにシドウと校庭で落ち合い、一緒に帰る。いつもと違うと言えば、横にナオがいることだ。

「ナオさんもこっちの通学路を通るんですね。」
 シドウが笑いながら言った。俺とシドウの家の回りには、縁郷高校に通う生徒が少ない。新しい発見だな。
「じゃあ僕の家はここなんで・・・ではまた明日。」
「今日は色々と教えてくれてありがとうございました。葉久保君!」
「・・・シドウとお呼びなさい。」

 俺の家はシドウの家から二つ離れた所にある。シドウが家に入ってから1分も経たずに俺の家に着く。
「じゃあ俺の家はここだから。じゃあな。」
「能登君も今日はありがとうございました。」
「コイルでいいよ。名字で呼ばれると何かくすぐったいから。」
「じゃあ・・・コイル君、また明日。」
 そう言って、ナオは手を振った。手を振りかえして、俺は自宅の扉を開けた。

816狂宴高校の怪 第1話(禁断編):2011/06/25(土) 16:33:12 ID:OYjEOtgk
――――――――――

 いつもなら、お兄ちゃんの隣にはシドウさんしかいない。しかし、今日は違った。
「誰?あの女・・・。」
 お兄ちゃんの友人にあんな女はいない。今までいなかったのに、急にお兄ちゃんの隣に立っているなんて・・・。

 生意気に手なんか振ってる。自分を可愛く見せて、お兄ちゃんを落とそうとしているのか?なんて図々しい雌豚なんだろう!泥棒猫もいいところだ!
「お兄ちゃんは・・・私だけのものなのに!」
 腹の中から黒い何かが溢れ出す。もう止められない。
 あの女は敵だ!敵なんだ!敵ならば容赦はしない!

「ただいまぁ!」
 いけない!ここはお兄ちゃんの部屋だ!しかもシーツが私のおつゆでびしょびしょだ!何とかごまかさないと!ひきつっていた顔を元に戻す。お兄ちゃんの前なんだから!

――――――――――

「あ!お兄ちゃん!今日は布団のシーツを新しいのに取り替える日だからね!」
 妹は俺と妹のシーツを持って、上から降りてきた。妹の後ろ姿に、変な違和感を感じた。この違和感は、夕食の時の変な寒気と関連しているのだろうか・・・。

817雌豚のにおい@774人目:2011/06/25(土) 18:07:03 ID:Rt84W9WI
書き溜めしてから投下した方がいいと思うよ

818雌豚のにおい@774人目:2011/06/25(土) 18:10:01 ID:v7/yIO1o
GJ!
妹が…不気味すぎる!あと、話が少し突飛押しすぎるからまとめた方が良いですね

819 ◆xwkya9UsDo:2011/06/25(土) 19:24:33 ID:cTZsJos6
テスト

820雌豚のにおい@774人目:2011/06/25(土) 20:13:59 ID:Q66KMq36
GJだけど、書き溜めしてから投下した方がいいよ

821 ◆0jC/tVr8LQ:2011/06/25(土) 21:37:27 ID:cTZsJos6
投下します。

822触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/06/25(土) 21:39:22 ID:cTZsJos6
詩宝が2人組の女警官に連れ去られた後、あたしは男装したまま、すぐに最寄りの警察署に怒鳴り込んだ。
「詩宝は無実なんだ! すぐに釈放しろ!」
その場にいた警官を片っ端から罵倒し、責任者を出せと追及すると、数人の警官が出てきてあたしを別室に通そうとした。
まあ、他の一般市民もいる場所で騒がれては迷惑だろうから、仕方がない。
あたしは彼らに通された部屋で、改めて詩宝の無罪放免を要求した。
ところが、どうも話が噛み合わない。警官達は、詩宝のことを何も知らない様子であった。
どうなっているのか。よく調べさせると、詩宝は逮捕されていないことが判明した。それどころか、成金豚は被害届を出してさえいなかった。
それでは、あたしの家に押し入ってきた女警官どもは、一体何者なのか。
――成金豚の回し者だ!
あたしは直感した。確かに、メイド豚の線もなくはない。
しかし、詩宝があたしの家にいると知っていたこと、驚くほどの短時間でニセ警官とミニパトを用意したとなると、成金豚の可能性の方が高いだろう。
「くそっ! 豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚……」
「あ、あの……」
警官に話しかけられて、あたしは我に返った。そうだ。早くあの成金豚を逮捕しないと。
未成年を、警官に化けて攫ったのだから、これは立派な犯罪だ。
あたしはいち早く、友人がニセ警官に連れ去られたと訴え、成金豚の家を強制捜査するよう命じた。
ところが中一条の名前を聞いた途端、警官達は及び腰になった。
とりあえず事実関係をとか、愚にも付かないことを言いだす。
あたしはキレた。
「早くやれ! もし詩宝が何かあってみろ。警察庁長官が泣くまで、警察糾弾の投書を新聞に一日百通送ってやるからな!」
「わ、分かった……捜査するから、君はひとまず帰りなさい……」
「馬鹿言うな! 今すぐ捜査本部を設置しろ! 俺はその長に就任し、この手で中一条の糞に手錠をかける!」
「ま、まあまあ……」
警官達は、口々に帰宅するようあたしに哀願し、最後にはとうとう、署長が出てきて土下座した。
こんなヘタレどもに関わって時間を潰す愚を悟ったあたしは、早急に解決するという誓約書を力ずくで署長に書かせ、警察署を後にした。

823触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/06/25(土) 21:40:32 ID:cTZsJos6
――全体、どうしてくれようか……
家への道を歩きながら、あたしは考えていた。
誓約書を書かせたからと言って、それで人任せにする程あたしは能天気ではない。
やはり、詩宝の妻であるこのあたしが自らアクションを起こし、夫を取り戻さなければ。
それでこそ、詩宝はこのあたしに身も心も依存し、朝も昼も夜も犯してくれるというものだ。
では、具体的にはどうしたら、詩宝を奪還できるか。
家に帰ってしばらくすると、いい考えが浮かんだ。
うちの団体の道場が、成金豚に襲われたことをネタに、明日もう一度成金豚の家に乗り込もう。
そうすれば、もう一度詩宝を連れ出せる機会もあるに違いない。
あたしは早速、長木のところに電話をかけた。深夜だけど構うものか。
「もしもし。社長? 明日ちょっと付き合ってほしいんだけど」
『と、堂上。俺は、俺は……』
「指の十本や二十本、折れた程度でガタガタ言わない! 男でしょ!?」
『し、しかし……』
「明日もっかい中一条んとこ行くよ。うちの道場が襲われた件で、糾弾しなきゃ」
『で、でもこっちはプロだし、女子高生率いる女3人にやられたなんて恥は……』
「ん? 何? 男装したレスラーに殺されるならいいの?」
『おおお、神よ……わたくしが、わたくしが一体何をしたと……』
「うるさい! さっさと中一条にアポ取る! 後でかけ直すからね。ちゃんと段取りしてなかったら承知しないよ!」
乱暴に通話を切り、しばらく待ってやることにした。
何もしないでいると、当然のように詩宝のことに考えが及ぶ。
今この瞬間にも、詩宝は成金豚から、どんな虐待を受けていることか。
それを思うと、とても平静ではいられない。
詩宝。あたしだけの詩宝。
さっきまで、あんなに激しく求め合っていたというのに、
今、あたしの側に彼の温もりはない。
どうしようもなく、心が寒かった。
ああ、詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝詩宝……
帰ってきて、帰ってきて、帰ってきて……
切ない想いを抱えていると。携帯が鳴った。長木からだ。向こうからかけてくるとは。
「もしもし?」
『す、済まん……中一条会長と、アポが取れなかった』
「何!?」
『お、怒るな。しょうがないんだ。中一条会長は、事故に遭って緊急入院中した。少なくとも、明日一杯は退院できないらしい』
「ふ〜ん」
あたしは、昼間、成金豚の巣を出るときのことを思い出していた。
あの会長、ロクデナシ外人秘書に折檻されて、重傷を負ったか。
自分のところの従業員も御せないとは、使えない奴め。
なるべく早く、中一条会長にアポを取るよう長木に命じてから、あたしは通話を切った。
「糞っ……」
一体、どうしたらいいだろうか。当然、中一条会長の回復なんか待っていられない。
「…………」

824触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/06/25(土) 21:41:31 ID:cTZsJos6
気が付くと朝だった。どうやら、気付かない間に眠ってしまったらしい。
とりあえず、学ランを着て学校に行くことにする。家でいくら悶々としていても、詩宝は戻ってこないのだ。
教室に入ると、数人の男子生徒が興奮した面持ちで何か話し合っていた。
はっきり言ってキモい。
そのうちの1人が、何を血迷ったのか、あたしに話しかけてくる。
「おい、堂上。ビッグニュースだぜ!」
ピッグ(豚)と聞き、あたしの堪忍袋の緒は一瞬で切れた。
「だしゃあ!」
男子生徒の顔に張り手をぶちかますと、そいつは水平に吹っ飛んだ。
バリーン!
そのまま、窓を突き破って階下へと落下していく。
「ふう」
自分の席に腰を下ろす。ちょっとやりすぎただろうか。まあいい。あたしに成金豚のことを連想させた、当然の報いだ。
「で、ニュースって何だよ?」
別の男子生徒を睨み付け、聞いてみた。もしかしたら、成金豚が頓死したという朗報かも知れない。聞くだけは聞いてみよう。
聞かれた男子生徒は、やや脅えた表情になりながら言った。
「じ、実は昨日、凄い美人の新任教師と編入生がこのクラスに来たんだよ。2人ともモデル並みのスタイルで、特に胸なんか……」
「だしゃあ!」
バリーン!
期待したあたしが馬鹿だった。
こんな連中といても無駄だ。帰ろう。
あたしは席を立ち、校門へと歩き出した。
ところが。校舎を出たとき。
校門から入ってくる2人連れを見て、あたしは体が凍り付いた。
詩宝だ!
顔を見た途端、あたしの女が反応する。乳房が、子宮が疼く。
だが、詩宝の隣にいるゴミクズが余計だった。
「成金豚……」
生意気にも人間並みにセーラー服を着た豚は、あたかも政権の座を手放すまいとする総理大臣の如く、妄執に満ちた醜い表情で詩宝にしがみ付いていた。
可哀そうに。詩宝は今にも嘔吐して失神しそうなのを、必死に耐えているに違いない。
何としても、助けてあげなくては。
そう。聖騎士であるあたしが、囚われの王子様を邪悪な魔女から救い出すのだ。
2人はまだ、あたしに気付いていない。
足早に近づき、あたしは成金豚を怒鳴り付けた。
「こらあっ!!」

825触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/06/25(土) 21:42:38 ID:cTZsJos6
気が付くと、誰かが僕の肩を揺り動かしていた。
「詩宝さん、朝ですよ」
「んっ……」
僕は何をしていたんだ……
思い出した。胃がガボガボになるまで大量の薬を飲まされ、気を失っていたのだ。
「詩宝さん、起きてください」
目を開けると、全裸の中一条先輩が、仰向けの僕に馬乗りになっていた。
場所はどうやら、あの“取り調べ”をした地下室から移動していないようだ。照明がまぶしい。
視線が合うと、先輩はにっこりと微笑んだ。
「お早うございます、詩宝さん」
「お、おはようございます……」
「お早うございます、詩宝様」
「よくお眠りになれましたか?」
「あっ……」
左右を見ると、これまた裸のエメリアさんとソフィさんがいた。かく言う僕自身も、何も着ていなかったが。
「立てますか? 詩宝さん」
先輩が僕の上からどく。ひどく体が重だるかった。体中の皮膚に違和感がある。辛うじて動く右手で触ってみると、何だか分からない、ぬるぬるした液体が全身に付着していた。
「何だこれ……?」
「さあ、詩宝様。シャワーにしましょう」
エメリアさんとソフィさんに無理やり立たされ、僕はシャワー室に引っ立てられていった。
そして、先輩を入れた3人に、丹念に体を洗われる。
僕は抵抗することも、自分で洗うこともできない。それくらい衰弱していた。
体を拭かれ、バスローブを着せてもらい、ベッドの上に横たわっていると、またソフィさんが新聞を持ってきてくれた。
少し体が動くようになっていたので、目を通してみる。
幸いなことに、メイドが何かしでかしたという記事はなかった。
1面を見ると、内閣の支持率が0%を切ったという記事が載っていた。
さらに巨額の違法献金と、悪質な脱税と、外国への利益供与が発覚したらしい。
首相は辞任する気は全くなく、続投に強い意欲を持っているそうだ。
――僕もこの1%くらい、図太ければなあ……
いや、見習っちゃいけない大人のナンバーワンなんだけどね。
そんなことを思っていると、また部屋に誰かが入ってきた。
「失礼いたします。詩宝様」
「あっ、エメリアさん」
「今日からは、お嬢様と一緒に学校へ行っていただいて構いません。もちろん、詩宝様の体調がよろしければですが……」
「だ、大丈夫です……」
少し元気を取り戻していた僕は、ベッドから立ち上がった。
このお屋敷に閉じ込められているよりは、まだしも学校に行った方が、何かよさそうだから。
根拠はないんだけどね。
「かしこまりました。では、登校のご用意をいたします」
エメリアさんが一礼して退室しようとしたとき、僕は大事なことを思い出した。
「あ、ちょっと待って!」
「はい。何でしょうか?」
「あの、道善さんは、今……」
「本当に知りたいですか?」
「……いや。いいです」
笑ってください。
僕はどうしようもないヘタレです。

826触雷! ◆0jC/tVr8LQ:2011/06/25(土) 21:44:16 ID:cTZsJos6
朝食を終えた後(例によって手錠をかけられ、先輩達の手で食べさせられた)、僕は先輩から学ランを渡され、エメリアさん達に着せてもらった。
自分で着ようとしたら、烈火の如く怒られた。本当に何なんだろうね。
そして、中一条家の高級車で、先輩と一緒に学校に向かう。エメリアさん、ソフィさんも一緒だ。
セーラー服姿の先輩は、屋敷を出る瞬間から、鬼気迫る表情で僕に抱き付いていた。
「せ、先輩。苦しいんですけど……」
車の中で先輩に言うと、いきなり3人から物凄く睨まれた。
「詩宝さん。“先輩”って何ですか?」
僕を抱く力を強めながら、先輩が詰問してくる。
しまった。僕は慌てて言い直した。
「ま、間違えました! 舞華さんです!」
「“さん”も要りません! 敬語も止めてください!」
先輩の要求に抗う術はない。僕は言われる通りにした。
「舞……華……」
「はい。詩宝さん……」
うっとりした表情で、先輩は答えた。
「私達のことも、呼び捨てにしてくださいね」
と、エメリアさんが言う。
「そ、それで、苦しいから、放してほしいんだけど……」
「駄目です」
一層がっちりと、僕をホールドする先輩。
雷が鳴っても、放してくれそうになかった。
規格外に大きな先輩の胸に、完全に顔が埋まった状態で、僕は考えていた。
学校で晃に会ったら、一体どうなるだろう。
こんなところを見られたらどうなるか、想像するだに恐ろしい。
僕は必死に、打開策を見い出そうとした。
人が脅威に直面した時の行動は、3つに分れるらしい。
すなわち、対決、服従、そして逃避。
どれを採用しようか。

対決→太陽が西から昇っても、先輩や晃に勝てる見込みがない。パス!
服従→先輩と晃の両方に服従するのは無理。パス!
逃避→非常に見込みは薄いが、うまくやれば、何とかなるかもしれない。採用!

その逃避の方法にも、僕には腹案があった。
薬を盛られてのレイプではなく、本当に犯罪を起こし、少年院に入ってしまうことだ。
向こう10年くらい娑婆にいなければ、その間に先輩も晃も、僕を忘れるだろう。
希望的観測だけど。
後は、どんな犯罪を犯すかだ。善意の人に迷惑をかけなくて、かつ重度のもの。
――やっぱり、あれしかないかな。
少し悩んだ挙句、僕は、首相官邸殴り込みという、一番無難な線を選んだ。
とは言え、素手ではインパクトに欠け、刑期が短めになってしまう恐れがある。
どうしても、刀や槍や飛び道具で武装して突入しないと駄目だろう。
そのためには一度、自宅に戻って装備を整える必要があった。
僕はおずおずと、先輩に尋ねてみる。
「あのう……」
「何ですか? 詩宝さん」
「1つ、お願いがあるんです、いや、あるんだけど……」
「何ですか?」
「一度、家に帰っていいかな? 取って来たいものがあって……」
「駄目!!」
一瞬で全否定された。
「ご自分が、重犯罪者だという自覚を持ってください!」
供述書の写しを僕に見せるエメリアさん。なんで200%拡大コピーなんですか。
「必要なものがあれば、私達で用意します!」
ソフィさんが、これまた柳眉を逆立てる。
非っ常にキビシー。
結局、それ以上どうすることもできず、校門の前に着いてしまった。
先輩に抱き締められたまま、車を降りて校舎に向かう。
エメリアさんとソフィさんは、車に乗ったまま帰って行った。帰りはまた迎えに来てくれるらしい。
それはともかく。
先輩に抱き付かれながら歩くと、周囲の視線が気になった。
さすがに、先輩をジロジロ見つめるような、特攻精神を持った人はいなかったけど。
「あの、もう少しだけ離れて……せめて腕を組むとか……」
「嫌です」
絶対的拒否に見舞われていると、突如、狂雷のような声で怒鳴られた。
「こらあっ!!」
男子の制服を着た晃が、怒髪天を突きながら、僕達を睨みつけていた。

827 ◆0jC/tVr8LQ:2011/06/25(土) 21:45:01 ID:cTZsJos6
終わります。

828雌豚のにおい@774人目:2011/06/25(土) 21:46:41 ID:xYDzqACQ
               . -―- .      
             /       ヽ
          //         ',     
            | { _____  |      
        (⌒ヽ7´        ``ヒニ¨ヽ
        ヽ、..二二二二二二二. -r‐''′     
        /´ 〉'">、、,,.ィ二¨' {.  ヽ     _ _     
         `r、| ゙._(9,)Y´_(9_l′ )  (  , -'′ `¨¨´ ̄`ヽ、
         {(,| `'''7、,. 、 ⌒  |/ニY {               \
           ヾ|   ^'^ ′-、 ,ノr')リ  ,ゝ、ー`――-'- ∠,_  ノ
           |   「匸匸匚| '"|ィ'( (,ノ,r'゙へ. ̄ ̄,二ニ、゙}了
    , ヘー‐- 、 l  | /^''⌒|  | | ,ゝ )、,>(_9,`!i!}i!ィ_9,) |人
  -‐ノ .ヘー‐-ィ ヽ  !‐}__,..ノ  || /-‐ヽ|   -イ,__,.>‐  ハ }
 ''"//ヽー、  ノヽ∧ `ー一'´ / |′ 丿!  , -===- 、  }くー- ..._
  //^\  ヾ-、 :| ハ   ̄ / ノ |.  { {ハ.  V'二'二ソ  ノ| |    `ヽ

829雌豚のにおい@774人目:2011/06/25(土) 21:54:00 ID:IBpbRwk2
GJ
ずっっっと待ってたんだから!!

830雌豚のにおい@774人目:2011/06/25(土) 22:21:27 ID:Q66KMq36
GJ!!

831雌豚のにおい@774人目:2011/06/25(土) 23:10:54 ID:v7/yIO1o
GJ!!この日をどんなに待ち望んでいたことか…紅麗亜たちの活躍も気になります…

832雌豚のにおい@774人目:2011/06/25(土) 23:14:34 ID:7YBsFwPY
おいおい

俺夢でも見てるのか

gj

833雌豚のにおい@774人目:2011/06/26(日) 00:13:41 ID:oF7JYS7M
               . -―- .      
             /       ヽ
          //         ',     
            | { _____  |      
        (⌒ヽ7´        ``ヒニ¨ヽ
        ヽ、..二二二二二二二. -r‐''′     
        /´ 〉'">、、,,.ィ二¨' {.  ヽ     _ _     
         `r、| ゙._(9,)Y´_(9_l′ )  (  , -'′ `¨¨´ ̄`ヽ、
         {(,| `'''7、,. 、 ⌒  |/ニY {               \
           ヾ|   ^'^ ′-、 ,ノr')リ  ,ゝ、ー`――-'- ∠,_  ノ
           |   「匸匸匚| '"|ィ'( (,ノ,r'゙へ. ̄ ̄,二ニ、゙}了
    , ヘー‐- 、 l  | /^''⌒|  | | ,ゝ )、,>(_9,`!i!}i!ィ_9,) |人
  -‐ノ .ヘー‐-ィ ヽ  !‐}__,..ノ  || /-‐ヽ|   -イ,__,.>‐  ハ }
 ''"//ヽー、  ノヽ∧ `ー一'´ / |′ 丿!  , -===- 、  }くー- ..._
  //^\  ヾ-、 :| ハ   ̄ / ノ |.  { {ハ.  V'二'二ソ  ノ| |    `ヽ

834雌豚のにおい@774人目:2011/06/26(日) 00:50:16 ID:UMVgWS0U
まさかの投下キター

835雌豚のにおい@774人目:2011/06/26(日) 02:12:45 ID:wTqJ6vOg
現物支給の続きも期待だ…

836雌豚のにおい@774人目:2011/06/26(日) 03:26:56 ID:IcRyn1NY
GJ

今回言い回しが妙にうけちまった

837雌豚のにおい@774人目:2011/06/26(日) 04:35:06 ID:Pz3Bj6Mg
触雷きたー!ずっとまってたよ!

838雌豚のにおい@774人目:2011/06/26(日) 06:58:09 ID:o7MAdxBM
gj

ぬるぬるした液体とは?

839狂宴高校の怪 第2話(禁断編):2011/06/26(日) 10:09:19 ID:CY4LznkI
投下します。

――――――――――

昨日、帰った後に僕はあることに気づきました。コイル君の妹さんのことです。
 妹さんがコイル君に恋をしているということは知っていましたが・・・。

 結果から言うと、嫌な予感が当たったと言うべきでしょうか。
 次の日の朝の教室、ドアからナオさんに向けて放たれている憎悪を秘めた敵意の目。間違いないようですね。
 妹さんはナオさんを手にかけようとしていますね。
 厄介なことに、コイル君は妹に気づいていないようですね。やれやれ。ここは穏便に済ませるためにも、彼の力が必要なのでしょうか・・・。 しかし、リスクを考えると頼みたくないのですがねぇ・・・。

――――――――――

「それで俺にも協力しろってか?」
 葉久保から来るとは意外だな。それほどヤバイのだろう。
 状況を聞くと、確かにあいつの力は必要だろう。
 しかし、あいつは誰よりも扱いにくい。
「わかっていっているのか?あいつの事。」
「当然ですよ。彼も僕達の幼馴染みですから。」
 なるほど。それなら全権をこいつに任せたら俺への被害は少ないな。
「しょうがないな。このケンゴウ様が一肌脱いでやるよ。行くぜ、葉久保。」
「・・・シドウとお呼びなさい。」

――――――――――

「そういうことでこの件、引き受けてくれませんか?」
 俺は葉久保と二人で、例のそいつに頼みごとに来た。そいつは表情を変えずに話始めた。
「いいでしょう。他ならぬ幼馴染みの頼みですから。」
 お?案外簡単に聞いてくれたな。まぁ説得する手間が省けたし、よしとするか。

840狂宴高校の怪 第2話(禁断編):2011/06/26(日) 10:10:25 ID:CY4LznkI
――――――――――

彼がこの問題に加われば、この件は容易に終わるでしょう。
 しかし、状況を整理してみると、コイル君に有利に働く場を作るのは難しいのではないでしょうか。
 言ってしまえば、この件は妹さんの勘違いですからね。 しかし、妹さんが勘違いしてしまうのも頷けますね。何て言ったって、コイル君は妹さんの恩人なのですから。

――――――――――

 今回のコイルの妹とやらの事件。
 簡単に言えば依存ってやつか・・・それも兄妹同士。下手すりゃ近親相姦、おぉ怖!
 ナオさんもそれを知らないし、コイルもそれを知らない、ややこしいな。
 しかし、あいつは一体どうやってこの場を静める気だ? 気になるな。行ってみようかな・・・。

――――――――――

「紹介しますね。違うクラスの友人の立童チバタです。」「こんにちは、ナオさん。」 昼休みの教室で、シドウはナオにチバタを紹介した。
 チバタもシドウと同じ、俺の幼馴染みだ。独特の空気感がシドウと似ている、丸い眼鏡にキューティクルヘアーの少年のような男だ。
 他愛のないいつもの弁当の風景だ、と感じながら、俺は弁当箱を開けた。

 俺の弁当は妹に作ってもらっているんだが・・・。これは何の冗談だ?
 敷き詰められたご飯にハートが描かれていて、さらにハートの上には「LOVE」の文字が・・・。
 隠しながら食べる、旨かった。でもまた作ってほしいとは思わない。
 異様でしかない俺の食い方。突っ込んでくれないのは四人の優しさなのだろうか・・・。



 昼休みが終わり、後の時間はだらだらと過ごして今日は終了。いつものようにシドウと帰る。
「あれ?ナオは?」
「先に帰りましたよ。」
 シドウは苦い顔をした。何でだ?

――――――――――

「一緒に帰りませんか?ナオさん。」
 私は頼まれた依頼は必ず遂行します。そのためには、ナオさんには早めに帰ってもらわなければなりません。
「でも私の家、遠いですよ?」
「ご心配なく、私の家はコイルの家の周辺にありますから」



 帰路についている最中に、私はある質問をしました。
「ナオさん、あなたはコイル君をどう思いますか?」
「えぇ!?いや・・・会ったばかりなので・・・優しい人だと思いますよ。」

 この質問の答えによっては、作戦を変えようと思ったのですが、その心配はないですね。
「あの・・・私からも聞いていいですか?」
「どうぞ、私でよければお答えしますよ。」
「コイル君の顔の傷って・・・何なんですか?」



 ・・・これは予想外ですね。普通の人は触れないようにしているコイル君の傷、額から顎まで左目を通る弧を描いた切り傷・・・。
「・・・答えずらかったですか?何かすいません・・・。」
 どうやら顔に出てしまったようですね、動揺が・・・。まぁ答えないのがいちばんですからね。その点は空気を読んだナオさんに感謝します。

841狂宴高校の怪 第3話(禁断編):2011/06/26(日) 10:12:02 ID:CY4LznkI
 いた。あの女だ!チバタ君と歩いている!
 チバタ君を手駒にとってお兄ちゃんに近づこうとしていたのか!なんて卑怯な!

 あ!私の家を見てる!お兄ちゃんを待ってるのか!
 今すぐ駆け出して殺してしまおうか?いや、チバタ君がいるんだ、ここは抑えろ!

――――――――――

 大きな賭けに出てみましたが、果たして成功するでしょうか・・・。

――――――――――

 次の日の昼休み、チバタが俺の妹を連れてきた。
「あぁ!そういえば紹介が遅れたな!俺の妹のノマルだ。」
「・・・よろしく。」
 機嫌悪そうだな・・・。今日の寝坊が原因かな?
「よろしくお願いします。ノマルちゃん。」
 ナオは、初対面の人にも分け隔てなく接する。機嫌が悪い妹も例外じゃないってことか。

――――――――――

「気安く名前で呼ぶな。」
 というのがノマルの心境だろう。
 やれやれ、これは今日決着がつくかどうかは運次第ですね。



 昼休みが終わり、ノマルとナオにそれぞれこんなことを言いました。
「一緒に帰りませんか?しかし、私は少しだけ用事があるので待っていてくれませんか?」
 目的は二人を会わせること。多少危険ですが、まぁ事が済むにはこれが一番ですね。 ヤバくなったら私達が入れば問題はないでしょう。
 後はその事をシドウとケンゴウに伝えておけばいいでしょう。
 二人は一緒に帰ることを了承してくれましたからね。

――――――――――

「どうなってんだい?あれは。」
 チバタの言う通り、いつでも出れるようにしていたが、こんなことが起こるとは思わなかった。
 あまり表情を変えないチバタから、これが作戦の正規ルートなのかは読み取れない。 いや、たぶん違うだろう。「葉久保・・・こんなことってあるのか・・・?」
「・・・シドウとお呼びなさい。実際に目の前で起こっているのです。認めざるを得ないでしょう。」
 相変わらずだが、葉久保も意外そうな顔だ。

842狂宴高校の怪 第4話(禁断編):2011/06/26(日) 10:13:17 ID:CY4LznkI
――――――――――

 あの女がいた。ちょうどいい。話をつけてやろう。
「あら?ノマルちゃん。もしかしてコイル君待ち?」
 気安くお兄ちゃんの名前を呼ぶな!今すぐ口を利けなくしてやりたい。骨を砕きたい。こいつはお兄ちゃんを汚す雌豚!私の敵!
「気安くお兄ちゃんの名前を呼ぶな!」
 腹の中の言葉が無意識に口から出る。
「どうしたの?急に。」

 こいつ!まだわからないのか!
「お兄ちゃんに近づくな!お兄ちゃんは私だけのものなんだ!あんたなんかに渡すものか!」
 忍ばせていたカッターナイフの刃を出して、雌豚に向かって降り下ろす!
「な!どうしたの!?ノマルちゃん!落ち着いて!」
「うるさい!あんたみたいな雌豚の声なんか聞きたくない!ここで死ね!」
 何回もカッターナイフを振る!目の前にいる雌豚を早く消し去りたかった!
 5分くらい振っていたら、あの女が行動に出た!
 私の足に蹴りをいれてきやがった!私はバランスを崩して、その場に倒れた。

843狂宴高校の怪 第4話(禁断編):2011/06/26(日) 10:14:49 ID:CY4LznkI
――――――――――

 あ!足かけちゃった!ノマルちゃんはバランスを崩して倒れてしまった。
「ごめん!大丈夫!?」
 ノマルちゃんは豪快に倒れたので、地面に顔を思いっきりぶつけた。鼻から血を出してる。早く手当てをしなきゃ!
「近づくな!あんたなんかに触られたくない!」

 ヒュン!

 軽い音がした。振られたカッターナイフは、私の頬をかすった。見なくても血が出てるのはわかる。ズキズキする!
 痛い!泣きたい!でも泣けない!目の前のノマルちゃんは、私なんかより痛い思いをしているんだ!
「ノマルちゃん・・・落ち着いて・・・大丈夫・・・。」
 私は錯乱してるノマルちゃんを抱き締めた。


「離せ!離せ!」
 ノマルちゃんが私の腕の中で暴れている。
「落ち着いて・・・ノマルちゃん・・・。」
 優しく語りかけるように私はノマルちゃんに話しかけた。

844狂宴高校の怪 第4話(禁断編):2011/06/26(日) 10:16:06 ID:CY4LznkI
「ノマルちゃん・・・落ち着いて・・・。」
 ノマルちゃんの動きが少し鈍くなる。
「う・・・うるさい!あんたなんか・・・!」
「ノマルちゃんはコイル君がすごい好きなんだね・・・でもノマルちゃん、コイル君はノマルちゃんの血にまみれた姿を見たいと思ってる?
 ノマルちゃんに血にまみれた姿は似合わないよ、ノマルちゃん・・・可愛いんだもん!
 私はノマルちゃんの恋・・・応援するよ?兄妹だからなんて関係ないよ。ノマルちゃんなら絶対にものに出来るから!」
 私はノマルちゃんの頭を撫でた。黒くて長い髪の毛は、サラサラとしていた。

――――――――――

「お兄ちゃーーーん!ナオさーーーん!」
 昼休み、俺の妹が教室にやって来た。今まではこんなことはなかったのに。
 「お兄ちゃん!はい!お弁当!」
 いつもなら朝行く前に用意されているのだが、妹が教室に来ることになってからは、毎日手渡しになった。
 弁当のおかずはは元に戻っていたが、ご飯は相変わらずハートを描いていた。
「ノマルちゃんのお弁当、可愛いね。」
「でしょ?でしょ?ハートは私の自信作なんだ!」
 綺麗な笑顔を浮かべた二人は、華やかなハートの弁当を見ながら話していた。

845狂宴高校の怪 第4話(禁断編):2011/06/26(日) 10:16:57 ID:CY4LznkI
――――――――――

「どうやら事を済んだみたいですね。」
 屋上、僕はチバタ君と事件について話していました。
「しかし、私も以外でしたよ。まさかナオさんが事を済ませてくれるなんて。」
「ほう?あれは予想外だと言うことですね。」
「私としては、ナオさんには入院ぐらいは覚悟してもらおうと思ったのだけどもねぇ。」

「しかし、わかっているね?私が今回の事件で君達に協力したと言うことは。」
「えぇ、わかっていますよ。それを承知の上で頼んだのですから。」
「ならば全ては言いません。私はあくまで同率の立場の人間ですから。」

 そう言って、チバタ君は屋上から出ていきました・・・。

846狂宴高校の怪:2011/06/26(日) 10:23:22 ID:CY4LznkI
投下終了です。禁断編はこれでおしまいです。

847雌豚のにおい@774人目:2011/06/26(日) 12:07:20 ID:zYnPLV7Y
GJ!!
チョイチョイ投下くるようになったな
良いことだ

848雌豚のにおい@774人目:2011/06/26(日) 18:46:28 ID:hmqLGPAM
GJ!!
妹の嫉妬が怖いです・・・・・ヤンデレの醍醐味の一つは嫉妬ですよね

849深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/26(日) 22:46:22 ID:dDVHSOZE
>>846初めてなんですか?お上手です。活気が出始めて嬉しい、感涙・・・!

というわけで投下します。

850深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/26(日) 22:47:31 ID:dDVHSOZE



ぐっすり隣で寝ていたミューに気付かれないよう、陽が昇る前に館を出て、
ルカさんに貰った運賃代で巡回馬車に乗り、第二の道場へ向かった。

うとうと眠りこんでいる内に到着、降りて目の前の建物を確認する。
おお・・・・・・これが我が新天地、新築で純陽ノ国風の造り、ああ陽ノ国万歳。

期待と不安を交錯させながら、ゆっくり門戸へ歩みだす。すると・・・・・・。

「もしかして・・・・・・南夏高弟では?」

後ろで長い髪を一本に縛った、凛とした涼しげな雰囲気の女性。
耳は長く尖り、額に何かの文様・・・・・・服装は・・・おお、門下の装い。

「あっ、はい、南夏竜史です。なぜ自分の名を?」

「あなたの纏っている気で瞬時に」

「すごっ!まぁいいや、案内お願い出来ますか?」

「湛山大先生が選んだ精鋭・・・・・・さぞかしお強いのでしょうね・・・」

「っ!先生いるんですか?すぐにお願いしますっ!」

俺は興奮のあまり彼女の両肩を掴み、迫るような剣幕で急接近する。

「あっ案内しますから・・・・・・そんなに見つめられると恥ずかしいです・・・・・・」

その後案内してもらい、先生と六日ぶりに対面。
旅の出来事、ミューの事全てを話し、
先生からはねぎらいの言葉とこれからの予定を話してもらった。

先生は、
俺のために用意してくれた長屋の一室で一日休むよう指示されたので、今そうしている。

「南夏高弟、いらっしゃいますか?」

どうやらあの子が来ているらしく、どうぞ、と返事をする。

「申し訳ありません、お休みのところ」

彼女の動作はぎこちなく、どうやら緊張あるいは委縮しているようだ。
なので俺から親しみやすい言動・・・・・・つまり寒い冗談をかます。

「おや、俺の命を狙いに来た刺客?ええ、では分かりました、いざ尋常に勝負!」

「ただ紹介に来ただけです」

きっぱりと流された、彼女にあまり冗談は通じないようだ。
西方の言葉で言うところの”くーる”、合ってる?

「世話役を務めさせていただきます、
コルネリア・ミジュ門下五級、なにかご質問は」

「おー、宜しくお願いします。
ええと質問ですけど今はいいです、逆にそっちは何か俺にあります?」

質問返しに一瞬戸惑うような仕草を見せるものの、
すぐに真面目顔に戻り、言いだし辛そうに質問をする。やや頬が赤い気がする。

「あの・・・・・・わたし、陽ノ国に興味がありまして、
その・・・迷惑でなければ多少なりともあちらの話をして頂けたらと」

陽ノ国が知りたいとお願いされ、我が母国を語らないわけはないではないか。
俺が話し始めると彼女は目を輝かせ真剣な表情で聴き入っていた。
その真摯な聴き手に触発され、長時間熱弁を振るった。

それから彼女との仲が一気に良くなり、色々関わり合った。
いつの間にか俺はタメ口、かつ呼び捨てで接するようになり、
一方彼女は、しごく当然のように澄んだ小さな声で俺を「師匠」と呼ぶ。
先生の剣聖如き領域を目の当たりにして、
直接的な指導を乞うのはあまりにも恐れ多いということなので、
俺と師弟の関係を結んで、着実に鍛錬を積みたいらしい。

彼女は「天術師見習い」でありながら、剣にも精を出す、努力家である。
つまり、魔女っ娘か・・・・・・いや、齢は俺と変わらんから、子供扱いは失礼か。

で、回想中の今は、良い天気の下で彼女と井戸端でなごみ中。

「いやぁ〜上手いお茶入れてくれるね、ありがとなネリア」

「あ、ありがとうございます。師匠の趣味に合わせましたから」

「はて?いつ茶の趣味なんて言ったっけ?」

「あっいえ、なんとなくこれかな、と予想しまして」

「そっか・・・・・・ほんとネリアは良く世話してくれるなぁ。
でっかくて綺麗な水晶玉もくれたし。
ネリアの注文通りどんな場所からも見えやすいところに置いたぞ」

「はい、知っています」

「これも予想?」

「あまり、せ、詮索しないで下さいっ」

時折見せる恥じらいの表情が、
普段のツンとした態度からはあまりにもかけ離れていて、父性本能がくすぐられる。

851深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/26(日) 22:48:47 ID:dDVHSOZE

それから彼女は、淡々と意外な話をしてくれた。
俺が彼女の大好きな伝奇小説に出てくる主人公にそっくりで、
どこか運命的なものを感じるんだとか。

よし、そろそろ稽古つけてやるか。



「つっ!!」

「すいません!」

竜史を怪我させてしまった、鼻から血が出ている。
とっさに懐の絹布を鼻に当てる。わたしったらなんてことを・・・!

「う〜ん、すまん、これくらいで鼻血なんか出してしまって、
ネリアは気にすることないからな」

「・・・・・・あの、治癒の天術を使っても?」

「ほーい、いいよー」

人差し指で師匠の鼻を軽く触ると、黄色の淡い光が患部を治癒していき、血が止まる。

「おお〜すげぇ、天術使えるなんて羨ましいったらありゃしないね。
あっ、この絹布洗って返すからさ、鼻血なんて汚いしな」

「いえ、いいんです。師匠のが汚いはずはありません」

稽古を終え、自宅に戻った。
すぐさま血が付いた絹布を取りだし、迷わず匂いを嗅ぐ。

はぁ、竜史の血、それに鼻血だなんて貴重・・・洗うなんてもったいなくてできない。
あの時さりげなく竜史の額を拭ったから、汗と皮脂の匂いも若干して、
酩酊状態に襲われるような感覚が全身を走る。

「竜史・・・・・・愛してる、
わたしを抱いてくれ・・・・・・もう体がおかしくなりそうだ。
でも今はこれで我慢だ・・・・・・すぅ・・・はぁ・・・・・・」

枕を抱いて悶々としながら転げまわる。
なおも頬を緩ませながら思いを巡らす・・・・・・。

わたしの運命的なものに導かれた「直感」は間違っていなかったな。
こんな短期間で激しい慕情を募らさせてしまう竜史の魅力が恐ろしい。
彼のさりげない言動、積極的な好意全てに惹かれてしまう。
外面から入ったが、今では内面を好きになってしまった。

あ・・・・・・ふっ、竜史・・・また独りごと言って。
彼は知らない、わたしが無防備で自然体のあなたを、水晶を通して監視しているなんて。

「竜史、そんな恰好でうろついていては風邪ひくぞ・・・。
もし引いてもわたしが手厚く看病してあげるからな、
お粥とか良く効く薬を口に運んで、風呂に行けない竜史の体を綺麗に拭いて・・・・・・」

彼が例の姿勢に入ると同時に、わたしは陰部の下着が露出するまで裾をずらし、
右手を下腹部に置いてから、前のめりに身構える。

「なにっ・・・・・・ああ、竜史、そうだよな、溜まっているんだよな、
わたしに頼めば喜んで可愛がってやると言うのに・・・・・・うっぁ、そんなに激しく。
ああ、駄目だ、見ているだけなんてっ!
わたし竜史見てするぞ?いいだろ、それくらいの慰めは、許してくれるだろぅ?」

竜史からひと時も目を離さず、布越しに割れ目に沿って軽めに這わせていく。
彼が激しさを増していくのに比例して、
わたし自身もどんどん中指が恥丘を横一列に掘り下げるようにして、
手つきが急激にいやらしくなる。
ついに我慢ならなくなり、二本の指を下着の下に潜り込ませ、
直で規則的にかき混ぜ、卑猥な水音を立てる。

「竜史、りゅうじっ、りゅう・・・!とっても気持ちいいぞ、
おまえのお陰でっ、こんなに気持ち良く・・・なっているんだぞっ、ありがとなぁ。
んんっ・・・んんっ!はひぃ・・・あふぅ、もっともっとっ・・・!」

呼吸が跳ね上がるように荒くなり、快楽が絶頂に達したとき、
全身に心地よい痙攣が伝わる。

「はぁはぁはぁ・・・・・・あっ愛液が零れてくる・・・」

滴り落ちる水を、手を皿にして受け止め、台所にあったそば粉に混ぜる。
明日竜史にそばを食べて貰おうと準備したあったものだ。

「・・・・・・わたしの愛だ、しっかり味わってくれ。
竜史が私の愛液を咀嚼し体の一部とするのか、ふふっ、血も混ぜるか?
いやっ、白っぽい麺だからばれてしまうな、止めておこう。
じゃぁ、アレにするか、いやぁでも前にやったしな、
ちょっと変な味がするって顔してたからな、自重しよう、味が濃いからばれる」

竜史の嬉しそうに食べてくれる姿を想像しながら、丹念にこね上げていった。

852深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/26(日) 22:50:03 ID:dDVHSOZE
一段落してわたしは、また水晶の前に戻る。

「やはり、竜史は飽きないなぁ。
おっ?便箋か?っ!またあの妹からか」

竜史には妹分がいるらしく、近々こちらへやってくるというのだ。
その時の竜史、やけに嬉しそうだったから、軽く嫉妬してしまって、
それ以降この話は聴こうという気になれなかった。

「そんなに楽しいか、ただ字を読むだけではないか・・・・・・くっ!
どんな娘なんだ、血が繋がっていないというのがとても気になる」

わたしは少し苛立たしい気持ちになりながら、いつも通り彼の就寝と同時に眠りに就く。


・・・・・・まだ空はほんのり薄暗い。
わたしは朝早くから起き、道場の門前へ向かった。
通りには、それぞれの仕込みをしている人たちがちらほらと確認できる程度である。

道場の門前に到着し、便受けを探る・・・・・・あった、これか。
ためらう事なく封を開け、中身を読む。

毎日送っている割には、かなりの文量で、十枚綴りにもなっている。
癪に障るが字も均整がとれて綺麗で、丹精込めて書いてあるのが見て取れる。
では肝心の内容はどうなのか・・・・・・?

本当に「妹」から送られた便箋なのか?はっきり言って、ただの恋文だ。
妹なんだから、もう少し抑えられないものだろうか。
竜史へのあからさまな好意が駄々漏れ、かつ、
雌猫の撫で声が聴こえてきそうな甘ったるい媚売りまくりな言葉の数々。
これ以上読むに堪えない、こんな雌猫みたいな女が来るのか。鬱だ。

便箋を力いっぱい握りつぶし、火術で燃やしつくした。
小さな紙切れを燃やすには明らかに大げさな火力、周囲の塀よりも高い火柱でもって。


「師匠、妹さんいつぐらい来られるんですか?」

いつものように、井戸端のそばにある椅子に並んで腰掛けている。
竜史の手にはあの蕎麦が・・・・・・。

「ちゅっる、んっ、美味いっ。
あ〜、ん〜、たぶん明日じゃないかな」

「話を聴けば妹さん、かなり師匠を慕っているみたいですね」

「ああ、ちょっと異常なくらいにな。あともう少しは離れていたいな、ミューのためにも」

「では、あと一年くらい留めておけば良いのでは?」

「いっ一年!?いやいや〜ミューの頭がおかしくなっちゃうだろ。
一日だって延期されるの嫌だろ、俺に関しては頑固一徹だからな」

「・・・・・・では、もうちょっと突き放した態度を取れば良いかと。
毅然と対応し、嫌われる覚悟で常識的な距離を保てば、
次第に妹さんも慣れてくるのでは?」

少し考え込むような仕草を見せて、蕎麦をすすりあげる竜史。
私の愛液が大量に混入しているとも知らずに。
さきほどから感じ始め、下着が濡れてきているのは内緒・・・。

「そうだな、ちょっとミューに目を掛け過ぎていたのかも知れん。
俺の意図をあちら側から気付かさせなきゃな。
助言どうも、なんか踏ん切りついたわ」

「どういたしまして・・・ふふっ・・・・・・っん・・・玄関が少し騒がしいですね」

853深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/26(日) 22:50:28 ID:dDVHSOZE

道場の玄関口へ一緒に向かう。
大先生と青い髪の女が話をしている。
彼女がこちらに気付いた時に発した言葉に愕然とする。

「お兄ちゃん!会いたかったよ!寂しかったっ・・・!」

大胆にも師匠の胸に飛び込む妹、予想と全く違った、純粋なメア人じゃないかっ!

「おいおい、まだ一日あるだろう」

「で、でもぉ、会いたい気持ち抑えられなくて・・・・・・
先生も来ているって言うからぁ・・・」

「ミュー、約束破ったな」

「えっ・・・・・・おにぃ・・・ちゃん?」

竜史の突き放すような冷たい眼差しに、妹は慌てふためいている。

「ミュー、今日は帰って明日来なさい。お兄ちゃん、幻滅しちゃったよ、ごめんは?」

「ごめんなさいっ・・・・・・今日は帰ればいいんだよね?」

「ああ、明日また来てくれ」

「私のこと嫌いにならないで・・・・・・お願い・・・」

ミューが出たのを確認すると、竜史は玄関戸を閉める。大先生は驚いている。

「お前にしては珍しい態度じゃの、考えがあってのことじゃろうが」

「ちょっと心が痛むけど、いままでの兄貴像を塗り替える機会だからね、
うう・・・これもミューのためはいえ・・・辛い」

妹め、女である私の視点から見ても容姿端麗に映る。若干の幼さはあるが。
背がかなり高い、なにより胸が大きい、私の何倍あるっていうんだ。
そして、かなりの色白だったな、だがしかし、竜史は褐色肌が好きだ。
とは言っても、私自身も白目の肌だが。
あと、妹の背後にいた付き人のような女誰だ?悔しいが、竜史好みだな・・・。

どこかへ行こうとする師匠を呼びとめる。

「妹さんと随分仲が良いのですね、まさか抱き合うなんて」

「俺からではないんだが・・・。
いや、そんなもん言い訳だよな・・・・・・やっぱ、傍から見て変か?」

「ただの男女であれば普通かもしれませんが、「兄と妹」的な関係なのでしょう?
そう言った前情報があれば、
疑わしい、あるいは如何わしい関係だと勘ぐってしまいます」

「そうか・・・・・・。
ミューは特に最近、俺の事を求めてくるんだ。
いやっ、そういう性的な繋がりとまでは行かないが、一歩手前といった感じだ。
俺は全くそんな気になれないというのに。
解決する方法、何かないかなぁ」

しめた、”ちゃんす”。

「師匠が「女」を作ればいいのです。もちろん見せかけるだけです。
他の女性と仲良くしているのを見せつけて、
兄と妹がずっと一緒に居れるなんて幻想なのだと思い知らせるのです!」

少し熱くなりすぎた、竜史が驚いている、いつもの冷静な私に戻ろう。

「そうなるとミューが可哀想だし、嫉妬とか焼きもちの嵐になるんじゃ・・・」

「あそこまでお兄ちゃん大好き好き好き〜な雌猫・・・こほんっ、
妹さんにはこれくらいの荒治療も必要です」

「ミューが七、八才の頃なんか、一日中俺の後ろに付いてきてたな。
お陰でその頃は俺、友達が全然居なかった・・・。
女の子と話しようものなら、すぐに泣いて俺を引き離そうとしてたなぁ。
まあでも、当時に比べりゃ遥かに落ち着いているし、
今ならある程度の常識は弁えているだろうから大丈夫だよな?
つーか、一番の問題なのは、俺に相手がいないということなんだが」

「わたしがその役を務めます」

「いいのか!すまんなぁ〜。
え〜と、じゃまずは何から・・・・・・」

「では、早速練習しましょうか、明日から本番ですからね。
ちょっとそこら辺を散策しましょう、相思相愛のようにね」

勝手が分らないとでも言うような竜史の表情、襲いたいくらい可愛い。
既成事実を積み上げて、わたし色に染め上げてやる。
竜史は運命の人、渡さない。

854深優は泣いた ◆J9zPo6rgI.:2011/06/26(日) 22:52:12 ID:dDVHSOZE
以上です。一一話くらいです。

855雌豚のにおい@774人目:2011/06/26(日) 23:49:08 ID:Thh5/amA
GJ
ミューの戦闘力でこれは危険すぎる…

856狂宴高校の怪:2011/06/27(月) 00:07:10 ID:38xO2Pvk
>>854 GJです!とても読みやすい文章でした!

長くなったので第5話投下します。

857狂宴高校の怪 第5話(葛藤編):2011/06/27(月) 00:08:22 ID:38xO2Pvk
 いつの間にか、ナオと妹は非常に仲が良くなっていた。
「ノマルちゃん、今日のお弁当はどんなの?」
「うん!今日の唐揚げは自作なんだ!昨日から仕込んで本格的な感じに作ってみたの!」
 本当に仲が良い。まぁ、仲が良いことは良いことだ。

 昼休みが終わった。しかし、この後の2時間は授業ではない。学校行事やその他諸活動について決める時間だ。寝るにはちょうどいい。
「コイル君、今日は学園祭について決める日ですよ?」
 あぁそうだった。忘れてた。
 そろそろ縁郷高校三大行事の一つ、学園祭の時期だったっけな。

――――――――――

「じゃあ何やるか決めるぞ!」
 先生が黒板に、「発表」と「模擬店」と書いた。
「ナオさんはこの学校の学園祭は始めてでしたよね。この学校では、生徒や一般の方々に歌やダンスを見せる発表部門、生徒や一般の方々に物資やサービスを提供する模擬店部門があるんですよ。」
 左斜めにいたシドウ君が、爆睡してる両隣に変わって説明してくれた。
「こらそこ!コイル君にケンゴウ君!寝てないで参加しなさい!」
 学級委員長の翼千クドさんが、私の両隣を指差した。

――――――――――

「この学級では、発表はダンス、模擬店はコスプレ喫茶をすることに決まりました!」
 クドが決まったことをクラスに改めて報告した。

・・・。

 は!?コスプレ喫茶だと!?マジかよ・・・これは洒落にならないな・・・。

 多分ケンゴウも同じことを思っているだろう。
「めんどくせぇ・・・。」
 1年生の時にやったクラシック音楽喫茶は、従業員(?)以外は仕事がなかった。準備期間中は、シドウが持ってきたクラシック音楽を聞きながら安らぎの眠りについていたのだが、コスプレ喫茶となると話は別だ。
 一番めんどくさいであろう衣装作り。それは多分、男子なら俺達に割り当てられる。
 クラス内で目立っている男子と女子や、運動が得意な男子は発表部門の方を担当し、皆にダンスを教える。それもめんどくさい。
 しかし、その他の男子と女子は、模擬店を担当することになる。ケンゴウはともかく、俺とシドウは完全に模擬店だ。衣装作りとかダンス指導よりやりたくない。
「何を言っても無駄ですよ。観念なさい、コイル君。」
 俺の心を見透かしたように、シドウが俺に言ってきた。

858狂宴高校の怪 第5話(葛藤編):2011/06/27(月) 00:09:18 ID:38xO2Pvk
――――――――――

 あぁ、コスプレ喫茶。今年は必ずこれがやりたかった!彼はどんな衣装が好きなのかな?どんな仕草が好きなのかな?
 そして・・・彼の好みに合わせれば、彼は私を見てくれるだろうか・・・。
 彼は、私とは違う女子と話してる。すごい楽しそう・・・。憎らしいあの女、殺してしまうか。
 いや、彼女は彼の友人なのだ。骨折ぐらいに止めておいてやろう。
 あぁ、彼の好みが早く知りたい!そして彼に私をずっと見ていてほしい。
 私しか見ないでほしい。私だけのものにしたい・・・。
私だけの・・・。

859狂宴高校の怪 第5話(葛藤編):2011/06/27(月) 00:10:03 ID:38xO2Pvk
――――――――――

 学園祭準備期間が始まったが、最初の数日は、予算会議で終わった。
 それぞれのクラスに割り当てられる予算は3万円。物資と衣装代、それぞれ1万5千円ずつに分けた。
 つまり1万5千円で、従業員15人の衣装を作るのだ。無理な気がする。
 とりあえず、衣装の案を決める。男子は段ボールで作った東洋と西洋の鎧。女子はメイドや猫耳などの萌え中心。
 役割分担としては、手先が器用なシドウとナオは女子の衣装。若干不器用な俺とケンゴウは鎧作りとなった。
 後の細かい予算計算は頭の良い連中に任せ、俺はシドウと談笑タイムに入った。

860狂宴高校の怪 第5話(葛藤編):2011/06/27(月) 00:10:49 ID:38xO2Pvk
――――――――――

 メイド、エプロン、着物、セーラー服。オプションにはツインテールにポニーテール、猫耳に犬耳、リボンに眼鏡。
 これだけの案が出たが、果たしてこの中に彼の好みはあるのだろうか。
 彼は今、シドウ君と楽しそうに会話をしている。あの笑顔、私だけに向けてほしい。叶わぬ願いにする気はない。私は彼を、学園祭で確実に落とすつもりだ。
 もし、何をやっても彼が動じないのなら・・・奪うまでだ・・・。

 予算も決まり、衣装の材料の買う準備も出来た。明日から衣装作りが開始する。
 そうだ!この時から駆け引きは始まるんだ!さりげなく近づいたりして、彼との距離を縮めよう!
 学園祭の時のために、勝率を少しでも上げておこう!

 あれこれ考えていると、もう夜だ。明日も学校だ、また彼に会える。
 布団に入り、私は今日見た彼の笑顔を思い出しながら、自慰行為に耽った。
「あぁ・・・コイル君・・・好き・・・好き・・・大好き・・・あぁぁ!好きぃぃぃ!!!」
 ・・・押し寄せるせつなさに蓋をして、私は目を閉じた。
 何でかわからないけど、中々寝つけなかった。

861狂宴高校の怪:2011/06/27(月) 00:12:17 ID:38xO2Pvk
投下終了です。

862雌豚のにおい@774人目:2011/06/27(月) 05:33:18 ID:C5kPnd.k
>>856
おつです。おもしろいです。これからも頑張って書き続けてください。

863雌豚のにおい@774人目:2011/06/27(月) 10:16:39 ID:PlrEy3TU
>>861
GJ!
更新スピードが早いが、大丈夫か?

864狂宴高校の怪:2011/06/27(月) 20:13:59 ID:38xO2Pvk
>>863 大丈夫だ、問題ない。6話投下します。

865狂宴高校の怪 第6話(葛藤編):2011/06/27(月) 20:16:01 ID:38xO2Pvk
――――――――――

 めんどくさい・・・。もうそれしか言葉が出てこない。段ボールを切るだけの単調な作業だ。飽きてきた。しかし・・・。
「はい!サボらない!」
 後ろには鬼のような顔で見張っているクドがいる。サボるにサボれない。サボったら頭から食われそうだ。
 さらにクドは俺の後ろにいる。威圧感が半端ない。逃げたい。
 クドは会場設営に参加しているのだが、鎧作りに参加している大半が男子のため、当然サボる人が多くなる。
 まぁそんなわけで、クドが見張りに入ったということだ。
 クドは長い黒髪と眼鏡、男を虜にするには十分すぎるスタイルの良さ。ナオと違い、美人という言葉が似合う女子だ。当然モテる。
 しかし、クドは今まで受けてきた告白を全て例外無く一蹴してきたらしい。
 まぁそんな石頭が後ろに居れば作業もはかどる。もう鎧の半分以上が出来上がってしまった。

――――――――――

 後ろで見てるだけで濡れてきちゃう・・・。このまま頭から食べてしまいたい。
 いやいや!落ち着け私!今の私は学級委員長としているんだ!だから不埒なことは出来ない!
 でも・・・学級委員長としての自分を見失ってでも、私は彼を手にいれたい!

866狂宴高校の怪 第6話(葛藤編):2011/06/27(月) 20:17:58 ID:38xO2Pvk

 彼との出会いは、私が高校1年生の時だった。
 彼とは同じクラスで、私はその時も学級委員長だった。しかし、副委員長や書記の人は、仕事には関わってくれなかった。真面目に仕事をしているのは私だけ。当然去年の予算会議は私一人だけだった。
 しかし、彼は違った。
「あれ?一人で予算決めてるの?手伝おうか?」
 私は意味がわからなかった。彼は何の役職にもついていない。なのに手伝ってくれるといった。
「あれ?めんどくさがりのコイル君が進んで会議に参加とは珍しいですね。」
 彼の親友、葉久保君が笑っていた。指摘されて彼も笑う。
 めんどくさがりの彼が私のために?私の胸が高鳴った。
「えっと・・・ありがとう・・・能登君・・・」
「コイルでいいよ。名字で呼ばれるのは何かくすぐったいから。」
 彼は私の目を見て、また笑った。

 その予算会議は、決めることが少ないのですぐ終わってしまった。
 もっと続いてほしかった・・・。時間があっという間に過ぎた気がした。
 私はそれ以来、彼を意識するようになった。気がつくと、私は彼を目で追っていた。そして、彼の姿を見るたびに想いは強くなる。独り占めしたいと思い出した。
 いけないことなんだろうな。でも私は、彼以外を好きにはなれないだろう。
 だからこそ私は彼を手にいれる。どんな手を使ってでも・・・。

867狂宴高校の怪 第6話(葛藤編):2011/06/27(月) 20:20:30 ID:38xO2Pvk
――――――――――

 見張りがいるだけでこうも作業スピードに差が出ようとは・・・。クドの威圧感、恐るべし。
 と言っても、出来上がったのはまだ1体だけ。鎧は残り2体だ。しかもかなり大きめの鎧なので、今回作った「足軽の鎧」とは比べ物にならないくらい複雑だ。
 果たして、「戦国武将の甲冑」と「王国の重騎士団長の鎧」は無事に完成するのだろうか。この2つの案を提案したケンゴウを軽く恨んだ。

――――――――――

 会場設営の方はまだ初日なので、それほど進んではいない。今教室にあるのは、従業員スペースとお客様のスペースを隔てるカーテンと、ちらほら見える装飾ぐらいだ。
 私は、カーテンの最後の調整をするために残ると言い、会場設営の皆を帰した。衣装作りの人もいないし、教室にいるのは私だけ。
 ふらふらと私は、置いてある鎧の所に歩いていった。
「コイル君が作った鎧・・・。」

 気づけば私は、上半身だけ制服を脱ぎ、鎧を着けてあそこを弄っていた。
「はぁ・・・んはぁ!コイル・・・くぅん・・・。」
 我ながら淫らな女だな。しかし、彼への思いが私をさらに突き動かす。
 ふと私は、棚にハサミがあることに気づいた。そのハサミは・・・。

「!!!」

 間違いない!コイル君のハサミだ!
 顔が一瞬で真っ赤になる。あそこは潮を吹いてしまい、床がびしょびしょになってしまった。
 ハサミを手に取る。冷たい・・・。温もりは消えてしまっている。
 しかし、抑えていたものが爆発するには十分すぎた。

「はぁぁぁ!ん!うぅん!コイル君!コイル君!好きぃ!大好きぃ!大好きぃ!」
 ブレーキはない。あそこを弄るスピードが一気に速くなる!脳に響く快感が、ここは学校なんだ、私は学級委員長なのだ、という意識を完全に遮断している。もはやただの雌犬だ。そう認識して恥ずかしい気持ちになっても、指は止まらない。いつの間にか二本の指で弄っていた。あ、一本追加。
「あああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ・・・学校でイってしまった・・・。床が愛液まみれだ。
 持っていたティッシュで床を拭く。
 鎧を脱ぐのは正直名残惜しいが、しょうがない。鎧を脱いで、ハサミと一緒に元の位置へ。

 虚しい気持ちのまま、私は制服を着なおして、教室を後にした。

868狂宴高校の怪:2011/06/27(月) 20:21:32 ID:38xO2Pvk
投下終了です。

869雌豚のにおい@774人目:2011/06/27(月) 20:54:28 ID:rLJUZNJ6
GJ!!
そしてコイル君。ちょっと屋上に来てくれるかな?

870雌豚のにおい@774人目:2011/06/27(月) 21:20:05 ID:zS8pL3ww
GJ!!
投下が多くて飯がうまい!

871雌豚のにおい@774人目:2011/06/28(火) 03:52:19 ID:JXVpgCow
GJ!
しかしクドちゃんのシている光景を考えたらシュール過ぎて吹いたww

872<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

873雌豚のにおい@774人目:2011/06/28(火) 16:29:44 ID:kU2ZgL0g
GJ!!
1日でよくこの分量書けますね。俺なら発狂ものです

874狂宴高校の怪:2011/06/28(火) 21:39:16 ID:0yQpmi/U
第7話投下します。

875狂宴高校の怪 第7話(葛藤編):2011/06/28(火) 21:40:53 ID:0yQpmi/U
 夢を見た。
 夢の中で、私はいかつい三人の男性に囲まれていた。
「うっほ!こいつは上玉だぜぇ!」
「ウヘヘへ!黒髪おいしそーう!」
「こりゃまわしがいがあるぜ!ヒヒヒヒヒ!」
 気がつけば、後ろにはさらに三人。合計六人の男性が、私を飢えた雄のような目で見る。
「な!何なんですかあなた方!」
「お嬢ちゃん、俺達は悪いことしようなんて言ってないんだぜ?ただ、お互い気持ちよくなろうぜってだけだよ。ヒヒヒヒヒ!」
「ふ!ふざけないで!私は!」
「はいはいここは正直ですよー!ヒヒヒヒヒ!」
 やめて!私を汚さないで!髪を、肌を、胸を、手を、あそこを、足を舐めないで!!!
「じゃあご開帳ー!」
 いやぁ!初めてはコイル君だけのもの!他の誰にも渡したくない!
 やめて!やめてぇぇぇ!



「ハッ!!!」
 気づけば私は、ベッドから半身を起こしていた。
 夢?なんという夢を見たんだ・・・。
 どうせなら、あの後にコイル君が私を助けてくれたっていう夢が見たい。
 それでもなお、私が満たされぬことはないだろうが・・・。そんなことを考えながら、私は制服に着替えた。

――――――――――

「今日の降水確率は30%。晴れやかな日になるでしょう。」
 嘘だ。空はもう雲がかかっている。昼には確実に降っているだろう。
 そんなこともお構いなしに、お兄ちゃんはベッドで寝ている。実の兄でも、好意の対象でも関係ない!
「お兄ちゃん!!!起きなさい!起きなさい!」
 耳元で叫ぶ。
「うわぁ!大トロの握りが二つ揃って三角コーナーに!!!」
 多分、昨日の夜に見たグルメ番組に影響され、高級寿司屋に行ってる夢でも見てたのだろう。まだよだれを垂らしているので、軽く頬を叩く。ちょっと柔らかい。
「何だ・・・夢か・・・。」
 しばらくうなだれるお兄ちゃん。うん、いつもと同じ。私の大好きなお兄ちゃんだ。

 しかし、昨日からお兄ちゃんを見ると、嫌な予感がする。別に、お兄ちゃんの行動が変になったとかではない。直感的な推測。
 私は、あの時の事を思い出してしまった。今の私の気持ち、そしてお兄ちゃんから感じる嫌な予感。
 二つの感じを例えるならば、今のこの曇り空のようだ。

876狂宴高校の怪 第7話(葛藤編):2011/06/28(火) 21:41:40 ID:0yQpmi/U
――――――――――

 今日は鎧にカラースプレーをかけて塗装する。予定だった。
 昼頃から降りだした雨のせいで外が使えないため、鎧作成組は自由時間となった。
「コイルキィィィック!」
「ぬるいわぁ!ケンゴウラリアットォォォ!」
 それで俺とケンゴウは、こんな感じで互いを痛め付けあっていた。
「甘いわぁ!コイルスープレーーーックス!!!」
 ケンゴウのラリアットの勢いを借りて、後ろに思いっきりケンゴウを投げ飛ばした。

――――――――――

「ぐへぇ!!!」
 コイルに思いっきり投げられた。だいたい鎧が飾ってあるところ辺りまで飛んだかな。容赦無しかよ。
「お前なぁ!少しは手加減しろよな!」
 背中に走る激痛に顔を歪ませ、俺は床に突っ伏した。
 ふと、何かの臭いが鼻をついた。
「何だ?何か変な臭いがするな・・・。」
 床に何かの臭いがついている?とりあえず嗅いでみる。
 刹那。

「うぅぅぅおぉぉぉえぇぇぇ!!!」
 訳がわからない。激しい頭痛と悪寒、突然の嘔吐、臭いがきついからじゃない!
 何が起こったんだ?この臭いが何の臭いなのかも知らない。なのに俺は臭いに耐えられないでいた。
 すぐさまその場を離れる。
「おい!大丈夫か!?」
「ケンゴウ君!しっかりして!」
「急にどうしたのです?ケンゴウ君らしくない。」
 コイル、ナオ、シドウが駆け寄ってくる。
「あぁ・・・なんとか大丈夫だ・・・。」
 鎧が飾ってあるところの周辺を離れると、さっきまでの症状は無くなった。
 何か変わったことがこの辺りに・・・。床をよく見ると、何かを吹いた後があった。

877狂宴高校の怪 第7話(葛藤編):2011/06/28(火) 21:42:23 ID:0yQpmi/U
――――――――――

 放課後までケンゴウは元気だった。むしろ、さっきのあれが嘘のようだった。鎧が影響されたわけでもないようだ。いったい何なんだろう。
 ケンゴウの体調と反比例してなのか、急に雨が降ってきた。もちろん傘は持ってきてない。こんなことなら妹の言うことを聞いておけばよかったな・・・。
 雨の勢いはさらに強くなる。これは洒落にならんな。数十秒でずぶ濡れだ。家が遠いからそれだけはしたくない。
「どうしようかなー。」
 抑揚をつけずに呟いてみた。

――――――――――

 玄関前にコイル君がいた。見ただけでわかる。傘を忘れたのだろう。
 今すぐ傘を貸してあげたい。いや、相合い傘がいいな。もちろん腕を組んでだ。狙いはもちろん、私の胸を彼に押し当てること。男の人はこういうのに弱いと、何かの本で読んだ。そして、その気になった彼をお部屋にお持ち帰り。ベッドの上でプロレスごっこ!キャー!キャー!
 いけない!私は学級委員長!こんな不埒な考えを持ってはいけないわ!
 でもでも!彼が私の口にそっと自分の口を重ねてきて・・・。口内を蹂躙する彼の舌、そっとのびる左手は私のあそこに・・・。いや!彼ならいきなり?それも悪くない!私は彼になら犯されてもいい!むしろ犯して!彼になら処女を捧げられる!痛くても我慢できる!
 厳しそうな彼の顔が視界に入った。いけない!彼は困ってるんだった!今すぐいかないと!



 あれ?足が動かない・・・。何で?彼の隣にいけない、彼に声をかけられない。足は動かそうにも、命令が足まで到達しない。声を出そうにも、喉が震えない。覚悟は出来ているのに、体が動かない。
 何で?何で動いてくれないの?少し涙ぐんできた。

878狂宴高校の怪 第7話(葛藤編):2011/06/28(火) 21:43:05 ID:0yQpmi/U

 あれ?ナオさん?コイル君に近づいて何を言ってるの?何で傘を二本も持ってるの?
 何でコイル君に傘を渡してるの?何で二人並んで外に出てるの?何で?何で?何で?何でコイル君はナオさんと歩いているの?コイル君はナオさんが好きなの?いや、きっとナオさんが誘惑したのだろう!
 私だって誘惑してた。後ろに立って軽いボディタッチをしたりした。見た限り、ナオさんが彼を誘惑してたようには見えない。やはり彼はナオさんのことが?嘘だ!嘘だ!嘘だ!
 そんなの嫌だ!私は彼以外を好きになれない!彼がいなくなったら私・・・。





死んじゃうよ?





 気づけば私の手に、傘はなかった。学校近くの公園に立っていた。傘もささずに。
「寒い・・・寒いよ・・・。」
 雨に濡れた寒さと、心の寒さ。二つが私を絶望の海に突き落とす。顔も濡れて、泣いているのかもわからない。



「どうしたんですか?クドさん。」
 不意に後ろから声が聞こえた。振り向いた先にいたのは、私と同じく傘をさしていない男子生徒だった。
「お気持ちお察ししますよ?あなたはコイルのことで悩んでいる。」
 ドキッとした。見透かされてる?私がコイル君のことが好きだということ。彼は・・・確か他クラスの・・・。
「おっと、ご心配なさらずに。私はあなたに協力しに来たんですよ?私は今回、あなたの味方ですよ。」
 彼のことを信じていいのだろうか・・・。

「しかし、私はあなたにきっかけを作ってあげるだけ。後のことはあなたにお任せします。私がしてあげられるのはここまでです。

あくまでも私は、同率の立場の人間ですから。」

879狂宴高校の怪:2011/06/28(火) 21:44:11 ID:0yQpmi/U
投下終了です。これで葛藤編は終了となります。

880雌豚のにおい@774人目:2011/06/28(火) 21:46:11 ID:JOF/ZI4w
GJ!
夢……?過去の……?
まさかな

881雌豚のにおい@774人目:2011/06/28(火) 22:13:17 ID:kU2ZgL0g
>>879
GJ!!
レイプ系出す時は注意書き書いといて下さいな。荒れる要因になるので

882 ◆STwbwk2UaU:2011/06/29(水) 01:40:38 ID:Hvw9jVvw
タイミング見計らってたら見失った。
狂宴さんには申し訳ないんですが・・・
投下します

883魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/06/29(水) 01:41:01 ID:Hvw9jVvw
僕に今、力があればどうしただろうか。
聖騎士の仲間に加わって、リーザを助けただろうか。
それとも、レッドアイズに加わって彼女の復讐を手伝ったのだろうか。
わからない…今となっては、どっちが正しいのかも……


「うぉおお!」

トルスティが雄叫びを上げて一閃を走らせる。
しかしその剣は一向にレッドアイズを掠らず、虚しく空を切る。
そしてレッドアイズが、死角から四肢を狙って爪をたてる。
もはやトルスティとその聖騎士一行は、なすがままに嬲られていた。


「ほらほら、聖騎士様。剣が届いてませんよ?
 あと少し、あと少し……ああ惜しい。
 髪の毛に掠っただけですねぇ。ああ惜しい。」

レッドアイズは加虐の笑みを浮かべ、あと少しで届くという場所に現れては
絶対に剣に当たらず、消えたと思えば
見えない死角から四肢の肉を削っていた。


「くそっ…このままでは……」

トルスティの顔に焦りが見えている。
僕も焦らなければならないはずなのに……
僕は全くと言っていいほど蚊帳の外だった。
レッドアイズからも一瞥もされず、同行していた聖騎士にも一瞥もされていなかった。
いてもいなくても変わらない。それほどまでに脆弱な存在。
それが、僕。
悔しい…悔しいっ!!
僕は!僕はここでも何も出来ないのか!
何をしているんだ!


「ああ……飽きた。飽きたな。」

ポツリと、レッドアイズが言葉を漏らすと、
レッドアイズは一瞬にしてリーザの前に現れた。

「なっ!?」
リーザもいきなり懐に現れ、一瞬の戸惑いが現れる。
そして、レッドアイズは笑った。

「お姉さん、私のことを心配してくれてありがとうね。
 だから……ね…お礼に………
 痛みは無いようにしてあげるねっ」


レッドアイズの笑みが深く、強くなる。
トルスティが駆け寄る。
僕も飛び込むかのように駆け寄る。
しかし、僕の願いも、思いも通じず……
リーザの腹部から
手が
生えた。


「あ…ぐ……」

リーザの声は、空気となって漏れている。
レッドアイズは滴る血を喜んで浴び、リーザを投げ捨てた。
見るまでも…確かめるまでもない致命傷……
リーザの元まで駆け寄ると、リーザの周りは血の海になっていた。

「リーザ!!大丈夫ですっ……くそっ!」
「聖騎士様、よそ見してたら別の人が死んじゃうよ?
 もっと死んじゃっていいの?ねぇ?ねぇ?」

レッドアイズは茶化すようにトルスティの進路を塞ぎ、
トルスティに近い他の聖騎士に襲いかかっていた。
他の聖騎士も、唯一レッドアイズと張り合えるトルスティも目の前のことで精一杯だ。
つまりリーザを救えるのは僕だけで、彼女の命は僕の処置にかかっているのだ。

深呼吸をして、もう一度倒れたリーザの傷口を見る。
内蔵はグチャグチャだ。貫通したのだから当然といえば当然だが…
そして出血量、これも絶望的に多い。
人間の手当をするのは初めてだが、この量の血を出してしまえば悪魔でも危険だ。
そして、何より生命反応が極めて小さい。
今すぐにでも消えてしまいそうだ………

―落ち着け、落ち着けアガト。
お前しかリーザを救えないんだ。まず何をするべきだ?
肉体の復元、血の補充、魔力の充填……
よし、やることは分かってるじゃないかアガト。
ならば、実行するんだ!僕!

884魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/06/29(水) 01:42:14 ID:Hvw9jVvw
まず、見様見真似でリーザの使っていた回復魔法を使う。
流石に加護も技術も無いので効果は圧倒的に薄いが、肉体の復元、そして血の補充が行われた。
じわじわと、ゆっくりと傷口が塞がっていく。
やがて時間がかかったが肉体の復元を終える。
しかし、未だに生命反応が弱い。

――まだ足りないのだ。何かが。
しかし、人間ではない僕には、魔力以外に足りないものがわからない。
こういう時人間はどうするんだ?何をすればリーザが助かるんだ?
誰か……誰か教えてくれ……!

僕が逡巡していると、さらにリーザの生命反応が弱くなった。
もはや一刻の猶予もない。そして僕に残された手段も少ない。
そう、今の僕にはこれしか思い浮かばない。

足りない生命力は……魔力で………補う!!!

決心すると同時に、僕は自分の腕の肉を噛みちぎった。
僕の魔力は、全て血となって封印されている。
ならば、僕の血を精製して…より純度の高い魔力としてリーザに注ぎこむ!
僕は血の垂れる腕をつかみ、高速で呪文を唱える。
血の流失は止まり、腕の周りを高速で回転しながら凝縮される。
やがて血は一滴の雫になり、その雫は金と赤に輝きを放った。

―僕の残った半分以上の魔力を凝縮した雫だ。
これだけの魔力なら……リーザもあるいは………

一縷の望みを賭けて、リーザの口に雫を垂らす。
雫は光彩を放った後、吸い込まれるように消えた。
それと同時に、リーザから力強い生命反応を感じるようになった。
…回復したのだ。未だ気を失っているが……


そして、残るはレッドアイズ。
僕はもう、リーザの味方をすると決めた。決めてしまった。
ならばレッドアイズにすることはただ一つ。
鎮圧か、無力化だ。
幸い、レッドアイズは部屋の中央で戦っている。
つまり、封印の魔方陣の周りで戦っているのだ。
封印は無くなったとはいえ、また魔力を流し込めれば……

僕は片腕を引きずりながら、レッドアイズの元まで来た。
トルスティはちょうど吹き飛ばされ、部屋の端で体勢を立て直したところだ。
部屋の真ん中には、僕と、レッドアイズ。

「……何しに来たのかな?悪魔クン?
 さっさと隅で縮こまっているか、しっぽを巻いて逃げるなら見逃してやるぞ?」

怪訝な、そして邪魔とでも言いたげな顔つきでレッドアイズは言う。
しかし、僕もここで引けない。

「ここは、どうか場を収めてもらえないか?」

声が震えて、少し裏返っている。
腕からの血が、魔方陣に垂れる。

「貴公の怒り、憎しみは分かる。それは怒りを上げなければならないことだ。
 しかし、ここはあえて怒りを押さえて、私と共に来てもらえないだろうか!?」
「ふっ……!!」
レッドアイズの顔が怒りに塗れる。
それはそうだ。家族を殺されて、怒りを忘れろなんて無理だ。
だって、僕がそうなのだもの。
しかし相手の反論をここではまだ聞けない。
僕は被せるように続きを言った。

「私と一緒に来ていただけるなら!貴公の家族の弔いは私が責任をもって行う!
 そして、貴公を我が国で重用しよう!それだけの魔力があるなら、貴公には価値がある!」
「うるさい!うるさいっ!うるさいんだよ!
 価値なんているか!弔いがどうしたっていうんだ!
 許せるか!許せないんだよ!人間が!この世界が!!!
 私を一人にした……この世界が!!!」

レッドアイズが、怒りのままに叫ぶ。
やはり、聞く耳は持ってくれなかったか……

「…お前も目障りだ。やっぱり殺す。」

レッドアイズがゆっくりと僕の方に近づく。
しかし、僕は既に策を仕込んでいる。
先ほどから魔方陣に血を………いや、魔力を垂らしているのだ。
かつての強さではないとはいえ、起動するには十分。
あとはレッドアイズが領域に踏み込めば……!

ペタ、ペタと一歩ずつ近づいてくるのが分かる。
あと3歩…2歩…1歩………こいっ!

「気づいてないとでも思ったの?
 封印の魔方陣を起動してるだろ?」

僕は最後の1歩を見ていたはずなのに、今僕は後ろから囁かれていた。
そして、目の前のレッドアイズはぼやけて消えた。
幻覚だったのだ。僕は……あっさりと騙されていたのだ……

「どうせ出任せだと思ってたよ。
 死ね。」

僕の後ろから殺気が溢れる。
首にしろ、心臓にしろ何にしろ…
僕は死ぬだろう。間違いなく。
父上とリーザに対し懺悔の言葉を並べつつ、襲い来る死を待っていると、
急に殺意が消えた。


「……ナニしてるのよ」

885魔王様の作り方 ◆STwbwk2UaU:2011/06/29(水) 01:42:53 ID:Hvw9jVvw
深く、低い声。
僕の知っている可憐な少女は、こんな声を出さなかった。
逃れた死を噛みしめつつ、
そして信じたくない現実を確かめるために僕は後ろを向いた。

そこにはリーザがいた。
目は泳ぎ、光はなく、ずっと敵のほうを見つめているリーザがいた。
レッドアイズは壁際に吹き飛ばされていた。
そのほほは少し赤く、口からは真っ赤な血が流れていた。

――殴ったのだ。殴っただけで壁際まで一気に吹き飛ばしたのだ。

「私の友達にナニしてるの?私の友達を傷つけるの?私の友達を殺そうとしたの?
 アガトはね、私の友達なの。あなたの友達じゃないの。あなたはアガトに攻撃する権利なんてないの。
 あなたはアガトと仲良くすることも許されないの。あなたは私のアガトに触る権利もないの。
 アガトは私だけ。私だけが友達なの。あなたは友達になれないの。
 私だけがアガトと友達になれるの。私だけがアガトと親しくなれるの。私だけがアガトと触れ合ってもいいの。
 私だけがアガトを攻撃してもいいの。私だけがアガトを殺してもいいの。私だけが、私だけが…私だけが…」

…リーザがブツブツと何かを言っている。
よく聞き取れないが、僕の名前がところどころ何回も出てきている。
僕の心配でもしてくれたんだろうか?

「この……人間風情が…っ!!」

レッドアイズが再度リーザの胸を貫くために突撃してくる。
しかし、リーザはその腕をつかみ、反対側の床に叩きつけた。

「……がっ……ぁ…!」

「あははははっ!殺すわっ!あなたが私の友達に手を出すなら!
 ふっ……ふふ……あはははははは!殺す!殺すわ!!」

886 ◆STwbwk2UaU:2011/06/29(水) 01:44:24 ID:Hvw9jVvw
投下終了。
戦闘シーン難しい……
違うジャンルにすればよかったか

887狂宴高校の怪:2011/06/29(水) 02:15:23 ID:21/OMUIY
>>879 よく決まりを読んでいませんでした。すいませんでした。

区切りがよくなったので第8話投下します。

888狂宴高校の怪 第8話(強襲編):2011/06/29(水) 02:16:30 ID:21/OMUIY

 今日は学園祭前日、ケンゴウ君の嘔吐以来、何事もなく無事に終わった。
 クラスの皆は、明日の学園祭成功を願って、前夜祭が行われている。もちろんコイル君も参加している。
「・・・こんなもので・・・。」
 あの日、私は小瓶を渡された。その中身が何なのかは知らないが、コイル君か、その回りにいる邪魔な人の飲み物に混ぜて飲ませろと言われている。
 こう言われるていると、小瓶の中身が何かが想像がつく。
 もし中身が予想通りなら、いつも妄想でしていることが出来るということだ。
 ・・・また濡れちゃった。

――――――――――

 パァン!パァン!パァン!
 花火が空に打ち上がる。校庭にはたくさんの人が笑顔で歩いている。
 しかし、何だが腑に落ちない。多分、同じことを二人も思っているだろう。
「なぁ葉久保。何で俺達三人は喫茶店内で待機なんだろうな。」
「・・・シドウとお呼びなさい、仕方無いでしょう・・・それが学級委員長の決めたシフトなんですから。」
「で?俺達は何の仕事だったっけ?」
「簡単に言うと、治安維持ですね。」
 コスプレという男のロマンが蔓延る空間。暴走する人が現れてもおかしくはない。ていうか必ずいる。
 まぁ、そんな人を平和的に静めるのが俺達の仕事だ。
 いるか?この仕事、ていうか役職。

889狂宴高校の怪 第8話(強襲編):2011/06/29(水) 02:17:21 ID:21/OMUIY

「あ!お兄ちゃん!ナオさん!」
 笑顔でコスプレ喫茶にやって来たのは、俺の妹、能登ノマルだ。
「あ!ノマルちゃん!」
 笑顔のノマルの横に、見覚えのある顔が見えた。名前は・・・。
「幼馴染みの名前ぐらい、すっと出てこないのか?君は。」
 この感じだ。シドウやチバタに似た雰囲気、いや、どちらかというと二人より質が悪いかもしれない。
「覚えてるに決まってんだろ?一年後輩の幼馴染み、旗鷲マナカだろ?」

「ナオさん!マナカも私達の幼馴染みなんですよ。」
「そうなんだ。マナカちゃん、よろしくね。」
「こちらこそよろしくです!ナオさん!」

 二人が来たことで暇を解消できた。おかげで、一日目は何事もなく終了した。よかったよかった。
「あれ?皆は?」
「私達以外皆帰りましたよ。」
 今教室にいるのは、俺とケンゴウとシドウとナオ、そして従業員スペースのクド、この五人だ。
「皆、お疲れ様です。」
 談笑していると、クドがコーヒーを人数分持ってきてくれた。
「お!気が利くな!流石はクドだ!」
 疲れて喉が乾いていたのもあり、俺達はコーヒーを一気に飲み干してしまった。
 今日は本当に疲れた。ナオはともかく、ただ座っていただけでもかなり疲れるものだ。
 一日が終わった安心からか、まぶたが重くなる。そろそろ帰らなければな、と思った直後、俺の頭から意識がこぼれ落ちた。

890狂宴高校の怪 第8話(強襲編):2011/06/29(水) 02:18:35 ID:21/OMUIY
――――――――――

 う・・・ん。白い天井と蛍光灯が見える。
 体を起こす。どうやら教室で寝てしまっていたようですね。横にはナオさんとケンゴウ君がいる。僕より少し遅れて目を覚ましましたね。
「あれ?クドとコイルがいないな・・・。」
 ケンゴウ君が周りをキョロキョロしている。確かに姿が見えませんね。
「先に帰ったんではないんですか?」
 時計を見ると、7時を回っている。夏が近いのでまだ外は明るい。
「では私達も帰りましょうか。」
 僕達三人は、眠い目をこすって教室を出た。

――――――――――

 視界がゆっくりと明るくなる。電球の光が眩しい。
「今日ぐらい学校で一夜を過ごすか・・・。」
 俺は再び目を閉じた。

 ん?電球?学校は蛍光灯のはずだぞ?
 目を開け、体を起こそうとした。

 ジャリ!

 ん?四肢に感じる金属的な感触。起こせない上体。
 もしかして俺、捕らわれてる?俺を動けなくしているのは、間違いなく手錠だ。
 ていうかその前に、ここはどこだ?意識がはっきりしていないから、まだ天井がぼんやりと見える程度だ。天井の色的には俺の部屋っぽいな。まさか誰かが、俺を家まで運んでくれたとか?それなら、何で俺は手錠で動きを制限されているんだ?

 色々考えていくうちに、視界がハッキリしてきた。俺は視力がいい方だから、見えるようになれば、動けなくても多少なら情報を・・・。

・・・・・・・・・。

 えっと、間違いない!ここは俺の部屋ではない!
 俺は自分の部屋、しかも天井に、自分が写っている写真を大量に貼ったりはしないからな・・・。

891狂宴高校の怪:2011/06/29(水) 02:19:33 ID:21/OMUIY
投下終了です。

892雌豚のにおい@774人目:2011/06/29(水) 03:07:56 ID:gPrD2Ai.
>>886
リーザかわえええ
GJ!

893雌豚のにおい@774人目:2011/06/29(水) 10:14:57 ID:xPcAVh2s
>>886
GJ!!
こ、こえぇ…これがリーザ…今まで友人と呼べることがいなかったんだな

894雌豚のにおい@774人目:2011/06/29(水) 20:03:14 ID:eX3doFZI
>>886
リーザ覚醒か。
これからが楽しみ!
GJですよ!

>>891
狂宴さんもGJでした。

895狂宴高校の怪:2011/06/29(水) 21:02:18 ID:21/OMUIY
第9話投下します。

896狂宴高校の怪 第9話(強襲編):2011/06/29(水) 21:03:33 ID:21/OMUIY
――――――――――

 俺達三人とナオは、昨日働いたから今日は自由だ。やったー。
 しかし、昨日ちゃんと待ち合わせの場所を皆で決めたはず。コイルもシドウもナオも、まだ来ていない。
「あいつら・・・どこにいるんだ?」



「ケンゴウ君!」
 メールしようと携帯を手に持った時、不意に後ろから声をかけられた。
「葉久保!・・・どうしたんだ?」
 後ろにいた葉久保の顔は、焦りと不安の色が強く出ていた。
「シドウとお呼びなさい!コイル君が学校に来ていないんですよ!それどころか、昨日は家にも帰っていないそうです!」
 は?コイルは先に帰ったんじゃ・・・?
「妹さんやクラスの人にも聞きましたが、誰も知らないと言っていました。今、ナオさん達も聞き込みを行っています。」
 あの馬鹿が学校にいない?行方不明ってことか?



「シドウさん!ケンゴウさん!やっぱり誰も知らないみたいです!」
 向こうから、コイルの妹さんと、ナオとマナカが走ってきた。
「一年生と三年生にも聞いてみたんですが、答えは同じでした。」
 話を聞けば聞くほど、謎は深まる。いったいどこに行ったんだ・・・?



「ん?聞いてない人がまだいるぞ?」
 不意にマナカが手を叩く。
「今日休んでいる人には聞きようがない。」
 今日休んでいる人・・・?昨日の出来事・・・。あれ?
 シドウと目が合った。多分同じことを思ったのだろう。

「クドだ!」

897狂宴高校の怪 第9話(強襲編):2011/06/29(水) 21:04:25 ID:21/OMUIY

「クドさんは私達が眠りにつくまで、私達といました。つまり一番結論に近いのはクドさん。」
 シドウが、妹さんとマナカに昨日の出来事を話した。
「マナカさん!ヒントをありがとうございます!」
 そういって、シドウは入り口に向かって走っていった。
「おい!?どこ行くんだ!?」
 追いかけようとしたら、後ろから袖を掴まれた。
「ケンゴウ君!私のおかげだぞ!ご褒美に私の頭を撫でろ!」
 何だよ急に・・・。マナカはキラキラした目で俺に上目遣いをする。すまんが萌えない。
 しょうがないから頭を撫でてみる。茶髪の髪がサラサラと少しだけ乱れる。
「うん!やはりケンゴウ君に頭を撫でられるのが一番落ち着くな!」
 無視して頭の上においていた手を離し、シドウの後を追った!

――――――――――

「私達も後を追いましょう!」
 ケンゴウ君を追うようにして、私とノマルちゃんとマナカちゃんも駆け出した!
 ん?マナカちゃんの走り方がぎこちない。何でだろう。若干内股になっている。

――――――――――

 予想通りでしたよ。彼の今回の事件、やはり彼が関わっていました。
 数分前、私は彼に会いました。
「コイルを探しているのですか?」
 柱にもたれかかりながら、走ってきた私に声をかけたのは、
「やはりあなたでしたか。チバタ君。」

898狂宴高校の怪 第9話(強襲編):2011/06/29(水) 21:05:31 ID:21/OMUIY
――――――――――

 何の冗談だ?天井には俺の写真、ベッドの上にも俺の写真、机の上にも俺の写真。周りの全てが俺の写真ばかりだ。良い気はしない。なれるわけがない。
 ていうか誰の部屋だよ。インテリアとかを見るからには、女子の部屋に見える。

ガチャ!

 突如入ってきた、威圧感のある黒髪と眼鏡、ナイススタイルの女子。
「クド?じゃあ・・・ここはクドの部屋?」

 ていうかクドの服装はなんなんだ?これは・・・間違いない!コスプレ喫茶でクドが着ていたメイド服だ!
「えへ!気に入ってくれた?私のメイド服を一人で堪能できるのはコイル君だけだよ!」
「何だよ?何の冗談だ?誰に言われた?シドウか?ケンゴウか?チバタか?」
「ちょっと正解。チバタ君がきっかけを作ってくれたの。でも安心して、あなたを独り占めしたいって言う気持ちは本当だから。誰かに言われたからじゃないね。」
 最高の笑顔で俺の上に乗ってきた。
「ずっとこうしたいって思ってたんだ!やっとコイル君と一つになれるのね!私嬉しい!」
 クドが上体を倒す。俺の胸の上にクドの胸が押し付けられる。
「私の胸、大きいでしょう?でもこの胸を好きにできるのはコイル君だけだよ。」
 さらに押し付けが強くなる。かなり柔らかい感触だ。

 しかし、四肢を拘束する手錠と、光の欠片すら見られないほどに暗さを表に出したクドの瞳。その二つのせいで、いや、その二つのおかげで、俺の息子が元気になることはなかった。

899狂宴高校の怪:2011/06/29(水) 21:06:12 ID:21/OMUIY
投下終了です。

900雌豚のにおい@774人目:2011/06/29(水) 21:12:55 ID:it/2dbeA
GJ

901雌豚のにおい@774人目:2011/06/29(水) 23:02:25 ID:s/VViZd6
gj!

とうとうここも900いったか……!

902雌豚のにおい@774人目:2011/06/29(水) 23:50:46 ID:y0NWFlkA
 
――終業のチャイムが鳴り、人もまばらになった教室を後にして廊下の窓から外の様子を窺ってみる。

数日の曇り空続きからここにきて

「今日はついに、雨か…。」

こう天気が悪い日が続くと少しダレてくる。
時期が時期だし、朝に天気を確認して傘を持っていくなんてことをしない僕は濡れて帰るしかなさそうだ。

「…あぁ、くそ。ちょっと眠いな。 数学なんか真面目に受けるんじゃなかった。」

ぼやきながらあくびをひとつ
6時限目の数学は例外なくダルい、嫌いな科目が最後ってのは何かと辛いものがある。

それはそれとしても
僕の通うここは地方の普通科の高校で、二年生の僕は夏休みが終わるまではそうあくせくする必要もない。
夏が終わればそれなりにやることもあるのだろうけど、そう思えば今はこのけだるさもどこか心地よく感じられる。


「…くぁ…眠いな、ホント」


昇降口で帰り仕度をしていると、後ろからよく通る低めの女性の声。

「嫌味なあくびだね。」

聞き覚えのある声にふりむいて挨拶する。
「どうも、日比野さん。気に障った?」

スポーツバッグを肩から下げた女子生徒は首を横に軽く振ると
「いや、別に。声をかける口実が欲しかっただけだよ、あんまり気にしないで。」と付け足した。


この女子生徒、日比野 明日嫁(ひびの あすか)さんは僕がクラスの中で口をきく数少ない人の一人だ。
女子の席は基本的に男子と同じ列にはならないのだが、男子と女子の数が合わず、総数が奇数なら最後尾に
ズレがでる。その最後尾にいるのが彼女で、そこは僕の後ろの席でもあるのだ。

「なにか用事があるってことかな?」

「頼みたいことがあるんだ。」

そういうと彼女はぐっと近くに寄って、耳元でいつものお決まりのセリフをささやいてきた。

「剣道部に入部してくれ。」

「嫌です。」

このやりとりは、何かと理由をつけて彼女から持ち出される
日比野さんは剣道部で副部長というポストに就いていて、真面目に部活に打ち込む体育会系少女…なのだが
残念なことに、剣道部には部員は二人しかいない。日比野さんと、三年で引退間近の先輩だけだ。

同情をさそう申し出に最初のうちは理由を説明し、丁寧に断っていたが。
何回目とも知れないこのお願いにもう遠慮はない。


「もう少し考える余地はあると思うんだが…小岩井くん。」


小岩井というのは僕の名前だ、小岩井 樹(こいわい いつき)。


「お願いがが断られたときってのはたいてい落ち込むものだよね。じゃあ、さようなら。」

「そういうことを訊いてるわけじゃないよ、小岩井くん」

「理由ならもう何回も説明してるしさ。運動は、苦手なんだよ。」


おなじみになってしまってはいるが、断った時 
いつも日比野さんは悲しんでるような、怒っているような微妙な表情をする。


「部活って高校から新しいことを始めようって人は少ないし、僕は二年だから…。」

「う…流石に冷たいんじゃないか? 私達の部は初心者にも丁寧にだな…」


日比野さんは落ち着き払った口調と声に似合わず、外見は子供っぽい印象を受ける
目は瞳が大きく、はっきりとした二重。深い目の黒からどんぐりまなこ という言葉を連想させる。
鼻と口は小さく、幼さを強調している。
だから、そんな表情の彼女はよりいっそう幼く見えてしまう。

髪は、体育会系らしくぎゅっと後ろで高めの位置にまとめてポニーテールにしているようだ。
剣道をやっているというだけあって身の丈は平均より高い。

思春期の少女、という観点でみるとすこし・・・控えめな身体をしている。
実に日本人らしい、可愛らしい人だ。 思っているだけで、口に出したことはないが…。


「一年生がこないなんて災難だったね、世の中思うようにならないことばかりです。」

「はぁ…君が入ってくれさえすれば、一年生がいようがいまいが…」
そんな意味深な言葉を眉をひそめてつぶやく。

「かまってほしいんですか?」

「そういう言い方は好きじゃない、もっと意識してほしいってことだよ。」


相変わらずこの人はよくわからない、おっと・・・もう20分近く話してる 帰ろう。


「そういう言葉は人を勘違いさせると思うよ? じゃあまた明日。」


この言葉と、表情も入部者を得るためだとしたら ずいぶんしたたかなものだ。
そうして僕は雨の中を歩き始めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

903又、雨が降ったら:2011/06/29(水) 23:53:54 ID:y0NWFlkA
申し訳ありません、投稿宣言があべこべになってしまいました。
投稿させていただきます。 いい雰囲気だったのに本当申し訳ない…。

904又、雨が降ったら:2011/06/29(水) 23:56:58 ID:y0NWFlkA
902の続きから


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 
雨の中を遠ざかっていく後ろ姿を見送りながら、私はひとりごちる。


 口元がすこし緩む


「たかだか20分、毎日のように同じことでも 私には・・・。」


 頬がほんのり熱い


「必要な時間なんだよ小岩井くん・・・。」


 目が潤んでるみたい


「変な奴だよな・・・私は。」

雨の霧の中に小岩井の姿が消えるまで見送って、私は校内へ引き返す。



校舎から部室棟へ行く途中、私は彼への気持ちを整理する
一人で勝手に舞い上がってしまうのは、恥ずかしいから。

席が後ろになったのは偶然だし、そうならなければ例え同じクラスでも挨拶程度の関係だったろう。
彼からしたら今、この付き合いも挨拶程度なのかもしれないけれど
そう思うと、鉛でも飲み込んでしまったように胸が…苦しい。

クラスでも彼と話すのは私ぐらいだし、そんなことはない そう思いたい。
こんなフクザツな心境になるのは、彼に普通じゃない感情を持っているからだ。

きっかけは昼食だった、彼はいつも一人でいる。 かくいう私も、昼食をともにするほど仲のいい友達は…。

教室にいると私のようにグループに交じれない人はどこか居心地を損ねる。
それで、どこか静かで人通りの少ない場所で昼食にしよう、と教室を出た。


校舎北側の3F実験室前を下った踊り場

ぴったりの場所だった、日当たりが悪く 
部室棟に用がなければこの時間は南側の方が食堂、購買に近いから人はほとんど通らない。

弁当箱を持って1Fの自販機でお茶をかってから階段を上がっていくと踊り場の長椅子には


彼― 小岩井 樹が居た。


先客。

もし、彼が私と同じ思惑でここにきていたなら私は邪魔だろう。

そのまま3Fに上がろうとした時
彼は黙って長椅子をさっと手で払うと端に移動した。人一人が座るのに十分なスペースを空けて。

単に身の回りを改めただけかもしれない、そこに座るのを許されたわけでも…。

でも、と 私はそこに腰かけた。

それがはじまり

私はそれから毎日 彼に同じ場所で出会った。


なんとはなしに声をかけて、それに彼は「あー…」とか「ぇー…」と不器用に応答を返してくれようになり。
気がつけば先ほどのようなやり取りもできるようになった。


ロマンチックだとか、運命的だとか そんな言い方では笑われてしまうだろう。
もっと無機質で、渇いた出会いだったけれど
ほんのすこしづつ、彼のことを知って。だんだんと、彼に・・・彼のことが、私は好きになっている?

彼は私のことをどう思っているだろう、どうか すこしでいい

楽しいって また会いたいって 思ってほしい。 私がそう 思うように。



最後の結論はいつも出せない、まだ…出したくない。
…だからぴったりとその先を考えてしまう前に着く、この部室を私は気に入っている。







――――――――――――――――――――――――――――――――――

905又、雨が降ったら:2011/06/30(木) 00:02:01 ID:P8fzSVgs
――――――――――――――――――――――――――――――――――




 

 雨に濡れることも、どこかへ寄るつもりもなければそう気にならない。
家への道のりは、存外そう不快なものでもなく
通りの人の少なさ 雨音を楽しみながら帰れるほどだった。



「そろそろ暑くなってきたとこだし 涼しげでいいな、こういうのも」


「そうね、なかなかいいこと言うわ。粋よね、こういうのも」


 妙に耳のなかに反響する上等のピアノのような声。


いきなり顔の真横から聞こえた声に驚き、思わず振りむいて後ずさる。
視線の先には女の子、それも うちの高校の制服だった。



自分と同じように長い時間、雨の中に居たのだろうか 薄く茶に染めたロングヘアからは滴が垂れていた。
切れ長の目、高くすらりとした鼻、三日月のような口、少しキツそうな印象を受ける娘がこちらを見つめている。

「ね、少しいい? 座って話さない?」彼女は、そういうと少し離れた位置にあるバス停を指差し、けらけらと楽しげに笑っている。
そこまで僕の驚き方は滑稽だったろうか、地面の水たまりに移る自分を見る。

…うん、なんというか…なんだろう、確かにそうほめられたものじゃないけど人に笑いを提供するほどではないと思いたい。


「うつむいちゃって どーかした?」
身を屈めてこちらを覗きこんでくる。

「いえいえ、なにぶん突然で何が何やらって感じでね」
どうにも「マニュアルどうりにやっています」という典型である自分は誰かに判断を仰ぎたい気分である。

「傘、持ってなくってさ それで歩いて帰ろうかと思ったんだけど」


ぐっといきなり手を引かれた。
これはこれは…あー…ぇー……。

「せっかく通り道にバス停があるじゃない?だったらバスに乗ろうって思ったのよ」
そうですか。と、声にならない応答を返す
どうも僕は馴れない状況ではとことん使えない奴らしい。

「でも時刻表が湿気でベロベロで読めなくてね、待ってるあいだ暇だから少しはなさない?ってそーいうこと」

わざわざ説明してくれるのはいいけど、聞いてみれば随分勝手な話だ。

しかし、もう断るタイミングを完全に逸してしまっているようで
涼しい顔の彼女はベンチに腰掛け

「あのさ、あたし日和っていうんだ 春日 日和(かすが ひより)。」

「あ、僕は樹…小岩井 樹です。」

いかん…自己紹介を許してしまったぞ、これはもう逃げられないな。

906又、雨が降ったら:2011/06/30(木) 00:03:38 ID:P8fzSVgs

「このくらいの雨だったら、気もちがいいよね。昨日があんなに蒸し暑かったのが嘘みたいでさ。」

そこで彼女、春日さんを改めて見てみると
だいぶ…目のやりどころに困ることになっていた。

当然、6月の半ばとあれば制服を義務付けられている中・高は衣替え。生徒のほとんどは夏服になる。

薄く、通気性を重視した半袖の制服が雨に降られれば当然、生地が肌に張り付いて…。
まぁ、その 透けてしまう。 うちの制服だって例外じゃない、彼女の制服もばっちりピタピタだ。
身体の起膨から察するに彼女は、かなり発育の良い方なのだろう。

でも、不思議とそういうやましさとかうすら暗いものと春日さんは無関係に思える
彼女の横顔をみているとそういう気持ちは萎え、不自然に意識するようなことはなくなっていた。


「雨もね、ずっと降ってるとありがたみが無くなっちゃうけど。」


 春日さんは空を覆う雲を見ながらゆっくりと話す。


「もうちょっと季節が進んで夏になればさ、夕暮れに降るどしゃぶりがすんごい気持いいんだ。」
指をちょい、ちょいとうごかして顔にかかった髪をほどきながら楽しそうに目を細める。


「でも、この時期の雨も優しくて好き。」


そう言い終えると、しばらくの間 雨がトタンの屋根を叩く音が静寂を満たしていった。

「確かに、優しいって言い方 しっくりきますね。」

ぼんやりと思ったことを口に出してみる。

すると、彼女は笑顔でこちらを振り向いた。

「雨の良さを分かってくれる人はなかなかいないんだよね、みーんな雨 嫌いみたいなんだ。」
彼女は雨に対する気持ちが同調した言葉が嬉しかったのか、ぼやきながらも笑顔のままだ。

肩の力が抜け、つられて半笑いになる
「僕みたいに一人でいれば、雨が恨めしいってこともないんでしょうけどね。」

「なんだそれ。くふっ…ははは」
半ば冗談とも言い切れない冗談を彼女は気に入ったようで、出会ったときのようにけらけらと笑った。


会話に一区切りついたとき
霧雨の向こうから大きめの車体がこちらに徐行してきた、バスが来たのだろう。


せっかくだ、幸い家の方面へまわってくれるようだし。予定からは外れたけどこのバスで僕も帰るとしよう。


なるだけ身体の水滴を払い、小銭を取り出す。

「ほいじゃ、乗ろうか」

彼女が先立ってステップに踏み出す。

「あ、後ろの方 空いてるみたい」

そういうと彼女は、またも僕の手を引いて隣に座る。

「あたし、窓際ね!」そういうと窓の外を微笑みながら眺め始めた。


なんだか小学生のようで気恥ずかしさを覚えたが、彼女を見ているうちに それでもいいかと思えた。

今のところ彼女について分かるのは名前と、雨が嫌いではないってこと。
窓の外、流れる風景に満足げで さっきとは一転 口を閉ざした彼女はどこで降りるのか

同じ学校でも名前だけ知っているくらいでは何処の誰かなんてことは分からない。
この出会いからの関係が明日以降も続くとは限らない。

だからそれ以上のことを彼女に聞いたり、ましてや「また会えるか」なんて柄じゃないことはきかなかった。



又、雨の日に会えたら
そのときにきいてみよう 春日 日和 彼女自身のことを。
そして話そう、僕のことも。

907又、雨が降ったら:2011/06/30(木) 00:04:50 ID:P8fzSVgs
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 バスがブレーキランプを消し、徐々に速度を上げて停留所を去った時
すこし離れた位置に乗り遅れてしまったのであろう女子生徒が肩で息をしながらそれを見送っていた。



「誰……。」


「その人は…誰なんだい、小岩井くん。」




そこにいたのは日比野 明日嫁だった。
最後列に並ぶ二人を見る彼女の目は仄暗く、心なしかバスが遠ざかれば遠ざかるほど、雨は激しくなるようだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

908又、雨が降ったら:2011/06/30(木) 00:10:07 ID:P8fzSVgs
一話の投稿を終わります。

開幕やらかしてしまい申し訳ありませんでした。

909雌豚のにおい@774人目:2011/06/30(木) 00:15:57 ID:DijtxKJc
GJ!
続きが気になります

910雌豚のにおい@774人目:2011/06/30(木) 01:21:33 ID:vA40P4/Q
GJです!

911雌豚のにおい@774人目:2011/06/30(木) 03:49:38 ID:Rz0oaIdQ
GJ!!
すごく続きが読みたくなる第1話でした!期待してます!

912雌豚のにおい@774人目:2011/06/30(木) 18:31:49 ID:Ftf4NYnI
そろそろ次スレだけどどーすんの?

913雌豚のにおい@774人目:2011/06/30(木) 20:11:26 ID:L0DJw.QM
ここは新しいスレだからな…教えて!管理人さん!

914避難所の中の人★:2011/06/30(木) 21:31:39 ID:???
まだ早いと思うのですが 960-970あたりで良いかと

1スレ2000レスまで拡張できますがどうします?
容量制限はないっぽいので拡張しても問題ないと思います

915雌豚のにおい@774人目:2011/06/30(木) 21:46:27 ID:ZllFG5UU
スレが長すぎると、表示に時間がかかるし見づらいので
自分としては新しくつくったほうがいいかなーって気持ちです

916避難所の中の人★:2011/06/30(木) 22:18:46 ID:???
>>915
専ブラ使おうぜ!

…冗談はここまでにしてじゃあ960あたりで立てますかね

917雌豚のにおい@774人目:2011/06/30(木) 22:19:06 ID:O/lgZ6tE
管理人しかスレを立てられないの?

918雌豚のにおい@774人目:2011/07/01(金) 00:10:33 ID:2pWRwy6E
前のスレと形式が違うからな…現段階では管理人さんしか立てられんだろう

919狂宴高校の怪:2011/07/01(金) 19:23:10 ID:7pZXR1rY
第10話投下します。

920狂宴高校の怪 第10話(強襲編):2011/07/01(金) 19:24:30 ID:7pZXR1rY
――――――――――

「なるほど、この間の事件の時に協力したので、今回は敵になるというわけですね。」
 チバタ君はゆっくりと頷いた。
 変と思うかもしれませんが、彼はこういう人間なのです。彼が何より大事にしていることは、自分が“同率の立場の人間”だということです。妹さんの件で、彼は僕達の味方になってくれたので、今回は僕達の敵になるということになります。つまり彼は、どちらか一方に肩入れをしない、両者に平等に情報や手段、きっかけを作る。平等主義、という言葉が、彼にぴったりなのかもしれないですね。
「シドウはあの時、コイルが有利になるきっかけ作りを私に頼んだ。だから次に私がやることは、コイルが不利になるきっかけを作ること。」
「では、この件が続いている今、依頼人である私の質問に答えることは出来ないということですね。」
 やはり彼は難しい。幼馴染みが行方不明になっていても、自分のポリシーを曲げない頑固者ですからねぇ。

――――――――――

「じゃあ俺になら教えてくれるだろ?」
 これは意外だ。コイルと並ぶめんどくさがり屋のケンゴウが、私に協力を申し込むとは。
「お前が敵になっても構わないから、とりあえずコイルのこと教えてくれ。」

「そうですね・・・。彼は今、クドの家にいるでしょう。」
「そのクドの家はどこだ?」「案内しましょう。後ろにいる方々も同行しますか?」
 いつのまにか、ナオさん達がシドウとケンゴウの後ろに立っていた。
「はい!一緒にいかせてください!」
 ナオさんの目、どうやら本気のようですね。
「しかしナオさん、あなたは現実を受け入れる覚悟がありますか?」

「え?」

「今回の件はナオさん、あなたにも責任があるのですよ。」

921狂宴高校の怪 第10話(強襲編):2011/07/01(金) 19:25:29 ID:7pZXR1rY
――――――――――

 私に・・・責任?どういうことなのだろう。
「あの・・・どういうことでしょうか?」
「言葉通りの意味です。」
 チバタ君の言葉に重みを感じる。まるで、私を否定しているかのように。しかし、彼が懐かしんでいるようにも聞こえる。

「今回の件はクドさんの嫉妬によるものです。その嫉妬の対象、それがあなたなのです。」
 え?クドさんが私に嫉妬?
「そんな・・・。」
「クドさんは本気です。必要とあらばあなたを、いえ、私達を殺しかねません。そんな彼女と会う覚悟がありますか?」

 一拍おいて、私は答えた。
「はい、覚悟はできています!」
「彼女は本気ですよ?」
「私も本気です!ですが、出来ることなら彼女とわかりあいたい。彼女の痛みが私に向かって放たれるなら本望です!」
 チバタ君は一拍おいてから、クスクスと笑い始めた。
「どうやら心配無用でしたね。あなたの覚悟、しっかり受け取りました。」
 チバタ君は笑いをやめないまま、私から視線を外した。
「あなた達が守ってあげてください。彼女を。」
「当然だぜ!」
「そうですよ!」
「ナオさんを守ります!」
 皆、一丸となっている。私も笑みがこぼれた。

――――――――――

 皆が笑いあっている中に、彼女はいる。私は再び彼女に目を向けた。
「やはり似ていますね。あの人に。」
 本当に瓜二つだ。まるであの人を見ているみたいだ。

922狂宴高校の怪 第10話(強襲編):2011/07/01(金) 19:26:21 ID:7pZXR1rY
――――――――――

「何で?何でなの?私じゃ興奮してくれないの!?ねぇ!何か答えてよ!」
 色の無い目が迫る。完全に萎縮してしまった。今の俺の息子は何があってもたたないだろう。
「やっぱり私じゃなくてナオさんの事が・・・。何で!?何でなの!?答えてよ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!」
 ぐっ!首を絞めてきた!息が出来ない!
「やっぱりナオさんが・・・。ナオさんがいるからいけないんだ!あんなやつ!殺してやる!」
 ナオを殺す?何を言っているんだ?ていうかさっきから何でナオが出てくるんだ?
 ヤバイ・・・。酸素が入ってこない・・・。このままじゃ・・・。

ガチャ!

 誰かが入ってきた!それは、いつも学校で見てる顔。
「コイル君!クドさん!」
 待っていたぞ!シドウだ!その後ろにはいつもの面子だ!



あれ?



 何だ?この感覚・・・。頭の中の違和感。その中に皆がいる。今みたいに顔面蒼白で。
 これは・・・。昔の記憶?しかし・・・こんなことあったっけ?駄目だ・・・思い出せない・・・。
 ていうか違和感の中の俺は・・・何で皆に顔面蒼白で見られているんだ?
 俺は・・・何か大事なことを忘れている気がする。この状況に似たような経験を。皆を巻き込んだであろう経験を。
 しかし、いくら考えても出てこない・・・。

――――――――――

「何で?何で皆がいるのかな?」
 クドの顔が恐い。色の無い目が特に恐い。
「でも残念ね。今から私がコイル君と繋がっちゃうからー!」
 繋がる?まさか!?

 予想は当たった!クドは着ていたメイド服を脱ぎ始めた!おいおい!皆の前だぞ?
 皆が呆気にとられ、声も出せない状態にいる中、クドが声を発した。しかしそれは、挿入したことによる喘ぎ声ではなかった。

「あれ?おかしいなー?私処女なのに痛くないよー?血が出ないよー?何でかなー?」

923狂宴高校の怪:2011/07/01(金) 19:27:26 ID:7pZXR1rY
投下終了です。第11話は後で投下するかもです。

924雌豚のにおい@774人目:2011/07/01(金) 20:06:29 ID:7aozASO2
GJ!
クドさん……?

925雌豚のにおい@774人目:2011/07/01(金) 20:31:08 ID:2pWRwy6E
>>923
GJです
あんまりレイプ・NTRネタは控えた方が良いですよ。このスレではあまり好まれないですよ

926雌豚のにおい@774人目:2011/07/01(金) 21:18:12 ID:sVLp1hU2
GJ!!

>>925
気に障ったら申し訳ない。
控えるって言い方はちょっといただけないです。
スレ住人の好み以前に、そういうのは職人さんの自由じゃないですかに。


苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。
という注意書きがありますし、投下される職人さんはなるべく宣言を忘れないようにしましょう。
駄文失礼しました。

927雌豚のにおい@774人目:2011/07/01(金) 21:22:04 ID:2pWRwy6E
>>926
こちらこそ言い方が悪くて申し訳ないです。以前のスレでそういった事で大荒れしたもので怖くなってしまいまして

928狂宴高校の怪:2011/07/01(金) 22:15:13 ID:7pZXR1rY
注意書をしていなかったことで、皆様にご迷惑をお掛けしてしまいました。
本当に申し訳ございませんでした。

第11話投下します。
注意書
・レイプ描写あり。苦手な方はご遠慮ください。

929狂宴高校の怪 第11話(強襲編):2011/07/01(金) 22:16:25 ID:7pZXR1rY
――――――――――

 あれれ?何で?私は処女だよ?普通なら挿入したら血が出ちゃうはずだよ?痛いって皆から聞いたよ?最初はきつくて中々入っていかないらしいけど、するすると入っていくよ?
 どうして?私の体なのに分からない。私の体じゃないみたい。



何で?



「何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?」
 声に出しても分からないよ。私の体は私のもの?なのに分からない?じゃあ誰のもの?
 いくら動いても痛くないよ?はじめてなのに、はじめて・・・なの・・・に?





あれ?





「こ・・・ま・・・ちゃお・・・ぜ。」
「てき・・・まわし・・・ぜ。」
「おい・・・こい・・・」



「処女だぜ?」
「マジで!ウヒョー!はじめていただきー!」



「アアアアアァァァァァ!!!!!」
 挿入されたことで強制的に呼び戻される過去の記憶。
 やめて!せっかく忘れていたのに!呼び戻さないで!私を狂わせないで!これ以上狂わせないで!

――――――――――

 キーンコーンカーンコーン。
 チャイムが響き渡る。一人の少女が狂気の過去をめぐる。

930狂宴高校の怪 第11話(強襲編):2011/07/01(金) 22:17:30 ID:7pZXR1rY
――――――――――

「じゃあまた明日ね。」
 四年前、私は引っ越したばかりの新天地に慣れないでいた。新しくできた友達と別れた後は、手探りで家を探す。家が近くにあるのはわかるんだけど、中々帰れないでいた。
「えっと・・・。この辺りだったかな・・・?」
 全然分からない。どうしようかな、とりあえず家に連絡してみようかな。

 ん?私の後ろに人がいる?この辺りは人が少ないから、人の足音が普通より聞こえてくる。
 あれ?足音が速くな・・・。



「ん・・・。」



 頭が痛い・・・。道を歩いていたら、急に目の前が真っ暗になった。
 とりあえず起き上がろうかな。力を加える。しかし・・・。
「お嬢ちゃん、こんな時間に一人で歩いてたら危険だよ?」
 誰?このおじさんは・・・。ふと周りを見渡すと、このおじさん以外にも二人ぐらいいる。向こうからまた三人やって来た?合計で六人?
「おじちゃん達が夜の怖さってやつを女の快感と一緒に教えてあげるよ。ヒヒヒヒヒ!」

 どういうこと?何を言ってるの?何でおじさん達は私の前でズボンを脱ぐの?何で私の手を掴んで・・・私のスカートを脱がすの?
「いやぁ!誰か助け」
「おいお前!口に突っ込んで叫べなくしろ!」
 ぐぼぁ!見ず知らずのおじさんのが私の口に無理矢理!吐き出したいけど吐き出せない!誰か助けて!
「いけね!ローション忘れちまった!仕方ねぇ、いきなりいくか!」
 え?嘘!?はじめてなのに!はじめてなのにぃぃぃ!!!



ズボッ!



「ん”ん”ん”ん”ん”ーーーーー!!!!!」
 痛い!すごい痛い!誰か助けて!助けて!
「おぉ、すげぇきつい・・・。」
「おい!速くしろよ!」
 いやぁ!やだ!はじめてがこんなのなんて嫌だ!!!
私ははじめてを捧げたい人がいたのに!
 助けて!助けて!―――!

 あれ?何で?心に決めた私の好きな人、一生隣にいようと決めた私の大好きな人!
 何で?何で名前が出てこないの?



「―――!―――!―――!」
 いくら叫ぼうが、声は意味を持たない。彼の顔が、名前が出てこない!

「だいじょうぶ!くどになにかあったら!ぼくがまもるから!」

 幼少期に一緒に遊んでいた幼馴染み。ずっと好きだった彼。彼に想いを伝えられないまま、私は転校してしまった。
 その彼の名が言えない!守ってほしい!私を助けて!お願い!助けに来て!―――!―――!―――!

「うは!もう出そう!なかに出しちゃおっと!」
 いやぁ!―――!助けて!




 気づけば私は、近くの公園に倒れていた。私の下半身は、ぐしゃぐしゃになっていた。
 ・・・私は泣いた。泣くしか出来なかった。私は彼に励まして欲しかった。あの時みたいに私を抱いて、励まして欲しかった。
 今となっては名前も、声も、顔も、言葉も思い出せない。
 私は激しく泣いた。記憶に残るか残らないかのみの存在となった彼にすがるように。

931狂宴高校の怪 第11話(強襲編):2011/07/01(金) 22:18:37 ID:7pZXR1rY
――――――――――

「そっか、私、処女じゃなかったんだ・・・。」
 記憶がよみがえった。忘れていた四年前の記憶、失われし狂気の記憶。
「あは、あはは、あはははははははは!!!」
 笑いが込み上げてきた!もう私は彼を愛せない!絶望が波、いや、津波となって襲いかかる!

「クドさん・・・。」

 ナオさん?何で泣いてるの?

――――――――――

「クドさんの辛い気持ち・・・すごくわかります・・・。でもクドさん、あなたがやっていること、それも変わらないのではないのでしょうか?あなたは無理矢理コイル君を拘束した。」
「うるさい!あんたなんかに私の気持ちがわかるか!」
 私はクドさんの思いは分からない。でも、私は彼女の気持ちは分かる。
 クドさんの今の気持ちが分かる。クドさんは心のよりどころが欲しかったのだろう。それがコイル君だ。
「あなたがやっていることは、あなたに狂気を植え込んだ人達と変わりありません!」 いつのまにか、私の目からは涙が流れていた。自分でも止められないほどに流れる涙。
「クド・・・。」
 コイル君?

――――――――――

 コイル君の目が涙目に?私のために泣いてくれてるの?
「クドなりに辛い思いをしたんだろう。でも、それを俺達で共有すればお前も苦しまずに済む。クドが苦しむ時、俺達も一緒に苦しむよ。

大丈夫。クドに何かあったら、俺が守るから。」





 言葉の一つ一つが心を洗い流すかのようだ。
 私は今、コイル君に抱かれている。暖かい、この暖かさ、私の心を優しく包み込む。
「先の未来は誰にも分からないだろ?クド、お前が想い続ければきっと想いは届く。それが俺でも・・・な。」

「うん・・・うん!」

 私は彼に抱かれて泣いた。彼の胸の中が一番落ち着く。
「さ、学校行くぞ。夕方から発表部門の練習だ。」
「うん!」

 私は彼におんぶしてもらった。背中で私はまた泣いた。でも、あの時の涙とは違う。優しく、暖かい涙。
 彼は私の涙をずっと背中で受けてくれた。

 私は、そんな彼に懐かしさを覚えた。

932狂宴高校の怪:2011/07/01(金) 22:21:29 ID:7pZXR1rY
投下終了です。これで強襲編は終了となります。

933雌豚のにおい@774人目:2011/07/01(金) 23:49:09 ID:7aozASO2
GJ!
これはキツイ

934雌豚のにおい@774人目:2011/07/02(土) 02:22:31 ID:DRoE/xu2
うーん、やっぱりレイプネタは重いし、気分も悪くなるな……

935雌豚のにおい@774人目:2011/07/02(土) 10:59:10 ID:QsuiYt/k


>>934
気に入らない作品はスルー
その上今回は事前に注意書きしてくれてるんだから読まなければいいと思う
自分と作者とその他大勢のためにも

936雌豚のにおい@774人目:2011/07/02(土) 11:00:57 ID:lIQtAHs2
注意書きもあるのにわざわざレスするなんて馬鹿だろ…

937雌豚のにおい@774人目:2011/07/02(土) 19:22:38 ID:sBPcgnuI
連載途中の作品だとわかってても読んでしまうものなんだよ
短編とかで注意書きあったら飛ばすけど
連載で読み飛ばしたら話わかんなくなるからね
レスするのは全然別問題だけど

938狂宴高校の怪:2011/07/02(土) 21:38:53 ID:Zo99DcJs
第12話投下します。

939狂宴高校の怪 第12話(試練編):2011/07/02(土) 21:39:48 ID:Zo99DcJs
――――――――――

 学園祭三日目も何事もなく終わり、去年よりも長く感じた学園祭が終わりを迎えました。
 あれから三日後の朝、学園祭の片付けの日でしたかね。これは珍しい、チバタ君が僕達の教室の前にいるなんて。
「あれ?どうしたのです?」
「いや・・・見てればわかりますよ。」
 ひきつった笑顔を浮かべるチバタ君の目線の先には・・・。

――――――――――

 朝、私は教室でナオさんと話をした。色々と確かめたかったこともあるし・・・。
「ナオさん、話があるんだけど。」
「はい、何ですか?クドさん。」
 一番確かめたかったことを単刀直入に言う。
「ナオさん、あなたはコイル君が好きなんですか?」
「え!?そんな急に!」
 ・・・流石に突然すぎたかな?と思っていたが、決心したかのように顔を上げて答えた。
「はい、会ってまもないですが、私はコイル君が好きです。」
 ・・・ここまでまっすぐ言われるとなにも言い返せない。むしろ清々しくなってくる。
「そうですか。でも私は負けませんよ?油断してたらコイル君奪っちゃいますからね!」
「上等ですよ!」

――――――――――

 そんなわけでクドさんもナオさんも仲が良くなり、クドさんの暴走も終結。平和な日々が戻ってきました。
 そんな清々しい朝に、一つの違和感に気づきました。



「あれ?ケンゴウ君は・・・休みですか?」

940狂宴高校の怪 第12話(試練編):2011/07/02(土) 21:40:34 ID:Zo99DcJs
――――――――――

「あれ?本当だ。休みか?」
 シドウが指摘した通り、ナオをはさんで隣にいるべき男がいない。珍しい。
「そういえば例の事件の日の夕方から顔色が優れていませんでしたね。」
 あぁ、そういえば三日前の事が済んでから、確かにケンゴウは元気ではなかった。

「ねぇ、気になることがあるんだけど・・・。」

 発言したのはクドだった。
「私がコイル君のを挿入したときから、何か吐き気を耐えていたような顔をしていたんだよね・・・。」

 え?まさか準備期間中の吐き気と関係があるのか?
「私、お見舞いにいってみようと思うんだ。私のせいでケンゴウ君の体調を崩してしまったから・・・。」
「それなら私も行こう!」

 いつの間にかマナカが教室に来ていた。
「あぁそうだな。じゃあ皆で見舞いに行くか!」
 そう言ったと同時に、チャイムが学校中に響き渡った。

――――――――――

「え!ケンゴウ君って自活してるんですか!」
 クドとナオ、二人が同時に驚いた。
 目の前のアパートの一室、ここがケンゴウが一人で住んでいる部屋である。何回か遊びに行ったことがあるが、綺麗に片付いているケンゴウらしくない部屋だ。

ガチャ!

「あれ?お前ら、何しに来たんだ?」
 部屋を開けたら、すぐにケンゴウが目に入った。寝てはいるが、顔色はとても良い。
「お見舞いに来ました。体の方は大丈夫?」
「あぁ、体調はバッチリだぜ!明日から学校に行けるよ。」
 どうやら心配はないようだな。



「ケンゴウ君!こんなものを持ってきたぞ!」
 マナカが鞄から、クッキーを取り出した。
「ケンゴウ君のために作ったのだ!食べてくれ!」
「おぉ、ありがとうな。」
 そう言って、ケンゴウはマナカのクッキーを一枚食べた。

刹那。

「グボオオオォォォェェェェェ!!!!!!!!!!」

 言葉が出なかった。

941狂宴高校の怪 第12話(試練編):2011/07/02(土) 21:41:24 ID:Zo99DcJs

「ケ!ケンゴウ君!」
 クッキーを食べた瞬間に、ケンゴウは激しく嘔吐した。またもやケンゴウの謎の嘔吐。おいおい、この量は準備期間中の嘔吐の比じゃないぞ。床が濡れまくってぐしゃぐしゃになってしまっている。しかし、ケンゴウは嘔吐を止めない。
「大丈夫かケンゴウ君!クッキーが苦手なら言えばよかったではないか!」
 いやいや、苦手だからとかいうレベルじゃないぞ?ケンゴウの体内の水が全て出てるみたいだ。

「大丈夫だ・・・大丈夫・・・。」
 やっと話せるようになったケンゴウ。はっきり言うと大丈夫には見えない。
「ちょっと油断しただけだ。一晩寝れば何とかなるさ。」
 そう言ってケンゴウは、布団に潜り込んだ。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」
 部屋を出るまで、マナカはずっと呟いていた。

――――――――――

 意味が分からない。準備期間中にもあった謎の嘔吐と同じ感覚。しかし、共通点が無い・・・共通点?
 残っていたクッキーを一枚取り出して、匂いを嗅いでみる。

「う!!!」

 またもや吐き気!必死で抑える!耐えろ!耐えろ!耐えろ!

 ようやく吐き気が無くなった。しかし、気を抜けばすぐに出てくる。
「共通点・・・あの時と同じ・・・。」

匂い。

 間違いない。クッキーから、あの時の床についていた異様の匂いがする。しかし、クッキーからは微量しか感じ取れない。

「何なんだよ・・・。俺の体はどうなってるんだよ。」

942狂宴高校の怪 第12話(試練編):2011/07/02(土) 21:42:09 ID:Zo99DcJs
――――――――――

「マナカ、ケンゴウにあげたクッキーに何か入れたのか?」
 気になっていたので質問してみた。
「実は・・・あの中には私の愛液を入れたんだ。好きな人にあげる料理に愛液を入れると良いらしいからな。」
 愛液?まさかケンゴウはそれに反応したのか?
 しかし・・・そんな情報をどこで?マナカの顔に、今朝の明るさは全く無い。
 いや、俺が質問した時から顔が暗くなった。

 これじゃあ・・・まるであの時のクドみたいだ・・・。

――――――――――

 手作りのものを食べて吐かれたら、ダメージが大きいのは当たり前だ。それが好きな人ならなおさら。私は不安になった。精神が不安定になる気がした。
 私の想いは彼には届かないのか?いや、そんなこと考えたくない。私は私で、必ず彼を振り向かせてみせる!

 しかし、私は違和感を感じた。
 愛しきケンゴウ君との出会いが思い出せない。いつどこで、どのように出会ったのだろうか・・・。
 思い出そうと頑張ってみるが、その頑張りはむなしく終わる。

 気がつけば家に着いた。コイル君達に別れを告げ、私は家に帰ってきた。
 私の両親は海外にいる。だから私も自活をしている。
 私一人にこの家は大きすぎる。どうしようもない孤独感が私を襲う。

 ・・・今日はもう寝よう。

 私は階段を上がってドアを開ける。

あれ?

 部屋を間違えたみたいだ。私の部屋は隣だ。

・・・今の部屋は何?

「うぐぅ!!!」

 急に襲った吐き気。私は口を塞いだ。
 隣の部屋・・・。見た瞬間、感じた瞬間、吐き気が止めどなく押し寄せる。
 何で?隣の部屋には何があるの?私はいったい・・・?このぽっかりと空いた記憶の穴は何?
 教えて!助けて!ケンゴウ君!

943狂宴高校の怪:2011/07/02(土) 21:43:00 ID:Zo99DcJs
投下終了です。

944雌豚のにおい@774人目:2011/07/02(土) 22:23:16 ID:X35QTbgM
GJ!
まさか、な……

945雌豚のにおい@774人目:2011/07/03(日) 15:24:32 ID:7fYfKT3g
コメが止まってる……

946狂宴高校の怪:2011/07/03(日) 21:49:17 ID:uQKbjJlQ
第13話投下します。

947狂宴高校の怪 第13話(試練編):2011/07/03(日) 21:50:28 ID:uQKbjJlQ
――――――――――

 ケンゴウは学校に来ていない。やはり昨日の謎の嘔吐が原因だろう。学園祭準備期間中の嘔吐といい、本当に謎だ。
「シドウ、お前なんか知らないか?ケンゴウの過去に何かあったとかさ。」
「・・・・・・・・・。」

 ん?一瞬シドウの表情が曇った。
「いえ、知りません。」
 何だ・・・シドウの言葉に重みがある。
「そうか・・・。ならいいんだ・・・。」
 シドウに聞いてもダメみたいだな。仕方ない、今日また見舞いにでも行ってみるかな。

――――――――――

 昨日から、私の頭の中のざらつきは消えない。あの部屋の事が頭から離れない。
 ・・・こんなときにケンゴウ君がいてくれたらと思う。
 彼は私に対して、そっけない態度をとる。しかし、私はそれでも諦めない。絶対に彼を手にいれる。そう決めたのだ。・・・いつ決めたかは思い出せないけど。

 ・・・今日もお見舞いに行こう。ノマルには悪いけど、今日の水着選びはキャンセルしよう。

――――――――――

「あれ?マナカも来てるのか?」
 ケンゴウのアパートの前に、マナカの自転車が止まっていた。
「・・・コイル君、何か嫌な予感がするんだけど・・・。」
 俺と一緒に来たクドが呟いた。
 ・・・確かに俺も嫌な予感がする。さっきから左目の傷が痛む。俺の傷が痛むときは、大抵何かが起こる前兆だ。クドが自分の過去を思い出した時も傷が痛んだ。

 あれ?何でクドが過去を思い出したってわかったんだ?
 あの時、クドは思い出した事を話していない。しかし、その日の妹は何だか何かを思い出そうとしていた表情だった。妹だけじゃない、他の皆もだ。
 クドの過去は何かを皆に思い出させようとしてるきっかけになったのか?

 いや、二人だけ違う。俺とナオだ。だから俺達はクドを説得できた。

 何だろう・・・。傷がさらに痛んできた。
 どうやら心情が顔に出てしまったようだ。クドがすごい心配そうに顔を覗きこんできた。
 咄嗟にクドに目で合図を送り、俺達はケンゴウのアパートのドアの前に立った。

948狂宴高校の怪 第13話(試練編):2011/07/03(日) 21:51:25 ID:uQKbjJlQ
――――――――――

「わざわざありがとうな。マナカ。」
 昨日と同じように、マナカは見舞いに来てくれた。
「そんな顔をするな。ケンゴウ君らしくない。」
 ・・・やっぱり顔に出てたか。今の俺は、昨日の嘔吐についてずっと考えていて、かなり疲れが見えていた。しかし、答えは出なかった。
 何か過去に近いことが起きれば思い出せそうなんだがな・・・。
「私は好きでやっているんだ。気にしないでくれ。今は体調を治すことだけを専念しろ。」
 マナカはいつも俺に気をかけてくれている。しかし、どうしても直視できない。
 これも過去に関連しているのだろうか。
「すまん、ちょっとトイレ行ってくるよ。」
 俺はトイレに向かった。



「ふぅ・・・。」
 咄嗟にトイレに逃げ込んだ。マナカの優しさが怖くなっていた。逃げたい。
 小便の勢いが弱くなる。出しきったようだな。
「どうしたものかな・・・。」
 トイレの水を流して、俺はトイレのドアのドアノブに手をかけた。

ん?

「はぁ・・・はぁ・・・。」
 荒い息づかいが聞こえる。これはマナカの声?
「ケンゴウ・・・君・・・なぜ振り向いて・・・くれないんだ・・・。」
 無言で立ち止まる。
「私は・・・こんなにも好きだと言うのに・・・。」
 まさか、マナカのやつ・・・自慰行為を?



「ぐぅ!うぅぅぅ!!!」
 またもや吐き気が襲いかかる!頭には激痛が走る!
 何で?何で喘ぎ声を聞いただけで吐き気が!?
 いや!吐き気と頭痛だけじゃない!何かが頭をかき回してる!
 何かが俺を狂わせる!
 直感した。今俺の頭をかき回してるのは俺の過去の記憶だ。忌まわしき過去の記憶。狂気の記憶だ!

949狂宴高校の怪 第13話(試練編):2011/07/03(日) 21:52:20 ID:uQKbjJlQ
――――――――――

「え!?引っ越し先って一軒家なの!?」
 新天地に向かう車の中で、俺は父親から衝撃的な事を聞いた。
 一軒家ってことは!友達を呼んで一緒に遊べるということだ!小学校の時に憧れていたことが出来るようになったんだ!嬉しくて一人で手を叩く!
「ケンゴウ!はしゃぎすぎだよ!」
「兄ちゃん、どんだけ嬉しいのさ。」
 俺の横には、姉と弟がいる。そして、運転席には俺の父親、そして助手席には母親がいる。
 俺は、一軒家に住める喜びと新天地での新しい友達を期待していた。

「中々広いだろう!」
 父親が誇ったようにいった。
「大きな声出しても大丈夫かな?」
 弟が呟いた。確かに重要だ。
「大丈夫!壁が厚いから声は外には届かない。安心して叫んで大丈夫だ。」
 マジかよ!これは明日から期待せざるを得ないな!テンションがスゴく上がってきた!



「うん・・・。」
 興奮が冷めない。中々眠れない。
 初めての個室で就寝。その事にもテンションが上がって、やはり眠れない。
 
「水でも飲むかな・・・。」

 部屋を出て階段を下り、居間へと続くドアに手をかける。
「ん!はぁぁ!あああ!」
 ん?何だ?この声は。
 聞き覚えのある声・・・姉だ!
 いや!もう一人の声?二人?
 これは母親の声だ!何で姉と母が声を?
 しかもこの声・・・喘ぎ声?
 俺はそっとドアを開け、隙間から中を覗いてみた。

「んやぁ!いい!いいよぉ!お父さん!」
 姉が・・・父に挿入されてる?その隣には・・・。
「すごい!すごいいいわよぉ!」
 母と弟が繋がっていた。

 何だこれ?何で親子で繋がっているんだ?何で肉体関係を結んでいるんだ?いつから?きっかけは何だ?どうしてやろうと思った?頭が働かない。目の前の現実を飲み込めない。足が震える。歯軋りが止まらない。
 ふと、弟の言葉が蘇る。



「大きな声出しても大丈夫かな?」



 まさか引っ越しもそのため?ということは引っ越す前から?
 姉は高校二年生、弟は小学五年生だ。なのに相手はよりによって親!?
 床がどんどん愛液にまみれていく。床がふやけてしまいそうだ。掃除する気なのか?
 ふと俺は、姉と母のあそこの下に何かを見た。
 あれは・・・ポリタンク?まさかあの中に愛液を入れているのか?
 ・・・ダメだ。これ以上見れない。俺はそっとドアを閉じて、二階の自室に戻った。

 目が覚めた。どうやら寝てしまっていたようだ。
 まさか、昨日のは夢?そうだよな!あんなことあり得ないよな!何だ!不安になって損した!
 顔が笑顔になる。俺はそのまま一階に降りた。

「おはよう!」
 爽やかな挨拶で、名役者達に挨拶をする。
「おはよう!兄ちゃん」
「おはようケンゴウ、今日はずいぶんと元気ね?何かあったの?」
「いや!何にもないさ!」
 まさかあんな夢見てたなんて言えない。俺は笑顔のまま食卓に座った。

「はい。」
 母がコップをくれた。中には液体が入っていた。
 ・・・何だ?この胸騒ぎは・・・。何かが変だ。
 父と弟がコップを持って席を立つ。目で追うと、二人はキッチンにあったポリタンクから何かを注いでいる?あのポリタンク・・・。まさか!

「うぅぅぅ!」

 強烈な吐き気が襲う!頭痛もしてきた!
「ちょっと急にどうしたの!?」
 姉と母が俺に駆け寄る。近づくな!お前らが近寄ったら!

「ぐぼぅぅぅ!」

 俺は吐き気を我慢できなかった。体の中の液体が全部出そうな気がした。
 夢じゃなかったんだ・・・。昨日のあれは現実だったんだ・・・。俺の心の許容範囲をはるかに越えている現実。逃げ出したかった。声を出して泣きたかった。

 その日の夜、俺は自分の部屋の荷物をまとめて家を出た。
 次の日の朝、俺は朝の家族の談笑を庭から盗み聞きした。
「兄ちゃんいないよ?」
「出掛けたのかな?もう帰ってこなくていいけどね。」
「あいつがいたから引っ越す前はろくにできなかったのよ!まぁ今でも夜中しかできないけどね。」
「まぁいいじゃないか、あんな奴は!よぉし!今日は会社も学校も休もう!一日中ヤるぞ!」
「きゃは!子供できちゃう!」

 その後、祖父の家に行った。とりあえず高校進学までは面倒見てくれると言ってくれた。
 祖父はかなりの金持ちだ。本当にありがたい。祖父は何で俺が家を飛び出したかは聞いていない。たぶん気づいていたんだろうな。あの関係に。

 辻疾ケンゴウ。四年前の話だ。

950狂宴高校の怪:2011/07/03(日) 21:53:04 ID:uQKbjJlQ
投下終了です。

951雌豚のにおい@774人目:2011/07/03(日) 22:30:58 ID:7fYfKT3g
GJ

次は魔王の作り方か触雷!来て欲しいぜ!!

952雌豚のにおい@774人目:2011/07/03(日) 22:33:01 ID:XgJtw5CA
>>950 投稿おつかれさまです。それにしても投下早いですね

953雌豚のにおい@774人目:2011/07/03(日) 22:46:37 ID:4cnf9tuE
>>950
GJ。これはきついぜぇ………

954雌豚のにおい@774人目:2011/07/03(日) 22:50:55 ID:ul/2fkTA
GJ!
これはキツイ

955雌豚のにおい@774人目:2011/07/03(日) 22:55:09 ID:7fYfKT3g
もはや、これヤンデレじゃなくてただの狂でれじゃん……

956狂宴高校の怪:2011/07/03(日) 23:03:52 ID:uQKbjJlQ
>>955 このスレにそぐわない内容の小説を執筆してしまっていたようですね。
申し訳ございませんでした。

ペースが早すぎて他の職人さん方に迷惑がかかってしまっていそうなので投下を一時中断し、前記の件で続行するかを検討させていただきます。

957雌豚のにおい@774人目:2011/07/03(日) 23:27:48 ID:ZJFlfhD2
うん、それがいいかもですね
まあ、楽しんで読んでる方もいらっしゃるでしょうけど、こういうのはある程度厳しくした方がいいでしょうし
あ、でも、わたしも楽しく読ませていただいている一人ですから
続く可能性があるのでしたら、楽しみに待ってますね

958雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 02:39:28 ID:rZuOVhYA
狂宴の作者さん、かなりやり過ぎましたね。本スレが凄いことになってますよ…

959 ◆STwbwk2UaU:2011/07/04(月) 03:51:38 ID:lsTRKJVY
空気がアレなので、まだ書きかけだけど投下。
海の日3連休に出す予定でした。南無。

>>958
言い過ぎ。

960neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/04(月) 03:52:30 ID:lsTRKJVY
…ジリジリとした熱い日焼けが僕を刺す。
遠くに海が見える無人駅で、僕は乗り換えの列車を待っていた。
季節は夏。同級生の子は海で泳いでいるのかもしれない。
自販機で買った缶入りのスポーツドリンクを開けながら、
日差しから逃げるようにホームから待合室に向かうと、そこに一組の男女がいた。
……男女というのは正しいんだろうか?
小学生くらいの、幼い子どもを対象に言うには。

子供たちは確かに幼かった。
しかし、その幼さを上回って有り余るほどの絆を感じた。
お互いを離さないかのように寄り添い、目をつむってお互いを感じる二人。
決して解かないかのようにつないだ手と手。

―ああ、そうか、こんなにも愛を感じているから、僕は男女……と感じたのかな。
二人のじゃまをしないように、待合室の隅に向かいながらふとそう思った。

―僕もこれから向かう街に、待っていてくれる人がいる。
3年ぶりの帰郷だけど、僕のことを覚えていてくれているかな?
いやでも、あの人もいい年だし、恋人の一人くらい……
はぁ……恋人……かぁ………

「……もなく……きの電車が……発車いたします。」

考え事をしている自分の耳に、列車のアナウンスが聞こえた。
―しまった!乗り遅れてしまったか!?
僕は一目散にホームへ向かう!
すると、先程の二人がちょうど、列車の中に乗り込んで、向こうの窓を見ていた。
男の子が窓の向こうの何かを指す。
女の子はそれをみて、クスクスと笑う。
二人だけの、二人のための列車……

プルルルル、と大きな音を立てて、列車は閉まってしまった。
あの二人を乗せた列車は、ゆっくりと、そして少しずつ速く、遠くへ行ってしまった。
ふと、時計をみる。
するとおかしい。時間が合わないのだ。
次の列車まで、まだ30分もあるのに、あの列車は行ってしまった。

―なんだったんだろう?僕は夢でも見ていたのかな?
僕は頭をかきながら、もう一度待合室へ戻る。
すると、あの二人の座っていた場所に、小さなキーホルダーが置いてあった。
男の子が好きそうな、銀色の剣の形をしたキーホルダー。
あの二人の忘れ物かな?と思ったが、何故かやけに手放しがたい。
僕もワルに目覚めたのかもしれないが、そのキーホルダーは持っていくことにした。

自分の、故郷まで………

961neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/04(月) 03:53:01 ID:lsTRKJVY
―僕の故郷は、山と海に挟まれた場所にあった。
僕はそこで、中学生までずっと過ごしていた。
毎日が楽しくて、毎日夢を見ているような気持ちだった。

僕は暑いホームを抜け、改札を通り、待合室まで向かう。
待合室に、人はいない。
どうやら僕は早く来てしまったようだ。

―僕の近くには、いつもあの人がいた。
いつも微笑んでくれて、春の暖かな光のような人だった。
透き通るような美しさがあって、夏の強い日差しのような人だった。
いつも優しくしてくれて、秋の豊穣のような人だった。
いつも儚げで、冬の雪のような人だった。

僕は待合室を出る。
強い日差しに包まれながら、街を見下ろす。
蛇行した坂道の向こうに、少しゆらゆらと揺らいだ街が見える。

―僕はあの人が好きだった。
あの人と一緒に居たかった。
でも、もう………

僕はゆっくりと坂道を降りる。
すると、目の前に麦わら帽子と、若草色のワンピースが見えた。
僕はこの色を、この人を知っている。
だって、この人は僕の……

「ただいま、鈴香姉さん。」

僕の最愛の人は、微笑みながら

「おかえり、コーちゃん。」

出迎えて…くれた……

962neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/04(月) 03:54:07 ID:lsTRKJVY
「コーちゃん、3年ぶりだね。
 どう、元気にしてた?」

坂道を降りて、家に向かっていると、鈴香姉さんが僕に話しかけてきた。

「うん……元気だったよ。
 鈴香姉さんはどうだった?」

「私も元気元気!
 …でもね、やっぱりコーちゃんがいないと……寂しかったなぁ。」

鈴香姉さんが寂しそうな顔で微笑む。
僕の心臓がドキリと弾む。

「で、でも鈴香姉さん!もういい年なんだし……
 ここ……恋人の一人や二人いるでしょ?」

「もうっ、女の人に年齢の話題は禁止!
 それに私は恋人なんていませんよーだ!」

鈴香姉さんは、手を腰に添え、怒ったように頬をふくらませる。
しかし次には僕の頭を撫でながら、こう言った。

「それに、鈴香姉さんとか畏まらなくてもいいのよ?
 前みたいに、スズねぇ…って………呼んで欲しい…かな……」

「うん……ありがとうスズねぇ。
 出来れば僕も、スズねぇって呼びたかったんだ。」

「そう?……嬉しい………」

鈴香姉さん…いや、スズねぇは少し顔が赤かった。
熱中症だろうか?少し急いで帰らないと……

963neXt2nExt ◆STwbwk2UaU:2011/07/04(月) 03:54:35 ID:lsTRKJVY
「コーちゃん、荷物は部屋に置いたから。
 家は出たときと変わってないから好きなように使ってね。」

スズねぇが、お客様用の部屋……ではなくて、僕の部屋を締めながら言った。
僕とスズねぇの関係は、簡単に言うと従兄妹同士。
ただ、数年前まで親がずっと海外の危険なところで勤務していたので、
僕はずっと従兄妹の家にお世話になっていたのだ。

はぁ…とため息が出る。
そう、僕の初恋はあのスズねぇである。
そして、ため息が出る理由は……
スズねぇにお見合いの話がたくさん来ていると、叔母さんが教えてくれたのだ。
スズねぇはああ言ってくれたが、結婚するのも…時間の問題。
かくいう僕は未だに高校生。
スズねぇは、待てないだろう。
僕が大人になるのを。
僕以外の人が、スズねぇの隣にいるのだ。
見たくない…知りたくない……考えたく……ない………


「……コーちゃん?お風呂湧いたよ?」

「う……うわわわわっ!?」

目の前に、スズねぇの顔。
僕はびっくりして、思わず後ずざりし、スズねぇごとコケた。
スズねぇは後ろから覗き見るように僕を見ていたようだ。

「あいたたたた……コーちゃん、リアクション大きすぎるよ………」

「ご…ごめんなさい……」

しかし、僕の視界は真っ暗だ。いい匂いもする。
持ち上げて見直すと、スズねぇの胸だった。

「あわわわわ!ごごごごめんなさいっ!!!」

「んっ……ふふっ………
 コーちゃんも大胆になったかー」

僕は急いで離れる。
しかしスズねぇは少し顔を赤くするが、全く嫌がった素振りを見せない。
それどころか、すこし目が潤んでいるような………?
いや、いやいやそんなことはない。
風呂でも入って頭を冷そう。

「す……スズねぇ!風呂入ってくるね!」

「あ…ちょっと……っ!
 もぅ……!」

僕は急いで階段を降り、風呂場に向かった。


風呂場で足を伸ばし、ついでに背中も伸びをしながら、
僕は明日の予定を考えていた。

一応、僕も夏休みとは言え、遠くに来たのだから、計画くらい立てている。
今回此処に来たのはスズねぇに会いに来た……のは誰にも言えない第一目的だが、
建前としては、写真を取りに来たのだ。
そこでいま、古い記憶を家探ししながら撮影ポイントを確認している。

―今は夏だから、山のほうへ行ってホタルを撮るのもいいな。
ついでにそのまま夜だし、星を撮ろうかな?
朝焼けと夕暮れの海もキレイだし、そっちも捨てがたいな……
あえて母校?いやいやいや………

「コーちゃーん?入るねー」

そう、だから僕はこの声に気づかなかった。
気づいた時には、バスタオル一枚のスズねぇが風呂場にいた。

「なっ……なっ………!?」

「コーちゃん、背中流すの手伝ってあげるねー」

なんでこうなったのか、今の僕には理解できない。
でも、これだけは言える。

「よよよ嫁入り前の娘が、ひひひ人に肌晒しちゃいけませんっ!!」

僕は精一杯の常識と、否定を込めたつもりだったんだが、
スズねぇが今度は理解出来なかったらしい。

「え…?コーちゃんになんで隠さなきゃいけないの?
 何も問題ないじゃない。」

「ぼ、ぼくだって男なんだよ。そういうかっこしてると襲われちゃうんだよ!」

顔を真っ赤にして僕は言ったが、スズねぇは違う方向に勘違いをしていた。
何故かスズねぇがバスタオルを取りはじめたのだ。

「私……コーちゃんにだったら……襲われても……」

その言葉を聞いて、僕の意識は見事にぶっ飛んだ。
生命の危機的な意味で。

「ちょ……っ!コーちゃん!?大丈夫!?
 コーちゃん沈んじゃダメーっ!」

964 ◆STwbwk2UaU:2011/07/04(月) 03:57:37 ID:lsTRKJVY
投下終了です。
あんまり見直ししないし、空気も読まないし、文才もない自分が言えたことじゃないけど
狂宴さんは書けてる方だと思います。
ただ、展開が急ぎ杉なのかなーって思いました。
是非、コレからも頑張ってください。

965雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 07:22:11 ID:Y0VcFzx6
>>964
GJ! 一応聞くけど、男のヤンデレじゃないよね?
あと荒らしに構うな

966狂宴高校の怪:2011/07/04(月) 07:38:25 ID:TKdVP9Bg
このまま続けてもタメにならないという判断から、狂宴高校の怪は投下終了とします。

次回の投下からは、皆さんに楽しんでいただけるヤンデレ小説を書けるように頑張りたいと思います。

申し訳ございませんでした。

967雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 08:28:21 ID:2C4g25qg
>>958みたいなやつは荒らしなんだから気にすることないよ。やりすぎたってなんだよw
どこに落ち度があんの?てか、そもそも本スレなんて機能してないんだし……
それより完結しないほうが嫌だ。大多数は続けてほしいと思ってるんだから、頑張ってほしい。

968雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 09:20:30 ID:rZuOVhYA
>>960
GJ!!
弟も病んでるけど、お姉ちゃんはもっと病んでそう

969風見:2011/07/04(月) 11:05:05 ID:TKdVP9Bg
>>967 決断をコロコロ変えて申し訳ないですが、再度検討させていただきます。

加えて今後は、「風見」と名乗らせていただきます。

970雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 11:26:08 ID:I7v2lCjY
なんか明らかにおかしなコメント混ざってるな
荒らそうと必死だなあいつら・・・
作者さん頑張ってください

971雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 12:36:04 ID:rZuOVhYA
>>969
とりあえず話を完走させて欲しいですね、でもまた荒れる内容にするのはマズいですが

972雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 21:05:11 ID:N25aOrHA
なんだよ未完かぁ

973雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 21:48:24 ID:rZuOVhYA
魔王の作り方来ないかなーリーザが気になる

974雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 21:50:16 ID:t2QEdS0g
本スレ荒れていたワロタwwww
こっち平和すぎだろw

975雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 21:58:03 ID:51hfu3Y.
そろそろ残り少なくなってきたね

976避難所の中の人★:2011/07/04(月) 22:49:21 ID:???
次スレ:ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part02
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1309786963/
いかん遅れるところだった

・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
というテンプレがある以上SSを書く側には「ヤンデレ要素があること」「特殊シチュの場合は注意書きをする」「できるだけトリップを付ける」さえ守っていただければ他に自重すべき事柄は一切ありません
自分の趣味嗜好に合わないなら文句を言うのではなくてスルーしてくださいな それは住人の皆様側の責任であります

それでは埋めネタ投下や>>1000取り合戦をどうぞ

977雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 23:18:51 ID:WRymZjfI
>>974
本スレの荒れた原因=ヤンデレに関して全く知識のないどっかの自己満足オナニー馬鹿作家(風見)
しかも、名前が長編SSの「風の声」を意識してる感じがばか丸出し

978風見:狂宴高校の怪:2011/07/04(月) 23:20:52 ID:TKdVP9Bg
色々考えましたが、やっぱり自分が考えていた最終回まで書こうと思います。

それに伴い、更新速度は週に1〜2話ペースにすること、そして、ヤンデレSSだということを重視しての内容作りをすることを心がけようと思います。

他の作者さんや読んでいる皆様にご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。

979雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 23:23:10 ID:L.o7Yck6
がんばれ応援してる

980雌豚のにおい@774人目:2011/07/04(月) 23:30:34 ID:rZuOVhYA
>>976
いつもお疲れ様です!
>>977
本スレでも避難所でも粉クソに言われまくってるのに気にしていないとは…流石過ぎる

981雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 00:15:45 ID:gA5O34gA
>>980
違うかもだけどさ、
なにか投下したり上げたりしてガタガタ言われんの一々気にするか?
ンなもん気にしてたら書いたり描いたりはできるけど公開できなくね?

982雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 00:25:29 ID:0icr/x6.
>>976


荒らしはヤンデレにお持ち帰りされるからスルーしろ、スルー。まあ自演だったりするのかもしれんが

983雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 00:25:59 ID:fmCFuIsQ
批評スレでやれ

てか、気に食わなきゃスルーしろってつい直前で管理人氏が言ってたじゃねぇか

984<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

985雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 00:36:09 ID:fmCFuIsQ
だから批評スレでやれと
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1301830990/

これ以上本スレでグダクダ続けるようなら管理人氏に削除規制依頼出して来るぞ

986<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

987雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 00:49:20 ID:eHoWnc5Q
頼むから批判などの批評は別スレでやれや……
この人の話を楽しみにしている人はいるんだから(私も含め)、取り上げないで貰いたいな。それか、荒らしさんはお話作ってくれるのか?
とにかく、管理人さんスレ立て乙です。

988<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

989<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

990<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

991<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

992<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

993<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

994<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

995<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

996<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>:<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>
<ヤンデレさんがお持ち帰りしました>

997雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 10:41:24 ID:3dIN51uA
>>997

998雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 10:42:45 ID:zjdqHX4o
998

999雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 10:43:24 ID:GUCuWpfs
999げと

1000雌豚のにおい@774人目:2011/07/05(火) 11:03:04 ID:nRntyCHU
1000ゲト!!荒れまくりな最後でしたね

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