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涙たちの物語6 『旅の途中で』
1 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 08:57 [ jPFBVAQY ]
【したらば@FF(仮)板】
前スレ:涙たちの物語5『旅が続いて』
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=6493&KEY=1069286910

【したらば@マターリ板】
涙たちの物語4 『旅は道連れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1064882510.html
涙たちの物語3 『旅の流れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1058854769.html
涙たちの物語2 『旅の続き』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1054164056.html
涙たちの物語 『旅は終わらない』(避難先)
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1048778787.html
(※↑ログ消滅のため【過去ログ図書館】にリンク)

【xrea】
初代 涙たちの物語 『旅は終わらない』
http://mst.s1.xrea.com/test/read.cgi?bbs=ff11&key=042463790
(※↑見れるときと見れないときがあるらしい)

倉庫等
(Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
(新)http://f12.aaacafe.ne.jp/~apururu/
(旧)http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4886/index.html

ここも姉妹スレ?
今はいないフレンドへの手紙
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1075100271/

2 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 09:06 [ QaomlHN6 ]
初めての2ゲット?

3 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 09:13 [ 1JyzhaMI ]
3

4 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 09:22 [ iwvGUGIE ]
4かにゃ〜

5 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 09:48 [ 7p7XcFKs ]


5取れた〜?

6 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 10:23 [ YEmVwdyI ]
Six

7 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 10:23 [ Ac8UGSys ]
なな

8 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 10:42 [ Q9w/VrGs ]
うっかり

9 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 11:08 [ pSOfBMgQ ]
一桁ラストの九!!
始めての一桁ゲットなるかな

タル戦きてたのね。久しぶりに見て嬉しかった
作者さん頑張れ〜!

10 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/19(木) 16:01 [ VhSImgro ]
10番ドライブシュート打ちます

11 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/20(金) 01:25 [ PtyRx/B. ]
新スレおめでとう御座います!

12 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/20(金) 20:41 [ WzP9RZEY ]
タル戦のパパさんがオパーイ占いの替え歌を披露した時があったと
思うのですが、あれっていつのスレでしたっけ?

13 名前: 1/4 投稿日: 2004/02/21(土) 02:04 [ uPxkxkzU ]
[ エリーにおまかせ! 彼女が噂の名探偵?! 事件編 ]

「ふぅ〜。暇だなぁ〜。」

僕の名前はワトソン。
この薔薇十字探偵所で、
名探偵の助手をしているのだが、
今日も暇を持て余している。

「どこにいったのかなぁ〜。」

というのも、
この探偵所の所長であり名探偵である、
マリー・ハドソンがいないからである。

所長は『旅に出る』と書き残し、姿を消した。
あれから三日・・・。

そろそろ限界だ。
仕事の依頼もないし、所長もいない。
暇で、暇で、どうしようもない。
所長なくして、この薔薇十字探偵所はありえな〜い!
そう、実感する。

トントン!

突然、探偵所の扉がノックされた。

所長が戻ってきた?!

否、そんなはずはない。
所長なら、ノックなどしないはずだ。
ということは、依頼人かもしれない。
久しぶりの仕事だ。
所長がいなくて心細いけど、僕がしっかりしなくては。

14 名前: 2/4 投稿日: 2004/02/21(土) 02:05 [ uPxkxkzU ]
僕は気を取り直して、
探偵所の扉を開き、訪問者を迎えた。

「は〜い。えっと、どちらさまですか?」
「こんにちは。」

そこには、ミスラの少女が立っていた。
ミスラの少女が尋ねる。

「あなたが、ワトソン?」
「え?!そ、そうだけど、君は?」

「エリー・ザールブルグ。エリーって、呼んで。」
「エリー?えっと、なにかようかな?」

「はい、これ。マリーから、ワトソンへ。」
「え?!」

エリーはそういって、僕に小さな封筒を差し出した。
僕は戸惑いながら、それを受け取り、エリーに尋ねた。

「どうして、君が、これを?」
「エリー、マリーのフレンドだから。」

エリーが微笑む。
僕は封筒を開け、中身を確認した。

「中身は・・・写真だ。」

封筒には写真が三枚はいっていた。
なにやら記念写真のようで、
全ての写真に、同じ人物が写っている。

「あれ?これ、所長?!」

15 名前: 3/4 投稿日: 2004/02/21(土) 02:05 [ uPxkxkzU ]
そう。
写真に写っているのは、所長である。

一枚目の写真。
天の塔を背景に、所長が上着の裾を押さえている。
ウインダスで撮影したものだろう。

二枚目の写真。
大聖堂を背景に、所長がスカートを少し持ち上げている。
サンドリアで撮影したものだろう。

三枚目の写真。
噴水を背景に、所長が・・・ぶはぁ!
た、多分、バストゥークで撮影したものだろう。

だが、なにか、おかしい。
違和感がある。
なんだろう・・・?

「えっと?あれ?なんだろう?」
「ね?エリーにも、その写真みせて。」

「あ、ああ。はい。どうぞ。」

エリーは僕から写真を受け取ると、
ゆっくり丁寧に、写真を観察した。
そして、再び微笑んだ。

「くすくす。マリーらしい。」
「え?!」

エリーはそういって、僕に写真を返した。

「ワトソン、気付いた?」
「は?へ?なに?」

「んとね。じゃあ、その写真の日付と時間を見てみて。」
「あ、うん。」

16 名前: 4/4 投稿日: 2004/02/21(土) 02:05 [ uPxkxkzU ]
僕は写真の日付と時間を確認する。
写真は全て、同じ日に撮影されていた。
そして、時間は・・・。

一枚目、10:01。
二枚目、10:02。
三枚目、10:03。

ちょ、ちょっと待った!

写真は1分間隔で撮影されている。
ということは、ウインダス、サンドリア、
バストゥーク間を1分で移動した?
そんなバカな!

「え〜?!な〜んで?!ど〜して?!」
「それ、マリーの悪戯よ。」

「え?そうなのか?あ、そうか!じつは他人の空似とか!」
「ワトソン、それは違うわ。
その写真は、ネーム表示で撮影されているから、
他人の空似はありえないわ。」

「う〜ん。じゃあ、どうなってるだ?これ?」
「そうね。ワトソン、考えてみて。ヒントは3つよ。」

1.ウインダス、サンドリア、バストゥーク間を1分(リアル時間)で移動。
2.写真はネーム表示で撮影された(名前の類似、綴り違いは無し)。
3.姫ちゃんのリボン。

17 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/21(土) 09:25 [ ESZJzGxM ]
デジョン2+魔行符でw

18 名前: 1/2 投稿日: 2004/02/22(日) 01:46 [ P7t2dYds ]
[ エリーにおまかせ! 彼女が噂の名探偵?! 解決編 ]

僕の名前はワトソン。
この薔薇十字探偵社で、名探偵の助手をしている。

この探偵所の所長である、マリー・ハドソンが突然の失踪。
途方に暮れる僕の前に、ミスラの少女が現れた。

彼女の名前は、エリー・ザールブルグ。

事件の鍵は、三枚の不思議な写真。
エリーが写真の謎を解く!

「どうやって、ウインダス、サンドリア、
バストゥーク間を1分で移動したんだ?」
「くす。」

「あ、そうか!移動魔法を使ったんだ!移動魔法を使えば、
一瞬で離れた場所に移動できる。間違いない!」
「そうね。サンドリアにホームポイントを設定しておいて、
移動魔法を使えば、一瞬でウインダス、サンドリア間を移動できるわ。
でも、ホームポイントは一箇所しか設定できない。
そうなると、今度はどうやって、バストゥークに移動したのかしら?」

「むむむ?そ、それは・・・。きっと、その・・・。」
「くすくす。」

エリーが微笑む。

「そう。この世界では二国間の瞬間移動はできても、
三国間の瞬間移動はできない。
なぜなら、この世界にマリーは一人しかいないから。でも・・・。」
「でも?」

19 名前: 2/2 投稿日: 2004/02/22(日) 01:47 [ P7t2dYds ]
「ワトソン、パラレルワールドって、知ってる?」
「え?ぱられるわーるど?」

「この世界に良く似た並行する世界のこと。
そうね。いま、パラレルワールドは三十個あるはず。
そして、それぞれの世界に、マリーは一人ずつ存在できる。」
「あ!と、いうことは!」

「そう。あらかじめパラレルワールドの三国に、
それぞれマリーを置いておくの。
あとはパラレルワールドを渡り歩けば、その写真のできあがり。」
「そうか!あ、でも、どうすれば、
パラレルワールドを渡り歩けるんだ?」

「それはワールドパスがあれば大丈夫。
ワールドパスは、天の塔とかで売ってるわ。」
「そうなんだ!」

「以上で証明終了。」
「なるほど。」

僕はエリーの説明に頷くことしかできなかった。

「エリー?君は、いったい何者なんだ?」
「エリーは探偵よ。」

「え?探偵?」
「そう。そして、ワトソン、あなたは探偵の助手でしょう?」

「あ、ああ。そうだけど。」
「だったら話は簡単よ。
エリー、しばらくこの探偵所にいてあげる。」

「え?そ、それは、いったい?」
「どんな事件も、エリーが解決!エリーにおまかせ!」

20 名前: 0/0 投稿日: 2004/02/22(日) 01:47 [ P7t2dYds ]
>17 Di molto !!

魔行符・・・。
そんな便利なモノがあるとは知りませんでした。
完敗です。(;´д⊂)

21 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/24(火) 03:55 [ 52SUkCck ]
sage進行なのは十分承知だが、
前スレより下ってのは、どうゆうことなのよ?

22 名前: Overture 第3話 Lion-Lion 投稿日: 2004/02/24(火) 23:39 [ PkwQT5tA ]
1/4

―東サルタバルタ・中央の見張り台

クエーッ!
土煙を上げ急停止するチョコボ。
台の上から恐る恐るタルタルが顔を出す。
「ふぅ〜…オウス様でしたか、ヤグードがまた来たのかと…」
ペタンっと落とした腰を、オウスの声が飛び上がらせる。
「敵は何匹だ!?」
「ひゃっ!は、はいっ!ええと…10匹程でした!
 ぼ、僕には見向きもせず真っ直ぐウィンダスへ」
よほど怖かったのか小さく震えているタルタル。
オウスから待機の指示をもらい、また腰を落として毛布を被る。

「マティアル行くぞ、狙いは分からんが良いことは起きないだろう」
「精鋭か…」
聞き流すように再びチョコボを走らせる。
後ろでは腑に落ちないような顔でアミが眉を吊り上げている。
「なぁ。こんだけ大量に囮を用意しておいて本隊はたった10匹って
 お、おかしくないか?どうせならもっとドバーッと…」
「アミ!不謹慎ですよ!」
「だ、だってよ…なんか気持ち悪いじゃねぇか
 大勢で来てくれた方がわかりやすいだろ?
 10匹だけってことは…よほど強いのばかりってことか!?
 …そしたら、そしたらよ!万が一ってこともさ…」
「ありませんっ!絶対に守るんです!」

泣きそうな表情で手綱をギュッと握るリオン。
「言わないで…不安は僕を弱くします…。
 精霊達はいつだって心の強さを見透かしているから
 だから…もう守れないのは嫌です」
見たことの無い暗い表情に、アミは困惑して沈黙する。

「…この地は汚させません、絶対に」

23 名前: Overture 投稿日: 2004/02/24(火) 23:41 [ PkwQT5tA ]
2/4

―ウィンダス森の区・東門

『オウス様?』
東門に到着した一行はしばし呆然とする。
戦闘中か後か、ともかくいつも通りではない
と想像していた東門は至って静かであった。

「奴ら森を通って侵入したのかもな」
「…戦闘は避けたいということか」
マティアルは鋭い視線で門番を見つめる。
「動けるミスラの傭兵をすぐに召集せよ!
 ヤグードが数匹侵入した、鷹の目よりも早く見つけ出せと伝えろ」
訳の分からぬまま門番のミスラは慌てて駆け出す。

「手分けして探そう、見つけても手は出すな。
 私はは北から、アミとリオンは南から回り水の区まで行こう」

24 名前: Overture 投稿日: 2004/02/24(火) 23:42 [ PkwQT5tA ]
3/4

―ウィンダス港

「リオン、さっきは悪かったな意味わかんないこと言って…」
「いえ、いいんです気を引き締めましょう。
 アミだってウィンダスが大好きで僕と同じ位
 大事に思ってること分かってますから」
「へへ…ありがとうな。
 さぁ、いっちょヤグード共を蹴散らすか!」
やっと笑顔になるリオンと対照的に
海と風はいつになく荒れていた。
「口の院に寄って協力を求めましょう。
 港にはいないようですね。
 一体どこにいるのでしょう…!?あっ、アミ!」

口の院の前に人ごみができ何かを取り囲んでいた。
「おいおい、どうした!?」
その中心には息が乱れた子供のタルタルが座りこんでいる。
「ハァッハァッ!せ、先生が吹き飛ばされて
 ドドドーッって、グルルルって
 みんなビックリであっという間で…」
「お、落ち着け。ゆ〜っくり
 ゆ〜っくりお姉さんに話してみろ」
一息ゴクンっと飲み、目を見開きカン高い声を上げる
「み、み、耳の院にや、ヤグードが!」
『!!』
「先生達が止めようとしたけど数が多くてっ
 屋上にいた生徒を連れて、西っ、西へ走っていっ…うっ、うわぁぁん」
泣き崩れてしまい話が途切れるが
全てをいち早く理解したリオンがデジョンを詠唱し
闇の中に消えていく。
「お、おい!どこ行くんだよ!
 ちょっ、あんたらこの子頼んだぞ!
 あと、そこの院に行ってこの事態を伝えてくれ!!」

25 名前: Overture 投稿日: 2004/02/24(火) 23:43 [ PkwQT5tA ]
4/4

―西サルタバルタ・アウトポスト

アウトポストには数人の兵がいて
リオンの2度目の来訪に驚いていた。

「皆さん!ヤグードの精鋭数匹が
 タルタルの子供を連れギデアスへ逃げ込もうとしています!
 必ずここで止めます、力を貸してください!」

グォォォ!!

『!!!』

「くっ、もう来ましたか。
 合図をお願いします!西サルタバルタの兵を全てここに!!」
「は、はい!」
 もう見飽きた合図がまた上がる。
 最後であってほしい、これで最後にすると心で呟き
 小さな盾と片手棍を構える
「リオン様!お下がり下さい!
 前線は我々が…」
「…兵が終結するまで時間を稼ぎます。
 子供を連れたヤグードが来ます、そちらを全力で止めてください」

息を整えて精神を集中させる。
今度は守ってくれる巨躯な盾はいない。
大樹から刺す光に、不意に星振る丘を見上げる。

「…見ていて下さい、必ず守ります。
 魔法の力は心の強さ、精霊達はいつも見透かしている。
 この誓いは僕に刺さった棘を取り去る魔法」

ォォォォォ!!!

大きな瞳を開き、眉をとんがらせて叫ぶ

「僕は黒魔道士リオン-ライオン!
 偉大な獣の名を持つウィンダスの”傭兵”!!
 今こそ友との誓いを果たすため、あなた達を討ちます!!」


「深遠より僕を解き放て! 魔力の泉!!」

                               つづく

26 名前: 1/4 投稿日: 2004/02/25(水) 02:23 [ LtDybc7Q ]
[ 紅葉 壱 慟哭 ]

闇を切り裂く漆黒の雄叫び。
漆黒は群れをなし、それを取り囲む。
だが、それは一刀で漆黒を切り伏せる。

絶叫!

それの刀が弧を描いて煌く。
その度に、漆黒が叫び、地に伏せる。

その姿は、まさに鬼。
ミスラの少女は、その鬼に見惚れていた。



サルタバルタに鬼がでる。

少女はそんな噂を信じてはいなかった。
そんなものは、大人に都合の良い作り話だと思っていた。
言い付けを守らない子供を縛る、体裁の良い道具だと。

そんなもの眉唾だ。

それを証明するため、少女はサルタバルタにいる。
噂では、星の降る丘に鬼がでるそうだ。

少女は星の降る丘を目指して歩いた。

少女は星の降る丘で、それを見付けた。
それは頭から外套を纏い、星の降る丘を徘徊していた。
外套はボロボロで、薄汚れている。

確かに不気味だ。

だが、それは鬼ではない。
人だ。

やはり、大人の作り話だ。

27 名前: 2/4 投稿日: 2004/02/25(水) 02:23 [ LtDybc7Q ]
少女は自分の仮定が正しかったことに、
なぜか安堵し、溜息を付くと、
その場に座り込み、それを観察することにした。

星の降る丘を徘徊するそれは、
時折立ち止まり、丹念に足元を調べていた。
それは、何かを探していた………。



気が付くと、それは少女の目の前にいた。
どうやら、うたた寝をしていたらしい。

それは少女など意に介さず、
ただ、自分の足元をを調べている。

あたりはもう暗い。
闇は少女に、恐怖を植え付ける。

もう帰ろう。

少女は立ち上がり踵を返す。
だが、一瞬で少女の体がこわばる。

少女の目の前には、闇より深い漆黒。
漆黒はヤグードと呼ばれる獣人。
漆黒の紅い眼は、狂気を持って少女を睨んでいる。

少女は動けない。
声もでない。
眼を閉じることさえできない。

そんな少女に、漆黒の腕が伸びる。
漆黒の爪が、ゆっくりと少女の眼に伸びてくる。

少女は死を覚悟した………。



刹那。

28 名前: 3/3 投稿日: 2004/02/25(水) 02:24 [ LtDybc7Q ]
絶叫と共に、漆黒が崩れた。
見れば、少女と漆黒の間に、それが立っていた。
そして、それの手には刀が握られていた。

それはその刀で、漆黒を一刀で両断したのだ。

漆黒の断末魔に呼び寄せられ、
新たな漆黒が、次々と立ち上がり、それに襲い掛かる。

だが、それも、それに一刀で両断されるのみ。

それの刀が弧を描いて煌く。
その度に、漆黒が叫び、地に伏せる。

漆黒の断末魔が、新たな漆黒を呼び寄せる。
その様は、際限なく続く地獄絵図。
その姿は、まさに鬼。
ミスラの少女は、その鬼に見惚れていた。



永遠とも思えた凶事のあと。
星の降る丘に立っていたのは、少女と鬼だけだった。

少女は鬼に歩み寄る。
鬼は動かない。

少女は、刀が泣いていると呟いて、涙を流した。
鬼は少女を見詰めたあと、天を仰いで動かない。

鬼が泣いている。
少女には、そう見えた。

29 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/25(水) 04:22 [ E6GNWD3I ]
名無しの話の作者様へ
ずっとずっとあなたの話が大好きです。
そして、トラさんに惚れました(*^。^*)ポッ!!
17話を読んで、もう辛抱たまらんなって
ぷっつんしました。
決して名無しの話の世界観を壊すつもりではありません。
パラレルワールドぐらいに捉えてくださったら幸いです。
だから、怒らないで下さい。

以下、作品投下

30 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:24 [ E6GNWD3I ]
=ボスティン氷河=

容赦ない風が水分をたっぷり含んだ重い雪を叩きつけ、
さらに降り積もった新雪をも舞い上げ荒れ狂う。
見渡す限りの白い世界。
生きとし生けるものを拒む圧倒的な強さ。
毛皮も持たず視力に頼る人間がこの地を訪れることは稀である。

ただただ白い世界をゆっくりと歩む影が1つ。
漆黒の毛皮にしなやかな筋肉、鉄をも切り裂く爪を持つ白原の王者――虎。
だが、その姿は遠目にも普通の虎より2倍以上の体躯を有していた。

31 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:25 [ E6GNWD3I ]
「・・・という訳で兄(アニ)さんはごっつぅ強い坊(ボン)と一緒ですわ」
若虎は耳をぴったりと伏せたまま報告を終えた。
左右に居並ぶ古参の虎たちと見比べて、若虎が体躯で劣ることはなかった。
むしろ若さと覇気に溢れる若虎が、
やがて彼らに取って代わる日はそう遠くないだろう。
「ホンマにあいつが獣使いになぁ」
「わしは分からんでもないで。あいつは漢気に厚いやっちゃ」
「せやかて、次代が人間と一緒におるっちゅうんは・・・」
強さが全ての世界。
若虎を倒したタルタルを認めるのは吝かではないが
跡目を継ぐべきトラが人間と行動を共にしている事実は
そう易々と承服できるものではなかった。

32 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:26 [ E6GNWD3I ]
ゆらりと場の空気が動いた。
全員が押し黙り、洞窟の奥を見やる。
闇よりも深い黒を纏った洞窟を塞がんばかりの大きな虎がそこにいた。
体を長々と横たえ、組んだ前脚に顎を乗せたまま大虎は呟いた。
「あいつが決めたことや。以後、誰もちゃちゃ入れることは許さへんで」
穏やかな、だが反論を許さぬ言葉に虎たちは首を竦める。
「あの、おやっさん。ヤグどものことなんですが」
張り詰めた空気にめげず、若虎は切り出した。
兄さんのことをちゃんと伝えなければ・・・
「せや!おやじにアヤつけよったボケガラスを放って置く訳にいかんで!」
「おうよ、落とし前つけて貰わんとけったくそ悪いわ」
トラに対するもやもやとした感情をぶつける格好の獲物を得たとばかりに
虎たちは「いてまえ!」「出入りや!」と騒ぎ立てる。
「いや、あの、だからぁ・・・」
自分の発言で思わぬ火が点き焦る若虎。
「まぁ、お前らの好きにしたらええけどなぁ、もう遅いと思うで」
にやりと笑いこちらに目を向ける大虎にぎょっとする若虎。
「!?」大虎の意味深な笑いに皆が色めき立つ。
「そ・・そうなんですわ。わてらが戻る途中で聞いた話やと
兄さんに会うた日に某地方のヤグード組が壊滅した、
殺ったんはでっかい虎やったいうて・・・」
「間違いない、あいつや」
大虎は実に満足そうに笑うと
「皆もご苦労さんやったな。今日はこれで終いや」とその場を〆た。

その日クォン大陸のヤグードたちは八つ当たり的な虎たちの猛攻によって壊滅し
本拠地のあるミンダルシア大陸まで撤退を余儀なくされたとか・・・

33 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:27 [ E6GNWD3I ]
=氷河⇒バタリア・隧道=

真っ白な世界を切り取るようにしてそびえ立つ山肌に
ぽっかりと口を開ける洞窟がある。
元は自然に出来たものであったが
先の大戦の折、Gigas族がクォン大陸へ攻入る為に掘削したという。
真偽の程は誰にも分からないが
出口がバタリア丘陵の断崖上にあることから
一方通行のこのトンネルを利用するものは滅多にいない。

34 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:28 [ E6GNWD3I ]
トンネルの奥でスヤスヤと寝息を立てるものがいる。
薄暗い中を目をよく凝らしてみれば
漆黒の竜が何かを抱えるように身体を丸めてうずくまっていた。
大虎は少し困ったように首を傾げた。
幼い竜のようだが、身体は大きい。
起き上がればトンネルを塞いでしまうだろう。
一方、自分も歩くのが精一杯の広さである。
気配を殺し、側をすり抜けることは容易いが、それだけの空間がない。
大虎は好戦的な一族とは違い、自ら望んで弱者を屠ることはなかった。
むしろ弱者に対して優しさを見せる大虎に
一族の者たちは歯痒さを感じたりもするのだが
それは王者のみが会得する悟りなのかもしれない。
道は一本道・・・
「さて、どないしたもんかなぁ」

35 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:29 [ E6GNWD3I ]
竜はタル竜騎の体温を鎧と鱗を通しても感じることが出来た。
−温かい・・・
タル竜騎は疲れている。
毎日毎日、冒険者をやっつけているから。
冒険者が襲ってくるわけなんて知らない。
生まれて直ぐ人間に引っ叩かれて
それでちょこっと腹が立って
通り掛かった町々でちょこっと暴れたけれど・・・
―-闘いは本能、殺戮は欲望―-
でも、でも、望むままに人を襲ったのはあれっきり。
あの夜、タル竜騎が泣いたから。
『ケガさせてごめんね』
自分の方がずっとズタボロだったのに。
心の奥で真っ黒な何かが『殺せ!憎め!』って言うけれど
タル竜騎の為にだけ戦うと決めたんだ。

それからずっと心の真ん中がほっこり温かい。
タル竜騎の体温みたいに。
真っ黒なヤツは温かいのが嫌いだから
最近はずっとどこかに隠れていた。
もう居なくなったと思っていたのに。
ここに来てから、急に大声で喚き出した。
『帰えっておいで!』
帰る?
アタシの帰る場所はタル竜騎の側だ。
『仲間の元へ!』
仲間?
そんなもの知らない、タル竜騎が居ればいい。
『早く!早く!早く!』
うるさい!うるさい!黙って!!
「ミャアァァァ!!!!!!!!!!!」

36 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:30 [ E6GNWD3I ]
立ち上がったはずみでタル竜騎が転がった。
「・・・何?」
目をこすりながら竜を見上げる。
だが、竜は彼を見ていなかった。
−気がつかなかった!
赤い凶眼を見開き、闇の先を睨んでいる。
竜が見つめるものを確かめようと振り返りかけたタル竜騎の身体を
彼女は前脚で自分の身体の遥か後方へと転がした。
ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・
「きゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
−これでいい
例え死んだとしても、
洞窟を塞ぐこの身体が邪魔になって後を追うことは出来ない。
その間にタル竜騎は逃げることができる。
竜は覚悟を決めていた。
それ程、目の前の敵は強い。
だけど・・・だからこそ!
「ミャアア!!!!!」
−タル竜騎はアタシが守る!!!!!

37 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:31 [ E6GNWD3I ]
「ほぉ・・・ワシとやろぅちゅうんか」
静かな言葉に身体が震える。
−違う、違いすぎる。
圧倒的な実力の差がヒシヒシと伝わってくる。
一瞬でも気が抜けない、隙を見せれば殺られる。
しかし、大虎が仕掛けてくる気配はない。
−先手必勝か?
Tiger族は大技を繰り出す時、
後脚で立ち上がる必要があるが
狭いトンネルの中では大きな動きは取れない。
だが、Dragon族のブレスは狙いを定めるだけ。
放つまで気を高める時間に隙を生じるのが問題。
「ふ・・・あはははははは!」
ミャ?
−何だ?
「邪竜が人を守ろうちゅうんか」
−こいつ殺意がない?
「アンタ、何であのちぃこいのとおるんや」
−小さいって言うな!アタシのタル竜騎は強い
「強さがすべてか・・・?」
−タル竜騎は・・・タル竜騎といると温かいんだ
『お前にそんなものは要らない、帰って来い!』
−嫌だ!嫌だ!この温かいものは、大事なものだ!
「この先、ワシの暮らす土地の更に奥にアンタの一族がおる」
−え?
「そいつらがアンタを呼んどるのがワシにも聞こえる」
−アタシの一族?
『そうだ、我らは血族、お前は次代を継ぐもの』
トンネルの先、遥か彼方から憎悪の霧が滲み出すのが竜にも分かった。
真っ黒なヤツが心を食らおうとしてきたからだ。
「嬢ちゃん、闇を追い出さなあかん。
アンタ、ワシに命くれる気ぃやったんやろ?
ちぃこいのと生きていく覚悟決めたんやろ?
せやったら、アンタには出来るはずや」
竜は心の中の温かいものに意識を集中した。
タル竜騎を思い出す。
毎日が傷付くことの繰り返しだけれど
彼はいつも笑っていた。
「ぼくが守ってあげる」
−守る、一緒に生きる。
『止めろ!血を断ち切ることなど出来ん!』
邪竜が凶眼を見開きありったけの力で咆哮した。
『ミャアアアアアアアアアアアアア!』
−アタシはタル竜騎の竜だ!
竜の咆哮に合わせるかのように大虎が吼えた。
『お前らの負けじゃ』
『・・・・・我らは諦めぬ・・諦め・・・ぉぉおおおお・・・・・』

38 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:32 [ E6GNWD3I ]
極限まで精神を高めた反動で
すっかり力を使い切った竜はがっくりと膝をついた。
−アタシ勝ったの?
「ああ、勝ったなぁ」
−あなたは誰?
「ワシはただのおっさんや」
−くすっ。嘘つき
「それでええ、女の子は笑顔が一番や」
邪竜の笑顔・・・人が見たら一生うなされそうなものだろう・・・
「・・・・・ぉぉぃ」
「精も根も使い果たしたとこ悪いけど、相棒が後で呼んでるでぇ」
はっとして竜は首をひねると自分の尻尾を見た。
そこには太い尻尾にしがみ付いて
必死によじ登ろうとしているタル竜騎の姿。
−逃げなかったの?
心の温かいものが大きくなる。
少し尻尾に力を入れて、器用にタル竜騎を跳ね上げると頭で受け止める。
「りゅ、竜はぼくが守るんだ!と、と、虎だって怖くないぞ!」
竜の頭の上にへっぴり腰で立ち上がると勇ましく槍を構えている。
温かいものが益々大きく強くなる。
「ワシはなぁ、この先に用があるねん。」
「そうなの?竜をやっつけにきたんじゃないの?」
「違うでぇ、でもこの辺にはおらん方がええなぁ」
ミャー
−もう飛べる
「でも竜さん疲れてない?平気?」
ミャア
−大丈夫
「虎さん、道ふさいでごめんね。ぼく達行くね」
「ああ、かまへん。気ぃつけて行きや」
ミャミャー
−ありがとう
邪竜は頭を少し下げた。
タル竜騎もぺこんとお辞儀した。
そのままずるずると後じさりしてトンネルをバックしたまま去っていった。
バサリ。
邪竜が空に飛び立った気配を感じながら大虎は独り語ちた。
「時代が・・・変わろうとしとるんか」

39 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:33 [ E6GNWD3I ]
=バタリア丘陵=

バタリア丘陵は古墳で出来ていると言うぐらい
至るところに古墳があるが殆どは埋まっており入口と石室しかない。
たまに奥まで続くものもあるが、その先は文字通り死者の国である。
ジュノから少し離れた半分埋まった古墳の入口で
トラは犬で言うところの“お座り”の姿勢で座っていた。
一緒にいる筈のタル獣の姿は何処にも見えない。
獣使いはフィールドワークが常だ。
食事も寝床も現地調達する。
それでもたまには街に買い物に行かなければならない。
タル獣はトラの身を案じて、
何度も何度も振り返りこう言いながらジュノに向った。
「明日の朝には帰るから。外にはでないで」
虎の牙は薬の材料となりかなりの高値で取引されるため、
虎狩り専門の冒険者が多数いるのだ。
「トラさんはりっぱできれいだから、狙われる!」
タル獣はそれが心配で心配で
ここ数ヶ月買出しに行けなかった。
とうとう全て使い切っても、まだタル獣は街に向わない。
「身体中傷だらけのくせして・・・ホンマに」
傷薬さえなかったのだ。
その心使いは嬉しい。
「ワイがそこら辺の冒険者に負ける思うんか?」
笑いながら、タル獣の背中をぽんぽんと押すと
渋々ジュノへと歩いて行ったのだ。
「アイツの方が羊と間違われて狩られそうやなぁ・・・」
「トラさんにもお土産買ってくるからね〜」
「早ぅいかんかい!」

40 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:33 [ E6GNWD3I ]
未練タラタラ、遠くから聞こえる声に怒鳴り返えしてから数時間。
「それにしても、満月かいな」
満天の星空に丸い月。
その月を黒い影が過ぎったように見えてトラは目を瞬いた。
もう一度見上げる。
そこにはぴかぴかのご機嫌な顔の月。
「邪竜やったような気がしたんやけどなぁ」
こんなところを邪竜が飛んでいるはずは無い。
気のせいだろう。
さて、一晩中座って待っているわけにもいかない。
タル獣も今夜は暖かいベッドで眠るだろう。
トラはくるりと身を翻し、石室の真ん中で丸くなると目を閉じた。

バタリアの北、台地の断崖に前脚をかけて
すっくと立つ影がいる。
月光に浮かぶ姿はまるで彫像のよう。
だけど、纏っている気は尋常ならざるもの。
台地にも僅かばかり棲む獣や獣人はいるが
異様な気配に何処かに隠れてしまっている。
「トラ・・・来い!」
大虎は月に向って咆哮を上げた。

41 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:34 [ E6GNWD3I ]
「おやじ!?」
ガバッと跳ね起き、表に飛び出す。
広いバタリア丘陵がしんと静まり返り、息を潜めている。
「出張ってくるなんて・・・」
トラは声のした方角を見極め一目散に駆け出す。
「すまんな、朝までには戻るさかい」
と心の中でつぶやきながら。
遠くからでも月を見据える大虎の姿が見えた。
やっぱ、かっこえぇなぁ。
トラは素直に思った。
が、いつもと様子が違う。
帯電しているようなぴりぴりする感覚。
Demon族との出入りの時でもこんなに緊張したことは無い。
「こらぁ、肝据えていかなあかんちゅうことか」
立ち止まり、息を整える。
ゆっくりの身体の気を巡らせていく。
走ってきたから筋肉は十分に温まっている。
ぶるんっと身震いひとつ。
髭の一本一本まで気が行き渡り、
空気の僅かな振動でさえ捉えられる。
「よし」
トラは大地を踏みしめ、のっしのっしと歩き出した。

42 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:35 [ E6GNWD3I ]
「来よったか」
「ああ」
断崖の上と下で対峙する2体の虎。
帯電した空気が今にも火花を上げそうだ。
「お前の覚悟ちゅうもんを見に来たんや」
「・・・タル獣のことか?」
「跡目をお前に取らす」
「・・・・・・・・」
「ワシの跡を取るちゅうことがどういうことか、教えとこう思うてな」
「ワイはアイツと生きるんや。」
ぶんっ。
何の前触れもなく空気が引き裂かれる。
トラが一歩下がってかわすと、その軌道は地面を抉った。
『軽い振りであの威力かいっ』
じわりと汗が滲む。だが視線は大虎から外さない。
「ワシらの一族・・・と言うより、
一族の長はあるモンと契約することになっとる」
「な?!」
しゅっ。
爪の軌跡が弧を描き、トラの鼻先へと迫る。
ひょい。
首を引いて避ける。
「ソイツと契約したら最後、後戻りは出来へん」
「そんなもん、受けんかったらええんや」
大虎が崖から飛び降り様に前脚を繰り出し大技を放つ。
ずしんっ。
後足立ちで大虎の前脚をがっちり受け止めたが衝撃は凄まじく、
爪を立てて踏ん張ったまま土を削りながら5mほど後退する。
「自動更新なもんでなぁ、そうもいかんのや。」
前脚を取られたが、身体は大虎の方が一回りは大きい。
その巨体を利用してトラを組み伏せようとする。
「ワイがその契約とやら、無効にしたるわい!」
叫びとともに大虎の鼻先へ頭突きを食らわす。

43 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:35 [ E6GNWD3I ]
手応えは・・・ない。
大虎は組み手を解いて後方へ飛び退っていた。
「ふふん、やるやないか。」
ぱんぱんと前脚で肩を払いながら大虎が満足そうに笑った。
「今のは何ちゅうんや?あんな攻撃は虎にはあらへん」
「タル獣の必殺技や。」
目を細めタル獣の勇姿を思い浮かべるトラ。
「そうかぁ、お前の相棒はホンマに強いんやなぁ」
ひょいひょいっと断崖を駆け上がり大虎が耳を澄ます。
「お前んことを探し回ってるみたいやけど」
トラも耳に欹ててみる。
「トラさーん、トラさーん、どこーーーーーーー」
まさか?まだ夜は明けていない。
「まぁ、当分譲る気ぃは無いさかい、今の話は心ん中に仕舞っとけや。」
「おやじ・・・」
「早う行ったらな、バタリア中を走り回る勢いやで」
「すんまへん」
ぺこんっと頭を下げるとトラは駆け出した、タル獣の元へと―
「真っ直ぐ走って行きよるわ」
ごろりと寝そべると乱れた毛皮の手入れを始める。
身づくろいが終わる頃、東の空から太陽が昇り始めた。
明るい光が溢れ、生き物たちが動き出す気配に空気がざわめく。
「明けない夜はあらへん、時は止まらへん。なら・・・きっと・・・」
氷河へと続く洞窟に大虎は消えて行った。
朝日を漆黒の身体いっぱいに浴びながら。

44 名前: 白虎 投稿日: 2004/02/25(水) 04:36 [ E6GNWD3I ]
=トゥーリア=

数十人の冒険者が自分を呼び出そうとしている。
「とうとうここまで人間が来よるようになったんか・・・」
ここは古の神の座。
人間たちが辿り着くまでに幾千年の年月が流れたのだろうか。
時代は確実に変わろうとしている。
古き楔に繋がれた夢も絶える時が来たのだ。
「時の流れから切り離されたアンタに判るはずもないやろうが・・・」
この場所より更に深部で、まどろみながら時を待つ盟主に呟く。
「獣も邪竜さえも人と共におろうとしとる。
遥か過去の呪いでこの地に繋がれる必要はもう無いんや。
せやけど、ワシらが楔を外すことは出来へん。
人間がワシらをアンタを悪夢から解き放てくれるやろ。
さぁて、契約に従うんはワシが最後にして欲しいなぁ」
じろり。
大虎が神の座から冒険者たちを睨み付けた。

――オレは西辺を護りし、白虎よ。
貴様ら人間なぞ、歯牙の間に置くにも足らぬが、
余興に戯れてやろう――





<おまけ>
冒険者1:「白虎なのに、白くない!!!」
冒険者2:「ありえねぇーーーーーー!!」
白虎:「じゃかぁしいわぁ!!!かかって来んかいっ!」
彼らがぼこぼこにされて、神の座から放り出されるまで30分も掛からなかった。
契約破棄まではまだまだ時間が掛かりそうだ・・・

45 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/25(水) 04:48 [ E6GNWD3I ]
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません

一読者に戻って、神の降臨をお持ち申し上げます

46 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/02/25(水) 06:13 [ etUeCFvE ]
「名無しの話」外伝の5 −エル騎士のは・な・し2−

私はエルヴァーン。
試練を越えし者。
栄光を掴みし者。
騎士の銘を受けし者。

盾となりて敵を防ぎ
剣となりて敵を払い
槍となりて敵を貫き
同胞に勝利をもたらす者。

……
そんな彼女が作ったチョコレート。
一生懸命作ったチョコレート。
心をこめたハートチョコ。

「おーい、チョコ配るよー」
タルやエル、ガルヒュムミスラの区別なく
メンバに配るチョコの山。
けれど忘れず、間違わず、ハートチョコはアイツのもとへ。

そして密かなtel相談。
「なあ、俺だけハートチョコみたいだ…」
だって、ほかのはそれの失敗作だもの。
「これ、高いのか?」
いやいや、手作りなんだから。
「ホワイトデーになにを渡せばいいと思う?」
だから、本命なんだってば。
「お金でもいいかな?だとしたら相場いくらぐらい?」
だーかーらぁ。
「やっぱり、みんなの倍は出さないとだめって事だろうか…」
あんたねぇ…。

うむむむむ、説明できないもどかしさ。

リーダーやってるエルヴァーン。
手下率いるエルヴァーン。
姉と呼ばれるエルヴァーン。
威風堂々エルヴァーン。
けれど、心は娘さん。
年頃なのだし、恋もする。
純な思いは通じるだろか…。

そしてまたまたtel相談。
「わかってくれたと思う?」
ごめ、とても言えない…。

「名無しの話」外伝の5 −おわり−

47 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/02/25(水) 06:19 [ etUeCFvE ]
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
都合により登場する人物は実在してないはずです。
ばれたら首引っこ抜かれちゃいます。
ですから、世間一般のエル♀騎士の話です。
う…それはそれで身が危険のような…。

>29様、もったいなくもすばらしい作品でございますぅ。
うちの子たちをこんなにすばらしく書いて頂いて、ホントにありがとうございます。

48 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/25(水) 15:33 [ pApZVx5Q ]
>29-45
イイヨイイヨー
パラレルワールドはいっぱいあるからw

と思って楽しんだのは私だけではないはず? (・ω・)

49 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/25(水) 20:20 [ Ih/yBmHQ ]
>>48

俺も〜。
オモシロカッタヨ

50 名前: 29 投稿日: 2004/02/25(水) 21:54 [ 9haPVh5M ]
_・)ソォー

>名無しの話の作者様
ううぅ〜暖かいお言葉ありがとうです
調子に乗って、ホントにごめんなさいですm(__)m

姐さんと呼ばれるタル♀やってます
手下率いてます
・・・分かるっ
心は娘さんなんだよぉ;;

>48
>49
パラレルワールド楽しんでいただけたなら
トラさんファンとしてはこれ以上の幸せはありませんです

では、新しい作品のお邪魔になるので消えますです

51 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/25(水) 23:15 [ Tw20RWoM ]
>>E6GNWD3I
白虎、パクリじゃねーか。ラストシーンの構成だけだがな。

52 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:22 [ KncN.Kso ]
その物語は一度、終焉を迎えた。それから長い長い年月が過ぎた。
歴史の節目を基準にすると、丁度、クリスタル戦争と呼ばれる戦争から
20年と少しの年月が過ぎた頃である。

・・・その時代、ヴァナディールは大きな変革期を迎えていた。

獣人との戦争が終結した後、各国はより強力な力を持った兵を望んだ。
それにより冒険者推奨政策が取られ、若き冒険者が続々と誕生した頃である。

後世の人々はこの時代を”冒険者の時代”と呼ぶ。

53 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:22 [ KncN.Kso ]
タルタル戦士は夢を見る 最終話 旅は終わらない
 

―― バルクルム砂丘・洞窟 ――

「ちょっとぉ〜。セルビナってまだなの?」
「ン…この洞窟を抜けて、そこからさらに歩く必要があるな」
「ふぅ・・・熱い砂丘の次は、じめじめした洞窟だなんて」
「冒険者は・・・これくらいで根を上げるもんじゃあない。これ以上無駄口を
 叩くのはやめてくれないか」
エルヴァーンのモンクは頭を抱えていた。
バストゥークの知人に娘をウィンダスへと送り届けて欲しい、という依頼を受けたものの、
まさかこんな・・・おてんば&わがままな女とは思いもしなかった。
(ヒュームの娘は、これだから困る・・・)
祖国エルヴァーンの同年代の女と比べて、どうにも品が無い。いっそ、サンドリアへ連れてって
淑女の教育でもしてやろうかと思ったほどだ。
「エミナ、私から離れるなよ?ここは厄介な蝙蝠の巣窟だ」
…返事が無い。・・・まさかと思って振り返って見ると…
「きゃあああああ」
後ろから、エミナの悲鳴が聞こえた。
(・・・全く・・・)
クローを握り締め、彼は暗闇の中を走る。蝙蝠は数が多い。
未熟な彼女を不覚にも一人歩きさせてしまった事を、彼は悔やんだ。

54 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:23 [ KncN.Kso ]
悲鳴の元へ駆け寄ると、そこには意外な光景があった。
エミナが、暗闇をじっと見つめている。そして、その先には・・・ガルカがいた。
しかし、そのガルカは一目でまともな状態でない、と認識できた。
「・・・おい・・・そこなガルカよ」
声を掛けるが、それはこちらをチラリと見ただけで、返事をしない。
「・・・どうしたのかしら・・・?まるで、ずっとこの洞窟にいたみたい・・・?」
エミナがゆっくり、ガルカに近づく。
「おい、やめろ。危ないぞ・・・」
「大丈夫よ」
彼女がガルカに近づく、そこで、初めてガルカが口を開いた。
「う・・・う・・・お・・・」
「よせ、正気を失っているぞ。離れるんだ」
「・・・いいから、ちょっと静かにして!」
ゆっくりと、ガルカの側へ行き、目の前にしゃがみこむ。
「どうしたの?あなた・・・こんなところで?」
何故だろうか?その時、彼にはエミナの表情が、まるで別人のものに見えた。
その慈悲深い、優しい瞳ははアルタナの女神を連想させた。

55 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:24 [ KncN.Kso ]
そのガルカは・・・何年もの間、暗闇を彷徨っていた。
もはや、何故自分がここにいるのか、そもそも自分は誰なのかも覚えていない。
このまま、生の終わりを迎えるまで、ここに居続ければいい。
それ以外にやる事なんてないのだから・・・そんな風に考えていた。
だが、その時、声が聞こえた。とてもとても懐かしい声だった。
その声の主はヒュームの女だった。どこかで聞いたような、そうでないような・・・
彼女は、ガルカの手を取った。そしてこう言った。
「ガルカさん・・・私と一緒に行きましょう。私はあなたを守る、だからあなたも
 私を守ってくださいね」
・・・そして、彼は外へ出た。太陽の光が眼球を突き刺し、彼は慌てて顔を覆った。
目が慣れてきた時、彼は始めて女の顔を見た。
やはり、何処かで会ったような気がした。・・・よく覚えていないが、間違いなかった。

彼女を守ろう・・・自分に光を与えてくれた彼女を、命に代えても。

暗闇の獣は、そうして再び炎の獣となった。

56 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:25 [ KncN.Kso ]
―― マウラ ――

「大変だー!ゴブリンの群れが門のところまで来てる!」
「な、なんだってーー」

・・・港町マウラはちょっとした騒動になっていた。
本来、ブブリム半島のあちらこちらを放浪しているゴブリンが
大群を成して町の門へと集まっているのだ。

原因は、ここ最近数が増えた冒険者だろう。
彼らがマウラを目指し、ブブリム半島を徒歩で移動する時、ゴブリンに見つかってしまい、
当然未熟な彼等はマウラへと逃げ込もうとする。
最初は一匹のはずなのだが、だんだんとその数が増えてきて、
マウラに駆け込む頃には相当数の数になっているのだ。

何処の誰が言い出したのかわからないが、それは一部の冒険者の間でゴブトレインと呼ばれている。

「おい、今外に出てる奴、いるのか!?」
「冒険者!責任もってあいつら追い返せよ!」

冒険者達はお互いの顔を見合わせて、ぴくりとも動こうとしない。
それもそうだ。今外に出れば間違いなく死が訪れるだろう。

57 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:26 [ KncN.Kso ]
「へーい、へいへい、わぁったよ、頼むから静かにしてくれや。
 こっちは昼寝してたんだよ・・・ったく・・・」
一人の、妙珍な格好をしたエルヴァーンの男が宿屋から、あくびをかきながら現れた。
「なんだアレ・・・?」
「変な鎧を来てるぞ・・・?」
人々は皆、彼に注目し、じっと見つめた。
「だぁぁ!お前らいちいち見つめんじゃねぇって!うぜーんだよ!
 ゴブリン、追い払えばいーんだろ?さっさと片付けるから散れ、散れ!」
男は悪態をつきながら、そのまま町の外へと歩いていった。

それから数分後・・・男は無傷で帰ってきた。
「あいよ、ゴブリン共は追い返したぜ・・・ったく、あれぐらいで騒ぐんじゃないっての!」
そうして、また大きなあくびを一つ、そのまま宿屋へと向かっていった。宿屋の手前に来た所で
「ヴァーリュス」
彼を呼び止める声があり、彼は「あぁん?」と振り向いた。
そこには、魔道士のローブを身にまとったミスラが立っていた。
「・・・言葉遣い・・・気をつけたほうがいいわ・・・冒険者って目立つから・・・」
無表情、そして無愛想な黒魔道士のミスラは彼の冒険のパートナーである。
「あー、はいはい、分かってらぁ」
ヴァーリュスはボサボサに伸びた髪をぼりぼりと掻き毟りながら、面倒そうに答えた。
「・・・・・・」
無言でミスラがじっと見つめる。長い付き合いだ。彼女が少々お怒りなのは、一目瞭然だった。
「・・・ご飯・・・抜き・・・」
「なっ!・・・ちょ、ちょっと待てよ、おい!ツォレ!」
先ほどまであれ程ふてぶてしい態度を取っていたそのエルヴァーンが、すたすたと歩いていく
ミスラの後ろをヘコヘコしながら追いかけるその姿は、中々の見物だ。

マウラは今日も平和である。

58 名前: (つд`) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:27 [ KncN.Kso ]
最終回、アフォみたいに長いので分割でいくでつ(つд`)
なので、今回はここまで、続きはまた今度(´・ω・`)ノシ

59 名前: (つд`) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:36 [ KncN.Kso ]
>目が慣れてきた時、彼は始めて女の顔を見た。
ヤチャータヨ。 初めて でつね(つд`)

そ、それと、今回分割にしなくても話数増やせばいいんじゃね?と
思われるかもしれませんが、どーしても最終話の中に入れたい結末なので・・・(つд`)
こればっかりはこだわりなので多めに見てつかぁさい(つд`)
まぁ、全部出来てりゃ一発ドカンと乗っける事が出来るんだけどね(ノ∀`)

60 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:36 [ yMfBLNEQ ]
>>44
名無しさんの雰囲気も壊してないし、地を踏んだ設定なのにとても面白かった
(*゚∀゚)スンバラスィー

61 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:46 [ yMfBLNEQ ]
間違えてageたら

タル戦
 キ
 テ
 タ
 ┃
 ┃
 ┃
 ┃
 ┃
 ┃
(゚∀゚)
 ┃
 ┃
 ┃
 ┃
 ┃
 ┃
!!!!!!!!!!

62 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 01:49 [ ZuPpVED2 ]
タル戦最終話か…

63 名前: 1/1 投稿日: 2004/02/26(木) 02:02 [ FaeTlSBs ]
[ 紅葉 弐 流星 ]

少女は、それから毎日、星の降る丘へ足を運んだ。
おにぎりを風呂敷に包み、運ぶ。

鬼は相変わらず、星の降る丘を徘徊していた。
丹念に足元を調べる。
ただ、それだけである。

少女は適当な位置に風呂敷を置いて、鬼を観察する。

少女と鬼の距離は一定であり、
鬼が遠ざかれば、少女が追い、
鬼が近付けば、少女が引く。

鬼は適当な頃合で風呂敷を解き、黙っておにぎりを食べた。
少女も黙ってそれを見詰めていた。

そして少女は、空になった風呂敷を持って帰る。

そんな関係が、しばらく続いた。



某日。

少女はいつものように星の降る丘へ足を運んだ。
だが、鬼はいつもと違っていた。

鬼は地面を掘っていた。

何時間も。
何時間も。
何時間も。

休まず、黙って、全力で、一所懸命、掘り続けた。

某時。

鬼の動きが止まる。
少女が鬼をじっと見詰める。

鬼は、それに残った土を優しく払い、
両手ですくうように、それを持ち上げた。

それは、鬼が探していたもの。
それは、流星。
かつてこの地に落ちた星。

隕石と呼ばれる、星の鉄。

鬼は、それを腹に抱えると、
胎児のように丸くなり、眠った……。

64 名前: 1/1 投稿日: 2004/02/26(木) 02:03 [ FaeTlSBs ]
[ 紅葉 参 過去 ]

男は刀鍛冶を生業としていた。
その腕は名工と称えられ、その名を知らぬ者は、
この国におるまいとまでいわれた。

そして、男は藩主の命により、一本の刀を打つこととなる。
藩主が求めたのは、最高の刀。
男はそれに答えるべく、
全身全霊を込めて、一本の刀を打ち上げた。

だが、男は仕損じた。

男は、己が慢心までも刀に込めたのだ。

そして、それは一瞬のこと。
男が刀を手にしたとき、男の心に魔が差した。

最高の刀とは何か?!
それはこの刀!

何故に最高か?!
それは斬!

ならば、証明して魅せよ!
応、この刀に斬れぬもの無し!

そして、それは一瞬のこと。
男の足元に倒れたのは、男が愛した女。

女は男に微笑むと、無言で崩れて、こと切れた。
そして、男は理解した。

刀に魅入られ、外に出ようとする男を、
女は身を挺して止めたのだ。
外で人を殺めれば、男は戻れなくなる。
だから、女はその身を差し出した。
自分なら、男を呼び戻せる。

そう信じて。
そう愛して。

女は、そこまで男のことを想っていた。
そして、それは男も同じこと……。

結果、男は呼び戻されたが、女は永遠に戻らない。
そして、男はこの国から姿を消した。

これで妖刀は完成した。

65 名前: 初めての冒険 第五話 1/5 投稿日: 2004/02/26(木) 02:39 [ CQzE6CCs ]
初めての冒険 第5話 ブブリム半島〜道連れはガルカ

大きな影がのしのしと歩いていく。
小さな影がりっくりっくとその後をついていく。

大きなガルカと小さなタルタルの二人連れ。
ガルカはとても旅慣れているように見え、
タルタルはどこか旅慣れない風に見える。

大きい方は歩きながらこんなことを思っていた。

「物好きなことだ。あの男も、自分も」



小さい方はこんなことを考えていた。

「なんで、こんなことになったんだろう」



旅の連れと見るにはあまりにも違う二人。
そんな二人が一緒にいるのは、もちろん訳がある。


少し前の話になる。
シャムは、怪我をしている人に薬と水を分けた。
正確に言うと水は、一緒に取りに行ったと言うべきなのだが。
その青年は、修練のためにタロンギ大峡谷に来ていたらしいのだが、
怪我をして倒れていた。
シャムは手持ちの薬を使って青年を助けたのだが、どうやらそのことで青年に
かなり気に入られたらしい。

「ちょっとつきあえ」
と、白い大きな建造物――自然に出来たものとは考え辛い構造をしていた――
に連れて行かれたのだ。
それが世界にいくつか有る特殊な力を持った建造物で、その欠片を「ゲートク
リスタル」と呼ぶことをシャムが知るのは、ずいぶんと後の話である。

その建物の周りには、形は異なるが町中で見かけるホームポイントのようなク
リスタルが浮かんでいた。
魔力を帯びているのが遠目にもはっきりわかる。

小さなシャムでは、見上げてもてっぺんが見えないほどその白い建造物に近づ
いたとき、そばにいた青年が声を張り上げた。

66 名前: 初めての冒険 第五話 2/5 投稿日: 2004/02/26(木) 02:41 [ CQzE6CCs ]

「ラセス!!頼みがある」

青年が声を掛けた方を見やると、そこにいたのはでっかいガルカだった。
ウィンダスでは、あまり見かけない一族。
見上げると、首が痛くなるほどに大きい。
その姿を見た時点ですでにシャムは涙目になっていた。
そのことに青年は気がついていなかったけれど、ガルカの方は気がついていた
ようである。
青年の頼みが、何か予想はつかなかった。
だから、その言葉がでてきたときは、本当に驚いた。

「ラセス、おまえさん確かマウラに行くところだよな?
 機船に乗っけるところまででかまわないから、
 この坊やつれていってやってくれねぇか?」

シャムにはガルカの表情はよくわからないけれど、ラセスと呼ばれたガルカも
驚いたようである。
「・・・マウラまで、その少年をか?」
何故そんなことを?と、怪訝そうに問い返す。
「あぁ、時間が有れば俺が自分で送るんだが、そろそろジュノに戻らなきゃ
 ならないんだ。で、でてくるときに確かおまえさんが今日あたりマウラに
 行くって言ってたから、運が良ければ頼めるかな〜なんて・・・」
青年は、自分より頭二つ分は優に大きなガルカを見上げると、ぱたんと両手を
合わせて、頭を下げた。
「頼む、コイツ一人にするの何か不安なんだよ」
ラセスがそっと、シャムを見下ろしてくる。
目を合わせて、こちらの表情を窺っている。
よく見ると、優しい顔をしている気がする。・・・やっぱり怖いけど。
「・・・マウラまでで、かまわないのか?」
「そこからさきは、おまえさんに任せる」
「・・・ところで、リード。この坊やの意見は聞いたのか?
 かなり面食らっているようだが」
ラセスの意見に青年は、ぽむと両手を打った。
「・・・忘れてた。おまえさん捕まえるのが先決だと思ってたから」
「・・・」
「ダメか?」
話の展開についていけないシャムが目を白黒させている様子を、ひとしきり
眺めた後、おもむろにガルカは告げた。
「まぁ、良かろう。どちらにせよ、こちらも辿る道中だ。道連れがいるのも
 悪くはない」
と。
こうして、シャムはガルカの冒険者ラセスとマウラまでの道中をともにする
ことになった。

なんでこんなことになったのか。
理由は怪我をしていた青年リードのお節介だったのだが、そのことを理解する
だけの余裕がそのときのシャムにはなかった。

67 名前: 初めての冒険 第五話 3/5 投稿日: 2004/02/26(木) 02:41 [ CQzE6CCs ]

大きな影がのしのしと歩いていく。
小さな影がりっくりっくとその後をついていく。

峻険な山道はいつしか不思議な形の岩が林立する緩やかな坂道へと姿を変えて
いた。

ラセスがたまに「疲れていないか?」と尋ねる以外は静かな道行き。
ふと、シャムは疑問に思っていることを尋ねることにした。
「あの、あの白い建物ってなんなんですか?」
あんなもの、サルタバルタあたりでは見たことがない。
「建物?」
「あ、さっきの場所です。人が作ったようには思えなかったんですけど、
 自然に出来たものとも思えなかったから建物っていったんですが」
「・・・」
「あ、あの?」
建物と呼ぶのは妙だったのだろうか。
なにやら、黙り込まれてしまった。
・・・まずいこと、聞いちゃったのかな。
「冒険者の間ではメアの岩・・・と呼ばれているな」
単に答えを考えていただけだったらしい。
「サンドリア・・・の大聖堂。そこの秘術にテレポと呼ばれる移動魔法がある。
 それは、クリスタルラインと呼ばれる特殊な力場を利用して移動を行うもの
 らしいのだが、あそこはそのゲートの出口の一つだ。何でそんなものがある
 のかまでは知らんがな」
移動魔法の話は、魔法学校でも聞いたことがあった。
ウィンダスでも研究は行われているが、それとはたぶん系統が別なのだろう。
成績は中の下と言ったところで、お世辞にも優等生とは言えないシャムだが、
そこは魔法学校の生徒。人並みかそれ以上に魔法に対する興味はある。
答え方はゆっくりだが、ラセスは質問を無視するような人ではないらしい。
シャムは、いろいろと質問してみることにした。
「ラセスさんはそのテレポであそこまで来たんですか」
「そうだな、マウラに用があるんでな。一番近いメアの岩に飛んだところだ」
「・・・一番近いってことは、ほかにも有るんですか?」
「有るぞ。コンシュタット高地にデムの岩、ラテーヌ高原にホラの岩だな
 建造物はないが、ゲート自体はほかにも有る」
「へ〜、ラセスさんは行ったこと有るんですか?」
旅慣れた様子。
おそらくは熟練の冒険者なのだろうと思いそう問うと。
「ほかのゲートにか?
 そうだな、今のところ発見された場所についてはだいたい行ったな」
あっさりそう答えが返ってきた。
「すごーい!」
思わず声を上げると、ラセスはくしゃりと顔をゆがませた。
シャムには怒っているようにしか見えないのだが、どうやら笑っているらしい。
雑談ともつかぬ他愛の無い話をしながら、二人は道を辿っていった。

68 名前: 初めての冒険 第五話 4/5 投稿日: 2004/02/26(木) 02:42 [ CQzE6CCs ]

見たことのないものって、世界にたくさんあるんだろうな。
見たことのないものを、たくさん見る方法ってなんだろう。

そんなことを考え始めたのは、たぶんこのときのラセスの話がきっかけだった
のだろう。
そう思い当たったのはずいぶんと後になってからのことだった。

道のりは順調だった。
そろそろマウラの門が見えるだろうと言うあたりに入るまでは。
そこで二人はゴブリンの集団に襲われた。

「逃げろ、その先に門がある。そこがマウラの入り口だ」
ゴブリンの攻撃を盾で受け止めながら、ラセスが南を指し示す。
「で、でも」
逃げなくちゃと思う。このゴブリンたちはシャムが敵に回して良いレベルじゃ
ないことは、旅慣れていないシャムにもわかる。
「早く行け、おまえがいると足手まといだ」
厳しい声。
そうだ、足を動かさなきゃ! こんなところで足を止めたらダメだ。
まだ、道のりは半分も来ていないんだから。
そう思っていても足が動かない。シャムはパニックになりかけていた。
「撤退の判断は冒険者に取って大事な素養だ!とっとと行かないか!」
再び厳しい声でラセスが言う。
とっさのことだった。
逃げるならその前に、一個だけ、出来ることがある。
足止めすれば、いいはずだ。そうすれば、その間に逃げられる。
そう思ったシャムは、休みに入る直前ようやく使えるようになった呪文を詠唱
していた。

――バインド!

ごごごごごご・・・魔力が収斂し、ゴブリンの足を止める。

(無茶をする・・・と言うよりもわかっていないのか)
足止めをすると言っても、おそらく少年の練度では数秒・・・
良くてもせいぜい数十秒と言ったところだろう。
足止めをされた敵の怒りは当然術者へと向かう。

69 名前: 初めての冒険 第五話 5/5 投稿日: 2004/02/26(木) 02:43 [ CQzE6CCs ]

実のところこのあたりのモンスターはラセスにとってはたいしたことの無いレ
ベルだ。だが、少年にとってはそうではない。
まぁ、バインドで足止めしたことで少年は足を動かすの余裕が出来たようだ。
足止めされたゴブリンに正対し、少年を背にかばう。

・・・マウラに着いたらまずは説教だな。

本当に、あの男の持ち込む話はいつもやっかいごとばかりだな。
ラセスは心の中で軽くため息をつくと、少年を背にかばったまま、彼らを襲っ
たゴブリンにとどめを刺した。

・・・逃げていてくれた方が、かばわなくてすむ分楽だったんだがなぁ。

周りを確認する。視認できる範囲にゴブリンはいない、おそらく安全に門まで
たどり着けるだろう。

あの男がお節介を焼いたのもわかる気がする。
これは・・・放っておくのはまずいだろう。


こうして、シャムには旅の道連れが出来た。

70 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 09:57 [ .C5W3kkU ]
ついに最終話か・・・
足掛け6スレ・・・このスレが今あるのもタル戦のおかげなんだよね・・・

71 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 10:41 [ B0zy1Dfs ]
タル戦作者様、
お疲れ様でした。
いつも楽しみにしていました。

始めから読み返してみようと思います。
良かったらまた、
作品載せてくださいまし。

素敵な物語をありがとう。

72 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 11:30 [ o7w4mnxE ]
>>71
まだ終わってないyp(´・ω・`)

73 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 21:10 [ ZuPpVED2 ]
>>71
この早漏野郎。
おまえはちゃんと読んでいるのかと!

74 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/26(木) 22:10 [ ov8Lqk7E ]
>>71
フライング

75 名前: 1/3 投稿日: 2004/02/27(金) 01:39 [ p3rpDryA ]
[ 紅葉 士 入滅 ]

鬼は、ウインダスの外れに工房を築くと、作業に入った。

炉に緋を入れ、たたらを踏む。
そして、熱く燃える星の鉄に、鎚を打つ。

打!
打!
打!

鎚を打つたび、鬼の心が消えていく。
否、星の鉄と一体となっていく。

鬼の哀が打ち込まれる。
鬼の怒りが打ち込まれる。

鬼の愛が打ち込まれる。
鬼の優しさが打ち込まれる。

強く、激しく、燃え上がる。
粘り、絡まり、溶け合う。

もはや、鬼と星の鉄はひとつである。

それは、己を打ち続ける。
それは、己の罪に対する罰なのか。
否。
それは、己を入滅するための修行。
それは、己を昇華するための儀式。

工房に響く音は、三日三晩、鳴り続けた。



朝。

76 名前: 2/3 投稿日: 2004/02/27(金) 01:39 [ p3rpDryA ]
工房に響く音が、止んだ。
少女はその時を、ひとり待っていた。
戸を開けて、工房へと踏み込む。
そこに鬼の姿はなかった。

残されたものは、だたひとつ。

刀。

それだけである。

少女は、刀と真っ直ぐに向き合い、
迷うことなくそれを掴んだ。
握る拳に力を込める。
そして一気に、刀を鞘から開放した。

刀の声が聞こえる。
そこで少女は、全てを理解した。

過去の過ち。

それを償うため、遥か東方から旅を続け、この地に流れ着いた。

そして目的を果すため、この地で生まれ変わった。

妖刀の破壊。

それが、この刀の意志であり、存在する意味である。



少女は刀を鞘に納めると、工房をあとにする。

77 名前: 3/3 投稿日: 2004/02/27(金) 01:40 [ p3rpDryA ]
刀は世に出ることを望んでいる。
人の手を渡り歩き、いつか妖刀と対峙する。
その時を確信し、いまは競売で眠るという。

だが、少女はそれを拒否した。

何故か?

その願い、私が叶えよう。
そして、その願い叶いしあとも、私と共に生きろ。
桜は散るからこそに美しい。
だが人は、生きてこそ華、死んで花実が咲くものか!

私の名は紅葉。

色鮮やかに燃え上がり、散り去るもの。
だが、この枝が折れぬ限り、
私は何度でも色鮮やかに燃え上がる。

心得た!

そして少女は、刀を携え歩き出した。



吟遊詩人の唄が終わる。

侍ミスラの冒険譚『妖刀砕き』の一節は、
またいつかどこかで、吟遊詩人によって唄われることだろう。


―― 紅葉 完 ――

78 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/27(金) 03:26 [ BErciwfM ]
紅葉渋いっすな〜

79 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/27(金) 03:55 [ Ie3baYfs ]
紅葉 イイネイイネ-

80 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/27(金) 15:45 [ RdyAGIhw ]
>紅葉
GJ ( ̄▽ ̄)b グッ!

81 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/27(金) 19:16 [ JpmPmB1s ]
剣と、そして想いと 第2話


どこからか、湿った匂いを運ぶ冷たい風。
どんな豪胆の者でも緊張を呼び起こされるであろう雰囲気の中、男が口を開けた。
「さて…そろそろ最深部っぽいが、当たりだと思うか?」
男の連れは2人。
1人は長身のミスラ。
名をリタという、その体躯に見合う大きな長弓を背負う狩人である。
その彼女が先んじて答える。
「私は…当たりだと思う。雰囲気や魔物達…勘に経験、全てが何かあるぞ、ってね。」
「私もそう思いますよぉ。奥の方ほど魔法生物系が増えましたし。古代のガーディアンと言ってもいいんじゃないかなぁ。」
語尾を延ばすもう一つの声はプルルというタルタルの発したものだ。
職は黒魔導士。
種としての適性のみならず、本人のたゆまぬ努力の末に得た魔力は同年代の中では上位に位置付けられる。
「俺もそう思ってたところ。じゃ、もうひとふんばり行きますかー…って思ったより近くにドアが。」
通路を曲がった先の行き当たりに設置された、大きくそして装飾の施された両開きの扉がそこにはあった。
「あちゃー。ここまでそれっぽいとなんだか踊らされてる感じになりますねぇ。」
「いいじゃないか。サーガにはこういう扉はつき物だからね。私達の物語を書くなら脚色する必要も無く便利だよ。」
「そゆこと。んじゃプルルの補助魔法の後に突っ込みますか。魔法はかけ損が一番だが、そうなった事は無いし、油断せずにいつもの仕事。OK?」
「「了解!」」
2人の声が重なる。
そして、扉が開かれる――――

82 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/27(金) 19:17 [ JpmPmB1s ]
「んで…あったのは剣じゃなくて、柄だったって?」
所を移し、ジュノ。
セリアの店でのいつもの反省会兼打ち上げである。
「そうなりますねぇ。今のところはつけた刃の切れ味が多少上がる、ぐらいの効果は分ってるんですけど。」
「きちんと実入りはあった。結構貴重なものかもしれないし、私はこれで成果としては十分だと思う。」
不満そうに酒を飲んでいるのはただ一人、リーダーのゲイルだった。
「魔法の剣つったらさー、念じたら光がぶぁーって伸びたり、落としただけで石畳に突き刺さったり、そんなもんだろうよー。なのに柄だけだぁ?刃は自分で用意しろ?そんなもん俺の美学が許さねぇ!そんなもん古代の剣じゃねぇよぉ!」
「ハイハイ、これが現実ってもんなの。夢だけじゃ美味しいご飯は食べられないの。素直に冒険の成功を喜べないの?」
たしなめる様にセリアはゲイルを諭す。
だが彼が取り合う事はない。
「うぅ…セリアまでおらのごど馬鹿にすんのがぁ。もうええだよぉ。おらぁ国にけぇるだぁ!」
「待ちなさい。あんたの田舎がジュノ以外のどこにあるってのよ?全く…どこの言葉かもわからないし。ほら、しっかりしなさいよ。」
酒に弱いゲイルはまだ酒宴は序盤にもかかわらず潰れてしまった。
「いっつも弱いくせに一気にやっちゃうんだから…まだ料理に殆ど手もつけてないのに。これだからコイツはもー!」
そういいながらもゲイルをやさしく介抱するセリアを、リタとプルルの二人が暖かい目で見つめる。
二人ともこういうふうにしているゲイルとセリアを見るのが好きだった。
長年の伴侶のような、でもどこか初々しさの残る二人。
セリアはこの瞬間が少しでも長く続くことを祈っていた…



暗闇の中、老人と青年が立っている。
お互いが顔を合わせる事は無い。
「柄が…目覚めたか」
「はい。」
「ならば…刃も、鞘も必ずどこかで。」
「いかがいたしましょう。」
「無論、我が手に。かなわねば、消せ。」
「仰せのままに。」
青年の気配が消える。
老人は依然と立ち続け、黙考する。
全てを捨てたかのような表情からは、その考えを察する事は出来ない。
ただ一つ、憎悪だけがその暗い瞳に写っていた。



続く

83 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/02/27(金) 19:17 [ JpmPmB1s ]
8ヶ月ぶりです。
恥ずかしながら戻ってまいりましたっ!
この空白の間に色々ありました。
FF引退したり兄が騒動起こしたり留年確定したり留年確定したり留年確定したりいいぃぃぃやああぁぁぁ…
そんな訳で最近かなり_| ̄|○な状況ではあるんですがWikiにて自分のを見るとまたふつふつと書きたくなってきてたり。
そんな日常のショックから逃げる様にまた物語を書いていこうと思うので応援してくれたらありがたいです。
古いんでWikiの1話にリンク。
ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/fswiki/wiki.cgi?page=%B7%F5%A4%C8%A1%A2%A4%BD%A4%B7%A4%C6%C1%DB%A4%A4%A4%C8%231

…なんかリタの口調や性格がパインそっくりな気が…

84 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/03(水) 09:29 [ OfYxdm2w ]
職人さん期待age

85 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/03(水) 12:44 [ jws4w90M ]
前スレの埋めネタに萌え

86 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/03(水) 13:49 [ srPWIjhg ]
タル戦きてたーーーーーーーーーーーーーーー!!11!のか…
危うく、見逃す所だたーよ(´・ω・`)
最終話前編かな。

今まで出てきたキャストのお話ですね。
それにしても洞窟内のガルカ、外にでれてよかったー(⊃дと)

続きおまちしておりんすー(・ω・)

87 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/04(木) 03:46 [ CEqOOczY ]
前スレ1000直前のSS群、(・∀・)イイ!!
お疲れ様でした。ペコリ

88 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/04(木) 06:16 [ /hy4pffY ]
「名無しの話」の19 −雛祭り−

ここは街中、ある広場。
「すごいな」
「うむ」
「きれいー」
「ねー」
「にゃ〜」
緋毛氈に車座になった五人が、見上げる空には桜の大樹。
満天が薄桃の揺らぎに包まれてる。
その光景は夢幻のよう。

「きょうはヒナまつりー」
「おまつりなのー」
「ヒナ祭り?」
首をひねるヒュム戦。
なじみのない言葉。
「雛祭りだ」
とエル騎士。
「ひがしのくにのおまつりー」
「おんなのこのおまつりー」
「「ねー」」
顔を見合わせてうなずきあうタル白タル黒。
「ふーん…東の国では女の子の事を雛って言うの?」
ヒュム戦の疑問に
「…なの?」
タル黒を見るタル白。
「…なの?」
エル騎士を見上げるタル黒。
「…なのか?」
ミスラを見るエル騎士。
「そうにゃ!」
言い切るミスラ。
「で、今日はお祭り用のおやつにゃ」
ミスラがゴソゴソと革袋を探り、お菓子と飲み物を、それぞれに配る。
「これは菱餅にゃ」
お皿に乗ってるのはひし形のお菓子。
赤白緑のきれいな三層になってる。
「これは白酒にゃ」
コップに注がれたのは白い飲み物。
とろりと濃さがある。
「お酒?」
ちょと匂いをかいでみるヒュム戦。
「大丈夫にゃ。お子様用にゃ」
「これも東の国?」
「にゃ。タル黒にレシピもらったにゃ」
いったいどこから手に入れてくるのだろう。
ふと不思議になるヒュム戦。
「全員に渡ったにゃ」
見回すミスラ。
急用で抜けたガル戦の分もちゃんと置いてある。
「では、」
「「「「いただきます」」」」
「めしあがれ、にゃ」
ぱくっ
もにゅん
「「おいしいー」」
タル白タル黒の声がハモる。
「型崩れしない固さともちもちの柔らかさのバランスが難しいのにゃ」
ちょと自画自賛みたいだけど、タル白タル黒の反応に満足そうなミスラ。
もきゅもきゃもにゅもにゅ
みんな笑顔でひし餅をほおばる。

89 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/04(木) 06:19 [ /hy4pffY ]
と、
さぁー…
柔らかな春風。
吹かれた桜花が、サラサラとかすかな花擦れの音を立てる。
「「あー」」
声をあげるタル白タル黒。
薄桃の花びらが雪のように舞い、五人を包む。
なんだか、ホントに別世界に来たよう。
「すごいねー」
ふと、視線を下ろすヒュム戦。
コップに注がれた白酒に、何枚か花びらが浮かんでる。
それをちらりと見て、つと自分のコップにも花びらを受けるエル騎士。
一口飲み、
「風流、というやつだな」
ポッと頬が染まる。
自分で言って恥ずかしいみたい。
そこへ
「おーい」
駆けてきたのはガル戦。
大急ぎで来たらしい。
「んー、まにあったぁ」
ハァハァと息をきらせてる。
その背中には大きな皮袋。
「雛祭りのお祝いだぁ」
と差し出す。
「…」
いゃーな予感のするヒュム戦。
こういう時のガル戦の皮袋はろくな物が出てこない。
けど、
「なにー?」
「みせてー」
あっさりとタル白タル黒がのってしまう。
と、
ゴソゴソ…
皮袋の中で何かが動く。
「「!」」
慌てて立ち止まるタル白タル黒。
「ガルさん、それなに入ってる?」
だいたい想像はつくけど、一応聞くヒュム戦。
剣を抜く用意をしながら。
「んー?変なものじゃないよー」
皮袋の口を解くガル戦。
「雛祭りだからぁ」
手を突っ込み、中身を引っ張り出す。
「「「「「!?」」」」」
凍りつく五人。
「ガルさん?」
「それは…」
「にゃあ…」
ニカッと笑うガル戦。
「雛」

90 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/04(木) 06:22 [ /hy4pffY ]
ガル戦のごつい手につまみ上げられてピィピィジタバタしてるそれ。
たしかに。ふわふわの黒羽毛と短いクチバシ、丸っこい身体から考えれば雛で間違いないだろう。
ただ問題なのは。
タルちゃんたちくらい大きくて、二本の手がある事なのだけど。
「雛ちがいでしょー!」「雛ちがいだー!」「雛ちがいにゃー!」
ドガバシゲシ
珍しく三人の突っ込みが入る。
「んー?」
「首をかしげるなー!」
もしかすると、本人は可愛いつもりかもしれない。
「どこから連れてきたの!」
「んー町の外にいたぁ」
「ウソをつくなー!」
ガル戦のふっとい首を締め上げながら、嫌な言葉を思い出すヒュム戦。
『拉致監禁』『児童誘拐』『無期懲役』
「にゃー、こういうのは良くないにゃ」
とミスラ。
「規定サイズに満たない獲物はキャッチアンドリリースが鉄則にゃ」
「それも微妙にちがうー!」
「にゃ?」
「とにかく、帰してきなさい!」
ビシッと街の門の方向を指差すヒュム戦。
と、エル騎士がある方向を見上げて
「いや、もう遅いようだ」
カーンカーンカーン
鐘が鳴る。
刻の鐘じゃない。非常を知らせる鐘。
直ぐに伝令が広場へ走り込んでくる。
「ヤグードだー!ヤグードが攻めてきたぞー!」
ヒュム戦たちの横を走り抜け、
「!?」
ピタリと止まる。
キリキリキリキリ…
首だけが振り返る。
「お゛い…」
見てるのは、ガル戦のぶら下げた、雛。
もがきつかれてぐったりしてる。
「それはなんだ?」
「んー?」
首をかしげるガル戦。
「それはなんだ?」
「んー?」
再度首をかしげるガル戦。
そこへ。
「いくぞー!」
「カラスどもを追い返せー!」
武装した集団が走り抜け、
『!?』
全員がピタリと止まる。
キリキリキリキリ…
全員の首が振り返る。
見てるのは、ガル戦のぶら下げた、雛。
『…』
しばし無言の時。
そして
「じゃあ、行くか」
数人が、ガッシとガル戦の右腕を取る。
「んー?」
ポテっ
雛が落ちる。
「そうだな、行こうか」
数人が、ガッシとガル戦の左腕を取る。
「よし、行こう」
ズルズルズル…
「んー?んー?」
首をかしげながら、ひきずられてくガル戦。
けど、だれも見てくれない。
もちろん、可愛いとも言ってくれない。
ズルズルズルズル…
広場から消えていく。
「えーっと…」
見送り、足元へと目をやるヒュム戦。
じんわり涙目の雛がいる。
「…どうしよう…」
「いま連れてっても危ないだけにゃ。だから、続きするにゃ」
「…まあ、それもいいだろう」
「いいのか?」
「ひしもちたべるー?」
「しろざけのむー?」
雛を緋毛氈へと引っ張ってくタル白タル黒。
「ちょうど一人分余ってるにゃ」
再び車座になる五人と一匹。

サラサラと花擦れの音。
いつのまにか、鐘の音はやんでいる。
薄桃の花びらを透ぎた春の光は柔らかく温かかった。

その日、街の防壁から簀巻きにされたガルカが放り出されたとか、ヤグードの村の祭壇にぐるぐる巻のガルカが供えられたと言う噂はだれもしなかった。
「んー?」

−おわり−

91 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/04(木) 06:26 [ /hy4pffY ]
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
雛祭りのお話なのに、三日に間に合いませんでした。
けっして忘れてたわけじゃありません。
のんびり釣り糸なんて垂れてません。
ましてや、そのあと桜眺めてお茶なんてしてません。
ああ…桜餅が食べたい…いやいや。

92 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/04(木) 08:51 [ iBb7vGCg ]
>>83
おかえり〜

>>名無し
キターーー(゚∀゚)ーーーー!!!
わらたーー(゚∀゚)ーーーーwww

93 名前: 剣を持つ理由 (k4PcAe16) 投稿日: 2004/03/06(土) 15:04 [ .98xet1Y ]
随分見ていない間に6まで来てたんですね
作者の皆様お疲れ様です

随分前に書き逃げしたのが、とりあえず書庫化に入ってたりと恥ずかしい限りですがw
ひとまず、数話残っているのもありまして今回2話目を乗せさせていただきます
文章下手なんで逃げてたんですが、最終話乗せるまではお許しください・・・・

94 名前: 剣を持つ理由2 投稿日: 2004/03/06(土) 15:07 [ .98xet1Y ]
2.力を持つ者(マウラ、強者の理論)

私の心は、浮き立っていた
冒険者として登録を受けるための数々の問題や
両親に泣かれたこと、親友に理解されず罵倒を受けた事、恋人に去られた事
送り出しを葬式形式で行った悪友などの気持ちの憂いは、今のこの好奇心と開放感の前では
たいした事では無くなっていた

今まさに幼少の時の夢の実現の第一歩、誇りある冒険者として最初の旅マウラそしてウインダスへ

噂として聞いた冒険者の素晴らしい功績、栄誉、その冒険での充実感全てを手に入れるつもりでいた

マウラへ到着を知らせる船の汽笛がまるで自分を迎える歓迎の演奏、到着を祝う歌のように聞こえる

誇りある冒険者として船を降り、騒ぎ出す鼓動を抑え宿を取る
もう夜は遅い、一流の冒険者は危険な夜に移動はしない

優雅に夜の町を探索し町の入り口にでると騒ぎが起こっているようだ
揉め事を収めるのも冒険者の務めと言わんばかりに私は仲裁を名乗り出た

話を聞くとどうやら町の外での戦闘で手を貸したガルカが手助けしたとして金銭を要求しているようだ
冒険者にあるまじき行為だ、私はすぐさまガルカに抗議を始めた

「冒険者として恥ずべき行為だ。即刻帰るがいい!」
「ふざけるな。冒険者はボランティアじゃない。新米のお前に言われる覚えは無い」
「どこが新米だと言うのだ。自分の意志に反する者は全員新米か?!」
「冒険者を理解してないからこそ新米だ!理想や幻想で語る冒険者が新米以外いるか!」
「理想や幻想?冒険者とは弱者を助けるものだろう。浅ましいお前こそ冒険者として問題がある!」
「ふん!どうせ、一握りの冒険者の偉業や詩人の語る夢物語を真に受けてるんだろう」
「現実を見たらどうだ?その細い腕で何ができる。」

その後は激しい口論になり、どちらも自分の獲物に手をかける
もう、力での手段しかない私も相手もそう思った瞬間だった

後ろから強烈な一撃を私は受けた。奴の仲間か!私はガルカを睨む
だが、ガルカもまた私と同じように前のめりに倒れていく・・・・・

それを確認したところで私の意識は失われた・・・・・・・・・・

95 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/06(土) 20:38 [ XPjBHHkU ]
>>93
え・・・?続きは?wwwwwwwwwwwwwwwww

96 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/07(日) 00:31 [ fkS/sv2Q ]
白探 キテタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━━!!

>>93
続き がんがってね(^_^)v

97 名前: 初めての冒険 第六話 1/4 投稿日: 2004/03/07(日) 11:41 [ HU2OAqhw ]
初めての冒険 第6話 マウラ〜寂れた港町

潮のにおいがする。
ウィンダスの港のあたりと似ているけど、どこか違う海の色。
岩をくりぬいた不思議な景観の街。
人気が少ないのは、いまは飛空挺を使った運送が主になっていて流通の要としての役割が
薄れているせいだろう。

ウィンダス統治下の街マウラ。
クォン大陸へ向かう機船の寄港する港町である。

街に着くなり、ラセスに宿はどうするんだと問われた。
「僕、お金あんまり無いから野宿します」
と、答えると、
「そのぐらいは出してやるから宿に泊まれ。
 だいぶ体力を消耗しているはずだ。
 金が気になるなら出世払いで返してくれればかまわん」
と、あっさり言われてしまった。
「でも・・・」
「そもそも、金がないのならば、何故リードにポーションを渡した?」
もっとも言えばもっともな疑問である。
「え?だって怪我してましたから。お金よりも命の方が大事でしょう?」
「普通自分の命の方が大事だろう。
 野宿すると言ってるところからして、おまえが大した金を持ってないことはわかる。
 あのポーションは、いざというときのための保険だったのだろう?」
言われているとおりだ。
あのポーションはいざというときのために、けして潤沢とは言えない旅の資金からひねり
出して入手したものだった。
「でも、かなり傷深かったですし・・・
 助ける手段を自分が持ってるのに、何もしないのは嫌だったんです」
「そうか」
ゆったりと、納得したように頷くラセス。
そのまま何かを考え込んでいるようだったが、ゆっくり顔を上げると。
厳しい目で、シャムを見据えた。
「?」
びくりとする。
「だったら、自分のやれることを見極めるようになれ。
 マウラに入る前にゴブリンに絡まれたな?
 あのときにおまえがすべきことは逃げることだった」
厳しい声。
怒っているように見えるが、それが自分のことを心配し、鍛えるためのもので有るという
ことが何となくシャムにはわかった。
だから、泣きそうになったけど、しっかりと居住まいを正しラセスの目を見る。

98 名前: 初めての冒険 第六話 2/4 投稿日: 2004/03/07(日) 11:42 [ HU2OAqhw ]

(・・・なかなか見所はあるか)
内心感心したのだが、それは表には出さずにラセスは続ける。
「撤退の判断を誤るな。
 魔道士は特に自分の命を守ることを一番に考えなきゃならん。
 自分のかなう相手なのか、その敵に自分が勝てるのか、負けるのか。
 自分を含めた仲間を全員生き残らせるためには、まず何をしなければ行けないのか。
 きっちり判断できるようになれ」
冒険者にとって一戦の勝ち負けは実はあまり重要ではない。
一番大事なことは、生き残ること。それにつきる。
そうラセスは考えている。
この少年、他人を助けるときに自分の安全てのが頭の中からすぽんと抜けているようで
ある。
相手が助かっても、自分の命を失っては本末転倒だし、助けた相手にも心の傷を残しかね
ない。
きっちり助けるというのは、相手も自分も生き残ってこそだ。

「バインドは、確かに相手の足止めを出来る。
 だが彼我の実力差が大きい場合、相手の敵対心を煽ることだけになりかねん。
 逃げる時間や、体勢を整える時間は稼げるだろう。
 だが、さっきの場合まずしなければ行けないのは逃げることだった」
冒険者ではない少年に、あまりにもうるさく言うのは問題かもしれない。
だが、旅をしている以上自分の安全にはとことん気を遣う必要があるはずだ。
「リードから聞いたが、おまえさんは冒険者じゃないそうだな。
 だが、冒険者だろうがそうでなかろうが、危険の有る地帯を旅しようと考える以上
 常に、自分と仲間の安全に気を配れ。
 逃げ込める場所が、何処なのか。何処で休めば安全なのか。
 そういう情報はきっちり把握するようにしろ」
旅をする上で、一番大切なこと。
モンスターの性質を把握し、いかに安全を確保するか。
もちろん危険が完全に無くなるわけではない。
だが、気を遣いすぎて困ると言うことは無いはずだ。
「まぁ、そう簡単には出来るようにならんだろうがな」
「うぅ・・」
「普通は街の近くで修練するものだ。
 敵の強さの見極め方、逃げるときの判断の仕方とかな」
普通はそういうものだ。
どんな冒険者もたいていの場合、自分の出身国の周りで修行してから遠出するものだ。
「いきなり、サンドリアに行くわけだからな。
 まずは、敵に見つからないようにすること、敵から逃げることを心がけると良いだろう」
「はい。あの、いろいろありがとうございます」
神妙な面持ちでシャム答えるシャムを見て、自分もこんな感じだったのだろうかと
ラセスは昔のことを考えた。
もう、ずいぶんと昔のことだ。冒険者となって旅を始めたのは。
様々な場所を旅した。
最近は、冒険を始めた頃の思いを忘れている気がする。

99 名前: 初めての冒険 第六話 3/4 投稿日: 2004/03/07(日) 11:43 [ HU2OAqhw ]

ほっとけないという、お節介な気持ち半分。
忘れていた何かを思い出せるかもしれないという、期待が半分。
だから、リードに依頼されたからだけではなく、ラセスは決めた。
「サンドリアまでつきあおう。その代わり、一つだけ約束だ」
一呼吸おく。

「私が逃げろといったら、必ず逃げろ。
 それだけは守って欲しい」

吃驚したような、顔で見上げるシャムを見つめる。
「でも、それじゃラセスさんにばかり負担が・・・」
お人好しというか何というか・・・
こういう申し出はあっさり受けてとことん利用すればいいのだ。
利用できるものは何でも利用する。
普通はそういうものだろう。
・・・まぁ、そうじゃないからリードはこの少年を助けようと思ったのだろうし、
自分もそう思ったのだが。
「安心しろ、道中の敵は一人でも何とか出来る様なやつばかりだからな」
これからサンドリアまでの道行きでは、ラセスにとってやっかいと思えるモンスターは
いない。
「それなら、ラセスさん、一人で行った方が楽なんじゃ?」
もっともな感想だ。
だが・・
「ふむ、一人旅も悪くはないな。
 だが、道連れがいた方が旅はたのしいんでな。
 私の暇つぶしの旅につきあってくれると、こちらとしても嬉しいんだがな。
 どうだ?」
にやりと笑って、そう告げる。
シャムはきょとんとしていた。
が、腑に落ちたように満面の笑みを浮かべて、ラセスに頭を下げた。
「ありがとうございます。
 よろしく御願いします」
「決まりだな、サンドリアまでよろしく頼む」
そういって、ラセスはシャムの頭をわしゃわしゃとなでた。

シャムは思う。
暇つぶしというのは嘘ではないだろう。
でも、本当のこと全部というのでもない。

シャムが必要以上に気に病まないよう。
そう考えて、自分のわがままも有るんだぞと、言ってくれたのだろう。

この人は、本当に優しい人なんだ。
こんな人になりたいな。

100 名前: 初めての冒険 第六話 4/4 投稿日: 2004/03/07(日) 11:43 [ HU2OAqhw ]

「一晩ここで休んでから、明日の朝の船に乗る。
 いまのうちに体を休めておけ」
そう言い残して、ラセスは自分の仕事を済ませるために、外へ出ていった。
部屋に残されたまま、先ほど言われたことを考える。

敵の強さの見極め方。
逃げるときの判断。
自分がすべきこと、すべきでないこと。
自分に出来ることはあまりにも少ない。
だから、せめて足手まといにならないように。
自分の出来ることを、きちんとやろう。

いつの間にか眠っていたらしい。
気がついたら、ベッドの中にいた。
ラセスはすでに起きていたらしく、ほとんど支度をすませているようだ。

外はいい天気らしい。
朝の光が窓からこぼれている。

「起きたか。
 そろそろ船が入港する。支度をすませたら、出るぞ」
 
シャムはあわてて支度をし、前を行くラセスの後を追い、宿を出た。

滑るように、船が港へ入ってくる。
「ふね!」
「乗るのは初めてか?」
「はい、これでセルビナまで行くんですよね?」
「そうだ。まぁ、船室はいまいち狭いがな」
「ラセスさんは大きいですから」
「ふむ、それはもっともな意見だな」

他愛のない話をしながら船に乗り込む。
冒険者らしき人間がほかにも数人乗り込んでいる。

ぼーぉん

汽笛を鳴らし、滑るように船は港を出発した。

101 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/03/07(日) 20:21 [ f7BXoM4M ]
お久しぶりです。遅ればせながら白き探求者38話UPしたのでご報告に。

ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

タル戦に触発されて書き始めてから早1年。我ながらよく続いたと驚きます。
パパさんことタル戦作者様、最終話すっげーすっげー楽しみにしております、頑張ってくださいませ!
読み返す度に泣けるんだよなぁ…そしてクリーム萌え。

では、また出没します。
あ、『紅葉』が激しく面白かったんです。続き…読みたいなぁ。

102 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/08(月) 01:40 [ ftAxVeP2 ]
白き探求者読みました・・・


ウワァァァァァァァァァァァァン(つдT )

103 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/08(月) 02:51 [ Vbucml4Y ]
あんた漏れとケコーンしてください

104 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/10(水) 02:04 [ RxGolFUQ ]
―― ユタンガ大森林 ――

「…今日で何日目だ?」
「どうだろう…もう分からなくなっちゃったね」

低地エルシモ。そこには”迷宮”として恐れられているユタンガ大森林がある。
そこは地図が全く役に立たない、人を寄せ付けぬ天然の迷宮として冒険者達に
恐れられている。

「なぁ…ラキよ。このまま戻れなかったら、どうする?」
「そんなことはないと思うけど…それは困るかもね」

ラキとジルパケルパは、とある理由でノーグを目指していた。
…が、地図があるから大丈夫、と油断していたが、案の定、数日間ジャングルを彷徨っている。
幸いにも、周辺のモンスターは彼らの足元にも及ばない。
食料に関しては、野生の果物の宝庫でもあったし、ラキが弓を扱い、鳥肉を確保する事が
出来たため、心配はない。

「それにしても…こういうのって、久しぶりだね」
「ん…こういうの?」
「ボク達が出会ってすぐの頃だよ、ほら、あの時、トッパやオットー、それにレウと一緒に
 冒険してたじゃないか。…あの頃みたいな冒険って久しぶりじゃない?」
「あぁ〜。確かにそうだな〜。最近はなんか、戦ってばっかりっていうか、
 ミッションに明け暮れて、気の休む事無かったし」

105 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/10(水) 02:05 [ RxGolFUQ ]
ラキはジルパケルパを見て、随分とたくましくなった、と思う。
初めてマウラで自分に声をかけてきたあの頃は、無茶で無鉄砲。ドジでおっちょこちょいだった。
しかし、この数年で見違えるほどに成長した。
今ではジルパケルパは立派な相棒であり、良きパートナーである。
「トッパ…あいつ、何してるんだろうなぁ?今でも元気でやってっかな?
 オットーも、多少男らしくなってるといいな、レウと喧嘩してなけりゃいいがなぁ」
「ふふ…皆、元気でやってるよ。ボク達みたいにさ」

ジルパケルパは、カザムパインを頬張りながら、昔の事を思い出していた。

それは、ヤグードに襲われて自分の無力を知り、力を求めた事。
それは、新米の冒険者達と共にサンドリアを目指した日々の事。
それは、ナイトとしての道を歩み、試練に打ち勝った時の事。

それから、それから…後のことはよく思い出せない。
我武者羅に修行をして、ラキと共にウィンダス連邦のミッションを受け…

その間、多くの冒険者達と共に冒険をしていたはずなのだが、何故だろうか?
出会いや別れを繰り返しすぎたせいか、まるで泡のように記憶から消えてしまっている。

「なぁ、ラキよ。…ここからノーグに着いて、やる事終わったらウィンダスへ行かないか?」
「ウィンダスへ?」
「ああ、トッパの野郎の馬鹿面、久々に拝みたくなっちまった。
 あいつもかなり強くなってると思うし、ライバルとしてはそろそろ決着をつけなきゃな〜、
 と思うわけよ」
「そうだね…ボクも会いたい。ノーグに着いて用事が終わったら、ウィンダスへ行こうか」
「よっしゃ、決定。ウィンダスでトッパを捕まえたら、その次はサンドリアへ行こうぜ!
 あの頃の皆でもう一度冒険をするんだ!」


そして、二人は立ち上がり、ノーグを目指す。…方向は分からないが。
結局ノーグに着いたのは、それからさらに3日後の事となった。


…ウィンダスの民族伝承、その中にのみ、時折名前を見つけることの出来る
タルタルの騎士ジルパケルパは自身の生涯を振り返り、こう語っている。

”私には、永遠のライバルと呼べる友がいる。
 同じタルタルでありながら、敵の矢面に立ち、苦楽を共にしてきた男だ。
 彼は弱さと強さを併せ持っていた。だからこそ、真の強さを得る事が出来たのだろう”

106 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/10(水) 02:07 [ RxGolFUQ ]
今ではジルパケルパは立派な相棒であり、良きパートナーである。
               ↓
今ではジルパケルパは立派な相棒であり、良き伴侶である。

あー、やっちまったでつ(つд`)

107 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/10(水) 02:17 [ DG8NvEbQ ]
木、木、木、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(゜∀゜)ーーーーーーーーーーーーーー
タル戦キターーーーーーーーーーーーーーーーヽ(`д´)ノーーーーーーーーーーーーーー

108 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/10(水) 02:34 [ RxGolFUQ ]
今回はここまで、あと2・3回で終わりでつ( `・ω・´)
スレ消費であれだけど、あとがき…みたいな奴を。

①え、えと、作品に登場するキャラは全て脳内作成キャラなので、
自分と同じ鯖で、同じ名前の人とか、もし見てても気にしないでつかぁさい(つд`)
まぁ、知ってる人なんてほぼ皆無だし、同じだからって多分なんもないと思うのですが、
前から気になってたのでこの場にて。

②マイルール。実は、タル戦書くにあたって、決めた事。
他の作者様の作品は基本的には読まないことにしよぅ。何故なら影響受けちゃいそうだから。
パクってしまいそうな自分がいるでつ(つд`)
だから、書き終わったらゆっくりと腰を据えて他の作品読めるでつ(つд`)

③例外、サブリガ仮面の話だけは読んでしまった…
しかもタル戦のキャラでてきてかなりビクーリ。同時に感動。
こういうの、作品同士でもっとやったらおもろいかなぁと。タル戦のキャラも適当に
使いまわしてくれちゃったりすると、おもしろいんだけどなぁ。
時代背景、現在のヴァナになってるディス!( `・ω・´)

そいじゃまた。(・ω・)ノシ お目汚し失礼しますた

109 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/10(水) 03:26 [ wLujjVXE ]
キキキキキキ
タル戦 キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

110 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/10(水) 08:52 [ mlDZYIvw ]
後2〜3回・・・
一気に載せてもらって一気に読みたい気もするし
徐々に徐々に余韻を含ませつつ読みたい気もするし・・・
あぁジレンマ・・・



タル戦 キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

111 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/10(水) 09:46 [ pMWW2jG. ]
ペニスが111をゲットだ!

112 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/10(水) 09:56 [ G48r.UFw ]
・・・

113 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/10(水) 12:32 [ ToGfEE/U ]
他作品での競演見たいなーー

ともあれ
タル戦 キテタ━━(゜∀゜)━━!!

114 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/10(水) 13:05 [ nNAwqDqE ]
オデも何か書いてみようかな・・・。


タル戦、ラストスパート頑張ってください!

115 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/11(木) 01:07 [ Jey3V0HI ]
―― 南サンドリア・競売前 ――

競売の前には、多くの人だかりが出来ている。
数年前にはごく一部の商人やアンティークコレクターのみが利用していたものだが、
近年の冒険者推奨政策により、競売は冒険者達の武器売買の主要ルートとなっていた。
また、手数料や手続きの手間を惜しみ、競売を利用せず直接の交渉で商売する者、
もしくは希望する武具・道具を求めて大声で叫ぶ者。そういった多くの若者達でそこは賑わっている。

・・・一人、銀髪の美しいエルヴァーンの女が、競売の前で何やら物思いに耽っていた。
その表情は酷く悲しげである。
彼女は、出品一覧の中の、剣のメニューを眺めている。
そこにはサンドリアの騎士団の剣の名が値段と共に記されていた。
いや、サンドリアだけではない、バストゥーク、ウィンダス、それぞれの国家で
実力を認められ、名誉の証として授けられる剣の名が連なっている。
それは勿論、大勢の冒険者達が売買しているものだが、それが彼女には釈然としない。
(そういう時代・・・かしら?)
彼女は昔、その名誉と、命を捨て自分を救ってくれた騎士の事を考えていた。
(名誉って・・・なんなんのかしらね・・・)
喧騒の中を、彼女はゆっくりと後にした。


「ぇぇと・・・そこで・・・うん、そうだ・・・!いや・・・まてよ・・・!?」
部屋の中で、ブツブツと何やらペンを片手に唸っている男がいた。
「・・・ットー・・・」
「あ〜、そうだ、うんうん、いいぞ!」
「・・・オットーってば!」
びくん、と彼の肩が振るえる、彼ははっとして振り向いた。
「あ・・・ごめん、レウ。ちょっと熱中しちゃって・・・」
「もぅ・・・ほんと、最近ずっとぼけ〜っとしてるんだから。しっかりしてよ」
「いやぁ、それがね。ここのところ、調子がよくってさ」
オットーの手には、古い絵本がある。それには、”騎士と姫とオークのお話”という
タイトルが書かれていた。
「別にいいんだけどね・・・で、どう?最後まで書けた?」
「ああ、いい感じだよ。お姫様が、皆から忘れられるんだけどね、そこから騎士は
 何か違和感を持ち続ける毎日を送るんだ。何か自分は大切な物を忘れているんじゃないかって。
 それで、旅に出るんだよ。忘れてしまった、何かを思い出す旅に。
 お姫様は、その騎士の事が心配で、騎士の後をつけてさ、それからね・・・」

116 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/11(木) 01:08 [ Jey3V0HI ]
オットーが何も書かれていない、真っ白なページの不思議な絵本を倉庫から引っ張り出したのは
つい数日前の事である。
彼曰く、”何だかよくわからないけど、この本に物語を書きたいんだ”との事。
文才の全く無い彼ではあったが、その日からとりつかれた様に執筆活動を続けている。
「・・・ねぇ、私、前から思ってたんだけど・・・その絵本、なんなのかしら?
 タイトルだけあって、中身が真っ白なんて普通じゃないでしょう?」
「う〜ん、そうだよね。・・・でも、それって寂しいだろ?だから、僕がこの本に
 物語を書き込んでやるのさ。面白いものが出来たら近所の子供達にも読ませてあげたいしね」
「どうでもいいけど、子供向けにしたいんだったら、ちゃんとハッピーエンドにしてよ?
 あ、それと情操教育にもいい奴じゃないと。子供に悪い本は、教会に取り上げられちゃうんだから」
「大丈夫だよ。この物語は僕が作ってるんだから、僕の思い通りに出来るんだしね。
 この物語は、最後は皆仲良く暮らすようになる。騎士も姫もオークも・・・」
それは、プロマシアの呪縛に縛られているヴァナディールではあり得ない結末だろう。
「・・・夢物語ってのは分かってる。でもそれでも・・・僕は願っているよ。
 争いの無い世界が訪れる事を、ね」


オットーは、神殿騎士団お抱えの白魔道士だった。
エルヴァーンに多い差別主義者と揉めた事もあったが、数年間の生活で
徐々に誤解も解け、今では多くの友人が出来ている。
彼は、老若男女問わず、誰にでも親切に接し、城の兵士や町民からも人気がある。
・・・それ故に、レウには悩みがった。
それは、どうにも若い娘に彼は人気がある、ということだ。
変な話だが、密かにオットーを狙っている女は多い。たちの悪い事に、彼は
断れない性格な為、食事に誘われればホイホイとついて行き、
習う気も無い白魔法を教えてください、と言われれば、真剣になって何時間も講義を行う。
ようするに、プレイボーイなのだ。本人に自覚があろうがなかろうが。
女兵士から、町娘、果ては人妻までもが彼のファンである。
本人はその事に一切気付いていないのが痛ましい。
(そろそろハッキリしてほしいんだけどな…)
どうにも、お互いの気持ちを伝えられない不器用な二人だった。

117 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/11(木) 01:08 [ Jey3V0HI ]
サンドリアの夜。寝室にはレウが一人で眠っていた。
オットーはというと、相も変わらず書斎の机の上で執筆活動を続けている。
…物語はいよいよ完成に近づいていた。
「最後は…お姫様と騎士が再開して…それから…ふぁぁぁ…」
時計を見ると、既に真夜中である。オットーは思った。何故自分はこの物語を
書いているのだろうか、と。いや、それ自体は不思議ではない、たまたま
”書きたくなった”から書いているだけに過ぎないのだ。
しかし、どうも腑に落ちない。何故かというと、今まさに自分が創作している物語で
あるはずなのに、どこかで読んだような気がするのだ。
…全てを最後まで書き終えれば、答えが分かるような気がする。
右手に神が宿ったかのように、筆がスラスラと進む。
「もう少しだ…もう少し…」
そこで、ふと思う。そういえば、この物語の登場人物には名前がなかったな、と。
「う〜ん、う〜ん。なんだろう…僕は知っているんだ…きっと…」
限界が近づいていた。ゆっくりと奈落のそこに落ちるように彼の意識は眠りの海へと没していく。
(そうだ…名前…お姫様の名前……エッタ…?)

118 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/11(木) 01:09 [ Jey3V0HI ]
…夢を見た。それは、随分と昔の思い出のような気もするし、つい昨日の出来事のような
気もする。彼は、仲間と共に森を歩いていた。
(ああ、そうだ。これはロンフォールの森だ。初めてサンドリアに来た時だな…)
深い霧の中を仲間と共に進む。レウ、ラキ、オットー、そして…トッパがいる。
「トッパ…ウィンダスで元気にやってるかい?」
夢の中の自分は、意に反した言葉を口から出している。トッパは元気そうに、にっこりと笑う。
「ああ、オイラ、元気だぜ?そっちはどうだい?」
「うん、こっちもレウと二人で仲良くやってるよ」
「へへっ…そりゃよかった」
「残念だな〜、てっきり俺は毎日大喧嘩してると思ったぜ!」
ジルパケルパだ。相変わらず口が悪い。そこが彼のいいところでもあるのだが。
「…こら、ジルパケルパ。そういうことを言うもんじゃない」
こつん、とラキがジルパケルパの頭を叩く。
「…ってぇ、冗談だってば、怒るなよラキ!」

(あれ…これは昔の思い出じゃないのかな…まるで…)
「ほらほら、二人とも喧嘩しないの。あんなに盛大な結婚式あげたんだから、もっと
 仲良くしないと」
(レウ…君も…これは…なんなんだ?…夢なのか…?)

彼が混乱している中、仲間達はどんどんと話を進めている。

「…んでよぉ、俺さ、今度ラキと一緒にウィンダスへ行くんだ。トッパ。腕試ししようぜ!」
「あぁ…待ってるぜ」
何故だろう?そう言ったトッパの表情は笑っているような、悲しんでいるような表情に見えた。
「あ、ずるい。ねぇ、オットー。私達もウィンダスへ行かない?昔みたいに、
 皆と一緒に冒険しましょう?」
「あ、あぁ…そうだね。うん、そうしよう。皆で集まって…」

119 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/11(木) 01:09 [ Jey3V0HI ]
「さんせーい!私もトッパちゃんに会いたいな!」

後ろから女の子の声が聞こえた。

(…え?…この子は…?)

「ね、お兄ちゃん。何時行く?どうせなら、明日にでも出発しようよ!」

(あぁ…そうだ…思い出した…君は…僕の…)

「うん…行こう、エッタ…僕が、いろんな世界へ連れてってあげるよ…」

120 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/11(木) 01:09 [ Jey3V0HI ]
小鳥のさえずりが聞こえる。…朝だ。
「オットー?もう朝よ。早く起きないと目玉焼きが冷めちゃうんだから!」
はっ、として飛び起きる。
「ん…ごめん、今いくよ」
目をこすりながら、着替えをしていると…
「今日は出発の日でしょう?全く、そういうマイペースなところ、ちっとも
 変わってないんだから」
レウが笑いながらドアを空けて部屋に入ってくる。その傍らには…
「ごめんなさいね、レウさん。お兄ちゃんってば、あれでなかなかのぐうたらなの」
「…悪かったな」
レウとエッタの二人は、くすくすと笑う。自分の頭を見ている。触ってみると、
髪の毛がまるでボムの腕の直撃を受けたように爆発していた。
「う…すぐに治すよ…」
「ねぇ、なんだか焦げ臭くない?」
エッタが鼻をくんくんとしながら、怪訝そうな顔をしている。
「あー!目玉焼き!」
レウが大慌てで台所へと走って行った。

「…お似合いのカップルなのかも…」

ぼそりと呟いたエッタは可愛らしくケタケタ笑っている。

…何故だろう?…なんだか、とても違和感を感じる。
そう、今日は前から計画していたように、トッパに会いにウィンダスへ出発をする日だ。
トッパがウィンダスにいるかどうか、確実なものではないが、
行けばそのうち会えるだろう、という能天気な発想で旅にでるのである。

121 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/11(木) 01:10 [ Jey3V0HI ]
…しかし…それが彼には違和感なのだ。何か、こう昨日までと世界が変わってしまったように思える。
「…どうしたの?お兄ちゃん」
エッタが不思議そうな顔で見つめる。…すると、涙が出てきた。不思議だ。
「い…いや、なんでもない、なんでもないさ…。エッタ。レウの手伝いを頼むよ」
「はーい」
エッタは踵を返し、後ろ向きに走っていく。相変わらず、元気だけが取り柄の自慢の妹だ。
「あ…そうそう、お兄ちゃん」
「…ん?なに?」
「この世界の神様ってね、結構いい加減な性格なの。でも、多分そういう物なのよね。神様って」
「…朝から何をいってるんだい?」
エッタは、くすりと笑った。
「ふふ…なんでもない!」

全く、朝から意味不明だ。こんなんじゃ、男の一人も出来ないだろうなぁ、と妹の将来を心配する
兄の姿がそこにあった。
そんな兄の気持ちを知る由も無く、エッタは台所へと向かっていった。
「あ、そうだ。えっとね…」
ドアの向こうから、エッタの声が聞こえる。
「今度は何?」

その声の口調からは、彼女が照れているようにも、泣いているようにも汲み取れる。


「ありがとう…お兄ちゃん。私の騎士様…」

122 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/11(木) 01:11 [ Jey3V0HI ]
…オットーが鞄を整理していると、一冊のボロボロになった絵本が鞄の隅にあった。

「あれ…この本、こんなところに入れた覚えはないんだけどなぁ…」
「なに?絵本?…随分と古い絵本なのね」
「あーっ!そんなところにあったんだ!ねぇ、お兄ちゃん覚えてる?
 昔、よくこの絵本読んでくれたんだよ」
「そ、そうだったかな…?あ〜、そういえば何度もせがまれたなぁ。
 お前はいつも途中で寝ちゃってさ…」
「ねぇ、折角だから読んでくれない?たまにはいいでしょ?」
「私も聞きたいな。ねぇ、オットー。読んでくれないかしら?」

しぶしぶと頷いたオットーは、絵本のページをめくる。

オットーは最初のページを開いた。
そこには、美しいサンドリアの森に囲まれた、大きな城の絵がある。
オットーは静かな声で、やさしく本を読み上げる。

「…サンドリアに、それはそれは美しいお姫様がいました。
 ですが、お姫様はとってもやんちゃで…」






―そして、物語は再びウィンダスへ。

123 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/11(木) 01:15 [ Jey3V0HI ]
ここまで、もずく、でつ。
やっとこさ不思議兄妹の話が終わったでつ(つд`)
結局なんだったの?っていうのはまぁ、ご想像にオマカセでつ(つд`)
たまにはこーいう筋が通ってない、不明瞭な話があってもいいんじゃない?
って感じの二人でつ( `・ω・´)

124 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 01:35 [ pF1QqAIQ ]
二夜連続でキタキタキタキタ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ヽ(゜∀゜)ノ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

125 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 01:35 [ Y.hx91Cc ]
ぐはっ・・・まだ終わってないのに、
最後の山場をぐっとこらえて待ってるのに、
エットが出てきた瞬間、あの話が頭の中を・・・・・・

まだ、まだ泣かないぞーーーーー(つдT )

がんばってー!

126 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 01:42 [ 6kM8BJmo ]
愛してる

127 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 01:53 [ NAaLriRo ]
やべ・・泣きそう
ってか、既に涙が・゚・(ノД`)・゚・。

128 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 03:44 [ pJpm6Qm. ]
        ∧_∧     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      〃,(;∩Д`)ヨヨヨ < エッタ・・・
      /(_ノ ィ \     \_______
    ⊂こ_)_)`ヽつ

129 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 05:04 [ Lju7ITQY ]
エッタ帰ってキターーーーー

良かったよう・・・・

130 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 06:19 [ YimwGP06 ]
kita-

131 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/03/11(木) 08:18 [ mX708ajY ]
エッタ! エッタアアアア! キタアアアアアアアア!!!
やべ、泣いた。このままラストスパートなのか!楽しみだけどちょっと寂しい、複雑だわ。

132 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 10:07 [ n1SQ70nk ]
エッタァアアア!
よかったよぅ・・。 めっさ泣きました。

自覚のないプレイボーイ、オットー君はあとで死刑ね。

133 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 10:19 [ QLiwELqY ]
あぁぁぁ、朝から大変ですー。

洞窟のガルカもエッタもよかったー(ノД;)

クリームがそろそろかしら。そして彼も...戻ってくる?のか。

134 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 13:55 [ kvOwm16s ]
yabe,
nakeru

135 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/11(木) 16:27 [ fclPtLtI ]
オットー&エッタてヒュムだよねぇ・・・
でも、どうしても、この二人だけはタル兄妹を想像してしまうのは
・・・俺だけ?・・・だよな・・・ヒュムだとはわかっちゃいるけど・・・でもダメなんだ・・・
他のキャラはちゃんと種族どおりの絵が思い浮かぶのに・・・orz

136 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/12(金) 00:59 [ 7TnQqdL6 ]
明日も目がフラッドなのか?

137 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/12(金) 09:38 [ xPWganaE ]
やばい・・・まじで涙出てきた。

タル戦やっぱり最高でつ・°・(つд`) ・°・

138 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/12(金) 15:39 [ Mm8ONDIg ]
うわーーーーー

全身に鳥肌がたった。

139 名前: ねぇ、フランシアの人 投稿日: 2004/03/12(金) 16:21 [ TkmTbSXA ]
レウを助けて死んだ騎士、エッタが消えてしまった話、「少年は夢を見る」、
ババドラバドとイルル、名場面の数々が思い出されます。
終わってしまうのは悲しいですけど、楽しみにしております。

140 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/13(土) 07:53 [ RyV7Q562 ]
今エッタと聞くとガンスリンガーガールを想起してしまうなw

141 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/13(土) 09:07 [ W8pJeE3U ]
ペニスが。。。。
泣いた

142 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/13(土) 12:49 [ 1llUj./Y ]
うお、いつの間にかタル戦キテタワ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
エッタ帰ってきてよかったよぅ。・゚・(ノД`)・゚・。

もう終わりなのか。読みたいような読みたくないような・・・。
ともかく楽しみにしてます!

143 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/14(日) 10:00 [ kVSOJE1g ]
「名無しの話」の19 −三倍の日−

さて、とある月のとある日が近づくと、ヴァナの男たちの一部はある苦難に直面したりする。
ほんの一月前に手にいれた至高の一品がその招待状。
名をバレンタインデ−のチョコレート。
喜びの後に来るのは、三倍返しのルール。
法でなく、義務でなく。
けれど無視すれば地位、名誉、信用、そして愛情までも失う事があると言う。
値段の判る品ならば、×3という計算もあるだろう。
けれど手作りだったら?
いや、たとえ店売りでも本命だったら?
そして男たちは悩む。
その価値をどう計算すればいいのか。
何を三倍すればいいのか。
さらに男たちは悩む。
いったい何を返せばいいんだろう、と。

144 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/14(日) 10:02 [ kVSOJE1g ]
このごろなんだか忙しい。
竜狙いの冒険者がずいぶん増えたから。
「みゃあぁー!」
叫びと共に炎が吐き出され、たちまち焦げ焦げになる冒険者たち。
プスプス煙上げてるのを
「たぁー」
タル竜騎が追い払う暇もなく
「やれー!」
「逃がすなー!」
「まわりこめー!」
と新手がやってくる。
−いいかげんにしてちょうだい!
再度、ブレス!
「あちゃー」
変な声上げて、何人かがあっさり焦げ焦げ。
炎を避けて回り込んだ冒険者は
「てやー」
タル竜騎が長槍で相手する。
「邪魔すんなチビ!」
タルタル相手と見くびってる冒険者を
「やらせないからね!」
素早い槍使いでけん制し、注意を引き付け
ヴゥン!
竜の尻尾がうなりと共に
ペヒョン
弾き飛ばす。
もともとタル竜騎は小さいから、しゃがんで避ける必要もない。
巻きおこる風で兜が飛ばないように気をつけるだけ。
「ひきょうものぉーー……‥・」
そしてまた一人、グリングリン回りながら空へと消える。
でも。
「やれー!」
「逃がすなー!」
「まわりこめー!」
またまた新手がやってくる。
もう、今日何度目だか忘れてしまったブレスを吐きながら、
−あら?
竜の視界に、ふとあるもの。
首を伸ばしてよく見れば。
ザワザワザワ…
丘の向こうには順番待ちしてる冒険者たちの長−い列。
「「「「「!」」」」」
目が合い、慌てて散り隠れる冒険者たち。
−なんなのよー!
ゴオオォウ
竜の吐いたブレスは一段と激しかった。

145 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/14(日) 10:06 [ kVSOJE1g ]
このごろなんだか忙しい。
変な人たちが増えたから。
「ぼくのトラさんなの!」
立ちはだかったタル獣が、いくら言っても聞いてくれない。
「邪魔だ、どいてろ!」
冒険者たちはトラを殺る気満々で取り囲んでる。
タル獣の虎と知ってて狙ってる。
たまにいるのだ。
獣使いの連れてる獣=ペット=獣使いより弱い=ちゃ〜んす♪
なんていう変な計算する奴が。
たぶん、この冒険者たちにはトラはでっかいだけのウドの大木に見えてるのだろう。
小さなタル獣にも操れるような。
でもそんなおばかがちょっと多すぎるような気もするけれど。
「なら一緒に逝ってしまえ!」
しびれを切らせた冒険者の一人が、タル獣へ向かって剣を振り上げる。
けど。
ペンッ
上からトラにはたかれ、
ドゴッ
頭が地面へめり込む。
脚首から先の、ほんの軽いスナップなのに、破壊力は凄い。
「このー!」
後ろに回ってた一人が、切りかかる。
けど。
ビシィッ
尾の先の一払いで
「あひょ〜」
グルグルグルー
コマのように回ってパッタリ倒れ込む。
『…』
ジリと後退る冒険者たち。
やっとトラの強さに気づいたよう。
でも逃げない。
互いに目と目を見合わせ
「けがわー!」
「きばー!」
「かねー!」
判るような判らないような叫びを上げて突っ込んでくる。
「!」
身構えるタル獣。
その襟首をトラの爪が引っ掛け
「あれ?」
ポーーンと斜めに投げ上げる。
同時にジャンプ。
助走もなしに、トラの巨体が軽々と冒険者の輪を飛び越える。
そして着地。
さらに
ポテン
背中でタル獣を受け止める。

146 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/14(日) 10:08 [ kVSOJE1g ]
「くそっ」
「逃がすか」
慌てて構え直す冒険者たちへ
「ええかげんにせぇっ!!」
トラの一喝!
ビリビリと空気が震える。
「おのれらコッパがワイの相手になると思とんか!」
けれど、冒険者たちは一歩引いても二歩は引かない。
真っ青な顔して、ひざガクガクで。
それでも引かない。
「お…お…おー!」
一人が震えながら声を振り絞る。
トラの咆哮に対抗するように。
「おれのチョコは本命だぁ−!」
「?」
なんのこっちゃ、と首をひねるトラ。
背中でタル獣も
「?」
「金稼いで、ドレス買うんだあぁー!」
涙の叫びと共にトラへ切りかかる。
けど。
ペシッ
ドチャッ
トラの脚先の一撃でひっくり返る。
「お、おれのも本命だぁ−!」
また一人叫んで切りかかる。
けどやっぱり
ペシッ
バタッ
トラの脚先で終わり。
でも、それで変な勇気をつけたのだろう。
「わしのには愛がこもっとるー!」
「愛なら負けないぞー!」
「結婚申し込むんだ−!」
口々に叫んで切りかかる。
でも結果はおんなじ。
ペシペシペシッ
ベタッボデッベヒャッ
軽々と倒されてく。
「いけー!どんどんいけー!俺たちの愛の深さを見せてやれー!」
「「「わぁーー!!」」」
ペシペシペシッ
「「「わぁーー!!」」」
ペシペシペシッ
きりがない。
「…なんや、あほらしなってきたな」
どいつもこいつも弱っちい。
まあ、獣使いのペットを狙うぐらいだから。
「帰る?」
トラの首にペッタリ張り付いてるタル獣も少し退屈そう。
「せやな。ちょっと早いけど今日はあがりや」
くるりと踵を返すトラ。
「ま、まてー」
慌てて冒険者たちが追いかける。
テテッテテッテテッテテ…
トラの巨体が軽やかにしなやかに駆ける。
デデデデデデ…
冒険者たちが必死に追いかける。
けど追いつくはずが無い。
「まってー、せめて牙ちょうだーい!」
涙で叫ぶ冒険者の前から、トラはあっさりと消えた。

147 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/14(日) 10:11 [ kVSOJE1g ]
このごろなんだか忙しい。
嬉しいくらいに商売繁盛。
「「「「「〜!」」」」」
テッテッテーと走る獣人たちを
「まてこらー」
「まてー」
と冒険者のパーティーが追いかけてる。
少し送れて
「早く取り返して−!とても高いアイテムなんだからー」
タルシーフが追いかけてる。
「まかせとけー」
と冒険者たち。
けど、追いつけそうで追いつけない。
大きな耳したイヌ五匹。
背中に大きなリュックを背負って。
なのになぜだか追いつけない。
そのうち
「あっ」
タルシーフが転んでしまう。
「行って!僕にかまわず!」
もちろん冒険者たちは立ち止まらない。
それどころか
−ラッキー♪
なんて思ってたりする。
上手くいったら、高いアイテム俺たちの物。
なんて思ってたりする。
だから、ポーンと一歩、獣人たちの歩幅がずいぶん広かったのに気づかなかった。
直後。
スボッバリッ!
派手な音と共に、六人の姿が消える。
あとには、ちょっとしたサイズの穴。
さっきまでは無かったはずの。
「?」
「「「「!」」」」
冒険者が穴に落ちたのに気づいてUターンして戻ってくる獣人たち。
穴を覗き込む。
深ぁ〜い底には、あんなになったりこんなになったりする冒険者。
「「「「「〜♪」」」」」
パチパチと手を叩き合う獣人たち。
「おつかれー」
やってきたのはタルシーフ。
「ほら、大漁だよ」
懐から引っ張り出したのはしっかりふくらんだ財布が六つ。
「今ね、ヴァナの男たちはお金稼ぎに一生懸命なんだよ。だから財布もこの通り。ぼくたちにとっては、かき入れどきだね」
にっこり笑むタルシーフへ
「?」
なんで?
と問い掛ける獣人。
「そうだね、意地とプライドと、あきらめの悪さかな?」
「「「「「?」」」」」
「それと、ほんの少しの愛情かも」
「「「「「??」」」」」
「あ、そうそう、新作ドレスも関係するね」
「「「「「???」」」」」
ますます判らない。
「気にしない気にしない。僕たちには関係ないからね。さ、次行こう」
おっきな目玉のイヌを連れ、タルシーフは次の獲物を探して走り出した。

148 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/14(日) 10:14 [ kVSOJE1g ]
金が全てじゃないはずなのに、金がいるのが世の常で。
人の心や愛さえも金の重さが計ってしまう。
計る世間が悪いのか。
計られる男が悪いのか。
まーなんと言いましょうか…。

「男は悲しい生き物なのにゃ」
とミスラ。
「?」
「だれとおはなしー?」
見上げるタル白タル黒。
ミスラの前には誰もいない。
「なんでもないにゃ。と、言うことで!」
グリンと振り向くミスラ。
ここは朝の集合場所。
「今日はホワイトデ−にゃ。別名三倍返しの日にゃ」
ニコニコ顔のミスラ。
「あー、しってるー」
「ねんしゅうのさんばいー」
とタル白タル黒。
「ちょっと違うにゃ」
「?、おきゅうりょうのさんばいー?」
「やっぱり違うにゃ」
「さんかげつぶんー?」
首をひねるタル白タル黒。
「でもないにゃ。もらったチョコの三倍返す日にゃ」
「…本当は告白への返事の日ではなかったか?」
とエル騎士。
「昔はそうにゃ。でも今は三倍返しにゃ。返事でお腹はふくれないにゃ。財布も充実しないにゃ」
「むう」
「ヴァナの女たちはこの日に男たちの力量を計るにゃ。三倍返しも出来ない甲斐性無しに女を養う生活力は無いにゃ」
身も蓋もない現実がそこにあったりする。
「と、いうわけで…」
なにが「というわけ」なんだか、両手をそれぞれタル白とタル黒へ差し出すミスラ。
「三倍にゃ」
「「!?」」
驚き顔を見合わせるタル白タル黒。
なにも用意してなかったよう。
「三倍にゃ」
ズイとつめよるミスラ。
キラリと目が光る。
「ミ…」
「三倍にゃあ〜」
ズズズイッとつめよるミスラ。
キラリと爪が光る。
「「ミィー」」
ヒシと抱き合って涙目になるタル白タル黒。

149 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/14(日) 10:20 [ kVSOJE1g ]
「にゃははは、冗談にゃ」
コロリと笑顔になるミスラ。
「タルちゃんたちからお返しもらったりしないにゃ」
で、エル騎士を見る。
「む?」
「エル姉からもらわないにゃ」
で、ガル戦を見る。
「んー、ガル戦からもお返しもらったりしないにゃぁ〜」
「もらうにゃっ」
言い切るミスラ。
「アタシの口真似なんかしてもだめにゃ。男だったら素直に三倍返しにゃ」
「?」
首をかしげるガル戦。
ある部分を指差し
「ついてないよぉ?」
「するな!」
メコッ
後頭部へめり込むエル騎士の盾。
エル騎士は下ネタが嫌いだったりする。
「あってもなくても関係ないにゃ。ガルさんは十分男にゃ」
「んー、見た目で決めるんだったらぁ」
スリスリと後頭部をさすりながら、チラリとエル騎士へ視線を送るガル戦。
「なにが言いたい」
ゴミュッ
今度は顔面にエル騎士の盾がめり込む。
「あたたた…」
顔を押さえるガル戦。
ふらふらとふらついて座り込んでしまう。
「「ミ゛ー」」
タル白タル黒の上へ。
−−−
「?」
ついいつもの突っ込みを想定して間を空けてしまうエル騎士。
「そうか、ヒュム戦は休みだったな」
「にゃ。月頭からずっと休みにゃ」
とミスラに見上げられて
「あ、いや、理由は知らないんだが…」
チラリとガル戦を見る。
「んー俺も知らないぃ」
ブンブンと首を振るガル戦。
「「ミ゛ィ…」」
つぶれかけたタル白タル黒も知らないみたい。
「にゃ〜」
ニカーっと笑むミスラ。
「エル姉、様子見に行ってないにゃ?」
「なぜ私が」
「…ホントに見に行ってないにゃ?」
「当たり前だ。なぜ私がヒュム戦の様子を気にする必要がある」
「…にゃ〜、ヒュムさんかわいそうにゃ。あんなに一生懸命がんばってるのにゃ〜」
なんだかミスラは楽しそう。
「!?、なにをがんばっているという」
「エル姉、新作ドレス見たにゃ?」
「ああ」
「きれいだったにゃ」
「きれいだったな」
思い出してるのだろう、一瞬、乙女の顔。
「でも高いにゃ。根性込めて高いにゃ」
「ああ」
「と、言うことにゃ」
「?……!」
何か思い当たったらしいエル騎士。
「にゃははは、でも今日に間に合うかにゃ〜」
やっぱりミスラは楽しそう。

150 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/14(日) 10:23 [ kVSOJE1g ]
夜。もうすぐ日付が変わりそうな時間。
裏通りを歩いてるエル騎士。
その足はヒュム戦の宿の方へと向いてる。
と、歩いてくる影。
近づけばそれはボロボロになったヒュム戦。
「…何をしてるんだ?」
「あ、うん…」
言いよどみ、エル騎士を見上げるヒュム戦。
「私は…散歩の最中だ」
なぜか胸を張るエル騎士。
「で?」
見下ろすエル騎士。
「…これ、いいかな…」
迷いを見せながら、包みを渡すヒュム戦。
「私にか?」
うなずくヒュム戦。
「開けても?」
やはりうなずくヒュム戦。
「…」
包みを半分ほど開いたところで見え始めた物。
星明かりにも目立つ白い色。
「!」
驚き、喜び、期待と共にさらに開く。
けれど…。
「…」
「…」
視線をそらすヒュム戦。
「なんだこれは」
「…オパーラインドレス…」
「の手袋だけだな」
「…努力はしたんだけど…ごめん」
今までかかってようやく手袋だけを手に入れたということらしい。
「…おまえ、バカか?」
エル騎士に言われて
「かもしれない…」
素直に認めるヒュム戦。
「…はぁ…」
大きくため息をつくエル騎士。
無惨な格好のヒュム戦を見下ろして
「お茶でも飲むか」
と笑顔を向ける。
「え…あ、ああ」
うなずくヒュム戦。
少しうれしそう。
「じゃあ」
と部屋へ向かおうとするのへ
「いや、いいお茶を買ったんだ」
とエル騎士。
「いいのか?」
驚くヒュム戦。
「今日は特別だ」
そして二人は並んで歩き始める。
「あのさ」
「ん」
「ドレスの残りの部分だけど」
「ああ」
「来年でもいいかな」
ゴスッ!
エル騎士の鉄拳は見事にヒュム戦の後頭部へ決まった。

「にゃはははは、男ってホント、悲しいにゃ〜」

151 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/14(日) 10:25 [ kVSOJE1g ]
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
どうにも長いです。
タルちゃんズを出したかったです。
ちょと欲張りすぎです。
ステーキとプリンを一緒に食べてるみたいです。
…食べないって…。

152 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 03:13 [ 2T9KCJ8g ]
名無しの話キター

153 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 03:38 [ V5SEfvO. ]
「にゃはははは、男ってホント、悲しいにゃ〜」



そしてリアルでも同じ台詞をつぶやく。
「にゃはははは、男ってホント、悲しいにゃ〜」



orz
悲しいにゃあ

154 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 08:40 [ JaTnWRU2 ]
名無しの話しきてたー-----

・・・他の作者さんたちどした・・・?

155 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 09:05 [ SbwsW30k ]
ここ見るまで、LSメンにお返しのゴブリンパイだかクッキーだか送るの忘れてたorz

156 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:49 [ d13vXBTo ]
―物心ついた時から、不思議な夢を見ていた。

夢の中の自分は、冒険者であり、戦士だった。そして、仲間と共に旅を続けていた。

何度も、繰り返し見てきた夢。

そして、いつか自分も冒険者になろう。と、彼は思うようになった。

…夢の中の彼は、旅の終わりに志半ばで倒れ…そして、光に包まれる。

そして誰かが、野太い声で語りかけるのだ。

「願え…願いは全てを可能にする」

157 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:50 [ d13vXBTo ]
― ウィンダス・森の区 ―

「か…かわいぃぃ〜!」
これは充分予想できた事だった。タルタルが三度の飯よりも大好きなエッタの事だ。
…こうなることは、分かっていたはずだ…。
オットーは頭を抱えていた。それもそのはず、サルタバルタを抜け、ウィンダスへ到着した
彼らを迎えたのがタルタルのガードだったのだ。
抱きしめられた新米らしきタルタルのガードは、今にも爆発しそうな程、顔を真っ赤にして
硬直している。
ミスラのガードに自分達は冒険者という事を告げ、嫌がるエッタを無理矢理引っ張って、
噴水がある広場へとたどり着いた。おかげで、エッタは先ほどからふくれ面だ。
「結構広いのね」
そう言いつつ、レウの足はふらふらと土産屋へ向かっていく。
…どうやらアクセサリの路上販売に興味津々らしい。
オットーは、まず地図を購入し、今自分達が何処にいるのかを調べた。
「ねぇエッタ。見てこれ。すごくかわいい」
「うわ〜、ほんと、凄くかわいいね〜」
後ろから、女二人の何かを期待しているような声が聞こえるのは気のせいだろう。
「なるほど…今いるここが森の区で…天の塔は石の区か…。
 あ、魔法屋ってどこなんだろう?えぇと、それに口の院も港かぁ」
魔道士としては、是非とも口の院は押さえておきたい観光スポットだ。
はるばるウィンダスまで来たのだ。できる事ならば口の院の院長にお目通りしたいところである。

そんなこんなで、三人がモグハウスをレンタルし、一息ついたのはすっかり日が暮れた頃になった。
彼等の予想以上にウィンダスは広く、森の区、港、水の区を回るだけで精一杯だった。
トッパの情報はこれといって得られるものは無く、魔法新聞社にも問い合わせてみたが
そのような冒険者の記事は見つからなかった。

「…トッパちゃんの事、誰も知らないんだぁ?」
エッタはモーグリを人形のように抱きしめ、ベッドの上に座っている。
当のモーグリは何か嬉しそうな顔をしている。
…獣人なのに、ヒュームの女の子に抱きかかえられて興奮しているのだろうか、
と思ったオットーだったが、それは考えない事にした。
「そうね…こんなに広いウィンダスだから、居たとしてもすぐに見つかるわけないとは思うけど…」

158 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:51 [ d13vXBTo ]
― ウィンダス・水の区 ―

「しっかし、昔と全然かわらねぇなぁ」
「そうだね…まるで時間が止まってるみたいだ」
「う〜む…ひょっとしたら、本当に止まってるのかもなぁ」
ラキとジルパケルパは夜の桟橋を歩いていた。
「…見て、凄く綺麗」
ぼんやりとした、淡い夜光草の光がラキの頬を照らしている。
「あ、あぁ…そ、そうだな」
「ん、どうかした?ボクの顔に何かついているかい?」
きょとんとしたラキがジルパケルパの顔をしゃがんで覗き込んだ。
「な、なんでもねーよ!そ、それよかな、今日の宿、どーすんだ?
 モグハウスも一杯だし、宿借りる金もねーぞ?」
「それは、キミが…いや、やっぱりいい…」

ジルパケルパが、カザムで怪しげな男に手持ちの全財産を渡してしまった事は、
もう忘れる事にしよう、と彼女は思った。
それよりも、今晩の寝床を探すのが先である。
「どっかに空き家でもありゃいいんだけどな」
棒になった足をひきずり、二人が辿り着いた先は居住区だった。
「…ねぇ?あそこ。ボロボロの家があるよ?…誰も住んでないんじゃない?」
「お、本当だ。ラキ、ナイスだぜ!」


「…うわぁ…こりゃ、ひでぇや…」
蜘蛛の巣だらけの、まるで家とは呼べない廃屋。
壁は所々朽ち果てており、床も腐っている。
「…仕方ないね。夜風を避ける事ぐらいは出来そうかな」
寝袋を取り出し、二人は潜り込む。
明かりも無く、真っ暗な天井。…ぼんやりと見つめている二人。
「…ね、トッパって。ウィンダスにいるのかな?」
「アイツの事だからな〜。ひょっとしたら、世界中を走り回ってるかもしれないな」
「…この間見た夢…不思議と思わないかい?」
「………」
数日前、二人は全く同じ夢を見た。それはあり得ない事だが、事実である。
それはあの頃の仲間とロンフォールの森で再会する夢だった。
「ボクね…なんだか凄く怖いんだ。…トッパってね、ボク達と別れた後…」
「………」
「ううん、なんでもない。…ごめんね…」
「あいつは…ウィンダスで待ってるって言ったんだぜ…?
 それにな、そんな簡単にくたばる奴じゃない。…あいつは俺のライバルなんだからな!」

159 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:52 [ d13vXBTo ]
― 西サルタバルタ ―


一人の、まだ若いタルタルの青年がサルタバルタを歩いていた。
…いや、少年と言った方が正しいだろう。身なりは冒険者の格好だが、
冒険者として旅立つには若すぎる。
「…腹減ったぁ…」
彼はひどく空腹だった。それもそのはず、最後に食料を口にしたのは二日前なのだ。
冒険者に憧れ、ウィンダス連邦を目指し、はるばる田舎から出てきたものの、
慣れない旅に悪戦苦闘している。
冒険者になりたい、それも戦士に、と、元冒険者の両親に打ち明けた所、
大喜びで装備一式を整えてくれたのはいいのだが、
クアールは愛する子を谷に突き落とす…とはよく言ったもので
その日のうちに家を追い出されてしまった。
どうも両親も冒険魂が疼いていたようで、息子が一人立ちを希望したのが
絶好のチャンスだったようだ。
「僕達もしばらく旅に出るから、何処かで会えるといいね。
 その時までに立派な冒険者になっておいで…じゃ、ねーーんだよぉ!!」
サルタバルタに、タルタルの雄叫びがこだまする。…そして、それがまずかった。非常に、まずかった。
…彼の死角に、たまたまヤグードの野営地があったのだ。
「なんだ?おもしろそうな奴がいるな…」
ヤグードの一人が、タルタルを見てにやりと笑った。
「丁度いい、暇を持て余していた所だ…」
二人のヤグードは、タルタル向かって一直線に走る。
背後に気配を感じたタルタルも、ヤグードに気付いた。
「んげげぇ!ヤグードの野郎じゃねぇかよ!」
ヤグードの悪行は彼の田舎にも知れ渡っている。ウィンダス連邦と友好を結んでいるにも関わらず、
暴虐三昧の獣人、ヤグード。
未熟な冒険者が彼等によって命を落とす事も多い。
(…逃げるが…勝ちだ!)
シーフである父譲りの脚力を頼りに、全力疾走。遥か遠くに見える星の大樹目掛けて
一目散に逃げ出す。
「ふははは、ウィンダスまで逃げ切れるつもりか?」
後ろからヤグードの、あざけ笑う声が聞こえる。
「ばっきゃろー!こんな所でやられてたまっかよっっ…どわぁ!」

160 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:52 [ d13vXBTo ]
夜の闇で足元がよく見えなかった。大きな石につまずき、地面に転がった。
「ってぇぇ!…うぁ!」
二人のヤグードが、満月を背に自分を見下ろしている。
「ケケ…」
「カカカ…」
鳥人特有の不気味な笑い声が響く。
(お、おい、冗談だろう…?ウィンダスにだって辿り着いてやしないのに…!)
もう駄目だ。自分は情けない事に、こんな所で死んでしまうのだ、と彼は思った。
(ああそうだ。戦士が死ぬ時は見苦しい死に様を見せちゃいけないって、どこかの誰かが言ってたな…)
彼は覚悟を決め、目を瞑り、その時を待った。が、しかし…
「あらあら、そこのヤグードさん、大の獣人二人して弱いもの苛めかしら?」
(えっ?)
…一瞬の出来事だった。そのエルヴァーンの女は、瞬く間に二人のヤグードと彼の間に入り、
手にした剣でヤグードを切り捨てたのだ!
「…みねうちよ。安心なさい」
(えええっ!?)
この間、わずか十秒にも満たない。少年は何が何やら、ただ驚嘆するばかりだった。


 
―それから数分後、あんなに遠くに見えたウィンダスのゲート前に彼は居た。
「はぁ…死ぬかと思ったよ。ありがとう、お姉さん」
「気をつけないとダメよ。最近、あいつらの動き活発になってるからね…って、え?」
ゲートの松明の明かりで、お互いに顔が見えるようになった。
女は彼をじっと見つめ、驚きの表情を浮かべた。
「…トッパ…?」
「え、なんでオイラの名前知ってるんだ?」
「…私の事、分からない?」
「ん?おねーさんと会うのは初めてだぜ?」
女は、しばらく考えこんでいた。そして、クスクスと笑い出した。
「ふ〜ん、そうなんだ…願いの星ってワケね…そうなの…」
「??」
「…でも、なんであなたが…そうか…もしかして…」
女は独り言をぼやきながら、トッパと名乗るタルタルの見た。
「トッパ…いつかまた会うことになるかもしれないわね…
 その時までにもっと強くなりなさい、いいわね?」
「え、えっと…話が全然分からないんだけど、おねーさん…」
「いい?あなたには資質がある。それも、とびきりの奴がね。
 だから…今度こそ、秘めた力を発現なさい…
 私の名はセラフィー。覚えておいてね?」
セラフィーと名乗る女は、不適な笑いを浮かべ、トッパの前から姿を消した。
「…なんなんだ?あのおねーさん…?」
残された彼は、きょとんとしている。
(…でも…どっかで会ったような気がするんだよな…)

161 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:53 [ d13vXBTo ]
朝になった。結局あの後、セラフィーと別れたトッパは森の区の競売の隅で野宿をして朝を迎えた。
「ってぇ…背中いてぇ…」
慣れない野宿に加えて、長旅の疲れもあり、彼の体は悲鳴を上げていた。
石畳の地面はどうにも寝心地が悪く、おかげでほとんど眠れていない。
とりあえず、今日は宿屋を探してふかふかのベッドで一日中のんびりしたい気分である。
「…どうかしたのかにゃ?」
不思議そうに、一人のミスラの少女がこちらを見ている。
「い、いや。なんでもねぇよ。ただちょっと腹が減って疲れてるだけさ」
ミスラの少女はくすくす、と笑った。
「あ、お兄ちゃん、新米の冒険者さんなんだね!私もいつか冒険者になるんだにゃ。
 私のママもね、昔とっても強い冒険者だったんだ」
「はぁ…そうかいそうかい」
だからなんだと言わんばかりにぶっきらぼうな返事を返すのは、空腹のせいである。
「…にぅにぅ…お腹空いてるんでしょ?今から朝ごはんだから、一緒に食べるにゃ」
「え、マジ?いいのか?」
「うんうん、だから早くいこう!」
食欲の誘惑にあっさりと屈服したトッパは見ず知らずの子ミスラの後をほいほいとついて行った。
「ふぁぁぁ〜。ご馳走さまでした!」
「どう、美味しかった?こんなに食べてくれると作る方も嬉しいわ」
「ねぇ、トッパちゃん。後でお外に遊びに行くにゃ〜」
「え、お外?…外ってサルタバルタかよ?」
「うんうん、私はいつもマンドラちゃん達と遊んでるんだよ〜」
「ひぇ〜、勇気あるんだなぁ〜ヤグードとかいるし、最近危ないんじゃないのか?」
「そうそう、なんだけどこの子ったら、この前もヤグードに悪戯されたってのに
 懲りずに遊びにいくのよ。悪いけどトッパさん、護衛ついでに一緒に遊んであげてくれない?」
母ミスラも半ば呆れた顔で言った。
「あぁ…飯のお礼もあるし、俺でよけりゃ一緒に遊んで…や…ふぁぁぁ…」
安心感と満腹感が一挙に襲ってくる。おやすみ3秒説というのは本当にあるのかもしれない。
「あ、寝ちゃった…」
「疲れてるのよ…寝かせてあげましょう。起きたら一緒に遊んでもらえるわよ」
「にぅ…つまんなーい、私一人で行って来る。トッパちゃんが寝てる間に花輪の王冠、
 作ってあげるにゃ」
子ミスラは、そう言い残すと、そのまま外へと駆け出していった。
「もう…しょうのない子ねぇ…誰に似たんだか」

162 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:53 [ d13vXBTo ]
―よぉ、トッパラッパ。
(…ん…誰だ?)
―誰かって…?…ん〜、難しい質問だなぁそれは
(…んで、何のよう?悪いけど、オイラ眠いんだよね…)
―お前、今寝てるんだぜ?…これはお前が見てる夢だよ
(……お前、誰だよ)
―オイラが誰かって?それはお前が一番良く知ってる筈さ。
(…なんか、お前、オイラの真似してないか?)
―へへっ、それはいいとして…唐突なんだけどな、オイラはお前の
 もう一人のお前…いや、オイラの方が正しいのかな…う〜む
(なんだそれ…お前がオイラでオイラがお前って奴かい?)
―お、それだそれだ。ま、とにかく、今まではそうだったんだ。
(今まで?)
―ああ、そうだ。だけど…これはお前の冒険だからな。
 …色々考えたんだけど、オイラは…もう、違うんだよな。
(…おい、ちょっとまてよ。何の事だか、さっぱりわかんねーぞ!)
―オイラはお前になったけど…それでもやっぱりお前はお前だ。だから、オイラは…
(おい、どっかいっていまうのか?…待てよ、オイラ、お前の事知ってるような気がする!
 そうだ!お前は昔のオイラ…?夢の中にいたオイラなんだろ?…おい、返事しろよ!)

163 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:54 [ d13vXBTo ]
カーンカーンカーン。鐘が鳴る。刻の鐘じゃない。非常を知らせる鐘。

「…ん…なんだぁ?何やら騒がしいなぁ…ふぁぁぁ」

「いくぞー!」
「カラスどもを追い返せー」

…といった、物騒な叫び声が聞こえる。…カラス…ヤグードだろうか?
などと呑気に考えていると、真っ青な顔をした母ミスラがそこにいるではないか。

「あれ…ママさん、この外の騒ぎ、一体なんだろ?」
「はにゃにゃ…た、大変だわ!…どこぞの冒険者が馬鹿やらかして、ヤグードの集団が
 この近くまで攻めてきたらしいのよ!」
「ええ、それは大変じゃないか!」
「なんてこと!あの娘、まだ外で遊んでるはず!…戦闘に巻き込まれたら大変!
 どうしましょう、どうしましょう!」
「え?外にいっちまってるのか、そいつぁ大変だ!オイラに任せな!タルタルだけどな!」
トッパは武器を持って外へ飛び出す。
(そういえば…俺、剣の稽古すらマトモに受けたことないんだっけ…)
と、思ったがそれは考えない事にした。


― 東サルタバルタ ―

ゲートを潜った先は、トッパの想像以上のものだった。
ヤグードの数は数え切れない。応戦する冒険者の数も数え切れない。
例えば、それはただの小競り合いなのかもしれないが、新米冒険者のトッパからすると、
初めて見る集団戦闘、しかも熟練の冒険者達の戦いぶりである。
(おっと…こんな所で感動してる場合じゃねぇぞっと…)
母ミスラに言われた、子ミスラがいつもよく遊んでいる場所へと向かう。
冒険者とヤグードの合間をすり抜け、目印の大きな木を見つけた。
そこに、マンドラゴラを抱きかかえた、子ミスラが震えながら座っているのが見える。
「お〜い、大丈夫か?」
「うう…トッパちゃん、皆、喧嘩してて怖くて帰れないにゃ〜」
「よしよし、オイラが来たからにはもう安心、守ってやるからな!」
と、子ミスラの頭を撫でてやる。
「ほら、帰るぞ。マンドラちゃんよ。今日はバイバイな」
ぴきーっとマンドラは手を振りながら、バイバイみたいな仕草を取った。
「皆、マンドラちゃんみたいに優しい子ばかりだったらいいのに…」
「…そういうもんだよ。ほれ、安全なところまで行くぞ」
子ミスラの手を取って、立ち上がった時。…彼は背後に気配を感じた。
「!?…あーっ、お前ら!」
「クク…」
「ケッケッケ…」
なんという運命の悪戯だろうか。昨晩のヤグード二人組みがトッパの前に再び姿を現した。
「覚悟はいいか…小僧!」

164 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:55 [ d13vXBTo ]
(落ち着け…剣はこうやって構えて…体の重心を…構え…)
「なんだ…?その剣は飾りか?それではまるで素人ではないか?」
「う、うるせー馬鹿!」
闇雲にトッパは剣を振り回しながら、ヤグードの一人に突っ込んだ。
「ふはは!ダメだダメだ!てんでダメだな!」
そのヤグードはモンクなのだろう。カウンターの二連激がトッパの右頬、左頬に炸裂した。
小さなトッパの体は、その衝撃で吹き飛ぶ。
「ぐぁっ…この野郎!」
「…余所見をしちゃいかんぞ!?」
後ろから、もう一人のヤグードが手にした杖でトッパの頭部を殴る。
「うげっ!」
…一方的だった。このままでは勝ち目が無いのは誰の目にも明らかである。
「トッパちゃん…逃げて!…勝てっこないよ!」
子ミスラが泣きながら叫ぶ。
「ば、馬鹿野郎…ここで逃げたら…ここで逃げたら…誰がお前を守るんだよ!」



―お前はオイラなんだぜ?…分かるだろう?…覚えているかい…?
(えっ?)
―前にもあったよな…こんな事よ。あんときゃ、オイラもてんで弱っちくてさ。
 結局、おっさんが助けてくれたんだよな。
(…そうだ…そうだ…これ…こんなこと…前にもあったような…?)
―だからな、最後にちょこっとだけ、手助けしてやるよ
(…ああ…そうだ…お前は…オイラなんだよ、な…)

165 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:56 [ d13vXBTo ]
「…あっけないな…所詮はタルタルか…」
不満げな顔をするヤグード二人組み。その足元にはトッパが倒れている。
ヤグード達は、ゆっくりと子ミスラの元へ迫る。
「トッパちゃん!トッパちゃん!」
子ミスラの叫びが聞こえる。
「…おい…待てよ…」
「…む?」
モンクのヤグードが振り向いた時、雌雄は決していた。
信じられない跳躍力で、トッパはヤグードの顔面の高さまで飛び込み、そのまま
胸元を切りつけたのだ!
「…ぬぬぅ!…貴様!?」
傷口を押さえながら、たじろぐヤグード。
魔道士のヤグードが素早く魔法の詠唱を始めるが、口を開いた瞬間、
トッパの強烈な体当たりが腹部にヒットし、彼は嗚咽を上げながら前のめりに倒れた。
「へへ…どんなもんだい…これが…オイラの…」

そこで、例の如く、彼の意識は闇に包まれる。

(…あ〜、結局、こうなるって…ワケ…なの、ね…)

…いつの間にか、ヤグードの集団は居なくなっていた。冒険者達は、やれやれといった感じで
ウィンダスへ戻って行く。
子ミスラは走って、その冒険者達へ叫んだ。
「誰か!助けて!トッパちゃんが…トッパちゃんが!」
その時、大勢の冒険者の群れから、同時に二つの声があがった。
「…トッパ?」
「え!トッパちゃん!?」

166 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:58 [ d13vXBTo ]
― 数日後・メリファト山地 ―


「…本当に一人で行くのかい?」
「あぁ、悪いんだけどさ。夢の中のオイラは言ってたんだ。
 これはお前の冒険だ…ってね。
 どうせ、何処かの誰かが言ってた、受け売りの言葉なんだろうけどさ」
「…いつでもサンドリアに遊びに来てね。私達、待ってるから」
「おう!気が向いたらサンドリアにも行ってみるよ」
「トッパちゃん…うぅぅ…」
「エッタ…泣くなよ。そんな、根性の別れじゃあるまいし」
「ボク達は…いつまでも仲間だ。…何かあったらいつでも駆けつけるよ。
 こいつと一緒にね」
「…だからな!トッパ!…その…げ、元気でな!」
「うん…うん…ありがとう。皆…ありがとう!」

オットー・レウ・エッタ・ラキ・ジルパケルパの5人は、いつまでもトッパの後姿を見守っていた。
…結局のところ、彼らが初めて会った、あのトッパラッパというタルタルの戦士が
何処へ行ってしまったのか…彼らは、その後の消息を掴めていない。
しかし、トッパラッパの夢を見た、不思議なタルタルの戦士に出会った事は紛れも無い事実である。
彼は一体何者なのか?…それも、誰にも分からない。
ただ一つ言える事がある。

確かに、そこに絆はあったのだ。…そして、今も、ここに…。

167 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 10:59 [ d13vXBTo ]
ヴァナディール。その世界には多くの冒険者が夢を追い求めて生きている。
彼等の目指す未来に何があるのかは分からない。世界というものは、常に変動しているからだ。
だが、その世界においてなお、絶対不変は確かに存在する。
それが何かは…よく分からない。おそらく答えを見つけられる者はいないだろう。
その答えは人それぞれであり、無限の価値と可能性を秘めているのだ。

…しかし、この物語の終局に集った6人の冒険者達は、長い長い旅の果てに
それぞれが、その”何か”を見出す事が出来たのかもしれない。

彼等はやがて何処かで再会し、再び冒険をする事があるだろう。
残念ながら、それがいつになるのか…それは私にも分からない。
それは彼らが縛られない、自由に着の身着のまま生きる”冒険者”だからである。

…さて、この物語はまだ幾ばくかの後日談を残しているのではあるが、
これにて、小さなタルタル戦士の物語は一応の終局を迎える事にしよう。

願わくば、全ての生命にアルタナの女神の祝福があらんことを。



                        タルタル戦士は夢を見る  〜 完 〜

168 名前: タルタル戦士は夢を見る 投稿日: 2004/03/15(月) 11:00 [ d13vXBTo ]
「…行っちゃったね…」
「あぁ…そうだね…」
ぼ〜っと、メリファトの山々を眺めるオットーとレウ。
「うぅぅ…うわぁぁぁぁあん!」
泣き止まないエッタ。
「う…トッパの馬鹿野郎ぅぅ!!」
つられて泣き出したのは…ジルパケルパだった。
「馬鹿だな…意地っ張りなんだから、キミは…」
ラキはジルパケルパの頭を撫でて、いい子いい子している。
「さて、どうしよう?…とりあえず…ウィンダスへ戻ろ…?…おや?」
「ねぇ…あれ…トッパじゃないかしら?」
「そうだね…どうしたんだろう…って…あぁ…」

「た〜〜す〜〜け〜〜て〜〜!!!!」

必死の形相で走ってくるトッパ。その後ろには…大量のゴブリンの群れが見える。
「…へ…あの馬鹿!ドジな所はちっとも変わってないぜ!」
ジルパケルパはやけに嬉しそうに剣を構える。
「さすがは…キミのライバルだね…ジルパケルパ…」
ラキも何故か嬉しそうだ。
「…やっぱり…まだ無理よね…そうよね…いきなりジュノ目指すだなんて…」
レウも、仕方なし、と久々に腰の斧に手をかけた。
「えへへ!三ヶ月振りのファイガが出来そうだよ!お兄ちゃん!」
本当に三ヶ月振りか?と、オットーは我が妹を問い詰めたい気持ちで一杯だ。

「…いこう!皆…走れ!」
「おぉぉ〜!!」




―彼等の旅は、まだまだ終わらない。
         
              

                タルタル戦士は夢を見る  〜 本当に、おしまい 〜

169 名前: ( `・ω・´) ノ ファイナル! 投稿日: 2004/03/15(月) 11:09 [ d13vXBTo ]
― ジュノ上層 ―


「…まったく、…なんでお前はいつもそうなんだ!」
「今回は無事だからよかったものの・・・!」
商人や冒険者が行き交うジュノ上層。
そこに瀕死の重傷を負った冒険者達がバタリアから戻ってきた。
ここ、ジュノ大公国ではよくある光景である。そして、彼等は言い争っていた。
「おい、なんとか言ったらどうなんだ!?お前があんなムチャするからよぉ!」
額から血を流しながら、エルヴァーンの男が激昂している。
「いいから…はやく傷の手当てしないと・・・」
「もう終わった事だから、しょうがないんじゃないの?」
「毎回毎回、もうウンザリですよ」
「全くだな…さすがに今回ばかりは、お前のせいで危機になったようなものだな」
ただならぬ雰囲気に、周囲の人々の注目を集めているのに彼等は気付いていなかった。
「なんだ?冒険者が騒ぎ起こしてるのか?」
「ね〜ママ〜あの人なにしてるの?」
「しっ、見ちゃいけません!」
その、喧騒の中心に美しいミスラの女が居た。背には古びた両手剣を背負っている。
その両手剣は多少さび付いているものの、刀身の輝きは失っていない。

「・・・じゃないか・・・」
「あ?」
「あたいが・・・あたいが敵を殺して、それでお前らを守ったんじゃないか・・・」
ミスラが泣きそうな声で、震えながら呟いた。
ばきっ、と何かが砕けるような音がした。そしてミスラはその場に崩れ落ちた。
怒り狂ったエルヴァーンの男が、ミスラを思いっきりグーで殴りつけたのだ。
慌てて抑える仲間。
「すまないが・・・もう組めないな」
ガルカがそう吐き捨て、男を引きずるようにして街中へ消えていった。
ミスラは一人、残された。倒れたまま、起き上がろうともせずに、じっと地を
見つめていた。

170 名前: ( `・ω・´) ノ ファイナル! 投稿日: 2004/03/15(月) 11:11 [ d13vXBTo ]
…雨が降り出した。ミスラは相変わらず倒れたまま、地面を見つめている。
その眼からはまるで生気を感じない。
すれ違う人々は、皆見て見ぬ振りをしているようだ。
ただでさえ評判の悪い冒険者、それも一人で怪我をしてうろついている者に
手をかせばどんなトラブルに巻き込まれるか分かった物ではない。
三国、ましてやジュノ大公に認められ、栄光を掴む冒険者はほんの一握りであり、
最低限の生活は保障されているとはいえ、実際は浮浪者同然の生活をしている冒険者が大半である。
近年、彼ら冒険者による犯罪も多発しているのだ。

(雨…嫌だな・・・)

・・・それから、しばらく彼女は微動だにしていない。
街行く人々もまるで汚らしい物を見るような目つきで睨むか、気付かない振りをしている。

(・・・なんだろう…?)

耳が、ピクンと立った。

(何か来る?)

171 名前: ( `・ω・´) ノ ファイナル! 投稿日: 2004/03/15(月) 11:11 [ d13vXBTo ]
只ならぬ気配を感じた。よく分からないが、普通ではない、何かがこちらへ近づいている。
「・・・あたいに何か用かい?季節外れさん」
彼女の視線の先には・・・なんとも不思議な格好をした男が立っていた。
頭に、かぼちゃ頭(この間のハロウィンの奴だろう)を深く被っており、
わずかに見える顎からは髭が深々と蓄えられているのが見える。
全身は青いマントに身を包んでおり、よく見るとそれはバストゥークの高ランクの銃士、
もしくはそれと同等の権威を与えられた冒険者のみ与えられる物だ。
…怪しすぎる。特に、かぼちゃ頭から伸びた髭がなんともいえない。
「ああ…ええとと、約束ってやつ?・・・そいつを果たしに来たってわけさ」
彼女はゆっくり立ち上がり、身構えた。こいつは只者ではない。
それに、覚えはないが…約束というのは、決して平穏無事に済むものではないだろう。
「おいおい、そんなに構えなくってもいいじゃねーかよ」
男は、すぅっと、ゆっくり動いたように見えたが、気がつけば彼女の眼前に迫り・・・
「引っかくなよ?」
「・・・ぅん・・・!?」
予想外の出来事である。なんと、男は彼女の唇をいとも簡単に奪ってしまった。
そもそもこういった経験の無い彼女にとって、何がなにやら、ただただ混乱するばかりだった。
髭がチクチクして痛い事この上ない。
「んんむぅぅ…んん!」
慌てて引っかこうとして挙げた右腕も、まるで読まれていたかのように捕まれている。

「おイタは・・・だめにゃん・・・ってか?」

(・・・え?)

172 名前: ( `・ω・´) ノ ファイナル! 投稿日: 2004/03/15(月) 11:13 [ d13vXBTo ]
そこで、男は空いている片方の手で、かぼちゃ頭を脱ぎ捨てた。

「・・・わりぃ。長い事待たせちまったな、クリーム」

かぼちゃ頭の下から出てきたその顔は・・・それは、それは・・・

「・・・あ・・・あぁ・・・そんな・・・嘘・・・」
「果たして夢か幻か・・・その答えは、彼女のみ知る・・・ってところかな?」
「う・・・わぁぁぁ・・・クレイ!・・・クレイ!・・・クレイ!」
「おいおい、泣くなよ・・・ご近所迷惑だろ?」
「だって・・・だって、あたい・・・てっきりあの時・・・ひっく、ひっく・・・」
「は〜。やれやれ、勝手に殺すな、全く。…勇者はな、絶対に死なないもんなんだよ!
 しっかし、お前その泣き虫な所、全然変わってねぇなぁ」
「ごめん・・・でも・・・でも・・・」
ぐしゃぐしゃに泣きながら、クリームはクレイに抱きついた。
「だーかーらー、いいからもう泣くなよ!…あぁもう、ほれ、周りの奴らが
 見てるだろーが!」
…只でさえ人通りの多いジュノだ。周りの野次馬の視線が痛い。
「おいおい、あのにーちゃん、ミスラ泣かせだねぇ〜」
「幸せになー!お二人さん!」
「ね〜ママ〜あの人達ケッコンするんだよね?」
…という声がヒソヒソと…いや、わざと聞こえるように言っている。間違いない。
(あ〜、このパターンは…前にも会ったような気が…する…)
「…わ、悪かった!俺が悪かったよ!だからもう泣くのやめろよ!!」
「…うっ…うっ…うわああああああああん!」
(…アウト、大声で泣き出した…まぁ…こういうのも悪くないか…な?)
クレイはクリームを、強く強く抱きしめた。もう二度と一人にするものか。

空を見上げる。いつの間にか雨は止んで太陽が顔を覗かせている。

…今日も良い天気だ。

「さぁてと…雨も止んだことだし!…いっちょ冒険に行くか!」


―二人の旅も、まだまだ終わらない。


                     …本当の、本当に、おしまい♪

173 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 11:18 [ hmcvCw.. ]
-----ゴミカキコ-------
読者として書き込むのは久々だ、樽戦ついに最終話来たか。
去年の1月の終わりか?1話目は。
当時、後衛を目指していた俺だが樽戦読んで速攻辞めて戦になった。
まだはじめたばっかでサポも取れてなかったんだがなw
まぁホント樽戦なんてもんはきつくてきつくてw
そんな俺の樽戦も今や75。
ペースは遅いが他ジョブに浮気しなかったから先日なんとか頂点まで立つことができた。
頃合いもいいし俺のFFも引退だ 今までありがとう じゃなw
(2代目倉庫管理人)
-----ゴミカキコ-------






樽戦キタ━━ヽ( ´∀`)・ω・)・ω・`)゚Д゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)`Д´)-_-)冫、 )´Д`)=゚ω゚)ノ━━!!!
樽戦キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

174 名前: ( `・ω・´) 投稿日: 2004/03/15(月) 11:40 [ d13vXBTo ]
あとがき  

えー、終わりました。最終話が異常に長くなったのはご愛嬌。
まず、この場で第一話から最終話に至るまでこのお話を読んでくださった
皆さんに感謝です。色々な感想はとてとて参考になりました。
また、絵を描いてもらったりしたのは物凄く励まされたりしました。
今まで色んな感想を貰って、話よくわかんね、だとか、感動的な話ばかりだとか
読み手の皆さんで色々な受け取り方があるんだなぁと思いました。
いつだったか、タル戦はキャラクターの秘められた狂気がうんぬん、という
事を書いてた人いましたが、実はタル戦ってブラックな話であります。
例えば、オットー君だけど、彼は結局わけのわからない本に人生を支配されてたり
するんですよね。記憶も操作されてるし、でも、それでも彼は最後には
妹の再生を望みました。それが彼の意思なのか、はたまた本の意思なのかは
皆さんの判断にお任せです。

タルタル戦士は夢を見る、のテーマは”繰り返し”です。
長い歳月をかけて、登場人物は最終話の時点で再びスタート地点に戻ります。
でも、これって結局どんな事にもいえることで、仕事に行くだとか、学校にいくだとか、
毎日同じ事の繰り返しですが、それでもちょっとずつ何かは変わっていくもの、と思っています。
しかし、最終話で少年のトッパの中の、もう一人のトッパはその繰り返しを壊します。
少年のトッパにはこれから本当の人生が始まるのかもしれません。
それが新しい生命の創造といったら大袈裟ですが、そういった意味で
トッパは過去のしがらみを捨て、新しい夢を探す事ができるようになったんじゃ
ないかと思っています。…自分でも何言ってるかよく分からなくなってきたので、
とりあえずこの辺で失礼します。なお、この劇中にもあるように、タル戦には後日談があるのですが、
それはまた気が向いた時にでも。気が向かないかもしれませんがね。

最後に、私がヴァナディールへ降り立ち、今日に至るまで沢山の冒険をしてきた
名前も覚えてない沢山の冒険者の仲間達へ感謝の意を込めて。



それでは、良い旅を!

175 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 12:11 [ nB69UkJU ]
樽戦きてたわ〜*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:* ミ ☆

作者様、お疲れ様でした。m(_ _)m
そして、ありがとうございました。

176 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 12:15 [ 8912ZoGc ]
昼間にキターーーーーーーー
これからじっくり読まさせていただきます。

177 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 12:17 [ 9sywyWMA ]
タル戦キタぁぇぁぁああqすぇdfrtgyふじこlぁぁっぁえぇおけ!!!!








お疲れ様でした(´・ω・)ノシ

178 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 12:32 [ 7kByGhD2 ]
ついに終わってしまいましたね。
作者さま、ありがとうございました。

気が向いたときを楽しみにしています。

でも、ちょっと(どころでなく)
さびしいのは、何故だろう?好きなものが終わってしまったから?

179 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 12:40 [ JaTnWRU2 ]
ついに終わりましたか・・・
お疲れ様でした>>パパ様






樽戦キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

180 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 13:01 [ zB0TMJgM ]
うわっがゃpjhwyh;あk:sdぽfjq
我jじゃh;h:wtk:あh


・・・・・察してくれ・・・

181 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 13:31 [ HAkifgmQ ]
た、た、た…

タル戦キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!

最後まで面白かった〜。
クレイとクリームも最後はうまくいってよかったですヽ(´▽`)/

なにはともあれ、作者さまお疲れ様でした!

182 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 13:39 [ xf3r.YpA ]
樽戦キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!

本当にお疲れ様でした。

183 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 14:25 [ p6ug2L62 ]
パパさん。完結おめでとうございます!!


キイィィィィタアァァァァァァ━━━━━━(*゚∀゚)━━━━━━!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

184 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 15:01 [ JaTnWRU2 ]
>「あれ…ママさん、この外の騒ぎ、一体なんだろ?」
>「はにゃにゃ…た、大変だわ!…どこぞの冒険者が馬鹿やらかして、ヤグードの集団が
> この近くまで攻めてきたらしいのよ!」

ガルカ!?あのガルカがやったことか!?
コラボキタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!?

185 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 17:30 [ yaFUCuf. ]
お疲れ様でしたー。

根性の別れ でちょっとワロてしまいましたが。
一冊の本として手元に置いて置けないのが残念。

ほんとにお疲れ様でした。

186 名前: ( `・ω・´) 投稿日: 2004/03/15(月) 18:35 [ d13vXBTo ]
>>185

あぁー(つд`) ヤッチャッテル。今生の別れでつね。指摘サンクスでつ(つд`)
今、WIKIとかで他作品読んでまつ。
途中でストップしてる話とかも多いでつ(つд`)
他作品の作者さんへ。のんびりでいいので、最後まで頑張るディス(0w0)

187 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/03/15(月) 18:44 [ 5iXN2hIw ]
うおおおおおおおーーーーーキテタアアアアア!!!!!

パパさん、本当に本当にお疲れ様でした、そしてありがとう!
このスレがここまで伸び続けたのは貴方がいたからで間違いないと思います。
これからもこのスレが続いていくことを祈りつつ…。俺も頑張るッス。

クリーム萌えたあ―――――――――――――!!!(←決めゼリフ完結)

しかし本当に一冊の本として手元に置いておきたいですな…。

188 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 19:25 [ mPGzBHwA ]
タル戦キタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━━!!!

ジュノでソウマにクリームの事を聞いてたのは
クレイだったのか!

189 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 20:01 [ WOu3Hv4g ]
パパさん、お疲れ様でした。 そしてありがとうございました。

・・・・クレイィィ、クリィムゥゥゥ、ほんと、ほんとよかったよぉぉ。・゚・(ノД`)・゚・。
もぉ昼休み以降目ぇ潤みっぱなしでつ(ノд`)

190 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 20:11 [ 8fRI2R4Y ]
パパさん、お疲れ様でしたー!!

素敵な物語をありがとう!
クリーム、幸せになってホントに良かった!!

191 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 20:41 [ yKGQc0Go ]
後日談…クリームとトッパのがあると…俺は待つ…



それはそうと、タル戦キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
やばいほど泣き過ぎだ俺は・・・。・゚・(ノД`)・゚・。

192 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 20:46 [ yKGQc0Go ]
いいわすれた…orz

御疲れ様でした!
一度引退した俺は、タル戦みて復帰しそろそろ初限界突破だ。
俺の冒険はタル戦のようにはいかないが・・・良き仲間達と冒険をしているさ


次回作にも期待して宜しいか?
作者様の復帰…待ってるぜ…

193 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/15(月) 20:51 [ qs89IGV6 ]
パパさんお疲れ様でした!
今はもうFFやめてしまったけど、ここだけは楽しみにしておりました。
オットーたちのウィンダス到着のくだりなんかは、自分の生まれ故郷を
思い出したような懐かしさで。。(⊃д⊂)
気が向いたらの後日談も楽しみにしておりますw
最後に  

タル戦!!キタ━━(゜∀゜)━━!!

194 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/16(火) 02:00 [ RIZR3z/E ]
パパさんお疲れ様!!
1話からずっと読んでましたよー
最後くらい泣くまいと思ってたのにクレイとクリームで泣いちゃった
タル戦キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
また最初から読もうっと

195 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/16(火) 02:54 [ pPfeLqPw ]
/salute

196 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/16(火) 05:12 [ 9m/HO1MU ]
よかった
ほんと・・・




タル戦キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

197 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/16(火) 06:08 [ zXvOvLaE ]
タル戦キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
パパさん、お疲れ様でした。
私も1話からずっと読んでいました。
最終話を読んでいるとトッパ達の今までの冒険が目の前に浮かび、懐かしさの余り目が潤んでしまいました。
特に最後のクリームとクレイの再会には思いっきり泣いてしまいました。
私の中では、クリームが主人公だったので・・・w(ベドーの悪夢を読んだ時の衝撃は今でも覚えてます)
その分、最後にはクリームとトッパをもう少し絡めて欲しかったです。(後日談に期待してもいいかな・・・?)
本当にお疲れ様でした、それと ありがとう。


さて、私も最初から読み直そうかな。

198 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/16(火) 08:02 [ rcTyL3GM ]
>163 >184
Σ(゜Д゜;)
うちですか!?
うちのガルさんがやっちゃいましたか!?
子ミスラちゃんガクブルですか!?
トッパちゃん半殺しですか!?
あれほどよそさまにご迷惑かけちゃいけないって言ったのにぃ〜。
こんどお尻ペンペンしなくちゃ!…と、言いつつ、ぶっとい尻尾が邪魔でお尻に手が届かない罠。
…罠?…

は、おいといて。

パパさん、お疲れ様です。
タル戦のシリアスさとは程遠いうちの子たちですけど
タル戦がなければ、たぶん生まれてこなかったでしょう。
ありがとうございます。

199 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/03/16(火) 08:07 [ rcTyL3GM ]
「ということは…」
「「おとうさん?」」
ジッと目の前のタルタル戦士を見つめるタル白タル黒。
「え?」
「おとうさーん!」
ヒシッと抱きつくタル白。
「ちょっ、まてよ。オイラちがうよ」
慌てて逃げようとするタルタル戦士へ
「おとうさーん!」
今度はタル黒が抱きつく。
似たサイズのタルタル三人がワキャワキャと。
「「「「「「…」」」」」」
微妙な表情の仲間たち。
−こいつ、いつのまに…−
視線がそう言ってる。
「ちがうんだって」
そこへ
「お父さんにゃー」
さらにミスラが抱きつく。
ぎゅー
タルタル三人まとめて抱きしめるミスラ。
「や、やめろー」
悲鳴を上げるタルタル戦士。
「「おとうさーん」」
「お父さんにゃー」
そこへさらに
「んーお父さんんー」
ぐわばぁっ
ガルカが抱きつく。
タルタル三人とミスラを一抱え。
「オイラちがうー…う?」
ぎしっ
「「み゛?」」
みしっ
「に゛…」
ぎゅうぅぅ〜……
プチッ
「ん〜?」
「「「「「「あ゛」」」」」」
ガクンと仲間たちのアゴが落ちる。
みなさんこういうのには慣れてないよう。
「やっぱり」
冷静なヒュム戦。
「だと思った」
とエル騎士。
「いや、どうせなら」
「?」
「お父さんより、お母さんの方に…」
ビシィッ!
鋭角にえぐり込む見事な左フックがヒュム戦の顔面に決まる。
「あぅン」
ぱったり倒れるヒュム戦。
「失礼」
騎士の礼をして去ってくエル騎士。
ずるずるずる…
片手にヒュム戦を引きずって。
「「「「「「…」」」」」」
呆然と見送り、ハッと気づく。
一人残ってる。
「おーい」
「どうするんだよ、こいつー」
「つれてってよー」
けど、エル騎士は振り返らない。
そして、
「んーお父さんん〜?」
ガル戦のつぶらな瞳が、もう一人のタルタルを捉える。
「俺はちがうー」
ま、そう言わずに。

ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
とり急ぎ番外ですぅ。
パパさん&タル戦ファンの方々、平にご容赦を〜。
でも感謝の心はホントです。
この場での、またの活躍をお待ちしています。

200 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/16(火) 13:07 [ esSsMDVg ]
個人的にタル戦の本を自作したくて、いろいろと試行錯誤してるのですが
あぷるるさんのとこ以外に挿絵ってないですかね?
序盤しか見当たらなくて探しております
無いのなら書いてくれる絵描きさんキボンヌ
私は才がなく・・・or2

201 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/16(火) 19:44 [ 4SIgbk6Y ]
ラの人・・・タル戦完結記念に何か書いてくれないかなぁ

202 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/16(火) 21:11 [ D0IUl8G. ]
>>201
頼んだら書いてくれそうな気もするけどなぁ。
もう見てないのかな?(´・ω・`)

203 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/16(火) 21:52 [ f5wm36dg ]
>>202
見てないことも無いと思うけど、同人誌出したりで忙しいのでは?

204 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 01:25 [ LHA7GZjw ]
ダブルフェイス・レッドラム  第1話「赤い疾風」

― ツェールン鉱山 ―

「ぜぇ…ぜぇ…だ、ダメだ。もう俺限界だぁ…」
「…もう、このくらいでヘコたれてたら、いつまでだってもレザー装備なんて買えないよ?」
二人の若者が、ツェールン鉱山で採掘をしていた。
一人は冒険者が支給されるヒュームチュニックを着ており、腰にぶら下げた新品同様の
オニオンソードを見ると、冒険を始めたばかりの若者であると判断できる。
もう片方は、むさ苦しい鉱山での採掘作業にも関わらず、魔道士のローブにミトン、
挙句にスロップス…と、とてもじゃないが採掘をする格好ではない。
「なぁ。お前さ、さっきから汗一つ流してないよな…お前、白魔道士だろ?
 …おっちゃんに聞いたんだが、魔道士ってのは体力が少ないとかなんとか…ひふぅ…」
「僕だって汗は沢山流れてるよ。気持ち悪いったらありゃしないよ。
 こんなところ、早く出たいんだけど…」
白魔道士の彼は栗毛色のショートカットの髪をいじりながら、ふてくされて見つめ返した。
「しかしなぁ…本当にここから黒が出るのかよ?もうかれこれ5時間は立ってるぜ?」
彼の言う”黒”とは黒鉄鉱の事である。この文句を言いながら採掘を続ける黒髪の青年の
装備を新調しようと、二人して採掘作業に励んでいるのだ。
「う〜ん。今日はどうも日が悪いみたいだ。残念だけど、出直した方がいいかなぁ」
「うむむ…悔しいが、確かに俺も今日は限界だぜ…」
つるはしもバキバキ折れて、残り少なくなってきた。二人は重い足取りでツェールン鉱山を
後にした。

205 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 01:25 [ LHA7GZjw ]
この二人の若者…黒髪の青年はアズマ、そして栗毛色の髪の青年はヨルという。
一件、同い年に見える二人だが、実はヨルの方がアズマよりも5つ程年上である。
アズマは数日前、冒険者としてバストゥークでの登録を済ませたランクも名声も低い
ど素人だった。たまたまグスタベルグで出会い、意気投合した二人だが、
アズマの武器防具一式を見て、まずは金策を、とヨルが提案し、彼等は鉱山へと赴いた。
…のだが、出るのはスズ石、スズ石、銅鉱、スズ石、銅鉱…

「ううーん、鉄鉱とか亜鉛鉱とか…一つくらい出てもいいのにね。君の運は悪いんだね」
「うっ、うるせ!…今日は、たまたまだよ。明日になりゃ金鉱とか掘り当ててやるぜ!」

― 夜・モグハウス ―

「あががががが!!…ヨルル様、もっと優しくしてください御願いします!」
「だめだめ、ちょっと痛いくらいが丁度いいんだよ。ほら、ここもこんなに…」
ぐぎっ。ばきばきっ。ごりごりっ。
ヨルルの強烈なマッサージに、アズマは悲鳴を上げて苦しんでいる。
「はい、これで終わりっ…よく我慢したね。最後はこれで…」
ヨルが、何やらぶつぶつと祈りを込めて呟いている。すると、アズマの体が
青白い光に包まれていく。
「おああ!?…なんだかすげぇ楽になった!…これがケアルか!?」
「うん、でも治癒魔法もそんなに万能じゃあない。人体の新陳代謝を急激に促進させて
 自己再生を短時間で行う仕組みだから。今回みたいな筋疲労はね、確かにケアルを使えば
 一瞬で痛みを和らげる事ができるけど、それだと体に良くないんだよ」
「んむむ…よく分からないが…あれか?きちんとやる事やっとかなきゃ、後になって
 また痛み出してくる…って事でいいのかよ?」
「そう、その通り!…君って結構物分りがいい男なんだね」
「………」
「アズマ?…おーい、アズマ君…?」
(嘘だ…寝てる…)
信じられない。確かにケアルというのは精神を安定させる力もあるのだが…
まさか、それだけで、まるでスリプルの魔法に掛かったみたいに深い眠りにつくなんて。

「ふふ…今日はお疲れ様。…明日も頑張ろうね…」

206 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 01:26 [ LHA7GZjw ]
ごそごそ、もそもそ…がちゃがちゃ…
(ん〜、何の音…?…まだ朝じゃないよね…暗いし…)
「へへっ…ヨル。お陰で体もバッチリだぜ。…見てろよ。お前が起きたらビックリ
 させてやるからな」

(…アズマ…何処かへ行くの…?)

(ん…僕は眠いから…)

(……ん?)

「んんん!?」

がばっと飛び起きる!きょろきょろ室内を見渡すが、アズマの姿は見つからない。
が、その代わり部屋の隅にぱたぱたと能天気に浮いているモーグリがいる。
「おい…!アズマはひょっとして、鉱山に行ったのか!?」
「そうだクポー。ご主人様、ヨル様をびっくりさせてやるって鉱山へ行ったクポー」
「あぁ…なんてこと!」
…昼間に二人で行った時は、安全な鉱山の入り口付近での採掘を行っていた。
アズマはさらに奥へ行こうと言っていたが、彼の実力ではまだまだ危険な為、
ヨルルが反対した。その時は、しぶしぶ引き下がっていたアズマだが…
(もしかしたら…あいつ…奥へ行くつもりでいるな…)
アズマは冒険者としても、剣士としても未熟である。特に、凶暴な敵対心を持っている
魔物の区別など、できる筈が無い。

207 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 01:26 [ LHA7GZjw ]
― ツェールン鉱山・深部 ―

「全く…ヨルの野郎は臆病なんだよな〜。だいいち、蝙蝠とかも手ぇ出さなけりゃ
 安全なんだよな。基本的に」
アズマは案の定、一人でツェールン鉱山、それも昼間よりもさらに奥のポイントへと
足を踏み入れていた。壁伝いに歩いていると、何やらきらきらと岩壁が光っているのが見えた。
「おほっ、見つけた見つけた。さぁてと、掘ってやるぜ〜」
かーん、かーん、と、鉱山に採掘音が響き渡る。
「黒がみつかりゃ、レザー装備一式に新しい剣だって買えるし…それに…
 あいつの魔法も買えるしな〜」
…アズマは全くの新米冒険者だが、競売の使い方くらいは知っていた。それによると、
黒鉄鉱は相場変動もあるのだが、最低5000ギルはくだらない。
彼には、自身の武具一式もあるのだが、それ以上に初めての仲間、ヨルの為に
何か魔法書を買ってやりたい、という想いがあった。
「後衛ってのは、金稼ぎが難しいっておっちゃんもいってたしな!」


…しばらく掘り進めていると…
かつっ!
手に鈍い衝撃が走る。何か、凄まじく剛性のある鉱石につるはしがぶつかったのだ。
「ま…まさか!?」
一心不乱に、掘り進めて行くと…そこに、鈍く黒光する、”黒”が姿を表した。
「や…やったぞ!…ははははっ…喜べヨル!」

黒鉄鉱を持ち上げ、大喜びするアズマ、が、しかし…

  ぷにっ  ぷにっ  ぷにっ

…何か気持ち悪い音が聞こえる。
「ん…なんだこれ…」
足元に、ぶよぶよした肌色の球状の生物がまとわりついている。
「…ぷっ…なんだこいつら?…結構かわいい面してんな」
アズマが、そのぷにぷにした物に指を伸ばした、その瞬間!
「うわあああ!」
彼は悲鳴を上げた。そのぷにぷにした物は、その手足もない体で信じられない程の
跳躍を見せ、彼の腕にかじりついたのだ!
(や…やべぇ…こいつは敵だ…!)
腕を振り回して、ぷにぷにを壁に叩きつける。びちゃっとおぞましい体液が飛び散る。
さすがに腕から剥がれ落ちたが、それは体勢を立て直し、なおもこちらに向かってくる。

208 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 01:27 [ LHA7GZjw ]
ぷにっ ぷにっ ぷにっ ぷにっ

背後からも、いや、左右からも気持ち悪い音が聞こえてくる。
「お、おい…マジかよ…」
いつのまにか、5匹のぷにぷにに囲まれていた!
「く…くるな!うわあああ!」
5匹が一斉に、彼の足に、腕に、脇腹に、首筋に、背中に…
「ヒィッ!!」
肉が食いちぎられているのが分かった。おびただしい出血が始まった。
(嘘…マジ…?…俺…ここで…死ぬの…)
(ヨル……お前の言う事…ちゃんと聞いてりゃよかっ…)

…青白い光が彼を包む。それは、昨晩、ヨルにかけて貰った治癒魔法と同等の
暖かい光だった。
(…あれ…この感じ…?)
同時に、彼の体に力がみなぎってくる。そして、不思議な事に自分の体に
まとわりついていた、ぷにぷにが一斉にはがれていく。
(ななな、なんだ一体!?)
見ると、ぷにぷに達は何かに向かって一斉に跳ねていく。その先には…
「もう大丈夫よ…安心して」
こちらに向かって優しく微笑んでいる、女がいた。
頭には羽着きの赤い帽子、いや、頭だけではない。全身を煌びやかな赤い服で包み、
背には赤いマント。まさに全身赤ずくめの美しい栗毛色の髪の女がいた。
アズマは、夢を見ているようだった。しかし、女に迫るぷにぷにを見て、それが
紛れもなく現実だと認識する。
…彼女は、腰に携えた突剣をすらりと抜くと、一閃。
例えるなら、それはまるで風のよう。”赤い疾風”…そんな言葉がアズマの脳裏をよぎった。
そして、5匹のぷにぷには、瞬く間に肉塊と化した。
「あ…アンタは…」
「勇気があるのはいい事。だけど、時としてそれは只の無謀になるのよ。いい?」
「は、はい…」
と、返事をした瞬間に、突然ぷつりとアズマの意識は途絶えた。
「…悪いけど、眠ってもらうわね…アズマ君」
女は、眠ったアズマを背負って出口へと歩いていった。

209 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 01:28 [ LHA7GZjw ]
― 翌日・バストゥーク商業区 ―

「でな、その時さ、すっげー美人で格好いい赤い服着たおねーさんがさぁ!」
興奮冷めやらぬアズマが、鼻を大きくして昨日の出来事を語っている。
一方のヨルは、少々お怒り気味なのだが、そんな彼の様子に微塵も気付かないアズマ。
「もう…君は無茶をしすぎだよ。そんなんじゃ、命がいくつあっても足りないよ?」
険しい表情で、アズマを見つめる。さすがに、反省したのか、彼はしゅんとした。
「あ〜、その。…悪かった。下手すりゃ命落としてたんだもんな…」
「全くその通りだ!君は少し自分を過信する癖がある。これから先…」
「…ごめん…俺が悪かった」
言い過ぎたかな…でも、ここできちんと注意しないと、彼の為にも良くない。と、ヨルは思う。
すると、おずおずとアズマが一冊の本を取り出した。…それは白魔法ケアルの上位魔法、
「あの…それでさ…銀鉱、売れたんだ…それで…ほら、これ」
…実は、黒鉄鉱に見えたのは、銀鉱だった。そもそも採掘の素人でもある彼だ。
薄暗い鉱山の中で、光って見えたから黒鉄鉱と勘違いしていたのである。
なんだかんだで、やはり彼は運が悪いのかもしれない。
…そして、彼が差し出した魔法書は、世間一般的にはケアルIIと呼ばれている魔法書だ。
「これは…?」
「い、いや…ほら、白魔道士っつったらケアルだろ?…これ、欲しいかなって…」
「レザー装備は…?」
「いや…なんていうか、いつも世話になってるだろ?だからよ、恩返し〜みたいな?」
「…はぁ…全く…君って奴は…本当に馬鹿だね…」
「す、すまねぇ…」
「仕方ない、今日もツェールンに行くしかないかな…でも…」
「でも?」
「いや、なんでもない」
「…?…なんだよ、気持ち悪いなぁ。言いたい事あるなら、はっきり言ってくれよぉ」
「なんでもない、なんでもないってば…さ、今日も頑張ろう」
「…女々しいなぁ〜お前…」




―でも…そんな君だから大好きなのさ。僕の頼りない相棒、アズマ君。

                                      
                                      続く

210 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 02:01 [ M1JGPtvo ]
単に似てるだけなのか、本人なのかはわからないけど。
なんかタル戦みたいな文体だ。と思うのは気のせいか。

211 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 02:19 [ QMHUjoAk ]
>>210
俺もそう思った。

212 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 09:40 [ J6h2dz0g ]
>>レッドラム
作者が別人だったら失礼かもしれないけど、
何故だろう?俺もそう感じた。
そしてそれ以上に続きが気になる・・・。

213 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 14:42 [ Pdyp0PlA ]
誰だって良いさ、楽しく読ませてもらえるだけで嬉しい。

214 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 17:38 [ Y5M0RSa6 ]
読みやすい文体ですな。
よって、上げます。

215 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 18:14 [ PGT84KTU ]
「全身赤ずくめの美しい栗毛色の髪の女」

読んだ瞬間ヤッターキングの歌が脳内に流れた訳だが

216 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 20:40 [ HdNH559U ]
ブル!ドジラ!パンダ!コパンダ!
ただいま参上〜♪ ヒョヒョヒョ♪

217 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 22:06 [ eY9WsKdw ]
クレイって尻鯖のKureiですk

218 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 23:29 [ LHA7GZjw ]
ダブルフェイス・レッドラム  第2話「時代の終焉」


― 南グスタベルグ・灯台 ―


…心地よい潮風が頬を撫でる。彼はゆっくりと目を開いた。
…なんだろう?赤い…赤いシルエットが見える。それは、灯台の壁にもたれている
自分の目の前に立ち、上から見下ろしていた。
手を伸ばす。この手をとって、俺を起こしてくれるかな?と、思ったからだ。
無論、怪我をしているわけでもなく、自分で起き上がれる。だけど、甘えてみたい、と思った。
…だが、その赤いシルエットは、そっぽを向いて遠くへ歩いていく。
じっと、伸ばした自分の手を見つめる。数秒その姿勢を維持していたが、疲れたのでやめた。
そして、再び眠りの世界へと舞い戻る。

…それから、もう少し時間が立った頃。彼は起き上がった。少々寝すぎたせいか、体がだるい。

「そろそろ…時間…か?」

その、黒髪のヒュームの若者は太陽の位置を見て呟いた。彼がここで昼寝をしているのには
理由があって、とあるガルカの依頼により、”ガルカンソーセージ”を持ってきてくれ、と
言われた事に始まる。必死に大羊を倒し、肉を手に入れたのだが、その調理方法が
ひどく原始的であり、なんと丸一日待つ必要があった。
さすがにゴブリンが徘徊する丘の上で一日待つのは危険だし、何より睡眠時間を取る必要がある。
彼はひとまず安全な崖の側の灯台へと足を運び、今に至る。
この黒髪のヒュームの若者、名はアズマという。彼は冒険者に憧れバストゥークにやってきた、
まだまだ駆け出しの戦士だ。そんな彼だが、冒険をするにはお金が必要。
そんなわけで、街の人々から依頼を受けてはコツコツと駄賃を稼いでいるのだ。
「さぁて…行くとしますかね!」
アズマは、荷物を背負い、丘を目指した。

219 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 23:29 [ LHA7GZjw ]
― 南グスタベルグ・丘の焚き火 ―


襲い掛かるゴブリンをなぎ倒し、頂上を目指す。
「最初は…こいつらにも苦労したのにな…俺も強くなったもんだ」
と、自画自賛をしつつ、目的地へ到着した。
…頂上へと到着した時、彼は焚き火の側の人影に気付いた。
(ん…人がいる…?)
同い年くらいの、魔道士と思われる格好をしたヒュームの男がいる。
「よぉ、調子はどうだい?」
なんとなく、一人前の冒険者になった気分で挨拶をする。
「うん…まぁまぁ…といったところ」
気弱そうな魔道士の男は、焚き火の周りの大きな石に腰掛けて、本を読んでいた。
「こんな所で何をしてるんだ?」
「…見ればわかるだろう?…ほら、いい天気だから読書をしてるのさ」

冗談だろう、と思った。読書なら部屋でも出来るし、何よりここは危険だ。
…が、しかし、彼は真面目に本を読んでいる。そのタイトルは…
「バニシュ、その謎に迫る!」…どこで買ったのだろう?
しかも、上下が逆さまである。…読んでないんじゃぁないのか?
「あ、あの…ちぃとどいてくれないか?…そこ…」
「…あぁ、ガルカンソーセージだね?…こいつは君のだろう?」
彼が足元にあった紙袋から、ごそごそとガルカンソーセージを取りだした。
「おお?お前、俺がガルカンソーセージ取りに来たって、なんでわかったんだ?」
「ン…ほら、結構有名だからね、あのソーセージ好きのガルカってさ。
 大概、いつも誰かが焼いてるから。それに…燻しすぎると味が落ちる」
「は…そりゃ有難い。感謝するぜ!」
アズマはあり難く、ガルカンソーセージの入った紙袋を受け取り、鞄に収めた。
…そして、次にはこの男に興味がわいた。

220 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 23:30 [ LHA7GZjw ]
「横、いいか?」
「ああ、歓迎するよ」

二人は色々な話をした。と、いっても一方的にアズマが自分の冒険に対する夢や希望、
それに憧れを語るだけだった。魔道士の男は少し冷ややかな表情でじっと聞き入っていたが、
やがて、口を開き、こう言った。
「君は…知っているかい?…例えば、この世界は君の先輩である大勢の冒険者によって
 探索されつくされてる…それに、今じゃ冒険なんて物は存在しないのかもしれない。
 国の命令に従って、調査や魔物討伐を繰り返す日々、さらなる強さを無意味に追い求め
 無意味に罪なき生物を殺し続ける毎日…そんな冒険者に君はなりたいのかい?」
「へ…?何いってんだお前…?」
アズマは、きょとんとしている。まるで異世界の住人を見るかのような顔つきで、
魔道士の男を見ている。
「俺の人生だぜ〜?俺がやりたいように冒険するんだ。地図なんかなくったっていい。
 道なんてつくりゃいい。…わっかんねぇかな〜?血沸き肉踊る大冒険!」
男の説教なぞ何処吹く風、完全に自分の世界へ浸っている。

221 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 23:30 [ LHA7GZjw ]
「く…ふふふ…あははっ!」
「お、おい、俺なんか変な事いったか?」
「ご…ごめん、気を悪くしたなら謝る…しかし…君は本当に冒険が大好きなんだね」
「いや〜、俺昔からよく仲間に言われてたのよ。”暴れ馬のアズマ”ってさ!」
「暴れ馬の…アズマ…か」
「おう、一旦暴れだしたら手がつけられない、邪魔する者は…あれ?なんだったかな?」
昔、自分に付けられたあだ名だが、よく思い出せない…最近どうも疲れている。
「ふふ…まぁ、そんな事はいいじゃないか。それよりも…」
魔道士の男は立ち上がり、いきなりの宣言をした。
「君が…君が冒険を望むなら、まずは死なない事が大事だね。暴れ馬ってのは、
 自分の身をかえりみず暴れる。それは良くない。
 僕は白魔道士。ここで出会ったのも何かの縁だ。僕と一緒に冒険をしないかい?」
「ええぇ?ま、マジ?…その…つまり俺達は今日から仲間ってことかよ!?」
「ああ、君がよければ…だけどね。そうだ。遅れてた。僕の名前はヨル。君は?」
「俺はアズマ!見習い戦士だが、根性は座ってるつもり!宜しく頼むぜ!」


ここに、アズマとヨルの凹凸コンビが結成された。
時は、クリスタル戦争終結後の20数年後である。

222 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/17(水) 23:31 [ LHA7GZjw ]
― バストゥーク大工房・食堂 ―


「ほらよ、依頼のガルカンソーセージ、持って来たぜ!出来立てほやほや!」
ガルカンソーセージを依頼人のガルカの元へ持っていったアズマ。が、そこで
思わぬ応対を取られる事になった。
「ん…?…確かにガルカンソーセージを冒険者に持ってきてくれとは頼んだが…
 お前だったか…?」
「ほへ?」
「むむ…最近、沢山の冒険者達に頼んでるからな…どうやら誰が誰やら、
 さっぱり分からなくなってるな」
がははは、とガルカは大声で笑い出す。彼のテーブルの上にはおぞましい量の
ガルカンソーセージが…
「まぁ、いいや。上手そうなソーセージだ。あり難く頂こう。ほらよ、報酬だ」

今一つ腑に落ちないが、こうして、アズマは貴重なギルを手に入れることが出来た。
その後、ヨルと共に、二人の出会いを祝って乾杯、とレストランへ向かったが、
その日のオススメ料理が郷土料理と称したガルカンソーセージだったのは笑い話である。




                                     続く

223 名前: (czB8Myls) 投稿日: 2004/03/17(水) 23:49 [ Zf9XFkDc ]
バニシュ本・・・内藤さん?(*'-')

224 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/18(木) 01:22 [ Clcq6cE6 ]
やべぇ
タル戦祭りにのりおくれたーーーーー

感動しました!

225 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/18(木) 01:48 [ vvVLkBPw ]
両方見てる人けっこういそうだけど誘導
【緊急】内藤列伝【避難】
ttp://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/4042/1069606114/

226 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/18(木) 05:56 [ tmfRCuwc ]
バニシュその謎にせまるワロタw

227 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/18(木) 07:08 [ OAOFxpt6 ]
どういう謎なんだw
何気に気になるw

228 名前: 小さな足跡 投稿日: 2004/03/19(金) 04:21 [ Ts9tLvDc ]
一人の少女がこう叫んだ。
「世界をみるために冒険者になります!」
力強く、生き生きとした声がウィンダスのとある一角の家から発せられた。
誰にも止められなかった。その意思は固く、簡単には崩れるものではない。
事前に用意していた装備を持ち、育ての親であるタルタル族の夫婦に一礼をする。
「いってきます!」
一人の少女が冒険者として旅立つ瞬間だった。
その少女の名はエリス。種族ヒューム。性別女。選んだ道は戦士。
エリスはまだ見ぬ世界を体験するために祖国を離れた。必ず戻ってくると約束して。

               〜2週間後〜
「シャルル、援護して!!」
エリスの振り上げた剣がゴブリンの体をかすめる。すかさず第2撃を放つもそれも交わされてしまった。
体勢が微妙に崩れた。足元がふらつく。それをゴブリンは見逃さなかった。
手に持っていた小さな斧をエリスめがけて振り下ろす。とっさに防御体勢をとろうとするが間に合わない。
「パライズ!!」
ゴブリンに向けて放たれた魔法は相手の動きを封じた。体が硬直する。今だ!!
体勢を瞬時に立て直し、剣に力を込める。エリスの持つ剣が赤く燃え上がる。
「バーニングブレード!」
炎をまとった剣がゴブリンの身を引き裂いた。断末魔をあげて一つの生命がそこで燃え尽きた。

229 名前: 小さな足跡 投稿日: 2004/03/19(金) 04:23 [ Ts9tLvDc ]
「ふ〜、なんとかなったわね」
剣を鞘に収め、後方から援護していた仲間の方に目を向ける。
「あんな大振りな剣の扱いしてたら、いつか死ぬぞ」
タルタル族の白魔道士シャルルがため息をもらしながら言った。
「はいはい、もっと精進させてもらいますよ」
少しむっとした表情を浮かべる。倒せたからいいじゃないか、と心の中で思う。
「ところでさ、マウラにまだ着かないの?」
既にエリスがウィンダスから離れて2週間近く経過していた。最初の目的地としていたマウラには
未だに着いていなかった。普通なら10日前後もあれば十分辿り着ける場所のはずだ。

「散々、道に迷ったのは誰だったかな???」
ぼそりとつぶやく。それを言われたエリスに反論の余地はなかった。
「わ、悪かったわね。タロンギ峡谷があんなに複雑な地形だなんて、全然思わなかったんだもん」
「地図があるだろう……その袋に入ってる地図はただの飾りか?」
シャルルが次々と鋭い指摘をしてくる。これ以上何か言うと自分の立場がますます不利になりそうな
気がしてきたので、黙ることにした。

「それにしても、殺風景なところよね。ブブリム半島って」
周りの景色を見ながら、率直な感想を口にした。
「サルタバルタ以外は、あまり自然が豊かじゃないからな」
確かにサルタバルタを抜けた先のタロンギ峡谷からは岩だらけで、その移り変わりの激しさに
最初は目を疑ってしまった。ブブリム半島に入るとその景色は更に奇妙になってくる。
周りの景色を見ながら、先へと進む。時折すれ違う冒険者にマウラの場所を聞きながら。

230 名前: 小さな足跡 投稿日: 2004/03/19(金) 04:23 [ Ts9tLvDc ]
「あっ!アウトポスト見つけた、今日は野宿しないですみそうだね」
エリスの足が少しだけ早歩きに変わっていく。
「おい、ちょっと待てよ」
その後ろを駆け足でシャルルが追いかけていた。

「む?冒険者か?」
アウトポストの前に立っているガードがエリスたちに声をかける。
「あの〜、中で休ませてもらっていいですか?」
エリスがそう言うとガードのタルタルが、家の中に入っていく。
しばらくすると、戻ってきて、奥を指差した。
「今日はもうすぐ日が落ちるから、中でゆっくり休むんだな」
一礼をして、中に入った。中には他の冒険者も体を休めているのが目に飛び込んでくる。
怪我をしているもの。これから先をどうするか。様々な話題や出来事で少し賑やかだ。
適当に空いてる部屋に入って、腰を下ろした。

「ねぇ、どうして私についてきたの?」
今更ながら、素朴な疑問をシャルルにぶつけてみる。そう、本来、この旅はエリス一人でいくはずだった。
なのに、このシャルルはエリスについてきたのだ。冒険者になると言うのは生易しいものではない。
常に死と隣りあわせだ。いくら幼馴染とはいえ、ここまで一緒についてくる理由はなんなのか?
エリスはとても気になっていた。
「俺も………世界を見たかったんだ」
小さな声でぼそっとつぶやいた。
「毎日、目の院で本ばかり読んで世界を色々と勉強をした。でもな、本ではわからないことも
たくさんあるんだよ」
いつもと違う雰囲気に、少し圧倒される。シャルルは滅多に心の内を話さないからだ。
「冒険者になれば、世界を見れる。本に載っていたことが事実かどうかも確かめられる。
この目で世界を見たかったんだ」
その気持ちにエリスは共感した。エリスも同じ想いでウィンダスを飛び出したのだから。

「ふ〜ん………あんたの意外なところを見つけたような気がするわ」
「ふん………」
「クルル………今頃どうしてるのかしらねぇ…」
「案外、冒険者の手続きとかして、俺らを追いかけてきてたりしてな」
「それはないでしょう。あの子、ちょっと臆病な一面あるから」
「黒魔道士としては、優秀なんだがな」

日が落ちて、夜のブブリムが訪れた。食事を済ませ、部屋の窓から外を眺める。星が、綺麗だ。
遠くをみるがマウラはまだ見えない。ここからさらにどれだけ歩いたらいいのだろうか。
期待と不安を胸にエリスは眠りについた。

新米冒険者の旅はまだ、始まったばかりなのだ。

231 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/19(金) 04:32 [ Ts9tLvDc ]
「小さな足跡」の作者です。皆さん、上手い話を書いているので
載せようか迷っていましたが、思い切って載せてみました。
・・・・・・ヘタレな文章ですが許して下さい(;´Д⊂)

232 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/19(金) 06:12 [ Sq6I1Kog ]
しかしやっぱ冒険始めたて〜砂丘LV辺りのころがネタとして多いなぁ。
一番鮮烈な思い出ってことか。

233 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/20(土) 14:28 [ pjZyeOCc ]
いぜんから気になっていたんだけど・・・
ほとんどの話の登場人物は、ほぼ「サポ無し」だな。

白は白で黒魔法は打てない。戦士は戦士でしかない。

それ以外のことは出来ないような、書き方だからねぇ。
たぶんその頃が一番、面白かったんでないかなぁ。

234 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/20(土) 17:08 [ foqCdwPo ]
>>233
ほとんどの話で「ジョブ」をキャラクタ説明の簡単な方法として使うだけで、
その能力や強さの話をしてるわけじゃないからね。
ましてや戦術論をしてるわけじゃないし、「経験値稼ぎの話」はないしw。

サポジョブゲット話は盛り上がる。
「空に奏でる〜」のここら辺は面白かったなぁ。

235 名前: 相棒 (1) 投稿日: 2004/03/20(土) 21:29 [ p5cw00yg ]
 あかりが、なかった。
 夜もそれほどふけていないのに、辺りはすごく暗い。
 そんな夜の道を、タルタルの子供が歩いていた。
 その子は、もう歩きたくなかったのだけれど、腰にきつくしばりつけられた
縄を荒々しく引っぱられるから、歩くよりしかたがなかった。足をとめてしま
うと転んで、そのまま無慈悲にひきずられしまう。
 腰の縄にせかされながら、よたよたと石畳の道を歩いた。
 石畳には、ところどころおおきな穴があいているから、それに落ちないよう
に、とがった月と星のかがやきだけをたよりに、暗闇によくみえない目を必死
でこらしながら歩いた。

 とおりすぎてゆく町なみは、北の果てにたたかいの舞台をうつしたクリスタ
ル戦争のもたらした災厄に荒廃していたけれど、なにかしらあちらこちらに復
興の息吹のようなものがひそんでいて、あふれだす機会をうかがっているよう
な感じがした。ここサンドリアが戦場であったころとは夜の空気の底にたまっ
ている気配がちがっていた。

 曲がりくねった裏路地をしばらくゆくと、にわかに腰の縄をひくちからがゆ
るんだ。
 顔をあげると縄の主、つまりタルタルの子供に縄をかけて引っ張りまわして
いるエルバーンの前に何者かが立っているのがわかった。ランタンを手にした
ヒュームの老翁のようだ。老人は、手にした灯火をかざして、縄の主を照らし
て、けげんそうに顔をしかめた。

 縄の主のほうは、腰をかがめて愛想笑いをうかべている。すぐに老人がわき
へよけて通りすぎようとするのへ、
「だんなぁ、まってくださいよ。ちょっと私の売り物をみてやってくださいま
せんかね」
 猫なで声をかけた。老人の腕をとり、強引にひきとめてもいる。
「すまんの、ワシゃ今、銭をもちあわせておらんのよ」
 と、老人はおだやかにいって、会釈した。
「そうかい」
 縄の主の男は、突き飛ばすようにしてつかんでいた腕を放した。
 老人は、よろめいて地に伏した。そのはずみでランタンが消えたので、それ
を地面において火打石で火をいれなおす。
 灯ったあかりが、そばにいたタルタルの子供を正面から照らしだした。
 老人と子供が、ともしびをはさんで対面した。

236 名前: 相棒 (2) 投稿日: 2004/03/20(土) 21:33 [ p5cw00yg ]
「どうだい、え、じいさんよ。俺の商品はじょうとうだろう?」
 縄の主は、手にした縄の先を誇示するように差し出して、
「売ってやろうか、といったんだぜ。このタル公をな」
 さきほどとはうってかわった粗野な言葉をおお声であびせ、それから、う
す笑いして付けくわえた。
「ああ、そうか。買うってのは気にいらねえか。なら、助けてやるってこと
にすりゃいいじゃねえか。金で、なあ」

 そういわれた老人は、手とひざを地につけたかっこうのままで、タルタル
の子供を下から上へとながめていった。
 子供は、はだしだった。つま先が赤いのは、ちいさなつめの何本かが割れ
て血がにじんでいるからなのだろう。
下ばきにはタルタル族なら誰でもはいているような、あの肌着をつけていて、
これは、ところどころほつれたりして、ずいぶん傷んでいたもののまだ“ま
し”で、上着のほうは、黄ばんだ白いぼろ布を首のあたりで留めてまとって
いるだけだった。
だから縄がじかに柔らかなおなかに食いこんでいる。子供では、ほどくこと
がかなわないように、きつくかたく締められた結び目のところがことさら肌
を圧迫している。
 子供の肌が露出したところは、ぜんぶがぜんぶうす汚れていて、ざんばら
の頭髪には泥がこびりついていたりもした。紅顔のほっぺたもくすんで精彩
がない。ただ瞳だけはちがっていた。ランタンのあかりをうけて、磨きあげ
られたサファイアのように輝いてみえた。

 老人が、ふるえだした。
 老人は、子供から目をそらそうとして、そらせないでいるのだ。子供の瞳
が老人のそれをとらえて放さない。

「けっ、しけてやがる……くたばれ、もうろく爺が」
 まったく応じるようすのない老人に業をにやした縄の主が、おお声でのの
しり唾をはきすてて、ぐいっと縄を引っ張った。
 そのせいでタルタルの子供は、つんのめって腹ばいにたおれた。苦悶のこ
もった息がもれた。それでも縄にひきずられはじめると、子供は、歯をくい
しばって、ななめうえにむかってピンと張っている縄をたぐって立ちあがり、
おぼつかない足どりで歩きはじめた。そして、ちょっぴりふりかえった。

 伏したままこうべをたれて全身をわななかせている老人の姿があった。
 老人は、「戦争のせいなのか」だとか「ゆるしておくれ」などに加えて、
なにやら人の名前らしきものをぶつぶつとくりかえしている。
 ランタンのあかりが、だんだんと遠ざかって、やがて見えなくなった。
(つづく)

237 名前: 相棒 (-) 投稿日: 2004/03/20(土) 21:36 [ p5cw00yg ]
 はじめまして、おじゃまします。
 よければ、読んでやってください。m(__)m
 うぅ、改行がうまくいってないような……。

238 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/21(日) 05:17 [ fae389b. ]
ごめんなさい。タルタル収容所と勘違いしてしまいました。

所詮タルタルは、エルヴァーンからみたら最も下等で下賎な民族なのですな。
                  −とあるタルタル白魔の愚痴でした。

239 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/21(日) 05:25 [ fae389b. ]
>>238加筆修正。

 エルヴァーンから見たら最も下等で下賎な民族『という設定』なのですな。
 『』部分、加筆。

 エルヴァーンの中の人すべてがそんな風に思ってらっしゃる訳が・・・訳が・・・
 ないですよね?(^^;

240 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/21(日) 06:34 [ US1.V8Qw ]
age

241 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/21(日) 06:39 [ MlbxpA/M ]
良スレイイ(゜∀゜)!

242 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/21(日) 23:59 [ PPZUlPzg ]
ダブルフェイス・レッドラム  第4話「侍」

― バストゥーク・モグハウス ―

「侍?」
「ああ、俺ぁ侍になりたいんだ」
ヨルのモグハウスにアズマが押しかけてきたのは、丁度お昼過ぎの頃だった。
「侍…確かにそういうジョブはあるけど…でも、どうして?」
「ン…話せば長くなるんだがよぉ、俺がまだちっちゃい頃、侍に会った。
 それがほら、前からよく話ししてるだろ?…おっちゃんだよ」
おっちゃん…何かにつけてアズマはその人物の事を口にしている。
「その、おっちゃんは…君にとってどんな人なんだい?」
「ぶっちゃけて…命の恩人?…みたいな?」

それは、アズマの幼少時代の事である。ガードの目を盗んで門を越え、
彼が初めて世界を目にした時だ。
獣人の存在は勿論知っていたが、それがどのような物か全く知らなかった彼は
ついつい遠くに見えたゴブリンへと興味本位で近づいてしまった。
ゴブリンも一概に人間に対して敵対心を持っているわけではないのだが、
それはアズマの姿を見るや否や、襲い掛かってきたのである。

そこで、彼の言う”おっちゃん”という人物に助けられたのだ。
その男は、美しい日本刀に赤い甲冑、まさしく侍そのものだった。
エルヴァーンだったその男はバストゥークに数日間滞在していたようで、
その間に彼は男の冒険談を聞き、自分も冒険者になろう、と決意したのである。

243 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/21(日) 23:59 [ PPZUlPzg ]

(侍か…確か、銃士隊のNO4だか5だかに…女の侍がいたな。
 ・・・しかし数年前にバストゥークを訪れた侍…気になるな)

ヨルは侍というジョブを知っている。彼等は遥か東方の国から伝わった
独特の武器”刀”を三国のどこも当てはまらない独自の剣技で扱うのだ。

「…おーい、ヨル?どした?ぼけーっとしてるぜ?」
「ん、あ、あぁ。ごめんごめん。それで、君は侍になるつもりなの?」
「そりゃお前、ここまで話して、いや別に…って言うわけないだろ」
「うん・・・ま、そうだよね」
何故かヨルの表情が曇っている。アズマは不審に思った。
「どうしたんだ?俺またへんな事いったかよ?」
「いや、そんなことないよ」
そういいつつ、サンドリアティーのカップに手を伸ばし、お茶をすする。
「・・・なぁ、お前って左利きだったのか?」
「え?」
意外といえば意外だが、アズマはこういった人の何気ない仕草をよく観察している。
「ああ、お茶を飲む時はいつも左手なんだよ。片手で本が読めるからね」
「器用なんだなぁ。さすがは魔道士だ」

そういうわけではないのだが、まあ、そう思ったのならそう思わせておけばいい、と思う。

244 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 00:00 [ Y8F2XFI. ]
カップをテーブルに置いて、ヨルはこう言った。

「侍というのはね、ちょっと違うんだよ」
「違う…?」
「そうさ。なんて言ったらいいかよく分からないけど、例えば戦士にしても騎士にしても
 剣を扱って敵を倒すだろう?侍もそう。彼等も刀を持って戦う、だけどね」
「だけど?なんか違うのか?」
「侍は敵を仕留める…つまり、殺す事にその全てを賭けている。…敵を”倒す”んじゃあない。
 己の全て、自らの魂を込め、目の前の敵を破壊する。刀は時としてその道具でしかないのさ」

アズマには、ヨルが何を言っているのか全くもって理解不能だ。
そもそも刀がなければ敵と戦えないし、その為にも修行をする必要があるんじゃないか。
魂を込める、刀は道具…つまり刀じゃなくてもいいという事なんだろうか。
「相変わらず…お前の言う事はさっぱりだ…」
…頭を抱えるアズマを見下すようにヨルは言い放った。
「そうだね。ただ、僕としては侍になる事はオススメできないな。君には荷が重過ぎる」 


”荷が重過ぎる”…確かにヨルはそう言った。今まで彼は自分の無茶を叱咤する事はあっても、
何かを始める前に否定された事は始めてだった。
「おい…それ、どういう意味だよ。俺には無理って事かよ?」
「…気を悪くしたなら謝るよ…ただね、侍というのはそんな簡単にできる物じゃないんだ。
 凄まじい、肉体を削るような思いをして修練を積まなければいけないし、
 何より持って生まれた才能…資質というやつかな。それが重要なんだよ」
淡々と、いつもの彼とは思えない冷たい口調でヨルは話している。
「なんだよ…それって…やる前から無理だってのか?」
「ごめん…今疲れてるんだ。部屋を出て行ってくれないかな」
そこでアズマは、彼がいつもと違う事に気付いた。ひょっとしたら、過去に何か嫌な事
でもあったのかもしれない。侍というジョブに何か嫌な思い出があるんじゃあないか、と。
「悪い…そうだよな。俺、確かにマヌケだし無茶するし、まだまだひよっこだからな。
 疲れてるんだろ?…出て行くよ」
そういった点では、アズマは大人である。ヨルが何を意味してそういったのかは
分からないが、これ以上反論しても無意味だと気付いたのだ。
「けどよぉ、俺はそれでも憧れるよ、侍にな。…だからな、俺もっと頑張るよ」

245 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 00:01 [ Y8F2XFI. ]
ばたん、とドアが少し強い音を立てて閉まる。

「ご主人様〜、なんであんな言い方するクポ〜?」

モーグリがおろおろしながらヨルの周りを飛び交っている。

「ごめん…あんな風に言うつもりじゃ、なかったんだよ…」

ヨルは栗毛色の髪の毛をいじりながら、部屋の隅に置いてあるコッファーに手をかけた。
引き出しを開けると、その中に一本の刀が見える。
質素で、装飾も無いその刀は刀匠の銘がない、いわゆる”無銘の刀”だった。
彼は懐から取り出した紙を口にくわえ、刀を鞘から抜き刀身を見つめた。

(無銘…か…)

ヨルの手の中で、無銘の刀は怪しげな光を放っている。そして、それを見つめる
彼の目は、まるで魔物の様な不気味な眼光を放っていた。


                                  続く

246 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 00:09 [ Y8F2XFI. ]
ヨルは栗毛色の髪の毛をいじりながら、部屋の隅に置いてあるコッファーに手をかけた。

誤>引き出しを開けると、その中に一本の刀が見える。

正>コッファーの中には白い布で覆われた刀がある。

(ノ∀`)みすぽ

247 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 01:16 [ p08Bwp7. ]
タルは幸せになってほしい。
あっちは見に行かないんだから、わざわざくるなよ。

248 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 01:38 [ Y3D/uhoc ]
redram、面白く読ませてもらってます。展開に期待。
それはそうと、3話ってどこかにアップされてるのかな?
2から4に飛んでる気が(>_<)

249 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 06:19 [ HDS9NrHU ]
 慈悲を

 第六話「蛮族なりの」
 (1/4)

 ゲルスバ遠征。
 サンドリア王国が定期的に行う作戦で、王立騎士団所属の屈強な騎士や剣士たち、
 それと冒険者の中でも多大な戦績を収めた者たちを加えた遠征軍を、
 王国から目と鼻の先にあるオーク族の拠点≪ゲルスバ砦≫へと送り込むのだ。

 しかし、幾度も行われた遠征は、果たしてあまり良い結果を残してはいなかった。

 オーク族の中でも奇抜な才を放つ智将バットギットが設計したという砦の構造は、
 長い篭城にも耐えられる優れたものであった。
 何より、彼の戦術から繰り出される≪ボックデック斬込連隊≫の強さは、時に予想以上の成果をあげた。
 そして今回も、バットギットが思った以上の成果をあげてくれている。
「わしらを蛮族と蔑む人間どもよ。蛮族の戦い方、とくと味わうがいい」
 彼は、勝利の美酒に酔えるのも、もう間近だと悟っていた。


「ガッハッハ! 進めずすめ。逃げる虫げらどもをぶち殺ぜ!」
 斬込連隊の連隊長ボックデックは、蟻のように逃げていく人間たちを見て、腹がよじれそうだった。
 バットギットの言う通りに動くと、なんと楽しい戦になるのだろう。

 野営陣では少数の兵で迎え撃ち、程よく負けてきたら一旦高台までわざと逃げる。
 どうせ死ぬのは捨兵ばかりだから、たいした被害でもない。
 高台まで逃げ終えたら、あとは簡単。残りの連隊と合流して、一気に押し戻す。それだけ。
 人間どもが高台まで上がってくるには、細いつり橋を渡らなければならない。
 そこへ矢やら魔法やら浴びせれば、慌てて引き下がる。
 しかも、引き下がったところへ、幾つもある横穴の奥に隠しておいた戦車隊を突っ込ませる。
 それだけで、面白いように人間どもが吹っ飛んでいくのだ。

 ボックデックは足下でまだ息のある剣士に斧を叩き込むと、
 にやりと笑みを浮かべながら下り坂を下りていった。

 そんな時、獣の雄叫びが耳をつんざいた。
「……どうじだ?」

250 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 06:20 [ HDS9NrHU ]
 すいません、間違えてageてしまいました……。

 (2/4)

 ◇◇◇

 一瞬だった。
 眼前のオークが、煤けた包帯が巻かれた腕をごうごうと燃やし、高々と飛び跳ねて――落ちた。
 落ちた先にいたエルヴァーンが倒れた。その彼は、ぴくりとも動かない。
 一撃だった。

 気を失っているのか既に事切れているのか、お構いなしにオークは倒れたエルヴァーンを幾度も殴りつける。
 怒っているのだろうか、その形相は地獄に住まうというデーモンそのもの。
 そのおぞましい光景のすぐ側に、血まみれになって倒れている女がいる。
 女もまたエルヴァーンだが、しかし彼女はオークをかばった。狂った女だ。

 こんな状況になっても、チュニックを着たヒュームの黒魔道士は、不思議と冷静になっていた。
 とりあえず、相方は今どうにもならない状態だし、先に進んだ騎士たちも急ぎ足で戻ってくる。
 戻ってくるというより、逃げているという言葉の方が当てはまるだろう。
 みんな血相を変えて必死になっている。
 つまり、今自分がすることは――。


 グバッツガッツは、何度も何度も憎い相手を殴ってるうちに、呪(まじな)いの言葉が耳をよぎったのに気がついた。
 声のする方に顔をむけると、チュニックを着た魔道士がなにかの魔法の詠唱をしているところだった。
 すぐさま詠唱の邪魔をしようとしたが、邪魔するよりも先に魔法は完成した。
 解き放たれた魔法は、やがて魔道士の体を包み込み、黒い空間がそれを飲み込んでいった。
 黒い空間は程なくして消え、魔道士の姿はどこにもなかった。

 ――つまり、逃げたのである。

251 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 06:21 [ HDS9NrHU ]
 (3/4)

 それがデジョンの魔法だったとわかると、グバッツガッツは次第に落ち着きを取り戻していった。
 血まみれの女のもとへ近寄り、まだ温かい頬をなでてやる。
「娘よ……エルヴァーンの娘よ……、おまえは、何がしたかったのだ?」
 いまだにわからない彼女の行動の意味を、必死に探す。
 シルエラの閉じた目じりから、涙のあとが一筋残されていた。
「そんなに傷つき、涙を浮かべてまでして、なぜおまえは、満足そうに笑う?」
 彼女を抱き上げ、立ち上がって言った。

「お解かりになるか? バットギット戦闘隊長」
 いつの間にか、グバッツガッツの周りを数十のオークが囲んでいた。
 どうやら戦いは終わっていたらしい。オークの勝利という形で。
 グバッツガッツの視線を正面から受けたバットギットは、彼に歩み寄って首を横にふった。
「アルタナの創造物のことなど、わしらは知らぬ。昔も今も、これからもだ」
 そう言って、バットギットはシルエラの身体を取り上げようとした。
 が、抱くオークは半歩下がってそれを否定した。

「なんのつもりだ、≪燃えた手≫」
「この娘を渡すことは、できない」
 意外な同族の言葉に、周囲のオークたちが騒ぎ出した。
「おい、≪燃えた手≫! 貴様なにを言っでいるのか、わがっでいるのが!?」
 斬込連隊のオークたちを掻き分けながら、ボックデックが濁った声を荒げながら前に進み出てきた。
 元々、グバッツガッツは斬込連隊の戦士である。
 部下の行動を正すのは、上司である自分の役目。と、昔バットギットに教わったのだ。
「その人間は、オレだぢの敵だ! わがるか? 脳みぞにヨロイ蟲でも湧いだが?」
 腰にさげた斧を手に取り、馬鹿にするような口調で言う。
「俺は、この娘に慈悲をかけられた。アルタナの慈悲を、だ」
 上司の言葉を無視して、グバッツガッツはその場にいる全員に聞こえるように言い放った。

252 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 06:22 [ HDS9NrHU ]
 (4/4)

 その言葉を受け、オークたちは動揺を隠せなかった。
 プロマシアの民にアルタナの慈悲をかける。この行為は、いわば呪いをかけられたも同然と彼らは解釈しているからだ。
「武に誉れ高きわしらを、蛮族などと蔑む奴らから慈悲を受けて、貴様はどうしたい?」
「フン、ならば俺も蛮族なりの慈悲を奴らにかけるとしよう」
 相容れない者の慈悲のかけ合いという茶番劇に、オークたちはどっと笑い出した。
 所詮お互いは憎き敵。かけた慈悲など、すぐに水泡となって無かったことになるだけ。
 そうしてまた争い続けるのだ。永遠に。
「ククク、いいだろう。その届かぬ慈悲を与えることを許そう、愚かな武人よ」
 バットギットは口元を歪めながら、数人のオークを呼び寄せた。
 今度はグバッツガッツからシルエラの身体を彼らに預け、オークたちに運ぶよう指示した。
「そうだな、ロンフォールの南の湖にでも運ばせよう。
 あそこなら人間どもの目にもつきやすいだろう。
 湖に浮かぶ姫君を目覚めさせるのは男神の口づけか、ゴブリンどもの錆びたナイフか。
 慈悲が届くとよいな、ククク」

 笑うだけ笑った後、バットギットはとても低い声で口を開いた。
「断頭台の用意をしろ。愚かな武人に誇り高き死を贈ろうぞ」


 →続く

253 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 07:51 [ HDS9NrHU ]
語「フン、ならば俺も蛮族なりの慈悲を奴らにかけるとしよう」

正「フン、ならば俺も蛮族なりの女神の慈悲をこの娘にかけるとしよう」

ミスです(´−`;)
前回までの内容は、どうやら倉庫の方に保管していただけているようなので、
そちらをご覧くださいませ……。
こんなのを保管していただいて、感謝しております!

254 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 21:42 [ clQQzqxU ]
最近良い作品が多い(・∀・)イイネ!!

255 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/22(月) 23:23 [ AXZG6rZ. ]
慈悲続いてタ━━━━(((((((( ;゚Д゚)))))))━━━━!!

ま、好きだから嬉しい限り(´-`)

256 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 00:21 [ KGwnjTxM ]
Wiki管理人です。ここんとこ多忙で満足にメンテもせず、
ここの住民の方々にまかせっきりで申し訳ないです。

タル戦の最終話を登録しました。しばらくしたら完結書庫へ移動させます。

またしばらく満足にメンテしきれないと思いますが、10日に一回は必ず
フルバックアップを取ってますので、あまりびびらずに編集とか登録とか
しちゃってくださいねー!絵もOKですよん!

それでは!良きヴァナライフを!

257 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 00:27 [ KGwnjTxM ]
>>256
Wiki管理人です。
タル戦最終話、どうも長すぎてエラーするみたいなので、
しばらく調整してます。見れなーい!という場合はしばしお待ちを…

おかしいなぁ、さっきまでは表示できてたんだけど…

258 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/03/23(火) 00:58 [ 4XjPFwAU ]
あい、新しいのUPしてきましたのでよろしくですー。

ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

レッドラム非常に面白いですなあ! そして…!慈悲続きキター!
あ、Wiki管理人様、いつもお疲れ様です&ありがとうございます!
タル戦最終話は誰もが涙した展開! 俺ももう一度ゆっくり読みたいので
調整の終了を心待ちにしております!

259 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 01:23 [ L6ooUgPM ]
ダブルフェイス・レッドラム  第4話「再会のレッドラム」

― ダングルフの涸れ谷 ―

「へへへ…なんでぇ、たいした事ねーじゃねーか」
襲い掛かってきたゴブリンを返り討ちにし、遺留品を漁るアズマ。
ゴブリンも鞄の中にはわずかのギルが入っていた。
「…襲ってきたお前が悪いんだからな…」
倒した敵のギルを奪うのは少々心が痛むが、それが戦いというものだ。
「な、ヨル。お前は…」
と、振り向くが、そこに仲間の姿はない。そう、彼はたった一人で
涸れ谷を探索しているのである。
(なーんか…調子狂うなぁ…)
考えてみればそうだ。冒険を始めてから、初めて会って以来、何をするにも
何処へ行くのにも一緒だったのだ。
そもそもは昨日の出来事から始まる。侍に成りたい、と自分の夢を打ち明け、
もちろんヨルは賛同してくれると思っていたのだ。
だが、彼は冷酷な言葉をアズマに言い放った。
(だから…そうだよ!俺が少しでも出来る男って事を証明してやるんだ!)

そもそもは、とある珍しい石を集めている男から、ダングルフの奇岩を
持ってきてくれ、と依頼を受けた事に始まる。
勿論、報酬も魅力的であり何より少しでも冒険者としての評判を
上げるため、二人で取りに行こう、と約束していたのだ。
だが、アズマは昨日の一件から、どうにも気まずさもあり、何よりも
自分の力をヨルに証明する為、単身で乗り込んできたのである。

260 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 01:23 [ L6ooUgPM ]
―数時間後。地図も無く、思い立った方向へと足を進めていたアズマは
完全に迷子となっていた。
「地図くらい…持ってくるべきだったか…」
今更、反省しても時既に遅し。彼は歩きつかれてヘトヘトになっていた。
目的の石は勿論見つかっていない。
「仕方ない…今日はこのへんで野宿するか」
枯れ木を拾い集め、火を熾す。…が、谷全体を覆っているしめったガスの為か、
一向に火を熾す事が出来ない。
「あー!もう知らん、寝ちまえ!」
ふてくされて、彼はそのまま寝袋に潜り込む。
…それから、しばらく空を見つめていた。夜空一杯に星が光り輝いている。
(ヨルの奴…心配してるかな…いや、あいつの事だ。怒ってるだろうなぁ…)
そして、はっと、なんだかんだで彼の事を気にかけている自分に気付く。
「…ああー!畜生!俺は一人だってやれるんだ!あいつの事なんて…!」
がばっと起き上がって、水筒の水を飲み干した。兎にも角にも、今は睡眠を
取る事が大切だ。明日に備えて少しでも体力を回復しなければいけない。
(…アホくさ…寝よう…)
…そのわずか数秒後、彼は深い眠りについていた。

261 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 01:24 [ L6ooUgPM ]
がさがさ…がさがさ…

ごそごそ…ごそごそ…

「!?」
真夜中、アズマは不審な物音で目を覚ました。素早く沸きに置いてあった剣を…
「…なぁ!?」
そこにあるはずの、命を守るための剣が…そこには無い!
辺りを見回すと、黒い影が見える。5つ、6つ…いや、それ以上だ!
「ななな、なんだお前ら!」
黒い影の群れに向かって叫ぶ。闇に目が慣れてきた。それは…
「お前、仲間殺した。俺達、許さない」
ゴブリンである。鎧を着た者から、スコップを背負った者、釣竿を背負った者、
様々な格好をしたゴブリンが彼を囲んでいるのだ。
「許さない…って、お前なぁ、あっちが最初に襲ってきたんだよ!」
弁解してみるがそれは無駄なのは分かっていた。戦闘は免れないだろう。
だが、武器を奪われてしまった今、頼りになるのは己の拳のみ、純粋な格闘家なら
まだしも、彼は武器を扱う戦士である。
(まずい…ピンチだ…最大のピンチだぜ…!)
素早く寝袋から這い出し、拳を構える。こうなったらやるしかないのだ。

262 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 01:24 [ L6ooUgPM ]
「うおおおおおおりゃあああ!」
先手必勝、せめてやられるなら、怪我でもさせて…と、ゴブリン達に突っ込んだ。
が、現実は甘くない。あらゆる方向から、ゴブリン達の攻撃が彼を襲う。
「ぬぁぁぁああ!」
激痛を感じながら、とにかく目の前にいるゴブリンに殴りかかる。
…しかし、多勢に無勢、いとも簡単に彼はのされてしまった。
バタリ、とその場に倒れこむ。
(あ〜〜、やっぱこうなったか…)
空を見上げると、綺麗な星が見える。これが最後に見る星空なのだ、と彼は覚悟を決めた。
すると、どうした事だろう。空を見上げていた彼の視界は、次の瞬間、真っ黒に染まった。
(え…?)
頭をやられて、血が目に入ったのだろうか?…しかし、それにしては痛みは感じなかった。
それは血ではない。何か、暖かい物が自分の体を包んでいる。
(…違う…なんだ…?布切れ…?)
そこで、声が聞こえた。
「…また、会ったわね」
(え?…女の声…!?)
それは、紛れも無く女の声だった。そして、暖かい光が彼を包む。…ケアルだ。
「全く…あなた、本当に無茶が好きなのね」
「あ、あんたは…あの時のおねーさん!」
「…黙って、舌を噛むわよ」
「え…のわわっ!」
なんと、女はアズマを抱きかかえ、信じられない跳躍力で跳ねた!
そしてそのままゴブリン達から離れた場所へと着地、とても女と思えない身体能力である。
「さぁ、いらっしゃい、ゴブリンさん。私に勝つ勇気があるならね?」
女は不適に笑いながら、腰の突剣をぐるぐると手首で振り回している。
ゴブリン達は、女が只者でないと悟ったのか、悔しそうな声を上げて退散した。

263 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 01:25 [ L6ooUgPM ]
「はぁ…助かったよ、おねーさん…」
緊張が解けたアズマは、その場に座り込んでいた。まだ足が震えている。
「ホント、たまたま私が通りかかったからよかったものの…
 そうでなかったら、あなた死んでたのよ?わかる?」
「す、すいません…」
ぺこぺこと頭を下げる彼を見て、女はくすりと笑った。
「でも、どうしてこんな所に一人でいるの?ここはあなたみたいな新米の
 冒険者君が来る所じゃないのよ?」
「そ、それは…」
アズマは、ここに至るまでの経緯を話した。何故だか分からないが、
ほとんど面識の無い女に対して、彼は全てを洗いざらい告白していた。
自分の夢、そしてヨルに言われた事、それで信じていた彼に裏切られたような
気がして、自分の力を証明する為に一人出来た事。
「ふ〜ん、でも…そのヨルって子、多分あなたの事が心配でそういう風に
 いったんじゃないかな?」
「それは…そうかもしれないけど、何がなんだかよ…だってさ…」
そう言いながら俯くアズマの頬に、暖かい感触。
「その子の事を信じてあげて…ね?」
なんと、女がアズマを抱きしめているのだ。そして、丁度彼の顔の位置に
女性の象徴である、柔らかい胸が…!
「うわわっ、はい、はい分かりました!だからちょっと、そのおねーさん!」
顔を真っ赤にしながら彼は女から離れた。
女はくすくすと笑いながら、ゆっくりと立ち上がる。
…月の明かりに照らされた彼女は、以前と同じ、全身を赤い服に包み、
頭には白い羽根の着いた帽子を被っている。
「それじゃ、私はもう行くから…もう無茶をしないように、ね?」
ふわりと赤いマントをなびかせ、彼女はゆっくりと闇に消えていった。
「お、おい。ちょっと待ってくれよおねーさん!あんたの名前、教えてくれよ!」
何処からか、透き通った声が響く。
「私の名前はレッドラム…機会があればまた何処かで会いましょう。アズマ君」

(え…俺の名前…知ってるのか?)

264 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 01:25 [ L6ooUgPM ]
…気がつくと夜明けを迎えていた。太陽の光が眩しい。

それからアズマは何処をどう歩いたのか分からないが、最初に通った覚えのある
出口へと続く道へ辿り着いていた。
(結局…俺一人じゃなーんもできなかった、か…)
バストゥークを目指し、谷を抜けようと歩くと、目の前に人影が見えた。それは…

「アズマ!」
「ヨル…ヨル…!」

後から考えてみると、何故あそこに”たまたま”あの女は通りかかったのか、
そして、何故自分の名前を知っていたのか。
考えれば考えるほど頭が痛くなる、まるで夢のような現実。
…だが、その時の彼にはそんな事はどうでもよかった。
目の前には友がいる、かけがえのない仲間だ。それだけで充分なのだ。
そうだ、二人で一緒に、力をあわせて…”冒険”をしよう。



…その後、アズマがヨルに数時間の説教を受けたのは言うまでも無い。

                   
                                続く

265 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 01:26 [ L6ooUgPM ]
前のが3話、これが4話で…(´ΦωΦ`)

266 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 03:17 [ 04NymiTA ]
??( ´∀`)ノシミ *〜●

267 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 04:52 [ uju4ChhM ]
む、”慈悲を”の作者さん群雄の人だったのか。

268 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 10:34 [ pnPrARy. ]
で、レッドラムはタル戦作者様でFAなん?

269 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 11:20 [ EulCGGBg ]
誰だっていいじゃないか。
この素敵な作品達を楽しもう。

270 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 14:07 [ Pm6cZb02 ]
否定も肯定もしていないから、作者の中の人を気にせずに読んで貰いたいのだろう、きっと。

271 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/23(火) 16:01 [ CmTo3EbI ]
白き探求者キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!

今回はカナーリ良かったでつ( ´∀`)
鳥肌たちますた(;´Д`)

272 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 01:33 [ jU7djtiw ]
ダブルフェイス・レッドラム  第5話「常世の闇」

― バストゥーク・商業区 ―

「おっと、ごめんよ!」
商業区をフラフラと歩いていたアズマとヨル。そこに、前方から
帽子を深く被った小柄な男が走ってきて、アズマにぶつかった。
「きぃつけろ〜」
気だるそうに走り行く男に向かって声をかける。
「全く、こんないい天気だってぇのに忙しないんだな」
「そう思えるのは僕達が冒険者だからだよね。普通の人達はそれぞれが仕事を持っていて、
 決まった時間に起きて、毎日毎日汗を流して働いてるんだから」
「ン…確かに、そりゃそうだ。俺達は最低限の生活が保証されてるんだよな。
 食事も、寝床も…」
「そうだよ。僕達の衣食住も彼等の税で賄われているんだ。その分、
 国や、街の人々の期待には答えないとね」
「…お前って、いろんな事考えてるのな」
「そう?普通だよ」

ヨルは、典型的な優等生タイプだ、とアズマは思う。
色んな事を知っているからだ。冒険に必要な知識だけではなく、文字の読み書き、
数字の学問、そして、何よりも時には厳しく、時には優しく、の思いやりがある男だ。
(俺は…うん、馬鹿だな。ああ、馬鹿だ)
並んで歩いていると、どうしても劣等感を感じるのは否めない。
感じていはいるのだが、全く気にしてはいないのだが。
「俺はいわゆる脳筋ってタイプだもんな。ははは…」
お手上げのポーズを取る、そんなアズマを見て、ヨルは、ため息をつく。
「君も少しくらい本を読んだら?面白いし、何よりためになるよ」
「あぁ、まぁ、今度、今度、な…」

彼は一生文学には興味を持つ事はないのだろうな、とヨルは思った。

273 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 01:33 [ jU7djtiw ]
二人は競売へと足を進めた。と、いうのもアズマの新しい防具を新調する為だ。
汗臭い、使い古しのレザー装備一式とはおさらばである。
「いや〜、ほら、なんていうの?やっぱ金属製の鎧を着てこその戦士だよな!」
数日間、鉱山に篭り採掘を続け、この日彼はいよいよ憧れのスケイル装備を一式購入するのだ。
競売の窓口で、希望の商品名と落札価格を申し込む。
「スケイルの装備一式ですか?…ええ、在庫はありますね。入札価格は如何しましょう?」
「そうだな…とりあえず、これと、これをこの金額で…」
手続きは順調に進んだ。どうにか資金の範囲で全ての防具を購入できそうだ。
「分かりました。それでは只今お持ち致します。料金は前払いですがよろしいですか?」
「あぁ、ちょっとまってくれ……あ?」
腰の袋に手を伸ばしたアズマ。しかし、そこに在るべき物が…ない。
「どうしたの?」
真っ青な顔をしているアズマを見て、不審に思ったヨルが尋ねた。
「ない…」
「え?」
「その…金が…ないんだ…!」
「えええ!?」

「どこかで落としたのかな?」
「ま、まさか。いくら俺でもそんなドジしない!しっかりと結んでたし、
 2000ギルは入った袋だぜ?落としたら気付くだろ!?」
「そうだよね…僕も一緒に歩いてたんだ。気付くよね…」
「スリにやられでもしない限り、失くす事なんて!」
「…あ」
「…あ」
そこで、二人はお互いの顔を見合わせた。
「…あいつだぁあああ!」
「手分けして探そう、僕は鉱山区、君はさっきの広場へ!」
「うおおお、俺のスケイル〜!」

274 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 01:33 [ jU7djtiw ]
― バストゥーク・鉱山区 ―

とんとんとん、とドアを三回叩く、そして、5秒待った後、再びドアを二回叩く。
ぎぃぃっと、古びたドアが開いた。
「お帰り!お姉ちゃん!」
「ただいま、アトト!今日は凄い収穫だよ!」
商業区でアズマとぶつかった、小柄な男…いや、帽子を脱ぐと、さらりと
長い髪が肩まで流れている女。彼女がアズマの財布を盗んだ張本人だった。
ぼろぼろの、まるで人が住んでいる気配が感じられないその部屋には
タルタルの女の子が一人。お姉ちゃんと呼ばれた女はヒュームであり、
実際に血の繋がりは無いのだろう。
「ほら、見て。ドジな冒険者がね、取ってくれってみたいに腰にぶら下げてたの」
袋の紐をほどいて、中身を二人で覗くと、そこには貨幣が沢山入っていた。
「すご〜い、これだけあれば当分食べ物には困らないね!」
「でしょう?…それにね、今日はお土産があるの。ほら、これ」
女は、ぽけっとからごそごそと紙袋を取り出し、アトトに手渡した。
「わぁ、ありがとう!…ね、空けていい?」
「うんうん、その為に買って来たんだよ。ほら、早くあけてごらん?」
アトトが袋を開けると、中にはリボンが二本入っている。
「うわぁ…」
「ね、アトト。あなたも女の子なんだし、ちょっとくらいはお洒落しないと」
「ねね、お姉ちゃん。つけてつけて〜」
「もう…甘えんぼね、アトト」
女は、アトトの髪の毛を束ねた。頭から二本の尻尾が生えているような髪型だった。
「この髪型ね、ツインテールスタイルっていって、流行の最先端なんだって」
「お姉ちゃん…」
アトトは、鏡に映った自分の姿を見て、しくしくと泣き出した。
「アトト?…どうしたの?」
「ううん、違うの…嬉しくて…」

275 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 01:35 [ jU7djtiw ]
(鉱山区か…なるべくなら出歩きたくない所だな…)

ヨルは日が暮れ始めた鉱山区を歩いていた。バストゥークの鉱山区は
ガルカの居住区として知られているが、もう一つ、裏の顔がある。
そこは総督府の目の届かない無法地帯。
ドラッグや禁制品の流通のルートとして、また人身売買のルートとしても
有名であり、犯罪者も多く巣食っている。
…とすると、ここに先ほどの犯人がいる可能性も高い。アズマも鉱山区に
足を良く運ぶが、彼は裏の世界を知らないのだ。不用意に危険な区域に
入り込んでしまっては、命の保証が無い。
(…闇は常に存在する。世に光ある限り、か…)
通り過ぎるガルカ達は皆、彼を睨んでいる。まるで、ここから出て行けと
言わんばかりだ。
ヨルは薄暗い細い路地に辿り着いた。辺りを見回す。周りには誰もいない。
…いや、違う。暗闇の先に、不気味な目が光っていた。…ガルカである。

「…小僧、何の用だ?」
「チラシを配るバイトをしたくってね」
「…」
「この辺に、ヒュームのシーフが住んでるだろう?…それも女だ。
 スリで生計を立ててると思うんだけど、どうかな?」
すると、ガルカは無言で、ぼろぼろのチラシを差し出した。
「ありがとう」
ヨルは、数百ギルを差出し、そのチラシを受け取った。しわくちゃの
チラシの隅に、何やら文字が殴り下記してある。
「…お前達ヒュームの生み出した闇だ。それをどうするつもりかは勝手だ。
 だがな、そこには常に光がある事も忘れるな」
「…ああ、分かってるさ」

276 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 01:35 [ jU7djtiw ]
「おやすみ…アトト」
ベッドの上で、妹は静かな寝息をたてている。髪に癖がついちゃうから、と
寝る時くらいはリボンを外すように言ったのだが、相当お気に入りらしく
そのまま眠ってしまった。安らかな寝顔がとてもいとおしい。
このシーフの女、名をミズハと言う。幼い頃、両親を病で失い親戚の元へ
引き取られたのだが、度重なる酷い仕打ちに耐えられず家を飛び出し、
辿り着いた先が危険と言われる鉱山区だった。
幸い、誰も住んでいないボロボロの小屋を見つけ、そこに居座った。
アトトは人身売買でウィンダスから連れて来られた所をミズハが助け出した。
それから彼女はすっかりミズハになついてしまい、今に至る。

(もっと…もっと沢山お金が必要…生きるためには…頑張らないと…)

盗む事には勿論、大きな罪悪感を抱いている。昼間の駆け出しである冒険者の男が
必死で溜めた金である事は百も承知だ。しかし、冒険者は生活が保証されており、
飢え死ぬ事はない。しかし、自分達は違う。金が無ければ死んでしまう。
もっと金を稼いで、アトトを無事ウィンダスへ返してあげるんだ。
冒険者は、お金を出せば大抵の望みは叶えてくれる。アトト一人の護衛ならば
旅費と、その間の護衛の代金さえ渡せば喜んで承諾してくれるだろう。
…それが彼女の夢だった。

277 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 01:36 [ jU7djtiw ]
こんこん、とドアを叩く音がする。
(…誰?まさか、見つかった?)
部屋の窓には黒い布を貼っている。蝋燭も一本だけ、外に光が漏れる事は無いはずだ。
こんこん…ドアを叩く音は鳴り止まない。
「う…ぅ…ん…」
まずい、アトトが起きてしまう。外の何者かは、きっと自分を捕らえに来たのだ。
銃士隊かもしれない。いや、それならばいいのだが、冒険者だった場合を考えると
何をされるか想像もつかない。”行為”を強要される事があるかもしれない。
それならば尚更、アトトの目の届かない所へ行かなければ。
この場で無理矢理…は、なんとしても避けたい。
彼女は素早くアトトのベッドの仕切りのカーテンを閉め、見えないようにした。
そして、息を飲み込んで、ドアを開ける。…すると、想像していた厳つい冒険者ではなく、
綺麗な顔立ちをしたローブに身を包んだ、ヒュームの青年が立っていた。
「何か…用?」
おそるおそる、青年に声をかける。
青年は、彼女を見ると、次には部屋を見渡した。そして、おもむろに部屋に立ち入り、
そのままアトトのベッドの仕切りのカーテンを開けた。
「ちょ…ちょっと、何するの!」
眠るアトトを見て、青年は少し悲しそうな顔をして言った。
「僕は…時々分からなくなる事がある。正しい事と悪い事の区別…」
そして、青年はそのままカーテンをゆっくりと閉めた。
「君のしている事は…正しい事だと思う?」
「え…?」
「事情は分かる。こんな所に二人で隠れるように住んでいるんだろう?
 …だから、僕には君を責めるつもりもないし、どうこうしようっていう気も無い」
「あ、あの…」
「金は君の物だ。…無防備だった彼にも責任があるし、いい薬になったと思うよ」

そして、青年はそれ以上何も言わずに去っていった。

278 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 01:36 [ jU7djtiw ]
― 翌日 バストゥーク・鉱山区 ―


「もう…だめだ…」
「仕方ないよ。君にも責任がある。お金はちゃんと管理しないと、ね」
「へへ…そうだよ、な…」
アズマは、じっと自分の手のひらを見つめる。連日の採掘で豆だらけである。
「働けど、働けど、我が暮らし楽にならず、じっと手を見る…」
「なにそれ?」
唐突に、アズマが聞いた事も無い言葉を発した。
「知らないのか?昔居た有名な詩人の残した詩だぜ?」
…妙な知識だけは持っているんだな、とヨルは関心した。
二人がつるはしを背負ってツェールン鉱山へ向かっていると、二人の前に
一人のヒュームの少女とタルタルの少女の二人組みが立っていた。
じっと、こちらを見つめている。

「なんだ?…あの二人こっち見てるぜ…?」
ひそひそと怪訝そうな顔をしてアズマはヨルに耳打ちした。
「気にしない気にしない。見つめられた程度で怒ってたらキリがないよ」
「…ま、そーだよな」
彼等は、そのまま二人組みの脇を通り過ぎた。
「あ…あの!」
後ろか呼び止められた。…振り向くとヒュームの少女が緊張した面持ちで
こちらを見つめていた。
「あぁん?なんだぁ?俺達は忙しいの。サインなら後で書くぜ〜」
「そうじゃなくって…えぇと…私、ミズハと言います。こっちは妹のアトトです」
アトトは照れているのか、ミズハの足に隠れて、顔を真っ赤にして小さくおじぎをした。
「えっと…僕たちに何か用ですか?」
「そ、その…私達、冒険者になったばかりなんです!それで…もしよければ
 一緒に組んで貰えませんか?」

279 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 01:37 [ jU7djtiw ]
「へ…?」
いきなりの申し出に唖然とするアズマ。無理も無いだろう。
「…僕達は見てのとおり、まだまだ新米の冒険者だよ。君達を守れる保証はどこにもない。
 それに冒険と言うのは危険が多い。…それでもいいのかい?」
ヨルは険しい顔つきで、ミズハを見つめた。ミズハは少々たじろぎながらも答えた。
「覚悟は出来てます。…私達、二人きりで精一杯生きてきました。悪い事も沢山しました。
 でも分かったんです。それは間違ってるって。…真っ直ぐに生きてみたいんです!
 自分の力だけで…だから…おねがいします!」
「へ?…ちょっと、何?あの、君?」
混乱するアズマ。
「それじゃあ、一緒に行こう。…僕達は仲間だ」
ヨルはいつもの穏やかな青年の顔に戻る。そして、ミズハとアトトを優しく見つめる。
「…はい!」



「ねぇねぇ。これってなんなのさ?…おい、お前ら二人だけの世界作ってんじゃねー!」

アズマの訳もわからぬままに、その日、彼らに新たな仲間が加わった。


                                    続く

280 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 07:56 [ wN4VNSbE ]
新キャラキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

(;´Д`)ハァハァ

281 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 13:13 [ 0G0gMlxc ]
一つ、続きが楽しみな話が増えたー。

あと、細い兄弟書いた人の「呪詛」を心待ちしてるんだけど
まだかなあ・・続き読みたいなあ

282 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 17:55 [ 1LOYfAXo ]
誰が書いてるのか知らんが。
ま〜何だ。
神だな!

283 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/24(水) 19:49 [ zyDlkq8A ]
レッドラム GJ
・・・殴り下記⇒殴り書き でいいのよね?w
誤字なんて物書きには付き物!気にせずがんばってください

284 名前: 呪詛 投稿日: 2004/03/25(木) 04:31 [ BhbrmSj6 ]
5.価値

潮の香りが鼻腔をくすぐった。
サルタバルタ近隣の海域はバストア海よりも、はるかに潮の香りか強い。
温暖な気候のせいか、匂いの運び手は機嫌が良いのだろう。

「10でどうだ?」

子供のはしゃぐ声がどこからか聞こえてくる。
陽気なウィンダスには似つかわしくない、こんな薄暗く埃っぽい部屋で自分は何をやっているのだろう。
ぼうっとした頭の中で、もう一人の自己が自問を繰り返した。
背もたれに身体を預けると、木製の椅子はギィと悲鳴を上げる。
ここには新しいものなど何一つ無い。

「聞いているのか?おい?」

髭面のヒュームが、苛立たしげに言う。
聞こえてるさ。マイユナイユはやはり気の抜けた返事を返した。

「10…ね…」

眉間にしわを作り、思案しているように見せかける。
マイユナイユは先日火事場で拾った不思議な石を、なじみの買い手に持ち込んでいた。
それは子供の頃から盗賊家業を生業としていた彼ですら見たことの無い鉱石。
妖艶な輝きを湛え、しっとりと肌に吸い付く。
食い入るように見つめれば、まるで魂に爪を立てられたかのような感動、
バストア海の底をそのまま切り出してきたかのような神秘さに、身体を打たれた。
この髭のヒュームも同じ感情に捕らわれたのだろう。
石を手にしたとき、いい例えようのない震えが身体を襲い、
手のひらは汗ばみ、見入る黒い瞳は頼りなげに泳いでいた。

男は決してこの稼業の経験は浅くない。

盗品を持ち込んだ相手に、己の胸中を悟られるような仕草を見せるようなことはない。
決して。
普段なら。

マイユナイユは肩をすぼめて首を横に振った。

「10?何かの間違いだろ?…100だ。即金で100万ギル、これ以上はまけらんねぇ」

かまを掛けてみた。
男の動揺を飲み下せば、決して間違った判断ではないだろう。

「100万ギル…で、いいのか?」

「え?」

髭の男の顔は綻び始めていた。
こいつは明らかにこの石が何なのか知っている。知っていて、その価値より遥かに低い値段を吹っかけてきたのだ。
マイユナイユは唇を尖らせて、抗議をする。

「そいつが何なのか説明しなよ、じゃないと売れないな。」

タルタルの盗賊に言われて、ヒュームの男の顔に浮かんだ笑みは、
不気味、不敵、卑屈。
さまざまな感情が折り重なり複雑な峡谷を形作る。

「マイユ。悪いことは言わぬ。コレは私に任せろ。世の中には知らずとも良いこともあるのだ…」

男の戯言など到底承服できるものではなかったが、目の前に即金で100万積まれ、
マイユナイユは今晩胃に流し込む食事のことにばかりに気が流れた。
博識で勤勉では在るが、気楽で単純なところもある。
タルタルとは、そういう生き物だ。

285 名前: 呪詛 投稿日: 2004/03/25(木) 04:32 [ BhbrmSj6 ]
6.出立


「そんな義理はない。なにより私たちにはサンドリア王国への帰還命令が出ている。」

ヴァレリオは冷淡に言い放つ。

ウィンダスの政治の象徴であり、信仰の対象でもある天の塔。
塔とは名ばかりで、その姿はまるで神話に出てくる世界を支えているという大樹を思わせる。
魔法に対して、さほど鋭敏な知覚を持ち合わせていないヴァレリオでさえ、
この場所に満ちる芳醇な魔力に圧倒されかねない。
神々しい、とか、神秘的な、などの形容詞の当てはまる場所であった。
大戦のおり荒廃したウィンダスが、たった30年ほどで復興できたのもこの塔と
この塔の主たる『星の神子』の存在が、民衆の心のよりどころとなったおかげだろう。

そして今、サンドリアのエルヴァーンはこの天の塔にある執務室のような一室に通されていた。

そもそも、女神アルタナへの信仰厚いエルヴァーンにとって、
現人神である『星の神子』信仰を有するタルタルたちも、その象徴である天の塔の存在も、
諸手をあげて歓迎できるものではない。

異教徒。
どちらかといえば、本来は制圧せねばならない敵である。

無論、サンドリア、ウィンダス、ともに外交上はこの30年以上良好な関係を保っている。
あの戦役…人間と獣人の間で起こったあの大戦以降、人間5種族は互いに諍い合う無情さに気付かされていた。
多少の文化の相違は許容しあうべきであろう。

だが。

「そんな義理はない。ギデアス竜は屠った。」

再び、執務室にエルヴァーンの低い声が響く。
乞われてこの国を訪れ、任務のため死力を尽くし戦った。
それだけのことだ。
この功績により、彼はサンドリア帰還後正式に騎士としての認可を受けることになるだろう。
目的を達した今、これ以上この国のために振るう剣を、ヴァレリオはあいにくと持ち合わせていなかった。
なにより一刻もはやく正式な騎士になる必要がヴァレリオにはあった。
(こんなところで、ノロノロしているわけにはいかない…)
エルヴァーンの青年の脳裏に幼馴染の修道女の笑顔が、儚い泡のように浮かんでは消える。

「陸路だろう?ついでではないか。サンドリアの許可も貰っておる。」

「悠長なことを。マウラ経由の海路を行く予定だ。ジュノまで要人の護送など…」

ミスラにでもやらせれば良い!!

焦れた。思わず声を荒げる。
タルタルののんきな風情が、いっそう彼を苛立たせていた。

「ヴァレリオ君…」

青年騎士の横にいた、初老のエルヴァーン紳士が厳しい視線で嗜める。
彼はウィンダスに常駐しているサンドリア大使。
この青年と違って一個人の感情に捕らわれず、両国にとって最も好ましい回答を出さなくてはならない地位にある人物である。

「…君は陸路、ジュノ経由でサンドリアに向かう。その間、ウィンダス大使をジュノまで無事送り届けること」

いいね?
それが君への新しいミッションだ。

言われ、逆らうこともできず、
エルヴァーンの青年は深く拳を握りこみ、怒りを必死に噛み殺した。



三日後、飛びぬけて背の高いエルヴァーンの男女の姿が、ジュノへと向かう数十人の大使一行の中にあった。
騎士ヴァレリオと白魔道士ドミツィアーナ。
二人の行く末を暗示するかのように、この日サルタバルタを踊る風はいつにもまして低い唸り声を上げていた。

286 名前: 呪詛 投稿日: 2004/03/25(木) 04:34 [ BhbrmSj6 ]
7.晦瞑王

闇が動いた。

晦冥の帳に天地の別すら定かでない。
その暗澹たる世界で、たしかに闇が動いた。
視覚に頼ることのできない暗室ではあるが、『彼ら』の蠢動だけはおそらく誰もが知覚できただろう。
どぅどぅと不安を掻き立てる不気味な律動が、まるで歌のように虚ろに響く。
生理的不快感を催す異臭が、這い回る蛇のように闇の中に満ちていた。

(『産褥』が野に堕ちた…)

歌を思わせる律動にのり、低い風音がそう唸る。

(『心臓』も分かたれた。)

(サンドリアの犬が…彼奴らはどこまでも我らに仇なす存在よ…)

(手足をもがねばなるまい)

(それよりも、まずは『産褥』を取り戻さねば)

(『心臓』もな)

闇はいつの間にやら五つに分かたれていた。
ゆらゆらと蠢き、よからぬ事をひそひそと囁きあっている。

(この魔術には十数年の時間を準備に費やした…)

(なれば、頓挫させることはまかりならぬ)

(この機を逃せば、我らの悲願は達しえぬかも知れぬな)

(行こうぞ。星の並びはすぐに変わる。力の行使、汚れ役…それが我らの役目よ。単純でよい。)

(他の面倒なことは、みな『上の奴ら』に任せておけば良いか…)

密談は終わったようだ。
五つの闇は晦冥の世界を這い回り、やがてどこへともなく姿を消す。
歌のような律動もいつのまにか聞こえなくなっており、あとにはただただ深い闇だけが取り残された。
闇は死を孕み、無音は狂気の子宮となるのだろう。
遠大なる呪詛はここから紡がれようとしていた。

287 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/25(木) 06:33 [ 2zeKLG5M ]
噂をすれば…呪詛キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

288 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/25(木) 08:09 [ wqaqfqhU ]
 慈悲を

 第七話「プロマシアの捨て子」
 (1/4)

 空に浮かんでいた太陽は既に西の彼方へと沈み、辺りは暗闇に包まれていた。
 夜行性の蝙蝠が、野営陣の川辺に現れてやかましい羽音をたてている。

 焚き火の中で、火の粉が爆ぜた。
 無造作に放り投げられた薪が、ゆっくりと炎に蝕まれながら、やがて消し炭に変わるのを待っている。
 その明かりを頼りに、すぐ側でオークたちの儀式が行われていた。

 彼らは処刑をひとつの娯楽として捉えており、月に何度か多くの死刑因たちをその手で殺めている。
 しかし、幾つもの功績をあげたオークは、何かしら罪を犯した場合には自決を許され、己の手で命を絶つことができる。
 それが最も美しい行為とされ、彼らオーク族にとっては潔い死に方として好まれている。

 そして今、ひとりの武人の自決の時がやってきた。

289 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/25(木) 08:09 [ wqaqfqhU ]
 (2/4)

 ◇◇◇

 毛糸で編まれた円座の上に、グバッツガッツが胡座をかいた姿勢で目を瞑っていた。
 両脇に、炎を灯した松明が地面に刺さっており、その明かりがグバッツガッツの姿を照らし出している。
 座る彼の目の前には、一振りの剣が地面に真っ直ぐ突き立てられていた。
 その剣で己の腹を裂くのだ。

 ドン。

 重く響く太鼓の音が一度鳴り、彼の背後から砂を散らす足音が聞こえた。
 白い覆面をかぶった呪術師のオークが暗闇から現れ、一冊の書物を取り出しては口を開いた。

「武人グバッツガッツ、あなたは我らが憎しむべき敵である女神アルタナの恩愛を受け、
 その子であるエルヴァーン族の娘に女神の慈悲を与え、また与えられもしました。
 これは我らの神である男神プロマシアの怒りを買う行為。
 よって、オークの慈悲をその身体に、プロマシアの怒りをその魂で受けていただきます」
 丁寧なオーク語で話す呪術師は、書物を閉じてグバッツガッツに近づき、突き立てられた剣を引き抜いて手渡した。

「武人グバッツガッツ。催眠術師の力で、死への恐怖を取り去ることを望むか?」
「不要」
 短くそう伝え、呪術師は再び暗闇の中へと去っていった。

290 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/25(木) 08:10 [ wqaqfqhU ]
 (3/4)

 ドン。

 太鼓がもう一度鳴り、次に暗闇から現れたのは、
 長大な斧を担いだ覆面オークと、戦闘隊長バットギットであった。
 斧を担いだオークの介錯人はグバッツガッツの脇につき、
 バットギットは彼の背後に立ってその顔をむんずと両手でつかんだ。

「愚かな武人。女神の恩愛の心地は如何なものだったかな」
 低い声で訊かれ、しかし返答はなかった。
「言葉を忘れるほどの快楽であったか、ククク。
 オーク族が女神の抱擁を受けるなど、前代未聞であろうなあ」
 口元を歪めて、両手にじわじわと力をいれていった。
 グバッツガッツの顔が次第にしわくちゃになり、元々醜い顔がより醜くなっていく。
 それでも、彼は何も言わずにただ目を瞑っていた。

「貴様はわしらの砦を幾度となくあの忌々しい人間どもから守り、
 幾度となくその拳を振るって人間どもを殴り殺してくれた。
 そうした功績があった上でこうして自決が行えること、嬉々として受け取ってもらわなくてはな」
 グバッツガッツの口元を無理やりに吊り上げ、さも嬉しがっているような顔を作り出す。

 そのうち、そんな顔遊びに飽きたのか、両手を離して彼の肩に手を置き、耳元で囁く。
「時に、あの人間の娘をその拳で燃やせたなら、この儀式なかったことにしてやらんでもないが」
「戦闘隊長は、同族の前で潔い死に様をさらすのはお嫌いか」
 ようやく、彼の重い口が開いた。
「私は、誇り高き死に方を選べたことを、嬉々として受け取っているが」
 それだけ言って、また彼は口を閉じた。
 フン、と鼻を鳴らして、つまらなそうな顔をしながらバットギットは暗闇の中へと去っていく。

「さらばだ。プロマシアの捨て子よ」
 砂を蹴る音と共に、音の主は闇に消えていった。

291 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/25(木) 08:10 [ wqaqfqhU ]
 (4/4)


 さらさらと穏やかな流れの川を目の前にして、グバッツガッツは手中にある剣の切っ先を見つめた。
 この最期の時、思うことはシルエラのこと。
 たった数時間でひとりの戦士の人生を大きく変えた彼女は、今無事でいるだろうか。
 オークをかばったなどと知れ渡れば、彼女は母国へ帰ることを許されないだろう。
 それならまだしも、今の自分と同様に、同族たちの目の前で無様な死に様をさらすことにならなければいいのだが。

 ――願わくば、新しき道を見つけ、新しき友と前へと進んでくれることを。

 ドン、ドン。

 太鼓が二度なり、両手で剣の柄を持ち、切っ先を腹に当てて構える。
 あとは力をこめて、突き刺せばそれで終わる。
 介錯人のオークも、目標をグバッツガッツの首に定めて、斧を大きく振り上げた。

 ――娘よ。俺は今でもおまえの行動の意味がわからない。
   他者をかばい、己を傷つけ、それでも他者を慈しむ。狂った女だ、おまえは。だが――

 閉じていた目を開け、喉の奥から雄叫びを発する。
 ゲルスバ中に、否、ヴァナ・ディール中に響くかと思わせるその声は、ただ意味もなく叫んでいた。
 それに合わせるかのように、太鼓の音が何度も何度も鳴り響く。
「このグバッツガッツ、今生の生き様に悔いはなし!」

 ――もう一度会いたい。話したい。
   今度は、アルタナもプロマシアも関係ない姿で、そして言いたい――

 鈍い音と共に、剣の刀身が見えなくなるほど突き刺さった。
 そして、痛みを感じるよりも先にグバッツガッツの視界は回転をはじめ、
 水面に叩きつけられるのと同時に真っ暗になった。

 雄叫びは、もう聞こえない。


 →続く

292 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/25(木) 08:24 [ wqaqfqhU ]
ちなみに、

>>267さん
「other」他人でs(ry
 あそこまで重厚な設定、私にはとてとて真似できません(´−`;)
 でもまぁ、269さんや、270さんが言うように、
 書いてる人がどうこうは気にせず、
 作品自体を見てほしいのは間違いないと思います。
 えらいこと言える立場じゃありませんけれどね(汗

293 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/25(木) 09:05 [ JBvnQTV. ]
うほ!!!俺様と「行為」を


や ら な い か ?

294 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/25(木) 13:29 [ /QdLKi4s ]
「呪詛」 本当に巧いなあ。

ココ来て癒される日々が続いております。

295 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/25(木) 17:34 [ 1aISxzvc ]
なんかもう・・・・









(・∀・)イイ!!

296 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 02:21 [ q2kuJI9o ]
ダブルフェイス・レッドラム  第6話「アトトの冒険・前編」

― バストゥーク・モグハウス ―

「だからぁ〜なんで女が冒険者なんだよ?無理にきまってらぁ」
「アズマ…時代は男女平等の世の中だよ」
「おねがいしますっ!」
なんだかんだでヨルのモグハウスに集まった、4人。
…なのだが、どうやらアズマはこの少女の二人組みが気に入らないらしい。
「だいいちなぁ、お前達なんか役に立つわけ?見たところひょろひょろだし、
 武器もロクに使えないんだろう?」
「…君だって冒険を始めてすぐの頃はひょろひょろで武器も使えなかったじゃないの?」
「う…ま、そりゃ、そうだが…むぅ〜」
「私、これでも器用だし、シーフの心得が多少あります。それにあなたの…」
と、ここまで言ってミズハは口を押さえた。
ヨルが、それはまずいよ…と言わんばかりで彼女を見ている。
財布を盗んだのは私です。なんて言ってしまえば、それこそ彼は許さないだろう。
「ほ、ほら。アトト。あなたも何か言って…ね?」
ミズハの足にしがみつき、じーっと一部始終を見つめていたアトトは、突然の指名に
びくっとしている。
「あ…あの…えっと…その…」
もじもじしている。口をぱくぱくしていて、その様子がアズマは余計気に入らない。
「人見知りが激しくて…普段はよく喋る子なんですけど…」

ミズハは嘘を言っていない。事実、アトトはミズハ以外に決して心を開こうとしない。
近所に住むガルカの子供と遊ぶ事はあるが、それでも滅多に口を開かないのだ。

「…ったく…こんなんでやっていけると思うのか?
 第一、俺はこういうハッキリしない奴が大嫌いなんだよ!」

297 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 02:21 [ q2kuJI9o ]
”大嫌い…大嫌い…大嫌い…”

その言葉がアトトの頭をぐるぐると駆け巡る。
「う…うぅ…あぅ…」
「アズマ!」
ヨルがアズマをたしなめる。が、時既に遅し。
「うわあぁぁん!」
アトトは泣きながら部屋を出て行ってしまった。
「アズマさん…酷い…」
「アズマ…君という男は…」
二人の冷たい視線がアズマに向けられる。
「…う…悪かった!悪かったよ!はいはい、あやまりゃいいんだろ!」
居づらくなった彼は、そのままアトトを追いかけるようにして部屋を飛び出した。
部屋にはヨルとミズハの二人とモーグリの一匹が残された。
「ごめん…ああいう奴だけど、根は凄くいい奴なんだ。君達二人の事を心配して
 あんな事いってるんだよ」
「はい…気にしないで下さい。それに、いきなりでしたし、私達も」


― バストゥーク・商業区 ―


モグハウスを飛び出したアトトは、広場の噴水でめそめそと泣いていた。
「大丈夫よ。とってもいい人達のはず!」
ミズハはそう言っていた。…確かに、ヨルという魔道士の方はとってもやさしくて、
それに格好いい。だけど…
(お姉ちゃんの…嘘つき…)
飛び出したはいいが、行く当てはない。鉱山区の家は家具を全てモグハウスに移してしまった。
モグハウスに戻るわけにもいかない…そんなわけで、噴水に座って泣く事しかできなかった。
そもそもアトトは外に出るのはあまり好きではない。鉱山区のガルカの友人と遊ぶ事もあるが、
遠出などもってのほか、まして旅なんて考えた事もなかった。
ミズハが何を思い冒険者になる、と言いだしたんだろう?
朝起きるといきなり旅支度をさせられた挙句、いきなり冒険者の登録を済ませ、
魔法書を読まされ…さらには二人組みの男と一緒に旅をする羽目になってしまった。

(冒険なんて…怖いよ…それに私、お姉ちゃん以外の人となんて話せない…)

298 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 02:22 [ q2kuJI9o ]
「誰か、一緒に臥竜の滝へ観光に行かないか?」
さっきから、噴水の反対側にいるガルカが何度も同じ事を繰り返し叫んでいる。
「後一人足りないんだ。誰かいないか?」
(うるさいなぁ…)
などと思っていると、突然彼女の体がふわっと宙に浮いた。
「うほ、いいタルタル…!」
(…!?)
突然、見知らぬガルカが自分の服の襟を掴んでひょいっと持ち上げた!
「〜〜〜っ!!」
足をじたばたさせるが、その様子を見てガルカは不適ににやりと笑った。
「見たところ、同じく新米冒険者と見た!…最後の一人はお前だ!!」
「〜〜!!」
「おほ、やる気まんまんだな!気にいったぞ、タルっ子!」

世間一般では拉致というのかもしれない。アトトはひょんなことから臥竜の滝へと
観光をする羽目になってしまった。


― 南グスタベルグ ―

巨大な岩、いやガルカが5人。そして、その円陣の中心に踏みつけられそうなほど
小さなタルタルが一人。
「ふむぅ…やっと揃ったのぅ」
「よろしく頼むぞ」
「美味そうだな…ごくり」
アトトはわけも分からず、その巨大なガルカ達に囲まれて圧倒されていた。
(ガクガク…ど、どうしよう…食べられちゃう…!)
「それでは、行くぞ皆の衆!」
「おうさ!」
一人のガルカがアトトを掴んで、肩に乗せる。少々驚いたが、ガルカの肩の位置から
見る景色は、普段彼女の見る世界とはまるで別物だった。
「わ…」
思わず驚嘆の声を上げる。
「どうだ?見晴らしはいいか?」
ガルカの問いに、こくん、と頷く。
「はっはっは!世界は広いぞ!タルっ子!」

そして、5人のガルカ+アトトは臥竜の滝目指して出発した。

299 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 02:22 [ q2kuJI9o ]
― 30分後 バストゥーク・商業区 ―

「え、ツインテールのタルタルの女の子?…ああ、さっきそれっぽい子いたけど
 ガルカに連れて行かれたな。臥竜の滝へ行くんじゃないかな?」
(…な、なんてこった…)
顔を真っ青にして絶望しているアズマがそこに居た。
「ほら、大工房の誰かが、今そういう企画しててね、冒険者を対象に
 ツアーの参加者を募集してるんだよ。報酬も出るみたい、それに…って、おーい」
男の話を半分聞いたところでアズマはゲートへ向かって猛ダッシュしていた。

(やべぇ…こんなのヨルにバレたら只事じゃすまねぇ!)

遅れる事30分、アズマも臥竜の滝を目指して出発した。
こうして波乱のグスタベルグ観光ツアーの幕が開ける。


                                 続く

300 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 02:46 [ dzYbk8/6 ]
ガルカ良い味出しすぎ。

301 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 04:44 [ WVcSr93E ]
ガルカキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! (違

302 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 05:26 [ aMhA1otY ]
うほっ

303 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 09:16 [ 2QY39i3. ]
ま た ガ r(ry

304 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 15:38 [ 5UkInJ5E ]
カラスの紋章、冒険の始まり
 
ハロー、ぼくらは冒険者。ぼくらが冒険者になったら、やらなければならない事がある。
それは、つまり、

殺しだ。

 なにも、人を殺す訳じゃない。獣人や、モンスターを倒すことで、ぼくらは強くなっていくんだ。
もしも、優しい君がそれを拒絶したって、何も問題はないさ。
この世界は、自分の責任で、自分の行きたい様に生きられる。
つまり、君が生きることを拒んでも、君を嘆く人はいる。君を拒む人もいる。
もしかすると、君を憎む人だっているかもしれないってこと。


ここは、誰もが主役の世界ヴァナデール

 ある晴れた日、ぼくは暇を持て余して、もぐハウスの窓に肘をついて、窓の外を眺めていた。
剣士らしきタルタルが2人、模擬戦をしているところだった。
2人とも、自分よりも大きな剣を、まるで遊んでいるかの様にブンブン振り回していた。
とても、戦っている様にはみえなかったんだ。
「まぁ、よくあんなに大きな剣を・・・」
窓の下から声が聞こえた。かわいいヒュームの女の子が、窓の下に寄りかかってすわっていた。
 彼女の名前はロンドイマ。ぼくは女の子に弱いんだ。
とくにかわいいこには、まるで操られた様に魅了されてしまう。
彼女には、ぼくを魅了する権利があった。
そしてぼくにも、魅了される権利はあったはずだ。
「・・・やあ、君、お名前は?」
ぼくが上から声をかけると、彼女は目を大きくして上を向いた。
ぼくとイマが始めて出会う瞬間だった。かわいい、っておもった。
「私の名前はね、特別なの。私が誰よりも幸せになりますようにって、
 お母さんが・・・・付けてくれた名前だから。」
瞳孔が開いてくのがわかった。頭に血が上って、視界がぼやけてきた・・・。
たしかに、彼女はぼくを魅了してしまったんだ。
「私はロンドイマ。あなたの名前はなぁに?」
必要なのは、呼吸と、平常心。
「シンシア・・・」
それしか言えなかった。自分の名前を思い出すだけで精一杯だった。
彼女の出会いは、それほど衝撃的だったんだ。


恥ずかしいですが、初めて投稿します。
ご意見、ご感想聞かせていただけるとうれしいです。

305 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 15:46 [ 5UkInJ5E ]
カラスの紋章 第一章:冒険の始まりでした・・・
脳内変換おねがいします(土下座

306 名前: 相棒 (-) 投稿日: 2004/03/26(金) 18:40 [ D7kkeYMU ]
『相棒』は、(1)(2)に出てきたタルタルが、(3)(4)の青年に助けられる話です。
変なところで区切りにして説明不足になったのがいけなかったですね。
気分を害した人も多くおられたようす……すみませんでした。
#しばらく巡回できないからって慌ててUPしたのがいけなかった。(;_;)(いいわけ)

307 名前: 相棒 (3) 投稿日: 2004/03/26(金) 18:41 [ D7kkeYMU ]
 物語は、その日の昼さがりに巻き戻った。
 そのころ、東ロンフォールの森とサンドリアの城下町を仕切る城壁のあ
たりで、
「うぉおっ! ぐっ、はっ、はっ、ほっ…………ん、ぬ、ぬぅぐ……はぁ
はあ……うお! …………ぐはっ」
 なにやら、ばかでっかい声がひびいていた。
 シュバルツ川の方角からやってきたエルバーンの戦士らしき青年が、城
壁へもろ手をあげて向かってゆき、がっぷりと取り付いてよじ登りはじめ
た。が、中程まできたところでちから尽きたのか、動かなくなり、しばら
くそのまま壁にへばりついていたけれど、ついには背中から地面におちて
しまった。そのときに吐かれた一連のわめき声がこれである。

「あ〜、なぁんでなんだ?」
 エルバーンの青年は、落下したときのままのかっこうで寝転んで、空に
流れるちぎれ雲を眩しそうにながめながらつぶやいた。背に背負ったおお
きな荷物が体の下敷きになって、すこしばかりひしゃげているのに、まっ
たく気にするようすもなかった。
「子供のころは登れたのになぁ……」
 淡いちぎれ雲が、流れながらだんだんと作り始めのわたあめのようにな
って、仕舞いに消えてなくなった。青年は、目を閉じた。木々の梢と小鳥
がそよ風をまじえて語り合っている。

「よっし」
 青年は、がばっとおきあがって地面にあぐらをかくと城壁を見あげなが
ら頭をぼりぼりかいた。
 そして、おもむろにレザーグローブを外しはじめた。それがすむとレ
ザーブーツも脱ぎだす。しかし、横着をしてブーツの先っぽをぐいぐいひ
っぱって脱ごうとするもんだから、ブーツはなかなか足から離れない。し
まいに癇癪をおこした青年がちからまかせに引っぱるとブーツがスポンと
抜けていきおいよくうしろへ飛んでいった。
「ははは、まぁ、あとで拾うさ」
 そんなわけで素手、はだしになると青年は立ちあがって、
「キ・ア・イ、全開! うぉおっ!」
 ふたたび壁に取りついてよじ登りはじめた。

308 名前: 相棒 (4) 投稿日: 2004/03/26(金) 18:42 [ D7kkeYMU ]
「おぉ、この感じ、この感じ」
 手のひらや足の指さきに直にあたるひんやりとした石の感触や、手がか
りになる城壁のデコボコ加減が昔とちっともかわっていなかった。
“壁のぼり青年”は、“壁のぼり少年”だったころにもどったような気が
して、かるく血が逆流するような興奮にとらわれた。たしかにサンドリア
にかえってきたと、そう身体で感じていた。
 あの頃は、下から届く妹の気遣わしげな制止の声を逆に追い風にしてが
むしゃらになって登ったっけ。
(それにしても……)
 壁のぼり青年こと、クラフトはおもう。こんな“城壁のぼり”なんてい
う子供のころの悪戯をつうじて故郷にもどったことを実感するのは、
(ちょっと違うような気もするな)
 青年のエルバーンらしい引き締まった顔が笑みくずれた。
「うふふ……」
 やがてクラフトは、城壁のてっぺんへと辿りついた。

 登りきって、クラフトはすぐさま仰向けに寝転がった。
 城壁の内側は、住宅街である。こんなところに登っているのをそこいら
のおばさんに見つかったりしたらおもしろくないことになるのは目に見え
ている。
 しかし、じつのところクラフトは、よしんば誰かに見咎められたら壁の
うえで仁王立ちになって腰に手を当ててブイサインでもしてやろうかと、
ちょっとワクワクしながら考えたりしていたのだった。だけど、誰にも見
つからなかったので、まあいいかとおもってごろりと寝転んだ。

 それにしても、いささかくたびれている。その証拠にさっき、お昼を食
べたところなのに、小腹がすいてきた。
 クラフトは横になったまま、背中に敷いているひしゃげ気味のリュック
サックを器用に脇にずらして、手探りで中をあさって干し肉のはいった包
みをとりだした。
 寝そべったまま、口いっぱいほおばってもしゃもしゃと噛み砕いてごく
りとまるのみする。なぁんか変な味がするな傷んでるのかな、とおもいつ
つも、ほおばって、噛んで、のみこむのを三度くりかえした。それで満足
して包みをリュックへともどした。

 そして、水筒をとりだしてのどをならして水を飲んだ。ひとしきり飲ん
で水筒から唇をはずすと、おおきなあくびがでるのをどうにも押さえられ
なくなってきた。
「あふぁ、ふぅ……」
 春先の真昼の太陽にぽかぽかと照りつけられてクラフトは、ついうとう
としはじめた。(つづく

309 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 18:50 [ JpPHcuQs ]
>>304
登場人物の名前がなんかキングg(ry
と思ってしまったのですが・・・( ̄∇ ̄;)
いやたまたまか・・・

310 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 18:58 [ eVNBc0o6 ]
>>309
気のせいよ。
ゲイナー君

311 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 20:19 [ 4vrebYDQ ]
タル戦最終話今読み終わったー。 感想言い出したらたらきりないので、一言。
「クリームちゃん本当に良かった。」

作者さん感動をありがとう!そこはかとなく全体的に哀しい雰囲気が漂っているタル戦、大好きでした;;

是非本に出して欲しい!口コミで売れるとみた。
っと、売れるなんて言ったら作者さんに失礼ですね、、失礼しました。

312 名前: 呪詛 投稿日: 2004/03/26(金) 23:12 [ eVNBc0o6 ]
8.峡谷

4日ほどでサルタバルタ地方を抜け、コルシュシュ地方の入り口、タロンギ峡谷に到達した。

草原の広がるサルタバルタとは異なり、コルシュシュ地方の風は乾き、
赤茶けた大地が剥き出しとなった原野が広がっている。
たびたび、いつ果てたのかも知れぬ猛禽類の白骨を目にする。
起伏の激しい地形は、荷車やチョコボの歩みを妨げた。
切り立った崖の上に作られた小道を行進する事も少なくなく、まかり間違えば自分たちも骸となり、
内腑を晒し、野に果てることになるのだろう。



「エルヴァーン、おまえはしんがりで良い。背の高いおまえらに前を行かれては、我らの視野がふさがる」

女の声が背後からかかる。
肉食獣を思わせるしなやかな筋肉。
うっすらと体毛に覆われた肢体、肉付きの良い身体からはサルタオレンジのように爽やかな匂いがした。

ミスラ。
猫科の動物のような亜人である。

彼女たちはヴァレリオたちと同様、大使一行を守るため派遣された、ミスラはアフィーユ氏族の戦士たちだった。
アフィーユ氏族はウィンダス連邦によって、サルタバルタ南部の海岸沿いに定住を許された移民の末裔であるという。
獲物の豊富な地域に住むことを許されたミスラの族長はいたく感激し、タルタルたちの恩義に報いるため、
氏族の中で最も腕の立つ戦士たちを、毎年ウィンダスのために遣わしているらしい。
有能な彼女たちの中には、乞われてウィンダスの武官になるものもいる。
ヴァレリオに声をかけたのも、剣と弓の腕を買われウィンダス付きの護衛官となったミスラだった。
名はユーリといったか。

彼女たちは何かにつけて、サンドリアの騎士相手に対抗心を剥き出す。
この四日というもの、ユーリだけでなく、べスやビリィという名のミスラから、剣の相手をするよう声をかけられていた。
サンドリアの剣術は誉れ高く、その使い手を打ち負かすことができれば、
ミスラの戦士としての彼女たちの自尊心は確固たるものとなる。
当のサンドリアの騎士としては迷惑千万な話だが。



「それはすまないな。普通に行軍しているだけなのだが…」

ミスラの苦言に気のない返事をして、ヴァレリオはチョコボの手綱を引く。
彼のやる気など、とうに萎えていた。
最初の二日はイライラと焦れ、怒り、物に当り散らしていたが、
やがて諦め、最後には無気力になり誇り高い気骨さえも失せていた。
どうにでもなれ、と愚痴るヴァレリオをドミツィアーナはしきりになだめる。

313 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/26(金) 23:12 [ eVNBc0o6 ]
いっぽうの彼女はといえば、彼女の騎士とは異なり随分とご機嫌で、
見たこともない風景やダルメルなどの生物との出会いを純粋に楽しんでいるようだった。

「ずいぶんと楽しそうだな」
その様子が鼻につきヴァレリオが大人げない皮肉を込めて言うと、彼女は満面の笑みを浮かべこう答える。

「こんなにいろんな物を見て回れるのって、これで最後かもしれないから…」

考えようによっては、アルタナ様のくれた贈り物かな、って…

答え終わると彼女の表情が翳った。
大きな瞳は憂いに濡れ、異国の風情を眺めるのだ。
彼女の立場を思い出し、騎士は己の愚かな皮肉を恥じる。
この幼馴染の修道女は、サンドリアに帰れば今のようにヴァレリオと一緒にはいられなくなる。
荒野に沈む夕日に照らされ、二つのエルヴァーンの影がいっそう長くなる。
伸びた影はタロンギの石くれに歪められ、まるで寄り添うように絡み合った。

このとき、二人はまったく気付きもしなかった。
タロンギの宵闇に佇む二人のエルヴァーンを物陰から見つめる小さな影があることに。
その背格好からタルタルであることは知れたが、フードを深くかぶっているため、容姿や表情をうかがい知る事はできない。
しばらく二人の様子を伺っていたが、やがて『彼』は音もなくその場を後にした。



五日目の夜。
大使一行はタロンギ峡谷の道のり半ばで野営をすることになる。
日が落ち、風は微かな湿り気を帯びてきた。
この日、大使一行壊滅の訃報を携えた伝令が走ることになるのだが、
その悲運をまだ彼らは知らない。

314 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/27(土) 10:55 [ jQj97xLU ]
わいわーい。

315 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/27(土) 14:42 [ awhscaJ6 ]
これこれ、走るんじゃないよ

316 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/27(土) 14:46 [ klL9rAx6 ]
Σガ! ズシャーーーーー!!

317 名前: カラス 投稿日: 2004/03/27(土) 17:32 [ iBlEEYxA ]
カラスの紋章 第一章:絆

「はは、女みたいな名前だな!」
 ぼくの悪友のレン。初めての出会いは、ぼくとイマがいつもの様に、
いっしょにロンフォールの森へと出かけた時だった。
「あら、透き通っていて素敵な名前だと思うな。」
 ぼくの名前は確かに女の子みたいだ。でもぼくはこの名前が大好きだ。
たとえ、誰が何といったって、イマがこの名前を好きだといってくれた。
ぼくにはそれだけで十分だったんだ。
 その数分前、レンは羊が連体で襲ってくるとは思わずに、
弱った老体の羊を切りつけてしまったらしい。
もちろん強くなるためだった。しかしその瞬間、
彼は、回りにいた他の羊たちから突進されることになってしまったらしい。
『冒険者の武器ってさ、やっぱ経験だよな。』
いつか、ぼくはレンからそう言われた。経験がないことは、
経験が無いために分からない。経験をして初めて自分の経験不足に
気づくんじゃないか、そう思う。いろいろなものを失って・・・・。
 そして、ぼくたちは、悲劇を繰り返す。
まるで・・・・まるで逃げられない運命だったように。

うわあああ!
 叫び声があがった。ぼくたちは狩りを止め、辺りを警戒した。
回りにも何人かの冒険者がいたが、やはり僕たちと同じように辺りを警戒していた。
ぼくたち冒険者は、助け合わないと生きていけない。
だから、誰かの窮地を放って置くことは出来ない。
それは、ぼくたちのルールであり、真理だった。
 イマが僕の袖を引っ張って言った。
「こっち・・・きて!」
叫び声は、ロンフォールの木々に木霊して、どこから聞こえてくるか分からなかった。
はずだった。しかし彼女は、そこがまるで約束の地であるかのように、
あるいは、我が家への帰路であるかのように、迷わずその一点へとむかっていった。

 うああ・・・
小さな叫び声があがった。そこでレンが羊の群れに襲われているのが見えた。
「イマ、いくよ!」
ぼくはイマに声を掛けてから、剣をぬいて、羊の群れへと突進していった。
 ぼろぼろになったけど、ぼくたちは何とかその窮地をしのいだ。勝ったんだ!
そして笑いあった。ぼくたちには、すでに絆があって、信頼を繋いでいたんだ。
「俺、レンてんだ。お前たち名前は?」


つづく

318 名前: カラス 投稿日: 2004/03/27(土) 17:46 [ iBlEEYxA ]
 登場人物の名前はいちおうオリジナルで考えました。
他の作品とかぶってたらごめんなさい;;

319 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/28(日) 04:06 [ VnpNFr32 ]
今までお気に入りにWikiページを登録しておきながらも特定の話しか読んでなかったんですが。
Scrapperの話をまとめて読んで相当のめりこみました。
いや、あまりに面白かったんでなんとなくカキコ・・・

320 名前: カラス 投稿日: 2004/03/28(日) 06:02 [ aHFURCwk ]
カラスの紋章、第一章:残酷な雨は止みました。でも続く痛み。

 暗黒はつねに死を纏うんだろう。ぼくとレンとイマは、3人で大粒の雨が打ちつける
まだ正午だというのに暗黒で覆われたラテーヌ高原を、雨宿りの出来る場所を探して
無言で走っていた。
「こっち・・・・死が、カラスの匂いが・・・する。」
 イマが立ち止まって囁いた。そして走り出した。ぼくらも後を追って走った。
大きな大地の裂け目を過ぎ、大小の池がある場所まで来たところで、
ぼくは水の塊の様なものが浮遊しているのを見つけた。
暗黒のなかに、それはあった。

 ひとつの希望のようで、ひとつの終着点のようで、それはとても美しく、
そのために全てのものと不釣合いだった。

「う、うああ、おえぇぇえ・・」
 イマが嘔吐していた。レンも、美しい水の化身の様なものにみとれていた。
イマの喘ぎで、ぼくらはそれに気づいた。気づいてしまった。
6人、ばらばらで、つぶされて、とても人とは思えない塊がそこに存在していた。
吐き気も起きない、それは、そうなるまえから、すでに人外のものであったかのような、
ぼくたちには理解できないものだった。それを、イマは分かってしまっていたんだ。
それを感じてここまで来たんだから。イマは、胃の中の物を全部吐いてしまっても
まだ嘔吐を繰り返していた。
 何時間経っただろう。気づいたとき、雨は止んでいた。美しく、そして僕らの
正気を奪った化け物が、まるで溶けるかの様に消えていった。
雲が晴れ、人だったはずのものが照らされた。それに、ぼくはまだ
人だったという確信ができなかった。うな垂れるイマと、立ち尽くすレンの隣で、
ぼくは

泣いた。

 この出来事は、ぼくと、レンと、イマの運命を変えるものだった。
ぼくとレンは、うな垂れているイマを担いでサンドリアまでもどった。
そしてことの終始をガードへ報告した。彼らはすぐに編成を組み、
元は人だったはずの塊を回収しにいった。すでに日は傾いて、
あたりは赤く染まっていた。まるで、それは、雨に流されてしまった6人の血が、
今ぼくらに降り注いでいるかのように。
「俺、旅に出るよ。」
イマのお見舞いに来ていたときだった。レンは、その一言だけぼくらに告げた。
あの日の出来事が、ぼくらの中心にあった。
「死なないでよ。」
冗談のつもりで言った一言は、その場の空気をより一層重くしてしまった。
ぼくらにとって、死ぬってことはリアルなものになっていた。


つづく

321 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/29(月) 02:29 [ MpZKmnsI ]
ダブルフェイス・レッドラム  第7話「アトトの冒険・後編」

― 北グスタベルグ ―

「こりゃひでぇ…おーい、生きてる?」
アズマは、目の前で泡を吹いて倒れているクゥダフを、拾った枯れ枝でつんつんとつついた。
「ゲブッ…グブブッ…」
クゥダフは全身を鈍器のような物であちらこちら殴られた跡があり、自慢の鎧もボロボロだ。
「グググ…」
…アトトを追いかけて北グスタベルグまでようやく辿り着いたアズマが見たものは、
大量の大怪我をしたクゥダフ達だった。
どれも命までは取られていないが、再起不能なんじゃあないか、と言わんばかりに
徹底的に打ちのめされている。
…これで、5人目である。大きな足跡を辿って道を進んでいるアズマだったが、
まさかこのような地獄絵図が待ち受けているとは思いもしなかった。
「ン〜、まっ、俺としては楽できるからいいんだけどな〜」
この辺りのクゥダフならばアズマにとって恐れる敵ではない、さすがに集団で襲われると
危険かもしれないが、一対一ならまず勝てる。
だからといって、なるべくなら戦闘による体力の消耗は避けたい所だし、何よりも
早くアトトのパーティーに追いつかなければ。
察するに、このクゥダフ達はアトトのパーティーにやられたんだろう。
5人組のガルカという噂はどうやら本当らしい。
(ったく…面倒な事になっちまったなぁオイ)
気を取り直し、アズマは足跡を目印に走り出した。…そして、そんな彼の姿を見つめる
一人のクゥダフの姿がある。

「アイツか…おのれ、許さん…!」

そう…ヨルが言っていたようにアズマはとてもとても運が悪いのだ。

322 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/29(月) 02:30 [ MpZKmnsI ]

「ゲハァァァ!」

屈強なクゥダフが悲鳴を上げる。それもそのはず、クゥダフよりもさらに屈強な肉体を
持ったガルカ5人が力の限り、何も考えずに集団でタコ殴りにしているからだ。
「ふははは!獣人、恐るるに足らず!」
「おうさ、兄弟!我らは無敵じゃああ!」
”白い悪魔”…そんな言葉がアトトの頭をぐるぐると駆け巡る。
もう、これで彼らが倒したクゥダフは8人目である。
一応彼女も精霊魔法を少しはかじっているのだが、それを使う機会は無さそうだ。
「おのれ…ガルカごときが…!」
その言葉を最後に、クゥダフはずしーん、と倒れた。
…倒れたクゥダフを近寄って見てみる。よく、亀と呼ばれている彼らだが、なるほど、
確かに亀のような格好をしている。だが、こんな気味の悪い獣人でも自分達と同じ言葉も話すし、
中には人間と打ち解けようとしている者も居るという。世の中というのはよく分からない。

「見ろ、タルっ子!臥竜の滝が見えてきたぞ!」
ガルカが指差したその先、遠くに一筋の白いラインが見える。
そして、それは良く見ると巨大な滝と認識できた。
「うわぁ…」
目をぱちぱちさせながら、彼女は滝を見つめた。
そんなアトトを見て、ガルカ一同、微笑んでいる。その状況は圧巻である。
「ぃよぉし、行くぞ皆の衆!」
「おぉーー!」
そして、白い悪魔の群れとアトト一人は滝を目指して再び出発した。
…いよいよ滝に近づいてきた所で、彼女を担いでいたガルカは言った。
「どうだ?…これが世界だ。そして、この世界にはあの滝だけじゃなくて、他にも
 もっと素晴らしいものが沢山あるぞ。お前にその気があるのなら
 世界を歩き回ってみるのもいいかもしれんな!」
「……」
ゆっくりと、アトトはこくん、と頷いた。

323 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/29(月) 02:30 [ MpZKmnsI ]
「えっ…えーーっと…つまり、君達は俺が犯人だと思っている…そういう事だよね?」
アズマを取り囲んだ大勢のクゥダフ達。彼等は無言で、うんうん、と頷いている。
「ほ、ほら。見てくれよ。俺って戦士だぜ?剣持ってるし…
 ありゃあどう見てもモンクの仕業って思わない?…どうよ!?」
それを聞いたクゥダフ達は、隣同士でひそひそと何やら会話を始めた。
「お、信じてくれる?ほら、俺ってよわそうじゃん?あんなにボコボコになんて
 できっこ無いよ、無いってば!ね?ねぇってば?」
すると、奥からリーダー格の、一回り体の大きなクゥダフがのっそりと姿を現した。
クゥダフは、手に持った剣をゆっくりとアズマに向かってかざす。
周りのクゥダフ達は、それを合図にそれぞれ武器を構えた。
「あ…そ、それってやっぱ、見逃してくれない…って事?」
クゥダフ一同、うんうん、と頷く。
「ぬああああああ!またこのパターンかよおおおお!」

…身に覚えの無い罪を着せられたアズマ。結局、仕方無しに戦う羽目になった。
「たぁぁ!」
襲い掛かるクゥダフはどれも練習相手にもならない。だが、数が多い。
賢明に剣を振り回し、出来るだけ接近されないようにする。
対するクゥダフ達は、アズマの力量を見抜いて、慎重に動いていた。
(けッ…こいつらぐらいなら、俺一人だけでも充分だぜぇ!)
いける、という確信が出来た。確かに、涸れ谷ではゴブリン達に不覚を取ったが、
あの時に比べると自分も随分と強くなっている。
結局スケイル装備一式は買えなかったが、要は敵の攻撃を喰らわなければいいのだ。
「さぁさぁ、どうしたどうした?俺はたった一人だ!」
調子に乗って、クゥダフ達を挑発する。何匹かのクゥダフはそれに逆上して
突っ込んでくるが、彼はひらりとかわし、チャンスとばかりに横腹に剣を突き立てる。
クゥダフが悲鳴を上げる。…返り血がアズマの顔に飛び散った。
「お次は…お前!」
怖気づいて後退しているクゥダフに目をつけ、一気に突進し素早く上から下に斬りつける。
「はぁ…はぁ…は、ははは…オラ、どうしたよ、こんなもんか!?」
何だろう?…異様に興奮している自分がそこに居る。体に力がみなぎる。
意識が、体が覚醒しているのだ。それはまるで麻薬のような感覚。
(あ…あれ、な…なんだ?すげぇ…とまらねぇ…!)

324 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/29(月) 02:31 [ MpZKmnsI ]
―数分後、彼はまるで魂の抜けたように、地面に座り込んで、ぼーっとしていた。
(……んあ…)
周りにはクゥダフ達の残骸があり、彼は血溜まりの真ん中に居た。
(俺が…やった…んだよな)
全身のあちこちが痛い。だが、どうやら危機は乗り越えたようだ。
緊張が一気に解けたせいだろう?全身の力が抜けている。
起き上がろうにも足腰の震えが止まらず、しばらく動けそうに無い。
結局、いくらか倒したところで、クゥダフ達は勝てないと見て、撤退したようだ。
(あ〜…畜生、あんな事言うんじゃなかったぜぇ…)
あの時の、泣き出したアトトの顔を思い出した。
(悪い事、いっちゃったな…)
…またいつもの悪い癖が出た。
自身でも分かっているのだが、彼は不器用な性格なのである。
本当は、新しい仲間が出来て嬉しかった反面、危険な旅に女を連れて行くわけには
いかない、と彼女達を心配する意味も含めてああいう事を言ったのだが。
やはり行き過ぎた発言だったらしい。

(アトトか…あいつ、昔の俺に似てるんだよな…臆病でさ)
(ああ…そういや俺っていつからこんな馬鹿になったんだろ…ついこの間まで…?)
(うむむ…まぁいいかぁ…それよりも…ねむぅ…)

ばたん、とそのまま後ろに倒れて、アズマは大いびきを掻きながら眠りだした。
眠る彼の枕元に赤い影。…全身を赤い服に包み、頭には羽根の着いた赤い帽子。
…そう、それは赤い疾風、レッドラムだった。

「今回は私の出番は無かったみたいね〜、残念残念…それにしても…よいしょっと」
彼女はアズマをまるで子供のように軽々と背負う。
「さすが、自称脳筋の事はあるわね。スリプルがおもしろいぐらいに入るわ」

そして彼女はバストゥークの方向へと歩き出す。
ふいに、振り返りクゥダフ達の残骸を見つめた。その表情はどこか悲しげである。

(駄目…アズマ…あなたは…強くなってはいけないのよ…)

325 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/29(月) 02:32 [ MpZKmnsI ]
― バストゥーク・モグハウス ―

「アズマさん…アズマさん」
ゆさゆさと、誰かが体を揺する。
「起きてください〜」
「むにゃ…ううーん」
目を開けると、ミズハの顔があった。
「あ、あれ!?…なんでここに!?」
そうだ、確かアトトを追いかけてクゥダフ達に囲まれて…それからの記憶が無い。
どこをどうやってモグハウスに戻ったのだろう。
「…そ、そうだ。アトトは!?無事か!?」
「はい、あの子は無事ですよ」
ミズハはにっこりと笑って、窓の外に目をやった。
窓から外を覗くとヨルとアトト…それに、5人のガルカの姿が見える。
「アズマさん、ゲートの近くで倒れてた所をあのガルカさん達とアトトが見つけて
 ここまで運んで来てくれたんですよ」



「それじゃあな、タルっ子!」
「楽しかったぞ!」
アトトは、こくんと頷いた。
「それにしても、すまなかったな、青年。どうしてもあと一人足りなくてな」
「いえ、彼女も楽しかったと思うし、構いませんよ。それに…」
そこまで言って、ヨルは口を止めた。
彼の言おうとした事を察してか、ガルカは口を開いた。
「…ふはは、そうだ。仲間を集めるには金が必要だからな」
「やっぱり…あなた達は…」
「ああ…お前の思ってる通りだ。我々は祭りの準備をしている」
「でも、そんな事をすれば、処罰されるんですよ?
 この世界とは別次元の…監獄に連れて行かれます。その後どうなるのか誰も…」
「無論承知だ。だが、我々はやらねばならぬ。その為にこの世界に生まれてきた。
 我々を生み出した意思が、そうさせるのだ。それに抗う訳にもいくまい」
「意思…ですか」
「お前も…いや、お前だけじゃない、この世界の全ての人間は皆その意志によって
 動かされている。分かるな?」
「でも…そんなのって…」
「気にするな…それに我々も消え行く前に冒険者として生きる事が出来た。
 楽しかったぞ、タルっ子…お前は世界を見ろ!お前にはそれが出来る!」

326 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/29(月) 02:33 [ MpZKmnsI ]
ガルカ達は両手を振り上げアトトを目一杯応援した後、二人の前から姿を消した。

「ヨルお兄ちゃん…悪魔さん達はどこへ行くの?」
「…悪魔?」
ヨルの問いに、アトトはこくんと頷いた。
「ああ、あの人達の事だね?…違うよ、彼等は天使なのさ」



それから数日後、バストゥークにどこからともなく大勢のガルカが現われた。
彼等はとある心無き冒険者の行いを訴え、連日連夜行進を行い大騒ぎとなった。
しかし、彼等はその後、皆忽然と姿を消したのである。消息は誰にも分からない。
”監獄”に連行され処罰されたのでは?という噂もあったが、
結局の所真実は闇の中である。


                                    続く

327 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/29(月) 05:37 [ Ge9ABmhQ ]
なんかわからんが

(・∀・)イイ!

328 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/29(月) 07:11 [ F40Lpxjs ]
アース祭りwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

329 名前: カラス 投稿日: 2004/03/29(月) 13:41 [ i6rL1oLM ]
カラスの紋章、第一章:一人の猫 

 ある日、ぼくは彼女と出会った。名前はレオン、男らしい名前だけど、
女らしい名前のぼくとは丁度均等の取れた気がした。出会いは簡単だった。
歩いていた彼女に、ぼくが声をかけたんだ。
 彼女もまた、ぼくを魅了する権利があった。
「こんなところで時間を潰しててもいいの?その花束、デートなんでしょ?」
レオンがぼくに聞いてきた。ぼくは、イマのお見舞いに行く途中だった。
だけど、彼女とここで別れるつもりはぜんぜんない。だって、イマは逃げないじゃないか。
また明日出直せばいいとおもった。思ってしまったんだ。
少なくとも、彼女を諦める理由にはならなかった。
ぼくはレオンにライラックの花束をわたし、一緒に酒場へと消えた。

 次の日、ぼくがまだ寝ている頃、とんとん、と小さくドアが叩かれた。
モーグリのマイクが接客しているのか、話し声がきこえる。
「ご主人さま、お客さまクポ。」
 なにもこんな時間に来なくったっていいとおもうけど・・・、ぼくは目をこすりながら
服をきがえてドアを開けた。
「おはよう、どんなごようですか?」
そこには小柄なミスラが立っていた。品定めをしようと、足の先から膝までみたところで、
ぼくの時を止める言葉を彼女は放った。
まるで閃光のように。
「ロンドが、しんだ。」
ろんど?・・・ろんど。ろんど??混乱が襲う。
「ロンドイマ、ロンドイマ・ライラックだよ。」
ぼくの心がとまった、停滞した。まるで、ひとつのメビウスの輪のように
心は表も裏もなく、そこを回っていた。時に置いてかれてしまった。
 彼女も、ここへ来るまで泣いていたんだろうな。目が真っ赤だった。
「彼女、昔から脆いところがあったから。」
ミスラの女の子の、ただ嘆いた一言が、ぼくを崩壊させてしまった。
その合図は、たとえば風が吹く音でもよかったのかもしれない。
 
 うわあああああああああああああああああああああ!!!!
叫んでいた。後悔した、しても仕方のないことだった。
ぼくがもし昨日、イマのお見舞いにいっていたら、励ませたら。
もし・・・どんなに君を好きだったか伝えられたら。
それは・・・彼女の死をしらなければ出来ない行為だったんだろう。
経験して、初めて知る。それは、運命、繰り返される悲劇。
でも、それだって言い訳じゃないか・・・・。彼女は死んだんだ。
 ミスラの女の子が帰った後、ぼくは自分の頬を思いっきり殴った。そして泣いた。
最近泣いてばかりだった。マイクが心配そうにみている・・・。
 ハロー、ぼくらは冒険者。君が生きることを拒んでも、君を嘆く者はいる。

第一章 完

330 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/29(月) 15:34 [ Ll0On456 ]
ひさびさに来てみたら。。。
タル戦終わってた(⊃Д⊂)
今更だけどパパさんお疲れ様でした(・▽・)ゞ

331 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/30(火) 06:55 [ bPudFJv2 ]
カラス(・∀・)イイ!

サラリと読みやすい文章。漂うダークな臭い。ちょこっと詩的っぽい?感じ。
たまらんわぁ(*´Д`*)

332 名前: 相棒 (5) 投稿日: 2004/03/30(火) 17:12 [ BJMDEmbE ]
−−−
 クラフトは、戦士の冒険者だ。しかも、まだ冒険者になって日が浅かっ
たから新米といってもいいかもしれない。
 そんなクラフトが、はじめての仕事(クエスト)として選んだのは、祖国
のために戦うことだった。傭兵としてはたらくのだ。おりしも世は、あの
クリスタル戦争のまっただなかだったから、これはごく普通の選択だった
といえるだろう。

「オークめ獣人どもめ、目にものみせてやる。この自慢の両手斧でけちょ
んけちょんだからな!」
 オークたちに自分の住み暮らす村をつぶされた過去をもつクラフトは、
勇みたって傭兵の募集に応じたものである。しかし、獣人をバッタバッタ
となぎたおす気まんまんのクラフトが配属されたのは、後方支援を担当す
る部隊だった。
「後方支援? なぁんか、地味っぽいな……」
 この待遇に、彼は、あちこちに不平を唱えてまわったのだけど、たいて
いのものは、相手にもしてくれなかった。
「若いの、まず経験をつめ。そして実績をあげろ」

 それならばと、クラフトは、いまの部隊で存分にはたらいてみせようと
燃えた。自分は一人前なんだというところを見せつけようというわけだ。
しかし、結果的に彼は、おのれの未熟さを思いしることとなる。

 三つのパーティにより構成されたクラフト所属の部隊は、アウトポスト
などの拠点に駐留し、輸送部隊の護衛に出たり、物資をあずかって保管し
たり、その他さまざまな任務をこなした。そうしながら戦線が移動してゆ
くのにつれて、転々と任地を変えてゆく。

 そのあいだに、獣人の別働隊の奇襲をうけることが何度かあったのだけ
ど、クラフトは、そのたびに、
「戦闘で、俺は、まるで役にたってねえ!」
 このことを痛感した。敵をまえに身がすくんで思うように体が動かない
し、自慢の両手斧の技がまるで通用しない。彼が戦いにおいてできること
といえば、体を盾に後衛の魔道士たちをかばって、代わりに敵の刃を受け
ることくらい、というありさまだった。
 だんだんクラフトは、しょんぼりと一人でいることが、おおくなった。

333 名前: 相棒 (6) 投稿日: 2004/03/30(火) 17:13 [ BJMDEmbE ]
 そして先ごろ部隊は、ボスティン氷河へとたどりついた。
 そこに至ってクラフトは、とうとう傭兵の仕事をやめるといいだした。
修業をやりなおして再出発する決心をしたのだという。
 だれも彼をひきとめはしなかった。
 物資を最前線にとどけて折り返してきた輸送部隊につきそって、クラフ
トがボスティンの駐屯地を去ったのが、二日前の朝で、彼はそれから、ほ
ぼ歩きづめでここまで帰ってきたのであった。
−−−

 目を覚ますと日が暮れていた。
 むくりと起きあがって、あれっとおもった。城壁のてっぺんではなく城
壁のそばの地面で寝ているではないか。
(降りてないはずなんだけどなぁ?)
 クラフトは、手を額にあてて考えこんだ。そして、はっと気づいたよう
に手をみた。手にはレザーグローブがはまったままになっている。足の
ブーツも脱げていなかった。それで納得した。
(あぁ、寝っ転がって雲を見てるうちに眠っちまったんだ)
 もしくは、落っこちたときに気を失ってしまったのかもしれない。いず
れにしても素手素足になって城壁を登りきったのは夢のなかでのできごと
だったのだ。

(なんかリアルな夢だったな……)
 クラフトは、首や肩をまわしてこりをほぐすと、背筋をのばしておなか
のあたりをさすった。
「あ〜、はらへった。体が、だるいな」
 ぶつぶつとこぼしながら、リュックから干し肉の包みをとりだして、夢
のなかでやったのと同じようにして食べた。水筒をとりだして水をのむと、
胃の腑に流れ落ちていく水の冷たさにおもわず身震いをした。
「うぅ、夜はまだ冷えるなぁ」
 のっそりと立ち上がると、こわばった身体のあちこちの関節がポキパキ
とかわいた音をたてた。
「あったかいミルクがのみてえ」
 まだ寝ぼけているのか、ふらふらとおぼつかない足取りで南サンドリア
の門へと向かうクラフトだった。(つづく

334 名前: カラス 投稿日: 2004/03/31(水) 19:50 [ JT3yIjgw ]
れっどじゃけっと

「ふんにゃかふんにゃか。」
変な歌を歌いながら、タルタルが一人タロンギ渓谷を縦断している。
「ふんにゃかふん・・・はあ、思ったより冒険て暇なんだね。」

「ふんにゃかふんにゃか。」
 彼の名前はハルト。
好きな言葉は、下手な考え休むタルタル。
希望ジョブは狩人。
本が好きで、いろいろな冒険を読んだ。そして、彼自身も
そんな冒険に出たいとおもっていた。
「たのしくて、波乱にみちてて、イベント盛りだくさん」
 彼の冒険とは、本の中にある様な壮大なものだったらしい。
しかし現実はそうでもなかったようだ。

 ハルトはウィンダスでうまれた。
両親とも天の塔で働くエリートだった。
もちろん子供であるハルトにも、その道を歩ませたかった。
が!しかし、ハルトは落ちこぼれだった。
そのうえ、冒険者志望でもあった。
耳の院への受験に失敗した時点で、すでに両親から見放されていた
ハルトは、幸か不幸かいろいろな意味で自由に生きられた。
「とりあえず冒険者になりたい!」
 ハルトの希望に、両親は反対はしなかったが、
賛成もしなかった。

「ねえ父さん、どうすれば竜を倒してお姫さまを助けられるの?」
「お金を貯めて銃と弾薬を買いなさい。それで撃ち殺せる。」
父親から帰ってきたのは破綻的な答えだった。
「あらお父さん、まず狩人にならなければだめじゃない。」
「おお、そうだったな。」
「「はははは」」

 ハルトはミスラの集落をおとずれた。
族長に会って狩人になるには、どうすればいいのか聞くためだった。
族長の言っている意味は、ハルトにはまったく理解できないこと
だったが、近くに居た冒険者がおしえてくれた。
「ソロムグにトラの住処があってな。まあ、とりあえずいってみれ。」
ひげをこしらえ、緑色の帽子をかぶったガルカの冒険者だった。
なにやら緑の大きな弓を担いでいた。
教えてもらえたことは、なんともいい加減だったが、彼もタルタルだ。
つまり、下手な考えはいらない。
目指す場所さえ見つかれば、あとはひたすら進むだけ。
必要なのは『努力』。
ハルトの冒険がはじまった。

335 名前: カラス 投稿日: 2004/03/31(水) 19:51 [ JT3yIjgw ]
「ふんにゃかふんにゃか。」
タロンギの真ん中で立ち止まったハルトの前に、人影があった。
「ねえきみ!ぼく、大冒険の途中なんだけどさー。なかまにならない?
 てへ、言っちゃった。」
目の前にいるのは大きな両手刀を持ったヤグード、獣人だった。
「自分アホちゃうか。いきなりそんなん言われてほいほい付いてく
 馬鹿いないっちゅうねん。」
ヤグードは、刀を大きく振りかざし、
ビュン!
勢い良く振り下ろされた。
「!!!」
剣先は、ハルトの足元に刺さっていた。
「しかも自分、わいが獣人やって事わすれとるやろ。
くっちまうどおおお!ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
しかしハルトは微動だにしない。
「おろ?」
静かに腰のナイフを抜くハルト。
「あれ?やる気なんですか?にげないんですか?」
ハルトは静かに口を開く。
「いつまでしゃべっているつもりだい?
 とにかく表にでなよ。」
ぴくっ、ヤグードの頭に血管が浮き出た。
「すでに表やっちゅうねえええん!いてこましたろかああ!!!」
ヤグードが刀を横に一閃した。
ハルトの構えていたナイフが宙を舞い、前髪が横に揃って切れた。
「ぴがあああ!」
全速力で逃げるハルト。
「あーら、ぜー○がたのとっ○ぁーん」
追うヤグード。
「まてール○゚ーン!!」
「どっちかっていうと五○衛門だった?」
「うぜえ!てめえうぜえ!拙者の斬鉄剣の錆になりてえかゴルァ!」
アホなタルタルとノリのいいヤグードが、
土煙をあげながらタロンギを横断していった。

つづくかもしれない

336 名前: カラス 投稿日: 2004/03/31(水) 19:52 [ JT3yIjgw ]
あ、カラスの紋章とは別作品でございます

337 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/31(水) 23:58 [ JT3yIjgw ]
らん、ぼーいず、らん

ブブリム半島の真ん中で、正座をさせられたハルトの目の前に、人影があった。
「あんなー、自分・・・。」
目の前にいるのは大きな両手刀を杖代わりに寄りかかってやっと立っている、
衰弱しきったヤグードだった。
「いくらなんでも逃げすぎやで。まあ、おいちゃんにも悪いところはあったかも
しれへん。せやけどな・・・ブブリム半島には普通ヤグードいないっちゅうねん!!」
怒髪、天を貫く。ぶっちゃけぶちぎれ中だった。
「ぐー・・・Zzzz・・・。」
つまり、チョコボの耳に念仏だったようだ。
ハルトは器用にも正座をしながら眠ってしまっていた。
もちろんオプションとして鼻ちょうちん付きですよ。
「ねとんのかあぁぁぁぁい!」
ハイテンションなヤグードは、その怒りをこの1球に込めんと言わんばかりに、
足を大きく振り上げて、
ずばあぁぁぁぁぁん!
炎でもあがらんばかりの勢いでハルトを蹴飛ばした。
ぽーーーん・・・。
「あぁーーーれぇーーーー・・・・。」
声もフェードアウトするくらい、おもいのほか遠くまで飛んでしまった。
綺麗な放物線を描いて、しまいには見えなくなってしまった。
「あー・・、あほらし・・・帰ろ・・・。
 しかしブブリムなんて、キャンプ合宿以来やなぁ・・・。」
帰路に体を向かせ、まだバテているのか、大きな両手刀を杖代わりにして
歩き出そうとしたヤグード。だれが帰すか・・・・。

どどどどどどどど・・・

地鳴りが後ろから近づいてくる。
「ぬ?」っと鳴いて後ろを振り返ったヤグードは輝いていた。
つまり、つっこみどころ満載。
「なにしとんねん自分んんん!!!!いくらなんでも多すぎやろがあああ!」
「えーーん、たすけておいちゃーん。」
 半べそかいたハルトが先頭に、大量のゴブリンや、キリンや、鳥、ウサギ、カニや魚までを
引き連れて走ってきた。大量の土煙が上がり、後ろの方はぼやけて見えない。相当の数だった。
「普通、キリンとかは殴らな襲ってこないやろがああああ!」
「つうか、カニとかまでつれてきて、どこまで飛んどんねええええん!」
「あほおおおお!!!!」
ヤグード、ハルト、その他エキストラの順で彼らはブブリム半島を激走中。
ポカンとした顔で見つめる冒険者たちを無視して爆走中だった。
「いま急いでるからサインはあとでー。ぼくって人気者だね。これから
外に出るときはサングラスと帽子で変装しなくっちゃ!」
「なに芸能人気取りやねぇぇぇん!己なんぞだれも知らんわああ!」

338 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/03/31(水) 23:58 [ JT3yIjgw ]
空が暗くなった頃。
「ごめんねおいちゃん・・・・。」
追っ手を振り切ったが、疲れて動けなくなってしまったハルトをヤグードがおぶっていた。
「くだらないこと、言うんやない。」
遠くに見える、マウラの町の光を目指してゆっくりと歩いていく。
「そういや、自分名前なんちゅうんや?」
半島を覆う闇のなかに、点々とオリハルコンが青白く輝く。
「ぼくのなまえは、ハ・・・・・。」
「ハ・・・・?なんやねん。」
「ハ・・・ハ・・・ハルマゲドン?」
「なんや・・・えらく物騒な名前やな・・・。」
どかっ
夜目の効かないヤグードは、足元の石につまずいてしまった。
ハルトをおぶるために手を後ろに回していたヤグードは、
顔面から地面に突っ込んでしまった。
「げふ!」
その勢いで、背負われていたハルトも前になげだされ、短い手を一生懸命のばしたが、
やはり顔面から地面に突っ込んでしまった。
「ぴぎゃ!」



二人はそのまま仰向けになり、空に浮かぶ星を見上げた。
「ねえ、世界ってひろいんだね。」
ウィンダスからほとんど出たことのないハルトには、
今日の出来事はすでに大冒険だった。
「なんや・・しらんかったんかい・・・。」
ヤグードにとっては、ちょっとした出来事だったが、生きる目的みたいなものを見つける
日になったようだった。つまり、楽しかったってこと。
「今日は・・・えらいひどいめにあったわ・・・。」
ヤグードはつぶやいた。
それにハルトは「えへへ。」と曖昧な笑いでごまかした。
ヤグードはニヤリとして続けた。
「でもな、楽しかったで。」
「ぼくも・・・。」
生まれたときから、ヤグード教団の一員として教育を受けてきたこのヤグードにとって、
タルタルは星の神子を女神アルカナの生まれ変わりとする
邪教徒の存在だった。殺すべき相手だった。
しかし、今の彼にはそんな気はさらさらない。
目尻の皺に涙がつたった。
「ほんま、楽しかったで。」



それから少しして、二人はへらへら笑いながら起き上がった。
「大丈夫か自分、鼻血とかでとらんか?」
ヤグードはハルトの頭をなでながらいった。
「うん。平気。」
それからまたへらへらと笑いあった。
「わいな、ランボー言うねん。」
と、ヤグードは名前を告げた。
「ぼくはハルト。」
と、ハルトが言った。ランボーは面食らった顔をして言い放つ。
「ハルマゲドンちゃうんかぁぁぁあああ!!」

アホなタルタルと、ちょっと間抜けなヤグードがマウラに向かって手を繋いで歩いていた。
「ふんにゃかふんにゃか。」

つづくかもね。


おまけ(しってるひとはしってるはず)

諸君、「古代魔法について」などの魔道書をものにしたアジドマルジドは、その語録のなかで
こう言っている。

「ヤグード大好き!」

339 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/01(木) 00:15 [ qAkuNoDI ]
カラスそんなにいいか?
毎回ageてるし、詩的っていうか、オナ臭い

340 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/01(木) 01:14 [ CsdFB1/M ]
ライトなノリでのヤグとタルのエピソード、テンポ良く読ませていただきました。

敢えてランボーのせりふを借りるなら
『ほんま、おもろかったで。自分。』

次回からはsageでお書きになられたほうがよろしいかと。
ソロムグまでの道中、続きを楽しみにしております。

341 名前: からす 投稿日: 2004/04/01(木) 07:04 [ VipieypU ]
 すいませんでしたー。PCかってもらったばっかりで、age sage
理解してませんでした。公共の場で、説明書読まないタイプは罪人
だと、深く反省してます。あと、カラスの紋章がオナくさいと自分でも
思いました。なので、赤ジャケはエンターテイメント性を上げてみた
つもりだったのですがいかがでしょうか。
 貴重なご意見ありがとうございました。

342 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/01(木) 07:11 [ VipieypU ]
くりすぴーさんどめーぷる

「追えーー!西の方へ逃げたぞおお!」
 最近めっきり寂れたブブリムだったが、今日はちがった。
新種のノートリアスモンスターと思われるヤグードが
ブブリム半島にあらわれたからだった。
「すげえな、ふつうブブリムにヤグードなんて居ないもんな。」
大剣をもって走る冒険者が言った。すでに50人を超える冒険者たちが、我先にと
土煙を上げてヤグードを追っていた。
「まじすげえ、逃げるってところがすげえ!」
ふつう、逃げるモンスターは居ない。あえて上げるなら、
十五夜に現れた白兎くらいのものだっただろう。
「にしても、はえぇなぁ・・・・。」
体力のない魔道士がバテながらつぶやいた。
そのスピードは異常だった。まるで慣れているかのように・・・・。
ブブリムの空は、珍しく青く澄んでいた。

「なんで最近走ってばっかりやねぇぇぇぇん!」
ブブリムの青い空に、追われるランボーの声が木霊した。

343 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/01(木) 07:12 [ VipieypU ]
 ヤグードのランボーと、タルタルのハルトが昨日の夜、マウラに到着したときだった。
彼らは忘れていたのだろうか?ヤグードは獣人、人に仇をなす者だということを・・・。
 丁度、船が到着したこともあって、ほのかに賑わいがあったマウラに、大声があがった。
「町の外にヤグードが居るぞおお!!!ノートリアスかもしれない!!」
すると、町の彼方此方から声が上がった。そう、彼らは餓えていた。お祭り騒ぎに。
「町にいるやつ、全員討伐いくぞー!」
「うおおおお!」
 町は、異様な熱気に包まれていった。リンクパールで仲間に連絡するもの、必要なもの
をバザーするもの、その商品を合成するもの、徒党を組むもの、武器をみがくもの、
雑談をするもの、無駄に大声で叫ぶもの・・・。ひとつの目的に連帯感がうまれ、それは
学園祭前のあの独特な雰囲気にもにていた。
マウラは港町で、船が定期的にもうひとつの港町のセルビナとの間を往復していた。
セルビナから来る定期便から、ぞくぞくと冒険者が降りてきた。
そして、第一波が出発しようとしていたころ・・・。
「なんや、町の方がうるさいのぅ。」
「おいちゃん、はやく町にはいろうよー。」
ランボーとハルトは、町の門の前に座っていた。
「そやな、もう十分やすん・・・。」
「いたぞおおおぉぉぉぉう!!」
叫び声が上がった。それはヤグードに向けられたものだった。
「な、なんや。」
ランボーは、びくっと立ち上がって身構えた。町の中から、続々と人が集まってきた。
20人はいるだろうか。
「とつげきぃ!」
それを合図に、ヤグードと冒険者の追いかけっこがはじまった。つかまったらリンチ決定の
ヤグードにとっては必死の追いかけっこだった。
「ぴぎゃああ!」
ヤグードと一緒にはしるタルタルに、誰も気がつかなかった。それが祭りの熱気せいなのか、
はたまた、タルタルの種族特性なのかは謎だった。その真相は、いまだ闇のなか・・・。

 50人に膨れ上がる冒険者の中には、まだ駆け出しの者もいたようで、何人かがゴブリンに
絡まれて袋叩きになっていた。「くそーヤグードめええ!」泣きそうな声が後方で上がっていた。
「なんで、わいのせいやねええん!」
かなり重症を追ったものが何人か、マウラに運ばれると、話には尾びれ背びれがくっついていった。
「・・・すでに何人か殺られたらしいぞ。」
「おい・・・やつはヤグードの教祖で、お忍び旅行中らしいぞ・・・。」
「HNMらしいぞ・・・。こりゃ暴れ甲斐があるな・・。」
「あのヤグード、メテオつかってくるって本当か?!」
「うほ!強すぎ!次元殺で白服着たナイトさん死んだらしいぞ。」
煽るほうも、煽られるほうも目が輝いていた。

344 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/01(木) 07:17 [ VipieypU ]
「ぜぇぜぇ・・・なんで追われなあかんねん・・・ぜぇぜぇ。」
やっとの思いで追っ手をまき、マウラの西にある崖の下の浜辺で、ハルトとランボーが
大の字になって倒れていた。
「ぷしゅー・・ぷしゅー・・き、きっとヤグードさんて美味なんだよ・・・ぷしゅー。」
「わい、食われるんかい!!カニバリズム反対!っと、大声だしたらやばいな・・・。
 たしかここには隠し海岸があったはずや・・・。そっちかくれるで。」
「いえっさー。」
二人は、そそくさと立ち上がって隠れるように開いている隠し海岸の入り口の洞窟へと
入っていった。蝙蝠がキィキィ鳴く暗闇の支配する洞窟をぬけると、大量の光の洪水が
襲ってきた。そして、その視界には、さきほどの浜辺の様に、冒険者たちが捨てたお菓子の袋や
串焼きの串や、紙の皿やプラスチックのホークなどはまったく落ちてない。生まれたばかりの
様な、美しい浜辺が広がっていた。
「どうや、なかなかええ所やろ。」
「うん・・・うん!」
ハルトは激しく頷いた。そして目を輝かせて走っていった。
「あはは!つかまえてごらーん!・・・ぶくぶくぶく。」
水しぶきを上げて走るハルト。背が低いせいで頭まで水に浸かっている。
「あはは〜まて〜・・・って、自分しずんどるでええええ!」
「あはは、楽しそうだね。」
不意に、海岸の奥の方から声がした。
「だ、だれや!?」

345 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/01(木) 07:20 [ VipieypU ]
ランボーは、声のしたほうをむき、両手刀を構える。
「ごめんごめん、おどかしちゃったようだね。」
両手を軽くあげ、降参のポーズをとって赤いクロークを着たヒュームが木々の陰から現れた。
フードからはみ出した長い金髪が風にゆれていた。
「いやあ、実にたのしそうだったから、ついつい声をかけちゃってね。」
「なんや、わいを追ってきたんちゃうんか・・・。」
「ぶくぶくぶく・・・。」
浜辺に打ち上げられたハルトを無視して話は続いていった。
「なるほどね、なんか騒がしいとおもったら、君をみんなが追っていたわけか。」
「そ、そぅなんや!わい・・なにも悪いことしてへんちゅうのに・・・やつら・・・ぐす。」
話の通じる人間が現れて、緊張の糸が切れたのか、いつも強気なランボーが泣き出してしまった。
「おお、よしよし、大変だったね。まあ、ほとぼりが冷めるまでここに居なよ。」
そして、数分後、我に返って恥ずかしくなったランボーが、照れ隠しにヒュームに聞いた。
「あ、あんさん、なんでこんなとこにおるん?」
ヒュームは、にっこりと微笑んで言った。
「俺はね、ここにある碑石に歌がのっていてね。それを見にきたんだ。」
眩しい笑顔に、クラッとしたが、気をしっかりもってヤグードは聞いた。
「なんや、あんさん吟遊詩人なんか?」
「そうだよ、たしかヤグードにも吟遊詩人はおおかったよね。じつは話をきいてみたかったんだ。」
白い歯を輝かせてニッコリ。
「わわわわわ、わいは、見ての通り剣士やからな。う、歌なんてまったくわからへんねん。」
「そうか、残念だ。」と、ヒュームはちょっと残念そうな顔そしてみせた。
「そういえば、君の名前は何ていうのかな?」
ズバっと、浜辺に打ち上げられて倒れていたハルトが立ち上がり、ここぞとばかりに大声でいった。
「人に名前をきくときはぁぁぁ!まずじぶんから名乗るものだぞおおおお!!!!!」
腰に左手をあてて、右手の人差し指を立てて大きく上に振り上げた。ポーズも決まって
ご満悦だった。
「あはは。そうだね、俺の名前はタロウ。よろしく。」
タロウは右手をさしだした。ハルトは握手をしていった。
「ハーゲンダッツです。」
トム・クルーズ張りのくど・・・眩しい笑顔だった。
ばしっ!
「おんどれ、また嘘を・・・。」と突っ込みかけた時、大声があがった。
「こっちだ!隠し海岸のほうから声がきこえたぞおお!あつまれえええ!!!」
ハルトの大声が、聞こえてしまったらしい。
「自分・・・あとで居残り特別★課外授業な・・・・。」
ランボーの、暗い眼窩の奥で、目がギラリと輝いた。
「てへ☆」
まったく反省をしていないようすだった。
「タロウさん、ここは危険や、はよにげ・・・。」
「うーん、まだ、君の名前もきいてないし。」
眩しい笑顔でそう答えた。
「な、なにいっとんねん!はよにげや!!」

346 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/01(木) 07:22 [ VipieypU ]
どどどどどどどどど・・・・懐かしい地響きが鳴り響いた。
そして、ものの数分でランボーたちは70人ちかくの冒険者たちに囲まれてしまった。
「またふえとるやんけええ!」つっこみを忘れないヤグードに、拍手もちらほらと漏れた。
そして、冒険者の一人が言った。
「さあ、追い詰めたぞ闇の王!」
「だ、誰が闇の王やねん!あんなんクリスタル戦争でくたばったやろがああ!
 話でかくなりすぎっ!」
しかし、タロウは神妙な顔でいった。
「いや、最近復活の兆しが見られるらしい・・・・。」
その声は深く、透き通っていたが、悲しいものだった。
しーん・・・・
辺りを静寂が襲った。
「と、とりあえずとつげきぃ!」
すでに引き返せない冒険者たちは、その声を合図に波のようにランボーに押し寄せた。
バッ!!!
ランボーの前に、ハルトが両手を開いて立ちふさがった。決まった、といわんばかりの笑顔だ。
「ば、ばか!」
ハルトのことなどまるで見えていない冒険者たちがそのまま突進してきた。
なんとかハルトをかばおうとランボーが走り出すも、間に合いそうもなかった。
そのとき、うしろから、美しい歌声が響いた。そのうたは、優しく、穏やかで、それを聞いた冒険者
たちは、まるで赤ちゃんの様に眠りについていった。
「な、なんやこれ・・・。」
「ララバイ、子守唄だよ。」
前に歩き出しながらタロウがいった。そして、寝てしまったハルトをひょいっと摘み上げて続けた。
「そろそろ名前、教えてくれないかな。」
「あ、わ、わいはランボーや。」
タロウはニッコリ微笑んでいった。
「よし、いこうラーさん。」
「へ?へ??」
間抜けな顔おしたランポーに、タロウはくすくすと笑いながらいった。
「俺、君達を気に入っちゃってね。君達の歌をつくりたいんだ。一緒についてってもいいかな。」
眩いばかりの笑顔。すでに断れる平常心を持ち合わせてはいなかった。
「いつのまに、わいとハルトが旅しとることになっとんねん!」
と、ランボーは、こころの中で、一応つっこんどいた。
「あ、ちなみにこいつ、ハーゲンダッツやなくて、ハルトっちゅう名前やから。」
「へ?」
「ふんにゃかふんにゃか・・・Zzzz。」


つづけたらいいな

347 名前: Scrapper 投稿日: 2004/04/01(木) 09:07 [ 6t2PofFo ]
>>319様も含め皆様方、
読んでくださってありがとうございます。

今まで書き溜めていた分で物語的に区切りが付くところまで、アップいたしました。
読んでいただければ幸いです。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

この話の方向性は2話を書いた時ぐらいからずっと決まっていたのですが、
果たしてFFXIを舞台にしてこのような話をやってしまっていいのだろうか、という疑問を感じてしまい、
アップするのをずっと躊躇していたのでした。

もともと冒険や戦闘の描写があまりにも少ないとんでもない話だったのに、
ますますわけのわからない話になってしまったかもしれません。

ヴァナでの大事な人との別れを語ってくれたフレに、感謝を込めて今回の話を捧げます。

タル戦、本当に面白く読ませていただいてました。
パパさんにも感謝を。

348 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/01(木) 19:16 [ VipieypU ]
 scrapperとても面白く読ませていただきました。
生まれつき目が弱く、一気に読むことが出来ないのが
悔しい限りです。
 できるだけ早く全部読みますので、続き楽しみにまってます^^

349 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/01(木) 23:38 [ MGIHyPgw ]
>348
釈迦に説法かもしれんが、温タオルを目にかぶせると疲れがひく。
きんもちいいぞぉ

350 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/04/01(木) 23:44 [ 4o3M2.tg ]
「名無しの話」の外伝6 −四月の愚者−

さて、特別な日。
誰もが知ってる特別な日。
ヴァナにもあるのか特別な日。
きっとあるだろ特別な日。

「ねえ、今日ってアノ日でしょ」
世界を見下ろしながら、女は言った。
「ん?」
気のない返事を返す男。
「ア・ノ・日」
「んー?、ああ、花見ね」
ゴズッ!
「…ごめ、俺の誕生日だ」
ドゴゴスッ!
「…え゛っど…君゛の…誕生日?…」
バゴメギベギッ!
「…ヒック…ヒック…わかんない…グスッ…」
「エイプリルフール!」
「…あ゛ぅ…」
「今日って、嘘ついてもいい日なのよね」
「…ん゛…」
「でも、悪質なのはダメなのよ。みんなが感心するようなのじゃないといけないんだから。それでね、私すっごいアイデアあるんだけど」
「…」
「あの子達って、涙から生まれたでしょう?実は鼻水でしたー、なんて言ったらヴァナ中大騒ぎになると思わない?」
「…それは…悪質じゃ…」
バキゴムグギゲシッ!
「びぇー…‥」
「あ、逃げた。……ん、たしかに…ちょっと…かな?」

その日、さすがにアルタナの民が実は鼻水だった…なんて言う悪質な嘘を言う者はいなかった。
けれど…。

「ほんまやねン。ほんまにワシ、見たンや!」
「あほカァ、おまえは」
「せや、なんぼエイプリルフールやゆうても、ついてええウソとあかんウソがあるで」
「ほんまなンやてぇ、信じてぇなぁ…」
「ひつこい!」
「焼き鳥にしてまうぞ!」
「ほんまやのに…」
結局、泣きながら走っていくプロマシアを見たというヤグード司祭の言葉は誰にも信じてもらえなかった。

−おわり−

351 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/04/01(木) 23:45 [ 4o3M2.tg ]
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
猫でも風邪ひくんです。
で、くしゃみするんです。
すると、飛び散るんです。
「あっ」なんて思っちゃいました。

…ごめんなさい神様…

352 名前: Overture 第4話 星に約束を 投稿日: 2004/04/02(金) 02:41 [ nRd4VNyk ]
1/4

―【ウィンダス港】

「やっぱりさ、タルタルは黒魔道士だよ!
 派手で強い精霊魔法でドカーンと敵を倒すのよ!」
「う、うん…」
目をキラキラさせ、口の院の屋上から魔法の練習を覗くタルタルの少女。
その横では轟音に怯えたタルタルの少年がうずくまっている。

「ほら、君もこっちで見てみなさいよ。
 あ〜すごいなぁ、あのエアロの鋭さ…」
「ねぇ、もう行こうよ…学校遅れたら先生に…」
「何言ってるのよ、いずれ入団する黒魔道師団の練習を
 見ることは立派な社会勉強よ!先生だって許してくれるわ」
いつもと変わらない朝に、いつものやりとりが続く。

「ぼ、僕は白魔道士になるから…」
「またそれ。君だけだよ黒魔道士になりたくないって男の子は。
 笑われちゃうわよ?」
「いいよ、別に…」
「ん、もうっ!…まぁ、いいわ、ほら行くわよ!」
少女はそそくさと階段を降りる。
少年は顔色が気になり後を追う。

「ほら、遅れると先生に怒られるわよ!リオン!」
「ジュリリ、そ、それさっき僕が言ったよ…」



誰に笑われてもよかった。
君も笑ってくれるなら。

353 名前: Overture 投稿日: 2004/04/02(金) 02:42 [ nRd4VNyk ]
2/4

―【ウィンダス森の区・耳の院】

「はい、それでは今日の授業はここまで
 来週は口の院を見学に行きます、各自興味のある
 師団を決めておくこと、いいわねー?」
耳の院の屋上に小さな歓声が起こる。
が、一人だけ浮かない顔をしている。
「うぅ、口の院かぁ…」
その様子に気づいたジュリリがウンザリした表情で話しかける。
「観念なさいリオン、そろそろ精霊魔法の音にも慣れたでしょ?」
「…全然慣れないよ…心臓にドンって響いて気持ち悪く…」
「ちょっと!口の院で倒れたりしないでよ?」
「…が、がんばります」



特別、白魔道士になりたかったわけじゃない。
黒魔道士になりたくなかった、君の目指すものに。

354 名前: Overture 投稿日: 2004/04/02(金) 02:43 [ nRd4VNyk ]
3/4

―【西サルタバルタ・星降る丘】

「やぁ、来てくれてありがとう」
夕陽に照らされた頬は泣いた後のように見えた。
「その丁寧な言葉遣いは…何か考えていますね?」
「…ふふっ、あたり!…はいっ!」
右手の小指をつきだしてニカッと笑う。

「もう君に黒魔道士になれって言わないから…
 その代わり約束を2つ!
 ほら、小指出しなさいっ」
いつもと違う雰囲気に考え無しに指をつないだ。

「ひとつ!ずっと私を守ることっ!」
「ふたつ!その約束を守れなかったら黒魔道士になることっ!」

「…え?」
「はい、もう約束完了しました!
 …ちゃんと、ふたつとも守りなさいよ…」
「…ジュリリ?」
うつむいた顔はやっぱり泣いているように見えた。

「私、ジュノに行くの」
「え…どうして、急に…そんな…」
「ん〜大人の事情…ってやつ?」
頭がグルグルして、何も言えなくなった。

「いつ戻ってこれるかわからないけど、またここに来たいな。
 …さ、帰ろう!」
君が振り返った瞬間に涙があふれた。



僕も約束すればよかった。
絶対またここで会おうって。

355 名前: Overture 投稿日: 2004/04/02(金) 02:45 [ nRd4VNyk ]
4/4

―【ウィンダス港・口の院】

1ヶ月前の口の院見学の前日、君は死んだ。

その時代の薬や魔法では治らない病気を
生まれつき持っていたなんて、全然知らなかった。

すごく腹が立つ。
何も出来なかった自分と…それに…
守れない約束をさせた君に。

ずるいよ。

白魔道士になればずっと君と一緒だと思ってた。


「リオン-ライオン君!えー、君の志望は…白魔道師団だね。
 ここは黒魔道師団の演習をするから、向こうの集合場所に行きなさい」

「いえ、ここでいいんです。
 僕は…僕は黒魔道士になります」



強くなりたい。
約束を守れるくらい、強く。

356 名前: Overture作者(´・ω・) 投稿日: 2004/04/02(金) 02:47 [ nRd4VNyk ]
うぅ、書き忘れです。

つづく

357 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/02(金) 09:01 [ 0QIKS4wQ ]
Scrapperキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
ずっと楽しみに待っておりました。
作者様に何かあったのかと心配してましたよ(;´д⊂)

358 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/02(金) 09:01 [ 0QIKS4wQ ]
うげ、ageてしまった;;

359 名前: 1人の若者の物語 投稿日: 2004/04/02(金) 17:18 [ i74PY5zo ]
■□ 1人の若者の物語 □■
ウィンダスに1人のタルモンクがいた。
「今日もモンスター狩ってオレの名声を上げるぜー」
タルモンクのランクは2、駆け出し冒険者のようなものである。
彼はクリスタル戦争時に活躍した史実上では語られていない最強のタルモン
クとその妻の魔法使いの間に生まれた子であるが、本人も周りもその
事は知らない、なぜならこのタルモンクはある理由で親のいない子として育
ったのだ。
タルモンクがサルタバルタを歩いていると1人の魔法使いらしき女が話しか
けてきた、
「ザン!ザンーホーキス!!またモンスター狩りしてるの?あな
たも少しは魔法の勉強したらどうなの?」
魔法使いに向かってザンは身構える
「ゲッ!またラルルかよ、オレはモンクなの!だから勉強なんかよりも武術
の実践練習がしたいんだよ!」
呆れた表情を見せてラルルが答える
「あなた魔法使いの素質があるのよ?あなたの頭があれば一流魔法使いにだ
ってなれるのにどうしてモンクをやってるのよ?」
そうなのであるザンは昔から頭の回転が速く魔法学校のテストでも優秀な成
績だったのだ、しかしいつしか魔法学校には来なくなり町の外でモンスター
を倒したりミッションをこなしたりと、ほぼ冒険者のようになってしまって
いた。
「なんかさぁ勉強してると体がウズウズしてくるんだよなぁ・・・なんて言
うの?闘争本能?体動かしてないとイライラしてくるんだよなぁ」
ラルルは呆れきって何も言えない様子だ、そしてお手上げの様子で魔法学校
へと戻っていった。
「なんだかなぁ、魔法も好きではあるけどやっぱりモンスターをボコボコ殴
りたいって言う性分なんだよなぁ・・・」
気を取り直しサルタバルタを歩きモンスターを探すザン、その背後に気づか
れぬよう潜む影にまだザンは気づいていなかった・・・・・・

魔法学校でラルルは思っていた。
(最近あの獣人が好戦的になってるけど、ザンは大丈夫なのかなぁ)
まさに今彼がその獣人と対峙しようとしているとは・・・・・

ザンの前にその獣人が姿を現す、見た目はまるで鳥人間のような獣人、
「お前はヤグード!?何をしに出てきたんだお前!」
最近はヤグードも隠れて人を襲うようになっていた、ザンはまさにその標的
にされてしまったのだ。
「チクショウ!やるってんのか!?だったらこっちもやってやる!」
ザンがキャットバグナウをカチャっと両手に装着した、ザンにとってはこれ
が初めての獣人との戦いだ、経験の無い獣人との戦いにザンは生き残ること
ができるのか、今まさにザンのヤグードとの戦いが始まろうとしていた・・
                         もづく かなぁ

360 名前: 1人の若者の物語 投稿日: 2004/04/02(金) 17:34 [ i74PY5zo ]
■□ 1人の若者の物語 □■
ここはウィンダス、3人の博士が何やら話し合っている
「ですからぁ!あの子には魔法の道を進ませるべきですってよ!」
「でも本人の意思とか大事にすべきですよ」
「んもー!!五月蝿いですわね!わたくし怒りますわよ!!」
(もう怒ってるよ・・・)
そんな話し合いがかれこれずっと続いていた・・・・・・・・・・

一方サルタバルタではザンの戦いが始まろうとしていた、初めて戦うヤグ
ード族を前に震えるザン。
「落ち着けこれは武者震いだ、自分の力を試すチャンスなんだ!」
先手を放ったのはザンだった、右と左のパンチを放つ、しかし全てかわさ
れてしまう、次いでヤグードもパンチを放つ、物凄い速さで放たれた拳を
、ザンはかわすことができずモロに食らってしまった
「グゥ、イテェ!こんなに強いのかヤグードってのは!」
どう見てもザンがこのヤグードに勝つことは不可能だろう、しかし彼は逃
げずに戦い続けるだろう・・そういう性分だというのは誰が見てもわかる
。なんどやられても立ち上がり向かって行くザンに対しヤグードも何度も
殴りつける、これが繰り返されていくうちにザンの意識は遠のいていった
・・

361 名前: 1人の若者の物語 投稿日: 2004/04/02(金) 17:38 [ i74PY5zo ]
■□ 1人の若者の物語 □■
「・・ン?ザン!・・・なさい! ザン!起きなさい!!」
幻聴だろうか?それとも現実?聴いたことも無いような声で起こされようと
している自分がいる
「なんだよ、ウルサイなぁ!オレは今ヤグードを倒そうと・・・」
現実だろうか?イヤ、それは無い。事実視界に入っているのは自分に殴りか
かるヤグードだけである、ではいったいなんなのだろうか・・
「アンタ誰だよ、どうしてオレの名前知ってるんだ?ってか今それどころじ
ゃないんだよぉ」
「なんて子ですか!親に向かってアンタとは!思い出して、お父さんを」
「え・・?親?オレには親なんていない、、、、、!まてよ、これは、、、」
そう、これは現実でも幻聴でも無くザンの中にある記憶だ
「走馬灯?・・・いや違う!記憶の中に戦って勝つためのなにかがあるのか
もしれない・・」
ザンは母の声に導かれうっすらと父親の記憶を思い出してるのかもしれない
小さいころ父に教えてもらったなにかを思い出そうとしているのかもしれな
い・・・・・・・・
「ひ・・・・ゃく・・れ・つ・・・拳?」
ッハ!と意識が戻ったザンの目は輝きに満ちていた、そして気を集中し始め
た。
「うおぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!いくぜ!百烈拳!!!」
息つく間も無く放たれるザンのパンチ、それを浴びたヤグードは気づけばそ
の場に倒れていた。
「見たか!ってんだ・・・・・・・・」

次に見た景色はウィンダスにある1人暮らしの自分の家の天井だった、傍ら
には魔法使いのラルルの姿も見える。
「あ!気がついたのね、まったく無茶するわよね、本当信じられないわ、あ
なた自分が生きてるのをシャントット様に感謝するのね!」
「ゲェ!シャントット様がオレを助けてくれたの?こりゃ後が大変だなぁ」
ザンの顔が青く染まっていた。
「バカねぇ、命の恩人よ?・・・・とりあえず私は魔法学校の時間だから行
くわね」
なんだかんだ言ってもラルルはザンを心配してくれている、ザンもそのこと
は分かっていた
「ラルル!ありがとな!」

その夜ザンは3人の博士に呼び出されることになった。
なぜヤグードと戦ったりしたのか、なぜ無茶なことをするのか、などのお叱
りを受けるものだとばかり思っていたザンは驚くことになる、3人から言わ
れたのは「3日後にバスゥークに向かえ!」と言う全く予想もしていない言
葉だった・・・・・・・・・・・
    序章糸冬了        ■ もづく   かなぁ(´・ω・`)

362 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/02(金) 18:33 [ E2tgRlw6 ]
びーはっぴー

「ふんにゃかふんにゃか。」
メリファトの空に、ハルトのへんな歌が吸い込まれていく。
綺麗に揃った前髪が風で軽く揺れている。
「ハーさん、それいい歌だね。」
ハーさんこと、ハルトを肩車したタロウが楽しそうに笑っている。
今日も平和なヴァナデール。
「平和がなによりや。」
ギン、ガチン。
金属のぶつかり合う音。自然に出る音ではなかった。
「な、なんや!!」
辺りを見回す一同、なんと、道の近くのキャンプで、ヤグードと
ガルカが戦っていた。
「ケンカはだめーーー!」
「こらこらそこの奴ら、なに刃物ふりまわしとんねん!」
ぴょんとタロウの上から飛び降りたハルトとランボーが仲裁にはいる。
「ちょ、ちょっと二人とも!」
タロウが急いでおいかける。
「何ケンカしてんのー!だめでしょ!めっ!」
と、ハルト。
「ほんまやで自分ら、ケンカすんならこぶしでやれ、こぶしで。」
「ぼく位になると、全身が凶器のリーサルウェポンだけどね!」
ポカンとする、ガルカとヤグード。
そして、ガルカが口を開いた。
「あ、あの、でも相手は獣人ですし・・・その。」
「ぷきー!!ガルカのおじちゃんだって獣人・・・!」
ぼこっ。
ランボーのゲンコツが飛ぶ。
「あほ!ガルカみたいな化けモン、獣人なわけ・・・!」
ぺちん。
追いついたタロウがランボーの頭のてっぺんを手のひらで叩いた。
「どっちも失礼でしょ。全国のガルカさんにあやまりなさい。」
唖然としていたガルカとヤグード。
まともな人が出てきたので、ガルカが訊いてきた。

363 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/02(金) 18:34 [ E2tgRlw6 ]
「あ、あの、どちら様なんでしょうか?」
ヤグードも頷いていた。
「あ〜。俺達?話せば長くなりそうなんで省略。」
「いや、省略せんとおしえたろうや・・・。」
ごほん。
タロウが咳払いをして話し出した。
「ときにハルト君、ランボー君。」
いつもの呼び方がちがった。マジな雰囲気が漂う。
「君達はお互いに感化されてしまっているようだね。」
「か、感化?そんなことあらへんとおもうけどなぁ・・・。
 わい、あんなアホちゃうで・・・。」
「ぼくもあんなに訛ってないよ。」
ごっほん!
さっきよりも大きく咳払いをして話を進めた。
「獣人と俺達人間は、常に戦ってきた。ヤグードと僕らにも、
 違いはあれど、それなりの伝承ものこっている。」
「まあ、あるっちゃぁあるのぉ。」
タロウは少しトーンの下がった声で続けた。
「殺しあうのは普通なんだ。」
・・・・・・・・・・・・・・・。
沈黙が世界を支配したかのようだ。全てのものが音をなくした。
吟遊詩人だからだろうか、タロウの言葉は時を止める。
振り子を止めるみたいに。
それを打破したのはハルトだった。
「ちーがーうーーー!!!ぼくは、楽しくて、はひゃめちゃで、
 イベント盛りだくさんの冒険がしたいだけなの!!」
みんなが小さなハルトを見下ろした。
「殺しあうとか、伝承とか、ぼくには関係ないもん!!」
ハルトが大声で主張した。
「ぷっ。」
タロウが吹き出して笑った。
「あははは、そうだね。そのとうりだよ。今を生きているのは俺達だ。
 伝承も何もクソくらえ。俺も・・・・・俺も君達に感化されちゃったのかもね。」
「な、なんや感化感化って、なんか病原体感染みたいでいややなぁ。」
「おいちゃんのアホのウィルスうつるーだれかウィルナよろー。」
すぱーーーん!
ハリセンがハルトの後頭部をヒットした。
ついにランボーに新装備が実装された。



一団が去ったあと、残されたガルカとヤグード。
「あ、あの・・・。いきなりfu○k you(挑発)とか言っちゃってすいません・・・。」
「え、いやあ、わいもいきなり切りつけちゃって・・・その、すません。」
しばしの沈黙・・・・・・・。
「あの、これも何かの縁ですし。フレンド登録など・・・。」



俺の親友達は、何人も獣人に殺されている。俺を守ろうとして、大事な者達を
守ろうとして。だから、俺も何人もの獣人達を葬ってきた。声を狂気に満たして。
だけど、だからって理解する努力を止める理由には繋がらないんじゃないだろうか。
俺達も、彼らも、心をもっていた。戦う理由も持っていた。だから・・・だから、
もしも、お互いを認め会えたら、分かり会えなくても、
きっと平和くらいは訪れるんじゃないのかな。
そんなことを思いながら、タロウはハルトとランボーを見つめていた。
「ここにいい例があるしね。」
タロウは、にっこり微笑んだ。

つづ・・・く?

364 名前: 348 投稿日: 2004/04/02(金) 18:40 [ E2tgRlw6 ]
>>349さん、ありがとう!実践してみます!
これで一気にScrapperよめる・・・イヒヒ。

365 名前: びーはっぴー載せた人 投稿日: 2004/04/02(金) 18:58 [ E2tgRlw6 ]
びーはっぴーに間違いが!
タロウのせりふ
「獣人と俺達は、常に戦ってきた。ヤグードと『僕ら』にも、
違いはあれど伝承・・・・の、僕ら>俺達でしたーごめんなさーい。

366 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:57 [ E2tgRlw6 ]
えききゃべ

「さて、あっさりソロムグ着いたけど、ハーさん何したいの?」
ブブリムからここまで、本当にあっさり着いてしまった。
「え?えーと・・・魔王を倒して世界を闇から救い出したい!」
ハルトはザルだった。水を注いでも貯まらない。
知識を注いでも貯まらない。酒も・・・。
ばりーーーん。
ハルトの頭にヤグードドリンク、通称ヤグドリの空き瓶が見事にヒット。
「飲むなら、ボルドーよりゴルゴーニュれろ・・・うぃっく。」
ランボーさん出来上がり中。
クリティカルヒットでハルトのデカイ頭がちっちゃな体にめりこんでいる。
「ら、ラーさん、ちょっと飲みすぎだよぅ。」
「酔ってないれす。酔ってないれすよー。あたしゃー・・・うぃー。」

さかのぼる事数十分まえ。
メリファトにあるアウトポストに立ち寄ったときだった。
メリファトのあるコルシュシュ地方は、ただいまバストゥークが支配中。
「よう、姉ちゃん、お勤めごくろうさん。」
ヒュームのガードがタロウに話かけきた。
「やあ、そちらこそご苦労様。暖かくなってきたね。」
タロウはニッコリ微笑んでこたえた。
「そうだなー。三強国じゃ桜も咲いてるらしいからなー。」
「花見!」とハルト。
「酒!!」とランボー。
「げ!ヤグード!」とガード。
「ラーさん、でてきちゃだめだってー。」

・ かくかくしかじか。

話の分かるガードだった。
「なんだ、仲間だったのか。」
「脅かしてすまんのー。・・・に、しても桜、もう咲いとんのかぁ。」
「あー俺はこんな辺境にきてんのに、国のやつら花見してんだろうなああ!」
ガードが悔しそうだった。
「そんなことも、あろうかと。」
タロウが小さな鞄を取り出した。
「よいしょっと。」
その中から出したのは、ヤグドリ1ダースにゴザ、そしてご馳走の数々。
明らかに鞄の大きさを無視して入っていた。
「な、なんや、見た目以上に入る鞄なんやな・・・。桜でもでてきそうや。」
「さすがに桜はだせないけどね。」
タロウはニッコリと微笑んで、鞄の裏をみせた。
そこにはメイドフロムゴブリンの文字が・・・。
「最大まで大きくしたから。」
輝く笑顔で言った。
「まあまあ。硬いことは無しだ!花より食い気!パーッといこうや!」
ヒュームのガードはノリノリだった。職務怠慢ここに極まり。
「むしゃむしゃ」
静かだと思ったハルト。すでにご馳走をむさぼっていた。

367 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:59 [ E2tgRlw6 ]
話は戻る。
「おもいだしたあああ!」
倒れていたハルトが、ぴょこんと立ち上がった。
「ぼく、狩人になるの!」
どうも、強いショックによって、走馬灯でも見たのだろう。
グッジョブ、ラーさん。
「そうだったのか。ハーさんは狩人志望だったんだ。」
ハルトが微笑んで言った。
「それじゃ、トラの住処にいこう!」
「うぃー、もう1軒、もう1軒だけぇ〜。」
そして着いたソロムグのトラの住処。
そこにはひとつの人影があった。
「おや、あそこに誰かいるね。」
とタロウ。影の大きさからするとガルカか?
「あ!あああ!ここに来いって言ったおじちゃん!」
ひげをこしらえ、緑の帽子に緑の長弓。まさしくハルトを導いた本人だった。
「とりあえずなんだ、遅いぞ坊主!うはははは!」
なんと、ここまで辿り着くのを待っててくれた様だ。
「って、ダブルフェイスリザードじゃないか。」
タロウはそういって、ガルカに微笑んだ。
「おや、この娘さんは誰だったかの?」
「俺だよ。タロウ。相変わらずおバカだね。」
懐かしい仲間に会えて、嬉しいのだろう。いつもより笑顔が輝いていた。
ダブルフェイスの話によると、ハルクにトラの住処の話をした日、
よくよく考えてみれば、まだ子供のハルト一人では危険ではないかと思い、
すぐに追いかけたがなかなか見つからず、ここまで先に辿り着いてしまったらしい。
そりゃそうだった。ハルトはブブリムに寄り道していたのだから。
「なんにしてもよかったよかった。うはははは!
 そんじゃ早速オールドタイガー殺っちまうかー!」
「なんやー討ち入りかいのーうぃっく、上等じゃー・・・ぐー・・・Zzz。」
「殺しちゃだめでしょう!見殺しにしなくちゃ!・・・もー、なんで俺がツッコミ役・・・。」
ランボーついに脱落の様子。
「それじゃいってみるか。」
ガルカを先頭に、一同トラの住処へ突入。

368 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/02(金) 21:00 [ E2tgRlw6 ]
他のトラたちは、丁度狩りに出かけていたようで、おくには年老いたトラが一匹いた。
老衰しているようで、少しずつ、元気がなくなっていった。
「・・・もうすぐ、息を引き取るね。」
「面倒だな。俺の弓で撲殺しとくか!」
「弓は鈍器じゃなだろ!・・・・はあ、ラーさん復活してくれ。」
成れない仕事で顔から微笑みがきえている。
ばたん。
トラが倒れた。もうすぐ、息をひきとるだろう。
しかし、
「あああ!!!トラさん!!!」
ハルトが駆け寄る。

がああああ!!!!

トラの咆哮。弱っていても、彼は野生のトラだった。
「うう!」
その気迫に、飛ばされるハルト。
「ハーさん、危ないよ!」
タロウがハルトをキャッチした。
「でも・・・でも!!」
ハルトがタロウの手からぬけだして、また近づいていく。
ぶしゅっ!
ハルトの頬から血が吹き出した。トラの爪で引き裂かれたようだ。
「ぎゃ!」
「ハーさん!!」
助けに行こうとしたタロウを、ダブルフェイスが制止した。
「?!・・・ダブルフェイス?」
「まーなんだ。みてろ。」
ぐるるるる・・・!
トラが唸っている。
それでもハルトは手を伸ばした。
「大丈夫、大丈夫だから。これを飲んでトラさん。」
そういってポーションを取り出した。

がああああ!!!

トラの咆哮。
しかし、今度は絶えた。
「大丈夫だから!おねがい飲んで!しんじゃうよ!!!」
泣いていた。それでも進む。
ハルトは、爪の届く距離まできた。
しかし・・・・爪は飛んでこない。
トラの頭まできたハルトは、自分よりも大きなその口に、ポーションを流し込む。
ゴロゴロゴロ・・・。
トラはのどを鳴らして、頭を一生懸命上げて、ハルトの涙と引き裂かれた血のつたう
頬を、ぺロリとなめて・・・・。
どしゃ。頭が落ちた。
老いたトラは死んでしまった。
「な、なんで!なんで!!!ポーション上げたのに!!なんでーーー!!」
ハルトは、トラにしがみついて泣いていた。
「ハーさん・・・。」
タロウが、後ろからぎゅっと抱きしめた。
「寿命だったんだよ。ハーさん。仕方なかったんだ。」
ダブルフェイスはつぶやいた。誰にも聞こえないほどの小さなこえで。
「まあなんだ、世界には、おもしろいやつがいるもんだ。」

トラと心を通わせたハルト。獣使いとしての覚醒だった。
「ぐーー・・・・酔ってない。酔ってないれす・・・。Zzz」

つづく。

369 名前: えききゃべ人 投稿日: 2004/04/02(金) 21:05 [ E2tgRlw6 ]
絶えた>耐えた・・・。
誤字おおくてごめんなさーい。
いつか吊るのでご勘弁ください。

370 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/02(金) 23:23 [ smta4g2Y ]
ハルトとヤグードのランボー、タロウが出てくる物語のタイトルって何ですか?

「れっどじゃけっと」「らん、ぼーいず、らん」
「くりすぴーさんどめーぷる」「びーはっぴー」
「えききゃべ」
これって1話1話のタイトルで、総合タイトルは別にあるみたいで・・・すよね?

wikiには初期の名前欄にあった【カラス】で登録してみたんですが、何だか違う気がして・・・。
おしえてください、作者様!

371 名前: ハルトタルト 投稿日: 2004/04/03(土) 00:02 [ mYM4Cwn6 ]
ごめんなさい!かんがえてなかったです!!
誰かいい名前つけてください!えーん

372 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/03(土) 00:26 [ 7J1iXkU. ]
なんかタル戦士が終わったら、ヘタレが増えてきたな。
自分にも書けるハズ!と思って書いているのかもしれないけど
改行はでたらめだし、周りのことを表現してるのもすくないよね。
誰々は〜だった…で続く文章の多いことか…

373 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/03(土) 00:27 [ mYM4Cwn6 ]
>>370さま、わざわざ登録していただいてとてもうれしいです。
感謝の言葉もございません。感涙にひたっております。(マジ泣)

374 名前: 呪詛 投稿日: 2004/04/03(土) 05:39 [ JKl/tcm. ]
9.産土

バチバチと焚き火の薪の爆ぜる音。
紅蓮の火の粉が、生命ある羽虫のように空へ向けて飛んでは消える。
タルタル大使御一行がウィンダスから持ち出した、魔法植物の淡い萌葱色の光りがタロンギの剥き出しの地層を照らす。
複雑な峡谷の岩肌に、人の想像もつかぬ歳月の積み重ねがあることに、夜の帳が降りてから気付かされた。

赤と緑に照らされた岩肌に巨人のような人影が映し出される。
人間や獣人には許され、他の動物が扱う事を許されなかった炎や魔法の光によって投射された影は、
まるで舞踏を舞うかのように、ひるがえり、交わり、あるいは飛び上がる。

影法師をたどれば目に映る二つの影。
エルヴァーンのヴァレリオとミスラのユーリ。
示し合わされたかのように行なわれる華麗な舞踏は、刃を潰した剣で行なわれている模擬戦だった。
ビリィとべスは歩哨として、キャンプの外に出ているため、ユーリが一人抜け駆けする格好となっていた。

最初はハラハラとして見ていたドミツィアーナとタルタルたちであったが、
二人が互いの呼吸を読み合い、勝負がつきそうにないことを悟ると、各々自分たちの夜を過ごし始める。

20人ほどの大使の従者たちが焚き火の近くに腰を下ろし、歌を歌い始めた。
サンドリア生まれのドミナには聞きなれぬ、遠い異国ウィンダスの民謡だ。
歌い手がいたのだろう、一人の鼻歌はやがて伝播し、ほどなくキャンプを包み込む大合唱となった。
中には、陽気に踊りだすタルタルたちもいる。
眺めているだけであったドミナであったが、タルタルの一人に誘われる格好で、その輪の中に参加することになる。
なごやかな空気がキャンプを包んだ。

タルタルのウィンダス民謡のお礼に、ドミナは教会聖歌を独唱した。

峡谷の岸壁に反響し、聖堂のそれと同じように、彼女の歌はとても神聖なもののように思われた。

剣を交えていたエルヴァーンとミスラもどちらからともなく、その歌に気を奪われキャンプの方に向かって腰を下ろしていた。


夜半を回り、警護についているもの以外が寝入ってから、キャンプは急に慌しくなった。
歩哨として出ていたビリィとベスのうち、ビリィは戻らずベスは重傷を負いほうほうの体で帰ってきたのだ。
そのあまりに無残な姿に、ドミナは涙を流しながらケアルをかけた。
だが、助からぬ。
出血もひどく、何より四肢のうち右半身はすっかり欠損していた。
ドロドロと内臓の一部が溢れ、あらわになった乳房が痙攣のたび小刻みに揺れた。

「霊芝を、早く!!寝ている白魔道士を起こせ、モタモタするな」

大使付きの医者の檄が飛ぶ。

375 名前: 呪詛 投稿日: 2004/04/03(土) 05:39 [ JKl/tcm. ]
しかし、彼の講じた治療も虚しく、急激にミスラの少女の身体から力が抜けてゆくのが分った。
医療用コテージの前にできたタルタルの人垣を蹴飛ばすように、ユーリが割って入ってくる。

「バカか!?絶対安静だ!医療知識のないものは立ち入るな…って…」

ユーリの姿を見咎めた医者を押しのける。
その瞳は怒りと悲しみが入り混じり、深い光りが揺れていた。

「この子はもう助からぬ。我ら狩人の民アフィーユ。産土(うぶすな)の獅子と天涯の大鷹の御名のもと送り出す。」

そしてそれは報復の誓約を行なうことでもある。
この空が夜を迎えるのは、想像もつかぬほどの大きな鷹が翼を広げるからだという。
産土の獅子の毛から産まれたアフィーユ氏族は、そのとき大鷹についばまれ今生より遥か蒼穹に舞い上がる。

「ユーリ…気をつけて…」

ゴポゴポと血が喉を逆流する気味の悪い音に混じり、ベスのか弱い声がする。

「あいつは……まるで人間じゃ…な……気をつ…て、ユーリ……グラビ…に気をつけて…」

ユーリ、ユーリ、と最期には泣くような声で繰り返した後、彼女は絶命した。
(お前は勇敢な戦士だった)
ユーリは心の中でベスを讃え、そっと目を閉ざしてやる。
誇り高く勇敢であった戦士は、大鷹についばまれても飲み込まれることはない。
そればかりか虚空を彩る星として、部族を導く道しるべになるのだという。

「彼女はきっと…」

新しい星になって、私を導いてくれる。

376 名前: ホ??f 投稿日: 2004/04/03(土) 05:40 [ JKl/tcm. ]
10.三様

爆発音が寝静まっていたチョコボたちを混乱させた。

その爆発も一つや二つではない。

「敵襲!盗賊だ!!ゴブリンだぁー!!」

悲鳴のような声がキャンプのどこからか聞こえてくる。
応えてヴァレリオは、片手剣と盾にエルヴMショウスという軽装で飛び出す。
闇の中から翻る白刃を、紙一重でかわし切り伏せた。
唸り声とともにゴブリンらしき影が、どうっと倒れる。

「見張りは何をしている…」

ヴァレリオは小さく舌打ちをした。
何よりもまずは、彼の幼馴染の修道女を探さねばなるまい。
正直言ってタルタル大使の身の上など、彼にとってはどうでも良かった。
例え死体になったとしても、引きずってジュノまで行けばいい。
自分とドミナが存命ならば、それでもミッションクリアだろう、とまで考えていた。

再び、爆発。

逡巡している暇はない。
鎧を着たいところだが、その時間も無さそうだった。
ドミナをコテージ群の中から探し出し、二人分のチョコボを確保する。
それが最も重要な命題。
ヴァレリオは闇に溶け込むように駆け出した。



「ゴブリンだと!?」

ベスが言っていたのは、こいつらのことか?
爆音と敵襲を知らせる悲鳴を聞き、そう解釈したユーリは、剣と弓を抱え医療用のコテージから躍り出る。
キャンプの一角が真っ赤な炎に包まれ、焼け落ちようとしていた。
小さな爆発が何度か起こる。
そのたび、蜘蛛の子を散らすようにタルタルの小さな影が逃げ惑うのが見えた。

「ユーリさん、大使を…!!」

ミスラを追ってきたエルヴァーンの女が言う。

「大使はお前の男に任せた。私はベスとビリィの仇を討たねばならん。」

言うが早いか、彼女は燃え盛る炎にむかって走り出す。
まるで憐れな夏虫のように。
ドミナの静止の声が幾度か背中に投げかけられたようだ。
しかしユーリの憤怒が音速を超えていたためか、ミスラの躍動感溢れる脚部を絡め取ることはなかった。
結果、エルヴァーンがミスラを見送る形になる。
エルヴァーンの少女は、目を伏せ暫らく何事か考えていたようだが、やがて決心したかのように顔をあげると、
ユーリとはまた違った方向に足を向けた。

「大使は…私が守らないと…」

377 名前: 呪詛 投稿日: 2004/04/03(土) 05:41 [ JKl/tcm. ]
11.大使

いやぁ、いやぁ、と駄々をこねる子供のような声がした。
何事かと思い覗くと、そこにいたのはやはり子供であった。

「大使…アニーネネ?」

自信が無さそうに、白魔道士の少女はタルタルに問うた。
それもそうだろう。
一週間近くも行程を共にしているものの、移動時は特別な車両を使っていたし、食事も別。
名前と女性であるということは聞いてはいたが、その姿を見るのは今このときが始めてであった。
タルタルの少女はエルヴァーンに名を呼ばれ、ムッとした顔をして睨む。
睨まれて、気の弱いドミナはたじろいだ。

「くびながのくせに、あたちを呼び捨てとあ、どうゆーろーけんあの?」

物凄い舌足らずだ。
外交の重要な役職が、この子に務まるのだろうか?
他国の事ながら、ドミナはとてもとても心配になった。

「アニー様はお前に対し、釈明を求めておられる。尊称をつけよ、と」

御付きの者らしいミスラが、そう補足した。
翻訳といっても過言ではなかろう。
言われて、ようやく内容を理解できたドミナは、ふわりと一礼する。

「サンドリアより、あ、あなたをお守りするよう…言われて…います…アニーネネ大使…」

タルタルの視線から目をそらし、ドミナは小声で言った。
どうも、真っ直ぐ見つめられるという行為が苦手である。
その様子と釈明を聞いた大使は、「ふん」と鼻で笑うとふんぞり返るようにしてエルヴァーンに言う。

「そのここおいきあ、よち」

「え?え?…えと…」

「アニー様は、エルヴァーンの義侠心に感服しておられます。」

「あ、ああ…。ありがとう御座います。」

何だかよく分らないが、褒められたらしい。
先程とは違い、ニコニコしている。
…ものすごい気分屋だ…。

「アニー様、それは良いとしてお逃げください。ここは危険です。」

「あから、イヤじゃともーいておう。」

イヤ、という言葉だけは聞き取れた。これがドミナが先程耳にした声の正体だろう。
御付きのミスラとの押し問答。
舌足らずで、気分屋で、ワガママなタルタルの大使!

「ほかのものあ、たたあっておうのに、あたちたけにげうわけには、いかんのじゃ」

「アニー様…!!」

ジワリとミスラの瞳が涙に濡れる。
ドミナは聞き取ることができずに、置いていかれたような気分になった。

「アニー様は、責任者として部下を置いては行けぬ、と仰られたのだ。」
「この不肖ミスラのイズ、感服いたしました…大使アニーネネ様のためなら、この命…」

「捨てられます!!」

付いていけないが、どうやら二人とも悪い人間ではないようなので、
ドミナはそのまま二人を護衛することにした。
とりあえず。

378 名前: ガルカの中の人 投稿日: 2004/04/03(土) 05:52 [ JKl/tcm. ]
読みにくい科白を言う人だして、ごめんなさい。

379 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/03(土) 06:48 [ kqYO2wo2 ]
>>372
では貴方は、もっと良い物を書けるという事ですか…


という釣り台詞は置いといて、そんな事いってると誰も書かなくなるから
やめなさい。思いついたらとにかく書く。これで良いでしょ。
人の感性なんt(ry

そんな話題が前にあった気がします。

380 名前: 急増へたれ 投稿日: 2004/04/03(土) 11:19 [ mYM4Cwn6 ]
カラスの紋章を書いたのも、タル戦を読んで
ぼくもこんな面白い作品を書いてみたい!って思ったからでした。
思いつきで、初めて書いた物なのでやはり下手だと思います。
だから、>>372さんの様な意見は、じつは目から鱗。
思ったことを言ってもらえるのはとてもうれしかったです。
えききゃべの続きが出来たのですが、その意見を取り入れてすこし
改善させてから乗せたいと思います。
できたらまた意見を聞かせてくださいませ_(._.)_

381 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/03(土) 12:46 [ HwF6z5o6 ]
>>372
みたいなのはヌルー汁

382 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/03(土) 21:02 [ J/9QUByo ]
受け流しスキルは常時青字キープ汁。

タル戦作者の良いところは
内容とか文章能力以前に、まずそこだと思う。
ちゃんと最後まで書いてくれたしね。

というわけでガンガレ

383 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/03(土) 22:49 [ uCy/qW02 ]
なんもかんも受け流して終わりでは、いかんと思うんだが。

まあ今日は呪詛来てたんで満足

384 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/03(土) 23:02 [ ptorxOkc ]
レッドラム続き読みたいぞっと

385 名前: 初めての冒険 幕間 投稿日: 2004/04/04(日) 01:32 [ ak1K173c ]
初めての冒険 幕間 機船航路-マウラからセルビナへ-

今でも偶に船に乗ることがある。
そんな時は、このときのことを思い出す。
大した事件があったわけではないけれど。
海賊はでなかったし、「海の恐怖」と呼ばれている大タコも出なかった。
のんびりとした空気を漂わせて船はセルビナへ着いた。

それでも、強く印象に残っているのは、たぶん人の助けが有ったとはいえ、
行こうと決めた場所に近づいているという実感がもてたからだろう。
それまで、自分の足で歩いていた。
必死で前に進んでいた。
船に乗って、ゆっくりと景色が流れていくのを見て、やっとそこまでの道行き
のことを考えることが出来た。
そうして、「あぁ、やっと半分進めたんだ」と実感した。

流れていく景色。思い出すのは、それまでの道行きのこと。

誰かにずっと助けられていた。
サルタバルタでも、タロンギでも、ブブリムでも。

いつか、自分でも誰かを助けられるようになるかな。
助けられるぐらい、強くなりたいな。
そんなことを思っていた。

ぼぉーん。
時々汽笛を鳴らしながら、緩やかに景色が流れていく。

甲板でひなたぼっこをする人。
船倉で車座になり話をする人たち。
釣りをする人。
意味もなく走り回る人。

いろいろいる。

いい天気だ。

ゆったりとした時間。

緩やかに船は、セルビナの港へと滑り込んだ。
セルビナ・・・少女の名を持つ、白い港町。

386 名前: 初めての冒険 第7話 1/2 投稿日: 2004/04/04(日) 01:33 [ ak1K173c ]
初めての冒険 第7話 セルビナ〜年若い冒険者たちの街

一番最初の印象は白いってことだった。
次に思ったのはにぎやかだなってこと。

よくよく見ると、あまり歳を取った人はいないみたいだ。
自分と同じぐらいって人はさすがにいないみたいだけれど、
それでも、若い者だと3〜4つほどぐらいしか違わないのではないか?
という人がうじゃうじゃいる。

「おーい、白魔法使えるやついないか?」
「戦士さん、戦士さん募集中です!」

ホームポイントと呼ばれる、魔法の石の前や、門の前にたむろしている人々は
声を上げながら、仲間を捜しているようである。

「これは?」
シャムはあまりのにぎやかさに目を丸くして、となりに立つラセスにそう尋ね
た。
「セルビナは、若い冒険者たちが修練するときの基地として使うことが多いか
らな」
のんびりとラセスが答える。
マウラでおおよその準備は整えていたものの、不足があるとまずいので荷物の
点検をしているところだ。
「マウラも地理的には似たようなものだが、こちらはサンドリアとバストゥー
ク、二つの国につながっている。人が多くなるのも道理だろう」
人の接点となる場所ということだろうか。
「あと、こちらの方が見晴らしが良いから、修練しやすいというのも有るだろ
うな。ブブリムは物陰が多い。警戒しにくいってのが有るんだろう」
マウラは酷く寂れていた。
機船航路が物流の中心から外れてから何年たつのだろう。
同じような条件であるにもかかわらず、にぎやかさを失わない街の活気を
シャムは単純に凄いなと思った。
「ああやって、仲間を募って修練に行くんだ。
まぁ、有る程度ど熟練してくると気心のしれたメンツの方が良いから、
いつも同じ仲間で行くこと場合が多くなるんだが、同じ目的を持ったやつを
そこらから集めて行く場合も少なくはない。
ここの場合だとああやって集めて出かける事が多いな」
丁寧に説明をしてくれる。
同じ目的を持った仲間を集めるか・・・
そう思って見渡すとみんな志をいろいろ持っているのだろう。
きらきらと目が輝いている。
ラセスの支度をてつだいながら、ぼんやりとその風景を眺めていた。

387 名前: 初めての冒険 第7話 2/2 投稿日: 2004/04/04(日) 01:34 [ ak1K173c ]

ぼーっとしていたら、そばにいた人に声を掛けられた。
「な〜、おまえ魔道士だろ?」
年の頃はたぶんシャムより3つか4つほど上だろう。
かしゃかしゃと鎧がなっている。戦士だろうか。
シャムは冒険者ではないけれど、一応魔法学校に通っているので魔道士と
いえば言えるだろう。だから、
「いちおう」
と、答えた。
「白魔法つかえる?」
「いいえ」
「じゃぁ、黒魔か」
ふむふむと納得したように、頷く青年。
「よければ、俺らと一緒にパーティーくまねぇ?」
ラセスに気がついているのかいないのか。
まぁ、いかにも旅慣れたラセスといかにも旅慣れていないシャムが連れ立って
いるとは思っていなかったのだろう。
いきなりの誘いに目を丸くする。
まさか自分が勧誘されるなんて・・・ローブを着ていたからだろうか。
「ごめんなさい、これからサンドリアに行くんです」
ここは通過点で、目的地じゃない。だからそう言って断る。
怒るかな?と少し不安だったが、
「そっか、んじゃ、機会が有ればよろしくな」
納得したように頷いた青年は、そう告げると軽く手を振ってほかの人に声を
掛け始めた。

気軽に、同じ目的を持つものを探して仲間になる。
それは、長い長い人生の中の一瞬かもしれない。
けれど、そんな風に仲間を捜すやり方も有るってこと。
このときシャムは初めて知った。

388 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 01:41 [ ak1K173c ]
お久しぶりです。
忘れ去られているかもしれませんが、久々にupさせていただきます。

ようやくこのお話も折り返し点に突入できました。

少し離れている間にタルタル戦士も堂々の完結を迎えられてました。
新しいお話もたくさんUPされていてわくわくしながら続きを待っている状態です。

一読者として、たくさんの作者さん方にたくさんの/cherrを。
そして、素晴らしい物語を見事に完結させた「ガルカの昔話」の作者様、
「タルタル戦士は夢を見る」の作者様に心からの/saluteを。

389 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 21:34 [ RMAhjMl. ]
ごーいんぐゆあうぇい

「ふんにゃかふんにゃか。」
吟遊詩人のタロウ。彼女の詠う詩には、よくこのフレーズが出てきた。
たのしくて、波乱にみちてて、イベント盛りだくさんの悲しい詩。

「ふんにゃかふんにゃか。」
トラと死に分かれたあと、ずっと泣いたままのハルトの代わりに、
美しい声で、タロウが変な歌を奏でていた。
繊細なフルートのようなその声は、奏でるとたとえた方が相応しいと思う。
荒れた大地。崩れた幾つかの建物が点々とその存在を誇示している中、
彼らは西を目指して歩いていた。
ハルトの頬の傷は、タロウのケアル、癒しの魔法の効果で、
生々しい跡を残しただけだった。
しかし、心に追った傷は、まだ悲しいくらい鮮やかな赤い血を、今も垂れ流していた。
「な、なあ、何があったか知らんけど、元気だしやぁ。
 自分がそんなんじゃ、わいも張り合いのうてのうて・・・。」
ランボーが何とか励まそうとしていたが、
ハルトは依然とエンエン泣くだけだった。
「まあ、なんだ?時には落ち込むのも大切だぞー。うはははは!」

「ねえ、ハーさん。」
歌うのをやめて、タロウがハルトに話しかけた。
「死は平等なんだよ。俺にも、ハーさんにも、トラさんにも。
 それはいつか訪れるものだったんだ。」
無理に笑ったその顔は、まるで泣いているようにも見えた。
「これからジュノへ行こう。ここからも近いし。」
タロウはハルトに何時も通りに、ニッコリと微笑んでみせた。
はあ?と言う顔をしているランボーと違い、ダブルフェイスは
何かを知っているように頷いていた。
「ラーさんは行ったこと無いと思うけど。よいしょ。」
タロウがハルトを抱きかかえてから続けた。
「ジュノの上層にね、腕のいいチョコボの調教師がいるんだ。」
「調教師に会ってどうするん?乗鳥でもならわせるんか?」
タロウは首を横にふった。
「違う。彼は獣使いなんだよ。」
「それが何か関係しとんのか?」
酒に飲まれて爆睡していたランボーには気がつかなかったんだろう。
「ハーさんには、その素質がある。」
ニッコリと微笑んで言った。
その時だ、どこからか悲鳴が上がった。

390 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 21:35 [ RMAhjMl. ]
ぎゃあああああああ!!!

断末魔だった。
ランボーが先頭に、その場所へ着いた一同は、冒険者の一行と
地面に倒れたヤグードの一団をみつけた。

すでに日は落ちて、辺りは夕暮れの闇に覆われていた。
ヤグードたちのキャンプなのだろうか。
火を囲んで、彼らの荷物が無造作に置いてあった。
焚き木の炎は、その触手を伸ばし闇を侵食している。

冒険者は、死んだヤグードたちの荷物から金品や装備を盗っている。
「己ら、なに、しとんじゃ・・・ごるぁああああ!!!」
「だめだ!」
タロウの制止を押しのけ、ランボーは冒険者達に襲い掛かった。
「ちぃ!まだいたの?!」
冒険者の一人が剣を抜き、遅い来るヤグードに一閃をくらわす。
ぶしゅっ。
ヤグードの頭部から鮮血が上がった。
左目が、縦に切り裂かれていた。
しかし浅かった。
「仲間の痛みにくらべたら、このくらいどうって事ないんじゃああ!!!!」
びゅうっ。っと、突風の吹いた様な音が鳴った。
そして、一拍おいて剣を持ったエルヴァーンの腹部から血しぶきが上がった。
崩れ落ちるエルヴァーン。血をあびるランボー。
「ミラ!!よくも、よくもおおお!!」
残った5人の冒険者達が、戦闘態勢に移った。

そのとき、
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」
「おのれらかああ!ワシらの仲間の命(タマ)とってくれたんわあああ!!」
10人ほどのヤグードたちが現れた。
逃げ延びたヤグードが、援軍をよんできたのだろう。
しかし、冒険者たちは逃げなかった。
仲間の死。それは許せないことだったのだろう。どちらにとっても。
「ダブルフェイス・・・どうしよう。どうしよう。」
いつも冷静なタロウが泣いてダブルフェイスの服を手でひっぱっていた。
「もちつけ!全員を眠らせるんだ!」
タロウの手をつかみ、曳きつけて怒鳴った。
拍子に、ハルトがタロウの腕から転げ落ちた。
ゴツゴツとした地面に寄りかかって、ハルトはまだ泣いている。
タロウは首を横に振っていった。
「だめだよ・・人と獣人を眠らせる詩はちがうんだ。片方眠れば、
 もう片方がそっちを殺してしまうよぉ!」
「だったら、なんでヤグードを眠らせない・・・。」
そして、ダブルフェイスは弓を構え、弦を引いた。
びゅっ
矢が放たれた。矢道は完璧な直線をえがいて飛んだ。
まるで、正常な世界と異常な世界を分けるかのように。
「いだあああ!!!だれや!わいの尻を射ったやつうう!でてこいや!!」
すでに戦闘が始まっていた。

391 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 21:38 [ RMAhjMl. ]
世界は平等だ。善も、悪も、等しく存在する。どんな正義だって、
どんな悪だって、等しく死は訪れる。
世界は平等だ。全てを覆う優しさがあるように、
全てを凍てつく狂気だってある。
なにが正しいのか。善だけの世界ではない。
間違っていると思うことも僕らに手を振ってやってくる。
世界は優しくなかった。

16人が入り混じっての乱戦。いたるところで血しぶきが上がった。
すでに涙は枯れ、ぼんやりとそれを見つめていたハルトが立ち上がった。
近くにあった大きな棒切れを拾い上げた。
「戦わなくちゃ・・・。」
守れるのは片方だけだった。ハルトは選ばなくてはならない。
無限にある選択肢の一つを。
「ハーさん!だめだ・・・あぶないだろ!」
「やあああああ!!!」
ハルトは狂気の雲の中にむかって走っていった。
助走をつけて飛翔する。
棒切れを振りかぶり、ヤグードへ振り下ろされた。
ぼかっ
「あいたああああ!何すんねん自分!」
左目が割れていた・・・ランボーだった。
ちなみに、お尻には矢がささっていた。
「いくらヤグードやからって、自分、わいを殴ることないやろおお!
 わいは友達ちゃうんかー!見分けくらいつけろおお!」
「てへ☆」
まったく反省していないようだ。

世界は平等だった。無限にある可能性のなかから、未来を選んでいける。
ハルトが選んだ未来は、それだった。ランボーを殴ること。

392 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 21:38 [ RMAhjMl. ]
結局、冒険者達が逃げた。乱戦のなか、2人が死んで勝てないと踏んだのだろう。
ヤグードたちは彼らを追っていった。
残されたのは、3人の死体と、敵対するランボーと1人の冒険者。
うな垂れて泣く、1人の吟遊詩人。血まみれで、放心しているタルタルが1人。
「なんや・・・己らも人間やったんやな。」
矢ヤグードが、悲しそうに言った。お尻の矢がぴこぴこ揺れた。
「お前が獣人だったんだ。」
ダブルフェイス、Wとは、ヴァナデールの言葉でスマイル。
『笑う顔のトカゲ。』
怒りに満ちたその顔は、なぜか笑って見えた。引きつった口からみえる
ぎざぎざの歯は、とても凶暴だった。

世界は平等だった。幸せな事が起きるのと同じ様に、
絶望的なことも普通におこる。許せないような不条理は存在してしまう。

憤怒を放つ弓を、その冒険者は構えた。
漆黒の闇のなか、希望になれなかった焚き木の光が二人を照らし出す。
「報いだ。」
矢が放たれた。ただ、弦を弾くだけの行為。そこにはいろいろな意味が映し出されていた。
ランボーは、恐ろしいスピードで襲い来る矢を見切っていた。
放たれる瞬間から、矢はその筋は変えることがない。
距離のリーチは、矢をリロードするリスクでかき消される。
矢を避け、一瞬で距離をつめ、ランボーの一撃が彼を葬るはずだった。
しかし・・・。
「あぶなああああい!」
ハルトがランボーに飛びついた。
かばうように。


ぐさ。
その背中には、ハルトの身長よりも長い矢がささった。
「ハーさあああん!ハーさん!ハーさん!ハーさん!」
叫びながら、タロウが走り寄った。
「ハ、ハルト?そ、そんな反射神経あったん、やな。」
どさっ、力の抜けたハルトの身体が地面に落ちた。
血が溜まりをつくり、細い線となって荒廃した地に生命の河を作った。
手には、血に塗られたランボーの羽が握られていた。
ハルトが選んだ未来。

世界は不平等だ。なんでこんな優しい人達が傷つけあわなければ成らないんだろう。
世界は平等だ。存在するのは幸せだけじゃないんだから。
世界は優しくなかった。

ここで、タロウの詩はおわる。

「ハーさん、今ではすっかり元気だよ。」
詠い終わるとタロウは、あなたに微笑んでささやいた。

物語はつづく。

お・し・ま・い!

393 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 21:44 [ RMAhjMl. ]
なんとなく題名考えてみました。

らいどおんでぃすぺらーと、なんてどうでしょ?

394 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 21:48 [ hit8AUXI ]
ダブルフェイス・レッドラム  第8話「竜無き竜騎士」

― 南グスタベルグ ―

遥か彼方にバストゥークの船のような形をした大工房が見える。
「バストゥーク…あれか」
エルヴァーンの青年が一人、バストゥークの荒野を歩いている。
銀色の美しく長い髪をなびかせるその男の足取りは重い。
「ああ…こんなところまで来てしまった…」
この疲れ果てた男、名をテルセウスという。長い旅路により、マントはぼろぼろと
なっており、身に着けている鎧は手入れが行き届いておらず、土埃で茶色くなっていた。
しかし、彼の背にある槍だけはまるで新品同様の輝きを放っていた。
と、いうよりは、まるで新品そのものかもしれない。

…彼はサンドリアの騎士である。だが、彼は王立騎士団・神殿騎士団のどちらにも属さない。
肩書き上は騎士ではあるが、冒険者と同じく世界を放浪している。
旅の目的は”失われし竜の卵”
竜殺し…ドラゴンスレイヤーの手により、世界中の竜の生存数は激減した。
彼等は本来、悪しき竜を滅ぼす為の存在であるが、やがて全ての竜を執拗に
殺し続ける存在となり、また戦争によって多くの竜騎士達の竜も悪しき刻印が発現
しだした事もあり、今に至る。
現在は北の地にて、悪しき刻印を持った竜がわずかに確認されるのみである。
テルセウスは幼き頃、騎士であった父に連れられてドラキーユ城で子竜を従えた
竜騎士の絵を見た。いつか、自分も竜を従え戦おう、それが幼き頃の夢だった。
…が、現実彼が成人した頃、竜の個体数はほぼゼロと言わんばかりに激減している。
冒険者が子竜を従えていた、という噂も耳にしたが真意の程は定かではない。
父の猛反対を押し切り家を飛び出した彼は、そんなわけでここバストゥークへと辿り着いたのである。

395 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 21:48 [ hit8AUXI ]
「お姉ちゃん、そっちいったよ!」
「え、ええ?どっち!?」
バストゥークのゲートのすぐ側、そこにミズハとアトトの姿がある。
二人は必死に地面を見つめている。よくよく見ると二人の周囲の地面は
ところどころ大きな穴が開いていた。それは冒険者達にミミズと呼ばれている魔物が
移動した跡である。
ミズハは、精神を集中し、足元から感じられるミミズの動きを感じ取る。
ずずずっと大地が震える。
(…後ろ!)
ミミズが地面へ飛び出すのとミズハが剣を振り下ろすタイミングは同時だった。
茶色まじりの白濁した体液が飛び散り、ミミズは苦しそうに悶えている。
(や…何これ…気持ち悪い…!)
「魔法使うよ!」
悶えるミミズに向かってはじける無数の岩石。アトトの精霊魔法ストーンが発動した。
それが止めとなり、ミミズは絶命した。
「すごい、お姉ちゃん、やったね!」
嬉しそうに喜ぶアトト。だが、ミズハの表情は真っ青である。
「…?…どしたの?」
「え…えっと…アズマさんが言うにはね、このミミズのお腹を裂いて中から石を…
 それでね、それがお金になるんだって」
それを聞いたアトトも、真っ青な顔になった。
「こ、これ。おさかなみたいに…するの?」
「う、うん…ヨルさんも言ってたの。命を奪ったんだから、ちゃんと無駄にしないように…」
「でもこれ気持ち悪いよ…できる?」
二人が死体の前でオロオロしていると、一人のエルヴァーンの男がそこを通りかかった。
「どうかしましたか?」
いきなり声を掛けられ、少々驚いた二人だが、まさに救いの神とはこの事。
「あ、あの!…その…このミミズなんですけど…」

396 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 21:49 [ hit8AUXI ]
…いきなりヒュームとタルタルの二人組みの女にミミズの腹を割いて欲しい、と
頼まれたのには驚いたが、女性の頼みを断るのは騎士として失格だ。
「そうですね…僕も最初の頃はこういうの慣れませんでしたよ」
「すいません、こういう気持ち悪い生き物って苦手なんです」
こんなもの、まだまだ可愛い方かもしれない、とテルセウスは思う。
普通に歩いている分には、襲い掛かってこないからだ。獣人や死霊に比べれば
少々見た目が気持ち悪いだけであり、何ら問題はない。
「ナイフ貸してもらえますか?」
「あ、はい、お願いします」
ミズハは鞄からナイフを取り出し、男に手渡した、その時お互いの手が触れる。
「あ…」
「あ、す、すいません」
何故だか顔が赤くなるミズハ。アトトはそんな姉を見て不思議そうにしている。
手際よくミミズを裂くと中から亜鉛鉱が出てきた。そのままではねっとりとして
気持ち悪いので、マントの端で拭き取ってから手渡した。
「ありがとうございます!…あ、私ミズハって言います。こっちは妹のアトトです。
 …えっと…もしよければあなたのお名前を教えて貰えませんか?」
「いえ…これくらいの事、朝飯前ですよ。それに僕は名乗るほどの者ではありません。
 では急いでいるのでこれにて…」
「あ…」

397 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 21:51 [ hit8AUXI ]
そそくさとテルセウスはバストゥークへのゲートへと向かっていった。
長旅で疲れているのもあったし、こんな所で冒険者と見知りあうと色々と面倒だと考えたのである。

そして、それもあるのだが何より…

(うわぁ…き、気持ち悪かった…)

足と手の震えが止まらない。何度吐き気を堪えた事か。
そう、彼はとてもとても臆病なのである。彼の所持している槍が新品なのは
今まで一度として実戦で使った事がないからだ。
襲い掛かってくる獣人からはひたすら逃げ走り、ここまで単独で来れたのは奇跡ともいえよう。
…彼の名はテルセウス。いつか出会う、相棒を探し求め旅をする”竜騎士”である。


一方、残された二人は…

「お姉ちゃん、どうしたの?」

ぼけーっとして、動かない姉をつんつんとアトトがつつく。が、全く反応が無い。

「…素敵な方…」

「…お姉ちゃん?…お姉ちゃ〜ん?」

                                    続く

398 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/04(日) 22:20 [ SM6JA7iQ ]
>>383
うむ。
剣で受け流し、盾で防ぎ、かわすだけではいかん。
ましてやカウンターなどもいらない。
きっちりスキルが0.5アップ! などしてなんぼであると思う。

というわけでみんながんばれ。

あと書くなら完結させれ。

399 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/05(月) 06:18 [ wEXCIoiI ]
>>398
確かに…。もう細い兄弟のように待ちつづけるのは勘弁してくれ。
自己満足でも、レス無くとも誰かが読みたいと思っているはずと信じ
完結させてくれ…。続きが気になるしな。

400 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/05(月) 08:26 [ ENQSNJTk ]
ミズハはアルとじゃねえのかほfsdじdfじゃそいdfsじあおdsf

401 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/05(月) 11:08 [ vfezsd.. ]
レッドラムの作者さんおつかれ〜
毎回楽しみにしてます〜

402 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/05(月) 13:40 [ KprvVZL6 ]
>>388
初めての冒険毎回楽しみにしています。
ホンワカした感じがとてもとても好きです!
続きも楽しみにしていますのでまったりと頑張って下され!

403 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/05(月) 15:42 [ 6GZ7E3x. ]
ミズハは、一目ぼれスキル持ちと見た( ̄ー☆キラリーン

404 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/05(月) 17:00 [ GXex0mGI ]
ミズハと言われると某ロボゲーの超乳揺れの子を思い出す

405 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/05(月) 17:49 [ 2./p4D4. ]
クs・・(ry

半年振りぐらいにこのスレ発見!
さてタル戦でも見てくるかね

406 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 02:00 [ RAyqlCZM ]
ダブルフェイス・レッドラム  第9話「黒の風車」

― ジュノ下層・詩人酒場 ―

冒険者達はそこを”詩人酒場”と呼ぶ。誰がそう言い出したのかは分からない。
ただ、そこはその名の通り詩人達が集う酒場である。
そして、その歌を目当てに酒を飲む冒険者達で溢れていた。
中には賭博を行い非難を浴びている冒険者もいるが、それも目玉といえば目玉である。
そんな酒場の隅、少し離れた照明の薄暗い丸いテーブルに4人の冒険者が座っていた。
ヒュームの男、エルヴァーンの男、ミスラ、そしてタルタル。
「レッドラムの居所は…分かったのか?」
ヒュームの男がグラスを片手にミスラを見つめる。
「ん〜さっぱり。バストゥーク付近にはいると思うんだけどねぇ」
「ちゃんと探したのか?さぼってたんじゃないだろな?」
タルタルが一気に酒を飲み干し、ミスラに詰め寄る。相当酒が回っているようだ。
「ふん!あんたみたく女の尻追っかけ回してるわけじゃないさ!」
「んだとコラ!」
タルタルがテーブルの上に乗り出した。
「うるさいな…静かにしろ」
がちゃり、とエルヴァーンの男が二人に向かって銃を突きつける。
「…やめないか」
ヒュームの男が静かに言うと、三人は大人しくなった。どうやらこの男が
リーダー格のようだ。
「それにしてもソウマ。レッドラムなんか探してどうすんのさ?今更呼び戻すのかい?」
ミスラが不機嫌そうにソウマと呼ばれたヒュームの男を問いただす。
「始末するんだろ?…あいつは情報を知りすぎてるからな」
ばーん、と銃を撃つ仕草をしながら、エルヴァーンの男は笑っている。
「ああ…それは勿論だよ。だけど、気になる事がある。
 …お前達も思ってるはずだ。ボスを殺したアイツが…
 僕はまだアイツが何処かに生きてるんじゃないかと思っている」
「…」
一同、沈黙する。ソウマは胸元から黒色の貝殻を取り出し、じっと見つめた。

407 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 02:00 [ RAyqlCZM ]
それはリンクシェルと呼ばれる魔法の貝だった。どうやらここに集まる者たちは
皆同じシェルのメンバーなのだろう。
「今は僕がこの”黒の風車”のボスだ。僕の命令には従ってもらう。
 レッドラムにしてもそうだが…あの男の死を確認するまで僕らは迂闊な動きができない。
 …彼女はあの場に居た。そして二人は”刺し違えた”と言った。
 だが、僕にはそうは思えないんだ。どこかで奴は生きてるんじゃないかってね」
「あだ討ち…ってやつかよ?…お前らしくねぇな。よかったんじゃね?
 前のボスが死んでお前がトップになれたんだからよ」
尚も酒を飲み干すタルタルを見てソウマは笑った。
「はは、まぁ正直その通りだよ。でもね、ケジメはつけなくちゃいけないんだ。
 それに不穏因子を残したままだと組織からの信頼が薄れる。そうすれば依頼も減るだろう」
「確かに…その通りだねぇ。最近、あたしの所にも依頼があんまり来なくってさ」
ミスラが不機嫌そうに尻尾を手入れしている。
「ま、ソウマの言うとおりだな。どっちにせよ、あの女は俺も気に入らん。
 全部吐かせて…その後始末すればいいんだろう」
エルヴァーンはそういいながら、ゆっくりと立ち上がった。
「何処へいく?」
「…俺はバストゥークへ向かう」
「いってら〜」
ドロドロに酔っ払ったタルタルが手を振る。それを見たミスラも立ち上がる。
「眠い…あたしゃ寝るよ。肌に悪いからね」
「それじゃあ…今日はここで解散だ」
ソウマも立ち上がり、カウンターに勘定を支払いに向かう。
3人は全くの他人のように、それぞれが別々の方向へと去っていった。
…一人テーブルの上で寝ているタルタルを除いて。
「もぅ!ジンクランク!またこんな所で寝て!」
店員だろう。同じくタルタルの女がテーブルの上にぴょいっと飛び乗り、
タルタル―ジックラックの体にコップ一杯の水をかけた。
「ああ〜ん、きもちぃ〜」
「ダメだ…この馬鹿タル…」
呆れた店員のタルタルはジックラックに毛布をかけてやった。

408 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 02:01 [ RAyqlCZM ]
― バストゥーク・モグハウス ―

「セルビナ?」
「おう、セルビナだ!」
昼間、読書をしているヨルの元に飛び込んできたアズマは開口一番、
セルビナへ行こうと言い出した。
「ほら、アトトをウィンダスへ連れてくってミズハも言ってたし、俺も
 行って見たいんだよね〜」
アズマの片手には「観光ウィンダス・4日間の旅」という怪しげなパンフレットが
握られていた。
「それは…そうだね」
ヨルは少し乗り気では無さそうだ。
「ミズハもアトトも頑張って結構強くなってるし、俺もそろそろ他の国を
 回ってみたくってさ」
目をキラキラと輝かせているアズマを見て、ヨルはこれはもう、あきらめるしかない、と
思った。アトトをウィンダスへ連れて行くのは将来的な目標でもあるし、
そろそろアズマも長旅を経験する頃である。

「…それで、二人には話したのかい?色々準備もあると思うし」
「へっへ〜ん、その点はご心配なく!お前ら!OKでたぜ!」
ドアが開く、そこには大きな鞄を背負った女二人組みの姿が。
「ありがとう!アズマお兄ちゃん!」
「よかったね〜アトト!ウィンダスへ帰れるよ!」
「皆…最初からもう行く気満々なんだね…」

409 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 02:02 [ RAyqlCZM ]
…と、いうわけで三人はいよいよバストゥークを離れる事になった。彼らの前途は多難である。

そして、もう一人…

(やっぱり…ここでも駄目か…)
とぼとぼと商業区を歩く男。旅を続ける竜騎士テルセウスである。
結局、バストゥークでは情報を一切得る事ができなかった。
(ウィンダスか…そういえばあそこには竜の骨があるって聞いたな…何か関係が…
 はぁ…次はウィンダスか…大丈夫かなぁ)
重い足取りで彼もウィンダスを目指す事となった。



彼は冒険者があまり好きではない。と、いうのも過去に関わり多くのトラブルに
巻き込まれたからである。が、残念ながらこの後、彼はアズマ達と合流する羽目になり、
より大きなトラブルに巻き込まれるのだが…それはまだ少し先の話である。

     
                                      続く

410 名前: 405 投稿日: 2004/04/06(火) 06:06 [ 63SPbxLk ]
・・・読んじゃった
1から最終話まで。
えらく時間掛かったがなんか、まじ泣きそう
小説読んで泣くの初めてだよワンワン
俺もなんか書くかねぇ・・・シレッチを覚えてる人がいるとは思えんが

411 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 08:15 [ XIY6ho8E ]
>>410
>シレッチを覚えてる人がいるとは思えんが
それもまたこっそり新作待ちつづけてる訳だが(´ー`)

412 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 16:02 [ tisdQe4w ]
テルセウス頑張れ。超頑張れ。

413 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 21:05 [ ubXbn/ro ]
>>410
シレッチの作者様? ならばぜひ新作を・・・。
>>406、409
がんばれー、奮え!奮え!作者さま

414 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 21:27 [ B6XOnJf2 ]
竜騎士って悲運が似合うよな。

415 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/04/06(火) 21:39 [ eWHT5F.2 ]
白き〜40話追加しました、よろしければ読んでくださいませ。

ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

レッドラムおもしれぇ! タル戦終わって余韻に浸ってたら面白くて嬉しい悲鳴。
続きー続きキボーン(・∀・)
呪詛は相変わらず上手くて溜息が出ますわぁ…もう鳥肌立ちます。
新しい物語も、Wikiでまとめ読みしております!みんな頑張れっ!

416 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:49 [ qg74qVwk ]
ネガティブマーチ

冒険者は勇敢なのです。危険を顧みず、その渦へと自らを投げ入れるのです。
って、ただオツムの足りないだけのお馬鹿さんじゃない。
危険だって分からないだけでしょ。
ハッ。
って笑って、私はまた世界に蓋をする。

どんより曇り空。いつもより機嫌も悪い。
いつもだったら今頃は学校。だけど今日はそんな気分じゃない。
なにもかもが最悪だった。最悪ってしってる?
それ以上ないくらい悪いの。
一時間くらい、家のトイレにこもってみた。
家族もみんな困るでしょ?トイレ空いてないんだし。

だれも困るわけないのに。

私が住んでるのはジュノ。大都会。
とっても華やかな世界。
誰もが憧れて上京して、骨になってお帰りになられる場所でございます。
私の両親もその一人だった。
勝手に子供の作って残してしんじゃった最悪な人たち。
最悪ってしってる?わたしの大嫌いな言葉。

417 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:50 [ qg74qVwk ]
  橙色の背中

トイレに篭るのも飽きてきたから、一人で住んでいる冒険者用の
もぐハウスから外に出てみる。
だからってやることもないんだけどね。場所が広いか狭いかってだけで、
トイレの中も移住区の廊下も、それほどたいした違いはなかった。

たまにある欝な気分。理由は何となく分かってる。
昨日も言われたことだった。クラスメートの女の子、私より小さいエルヴァーンがいった。
「ナナのお父さんとお母さんて何してる人?」
高学年にもなって、パパママ言ってるなんて信じられる?
ごめんあそばせ、わたくしもう親離れしてますの。

あたしに両親はいない。いなければ私は生まれない?
なんで両親が居なくちゃ生まれないの?子供はどこからくるの?
適当なこといってたら、いつの間にかその子は泣いてた。
気づかないうちに怒鳴ってたみたい。
べつに両親のことを聞かれたからって機嫌が悪いわけじゃない。
両親のことでムキになってる私がいる。
やつらの影にしがみつこうとしている私を、私は何よりも嫌いだった。

「てめーなに休んでんだよ。」
移住区の廊下の窓に頬杖ついて、遠くに見えるミンダルシア大陸を眺めていたとき、
後ろから声が聞こえた。よーく知ってるやつ。最悪なやつ。モーセってやつ。
なんで居るの?学校はまだ終わる時間じゃなかった。
「話かけないでよ。変な噂たったら嫌なんだけど。」
振り向いて睨み付けながら言ってやった。あたし、ガルカ大嫌いなの。
それに、クラスのガキは、こういうのを見ると、すぐに好きとか付き合ってるとか
そういう方に噂したがる。最悪。
「ばーか、俺だっていやだっつうの。」
・・・なんとなくむかつかない?だから嫌い。
とりあえず逃げてみた。そいつの顔を見ないようにしてワザとそっちに向かって歩いた。
そのまま無視して通り過ぎてく。ごきげんよう。

いつもなら、そのまま家に帰ってふて寝するはず・・・だった。
「まてよ。」
両手をパーカーのポケットにつっこんで歩いて行こうとした私の左手を、
モーセが無理やりつかんだ。
「きゃ!」
不覚にも声をあげてしまった。なんとなく恥ずかしい。
だから怒鳴ってやった。
「なにすんの!変態!」
ばしっ!
そんなつもりなかったんだけど、思った以上に興奮しちゃってたみたい。
その子の左頬を、ひっぱたいてた。自業自得って言葉しってる?モーセさん。
「ってーな!ぶす!」
「うるさい!怪物!」
最悪。こんなバカと言い争ってる。そうおもったら、なんか恥ずかしくなってくる。
下を向いて顔が赤くなってるのを隠した。涙もちょっとでちゃってるし。
無言の圧力。なんか変な雰囲気。目の前のバカも黙ってる。
「ば、ばーかばーかばーーーか!」
なんだか居心地わるかったから、そんなこと言いながら走って逃げてきた。
家が反対方向なんて考えてる余裕もない。

418 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:51 [ qg74qVwk ]
息切れしながらその場にペタンて座って休んでる。
これでも私、足が速かったりするわけで、本気で走ればあんなガルカじゃ
追いつけなかった。すごいでしょ。
着いた場所はジュノ上層。あんまり好きな場所じゃなかった。

最悪。今日は本当に最悪だった。最悪の螺旋階段がどんどん下に続いていく。
このまま今日が続いたら、どこまで最悪は堕ちていくのでしょう?
海の潮風でさび付いた機械が、野ざらしにされている上層。
ぜんぜん煌びやかじゃない。ぜんぜん寂れている。
なんだか、私みたいに。
私は私が嫌いなのかもしれない。
だって、嫌いな物は全部私に似ている。
何時もはこんなに考えないのに・・・憂鬱な日。

何時間たったかな。すでに西の空に太陽が沈もうとしている。
曇り空は晴れて、夕日が空を赤くそめていた。
私は何時間もM&Cマートの横の縁に、足を乗り出して座って海をながめている。
足をぶらぶらさせて眺める海は何時も何か欠けていた。だから大好きだった。


「てめーもう逃げんなよ。」
はぁってため息。振り向くつもりは無し。スタッってたって、ぱっぱって
埃をはらって、顔を見ないようにさようなら。一瞥もしない。
「俺、あしたバストゥークに引っ越すんだ。」
私は立ち止まった。って、別に関係ないし。
「別に関係ないし。」
声にしていた。
「関係ないけどさ。あのさ、これ欲しがってたろ。」
振り向いてしまった。別に物に釣られたわけじゃないから。絶対に。
モーセの手の中には、ウィンダスの古い通貨があった。貝で出来ていてすごく綺麗なやつ。
なぜかこいつがもってて、学校に持ってきたときにいいなって呟いちゃったような。
「いらない・・・。」
って言ったら、私の手に無理やり握らせて逃げてった。
「じゃあまたな!」
とか、言ってた。その背中は、夕日に当てられて橙色に染まっていた。

べつに、ガルカとか好きじゃないし・・・。とか、甘酸っぱい世界が一変する日。
 
今日は私が堕ちてく日。最悪はどんどん加速していた。
家にかえると、そこは絶望の巣窟と化していた。
たった一通の手紙によって。

                          ツズク

419 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 00:59 [ F2ZyVQXQ ]
レッドラムおもしろいですー。ところで、ソウマってタル戦のソウマ君ぽいですよね。
何気にリンクしてると楽しそうですね^^ 今後も期待しております^^

420 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 04:48 [ 7v8q5.xc ]
>>415
よりによって骨かよw
俺なら裸足で逃げ出しちゃうよw

421 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 16:02 [ Io3uHF42 ]
ネガティブマーチ

はたして、オレは生きて居ると言えるのか。
むかつく奴らは全員殺した。
むかついてもいない奴らだって、何人も殺した。
殺すことに目的は無い。
その行為こそ目的だった。

オレの声は届いているか。


 暗黒を纏いし剣

激しい雨の降りつけるラテーヌ平原にオレは居た。
「とまれ、狗め。」
オレを呼び止める声。しかし、その呼び方はいただけない。
オレの殺気を逆なでするだけだ。
「狗?おれは尻尾なんてふらねえぞ。ばかやろう。」
背中に背負う巨大な剣。
幾度も血を啜り、暗黒を纏いし剣は、青黒く煌く。
「ヒューム無勢が粋がるな。黒きレイブン。」
黒きレイブン。オレを呼ぶ奴はきまってその名を選ぶ。
だけど間違いだ。オレに翼はねえ。あるのはでっかい獲物だけだ。
目の前のエルヴァーンの騎士が剣を抜いた。
白い刃、燃えるような血走った目。オレを殺したいらしい。
ラテーヌ平原のホラ石、それはまるで城の様に聳え立っていた。
その前に、オレ等は対峙している。
オレはそれが怖い。
壊せないほど大きなもの、殺せないほど強い奴が死ぬほど怖い。

こいつは殺せないほど強くない。

オレの直感が示した答え。それはコイツを殺すことだった。
「城の設計図を渡せ。命くらいは譲ってやっても良いぞ。」
騎士が笑う。オレも笑う。
「ほしけりゃ取り返せ。命かけてよぉ。」
言い終わるか終わらないかの刹那。奴の剣が曲線を描いて切り下ろされる。
ギィン、と、火花が弾け、金属がぶつかる音が響く。オレはこの音が大好きだ。
背負う大剣の長い柄で受け止めた。思ったほど重くない斬撃だった。
「軽りいよ。ばかやろうが!」
笑っていたんだろう。オレは、いつだって笑って人を殺すはずだ。
大剣を滑らせるように抜き、そのまま振り下ろす。
奴の肩に剣が減り込もうとする瞬間、奴の顔が疑問に満ちていた。
血が、奴の肩から吹き出す前に、やつはオレにむかってつぶやいた。
「なんで、泣いてるんだ?」
大剣を抜く。血しぶきが、オレをその世界から消したがっているかの様に
オレを赤く、黒く、染め上げていく。
まるで汚いものでも洗浄するようにだ。気に入らねぇな。
血と、オレの涙と、雨が混ざって消える。記憶も消えやがれ。

422 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 16:04 [ Io3uHF42 ]
オレは何も守護する事ができねえ。
業を煮やしてほくそ笑む。序に命を頂いて去る。
そんな糞がオレだった。
ある日だ。オレは国の指示でサンドリアへと渡った。
目的は城の設計図を奪う事だった。写しでもいいから、それを手に入れ本国へと戻る。
只其れだけだった。
汚ねえ仕事は嫌いじゃなかったが、仲間が居ることが気に食わなかった。
二人ともヒュームの魔道士。それも善人面だった。
「お前ら、この仕事がどんなもんか分かってんのか?」
疑問だった。なんで普通の奴らがこんな仕事してんだ、と。
そしたら奴は言いやがった。
「レイブン、君はいい人の様だ。人を見かけで見れるのは、
 まだ君が純粋な証拠だ。」
変な野郎だった。もう一人の女も可笑しな奴だった。
二人はオレを怖がらない。
オレより臭せぇ奴らだったことは、その時点では分からなかった。
サンドリアに着いたオレ等は、別行動に出ることになった。
奴等は情報収集、オレは暴れる必要が在るまでまで待機するといって別れた。
奴等が宿へ帰ってくると、しなくてもいいその日の報告と、自分たちの身の上話をしやがった。
夫婦である事。ガキが居る事。人として生きる二人に、
何時しか嫉妬染みた思いを抱くようになっていた。それと同時に、二人を好きになっていた。
「まだ君は若い。未来がある。」
「あなたは立派よ。背筋をのばしなさいな。」
「夢はあるのかい?きかせておくれ。」
「まるで『息子』のようだ。」
『息子』の様だ。オレの父親は最低の下衆だった。
オレがガキだった頃、奴の悪意に引き裂かれた傷は、今だ生々しく残っている。
背中にも、腕にも、足にも、オレには奴の記憶が痛々しく刻まれていやがる。
「おっさんは、オレの父親じゃねえよ。父親はこんなに優しくねぇ。」
オレが庇う様にそう言うと、おっさんは悲しそうに言った。
まるで、オレが間違ってるかの様に。
「父親とは優しいものなんだよ。君のお父さんがどうだったかは分からない。
 だけど、それは人生の下で動く歯車が、少しだけ狂ってしまっただけなんだ。
 もしも君がお父さんに酷い仕打ちを受けてしまったなら、できれば僕らに癒させて貰えないだろうか。」
なんだか、むず痒かった。

423 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 16:05 [ Io3uHF42 ]
一週間が過ぎるころになると、オレは、おっさん達に馴染んでいた。
二人を、ゼオさん、ナナリアさん、と呼ぶようになっていた。
名前を、さん付けで呼んだのは初めてだ。
オレの何かが変わろうとしていた。それは、オレには許せないことだ。
血を求める声がやんでいた。オレは強くなりてぇ。
だから血を求める声を呼び戻してぇ。
早く、誰かを殺してぇんだ。

それからまた一週間程が過ぎたある日。
「設計図の在りかが分かったよ。」
聞き込みから帰ってきたゼオさんが言った。
「設計図は3つに分かれているらしい。僕らは、2つまでしか場所をつかめなかった。」
2つありゃあ十分だろう。オレは早く人が殺したいんだ。
「冒険者を始末しなければならない。」
上等だった。それ以上の上等は無い。オレの目は、ギラついていたんだろう。
二人の目が悲しく伏せた。
なんだか、いけない事をした様な気分だった。二人を、裏切りたくなかった。
「保存されている場所は職人通り。しかし、鍵が必要だ。それは、今週中に冒険者が
 それを取ってくる手はずになっているらしい。」
つまり、それを奪えばいいことだった。俺に血を寄越せ。
その冒険者達の人相書きも手に入れた。あとは、奴等が来るのをロンフォールで
待ち伏せし、殺してしまえばいいことだった。

なぜか萎えてる自分に気づかない努力をする。

      続く

424 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 16:09 [ Io3uHF42 ]
やばい、書いてて楽しい。

425 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 16:33 [ ZcOqvg9E ]
タル戦が終わった今、このスレは洋ナシ

426 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 16:38 [ OpaM0a8. ]
>>424
オモシロイヨ。
ツヅキマッテマス

427 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 18:49 [ 2jh8yxrc ]
>425
お前は20世紀ナシ




意味不明。

428 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 19:15 [ j3oOfrpI ]
>>425
用がないんだったら来なければいいじゃないか
面白くないんだったらお前が書け
俺はこのスレ面白いと思うがな
まぁ何もしてないで家で常にPCと向かい合ってるお前は
社会のクズだがな

429 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 19:19 [ pKD26Oho ]
取り合えずsageろと

430 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 19:21 [ Io3uHF42 ]
>>426
アリガトウ。
超ガンバリマス。

431 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 19:22 [ Io3uHF42 ]
ネガティブマーチ


空を飛ぶことが、こんなに絶望的なことだってしらなかった。
私が飛んでいるロランベリー耕地の空は何色なんだろうか。
私はそれを見ることはできない。
飛空挺の隅で、考えたくない現実に蓋をする努力をしているから。

ランプの光を、部屋の埃がきらきらと反射させている。
窓を全開にして、その埃を全部吹き飛ばしてやりたかった。
こわばるほど力の入った両手。
右手には、私の最悪の詰まった紙を握り締めていた。

絶望は醜い。誰も見なくていいように、私はそれを全部すいこんでやる。


 変化・悪化

モーセに別れを告げられた次の日、私は身支度をしていた。
地獄という言葉は、天国の対になる言葉じゃないとおもう。
死んで行き着く場所が天国。私の住む世界は地獄。楽しいことなんてひとつもなかった。
たとえば私が死んでも、行いの悪かった私は、この世界にとどまり続けるのかもしれない。
私の住んでいる所は、レンタルハウスと呼ばれる冒険者のために、
国の資金で賄われるアパートみたいな所?でいいのかな。
私は死んだ両親を、ここでずっと待ち続けている、ってのは建前。
ここでは最低限の生活が保障されていたから、ずっと居座った。
赤いメッセンジャーパックに着替えの服と下着とお金をいれた。
最低限の生活を保障されていたし、学校はまだ義務教育だったから、
お金なんてそんなに必要なかった。
だけど所持金2000ギル。心もとない金額だったが、家にあった全財産だった。


  拝啓 ナナ様。今回、貴女のバストゥークへの強制退去が決定され
  れました。貴女のジュノへの滞在は、ご両親の持つ冒険者の資格の
  権限によって可能でした。しかしこの度、貴女は冒険者の資格を持
  つご両親と死別してしまった為に、その権利は無効となりました。
  そして、貴女のご両親の国籍はバストゥークであり、同時に貴女の
  国籍もバストゥークである事が判明しました。それと同時に、貴女
  のジュノへの滞在は、法律上、不法滞在とされます。よって、早急
  な対処が必要になりました。今月の23日、飛空挺公社より、特別
  な航空券が発行されます。係員がお迎えにあがりますので、準備の
  方を終わらせてお待ちください。
                     バストゥーク領事館

絶望の声が聞こえる。きゃあああああ!って叫び声に似ていた。
それは、私の心があげた悲鳴だったのかも知れない。
「というか、23日って明日・・・・。」 
モーセに別れを告げられた日、私は世界一不幸だったはずだ。
すくなくとも、その手紙は私を世界一最悪な世界へ連れてってくれた。

432 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 19:24 [ Io3uHF42 ]
とんとん、軽くノックされる音。
私はドアを開けた。その先には、大きなガルカ。
「お迎えにあがりました。これより飛空挺乗り場までご同行願います。」
早すぎるんだよでくの坊。って言ってやりたかった。
まだ準備がおわってない。
「すいません。まだ準備できてません。」
とても小さな声で言った。消えるような小さな声。私は大人が苦手だった。
早く大人になりたいから、大人が羨ましいんだ。
大きな大きなガルカは、頷くと「まっています」と言ってドアを閉めた。
なんとなく早く準備しなくちゃいけない気がした。
大人への引け目だ。私は恐ろしいスピードで準備した。
準備の遅い私が、まだ子供なんだって気がしたからだと思う。
息切れして、額に汗を這わせて出てきた私を、ガルカは目を大きくして驚いた。
まるで、見てはいけない異性の裸でも見たような感じの目。
やっちまった!って思った。せめて息を整えてから出てくればよかった。
「お急ぎになられなくても、まだ時間はございますので。」
丁寧なガルカの口調に、私は自分が恥ずかしくなって、赤くなった顔を隠すために俯いた。

飛空挺乗り場の端に座って、犬に似ている木箱のシミを、何度もなぞった。
空想上の動物である犬。ある物語では、飼い主一緒に教会で死んじゃってた。
私が死ぬときは一人なんだろうな。
それがいやで、この犬のシミを一生懸命なでた。
私と一緒に死んでくださいと、お願いしながら。

「おまえ。なんでここにいるんだよ。」
はぁ・・・ってため息がでた。
よりにもよって、こいつと同じ便だったとは思いもしなかった。
「あのさ、見送りとか悲しくなるじゃん。だから別によかったのに。」
モーセの声はなぜかうれしそうだった。
「わたしは!」
立ち上がって、モーセのほうを向いた。そこにはモーセの親と思われる大きなガルカも立っていた。
大人は苦手だった。顔が赤くなったので俯いて、またその場にしゃがみこんで
犬に似たシミを一生懸命愛でる。
へへへってモーセが笑った。私が見送りに来て、それに照れてると勘違いしてるはずだ!
まちがいない!ゆるせない!!在り得ないことだ!大嫌いな女神様に誓って。
なんか悔しくて涙が出てきた。こんなの見られたら、別れを悲しんでるとか思われるだろう。
死んでも振り向けない。
そのとき、一瞬光がさえぎられた。
上を見ると、大きな塊が空を滑っていた。
吸い込まれるように着水して、乗り場へと到着したその塊は、とても美しかった。
私の元に舞い降りた天使。
絶望の淵にいるためだろう。私はそんな子供じみたことを思ってしまった。
しかし、その天使は、私を地獄へと運ぶ。
ジュノから、私は追い出される。

433 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/07(水) 19:24 [ Io3uHF42 ]
「それじゃ・・・またな。」
モーセの言葉を無視して、私は他の乗客と一緒に飛空挺に乗り込んだ。
「え?なんでお前のりこんでるんだよ!」
あせっているあせっている。モーセの焦った声を背中越しにきいて、私はちょっとにやついてしまった。
意地悪な私は、何もいわずに客の流れにのって奥へと進んでいく。
しかし、
「おい!」
モーセが私の肩をつかんで、思いっきり引っ張った。
その時、何かが外れた。
私の心の中で、カチンって、なにかが外れて落ちた音がした。
「うるさいんだよ!おまえなんかと話したくない!ばか!しね!」
自分でも、驚くほど大きな声だった。
おそろしく醜い声だった。
乗客たちも、何事かと振り向いたり、立ち止まったりしている。
最悪。最悪。

飛空挺が出発した。
私は乗客室の隅に座っている。
泣いている。
私は、犬に似たシミとか、大好きなアップルパイとか、何かが欠けた海の景色とか
バカなクラスメートのこととか、どうでもいいことを考えた。
これから向かう先とか、絶望とか、最悪とか、わたしは、考えたくないことに
一生懸命、蓋をした。
それが私の使命のように。
ただ、ひたすらと。
ツズク

434 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/08(木) 01:45 [ tlylYS/g ]
ダブルフェイス・レッドラム  第10話「竜騎士と狩人」

― コンシュタット高地 ―

「コンシュタット高地到着〜。グスゲンにはまさかりを忘れずに〜」
白魔道士は自称”サービス”の防護魔法、プロテスとシェルの光が体を包む。
「ありがとう」
代金の500ギルを払うと、足早にチョコボ乗り場へと進む。
(しかし…バストゥークを目指すよりはセルビナの方が堅いか…)
男はつい先ほどまでジュノの詩人酒場に居た。それからものの数分後、
なんと遠く離れたコンシュタット高地に辿り着いたのである。
それは、白魔道士の移動魔法、テレポによる移動手段を利用したからだ。
チョコボ乗り場でチョコボの料金を払うと、彼は夜のコンシュタット高地を走った。
こんな所で野宿する気はさらさらない。
生意気なゴブリンが襲い掛かってくると面倒だ。
自分よりも弱い敵と戦うのは性に合わない。それは慈悲だとかそういった崇高なものでなく、
単に面倒だから、という単純な彼の性格である。
…それが”依頼”ならば話は別だが。

(アルジャダ、おい、聞こえるか?)
声が響いた。胸元に閉まっている黒い魔法の真珠、リンクパールがちかちかと黒い光を
放っている。
「…聞こえている。何か用か?」
「ああ、やっと返事しやがったか」
その声の主は酒場で泥酔していたタルタルのジックラックだった。
そして、このチョコボを駆るエルヴァーンの男はどうやらアルジャダという名前らしい。
「どうやらバストゥークが動き出したらしい。気ぃつけな」
「銃士隊か?」
「いや、バストゥークのお偉方も色々あるみたいだ。銃士隊が動く事はないだろう」
「また冒険者か」
「まっ、そーいうこった。この間の件からまだそんなに日が経ってないからな。
 奴らも警戒してるんだろう」
「冒険者相手の方がタチが悪いな…俺達と同じで動きが読めない。
 それに下手に実戦経験を積んでいる分、なかなか手強いだろうな」

435 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/08(木) 01:45 [ tlylYS/g ]
世の中には知らなくて良い事と悪い事がある。
例えばそれは彼らのような裏の組織からの依頼を受け、”暗殺”を生業とする
者達が存在する…という事もそのうちの一つだ。
アルジャダの組するリンクシェルもそういった裏の存在である。
表向きは冒険者として各国からのミッション遂行を行っているが、
依頼が来れば高額の報酬と引き換えに、それが如何に人道から外れた物であっても遂行する。
時としてそれは組織だけでなく、三国からの依頼により要人暗殺を請け負う事もある。
…戦争は終結した。しかし今だ人々は争いをやめない。
彼等はそんな世界の裏で生きる住人なのだ。

「それで…その冒険者は?」
「あぁ、かなりの曲者だぜ。高ランクの騎士と暗黒騎士の二人組だ。名前は…忘れちまった。
 まぁさすがに俺達はまだマークされてないと思うが」
「どうだか…結局の所俺達も国の管理下に置かれているからな。
 特に俺達のように固有戦力として認められているレベルとなると、常に監視されている。
 とすると…今下手な動きを取るとマークされるか…」

とはいえ、ここまで着たのだから何もせず引き下がるわけにもいかない。

「で、どうするよ?」
「そうだな…大人しく船釣りでも楽しんでくるさ。ここに着たそれで充分だろう」

436 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/08(木) 01:45 [ tlylYS/g ]
(疲れた…休もうかな…)
夜のコンシュタット高地をとぼとぼと歩くテルセウス。
以前ここを通った時はゴブリンに襲われ大変だったが、幸いにも回りにゴブリンの姿が
見えない。大方、他の冒険者達が倒したのだろう。
コンシュタットを越えれば次は熱砂のバルクルム砂丘が待っている。そこから
船に乗ればいよいよウィンダスだ。
だが、しかし、重要な問題がある。…そう、旅費が尽きているのだ。
財布に手を突っ込むと、小銭…おそらく30数ギルくらいだろうか?しゃりしゃりと
小さな音を立てている。
バストゥークは食料の物価が高い。緑豊かなサンドリアと比べると仕方のない事だろう。
(どうしよう…このままじゃ船にも乗れない…)
ああ、バストゥークでお使いでもこなしておくんだった、と激しく後悔するテルセウスだが、
後悔先に立たず、である。

草の上に寝転がり、夜空を見つめる。

(僕は…これから何処へ行くんだろう。竜騎士なんて…やっぱり無理なのかなぁ…)

仲間達の事を思う。仲間は皆、騎士の試験を受け騎士団へと入隊してしまった。
今頃は獣人との戦いに身を投じているのかもしれない。
それに引き換え、自分は何をしているのだろうか?戦う勇気もない癖に、
竜騎士になりたい、そう思うのは只の憧れなんだろうか?

もし、竜を見つける事ができて…それから自分はどうするんだろう?
国の為に戦う?…いや、戦うなんてとてもじゃないが出来そうにない。
戦うのは怖い事だ。痛いのは嫌だし、それ以上に相手を傷つけるのはもっと嫌だ。
そうなると、やはり自分には騎士など無理なのだろうか?

437 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/08(木) 01:46 [ tlylYS/g ]
…揺れている。
…地面が揺れている。
「!?」
ずしん、ずしん、と轟音が響く。
「…なっ!?」
そして轟音はどんどんとこちらに向かってくるのが分かった。
「うわぁ…!」
…油断していた。そう、このコンシュタット高地には凶暴な大羊が存在する事を。
暗闇にギラギラと二つの目が光る。まるで大きな岩のようなそれは
テルセウスを今晩の餌に決めたようだ。

慌てて起き上がり、背を向けて走る。こんなものに襲われたら只じゃすまない。
それどころか、確実に食い殺されてしまう!
(に…逃げなきゃ!)
砂丘の方向を目指してひた走る。が、轟音が何処までも追いかけてくる。
(うわ…や、やばいぞ!)
背中に強烈な衝撃。どうやら大羊の体当たりをまともに後ろから貰ったようだ。
「げ…うげぇ…」
倒れこんで、その場に嘔吐する。肺を打ったせいか息が出来ない。目から涙がこぼれる。
「ひ…ひぃ!」
振り向くと目の前に大羊の巨大な口と鋭い牙が迫っていた!

(痛いかな…痛い…よな…)

何故か冷静に考えてしまった。ああ、これで僕の人生も終わり…

438 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/08(木) 01:46 [ tlylYS/g ]
たーーーん…と、乾いた音が響いた。
「グォォオオオ!」
大羊の苦しそうな呻き声が聞こえ、次にはどしーん、と今までよりも大きな轟音と揺れが。
(あ…あれ!?)
おそるおそる立ち上がり、大羊を見ると、眉間に小さな赤い点があり、そこから血がどくどくと
溢れ出している。
「…危ない所だったな」
火薬の匂いがする。ゆっくりとこちらに向かってくる黒い長髪のエルヴァーンの男がそこにいた。
仲間達の間でも飛びぬけて背の高いテルセウスだったが、その男はさらに一回り長身だった。
彼の手には銃がある。そして、そこから煙がもくもくと上がっていた。
「あ…あなたが助けてくれたんですか…」
「俺以外に誰かいるか?」
「そ、そうですね…」
大羊の死体を見つめた。なるほど、小さな点は弾丸がのめり込んだ痕なのだ。

「お前…何故逃げていた?」
突然の問いに、テルセウスはびくっと震えた。彼の目付きはまるで獣の様に鋭い。
「え、何故って…勝てる敵じゃないですから…死にたくないし・・・」
「そうか・・・」
黒髪の男はつかつかとテルセウスの元へ歩み寄ると、いきなり彼の手足を鷲掴みにした。
「ななな、何をするんですか!」
「やはりそうか…嘘は…よくないな」
「…嘘?」
「お前は…こいつを殺せたはずだ。だが、お前はそうしなかった。何故だ?」
何故か…と、言われても返答に困る。こんな強そうな大羊に勝てるわけがない。
テルセウスは無言のまま、彼を見つめる事しか出来なかった。

「ふん…惜しいな。いい資質を持っているようだが…それじゃあな、生きていれば
 まだ何処かで会う事もあるだろう」

アルジャダは呆然とするテルセウスを背に、夜のコンシュタット高地へと消えていった。

(僕には…力が…あるのか?)

ふらふらと立ち上がり、去り行く男の後姿をテルセウスはいつまでも見つめていた。


                                      続く

439 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/08(木) 02:06 [ lV/qiU8k ]
前スレのなのだが、続きは書いてもいいのか?

440 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/08(木) 04:02 [ XYg8A6OU ]
>>439
どの作品のことかはわかりませんが、どんどん書いてくださいな。

>>434
「コンシュタット高地到着〜。グスゲンにはまさかりを忘れずに〜」
つるはしでなくまさかりってのは白魔導師のシャレなんだろうか( ノ∀`)

441 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/08(木) 04:28 [ .SCEI2XQ ]
ボケは白の嗜み

442 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/08(木) 23:38 [ ShJEeCLM ]
ネガティブマーチ、めっさ面白いです。
続きが楽しみな話がどんどん増えて嬉しいなあ。

443 名前: Scrapper 投稿日: 2004/04/09(金) 09:33 [ BpWy5CJM ]
新作アップしました。
今回はプロローグのようなもので、内容があまりないのですが。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

それでは皆さん、頑張ってください。

444 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/09(金) 19:12 [ OQobYgN6 ]
ネガティブマーチ


風がうるせぇ
波がうるせぇ
そんな理由でそいつ等を壊したくなる。

でも、それは触れられもしねぇか、切ってもまた戻っちまう。
強い奴等は、そんな奴等だ。
心なんて、いらねえんだ。

オレは、強くなりたい。

 暗黒を纏いし心。

人相書きにそっくりな一団が、今オレと対峙した。
奴等はオレを敵だと気づいた様だ。
「鍵、よこせ。死ぬのは変わんねぇけど、こっちが探す手間が省けるんだ。」
オレは、大剣を抜く。
奴等は4人、剣を持つ奴が3人、魔道士が1人。
魔道士を守る様に陣を組む。なれてやがる。

殺せないほどじゃないけどな。

槍のように構え、突進。
剣士の一人と共に魔道士を串刺しにしてやった。
血が線を紡ぐ。
「がああああ!!!」
咆哮と共に刺さっている奴を足蹴に大剣を抜く。
「足りねえんだよ!足りねえんだよ!」
オレを挟む様に、剣士が陣取る。
それがどうした。対峙できねえ奴等がオレを殺せるのか。
オレを殺せるか、殺せないか、この時点じゃ関係ない。
必要なのは血だ。他者の血。それがオレを強くする。

暗黒の発動。

それは発作の様なものだった。
己の命を削り、全てを切り裂く。
オレの悪意が血を沸かせ、力のサイクルを構築する。
遠心力を使い。オレを中心にぐるりと剣で円を描く。
簡単だ。これで二人の胴が四つにわかれた。
臓物の匂いが漂う。くせえけど、オレの力を示す匂いだ。

不意に目眩がした。暗黒剣を使ったからだろう。
暗黒が発動すれば、オレは鬼に成れる。
だが、その反動でこの様だ。
このリスクを考えると使いたくねぇ。
だけど、これは発作だ。
オレにはどうしようも無い。
どんな奴でも殺せる様になるまでは、オレは死ねねぇんだ。

「すごいもんだな。ジュートくん。」
「ゼオさん、こんくらい軽いもんだよ。」
オレが他人に名前を教えたのは初めてだ。
冒険者の登録名はレイブン。別に何も悪くは無ぇだろ。
ジュート、これは父親がつけた名前だった。
だから、こんな呪詛の様な物は誰にも吐かせたくなかった。
「鍵、あったわ。」
仕事は終わりだった。でも、オレはまだ血を求める声を戻せねぇままだった。
ちくしょう。

445 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/09(金) 19:14 [ OQobYgN6 ]
宿屋へ戻った。暗黒が発動した後はいつもすぐに、くたばった。
何時間寝たんだろうか。静かな夜に、オレの脳味噌にアラームが鳴り響いた。
殺意が多数存在するなかで、オレのアラームは嬉しそうに鳴く。
立ち上がり、大剣を握る。鎧は・・・めんどくせぇ。
「黒きレイブン、大人しくしろ!」
ドアを蹴り破ったエルヴァーンが言う。
しかし。言い終わる前に刺し殺した。
「カッカカカカカカ!」
オレが戦うとき、変な笑い声が出る。それは、久々だった。
全部で8人。廊下に出た俺を、左右から挟んだ。右に5、左に3だ。
狭い場所での大剣は勝手が悪かったが、狭いお陰で二対一以上の戦いには成らなかった。
「観念して、鍵を返すんだ!さもなければ死ぬぞ!」
こいつらは馬鹿か?仲間を殺されて、まだ投降させようとしてやがる。
「てめぇら仲間じゃねえのかぁぁあああ!ばかやろうどもが!」
天井をえぐりながら、右に居る3人を切り裂いた。後ろから剣が空気を切り裂く音がした。
前転して避ける。目の前には、右側に残った2人の騎士。
「だぁぁぁ!!」刺し殺す。2人まとめて、だ。
そのまま上に切り裂く。
今日は無駄に切りたい気分だった。
血を、求める、声、を求めている。
「くっ!ひ、引くぞ。」
騎士どもが逃げようとしている。

にがしゃあしねええよおぉぉ!

南のベランダに出る。そして、宿の出口の前に飛び降りる。
気配を読み解き、ドアへ大剣を突き刺す。
「ぎゃ!」
手応え有り。
「カッカカカカカカカカカカカ!」
ドアと蹴り破り、剣を抜く。
中には、騎士が2人残っていた。どっちも新米か。糞弱そうだ。
「おい、てめぇら。何でオレが鍵を持ってるやつら殺ったって知ってんだ?」
不意に不思議に思った。あそこにはオレ等しか居なかった。

オレとゼオさんと、ナナリアさんしか・・・・いなかった・・・・。

絶望に不意打った一言。
「ふ、二人のヒュームからタレ込みがあったと・・・ひ、ひい、助けて。」

暗黒が、また不意に発動してしまった。
エルヴァーンの騎士の頭がザクロの様に破裂する。
もう一人は、胴が縦に裂かれた。

鍵は二人が持っていやがる。オレを、囮にしやがったのか。
それは当たり前のことだ。オレ等は仲良しゴッコしてんじゃねえんだからよ。
しかし、足は走っていた。北サンドリアの出口。
西ロンフォールの森へ続くゲートで待った。
すでに逃げかもしれない。ほかのゲートを使うかもしれない。
もしかすると、タレ込んだのは、ゼオさんたちじゃ無いかもしれない。
どれでも良い。
たのむ、誰もこないでくれ。神様。オレの全てを、くれてやるから。

446 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/09(金) 19:14 [ OQobYgN6 ]
「ジュートくん・・・」
オレは全てを呪う。オレは全てを壊す。オレは、全てをぶっ殺す。
「死ね。」
ゼオさんに剣を振り下ろす。
ブシュ。と、血が踊り舞う。躊躇しないそのステップは、オレを無視して狂い踊る。
ナナリアさんは、ゼオさんを庇って死んだ。
頭が割れて、血が吹き出す。
「ナナリア、ナナリアァァァ!」
ゼオさんが、抱きしめて泣いていた。
「なんで、オレを売った。」
なんで、オレはそんなことを聞いている。
「娘の、ためだ。金が、ほしかったんだ。」
「オレは、息子じゃねえのか。」
オレは、何を聞いているんだ。
「ジュートくん・・・。私を切ってくれ。」
泣いた。ゼオさん達に心を開いた自分が悔しくて泣いた。
ゼオさんの首が飛ぶ。
クソったれ。

なぜ、呪われたジュートの名前を二人に教えたか、オレは知っている。
ゼオさんが、オレの名前を浄化してくれると思った。
そして、確かに浄化してくれた。
ゼオさんが、オレの名前を呼ぶ度に、その名前は輝きを取り戻していた。
オレにとって、ゼオさんは父親だった。
クソおやじめ。

   続く

447 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/09(金) 19:20 [ OQobYgN6 ]
楽しみにしてくださってアリガトウ。
すげー励みになるます。

448 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/09(金) 20:28 [ hxowCDqQ ]
>443
いつも楽しみに読ませてもらっています、ありがとうございます。

449 名前: 439 投稿日: 2004/04/09(金) 21:08 [ LK0sSGMM ]
前スレ357の続きと思われるもの


ラテーヌ高原


「俺の事はいいから早く逃げろ!」

シンと静まった高原に一人のガルカの大声が響く。
そのガルカの目前にはゴーストやオークが
恨みがましい瞳で睨み付けていた。
もう夜半が過ぎ、人通りも少なく辺りも暗い。

「ヤダ…ッ!僕も残る!」
「そうよ!ラウドさん一人残しては行けない!」

ラウドと呼ばれたガルカの仲間だろうか

一人は背が低く他の種族から見ると、
大人なのか子供なのかパっと見では
判断しづらいタルタル族のライル・ハイル。

もう一人は他の種族より背が高く、
剣技に長けているエルヴァーン族のフィナ・リルド。

「馬鹿野郎!!死にてぇのか!?」

ラウドは、声を張り上げライルとフィナを怒鳴りつけた。

「死にたくないわよ!けど、
仲間を犠牲にしてまで生き残りたくないわ!」
「そうだよ!三人で頑張れば倒せるよ!」
二人はそう叫ぶと各々所持していた武器を手に取り
目の前の敵へと視線を移した。

ラウドは、はぁっ‥と盛大にため息付き

「俺は逃げろと言ったからな‥死んでも恨むなよッ!」

そうライルとフィナに言い
獣人が待ちかまえる中心へと走っていった。


                   続 

相変わらず短いのですが;
すまそ(T-T)

450 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 02:18 [ vTyy3.Y6 ]
>>443
Scrapperキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━━!!
内容が無いなんてとんでもない!
続きがすっごく気になります。

>>ネガティブマーチ
独特の世界観と、描写
そして二つの話が交わるとき、一体どうなるのか?!

>>449
短くたってOK( ̄▽ ̄)b グッ!
スレをたくさん使うから言い話になるかといえば、そうでもないし


さて偉そうなこと言ったが、みんな

ガンガレ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━━!!

451 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 03:22 [ CmURGsDs ]
つまんねえからやめろ的な書き込みもなくSSサイトの掲示板のようなスレになっててすごく気持ち悪いと思ってしまった。
自分は長い文章だとまず読まないで感想見てから読むのですがそれで雪の彼方を1スレ見逃してしまってました。
あれは面白かったです。それでちょっとネガティブマーチにつまらなそうな雰囲気を最初感じてしまってそれ以来読んでいないのですが
面白いと書かれている方、よかったらどのように面白いのか教えていただけないでしょうか。

452 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 05:50 [ sK2c8Pq2 ]
俺は人の感想なんて糞ほどにも価値を感じないけどな。
自分でさっと読んで見て合わなかったらやめときゃいいだけ。

453 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 10:12 [ A9MgLKVA ]
なんだか可哀相な人がいるな。

454 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 11:15 [ BWhsQ/7w ]
>>451
他人に面白さを説明してもらうほど野暮なことはないと思うが。
誰にでも絶賛される作品などプロですら皆無。
自分にとって面白ければ、それが価値というものではないかと。
誰かが面白いと言えば、面白いと感じるわけでもなかろ?
まずは一読。

455 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 12:15 [ Cq9/rzK6 ]
>>451 そんなエサで俺様がクマ--!!(AA

456 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 13:40 [ IB0FyICU ]
ネガティブマーチ

出会いと別れを繰り返して、人は大きくなるらしい。
私の別れなんて、両親との死別くらいだ。
別れも、出会いも、ぜんぜん話にならないくらい少ない。
私が小さいのは、たぶんその所為かもしれない。
背でも、胸でもなく、心の大きさを言っているんだよ。
念のため。

私が降り立った地獄は岩と大砲の都。
私が降り立った地獄は私を受け入れた。
全てに感謝したいところだけど、一つ問題があった。

私のお家はどこですか?

 我が家の床と、白い獣人

バストゥークに降り立った私は、飛空挺乗り場の出口で途方にくれている。
だって、どこに行けばいいのか指示されてない。
これは致命的だった。こんな広い場所にたった一人。
こんなの、砂漠に放置されたのと変わんないじゃない。
干からびて死ぬ想像をしていると、モーセが話しかけてきた。
「あのさ、まじ何で来たんだ?少しくらい教えろよ。」
この国で唯一たよれる存在がモーセ。それは許せないことだった。
私が小さくて、私が弱いことを認めること、許せないことだった。
「私、冒険者になるの!」
嘘だけど、虚勢だけど言うだけ言って逃げた。
走った。走った先には、大きな建造物が蒸気を吐き、それに隠れるように聳え立っていた。
ジュノほどじゃないけど、それはとてつもなく巨大だった。
それが吐き出す蒸気は、私の絶望まで隠してくれるんじゃないかと思えるほど優しかった。
圧巻、されたんだと思う。私は、何時間もその橋の上でそれを眺めていた。
まるで、救いを求める子供の様に。私は、大人になりたい。

457 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 13:41 [ IB0FyICU ]
すでに日も落ち始めた頃。夢から覚めるように気づいた。
「どこで寝ればいいの?」
恐ろしく単純なことを忘れていた。
宿に泊まり続ける訳には行かない。
なんせ、所持金はたったの2000ギル。
一人で生きるためには仕事だって見つけなければならなかった。
だけど、私は子供だった。
そんなことが出来るのか、定かではない。
だけど、一つだけ絶望的な救いがあった。
考えたくも無かった。
両親と同じ冒険者になること。
それは、最低限の生活を保障されること。
それは、両親にしがみつく事じゃないのだろうか。
悩む。
死ぬか、意地を捨てるか。
これは、ハムレットよりも深い問題だ。

「はい、それじゃ頑張ってね。これ、登録書だから無くさないでね。」
「はい。」
と、返事する私。
まさに、嘘から出た実。
商業区と言う場所のゲート前で、冒険者登録をした。
つまり、意地を捨てて生に縋ったって事だと思う。
子供の私には分からない事です。はい。
「フラミンゴ」私の冒険者登録名。
桃色の鳥のことらしい。私は鳥が嫌いだし、空を飛ぶのも嫌いだけど、
桃色はなぜか大好きだったのです。
桃色のものなんて他に沢山あった。でも、フラミンゴにしたのは意味があるのだろうか?
子供の私には分かりません。はい。

我が家へ進入。鍵は移住区前で、モグハウスの管理をしている人からもらった。
「ここか・・・。」
私一人の家。私だけの家だ。
トイレを占領する必要もない。誰かさん達の帰りを待つ必要もない家だった。
鍵を鍵穴に通す。ガチャっと、私の侵入を容認する音が響く。
「いざ・・・。」
と、なぜか声にして気合を入れる。
ぎぃぃ・・・。
ドアが軋んで開く。
「おかえりなさいクポー!」
「わわっ!」
そこには何もなかった。壁と床と天井と暖炉と白い生き物だけ。
「だ、だれ!」
「ぼくは、ご主人様の身の回りのお世話をさせていただくモーグリの『マイク』クポー。」
部屋に入らず、ドアノブを握ったまま硬直する私。
私の住んでたレンタルハウスには、モーグリなんて居なかった。
両親が結婚していたので、周りの世話をする必要がなかったんだろう。
母親は、ほとんど専業主婦の様なものだったから。
しかし、私は独り者。モーグリが私を飼ってくれるようだ。
「とりあえず、中に入った方がいいクポよ。」
その通りだった。なかなか出来たモーグリさんですこと。
それから、マイクからモグハウスについて説明を受けた。
よくわかんなかったけど、取り合えず私は我が家を手に入れた。

闇が、私の部屋へも侵食しようとするほど夜が更けたころ、私はある事をマイクに聞いた。
「ベットは?」
それは、かなり確信を突いていたと自負しよう。
「クポ?そんなもの、自分で買わないと無いクポよ?」
「それじゃ、私はどこで寝ればいいの?」
「し、知らないクポー。ぼくもどこで寝ればいいクポ?」
小さな家族と、小さな私は、寄り添って、小さく小さくなって暖炉の前で眠った。
我が家の床は、私と小さな家族を受け入れてくれた。寛容な我が家に感謝。
小さな出会い。私、少しは膨らんだ?

追伸、あの大きさって、枕に丁度よかったりします。

                              ツズク

458 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 21:01 [ rhLFrX3s ]
テンポ良くてイイね

459 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 21:14 [ IB0FyICU ]
ネガティブマーチ

害鳥カラス。神話に出てくる最低の鳥だ。
最後は鷹だか鷲だかに食われて終わる。
オレが最初に付けられた異名。
害鳥カラス。
すげえ気に入っていた。
翼は無い。しかし害の字が気に入った。
オレを黒きレイブンなんてよぶんじゃねぇ。
ぶっ殺されたくなかったらな。

今日も血を滴らせて歩く。
オレは真っ赤に、真っ黒に汚れちまったんだ。
気に食わねぇ訳じゃない。
寧ろ好都合だ。
強くなるには、汚れちまうのが一番だからな。

 二人きりの世界

サンドリアの追っ手は、思ったよりも多いようだ。
すでに10人は切っている。
これじゃ当分はサンドリアに行くことが出来なさそうだ。
別にあの国が好きな訳じゃねえ。
仕事が減るのが嫌なんだ。人を殺し、其れを糧として生命を燃焼させる。
オレは、魂を喰い散らかして生きている様なもんだ。

「害鳥、良く生きていたな。」
太陽が堕ちて、闇の支配する刻。
オレが見つめてるのは、美しい女騎士だ。
奴の名前はグレーテル。「灰色の鷲」。オレが唯一認める、世界で唯一美しい存在だった。
「グレー、テメェまさかオレに殺されに来たわけじゃねえよな。」
奴は強い。だけど・・・、そう、だけど殺せないほどじゃなかった。
殺したいやつは沢山居やがるけど、殺したくない奴は、すでにコイツしか残っていない。
「まさにその通りだ、カラスくん。もっとも、結果は逆になる可能性だってある。」
ゼオさんも、ナナリアさんもオレが殺した。
「つまり、本気なんだよ。悲しいことに。」
奴は、オレが駆け出しだった頃の相棒の一人だった。
いつも6人でつるんで仕事をこなした。
だが、奴は騎士団へと入隊し、オレ達とは違う道を歩んだ。
オレとはまったく正反対の道だ。
いつかぶつかるとは思っていた。
オレの業は、そういう風に出来ていると理解している。
「そんじゃ、命、燃やすかなぁ。」
大剣を抜く。二人だけの世界だ。誰にも譲れない至福の時だ。
たとえ、殺し合いでも、奴と共有できる事はうれしいんだ。
ちくしょう。

460 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 21:15 [ IB0FyICU ]
暗闇のコンシュタット高地。
花びらが舞うように、火花が散りゆく。
一拍置いて、耳に鉄の激突する音が響く。
心地良い音色だ。
オレは音楽なんて解んねぇ。だけど、この音が血を沸き立てるのは解る。
他者の血を吸える事を告げる鐘の音なんだ。
オレは一匹の犬。
パブロフの犬。
唾液を垂らして餌を待つ。

「カッカカカカカッカカカカカ!」
笑いが止まらねぇ。オレの横撃を盾で弾く。
間髪も入らず、オレの首を狙う一撃が飛び込んでくる。
オレは篭手で受けて、蹴りを入れる。奴の腹に。
吹き飛んでいる隙に詠唱を始める。
「アブゾバイトだと?!」
奴の力を吸収する魔法。オレは普段、魔法には頼らねぇ。
理由は、強えぇ奴と戦う為の修行だからだ。
だから、コイツ並みに強えぇ奴には手加減しない。
ぶっ殺すことしか考えねぇんだ。
それから、隙を見て奴の力を吸収していく。
こっちは、魔法を使わせる暇は与えない。
満身創痍で立ち向かうグレー、すでに勝機はオレの物だ。
「カカッ!オレの勝ちだな!」
オレは何故勝ち誇った?オレは何故そんなことを口走ったんだ。
普段のオレは、相手にこんな隙は見せなかった。殺すまで、安心なんてしなかった。
いつからだ?人を信用してしまったのは。
いつからだ?教えてくれよ、ゼオさん。
光が、オレを包む。それはホーリー。聖なる魔法だった。
「だああああ!」
奴の咆哮。ダメージ以上に、目くらましになっていた。

オレの胸が突きぬかれた。

血が、喉を逆流する。
「ごぼ、げほ・・・おえぇ!」
咽返る鉄の匂い。
嗅ぎ慣れた匂いだ。
雲が晴れ、オレの血が月光を反射させてキラキラ輝く。
「終わりだよ。カラス。悪かった。せめて楽にしてやるよ。」
膝を突き、崩れ落ちたオレの横に起った。
すでに助からない傷。
首を跳ねてくれる様だ。
だけど、オレは死ねない。たのむ、殺サナイデクダサイ。
もっと、二人きりの時間をクダサイ。

461 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/10(土) 21:16 [ IB0FyICU ]
燃えるような血の沸騰。湧き上がる殺意。
 血が、欲しいか。
 血が、欲しけりゃ切っちまえよ。
 力はお前の中にあるだろうが、ばかやろう。
その声が、頭を過ぎる。
血を求める声。死の淵で聞こえる希望の福音。

ブラッドウェポン。

奴の剣撃を、左手の平で受け止める。めりこみ、血が飛ぶ。
「な!?」
驚きの声、まだ驚いてもらっちゃ困る。
久々だ。笑って人を殺せるのは。あの日以来、殺す瞬間、なぜか涙がつたった。
ありがとうグレー。お前がオレを甦らせた。
奴を切りつけるたびに、オレの傷が癒える。
右腕を切り落とし、左手を裂く。右足を抉り、左足を削った。
左手からの出血が止まり、胸の傷が閉じた。
腹も切り開いてやった。
グレーの内臓が、すでに幾つか飛び出している。これ以上傷付けなくても死ぬ。
「た、たのむ、殺してくれ。」
奴が懇願する。それは聞けねぇな。楽しいんだ。
胸に剣を突き刺す。
肺に届き、奴は血を逆流させた。
「カッカカカカカカカカカ!」
切りつけるほどに、癒された。
癒されるほどに、殺意が高揚した。

奴は、泣きながら死んだ。

オレは、やっと元に戻れたようだ。
 

                             続く

462 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/11(日) 00:43 [ XUEw/Z7U ]
やべぇ ネガティブマーチなかなかおもろいではないか。

しかし読み手を選ぶ話やね。
私としては、凄惨過ぎず、泥臭すぎず、読めるけどね。

463 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/11(日) 19:09 [ 3E8.ovtc ]
ネガティブ、言葉足りなすぎ
本読め
ネタの仕入れにもいいよ

464 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/11(日) 19:39 [ eyRH20po ]
言葉が足りないなどと思わなかった私は、
妄想が過ぎるのかもしれない。

465 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/11(日) 23:07 [ 8QoaFzMM ]
淡々とした文章がネガティブの味でない?
ちょい詩的な表現方法、面白いと思うよ。
がんばれー。他の作者様もがんばれー。

466 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/11(日) 23:17 [ XUEw/Z7U ]
言葉増やすと濃厚になりそう。
むろん人によって違いがあるが。
あまり濃くなると読めなくなりそうだ。

足りない部分は妄想で補え。

467 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 05:59 [ q28ykHQ6 ]
タスラムはタル戦作者でFAだな
タル戦みたいに最初は面白いのだが登場人物どんどん増やしすぎ+話大きくしすぎで
物語のスジがコロコロ変わりすぎてもう意味不明だった話と進み方が一緒
最後は美味く〆れたけどタル戦の後半目にも当てられないほど意味不明だった

468 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 07:01 [ pjMKMYpE ]
じゃあお前が書けボケ

469 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 07:09 [ /6OoY.Bw ]
は?面倒
馬鹿かお前は

470 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 07:15 [ pjMKMYpE ]
偉そうなのは口だけか

471 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 07:28 [ SOPRR8jY ]
タスラムってなーに?

472 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 07:55 [ GdRAbb/o ]
『ダ』ブルフェイ『ス』レッド『ラム』

『ダスラム』

『タスラム』

…かな?

473 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 08:40 [ 0a1Fclg6 ]
なんでもかんでも略すなヴォケガIV

474 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 08:41 [ /6OoY.Bw ]
は?お前ら馬鹿だろ
誤字つっつくしか脳がねえのか?
タル戦みたいに後半わけのわからん話を「面白い」とかほざいてる
あふぉしかいないスレだからしょうがねえか

475 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 08:48 [ WehmSYsA ]
荒れてきてるなぁ・・・

476 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 08:52 [ Vq6JMpT2 ]
だから面白い話をみたい人は自分で作れって

477 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 08:54 [ fdbtFKQg ]
訳解らんならなぜ見てるんだ?
大体その面白いとかつまらんってのもお前の主観でそう見てるだけだろ
面白いと言って何が悪い?お前にとって何か不都合な事があんのか?
つまらんのなら余計な口出さずに黙ってROMってろ

478 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 09:03 [ 6NeG16EU ]
いいから、痛いヤツには絡むな。
以前のようにここが荒れていいのか?
色々な人がいるんだ、でスルーしろ。
言いたい気持ちはわかるが、ここは作品をアップし、その作品を楽しく読むためのところだ。

479 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 09:04 [ utnHAhm. ]
タル戦を悪く言われると泣きたくなるよぅ。
後半のドラマで泣いたし。

480 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 09:05 [ M9iL6mqI ]
 批評だけするなら楽だよねー
 あら捜しをすればいいだけだから
 どうせなら『しっかりした添削』してくれれば良いのにね
そうすれば私みたいなへたれ書き手(ここでは書いてな
いけど)のスキルアップになるんだけどな
 それとも口だけの人かな?言うだけ言って何もしない人(・・

481 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 09:40 [ utnHAhm. ]
ネガティブマーチ

世界とか、命とかそういうもの。
明日とか、未来とかそういうもの。
そういうものが世の中には溢れ返っている。
みんな、自分のそういうものを護るために必死に戦っている。
歯とか、食いしばったりしながら。

私は一人で、そういう奴等を上から見下ろして笑っている。
馬鹿じゃないの?なに本気になってんの?みたいに。
私はたった一人で、笑っている。

頑張っても出来ないから、出来ないとカッコ悪いから、
最初からやらないで、頑張ってる奴等を笑う。
それはかっこいいと思う。だから私は、いつだって、見下ろして笑ってるんだ。
できっこない。私は笑うことしかできっこないんだ、とかね。

 爪を研ぐ時間

全てに置いて優先されることはなんでしょうか。
 はい、それは自らの生命の維持だと思います。
では、それに必要なものは何だと思いますか?
 はい、お金です。
では、お金を手に入れるには、どうしたらいいですか?
 はい、社会へ奉仕し、その見返りに給与を得れば良いと思います。
では、働いてください。

私がバストゥークに来て、1週間がたった。
「ご主人様ー!さっさと冒険にいくクポ!」
私を飼い慣らそうとするモーグリのマイク。彼の日課は、トイレに立て篭もる私を
交渉することだった。簡単なことじゃない。相手は強敵なんだから。
トイレ引きこもり暦すでに1年。
両親が死んだ日から、いない両親を必死で困らせようとした。
わたしを叱りに帰ってきてくれるかも、なんて思ってた。バカみたい。
「さー元気に剣を振り回すクポ!魔法でもいいクポよ!」
でも、今はちょっと事情が違う。なぜなら、家族がいる。
これは、ちょっとしたコミュニケーションみたいなものだと思って欲しいな。
まさか、私が冒険が怖くてトイレに篭るわけないでしょ?
「うるさいなー。静かに用も足させてくれないの!?エッチ!」
「ご主人様が逃げるからクポ!意気地なしのゴクツブシクポ!」
・・・・私は意気地なし何かじゃない。
「またずーっとトイレで泣いてればいいクポ!」
・・・・私は泣いてなんかいない。
「そんなことだから、パパさんも、ママさんも帰ってこないクポ!」
キレた。
ドアを蹴り開けて、この白いデブの足と角を握って引っ張る。
「だーれーがーチビぺタすっとこどっこいですってえええ!」
「痛い!痛い!そんな事言ってないクポー!!!」
・・・
と、言うわけで、私は街にでて仕事を探していた。
でも、大事なことがあった。危険から自衛する手段を持ってない。
簡単に言い直せば、戦えないってこと。それは不味いと思う。
マイクの話では、冒険者登録を受けたガードの人が、
新規登録の場合は武器をくれる手はずになっているらしかった。

482 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 09:40 [ utnHAhm. ]
「ああ、武器がほしいんだね。ジョブ別にいろいろ有るけど何がいい?」
ジョブ、あの戦士とか、魔道士とかの奴だと思う。
私の両親は両方とも魔道士だった。
「戦士で。」
それは、私の意地でもあった。
腹の足しにもならないと有名なアレ。
「それじゃオニオンソードかな・・・。」
それは、茶色い弱そうな武器。しかも小さい。
こんな物じゃなく、もっとおっきな武器が欲しい。
「もっと大きなのないんですか?」
おじさんの顔が曇った。またやっちゃったかもしれない。
私は、また大人をがっかりさせてしまった様だ。
「あのねー、君にはこれでも大変だと思うよ。とりあえず持ってみなよ。」
言われる通りに持ってみた。ずっしりと重い・・・。
というか、重たすぎる。
私がその小さな剣に四苦八苦していると、おじさんはソラ見ろと言わんばかりに言った。
「まずはそれで修行がいい。外で練習してきなよ。」
私は頷いた。恥ずかしかった。思い上がりとか、そのへんが。

私は、この年にしては大きいほうで、小柄なミスラよりもちょっと小さいくらいだった。
だから、このヒューム用の剣は少し大きかった気がする。
さっき、もっと大きいのとか言ったのは言葉のアヤ?みたいなモノです。はい。

取り合えず、武器は手に入れた。あとは防具が必要。
痛いのとかやだし、装備は大切だと思う。
その辺に居る人に防具の売ってる場所を聞いてみた。
すると、買える場所は大きく分けて3箇所。
まずは基本的にお店。定価売りだけど在庫は大体あるみたい。
もう一つが競売。ジュノに居た頃は、私も良く利用していた。
このバックも競売で落とした掘り出し物だった。
そして最後にバザー。これは、冒険者がよく路上に売りたいアイテムを並べて値段を付けてるアレ。
たまーにバカみたいに安いのがあるから、見かけたら覗く様にしたいな。
って、そんなのは知ってることで、私が知りたいのは売っている場所だ!店の場所!

早急に必要なため、在庫が在るか解らない競売ではなく、お店の場所を教えてもらった。
商業区のゲート前に、武器、防具、道具屋が並んでるらしかった。
便利で素敵。
武器はあるし、急いで必要なのは防具。
防具屋に入ると、埃と、鉄と、皮の匂いが充満していた。はっきりって臭い。
「いらっしゃいませ。」
以外にも女の人がカウンターに居た。
「あの、防具が欲しいんですけど。」
種類とか、わからないから取り合えず聞いてみた。
「そうですねー。防具はハーネスやサブリガ、あとレンギスがいいかもしれませんね。
 軽量で初心者の方にお勧めですよ。」
私は頷く。成されるがまま。
「大きさは、ヒューム用よりミスラ用の方が合いますね。それじゃこれと、これと、これなんていかが
 でしょうか?お値段のほうは、初心者さん割引ってことで、1000ギルポッキリで如何でしょう。」
私は頷く。そして、お金を払った。残りは、生活費が祟って100ギル未満、心もとないけど仕方が無かった。
「毎度ありがとうございましたー。」
防具の一式が入った袋を抱えて、取り合えずモグハウスに戻った。着替えるためだ。
さすがに、街中で着替えられるほど私は鈍感じゃなかった。
でも、ぼったくられる位は鈍感な様です。

483 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 09:41 [ utnHAhm. ]
冒険者の中には、街中でも平気で着替える人たちが居た。
裸同然の格好をしていたり、まったく理解できなかった。
とか思いつつ、装備を確認してみると・・・裸同然の装備だった。
こんなの、着てられないです。
「ちゃんと説明を聞かずに買うからいけないクポ!」
まあ、頭の悪い獣無勢なら、そう思うでしょうが、私は頭の良い人間だった。
ちゃんと解決法はあった。
まず、装備してみる・・・。ブロンズで出来たハーネスとサブリガ。
まあ、なんていうか、裸同然だった。
そして、その上から服を着る。
白いノースリーブのヨットパーカー、デニムのブリーツスカート、赤いメッセンジャーバック。
肩甲が邪魔だったので外した。
靴をレンギスと履き替えて、、
あとは、腰に剣を装備して完璧。
これで誰にも、、無駄に肌を見られないですむぞっと。
・・・ここで、ある疑問が浮かぶ。
「そこの白いの。」
「ぼくはマイククポ!そろそろ覚えるクポ!」
そう、彼はマイク、男の子、私の着替えを見ていた。
「見たな。」
私はつぶやく。
一瞬の間。
理解し、マイクは大きく首を振った。
懇願する細い瞳からは、涙が流れた。
そんなことで許すまじ、獣人無勢。

くぽおおぉぉぉぉぉ・・・・。

静かな昼下がりの移住区に木霊する一人のモーグリの叫び。
まあ、当然の報いというやつです。

それから一時間ほど、私は南グスタベルグで剣を振っていた。
肩まで伸びた茶色い髪の毛を襟首のところで一つに結んだ。
最初はぎこちなかったけど、今はもう重さにもなれた。
振るコツもつかんでいた。
腕力の無い私が、剣を振るのに必要なのは遠心力。
それを使えば、私はまるで風の様に舞うことが出来る。
一心不乱に、踊るように剣を振り回した。
楽しかった。
なにかに打ち込むのっなんて久しぶり。
そういえば、いつからだったかな。私が、世界を見限って、世界に蓋をしたのは。
諦めることを覚えたのは。

地獄だと思った場所で、私の世界は正常さを取り戻しているみたいだ。
「ははっ」
剣を操り、踊りながら、私は久しぶりに笑った。
嫌味なのじゃなく、心からの笑い。

ツズク

484 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 09:43 [ utnHAhm. ]
いろいろ詰め込んじゃったせいで、長くなってしまいました。
すっきりさせたかったんですが、実力不足です。ごめんなさい。

485 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 12:59 [ zkZL3mMo ]
タル戦の後半糞杉だぞ。
あれのどこが面白いのか意味不明。お前ら誉める事しかしらねえのか
無駄に増やしすぎたキャラ。そしてつまらないサイドストーリーが大杉

486 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 13:06 [ ANZrAGBQ ]
反応遅杉

487 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 13:13 [ Vq6JMpT2 ]
だからどういう作品が面白いのか見せ付けてやれよ

488 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 13:33 [ 3KZOS/Mg ]
ふむふむ、いいことだいいことだ。
全員が「ぶらぼーぶらぼー!」なんていう物語なんて存在し得るはずがない。
否定意見が上がってこそ、皆の視野も広がるし、次への期待も膨らむ。

ただ、「面白い」にも「つまらない」にも言える事だが、
どこが?という説明をちゃんとしてくれる人はほとんどいない。
ま、それも当然、この説明が出来る人は既に物書きになれる素質が備わってる。

自分は、そんないろんな物語や意見を読みながら、短編を書いては消し
書いては消ししてます… ご無沙汰なWiki管理人でありました。

新システム「コンフリクト」。これが絡むとこのスレにはどんな影響が出て、
どんな新作が生まれるのか、既にわくわくしてたりします。
作者さまがんばれ!読者もがんばれー!

489 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 13:45 [ 9zLq1boM ]
なんで俺が小説なんて書かなきゃいけねーんだ?
お前ら本当にアフォだな

490 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 13:48 [ 20idyJlY ]
>>489
いやその・・・どちらさんで?(;´Д`)

491 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 14:06 [ M24PPxOc ]
ネガティブマーチ


空を飛べる人間は存在する。
巨大で雄雄しい翼を広げ、人々の希望と成って飛翔する。
それは一部の限られた奴等だけだった。
真似をして羽ばたいて、途中で力尽き落下する者が殆どだ。

翼を折る者、骨を砕く者、そして、命を失う者。

残酷な空を羨ましそうに見つめ、二度と飛べない事に安堵する。
もう堕ちなくて済む、と。

そして懇願するんだ。空を飛ぶ者の存在を。
誰か、オレ達の希望に成ってくれ。
お願いだから。後生だから。

儚く想う。

 傷を舐め合う鳥の群

父と母と認めた人達を斬り、友を斬り、人として戻る命綱を切った。
それから既に一年近く経っていた。
オレはまだ汚ねぇ仕事をしている。
それは、下達された汚物塗れの餌だった。
血を喰らい、魂を喰らい、今だ生き続ける為の行為。
南グスタベルグに在る灯台の下、ウィンダスの草の屍骸が転がっている。
殺ったのはオレだ。
それが今日の仕事だった。
糞弱えぇ奴だったが、ご馳走には変わり無ぇだろう。

492 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 14:06 [ M24PPxOc ]
帰り道、拾い物をした。

何故か惹かれた。
出会いの時、そいつは戦っていた。
剣を奏で、まるで歌う様に戦っていた。
風そのものの様に舞っていた。
ギィン、ギィンと、剣を撃ち合う音、その調べに魅せられて着いた先には、
亀と戦うガキが居た。
亀と呼ばれる獣人クゥダフ。優れた治金技術を持つらしいが、詳しくは知らねぇ。
オレが興味あるのは、ガキの方だ。只、受け流すだけ。まるで自ら攻撃しない。
そのスタンスは、風や波を想い起こさせた。
斬れねえ、殺れねえ。それは恐ろしい物だった。

違和感。其れは、オレの頭を序々に蝕んでいく。
何で倒さねぇんだ?
ガキに殺意が感じられなかった。
まるで遊んでいる様に微笑んでやがる。
殺してやりてぇな。

その時だ。
「ぎゃあ!」
亀の蹴りが入っていた。
ガキの持つ剣が宙を舞い、オレの足元に刺さる。
吹っ飛んで倒れた。
亀は、死を啜りに、ガキに近づいていった。
なぜか気に入らねぇ。
「ちぃっ。」
鞘から大剣を滑らせる。
その勢いを乗せて、オレの手から殺意の権化を放つ。
大剣は、一瞬の静寂を切り裂き、亀の頭をぶち抜いた。
飛び散る肉片に狂気がちらつく。
ガキは、崩れる亀の体の前で座ったまま動けないでいやがる。
カカッ
目の前の惨劇に放心してやがる。ガキめ。
オレは、足元の剣を抜き、ガキの方へと歩いていった。
「嬢ちゃん、冒険者ゴッコか?」
皮肉を吐く。死を思い知ったか、糞ガキが。
オレの声を聞いて、そいつの目に生気が戻っていった。
「冒険者、です。」
オレを睨む眼。
鋭い眼をしていやがる。独りの目だ。

祝福されるのを忘れて生まれた子供は、オレ以外にも居た様だ。
オレは一人じゃなかった。
しかし、それは希望じゃない。絶望だ。
つまりそういう事だ。オレは、そいつと自分を被らせているんだろう。
独りは楽しいぞ。チクショウ。

493 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 14:08 [ M24PPxOc ]
オレ等は、岩肌に並んで座っていた。
「私の親、死んじゃって。だから生きる為に冒険者になりました。」
コイツに興味を持っていた。何故踊るのか、何故戦うのか、其れが知りたかった。
渇望していた。俺と同族の存在を。
「生きる為に、少しだけ強くなるんです。」
そうだ、オレ達は力を望む。必要以上に望む。
力は孤独を孤高と昇華する。
群れる理由を消し去ってくれるんだ。
「オレは、親を殺したよ。二回もな。」
初めてだ、過去を話すことなんてよぉ。懺悔する様に、自慢する様に、オレはコイツに話し続けた。

オレの最初の父親は最低の下衆だったこと。
一日に何度か、オレの血を見ないと気が済まなかったんだろう。
何時もオレを斬りつけた。
愛でる代わりに、狂気を刻んだ。
生まれて10を数える年、オレはそいつに犯された。
そして、殺す事を決定した。
月さえ寝静まった夜。誰もが寝息を立てていた時刻。
薪を割るための斧を持ち、そいつの寝る寝台の前に立った。
憎らしいその顔は、殺してくださいとオレに懇願しているかの様だった。
全身の力を込めて、獲物を振り上げた。
高く、高く、全てを見下ろせるまで高く上げたかった。
限界まで達したところで、オレは重力の力を借りて、その斧を振り下ろした。
奴の顔に。
刃の減り込む瞬間、全ての時間がゆっくりと過ぎていった。
眼の下辺りに食い込む刃、飛び出す目玉、闇に紛れようと、飛び散る血液。
目覚める狂気。
「オレが殺人鬼に成った日だ。」

494 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 14:08 [ M24PPxOc ]
罪の告白を、ガキは黙って聞いていた。
非難もせず、賛同もせず、オレを認める様にそこに居た。
「オレが怖いか?」
ハッ。何を聞いてるんだか。
「ぜんぜん・・・怖くないです。」
それは虚勢でも、強がりでもなかった。
明らかな肯定。オレの求めていた答え。
「オレはカラスだ。職業、殺人鬼。」

「私はフラミンゴです。いちおう、冒険者。」

カカッ
オレ達は似ていた。
心の底で絶望を歌って、本当はそれを嘆いている。
全てを憎んでいるくせに、愛されてぇ。
オレ達は似ていた。
飛ぶ翼を死ぬほど欲しがっていたんだ。

    続く

495 名前: 相棒(7) 投稿日: 2004/04/12(月) 19:14 [ pEgz3XR2 ]
 暗い夜だったから、門の脇に立っているガードにたのんで門前を照らす
かがり火から火をとってもらい、松明を点けた。時間をたずねると、まだ
日が暮れて間もないとの答えが返ってきた。礼を言って、ゆっくりとした
歩みで門をくぐりぬけた。

 街は森閑として、かつては、夜にもそれなりのにぎわいを見せていた門
前の広場には街灯ひとつ灯っていなかった。クラフトは、ちょっとしんみ
りとしてしまったけれど、気分の晴れることの少なかった傭兵の日々が終
わって、この街で新たな生活がはじまるのだとおもうと、すぐに心がはず
んできて足どりもかるくなった。

 足は、自然におさないころ住み暮らしていた家へとむいた。そこはオー
クに焼き討ちにされた山村に移り住むまえに、クラフトが暮らしていたと
ころで、彼の十三歳までの思い出がのこる場所だった。

 クラフトを旧家へといざなう路地道は、曲がりくねった登り坂で、背の
高い石造りの家々が、両脇に雑然とならんでいる。路地の隅や窓辺になら
べられた草花の枯れているのが、人々の困窮しているようすを音もなく語
っていた。玄関の上や壁に彫られた魔除けのちいさな石像が、暗がりから
飛びだしては押し黙ったまま消えていった。

 しばらくゆくと、カンテラを手にぶらさげながら呆然と立ちつくす老人
にでくわした。
「よお爺さん、夜の散歩かい?」
 見た感じ品のよいお爺さんだったから、脇をとおりぬけながら気楽なよ
うすで声をかけた。老人はうかない顔をちらっと向けてきただけで、なに
も言わなかった。クラフトは微笑んで、老人から視線をはずすとのんびり
と歩きつづけた。少し進んでから立ち止まって振りかえり、
「耳が遠いんだな。一人で大丈夫なのかよ?」
 小声で言った。しばらくそのまま動かないで暗がりに浮かぶカンテラの
灯かりをながめていたけれど、
「ま、大丈夫だろ……」
 苦笑してまた歩きだした。

 そのまま、さびれて物悲しい、けれど懐かしい町並みを、ながめながら
ゆっくりと歩いた。あの耳の遠い老人よりほかには誰とも出会わない。
 そろそろ懐かしい我が家が見えてくるかというところまでやってきたと
き、かかげていた松明の炎がパチンとちいさくはじけた。
 やわらかな風に乗って火の粉が舞った。
 そのなかのひとつが黒い瞳に飛びこもうとしたのでクラフトは、とっさ
に目をつむって腕でかばった。髪に火が点きそうな気がして、長く無造作
にのびている黒髪をはたいた。念のために赤いラインの入ったレザーベス
トやレザートラウザに異常がないか確かめて、また苦笑した。

496 名前: 相棒(8) 投稿日: 2004/04/12(月) 19:15 [ pEgz3XR2 ]
(あれから三年だぜ……)
 オークに村を焼けだされてから、それだけの時がたっているということ
だ。あの夜以来クラフトは、すこし火をおそれるようになった。
(いいかげんに慣れろよな、俺)
 両手のひらでパシッと顔をはさむようにして叩いた。

 いつのまにか地に落としていた松明を拾おうと身をかがめると、背負っ
た荷物が頭のほうへずり落ちてきて邪魔をした。「ふぅ」と息をつき体を
起こして荷物を地面に置く。そしてもう一度身をかがめて松明を拾いあげ
て、ふと気づいたように顔をある一点にむけた。
 松明のあかりのギリギリ届かないところにある闇がゆらりとうごいたの
が見えたような気がしたからだ。クラフトは、上にかかげようとした松明
を前方に突き出すようにしてみた。
 はたして、おぼろに浮かびあがったのは大きな男だった。

 クラフトは引き込まれるように一歩前にでた。それで、男の姿がはっき
りと見てとれるようになった。
 男は、こちらを向いて立っていた。
 底の知れない穴のような眼で、クラフトを値踏みするようにながめてい
る。男の両肩から首にかけてがオークのように盛り上がっているのがおそ
ろしく威圧的にみえた。腕も太い。耳のかたちからエルバーンだとわかっ
たが、エルバーンにしては異形といえる容姿であった。

「妙な野郎だな」
 男が口をひらいた。かすれ気味で、あざけている響きを含む声だった。
 いつから俺を見ていたんだろう、とクラフトは考えた。松明が、はじけ
たあたりからだろうか、それとももう少しまえか。“妙な”と男が言った
のは火の粉に対してクラフトが取り乱してしまったようすを言っているの
だろうか、どうもそうらしい。

「…………」
 クラフトは、黙って男を見詰めた。
 道を先へとゆくには、あいつのそばを通り抜けなければならなかったが、
近寄るのがためらわれた。男は、なにをしでかすかわからない雰囲気を全
身から発散している。クラフトは、知らず知らずのうちに厳しい顔つきに
なって大男を見返している自分に気がついた。
 男から眼を離さないようにしながら、身をかがめて地面に置いたリュッ
クを手探りでさがした。

497 名前: 相棒(9) 投稿日: 2004/04/12(月) 19:16 [ pEgz3XR2 ]
「おまえ、金は持ってるか?」
 男が言いながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。こころなしか片方の足を
引きずっているようだ。
「金?」
 思わず聞き返した。男は強盗の類なのか、という疑念が心に生まれた。

 手がリュックを探り当てた。
 ちらりと瞳を走らせて、リュックの取っ手の位置をたしかめた。その時、
クラフトの視界を何かしら小さな生き物の姿がかすめた。クラフトは、男
に戻しかけた視線を生き物のいる方向へあわせた。

 小さな生き物は男の歩みにあわせてじりじりと後じさって来ている。
 それは、ひとりのタルタル族だった。
 しかも、これまでにクラフトが見知ったタルタル達よりもだいぶん小づ
くりだったから、おそらく、
「子供?」
 なのではないか。
 今までその存在に気がつかなかったのは、その子があまりにも小さい上
に男のほうに気をとられ過ぎていたからだろう。

 「子供?」の声にタルタルの子供は驚いて振り返り、怯えた眼の色で、
中腰のままでいるクラフトの顔を見上げたけれど、すぐにオーク肩の男の
ほうへ向きなおって、身悶えるようなしぐさをして後じさった。

「おまえ戦争帰りの傭兵だよな?」
 大男は、クラフトの二三歩ほど手前で立ち止まって言った。
 子供は、クラフトのかたわらを通りすぎて、その影に隠れた。
「ああ」
 答えつつクラフトは、リュックを手に取って立ちあがった。エルバーン
としては標準的な身長をもつ彼が、見上げねばならないほど男の背は高か
った。(つづく)

498 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 23:01 [ WehmSYsA ]
まぁ、なんだ…荒れてるようだから釣りでもするかなっと。

擁護派も批判派も、どうゆう風に作品見てるのか具体的に語れ。
ただ糞だの訳わからんだの、それだけだと第3者もわけわからん。
「何となく気に入らないから」これだけなら黙ってろ。というか・・
読み飛ばしとけ。誰も全部の作品読んでくれとは言って無いからな。
いやなら読むな。好きな作品だけ読め。

で、何人釣れるか期待する釣り人が俺だ。

499 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 23:21 [ 3FGlCN.M ]
てか、自分にとって魅力が判らない作品は評価するな。

良くわかってないものに評価をつけるな。

良くわからないモノはとりあえず糞と言っておこうと言う奴が居るんだよね。
自分にとって判らないだけじゃないかよ。

500 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/12(月) 23:48 [ WehmSYsA ]
一人釣れたヽ(´ー`)ノ

なんて言ってみたり。
そうじゃなくて…

批評するなら、ちゃんと読んでから何処がどう悪いのか…とか
そういう風に言ってもらえると書いてる方としても向上になるんだよ。
ただ面白くないの一言だけだt(ry

501 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 00:07 [ hDH4j80k ]
作品が批評の対象であるように
批評もまた作品の一つの形であり、同時にさらなる批評の対象。

そして大抵の批評は、自分自身が糞だという作品以下。

502 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 19:40 [ bthyzRq6 ]
ネガティブマーチ



私が寝る時、世界は起きていた。
私が泣く時、世界は笑っていた。

日常は、常に私を敵視し、常に私を監視している。
古い建物にある独特のにおい。それが無い世界。

私は、そんな世界で寝息をたてる。

独りで叫んだ心の悲鳴。
「私ってそんなに面白いですか?」

私を助けてくれる人なんていらない。
私と苦しんでくれる人を望んで泣いている。

きっと世界は笑ってるんだ。


 フラグメント


自称殺人鬼と出合ってから、もう3日が過ぎた。
カラスは、鉄の匂いのする人だった。
思い出すと、鼻の奥が痛くなる。
なんでかな?

すでに、3日間も何も食べて無い。
ダイエットとか、そういう有意義なものじゃない。
お金がない。ただそれだけの理由。
目眩がする・・・。人は、水だけで1ヶ月生きられるって言うけど、絶対嘘。
まあ、蒸留水を買うお金も無くなりましたけど。
私は既に瀕死なんです。

「モーグリって、美味しいかな・・・。」
移住区の一番大きな通りを歩いている時に、ボソッと呟いてしまった。
それほど緊迫した状況なの。
持ち物も、ほとんど売っちゃった。
服も、この一着だけになった。防具と武器は大切だから売れないけど、
アクセサリーとか、靴とか、全部売っちゃった。
下着も代えが盗まれちゃって、この一組のみ。最悪。

503 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 19:42 [ bthyzRq6 ]
フラフラっと、歩いていたら、前から買い物籠を持ったオバサンが、こっちに向かって歩いていた。
この通りには、店が結構密集しているから、そっちをちらちら気にしながら歩いている。
避けなきゃ。
頭ではわかってるけど、体が動かない。
空腹ってものが、これほど強力だったとは知らなかった。
私は何も知らない。無知な子。

ドン、と、肩と肩がぶつかってしまった。
「ごめんなさい・・・。」
私は振り向いて謝ったけど、オバサンは何も無かったかの様に、人ごみの中へ消えていった。
日が、私達の影を長く長く擦り伸ばす時間。日の傾きで、影が成長していった。
この時間帯は、夕食の準備や帰宅する人がいっぱいいて、この通りはとても混雑していた。
「う?」
私の足元。そこに、パンが落ちていた。すこし長めのフランスパン。
さっきぶつかったオバサンが落としたものかな?

いや、きっと神様からの贈り物に違いない。
私は、縋るように膝をつき、その希望に満ちた神の慈悲にに手を伸ばす。
口はだらしなく開き、きっとよだれとか垂れてたにちがいない。
それに触れた私は、うやうやしく、それを拾い上げた。
そして、口へと運ぶ。口は大きく、下品に開き、それの到来を今かと待つ。
嬉しさで目には涙が浮かぶ。そして、唇にパンが触れようとした時、私はその罠に気がついた。

神様は、私に慈悲ではなく、手の込んだトラップをくれた。

手が止まる。空中で、私の手に支えられたパンが浮かぶ。不振なほど制止したまま動かない。
私の眼は、辺りをぎょろぎょろと見渡す。口は大きく開いたまま。
嫌な視線が私を射抜いていた。さっきまで流動していた人の波は、まるで時が止まった様に動かなくなった。
全員が、一色に見えた。
そして、その人々の視線は私に向けられていた。
跪き、大事そうに両手でパンを持つ。その端に齧り付こうと開く、大きな口。
なんて滑稽な格好なんだろう。
「くすくす。」
いたるところから笑いが起きた。
私って、そんなに可笑しいかな?

時の止まった人の群れの中に、知っている顔を見つけた。
小さなガルカ。名前はモーセ。私の大嫌いな奴。こんなところ見られた。最悪。
あいつ、私を見て固まってる。
私はモーセを見つめる。モーセは私を見つめる。
目が合った。
何て愚かなんだろう、私は。
モーセは、私の愚弄を見ていられなかったんだと思う。
その瞬間、モーセが目を逸らした。私達は、他人なんだ。別に何も期待してなかったし。私、あいつ嫌いだし。
―― 色を間違えてるよ、モーセくん、君は笑う場面だったんだ。私を蔑みなさい。――
口を閉じ、うつむき、ゆっくり立ち上がった。
手は、力が抜けてダランと下に落ちる。
だけど、パンは離さないよ。卑しい私を、私は大嫌いだ。
最悪。
私は歩き出した。止まった群れに向かえば、失笑を漏らすその波が割れる。私の道が出来る。
まるで、紅海を割るモーゼの様だ。とか、思っちゃうのは、私がまだ私自身の惨めさに気づいて無いだけ?
そんな妄想が、微かに私を生きながらえさせている。
絶望から私を救っているのは、子供染みた空想だったんだ。

504 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 19:44 [ bthyzRq6 ]
小さな用水路の前で立ち止まった。
パーカーのポケットに手を突っ込んで、小さな貝殻を取り出す。
私のお守りだった。どんなに私物を手放しても、これだけは取って置いた。
しかし、今日、モーセは私を裏切った。目を逸らした。
ぽちゃーん。
澄んだ音が鳴り、その貝殻は水に吸い込まれた。
5分ほど、波紋の静まった水面を見つめていた。
「あ。売れば良かった・・・。」


足は、私のモグハウスの方を向いた。
せっかく食べ物が手に入ったんだし、マイクにも食べさせてあげないと。
フラフラしながら家族の待つ我が家を目指した。

ジュノに居た頃は、隣に住んでたオバサンが私のご飯を作ってくれた。
朝ご飯の時に起こしに来てくれて、学校から帰ってくると晩御飯が待っていた。
私の両親が死んだから、同情してるんだと思ってた。
だから嫌いだったんだ。
私が塞ぎ込んで、ご飯食べてる時に、ぶすーっとした顔してても何も言わなかった。
そういえば、挨拶も無しにバストゥークに来ちゃったな・・・。
ごめんなさい。不意にあやまりたくなった。ごめんなさい、私、悪い奴でごめんなさい。
恩にも、仇でしか応えることが出来なかった。
私は小さかったんだ。オバサンの優しさなんて、気づけなかった。

家の前に一つの影。モーセだった。
何で私の家しってるんだよ・・・。
「なあ。そんなに苦しいなら、俺んちに来いよ。」
私は、冒険者で、自立してたりして、立派なんだ。
「プリマドールさんと一緒に住んでるんだけど、そんなに狭くないしさ、食べ物くらいあるしよ。」
その目は、私を哀れんでいた。眉毛がハの字になっている。最悪。
鍵でドアを開ける。さようなら。
「それに、このまま・・・死   ぜ?   お・・・い。」
ギィィィ・・・バタン。
絶望が音を立てて閉まる。


「おかえりクポー。」
部屋の真ん中で床に寄りかかったままのマイクが手を振って迎えてくれた。
立つ元気も無いようです。ほんとごめんなさい。                           
「はい、食料調達してきたよ。」
私は、パンの半分をマイクに手渡した。
本当は、体の大きさからいって、私の取り分が多くてもいいとおもったけど、
倒れたまま嬉しがってるマイクを見ると、ちょっとそれは大人気ないと思ったから止めた。
家に家族がいる。それだけで生きてても良い気がした。


ツズク

505 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 19:47 [ bthyzRq6 ]
書き溜まってるし、もう一つのせちゃいます。次のかなり書いてて楽しかったです。

506 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 19:48 [ bthyzRq6 ]
ネガティブマーチ


本当の自由ってなんだ?
オレは自由だと思っていた。斬りたい奴を斬って、殺したい奴を消してきた。
だけど、何時からだ。
オレは、血を啜る音に操られていた。
血を求める声が、オレを蝕んで行く。
うぜぇな。オレはオレのもんだろうがよ。


 救世の詩



鎧を鳴らして商業区を歩く。真っ黒な鎧は目立ちやがる。
「レイブン、ずいぶんご機嫌じゃないか。」
広場を過ぎて、移住区へ行く階段のところで声がした。
嫌な奴に話しかけられた。奴の名前はスカー。
尻尾の無ぇミスラだ。
「人をゴミとしか扱わねぇクズか。」
「食いモンとしか思ってねぇやつよりはいいとおもうけどね。」
ハッ。違いねぇな。
コイツがオレに寄って来たのは、サンドリアでオレに賞金が付いた時だった。
50万ギルの為に、オレを殺そうとしやがった。
毒を盛られた事も在った。寝込みを数人で襲ってきた時もあった。
一番酷ぇのは、ゴブリンの爆弾を改造したヤツだな。

その日、俺は仕事の内容を聞くために、いつもの斡旋所へ向かった。
殺人の依頼は、普通のところじゃ受けられねぇからな。
そこへ、一人のガキが近づいてきやがった。
「おじちゃんにこれを渡せって。」
結構でかい箱だった。そして、ガキが横から飛び出している紐を引いた時だ。
その箱が、爆発した。
ガキの両手が吹っ飛んでいやがった。
威力が足りなかったんだろう。オレも、ガキも殺すことが出来なかった。

ほとんどの場合、実行には参加せず、参謀を模索するのがヤツの手口だ。
ガキを騙して使ったり、金を使って冒険者を雇ったりして依頼を成功させる。
手段は選ばない。
最低のヤツだ。

507 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 19:49 [ bthyzRq6 ]
奴と、初めて顔を合わせたのは、オレが謀反を企んでるらしいガルカを始末する為に、
鉱山区のスラムへ足を運んだ時だ。
長い坂を上る途中、一瞬殺気が走った。
大剣を走らせる。左後ろに一歩踏み込み、そのまま上半身を左に捻り込む。
石の地面を削り、火花が散る。そのまま、斜め上へと斬り上げる。
何も無い、虚無の空間に赤い線がゆっくりと斬った方向へと延びる。
それは、メリメリと音を立てて延びていく。
線が止まり。
ブシュゥ!
血が吹き出した。
一人のヒュームが、徐々に姿を現し、その場に崩れ落ちていく。

そして、もう一人、姿を消していた奴が居た。
さっきの一撃の余波で、尻尾を切られたミスラだ。
カカッ。
間抜けな話だろう?
悪くない作戦だった。
姿と音を消しちまえば、さすがのオレでも感知するのは難しい。
しかし、斬られたヒュームがヘマをしやがった。
音を消す魔法を切らしちまったんだ。
「ぎゃあああ!」
と、叫び声があがり、ミスラが転げまわって悶絶していた。
其れがスカーとの出会いだ。楽しいもんだろ?
それで懲りた様で、以来オレには全く手を出してこなかった。

「なあに、また仕事を回してやろうかと思ってね。」
オレがコイツを殺さなかった理由、コイツはバストゥークの闇に、強力なコネを築いている。
つまり、斡旋の窓口の一つだったからだ。
オレの窓口は全部で4つある。
ほとんどは、爺の所の依頼を受けているが、偶にコイツも仕事を持ってくる。
国の依頼に比べたらちっちぇけど、今日みてぇに暇な時には助かる。
血を求める声がうるせぇからな。

508 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 19:52 [ bthyzRq6 ]
「ピンハネ無しなら考えてやらぁ。」
「儲けを無くすきかい?相変わらず酷いねぇ。」
相変わらずはテメェだ。一体幾らピンハネするのか、予想できやしねぇ。
「簡単だよ。10で一人殺ってくれ。」
10万ギル、一人10ってのは、裏の世界じゃ中々高けぇ。
しかも、内容無しで、いきなり吹っ掛けてくる時点で怪しいだろう。
「30だ。」
と俺が値を上げる。一人に30も出す奴なんて、早々いない。
「はい、30で決定〜!よろしく頼むよ、レイブン。」
ちっ。俺は小さく舌打ちした。
それでも、内心は歓喜の叫びで満ちていた。
30でも安い野郎か。どんな奴なんだ?
オレより強えぇのかな。どんな悲鳴を上げるのかな。
オレより汚ねぇ奴なのかなぁ。


スカーの依頼は、一人の吟遊詩人を殺すことだった。
深夜0:00、港の広場に呼び出してあるから、そいつを始末するだけだった。
たった一人を相手に30万ギルか、どんな強えぇ奴なのか楽しみだ。
血が上昇していく。目の前が赤く霞む。久々の興奮だ。
オレをがっかりさせるなよ。

「よう、姉ちゃん。こんな夜中にデートか?」
広場の中央。暗闇に立つ女に声を掛ける。
赤いローブを纏うヒュームの吟遊詩人。
「あんたがブローカー?見えないね。」
ナイフを取り出す。
気づいたようだ。
ハッ。
「殺人鬼だよ。ばかやろう。」
口が釣り上がっちまう。裂けるほど笑っちまう。
獲物に向かって走り寄る。剣はまだ抜かねぇ。
一歩進むごとに、重圧がかかる。強えぇ。

ナイフが横に一閃された。
シュッっと空を切る。姿勢を低くして其れを避け、両手で、奴の両手を塞ぐ。
これで楽器は使え無ぇだろうが。
「カッカカカカカカカカ!」
死ぬ恐怖に歪みやがれ。
しかし、その顔には余裕がある。何を企んでやがる。

口が動いた。歌ってやがる。

「だまれ。」
鼻を狙い、頭突きを入れた。一度、二度。しかし、空を切る。
ブリンク。
幻影が消えた。用意周到だな。
その曲は子守唄だった。手の力が抜け、オレはその場に跪いていた。
首はうな垂れ、その姿勢はまるで・・・許しを請う罪人の様だったのだろう。
眠りは、死を意味する。

「俺も、修羅場を幾つか潜ってるからね。悪いがこういうのは

ぶしゅぅっ

 慣れてるん・・だ ゲホッ。ゴフッ!」
カカカッ。片手で大剣を抜き。其のままの勢いで体を切り裂いてやった。
「な、なんで・・?おきてる・・・の?」
恐怖の影が、奴の顔に絶望を描く。
奴の目の前に、左手を突き出した。手を開くと、そこから肉片が重力に惹かれ、落下する。
俺の太ももの肉だ。
痛みで眠らねぇ様に千切ったんだ。
其れを見た瞬間、奴は絶望したように膝をつく。
胴から流れる血が、既に溜まりを作っていた。
「悪ぃな。オレも慣れてるんだよ。」
剣を振るう。赤い線を紡ぎ、首を胴から切り離す。

切断された首から血が飛び出す。
シュウシュウと鳴るその歌は、たぶんオレを救う詩だ。

血を求める声は、次の獲物を探す。

続く

509 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 20:00 [ bthyzRq6 ]
ちなみに、ガルカの謀反は「ガルカの昔話」からパクリました。
でも、それとは関係ないのでゆるしてください。

510 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 21:51 [ AZpOhVkM ]
おつかれ。2,3日見ない間にたくさんキテてウレスィ

511 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 22:08 [ SY3cllBI ]
批評もまた作品の一つの形?

勘弁して・・・

512 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/13(火) 22:15 [ bthyzRq6 ]
だんだん雑になってくね。ネガティブマーチ。っと、自分で批評してみたりw
解ってることは、直して行きたいので、なにか気づいたら教えてください。
糞とか、つまんねぇ何かは無視するので、ご了承をw
(結構気に入ってる話もあるので凹みます。)

513 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/14(水) 01:04 [ To4XXwjY ]
ダブルフェイス・レッドラム  第11話「求める者」


― コンシュタット高地 ―


「ひぃ〜砂が目に入りまくるなぁおい」
「そうだね…今日は特に酷いのかな。ミズハ、アトト。大丈夫?」
「はい、なんとか…」
「目が痛いよ〜」

コンシュタット高地は稀に見る強風だった。砂埃が舞い、アズマ達の視界を遮る。
「ね、あれ何?」
アトトが遠くに見える建造物の影に気付いた。…風車である。
「あの…あそこで風が収まるのを待ちませんか?」
涙目のミズハが、アズマとヨルに懇願の眼差しを向ける。
「いや…でも夜になるまでにここを…」
と、ヨルが言ったところで、アズマがヨルの口を後ろから塞いだ。
「うん、そだな!そうしよう!こんな状態で進むのは危険だな!」
むぐむぐと唸るヨル。
「な、ヨル!お前もそう思うだろう?ゴブリンに襲われたらやばいだろ?」
アズマの手が離れ、ぶはぁっと、息を吐き出したヨルは、
少々不機嫌な顔をして、ムッとしていが、疲弊したミズハとアトトを見ると、
仕方ない、という感じでそれを承諾した。
「ちょっとだけだよ?…ここは夜になると危ないんだから」

4人は砂埃を避けるため、風車の側へと身を寄せしばしの休息を始めた。

514 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/14(水) 01:05 [ To4XXwjY ]
「おっきぃんだね〜。ぐるぐる回ってるよ」
ゆっくりと回る風車を見て、キャッキャッとアトトが騒いでいる。
「あ、見て。ここから中に入れるよ」
見ると、小さな、大人が屈んで入れるくらいなドアがあった。
ミズハはそれを見つけると、ずいずいと中へ入っていく。
「うわ〜、凄いです。ここで小麦を挽いてるんですね」
「どれどれ…?」
アズマも興味津々で中を覗く、巨大な歯車が音を立て動いており、
その中心部には臼のような物が回っている。
「へ〜、こういう仕組みになってるのか、さすがバストゥーク。科学の最先端だねぃ」
「私も見る〜」
と、アトトが隙間から割ってはいる。
「きゃっ、ちょっと…アトト、狭いから…わわっ!」
「うわあ!」
三人は情けない格好でもつれ、倒れてしまった。



(風車…ね…)
そんな三人を尻目に、ぼーっと風車を見つめるヨル。
「おぉーい、ヨル、助けてくれ〜」
風車の中からアズマが情けない声を上げている。
「あ…ごめん、大丈夫?ほら、手を伸ばして」
「ごめんなさい…」
「怪我はない?」
「痛いよ〜う」
三人を順番に引っ張りだす。もし歯車に巻き込まれでもしたら危ない所だった。
…どうにかして脱出した三人。それからしばらくのんびりとした時間を過ごす。
アトトが羊の頭を撫でようとして手をかじられた以外は特に何も起こらなかった。

「今日はもう歩くのをやめてここでキャンプにしない?」
そう提案したのはヨルだった。
「え、なんでだよ?今日中にここを抜けるんじゃねぇのか?」
「うん…そのつもりだったけど。たまには息抜きをしないと、ね。
 それにここなら安全そうだし」
「やったぁ!」
ミズハとアトトが手を合わせて喜んでいる。どうやらバストゥークを発ってからの
連日の進行は余程堪えていたようだ。
「お、それじゃ俺とヨルでテントを張るから、ミズハとアトトは飯の準備頼むな」
てきぱきとアズマが指示を出す。こういう時にはよく動くのが彼の性分である。

515 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/14(水) 01:05 [ To4XXwjY ]
…真夜中。アズマはふと目を覚ました。
(…ん…まだ暗いなぁ…)
目を瞑っても眠気が来ない。疲れすぎたせいなのだろうか?
体はヘトヘトなのに意識だけはハッキリしてなんだかとても気持ち悪い。
(散歩でも…するかぁ…)
もそもそっと狭いテントの中で起き上がる。ふと見ると横にいるはずのヨルの姿が無い。
(あいつも寝れないのか?)
眩暈がする。無理矢理起き上がって、テントの外へ這い出る。
横にはミズハとアトト用のテントがある。いくら気心の知れた仲間といっても、
所詮は男と女。長期に渡るミッションや旅の途中では何が起こるか分からない。
旅慣れた冒険者達ではそういった問題はある程度やむなしと、割り切っている者もいるが
二人はまだまだ若く、やはりこういった事はきっちりしないといけない、と
新たに新調した物だ。
そっと中を覗くと二人や安らかな寝顔ですぅすぅと眠っている。
その姿を確認し、安心した彼は月明かりのコンシュタットの草原を歩き出した。



(ヨルは…どこいっちまったんだ?)
しばらく散策していると、遠方に巨大な岩があった。
足を進め、近づいてみると…その上に座り月を見上げる何者かの後姿があった。
一瞬、ぎょっとしたが、それがヨルかもしれないと思った彼は恐る恐る近づいていく。
シルエットがハッキリと確認できる距離まで近づいた時、彼は唖然とした。
(レッドラム…!?)
そうだ。忘れるわけが無い。赤いマントに赤い羽根付き帽子を被ったその後ろ姿は、
まさしくあの女だった。
その場に突っ立っている彼の気配を察したのか、レッドラムがゆっくりと振り向く。
「あら…また会ったわね」
何故か、緊張して足がガタガタと震えている自分がいる。いや、それは恐怖感なのかも
しれない。今まで幾度と無く命を助けられたが、その正体は不明であり異質な存在だ。
「え、えっと…その…横…いいかい?」
「ええ、空いてるわ。今宵は綺麗な満月、一緒に眺めましょう」
レッドラムはにっこりと笑う。その笑顔に安心したアズマは岩の上に登り横に座った。

516 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/14(水) 01:06 [ To4XXwjY ]
「………」
横に座ったはいいが、何を喋って言いか分からない。聞きたい事は山ほどあるのだが
何故か口が思うように動いてくれない。
しばしの沈黙の後、レッドラムが月を見ながら囁いた。
「あなたは…強くなりたい?」
「えっ?」
「…冒険を続ける為には強くならないと、ね」
「あ、あぁ…そりゃ勿論さ。あんたみたいに強くなりたいさ」
「ふ〜ん、そうなんだ?」
そっけない返事。
「なんでそんな事聞くんだ?冒険者として世界を渡り歩くには力が必要なんだろ?
 獣人や魔物とも戦わなけりゃいけないし、仲間を守る為にも頑張らないといけないだろ?」
レッドラムはどこか虚ろな表情で、アズマを見つめた。妙にどきっとする。
「どこまで…どこまで強くなりたいの?」
「…どういう意味だ?」
「強くなってから、それから何をするの?世界を冒険するだけなら…
 別に力なんていらないと思わない?」
「そりゃ…そうかもしれない…けど、力が合った方が何かと都合がいいだろ?
 弱肉強食なんだぜ?冒険者ってのはな。だから俺は強くなりたい。誰よりも…」
声を大にして、目一杯の主張をする。だが、そんなアズマの声もレッドラムはどこか上の空だ。
「そっか…そうだよね」
レッドラムは立ち上がる。そしてふわっとマントをなびかせて岩から飛び降りた。
「変な事言って、ごめんなさいね。…でも、これだけは覚えておいて。いい?
 …大切なもの、見失わないで…ね?」
「あ、ちょっと待ってくれよ!聞きたいことがあるんだよ、あんた一体…」
くすっとレッドラムは微笑むと、次の瞬間、まるで風のように闇に消えた。
(なんなんだよ…ったく…)
取り残されたアズマは岩の上に一人でへたれこんだ。
(俺は…侍になるんだ。誰よりも強い男になりたい…誰にも負けない…)


レッドラムの言った”大切なもの”とは一体なんなのか?
アズマは岩の上に寝転がり、月を眺めながら一人の夜を過ごす。



                                 続く

517 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/14(水) 16:19 [ 5lpiMQ1g ]
>>ネガティブマーチ
初めは、一話完結のちょっと暗めの話なのかと思っていたけど
両親の死によって孤独になった少女と、羽ばたくことなく暗黒道をさまよう男
交わることの無いと思っていた2人の道
少女は、男が親の敵(かたき)と知ったときどうするのだろうか?
そこんところが、漏れは面白いと感じてるぞ
あとは、モーグリのマイクの安否が気になる…

そうそう >>502なら、フラグメント >>506なら、救世の詩 のところを
『』←こういうカッコで強調したほうがいいんじゃないかな?

>>ダブルフェイス
タイトルからして、色々と想像・妄想が膨らむ今日この頃
黒のLSの集団と、レッドラムの関係や如何に?
新米冒険者たちは、無事ウィンダスへたどり着けるのか?
何より、なんでレッドラムはアズマの前に現れたのか?
色々考えると、漏れは続きが気になるが・・・みんなは違うのか?

・・・

そーでつか、漏れだけでつか(´・ω・`)

518 名前: ネガ 投稿日: 2004/04/14(水) 19:53 [ I0BgAvtc ]
了解です。

519 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/14(水) 20:17 [ I0BgAvtc ]
ネガティブマーチ


人はいつの間にか、カメレオンに進化していた様です。
色を変え、自分を周囲に馴染ませようとする。
ぎょろっとした、二つの眼を異たる方向へ向けて世界を見張る。
自分が色を間違えない様に。

私たちは、生まれたままの色から変わることが出来なかった。

桃色フラミンゴ。
黒いカラス。

私達は純粋だ。
だから世界は爪弾き、私達を地獄へと追いやったんだ。

軽く飛んで、生まれたままの色を誉むべきかな。


 混ざりたい色


お金も品格も、底を突いていたころ、私に初仕事が舞い込んできた。
国からのミッションだったけど、報酬はそれなりに立派だった。
まさに、地獄に仏。

「おいおい、子供が混ざってるぞ。」
そして複数の笑い声。
大きな斧を、背中に背負って、赤茶色の鎧をガチャガチャ鳴らして着ているヒュームの人が、
私を見てイタズラしようとしている子供みたいな笑顔で言った。
場の空気とか、清浄するためのジョークなんだろうけど、なんかムカつく。
「ファンドさんたら、虐めちゃかわいそうよ。」
ヒュームの白魔道士が、私を庇う。そして、優しい空気が流れていく。
そんな感じの色。みんなが一つの風景に同化していく。
私はそれが出来なかった。
出来ないことを、誇らしく思っていた。
ぶすっとした顔で、地層学者らしいタルタルの女の人を睨んでいる。

別に、子供呼ばわりされたことに起こってた訳じゃなかった。
解っていた。みんな演技だったって。
だって、子供が混ざってることを、このタルタルさん以外は知っていたんだから。
そう、知らないのはタルタルのフェムルルさんだけ。
初仕事は、わざわざウィンダスからダングルフの涸れ谷の地質調査に来た、
地層学者のフェムルルさんの護衛。
ちょっと有名な魔道士だったらしく、本当は一人でも十分だったらしい。
だけど、バストゥークから安全の為に護衛を付けなければ許可が下りなかったって言ってた。
・・・私は真相を知っている。

護衛に着く一日前。
ミッションの説明を受けるために、冒険者だけ集まってミーティングがあった。
「前にもウィンダスの草が入り込んでいた。そいつは始末できたが、
 今回来た奴に関しては、まだ調査が出来ていない。しかし危険なことには代わり無いだろう。
 しっかり眼を光らせておけ。」
私たちの上官に当たるらしい人から、そう言われた。
護衛じゃなくて、見張るために私達はいた。
「了解しました。怪しい動きをしたら、即始末します。」
ファンドと呼ばれた人がそう言ってた。
「命に代えましても。」
白魔道士の人も、そう返事をしていた。
ミーティングの時間、みんなはフェムルルさんを怪しんでいたし、敵視していた。
だけど、それはそういう場面だったから。
そうなんだ。優れた人種は、その空気の色に、無意識のまま肌の色を変えて馴染める。
カメレオンみたいに、保護色を塗ることが出来る。
私は、それにムカついてた。それでいいの?自分の意思はないの?みたいに。
あーあ、これだから大人ってヤダ。
私は生まれたまま、色なんて変えないよって。
それはとても偉いことなんだって。
そう確信していた。
カメレオンは、人間より劣ってると思っていた。

520 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/14(水) 20:17 [ I0BgAvtc ]
「あ、子供ってフェムルルさんのことじゃないですからね?」
ファンドさんが、まだふざけていた。
「まあ。わかってるわよ。失礼しちゃうわ。」
そして明るい笑いの風。
予定調和。
色を変えて、みんなと同じ世界を見る。それは大切なことだって知ってる。
みんなで生きるためには、必要なことなんだ。
私は解っていた。痛いほど。
たとえ、疑心に塗れてたって、それを仮面で隠してるんだ。
平然と笑って、裏ではヒッソリと、冷たく見つめている。
それは正しいことなんだろう。
カメレオンが人間より偉くて何が悪い?
・・・私は、怖い顔をしていたと思う。
ずっと、ずっとフェムルルさんを疑って睨んでいた。
なんでそんなに自分を偽れるの?
お前等は、なんて汚れているんでしょう。
私は違う。純粋なんだ。

みんなが摂理にしたがって共存していく中、その行為を下品なものだって思って、
独りで自分だけが正しいと思っていた私。
誰もが笑う世界の中、私一人だけ醜かった。
なんかヤダ。
頭に血が昇って、鼻の奥が痛くなる。
鉄の匂い、鼻血でそう・・・。
そうだ、カラスから漂ってた鉄の匂い。それは血の匂いだったんだ。


もしも、羽根の色だけでも変えられたら、私はその空気のなかに居られたのかな。
嘘ついて笑えない顔をつねってやった。
痛いのは私。

ツズク

521 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/14(水) 20:20 [ I0BgAvtc ]
あああ!題名の所を直したメモを保存するのわすれてました!次から・・・次からは!

ダブルフェイスレッドラム、かなり気にまりますね。ダブルフェイスってところが、
蝶ミステリアス。続きが蝶々きになります。

522 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/15(木) 09:08 [ EJp0Qcf6 ]
>>521
どんまい。

>>517
ゼオとナナリアが親なんだろか(´・ω・`)
読んでたけど普通に気付かなかった

523 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/15(木) 15:50 [ Vp4r27W2 ]
ネガティブマーチ


平気で命の勘定をする。
旗の下なら、一人の命なんて羽みてぇに軽いんだろう。
オレの糞塗れで腐りかけの命に、テメェの命を賭けてきやがる。
オレにその価値が在るのか?
等価でなくても、賭けなければ成らない時があるんだろうよ。
金貨を弾くように、賭け台に命を放る。
覚悟は出来てるのか?ばかやろう。

クズの命が、食い残った串みたいに捨てられていく。
知ってたか?

あの世はゴミ捨て場だったようだ。


 ― 翻る旗の下に ―


商業区から、鉱山区へ行く道にベンチがいくつか置いてある。
ガルカもヒュームも、互いの領域へ行きたがらねぇから、
いつもその道は、空いていた。

普通、道の方を向いてベンチに座るもんだろう。
でも、その爺はいつも、巨大な貯水湖の水面を向いて座り、
趣味の釣りに講じていやがる。

オレは、道の方を向いて隣に座る。少し距離を保ってな。
「お前がこの前、始末したミスラがおったろう。」
グスタベルグの灯台の下で始末した奴の事だろう。
ウィンダスの草の事だ。あの依頼はここで受けた。
爺の話は静かに、そして急に始まる。
始まるまで、5分とか、たまに10分くらいの静寂があった。
何かを確認しているのか、ただボケているだけか、オレには計り知れ無ぇ。
「ウィンダスが疑心を抱きおった様での。
 タルタルを一匹送り込んで来おったらしいのぅ。」

国から、オレへの依頼は少なくは無い。だけど、それは正規なものではなかった。
つまり、裏の仕事だ。殺し、強盗、窃盗。
正規でない依頼は、正規のルートで発行できない。
それが世界の掟の様なものなんだろう。オレには解らん。
だから、オレみたいな奴への汚ねぇ仕事は、この爺から請けることになる。

「また始末すんのか?」
殺しは上等だ。今までも、これからも。
「熱いのう。しかしのぅ、今回ターゲットだけ殺しても、本国が疑われるだけじゃて。
 平和ボケした奴等でも、次は手を打ってくる、それくらいは、解るじゃろう?
 ・・・それでな、明日、そのタルタルが地質調査を装って
 涸れ谷に拠地建設の下見にいくようじゃ。」
もったいぶった話は要らなかった。
殺すのか、殺さないのか、それが依頼を受ける基準だ。
もちろん、殺しの無ぇ仕事は請けねぇ。
釣竿がピクっと動いた。しかし、爺は其れを無視したまま続ける。
「我がバストゥークは、新興国じゃ。だから荒れとる。
 じゃからのう、盗賊まがいに殺されてもしかたないじゃろう。」
盗賊の振りして殺すって訳か、上等だ。請けてやる。
前を通る2人組みの冒険者が過ぎるのを待つ。
「殺していいのなら受けるぞ。爺。」
爺がにやりと笑った。
「新米に護衛させてある。奴等も共に殺せ。それで疑いも晴れるじゃろうて。」
ハッ。
この国は腐ってやがる。なんて良い国なんだ。我等が祖国、バストゥーク。


オレは一人、ダングルフの涸れ谷に居た。
蒸気と、硫黄の匂いが蔓延している。遠くでは、間欠泉から熱湯の噴出す音がしていた。
空は晴れ、幾つかの雲が漂っている。
影に身を潜め、じっとりとした目線を、その谷間に向ける。

複数の、匿名的な足音が聞こえる。

談笑してるんだろうよ。笑い声も聞こえやがる。
いい気なもんだ。これから死ぬってのによぉ。

唾液が岩に滴る。とめられない衝動が、オレを突き動かした。

            続く

524 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/15(木) 15:57 [ Vp4r27W2 ]
倍くらい長かったんですが、違和感があったので削りまくって直しまくりました。
かなり自信ある話になりました。
削った分は、また別の話にして書くことにします。

525 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/15(木) 20:58 [ D3Hne6to ]
むむ、いよいよ佳境かな、ネガティブマーチ。
毎日楽しみにしてます。
いくつかの運命が終息していく過程ってドキドキしますね。
何が残るのか? というか残るものがあるのか? 目を離せません。
がんばれ〜でも無理しないでね〜

526 名前: 525 投稿日: 2004/04/15(木) 20:59 [ D3Hne6to ]
終息ちゃう、収束です。みすw

527 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/15(木) 21:00 [ kMKjKTaw ]
わかったから
うpきぼぬううううううううううううう

528 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/15(木) 21:01 [ kMKjKTaw ]
じわじわと殺してくれよぉおおお
じっくりなぶってさぁぁぁああ!!???
いきなり真っ二つなんてゆゆゆるさんですぜ???
指をキレイに一本ずつ一本ずつ切り落としてだなぁあああぁああ?

529 名前: 相棒(10) 投稿日: 2004/04/15(木) 21:28 [ 5lVH76QA ]
 この時になってクラフトは、タルタルの子供が、大男に縄でつなが
れていることにようやく気づいた。大きく見開かれた目が、縄のうえ
を行ったり来たりした。

(なにやってんだ、こいつ。エルバーンは……)
 崇高たる精神を重んじるのがエルバーンという種族なのではないの
か? それが、子供に縄をかけて連れまわすとは、なんと恥じ知らず
なことだろう。悪逆で横暴かつ破廉恥なおこないに、クラフトは身の
内に怒りが燃えあがるのを覚えた。

 しかし、
「だったら、少しはまとまった金持ってるんだろうが?」
 大男が、いくばくかの怒気をふくんだ声で言い、射すくめるような
視線でにらみつけてくると、怒りの気勢はそがれて中途半端にくすぶ
るにとどまってしまった。
「もっ、ね、ねえよ。持ってねえ……」
 気圧されて舌がもつれた。
(くっ、情けねえ)
「は?」
「ちょっとした手違いで貰いそこねたんだよ、報酬」
 事実、居眠ってしまった為に今日貰えるはずの報酬を貰いそこねて
いた。
 大男は、額の下に埋まるようにして付いている穴の眼で、しばらく
クラフトを見下ろしていたが、吐き捨てるように言った。
「まぬけが」

「…………」
 クラフトは何も言い返せず、うつむいてしまった。眼が、おのずか
ら縄のほうへ吸い寄せられた。
(これ、このまま放っておいていいのかよ?)
 自らに問うた。己の正義を貫くなら、放ってはおけない。助けるべ
きだ。しかし、わが身の保身を第一にかんがえるのなら、放っておく
のに‘しく’はなかった。クラフトは、目の前の悪漢と争って勝てる
気がまるでしないのだ。クラフトの心はゆれた。

「ちっ、ガキかっさらったのはいいが、売れねえんじゃあ、らちもね
え」
 大男は、とんでもないことを辺りをはばからない声でぼやいた。人
気がないとはいえ不敵なやつである。

530 名前: 相棒(11) 投稿日: 2004/04/15(木) 21:28 [ 5lVH76QA ]
(売る?)
 この言葉に反発したクラフトは、思わずキッと顔をあげ、大男をに
らみつけた。心が助けるほうへと傾いた。
「なんだ? 金のねえ野郎に用はねえ。行けよ、目障りだ」
 大男は、邪険に腕をふるって、行けとうながした。

「くっ」
 クラフトは、また怖じ気づいてしまった。足がすくんでうまく力が
入りそうになかった。

(なにも俺が助けなくても、他の誰かが……)
 逃げ口上が頭のなかににじみだしてきた。わが身を守ろうとする本
能が大きくなって心を圧迫した。しかし、助けたいという気持ちも、
依然として残っている。クラフトは、思い悩むあまり、頭がくらくら
してきた。呼吸が浅くなっているのを感じながら、
(なんで、俺はこいつらに出くわしたんだ?)
 大男と捕らわれのタルタルに出会ってしまったことを怨んだ。

「なんだこいつ……?」
 大男は、なんだか様子のおかしいクラフトにあきれたようないちべ
つをくれると踵を返して歩き出した。やはり片方の足を少し引きずり
ながら、数歩あゆんだところで、
「しゃあねえ、明日、あの‘はく製’マニアのクソ野郎にでも売りつ
けてやるか。こりゃ二束三文だな」
 おもしろくなさそうに言った。

 たるんでいた縄が張りを取り戻しはじめた。背後で動く気配がした。
タルタルの子供が大男につれて歩きだしたらしい。
 やがて、視界にその姿がはいってきた。子供は、クラフトの顔をお
ずおずと見あげた。
(こいつ……)
 子供の顔を見返しながら、ふとクラフトは考えた。
(俺が、こいつだったら、この俺を見てなんて思う? ……たぶん)
 ひとでなし。
 クラフトの中で、激しい衝動が起こった。

531 名前: 相棒(12) 投稿日: 2004/04/15(木) 21:29 [ 5lVH76QA ]
 突然、タルタルの子供をつないだ縄が、ピンと張りつめた。
 リュックと松明を投げ捨てたクラフトが縄の中ほどを握って、大男
からひったくるように力まかせに引っ張ったのだ。松明は地面に転が
りながらもいくぶん火勢を弱めて燃えつづけていた。

「ぬ」
 大男が、首を回して後ろを見た。とっさに縄を引き返している。引
っ張られてクラフトの足が地面をじりじりと滑った。
 縄がギリギリと音をたてるほど、いっぱいに張りつめている。
 それも一瞬の出来事。
 クラフトの空いているほうの手が腰のあたりから大気を切って飛び
出して、その指先が弦楽器を爪弾くように縄をはじいたように見えた
とたん、指の触れたところから縄がプツリと切れた。

「ぬぅ!」
 大男がつんのめって、泳ぐように前によろめいた。踏み出した足が
悪い方の足だったらしく、がくりと膝がくずれ身体が落ちて横向きに
倒れこんで、石壁に激突した。

「逃げろ!」
 クラフトは、かたわらのタルタルの子供に怒鳴った。
「野郎!」
 大男が吠えざまに手で壁を突き押し、その反動で柔道の受け身のようにゴロンところがった。これは傷んでいる足を使わずに素早く体勢を立て直す工夫なのだろう。

 子供のほうは、状況の変化についてゆけないのか、緩慢ともいえる
足の運びで方向転換しようと地面に輪を描くように歩んでいる。
「なぁにしてんだよ。走れ!」
 たまらずクラフトは、指先で軽くタルタルの子供の背中を突ついた。
 それで、タルタルの子供は、はじかれたように駆け出した。ときお
り何かにつっかえるようにたたらを踏んだけど、なかなかどうして小
さな身体に似合わない速さである。

「よし」
 うなづいたとき、背後の空気が重くのしかかってきた。(つづく)

532 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/15(木) 22:16 [ Vp4r27W2 ]
ネガティブマーチ


 ― 黒きレイブン ―


白い生地に、赤い点が一つ、二つと滴る。
あーあ、お気に入りのパーカーだったのに。
鼻を押さえて、真上の向むいた。
これ以上よごしたくないし。

「ナナちゃん、大丈夫?」
白魔道士の人が、心配そうに声を掛けてくれた。
ちょっと嬉しかった。
「レーヤちゃん、ケアルかけてあげなよ。」
ファンドさんが、白魔道士の人に馴れ馴れしく言った。
余計なお世話よって、思ったけど口には出さない。
一応、色々と自覚はできていた。
「大丈夫ですから。放って置いてください。」
そういって、一番後ろから着いていく。
本当は、照れてるだけだった。
心配されたのが、ちょっと嬉しくて、それに慣れてない私、それを拒絶する私。
初めて浸かる水が怖いみたいに、私は、その優しさが怖かった。
泳いで初めて解る気持ちよさを、臆病な私は知ることが出来ないでいた。
あーあ、なんで甘えられないんだろう。
たぶんそれが幸せってやつなのになー。

ぶしゅ、ぐしゃ。

空を眺めていた私の耳に、聞きなれない音が届いた。
ゆっくりと視線を空から、地面と平行に戻す。
十歩分前に茶色いローブを着た身体があった。
頭が無かった。
優しい微笑みを私に向けてくれた顔があった部分は、水平に切断され、
その断面からは、噴水の様に綺麗な血が吹き出し、ローブを赤く染めていた。
まるで、頭を無くした身体は死んだのを忘れたかのように、つったっていた。


その右側には、ファンドさんがいた。
あはは、可笑しな格好。
左の肩から、右の腰に、大きな大剣を貫通させていた。
絶命したその身体は、大剣によって無理やり支えられて、何本かの糸が切れてしまった
操り人形みたいに、不恰好な姿勢で、深くうな垂れていた。

私の鼻から、一本の赤い線が口に向かって引かれた。
そして、唇の皺から溢れた血は、少しずつ口を這い出し、私のお気に入りの服を赤く染めていく。
ファンドさんから剣を抜き取り、まるで自分の身体を愛でるように刃を眺め、
カラスは、恐怖のあまりにその場に座り込んでしまっていたフェムルルさんへと、刃を落とした。
赤く、残酷な花が咲く。重力に逆らって噴射された大量の血は、それはそれは綺麗だった。

私とカラスだけの世界の出来上がり。

カラスは、まるで運動会で一等賞を取ったこどもが、誉めてもらいたいときにするように、
はにかみ、鼻の頭を指でかいていた。
へへへって、笑ってるみたいだった。
なんて純粋なんだろう。そう思った。
カラスは、殺すことに悪意なんて込めてなかった。純粋に、自分が出来ることをしただけなんだ。
だから、それを私に褒めてもらいたいんだ。ご褒美がほしいんだ。


逃げていた。全速力で走って逃げた。
カラスが怖かった訳じゃない。死体が怖かった訳じゃない。
不思議と、素直に受け入れられた。
それが怖かったんだ。私も、いつかカラス見たくなってしまうんじゃないか。
いつか、生命を奪うことが私の糧になってしまうんじゃないか。

そう、私たちは似ていたんだ。
ああ、神様。


ツズク

533 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/15(木) 22:23 [ Vp4r27W2 ]
>>526
うおおお!なんか、やる気のでるレスありがとうございます!
書置きがめっさ溜まってるんでだいじょうです!
ただ、寝る前とかに思いついちゃうと、次の日学校でも徹夜しちゃったりしますw

>>528
すいませんwナナの方なので、あっさりですw

534 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 00:29 [ 8UAEoSOc ]
>>523
の前半面白い表現やね。

535 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 07:26 [ CQvOeBBw ]
ネガティブマーチ


狂った時計の時間を合わせるのってムカつかないか?
銀の針が、オレに解らねぇ様に、少しずつずれて行く。
そして、気がついた時は、取り返しのつかない時間を無くしていた。
その時間は、一房のブドウを腐らせるには十分だったんじゃねぇのかな。

オレが走って逃げた先。そこが地獄で、オレの生きる楽園だった。
殺し方を教えた事を後悔したか?
それとも、生まれて来た事を後悔したか?

なあ、先生。


 ― 傘 ―


母親は殺された。オレが殺した。
初めて殺した相手は、母親、2人目が父親、そして3人目は、殺したくない相手だった。

母親がオレを生んだ時、母親はまだ14歳だった。
冒険者だった父親と駆け落ちして、バストゥークから離れた小屋で暮らしていた。
まだ身体の準備が出来ていなかったんだろう。
命と引き換えにして、オレを生んだ。生まれた時、すでに命を一つ犠牲にしていたんだ。
母親は、罰を受けたのかもしれない。
オレを生んだこと、それが既に罪だったのだろう。

父親は、オレを憎んだ。
愛する女を殺した奴を、それでも育てたんだ。莫迦だろ?
物心つく前から、オレは父親に刻まれていた。
手や、足に、刃を切りつけ、母親と同じ血を見て喜んでやがった。
そして年が10を数えた頃、父親は母親そっくりのオレを犯した。
母親の代わりに愛し、撫で、侮辱した。
そして、次の日死んだ。
残酷なまでに切り裂かれて、父親は死んでいった。

536 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 07:26 [ CQvOeBBw ]
鮮明に残る狂気の記憶。命を奪うことは、それこそ救世だった。
オレには、其れしか残ってなかった。
バストゥークへ逃げたオレを拾ったのは、独りの剣士だった。
グリフォン。それが先生の名前だ。
エルヴァーンの土地を捨て、バストゥークへ逃げてきた汚れた騎士。

鉱山の中で、闇に紛れて死のうとしたオレに、手を差し伸べてくれた。
オレは先生に選ばれたんだ。
先生は、オレに剣を教えた。暗黒を纏う剣だ。
邪な力を、一つ残らずオレに教えてくれた。

ある日、二人で飯を食っていた時だ。先生がオレにいった。
「私は思う。本当に、お前のような子に力を与えてしまって良かったのだろうか。
 あの時、私はお前の業に魅せられていた。しかし、それはお前を不幸にして
 しまったのかもしれないな。」
後悔しても遅せぇよ。オレはもう、力をつけてしまった。
その時は、オレの力にビビッたんだと思ってた。

ある日、先生がヒュームの女を連れてきた。まだ少女といっても良かった。
既に7年が過ぎ、オレが17に成った年だった。
年は、オレと同じくらいか?黒く短い髪が、まっすぐに伸びていた。
オレの時と同じように拾ってきたみたいだ。
女は一言も口を聞かなかった。名前さえも、年さえも解らないそいつに、
オレはいつしか・・・・嫉妬していた。
先生は、オレと同じ様に女にも剣を教え始めた。それを見るたび、煮えくり返る憎悪が俺を襲ってきた。
殺してぇ。先生を取り返してぇ。
そしてオレは先生の家を出た。
耐え切れなかったんだ。先生の笑顔が。
2年間、オレはジュノへ行き、自らを鍛えた。グレー達と組んでたのもその頃だ。
限りなく、オレは強くなった。憎悪さえ、操れるようになっていた。
そう思っていた。
憎悪に、操られているだけだったのにな。

オレがバストゥークへ戻ったとき、先生は家に独りでいた。
朝日が昇り、世界を白く塗りつぶしていた。
「レイブン、生きていたのか。よかった・・・。」
レイブン、それは先生が付けた名前だ。オレは、先生に呪われた名前を呼んで欲しくなかった。
だから教えなかったんだ。
「あの女はどうした?」
気になった。オレから先生を奪ったあの女を殺して、また一緒に暮らしたかった。
「ああ、プリマドールなら牛乳の配達へいったよ。時期にもどってくるさ。」
プリマドール。その名前は特別だった。先生の、奥さんだった人の名前だ。
先生が、サンドリアを捨てた理由。
その名前が、その女に付けられた。押さえ切れない衝動。
オレは、剣を抜いていた。
「・・・・そうか、もうそんな時期か。」
まるで、知っていたかの様だった。先生は、オレに何時か殺されるのをしっていたんだ。
(お前を不幸にしてしまったのかもしれないな。)
その言葉の意味。そのとき解った。
初めて、殺したくない奴を殺さなくちゃいけなくなったんだ。

537 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 07:27 [ CQvOeBBw ]
それから数分後、女が帰って来ただろう。

すでに、オレの姿はない。
先生の死体をみて、彼女は何を思ったんだろうな。
ちゃんと印を残してやったよ。オレが先生を殺したって解るようにな。
復讐をちかったか?それとも、オレが生まれたことを呪ったか?
チクショウ、オレはいつも操られてばかりだった。

それから5年が経った。
いつからか、少しずつ狂った時は、取り返しのつかないほど過ぎてしまった。
ブドウは腐り、残った茎に暗黒を纏わせていた。

今日もまた、血の溜まる世界にオレはいる。


続く

538 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 07:35 [ CQvOeBBw ]
やっと最後まで書き終わりました。
最初から考えていたこととは、かなり変わってしまいました・・・。
考えたことを、そのまま書くのって大変ですね・・・。
でも、書き終わった方のエンディングの方が好きだったりしますw

続きまして、ナナ偏載せます。
連続ですいません orz

539 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 07:36 [ CQvOeBBw ]
ネガティブマーチ


風切り羽根が折れると、鳥は飛べないらしい。
たとえ、左右のどちらかが折れてしまったら、二度と空を飛べないだろう。
生え変わるのを待つ?
ハッ。
世界て、そんなに優しくないの。

私はフラミンゴ。
きっと私は、片方の風切り羽根が折れてるんだろう。
そう信じたい。


 片翼の鳥の群


「ビビんのは解るけどよ。逃げんじゃねぇよ。捕まえんのが面倒くせぇだろ。」
私は簡単に捕まった。それは、それ程問題じゃない。
カラスが私より足が速かっただけだし。ちくしょー・・・。
しかし、私がショックだったのは、カラスの強さだった。
人を斬る強さじゃない。心っていうのかな・・・。一人でも平気って強さ。
私は、カラスから逃げた。それは明らかな拒絶だと思う。
もしも私が知人に逃げられたら、それはショックだったと思う。
3日は寝込んだはず。
現に、モーセに目を逸らされたってだけで宝物まで捨てた始末だし。
私がショックだったのは、そういう強さ。
それが羨ましかった。望まないけど。羨ましいんだ。
カラスは、片方の翼で飛ぼうとしている。
落ちる事を望んでいる。だから強いのかもしれない。
そんな強さ、悲しいと思う。
もしも、その翼が私にあったら、私は飛べるのかもしれない。そう思って羨ましかった。
「・・・別に、殺したりしねぇよ・・。」
じっと睨む私に、カラスが眉をひそめて呟いた。
怒られた子犬みたい。
別に怒って睨んでるわけじゃないけど、羨ましかったんです、なんて
恥ずかしくて言えなかった。

「とりあえず・・・おろしてください。」
やっと言えた一言。私は、カラスにパーカーのフードを持たれて、
鼻血を垂らしながら宙に浮いていた。
服は血で半分赤くなってる。服、これしかないのに・・・。
久しぶりに地面に足を付けた私は、そのことに感激するまえに、自分の着ている服を気にした。
恥ずかしくて、街歩けないかも。拾い食いする乙女も、服装には気をつかいます。
「まあ、なんだ。仕事だ。」
カラスは、本当に殺人鬼だったようだ。
これを仕事って割り切れるあたり、かなり危険だと思う。

カラスとの会話で、気の抜けてしまった私は、なぜか涙を流した。
不意に伝った涙に、私もなんだか訳がわからなかった。
目の前で、人が死んだ。それをやっと理解できた様だ。
私は、人の死に涙を流せる。その安堵に、また涙を流す。
カラスが困った顔をして頭をかいている。
私は、ずっと泣いていた。空が赤くなる頃まで泣いていた。

540 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 07:36 [ CQvOeBBw ]
「私、カラスの強さが羨ましい。」
正直に言ってしまった。もう泣いてるところも見られたんだ。
そんな風に開き直った。
「・・・・・強くなりてぇか?」
カラスが静かに、力強くいった。まるで、なにかを覚悟したみたいに。
死とか、そういう類の覚悟。
「なりたい・・・です。」
力が欲しい。力に縋りたい。私は弱かった。力に頼ってしまった。
私には、なにも力が無い。子供だから、仕事だって殆どもらえない。
そこに、カラスという力が舞い降りてきた。
私はカラスに縋り付きたかった。
「ちっ。てめぇも闇に落ちるのか・・・・。」
カラスは歩き出した。訳もわからないまま、私も後を着いて行った。
止まりかけた血は、硬く干からびていく。

二人の影が、長く伸びて仲良く並んでいる。チラリと見て、ちょっと微笑む。
カラスと私。片翼同士。二人で羽ばたけば、きっと飛べるはず。
一人じゃないってすばらしい。

ツズク

541 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 11:14 [ mg5O2f6I ]
そして餡子が出来上がりましたとさ

542 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 17:22 [ CQvOeBBw ]
ネガティブマーチ


貪欲な死は、でっかい口をあいてオレ等を待っている。
オレ等を肥やして、魂が食べごろに熟したら、パクリと口を閉じる。
刈り取るのがオレの仕事かもしれねぇ。
だけど、オレも何時か死ぬ。
殺されるってだけ、漠然とは知っていた。
しかし見つけたよ。オレの死神を。

先生、オレも見つけたよ。


 ― 死神ロック ―


死後の世界、もしも何か一つだけ持ってけるとしたら何がいい?
名誉とか、金とか、恋人とか、ペニスとか、人それぞれ違うだろうよ。
オレがもって逝きてぇのは、自由だ。
無様な自由。死が生からの開放だったとしても、おれは、この操られた自由を愛でている。
多くの死があった時間。愛した人たちが残した記憶。
この自由は、オレの全てだ。
どこに行ったって、何人でも殺してやるよ。

「こんなの、振れない。」
オレは、フラミンゴに大剣を渡した。
準備をするんだ。闇に喰われるための。
オレを殺してもらうための。
暗黒を纏いし剣、この力を手に入れれば、
嫉妬だろうが、憎悪だろうが、先生を殺したオレみたいに、
テメェは、俺を殺してくれるだろうよ。

「構えろ。」
オレが命じると、フラミンゴは嫌な顔をしながら構えた。
右肩に剣を担ぐ様な形になった。
「あの、重いんですけど。」
この大剣は、元はと言えばエルヴァーンに合った大きさだ。
ヒュームの、しかもガキの身体にはデカ過ぎるだろう。
それでも、振らなきゃいけねぇ。
強くなりてぇならな。

543 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 17:24 [ CQvOeBBw ]
先生は、様々な武器を使っていた。
大剣はもちろん、鎌に槍に片手剣、斧や飛び道具も使っていた。
一度だけ、先生が戦っている姿を見たことが在る。
恐ろしかった。今のオレほどじゃないけどな。

爆発。
まさにそのイメージだった。
晴れた日だった。太陽は高く、永遠に落ちないんじゃないかと思うほど高く昇っていた。
オレと先生しか居ない高原。
「レイブン、さがっていなさい。」
先生が機械的に呟く。オレは意味が解らなかった。まだガキだったんだ。
オレの腹に、先生の足が食い込んだ。
蹴り飛ばされたんだ。
空中を舞い、地面へと着くまでの間に、先生は2人殺していた。
袖口から出したナイフを、右へと投げながら、大剣を抜いて体を翻す。
その先に黒ずくめのヒュームの男が一人。先生は迷わず縦に一閃した。
蒼い光が縦に走った様な錯覚。すげぇ、と思った。
袖口から投げたナイフが、鎧を纏った剣士の仮面をぶち破っり、
黒ずくめの男が倒れたところで、俺は地面に着いた。
激しい衝撃が襲う。
其のまま前転して、すぐに立ち上がったつもりだった。
一瞬のはずだ。
その瞬間に、すでに先生は、赤い鎧を着たミスラの戦士の首をはね、
真っ白な服を着た騎士の剣撃を受け止めながら、二本目のナイフを投げていた。
ナイフは、魔道士の詠唱と命を止めた。姿を消していた魔道士を、先生は見えていたらしい。
白い騎士の盾での打撃が先生を襲った。
ドクン。
世界が膨張した。先生の周りに、闇が纏わりついていた。
バキッっと、激しい音が響く。
盾が先生に衝突した・・・・様に見えた。
「先生!」
オレはとっさに叫んでしまった。
しかし、先生も、騎士も動かない。
永遠にも思えた、一瞬の静寂。そして、長い時を経て、崩れ落ちる騎士。
盾を貫いた大剣が、騎士の胸をも貫いていた。
一瞬で、5人を殺した。
まさに・・・爆発だった。
先生が振り向き、こっちに歩いてくる。
ゆっくりと、腰の片手剣を抜いて、振りかぶって、それを、それを
オレに向かって投げる。
ビュッっと、突風に似た音と共に、死が飛び立った。
「うわぁ!」
手を、顔の前で交差させ、オレは目をつぶった。
ブシュッっと、肉に刃の刺さる音が響いた。
恐る恐る目を開ける。
そこには、大量の血が降っていた。
オレの後ろには、東洋の鎧を着たエルヴァーンが巨大な刀を持って立っていた。
首が半分切れている。この赤い雨は、そこから降っていた様だ。

544 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 17:25 [ CQvOeBBw ]
殺すために、様々な武器をつかった。様々な魔法も使った。
それが先生。
しかし、オレは大剣しか教えてもらっていない。暗黒魔法しか使えない。
それで十分だった。オレはそれで十分強くなっていた。
強さとは、えらくシンプルだ。生き残ったほうが、より強い。
そう、それだけのことだ。

「振ってみろ。」
フラミンゴが、オレを睨んだ。振れる訳がないという訴えだろうか。
しらねぇよ、振れねぇようじゃ話になんねぇんだよ。
そうだった。話にならない。振れる様にならなければならない。
オレを殺すんだろう?

オレは、残念そうな顔をしていたのだろうか。それとも、諦めた顔をしていたのだろうか。
フラミンゴがの顔がこわばった。その表情は、絶望にも似た顔だ。
たとえば、二度ほど親を殺した男の様な顔だ。
フラミンゴはギリギリまで深く、右手で柄を握った。
そして、左手はギリギリまで浅く柄を握っていた。
剣先は、自分の重さで、背中を超えて地面にめりこんでる。
ふっ
っと、フラミンゴが息を吐き、左足を大きく踏み込んだ。
体重を移動させながら、左手を下方へとひきつける。
タイミング良く前へ突き出された右手を境に、刃と柄が、逆方向へ動いた。
グルンと、希望を繋ぐ橋のように、刃はアーチを描いていた。
振りやがった。凄げぇ。

驚くオレに、得意げな表情のフラミンゴが得意そうに言った。
「テコの原理をつかったの。」
ゲンリ?よくわかんねぇ単語だった。
何かの魔法か?兎に角、凄げぇんだな。
「ふぅん。やるな。」
まぁ、興味は無かった。そんなもん使わなくても、オレは剣を振れるしな。
だた、こいつは自分で強くなることが出来るらしい。
俺を超えるのも、そう遠くない様な気がした。
何時か、オレを殺すんだろう。
楽しみだ。

それから何時間か剣を振り回していた。
遠心力を利用させて素早く振る方法。敵を切断するタイミング。
踏み出すコツ。様々なことを教えた。それを、スポンジみたくドンドン吸収していきやがる。
テコの何とかやらを使いながら、自分が振れる様にアレンジもしてやがった。
赤かった空は、既に暗い闇を纏う。
岩に当たる剣が放つ火花が、闇を切り裂く星々の光の様に煌いてやがる。
「今日はこんなもんだ。その剣はくれてやるよ。」
多くの血を啜った青き大剣、それは先生の剣だ。
殺した時、頂いたやつだ。
多くの時間と、多くの血が作り上げた狂気を持つ剣。
ゼオさんの血を吸い、ナナリアさんの血を吸い、グレーの血を吸った。
その刃にだったら、オレは殺されてもいいとおもった。

「はぁ・・・はぁ・・・普通の剣のほうが、使いやすいんだけど・・・。」
ハッ。知らねぇよ。
オレの獲物はずっと大剣だった。それ以外の武器なんて知らねぇ。
強く成りたかったら振り回せ。世界を微塵に出来るまで。ずっと。
俺を殺すまで。ずっと。

    続く

545 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 17:28 [ CQvOeBBw ]
漉し餡派でごぜぇます。

546 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 18:19 [ mg5O2f6I ]
いいねぇいいねぇえこの何ともいえない
暗い作品最高ですねぇえぇぇええ
さぁじっくりと殺してくださいねぇぇぇえええじわじわとぉぉお
こう指一本ずつわめいてるのを微笑んで切り刻みぃいいいいい
そして笑顔でぇええええええ「こんばんわ今日は熱いですね」ぃぃいいい

547 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 21:55 [ CQvOeBBw ]
ネガティブマーチ


私の孤独は、カラスの孤独とは違う気がした。
選んだ類の孤独じゃない。
私は、運命的に孤独なんだ。
カラスみたいに、選んで孤独になってるわけじゃない。
あんなに強くない。私は強くなりたい。でも一人は嫌だ。

私を一人にしないでください。


 ― 事実【ファクト】 ―


「私の両親、殺されたの。」

空間を闇という闇が支配している。
夜の更けに、私達は紛れて進んだ。
カラスに、ずっと剣を振らされて疲れきった私は、
その場で動くことが出来なくなってしまった。
だから、カラスにおぶられて家路に着いていた。
なんだか恥ずかしくて、場の空気が嫌で、私はなんとなく言ってしまった。

「サンドリアに調査に行った時にね、同行していた仲間に裏切られて殺されたらしいの。」

帰ってくる日になっても戻らない両親を、不安に胸をはちきられそうになっていた在る日、
バストゥーク領事館の役人が来て私に両親の死と原因を告げた。
青い月が、世界を無慈悲に照らしていた夜だった。
それはあまりにも衝撃的だった。
「父と母は死にません!かえって!!」
そういって追い返したっけ。
死とは、唐突なものなのです。
コンシュタット高原にある、きれいな風車を見つめている。
不意に後ろから声がして、振り返ってみても何も無い。
へんだな?って思いながらも、視線を風車へもどすと、その風車が炎に包まれていた。
ってくらい唐突。
そのくらい衝撃的。

548 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 21:56 [ CQvOeBBw ]
「もしも、サンドリアに行くことがあったら連れてってね。
 両親が死んだ場所、いってみたいし。」
私の願いは、カラスには届いたのだろうか。私を揺らして黙ってあるいていた。
そして、ふと呟いた。
「サンドリアか・・・思い出したくねぇ思い出ばっかりだ。」
以外だった、カラスにも思い出したくない事なんてあったんだ。
私は、カラスについて余り知らない。出合ったばっかりだから仕方ないよね。
だから、これから色々と知っていこうとおもう。
私は、カラスの弟子なんだから。

バストゥークのゲートが見えてきた。
山肌に掘られたトンネルを抜ければ、商業区の黄金通りに通じている。
「私、両親殺した奴みつけたら100回ころしてやるんだ。
 両親が死んだのは、まあ仕方ないとして、私をこんな地獄へ
 追いやった奴がすごく憎いの。」
出来るだけ、軽く、冗談みたく言ってみた。
両親の死なんて、どうってことない。
そう自分に言い聞かせながら。
私は、一人で生きる。両親の影なんて、とっくに私から退散してるんだ。
・・・私は、本当は懇願していた。涙で目を潤ませながら、背中越しにカラスに願った。
心の中で。
お願い、私に力をください。
「闇を望むんだったら、闇は喜んでお前の力になってくれるだろうよ。」
私の冗談に、カラスは皮肉っぽく答えた。
なんか、怒ってる様な、泣いてる様な声で。
私、何か悪いこと言っちゃったかな・・・。


もしも、カラスが罪とか、罰とかに気づいちゃったらどうなるんだろう?
自分の罪に罪悪感が芽生えてしまうだろうか。
もしかして、死んじゃうかもしれない。
重い罪に、つぶされて、くるしんで、それで・・・・。
それでも生きて罪を償えっていえる?
それでも罵声をあびせられる?
私は、カラスに罪の意識なんて芽生えてほしくない。
私は、罪を確認した人を攻めたくなんて無い。一番つらいのは、その人だと思う。
被害者なんかより、赤の他人なんかより。
どんなに悪い奴で、危険な奴でもいい。いまのままでいい。絶対に。


門に着く前に、私はカラスの背中から下りた。
もしも、門の前にガードとか、冒険者が居たら恥ずかしいし。
血で黒く汚れた服を堂々と着ている私でも、そういうのは気にするんです。
「明日も剣の使い方教えてくれんだよね。」
「ああ、仕事の在る日以外はな。」
「サンドリア行く時、連れてってよね。」
私は、微笑んでいた。他人に向けて微笑むなんて、何ヶ月ぶりだろう。
覚えてない。
「そ、それじゃあした。」
気まずくなって走って逃げた。私は成長してないようです。

549 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/16(金) 21:57 [ CQvOeBBw ]
「へへっ。遅くなっちゃった。マイク、心配してるだろうな。」
護衛は失敗してしまったが、成功報酬とは別に、前金で1000ギルほど貰っていた。
お腹を空かしてるマイクのために、あと、頑張った私へのご褒美として、
ミスラの風土料理である山幸の串焼きを2つ買ってきた。
すでにアップルパイを1つ食べてるのは内緒。
家の前でちょっと照れ笑い。
「た、ただいまー!」
勢い良く、ドアを開ける。
・・・・・。
誰もいない。
「まいく?」
・・・。呼んでみても、返事が無い。
部屋を見渡す。何も無い。あるのは、壁と、床と、天井と、暖炉と、白い紙が一枚。
それが使命であるように、私はその紙を大切に拾い上げた。
ぺタっと床に座って、その紙を眺める。



  さがさないでくださいクポ。
     
             マイク   


その場に崩れ落ちてしまった。頬に涙が伝う。
「枕・・・・無くなった。」

そのあと、一人で2つも串焼きを食べた。
太ったって知らない。
これを、やけ食いって言うのね。フラれてしまった様です。

夜は更ける。私は眠れなかった。

ツズク

550 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/17(土) 06:36 [ lIAZwXxk ]
モーグリに見捨てられる冒険者ってのは初めて見たなあ…
なんていうか、展開が新鮮で面白い。

551 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/17(土) 16:59 [ HeTRj4Wg ]
ネガティブマーチ


殺されることに、意味は無い。
殺すことに、理由は無い。

そういう意味で、オレは純粋なのかもしれない。
殺気のない女は、オレを何時か殺すはずだ。
理由は無い。いつか、勝手に出来るだろう。

オレが先生を殺した様にな。

気がかりは一つ。
オレが死んだら、誰があいつの面倒みるんだ?

すでに、親気取りかよ。オレ。


 ― 動けない真実 ―


フラミンゴを連れて、商業区と鉱山区を繋ぐ橋へと来ていた。
「ここで待ってろ。」
橋へ降りる前の階段のところで指示した。
フラミンゴは、頷いて其処へ座った。
すげぇ眠そうだ。
目は半分開いているが、何を見ているのかぎょろぎょろと綺麗な黒い瞳が動く。
その下には、その瞳より真っ黒な隈が出来ている。
オレから見ても異様に見えたんだからから恐ろしいだろ?

一人で歩いて、爺の座るベンチへ急いだ。
そして、道の方向を向いて座る。もちろん距離は開ける。
「誰じゃ?あのオナゴは?」
いきなり聞いてきた。普段は5,6分の沈黙の後、話が始まるのによぉ。
「後継者。」
とりあえず真実だ。
「ほほ、汚い仕事をやらせるつもりか?あんな可愛い子に。」
その通りだった。この仕事は修行にもなる。
殺しに慣れることが出来る。もしもだ。オレを殺した後、仕事が無ければここで引き受けることもできるだろう。
生きるのに困ることはない。
「無理じゃの。なにも、力の良し悪しで言ってるんじゃない。無くたって出来る仕事は在る。
 しかしの、ワシはお前専属じゃ。他の奴への依頼などない。」
「なに?!」
初耳だった。しかし、そう言われれば、ここで他の糞共と鉢合わせになることは無かった。
しかし、なんでそんな面倒臭せぇことしてんだ?
「依頼を受ける者同士が殺し合わない為じゃ。」
まるで、心を読まれたかの様に、爺が話し始めた。
「依頼を多く受けるために、他の者を殺すかもしれんじゃろ?しかしな、仕事はそれほど少なくない。
 希少な獣どもを、共食いさせるわけにはいかぬっちゅうわけじゃ。」
なるほどな。それには一理あった。
もしも、オレが此処でオレ以外の殺人狂にあったら、迷わず斬っていたろう。
強えぇ奴と殺り合いてぇんだよ。
今も疼く。血を求める声。止む時は、死ぬ時だ。

552 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/17(土) 17:01 [ HeTRj4Wg ]
まだ、オレにはこの爺に用事があった。大切なことだ。
「爺。もしも、オレが死んで、あの女が此処へ来たら、
 ・・・いままでピンハネしてた分、全部渡してやれ。」
オレに出来ることは、こんくらいか。
「ほほ、ワシはピンハネなんぞしとらんぞ。ちょっと・・・預かっといただけじゃ・・もごもご。」
預かってた、か。
言い方なんてのは、必要じゃなかった。渡される真実さえあれば、それで十分だった。
もしも、爺が欲だして渡さなかったら、幽霊になっててでも殺してやるよ。
これで、オレのするべき事も終わったと思う。
殺されるのを待ってりゃいいんだろ?

立ち上がって、その場を離れた。
離れ際、爺が呟いた。
「約束は守るぞ。」
へっ、言いやがる。爺め。


「悪りぃな。待たせ・・・。」
寝ていた。手すりの在る壁に、よたれかかって、静かな寝息をかいていた。
・・・歯軋りもしてやがる・・・。
同じ段の、逆の壁側に座る。海からそよぐ風から、微かに磯の香りが漂っていた。
穏やかってやつか。生まれて初めてじゃねぇのか?
だから解らない。誰か教えてくれ。これは、幸せなのか?
静かな寝息と、風の音だけが流れる。
そう、血を求める声は、知らずの内に・・・・・止んでいた。

血が欲しいか。


続く

553 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 06:55 [ r/uYidIM ]
マチルダたん思い出す
まさにreonヴァナ版の趣があって イイ! (^。^)y-.。o○
作者さん 無理せず頑張って!

554 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 11:02 [ Gy/S68CQ ]
トニーはピンハネとかしないけどなw

555 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 12:59 [ ifKLl8co ]
バス
共和軍団陸軍6000人海軍6000人
鋼鉄銃士隊4000人
黄金銃士隊2400人
18400人

サンド
王立騎士団6800人
神殿騎士団2400人
近衛騎士団100人
9300人

ウィン
戦闘魔道団12480人
ミスラ傭兵団600人
元老院警護隊100人
13180人

556 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 13:07 [ ifKLl8co ]
…ウィンダスの軍事力に誤り在り・・・

ミスラ傭兵隊はこの数ではない。(ハッキリしない)
戦闘魔道団の人数はモット増えそうである。

557 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 16:11 [ TAPCP6XA ]
各都市の人口って設定あったっけ?
読んでても脳内でイメージ沸きにくいのよね、街の規模とか
ゲーム中のあの狭っこい街並みしか浮かばん

558 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 16:24 [ aGX51jrA ]
三国どこも圧倒的に冒険者しか見ないからなあ。
一般居住区はあれど、クエスト絡みで押し入るためにあるような
もんだし、生活感てのはないからね。
本当は、冒険者の方が人口比率としては少ないんだろうなあ。

559 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 17:23 [ x6c7RZIE ]
ネガティブマーチ


目が覚めたとき、私は幸せだったのかな?

起きた時、おはようって言ってくれる相手がいた。

単純な世界も、ちょっとは好きかもしれない。

複雑に不幸な世界に、戻れなくなりそうです。


 ― 再会・出会 ―


まただった。移住区のお店が密集する大通りを歩いていたら、またモーセと会った。
最悪。
しかも、逃げたかったんだけど、大人の人と一緒だったから逃げられなかった。
エルヴァーンの綺麗な人。年は、30くらい?とっても綺麗。
「あ、こちら一緒に住んでるプリマドールさん。こいつ、俺の同級生のナナです。」
誰だっていいんだけど、私は大人が苦手だし、蔑まされるのも嫌だったから挨拶はした。
「どうも。」
って感じで。
たぶん、向こうはこっちの服装が気になったんだろう。一拍遅れて返事が返ってきた。
「こ、こんにちは。」
お気に入りの白いパーカーは、血で殆ど真っ黒。スカートは、裾がもうぼろぼろだった。
バストゥークでエルヴァーンを見るなんて、珍しかった。冒険者ではなく、一般人としてって意味でね。
なんで、この国にすんでるんだろう?ちょっと気になった。

560 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 17:23 [ x6c7RZIE ]
「おい、待たせたな。」
カラスが、大きな袋を持って出てきた。私の服が入っている。背中には、真新しい大剣。
「会計遅くてよ。参った。」
モーセとプリマドールさんが、ポカンと見ていた。
そりゃ、そうだろうと思う。私みたいな子供と、悪魔みたいな黒い鎧を着た奴が一緒に仲良くしゃべってるんだし。
「こ、こちらレイブン。私の師匠です。殺じ・・・冒険者の。」
なんとなく、雰囲気が気に入らなかったので、取り合えず挨拶程度に自己紹介。
「俺、モーセです・・・。」
小さい体を、もっと小さくして言った。
「プリマドールです。どうぞよろしく。」
プリマドールさんの挨拶。それが言い終わるか、終わらないかの刹那、カラスが叫んだ。
「プリマドールだって?!」
知り合い?それにしては、驚きすぎだった。しかも、顔を見ても気づかなかった。
子供のころの知り合いとかかな?
女の人って、成長するとすごく変わるって話だし。
・・・・しかし、そんな雰囲気じゃなかった。
今にも、殺しそうな勢いがあった・・・。
「先生・・・グリフォンて人を知りませんか?」
カラスの敬語、初めて聞いたかも。ちょっと吹き出しそうになったけど堪えたよ。私は大人だし。
でも、カラスにも先生が居たなんてびっくり。
一人でそこまで強くなったと思っていた。
そう、一人じゃカラスも弱かったはず。私も強くなれるかもしれない。
「あなた、夫の知り合いですか?」
展開が読めない。どういうことだろう。
「オレ、先生から剣を学びました。」
「あの、夫は、夫はどこに居るかご存知無いでしょうか?!」
真剣な表情。
蚊帳の外の私とモーセは、顔を見合って首をかしげた。

「オレが、殺しました。」
在ってはいけない言葉だった様に思えた。
ああ、影が、プリマドールさんの顔に絶望を絵描いている。
いつだって、罪は纏わりつくんだ。
何分たっただろう。何十分たっただろうか。
私たちは、そこから動けないでいた。
その静寂は、痛かった。辛かった。悲しかった。全員、たぶんカラス以外がそう思ったはずだ。
その静寂から、私達を救ってくれた英雄は、プリマドールさんだった。
「私も、私も殺してください。」
不思議なことだった。なぜ、死ぬの?
カラスを憎んで殺そうとしないの?
もしも、私がカラスに愛する人を殺されたら、
どうするんだろうか。
「夫と同じ場所で、夫と同じ様に殺してください。お願い!!」
懇願だった。悲壮の限りの懇願だった。
私達は、その光景を遠くから見ている感じ。
まるで、別の世界の景色だった様に思えた。
「わかった・・・。」
カラスが呟く。
「自ら殺して欲しいなんて・・・ゼオさんに言われて以来だな・・・。」
悲しそうな目で、カラスが言った。
言った・・・ゼオ・・・さん?

「それでは、あした、鉱山区にある夫の家・・・に、来て・・・さい。そこで   ・・殺して。」

「わ・・・・・・  す。」

私は、逃げた。どこかに。どこでもいい。
たった一つの違和感を残して。


ツズク

561 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 17:26 [ x6c7RZIE ]
言われて気が付きました。レオンばくってる!
好きな映画って訳じゃなかったんですが、やっぱり心に残ってたのでしょうか。

562 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/18(日) 17:42 [ x6c7RZIE ]
ミス発見。移住区じゃなくて居住区でした。
移住て・・・・。

563 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/19(月) 19:53 [ D4AEgKjo ]
ネガティブマーチ


幸せは、罪だ。

不幸が、罰だ。

その両方を、オレは頂くことになりそうだった。
執行人くらい、えらばせろ。

わりぃ。フラミンゴ。嫌だろうが、殺してくれ。


 ― エンジン ―


あれから5年たった。懐かしい部屋だ。
まだ、プリマドールさんは来てねぇ様だ。
昨日は、気づいたらフラミンゴが居なくなってたからな。
さっさと終わらせて、服届けにいってやるか。
入り口に立ち、部屋を見つめる。
まさか、ここで先生の奥さんを殺すことになるとは・・・。

ブシュゥ
部屋を見ている視界の中に、両側から血が写り込んできた。
ゆっくりと、膝を突く。
力がはいんねぇ。
視野は、まだ部屋を見ている。
血が写り込んだ様に、二人のエルヴァーンが、同時に、左右から視界に入ってきた。
同じ高さ、同じ東洋の鎧、同じ仮面。どちらも男、プリマドールさんじゃない。
丁度二人の全体が見える位置まで来ると、二人は立ち止まって振り向いた。
同じ目、同じ鼻、同じ口、同じ色の髪があった。
双子か。
殺ってやるよ。
大剣を抜き放つ。
・・・
しかし、目の前に抜き放った筈の剣がない。不思議だった。
そうだ。




手が




無い。

肩から手が削ぎ落ちていた。
殺気を感じなかった。斬られたことも、良く理解していなかった。
死ぬのか?こんなところで・・・俺は・・・・。
血が勢い良く吹き出している。血が足りない。
目の前が・・・・薄暗くなってきた。

血が欲しいか?
欲しけりゃ殺れ。
力は、まだお前の中にあるだろうがよ。糞ったれが。

そうだった。口がひきつる。笑いがとまらねぇ。
「カカカかカカッカアアアアアアアアアアア!」
目の前の双子が刀を構えた。
しらネェよ!!
血を撒き散らし、オレは突進する。
なんだか、全てがスローに写る。
刀の筋が見えた。・・・暗黒の症状だった。

一つの刃を掻い潜る。しかし、その先には、顔の目の前にもう一つの刃。
噛み付く。歯で白刃取り。我ながら器用だな。
刃によって、口の両端から鮮血が飛び散った。
首を返し、刀を奪い取る。そのまま体をぶつけ、体重を乗せる。
上手く倒れた。ちょうど、仮面ヤロウの顔面を刃で貫けた。
「一人・・・。」
刀から口を外して微笑む。
目が、はっきりとしてきた。殺すたびに、傷つけるたびに心が、体が癒される。
ブラッドウェポン。
血が欲しい。血が欲しい。血が欲しい。血が!血が!血が! 血ガ欲シイ!!
あああああああああああああ!!!!!!!!!!!!


部屋の真ん中で、オレは倒れている。
まだ、意識は在る。
2人とも殺せたようだ。
あとは、おとなしく死ぬだけか。
オレは、ここで死ぬ程度だったようだ。すまねぇな、フラミンゴ・・・。


「だれかあああ!助けて!死んじゃう!誰か!だれかああ!」
叫び声・・・聞き覚えがある・・・ふら・・みんご?

564 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/19(月) 19:55 [ D4AEgKjo ]
気づいた場所は、フラミンゴの部屋だった。
なにも無ぇ部屋だな。
壁に立てかけられたように、オレは座わらされていた。
両肩には包帯、血は止まっていた。
「私の父親、ゼオっていうの。」
ははっ。傑作だった。
両手の無いオレ。父親を殺したオレ。
まさに、こいつに殺されるために存在していた。
「殺せよ。そのためにくれてやった剣だ。」
殺してくれ。両手を無くしたオレを、生かしておくな。死にたい。
救ってくれ。オレを救ってくれ。お前しか出来ない。出来ない。
「殺したら、昨日の爺の所いけ。金をくれる。」
安心して殺せ。
「やだ。」
やだ?否定の言葉だ。それは、優しくも聞こえたし、断絶のようにも聞こえた。
オレに生の苦痛を与えるつもりなのか?オレに生の救いをくれるつもりなのか?
解らなかった。どういうつもりで、オレを殺さないのか。
オレは、親を殺した。オレは、お前を地獄へ送った。オレは・・・・許されないはずだ。

「私が、守ってあげるから。両手の変わりに。私が守ってあげる。」

罪が、その救いに際立たされ、より目立つ。
オレの罪が、色濃く移る。

ああ、コイツの手を、汚しちゃいけないんだ。

生まれてきて、ごめんなさい。



続く

565 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/19(月) 20:16 [ D4AEgKjo ]
義手とか、義眼とか、体の一部が欠けている人を、私は何故かカッコよく思います。
小さい頃からその様な傾向があり、美術や図工の時間に書いた自画像も、両手が無かったりしてます。

ごめんなさい。殆ど趣味で書いてますw

566 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/19(月) 21:42 [ 60TVIEIQ ]
暗い話とかホントは苦手なんですが・・・

ネガティブマーチはかなり(・∀・)イイ!!

続き楽しみにしてまつ

567 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/19(月) 22:20 [ D4AEgKjo ]
>>566
ありがとうございます。
なんだかテンション上がってきたので、
今ちょっと書いてみた一話完結の話のせちゃいます。

>>566さんに捧げますw

568 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/19(月) 22:21 [ D4AEgKjo ]
とても寒い世界と、ボクが生きた証。


ボクが生まれた国は、差別があります。
友達のガムラン君は、よく虐められてます。
ガルカだからです。

「サン、あの子とは遊んじゃダメですよ。ゆっくり寝てなさい。
 それでなくても、最近体の調子が良くないんですから。」

ボクのお母さんは、ガムラン君と遊ぶのをとても嫌がります。
ガムラン君も、ボクの家に来るのを嫌がります。
お母さんのことも、ガムラン君のことも、ボクはとっても大好きです。
いつか、仲良くしてくれたら嬉しいと思ってます。

いつものように、ボクは家から抜け出して、
ガムラン君が、いつも釣りをしている河へ行きました。
港区という、飛空挺が飛んでくる場所です。
「ガムラン君、こんにちは。」
ボクが挨拶をすると、ガムラン君はニッコリと微笑んでくれました。
とても優しい笑顔で、ボクはその顔が大好きです。
「こんにちは、サン。体の方だいじょうぶなのかい?」

ぼくは、生まれつき心臓が成長しない病気にかかっていました。
お母さんが言うには、子供の頃なら負担は小さいけど、大きくなるにつれて
少しずつ悪くなっていくらしいです。
小さい体には、小さいエンジンしか要らないけど、
大きな体には、大きなエンジンが必要だかららしいです。
ガムラン君くらい大きいと、きっと大きな心臓が必要なんだろうと思いました。
ちょっと、うらやましかったです。

「大丈夫だよ。ガムラン君と遊ぶと、なんだか元気になるんだ。」
そういうと、ガムラン君は嬉しそうな顔をしてくれました。
ガムラン君とボクは、いつもここでずっと釣りをしています。
ボクは釣りの道具がないので、ガムラン君と交代で釣りをします。
本当は、鬼ごっことか、かくれんぼをしたかったのですが、
ボクの体は、走ったりできません。

「ごめんね。本当は、もっと遊びたいのに、ボクといつも一緒にいるせいで、
 釣りとかしかできなくて。」
と、ボクはガムラン君に謝ったことがあります。
ガムラン君の友達は、いつも棒を剣にみたてて戦うまねをしたり、
追いかけっこをしたり、鉱山へ探検へ行っているのに、ボクといっしょに
いるせいで、ガムラン君は釣りしかできなかったからです。
「つまらないこというなよ。俺はサンと一緒にいるの、すげー楽しいよ。」
ガムラン君は、そう言ってくれました。とても嬉しかったです。

569 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/19(月) 22:21 [ D4AEgKjo ]
ある日、ボクが家を抜け出して、ガムラン君と遊ぶために、いつもの場所へむかっていた時です。
丁度跳ね橋があるところで、ガムラン君を見つけました。
一人じゃなかったので、友達を遊んでるんだろうなと、思いました。
でも違いました。
ボクと同じヒュームの子が、棒を持ってガムラン君を叩いていました。
ガムラン君は、小さく、亀のようにちじこまっていました。
「クゥダフだー!やっつけろー!」
と、ヒュームの子供たちは次々に口にして、棒でガムラン君を殴っていました。
とても悲しかったです。
ボクが、「やめなよ。」と、言うと、
「お前もクゥダフの仲間かー!」
と、言って、ボクのことも叩きました。
「やめろお!サンは関係ないよ!やめろおお!」
ガムラン君の声が聞こえました。
ボクは、肩を叩かれて、その場所に倒れてしまいました。
それから、ガムラン君が、子供たちを殴っていました。
力いっぱい殴っていて、動かなくなる子供もいました。
いつも優しいガムラン君が、その日はとっても怖かったです。


次の日から、ボクは家から抜け出せなくなってしまいました。
体が動かなくなってしまったのです。
お母さんは、ガムラン君が嫌いだし、ガムラン君は、ボクの家が嫌いだったので、
ガムラン君と会うことができなくなってしまいました。
悲しいです。
それから3ヶ月くらい経ちました。
体が重くて、ご飯も食べられなくなってしまいました。速く元気になって、
ガムラン君と遊びたかったのに残念です。
「サン。なにか、欲しいものはある?食べたいものとかは?したいことでもいいのよ。」
ボクに、お母さんが聞いてきました。
ボクがしたいことは、一つだけです。
「ガムラン君と遊びたい。」
その日から、ガムラン君は、毎日遊びにきてくれるようになりました。
お母さんとガムラン君には、悪い事をしたな、と思いました。ごめんなさい。
「ごめんね、ガムラン君。ボクの家が嫌いなのに、毎日きてもらって。」
ある日、ボクはガムラン君に謝りました。しかし、ガムラン君は、
「別に嫌いじゃないよ。ただ、サンのお母さんが俺の事嫌いみたいだったから。」
と、言いました。ガムラン君は、お母さんの事を気にしてくれていたようです。
大好きなガムラン君が、お母さんの事を思っていてくれて、とてもうれしかったです。

「俺さ、いつかミスリル銃士隊に入って、ガルカへの差別を無くすために戦うんだ。」
ガムラン君が、ボクに夢を語ってくれました。
ガルカは、ヒュームに差別されているそうです。だから、ガムラン君が虐められているそうです。
ボクは、とても悲しかったです。
「ボクは、大人になったら大統領になるよ。それで、ガルカが虐められないようにするんだ。」
ボクがそういうと、ガムラン君は悲しそうな顔で笑いました。
なにか、悪い事を言ってしまったんじゃないかと、少し心配です。
だけど、ボクが「ごめんね、なにか悪い事いっちゃった?」って聞いたら、
「ちがうよ。とても嬉しかったんだ。」
と、いつもの優しい笑顔をしてくれました。
ガムラン君が笑うと、ぼくもとてもうれしいです。

570 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/19(月) 22:22 [ D4AEgKjo ]
寒い冬の日、ガムラン君が言いました。
「なにか欲しいものはある?して欲しいことでもいいよ。」
ぼくは、ガムラン君が遊びに来てくれるだけでうれしかったので、
「なにもいらないよ。ガムラン君が遊びに来てくれるだけで嬉しいよ。」
と、言うと、なぜかガムラン君は泣いてしまいました。
ガムラン君が泣くと、ボクも悲しいです。
泣き止んでほしくて、一生懸命いろいろと喋りました。
でも、ガムラン君は泣き止んでくれません。
ボクが、もっと元気で一緒に遊んであげられたら、きっと泣き止んでくれたんだと思います。
ごめんね。

その日の夜、ボクは家を抜け出しました。
ガムラン君が、虐められないように、もう泣かないように、みんなに伝えるためです。
だけど、お母さんが起きている昼間に、みんなに伝えることは出来ません。
夜、抜け出しても、みんな寝ているので伝えられません。
だからボクは絵を描きました。
鉱山区の壁に、ガルカとヒュームが楽しく遊んでいる絵を描きました。
黒と白と赤と黄色と青の絵の具しかなかったけど、それで一生懸命描きました。
足が動かなかったから、立つ事ができなくて、壁のしたの方にしか描けなくて残念です。
やっと絵が完成したとき、ボクは、意識をうしなってしまいました。
でも、絵が完成してよかったです。
これで、ガムラン君も虐められなくなるとうれしいです。


気が付くと、家のベットに居ました。
横では、ガムラン君と、お母さんと、お医者さんが居ました。
ガムラン君と、お母さんは何故か泣いていました。
「サン!サン!!がんばれ!俺、医者になってお前の病気なおすから!それまでがんばれ!」
ガムラン君の声が聞こえました。ボクは、なんだか元気が出てきて、ピースサインをして見せました。
お母さんも、ガムラン君も、それを見てよろこんでくれました。うれしかったです。
「おお。意識が戻るなんて、奇跡だ。」
お医者さんがそういってました。
たぶん、ボクは死にます。だけど、最後に元気をくれたのは、ガムラン君でした。
ぼくは、大好きなお母さんと、ガムラン君が一緒にいてくれて幸せです。

ボクの生きた証は、たぶんこの二人です。

さようなら。

571 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 01:42 [ ycJkxYdQ ]
ダブルフェイス・レッドラム  第11話「また、会いましょう」


― バルクルム砂丘 ―

「熱い…マジで熱い…」
照りつける太陽。足元は白く乾いた砂。そう、ここはバルクルム砂丘。
アズマ達はコンシュタット高地を抜け、港町セルビナを目指していた。
「のどかわいたよぅ…お水飲みたい〜」
「アトト、我慢だよ、我慢。皆だってカラカラなんだから」
「…う〜ん。参ったね…」

冒険者は単に襲い来る敵の事だけを考えればよい、という訳ではない。
万が一の備えとしての各種薬品類、加えて衛生面を考えての替えの衣類…
そして何よりも大事なのが水と食料だ。取り分け水に関しては生命線である。

旅慣れてないアズマ・ミズハ・アトトの三名は消費ペースを誤り、
必要以上に水分補給してしまったのだ。
「あそこの樹の影で休もう。涼しくなってからセルビナを目指そうか」
ここからセルビナまで、そう大した距離ではない。行き倒れの心配は無い為、
ヨルはあえて休息を取り、夕方になって気温が下がるのを待とうと判断した。
(なんだか休んでばかりいるかも…)
と思った彼だが、まぁそれも旅の醍醐味なのかもしれない。
そして彼等は木陰に座り、夕方になるのを待った。

572 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 01:43 [ ycJkxYdQ ]
…太陽が沈み、夕日が砂丘の砂をオレンジ色に染める。
「ねぇねぇ、誰かきたよ〜」
アトトが指差したその方向から、小さな影がこちらに寄ってきたのが見える。
「ん…なんだ?タルタルにしてはちっこいし…」
「ゴブリン…じゃないでしょうか?」
「そうだね…」

なるほど、大きな鞄を背負ったシルエットはゴブリンのものだろう。それは
ゆっくりとこちらへ向かってくる。
「…来るんでしょうか?」
「武器を構えて」
ヨルの指示の元、各自戦闘体勢に入る。ゴブリンはその間もどんどん向かってくる。
そして…

「待て、俺、戦うつもりはない。武器を収めろ」
「なな、なんだぁ!?」
「俺、お前達の友達。俺、冒険者だ」

アトトは怯えてミズハの足にしがみついて、ぶるぶるとゴブリンを見つめている。
アズマは尚も警戒態勢のまま、ゴブリンを睨みつけていた。
「君は…そうか、君も冒険者なんだね。皆、この人は大丈夫だよ」
ヨルは安心したのか、構えを解いた。それにつられて残りの三人も警戒を解く。
「あなたも…冒険者なんですか?」
ミズハが不思議そうな顔をしてゴブリンに話しかけた。
「そうだ。俺、ルビック。北の地から来た」

573 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 01:44 [ ycJkxYdQ ]
「そうだよな〜、やっぱ男は世界を歩かなきゃいけないよな!」
「俺もそう思う。お前、気が合う」
がはは、と笑いながらルビックの持っていた酒を飲むアズマ。
4人と一人のゴブリンは焚き火を囲んでいた。
ルビックの大きな鞄の中にはたくさんの珍しい食料や酒、それに水があり、
彼は自前の大きな鍋でそれをぐつぐつと煮込んでアズマ達に振舞った。
「俺、世界を放浪するのが夢。北は雪ばかりでつまらない。
 ジュノへ行けば人間と暮らす仲間、沢山いる。俺、ジュノ行く」
「えっ、ジュノにゴブリンさんの仲間が住んでるんですか?」
「ああ、そうだよ。ジュノにゴブリンの経営する店がある。彼等は僕達人間と
 商売をして交流を深めているんだ」
「ゴブリン、鍋煮る、とても美味い。俺、ジュノの人間にご馳走したい。
 誰でも皆お腹すく。食べたら機嫌よくなる。そしたら争い、無くなる」
おたまじゃくしで鍋をかき混ぜながら、ルビックは嬉しそうに話した。
「そうだなぁ〜。こんなに美味い鍋なら皆大喜びだぜ!?
 …お前ジュノに行くんだよな?じゃあ、俺もいつかジュノ行くからそこで会えるなぁ〜」
「…ありがとう。俺、ジュノでお前達を待つ。楽しみ」
そう言うと、ルビックは空を見つめた。
「そろそろ夜になる。お前達、ここ危ない。早くセルビナ行け」
「え、なんでだ?一晩くらい飲み明かそうぜ?」
「ルビックの言うとおり、ここは夜になると危ないんだよ」
ヨルは立ち上がり、荷物をまとめ始めた。
「ボギー…ですか」
「そうだ。ミズハ。ボギー強い。お前達勝てない。早く行く」
「…よくわかんねぇけど…ま、いいや。ルビック。ジュノで会おうぜ!
 美味い鍋と酒、ありがとな!」
「アズマ、お前にこれやる、友情の印」
ルビックはポケットから小さなコインを取り出した。ぴかぴか光っているそれは、
どうやら金で精製されているようだ。
「綺麗なコインだな〜いいのか?」
「これ、友情の証」
「友情の証かぁ〜、へへっ大切にするぜぇ!」

574 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 01:45 [ ycJkxYdQ ]
…別れ際、ルビックはアズマ達に言った。
「人間の冒険者達、皆こういうらしい。だから、俺も言う。”また会いましょう”」
「おぉー、また会おうぜ!元気でな!」
アトトも、ミズハの足にしがみついて、小さくルビックに手を振った。
「あ、あの…ごちそうさま…でした」
消えそうなくらい小さな声で、アトトはルビックにお礼を言った。
「…俺、ゴブリンとして生まれた事に誇りを持っている。だけど、時々…
 お前達人間みたいになりたい、そう、思う」

そういい残すと、ルビックは夜の砂丘へと消えていった。

― セルビナ ―

「ほぇ〜、ここがセルビナかぁ、お、あそこに船が見える!」
彼らがセルビナに辿り着いた頃、既に夜となり、星が夜空に輝いていた。
「なんだか、しょっぱい匂いがするよぅ」
くんくん、と鼻をひくひくさせながらアトトは辺りを見回している。
「潮風だよ。海水の塩分が蒸発して、それを風が運ぶのさ」
博識なヨルが前髪をいじりながら、丁寧に説明をするが、三人は一切耳を傾けず、辺りを見回している。

「ねぇみて、あそこにお魚干してる。おいしそう!」
「ね〜。お姉ちゃん。釣りしてるよ、私もやりたい〜」
「おお、あんな所に武器と防具の店があるじゃないか!」

「………」

575 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 01:46 [ ycJkxYdQ ]
― バルクルム砂丘 ―

アズマ達と別れたルビックは、ラテーヌ高原を目指して歩いていた。
…そして、その途中。その惨劇の場に出くわした。
「た…たすけ…ぁあ!」
「畜生!畜生!…うああああ!」
「にげろ!ここは俺が引き止める!」
「やだぁ…やだよぉ!あなたを残してなんていけないよ!」
数人の冒険者の死体、そしてその中央に浮かぶ黒い影。
そう、それはまさしく砂丘の悪魔”ボギー”だった。
(アイツ…俺の…仲間…)
ルビックは走った。そして、ボギーの前に立ちはだかる。
ボギーは今まさに、一人の冒険者に止めを刺さんと腕を伸ばした所だった。
「やめろ…何故無意味に人を殺す!」
ボギーはふわっと反転し、ルビックを睨みつける。そして、ルビックの頭に声が響いた。
(おれはあああ!静かに暮らしたかっただけなんだあああああ!ニンゲンがぁああ!
 おれを殺した!俺をこんな姿に!!もう大好きな釣りもできなああいいいい!
 憎い…憎い…!うううううう)
「やめるんだ…お前、成仏する。意味の無い殺し…やめるんだ…」
ルビックは腰に下げたスコップを持つ、包丁は料理を作るための物だ。
故に彼の唯一の武器はスコップなのである。
(邪魔するなああ…お前はニンゲンの味方かああ!殺す!!)
「許せ、お前…俺が、成仏させる。生まれ変われ、そしたら一緒に…釣りをしよう」

576 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 01:46 [ ycJkxYdQ ]
ルビックとボギーの戦いが始まった。
しかし、彼の武器であるスコップでは死霊であるボギーにはダメージが望めるはずも無く、
防戦一方となってしまった。
(ニンゲン…敵!敵!敵!お前も敵だ!)
「違う!人間にも話し分かる奴、いる!」
(じゃあ何故俺をころしたああ!俺がなにをしたあああ??)
ボギーの伸びた腕がルビックに迫る、慌ててしゃがんで回避するが、
伸びた腕は彼の鞄を突き刺した。がきん、と音がして、鞄の中身がこぼれ落ちる!
「!?」
見ると、大切な鍋にひびが入ってしまった。…そして、鍋に気を取られたのが失敗だった。
ボギーの腕がルビックを捉え、そのまま力を込め、腕は鈍い音と共にあらぬ方向へと曲がる。
「ぐぅぅぅ…」
(お前も…俺とおなじにしてやる!)
ボギーの怒りに満ちた声がこれでもかというほど、頭の中に響き渡る。
「…怖がるな…大丈夫だ…俺、聞いた。死んだら…新しい命もらえる…だから…」
ルビックはよろよろと残った腕で鞄の中を漁る。そして…
「俺、お前手伝う…俺、お前の仲間…」
彼の手には、大きな爆弾があった。既に導火線に火は付いている。そして…

577 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 01:47 [ ycJkxYdQ ]
―― セルビナ・羊飼いの溜まり場 ――

「なぁなぁ、そーいやよぉ」
ベッドの上に寝転がったアズマは、隣のベッドに転がるヨルに問いかけた。
「なんだい?」
「さっきさぁ、ルビックの奴いってたろ?冒険者が別れ際にいう挨拶…
 ええとなんだったかな?」
「”また会いましょう”?」
「あぁ、そうそう。あれって、本当なのか?」
「うん、そうだよ。皆が皆言ってるわけじゃないんだけどね。
 …冒険者ってさ、僕達みたく、ずっと一緒に組んでる人もいるし、そうでない人もいる」
「野良ってやつか?」
「そうそう。それでね、その野良でパーティーを組む人達がよく使ってる言葉なんだ」
「へぇ〜」
「でも、実際はこの世界はとてもとても広くて、冒険者は常日頃危険と隣り合わせだから…
 また会えるとは限らない。
 …それでもね、いつか再会する事を願って皆そういうのさ」
「そっか〜」
アズマはルビックから貰った友情の印のコインを握り締めた。
「へへ…また、あいつと会えるといいな」
「うん、大丈夫さ。きっとまた会えるよ…」

578 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 01:47 [ ycJkxYdQ ]
― バルクルム砂丘 ―

満身創痍のルビックが砂丘に立っていた。
足元には今まさに無へと還らんとするボギーがいた。
(…俺は…どうなる?どうなるんだ?)
「大丈夫…光が、光がお前をいざなう。だから…」
(ああ…本当だ…あたたかい…あたたかい…有難う…)
ボギーはまるで、眠るように安らかな顔で、ゆっくりと無へと還った。
「……」
振り向くと、冒険者の生き残りが一人、震えてこちらを見ている。
爆弾は弱めの物を使った。被害が及んでないか心配だったが、無事なようだ。
「大丈夫…か?」
破れた鞄からポーションを取り出し、ゆっくりと近づく。
「いっ…いや…来ないで!来ないでぇ!」
無理も無い。怯えているのだろう。だが、怪我は重傷だ。一刻も早くポーションを
与えなければいけない。
「大丈夫。俺、仲間…」
どすん、と鈍い衝撃。
「う?」
…腹部が異常に熱い。見ると、不思議な事に自分の腹から、何か長い物が突き出ている。
どすん、どすん、と次は二回、同じ衝撃が走る。
「あー…?」

全身の感覚が無くなり、視界も闇に包まれた。
…後ろから声が聞こえる。
「大丈夫か!?」
「大変だ!すぐに白魔道士を!」
どうやら、人間の冒険者達の仲間が助けに来たようだ。
…よかった。
「このゴブリンに襲われたのか…なんていうことだ!クソ!」
「獣人め…!許せない」
あ…あれ…?違う…違う…俺…俺は…俺はああ

579 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 01:48 [ ycJkxYdQ ]
―数日後。

バルクルム砂丘の夜。
彼等の時間がやってくる。そう、砂丘の悪魔”ボギー”の時間だ。
そして今日も一人の死霊が地から這い上がってきた。
彼はあるのはただ、人間に対する憎しみのみ。
砂丘を巡回し、生の鼓動を感じ取った彼はいつものように”狩り”を始める。
泣き叫ぶ声がまるで子守唄のように心地よい。
だが、その日はいつもと違っていた。
一通りの人間を殺した後、彼の目の前に不思議な格好をした人間が現れた。
普通、人間は彼を見ると必ず怯え恐怖するのだが、その人間はとてもとても悲しそうな表情で
こちらを見ている。
全身を赤い服に包み、羽根の着いた帽子を被ったその人間はこう言った。

「いつか、また、会いましょう…」

そして、次の瞬間、あっという間に彼の体がまるでかまいたちに切り刻まれたかのように、
バラバラとなった。

そして…彼は暖かい光に包まれる。

”…今度は…俺…人間になりたい”

自分でも何故だかよく分からないが…彼は最後にそう願った。

        
                                     続く

580 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 02:13 [ Ud6u8l2A ]
Wフェイスキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

ルビックがー。・゚・(ノД`)・゚・。
いきなり死ぬとは思っても…

581 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 11:27 [ DILyqa/E ]
          .。:: 。゚:゜゚。*::。.        .。:: 。゚:゜゚。*::。.
       .。:*:゚:。: ゚*:゚。*: 。::。゚ :。   。:*゚。::。*: 。゚: ゚*:。:゚: :。.
     .: ゚:。:*゚: ゚*:。:*:゚: ゚: ゚*:。゚*(ノД`) ゚。:*゚ :゚ :゚:*:。:*゚ :゚*:。:゚ :.
   。 ゜:*゜: ゜。: ゜*: ゜:*゜: ゜        ゜ :゜*:゜ :*゜ :。゜*:゜ :゜*。
 :*:: 。゜*: ::* 。゜*: ::*。゜            ゜。*:: :*゜。 *:: :*゜。 ::*:.

ルビックー!!!11!!!1

Wフェイスおもしれぇyp!!!!1!11!!!

582 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 13:11 [ GA4HvAPk ]
るび〜〜〜っく・・・・
せつないよぅ
。・゚・(ノД`)・゚・。

ところで・・・Wフェイス、今回は12話になるのでは?

583 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 15:30 [ fbemFiTk ]
ネガティブマーチ


「カラス、死にました。」
おじいさんに、そう告げた。
「・・・そうか、約束だったな。ほれ。受け取れ。」
ポーンと、大きな袋を投げてきた。
「ぎゃ!」
軽く投げたから、軽いんだろうと思ったらとんでもない。
恐ろしく重かった。
・・・・この爺。強いのかも。
「全部で2千万ギルある。100万多いじゃろうが、ワシからの選別じゃ。丁度二人分じゃろ?」
「・・・ありがとう。」

 
 ― Expensive Negative Dream ―


「ねえ、キスしてよ。」
なんて、マセてみる。キスって、大人への第一歩らしいよ。
「はぁ?!」
カラスが驚いていた。
「私、大人になりたいの。」
それは夢。漠然とした夢。カラスが隣に居るような、こんな状況みたいな、漠然な夢。
「あのな。」
カラスが私を見つめて喋る。隣同士に座って、飛空挺から空を眺めていた。
来る時は、見れなかったロランベリー耕地の空を、今度は一緒に見てやるんだ。
「大人になるなんて、年齢とか、行動とかで決まるもんじゃねぇだろ。
 生まれたら生きて、生きて、生きる。その先に、いつのまにか死んでるもんだろ。」
よくわかんなかった。けど、そういうことだろう。成長とは精神だ。きっと。
私が大人になりたいって思うのは、私が子供だからじゃないんだ。
だから、カラスはいったんだ。年齢なんて関係ない。
だから、カラスはいったんだ。行動なんて関係ない。

よーく解る気がする。

「ねえ、キスしてよ。」
あ、カラスったら、油汗かいてる。
「二十歳になったらな・・・。」
ふふ、結局年齢気にしてるんじゃない。

カラスには、腕が無かった。
つまり・・・さえぎるものは、何も無い・・・・。
すすめ、すすめ、いざ・・・行かん。

ちゅっ

584 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 16:36 [ w0M0WBE. ]
いつもとは違った、ほんわかとした雰囲気ですな(*´∀`)

585 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 19:52 [ IUVsw/Cw ]
>ネガ
(*゜ρ゜) ボー・・・Σ(゚Д゚)ハッ

こ、これでおわりですか? _| ̄|○ダーイドン・デン・ガエシ

586 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/20(火) 19:54 [ l7R.8N7Q ]
本当は
― エクスペンシブ ネガティブ ドリーム ―
までで、終わりだったんですが、わかりづらかったので、
英語にして、そのうえ頭文字を大きくしてみましたw
そんなことしてたら、したのストーリー思い浮かんじゃって・・・・。
載せる前に付け足しちゃいました。

587 名前: 群雄の人 投稿日: 2004/04/21(水) 13:30 [ qmCnUdmI ]
新しいのを上げてきたのでちょっとお邪魔いたしますです。

慈悲を、いいですなあ。
まだちょっとしか見てませんが良い雰囲気で、ええ。
今度見せてもらいますです〜

588 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/21(水) 15:11 [ vgMGEXOM ]
いいペースで更新されてネガティブ好きだったんですがおわっちゃいますたか
お疲れ様でした〜〜〜
黒いエンディングジャナカッタデスネ

589 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/21(水) 18:03 [ A02IOIKk ]
ネガティブマーチ、実はもう少し続きます。
というか、補完的な話があります。
主観で書いちゃったものなので、周りの状況がわかりづらかったと思います。
そこをテーマにしたのを、今日アップする予定だったのですが・・・・。
今、間違って消しちゃいました。

orz

ショックから立ち直ったら書きますので、どうぞ読んでくださいませ。

>>588さんへ
ちなみに、最初考えてたエンディングは、闇牢に閉じ込められて死ぬというものでした。
実は蝶暗くまとまるはずだったのですw
そっちをご期待していらしたら、ごめんなさーい(ノд;)

590 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/21(水) 19:52 [ vgMGEXOM ]
ドンデンガエシバンザーイ
まだ続くのを聞いて喜びヒャッホーイ

591 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/21(水) 20:13 [ A02IOIKk ]
ネガティブマーチ


愛に国境は無い。
守るべき相手に種族は関係ない。
私の可愛い子供たち。

憎むべきは、坊やたちを陥れた悪魔どもだ。

私の憎悪は加速する。止められない世界は私を振り回す。
落とされない様にしがみ付く私を見たら、子供達はどう思うのだろう。
優しい母のままでいたい。

そして、私は自分の醜さに気づかないまま歩み行くのだろう。
歪んだ傷を撫でる。


 ― 頬の傷 ―


「ふあぁぁぁぁぁぁふぅ・・・」
欠伸を一つして、私は立ち上がる。
足に力を込めて、心にエネルギーを充実させて、
今日も戦うんだ。むかつく現実と。

「ままーいってらっしゃーい。」
大きな声で、私を送り出してくれる子供達。
ミスラに、ガルカに、エルヴァーンに、タルタル。
腹を痛めて産んだ子は独りも居ない。愛する子供達を守る事、私の使命だ。
「お利口さんにして待っててね。」

私の仕事は汚い。はっきりいって子供達に見られるわけにはいかない。
あの子たちには、幸せになってほしいんだから。
「エイアン、20で殺しの仕事うけないか?」
ヒュームの男。私の持ってくる仕事をいくつも受け持った事の在るクズの一人だ。
金さえもらえれば何だってする。子供だって殺す。
「どんな?20じゃ不釣合いなの吹っ掛けてないよね?」
金に妥協しない男でもあった。レイブンを殺す。と、言うと値を吊り上げてきた。
「30。殺せば50もらえるんでしょ?分け前多くあげるの当たり前じゃん。」
別にかまわない。どうせコイツは死ぬしね。
粘りを持った残虐性が、私の体を浸す。それは、堕落という甘い罠なんだろう。
堕ちないように、しっかりつかまってなくてはいけない。
私を引っ張り上げてくれるのは、子供達の見えない手だった。
これ以上は堕ちない。堕ちたくない。

私は、ヒュームに虐待された子供、親を殺された子供を集めて育てている。
私自身、ヒュームに親を殺された。だから、あいつ等を許す事はしない。
利用できる場合は、とことん利用して殺す。殺してやるんだ。
こんな反ヒューム思想が、バストゥークには充満している。
私も、それにあてられた一人なんだろうね。

592 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/21(水) 20:14 [ A02IOIKk ]
約1年くらい前から、レイブンには賞金が掛かっていた。
なんども、私は奴の命をねらった。
方法は様々。それこそバリエーションに飛んでいた。
毒殺を狙ってみたり、冒険者をやとって寝込みを襲わせてみたり、
上手く騙して、ヒュームのガキに爆弾を持たせたことだってあった。
「100ギルあげるから、あのおじちゃんに、これ渡してくれるかなぁ?
 渡す前に、ここの紐ひっぱってね♪」
がめついヒュームのガキは、喜んで引き受けてくれた。
・・・・失敗したけどね。

エイアンと別れたあと、私はレイブンの後を尾行した。
プリズムパウダーを使って、姿を消して近づいたら、何故かちらちらと後ろを振り向くので、
しかたなくサイレントオイルも使う。高いのに・・・・。
プリズムパウダーと言うのは、光の反射を利用して姿を消してくれる薬。
サイレントオイルって言うのは、その名の通り音を消してくれる薬。
この二つを服用することによって、あの勘の鋭い黒きレイブンからも、
存在を欺く事ができる。すばらしい!
すでに、何度も尾行しているため、大体の事は察していた。
仕事の前の日には、『必ず、絶対、100%』鉱山区と商業区を結ぶ橋へと出かける。
何処で何するかわかれば、タイミングのいい場所を選択できる。
待ち伏せだって出来る。だから、今日は絶対に情報をつかまなければならない。
・・・ちなみに、私はこれをすでに何十回と失敗してる・・・爺のせいで。

姿と足音を消して、レイブンの後を追う。やはり、橋へとやってきた。
明日、仕事がある証拠だった。好都合。
私は神様を信じないけど、今日はちょっと感謝しとこう。
レイブンが、何時もの爺が座るベンチへと腰を落とす。
この爺が、レイブンに仕事を回してる奴なんだろう。
それから、何時もの沈黙が始まる。
「早く喋れバカ・・・。」心の中で呟くけど、・・・あ、だめだ、クスリが切れる。
私は、慌てて隠れられる場所まで引き返す。いつもは此処で諦めて帰るけど、
今日は特別だった。明日は作戦の実行日。出来るだけ情報を得ておきたい。
急いでクスリを掛け直し、急いで二人のところへ戻る。
まだ話が終わっていませんようにと、祈りながら。
「鉱山区・・ガルカを殺・・・。」
爺の声が聞こえた。
信じて無いけど、神様ありがとう。

593 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/21(水) 20:15 [ A02IOIKk ]
エイアンと手を繋ぎ、私はレイブンを目掛けて鉱山区の坂を駆け上がる。
私は神様を信じていないが、その時だけは祈った。おねがいします。作戦を成功させてください。
「合図を出したら二人でかかるよ。」
そういって手を離す。
私たちはプリズムパウダーをしようしていて、姿が見えなかった。
だから、一定の距離までは手を繋いでいくしかなかった。
ヒュームの手は、反吐が出るほど気持ちが悪い。死ね。
エイアンは、プリズムパウダーだけだが、私はサイレントオイルも使用している。
つまり、合図とはエイアンが殺された瞬間。隙さえつくってくれれば、とどめは私が刺す。
安心して逝けばいい。

ひゅぅ。
その瞬間、綺麗な音がした。いつか聞いた、吟遊詩人の奏でる管楽器みたいな音だ。
今から人を殺すという瞬間には、似合わない音。それすら、忘れさせるような綺麗な音だった。
振り向く。そこには、赤い筋が空中に浮かんでいた。
その音は、刃が風を剃る音だったようだ。
赤い筋から血が沸き踊る。エイアンの姿が、徐々に浮かびだす。
そして気づく。その痛みに。
「ぎゃあああ!」
その場で転げ回り、私は悲鳴を上げた。尻尾が根元近くから切り落ちていた。
レイブンが、私を見下ろして笑う。
死にたくなかった。恐怖と、痛みで私は混乱し、そして転げ回る。
「カカカカ!聞いた事あるぞ。頬傷。スカーだな。・・・・生かしといてやるよ。だから仕事を回せ。
 おもいっきり汚ねぇやつをな!カカカカカカカカカカカカカ!」

私は自分の頬にある大きな傷が嫌いだった。だからみんなは私をスカーと呼ぶ。
しかし、今日だけはこの傷と、信じてない神様に感謝した。


to be continued

594 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/21(水) 20:16 [ A02IOIKk ]
ゴミ箱の中に・・・(ry

595 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/22(木) 09:56 [ Vvwj85BI ]
ネガティブマーチ


笑顔が見たかっただけなんだ。
最初はそれだけだった。
いつのまにか好きになっていた。
悲しい無表情。それを笑みで崩したかった。
いつからだろうか。
俺がこんなにみっともなくなっちゃったのは。
それが幸せだった。俺にとって。

一面の血の溜まりは、海にしかみえなかった。
黒く揺れる水面に立つ。

だれか、俺のほっぺた抓ってみて?
夢なら覚めろよ。


 ― チラリズム ―


モスキートストロー。俺の父親代わりのガルカ。
超敏腕の冒険者だ。
へんてこな斧を振り回して、100人もいたオークの集団を全滅させたらしい。
本人談だけどね。
俺はモスキートストローになりたかった。
なぜなら、彼も子供の頃は俺みたいに小さくて軽かったらしい。
だから、こんな名前が付いたって言ってた。
今では、ガルカの中でもデッカイ方だ。
俺も強くなりたい。モスキートストローくらいに。

596 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/22(木) 09:59 [ Vvwj85BI ]
ドアを開けた俺は、その場に立ち尽くしていた。
海のように波立つ床に足をつける。
チャプ。っと音がした。
恐怖を象徴する、この暗い海を作ったのは、たぶん奥にある塊だろう。
そこから、この絶望が流れ出しているんだ。

モスキートストローが死んでいる。

大量の血が海を作って、波打つ絶望が俺を恐怖の中に引きずり込もうとしていた。
何故、そうなったか知らない。でも、誰かが殺したことくらいわかる。
誰かが殺したんだ。誰かが、最強だと思っていたモスキートストローを殺したんだ!
それは恐怖だった。俺もいつか殺される。漠然とそう思った。


「どうしたの?ボク。お父さんと離れちゃった?」
家の在った鉱山区の競売所の前で立ち尽くして泣いていると、
優しく、どこか痛々しい声が聞こえた。
恐怖にビクッと体を震わし、振り向いた先には、足に血を這わせているミスラがいた。
その血は、綺麗な足に滑らかな湾曲を描き、地面へと血溜まりを作っている。

・・・思い出す恐怖。死の海。血の絶望。

「うああああ!」
かっこ悪いけど、俺はその場所にうずくまってしまった。
ちょっとチビッちゃったのは内緒だけど・・・内緒っつうの。
「落ち着いて、大丈夫よ。」
優しい体が、俺を包んだ。血を垂らしたミスラが、俺を上から抱いてくれた。
優しく香る血の匂い。落ち着くのは、たぶんこのミスラに母親ってやつを感じたからじゃないだろうか。
涙は流れて呼吸も酷いけど、何故か心は静かだった。
この瞬間を、ずっと求めてたような・・・そんな気分。
少しずつ、体も心に追いついてきた。
「何があったか、話なさい。力になれるかもしれないし。」
俺の上半身を起こした。目の前に、そのミスラは座っていた。
顔には、大きな傷。たぶんあれだ。この優しさに感動した神様とか、女神様とかが、
このミスラにくれたご褒美なんだろう。そう思えるくらい、その傷は綺麗だった。
「モスキ・・・父さんが殺されてた・・・。血がいっぱいで・・・。」
話そうとしても、混乱して上手く話せなかった。
だけど、モスキートストローが死んだ事が解ると、なにか合点が言った様に目を伏せ、顔を横に振った。
最初は悲しそうな顔をしていたけど、段々と、怒りが顔に満ちていった。
「・・・またヒュームか・・・。」
そう言って、俺の肩に置いた手を、強く握った。
痛みと一緒に、その怒りも伝わってきた。きっとヒュームが嫌いなんだろう。
俺は好きだけど・・・。理由は内緒。

その日、俺は彼女の家へと招かれた。
これからは此処で暮らせばいいと言ってくれた。
そこには、沢山の子供がいた。俺よりも大分小さい。
「へへっ、お兄ちゃんて訳か。ちょっと照れるな。」
頭をかいて照れて見せた。ちょっとうれしかったんだ。
彼らは、モスキートストローの死という恐怖から、俺を助け出してくれた。
ママに感謝だ。


to be continued

597 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/23(金) 20:48 [ ir2FDf9Y ]
ネガティブマーチ


怒りを詩にしたいけど、私にはそんな学はない。
だから、叫べるだけ叫ぶ。
続くだけ叫ぶ。繋ぐだけ叫ぶ。叫びに知識はいらない。
必要なのは、本能と、ちょっとの狂気。

狂気が私を包んで抱く。優しさのかけらも無い愛撫は、私を狂わせる。

本能が徐々に心を蝕み、叫びは成長していく。


 ― 庇護 ―


ぶっ殺してやる。
いまの顔を、子供達に見せる訳にはいかない。
一人、黄泉に似た暗黒の中に身を浸す。
この夜が、たぶん私の隠れ蓑だ。

人間の血を浴びて、私は大金を手にしている。
殆どの依頼は、ヒュームを殺すこと、ヒュームから奪う事が仕事だった。
しかし、依頼主の殆ども金持ちのヒュームの豚からだ。
私は、そんな汚い金で子供達を育てるつもりはなかった。
それは、豚どもを排除するために使う。
子供たちを育てるのは、綺麗な仕事をして稼いだ金だ。
キスしたり、体を売ったり・・・そんなとこ。

598 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/23(金) 20:49 [ ir2FDf9Y ]
「金なら、幾らでも払うから・・・・。」
ランク10の冒険者。バストゥークでの名声も高く、誰もが知っている実力。
そして、ヒューム。その吟遊詩人は、必要な要素を全てみたしている。
レイブンを殺せる可能性があって、もし殺されてもまったく問題ない。
「金で人の命は買えない。それが持論なんだ。君がどう考えているかは別としてね。」
金以外の理由が必要らしい。彼女の名前はタロウ。
私は、彼女にレイブンの始末を依頼するために、わざわざ彼女のモグハウスの情報を買った。
家のまえに張り付いて、彼女の帰りをひたすら待った。
ガルカの子供を一人、不幸にしたヒュームを・・・黒きレイブンを許す事ができなかった。
どうしても殺したかったんだ。
4日張り付いた。朝5時から11時まで張り込み、斡旋の仕事をこなした後、
16時から深夜までずっと張っていた。
そして、やっと彼女と会うことができた。
「バストゥークには、クスリが蔓延しているのを知っていますか?頭の悪くなるクスリです。
 気持ちの良くなるクスリです。私には、『直接』じゃない子供たちがいます。
 孤児を拾って育てているんです。もしも、私の可愛い坊や達がそのクスリを手にいれてしまったら、
 しまったら・・・・。」
目から涙が勝手に這い出す。演技じゃない。本当に心が痛い。
「だから、」
悲痛そうな顔をして、私を見つめているヒュームに対し、私は続けた。
「クスリを蔓延させているブローカーを始末して欲しいんです。
 国にたのんでも、対策させ打ち出してくれません。
 私にできる事は、財を投げ出して、あなた達に頼むことしか出来ないんです。
 どうか、私たちを、私の子供たちを救ってください。」
演技なんかじゃなかった。レイブンの身元を偽っただけだ。
本心から、私はその吟遊詩人に懇願した。お前等さえ居なければ・・・。消えてくれ、と。
そして・・・、その吟遊詩人は言った。
「わかった。その依頼受けるよ。金なんて、いらない。
 子供達を守る名誉だけで・・・・十分だ。」
私は涙を流しながら、笑顔を作って、
「ありがとう。」
と、言った。それは奇跡としかいえない。
根源であるヒュームに対し、笑いかけ、感謝の言葉がはけたんだ。
信じていない神様、私に笑顔を作らせてくれてありがとう。
「明日の夜、港のゲート前にある広場へ呼び出します。」


「30だ。」
お前は自分の価値を知らないようだ。
レイブン、お前は50万ギルも賞金がかけられているんだよ。
私は笑いをこらえて言った。
「はい、30で決定〜!よろしく頼むよ。レイブン。」


次の日の昼。私はご機嫌で子供達のお昼ご飯を作っていた。
もしかすると、そろそろ吉報が届くころだ。
敵を取れるかもしれない。
育ち盛りのガルカの坊やが増えたおかげで、作る手間が大いに増えてしまった。
育ってくれるのは嬉しい事だけどね。
「モーセくん、ちょっと買い物たのんでいいかな?」
頼もしいおにいちゃんが出来て、子供達もよろこんでいるよ。
幸せだ。怖いくらい。

to be continued

599 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/23(金) 20:54 [ ir2FDf9Y ]
実は、子ガルカはモーセだったのです!
って、バレバレでしたよねw


学校いそがしくて、FFほとんどやってません!
VUさえまだ・・・orz
コンフリクトでたのに・・・。
葛藤って意味でしたっけ?どんなルールなんでしょ。
楽しみです。

600 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/23(金) 20:54 [ ir2FDf9Y ]
うわあああ!あげちまった!すいません!!!
ところで、なんで上げちゃダメなんでしょ?w

601 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/23(金) 21:11 [ XOXChQ8c ]
上の方にあると煽りや荒らしの目に留まりやすいからかな。

602 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/23(金) 21:27 [ ir2FDf9Y ]
なるほどー。
わざわざレスありがとうございます。
これからは気をつけます。

603 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 00:17 [ nqvF3rxA ]
他の作者さん、引いちゃってるのかな・・

604 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 00:51 [ ffFsjn6. ]
>>603

やれやれ、周りの目を気にしてたら何もできないぜ?タル戦のパパもい
ってたろ?なんと言われようが、必ず最後まで続けるし、話を変える気もない
とかさ。
きにすんな!お前さんはやりたいようにやればいいさ。それに俺毎日楽しみに、つ
づきまだかな〜?って感じでここ覗いてるんだし…
いまはバージョンアップ直後で皆ヴァナに入り浸りなんじゃねぇの?
たいてい、バージョンアップ直後ってのは執筆が遅れるもんさ。
カラスの後日談、あるのかどうかわからんけど楽しみにしてるぜ!

605 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 03:42 [ MGBOzCO2 ]
何故か縦読みだが書いてあることは間違ってはないと思う。

606 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 08:25 [ qfRyoN3c ]
「白い心・黒い意志」の7 −とどめ−

激しく打ち合わされる剣と斧。
飛び散る火花。
ハンツは盾をあきらめた。
ひとつには、それだけの余裕がなかったこと。
そして、たとえ拾い上げたとしても、傷ついた左腕では使いきれないと考えた。
その分、身のこなしと剣速でカバーするつもりだった。
初撃を受け止め、距離を取る。
「fuG…」
クゥダフも斧を構え直す。
「ふんっ」
一気に踏み込み、突く。
クゥダフが払う。
払われた勢いを利用して、別な角度から切り込む。
剣先が、クゥダフの鎧の表面を滑り、繋ぎ目を切り裂く。
しかし浅い。
「ちっ」
剣にうまく力がのっていない。
剣を持つのは右手だが、打ち振るには腕力だけでは足りない。
頭の天辺から爪先まで、全ての動きが剣に力を与えているのだ。
傷を負った左腕の動きの悪さは、そのバランスと集中を狂わせている。
戦いの中、剣先はたびたびクゥダフの鎧の隙をつくが、致命傷にはいたらない。
同時に、打ち込まれる斧を、うまく受け止めることもできない。
双方に、浅く深く、死に繋がらない傷が増えていく。

607 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 08:35 [ qfRyoN3c ]
幸運だったのは、クゥダフが一匹目よりも弱かった事だ。
おかげで、これだけ不調のハンツ相手に致命傷となる一撃がこない。
しかし、喜んではいられない。
戦ううち、左腕は完全に力を失った。
もう、肩からぶら下がる重りでしかない。
「ちくしょう」
(なんで俺がこんなめにあう)
儲けのいい楽仕事のはずだったのに。
「っの野郎!」
鈍り始めた切っ先を、クゥダフが身をひねってかわす。
その向こうに、タルタルが見える。
少し離れた位置で、こんどは剣を抜きもせず、人事のように眺めている。
その顔には、あの笑顔。
(この糞タル!)
こいつのせいだ!
怒りが、タルタルへと向く。
視線がクゥダフから外れる。
それらはほんの一瞬の事。
しかし、戦いの決着をつけるには十分な時間。
横殴りの、けれど十分に力ののった斧。
慌てて防ぐ剣は反応が遅れた分、角度が悪い。
受け流そうとしたのが、逆に弾かれる。
身のひねりが間に合わず、斧がハンツの腹をとらえる。
音、衝撃、激痛。
鎧が断ち割られ、刃がめり込み、肉が裂ける。
「ぎゅあ」
悲鳴を上げて転がるハンツ。
剣が、手を離れる。
血が噴き出す。
即死するほど深い傷ではない。
しかし、戦い続けられるほど浅くもない。
致命的な傷。
「ちくしょう、ちくしょう」
それでも剣を拾おうと這いずるハンツ。
その背後から歩み寄るクゥダフは、余裕を見せている。
勝利が目の前に見えているからだ。
もう一振りで決着がつく。
無様に足下を這うヒュームの背中へ、止めを刺そうと振り上げた斧が、しかしそのまま止まる。
「U…Gu…?」
自分の胸元を見下ろすクゥダフ。
突き出ているのは、鈍銀色の剣先。
首の後ろから胸へと、鎧の隙間をついて刺し通ったそれ。
持ち主は、いつの間にか彼の背に飛び乗っていたタルタル。
戦う相手としては、足下の石ころにさえ見ていなかった小さな存在が、クゥダフの寿命を決めた。
「ごめんなさい。まだ殺さないでください」
ささやくタルタル。
鈍い音とともに剣が引き抜かれ、タルタルは軽業師のようにトンボをきって着地する。
傷から吹き出す血は意外に少ない。
しかし致命傷だ。
身の内側で、背の髄と胸の血管を断ち切られている。
「a……」
身体が動かない。息が出来ない。
もがきもできず、叫びもできず。
パクパクと何度か口を動かしてから、ばったりと倒れこみ、クゥダフは二度と動かなかった。

つづく

m(_ _)m

608 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 08:58 [ lhUnIPJA ]
。・゚・(ノД`)・゚・。 <うわ〜ん、嬉しいよう、ずうっと待ってた続編がアップされたよう!!

(゚∀゚)ノ~ <作者さんお疲れ様〜

(゚∀゚)ノ~ <完結してない他の作品の作者さん達も待ってますよ〜

609 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 16:49 [ JcNodUi6 ]
|  |
|  |∧_∧
|_|´・ω・`)  スレ違いかもしれませんが、
|新| o o[]
| ̄|―u'    
""""""""""

|  |
|  |∧_∧
|_|´・ω・`)   コレの続きは・・・どこかご存知ないでしょうか?
|冒| o ヽコト
| ̄|―u'      ttp://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1049472750.html

610 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 17:00 [ 0fs4StG2 ]
ネガティブマーチ


私がなぜ、この組織にいるのか。
私がなぜ、バストゥークにいるのか。
私がなぜ、この猫を殺したのか。

夫を殺すために、私はこの国へとやって来ました。
その為の力も手に入れました。
「ツインソード」
双子の剣士。東洋の刀を使い、人を切り裂く二振りの刀。
天晶堂屈指の暗殺者。

夫は死んでいた。誰が殺した。
探しだして殺す。私の獲物を奪った奴を殺す。
私の子供を殺して逃げた夫を殺せなかった。
恨みは蓄積されていった。
私を埋めるほどに、それは積もり積もった。

黒い雪原の様な私の心。


 ― ファッキンキャット ―


バストゥークには元々、3つの組織と、その窓口がありました。
国そのものが組織形成したもの。ガルカを中心とした反政府組織。
そして私たち天晶堂。
それで上手く機能していました。
しかし、最近では、成金どもの私恨や反骨精神の依頼を受ける組織が出来てしまったのです。
それは、私たちの仕事にとても邪魔です。
元を締めるのは、一人のミスラ。その名はスカーといいます。
殺さなければなりません。

調べていくと、彼女は多くの孤児を育てているようでした。
その為に大金が必要だったのでしょうか。
だとすると、これから私たちのする行動は、とても残虐なものになってしまいます。
それを止めることは出来ません。
私にも、目的があるのですから。

611 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 17:00 [ 0fs4StG2 ]
お昼になろうとするころ。町の人たちは殆ど仕事先か、家のなかで食事の準備をしています。
意外と静かな時間がお昼なんですよ。
私とツインソードは、その時間を見計らい鉱山区の端にある小屋へと向かいました。
元々人気のないところなのですが、用心にこした事はありません。
家の前に立ちました。中からは、楽しげな声が聞こえてきます。

ツインソードが、扉を開けました。静かに入っていきます。
殆どの人たちがそうで在るように、平和の中に現れる残酷な現実は知覚できません。
その人たちもそうでした。
ツインソードが、一人ずつバラバラにしていきます。
全てがスローで再生されていきます。
手がとび、一瞬の間を置いて血が宙を赤く染めていました。
幻想的にも見える瞬間。
小さな子供なら、胴だって切断できるようです。
一人ずつ、しかし、確実に数が減っていきます。
肉片が当たりを埋め尽くし、尻尾のないミスラの腹部に、刀が刺されました。
一人も悲鳴もあげず、まるで幻想的な何かを見ているかの様に、ツインソードの
剣技にみとれ、そして死んでいきました。
腹部に刺された刀が、上へと引き上げられると、シュッという小気良い音とともに、
赤い線を胴に刻みました。
まず、血が吹き出し、そのあと、いくつかの臓器がボタボタと落ちてきました。
崩れ落ちるミスラは、まるで演劇の女優のように存在感がありました。
つまり、美しかったという事です。醜い顔の傷以外は。

子供まで殺した理由は、もう我々に贖う者が出ないようにと、見せしめにするためでした。
それは仕方のなかったことです。

帰り道、一人のガルカの少年が、肉片と化した家族の待つ家へ戻る姿を見つけました。
私は、彼を助ける義務も、権利も持っています。
ツインソードに、消える様に命令して、彼を追いかけました。
小屋へ着くと、絶望に瀕したガルカの少年が一人、立ち尽くしていました。
「どうしたの・・・。」
なにも喋りません。
「・・・・私の家にいらっしゃい。甘いお菓子もあるのよ。」
手を引き、その場から逃げるように、私たちは帰路につきました。
彼にとっては、旅路とも言えるでしょう。

私は、本当に彼の手を引く権利をもっていたのでしょうか。


to be continued

612 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 17:56 [ 0fs4StG2 ]
レッド 第一話「主人公について」


耳の院を卒業したのは2年前、召喚術を習得したのは4年前、天才と呼ばれて12年の月日が経った。

在学中、私の噂はウィンダス中に広がっていた。様々な院からスカウトが集うまでにだ。
しかし、魔法という魔法を全て習得していたにもかかわらず、私は特別研究という名目で耳の院に残っていた。
これは、教師による配慮でもあり、私から望んだことでもあった。
私の様なエリートは、大体の場合「口の院」へと入隊することになる。
魔道戦士として兵期を経て、元老院へと入り政治家の道を進むことに成る。
私もそのつもりだった。
しかし、人生と言うものはそう甘くもない様だ。
10歳に成った時、まるで追い出されるかの様に卒業することになってしまった。
なぜそのような自体へと陥ったか、私自身、誰からもその理由を聞くことはできなかった。
しかし、私に付いている頭は飾りではない。それを推測する位は、やってのけようではないか。

私の在学中、2度ほど口の院からのスカウトがやってきた。
とても名誉な事だった。殆どの場合、スカウトなどなくとも、自ら進んで口の院への入院を希望するものだからだ。
最初に面会にやってきたのは、口の院面接担当のオームルルという白魔道士だった。
しかし、彼女は言ってしまった。
「あら、鼻が赤いのね。」
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。

数分間の記憶が無い。
この間の出来事を、誰も口にする事はなかった。そのため面接に使用した部屋が、何故この先10年間、
生物の存在できない空間と化してしまったのか知ることが出来ない。
ちなみに、オームルル氏は、奇跡的に一命を取り留めたが、恐怖によるショックで人格的障害を
生じてしまったようだ。一体彼女になにが起きたのか。謎の残る事件となった。

613 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 17:57 [ 0fs4StG2 ]
たしかに私の鼻は赤い。タルタルの鼻というものは、基本的に黒い。それは誰もが知っている事だ。
しかし、私の鼻は先天的に赤いのだ。これは、私自身にとって恐ろしいコンプレックスになっている。
ただ、指摘されるという行為だけで、キレてしまう。「最近の若者」と言う奴なのだろう。

二度目の面会では、アジドマルジド院長直々に面接へと訪れた。私の力をそれ程欲しがっているというのは、
うれしいかぎりだった。
「なんだ、赤いって聞いていたのに、それほどじゃないんだな。」
それが鼻を指す言葉だと、私はすぐに解った。それは予想の範囲内だったのだろう。
今回の面接が行われたのはタロンギ渓谷。周りには100人を超す魔道戦士が控えていた。
もちろん、私はキレた。
だが、周りには結界の準備を終了させ、待機する優秀な魔道士たちがいたのだ。
すぐに私の力は抑えられ、徐々に意識を取り戻してゆく。
「なんだ、この程度で抑えられてしまう力か。つまらんな。」
院長の言った言葉だった。
「力も制御できないとはな。」

どれほどすばらしい力を持っていても、暴走の危険が伴う兵器を所持しようとは思わないだろう。
つまり、それが私だった。
そう、その通り。暴走の危険が伴う私を、学校も持て余してしまったのだ。
だから、卒業という名で追放されてしまった。

それから2年が経った。私は、自宅に引きこもり、カーバンクルのポチと共に、
毎日テトラマスターばかりをして過ごしていた。両親も、すでに見捨てるほどに私は落ちぶれていた。
二人が私に何も言わないのは、たぶん力のせいであろう。力とは、人を不幸にする為に存在するのかもしれない。
それが私の持論でも在る。行き過ぎた力。持て余した力に使い道は無い。在るのは恐怖と妬みだけだ。
そんなある日、4年前の夏休みを利用して、一緒に召喚獣を集める旅行にでた友人が訪ねてきた。
それこそ、2年ぶりの再会になった。

「おーい。ヘルダガルダ。あそぼーよ。」
彼女の名前はジャン。すでに三十路を数えるミスラだった。


(ちなみに、主人公のヘルダガルダは12歳です。)

614 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/24(土) 17:57 [ 0fs4StG2 ]
思いつきなので、続きかけるかわかりません。

615 名前: 通りすがりの元艦長 投稿日: 2004/04/24(土) 22:17 [ raS3lOac ]
>606
お待ちしておりました

616 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/04/25(日) 00:35 [ UJD9jcrQ ]
あい、白き〜の新作をUPしたのでご報告にきましたよ!

ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

レッドラムもネガティブも面白い!
まだ読んでいない方はWikiで一気読みを心からオススメします。
そして白い心・黒い意志が完結ですよ!
お疲れ様でした作者様!

さて、今日こそ30BCのイモムシを撃破出来るといいなぁ。いってきます。

617 名前: 初めての冒険 第8話 1/4 投稿日: 2004/04/25(日) 02:06 [ LJtxJQUU ]
初めての冒険 第8話 バルクルム砂丘〜熱砂の丘を越えて

喉を灼くような熱気を含んだ風が吹き抜けていく。
きらきらと、お日様の光を反射して輝く白い大地。

シャムがいままで見てきたところとはまるで違う風景。

事前の準備が肝心なんだ。
というラセスの説明が頭の中をぐるぐるする。

ラセスさんがいなければ、途中で水なくなってたかもな。

そんなことを思いながら、シャムは前を行くガルカの
大きな背中を追いかけて歩いた。

その人に声を掛けられたのは、セルビナを出てしばらくしてからだった。
「ラセス?あんたこんなところで何やってるの?」
冒険者らしい格好――というか、シャムには武器防具の見極めが出来ないから
それっぽい格好をしている人はみんな「冒険者らしい格好」なのだが――を
に身を包んだきりりとした気配を持つエルヴァーン族の女性だ。
「お知り合いですか?」
ラセスは冒険者だから知り合いがあちこちにいてもおかしくはない。
ただ、その女性はセルビナの街で出会ったような修行中の冒険者たちよりずっと
熟練しているように見えたことが少し不思議だった。
「まあな」
シャムの疑問に、ゆったりと答えるラセス。
ラセスの答えはいつもゆっくりしている。それが、自分の口にする言葉に
重い責任を持っているからだと言うことを、シャムはこの数日のつきあいで
学んでいた。
そういえば、とシャムは思う。
(あんまりヒュームとガルカ、ガルカとエルヴァーンって仲良く無いって
 聞いたけど冒険者だと関係ないのかな?)
窮地の間柄らしき二人は、和やかに話を続けている。
「ラセス?このちっこい坊やはだぁれ?」
もっともといえばもっともな疑問だろう。
「シャムという。シャム、彼女はマギー、私の知り合いだ」
説明になっているようななっていないような説明。
それでも、マギーと呼ばれた女性は満足したらしく、にっこりとほほえむと
シャムの目線に会わせてしゃがみ、言葉を紡いだ。
「シャムって言うの?よろしくね。ねー、ラセス、この子誘拐したの?」
いきなりな発言にシャムは目を丸くする。
「物騒なことを言うな」
どうやら、この女性の突飛な発言はいつものことのようだ。
言われたラセスは酷く冷静な様子でマギーに言い返していた。
「じゃぁ、どうしたの?」
これももっともな疑問。
熟練の冒険者と、小さなタルタルの少年など旅の連れとは思えないだろう。

618 名前: 初めての冒険 第8話 2/4 投稿日: 2004/04/25(日) 02:07 [ LJtxJQUU ]
「リードに頼まれてな」
「リードに?必殺の気まぐれかしら?」
マギーさんもリードさんの知り合いなのかな。
と、頭の上で交わされる会話をぼーっと聞くシャム。
「気まぐれというか、お節介だろう。まぁ、頼まれただけでもないんだが」
「ふーん。何をするの?」
「サンドリアまでこの坊やを連れて行く」
「ん?」
あれ?といった感じで、首を傾げる。
「どうした?」
「何で、テレポ使わないの?」
テレポ・・・ブブリム半島を歩いている時に、ラセスさんが教えてくれた
魔法の事だ。
でも、何故今その話が出てくるのだろう。
「・・・私はともかくクォンに来るのが初めてのこの坊やがゲートクリスタル
 を持っているはずがないだろう」
そういえば、そんなことも言ってたような。
「あ・・・、それもそうね」
そりゃそうよね〜と、呟きながらシャムの頭をわしゃわしゃとするマギー。
友人の懐かしい癖をいきなり再現され、シャムは思わず照れ、下を向いた。
「で、お前さんはここで何を?」
ラセスさんにしても、マギーさんがここにいるのは不思議だったらしい。
やっぱりここで修行するよりももっと熟練したレベルの冒険者さんらしい。
そして、それはラセスも同じ事だろう。
そんな人に何日もつきあってもらっていることをシャムは申し訳なく思った。
「あたしが、ここにいたらやることは一つでしょ」
その言葉の意味が、シャムにはわからなかったが、ラセスにはわかったらしい。
「砂丘の皇帝か・・・謁見はかなったのか?」
ラセスがそういうと、マギーはきっと顔を上げて叫んだ。
「ぜーんぜんダメ。みてらっしゃい!次こそは!!」
シャムには全く話が見えない。
とりあえず、疑問に思ったことを一つずつ片づけようと、質問することにした。
「皇帝?王様がいるんですか?」
「あー・・・」
「悪名高いモンスターには、特別な呼び名がつけられることが多い。
 砂丘の皇帝もそういうモンスターだ」
言葉に詰まったマギーに助け船を出すように、ラセスが説明する。
悪名高いモンスターの事なら聞いたこと有る。
その地域にいる普通のモンスターよりずーっとつよいという特別なモンスターだ。
ただ、マギーの言うやることはひとつでしょ!との関係はわからなかった。
「お姉さんが、ここにいたら皇帝と謁見って???」
疑問に思ったから、尋ねたのだが、本人はそれどころではなかったようだ。
「いいこと、坊や!大人にはいろいろ事情があるのよ!
 って、ごめんラセス。話はまた後で!」
早口に告げると、だーっと砂埃を上げてマギーは走り去っていた。

619 名前: 初めての冒険 第8話 3/4 投稿日: 2004/04/25(日) 02:08 [ LJtxJQUU ]
「???」
マギーが現れてから去るまでの出来事がいまいち理解できず、頭の中に
疑問符が渦巻く。
「気にするな。あいつにはあいつの事情があるってだけだ」
ラセスにそういわれて、とりあえず頭を振る。
そうだ、まだ先は長いのだ。
あのお姉さんは何か事情があって、たまたま知り合いのラセスを見かけたから
世間話をするためだか、愚痴を話すためにだか来たのだろう。
ぱしんと両手で頬をはたいたシャムを面白そうに眺めながらラセスはのんびりと
出発を促した。
「さて、私たちも出発するか」
「はい、サンドリアまでよろしく御願いします」


シャムが再びその人にあったのは、最初の出会いからしばらくたった後だった。

「らっせすー!」
砂埃を上げながらものすごい勢いで、マギーがこちらに走ってくる。
「見てみて!謁見かなったわ!ついに手に入れたわよ!」
なにやら興奮気味のようだ。
踊るようにくるくるとラセスの回りを回る。
今にも飛びかかりかねないが、ラセスはいつもと同じようにのんびりと返事をしていた。
「そうか、良かったな」
・・・この人、やっぱり凄い人かもしれない。
シャムはそんなことを思う。
「嬉しい〜。その坊やに、幸運を分けてもらった気分ね」
シャムを見ながら、そんなことを言う。
「幸運?」
言われた意味がよくわからないから問い返すと、マギーは笑いながらこう言った。
「え?だってそうでしょ。ウィンダスからここまで無事にたどり着けて、
 おまけに気まぐれとはいえラセスにつきあってもらえてるんだもの」
言われた事で、はっとなった。
ラセスのような熟練の冒険者に、何日もつきあってもらっていることを
シャムは申し訳なく思っていた。
でも、申し訳なく思うんじゃなくて、ありがたく思えば良かったのだ。
もちろん、それで何かが変わる訳じゃない。
でも、申し訳なく思うのは何かが違うだろう。
いつか・・・とシャムは思う。
今はまだ無理。
けれど、いつかきっと。誰かにこの恩を返そう。
きっとラセスさんはお礼を言ったり、恩を返そうとしたりしたら、
「私の方の気まぐれにつきあってもらったようなものだ」
って言うだろう。
だから、いつか・・・いつかほかの誰かに、この恩を返そう。

620 名前: 初めての冒険 第8話 4/4 投稿日: 2004/04/25(日) 02:09 [ LJtxJQUU ]
そんなことを思いながら、シャムはマギーに返事をした。
「あ・・・そうですね。僕、ここまでいろんな人に親切にしてもらって
 本当に幸運だって思いますから」
「でしょー」
シャムの答えに嬉しそうに、マギーが笑う。
本当に嬉しそうな彼女を見てシャムもなんだか嬉しくなる。
「で、それと分けてもらったに何の関わりが?」
確かにそうだ。
シャムが幸運なのと、彼女に幸運を分けるってのは別の問題だ。
「気分の問題よ!だいぶ長いことここに籠もってたけど、
 その子に会ったとたん出たんだから!」
気分の問題だったらしい。
「私は関係ないのか?」
確かにそうだ。マギーにあったのは"シャムとラセス"であってシャム一人じゃない。
「さ〜。あんたとはここで何回か偶然会ったことはあるけど、
 その後にって事はなかったからね」
はっきりきっぱり。
さっきから思っていたのだが、この人、見た目と性格がだいぶ違う。
「あたしの気分の問題なんだから、きにしなーい!」
「良くわからんが・・・わかった」
ラセスはいまいち釈然としない様子だったが、とりあえずわかったことにするらしい。
「で、気分がいいからあたしも一緒にサンドリア行く!」

一瞬何を言われたのかよくわからなかった。

「は?」
だから、思わず問い返した一言はシャムとラセス、二人の口から飛び出ていた。
「一人より二人、二人より三人!旅の道連れは多い方が楽しいわよ」
よくわからない理論を堂々と胸を張って宣言するマギー。
「いや、だがな」
ラセスは、何かを言い募ろうとしていた。
「反論しなーい!もう決めたからね。ってことで、よろしくねシャム」
しかし、あっさりと封じられてしまった。
そういえば、とシャムは思う。
父さんと母さんのけんかもいっつも母さんが勝ってたな、と。
もちろん、夫婦げんかとこの口論を一緒にしては行けないとはわかっているのだが。
とりあえず、下手に反論することも出来ないので、シャムはぴょこんと頭を下げて
こう言っていた。
「あ、よろしく御願いします」

ラセスが軽く頭を抱えていたのは見間違いじゃないだろう。


こうしてシャムには旅の道連れが一人増えた。

621 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 08:15 [ TqQJphw2 ]
ネガティブマーチ


かもんべいびぃそのままでいいよそのままでいいからきすしてくれよ。
それからもしよかったらおれといっしょにおどってくれよ。
もしよかったでいいんだけど。
それからもしよかったらおれのほおをなぐってくれよ。
ゆめじゃないことをたしかめたいんだ。
 

 ― 気違い染みた声の主の夢 ―


黄土色に輝く空。すでに夕暮れは過ぎ、太陽は山の陰へと消えた。
一人の少女が闇間の光に照らされている。
光は、民家の窓から毀れていた。
まるで、雲の隙間から神々しく漏れる陽だまりの様にも見える。

「なぜ、死んだ場所をしっているんだ。」

一つの違和感は、大きく膨れ上がっていた。
はち切れんばかりに、赤く、痛々しく。
少女の疑問は、ある一定の周期で襲う頭痛の様なものだった。
考えるのを止めたくても、ふとした隙に生じ、また少女を苦しめた。

「何故、その場所を指定できたんだ。」

黒きレイブンに夫を殺されたプリマドール。
彼女は言っていた。

「夫と同じ場所で、夫と同じ様に殺してください。」

少女の記憶は、より鮮明さを増して甦る。

「それでは明日、鉱山区にある夫の家に、来てください。そこで・・・殺して!」

少女は、、考えることを止めることが出来なかった。
それは拷問と同義だ。それを考えることは、カラスの事を考える事。
父親を、そして、もしかすると母親まで殺した男。それは苦痛でしかなかった。
少女は決めていた。もしも両親を殺した者を見つけたら、そいつを殺すと。
しかし、少女が見つけたモノは、少女に生きる意味を見出し、そして、純粋だと認めたモノだった。
憎めないモノだった。彼女自身、ソレを自分そのものの様に思っていたのだから。

622 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 08:15 [ TqQJphw2 ]
会話(ナナとプリマドール 場所は不明)

何故、しってたの?
 なんのこと?
何故、呼び出したの?
 殺されるためよ。
うそ。
 うそじゃない。
殺すつもりでしょ。
 ・・・・・。
私もそうなの。
 ・・・なるほどね。獲物の取り合いってわけ?
・・・みとめるの?
 ええ、同じものならしかたないじゃない。早いもの勝ちということで。
そうは行かない。私は、カラスを守るし。
 カラス?
レイブン。
 レイブン・・・・。彼を守る必要なんてあるの?
ない。でもあるかもしれない。
 解らないわ。それに、私が行かなくても、彼は死ぬわ。
どういうこと?!あなたが殺すんじゃないの!?
 知らないほうがいいとおもうわ。知れば、あなたも死ぬ義務が生まれる。
だれだって、生まれた時から死ぬ義務をもってるの。
だから言って。なぜ?誰がカラスを殺そうとするの?
 ツインソード。
それはだれ!
 暗殺者よ。天晶堂のプロ。
カラスは死なないよ!そいつも殺されるんだから!
 ツインソードは2人なのよ。しかも、私が知る中でも一番強いわ。
カラスはもっと強いし!
 どうかしら。どうなのかしらね。
どこ?家はどこ?
 だれの?(微笑)
カラスの先生よ!
 教える義務は無いわ。
義務なんていらない。おしえろ。
 人に聞く態度じゃないわ。
殺されたくなかったら教えろ。
 あなたに、人が殺せるの。

「イエス。」

がちゃん。
ナナの背負う剣が地面に落ちた。
大きすぎて、背負ったままじゃ抜けなかった。
柄をもって、鞘を蹴り飛ばす。
シュッと鞘は刃を滑って地面に落ちる。
剣を肩にのせ、体勢を低くたもち、ナナはプリマドールをにらみつけた。
「無理よ。あなたは子供じゃない。人なんて、殺せないわ。」
プリマドールは、余裕を滲ませた笑顔をナナに送る。
笑った口が、下品に歪む。
ヒヒヒッ。
闇に囚われた者の笑い。その声は、世界を凍らせる。

カラスに似ている。私に似ている。

ナナは、そう思った。
そして、左手を柄の先に、右手を力点とするために、できるだけ深くにぎった。
「どこか言ったら、殺せるか見せてあげる。」
ナナは、期待していた。人を殺せることを。
いつか、誰かを守れる力を手に入れる事を。
「・・・錬金術ギルドから・・・一番近い扉の家。」
「ありがと。」

剣を振り、自分もクルリと左廻りに回転する。勢いをつけるためだった。
そして、遠心力の軌跡に遵って、女を切りつけた。
ガチン。
石床にぶつかる。闇に光を放つ火の粉は、昼の空に輝くことはない。

横たわる、女の死体。

目を大きく開いた少女が、剣を振り下ろした姿勢のまま止まっている。
真っ黒な瞳は、細かく痙攣していた。

その場で、殆ど何も入っていない胃の中身をぶちまけて、
気分を戻した少女は、腕を失ったカラスの元へと向かっていった。

白かった服は、既に全て黒く塗りつぶされていた。


をわり

623 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 08:16 [ TqQJphw2 ]
ネガティブマーチくぽ(おまけ)


さがさないでくださいクポ

          マイク


 ― 楽園への扉 ―


モーグリには、特殊な情報網があるクポ。
だから、ご主人さまがピンチなのも、わかったクポ。
もしもボクが死んでも、この書置きさえみれば、まさかボクが殺されたなんて解らないクポ。
悲しまないクポ〜!

ご主人様は、とっても不幸な人クポ。
本人が、あまりその事に気づいて無いことが、一番不幸クポ。
悲劇を知ることは、自分がヒロインにでもなった高揚感が得られるクポよ。
でも、ご主人様は子供だから解らないクポ。

「知ってるクポ?マイクのご主人の受けたミッション、実は裏が在るクポ。」
それを聞いたとき、ショックだったクポ。
子供だけど、バカだけど、とっても優しくて、かわいそうなご主人様が、
もしかすると殺されてしまうかもしれなかったクポ。
ご主人さまは、これ以上不幸になっちゃいけないクポ!
「助けに行くクポ!どこに行けばいいクポ!?」


ダングルフの涸れ谷
そこに居たのは、いかにも凶悪そうな奴だったクポ。
黒い鎧を纏って、青くて暗い色の、本人の背丈よりも大きな剣を持っていたクポ。
「こ、こんにちはクポ。」
とりあえず挨拶をするのは、人として常識クポ。
なのにこの黒ずくめは言ったクポ。
「テメェ。どこから情報を得た。」
よく解らないけど、怒ってるクポ。こここ、怖いクポ〜。
正直に話しても、怒られそうだから、もっと優しく話しかけるクポ。
「よ、よいお天気クポね。」
ジャラリ。
と、黒ずくめは剣を引き抜いたクポ!
危険な奴クポおお!!!
「は、話があるクポ!」
勇気を振り絞って、ボクは声を絞りだしたクポ。
「これから此処へくる冒険者達をやっつける任務があるのは知ってるクポ!
 だけど、なんとかソレを止めてもらえないクポか?
 どうしても守りたい人がいるクポ!
 ボクの命ならあげ・・・・・。」
グサリ。
話は・・・最後まで・・・聞くのが礼儀・・・クポ。



モーグリの伝承では、死んだらみんな天国へ行くクポ。
獣人も、人間も、みんな天国へいって平和に暮らすクポ。
ボクは、この黒ずくめの人を止めることが出来なかったクポ。
ご主人様、ごめんなさいクポ。
だから、多分ご主人様もすぐやられるクポ!
ボクは先に天国へいって、いっぱいお菓子を用意しておくクポ。
不幸だったご主人様なら、きっと天国へ来る事が出来るクポ。
・・・そしたら、また一緒に暮らすクポ。
またボクが、わがままなご主人様の世話を見るクポよ!

おまけおわり

624 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 08:22 [ TqQJphw2 ]
本編は、ナナ偏ENDの話で終わりでした。
頬の傷からの番外的な話も、これで終了になります。
後日談はありません。
下手な文章を、ここまで読んでくださってありがとうございました。
実力不足を痛感しました。もっと上手く書けるようになりたい・・・。

625 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 08:32 [ TqQJphw2 ]
あ、話一つ抜かして載せちゃった・・・。
ま、いっか・・・。

orz

626 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 12:16 [ Et8eDN36 ]
おいおい、いい加減だなw
だがまぁそれもよしw

627 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 12:51 [ gZbhnKPU ]
面白かった、始終一人称で進む形は他でも見るが
HP等で公開されている私小説の類は長編になるにつれ
どうしてもどこかで破状したりするような印象を持っていたが
ネガティブマーチはそう言った事も無く面白く読めた
(書き方が途中で変わると違和感を持っちゃうんだよね)
まぁ、あれだ、モーセ君にも幸あらんことを、
3度親の血まみれの死を見る事になるのか、、

628 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 15:45 [ Y5q5yapE ]
>>初めての冒険
シャム君、可愛いですね〜 
つづき 楽しみにしてます。

629 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 16:50 [ I4Cx4EBU ]
こんにちわ、
『相棒』、続きから最後までを含めた全文を
整形して Wiki にアップさせていただきました。
なにか間違っているところがあれば、ごめんなさい。
それでは。

630 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/25(日) 18:34 [ 0dwJmPH2 ]
ネガティブマーチ、とうとう終わりか〜って、まだ話あったんかよ!w
なんか最後まで「らしくて」良かったなあ。

切りつめられた言葉と乾いた筆致とか
ほとばしるような勢いとか、でもだんだん失速気味になっちゃったりとか
ここまで書くか!てなすっ飛び具合とか
救いがないよなあるような、でも開き直りというには甘さがあるとか
途中の章名にもあった、「フラグメント」(断片?)てのがよく似合うとか
ガラスの破片みたいな作品群だったなあ。

面白かったよ!

631 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/26(月) 06:58 [ Llli.3fc ]
「白い心・黒い意志」の8 −復讐−

そのヒュームが長く持たないのは明らかだった。
立ち上がろうとしてもがいている。
しかし、立ち上がれない。
なんとか座り込むのがやっとだった。
ビッショリと血に濡れた左腕は、もう動かない。
腹の傷も浅くはなさそうだ。
鎧の下から流れる血は、下半身の半分ほどを染め、さらに地面へとその色を広げていく。
(…少し深いかな…)
とカルテは思う。
自力で治せず、かといって即死でもなく、出来るだけ苦しみの長引く傷。
そう考えて丁度良さそうな奴を釣ってきたつもりなのだが、予定より重傷のようだ。
その辺はクゥダフまかせだったからやむをえない。
自分が手をくだすより、獣人に受けた傷というのが重要だったから。
「大丈夫ですか?」
近づき、脇へしゃがむカルテ。
「ンなわけねえだろうが」
苦しそうなヒュームの顔は血の気を失っている。
「ちくしょう、さっさとくたばりゃいいものを」
クゥダフの死体へ憎々しげに言う。
カルテがクゥダフを倒したとき、ヒュームからは死角になっていた。
だから気づいていない。
自分の与えた傷のどれかが、ゆるやかな致命傷になったと思っている。
「白はどうした。まだ来ねえのか」
カルテをにらみつけるが、その声は弱い。
「ひどい怪我ですね」
ヒュームの傷をのぞき込みながらも、カルテは笑顔を忘れない。
「この出血だとどのぐらいもつんですか?二十…十分ぐらい?」
「この糞…うぐっ」
怒りにカルテを殴ろうとしたのだろう、ヒュームの振り上げた腕が途中で止まり、顔が苦痛にゆがむ。
「痛いですか?」
当たり前の事をわざと聞く。
(でも、彼女はもっと痛かった。もっと苦しんだ…)
全身を刻まれ、血にまみれ、苦しみの中で死んだのだ。
それに比べれば、こいつの苦しみは、まだまだ足りない。

「白を…早く白を…連れて…こい」
ヒュームの声はだんだん弱くなっていく。
こいつは、まだあの白魔導師が来ると信じている。
ミスラの白魔導師キリ。
(親切な人だったな)
出会ったばかりのカルテの頼みを聞いてくれた。
途中まででいいというのを、本気で心配してくれていた。
話をしたとき、真っ直ぐに見返してくる瞳に込もった力は、種族は違うけれど、彼女に似ていた気がする。
同じ白魔導師だからそう思えるのだろうか。
「白魔導師さんは…」
来ません。
ヒュームに絶望を与えるために、そうカルテは宣告しようとした。
死までの時間をより苦しませるために。
しかしその時、遠くから声がした。
「だいじょうぶかー」
「えっ!?」
カルテは自分でも意識せずに驚きの声をあげていた。

632 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/26(月) 07:01 [ Llli.3fc ]
すみません

つづく

です。m(_ _)m

633 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/04/26(月) 08:02 [ xbf6gbeI ]
しまった…上の自分のカキコで白い心・黒い意志を
再開でなくて完結と書いている…。何故だ。申し訳ない作者様。
続きを待っております(*´Д`*)

ネガティブマーチはすごい勢いがあって、読み始めたら止まらない
テンションが素敵です。抜かしてしまった話ってのが気になる…

634 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/26(月) 18:00 [ l4gOsnIo ]
ネガティブマーチお疲れ様。
面白かったよ。
悲しい話は苦手だと思ってたけど、ネガティブマーチにはぐいぐいと読まされた感じ。
表現というか言い回しというか、そういう部分が特にすごいとおもた。
犬のしみとかカメレオンとか母親の罰とかその他もろもろ。
あと、毎回タイトルまでの出だし数行を読む度にしびれたよ。
個人的にはナナ偏が好きかな。
ナナと出会ってからの子供みたいなカラスも好き。
個人的には補完の話はなくてもよかった。
最後のナナとプリマドールのやり取りは面白かったけど。

ガムラン君の友達の話もGJ。
最後の一葉の逆バージョンじゃんとも思ったけど、純粋に楽しかった。

最後に、上げるまえに原稿のチェックはしてほしかった。
ところどころ送り仮名が抜けたりしてて、そのつど現実に引き戻されちゃった。

635 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/26(月) 20:32 [ 8BtaNQbw ]
SORA



空が産まれた。

それは何かの比喩でもなく、創世詩の一句でもない。
荒廃とした荒地の続くメリファト山地。
青く茂る空に、何処までも続く白線が引かれていた。
それはメリファト山地の北方を東から西へ横断している。
ドロガロガの背骨。
タルタルたちはそう読んでいる。
彼らの伝承によれば、それは大きな竜の背骨らしい。
人が打ち落とした竜の呪いによって、メリファトの大地は恵みを失い、
岩と空しかない土地へと化してしまったと聞いたことがある。
オズトロヤ城と呼ばれるヤグード達の本拠地の目の前に、
背骨に触れることの出きる場所があった。
宙に浮かんでいた白い骨が、大地と接触する場所だった。
そこは、仄かに暖かい熱を持っていた。
竜の背骨だからなのだろう。
竜の卵をそこへ置くと、卵が孵化するといわれている。
多くの竜騎士達がここを訪れ、竜との契約を果たしてきた。
そしてユキもその一人になるはずだった。

ボクの隣で、ユキが泣きそうな顔をしていた。

卵から産まれてきたのは、奇形児だった。
肌は焼けた様に黒く爛れ、産まれたばかりの大きな目には瞼が無く、
時が立つごとに、その純粋な目は焼けた太陽に焦がされて干からびた。
細く、骨に皮を纏ったような肢体。
弱々しい胴体から生えた二本の羽は、とても飛ぶために付いているとは
思えなかった。
小さい口。
角の無い頭。
逆に折れ曲がった後ろ足。
自ら立つ事も出来なかった。
邪悪な存在の様にボクは感じた。
けして産まれてきてはいけないもの。
それが目の前に存在していた。
殺してしまおう。ボクはそう言った。
恐れからでた声だった。
「ううん、私が育てる。」
触れることにも嫌悪しそうな竜を、ユキは抱き上げて言った。
泣きそうだった顔は、決意を灯して輝いていた。
「そら・・・空にしよう。この子の名前は空。」
異臭を放つその竜に、ユキは空と名づけた。
いつか一緒に飛びたい。そう呟いた。

636 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/26(月) 20:33 [ 8BtaNQbw ]
ユキが卵を手に入れたのは一週間ほど前だった。
流通の盛んなジュノを拠点として、ボク達は、冒険者として身を立てていた。
ボクは、ウィンダスの冒険者。ウィンダス出身のヒュームは、実は結構多い。
特にウィンダスに多いという訳じゃなかった。
ヒュームは、どこだって商売を始めていた。
サンドリアだって、ウィンダスだって、ジュノだって。
マウラやセルビナという町にだって。
バストゥーク以外の国や町にも、ヒュームは沢山住んでいた。
だから、どの国が出身のヒュームだって珍しくない。
そして、ユキもサンドリア出身のヒュームだった。
大陸させ違う国に生まれたボク達は、多分みんながそうである様に、
世界の中心であるジュノで出会った。

いつものようにボク達が、ル・ルデの庭にあるベンチに座って
日和っていた時だった。
首の長い、一人のエルヴァーンの商人が、ボク達に話しかけてきた。
手にはタルタル位はありそうな、大きな卵を抱えていた。
「これを買いませんか。」
その男は、深く被ったフードの奥から話しかけてきた。
いきなりの話で、ボクもユキも驚いていた。
その卵は、白い地の色に、青い線が歪に幾つも入ったものだった。
ボクが何の卵か尋ねてみると、彼はこれは竜の卵だ、と応えた。
竜。その単語に、ユキは反応した。
「どこ?!どこで掘れた物?!それとも親がいるの?」
ベンチから立ち上がって、彼女は商人へと掴み掛かりそうな勢いで
問いかけていた。
商人の話では、冒険者がシャクラミ迷宮という洞窟から
掘り出してきたものだったが、竜の卵だと言い張って
この商人に売りつけてきたものだったらしい。
本人は本気では無かったが、彼の言い値で売るという事だったので、
安く手に入れたらしい。
あとからサンドリアまで持っていき、鑑定もしたが、
これは列記とした竜の卵だという事がわかった、と言っていた。
「買うわ。いくら?」
その話を聞いて、ユキは飛びついた。
言い値で買うとまで言ってしまった始末だった。
結局、ボクが止めるのも聞かずに、ユキはその卵を買ってしまった。
70万も出して・・・。
喜ぶユキをみて、ボクも何故か嬉しくなった。
そして、すぐに荷物をまとめ、ボク達はメリファト山地にある
ドロガロガの背骨を目指した。

蜂蜜の様に濁った唾液を吐き出す空を愛おしいそうに抱いたユキは、
とても優しい顔をしていた。
母の顔なんだろうか。多くの非を、全て受け入れる寛大な心は、
いったい彼女のどこから来るのだろうか。
空は、小さな口でユキの服に噛み付いていた。
歯のない口を動かし、まるで乳をねだる動物の様だった。
となりで佇むボクは、空への殺意しかわかなかった。
殺してしまいたい。醜く、悪臭を放つ空に対する正常な反応だと思う。
それから、ボク達は戻っていった。
ジュノで別れたボクとユキ。
契約の果たされていない竜を育てるために祖国へ戻ると、ユキはボクに告げた。

穢れた竜を抱いたユキは笑っていた。

つづく

637 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/26(月) 21:24 [ 8BtaNQbw ]
レッド 第二話「ゴブリンと爆弾の話」


「だれ?」
久しぶりに再会する友に向かって、ジャンはそう言った。
私は残念でならない。たとえ久しく会えなかったとしても、苦楽を共にした友人に、
その様な事をいわれるとは思ってもみなかったからだ。
たとえ、その・・・ちょっとばっかり太ったからといって・・・酷い。
「なに?え?太ったの?わー。肉団子だ。」
肉団子!なんて差別的発言なんだろう。太ったことがいけないのだろうか。
もしも肥満が罪ならば、私は世界を滅ぼすとしよう。

取り合えず、二階の自室へと上がってもらった。
私の家は二階建てだったが、二階へ上がるには外部に取り付けて在る階段から、
直接部屋へと来なければ成らない。ウィンダスでは良く見られる建設様式だ。

なぜ、私を訪ねてきたのか聞いてみた。率直に。回りくどいのは嫌いなのだ。
例えそれが必要な説明であったとしても、その前に結果を伝えたほうが、より効率的だと思わないか?
「なぜって、友達んちに遊びに来るのに理由いるわけ?」
至ってシンプルな答えだった。私好みだ。たしかに、友人と会うのに理由など野暮というものだ。
私は、この友人を心から歓迎する事にしよう。

彼女の名前はジャン・ポール・レイモンド。通称はジャン。「鉄砕(てっさい)」の異名を持っている。
既婚者でもあり、エルヴァーン族の名家でもあるレイモンド卿の三男坊の妻だった。
セルド・ポール・レイモンド氏は、とても優秀な冒険者でも会ったが、残念なことに、現在は存命では無い。
ジャンと共に参加したミッションで名誉の戦死をされたらしい。まことに残念でならない。
子供は居ない。もし居たとしても、とても育てられる様な性格では無いだろう。
絶えない冒険心と、好奇心と、純粋な向上心の塊の様な女性なのだから。
私が出合った頃には、ジャンは大きな鎌を振り回して戦っていた。将来は業を背負って暗黒騎士となりたいらしかった。
しかし、少したつと騎士の称号を得て、私を守りたいとも言い出した。
だが、結局どっちにもなれず、その経験から様々な武器を使いこなせる戦闘のスペシャリストと化していた。
私が彼女と旅をしていた時、私は彼女に「クァールが鎌を背負って歩いてるようだ。」と、
比喩したことがある。気まぐれであり、時として見せるその興味の瞬発力を上手く比喩したなと、
自分自身で満足したものだった。しかし彼女はその後、こう続けた。
「ヘルは、爆弾みたいにゃ。爆発みたいに強力な魔法つかうし、ぴったりにゃ。あとキレるし。」
「私が爆弾ならば、君はゴブリンに成るのかな?」
「ゴブリンはきらいにゃ。顔こわいにゃ。」
私は、ロジックに基づいた対話を愛している。しかし、彼女との意味の無い会話の中に、
稀に親しみ・・・幸せを感じる時が確かに在った。それは認めよう。
投げられる爆弾と、誤爆してしまうゴブリン。
まさしく、暴走を得意とする私たちにはぴったりだろう。
私の夏休みを利用して、実験に使うと偽り鼻の院から拝借した音叉を使い
召喚獣を集める旅行に出ていた頃、確かに我々は一心同体だった。まさに、爆弾とゴブリンの関係でもあった。
もちろん、悪い意味もふくんでいるが、それはまた後で説明しようか。

638 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/26(月) 21:25 [ 8BtaNQbw ]
「取り合えず、ジュノ行こうか。暇だし。」
ジュノへは、暇で行くものではない。ジャンは、時に気まぐれで行動を起こす。
しかも、困った事にその行動力は凄まじいもので、私の意見など最初から聞く耳を持たなかった。
ばたばたと暴れる私を引っ張って、飛空挺乗り場へと向かって引きずっていった。
私には、飛空挺パスなどない。

「だいじょうぶだいじょうぶ。」
私がパスの無いことを告げてもこの態度だ。困ったものだ。
「ジュノいっても、ヘルは強いから大丈夫。きっと今までどうり上手くやれるよ。」
困ったものだ。

飛空挺乗り場前へと到着した。ここで、ジャンは驚く行動にでた。
なんと、私をバックの中へ突っ込んだではないか。
「ぶひぃ!」と、私が豚の様な悲鳴を上げても、笑いながら私を奥へと押し込んでいく。


つづく

639 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/26(月) 22:34 [ 8BtaNQbw ]
>>634さん
私の作品を、よく読んでくれてアリガトウございます。
一つ一つちゃんと読んでいただけた事をとてもうれしくおもいます。
めちゃくちゃ感動してます。
誤字、本当にすいません。
見直すと、気に入らなくて書き直しとかやってしまうので、
勢いで載せることにしてたんですw
しかし、それがネックとなってるとわかれば、何が何でも見直します。
見直しても気づかなかったらすいませぬー(土下座

640 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/28(水) 20:08 [ 1G6NkOyg ]
プロマシアage

641 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/28(水) 20:36 [ qzzfRzwk ]
レッド 第三話 「理不尽と不可抗力の相違点」


回りくどいのは嫌いだ。結論から言おう。
見事に捕まった。
私を詰め込んだ鞄を持って、ジャンは堂々と飛空艇乗り場のカウンターを進んでいった。
しかし、不自然にモゴモゴと動く鞄を、誰が見逃してくれようか。
警備員に呼び止められたジャンは、その後、警備室へと連れて行かれ、こっぴどく
叱られることになった。いい気味だ。
尻尾と耳をうな垂れさせて私と並んでジャンが歩いている。
何時も外を出歩く時に付けているマスクを忘れてきた私は、両手で鼻を
隠して歩く。歩きづらいな・・・・。
「もう一度聞こうか、何故私をジュノに連れて行きたいんだ?ただの思い付きとは到底思えない
 落胆ぶりだが。理由によっては、ジュノへ向かうことも考えないわけでもない。」
私とジャンは、長い付き合いだ。其れくらいは考慮してもよい。そう考える。
ジャンは黙って立ち止まってしまった。否定も肯定もない。ただ、黙って突っ立っているだけだ。
私に隠し事があるのだろうか。それならば水臭い。私たちは仲間なのだから。
「本当に思いつきだったんだよぅ。ヘルが元気なかったからさ。
 活気のあるジュノで、冒険者たちと混ざって遊んだら、きっと元気になる
 と思って・・・だから。だから・・・・。」
・・・・・本当に、水臭いやつだ。昔からそうだったのだろうか。
今では思い出せない。思い出に残る事といったら・・・・。

新しい召喚獣が見つかったとかいって、ズヴァール城の中を迷走したっけ・・・。
結局、デモンスライサーとかいう武器が欲しかっただけだったな・・・。
そうそう、ホルトト遺跡の宝箱に、すばらしい魔力を秘めた杖が眠っているとかいわれて、
躍起になって鍵をさがしたっけ・・・。
結局、ジャンの受けたクエストに関するものが出てきただけだった・・・。
重度の怪我を負った冒険者がメア岩に居るとLS(リンクシェル)経由で連絡を受け、急いでテレポで駆けつければ、
ただデジョンIIが欲しかっただけだった・・・。

642 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/28(水) 20:37 [ qzzfRzwk ]
「絶対に行かない。」
私は、そう断言した。もう騙されるものか。もう騙されるものか。
「そうだよね、そうだよね。仕方の無いことだ。私がどう思おうと、君にそれが伝わることはない。
 君にとって、私の考えることなんてただの御節介。そうだろ?本当にすまないよ。
 私の様な一介の冒険者が、ウィンダス始まって以来最高の才能の持ち主と言われた
 君の助けになるはずも無いんだから。」
・・・泣き出してしまった。私はすまない事をしてしまったのではないのだろうか。
友が、私の為にしてくれた事に対して、明らかな拒絶を示してしまった。
ああ、すまないジャン。君の事を疑ったぼくは、何という罪人なんだろう。
許して欲しい。
「すまない。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。ただ、今までの経験から・・・・。」
「そうだったね。私は君の期待を裏切り続けてきた!君の様な賢者からみれば、
 私の愚行全てが君にとっては目障りだったはずだ。本当に・・・本当にすまない。」
なんてことだろう。その場に伏せて泣き出してしまった。
このままでは、私はジャンに申し訳が立たない。ジュノへ行き、彼女と冒険の日々を過ごすべきなのだ。
「わかったよ、ジャン。私もジュノへと旅立とう。だけど、パスポートを取らなければならないから、
 一週間ほど待ってもらえないだろうか。」
私は折れた。ジャンの申し出を受けざる終えなかった。
『女の涙とは、このヴァナデールでは最強の武器である。』
その名言を、私は思い出していた。
もとい、友の善意を断るわけにはいかない。そういう事にしとこう・・・。
「ヘル。冒険者になりなさい。」
冒険者。それは今流行となりつつある職種の一つだ。
様々な場所へと赴き、探検し、開拓し、新しい発見をする。
その発見は、我々に多くの恩恵をもたらした。召喚獣もその一つとされている。
そのような、素晴らしく、栄光ある、野蛮な職業に、何故私が付かなければならないのか理解できなかった。
「そうすれば、何処でも顔パス。万事解決。」
いや、私の意見が入ってない。解決してない。
「さあさあ、こっちだよ。ヘル君。善は急げ。」
いや、善じゃない。ひっぱるな。
・・・私の声は届かない。知っての通り、彼女の行動力は、全ての事項を凌駕して突き進む。
私にあがらう術はなかった。

こうして、私は引きこもりから浮浪者に堕ちた。
まさに、私が持つ冒険者のイメージはそれだ。
行き当たりの仕事へと手を伸ばし、金次第で何でもする。
まったく、嫌な世の中になったものだ。
「さあ、行こうじゃないかヘル君。我々の栄光へ向かって。
 あと2日でジュノへ着かないといけないからテレポをつかってよ。
 そこからチョコボ借りて乗るよ。」
我々の旅には、時間制限があるらしい。何が待っている事やら。
其れを知る権利を、まだ私は持っていない様だ。
とほほ・・・。


次へ→

643 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/28(水) 21:08 [ yJ.CnBsc ]
ジャン・ポール・ベルモンドって俳優だっけ・・・
誰か作品知ってる人いないかなぁ。いろんなところで名前だけ聞くんだよねぇ。

644 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/28(水) 22:24 [ qzzfRzwk ]
勝手にしやがれとか、気狂いのピエロとかw
ばれたかw

645 名前: 群雄の人 投稿日: 2004/04/29(木) 01:46 [ ORTZiuQ6 ]
お久しぶりです、群雄のGugです。
実は当サイト群雄、昨日大幅なリニューアルを開始しました。
拙い代物ではありますがフラッシュを遣ったアニメを多く飾り、
少々重くはありますが見栄えがするようになりましたので、
宜しければいちどおこしください。

また、蛇足ながら連載も更新いたしました。それでは。

http://www.infosnow.ne.jp/~sugata/FF/top.htm

646 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/29(木) 05:18 [ IPL3U/Bw ]
まぁ、UPのスピードみていると、書いてる本人は楽しいんでしょうし、
見ている方々の反応も好いようですけど…

他の作者様方の作品も、もっと読みたいなぁ

と、思ってしまったり・・・

647 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/30(金) 00:41 [ DkpkZINw ]
↑ オマイ大人し杉


オナニーするなら自分のHP立ち上げるなりして、思う存分やって下さいね^^^^^^^^^^^^^^

マンセーレスモ、ショセンジザクジエンナンジャネーノwww

648 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/04/30(金) 02:49 [ xv.6A5mo ]
「このバカ猫!」

ロンフォールの森に怒声が響く。
”バカ猫”の涙腺を破壊するには、この一声で十分だった。
すぐ横には目を回したゴブリンが3匹。殺しはしない。
更に、困った顔をしてオロオロ動き回るタルタルと、泣いているミスラを見て豪快に笑うガルカ。

ああ、頭痛がしてきた。
全く、何でこんな事になったんだ・・・


〜第1話、受難〜

「婚約おめでとう!」
その言葉を聞いて、俺はわざとらしく大きなため息をついた。

「何で相手が君じゃなかったんだろうな」
「あら、そんな事言っていいの?彼女に話すわよ?」
「勘弁してくれ。まだ死にたくない」

ふふふ。と彼女が笑う。
こうして見てる分には美人なのだが・・・

「で、わざわざ呼び出したのは祝辞を言うためかい?」
「まさか、あなたに特別ミッションよ」

特別ミッション。俺はここサンドリアで最高のランク、10を持つ冒険者だ。
国の内情、世界の情勢等を知り尽くした部外者。国にとっては都合の悪い存在だろう。
だが、その都合の悪い存在を良いように利用する手段が特別ミッションと呼ばれるミッション・・・

「内容は?」
一応聞いて見る。どうせ拒否権は無い。

「こちらにいらっしゃい」
彼女が手招きをすると、3つの人影が現れた。
ひときわ大きな(そもそも大きな種族だが、彼はその中でも更に大きいだろう)ガルカ、
俺より頭2つ分位背の低い・・・おそらく15.6歳のミスラ、
俺の腰よりも背が低いタルタルの男(彼らの年齢は見た目では判断できない)

・・・いやな予感がした。

「あなたに与えるミッションは、彼らを無事にウィンダスに送り届ける事」
「へ?」
間の抜けた声を出してしまった。
もっと、こう、とてつもなく面倒な事を言われそうな気がしたからだ。

「ただし、彼らを”一人前の冒険者”に育て上げる事が条件よ」

前言撤回。めちゃくちゃ面倒じゃないか・・・

「理由は?サンドリア王国が、何故タルタルとミスラとガルカの冒険者を?」
サンドリアはエルヴァーンの国だ。
今でこそ多種族であふれかえっているが、一昔前は俺たちヒュームでさえゴミ以下の扱いを受けていた。
そのヒュームの更に下に見られていた3種族の冒険者を育てろと王宮直々の命令だ。
腑に落ちない点が多すぎる。

3人に聞こえないように彼女が小声で話す。

649 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/04/30(金) 02:50 [ xv.6A5mo ]
「彼らは人質なの」
「人質?」
「そう。闇の王が倒された今も、各地では獣人が怪しい動きを見せているわ。
 先日、王国騎士団の一個小隊がゲルスバ野営陣の哨戒作戦に当たっていたとき、
 オークの住居から救出されたのがこの3人よ」
「まさか、オークに拉致されたのか?」
「いいえ、この3人は全員ウィンダスに籍を置いている一般人よ」

待ってくれ。話が全然見えない。
ウィンダス人で、しかも冒険者でない・・・?

「何故ウィンダス人がゲルスバに?」
「それは分からないわ。オークがわざわざウィンダスまで出向いて拉致したとは考えられないし・・・」

それに、と彼女が付け加える。

「バストゥークとウィンダスでも同様の事件が起きたらしいわ。これは最重要機密よ」
「なんだって!?」

「ゲルスバでも、バストゥーク人を保護したわ。その人たちは既に護送中よ」
「つまり・・・各拠点に、違う地方の人間が捕らえられていたわけか・・・」

でも、何故わざわざ”一人前の冒険者”に育てる必要があるのだろうか?
その疑問を察知したのか、彼女が口を開く。

「冒険者になるのは3人の希望よ」

なるほど。単純明快な答えだ。

「報酬は?」
「1000万」

「い、いっせん!?」
「そう、このミッションが終われば、あなたは一生遊んで暮らせるお金を手に入れるわね」
「わかった。受けよう!」

金に目がくらんだわけじゃない。どうせ拒否権は無かったんだ。
このときは、この金額にどれほどの意味があるのか考えもしなかった。
あったのは、ミッションが成功し、フィアンセと二人でハネムーンを楽しむ絵のみ・・・

「あ、そうそう。あなた刃物は使用禁止ね」
「へ?」
「はい。コレを使いなさい」

手渡されたのは、片手棍。・・・マジかよ!

「それから、あなたは今から”赤魔導師”を名乗りなさい。国のランクは今後伏せる事。」
「ちょっと待ってくれ!俺赤魔導師の修行なんてやってないぞ!?」
「だから赤魔導師なのよ」

勘弁してくれ・・・ああ、イシェイル、君とのハネムーンはずいぶん先になりそうだ・・・

650 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/04/30(金) 02:51 [ xv.6A5mo ]
ドラギーユ城から出る直前、一人の騎士とすれ違った。

「ゼファーか。久しぶりだな。婚約したそうじゃないか」
「よお、久しぶりだな。忙しいのか?」
「ああ、相変わらずだ。デートする時間もないよ」
「ああ、神殿騎士隊長なら今上機嫌だぜ?デートに誘ってみたらどうだ?」
「いい事を聞いた。今夜食事にでも誘ってみるよ。」
「せいぜいがんばってくれ。じゃあな!」

「師匠、今の方はラアール隊長ですね?あの方ともお知り合いなのですね!」
タルタル戦士のポロムボロムがりっくりっくと歩きながら話しかけてきた。
「高ランクの冒険者になれば、彼らともお近づきになれる。さすがに王や王子達とはそういうわけにはいかないがな」
「でもすごいにゃー。マスター有名人だにゃー」
ミスラの白魔導師、アンだ。ミスラ訛りってやつはどうも苦手だ・・・
「俺の場合あんまり有名だと困るんだが・・・」
「ガハハハ、兄者は有名じゃのぅ!わしも有名にならねばのぅ!」
ガルカのゲオルグ。豪快なくせにシーフやってる難儀な奴だ。
「シーフが有名になってどうするよ・・・」

こうして俺の長い長い受難の旅は始まった。

651 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/04/30(金) 02:56 [ xv.6A5mo ]
てな感じで書いてみたけどどうでしょ?
若干ゲームと設定や人物の性格が違うかもしれませんが・・・

補足として、闇の王が倒された半年後ぐらいの時代が舞台です。
主人公「ゼファー」のメインジョブはそのうち明らかになるとおもいます。

652 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/30(金) 08:13 [ ne9koNDI ]
「雪の彼方」??

653 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/04/30(金) 16:59 [ acXU.ZEk ]
なんでやねん

654 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/01(土) 04:07 [ PI4gMUOE ]
「くそ、また負けた!」
隣のライバルを見て落胆する。
彼の成果は10.俺は半分の5.完敗だ。

昔から釣りだけは苦手だったんだよなぁ・・・


〜第2話、それぞれの決意〜

ゆったりした時間が過ぎる。
狩りの途中の小休止だ。
池の向こう側ではアンが大好物のカニ(生きているが)を眺めている。
右隣15Mほど向こうでは、ポロムがまだ慣れない片手剣で素振りをしている。彼の場合槍辺りの方がいいだろうか?
ゲオルグはどこにいるか分からないが、あの豪快な笑い声が聞こえてくるから平気だろう。

「おっしゃ、釣れたぞ!」
釣れたのはザリガニ。でも1は1だ。
ライバルのゴブリンの釣り師が抗議の視線を送るが無視だ。1は1!

655 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/01(土) 04:08 [ PI4gMUOE ]
「はにゃ〜〜〜〜〜〜!!」
悲鳴なのかどうなのか、気の抜けた叫び声が聞こえる。
間違いない。アンの声だ!
ちょっと目を放した隙に・・・!


アンの姿を探す。
いた!ゴブリン3体に囲まれている!まずいぞ!

一瞬で距離を詰める。
3対1.だが相手にならない。

戦闘が終わるまで10秒もかからなかった。
全て一撃。慣れない片手棍とはいえ、力の差がありすぎる。
アンが震えながら座っている。腰が抜けたのだろうか。
少し遅れてポロムとゲオルグが駆け寄ってきた。
それと・・・あの釣り師も。

656 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/01(土) 04:10 [ PI4gMUOE ]
「このバカ猫!」

ロンフォールの森に怒声が響く。
”バカ猫”の涙腺を破壊するには、この一声で十分だった。
すぐ横には目を回したゴブリンが3匹。殺しはしない。
更に、困った顔をしてオロオロ動き回るタルタルと、泣いているミスラを見て豪快に笑うガルカ。

ゴブリンの釣り師に”お詫び”のゴブリンチョコを4つ手渡してその場を離れる。

アンがカニを物欲しそうな目で見ていたのは知っている。どうやらそのカニにちょっかいを出して怒らせてしまったようだ。
逃げ惑うアンが、ゴブリンのキャンプに突っ込み、ゴブリンの食料を蹴飛ばして散らかしてしまったらしい。
そこで怒ったゴブリンに襲われた・・・ということだ。
ちなみにカニはゴブリンに危険を感じ、逃げたらしい。

「師匠、そんなに怒らないでください。彼女にも悪気があったわけでは・・・」
「ガハハハ、兄者も気がみじかいのぅ!」

「お前たちもだ!!」
再びロンフォールに怒声が響く。

「3人とも離れるなと言ったろ?お前たちは未熟だ。
 特にアンは白魔導師だ。絶対に手を出すなと念を押したはずだ!」

押し黙る3人。

「それに、ポルクとゲオルグ。
 本来なら後衛である白魔導師を一人にするなんて言語道断な行為だ。
 まあ・・・女性の場合例外はあるが」
「兄者も釣りしてたのぅ!」
「だ・ま・れ!」
揚げ足を取られた。気を取り直して説教をする。

657 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/01(土) 04:11 [ PI4gMUOE ]
「この際だから言っておく。お前たちのジョブは適正じゃない!」
実際そうだ。いくら本人が希望しようが、種族によってジョブに適正、不適正があるのは周知である。

「ポロム。本来タルタルは丈夫じゃない。生まれたときから前衛向きじゃないんだ。
 逆に、高い知能と魔力を生かして魔導師になる者が多い。
 ひ弱な体で前衛を張るんだ。相当の覚悟が要るぞ!」
「はい!ぼくは立派はタルタルの戦士になりたいです。そのためにはどんな苦労も厭いません!」
いい返事だ。まじめな性格だし、まあ大丈夫だろう。

「アン。ミスラもあまり丈夫な体はしていない。魔力も決して高くない。
 その中でパーティの命を預かる白魔導師の道を選んだんだ。
 パーティにおいて、白魔導師は生命線だ。何があっても生き残らなきゃならない。
 お前に、ピンチの仲間を差し置いて逃げる勇気があるか?」
「わからないにゃ・・・あたしは誰にも傷ついて欲しくないにゃ。でも、自分が死ぬのもいやにゃ・・・」
ここで「はい」なんて言ってたら、ひっぱたいて置いていったかも知れない。
逆に自分が死んでも他人を助けるなどと言う自己犠牲心は、パーティをピンチにする。
そういう意味では適正なのだろうか。

「ゲオルグ。お前にシーフ無理だわ」
「酷いのぅ。他の二人と明らかに扱いが違うのぅ!」
「お前、性格が大雑把、声がでかい、体がでかい・・・ってシーフにとって不利な要素しか持って無いだろ!?」
「わしは伝説の大盗賊になりたいんじゃのぅ!誰にもわしの行く道の邪魔はさせないんじゃのぅ!」
こいつの決意も固いらしい。まあ、ガルカシーフってのもたまーに見かけるから、出来ないわけじゃないのだろうが・・・


それから3日、みっちりとロンフォールでチームワーク、そして個人の技量に磨きをかける修行をした。

658 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/01(土) 04:16 [ PI4gMUOE ]
やっちゃったOrz
3つめの26行目、
「それに、ポルクとゲオルグ。 →「それに、ポロムとゲオルグ。
脳内変換お願いします(´・ω・`)

659 名前: Scrapper 投稿日: 2004/05/01(土) 06:13 [ ijUESnDY ]
毎度ありがとうございます。
新作アップいたしました。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

前回とまとめて一つの話のようなものなのですが、
また、冒険なし戦闘なし、おまけにやたら長いです…orz

ただ、この話をやっておかないと、二人が先に進めないような気がしましたもので、
読んで下さる人達には申し訳ないのですが、私が書きつづけるのに絶対に必要だなぁ、と。

次回は、多分話の本筋とは関係ないちょっとした番外編になります。
…アップする前に気が変わらなければ。

それでは作者の方々も読者の方々も、頑張ってくださいませ。
私も毎日楽しみにこのスレを覗かさせてもらっています。

660 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/02(日) 21:50 [ jAEdMJMg ]
レッド 第四話「暴走行為とその対処法」


血が燃える。油は液体だけど炎上するだろ?そういうことだ。
私の怒りは、臨界点なんて生易しいものをとっくに消滅させた。
存在するのは、闇に引きずり込まれた心と魂。
殺す。殺す。殺す。ごつん。

「あふん。」
盾で頭を強く殴られた。
シールドバッシュという技をご存知だろうか?ナイトの使う盾での打撃だ。
ジャンが騎士を目指していたという事は、すでに存知の通りと思う。
そして、ジャンはソレを習得していたという事だ。
私は殴られ、そして一瞬ほど気を失った。
草原の草の上を、曲線を描いて何本かの炎が走っている。
すぐに気を取りなおし、私はジャンに丁寧にお辞儀をして御礼を言った。
「ジャン、助かったよ。」
チョコボガールと呼ばれるエルヴァーンが、驚愕の表情でしりもちをついている。
隣に居たチョコボは、すでに逃げ出し遠くで点になって見える。
「あーやれやれ、いい加減にしてよ。ヘルには困った。」


さかのぼること数十分ほど前。私は、ジャンに引きずられてウィンダス森の区の
ゲート前へとやってきた。
ジャンに背中の襟を掴み上げられ、猫の様につるされる私。
「これを冒険者にしちゃって。」
これ扱い。しちゃってって・・・。
私は観念したように、うな垂れていた。もちろん手は、前へと垂れ下げている。
そして、ガードが私へと話しかけてきた。
「了解した。ところで、名前は何かな?おや?鼻が・・あ・・か・・・!!!」
さすがに二年おとなしくしていたとしても、やはり私の噂は絶えな・・・
赤い鼻をみ・た・・・だけで、私だと・・・・
鼻?・・・・赤・・・?!!!

私を中心に、衝撃波が走る。粉塵が波を打って二、三度ほど円状に舞う。
魔方陣がいくつも空中に描かれていく。すべて自動書記と言う奴だ。
そして、口が勝手に詠唱を始める。
それはポイズン。
唯のそれではない。何重にも重ねられ、毒素の濃度を極限まで上げていく。
対象も無く放たれるその呪文に当てられた大地への汚染は、
それこそ重大なものになるだろう。
呪文と印による術の確定は成された。あとは、放つのみと言うところに、

ゴィン。

「あはん。」
私の口から漏れる声。
ジャンが、持っていた剣の平で私の頭を強打した。
ウェポンバッシュという技をご存知だろうか?暗黒騎士の使う両手武器での打撃だ。
しかし、自分なりの改良を加えて、ジャンは片手武器でもソレをやってのけた。
というか、唯、容赦なく私の頭を強打しただけだ。
意識の薄れていく中で、私はジャンの声を聞いた。
「これはセルドにゃ。まちがってもヘルダガルダじゃないにゃ。早く冒険者登録しないと起きちゃうにゃ。」

661 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/02(日) 21:51 [ jAEdMJMg ]
分後、目覚めた私はジャンの腕の中に抱かれていた。
薄目を開けた私に、ジャンが微笑んで話しかけてきた。
「おはよう、セルド。もう朝だよ。」
私はセルドではない。死んでしまった旦那を、まだ愛して幻影を見ているのだろうか。
なぜか私は切なくなってきた。愛情を対象に切なく感慨する事に、なにか違和感も覚えた。
しかし、死者と照らし合わせる行為は、けして正しいものじゃないはずだ。
私は、今だ呆けた頭で、それこそ精一杯に言った。
「私は君の旦那には成れない。」
おかしかったのだろうか?彼女は吹き出して笑った。あ、つばが飛んだ。
何故笑ったのだろう。私は、釣られて笑ってしまった。
そして、記憶が戻る。そうだった、私は、また暴走してしまったのだ。
「君はセルド。もう決まっちゃった。」
笑いながら私の冒険者登録書を片手でひらひら靡かせた。
目を、凝らしてみると・・・・セルド・・・・名前のところにそう書いてある様にも見える。
「なんだか、目が悪くなった様だ。どうしても自分の名前が読めない・・・。
 まさか!先ほど叩かれたせいで脳に異常が!」
しかし、ジャンは笑ったまま言った。
やられた・・・。私は、思考できる頭を呪った。
「おもしろいね。ってか、脳にある異常はもともとでしょ。」
・・・それは君だ。なんて言えると思うかな?
たぶん、みんなの思考している通りだ。
また叩かれたくは無い。痛いのは嫌だ。そういうことだ。
私は、片手で抱かれたまま、手をのばして紙を奪い取った。
複雑な顔をする私に対し、ジャンはいつもの笑顔を絶やさない。
私を抱いて、自分のイタズラに満足げに微笑んでいる。

662 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/02(日) 21:51 [ jAEdMJMg ]
太古の昔から、魔法には詠唱が欠かせなかった。
それは、天才である私でも同じだ。
どうしても外せないものは、何事にも存在する。
いくらテトラマスターの天才でも、ルールを破ることは出来ない。
それと同じだ。
魔力の固定化を終わらせ、次は術の確定に入る。
紋を結び。地面に魔法陣が敷かれる。
光が私たちを照らす。
「いつ掛けられても気持ちのいい魔法だね。」
魔力と言霊で作られた船にのり、私たちは魔力の道を一瞬で移動する。
そして、木々の溢れる我がウィンダス連邦の景色から、一瞬にして
強風によって草葉の舞う草原へとやって来た。
そこには巨大な建造物としか思えない岩と、紫色に発光する巨大なクリスタルが存在していた。
その白い建造物に対すれば、そのクリスタルでさえ微小なものでしかないが。
私たちは、ラテーヌ平原へと降り立った。
「そろそろ日が落ちるけど、もう出発するのかな?」
お昼も食べていないが、色色と事が生じ、心外ではあるが『不可抗力』によって、
このような自体を招くことになった。
「チョコボで夜通し飛ばせば、夜明け前に着くよ。」
冒険者には、昼夜の区別も、定期的な食事の概念もないらしい。
・・・野蛮だ。
私が先ほど使用した呪文はテレポ。その部類の中でもテレポホラと名づけられているものだ。
簡単に言えば、ホラ岩と呼ばれる場所にあるクリスタルまで、魔力の道を通って
一瞬で移動することのできる魔法だ。
つまり瞬間移動を可能にする。
そして、ホラ、メア、デム岩と呼ばれるテレポの終着点には、チョコボを貸し出してくれる
業者が滞在していた。俗に呼ばれるチョコボガールのことだ。
たぶん、殆どの冒険者が世話になっていることだろう。
私も、4年前にはいくらか世話になったものだ。
クリスタルの設置された台の階段をおり、チョコボを借りようとしたとき、
私はある失敗をしでかしてしまった。
引きこもりであり、殆ど家からでない私は、鼻が赤い事を隠すという行為に対し、
それなりの慣れみたいなものを失っていた。
通学中は、みんな私が鼻を指摘されることにキレ、暴発といって過言ではない
行動にでることを知っていた。だから隠す必要もなかった。
そして、たまにテトラマスターのカードを買いに行く時、私はいつもマスクをしていた。
風邪をひいた時につける白いマスクで、私は顔を鼻まで覆っていたのだ。
つまり、隠すという行為自体なれてはいない。
「あらあら、お鼻の赤いタルタルさんなんて始めてみましたわ。」

魔力が摩擦する。その熱で、ところどころの乾いた草に炎が引火していった。
それは、意思の在る蛇のように湾曲して四方に走る。
「ぐっうぅぅ・・。うぅ・・。」
私の口から、意図せずに嗚咽が漏れる。
そして。

ごつん。

「あふん。」

・・・・・・・。

結局、私たちはチョコボを借りることが出来なかった。
「ちょうど、ジャグナーの森はウィンダス支配だねぇ。そこのアウトポストで今晩は休もうか。」
私の失態を責めることもなく、ジャンは楽しそうにそう言った。
アウトポストとは、そのエリアを所持している国の兵士が滞在する詰寄り場の様な所である。
赤く染まる平原を、私とジャンは歩いていった。
失敗へのばつの悪さから、私は一歩後ろを行く。
私は、何故忘れられないのだろうか。
鼻くらい・・・・過去くらい・・・・。


そのうち続く

663 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/03(月) 01:49 [ HOJAAwu6 ]
「ほら。お前らにプレゼントだ」
それぞれ3人に包みを渡す。
明日はいよいよラテーヌ平原に向けて出発する。
ここから先はバルクルムに位置するセルビナまで大きな街は存在しない。
最後の準備をするため、俺たちは一度サンドリアへ戻っていた。

ポロムには鱗鎧と槍を。
アンには白魔法のスクロールと新しいローブ。
ゲオルグにはナイフと革鎧をそれぞれ手渡す。

真新しい装備に歓喜の声を上げる3人を見ていると、自分が冒険者になりたての頃を思い出す。


〜第3話、過去の鎖〜


「アルヴァ、また行ってしまうの?」

アルヴァ。俺の名前だ。特に親しい者は俺の事をこの名で呼ぶ。
”ゼファー”は通り名。もっとも、通り名のほうが有名になりすぎて、殆どの人が俺をゼファーと呼ぶが・・・

「明日、発つよ」
「そう、無理しないでね?あなたに何かあったら私生きていけないわ」
「大丈夫だよ、母さん。俺は丈夫だ。
 まして、今は結婚を控えてるんだぜ?絶対に死ねるものか!」

俺の実家はサンドリアにある。
多くの冒険者は、サンドリアでモグハウスと呼ばれる冒険者専用の宿舎を借りるが、
俺のように実家がある者は、よほどの理由が無い限り実家で生活する。
ただ、あの3人の場合は、「ウィンダスの一般人」と言う扱いである。つまり冒険者ですらないのだ。
モグハウスは冒険者に無償で貸し与えられるもので、この3人は条件にそわないらしい。
お上の連中って頭カタイよな・・・

「ゲオルグ、お前がウィンダスの一般人ってどういうことだ?」
「どういうこととはどういうことかのぅ?」
「アンとポロムはわかる。ミスラとタルタルはウィンダスを構成する人種だからな。
 ガルカの冒険者でウィンダス所属と言うならわかるが、一般人となると・・・」
ガルカのウィンダス人ってのは見た事も聞いた事も無い。
いるかもしれないのだが、とても希少だろう。

この質問を投げかけた30分後、俺は聞いた事を激しく後悔する事になるのだが・・・

664 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/03(月) 01:50 [ HOJAAwu6 ]
夜のラテーヌ平原。通称「ホラの岩」と呼ばれる巨大な建造物の一角に呼び出された。
もうずいぶん前に一緒に組んでいた相棒、エルヴァーンの赤魔導師、ルーヴェルと久しぶりの再会だ。

「すまないな。呼び出して」
「全くだ。普通に町の中で会えばいいだろう?」
「今回は他人に聞かれたくない内容だからな。それに、連れがいると聞いたら来ないだろ?」

連れ?
候補者の名前が2,3人上がった直後に、その人物は姿を現した。
長い耳、銀色の髪、浅黒い肌、すらりと伸びた長身、そして純白の鎧。ルーヴェルと同じエルヴァーン・・・

「リーダー・・・」
もっとも会いたくなかった人物の一人。いや、もっとも会いたかった人物の一人だったかもしれない。

「久しぶりだな。ゼファー」
「やめてくれ。その名前は捨てたんだ」

多くの冒険者は、旅先で出会った者同士でひとつの集団をつくり、情報を交換したり、協力して依頼を遂行したりする。
これら「リンクシェル」と呼ばれる集団は、現在ヴァナ・ディールに数え切れないほど存在する。
もちろん俺もあるリンクシェルに所属しており、仲間と共に数々の冒険をした。
そのリンクシェルを取り仕切るリーダーが彼だ。

「単刀直入に言おう。戻って来い、ゼファー」
「俺は・・・」
俺はあんたたちを捨てたんだ・・・!
「今回のミッション、裏があるとは思わないのか?
 たかだか一般人3人を故郷に帰すのに、何故そんな面倒な事をする必要がある?」
「何!?」

クリルラは、確かに最重要機密と言った。
リーダーは、俺がミッションを受けた事どころか、その内容までも把握している。

「何故あんたがその事を?」
「もともとはうちのシェルに来たミッションだ。俺がお前を指名した」

俺は彼らの手のひらの上で踊らされていたのか!?

「ふざけやがって!そうまでして俺を呼び戻すことに何の意味がある!?
 俺はもう冒険者を引退する。いい加減静かに暮らしたいんだ!」

「そうか。悪かったな。今後一切こちらからは接触しないようにする。
 だが、最後にこれだけは受け取ってくれ」

手渡されたのは白く輝くリンクパール。リンクシェルのメンバーに配られる情報伝達の媒体だ。
突き返そうと思った瞬間、リーダーは俺に背を向けて歩き出した。

「我々も暇ではないのでな。龍のねぐらで新種の邪龍が確認された。以前のものとは比べ物にならない邪気らしい。
 明日、そいつの討伐に出かける。その準備がまだなのでな。これで失礼する」

665 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/03(月) 01:51 [ HOJAAwu6 ]

「今、世界がおかしい」
リーダーが去ったあと、ルーヴェルが口を開く。
「闇の王が倒れたと言うのに、獣人どもは連携を更に強めている。
 各獣人拠点では新たな指導者の存在が確認された。
 新種のノートリアス・モンスターも多数確認されている。俺たちが忙しいのは事実だ」

「だからといって、何故俺に・・・」
「簡単な理由だ。お前をもう一度引っ張り出すためだ」
「まったく、人を何だと・・・!」
「任務を放棄するか?あいつらを放っておいて」
「・・・乗りかかった船だ。降りるにはバストア海に身投げする勇気がいるだろうよ」

「獣人に捕まっていた人たちの記憶は封印している」
なるほど、道理であの3人は明るいわけだ。
「ギデアスとパルブロに幽閉されていた人たちはまだよかった。
 だが、ゲルスバで救出された人たちはかなりひどい拷問を受けていたらしい」
話によると、ゲルスバで救出された多くの人たちは半死半生、肉体的に健康な人も半狂乱状態であったらしい。

「ミーリリが言うには、一度にたくさんの人たちの記憶を封じたため、封印は非常に不安定な状態らしい。
 普通に生活する分には差し支えないが、冒険者をやるとなると何が起きるかわからない。気をつけてやってくれ」
あの3人もオークに拷問を受けたのだろうか?
俺の心の奥に、激しい怒りの炎が芽生えた。

666 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/03(月) 01:52 [ HOJAAwu6 ]

「あら、お帰りなさい」
部屋のドアを開けると、めがねをかけたエルヴァーンの女性が本を読んでいた。
「明日、出る」
「そう。いつ帰ってこれるの?」
「わからない。だが、この仕事が終われば、その報酬で式が挙げられる」
「あら、素敵ね。でも長くは待たないわよ?」
「君はいつまでも待ってるだろうよ」

彼女を抱きしめる。
そうだ、俺は幸せになるんだ・・・!

「これ、持って行って」
彼女が机の引き出しから首飾りを取り出す。
「何故君がこれを!」
「これを失くしたら、あなたがあなたでなくなる気がして・・・
 お願い。これも一緒に持って行って。私の代わりに・・・」

無言で受け取る。手が震えている。思い出したくないが、忘れてはならない記憶・・・


過去の鎖は、まだ俺を締め付けるのか・・・!

667 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/03(月) 01:54 [ HOJAAwu6 ]
いつも書くのを忘れる(´・ω・`)

続く

668 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/03(月) 10:28 [ qwOfceu. ]
「レッド」のノリは好きだな。

669 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/03(月) 15:19 [ .NlzgFt6 ]
ジャンが年増だしな・・・・・・


微妙

670 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/04(火) 15:12 [ ARB1zYok ]
「レッド」、ノリがいいねぇ・・・。
ジャンが年増でもかまわないさ〜!
ところで4話の>>661
最初が「分後・・・・」と始まってるけど何分後?数分後?数十分後?

「風の通り道」
最初は悪いけど『雪の彼方』のパクリかと思ったよ。
適正が有ってない初心者冒険者3人をベテラン冒険者が指導しながら連れて行くところなんてとくに・・・。
(雪の彼方のジュノ同行者編参照)
まぁ、感想とかは今後の展開次第じゃないかなと。

671 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 00:23 [ eCtJM7CI ]
数分後です。まちがって消したままコピしたみたい。
気をつけてるつもりでしたが、所詮つもりでした・・・しにたい。

672 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 00:31 [ eCtJM7CI ]
レッド 第五話「対立とその因果、およびアイデンティティへの考慮と思考」


ジャンと寝ると言うことが、どれほど恐ろしい事なのか。
それを私は知っている。

「やあ、いらっしゃいませ。宿泊希望の冒険者かな?」
ジャグナーの森のアウトポストの番をしていた小さめなタルタルが、
私たちへと話しかけてきた。小さめといっても、子供である私から見れば誰でも大きい。
区別がつくのは、彼が特別小さかったからでもない。
ジャンが言ったからだ。
「あらら。ちっちゃくて可愛いタルタルにゃん!小さすぎるヘルとは大違いにゃ!」
「にゃ?」
私はジャンの語尾を復唱した。
「もんくあるのかな?」
私にだけ聞こえる程度の小さな声で、ジャンは言った。
「文句はない、ないが、まだそのRPとか言うものを続けていたとはね。」
彼女は、私の様な親しき人物以外には、語尾に「にゃ。」や、「にゃん。」
などを付けて、至極ミスラらしい振る舞いを見せた。
ミスラ訛りというものだ。
私たちタルタルにも、語尾に「タル。」などを付ける訛りがあるが、
ウィンダスの様な、外交の豊かな町へと産まれた私やジャンには、
それはあまり馴染みのあるものでもなかった。
「な〜に?ヘルはミスラ訛り嫌い?」
そんな事はなかった。ジャンらしいアイデンティティの在り方でもあると思う。
私たちには、それぞれの個性という物が必要だと考えている。
それがミスラ訛りでも、赤い鼻でも良いと思う。
「いや、べつにそういうわけじゃ・・・。」
ただ、それを聞くと無性に恥ずかしくなるだけだった。
私が幼いのだろうか。それとも、ジャンが突飛過ぎるのだろうか。
謎は残る。

673 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 00:32 [ eCtJM7CI ]
「あ、あの・・・。」
たまらず、ガードである小柄なタルタルが話しかけてきた。
それもそうだろう。片方は、ニコニコと無言で、少し私の方に傾いて笑い続けている様に見えるミスラ。
そしてもう一方は、苦虫を噛み潰したような表情で、鼻を押さえているタルタルが居る。
異様な光景だったろう。
「えーと、その子の護衛の任務か何かですか?」
苦笑しながらタルタルのガードが続けた。
「そうにゃん。」
「適当な事いうな。説明が面倒なだけだろう・・・。」
はぁ。と、私は一つため息などを吐いて説明を続けた。
「私はこれでも冒険者だ。見た目での判断が、どれほどその者を傷つけるか知れ。
 我々は、これからジュノへ向かおうとしている。理由を言う義務はないな。
 とある事情から、今晩中にジュノへ向かうための足・・・つまりチョコボを消失して
 しまってね。しかたなく此処へ泊まることにした。よろしく頼む。」
一気に話しおえた。別に引きこもりが長く、人と接することに慣れていないために、
この様な話し方になった訳ではない。解りやすく、直接的にいっただけでしかない。
「相変わらず乱暴で、人を見下した様な言い方にゃ。昔とちっとも変わってないにゃぁ・・。
 タルタルちゃん、ごめんにゃ。」
そう、私の話し方は、昔とちっとも変わってない。ちっとも変わってないが・・・・。
「私は乱暴にも、人を見下してもいない。」
多少の憤りを交え、私はジャンへと講義した。まったくの冤罪だ!私はこれ程までに丁寧に
説明をしているだけだというのに!
ジャンは、人を見る目が無い。それは昔から解っていたことだ。
クゾッツ島と呼ばれるクォン大陸の南西に位置する、その殆どが砂漠で覆われた
場所を越えて、私たちはヴォルボー地方と呼ばれる半島へと渡った。
昔は、ザルクヘイムと自由に行き来が出来たらしいが、謎の地殻変動によって
大陸と分断されてしまったらしい。
そのために、我々はクフタルの洞門と呼ばれる海底洞窟を越えて、岩壁に覆われた砂丘、
テリガン岬へと足を踏み入れた。
目的は召喚獣ガルーダとの謁見と契約だ。
もちろん、事は上手くはこんだのだが、このジャンは人を見る目が無かった。
テリガン岬にキャンプを張っていたゴブリンどもと意気投合し、
そのまま一晩飲み明かす羽目になってしまった。
子供である私は先に寝てしまったのだが、朝起きてみると、荒らされた荷物と
べろんべろんに酔っ払ったジャン・・・。
本当に困ったものだった。

「ジャンが!」
「ヘルが!」
と、言い争うこと小一時間。
どれほど興奮したって、私は鼻を押さえる手は離さなかった。
同じ失敗を何度も繰り返すのは、私の流儀やら美学に反することだからだ。
それと同じ様に、ジャンもミスラ訛りを忘れることは無かった。
「まあまあ、そろそろ夜もふけましたし、続きは明日にでも・・・。」
タルタルのガードの仲裁によって、私たちの豪く幼稚な争いは終わりを告げた。

674 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 00:33 [ eCtJM7CI ]
「いっしょにねようよ。ヘル。」
冒険中、我々は何度か寝泊りを共にしたことがある。
彼女は大人であり、未亡の身ではあるが、一応は既婚者。
そして私は子供だ。それほどやましいこともない。
しかし、私は断固として拒否する。
私たちが使えるベットは5つ。
それなりに広い部屋に、5つの二段式のベットが横に並んでいた。
そこは急事の際に、多数の兵士が寝泊りする為の部屋だ。
絶対に、何があろうと一緒に寝たくない私は、ジャンに一番左のベットを使うように指示し、
私自身は一番右側にあるベットを使用した。
「お休み、ジャン。」
ジャンに挨拶をし、自分のベットへともぐりこんだ。
久しぶりの外出でもあり、体力を幾分か余計に消費したようだ。
布団に入ると、間もなく深い眠りへと落ちていった・・・・・。


夢を見た。
私がまだ幼い頃の話だった。


次回予告ぎみの終わり方に、ぷれっしゃーを感じながらも続くかも。

675 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/05(水) 02:54 [ oLU2WumI ]
雪の彼方、今読み終わりました。
確かに展開が似すぎている・・・
気分を害された方、また雪の彼方の作者様に深くお詫び申し上げます。

−−−以下多少ネタバレあり−−−

護衛&育成と言う任務は、既に書いた通り、ゼファー(アルヴァ)を冒険に引っ張り出す布石として必要かなと思い、そういう展開にしました。
最初の段階では、この3人とは冒険の途中で知り合い、PTを組む事になっていましたが、
冒険者を引退する事を決意していた彼が、成り行きで見ず知らずの3人と組むと言う展開は考えにくいため、このような形を取らせていただきました。
ここから彼の過去と未来に展開していくのですが・・・
もちろん3人(今後増えますが)には3人にそれぞれ物語があり、それも踏まえて進んでいくつもりでしたが、そこも含めて展開が似すぎていますね(´・ω・`)


以上、言い訳でした(´・ω・`)
書き出したからには最後まで続けるのは義務だと思っています。
あまり時間が無くて、間が開くことも多々ある事と思いますが、宜しくお願いします。

676 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 05:01 [ 9w29TE3Y ]
いったい何のネタバレなんやら・・・

677 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 09:13 [ nCVldb0. ]
時系列がわかりにくすぎだな。

678 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 11:12 [ eCtJM7CI ]
それじゃ、

話しを戻そう。
「ジャンが!」
「ヘルが!」
と、言い争うこと・・・・

と、するとどうでしょうか。
書いてると時系列わかりにくいので、いってもらえて助かりました。
あと、どのへんがわかりにくいか教えてもらえるともっと助かります。

679 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 18:41 [ 9w29TE3Y ]
>>678
それって「レッド」のこと差してるのかな?
ちがうんじゃないの?

680 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 20:06 [ nCVldb0. ]
>>678
レッドの事じゃないよ。
まぁそっちも多少問題があるが…
>話しを戻そう。
こんなん入れるよりも”こうなった原因編”に入る所をいじったほうがいいな。

681 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/05(水) 20:34 [ eCtJM7CI ]
なるほど。どうもありがとう。
それは4年前、クゾッツ島と呼ばれる・・・って感じですかね?

682 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/06(木) 02:44 [ SLTrsTzU ]
>>676
すみません。自分的にかなりのネタバレだったので。

>>677
時系列わかりにくいですか?
一人称で話を進めて行く中で、時間軸はできるだけわかりやすく書いているつもりでしたが、難しいものですね。
ご指摘ありがとうございます。精進します。

683 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/06(木) 04:47 [ XOcrui7M ]
各物語の作者様方

読者はワガママ言いたがるモノなのかも知れませんけど
物語を紡ぎ出せない俺から言わせてもらえば

UP楽しみにコマメにこのスレチェックして楽しみに待ってます

です。

684 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/06(木) 07:32 [ vp1j3g/6 ]
あと展開が唐突だよなw
昔の仲間から戻って来いとか言われてるしマジ雪彼方っぽいw

685 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/05/06(木) 09:55 [ vOlXE5ZY ]
「名無しの話」の20 −端午の節句−

五月五日は端午の節句。
それは、東の国の伝説。
男の子を祝う日で、鎧武者の格好をさせるのが慣わしらしい。

と、いうわけで
「ボクの日だよー」
朝から元気なのは、侍の正装に身を包んだタルタル。

ひとつ、ヴァナの世、生き血をすすり。
ふたつ、ふらちな、悪行三昧。
みっつ、醜い浮き世の獣人。
退治てくれよう、タルタル侍。だったりする。

金糸銀糸紅青黒の組紐で鋼板を繋いだ東の国の鎧兜は、地味のようで派手。
歩くと響く音は、騎士の鎧よりも重々しい。
「あるかな、あるかな?」
わくわくどきどき。
歩きながら見上げる空。
探してるのは、コイのぼり。
まだ一度も見たことないのだけれど、
天にも届くような柱の先に、巨大な『コイ』という魚の剥製をいくつも飾るのだという。
「どんなかな、どんなのかな?」
三月三日は、やっぱり東の国の伝説の日。
女の子を祝うというその日、町に飾られた『ヒナダン』はきれいだった。
それからずっと、タル侍は今日を楽しみにしてきた。
「カッコいいかな、コワイかな?」
コイってどんな魚だろう。
人間なんかよりずっと大きいらしい。
ガルカでも丸飲みにできるっていう。
ものすごく大きい剥製だから、ものすごくコワイかもしれない。
けど、お祝いのお飾りだから、ものすごくカッコいいかもしれない。
もしかしたら、ものすごくキレイかもしれない。
「どこにあるのかなー」
あっちでつまずいたり、こっちでぶつかったりしながら、タル侍は空を見上げて探して歩いた。

686 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/05/06(木) 09:58 [ vOlXE5ZY ]
朝の集合場所。
みんなそろったから、そろそろ出かけようかというとき。
ドデデデデデ…
派手な音に振り向いたヒュム戦たちが見たのは、階段を転げ落ちてるタル侍。
目玉くるくる、頭ピヨピヨになってる。
「「あー、タル侍ちゃん」」
慌ててかけよるタル白タル黒。
「あ…タル白ちゃんタル黒ちゃん?」
「「だいじょうぶー?」」
よいしょよいしょと起こしてあげる。
「コイのぼり探してておちちゃった」
恥ずかしそうなタル侍。
「「コイのぼり?」」
「うん」
大きくうなずくタル侍。
「今日ね、飾ってあるの。ものすごーく大きいんだよ」
精一杯両手を広げて、大きさを表現するタル侍。
「それで、こわくて、カッコよくて、キレイなの」
タル白タル黒へ説明するまん丸の目は期待に輝いてる。
「でも、まだ見つからないんだ」
「「…」」
顔を見合わせるタル白タル黒。
「どこにあるのかなー?」
顔を上げて空を見回すタル侍。
「「…」」
複雑な表情でヒュム戦たちを見るタル白タル黒。
「「「「…」」」」
ヒュム戦たちも、やっぱり複雑な表情で顔を見合わせる。
「そうか、今日は男の子を祝う日だね」
最初に口を開いたのはヒュム戦。
「うん!」
元気にうなずくタル侍。
「じゃあ、お祝いしようか」
とヒュム戦。
「?」
「うちにはタルちゃんたちもいるから、一緒にお祝いしよう」
「いいの!?」
喜び
「でも、コイのぼり…」
迷うタル侍。
「なら、飛空船に乗るといい。空からだと見つけやすいだろう」
とエル騎士。
「そうだね、飛空船の上でお祝いしよう」
「んー、ごちそうあるかなぁ」
ミスラを見るガル戦。
「大丈夫にゃ。帰っていろいろ用意してくるにゃ」
「それでいい?」
タル侍に笑むヒュム戦。
「うん!」
大きくうなずくタル侍。
「「やったー」」
タル白タル黒も飛び上がって喜んだ。

687 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/05/06(木) 10:02 [ vOlXE5ZY ]
思い立ったが吉日と、食材を取りに戻ったミスラを待って、一行は飛空船へと向かったのだけど。
『…番埠頭より…行き、まもなく出発します。危険ですので駆け込み乗船はおやめください』
アナウンスが響き、ゆるゆると飛空船の乗船口が閉じていく。
慌てて走る七人からは、まだ百メートル以上ある。
「にゃー!まにあわなかったにゃー!」
叫ぶミスラ。
待ってれば次の便は来るけど、目の前で出られると、なんだかとても悔しい。
「つぎだね」
脚を止める七人。
けれど
「んー、まだ間に合うぅ」
とガル戦。
ヒュム戦が問うより早く、その巨大な手がタル侍をつかむ。
「え?」
ガァバァッと振りかぶり
「タァルタル対艦ミサイルゥーーーッ…」
「え?え?」
状況の把握できてないタル侍を
「発射ーーー!!」
ヴゥン!!
投げるっ!!
「えぇーーー!?」
ギュンと飛んだタル侍の小さな身体は見事に閉じていく乗船口へと飛び込んだ。
ガッシャーン!!
奥から派手な音。
けど、どうなったのかまでは見えない。
『危険ですので駆け込み乗船はおやめくださーい』
アナウンスが叫ぶ。
さらに
「「ミ?」」
危険を察知して逃げようとしたタル白タル黒を両手でつかまえるガル戦。
「やめんかー!」
ゴスッ
後頭部へ剣を叩き込むヒュム戦。
けど効いてない。
「んー、このままだとタル侍一人になるよぉ。かわいそうだよぉ」
とガル戦。
…確信犯のよう。
「え゛」
ヒュム戦が躊躇したすきに
「タァルタル対艦ミサイルゥーーーッ連射ァッッッ!!」
ヴヴン!!
ガル戦の両手がうなり
「ミーーーー」
「キャーーー」
並んで飛んだタル白タル黒は
ドガガッシャーン!!
乗船口のわずかな隙間に飛び込む。
直後にピッタリ閉じる乗船口。
「んーナイスコントロールぅ」
うれしそうなガル戦。
たしかに見事。
『危険ですからやめてくださーい!!』
半分泣いてるアナウンス。
「んー、駆け込みじゃないよぉ、飛び込み乗船だぁ」
というガル戦の言葉は聞こえただろうか。

688 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/05/06(木) 10:05 [ vOlXE5ZY ]
「「「…」」」
順番から行けば、次は…。
ジリと後ずさるヒュム戦たち。
と、ドンと背中に当たるもの。
壁?
振り向けば肉の壁。
いつの間にかずらりとガルカが並んでる。
「へ?」
固まるヒュム戦たち。
その頭越しに、視線を交えるガル戦とガルカたち。
「…」
なんだかキラキラしたものが行き交い、意志が通い合ったのだろう。
うんうんとうなずきあう。
その一人が、グイとミスラの肩を押す。
さあどうぞ。
ありがとう。
ガルカ同士の視線が無言の言葉を交わす。
「にゃ?」
ガッシとガル戦がミスラの襟首をつかんで持ち上げる。
「にゃー、この持ち方は失礼にゃー。アタシは猫じゃないにゃー!!」
抗議するけど、当然、聞いてない。
グゥンと脚を蹴り上げ
「ミィスラン対艦ミサ…」
台詞が止まる。
飛空船がもう埠頭を離れて上昇を始めてる。
「…」
少し考えて、まぁいいか、とガル戦。
「よくないにゃー」
「発射ーーー!!」
ヴンッ!!
「フギャー」

タルたちとは違って、斜め上へ飛んでいくミスラ。
やがて失速。
鈍い音と共に落下したのは、飛空船の甲板だった。
「あーきたー」
「だいじょうぶー?」
「生きてる?」
しっかりと復活したタルたちが駆けよる。
「…」
返事はない。
かわりに
『飛び込み乗船は危険です。おやめください』
さっきとは別な人のアナウンス。
その後ろで泣いてるような声も聞こえてる。
「「「?」」」
顔を見合わせるタルたち。
「つぎだれかなー」
「エルさんー」
「ヒュムさんー?」
それぞれに候補を上げて、空を見上げる。
残念だけど、背の小さいたるたちには船縁がじゃまで下が見えない。
どんどん高度を上げ、スピードを上げていく飛空船。
少しして
ビュウ
と空を切る音。
ガゴンッ!!
何かが舷側にぶつかり跳ね上がる。
ゲシャアッ
鈍い音と共に飛び込んできたのはエル騎士だった。

689 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/05/06(木) 10:08 [ vOlXE5ZY ]
『飛び込み乗船はやめてください!!』
怒こってるようなアナウンス。
でも
「んー、少し低くかったぁ」
ガル戦は気にしてない。
「次はうまく乗せるよぉ」
ガッシとヒュム戦をつかむガル戦。
「はぁ…」
すっかりあきらめてるヒュム戦。
グウィと身体をひねり
「発射ーー!」
投げるガル戦。
「また省略かぁーーーーー」
と飛んでくヒュム戦。
プルプルプルと進む飛空船へどんどん飛び
メゴッ!!
ぶつかったのは船腹。
ズルズル…ひゅるるるーーーー…ドッポーン
海面に水柱が上がる。

『やめてくださいってばーー!!』
悲鳴みたいなアナウンス。
「失敗したね」
とタル侍。
「ひくかったのー」
とタル白。
「みすー」
とタル黒。
三人はミスラとエル騎士に支えてもらい、船縁にしがみついて下を見てる。
ずーっと離れた埠頭には、もうちいーさくなってるガル戦の姿。
「…いつもの光景にゃ」
海に広がる波紋を見下ろすミスラ。
「しかし、この後どうする気だ?」
エル騎士はガル戦を見てる。
たしかに。
ガル戦が自力でこの船に乗ることはもうできない。

「あれー?」
タル黒が指さす。
「「「「?」」」」
みれば、ガル戦の周囲にあのガルカたちが集まってる。

同じガルカ同士。
目と目を見れば意志は通じる。
数人のガルカが、ガル戦の手を取る。
そして
「「「ガルカンハンマァーーーーー」」」
ハンマー投げのようにガル戦を振り回す。
ブンブンブンブン
どんどん回転が速くなっていく。
「「「ーーシューッ」」」
タイミングを合わせて同時に手を離す。
ビュオゥッ!
ガル戦の巨体が、ものすごい勢いで飛ぶ。

690 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/05/06(木) 10:15 [ vOlXE5ZY ]
「あー」
「とんだー」
とタルたち。
飛空船めがけてギュンギュン飛んでくるガル戦。
ズギャゴーン!!
「「「「「!?」」」」」
轟音と共に激突したのは、飛空船の船橋。
「ちょっとはずれたにゃ」
「外れたね」
「はずれー」
「ねー」
「角度が悪かったな」
冷静な五人。
と、
グラリ
船が揺れる。
「にゃっ」
「むっ」
素早く船縁につかまるミスラとエル騎士。
「あわわわ」
「ミー」
「キャー」
甲板を転がってくタル侍たち。
「な、なんにゃ?」
「…あそこは…」
とガル戦の激突した場所を示すエル騎士。
「操船室のあたりだな」
「!」
『だからやめてって言ったのにー』
アナウンスはまた泣いてた。

「まあね、だいたいこんなもんだけどね」
波にプカプカ浮いてるヒュム戦。
「港まで泳ぐのは遠いなー」
けどいつまでも浮いてるわけにもいかない。
「ふぅ」
ため息一つついて泳ぎだそうとしたとき、フッと周りが暗くなった。
「?」
何気なく見上げる。
そこには、一気に迫ってくる、というより墜ちてくる飛空船。
「そうきたかー!」
巨大な水柱はヴァナ中から見えたとか見えないとか。

その後、船に遅れた客を投げ込む、ガルカの「投げ込み屋」が生まれたというのは裏の話。


「…あの…コイのぼりは?…」

−おわり−

691 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/05/06(木) 10:21 [ vOlXE5ZY ]
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
またまた遅れてしまいました。
けっして忘れてたわけじゃありません。
抜けるに抜けられなかったわけでもありません。
いやホント。
…て、前にもおんなじ事謝った気が…。
進歩のない自分に万歳。
で、不幸なタル侍ちゃんにもごめんなさい。

692 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/06(木) 19:04 [ GvWgDqtE ]
>「「「ガルカンハンマァーーーーー」」」

爆笑wwwwww

パワ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

693 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:26 [ 5RtinbCU ]
名無しの話の作者さん、久し振りにキタ━(・∀・)━( ゚∀)━(  ゚)━(   )━(゚*  )━(∀゚* )━(*・∀・)━ !!!!!

694 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/06(木) 22:33 [ CgK7b2Y6 ]
名無しさんの話、すっかり季節物ですねーw
実際のヴァナでも端午の節句イベントがなかったのは残念です。
なんでだー!?

695 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/06(木) 23:25 [ v.5J/zk. ]
「ポロム、もっと敵の注意を引くんだ!」
「アンはもっと離れろ!巻き添えを食らうぞ!」
「ゲオルグ、周りの警戒を怠るな!危ないと思ったら即撤退を指示しろ!」

ポロムとゲオルグが互いにうなずき、掛け声と共に、ポロムが槍ですばやく二段突きを繰り出す。
直後、ゲオルグも雄たけびと共にナイフで敵をなぎ払う。
二人の息の合ったコンビネーションは、空間を湾曲させ、弾けさせた。
その衝撃に耐え切れなかった大羊は、どう、と言う音と共に地面に倒れた。



〜第4話、護るべきもの〜


「わ、わ、わ!冷たいにゃ!」
ラテーヌ平原に突然の雨。
湖のほとりでキャンプの準備をしていた俺たちは、一瞬でずぶ濡れになった。
大急ぎでテントを張り、中に逃げ込む。

アンが目の前で濡れたローブを脱ぎ捨てる。目のやり場に困るな・・・
ミスラは女性が圧倒的に多い種族だ。生まれたときから母親と周りの女性に育てられる。
アンの年頃ならば、男性とまともに接した事が無い者も珍しくは無いだろう。
性別の無いガルカ、性欲の無いタルタル、そして一応婚約者がいる男。
危険性は少ないとはいえ、やはり冒険者の中には変な気を起こすものもいる。
というか、男としてそれは当然か・・・

「うわあああ!助けてくれ!!」
アンに男との接し方、警戒の仕方も教えなければならないのかと頭を悩ませていると、突然叫び声が聞こえた。
3人には動かないよう指示を出し、テントの外に飛び出す。
目の前には逃げ惑う冒険者と宙に浮く水の具現、エレメンタル・・・!
少々面倒な相手だが、追われている者を見捨てるわけにもいかない。

やっと使い慣れてきた片手棍を構える。
一歩踏み出した瞬間、エレメンタルに突然雷が落ちた。
落雷の衝撃で、水の具現は弾け飛び、蒸発し、大きなクリスタルの塊を残して消えていった。
それがサンダーの魔法で、誰かがエレメンタルを屠ったと理解するのに数秒かかった。

「まったく。魔法をつかったわね」
声の主を見る。そこには赤魔導師のアーティファクトに身を包んだ若いヒュームの女性が立っていた。

アーティファクト。
選ばれた者のみが着る事を許される魔法の武具。
それを身にまとっているだけで、その者は相当の実力者である事が証明される。
彼女も若いながらに、赤魔導師を極めた人物なのだろう。

「ありがとう。助かったよ」
「あの人、あなたのパーティ?
 だとしたら余計なお世話だったかしら」
「いや、あかの他人だ。あんたが来てくれなかったらこっちも巻き添えを食らうところだった」
「そう。それはよかったわ。
 それにしても、最近の若い人はお礼も言わずに行っちゃうのね」
いつの間にかさっきの冒険者は姿を消していた。
「ところで、ちょっとテントで休ませてもらえる?
 突然の雨でびしょ濡れだわ」
「ああ、すまない。歓迎するよ」

696 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/06(木) 23:27 [ v.5J/zk. ]
「はあ・・・」
テントの壁を見つめて俺は大きなため息をつく。
先ほどの女性はアーティファクトを脱ぎ捨て、下着姿のまま3人と楽しそうに会話をしている。
俺は更に目のやり場に困って、一人あさってを向いているわけだ。
先輩冒険者がそれだとアンに示しがつかないじゃないか・・・
仕方が無いので、背を向けたまま新魔法のスクロールを読む。

「ねえ、あなた、名前は?」
背後から両肩に手を置かれた。なんていうか、警戒心が無いのか?
「アルヴァだ」
スクロールに目を落としたまま答える。
「あなた、何故この3人といるの?」
質問の意図が読めない。
「あなたは相当の実力者よね。雰囲気でわかるわ。それが素人同然の3人と一緒に旅してる。
 護衛にしてはあなたのその装備に疑問が残るし、3人のメンターってところ?」
カンの鋭い女だ。
「俺は道案内さ。こいつらをウィンダスまで連れて行く。
 ついでに俺の赤魔導師の修行も兼ねてね」
適当に言いつくろう。これでごまかせたとは思えないが・・・

「雨が止んだわね。あたし、ちょっと泳いでこようかな〜。
 アンちゃんも一緒に来る?」
「あ、いくにゃ!お魚つかまえるにゃ!」
おいおい、お前ら・・・
「と言うわけで行ってくるわね。覗いたら殺すぞ♪」
心配しなくても覗かないよ。
「あ、見てアンちゃん!虹だわ虹!」
「ほんとだにゃ!綺麗だにゃ〜!」

荷物から乾いた木材(合成に使うつもりだった)を取り出し、火の準備をする。
今は、この賑やかな客を歓迎するとしよう。


夜にはすっかり晴れて、夜空には星が瞬いてる。
火の番をしながら、俺は例の首飾りを取り出した。
火のゆらめきを反射しながら妖しく光る宝石が中央にはめ込まれた首飾り。ムーンアミュレット・・・
「綺麗ね」
彼女がテントから出てきた。結局服が乾いていないと言う理由で、俺たちと一緒に一晩過ごす事になった。
「ああ・・・」
相変わらずの下着姿。もう気にしない事にした。
「見た事の無い逸品ね。それどうしたの?」
「珍しい宝石が手に入ってね。俺が作った」
「すごいわね!彫金やってるの?」
「一応高弟の資格は持ってるよ」
「ねね、あたしにも作ってよ。それ」
「わるいな。もう材料が手に入らないんだ」
「そっか。残念ね」
首飾りを仕舞う。今でも輝きを失わないそれを捨て切れなかったのは、俺の弱さの現われだったのかもしれない。

気配を感じる。彼女も感じたようだ。
二人同時に立ち上がる。
「やっぱりあたしのカンは当たっていたわね!」
何故か満足げだ。急いでテントに戻る。3人を見る。熟睡している。
起こさないように支度する。
「ううう・・・つめたい。キモチワルイよ・・・」
彼女も防具を身に着けているが、まだ乾いていないようだ。
「な、なによ。見ないでよ」
突然顔を赤くして向こうを向いてしまった。さっきまで下着でうろうろしていた割に、服を着るところを見られるのは恥ずかしいらしい。

697 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/06(木) 23:28 [ v.5J/zk. ]

「ランバートか!でも何故こんなところに!?」
キャンプから500mも離れていない場所で接触した。暴走雄羊と呼ばれる巨大な羊。
「ちょっと、あなた。そんな装備でこいつとやるの!?」
「これしか持ってないんだ。何もないよりマシだろ?」
「クレイジーだわ」

雄羊が突進してくる。軽く身をかわす。ついでに一撃を忘れない。忘れないが・・・
「ち!やっぱりこいつじゃダメージにならない!」
思い切り殴ったつもりが、俺の一撃は分厚い皮に跳ね返された。
クリルラの刃物使用禁止命令を忠実に守っている俺はバカなのだろうか?

彼女がすばやいキャストでバイオとパライズを唱える。
一瞬の隙を見計らい、俺もさっき覚えたエンサンダーを武器に付加する。これで少しはマシだろ。
彼女は雄羊の攻撃を受け流すと同時に、レイピアで突いている。
少し距離を取り、魔法で追い討ちをかける。
なるほど。赤魔導師ってこうやって戦うのか。参考にさせてもらおう。
30分後、ずぅんという地響きと共に狂乱雄羊はその生涯を終えた。

テントに戻ると、3人はやはり寝ていた。
ポロムは恐ろしいほどにさっきのままだ。
ゲオルグはいびきがうるさい。
アンは毛布をはぎ取り、うつぶせに寝ている。寝相が悪い。
毛布をかけようとして、背中に生々しい傷跡がある事に気づいた。
ルーヴェルの言葉を思い出す。怒りがこみ上げてくる。

「これ・・・」
彼女が痛々しい目で見ている。
「水浴びのときに気づいたんだけど、本人は何故こんな傷があるか覚えていないそうよ。
 むしろわたしが指摘するまで気づかなかったみたいね」
思わず目を伏せる。
「可愛そうに。よほどひどい仕打ちを受けないとこうはならないわ。」
そう言うと、彼女は防具を干して自分の毛布に潜り込んだ。
ポロムとゲオルグに目をやる。
この二人にも同じような傷があるだろう。


俺は、誰の掌の上で踊らされている?
いいさ、どうせ踊らされるなら好きなように踊ってやる。
ミッションなんて関係ない。
お前たちは・・・俺が護る!

698 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/06(木) 23:28 [ v.5J/zk. ]

「それじゃ、私はサンドリアへ向かうわね」
「ああ、世話になったな」
「こちらこそ。がんばってね」
旅は一期一会。寝食を共にした仲間とも別れる日が必ずやってくる。
「行っちゃうにゃ・・・?」
涙目のアンが彼女の袖をつかむ。
「大丈夫よ。またいつか会えるわ」
「また冒険の話を聞かせてください」
ポロムが丁寧にお辞儀をする。
「今より強くなっていれば話してあげるわ」
「わしもあんたぐらい強くなれるかのぅ?」
珍しくしおらしいゲオルグ。
「努力を怠らない事ね。そうすればすぐに追いつくわ」

「お姉さん、あなたの事気に入っちゃったわ。あの3人のこと守ってあげてね」
俺にだけ聞こえるぐらいの声で話しかける。
「俺はこれでも25だ・・・」
童顔は俺のコンプレックスのひとつだ。未だに10代に間違われる事もある。
「あら、これは失礼。あたしより年上だったのね」

去り際に大きく手を振る。
「あ、そうそう。あたしの名前はパーシヴァル!みんな、また会いましょう!」

「また会いましょう・・・ですか」
ポロムがつぶやく。
「冒険者の多くは、普段一人で行動して、狩りのときは希望者を集めてパーティを組む事が多い。”野良パーティ”ってやつだな。
 普段が危険な職業だ。いつ死ぬかわからない世界で、お互い無事でまた会いましょうって願いがこもっている言葉だ」
僕はみんなとずっと一緒にいたいです。
そう言ったポロムの言葉が俺の胸に突き刺さった。


「サンダースラスト・・・ですか?」
「ああ、槍に魔力を付加し、雷撃と共に敵を貫く技だ。そろそろお前にも使えるだろう」
昨夜俺が使った魔法、エンサンダーはそれと同じ原理を持続化させ、武器に宿らせる魔法だ。
タルタル族であるポロムが槍に魔力を乗せる事が出来れば、大きな武器になるだろう。
まじめで努力家の彼の返事は、俺の期待していたものとは正反対だった。

「・・・できません」
「なに?」
「僕にはできません・・・」
「何故やる前から出来ないと決め付ける?出来る出来ないじゃない。やるかやらないかだぞ?」
「僕には出来ないんです!無理なんです!!」
珍しく声を荒げるポロム。その口から放たれた次の言葉は、俺たちを沈黙させるのに十分な威力を持っていた。

「僕には魔力が無いんです・・・」



つづく。

699 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/06(木) 23:32 [ v.5J/zk. ]
かなり長くなっちゃいました。
これでも大分削ったのですが(´・ω・`)

某ガルカとヒュームの恋物語とか、性欲の無いタルタルがどうやって子供作るのかとか、そもそもムーンアミュレットってまんまドロップだろ!って言うツッコミはナシの方向でお願いします。
アミュレットに関しては、宝石だけ敵のドロップで、後は彼が作ったって感じで解釈願います。

700 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/07(金) 09:21 [ 8fPLwvpA ]
樽はあんな可愛い顔してるけどエロエロ星人だよ。
よくミスラの後ろで上向いてる樽いるじゃんw

701 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/07(金) 10:34 [ f40Lz4tI ]
某テカシリーナの人も樽だしな(゚∀゚)

702 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/07(金) 18:17 [ 23/nj75I ]
質問ぬ
ここに書くストーリーは、フィクションじゃなきゃいけないんでしょうか?
事実にもとづいた物語なんてのは禁止?

703 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/07(金) 18:45 [ azaIBqlo ]
ネタバレあると辛い人とか居るかも?
ミッションとかは、止めてほしい人いるかもね。

LSとかPTとかの話しなら、私は大丈夫だと思いますよ。
まあ、ソレさえ嫌な人は居るかもしれませんがw
反応みるためにも、一度書いてみたらいかがでしょう。
楽しみにまってますよw

704 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/08(土) 21:28 [ rGFHm5QY ]
>>600
毎回楽しみに読ませて貰ってます。

>ところで、なんで上げちゃダメなんでしょ?w
それは…一度上がった後、しばらく様子見ていれば解る、かもしれません。

705 名前: 初めての冒険 第9話 1/5 投稿日: 2004/05/09(日) 06:20 [ mmlSyntI ]
初めての冒険 第9話 ラテーヌ高原〜雨のち虹

砂丘を抜けてすぐにシャムたち三人はその日の野営を張った。
獣人や好戦的なモンスターに見つからないように、慎重に場所を選び、火を焚く。
マギーが作った夕食を食べた後、シャムはすぐに寝てしまった。

旅をする者にとって、危険となるものはモンスターだけとは限らない。
特に何事もなく抜けられたとはいえ、バルクルム砂丘の熱波はかなりつらい。
旅慣れた者ですら、しっかりと準備をしていなければ、熱にやられて命を落とす
危険すら有るという。
ラセスの事前準備、そして旅慣れたラセスとマギーの二人が注意深く指示を出して
道を進んだので、無事に砂丘を抜けることが出来た。
しかし、無事に抜けることが出来たとはいえ、砂丘の熱はきつかったのだろう。
シャムはかなりの体力を消耗していた。
だから、夕食を食べた後、小さな寝袋にくるまると早々に眠ってしまったのだ。

だから、その後の二人の会話は夢うつつ。
とぎれとぎれにしか覚えていない。

「・・・疲れたのねー」
「ど素人・・・」
「そうね・・・。この子・・かなり小さい・・・」
「だろうな・・・おそらく・・・」
「・・・親御さん・・・連絡・・・・」
「・・・」
「・・・?」
「・・済み・」
「・・・
 ホラ・・・で出来る・・・・」
「・・・考えてる・・・・・・」
「・・・親・・・元冒険者・・・」
「・・・そう・・?」
「・・・船・・・・連絡・・・
 ・・・サンドリア・・・・・・・」
「・・・・・たくらんでる?」
「人聞きの悪い・・・・」

引っかかるような言葉もあった。
けれど、まともに考える事が出来ないぐらいシャムは疲れ果てていた。
この会話にしたところで、後から考えてみれば・・・って感じで思い出したのだから。

706 名前: 初めての冒険 第9話 2/5 投稿日: 2004/05/09(日) 06:22 [ mmlSyntI ]

一夜明けて次の日の昼、まだ疲れの抜けきらない体を必死で動かしながら、
シャムは前を行く二人についていった。

まだ少し遠いが、白い建造物が目に入る。
タロンギ大峡谷でも同じ物を見た。
ラセスに聞いて名前は知っている。ホラの岩だ。

「もう少しで、ホラの岩だ。そこまで行ったら少し休憩しよう」
ラセスがそう言ったとたんに雨が降ってきた。
ぽつり、ぽつり・・・最初は慎ましやかに大地を濡らしていたが、あれよあれよ
という間にごぉーっという大降りになっていた。
「休憩しようっていったとたんに大振りになるとは・・・なかなかやるわね」
感心したようにマギーが呟く。
「何をバカなことを言っている」
呆れたような、ラセスの言葉。
けれど、マギーの言う通り確かに絶妙なタイミングで雨が降り出しなぁとシャムは思う。
もちろん口には出さないけれど。
「いいじゃないのー。笑いは必要よ〜」
すねたような口調。
そういえば、この人の年齢もよくわからないよなと思う。
・・・基本的に大人の年齢というのがよくわからないからだけれど。

「お前の笑いは良くわからん」
「まー、しっつれいねぇ〜」
「あのな・・・」

そんな掛け合い漫才のような二人のやりとりを聞きながら、少し急ぎ足になり、
・・・そのうち駆け足になり、ホラの岩を目指す。
少しならば雨宿りをすることが出来るスペースが有るということだ。

ばしゃばしゃばしゃ・・・。
水に恵まれているもののあまり雨の降らないウィンダスに育ったシャムにとって、
雨の中を走るのは不思議で、そしてとても楽しいことだった。

「とうちゃーく」
そういうとマギーはホラ岩の出っ張りの下に体を滑り込ませた。
続いてラセスが、少し遅れてシャムが体を滑り込ませる。

「凄い降りね。珍しいわ」
「そうだな」
二人のやりとりを、下の方で聞きながら空を見つめていた。

707 名前: 初めての冒険 第9話 3/5 投稿日: 2004/05/09(日) 06:23 [ mmlSyntI ]

そのうちに、ぽつっと思っていたことが口からこぼれ出ていた。

「雨ってこんな風に降るんですね」

「ん?」
不思議そうにラセスが見下ろしてくる。
「僕、雨が降るの見るの初めてだから、凄いわくわくしちゃってます。
 雨の中を走る乗って面白いですね」

ぱしぱしと体にぶつかってくる水の粒。
ぱしゃぱしゃと水のはねる感触。

「ん〜。確かに雨の中走るのは楽しいわね〜」
同感!という感じでマギーが頷く。
「ふむ・・・。しかし、このまま足止めされるのもつらいな」
「良いじゃない。シャムも昨日は頑張って砂丘を抜けたわけだし」
「ふむ」
「少し長めに休憩取りましょ」
そういうと、マギーは荷物を濡れないように気をつけながらその場に下ろした。
「って言うかちょっと気持ち悪いわ」
きゅっと服の裾を絞る。
「ラセスー。タオル持ってないタオル」
あれば貸して〜と言わんばかりにマギーが尋ねる。
対するラセスの答えは簡潔だった。
「私にそういうものを要求する方が間違っているとは思わないのか?」
「間違ってるわね、確かに」
しみじみと納得したように頷くマギー。
何で間違ってるのかなぁと思いつつ、シャムは荷物の中にタオルというか
ハンカチが入っていることを思い出し引っ張り出す。
「あの、良ければ使ってください・・・ってびしょびしょでした」
差し出したもののびしょびしょで・・・しかもタルタルサイズのそのハンカチは
どう考えてもエルヴァーンのマギーには役に立ちそうになかった。
「ほんとねぇ。びしょびしょ」
あっはっはっと笑いながら、ハンカチを絞るマギーに半泣きになりながらシャムは
謝っていた。
「あぅぅぅ。ごめんなさい」

あぁぁ、こんな処で泣き虫癖が・・・。
ラセスさんと二人になってからはあんまり泣いてなかったんだけどなぁ。

708 名前: 初めての冒険 第9話 4/5 投稿日: 2004/05/09(日) 06:24 [ mmlSyntI ]

「気にしない気にしない。この雨だもの、仕方ないわ」
ありゃって顔をしながら、マギーがそう言う。
仕方ないけど・・・でも・・・。
肩を落としてしょげかえるシャムを見て何か思ったのかラセスがむくりと立ち上がって
マギーに向き直り、おもむろに口を開いた。
「ふむ、それならば・・・」
マギーに向かい手の平をかざす。
シャムにはラセスが何をしようと思っていたのかはわからなかった。
けれど、マギーには一目瞭然だったようだ。
「何をしようとしているかだいたい想像はつくけどやめてねラセス」
「ダメか?」
「当たり前よ!私を殺す気?」
なにやら物騒な発言が。
「そんな威力は出さんぞ・・・というか出せんぞ」
・・・なんか怖い話をしてますか?
「だーめ。あんたそれで前にリード死なせ掛けたこと忘れた訳じゃないでしょ」
さらに物騒な発言が出ているけれど・・・。
・・・やっぱり、変な人なのだろうか。ラセスさんは。
良い人だってのは良くわかってる。
けど、良い人ってのと変な人って両立するし。
「おぉ、そうだったな」
いかんいかん忘れてたといわんばかりに、ぽむと手を叩くラセス。
そんな大事なことを忘れちゃ行けないと思うのだが・・・
「何でガルカってのはこうおおざっぱなのよ」
呆れたように言うマギーにラセスは胸を張って答えた。
「種族的なものだろう」
「反論はして上げないわよ」
結局ラセスが何をするつもりだったのか、シャムが知ることは無かった。

濡れた服を少しはマシなものに替えた3人はその後ものんびりと会話をしながら、
雨が上がるのを待った。

どれくらい時間がたったのだろう。
マギーのおもちゃになっていたシャムは、ふと雨音が小さくなっていることに
気がついた。

雨が上がりさぁっと雲が晴れていく。
「うわぁ」

思わず走り出て、空を仰ぐ。

709 名前: 初めての冒険 第9話 5/5 投稿日: 2004/05/09(日) 06:25 [ mmlSyntI ]

そこにあったのは見事空に掛かる七色の橋。
話に聞いたことは会った。けれど・・・

「これ・・・これが虹?」
「あら、知ってたの?」
意外そうな顔をして尋ねてくるマギーに、虹を見たままシャムは答える。
「話に聞いたことと絵を見たことが・・・でも・・・」
言葉にならない・・・なんと言えば良いのだろうか。
「本物は見事だろう」
「はい!」
ラセスの言葉に元気良く頷く。
「運が良かったわね。雨が降った後に必ず出るってものでもないから」
感心したようにマギーが言う。
「そうなんですか?」
思わず彼女の方を振り仰いでシャムは尋ねていた。
「そうよ。やっぱり坊やって幸運の持ち主なのね」
うんうんと頷いている彼女からまた虹に視線を戻し、ほぉっと感嘆の声を漏らす。
「滅多に見られないんですね。良かった。見ることが出来て」
本当に、そう思う。


大丈夫。
きっと何があっても大丈夫。

本当は怖いと思っていた。
ロアンに会いに行って、会えなかった時のこと。

・・・会ってくれなかった時のこと。

だから・・・
親や教師に先回りされて、連れ戻されてもかまわないってきっと心のどこかで
思っていた。
どこかで親や教師に捕まるかもって思っていた。
徒歩のシャムに先回りする手段なんていくらでもあるのだから。

けれど・・・
大丈夫。
ちゃんと辿り着ける。ちゃんと会える。

顔を上げて、虹を見つめる。

すぅっと空に融けて消えていくまでずっと見つめていた。
心の中に焼き付けられるように。
これから先何が会っても勇気が出せるように。

――いまでも目を瞑ればそこにある。大切な大切なその風景。

710 名前: 初めての冒険の中の人 投稿日: 2004/05/09(日) 06:29 [ mmlSyntI ]
ちょっと間があいてしまいましたが、第9話です。
たぶん予想のついてる方が多いと思いますがこのお話は後もう少しで終わります。
頑張って最後まで書きますので、もう少しおつきあい下さい。
読んでくださる方々に感謝!

711 名前: Scrapper 投稿日: 2004/05/09(日) 10:04 [ p3zyHAM2 ]
毎度ありがとうございます。
新しいのをアップしました。予告通り、ちょっとした番外編です。
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

少しばかり気になったのですが、
名所巡りのようなものも、読む人にとっては一種のネタばれ…になっちゃうんですよね。
今回そういうものが入っているので、どうしたものかなぁとちょっと迷いました。
そこまで気にしていては、この手のお話は書けなくなってしまうのかもしれませんが。

それでは皆様頑張ってください。

712 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/09(日) 11:36 [ 5b4d4plc ]
>>710

自分が初めてラテーヌの虹を見たときのことを思い出します。
消えてしまわないうちに、いそいでSSを撮ってました。

でも、そのSSも今ではどこにいってしまったのか…… (*゜‐゜)ぼぉー・・

懐かしいような、ちょっと寂しいような気持ちになりました。

713 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/11(火) 11:45 [ ra4N8dXY ]
マギーがフレそっくりw(ネカマだけど・・・)
書き方綺麗だし読みやすいし秀作ですね。
これからも楽しみにしております。
がんばって!

714 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/11(火) 19:43 [ b5ipW18o ]
SORA



笑顔は痛かった。ボクの心に刺さる鋭さを持っていた。
それは、とてもじゃないが耐えられない。それほどの心の障壁を、ボクは作ることはできなかった。
ユキが言った。
「私の選択だから。だから、笑ってください。」
頬に何本も流れる涙を、指で拭ってボクを励ました。
竜を抱いたユキが、曇る空を誇らしげに掲げるバタリアの地を一人歩んでいく。
海から吹く風はユキの髪を激しくかき乱す。美しい黒く長い髪は、まるで邪悪な生き物の様にうごめいた。

空を殺すべきだったんだ。

青い生地に白い虫食いの様な雲が浮かんでいる。
晴天。
ボクは、雲に齧られて形作られた竜みたいに見える青い雲の切れ端を眺め、
ユキが話してくれた昔話を思い出していた。

ユキが竜騎士に憧れた理由。それは竜騎士によって助けられた事に依存していた。
オークのサンドリア付近の拠点であるゲルスパ砦、そこにユキは攫われてしまったことがあった。
子供の頃の話。
絶え間ない鼓動と、徐々に荒れていく息を潜めて、ユキはオークに担がれた袋の中にいた。
父親と釣りに出かけたんだけど、途中で飽きてしまって一人で散歩をしていた時に捕まってしまった。
叫びたい衝動と、それを許さない孤高な虚栄心の中で、ユキは涙を流していたと言っていた。
誇り高い彼女は、多分助けを呼ぶことに戸惑っていたんだと思う。
ユキは、静かな女性だ。
穏やかに時を操っている。
だから、彼女に対して物腰の柔らかいというイメージを持っている人は沢山いた。
だけど間違い。彼女は強かった。
もしも自分が犠牲になって仲間を助けられる状況に立ったのなら、ユキは間違いなく笑って死んだ。
もしもそれに躊躇する者がいたら、ユキは間違いなく殴ってでも行かせただろう。
ボク等の出会いもそんな感じだった。

ユキの時間は袋の中でどんどん進んでいった。
恐怖と懺悔が襲っていた。涙は涸れることなく流れ出した。
「死にたくない。」「心配かけてごめんなさい。」
二つの意思が、ユキの中にはあったらしい。
闇の支配する皮で出来た袋の中の世界は、狭く息苦しいだけではなく、
人の心を蝕む性質も帯びていた。その力は、確かにあった誇りさえも削り痩せさせていく。
「時は延々、あるのは孤独。やゆればとうとし、せかいは青い。」
袋を通して、その歌は聞こえた。
邪悪なフィルタを通し、すこしくぐもってしまったはずのその声は、
その純粋さに一つの曇りもなく、ユキに、どこまでも聞こえる様な錯覚さえ思い浮かばせた。
「大丈夫だった?怖かったでしょ。さあ帰りましょ帰りましょ。」
詠うような調子で、開かれた袋の先にある光の中から、誰かがユキに話しかけてきた。
それは青い竜を連れた竜騎士。青い鎧を纏いし冒険者だった。
銀色に輝く髪を高い位置で括っている美しきエルヴァーンの女性。
長い槍は光を反射させ、世界に光を齎せていた。
抱き上げられたユキは、安堵で激しく号泣したらしい。
顔を赤らめて語るユキを、ボクは愛していた。

715 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/11(火) 19:44 [ b5ipW18o ]
空にユキを取られてしまったボクは、今日も楽しく冒険する。
「ウィンダスのミッションでさ。ギデアスの調査に行かなくちゃいけないだ。
 一人って怖いからついてきてよ。」
ボクの腰にも届かない身長のフェムドファルノが手足をじたばたさせながら言った。
リンクシェルという通信用のアイテムを用いたコミュニティ「敬愛なる金獅子達」。
ボク達はそこのメンバーだった。
そのような徒党を組む理由は沢山ある。
たぶん、一人じゃ手に負えない様なことを助けあえるというメリットが、
その大部分の理由を占めているんじゃないかと思う。
ボクらが一緒にいる理由は、ただ楽しいからだけなんだけどね。
だから、ボクはフェンの手伝いに参加した。
ボクらは全てに前向きに生きるべきなんだ。何時死ぬかなんてわからないしね。

みんなの仕事上の関係で、フェンのミッションを手伝えるのは3人だけだった。
ボクと、レンレン、そして敬愛なる金獅子達のリーダーであるジャックナイフ。
少人数だけど全員手馴れの冒険者。
ジャックナイフなんてランク10の冒険者。世界で十指に数えられるほどの実力の持ち主だった。
ガルカの強大な筋力を生かした暗黒騎士。自分の力を最大限に利用できる器用さも持ち合わせていた。
ボクよりも遥かに大きな鎌をつかって、多くの獣人たちの命を奪ってきた。
レンレンは、殆ど釣りをして暮らしている世捨て人。
殆ど何も話さない。だけどいつもリンクパールは所持していて、誰かが助けを必要とすると
絶対についてきてくれた。
大きな猫の耳と長い尻尾を付けてたミスラである彼女は、黒魔道士という職業を極めていた。
ランクは3。だけど、実力はそれではない。古代呪文だって操れるんだ。
そして、ミッションを受けた本人のフェンは戦士。
タルタルという種族上、あまり適正とはいえないジョブだったけど、
その絶え間ない努力で今では頼りになる戦闘のプロと化していた。
気の弱いのは相変わらずだけど。
暗黒騎士の鎧を纏ったジャックに、黒いウィンダス連邦のローブと尖がった帽子を被ったレン。
ミスリルで出来た銀色の鎧で全身を覆ったフェンと、愛用しているガンビスンを着たボクらが
並んで歩くと結構様になっていた。
冒険者として、生きている心地に浸っていた。

空を飛ぶなんて簡単な時代になった。
飛空挺にのれば、それこそ数時間で他の国までいけてしまう。
それに必要なパスは、全員が所持していた。あとは、入場料を払うだけでよかった。
ボクとジャックとフェンは、冒険者としてある一定の実績を上げていたために、
ジュノからパスが発行されていた。しかし、国の仕事なんて殆どこなしていないレンは、
自分の貯蓄の中からパスを購入していた。
パスの値段は50万ギル。とても手のでる金額ではなかった。
何時も釣りしかしていないレンが、そんな金額を持っている事が不思議だ・・・。

つづく

結構釣りって儲かるよね・・・。

716 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/13(木) 01:49 [ wulostTQ ]
ネガティブマーチいいねぇ・・・
個人的にはレイブンにもっと笑って頂きたかった。
「カカカかカカッカアアアアアアアアアアア!」
最高でそ。
イメージ的にウェポン系の敵が笑うじゃん、あんな感じ。
マジ久々に良いもん見せてもらた。
感謝。

717 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/13(木) 12:05 [ EmcBjFMs ]
いいよね。私も好き。
ちょっと怖いけどw
続きないらしいのが残念無念。

718 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/05/13(木) 23:46 [ KEl.ZN2g ]
白き〜新作追加しましたーよろしければ読んでやってください。
ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

さて…最近仕事忙しかったんで、作品はWikiでまとめ読みさせて頂きます。
…うーん、プリントアウトして仕事場で読みたい衝動に駆られる…が、紙足りんな、うむ。

719 名前: セイブ・ザ・アワー・ワールド 投稿日: 2004/05/14(金) 00:53 [ tDSpk.0Q ]
 歴史は変遷する。ヴァナディールのような世界観のあるファンタジーに置いては、その変遷は現実
よりはるかに速い。
 ジラート、タブナジア、クリスタル戦争、闇の王。それらに関連して現れるのは、もはや遠すぎて歴
史として認識されない伝説の時代から、逆に近すぎて歴史にならない酒場の老人たちの冒険まで。
我々の前に現れる歴史は種々様々で、かつ年表のように順序だてては現れない。
 もちろん、ばらばらに現れる種々の歴史は、ジュノとクフィム島のように直接繋がってはいるわけで
はない。それは、ウィンダスから陸路でラバオに行くように面倒なルートで繋がっている。その道のり
では何度もモンスターや獣人に絡まれたり、誰かフレンドに会ったので立ち止まって小一時間ほど過
ごしたり、中には本人さえろくに覚えていないようなこと―――オートランしていたらいつの間にかど
こかの壁に向かってガリガリと走り続けていたこともあるだろう。
 問題は想像力だ。ラバオで待ち受けていた貴方がウィンダスから来た友人に土産として雷の塊を受
け取った時、「ああ、ジャグナーは雷だったんだな」と考えることができる想像力。世界観を楽しむとい
うのはそういうことだ。それを妄想とか暴走とか言っても構わない。人によってはそれを小説やイラストの
形で表現したりもするだろう。

 つまるところ、私が3ヶ月ものあいだ物語りを書かなかったのにも隙間は存在し、そこからは私の怠惰
や甘えが想像できるが・・・それを自分でも改善しようと、そのように言い訳させていただきたい次第である。

ではどうぞ。
ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワー・ワールド

720 名前: セイブ・ザ・アワー・ワールド 投稿日: 2004/05/14(金) 00:56 [ tDSpk.0Q ]
む・・・暫く書き込まないうちにアドレスの一部が日本語に変換される謎機能が。

失礼。Wikiのメニューから選んですすんで頂きたい。

721 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 01:16 [ E/blwIq6 ]
ダブルフェイス・レッドラム  第13話「動き出す運命」

― バルクルム砂丘 ―

…砂丘を走り抜けるチョコボが二頭。
冒険者だろう。ヒュームの男とミスラが騎乗している。
「いそげー!はやくしねーと船が出ちまうぞ」
「ちょ、ちょっと待って!…この子人を乗せるの慣れてないみたい…にゃっ!?」
暴れるチョコボをなんとかなだめようと、手綱を必死に振り回すミスラ。
だが、しかし、なおも暴れるチョコボを抑えきれず、振り落とされる。
「お、おい、大丈夫か?怪我はないか!?」
「いたた…うん、大丈夫だよ」
ヒュームの男は慌ててチョコボから降り、ミスラの元に駆け寄るとケアルの詠唱を始める。
ミスラの体が青白い光に包まれる。
「えへへ…ありがと」
お返しとばかりに、ミスラは男の頬をぺろんと舐めた。
「…ば、ばかっこんな所で!」
顔を真っ赤にした男はミスラの手を引っ張ると、物凄い勢いで走り出した。
「ほら、行くぞ!早くしないと船が出ちまう!」
「わっ…!もう…そんな急がなくてもいいでしょ〜?」
「急ぐんだよ!今回は!」

セルビナの影がぼんやりと遠くに見える。二人は全速力で砂丘を走りぬけていく。

722 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 01:17 [ E/blwIq6 ]
―― セルビナ ――

ぼぉぉ〜、と船の汽笛が町に響き渡る。
そんな船を受付の前から恨めしそうに見つめているのはテルセウスだった。
(はぁ…どうしようもないか…)
出るのはため息ばかり。わずか数百ギルさえも払えないとは、なんと情けない事か。
(サンドリアに一旦戻ろうかな…でも…)
と、考えていると…どしんっと背中に衝撃が走る。
「きゃっ!」
「おい、何やってんだよ!急げ!船が出ちまうぞ!」
後ろから走ってたヒュームの男が苛々しながら叫んでいる。
…どうやらヒュームの少女が自分の背中にぶつかったみたいだ。余程急いでいるのだろう。
おそらくは今停泊している次の便に乗船するつもりなのだ。
「大丈夫ですか?」
尻餅をついている少女に手を伸ばして立ち上がらせると…
「あぁ!…あなたは!」
突然、女は目をきらきらと輝かせた。…何処かで見た事があるような、ないような。
「その節はありがとうございました!」
いきなり深々とお辞儀をされた。
「おい、ミズハ。いーから早く金払っちまえよ!」
一方の男の方は、足踏みをしながら船を見ている。…船の出港にはまだ時間があるのだが、
それを知らないのだろう。
「…大丈夫だよ。アズマ。船はまだ出港しないよ」
今度はまるで女のような綺麗な顔立ちをした栗毛色の、同じくヒュームの男…だろうか?
その足元をひょこひょこと小さなタルタルの女の子が歩いている。
「あ!この前のミミズの人だよ!お姉ちゃん!」

723 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 01:17 [ E/blwIq6 ]
ミミズ…この前…?…あ…そういえば…確かバストゥークでミミズのハラキリを
手伝った…?
「ああ…また会えるなんて…夢のようです!」
「そ、そうですね…奇遇ですね…あ、あの。あなたもこの船に?」
「えっ…?えぇ、まぁ、そのつもりですが」
…そう言って、”しまった”と思った。
ここまで来たが、お金が無いなんて言える訳も無く…
「あぁ…これは運命ですね!」
「う、運命…ですか」

「あああーー、もう、そんなのは後だ、後!船でちまうぞコラ!」
この男は人の話を聞いているのだろうか?ついさっき栗毛色の男がまだ船は出ない、と
言ったはずだが…
「はい!これ!こんだけありゃ足りるだろ!?」
袋からじゃらじゃらと小銭を取り出し受付に払うと、
アズマは乗り場へと走っていった。
「おきゃくさーん、これ一人分多いですよ〜」
店員の叫び声も聞こえていないようだ。アズマは猛スピードで船へと走っていく。
「全く…アズマ。もう少しお金は大事にしないと…」
栗毛色の髪の男は頭を抱えている。
「ねぇねぇ、早く船に乗ろうよ〜」
タルタルの女の子は遠くに見える船をワクワクしながら見ている。

724 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 01:18 [ E/blwIq6 ]
「あ!そうだ。この前のお礼という訳でもないんですが…丁度5人分払っちゃったみたい
 ですし、折角だから…」
「え?」
…こ、これは…つまり”おごり”という奴だろうか?
「い、いぇ、しかし…見ず知らずの方にお金を貰うわけには…」
「いいんです!あの時のお礼ですから!」
「そうですか…それではお言葉に甘えるとしましょう…」

どうやら幸運の女神はまだまだ自分を見捨ててはいないようだ、とテルセウスは思った。



…アズマ達が乗船してから、さらに数分後、今まさに船が出港しようとしている
タイミングで二人連れの冒険者が飛び乗った。
「はぁ…はぁ…はぁ…セーフだぜ…」
「にゃぁ……あたいもう歩けないよ…」
二人は廊下に座り込んでぐったりとしている。
「でもさ…本当にこの船に乗ってるのかな?」
「あぁ…そうらしいぜ。ったく、人使いが荒いんだよな、役人ってのは」
男は立ち上がると、背伸びをする。
「ん〜でもまぁ、とりあえずだ!部屋に入って休憩しようぜ」
「うん!」
「…なんか、お前やけに嬉しそうだなぁ?」
「えへへ・・・だってクレイと2人きりで船旅なんて久しぶりだもん」
「遊びじゃないっての…ったく、ほら、行くぞ、クリーム」

725 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 01:19 [ E/blwIq6 ]
― 甲板 ―

釣り糸を垂らして、じっと海面を見つめる。浮きは一向に動く気配が無い。
…船が出港してから未だに当たりがないのだ。
だが、それも釣りの醍醐味である。
(釣れてるかい?)
パールから声が響く。ジックラックだ。
「…残念ながら、今日は調子が悪いな」
(へっへっへ、普段の行いが悪いんだよ)
下品な笑い声が聞こえてくる。まったく、なんと品の無いタルタルか。
「…それで、どうした?」
(ああ、どうやらこの間言った冒険者の2人組みが今同じ船に乗ったようだぜ。
 えぇと、確かクレイとクリームとかいう名前だ)
「俺をマークしてるのか」
(んだなぁ。下手に動くのは不味いかもしれねぇな)
「それにしても…クレイ…か。しつこい男だ」
(知り合いか?)
「ああ…知り合いというわけでもないのだが、どうも奴とは腐れ縁でもあるようだな」
(…んで、レッドラムは見つかってる…わきゃないよな?)
「残念ながら、な。数日往復して釣りをしているが、それらしき者は見当たらない」
(げげ、お前ずっと乗りっぱなしなのか?飽きねぇなぁ)
「趣味だ。ほうっておいてくれ。それに、レッドラムが船を移動手段として使う事も
 充分に考えられるからな」
(やれやれ、さすが狩人だね。ものすんごい忍耐だこと)
「獲物を狙うまでいつまでも張り込むのは当然だ」

手元に振動を感じた。…どうやら何かが食いついたようだ。
「悪いが、今少し忙しい。また後で連絡する」
(え、おい、ちょっとまて。こらアルジャ…)

やれやれ、落ち着きの無い男だな…などと考えながらアルジャダは竿を握り締めた。



偶然か、はたまた必然なのか。この物語の鍵であるレッドラムに関わる者達が
この船に集う。そしてこの物語の運命の扉も今、開こうとしている。


 
                                 続く

726 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 02:54 [ dNLxWSBU ]
このスレ見つけてWikiで全部読んだけど続きがすげー気になるwwwwwwww
今続いてる話はまだいいんだけど途中で止まって音沙汰ない話の先がもう・・・
頼むから昔の作者さん、もう一度光臨してくれ!!!

つーかこのスレどっか別に板作ったほうがいいんじゃないか?
その方が作品毎にスレ分けられるし。

727 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 03:42 [ CE5RtyOg ]
レッドラムきたー
クリームたん・・・はぁはぁ(*´д`*)

728 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 04:06 [ aIlB5DJk ]
クレイとクリームキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
これが言っていた後日談なのかな?

729 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 09:45 [ dOll4m3Y ]
キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

730 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 11:09 [ 9QiocIE2 ]
えと…
キテルーーーーーーーーーーー!

731 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 12:37 [ S/Y9zxtQ ]
>>726
作品ごとにスレ立てるほどの供給量があるとは思えんが…
作者によってはプレッシャーになるだろうし。

732 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 12:47 [ VBSqAEvI ]
学校から帰ってきたら

キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!

733 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 13:06 [ w1UP2zZg ]
タル戦のクレイがあぼーんする話し見たいのだけど
どこかに保存されてませんか?

734 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 14:23 [ gmTOOIqs ]
>>733
>>1

735 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/14(金) 23:48 [ thDr1uKk ]
白き探求者は骨格がしっかりしていて、
純粋に物語を楽しめるところがすき

セイブザ・アワー・ワールドはそのオリジナルな設定が
いい味出しててすき

ダブルフェイス・レッドラムは何重にも張り巡らされた伏線に
何度も引っかかっちゃうからすき

要は喪前ら大好きでつ(*´Д`*)

736 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/15(土) 00:06 [ vmoqG9AU ]
パパ キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!??

737 名前: セイブ・ザ・アワー・ワールド 投稿日: 2004/05/15(土) 13:30 [ ujAJ7/as ]
MMORPGである以上、逃れられないのがバージョンアップ。大型パッチともなると、そもそも
世界観自体が変化したりもして、この世界の物語をつむぐ者にとっては嬉しい悲鳴。
 たとえばさっき自分の作品を見直して見て思ったのは、主人公一行を敵方が生かしたまま捕
らえようとするシーン。飛び交う魔法。パライズ。ブライン。バインド。たまに威力の弱いストーン。
思いましたとも。「スタンぐらいつかえよ!」・・・当時は実装されてなかったんですね。パライガ
もスリプガも存在しなかったから、バインガもどき使っておおはしゃぎですし。こればっかりはど
うしようもないので、読者の皆様の時代を見破る慧眼に期待したいところ。
 だけど同時に新しいパッチは新しい想像力をかきたて、物語を生み出してもくれます。このスレ
の開始当初、サハギンやトンベリをからめたストーリーなんて望むことができたでしょうか?それ
は世界の広がりであり、可能性の拡張です。なにもゲーム性だけがバージョンアップの良いとこ
ろだけではないんですね。個人的にはそういった新しい要素をがしがし詰め込んだ物語を作って
いけたらと思っています。
 
 そして先日のパッチで追加された「バリスタ」。こんなスレが立ってました。なんだか寂れている
気もしますが、このスレの方々ならきっと気に入ることでしょう。
ttp://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1083065942/

こちら、私の愚作もよろしければどうぞ。(ちゃんとリンクできるのかな?)
ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワー・ワールド

738 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/15(土) 19:08 [ nJm/rdQE ]
――1時間25分前・ジャグナー南部――

真っ暗な闇。いたる所に生える木。足元に生い茂る無数の植物。
闇の森を駆ける二つの影があった。
「レックス! デオドライザーは?」
走りながら影の片方が叫んだ。高い声。
「ない! さっきの荷物の中に!」
もう一つの影が叫ぶ。さっきより低い声。
「くっ!」
高い声に、悔しさと苛立ちと焦りが混ざる。
「レア! こっちだ!」
また低い声。
低い声の影が高い声の影を導く。
そして、二つの影はまた森の闇の中に飛び込んでいった。

739 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/15(土) 19:09 [ nJm/rdQE ]
――2時間前・ダボイ――

眼下に広がるジャグナーの森。空にはぼんやりと光る満月と星々。
月明かりに照らされて、ジャグナーの森はうっすらと青くうかびあがっていた。
そんな夜のジャグナーを眺める、一匹のオークがいた。ダボイからジャグナーに面する
崖の上の、木で組んだ高台の上で、睨むようにして森を見下ろす。
彼の役目は『敵』が来ていないかを見張ること。
『敵』とは人間――特に彼らとクォン大陸北部の覇権を争うサンドリア軍のことである。
クリスタル大戦以後もずっと、お互いに憎みあい小競り合いを続けている。
そうはいっても、オークは夜目がきき、人間の種族は明るい方が目が見えるものだから、
夜に『敵』が来ることはまずない。
そんなわけで、この見張り台のオークは暇をもてあましていた。
森には獣人や人間、野生生物などが多くいるはずだが、上からではまず見えない。
しかし、寝るわけにもいかず、彼はただひたすら森を眺めるしかなかった。
たまに思い出したように、目を凝らして森を見回す。
もちろん何も見えない。あきらめて、またしばらくボーッと森を眺める。それの繰り返し。
しかし、その繰り返しの何度目か、ほんのちらっと、ダボイの近く、
鬱蒼と茂る木々の隙間から、赤い光が彼の目にうつった。

740 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/15(土) 19:10 [ nJm/rdQE ]
――1時間30分前・ジャグナー南部――

枝を張り巡らせて生える木々と、その垂れ下がるように伸びる葉。
森は光を遮り、昼間でもジャグナーの森はどんよりとしている。
危険な野生動物も多く潜み、オークの本拠地であるダボイの膝元であるジャグナーの森は、
人間にとって不気味な森である。
そんな夜のジャグナーに、二人のエルヴァーンが焚き火の前に腰掛けていた。
女と男が一人ずつ。二人共鎧を着て、腰に剣をさしている。まだわりと若く、冒険者のようだ。
焚き火に赤く照らされる二人は、ちょっと間を空けて座っていた。
「それで……レックスはナイトになった後はどうするの?」
女が男に尋ねた。
「え……うん、そうだなぁ……」
レックスと呼ばれたエルヴァーンはのんびりと答える。
「……『そうだなぁ』ってレックス、あんた何も考えてないの?」
女のエルヴァーンが呆れて、今度は問い詰めるような口調になった。
レックスは慌てて弁解する。
「あ、いや、一応はあるんだけど……じゃあレアは?」
「決まってるでしょ、あたしは――――――」
レアと呼ばれたエルヴァーンの女性がそう言いかけ、途中で言葉をきった。
そしてレックスの方に鋭い目を向ける。
「レ、レア?」
突然の仲間の異変に戸惑うも、レックスはすぐ理解した。自分を見ているのではなく、
自分の後ろの森に目を凝らしているのだ。
彼女の目は、レックスの後ろの森の奥に潜む『何か』をとらえていた。
二人が腰の剣に手をかける。その刹那、二人がいた場所に紫の電光がはしった。
置いていた二人の荷物と焚き火が火花を散らし、はじける。電撃の魔法。サンダーだ。
しかし、魔法が発動する直前、二人はとっさにすぐそばの木の陰に跳び、直撃を避けていた。
「オークだ!」
レックスが叫んだ。暗い木々の間から、シルエットだけの無数の巨体が
うごめいているのが見えた。
シルエットの上部、おそらく頭があるところにギラギラと輝く二つの光があった。
「見つかった! レックス! 逃げるわよ!」
レアが叫ぶ。暗闇、敵地、不意、数。どこまでも二人は不利だ。
レックスは暗闇のなか無言で頷いた。
そして、二人は真っ暗な森の奥に向かって、駆け出した。

741 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/15(土) 19:11 [ nJm/rdQE ]
中編です。あと何回か続きます

742 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/15(土) 23:53 [ PWvcqTTw ]
うおおおおおおおおおおおお

やっぱりタル戦の作者さんだったーーーーーーー!!!11!11!!1
続編キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

743 名前: 超短編(単発 投稿日: 2004/05/16(日) 16:21 [ l/rGDn2A ]
−夜光蝶−

二人を見つめるのは ただ、月の光だけだった。



−船出の時間が近付く−

二人はただ、見つめ合うばかり…

「…しばらく、会えないんだね」

ヒュームの男が、口を開いた。

「ええ… 遠くへ行ってしまうから」

ミスラの女はヒュームに答えた。

ミスラは続けた。

「あなたが、ね」

「…え?」

男が最後に見たのは妖しく光るミスラの瞳だった。

その直後、男は膝から崩れ倒れた。

彼女の手には血の滴るナイフが。

彼女は呟く。

「さようなら。 枯れた花は要らないわ。
 フフッ。 私が吸い尽くしたんだけどね… あなたの、あまぁい蜜… 美味しかったわよ」

女は蝶の様にフワリフワリと舞いながら船に乗り込んだ…

新しい、みずみずしい花を探して…

・ ・ ・ ・ ・ ・
超久しぶりの投稿でつ(~Д~;)
某カルマ作者でした! カルマ書いてきまつ(つω・;)
|])ミ サッ

744 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/16(日) 18:43 [ 93u8fj.Q ]
――7年前・北サンドリア――

四方を石で囲まれた大きい空間。他には何もない広場。
石の壁の上から、青い空とドラギーユ城がその広場を覗いていた。
そこは昔は貴族などが剣の試合に使うための場所だったのだが、時間の流れとともに
使う者は少なくなっていた。
そこで一般人にも開放することになり、今では冒険者が訓練に使ったり、剣術道場に使われたりする。
レアとレックスはそこで剣の稽古をするのが日課だった。

――パシーン!

レアの木剣がレックスの頭を打ち据えた。
「いたっ!」
「はい、これで私の71勝2敗ね」
レックスは頭を抑えてうずくまった。少し涙目になっている。
レアは容赦がない。
「相変わらず弱いわねぇ」
「……だったら他の人と稽古してよ」
「どーせ何もやることなくて暇なんでしょ? いいじゃない付き合ってくれたって」
レックスは反論しようとしたが、言葉がでない。レアの言うとおり特に何もすることがないのだ。
二人とも、家が近所の幼馴染で、レックスの家は宿屋をしている。
客はそこそこ。
生活は苦しくも忙しくもなく、手伝いするようなこともほとんどない。
一応は一人息子であるレックスが継ぐのが筋なのだが、
両親は継げ、とも何とも言わなかった。
レックスも特に家を継ぎたいとは思っていなかった。
が、かといって、剣も魔法も得意でなく、
冒険者になって何かをしたいというわけでもなかった。
それで、特にやりたい事もやる事もなく、レックスはぼんやりと毎日を過ごしていた。

745 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/16(日) 18:44 [ 93u8fj.Q ]
――ビシッ!

レアの木剣がレックスのわき腹にはいった。
「うぐっ」
レックスが息を吐きその場にうずくまる。木剣とはいっても当たれば相当痛い。
「72勝2敗ね。……ごめん、ちょっと強すぎた?」
腹を抑えて痛がるレックスを見て、レアが謝る。一応は手加減していたらしい。
そこで稽古は一旦中断することになった。
レックスは痛みがひくまで休憩、レアは素振りをすることにした。
「……そんなに剣ばっかり練習してどうするの?」
レックスがレアの素振りをみながらつぶやいた。
レアの負けず嫌いな性格は知っているが、剣に対してのいれこみは明らかに異常だった。
すると、レアは素振りをやめて、剣を下ろした。
「あたしね……冒険者になるの」
「えっ?」
思ってもみない所から話しを切り出されて、レックスは驚いた。
「何? そんなに意外?」
「あ、いや、そういうのじゃなくて。……なんでなりたいの?」
レアはすっと息を吸って、軽く空を見上げて話し始めた。
「あたしはね、クリルラ様みたいになるのが夢なの。なんてったって、女性でありながら
サンドリアの一、二位を争う剣士よ。憧れるじゃない」
そう話すレアの目は、いきいきとしているようにレックスは感じられた。
たぶん、十数年後の自分でも想像しているのだろう。騎士団を率いて華々しい活躍でもしているのだろうか。

746 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/16(日) 18:47 [ 93u8fj.Q ]
「でもね……そういったらみーんな『そんなのできっこない』っていうのよ。
まったくやんなっちゃう。お父さんもお母さんも反対してるしね」
当たり前である。危険な旅に行かせたくないのが普通の親心だろう。
だが、レアはわかっているのかいないのか
「だからね、ほんっとうに偉くなって見返してやるのよ」
そう言って拳をグッと握った。レックスはそれを見てため息をつく。
こうなったらもうレアは止められない、とレックスは長年の付き合いで理解していた。
何にしても負けず嫌いで、一度決めたことは何でもやろうとする。
剣だって、最初の試合でレックスに負けたことが悔しくて、
あっという間に追い越してしまったのだ。
この調子なら本当になっちゃうかもしれないなぁ、とレックスは思った。
「ハハ……うん……レアにならできるよ」
レックスは自嘲気味に笑って言った。
「あ! レックス! 今、笑ったわね!」
そんなつもりの笑いではなかったけれど、レアの顔が一気に険しくなる。
鋭い目でレックスを睨む。怖い。
「あ、いや、違うよ。レアならできるって、ほんとにそう思ったんだ!」
嘘はなかったのだが、迫力におされてほとんど悲鳴に近い声になっていた。
それでもレアの怒りは一応おさまったようだ。
ただし顔はぶすっとしたままだった。
「ふぅん……ま、いいわ。じゃあ、レックスは将来何をしたいの?」
レックスはドキリ、とした。
「え……えーと……」
レックス答えにつまった。レアは不思議そうに顔を覗き込んできたが、目をそらしてごまかす。
剣、冒険、商売、騎士……。
いろいろ考えてみるものの、どれも『自分が本当にしたいこと』とは思えなかった。
「……うーん……そうだなぁ……」
「……『そうだなぁ』ってレックス、あんた何も考えてないの?」
レアは呆れて、今度は問い詰めるような口調になった。
レックスは困ったように軽く頭をかいて、次に空を見上げた。
そうすれば十数年後の自分が見えるかも、と思ったのだ。
しかし、何も見えなかった。
レックスは大きなため息をついて、もう一度空を見上げた。
澄み切った青い空の中に、ちぎれた白い雲がただようように浮かんでいた。
「うーん……どうかな……僕は何をしたいのかな……」

747 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/16(日) 18:50 [ 93u8fj.Q ]
――1時間17分前・ジャグナー南東部――

「全く……逃げ回った結果がこれとはね」
レアの背後には切り立った岩肌がそびえたち、目の前の森には無数のオークが潜んでいる。
二人を襲う機会をうかがっているのだ。森と崖の間から差しこむ月あかりだけでは姿はおぼろげにしか
見えない。しかし、真っ暗な森の木々の間から、オークのギラギラと輝く目が二人を取り囲んでいた。
レアの隣にはレックスが剣を構えている。
「やるしか……ないね」
剣を強く握りしめる。しかしその手は汗でぐっしょりと濡れ、剣の先も
わずかに震えていた。二人で長い旅をしてきた中で、これほどまで死を身近に感じたのは
初めてだった。
「……レックス……危なくなったら……あんただけでも逃げて……」

――あたしは死ぬかもしれないけど。

絞りだすようにだした声は震えていた。
この状況で希望があるとすれば、それは一人が囮になってもう一方が逃げること。
レックスだけは逃がさなければ。
半ば強引に旅につき合わせてきたのは自分なのだ。
死なせるわけにはいかない。
それは自分は死ぬことを意味するが、レアにとってそれしかとる道はなかった。
ふと、子供の頃、レックスに夢を語ったときの無邪気な自分を思い浮かべて、少し自嘲気味に笑った。

――だめね。こんなんじゃ。サンドリア一の剣士なんて……無理ね

「レアは……サンドリア一の剣士になるんだろ?」
突然レックスから、今思えば恥ずかしいくらいの、昔の自分の言葉が飛び出した。
驚いて振り返る。
「だいじょうぶ、レアならできるさ。本当にそうおもったんだ」
レックスはちらっと横目でレアをみて、少し微笑んだ。
レアは、その落ち着いた様子にただ驚き、一瞬呆然とした。
慌てて気をとりなおして、剣を構える。オークはまだ襲ってはこなかった。
普段気弱だったレックスに励まされたかと思うと、恥ずかしいようで、嬉しいような
気持ちがした。
「……ありがと」
そう呟くと、レアは再び剣を強く握った。

――こんな所で、私は死なない

「レア! 来るよ!」
レックスの声と同時に、暗闇からオーク達が跳び出した。

748 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/17(月) 03:16 [ 4TQEd41M ]
「白い心・黒い意志」の9 −白い心−

「見つけた!」
思わず声に出してしまう。
遠くにポツンと見えた人影。
視力のいいミスラの目でも、緑の中のゴミのように小さかったのだけど、見た瞬間にカルテ達だと判った。
いや、そう感じたというのが正しい。
そちらへ向かって走る。
カルテとヒュームが座り込んでるのがわかる。
その脇には横たわる人影。
(まさか、ケガ人!?…)
それも、倒れ込むほどの。
不安がわきおこる。
脚を早める。
走るうち、それがクゥダフだと判った。
しかも、二匹。
初心者がいて獲物にする相手じゃない。
「だいじょうぶかー!」
走りながら叫ぶ。
すると、声が聞こえたのだろうカルテが立ち上がってこちらを見た。

「すまない、遅くなって」
走って走って、ようやくカルテとヒュームの元へとたどり着いたキリは、息を整える間も惜しんですぐに二人の様子へと目を走らせた。
カルテは問題ないようだ。
顔色は正常。外から見える傷は無い。
「だいじょうぶか?」
聞いても返事はない。
なにやら呆然としている。
ヒュームの大怪我にショックを受けているのだろうか。
ヒュームは危ない状態にあった。
肩と腹に大きな傷。小さな傷は数え切れない。
血の気を失った顔、服を濡らし地面へ広がった血溜りで、その出血量は推測出来る。
「これは…」
もうケアルでは助けられない。
ケアルは骨をつなぎ、傷をふさぐ力がある治癒魔法だ。
しかし、失った血の補充までは出来ない。
たとえ傷がふさがっても、血が足りなければ人間は死んでしまう。
それを助ける手段はただひとつ。
気に入らない相手でも、傷ついた者を救うことに迷いはない。
素早く周囲に視線を送る。
獣人の気配はない。
「祝福を使うから」
「…」
やはりタルタルの返事はない。
が、意が伝わったかどうかを尋ねる暇はない。
息を整え、魔法の詠唱を始める。
ミスラの唇が紡ぐのは女神の祝福。
それは、女神アルテナの慈愛を象徴する魔法。
「!」
詠唱が完成し、術が発動する。
光がキリを包む。
やわらかく温かな光。
渦のように広がる光が、カルテとヒューム戦士をも包む。
もとより傷のないカルテに大きな変化は見られないが、戦士の傷は見る見るうちにふさがっていく。
血が止まり、肉が盛り上がり、皮膚がおおうのにほんの数呼吸ほどだった。
見えないが、鎧の下の腹の傷もふさがったはずだ。
顔色も元に戻っている。
「もう…大丈夫だ…」
がっくりと膝をつくキリ。
女神の祝福はあらゆる傷を治し、失った血肉さえ取り戻すかわりに、魔導師の体力精神力を根こそぎ削ってしまう。
致命的とも言える欠点を持つこの魔法を、白魔導師は時に戦いの中にあってさえ使う。
倒れ込みそうな上体をかろうじて支え、カルテの方へと目をやれば、小さなタルタルはその丸い瞳いっぱいに涙を浮かべている。
(そんなに…)
キリはカルテの涙を誤解した。

749 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/17(月) 03:25 [ 4TQEd41M ]
(そんな…)
一時のはずだった白魔導師が追ってきた。
そして、祝福の光。
(なぜ…)
涙があふれてくる。
(ボクたちの時には、誰も来てくれなかった。誰も助けてくれなかった。なのに、なぜこいつには助けが来る…)
悲しくて、悔しくて、涙があふれてくる。
「がんばったな…」
何とか立ち上がったキリが、カルテの頭を撫でてくる。
見上げれば優しい笑顔。
彼女は何も知らない。
こいつの事も、ボクたちの事も。
傷を負った者を癒すのは、白魔導師としての当然の行為。
だから、なおさらカルテは悲しくて悔しい。

二人の脇でのそりとヒュームが立ち上がった。
気づいたキリがそちらを向く。
「おまえ…新人連れてるんだから…こんな…無茶は…」
「この糞ミスラ!」
苦しい息で小言を言いかけたミスラへの、ヒュームの返事は拳だった。

−つづく−

750 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/18(火) 00:22 [ 5AnONoXQ ]
続きです
今までのは>>738-740 >>744-747 にあります。

751 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/18(火) 00:22 [ 5AnONoXQ ]
――1時間10分前・ジャグナー南東部――

「ギャアアアアア!」
レアの剣がオークの腹を切り裂き、オークは叫び声と共に絶命する。
「レア!」
「だいじょうぶ!」
レックスの声に答えながら、オークの槍を盾で受け流す。
もうすでにオークを数匹斬ったがまだ囲まれている。とても逃げだせそうではない。
二人は戦い抜くしかなかった。
岩壁を背にして、二人でかばいあうようにして戦う。
また一匹、オークを切り払うと、レアは何かにつまづいた。
やわらかい、生き物の感触。オークの死体だった。
倒れはしないものの、その一瞬にできた隙にもオークは襲い掛かる。
オークが剣を振り上げた瞬間――――そのオークの首がとんだ。レックスの剣だ。
「ごめん!」
即座に体制を立て直す。
その隙をかばうようにレックスがレアの前に立った瞬間、オーク達がパッと二人から離れた。
レアもレックスも一瞬何が起こったのかわからなかった。
レアがオークの集団に目を向けると、奥のほうでオークの一匹が詠唱が終え、魔力を放つのが見えた。

――マズイ!

紫色の閃光と共に、二人の体を電撃が襲った。

752 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/18(火) 00:24 [ 5AnONoXQ ]
――3年前・南サンドリア――

競売所や店が多く立ち並ぶ南サンドリアは、その利便性からサンドリアでもっともにぎわっている。
忙しそうに行きかう冒険者にまぎれて、レアは新品の革製の鎧に身を包み、歩いていた。
その隣にはレックスがいた。同じく新品の皮の鎧を着ている。
「レックス、本当に後悔ないわけね?」
「うーん、たぶんないと思うよ」
あんまりにのんびりした答えに、レアはため息をついた。
「まぁ……それならいいけど……」
二人が16歳を迎えた年、レアとレックスは冒険者になった。
レアは以前から宣言していたのでもう誰も文句は言わなかった。
しかし、誕生日ぎりぎりになって、冒険者になる、と言い出したレックスにはレアも両親も驚いていた。
理由を尋ねると
「いろいろ考えてみたんだけどさ。今はまだ、したいこととかってないんだけど……
冒険者になって世界中をまわれば、いつか見つかるんじゃないかなって」
こんなのんびりしてちゃ、見つける前に死んじゃうんじゃないかな。
とレアは思ったが、何にしても無気力だったレックスが、初めて自分からやろうと決めたのだ。
一応は成長してるのかな、と思うとすこし笑顔がうかんだ。
「見つかるといいわね、やりたいこと」
「……うん」
レックスは相変わらず気弱げにうなづく。成長してるのかどうかいまいちよくわからない。
レアはまたすこしため息をついた。

753 名前: 二人の夢 投稿日: 2004/05/18(火) 00:25 [ 5AnONoXQ ]
「それじゃ、行きましょ」
「行きましょ、って……何に?」
「何って……ミッションよ。どーせ特にやることないんでしょ? いいじゃない、付き合ってくれたって」
当たり前でしょ、と言わんばかりにレアは話を進める。
レックスはレアとは別々に旅をすることになると思っていた。
目的が違うし、なにより力量に差がある。
しかし、レアにとってはそんなことは関係なかった。
「仲間がいたほうが心強いしね。ま、パートナーにしてはちょっと頼りないけど」
にこっと笑いながらも言葉は厳しい。
レックスは返す言葉もなく、苦笑いをうかべた。
けれども、仲間に誘われるということは、認められているということでもある。
そのこと自体は嫌な気はしなかった。
レックスは照れくさそうに少し頭を掻いた。
「えーと……それじゃ……」

――あらためて、よろしく。

とレックスは言おうとしたが、その時はもう目の前にレアの姿はなかった。
すでにスタスタと歩き始めていた。
レックスの口は開きかけた所で止まって、マヌケな表情になっていた。
「どうしたの? ほら、行きましょ。レックス」
慌ててレアを追う。
「……最初からこれだもんなぁ……」
頭を少し掻いて、歩きながら小さく呟いた。
こうして、二人の旅が始まった。

754 名前: 二人の夢を書いてる人 投稿日: 2004/05/18(火) 00:30 [ 5AnONoXQ ]
連日投稿すみません……。
書き始めたばっかりのつたない文で申し訳ありませんが、
もし読んで楽しんでくれる方が少しでもいてくれたら幸いです。
スレ汚し失礼しました

755 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/18(火) 11:57 [ CneQg3Lc ]
レッド 第六話 「マイノリティ」


朝露の垂れる葉を薄目を凝らしてみる。
そこには、大人になった私の顔が乱反射して写る。
それに何が見出せたのか私は解らない。
だた、どれだけ脳を働かせたとしても見えるものは変らない。
私の鼻は、赤いのだ。

ジャンが私を見下ろしている。
私の体は動くことは無かった。
ジャンは泣いている。
そのせいだろうか。とても老いて見えた。
「ヘルは、がんばったから・・・。」
ふと、力が抜ける。
私は横たわっていた。
「ヘル!」
「私は・・・何故・・・。」
「ヘル!!」
「大丈夫・・・だ。」
「ヘル!!!起きなさい!!起きるんだよ!!」

往復ビンタがパンパン!!っと高らかに響いた。
私はベットに寝ていた。胸倉をジャンにつかまれて、上半身が浮いていた。
「な・・・、行き成りなにをするんだ!」
「周りをみてみなよ!」
辺りは・・・小屋は火に包まれていた。
「どういうことだ?ジャン、説明してくれ。」
状況が理解できなかった。この様な場合は、落ち着いて状況を傍観する必要が在る。
つまり、客観的冷静さが必要なのだ。
「解らない、いきなり火がついてた。タルタルちゃんは外。もう逃げ・・・。」
「ぎゃああああ!!!!」
ジャグナーの森に、このエリアのガードであったタルタルの叫び声が響いた。
「どういうことだ!?誰か説明してくれ!」
混乱が私の脳を包んでいた。夢。火。ジャン。断絶魔。全てが私の常識を超えている。
選ばれた選択は、逃げることだ。私は丸い体を弾ませる様に走って外へ出ようとした。
小屋の火はドンドン大きくなり、今にも崩れそうだったのだ。
「まって!」
ジャンは言うよりも早く、私の襟首を掴んで持ち上げた。
そして・・・・ぐるりと踵を返し、入り口とは逆の窓を向いて・・・・
振りかぶり・・・私を・・・投げた・・・(涙)
「うわあああああああん!!!」
涙は軌道に線を描いた。私は飛んだ。投げられた。丸い体は、まるで球技に使用される
ボールの様だったろう。
バリーンとガラスを割って、私は外へと放り出された。
その後に続き、ジャンも外へと飛び出した。
「ななな、なにするんだ!君は!!!」
目を白黒させ、顔を赤くしたり青くしたりして、私はジャンへと抗議の意志を見せた。
私は冷静な判断力を失っていたのだろう。
ガラスの割れる音を聞き、小屋の入り口に屯していた奴等がやって来た。
オーク。
「獣人だと?!」
私が驚いている中、ジャンは冷静だった。私の襟首をまた掴み、走った。逃亡した。

「実はさ、装備なんだけど、この民族衣装しかもってきてないんだ。あと剣と盾ね。
 だからさ、戦えない・・・・タルタルちゃんの仇・・・討ってあげられなかったにゃぁぁ・・。」
私を抱き直して走っていたジャンの涙が、私の額を塗らした。
ここにはオークの拠点、ダボイがあった。元々はエルヴァーン族の村だったのだが、
オークの侵略によって奪われてしまったのだ。
しかし、何故小屋が襲われたのだろうか。私たちが襲われる理由など無い。
ただ、運が悪かっただけなのか?それとも・・・・・・。

756 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/18(火) 11:59 [ CneQg3Lc ]
「実はさ、装備なんだけど、この民族衣装しかもってきてないんだ。あと剣と盾ね。
 だからさ、戦えない・・・・タルタルちゃんの仇・・・討ってあげられなかったにゃぁぁ・・。」
私を抱き直して走っていたジャンの涙が、私の額を塗らした。
ここにはオークの拠点、ダボイがあった。元々はエルヴァーン族の村だったのだが、
オークの侵略によって奪われてしまったのだ。
しかし、何故小屋が襲われたのだろうか。私たちが襲われる理由など無い。
ただ、運が悪かっただけなのか?それとも・・・・・・。

ジャグナーを超えると、バタリアと言うエルヴァーンの聖地がある。
多くのエルヴァーンの死者が眠る古墳が点々と存在している場所だ。
ここを抜け、巨大な橋を渡ればジュノに着く事になる。
ジャグナーの出口まで全速力で走ったジャンが、汗一つかかずに座って休んでいた。
「ジャン。すまない・・・。私は・・・・。」
「いいんだよヘル。君が体力無い事はしかたがないんだ。だから私が代わりに走るんだよ。」
産まれた頃、私はルールを無視する魔力を持っていた。
私は殆どの行為を魔力に依存させて行っていた。
詠唱を無視して、物を動かしたり、簡単な魔法を手足の様に操る事ができた。
例えば、物を動かす事は付加魔法と言う形で実現することができる。
その他、火、水、風など、世界を構築する元素を操ることも可能だった。
簡単な事だ。依存によって、移動という行為が殆どの場合必要ではなくなってしまったのだ。
私にとっては不幸と言うわけではなかったが、両親は赤い鼻の次にそれを不幸と
判断していたのだろうか。
2歳に成っても立てない私は、両親の意思に従い歩く訓練をすることにした。

私は、生まれた頃から魔力の質が高いことで天才と呼ばれていた。
そして、赤い鼻はそれに依存するものなのか。または違う要因を持っているのではないか。
それらを研究するために、私はよく鼻の院へと通うことにもなっていた。
私は鼻の院で検査を受ける傍ら、研究員から色々と冒険に必要な魔法を習った。
私が冒険者になりたかった訳ではなく彼らは研究のために各地に赴くために、
危険な野獣と戦う為の手段として、それらの魔法を習得していたからだ。
ほとんどの人は学校やスクロールを解くことで魔法を得るだろう。
私はすでに、それらの方法とは別のルートで魔法を補完していった。
そして、自ら研究も続けていった。

757 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/18(火) 12:00 [ CneQg3Lc ]
私が完成させた理論。それは魔法構築における過程を略化する事だ。
発動に必要な魔力を極力抑えると共に、その詠唱時間さえ短縮させるという優れたものだった。
潜在的魔力に因って詠唱を抑えて発動させるような、
負担を掛ける連続魔という赤魔道士独特の奥義とは全く違う。
アレには再度使うまでに時間が掛かってしまうデメリットがある。
小さな相似はあるものの、目的自体が違う。私は魔力の消費を抑えることに重点を置いたのだ。
しかし、それには多くのキャパシティが必要だった。
簡単に言い換えれば、私しか出来ないということだ。

ただ、ソレは今は使えない。理由は、それだけあった魔力の容量を封印されているからだ。
先天的要因を否定されたことになる。
鼻の院での研究によって、私は世界の破壊に十分値する力を所持してるということがわかった。
彼らは、私がその様なことに力を使うとは考えてもいなかったようだが、
残念だが、上層部の人間は、そうは思わなかったようだ。
たとえば、口の院の人間はどう考えるだろうか。
自分達の力を凌駕する一般人が存在することに恐怖するのではないだろうか。

歩けるようになったのは、訓練から1ヶ月がたったころだ。
私の魔力の封印も無事完了した。私による私のための理論も使えなくなってしまった。
1/10以下となった魔力では、省く必要がある工程に対し、十分な干渉が出来ないのだ。

この様な理由から私には体力も、それを補うための魔力も存在しなかった。
たしかに、他の人々から見れば私の力は驚異的だろう。十分天才といえるだろう。
だが、私は今、無力だ。本当に無力だ。

つづけたいとは思う。

758 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/18(火) 22:09 [ ENkmbTpQ ]
続けてくれ。俺はロムってるが応援はしてるぞ。

759 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/18(火) 23:44 [ jAEKNXko ]
俺キャラの説明が長すぎるな。

760 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/19(水) 01:17 [ .V0FvBAA ]
>>754

|-`).。oO(ガンガレ)

|彡サッ

761 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/19(水) 11:01 [ SRJpIlck ]
幼い頃の夢は?w

762 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/20(木) 12:33 [ l3HkRPN. ]
久しぶりに「闇を背負う者」を読んだ。面白かった。
ホント、コラボが上手いね。
言葉は悪いけど、最近こういうばかばかしくって、勢いのあるものって、なかなかないよね。
勢いならネガティブくらいかな。
と、読んで思った。まあ、それだけなんだけど。
あと、個人的には「竜よ吼えろ」が好み。
あ、今のが悪いと言ってるわけではないので。ちゃんと読んでます、ロムってますが。
最近カキコが少ないのでとりとめのないことを言ってみたりしました。いじょ。

763 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/20(木) 17:06 [ nl6oOMcA ]
血吸いが読みたいZE!
作者様お願いします。この一読者の為にご降臨を。

764 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/20(木) 20:08 [ N4TkA/9U ]
>>762
最高の誉め言葉として「才能の無駄遣い」という言葉gうわなんだおまえやめr

765 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/20(木) 22:00 [ MONcq99U ]
グラサンゲットした禿げガルから、一言言わせてくれ。

呪詛の・・続きが・・・すごく・・読みたい・・です・・。

766 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/21(金) 01:48 [ Zwy7BPEc ]
魔法を使わない意義。
魔法が使えない意味。
この二つは全く別のものです。
魔力があるか無いか。ただそれだけの違いは、このヴァナ・ディールにおいて、とても重要で・・・

そして、魔力が無いと言う事実は、僕の生きる意味を根本から問う事になります。


〜第5話、僕の生きる道〜


はじめまして。僕はポロムボロム。タルタルの戦士です。
戦士・・・本来丈夫でないタルタルは、総じて前衛職は向かないというのが一般の見識であり、事実であります。
けれど、僕は戦士の道を選びました。
それは、幼い頃に読んだ一人のタルタル戦士の物語に憧れたのもひとつの要因でしょう。
幼馴染の女の子を守りたい。そんな男としての小さなプライドもあったでしょう。

でも、それはただの理由です。


僕には・・・

767 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/21(金) 01:48 [ Zwy7BPEc ]

僕は今、4人でパーティを組んで、サンドリアから故郷ウィンダスを目指す旅をしています。
ミスラのアンさんは、とても明るくてやさしい人です。無邪気さが災いする事も多々ありますが・・・
ガルカのゲオルグさんは、とても力強く、頼りになる人です。ちょっと・・・その、ちょっとだけ大雑把なところがありますが・・・
そして、僕たちの師匠、ヒュームのアルヴァさんは、まだ25歳と言う若さで、数々の苦難を乗り越えてきた熟練の冒険者らしいです。
昔、ゼファーと言う通り名で呼ばれていたそうですが、彼はこの名で呼ばれる事を嫌っているみたいです。
僕は、師匠のことを、この世で2番目に尊敬しています。

え?1番ですか?
1番は・・・僕のおじいちゃんです。


おじいちゃんのポルクボルクは、”努力の天才”と言う、名誉なのか不名誉なのかわからない称号がついていました。
もともと、魔法学校でも成績はあまり良い方ではなかったそうですが、計り知れない努力の結果、黒魔法を極め、至高の黒魔導師になりました。
今から3年前、「余生に世界を見て回る」と言って冒険者になって旅に出てしまいました。
僕にとてもとてもやさしい・・・大好きなおじいちゃんです。

僕の両親、父のポッタボッタと母のチャママは、ウィンダスの口の院で魔法の研究者をしている、いわばエリートです。
両親の僕に対する期待は大きく、幼い頃からあらゆる英才教育を受けてきました。
歴史、薬学、動物学、魔法学・・・もちろん、魔法のスクロールもです。
魔法学校に入学する頃には、3段階目の精霊魔法スクロールの文字が消えるまでの教育を受けました。

厳しい教育の中、おじいちゃんだけが優しく、世界中の物語や伝承を話して聞かせてくれました。
おじいちゃんと一緒にいる時間だけが、心が休まる時間でした。

768 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/21(金) 01:50 [ Zwy7BPEc ]

魔法学校に入学して、最初の授業に悪夢は起きました。
それまでは、使う機会が無かったのです。
いえ、機会が無かったのではなく、その機会を避けていたのです。

初めての授業で渡された一番初歩のスクロール。ストーンの魔法。

他の生徒が次々と魔法を発動させる中、僕のストーンはどうしても発動しませんでした。

もう一度スクロールを読み直します。簡単な言葉の羅列。一度覚えた魔法スクロールの文字は、その後何度見ても消える事はありません。

でも、魔法は発動しませんでした。

何度も、何度も詠唱し、

何度も何度も読み返し、

一度もストーンの魔法は発動しませんでした・・・

「たまたまマナが切れていただけだ」
父が言いました。母も同意しました。おじいちゃんだけが悲しい目で僕を見ていました。
僕には、そのおじいちゃんの目がとても痛かったです。

そして、次の日。前日の反復授業。

やっぱり魔法は発動しませんでした・・・


僕は自惚れていました。3段階目の精霊魔法まで発動できると思っていました。
でも、事実は・・・
両親は激怒しました。おじいちゃんは慰めてくれました。
それから、僕の落ちこぼれ生活が始まりました。

769 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/21(金) 01:50 [ Zwy7BPEc ]

魔法学校に入学してからちょうど1年。
相変わらずストーンすら発動できずに、僕は進級を見送られました。
隣に住んでいる、幼馴染のイルルは、トップの成績で進級しました。
彼女も僕にやさしかったのですが、当時の僕は”力を持つもののあわれみ”だと受け取っていました。
僕の方は、失われた古代魔法のスクロールの文字まで消えているのに・・・!

僕が15歳の頃、おじいちゃんが旅に出ました。
僕は学校へはもう行っていませんでした。
両親は完全に僕を見捨て、イルルだけが僕を気遣ってくれました。

半年前から、月に一度は届いていたおじいちゃんからの手紙が来なくなりました。
一月、二月・・・半年待っても来ない手紙は、僕を不安のどん底に落としました。
「おじいちゃんを探す」
僕は生まれて初めてウィンダスの門をくぐりました。
でも、道がわかりません。
前方に長身の人影が見えたので、その彼に道を尋ね・・・それから気がつくとサンドリアにいました。
何故サンドリアにいたのかはわかりませんが、どうやら誰かにここまで連れてこられたらしいと言う事がわかりました。

そこで、魔法に頼らずに戦う戦士に出会いました。
サンドリアの騎士団員である彼を見て、幼い頃おじいちゃんが聞かせてくれたタルタル戦士の物語を思い出しました。

そうだ、僕にも力がある!
望んだ、持っていたはずの力。
それとは違う、でも確実な力!

力があれば、おじいちゃんを探せる。

イルルに気遣われるだけの僕はいやだ!

僕は戦士の道を選びました。

770 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/21(金) 01:51 [ Zwy7BPEc ]

魔力は、このヴァナ・ディールに生きる全てのものに存在しています。
人間、獣人、そこらにいるミミズやウサギ、一部、生きていないものにも・・・
その中でも魔力の高いはずのタルタルに魔力が無い。
この告白を聞いて、師匠は、仲間はどう思ったでしょうか?
正直、僕は見捨てられると思いました。
でも、師匠は一言、「そうか」とだけ言い、その後は何も聞きませんでした。
それからはいつもの師匠でした。

僕は・・・

僕にはわかってました。
師匠は、僕が自分から話すのを待っていてくれたのです。
だから、僕は師匠に全てを話します。

そうしないと、自分が嫌いになってしまいそうだから・・・



つづく

771 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/21(金) 10:15 [ sCVPOfYk ]
>>762
私なりに、バカバカしくて勢いのあるものを書いて見ました。

772 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/21(金) 10:15 [ sCVPOfYk ]
フラパピセブン 〜終焉の黙示録〜


世は世紀末(?)
狂った世界を成敗するために、一人の男が立ち上がった。

「ひゃっほおおおおおおおおおい!!!」
天を駆けるその姿。背中には・・・・二枚の大きな羽が現れた。
彼の名はレバ。ラバでもロバでも無い。レバニラ炒めのレバ。

ジュノ某所 深夜。
「げっへっへ。お代官さま。今月の菓子にてございますタル。」
少しかける下弦の月。浮き彫りにされた醜い影が2つあった。
小さなタルタルと、大きなエルヴァーンがそこに居た。
「代官て何だ?美味いのか?」
さすがエルヴァーンはINTが低い。ボケ方もスタンダードだ。
「なにいってるタル!人が折角雰囲気だしてたのに!」
ほらよ。っと、タルタルがエルヴァーンの拳大はある皮袋をエルヴァーンへと投げてよこす。
エルヴァーンの手に収まった袋は、ジャラリと音を立てた。
袋の乗った手のひらを上下させて重さを量る。
「少し多めだな。」
にやりと口の端を歪めて笑う。悪意に満ちた世界を象徴しているかの様だ。
「世話になっているからタル。」

「まてぇぇぇぇぇえええええ!!!」

天を貫く怒声が響く。
「だ、だれだ!?」
空を見上げるタルとエル(めんどいので略)。
一際高い時計台の上、月に写るシルエットが一つ。
「やいやい!そこの悪行代官!世間様の眼を欺いたところで、
 あっしの眼は誤魔化せねぇぞぅ!
 お天道様がぁ許してもこのパピy・・・・・。」
ぱぁぁぁっと、羽根が開いたところに。
がつーーーーん。
何処からともなく飛んできたフライパンがシルエットの頭を捕らえた。
「うるさいよ!ねむれやしないじゃないかい!!!」
ざぶーん。
海へと落ちていった。

無言で立ち尽くすエルとタル。
「か、帰るタル。」
「うん・・・。」
用事も済んで、2人が帰路へとトボトボと着こうとした時。
「ひゃっほおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!」
ざぶーんと、海の中から男が現れた。
「逃がすと思うか!くらえ!必殺必中の天地人!我が奥義、サベッジブr!!!」
ぱぁぁぁっと、羽を広げ跳躍したところに。
がつーーーーん。
「うるさいっていってるでしょうがああ!」
何処からともなく漬物に使う円石が、羽を生やした男の頭を捕らえた。
空中で軌道を変えて地面へと叩きつけられる男。
ごろごろと地面を前転し、方膝をついて上半身を上げた男が言った。
「なかなかやるなぁ。だが、俺は悪に屈っしはしないのだ。
 不意打ちに次ぐだまし討ち!この腐れ外道がぁぁぁぁああ!」
立ち上がる男。剣を強く握り締め、悪の権化へと立ち向かう。
低い姿勢のままの突進。眼には正義の炎を燃やしていた。
「何度言ったら解るの!うるさいのよぉぉぉお!」
投げ放たれたブックシェルを掻い潜り、悪の代官たちを切り裂く。
ずば!
ずばば!

「実(げ)にこの世は世知辛いのぅ・・・。」
血溜まりの中、立ち尽くす男。悲しく光る蝶の羽。
手に持たれた皮袋。
「・・・ホ、ホーバーク作成の代金・・・払っただけなのに・・・タル。がくっ。」

今日も世界の平和のため、戦え我等のパピヨン仮面!(注:仮面は付けていません)

もわり

773 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/21(金) 10:20 [ sCVPOfYk ]
お粗末さまでした。
煮るなり焼くなり貶すなり、お好きにどうぞ orz

774 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/21(金) 11:46 [ 88Bh9v.w ]
クッソワロタw
GJwwwwwwww

775 名前: 762 投稿日: 2004/05/21(金) 12:52 [ mTD.EMtI ]
>>773
うははは、面白かったよ。GJ!
勘違い正義ヤローはベタだけど、演出がいい感じ。
勢いで読める文字数なのもナイス。
パピヨンで鞄がいっぱいな予感w。
続編きぼん。

>>765
呪詛!読みたいね〜。

776 名前: フらパピ策者 投稿日: 2004/05/23(日) 23:13 [ tNm0Pna. ]
私には続きを書く力は残っていません・・・。
続きは>>777さんに託した・・・がくっ

777 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 12:20 [ lyL1qqEg ]
上、誰ですか?w私が作者です・・・。
託された様なので、書かせていただきますw
急拵えなので、下手なのは許してください。

778 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 12:23 [ lyL1qqEg ]
フラパピセブン 〜終焉への階段〜

世は世紀末(?)
狂った世界を成敗するために、一人の男が立ち上がった。

「ひゃっほおおおおおおおおおい!!!」
天を駆けるその姿。背中には・・・・二枚の大きな羽が現れた。
彼の名はレバ。ラバでもロバでも無い。レバニラ炒めのレバ。

イモ巣 入り口
佇む一人のヒューム♀が一人。
悲しげな表情で虚ろを見つめていた。
「・・・・・。」

洞窟の奥、闇に紛れる影が二つ。
「ほ、本当にやるのか?」
悪意に怖気づくエルヴァーンが言った。
覚悟が定まらぬ声が洞窟内へと響いた。
「しっ!静かにタル!・・・誰かに聞かれたら不味いかもしれないタル。」
ホーバークを着たタルタルが、イモムシを連れていた。
入り口に居る弱々しいイモでは無い。洗練された戦闘のプロ、アクティブイモ虫だった。
(名前おぼえてないので適当。)
「もう少し近づいて、かえれを実行するタル・・・・。」
そう、それは俗に言うMPK。極悪非道の辻斬りであった。

「まてぇぇぇぇぇえええええ!」

凄まじい怒声が洞窟内を木霊する。
「だ、だれだ!?」
洞窟の奥を振り返る二人。
暗闇の中、朧に光る二つの羽根。
「やぃやぃ!そこの辻斬り侍!無抵抗の婦女子に襲い掛かろうたぁふてぇヤロウだ!
 生き血を啜る悪行三昧!見過ごす訳にはいかねぇなぁ!」
ぽかーんと、開いた口を閉じられないで居るエルとタル。
彼らを置いて話しは進む。
「てめぇらの様な世間のゴミは、このフライングパピヨンが成敗してくれるわあ!!」
ぱぁぁぁぁっと羽根が開く。
剣を高らかと掲げ、勝どきのポーズが決まった・・・・。
「え、ええぃ!者共であえであえタル!あの変態をやっつけるタル!」
タルの掛け声で、操っていたイモが男を襲う。
危ない!イモが男に毒液を吹きかける。
「ぐあぁあぁぁ!卑怯なり!しかし、こんな事も在ろうかとサポは白にしているのだぁぁ!」
男が手を振り上げると、蝶の羽根が開き、体を光が包み毒が浄化された。
「我が奥義の一つ!邪気浄化パワー!」
ただのポイゾナじゃん。て、突っ込みは野暮である。
「な、なんだってー!?か、勝てるわけ無い。逃げようよーう。」
情けなく嘆く悪人ども。正義は勝つのだった。
「逃がすと思うか!この腐れ外道がぁぁぁぁぁ!!!
 ひゃっほおおおおおおおい!!!!!!!!!」
ずば!
ずばば!

「実にこの世は世知辛いのぅ・・・。」
血溜まりの中、立ち尽くす男が一人。悲しく光る蝶の羽根。
恐怖で言葉さえ発せない女が立ち尽くす。
「た、他人が出したオリビアたんだと・・・クエ・・・進まないのにタル・・・・
 NPCだから、PKにならない・・・タルよ・・・・がくっ」
男は、たたずむ女に近づいていく。
「お嬢さん、もう大丈夫だ。安心しなさい。」
「さあ行きましょう。仲間がいたら一緒についてくればいいわ。」
(台詞おぼえていないので適当)
無事、巣の奥へと走り去る女。
男は女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
背中に背負う二つの羽。正義という美しい翼だった。
(お前が出しっぱにしたのかーーー!)
声に成らない声が、巣の闇へと吸い込まれていった。

もわり

779 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 12:31 [ lyL1qqEg ]
ただいま、隣でFFをやっている弟から、776を書いたのは自分だと
衝撃の告白が・・・。ありえない・・・Orz

780 名前: セイブ・ザ・アワー・ワールド 投稿日: 2004/05/24(月) 14:37 [ Y8SfkDSY ]
 キャラクターの名前を決めるというのは大変な作業です。耳障り、リズム、意味、雰囲気、字面、インパクト、
いろいろな要素を満たす良い名前というのはそうそう見つかるものではありませんね。各作者さまのキャラクター
の名前、大いに参考にさせていただいています。あのキャラクターの名前、どうやって考えているのでしょう?訊
いてみたいものです。
 それはなにも作者様に限った話ではなくて、少なくともヴァナディールに関係しているのであれば自分のキャラ
名などは考えたことがあるはずです。どんな名前にしましたか?好きな作品のキャラ名ですか?何か意味のある英
単語ですか?本来漢字で書きたかったのをローマ字で書きましたか?そういったことを質問するのはそれだけで楽
しい。今までに聞いた名前の理由で一番面白かったのは「えっ!おまかせ機能つかったの私だけ!?」。そういう
人もたまにはいます。
 因みに私のFFでのキャラ名は尊敬する人物の名前。ただし、英語表記がわからなかったのでローマ字です。恥ず
かしいですね。

 では、LSメンの名前を無断でキャラ名につかってるこちらの作品もどうぞ。
ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワー・ワールド

781 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 19:41 [ eE8KWkhk ]
セイブ・ザ・アワー・ワールド・・・おいしゅうございました。
また堪能させてください。心よりお待ちしております。

782 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:07 [ N6QgVIYw ]
ダブルフェイス・レッドラム  第14話「壱の封印」


― 甲板 ―

「ほら、見てごらん。セルビナがあんなに遠くになったよ」
アトトを肩車してミズハは遥か彼方のセルビナを指差した。
「わ〜〜」
ぼんやりと景色を眺めていた二人。ふいに、ミズハはアトトに尋ねた。
「ね、アトト。ウィンダスに帰ったら…やっぱりお父さんとお母さんのいる
 家に帰るんだよね」
「ぁ…その…うん…」
「そっか…そうだよ、ね…」
ミズハはどういった経緯でアトトが人買いの元に居たのかを知らない。
誘拐でもされたのだろう、と思っていたが、幼い彼女にそれを聞くのは難しい。
だが、返答から憶測するに、彼女には帰る場所があるのだろう。
それは、とてもとても良いことだと思う。
「ウィンダスに帰っても…私の事、忘れちゃだめだよ?アトト」
「うん…うん…私、一生忘れないよ…」

ゆっくりと、しかし確実に船は進んでいく。もうセルビナの町は見えなくなってしまった。


― 船室 ―

そこまで広くない船室に乗船客が皆、思い思いにくつろいでいる。
タルットカードで占いをする者や、ダイスで賭け事をしている物。
いざゆかん、と釣竿の手入れをしている者。
そんな中に、アズマ、ヨル、そしてテルセウスの三人の姿があった。
三人とも真っ青な顔をしており、紙袋を口元に当てている。
その傍らには錆びたバケツが置かれている。
「やっぱ…外の空気を吸ったほうが…いいのか…?」
「そうとも聞くけど…とてもじゃないけど動く気力がないよ…うぅ…」
テルセウスは涙目になりながら、同じく吐き気と戦っており、
もはや喋る気力も無いのだろう。
死にそうな目をして、アズマとヨルを見つめる。
「お、おぃ…大丈夫かよ。テルセウス…外いくか?」
テルセウスは、わずかに顎を左右に振る。
「ヨル…白魔法でどうにか…ならないのか、これ…うぅぅ…」
そこでまた船が大きく揺れる。三人は泣きそうな顔をして床に這いつくばる。
そんな、今にも爆発しそうな彼らを見て、他の乗船客は一定の距離を置いている。

783 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:08 [ N6QgVIYw ]
そんな輪を遠くから見つめる客が二人。

「ね…あの人達、大丈夫・・・じゃなさそうだね」
「あぁ、船酔いだろ?まっ、しゃーないわな」
「そうだけど…もう、少しは心配してあげるとか、そういうの無いの?」
「ふむ…まぁ、俺が心配してやったところであいつらの気分が良くなるとは思えないが」
「む〜……」
クレイとクリームは床に柔らかい毛布を引いて、床に寝転がっていた。
「それにな、あーいうのは慣れだよ、何度か経験しないと駄目だからな」
「うん…そうだね…っと、それよりも…」
「ああ、言いたいことは分かってる。お前の思ってる通り…黒の風車…だよ」
「…やっぱり、この間の事件も、黒の風車の人達が関係してるのかな?」
「ああ、総督府の連中はそう思ってるだろうさ。俺もそう思う」
「この船に…乗ってるの?」
「らしいぜ?まぁ、だからといってあちらが動かなけりゃどうしようもないがな」
「…やっぱり、アジャルダさん?」
「……かも、な」
”アジャルダ”…その男とクレイの間に何があったのか、クリームは知らない。
幾度か尋ねてはいるのだが、「お前には関係ねーよ」と返すばかりである。
そんな時、必ずクレイは少し悲しげな表情をしている。



―ここ数日、冒険者の間によからぬ噂がある。一部の冒険者が非合法の依頼を
受けている。そしてそれは獣人との繋がりであったり、裏組織からの暗殺の依頼であったり。
勿論、全ての冒険者の耳には届かない話だ。高ランクの、国家に密接に関わる冒険者の
間で囁かれている事実なのだ。そして、リンクシェル”黒の風車”にその疑いがかけられている。

「アジャルダの野郎は今この船に乗っているはずだ。…あいつの今までの動きからすると、
 同じ場所にずっといるって事はだな、獲物の張り込みしてるって事なんだよ」
「で、でも…どうするの?だからといって見つけてからいきなり捕まえるってわけには
 いかないでしょう?」
「ああ…だからよ、とりあえずあいつを見つけて、マウラで引きずり降ろしてやるさ」
「えぇ?そんなの無理だよ。だって、その人がその…証拠とか…ないでしょ?」
「…あいつは…なんていったらいいかわけんねーけどよ…そういう男なんだよな」
「あたい…信じられないよ。なんで人を傷つけたり平気でできちゃうの?」

何故か?…その問いにクレイは少々戸惑う。クリームも、勿論クレイ自身も戦争を経験していない。
昔は三国で争っていたというし、勿論今は獣人勢力との戦いが繰り広げられている。
獣人も同じ人間…そんな事を昔誰かが言っていたが。
「…わかんねぇ」

クレイは寝転がり、天井を見つめた。とりあえず…少し色々考えたいと思った。

784 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:09 [ N6QgVIYw ]
― 甲板 ―


一番星が輝いている。夜が来た。
アズマ達、船酔い男三人はクラクラする頭を抱えながら、夜風に当たっている。
ミズハとアトトは逆に船室に入って一眠りしているところだ。
「あー…だいぶ楽になってきた」
「うん…そうだ、ね…何回乗ってもこればっかりは慣れないよ」
「何回も…乗ってるんだ?」
「ん、ああ、そう…かな?」
やっぱりヨルは自分の知らない沢山の冒険を経験しているんだろう。
だが、それで尚、何故足でまといに成りかねない自分と旅を続けるのか?
そんな疑問が頭をよぎる。だが、それは聞いてはいけないような気がする。
何故だか分からないが、それは一種のタブーなのかもしれない。
「…あの…あれ、見てください。何か見えませんか?」
テルセウスが薄暗い海面を指差した。その先には…なんだろうか。
黒い、何やら丸い物が見える、そして、それは…
「お、おぃ、あれ人じゃねーか!?落ちたのか!?」
そう、それは人の頭であった。海面にぽつりと、頭が浮かびこちらを
じっと見つめている。アズマが慌てて操舵室へ向かおうとするが…
「いや…いいんだよ」
ヨルは静かに、アズマを引き止めた。
「あの人は…もうこっち側の人じゃないから…」
「船幽霊…というやつ、ですか」
テルセウスの声は少し震えている。アズマはまだ自体を把握していないようで、
あたふたとしている。
「あれって…幽霊…なのかよ?」
「有名だよ。海で無念のまま死んだ人が、ああして海面に頭を出して、ね」
「それよりも…嫌な予感がするよ。僕にはあの人が何か言いたそうにしているような
 気がする…」
その、頭だけの人物は、気がつくと見えなくなっていた。
「な、なぁ、やっぱ溺れてたんじゃねーの?疲れて沈んだとか…な、なぁおい」
「で、でもよく考えてください…船と同じスピードで、まるでその場に浮かんでいるみたいに
 泳げますか…ね?」
「あ……」
そこで、アズマの顔がぞっと青くなる。どうやらテルセウスの言葉を理解したようだ。
「で、でも、な、なんだよ。あいつは何がいいたいんだよ?」
…その時だ。甲板の反対側から、悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。
「海賊だーー!」

785 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:09 [ N6QgVIYw ]
「テルセウスさん、中の二人に絶対に表へ出ないように言って下さい。
 それと、戦える冒険者の人達を呼んでください!」
ヨルが叫ぶ。そこにいつもの冷静な彼の姿は微塵も感じられない。
「な、なんだっての!海賊って…マジかよ!」
甲板に緊張が走る。周りの冒険者達は皆、戦闘態勢を取っている。
そして、薄暗い海の向こうから、一隻の船が横付けをしてきた!
「アズマ!君も中へ逃げるんだ!君の敵う相手じゃないよ!」
「お前はどうすんだよ!」
「僕は…戦うから!だから早く船室へ」
「そんなこと、できっかよ!」
「馬鹿!足でまといに…」
ずしぃぃんと船が揺れる。海賊船が体当たりを敢行してきた。衝撃で倒れる甲板の冒険者達。
「骨だ!骨が来たぞ!」
まだ少し船酔いが残る頭を抱えながら、起き上がったアズマは驚愕とした。
そこには”骨”と呼ばれる死霊が、おびただしい数の群れを成している。

「力に自信が無い奴は下がってろ!」
「おい、誰か回復を頼む!やばい!」

アズマはただただ混乱するばかりだった。既に骨と冒険者達の戦いの幕は上がっている。
鎌を持った骨や、棍棒を持った骨が甲板に溢れ、冒険者がそれを迎え撃つ。
海賊船の甲板の上を見ると、海賊と思われる男達が、怪しげな印を結んでいる。
それが甲板の上に溢れる骨を産み落としているのだと彼は瞬時に察知した。
「ヨル!何処にいるんだよ、ヨル!」
声を張り上げて叫ぶが、その声はかき消される。一人なのだ。
(畜生…こんな所で死んでたまるかっての!)
剣を構える。ヨルは言っていた。自分の敵う相手ではない、と。
だからといって背を向けて逃げるものか、襲い掛かってくる敵は倒してやる。
が…やはりそれは愚の骨頂。分不相応という事を彼はすぐに悟る。

786 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:10 [ N6QgVIYw ]
…一体の鎌を持った骨がアズマに目を付けた。眼球の無い髑髏の奥に、まるで
獲物を見つけた時の獣の光を感じたような気がした。
それは即座に向かってくると、アズマに向かって一閃。
「な、こんにゃろう!」
回避したつもりだったが、その動きは頼りない骨格からは想像もつかない速さだった。
胸の部分が異常に熱を帯びる。斬られた、と思ったが戦闘の興奮のせいか、痛みは無い。
…激痛はおそらく後でやってくるのだろう。
負けじと剣を振るう。が、それは見事に受流されてしまう。
(や、やべぇ…!?)
そして、最悪な事にアズマの流した血の匂いを嗅ぎ分けて、3匹、いや4匹の骨が彼を取り囲む。
(ヨル…!)

覚悟を決めたその時、目の前の骨ががっしゃん、と砕けた。
「馬鹿野郎!弱いくせに無茶をするな!中に入ってろ!」
…金髪の、両手剣を構えた同い年くらいの男が居る。
「なにボーっと見てるんだよ!早く行け!」
男は両手剣を天高く掲げ、次には思い切りぶん、と振り回す。
剣から発生した衝撃波が複数の骨を一挙に砕く。
「あ…あ」
別次元の強さ、まるで鬼神の如き。こんな状況なのに、その力に魅入ってしまう自分がいる。
「どーした!?動けないのか!?」
はっと我に帰る。そうだ、ここにいては自分は足手まといだ。
こうしている間にも次から次へと骨が召喚され、その数を増している。
「す、すまねぇ…」
アズマは腰を低くして、船室へ向かって走りだした。そうだ。足手まといなのだ、自分は。
…悔しくて涙が出てくる。
(違う…こんなんじゃない…俺は…俺は…)
”ずんっ”と背中に衝撃が走った。
「…あ」
そのまま、どさりと前に倒れた。背中を棍棒を持った骨に殴打されたのだ。
船室へのドアは目の前にある、手を伸ばすが…そこで、こんどは頭に鈍い衝撃。
後頭部を割られたのだろう。生暖かい血がどくどくと溢れているのが怖いくらいに認識できた。
振り向くと、黒い棍棒を持った骨が自分を見下ろしている。
「うぉあああ、おおお!!」
アズマは叫んだ。自分の無力に対しての怒り、そして目の前の理不尽な恐怖に対して。

787 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:10 [ N6QgVIYw ]
「駄目…アズマ!」
声が聞こえた。それはとても懐かしい声だった。なんだろう?まるで…
…いや、違う。これは…ヨルの声…?ヨル…?…お前は…
2,3秒、意識が飛んでいたのだろう。目を開けてみると、今だ、そこは激しい戦場だった。
だが数秒前とは少し違う光景がそこにある。
「…レッドラム…なの、か?」
そう、そこには…全身を赤い服に包んだ、頭には羽帽子の女が居る。
「なんで…なんでお前がここに…?お、おい、大丈夫なのか?」
レッドラムは額から血を流している。
「え…あら、本当。少し油断したのかしら」
にこっと笑うと、レッドラムは手袋で血を拭き取った。
「…俺…強くなりてぇ」
「どうして?」
「駄目なんだ…ヨルは戦ってる。俺も戦いたい…あいつを守れるくらいでいいんだ。
 でもよ…俺、駄目だ」
まるで、二人の周囲だけ時間が止まっているようだった。依然として戦いは続いている。
傷を負い、倒れる冒険者。そしてそれに群がる多くの骨。
阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられているのである。
「力が欲しい?」
「ああ…」
レッドラムは何も言わずに一振りの刀を差し出した。
「これ…刀か?」
「壱の封印…この解放が…力が、あなた自身となるか、それとも…」
「封印?どういう事だ?わかんねぇよ…」
「忘れないで?あなた自身を見失っては駄目。それが…あなたの…今の生きる意味だから」
レッドラムはそう言い残すと、骨の群れに立ち向かっていった。


刀を握る。…冷たい。そう感じる事が出来るのは生きているからである。
レッドラムは言った。”今の生きる意味”と。
(いつもわけのわからないタイミングで現れて…わけの分からない事を言い残してよぉ…)
アズマは鞘から刀を引き抜いた。なんだか、背中がぞくっとする。
まるで、心をを支配されていくような感覚。だが、それは酷く心地よくて。


そして…その瞬間から、アズマの意思は掻き消える。


                                  続く

788 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/25(火) 03:27 [ ZDMgO6nI ]
いっちばーん♪age

789 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/25(火) 07:50 [ 5YhlNRzY ]
キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!

790 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/26(水) 00:24 [ Ux//E6NQ ]
アジャルダって誰だよアルジャダだろヴォケガV _| ̄|○

791 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/28(金) 02:12 [ .yMIzFmQ ]
「ゲオルグ、お前がウィンダスの一般人ってどういうことだ?」
「どういうこととはどういうことかのぅ?」
「アンとポロムはわかる。ミスラとタルタルはウィンダスを構成する人種だからな。
 ガルカの冒険者でウィンダス所属と言うならわかるが、一般人となると・・・」
ガルカのウィンダス人ってのは見た事も聞いた事も無い。
いるかもしれないのだが、とても希少だろう。

この質問を投げかけた30分後、俺は聞いた事を激しく後悔する事になるのだが・・・


〜番外1、ウィンダス所属のガルカ〜


「わしは冒険者に憧れてのぅ。バストゥークからウィンダスまで歩いて行ったんじゃのぅ。」
「無所属で・・・か?」
「冒険者になるのにまさか登録が必要だとは思わなかったんでのぅ。」
ある意味感心する。
「ウィンダスに着いた頃、わしは腹ペコだったんじゃのぅ」
 あまりに腹が減ったんで、ちょっと馳走になろうと思ってある家の窓から入ろうとしたんじゃのぅ」
「待て、何故窓なんだ?普通に玄関から入ればいいだろ?」
「わしはシーフを目指していたんじゃのぅ。窓から入るのはシーフの常識じゃのぅ!」
・・・モノスゴイ勘違いをしている気がするぞ。こいつ。
「ところが、窓が小さすぎてのぅ。仕方なく玄関を破壊して入ったんじゃのぅ」
今サラリとすごい事言わなかったか?
「家に入ると、一人タルっ子がいてのぅ。シャンポッポだかニャントットだか言ってたのぅ」
え、それって・・・
「騒がれても困るからのぅ。シーフらしく静かに仕事をするために軽く小突いて黙らせたんじゃのぅ」
ガハハハと笑う。俺は寒気がしてきた。
「ちょっと強くたたきすぎてのぅ。タルっ子は吹っ飛んじまって黙っちまったんじゃのぅ。
 一応生きておったからのぅ。飯を馳走になって家を出たんじゃのぅ」
なんだかこいつには関わらない方が良いかもしれないと思いだした。
「外を散歩してるとさっきのタルっ子が来てのぅ。玄関を直してくれって言うんじゃのぅ」
よくその場で殺されなかったな・・・
「馳走になった礼にわしは玄関を直したんじゃのぅ」
そもそもお前が壊したんだろ?
「そしたら、タルっ子がうちで働いてくれって頼んできてのぅ。寝床も飯も無かったからそこで働く事にしたんじゃのぅ」
冒険者になるんじゃ?と言う疑問よりも先に、そのときの光景がありありと目に浮かんでくる。
きっとこうだ

「ちょっとそこの腐れガルカ!あたくしの家の門をよくも破壊してくれましたわね!
 少し長生きさせてあげますから、さっさと門を直してらっしゃい!」

「門を直したくらいではあたくしの気は治まりませんわ。
 あ、いい事を思いつきましたわ!
 あなた、今後一生あたくしのために働きなさいな。断ればぶちきれますわよ?」

あたらずとも遠からずだろう。

なるほど、それでウィンダスの一般人と言うわけか・・・

792 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/05/28(金) 02:14 [ .yMIzFmQ ]
ちょっと迷ったけど先にこっちアップします。
読みにくいかな・・・

次回は本編アップです。
時間が無くてなかなか進まない・・・

793 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/28(金) 17:22 [ 5gruhyoI ]
シャントット様のところへ押し入りしたのか((((゜д゜;))))。
よく生きてたな・・・(汗)

794 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/05/28(金) 22:34 [ p4PCMEFk ]
あい、白き〜新作追加しました! お暇ならお越しくださいませ。
ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

フライングパピヨンには新たなヒーローの匂いがする。爆笑しました。
…俺もあんな風になりたい。
あとセイブ・ザ・アワーワールドは超オススメですよ。シーンが浮かぶ、しかもカッコいい。
ああ…もっと時間が欲しい…

795 名前: Scrapper 投稿日: 2004/05/30(日) 09:27 [ 0Rl33Poc ]
メイン,セカンド,倉庫達,
全てランダムで生成した名前を使ってる私はどうすればいいのでしょうか…orz

というわけで,毎度ありがとうございます.
こちらも追加いたしました.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

今回から,ストーリーの都合上,ランク6になるまでのネタばれが入って来ます.
なるべく直接描画はしないようにはしていますが,お読みくださる時にはお気をつけください.

それでは,皆さま頑張ってください.

796 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/30(日) 14:56 [ b2H1jzF. ]
ぐあ!レクスーーーーーーーーー!!orz

頼むよ、レクスとルアをくっつけてくれ・・・・・(;д;)

797 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/31(月) 10:56 [ wVM69ygU ]
白きは……もはやいかなる感想も陳腐に思えて……………
書かずにおこう、と思っていたのだが………

もう耐えきれん。
    〃〃∩  _, ,_
     ⊂⌒( `Д´) < 続き続き続きーーーー!
       `ヽ_つ ⊂ノ
              ジタバタ

798 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:09 [ 3ryIbLDw ]
    〃〃∩  _, ,_
     ⊂⌒( `Д´) < 白続きマダァ?続き続き続きーーーー!
       `ヽ_つ ⊂ノ
              ジタバタ

799 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:33 [ tt9meIto ]
Scrapper更新お疲れさまです。
フェムとリンツの今後を楽しみにしてます。これからも頑張ってください!

800 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/05/31(月) 20:18 [ iZridMlY ]
シャム君のつづき 期待sage

801 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/01(火) 02:32 [ tkZVVL9g ]
なんとなく書いた戯言作品です。
オチも無いし、意味も在りません。
軽く読んでください。

802 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/01(火) 02:33 [ tkZVVL9g ]
ファッキンエレファン


〜ジャックは死んだ〜


エレメントを狙って狩を続けること3時間。
落とした闇の塊は10を超えた。
特にわけが在って狩り続けるわけじゃない。
雪原の中に身を置くことで、自分の心も白く凍りつかせることが出来るんじゃないか。
そう思っただけだ。
だから狩る。私はずっと狩る。延々と時を平たく伸ばしていく。
小さな粒を薄く薄く。意味をどんどんと薄く薄く。

「ままー。おなかすいたよぅ。」
まだ5歳くらいの少女が、壁に向かって会話をしている。
ジュノ港。そこは可笑しな空間だった。
冒険者、旅人、一般人、詩人、職人、お偉いさん。
いろんな人でにぎわっている。
大体の人種はここにいる。種族じゃない。気違いとかそっちの分別だ。
悪い奴もいい奴も、一緒になって商売をしている。
そもそもいい奴なんていやしないのかも。
そこに存在するものには、すべてに闇が付着しているんだから。
「どうしたの?そっちは壁よ?」
私が話しかけると、少女はきょとんとした顔をして、どこかへ走り去ってしまった。
「フェンちゃん、こんなとこにいたのか。」
不意に後ろから声がかかった。

「そういえばさ。」
ジュノ下層にあるテラス。そこで私とジャミールはお茶を飲みながら話した。
飛空艇のウィンダス便で帰ってきたジャミを、私は迎えに行くはずだったんだけど、
結局向こうから見つける羽目になってしまった。
大体の場合、足は一箇所にとどまってはくれない。
暇があれば競売を覗き、露店に目をむけ、そこら中の会話に耳を立てていた。
情報を得ることが、私にとって生きがいだった。
大体は役に立たないけど。
「そろそろ毛の生え変えの時期だね。」
ミスラである私とジャミは、体毛に覆われた体をしている。
ネコ科の動物の特徴を持った種族だからだ。
すでに夏が終わり、秋からゆっくりと冬へとシフトしている。
この時期は、薄い体毛が、冬を越すための厚い体毛へと生え変わる。
寒いのは嫌いじゃない。むしろ大好き。
寒さは意識の密度を高めてくれる。
すべてをはっきりとした輪郭で示してくれる。
「雪、見たい・・・。」
私の望み。白くて純粋な雪を眺めたい。

理由もなく旅立つ私に、ジャミはため息で見送ってくれた。
「まあ、いつものことだけど・・・・ちゃんと無事に帰ってくるんだよ。」
「うん。」
深くうなずいて確認する。私はまた戻ってきます。
私はタクシーを拾ってザルカバードまで飛ばしてもらった。
白魔道士の人は、自分の才能を商売にしている。
テレポと言う魔法で、私たちを遠くまで飛ばしてくれる。
表現的には飛ばすだけど、実際は乗るらしい。
白魔道士の言うことだから、私にはわからない。
ともかく、私は一瞬で雪の降る巨大な雪原へと現れた。
白と黒が支配する其処は、私の求めていたものだった。
だけど、雪は私を落胆させた。
純粋に白くない。単純に白いだけだ。
私の見たい白。
それは吹き咲く雪じゃなかったのかもしれない。

終り

803 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/01(火) 11:32 [ Wg1R6n82 ]
はじめての冒険まだですかーーー!
すっごくすっごく気になって、3時間おきくらいにチェックしてるんですけどー・・

おねがいしまつ よませてくだちぃ

804 名前: 初めての冒険 第10話 1/5 投稿日: 2004/06/01(火) 23:22 [ iurGsrOM ]
初めての冒険 第10話 西ロンフォール〜霧深き森にて

霧が深くなるのは珍しい事じゃない。
この森では良くあること。
サンドリアに根を下ろすタルタルの冒険者がいない訳じゃない。
でも、珍しいのは確か。

霧の中、困ったように、ぽつんと一人佇んでいたタルタルの少年。
手を貸せたのはとても小さな事。
初心者でしかない自分にできる、精一杯。
それでも、自分の願いを・・・冒険者になった目的を本当にわずかだけど
果たすことができた初めての出来事。

人の出会いというものは本当に不思議だとずっと後になって思った。

冒険者として登録をすませたばかりのセシルがその少年を見かけたのは、
ロンフォール地方の西側の森・・・俗に西ロンフォールと呼ばれる場所の
湖の近くだった。
少年は旅装束だが、冒険者という雰囲気ではない。

「どうかしましたか?何か困ったことでも?」
とりあえず彼女は少年に声を掛けてみることにした。
もしかしたら単に散策してるだけかもしれない。
けれど、もし何か困ったことがあるのだったら、少しでもいいから手助けしたい。
まだ新米・・・米にすらなれていないかもしれないけど、セシルも一応冒険者だ。
そして、彼女が冒険者になったのは”困っている誰か”を助けたかったからだった。
「わ!」
声を掛けられて吃驚したのか、少年がすっとんきょうな声を出す。
そして、改めてこちらを見やると、ちょこんと頭を下げた。
「すみません、突然声を掛けられたので驚いてしまいました」
「いえ、こちらこそ、驚かせてすみません」
「いえ。うっかりぼーっと・・・というか途方に暮れちゃってたので、
 声掛けられるまで気がついて無くて」
途方に暮れる・・・やっぱり困ったことでもあるのだろうか。
「何か困ったことでも?・・・私で良ければお手伝いしましょうか」
もちろん、新米冒険者に出来ることなどたかがしれている。
でも、出来る範囲で出来ることをやりたいのだ。
小さい頃に自分を助けてくれた人のように。
「あ・・・えーと、僕平たくいうと今現在迷子なんです」
「はい?」
予想もしなかった答えに思わず首を傾げる。
その様子を見た少年はあわてて言葉を継ぎ足した。
「サンドリアに行きたかったんですけど、連れの人とはぐれちゃって
・・・はぐれやすいから注意しろって言われてたんですけど」

805 名前: 初めての冒険 第10話 2/5 投稿日: 2004/06/01(火) 23:23 [ iurGsrOM ]

確かに初めて訪れる人間は一度は迷うという森だ。
連れの人間とはぐれてしまっては途方に暮れるのも無理はない。
「なるほど。では、サンドリアの門まで案内しましょうか」
ここからサンドリアの街まではもう大した距離ではない。
この付近で修行をしているセシルにとって、このあたりは自分の庭のようなものだ。
もちろん、サンドリアまでの道も頭に入っている。
「え?良いんですか?」
びっくりしたように聞き返す少年。
地図を取り出そうとしていたところを見ると、現在位置だけセシルに確認して
後は自分で何とかしようと考えていたらしい。
もちろん少年がそう言ったわけではない。
けれど、態度と行動が少年の考えを良く表している。
「ええ。このあたりの地理は頭に入っているので・・・というか私はサンドリアを
 拠点にしている新米なのでここからサンドリアまでの道はわかっています」
畳み込むように、少年に告げる。
少年は、しばらく逡巡していたようだが、やがてそーっとこちらを見上げて
言葉とともに再びちょこんと頭を下げた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、案内を御願いします」
「よろこんで」
セシルも軽く頭を下げて少年に応じた。

二人並んで、道を歩く。
霧がだいぶ深くなっているので、はぐれないよう注意しながらゆっくりと。
時々、地図で現在位置を説明する。
シャムという名の少年は、ウィンダスから旅をしてきたらしい。
やはり、冒険者では無いという。
一人で踏ん張ってタロンギに辿り着いたところで、ガルカの冒険者に拾われた
そうだ。
正確に言うと、預けられた、らしいが。
砂丘で一人増えて、現在の連れは二人らしい。

自分の生まれ育ったサンドリアの周辺でしか冒険者としての活動をしていない
セシルにとって、シャムから聞くミンダルシア大陸の話はとても興味深いもの
だった。
旅に出た理由は、
「友達に会いに」
だという。
きっと、彼にとって大切な理由なのだろう。
私があの人に助けられたことを大切に思っているように。
そんなことを思った。

806 名前: 初めての冒険 第10話 3/5 投稿日: 2004/06/01(火) 23:25 [ iurGsrOM ]

湿った風が頬をなぜていく。
緑のにおいを含んだ風。

背の高い木々。
初めて見る大きな森は、鬱蒼として薄暗く何が有るかわからない。

サンドリアの近くに根城をはっているというオーク。のんびりと草を食む大羊。
少し離れたところを大きな甲虫が闊歩している。
ウィンダス周辺では見かけないモンスターたちを見かけるたびにシャムは、
異国に来たんだなぁと実感する。

道案内を申し出てくれた少女とともに道を辿る。

不思議だな。
ウィンダスにいるときはあんなに知らない人が怖かったのに。

そんなことを思う。

そして、いろんな人に助けられてきたってことをしみじみと実感する。
そんな思いがふと口からこぼれていた。

「僕、人に助けてもらってばっかりです」
地図で現在位置を説明していたセシルが、軽く首を傾げて質問してくる。
「そうなんですか?」
「はい。旅に出てからずっと誰かに助けてもらってました」
「そうですか」
少女は少し目を細めてそう答えた。
「いつも誰かに甘えちゃうなって、ちょっと恥ずかしいです」
一人ではどうにもならないことを誰かに甘えて、負担を掛けてしまった。
うつむき加減になったシャムを見つめてセシルはぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
「助けられることは恥ずべきことでもないでしょう?
 助けられてばっかりじゃ問題かもしれませんけど、あなたは
 いつか、誰かを助けたいと思っているんでしょう?」
静かな声。

いつか誰かを助けたい。

誰かに助けられてここまで来たんだという自覚が出来た頃からずっと思っていたこと。
だから、はいと頷く。
「じゃあ、きっと問題ないと思います」
我が意を得たりと言わんばかりにセシルはにっこり笑った。
「それに・・・私も誰かに助けてもらってばっかりです。
 だから、今日はあなたを助けられて少し嬉しいです」
予想していなかった言葉に、シャムは顔を上げる。
「え?」

807 名前: 初めての冒険 第10話 4/5 投稿日: 2004/06/01(火) 23:26 [ iurGsrOM ]

「今まで世話になった人たちへの恩を、あなたを助ける事で少しでも返せるんじゃ
 無いかと思って」
そう言って、照れたように笑うセシルをシャムは不思議な気持ちで見つめた。
自分と同じようなことを考えている人が、他にもいたんだってことを知って少し
嬉しくなる。
「だから、たくさん助けられたのなら、あなたもたくさん助ければ良いんじゃない
 でしょうか」
少女の紡ぐ言葉の意味を一つ一つ考える。
「それがどんなに小さな事であっても、そして・・・
 それが今すぐじゃなくても。私はそう思います」
今すぐは無理でも、いつかは・・・。
そう思っていても、つい自分が誰かに頼り切りなことを気にしていた。
でも、まずは出来ることをやれば良いのだ。
少女と話していてそう思えた。
「そうですね」
どう答えれば、伝わるのかわからない。
それでも、自分が救われたこと。勇気づけられたこと。
伝えられれば良いなと思った。

その後も他愛ない話をしながら二人並んで歩いた。
大きな門に辿り着くまで、ずっと。

「ここがサンドリアへの入り口です」
セシルが大きな門を指し示し、そう告げる。
ヤグードと一応とはいえ平和条約を結んでいるウィンダスとは異なり、サンドリアは
今でもオークの襲撃に備えている。
その現れのような大きな壁と、頑丈そうな門。
その門に、また異国に来たという実感を深めてシャムは大きく息を呑んだ。
そして、くるりとセシルに振り返ると深々と礼をした。
自分の大切な修行の時間を道案内に割いてくれた親切な人。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
嬉しそうに、少女も礼をする。
「お礼・・・」
親切に、物で返すのは無礼だと思う。
でも、シャムは他に返せる物を思いつけなかった。
「お礼なんていりません。困っている人を助けるのは当然のことでしょう?」
さも当然の様に、そう言う。
「でも、お礼をしたいです。助けられた人が、お礼をしたいと思うのも当然でしょう?」
助けるのが当然だと言う人には、余計何かお礼をしなくちゃ行けないと思う。
「うーん・・・」
考え込むセシル。
しばらく二人で固まる。
沈黙を破ったのはセシルだった。

808 名前: 初めての冒険 第10話 5/5 投稿日: 2004/06/01(火) 23:28 [ iurGsrOM ]

ぽんっと手を叩き、良いことを思いついたと、シャムに満面の笑顔を見せてこう告げた。
「そうだ。こう言うのはどうでしょう?
 私がいつかウィンダスに行くことがあったら・・・そのときはあなたが私を案内してください。
 同じように緑に包まれてはいても、ロンフォールとはまるで違うというサルタバルタを」

言葉の意味をかみしめる。

「はい!ぜひ!」
数秒後、シャムは思い切り頷いていた。
ふわっと微笑むセシルと、じゃぁ約束。と指切りをする。

ふと顔を上げたセシルが、門の手前あたりを指さして、告げた。
「あ、あの手を振ってる人たちがあなたの連れじゃないですか?」
セシルの指さす方を振り返ると、どっしり構えたガルカと今にも駆け出しそうなエルヴァーンの
女性の姿が目に入った。
「そうです。ラセスさん、マギーさん」
セシルにありがとうと、もう一度お礼を言い、ラセスとマギーに向かって大きく手を振る。
シャムに気付いた二人は、二人二様にこちらに近づいてきた。
ラセスはいつものようにゆったりと、そしてマギーはこちらが吹き飛ばされんばかりの勢いで。
「心配したんだからね」
マギーがそう言いながら、わしゃわしゃとシャムを抱きかかえる。
それを静かに、しょうがないなというようにラセスが見てる。

一緒に旅をしたのは、わずかな時間。
それでも、シャムはこの二人と一緒に旅できて良かったと思った。

一通りマギーにわしゃわしゃされた後、改めて、自分を助けてくれた少女に礼を言う。

たくさんの人を助けられるような・・・幸せに出来るような冒険者になりたいんです。
きらきらと目を輝かせてそう言った少女に別れを告げて、シャムは歩き出した。
傍らの二人がなにやら顔を見合わせて頷き合っている事にも気がつかずに。

小さな小さなタルタルの少年の初めての冒険。
その幕切れは、すぐそこまで迫っていた。

809 名前: 初めての冒険の中の人 投稿日: 2004/06/01(火) 23:30 [ iurGsrOM ]
お待たせしてすみません。
お久しぶりの初めての冒険です。

1ヶ月近く間があいていますね。
申し訳ない。

いろんな方が、感想を書いてくださって嬉しいです。
待ってくださる方も、自分の予想以上にいて吃驚です。
ありがとうございます。
自分の書いたお話を読んで、楽しんでもらえるということ。
書き手としてこれに勝る喜びって無いんじゃないかと思います。


このお話は次で終わります。
今度はそんなに待たせないと思います。
(すくなくとも今回よりは早いと思います)
最後まで、どうぞおつきあい下さいませ。

810 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/02(水) 01:22 [ DAy99ihY ]
荷物の奥から一枚の封筒を取り出す。
魔封印がしてあるその封筒は、悪い保存状態にも関わらず、預かったときのまま、綺麗なままだ。
「時が来たときに、ある人に渡して欲しい」

「ある人」は見つけた。

時は・・・いつなんだ?


〜第6話、砂丘の出会い〜


ラテーヌ高原からバルクルム砂丘に入る直前のキャンプ。
ポロムボロムは俺たちに自分の生い立ちを話した。
もともと頭のいいこいつの事だ、「魔法が使えない」事にどれだけ苦悩したか計り知れない。
だが、それ以上に俺を驚愕させたのは、その話の中に出てきた人物。

ポルクボルク

至高の黒魔導師にして、かつて俺と共に戦ったタルタルの勇者。
リンクシェルでは、その姿に反して最高齢であったことから、「ポルク爺」と呼ばれていた。
まさかポロムボロムがポルク爺の孫であったとは・・・!

ポロムボロムは、ポルク爺を探す旅をするための修行をしている。
彼に尋ね人の安否を教えるのは簡単だ。
だが、それは賢明ではない。
ポロムボロム自身が、自分の力で知らなければ意味が無い。
彼の「死」を知った瞬間のポロムの顔を想像するだけで胸が締め付けられる思いがした。

811 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/02(水) 01:23 [ DAy99ihY ]
「よお、あんたたち4人か?」
砂丘に入った直後、声をかけられた。
「こっちは今二人なんだ。よかったら組まないか?」

金髪の若いヒューム。使い込まれた・・・と言うより、少々痛んだスケイルメイルと、両手剣を背負っている。おそらく戦士。
栗色の髪の毛を後ろで結んでいるヒュームの女性・・・少女と言った方がいいだろうか。
ぼろぼろのローブと、新品同様の両手棍。魔導師だろう。

「すまないな。出来るだけ早くセルビナに着きたいんだ」
「なんだ、俺たちもセルビナを目指してるんだ。ちょうど良いじゃないか」
”狩り”の誘いではなかったらしい。
少し考えたが、目的地が一緒なら断る理由は無い。

「決まりだな。それじゃあ一緒にセルビナまで行くか」
「俺はアルヴァ。赤魔導師だ。こっちが戦士のポルクボルク、シーフのゲオルグ、白魔導師のアンだ」
3人がそれぞれ会釈をする。
「俺様は戦士のヴァンス。公認冒険者だ。こっちは白のエイミだ。よろしく頼む」
少しいやな予感がした。
右手を差し出され握手を求められる。自然な素振りで握手を返す。
エイミに向かって握手を求めると、手を差し出した瞬間に彼女の身がこわばったのがわかった。
すぐに握手で返されたが・・・


狩りが目的では無いとはいえ、降りかかる火の粉は払わなければならない。
特に好戦的な獣人が多いバルクルム砂丘では、その頻度も高めである。
二、三度戦闘をするだけで、俺は彼と組んだ事を早くも後悔しだした。

「俺様が攻撃を食らったらすぐに回復するんだ。攻撃の要が手負いだと戦闘に支障が出るだろ!」
「攻撃力が高い奴が連携の締めを担当するんだ。この中じゃ俺様の突き技が一番強いだろうから、俺様が締めるぜ」
「おい、ガルカ。お前が盾やれ。この中じゃ一番丈夫だろ。」

「自分の力量を見極めると言う事は、生き残ることにとても大事なことだ」
ヴァンスに聞こえないように3人に話す。
「自信と過信、勇気と無謀は別物だと肝に銘じておかないと、命を落とす事になるぞ」
「うるせぇ。知った風な口を聞くな。俺様は公認冒険者だぞ!」
聞こえたのだろうか。どちらにしろ聞く耳は持たないらしい。

「ごめんなさい。彼を嫌わないであげてください。根はとても良い人なのです」
エイミが小声で謝る。
仕方ない。彼女のためにもせめてセルビナまでは我慢しよう・・・

812 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/02(水) 01:24 [ DAy99ihY ]

「おいタル!てめぇが攻撃受けてどうするんだ!そこのガルカに盾やらせればいいだろうが!」
「でも、ゲオルグさんはシーフです。シーフは盾には向いてないと師匠が・・・」
「口答えすんな!どこの無能が師匠か知らねぇが、パーティにガルカがいれば盾をやらせる。常識だろうが!」

何の因果か、セルビナ到着後にも彼らとパーティを組み、通称”魚”と呼ばれるプギル族を狩る事になってしまった。

「エイミ、回復おせぇぞ!何やってんだ役立たずが!」
「待て、彼女はマナの使いすぎだろう。少し休ませよう」
「け!回復できねぇ白なんざ役立たずなんだよ!次釣ってくるまでしか待たねぇからな!」

「大丈夫か?アンもいるんだ。無理せずに途中で交代すれば良い」
ヴァンスが獲物を探しに行ったあと、エイミに声をかける。
「大丈夫です。わたしには白魔法しかないから・・・」
そういうと彼女はふらふらと立ち上がり、青白い顔で微笑んで見せた。
「マスター。お魚さんが来たにゃ」

「くそ!こいつ強えぞ!」
前衛から悲鳴が上がる。彼が最後に連れてきたプギルは、予想以上に強かったのだ。
ケアルを詠唱していたエイミがついに片膝をついてしまった。
「アン。エイミと交代しろ。俺は前線に参加する!」
メインで回復を担当していたエイミの代わりにアンが回復を担当する。とは言え、彼女の精神力にも限界がある。
「後衛が何しに来やがった!てめぇは下がってろ!」
「少し黙れ!こいつはお前らには荷が重い!」
ヴァンスが何か言いかけたが、その瞬間プギルの体当たりを食らって吹き飛ばされた。

「ポロム、ゲオルグ、湾曲させろ!」
ポロムとゲオルグが互いにうなずく。
ポロムのダブルスラスト、続いてゲオルグのワスプスティングが魚の急所を狙う。
「てめぇらの攻撃なんか効くかよ!俺様が・・・」
そこまで言いかけた彼が驚きの表情を浮かべた。
空間の湾曲・・・まさか初めて見るのか?
俺もすばやくウォータを詠唱する。
「ド素人が!魚に水なんてやってどうするんだよ!」
ヴァンスの野次を無視し、詠唱を完成させる。タイミングは合ってる!
空間の湾曲に水が吸い込まれ、激流となってプギルを襲う!
空間が弾けた後には、プギルの死体が転がっていた。

「君はもう少し謙虚な気持ちで世界を見るべきだ。そうでなければ、大切なものを失う事になるかもしれないぞ」
それだけ言うと、未だ青い顔でうずくまっているエイミの元へ向かう。
さっきよりはマシな顔色になってるな。もう少し休めば・・・
「おいエイミ、さっさとケアルしろ!」
背後から容赦なく降り注いだ言葉に隠せない怒りを覚えた。
「その程度の傷でガタガタ言うな!彼女はまだ休ませないとだめだ!」
「さっきも言ったろ!回復できねぇ白なんて役にたたねぇんだよ!それなら夜の相手でもしろってんだ!」
「・・・すまないが限界だ。君とはこれ以上組めない。俺たちは帰らせてもらう」
「は!こっちだってお断りだぜ!さっさと消えろよ!!」

「ポロム、ゲオルグ、アン、行こう。・・・君も来るか、エイミ?」
正直こんな男と一緒にいると命の保障は出来ない。
ところが彼女の返事は、期待していたものとは違い、予想していたものであった
「わたしは彼と一緒にいます。ごめんなさい」

813 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/02(水) 01:25 [ DAy99ihY ]

セルビナに着くまで、全員無言だった。まだ日が高かったが、俺は3人に宿に戻るように指示した。

彼は公認冒険者と自称しているが、近年財力にモノを言わせて傭兵を雇い、ミッションを遂行する冒険者が問題になっている。
国としてはミッションを遂行してもらえばそれでいいのだろうが、冒険者の力量をはかる”ランク”といういものが参考にならなくなってきているのだ。
大抵、その場合は知識と技量が伴っていないのだが、彼もその一人なのだろうか?
気分転換に釣りでもしようと思い立ったが、街中は釣り人が多く、俺の腕ではとても獲物が釣れそうに無かった。
仕方なく街の外に出る。俺一人ならゴブリンも襲ってはこないだろう。

「・・・さい」
海岸で釣り竿を垂らしていると、なにやら声が聞こえた。
「・・・ください!」
この声は・・・エイミ!?
この声は助けを呼ぶ声!
その場に釣り竿を放り投げて走る。まさかゴブリンにでも・・・

現場は海岸にある洞窟だった。そこで俺の目に飛び込んできたのは、嫌がるエイミと彼女を押さえつける・・・ヴァンス!
「いや、やめて・・・!」
「今日はてめぇのせいで恥をかいた!体で償え!」
見下げた奴だ!こんな奴と少しでも同じ時間を過ごしたと思うと反吐が出る!
「今まで散々誘ってもノってこねぇ!それなら無理やり犯ってやるまでだ!」
「やめて!お願い・・・!!」

「ヴァンス!どこまで腐ってるんだ!!」
エイミが安堵と恐怖の入り混じった顔でこちらを見る。振り返ったヴァンスの顔は怒りに満ちていた。

こちらに向き直り、立ち上がるヴァンス。その手は背中の両手剣の柄を握っていた。
「君が剣を抜けば、俺も手加減できないぞ」
やはり忠告は聞かないらしい。わずかに鞘走る音が聞こえると同時に、彼の動きが止まった。
崩れ落ちるヴァンス。背後には両手棍を持ったエイミ。
何が起きたのかすぐに理解できた。
エイミがその場にぺたんと座る。・・・ヴァンスの脈はある。

彼女に手を差し伸べると一瞬恐怖の表情を浮かべた。
「大丈夫だ。さあ、一緒に行こう」
「でも、でも・・・!」
「彼も平気だ。この程度では死にはしない」
いいクスリになったろう。しばらく彼からエイミを保護する必要があるだろうが・・・
気絶しているヴァンスを背負う。こんな男でも死なせるわけにはいかない。

「彼は命の恩人なんです」
ヴァンスを宿に預け、エイミと話すために酒場へやってきた。
「グスタベルグでクゥダフに襲われているところを助けてくれたんです。それからずっと一緒でした」
まじめな彼女は、それからずっと彼に「恩返し」をしてきたのだろう。
その精神自体を否定はしないが、お互いに助け合うのが冒険者だ。
「あんな事があっても彼と一緒に行くのか?」
「そのつもりです」
「彼に好意を持っている?」
「わかりません。ただの自己満足かもしれません。利用されているだけかもしれません。でも、それがわたしの道だとおもいます」
そう言うと、彼女は酒場をあとにした。

814 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/02(水) 01:25 [ DAy99ihY ]

次の日の朝、海岸で一人のヒュームの死体が発見された。
体に傷は無く綺麗なものだった。
おそらく砂丘の亡霊「ボギー」の餌食になったのだろう。
栗色の髪の毛を後ろでひとつにまとめ、ボロボロのローブ、そして胸には海岸に置いてきたはずの両手剣を抱いて・・・
「うわああああ!!エイミ!エイミ!!!」
ヴァンスが泣き叫ぶ。
「あんなにひどい事をしたのに、何故!?」
周囲が痛ましい目で見つめる。彼は叫び続ける。
ポロム、アンも泣いている。ゲオルグも悲しい目でエイミを見つめる。初めて「仲間の死」に直面したショックは大きいだろう。

「俺が代わりに死ねばよかったんだ・・・」
日が沈みかけてもエイミを抱いて泣いていたヴァンスが突然つぶやく。
「ずっと好きだったんだ。初めて会ったときから。俺がもう少し優しければ、ほんの少し素直になっていればこんなことには・・・!」
「君が死んで彼女が喜ぶと思うか?」
はっとした様子でヴァンスが顔を上げる。
「エイミの分まで生きるんだ。何があっても生き抜け!それが君の使命だ」

「そのためには強くならなければならない。力だけじゃない、よく知り、よく考えるんだ」

「こんな事を言えた義理じゃないが、世話になった」
2日後、エイミの埋葬を済ませ、ヴァンスはセルビナを発つ決意をしたようだ。
「気をつけてな。自分が何のために戦うのか、それを常に考えるようにするんだ」
「・・・あんた、すごいな」
それだけを言うと、ヴァンスはセルビナを後にした。

女神よ、願わくは彼の行く先に光を。
そして、エイミの魂に安息を・・・


つづく

815 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/02(水) 01:32 [ DAy99ihY ]
釣り竿たらしてどうするんだよ、釣り糸だろうが(´・ω・`)
削除すべきところもちゃんと消してないし。
あまり問題ないけど・・・推敲が足りませんね。

PCが変な音を出してます。これからの季節ヤバイかも・・・

816 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/02(水) 02:01 [ 8uwQM/KU ]
風の通る道キター*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*ー
おつです〜。貴方の書く文章好きです。

817 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/02(水) 05:01 [ CQUt356Y ]
初めての冒険 待ってたよ〜〜

818 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/02(水) 10:24 [ S3Vp4.Qc ]
初めて 次が最後なのかぁ
意味深な大人二人のしぐさが、非常に気になります

後1話、がんばってくだしぃ

819 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/02(水) 12:17 [ QEvs0obg ]
 慈悲を

 第八話「捨てられて、拾われて」
 (1/3)

 早朝のロンフォール。ここはその南にあるナイトウェル湖。
 今は薄い霧がかかっているその湖には、毎日人間やゴブリンの釣り人が通い、
 その腕を磨くため、大物を釣り上げるためなどの、それぞれの理由で釣り糸を投げている姿がいつもはあった。

 しかし、この日に限ってそこには誰の姿もなかった。

 そんな湖の近くで、一匹の陸ガニが自慢のハサミを擦って手入れをしていた。
 いつもは誰かしらいて、
 よく「塩ぉ!」などと訳のわからない奇声を発しながら襲ってこられるので、
 こんなにのんびりとした日は実に久しぶりだった。

 ふと、陸地の方へと目を向けると、三つの人影がこちらへと向かってくるではないか。
 これはマズイ。また人間どもがやってきた、と言わんばかりに慌ててその場から逃げ出そうとする。
 だが、逃げるよりも先に三つの人影は陸ガニの前までやってきて、なにか大きな塊を湖へと投げ捨てた。
 ばしゃん、と大きな音をたてて、水面に波紋がいくつも生じる。
「ごれでいいんだよなァ?」
 ひとつの影が、濁った声で他の影たちに訊いた。
「おうども。バットギットに言われだごとは全部やっだ。さぁ、引ぎ上げるぞ!」
「ん〜? 見でみろォ、上手ぞうなガニがいるぞォ」
 ドキッとして、陸ガニは冷や汗をかきながら影を見上げた。
 だが、そんなこと言っているのはそいつだけで、他の影たちは既に来た道を戻っている。
「お、おォィ! 待っでくれよォ!」
 置いていかれてはたまらないと、どかどかと足音を発てて同じく戻っていった。

 陸ガニはホッと安心しながら、湖の方へと向きなおした。
 が、その目の前に、大きな人間が浮かんでいて、陸ガニはますます慌てた。
 しかし、一向に動く気配もなく、不思議に思って自慢のハサミで突いてみる。
 反応は――ない。
 どうしたものかと考えていると、陸ガニの見ていた世界が反転した。

820 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/02(水) 12:18 [ QEvs0obg ]
 (2/3)

 冷たい感触に、彼女の意識が目を覚ました。
(痛い……)
 真っ暗闇の世界で、彼女はそう感じた。
 ちゃぷん、ちゃぷん、と耳元で水の音が鳴った。小鳥のさえずりが遠くから僅かに聞こえてくる。
(ここはどこだろう。私は――)
 腕を持ち上げようとして、身体が反応しなかった。
 それだけではなく、顔も、足も、どこも彼女の意思には反応せず、ただ水のベッドで寝ているだけだった。
(あれ、動けない……。どうして?)
 答えてくれる声はない。
 見ている世界は真っ暗、動かない身体。徐々に彼女の中で不安が生まれてくる。
(死んじゃってるのかな……ああ、そういえば斬られたんだっけ、あのひとに)
 あのひと――恋仲だった男デモアールの顔を思い浮かべる。
 王立騎士団の騎士だと自慢され、ほぼ強引に付き合わされ、
 いつの間にかそんな仲になっていた彼は、いつの間にか自分以外の女を作ってどこかへ行ってしまった。
 軟派で、女癖が悪くて、それでも人は悪くない彼はオークと対峙して、私はオークをかばって――斬られた。
 しかし、彼女は後悔してはいなかった。むしろ、達成感の方が大きいぐらいだ。
(私、あれでよかったんだよね)
 作れない笑みを浮かべていると、つんつんと自分を突くなにかに気がついた。
 何だろうと思っていると、突然また暗闇に意識を引っ張っていかれ、再び意識が失われていった。


「旦那、ステッピー、陸ガニつかまえた。これ朝食にする」
 マスクをかぶったゴブリンは、陸ガニを高々と掲げながら、ぴょこぴょこと跳ね回っていた。
「行儀が悪いぞ、ステッピー。それに肉なら既に羊のがあるだろう」
 長大な槍を背負った、大きくがっちりとした体格のガルカが、のっしのっしと歩きながら、ゴブリンに近寄ってきた。
 そこまで近寄って、ガルカは相棒のゴブリンのすぐ後ろにある湖に、何かが浮いているのが見えた。
「む? ステッピー、おまえの後ろに浮いているのは……」
 視線に気がついて、ゴブリンも持っていた陸ガニを放り投げて振り返った。
「エルヴァーン、浮いてる」
「いかん」
 ガルカは駆け寄り、湖に浮かぶエルヴァーンの娘を抱き上げて陸地へと移した。
 娘はぐったりとしており、その肌は冷たく青白い。すぐに血の気が引いているのだとわかる。
 背中へと回した手が、赤いものでベッタリとしているのに気づき、ガルカはゴブリンに指示を次々と飛ばしていった。
「ステッピー、鞄からポーションと包帯を出して、彼女を頼む。止血をしたら服も着替えさせてやってくれ」
「わかった」
 短くそれだけ言うと、背負っていた鞄から次々と言われた通りの物を取り出して、いそいそと娘の元へむかった。
 ガルカはそれを見届けることもなく、近くに落ちていた枯れ木を集めて、火打ち石を取り出しては焚き火の用意をし始めた。

821 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/02(水) 12:18 [ QEvs0obg ]
 (3/3)

 意識が、再び目覚めた。
 ごそごそ、ぺたぺた。
 布の擦れる音や、何かが身体に塗られ、巻かれていく感触。
 その何かが塗られていく度に、少しずつ力が戻ってくる。
(ああ、助かったんだ……)
 閉じていた瞼をゆっくりと開けていくと、まぶしい光が目を貫いていく。
 そして、だんだんと光は形を成していき、やがて木々が現れた。
「ゴブリン、お肌はふっさふさァ〜♪ 人間、お肌はつっるつるゥ〜♪
 旦那のお肌はごっつごつゥ〜♪ 岩とおんなじ、ごっつごつゥ〜♪」
 随分と陽気な歌が耳元で聞こえ、後ろを振り返ると、シルエラの口から悲鳴があがった。


「どうした!」
 ガルカが驚いて相棒の元へと戻ってきた。
 そこに広がっていた光景は、エルヴァーンの娘が包帯の巻かれた胸元を隠して、
 そのすぐ手前で相棒のゴブリンが目を回して座り込んでいるところだった。
 彼自身、予想できた範囲のことだったが、こうするしかなかったためこうした。が、相棒には悪いことをした。
「ほら、ステッピー、起きるんだ」
 相棒の顔を軽く叩くと、ゴブリンはハッとして、くるっとエルヴァーンの方へとむいた。
「ステッピー、おまえ助けてた。なのに、おまえ殴った」
 どうやら怒っているようで、ついにはふて腐れてそっぽをむいてしまった。
「だ、だって、振り向いたら目の前にゴブリンの顔があるんだもの。驚くなっていうのが無理な話よ! それに……」
 そこまで言って、シルエラは顔を赤くして身構える。
「お嬢ちゃん、安心していい。こいつは俺の仲間だ。危害を加えようとかは、これっぽっちも思っちゃいない」
 穏やかな口調で、ガルカが説明をはじめ、
「それとも、俺がお嬢ちゃんの介抱をした方がよかったか?」
 そう付け加えた。
「冗談じゃありません!」
 耳まで真っ赤にして、エルヴァーンはきっぱり否定した。
「とりあえず、安心してもう少し介抱を受けていてくれ」
「で、でも……」
 ちらりとゴブリンの方を見て、困った様子のまま再びガルカを見やった。
 だいたい、言いたいことはわかる。
「安心しろ。このゴブリン……ステッピーも、これで一応女だ」


 →続く

822 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/03(木) 05:06 [ E2gx44m. ]
 慈悲を

 第九話「新しい友」
 (1/3)

 薄い靄がかかる中、パチパチと火の粉が爆ぜる音が響く。

 ガルカから拝借したサイズの大きいマントで身体を包み、シルエラは両の掌を焚き火へと差し出している。
 暖かい空気が、じんわりと身体に染み入る。
 その横へ、ゴブリンがやってきて、手に持ったカップをずいっと彼女へと差し出した。
 勢いで少しカップからお湯がこぼれるが、それは気にせず両手でカップをとると、ゴブリンは不機嫌そうに来た道を戻っていった。
(まだ、怒ってるんだろうなぁ)
 小さくため息をつきながら、カップの縁に口をつける。
「っ……!」
 含んだお湯が想像以上に熱かったのか、小さな声をあげた。

「すぐにステッピーの機嫌もなおる。だが、お嬢ちゃんの行動にも問題があるのだから、お互い様だな」
 ぐいっとカップの中身を飲み干したガルカが、口元を吊り上げながら言った。
「彼女には、悪いと思ってます。ただ、つい……」
「まぁ、そんなものだろう。獣人といきなり目があって、和気藹々と話せるような時代でもない」
 焚き火の中に入れた羊の肉を木の枝で突いて、焼き加減を確かめながらガルカは言葉を続けた。
「しかしな、すべての獣人を悪と決め付けて対峙する時代でもない」
「え?」
 意外な言葉を聞いたシルエラは、少し驚いた様子で顔をガルカの方へとむけた。
「今は、昔とはだいぶ勝手が違っている。
 二十年前のクリスタル戦争の時など、ゴブリンであろうが獣人はすべて憎むべき対象となっていた。
 出会った側から命を賭けた戦いがはじまり、やがて敗者は命を散らす。それが同族間でも起こっていた時代だからな」
 恐ろしい話だよ、と付け加えて、木の枝で羊の肉を刺し貫いて、大きめの葉っぱの上へと乗せた。
 良い焼き加減の肉にブラックペッパーを軽くまぶして、それをシルエラの前へと差し出す。
「腹も減っているだろう。食っておけ」
「え、でも、そんな……」
「遠慮するような身体か。食える時に食う、それが冒険者の鉄則だとヒュームに聞かされたが」
 シルエラは困ったような顔で、何度もガルカと肉に視線を泳がせる。
「これでは、あなたの分がありません」
「ん? 俺の分なら……ほれ、ここにある」
 そう言って、鞄の中から生の羊肉を取り出して、なんとそのまま頬張ってみせた。
 さすがにそれにはぎょっとして、シルエラはもごもごと動くガルカの口から視線が離れなかった。
「おまえたちは、肉は焼かんと食えんのだろう。生の味を知らんのは悲しいことだなあ」
 もごもごと味わい、やがてゴクリと飲み込んだ。
 満足といった様子の顔を見て、シルエラは苦笑しながら目の前に置かれた焼かれた肉を頬張りはじめた。

823 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/03(木) 05:07 [ E2gx44m. ]
 (2/3)

「ところで、お嬢ちゃんは何故あんなところに?」
 二つ目の生の羊肉をぺろりと平らげたところで、野性的なガルカはようやくその質問をした。
「ええと……」
 言われて、どうしたものかとシルエラは少し悩んだ。
 オークを助けました、などと言って、ああそうですか、と普通に受け止めてくれるひとがそうそういるだろうか。

 ――でも、このひとになら……。

 ちらりと、少し離れたところで湖に向けて釣り糸を垂らしているゴブリンの姿を見やる。
 いまだに怒っているから距離をとっているのか、それともただ暇だからああしているだけなのか。
 あんなゴブリンと一緒に旅をしている彼にだったら、話してもいいかもしれない。
 彼女は、視線をガルカの彼に戻し、ようやく口を開いた。
「少し長くなるのですけど、実は――」

 そう言って、覚えている限りのことを彼に話した。
 ゲルスバ遠征のこと、自分がサンドリア所属の白魔導師だということ、
 部隊とはぐれてオークと出会ったこと、オークを看病したこと、そして――同族に斬られたこと。
 じっと聞いているガルカは口を挟むこともなく、静かに彼女の言葉に耳を傾けていた。
「――で、今に至るわけです」
「なるほど」
「こんなことをしたと知れたら、サンドリアは許してはくれないでしょうね」
 声を落とすこともなく当の本人は、はは、と頬を掻きながら、まるで他人事のような素振りを見せるだけだ。
「確かに」
 言葉少なに相槌を打ちながら、ガルカの男はカップに再び注いだ白湯を飲み込んだ。
 ふう、と一息ついて、ガルカは言葉を続ける。
「俺たちが日々、戦っている敵を助けるのは、人間すべてに対する裏切り行為だろう」
 シルエラは、鋭い棘がぐさりと刺さった気がした。
 彼の言うとおり、彼女のとった行動は善と称する人間から見て取れば、裏切り以外の何物でもない。
「だがなあ」
 また白湯を飲み、一息ついてから言葉を繋げる。
「俺は、お嬢ちゃんがとった行動は、悪いことじゃあないと思うがね」
 とてもガルカが浮かべるとは思えない穏やかな笑みで、シルエラに答えた。
「……え?」
「言っただろう? 今は昔と比べて勝手が違っている、と。
 獣人を一方的に憎んで殺す時代は、とっくに終わっている」
 カップの底についた僅かな水滴を見つめながら、ガルカはそう言った。

824 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/03(木) 05:08 [ E2gx44m. ]
 (3/3)


 やがてガルカは立ち上がり、相棒のゴブリンの名を叫んだ。
「出発するぞ」
 それだけ言われて、ゴブリンは飛び跳ねて釣り竿を折りたたみはじめた。
 釣り針にザリガニを引っ掛けているが、それもまとめて荷袋の中にしまいこむ。
 いそいそと身支度をはじめた彼女を見て、ガルカも止めていた手を動かす。
「俺たちは訳あってジュノを目指している」
「ジュノ……」
「そうだ、大陸と大陸との中間に位置し、人間も獣人もある程度は関係なく共存する都市」
 驚きを隠さず、シルエラは問い返した。
「人間と、獣人が……?」
 問いに、ガルカは短くああ、と頷いて答える。
「お嬢ちゃん。あんたは、そのオークを助けたことを悔やんでいるのか?」
「後悔は……これっぽっちも」
 眩しいものを見るかのように目を細めて、微笑みながら言葉を返した。
 その顔は、本当に後悔などないというかのようである。
「それなら、なにを悩む必要がある。お嬢ちゃんは、お嬢ちゃんの道を往けばいいだけだ」
「私の道、ですか……」
 荷袋の紐をきつく締めて、担ぎ上げるのと同時に、相棒ががちゃがちゃと音をたててガルカの横に並んだ。
 どうやら、準備は完了したらしい。
「ジュノに腕の良い医者がいる。お嬢ちゃんみたいに獣人にだって普通に接するし、何かあれば助けもする」
 最後に焚き火を足で踏みつけて、火をかき消す。
「俺たちは、ジュノにいく」
 もう一度、念を押すようにガルカは言う。
 それはまるで――

「――あの」
 いまだ靄がかかる森の中へ踏み入ろうとする二人の冒険者を、シルエラは呼び止めた。
 片方の大男は、待っていましたとばかりに長身の娘へと視線をやる。
「どうせ国には戻れない身です。ですから……」
 娘が羽織った肩幅の大きいマントが、そよ風に揺れる。
「だから?」
「私も、一緒にいかせてはもらえないでしょうか」
 決意をこめた瞳で、はっきりと言った。
 言葉をしかと聞き届けたガルカは、考える間もなく、
「そんな格好でか?」
 と言って、ゴブリンの後頭部を小突いた。
 何もない宙に視線を泳がせていたゴブリンは、一瞬何事かと思ったようだが、
 すぐにその意味を理解して荷袋の中からあれやこれやと取り出していく。
 そんな物が小さな荷袋のどこに入っていたのか、
 細長い木の杖や薄汚れた衣服の上下一式を取り出すと、ゴブリンはせっせとシルエラの許へと駆け寄ってきた。
 手渡された物とゴブリンとガルカにそれぞれ視線を移しながら、シルエラは少しだけ思考が停止していた。
「冒険者なら、それらしい格好をしないとな」
 “冒険者”という言葉を聞いて、シルエラは顔を輝かせた。
 そう、彼女はこの瞬間、“サンドリア王国に属する白魔導師”から、“冒険者の白魔導師”となったのだ。


 →続く

825 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/03(木) 14:21 [ Xj9JjolE ]
慈悲をキターーーーーー

ってか、そんな朝早い時間からご苦労様です(;´Д`)ゞ
体は大事にね

826 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/04(金) 02:01 [ 8ZYwmfRg ]
慈悲をキテルーーーー

マイペースで構いませんので、最後まで続けてくだせい。

827 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/04(金) 02:12 [ 5bTXpqlI ]
 慈悲を

 第十話「遺言」
 (1/3)

 木陰で身なりを整えたシルエラは、もはや一介の冒険者に過ぎない身分となっていた。
 しかし、その顔はとても晴れやかだった。
 その姿にガルカは満足そうに頷き、ゴブリンは興味がないようで顔を引っ込めた陸ガニの甲殻を太鼓のように叩いていた。
「さぁ、発つとしようか。ジュノまでは、長い旅になる」
 暇そうに遊ぶ相棒を呼び、手に持つ長大な槍を杖代わりにして歩きはじめる――はて、何か忘れているような?

「……あ」
「む?」
 足を止めて、ガルカは何事かと振り返る。
「そういえば、お互いに名前も名乗っていませんでしたね」
「おお、そうか。何か大事なことを忘れていると思ったが、そのことだったか」
 心底納得した、という表情を作ってみせる。
「私は、シルエラといいます」
「俺の名前は……フォーリング・ロックという」
「落石、ですか。……変わった名前ですね」
 率直な感想を述べて、フォーリング・ロックは、はは、と笑ってみせた。
「まぁ、ヒュームがつけた名前だからな。自分では気に入っているんだがなあ」
 むう、と腕を組んで困ったような表情を作る。本当に困っているのかは、謎であるが。

 すぐ横に並ぶようにして立っていたゴブリンに気がついて、その頭に大きな掌をぽんと乗せる。
「あと、こいつは」
「たしか……ステッピー、でしたっけ」
 少し前の記憶の糸をたどって、彼女――外見だけではまったく判断できないが――の名前を思い出す。
「ステッピー、旦那がつけた。ステッピクス、本当の名前」
 まるで自慢でもするかのように、胸を張って答えた。
「こいつとは奇妙な縁で繋がっているようでなあ。
 いろいろあって、今ではこうして共通の目的のために一緒に行動している」
「共通の目的……ステッピクスもジュノへ?」
 ステッピクスは大きく頷く。
「ステッピクス、ジュノに知り合い、いる。知り合い、鞄直す職人」
 そう言って、荷袋をがさごそと漁って、小さな鞄を取り出す。
 鞄の底らしき部分には大きな穴が開いており、とても鞄として機能はしなさそうな物だった。
「それを、そのひとに直してもらうのね」
 ステッピクスはその通り、と言わんばかりにさらに大きく頷いた。
「それぞれ目的のある旅だ。そして、油断ならない長旅でもある」
 足を進む方向へと向け、荷袋を担ぎなおしながら続ける。
「戦い方も、野外での動き方も、その場その場で教えよう。いずれ、誰しもが必要とするかもしれない能力だからな」
 にやりと笑いながら、フォーリング・ロックは止めていた足を動かした。
 その姿を見失わないうちに、小さい女と大きい女の足も駆け足で動き出した。

828 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/04(金) 02:13 [ 5bTXpqlI ]
 (2/3)

 彼女にも目的がある。
 フォーリング・ロックから聞いた医者に会うということ。
 獣人を忌むことなく、平等の生命として捉えることができるそのひとを、彼女は一目見てみたかった。
 彼女がゲルスバでとった行動と同じことをする、同じことができるひとがいることが、嬉しくてならなかったのだ。
 その目的が達成された後のことは、今はまだ考えてはいない。
 もしかしたら、先行く彼の言うとおり、野外で生きる術を学び、そのまま冒険者になるのもいいのかもしれない。
 だが、彼女の脳裏にはある獣人の顔が焼きついて離れない。
 人間と同じように傷つき、苦しみ、仲間のために立ち上がるその獣人の姿勢は、
 彼女が思っていた獣人への偏見をいとも簡単に取り去っていた。
 その時の光景が、脳裏をよぎる。


「状況は悪い、か……」
 真っ赤な身体をした、しかし白い包帯で至るところを巻かれた獣人は、洞窟の外をちらりと見ている。
 視線の先には、その彼と似たような――まったく同じにも見えるが――獣人が大勢いて、すべて逃げている。
 集団を追うようにして、その後ろから鎧を身にまとった見慣れた長身の騎士たちが駆けてくる。サンドリアの騎士たちだ。
 心のどこかでは、ああ助かった、という想いがある。
 しかし、そんな想いは目の前の獣人の表情を見たら消し飛んでしまった。
 歯を食いしばるように口を重く閉ざし、包帯に巻かれた拳は洞窟の岩壁が受け止めていたが、包帯の各所が赤く滲んでいる。
 傷口が開くほど拳をきつく握って、彼は――悔しがっているのだ。
 その時、彼女は確信した。

 ――ああ、獣人も人間と変わらないじゃない。

 獣人は人間とは違う。冷酷で残忍で凶悪で――
 幼い頃から獣人のことをそう教わってきたせいか、いつの間にか偏見の目で見ていたのだ。
 歴史書を開けば、人間は獣人に苦しめられたのだから、これは当然の報いとばかりに人間は獣人を意味もなく憎み、殺していく。
 それが繰り返される“原因”は獣人にある、と書物は教え、人間は学んでいった。

 大きな間違いではないか。
 現に、目の前の彼は苦しんでいる。
 仲間の死に悲しみ、打ち震え、怒りが込み上げているのが一目でわかる。
 人間が苦しむ姿と獣人が苦しむ姿は、そこに何の違いがあるというのだろうか。
 歴史書のいう、繰り返される“原因”というのは、獣人ではない。ましてや、人間でもないと思う。
 もっと深いところにある、もっと邪悪なものではないのか。
 それが何かは、彼女にはわからなかったが。

 この瞬間、彼女は獣人を同じ存在として見れるようになった。

829 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/04(金) 02:13 [ 5bTXpqlI ]
 (3/3)

 風が耳元を駆け抜けて、シルエラの意識は現実に戻された。
 気がつけば、ロンフォールの森林地帯が終わりを見せている。
 木々のむこう側に、大きな国旗が取り付けられた小さな拠点が垣間見える。
 それは、彼女にとって見慣れた土地が、そこで終わることが告げられていた。

 と、その時、再び耳元に強い風が吹きぬけた。
(……え?)
 聞こえたのは、強い風の音ではない。
 いや、確かに風の音は聞こえた。聞こえたが、その中にとても小さな声があったのに気がついたのだ。
 思わず振り向いて、見えない風の行方を追う。
 もちろん、その行き先などわかるはずがない。見えるのは靄が晴れた緑色の木々だけである。
 シルエラの様子に気がついて、フォーリング・ロックは足を止めた。
「む、どうした?」
「――あ、いえ、なんでも」
 慌てて前をむき、心配するフォーリング・ロックの横を駆け足で通り過ぎる。
 ふむ、と腕を組んで考えるような格好をしながら、彼女の後をゆっくりと追った。
 彼の横を歩くステッピクスの頭に掌を置いて、髭のない顎を軽く指で掻く。
「亡霊が遺言でも届けにきた、か……」
 すれ違い様に見た彼女の目が潤んでいるのを見て、囁いた。


 風に乗ってやってきたそれは、まさに遺言と呼ぶのが正しいのだろう。
 その中に想いのすべてが詰まるという、人間たちが使うものだった。

 遺言は、シルエラの耳元にいまだに形を残していた。
 形を言葉にすると、こうなる。威圧感さえこもるようなとても低い声で――

 ――慈悲を、ありがとう――


 完

830 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/04(金) 02:26 [ 5bTXpqlI ]
 あとがき

 最初に、ごめんなさい(汗
 4月頃から、パソコンが壊れてデータ全部なくなったり、引越しだなんだでごたごたしてたので、
 結果、書き込むことができなくなったりで、これだけ書き込みペースが落ちてました……。
 なんとか周囲が落ち着いたので、こうしてササッと書き上げてしまいました。

 実は8〜10話はすべて合わせて一話だったのですが、あんまりにも長すぎたために割合させてみました。
 いやはや、最後のお話だけ妙に長くなってしまいます。
 一応、彼女らのお話はこれで終わりで、続きなども書こうとは思っていません。
 そんなわけで、最後まで見ていただいた方、どうもありがとうございました。
 また何か書いたら、戻ってきたいと思います。

 では、駄文失礼しました。

831 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/04(金) 17:29 [ cHwxHgF6 ]
>>830
モツカレ (* ̄・ ̄)ノ旦~~ オチャドゾ

832 名前: セイブ・ザ・アワー・ワールド 投稿日: 2004/06/04(金) 20:12 [ JxDgXwFg ]
 陳腐。「腐」った物を「陳ずる」、つまり並べ述べるという意味です。まあろくな字面ではありません。腐った
肉が並んでいる様子を説明したところで、気持ち悪いだけです。釣餌としてもさっぱりですし。
 ただ、これは常々から思っているのですが、陳腐であるとかパクリであるとかカブるということ、そういうこと
をそれ自体として悪と見なす風潮。これはいただけませんね。オリジナルであるという事それ自体に価値は無い。
完全自作だろうがなんだろうが、面白くないものは面白くないのです。同様に、面白いものは面白い。パクリだと
してもです。
 そうはいっても「ああこれはあれのパクリだな」「直前の人とかぶってるよ」と、そう考えることが面白さを損
なうことは事実。だからせめて我々は云わば<保険>としてオリジナルを目指す――元ネタが存在しないパクリなら
そこに面白さを損なう要素はない―――のですが、そうした努力にも関わらず、しばしば物語は自然と陳腐になっ
てしまうことがあります。これは物語というのが作者の思想や好みや主張が直接に現す、または「現すために書か
れる」のだから仕様の無いことです。幾らなんでも、オリジナルの思想を持てというのは世紀の天才でもないと無
理な話ですから。
 だから、少なくとも思想面においては物語というのは99%被るようにできているのです。にもかかわらず我々が普
段読み漁っている物語は間違いなく面白い、これは「陳腐」であることが面白さを損なわないという証明と判断し
てもいいでしょう。
 
 つまり要するに、>>797さんは間違っていないということです。遅レスですが。

 他の作品読んで「カブってる」と身もだえする私の駄文もどうぞ(普通のアドレスにするの諦めた)
ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワー・ワールド
 
 つまり要するに、>>797さんは間違っていないということです。遅レスですが。

 他の作品読んで「カブってる」と身もだえする私の駄文もどうぞ(普通のアドレスにするの諦めた)
ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=セイブ・ザ・アワー・ワールド

833 名前: セイブ・ザ・アワー・ワールド 投稿日: 2004/06/04(金) 20:13 [ JxDgXwFg ]
ふかわかよ!(自己つっこみ)

834 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/07(月) 00:26 [ uPI7puAA ]
ファッキンエレファン


〜ミセス・アンダーソンの恋〜


「・・・・クソッタレ。」
今日はこの台詞しか吐いていない気がする。

はじめは、朝食に目玉焼きを作ろうとして割った卵が腐っていた時だ。
悪臭が部屋を覆い、目覚めから嫌な予感がしたんだ。
「クソッタレ。」

部屋の空気を正常にするため、窓を全開にして、昨日届いた手紙を読んだ。

 今週の土曜の便で帰る。久々の飛空艇だ。
            
                ジャミール

ジャミール。まさかこんなに早く帰ってくるとは思わなかった。
「クソッタレ・・・・。」
頭を抱え、やっとの思い出吐き出した。
あと3日ある。そう考えればまだ希望はあった。
気を取り直し、俺は悪臭の漂う部屋を後にした。

まず、必要なのは仲間だ。
放浪娘のフェンは、既に当てにしていない。
とりあえず酒場で歌っているはずのミッシェルに会いにいった。

  本日 定休日

看板に掛けられた文字。
「くそったれ!!」
思いっきりドアを蹴飛ばしたが、ドアはびくともしない。
うずくまり、硬いドアの抵抗を受けて腫れた足を撫でて呟く。
「くぅそったれぇ・・・・ぐすん。」

「ジャッくん。」
後から声がかかった。
「フェン?!おまえ、今日はジュノにいたのか。」
頭を左右に揺らしながら、フェンが怪しく近づいてきた。
相変わらず訳のわかんねぇ奴だった。
「あれでしょ?ジャミへのプレゼントとりにいくんでしょ?」
俺はうなずいた。
「アストラルリングを取りにいくんだ。手伝ってくれよ。」
駄目もとで聞いてみた。
よく考えば、フェンとはジャミール繋がりでの知人であり、元々こんなお願いをするのは筋違いだったんだ。
だけど、帰ってきた返事は意外だった。
「いいよ、もちろん。ジャミの喜ぶ顔が目に浮かぶよ。」

835 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/07(月) 00:26 [ uPI7puAA ]
知り合いのシーフの情報では、オズトロヤ城と呼ばれるヤグードの根城に、その指輪はあるはずだった。
宝の鍵も既に持っている。あとは開けた宝箱に、アストラルリングが入っていることを願うだけだった。
「くそったれ・・・。」
俺とフェンは、オズトロヤ城の地図を持っていなかった為に、道に迷ってしまった。
近くにいたヤグードたちは、粗方始末した。援軍を呼ばれる心配も当分は無かった。
「しゃあない、すこし探索しようぜ。」
俺の声に、フェンはまったく耳を貸そうとしなかった。
迷ったのもある意味・・・いや全面的にこいつのせいでもあったのだが・・・・。
勝手に歩き回って、俺はそれに着いて行くことしか出来なかった。
「うーん・・・赤・・・・消すなら白?」
訳のわからないことを吐いている・・・。
くそったれ・・・。

「ジャッくん!こっち!箱あったよ!!」
フェンの声が響いた。
途中出合いがしらに襲われたヤグードを始末して、俺は声の方向へと走った。
そこには、まだ開け放たれていない宝箱があった。
「よっしゃああ!これでジャミールにプロポーズできる!」
焦りで、鍵穴に鍵がなかなか入らない。
急ごうとするあまり、手から何度か鍵が滑り落ちてしまった。
「くそったれ!」
ようやく鍵穴に鍵が差し込め、ガチャリと鍵を回す。
開けた箱の中には・・・・髪飾りが入っていた。
「まあ、髪飾りでも喜んでもらえるよ・・・・な?」
後を振り向き見上げると、そこには俺に向けられた剣があった。
「どういうつもりだ・・・。」
俺の問いに、フェンの目が憎しみに染まった。
憎悪の対象は俺なんだろう。
「ジャミは私の物だから。ジャッくんにはあげられないの。」
そういうと、剣を振り上げた。
「・・・・くそったれ。」
最後の『くそったれ』を吐いた。
俺の首はまっさかさまに箱の中へと落ちていく。
首を切られても十数秒は意識があるってしってた?
憎らしい笑顔のフェンが、ゆっくりと箱の蓋を閉めた。

終わ・・・・続く

836 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/07(月) 00:27 [ uPI7puAA ]
ごめん・・・・あげちゃった・・・。

837 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/09(水) 12:30 [ tlC7vRvY ]
スレストッパーな話が多いのかな、最近は

838 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/11(金) 04:33 [ d3Yf9UIs ]
一読者ですがウプされた話の所為なのかな?単に書く気が起きないとかじゃ?
自分はウプされる話は大抵読んでまつ。続き待ってるのが沢山(´・ω・`)
皆様いつもありがとう。

839 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:00 [ THbHVlJA ]
プロローグ
洞穴の英雄

とても暗い洞窟の中、光る石に反射して白と黒の甲冑が輝いていた…
ここはベドー、クゥダフと言う2足歩行をする亀の獣人が住む砦である
古来より、相容れない存在として人と獣人は戦いを繰り返してきた。

よく見ると10人前後の男女が暗き洞窟の影で息を潜めている。

「ねぇジフ〜、私帰ったらパンプキンのパイが食べたいわ〜、疲れた時の心を癒すのはあま〜い食べ物ですもの」
白く輝く甲冑を着たヒュームの女性がのほほんとした感じで黒い甲冑の男にささやく。

「わかったよエジルラ、パイでも何でも帰ったら作ってやるから、トイと取り合いするなよ」
黒く輝く甲冑を着たヒューム男性は、ヒュームの女性に優しそうな顔で受け答えしている。

最初に言ったが、獣人と人は戦いあう定めにある種族である。
ここは、その獣人達の砦であり、人が入り込んだら生きては帰れない場所とも言われている。
明らかに危険な場所でのんきに話し合う二人だが、決して馬鹿と言うわけではない。
むしろここにいる10人前後の男女は、国に帰れば庶民の英雄と呼ばれる者達なのである。

特にこの白と黒の甲冑を着た二人のヒュームは、彼らの所属する国バストゥークで
知らぬ者はいないほど名を馳せた有名人である。
黒き刃ジフ、白き盾エジルラ、バストゥークの民は二人をそう呼び英雄と称えていた

この二人がいれば負ける事は無かったのである…今までは…

「ジフ・エジルラもうちょっとは真剣に取り組んでくれ、俺らはこんな所でくたばるのはごめんなんだから」
弓を持った中年の男性が、呆れたように二人の騎士に言う。心の中では、こんな所でいちゃつくなって思っていた。

「はいはい、じゃぁ待ってる息子の為に、ちゃっちゃと終らせて帰りますか。」
「そ〜ねぇ。この辺の雑魚倒したら。さくさく帰りましょう。トイが剣の修行始めたいって言ってたからブロンズソードでも買わないとね」
黒と白の騎士が暢気に答えた直後、異変が起きた。

何をされたのでもないのに、途方もない威圧感を持ったクゥダフが洞窟の奥から出てきたのである
「アルタナの子供達がこんな所に何のようだァ?…まぁよい、余が血祭りにあげてやろゥ」
「余はァ、ザ・ダ・アダマンキングぅ、誇り高きィ、クゥダフの金剛王だァ」

奥まで進んだわけじゃない。ここにこいつがいるはずはない。
簡単なミッションのはずだった、このミッションが終れば、入ってくる金で家族が幸せに暮らせるはずだった
(これを最後に自警団からも脱退し、剣術道場を開くんだ。まだ死ねない、死ぬわけには行かない。愛する子供の成長を見るまでは、)

だが…それっきり、いくら待っても彼らは帰ってこなかったのである、誰一人として

840 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:02 [ THbHVlJA ]
過去の名声

俺は孤児です。両親は死にました。誰もが知ってます、俺は英雄の息子です。

トイ・ロスター、それが俺の名前です。両親はジフ・ロスターとエジルラ・ロスターといいます。
バストゥークという国ではかなり有名だったらしく、昔は冒険者をやってたそうです。

両親は、元冒険者達が集った自警団にいました。そのミッション中、ベドーという砦で命を落としたようです。

俺は幸せ者です。両親は亡くなりましたが、英雄の息子には皆親切です。将来もきっと期待できます。
なんせ俺は英雄の息子なんだから…



昔はすごく幸せ続だったと思う、暗黒騎士の父親、ナイトの母親の間に生まれ、両親は英雄と呼ばれる人間だった。
暗黒騎士の父親は、その職業に似合わず優しい人間で、特技は料理といった変わった人であった。
ナイトの母親は、父に比べると厳しい所もあったが、彫金が得意で俺に色々なアクセサリーを作ってくれていた。(俺男の子なのにね)

愛する者を守れる人間になりなさい。それが両親の口癖だった。今考えると聞いてるだけで紅くなるような台詞だが
父は母を、母は父を守ることが出来たのだろうか・・・


「ご主人様〜何黄昏てるクポ〜?そろそろ修行に行かないといつまでたっても冒険にいけないクポよ〜」
黒い羽をパタパタはためかせながら1匹の獣人が俺に話し掛ける、
彼らはモーグリ族、まん丸とした白い獣人で人間達と暮らすことを望んだ唯一の獣人である。

「あいあい、いってきますよー、お留守番まかせたぞトゥック」
俺は冒険者登録した時に支給されたオニオンソードを片手に外へ飛び出した
「元気で行ってくるクポ〜♪」
後ろでは、冒険者登録をした時に俺のお世話係になった、モーグリのトゥックが小さい羽と小さい手を懸命に振っていた

両親が亡くなったことを聞かされてから、俺は両親の後を継ぎ、冒険者になる事を決めた。
周りの人達もこぞって賛成し、新たな小さき英雄の誕生を心より祝ってくれた。
それもそうだろう、俺は白と黒の騎士を両親に持つ、俺の体には騎士の血が流れているのだから

冒険者登録をし、騎士の試験をうけるまでは剣の技術を鍛えようと、戦士で登録を済ませ、オニオンソードを手に入れた
並み居る獣人を倒し、その手に栄光をつかむ、俺にはその力がある…はずだった…

841 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:03 [ THbHVlJA ]
過去の名声2


「おい、英雄トイ様がきたぜぇ〜、今日はミミズぐらいは倒せるといいなぁ〜」
「無理無理、こいつの剣じゃリトルワームにだってあたんねぇって〜、とっととジョブ変えろって感じだよな〜」
突然声をかけてきたのは、同じ時期に冒険者になったヒュームのグリスとラムダ、ガルカのパワービーストである。
冒険者になった時期は同じなのにトイに比べると彼らは獣人と渡りあえるレベルになっていた

「トイ様〜、うちらもうダングルフの涸れ谷行ってるだけど〜、命の保証いらないなら来る〜?」
「やめとけよ、足手纏いはいらねぇって、親の七光りなんて獣人に通用しないんだから、ハハ」
グリスとラムダから口々に飛び出す罵声、パワービーストは無口なれど見下した視線を俺に向けてくる。

悔しさに涙がでる、が自分に反論することは出来ないのだ、親の七光りしかない自分には、

人には才能がある。剣を使う才能、拳で戦う才能、魔法を使う才能、色々あるが俺は何の才能も無い人間だった
剣を振っても当たらない、拳で殴ると手が怪我をする、魔法を覚えようとしても頭に魔法が入ってこない。

そう職業を変えてみた事が無いわけではないのだ、だがどの職業も人並み以下だったのだからしょうがない。
今日も俺は当たらない剣を振りに行く…

842 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:04 [ THbHVlJA ]
人生の転機

人の噂が流れるのは早いものである。
1ヶ月近くたってもミミズ一匹倒せないだめな冒険者がいる、という噂は町に広がっていった。
当然俺のことである、黒と白の騎士の息子に才能がないと知って、落胆の色を見せつつも周りの人間は親切だった。が、
それは親を知ってる大人達だけで、自分と同じ年代の子供達には、そんな義理は無かったらしい。
黒の刃ジフ、白の盾エジルラ…その息子は無色のトイと呼ばれた。無色は無能を指すらしい、安直な皮肉だ、センスも無い

同年代の冒険者達にはからかわれつづけたが、俺は剣を振りつづけた、俺にはきっと才能があるはずなのだから…

「ご主人様〜。お父様とお母様の遺品を売りに行くクポか〜?」
トゥックがあきれたようにつぶやく。
「しょうがないだろう、収入が無ければ物を売ってお金を手に入れるしかない。」

住む所は、冒険者になると自動的に支給される。だが、食事は別だ。生きていくには金が要る。
そう…冒険者になってから1ヶ月近くたってもまったく収入が無い為、お金が尽きたのだ。
ミミズ1匹倒せない冒険者に、稼げるあてもない。両親が残してくれた宝石や装備品はいいお金になる

「トゥックがお供できればいいのに〜。残念クポよ〜」
モーグリは、争いを好まない、彼らが人と共に生きるに当たって決して争いに巻き込まないと条約で決まっている。
それでも本気で心配してくれるトゥックに感謝を想い、同時に引け目を感じていた。

今日も今日とて剣を振りに行く、努力は必ず報われる。大好きな父さんと母さんの言葉を胸に今日も今日とて剣を振りに行く。

843 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:05 [ THbHVlJA ]
人生の転機


「よぉ〜無色のトイ〜。ちった〜剣があたるようになったかぁ?」
いきなりの呼びかけに振り向くと、そこには前にも文句をつけてきた中の、ヒュームのグリスがいた。
1ヶ月ちょっとでかなり実力をつけたらしく。鱗のような鎧を身に着けている。

(あんなやつ相手にしても時間の無駄無駄、無視無視)
俺は出発早々やな奴にあったと舌打ちしながら、無視して通り過ぎようとしたが、
次の言葉で俺はキレた。

「英雄の息子は英雄じゃないなんて、ありえないよなぁ?お前の親も実際、他の冒険者食い物にして成り上がった寄生虫じゃねぇの?」
「…だまれぇぇぇぇ!!」
普段はキレる事はまず無い、両親がおっとりした性格を受け継いだのか、そんな両親に育てられた環境のせいか、争いとは皆無だった。
馬鹿げた笑いを漏らしている男を、俺は力いっぱい殴った。許せなかったんだ、父さんの、母さんの悪口を言う奴は。


いつも黙って悪口に耐えていた俺が、いきなり叫び、殴りかかってきたのに驚いたせいか、グリスは一瞬ぼけぇとしてた顔をしていた、
だが、それはたったの一瞬の事で、すぐ我に返ったグリスは真っ赤な顔をして殴り返してきた。

…結果は俺のボロ負けさ、方やコンシュタット平原まで冒険しに行ってる戦士、俺はグスタベルグでミミズと戯れる戦士、結果はあきらかだった。

「てめぇ、弱い癖に俺らより有名でむかつくんだよ。英雄の息子だ?剣もろくに振れねぇ奴は出てくるんじゃねぇ」
倒れた俺のわき腹に蹴りを入れて、男は去っていく。俺はボロボロになりながらも一つの決心を決めていた。

剣じゃだめだ、剣の才能は無いんだ。他の才能を探してきっとあいつらを見返してやる。

844 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:05 [ THbHVlJA ]
職業の選択

「ど…どうしたクポォ〜、ひ…ひどい怪我クポ、モンスターにやられたクポ?」
ボロボロに帰ってきた俺を、トゥックが心配そうに撫でた。
モーグリの手はプ二プ二してやわらい。とても心地よく、そのまま眠ってしまいたい衝動に駆られたが
今はやることがあった。

「ご主人様〜。又、お父様とお母様の遺品を売りに行くクポ〜?」
突然、両親の遺品を探り出した俺に対して、トゥックが心配したようにつぶやく。
今後も一緒に生きていく予定のモーグリだ、俺は自分の決心を聞いて欲しくなって、トゥックに話し掛けた。

「トゥック、俺には剣の才能は無いんだ、俺は自分に合う職業を見つけなくてはならない。」
「その為に必要な物をそろえるんだ。俺は英雄になりたい。父さん母さんよりもより多くの物を掴む為に」
トゥックは静かに聞いていた。そして安堵と不安を浮かべた複雑な表情でぽつりぽつりと俺に話し掛けてきた。

「ご主人様。人は誰でも何にでもなれる才能があるクポ。ご主人様が望んで努力を惜しまなければ、きっと英雄になれるクポ。」
「でも、忘れちゃだめクポ、英雄と呼ばれる人間も、農民が育てた野菜を、料理人が作った料理で食べていかないと生きてはいけないクポ」
「冒険者が着る服も誰かが作っているクポ、モグハウスには何時もトゥックが待っているクポ、決して忘れないでクポ」
「英雄になるのはいい事クポ、でも特異な才能がなくても、普通に生きて生活してる人だって、立派な英雄クポよ。」

トゥックの言葉は俺には理解できなかったようだ。だが、真剣な顔で話すトゥックの言葉は俺の胸に、常に残りつづけた。

845 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:06 [ THbHVlJA ]
職業の選択2


町に出よう、そして自分の職業に合う武器や魔法を探すんだ。
俺は競売、武器屋、魔法屋により格闘武器、短剣、白魔法と黒魔法のスクロールを購入した。
下手な鉄砲も数打てば当たるって言葉があるだろう、そう思っての選択だった。が、結果は全敗だった。

モンクに職業を変えて格闘武器を持ち、ミミズを殴りにいく、うまく扱えず手を怪我をした。
白・黒・赤魔導師に職業を変え、魔法のスクロールを読む。頭に入らない魔法が使えない。
シーフに職業を変え、短剣にてミミズを倒しに行く、片手剣や格闘武器に比べるとよく当たるが…なんかしっくりしない。

冒険者が最初に身に付ける職業は全滅だった。
それであきらめるわけにもいかない、俺は願いをかけつつ、又買い物に出かける。
競売、武器屋、楽器屋、天晶堂で、弓や刀、短刀や楽譜等を購入する。

職業には幾つか種類がある。戦士、モンク、シーフ、白、黒、赤魔導師は誰でもなれる簡単な職業と言われている。
それらの職業を変えるのは、モーグリ達に伝承されている特殊な技(モーグリ族の秘儀らしいが)ですぐ変えることが出来るのだが、
ナイト、暗黒騎士、詩人、狩人、獣使い、竜騎士、忍者、侍、召喚士は、自らの肉体と精神が鍛えられた時に初めてなれる職業と言われている

だが何事も例外はあるはずだ、騎士の子が剣を振れないのだって、例外の一つなのだから

ナイトと暗黒騎士は除外だ、片手剣も振れないのになれるとは思えない。
刀を振る、短刀を振る、弓矢を打つ、歌を歌う、どれもこれも失敗に終った。
思い切ってミミズに話し掛けてみた。うまく心が伝わらないかと…殴られただけだった。

846 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:06 [ THbHVlJA ]
職業の選択2


町に出よう、そして自分の職業に合う武器や魔法を探すんだ。
俺は競売、武器屋、魔法屋により格闘武器、短剣、白魔法と黒魔法のスクロールを購入した。
下手な鉄砲も数打てば当たるって言葉があるだろう、そう思っての選択だった。が、結果は全敗だった。

モンクに職業を変えて格闘武器を持ち、ミミズを殴りにいく、うまく扱えず手を怪我をした。
白・黒・赤魔導師に職業を変え、魔法のスクロールを読む。頭に入らない魔法が使えない。
シーフに職業を変え、短剣にてミミズを倒しに行く、片手剣や格闘武器に比べるとよく当たるが…なんかしっくりしない。

冒険者が最初に身に付ける職業は全滅だった。
それであきらめるわけにもいかない、俺は願いをかけつつ、又買い物に出かける。
競売、武器屋、楽器屋、天晶堂で、弓や刀、短刀や楽譜等を購入する。

職業には幾つか種類がある。戦士、モンク、シーフ、白、黒、赤魔導師は誰でもなれる簡単な職業と言われている。
それらの職業を変えるのは、モーグリ達に伝承されている特殊な技(モーグリ族の秘儀らしいが)ですぐ変えることが出来るのだが、
ナイト、暗黒騎士、詩人、狩人、獣使い、竜騎士、忍者、侍、召喚士は、自らの肉体と精神が鍛えられた時に初めてなれる職業と言われている

だが何事も例外はあるはずだ、騎士の子が剣を振れないのだって、例外の一つなのだから

ナイトと暗黒騎士は除外だ、片手剣も振れないのになれるとは思えない。
刀を振る、短刀を振る、弓矢を打つ、歌を歌う、どれもこれも失敗に終った。
思い切ってミミズに話し掛けてみた。うまく心が伝わらないかと…殴られただけだった。

847 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:07 [ THbHVlJA ]
運命の紅玉

「ご主人様、だいじょぶクポ?疲れきった顔をしてるクポ」
白い物体が空を飛んでくる、心配そうな顔が今日は妙にうっとおしい。俺は一人になりたいんだ…
「暫くほっといてくれ、どっかいってろトゥック」
思いのほか暗く冷たい声が出る…あぁ心配してくれた家族に対して俺はだめな人間だ。
細く先のような瞳から、涙を落とすトゥックを見ても慰める言葉も謝罪の言葉も出てこない。後悔だけはしてるのに…

全てを忘れたい、英雄の両親も、期待をかける知人も、暴力をふるう冒険者も、応援をするモーグリも、全て…全て…
人生の敗北者である俺は布団に潜り、自分と世界を遮断した。

『……さ…して、……い……なた…み…た』
『ぼく…ち………に…る、は…くきづ…て』

夢を見た、変な夢だ、高く美しい少年のような声だったような気がするが、所々霞んで聞き取れなかった。
周りは真っ暗だ、体が動かない、声を出そうとしても声がでない。声のする方に力一杯動こうとした瞬間、俺は目を覚ました。

848 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:08 [ THbHVlJA ]
運命の紅玉2


決断の時は迫っていた、両親の遺品も残りわずか、働かなくてはいけない。
冒険者としての職業が出来ないなら、ギルドにでも勤めるか…
いや、だめだ冒険者を辞めたら、住む所がなくなってしまう。トゥックとも離れなくてはいけない。
昨日は冷たくしたが、俺は白く浮かぶかわいらしい獣人を家族として大事に思っているのだ。

色々思考を巡らしていたら、大慌てでトゥックが自分を呼んだ
「ご主人様〜、大変クポ〜!!これを見るクポォ」
差し出される手を見ると、トゥックの手には紅く丸い宝石が輝いている。この色はルビーかな?
「これがどうかしたのか?」
俺は特に気にしないで訊ねる。彫金の名手であった母は、宝石を沢山所持していたので
特に驚くことは無いはずだが。

「これはカーバンクルの紅玉クポ〜、伝説の宝石だクポ〜、億万長者になれるクポよ〜」
「へ?ただのルビーじゃないの?」
「光に当てて見るとわかるクポ、普通のルビーは光を反射すると紅く輝くクポ」
「まぁ…、そうだな〜、ルビーは紅いし…」
「カーバンクルの紅玉は、光を当てると虹色に輝くクポよ〜!!」

俺は受け取った紅玉を疑心暗鬼に感じながら、明かりのあるほうにかざしてみた。
確かに天上にあるカンテラの光を受けた宝石は、床に虹色の輝きを映し出している。
どうやら母親はとんでもないお宝を、残しておいてくれたらしい。

これで当分は冒険者を辞めず、生きていくことが出来そうだ、俺は早速その紅玉を売りに行くことにした。
ただ高いだけの宝石…その宝石が今後の俺の運命を変えていく。
その時、やっと、俺の運命を司る歯車が回り始めたんだ。始まりを告げるのはポケットに入った一つの宝石。

849 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:08 [ THbHVlJA ]
無能の決断


町を歩く、足取りが軽くなるのは嬉しい証拠、目指すは彫金ギルド。
競売に出す事や、バザーで出品する事も考えたが、伝説の宝石なら価値がわかる人間に売ったほうが金になる。
今後のことを考えつつ、彫金ギルドへ向かう。これで金が入る。…きっと全てがうまくいく

「ちょっ…買い取れないってどういうこと?」
宝石や銀細工が無造作に置かれた机を軽く叩く、
俺は彫金ギルドに来ていた、当然カーバンクルの紅玉を売る為に、だが…
「あのですね、カーバンクルの紅玉は昔から売買が禁止されているんですよ。」
「だから、それはなぜ?」
数人いる彫金師はそれぞれ自分の作業が忙しいのか、面倒くさそうに対応している。
「カーバンクルの紅玉は神獣の魂が宿ると言われています。金銭のやり取りなんかしたら祟られますよ」
「うちとしても、その宝石は加工してこそ価値が出ると思うんだがな、国の条約で決まっているんだよ、売買禁止ってな」
「というわけなんで、ギルドで買い取るわけにはいかないんですよ。お引取りください」

俺は彫金ギルドを後にしながら、今後の想像していた、生活が崩れていく音を聞いた。

どうしよう、このまま帰るわけにはいかない、出掛けにご馳走すると言ってトゥックを喜ばせてしまった。
1ギルにもならないと知ったら、億万長者になれると喜んでたトゥックは落ち込んだりしないだろうか?

850 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:09 [ THbHVlJA ]
無能の決断2


バストゥークの橋から流れる川を見ながら、俺は紅玉を取り出し太陽にかざしてみた。
七色の光が俺の顔に振ってくる。眩しい筈なのに、俺は目を閉じる事が出来なかった。
そして…俺は聞いたんだ、光の中から流れる声を、夢の中で聞いた、あの声を…
『やっと、見つけてくれたね、僕はカーバンクル。僕はずっと待ってたんだ、僕と共に旅をしてくれる人を』
『世界は君の見方だから、僕も君の見方だから、一緒に生きていこう、一緒に歩いていこう。』

白昼夢だろうか?気が付くと俺は橋の真中に座っていた、手にあった紅玉もいつの間にかに消えている。
あたりを見回しても紅玉はなかった、あきらめて帰ろうとすると、バストゥークの門の外から悲鳴が聞こえた。
俺は自分の弱さも気にせず悲鳴の上がる方へ走っていった。

冒険者達の為に、常に開いているバストゥークの門が閉まっている
悲鳴は外から聞こえるがガード達は門を開けようとしない。これは正しい判断である。
外には危険があるとわかっていながら、門を開けると町の人に被害が出るからだ、

ガード達は苦虫を噛み潰したような顔をして、門を眺めている、彼らはバストゥークの平和を守る使者だ
助けに行きたい気持ちが、彼らにあの顔をさせているのだろう。

いつもの俺なら、とっくに逃げているだろう。俺には悲鳴を救うすべは持っていないのだから。
だが、俺は何かに導かれるようにガードの元へと歩いていった。

何をしに行く?何が出来る?俺は所詮一般庶民と変わらないのに。
「すいません、俺を外に出してください。」
死ぬかもしれないのに、死んでるかもしれないのに、俺は何を言っている?

急かす心は英雄の血か?それとも無能ゆえの無謀なのか?自分でもわからない。だが、自分の心は決まっていた
「早く開けて!!外で助けを呼んでいる人が入るんだ!!。」

ガードは俺を最初は止めていたが、黒と白の英雄の息子だと知ると、俺をガード専用の小さな扉から外へ出してくれた。

851 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:10 [ THbHVlJA ]
虹色の神獣

外に出て俺が見たものは3人の冒険者が、10匹近くいる獣人に囲まれてなぐりつけらている所だった
俺は震えが止まらなかった、3人の冒険者は以前俺をからかった、グリス、ラムダ、パワービーストだったからだ。

俺より力も実力も全然強い彼等が、クゥダフの群れに襲われて悲鳴をあげている。
俺じゃ足手纏いにもなりはしない、一瞬の内に殺されるのがかるく想像できてしまう。

外に出るんじゃなかった、彼らを見つけるんじゃなかった。逃げようにも足が竦む。
降り注ぐ恐怖を懸命に払って、ガード専用の扉からバストゥークに逃げようとした、震える足でやっと立った時に、グリスの目がこっちを見た。

「た…けてく…れ……たす…け…………」
能無しと罵った俺に手を伸ばしてくる。届くはずもない、俺と彼らの場所は離れている。
駄目だ、早く逃げなくちゃ、武器も防具も無い、助けてられるはずもない、無駄だ、皆殺される
だが、俺の血が彼らを見捨てることを拒んだらしい、俺は…黒の刃ジフと白の盾エジルラの息子だ、助けを求める人を置いてはいけない。

俺は落ちている石を幾つか取ると、クゥダフに向けて投げつける。
殆どが外れ、1つの石つぶてが1匹のクゥダフに命中した。

やらなきゃよかった、逃げればよかった、石つぶてが当たった1匹のクゥダフがこちらを睨んだ時、本気でそう思った。
後悔先に立たず、その言葉をかみ締めながら襲ってくる1匹のクゥダフに死を覚悟した…がクゥダフの斬撃がいつまでたってもこない、
怖くて目が開けられなかったが、ズズーンと言う何かが倒れる音で俺はソロリと目を開けた。

『大丈夫?ご主人様』
そこには額に美しい紅玉をつけた、青く輝く不思議な獣がいた。そしてその声は夢で聞いた、高い少年のような声だった。
『なにほうけてるの?ご主人様、次がどんどん来るよ。』
そうだった今は考え事をしてる暇なんて無い、仲間が倒された事を知ったクゥダフは一斉に俺に襲い掛かってきた。

852 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:11 [ THbHVlJA ]
虹色の神獣2


『ちょっときつそうだな、ご主人様、一気に蹴散らすから全ての魔力、もらっていい?』
青く輝く不思議な獣は、どうやら俺をご主人様と言っているらしい。が、蹴散らすことが出来るなら何でもいいと思った、

「あるかわからん魔力なんて全部くれてやる、あいつらを倒してくれ」
理不尽な願いだ、俺にはお願いするしか方法は無い。それも小さな一匹の獣に。
『じゃ〜遠慮なく〜』
彼がそうつぶやいた瞬間、俺の体と彼の体が光りだす、力が抜ける…いや、吸い尽くされる感じがした。

『シリアリングライト!!』
そう叫ぶと青く輝く不思議な獣は空高くジャンプをし、額の紅玉がすさまじい光で輝きだした。
光の束…そう、視界を全てふさぐ光の束が全てのクゥダフを一瞬にして倒していく。
光がやむ頃には全てのクゥダフはあたりから姿を消し、残されたのは血だらけで倒れる3人の冒険者と、不思議な力に精神力を吸い取られたヒューム
そして青く輝く不思議な獣が残っていた。

『全ての魔力もらっちゃったから、ちょっと立てないかもしれないけど、すぐ魔力は戻るから安心してね。』
青く輝く不思議な獣は、放心してる俺につぶやいた。っと放心してる場合じゃない彼について聞かねばならないことがある

「お前はいったいなんなんだ?」失礼かもしれないが、それしか聞きようが無い。


暫く…ほんの暫く時間を置いてから、青く輝く不思議な獣はあきれた顔して俺に言った。
『僕はカーバンクル。君と共に旅をする者だって前に行ったじゃん。覚えてないの〜?まったく』
ご主人様とか言ってた割にフレンドリーだな…まぁそれはいいが、カーバンクルは続けてこう告げた。
『ご主人様は、極々稀にしかいない召喚士の才能を秘めてるんだ。人並み外れた魔力がその証拠。これからはずっと一緒だからね。』
言いたいことを言い切ったのかくるりと後ろを向くと。
『まったねー、なんかあったら呼び出して、俺はいつでも君の見方だから。』
そう言って空中に1回転をし、虹色の魔方陣と共に消えていった。

今まで見たこともない獣に言われた言葉は、俺の心の中に響きつづけている。
嘘か本当か分らないけれど、今はそれが真実だと信じたい。
俺は彼の言葉を噛み締めていた、俺には召喚士としての才能がある。

853 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:11 [ THbHVlJA ]
栄光の称号

クゥダフの群れが全て散った事を知ったガード達は、即座に門を開け救助に出てきた。
国に従っている以上、冒険者より民の平和を大事にしなくてはいけない。彼らも辛い立場なのだ

ガードの中に白魔導師がいるらしく、3人の冒険者達にケアルが降り注がれる、俺らは助かったのだ。
「大丈夫ですか?君は怪我はありませんか?」
体の大きなガルカの兵士が俺の事を心配そうに見ている。
怪我をしたわけではないので疲れた精神を休める為、「平気です。」と一言残し、モグハウスに帰宅しようとしていた。

「ちょっと…まって」
突然ガード(今度は女性のヒュームだ)の一人から声をかけられ、俺は声も無く振り向く、実際にダメージは無いのだが、無償に疲れたのだ。
「さっきのあなたがやったの?」
さっきのって事は見てたのだろうか?しゃべる気力も無いので、俺は頷いて答えた(実際はカーバンクルがやったんだが)
「そう、倒れてる冒険者の坊や達が、あなたに何かを言いたいらしいの、聞いてやってくれない?」
早く帰りたい気分もあったが、これ以上引き止められるのもいやなので、話を聞きにグリス達の元へ歩み寄った

「すま…かったなぁ…、おかげで…みん…な助かった……」
「お前…もう無色のトイじゃないぜ…虹色の英雄だ、助けてくれてありがとな」
傷の損傷が激しいグリスと、どちらかと言うと傷が浅いラムダが俺に言った。
パワービーストは何も言わなかったが、傷だらけにの顔を少し歪ませて笑った。
俺は彼らに認められたのだ。

854 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:12 [ THbHVlJA ]
栄光の称号2


小躍りしたい気分だ、俺はついに自分の道を見つけたのだ。疲れも一気に吹っ飛んでいくのを感じた。
黒と白の騎士の息子が、虹の英雄だなんてある意味皮肉かもしれない。

優れた攻撃力を持つ暗黒騎士、優れた防御力を持つナイト
その間に生まれた子供が、優れた魔力を持つ召喚士だったのだから

だがそんなことはどうでもよかった、誰かに認めてもらえる。自分の職業を持てる。
すばらしい事じゃないか、俺はモグハウスに帰ると早速トゥックに今日の出来事を報告した。


カーバンクルの紅玉が売れないと聞いたトゥックは、
「ご主人様をぬか喜びさせてしまったクポ」と涙目になっていたが、

俺が自分の職業を見つけたこと、そしてその力で人を救うことが出来たと知ると、
「本当によかったクポ、これでご主人様も一人前の冒険者だクポ、トゥックは嬉しくてしょうがないクポ」
と今度は大粒の涙を流しながら、俺にしがみついてきた。

その時、俺はやっと気が付いた。冒険者になって一番嬉しく思えるのは、トゥックと出会えたことだったんだ。
喜びを分かち合える本当の家族がいたことが…。自分を理解してくれる家族がいる事が…

855 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:12 [ THbHVlJA ]
冒険の目的

俺が召喚士の能力に目覚めてから1ヶ月が過ぎた、俺が召喚の能力に目覚めた時はすごかった
新たなる虹色の英雄を称えると、バストゥーク商業区に住む人が集まった。
カーバンクルが前に言ったように、召喚士は極々稀にしか生まれない。特殊な職業と言われている
その膨大な魔力は、もっとも魔力の強い黒魔導師よりも強いと言われている。
まだ一握りしか召喚士の職業についた人はいなく、バストゥークでは俺が始めてだったのかもしれない。

この1ヶ月は色々と大変だった、今までと違い、国の前でミミズを狩る日々は終わりを告げていた。
冒険って程何かを行ったわけではないけど、とりあえずコンシュタット平原ぐらいには探索しに行けるようになったし
常に一人の旅だったが、俺にはカーバンクルがいる。決して一人じゃないんだ。

なんとなく冒険したくてコンシュタットをうろついていた時、一つの遺跡を見つけた。それは世界の謎の一つコンシュタット平原のデム遺跡だ。
俺はカーバンクルとデムと呼ばれる遺跡で休憩している。

遺跡といっても特に何もあるわけでもない、白い不思議な鉱石で出来た巨大な置物だ
入り口が無いので入ることも出来ないし、デムのクリスタルと言われる巨大なクリスタルが
遺跡の四方に浮かんでいる。不思議な遺跡だった。

『だいぶ僕の扱いにもなれてきたようだね、ご主人様』
青く輝く不思議な獣、カーバンクルが俺に向かって語りかけてくる。
「まぁねぇ、でももうちっと燃費よくならんもんかねぇ」
『しょうがないよ、僕がこっちに存在する為にはご主人様の魔力が必要なのだから』

856 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:13 [ THbHVlJA ]
冒険の目的2


召喚士は疲れる職業である。常に魔力を召喚獣に注いでないと維持できないのである。
その上、召喚獣特有の力を使うと、更に魔力を吸い取られるのだ。
元々彼は、俺のいる場所に来てる訳ではない。別の場所から意識を飛ばした思念体みたいな物らしい
その形を持たない思念体を、召喚士はその魔力にて、姿形を形成するのだ。

召喚獣を維持するには、常に一定量の魔力を放出しつづけなければいけない。
白魔法や黒魔法のように、一度に沢山の魔力で効果を表すことは、召喚獣特有の力を使う時意外無いのだが、
常に魔力を吸い上げられるのは、少量とはいえかなり疲れるのである。

『そういえばさ、ご主人様の旅の目的って何?聞いてなかったような気がするんだけど』
ふっと思い出したように聞かれる。そいや何が目的だろう?英雄になる事?漠然としすぎかな
今日、コンシュタットに来たのだって、なんとなく冒険してみたかっただけだし。

「有名になる事かな〜。色々やって名声とか上げたいし。」
『目的を決めてないなら、僕の仲間達を探す旅にでない?種族は違えど強い力をもった神獣達だよ』

俺はカーバンクルから世界に潜む力の持ち主について聞いた。目から鱗が落ちるような話だ。
場所やその力を教えるのは、仲間に対するタブーだったらしく、詳しくは教えてもらえなかったが。
話の中に出てくる召喚獣達の名前は、神話の中にいる神や獣達だったのだ。

ちなみに場所は、自分で各国や町で情報を入手し、自分の足で見つけろとのこと、…面倒な話である。

早く出会いたい、話をしてみたい、俺の目標は英雄になる事、それは今も変わらない
だが、もう一つ目的が出来た、世界に潜む神獣達と出会う。それが俺の新しい目的だった。

857 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:14 [ THbHVlJA ]
種族の確執

後悔先に立たず、以前に思った言葉だ。成長のない俺は、又この言葉を噛み締めながら走っている。
まさか、魔力が切れて召喚魔法が使用できない時に教われるなんて。
(こんな事なら、もっと安全な所で休むべきだったな)…時すでに遅すぎである

コンシュタットのデム遺跡で少しカーバンクルと話をしてた、話してる間に魔力を消耗したらしく
会話の最中カーバンクルの姿が掻き消えてしまった。まぁ、ゆっくり休んで、魔力を回復し、再度召喚すれば
なんて事はない…がしかし、気楽に歩いてる時に、まさかゴブリンに出会うなんて…

「おれ…肉売る…材料集め来た…お前の肉売る」
ゴブリンが全種族共通の言葉を話し、片手剣を振り回して追って来る。理由は簡単、俺を殺してその肉を売るのだ。
彼らはゴブリン・ブッチャーと呼ばれるゴブリンの肉屋だ、扱う肉は、羊肉から人肉まで幅広い…当然食材は現地調達だ。

「はぁ、はぁ、はぁ」何分走っただろう…全力疾走してるにもかかわらず、ゴブリンは引き離せそうにない。
彼らのもっとも尊敬すべき点はその執念だろう。彼らに自分の存在がばれるとどこまでも追って来る。
いや追って来るだけならまだいい、彼らは仲間意識が強く、こんな姿を別のゴブリンに発見された日には
集団で追ってくることだろう、それなら1匹のうちに仕留めたほうがいいか?俺は覚悟を決めると腰から
小さな短剣を取り出しゴブリンに向かっていった。

無力とはこの事だろう思う、さっきまで自分の呼び出したカーバンクルが簡単に倒していたような相手なのに、
俺はゴブリンと戦いすぐに敗北を感じた。このままやっていったら確実に死ぬ。それは戦った瞬間にわかった
小さな短剣を振り回し、必死にゴブリンを牽制する。が、長くは持ちそうもないと思った時、遠くから投げられた刃物がゴブリンを襲った

見事に急所に当たったのだろう、ゴブリンが力なくその場に倒れる。俺は安堵を感じつつ力無くそこに座り込んだ。

858 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:14 [ THbHVlJA ]
種族の確執2


「お〜い、だいじょぶか〜?」
動く山…じゃない、刃物を投げた場所から現れたのは、拳法着という東洋に伝わる服を着た大きなガルカの青年だった。

ガルカ族:全ての種族の中で、唯一転生をいう独特な生態系を持つ種族、寡黙な人間が多いが、怒らせると手が付けられない種族でもある
主にバストゥーク国に住み、魔力は少なく、肉体が他の種族より発達している。転生を繰り返す種族なせいか、性別は無い。

「怪我ないか?なに呆けてるんだ?」
おっと…ガルカ族について考えてたら、ボケッとしてしまっていたようだ。心配そうな顔をしたガルカの青年が見つめてくる。

「こんな所を一人で歩いてると危ないぞ、見たところ魔導師のようだが…」
「あ、危ない所を助けてくれて、ありがとう。」
「いや、旅の途中だったから構わないんだけどな、魔導師なら護衛をつけないと危ないだろう。」

ふむ、彼の言うことはもっともだ、黒魔導師にしろ、白魔導師にしろ、魔導師と呼ばれる人間達は極端に防御力が低い。
魔法と言うものは、かなり集中力が必要で、詠唱中に少し邪魔されるだけで効果が発動しなくなってしまう。
大抵の魔導師は、自分を守ってくれる職業の持ち主を護衛として雇うか、仲間としてパーティーを組む

(自分は召喚士だし必要ないような気もするけどな〜)そんなことを考えてると、焦れたように、ガルカの青年が又話し掛けてきた。
「で、職業は?ここでなにをしてるんだ?」
「職業は召喚士をです。これから各国や町を巡って召喚獣の情報をつかむ予定なんです。」と今決めた事を告げた。
ちょっと前にカーバンクルに言われた台詞だ、召喚獣と契約を結びたければ、世界を巡り彼らの情報を入手せねばならない。

「おいら野暮用で、サンドリアに向かうんだが、魔導師なら一緒に着いて来てくれないかな?一人じゃちょっときつくて」
(突然なに言い出すんだ?このガルカ)まぁ、こんなことを考えるのは許して欲しい。いくら助けてもらったとしても、
いきなり人に頼む内容でない事はわかりきっているだろう。

だがそこでふっと考える。サンドリア、俺が今まで住んでいたバストゥークに比べると規律を重んじたエルヴァーンの国家
ちょっと堅苦しいといわれる国風らしいが、歴史はバストゥークよりずっと古い。神獣達の情報があるかもしれない。

「なぁ頼むよ、あそこまでの道のりはさすがに一人じゃきつくってさ、仲間になってくれそうな魔導師探してたんだ。」
ガルカの青年が大きな体を綺麗に曲げて頼んでくる。これにはちょっと驚いた。

ガルカとヒュームには昔から確執があり、賢い…というか狡賢いヒュームと単純なガルカはその性質から、
バストゥーク国内において、貧富の差が顕著に表れていた。ガルカの中には、ヒューム狡賢い種族として嫌う人間が多い。
又ヒュームの中にもガルカを知性の乏しい種族として嫌う人間が多く、二つの種族は同じ国に住みながら、深い溝が出来ていた。

そのガルカ族の青年が自分に頭を下げているのだ。っとそんなことで一緒に旅をするわけにも行かない。
だが、彼には命を救ってもらった恩もあるし、自分も世界を巡る為にはサンドリアにも行かねばならない。
今後、旅をするには仲間が必要になってくるだろう。考えるまでも無いのである。

「分った、俺もサンドリアに行くよ、これから宜しく。」

859 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:15 [ THbHVlJA ]
砂丘の幻影

「お〜いら、闇の暗殺者〜♪黒い闇に潜む影〜♪決して姿は晒しちゃいけない♪それが闇の暗殺者〜♪」
「お〜いら、影の暗殺者〜♪夜の色に染まる影〜♪姿みたなら生かしちゃおけない♪それが影の暗殺者〜♪」

鬱である。俺は…正確には俺達はだが、現在バルクルム砂丘と言う場所にきている。…初めて出来た仲間?と一緒に
初めて砂丘に着た時は、確かに感動した。コンシュタット平原に比べると当たり一面、砂・砂・砂である。(しかも熱い!!)

まぁ、砂丘が熱いのはどうしようもない。ここを越えなければサンドリアに続くラテーヌ平原に出られないからだ。仕方が無い。
だがしかし、さっきから馬鹿でかい声で、同じフレーズの馬鹿みたいな歌を、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰りかえ……
歌いつづけるガルカをどうにかしてくれ。俺は、彼を旅の相棒とした事を、早くも後悔していた。(最近は後悔ばかりだ!!)

ガルカの名前はラザン、職業は忍者らしいのだが、彼に暗殺者としての職業があっているとは微塵も思えない。
というか、ガルカがあんな変な歌を歌うか?普通。…彼にとってはあれが普通らしいが…、まぁ下手に暗い人間よりかはましか。
などと、少しでもいい方に考えようとしている自分がいる。

コンシュタットでラザンに出会った後、一度バストゥークに二人で戻り、旅の準備と家族への挨拶を済ませてから今に到る。
ラザンが急かして、トゥックとの挨拶もちゃんと出来なかった事が悔やまれるが、冒険に出る事は喜んでくれてた見たいだしよしとしよう。


「なぁ、トイ 今日はカー君は出さないのか?」
歌がいつの間にかに終了したらしく、ラザンが俺に問い掛けてくる

「あぁ、用も無いのに呼び出してばっかじゃ、あいつも嫌がるかもしれないからねぇ。」
ラザンはカーバンクルがお気に入りらしい。彼に会ってから、初めて召喚した時、ぎゅっと抱きしめて放さなかった。
又、カーバンクルじゃ長いと言って、カー君と愛称まで着ける執着振り。(本人、すごく嫌がってたけどね)
顔に似合わず、体格に似合わず、彼はかわいい生き物が好きらしい。トゥックをラザンに紹介しなくて本当によかった…

860 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:15 [ THbHVlJA ]
砂丘の幻影2


性格云々を抜かせば、ラザンは最高のパートナーだ、と言うか無茶苦茶強い。
今思えば、自分の助けなどまったく必要とせずに砂丘ぐらい越えれるだろう実力の忍者だった。元の職業が戦士だったらしく
厳しい修行をへて、忍者に転職したと言うのだから、強くてあたりまえかもしれない。それでも彼の戦術は見事だった。

まず、空蝉の術と言う幻影を作りながら、さっき歌った歌で敵を挑発し(あの歌を聴くと敵は何故か怒り出す…気持ちはわかるようなわからないような)
次々に幻影を作り出し、短刀で攻撃してる間に俺がカーバンクルを召喚する。そして、全員で敵を叩くと言う作戦だ。

実質、伝説の神獣と呼ばれているカーバンクルは、俺のレベルに力を左右されるらしく、それほど強くは無い。
殆どラザン一人で周囲の敵を蹴散らしていく、と言う感じだ。俺はその応援、カーバンクルはラザンの目の保養って所だろう

ゴブリン・コウモリ達を蹴散らしつつ進む道程は、到底一人じゃ抜けれなかっただろう。

「砂丘は熱いだろ?頭がボーっとするせいかおいらの空蝉の術も敵に効き易いんだ。」
「いや、ラザンと一緒に行く事が出来て助かったよ。」
「はっはっは、そんなに誉めんなよ照れるじゃないか。」
少し誉めると、彼は照れながら大きな手で自分の頭を撫でながら、笑っていた

だが、彼がいなければきっと砂丘で土葬されていた事だろう。沢山の後悔と共に、少し感謝していると言ったら彼は怒るかな?

861 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:16 [ THbHVlJA ]
高原の姫君

砂丘に着いてから1週間後、俺とラザンは無事にラテーヌ高原に出ていた。
そこは、砂丘の熱さはまったく無く穏やかな風と豊かな自然に包まれる優しい空間だった。

「ちょっとティム先生。あたしはウィンダスティじゃなくてサンドリアティが飲みたいの。入れなおしてよ」
「キャス…サンドリアティはもうきれてしまったんだよ。サンドリアに戻るまでウィンダスティで我慢してくれ」
「んもう、まったく先生は役に立たないんだから、もぅだからタルタル族は嫌いよ、苦いお茶なんて飲めないわ」

…美しい風景と優しい自然と穏やかな空気を邪魔する人間を、俺は何度も何度も繰り返した後悔の心で見つめた。

砂丘に入る直前に出会った二人組みの旅人。彼らはサンドリアに帰る途中だったらしいのだが、ラザンが…ラザンがー
っと取り乱してもしょうがない。簡単に説明しよう。

さっきから繰り返しサンドリアティを飲みたいと駄々こねているのが、美しいエルヴァーンの娘でキャスティカと言う。
サンドリアの有名な貴族出身らしく、騎士を目指し修行中らしい。現在は剣の修行の為、戦士をしていると言う。
ただ単に、経験不足なだけのような気もするけどな。(出会った時にキャスと呼べと強制された)

そしてその駄々こねの対象(餌食か?)が、タルタルの青年でティムカポムカと言うらしい。
彼はキャスが騎士になった時に、使うであろう白魔法の基本を教える、お抱え家庭教師との事だ。
職業は白魔導師兼キャスのお守らしい。(こっちはティムと呼ぶようにだそうだ、生徒じゃないから先生はいらないらしい)

師弟…としての関係より、我侭な姫君とそれに付き合わされる哀れな従者と言った所だろう。

まぁ、サンドリアに二人が帰るという話を聞いて、タルタルを気に入った、かわいい物好きガルカのラザンが、
二人の護衛を(勝手に!!)引き受けたのだ。(ちなみにティムはラザンより10近く歳が上らしいが…タルタルは年齢がわかりにくい)

862 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:17 [ THbHVlJA ]
高原の姫君2


「ちょっと、トイ、あたしこの辺の風景は見飽きたからとっとと行くわよ。ラザンもティム先生をいつまでも持ってるんじゃないの!!」
我侭な姫君は訂正しよう、もはや傍若無人の女王様だ。怒りの矛先がこちらに向かないように俺はとっとと立ち上がる
仁王立ちしたキャス、いつの間にかにティムを捕まえているラザン、必死にもがくティム。いろんな種族の醜態を見たような気分だ。

ガサガサ
周りの風景に少し気を取られていたのかもしれない、あたりから独特の異臭が流れてくる。
心地よい風が一気に穢れていくような、そんな感じがした。気づくと俺らの周りにはオークと言う獣人の群れが囲んでいた

オーク族:クゥダフ族と同じく男神プロマシアの眷属、クゥダフ族に比べるとかなり好戦的な獣人である
そして、もっとも凶悪な種族で彼らは、縄張りに入る人間を決してゆるさない。旅人が襲われる事は日常茶飯事だ。

「こんな所で雑魚オークに構ってる暇は無いのよ。さっさと帰ってサンドリアティ飲むんだから」
キャスが大きな両手で持つ剣をスラリと鞘から抜く。と言うか、早く帰りたい理由はそれですか…?
「ぼ…僕は争いが嫌いなんです。何とか逃げられませんか?…とりあえず怪我をしないように、強化の魔法をかけておきます」
ティムは、プロテア(防御力強化魔法)を詠唱し始めた。
「みんな、おいらが敵を惹きつけるから補助宜しく」
ラザンは、素早く空蝉の術を唱えると、敵を挑発するあの変な歌を歌い始めた。

そして、僕は召喚魔法を唱え始める。
相棒、カーバンクルを召喚する為に。

863 名前: 虹の光を束ねし者 投稿日: 2004/06/11(金) 17:18 [ THbHVlJA ]
遺跡の幽霊

「でぇりゃぁ-------…」
キャスが力いっぱい、自分の身の丈もありそうな大きな剣を振り回しオークに斬り込んでいく。
「どっせい---…」
ラザンは力強い掛け声とは裏腹に、素早いステップでオークを翻弄している。
「行け、カーバンクル」
俺も自分の召喚獣に命令を出し、自分も腰につけた短剣を抜き争いに入っていった。

敵の数が多いとはいえ、もはや敵ではなかった。が、波状攻撃のように来るオーク達によって
全ての敵を倒しきるのにかなりの時間がかかってしまっていた。


俺らは、オークを退けた後、ストーンサークルのような場所に来ていた。徐々にこの場所に追いやられていたらしい。

「とりあえず…はぁ…今日は疲れたから…ここでやすみましょーよ…ねぇ」
流石のキャスも敵の量に、疲れきってしまったらしい。我侭を言う元気も無いようにストーンサークルの中心で座り込んでいる。

「おいらも賛成、忍術を発動する為の触媒も切れたし、ちっと休みたいぞ」
体力が自慢のラザンも大分へこたれている。
実際、俺もカーバンクルを長い間召喚しつづけたせいで、魔力がカラになっていた。

「疲れた時には、あつーいウィンダスティを飲むと、疲れが取れますよ。」
強化の呪文後、後ろで暖かく見守りつづけてくれただけの、ティムが熱いお茶を勧めてくる。

その時、疲れて息を切らしていたキャスが大声で怒鳴りつけた。
「ちょっとティム先生、いいかげん平和主義は終わりにして。少しは戦ったらどうなの?」
「ちょ・・・キャス怒らないでくれ、僕は戦いが嫌いなんだ。出来れば争いの無い、場所で暮らしたいんだよ。」
「先生が争いを嫌いなのはわかっています。でも教え子が命をかけて戦ってるのを、ただ見てるだけの先生がどこにいるのよ。」
「この中で一番強い人間は、たぶん先生なんだから、最初に戦わないでどうするのよ、まったく」
へ?一番強いのが、ティム?
「ティムって強いのか?」
俺は最後のキャスの台詞がどうも気になって、話を中断させるのも悪いが、聞いてみる事にした

「先生はサンドリア神殿騎士団でもトップクラスの白魔導師なの。私が何回も斬りつけて倒したオークだって先生なら一撃よ。」
「なのに、タルタルってみんなこうなのかしら、妙に臆病で、決して自分から戦おうとしないんだから」

俺は、軽くティムに視線を流すと、ティムは慌てて目をそらし俯いた。

つづく…(続けられるといいなぁ)

864 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/11(金) 21:14 [ b4u/bbRI ]
>>虹の光

乙 

と言いたいところだが、誤字のチェックはしっかりね。
同じ内容を書き込んだりもしてるし
それから、いっぺんにUPしないで、あえて出し惜しみするのも手だよ
読者の期待を煽る意味でもね

続きを期待してます。トイの運命や如何に?

865 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/12(土) 12:30 [ f0TCaARA ]
今日、一人の若者が命を落とした。
知り合って間もないとは言え、やはり人の死と言うものは決して気持ちの良いものではない。
兄弟よ。お前が遠い地で生涯を終えたと知り、私はお前が生きた証を探す旅に出る事を決意した。
お前が転生の旅路へ向かってから、もう15年も経つのか・・・


〜番外2、亡き友へ贈る手紙〜


私は今、冒険者としての腕を磨く旅をしている。
タルタル族のポロムボロム。幼いながらも豊富な知識と勇気を持った戦士だ。
ミスラ族のアン。第一に他人を気遣う心の優しい子だ。
そして、ヒュームのアルヴァ。若輩者とは言え、先輩冒険者。彼から教わるものは多い。

お前は私が戦っていると聞いたらどう思う?
小心者が、と感心するか?
未熟者が、と笑うか?
だが、兄弟よ。
私は決めたのだ。
戦うことを。
お前の欠片を探す事を。

お前が遠く、タブナジアの地で15年も前に果てていたと知ったのは最近。
シーフという職業は、遺跡探索や単独行動に向いていると聞いた。
お前の欠片を探すのにうってつけだとシーフになる事を決意し、タブナジアを目指して旅に出たが、何故か陸路をウィンダスまで歩いてしまったのには自分で自分に呆れてしまった。
生まれてから120年もバストゥークから出た事が無かったのだ。地図の見方も知らなかった。

ウィンダスで一人のタルタルと出会い、彼女に地図の見方をはじめ、冒険者としての基礎を教わった。
一通り身についたところでサルタバルタに出かけ、そしてヤグードと呼ばれる獣人にさらわれてしまったのだ。
ポロムボロム、アンとは連れ去られた先で知り合った。
彼らは獣人拠点で何が起きていたか、そして自分たちがどんな目に遭ったか覚えていないようだが・・・私は覚えている。
いつ来るかも知れぬ救助、いつ果てるやも知れぬ多くの人質、何より自分の命。
それは恐怖の日々だった。
少なくとも私の知る限り、拷問を受けに連行されたうちの3人が帰ってこなかった。

サンドリアの騎士団に保護されたときに私は思ったのだ。
「何故こんな理不尽が世の中にあるのか」と。
私は世界を見て回らなければならない。
理不尽の理由を。
何故人と獣人が争わなければならないのか。その謎を解く鍵を探さなければならない。
兄弟よ、もちろんお前の遺品、セイブザクィーンを捜す旅も続ける。
冒険者に墓は無いと聞いた。
ならば、かの剣をお前の墓標にしなければならない。
この二つは私の使命。
命に代えても遂行しなければならない使命なのだ。

少しでもお前の手がかりを得るために、今はお前の口調を真似、性格を真似ている。
おかしな話だが、お前を真似ていると、これが本当の私であるのかと錯覚する事がある。
だが、私が私である事に変わりは無い。
同様にお前がお前である事に変わりも無い。

そこに”お前の死”と言うゆるぎない事実があったとしてもだ。

私は戦い、そして生き抜く。
使命を全うするために。
お前が生きた事を証明するために。
来世で胸を張って、お前に「生きた」事を話すために。


追伸、いつかの便りで「初めて食したタルタルの味に感動した」とあったが、私には、どうもあのタルタル族が美味いようには見えない。
    やはり、一度食してみないといけないのだろうか?

866 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/12(土) 12:34 [ f0TCaARA ]
既にゲオルグ編を番外として出した事を少し後悔してます(´・ω・`)
ポロム編は本編に盛り込めるけど、アン編どうしようかな・・・

>>816
ありがとうございます。とても励みになります。
アップの速度相変わらずですが、できれば週1以上でアップしていきたいと思いますので最後までお付き合いくださいm(__)m

867 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/12(土) 12:58 [ UxcWJfe6 ]

>「初めて食したタルタルの味に感動した」

ウィンダスの郷土料理を食べた。 って事だよね? ね? ね?
お願い「そうだ」と言ってくれ〜  (((゜д゜;)))
続き待ってるだよ。

868 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/12(土) 21:49 [ YPO3W4JQ ]
自作自演?

869 名前: 868 投稿日: 2004/06/13(日) 11:24 [ nbLWIGr2 ]
作者さんとは全く関係の無い一読者なんですが
867氏にそう思わせる変な書き方だったでしょうか?
すれの空気が悪くなるような書き込み失礼しました
以後自粛致しますので許してください。

870 名前: 868改め867 投稿日: 2004/06/13(日) 11:26 [ nbLWIGr2 ]
>867氏にそう思わせる変な書き方だったでしょうか?
867氏ではなく868氏の誤りでした
馬鹿すぎてすいません・・・・・

871 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/13(日) 19:45 [ iUIvn6.k ]
>>869-870
868が池沼なだけだから気になさるな

872 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/16(水) 00:27 [ aqrt6mFw ]
夢を、見た。

動かない影と泣き叫ぶ影。

崩れ落ちる影とそれに駆け寄る影。

そして、それをじっと見つめる影と影。

助け合い、励ましあった影たちは、互いに傷つき、そしていくつかの影は消えていった。

昔よく見た夢。

久しぶりに、夢を、見た・・・


〜第7話、二つの再会〜


「天気予報では明日は熱波は来ないらしい。出発の準備をしておけよ」

バルクルムでの修行を終え、セルビナを出ようとした矢先に熱波に襲われた。
二日続いた熱波は、俺たちをその間セルビナに縛り付けた。
その熱波も、どうやら今日で終わりらしい。

「兄者、わしらの目的地はウィンダスのはずじゃないのかのぅ?」
「そういえばそうですね。船に乗るなら熱波が去るのを待つ必要は無かったのでは?」
もっともな質問だ。
「俺たちの次の目的地はジュノ大公国だ。その後に陸路でウィンダスを目指す」
「り、陸路ですか!?」
ポロムが驚いた声を出す。
「ジュノでチョコボの免許を取得するんだ。それからウィンダスを目指す。悪くは無いだろう?」


「あら、こんなところに居たのね」
翌日、出発しようとした矢先、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「パーシヴァル、君の方こそどうしてここに?」
「おー、姉御、ひさしぶりじゃのぅ!」
「ゲオルグさん、姉御って呼び方凄みがありすぎよ・・・」
「にゃー、おね〜さん!」
アンがいきなりパーシヴァルに抱きつく。
「お久しぶりです」
ポロムは丁寧にお辞儀をした。

873 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/16(水) 00:28 [ aqrt6mFw ]

結局出発は見送り、パーシヴァルと一緒に食事をする事になった。
「バストゥークに向かってたんだけど、チョコボが熱波でやられちゃってね。最近なんだか疲れやすいし、セルビナで休憩しようと思って」
「それで歩いてここまできたのか?よく生きてたな」
熟練の冒険者とは言え、自然には勝てないものである。
判断を誤った行進は、時に命の危険を招く。
旅は、何も獣人だけが脅威ではないと言う事を彼女も知っているはずだ。
「知らないの?アイススパイクって魔法」
彼女は冗談めいた事を真面目な顔で言った。

食事も終わりそれぞれがくつろいでいた。
ポロムはいつの間にか取り出した本をよんでいる。
パーシヴァルとアンは賑やかに会話し、ゲオルグは海岸で拾った流木でチョコボの彫り物を作っている。こいつ以外と器用だな。


「あ、そうそう。あなたたちにプレゼントがあるの」
突然そう言うと、パーシヴァルは荷物から「プレゼント」を取り出した。
「はい。アンちゃん。これはプリーストローブって言う、精神力を高めてくれるローブよ」
これ、結構高かったような・・・
「ゲオルグさんにはこれ。皇帝羽虫の髪飾り!シーフにうってつけのモノよ」
これもかなりの値段がしたような・・・
「あとはポロム君に・・・」
彼女が取り出したのは、柄と刀身に不思議な紋様が入った斧槍。
「これはルーン文字か?」
「博識ねぇ。ある場所で手に入れたんだけど、あたし槍なんて使えないし、ポロム君が槍使ってたのを思い出してね」
「お、おい。こんな高いもの沢山・・・」
「いいのいいの。お金には困ってないし」
カラカラと笑う。
「ありがとうございます。なんだか力が沸いてくるみたいです!」
「すまないな。ありがとう」
「いいのいいの。言ったでしょ?あなたたちが気に入ったって」

「兄者・・・」
「ん?どうした?」
「これ、どうやって使うのかのぅ?」
ゲオルグが皇帝羽虫の髪飾りを持って尋ねる。
「何って頭に・・・」
そこまで言って、俺は悲しい現実に気づいてしまった。
「バンダナでも作るか?」


「ポロム!」
突然の叫び声。呼ばれた本人はすぐに反応を示した。
「え、この声はイルル!?」
「こんなところに居たのね!探したんだから!」
入り口からりっくりっくとタルタルの少女(と思われる)が歩いてきた。
彼女がポロムの話にあった幼馴染だろう。

「紹介します。彼女は幼馴染のイルルです」
「はじめまして。ポロムがお世話になったそうで・・・」
ぺこりと頭を下げる。なるほど、しっかりした子だ。
こちら側の紹介も終わったところでイルルがポロムをつんつんつつくのが見えた。
「ポロム、行ってこいよ。熱波はしばらくこないらしいし、出発は明日でもかまわないぞ」
「ありがとうございます」
イルルはお礼を言うと、半ば引っ張るような形でポロムを連れて行ってしまった。
「若いっていいわねぇ」
パーシヴァルが変な事をつぶやく。

874 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/16(水) 00:29 [ aqrt6mFw ]

「逃げてくれ!砂丘に亀の軍団が現れたんだ!!」
突然ドアが開き、一人のエルヴァーンが血だらけで、半ば転がるように入ってきて叫んだ。
先ほどまで騒がしかった大部屋は、違う種類のどよめきで埋め尽くされた。
「もう10人以上やられた!あいつらここを目指してるぞ!」
エルヴァーンが叫ぶ。
「な、なんですって!?」
パーシヴァルが突然立ち上がる。拍子にいすがバタンと後ろに倒れた。
大部屋はすぐに混乱へと陥った。

周りを見るが、殆ど一般人。冒険者もいるらしいが、あまり期待できそうに無い。
「俺は出る。パーシヴァル、君も頼む!」
「わ、わかったわ」
「マスター、あたしたちも・・・」
「お前たちはここから北にあるアウトポストへ行って、救援を要請するんだ」
「でも、アウトポストのガードは冒険者の戦闘には非干渉よ?」
「だが、セルビナが狙われているとなると・・・」
「そもそも、バルクルムにクゥダフが居るって信じるかしら?下手をすれば冗談を言うなって追い返されるわ。報告者が新米なら尚更よ」
確か今ザルクヘイムはサンドリア領。お堅いエルヴァーン相手だ。パーシヴァルの言う事ももっともだ。
少し考えたが、背に腹は変えられない。
「羊皮紙とペンを貸してくれ」

羊皮紙に半ば殴り書く形で文章を書く。パーシヴァルが音読した。
「サンドリア近衛騎士団第三分隊諜報部隊長アルヴァ・・・え?あなた、もしかして・・・」
「俺の命令だと言ってこれをガードに見せるんだ。急いでくれ」
「わかったにゃ!」
「ゲオルグ、アンをしっかり守れよ!」
「了解じゃのぅ!」
アンとゲオルグが駆け出す。
パーシヴァルは何故かうつむいたまま固まっていた。



つづく

875 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/16(水) 00:37 [ aqrt6mFw ]
今回の話は、あまりにも長くなりすぎたので2話に分割しました。
続きも速めにアップできる・・・と思います。

>>867
応援ありがとうございます。
タルタルは・・・ご想像にお任せしますが、一つ言えるのは、ゲオルグは素で天然っぽいと言うことです。
ウィンダスの郷土料理・・・の事では無いと思われますw

876 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/19(土) 18:28 [ MQorl94c ]
 神威
 (1/3)

 そこは禍々しく、しかしどこか懐かしい空気を感じさせる場所だった。
 遥か先の広間へと伸びた道を進む度、心の臓が刻む命のリズムが徐々に早くなってゆく。
 細い通路を進む者たちの姿は、一人や二人の数ではなかった。
 さながら、それは行軍のように見えなくもない。かつての大戦で活躍した精鋭部隊、ハイドラ戦隊の如く、様々な種族の様々な戦士たちが足並みもばらばらに進む。
 しかし、その道往く彼らの顔は緊張で覆われている。
 普段は緊張などとは無縁で陽気だったヒュームの男もそれは同じで、握りしめた拳がかすかに震えさえもしていた。
 いつも臆病で、しかし人より何倍も努力してきたタルタルの娘も、とても小さな声でぶつぶつと呪文のようなものをつぶやいている。
 それはまるで波紋のように広がり、進み往く戦士たちの口々から、
「大丈夫、大丈夫、私たちなら大丈夫」
 と奇妙な呪文が合唱された。
 そして、それは道が終わりを見せた時、ぴたりと止んだ。

877 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/19(土) 18:29 [ MQorl94c ]
 (2/3)

 広間は、ラ・ロフの劇場と呼ばれている。
 いや、正確には呼ばれていたというのが正しいのだろう。
 劇場というからには、昔はここで演劇などが行われていたりもしたのだろうか。
 それとも、これから私たちが行うことが演劇なのだろうか。
 通路から仲間たちが続々と姿を見せる。彼らは皆、幾多もの戦いの中で己を高め、知識を蓄えてきた歴戦の冒険者たちだ。
 その大半が旧知の仲で、まだ若く、剣の振り方も様になってなかった頃から一緒に旅をし、新しい発見をし、喜びも悲しみも分かち合ってきた。
 そして今日のこの瞬間も、きっと良き日の想い出として刻まれるに違いない。
 好物のおにぎりを口一杯に頬張りながら、いつもの仲間たちと一緒に、あれはよかった、これはどうだったなど、想い出話に花を咲かせながら、夜明けまで飲み明かすのだ。
 今までがそうであったように、これからも、ずっと――
「来たぞ」
 仲間の誰かが声を張り上げて言って、遠くへ行っていた意識が現実に戻った。
 刹那、広間の中央から閃光がほとばしり、反射的に目を腕でかばう。
 一瞬の沈黙の後、腕を退けると、そこには五つの人影が佇んでいた。
 すべてが自分たちと同じ、人間の姿をしていた。
 その肌は人外の者であることを証明するかのように白く、しかしそれが美しいとさえ私に思わせる。
 黒く禍々しい紋様が刻まれた甲冑で身を固め、歪な形状をとる武器をその手に持っていた。
 まるで眠っているかのように、それぞれの瞳はかたく閉ざされていたが、仲間たちは各々の武器を呼び起こすように抜き放ち、構えを取り始めていた。
 耳で防護の魔法を詠唱する声を聞きながら、私も腰に差した鞘から長年振るってきた刀を抜き放った。
 鉄と鉄とが擦れ合う音の中から、鋭くも美しい刀身が姿を現す。細身で優雅な反りがついたそれは、東洋の文化が生み出した賜物に違いない。
 いつもと同じ構えを取るのと同時に、青白い盾を模った光が私と仲間たちを次々と包んでいく。見慣れた防護の魔法だ。
 間もなくして、準備は完了した。

878 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/19(土) 18:30 [ MQorl94c ]
 (3/3)

「内なる「怯懦」が、おまえたちを押し潰す……」
 何処からか、声が聞こえてくる。
 タルタルに似た人外の者が目を見開き、真っ赤な血の色をした眼で私たちを睨みつける。
 すぐ隣にいたタルタルの友人が、唾を飲み込む音が聞こえた気がした。

「内なる「嫉妬」が、おまえたちをかじりとる……」
 ミスラの姿をした者の目が見開かれ、血色の瞳で睨まれる。
 歪な斧で床を力強く叩くと、砕かれた床の欠片がひとつになり、やがてそれは肥大して虎の姿を模り、広間に獣の咆哮が轟く。
 仲間のミスラの狩人は、自分たちと同じ姿をしたそれに矢の照準を合わせていたが、その指は震えていた。

「内なる「無知」が、おまえたちを虚ろにする……」
 ヒュームと同様の形をした者が目を見開き、血に染まったような瞳で私たちを見下すような視線を向ける。
 両の手に持つ異形の剣は、私たちの血を求めるかのように鈍く輝いていた。
 我々のリーダー格であるヒュームの戦士が、その視線を受け止め睨み返しているが、足が震えるのか、時折思い切り床を踏みつけていた。

「内なる「驕慢」が、おまえたちを腐らせる……」
 エルヴァーンの女に限りなく似た者の目が見開かれ、夕陽の如き血色の瞳でこちらを見やる。
 先日、幼馴染みの友と婚約を果たしたというエルヴァーンの女騎士は、その時に浮かべた幸せそうな笑みを微塵にも感じさせないほど、冷静な面構えをしていた。
 彼女が抜き放っている剣の切っ先は、最初の瞬間から今まで、自分と同じ姿をしたそれに向けられている。

「内なる「憎悪」が、おまえたちを焼き焦がす……」
 体躯の良いガルカと変わらぬ容姿をした者の目がゆっくりと見開かれ、炎のような血色の瞳をこちらに向けた。
 それは私に向けられたものかと一瞬思ったが、すぐ後ろにいた友人のことを思い出し、僅かに振り返る。
 友のガルカの顔がそこにはあった。いつもと変わらない無表情の彼から思いを感じ取るのは難しかったが、私のそんな様子を見て彼は口元を少し緩めた。

 やがて、友は抱きかかえていた竪琴の弦を弾き、曲を奏ではじめた。
 優しい音色は私たちの緊張を解し、そしてこの場所へ来る前に皆で誓い合った約束を思い出させる。

 ――誰ひとりとて失わぬ、そんな戦いを。いつか酒のつまみになる、そんな戦いを。

 竪琴が奏でた“戦士達の凱歌”を聞き終え、私たちはリーダーの号令のもと、歩を進めた。

 無知、驕慢、怯懦、嫉妬、憎悪――誰もが抱えざるを得ない心の闇を司る、クリスタルの戦士たちよ。
 おまえたちが神の力を得た究極の戦士というのなら、私たちは絆の力を以ってして立ち向かおう。
 その結果、神をも威す存在になったとしても。

879 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/19(土) 18:38 [ MQorl94c ]
 なんだか活気がないので、燃料投入ー!ヽ(`Д´)ノ
 ……とか思ってたら、激しく見づらくなっててショック! orz
 やっぱり、うまく改行していかないと、掲示板に載せるのは厳しいですね……。

 というわけで、見たこともない神威のクエスト突入時を書いてみました。
 世界設定を語るスレの方々には感謝しております。

 そんなわけで、ひと戻ってコイコイッ(汗

>風の通る道の作者さん
 髪飾りに関しては、ハ○頭の方には突き刺すのが主流だそうです(ぇ?!
 続き期待しております、頑張ってくださいませっ!

880 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/06/21(月) 00:26 [ Oij7L1xg ]
「名無しの話」の21 −母の日・父の日−

「えへへ…」
なんだか楽しそうなタル獣。
ちまちまと
ちまちまちまと
小さな手が動いてる。
緑の布を切る。
赤い布を切る。
それをのぞき込んでるのはトラ。
巨大な体躯に鋭い牙。
多くの人に、死を背負う獣と恐れられながら、それでも一人、慕ってくれる人のいるトラ。
その両前脚の間に座り込んだ小さなタルタルを真上からのぞき込んでる。
知らない人が見たら、トラが小さなオヤツを「いただきます」しようとしてるように見えそう。
「なんや、それ?」
クリンと顔を上げて、トラを見上げるタル獣。
「あのねー」

「これはね、お花を造るの」
「みゃー?」
首をかしげるのは竜。
黒い巨体に血色の瞳。
多くの人に邪竜と恐れられながら、それでも一人、愛してくれる人のいる竜。
寄り添って座るのはタル龍騎。
小さな手の中で出来上がっていくのは緑の葉、緑の茎。
ヒダをつけた赤い花片は、とてもキレイ。
けど、なぜわざわざ布で花を造るんだろ。
外に出れば、花なんてたくさんあるのに。
「みゃ?」

「ああ、この花はヴァナにはないんだよ」
タルシーフの答えに、顔を見合わせる獣人たち。
大きな顔に大きな黒目。
二等身!の声にも傷つくことなく、非道外道もなんのその、それでも共にある仲間のいる獣人たち。
「「「「「?」」」」」
たしかに。
花になんか興味はないけど、見たことがないような気は…する。
「だから造るんだ」
獣人たちの不思議に答えながら、タルシーフは造花を造り続ける。
茎を、葉を、花片を、繊細な指使いで切り出し、まとめ、貼り付けてく。
その瞳は真剣。
もしかしたら、金蔵の鍵を開けるときよりも、じゃないかと思えるくらい。
「「「「「?」」」」」

「何に使うか、だと?」
「だって、面倒じゃないスか」
タル忍の造花造りが今ひとつ理解できないエル忍。
細長い身体に黒の忍者装束。
狭い屋根裏、床の下。長身を曲げ忍ぶのがつらくて時々涙する。
でも、がんばる男の子、なエルヴァーン忍者。
「貴様、忍のくせに本当に知らんのか?」
問われて素直にうなずくエル忍。
「カーネーションだぞ?」
出来上がった一輪を、その鼻先へと突きつけるタル忍。
「?」
ホントに判ってないエル忍。
「…あのなあ…」
キリキリと頭痛がしてくる。
「これは」

881 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/06/21(月) 00:28 [ Oij7L1xg ]
「ひがしのくにのふうしゅうなのー」
とタル黒。
「ふうしゅう…ああ、風習だね」
のぞき込んでるのはヒュム戦。
威風堂々パーティーの要。
のはずなのに最近不運の続く悲しい戦士。
でも、いつか来るだろ明るい明日を信じてるヒュームの戦士。
「ははのひのプレゼントー」
とタル白。
「おかあさんありがとうのひにおくるのー」
出来上がった造花の束をうれしそうに見せるタル黒。
「おかあさん…」
「ありがとう…」
「…」
何かを思い出すような表情になるヒュム戦、エル騎士とミスラ。
視線が遠くを見る。
「んー?」
何となく判らないガル戦。
「しかし、そんなにたくさん送るのか?」
とエル騎士。
タル白もタル黒も、両手一杯になるぐらい造ってるのに、まだ手を止めない。
「うん、もっともっとたーくさんつくるのー」
と大きく手を広げるタル白。
「さんにんぶんねー」
「ねー」
うなずき合うタル黒とタル白。
「三人分?」
「タル白ちゃんのお母さん。タル黒ちゃんのお母さん…」
指折り数えるミスラ。
「…数合わないにゃ」
…指使う数でもないような気がするけど。
「おかあさんとー」
タル白を指さすタル黒。
「おかあさんとー」
タル黒を指さすタル白。
そして
「「おかあさんー」」
二人で空を指し
「「ねー」」
うなずき合う。
「「「おかあさん?」」」
空を見上げて首をひねるヒュム戦たち三人。
「んー?」
ガル戦は、まだピンとこない…。
と、その時。
ヒョオゥ
ヴァナに風が吹いた。
強く、それでいて優しさを感じる風が。
「「「「「あー」」」」」
いくつもの声が上がる。
花が、舞いあがる。
造られた花々が、まるで重さがないかのように風へ舞い、空へと舞い
そして、消えた。

「…とんでもうたな…」

「みゃあ…」

「ーーーー」

「あらー、とんじゃったっスねー」

「ああ、せっかく造ったのに」

異なる場所での異なる声に、
「「「「「ちがうよ」」」」」
同じ返事が返される。
「「「「「もっていったの」」」」」

882 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/06/21(月) 00:35 [ Oij7L1xg ]
「らんらんらん〜♪」
女が舞ってる。
裸に近い格好。
けど、その全身に柔らかな風がまとわりついてる。
たくさんの赤い花と共に。
女の舞に合わせて揺れ動くそれは、まるで花のドレスを纏っているみたい。
「ずいぶん機嫌がいいね」
「〜♪だって、ほら」
クルクルと回ってみせる女。
「子供たちからのプレゼントなのよ」
「…でも造花だよね」
ゲシッ
「アゥ」
「あの子たち、私のことお母さんって言ってくれたのよ」
「…そりゃ創造主だし」
ゲシゲシッ
「アゥゥ」
「判ったわ。私だけプレゼントもらえたから妬んでるんでしょう」
「え゛」
「そーよね〜。あなたのトコなんて、せいぜい祭壇にガルカのっけてドンドコですものね」
「そ、そんなことない」
「じゃ、楽しみね」
「へ?」
「来月、あなたがどんなものもらえるのか。あ、要求するのは無しよ」
「そんな、勝手に」
ゲシゲシゲシッ
「もんくあるの?」
「…ありません…グスッ…」

隅の方で座り込んでる男。
「…あいつら父の日なんて知ってるのかなぁ…。知らないだろうなぁ…」
ガックリして
「いや、あいつなら!」
希望復活!
「きっと知ってる覚えてる!…に違いない!」

そして。

「明日は父の日だカァ」
「?なんだそれ」
「東の国の風習で父に感謝する日だカァ。刀使いたる者、刀の国の事をちゃんと知ってないといけないカァ」
「それでは」
「なにか贈り物をするカァ」
「なにがいいのカァ?」
「………ではどうカァ?」
「それがいいカァ!」
「賛成カァ!」

さらにそして。

遙かに見下ろすのはヤグの祭壇。
「ふーん、いいプレゼントね」
「…」
視線をそらす男。
ヤグの祭司が取り囲む祭壇の上には供え物がてんこ盛りになってる。
ジタバタともがいてるグルグル巻きのガルカたち。
とタルタルたち。
とミスラたち。
とエルヴァーンたち。
とヒュームたち。
ヤグ特製ヴァナディール盛り合わせ…だったりする。
もちろん、付け合わせにサボテンダーも忘れてない。
「ま、こんなもんでしょ」
勝ち誇った笑みを見せる女。
「う…う…ちくしょーーーー…‥」
泣きながら走り去る男。
「…あいつ、逃げ癖ついたわね」
冷静に見送る女。
そして、その日一日、ヴァナ中をすすり泣きのような風が吹き続けた。

「集めるのに苦労したカァ」
「きっと喜んでくれてるにちがいないカァ」
「そうだカァ」
「みんなで祝うカァ」
「カァカァカァ♪」
「父の日万歳カァ」
「カァカァカァ♪」
「神様ありがとうカァ」
「カァカァカァ♪」

「んー…?」
ガル戦はまだよくわかってない。

−おわり−

883 名前: 名無しの話の作者 投稿日: 2004/06/21(月) 00:43 [ Oij7L1xg ]
ごめんなさい、ごめんなさいm(_ _)m
ネタは山ほどあるのに時間がありません。
ほんっとうに。
で、母の日をころっと忘れてたら、母に
「親不孝者」
と言われちゃいました。
その事を某エル姉に話したら
「産むんじゃなかった…」
と言われちゃいました。
で、ついでに父の日も忘れちゃいました。
…何送ろ…

884 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/21(月) 01:58 [ Y5mUdEEA ]
「俺は前線に参加する!パーシヴァル、君は負傷者の手当てを頼む!そのあと援護してくれ!」
「わかったわ、任せてちょうだい!」
「各個、連携を取って戦え!ヤバイと思ったら即撤退するんだ!こんなところで死んでも意味が無いぞ!」
後方に居る冒険者の集団に向かって叫ぶ。気合と覚悟が入り混じった怒号が聞こえた。
門をくぐったところから全力で走る。
途中で何人か逃げてくる冒険者とすれ違った。


〜第8話、放たれた二つの力〜


そこは戦場ではなかった。あったのは・・・ただの殺戮。
クゥダフの軍団が、散り散りに逃げ惑う冒険者を追いかけ、そして斬りつけていた。
既に砂丘は血に染まり、息があるかもわからない冒険者が多数倒れていた。

「セルビナに逃げるんだ!!混乱するんじゃない!敵の思う壺だぞ!!」
大声で叫ぶ。
一匹のクゥダフが襲い掛かってきた。
軽く身をかわし、もうかなり使い慣れた片手棍で一撃を繰り出す。
だが・・・バキッといやな音がして、片手棍は折れてしまった!
「しまった!」
再びクゥダフの放った凶刃を避ける。そのとき、おそらく冒険者が使っていた片手剣が目に入った。
クリルラの言葉を思い出す。・・・何を躊躇う?今は非常事態だ!ラテーヌの大羊とはわけが違う!
片手剣を拾う。再びクゥダフが斬り付けてくる。
一閃!
彼には何が起きたかわからなかっただろう。
地に伏したクゥダフを見る。
「シルバークゥダフだと・・・!?」
砂丘で修行中の冒険者にはとても敵わないレベルの敵だ。
何故こいつらがこんなところに・・・!?

考える間もなくもう一匹のクゥダフが襲ってきた。
攻撃を避け、すばやく背後に回りこむ。
そして・・・一撃!
人間で言う「延髄」の部分を一突き。
通称「亀」と呼ばれるクゥダフだが、その甲羅に見える部分は、彼らの高い鋳造技術によって作られた鎧なのだ。
そう、鎧。
つまり、関節もあれば隙間もあり、刃を通す隙はある。ゲオルグに再三教えた「敵の急所を狙う技術」

視界の隅に、クゥダフに追われる冒険者が見えた。
そして、それとは違うクゥダフが俺に襲い掛かる。
「クアアアァァァ!」
また一匹、クゥダフが断末魔を上げて倒れた。
即座に反転し、右手に握っていた剣を投げる。
剣は直線の軌道を描き、今まさに一人の冒険者にその両手剣を(片手で)振り下ろそうとしていたクゥダフの頭部を貫通した。
「あ、ありがと・・・」
「後方に撤退しろ!ここは危険だ!」
新たなクゥダフが剣を振り上げる。
体当たりで攻撃を阻止すると、先ほど倒したシルバークゥダフの持っていたナイフを拾い、体勢を立て直した直後のクゥダフののどを切り裂いた。

885 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/21(月) 01:59 [ Y5mUdEEA ]

20体もクゥダフを屠ると、流石に怖気づいたのだろう、クゥダフたちは俺から一定の距離を取り、攻撃をしなくなってきた。
「どうした?もう終わりか?」
正直限界が近い。一匹の強さは俺から見れば雑魚に等しいが、いかんせん数が多すぎる。
だが、せめて応援が来るまでは時間を稼がないと・・・!
パーシヴァルを探す。まだ負傷者の手当てに追われているようだ。
知覚遮断魔法(スニーク)を纏った彼女はクゥダフに発見される事は無いだろう。
仕方ない、もう少し一人で耐えてみるか。

突然クゥダフの集団が割れ、後ろから一匹が前に出てきた。
「ルビー・・・!何故こんなところに!?」
他のクゥダフよりも明らかに高品質の鎧、そしてその鎧に刻まれるのはルビーの紋様!
この集団の司令官であろうクゥダフ。こいつを倒せば、恐らくクゥダフの指揮系統は乱れ、勝利は容易いであろう。
しかし・・・こいつは手に余る!

「ここはァ、我々のォ、土地であるゥ!人間はァ、死に絶えろォ!」
共通語でそう言うと、ルビーは周りのクゥダフに合図をして見せた。
話し合いの余地はやはり無いらしい・・・!
一斉に襲い掛かるクゥダフ。目を凝らす。大丈夫だ、避けれる!
そう思った瞬間、急激な痛みと脱力感に襲われた。この感じは・・・バイオ!?
同時に振り下ろされた3つの剣。全てを避わし、1匹の急所に刃を突き立てた直後、背中に衝撃が走った。
続いて焼け付くような痛み・・・!背中を斬られたようだ。
落ち着いてケアルを詠唱する。が、クゥダフの体当たりにより詠唱は阻止された。
振り上げられる剣。
やられる!そう思った瞬間・・・

「ししょーーう!!」
聞き覚えのある声。同時に俺に襲い掛かろうとしていたクゥダフ達に雷が落ちた。
振り返ると、ポロム、そして魔法を唱え終わった直後のイルルが立っている。
3匹のクゥダフが一斉に彼らに襲い掛かる。イルルの放ったサンダガがクゥダフの敵対心を煽ったらしい。
「くそっ!」
とっさに唱えたバインドが一匹を捕らえた。
はっとした様子でイルルもバインドを詠唱する。抵抗(レジスト)は無いようだ。だが、あと1体・・・!
まっすぐにイルルに向かって走るクゥダフの前に、小さな影が躍り出た。
「イルルに手を出すな!僕が相手だ!!」
槍を構えるポロム。だめだ、敵う相手じゃない!
「逃げろーーーーー!!」
既にクゥダフは魔法の射程外。イルルのバインドも、再詠唱に時間を要するだろう。
俺には叫ぶことしか出来なかった・・・!

全てがスローモーションに見える。
立ちふさがるポロム、振り上げられるクゥダフのハンマー、恐怖の張り付いた顔のイルル。
振り下ろされるハンマー。それがポロムの小さな体に直撃した・・・!
勢い余って後ろに吹き飛ばされるポロム。

「いや、ポロム!!」
イルルがポロムに駆け寄る。その背後からは・・・先ほどのクゥダフ!
他の2匹もバインドが解けたのか、イルルに一斉に襲い掛かる!
俺は、ただこの光景を見ている事しか出来ないのか!

886 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/21(月) 02:00 [ Y5mUdEEA ]

突然クゥダフ達が炎に包まれた。3匹、ほぼ同時。
範囲魔法ではないそれ、恐らくファイアの上位魔法。こんな芸当が出来るのは・・・
「ごめんなさい、遅くなったわ!」
言うなり素早いキャストで俺にケアルをかける。
「パーシヴァル、ポロムを看てやってくれ!」
武器を構えながら彼女に言う。すぐに彼女がポロムのほうへ走っていくのがわかった。

「大丈夫。ポロム君気絶してるだけよ!」
パーシヴァルの報告を聞き安心する。あとは、やることは一つ!
「さあ、覚悟しろ!」
ルビークゥダフと対峙する。パーシヴァルの援護があればこいつにも勝てる!
「ごめんなさい。マナが切れたの。少し休むわ・・・」
俺の戦意を思いっきり打ち砕く言葉が背後から流れてきた。
仕方ない。一人でも少しは持ちこたえられる・・・!

ルビークゥダフの剣を避ける。
避けざまに一撃。しかし、このクラスのクゥダフになると、簡単に急所を狙わせてはくれない。
俺の放った一撃は、彼の鎧に軽い傷をつけたのみであった。
再び振り下ろされる剣。流石に振りが早く、切っ先が肌をかすめる。
素早くケアルを詠唱し、傷を癒すが、このままだとジリ貧だ。
もう何分こいつと戦っているがわからないが、こちらの体力も限界が近い。早く何とかしなければ・・・!

突然何かにつまずいてバランスを崩してしまった!
目の端に入ったのは、たった一つの小さな石ころ・・・
振り上げられる剣。完全に体勢を崩してしまった!
まさかこんな事で明暗を分ける事になるとは・・・!

予想していた衝撃とは別の衝撃が走った。
顔を上げると、今俺に剣を振りかざそうとしていたクゥダフは、巨大な石に押しつぶされ、悶え苦しんでいた。
続いて巨大な氷がクゥダフを包む!これは・・・古代魔法!
一瞬、パーシヴァルの仕業かと思ったが、彼女に古代魔法は使えないはずだ!
背後に異様な気配を感じて振り返る。


そこにあったのは、図形。
魔法陣と言うのだろう。
空中に浮かんだ魔法陣、その青い光が砂に反射している。
驚愕の表情を浮かべるパーシヴァルとイルル、そして・・・空中に浮かんでいるポロム!

「それ」は明らかにポロムから放たれていた。
恐ろしいほどの速さのキャストで次々とクゥダフに「古代魔法」をぶつける。
その小さな体のどこにそんな力が眠っているというのか!
そもそも、魔法が使えなかったはずでは・・・!?
いくつもの疑問が浮かんできた一瞬の間にクゥダフは全滅していた。

887 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/21(月) 02:01 [ Y5mUdEEA ]

「リーダー!あんたポロムがポルク爺の孫だって知ってただろ!?」
開口一番これだ。だが奴には言いたい事が山ほどある!
「やっと来たかゼファー」
落ち着いた雰囲気のリーダーの言葉が癪に障る。
「え?ゼファー?戻ってきたのか?」
「ゼファー!久しぶりだな!今まで何やってたんだよ!」
次々とリンクパールから響き渡る懐かしい声。
ガルカの侍グラハム、ミスラの狩人ミュイ、タルタルの白魔導師ミーリリ・・・
他にも懐かしい声。
だが、今の俺は懐かしい友と会話をする余裕なんて無いんだ!
「今日、砂丘に亀の軍団が攻めてきた」
単刀直入に話を切り出す。騒がしかったパールは一瞬にして静まり返った。
「何とか撃退したが、ポロムボロム・・・ポルク爺の孫が、恐ろしい魔力で敵を一瞬にして倒した」
「ほぅ」
「ほぅ、じゃない!ポロムは魔法が使えないんだぞ!」

一瞬流れる沈黙。静寂を破ったのは俺自身だった。
「あいつは、生まれつき魔力がないと言っていた。だが今日のは何だ?あんた何か知ってるんだろ、リーダー!」
「俺の口からは何も言えん。おまえ自身が確かめることだ」
相変わらずむかつく奴だ!
「だが、砂丘に亀の軍団というのが気になる。こちらでも調べて見る」


深夜、まだポロムは意識を取り戻さない。
だが、命に別状は無いとの事で、とりあえずは安心だろう。
俺はパールでのやり取りのイライラが消えず、屋上で夜風に当たろうと思い外に出た。
そこで一つの人影を見つけた。
「パーシヴァル?」

「沢山・・・死んだわ」
背中を見せたまま彼女が言う。
「ああ、だが救えた命もあった」
「違うの、もっと救えたのに・・・!」
「少なくとも、イルルとポロムは君に救われたんだ。俺だって君がいなければ、ただじゃ済んでなかったかもしれない」
「違うの、そうじゃないの!あたし、あたし・・・!」
後ろを向いているが、彼女は・・・泣いている。

「泣きたいときは泣けば良いさ。それが死者への弔いになる事もある。でも、笑って生きる事が、全ての志半ばに倒れた者たちへの最高の手向けだと俺は思ってる」
突然彼女が俺の胸に額を当てて大声で泣き出した。
参ったな、まさかこういう展開になるとは・・・

「こうやって何人の女を落としたの?」
「バ、バカを言うな!君が勝手に・・・」
「冗談よ」
ひとしきり泣いたあと、どうやら普段の彼女に戻ったようだ。
「さあ、部屋に帰ろう。もう遅い」
そう言って歩き出そうとした瞬間、背後からの声をかけられた。
「アルヴァ」
振り返る。
「生きててくれて、ありがとう」

そのときは、言葉の意味がよくわからなかった。



--------------------------------

「ふ、やはりカメ程度では殺せないか。・・・それにしても、”泉の源”と一緒とはな。面白い、やはり奴は俺が直々に殺す!」

そういうと、一つの闇が闇の中へ消えていった。


つづく

888 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/21(月) 02:06 [ Y5mUdEEA ]
長かったので削りに削りました。
簡潔にわかりやすい文章を書く。
簡単に思えていた事が、実はすごく難しいことだと、書き手にまわってからよく理解できるようになったと思います。

>>879
なんか、個人的にものすごくタイムリーなネタです。
実は昨日、神威突入して負けてきました(´・ω・`)

「バンダナでも作るか?」
これ、最初は「頭に直接刺すか?」だったんですけど、あまりにも安直過ぎたので変えました。
糊で貼るとかいろいろ考えたんですけどね・・・

>>883
すっかり忘れてた・・・!
ヤバイ。何贈ろう・・・

889 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 04:45 [ 5dgtfFE6 ]
>>879
うわぁ…。文章が物凄く好きです。燃料なんですか?つ、続きは?
続きがないのでしたら、べ、別ネタとか
読んでいてドキドキしました

>>883
名無しの話の作者さんキタ━(゚∀゚*)━!!!!!
すっかり時事モノですねぇ。大好きです、ありがとう。
ヒュム戦さんに明るい明日が来ますように

>>888
スピード感がとってもありました。続きが気になります。

890 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 07:13 [ rSrqCXHk ]
>名無しの話さん
あのね ヴァナにカーネーションあるの。
狩人御用達で。
でもきっと 手作りの方が嬉しいよね

891 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 13:05 [ P0sj0kpo ]
>>890
先生(・ω・)ノ カーネーションは何に使うんですか?
そもそも、花ってクエスト以外に使い道あるんですか?

892 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 13:25 [ pWGWLLsI ]
最近名無しのタルタル見てないなぁ・・・と思ってたのでちょっと嬉しい

>>891
コンクエ一位の国に現れる、バレリアーノ一座の新メンバーを知ってるかい?
今度探して話かけてみると良い

893 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 20:15 [ eiftUH9U ]
>>891
錬金術師もお花使いますよ。いろんな薬品作りに必要です。

894 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 23:18 [ 7TV8w.p2 ]
>>891
贈り物としても最適ですよ。気になるあの子に薔薇の花束を贈るとか。

ポスト一杯に薔薇が・・・とかは、やりすぎですけど。

895 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 23:48 [ vmEq9X.o ]
レッド 第七話「相違する赤と紅」


闇によって、視界がほぼ利かないジャグナーの森を、
全力で疾走したばかりだというのに、ジャンは汗ひとつ掻かずに,、
息切れひとつせずに、荒廃した大地を歩いていた。
もう少し休めば朝日も昇り、進むのも断然楽になるはずなのだが、
なぜかジャンは出発を急いでいた。

もしも先ほどのオークの軍勢が追ってこようとも、今は囲まれる心配もない。
呪文を詠唱する時間の得られる今なら、全員を石に変えてしまうことも出来る。
いや、オークの彫刻など趣味が悪いだろうか。
いっそ一瞬で蒸発させてしまおう。

「ん?」
私はひとつの疑問を得た。
剣と盾しかなくとも、あの程度の体格のオークが何匹群れたところで、
あのジャンが負けるだろうか?
それこそ、素手であっても問題が無かったのではないか。
私の知っている頃のジャンであればの話だが・・・。
「ジャン、あの程度のオークに、君が負けるとは思えなかったのだが。」
私は疑問をぶつけてみた。
「あー。あちしも年ですからのぉ。げほげほ。」
ジャンはわざとらしく咳をした。
「まあ。たしかにジャンは、もう三十路・・・・。」
バリバリバリ!!

「わあ。見て見て。きれいー。」
バタリア丘陸からみえる岩山の間から朝日が零れた。
乱立した石の柱に反射して、それはすばらしいほど美しかった。
「・・・・。」
もしも私も、顔の掻き毟られた傷が痛まなければ、
それはそれは感動していただろう。
私は、目に涙を貯めてぶすっとした顔で歩く。
女性の年齢をネタにしてはいけない。絶対に、だ。

日が少し高めになり、海岸から吹く風が強くなりだしたころ、
私たちは目的地であるジュノへと到着した。
なんとか、ジャンの予定の一日前には到着することが出来たようだ。
召喚獣を集めていた頃は、よく立ち寄ることの多かったところだが、
今も昔もそれほど違いは見られない様だ。
ジャンは着くなり、いきなりパールを取り出して会話を始めた。
ぼそぼそと小さな声だったので、私には聞き取れなかった。
とりあえず私は、鼻を隠すことに勤しんでいたため、
ジャンの話の内容など、あまり気にもとめなかった。

896 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 23:49 [ vmEq9X.o ]
「とりあえず、明日になるまで自由行動でいいよ。
 もう冒険者なんだ。レンタルハウスでも借りて、旅の疲れでも落としてよ。」
ジャンは、そう言うなり勝手に解散してしまった。
途方にくれる私を無視し、都会の人ごみの中へと消えていってしまったのだ。
「はぁ。」
私は喧騒を避けるために、私は近くの教会へと足を運んだ。
厳粛な作りをした、サンドリア式の教会だった。
とても大きなドアを力いっぱい押し、中へと入ると、そこにはとても美しい
女神の彫刻があった。
そとの騒音が、まるで嘘のように静かな空間だ。
不思議なことに、そこには誰もおらず、私はそのすばらしい雰囲気を、
一人いじめにすることができた。
私は、壁際に腰を下ろし、そして静かに目を閉じることにした。
忘れていた記憶が少しずつよみがえる。
昨晩みた夢が・・・・。

世界中を旅をした私たちは、イフリートという召喚獣と契約を交わし終わり、
イフリートの釜と呼ばれる火山から下山した私たちは、カザムと呼ばれるミスラの集落を訪れた。
そこは、先の戦争の際、ウィンダス連邦にやってきたミスラたちの故郷でもあり、
同時にジャンの母親の故郷でもあった。
クリスタル戦争の起きる前から、ジャンの母親は『ある』理由からカザムを終われ、
ウィンダスへと亡命したらしい。

897 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 23:51 [ vmEq9X.o ]
「おまえの求める力の形はなんだ?」
私とジャンが、宿屋の寝台に横になっていると、急に人形が現れた。
その人形は、ウィンダスでよく使われるものに似ていた。
球根みたいな頭。そして、その頭よりも小さい胴。
しかし、込められた魔力は、禍々しく、とても邪悪だった。
「しゅっ!」
すばやく飛び起きたジャンが、護身用のナイフを投げた。
そのナイフは人形の腹を突き破ったが、何も無かったかの様に浮き続け、
人形は言葉を続けた。
「お前たちの・・・あつめた力を、お前たちの求める形に変えてやろう・・・。
 求める形は何だ?武器か?防具か?・・・それとも・・・・。」
「私は力など求めていない!!」
私は、強く否定した。私の力は悪だと信じていた。
封印されるべきものだと。
だから今まで平気だったのだ。
「では、なぜ力を欲する?召喚獣の息吹を集めるのだ?」
そうだった。私は、力を否定し、そして力を求めた。
それは矛盾することだが、共存できないものじゃない。
私は・・・力を否定し、自分をだまし、力を欲し、自分を認めていた。
力がほしい。力なんて要らない。
「お前の・・・ほしい力をやる・・・。」
私の鼓動は、高鳴った。
力・・・。封印を解く力。
「ヘルに近寄るなぁ!!」
私は、ハッとしてジャンに視線を移した。
ジャンは、巨大な鎌を手にし、人形に襲い掛かった。
鋭く一閃するが、その一撃は青い障壁によって妨げられた。
ギィンと、はじかれた鎌は、ジャンの手を離れて宙を舞い、そして壁へと突き刺さって止まった。
「くっ!人形のくせに!!」
「・・・・くっくっく。お前が足かせか。ならば死をもって開放せねばならないな。」
人形が、ぐるんとジャンの方向を向いた。
「やめろ!ジャン!逃げろ!」
私の声で、ジャンはドアへと走った。
しかし、ジャンがどれほどそのドアをたたいても、蹴飛ばしても、ピクリとも動かなかった。
ここは、すでに結界によって外界の時から外れていた。
「終わりだ・・・。足かせよ・・・死して詫びろ。」
人形が青く眩く光った。
その瞬間。
「ぎゃっ!」
ジャンの体が、一瞬中に浮き、そして地面にたたきつけられた。
体からは煙が立ち、内面から焼かれたのが解る。
解ると同時に、私の意志は破裂した。

898 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/21(月) 23:52 [ vmEq9X.o ]
私を取り巻く封印が、私自身の干渉によって具現化した。
金色の文字の羅列が、私の体を取り巻いている。
そのあちらこちらから、青い火花が散る。
私の抵抗と干渉だ。
封印への侵食が始まると、文字は一つずつ砕け散り、そして、私の額に浮き出た象形文字が破裂した。
その瞬間、私の体から魔力が噴出した。
封印の破滅。
そして、召喚される全ての召喚獣。イフリート、タイタン、ラムウ、ガルーダ、シヴァ・・・そしてカーバンクル。
「ふ、ふふふ・・・これが忌まわしき破片の力か・・・。」
人形がそう呟いた瞬間。召喚獣たちによって、人形は灰燼と化した。

「・・・・それが力なのだな・・・。私の・・・お前の求める・・・。
 そうだ。それが確かめたかったのだ。・・・私は、なんとしても『彼』を蘇らせる・・・。
 さあ、忘れるんだ・・・。記憶を・・・夢を・・・。」

私の体に、封印が再構築されていく。
私の体を、後からやさしく抱くジャン・・・・。
生きていたのか。よかった。

そうだ。何で忘れていたのだろう・・・何度も夢をみた・・・繰り返し・・・繰り返し。

「忘れるんだ・・・。記憶を・・・夢を・・・。」
私の中で、声がした。
また深い眠りへと引き込まれていった。
記憶は、また闇へと消えていく・・・。

「ヘルダガルダ!おきて!」
私を呼ぶ声が聞こえた。この声は・・・・。
「ポチ!?」
目を覚ました私の目の前に、カーバンクルのポチがいた。
「呼んでもいないのに何故?!」
「・・・危険だよ。ヘルダガルダ。」
そういうと、ポチは教会の扉の方を向いた。
私も誘われるように扉を見つめる。
すると、ギィという音が響き、扉がゆっくりと開いた。
逆光を浴びていたが、私はそれを見た。
赤い鎧。長い銀髪の髪。長い耳。高い身長。
そして、右目の眼帯。

紅の左目がそこに居た。


つづくはず ・・・たぶん

899 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/22(火) 00:54 [ CD.yp4.. ]
キタ━━゚+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゚━━ ッ ! ! !
一番乗り!

900 名前: Scrapper 投稿日: 2004/06/22(火) 09:04 [ tjdaBUV. ]
毎度ありがとうございます.
続きをアップしました.
例によってランク6までのネタバレが含まれていますので,お気をつけください.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

私自身ランク6になった直後までしか行っていない状態でこの話を書いていますので,
もしかしたら,バスのその先のストーリーと矛盾しているかもしれません.
その時は,「こいつ何も調べないで書いてやんの」って馬鹿にしちゃってくださいね.

件の人と直接対面するまで気が付かなかった自分が情けない…orz

901 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/22(火) 17:22 [ GISynZBI ]
>>892-894
先生たちありがとー<(_ _)>
FF放置気味なんすよね。 戦士L60で止まってます。

902 名前: 初めての冒険の中の人 投稿日: 2004/06/24(木) 04:15 [ lTGXvsOA ]
本人の予想より時間がかかってしまいました。
それでも何とか予告通り、前回ほど間はあけずにすみました。
初めての冒険、最終話です。

903 名前: 初めての冒険 最終話 1/7 投稿日: 2004/06/24(木) 04:16 [ lTGXvsOA ]
初めての冒険 最終話 南サンドリア〜冒険のおわり、そしてはじまり

頑丈そうな門をくぐり抜け、競売や商店のあるにぎやかな広場を通り過ぎると
一際立派な門の前につく。
その門の前で、ラセスとマギーはシャムの方を振り返り、マギーは右手を
指し示すように広げて、そして、ラセスは両手をさっと広げると声をそろえて
こう告げた。

「ようこそ!サンドリアへ」

あたりにいる人々がその声を聞いて一斉に振り返りこちらを見つめる。
中には、「ん?初めてサンドリアにきたのか?ようこそ」などと便乗して
叫ぶ者も現れ、あたりは騒然となった。
何が起こったのか、一瞬理解できなかったシャムは、思わずあたりを見回す。
と、その目に懐かしい顔が写った。

背が高くなってる。
以前に比べると、体つきがずいぶんとがっしりしているし、顔立ちも大人びている。
でも、間違えるはずがない。

あれは・・・あれはロアンだ。

「ロアン!」
一目散に走り寄ってシャムはロアンに抱きついていた。
そのとき両親の姿が視界の端をかすめたような気がするけれど、
とりあえず今は気にしないことにした。
まずはロアンと話をしなくちゃ・・・。
シャムの頭の中はその思いで満たされていた。

旅に出た理由。
手紙が届かなかったわけ、ロアンが自分のことをどう思っているのかってこと。

それを知るためには、ロアンと話をしなきゃいけない。
そう思っていたから。

記憶の中よりも大きくなっているロアンは、変わらない笑顔を浮かべ、
感心したような、あきれたような声でぼそりとつぶやいた。
「わぁお。マジでシャムだ」
「マジでって何!」
感動があるような、無いようなつぶやきに思わず反応する。
「いや、話は聞いてたけど・・・先越されちゃったなぁ。
 俺突然行って驚かせるつもりだったのに」
何やらぶつぶつ言っているが、ほとんどシャムの頭には入っていなかった。
「ばかぁ。何で連絡しないのさ!」
とりあえず、一番聞きたかったことを尋ねる。

904 名前: 初めての冒険 最終話 2/7 投稿日: 2004/06/24(木) 04:17 [ lTGXvsOA ]
「いや、まだちょっと先の話だぞ?」
ロアンはその問いを、突然行って驚かせるつもりだったという言葉に対する
問いだと思ったようだ。
けれど、聞きたいのはそこじゃなかったので、改めて尋ね直す。
「ちがーう!何でお手紙返事くれなかったの?」
言葉遣いがぐしゃぐしゃになっていることはわかっていたが、それを直す
余裕は無かった。
たぶん、変わらないロアンの態度にほっとしていたからってのもあるだろう。
「手紙の返事?・・・待て、それはいつの話だ?」
へっという表情になるロアン。何か事情があるのだろうか。
とりあえず、最後にきた手紙の時期を伝える。
「最後に来たお返事は去年の春!それから一年半お返事もらってないの!」
「・・・言葉使いがガキモードだぞ!」
言われなくても、自覚している。でも直せないのだ。
じわじわと涙がこみ上げてくる。どうも、たまっていたものが吹き出している
らしい。ついには涙声になった。
「もー。からかってないで教えてってばー」
「あ゛ー、もう泣くなってば」
「ロアン・・・おじえでよー」
泣き声になったシャムと、困ったようなロアン。
4年前までは、ウィンダスでよくあった光景。
「って・・・待て。もしかして母ちゃんに頼んだ最後の手紙届いてないのか?」
ふと気がついたように、ロアンが尋ねる。
「最後の手紙?」
とりあえず、シャムがもらった最後の手紙はさっきも言ったように去年の春に
もらったものである。
それ以降の手紙はとんと覚えがない。
「おう。王立の騎士学校に入学認められたからしばらく手紙受け取れねえし
 書けねぇって手紙を書いておいたはずなんだが」
おかしいなぁと、首を傾げるロアン。

――この手紙が届かなかった理由。後で確認したところによると、ロアンの
お母さんの出し忘れだったらしい。
人生の転換点。その大本自体は、本当に些細なものだっていうよい証拠だろう。
突き詰めてしまえば、この些細な出来事が、シャムを冒険者にしたのだから。

ともあれ、それがわかったのは少し後のこと。
このときは、そのことをシャムは知らなかったし、ロアンは伝わっている
と思っていた。

「ぼく、それ知らない」
少し泣きやみ、そう告げる。
「みたいだな・・・悪かったな。・・・母ちゃんに確認しとくわ」
あちゃーっという顔で、告げるロアン。
4年たつのに変わらない態度に少しほっとする。

905 名前: 初めての冒険 最終話 3/7 投稿日: 2004/06/24(木) 04:18 [ lTGXvsOA ]
「・・・良かった」
ぽつり。思わず口からこぼれでていた。
「どした?」
ん?と首を傾げ問い質してくるロアンに、ふわりと笑みを返す。
「僕・・・嫌われちゃった訳じゃなかったんだ」
話を聞くまでずっと不安だった。
ロアンが書いた最後の手紙が届かなかった理由はわからない。
でも、嫌われたから手紙がこなかった訳じゃなかったのだ。
「あーーもう!お前少しは人を信用しろってば」
怒ったようにシャムのあたまをがしがしといじくり回すロアン。
怒っているように見えるけど、これはロアンが照れているときの癖だった。
「だって・・・僕がいつまでも泣き虫だから・・・
 ロアン怒っちゃったのかって。。。」
ずーっと、気にしていたのだ。泣き虫だから、ロアンのほかに友達がいなかった。
たった一人の友達も、失ってしまうのかと思っていた。
「気にしすぎるな」
あきれたようなつぶやき。
「ごめん・・・」
「まぁ、いいや。お前ウィンダスからここまで歩いてきたんだって?」
とりあえず、置いといてと手をひょいとずらすと、わくわくした目で
ロアンは尋ねてきた。
「うん。途中からラセスさんとマギーさんが一緒に来てくれたけど」
歩いてきたけど、一人じゃなかった。
誰かに助けてもらって、ここまで来れた。
「でもすげぇじゃん。ちぇーっ。先越されたかぁ」
考えてみれば、それは長大な距離。自分でも思い返すとよく歩けたものだと思う。
けれど、きっとロアンならもっと立派にやってのけるんじゃないだろうか。
楽しそうに、いろいろと尋ねてくるロアンに、シャムも気になっていたことを
尋ねる。
「ロアン・・・王立の騎士学校?」
サンドリアに王立の騎士を養成するための機関があることは知っていた。
けれど、そこに入学できるのはエルヴァーンだけだと思っていた。
いくらバストゥークの領事の息子とはいえ、ヒュームのロアンがそこに行く
というだけで大変な思いをしているんじゃないだろうか。
「おう!大変だけど楽しいぜ。お前も魔法学校入ったんだって?
えりーとこーすじゃんか」
大変だけど、楽しいのか、大変だから、楽しいのか。
きっと両方なのだろう。いつだって、何だって楽しんでいるこの親友を
シャムは心の底から尊敬している。
「僕も大変だよ。だからって、卒業を諦める気はないけど」
魔法学校はウィンダスのエリートコース。当然授業は厳しい。
けれど、始めたからには最後まできちんと終わらせたかった。
「さすが俺様の親友!」
ロアンが考えてることとは少しずれてるんだろうな、と思いつつも、
この前向きな姿勢は見習わなくちゃなと思った。

906 名前: 初めての冒険 最終話 4/7 投稿日: 2004/06/24(木) 04:19 [ lTGXvsOA ]
しばらくなんやかんやと4年分のうっぷんを晴らすかのように喋っていた。
その話がふととぎれたときに、決心したようにロアンがこちらをみて告げた。
「ちゃんと手紙に書いてたんだけど、せっかくこうやって直接会えたんだから
 直接言うな」
真剣なまなざし。思わず、居住まいを正す。
「うん」

「俺はいま騎士学校で勉強している。
 騎士の心得とか戦い方とか旅の仕方とかいろいろな事を」
一つ息をつくロアンの目をじっと見つめて、シャムは話の続きを待つ。
これはきっととても大切な話だ。
「卒業までは後3年ある。それまで前みたいに手紙書いたりとかは出来ないと思う」
「うん」
手紙がしばらくこないって最初からわかっていれば、別にシャムも焦りはしない。
ゆっくり手紙が届くのを待つだけだ。
「でな。ここからが大事なんだが・・・」
ぽりぽりと頬を書きながら、突然言葉に詰まるロアン。
言いにくいことなのだろうか。
「お前、俺と一緒に冒険者やらねぇ?」
次いででてきた言葉は、納得できるような、できないような一言。
納得できるってのは、ロアンらしいってこと。
できないってのは、ロアンが言いよどむのはらしくないってこと。
「冒険者?」
きっとそう返してほしいだろう、って言葉を返す。
「おう。もちろん今すぐの話じゃねぇぞ。お互いに卒業してからだ。
 魔法学校卒業すれば5つの院のどっかに就職できるだろうけど・・・
 俺と一緒に冒険しねぇか?」
シャムの言葉に勇気付けられたように、言葉を続けるロアン。
「・・・・」
少し考える。ずっと考えていたこと。・・・そして、この旅で思ったこと。
「いやか?」
沈黙に不安を覚えたらしい。
「卒業してからでしょ?」
お互いにまだ、冒険者になるには力が足りないって思う。
「そうだ。どうだ?
 ・・・俺は俺の相棒はお前しかいないって勝手に思ってたんだけど・・・」
それはひどくうれしい言葉だった。

「・・・」
「・・・」
ふわふわと沈黙が横たわる。
ふと、シャムは、考えているのが馬鹿らしくなった。
やりたいことをやる。それで良いじゃないかと。
人生はやりたいことを全部やるには短いぐらいなのだから。

907 名前: 初めての冒険 最終話 5/7 投稿日: 2004/06/24(木) 04:19 [ lTGXvsOA ]
にぱ。っと笑う。よくよく考えれば、最初から答えは決まっていた。
「僕が断るわけないじゃない」
「!」
そして、自分の心からの願いをシャムも口にする。
「僕からも御願いするよ、一緒に冒険しよう!」
「さんきゅう!」
二人でくすくすと笑う。
いつも遊んだ森の区の広場での様に、飛空挺公社の屋上での様に。
「じゃぁさ。改めて約束」
ひとしきり笑った後、そっと、手を出してロアンは告げた。
「お前は海を越えて俺に会いに来てくれた」
 だから・・・
 3年後は俺が迎えに行くよ!」
そう言ってにやりとわらう。
「場所は森の区な。いつものあそこ」
「いつものあそこだね!」
待ち合わせの場所はいつもそこだった。
だから、今度も同じ場所。
そうやって、また約束をする。
「・・・シャム。あいにきてくれてありがとな」
ふと、耳元で、シャムにだけ聞こえるようにロアンがささやいた。
もしかしたら、ロアンも不安だったのかもしれない。
小さいときから暮らしたウィンダスから離れて、知らない町へと引っ越した
のだから。
ふと、そう思った。けれど、そのことは言葉にせず、シャムもそっと同じ
言葉を、返していた。
「僕も・・・ありがとう」

聞き慣れた、でもここにいるはずの無い人の声が降ってきたのはそのとき
だった。

「さて・・・感動的な対面中悪いのだが、話はおおよそ終わったと見える。
 もちろん、お小言を聞く準備は出来ているだろうな。我が息子よ」
シャムとロアンは同時につぶやいていた。
「・・・・おじさん」
「・・・とうさん」
えへんと胸を反らし、シャムの父親がそこにいた。
どこから持ってきたのか、箱の上に立っている。
何でここ父さんにいるんだろう。
そんなシャムの顔色を読んだのか、父親はにやりと笑うと、後ろの方にいた
ラセスを指し示した。
「そこにいるラセス氏に連絡をもらった」

「え?」
思わぬ言葉に目を丸くする。いつの間に連絡していたのだろう。
「うむ。悪いとは思ったがマウラで連絡を入れておいた」
頷きながら、言うラセス。その言葉にさらに目を丸くする。
「ええっ?」

908 名前: 初めての冒険 最終話 6/7 投稿日: 2004/06/24(木) 04:20 [ lTGXvsOA ]
そんなシャムを愛おしそうに見つめ、すぐにきゅっと顔を引き締めると
シャムの父親は特大の雷を落とした。
「このばっかもんが。・・・野垂れ死んでもおかしくなかったのだぞ」
ここまで本気で怒った父親をみるのは初めてかもしれない。
自分がやったことが、とんでもないことだったんだと改めて実感する。
「心配掛けてごめんなさい」
本当に、そう思う。
シュンとうなだれていると、誰かにぎゅっと抱きしめられた。
一瞬マギーかと思ったが、大きさが違う。
もごもごとみると母親だった。
目にはいっぱい涙が浮かんでいる。
シャムはとてもばつの悪い思いをすることになった。
「ラセスさんが責任を持って送り届けると約束してくださったから、
 連れもどしには行かなかったけれど・・・
 まだあなたは一人で旅をするには力が無さすぎるわ。
 ロアンくんに会いたいという思いは認めます。でも・・・」
そこできゅっと抱きしめ直される。
「でも、無茶はだめ」
母親は静かに言葉を続けた。
「旅をすることを止めはしません。あなたは私と父さんの子供だもの。
 いつかは旅に出ると思っていました。
 でも、まずはちゃんと力をつけなさい。
 自分の身を守れるように。仲間の身を守れるように」
ふと、小さな頃、寝物語に冒険譚を聞かされていたことを思い出す。
あれは、両親の話だったのかもしれない。
それほどまでに母の言葉には力がこもっていた。
「はい」
だから、居住まいを正し、きちんと返事をする。
自分の身を守れるように、仲間の身を守れるように。
そして、誰かを助けられるように。
ちゃんと力を付けたい。ちゃんとした冒険者になりたい。
そう思った。
そして、改めて、自分のしでかしたことを反省する。
旅に出たことを後悔するつもりはない、これからもできないだろう。
だって、それはシャムに必要なことだったから。
けれど、反省はしなくちゃいけない。
そして、きちんと謝らなくちゃ。
だから、シャムは両親に向かい直すと、きちんと頭を下げて改めて
言葉を紡いだ。
「心配掛けてごめんなさい」

909 名前: 初めての冒険 最終話 7/7 投稿日: 2004/06/24(木) 04:21 [ lTGXvsOA ]
「がんばったな、お前にこんな勇気があったことを誇りに思うぞ」
言葉を聞いた父親がにやりと笑ってそう言う。
ほっとして頭を上げて父親を見やる。
「だが。心配掛けられた事、お前がどれだけ無茶をしたのかって事には
 ウィンダスに帰ってからみっちり叱るから覚悟しておけ」
父親の頭に角が見えた気がしたのはきっと気のせいじゃないだろう。
きっと雷のフルコースだなと思うと、気が遠くなる。
ふぅっと両親にばれないようにそっとため息をつく。
ふと顔を上げるとロアンと目があった。
にやりと笑われる。
ばれてるなぁ・・・と思った。
そして、こちらもそっと笑みを返す。

3年後、いつもの場所で。
改めて声に出すことはしなかったけれど、確かに伝わった約束の言葉。


こうして、シャムの初めての冒険は終わりを告げた。
そして・・・

この旅の終わりが、同時にシャムの長い長い冒険の旅の始まりでもあった。

910 名前: 初めての冒険 投稿日: 2004/06/24(木) 04:22 [ lTGXvsOA ]
エピローグ

蛇足だとは思うけれどその後の
ことを少し語ろうと思う。

父さんに叱られ、母さんに泣かれながらもみくちゃに抱かれた後。
僕と父さんと母さんはラセスさんの魔法でメア岩まで送ってもらい、ウィンダスへ戻った。
魔法学校の先生にはこっぴどく叱られた後、
「貴重な体験だから、体験談をレポートとして提出すること!」
と指示され、僕は夏休暇の宿題が増えてしまった。
ただでさえ、大量の宿題が出ている。
初日から旅に出て、全然手が着いていない上、夏の休暇の残りはもうわずかだ。
悲鳴を上げながら宿題をこなす羽目になってしまった。

もっとも、そのレポートのおかげでクラスメイトにからかわれることがだいぶ
少なくなったのだけれど。

ほんの少しだけ、勇気がついたからか、僕の成績は少しだけ向上した。
ほんの少しだけ。


それから3年が過ぎ、魔法学校を卒業した僕は冒険者として旅に出た。

旅立ちの朝、森の区の門の前。
いつもの待ちあわせの場所。
約束通り、ロアンが立っている。

にやりと笑って、ロアンは言った。
「よぉ、準備はできたか?」
もちろん、答えは決まっている。
「もちろん!」
「んじゃ、行くか」
そうして、二人並んで門をくぐった。


冒険の始まりは?

と尋ねられると、相棒のロアンはこの朝だと答える。

でも、僕の冒険は、あの暑い夏。
初めての冒険の終わりの地、南サンドリアで始まった。

<fin>

911 名前: 初めての冒険 あとがき 投稿日: 2004/06/24(木) 04:27 [ lTGXvsOA ]

過去ログで初カキコの日付を確認したら2004/01/26(月) 22:26でした。
終わらせるのに、自分で思ってるより長くかかってしまいました。

時々暴走しそうになる、お話の手綱を必死に手繰りながら、書いてました。
いえ、シャム君は暴走しないんですけど、周りの面々が・・・
長編を書くのは難しい。しみじみと感じました。
そして、長編をきちんと書いているほかの作者様方の手腕に改めて感嘆しました。

このお話は、ゲームをプレイしているときに、自分の操作しているキャラクター
が冒険者になった理由ってどんなのがあるんだろう。
って、ふと思ったのがきっかけで生まれました。

何か理由があるから冒険者になったはずだよな〜って考えてて、プロローグとエピローグが浮かびました。
初めての冒険。冒険者になる前の冒険ってことでシャム君に旅をさせてみました。

訪れる場所、訪れる場所の"自分の時の初めて"を思い出しながら書いていたので
書いた後にヴァナディールを訪れると、改めてこの世界はこんなにきれいなんだ。
って実感できて、書いてる本人、楽しかったです。
そんな思いが、呼んでくださった方々に伝わっていたのなら、とてもうれしいです。

これで、シャム君の冒険のお話はおしまいです。
エピローグの後、シャム君は今ヴァナディールにいる私たちと同じように
いろんな冒険をこなしていき、それなりに名の知れた冒険者になります。
たぶん。

今のところシャム君の今後を書く予定はありません。
長い間おつきあいいただきありがとうございました。

912 名前: 初めての冒険 おまけ 1/3 投稿日: 2004/06/24(木) 04:29 [ lTGXvsOA ]
おまけ

大人二人が10話の時に何やってたかって話です。
冒頭は10話に入りきらずにカットした部分です。
もったいないので再利用。

・・・ラセスが得体の知れない人になってしまいました。
蛇足気味の外伝ですが、よければお楽しみください。

初めての冒険 第10話うらばなし 〜その時二人はなにしてた

道を辿る大きな影と中くらいの影と小さな影。
後わずかで目的地にたどり着けると、気を抜き掛けたシャムを戒めるように、
絶妙なタイミングでラセスが口を開いた。
「はぐれるなよ。この森は初めての人間は迷いやすい」
いつものように、穏やかだが厳しさを含む口調。
「そうそう、霧も良く出るしね。あたしも良く迷子になったわ〜」
にこやかにマギーが賛同してくる。
「お前さんの場合は迷い過ぎだ。自分の故郷ですら迷ってどうする」
少し厳しめのラセスの言葉。
確かに、自分の故郷で迷うというのも大変だ。
「ひっどーい。ここの他じゃあんまり迷わないわよ?」
「どうだかな」

話ながら歩いているうちに霧が立ち込め始める。
ふと気がつくと小さなタルタルの少年の姿が消えていた。
「む、シャムは何処に行った」
ラセスが首を傾げる。
マギーも首を傾げる。
シャムが何処に行ったかはわからない。だが、起きている事態は明白だ。
「・・・はぐれたわね。泣いてなきゃ良いけど」
「・・・」
賛同するでも無く、否定するでも無い態度のラセス。
まぁ、予測はつくわねと思いマギーは言葉を紡いだ。
「泣いてるわね、たぶん」
「かもな」
「さがしましょ」
言うが早いか走り出そうとするマギー。
「いや、まずは門に向かおう。門を基点にして探した方が探しやすいだろう」
 それに下手に動くとお前も迷うぞ」
走り出そうとしたマギーを制し、もっともな意見と失礼な言葉をさらりと言う
ラセス。
「・・・確かに、その方が良さそうね」
失礼なことを言われた自覚があるものの、それを否定できないマギーはラセス
の提案を採用し、まずは二人で門へと向かうことにした。

西ロンフォールからサンドリアへ入る入り口は二カ所ある。
一つは競売、商店の建ち並ぶ南サンドリアと呼ばれる地域への入り口。
もう一つは、王宮、各国の領事館、そして大聖堂のある北サンドリアへの入り口。

913 名前: 初めての冒険 おまけ 2/3 投稿日: 2004/06/24(木) 04:30 [ lTGXvsOA ]
ザルクヘイム方面からサンドリアを訪れた場合、たいていの場合は南サンドリア
への入り口を使うことになる。
このときの二人も当然、南サンドリアへの入り口へと向かった。

「ラセス?」
「ん?」

ずかずかと南サンドリアへ入っていくラセスの襟首を捕まえて、少し剣呑な口調
でマギーは問いただしていた。
門を基点に探すんじゃなかったのか?ってことである。
前々から思っていたことだが、このガルカは仲間相手だと説明不足気味になる
ところがある。
坊やに対しては丁寧すぎるぐらいに説明してたみたいだけどね、と内心軽く
ため息をつく。

「門を基点に探すんじゃなかったの?」
「うむ。だが、その前に少しやりたいことがあってな」
「なにを?・・・泣いてるわよ、たぶん」
結構気が気でない。
何となく庇護欲をかき立てられてしまうのだ。
泣き虫なくせに必要以上に人に頼ろうとしないからかもしれない。
「なに、サルタバルタは単独で突破したんだ。
 このあたりの敵も逃げるぐらいならできるだろう」
「それでトレイン起こしたらそれはそれで問題よ」
本人もひどい傷を負うだろうが、それ以上に周りが危険だ。
「ま、気のいい冒険者がなんとかするだろ」
「それは責任転嫁!」
ラセスとの会話で頭が痛くなってくるのはそう珍しいことじゃない。
どこまで本気で言っているのかよくわからないせいだろう。
シャムはまじめで言葉を大切にする人だと思っていたようだが、それは見た目の
分だけ態度に重みがでているからだとマギーは思う。
こんな物騒なガルカを平気な顔をして仲間に入れた自分たちのリーダーのことを
密かにマギーは尊敬していた。
それを表に出すことはまず無いが。

「で、何するの?とっととすませて探しに行くわよ」
ほっとくとややこしい方に話が進みそうなので、何か用事があるのならばさっさ
と片づけるに限る。
そしてあの泣き虫少年を探しに行くのだ。
「なんだ、手伝ってくれるのか」
うれしそうに、言ってくる相手に起こるのもあほらしいと思いつつも、ばっさり
と言葉を返した。
「あんたにまかせっぱじゃいつまでたっても話がすすまないからよ!」
にやりと笑ったガルカに、これは最初っから自分の手伝いを当てにしていたの
だなと思う。
はめられたと言うべきか何というか・・・。
まだまだ自分の人生経験が足りないってことなんだろう。

914 名前: 初めての冒険 おまけ 3/3 投稿日: 2004/06/24(木) 04:31 [ lTGXvsOA ]
「おまえさんは騎士学校の方に行ってくれ。私はウィンダスの領事館へ行く」
騎士学校・・・今、何の関係があるのだろう。
ウィンダスの領事館ってのはたぶん、シャムの両親がいるからだろうが・・・。
疑問に思い、渡された紙片をさっと改める。
記されていたのは、とある少年の外出許可を願う文だった。
マギーもラセスも冒険者としてそれなりに名が知られている。
きっちりとした手順を踏めば、厳しいことで有名な騎士学校から生徒を一人外出
させるぐらいはそう難しいことでもない。

『友達に会いに』

という理由。
会えなかったら意味が無くなるから、お膳立てをしようってことか。
外見に見合わず気が回るというか何というか・・・。
いささかラセスに乗せられた気がしなくも無いけれど、悪い気分でも無かった。

おっとりとしたシャムとは正反対のようなヒュームの少年をみて、少し不思議に
思った。
こりゃ・・・ここで生活するのは大変だろうなぁと思う。
とっととドロップアウトしてしまった自分が言うべき言葉でもないが。
少し話をして、納得したような気分になる。
意地っ張りで、強情で、でもどこか素直。
正反対のようで似ているのだろう。
本人たちが自覚しているかどうかはおいておくとして。
そして、だからこそ仲がよかったのだろう。そう思う。

連れだした少年に、南北のサンドリアをつなぐ門のところで待っているように伝え
マギーは、ラセスと合流しようとあたりをさっと見回す。
ラセスはお人形さんのようなタルタルの夫婦となにやら話をしていた。
たぶん、あれがシャムの両親だろう。

合流した二人は、南サンドリアから西ロンフォールへの門へと移動した。
今度こそシャムを探すためである。

と、霧の中歩いてくる影がふたつ見えた。

小さなタルタルの少年と、年若い少女。少女はたぶん冒険者として登録したばかり
なのだろう。
真新しい防具に身を包んでいた。

「やっぱり運がいいのかしらね、坊やは」
歩いてくる影をみて、マギーは思わずつぶやく。ふと見上げると、にやりとラセス
も笑っていた。
「何とかするだろうと思ってはいたが・・・」
何を言っているのか問い質そうとも考えたが、探す相手が見つかったのだ。
今はそのことを素直に喜ぼう。

門の前で息をのむ小さな少年をみて、そっとこれから起こることに思いを馳せる。
ふとラセスの方をみると、同じを思いだったのだろう。わかっているというように
そっと頷いてきた。
こちらもそっと頷き返す。

小さな少年が、友人と・・・そしてまさかいるとは思っていないだろう両親に
会ってどんな反応をするか楽しみに思う。

”それ”が、二人が決めたささやかな報酬。
報酬はそれで十分だった。

<おわり>

915 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/24(木) 12:13 [ nX55tc9Q ]
>>911
おつかれさま〜
読み返してみるかな・・・

最近人少ないね・・・ここに限らず・・・

916 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/24(木) 15:49 [ HoVRElJ6 ]
初めての冒険よかったよぉ・・・・(つД`)
かんちょうした(´・ω・`)ゝ

917 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/24(木) 16:02 [ MMJ2wCYU ]
>>902

本当にお疲れ様でした。そして素敵な物語をありがとうございます。
貴方の作品がきっかけでこのスレを覗くようになりました。

暖かくって、ほんわかしてて。読んでて本当に楽しかったです!

…ラセスって白ガルだったんですね

918 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/25(金) 20:49 [ 3tJCw4Eo ]
>「僕・・・嫌われちゃった訳じゃなかったんだ」

コノ台詞で、職場だっつーのに涙腺緩みかけますた。
最初から一人でいるよりも、二人から一人に突き放たれた時のほうがずーっと痛いわけで
その痛みを晴らさんが為に、ウィンからサンドまでLv1にほぼ等しい状態で、旅に出たんだと
私は解釈してます。
よかったね、二人のまんまだ。

なんか、リアフレとジュノで会うことを夢見て一所懸命白魔やってた、初期のころを思い出しました。

919 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/26(土) 00:46 [ bp91.E3U ]
「すまない。もう一度言ってくれ」
言葉の意味が理解できなかった。
いや、理解できなかったのではない。考えられなかっただけだ。その世界が。
だが、相棒は先ほどと同じ言葉を再び俺に発した。

「リーダーが、アシュペルジュが死んだ」


〜第9話、彼女との出会い〜


「奥さんには知らせたのか?」
「ああ、放心状態だった。かなりショックだっただろう。今は一人付き添いをつけてる」
「賢明だな。後追いの可能性もある。しっかり見張っておかないと」

「ヴァナディールの白い盾」とまで呼ばれた騎士。
サンドリアの騎士団からも、入団の要請が後を絶たなかったらしい。
多くの冒険者を、そのカリスマ性で統制していたエルヴァーンの騎士・・・ヴァナディールは、大きな財産を失った。

「妹には、イシェイルには知らせたのか?」
「まだだ。お前から伝えてくれ」
「そうか・・・わかった」


デムの岩、突然のリンクシェルからの呼び出し。そして、そこで相棒の口から出た言葉。
パシュハウ沼経由でジュノに向かっている途中での悲報。
俺は、四人・・・ポロムボロム、ゲオルグ、アン、そしてセルビナから行動を共にしているパーシヴァルに、ひとまずバストゥークで待機するよう指示した。
ちなみにポロムの幼馴染のイルルは、ポロムの必死の説得の末、ウィンダスに帰ったようだ。


部屋の扉を開けた瞬間の彼女の嬉しそうな顔、数瞬後の顔。
恐らく俺は一生忘れられないだろう。
「そんな、兄さまが・・・!」
彼女の両親は、彼女が生まれてすぐに他界している。
つまり、彼女は唯一の肉親である兄を失ったのだ。
俺は、声を殺して泣く彼女を、ただ抱きしめるしか出来なかった・・・



隣で眠る彼女の寝顔を見る。
泣き疲れているのか、ひどくやつれた顔に見えた。
普段気丈に振舞っているが、時折見せる弱さ。
俺は彼女の弱さを知っている。彼女も俺の弱さを知っている。
人は、お互いの弱さを埋め合わせる事で生きていける。
不意にとてもいとおしく感じ、こんなときに不謹慎なと自嘲する自分が居る。

920 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/26(土) 00:47 [ bp91.E3U ]

彼女との出会い。第一印象は・・・最悪だった。
「ある事件」をきっかけに、俺は冒険をやめ、趣味だった彫金の腕を磨く修行をしていた。

「くそ、足元見やがって!出来のいい品物しか受け取らないだって!?」
ある冒険者から、生産の依頼を受けた。報酬がよく、二つ返事で受けたものの、内容は一筋縄ではいかないものだった。
俺はイライラしながら、彫金ギルド、競売、そしてバストゥークのモグハウスを往復していた。

角を曲がった瞬間の衝撃。
「いて!一体どこ見て歩いて・・・」
勘違いしないで欲しい。普段の俺ならこんな事は言わない。
明らかに考え事をしていた俺に過失がある。
途中まで言いかけ、そして謝罪の言葉を発しようとした瞬間
「あなたこそどこを見て歩いているのですか!突然ぶつかって失礼ではないですか!?」
目の前にはエルヴァーンの女性。
チェーン装備に身を包み、片手剣と盾を持っている。
「それに途中で言葉を切りましたね?私が女性だからですか!?」
・・・意味がわからない。
だが、なんとなく癪にさわり、しばらくそこで口論してしまった。

そのときの俺の格好は、ガンビスンにレッドキャップと言う、一般人にごく普通に見られる格好だ。
彼女の態度を見るに、一般人が冒険者に対し無礼を働いた・・・そんな風に受け取れた。
見下されたような感じに腹が立ち、更にイライラを積もらせて競売へ歩いていると、声をかけられた。
「あの、あなたは確かアルヴァさんですね?コンシュタットではお世話になりました」
「ああ、確か君はトレマーラムに襲われていた・・・」
「はい。白魔導師のアイリスです。その節はお世話になりました」
彼女が丁寧にお辞儀をする。
さっきのエルヴァーンもこれぐらい下手だったらどれだけよかったか・・・
「困っている人をお互いに助け合うのが冒険者だろ?気にすること無いさ」
少しイライラが収まった。
「ところで君はバストゥークで何を?」

・・・聞くんじゃなかった。
どうやらバストゥークの大統領府からのミッションで、パルブロ鉱山の調査を依頼されているらしい。
だが、協力してくれる人が集まらず、困っていたらしいのだ。
話を聞いてしまった以上、協力するしかないか・・・
「すみません。報酬は支払いますので・・・」
「いいさ、気にするなよ。俺もパルブロに用事があったんだ」
嘘だ。仕方ないのでミスリルでも掘ってくるか。


「あの、ところで・・・」
「ん?何か?」
「ルーヴェルさんは今日はいらっしゃらないのですか?」
彼女を助けたとき、俺はルーヴェルとトレマー狩りをしていた。というより、ルーヴェルが革細工を始めたと言うので、それの素材狩りに付き合わされただけだが。
女好きのルーヴェルは、助けたときに彼女をナンパしていたのだが・・・
「ああ、あいつは今ジュノかな」
「そうですか。残念です。よろしくお伝えください」
気をつけないと食われるぞ。とは、純粋な彼女にはとても言えなかった・・・

921 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/26(土) 00:47 [ bp91.E3U ]

「紹介します。こちらが黒魔導師のエスリンさん、戦士のラーハルトさん、吟遊詩人のイースさん。それともう一人いらっしゃるんですが、今少し出かけてまして・・・」
全員ヒュームで構成されたパーティ。バストゥークでは当然かと思いながら彼らの装備を見る。
冒険者として力を付け始めた頃の装備。チェーンやチュニックに身を包んだ彼ら。
力を過信しだす頃だが、確かにパルブロ鉱山を一人で歩くには速すぎる。パーティを組むのは懸命な選択だ。
俺の自己紹介が終わった頃、残る一人が合流した。
「はじめまして。イシェイルです。騎士を・・・」
そこまで言って、彼女が俺の顔を見た。ああ、なんて間の悪い・・・!
「あ、あなたは!」
「あの、お知り合いですか?」
アイリスの問いにイシェイルが答える。
「ええ、さっきちょっと・・・。でも、この方と一緒に行くのでしたら、私は抜けさせていただきます!」
「おいおい、待ってくれよ!」
ラーハルトが彼女を制止する。
「俺たちの技量じゃパルブロは危険だ。彼の力量は知らないが、人数は多いにこしたこと無いだろう?」
俺としても不本意なのだが・・・というか、さっきの事で気まずい。
だが、イシェイルは渋々ながらも納得したようだ。
「足手まといになるようでしたら、遠慮なく置き去りにしますので!」
・・・納得したのだろうか?


パルブロ鉱山の調査。なんて事は無かった。
依頼は滞りなく終わり、俺は出番がなくて少しホッとしつつ、ミスリルの採掘をしていた。
ミスリルの粒が掘れたところで、機械にかけて精製する事にしたのだが、俺一人はぐれてしまっている事に気づいた。
まあ、俺一人なら亀に襲われる事も無い。彼らも5人居れば問題ないはずだ。
楽観的に捕らえ、再びミスリルの採掘を開始したのがいけなかった。


「おい、あんた、助けてくれ!」
突然、背後からラーハルトが息も荒く俺に叫んだ。
すぐ後ろに、ここまで逃げてきたのだろうか。肩で息をしているアイリス、エスリン、そしてイースの3人。
「何があった!?」
「助けてくれ、彼女が、イシェイルが!」
「落ち着いて話せ!」
依頼がおわったところで、もう少し奥も調査していこうと言う事になったらしい。
その時点で俺ははぐれていたわけだが、5人居れば何とかなると強行したようだ。
もちろん、彼らの技量でも5人居れば何とかなる。ただ、その日は違った!
「亀のノートリアスモンスターだ!恐ろしい強さで・・・」
「イシェイルさんが敵を引き付けて奧に行っちゃったんです!」
アイリスの悲鳴のような声。
「みんなここにいろ、俺が行く!」
「だが、いくらなんでも一人じゃ・・・!」
「黙れ、足手まといだ!!」
押し黙る4人。正直一人の方が動きやすい!

護身用に持ってきたヴァリアントナイフ。まさか振るう事になるとは!


全力で走る。俺の自慢の一つはこの俊足。
「ゼファー」はヴァナディールの古い言葉で「風」と言う意味らしい。
昔の仲間・・・ポルク爺が伝承から俺につけたあだ名。
「気まぐれなお前にはお似合いな名前だな」とはルーヴェルの弁だが・・・

今は彼女を救いたい!
高慢で身勝手なやつかもしれないが、目の前で誰かが死ぬのはこれ以上見たくない!
ただ、ただそれだけの理由で俺は走っていた。



つづく

922 名前: 風の通る道 投稿日: 2004/06/26(土) 00:52 [ bp91.E3U ]
誤字がある・・・わかる人は適当に脳内変換お願いします(´・ω・`)

>>初めての冒険 作者様
曲がりなりにも書き手の一員として、無粋な感想は控えさせていただきます。
ただ一言、完結おめでとうございます。


次回は甘々です。ご容赦を。

923 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/26(土) 02:57 [ hfrMwdq6 ]
久々に覗いてみたら
何コレ?こんな幼稚な話が受けてるの?

924 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/26(土) 19:41 [ uHFhenzI ]
 
ここからの予想。


「だったらお前が書いてみろ」発言
     ↓
「書かないと感想すらダメなの?」発言
     ↓
「批判と感想は違う」発言
     ↓
「否定的な感想は駄目ですかそうですか」発言


もうこのループは飽きてますヨ。

925 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/27(日) 03:58 [ 6K2PN2mM ]
「だったらお前が書いてみろ」発言 もこねー程さびれてるのか・・

926 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/27(日) 10:51 [ fuBVYgYM ]
スルーされて寂しいのかい?

927 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/27(日) 16:03 [ U3PB.ItU ]
>>923

 高尚な話を書いても、誰も理解してくれないんですよ。
 幼稚でも読者受けすれば、おkおk。
 一番偉いのは大衆なのですから。

 あおりをスルーするだけぢゃ面白くないので書き込んでみました。

928 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/27(日) 21:52 [ lfTSYCLo ]
ファッキンエレファン


〜ミッシェル ガン〜

結婚式が終わり、花嫁は冒険者を辞めた。
幸せだと言っていた。
新郎がね。
だけど、花嫁はどうなんだ?
ファッキンエレファン。
奴らは、幸せを求めて全てを踏み散らかしていく。
俺もそうだ。
だけど、彼女は違った。

「つまり、浮気調査っすね。」
俺はやる気の無い声で答えた。
難事件を解決し、名を馳せる探偵になりたくて冒険者を引退した。
だけど、俺の元にやってくる依頼は、こんなんばっかだ。
「そうです。彼女がいつも外出しているのを、近所の人が見ているんです。
 もしも私の妻に、悪い虫が付いたら大変だ。おねがいします。調査してください。」
やる気も出ない内容に、ついついタバコの量も増える。
三本くらい同時に火をつけて思いっきり吸ってやりたいよ。まったく。
「それじゃぁ、初日5万、後は毎日一万の調査費用。
 あと、調査に使った経費は、別で請求します。それでいいっすか?」
依頼者、ミスター・アンダーソン。承諾。
「ええ。お願いします。」

929 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/27(日) 21:53 [ lfTSYCLo ]
初日、いきなりやばいものを見た。
知り合いのジャックと、奥さんが会っていた。・・・白昼堂々と。
唖然としてしまった。それが失敗だった。
「オーフェン?オーフェンだろ?おーい!」
ジャックが、俺の名前を連呼した。おいおい。目の前には調査対象が・・・・。
気づいたときには遅かった。
美しいヒュームの女性は、振り返り、俺をみてニッコリと微笑んだ。

何故か俺は、ジャックとアンダーソン夫人と共に、チョコボに跨りソロムグ平野を駆けていた。
「オーフェンてさ、エルヴァーンにしちゃ、背がちっちゃいよな。」
余計なお世話だ。
ジャックは、元腕利きの冒険者であるアンダーソン夫人に、ある依頼をしたらしい。
その内容とは、オズトロヤの鍵とり。
詳しくは内緒らしいが、ジャックは筋金入りのバカだった。
自分から少しずつ喋り出した。
「実はさー。俺に彼女いて、あ、そいつも冒険者なんだけど。
 いまウィンダスに帰っててさ。そこでミッションを受けてるらしいんだよね。
 三ヶ月はかえってこないらしくてさ・・・・。」
延々とのろけ話が始まった。
「帰ってくるまでに、プロポーズに添えるプレゼントがほしいんだ。
 知り合いに聞いたら、いいものがオズトロヤの城の宝箱に眠っているらしくてさ、
 それがほしいわけ。」
「まあ!素敵ね・・・・。」
アンダーソン夫人は、両手を頬に当てて顔を赤らめた。
手綱を放している・・・。
「きゃ!」
バランスを崩したアンダーソン夫人が、チョコボから落ちそうになった。
俺は、咄嗟に手を伸ばして支えた。
「大丈夫か?」
体勢を直したアンダーソン夫人は、顔を赤らめたままうなずいた。
「おい、オーフェン。彼女、それでも既婚者だぜ?手ぇだすなよな!」
それは、俺が一番よくしってることだ。と、言いたかったが控えた。
「知ってるよ。左薬指に指輪してる。」
むしろ、それが理由で俺が依頼を受けたんだ。バカ。

930 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/27(日) 21:54 [ lfTSYCLo ]
オズトロヤに付いた。そこで、ジャックが呟いた。
「鍵が先か・・・宝箱が先か・・・。」
たぶん、鶏の卵の話にたとえてるんだろう。
鍵を先に見つけるか、宝箱を先に見つけるか。
まあ、鍵が無ければ開けられないわけだが。上手く喩えられていないぞ。
「鍵が先決ね。無いと開けられないもの。」
ジャックは、短く刈り上げた髪を手で撫でながら照れていた。
「そりゃそうか。」

それから鍵を探した。
探したといっても。手当たり次第にヤグードたちを切り裂いて行っただけだ。
オズトロヤ城とは、ヤグードという獣人たちが根城にしている場所だ。
そんな場所にある宝箱なら、ヤグードたちが鍵を持っている可能性が高い。
向こうから見たら強盗なんだろうが、これが冒険者ってやつだ。
俺たちに礼儀を求めるのがいけない。
必要なら、誰だって踏みつけてやるんだ。
「・・・ねぇ。いくら彼らが獣人だからって、ここまでするのは酷いんじゃないかな?」
血まみれで俺と、ジャックは振り向いた。
悲しそうな顔をしたアンダーソン夫人が、俺たちを見つめていた。
「向こうが襲ってきてるだけだぜ?なあ?オーフェン。」
「まぁ、そういう解釈もできるが、俺たちのやってることは押し込み強盗だな。」
俺がそういうと、ジャックは顔を膨れさせた。
「なんだよ、たかが獣人だろ。なんでそんなに熱くなってるんだ?」
たしかにそうだった。ジャックの言うと通りだ。
俺は、別に獣人を襲うことに抵抗はない。
これが向こうからどう見えるか考えた。しかし、それがどうしたことでもなかった。
アンダーソン夫人は、それを酷いと言った。
酷いことなんだろうか。
酷い・・・ことなんだろうな。
そのとき、不意に何処からか声が聞こえた。
「・・・汝たちが、行なった殺戮か?」
振り向くと、一人のヤグードが立っていた。
明らかな殺意が伺える。
「許すまじ・・・・不逞の輩どもが。」
一瞬で抜き放たれた刃を、ジャックが剣で受け止めた。
「はっ!早いだけだ!軽いぞ!くそったれ!オーフェン、とどめをさしてやれ!」
ジャックの声は聞こえたが、反応できなかった。
武器を受け止められている、このヤグードに一撃を入れるのは簡単だ。
だが、頭にこびり付いた言葉が拭えない。
『酷いんじゃないかな。』
「おい!オーフェン!!」
返された刃を受け止め、ジャックが叫んだ。
「なにしてんだよ!おい!」
俺はナイフを抜き、ヤグードの背後に回りこむ。
付きたてた刃に、ヤグードが崩れ落ちた。
「・・・・俺は・・・・。」
幸せを求めて全てを踏み散らかす。

931 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/27(日) 21:55 [ lfTSYCLo ]
結局、最後に倒したヤグードが宝箱の鍵を持っていて、俺たちは徒歩でジュノまで歩いた。
ジュノに着いた頃には、辺りはすっかり暗くなってしまったため、そのまま分かれることになった。
箱を探すのは、また後でするようだ。
「二度と手伝わないからな。」
俺がそういうと、ジャックは、
「わかってるよ。ジャミールが帰ってくるまで、まだ時間があるから平気だよ。」
と、冗談か本音ともつかないような返事をして去って行った。
にっこり笑って手を振っているアンダーソンさんに、俺は声をかけた。
「アンダーソンさん。」
「うん?」
「俺が、なんで名前を知ってるか、不思議じゃないか?」
アンダーソン夫人は、首を傾げ、少し困ったような笑顔を返した。
「あれ?名前教えてなかったっけ?」
「あぁ。俺、あなたの夫から、身辺調査を依頼された探偵なんだ。」
自嘲しているかの様な、照れているかの様な微笑みを浮かべて、アンダーソン夫人はその場に立っていた。
「私はね。元々冒険者でね。」
「依頼者から聞いている。」
「うん。それでね。彼の希望でやめたんだけど、じっとしているのがにがてで。
 いつも、下層の噴水を眺めにいったり、演劇を見にいったり、カフェのテラスで
 お茶を飲みながら、恋人たちの会話に聞き惚れていたりしているのが好きなの。」
「・・・・うん。」
俺の間抜けな返事が気に入ったのか、アンダーソン夫人は、ニッコリと微笑んだ。
俺はわかった。彼女は・・・・夫を・・・・。
「私は、彼を裏切るつもりなんてなかったの。」
彼女は、誰も踏み潰さなかった。与えられたもので、満足しようとしていた。
「あんた、それで幸せなのか?」
不意に、彼女の顔が俺に迫った。
「ちゅっ。」
俺の頬に、彼女の唇があたった。
「それだけ。それじゃ、夫が心配するからかえるね。」
彼女は駆け出して行った。振り向いては、手を振っていた。
やられた・・・・。

932 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/27(日) 21:56 [ lfTSYCLo ]
次の日。俺は吟遊詩人の歌う酒場に来ていた。
調査報告をするためだ。
「つ、つまり、彼女は男といたと・・・。」
こいつを、同じエルヴァーンとして恥ずかしく想うのは何故だろうか。
彼女が、なんでこんな奴とくっついたのか・・・、そう考えるのは嫉妬か?
彼女が選んだんだ。きっといい所もあるんだろう。
「落ち着いてください。そいつは、俺の友人のジャンという奴で、
 なんか、そいつの用事に付き合っただけみたいっすよ。
 俺も一緒に行く羽目になったので、間違いないです。
 なんでも・・・彼女にプレゼントしたいものがあるとか。」
「彼女!?ユイルのことか?!」
ユイル・・・奥さんの名前だろうか。
「いや・・・ジャミールとか言ってましたが・・・。」
ドン!!
後で大きな音がした。振り返ってみると、一人のミスラが、俺を睨んでいた。
カップを思いっきりテーブルに置いたのか、辺りに酒が飛び散っていた。
「それじゃ。今のところ彼女が不倫をしている様子は無いんですね。」
「えぇ。まったく。むしろ、彼女は貴方を裏切るつもりはないようっすよ。」
それを聞いて安心したのか、納得して帰って行った。
依頼者を見送った俺は、帰路に着こうと歩き出した。
「オーフェンさん。」
不意に後から声をかけられた。
聞き覚えのある声。
「ユイルさん?」
彼女は、少しくすくすと笑った。
「彼にきいたのね。」
頷く俺。
「こんどは、あなたからキスしてくれないの?」
俺の顔が真っ赤になっているのが解った。
まばたきも出来ない。
鼓動が高鳴る。
おどおどしている俺に、彼女は満面の笑みを見せた。
・・・・マジでやられた。

続く

933 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/27(日) 22:15 [ lfTSYCLo ]
批判も発言の自由ですよね。
私のも、どんどん批判してください。
    
          by スルーされたくなくて必死な作者

934 名前: 白き〜作者 投稿日: 2004/06/27(日) 22:37 [ kMOqqIr6 ]
あい、ごぶさたでしたー。新作UPしたので遊びに来てくださいませませ。
ttp://www.miracle-key.gr.jp/white/

一ヶ月来ないと結構レス伸びているもんだ!
もうすぐこのスレも終わり、新しいスレタイが気になる今日この頃です。
これからもどんどん新しいお話しを待っておりますゆえ、
批判発言あり無しに関わらずどんどん書き込んで頂きたいー!

さて、ヴァナってくるー。やっと「画廊の迷宮」クエ終わったんだー。

935 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/28(月) 03:28 [ 5niLOAso ]
失楽園





(*´Д`)ハァハァ

936 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/28(月) 14:28 [ CJw3fZ4Y ]
失楽ぇぇぇええん!
やらないかぁ!ヽ(☆∀☆)ノ

         byレスたったことにうれしい作者

937 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/28(月) 15:55 [ ZM/onscs ]
・・・・次スレ乱立中。(削除依頼は出てるけど)
おまけにテンプレミスなおってないよ・・・。

涙たちの物語5の最後の方で
テンプレ候補として書いたやつを間違えたウチが悪いんだけど・・・

ここの板の名前、
【FF(仮)板】じゃなくて【FF11の板(仮)】なんだよね・・・
ora
誰か気付いてくれると思ったのに・・・


とにかく、スレ建てたら誘導しましょうよ、建てた人・・・。
【FF11の板(仮)】 涙たちの物語『旅の終わりは』
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1088379577/

938 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/28(月) 17:57 [ iZ.XGqQQ ]
次スレか、気が早いなぁ…
新スレ乱立させるより、作品を乱立しやがれ

で、何が言いたいかというと ファッキンエレファン 微妙に話がリンクしてるのね。
哀れジャックはクビチョンパ

939 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/28(月) 19:51 [ N.QC4Q8g ]
カコニモドッテルンジャマイカ?>>938

940 名前: Scrapper 投稿日: 2004/06/29(火) 08:33 [ sevCRDvU ]
毎度ありがとうございます.
こちらも続きをアップしました.
次回からラストスパートに入ることになる…と思います.
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/5451/

今のところ,一番読者ウケしなさそうな話を書いてるのって私かなぁ…と,不安になってみたりしている小心者でした.
でもまぁ,私自身がこの二人を書きたいだけなのですけれどね.

作者様方も読んでくださっている皆様も頑張ってくださいね.

941 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/29(火) 13:58 [ zTH0MLuo ]
新スレできたし、埋めついでに書き溜めてある駄作のせちゃっていいですか?
ここにひっそりと埋もれさせたい。

942 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/29(火) 18:48 [ aoENQ33w ]
>>941
ばっちこーい(´・ω・`)
駄作かどうかは読み手一人ひとりの感じ方次第

943 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/29(火) 19:39 [ uVqkQQt6 ]
>>940

俺はあなたの作品が・・・





だいすきだーーーーーーーーーーーーー ぽっ('-'*)


ただ、それだけだ。

944 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/29(火) 23:38 [ 94tMCLr2 ]
>>940
涙達の物語スレで連載されはじめた当初から好きです。
この先どうなるのか・・・ドキドキしながら待ってます。

でも「それぞれの戦い - 守る者達」の中程
2カ所ほど人名入れ違ってると思われるとこが・・・。
それがちょっと気になっちゃって・・・。


>>941
ぜひとも!!!待ってます。
FF11やってないてけどこのスレの物語はハマる。

945 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/30(水) 01:09 [ SL11tXu6 ]
蛍 


夕焼けが降りたころ。辺りは闇に包まれた。
水の美しいウィンダスには、様々な植物が自生していた。
鼻の院と呼ばれる機関は、ミスラ族がエルシモ島と呼ばれる彼女たちの故郷から
持ってきた草花を改良し、夕闇に光を発する植物を作った。
それから毎晩、美しい蛍光色の光が夕闇を照らし続けてきた。

それを道しるべに、一人の少年が歩いていた。
少年といっても、その背はタルタルの5倍はある。
少年といっても、彼には性別はなく、唯、男性としての意思があっただけだ。
転生の際、ウィンダスへとたどり着いた彼は、幼少の頃からこの国で育った。

蛍。

それが彼に付いた名前だ。

「巣立ちの刻・朝日が差して」

小さい頃の記憶なんて無い。
ただ、漠然と父さんと母さんは、僕の本当の両親じゃないことは分かっていた。
両親が僕より大きかったころの記憶が無く、むしろどんどんとその差が開いていく記憶が、
僕と両親の種族の違いを物語っていた。
だから僕は、本当の自分を知りたかった。
僕は、自分自身を探したかった。
僕が14歳になった日、旅に出ることを決めた。
これは、僕が自分を探し求めた、ひと夏の冒険譚の始まり。

「だめ!ぜったいにだめ!」
母さんに、旅の目的を告げると、あからさまな反対にあった。
僕よりも遥かに小さい母さん。
本当の子供じゃない後ろめたさから、僕は母さんの言うことは全部聞いてきた。
だから、母さんが駄目だという旅に出ることなんて出来なかった。
「外は危ないのよ!いっぱい怖い動物がいるんだから!
 そんなこと言う子は、偉大なる獣が夜にやってきて食べられちゃうんですからね!」
僕は体を小さくして、母さんの説教を聴いていた。
2時間半が過ぎ、母さんの気が済んだ頃には、僕は母さんくらいに小さくなっていたんだと思う。

僕は、今まで母さんの言うことは全部守ってきた。
僕を今まで育ててくれた母さんのためなら、死んでもいいと思っている。
だけど、今回はどうしても譲ることが出来なかった。
自分を知りたい。どうしても。その気持ちを抑えるなんて出来ない。
明日の早朝、僕は黙って家を出る。

946 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/30(水) 01:10 [ SL11tXu6 ]
夜が更けた頃。

「ムナナ、何で蛍の旅を反対したんだ?」
蛍の両親の寝室。夕飯時の二人の出来事を見ていた父親が、母親に尋ねた。
「・・・だって、危ないじゃない。そとは・・・危険でいっぱいなのよ。」
目に涙を貯めた母親が言った。
「・・・本当にそれだけか?」
「・・・。」
「あの子は、私たちの子だ。何も心配ない。」
「・・・怖かったの。本当は怖かったのよ。・・・あの子が、自分を見つけることで、
 私たちから離れていってしまうんじゃないかって・・・・怖いの・・・恐ろしいほど・・・。」
ベットの横に置かれた花。その花粉は、蛍光色の柔らかい光を放っていた。
その光に照らされた彼女の頬には、一筋の涙が走った。
「あの子は、私たちの子だよ。信じてあげよう。・・・それが、親の務めじゃないのか?」
父親が、母親を諭すように、やさしく言った。
「うん・・・。そうかもしれないわ。」
無理やり作ったような・・・まるで泣いているかのような笑顔で、彼女はうなずいた。

947 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/30(水) 01:10 [ SL11tXu6 ]
夜明け。

まだ日が昇りきっていない朝。
両親はまだ寝ている。
僕は、大きな袋に紐を通しただけの簡単なリュックサックに、必要最低限の物を詰め込み、家を出た。
一度振り返り、また戻ってくる家を見上げた。
「ごめんなさい。黙って行って・・・・必ず帰ってくるから。」
そう呟いて、家を後にしようとした。
そのとき。
「ふはははは!甘いぞ我が息子!」
「と、父さん。」
僕の目の前に、しゃもじ見たいな杖を持った父さんが立ちふさがった。
「息子よ。母さんが心配しているぞ?それでも旅立つのか?」
母さんが心配している。その言葉が心を突き刺した。
「そ、それは・・・・。」
僕は、母さんを悲しませる様なことはしたくなかった。
だけど、どうしても知らなければいけないと思ったんだ。
何故か分からないけど、僕は僕自身を探さなければいけない。そう確信していた。
「さあ、家に戻るんだ!」
「ご、ごめんなさい・・・。僕・・・・どうしても・・・。」
僕の覚悟は出来ていた。どうしても譲れない想い。初めての我がままだった。
何故だろう。僕の身勝手を聞いた父さんは、何故か微笑んだように見えた。
「ならば、私を倒してゆきなさい!その覚悟な無いならば、今すぐ家に戻るんだ!」
「!!!」
僕は、衝撃を受けた。僕は人を傷つけたことなんてない。
ましてや、父さんに暴力を振るうなんて・・・とても出来ない。
「そ・・そんなこと・・・できない・・・。」
うつむき、動けないで居る僕に、父さんはこう呟いた。
「家に戻れば、いつだって暖かい料理が出来ているぞ。」
その言葉が、僕を決心させた。
僕は一歩を踏み出す。
力をこめて、前に出る。
それは、歩み寄ること。
信じあうこと。
「ごめんなさい!」
そう叫ぶと、僕は父さん目掛けて走り出した。
ドスン!と、大きな音が鳴り、父さんは5メートル程もふっとんでしまった。
「と、父さん!」
近寄ろうとした僕に、父さんは手を向けて静止させた。
「それだけの覚悟があるなら、行きなさい。」
僕はうなずいて走り出した。
『家に戻れば、いつだって暖かい料理が出来ているぞ』
いつだって帰れる家がある。そういうことなんだ。
僕は、いつだって帰れる。父さんと、母さんの元に。

「あなた・・・。」
蛍の母親が、家の中から顔を覗かせた。
「いたた。あいつ、本気でぶつかってきたぞ。」
痛そうな顔をした蛍の父親は、とてもうれしそうにそういった。
「あいつはな、怖がっていたんだよ。私たちと同様にな。私たちを大切に想うから、傷つけたくないから、
 蛍は私たちに気を使っていたんだ。怖かったんだ。私たちに拒絶されるのが。
 それは、私たちにも言えることだったんじゃないかな。私たちは、蛍が変わってしまうのが怖かったんだ。」
「そうかもしれないわね・・・。」
「私たちは、もっと近づいてもよかったのかもしれないな・・・。」
お互いに変わろうとした時、すぐには変われないけど、その兆しは確実に生まれるのではないのだろうか。
この親子の間には、きっとそれが生まれようとしているのかもしれない。

高くあがった朝焼けの光が、蛍に洗礼を与えるかのように降り注いだ。
遥かなサルタバルタの大地。
ウィンダスの初夏、蛍の冒険が始まろうとしていた。

終わり

948 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/30(水) 01:13 [ SL11tXu6 ]
941っす。
最後のほう、書きたいことがいっぱいあってめちゃくちゃっすよね。
書きたいことをあえて抑えるのも大事なんすよね。
駄作しつれいしました。

949 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/30(水) 10:07 [ vcrPTMjQ ]
ちょっと毛色は違うけど、こんなのもある、という紹介。

和風Wizardry純情派
http://d.hatena.ne.jp/WizDiary/20031101

あー、仕事中に開いちゃだめよんw
すっげー量あるから。 ← この二日間仕事になってないお馬鹿がここに。

950 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/30(水) 10:14 [ hiDjJKzk ]
>>948
イイヨイイヨー(・∀・)

ガルカで14歳って事は、タルタルLサイズよりちょっと大きいくらいかな
ちなみに俺が立てた訳じゃないが、次スレは>>937で良いのかな?

951 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/30(水) 12:25 [ sy.LlC.A ]
ウィンのガルカは餌が豊富にあり、発育がよいので平均ガルカのSサイズと予想。
タルタルの5倍の大きさってそのくらい?
タルタルの味が忘れられないぃぃ!

952 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/06/30(水) 17:41 [ 9y9RNGQE ]
950越えたのでもういっかい誘導

【FF11の板(仮)】 涙たちの物語7 『旅の終わりは』
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1088379577/

953 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/01(木) 01:22 [ cIlpBiA6 ]
便乗させていただきます。
練習で書いたやつあるんで乗せちゃいます。

954 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/01(木) 01:22 [ cIlpBiA6 ]
ひとりぼっちのよるだから。



ふすまを開けると、その先には首をつった父さんがいた。
その先には、血を垂れ流した母さんがいた。
血をすって、大きくなった僕の恐怖。
いてもたってもいられなくなり、僕は叫んだ。
力いっぱい。

それから、何年か過ぎたころ、ぼくはやっと気が付いた。
その記憶に。
まるで、縛られていたロープが腐って切れたかのように。
ぼくの記憶は、何年かの時を経て、やっとぼくの元へとかえってきた。
「それから?」
「それから?って?」
ぼくは、思い出したことを、友人に話した。
まるで映画を見ているかのように流れてきた記憶は、
とてもぼくの物だとは思えなかった。
リアリティがぜんぜんなかった。
だから、話すのは簡単。
まるで、他人事だから。
「だって、両親が死んでたんでしょ?
 叫んでからどうなったの?」
「ああ。そうか。」
叫んだあと、ぼくは何をしたんだっけ。
思い出せない。
「おもいだせないや。」
「そうなの?」
「また見たら話すよ。結構おもしろくなってきた。」
他人事なんだ。自分の記憶が、まるで物語みたいに思えた。



かるく、かるくジャンプすると、まるで天井に手がつくみたいに空をタッチできる。
ほんの少し、その気になれば、その空を突き破ってあの月だって手にいれられる気がした。
「むりだよ。君はそんな人間じゃない。」
ぼくの友人は、ぼくを過小評価しすぎる。
それは無理、あれは無理。なんでも無理無理。
ちょっと上手くいけば、それは運がよかったんだ。安心しちゃだめだ。だってさ。
「そう?」
「そうだよ。だから無理しないで。」
天蓋のように生い茂った木々の葉が、シャワーみたいな音を立てて風に揺れていた。
森に掛かった倒木をそのまま通しただけの様な橋に座って、
ぼくとその友人は、静かに木漏れ日を浴びていた。
「それより続きはおもいだした?」
「なんの?・・・ああ、あれね。ちょっとだけ思い出した。」
嘘。期待にこたえたいだけから出た嘘。
ぼくは友人に、嘘の物語を語りだした。

そのあと、ぼくの叫び声を聞いて、使用人の婆がやってきたんだ。
ぼくのこえに、相当びっくりしていたんだと思う。
銃なんて持ち出しちゃってさ。あのときは本当にびっくりした。
前には父さんと母さんの死体。後には婆の鬼の様な形相。
まるで、そこは地獄だった。
「嘘だ。きみの家に使用人はいなかったよ。」
「うわっ。いきなりばれちゃった。」
「嘘が下手だね。」
「そう?」
記憶が戻らないぼくなんてどうでもいい。
そんな感じの友人は、ぼくから気を離し、まるでぼくが存在しないかの様に本を読み始めた。
『はてしない物語』それが本の題名だった。
「面白いの?それ?」
「呼んでみる?」
「うーん。遠慮しとく。」
そして、友人は言った。
「だろうね。」
笑いながら。

955 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/01(木) 01:23 [ cIlpBiA6 ]



その日の夜も、ぼくは一人ぼっちだった。
ひとりぼっちの夜。僕は決まって泣いた。
記憶がもどるまでは、なぜ涙がでるのか分からなかった。
うれしくて泣いているのか、悲しくて泣いているのかさえ区別できないほどだったんだ。
何時の夜にもまして、ぼくは悲しく泣いた。
やっと無く理由をみつけたぼくは、ひたすらと涙をながした。
ながれた涙には、ぼくの悲しみの垢が詰まってる。
体の外にでるたび、ぼくは正常なぼくに戻っている。
「なんでぼくをおいて行っちゃったの?」
空中に問いかけたけど、答えはかえってこなかった。
それが、堪らなく悲しかった。
なんでかな?



「ねぇ。なんで君のお父さんとお母さんが死んだんだろう?」
「ん?なんでかな。」
「お母さんが血まみれってことは、君のお父さんがお母さんを殺して、
 そのあと首をつったってことだよね。」
「そうなの?」
「ちがうの?」
「うわっ!ぜんぜんわかんない。」
友人は少し笑って見せた。
小さな八重歯が覗いたけど、なんだかドラキュラの子供みたいに思えて怖かった。
「だろうね。」
やっぱり友人は、そういってわらった。
「お父さんは、お母さんを恨んでたのかな?だから殺したのかな?」
「嫌いじゃなくたって、殺したくなるよ。」
ぼくは、自分の口からそういった。
それに驚いたぼくと、その友人は、目をおおきくして見合った。
一番おどろいたのは、たぶんぼく。
二番目が友人だった。
「ぼく、怖いこといったよね。」
なんでかな?

956 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/01(木) 01:24 [ cIlpBiA6 ]



あってはいけない日が訪れた。
それは突然の豪雨。
本当に雨がふった訳じゃない。
そんな感じの日だった。
友人が死んだ。事故だった。
友人がのった空を飛ぶ船が、地面とケンカをしたらしい。
勝ったのは、我らのヴァナデール。
さすがだ!いかすね!
ぼくはそう叫ぶべきだっただろうか。
だけど出来なかった。
なんだよ!ひどいな!
とか。
友人をかえせ!ろくでなし!
くらいしか言えなかった。
たぶん、どっちを言っても我らがヴァナデールには同じなんだと思う。
ほめようと、けなそうと、その声はおなじ人物から発せられるものだから。
ひとりぼっちの夜。
ぼくは思い出した。
記憶の先を。
「どんなの?」
友人の真似をして自分に尋ねてみたけど、なんだか変な感じ。
まったく似てなかったからだとおもう。

ぼくは、まるで友人に聞かせるかのように語りだした。

一番おどろいたことは、首をつっていたのが、ぼくの父さんじゃ無かったってこと。
君は知っていると思うけど、あれって君の父さんだよね?
それで母さんは、ぼくのだ。
二人が結婚して、ぼくたちは兄弟になった。
やあ兄弟!ぼくたちは友人じゃなくて兄弟だったようだよ!
いまいっても聞こえないのが残念。
叫んだあとの話が聞きたかったんだっけ?
もしかして、知っていたんじゃないの?
「そうなの?ぜんぜんしらなかったよ。」
君の真似で相槌を打ってみたけど、全然にていないね。
本当に兄弟?っておもったけど、よく考えれば、血がつながってないんだよね。
似てなくて当然だ。
それからね、ぼくは叫んだ。
天に着くような勢いで叫んだけど、僕の元に来てくれたのは君だけだった。
ぼくと君と父さんと母さんだけで住んでいた家だったから。答えはある意味かんたんだった。
それからぼくは記憶をなくして生きていた。
君がぼくの道しるべ代わりになってくれた。
なんでそんなことをしたの?
ぼくに教えてくれればよかったのに。
なんで一人でしんだの?
ぼくも、つれてってくれればよかったのに。

「ひどいじゃないか!あんまりだ!」

ひとりぼっちの夜。ぼくの声は天に突き刺すように響いた。

終わり

957 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/01(木) 01:27 [ cIlpBiA6 ]
FF用語がバナデールだけなのは内緒です。
内緒・・・ごめんなさぁぁぁい!!!

958 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/01(木) 08:21 [ U76rA5jc ]
すまん、記憶の続きが気になるんだが・・・。

959 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/01(木) 12:34 [ bp7pkwsA ]
気になった者の勝ちだとおもう。
続きが気になった瞬間は、たまらなく幸せですよ。

960 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/01(木) 17:37 [ BtyeQOqg ]
>cIlpBiA6

You WIN!!

961 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/01(木) 20:26 [ cIlpBiA6 ]
記憶の続きは、叫んだあと、使用人のおばあさんじゃなく、友人(兄弟)が来たってことです。
そして、友人が兄弟だと思い出し、ついに一人になってしまったことを悲しむという物語でした。
958さん、叫んだあとの記憶の部分が分かりづらくてすいませんでしたヽ(;´д`)ノ

962 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/07(水) 00:21 [ 2VzooM4w ]
落ちるところに呟いてみる。

作者の気に入るような感想は書けん。
どんなに誘い受けされても、書けんもんは書けん。
書いてもしょうがないしな。だから書かない。

またジエン扱いされるのやだしね。

963 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/07(水) 02:13 [ MhITbgG2 ]
まぁまぁ。せめて好きな作品でも語ろうじゃないか。
私が一番好きな作品は、呪詛ですかね〜。
あの重厚とした世界観がたまりません。

964 名前: スレそのものへの感想? 投稿日: 2004/07/07(水) 08:55 [ YM32oCBM ]
最近嫌になるほど忙しく、久々に見に来たら見事に停滞
他のスレではサボリーマンの愚痴を見かける

基地外進行で忙しいのはうちだけではないのだろうか
作者さん達も頑張ってください、じゃあ今日も出張行ってきます(・ω・)ノシ

965 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/07(水) 12:17 [ slsyltZ6 ]
釣りなら釣りとメーr・・・
これが一番好きかな。一話完結でわかりやすい。

966 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/07(水) 22:19 [ B.2iL4GU ]
好きな作品へのエールを思い切り無視されるのも
寂しいもんなんだけどな…
いや、個々にレスなんて書いたらなんか言う奴いるから
書かないんだよな、と自分を納得させてみるけど
俺の次の奴にはレスつけてるやんかーとか
心の狭いことを呟いて終わる。我が儘だよな。

967 名前: 1/2 投稿日: 2004/07/07(水) 22:57 [ oVmkaDl2 ]
にゅぅにゅぅ。
アタシはウインダス生まれのミスラ。
まだ小さいケド、冒険者なのにゃ。

「夏は〜心のカギを〜甘〜くするのにゃ♪ご用心にゃ♪」

にゅぅにゅぅ。
今日は年に7度の盆踊り大会なのにゃ。
タナボタって言うらしいのにゃ。
夜店に、花火に、盆踊り、
それに今年は、新作の浴衣をゲットしたのにゃ。
うにゃ〜、血沸き肉踊るのにゃ!

「ねぇ?準備できた?」
「はいにゃ!完璧なのにゃ!」

「あ、可愛い!それ、今年の新作だよね?いいなぁ」
「にゃ〜。そんなに見ないでにゃ。照れちゃうにゃ。
にゃ?そういうソッチも新作なのにゃ?可愛いのにゃ〜」

「えへへ。うん。ありがとう」
「それじゃ、お祭り、楽しむのにゃ!」

「お〜!」

にゅぅにゅぅ。
街はお祭り一色なのにゃ。
街には祭囃子が流れていて、
カッコよく浴衣やキモノを着た人達がいっぱいなのにゃ。
みんな、とっても楽しそうなのにゃ。

あにゃ?
サブリガを被ってる人もいるのにゃ?
ニュースタイルかにゃ?

「うにゃー!人がいっぱいなのにゃ!」
「そうだね。じゃあ、何から始めようか?」

968 名前: 2/2 投稿日: 2004/07/07(水) 22:57 [ oVmkaDl2 ]
「う〜にゃ。まずは夜店で『チョコばにゃにゃ』買うにゃ。
それから、金魚すくいに、ヨーヨー釣り、射的もやるのにゃ。
えっと、それから、それから……」
「くすくす。いっぱいだね」

「そ、そうにゃ。いっぱいなのにゃ。
それと花火を見たり、盆踊りにも参加するのにゃ。
うにゃー!いっぱいあって、どれから始めればいいのか、
わからなくなってきたのにゃ?!」
「くすくす。慌てない、慌てない。ほら、落ち着いて」

「う、にゃ。はいにゃ」
「お祭りは逃げたりしないから、慌てなくても大丈夫だよ。
それに、慌てて走ったりしたら、また去年みたいに転んじゃうよ?」

「はにゃ!そういえば、そうだったのにゃ。
にゃ……。あれは恥ずかしかったのにゃ……」
「そうそう。じゃ、最初は『チョコばにゃにゃ』だよね?
そこの夜店で買って、食べながら色々と見て回ろうか?」

「にゃ。わかったにゃ!」
「(よしよし)」

はむ、はむ。
ぺろ。ちゅ、ちゅぱ。ちゅう、ちゅく。ぱく。

「ふにゃ〜。甘くて、美味しいのにゃ〜」
「ん……。んふぅ、美味しいね。
はへ?んん。あ、今、気付いたんだけど、
帯の締め方、ちょっとゆるくない?」

「はにゃ?そうかにゃ?いっぱい食べても大丈夫なように、
余裕を持たせてるダケなのにゃ」
「あ、そうなんだ。でも、ちょっと怖いから、
無理な動きは控えた方がイイかも」

「ほにゃ。大丈夫なのにゃ」
「あ、だからって、無理に動かなくても……」

はらり!

「あ……。だから……」
「にゃー!にゃー!にゃー!」

969 名前: 1/2 投稿日: 2004/07/07(水) 22:58 [ oVmkaDl2 ]
にゅぅにゅぅ。
アタシはウインダス生まれのミスラ。
まだ小さいケド、冒険者なのにゃ。

「キマリきらないポーズでも〜、
ヴァナディールだったら、それでおkなのにゃ♪」

にゅぅにゅぅ。
今日は、冒険者のおにいちゃんのモグハウスに遊びにイクのにゃ。
この前も、その前も、おにいちゃん、お留守だったのにゃ。
今日こそ、おにいちゃんと遊ぶのにゃ。

「こんにゃー!おにいちゃん、遊びにきたにゃ!」
「いらっしゃいクポー」

「あにゃ?モーグリさん、おにいちゃんはどこにゃ?」
「ご主人サマはクエストで、各地のギルドを廻っているクポ」

「そんにゃ〜。今日こそ、おにいちゃんと遊ぼうと思ってたのに、
つまんないのにゃ〜」
「しょうがないんだクポ。また今度、遊びにくるんだクポ」

「ふにゃ……」
「クポ……」

「おにいちゃん、いつもミッションとかクエストでココに居ないのにゃ。
きっと、アタシのことなんてどうでもイイのにゃ。
もう、おにいちゃんなんてキライなのにゃ!」
「……そんなこと、……ないんだクポ」

970 名前: 2/2 投稿日: 2004/07/07(水) 22:59 [ oVmkaDl2 ]
「にゃ?」
「ご主人サマは、いつもミスラとま……クポ、
世界中の人達を笑顔にするために、行動しているんだクポ。
危険なミッションや、大変なクエストで忙しのは、そのためなんだクポ。
そして、ご主人サマはキミを笑顔にしたいんだクポ。
だから、ご主人サマのこと、キライにならないで欲しいクポ」

「そ、そうだったのにゃ?知らなかったのにゃ!」
「そ、そうクポ。……多分……クポ」

にゅぅにゅぅ。
やっぱりおにいちゃんは、おにいちゃんなのにゃ。
誰よりも強くて、優しくて、カッコイイのにゃ。
アタシも早く、おにいちゃんみたいな冒険者になりたいのにゃ。
そして、おにいちゃんと冒険したいのにゃ。
うにゃ〜。なんだか照れちゃうのにゃ。

「うにゃ〜。おにいちゃん、スゴイにゃ〜!
じゃあ、おにいちゃんが今やっているクエストもそうなのにゃ?」
「そ、そうクポ!決して、モグハウスにマネキンを置いて、
着せ替えゴッコするためではないんだクポ!」

「あにゃ?おにいちゃん、今はどんなクエストをやってるのにゃ?」
「クポ!き、きっと今頃は、峠で Taisai と戦ってるんだクポ!」

「にゃ〜?」

にゅぅにゅぅ。
アタシ、おにいちゃんのこと信じていいのかにゃ……。

971 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/08(木) 08:50 [ WsqczNyo ]
>>967-970
和んだ、ワロタw
そして、ウイン○マンかよwwww



マネキンほっすぃ〜。_| ̄|○

972 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/08(木) 15:38 [ qdNrheHw ]
おぉ 譚の人おつっす!


そんなことよりみすr(ry

973 名前: 11人目に花束を 1/4 投稿日: 2004/07/09(金) 03:19 [ VEUHMIPY ]
うめネタに短編でも。
バスクエをネタにしているので、ネタバレ嫌いな方はご注意を。
ごく初期に終わらせられるクエなので、あんまり問題ないかもしれませんが、念のため。



11人目に花束を


それはただの気まぐれだった。
自分より大きな兄弟。
その人が抱いた思いをわかるとは言い切れないけれど、何かせずにはいられ
なかった。

歴史の中からかき消された11人目。
たとえ認められることがなくても、その思いは本物だった。
そういいきることのできる、その人をうらやましく思ったのも確かな事実だ。

大きな節くれ立った指が、器用に花を束ねていく。
無骨な、花を扱うとはとても思えないような大きな指。
所々に火傷の後が残っているのは指の持ち主が銃を主な武器としている狩人で、
使う弾を自分で使っているためだ。
意外なほどに器用に花を束ねていく背景には神経を使う火薬を扱いなれている
ということがあるのだろう。

赤、黄色、白、元々緑に乏しく、ジュノのような大都市でもないバストゥーク
では、薬品を作るのに使うものぐらいしか、競売で手に入れられなかったから、
見た目はずいぶんと無骨だ。
花束・・・というには少し問題があるかもしれない。
何かせずにはいられない。
ただそれだけの思いから始めたので、それもありだろうと自分を納得させる。
第一、ジュノのように花がそろっていたところで、自分に美しい花束が作れる
とも思えない。
誰かに知られるのも妙に気恥ずかしい気がするので、さっさと作ってさっさと
その場所に行くつもりだった。
だから、彼女にその場を目撃されてしまったのは、はっきり言って計算違いと
いうか計算外というか・・・とにかく想像の埒外のことであった。
よくよく考えてみれば、気むずかし屋の彼を気軽に訪ねてくる少女のことを、
頭に入れていなかったのが悪いのだが。

こんこん、かちゃり

軽く響くノックの音と続く扉を開ける音。
少女は彼の部屋を訪ねる際、軽くノックするだけで部屋に入ってきてしまう。
あまりほめられた行動ではないが、彼がそのことについて少女を咎めたことは
なかった。
別にそれで困るようなことも、今まではなかったから。
だが、そのことを少し後悔したのも事実だ。

974 名前: 11人目に花束を 2/4 投稿日: 2004/07/09(金) 03:46 [ VEUHMIPY ]
少女が訪ねてきたのは、そろそろ花を束ね終わろうかというときだった。
いっそ終わった後だったらいくらでもごまかしが利いたものを・・・
タイミングがよいというか悪いというか・・・。

「何やってるんです?」
普段は火薬を広げている場所に花が転がっていれば、少女でなくても問いたくは
なるだろう。
もっとも少女以外の仲間が、彼の住処を訪ねてくることなど滅多にない。
普段の光景を知らなければ、案外何も聞かれないかもしれない。
そんなことを思う。
「少しな」
言葉が足りない。
かつての仲間にはよくそう言って怒られた。今の仲間たちもほとんどがそう思って
いるだろう。
ただ、目の前の少女だけはそう言うことを気にしていないように見えた。
言葉が足りないなら引き出せばいい。どうもそう思っているらしい。
「花束・・・ですか?」
彼の手元にあるものをみてそう訪ねてくる。
「花束に見えるか?」
花束というには少し問題あるかもしれないと思っていたので、思わずそう訪ねると、
「花を束ねているんだから、花束でしょう?」
と、理屈なのか屁理屈なのか、いまいちわからない答えを返された。
「ふむ。そう言われればそうかもしれないな」
いまいち納得できない気もするが、確かに花を束ねたものは花束だろう。
さっさと完成させてしまおうと、作業を続ける。
部屋に転がっていた紐で軽く束ねた後、火薬を扱うときに下に引く紙で花を軽く包む。
やはりどうも見た目が悪い。
どうしたものかと、首を傾げていると、目の前にすっと赤いリボンが差し出された。
それまで黙って彼の作業を見つめていた少女が髪を束ねていたリボンをほどいて、
こちらに渡したということを理解するのに、少し時間がかかる。
「使ってください。少しは華やかな見た目になるでしょう」
「ありがとう。使わせてもらおう」
差し出されたリボンを使って、花の周りの紙を固定する。
確かに、少しはそれらしくなったようだ。

作業を終わらせると、少女が訪ねてきた用件が気になった。
単に暇つぶしの遊びでくることがないわけではない。
だが、彼女が訪ねてくるのは、たいていはなにがしかの用件がある時だった。

「どうした。何か用があったんじゃないのか」
「あ、ええ。今からみんなでダングルフの涸れ谷に出かけるので、お暇だったら
 ご一緒しませんかって誘いにきたんですけど」
そこで言葉を切り、花束に目をやる。
「何か、ご用があるみたいですね?」
・・・どうやら少女はこの花束の使い道についてあれこれ想像したらしい。
確かに、たいていの場合花束は女性に捧げるものだろう。

975 名前: 11人目に花束を 3/4 投稿日: 2004/07/09(金) 03:47 [ VEUHMIPY ]
「涸れ谷か・・・行きがけに少し寄り道させてもらえるのなら、つきあおう」
その言葉で、ぴんときたらしい。
それはそうだろう。彼の人物の依頼を受けたとき、そしてその依頼を果たしたとき、
彼女も皆とその場にいたのだから。
少女は少し考え込んでいたようだが、よしっと納得したように頷いた。
「寄り道は、大丈夫だと思いますよ。
じゃぁ、準備ができたら港の門にきてくださいね」
そう言うと少女はぱたぱたと部屋を飛び出していった。

武器と防具、薬品類を確認し、支度をすませる。
それを持って仲間たちのところにいくのは気恥ずかしくはあったが、持って
いかねばそもそもの目的が果たせない。
できるだけわかりにくいように注意しながら、花束を持ち上げて、彼は港の門へと
向かった。

彼が門についたとき、すでにほかの仲間たちは全員がそろっていた。
リーダー格のヒュームの青年が手を振って、声をかけてくる。
「おーっす、呼び出して悪かったな」
一般にあまり仲がよくない・・・というかはっきり反目しあってるガルカとヒューム
だが、こと冒険者に限ってしまえば、そう言う種族差にこだわっているものは少ない。
こだわっていたら冒険どころではなくなるからかもしれないが。
気にする必要はないと、手を降り返す。
「全員そろったな。いくぞ」

港の門から北グスタベルクへと出る。
ダングルフの涸れ谷にいくならば、商業区から外にでた方が早い。
少女に待ち合わせ場所を聞いたときは深く考えていなかったが、なぜ集合場所が
港の門だったのだろう。
少し不思議に思っていると、後ろから声をかけられた。
「山に行くんだろ?その花束を捧げに」
「気付いていたのか」
部屋を訪ねた少女にはばれているだろうと思っていた。
だが、ほかの仲間にまでばれているとは思わなかった。
「何となくね。11人目のあの人は生きてるけど、その思いに届けたくなったんじゃない
 かなって思ったんだが、違うか?」
思わず後ろを振り返り、少女に確認する。
どうやら少女が事情を話したらしい。
「寄り道するっていっていたので、いきやすいように集合場所変えたんです」
すました顔で告げる少女。おそらく本来は商業区の門が集合場所だったのだろう。
「勝手にか?」
「勝手にですね。でも、だれも文句は言いませんでした」
「そうか」

少し気恥ずかしいような思い。

976 名前: 11人目に花束を 4/4 投稿日: 2004/07/09(金) 03:48 [ VEUHMIPY ]
他愛のない会話をしながら、山を登る。
ヒュームの作った碑石に11人目の思いがあるものか。
そう言う兄弟もいるかもしれない。
それでも、あの碑石に残った痕跡は、どうにかして11人目がいたことを誰かに
知らせたい。そんな思いが宿っているように、彼には見えた。

だから、その思いに。
10人と、もう一人が確かにみていた同じ世界に。

ささやかな敬意を表して。

山頂は相変わらず殺風景だった。
訪ねる人もいないのだろう。
古びた碑石がぽつんとたっている。
前に訪れたとき、持ってきた花束はすでにその残骸を残すのみとなっている。
その横に持ってきた新たな花束を置く。
ふと、横を見ると、仲間たちがなにかをあたりに蒔いていた。

「何を?」
「ちょっと種をね」
訳がわからず首を傾げると、笑いながら青年が答える。
「花束もいいけど、いつかは枯れちまうだろ。
 種が根付けば、いつでも花が咲くからさ」
そうそう、と同意する仲間たち。

やり方は違う。でも、きっと同じものをみている。
青年に種を分けてもらい、同じように種を蒔いていく。
持ってきた種をすべて蒔き終わると、青年は満足げに宣言した。
「終わったな。じゃぁ、涸れ谷にいくぞ」

暖かいものが心の中に広がる。
たぶん、仲間たちの誰よりも年寄りの自分が、誰よりも長く生きてしまうだろう。
ガルカの寿命はそのぐらいほかの種族と違う。
それでも遠い未来。今が昔話になるとき、きっと、あの大きな兄弟のようにこの
仲間たちのことを思い出すことができる。
そう思った。

<fin>

977 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/09(金) 03:49 [ VEUHMIPY ]
書き込み途中で突然ネットワークが遮断。
全部書き込めなかったらどうしようと、かなり焦りました。

978 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/09(金) 16:05 [ fJv5TKUc ]
「11人目に花束を」の、きれいな文章に感服です。
まるでプロのようだw
ミスラ譚の新作も堪能させていただきました。
ほのぼの・・・か?(*´д`)ぽっ

979 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/11(日) 00:13 [ brLFK0HU ]
「11人目に花束を」 GJ!!

バス住人じゃないのでクエ内容わからんです。
キャラ作ってやってきますよ!!

980 名前: うめねた。 投稿日: 2004/07/13(火) 03:23 [ ntdntLV2 ]
11人目に花束をを書いたものです。
>978さん、>979さん、感想ありがとうございます。

>978さん
きれいな文章って、もったいないほどのほめ言葉です。

>979さん
クエストなので移籍とかバス籍のキャラとか作らなくても
できますよ。
ウィン人の私もクリアしましたから。
ちなみに、クエストの名前とこの話のタイトルは違います。
元ネタのクエは連続クエで、この話は2個目のクエの後の
出来事になります。

調子に乗って、ウメネタその2。
今度はウィンクエをネタにしてます。
これまた初心者のうちにできるクエですが、ネタバレいやな方はご注意を。

981 名前: 星夜宴 1/6 投稿日: 2004/07/13(火) 03:24 [ ntdntLV2 ]
星夜宴


今でもたまに思い出す。

まだ駆け出しのひよっこ冒険者だった頃のこと。

故郷の大地、サルタバルタ。
星降る丘と呼ばれるその場所。
そこで起こった不思議な出来事のこと。

それは、まるで夢の中のような出来事。

それが本当にあったことなのか、確かめたくて今でもたまにその場所へと
足を運ぶ。

けれど、未だに真相は闇の中・・・いや、夢の奥だ。


その日その時間、彼女がその場所を訪れていたのは、仕事のためだった。
異国から訪れた旅行者。
「特別なみやげものを持ち帰りたいから」
と言って駆け出しの彼女にその仕事を依頼した。

「流星の涙」

と呼ばれる氷を探してほしいと。

簡単な仕事だった。
星降る丘は、昼間ならよく行く場所だし、朝早くその場所に行ったとき、
木の根本に宿る、触るとそのまま溶けてなくなってしまいそうな"それ"を
見たこともある。

簡単な仕事のはずだった。

なぜ、あんな不思議な出来事に遭遇してしまったのか。

たぶん、たくさんに折り重なった偶然。
それがもたらした、一種の奇跡のようなものだったのだろう。

982 名前: 星夜宴 2/6 投稿日: 2004/07/13(火) 03:26 [ ntdntLV2 ]
仕事を受けた彼女は、まず、天気予報士にここ数日の天気を尋ねに行った。
「流星の涙」は晴れた日にしか、手に入れることができないらしい。
行って無駄足になるのはさけたかった。
氷が降るぐらいだ。おそらくものすごく冷えるだろう。
そんな中何日も待つのは絶対につらい。

幸いなことに、しばらくサルタバルタはいい天気が続くらしい。
早速支度を始めた。

セルビナミルクに卵のスープ。
ミスラの好む、串焼き類。
仮眠をとって出かけると、寝過ごしてしまいそうだったので、あらかじめ
その場に出かけようと思い、寒さ対策に暖かそうな飲み物とスープ、寒さ
対策とは関係ないけど、好物の串焼き類を袋に詰める。

夕闇が落ち始める頃、少々嵩張りすぎた荷物を抱えてサルタバルタに出か
けていく彼女をガードは不思議そうに見ていたが、かといって、特に止め
ることもなかった。
OPなどに拠点を張り、数日間ぶっ通しで鍛える人々もいないではないから、
きっとその類に見られたのだろう。

えっほえっほとサルタバルタの北西、周りに比べて少し小高い丘になって
いるその場所に向かう。

えいっと荷物をおろし、一息つく。
夕暮れ、赤、橙それから柔らかな青、藍。
緩やかに混じり合って、薄暮から宵闇へと移り変わる様をぼんやりと見つ
める。

冒険者になってからずっと必死に走っていたから、こんな風に暮れていく
風景を見つめたのは本当に久しぶりだな。
そう思った。

その物音に気がついたのは、深夜と呼ばれる時間帯に入ったあたりのこと
だった。

がさごそがさごそ。

彼女は荷物を背に座っている。
自分の視界の外で誰かが、荷物をあさっているということに気がつけたのは
がさごそがさごそという音に合わせて、軽く荷物が揺れているからだった。

はっきり言って後ろを振り返るのが怖い。
だが、幽霊の正体見たり枯れ尾花という言葉もある。
この状況で何が一番怖いかって音の主の正体がわからないことだ。

983 名前: 星夜宴 3/6 投稿日: 2004/07/13(火) 03:26 [ ntdntLV2 ]

いち。にぃ。さん。

心の中で3つ数えると思いきり振り返った。

そいつと目が合う。
ヤグード?・・・にしてはちっちゃい。子供のヤグードなんだろうか。

「あんただれ?なにやってるの」

武器に手を伸ばさず、そう問うていたのは、そいつがちっちゃかったから
だろう。
ちっこくて、かわいくて、いかにも、しまったみつかった!という表情を
しているそいつは、悪いものには見えなかった。

「たべもの。たべもの」
何やってるの。への答えだろう。これは・・・つまり・・・。
・・・食い物ねらいの泥棒さん?
「食べ物がほしいの?」
とりあえず確認してみる。答えは明快だった。
「ほしい」
「なぜ?」
さらに確認。
「おれたち、たまに。ここで、のみもの。のむ」
よくわからないが、宴会ということだろうか。
「宴会?」
「えんかい?それうまいのか?」
どうやら彼のボキャブラリーにない言葉だったらしい。
それでも問答をすることで、彼女は彼にとって交渉に値する人間だと認識
されたらしい。
「おれたち、のみもの。ある。でも、たべもの。すくない」
どうやら準備した飲み物に対して、食べ物が少なかったらしい。
不足分を補充しようとしたのだろうが・・・何でよりにもよって冒険者の
荷物をねらうのだ、このちっこいのは。
「おまえ、たべもの。ある。おれ、のみもの。ある。
だから、おまえ。たべもの。わたす。おれ、のみもの、わたす。だめか?」
こっそり持っていくのがダメだったから、今度は交換ということだろうか。
一応確認してみることにした。
「あー、飲み物と食べ物交換してほしいってこと?」
「それ。こうかん。だめか?」
やっぱり交換ということだったらしい。
ここまで話で、その「のみのもの。のむ」に興味を持っていた彼女はダメ
元で聞いてみることにした。
ずいぶんと後になってから、このときどうしてそんなことを口にしたのか、
理由を考えてみたことがある。
けれど、はっきりした答えを出すことはできなかった。
「いいよ。でも、どうせなら一緒に食べない?」

984 名前: 星夜宴 4/6 投稿日: 2004/07/13(火) 03:27 [ ntdntLV2 ]
「いっしょ?」
不思議そうな顔。
思いもつかないことを言われたという顔だ。
「おれたち、ってことは複数いるんでしょ?
一人でこのまま夜明け近くまで待つのも暇でいやなのよね。
だからよかったらあなた達の、それに混ぜてほしいんだけど」
ダメで元々。でも、できたらのぞいてみたい。そんな思いだったのかもし
れない。
「まて。きく。だめ。ある。いいか?」
だめなこともあり得ると言うことだだろう。
そりゃ、そうだ。こんな突然の申し出、ふつうなら断られて当たり前だ。
「うん、ダメならダメで良いの」

意外なことに、あっさりと参加許可が出た。

「場所はどこなの?」
移動する気配を見せない、ちっこいのに、そう尋ねると、
「ここ」
と答えを返された。
それにしては、気配がない。と、思って顔をあげると。そこにはたくさんの
影があった。
思わず身をすくめていると。
ちっこいのがうれしそうに影たちに告げた。
「たべもの。たべもの」
そんなにうれしかったのか。
とりあえず、影が湧いてでたように見えたのはきっと目が慣れていなかった
からだ。そういうことにしておく。

そこには、ちっこいのと同じくらいから、ふつうにみかけるのと同じぐらい
までの大小様々なヤグード達がいた。

ぎょっとしたのは確かな事実。
けれど、今更後には引けない。
とりあえず荷物の中の食べるもの全部を広げて、座った。

「どうぞ」

リーダー格らしいひときわ立派な格好をしたヤグードがおもしろいものを
見たという目でこちらを見やるが気にしない。
このとき頭のねじがすでに1本くらいどこかに行ってしまっていたのかも
しれない。

宴会が始まった。

985 名前: 星夜宴 5/6 投稿日: 2004/07/13(火) 03:28 [ ntdntLV2 ]
どうやら、最初の「どうぞ」で、気に入られたらしい。
リーダー格のヤグードに呼ばれると、杯になみなみと良い香りの飲み物が
注がれた。
「のめ」
断るのも無礼だろう。一気に飲み干す。
酒瓶をひったくると、今度はリーダー格のヤグードの杯になみなみと注ぎ
返す。
にやりと笑ってあいても飲み干す。
進められた飲み物は、ヤグードドリンクと呼ばれるチェリーとグレープで
作った酒だった。
ウィンダスにも伝わっているが、さすがヤグードの扱う本物は・・・違う。
かなりきつい酒であることには気がついていたが、次から次へと進められて
しまう。
断るのも無礼だ・・・といより、実際かなり美味しいお酒だったので、
飲まないのはもったいない。
あちらこちらで繰り広げられる風景。
すでに酒瓶がそこら中にごろごろと転がっていた。

とりあえず、10回ほど注がれて、10回ほど注ぎ返したことは覚えているが、
その後の記憶は定かではない。
何のためにこんなところにいたのだと、問われたから、正直に「仕事で流星
の涙を取りに来たんだ」
と答えたような気もする。
かなり大騒ぎであったことは確かだ。

ヤグードってのは厳しい戒律で暮らしてるんじゃなかったのか・・・と思っ
たのは、意識がふっとぶ寸前だった。

薄れていく意識の中、ふわりふわりと浮かび上がる涼やかな光を見たような
気がするけど、確証はない。

次に目が覚めた時には、だれもいなかった。
たくさん転がっていたはずの酒瓶も一つ残らずなくなっている。

頭は二日酔いでがんがんと痛むが、けがをしている様子はない。

「ゆめ?」

こぼれていたのはそんな言葉。
そのぐらい、現実味がなかった。

ふと荷物を確かめる。

荷物からはあったものが1つなくなっていた。
そして、なかったものが1つ加わっていた。

986 名前: 星夜宴 6/6 投稿日: 2004/07/13(火) 03:29 [ ntdntLV2 ]
なくなったものは、小さなリボン。
使わなくなったので、荷物に入れたまま金庫に戻すのを忘れていたもの。
そう言えば、誰かに渡してしまったような気がする。

加わっていたものは、陸魚の鱗の上に残る柔らかな氷。
溶けてしまわないようにそっと荷物に戻す。

とりあえず依頼の品は手に入れたのだ。
いまいち釈然としない思いを抱えながら、ウィンダスで待つ依頼人の元へと
戻った。

依頼人に鱗ごと氷を差し出す。
その美しさに感動したのか、依頼人であるその青年はそっと手で触れていた。

音もなく、消える光の塊。

あまりにもはかない氷。
おそらく手で触れなくても、そう持たなかっただろう。
わかっているのに、それを悲しく思ったのはなぜなのか。

きっと・・・
それが、あの夢のような出来事と現実を結ぶただ一つの証だったからかも
しれない。


その後、彼女は、街の人の依頼、国からのミッションを少しずつこなし、
冒険者として腕を上げていった。

世界中を駆けめぐり、活躍する日々。
それでも彼女はできうる限り、故郷に戻り、星降る丘の大樹の下で夜明け
を待っている。
だれにも信じてもらえなくても、どんなに否定されても、それはとても楽
しい出来事だったのだから。


星と見まごう、光の降る夜。
出会った、不思議な不思議な宴。

彼女が再び星月夜の宴に出会えたのか。
サルタバルタの星降る丘、そこにそびえる大樹だけが知っている。

<fin>

987 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/13(火) 09:35 [ edCV5kH6 ]
おいおいおい、なんかヤグードと戦いにくくなっちゃうなおい(*゚Д゚)

988 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/13(火) 21:19 [ SROvVf9g ]
子ヤグ可愛ぇぇ(*゚Д゚)

こういう雰囲気いいなぁ・・・。

989 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/14(水) 12:14 [ u5GiDzr2 ]
次はサンドクエかな?
すげー楽しみ。
すげぇぇ楽しみぃ!!

990 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/15(木) 23:36 [ gd73Capw ]
イイイイイイイイィィィィィィィィイイ!!!
イイ!

991 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/16(金) 00:50 [ pMulu3xM ]
ビューティフルデイズ


守るべきものは何か、考えたことはありますか?

守ったものの大切さ、考えたことはありますか?

世界じゃなくてもいい。

たった一つの命。

それは、代価のない光。

=煌炎=

くしゃみをしたエイジの肩に、毛布をかけて上げた。
「ありがとう。それにしても冷えるね。」
暗闇の広がるジ・タの森。
雨が上がるまで、偶然見つけた洞窟で雨宿りをするつもりだったけど、
雨は止まず、そのまま闇の支配が始まってしまった。
エイジの細く小さな肩を抱くと、ガタガタと震えていた。
本名、エイジルファジルは、僕のパートナーを勤めるタルタル。
巨大なカタナを振るう侍。
巨大といっても、僕のもつ杖の方が大きい位だけど。
「あったかいよ。ありがとう。」
エイジの笑顔に、僕は笑顔で答えた。
「そんなに寒いかなぁ?風邪ひいちゃった?」
小刻みに震えるエイジの肩を抱きながら、僕は言った。
ここにたどり着くまでに、相当雨に濡れてしまった。
その辺の湿気た落ち枝には、なかなか火が付かず、
体がすっかり冷えてしまったのかもしれない。
「そうかも。イドが炎の精霊と契約していてくれれば、
 すぐに暖められたのに。」
ずずっと、鼻水をすすりながらエイジが言った。
「ごめん。」
「またぁ。すぐあやまる。」
「うん。ごめん。」
謝るのは、僕の条件反射みたいなもの。
エイジもわかってそうしている。
ちょっとしたコミュニケーションみたいなもの。
僕らの間にある隙間を埋めるための儀式。
僕らはそのまま眠りに付いた。
毛布を二人でつかい、火とお互いの体温に暖められて、僕は安らかに眠ることができた。

恐ろしいほどの爆発音で、僕は目覚めた。
目を開けると、外では閃光が走っていた。
一晩の猶予を与えても、雨は降りやまず、それどころか雷が天を裂いていた。
一瞬の躊躇を見せ、恐ろしいほどの爆発音が辺りに響く。
「うひゃ?!」
エイジが驚いた声をあげた。
「おきちゃった?」
エイジを見ると、まだ寝息を立て、夢の中にいるようだった。
ドーンゴロゴロ(雷鳴)
「うひゃ?!」
起きたのかな?と、僕はエイジの顔を覗いてみたけど、
まだ気持ちよさそうに寝息を立てていた。
どうやら寝言で反応しているみたい。
爆発音によって緊張していた、僕の顔の筋肉が一気に緩んだ。
口の端は、僕の意思に逆らって上に吊り上げられる。
にやにや笑いながら、僕はエイジのほっぺたを突いてみた。
「えいえい。」
「うひゃ?!」
「えいえい。」
「うひゃ?!」

ドーンゴロゴロ(雷鳴)

「うひゃ?!」

愛しい時間が過ぎていく。
こんな辺境の地でも、僕らは幸せを感じることができる。
すばらしいじゃないか。
僕が、愛おしげにエイジを見つめていると、彼は目を擦りながら起きだした。
小さなあくびをしてから、言った。
「あ、イド。おはよう。」
おはよう。

992 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/16(金) 00:52 [ pMulu3xM ]
エイジは鎧を纏い僕がローブを身につけ、旅の準備が終わった後も
いやらしい雨は以前と降り続いていた。
僕らを足止めしているみたいに、激しい雨の壁と、雷鳴の威嚇が続く。
「止まないね。」
「やまないね〜。」
焚き火も燃え尽き、雨のせいで冷えた空気から身を守るために、
僕とエイジは一緒に毛布に包まっていた。
暖かく、居心地のいい時間は、あっと言う間に過ぎていく。
ボーっと時間は過ぎていき、丁度お昼になるかという時間の頃、
激しい雨のカーテンがかかった洞窟の入り口に、小さな影が現れた。
その小さな影は、洞窟の中には入ってこず、入り口で佇んだまま動こうとしない。
変化を待ち少しの間、息を潜めてみたが、その影は少しも動こうとしなかった。
フィルターを通した様な、ぼやけた影を確認するために、
僕とエイジは武器を持ってその影に近づいた。
2、3歩と近づくと、その影は明瞭さをまし、
そこに立っているのが一人のゴブリンだと分かった。
エイジもそれに気づいたんだろう。
手をカタナの柄に伸ばし、刃を引き抜こうとするエイジを僕は片手をかざして制した。
「まって、エイジ。・・・ゴブリンくん、そこは寒いでしょ?
 こっちへおいで。タオルもあるし、風邪ひいちゃうよ?」
しかし、その影は動こうとしなかった。
エイジを見ると、僕の顔をキョトンとした目で見ている。
獣人を自分たちのキャンプに招くなんて、変な行動だと思う。
彼らは凶暴で、残酷だと子供の頃から親に言い聞かされてきたからだ。
だけど、こんな雨のなかで争っても意味が無いと思う。
雨という一枚の紙が、僕らの残虐性や、お互いの憎悪を遮断してくらないだろうか。
「お前。危険。」
どのくらい対峙したらどうか。相変わらず降り続ける雨の中、
時間は正確には流れてくれない。
長い時を隔て、ゴブリンは僕らに話しかけてきた。
「今、仲間殺された。人間が、殺した。俺たちも、殺した。」
「ごめんね。」
エイジが不意に声を発した。
僕は、キョトンとした目でエイジを見つめる。
どやら、ゴブリンに対して発した声だったようだ。
するとエイジは、僕の顔をニッコリと見上げ、そして雨の中へと走って行った。
「だいじょうぶだいじょうぶ。だいじょうぶだいじょうぶ。」
そこのゴブリンのように、片言の言葉を使いながら、
ゴブリンの手を引いて洞窟の中へと帰ってきた。
たぶん、彼なりに自分たちが安全だとアピールしていたんだと思う。
僕は、壁に立てかけたカバンの中からタオルを2つ取り出し、彼らを迎えた。
一つをエイジに渡し、もう一つのタオルを広げてゴブリンの濡れた体を拭く。
マスクを拭き、皮の鎧を拭いてあげると、白いタオルは赤く染まり、
全身を拭き終わる頃には、タオル全体が真っ赤になっていた。
土砂降りの雨のなか、落ちることのなかった真っ赤な血が、そのタオルに染みついていた。
これは、彼の仲間の血なのだろうか。それとも、戦った人間の血なのだろうか。
「これでもどうぞ〜。」
竹で出来たウィンダス式の水筒から、エイジは鉄製のカップにお茶を注いでゴブリンへと渡した。
彼は、恐る恐る手を伸ばし、いくらか匂いをかいでからマスクを少しずらし、用心深くお茶をすすった。
「大変だったでしょ。雨が止むまで休んでくといいよ。」
まるで我が家へと招いたように、僕は彼に言うと彼は少し微笑んでくらた様な気がした。

993 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/16(金) 00:53 [ pMulu3xM ]
雨が止んだのは、夕方になってからだった。
血の匂いと、絶望と、小さな1つの亡骸の前に僕は間抜けに突っ立っていた。

一緒に毛布に包まっていた僕とエイジとゴブリンは、自分たちの身の上を話し合った。
エイジと僕が、これからラムウという召喚獣に会いに行くこと。
突然の雨で、ここに逃げ込み、一晩を明かしてしまったこと。
そして彼は、自分が仲間たちとヤグードに雇われ、
ジ・タの森にある人間たちの拠点を攻めたことを教えてくれた。
しかし、その作戦の情報は人間たちに漏れていて、待ち伏せにあってしまい、
彼以外の仲間は死んでしまったそうだ。
「ごめんね・・・。」
やるせない思いがエイジを襲ったのだろうか。
エイジは、まるで消えてしまうかの様な悲しい声でゴブリンに謝った。
「おまえ。悪くない。悪いの。戦う奴。」
泣きそうなエイジを慰めるようにゴブリンはエイジの頭を撫でていた。
雨に溶解され、薄められた獣人と人間の間の憎悪。
純粋な時間は、ずっとずっと続くと思っていた。
しかし、それは雨脚が弱まってきた頃だった。
激しい水しぶきの音を立て、何者かが一人近づいてきた。
赤い鎧を着た、僕とおなじヒュームの戦士だった。
巨大な両手斧を構え、僕らを見るなり大声で叫んだ。
「やっとみつけたぞぉ!足跡を追ってきたんだ・・・。
 お前らは、俺の仲間を何人も殺した!一人だってにがしゃぁしねぇよ!」
憎悪は、確かに存在していた。まるでどんな溶液にも溶けないカプセルに入れられていたかの様に、
溶けず、濃度の濃い状態のまま彼を突き動かしている。
「お前。俺の。敵。」
飛び出したゴブリンは、自分の斧を手にし、赤い鎧の戦士へと飛び掛った。
激しい激突音。そして、ゆっくりと返される赤い鎧の戦士の斧。
弾かれたゴブリンの斧は、宙を舞って壁へと突き刺さった。
赤い鎧の戦士が、よろめいたゴブリンを見て、ニヤリと醜悪な微笑みを作ったのが見えた。
ゴブリンの背中越しに、赤い血が立ち上った。
激しい勢いで踊る血。僕は、何処にいる?現実味のない光景を心が否定した。
「!!!!!!!!!!!!」
表現しがたい悲鳴が上がった。
それは、切り裂かれたゴブリンが発したモノではない。
エイジだ。
叫びながら、素早い動作で刀を抜く。
鞘を滑らせた刃は、恐ろしいスピードで赤い鎧の戦士を襲う。
必死に突き出した斧が、偶々エイジの剣撃を防いだ。
次々と繰り出されるエイジの剣筋に、戦士は必死に守ることしか出来なかった。
エイジはとても強い。僕なんかより、遥かに。
戦士の放つ一撃は、全て力負けして払われる。
エイジの打つ一撃に、戦士は耐えることなく吹き飛ばされていた。
しかし、怒りに任せたエイジは、不安定な存在だった。
状況を見極められなかったエイジは、足を泥にとられ、転んでしまった。
一回転をし、仰向けに倒れたエイジの腹に、戦士の斧の刃がめり込んだ。
簡単だ。人の体とは、とてもやわらかい。刃物があたれば、簡単に切れてしまう。
骨は簡単に折れ、内臓なんて簡単につぶれてしまう。
たとえ、一つの臓器が機能を停止してしまっても、人は生きることが出来ない。
えぐられたエイジの肉から、血がほとばしった。

994 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/16(金) 00:54 [ pMulu3xM ]
「あああああ!!」
興奮した戦士が雄たけびを上げた。
斧の刃に侵食された体を痙攣させ、エイジは残酷な死を苦しんでいる。
「お前も仲間だなあ!!!全員殺す!!全員だああぁああ!」
人を殺してしまったことに、混乱してしまったのだろう。
戦士の足が僕の方を向いた。
なんてことない。僕は、すぐにエイジの元へといける。また、一緒に旅をすればいいだけだ。
戦士がエイジから斧を抜いた。
殆ど半分に切断されてしまったエイジの体は、ボロの人形の様にポロリと地面に落ちてしまった。
一歩。戦士の足が僕に近づいた。
丁度、焚き火の後をはさんで対峙した。
そのとき、グサリと何かが刺さる音が静寂の中に響いた。
赤い鎧を着た戦士が後を振り向く。そこに居たのは、胸から血を流すゴブリンだった。
手に持った斧が、戦士の背中に深く刺さっていた。
「お、おおお、生きてたのか、し、死に損ないがああ!」
戦士が振り返り、ゴブリンを振り払おうとしたときだ。僕はみた。彼が懐から取り出す、一つの爆弾を。

閃光。

静寂。

爆音。

静寂。

煌炎。

二人の死体は、跡形も無く吹き飛んでいた。
ゴブリンは何故、立ち上がったのだろうか。
仲間のため?・・・僕を助けるためだろうか・・・。
僕のちっぽけな命は、3つの命を犠牲にして仄かに灯された。
エイジの死体の前で、僕はやっと泣いた。
涙が頬を伝った。
雨は上がり、雲が割れ、美しい夕焼けが僕の影を照らしだす。
いくつも立ち聳える木々を這って、僕へと届いた光は、まるで誰かが僕を慰めてくれているみたいだ。

終演

995 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/16(金) 00:55 [ pMulu3xM ]
感化されてしまった訳で・・・・。
正直ごめんなさい。

996 名前: ミルク色の夢 1/3 投稿日: 2004/07/16(金) 07:28 [ c8w.SYWw ]
>987さん、>988さん、>999さん、>990さん。
お楽しみいただけたようで、うれしいです。

調子に乗ってウメネタその3。

ここまできたら、初期クエシリーズで行ってしまいたいと思います。
今度はサンドクエです。
ネタにするクエを選ぶのにちょっと悩んでしまいましたが、何とか書けました。
良ければお楽しみください。



ミルク色の夢


ごとり。

重たげな音とともに、縁ぎりぎりまで乳白色の液体に充たされたカップが
テーブルの上に置かれる。
「飲め」
その意図がつかめなくて、それを置いた相手――彼女の相棒である青年を
見上げる。
いつものことだが、相棒は言葉が足りない。
これが飲み物だってのは見ればわかるのだけれど。

問いたださない限り、必要な情報を渡さないってのは、好む好まざるに関
わらず人様の秘密にふれてしまうことのある冒険者としては良い資質なの
かもしれないけど、相棒である自分にまで同じ態度をとられるのは微妙な
気がする。

「ミルク?」
この国で――いや、サンドリアに限らず、このヴァナ・ディールと呼ばれ
ている世界で一般的にミルクといえば、セルビナミルクと呼ばれるザルク
ヘイム地方特産の大羊の乳だ。
少し癖があり、少し甘い。
ここにおかれているカップの中身は、そのセルビナミルクに比べて甘い
匂いが強い気がする。
カップの中身の正体がいまいちつかめず、首をひねっていると、青年は
ああ、と合点したように言葉を付け足した。
「メリーのミルクだ」
メリーのミルク?
ついで彼女の口からこぼれた言葉は、我ながらかなり間抜けなものだった
と思う。
「は?」
それは、確か南サンドリアのご婦人から入手するように依頼されていた品
のはずだ。

997 名前: ミルク色の夢 2/3 投稿日: 2004/07/16(金) 07:28 [ c8w.SYWw ]
なんでそんなものがなみなみとカップに注がれて、机の上にあるのだ。
メリーのミルクは、ザルクヘイム地方コンシュタット高地に生息するスト
レイ・メリーという羊が稀に落とす、珍しいミルクだ。
心地よい安息を飲んだものにもたらすという。
もちろん競売に行けば、入手できなくはない。
けれど、競売での値段を彼女も確認したことがあるが、ミルク1本の値段
とは思えないほど、高価な値がついていた。
「依頼の品を私に出してどうするのよ」
あきれた思いが言葉ににじむ。まさか、競売で買ってきたのだろうか。
そうなると、かなりの出費のはずだが・・・。
複雑な思いが頭の中を駆けめぐる。
そんな彼女をみて、相棒の青年はひらひらと手を振って言葉を紡ぐ。
「大丈夫大丈夫、俺の依頼の分とおまえの依頼の分、コンシュタットで
 取ってきて、ちゃんと依頼人に渡してきたから、報酬もばっちし」
「は?」
この相棒が突拍子もないことは知っていたが・・・ここまでとは。
相棒の言葉を信じるならば、自分の依頼された分だけならまだしも、彼女
の依頼された分、さらには今この机の上にある分までを取ってきたという
ことになる。
確かに、しばらく留守にしていたが、まさか一人でコンシュタット高地に
行っていたとは。
「何で一人で行ったの?」
言外に置いて行かれたことを抗議する。
「だって、おまえしばらくきちんと眠れてなかっただろ?
 調子悪いみたいだったからな」
だから、街でゆっくりしている間にこっそり出かけたのだと、相棒は笑う。

冗談ではない。
「何で、一人で出かけるの!怪我したらどうするつもりだったの?」
相棒は白魔法は使えない。確かに薬品もある。
けれど彼女は、相手が自分の知らないところで怪我をするのは嫌だった。
「だーかーらー。俺が怪我するの、おまえがいやだってことだろ?
 同じだよ、おまえにけがされるのは俺がやなの」
相棒の言うことにも一理ある。それでも、置いて行かれたという思いの方
が強い。反論の言葉を探している彼女に相棒は柔らかくほほえみながら、
こう告げた。
「それに、こんな風にびっくりさせたかったしな。
 ちーと早いけど誕生日プレゼントだ」

「ばかっ、私の誕生日は半年近く先じゃない」
思いもかけないことを言われて思わず悪態をつく。
「馬鹿で良いんだよ。俺のわがままだもん」
「ったく。何言ってるの」
悪態をついているのに、にこにこしている相手をみて、だんだんと自分の
態度があほらしくなる。

998 名前: ミルク色の夢 3/3 投稿日: 2004/07/16(金) 07:30 [ c8w.SYWw ]
「いいから、飲めって。さっきも言ったけど依頼の品はちゃんと納品済みだ。
 これは、俺がおまえのために取ってきたものなんだから」
こういうことを照れずに言うあたり、相棒は大物だと思うのだが、面と向
かってそのことを告げたことはなかった。どうしても照れが先に立つのだ。
それでも、これだけは言わねばならないだろう。
「ありがと」
ほとんどつぶやくような――相手に届くか届かないか位の小さな感謝の言葉。
けれど相棒はうれしそうにほほえむと、そっとささやき返してきた。
「どういたしまして。それ飲んで今日はゆっくり寝な」
「ん」

そっとカップを口に運ぶ。
セルビナミルクよりもずっと強い甘い味。
柔らかなミルクの匂い。
それはどこか懐かしい思いを呼び覚ますものだった。

悔しいけど、かなわない。
今日は久々に良い夢が見られそう。
そう思っているところに、柔らかな眠気がおそってくる。

ふわふわとやってくる、柔らかで幸せな眠り。

願わくば、あの女のひとにも柔らかな眠りが訪れますよう。
そんなことを思いながら、眠りに落ちた。

<fin>


私のお役目はここまで。
残りのうめはみなさまにお任せいたします。

ではでは、次スレでまたあいましょう。

999 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/16(金) 10:49 [ VMQLfy9. ]
ていやっ

1000 名前: (・ω・) 投稿日: 2004/07/16(金) 10:50 [ VMQLfy9. ]
1000げとー

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