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[SS]バーンナックの咆哮
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はじめましての方ははじめまして、そうでない方もはじめまして。
今回はバーンナックのお話です。
よろしくお願いします。
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バーン「なんだ?第六回CPUトーナメント…?」
黄色のカービィ族、バーンナックの元に、どこからか一枚の招待状が届いた。
チェマ「おぉ!ついにお前も参戦するのか!」
そこにやって来たのは、すでにCPUトナメ選手として活躍するルイージ族、地上最強のチェマ。
二人は最近ストリートファイトで激闘を繰り広げたのちに、修行仲間となった。
バーン「チェマ。知ってるのか?」
チェマ「はあ!?お前CPUトナメも知らねえのか!?」
バーン「すまない。俺は自分の技を磨くことにしか興味が無いんだ」
チェマ「ったく…ほんとにストイックな奴だな。CPUトナメってのは、世界中のファイターたちが集まって最強を決める大会だ」
バーン「最強を決める…?」
チェマ「ああ」
バーン「賞金は?」
チェマ「出ねえ。強いて言やあ名誉だな」
バーン「…無駄な戦いに身を投じる気はない」
チェマ「なんだよ。俺とは戦ったじゃねえか」
バーン「あれは君が無理やり仕掛けてきたんだろ」
チェマ「けっ!」
-
チェマ「だが、CPUトナメはただ最強を目指すだけじゃねえぞ」
バーン「どういう意味だ?」
チェマ「会場には毎回大量の観客が入る。ただ強さを見せるだけじゃ客は沸かねえ。みんな何かしら武器を持ってんだ。ものすげえ技や難しい技術を使う奴、不思議な動きで視線を集める奴、豪運や粘り強さで逆転をもぎ取る奴…自滅を繰り返して客を笑かす奴なんかもいる」
バーン「武器…か」
チェマ「お前で言うとコンボだな。要はその磨いたコンボをみんなにお披露目する場所だと思えばいい。どうだ?少しはやる気になったか?」
バーン「俺は別に、誰かに認められるために修行しているわけじゃない。勿論、誰かに勝つためでもない」
チェマ「あ?じゃあ何のためにやってんだ?」
バーン「何の為でもない…ただ、愉悦に浸っているだけだ。コンボが繋がった時、脳内物質が激しく沸騰する…その快感から、俺は逃れられない」
チェマ「あー…ようは趣味か。ただ好きでやってるだけなんだな」
バーン「そういうことだ」
チェマ「どうりですげえわけだぜ。好きなことやってる奴が一番伸びる。天性のコンボクリエイターだな」
バーン「…そんな大したもんじゃない」
チェマ「だが、勿体ねえぜ。お前ほどの奴が世間に注目されねえまま消えていくなんてな。今回だけでいいから出てみねえか?CPUトナメ。修行だと思ってよ!」
バーン「…」
チェマ「つうか出ろ!俺は今回呼ばれてねえんだ。同族同色の新人が入るとかでな…クソ…招待状を貰っといて辞退なんて許さねえぞ!」
バーン「……フゥ…仕方ないな。君がそこまで言うなら。今回だけだ」
チェマ「おう。頑張れよ!」
バーンナックの頭をポヨンと叩いて、チェマは去って行った。
-
バーン「CPUトナメか…」
プルルルル…
バーン「ん」
ピッ
バーン「もしもし」
ちょこ『あ!バナくん!ひさしぶり!』
バーン「その声…ちょこにゃ…?」
ちょこ『そ!』
バーン「どうしたんだ?突然。君はアイドルで忙しいんだろ?」
ちょこ『そうなんだけど!でも聞いて!?わたし、CPUトナメに招待されたの!!』
バーン「CPUトナメ…」
ちょこ『うん!ピンクカービィの代表だよ!すごいでしょ!』
バーン「あ、ああ」
ちょこ『しかも友達のドルコリン♪ちゃんやバルザードちゃんも一緒に出ることになったんだぁ!実は二人もトナメファンでね、こっそり一緒に特訓してたの!ふふっ。アイドル界から参戦なんて、みんなびっくりするだろうなー!』
バーン「なぜそれを俺に…?」
ちょこ『だって幼馴染だし!観に来てほしいなって!知ってるんだよ?前に一度、ライブ観に来てくれたこと!』
バーン「た、たまたま旅の途中に通りかかっただけだ…」
ちょこ『最近忙しくてあんまり連絡できなくて、ごめんね!でも嬉しくてつい電話しちゃった!』
バーン「CPUトナメってのは、そんなにすごいものなのか…?」
ちょこ『え!?当たり前だよ!英雄の一族の中でも、限られた人しか参加できないんだから!』
バーン「…」
ちょこ『どうしたの?バナくん』
バーン「いや…」
ちょこ『あ!マネージャーさんが呼んでる!じゃあまたね!絶対観に来てよね!』
プツッ
バーンナックが自分にも招待状が来たことを告げる前に、電話は一方的に切られた。
-
バーン「ちょこにゃも出るのか…というかアイドルが格闘試合なんて、大丈夫なのか?顔に傷でも負ったら…」
人喰い「くく、それに関しちゃ問題ないだろうぜ」
バーン「!?」
突如背後に現れたのは、赤い帽子のピカチュウ、人喰い軍曹だ。
人喰い「あの会場はよくわからん技術で出来てやがる。仮想空間みたいなもんを作り出して、その中で戦わされるのさ」
バーン「仮想空間…?」
人喰い「だからステージから落ちたり星になるほどブッ飛ばされても、すぐに戻って来られる。起きたダメージが現実に反映されることもねえ」
バーン「そうなのか…ところで君は…?」
人喰い「くく、俺は…」
歩く「人喰い軍曹!」
アマゾン「★グレイトアマゾン★参上っ!もう逃さないぞ!」
人喰い「チッ、めんどくせえ」
タタタタタ…
青いネス族の少年たちに追われ、人喰い軍曹は逃げて行った。
バーン「…彼らもCPUトナメの関係者か…?まあ、どうであれ俺には関係ない。俺は自分のコンボを極めるだけだ」
-
歩く「あの、大丈夫でした?」
バーン「!!」
歩く「あ、すみません。驚かせてしまいましたか?」
背後から声を掛けてきたのは、先程の青いネス族のうちの一人、歩く天下無敵だ。
バーン「何か用か?」
歩く「人喰い軍曹に何かされませんでした?」
バーン「人喰い…さっきのピカチュウのことか?いや、特に何もされてない。CPUトナメというものについて少し教えてもらったが」
歩く「教えてもらった…?あの人喰い軍曹が…いえ、何もされていないのなら良かった。では僕はこれで」
バーン「あ、待ってくれ!君も、CPUトナメの選手なのか?」
歩く「え?ええ、そうですよ。僕も、さっきの人喰い軍曹も。それにもう一人いたネス族のアマゾン君も、次の大会でデビューが決まりました」
バーン「…なぜ…君はどういう目的で参加しているんだ?」
歩く「目的、ですか…?えっと…そうですね…第一回CPUトナメを観て、ハマってしまったからですかね?そんなところに招待状が届いたんですから、出場を断る理由もないでしょう」
バーン「そうか…観れば分かる…か」
歩く「もう良いですか?僕も彼らを追わなくては」
バーン「あ、ああ」
歩く「では失礼します」
歩く天下無敵はお辞儀をして、歩いて行った。
バーン「歩いて行くのか…というか結局なんで彼らは追いかけっこしてたんだ…」
天下無敵の背中をしばらく見送って、バーンナックも反対方向へと歩き始める。
バーンナックは賭けストリートファイトや武闘大会の賞金などで日銭を稼ぎ、旅をしている。
その武闘大会が、近くの町で行われるという情報を聞きつけていた。
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そして数時間後。
バーン「よし。エントリーは済ませた。あとは勝つだけだ」
カービィ族としての力を活かし、バーンナックはこれまでも圧倒的な強さで勝ち続けてきた。
だが、今回の相手は。
バーン「あ、あの顔…チェマに似ている…」
司会「これまでも各地の武闘大会で優勝してきた実力者!!コンボの達人!!バーンナック選手ゥゥゥ!!そしてその一回戦の相手はァァ!!なんとォ!!」
ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
バーン「なんだ!?」
司会がその名前を呼ぶ前に、会場はとてつもない歓声に包まれた。
司会「なんとこの漢がやって来たァ!!!かの有名なCPUトナメ!!初代優勝者ァァ!!灼熱のォォ!!レイアだァァァァッ!!!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
レイア「しゃぁぁ!!」
ピンクのルイージ族、灼熱のレイア。
バーン「…すごい人気だな…」
レイア「悪ィな!俺のファンは熱苦しいヤツばっかりでよ!」
観客「お前が言うなー!」
レイア「うるせぇーっ!!」
そんな野次とのやり取りにも観客席から笑いが溢れる。
レイア「お前もずいぶん強いらしいな!良い試合をして、もっと盛り上げてやろうぜ!バーンナック!!」
-
バーン「…くだらない」
レイア「何?」
バーン「所詮遊びか。客を楽しませることに重きを置いている、要はプロレスのようなものだろう。CPUトナメなんて」
レイア「オイオイ失礼だろ!!CPUトナメにもプロレスにも!!」
ブーブー!!
会場にはブーイングの嵐が起こる。
バーン「事実だ。教えてやる、本物の戦いを」
レイア「…へへっ!まあいいさ!!俺はどんな時も全力でぶつかる!!そんだけだ!!」
審判「両者、位置について!!」
ザッ!
二人はステージ上で睨み合う。
審判「始めっ!!」
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数分後。
バーン「…!!」
審判「バーンナック選手、場外ッ!!よって勝者、灼熱のレイア選手!!」
ウオオオオオオオオ!!!!
レイア「っしゃあ!!良い勝負だったな!お前の熱気、伝わって来たぜ!!」
レイアは場外で倒れっぱなしのバーンナックに手を差し伸べる。
バーン「……くそっ」
バーンナックはその手を取らず、よろけながらも自力で立ち上がる。
レイア「おいおい大丈夫か?」
バーン「…問題ない…済まなかったな、馬鹿にして」
レイア「気にすんな!お前みてえに熱いヤツは好きだぜ!!」
バーン「…ふん」
そのまま会場を後にした。
その後レイアは危なげなく圧勝を重ね、当然のように優勝した。
レイアさえいなければ、バーンナックはいつものように優勝できていただろう。
バーン「……仕方ない。舐めてかかった俺が悪いな」
バーンナックはそのまま次の町へと向かった。
-
その晩。
バーンナックは町の宿に泊まり、パソコンを借りて動画を検索する。
バーン「これがCPUトナメか…」
そこに映っていたのは、紛れもなく今日戦ったルイージ族。
バーン「灼熱のレイア…服は違うが…」
そして、試合開始からおよそ二分。
相手のプリン、ヨシオくんはアカのこうらにガードを割られ、空へ消えていった。
バーン「…やはり、くだらない…」
バーンナックは呆れてパソコンを閉じ、明日に備えて寝た。
-
翌日。
そこからいくつか離れた町に、バーンナックは到着した。
バーン「たしかこの辺りで賭けファイトが行われていたはず…」
治安の悪い地区の裏路地に入り込んだ先に、格闘家たちの溜まり場がある。
バーンナックはそこへ単身乗り込んだ。
が。
バーン「…どうなってる…?」
格闘家たちは、全員倒れていた。
空手家「…ぐッ…ア…アイツだ…」
ボクサー「ハァ…ハァ…あのオッサン…めちゃくちゃ強えぞ…!」
力士「これが…CPUトナメの…ファイターの力か…」
倒れた男たちが指差した先には。
部長「あ、どうも、こんにちは…」
水色の帽子と服を纏ったルイージ族、一番繊細な部長が立っていた。
バーン「またルイージ族か…」
部長「そういうあなたは、カービィ族ですね…でも、初めてお会いしますよね?永遠のエースさんではありませんよね?」
バーン「誰だそれは」
部長「あ、いえ、失礼…似ていらしたもので」
-
バーン「君もCPUトナメの選手なのか?とても戦いに身を投じるような人には見えないが…」
部長「はい、一応…見た目通り大した成績も残せていませんがね…」
バーン「君はどうしてトナメに参加している?」
部長「それは…私自身は正直、興味はなかったのですが…家族が大ファンでしてね。初めて招待状が来た時のはしゃぎようはもう、手が付けられないほどで。仕方なく参加したんです」
バーン「仕方なく…」
部長「ええ。ですが私の試合を観た家族や同僚に、凄かったと褒められ…恥ずかしながら、乗せられてしまいましてね。はは…それからはこうして色んな人に戦いを申し込み、鍛えているのです」
バーン「それだけの理由で…?」
部長「…悔しかったのもあります。やはり勝つ姿を見せたかったですから」
バーン「…そうか」
部長「どうです?あなたもここに来られたということは、戦いを求めて来たのでしょう?一戦…」
バーン「戦いを求めてるわけじゃない。生きていくために、金を稼ぎに来ただけだ。賭けファイトなら受けよう」
バーンナックは有り金を入れた袋をドサッと下ろし、中を見せる。
部長「良いでしょう。私もそれと同じ額を賭けます。勝った方が総取り。ですね?」
バーン「ああ」
二人はそのまま戦いの構えを取り、睨み合う。
バサッ!
建物に留まっていた鳶が、羽ばたく。
その瞬間。
ダッ!!
両者同時に仕掛け、戦いが始まった。
-
およそ一時間後。
部長「…ふぅ…やりますね…」
バーン「はあ…はあ…」
未だ決着付かず。
部長「この辺にしておきましょうか…」
バーン「何だと…?」
部長「私…結構遠くから来てまして…こんなところを知り合いに見られるわけにもいきませんからね…会社員ですし……帰る体力を残しておかないと…今回は、私の負けということで結構ですので…」
バーン「……いや、いい…このまま続けたら、勝つのは君だろう」
部長「それは分かりませんよ…」
バーン「…謙虚な人だな」
部長「はは…自信がないだけですよ…」
そして二人は別れ。
バーンナックはまた、旅路につく。
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数時間後。
バーンナックは飲食店に寄ったのだが。
ドゴォォンッ!!!!
バーン「!?」
突如、店の壁に大穴が開き、そこから何者かが逃走していく。
ジリリリリリリ!!
警報ベルが店内に鳴り響き、パニック状態に陥った。
店長「逃げたと思ったが、まだこんなところにいたのか!」
バーン「え?」
ガシッ
バーンナックは店員に腕を掴まれる。
バーン「何のことだ?」
店長「分かってるんだぞ!お前がやったんだろ!」
店員「店長!色が違います!犯人は赤いカービィです!」
店長「え!?し、失礼しました!!」
バーン「…何があった…?」
店長「奴はこの辺りで有名な大悪党です…悪魔の下目使い…欲しいものは力尽くで奪っていく、危険な奴です…」
バーン「カービィ族の風上にも置けない奴だな」
店員「でも、そこがいい!!」
バーン「は?」
店長「はあ…そうなんですよね…奴は悪党でありながら、CPUトナメの人気選手なんです…奴にわざと物を奪われようとする人もいるくらいで…」
バーン「…やれやれ…またCPUトナメか…」
-
店を出てしばらく行くと、ある看板が目に入った。
バーン「用心棒募集…?下目使い対策か?…報酬も良いようだし、これでしばらく食いつなぐか…」
それから看板に書かれた地図の通りに進んでいき。
周りに何もない、ボロ小屋に辿り着いた。
バーン「不気味だな」
屋根には何十羽ものカラスが止まっている。
バーン「死体でも放置されてるんじゃないだろうな…」
コンコン
バーンナックは恐る恐る、そのドアを叩いた。
ガチャッ
ギィィィィ…
軋むドアを開け、中から現れたのは。
リア「よう…待ってたぜ」
青い帽子のマリオ族。
バーン「表の看板を見て訪ねたんだが、ここで合ってるのか?」
リア「ああ…俺はリア・リエ。カービィ族か…まあ、なんとかなるだろう…期間は明日の夜明けまでだ。報酬はそこに置いてある。終わったら好きに持っていけ」
バーン「話が随分と早いな…それに…」
小屋の中には、床一面にメダルやトロフィーが散らばっていた。
バーン「これは武闘大会のものだろう?俺も見覚えがある…なぜ、君のような男が用心棒など…」
リア「…怖いんだ」
バーン「怖い?何が?」
-
リア「絶望だ…俺の中に…絶望の化け物がいるんだ…」
バーン「?」
よく分からなかったが、バーンナックはたしかにリア・リエの体が震えているのを感じた。
バーン「クスリでもやってるんじゃないだろうな」
リア「フン…それも良いかもな…この絶望から逃れられるのなら…」
バーン「その絶望とやらから、どうやって君を守れと言うんだ?」
リア「…その辺にいてくれればいい…すぐに…分かる…」
バーン「どういうことだ…?」
リア「………」
バーン「…!?」
突如、背筋がゾクッと震え、バーンナックは身構える。
バーン(なんだ…!?とてつもないプレッシャーを感じる…!)
タッ
ズドォッ!!
バーン「くっ!」
リア・リエがバーンナックに襲い掛かった。
バーン「いきなり何をする!リア・リ……意識が無いのか!?」
リア「…」
目を閉じ、何も言わず。
ドガガガッ!!
リア・リエはただひたすらにバーンナックへと向かってくる。
バーン「これが化け物の正体というわけか…!」
-
そしてそれは、翌朝まで続いた。
バーン「はぁっ…はぁっ…」
リア「……はっ!」
リア・リエはそこでようやく目を開いた。
バーン「やっと…目覚めたか…リア・リエ…」
リア「…お前…ずっと戦ってたのか…?俺と…」
バーン「はぁ…それが俺の仕事なんだろう?」
リア「…ああ。もう大丈夫だ」
バーン「用心棒というのは…君を守るんじゃなく、君から他人を守れ、という意味だったんだな」
リア「ずっと抑え込んでいた…内なる化け物を。だがそいつは日に日に大きくなって…もう限界だと悟ったんだ…お前が来てくれて助かった。誰かを傷つけずに済んだ。ありがとう」
リア・リエは昨晩とは打って変わって、晴れやかな表情になっていた。
バーン「気にするな。報酬はたっぷり貰っていくぞ」
リア「ああ。約束通り、好きなだけな」
バーンナックは床に置かれた金を袋に入るだけ詰めていく。
バーン「こんなものか。よし、それじゃあ俺は行く。もう人を襲わないよう気を付けろ、リア・リエ」
リア「もう大丈夫だって言ったろ?お前のお陰で、掴めた気がするんだ。俺の中の絶望の抑え込み方を」
バーン「?」
後に彼は絶望を抑え込むだけでなく、その化け物を味方につけるまでに成長していくのだが、それはまた別のお話。
バーン「そうか。よく分からないが…達者でな」
バーンナックは小屋を出て行った。
リア「あ!そういやあ、お前の名前を聞いてなかったな!」
慌てて小屋から出てきたリア・リエが訊く。
バーン「バーンナックだ!」
-
そして数日後。
第六回CPUトーナメントが開催された。
バーンナックの、一回戦の相手は。
バーン「絶望のリア・リエ…」
リア「バーンナック、まさかお前がトナメ出場者だったとはな」
バーン「こっちのセリフだ」
控え室で顔を合わせたクールな二人は、再会を喜ぶでもなく、冷静に会話を始める。
リア「いや、俺は今回出ないはずだったんだが…出る予定だったヤツが腹痛起こしたとかで、急に呼び出されてな……お前こそ、なんであの時何も言わなかったんだ?」
バーン「言いふらすことでもないだろう。この大会に大して興味はない。知人に頼まれて仕方なく出ただけだ」
リア「そうか。だったら勝たせてもらおう」
バーン「ふん、そう易々と負けてやるつもりもない。俺の磨き上げたコンボを見せてやる」
リア「そんな気持ちで勝てるほど甘くねえよ。CPUトナメはな」
バーン「何…?」
リア「俺は、絶望を乗り越えるために…強い信念を持って戦う。信念や目標を持っている奴は、強いぜ」
バーン「だがそれで今まで勝ててないんだろう?」
リア「…それを言うなよ…バーンナック、お前は何を目指す?」
バーン「…」
-
それから二人はそれぞれ入場位置に移動する。
バーン(くだらない…)
バーン(CPUトナメのことなど何も知らない。面白さも理解できない。そう、仕方なく出ただけだ)
バーン(応援してくれる家族はいない。褒めてくれる同僚はいない。観客を盛り上げたいとも思わない)
バーン(悪さを帳消しにするような人気もいらない。何かを変えよう、乗り越えようなどという、信念や目標や夢や野望も、無い)
バーン(それでも磨き抜かれた格闘技術で勝てるということを、見せてやる)
そして二人は入場し。
実況「れでぃーとぅーふぁいとー!!」
-
数分後。
バーン「……!!」
バーンナックは、敗北し、立ち尽くしていた。
リア「言ったろ?そんなんじゃ勝てねえって」
バーン「く…!」
リア「だが、良い試合だった。コンボ、凄かったぜ」
バーン「まだルーザーズがある…俺はもう負けない…!」
ザッ!
リア「あ、おい!」
バーンナックはそう言い残して会場を去った。
-
それからすぐに、バーンナックはチェマの元へ向かった。
バーン「チェマ、特訓に付き合ってくれ」
チェマ「バーンナック。観てたぜ試合。やっぱ良いコンボしやがるなぁ」
バーン「慰めなど不要だ。やるのかやらないのか、どっちなんだ?」
チェマ「…お前、やる気になったのか?」
バーン「別に。自分が情けないだけだ」
チェマ「へっ、まあなんでもいいや。特訓ならいくらでも付き合うさ!最近ライバルがいなくて暇だしな。トナメにも参加できねえし」
バーン「参加できないのはお前の問題だろう?」
チェマ「…けっ!痛えとこ突きやがる。そうだよ!俺は自分の武器を上手く引き出せなかった。印象の薄い奴は消えていく。ただそれだけだ。…お前はそうなるなよ」
バーン「知ったことか。出るのは今回だけだと言っただろ」
チェマ「…ったく、つくづく自由な野郎だ」
そして二人は特訓を始める。
-
数日後。
ルーザーズトーナメント一回戦。
バーン(毎日十時間以上に及ぶチェマとの特訓…宿ではこれまでの全ての試合を見返した。俺の今の力を完全に引き出して勝つ…!)
Dr.神様「おぬしがバーンナックか。よろしくのう」
控え室に入ってきたのは、茶色ドンキーのDr.神様。
バーン「Dr.神様か…君の試合も全て観た。対策は完璧だ。俺が負ける道理はない」
Dr.神様「儂も天使たちとかなりの特訓を積んで来たぞ。今までのデータだけでは、まだ勝敗は分からんと思うがのう、ホホホ」
Dr.神様は得意げに力こぶを膨らませる。
バーン「ふん…」
バーン(ドンキー族…パワーはあるが捕らえられなければどうということはない。図体がデカい分技も繋げやすい。一瞬で俺のコンボの餌食にしてやる)
-
そして。
バーンナックは、Dr.神様との接戦の末、敗北した。
バーン「く…!」
バーン(何故だ…!?何故勝てない…!?立ち回りでは上回っていた…コンボも完璧に決まった…!なのに何故…!)
Dr.神様「良い試合をありがとう、バーンナックよ。儂の試合で此処まで会場が盛り上がったのは初めてじゃよ」
Dr.神様は握手を求めて手を差し出すが。
バシッ!
バーンナックは、それを払い除ける。
バーン「くそっ…何も残せずに終わるのか…俺は…」
Dr.神様「だ、大丈夫か…?」
バーン「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
バーンナックは自らの無力に吠える。
その魂の篭った咆哮は、会場中に響き渡った。
驚いた観客は静まり返る。
-
パチパチパチパチ…
そこに小さな拍手が鳴った。
ちょこ「バナくーーん!!すごかったよーー!!」
バーン「ちょこにゃ…?観に来ていたのか…」
観客の中にちょこにゃが紛れていた。
パチパチパチパチ…
パチパチパチパチパチパチ!!
拍手はそこから会場中に広がった。
「良かったぞー!」
「神試合だったー!!」
「またコンボ見せてくれー!!」
そこかしこからそんな声が聞こえてくる。
バーン「みんな…」
Dr.神様「ふっ、勝ったのは儂じゃというのに…皆おぬしの虜のようじゃのう?バーンナック」
バーン「…ふん…次は勝つ…」
二人は盛大な拍手に包まれながらステージを降りた。
-
チェマ「よう、バーンナック」
控え室にはチェマが来ていた。
バーン「なんだ?笑いに来たか、チェマ」
チェマ「んなわけねえだろボケ!…めちゃくちゃ熱かったぜ、今日の試合」
バーン「結果が全てだ。俺は全力をぶつけ、そして負けた」
チェマ「だが、もうお前の武器はみんなが認めてるぜ?こりゃ次も呼ばれそうだな」
バーン「…出るのは今回だけだと言っただろ…」
Dr.神様「ホホ、次は勝つ、と宣言したのは誰じゃったかのう」
バーン「…うるさい」
バーンナックはプイッとそっぽを向く。
コンコン
ガチャッ
リア「二人ともおつかれさん」
そこにリア・リエも入ってきた。
バーン「リア・リエ…」
リア「見つかったらしいな、目標」
バーン「何?」
リア「なんだ?もしかして気付いてないのか?」
バーン「…?」
-
リア「お前は自分の磨いたコンボで勝ちてえんだろ?そりゃもう立派な目標だし、そりゃもう立派な信念じゃねえか」
バーン「…!!き、気付かなかった…」
バーンナックは目を丸くして言う。
チェマ「ハハハハハ!お前はもうとっくにハマっちまってるんだよ、CPUトナメにな!」
リア「そうでもなきゃ、あんなに悔しがらねえさ」
バーン「そうだったのか…俺はいつの間に…」
Dr.神様「ホッホッホ、当然じゃのう!こんなにも面白い大会なぞ、この世界にはなかなかないのじゃから!」
バーン「ああ…そうかもしれない。武闘大会で灼熱のレイアに負けた時は、こんなに悔しくなかった……だけどこの場所で…リア・リエと戦っている時も、Dr.神様と戦っている時も…俺はどこか、ずっと戦っていたいと、願っていた…そういう魔力が、ここにはあるのかもしれない」
リア「だな。だからこそ、みんなまた出られるように頑張るんだよ」
Dr.神様「そしてそれが、ドラマを生み、奇跡を呼び、観客を沸かせる…素晴らしいものじゃ、本当に」
バーン「みんな…ありがとう。俺は必ず…再びここへ来る!誰にも負けたくない…俺のコンボで、いつか頂点を取ってみせる!」
Dr.神様「ああ、待っておるぞ」
リア「フッ、そんときゃ受けて立つさ。負けねえがな」
チェマ「クソォ!俺だっていつか必ず戻って来てやるからな!!」
-
会場からの帰り道にて。
Dr.神様「そうそう、コンボと言えば、知っておるか?この大会の主催者について…」
バーン「主催者?P( ピー)氏のことか?」
Dr.神様「そうじゃ。主催者にして、実況も行っておる、すごい方じゃ」
リア「あー、いろいろ噂されてるよな。顔はネットで見たことあるが、実際会ったことある奴はいねえ。一体何者なんだか…」
Dr.神様「神々の間では、この世界の外の住人だと言われておる」
チェマ「また天界やら魔界やらの話か?」
Dr.神様「いや。我々は全て作り物に過ぎず、コンピュータが動かしているのではないか、という話じゃ」
チェマ「はあ!?」
バーン「そう言えば、トナメの名前にも付いているCPUとは…」
Dr.神様「ああ。超パーフェクトアルティメットトーナメントの略じゃとか、超人とぽんこつが渦巻くトーナメントの略じゃとか、色々な説があるが…Central Processing Unit、コンピュータの処理装置を意味する言葉が関係していると、神々は考えておるようじゃ。実際どうかは知らんがの」
リア「たしかにあの招待状、どっかからいきなり現れるよな…外のでっかい世界から、画面の中の俺らを見下ろしてる奴がいるんだとしたら、説明もつくかもしれねえ…いや、さすがに信じられねえが」
チェマ「はっ、そんなのただの噂だろ。で、結局なんなんだよ」
Dr.神様「ああ、済まぬ、話が逸れたの。主催者のP( ピー)殿は、コンボの達人じゃということが言いたかったんじゃ」
バーン「何!?」
Dr.神様「動画も上がっておるようじゃよ」
リア「あ、俺も観たぜそれ。ちょっと目を疑ったわ。次元が違う」
バーン「くっ…!なぜもっと早く教えてくれないんだ!観てくる…!」
それからコンボオタクことバーンナックが、P( ピー)に完堕ちするまで一日とかからなかったという。
終わり
-
ここまで読んで頂いた方ありがとうございます!
というわけでCPUトナメの熱さや凄さに触れて徐々に沼にハマっていくバーンナックを描いたお話でした。
世界観は前前作勇者ヨシオの冒険と共有しております。いつまで引きずってんだと思われるかもしれませんがたぶんこれからもずっと引きずります!これがハイドンピーの考えるCPUトナメの世界観なんだと思ってください。読んでなくても大丈夫なようには書いているつもりですが、気になった方はそちらも是非読んで頂ければなと思います。
ではまたどこかで。
-
乙!面白かった!
個人的にはバナちょこ?ちょこバナ?のシーンすこ
-
超人と(C)
ポンコツが(P)
渦巻く(U)
トーナメント すこ
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