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オールスタープリキュア!キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025

1 : 運営 :2025/03/15(土) 20:41:45
こんばんは。
今年もSS競作を行います!
2025年4月19日(土)〜5月11日(日)の23日間。
どうぞ奮ってご参加の程、よろしくお願い申し上げます!


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2 : 運営 :2025/03/15(土) 20:42:46
タイトル:オールスタープリキュア!キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025

期間:2025年4月19日(土)〜5月11日(日)の23日間

テーマ:「アイドル」または「キラキラ」

プリルン「うた〜! お手紙が来たプリ。読んでプリ」
うた  「どれどれ? へぇ、プリキュアみんなでお話会をやるんだ〜」
なな  「え!? どういうこと?」
プリルン「え? お話会って何プリ?」
うた  「あれ、ななちゃんも知らないの? お話会はぁ……みんなでお話をする会ってことだよ!」
なな  「そうじゃなくて! 田中さん、プリキュアってわたしたちの他にも居るんですか?」
タナカーン「私はあなた方しか存じませんが……私は、はなみちタウンとキラキランドのことしか知りません。他の場所になら、あるいは」
なな  「はぁ……そういうものなの?」
タナカーン「しかし、この会の目的は何なのでしょう。今後の戦いに備えて、救世主たちが意見交換するのでしょうか」
プリルン「楽しそうプリ。うた、なな、絶対行くプリ!」
うた  「はいはい。あ、テーマが書いてある。『アイドル』と『キラキラ』だって」
プリルン「アイドルなら、アイドルプリキュアが主役プリ!」
うた  「えへへ〜、そうかな」
なな  「そう言えば、大好きな人や可愛いペットのことを“わたしのアイドル”って言ったりもするよね」
うた  「みんなそれぞれのアイドルかぁ。それってとってもキラッキランラ〜ン! あ、それもう一つのテーマだった」
プリルン「キラキラも、アイドルプリキュアが一番プリ〜♪」
うた  「でへへ〜、それほどでも」
なな  「プリティホリックのコスメも、みんなキラキラしてて可愛いよね」
うた  「なるほど。キラッキランランなものは、人にも物にもあるわけか……」
タナカーン「それを言うなら、このお店のコーヒーフロートもキラッキランランです。しかし、何故このようなテーマで意見交換を? この会に参加して大丈夫なのか……」
プリルン「ぜったい行くプリ! 行くって言うまで離れないプリ〜!」
タナカーン「わ、わかった。わかったから!」

プリルンの活躍によりタナカーン陥落(笑)ということで、今年のテーマは「アイドル」または「キラキラ」、どちらかが盛り込まれているお話を大募集します!
テーマの単語そのものが出て来なくても、テーマが感じられるお話なら大丈夫。テーマを両方盛り込んで頂いてもOKです!
毎年毎年、これでもか!としつこく書かせて頂いていますが、大切なのはプリキュア愛・作品愛!! それさえあれば、大抵のお話はOKです。
短いお話、ふざけた小ネタ、大歓迎! 難しく考えず、いろ〜んなSSを集めて楽しいお祭りにしましょう!


3 : 運営 :2025/03/15(土) 20:43:18
※プリキュア全シリーズは勿論、コラボSS(プリキュア&プリキュア、オールスターズ、プリキュア&その他)もOKです。

※体裁は、小ネタ、長短編なんでもOK。140文字SSも受け付けます。(140文字SSは、出張所(X。旧Twitter)でも受け付けます。)

※ただしお約束として、サイトの特性にあったものでお願いします。(男女間恋愛ネタと、オリジナルキャラのメイン起用・実在する人物(作者含む)を起用した作品はNG。サイトのQ&Aをご参照下さい。)

※投稿の仕方は、下記のどれでもOKです。
①掲示板に投下する:投下の仕方は、掲示板の「ローカルルール」をよーく読んで下さいね。
②管理人に代理投稿を依頼する:掲示板の「掲示板管理者へ連絡」か、出張所(X。旧Twitter)のDMからご連絡ください。
③出張所(X。旧Twitter)で投稿する:140文字SS限定です。その際は、「#プリキュアで140文字SS」のタグをつけて下さいね。
やり方が良く分からない、自信がないという方は、「掲示板管理者へ連絡」か、または出張所(X。旧Twitter)のDMから、お気軽にご相談ください!

※お話を書くのは初めてだけど、何か書いてみたい! でも書けるかな……という方、書き手じゃないんだけど……という方、大歓迎です!!
お祭り企画を機会に、短いものでも何か書いてみませんか? お待ちしています!
なお、当サイトの運営は、全員がSSの書き手です。何か書いてみたいけどどう書いて良いか分からない、書いてはみたけど、これでいいのかな……等々、何かありましたら「掲示板管理者へ連絡」か、または出張所(X。旧Twitter)のDMから、いつでもお気軽にご連絡下さい。及ばずながら、お手伝いさせて頂きます。

※SSは書かないけれど、読むのを楽しみにしているよ!と思って下さっているそこのあなた!
読み手の方々なくしてお祭りは成立しません。SSを読んで頂いて、何か一言でも感想やコメントを掲示板にどしどし書き込んで下さい!
コメントは、ものすごーく書き手の励みになります。場合によっては、次の作品にも繋がるかも!?
どうぞ盛り上げ&応援でのご参加、よろしくお願いいたします。


4 : 名無しさん :2025/04/11(金) 00:33:56
テーマに「キラキラ」とありますが、「キュンキュン」でもよかですか?


5 : 名無しさん :2025/04/12(土) 00:58:49
>>4
キラキラな何かにキュンキュンしてみるのはいかが?


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12 : 夏希 ◆JIBDaXNP.g :2025/04/19(土) 00:20:57
お久しぶりです。今年で競作も12年目ですね。今回も開幕SSを務めさせていただきます。5レスほどお借ります。


13 : 『キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025〜開幕〜』 :2025/04/19(土) 00:21:58
「来・た・よ♪ アニマルタウンに〜♪ もうすぐ逢えるね、先輩♪」
「ワン! ワン!」
「みんな♪」
「ワン! ワン!」
 伸びやかな歌声と犬の声が、春風に乗って流れていく。
 桜の蕾もほころび始めた、穏やかな土曜日。咲良うたとその飼い犬のきゅーたろう、そして蒼風ななとプリルンは、隣町のアニマルタウンに向かって歩いていた。目的地は『フレンドリィ動物病院&サロン』。紫雨こころとは、現地で合流する予定だ。

「ごきげんだね、うたちゃん。それに、きゅーちゃんも」
「そりゃあ、わたしたち以外にもプリキュアがいて、しかもみんなでお話会するなんて! こんなキラッキランラ〜ンなイベント、心が弾まないワケないよぉ」
「プリルンも楽しみプリ!」
 招待状には、ぜひペットも連れてきてください、と書かれていた。会場は動物病院兼ペットサロンで、ペットたちをドッグランで自由に遊ばせることもできるらしい。

「ほのかさんっていう先輩は“ちゅうたろう”って犬を連れてくるんだって! うちの“きゅーたろう”と名前がそっくりだし、なんとなんと! 同じ犬種なんだよっ」
 招待状には、何人かのプリキュアとそのペットの写真も載っていた。中でも雪城ほのかの飼い犬の忠太郎は、うたの飼い犬のきゅーたろうと同じゴールデン・レトリバーだ。主催者の一人である犬飼いろはも“こむぎ”という名前のパピヨンを飼っているらしい。
「んふふ〜、きっと過去一、賑やかなお話会になるねっ」
「まあ……わたしたちは初参加だけどね」

 やがて、招待状に目印と書かれていた“鏡石”が見えてきた。ということは、ここはもうアニマルタウン。周りを見ると、確かにペット連れの人がとても多い。その名の通り、この町は動物との触れ合いを大切にしているのだろう。
「わたし、生まれた時からはなみちタウンに住んでるけど、こんな町が隣にあるなんて知らなかったな〜」
「隣にある……のよね? わたしも聞いたことなかったけど」
「でも、ホントに歩いてすぐだったしね。んー、不思議だな〜」
 二人ともアニマルタウンのことをよく知らない。いや、隣町に“在る”ことは知っているけど、招待状をもらう以前の、この町に関する記憶がすっぽりと抜け落ちているのだ。
「まあ、いっか。着いたよ!」
「いいんだ……」

 会場の『フレンドリィ動物病院&サロン』は、病院とサロンと自宅が一緒になった大きな建物で、敷地も想像以上に広かった。これなら総数80人超という人数も受け入れ可能……いや、やっぱりちょっと厳しいかもしれない。ななは若干の不安を覚えたが、うたはあっけらかんとチャイムを鳴らした。

「いらっしゃい! 待ってたワン!」
「ちょっとこむぎ、いきなりしゃべっちゃだめだって!」
 ドアが開くと同時に飛び出してきたのは、一匹の小型犬と、慌てて追いかける一人の少女だった。
「いま……犬がしゃべった!?」
「犬がしゃべったプリ! 信じられないプリ! ありえないプリ〜!」
「……いや、この子もプリルンには言われたくないんじゃないかな」
 思わず叫んだななの隣で、あんぐりと口を開けたうたが、プリルンの反応に思わずツッコミを入れる。その様子を見て、少女はクスクスと笑い出した。

「私は犬飼いろは。この子は犬飼こむぎ。話してなかったけど、こむぎもプリキュアだったの。さっ、とにかく上がって。あなたたちが一番乗りだよ!」
「準備は出来てるワン。歓迎するワン!」
「え? 一番乗りって……わっ! ごめんなさい! 早く着き過ぎちゃった」
 うたが腕時計を見て、慌てていろはに頭を下げる。お話会が楽しみ過ぎて、気付けば招待状に書いてあった集合時刻より2時間も早く着いてしまっていた……。


14 : 『キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025〜開幕〜』 :2025/04/19(土) 00:22:34
 案内されたのは、ペットサロンに併設されたドッグランだった。そこにはたくさんのビニールシートが敷かれていて、まるでお花見会場みたいになっている。確かにここなら大人数が集まっても十分に余裕があるだろう。
「わぁ〜ステキ! ドッグランだから塀があって人の目も気にならないし、みんなのペットとも一緒に遊べて楽しそう」
「でも、こんなに大々的にやって大丈夫なのですか? プリルン以外にも妖精さんもたくさん来るそうですが」
「へーきへーき。うちのお父さんもお母さんも、私たちがプリキュアだったこと、ちゃんと知ってるから」
「へぇ、そうなんだ。いいな〜、わたしも自分がアイドルプリキュアだって自慢したいのに……」
「あはは、自慢するために打ち明けたわけじゃないんだけどね」
 その時、外で小さな悲鳴と、甲高い子犬の鳴き声が聞こえた。同時にプリルンの体が震える。
「ブルッと来たプリ!」
「ななちゃん!」
「うん、行ってみよう!」
 うたとななが弾かれたように立ち上がり、声のする方へと駆け出す。いろはとこむぎも、すぐに後を追った。

「お主のキラキラ、オーエース!」
 大きなハサミの模様の服を着た大柄な男――カッティーが目を付けたのは、子犬を連れて楽しそうに通りを歩いている女の子だった。いつものように綱引きのモーションでキラキラを奪い取る。これまで百発百中で、外したことなど無かったのだが――。
「わんっ!」
「なぬっ?」
 だが、今回は思わぬ邪魔が入った。女の子――えまが連れていたポメラニアンのポンが、予想を超える反応速度で飼い主の前に立ちはだかったのだ。
「間違って子犬のキラキラを引いてしまったですぞ。まあいい、カッティーング!」
 ポンのキラキラ――大好きなえまとお散歩できて嬉しいって気持ちをリボンの形で取り出して、それを切断。キラキラを奪われてうずくまったポンを水晶に閉じ込める。
「ポンちゃん!」
「出でよ、マックランダー! 世界中をくらくらの真っ暗闇にするのですぞ」
 えまがポンを助けようと駆け出すと同時に、カッティーが水晶を地面に叩きつける。えまはその衝撃で弾き飛ばされ、街路樹に激突して気を失った。
 現れたのは、首輪の頭に紫色のサングラスをかけ、リードの腕を持った異形の怪物だった。長くしなる腕をめちゃくちゃに振り回して、電柱や信号や街路樹を薙ぎ倒す。
「力は未知数――ですが、いいですぞ。確かな手ごたえを感じるのですぞ!」
 カッティーの言葉通り、それは普段以上に強力なマックランダーだった。動物を素体にしたから強くなったのではなく、それだけキラキラを奪われたポンの絶望が大きかったのかもしれない。

 駆けつけたうたとななが、アイドルハートブローチを構える。
「プリキュア! ライトアップ!」
 アイドルハートブローチにプリキュアリボンをセットして、踊るような仕草でブローチを三回叩くと、変身の儀式が始まる。
「キラキラ、ドレスチェンジ! YEAH!」
「キミと〜! YEAH!」
「一緒に〜! YEAH!」
 ハートのミラーボールが煌めき、二人の姿が光に包まれて変化していく。
 髪は長く伸びてゴージャスに、衣装は華麗に煌びやかに、リボンやアクセサリーでさらにキュートに彩られ――。
「キミと歌う、ハートのキラキラ! 笑顔ニッコリ、キュアアイドル!」
「キミと瞬く、ハートの勇気! お目めパッチン、キュアウインク!」
 そして二人のアイドルが、路上ライブの舞台に降り立った。


15 : 『キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025〜開幕〜』 :2025/04/19(土) 00:23:15
「もう! よその町にまで来て勝手なことをしないで!」
「早く囚われた人を返しなさい!」
「人じゃないプリ。可愛いワンちゃんプリ」
「えっ、そうなの? 人と動物が仲良しのアニマルタウンで、ワンちゃんを襲うなんて許せない!」
「ええい、ごちゃごちゃうるさいですぞ!」
「マック〜ランダ〜!」

 マックランダーは、リードの腕を振り回して二人に向かって来た。アイドルとウインクは縄跳びのように跳んで回避し、上空からパンチやキックを叩きつける。
「そんな手ぬるい攻撃は効かないのですぞ」
「きゃあ!」
 ついにウインクが左腕のリードに捕まって、グルグル巻きにされてしまった。
「ウインク!」
「あと一人ですぞ」
 残る右腕のリードが、アイドルを絡め取ろうと迫る。しかしアイドルは寸前でかわすと、逆に伸び切ったリードを両手で掴み、力いっぱい引っ張った。
「やぁぁぁっ!」
 ドシーン! と地響きを立ててマックランダーが前のめりに倒れた。その隙にウインクはリードから抜け出し、アイドルは高速ダッシュで本体に迫る。走りながら右手でハートブローチに触れ、拳から眩い光が放たれる――!
「行くよっ! アイドル・グーターッ……!」
「待ってぇ!」

「あわわわわわっ――!」
 突然飛び出した二つの影に、アイドルが大慌てで急ブレーキをかけ、技を中断する。もうちょっとで激突するところだった。いろはとこむぎが、マックランダーとアイドルの間に割って入ったのだ。
「危ないってば! もう少しで終わるから、いろはちゃん、こむぎちゃん、そこどいてくれないかな?」
「だから待って! プリルンから聞いたんだけど、あの怪物の中に閉じ込められているのは子犬のポンちゃんなんでしょ? えまちゃんが飼ってるポメラニアンの」
 いろはが指を差した方を見ると、小学生くらいの女の子がベンチに寝かされていた。プリルンが心配そうな顔で、傍に付き添っている。
「うん、わたしもプリルンに聞いたよ。確かに動物は初めてだけど、でも大丈夫!」
「ポンはえまを庇って、それで怪物にされちゃったワン。だから傷付けないであげてほしいワン」
「う〜ん、でも怪我はしないと思うんだけどなあ」
「だとしても、子犬に人間から殴られた記憶なんて与えたくない。私たちはずっと、そうやって戦ってきたの」
「いやそれ、戦うって言わないんじゃ……」
「アイドル! 皆さん! 話をしている場合じゃないです!」
 ウインクの声に、アイドルがハッとして身構える。倒れていたマックランダーが立ち上がり、再びリードの腕を振り上げたのだ。
「危ない!」
 アイドルが慌てていろはとこむぎを庇おうとする。だがその時にはもう、二人の姿はそこには無かった。リードの下をかいくぐり、アイドルが思っているのとは真逆の方向――マックランダーの方へと走り寄ると、その両足に取り付いた。


16 : 『キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025〜開幕〜』 :2025/04/19(土) 00:23:49
「うわぁぁぁ、何してるの!?」
「危ないですよ。離れてください!」
 アイドルとウインクが大慌てで制止する中、いろははマックランダーの右足を、こむぎは左足を、愛おしそうに抱き締める。
「ガルガルやガオガオーンとは違うかもしれない。だけど、私たちはあなたを傷つけたくない。お願い、どうか落ち着いて!」
「こうやって、ぎゅうってしたら、ガルガルな気持ちなんてどっかに行くワン」

「何と愚かなことを。マックランダー! そんなものは蹴散らして……ぬおぉっ!」
 マックランダーに命令しようとしたカッティーが、アイドルとウインクのダブルキックを食らって吹っ飛ばされる。二人は小さく頷き合うと、マックランダーから少し距離を取って、静かに降り立った。
 いろはとこむぎがこんな至近距離に居る状態で、マックランダーに攻撃は出来ない。かと言って何かあってからでは遅い……。アイドルとウインクは、マックランダーが暴れ出したりしないよう、刺激を与えないように気を付けつつ少しずつ距離を縮める。
 やがて――信じられない光景が目に飛び込んできた。
「うそ……でしょ?」
「こんなことは……あり得ないのですぞ?」
 アイドルと、急いで戻って来たカッティーの驚きの声が重なる。
「攻撃してないのに……キラキラしてきたプリ!」
 プリルンも目をパチパチさせてつぶやいた。マックランダーの体が、ぼうっと淡い光を放ち始めたのだ。凶暴だった腕はだらりと下がり、表情はわからないものの、何だか穏やかに二人を見下ろしているように見える。

「アイドル、今だよ!」
「任せて! ポンちゃんのキラキラ、取り戻すよっ」
 ウインクの声に、アイドルもポーズも決める。
「クライマックスはわたし! 盛り上がっていくよー!」
 アイドルの掛け声を聞いた直後には、マックランダー、それにいろはとこむぎは、ライブ会場の客席に居た。ピンク色のステージを取り囲むのは、巨大な中央スクリーンと、いくつものサブモニター。そして大勢の観客と、彼らが振る美しいライトの光。
「キ・ミ・の ハートにとびっきり 元気をあげるね♪」
 幻想的なライブ会場で、キュアアイドルが華麗に舞い踊り、その歌声で人々を魅了する。聴いているだけで踊りたくなるような、心が浮き立つようなステージ。マックランダーも、それにいろはとこむぎも、両手にキラキライトを持ってノリノリで応援する。

――プリキュア・アイドルスマイリング!

 アイドルの両手から生まれた巨大なハートが、ピンク色の光の柱となってマックランダーを覆いつくす。
「キラッキラッタ〜!」
 アイドルの両手でハートを作る決めポーズの後には、もうマックランダーの姿はなく、ポメラニアンの子犬が、いろはの腕の中で眠っていた。


17 : 『キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025〜開幕〜』 :2025/04/19(土) 00:24:25
 いつの間にかライブ会場は消え失せていた。あちこち破壊されていた路地も、元の傷一つない状態に戻っている。
「いろはちゃん、こむぎちゃん、大丈夫? 怪我はない?」
「こむぎは何ともないワン!」
「私も平気だよ。ポンちゃんも大丈夫みたい」
「よかったですね」
 アイドルはうたの姿に戻って二人に駆け寄る。ウインクもななの姿に戻って、目を細めて愛らしい子犬の寝顔を眺めた。
「本当にアイドルなんだね。こんな戦い方があるなんてびっくり。うたちゃん、ななちゃん、素敵だったよ」
「えへへ〜。先輩に褒められるなんて光栄だな。でも、いろはちゃんたちこそ凄かった。本当に戦わずに町を守ってきたんだね」
 目を覚ましたえまに、いろはがポンちゃんを手渡す。ポンちゃんもすぐに目を覚ますと、えまの頬をペロペロと舐め、えまはくすぐったそうに笑い出した。

「私、アイドルプリキュアのこと、あなたたちの戦いのこと、もっと知りたくなっちゃった。詳しく聞かせてくれる?」
「わたしたちこそ、いろはちゃんたちの戦いを知りたくなっちゃった。聞かせてください、先輩!」
 微笑み合ういろはとうた。そんな二人に、同い歳くらいの少女と少年が――猫屋敷まゆと、兎山悟が駆け寄る。それぞれのペットである猫のユキと兎の大福も一緒だ。今の騒ぎを耳にして様子を見に来たのだろう。
「ごめんね、いろはちゃん。遅くなっちゃって」
「もう終わったみたいだね。力になれなくて面目ない……」
「大丈夫だよ。でも、キュアアイドルのライブは二人に見せたかったなぁ!」

 みんなで和気藹々と話しながら、お話会の会場であるドッグランに戻り、全員でお菓子やジュースの準備をする。そのうち、ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。
「うた先輩、なな先輩、遅くなりましたっ! えっと、いろは先輩と……こむぎ先輩ですねっ? 初めまして、紫雨こころです!」
「いろは、いろは! こむぎもセンパイって言われたワン!」
「こころちゃん! 私たちのこと、よく知ってるね〜」
「もちろん、リサーチしてきましたから。今日は皆さんのこと、バッチリ研究させてくださいっ!」
 大きなリュックサックを背負ってやってきたこころが、張り切って頭を下げる。

 総数80名を超える、プリキュアたちによる年に一度のビックイベント! いや、今年はみんなのペットも呼んでいるから、さらに人数は膨れ上がるだろう。

「オールスタープリキュア!キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025」いよいよスタートです!


18 : 夏希 ◆JIBDaXNP.g :2025/04/19(土) 00:25:16
以上です。みなさんの作品を楽しみにしています。


19 : ギルガメッシュ :2025/04/19(土) 07:29:39
タイトル『アイドルの出番です!!』(ひろがるスカイ!プリキュア)

「えぇええええ〜〜〜!!! ましろさんが『あいどる』にぃぃ〜〜!!!?」
 ソラちゃんがいつものような高いテンションでわたしに向かって声を張り上げていた。
「それは本当ですか? ましろさん、そしてあげはさん!!」
 ソラちゃんは隣にいたあげはちゃんにもその話題を投げかける。
「う、うん。そういう事になっちゃったみたい……」
「まぁ、アイドルって言ってもわたしの今いる保育園の催しでましろんがその役をやるだけだけどね」
 そう、今あげはちゃんの説明になった通りだ。あげはちゃんのいる保育園で子供が楽しめる『催し事』をやることになったらしく、地域の人を呼んで歌やダンスを披露してもらう事になったのだ。
 そしてあげはちゃんはわたしにアイドル役をやって欲しいと頼まれていた。わたしはあまり運動が苦手じゃないと断ろうとしたんだけど、『ましろんは可愛いから大丈夫』と押し切られてしまった。
「あげはちゃん、わたしそんなにうまくいくとは思えないけど」
「いいっていいって。子供たちは可愛い服を着た女の子がステージに立っているだけで喜んでくれるんだからさ。そこまでダンスや歌は要求しないし」
 ハッキリ言って消極的だけど、そういうなら少しは気が楽かも知れない。
 そんな時、隣の部屋から今の会話を聞きつけてツバサ君と抱きかかえられたエルちゃんがやって来た。
「ましろさんすごいじゃないですか。アイドル役なんて。ボクもプリンセスも応援しますよ」
「エル、ましろ応援する!!」
 ツバサ君はニコッと笑顔を見せてくれて、エルちゃんも嬉しそうに手を振ってくれてる。ここまでみんなに応援されたらやる気が出てくるよ。
「そうです。ましろさんがやるならあたし全力で『あいどる』役を応援しますよ!!」
 ソラちゃんも手を握って励ましてくれた。うん、あたし頑張れるかも。そう思った矢先、

「で、『あいどる』って何ですか?」

 ソラちゃんのその一言に、みんな一斉にその場でずっこけてしまった。

「えぇ〜と、ソラちゃんアイドルって言うのはね。いろんな人の前で綺麗で可愛い服を着て歌ったり踊ったりして、みんなを喜ばせるお仕事なんだよ」
「そうそう、アイドルはみんなを元気に出来るからましろんがその役にぴったりかなぁって」
「なるほどぉ!! それが『アイドル』なんですねぇ。それはすごい仕事じゃないですか!! ましろさんがアイドルならわたし、めちゃめちゃ応援しちゃいますよ!!」
 ソラちゃんはさっきよりも目を輝かせて私の手を握ってぶんぶんと腕を振って来る。そこまで喜ばれると逆に照れて恥ずかしいかも。でもやる気は十分に高まったよ。
「うん、あたし絶対に頑張るね!! 子供たちを楽しませるんだ!! やるぞぉ〜〜!!」
 そう言ってわたしは拳を高く振り上げる。
「「「「おおおぉおお!!!」」」」
 するとみんなが笑顔で一緒に腕をあげてくれた。


20 : ギルガメッシュ :2025/04/19(土) 07:30:23
 という事があったのはつい先日の事。子供たちへの催し物が三日前に迫った今現在、わたしはケガをしてさらには風邪まで引いてしまっていた。

「ごめんねぇ〜、あげはちゃん、ずずぅ」
 わたしは先日まであげはちゃんが用意してくれていた簡単なダンスのステップを練習してた。けど練習中に足を大きくくじいちゃって、さらに運が悪いことにその日は寒かったから風邪もこじられせてしまったのだった。
「あはは、災難だったねましろん。まぁ気にしないでよ。あたしも無理言ってたし、むしろこっちが謝らないといけないくらい」
「ましろ、大丈夫ぅ?」
 布団にくるまっているわたしにあげはちゃんとエルちゃんが心配してくれている。ごめんね、みんな。
「しかし、あげはさんどうするんですか? このままじゃ子供たちへの催し物が出来なくなりますよ?」
「う〜ん、困ったよねぇ。少年が代わりにやってみる?」
「いやぁ、僕には荷が重いですよ。歌もダンスも全く出来ないですし」
 あぁ、元々わたしが出る予定だったからみんなを困らせてしまってる。すごく罪悪感を感じてしまうよ。一体どうしたらいいんだろう。
 みんなが困り果ててわたしも意気消沈しているそんな中、さっきから腕を組んで目をつぶっていたソラちゃんが突然声をあげた。
「ここはヒーロー……、いや、アイドルの出番です!!」
 そしてソラちゃんはあげはちゃんの方を向いてさらに続ける。
「あげはさん、わたしが代わりにその役を引き受けます!!」
「えぇええ〜〜!! ソラちゃんがあたしの代わりに〜〜!?」
 ソラちゃんがわたしの代理をすると言って、みんなは騒然とした。うれしい申し出だけど。
「ソラちゃん、ごほごほ。そんな悪いよ。歌もダンスもそんなすぐに覚えるのは大変だし、きっと子供たちも分かってくれるよぉ」
「そうですよソラさん……」
 わたしとツバサ君はその提案には乗れないと反論を返す。だってすっごく申し訳ないないんだもの。しかしソラちゃんの強いまなざしは変わらない。また大きく口を開けて声を出す。
「だってましろさんの努力を無駄にはしたくありません!!」
「ソ、ソラちゃん……」
 ソラちゃんそう言い終わると、あげはちゃんの方向を向いた。するとあげはちゃんはニコッと口を微笑ませる。
「うん、やろう!! ましろんもツバサ君もさ、ここまで覚悟があって思いやりのあるソラちゃんの意思を尊重しようよ。確かにもう三日しかないけどやれるところまでやろうよ。わたし、全力でサポートするよ」
「はい! お願いします!! あげはさん」
「ソラ、頑張ってぇ!!」
「ふふ、プリンセスもノリノリですしね。ボクも応援します。なにかお手伝いは出来ますか?」
 ソラちゃんはあげはちゃんに丁寧にお辞儀をしてエルちゃんも腕をあげて応援している。ツバサ君もだ。確かにここまで言われたら断る方が無粋かも。
 なのでわたしもソラちゃんに声を掛けた。
「ソラちゃんありがとうね。わたしの代わりをどうかお願い致します」
「はい、任せてください!!」
 ソラちゃんそう言って元気溢れる笑顔を見せてくれた。


21 : ギルガメッシュ :2025/04/19(土) 07:31:03
 そして三日後。
 ソラちゃんとあげはちゃんと一緒に保育園へと向かい、アイドル役を演じきったみたいだった。わたしはその日は家で待機してて、ツバサ君もエルちゃんのお世話をしてたみたい。そして二人が帰ってきた後に撮影したビデオを見せてもらった。

『皆さんお待たせしました!! アイドル役のソラ・ハレワタールです!! みなさんのために馳せ参じましたよ!!』
『ソラちゃん、それだとヒーローの登場みたいじゃん!!』
『す、すいません』
『あはははは』

 ビデオの中のソラちゃんは、三日間でなんとか覚えた歌とダンスを披露していた。もちろん所々忘れた部分などがあったみたいだけど、アドリブ等でうまく乗り切っていた。そして終始、子供たちの嬉しそうな笑い声と楽しそうな表情を浮かべてソラちゃんを見ていた。

「良かったですね、あげはさん。無事に成功して」
「ソラ、かっこいい!!」
「いやぁ、本当にソラちゃん様様だよ!! みんなすっごくはしゃいでたしね♪」
 ビデオを見てみんなが喜んでいる中、当の本人のソラちゃんはどこか気まずそうな顔を浮かべていた。そしてわたしと目が合うと、ソラちゃんは申し訳なさそうに話しかけてきた。
「すいません、ましろさん。完璧には『アイドル』を演じる事が出来なかったです……」
「ううん、とっても良かったよ。子供たちみんなこんなに喜んでるんだし」
「で、ですが。動きも雑だし、覚えきることも出来ませんでした……」
 自分の失敗した点をすっごく反省しているみたい。そんな落ち込むソラちゃんにわたしは両手を握った。
「うぅん、ソラちゃんはすっごく頑張ってくれたよ。何も恥じることはないよ。ソラちゃんありがとう」
「ましろさん……。そ、そうですよね。力になれて良かったです」
 そしてソラちゃんは屈託のない笑顔を見せてくれた。どうやら元気を取り戻してくれたみたい。わたしはそんなソラちゃんを見てこう思った。
「やっぱりソラちゃんはヒーローガールだね♪」


22 : 名無しさん :2025/04/19(土) 10:43:38
>>18
今年も豪華なオープニングですね!
確かにキミプリとわんぷりは戦い方が全然違う。そしてそれぞれに個性的。
そんな両チーム(+たくさん)がワイワイしてる場面を想像するだけでなんか嬉しい♪

>>21
既に久しぶりに感じられるひろプリ。
ましろとソラがめちゃくちゃ彼女たちらしくて楽しかったです!


23 : makiray :2025/04/29(火) 15:59:43
Quartet? Dreams
------------------
 アイドル・プリキュアの三人が集まっています。
「もうちょっと強化したいんですよね」
「メンバー追加する?」
「そうですね。四人いると、コーラスも厚くなるし、表現にも幅ができます」
「先輩たちに相談してみよう」

「私は無理」
 水無月かれんは話を聞くなり断りました。
「うららちゃんと一緒にステージに立った経験を活かしてほしいんです」
「ダメよ。とっても恥ずかしかったんだから」
 顔を真っ赤にしているので無理強いもできません。

「私の鞄持ちとかやってみるニャン? 宇宙を駆け回れるニャン」
「とりあえずは地球内で行こうかと…」
 マオのお誘いを ななはやんわりと断りました。

「ねぇねぇ、あなたたちアイドルなんだって?」
「相田先輩」
「もし人手が足りなかったら手伝ってあげ――六花、ひっぱらないでよ」
 どういうわけか六花はマナを引きずって連れて行ってしまいました。

「難しいね…」
「やっぱり、今の路線で行こうよ」
「はい。がんばりましょう!」
「ファイト、おーっ!」
 そこに五人の影が。
「星空先輩?」
「今日びのアイドルは、笑いの一つもとれんとあかんで」
 スマイルプリキュアの面々でした。
「あ、そういうのはいいです」
「なんでぇ?!」
 三人は王道アイドルを極めることを決心したのでした。


24 : 名無しさん :2025/04/30(水) 00:18:17
>>23
人選が(笑)
かと言って、きららに言えば相手にしてもらえなさそうだし、えりかに言えばもっと面倒そうだし、はーちゃんに言えば別次元に面倒そうだし……。
三人で頑張ってください。


25 : 名無しさん :2025/04/30(水) 10:22:24
>>23
マナの登場に噴いたw


26 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/10(土) 20:41:06
こんばんは。ギルガメッシュ様、makiray様、投稿ありがとうございます!
私も投稿させて頂きます。
キミプリとフレプリのコラボで、全10話くらいを予定しています。
(ロスタイムにかかるの確定です。スミマセン💦)

タイトルは『コラボステージ! アイドルプリキュア&クローバー!』
第1話は、2レスほど使わせて頂きます。


27 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/10(土) 20:42:11
「えーっ!? ライブイベントぉ!?」
「はい。そういうオファーを頂きました」
 うたの叫び声が、小さな出張所に響く。相変わらず無表情でテキパキと言葉を返すのは、アイドルプリキュアのマネージャー・田中だ。
 うた、なな、こころ、それにプリルンとメロロンは、彼に呼び出されて、このキラキランドの出張所にやって来ていた。

「ライブイベント、って何プリ?」
「ステージに上がって、お客さんたちの前で歌うイベントのことだよ」
 プリルンの問いに、うたが答える。それを聞いて、メロロンが怪訝そうな顔をした。
「それって、アイドルプリキュアがいつもクラヤミンダーにやってるメロ」
「アハハ、それはそうだけど……今度のライブでは、もっとたくさんの人たちに歌を届けるの」
「楽しそうプリ。プリルン、いーっぱい応援するプリ!」
 プリルンが目を輝かせる。
「まあ……姉たまが行くなら、一緒に応援してあげてもいいメロ」
「ありがと」
 うたが二人に笑いかけたところで、田中がカチャリと眼鏡を押し上げた。

「会場も近くですし、週末一日限りのイベントですので、皆さんの学校にも影響しないかと。ユニット曲の初披露にもちょうどいいと思いますが、いかがでしょう」
「ん〜、それってすっごくキラッキランラ〜ン! ねっ? やるよね? ななちゃん! こころ!」
「うん。本当のアイドルみたいで緊張するけど、やってみたいな」
「わたしも、お二人の足を引っ張らないように頑張ります!」

 予想通りの答えに、田中がわずかに目元を綻ばせ、小さく頷く。この三人なら、ノーとは言わないと思っていた。
 アイドルプリキュアへのオファーを受けるかどうかを、田中は基本的に、三人の意志を尊重して決めることにしている。
 ななの言う通り、アイドルプリキュアは本当のアイドルではない。だから最初は、人前に出る必要はないと思っていたのだが、彼女たちを見ているうちに考えが変わってきた。
 彼女たちは、人と触れ合うことでよりキラキラと輝くように思えるのだ。その輝きが、いつか闇に閉ざされた故郷・キラキランドを救うことに繋がるかもしれない――そんな期待が自分の中で少しずつ膨らんでいくのを、田中は感じる。

「そうと決まれば、『Trio Dreams』今から歌わない? わたし今、猛烈に歌いたいっ!」
「うん、三人で練習しないと」
「田中さん、スタジオ使ってもいいですか?」
「もちろんです」
 小さな出張所から溢れる弾んだ声に、森の木々もつられたように、ざわざわと優しく揺れた。


28 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/10(土) 20:42:51


   ☆

 次の日の放課後、ななとこころはいつものように、うたの家を訪れた。すでに三人の指定席になりつつある中二階の応接スペースに、うたがいそいそと飲み物を運ぶ。
「み・ん・な♪ ライブに来てよね〜♪ 張り切って歌うよ、いっぱい♪ ぜったい♪」
「うたちゃん。その歌、みんなの前では歌っちゃダメだよ?」
 いつにも増して上機嫌なうたに、ななが微笑みながらやんわりと釘を刺す。そんな彼女も、昨日は家に帰ってからずっとソロ曲『まばたきの五線譜』のピアノを弾いていたそうだ。
 そしてこころは座るや否や、二人にスマホを差し出した。
「この動画、見てください。今大人気のユニットなんですけど、とにかく凄いんです。見ているだけで、心キュンキュンします!」
「どれどれ?」
 うたとななが、こころのスマホを覗き込む。そしてすぐに、その動画に釘付けになった。

 それは、ダンスのライブ映像だった。軽快な音楽に乗って、四人の少女が踊っている。
 四人のダンスは生き生きしていて、実にパワフルだ。その動きは少しのズレも無くぴたりと合っているのに、四人それぞれ違った個性がはっきりとわかる。何より彼女たちが心からダンスを楽しんでいるのが伝わって来て、見ているこっちまで心が弾み、身体が勝手にリズムを刻み出す。
 ライブが行なわれているのは、どこかのアリーナのようだった。観客は数千人、いやもしかしたら一万人を超えているだろうか。観客席を埋め尽くした人々の熱気が、一つの大きなうねりとなって、会場全体を包んでいるのが画面から伝わって来る。

「なにこれ。ものすごーくキラッキランラ〜ン!」
「すっごくキラキラプリ!」
 目を輝かせながら動画に見入っていた、うたとプリルンの声が揃う。だが。
「これが、今大人気のユニットの実力……」
 隣から聞こえて来たななの言葉に、うたは密かにドキリとした。
 自分たちのステージはどうなんだろう。こんな風に強く真っすぐに、観客の心に届くんだろうか――初めてそんな不安を感じて、思わず強がりが口を突いて出た。
「で、でも! わたしたちだって、三人の方が一人よりパワフルだし……」
「そうだと思います。でもこれを見ると、わたしたちはユニットとしてはまだまだです」
 しどろもどろの反論を、こころの冷静な声が遮る。
「あ、もちろん、アイドルもウインクも凄いです! でも、もっとキラッキランランな三人のステージにするために、彼女たちを研究したくて」
「うん、いいと思う。ね? うたちゃん」
「そ……そうだね……」
 いかにもこころらしい提案に、即座に頷くなな。それを聞いて、うたがトホホ……と肩を落とした、その時。
「少しよろしいでしょうか」
 普段はうたの両親が営む『喫茶グリッター』のアルバイトをしている田中が、音もなく中二階に現れた。

「当日のスケジュールが決まりましたので、お知らせに来ました」
 そう前置きして、田中がライブ当日のスケジュールを告げる。午前中から会場でリハーサルを行って、午後に本番。そう説明してから、田中は自分のスマホを取り出し、その画面を三人の方に向けた。
「それからもう一つ、大切なお知らせがあります。こちらの方々からバックダンサーをやりたいという申し出がありましたので、ありがたくお受けしました」
「こちらの方々って……え? えぇぇぇぇ〜っ!」
 田中のスマホを覗き込んだうたが、続いてななとこころが、驚きの声を上げる。
 そこに映っていたのは、生き生きと踊っている少女たち。たった今動画で見ていた四人のダンサー――ダンスユニット・クローバーだった。


29 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/10(土) 20:43:52
第1話は以上です。ありがとうございました!
第2話は明日、投稿の予定です。


30 : ゾンリー :2025/05/11(日) 13:31:21
こんにちは。
ハグプリで投稿させてください。
タイトルは『じぶん色ファンファーレ』
全12話です。毎日1話ずつ投稿させていただきます!


31 : ゾンリー :2025/05/11(日) 13:32:26
 1 白羽の矢

「〜〜ん」
 黒板を走る白いチョークの音。
 先生が出した問題をノートに書き写しながら、私──野乃ことりは大きなあくびを噛み殺した。
 給食、昼休み、体育、そして算数(いま)。こんなの誰だって眠くなるよ……と心中愚痴をこぼしながら、取り組むのは速度の問題。
(道のりは速さ×時間。速さは時速だけど時間は分だから、分数にして……)
 すらすらすらと答えを書き込んで、進んだ時計の長針は目盛り三つ分。
 時間を持て余した私は、教室の窓から校庭――に建てられた骨組み――を見下ろした。

(あと二週間半くらいだっけ)
 PTA主催のバザーイベント。まだまだ仮組みだけど、ステージではツインラブのミニライブが行われる予定……ってこれはまだ内緒の話。
 ――ピピピピピ。
 なんて物思いに耽っていると、先生がセットしたキッチンタイマーから軽快な電子音。
 集中タイムの終わりに、ちょっとだけ教室が騒めきだす。「わかんねー」「ねぇ答えって……」
「はーい静かに。それじゃあ一問目から答え合わせしていきましょう。隣の人と交換してー」
 言われた通り、隣の男子とノートを交換。筆箱から赤ペンを取り出した。
「それじゃあ答えてもらおうかなー。今日は一日だから……出席番号一番の愛崎さん」
「はい」
 フリフリのフリルを揺らして、少し遠くの席。愛崎えみるちゃんが立ち上がる。
「答えは80mなのです!」
「正解。この問題、速さは時速だけど時間は分だから、分数にして解くのがポイントですね」
 うんうん、その通りその通り。
 私は立花君のノートに丸を付けて、えみるちゃんが座るのを見届ける。
(今答えた、普通の女の子(えみるちゃん)がステージに立つんだよね……)
 改めて考えると脳がバグりそうになるというか、何というか。
 アイドルのえみるちゃんも、六年一組で友達のえみるちゃんも知ってる。けどそれぞれが結びつかない感じかな。
(凄いな―。私もなりたい……なんてのは無理な話だけど、憧れちゃうよね)
 第二問。凡ミスしてた立花君の回答にペケを付けて、私はアイドルしてる自分のイメージを「いやいやいや」と振り払う。だって私は普通の女の子。今も至って普通の授業中だもん。
「それじゃあ問3を」――。

 翌日。暑さも随分和らいできた、初等部への通学路を今日も歩く。
「ふぁぁぁ〜……」
 今度は噛み殺さないで、大きな欠伸を秋空に溶かし校門をくぐりかけた、その時。
(あれっ)
 ブロロロ……。
 いつもは校門の前で止まっていたえみるちゃんの送迎車が、中へどんどん進んでいく。
 私は気になって、小走りで追跡。
 黒い車のドアが開いて、出てきたのはえみるちゃん……なんだけど。
「ええええみるちゃん?」
「ことりちゃんおはようなのです」
「いやなのですじゃなくて! どうしたのその松葉杖?」
 フリル無し、所謂普通の赤いワンピースから覗く足には真っ白なギブス。
 えみるちゃんはなんと、それを地面に付けないように、両脇に松葉杖を抱えていた。
「あはは、ちょっと練習中に挫いちゃって……でも大丈夫なのです!」
 いやいや。私は驚きつつも、気丈に振る舞う彼女から荷物を預かって一緒に教室へ歩いていく。


32 : ゾンリー :2025/05/11(日) 13:32:58
 階段はやっぱり難しいのかな。ゆっくり一段ずつ上るえみるちゃんの表情は、やっぱり明るいとは言えなくて。
「面目ないのです……」
「気にしないでよ。こういう時はお互い様だし」
 ましてや捻挫なんて一大事……と言葉を繋ごうとして、思い出す。
「あ……ライブはどうなるの?」
「そのことなのです!」
 ぐん、とえみるちゃんの顔が近づいてくる。
 とりあえず人の気配が無いところに……と自分の教室がある階を通り越して、私たちは屋上手前にある踊り場へ。
「えっと、改めてだけど……『そのことなのです』って?」
 二人階段に座って、えみるちゃんは引き続き神妙な顔。
 私は尋ねると、水筒のお茶を一口飲んだ。
「バザーイベントでのライブ、出れるのか怪しくて……」
 包帯でぐるぐる巻きの右足。確かに歩くのも不自由な状態じゃ、ライブはやっぱり難しいよね。
「じゃあ、ライブはルールーちゃん一人?」
 予想外にも、えみるちゃんが首を振る。静かに大きなツインテールが揺れた。
「?」
「今回はラヴェニール学園初等部のバザーイベントだから呼ばれたのです。ルールーだけ出演するのは本末転倒になってしまうのです!」
 なるほど。初等部のイベントなんだから、そりゃあ初等部の人が出た方がいいよね。
「なので、代理でことりちゃんにライブをして欲しいのです!」
 そうそう、だからクラスメイトの私に……。
 ん?
「えっとぉ」
「なので、代理でことりちゃんにライブをして欲しいのです!」
 あ、やっぱり聞き間違いじゃなかった。……って、
「ええええええええ? わ、私が代わりに出る??」
「しー! 声が大きいのです!」
 素っ頓狂な私の声が大きく階段に響く。幸い誰からも気づかれなかったみたい。
「で、でもなんで?」
 仄暗い踊り場で、慌てふためく私。
 けどえみるちゃんの表情が真剣だったから、ひとまず息を吸い込んで、冷静さを取り戻した。
「……さっきもお話しした通り、ルールーだけ出演というのは趣旨に反するのです。となれば、頼れるのはもうことりちゃんだけなのです!」
 力説するえみるちゃんは「それに」と続ける。
「実はもしかすると、本番までには完治する可能性もあると言われたのです! なので、治らなかった場合の補欠のようなもの……と言えば、引き受けてもらえますか……?」
 本当に苦しそうな声色。そうだよね……一番辛いのはえみるちゃん。
 それが分かれば、答えは迷いなく出せた。
「うん。私にできるかどうか分からないけど、やってみるよ」
 本当に話が飲み込めたのか自信ないし、現実味なんて全くない……。
 けれどお姉ちゃんならそうすると思ったし、私もえみるちゃんの力になりたいもん。
「本当ですか?」
 思わず立ち上がりかけた彼女を慌てて制止する。
「えみるちゃんって心配性だけど、自分の事になると案外向こう見ずだよね……」
「えへへ……。詳しい事は放課後に説明させてほしいのです」
「じゃあ、そろそろ戻ろうか」
 またまた二人分の荷物を持って、ゆっくり階段を下りていく。

 どのくらい大変なんだろう。ステージの上ってどんな景色なんだろう。
 そんな妄想は予鈴のチャイムに区切られて、私たちは教室へゆっくり急いで向かうのでした。


33 : ゾンリー :2025/05/11(日) 13:33:43
以上です。続きはまた明日!


34 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/11(日) 19:43:08
こんばんは。
ゾンリーさんの、ことり&えみる! これは続きが楽しみです。
私も続きの投稿に参りました。
『コラボステージ! アイドルプリキュア&クローバー!』第2話をお届けします。


35 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/11(日) 19:43:52
 それから数日経った、ある日のこと。
 カッティーとザックリーは、チョッキリ団のアジトであるいつものバーで、背中を丸めて溜息をついていた。
「お前……そろそろ出撃しないのかよ」
「もちろん今日は自分が行きますぞ。今、心の準備の真っ最中なのですぞ」
「何だぁ? そりゃあ。俺は、今日はパスだぜ。何だか気分が乗らねえや」

 ザックリーは、張り切って最初のクラヤミンダーを生み出したものの、やっぱり負けて帰って来た。それ以来、何だか不貞腐れている。
 カッティーは、いつものようにこっそりとアイドルプリキュアの動画を眺めていた。今見ているのは、キュアアイドルが歌っている映像だ。
 つい先日、なんとアイドルプリキュアがライブイベントを行うというニュースが流れた。そしてそれを境に、ネットに出回る彼女たちの情報がぐんと増えたのだ。もっとも、毎日くまなくネットをチェックしているカッティーにとって、それらの大半は目新しいものでは無かったのだけれど。
 そして今日はいよいよ、ライブイベントが行われる日だ。

「握手会では失敗しましたが、今度こそ……。いやいや、今度こそヤツらを倒すのですぞ!」
「な〜にブツブツ言ってんだ? お前」
 眉をひそめるザックリーに、カッティーは慌てて背を向ける。
 そもそもアイドルプリキュアは、キラキランドの伝説の救世主。ダークイーネの野望を阻むにっくき敵で、この世界の“アイドル”とやらではないはずだ。それなのになぜCDを出したり、握手会やライブのようなイベントを行ったりするのか――。
「う、う〜む……。ヤツらの謎の活動のせいで、自分の中の気持ちすら、バラバラですぞ〜!」

「いいねぇ、それだよ。バラバラにしてやればいいのさ」
 不意に第三の声が薄暗いバーに響いた。いつの間に現れたのか、チョッキリーヌが二人の後ろに立って、部下たちを見下ろしている。
「あんたたち、まさかこのまま手をこまねいているつもりじゃあないんだろう?」
「と……当然ですぞ」
「そりゃあ、そうっすよ〜」
 ボスにギロリと睨まれて、カッティーとザックリーの背中がさらに小さくなる。

 三人で力を合わせても、新たな合体技を発現させたプリキュアに敗れてしまった。それならばとダークイーネから力を授かった水晶を使い、パワーアップした怪物・クラヤミンダーを生み出したが、それでも敵わなかったのだ。
「それもこれも、三人が束になってかかってきたからさ。バラバラにして一人ずつを相手にすれば、あんなお嬢ちゃんたちを倒すのなんて、ワケないよ」
「だけど、この前だって最初は一対一だったのに、アイツらがさっさと合流したんじゃないすかぁ」
 不満顔のザックリーに、チョッキリーヌがニヤリと笑う。

「だから二度と合流なんか出来ないように、完全にバラバラにしてやるのさ」
「完全に、って……」
「どういう意味ですかな?」
「チョッキリ団のハサミは、何もリボンしか切れないわけじゃないだろう?」
 そう言うと、チョッキリーヌは部屋の隅に置かれた宝箱の中から、星型の水晶を一つ取り出した。ダークイーネの力を吸収して形を変えた、キラキラを閉じ込める魔の牢獄。クラヤミンダーの核だ。それを天井近くまで高々と放り投げると、水晶から不気味な赤黒いオーラが三人に向けて放たれた。
「ぐわぁぁぁっ!」
 三人が苦し気な叫び声を上げ、衝撃に揃ってのけぞる。その瞬間、彼らの服に描かれている薄茶色の大きなハサミの模様が、まるで墨を流したかのような漆黒に変わった。

「これであたしたちも、ダークイーネ様のお力を授かった。このハサミの力があれば、お嬢ちゃんたちは完膚なきまでにバラバラさ」
 チョッキリーヌがもう一度、さっきよりも邪悪な顔でニヤリとほくそ笑む。
「さあ、もう一度三人で出撃して、さっさと片付けるよ!」
「イエス、ボス!!」
 シャキン、という乾いたハサミの音と共に、三人が姿を消す。それと同時にバーの灯りもふっつりと消え、辺りは真っ暗な闇に閉ざされた。


36 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/11(日) 19:44:39
以上です。続きは明日か明後日、投稿します。


37 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/11(日) 23:53:43
こんばんは。連投失礼します。
そろそろ時間となりますので、例年通りここで一旦ゆる〜く締めさせていただきます。


38 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/11(日) 23:55:43
「いろは〜! 楽しいワン。いろ〜んな仲間が居て、い〜っぱいお喋り出来て、最高だワン!」
 ドッグランを休むことなく駆け回っていたこむぎが、いろはに飛びついて、興奮気味にまくし立てる。まゆと悟、それに、ななとこころと一緒にお茶を飲んでいたいろはは、素早くカップをテーブルに置いて、全身でこむぎを受け止めた。
「わたしも! 自分たちがアイドルプリキュアだって誰にも隠さなくていいし、好きなように好きなだけ歌えるし。すっご〜く、キラッキランラ〜ン♪」
 さっきまで、ほのかと愛犬談議に花を咲かせていたうたもやって来て、楽しそうにくるくると回る。

「アイドルと言えば、様々な形でステージに立っている先輩方もたくさん居るんですね」
 なながそう言うと、うたがエヘヘ〜……と得意そうに笑った。
「あたし、たっくさんの先輩たちと一緒に歌ったよ。うららさんでしょ〜、真琴さんでしょ〜、あおいさんでしょ〜、ハニーさんでしょ〜」
「ハニーさんだけ、変身してるんだね……」
 まゆが思わず苦笑いでツッコむ。その隣から、こころも鼻息荒く力説した。
「ステージに立ってるって意味では、きららさんも、ほまれさんも、あとクローバーの方々も、凄いです!」
「うん。それに、アイドルプリキュアのみんなも凄いよ。歌って踊って、キラキラのステージの力でみんなを助けるんだもの」
 いろはの言葉に、エヘヘ〜……ともう一度頭を掻いてから、うたがいつになく真剣な表情になった。

「でもわたし、いろはちゃんたちのやり方を見て凄いと思ったんだ。戦わずに動物たちの心をキラキラにするなんて。だから、いろんな先輩たちがどうやって町を守って来たのかを尋ねて……それで、何となくわかった気がしたの」
「何をですか? うた先輩」
「私も聞きたいニャン」
 こころに続いて、いつの間にかまゆの膝に抱かれたユキも、興味津々の顔でうたを見つめる。
「みんなの幸せを守りたいって気持ち、仲間と頑張りたいって気持ち、何があっても絶対に諦めないって気持ち。それってすっごくキラキラで、やがてみんなをキラッキランランにするのかもしれないなぁ、って」

 いつの間にかみんなが集まって来て、頷きながらうたの話を聞いていた。思わず顔を赤らめるうたの肩を、なぎさが笑顔でポンと叩く。
「ねえ。せっかくだからさ、アイドルプリキュアの歌、聴かせてよ」
「賛成!」
「いいわね、私も聴きたい」
「じゃあ、ステージはドッグランのベンチの前ね」
「そうと決まれば、急いで飲み物とお菓子を準備するから、ちょっと待ってて」
 にわかに慌ただしくなった先輩たちの様子に、うた、なな、こころは顔を見合わせて、嬉しそうに微笑んだ。

 お話会は、まだもう少し続くらしい。そしてお話会が終わったその後は、みんなそれぞれの場所に帰って、また新たなドラマを紡いでいく。
 来年またどこかの町で、新しいテーマで、みんなでキラッキランランな時間を過ごせますように!


39 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/11(日) 23:56:18
これにて、『オールスタープリキュア!キミとキラッキランラン♪春のSS祭り2025』一応の閉幕とさせていただきます。皆様、素敵な作品をありがとうございました!
このスレッドは例年通り、正規の閉幕日(5/11)から一カ月の間このままにさせて頂きます。
「作品に優先するルールなど存在しない」というのが、当掲示板と保管庫のポリシーです。間に合わなかった方の作品も、投稿いただけましたら企画内の作品として保管いたします。
っていうか、私も続きを投稿させて頂きます……。
「今からお話思いついた!」って方も勿論ウェルカムです! 140文字SSもお気軽にどうぞ。

それでは皆様、もう少しのお楽しみを。
どうもありがとうございました!!


40 : ゾンリー :2025/05/12(月) 20:15:51
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第2話をお届けします。


41 : ゾンリー :2025/05/12(月) 20:16:31
 2 午後四時、ビューティーハリーにて。

 斜陽に照らされた、温かみのある店内。今日はお客さんも少なく早めに閉店したみたい。
 ふかふかのソファーに座ったところで、ハリーがお茶を出してくれた。
 ここに居るのは私とえみるちゃん、目の前に座ってるほまれさんに、お茶を出してくれたハリー。
「はぎゅっ!」
 もちろん、はぐたんもね。
「ほまれさん、はな先輩達は?」
「はなは小テストの補習。さあやとルールーは日直の仕事って言ってたかな」
「お姉ちゃん……」
「っはは、いつもの感じやなー」
 姉が補習を受けていることも、それが「いつも」になってることにも呆れつつ、ちょっと一安心。
 ほまれさんの反応を見るに、えみるちゃんがケガしているのはもう伝わってるんだろうけど、野乃ことりが代わりに出るなんて、私含めて誰も想像してなかったから……。
 お姉ちゃんにカミングアウトするのは、まだちょっと心の準備が出来てないというか。
「まだ全員揃ってないですが……ここに来たのは、他でもないのですっ」
「いや、いつも目的無く来てるじゃん」
「……。他でもないのです!」
 あ、聞こえないふりした。
「ことりちゃんのステージの作戦会議を始めるためなのです!」
「なんや、えみるちゃんの代わりにことりがステージやるんか?」
「一応補欠、ですけど……はい」
 膝の上で作った握りこぶしに力がこもる。「ことりちゃんも飲むのです」そんな緊張を見透かされていたのか、えみるちゃんに催促されると、私は湯気立つティーカップに口を付けた。
「へぇ、責任重大じゃん」
「……はい、がんばります」
 確かに、ほまれさんの言う通り。
 元々はツインラブが立つはずだったステージ、そこにのしかかる重責は計り知れなくて。
 でもね、ちょっと楽しみになってきた自分も居て。
「まず用意しなきゃいけないのは衣装なのです! 最高の衣装をハリーに作ってもらうのです!」
「おっしゃ任せとき! ふりっふりの衣装こしらえたるさかい」
 そっか、衣装……!
 ツインラブみたいな、可愛い衣装を用意してもらえるってことだよね……!
「ことりちゃんのアイドル衣装、想像しただけできゃわたん……」
「そうと決まれば早速採寸や! ほまれ、手伝ってくれ」
「りょーかい」
 されるがままにメジャーを当てられ、数分。
 時折、ハリーと目を合わせていたほまれさんの顔が赤くなってたんだけど……ぷくく、当の本人は気づいていないみたい。
「これで最後や、お疲れさん。ほなこのサイズを基に作っとくわー。ま、完成までのお楽しみっちゅうやつやな」
「ありがとう、ハリー」
 そうお礼を言って、窓から見えた空は随分と暗く、遠くにお月様が顔を出していた。
「わ、そろそろ帰らないと」
 慌てて通学かばんを持つ私。えみるちゃんはここまで迎えに来てもらうみたい。
「じゃあ、また明日」
「はい、また学校でなのです」
 お邪魔しましたー、とファンシーなドアを閉める。
 大きな木がさわさわと風に揺れるのを背後に、私はお家に向かって駆け出した。
 しばらく歩いて、足元はコンクリートの舗装路に。
 私は小走りで自分の家に向かいながら、採寸中に説明された「これからの流れ」を反芻していた。
 なんせこれから二週間と少しでステージに立てるようにならなくちゃいけない。となればみっちりレッスンするしかないよね。
(衣装は作ってもらってるから……ボイストレーニングに、ダンスのレッスン。あとは……)
「こっとりー!」
「わっ」
 突然抱き着かれて、思考が飛ぶ。
「お姉ちゃん」
 ていうか、私小走りだったのによく追いついたね……。
「聞いたよぉ〜? ツインラブの代わりにライブするんだって〜?」
 さすが我が姉、こういう事にはめざとい……。
「ま、まぁ。でもあくまで補欠というか、えみるちゃんの足が治らなかった場合の補欠だよ?」
「そ・れ・で・もっ! ことりがステージだなんて、いいなぁ〜うりうり〜」
「ぬぅ……」
 あはは、こうなるのが見えてたから、あんまりお姉ちゃんにバラしたくなかったんだ……。
 私は走るのをやめて、二人並んで歩く。ぽつぽつと街灯も増えてきて、我が家はもうすぐそこに。
「ママにはまだ話してないんだよね?」
「だって今日決まったんだよ?」
「そっかそっか。じゃあババーンと発表しようババーンと!」
「えー普通に話すって〜」
 そんな軽口を叩きながら、ようやく到着。今日は肉じゃがかな、甘い匂いが玄関に漂っている。 
「ねぇママ聞いて聞いて!」
「なんでお姉ちゃんが切り出すのー!」
 ……あー、大変な一日は、もうちょっとだけ続くみたい。


42 : ゾンリー :2025/05/12(月) 20:17:09
以上です。続きはまた明日!


43 : ゾンリー :2025/05/13(火) 19:48:38
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第3話をお届けします。


44 : ゾンリー :2025/05/13(火) 19:49:09
 3 アイドルたるものレッスンをっ

 とまあ、そんなこんなでステージに立つ(かもしれない)ことを決めた私。
 けどけど、私はどこにでもいる普通の小学生で、歌は音楽の授業で歌うくらいだしダンスに至っては運動会くらい。
 だからえみるちゃんが特別講師を呼んでくれるって話だけど……。
「お邪魔しまーす……」
 えみるちゃんを連れて、やってきたのは中等部の多目的ホール。
 中等部ってことは……、
「や」
「よろしくね、ことりちゃん」
 やっぱり。私の目の前には、金髪のショートカットと、肩まで伸ばした水色のお団子髪。
「さあやさん、ほまれさん!」
「ことりー、お姉ちゃんもいるよー」
 薬師寺さあやさんに輝木ほまれさん、どちらもお姉ちゃんの大事なお友達なんだ。
「えみるちゃん、特別講師って」
「はい、このお二人なのです!」 
 さあやさんは女優で、ほまれさんはスケーター。確かに特別講師と呼ぶにはピッタリだけど……。
「えみるちゃんは?」
「わ、私はこのあと用事があるので……ここで失礼するのです! はな先輩支えて欲しいのです!」
 とてとてと松葉杖を突きながら多目的ホールを後にするえみるちゃん(とお姉ちゃん)。
 てっきり一緒にレッスンしてくれるものと思っていたから、ちょっとびっくり。
「さて、それじゃあ早速始めようか。私が主にボイストレーニング、ほまれがダンスのレッスンを担当するから、よろしくね」
「は、はい!」
「そんなに緊張しなくても。私らだってこういうの初めてなんだしさ」
 夕焼けのホールで、最初のレッスンが始まる。
 不安なのか、ワクワクなのか。私は大きく息を吸い込んだ。
「よろしくお願いしますっ!」

 最初は、さあやさんからのボイスレッスン。
 ちなみに、ほまれさんの大会が近いらしく、ダンスレッスンは来週以降に後回し。今日もスケートリンクに向かったみたい。
 
「さて、まずは『これ』からやってみようか」
 私は一枚渡されたプリントに書いてある文章をまじまじと見てみる。
 これってどこかで見たことある気がする……けど。
「北原白秋の『五十音』。大正十一年に発表された詩でね、よく発声練習や滑舌向上に使われてるの」
「なるほど」
 思い出した。国語の教科書に載っていた詩。って、そんな大昔からあったんだ……。
「最初は一緒に言ってみようか、せーのっ」
「「あめんぼあかいなあいうえお」」
(!)
 声に出してみて、わかる。さあやさんの発声、おっとりしてるのにすごいハキハキしてる。
(……やっぱり女優さんってすごいや)
 序盤は文字を追うので精一杯の私。だけど徐々にさあやさんの真似をする余裕が出てきて。
「「はとぽっぽほろほろはひふへほ 日向のお部屋にゃ笛を吹く」」
(一文字一文字丁寧に、ちゃんと区切って)
「「まいまいねじ巻きまみむめも 梅の実落ちても見もしまい」」
 さあやさんが笑顔で頷く。やった! うまく出来てるみたい。
「「焼き栗ゆで栗やいゆえよ やまたに火のつく宵の家」」
「「雷鳥寒かろらりるれろ れんげが咲いたら瑠璃の鳥」」
「「わいわいわっしょいわいうえを 植木屋井戸替えお祭りだっ」」
 ……と、これで全部。いつの間にか息が上がっていて、唇の両端がピクピクしてる。
「上手上手! これを毎日つづけてね♪」
 毎日……? ちょっと気が遠くなる……けど。
「続けたら、もっと上手くなれますか?」
「うん。といっても、私が物心ついた時にはもうやってて、どんな風に上達したか……っていうのは教えてあげられないんだけど」
「す、すごすぎ……」
 私、多分とんでもない人に教えてもらってるのかもしれない……。
「それじゃあ、次の例文にいってみようか♪」――
 まだまだ発声は上手くないし、滑舌もまだまだ。なんなら悔しいけどお姉ちゃんのほうが声出てるよね……。
 それでも、一つずつ、着実にできることが増えていくのは、とても楽しかった。


45 : ゾンリー :2025/05/13(火) 19:49:57
今日は以上です!


46 : りとるぶたー :2025/05/13(火) 20:00:12
こんばんは。投稿させていただきます。
2レス使わせていただきます。

タイトル【夜空の星座、うたを降らせ】


47 : りとるぶたー :2025/05/13(火) 20:00:50
(ふわふわで、きらきらだ)
 そんな風に、うたは思った。
 地面がなくて、遠くが群青色にゆらゆらと煌めいていて――まるで、宇宙を漂っているようだ、と。
 いや、本当に宇宙空間に来てしまったのかもしれない。なぜなら今、うたは少しも息ができなくて、苦しくて、周りには誰もいなくて、一人ぼっちで……。
(なんで、こんなことになったんだっけ)
 そうして、うたは――今から4年前、当時小学4年生のうたは、静かに意識を手放した。瞼の裏で、流星が一筋煌めいた。

 凄まじい風圧が頬を殴りつける。
「えぇっ!?」
 ふと気づくと、うたは流れ星にまたがって、広大な煌めく空間を駆け巡っていた。
「あっ、息ができる! ってことは、ここは夜空の中?」
 そう思ったのもつかの間。うたは、少し向こうに、テレビや本でよく見知った物を見つける。
「ううん――あそこにあるのって、もしかして……地球? じゃあここは、宇宙!?」
 うたを乗せた流れ星は、一直線に地球から遠ざかっていく。
(私、ちゃんと帰れるんだよね……?)
 一抹の不安に駆られるうただが、すぐにその不安もかき消されてしまった。
「わぁ〜!」
 いつのまにか前方に広がっている、宝石のような星の花畑。うたを乗せた流れ星が空気をびゅんびゅんと裂いてできた風に揺れて、花々はカランカランキランキランと涼やかな音を立てた。
 それはまるで、何年も昔――幼稚園の音楽発表会で、みんなで奏でた歌や楽器の音のように賑やかで、楽しくて、踊りだしたくなるくらいにキラッキランランで……。
「宇宙って、こんなに素敵な場所なんだ! 知らなかった〜!」
 うたも、花が揺れるのに合わせて思わず歌いだす。
「お花、キラッキ〜ラン踊ってる♪ 楽しいとこだね! 宇っ宙〜、宇っ宙〜! びゅんびゅん、びゅんびゅーん!」
 一体何分、いや何時間そうして宇宙を駆け巡っていたことだろう。花と一緒に歌い、鳥の群れと一緒に舞い、途中で生えていた大きなりんごをかじり、少しの間は立派な汽車とも並走して――そうしてうたは、一つの小さな惑星を見つけた。

 その星は家くらいの大きさで、一面が砂色で、キラキラの空間からは離れた所にぽつんと浮いていた。
 なんとなく惹かれるように、うたはその惑星へと向かっていく。そのさなかで、うたは何かに気付いて耳を澄ませた。
 ――き、ら、き、ら、ひ、か、る……。
「歌が、聞こえる……?」
 ――お、そ、ら、の、ほ、し、よ……。
「『きらきら星』の歌だ。女の子が歌ってる……」
 聞こえてきたのは、世界的にあまりにも有名な童謡。そして、その歌をつむぐ少女の声は、寂し気な色をしていた。
「あ、いた。女の子! あの子一人だ。他に誰もいないから、寂しい歌になっちゃってるのかな」
 うたは迷わず女の子の元に降り立ち、そして声をかける。
「ねぇ、キミ――って、えぇ〜っ!?」
 あまりの衝撃に、うたはよろめきながら驚愕の大声を上げる。
「わ、わ、私とそっくり!?」
 なんとその少女は、うたと瓜二つの姿をしていたのだ。少女は怪訝な顔をして口を開く。
「あなた、どうしてこんなところに……」
「あっ、そうだ! キミがすっごく寂しそうに歌ってたから、私、気になって!」
「そういう意味の質問じゃ……え、そんなに寂しそうだった?」
「うん!」
 うたは、顔を手で下方向に歪めて、なかなかにユニークな顔芸を実演する。
「こぉ〜んなに寂しそうだったよ〜」
「そっ、そんな顔はしないもん」
「えへへ、ごめんね。確かにやりすぎだったかも。でも、ちょっとでも笑ってくれたらいいなって」
「え?」
「キミの顔、今でもずっと悲しそう」
 うたの指摘に、少女はハッとした顔をする。そして少しの沈黙ののち、ぽつりと口を開いた。


48 : りとるぶたー :2025/05/13(火) 20:01:21
「……うん。もう、しばらくずっと笑ってないから、笑い方を忘れちゃって」
「ずっと!? もしかして、ここにもずっといるの?」
「うん。ずっとずーっと、ひとりで」
 少女は、星色のワンピースをはためかせながら、くるりと軽やかに回った。
「ひとりでね、歌ってたの――」
 ――きらきらひかる おそらのほしよ まばたきしては みんなをみてる きらきらひかる おそらのほしよ
 その軽快な舞とは裏腹に、少女の表情と歌声は、どこまでも暗く沈んでいた。そんな様子を見て、うたは居ても立ってもいられない気持ちになる。
(この子を笑顔に、キラッキランランにしたい!)
 その強い気持ちがうたの体を駆り立て、うたは元気よく口を開いた。
「キラッキランランひかる〜♪ おそらのほしよ〜! キミにもうたが〜、とどくといいな〜♪ キラッキランランひかる〜♪ おそらのほしよ〜!」
 そんなうたの歌に、少女はぽかんとして――それから、弾けるように笑いだした。
「あははっ、このメロディ、そんなに楽しそうに歌えるんだね」
「えへへ、やったー笑ってくれた! ねえねえ、ちょっとは元気になったかな?」
「うん。すっごくすっごく元気が出たよ。あなたの歌は、素敵な力を持ってるね」
「えっへっへ〜♪」
 照れるうたに微笑みかけていた少女だが、ほどなくして優しく声をかける。
「さぁ、あなたはそろそろ帰る時間だよ。ご家族やお友達が待っているでしょう?」
「あ、そうだ! 私、なんにも言わずに遠くまでお出かけしちゃったよ!」
「でしょ? だから、そろそろ」
「でも、そうしたらキミがまたずっと独りぼっちにならない? キミが寂しくなったときに、また会いに行けるかなぁ」
 眉をハの字にして気遣ううたに、少女は嬉しそうな顔で答える。
「あなたのおかげで、しばらくはずっと寂しくないよ。キラッキランラン……いい言葉だね」
「えへへ〜」
「だから、ずっとずっと先――あなたがまた地球を離れたそのときに、また会って歌を歌いましょう」
 そう言いながら、少女は指をパチンと鳴らす。するとうたの体が高速で宙に浮きながら輝きだした。
 別れの予感を感じ取って、うたは少女に届くように声を張り上げる。
「うん! たくさんたくさん歌って、キラッキランランになろうね〜!」
 そうしてうたの視界は、ホワイトアウトしていった。少女の満面の笑みを、瞼の裏に残しながら……。

 ――目が覚めると、そこは真っ白な天井だった。
「うた!」
 家族がうたに、口々に呼びかける。うたはきょとんとしながら、ベッドからゆっくりと体を起こした。
「え……ここは? 病、院?」
 どうやら家族によると、お祭りに参加した昨日の夜に、うたは、見知らぬ女の子が落とした桃のぬいぐるみを拾ってあげようと川に飛び込んで――そのまま溺れたらしい。
 うたのような小学生が無傷、かつ後遺症も無しで夜の川から生還できたのは、まさに奇跡だった。
「夢、だったのかな……」
 ――キラッキランランひかる〜♪ おそらのほしよ〜!
 でも、うたの胸には確かに、あの宇宙空間の煌めきと、砂の惑星での交友の温かさがしっかりと残っていた。
(きっと、夢じゃないよね。いつか、約束も果たさないと。また会って一緒に歌うって、約束)

 今日もうたは歌を歌い、みんなをキラッキランランにする。「キミにもうたが、とどくといいな」、そう願いながら。


49 : りとるぶたー :2025/05/13(火) 20:01:54
以上です。ありがとうございました!


50 : 名無しさん :2025/05/14(水) 19:13:14
>>30


51 : 名無しさん :2025/05/14(水) 19:15:52
すみません、書きかけで投稿してしまった…。

>>30
さすが、ゾンリーさんのことり&えみるの安定感!と思ったら、ハグプリ世界の再現度が凄い!
続きが楽しみです。

>>49
ファンタジーな雰囲気でありながら、うたがうたである由縁を感じさせる物語。
とても好きです!


52 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/14(水) 19:46:03
こんばんは。遅くなりましたが、第3話を投稿させて頂きます。
2レス使います。


53 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/14(水) 19:47:04
 ライブ当日の朝。田中に連れられてうたたちが訪れたのは、はなみちタウンの郊外に出来たばかりの野外ステージだった。ライブは午後からだというのに、会場の周りには熱心なファンらしき人々が集まっていて、三人のポスターの前で写真を撮ったり、動画を見て盛り上がったりしている。その様子を横目で見ながら、一行は関係者入り口から控室に入った。
 プリルンとメロロンを、田中がうたからポーチごと受けとる。
「よぉし。じゃあ、ななちゃん、こころ、行くよっ!」

「プリキュア! ライトアップ!」

 アイドルハートブローチのミラーボールが煌めいて、うた、なな、こころが、キュアアイドル、キュアウインク、キュアキュンキュンに姿を変える。こうして準備を整えると、三人は控室から、まだリハーサルの準備中のステージへと足を向けた。

「広ーい!」
「見渡す限り、客席ですね!」
 ウインクとキュンキュンが弾んだ声を上げる。この野外ステージは広い公園の中にあり、ステージの前方180度を客席が取り囲む、半円形の配置になっている。だからステージに立つと、視界に入るのは見渡す限りの客席だ。その後方には芝生に覆われたなだらかな傾斜があって、そこからもステージを観ることができるから、キャパは千人以上になるかもしれない。

「……どうかしましたか?」
 一緒にステージに立った田中が、不意にアイドルの顔を覗き込んだ。こういう時、いつもなら真っ先に歓声を上げる彼女が、何も言わないのを不思議に思ったのだ。
 ただポカンと口を開けて客席を眺めていたアイドルは、その言葉にビクリと肩を震わせてから、慌てて首を横に振った。
「え? う、ううん、何でもないです。凄いなー、こんな素敵なステージで歌えるなんて」
 そう言って田中の視線を避けるように、アイドルがウインクとキュンキュンの元へ駆け寄る。

 ステージの広さとそこからの眺めに圧倒されて――そんな自分に驚いてもいた。
 普段、マックランダーを相手に歌うライブ空間もキャパは大きく、更にあのステージはぐるりと360度を客席に囲まれている。だが、ステージの広さはこの会場の半分以下だ。それに、あの時は会場が暗くて客席のキラキライトしか見えないが、今日は昼間の野外ステージ。客席がこんなによく見えるのだから、観客一人一人の表情まではっきりと見えるだろう。
 つい先日、クローバーの動画を見た時に感じた不安を思い出す。そして、さっき会場の周りに集まっていた、期待に満ちた人々の顔が頭に浮かぶ。

(やばっ、珍しく緊張してきた……。あの人たちの期待に応えられるかな。本当にわたしたちの歌で、こんな広い会場のお客さんたちを、みーんなキラッキランランに出来るのかな……)

 キュアアイドルになって初めてそんな不安が頭を掠めた、その時。ステージの隅から、聞きなれた音楽が聞こえてきた。

「あ、『Trio Dreams』ですね!」
 即座にキュンキュンが反応する。アイドルももちろん気づいていた。
 今日お披露目するアップテンポなユニット曲――それに合わせて踊っているのは、桃色、青色、黄色、赤色のコスチュームに身を包んだ四人の若いダンサーだった。

 伸びやかに、軽やかに、
 時に激しく、時に弾むように、
 リズムに乗って彼女たちは躍動する。

 その迫力は、当然ながら小さな動画で見ていた時とは比べ物にならない。
 動きが完璧に合っているだけではなく、踊るのが楽しいっていう四人の気持ちも、ぴったりと合っているのがよくわかる。
 その喜びは、四倍どころではない大きなエネルギーとなって迸り、観る者の心に届く。だからこそ観ているだけで心が弾み、身体が勝手にリズムを刻むのだろう。
「やっぱり凄い……」
 アイドルがそう呟くのとほぼ同時に、フィニッシュのポーズが決まる。そして何やら四人で話し始めたところで、桃色の衣装の少女がアイドルたちに気づいた。

「あーっ! あなたたちが、アイドルプリキュアだね?」
 パッと花が咲いたような笑顔で、少女が話しかけてくる。その明るさに励まされ、まずアイドルが勢いよく頭を下げた。
「はいっ! キュアアイドルです。皆さんは、クローバーの方たちですよね?」
「うん! 今日はよろしくね。観に来てくれた人たちみ〜んなが忘れられないような、楽しいステージにしようね!」
 少女はそう言って、もう一度ニッコリと笑った。


54 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/14(水) 19:47:47

「キュアウインクです。今日はありがとうございます!」
「キュアキュンキュンです。あ、あの、よろしくお願いします!」
 ウインクもキュンキュンも、口々にそう言いながら頭を下げる。
「あなたたちに会えるの、楽しみだったんだ。あたし、桃園ラブ。こっちから順に、美希たん、ブッキー、せつな!」
「ちょっと、ラブ! ちゃんと紹介してよ」
 青い衣装の少女が、ラブと名乗った少女をたしなめる。だが――。
「大丈夫です! えっと……ミキタンさん、ですよね?」
「いや……そうじゃなくてぇ!」
 ななが自信満々で確認すると、彼女は口をパクパクさせてから、頭を抱えて素っ頓狂な声を上げた。

「ごめ〜ん、美希たん」
「だから、今はその呼び方、やめなさいよっ!」
「ラブちゃん、ひょっとしてワザと言ってない?」
「ううん、美希の話をちゃんと聞いてないだけよ」
 青い衣装の少女に怒られ、黄色の衣装の少女にツッコまれ、赤い衣装の少女に冷静に分析されて、ラブがナハハ〜、と頭を掻く。さっき踊っていた時とはまるで違う、まさに同年代の少女たちの他愛もない一幕。その光景に、アイドルたち三人の緊張が、嘘のようにほぐれていく。

「じゃあ、改めて――桃園ラブです」
「蒼乃美希です」
「ブッキーこと、山吹祈里です」
「東せつなです」
 四人の自己紹介が終わる頃には、三人とも笑顔になっていた。

「今のダンス、素晴らしかったです! 動画では何度も観ていたんですけど、やっぱりライブはすごい迫力で、心キュンキュンしてます!」
 キュンキュンが興奮気味に、身振り手振りを交えて語る。
「四人の動きが完全に揃ってますよね。どうすれば、あんなにぴったり合うんですか?」
 ウインクも身を乗り出すようにして四人に問いかける。そんな二人に、クローバーの四人は互いに顔を見合わせてから、にこやかに首を横に振った。

「ううん。最後の仕上げは、まだこれからかな〜」
「えっ?」
 意外な言葉にウインクが目を見開く。キュンキュンもポカンと口を開けた。
「サビの部分の振り付けをね、もう少し変えようかって今話してたの」
「あなたたち三人の歌とダンスを、もっと盛り上げられないかなって」
「リハーサルはまだこれからでしょう? だから最後の最後まで、精一杯がんばりたいの」
 口々に語る仲間たちを、ラブが誇らしげに見回す。アイドルは、少し俯き加減で四人の話を聞いていたが、やがて恐る恐る口を開いた。
「ありがとうございます。そこまで真剣に考えていただいて、何だかその……もったいないっていうか……」
 しばらく言葉を探してから、アイドルが思いきった様子で言葉を続ける。
「あの……皆さんのダンス、本当に凄くて……。こんな凄い方たちに、わたしたちのバックダンサーをやっていただいて、本当にいいんでしょうか……」
「もちろんだよぉ!」
 底抜けに明るい声が、力強く即答した。ラブが、さっきと同じ花が咲いたような笑顔で、アイドルの顔を覗き込む。そしてさらに何か言おうと口を開きかけた、その時。
 快晴だった空が、急にどんよりと暗くなった。

「見つけたぜ、プリキュア」
「今日こそ決着をつけてやりますぞ」
「お嬢ちゃんたち、覚悟するんだね」

 ステージの上空に、チョッキリ団の三人――ザックリー、カッティー、チョッキリーヌが現れる。
「もう! こんな大事な時に……」
 アイドルはそう言いかけて、思わず言葉を飲み込んだ。
 彼らが三人揃って現れたのは、これが初めてではない。だが、今回はその時とは明らかに様子が違った。三人から放たれる闘気と殺気が凄まじい。ギロリと睨まれただけで肌がピリピリして、思わず身体が震えそうになる。

「「「クラヤミンダー!!!」」」

 不意に、真っ黒なステージライトの体を持った三体の怪物が出現した。観客席の椅子をバキバキと踏み壊して、ステージに迫って来る。それを見た途端、覚悟が決まった。


55 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/14(水) 19:48:17
「皆さん、早く逃げてください!」
 ラブたちにそう叫ぶや否や、アイドルたちがステージから飛び出す。
 クローバーの他にも、リハーサルの準備をしているスタッフたちがステージ上や舞台裏に数多く居るのだ。全員が逃げるまでは決してステージに近づけまいと、一人一体を相手にして渾身の拳を叩きつける。
「プリキュア! 頑張るプリ〜!」
 プリルンの声が響く。
 だが、クラヤミンダーはダメージを受けた様子もなく、無造作に三人を地面に叩き落とした。

 アイドルが瞬時に跳ね起きて、仲間たちに呼びかける。
「ウインク、キュンキュン、三人で行くよっ!」
「残念だけど、そうはさせないよ」
 だが、その声をチョッキリーヌの低い声が遮った。
 両手の人差し指と中指を立て、ハサミのように構えるカッティー、ザックリー、チョッキリーヌ。そんな彼らの両手に、不気味な赤黒い気が絡みつく。
「カッティーング」
「ザックリ行くぜ」
「チョキッとね」
 その途端、巨大なハサミの刃が閃光のように走ったかと思うと、三人の間に赤黒い壁が出現した。


〜続く〜


56 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/14(水) 19:48:52
3レスになった……。どうもありがとうございました。
次は週末……? またよろしくお願いします!


57 : ゾンリー :2025/05/14(水) 19:59:06
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第4話、投稿させていただきます。
2レス使わせていただきます。


58 : ゾンリー :2025/05/14(水) 19:59:50
 4 さあやさん『も』

 さあやさんとのボイストレーニングが始まって、数日。
 今日も私は唇の両端をピクピクさせながら、一生懸命発声練習を続けていた。
「拙者親方と申すは、お立会の中に御存じのお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて、青物町を上りへお出でなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今では剃髪致して圓斎と名乗りまするっ」
 これは「外郎売」っていう演目の一部。
 俳優さんや、アナウンサーさん達の間でも練習に使われているんだって。
「いい感じ! ちょっと語尾が弱いかもだけど……うん、これなら歌のレッスンに入ってよさそうね」
「ありがとうございますっ!」
「ふふ。今日はもういい時間だからここまでにしよっか。続きは……あ、ちょっとごめんね」
 さあやさんの電話――お姉ちゃんたちとお揃いだ――から可愛らしい着信音が。
「もしもし? ……うん、うん大丈夫。平気だよ!」
 沈みかけの夕日がさあやさんを照らす。伏せた目と、異常に気丈な言葉の端に一抹の寂しさの様なものが垣間見えて、私は思わず尋ねた。
「どうしたんですか?」
「ことりちゃん……なんでもないよ。お父さんが今日帰って来れないって」
「帰って来れない?」
 二人多目的ホールの壁に寄りかかって、私はさあやさんを見上げた。
「お母さんが忘れ物しちゃったみたいで……それを届けにね。撮影場所が遠いから、今日中には戻って来れないみたい」
 さあやさん一人っ子ってお姉ちゃんから聞いたし、ご両親が帰ってこれないってことはお家に一人、なんだよね……。
「でも気にしないで! 時々あるの、こういう事」
「あのっ」
 頭に浮かんだ時にはもう、口走っていた。

「よかったら、今日うちに泊まりませんか?」
「ただいまー!」
「お、お邪魔します……」
 さあやさんの手を引いて元気に玄関へ。
「いらっしゃい。ことりから話は聞いてるわ」
 ママには先に連絡して即OKをもらったんだ。そんなママに出迎えられて、私達は靴を脱ぐ。
 ちゃんと揃えるところが、お姉ちゃんとは大違い。
「着替えはちゃんと持ってきた?」
「はい」
 そう言って、ちらっと持ち上げたのは白と水色を基調としたトートバッグ。実は、家に来る前に一度さあやさんのお家に寄ってきたんだ。
「ごめんねぇ、はなのおさがりだとサイズ合わないと思って……」
「ほんとに。身長だってもうすぐ私が追い越しそうなんですよ?」
「あはは……」
 苦笑いするさあやさん。と同時に再びドアが開く音が響いた。この音の大きさは……。
「なんか失礼なこと言われた気がするただいまー!」
 やっぱり、お姉ちゃんだ。一緒に帰ってきたのかな、その後ろにはルールーちゃんも。
「だって本当の事だもーん」
「んぬぬ……」
「はな、ルールー、お邪魔します」
「いらっしゃい、さあや。といっても、私の家では無いのですが……」
 確かに、ルールーちゃんからしたら複雑かも。
 微妙な空気になりかけたのを察してか、パンパンとママが手を叩く。
「なーに言ってるの。ほら、こんな狭い場所に五人も居たら窮屈でしょ? 手を洗ってご飯にしましょ。今日は大人数だし……」
 くんくん、お姉ちゃんに釣られて、私も鼻を動かす。廊下からも漂うこの香りは……。
「「「カレーだ!」」」
   ・
 ――ごくり。
「美味しい……!」
「「でしょー?」」
 さあやさんを見守っていたお姉ちゃんと二人、静かにハイタッチを交わす。
 丁度パパも帰ってきて、六人で囲む食卓。引っ越してくる前よりも賑やかな雰囲気に、私のスプーンも止まらなくなる。
「カレーは家庭それぞれの味が出る……さあやのお家ではどういったカレーなのですか?」
「あら、私も聞きたいわ。参考にさせて」
 早速二杯目を注ぐルールーちゃんに、ママが相槌を打つ。さあやさんは顎に指を当てて、思い出すように目線を見上げた。
「私の家は……ハバネロ、あとジョロキアとかかな」
 あまりにも淡々と話すから一瞬なんとも思わなかったけど……途端、ルールーちゃんが顔を引きつらせた。
「ハバネロ、スコヴィル値およそ三十万、ジョロキア、スコヴィル値およそ百万……端的に言えば、死人が出てもおかしくない辛さです」
「そうなの♪ だから名付けてデッドオアアライブカレー!」
 ルールーちゃんに次いで、母姉私もスプーンが止まる。バ、バイオレンスだ……。
「さ、参考にさせてもらうわね……」
 その後なんとか一口食べたカレーが、やけに甘く感じたのでした。


59 : ゾンリー :2025/05/14(水) 20:00:21
    ・
 さてさて、そんな夕食会を終えて、お風呂も上がって。
 私の部屋の床いっぱい並んだお布団に、さあやさん、お姉ちゃん、ルールーちゃん。
「っふいー! さっぱりした〜」
「お姉ちゃんちょっとオヤジっぽい……」
「ことりに同意します」
 開けた窓からそよぐ夜風がそよそよとカーテンを揺らす。
 自分の部屋にお友達を呼ぶことはあっても、こんなに狭く感じるのは初めてかも。
「これ、ことりちゃんのノートパソコン?」
「はい。ママからのおさがりですけど」
 さあやさんが指差したのは、私の机に置いてあるノートパソコン。
 ホームページ「ことりの部屋」の作成に欠かせない、無骨だけど、大切な相棒なんだ。
「へぇSYYUシリーズ! この形状は数年前のモデルだけどシリーズ自体耐久性が高いしまだ全然使えるでしょ? 経年劣化だけじゃなくて落下時の衝撃にも強いのが特徴なの。確かにおばさん記者さんなら外で記事書くことも多いしピッタリだわ……でもね屋内で使う時もいい事があって、USBのポート数が同社の別シリーズよりも多くて、マウスやキーボードで埋まって足りなくなるなんてことが無いの!」
「へぇ……そうなんだ!」
 確かに、一回お姉ちゃんがドジって落としちゃったことがあるんだけど、全然平気だった……。
「同社の他商品を検索……確かに、さあやの言う通りUSBポートの数は平均より25パーセント多い模様。更に、背面を浮かせる設計により、排熱効率は10パーセント向上しています」
「これもしかして話に付いていけてないの私だけ……?」
 あれ、一瞬さあやさんとルールーちゃんがバチバチしてたような……。
 でも大事な相棒(パソコン)の話をできるのは、とっても嬉しくて。
「あーあ、さあやさんもお姉ちゃんだったらよかったのに」
 私はちょっとだけ顔を赤くして、そう呟いた。
「めちょっく!」
「ありがと。ふふ……でもはな、ことりちゃんは『さあやさん『も』』って言ったんだよ?」
「……」
 あ、バレちゃったか。
「ことりの心拍数増加を確認」
「こぉとぉりぃ〜!」
 耳まで真っ赤にして、窓の鍵を閉める。「ほらもう寝るよお姉ちゃん!」私はそう言って布団を全身にかぶった。
「えへへぇ〜一緒の布団で寝る〜?」
「助けてさあやお姉ちゃん〜」
「わ」
 ごろごろと転がり落ちて、さあやさんの布団に潜りこむ。家族以外にこうして抱き着くなんていつ以来だろう……あったかくて、とても落ち着く。

「はな、それなら私の布団で寝ましょう。布団一枚に二人ずつ。これで同じです」
「めちょっく……いいもーんルールーと一緒に寝るもーん」


60 : ゾンリー :2025/05/14(水) 20:00:59
以上です。続きはまた明日!


61 : ゾンリー :2025/05/15(木) 19:47:44
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第5話を投稿させていただきます。


62 : ゾンリー :2025/05/15(木) 19:48:16
 5 避けられてる……?

「いってきまーす」
 通学かばんを背負って家を飛び出した私。秋空に吹く風は涼しくて、ぼんやりとした頭をスッキリ目覚めさせる。
「ことりちゃんおはよー」
「おはよう奈々ちゃん」
「っと、今日私日直だ。また教室でお話しよー」
 クラスメイトの奈々ちゃんに追い抜かれつつも、その後は何事もなく学校に到着。
 そう、何事もなく。
(今日も、えみるちゃんの送迎車見なかったな……)
 最近、何故だかえみるちゃんと登校のタイミングが合わない。
 先に教室に着いていたり、逆にチャイムが鳴るギリギリに入ってきたり。ちなみに今日は前者らしくて、ノートに何かを書きこんいでるみたい。その様子があまりにも真剣だったから私は声をかけることが出来なかった。
 タイミングが合わないだけならまだ、「えみるちゃんの生活リズムがあるよね」って納得できるんだけど……。
(あ、次図工室だ)
 まだまだ松葉杖を手放せそうにないえみるちゃん。
 授業で必要な絵の具セットはそれなりに大きいし、図工室は階が違うから移動も大変。だからお手伝いしたい……んだけど。
「えみるちゃ」
「えっと、奈々ちゃん、移動教室のお手伝いをして欲しいのですが……」
「いいよ〜」
(もしかして私、避けられてる……?)
 流石にこういうのが二、三回も続いてくると、そう思わざるを得なくて。
 確かめるのが怖くて、中々えみるちゃんと目を合わせられない……。私は自分の絵の具セットをキツく握りしめ、慌てて教室を後にした。
   ・
 お腹の真ん中あたりで渦巻くもやもやを抱えたまま、迎えた帰りの会。
「それじゃあプリント配りまーす。ちゃんと保護者の人に見せるようにねー」
 前から回ってきたプリントを一枚取って、後ろの人に回す。
 B5サイズの再生紙にプリントされているのは、例のバザーイベントのご案内。上部には大々的に『初等部PTAバザーにツインラブ登場! ミニステージ披露♪』と太字の英角ポップ体で記載が。
(あ、この情報やっと出たんだ)
 軽く目を通していると、教室はいつの間にか騒めいていて。
「えみるちゃんライブするの? すごーい!」
「でもその足……」
「大丈夫なの?」
 ふふふ、それに関しては抜かりなく……。
「はい! お医者様からは間に合うかもって言われているので! それに間に合わないときは……」
 ちらっ。えみるちゃんの視線が一瞬こちらを向いたような気がしたけど、すぐに逸らされた。
「その時は、何とかするのです!」
「なにそれ〜」
「何だかえみるちゃんらしくないよー」
 また避けられた……のかな。
 一瞬期待していただけに、ズキンと胸を刺すような痛みが私を一人、静かに襲ったのでした。


63 : ゾンリー :2025/05/15(木) 19:48:48
以上です。続きはまた明日!


64 : 雨宮かえで :2025/05/16(金) 19:02:10
はじめまして。雨宮かえでと申します。
初めてプリキュア二次を書いてみましたので投稿させていただきます。
わんぷりで、短いです。拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。


65 : 雨宮かえで :2025/05/16(金) 19:03:24
甘くてキラキラでワンダフル


「〜♪」
いろはは鼻歌を歌いながら自室の椅子に腰掛ける。開いた窓からは暖かい風が吹き込んでカーテンを揺らしている。太陽の光が差し込む机の上に、可愛くラッピングされた小さな箱を置いた。
ラッピングをほどき、箱を開けると、つやつやと輝く小さなチョコレートが4つ並んでいる。
「お店のお客さんにもらったチョコレート、美味しそ〜!」
「いろは!それ何?!」
「うわ!びっくりした!」
足元にまとわりつくふわふわとしたそれに驚いて下を見ると、こむぎが大きな瞳を輝かせていろはを見つめていた。外で遊んでいたと思っていたが、いつの間にか戻ってきたらしい。
「お店の常連さんにもらったチョコレートだよ!でも犬には毒だから、こむぎは食べちゃダメだよ?」
「え〜なんでなんで〜!いろはと一緒に食べたいワン!!」
机に飛び乗ったこむぎは、チョコレートの箱のまわりをくるくる回りながら駄々をこねる。
「うーん、チョコレートを犬に食べさせるのはなぁ·····」
「あ、わかったワン!」
こむぎは机から飛び降りるとワン!と一声。キラキラと眩しい光に包まれたと思うと、人間の姿のこむぎが立っていた。
「これならチョコレート?も食べれるよね!」
こむぎは得意顔でふふん、と鼻を鳴らす。その姿はやっぱり犬の面影があった。
「そ、そうだね〜」
いろはは笑いながら「どれにする?」とチョコレートの箱を差し出す。
「えーとね〜、これ!」
こむぎが摘んだのは、薄い茶色のチョコレートで、てっぺんにナッツが乗ってるものだった。
「こむぎと同じ色!これにする!」
こむぎはにこにこしながらチョコレートを色んな角度から眺めた。ひっくり返したり、光に透かしたり、まるで宝石を見ているように目をキラキラさせている。そんなこむぎを見ていたいろはは、つられてこむぎが摘んでいるチョコレートに目を向けた。なんの変哲もないチョコレートのはずなのに、それを見てこむぎが喜んでいると、かけがえのない宝物に見えてくる。
「いろはは?どれにするの?」
突然くるっといろはの方を向いたこむぎは、こてん、と首を傾げた。
「あ、えーっと·····これにしようかな」
再び箱に目を落としたいろはは、ピンク色のチョコレートを摘んだ。ハートの形で、アラザンがまぶしてある。
「これはこむぎのリボンと同じ色だよ〜」
「ホントだ!」
そう言ってこむぎに見せるとこむぎは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。


66 : 雨宮かえで :2025/05/16(金) 19:03:57
「じゃあ、いただきま〜す!」
ふたりは同時にチョコレートをぱく、と口に入れた。いろはが選んだチョコレートはイチゴ味だ。甘酸っぱくて口の中でなめらかに溶けていく。
美味しいなぁ、こむぎはどうだろう
こむぎの方を見ると、真剣な顔をして口をむぐむぐ動かしている。と、びっくりしたように目が大きく開かれた。
「何これ〜!美味しい!」
初めての味に目を白黒させながらこむぎは飛び上がった。
「口の中でふわ〜って!とろってしてて、甘い!」
こむぎは大興奮で部屋の中を走り回った。
「チョコレート!美味しい!ワンダフル〜!」
「うん!そうだね」
「いろはも?!いろはも美味しい?」
「うん、すごく美味しい!」
こむぎは突然ばたっと大の字に寝転んだ。天井を見上げながら、うっとりした口調で呟いた。
「チョコレートってすごいね、キラキラしててきれいで、食べたら美味しくて、すっごくワンダフル〜」
そうだね、と言おうとして、いろははふと気がついた。こうやってこむぎと同じものを食べたのって初めてかも。
犬と人、どんなに仲良しだって全部一緒は叶わない。だからこそ、今こむぎとこうして同じものを食べている時間は、すごく特別で、すごく幸せだ。そう思うと、胸の中があたたかくなった。
「そうだね、チョコレートも、こむぎとチョコレートを食べるこの時間も、すっごくキラキラでワンダフルだね」
「時間?時間がキラキラでワンダフルってどういうこと?」
こむぎががばっと起き上がり、きょとんとした顔でこちらを見た。
いろははこむぎにも分かるように、自分の頭の中を整理しながら話し始めた。
「えっとね、こむぎと美味しいを共有できるのって、すっごくワンダフルだなぁって思ったの」
「?」
未だに首を傾げるこむぎに、いろはは続ける。
「犬と人って食べるものが違うでしょ?犬はドッグフードとか犬用クッキーを食べるし、人は人のご飯を食べる。お互い同じものを食べて、美味しいねって言い合うことってできないんだ。だから今、こむぎと同じものを食べて、美味しいねって言い合えるの、すっごくワンダフルだなって思うの」
「こ、こむぎも!こむぎもいろはと同じもの食べて美味しいって言えるの、すっごいワンダフル!」
ぱぁっと顔を輝かせたこむぎは、いろはに思い切り飛びついた。思わぬ衝撃に、いろはは椅子から落ちかける。体を傾けたせいで、壁に頭をぶつけた。ごちっ、と音がして、目の前に星がキラッと瞬いた気がした。
「あう、」思わずうめき声が漏れるが、それに気が付かないこむぎは、
「チョコレート、すっこぐキラキラで、すっごくワンダフル!もう1個食べよー!」と言っていろはに抱きついたまま。
なんとか受け止めながら、いろはは、
(こういうキラキラはカンベンだよ〜…)
と痛む頭を抱えるのだった。


67 : 雨宮かえで :2025/05/16(金) 19:04:33
以上です!
よろしくお願いします!


68 : ゾンリー :2025/05/16(金) 19:51:45
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第6話を投稿させていただきます。


69 : ゾンリー :2025/05/16(金) 19:52:24
 6 放課後ファンクラブ

 ようやく、ほまれさんとのダンスレッスンも始まった。まずはボイストレーニングと同様に、基礎的な練習からだけど。
「それじゃ、今日はここまでにしようか」
「ありがとうございましたっ」
 ほまれさんと別れて、夕焼け染める中庭を歩く。
 日中は綺麗な水しぶきを飛ばす噴水も今は鳴りを潜めて、遠くで練習する野球部の掛け声が小さく聞こえてくるだけ。
 ……こんなに静かだと、ちょっとセンチメンタルになっちゃうからかな、ふとえみるちゃんに避けられてる事を思い出してしまう。そういえば、不安で宿題もあんまり手に付いてない。
(ダメダメ、早く帰らなきゃ。明日もレッスンなんだし、宿題終わってないし……)
 いやーな考えを振り払って、歩く速度を上げる。
「わっ」
「おっと」
 下を向いて歩いてたからかな。途端私は誰かにぶつかって、そのまま尻餅をぺたん。
「ごっごめんなさ」
「ことりちゃん?」
「ひなせ君?」
 驚きつつも、差し出された手を取って立ち上がる。
「お、野乃の妹じゃん」
「ふみと君も……」
 私がぶつかったのは、お姉ちゃんたちの同級生で、私が所属(させられ?)している「キュアエールさんファンクラブ」の副会長と会長、ひなせ君とふみと君。ぶつかったのが知ってる人だったことに安堵しつつ、「ありがとうございます」とはにかんだ私。
「野乃さんに用事だった?」
「あいつこの前も忘れ物届けに来させてたよなー? しかも班活動で必要なやつ」
「あはは、その件は姉がご迷惑を……。でも今日は別件で、もう終わって帰る所です」
 ステージの一件は、まだまだ内緒。というか、いつになったら言っていいんだろう。もしかして当日のサプライズ? だとしたらハードルが高い……。
「そっか、んじゃ一緒に帰ろうぜー」
「そうだね、送っていくよ」
「ありがとうございますっ」
 秋空の光陰は矢の如し。真っ赤な太陽ももう半分沈みかけて、ヂヂヂっと中庭の明かりが灯る音がした。
   ・
「しっかし、今日もキュアエールさん見つからなかったよなぁ」
「それはそれで平和ってことじゃん」
 なんてことない会話を交わす二人の、一歩後ろを歩く私。
 三人で帰っていても、思考はぐるりぐるり廻ってえみるちゃんの事に。
 嫌われちゃったのかな。
 もう一緒に遊べないのかな。
 代役の事はどうなるんだろう。
 そもそもなんで私なんかに代役を……。
 いつの間にか、視線は自分のスニーカーが見えるまで下がっていた。
「……わっ」
 だから、二人が振り返ったのにも気づかなくて。
 今度はひなせ君のお腹とごっつんこ。「ふが」なんて声が無防備に飛び出してしまった。
「おいおい大丈夫かー?」
「ごめんなさい、ぼーっとしちゃってて」
 本当に心配してくれている表情が温かくて、申し訳なくて。
「なんでも相談しろよー? ことりは俺達キュアエールさんファンクラブの大事な後輩なんだからよ」
「やっぱり僕も会員なんだ……でもまあ、うん。なんでも相談してね」
「ふみと君、ひなせ君……」
 私は泣きそうになるのを堪えながら、すべてを正直に吐き出す。えみるちゃんにツインラブの代役を頼まれたこと、なのに最近避けられていること。そしてその理由が分からなくて不安なこと。
 上手く言葉が纏らなくてたどたどしかったけど、お兄さん二人は急かしもせず、話に耳を傾けてくれた。
「あー、そんなの、本人に聞くしかねえんじゃねえの?」
「だね。彼女の真意……えっと、本当の気持ちが分からない以上、僕もそうするしかないと思うな」
 そして、サラッと出てきた回答。
 私は一瞬呆気にとられながらも、すぐに目を伏せた。
「でも、傷つけちゃったりしないかな、って考えると……」
「ことりとえみるって子は友達なんだろ? ダチならそんなんで嫌ったりしねえって」
「そう、なのかな……」
「そうそう」
「そうそう」
 あぁ、私、キュアエールさんファンクラブに入ってよかった。
「じゃあ、私……頑張ってみます」
 そんな気持ちで胸をいっぱいにしながら私は、二人と並んで茜色の帰り道を行くのでした。


70 : ゾンリー :2025/05/16(金) 19:52:56
以上です。続きはまた明日!


71 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/17(土) 20:16:18
こんばんは。雨宮かえでさん、ようこそガールズサイトへ!
新しい書き手さんの加入、とても嬉しくとても有難いです。
これからよろしくお願いします!

さて、長編の第4話、投稿させて頂きます。2レス使わせて頂きます。


72 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/17(土) 20:17:08
 突如、アイドルの左右に赤黒い壁が出現した。それはステージを分断してどこまでも長く続き、どこまでも高く聳えている。まるで暗い牢獄に、アイドルを閉じ込めるかのように――。
「ウインク! キュンキュン!」
 両隣に居るはずの仲間に大声で呼びかけるが、答えは無い。一瞬たじろいだアイドルだったが、すぐにギュッと両手の拳を握った。
 壁に向かってダッシュしながら、左胸のアイドルハートブローチに右手でタッチ。そのまま右拳を振り上げて壁に突撃する。

「アイドルグーターッチ!……あれ?」
 振るった拳にまるで手応えがなくて、アイドルが目をパチパチさせる。試しに蹴りを放ってみても、まるで空気を蹴っているかのように何も感じない。
 よく見ると、それは壁ではなかった。赤黒い靄のようなものが分厚い層となり、壁のように広範囲を覆っているのだ。
「なぁんだ、じゃあこれを超えれば……って、あれぇ!?」
 アイドルが靄の中に足を踏み入れようとして、再び驚きの声を上げる。
 何度やっても靄の中に入れず、そこから先に進めない。少し後ろに下がって勢いをつけて飛び込もうとしても、まるで見えない何かに押し戻されるように、どうしても赤黒い障壁を超えられない。

「何なの? これ……。あ、そうだ!」
 少し前に、三体のマックランダーと戦った時のことを思い出した。あの時ウインクがやったのと同じように、インカムを通して仲間たちと連絡を取れれば――そう思ったのだが、何故かどんなに念じても、インカムが出現しない。
「どうすればいいの……?」
 孤独感が、まるで大波のように押し寄せて来た。ブン、と頭を一つ振ってそんな不安を払いのけ、もう一度声を張り上げる。
「ウインク! キュンキュン! 返事をして!」
「無駄ですぞ」

 不意に、中空から無機質な声が響いた。チョッキリ団の一人・カッティーが、腕組みをしてアイドルを見下ろしている。
 彼の服に描かれた大きなハサミの模様からは、障壁と同じ赤黒い不気味な気が立ち昇っていた。ギョロリとした大きな目でアイドルを睨みながら、カッティーが言葉を続ける。
「ダークイーネ様のお力で、空間をカッティーングしたのですぞ。これでおぬしらはバラバラ……。今日こそお終いですぞ!」
「空間をカッティングって……うわっ!」
 呆然と呟いたアイドルが、次の瞬間、大きく跳び退った。

「クラヤミンダー!」
 さっきの三体のうちの一体、ステージライトのクラヤミンダーがステージに躍り上がり、さっきまでアイドルが立っていた床を、拳の一撃で破壊する。そして、敵を取り逃がしたとわかるや否や、カチャリと音を立てて、顔の部分の巨大なライトを点けた。
 クラヤミンダーの光が、アイドルを探してステージの上を照らす。すると光の当たった部分が灰色の砂になって、サラサラと崩れ出した。

「やめて! ステージを壊さないで!」
 アイドルが思わず叫ぶ。声の方へと顔を向けるクラヤミンダーの光を、ある時はジグザグに走り、ある時はジャンプして避けつつ、怪物の本体に迫る。

「はぁぁっ!! キャア!」
 だが、足元を狙った蹴りは、クラヤミンダーをわずかにぐらつかせただけだった。すかさず怪物の後ろに回って背中を殴りつけるが、怪物に振り向きざまに叩き落とされる。全身を打ちつけて、すぐには立ち上がれないアイドル。そんな彼女に、クラヤミンダーがライトを向ける。
「さあ、これでとどめですぞ!」
 カッティーが勝ち誇った声を上げた、その時。ステージ上に軽快な音楽が――キュアアイドルのソロ曲『笑顔のユニゾン♪』が、大音量で響いた。

「うっ……」
 カッティーが低い呻き声を漏らし、耳を塞ぐ。今にも光を放とうとしていたクラヤミンダーも力なくよろめいて、一歩、二歩と後ずさった。
 その隙に、アイドルはステージ上をゴロゴロと転がってクラヤミンダーから距離を取る。そして警戒しながら立ち上がったところで、誰かに後ろからグイっと手を引っ張られた。


73 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/17(土) 20:17:38

「えっ?」
「早く。こっち!」
 アイドルは手を引かれたままステージから飛び降りる。そしてカッティーとクラヤミンダーが音楽を止めようと慌てている隙に、客席後方にあるテントの中に転がり込んだ。

 黒幕で囲まれたテントの中には、幾つもの機材が並んでいた。アイドルはまだ知らないことだが、ここは照明や音響の操作を行うための仮設ブースだ。
「あの……ありがとうございます。助かりました!」
 薄暗いテントの中で、アイドルはようやくホッと息をつくと、ここまで連れて来てくれた人物――ラブに向かって頭を下げた。どうやらラブが、ダンシングポッドをスピーカーに繋ぎ、音量を最大にして流したらしい。

「ううん。ちゃんと音が出て良かったよぉ!」
 ラブは明るい声でそう言うと、アイドルの顔を見つめて、大きな目をキラリと輝かせた。まるでお日様みたいな笑顔に、アイドルはすっと心が落ち着くのを感じる。

(ラブさんも、逃げずにずっと近くに居てくれたってこと? わたしが戦ってるところを見てた? でも……さっきまであんなに危ない状況だったのに、この人、全然動じてない)

 咄嗟の機転。的確な救出。それにこんな時なのに、堂々とした明るい口調――。

(まるで戦い慣れてるみたい……。この人、ただのダンサー、じゃない?)

 アイドルがそんなことを思うのと、ほぼ同時に、ラブは真っすぐに言った。

「やっぱりあなたたち、プリキュアなんだねっ」
「えっ!? ラブさん、プリキュアのこと知ってるんですか!?」
「うん。実はあたしたちも、プリキュアだったんだ」
「えぇぇっ!?」
 二重に驚いたアイドルが、うっかり大声を上げかけて、慌てて口を押える。そんなアイドルの様子を、ラブはニコニコと見つめる。

 ラブたち四人は、ダークイーネたちとは別の組織との戦いに身を投じていたのだという。今はそれぞれの生活に戻り、それぞれの夢を追いかけながら、四人でダンスをする時間をとても大切にしているのだと、ラブは言った。
「凄い……。みんなの笑顔を守ったんですね」
「アイドルたちも今、そのために戦っているんでしょ? みんなで幸せ、ゲットするために」
 ラブの問いかけに、はい、と答えようとして、アイドルがチラリとラブの顔を見る。その途端、思わず涙が溢れそうになって、アイドルはグッと唇を噛みしめた。

 ラブは、穏やかな笑顔でアイドルの顔を見つめていた。その慈愛に満ちた暖かな眼差しに、張り詰めていた気持ちが緩んだのだろう。
「わたしたちの歌で、みんなをキラッキランランにしたい。そう思ってるのに、わたし、今日初めて不安になったんです。本当に、わたしにそんなこと、出来るのかなって」
 アイドルが、心の内をポツリポツリと話し始める。
「でも、ウインクとキュンキュンと一緒ならきっと出来るって、三人一緒にやっていきたいって、そう思ってるんです。それが、こんな風にバラバラになっちゃって……」
「やっぱり来てよかった」
「え?」

 囁くようなラブの言葉に、アイドルが驚いて顔を上げる。ラブは、涙に濡れたアイドルの目を真っすぐに見つめ、穏やかな声で語り始めた。
「その気持ち、凄くわかるから。あたしも、みんなに笑っていてほしかったんだ。あたしなんてドジだし頭悪いけど、だから最後まで頑張ろうって思った。あなたたちの歌を聴いた時も、同じものを感じたの。だから、何かお手伝いが出来ないかな〜って思ってね。“プリキュア”って名前だから、ひょっとして……って気持ちも、もちろんあったけど」
 そう言いながら、ラブが膝に置かれたアイドルの手に、自分の手を重ねる。
「ウインクもキュンキュンも、きっとアイドルと同じ気持ちだよね? だったら絶対に大丈夫! こんなことで、仲間はバラバラになったりはしないよっ」
 薄暗いテントの中で、ラブは明るくそう言い放って、ニッコリと笑ってみせた。


74 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/17(土) 20:18:08
以上です。続きはまた明日投稿できるように、頑張ります!


75 : ゾンリー :2025/05/17(土) 20:33:22
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第7話を投稿させていただきます。


76 : ゾンリー :2025/05/17(土) 20:34:03
 7 もとどおり。

 ――翌日。
 私は生徒昇降口が開くと同時に教室に入り込んだ。
 もしも今日、えみるちゃんが早く登校するパターンならお話しできるかな、と思って。
 まあ結局、今日はチャイムギリギリのパターンだったけど……そんなことで諦める私じゃない。
 授業、給食、昼休み。
 掃除、午後の授業、帰りの会。
 中々チャンスは訪れなかったけど、じっと観察してる私に気づいた奈々ちゃんから「放課後はだいたい音楽室にいる」との情報を手に入れることが出来た。
   ・
 ということで、いざ。
(ふうーっ)
 トントントン。
 ……。
 返事はない。けど扉に耳をあてがうと、ピアノの和音が微かに聞こえてきた。
 ということは中に(多分)えみるちゃんがいる。ここで入ったら迷惑かな……。そんな考えを追い払うように、ふみと君の言葉を思い出す。『ダチなら、そんなんで嫌ったりしねえって』
(えーいっ)
 ガラガラガラッ、勢いよく音を立てながら引き戸を開く。
「えみるちゃ」
「出来たのです!」
「……へ?」
 突然の叫びに面食らう私。えみるちゃんはピアノの前で楽譜っぽいものを天に掲げていた。
「ことりちゃん?」
 あ、やっと気づいてくれた。何が出来たのかは気になるけど……。
「えみるちゃん、あのね」
 
 私は、荷物を机に置くと、えみるちゃんの正面に立った。
「私ね、最近えみるちゃんに避けられてるような気がしてるのっ。どうしてなのかな、って思って。だから……聞きに来たんだ」
 目は逸らさない。絶対。たとえ勘違いでも、何か真意があっても……単純に嫌われていても。
「……」
 えみるちゃんも私の目を真っ直ぐ見て、そして微笑んだ。
「……これを見て欲しいのです」
 渡されたのは、彼女がさっきまで持っていた楽譜。
 手書き感溢れるそれは、何度も何度も消しゴムで消した跡が残っていて。
 一番上に書かれているタイトルを、私は口に出してみた。
「じぶん色ファンファーレ……」
「この曲を、ステージで演(や)って欲しいのです! 私からのサプラーイズッ、なのです」
「あ……」
 思い出すのは、レッスン初日。中等部の多目的ホールにさあやさんとほまれさん、えみるちゃんに私、あとお姉ちゃん。みんなで集まった、あの日。
『わ、私はこのあと用事があるので……ここで失礼するのです!』
「もしかして、あの時から……?」
「えへへー、そうなのです」
「じゃあ、私を避けてたのは?」
「それは……」
 それは、サプライズで曲を作っているのを悟られないようにするため。
 あと私に迷惑をかけてしまわないように。
 えみるちゃんは恥ずかしがりながらも、そう説明してくれた。
「よかった……。ちゃんとえみるちゃんの本心が聞けて」
 ほっと肩の力が抜ける。心の空にかかっていた雲が晴れて、清々しく羽ばたきたい気分になった。
「本心……」
「ねぇ、よかったら今日の練習見に来てよ」
「! もちろんなのですっ」

 二人急いで荷物をまとめ、足早に音楽室を後にする。
 並んで歩く廊下では、えみるちゃんが作った曲のあれやこれやで盛り上がり、モチベーションもグンと上がる。
 ダンスレッスンで流す汗も、いつもよりキラキラと輝いているような気がした。


77 : ゾンリー :2025/05/17(土) 20:34:34
以上です。続きはまた明日!


78 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/18(日) 19:33:54
こんばんは。長編の5話、投稿させて頂きます。
2レス使わせて頂きます。


79 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/18(日) 19:34:32
「クラヤミンダー!」
「ウインクバリア!」
 クラヤミンダーの雄叫びと、ウインクの鋭い掛け声が重なる。怪物の顔面に貼りつく水色のバリア。光の威力を殺されたクラヤミンダーは、両手を滅茶苦茶に振り回してステージを破壊しながら、ウインクに迫ろうとする。
 ウインクはジャンプで距離を取ってその攻撃を躱し、隙を見ては次のバリアを放つ。力の強いクラヤミンダーが相手では、バリアも短時間しか持たないからだ。

「けッ! さっきから何回おんなじこと繰り返してんだぁ? ザックリ言って、お前の体力が切れるのが先だぜ!」
 せせら笑うザックリーの声に、ウインクは密かに唇を噛んだ。そんなこと、言われなくてもわかっている。だけど今は、他に手立てが無い。
 ジャンプを繰り返すウインクの左右には、聳え立つ赤黒い障壁――。

(あの壁の向こうには行けないし、アイドルやキュンキュンと連絡も取れない。このクラヤミンダーは、わたし一人で倒すしかない……。でも、どうやって? あの光線をまともに浴びたら、プリキュアでもどうなるかわからないのに!)

 さっき、クラヤミンダーの光を浴びた巨大モニターが、一瞬で砂と化してザーッと一気に崩れ落ちるのを見た。あの衝撃の場面を思い出して、ウインクが小さく身震いする。と、その時。
「クラヤミンダー!」
 一際大きな雄叫びと共に、予想外の攻撃が飛んできて、ウインクはハッとする。作戦を考えるのについ没頭して、相手に隙をつかれてしまった。怪物が自らの充電ケーブルを振り回し、ウインクめがけて放ったのだ。

「キャァァァ!」
 ウインクが攻撃をまともに食らって吹き飛ばされる。落ちたところは、すでに瓦礫の山と化したステージの一角だった。痛む身体を起こそうとしたウインクが、慌てて瓦礫の上を転がり攻撃を避ける。その途端、瓦礫の一部が砂となって崩れ落ちた。

「残念ながら、リハーサル前で充電は満タンだぜ。どうした? ザックリもう降参かぁ?」
 クラヤミンダーがケーブルをブンブンと振り回しながら迫る中、調子づいたザックリーが、ウインクの顔を覗き込んで勝ち誇ったような声を上げた。いつも笑っているようなその目がすっと細められ、いつになく残忍な光を纏う。
「お前たちとのお遊びもここまでだ。今日から世界は、クラクラの真っ暗闇……」
「ウインクバリア!」
 ザックリーの言葉が終わるか終わらないかのうちに、ウインクは至近距離から怪物にバリアを叩きつけた。

(今日は何だかいつもと様子が違う……。もしかしてカッティーとチョッキリーヌも? ということは……)

 ウインクの脳裏に、仲間たち二人の顔が鮮明に浮かぶ。
 今一番会いたい二人、そして今一番心配な二人。そんな彼女たちへの想いが言葉となって、ウインクの口から紡がれる。

「アイドル……キュンキュン……相手がどんなに強くても、きっと二人なら今も立ち向かっているよね。だから――わたしも諦めない!」

 声に出して叫ぶことで自分を励まし、ウインクは跳ねるように立ち上がった。
 今ならクラヤミンダーは目の前に居て、バリアを引き剥がそうとジタバタしている。そのガラ空きの胴体に、ウインクは渾身の連打を叩きこむ。そしてステージを召喚しようとしたところで、怪物が右の拳を振り上げた。
 パリーン! という乾いた音がしてバリアが割れ、青い欠片が宙を舞う。クラヤミンダーが自分の顔を殴りつけてバリアを破壊したのだ。そして巨大なライトの顔が、ウインクの方を向く。

「ウインクバリア! キャアッ!」
 ウインクが咄嗟に自分の目の前にバリアを張る。だが、頭上から充電ケーブルが鞭のように襲い掛かり、ウインクはまたも瓦礫の上に仰向けに倒れ込んだ。
「見事に引っかかったな? ライトをお見舞いするのは、これからだぜっ!」
 ザックリーの声が響き、クラヤミンダーがゆっくりとウインクに迫って来る。
 早く立たなくちゃ――そう思うのに、身体に力が入らない。瓦礫の山から転がってでも何とか身を隠そうと思った、その時。青い光がサッと横切るのが見えて、ウインクは思わず目を見張った。


80 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/18(日) 19:35:04

 光は一つだけではなかった。小さな青い光が一つ、また一つとクラヤミンダーに向けて放たれる。クラヤミンダーは左腕で顔を庇うようにして、右手を滅茶苦茶に振り回して小さな光を叩き落としている。その激しい動きのせいで、瓦礫と砂だらけのステージの上に、盛大な土埃が上がった。

「ひょっとして、ウインクバリアと間違えてる……?」
「何してるの、走って!」
 呆然と呟くウインクの肩を誰かが掴み、鋭い声で囁く。その声に導かれるままに、ウインクは土埃に紛れてその場を離れた。そしてステージから飛び降り、階段状になった客席の裏側――通風スペースとして設けられた隙間に、腹ばいになって潜り込む。

「こいつは……バリアじゃなくてキラキライトじゃねえかよっ! 畜生っ、どこ行きやがった!」
 ようやく土埃が収まったのだろう。しばらくして、ザックリーの苛立たし気な声が響いた。

 ウインクが腹ばいになったまま、隣に居る人物――美希に、丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。助かりました。あの、今のキラキライトは……」
「あれ、キラキライトって言うの? ステージ裏に沢山置いてあったの。お客さんに配るためかしらね」
 美希はそう言って、パチリと茶目っ気たっぷりのウインクをしてみせた。
「キラキライトは囮よ。なんてね、見事に引っかかってくれて良かったわ」
 美希は物陰からウインクの戦いぶりを観察し、青いキラキライトだけを選り分けてクラヤミンダーに投げつけたのだという。こんな非常事態にさらりとそんなことを言ってのける美希を、ウインクは目を丸くして見つめてから、遠慮がちに口を開いた。

「あの……美希さんって、いったい……」
「あなたたちもプリキュアだったのね」
「えっ!?」
 驚くと同時に、そういうことだったのか、と納得しながら、ウインクがさらに問いかける。
「“も”ということは、美希さんたちもプリキュアなんですか?」
「ええ。少し前までだけどね」
 美希が少し遠くを見るような目をして、フッと柔らかく微笑む。しかしすぐに表情を引き締めると、キラリと光る目でウインクを見つめた。

「さあ、ダメージから回復したら、反撃よ。アタシのことは気にしないで、目の前の敵に集中して」
「でも、わたし一人になってしまって……」
 そう言いかけて、ウインクがハッとしたように顔を上げる。
「ひょっとして……さっきの攻撃で、クローバーの皆さんもバラバラになってしまったんですか!?」
「アタシのことは気にしないで、って言ったでしょ?」
「でも……」
 オロオロとこちらを見つめるウインクに、美希はもう一度小さく微笑んでから、すっと顔を上げ、真っすぐに前を見て言った。

「“わたしは諦めない!”」
「えっ?」
「あなた、そう言ってたわよね」
 美希に言われて、ウインクはさっき自分で自分を鼓舞した言葉を思い出す。いや、今の美希の台詞は、あの時の何倍もの力強さを持っていた。まるで背中をバシンと叩かれたような気がして、ウインクも真っすぐに美希の顔を見つめる。

「どんな時も希望を捨てない――それが一番大事なの。アタシは馬鹿の一つ覚えみたいに、そればっかり自分に言い聞かせてたわ。もちろん、今も諦めてないわよ」
「どんな時も、希望を……」
 そう呟くウインクに、美希は微笑みながらしっかりと頷いて見せる。
「そう。決して諦めずに、今すべきことをする。そうすれば、仲間とだってきっとまた会える。アタシが言うんだから、間違いないわ」
 そう言ってもう一度ウインクして見せる美希に、今度はウインクも、ウインクを返す。
「アタシのアドバイス、完璧!」
 小さくガッツポーズをしながら呟く美希を見ていると、さっきまでの不安が嘘のように消えていく。ウインクは表情を引き締めると、通風スペースの隙間から外に出た。


81 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/18(日) 19:35:44
以上です。ありがとうございました。
続きは明日か明後日、投稿できるように頑張ります。


82 : ゾンリー :2025/05/18(日) 19:56:42
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第8話を投稿させていただきます。


83 : ゾンリー :2025/05/18(日) 19:57:24
 8 高身長コンビ! ってことで……

 ステージ本番まで、とうとう一週間を切った。
 披露する曲も決まり、いよいよレッスンは基礎を抜け本格的にステージで披露するためのモノへ。
 ……なんだけど。
「んーーーーーー」
 真っ白な氷上で、腕を組むほまれさん。
 私はその様子を端っこの手すりに掴まりながら眺めていた。
「んーーーーーーーー……」
 悩んでいる原因は他でもなくステージの件。
 えみるちゃんが作ってくれた曲の振付を頼まれて、絶賛難航中みたい。
 「こっちの方が慣れてるから」と滑りながら、いくつかポージングを繰り出すほまれさん。
 私も何かお手伝いできないかなと思って、スケートリンクまで来たんだけど、特に何もできそうになくて……絶賛意気消沈中。
「ど、どんな感じですか……?」
 片耳だけに付けたイヤホン。トントンと指でリズムを取りながら私を見つめる。
「んー、ことりちゃんとさ、衣装に合うような可愛い振り付けにしようって考えてるんだけど……」
 どうもしっくりこないんだよね、と再び腕を組むほまれさん。
 そういった感覚的な所は……悔しいけど専門外過ぎる。

「へぇ、珍しい組み合わせだね」
 と、スケートリンクみたくカチコチになった私たちの元に現われたのは、サラサラの金髪に青い瞳が特徴的な男の子。確かお姉ちゃんのお友達の……。
「アンリ?」
「こ、こんにちは」
 若宮アンリ君。ほまれさんと同じでスケート選手なんだっけ。
「なんだか面白そうなことやってるねー。さしずめ、ことりちゃんに合う振付を考えているんだけど中々いいのが思いつかないって所かな?」
「な、なんで分かるんですか……」
「あはは。ほまれとは付き合い長いからね」
 あんまり説明になってないんですけど?
 そのままアンリ君はすいーっと、ほまれさんがいるリンク真ん中へ。どうしたらあんなに上手く滑れるんだろう……。
「もー、邪魔しに来たの? アンリも今日オフでしょ」
「最初に言った通りだよ。珍しい組み合わせだと思ってさ、ついてきちゃった」
 むぅ。確かに大注目のスケーターと、ただの小学生の組み合わせなんて、物珍しい以外の何物でもないんだけど。
 私は妙に悔しくなって、夢中で二人がいるリンク中央へ。
「じゃあ高身長コンビ! ってことで……」
 よたよたとたどり着いて、言い放った。
「えー、そう?」
 わざとらしく私と身長を比べるほまれさん。及び腰の私も、ピンと背筋を伸ばして対抗。
 だけどまあ、全然足りてなくて。
「高身長……ねぇ」
「これでもクラスの中じゃ一番なんですー!」
「背伸びしたがりな所は、お姉さんと似てるんだね」
「んぬぬ……」
 ふふ、と笑われ頭をポンポンされる。く、悔しい……。
「背伸び……大人っぽさ……」
 そんな私たちのやり取りを見ていたほまれさんが、弾かれたように滑り出す。
 滑走の中で繰り出されるポーズは、ほまれさんが呟いた通り大人っぽい。しなやかというか、伸びやかというか。
「うん、これだよ……! ありがとう二人とも。忘れない内にメモしてくる!」
 颯爽とリンクを出て、控えのロビーへ向かったほまれさん。
 私とアンリ君はぽつんとリンクの真ん中に取り残されて。

「キミ、自分で戻れる?」
「……引っ張ってください、お願いします」
「ふふ、しょうがないなぁ」
   ・


84 : ゾンリー :2025/05/18(日) 19:58:04
 スケートリンクからの帰り道。
 アンリ君は「お邪魔したら悪いから」と早々に帰ったみたいで、ほまれさんと二人、暖かい夕焼け道を歩く。
「ことりちゃんはさ」
「はい」
 しばらくの静寂が破られて、私は少しだけ目線を上げた。
「もっと背、高くなりたい?」
 それは、私にとって当たり前すぎる質問で。
「……? 勿論です。お姉ちゃんも追い越しますし、ほまれさんにだって追いついてみせるのでっ」
 ふんすっ、と鼻息を荒くする私に、「だよね」とほまれさんははにかむ。
「私さ、少し前まで『身長伸びるの止まれ』って思ってたんだよね」
「えっ」
 驚く私。その原因が幾ら考えても思いつかなくて、言葉の続きを待つ。
「フィギュアってさ、すごい『感覚』が大事なんだ。ジャンプ一つとってもタイミング、踏み込みの速度や強さ、足の角度。何回も何回も練習して、体に刻み込むの」
 一呼吸。ほまれさんは通学かばんを肩にかけて、目を伏せた。
「けど身長が伸びると、重心が高くなるんだ。そうすると、今までの『感覚』じゃ飛べなくなる。もちろん、一番の原因はケガだったんだけどさ、初等部の頃から、1㎝でも伸びるのが怖くて、仕方なかった」
「……」
 それは、今まで考えたこともない事で。私とほまれさん、住んでる世界が違ってるんだな、って改めて思った。
「ゴメンゴメン。別にビビらせようとかじゃなくて、単なる昔話。見方を変えると手足が長くなった分、表現の幅も増えるよねって思っただけ……っと」
 ほまれさんが足を止める。どうやら知らぬ間に、それぞれの家への分かれ道に差し掛かっていたみたい。
「それじゃ、私こっちだから」
「はい。ありがとうございましたっ」
「私こそ助かったよ。明日から振付バンバン教えていくからねー」
 ノールックで手を振りながら、道路に消えていく。
 私はそんな彼女を見送って、再び歩き出した。
   ・
(知らなかったな……身長が伸びるデメリットなんて)
 ううん、それだけじゃない。ダンスのステップも、発声方法も、全部誰かから教わったから得たもので、私が最初から持ってるものは何一つ、無い。
(私……ちゃんと代役こなせるかな……)

 私はぽつんと芽生えた不安を見て見ぬふりしながら、自宅への道を急ぐのでした。


85 : ゾンリー :2025/05/18(日) 19:58:46
以上です。
続きはまた明日です!


86 : ゾンリー :2025/05/19(月) 20:22:47
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第9話を投稿させていただきます。


87 : ゾンリー :2025/05/19(月) 20:23:28
 ライブ本番まであと五日。いよいよ『今週末だね』なんて会話がちらほらと、ここ六年一組の教室でも聞こえ始めてきた。
「ありがとうなのです」
「どーいたしまして」
 音楽室で会話して以降、えみるちゃんはまた私を避けずに頼ってくれるようになった。今日もこうして、荷物を席まで運んでるんだ。
「あ、戻ってきた。えみるちゃーん」
 移動教室から戻ってきた私たちに、奈々ちゃんが駆け寄ってくる。
 学級新聞担当で、噂好きの奈々ちゃんは、ニュースがあるとこうして教えに来てくれるんだ。
「どうしたのです?」
「実は変な噂を聞いちゃって。知ってる? バザーのステージに出る幽霊って」
「ゆゆゆ幽霊?」
(?)
 ステージ絡みとなると流石に無視できなくて、私も会話に参加する。
「どういう事?」
「えっと、部活で遅くまで残ってたお兄ちゃんの友達が見たらしいんだけど、ステージの方からガサガサガサッって物音がして、真っ暗な中で扇子……ほら扇ぐ方の。が宙に浮いてたんだって……」
 ぞわっ、と背筋が凍る。顔を見合わせたえみるちゃんも、どうやら同じみたい。
「今はそのくらいしか分からないけど……バザーイベントで何も起きないといいね……」
 心配そうにそう言い残して、奈々ちゃんは自分の席へ。
 いたずらにしては情報源が近すぎるし、そもそも扇子なんて古い物を使うかな……?
 私はなんだか不思議に思って、えみるちゃんに尋ねる。
「ど、どうする? 今の所被害はないみたいだけど……」
「うーん……」
 するとえみるちゃんは、腹をくくったように頷いた。
「私たちで原因を突き止めましょう!」
「ええっ? 私たち……って二人で?」
 ちょっと声が大きくなっちゃったけど、こっからは顔を近づけてひそひそ話。
「もちろんなのです。先生たちに相談したら、最悪ステージ中止の危機なのです!」
「それは、確かに……?」
 いつもの心配性が発動。だけどこれは少し納得できる。
「なのでこれは二人だけの極秘ミッションなのです! ヒーローの出番なのです!」
 ごめん、それはよく分からない……。
 でもとにかく、これ以上の噂が広がる前に幽霊の正体を突き止めなくちゃだよね。
 
 早速今日の夜、私たちは夜の学校へと入り込むことに。誰にも知られないように計画を立てるのは大変だけど……やっぱりちょっとワクワクしちゃった。
   ・
 今夜は新月。雲も星も見えない真っ暗な空の下、私は校門横の外壁にもたれかかっていた。
(思ったよりも怖い……!)
 ちなみに外壁に背中を預けているのは、後ろから幽霊が出たら嫌だから。
 誰にも内緒で家を飛び出した(一応の書き置きだけは残しておいた)けど、お姉ちゃんも連れてくればよかったかな……ってちょっと後悔中。
「私が知らないだけで、ラヴェニール学園七不思議とかあるのかな……」
 恐怖を紛らわすために吐いた独り言が、闇に溶けていく。
 そんな夜空に差したのは、フロントライトの眩しい光。えみるちゃんの送迎車だ。
「えみるちゃんっ」
「お待たせしましたなのです」
「一応確認だけど、運転手さんは……」
「ここで待ってていただくのです! 今回は二人のミッションなのです」
「だよねぇ……」
 完全防備?、キュアえみ〜る(っていうらしい)の格好で、私の前に現われたえみるちゃん。
 私たちは静かに校門を少しだけ開けて、スパイよろしくサササッと入り込んだ。
 
 真夜中の校舎はやっぱりそれなりに雰囲気というものが違ってて……。
 何か無理矢理話題をひねり出さなきゃ、と私は脳をフル回転。
「ねぇえみるちゃん、この学校にも七不思議ってある?」
 いや、直前まで考えていたとはいえ、今切り出す話題としては……最悪の部類だよね。
 何か別の話題を、と思っていたら、えみるちゃんの顔がグンと近づいてきた。
「七なんて生ぬるい数字じゃないのです! 百不思議なのです!!」
「ひゃく?」
「まず一つ目は」
「な、なんで全部覚えてるの……?」
 あはは、百不思議のインパクトが強すぎて、怖さがどこかにいっちゃった。
 私はえみるちゃんの百不思議に耳を傾けながら、懐中電灯をステージのある校庭へと向ける。
 少しライトを動かさないと全体が見えないほど大きなステージ。
 奈々ちゃんの噂じゃここに幽霊が出るって話だけど……。


88 : ゾンリー :2025/05/19(月) 20:23:59

「……ってー……おってー……」
「ん? ことりちゃん何か言いました?」
「何も言ってないよ?」
「おって……ぁおってー」
 あ、私にも聞こえた……。
「えみるちゃんでも」
「ことりちゃんでもない」
「「ということは……」」
 全身が硬直して動かない。叫びだすまで、三、二、一……。

「「ぎゃ」」
「あらえみるじゃなぁ〜い」

「「……へ?」」
 業務用の大きな懐中電灯に照らされて、面食らう私たち。
 光が眩しすぎてよく見えないけど……女の人? よかった、足はちゃんとある……。
「……パップル?」
「せいかぁ〜い」
 え、なになに? えみるちゃんの知り合い?
 事態が飲み込めなくて、懐中電灯の照らす先が、ぷるぷると右往左往する。
「……の亡霊?」
「やっぱりちがぁ〜う!」
 えっと……とにかく、悪い人でも幽霊でもなさそう……なのかな。
   ・
「「はぁぁぁぁ……」」
 校庭横のベンチ。一旦懐中電灯を置いた私たちは、大きくため息をついた。
「だってぇ、こんな噂になるとは思ってなかったのよぉ」
「それはそうかもしれないのですが……」
 この人は『まえむきあしたエージェンシー』っていう会社のCEO、パップルさん。
 そういえば夏祭りの屋台に居たような……?
 パップルさんから聞いた話を纏めると、こう。

 パップルさん……もとい、まえむきあしたエージェンシーが請け負ったのは、バザーイベントで使用する会場の装飾。
 だけどどうしても作ったものに納得できず、これじゃツインラブに最高のライブをしてもらえない。そう悩んだパップルさんは、皆が学校から帰った夜中に飾りつけの修正をしていた……と。
「なにはともあれ、幽霊じゃなくてよかった……」
「そそそそりゃそうなのです! 幽霊なんているわけ無いのです!」
 力説するえみるちゃん。私はちょっとだけ苦笑いをして、ステージを照らした。
(ツインラブに最高のライブをしてもらうため、かぁ)
 こんな夜中まで作業してた、ってことはそれだけ二人に期待してるということで。
「あのっ」
「?」
 いたたまれなくなったのか、申し訳なくなったのか。私はパップルさんに声を掛けていた。
「見ての通り、えみるちゃんは足が万全じゃなくて……。私が出ることになるんです」
「……みたいねぇ」
「だから、その、パップルさんがそこまでする必要が無いというか……」
 目線が下がって、懐中電灯のスイッチを消す。
 暗闇に包まれた瞬間、今度はパップルさんのそれが私を照らした。
「なぁ〜んだ、やけにミョーシンなモチオモで喋るから、もっと重大なことかと思っちゃった」
「ミョー……?」
「モーマンタイよモーマンタイ。たとえ出るのが貴女だとしても、しっかり装飾をやるのが私の仕事。寧ろ燃えてきたわ! もっともっと煽っていくわよ〜」
「モー……?」
 言ってることの半分は分からなかったけど、つまりやる気出てきた〜ってこと……なのかな。
 扇子のシルエットが逆光に浮かぶ。あ、幽霊の扇子ってこれか。

「ほらほら、二人共もう寝る時間でしょ? 早く帰らないとモノホンの幽霊が出ちゃうわよ〜」
 幽霊の正体も分かって、私たちは背中を押され再び校門に。パップルさんはもう少し作業していくらしい。
 私に最高のステージをしてもらうための装飾……っていったいどんなのだろう。
 私はえみるちゃんの送迎車に乗せてもらいながら、そんなことをぼんやり考えていたのでした。


89 : ゾンリー :2025/05/19(月) 20:24:31
以上です。
続きはまた明日なのです!


90 : ゾンリー :2025/05/20(火) 19:54:51
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第10話を投稿させていただきます。


91 : ゾンリー :2025/05/20(火) 19:55:49
 10 じぶん色

「ことりちゃん」
「なーにー?」
 帰りの会が終わって、放課後。早速レッスンに向かおうとした私を、えみるちゃんが呼び止めた。
「おーいサッカーしようぜー」「じゃあねー」
 クラスのみんなもそれぞれに教室を後にして、残ったのは早くも私たちだけ。
(……あれ)
 えみるちゃんが座る席に近付いて、違和感を覚える私。
 目の前まで来て、やっと気づいた。
「松葉杖は……?」
 えみるちゃんの松葉杖が、無い。
 そういえば今日は登校タイミング合わなかったし、移動教室も無かった。
 着てきた服も脱ぎ着しやすいタイプのワンピースだから気づかなかったや。
「実は……」
 えみるちゃんはそう切り出して、目線を机にそっと伏せた。
「昨日、お医者様に『あと数日もあれば動けるようになるだろう』と言われたのです。愛崎えみる、完全復活なのです!」
「そうなの? よかっ……」
 あ、ということは。
「よかった。本当に」
 何とか言えたけど、私、ちゃんと笑えてるかな。
 ちょっと自信無いや……。
「…………」
「な、なに?」
 机の前に立つ私を見上げるえみるちゃんは、とても「どうもありがとう」なんて言いそうな表情には見えなくて。
「ことりちゃんは、どうしたいのです?」
 そんな質問を、真正面から私に問いかけた。
「私、がどうしたいか……?」
 そんなの、間違いなくツインラブが出るべき。
 って、分かってるのに……。
「私が蒔いた種ではあるのですが、ツインラブかことりちゃんか、どちらがステージに出るか、ことりちゃんに決めて欲しいのです」

 なんてえみるちゃんに言われて、私は言葉が出なかった。

   ・
『あくまで、もしえみるちゃんの足が治らなかった場合の、代役』
 私は、いつまでそのつもりだったんだろう。
 その感覚を忘れたのは、随分前の様な気もする。
 さあやさんとの、ほまれさんとのレッスンが始まって、えみるちゃんに曲も作ってもらって。
 てっきり自分が出るものだと、勝手に確信しちゃっていた。……ううん、確信したっていう自覚も無いくらい、当たり前のことにまでなっていたんだと思う。
 だから、急に『どっちか選んで』って言われても。
「……そんなの、分かんないよ」
 一人の帰り道。力強い西日からぽつんと生まれた自分の影を見つめながら、私はボソッと呟いた。
 レッスンは楽しい。できることがどんどん増えていくし、それを実感できるのが、特に。
 けれどやっぱり、そのきっかけは『えみるちゃんを助けたい』だし、彼女の足が治るのなら、ステージ経験の豊富なツインラブに出てもらった方がライブも盛り上がるよね。

「ことりはどうしたいのですか?」
「へっ?」
 頭上から聞こえた声に、私は反射的に顔を上げた。
「ルールーちゃん」
 私を、待っててくれたのかな。
 曲がり角で私に向けられた微笑みが、逆光でもないのになんだか目に染みた。
 
「少し、寄り道しませんか?」


92 : ゾンリー :2025/05/20(火) 19:56:24
   ・
 ルールーちゃんに連れられ、やってきたのは近所の公園。
 平日&夕方だけど、いくつか屋台が出ているとあって結構な賑わいだ。
 その中の一つにルールーちゃんと並ぶ。たこ焼き……って、お姉ちゃんがお手伝いしてる所だ。
「らっしゃい!」
「こんにちは。マヨソース六個入りを二つください。……ふふふ、ルールーお姉ちゃんの奢りです」
 もしかして、この前のお泊り会でルールーちゃんだけ「お姉ちゃん」て呼ばなかったの気にしてるのかな……。
「別に割り勘でいいのに〜」
「はいよっ二つお待ちどう……ッ?」
 裏返った店主さんの声が聞こえて、慌てて振り返る。
 目に映ったのは、綺麗な放物線を描くパック入りのたこ焼き。
「――っ」
 ルールーちゃんが一つキャッチ。もう一つは……私の目の前に。
(届け……!)
 1㎝でも、1㎜でも遠く、遠く手を伸ばしたくて、つま先立ちに。
 パックはぎりぎり、私の掌に吸い込まれた。
「ほっ……」
「助かったよー。これでいいならお代は結構だ。よかったら貰ってくれい」
「「ありがとうございます!」」
   ・
「それにしてもナイスキャッチでした。ほまれとのレッスンにより体幹が15%上昇した成果ですね」
「えへへ」
 屋台のおじさんから貰っちゃったたこ焼きを、近くのベンチに座って輪ゴムを外す。
 既にルールーちゃんは半分を食べ終えそうな勢いで……。私も一つ、口の中に放り込む。じんわりとした優しい甘さとあたたかさが、内側から広がっていった。
「ねぇルールーちゃん」
「はい」
「……私ね、ステージに出たい……んだと思う」
 切り出したのは、ルールーちゃんに投げかけられた問いの答え。
 まだ上手く纏められてなくて、このたこ焼きのソースとマヨネーズみたいにぐちゃぐちゃなんだけど。でもっきっと、これが「私がやりたいこと」なんだ。
「最初はね、仕方なくとか、えみるちゃんのために、って感じだったんだけど。レッスンしていく内にね、楽しくなってきちゃって。それで、だんだん……」
「自分がステージに立ちたくなった、と」
 こくんと頷く。膝の上で作った握りこぶしが、小さく震えていた。
「でしたら、何も迷う必要はありません。ことりのソウルをシャウトさせればいいだけです」
 ふっ、と微笑むルールーちゃん。
 私はそんなお姉ちゃんに励まされながら、魂を叫ばせる覚悟を決めた。

(まずはちゃんと、えみるちゃんに話さなきゃ)


93 : ゾンリー :2025/05/20(火) 19:57:02
以上です。
あともう少しです!


94 : ゾンリー :2025/05/21(水) 20:05:21
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』第11話を投稿させていただきます。


95 : ゾンリー :2025/05/21(水) 20:06:36
 11 もとどおりよりも、もっと。

 翌日の昼休み。私はえみるちゃんを連れだして、屋上手前にある踊り場へ。
 そういえばえみるちゃんから私に白羽の矢が立てられたのもココだったっけ。もう随分前の事のように思えるけど……でも前とは違って、私の支えは必要ないみたい。
「……答えを、聞いてもいいですか?」
「うん。すっごく迷ったんだけどね」

 少しだけ笑みを零して、大きく深呼吸。
 じんわりと、指先まで酸素がいきわたる感覚がした。
「私、ステージに立ちたい」
「!」
「ツインラブがステージに出た方が、絶対盛り上がるのは間違いない! っていうのは分かってる。けどレッスンして、えみるちゃんに曲も作ってもらってさ。これに応えたい気持ちがあるって言うのと、私が、私自身がね、その……やりたくなっちゃったんだ、ステージ」
 ずっと俯いて話して、ぱっと顔を上げる。
 するとえみるちゃんは何故かホッとした表情(かお)で。
「えへへ、ことりちゃんならそう言ってくれると信じてたのです! 実は……」
 ガサゴソと、荷物がたくさん入ったトートバッグから取り出したのは『もういらない』はずの松葉杖……の先端部分?
「え、なにこれ……」
「愛崎コンツェルンの新商品、超伸縮松葉杖なのです!」
「へぇー……じゃなくて! なんで?」
「いやー実は、まだまだ治りそうにないのですー」
 あははーと笑うえみるちゃんに、絶句する私。
 言いたいことが多すぎてパンクしそうだけど、とりあえずは……。
「私が辞退してたらどうしてたの?」
「それはえっと、何とか……でもでもでも、ことりちゃんの『本心』を聞かずにステージに上げることはできなかったのです!」
「私の本心……」
 確かに、えみるちゃんに聞かれなかったら、きっと自分の心の内を特に意識もしないままステージに上がってたんだと思う。
「そっか……。じゃあ改めて。私、ステージに出たい! ……これが私の本心。ありがとう、背中押してくれて」
「どういたしましてなのです!」
 昼休み終了五分前のチャイムが鳴る。
 私に白羽の矢が立った時よりも、えみるちゃんに避けられてるように感じて、本心を聞き出した時よりも。もっと近まった私たちの心の距離。胸のあたりが、あたたかいもので満たされていく感覚。
「にしても、えみるちゃんってやっぱり自分の事だと向こう見ずだよねー」
「ことりちゃんだって、最初は無理だなんて言ってたのに、今はすっかりソワソワしてるのです」
「え〜そうかなぁー?」
「そうなのですー」

 二人の笑い声が踊り場に響く。私はえみるちゃんの手を取りながら、ゆっくりと、ゆっくりと教室に戻っていくのでした。


96 : ゾンリー :2025/05/21(水) 20:07:07
以上です。
次はいよいよ最終回です!


97 : ゾンリー :2025/05/22(木) 20:11:12
こんばんは。
『じぶん色ファンファーレ』最終話(第12話)を投稿させていただきます。


98 : ゾンリー :2025/05/22(木) 20:11:43
 12 フレフレ!

「……と、当日の流れはこんな感じで……まあだいたい三時までに来てもらえれば大丈夫なのです!」
「……」
 あっという間に、イベント前日。
 今日はレッスンもそこそこに、えみるちゃん達とビューティーハリーで最後の打ち合わせ。
 ぼーっと見上げた夕空に、飛行機雲が浮かんでいた。
「ことりちゃん、どうしたのです?」
「あ、ごめん。明日本番だって、あんまり感覚無くて……大丈夫、流れは覚えたよ。夕方からだよね、ステージ」
 どうやらミニライブはバザーイベントの終盤に行われるらしい。そういえば学校で配られたプリントにもそう書いてあったっけ? あの時はえみるちゃんに避けられてるー避けられてないーで大変だったからなぁ……。
「あるあるだよね、実感湧かないの」
 頭の後ろで手を組んだほまれさんが頷く。あるあるなんだ……。
「でもいざ夜になると眠れなかったりね」
 さあやさんも、ソファにお行儀よく座って、更に肯定する。
「うぉっふぉん?」
 雑談を遮るように、えみるちゃんが大きく咳払い。みんなの注目が彼女に集まった。
「それでは、また明日なのです!」
 あ、解散なんだ。
「随分と急いでるねー、えみる」
 お姉ちゃんが突っ込む。確かに、もう手には荷物を持ってるし、足先も出口に向かっている。
「ステージに向けての準備なのです! ケガをした時の救急箱、衣装が破れた時のソーイングセット、もし時間が余った場合にみんなで遊ぶトランプ……はっステージが停電してしまうかもしれないのです! であれば懐中電灯と予備のスピーカーとバッテリーと……」
「あはは……」
 いつも通りの暴走を見届けて、解散した私たち。
 ビューティーハリーのカレンダーに付いた大きな赤丸は、いよいよ明日に迫っていた。
   ・
 家に帰って、ご飯を食べて。お風呂に入って、パジャマに着替えて。
 明日の荷物をバッチリ準備したら、後は寝るだけ……なんだけど。
「寝れない……!」
 一旦諦めて、パチッと目を開く。仄暗い部屋で、もそもそと起き上がった。
 うっすらと見えてる時計の針は、真上で重なってて、丁度日付が変わったみたい。
(うぅー、さあやさんが言ってたのこれかー)
 ようやく緊張感というものが押し寄せてきたのか、バクバクと心臓が騒がしくなる。
 私は二つある学習机のライトを一つだけ点けて、意味もなく荷物の再チェック。
 さあやさんから貰った発声練習の原稿に、えみるちゃんに作ってもらった曲が入った音楽プレーヤーは、ほまれさんからのおさがり。
(……私、貰ってばかりだなぁ)
 なんて独り言ちていると、コンコン。控えめなノックの音がした。

「ことりー、起きてる?」
「お姉ちゃん」
 静かにドアを開けて、お姉ちゃんが入ってくる。
「よかった、まだ起きてた」
「どうしたの?」
 私はとりあえず招き入れながら、尋ねる。
「いやー、明日本番だと思ったら寝付けなくってさー」
「なんでお姉ちゃんが緊張してるの。まあ私もだけど」
 とりあえずベッドに座っ……いや待って、やっぱり机の椅子にお姉ちゃんを座らせる。
 ベッドだとお姉ちゃんすぐ寝ちゃうんだから。
「ふふ、ことりは緊張してないって思ったけど……そっかそっか、お主もまだまだお子ちゃまじゃのう」
「お姉ちゃんにだけは言われたくない……」
 むぅ、私は頬を膨らませて、ベッドの上に体育座り。
「……ことりなら大丈夫だよ」
 そんな私に背中を預けるように、お姉ちゃんもベッドの上へ。
 同じシャンプーを使っているはずなのに、ふわりいい匂いがした。
「大丈夫……なのかな」
「不安なの?」
 お姉ちゃんがくるり振り返って、覗きこむ。私は小さく頷いた。
「……お姉ちゃん、私ちゃんとできるかな?」
 自信が無いわけじゃない。寧ろワクワクしてる。
 でもそれと同じくらい、ハードルの高さっていうか、重圧に押しつぶされそうで。
「絶対大丈夫だって! 何故ならお姉ちゃんが付いてるからっ」
「んー、余計不安」
「なにをー!」
 ……少しだけ、甘えたくなっちゃった。
「二人ともー、早く寝なさーい」
「「はーい」」
 あはは、廊下からママに怒られちゃった。
 机のライトを消して、二人ベッドに潜り込む。
 お姉ちゃんの腕が背中に回されて、あたたかさに包まれた。
「大丈夫。ことりなら、絶対にね!」
「…………うん」
 にかーっと笑って、抱きしめられる。
「ちょ、苦し」
「ぎゅー!」
(もう、ほんとお子ちゃま……。けど、あったかい……)
 ベッドに不安が溶けだして、代わりに自信が、勇気がこみあげてくる。
 自然と降りてきた瞼。
 私はゆっくりと眠気に身を任せ、しばらく経たない内に、すやすやと寝息を立て始めた。


99 : ゾンリー :2025/05/22(木) 20:12:14

(あわわわわ)
 ステージ袖から観客席を覗いて、私は狼狽える。
 多い。とにかく、人が。
 一回だけ、全校集会で人の前に立ったことはあるけど、全然その比じゃない。
 生徒はもちろん、その保護者、更には近所の人まで……。用意された椅子じゃ足りなくて、立ち見になっている人も多い。
 パップルさんが夜なべして作ってくれた装飾は、凄く、凄く本格的で。ハートや羽根型の色とりどりなパネル、ピカピカと光るLED電飾。一緒に見ていたえみるちゃんは、「気合入りすぎなのです……」って軽く引き気味だ。
「いたいた、ことりー!」
「お姉ちゃん、みんなも」
 そんな私たちの元にお姉ちゃんたち中等部組も合流。
 私の衣装を見るなり、目を輝かせた。
「きゃわたん……!」
「うん、すっごく似合ってる」
「えへへ」
 照れながらも、ふわり一回転。スカートの裾が舞った。
「どや? ツインラブの衣装をベースに、ことりに合わせてアレンジしたんや」
「めっちゃイケてる!」
「てゆー!」
 お姉ちゃんとはぐたんに褒められて、表情を綻ばせる。

 〜〜♪
 ……♪

 会場に流れていたBGMが小さくなる。
 すなわち、もうすぐ出番。
『みなさ〜ん! こーんにーちはー!』
 司会のお姉さんのアナウンス開始を合図に、私はマイクを手に取った。
 それはずっしりと重くて、まるで私にかかってるプレッシャーみたい。
『本日予定されていたツインラブのステージですが、愛崎えみるちゃんのケガにより出場辞退となりました……』
「えぇ〜……」
 けど、大丈夫。
『しかし代理で、なんとなんと、六年一組の野乃ことりちゃんがステージを披露してくれます!』
「わぁぁぁぁぁぁ!!」
 そんなのに負けないくらい、みんなから大切なものを貰ったから。
「……よしっ」
 ステージのすぐ横に移動して、最後の合図を待つ。
「ことりー!」
 振り返れば、みんなが居て。
『それでは、どうぞー!』
「「「「「「「フレフレ!」」」」」」」
 私は頷いて、力強く走り出した。
『よ、よろしくお願いします!』
 マイクを持つ手にギュッと力が入る。
 ステージの中央まで走って、更に感じる『圧』。
 一人一人の表情なんて見る余裕がないまま、最初の構えを取った。
 〜♪
 流れ出したイントロ。ギターとドラムでポップに彩られた旋律にあわせ、滑らかなステップを刻む。

〝ワタシってなんだろう「らしい」ってなんだろう
 通学路も 教室も 探しても見つからないの〟
 言葉の端々まで意識して、感情を乗せて。

〝ワタシが見てる世界には ワタシ以外があふれていて
 空っぽなのかなって シュっと俯いた〟
 ターンの指は閉じて、スラッと伸ばして「大人っぽさ」をちょっとだけ演出。

〝だけど 見つけたんだ 聞こえたんだ
 キミが鳴らした ココロの音色〟
(あ……楽しい)
 眩しいスポットライトに照らされたステージは暑くて、予想よりも早く息が上がる。
 反面、だんだんとクリアになっていく私の視界には、楽しんでくれている人の表情が映り始めてきた。
 
 さぁ、ここから一番の見せどころ(サビ)。
 ブレスのタイミングで、私は大きく肺を膨らませた。
〝響け! 届け! さあじぶん色ファンファーレ
 どこへだって 楽譜飛び出して「行こう」〟
 精一杯の歌とダンスで。めいっぱいの笑顔で。

〝ワタシというパレットに 絵具(みんな)を混ぜて出来た色
 それがきっとね「じぶん」という未来〟

 激しいアウトロ。最後の力を振り絞って腕を、脚を躍動させる私。
 〜……♪
 ギターの余韻に合わせて手を下から上へ。
 釣られて見上げた、太陽がやけに眩しく突き刺さって。

 
 ことりが一羽、高く、どこまでも広がる空に羽ばたいた。


100 : ゾンリー :2025/05/22(木) 20:12:46

   ・
 拍手を背にステージ袖に戻ってきた私。
 歌っている間は気づかなかったけど、額と首筋から汗が滴っていて、折角セットしてもらった髪は軽く乱れていた。
 観客席から見えないような位置まで歩いて、全身から力が抜けたように膝に手を置く。
 はぁ、はぁと息を整える度、達成感と、満足感がこみ上げる。
「お疲れさんっ」
 聞こえてきた関西弁に顔を上げると、ハリーがカメラを構えていた。
 あぁ、そういえば終わった後に写真撮るって言ってたっけ……。
「ことり〜!」「ことりちゃーん!」
 お姉ちゃんとえみるちゃんが駆け寄ってくる。

 本当ドタバタで、わちゃわちゃで。
 大好きな人たちに囲まれて、私は精一杯の笑顔をカメラに向けた。
「はい、チーズっ!」


101 : ゾンリー :2025/05/22(木) 20:13:29
以上で『じぶん色ファンファーレ』完結です。
長い間、どうもありがとうございました!


102 : 名無しさん :2025/05/23(金) 21:05:37
>>101
ことりを中心に、ハグプリの主要メンバーが次々に登場する楽しいお話でした。
作者さまのハグプリ愛を感じました!


103 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/24(土) 21:23:48
こんばんは。
遅くなりましたが、長編の続き・第6話を投稿させて頂きます。
2、3レス使わせて頂きます。


104 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/24(土) 21:25:02
「何ですか、これは……」
 思わずそう呟いてから、キュンキュンは自分の声が震えていることに気付いた。
 どんよりとした空の下、右を見ても左を見ても、どこまでも続く赤黒い壁。まるで世界そのものが暗い色に染まってしまったかのような錯覚を覚える。

「アイドル! ウインク! 大丈夫ですか!?」
「クラヤミンダー!」
 声を励まし、壁の向こうに居るはずの二人に向かって叫ぶ。だが、返って来たのは仲間たちの声ではなく、怪物の重い拳だった。キュンキュンは跳び退って攻撃を躱し、そのままステージの屋根の上へと跳び上がる。

 ここからなら全てが見渡せる――そう思ったのは間違いではなかったが、目に飛び込んで来たのは、予想以上に異様な光景だった。
 ステージも客席も、その後ろに並ぶ公園の木々も、全てが二つの壁に貫かれ、分断されている。まるで乱暴にナイフを入れて切り分けられた、一切れのケーキみたいに。

(じゃあ、プリキュアもバラバラに? わたしはこの空間に、独りぼっち……?)

 目の前の景色と同じように、暗く染まりそうになる心。キュンキュンはそんな自分を奮い立たせ、さらに声を張り上げる。
「アイドル! ウインク! 返事をしてくださいっ!」
 だが、急にゾクリと背中に悪寒が走って、キュンキュンは反射的に後方へ跳び退いた。それと同時に、クラヤミンダーがステージの屋根を見上げ、顔のライトのスイッチを入れる。
 次の瞬間、屋根の一部があっという間に砂と化して、ザーッと雨のようにステージに降り注いだ。さらに後ろに下がろうとしたキュンキュンが、思い直してステージの真横に飛び降りる。
 ステージの奥や裏手には、多くの関係者が避難しているはずだ。これ以上、彼らを危険な目に遭わせることだけは、何としても避けなければならない。

(わたしだって、アイドルプリキュアです。今は一人でも、絶対にみんなを守って見せます!)

「わたしはここですよ!」
 キュンキュンはそう叫ぶと、クラヤミンダーの目の前に飛び出した。
「お馬鹿さんだねぇ。自分から標的になるつもりかい?」
 中空から様子を眺めていたチョッキリーヌがほくそ笑む。だが、キュンキュンはぴょんぴょんと跳んで光を躱し、怪物を翻弄し続ける。そして左胸のアイドルハートブローチに素早くタッチした。

「キュンキュンレーザー!」
 放射状の光が空へと放たれ、クラヤミンダーの光と激突する。怪物はたまらず顔をのけぞらせ、一歩、二歩と後ずさる。
「はぁぁぁっ!」
 キュンキュンの気合いが炸裂する。ついに怪物は地響きを上げてステージから転がり落ちた。それと同時に、キュンキュンもステージから飛び降りる。
「何してるんですか。こっちです!」
 観客席の後方へと走りながら、キュンキュンがクラヤミンダーを挑発する。怪物は狙い通り、雄叫びを上げてキュンキュンの後を追った。

 走って、跳んで、ライトの攻撃にレーザーを放って対抗して――どれくらいの間、それを繰り返しただろう。
 キュンキュンが客席と客席の間を軽快に跳んで移動するのに対し、クラヤミンダーはそのスピードについて行けず、強引に椅子を踏み壊して暴れ回るだけ。だが、厄介なライトの攻撃のせいで、なかなか近づくことが出来ない。そうしているうちに、次第にキュンキュンの息が上がり始めた。

(やっぱり、わたし一人じゃ手に負えないの? 早く何とかしないと……)

「いい加減、無駄なあがきは止めるんだね。空間を切り裂いてやったんだ、もう二度とお仲間に会えやしないよ」
 チョッキリーヌの言葉が追い打ちをかける。キュンキュンは奥歯を噛みしめると、震える両足を必死でなだめ、客席の陰から飛び出した。
 憧れてやまないアイドルとウインク。二人ならきっと、こんな状況でも何とかするに違いない。だからこそ――。
「わたしも……無駄でも何でも、あがいて見せます!」

 身体を低くし、素早いジャンプを繰り返して、キュンキュンがクラヤミンダーに迫る。ライトの攻撃にはレーザーを短く打ち返し、その間にも足は止めない。
 そして最後に高々とジャンプすると、レーザーを放ちながらクラヤミンダーに飛びかかった。
「たぁぁぁっ!」
 キュンキュン渾身の一撃に、怪物の巨体がぐらりと揺らぐ。だが、着地しようとしたキュンキュンもまた、勢い余ってバランスを崩した。客席の隙間に倒れ込み、慌てて立ち上がろうとする彼女に、魔のライトが客席を砂に変えながら、ゆっくりと迫る。
 その時だった。


105 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/24(土) 21:25:35

「ハッ!」
 キュンキュンの視界をさっと影が横切ったかと思うと、気合いの籠った声が辺りに響いた。途端にクラヤミンダーがたたらを踏んで、観客席の隅にまで追いやられる。
 クラヤミンダーと対峙しているのは、赤い衣装を着た一人の少女。だが怪物のライトの顔がその姿を捉える前に、少女の鋭い足払いが決まった。
 クラヤミンダーが地響きを立てて仰向けに倒れる。そのすぐそばに、観客席を照らす背の高い照明塔があった。その鉄柱の根元近くに、クラヤミンダーのライトが当たる。
 まるでスローモーションのような動きで鉄柱が弧を描く。そして立ち上がろうともがいているクラヤミンダーの上に倒れた。

 キュンキュンがポカンと口を開ける。信じられない出来事が、それもあっという間に起こって、とても頭がついて行かない。
 駆け戻って来た少女は、そんなキュンキュンをさっと横抱きにすると、砂埃に煙る観客席を高速で駆け抜けて、ステージ横の巨大スピーカーの陰に隠れた。

 あっけに取られて一部始終を見ていたチョッキリーヌが、ようやくハッと我に返る。
「おい、どこへ行った! お前は一体何者だっ! まさか、四人目のプリキュアじゃないだろうねっ!?」
「それは、もう過去の話だわ」
 スピーカーの陰で、小声でそう呟く少女の――せつなの顔を、キュンキュンが二度驚いた顔で見つめる。

「ありがとうございました。なんとお礼を言っていいか……」
 キュンキュンが深々と頭を下げてから、まだ目を丸くしたまま、せつなに問いかける。
「あの……せつなさんもプリキュアなんですか? それであんな怪物を……」
「ううん、今は違うわ。あれは、あなたの攻撃が効いていたから倒せただけ」
 せつなが、さっきまでの激しさが嘘のように、キュンキュンに向かって優しく微笑む。その穏やかな眼差しを見ていると、不意に涙が込み上げて来て、キュンキュンは激しく被りを振った。

「そんなことありません! わたし、本当にまだまだなんです。それなのに先輩たちと――アイドルとウインクと、バラバラになってしまって」
 こんな時に、弱音なんて吐いている場合じゃない――そう思うのに、ずっと心に押し込めていた不安がボロボロと言葉になって溢れ出す。
「二人が居てくれるから、わたしはその背中を追いかけていられるんです。それなのに、本当に空間が切り裂かれたんだとしたら、もう……」
 その時、じっとキュンキュンの顔を見つめて話を聞いていたせつなが、不意に人差し指を唇に当てて「しーっ」というジェスチャーをした。

 キュンキュンが慌てて口をつぐむ。せつなはしばらく耳を澄ませてから、ゆっくりと笑顔になった。
「微かだけど、今、キュアアイドルのソロ曲が聞こえたわ」
「え……『笑顔のユニゾン♪』、ですか? どこから!?」
「ここではない、どこか。でも、間違いないわ。私、結構耳は良いみたいなの」
 変身して五感が強化されているはずの自分にすら、何も聞こえなかった。結構どころか、この人はどれだけ凄い人なんだろうと、キュンキュンは三度目を丸くする。そんな彼女に、せつなはニッコリと笑った。

「きっと誰かが、あの曲を流したのよ。あなたたちの歌には、怪物を浄化する力があるんでしょう? あの二人は、今も戦っているわ」
「じゃあ、二人とまた会えるってことですねっ?」
 せつながさっきよりもっと嬉しそうな笑顔で、しっかりと頷く。その落ち着いた声を聞き、柔らかな笑顔を見ていると、心の中に暗く巣食っていた不安が晴れ、光が射し込んでくるような気がした。「さあ、早くみんなと合流しましょう。大丈夫、仲間を信じて精一杯がんばれば、きっと望みは叶う。あなたには、その力があるわ」
「ありがとうございます!」
 温かく力強い励ましの言葉に、キュンキュンが今度は勢いよく頭を下げる。そしてキラリと光る眼差しで、砂埃の収まった観客席を見つめた。


106 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/24(土) 21:26:27
以上です。ありがとうございました。
明日も更新できるように頑張ります。


107 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/25(日) 19:42:15
こんばんは。長編の続き、第7話を投稿させて頂きます。
2レスほど使わせて頂きます。


108 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/25(日) 19:43:03
 野外ステージの裏手にある植え込みが、ガサガサと不自然に揺れる。やがてその中から、ぴょこんと小さな二つの頭が飛び出した。
「メロロン! 大丈夫プリ?」
「姉たま。びっくりしたメロ……」
 突然現れた、チョッキリ団とクラヤミンダー。プリルンはメロロンと一緒に、いつものようにプリキュアを応援していたのだが、突然ブルッと身体が震えたかと思うと、正体不明の強い衝撃を受けて、ここまで飛ばされてしまったのだ。

 何とか植え込みから抜け出したプリルンが、メロロンの手を引っ張って助け出す。そしてステージの方に目をやって、愕然とした。
「これは何プリ……?」
 広い野外ステージの周りを、赤黒い高い壁が取り囲んでいる。いや、それは壁ではなかった。重く暗く濃厚な気が、幾重にもステージを取り囲み、天まで高く立ち昇っているのだ。
 まるでステージ全体が、暗い牢獄と化してしまったかのよう――そう感じた途端、プリルンは矢も楯もたまらなくなって飛び出した。

「アイドル〜! 返事してプリ〜!」
「姉たま、危ないメロ。あの壁は……ただの壁じゃないメロ!」
 メロロンが慌ててプリルンの手を掴む。彼女の言う通りだった。あの場所に近付くのは危険だと、プリルンの本能が告げている。あの禍々しい気の塊を見ているだけで身体がすくみ、ブルブルと震えてしまう。
 だが、プリルンはグッと口を引き結ぶと、メロロンの手を優しく握った。
「それでも……プリルンはアイドルたちが心配プリ!」
 そう言うと同時に、プリルンはギュッと目を閉じ、壁に向かって一直線に飛んだ。あのおぞましい壁の姿を見なければ、身体がすくんだり震えたりすることもないはず――そう自分に言い聞かせて。

(怖くないプリ……怖くないプリ……! みんなのことが心配プリ。みんなが居なくなる方が、プリルンには怖いプリ!)

「アイドル〜! ウインク〜! キュンキュ〜ン! タナカ〜ン!」
「姉たま! 危ないメロっ!」
 メロロンの、いつになく鋭い声が響いた。ハッとして目を開けたプリルンに、壁の隙間から吐き出された盛大な土埃が降りかかる。その後ろから、戦いの余波で飛ばされたのであろう照明機材が、プリルンめがけて一直線に飛んでくる。
 だが、プリルンは動けなかった。目を開けた途端、その視界に強大な気を纏った壁の姿が飛び込んできて、身体が硬直してしまったのだ。

「姉たまーッ!」
 メロロンの絶叫が辺りに響き、プリルンがギュッと目をつぶる。
 だが、恐れていた瞬間は訪れなかった。

「二人とも、怪我は無い?」
 不意に柔らかな声で問いかけられて、プリルンが恐る恐る目を開く。気が付くと、プリルンとメロロンは一人の少女の腕に抱えられていて、彼女は植え込みの根元に倒れ込んでいた。どうやらこの少女が、間一髪のところで助けてくれたらしい。
 アイタタタ……と言いながら起き上がった、黄色い衣装を着た少女。その顔に、プリルンは見覚えがあった。

(さっきステージで踊ってた、“クローバー”の祈里プリ……)

「大丈夫プリ。助けてくれて、ありがとうプリ」
 思わずそう答えてから、プリルンが慌てて付け加える。
「あわわ、プ、プリルンは、喋るマスコット、プリ……」
「心配しないで。あなたたち、プリキュアの妖精さんでしょう? やっぱりアイドルプリキュアは、本当にプリキュアだったのね」
 おっとりとした喋り方と、柔らかで優しい笑顔。それを見て、強張っていた二人の身体と心も、すっと柔らかくなった。

「祈里は、プリキュアのこと知ってるメロ?」
「ええ。プリキュアの妖精さんも、いっぱい知ってるよ」
 その言葉に、プリルンが力なく項垂れる。
「……プリルンは、プリキュアの妖精、失格プリ。みんなとはぐれちゃったプリ。みんなのところに行きたいのに、どうしても行けないプリ……」

 祈里が真剣な表情でステージの方に目をやる。赤黒い障壁の隙間から、時折巻き上がる土埃。振動や物音は感じられないが、おそらく中では激しい戦闘が繰り広げられているのだろう。
 そして、見るからに怪しいこの障壁のせいで、妖精たちは戦場に近付けないでいるのだろう。さっきのプリルンの不自然な動き。あれを見れば、たくさんの動物たちを見て来た祈里には、容易に想像がつく。


109 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/25(日) 19:43:37
「アイドルたちを信じて待ちましょう。きっと今、三人とも全力で戦っているわ」
「でも……あの中に居るんじゃ、ピンチになっててもわからないプリ。プリルンは、みんなが心配プリ。みんなを応援したいプリ!」
 プリルンが目に涙をいっぱいに溜めて、懸命に訴える。
「確かにここからじゃ何も見えないけど……でも、ここからみんなを応援しようよ。プリルンがみんなを想う気持ちは、見えなくてもきっと届くわ。わたし、信じてる」
 そう言って、指で涙を拭ってやりながら、祈里はこう付け足した。

「だからね。プリルンは、自分を信じて」
「自分を……信じるプリ?」
「ええ。わたしね、自分に自信が持てなくて、最初はダンスも無理だって思ってたの。でも、自分を信じようって思えたから、ここまでやって来られた。だからプリルンも、きっと出来るよ」
 柔らかくて、でも力強さを感じる言葉。その言葉に励まされて、プリルンの目から涙が消える。
「祈里、ありがとうプリ。プリルンはみんなを応援するプリ!」
 そう言うと、プリルンは掛けているカバンの中から勇んでキラキライトを取り出した。

「さあ、メロロンも応援するプリ!」
「メロ……」
 いつもより多い三本のキラキライトを渡されたメロロンが、少し迷ってから、そのうちの一本を、祈里に手渡す。
「祈里にも……応援してほしいメロ」
 それを聞いて、祈里は少し驚いた顔をしてから、嬉しそうに頷いた。
「ありがとう! わたしも、頑張って応援するね」

「アイドル〜! ウインク〜! キュンキュ〜ン! 頑張るプリ〜!」
「頑張るメロ〜!」
「みんな、頑張って〜!」
 赤黒い壁を、ピンク、ブルー、パープルのキラキライトの光が照らす。障壁からは相変わらず禍々しい気が立ち昇っているが、小さな光は消えることなく、見えない戦場に向かって煌めき続ける。
 どれくらいの間、そうしていただろう――。変化は突然現れた。


110 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/25(日) 19:44:26
以上です。ありがとうございました。
次もなるべく早く更新できるように、頑張ります。


111 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/31(土) 22:34:51
こんばんは。遅くなりましたが、長編の第8話を投稿させていただきます。
2レスで足りるかな……。


112 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/31(土) 22:35:38
 一心にキラキライトを振っていたプリルンが、不意に首を傾げた。パチパチとまばたきをして、赤黒い障壁を見つめる。
 相変わらず禍々しい気を発している壁の表面に、チラリと淡いピンク色の光が見えた気がしたのだ。じっと見つめていると、わずかだがブルーやパープルの光も、チラチラと見える。
「何だかちょっとだけ、キラキラしてきたプリ……」
 この壁は、気の塊のようなもの。今まで禍々しさしか感じられなかった気の中に、清純な気の流れが少しずつ混じり始めている。それに気付いて、プリルンはキラキライトを持つ手にギュッと力を入れた。

「メロロン! 祈里! アイドルたちが頑張ってるプリ。プリルンたちも、もっともっと応援するプリ!」
 メロロンがプリルンの勢いにつられて、祈里がプリルンの言葉に嬉しそうに微笑んで、揃ってキラキライトを高く掲げる。
 壁を彩る三色の光は少しずつ輝きを増し、やがて壁全体が、ぼうっと淡い光を放ち始めた――。


   ☆


「ええい、忌々しい……。やっと止まりましたぞ。止めなければいけないのが、忌々しいですぞ!」
 クラヤミンダーがスピーカーのケーブルを引きちぎり、大音量で流れていた曲が止んだ。思わず唸るような声を上げたカッティーが、さらに忌々し気な表情になる。
 客席後方の仮設ブースから躍り出たのは、キュアアイドル――たった今まで流れていた曲の歌い手だ。

「クラヤミンダー!」
 怪物が、逃した獲物を見つけて観客席に飛び降りた。一直線に迫って来るクラヤミンダーに対し、アイドルはライトの攻撃を避けながら、大回りに弧を描いて相手の横手へと回り込む。
 聳え立つ赤黒い障壁と、厚い雲に覆われた空。暗い色に沈む景色はさっきとまるで変わらない。だが、アイドルの動きと迸る闘気は、さっきまでとはまるで違った。その身のこなしには一分の隙もなく、その眼差しは相手を鋭く見据えている。

(どんなに不安でも、怖くても、やっぱりわたしはみんなをキラッキランランにしたい。ウインクとキュンキュンと一緒なら、きっと出来る。ううん、やるんだ――わたしたち三人で!)

「たぁぁぁっ!」
 再び振るわれる豪快なパンチ。その標的は、補助席用のパイプ椅子だった。観客席の後ろに並べられた椅子の列を、真横から撥ね上げる。その一撃で一列分の椅子が全て弾け飛び、怪物の頭上に雨あられと降り注いだ。
「クラッ、クラクラ……ヤミンダー……」
 アイドルは、慌てふためくクラヤミンダーに高速で迫り、高々と宙を舞う。

「アイドルグーターッチ!」
 想いを込めたアイドルの拳が、クラヤミンダーの胸の真ん中にヒットする。怪物は無様に尻もちをつき、軽やかに着地したアイドルは、颯爽とポーズを決めた――。


   ☆


「けっ! 逃げたんじゃなかったのかよ。またやられに来たのかぁ?」
 嘲るようにそう言い放ったザックリーは、観客席に立つウインクを見て、少し怪訝そうな顔つきになった。
 いつもと変わらない、華奢で清楚な立ち姿。それなのに、何だかさっきより一回りも二回りも大きく見える気がする――。だが、ザックリーはすぐに、ヘン、と口の端を斜めに上げると、クラヤミンダーに檄を飛ばした。

「今度こそ、ザックリ片付けちまえ!」
「クラヤミンダー!」
 クラヤミンダーが観客席に飛び降り、またも充電コードをウインクの頭上に振り下ろす。だが、今度は勝手が違った。ウインクは両手でコードを受け止め、それをグイッと引っ張ったのだ。

(不思議……。また二人に会えるって希望を持っているだけで、相手の動きがこんなにもよく見えるなんて。わたしはアイドルとキュンキュンに勇気をもらった。だからその勇気、全開で行くよ。もう後ろ向きになんてならない!)

 渾身の力で引き寄せられ、クラヤミンダーの巨体がぐらりと揺らぐ。慌てた怪物も、負けじとコードを全力で引く。その瞬間を狙いすまして、ウインクは手を離した。
 今度はのけぞってたたらを踏むクラヤミンダー。その脇をすり抜けて、ウインクはステージの上へと飛び上がる。

「ウインクバリア!」
 のけぞったクラヤミンダーの顔の真上から、ウインクがバリアを叩きつける。ガシャーン、という大きな音とともに、砕け散ったのはバリアではなく、怪物のライトの顔だった。
「な、何だとぉ!? おい、しっかりしやがれ!」
 慌てふためくザックリーをしり目に、ウインクが舞台から飛び降りる。そして仰向けに倒れ込んだ怪物に向かって、パチリとウインクして見せた――。


113 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/31(土) 22:36:44
   ☆


「何してるんだい、早く立ちな!」
 チョッキリーヌに叱咤され、クラヤミンダーが自分の上にのしかかっている鉄柱に滅茶苦茶にライトを当て、砂に変える。ようやく怪物が立ち上がった時には、辺りにはもうもうと砂埃が立ち込めていた。

 灰色に霞む観客席の向こうに、ぼんやりと見えるツインテールの影。クラヤミンダーがそちらに駆け寄ろうとすると、突然、ステージ上から七色の光が溢れた。舞台上に据え置かれていたミラーボールが作動したのだ。そして――。

「キュンキュンレーザー!」
 放射状に放たれたライトパープルの光の一部をミラーボールが反射して、無数の光の矢が観客席を照らす。クラヤミンダーは予測不能な光の攻撃をよけきれず、ジタバタと暴れ回る。次の瞬間、影は動いた。

 キュンキュンは舞台袖の配電盤を操作してミラーボールのスイッチを入れると、レーザーを放つや否や客席に飛び降りた。身体を低くし、さっきのように時折短くレーザーを放ちながら、一直線にクラヤミンダーに迫る。

(わたしは独りぼっちじゃない。たとえ一緒に居なくても、アイドルとキュンキュンの背中は、いつもわたしの前にある。今はまだまだでも――わたしはそれを、ずっと追いかけ続けます!)

「ハッ!」
 キュンキュン裂帛の気合いに、観客席を覆っていた砂塵も吹き飛ぶ。
「だだだだだっ! たぁぁっ!!」
 巨体の真ん中に連打を叩き込み、最後に渾身の一撃を放つと、クラヤミンダーはその場に崩れ落ちた。キュンキュンはパンチの反動で大きく跳んで、今度こそしっかりと着地し、ニコリとほほ笑んだ――。


   ☆


「クライマックスはわたし! 盛り上がっていくよー!」
 ステージを召喚したアイドルが、歌い出そうとして、そのまま動きを止める。驚きに目を見開いたその顔が、次の瞬間、ぱぁっと満面の笑顔になった。
 360度を観客席が取り巻く、いつもより大きなステージの、右奥にウインク、左奥にキュンキュン。誰よりも会いたかった二人の仲間が、アイドルと同じ満面の笑みを浮かべている。

 三人同時に駆け寄って、ステージの真ん中で固く抱き合う。少しの間そうしてから、アイドルが明るい声で言った。
「よし。じゃあ三人で、みんなをキラッキランランにしよう!」
「うん。曲目変更だね!」
「はいっ、もちろんです!」

「「「ウ〜、レッツゴー!!!」」」

 三人のジャンプを皮切りに、アップテンポな音楽が流れだす。曲はもちろん『Trio Dreams』。三人が軽快に歌い踊るのに合わせ、客席のキラキライトが煌めき揺れる。

「「「ハートを上げてくよ!!!」」」

 並んで席に着かされた三体のクラヤミンダーが、次第に曲にノってくる。やがて両手のキラキライトをノリノリで振り始めたところで、三人が高々と手を挙げた。

「「「プリキュア・ハイエモーション!!!」」」

 ピンク、ブルー、パープルの光の奔流が、三体のクラヤミンダーを包み込む。
「キラッキラッタ〜……」
 三人のプリキュアがポーズを決め、ゆっくりと光のリボンが結ばれると、三体のクラヤミンダーは消え去った。それと同時に、辺りは元の野外ステージに戻る。そこには三人の若者たち――会場前に居たアイドルプリキュアのファンたちが意識を失って倒れていて、ステージを分断したあの赤黒い障壁は、跡形もなくなっていた。破壊されたステージも観客席も、元通りになっている。

 被害者たちを公園のベンチに寝かせ、三人はステージに戻った。
「アイドル〜! ウインク〜! キュンキュ〜ン!」
 プリルンが勢いよく飛んできて、アイドルの胸に飛び込む。
「心配したプリ。ここには来られなかったけど、プリルンもメロロンも、いーっぱい応援してたプリ!」
「うん、ありがと」
 目に涙を溜めて言い募るプリルンに、アイドルはニコリと笑いかけた。

「何ですと……」
「嘘だろ……」
「信じられない……」
 チョッキリ団の三人が、驚きのあまり中空であんぐりと口を開ける。だが次の瞬間、三人は揃って苦し気なうめき声を上げた。
 障壁が消え去った後の天空に、靄のように残っていた黒い気の塊。それが突然三つに分かれ、チョッキリ団を一人ずつ包み込んだのだ。やがて黒い靄が晴れた後には、今まで見たことのない三体の怪物が出現していた。

 それは、ハサミの形の真っ黒なサングラスをかけた三体のクラヤミンダー。その身体の中心部分には、うつろな目をしたカッティー、ザックリー、チョッキリーヌ、それぞれの顔がある。
「世界を……クラクラの、真っ暗闇にしてやる……。ダークイーネ様のために!」
 三体の怪物は呪文のように揃ってそう口にすると、三人のプリキュアに襲い掛かった。


114 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/05/31(土) 22:37:19
以上です。ありがとうございました。
次もなるべく早く更新できるように、頑張ります。


115 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/06/07(土) 19:49:59
こんばんは。長編の第9話を投稿させて頂きます。
2レス使わせて頂きます。


116 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/06/07(土) 19:50:57
 漆黒のサングラスから、赤黒い瘴気が立ち昇る。普通のクラヤミンダーの倍はありそうな巨体の真ん中に、うつろな目をしたカッティー、ザックリー、チョッキリーヌ、それぞれの顔――。
「ぐぉぉぉぉっ!」
 三体の怪物は、雄叫びを上げて三人のプリキュアに襲い掛かった。

「ウインクバリア!」
 咄嗟にウインクがバリアを展開し、アイドルとキュンキュンが両隣からそれを支えた。バリアは二倍、三倍に大きくなり、三つの拳を受け止める。
 だが、怪物たちの攻撃は止まらない。殺気を漲らせ、矢継ぎ早にバリアを殴りつける。
 ついにバリアが粉々に砕け散った。怪物たちはそのままの勢いで、それぞれの目の前のプリキュアを殴り飛ばす。
「キャァァァッ!」
 三人は観客席の後方まで吹っ飛ばされ、背中から地面に激突した。

「キュンキュンレーザー!」
 キュンキュンがいち早く立ち上がり、高々とジャンプして中空からレーザーを放つ。すると、サングラスの下に大きな口が開いた。三体が揃って闇のエネルギーを放ち、反撃する。
「キュンキュン!」
 アイドルが慌てて中空に跳び上がり、キュンキュンに覆いかぶさるようにして地面に伏せる。二人の頭上を掠めた闇の気流はレーザーを散らし、一度は光が戻った空を、さらにどんよりと赤黒く染めた。その途端。

「ううぅ……」
 怪物たちがのけぞって、くぐもった呻き声を上げる。いや、呻いているのは怪物ではなかった。胴体にある三人の顔が、苦悶の表情を浮かべている。
 アイドルが弾かれたように立ち上がる。三人の目が、何かを訴えるようにこちらを見ている気がしたのだ。だが、すぐに再び真っ黒な靄が三体を包み、三人の表情も元のうつろなものに変わった。

「ねえ。あの三人、苦しんでない?」
 アイドルが、仲間たち二人に問いかける。ウインクも心配そうな顔で頷いた。
「わたしもそう思う。まるで何かに操られているみたい」
「だったらわたしたち三人で、早くキラッキランランにしましょう!」
 キュンキュンが二人の顔を見ながら力強く言い放つ。それを聞いて、アイドルもキラリと目を光らせ、笑みを浮かべた。
「だね! じゃあ早く三人に、わたしたちの歌を届けよう!」

「ぐわぁぁぁっ!」
 悲鳴のような叫びと共に迫り来る怪物たちに、今度は三人で立ち向かう。
「アイドルグーターッチ!」
「ウインクバリア!」
「キュンキュンレーザー!」
 それぞれの技を次々に繰り出して、三体を追い詰めようとする。だが、怪物たちはそれを難なく受け止めると、もう一度拳を振るって、三人をバラバラの方向に弾き飛ばした。

 カッティー・クラヤミンダーがアイドルに、ザックリー・クラヤミンダーがウインクに、チョッキリーヌ・クラヤミンダーがキュンキュンに、それぞれ襲い掛かる。再び仲間たちと合流しようにも、巨体に前を塞がれて動きが取れない。三人は一対一の応戦を余儀なくされる。
 遥か上空から振り下ろされる拳は、当たらなくても風圧だけで飛ばされそうになる、巨大な凶器だ。おまけに時折、黒々とした闇のエネルギーが奔流となって襲ってくる。
 アイドルたちは、そんな圧倒的な攻撃をギリギリで避けつつ、必死で反撃を試みる。何とか三体を近くに集め、三人一緒のステージを――その気持ちは三人一緒だが、なかなか思うようには行かない。次第に三人の息が上がり、動きが悪くなり始めた。

「アイドル! ウインク! キュンキュン! 頑張るプリ〜!」
 プリルンが泣きそうな顔をして、メロロンと共に懸命にキラキライトを振る。その後ろには、田中とラブたち四人の姿があった。スタッフたちを公園の外に避難させて、戻って来たのだ。
 全員が固唾を飲んで見守る中、ついにアイドルが吹っ飛ばされる。ウインクも膝から崩れ落ち、キュンキュンも地面に転がった。何とか立ち上がろうとする三人に、三体の怪物がゆっくりと迫る。

 痛みを堪えて見上げた怪物の胴体に、カッティーのうつろな顔があった。何だか泣いているようにも、全てを諦めているようにも見えるその顔を見つめて、アイドルはグッと奥歯を噛みしめる。

(立たなきゃ! あの人たち、きっと今も苦しんでる。だから早く……わたしたちの歌でキラッキランランにしないと!)

 震える足を踏みしめ、立ち上がろうとしたアイドルに、闇の気流が容赦なく襲い掛かる。再び地面に倒れ込んだアイドルに向かって、怪物が拳を振り上げる。が、その拳が突然、止まった。


117 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/06/07(土) 19:52:40
「キ・ミ・の ハートに、とびっきり……げん、きを、あげるね……」

 ところどころ途切れてはいるが、確かな歌声が辺りに響いた。キュアアイドルのソロ曲『笑顔のユニゾン♪』。地面に倒れたアイドルが、懸命に歌いながら身体を起こし、よろよろと立ち上がる。

「ゼッタイ! アイドル! ドキドキが止まらない……」

「ううぅぅぅ……ぐあぁぁぁぁぁっ!」
 カッティーの顔が苦悶に歪み、やがて大きな悲鳴が上がった。破れかぶれに振り下ろされた拳を、アイドルが華麗なジャンプで避け、さらに軽く力強い声で歌い出す。

「急接近! 笑顔のユニゾン 応えてほしいな……」

 すぐにもう一つの声が、さらに三つ目の声がそれに重なった。ウインクとキュンキュンが、アイドルに合わせて歌いながら立ち上がったのだ。
 ザックリーとチョッキリーヌもまた、苦し気な呻き声を上げる。それに構わず、怪物本体はすぐさま二人に襲い掛かった。だが、二人の歌声は止まらない。大振りな攻撃を軽やかにジャンプで躱し、懸命に歌い続ける。

「うがっ……ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
 突然、巨体の真ん中で、チョッキリ団の三人が揃って絶叫した。さっきよりも禍々しさを感じる漆黒の闇のオーラが、三体を包み込んだのだ。
「カッティー!」
 思わず叫んだアイドルの耳に、また新たな歌声が届く。

「最高のステージで キミと歌を咲かそう!」

 それは、戦闘を見つめていたラブの歌声だった。すぐに美希の、祈里の、せつなの声がそれに重なる。それを聞いて、アイドルの目に再び決意の光が宿った。ラブに向かって小さく頷いてから、再び朗々とした歌声を響かせる。

 漆黒の闇のオーラは、相変わらず怪物の身体から立ち昇っている。だが、チョッキリ団の三人の表情は、今はうつろではない。相変わらず苦し気な呻き声を上げているが、その目には意思の光が見える。

(まだステージは召喚できない。だけど……真っ暗闇に飲まれちゃダメだよ! 必ずあなたたちを、キラッキランランにするんだから!)

 アイドルが歌いながら、何とかウインクとキュンキュンの元へ行こうとする。そんな彼女に、さらに速さと重さを増した拳が襲い掛かった。観客席に叩きつけられたアイドルが、立ち上がろうともがきながら、それでも必死で歌い続ける。
 ラブの右手が思わず腰に着けたリンクルンに伸びかけ、そこで悔しそうにギュッと握られた。隣に立っているせつなが、その手を優しく包む。ラブはせつなに向かって微かに微笑んでから、気を取り直したように、再び一心に歌い始めた。

 明るくあたたかく、愛と希望と祈りと幸せを願う想いに満ちた歌声が、三人の歌声と重なって野外ステージに響き渡る。
「すっごく、すっごくキラキラプリ!……プリ?」
 興奮気味にキラキライトを振っていたプリルンが、ふと違和感に気付いて首を傾げる。手に持ったキラキライトが、いつもより格段に強く明るく輝いているのだ。
 プリルンが嬉しそうに微笑んで、キラキライトを高く高く掲げる。
「このキラキラ、届いてプリ〜!」
 怪物たちの頭上に、キラキライトが小さいながらも燦然とした煌めきを放つ。その時。

「キュアキュア・プリップー!」
 どんよりと赤黒い空の彼方から、不意にあどけない声が響いた。


118 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/06/07(土) 19:53:19
以上です。ありがとうございました。
あと一話か二話で完結の予定です。


119 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/06/08(日) 22:29:22
こんばんは。遅くなりましたが、長編の最終話(第10話)、投稿させて頂きます。
3レスで足りると思います。


120 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/06/08(日) 22:29:55
「キュアキュア・プリップー!」
 あどけない声と共に、突如上空に現れた影。それを見て、ラブたちが揃って声を上げる。
「シフォン!」
「らぁぶ〜! みぃき〜! いのり〜! せつな〜!」
 そう言いながらフワフワと空から降りて来るのは、まるでぬいぐるみのように愛らしい姿の赤ちゃん妖精だ。その額からは、キラキライトの光によく似明るい光が放たれていて、怪物たちが眩しそうに、一歩、二歩と後ずさる。

「キー!」
 続いて、鍵のような形の小さな四体の妖精が飛んできて、ラブたちの携帯――リンクルンに飛び込んだ。そしてもう一人――。

「わ! あわわわ、うわぁぁぁ!」
 空中で手足をばたつかせながら、最後は落ちるような勢いで降りて来た影を、田中が慌てて受け止める。
「おおきに。助かりましたわ」
「何と……関西弁を喋るフェレット!」
「フェレットやない。可愛い可愛い妖精さんやぁ!」
 田中の腕の中からぴょんと跳び下りてそう言い募る姿に、祈里がニコリと笑いかける。
「うふふ。久しぶりね、タルトちゃん」
「ほんま久しぶりやなぁ、パインはん。このタルト、みなはんのピンチと察して駆けつけましたで」
 唐草模様の風呂敷包みを背負い、颯爽と胸を張るのは、もう一人の妖精・タルトだった。

「ありがとう、タルト。でも、どうして?」
「シフォンが突然、騒ぎ出してなぁ。『ラブ、みんな、キラキラ、まもる!』言うて。何のことかよぉわからんかったけど、それで急いでピックルンと一緒にこっちに来ましたんや」
「そうだったんだ……。ありがとう、シフォン」
 ラブが、シフォンをギュッと愛おし気に抱きしめてから、仲間たちを見回す。その決意の籠った瞳を真っすぐに見つめて、三人が小さく頷く。それだけで十分だった。

「じゃあ、みんな。行くよっ!」
「オーケー!」
「うん!」
「わかった!」
 声と同時に四人がリンクルンを構え、その扉を開き、ホイールを回す。

「「「「チェインジ! プリキュア! ビートアーップ!」」」」

 桃色、青色、黄色、赤色。リンクルンのディスプレイから溢れ出したまばゆい光が、野外ステージを照らし出す。
 そして光が収まった後には、アイドルたちが初めて見る四人の戦士が立っていた。

「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし! つみたてフレッシュ、キュアベリー!」
「イエローハートは祈りのしるし! とれたてフレッシュ、キュアパイン!」
「真っ赤なハートは幸せのあかし! うれたてフレッシュ、キュアパッション!」

「「「「Let’s プリキュア!!!!」」」」

「ぐおぉぉぉぉ!」
 まるで時が止まったかのような一瞬の静寂を、怪物たちの雄叫びが破る。
「はぁぁぁっ!!」
 拳を振り上げるカッティー・クラヤミンダーを迎え撃ったのは、アイドルとピーチのダブルパンチだった。その衝撃に辺りの空気が揺らぎ、一瞬の後に、巨体が地響きを立てて倒れる。

「やるね、アイドル」
「ピーチこそ。でも、少しでも早くキラッキランランにしてあげたいのに、決め手が無くて……」
 アイドルの声に焦りが滲む。さっきのカッティーたちの苦し気な呻き声が、耳について離れないのだ。
 アイドルの言葉を聞いて、ピーチがじっと考え込む。
「アイドルたちの歌をちゃんと届けられれば……そのために、三体まとめてステージに招待できれば……」
 そこでピーチが、パッと顔を輝かせた。

「いい考えがあるの。あたしたちに任せて」
「ピーチたちが、キラッキランランにしてくれるんですか?」
 アイドルも、期待に満ちた顔でピーチを見つめる。だが、ピーチは微笑みながら首を横に振った。
「みんなを笑顔にするのは、アイドルプリキュアの役目だよ。言ったでしょ? あたしたちは、そのお手伝いがしたい、って」
「わたしたちの……ですか?」
「うん。だから、闇に操られているあの人たちを、笑顔にしてほしいの。あなたたちの歌で」
「わかりました!」
 アイドルが力強く頷く。それを見て嬉しそうに微笑んでから、ピーチが仲間たちへと目を向けた。


121 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/06/08(日) 22:30:32

「みんな! みんなの力を合わせるよ!」
「了解!!!」

「はぁっ!」
 ステージの上で、ザックリー・クラヤミンダーと相対していたウインクとベリーが、足元を狙って鋭い蹴りを放つ。
「はぁぁっ!」
 怪物の身体がぐらりと揺らいだ瞬間、飛び出したパインが思い切り体当たりする。巨体はステージから転がり落ちて、立ち上がったばかりのカッティー・クラヤミンダーと激突した。

「キュンキュンレーザー!」
 観客席の後方で、キュンキュンの声が響いた。チョッキリーヌ・クラヤミンダーが、すかさず闇のエネルギーを放ってレーザーに対抗する。だが、闇が晴れた後には間近に迫ったキュンキュンとパッションの姿があった。
「たぁっ!」
「はっ!」
 キュンキュンが胴体に連打をお見舞いし、パッションが高々と跳び上がって、怪物の頭上に踵落としを叩きつける。巨体はたまらず観客席の上に崩れ落ちた。

「クラヤミンダー!!!」
 赤黒い瘴気が再びサングラスから立ち昇り、三体の怪物がすぐさま跳ね起きる。だがその時には、ピーチは右手を天に突き上げ、高々と叫んでいた。

「クローバーボックスよ。あたしたちに力を貸して!」
 天を目指して迸る光の柱が、ピーチのツインテールを逆なでる。それと同時に、タルトが持って来たクローバーボックスの蓋が静かに開き、四つのハートが燦然と輝く。
「プリキュア・フォーメーション! レディ・ゴー!」
 ピーチが、ベリーが、パインが、パッションが、一斉に大地を蹴って走り出す。三体の敵――いや、救われるべき三人の魂に向かって。

「ハピネス・リーフ、セット! パイン!」
「プラスワン! プレア・リーフ! ベリー!」
「プラスワン! エスポワール・リーフ! ピーチ!」
「プラスワン! ラブリー・リーフ!」

 幸せを願う赤いハート、祈りを込めた黄色のハート、希望を抱く青いハート、そして愛に溢れる桃色のハートが、それぞれ一葉となって寄り添い、幸運の四つ葉が出現する。
 そして現れた四つ葉は天高く舞い上がり、巨大な光のベールとなって、三体の怪物たちの頭上へと降りていく。

「「「「ラッキー・クローバー! グランド・フィナーレ!!!!」」」」

 少女たちの右手が高く上がる。彼女たちの想いは透き通った水晶となり、三体のクラヤミンダーを包み込む。
 その時、ピーチが鋭い一言を発した。
「アイドル、ウインク、キュンキュン! 今だよっ!」
「はいっ!」

「「「ウ〜、レッツゴー!!!」」」

 三体のクラヤミンダーを最前列に招いて、三人のアイドルたちによる、華麗なステージが始まる。いや、これは三人だけのステージではなかった。アイドルプリキュアの後方に、キュアピーチ、キュアベリー、キュアパイン、キュアパッションが現れたのだ。
 ピーチは少し驚いたように目を見開いてから、曲に合わせて楽しそうに踊り始めた。隣のパッションが、続いてベリーとパインが、すぐに息を合わせて踊り出す。
 曲はもちろん『Trio Dreams』。ピーチは溌溂と、ベリーは美しく、パインは可愛らしく、パッションは軽快に、四人それぞれの個性がありながらぴったりと合った動きで、楽しそうに踊っている。

 歌いながらチラリと斜め後ろを見たアイドルが、ニッコリと笑って、二人の仲間たちに目をやった。三人で微笑み合って、いつもより力強く客席に呼びかける。

「「「ハートを上げてくよ!!!」」」

 観客席に無理矢理座らされた三体の、胴体にある三人の顔に、今は苦しそうな様子は無い。そのことに少しホッとしながら、アイドルは歌う。

 この歌に乗せて、あなたの元へキラキラが届くようにと。
 闇ではなく輝きが、あなたの周りにあるようにと。
 そしていつだって、あなたとわたしが共に笑い合えるようにと。

 三人の表情が、クラヤミンダー本体と同じように、曲が進むにつれて次第に楽しそうな、ノリノリの様子を見せ始める。そして――。

「「「プリキュア・ハイエモーション!!!」」」

「キラッキラッタ〜……」
 三人のプリキュアがポーズを決めると、チョッキリ団の三人は、幸せそうに呟いた。
 やがて三体のクラヤミンダーも、グランド・フィナーレの技で生まれた巨大な水晶も消え失せて、辺りは元の野外ステージに戻る。そして元通りに修復された観客席には、夢み心地の表情で、頬に薄っすらと笑みを浮かべたチョッキリ団の三人の姿があった。


122 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/06/08(日) 22:31:04

「良かった……。三人とも、怪我は無い?」
 アイドルの言葉に、チョッキリーヌがハッと我に返って、カッティーとザックリーに立て続けにゲンコツを見舞う。飛び起きた二人は、自分たちがいつの間にか観客席に座っているのに気付いて、驚きの表情になった。おまけにアイドルプリキュアの三人と、見たことのない四人のプリキュアらしき少女が、こちらを見てニコニコと笑っている。その溢れんばかりのキラキラを眩しそうに見つめてから、ザックリーは慌てて、フン、と目を逸らした。

「ザックリやられちまったぜ……。また来るからなっ!」
「不覚を取ったわ……。ええい、次こそ覚えておいで!」
 チョッキリーヌとザックリーが、捨て台詞を残して掻き消える。一人残ったカッティーは、まだ少しぼーっとした顔で、七人の少女たちを眺めて呟いた。
「こんな形でなしに、またライブであのキラキラした姿を応援することも出来るんですかな……」
 だが、すぐに自分の呟きにハッとしたように、カッティーはブルブルッと身震いして中空に浮かび上がる。
「助けてくれたことには礼を言うですぞ。ですが……敵に情けをかけるな、ですぞ!」
 そう言い捨てて、カッティーもまた煙のように掻き消える。アイドルたちが安心したような、少し寂しそうな顔で微笑み合う中、パッションは彼が消えた空の一角を、しばらくの間黙って見つめていた。


   ☆


「改めまして、咲良うたです」
「蒼風ななです」
「紫雨こころです」
 リハーサルが終わったライブ会場の控室で、変身を解いたななたちが、ラブたち四人に挨拶する。
「プリルンプリ」
「メロロンメロ」
 うたが持っているポーチの中から、プリルンとメロロンも飛び出して、ペコリと頭を下げた。

「うたちゃん、ななちゃん、こころちゃん、それにプリルンとメロロン! 改めて、友達になれて嬉しいよ〜!」
 ラブがその言葉通り、嬉しくてたまらないといった様子で笑いかける。美希も祈里もせつなも、もうすっかり打ち解けた笑顔だ。

 うたたちがアイドルプリキュアであることを知っているのは、田中やプリルンたちキラキランドの住人だけ。だが、ラブたちにだけはどうしても変身前の姿で挨拶したいと三人が田中に頼み込み、田中も快く受け入れたのだった。

「さあ、いよいよ本番だね! アイドルプリキュアの初ライブ、楽しみだよ〜。あたしたちは先にコラボさせてもらって、二重に幸せゲット、って感じだけど」
「何言ってるのよ。気が付いたらいきなりステージに居て、慌てたピーチは、振りを間違えてばっかりだったじゃない」
「美希たん、酷い! ベリーだって、実は緊張して動きが小さくなってたこと、知ってるんだから」
 いつも通りの二人の掛け合いに、祈里とせつなだけでなく、うた、なな、こころも楽しそうに笑う。その時、控室の扉がコンコン、とノックされた。

「アイドルプリキュア、そろそろ準備をお願いします」
 扉の向こうから、田中の声が聞こえる。
「あたしたちは先に行ってるね」
「はい! 観に来てくれた人たちみ〜んなをキラッキランランにする、楽しいステージにしましょうね!」
 うたの言葉に、ラブが満面の笑顔で、うん! と力強く頷いた。

「じゃあ、ななちゃん、こころ、行くよっ!」
 新たな誓いを胸に、三人はアイドルハートブローチを抱き締める。
 先輩たちが守って来た笑顔を、今度はわたしたちが守っていく。
 どんなに不安でも、怖くても、三人ならきっと大丈夫。
 三人で、いつか必ず一人残らずみんなをキラッキランランにしてみせる――。

「プリキュア! ライトアップ!」

 決意を纏ったミラーボールが煌めいて、三人の歌姫が姿を現す。
 三人は笑顔で互いの目と目を見交わすと、大歓声が響くステージへと、軽やかに駆け出した。


〜完〜


123 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2025/06/08(日) 22:33:50
以上です。
なお、書いてる間に本編がどんどん進んでしまったので💦 このお話はキラプリ第13話から14話くらいの時期のお話として書いています。
その点、ご了解願います。
コラボ書けて楽しかった。長い間、ありがとうございました!


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