■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■

【競作】オールスタープリキュア!ひろがるスカイ!春のSS祭り2023

1 : 運営 :2023/03/12(日) 09:14:16
おはようございます、運営です。
先日お知らせしました通り、今年のSS競作を4月から5月にかけて行うことにいたしました。
何と今回で10回目の競作! 記念大会ですね!
どうぞ皆様、奮ってご参加のほど、よろしくお願いいたします!!


"
"
2 : 運営 :2023/03/12(日) 09:15:04
<企画書>

タイトル:オールスタープリキュア!ひろがるスカイ!春のSS祭り2023

期間:2023年4月15日(土)〜5月7日(日)の23日間

テーマ:「ヒーロー」または「空」

ソラ 「お話し会? ましろさん、それって何ですか? この世界の食べ物ですかっ?」
ましろ「う、うーん、違う……かな。この招待状によれば、プリキュアみんなが集まってお話しする会……じゃないかな」
ソラ 「プリキュアみんな……。えぇぇっ!? プリキュアって、わたしたちだけじゃないんですかぁっ?」
ましろ「そうみたい。素敵だよね〜、わたしたち以外にもプリキュアが居るなんて! プリキュアの先輩だよね。スカイランドの人たちなのかな」
ソラ 「ましろさんって、こういう時、動じないですよね……」
ましろ「え? 何か言った?」
ソラ 「い、いいえ! それより、テーマがあるってことは、このテーマに沿ってお話をすればいいんですね? わたし、「ヒーロー」のことだったら何時間でも語れちゃいます!」
ましろ「それはちょっと長すぎかな……。じゃあ、「空」って言ったら?」
ソラ 「う〜ん……そうだ!「空」にはいろんな顔がありますよね。昼間の青空だけじゃなくて、朝の澄みきった空とか、夕焼けに星空、一日の内でも色々表情が変わりますよね」
ましろ「そうだね。晴れている空だけじゃなくて雨や雪も降って来るし。でもわたしはやっぱり、あの時の空かな〜」
ソラ 「あの時……ですか?」
ましろ「ほら、ソラちゃんとエルちゃんが降って来た時の。あの時の衝撃は忘れられないもの。やっぱり話すとしたら、あの時の話かな」
ソラ 「わたしたちの出会いの空ですもんね! わたしもっ! あの時の話だったら何時間でも……」
ましろ「だから、それは長すぎだってばぁ!」

……え〜、二人がエルちゃんそっちのけで二人の世界に入ってしまいましたが(笑)ということで、今年のテーマは「ヒーロー」または「空」、どちらかが盛り込まれているお話を大募集します!
テーマの単語そのものが出て来なくても、テーマが感じられるお話なら大丈夫。「ヒーロー」と「空」、両方盛り込んで頂いてもOKです!
毎年毎年、これでもか!としつこく書かせて頂いていますが、大切なのは、あっつ〜い作品愛!! それさえあれば、大抵のお話はOKです。
短いお話、ふざけた小ネタ、大歓迎! 難しく考えず、いろ〜んなSSを集めて楽しいお祭りにしましょう!

※プリキュア全シリーズは勿論、コラボSS(プリキュア&プリキュア、オールスターズ、プリキュア&その他)もOKです。

※体裁は、小ネタ、長短編なんでもOK。140文字SSも受け付けます。(140文字SSは、出張所(Twitter)でも受け付けます。)

※ただしお約束として、サイトの特性にあったものでお願いします。(男女間恋愛ネタと、オリジナルキャラのメイン起用・実在する人物(作者含む)を起用した作品はNG。サイトのQ&Aをご参照下さい。)

※投稿の仕方は、下記のどれでもOKです。
①掲示板に投下する:投下の仕方は、掲示板の「ローカルルール」をよーく読んで下さいね。
②管理人に代理投稿を依頼する:掲示板の「掲示板管理者へ連絡」か、出張所(Twitter)のDMからご連絡ください。
③出張所(Twitter)で投稿する:140文字SS限定です。その際は、「#プリキュアで140文字SS」のタグをつけて下さいね。
やり方が良く分からない、自信がないという方は、「掲示板管理者へ連絡」か、または出張所(Twitter)のDMから、お気軽にご相談ください!

※お話を書くのは初めてだけど、何か書いてみたい! でも書けるかな……という方、書き手じゃないんだけど……という方、大歓迎です!!
お祭り企画を機会に、短いものでも何か書いてみませんか? お待ちしています!
なお、当サイトの運営は、全員がSSの書き手です。何か書いてみたいけどどう書いて良いか分からない、書いてはみたけど、これでいいのかな……等々、何かありましたら「掲示板管理者へ連絡」か、または出張所(Twitter)のDMから、いつでもお気軽にご連絡下さい。及ばずながら、お手伝いさせて頂きます。

※SSは書かないけれど、読むのを楽しみにしているよ!と思って下さっているそこのあなた!
読み手の方々なくしてお祭りは成立しません。SSを読んで頂いて、何か一言でも感想やコメントを掲示板にどしどし書き込んで下さい!
コメントは、ものすごーく書き手の励みになります。場合によっては、次の作品にも繋がるかも!?
どうぞ盛り上げ&応援でのご参加、よろしくお願いいたします。


3 : 運営 :2023/04/08(土) 18:52:22
こんばんは、運営です。
早いもので、競作まで一週間となりました!
これまでに参加表明を頂いている方々のお名前を発表したいと思います。

受付順に、
ゾンリー様、茉莉花様、緣文様、猫塚◆GKWyxD2gYE様、makiray様、kiral32様、ギルガメ様、りとるぶたー様
それから運営の、夏希◆JIBDaXNP.g、一六◆6/pMjwqUTk。

以上の10名と、お名前は公表しませんが前向きに参加をご検討くださっていると伺っている方が、あと4名ほどいらっしゃいます。
まだまだご参加受け付けていますので、是非お気軽にエントリー下さい!
飛び入り参加も大歓迎ですので、どうぞよろしくお願いいたします。


4 : 夏希 ◆JIBDaXNP.g :2023/04/15(土) 00:03:03
お久しぶりです。今年も競作のオープニングを務めさせていただきます。
2レスお借りします。よろしくお願いします。


5 : 『ひろがるスカイ!春のSS祭り2023〜開幕〜』 :2023/04/15(土) 00:04:00
「おいしーなタウンって言うだけあって、何だか美味しそうな匂いが漂ってきました!」
「ここは洋食屋さんのストリートね。他に和食や中華のストリートもあるんだって」
「あーいー」
 ソラの腕の中でエルが両手を振り回す。まるで届かないけれど、お店のオブジェか何かを触ろうとしているらしい。
「ふふっ、エルちゃんもお腹が空いてきたのですか?」
「もうちょっとだけ我慢してね。お話会の会場に着いたらすぐに用意するから」
 ましろがエルに微笑みかける。だがソラは急に立ち止まると、険しい顔つきになってエルをましろに手渡した。
「待ってください、ましろさん。あっちで騒ぎが起きてます」
「えっ、何も聞こえないけど……」
「私には聞こえるんです。先に行ってます。ましろさんはエルちゃんを見ていてください!」
 人間離れしたダッシュで、ソラの姿はあっという間に見えなくなってしまう。ましろはエルを抱えて、慌てて後を追った。

「ふふーん。ここは美味しい食べ物でいっぱいだから、俺様の力も無限に湧いてくるのねん。カモン! アンダーグ・エナジー!」
 カバトンから放たれたエネルギーが、洋食屋の招き猫のオブジェに命中する。それはたちまち巨大化して、モヒカン頭の巨大招き猫型ランボーグに姿を変えた。
「ソイツはプリキュアだ。手加減は無用なのねん。やっちまえ、ランボーグ」
 巨大な招き猫……もといランボーグがソラに襲いかかる。その猫パンチを軽々とかわして、ソラはお店の屋根の上に跳躍した。
「こんな他所の街までやって来て……皆さんに迷惑をかけて――許せません! ヒーローの出番です!」
 ビシッと指を突きつけて宣言する。ソラは屋根から飛び降りると、人気のない裏通りに降り立った。
「スカイミラージュ! トーンコネクト! ひろがるチェンジ! スカイ! 無限に広がる青い空――キュアスカイ!」

“ヒーローガール・スカイパーンチ!”

 裏通りから飛び出したスカイの決め技がランボーグに炸裂する。しかし、その渾身のパンチをランボーグは肉球の掌で受け止めると、スカイを地面に叩き落とした。
「いったぁ……」
「そんなの効かないのねん。今日の俺様は一味違う。さっきまで食って食って食いまくって力を溜めて作った、特製のランボーグなのねん!」

“ヒーローガール・プリズムショット!”

 いまだ起き上がれずにいるスカイにトドメを刺そうと、ランボーグが迫る。そこに後から現れたプリズムの決め技が炸裂した。しかし、ランボーグは止まらない。スカイを助け起こして退避しようと跳んだプリズムを、今度は二人まとめて猫パンチで叩き落とす。
「ギャーハハハ! 俺、TUEEE! 今日こそお前たちを倒して、プリンセス・エルを取り戻すのねん!」

 倒れて動けない、スカイとプリズムの頭上が真っ暗になる。目前に迫った巨大な猫パンチで、視界が完全に覆われたのだ。二人が観念してぎゅっと目を閉じた、その時だった。
 ズン! と大きく地面が揺れたかと思うと、一陣の風が吹き抜ける。直後に差し込む陽の光。そして輝く少女の笑顔――。
 見たこともないプリキュアが、たった一人でランボーグの猫パンチを受け止めて、そして跳ね返したのだ。ランボーグは大きくたたらを踏み、地響きを上げて尻餅をつく。
 頭には花飾りの付いたリボン。ピンクのドレスに水色と黄色のエプロンを着けた、自分達とは異なるデザインコンセプトの――しかし、それは確かにプリキュアだった。


"
"
6 : 『ひろがるスカイ!春のSS祭り2023〜開幕〜』 :2023/04/15(土) 00:04:32
「な……何なのねん? お前は誰なのねん!?」
「それはこっちのセリフだよ。みんなの美味しいを邪魔したら許さないんだから!」
「何言ってるかわからないのねん。俺様の邪魔をするなら、お前も一緒にお陀仏なのねん!」
 起き上がったランボーグが、再び猫パンチを繰り出す。さっきより素早い動きで、しかも今度は鋭い爪が伸びている。
「いけません! どこのどなたか存じませんが、私達に構わず逃げてください」
「大丈夫!」
 少女は――キュアプレシャスはブンブンと腕を振り回すと、迫り来る猫パンチを真っ向から迎え撃った。

“5000キロカロリーパーンチ!”

 プレシャスのパンチはランボーグの猫パンチを弾き返し、そのままの勢いでランボーグの頭部を殴りつける。仰向けに倒れたランボーグから、カバトンが慌てて飛び降りた。
「おのれ……こうなったら俺様自ら相手してやるのねん!」
「あのー、やめた方がいいと思いますよ?」
 いきり立つカバトンに向かって、いつの間にか彼の隣に姿を現した少年が、ボソっとつぶやく。
「今度は誰なのねん――って、お前は!」
「僕のことよりも、あっちを見てください」
 少年の指差した先には、一斉にこちらに向かってくる70人を超える少女達の姿があった。
「あれは……まさか……あれが全部……」
「はい。僕が呼んで来ちゃいました」
 テヘっと可愛く笑う少年を睨みつけてから、カバトンがくるりと回れ右をする。
「覚えているのねーん!」
 カバトンは慌てて逃げ出し、躓いて転んでまた走り出してから、ようやく思い出したように「カバトントン!」と叫んで姿を消した。

「ツバサ君、ありがとう!」
「それと――見知らぬプリキュアの方、助けてくださってありがとうございました!」
 スカイとプリズムは口々に感謝を伝えると、駆け寄ってくる大勢のプリキュアにも頭を下げた。

「どうせ迎えに来るつもりだったから。さあ、ご馳走いっぱい用意してるよ、楽しいお食事会――じゃなくて、お話会、始めようか!」
「「「はいっ!!!」」」

「オールスタープリキュア!ひろがるスカイ!春のSS祭り2023」
いよいよスタートです!


7 : 夏希 ◆JIBDaXNP.g :2023/04/15(土) 00:05:32
以上となります。皆さんの作品を楽しみにしております。


8 : 名無しさん :2023/04/15(土) 00:57:49
>>7
今年も豪華に幕が開きましたね!
どんなお話が読めるか楽しみです。


9 : Mitchell&Carroll :2023/04/15(土) 02:16:27
Eテレの、、、あの、、、「オトッペ」とのコラボだす。ちゃんと百合してるだわさ。


『お水はセルフサービスです。』


らん「空っぽだぁー!大量に備蓄しておいたベ○ースターラーメンの袋が全部、空っぽだぁー!!一体、誰が、、、はにゃ〜、、、」
ウィンディ「げふっ」
らんらん「誰だっ!?」
ウィンディ「もう食べらんないビュ〜、、、」 
らんらん「さーてーはー、お前だな?らんらんのオヤツを盗み食いしたのは」
ウィンディ「いや〜、食感が良かったもんで、手が止まらなかったんだよね〜」
らんらん「らんらんのオヤツを返せー!!」
ウィンディ「あ、もうこんな時間だ。オトッペタウンに帰らないと、、、」
らん→キュアヤムヤム「そうは問屋がニンニクおろさないよ!はじけるヌードル・エモーション!キュアヤムヤム!おいしいの独り占め、許さないよ!!」
ウィンディ「じゃ、そうゆうことで。ふわぁ〜あ、何だか眠くなってきちゃった。飛びながらお昼寝しよーっと」
ヤムヤム「待てー!はにゃ!?何だコレ!?大量のシャボン玉攻撃!?」
ウィンディ「あー、それ、ボクの鼻ちょうちん」
ヤムヤム「汚っ!!―――あれっ?見失っちゃった!でも、この鼻シャボンを辿って行けば、、、」

ウィンディ「ただいま〜」
シーナ「あ、ウィンディ!もー、どこ行ってたの?」
ウィンディ「いや〜、美味しそうな気配を感じたもんだから、ちょっと散歩がてら、腹ごしらえしてきたんだビュ」
ヤムヤム「―――いた!コラー!!らんらんのオヤツを弁償しろー!!」
フレイミー「何だ?もしかして腹が減ってるのか?だったら、激辛ボーボー麺、食べていけよ!」
ヤムヤム「激辛ボーボー麺!?何それ!?らんらん、興味シンシン!!」
フレイミー「そら!激辛ボーボー麺、おまち!!」
ヤムヤム「いただきまーす!ズルズル、、、辛ぁーっ!!!!」
ウォッタ「―――ピチョン?見かけないオトッペ、、、?」
ヤムヤム「水!水!!(ブチュー!!)」
フレイミー「ウォッタの唇が奪われたー!!?」




10 : Mitchell&Carroll :2023/04/15(土) 02:25:47
>>9
一部、カギカッコの前のらんがらんらんになってしまいましたね、、、スミマセン。


11 : 名無しさん :2023/04/15(土) 12:15:52
>>10
誰かやるだろうと思っていた「空」の別読み(笑)
こういうネタにらんらんはよく似合う!


12 : 名無しさん :2023/04/16(日) 12:00:24
フレプリの小説で題名は『スーパーヒーロー美希』で投稿します
『『『ええええぇぇええ!!! ヒーロー番組に出るって!!!』』』
 アタシは、いつもの公園でカオルちゃんのドーナツを食べながら、ある事をみんなに話していた。すると途端にみんなは大きな言葉で驚いたのだ。
「ちょっと、みんな声が大きいわよ」
「いや、だってすごいよ美希タン、ヒーロー役でしょ!! すごいすごい」
「美希ちゃん、すごいわ!!」
「流石やで、ベリーはん!! なぁ、シフォン」
「プリプー!!!」
「ちょ、ちょっとただの単役よ」
 アタシの周りにいるのはラブ、ブッキー、せつな、そしてタルトとシフォンだ。せつなは怪訝そうな様子だが、他のみんなは大はしゃぎしている。
 アタシはついこの間、知り合いの、ある番組プロヂューサーに『ヒーロー番組』に出てみないかと誘われたのだ。
 しかし、アタシはあまり乗り気ではなかった。
「だってアタシ、撮影は慣れてるけど演技はそこまでないし、そもそも『ヒーロー像』ってのがあまりわからないのよね」
 アタシはこの事についてかなり悩んでいた。だから今回、みんなに集まってもらって相談を持ち掛けたのである。
 アタシが重い空気を出している中、タルト持っていたドーナツをほおばってから再びアタシに話しかけて来る。
「何言ってるんや、ベリーはん。あんさんはすでにプリキュアとして活躍するヒーローなんやで。どう困るちゅうんや」
「そもそも人前では変身なんて出来ないでしょ? しかも役柄としてはそのままの姿らしいの。ありのままのアタシにヒーローのイメージってある?」
「そうかなぁ、あたしは美希タンはカッコイイと思うけどなぁ」
「そうよ、美希ちゃんなら問題ないわよ。私もかっこいいと思うし」
 アタシの弱音に、ラブとブッキーは励ましてくれる。とはいえやはりなかなか気持ちのもやもやが晴れないのも事実。
「うぅむ、確かにベリーはんはクールビューティーな一面があるからなぁ。プリキュアとしての姿やったらまさしくヒーローってのはぴったりくるんやけどなぁ」
「そうなのよねぇ……」
 アタシはそう言って大きくため息を吐いた。するとその直後に、いままで会話に入って来なかったせつなが、アタシに質問をしてきた。
「ねぇ、美希。話の腰を折って申し訳ないけど、『ヒーロー番組』ってなんなの?」
「え? あぁ、せつなは知らないのね。そっか、そっか」
 あまりの根本的過ぎる質問にアタシは呆気を取られてしまう。せつなはラビリンス出身だから、その手の娯楽には疎い面があるのだ。
「ヒーロー番組ってのはね……」
 アタシが説明しようとした瞬間、
「パッションはん、ヒーロー番組ってのはそら、ロマンあふれる素晴らしいもんなんや!!」
「え!?」
 タルトが割り込むように、説明してきたのだ。
「基本的には、主人公は熱血系の熱い性格をしててな、世界征服をたくらむ悪の組織に猛然と立ち向かい、弱きを助けるまさに『憧れの存在』なんやで!! そんでもって……」
 そしてタルトはさらに熱中して、せつなに熱弁を始める。ただ、せつなも面白そうに聞いている。
「タルトったら……」
 その姿にアタシはちょっと呆れてしまった。
「まぁ、美希タンそんなに悩むことじゃないと思うよ。あたしはそのままの美希タンでもいいと思う」
「うんうん、期待してるね、美希ちゃん!!」
「う、うん、ありがとう」
 アタシはそう言って励ましてくれたラブとブッキーに口ごもりながらお礼を述べた。そしてしばらくしてその場を解散したのであった。
「さらにはライバルの存在も欠かせへん。主人公とはまた違うベクトルで、敵を倒し、主人公と時には争い、時には協力し……」
 ただタルトの熱弁を続き、流石のせつなも辟易していた。
☆☆☆☆☆


13 : ギル :2023/04/16(日) 12:02:19
「はぁ……、なかなか感覚がつかめないわねぇ」
 みんなに相談してから数日後、アタシはまだ『ヒーロー像』について悩んでいた。セリフや演技に関してもある程度リハーサルを行い、流れは掴めた。
「全然、完璧じゃない……」
 しかし、プリキュアとしてではなく、ありのままの自分自身をヒーローに当てはめるのはやはりうまくはまらない。
 アタシは悩み、そして俯きながら、お昼の『クローバーストリート』をとぼとぼと歩く。
「美希?」
「え?」
「どうしたの? そんなにしょぼくれて」
「せ、せつな」
 すると偶然、せつなと出会ったのだ。
「き、奇遇ね。せつなはここで何してるの?」
「お買い物よ。今日はラブのお母さんが忙しいから、ラブが家の家事で、あたしが買い出しの分担をしてたの」
「そうだったの……」
「美希はどうしてここに? やっぱり前に言ってた事で悩んでる?」
「え!?」
 せつなにそう言われて、思わず心臓がドキリとした。
「やっぱり……分かっちゃう?」
「そりゃそうよ。美希を見かけるたびに、ずっと俯いて暗かったもの。みんなの前では出してなかったけど」
「あはは……」
 せつなはそう言う所が鋭い。少しは隠していたつもりだったけど、やっぱり悩んでるとどこかに出てしまうのだろう。
「ねぇ、よかったら少しだけお茶しないかしら?」
「え!?」
 アタシが苦笑いで返している中、せつながそんな提案をしてきたのだ。ちょっとそれに驚いて声が漏れてしまう。
「みんなには話しにくいってこともあるじゃない? 時間は取らせないわ」
「あ、う、うん。わかったわ」
 アタシはせつなに言われるがまま、近くの喫茶店に入るのであった。
☆☆☆☆☆


14 : ギル :2023/04/16(日) 12:03:14
「あはは、やっぱりあの後もタルトの話が続いてたんだ」
「そうなの、疲れちゃった……」
 数分後、アタシ達は頼んだお茶を飲みながら、みんなで集まった日の話をしていた。あの日、別れ際でずっとタルトがせつなにヒーロー番組の事を語っていたが、次の日以降も度々、勧められていたらしい。
「全くタルト……。何してるのよ」
「いいのよ、美希。実際に映像も見てすごく楽しかったし、ちょっとはまっちゃったかもしれないわ」
「だったらいいけどね」
 せつなはそう言ってくすくすと笑いながら話してくれる。それを見てなんだか自分もほっこりとしてしまう。
「色々と作品は見たけど、基本的には悪の組織で出てきて、主人公が戦って、ライバルと共闘して、そして町のみんなを救う。そんなストーリーだったわ。なんだかいまのあたしたちみたいって共感もしちゃった」
「確かに、いまのアタシ達とまんま一緒ね」
「そしてその映像を見ながら、ヒーローって何だろうって考えるなったわ。そしてこの世界に来てからの自分の出来事と重ねてみた」
「せつな……」
「この世界来て、罪を犯して、ラブや美希、ブッキーみんなに救われて、そしてプリキュアになって、学校に行ってダンスして、色々と見えてきたの」
 そう言ってせつなはカップを手に取り、注がれたお茶を飲んだ。そしてまたカップを戻した。
「ここで美希に質問。ヒーローとは何でしょうか?」
「ふえ!?」
 しかし急にせつなからの質問が飛んできて、アタシは変な声が出てしまう。
「そ、それは、そうね……」
 アタシは言葉に詰まってしまい、良い答えも思いつかなかったが、とりあえず答えることにする。
「みんなを守る、正義感の強い人物……かしら?」
 当たり障りのない答えだ。それを聞くとせつなはふふっと微笑んだ。
「あたしも初めはそう思ったけどね」
「やっぱり不正解だった?」
「別に美希の答えが間違っているとは思わないわ。ただそれもヒーローのごく一部なだけ」
「ごく一部?」
「ヒーローっていうのは性格とか信念とかだけじゃないと思うの。ヒーローって言うのは『憧れ』の存在だと思うのよ」
「憧れの存在……」
「そもそもヒーローって自分で名乗るものじゃないなって思ったの。みんながその人をヒーローと呼ぶから自然とヒーローになっていくんだなって」
「な、なるほど確かに……」
 言われてみればそうかもしれないと。ヒーローと言われるとやっぱり、アタシがさっき答えた『正義感の強い人物』ってのが真っ先にイメージとして来てしまうからだ。でもヒーローは別に自称するものでもない。
「だからわたしは思うんだけど、美希はもうヒーローだと思うわよ」
「え? そ、そうなの?」
 しかし、次のせつなの結論にワタシは困惑してしまう。
「もちろん、ラブもブッキーもそしてあたしも友達として美希のことは大好きだし、憧れてる。けど美希はそれ以上に、既にモデルとして多くの人たちの憧れの対象になってる思うわ。オシャレしたい女の子からした、もうヒーローそのものだと思う。だから番組の出演も決まったのよ」
「せ、せつな……」
 アタシはそれを聞いて、なんだか心が晴れていく気がした。
「ちょっとくさかったかしら。ヒーロー番組を見すぎて色々よ移っちゃったかも」
「ううん、おかげで吹っ切れた」
 そう言ってアタシはその場から立ち上がった。
「アタシは自分自身への自信が無くなっていたのかも。でもこれで頑張れるわ。ありがとうせつな」
「どういたしまして」
 アタシはせつなとそう言葉を交わして、喫茶店を後にするのであった。
☆☆☆☆☆
「いやぁ!! 最高やったで、ベリーはん!! あの主人公を助けて、自分から特攻していくシーンは。シフォンもそう思うやろ?」
「プリプ〜〜!! 美希、かっこいいぃぃ」
「うんうん、あのアクションも流石だったわ」
「美希タンの出番はあれだけで終わりなの? もっと見たかった」
「もうこりごり、おかげで筋肉痛になっちゃった」
 後日、アタシは撮影した映像を特別に分けてもらい、ラブの部屋で視聴会をしていた。でも自分で自分の映像を見るのは小恥ずかしいものだ。
「しっかし、ベリーはんあれだけ心配してたのに、嘘のようにノリノリでやってるやんか!」
「そうよね、美希ちゃん。何があったの?」
 ただ、演技は自信も持って演じ切ることが出来た。みんなも前の悩んでいた時の顔つきと映像とのギャップで驚いている。当然ながら疑問だろう。
「ふふ、さあてね」
 だけどアタシはそれには答えず、せつなの顔を見た。するとせつなも少しおかしそうに笑っていた。


15 : 名無しさん :2023/04/16(日) 12:24:58
>>14
いいですね、美希せつ! 素敵なお話で、テーマとも凄くハマってました。
美希に特撮ってなんか似合う。
ヒーロー像に悩んで、でも結果ノリノリで演技する美希タン、美希タンらしすぎ(笑)
楽しませて頂きました!


16 : ギル :2023/04/16(日) 13:48:06
楽しんでもらえてなによりです!!


17 : りとるぶたー :2023/04/17(月) 01:28:41
本編とは別の世界線の、ジョージ・クライが愛したアナザー野乃はなの物語です。

タイトル【Tomorrow〜アナザーはなの物語・序章〜】

 私は何もできない。
 勉強も運動も得意じゃないし、転入先でも友達なんてできなかった。

 心機一転で前髪をオシャレにカットしようとしても、変に切りすぎちゃったせいですれ違った美人に笑われた。あの時は本当に恥ずかしかった。今でも恥ずかしいし、早く髪の毛伸びないかなって思ってる。
 何をやっても失敗ばかり。こんなカッコ悪い私のままじゃ、将来何者にもなれないのだろう。
 イケてる大人のお姉さんなんて、きっと夢のまた夢だ――

「――のさん、野乃さん」
「えっ?」
「問題、当てられてるよ」

 隣の席の薬師寺さんが、私の肩を小さく揺する。
 慌てて黒板の方を見遣ると、数学の先生が苦笑しながら改めて私を指した。

「野乃さん。この問題の答え、わかる?」
「あ……えっと、3でしょうか……」
「うーん、惜しい。じゃあ○○さん、どうかな?」

 次に当てられた子は、見事正解を導き出す。
 私の出した答えはまるっきり的外れで、全然惜しくなんてなかった。

 また、間違えた。
 私は間違えてばかり。自分がどんどん理想から遠ざかっていくのが、嫌でもわかる。

 私はため息を吐いて、なんとなく外に目を移した。
 ガラス越しに聞こえるくぐもった雨の音が、私の心をしっとりと柔らかく包み込む。
 もう梅雨だ。
 私がこのラヴェニール学園に転入してから、特に何か良いことも大きな変化もなく2か月が過ぎた。

**********

 帰り道。
 傘をさして一人っきりで歩きながら、ちょっと前に落ち込んでいた時にママがくれた励ましの言葉を思い出す。

 ――はなの未来は、無限大!

 この言葉をくれた当時は本当にどん底まで落ち込んでて、もうどこにもこの状況を抜け出す道なんてないんだって思い込んでいたから本当に元気が出た。転校しようって決めることもできた。
 だけど……。

「無限大って言ったってなぁ〜。無限の選択肢の中でもどんどん悪い道を選んで行っている気がするよ〜、めちょっく……」

 今思い起こしたら、余計落ち込んでしまった。
 ごめんね、ママ。ずっと応援してくれてるのに、この2か月間全然上手く行ってない……。

 最初はちょっとくらい失敗しても、「フレフレ私、頑張るぞ」って立ち直れた。
 でもここまでめちょっくな失敗続きだと、さすがに自信なくしちゃう。
 せめて友達の一人くらいできていたら、心持ちも違ったんだろうなぁ。


18 : りとるぶたー :2023/04/17(月) 01:29:26
「はぁ……」

 大粒の雨がボタボタと傘にぶつかり、何本もの小川のようになってビニール製の坂を流れ落ちていく。
 教室で雨の音を聞いた時は落ち着いたのに、今は降り方も音も激しくて、なんだか雨に攻撃されているみたいで嫌だ。

「いやいや、落ち込みっぱなしじゃだめだよ私! まだ2か月だよ?」

 無理矢理気持ちを上向きにしようと、私は立ち止まって空を見上げた……んだけど。

「……変な色〜」

 一面の曇り空が、不自然なセピア色に染まっていた。
 夕陽のオレンジ色を分厚い雲が乱反射してるから、人工的にインクを落としたみたいな変な色になっているらしい。前に同じ天気になった時に、たまたま近くにいた薬師寺さんが教えてくれた。
 だけど、こんなときにこんな天気にならなくても。
 せめて普通の灰色の曇り空だったら、まだ良かったのに。いや、一番気分がすっきりするのは勿論青空だけどさ。

「うぅ〜。明るい未来、やってくる気がしない……でもこんな弱音ばっかりじゃ、なりたい野乃はながもっと遠くに逃げてっちゃうよー」

 俯きたくなる気持ちを抑えて、私はもう一度一面セピア色の変な空を見つめる。

「でも、どうしたらいいんだろう。私、何もできないのに、どうすればイケてる大人のお姉さんになれるんだろう?」

 そうボヤいて、私はまた歩き出した――その時だった。

「……あれ?」

 急に、曇り空がセピアから普通の灰色に染まり変わった。
 おかしいと思って、私は視線を空から街並みにもどす。

「空だけじゃない! 世界が全部白黒になってる!?」

 驚いて、思わず傘から手を離してしまった。でも私の体が濡れることはない。
 それは傘がそのまま空中で止まっているからだって、すぐにわかった。
 しかもいつの間にか傘は、周囲の景色と同じモノクロカラーになっている。

「噓ぉーっ!?」

 驚いて一歩後ずさろうとすると、体が何かに阻まれた。
 無数の雨粒までもが全て空中で止まって透明な壁のようになってしまっている。
 これでは傘が無くても濡れない代わりに、ここから一歩も動けない。

「だ、誰かいないの……? 助けを呼ばなきゃ……」

 身動きの取れない私は仕方なく、その場で首を動かして辺りを見回してみた。
 だけど周りの通行人もみんなピタリと動かなくなってしまっている。


19 : りとるぶたー :2023/04/17(月) 01:30:30
「なんで? まるで、時間が止まったみたい……」

 私一人だけ静止画の世界に放り込まれたみたいだ。
 何の音もしない。誰の声も、聞こえない。

「え……どうして、急に? 何これ? どうしよう。誰か助けて、これじゃおうちに帰れないよ――」

 ――ドーンッ!!

「きゃあっ!?」

 パニックで頭が真っ白になっている私の耳を、突然大きな爆発音がつんざいた。
 私は半泣きになって、音の発生源に体を向ける。

「オシマイダー!!」
「ぎゃあああああ、怪物ーっ!!」

 私の身長の5倍はありそうな、ずんぐりとした巨大な怪物。
 たったの百メートルくらいしか離れていないところで、その怪物は咆哮を上げていた。

「……夢、だよね? あはは、私いつの間に授業中に寝ちゃって……そんなわけないか。私、絶対バッチリ起きてるもん……」

 現実逃避しようと力なく笑い飛ばして、私は地面にへたり込む。
 夢にしてはいやにリアルだ。とてもリアルに、どうにもならない絶望感が私を襲う。
 そう。まるで、前の学校で私が独りぼっちになっていたときのように――

 前の学校、シャインヒル学園では、私はチアリーディング部に所属していた。
 応援することで誰かの力になるのが楽しかったから、部活動は本当に充実していた。
 だけどある日、トラブルが起きた。
 私の友達だったエリちゃんが次の大会のセンターに選ばれて、それを妬んだチームメイトがエリちゃんに意地悪をした。
 そんなのカッコ悪いって思って私は意地悪を止めに行ったんだけど、そうしたら私は独りぼっちにされてしまった。皆にも、エリちゃんにも。

 私のしたことはお節介だったのかなって、今でも後悔してる。
 私が余計なことをしたから、エリちゃんに嫌われちゃったのかもしれない。部内の雰囲気が余計にギスギスしてしまったのかもしれない。

 転校が決まる直前、優しい人たちが、これはいじめなんだって私に言った。あなたは悪くないんだよって言ってくれた。
 でも本当にそうなんだろうか。エリちゃんが意地悪されていたあの時、もっと上手に丸く収めるやり方があったんじゃないかな。
 私があの時間違えてなかったなんて、本当に言い切れるのかな。
 だって私はいつも間違えてばかりだから。何かが上手にできたためしなんて無いに等しいんだから。

「あぁ……私なんにもできないから、世界から追い出されちゃったのかな。お前は要らない子だ、って」

 力が抜けて立ち上がることもできずに、私は怪物をぼんやりと見つめた。
 私を見つけたのだろうか。怪物は、固まった雨や街路樹をなぎ倒しながらズンズンとゆっくり私の方に向かってくる。
 私はこれからどうなるんだろう。踏みつぶされるのかな。炎か何かを吐かれちゃうのかな。
 もうここで終わりなのかな。

 私は、めっちゃイケてる大人のお姉さんになれないのかな。

「……やだ」


20 : りとるぶたー :2023/04/17(月) 01:31:17
 それだけは、嫌だ!

 私は何もできないって思っているし、失敗ばっかりでどんどん理想から遠ざかっているとも思ってる。
 だけど、だからって夢をこんなところで終わらせたくなんかない!

「私の夢は! 今の私と違って、なんでもできるイケてる人! もう大切な友達を嫌な気持ちにさせない、人を幸せにできる人! そして――」

 ママの励ましの言葉が、はっきりと耳に頭によみがえる。

 ――大丈夫、はなは間違ってない! もう、我慢しなくていい!
 ――はなの未来は、無限大!

「大好きな人からの期待を、応援を裏切らない! 力をくれた皆に笑顔をお返しできる人ッ!」

 間違ってるかどうかの私の判断なんて、二の次だ。
 私のことを心から愛してくれて、信じてくれている人がいるんだ!
 応援してくれている人がいるんだ!

「私は、そうなりたい! 私のせいで誰かの笑顔をくもらせたくない! 大好きな人には幸せでいてほしいよ!!」

 空に向かって叫ぶように、私は思いの丈をぶちまける。

 すると傘に色が戻って地面に落ち、私のすぐ近くで降っていた雨が勢いを取り戻した。
 激しい雨が私の体を打ち付ける。だけどひるむわけにはいかない。
 私が自分の気持ちを口に出したら周りが動き出したんだ、この調子で家に帰ることができるかもしれない。
 怪物はゆっくりだけど、それでも私に迫ってきてる。負けられない。私はイケてるお姉さんになりたいんだから。

 私は怪物を真っ直ぐに見据えて、今までのネガティブな自分を打ち払うように叫んだ。

「こんなところで諦められない! そんなの――私のなりたい、野乃はなじゃないッ!!」

 ――ぶわりと、私の心から何かが湧き上がってくるのを感じた。
 体から放たれた不思議な白い光が、力の塊になって怪物を後退させる。

「オ、オシマイ!?」
「あぁ、凄い。凄く素敵な気持ち。それになんだか、とっても……!」

 だけど狼狽える怪物の様子なんかまるで私の目に入っていなくって、代わりに大きな高揚感に押し上げられるように私は言葉を紡いだ。

「心が、溢れる――!」

 私の胸から一つの光が勢いよく飛び出す。
 間もなくその光は、白いハート形の宝石を形作った。
 直感で、この宝石を手に取ると何かが大きく変わるんだってわかった。

「――行くよ、私」

 だけど私は一瞬だってためらわずに、その白い宝石を手に取った。


21 : りとるぶたー :2023/04/17(月) 01:32:17
 その次の瞬間――私の姿は、いつもの野乃はなから大きく異なるものに変化していた。
 頭のてっぺんで一つ結びにした、淡いピンクの超ロングヘア。
 まるで女神様を思わせる、お花と羽の意匠があしらわれた前開きのロングドレス。
 そして、大人のお姉さん風にセットされた、私の理想そのままの超イケてる前髪!

「私……変身、したの? よくわかんないけど、めっちゃイケてる!」

 顔を輝かせる私の目の前で、あのハート形の白い宝石が淡い光を放ちながら浮遊する。
 その宝石は形を変えて、一振りのロングソードになった。
 私はその剣を手に取ると、迷わず天に突き上げた。
 剣が切っ先から七色の光を放ち、それが頭上の雲に乱反射する。
 跳ね返された光が地上のあちらこちらにあたって、全てのものが色と動きを取り戻した。
 周りの人たちが怪物に気付いてパニックに陥りだす。

「な、なんだあれは!」
「キャーッ! 化け物―!」
「け、警察に……! いや、自衛隊か? 自衛隊に繋がる番号って何番だっけ?」

「――大丈夫だよ!」

 私は高く高く跳躍して、混乱している人たちに届くように力強く声をかける。根拠はわからないけど、絶対大丈夫だという自信が確かに私の中にあった。
 そして私は空中で大きく剣を振りかぶり、気合いを込めて怪物を切りつけた。

「てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「オシ……!」

 キラキラした光が辺りを舞う。
 その光を受けて、怪物は明らかに弱っているように見えた。
 地上にいる皆は慌てるのも忘れて、ぽかんと私たちを見ていた。
 だけど次第に、さっき混乱していたときとは全然違う声が上がりだした。

「……頑張れーっ!」
「女の子ー、その怪物を倒してくれー!」
「め、女神さまじゃ! ありがたや……!」
「がんばえー、がんばえー!!」

 凄まじい熱量のエール。見ず知らずの人たちだけど、聞いているだけでとても力が湧いてくる。

「行け―!」
「頑張れー! ヒーロー!!」

 もう、ここでおしまいになっちゃう気なんて、少しだってしなかった。

「うん、ありがとう! 私、頑張るね!」

 応援って、なんて凄い力を持っているんだろう。
 その力を笑顔や幸せに変えることが、私にできるなら――私はとことん頑張る。
 今までに出会った大好きな人だけじゃなくて、今出会った私に力をくれる人たちのためにも。これから出会う人のためにも。
 突然変身しちゃってびっくりしたけど、でもこの姿で皆のために戦えば私の理想に近づける気がするから。

「たぁぁっ!!」

 私はこの剣を振るうよ。
 これがやっと見つけた、私にできることだから!
 貰った応援を笑顔や幸せに変えて、こんな怖い怪物から皆を守って、明るい明日に連れていきたいから!

 私は皆を怖いものから助けて、未来へ導くヒーローになる!


22 : りとるぶたー :2023/04/17(月) 01:36:30
終わりです〜!
ありがとうございました!

ジョージさんの持っていた本の内容に従って、アナザーはなちゃんの物語を想像してみました。
本編の展開的に、このあとバッドエンドしか待っていないっていうのがミソですね。

このはなちゃんの中にはまだプリキュアという概念が無いのですが、あえて名付けるなら『(先代)キュアトゥモロー』。
ジョージ・クライと出会うまで、これから一人で理想を目指して頑張り続けます。


23 : 名無しさん :2023/04/17(月) 02:01:35
>>14
美希せつ凸凹コンビだけどちゃんと問題解決するところが良い
読みながら何故かスペースミキタン連想してしまった頭から離れないもうダメ


24 : 名無しさん :2023/04/17(月) 02:09:44
>>14
「ちょっとはまっちゃったかもしれないわ」

せつなにとってのちょっとってどのくらいだろう土曜日はニチアサに備えていつもより早く寝るとかかな
せつなって夜寝るの早そうだよねラビリンス時代からそこらへんちゃんとしてそう


25 : 名無しさん :2023/04/17(月) 07:21:05
>>21
冒頭からラストまで、はなの心が痛いくらいに伝わってくるお話でした。
無限大の未来には様々な分岐がある。イケてないと思ったらそこからやり直せばいい。
そんな勇気を感じさせてくれました。ありがとう!


26 : 名無しさん :2023/04/18(火) 01:41:06
>>22
描写力と構成力が素晴らしい。


27 : 運営 :2023/04/18(火) 18:36:45
こんばんは、運営です。
皆様、素敵なSSを次々投稿いただき、ありがとうございます!
りとるぶたー様から、SSのイラストを頂戴いたしましたので、一緒に保管させて頂きました。
また、茉莉花様から、140文字SSの直筆画像を頂きましたので、こちらも一緒に保管させて頂きました。
引き続き、盛り上がって行きましょう!


28 : 名無しさん :2023/04/20(木) 01:21:47
質問!
自分以外の書き手さんが書いたSSの挿し絵的なものを投稿しても宜しいのでしょうか?


29 : 運営 :2023/04/20(木) 20:00:22
>>28
ご質問ありがとうございます!
運営で協議しました。自作のイラストを、アップローダーのURLを貼るなどして投稿していただいて問題ありません。
ただし他人のイラストやその加工などは絶対にやめてくださいね。完全に自作のイラストにしてください。
また、保管させて頂くかどうかは、運営の判断とさせていただきますのでご了承ください。


30 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/04/22(土) 18:27:51
皆様、素敵なお話の投稿、ありがとうございます!
さて、私も投下に参りました。
フレッシュで、テーマ「空」のちょっと変化球的なお話(笑)
タイトルは、「せつなとラブの上の空」
2レスお借りいたします。


31 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/04/22(土) 18:29:15
 静まり返った教室に、チョークと黒板が擦れるカッカッカッ……という音だけが響く。
 四つ葉中学校二年の数学の授業。みんな一心にノートを取っている中、いち早く鉛筆を置いたせつなは、隣の席のラブに少し心配そうな視線を向けた。
 ラブも鉛筆を手にしてはいるものの、ノートのページは真っ白だ。それどころか、ラブは黒板の方を見てすらいない。頬杖をついて窓の外を眺め、何やら嬉しそうにニマニマと頬を緩めている。

(もう、ラブったら。授業に全然集中してないじゃない)

 ラブの肩をつついて注意しようと、せつなはそっと腕を伸ばす。だが肩に触れる寸前に、ハッとして手を引っ込めた。

「誰かぁ、この問題が解けるか〜?」
 板書を終えた先生が、そう言いながらこちらを振り返ったのだ。生徒たちをぐるりと見まわしてから、先生はラブに目を留め、呆れたように小さくため息をつく。
「よし。じゃあ、ももぞ……」
「先生! 私にやらせてください」
 せつながすかさず手を挙げる。つい先日も、居なくなったシフォンを心配して気もそぞろだったラブを、せつながこうやって間一髪でフォローしたのだ。今日もそうするつもりだったのだが――何度も同じ手は通用しなかった。

「東は、次の応用問題を頼む。桃園! この問題、やってみろ」
「「え?」」
 せつなとラブの声が揃う。そして次の瞬間、ラブは慌ててガタンと勢いよく立ち上がった。
「はい! わ、わわ、わかりません!」
「こら、解かずに即答するヤツがあるか」
 先生の言葉に、教室から笑いが起きる。
「ここに書いてある例題と、同じ解き方だぞ? 授業をちゃんと聞いてたか?」
「ごめんなさい……」
 すったもんだの末に何とか正解したラブは、宿題の上に教科書の練習問題を課題として追加され、トホホ……と肩を落として席に着いた。


   ☆


「どうしよ〜。あんな量の宿題、絶対終わらないよぉ!」
 放課後のドーナツ・カフェ。丸テーブルに突っ伏しているラブを、せつなが少し眉根を寄せた、困った顔で見守っている。美希は肩をすくめて呆れ顔。祈里は力のない苦笑いだ。
「授業も聞かずに、一体何やってたのよ」
 美希にいつもの調子でツッコまれて、ラブがようやく顔を上げる。
「何もやってないよぉ。明日のパジャマパーティーが楽しみ過ぎて、あれもやろう、これもやろうって色々考えてたら、いつの間にか先生に名前呼ばれてて……」
「まさに上の空だった、ってワケね。まあ、楽しみなのはわかるけど」
 美希が納得した顔で、ハァっと大袈裟にため息をつく。祈里も苦笑いの表情のまま、何度も小さく頷いて見せた。

 明日は夕方から美希と祈里が桃園家に泊まりに来て、パジャマパーティーをすることになっている。パジャマパーティーという言葉を、せつなは今回初めて聞いたのだが、なんでも友達の家に泊まって、みんなで一緒にご飯を食べたりお風呂に入ったり、パジャマ姿で部屋で遊んだりするものらしい。

(この世界には本当にイベントが多いけど……きっとパジャマパーティーも、とっても楽しいイベントなのね)

 授業中のラブの様子に加え、二人の表情を見てせつながそう確信した時、祈里がニコニコと話しかけてきた。
「その点せつなちゃんは、何かに上の空だったりすること、なさそうだよね」
 一瞬きょとんとしたせつなが、頭の中で、もう何度も熟読してほとんど暗記してしまった辞書のページをめくる。そして、今度はせつなが苦笑しながら、ゆっくりと首を横に振った。
「……ううん、そんなことないわ」


32 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/04/22(土) 18:29:45
(上の空――他のことに心が奪われて、今必要なことに注意が向いていない様子――。あの時の私は、まさにそんな状態だったわ)

 脳裏に浮かぶのは、この姿でラブに初めて会いに行った時のこと。せつなは変身アイテムを奪う目的で彼女に近付き、ずっとその機会を窺っていたのだが。

――お願いっ! せつな、選んで。
――せつなは、“これ”って思うのはどれ? 試しに“せーの”で、一緒に指差そう? ねっ、それならいいでしょう? そうしよう? そうして!

 商店街の福引で“幸せのもと”を当てるのだというラブの言動に振り回されて、福引の結果に一喜一憂して、自分も“幸せのもと”が何なのか知りたいと思って……。
 あのひと時だけは、変身アイテムを奪うという目的が、頭から完全に抜け落ちていた。そしてラブと会うたびにそんな時間が少しずつ積み重なって、そして――。

(今ならわかる。あの時に心を奪われた“他のこと”を考えてた時間の方が、実はとっても大切な時間だったのよね……)

 せつなはおもむろに立ち上がると、ラブの肩にポンと手を置いた。
「さあ、ラブ。帰って課題を済ませるわよ」
「えぇ〜!? 今日じゅうに終わらせるの?」
「ええ。パジャマパーティーの間、ずっと勉強のことが気になっているのは嫌でしょ?」
「それはぁ、そうだけど……」
「大丈夫よ、私がちゃんと教えるから。私だってパジャマパーティー、何も心配しないで精一杯楽しみたいもの」
 まだぐずぐずと座ったままでいたラブの顔が、その言葉を聞いてパァッと輝いた。
「ホントっ!? せつな、最後まで教えてくれる?」
「もちろん」
「よぉし。じゃああたし、頑張っちゃうよ!」
 さっきまでの嘆きっぷりが嘘のように、ラブが勢いよく立ち上がる。
「頑張れ、ラブ」
「ファイト」
 美希と祈里がラブにエールを送り、せつなもラブの顔を見つめてニコリと笑う。
 四人の頭上には茜色の空が、雲を染めて美しく広がっていた。


〜終〜


33 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/04/22(土) 18:30:18
以上です。
では次の方、どうぞ!


34 : makiray :2023/04/24(月) 21:51:45
共助と自助
----------
「一日も早く、エルちゃんをスカイランドに帰してあげたいんです。先輩の皆様のご協力をお願いします」
「飛んでいけばいいんじゃないの?」
 と言ったのは来海えりかだった。
「っていうか、プリキュアなのに飛べないの?」
 ソラ・ハレワタールの眉間が強張ったのを見た花咲つぼみが、えりかを連れて帰った。
 次に手を挙げたのはルールー・アムールだったが、ドリルとドライバーを持って改造手術を始めようとしたため、ソラは丁重にお断りした。
「わたしが連れてってあげる」
 朝日奈みらいの箒に飛び乗る。魔法の箒は急上昇を続けた。
「う…」
 ソラが唸っている。みらいもやや息苦しさを感じるようになった。
「みらい…さん」
「ぐ…ぐ…」
「ギブです。ギブ!」
 空気が薄くなり、呼吸ができなくなったふたりはすごすごと地上に戻った。
「だったら、ロケット ルン!」
 羽衣ララのロケットに乗り込む。
「AI、ソラシド市の上空をスキャンしてスカイランドの位置を特定するルン」
〈承知しました〉
 それきり沈黙する AI.
「AI?」
〈ソラシド市上空にそのような領域を確認できません〉
「そんなことは!」
「レーダーで探知できるようなものではないのかもしれないルン」
「シロップに頼んでみよう」
 夢原のぞみの提案でシロップが呼び出された。
「スカイランド?!」
 だが、シロップの顔は青ざめている。
「ご存じなんですね!」
「知ってるけど…ごめん。ほかを当たってくれ」
「お願いします! 早くエルちゃんを帰してあげたいんです!!」
「わかるけど…」
「お願いします!!」
 ソラが深々と頭を下げる。
「あそこ、普通の方法じゃいけないんだよ」
「だからシロップに頼んでるのに」
 のぞみが助け舟を出す。
「魔法の薬みたいなのがいるんだよ」
「魔法の薬…ですか?」
「ましろさんが材料を集めて、ヨヨさんが作ってる、あれですよね」
「いや、その人は知らないけど…。
 とにかく、それを翼に塗らないとだめなんだよ」
「そうなんですか。でも、塗れば行けるんですよね。ヨヨさんが一生懸命作ってます」
「あれはだめだ!」
「あれ、って」
「…ル」
「ル?」
「…エル」
「はい。エルちゃんをおうちに返してあげたいんです」
「カエルだよっ!」
 シロップが怒鳴った。
「干したカエルのエキスだけはダメだっ!!」
「そこをなんとか」
「悪い。蕁麻疹が出るんだ。ほかを当たってくれ」
 のぞみが、ははは、と笑いを引きつらせる。ほかの当てはないようだった。
「自分で考えます…」
 ソラはがっくりと肩を落としてとぼとぼと歩き出した。


35 : 名無しさん :2023/04/24(月) 22:56:28
>>34
エルちゃんがスカイランドに帰るまでにはまだ時間がかかりそうですね……。
あと9か月くらい?


36 : 名無しさん :2023/04/25(火) 15:11:39
>>34
即退場のえりかに脱帽。
即身成仏寸前のみらいに脱糞。


37 : 名無しさん :2023/04/26(水) 15:27:37
>>33
なるほど「上の空」だったんですね
浮かれるラブ、突っ込む美希、見守るブッキー、省みるせつな、短いお話の中に4人の日常が溢れててとても楽しく読ませていただきました!


38 : kiral32 :2023/05/05(金) 09:28:18
こんにちは、今年も競作開催ありがとうございます。
Splash☆Starで2レス投稿します。


39 : ヒーローは誰? 1/2 :2023/05/05(金) 09:29:12
その日もいつものように、薫はPANPAKAパンを訪ねていた。ダークフォールとの戦いが終わってから半年。
満は暇があればPANPAKAパンに来てパンの焼き方を習っているし、薫も他の用事がなければ大抵満にくっついて来ている。
いつもならここに舞もいるところだが、今日は親戚の家に行く用事があるという話で来ていない。
というわけで、薫はPANPAKAパンの庭のテラス席でみのりと向かい合って座っていた。
咲と満は、パンが焼きあがるのを店の中で待っているはずである。

「ねえねえ、薫お姉さん」
みのりが満面の笑みを浮かべて薫に声をかける。テーブルの下ではぶらぶらと足を揺らしながら、今こうして
薫と一緒にいるのが楽しくてたまらないという様子だった。

「ヒーローって誰だと思う?」
「え?」
薫はきょとんとした表情でみのりを見る。ヒーロー。言葉として知らないわけではない。
日本語では「英雄」だっただろうか。誰かを守ったとか、戦いの中で一番すぐれた働きをしたとか、
そんな意味の言葉だ。

「あのね、図工の課題なの。『ヒーロー』を絵に描いてきなさいって。
 でも、映画やテレビの番組に出てくるようなヒーローはダメで、自分にとってのヒーローでって。
 絵ができたら、クラスのみんなの前で自分にとってどういうヒーローか説明するんだって」
みのりが補足する。
「ああ、それで……」
薫が頷くと、
「スポーツ選手を描くって言ってる友達もいるんだけど、なんかピンとこなくて。薫お姉さんだったら、
 誰がいいと思う?」
「咲と舞ね」
薫が即答すると、みのりは「へっ!?」と意外そうな表情を浮かべる。
「お姉ちゃん!? なんで!?」
「だって、」
「はーい、お待たせ」
2人の間に割り込むようにして、満がパンを載せた大皿を持ってきた。今日はクリームパンを焼いたらしい。
焼きたてのパンの香りがふんわりとあたりに広がる。

「ねえ、満お姉さんにとってヒーローって誰?」
みのりはパンを手に取ると今度は満に尋ねる。課題のことも説明すると、
「咲と舞ね」
と満は答えた。

「えっ、満お姉さんも!? なんで!?」
「だって咲と舞は」
と薫が言いかけたところに、満が言葉をかぶせる。
「ほ、ほら私も薫も転校してきたでしょ。咲や舞が話しかけてくれて友達になれたから、だからね」
と満は大急ぎで言って、余計なことは言わないでよとばかりに薫をじろっと見てからまたすました顔に戻った。
「うーん、そういうことかあ……」
みのりは納得はしたものの、自分にとっての「ヒーロー」にはまだつながらないでいた。


40 : ヒーローは誰? 2/2 :2023/05/05(金) 09:29:54
「ねえ、お母さん。お母さんにとってのヒーローって誰?」
その日の夕食後。みのりは一日の仕事を終えてゆったりとリラックスしているお母さんに今度は聞いてみる。
図工の課題だという説明も添えて。

「そりゃ、お父さんかしらね」
「なんで?」
「お父さんは今はああだけど若い頃はすらっとして格好良くて、すっごく優しかったんだから」
……と、いつもの昔話が始まりそうになったのでみのりはそそくさと話を打ち切って
咲と一緒に使っている子供部屋に戻った。

―― 一応、お姉ちゃんにも聞いてみようかな……

これまで聞いてきた中にあまりヒントになりそうな答えはなかったが、咲が部屋で勉強していたので
念のために聞いてみることにする。
ヒーローという課題のことも告げて咲に聞くと、咲は自分の宿題の手を止めてみのりに向かい合った。

「私だったら舞かなあ」
と咲は答える。
「舞おねえちゃんはヒーローって言うよりお姫さまって感じじゃない?」
みのりがそう尋ねると、「分かってないなあ」とでもいいたそうに咲はにやにやとした。

「舞ってああ見えて、すっごく強いんだよ。芯が強くて、諦めなくて。
 舞がいなかったら、お姉ちゃん――」
と咲はそこで口を閉じて、ええと、と言い直した。
「舞がいなかったら、お姉ちゃんできなかったこともいろいろあったかも」
「うーん」
みのりはまだ納得がいかないような表情だったので、咲はさらに付け加える。

「先生は、『自分にとってのヒーロー』って言ったんでしょ? 
 だったらみのりにとって、一番格好いい人とか、一番守ってくれる人とかでいいんじゃない?」
「やっぱりヒーローって、戦隊ものとかのイメージが抜けなくて……」
「でもそれだとダメなんでしょ? いざという時にみのりが頼りたい人とか、憧れている人とか、
 そういう感じで考えればいいんじゃないかなあ」
みのりはまだいろいろと悩んでいるような顔だったが、「もうちょっと考えてみる」と咲に答えた。

 * * *
 
数日後。
みのりの小学校では担任の先生が、
「みんな課題の絵は描いてきた? じゃあ、順番に一人ずつ前に出てどうしてその絵の人がヒーローだと思うのか説明してください」
と声をかける。

生徒たちが描いた絵を手に持ち、順番に説明を始める。時々みんなの間には笑い声が起きたり、
感心するような声が起きた。

みのりの番が来た。みのりは自信作を手に教室の前に出ると、クラスのみんなにその絵を向けた。

「私はお姉ちゃんの友達の、薫お姉さんを描きました。薫お姉さんはいつも私の話をちゃんと聞いてくれて、……」
みのりから何度か「薫お姉さん」の話を聞いたことがあるクラスメイト達は、頷きながらみのりの話を聞いていた。

-完-


41 : kiral32 :2023/05/05(金) 09:30:54
以上です。ありがとうございました!


42 : 名無しさん :2023/05/05(金) 10:19:51
>>41
kiral32さんのS☆S来ましたね!
互いが互いのヒーローっていい。舞がいたらそりゃあ……ね(笑)


43 : Mitchell&Carroll :2023/05/07(日) 00:48:08
 『空』

 右か?
 左か?
 正面か?
 上か?
 下か?

 ―――なおの蹴ったボールは、と言うより、なおの右脚はボールを蹴る直前に地面の天然芝をしこたまに抉(えぐ)り、それ以前に左足は外側にグネり、更にその前に右足も内側にグネっている。これではボールはまともに飛ぶ訳が無い。しかも、PKの開始を合図する審判の笛が鳴る前後に、なおのお腹の虫が試合会場全体にこだましている。それを観客席で聴いていたれいかは、直ぐさま「駄目だ」と直感した。

 最後のキッカーとしてのPKを外したなおは、その場に倒れこみ、相手チームとそのサポーターの歓声に負けない位のお腹の虫を響き渡らせている。れいかは、係員の制止を振り切ってなおの元へ駆け寄り、干し肉を口移しで与えてやった。おかげでなおは一命を取り留める事が出来たのだが、また直ぐにお腹の虫を連発した為、担架に乗せられて試合会場近くのファミリーレストランに運ばれて行った。

 そこでのれいかの説教は熾烈を極めた。
「いいですか?なお。サッカー選手たる者、サッカーの道を確実に会得し、その他の色々なスポーツを身に付け、サッカー選手として行なわねばならない道についても心得ぬところが無く、心に迷いが無く、日々刻々に怠ること無く、心と意の二つの心を研(みが)き、観と見の二つの眼を研ぎ澄ませ、少しも曇りなく、一切の迷いの雲が晴れ渡った状態こそ、正しい空であると言う事が出来るのです。この道理をよく弁(わきま)えて、真っ直ぐなところに則り、正しい心を道として、サッカーの道を世に広め、正しく、明らかに、大局をよく掴んで、一切の迷いが無くなった空こそがサッカーの究極であり、サッカーの道を朝鍛夕錬する事によって空の境地に到達できるのです。サッカーの智恵、サッカーの道理、サッカーの道が全て備わることにより、はじめて一切の妄念を滅し去った空の境地に到達することが出来るのです」
 れいかの言っている事を理解する為に、なおの脳はパフェ3人前分の糖分を要した。

 数日後、なおにリベンジの機会が訪れた。シチュエーションは、あの時と全く一緒だった。

 右か?
 左か?
 正面か?
 上か?
 下か?

 ―――なおは、足元の天然芝を一掴み、口に運んだ。ゆっくりと咀嚼して、相手ゴールキーパーを存分に焦(じ)らせた後に蹴り出されたボールは、見事に相手ゴールキーパーごとゴールネットを突き破った。以上が、20xx年○○五輪・女子サッカー3位決定戦での出来事である。


44 : 名無しさん :2023/05/07(日) 07:44:00
>>43
「完!」の後ろに魚眼レンズに映った日本晴れの空が広がっておる!


45 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/07(日) 21:26:49
すみません、猫塚です。
書けている所まで投下させていただきます。

タイトルは『ソラはヒーロー失格である』
全年齢向け、カップリングは、ましろ×ソラ

4レスお借りします


46 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/07(日) 21:27:39
『ソラはヒーロー失格である』

 それは引力にも似た感情だった。
 ―― ソラ・ハレワタールと一緒にいたい。
 虹ヶ丘ましろの心は、いつも無意識のうちに彼女に惹かれている。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

 ましろがチラリと向けた視線の先に、凛々しく澄んだソラの横顔。
 彼女は、現在テレビで放送中のヒーロー映画『トップ・マッスル』へと、真剣なまなざしを注ぎ続けている。
 いつもお世話している赤ちゃんのプリンセス・エルちゃんを、同居中の祖母であるヨヨに預かってもらったのは正解だった。ソラの心は完全に『トップ・マッスル』に奪われてしまって、とてもお世話どころではない。
 リビングに設置された大きめのソファーに隣り合って座り、居候中の彼女と共にテレビ鑑賞を続ける。
 ―― が、ましろの関心は『トップ・マッスル』よりも、ソラのほうへ向いていた。

(……集中してるなぁ、ソラちゃん)

 CMに入ると、こっちを向いて作品の感想をあれやこれやとしゃべりかけてくるものの、映画が再開された途端、講義を受ける学生みたいに姿勢を正してテレビへと向き直る。
 ましろはそんなソラが微笑ましくて、ついつい彼女の横顔を眺めてしまう。

 ちょうど映画はクライマックスに差し掛かろうとしていた。
 時空侵略団の総督が駆使する多重能力 ―― 重力操作、連鎖爆裂、電磁砲撃、精神汚染、物質生成などを組み合わせた広範囲飽和攻撃を前に、地球のヒーローチームが次々と倒れていく。主力である半神や最高位の魔術師、最強のサイコキネシスの使い手も例外ではない。
 だが、ヒーローチームを束ねるトップ・マッスル ―― 筋トレでひたすら体を鍛えあげたマッチョ体型のリーダーだけは、何度攻撃を食らおうとも立ち続けていた。
「なぜ倒れぬ?」と問う総督に対し、トップ・マッスルが答える。

「幼い頃、ひどく体の弱かった私は、それでもいつかヒーローとして世界を救う自分を夢見て筋トレを始めた。
 ……くじけそうになるたび励ましてくれた母、
 なぞのスタミナ料理で応援してくれた祖父、
 誕生日に、手作りのトレーニング機器をプレゼントしてくれた幼なじみ、
 効果的な筋トレについて夜遅くまで調べ上げ、それを教えてくれた悪友、
 いつも筋トレに付き合ってくれた曾祖父……、
 たくさんの人が、私の筋トレを……ヒーローになるという夢を支えてくれた。
 私にとって筋トレとは、皆とチカラを合わせて作り上げていく未来への希望 ―― 、
 貴様がどれほど強大でも、この希望で築かれた筋肉を砕くことなど出来ないッッ!!」

 うん、とテレビの前でましろがうなずいた。
 ―― 体が無事なのはその理屈で通るとして、被ったマスクやピッチピチのヒーロースーツまでも無傷なのはどうしてなのかな? えっと素材? 素材の問題?

 心の中で首をひねっていたら、視界の端に、ソラの頬を伝う涙の線が見えた。

「……………………」

 あえて何も言わない。
 ましろは彼女の手の甲に、スッと手のひらを重ねた。言葉ではなく、ぬくもりで伝える。
 ソラもまた、その手の甲に手のひらを重ねてくる。
 ……彼女の両手の体温に手を挟まれたまま、映画鑑賞を続ける。
 おうちデートしてるみたいで楽しい、と思いながら。


47 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/07(日) 21:28:31

 不屈のトップ・マッスルに負けじと他のヒーローたちも次々と立ち上がり、総督との激烈な決戦を制して、映画はいよいよエンディングを迎えようとしていた。
 ヒーロー活動に専念するために、これからも幼なじみへの気持ちを胸に秘め続けていこうとするトップ・マッスルを、仲間である半神が粗野に怒鳴りつける。

「自分の大事な想いを押し殺したまま生きる奴なんざヒーロー失格だッ!
 この先もヒーロー続けていく気なら、覚悟をきめて今すぐ伝えてこいッ!」 ―― と。

 テレビから聞こえてきたセリフに、まるで自分が頬を張られたような衝撃を受けたソラ。ハッとした顔になって無意識につぶやく。

「想いを…伝える……」

 ふと気になって、ましろがチラリと隣へ視線を向けた。
 真剣なまなざしをテレビに固定したまま、何かを深く考え込んでいるみたいなソラの表情。
 しばらくすると、彼女の顔が突然ましろのほうへと向いた。

「ましろさん、……わたしの想い、伝えてもいいですか?」

 入浴後ということもあって、いつもは頭の右側でサイドテールにまとめられている長い髪も、今はおろされている。そのせいか、普段と雰囲気が違う。
 それに合わせて、きりっと整った容貌 ―― 年相応の幼さを残しつつも、気高い生き方に磨かれてきた面立ちに、ましろが思わずたじろいでしまう。

「は…、はい」と、かろうじて返事をした彼女の胸が、予期せぬ早鐘を打ち始めた。
 ―― あれ? これって……どういうコト?
 いったん視線をソラから外してテレビへ向き直る。
 テレビの画面では、トップ・マッスル ―― 美しい筋肉の鎧をまとった女性ヒーローが、幼なじみのたおやかな肢体を抱きしめて、熱いキスを交わしていた。
 ましろ、顔が真っ赤になる。……と同時に、心臓の高鳴りが大きくなった。

「ましろさん」
 と、もう一度名前を呼ばれた。
 心臓はバクバクしてるのに、「はい」と答える自分の声は妙に落ち着いていた。
 もしかすると、ソラとだったら ―― と覚悟をきめてしまったのかもしれない。
 彼女の顔を見つめなおして、言葉の続きを待つ。
 軽く深呼吸をしたソラが、ましろとまっすぐに視線を重ねて口を開いた。

「どうかわたしと一緒に、ムキムキマッチョになってくださいっ!」
「…………んんっ!?」


48 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/07(日) 21:29:15

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

 ぜーはー……ぜーはー……と、ましろは肺が疲労で枯れてしまったような呼吸を繰り返す。
 休日の早朝、ソラと一緒にランニング。ただし、彼女のハイペースな走りに物理的に牽引されるカタチで。
 二人の胴と胴を繋ぐ2メートル弱のロープは、折り返し地点に着くまで常にピンと張った状態だった。
 ふらふらになった両脚をなんとか動かして、ようやく止まってくれたソラの背中へと追いつき、ぐったりと張り付くみたいに上半身をもたれかけさせた。体力が完全にゼロだ。
 そのがんばりを労(ねぎら)うように、ソラが背後に声をかけた。

「お疲れさまです、ましろさん」

 彼女の熱くなった背中に頬をくっつけたまま、ましろが答える。

「ねえ、ソラちゃん……、前に『わたしは今のわたしでいい』って言ってくれたよね」
「はい、反省してます。わたしの至らなさのせいで、ましろさんがムッキムキになる未来が危うく消えてしまうところでしたね」
「いやいや、そんな未来、わたし全然気にしてないから! 消えてもソラちゃん責めないから!」
「…………優しいんですね、ましろさん」

 ともだちに気遣いさせてしまった自分が情けない ―― と勘違いしたソラが、きりっと表情を引き締めて天を見上げた。そして誓う。

「ましろさんの筋肉がマッチョを極めるまで、わたしはもう止まりませんッッ!」

 この勢いだと、今からハードな筋トレ祭りが始まりかねない。ましろがあわてて話題を変える。

「そういえば今日、エルちゃんのために絵本買いに行くって約束だったよね。覚えてる?」
「あ、そうでしたね」
「うんうんっ、そうだったよ! じゃあ、朝ごはん食べて、おでかけの準備しよっか!」
「はいっ。では、ましろさんも回復したみたいですし、早く家まで戻りましょう!」

 ―― あっ。

 ましろの顔が引きつる。ここがまだ折り返し地点だということを失念していた。
 何かをいう間もなく、二人の体を繋ぐロープが再びピンと張った。

「さあっ、飛ばしますよ!」
「ひいいーーっ」


49 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/07(日) 21:30:00

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

「えるっ!」

 幼い声に注意されて、ハッと我に返る。
 たすき状に肩掛けされたベビースリングに収まってソラに抱っこされているエルちゃんが、緑をたたえた湖水のような瞳でましろを見上げていた。
 一瞬だけ目をつむったつもりが、立ったまま寝落ちするところだったようだ。

「どうしたんですか、ましろさん。……もしかして疲れてます?」
「だいじょうぶダヨ〜」
 と、むりやり笑顔を作って答えるましろ。いまだ体力は消耗しきっている。正直、ベッドで横になりたい。
 ソラシド市の中心部近く ―― 目の前の商業ビルが、ましろたちの目的地だった。ゴールは、ここの6階に入店してある型書店。そこまでがんばろうと、己に言い聞かせる。
 ……エントランスホールを通り過ぎ、エスカレーターのある場所を通り過ぎ、

「んっ?」

 首をかしげて足を止める。
 ソラが片手でしっかりとエルちゃんを抱っこしつつ、もう一方の手を伸ばして、笑顔でましろの手を握ってきた。

「ましろさん、なんでもフレイル予防の一環として、今日は特別に非常階段を開放してるとのコトです。せっかくですから、わたしたちも使わせていただきましょう」
「えるーっ!」
「ふふっ、エルちゃんもやる気満々ですね。わたしたちも行きますよ!」
「え…、うそ、本屋さんって6階だよ? 本気で階段で行くのっ!?」

 問うだけ無駄な気がしたが、それでも口にせずにはいられなかった。
 さも当然のように、ソラがましろの手を引いて非常階段を上り始める。

(ひいいいーっ……)

 ふくらはぎに鉛でも詰まってるのかと思うぐらい、両足が重い。すぐにでもへたり込みたいという気持ちに駆られながらも、階段を一歩一歩上がっていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 一体自分が階段を何段上がったのか、まったく記憶がない。
 書店の入り口の傍で、がくがくしてる両ひざを両手で押さえてブッ倒れそうになっている。そんなましろへ、ソラが溌剌とした笑顔を向けて、右手の親指をビッと立ててみせた。

「ましろさん、ナイスマッスル!」
「ま…、まっするぅ〜…」

 まだ顔を上げる気力も回復していないましろが、ゾンビみたいな動きで右手を持ち上げ、同じように親指を立てる。

(……これじゃあ、わたしがフレイルだよ。お婆ちゃんになった気分だよ)

 心の中で愚痴りながらも、しばらくしてヨロヨロと歩ける程度には回復したましろが、

「お…お待たせ、エルちゃん。じゃ、行こっか」
 と、ベビースリングに収まったエルちゃんに微笑を向けた。

 しかし、エルちゃんは、ましろをジッと見上げたまま何も言わない。
 ソラも、ベビースリングごとエルちゃんを抱っこしてなければ肩ぐらい貸してくれただろう。そういう顔でこっちを見ている。
 気付いたましろは、右手の親指を立て、「うん、マッスル!」と、さっきよりも元気な笑顔を作ってみせた。せっかくのおでかけ。最後まで楽しい雰囲気で過ごしたい。


50 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/07(日) 21:33:01
今回はここまでです。
残りはロスタイムを使用して投下していきます。


51 : 名無しさん :2023/05/07(日) 21:55:03
>>50
ましろん受難!
ソラの想いの根幹はどこにあるのか……。
続きを楽しみにしています!!


52 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/05/08(月) 00:26:36
こんばんは。
少し遅れましたが、例年通りここで一旦緩く締めさせていただきます。
2レスほど使わせて頂きます。


53 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/05/08(月) 00:27:22
「ヒーローって、本当に素晴らしいですねっ! まだまだ色々なお話が聞きたいです!」
 プリキュアたちが入れ代わり立ち代わり話してくれるお話に、愛用のノートを片手に身を乗り出して聞き入っていたソラが、その勢いのままにおむすびにかぶりつく。
「ソラちゃん、今日はいつも以上に全てにガッツリだよね〜」
 いつもの調子でのんびりとツッコみつつ、ましろも先輩たちのテンションに当てられて、その頬は紅潮しっぱなしだ。

「ヒーローなんて言っていいかわからないけど、考えてみればあたしたち、みんな戦いの中で色んな想いに触れて来たんだよね」
 ずらりと並べたチョコレートをせっせと口に放り込みながら、なぎさがモゴモゴと口にする。その口元を紙ナプキンで拭ってやりながら、ほのかがにこやかに言葉を繋いだ。
「それに、いろんな人からいろんなことを教わったわ。勿論仲間からも教わったし、応援してくれてる人たちや、時には戦っている相手から教わることもあった」
「なるほど……。その全てが、ヒーローへの道に繋がっているんですねっ」
 おにぎりをくわえたまま、ソラはメモを取るのに余念がない。

 一方、ツバサは鳥の姿になったり人間の姿になったりしながら嬉しそうに会場をとびまわっていたが、今は人間の姿で、ことはとアロマと三人で空について語り合っていた。
「それにしても、空って言葉にあんなに色んな意味があるとは思いませんでした」
「わたしもびっくりしちゃった。れいかちゃんのお話は、あまねちゃん家のパフェをいーっぱい食べてもちっとも分からないんだけど」
「ボクには全部わかったロマ!」
 そう言いながら既に何個目かわからないパフェを頬張ることはの隣で、アロマが澄まして胸を張る。
「それで、他にはどんな「空」のお話があるんですか?」
 ツバサが目を輝かせてそう言った時、会場の一角がにわかに騒がしくなった。

「追加のサンドイッチ、お持ちしました」
「パンダ軒のラーメンも、伸びないうちにどうぞ〜」
 ここねとらんが両手にトレイを持って現れて、会場から歓声が上がる。だが、それだけではない。

「なごみ亭のキッチンをお借りして、大森ご飯の『お話てんこ盛り弁当』作っちゃいましたぁ」
「ここねちゃん家のお庭にキラパティをオープンして、空色のライオンアイスを作って来たよ!」
「ドーナツハートは旨さのしるし。揚げたてフレッシュ! お嬢ちゃんたち、ドーナツいかが?」
「なんでカオルちゃんがここに!?」

「お話もご馳走も、まだまだ終わりそうにないね〜」
「うわぁっ、素敵です!」
 ソラとましろが笑みと笑みとを見交わして、先輩たちに負けじと駆け出していく。

 そろそろお開きかと思われたお話会は、まだもう少し続くらしい。そしてお話会が終わったその後は、皆それぞれの場所に戻り、またいろんなドラマを繰り広げていく――。
 来年また同じ空の下、新たなテーマ、新たな場所で、皆で幸せな時間を過ごせますように!


54 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/05/08(月) 00:29:13
これにて、『オールスタープリキュア!ひろがるスカイ!春のSS祭り2023』一応の閉幕です。皆様、素敵な作品をありがとうございました!
このスレッドは例年通り、正規の閉幕日(5/7)から一カ月の間このままにさせて頂きます。
「作品に優先するルールなど存在しない」というのが、当掲示板と保管庫のポリシーです。間に合わなかった方の作品も、投下していただけたら企画内の作品として保管いたします。
「今からお話思いついた!」って方も勿論ウェルカムです! 140文字SSもお気軽にどうぞ。

それでは皆様、もう少しのお楽しみを。そしてまた来年も、皆様にお会いできることを心から願っております。
どうもありがとうございました!!


55 : Mitchell&Carroll :2023/05/11(木) 02:10:01
140文字に収まった…はず。

『SKY×FAMILY』

やばいよやばいよ、やばやばいよ!ゴイゴイスーで、すごごごーいシン・番組『ヒメルダ・ウインドウ・キュアクイーン・オブ・ザ・ブルースカイファミリー』、毎週天王曜日・朝4時頃放送!初回は720分拡大スペシャル!!リモコンのPボタンを押して豪華賞品ゲットだよ!そんなこと…あるけど!!


56 : 名無しさん :2023/05/11(木) 19:57:18
>>55
朝の4時から夕方の4時まで!
流石に拡大しすぎでやばやばいよ〜!!


57 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/14(日) 22:51:32
猫塚です

まだ完成ではありませんが、
『ソラはヒーロー失格である』の続きを投下させていただきます。

今回は2レスお借りします。


58 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/14(日) 22:52:31

 いざ、書店のなかへと足を進めるましろたち一行(いっこう)。
 お目当ての絵本のコーナーにたどり着く前に、ソラが『トップ・マッスル』を始めとするアメコミの揃っている棚を見つけてしまう。

「見てください! あれ、『トップ・マッスル』じゃないですか!」

 さっそくソラが進路変更 ―― しようとするのを、「えるっ!」と、エルちゃんがちっちゃな両手のこぶしを突き出して抗議。
 ましろもエルちゃんに加勢。

「ほら、ヒーローは、まず自分よりも小さな子を優先してあげなきゃ」
「ううぅ…、そうですね……」

 あとで寄ればいいだけなのに、今生の別れみたいな表情になっているソラがかわいい。ましろは思わずクスクス笑ってしまった。

「エルちゃんの絵本選んだら、次はソラちゃんの『トップ・マッスル』ね」
「ハイッ、買っちゃいますよ! 10冊といわず100冊ぐらい!」
「いや、買うのは1冊だけだよ?」

 絵本のコーナーでは、ソラと一緒に絵本を手に取って、エルちゃんに見せてやる。
 ……色々ある絵本を見て回るうちに、ましろたちもだんだん楽しくなってきた。

「ちっちゃい子供向けなのに、言ってることは結構大人向けだよね」
「絵も最初はとっつきにくかったんですけど、見てるうちに味が出てきましたね」
「えーるー」

 よくわからないが、エルちゃんも同意。
 興味は尽きないらしく、ベビースリングから少し身を乗り出して、楽しそうにキョトキョト周りを見渡す。やがて、「えるっ」と目を輝かせ、1冊の絵本へと向かって小さな手を伸ばした。
 届かないその手の代わりに、ましろが取ってやる。

「なつかしいなぁ、『しらゆきひめ』。わたしも子供の頃、読み聞かせてもらってたから。
 ―― エルちゃん、これがいいの?」
「えるぅ!」
「白い雪の姫。名前から察するに、氷結系の能力を操る女性ヒーローですね」
「ソラちゃん、ちょっとヒーローから離れよっか?」

 ましろが幼い頃に買ってもらったものよりも、絵柄がずっと可愛くなっている。
 ページを開いてあげると、エルちゃんが天真爛漫な笑みを満面に広げた。

(うん、これで決まりかな)

 心の中でうなずき、値段を確認する。

「えっと税込みで……」

 子供向けだから、そうは高くないだろうと思い込んでいたましろが一瞬固まった。
 せめて千円を切ってくれないと。
 今日の二人の予算的に、昼食のコトも考えると『トップ・マッスル』の漫画の購入が難しくなる。
 とっさにましろが別の絵本を探そうとしたが、

「ましろさん」

 と、ソラが微笑みつつ、エルちゃんには気付かれないよう小さく首を横に振ってみせた。
 でも…と、ましろがためらう。しかし、まっすぐに重ねてくるソラの瞳に負けて、少し申し訳なさそうに微笑み返した。
 そして、なおも次のページをせかしてくるエルちゃんに優しくたずねてみる。

「エルちゃん、この絵本でいい?」
「えるっ!」

 エルちゃん、上機嫌の返事。
 購入する絵本が決定した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 そろそろ時間は昼の12時近い。
 ついでにいうと、ましろの体力も限界に近い。
 商業ビルをあとにして、ソラと一緒にお昼を食べる店を探す。

「ましろさん、あのお店なんてどうですか?」

 ソラが指差す方向を、ましろもぼんやりと見る。

(あそこのパスタ屋さんって、窯焼きチーズパスタがすごく美味しいって聞いたことある。
 ……窯焼きチーズパスタかぁ、わたし、まだ食べたことないなぁ)

 疲労でぐったりしていた胃袋が、空腹にうずいてきた。
 ―― フフフッ。今日は朝から大変だったし、お腹いっぱい食べちゃお。
 そんな事を考えながらソラの後ろを歩いていたら、パスタ店を通り過ぎ、隣の店へと入っていた。
 店名は【 がっつり益荒男(マスラオ)食堂 】


59 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/14(日) 22:53:05

 ……炭水化物、肉、炭水化物、肉、申し訳程度に添えられた漬物、肉、炭水化物、
 気がついた時には、なぜかカロリーをひたすら胃袋に叩き込むバトルが始まっていた。

(あれ? わたし、お昼ごはん食べてるはずなんだけど……。
 何、これ……)

 疑問に思いつつ、ましろはひたすら箸を動かしていた。
 どうみても量が体育会系向けである定食。今さらだが、ソラが注文した時にとめるべきだった。
 テーブル席の反対側では、持参した離乳食をエルちゃんに食べさせ終えたソラが、仲良く遊んでいる。ちなみに彼女は、ましろと同じものをほんの数分で食べきっていた。

(ええい、わたしだって!
 うわああああああっ、マッスルーーっっ!!)

 なかばヤケクソになったましろが心の中で叫び声をあげ、猛烈に箸を動かす。
 ―― なんとか完食。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 店を出てすぐに、うぷ…っ、とましろが口を押さえた。
 胃袋の消化機能がほぼダウンしている。

 ―― うん、でも、だいじょうぶ。おとなしくしてれば問題ない。
 ―― 走ったりとかしなきゃ、家に帰るまでもちそう。

 よしっ、がんばろうと自分に言い聞かせた。……なのに、その次の瞬間、ソラがましろの手を引いて走り出そうとするからたまらない。

「ちょっ…、ソラちゃん、ストップ! ストップ!」
「ましろっ、アレ!」

 エルちゃん抱っこしてる状態で走ったら危ないでしょ! ―― と、さすがに説教しかけたましろが、思わず言葉を呑み込んでしまった。

 さん付けではない、初めての呼び捨て。
 二人の間にあった心理的な距離感がいきなり無くなってしまったみたいで、
 ましろの胸の奥で、小さな喜びが震えた。

 もっとも、それはソラのうっかりだったらしく、続く呼びかけには普通に「さん」が付いていた。

「ましろさんっ、ほら、あの木ですっ。見てください!」
「見えてるから落ち着いて、ソラちゃん」

 えーっと……ホントどういう状況なのかな、これ。
 ましろ、少しだけ顔を赤らめ、ソラから視線を外して悩んだ。
 ソラが見つけて興奮している木は、『マリッジツリー』の通称で親しまれている、ソラシド市のローカルスポットだ。生涯を誓い合った二人に幸せな人生を授けてくれるというジンクスを信じて、現在も何組かの恋人同士が訪れている。
 ましろの手を引くソラが、通行人を縫って『マリッジツリー』へと進んでゆく。

(どうしちゃったんだろ、ソラちゃん……。
 もしかして ―― なんて可能性は無いと思うけど……)

 でも、ちょっとドキドキする。

(ほんとに、もしかして……とかだったら、どうしよう、わたし……)

 この胸の早鐘、ぜんぜん嫌じゃない。
 木の下へ到着したソラが、まぶしく微笑みながら振り返った。

「ましろさん」
「はい」
「この木、もう気付いてると思いますが……、
 ―― トップ・マッスルの実家の裏にあった木にそっくりですよねっ!
 ほらっ、あの力強い枝! トップ・マッスルがヒーローになる前、懸垂に使ってた枝に似てませんかっ? 似てますよねっ!」

「ふーん、そうなんだー。ごめんねー。ぜんぜん気付かなかったなぁ」

 氷みたいに固まった笑顔で答えるましろ。
 胸の鼓動はすっかり冷めきっていた。


60 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/05/14(日) 22:53:52
今回はここまでです。
では。


61 : 名無しさん :2023/05/14(日) 23:31:28
>>60
なんか、ましろの胃袋よりも堪忍袋が持たない気がしてきた……💦
続きをお待ちしておりまする。


62 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/05/27(土) 20:35:10
こんばんは。ロスタイムに失礼します。
テーマ「ヒーロー」で、久しぶりにハピプリ書いてみました。
タイトルは、「笑顔のヒーロー」。
3レスほどお借りいたします。


63 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/05/27(土) 20:35:51
「サイアーク!」
 背中に蝶の羽を付けた巨大なサイアークが、天高く舞い上がる。その足元に広がるのは、ぴかりが丘の児童公園。お散歩に来ていた幼稚園児たちが、揃って鏡に閉じ込められている。
「やれ! サイアーク!」
 オレスキーの命を受け、怪物はその巨大な羽をばさりと羽ばたかせた。
 緑豊かな公園が、見る見るうちに廃墟と化していく。だが、その時――。
「はぁぁぁぁっ!!!!」
 サイアークの横っ面を蹴り飛ばす四つの影。
 予想通り颯爽と現れたのは、もうすっかり顔なじみになった四人のプリキュアだ。

「オレスキー! 子供たちを元に戻して!」
「フン、ヒーロー見参か……今日もカッコつけよって!」
 オレスキーがグッと拳を握ると同時に、空がどんよりと掻き曇る。そして蝶の羽ばたきによって生まれた突風が、容赦なく地上に吹き付ける。プリキュアたちも、たちまち吹き飛ばされて地面に転がった。

「ふぇぇぇ! もう、さいあ〜く……」
「フォーチュン・スターバースト!」
「ハニー・リボンスパイラル!」
 ブランコの支柱に必死で捕まるプリンセスの隣から、フォーチュンが空高く舞い上がる。同時にハニーも、サイアークめがけてリボンを放った。

(スターバーストにリボンスパイラル……どちらもなかなか強力な技だ。だが、このサイアークなら問題はない!)

「飛べ、サイアーク!」
 オレスキーの声と同時に、サイアークが素早く身を躱す。フォーチュン渾身の一撃は轟音と共に空を切り、巨大な羽をぐるぐる巻きにしようとしたハニーのリボンもするりと外れた。

「こうなったら、手っ取り早く浄化しちゃうよっ!」
 プリンセスが何とか立ち上がり、左手を高々と天に掲げる。
「勇気の光を聖なる力へ! ラブプリブレス!」

(いきなり必殺技だと!? 軟弱そのものだったプリンセスだが、最近はかなり手ごわい……。だが、負けはせん!)

「プリキュア! ブルーハッピー・シュート!」
 天駆ける青い光弾。だがサイアークはそれすらもひらりと躱し――。
「え〜、また逃げたぁ!?」
「ハハハ……! ぜ〜んぶ空振りではないか!」
 プリンセスがへなへなと崩れ落ちるのを見て、勝ち誇ったような笑い声を上げるオレスキー。だが、すぐにその顔に焦りの色が浮かぶ。
「じゃあ、今度は確実に当てればいいんだね?」
 棺桶型の鏡が林立する、緑を失った公園――その真ん中に仁王立ちしてサイアークを睨みつけたのは、ラブリーだった。

「ラブリー・ライジングソード!」
「いかーん!」
 オレスキーが思わず声を上げるのをしり目に、ラブリーが燦然と輝く光剣を手にする。
「させるかぁっ!」
 拳で止めようとするオレスキーを、今度はラブリーがするりと躱し、一気に空へと駆け上がる。

「はぁぁぁっ!」
 ラブリーの手の中で、ただでさえ刀身の長いソードが、さらに倍の長さに伸びる。サイアークは逃げようとするが、巨大なソードと、何よりラブリーの気迫に押しまくられて逃げ切れない。そして――。
「たぁっ!」
 気合一閃! 光剣が巨大な蝶の羽を断ち切る。二枚の羽は弾け飛び、それぞれ異なる軌道を描いて、中空でサッと交差してからはらりと地に落ちた。
「サイ? ……サイサイサイ! サイアーク!」
 一瞬の後、羽を失ったサイアークが手足をジタバタさせながら地面に激突する。ラブリーはそれを見て、さっとラブプリブレスを天に掲げた――。


64 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/05/27(土) 20:36:28
「愛よ! 天に帰れ!」
「ご〜くら〜く!」

「ええい……」
 悔しそうに歯噛みしたオレスキーが、ん? と首をかしげる。サイアークを浄化したプリキュアたちが、表情を緩めることなく揃って上空へと飛んだのだ。怪訝そうに彼女たちの動きを目で追ったオレスキーは、その行く手を見て唖然とした。
 すっかり元の緑を取り戻した公園の上には、こちらも元通り澄み切った青い空。だがその真ん中に、何故か十文字の黒い切れ込みが見えるのだ。その一角がまるで紙のようにはためいて、その向こうに真っ黒な闇が見え隠れしている。

「何だこれはぁぁぁ!?」
 思わず大声を上げるオレスキーの視線の先で、四人のプリキュアが剥がれかけた空を押さえる。
「どうしよう! わたし、空まで斬っちゃったのかな」
「ラブリーじゃないわ。あのサイアークの羽で切れたのよ」
「うわぁ、ど、どうするの? これ、やばやばいよぉ!」
「落ち着きなさい、プリンセス。とにかく、元通りにする方法を考えるわよ!」

 頷き合うプリキュアたちを嘲笑うかのように、空の切れ目は徐々に広がっていく。十文字の切れ込みの周りにさらに幾つもの亀裂が生まれ、小さな破れ目があちらこちらに生まれ始める。
 懸命に腕を伸ばして全ての破れ目を押さえようとする少女たち。だが、やがてその一角がまるで紙のようにべろんと捲れ、その向こうに目が痛くなるような深い闇が覗いた。そこからさっきの蝶の羽ばたきとは比べ物にならないほどの強風が吹き出す。
「キャーーーー!!!!」
 たちまちプリキュアたちは悲鳴を上げながら、四人バラバラに吹き飛ばされる。空は再びどんよりと暗くなり、辺りの景色も急速に色を失っていく。

「こ、これは……」
 ゴクリと唾を飲み込もうとして、オレスキーは口の中がカラカラに乾いていることに気付いた。
 荒れ果てた廃墟――それは彼にとって、誰にも騙されず誰にも貶められない、自分だけが頂点に立てる居心地のいい場所のはずだった。幻影帝国の幹部が生み出す景色は皆、その幹部だけの欲望を満たし、他の人間たちの不幸を生み出すものだから。だが今の景色は、そんなものとは受ける印象がまるで違った。
 空にぱっくりと開いた闇の深淵は、ただ無造作にこの世界の全てを消し去ろうとしているように見える。幸せだの不幸だの、そんな感情に振り回される人間たちを、虫けら同然と嘲笑うかのように――。

 身体の奥底から冷たい恐怖が湧き上がり、不吉な予感が止まらない。ともすれば身体が震えそうになるのを、拳をギュッと握って懸命に耐える。その時――色鮮やかな複数の影が、オレスキーの視界に飛び込んできた。
 さっき吹き飛ばされて地面に激突したはずのプリキュアたちが、風の直撃を避け、大回りして再び空に集結したのだ。四方向から空の破れ目を何とか押さえようとしているせいか、今は強風が心なしか収まっている。

(さすがはヒーロー……だな)

 オレスキーの目が、フッと眩しそうに細められた。このとんでもない状況を、それでも何とかしようと必死になっている少女たちの姿は、何だかとても頼もしく、痛いほどに眩しく――。
「だが、いつまで持つか……このままでは――!」
 ついに意を決したオレスキーが、四人の加勢をしに飛び出そうとした、その時。自分を引き留めようとする力を感じて、彼はハッとして振り返った。
 軍服のズボンに取りすがる、いくつもの小さな手――それは鏡から解放されて、怯えて泣きじゃくっている幼稚園児たちだった。

「ふぇぇぇん! おそらがまっくらだよぉ!」
「こわいよぉ……ヒック……こわいよぉ……」
「え〜ん! おうち、かえる〜!」
「うわぁぁぁん!」

「なぜだ……お、お前たち、なぜ俺なんぞに……」
「オレスキー!」
 予想外の展開に呆然とするオレスキーに、空の彼方から鋭い声が飛ぶ。
「こっちは私たちに任せて。子供たちを頼んだわよ!」
「何っ? 俺様に……だと?」
 声の主は、少し前に一対一で対峙したキュアフォーチュン。強い眼差しでオレスキーを見つめ、しっかりと頷いて見せた。他の三人のプリキュアたちも、こちらに信頼の眼差しを向ける。それを見て、オレスキーは再びグッと拳を握った。
「お……おお! 子供たちのことは、俺様に任せてオーケーだっ!」
 高らかにそう叫んだオレスキーが、子供たちを滑り台の陰に避難させ、自分はその前に立ちはだかる。それを見届けてから、プリキュアたちは天女のような姿に――イノセント・フォームに変化した。


65 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/05/27(土) 20:37:06
 再び強さを増していく暴風に、一歩も引かじと歯を食いしばるオレスキー。その耳に、聞き慣れた軽快で美しい音楽の響きが届く。それに混じって、何だか野太い声も聞こえて来て――。
「先輩! 先輩、起きてください! 全く、こんな音楽ガンガン鳴ってる中で、よく寝てられますね……。そろそろ立番の時間ですよっ!」
 スマホから大音量で流れているのは、少女たちの歌声ならぬ目覚まし代わりの賑やかな曲。若い警官に叩き起こされ、オレスキー……もとい、この交番で一番大柄な警官は、仮眠室の硬いベッドで慌てて飛び起きた。


   ☆


 その日の午後――。
 ぴかりが丘の児童公園で、大きな身体を窮屈そうに折り畳み、地べたを這うようにして何かを探している警官の姿があった。
 昨夜のパトロールの時、もうすっかり暗くなったこの公園をうろうろしている幼い兄妹を見つけた。聞けば、妹の方がこの公園でお気に入りのぬいぐるみを失くして、それを探していたらしい。それで彼は、ぬいぐるみは明日必ず見つけてやると請け負って、二人を家へ帰したのだった。

「それで昨晩、この公園の夢を見たのか……? 途中まではリアルな夢だったが、途中から何だかおかしな展開だったな……」
 ブツブツ言いながらベンチの上に一通り目をやって、続いて膝をついてその下をチェック。ブランコとシーソーの下を覗き込み、ジャングルジムの中を確かめ、木々の後ろの雑草の茂みに目を凝らす。

(俺様は――いや、本官はヒーローにはなれん。だが夢の中とはいえ、ヒーローに託されたのだ。子供たちの笑顔は守らねばいかん!)

 ふと夢の中の光景を思い出して、滑り台の裏側を覗いてみると――。
「おお、あったぞ!」
 そこには、昨日女の子に聞いた通りのウサギのぬいぐるみが落ちていた。拾い上げて丁寧に埃をはたき、破れたり汚れたりしていないかを確認する。どうやら大丈夫そうだとわかってホッと息をついたその時、すぐ近くを流れている水路の方から、賑やかな声が聞こえて来た。

「めぐみ! ダメよ、靴のまま水に入っちゃ。ちゃんと靴も靴下も脱がないと」
「そっか! ありがとう、いおなちゃん。うーん、でも裸足だと歩きにくいな……」
「めぐみぃ、ホラ! いざとなったら、わたしの手を掴んでよね!」
「ひめちゃんこそ、一緒に転ばないでよ?」

 いおな、ひめ、ゆうこが見守る中、めぐみが水の中に入って何かに懸命に手を伸ばしている。
 めぐみが掴もうとしているのは、逆さになって水に浮かんでいる日傘だった。どうやら岸辺のベンチに座っている老婆のもので、風にでも飛ばされたらしい。すまなそうに肩を落としている老婆に、ゆうこがニコニコとハニーキャンディを差し出している。
 やがてめぐみが首尾よく日傘を掴んで岸に戻ると、老婆は四人に何度も礼を言って立ち去った。その嬉しそうな笑顔を見て、少女たちも顔を見合わせて、幸せそうに笑い合う。

 物陰からその様子を眺めていた警官は、楽しそうにニヤリと笑って踵を返した。そしてウサギのぬいぐるみを大事そうに胸に抱き、埃まみれの制服のまま、弾むような足取りで去って行った。


〜終〜


66 : 一六 ◆6/pMjwqUTk :2023/05/27(土) 20:37:41
以上です。やっぱり私ハピプリ好きだわ(笑)
ありがとうございました!


67 : 名無しさん :2023/05/27(土) 21:18:20
うわーーーーーーーー!!
好きぃ!! ありがとうございます!!


68 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/06/04(日) 22:12:18
猫塚です。
『ソラはヒーロー失格である』、ようやく書き終わりました。
4レスお借りします。

言い忘れてましたが、ツバサくん登場前のお話です。


69 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/06/04(日) 22:13:11

 けれどソラは気付かず、聖地巡礼で盛り上がるファンのごとく、

「さあ! 今すぐ家に帰って、まずは懸垂100回目指してがんばりましょう!」

 と、ましろの手を引っぱって急いで帰ろうとする。

「ちょちょ…、ちょっとソラちゃん、待って……」

 げんなりした顔でソラをとめようとするましろ。とめても無駄な気がして、内心あきらめてはいたが。
 ―― 唐突に「えーるぅ!」とエルちゃんが大きな声をあげた。ましろの代わりに抗議してくれてるようだ。
 ベビースリングの中で小さな体の向きを変えて、「あめっ! あーめっ!」とソラを叱るみたいに彼女を両手でペチペチ叩き始める。

「えっ……飴?」
「飴じゃなくて、ダメって言いたいみたいだよ。
 ありがとう、エルちゃん。でも、人を叩くのは良くないことだよ。やめようね」

 やんわりとましろがたしなめると、エルちゃんは素直に叩くのをやめた。
 そして、物言いたげな無垢な瞳で見上げてくる。
 こんな小さな赤ちゃんに気を遣わせてしまって申し訳ない、と苦笑するましろ。
 一体何が ―― と目を白黒させているソラに微笑みながら告げた。

「ソラちゃん、今日はもう、筋トレ禁止だから」
「ええーっ、どうしてですか、ましろさん!?
 ローマとマッチョは一日にして成らず。だからこそ毎日の筋トレの積み重ねが ―― 」
「 ―― 禁止だから」

 微笑みを貼り付けた表情を一切変えず、ましろが再度告げた。
 さすがに空気を読んで黙ったソラの隣に並び、ましろは手を繋いだままマリッジツリーを仰ぎ見て、優しい木漏れ日に目を細めた。

「筋トレはともかく、こうやってソラちゃんと一緒にこの木を見るのは嫌じゃないな」
「そうですよね! なんといってもトップ・マッスルが ―――― 」

 目を輝かせて猛烈な勢いでしゃべり始めるソラ。
 ましろは全てスルーした。


70 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/06/04(日) 22:13:57

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 夜。
 夕食後、ソラの部屋でエルちゃんのために、『しらゆきひめ』の読み聞かせ会が行われた。
 ソラとましろ、床に寄り添って座って、ソラがエルちゃんの体を優しく抱っこして支える係、ましろはエルちゃんに見やすいよう横から絵本を差し出して読み上げていく係。
 読み終わったあとも喜んで、もう一回、もう一回とせがんでいたエルちゃんだが、少し眠そうになっている。

「……そろそろお休みの時間だし、エルちゃん、また明日も読んであげるね」
「える…」

 返事に続いて、ふわっ…と可愛らしいあくび。
 ましろが絵本をしまってる間に、ソラが手馴れた様子でエルちゃんが寝る準備を整える。

「ねえ、ソラちゃん」
「はい?」
「今日、わたしもソラちゃんの部屋で寝ていい?」
「え…、いいですけど」
「じゃあ、枕取ってくるね」

 …………部屋の照明を消して、エルちゃんがスヤスヤと寝付くまで、二人は何もしゃべらなかった。一緒のベッドで身体を並べて過ごす。
 別に気まずくはなかった。言葉は交わさなくても別によかった。暗さに慣れてきた目で、視線を交し合っているだけで不思議と楽しい。
 やがて、エルちゃんがすっかり眠っているのを確認したましろが、小声でソラに話しかける。

「ソラちゃんに言わなきゃいけない事があるの。
 ―― わたし、ムキムキマッチョになりたくない」

 一瞬の動揺を経て、ソラがましろの言葉を受け止めた。

「……すみません、てっきり…マッチョこそが全ての女性のあるべき姿だと思って……。
 ましろさんの意思も確かめずに押し付けていましたか……。
 わたしはまだまだ未熟ですね。ヒーロー失格です」

 ソラが自嘲気味に口にした「ヒーロー失格」という言葉に対し、ましろは小さく首を横に振った。そして、彼女の左手を握り、自分の頬のほうへと持ってゆく。

「そんなことないよ。世界中のみんながトップ・マッスルを最高のヒーローだって言ってても、わたしにとっての最高のヒーローはソラちゃんだよ。
 あの日、ソラちゃんと出逢った時から、ずっとそれだけは変わらない」

 まっすぐにまなざしを重ねて言い切る。
 頬に触れる彼女の指の感触。ソラが少し恥ずかしそうに視線を外した。かわいい。
 もっとソラと話したい。微笑みつつ、ましろが話題を変える。

「今日、エルちゃんに読んであげた『しらゆきひめ』ね、わたしが子供の頃の記憶だと、毒リンゴによる永い眠りの呪いを解くのは、通りがかった王子様のキスなの」
「そうなんですか? 絵本だと、しらゆきひめの喉に詰まっていた毒リンゴのかけらが取れたら、普通に目覚めてましたね」
「うん。それが本来のストーリーだったみたい」
「どうして王子様のキスで目覚めるって方向になっちゃったんでしょう?」
「たぶん女の子の憧れを盛り込んだんじゃないかな。ほら、素敵な王子様とのキスって、想像したらドキドキしない?」
「わたしは……、そういうのはちょっと分かりません。ましろさんはドキドキしますか?」

 ソラの問いに少し考え込んでから、溜め息をつきそうな顔になった。

「しない……かなぁ、やっぱり。
 だって、相手がどんなにいい人でも、いきなり知らない人にキスされるのって ―― 」


71 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/06/04(日) 22:14:50

 しかし次の瞬間、ましろは表情を輝かせた。

「あ、でもね、通りすがりの王子様が、もしソラちゃんだったら全然いいよ。
 一回のキスで目を覚まさなかったら、何回でも好きなだけして」
「ええー…、しませんよ。相手の了解も得ずにキスなんて。
 それに、わたしなら王子様というよりも、ましろ姫を守る騎士ですね。
 何がこようと指一本触れさせません。どんな時でも絶対に守り抜いてみせますよ」

 ましろがソラを見ながら、いたずらっぽい笑みを広げた。

「眠ってるわたしに王子様がキスしようとしたら追い払ってくれる?」
「はい、もちろんです」
「……じゃあ、追い払ったあとで、騎士のソラちゃんが、わたしをキスで目覚めさせてくれるんだ?」
「いや、え……、ちょっと待ってください。わたしが騎士だったら、そもそもましろ姫に、毒リンゴを口にするような真似はさせませんよ」
「うーーーん。そこは目をつぶっててくれないと……」
「なんでですか」

 ソラが、プッ…と小さく噴き出す。
 つられて、ましろも声を殺してクスクス笑う。
 ―― 笑いが収まってから、ましろが、ソラのほうへ大胆に身体同士の距離を詰める。
 握って頬に当てた彼女の手はそのままに、左手でソラのパジャマの裾をちょこんとつまむ。

「この先、わたしたち二人とも誰かを好きになって、その人と結婚して幸せな家庭を築くのかもしれない。
 でもね、初めてのキスだけはソラちゃんとがいい。
 女の子にとって、初めてのキスって特別な思い出になる宝物だから、わたし、ソラちゃんとそれを分かち合いたい」

 暗闇の中。
 口が自然に動いて、次の言葉を吐き出した。

「 ―― ソラちゃん、わたしにキスして」

 ……………………。
 数秒間の沈黙が二人を繋いだあと、ましろが静かにまぶたを閉じ、冗談っぽく笑う。

「ふふっ、ごめんね、ソラちゃん。今のは嘘。キスしたらダメだよ」

 だって、ソラちゃんはわたしの本当に大切な友だち。
 そんなソラちゃんの特別な宝物を、わたしの一方的な気持ちだけで奪えないよ。

 そう続けようとしたが、口がもう動かない。
 今日一日分の疲労が、耐え難い眠気となって押し寄せてきているせいだ。


72 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/06/04(日) 22:15:29

「ましろさん……? 寝てしまいましたか……」

 うん、ごめんね、ソラちゃん。おやすみなさい。
 完全な眠りに落ちる手前の、無重力にも似たまどろみ。

 ―― を、ソラの声と、頬に触れる彼女の左手の指の感触が吹き飛ばした。

「ダメって言われたのに……、わたし、欲しくなっちゃいました」

 ゆっくりと頬をなぞってくる指先の動き。くちびるのほうへと向かって。
 ましろ、とっさに眠っているフリを続行。

「さっきのましろさんの言葉が嘘だってわかっても……。
 ごめんなさい。やっぱり大事な友だちにドキドキしてしまうなんて変ですよね」

 部屋が真っ暗で助かった。赤くなっていく顔に気付かれなくて済む。
 ましろが、ぎゅっ、と両目を固くつむる。

(いえいえいえっ、変じゃないです! ふふふ不束者ですがよろしくお願いしますっ!)

 息が苦しくなってきた。
 ソラの言葉はなおも続く。

「本当にごめんなさい。わたし、キスしてって言われて…ドキドキしすぎて……、
 ましろさん……眠ってるのに…………こんなのダメなのに、わたしは、今すぐ…………」

 ―― こっちこそごめんなさいっ! わたし眠ってないっ! めっちゃ起きてるっ!
 と、思わず叫びそうな口を封じたのは、くちびるにかかる吐息のくすぐったさ。
 顔の距離が、ただただ近い。

 心臓が大きく跳ねそうになった。
 けれど同時に、ソラの気持ちをすべて受けとめてあげたいという想いがあふれて、胸に不思議な安らぎを与えてくれた。

 ……いいよ、ソラちゃん、しらゆきひめみたいに、わたしをキスで目覚めさせて。
 ……あ、でも、1回で起きたらもったいないかな。
 ……眠ってるフリがバレるのもカッコ悪いし、せめて3回目か4回目ぐらいに ―― 。
 ……まだかな?
 ……こんなことになるんだったら、もっと歯みがきしとけば良かったなぁ。
 …………ソラちゃん、どうしたんだろう、緊張してるのかな?
 ………………うーん、まだかな?

 がまんしきれず、薄目を開く。
 しばらく目の前を顔を注意深くうかがって、気付いた。
 ソラはスヤスヤと穏やかな寝息を立てている。

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!)

 感情を爆発させて ―― でも、隣で眠っているソラを起こさないように注意して、上半身を跳ね起こした。
 言いたいことは山ほどあるが、全部ぐっと呑み込むましろ。
 ソラの無防備な寝顔を見下ろして、ハァ…と、なんともいえない溜め息をこぼした。

(さすがにこれはひどいよ、ソラちゃん……)

 心の中で脱力。もう笑うしかなかった。
 再びソラの隣に横たわり、彼女の寝顔を見つめる。

(ねえ、ソラちゃん、『今すぐ』って言葉のあと、なんて続けたかったの?
 それって、ソラちゃんの大事な想いなんだよね?
―― ふふっ、ダメじゃない、そういうのは覚悟を決めてすぐに伝えないと。『トップ・マッスル』の最後のほうでも言われてたでしょ)

 ましろがいじわるく微笑んでつぶやいた。

「今日のソラちゃんはヒーロー失格……だよ」

 そして、暗さに慣れた瞳で、ソラの寝顔を幸せそうに眺め続ける。
 本当にクタクタなのに、しばらく眠れそうになかった。

 ―― 虹ヶ丘ましろの心は、どうしようもないほどソラに惹かれている。

(終)


73 : 猫塚 ◆GKWyxD2gYE :2023/06/04(日) 22:16:49
……以上です。
毎回毎回、出来上がりが遅くなってしまって申し訳ありません。
では。


74 : 名無しさん :2023/06/05(月) 11:09:14
>>73
このままましろの独り相撲で終わるのかと思いきや、ソラも……と思ったら、やっぱり……?(笑)
ましろの受難は続きそうですが、まあ何といっても仲良きことは良き哉。
楽しませて頂きました!


"
"

■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■