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【SS】村野さやかが夕霧さやかになるまでのお話
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ガチャ…バタン
「ただいまー、さや」
さやか「! おかえりなさい。今日はお仕事、どうでしたか? ──綴理先輩」
綴理「ん、授業も部活も、生徒のみんな楽しそうだったよー」ニコニコ
さやか「ふふ。それは何よりです」ニコッ
さやか「教師になってもう数年……綴理先輩もなんだか、先生らしく風格が出てきましたよね」クスッ
綴理「そう、かな? さやがそう言ってくれるなら、ボクはすごく嬉しいな。……ん、あれ?」クンクン
綴理「この美味しそうな匂いは。もしかして……金沢のお魚?」
さやか「さすが綴理先輩。今日のお夕飯はなんと、金沢産のどぐろの塩焼きと──金沢の“純米吟醸酒”、ですよ」ニコッ
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────
トクトクトク…
綴理「おー。何度見ても、さやの注ぎ方はお店みたいだ」ニコニコ
さやか「お酒に関しては、わたしも素人ですよ。……まぁ、家飲みで枡酒は珍しい、というのが関係しているかもしれませんが」クスッ
さやか「……っと。はい、綴理先輩、どうぞ」コトッ
綴理「! ありがとー、さや」ニコッ
綴理「んー、のどぐろと合わせても、おいしそうだけど……まずは、そのまま……」クイッ
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さやか「……さて。わたしが買ってきた、今日の日本酒のお味はいかがですか?」
さやか(綴理先輩は、お酒をよく嗜む方だ。意外なようでいて、そうでもないんじゃないかな、と、最近のわたしは思っています)
綴理「……! ……ん」ゴク
綴理「おいしい。さや、これおいしいよ、すごく」ニコニコ
さやか「! ふふっ、それは良かったです。この地酒、石川県で開発された酒造好適米を使用しているそうですよ」
綴理「そうなんだ。もぐ……ん、のどぐろの塩焼きと一緒に食べるのも良い。ほら、さやも」サッ
さやか「あ……ありがとうございます、綴理先輩」ニコッ
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タイトルだけで幸せ
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さやか「……」ゴクッ
さやか「──! これは……なるほど、柔らかでフルーティな甘みがするお酒ですね。ふむ……」
さやか(日本酒特有の米本来の甘さと旨みが、透き通った液体いっぱいに凝縮されていて……口の中を、スッとすすいでくれる)
さやか「確かにこれは、塩気の効いた和食とあまりによく合いますね。このお米を使った、別のお酒も飲んでみたくなります」クスッ
綴理「だよね。さや、さや、もっと注ごう」
綴理「明日は珍しく、残った仕事も無い土曜日休みだから……ボク、いっぱい飲んで、いっぱいさやとお喋りがしたいんだー」ニコニコ
さやか「……ふふっ。ええ、もちろん」ニコッ
さやか(綴理先輩は──お酒を飲んでみんなが楽しい気分になる、その様子を見るのが好きなんでしょう)
さやか(昔から“わきあいあい”の雰囲気を強く好んでいた綴理先輩らしいです)クスッ
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綴理「んー…………でも、不思議だね、さや」ポツリ
さやか「? 何がですか?」
綴理「さやの料理は、いつもおいしい。それだけでも凄いのに」
綴理「お酒と一緒だともっと……“違う色”になるんだ」
さやか「違う、色……ですか?」
綴理「うん。混ざり合って、別の、きれいな色が見えるんだ」ニコッ
綴理「どうして組み合わせによって、料理もお酒もそのきらめきが変わるんだろう……?」ウーン
さやか「……あぁ、なるほど」ポン
さやか「綴理先輩。そういうのは、“ペアリング”と言うんですよ」クスッ
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綴理「ぺあ、りんぐ……? 指輪のこと?」
さやか「いえ。指輪はいつか欲しいですが……それではありませんよ」
綴理「じゃあ……、……あ。ボク、前に、スクールアイドルの推しペアリングがどう、とかテレビで見たことある」
さやか「それは、番組の都合上カップリングを言い換えたものでしょうし……今回のとは少し違いますね」コホン
さやか「──“ペアリング”とは、お酒と相性がいい料理の組み合わせをさしているんです」
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綴理「相性がいい、……それが、料理にもあるの?」
さやか「ええ。もちろんありますよ。そうですね、例えば……」
さやか「日本酒のひやおろしなら、秋の味覚である焼き魚。クセの強い芋焼酎なら、味の濃いお肉……といった感じでしょうか」
さやか「どちらか単体だけでも美味しく楽しめるものが、組み合わせることで両方の魅力が引き出される。素敵ですよね」クスッ
綴理「…………」
さやか「綴理先輩?」
綴理「……そっか。色が混ざって、もっとおいしくなるのが“ぺありんぐ”、なんだね」
綴理「……ん」ゴクッ
綴理「あぁ、うん。さやの言う通りだ」
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綴理「それなら……ぺあ、りんぐ……、ぺあ……」ゴクゴク
さやか「綴理先輩? お酒の飲み過ぎはいけませんよ。休日とは言え、二日酔いは辛いですし」
綴理「ん……そうだね。……んん」ゴシゴシ
さやか「ほら、眠たいのでしたら歯を磨いて、せめてベッドで横になってください」トントン
綴理「あ、うん……。あれ……」ボー
綴理「……食べてすぐ寝ると、星になるんだっけ……?」
さやか「いえ、それを言うなら牛ですね。星はちょっと、スケールが大きすぎです」クスッ
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────
さやか(すぐにでも寝落ちしてしまいそうな綴理先輩を引っ張って、着替えと歯磨きを代わりにやってあげた、その後のこと)
綴理「…………zzz」
さやか「おや……もう、眠ってしまったんですか?」サッ
さやか「! ふふっ、綴理先輩……温かい。眠っている間は体温が上がる癖、昔から変わっていませんよね」クスッ
さやか「……」
綴理「……zzz」
さやか「……」ジー
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さやか(こうやって、端正に整った綴理先輩のお顔を眺めていると、ふと思うことがあります)
綴理「ん……むにゃぁ……zzz」
さやか「…………綴理、先輩」ポツリ
さやか(幸せそうな顔。綴理先輩の──この寝顔を見るのは、“わたしだけ”であってほしい。他の誰にも、見せたくない)
さやか「…………」
さやか(一体いつから、こんな自分勝手な考えにわたしは取り憑かれてしまったんでしょうか)
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さやか「もうわたし、綴理先輩とは一緒に暮らし始めて長いと言うのに……」ハァ
さやか(最近では、蓮ノ空時代のクラスメイトから結婚報告が届くことだってある。でも、わたし達は未だに、先輩と後輩のまま)
さやか「…………明日、思い切って言ってみましょうかね」
さやか(婚約を切り出すなら、わたしから……でしょうか。綴理先輩は、この気持ちに無頓着だろうし。……わたしが伝えなくては)
さやか(そろそろ──“夕霧”さやかになりたい、と)
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──翌日、お昼前
さやか「こちら、ご注文の日替わり弁当になります」サッ
さやか「ええ。いつも贔屓にしてくださってありがとうございます。またのご来店、お待ちしてますね」ニコッ
ガラガラガラ…
…ピシャン
さやか「……ふぅ。そろそろ、ピークも越えた頃でしょうか」チラッ
さやか「それにしても、まさか『さや処』がこんなにも繁盛するなんて。綴理先輩の審美眼は、やはり正しかったんですね」クスッ
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さやか(高校時代、大学時代、ひいては社会人となった今でも、わたしは綴理先輩にお弁当を作り続けてきました)
さやか(そして、その綴理先輩に勧められるまま……お家の1階を会社員向けのお弁当屋『さや処』として開店したのが、少し前)
さやか「料理を作って喜んでもらえる職場。これはもしや、わたしにとってまさに、天職と言えるものかもしれませんね……」フフッ
さやか(売り上げは上々。今では常連さんもできて……『さや処』は、この街で高い人気を持つお弁当屋さんとなっています)
さやか「これなら、綴理先輩と結婚するだけの費用だってわたしは払うことができますし……後は婚約さえしてしまえばいい筈、だったんですが……」ブツブツ
ガラガラガラ…
さやか「……! あぁ、いらっしゃいま──」チラッ
花帆「──こんにちは、さやかちゃん!」
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さやか「! 花帆さん、いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」ペコリ
花帆「ん、もっちろん! 今日も“日替わり弁当”をお願い、さやかちゃん!」ニコッ
さやか「ええ、承りました。……梢先輩の分も含めて2つ、ですよね?」
花帆「うん! …………あ、いや待って……!」ハッ
さやか「?」
花帆「今日は梢センパイ、外で食べてくるって言ってた筈……だから、1つで! その代わり、一緒にさや処特製の豚汁もお願い!」
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さやか「かしこまりました。いつも沢山買っていただきありがとうございます、花帆さん」クスッ
花帆「いやいやいや……それはこちらこそだよ、さやかちゃん!」
花帆「結婚して少し経つけど……やっぱり二人で暮らすとなると栄養のある食生活を用意しなきゃ、お嫁さん失格だから、ね!」グッ
さやか「! えぇ……ええ、そうですよね」チラッ
さやか(花帆さんの左手、その薬指には、キラリと光る銀色の──結婚指輪が、はめられています)
さやか「もう、“乙宗”花帆さん、ですもんね」クスッ
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花帆「うん! あたしはもう、梢センパイの立派な関係者……! ステージも、今は特等席で見れちゃうんだから!」フフン
さやか「ふふっ……乙宗家の養子になればー、なんて言っていた頃が懐かしいですね」クスッ
花帆「ね! ほんと、時が経つのは早いよー……」クスッ
さやか「ええ、……本当に」
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さやか(花帆さんと梢先輩は──お互い、生活が安定した頃に籍を入れ、少し前には結婚式も挙げていた、熱々の新婚夫婦)
さやか(その食卓に並べるお料理に『さや処』のお弁当を選んでくださっている事は、わたしにとって光栄で、ありがたいことです)
さやか「それにしても……今日は梢先輩、お仕事か何かですか? 花帆さん抜きで1人で外食、というのも珍しいと思うのですが」
花帆「あー、確かにそうかもね」クスッ
花帆「でも仕事ではない、かな? 梢センパイ、今日はもともとお休みの予定だった筈だから!」フンフン
さやか「おや。そうなんですか?」
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さやか「それなら……奇遇ですね。今のわたしも、花帆さんとほとんど同じ状況なんですよ」
花帆「? そうだよね、だって……」
さやか「…………今日、綴理先輩も朝から家を空けているんです。土曜日休みの筈、なんですがね……」
さやか(──そう)
さやか(昨晩、あんなにたくさんお酒を飲んでいた綴理先輩は、わたしの気持ちも知らずに何処かに出かけてしまっていて……)
さやか「はぁ…………」ズーン
花帆「って。あ、あれ!? さやかちゃん、急にため息ついて……どうしたの、何か悩み事?」
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さやか「ああ。いえ、別に悩んでいるわけでは……」
さやか(わたしの方は、昨晩からこうもずっと悶々としているのに。……その気持ちは、綴理先輩には当然、届くことはない)
さやか(距離が近すぎる、というのが考えものなんでしょうか……綴理先輩にとってわたしは結婚相手としても見られていないのか)
さやか(いや、そもそも──綴理先輩はわたしの事を、一体どう思っているのでしょうか?)
さやか「……」シュン
花帆「さ、さやかちゃん……?」
さやか「本当に……全然、悩んではいないんですよ……、…………はぁ……」ズーン…
花帆「それ絶対なにか悩んでるやつだよね!??」
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さやか「…………バレて、しまいましたか。ふふ、さすが花帆さん」
花帆「バレバレすぎるよ! ……って」
花帆「やっぱりさやかちゃん、ホント昔から全く変わらないよね。悩みとか色々、1人で抱え込もうとしてるんでしょ!」クスッ
さやか「……図星、かもしれませんね」
花帆「ほらね! さやかちゃんさ、そろそろお昼休憩の時間だよね? その間に少し、お話聞かせてよ」ニコッ
さやか「えっ、それは……」
さやか「……構いませんが、わざわざ、どうして?」
花帆「そんなの、だって──あたし達は親友、だからね! 卒業してから何年経ったとしても、困った時は助け合いだよ!」ニコッ
さやか「!」
さやか「……ふふっ。ありがとうございます、花帆さん」ニコッ
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パシャリ
花帆「えーっと…………『今日のお昼は、さや処のお弁当を食べてます! 梢センパイは何を食べましたか?』……っと」スッスッ
さやか「花帆さん? 写真とメッセージを、わざわざ先輩に送っているんですか?」
花帆「うん! だって梢センパイがお昼なに食べてるのか、あたし知りたいし、せっかくだから……」スッスッ
花帆「……って、それより本題本題! さぁ、さやかちゃん! 悩みをどうぞ!」バッ
さやか「その勢いで言うんですか!? ……いえ、こうなった以上、言うのはいいんですが……えぇと」
さやか「…………笑わないでくださいね、花帆さん」コホン
花帆「え? う、うん、それはもちろん……?」
さやか「実は、その…………」
さやか「わたし…………“夕霧さやか”に、なりたいんですよ」
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花帆「………………へ?」
さやか「村野ではなく、夕霧の姓が欲しいんです。今日、それを切り出してみようかと思っていたんですが、綴理先輩は出かけてしまい……」シュン
花帆「えっ、ちょ……ま、待って!!!!!」ガタッ
花帆「そ、それってつまり──さやかちゃん、綴理センパイと、“結婚“したいって事!??」ガタッ
さやか「…………ええ。そう、なりますね」
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花帆「なるほど…………。や、やっとかぁ……」ハァ
さやか「……遅すぎるくらい、ですよね。それは流石にわたしもわかってはいるので、どうか笑わないでいただけると……」
花帆「わ、笑わないよ! さやかちゃんがその気になってくれただけで、あたしは嬉しいし! まぁ、でも」
花帆「ドルケって、103期蓮ノ空の頃からもう熟年夫婦みたいな雰囲気あったのに……、まさか結婚は一番最後になるとはね!」クスッ
さやか「! あぁ、確かに」
さやか「あの瑠璃乃さんでさえ、慈先輩とカリフォルニアで同性婚をしたわけで……三連華では、わたしだけがまだなんですね」ポツリ
さやか(奥手も奥手の慈先輩よりも結婚が遅れている事実。それを意識すると、少し落ち込みそうになってしまいますが……)シュン
花帆「あと、それに、さ。──“夕霧”さやか、なんだね?」
さやか「……え?」
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花帆「なんというか……予想が外れたなぁ、って」
花帆「あたし的には、綴理センパイが“村野綴理”になると思ってたから。そうじゃないのが、あたしはすっごく意外で……」チラッ
さやか「???」
花帆「……なんで、『何言ってるのかわかりません』みたいな顔してるの、さやかちゃん?」
さやか「えっ、だって夕霧ですよ? 夕霧綴理、なんですよ??」
花帆「う、うん………………それで?」
さやか「それが答えですよ」ニコッ
花帆「!? ダメだ……あたし、さやかちゃんが何言ってるのかわからない……!」
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さやか「綴理先輩から夕霧の姓を捨ててしまうなど、世界の損失だということです。変える訳には、いきません」
さやか「それに……考えてもみてください。“ゆうぎりつづり”というこの7文字、世界で一番美しい日本語だと思いませんか?」
花帆「否定はしづらいけど…………お、“おとむねこずえ”だって、世界の中だとトップクラスに入る綺麗な7文字だよ!」
さやか「乙宗……あぁ」パンッ
さやか「そうです。花帆さんも、梢先輩で想像すればわかる筈ですよ」
花帆「? 梢センパイで?」
さやか「ええ。どうして花帆さんは、“乙宗花帆”にしたんですか? 日野下ではなく」
花帆「そ、それは……」
花帆「…………」
花帆「……」
花帆「……」
花帆「…………//」
さやか「花帆さんのその顔は、“日野下梢”もいいなー、と考えてる顔ですね??」
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花帆「いや、その! 名字については、そもそもあたしの方が梢センパイの乙宗家に嫁いだのもあって……!」
さやか「ふふっ。ええ、もちろんそれは知っていますよ」クスッ
さやか(梢先輩はあれでいて、自分からは手を出さない奥ゆかしく雅やかな女性です。由緒正しい家系の一人娘だからでしょうか)
さやか「確か…………花帆さんの方から、梢先輩に対して猛烈にアピールをしたんですよね?」フフッ
さやか(でも、だからこそ、積極的な花帆さんとは“相性がいい”)
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花帆「! そう、そうなんだよ……!」ガタッ
花帆「ライブでやる『シュガーメルト』みたいに花帆が好きー、って梢センパイに沢山言わせたりしてね!」フンフン
さやか「……なるほど。さすが、花帆さんですね」
さやか「相手に望む言葉を言ってもらうよう、自分から誘導するなんて。……そんなの、わたしには難しくて仕方がありません」ポツリ
さやか(……わたしはそれができないからこそ、綴理先輩との結婚に踏み切れず、ズルズルと過ごしてしまっているわけですし)
花帆「えっ? うーん、そうかなぁ……?」
花帆「さやかちゃん、蓮ノ空では1年生の4月から既にもうフルネーム呼び捨てをセンパイにしてたくらいなのに……難しい?」
さやか「それはそれ、これはこれですよ」コホン
さやか「花帆さん達のように、卒業して三年で婚約、みたいなスピード感だって、普通は真似できないものなんですからね?」チラッ
花帆「…………ウサギは手を出すのがとーっても早い動物だからね!」フンフン
さやか「関係ありますか、それ?」
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花帆「でもさ! さやかちゃんの言う“結婚”を切り出したのは、結局のところ梢センパイの方なんだよね」フンフン
花帆「この──指輪と一緒に、ね!」バッ
さやか「!」
さやか(指輪……。花帆さんの左手の薬指で、それは絶えず静かに輝いています)
さやか(羨ましい、そう感じてしまいそうになる、きらめき──)
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花帆「梢センパイ、結構お高めのワインが好きみたいで。一緒にレストランに行った時に、サプライズでプロポーズされたんだけど」
花帆「マリアージュ、だっけ? この言葉、さやかちゃんは知ってる?」
さやか「…………」ジー
花帆「あれ、さやかちゃん? どうしたの、あたしの手ばっかり見て? 触りたい?」
さやか「あ……ああ、いえ。違います、なんでもありませんよ。マリアージュ……ですね」コホン
さやか(平たく言えばその英語版が“ペアリング”ですから、わたしはもちろんよく知っています)
さやか「お酒と食べ物の相性を指す言葉、ですよね。ワインと料理の組み合わせとか……転じて、相性のいい組み合わせの意味にも」
花帆「うん! 確かにそうなんだけど、言いたいのはそれだけじゃなくてね」フンフン
花帆「あれってさ──実は、『結婚』って意味なんだよ?」クスッ
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さやか「……!」
花帆「梢センパイ、その語源? を知ってたみたいでね……あたしとの相性も、そのくらい良い筈だって力説してくれたんだ」
花帆「あたしと梢センパイは一生スリーズブーケ。だから、あたし達なら結婚するくらい相性が良い筈だ……」フンフン
花帆「あたし、あの梢センパイの必死で真摯な言葉にすっかり蕩けちゃって! やっぱり魔法が使えるんだよ、梢センパイは!」ニコニコ
さやか「え、あぁ、『シュガーメルト』の……?」
花帆「そうそう! あたしがこんなに梢センパイに惹かれたのは、梢センパイがあたしに恋の魔法を使ったから……なんてね」クスッ
-
さやか「…………なる、ほど」ポツリ
さやか「……」
ピコン
花帆「──! あっ、スマホにメッセージが……」スッスッ
花帆「わ、写真付きだ! えーっと……」チラッ
花帆「…………『お昼の前にカフェで休KEIをしていたの‼️ 花帆はたくさん食べているといいのだけれど…😖』かぁ」
さやか「……その明らかにスマホに慣れていなさそうな文面は、もしや梢先輩ですか?」
-
花帆「うん、そうだよ! ほら、写真も……梢センパイと紅茶のカップが写ってる!」サッ
さやか「おや……ふふっ、素敵な1枚ですね。雰囲気のあるお洒落なカフェで撮ったのがよく分かっ──」
さやか「…………えっ?」ピタ
花帆「? さやかちゃん?」
さやか「……写真のここ、同じテーブルのこの左手──綴理先輩じゃ、ありませんか?」
花帆「え?」
さやか「この……テーブル上で小さく端で見切れている黒い手袋をした左手。これは絶対に綴理先輩です。間違いありません」
花帆「そうなの? えっ、怖……」
さやか「なんで引いてるんですか」
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花帆「ほんのちょっと写った手だけでセンパイを特定できるのって普通に怖くない? いや、さやかちゃんが特殊なだけ……?」
さやか「そ、そんなこと、今は別にどうだっていいんですよ! それより……」チラッ
さやか(写真に再度、目を移す)
さやか(あまりに近い、この距離感……きっと梢先輩と綴理先輩は相席をしているのでしょう)
さやか(……わたしの知らない、空間。知らない、綴理先輩……)
-
さやか「…………しかし、どうして梢先輩と綴理先輩が同じカフェに……? 偶然、居合わせたのでしょうか……」ジー
花帆「?? え、えっと……さやかちゃんさやかちゃん。それは単純に、さ」フンフン
花帆「綴理センパイが──梢センパイと会う“約束”をしてたから、じゃないの? 2人とも、今朝から電話でお話してたみたいだし……」
さやか「え? あ、あぁ。なるほど。電話で……」フム
さやか「…………」
さやか「えっ──で、電話で、ですか!!!??!?」ガタッ‼︎
花帆「!?」ビクッ
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花帆「な、何何?! さやかちゃん、急にどうしたの?」
さやか「……あの。少し……少しだけ待ってください、花帆さん」
さやか「………………綴理先輩が梢先輩に……電話、していたんですか?」
花帆「えっ? うん、そうだったよ。……あれ、もしかしてさやかちゃん、知らなかった?」
花帆「今日の朝、早朝かな? 綴理センパイから梢センパイに、何か……相談ごと? があったみたいでね。急に電話があったんだ」
さやか「……。電、話……」ポツリ
さやか(……わたしが『さや処』の仕込み作業をしていた時でしょうか。あの時間帯は、わたしも綴理先輩から目を離していましたし)
さやか(仮にその時間であれば、わたしに気づかれることもなく、綴理先輩は梢先輩と連絡が取れる……。ですが)
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さやか「……」
花帆「えーっと、さやかちゃん……?」
さやか「…………花帆さん」コホン
さやか「綴理先輩は今日、電話で、梢先輩と会う約束を取り付けていたのですか? だから、先輩方の外食の用事も存じていた、と……」
花帆「う、うん。昼食前から一緒にカフェに行ってたのまでは、あたしも知らなかったけど……そうだね」コクリ
花帆「電話が終わった後に梢センパイ、お昼、外食の約束ができた事と、その理由を教えてくれてね。そう確か理由については……」
花帆「──ひさしぶりに、2人だけでゆっくり話したいから」
さやか「……!」ピク
花帆「ちなみに梢センパイ、浮気を疑われたくないからって律儀に約束を教えてくれて……そういうとこも可愛いんだよね……!」フンフン
さやか「…………そう、なんですね」
さやか(その“約束”を──わたしは、知らない)
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花帆「だから綴理センパイだって、梢センパイとの外食の予定は、さやかちゃんに伝えてるものだと思ってたんだけど……」チラッ
さやか「……」
さやか(そもそも今朝の綴理先輩は、わたしに黙って外出していました。梢先輩に会うなんて、一言も言っていなかった筈)
さやか(それは、わたしに対して何か後ろめたい気持ちがあったから? 昨日の夜は、あんなにも距離が近かったというのに……)
さやか「…………」
花帆「もしかしてこれ、あたし言っちゃいけなかったやつなのかな……!? ……って、さやかちゃん?」
さやか「…………どうして梢先輩や花帆さんには教えて、わたしには……」ボソッ
花帆「!!?!?」
-
花帆「さ、ささ、さやかちゃん、その考えは危険だからやめよう! そのままセンパイを押し倒しそうな雰囲気まであるよ!??」ギュ
さやか「! 花帆さん、……すみません、動揺してしまって」
さやか「わたしが今、花帆さんにこのような言葉を零したところで、何も変わりません、よね」ポツリ
花帆「……、……えっと。もしかしてさやかちゃん」
花帆「──さやかちゃんには黙って、他の人と会ってた綴理センパイに……嫉妬、してる?」
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さやか「……そう、かもしれません」
さやか(ただでさえ昨日からずっと、綴理先輩を独り占めしたいと……身勝手な悋気を起こしていたが故に、暴走してしまった)
さやか(こんな調子が続けば、綴理先輩だって……将来を安定させる結婚相手にわたしを選んでくれることはないでしょうね……)
さやか「……」
花帆「……さやかちゃん?」
さやか「その……申し訳ありません、花帆さん」ペコリ
さやか「花帆さんを困らせるつもりはないんです。ただ、わたし自身、今はほんの少しだけ弱気になっていたようで……」シュン
-
花帆「あー、あ、いや……あたしは別に愚痴でもなんでも、大好きなさやかちゃんの為なら喜んで聞くけど……うーん……」
さやか「このままだと、梢先輩にも嫌疑を持つことになってしまいますし。この考えは、ここでいったん終わりにしますよ」コホン
花帆「……。というかそもそも、さ」
花帆「…………綴理センパイが、さやかちゃんを悲しませるはずはない、そうでしょ?」ニコッ
さやか「! それは……」
さやか「…………ええ、もちろんです」コクリ
-
さやか(たとえどんな事情があれど、綴理先輩がわたしを否定することだけは決してない、と。それだけは、確実に言い切れる)
さやか(だってわたしの特等席は、綴理先輩の物なんですから。きっと、きっと大丈夫……言い聞かせるように心の内で呟いて……)
さやか「すぅ……はぁ……。……ええ、少し、落ち着きました」ニコッ
さやか「花帆さん、色々とお話ありがとうございます」ペコリ
花帆「! そう? よかったぁ……ね、ね、さやかちゃん」コソッ
さやか「花帆、さん?」
花帆「綴理センパイはとーっても優しいセンパイなんだから……わざわざ秘密にしてるのには、きっと、何か理由があると思うんだよね」フンフン
花帆「だから! 今日は帰ってみたらさ。さやかちゃんの方から、思い切ってセンパイに訊いてみても良いんじゃないかな?」
さやか「……! ……そう、ですね。ええ、そうしてみます」ニコッ
-
────
──同日、夜
さやか「……」
さやか「……」
さやか「……」
さやか「……綴理先輩、帰り、遅いなぁ……」ポツリ
-
さやか「…………」
さやか「…………そういえば、昼間の」
──
花帆『──ひさしぶりに2人だけで、ゆっくり話したいから』
──
さやか「……2人だけ、なんて」
さやか(花帆さんはああ言っていましたが……実は外食は口実で、綴理先輩はわたしに愛想を尽かし、他の女の元へ行ったのでは?)
さやか(わたしに何も言わなかった理由はそのため……いや、でもそれならやはり相手は梢先輩ですし……けれど、可能性は)
さやか「……」モンモン
さやか「…………い、いえ。そんな、はず……」
ガチャ…
バタン
さやか「!」
綴理「……た、ただいまー」チラッ
-
さやか「つ……綴理、先輩。お帰りなさい」ペコリ
綴理「……ん」
さやか「あ、あの──」
綴理「──さや。今日はお店、どうだった?」
さやか「えっ、あ…………と、特に変わりなく。お客様もたくさん来てくださいましたし」コホン
綴理「そっか。ふふ、よかった。それはいいことだ」ニコッ
-
さやか「……」
さやか「綴理先輩の方は……今日、何かありましたか?」
綴理「……ううん」
綴理「何も…………何もなかったよ、さや。ボクは昼間、街をゆっくり、散歩してた」ニコッ
さやか「そう、ですか」
さやか(……昼間に、花帆さんから聞いたこと。それが事実ならば……どうして綴理先輩は何も言ってくれないのでしょうか)
-
さやか「綴理先輩、あの……」
さやか(今すぐ、綴理先輩に訊かなくては。今日の昼間は梢先輩と何をしていたんですか? わたしに隠し事ですか? ……と)
さやか(きっと綴理先輩なら……すぐ笑って答えてくれる筈。さやは心配性だね、こずとは何もない、ボクは浮気しないよ…………)
さやか「……」ピクッ
さやか(──もし、そうでなかったら?)
-
さやか「……」
綴理「? さや?」
さやか「……、綴理先輩。今日の夜、ご一緒できますか?」
綴理「え、えーっと。…………ごめん、さや」
さやか「!」
綴理「ボク、明日は予定があるから……今日は、早めに眠らなきゃなんだ」
-
綴理「だから……おやすみ、さや」
ガチャ
さやか「ぁ…………おやすみなさい、綴理、先輩」
バタン…
さやか「……」
-
今日はここまで
明日の同じ時間に終わりまで投稿します
-
期待
-
いいぞいいぞ
-
さやかの嫉妬。ワクワク
-
────
──数週間後
さやか「……」
さやか(あの日以降。……綴理先輩は休みの日も一人で出かけ、随分と余所余所しくなってしまいました)
さやか(それはまるで、わたしを避けているようで)
さやか「はぁ……」
さやか(そして、変わった事といえばもう一つ)
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さやか(綴理先輩は、最近──極端に“節約”をし始めていました。何かと間食や外食を控えたりして……)
さやか「……別に、学校からの帰り道でコンビニに寄っても家計の負担になるわけでは無いのですが。一体、どうしたんでしょう」
さやか「……」
さやか「…………はぁ……」ズーン
さやか(──今まで、綴理先輩との距離があまりに近すぎたからこそこうなったのではないか。そう、思うときがあります)
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さやか(わたしは蓮ノ空の学生だった頃よりずっと、綴理先輩に対して、積極的にお世話をしてきましたが)
さやか「…………」
さやか(考えてもみれば。──普通の夫婦だとしても、相手にここまでは尽くしてあげないのでは?)
さやか(歯磨きと着替えを代わりにしてあげる、なんて最早、妻や奥さんがしてあげる領分を完全に超えてしまっているのでは??)
さやか(だから、生涯の結婚相手として見るまでもなく、綴理先輩はわたしに愛想を尽かして──)
さやか「い、いや…………どうなんでしょう……」
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さやか「っと、もうこんな時間ですか……」チラッ
さやか(綴理先輩は、まだ帰ってこない……連絡もありません)
さやか「とはいえ綴理先輩は学校の先生なんですし、こんな遅くになるまで残業が続くこともないと思うのですが……」
さやか(帰りが遅くなる、理由……)
さやか「もしや、また誰かと……?」
さやか(全てが綴理先輩の隠し事に起因する、とも限らない筈です。……しかし、花帆さんに聞いたあの日の話を踏まえると──)
さやか「…………綴理、先輩」
さやか「……、……」
さやか(……寂しい)
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さやか「……」ギュ…
さやか(…………固く握った両手が、震えてしまう)
さやか(結婚していないのだから、浮気も何もあったものではないというのに。そもそも第一、根拠も何もないというのに)
さやか「…………先輩……」ジワッ
さやか(まるで……泣き虫だった幼いわたしに戻ったかのように。目元が、視界が、ぼやけていく……)
さやか「……っ」ゴシゴシ
さやか(わたしは、ただ──“夕霧”さやかになりたいだけ、なのに)
ガチャ
バタン
「──ただいま、さや」
-
さやか「……!!!」ガタッ
バタバタバタ
さやか「つ……つつ、綴理先輩っ! こんな時間まで何を……って」チラッ
綴理「あれ……、さや? どうしたの? 目、赤いけど……」
さやか「! あ……こ、これはその。なんでしょう、時期はずれの花粉が……そ、それより!」コホン
さやか「それ──買い物袋、ですよね……? 最近にしては珍しく、帰りにどこか寄って来たんですか?」
-
綴理「あぁ、うん。今日はさやと一緒に飲もうと思って……これ」サッ
さやか「? それ、は……」チラッ
さやか(綴理先輩が袋から取り出したそれは、鈍い光沢を持った…………一升瓶?)
さやか「もしかして──お酒、ですか?」
綴理「ん。金沢の酒造好適米? を使ったお酒。さや、別のも飲みたがってたから……えっと、買ってきたんだ。他の食材と一緒に」
さやか「!?? かっ……買ってきた!? あ、あの綴理先輩がまさか一人で日本酒のお店に……!?」ガタッ
綴理「え。ボクなんなの」
-
さやか「いや……だ、だって! 綴理先輩はいつも、わたしに食事の類は任せてくれていたじゃありませんか。自分で買う事など滅多になく……」
綴理「! あぁ……確かに、そうかも」ポツリ
綴理「……そっか。だからボク、これを探すのに予想以上に時間がかかったのか。……ごめんね、さや。それで、帰りが遅くなって」シュン
さやか「え? い、いえあの、別に謝ることではないんですけど……」
さやか「…………でも、綴理先輩。どうして急に、お酒を? それに食材とは一体……?」
綴理「ん。それは、ね……」
綴理「いい“ぺありんぐ”を、さやに、贈りたいから」ニコッ
-
さやか「…………え?」
綴理「今までずっと準備してきた“ぺありんぐ”。それをボク、さやに贈ろうと思って。期待してくれると嬉しいな」ニコニコ
さやか「ぺ、ペアリング…………? それに……期待、って。綴理先輩、いったい何をする気なんですか??」
綴理「ふふっ、さや。今日は……」
綴理「──ボクが、さやのために、お料理を作るよ」ニコッ
-
────
トン…トン…
さやか「……」ドキドキドキ
さやか(心臓の音が、やけにうるさい)
さやか(綴理先輩が刃物を使って料理をしている、という理由だけでは、こうも動揺はしないでしょう。……おそらく、きっと)
さやか「で、ですが本当に、大丈夫でしょうか……?」ハラハラ
トン…シュッ…
さやか「…………」ソワソワ
さやか(綴理先輩がキッチンで何を作っているのか。その想像が全くできないのが……ある意味、恐怖にも感じます)
-
「あとは、これを乗せて……ん、できた」
さやか「!」
さやか(……な、何ができたんでしょう……?)ハラハラ
トタトタトタ…
綴理「──さや。お待たせ」ニコッ
コトッ…
さやか「! これは…………」ジー
さやか「お刺身、ですか?」
-
綴理「うん。少し前から、休みの日は市場を巡ってて……お店の人に、取り置きしてもらってたんだー」ニコニコ
綴理「だからこれ、新鮮でぴちぴちのお魚なはず。さや、食べて食べて」
さやか「え、あ……は、はい! いただきます……」パン
さやか(お皿の上には……肉厚で、少し厚切りのぷりぷりとした白身魚)
さやか(魚を捌くなんて難しい作業だと言うのに……見た目におかしな点は特になく。きっと、綴理先輩は相当に調べたんでしょう)
さやか「……」ソッ
さやか(その新鮮なお刺身を箸でつまみ……ゆっくりと、口に運びます)
さやか「ん、んん……」パクッ
-
綴理「どう……かな……?」
さやか「──!」
さやか「美味しい……!」ポツリ
綴理「!」
-
さやか「……」モグ…
さやか(噛み締める度に、口内に広がる魚介類らしい海の香り。そんな魚自体の味だけでもすでに美味しいというのに──)
さやか「ん……」ゴク
さやか(──日本酒を口に含めば、魚介本来の旨味が、何倍にも膨らみます)
さやか(相互に魅力を引き出している、相性の良い組み合わせ──良い“ペアリング”……!)
さやか「あぁ、美味しい……。すごいですよ、綴理先輩!」パァァ
さやか「滅多に作らないのに、こんなに美味しい組み合わせの夕食ができるなんて。さすが綴理先輩です……!」
綴理「ふふ。お魚に合わせるなら、やっぱり日本酒が一番だと、ボクも思ったから。素敵な“ぺありんぐ”、だよね」フフン
さやか「ええ。……」
さやか「……あの、綴理先輩」
綴理「さや?」
-
さやか「わたしに、この料理を……ペアリングを、味わってほしかったんですよね。……ありがとうございます、綴理先輩」
さやか(先程の綴理先輩の口ぶりから察するに……最近の休日外出や今日遅くなった理由は、全てこの料理の為でしょう)
さやか(ですが、どうして急に……)
綴理「……さや」
綴理「確かにボクはさやに、お魚と日本酒──相性の良い組み合わせ……“ぺありんぐ”を、こうやって食べてもらいたかった」
綴理「…………でもね。それだけじゃ、ない」
綴理「もう一つあるんだ。──さやに贈りたい、“ぺありんぐ”」
-
さやか「……え?」
綴理「さや。左手、だして」
さやか「はい?? こ、こう……でしょうか」サッ
さやか(綴理先輩が……小さな箱から何かを取り出し、そして、そのままわたしの左手の薬指に──)
綴理「──うん。ふふっ、ぴったりだ」フフン
さやか「!! これ、って……」
綴理「ボクからさやに贈る、“ぺありんぐ”だよ」ニコッ
-
さやか「……まさか」
さやか(わたしの薬指に嵌められた物。みずいろにきらめく宝石がついたそれは、まごう事なき)
さやか(──指輪)
綴理「さや。……さやはきっと、1人でも生きていける。でも」
綴理「ぺありんぐ、は組み合わせることで両方の魅力が引き出される。混じり合って、新しい色に……きらめきになるんだよね」
綴理「だったら。ボク達も、そうなりたい」
綴理「ボクの──“夕霧”さやかに、なってほしいんだ」
-
さやか「……!」
綴理「…………結婚のプロポーズって、これで合ってる、かな?」
さやか「え、ええ。いや……えっ!? ど、どうして綴理先輩がわたしにプロポーズを……」
綴理「──結婚を申し込むには、パートナーからの指輪が必要だって。こずに教えてもらったんだ。自分もそうしたから、って」
さやか「梢、先輩が……? …………え」
さやか(それって、まさか)
さやか「もしかして、綴理先輩。──結婚について、梢先輩に……“直接”アドバイスをいただいていたんですか?」
-
綴理「うん。少し前……電話で約束をして、こずに会いに行った時。カフェで色々教えてもらったんだ」
綴理「ボクにはわからないこと、新婚のこずならいっぱい知ってる筈だから。ボクと同じく、先輩の姓が残った夫婦だったし」フフン
さやか「……でも、どうして……だって綴理先輩、結婚には興味がないとばかり」
綴理「ううん。それにさや、欲しがってたでしょ? 指輪。いつか欲しい、ってあのとき言ってた」
さやか「え? あ……」
-
綴理「……ボクはさやに“ペアリング”を贈りたかった。結婚もしたかった」
綴理「だからボク、こずに話を聞いた次の日の朝にね。つかささんに会いに行ってきたんだー」ニコニコ
さやか「お姉ちゃんに、ですか……? ……あぁ、だから」
さやか(そうでした。あの日、綴理先輩は)
──
綴理『ボク、明日は予定があるから……今日は、早めに眠らなきゃなんだ』
──
さやか(そう、言っていました。つまりあれは、お姉ちゃんに会う予定だった……)
-
綴理「ちなみに、さやのご両親も一緒に居るタイミングだったから『さやをボクにください』ってお願いもしたよ」
さやか「……えっ!?!?! 何故わたしの居ないところで勝手に話が進んでるんですか!?」
綴理「『もちろんいいよー』、って村野家のみなさんからのOKも貰ってきた」フフン
さやか「!?!?!? そこまでも承認済みなんですか!??」
-
綴理「だから。……さや」ギュ
さやか「!」
綴理「ボクはずっと、さやに頼ってばかりだった」
綴理「蓮ノ空を卒業して、大学を出て先生になって……でも、そんな時でも、さやが、ボクの隣にいてくれた」
綴理「ボクがボクであれたのは──さや。キミのおかげだ」
綴理「だからこれからも、ずっとボクのさやで、“夕霧”さやかで、いてほしいんだ」ニコッ
-
さやか「……綴理、先輩」
綴理「ごめんね、さや。遅くなって……お金のこととか料理の勉強とか、色々手間取ったから……」シュン
さやか「い、いえ。…………それでしたらわたしも、謝らなくてはなりません」コホン
綴理「さや?」
さやか「わたし……怖かったんですよ。綴理先輩が、わたしに失望しているのではないか、そうずっと悩んでいて」
さやか(あの日、『訊いてみたらどうか』と花帆さんに言われたのにも拘らず、そうしなかったのは……ひとえに、その恐怖のため)
さやか「…………だからそのせいで、疑ってしまったんです」
さやか「綴理先輩は、わたしを結婚相手として見ていないのではないか、わたしに愛想を尽かしてしまったのではないか、と……」
綴理「! ──そんなことない」ギュ
綴理「さやはずっと、ボクの、大切な人だ」
さやか「……ええ。今ならちゃんとわかります。わたしにとっての綴理先輩と同じですね」クスッ
-
さやか「嫉妬してしまい、申し訳ありません、綴理先輩。あの日のわたしは……弱いままの村野さやかでした」
さやか(けれど、そんなわたしでも、綴理先輩は応えてくれた。それなら、わたしは)
さやか「もう、逃げません。だって……わたしもなりたいんですから。──“夕霧”の姓をこの身に、ちゃんと貰いたいんです」
綴理「……!」
さやか「ですので……、結婚、こちらこそ喜んで。綴理先輩」ニコッ
綴理「さや……。……ありがと」ニコッ
綴理「ねぇ、さや。今日、付き合うよ。長い……長い夜にしよう」
-
────
──夜、ベッドルーム
綴理「ん……むにゃ……」
さやか「……綴理、先輩」サッ
さやか(身体が冷えないように、綴理先輩に毛布を掛けてあげる)
さやか(愛おしい綴理先輩の、その肌に触れると、ほのかに温かい“熱”を持っていて)
綴理「……zzz」
さやか「眠ってしまいましたか……。ふふ」クスッ
-
綴理「……zzz」ギュー
さやか「食べてすぐ寝ると、星になる……でしたっけ」ボソッ
さやか(綴理先輩の場合、あながち、それも間違ってはいないんですよね)
さやか「──星、なんですよ、綴理先輩。あなたは、わたしにとって、ずっと……」ポツリ
さやか(……希望の星があるから、そばに居てくれるから、わたしは“きらめき”を放てる)
さやか(両方の魅力を混ぜた、綴理先輩との“ペアリング”になることができる)
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綴理「んん……。……zzz」ギュ
さやか「ふふっ、可愛い」クスッ
さやか「…………大好きですよ、綴理先輩。一生、そばに居させてくださいね」コソッ
さやか(ええ、そうです。なんと言っても……)
さやか(これからのわたしは──夕霧さやか、ですので)クスッ
おしまい
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乙!
こいつらツキマカセしたんだ!!!
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おつ
素晴らしい内容だった
つづさや結婚してたわ…
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えんだああああああ
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