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菜々「英雄の条件」
-
ザワザワ
教師「えー、ではこれより学園治安維持部隊『スクールアイドル』の選抜を行う」
菜々「……」ワクワク
「中川さんすっごくワクワクしてるね」
「待ちきれないって感じ!」
菜々「勿論ですよ! 小さな頃から憧れてたんですから……!」
菜々「スクールアイドルになることを……ヒーローになる日を!!!!」
教師「えー、では次。中川菜々さん」
菜々「は、はい!!」
-
教師「この測定器を嵌めて、前の台にしっかり掌を付けてくれ」
菜々「はい!!!!」
菜々(ついに私もヒーローになる日が来たんだ)
菜々(どんなコスチュームかな? どんな武器になるかな?)
菜々(あぁ、もうワクワクが──)
教師「……ん?」
ザワザワ
菜々「……あ、あれ?」
-
教師「おかしいな。ちゃんと測定器は嵌っているか?」
菜々「はい……」
教師「ちょっと待ってろよ。役所の人呼んでくるから」
菜々「……」
菜々(おかしいですね。測定をすれば、私のスクールアイドル適性に合わせて測定器はコスチュームに、台からは武器が現れる筈なんですが)
菜々(故障、ですよね?)
職員「あー、はいはい。ちょっと確認しますね」
職員「……」カチャカチャ
菜々「……」
教師「どうです?」
職員「いや、壊れてる様子はないですね」
-
菜々「えっ……?」
教師「となると……何故中川には変化がないんです?」
職員「非常に珍しいパターンなんですけどね、たまにあるんですよ」
職員「スクールアイドル適性が全く無い……我々はゼロの少女と呼んでるんですがね」
菜々「スクールアイドル適性が……無い……?」
職員「これでは選抜以前の問題ですねぇ。時間が勿体無いので……あなたは選抜から外れてください」
教師「! あんた、そんな言い方っ……!!」
菜々「私は……スクールアイドルになれない、んですか?」
職員「えぇ、まぁ……生まれ持ってのものですからねぇ。努力でどうにかなるものでもなし」
職員「無理ですねぇ」
-
一年後 街
菜々「……」テトテト
菜々(生徒会の仕事で少し遅くなってしまいましたね……)
菜々(よりによってスクールアイドル選抜準備の手伝いとは。先生も酷いことしますよ、全く)ハァ
『隕石が世界に降り注いだあの日から今日で10年! 世界は無事復興を遂げていますね』
菜々(電気屋の巨大モニターから、ニュースキャスターの快活な声が聞こえる)
『隕石自体の被害も相当のものでしたが、それにも増して問題になったのは思春期の少女達への影響です』
『高校一年生から高校卒業までの間……つまり、女子高生のみが発症する奇妙な病が発生しだしたのは隕石が降ってから一週間後でした』
『少女達が次々と怪物化し人を襲う……怪物化病と名付けられたそれは全世界で問題となりました』
菜々(見覚えのあるスライドが挟まれる。日本で最初に発病した怪物化病患者が、街で人を殺している写真だ)
菜々(私が小さかった時だから……あまり覚えてはいませんが。確か自衛隊が出動して──殺してしまった筈です)
-
菜々(当時はスクールアイドルというシステムも無かったのだから、その対応も仕方ないのかもしれませんが……)ハァ
『そんな病に対応すべく、政府が打ち出したのがスクールアイドルです』
『怪物化病の因子を利用し、逆にヒーローとして怪物を討たせる。このシステムにより怪物化病の犠牲者は年々減り続けています』
『また、スクールアイドルの攻撃により敗北した怪物化病罹患者は怪物化が解け元の姿に戻るということもあり、世界中で導入が進められているんですね』
『少女を怪物と戦わせることに反対する団体はいくつかありますが、未だ有効な策を出せては──』
菜々「……」
菜々(モニターに背を向けて歩き出す。多分これから、スクールアイドル達の特集があるから)
菜々(過去憧れたスクールアイドル達も、現役で戦うスクールアイドル達も見たくはない。破れてしまった夢を抱えて、辿り着き輝いた人を見るのは苦しすぎるから)
ドォォォォンッ!!!
菜々「!?」
-
しえん
-
菜々(爆発音と衝撃……こ、これはまさか……)
「……」
菜々(煙の晴れた視界の先。横断歩道の真ん中に……人混みの中心に、それは立っていました)
菜々(鱗に覆われた肌、鋭い目、両腕からは緑色に輝く薄い刃物が生えている。巨大なそれが、溢れた涎で牙を濡らしながら)
「ガァァァァァアアッ!!!」
菜々(月に吠えた)
「うわぁぁぁっ!! 怪物化だぁっ!!」
「どこの高校だ!? 誰かスクールアイドル呼べって!!」
「助けてぇぇっ!! 死にたくないぃぃっ!!」
菜々「あ、あぁ……」
菜々(何度か学園内で怪物を見たことはありますが……それでも、未だに──手が震える。全身が恐怖に慄く)
菜々(スクールアイドル適性ゼロ。確かにそうかもしれません。こんなに……こんなにも)
菜々(怪物が──恐ろしい)
-
「グァァッ!!!」
「ひっ!!」
菜々(怪物が軽く腕を振るって。水音とともに人々の身体が崩れ落ちる)
菜々(文字通りの意味で──崩れ落ちる。千切れた内臓が飛び散り、目が飛び出た首が転がり、誰かの吐いた吐瀉物の酸い臭いがツンと鼻を突いた)
菜々「あ、わ……」
菜々「逃げ、なきゃ……っ!?」ガタガタ
菜々(腰が抜けて動けない!? ヤダ! こ、このままじゃ……)
「ゲェ……」
菜々(慌てて振り向くと、私を見下ろす怪物と目が合った。爬虫類にも似た、感情のない瞳が私をジッと見ている)
菜々「あ……」
菜々(なんの感慨も、なんの躊躇いもなく。怪物は腕を振り上げた)
菜々(そして。腕が私を。目掛けて。振り降ろさ
「はいはい、物騒な真似しちゃ駄目だぜー?」
-
ゼロの少女かっこいい
-
菜々「えぁ……?」
菜々(凄まじい打撃音とともに怪物が吹き飛び、ビルのコンクリート壁に叩きつけられる。衝撃がビルを揺らし、べコリと大きなクレーターが出現する)
彼方「危なかったねぃ。彼方ちゃん近くにいて良かったよー」
菜々(紫色のぴったりとした上下に、これも紫色の布を腰にひらめかせて。頭の上には小さな王冠が載っている)
菜々「彼方さん……」
菜々(『眠る羊蹄』近江彼方が、ヘラヘラと笑ってそこに立っていた)
彼方「ってあれぇ? 中川会長だ。こんなところで奇遇だねぇ」
-
「スクールアイドルだ!」
「助かったぞ!」
菜々「い、言ってる場合ですか!? 怪物がまだ……」
菜々(効いてはいるのだろうが、尚も殺意を持って怪物は彼方さんを睨む。両手の刃を構え、怪物がクレーターの中から飛び上がって)
「ガァァァァァアアッ!!!」
彼方「あーまだ動けるか。ミアちゃーん」
ミア「全く……こんな時間に働かせるなよ。ボクは14歳だぞ!?」
菜々(黒を基調としたドレスに鳥の羽をワンポイントとして付けた少女が、空中に浮いた銃を怪物へと向けた)
菜々(同時に発射された10の銃弾が、的確に怪物の関節を破壊する。腕と足が千切れ飛び、緑色の血を吹き出しながら怪物が地に落ちた)
菜々(この子も……彼方さんと同じ、ニジガクのスクールアイドル。『夜明け』のミア・テイラー)
「ガ……アガァ……ッ」
彼方「んー、ミアちゃんバッチリだぜー♡」スリスリ
ミア「やめろよ……恥ずかしいだろ!!」
-
アツい
-
彼方「歩夢ちゃん、そっちはどう?」
歩夢「修復中です。これならライブでどうにかなりますよー」コポコポ
菜々「わっ!?」
菜々(いつの間にか、切り刻まれた人々は粘性を持ったスライムに覆われていた)
菜々(肉片がかき集められ、溢れた内臓が戻され、血が逆戻りのように流れて、人の形に繋がれていく)
菜々「歩夢さん……」
歩夢「あ、菜々ちゃん! 怪我はない!?」
菜々(声と共に、スライムの中から少女の顔だけが突き出る。よく知った顔だ。『蝕』の上原歩夢……私と同じ、ニジガクの二年生)
菜々「えぇ、私は……」
歩夢「よかったぁ。菜々ちゃんはそこでジッとしててね! 危ないから!」
菜々「……」ズキッ
菜々「はい……スクールアイドルの皆さん、お願いします」
-
「グ……ア……ァ」
彼方「キミが何を抱えて怪物になったかは知らないけどさ」
彼方「他人に迷惑をかけちゃいけないぜ、っと!」グォンッ
菜々(彼方さんが怪物の顔を殴り付ける。ぐちゃり、と嫌な音と共に怪物の頭が潰れ緑色の汁が辺りに広がる)
菜々(歩夢さんも流石に嫌なのか、緑色の汁の辺りのスライムがぽむぽむしていた)
パァァァァッ
「あ……あれ? 私何を……って裸!?」
彼方「服は貸してあげるからねー。すぐに病院の人達来るからさ」
ミア「怪物化してたんだよ。すぐに病院行って検査してもらいなよ?」
「怪物化!? わ、私が……?」
菜々(いつ見てもこの光景は……慣れませんね。完全に殺したのに、光り輝いた後は人間の形になって生きてる)
彼方「さーてさて、皆さんお待ちかねのライブだぜー」
-
「うおおおおっ!!」
「ラッキー! スクールアイドルの生ライブだ!」
「学園外の怪物化って珍しいからなぁ!! いいもん見れるぜ!」
「俺なんか興奮で触れずにイっちゃったもんね」
彼方「歩夢ちゃん、繋ぎ終えたら元に戻ってねー」
歩夢「もうすぐです!」
菜々(スライムがじわじわと、ピンクの可愛らしいドレスを来た少女の像を結ぶ。道路に流れていた血痕は、もう一滴も無かった)
ミア「ひーふーみーよー……ちょっと多くないかい?」
彼方「んー、三人だと微妙かな。ニジガク以外のスクールアイドルいるでしょ、出てきてよ」
菜々(彼方さんの呼びかけで、人影からぽつぽつと女子高生達が歩み出てくる)
恋「帰ろうと思っていたのですが……」
穂乃果「ニジガクいたから任せとけばいいやって思ったんだけどなぁ」
彼方「へっへー、そうはいかないぜ。さ、一緒にライブやるよ!」
菜々(やれやれ、といった表情で彼女達は嵌めた腕輪に手を伸ばして。一瞬の光のあとには、コスチュームに身を包んだスクールアイドル達がそこにいた)
-
彼方「じゃあ皆ー、今日の曲は!」
『TOKIMEKI Runners』!
菜々(空中に浮かんだスピーカーから流れるBGMにあわせて、5人のスクールアイドルが歌い、踊る)
菜々(見ている観客達のボルテージが上がっていくのが分かった。興奮のあまりちんちんを出して警察に捕まっている人すらいた)
ミア「皆ーっ!! 最後までついてきなよ!」
菜々(ライブが進むにつれて、彼女たちの放った輝きが怪物にやられ、倒れた人々に吸い込まれていく)
「ん……あれ……?」
「なんだぁ? 俺、斬られて……」
菜々(そして、何事もなかったかのように目覚めて、状況に気付いてライブの観客に加わっていく)
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菜々(これがスクールアイドルをアイドルたらしめる力──『ライブ』だ)
菜々(『ライブ』をすれば怪物にやられた人々は目覚め、破壊された物は元に戻る。スクールアイドル達の輝きによって全ては無かったことになる)
菜々「……」
菜々(やっぱり、あの日以来スクールアイドルを見ないようにして正解でしたね)
菜々(こうして直視すると──あぁ、あぁ!! 狂おしいほどに……)
羨ましい……!!
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かすみ「はー……凄いですねぇ、スクールアイドルは」
菜々(ぽつりと。誰にも聞かせるつもりもないだろう、呟くような声が聞こえた)
菜々(そちらへと視線をやると、私の隣で一人のかわいい少女が目を輝かせていた)
菜々(ニジガクの制服だ。リボンの色から一年生、後輩だということが分かる)
菜々「えぇ、本当に」
かすみ「あわっ! か、かすみんの独り言聞こえちゃいました!?」
菜々「えぇ、まぁ……その制服、虹ヶ咲ですよね?」
かすみ「はい! 一年の中須かすみですぅ。かわいいかすみんって覚えてください!」
菜々(中々エキセントリックな子ですねぇ……)
かすみ「えっと、あなたは……確か、生徒会長さんですよね? 入学式で見た覚えがありますよぉ」
-
菜々「はい、二年の中川です」
かすみ「中川会長! ……ってあれ? 二年生? 生徒会長なのに?」
菜々「色々ありまして。私が投票で選ばれたんですよ」
かすみ「ふーん。二年生なのに会長なんて、凄い人なんですねぇ」
菜々(凄くなんかないですよ。スクールアイドルの方がよっぽど凄いですから)
かすみ「あっ、ということは! 明日のスクールアイドル選抜、会場に中川会長もいるんですか?」
菜々「お手伝いする予定ですよ。……スクールアイドル選抜、受けるんですか?」
-
かすみ「勿論ですよぉ!! 小さな頃からずーっとずーっとスクールアイドルに憧れてたんですから!」
かすみ「見てくださいこれ! 歴代スクールアイドルマンチョコのシールだって全部揃えましたし、スクールアイドル全員の名前だって言えます!」
菜々「あはは、凄いですねぇ」
菜々(言って、僅かに目を逸らした。私には彼女を直視をすることが出来なかった。一年前の私がそこにいたから)
かすみ「かすみん、ニジガク最強のスクールアイドルになるので……中川会長も応援してくださいね!」
菜々「えぇ、期待してますよ。……っと、ライブが終わるみたいですね」
ジャーン♪
「彼方ちゃーん! 結婚してー!!」
「ミアの片メカクレ前髪が俺を狂わせる……」
「歩夢ちゃん……歩夢ちゃん……」
「恋ちゃんはかわちいなぁ!」
「穂乃果ちゃーん!! 俺に和菓子屋継がせてくれー!!」
彼方「はーい、皆ありがとねー」フリフリ
彼方「二人もありがと。おかげで全員生き返ったぜ」
菜々(ニジガク以外の二人と少し話した後、彼方さんはコスチュームから制服へと姿を戻して此方にテトテトと歩いてくる)
-
彼方「中川かいちょー……と、こっちの子は?」
かすみ「はわわわわ!!」
菜々「一年生の中須かすみさんです。明日のスクールアイドル選抜に挑むらしいですよ」
彼方「へぇ、そうなんだ」
かすみ「はわわわわわわぁ!!!!」
彼方「期待してるぜー。優秀な新人なら大歓迎だからねぇ」ナデナデ
かすみ「はわわわワンダフル!!」バタンッ
彼方「ありゃ、気絶しちゃった」
菜々「憧れてるらしいですからね。仕方ないですよ」
彼方「憧れ彼方ちゃんだぜー。どやっ」
菜々「ふふっ」
-
彼方「……ところで中川会長は受けないの?」
菜々「何をです?」
彼方「選抜」
菜々「……えっと、去年のことは聞いていないんですか?」
菜々「私はゼロの少女ですからね。スクールアイドルにはなれないんですよ」
彼方「……ゼロねぇ」ジロジロ
菜々「はい、適性ゼロです」
彼方「そんなわけがないと思うんだけどなぁ……」
菜々「彼方さんがそう言ってくれるのはありがたいのですが……努力でどうなるものでもない、と役所の方も言っていましたしね」
菜々「明日は選抜のお手伝いをさせていただきますので。よろしくお願いします!!!!」
彼方「そっか……うん、ありがとうね。こっちこそよろしくねぃ」
-
翌日
教師「はい、では次」
「はーい」
菜々(ええと、この測定器を巻いて……台に手をついてもらって……)
教師「すまんな中川。助かるよ」
菜々「いえいえ、これも生徒会の仕事ですから」
菜々(それにしても……)チラッ
エマ「このパン、ボーノだよー♪」
愛「エマっちー。会場で食べちゃ駄目って言ったじゃん」
菜々(他のスクールアイドルも揃い踏み。やはり皆さん、どんなルーキーが来るか気になるってところでしょうか)
教師「えーと今のところ基準値を超えてるのは……桜坂と天王寺だけか。今回は不作かもしれんなぁ」
果林「そういう年もあるわよ。その時はその時で、精一杯頑張らせてもらうわ」
ランジュ「ランジュに任せておいて! どんな怪物だってやっつけちゃうラ!」
菜々(昨日のあの子は……)
-
教師「では、次! 中須かすみ!」
かすみ「はいっ! ……あっ、中川会長!」
菜々「かすみさん、頑張ってくださいね」
かすみ「はい! 精一杯頑張って……絶対スクールアイドルになりますよぉ!」
菜々「では、これを巻いて、この台に手をついてください」
かすみ「……」ワクワク ワクワク
シーン
かすみ「……あれ?」
シーン
かすみ「んー? ……かすみん何か間違えてます? もっと皆ピカーッて……」
菜々「!!」
-
教師「これは……」
菜々「せ、先生! 早く職員さんを! きっと故障です!!」
菜々「滅多にない、って去年言ってたじゃないですか! 二年連続で出るわけありません!!」
教師「お、おう。そうだな……」
かすみ「えっ? ……な、何かおかしいんですか?」
菜々「すいません、故障したみたいです。すぐ役所の職員さん呼んで直してもらいますから」
かすみ「エエー?! 故障なんて幸先悪すぎますよぉ!」
菜々「あはは……」
職員「……」カチャカチャ
かすみ「早くしてくださいねぇ。ここからかすみんのスクールアイドル人生が始まるんですから」
菜々「……」
菜々(お願いです……故障であってください。かすみさんに、去年の私みたいな悲しい思いをさせないでくださいっ……!)ギュッ
職員「……特に壊れてないねぇ」
菜々「っ!」
-
職員「二年連続とはねぇ。中々珍しいんだけどなぁ」
かすみ「え? ……えっ? どういうことですかぁ?」
職員「単純な話だよ。君はねぇ、ここにいる生徒会長さんと同じで──」
菜々「待っ……」
職員「──スクールアイドルの適性がないんだよ。ゼロの少女だ」
かすみ「……え?」
職員「参ったな。もしかして年々ゼロの少女が増えてるのかなぁ。遺伝子に何かあったかな?」
かすみ「ま……待ってくださいよぉ。そんな冗談やめてくださいって」ドッドッドッ
かすみ「あ、ほ、ほら!! 才能がなくても努力すれば! 努力すれば何とかなったりしませんかね!?」
かすみ「かすみん、努力には自信あるんですよぉ! だから……!」
職員「ごめんね、努力じゃどうにもならないんだ」
職員「黒人は白人になれないし、腕がない人間に野球は出来ないし、知的障害者に車は運転出来ない。蟻はどれだけ鍛錬しても人間には勝てない」
職員「そういうことなんだよねぇ」
-
教師「あんたなぁっ!」グイッ
職員「んんー? なんですかこの手?」グッ
グググ……
教師「っ……」
職員「な、ん、で、す、か? 仕方ないでしょう? 無駄になることが決まっているのに、変に期待をさせるのが教育ですか?」
職員「学年最下位の三年生に『東大を目指す、東大以外は受けない』と言われて、手放しで応援する人間ですかあなたは?」グググッ
菜々「や、やめ……っ」
かすみ「やめてください!!」
職員「!」パッ
教師「ぐっ……」ハァハァ
かすみ「分かりっ、ましたからぁ……か、かすみんはスクールアイドルになれないって……分かりましたから……」
-
菜々「かすみさん……」
かすみ「ぐっ……うう……」オーイオイオイ
かすみ「うわぁぁぁぁん!!」ダッ
菜々「かすみさん!!」ダッ
教師「……」
職員「では、選抜を続けてください。私は待機していますので」トテトテ
教師「……あぁ、分かった」
職員「……」トテトテ
職員(私は手を離すつもりが無かった……にも関わらず何故離した?)ジッ
-
このまま終わる訳はないんだろうけどやっぱりかわいそう
てか教師だって今回は不作とか言ってたくせに職員を責めるな
-
かすみ「……っ、うっ、ううっ」ダッ
かすみ(スクールアイドル、なれなかったなぁ)
かすみ(ずっとずっとなりたかったのに。ずーっとずーっと憧れてたのに)
かすみ(ニジガクのスクールアイドルになって……ヒーローになりたかったなぁ……)ポロポロ
ド ク ン
かすみ「あ……れ……?」
かすみ(目が……回る。貧血……?)
かすみ(頭痛い……くら、くらする……熱かな……)スッ
かすみ「ぁ……?」
かすみ(額に伸ばした右手には、銀白色の毛がびっしりと生えていて。伸びた指はゴツゴツとした岩のようで、真っ黒なそれは獣のように湿っていて)
かすみ「……あ、れ?」
かすみ(内側から押し寄せる絶望的な衝動が身体を食い破るのと同時に、私は意識を手放した)
-
😭
-
かすみん怪物か…
-
菜々「はっ、はっ……!!」ダッ
彼方「すやぴ……んん? あれ、中川かいちょー?」
彼方「どしたのそんなに汗かいて。ランニング? 疲れたら彼方ちゃんと一緒にすやぴしよーぜぃ」
菜々「あの! かすみさんがこっちに来ませんでしたか!?」
彼方「かすみちゃん? 昨日の? んー……目ぇ閉じてたからかすみちゃんかは分かんないけど、泣いてる子なら彼方ちゃんの前走ってったよ」
菜々「きっとかすみさんです! ありがとうございます!!」
彼方「ふぁーい。彼方ちゃんはまたすやぴするからねぇ」
菜々「はい! おやすみなさい!!!!」
ド ォ ン !
菜々「きゃっ!?」
彼方「!」ガバッ
菜々「い、今の音って……」
彼方「ありゃ、すやぴしてる場合じゃないねぇ」スッ カチッ
彼方「怪物出現。彼方ちゃん達の出番だぜ」
-
菜々(怪物が出現した方向って……まさか……)
彼方「ちょーっと彼方ちゃん行ってくるねぇ」トンッ
菜々「えっ、あっ……は、はい」
菜々(早い……もう見えなくなっちゃった)
菜々「……」
菜々「まさか……まさかね。かすみさんなわけありませんよね……」ソロソロ
菜々(邪魔をするつもりはない。ちょっとだけ、ほんのちょっと見るだけ……)ソロソロ
菜々「……」ソッ
「……」
菜々(校舎の角から覗きこんだ先に、それはいました。簡単に言ってしまえば巨大な、二足歩行のアフガンハウンド。その細長い腕から五本の、人間によく似た黒い指が伸びていることだけが異質だった。銀白色の毛並みが太陽の光に輝いていて、私は不謹慎にも)
菜々(その姿を美しいと思ってしまった)
-
愛「やー、でっかいね。3mくらいある?」
菜々「わひゃ!?」
愛「わひゃ、って会長すごい声出すねー。見た目大人しい系なのに」
菜々(同じ学年の宮下愛さん……そういえば彼女もスクールアイドルでしたっけ)
愛「この辺いたら危ないよ、巻き込まれちゃうよ? お星様になっちゃうよ、怪物だけに!」
菜々「?」
菜々(短いパンツと短い服のへそ出しルック。腰の横からオレンジの布が垂れている)
菜々(その手には細長い槍。見ていると吸い込まれそうなほどに、光すらも届かない黒い槍が握られていた)
愛「んま、いいや。そこ動かないでね」
菜々(言った瞬間、愛さんの姿がブレた)
-
菜々「!?」
愛「「「「すぐ終わらせるからさ」」」」
菜々「よ、にん……」
菜々(瞬きをする間に、愛さんは四人になっていた。まるで完全なるコピーのように見分けがつかない四人は、それぞれが意思を持っているのか別方向へと一斉に散る)
「……」
愛「「「「いくよっ!!」」」」
菜々(四方向からの強襲。ぼうっ、と意思の無い灰褐色の目をした怪物に四本の槍が迫る)
「……」
愛(分身? どれが本物? って迷ってるのかもだけど……答えは単純。『全部が本物』)
愛(愛さんのスクールアイドル能力は質量を持った分身。どれか一つを叩き落としても残り三つがその身体を貫く!)
愛(これを避けられる奴なんて……いないよっ!!)ブォンッ
「……」
-
「く あ」クルッ
愛「へ?」
バギィッ!
菜々(瞬間、その細長い身体が回転し、腕が無造作に跳ね愛さん達の身体を薙ぐ。黒い槍がへし折れ、腕を叩きつけられた四つの身体が宙を待った)
愛「いっ……!! あ……やば……」
菜々「愛さん!」
菜々(地面に叩き付けられると同時に三人が消えて)
愛「あがぁぁっ!!!」ベキッ メシッ
菜々「愛さん!? 大丈夫ですか!?」
菜々(消えると同時に、愛さんの手足がめぎりとあらぬ方向へとねじ曲がった)
-
菜々「愛……さん?」ゾッ
菜々(なに、これ……こんなの見たことない。スクールアイドルはヒーローで……いつもきらびやかで……)
菜々(こんなに手足がねじ曲がって、痛そうで、傷付いて……!!)
愛「ぐ……あ……っ! 来ちゃ、駄目だよ……!」
愛(この能力……四人いるからダメージは4分の1! ってわけにはいかないんだよね)
愛(全員が100%の本物だから受けたダメージも本物……)
分身が消えた時点でフィードバックされるダメージは四倍!
愛「慣れ……てる、から……このくらい……」
菜々「うっ……うぷっ……」
菜々「げぇっ……」トポポ
-
菜々(お、怯えてる場合じゃない……彼方さんは……)
菜々(先に行った筈の彼方さんは……!?)キョロキョロ
菜々「あ……」
菜々(壁際にボロ切れのように転がっている赤い塊)
菜々(ゴミのように打ち捨てられたそれは、よく見れば人間のそれで)
菜々(流れ出た血が地面を濡らしていて)
菜々「彼方、さん……?」
-
菜々(悲鳴を上げそうになった私の横を、粘性を持った液体がすり抜けていく)
菜々(それは愛さんと彼方さんを回収すると、叩きつける腕を避けて素早く此方へと引き込んだ)
歩夢「二人とも大丈夫!?」
愛「あー……ごめん歩夢。愛さんは平気だから」
愛「カナちゃんがちょっとヤバイかな……」
菜々(彼方さんの身体は肉が裂け、臓物と肉片の混じった赤黒いものがスライムの中に浮いていて。割れた水風船のような姿だ、と恐怖の中で何処か冷静に感じている自分がいた)
菜々「ひ……っ」
歩夢「菜々ちゃんはどうしてここに……?」
菜々「か、かすみさんを探していたら……ここに……」
歩夢「かすみって……一年のかすみちゃん!? じゃあ、あの怪物って……かすみちゃんなの!?」
菜々「違います! ……と言いたいですけど、走っていった方向も合ってます……」
歩夢「あんな大きい怪物になるなんて……どれだけスクールアイドル適性があったの……!?」
菜々「か、かすみさんにはスクールアイドル適性はありません! ゼロの少女と職員さんが言って……」
歩夢「えぇ!?」
-
教師「おい、今の爆発音って……!」ダダダッ
職員「怪物化病ですか!?」ダダダッ
菜々(向こうから幾人かのスクールアイドルと、先生たちが駆けてくる)
職員「っ! 大きい……皆さんはあの怪物の処理を! 一年生で適性のあった方は早速で悪いですが、出動してください!」
菜々(二、三年生達と、先程の選抜で高い適性を収めていた二人の一年生が私の隣を通り過ぎていく。背後で激しく土を蹴る音が聞こえた)
職員「あんなに大きな怪物を見たのは久しぶりだなぁ……一体誰が?」
歩夢「一年生の中須かすみさんです!」
教師「中須が!?」
職員「……中須さんというと、先程のゼロの少女? それは有り得ないねぇ」
職員「彼女は適性が全く無かった。スクールアイドルは怪物化病の因子を利用して変身しているんだよ? スクールアイドルの適性がないものは怪物化の適性もない」
菜々「やっぱり別の……」
「ア……ガ……!」
菜々(背後で苦しげな声が上がった。あの怪物の──巨大な犬の声だということはすぐに分かった)
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「カス……ミン、ハ、スクール、アイ……ドルニ、ナッテ……」
職員「な……」
歩夢「怪物が……喋った……?」
菜々「い、今……あの怪物……」
菜々「かすみん、って……」
菜々(怪物が喋るわけない。中学生の頃の社会の授業をほんの一瞬だけ思い出す)
『いいかー、怪物化した人間ってのは理性が無くなるんだ。まぁゾンビみたいなもんだな』
『思考も出来ないし攻撃だって単調だ。最早人間としての意思は無くなってるわけだ。だからこの中に、高校上がってスクールアイドルになりたいって奴がいたら……躊躇わず攻撃しろよー?』
菜々『先生、怪物と会話は出来ないんですか!!!!』
『おいおい、出来るわけないだろ? 喋る怪物なんて聞いたことないぞ』
\アッハッハッハッハッ/
菜々(じゃあなんで……あの怪物は喋ってるの……!?)
-
「ヒー……ロー……ニ、ナルン、デスヨォ……!」グォンッ
しずく「きゃあっ」
果林「っ! 危ないわね……何よあの腕、あんなに細いのに異様に硬い……」
職員「馬鹿な……喋る怪物なんて聞いたことが……っ!!」
エマ「それに強すぎるよこの子……さっきから何度攻撃しても、効いてる気がしない」
菜々(肩で息をしているスクールアイドル達と対象的に、かすみさんは先程見た時と変わらず無傷で立っている)
菜々(スクールアイドルでも倒せないほど強力な怪物……? 今は反撃しかしてないみたいだけど、もしあんなのが暴れ出したら……)
菜々(それに……ライブは怪物を倒した後にしか出来ない。もし、私がかすみさんに殺されて、その後誰もかすみさんを倒せなかったとしたら)ゾッ
菜々「う……うう……っ」ズリッ
菜々(無意識に後退っていた。1cmでも目の前の怪物から離れたかった。振り向いて逃げたくても、ガタガタと震える膝は後退ることしか許してくれそうにはない)
-
彼方「ごほっ!」ゴポッ
歩夢「彼方さん! よかったぁ……目を覚まさなかったらどうしようかと……」ポロッ
彼方「あは……彼方ちゃん、一発でやられちゃったぜ……」
彼方「強いねぇ……あの怪物……」
菜々「喋っちゃ駄目です!! あんなに血が出て……身体も破れて……」ポロポロ
職員「他校のスクールアイドルに救援を要請します! ここにいる戦力だけでは……」
彼方「……中川会長、これ。つけてみて」ヌポッ
菜々(言って、彼方さんが自分の腕に装着していた腕輪を外す。途端に変身が解け、彼方さんが大きく咳き込み血の混じったタンが口から吐き出された)
菜々「これって……」
歩夢「彼方さん! 変身を解いちゃ再生力が……」
彼方「彼方ちゃんはへーき。話は聞いてたけどさ、あの子は適性がゼロだって言われたんだよね……?」
-
職員「えぇ、確かに測定器ではゼロだと……」
彼方「因子の力が強大であるほど強いスクールアイドルにも怪物にもなる……あれだけ強いかすみちゃんに、適性がないなんてこと本当にあるのかな?」
彼方「だからさ……彼方ちゃんはこう思うんだよねぇ……」
菜々(苦しげに、彼方さんは息を吸い込んで。静かに言った)
彼方「測定器では測れないほどの適性を持ってたんじゃないか、って」
職員「それはつまり……測定器の限界を遥かに越えていたせいで、感知が出来なかったと?」
歩夢「そんなことあるの……?」
彼方「さぁ……全部彼方ちゃんの想像に過ぎないぜ。でも、かすみちゃんがあの怪物になったってのは現実だよ」
彼方「だから、さ」
-
菜々「……つまり」
彼方「そ。中川会長だってもしかしたらさ……滅茶苦茶強いかもしれないぜ?」
彼方「スクールアイドルとしての適性が……彼方ちゃん達以上にあるかもだよ」
菜々「……」
菜々「……」ギュッ
彼方「もしかしたら駄目かもだけど……ね、会長。試してみてよ」
彼方「彼方ちゃんの腕輪……使ってさ……」
菜々「わ、私は……」
愛『あ……がぁっ……!』ベキッ
彼方『……』ドロォッ
菜々「っ……む、無理、です……!」
-
彼方「会長……」
菜々「怖いんです……怪物が怖くて仕方ないんです……!」
菜々「足が震えて、腰が抜けて、どうしようもなくて……皆もあんなに血塗れになって、ボロボロになって!」
菜々「自分もああなると思うと怖くて怖くて仕方ないんですよぉ!!」ガタガタ
歩夢「菜々ちゃん……」
愛「……無理もないよ。あんなの見ちゃったら」
菜々(ぬぷり、とスライムの中から愛さんが身体を引き抜く。折れた筈の手足は元の通りに戻っていた)
愛「よし、動く動く。んじゃ愛さんもっかい行ってくるから」
歩夢「まだ駄目だよ愛ちゃん! 完全に治ってない……あぁ、もう!」
菜々(歩夢さんの静止も聞かず、四人に分かたれた愛さんが再度かすみさんの方へ飛んでいく)
菜々「なんで……」
-
菜々「なんで、骨を折られたのに……あんなに苦しがってたのに、向かっていくんですか……?」
果林「っううう!!」ドォンッ
ランジュ「らぁーっ!」ゴロゴロゴロ
菜々(二人のスクールアイドルが目の前に転がってくる。歩夢さんがスライムで器用にそれを受け止めた)
ランジュ「どうなってんのよ! バカみたいな強さじゃない!」ダラダラ
果林「ランジュ、頭から血出てるわよ」ダラダラ
ランジュ「果林もよ!」ダラダラ
菜々(痛ましい傷を負い、それでもそれを気にすることなく二人は立ち上がると、歩夢さんの治療も受けず再度かすみさんの元へ向かおうとする)
菜々「あ、あの!」
ランジュ「ラ?」
果林「なに……?」
菜々「なんで、怪物に向かっていけるんですか……!? 怖くないんですか!? 痛くないんですか!?」
菜々「怪物との戦いでこんなにボロボロになるなんて私は知らなかった……きっと、皆も知りません! 誰からも、きらびやかに戦っているだけだと思われて……苦しんでいることも知られないで……」
菜々「なのに、なんで……!!」
菜々(私の言葉に、二人は血だらけの顔を見合わせて)
菜々(当たり前のように言った)
-
みんな頑張れ😭
-
ランジュ「この学園の皆を守りたいからに決まってるラ」
果林「ヒーローってそういうものでしょ?」
-
せつ菜「ぁ……」
果林「さ、行くわよランジュ!」
ランジュ「顔面に一発ぶちこんでやるわ! 競争よ!」
菜々(二人が駆けていく。軽口を叩き合いながら、駆けていく)
菜々(だけどそれはただの痩せ我慢だと分かった。好き好んで痛みを感じたい人間なんていない)
菜々(彼女達を突き動かすのは、誰かを守りたいという気持ち……誰かの為に強大な力に立ち向かう勇気だ)
菜々「……彼方さん」
彼方「……」
菜々「腕輪……貸してください」
-
歩夢「菜々ちゃん……!」
職員「スクールアイドルになれるかどうかも分からないのに、本当にやるのかい?」
菜々「……はい」
彼方「……うん、うん」
彼方「頑張ってね、会長」
菜々「頑張りますよ……私は生徒会長ですから」
菜々(彼方さんから受け取った腕輪を嵌める。最初から自分の身体の一部だったように、しっくりとくる感触だった)
菜々「……」スゥー
菜々「……」フゥー
菜々(本当に私もなれるのかな、スクールアイドル。かすみさんに適性があったからって私にも適性があるとは限らない)
菜々(私は本当に適性のない、ただのゼロの少女かもしれない。だけど、もし……こんな私でもスクールアイドルになれるとしたら……)
「……」ジッ
菜々「……っ!?」ビクッ
-
「……」
菜々「ぁ……ひ……」
菜々(怪物と目が合った瞬間、そんな思いなんて吹き飛んだ。自尊心は千々に砕け、恐怖が心を塗り潰す)
璃奈「まだまだ行くよ……『璃奈ちゃんロボット大行進』!!」
从[´・֊・]从
从[´・֊・]从 ガッチャガッチャ
从[´・֊・]从
しずく「私も……『演じる』!! 璃奈さんの能力をコピーします!」
菜々(一年生達が必死に戦っている。年下なのに、彼女達も今日初めてスクールアイドルとして目覚めたばかりなのに……)
菜々「っ……」ギュッ
菜々(ほんの少しでいい……お願い。今の私じゃ、怯えてばかりの私じゃ駄目なの。変わらなきゃ……新しい私に変わらなきゃ!!!)
菜々(一瞬でも……刹那でもいい、ゼロの勇気をイチに変えて!!)スッ
パァァァァッ!!!
彼方「お……」
歩夢「腕輪が……光った……」
シュウウウウッ
せつ菜「……虹ヶ咲を守る正義のヒーロー」
せつ菜「優木せつ菜!! ただいま見参ですっ!!!!」
-
せつ菜(赤と黒の短い服に、黒の短パン。チェック柄の赤いスカート……これが私のコスチュームですか)
せつ菜(武器は……ナックル? 直接ぶん殴れ、ってことですか)グーパー
歩夢「えっ、せつ菜……ちゃん? 菜々ちゃんじゃなくて……?」
彼方「行ってらっしゃい、会長……じゃなくて、せつ菜ちゃん?」
せつ菜「はい! 行ってきます!! うおおおおおっ!!!!」ダッ
せつ菜「うおおおおおっ!!?」ズザーッ
彼方「あちゃ」
せつ菜(なんですかこれ!? 滅茶苦茶早い……一回地面を蹴っただけで一気に前に進む!?)
せつ菜(これがスクールアイドル……凄いですねぇ!!!!)
-
エマ「っ……どんどん攻撃が素早くなってる……」
果林「いいところに差し込んでくるわね……私達の攻撃を学習してるのかしら」
璃奈「会話できるほどの知能。その可能性はある」
愛「まずいなぁ……ジリ貧だねこりゃ。他校のスクールアイドルが来るまで粘って……」
「カス……ミン……ガ……ミンナ……マモッテ……」ブォンッ
愛「っ! やばっ!」
愛(直撃する……また骨折れるのやだなぁ……)
うおおおおおおおおおっ!!!!!
愛(!?)
バキィィンッ!!!
愛「な……腕を弾き飛ばしたっ!?」
せつ菜「い、一か八かでしたけど……成功しました!!!!」
-
愛「えっ、会長!? 会長もスクールアイドルだったの!?」
せつ菜「せつ菜です!!!」
愛「なにが!?」
せつ菜「私は優木せつ菜です!!!」
愛「えっ? ……あっ! うん、分かったよせっつー!」
ランジュ「やるじゃないせつ菜!」
果林「ふふっ、大型ルーキー登場ね。あなたも競争に加わりなさい、せつ菜」
愛(あっ凄い、皆一瞬で納得してる)
-
せつ菜「ひとまず攻撃力は互角……いや、僅かにこっちの方が優勢ですね」
エマ「私達の攻撃じゃあの怪物には傷を負わせられないし……せつ菜ちゃんを援護して、一撃を入れてもらう方がいいかも」
ランジュ「ふん、仕方ないわね!」
愛「ま……僅かでも可能性があるならやっちゃおっか」
「ナカ……ガワ……カイチョ」
「スクール……アイドル……ズルイ、ズルイズルイズルイ……!! カスミンモ……!!」グォンッ
せつ菜(感情の無かった瞳に明らかな敵意と怒りが宿った。かすみさんが力任せに両腕を振り上げ、私に向けて思い切り振り下ろす)
愛「させないよっ!!」
-
せつ菜(四人の愛さんが絶妙なコンビネーションで左腕に槍を叩き付けて機動を変えて)
ランジュ「跳ね上げるくらい……ランジュだって出来るわよ!!」
せつ菜(ランジュさんが分厚い青龍刀で思い切りその腕をかち上げる)
果林「さーて、こっちは私達で行くわよ。エマ、準備はいい?」
エマ「勿論だよー♪」
せつ菜(言って、エマさんが地面に手を付ける。一瞬で触れていた土が盛り上がり、練り上げられ、ヤギの形をしたゴーレムがその場に顕現する)
せつ菜(ヤギが右手にぶつかると同時に、果林さんは高く飛び上がり、僅かにブレた腕を全力で蹴り上げ跳ね飛ばす)
せつ菜「前が開きました……っ!!!」
-
「グ……カス、ミンノ……ジャマヲ……」
「スルナァァァッ!!!」
せつ菜「! 身体ごと向かって……!?」
せつ菜(3メートルもある肉体が私に向かって倒れ込んでくる。この巨体が質量を伴って倒れ込んで来たら流石に……っ)
「……エ?」ピタッ
せつ菜「止まった……?」
璃奈「『璃奈ちゃんロボット大行進』……そんなことはさせない」
しずく「そういうことですよ、かすみさん おしおきです」
リナーリナー
ミィミィ
せつ菜(無数の璃奈さんを小さくしたようなロボットと、しずくさんを小さくしたようなロボットがかすみさんに纏わり付き、その動きを無理やり封じ込める)
せつ菜(しかしそれはすぐに振りほどかれ、尚もかすみさんは倒れ込んでこようと身体を傾ける)
せつ菜(その一瞬で良かった)
せつ菜(私が、かすみさんの眼前まで近付くには)
-
せつ菜「かすみさん!!!!」
「カイ、チョ……!」
せつ菜「すぐに元の姿に戻してあげますからね……!」
せつ菜(身体中が熱い。心臓の鼓動がうるさい。血が全身を激しく駆け巡り、吐く息が熱を伴って白く濁る)
せつ菜(その全てを右の拳に載せる!!!)ボウッ
愛「せっつーの腕が……燃えてる!?」
せつ菜「うぉぉぉぉぉっ!!!!!」
彼方「凄いなぁ……火を操る能力? なのかな」
彼方「やっちゃってよ、せつ菜ちゃん。初陣を祝う派手なやつ」
せつ菜「せつ菜☆スカーレット……」
「ヴ……」
せつ菜「ストォォォォム!!!!」ブォンッ
-
「カスミン、ハ……スクールアイドル、ニ……」
「ア……アァァァァァッ!!!」
かすみ「……んにゃ!?」
彼方「おっ、起きたねぇ」
せつ菜「大丈夫ですか、かすみさん……」
かすみ「中川会長……スクールアイドルの皆さん……」ジワッ
かすみ「かっ、かすみん……とんでもないことを……」
歩夢「まさか……記憶があるの?」
かすみ「はい……怪物になって、み、皆さんを傷付けて……」
彼方「……」
-
愛「仕方ないよ、かすかすだってなりたくてなったわけじゃなし」
果林「怪物化ってストレスが溜まるとなりやすいって言うしね……スクールアイドルになれなかったショックでなっちゃったんじゃないかしら」
かすみ「うう……で、でも……」
せつ菜「かすみさんもこれ、付けてみてください!」スッ
彼方(あっ、彼方ちゃんの腕輪又貸しされてる!)
かすみ「これ……スクールアイドルの?」
かすみ「で、でもかすみん、怪物になっちゃいましたし、それに適性が……」
せつ菜「いいですから!」
かすみ「……」スチャッ
-
せつ菜「……変身してみてください」
かすみ「は、はい……」ドキドキ
スッ
パァァァァッ!
かすみ「……!」
シュウウウウッ
せつ菜(一瞬の光と煙ののち、かすみさんはコスチュームに身を包んでいました。黄色いドレスにドットのフリル、頭には同じく黄色で、内側が白黒のドット模様の帽子)
せつ菜(そして手には、可愛らしい小さなマイクを持っていました)
かすみ「こ、これ……かすみんの、コスチュームと武器?」
かすみ「変身……出来た。変身出来たんだ……」ポロポロ
せつ菜「よかったですね、かすみさん!」ニコッ
-
かすみ「かすみんもスクールアイドルに……」ハッ
かすみ「……なれる、わけないですよね。怪物になったかすみんが……」
せつ菜(! 確か、一度怪物化した人間は行動に制限が付くって聞いたことがありますね。スクールアイドル活動の禁止もその中に入っていた筈……)
せつ菜「っ……」
歩夢「……」グウッ
せつ菜(変身が出来ても、かすみさんはスクールアイドルにはなれない……)
彼方「……はーい、演習終わり!」
せつ菜「彼方さん!?」
-
果林「彼方、あなた急に何言って……」
彼方「いやー、有望な新人が四人も入ったからね。腕試しに演習をしたわけだけど!」
彼方「仲良くなれたみたいでよかったねぇ!」
ランジュ「! えぇ、そうね! 楽しい演習だったわ!」
エマ「今度一緒に美味しいパン食べようねー♪」
愛「流石に無理があるって……先生も、役所の職員も見てるんだよ?」
彼方「……」ジー
教師「……」チラッ
職員「……」
教師「ごほんっ、すまんな。最近老眼でよく見えてなくてな、お前達は演習をしていたんだな?」
歩夢「先生!」
-
教師「そうですな……あなたは見てましたか? 職員さん」
職員「……」
職員「……ハァ。いえ、何も見ていませんね。彼方さんのすやぴ癖が移ってうたた寝をしていたようです」
せつ菜「!」パァァァッ
彼方「と、いうわけらしいけど」
かすみ「……かすみん、スクールアイドルになっていいんですか?」
かすみ「皆さんの……仲間になっていいんですか?」ポロポロ
果林「当たり前じゃない。歓迎するわよ」
ランジュ「スクールアイドルとしての戦い方、たーっぷり教えてあげるラ!」
かすみ「ありがとう……ございます。ありがとうございますぅぅぅ!」ポロポロ
彼方「全くかすみちゃんは泣き虫だぜ」
せつ菜「うう……感動的ですねぇ!!!」ポロポロ
愛「ありゃ、せっつーにも移っちゃった」
あはは……ははは……
-
職員「私は帰ります。早急に、上に測定器の測定範囲拡大を提言しなければいけないので」
彼方「ん、お疲れ様でした。頑張ってね」
職員「それから、中須かすみさん」
かすみ「は、はい……」
バッ
かすみ「!?」
職員「失礼な言動の数々、大変申し訳ありませんでした。これからは……測定器が適性が無いと判断しても、あらゆる可能性を探ってみます」
かすみ「あ、頭あげてくださいよぉ! 測定器の範囲外なんて普通想定できるわけないんですからぁ!」
職員「中川菜々さんにも同様にお詫び申し上げます。私共のミスで、あなたのスクールアイドルとしての一年を奪ってしまいました」スッ
せつ菜「気にしないでください!!!!!!!!!!」
職員「!? で、では失礼します」フラフラ
彼方「耳がやられたねありゃ」
歩夢「可哀想に」
-
ミア「……怪物退治はもう終わったのかい?」トテトテ
愛「あっ! ミアチ何してたの!?」
ランジュ「今日はとっても強かったのよ!? ミアがいなかったから余計に苦戦したんだから!」
ミア「野暮用があってね」チラッ
かすみ「……?」
ミア「怪物を倒したのは君かい? 中川会長」
せつ菜「優木せつ菜です!!」
ミア「?」
せつ菜「優木せつ菜です!!!」
ミア「ん? えっと……中川会長……あぁ、いや、うん。せつ菜だね」
せつ菜「はい、私が最後はキメさせてもらいました!!」
ミア「ふぅん……」
-
かすみん良かった😭
-
エマ「今度は遅れないでねー?」
果林「次やったらこうよ?」
ミア「何する気だよ、ボクは14歳だぞ!? ……分かったって。次から気を付ける」
彼方「……」
せつ菜「じゃあ……選抜も終わったことですし、皆さんでご飯でも食べに行きましょうか!」
愛「おっ、いいねー。焼肉にしよっか?」
ランジュ「ビュッフェよ! 絶対ビュッフェ!!」
かすみ「かすみんはデザートバイキングが……」サラッ
せつ菜(……おや? かすみさんの首筋、何かの跡が……)
せつ菜(噛まれた跡? 歯型……? 気のせいですかね?)
ワイワイガヤガヤ
彼方「……ねぇ、ミアちゃん」
-
ミア「なんだい?」
彼方「英雄の条件って何だと思う?」
ミア「英雄? ヒーローの日本語訳だろ? 簡単なことさ、スクールアイドルへの適性……怪物化病の因子の強さだよ」
彼方「彼方ちゃんはね、こう思うんだよ」
彼方「適性なんかよりもずっとずっと大事なものがあるって」
ミア「……なんだよ、それ?」
彼方「勇気だよ」
彼方「誰かを守りたい、誰かを救いたい。自分の身を捨ててでも、他人の為に立ち上がる勇気。それが英雄の条件なんじゃないか、って彼方ちゃんは思うんだ」
ミア「はっ、力がない奴が勇気を持っても匹夫の勇、蛮勇ってやつじゃないか?」
-
彼方「そうかもね。でも……そうして立ち上がった人達が、大勢いたら?」
彼方「蟻は人間を倒せないかもしれないけど、徒党を組めばゾウすら殺すよ」
彼方「どれほど強大な怪物が生まれても、皆で戦えば……勝てる」
彼方「だからね、勇気さえあればどんな人でも英雄になれるんだよ。英雄が怪物にやられる物語なんて、聞いたことないでしょ?」
ミア「……ふぅん。ま、彼方の考えも理解はしてあげるよ」
彼方「ありがとねぃ」
ミア「……」
愛「ところで……なんでスクールアイドルをやりたいと思ったの?」
せつ菜「私ですか? 決まってるじゃないですか」
優木せつ菜
せつ菜「誰かを守れる人間になりたかったからですよ!」
英雄の条件
終わり
-
エピローグ
栞子「……」テトテト
ミア「や、栞子」
栞子「おや、ミアさん。こんにちは」
ミア「……この前の件だけど。中須かすみを怪物化したのは失敗だったんじゃないか?」
ミア「結局はスクールアイドルに倒されて本人もスクールアイドルに。中川菜々までスクールアイドル化しちゃったんだぞ」
栞子「えぇ、かなりの痛手ですね」
-
ミア「だからボクは言ったんだよ! 中川菜々を怪物化しろって!」
ミア「彼女の潜在能力は明らかに群を抜いていた。彼女を怪物化出来ていれば、ボク達の夢にまた一歩近付いただろうに!」
栞子「彼女は隙がなかったんですよ。私が入学した頃は、既に生徒会長をやってましたし……人目もありましたから」
ミア「栞子の能力は『不可視』と『痛覚操作』だろ? 人目があろうとなかろうと関係ないじゃないか!」
ミア「……まさか、ボク達を裏切る気じゃないよな? だからわざと中川菜々じゃなくて中須かすみを怪物にしたんじゃ」
栞子「ふざけないでください。私は『怪物同盟』に忠誠を誓ってますよ」
ミア「……なら、いいけど」
ミア「決して忘れるなよ? 同盟がキミの姉さんを隔離島から救ってやったこと」
-
ミア「ボク達がいなければ、今もキミの姉さんはあの島で実験材料にされてたんだ」
栞子「……分かってますって。しつこいですよ」
ミア「ちっ……」
ミア「近江彼方が疑い始めてる。事を起こすんなら、なるべく早い方がいいよ」
栞子「はい……新しい怪物候補を探しておきますよ」
ミア「あぁ。頼んだよ」コツコツ
栞子「……」ギリッ
-
ミアと栞子はあっち側なのか
-
栞子「何が怪物同盟ですか……」
栞子「何が、怪物の力で世界を滅ぼし新たな楽園を築き上げるですか……ふざけた思想の宗教狂いどもめ」
栞子(怪物同盟は私を道具として扱っている……正直、鬱陶しくてたまりません。ただ、スクールアイドルに肩入れする気もありません)
栞子(あいつらのせいで姉は怪物から人間に戻った際に……強大な怪物だったという理由だけで、怪物化病の研究施設がある島に隔離され実験材料にされたのですから)
栞子「……噛んだものを怪物化させる力。これを与えてくれたことだけは同盟に感謝ですね」
栞子「この力で……怪物同盟も、スクールアイドルも。共倒れにさせてみせますよ」
ドォンッ
菜々「! この音、怪物……」スッ ピカッ
せつ菜「今行きますよぉぉぉっ!!」キラッ
栞子(その時までは精々、掌の上で踊っていてください。愚かな英雄とハリボテの怪物達)クスッ
優木せつ菜が全てを救うと信じて──
スクールアイドルと怪物の戦いはこれからだ!
終わり
-
王道でアツかった乙
今度続きも頼む
-
面白かった
次は侑ちゃんも出してくれ
-
続いてくれ!
栞子を救ってくれ!
-
こわい
-
みんなの能力だけでも知りたい
-
乙って言うの忘れてた
楽しんでよんだわ乙
-
>>83
かすみ 『洗脳、相手の肉体操作』
璃奈 『100体のりなりーロボットを出現させ、個別に操作出来る』
しずく 『他人の能力を80%程度の出力でコピー出来る』
栞子(非スクールアイドル) 『不可視、痛覚操作、怪物化の促進(代償は視力の低下)』
せつ菜 『炎を操る、身体能力超強化、幸運を引き寄せる』
歩夢 『スライム化、治癒』
愛 『質量を持った分身、超硬質の槍を出現させる』
ランジュ 『青龍刀の出現、青龍刀の硬化』
侑(非スクールアイドル) 『怪物化因子を利用した他者の治癒(代償は己の生命力)』
果林 『相手の視線を自分に釘付けにする、超脚力』
彼方 『空気操作、空間操作』
エマ 『メーヴェちゃんゴーレムの生成、土の操作』
ミア 『空中に銃を出現させる、精密射撃』
-
>>85
ありがとうやで!
やっぱ続編も期待
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かすみんの能力厄介すぎる
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