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【SS】蓮ノ空ファンタジーⅡ
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センパイ達の卒業が寂しいなら、卒業なんて無い空想の世界のお話をしようよ!
というわけで今日は『蓮ノ空ファンタジーⅡ』を考えていくよ!
ぱちぱちぱち〜👏
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あ、Ⅱっていうのは前にあたしが配信で考えた設定とは別ルートってことだよ!
だから今回はアンケート機能を使ってみんなとも一緒に物語を作りたいな!
みんな協力してくれる?ふんふん…
ありがとう!それじゃ早速始めるね!
【蓮ノ空ファンタジーⅡ】スタート!!
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『Link-Like System 起動』
『【スクールアイドルモード】から【異世界モード】への変更を申請』
『承認』
『今日も素敵な冒険者応援ライフを』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
ここは剣と魔法の世界
人と動物とそれから魔物たちが暮らす不思議な世界【イシカワ】
あたしがいるのは海と山に囲まれた自然豊かな街【カナザワ】
この街であたしは新米冒険者として順風満帆な生活を──
-
ぐ〜〜〜〜〜
カホ「う、お腹がすいた…」グッタリ
カホ「もう3日もまともな食事とってないよ…」
カホ「でも家賃の支払いの為にお金稼がないと」
カホ「大家さんに次も家賃滞納したら出てってもらうって言われてるし…」
カホ「よし!ギルドにクエスト受けに行こっと」
-
【冒険者ギルド】
カホ「今日もCランクのクエスト受けよっかな〜って──」
カホ「あれ!?無い!Bランク以上のクエストしか無いよ!」
カホ「あ、あの!」
受付嬢「はい。あ、ヒノシタさん!今日もクエストですか?」
カホ「そのつもりだったんですけど、Cランクのクエストが無くて…」
-
受付嬢「すみません、最近はCランクの依頼が減ってきてて」
カホ「そんな…」
受付嬢「でもヒノシタさんは今【Bランク冒険者】ですよね?」
受付嬢「Bランクのクエストの方が報酬もいいですし、そちらを受注されてはどうですか?」
カホ「う、あたしまだ魔物との戦闘は経験が無くて…」
カホ「それに戦いのスキルもあまり持ってないから…」
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カホの職業は、
1.魔法使い
2.動物使い
3.花屋
4.???
ここでシステムの紹介だよ!
アンケートが表示されたら好きな番号を選んで投稿してね!
1番早かった人のを採用するよ!
(もしかしたら途中で選び方変えるかもだけど)コソッ…
ちなみに「???」は自由枠だよ!
これを選ぶ場合は具体的な内容と一緒に投稿してね!
それじゃあみんな、協力お願い!
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3
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1
-
>>9
ふんふん!
じゃあカホちゃんの職業は花屋で行くよ!
-
カホ(野生の花を勝手に採るのは禁止されてるから、クエストを通して集めてたけど…)
カホ(最近は素材収集の依頼少ないからな〜)
受付嬢「うーんそうなりますと、どなたかとパーティーを組んでみてはいかがですか?」
カホ「そっか!誰か戦闘慣れしてそうな人について行けばいいんだ!」
カホ「えーと、どこかに優しくて強そうな人居ないかな〜」
カホ「あ!あの人とかどうだろう!すみませーん!」
カホが声を掛けた相手は、
1.青髪の女性
2.紫髪の女性
3.白髪の女性
4.???
-
2
-
4
-
2.紫髪の女性
カホ「すみませーん!」バタバタ
コズエ「あら、どうかしたのかしら?」
カホ「突然すみません!あの、今掲示板見てましたよね!」
コズエ「えぇ…ちょうどクエストを受けようと思っていたところだから」
カホ「もしかして、Bランクのクエストを受けようとしてたり?」
コズエ「そうだけれど…」
カホ「!!」
カホ「あ、あの!そのクエストにあたしも同行させてくれませんか!!」
コズエ「ええ!?急になんなの?」
-
カホ「実はあたし!家賃支払えてなくて!ご飯も3日も食べてなくて!それでええと、パーティーメンバー探してて!」
コズエ「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
カホ「それで──うっ…」バタン
コズエ「!!」
ぐ〜〜〜〜〜
カホ「……」
コズエ「ご飯ちゃんと食べてないって、言っていたわね…」
カホ「はい…」
コズエ「はぁ、話を聞くにはまず先に食事からね」ヒョイッ
カホ「わわ!」
カホ(お姫様抱っこされてる!?)
コズエ「とりあえず座れる場所に行きましょう」
-
【近くの公園】
コズエ「はい、どうぞ」
コズエ「今はパンくらいしか持ってないけれど」
カホ「わー!ありがとうございます!」
カホ「いただきます!」ムシャムシャ
コズエ「ふふ、いい食べっぷりだこと」
カホ「ごちそうさまでした!」
コズエ「もう食べ終わったの?お腹は落ち着いたかしら」
カホ「はい!ここ一週間で1番美味しい食事でした!」
コズエ「そ、そう…」
-
カホ「あ、自己紹介がまだでしたね!」
カホ「あたしはヒノシタ カホです!カホって呼んでください!」
コズエ「私はオト──ナシ コズエよ。よろしくね」
カホ「オトナシ コズエ…」
カホ(勢いで声掛けちゃったけど、すっごく綺麗な人…)
カホ(髪も肌もツヤツヤで、姿勢もまっすぐで)
カホ(冒険者というよりどこかの
お姫様って感じ)
カホ「あの、なんてお呼びすればいいでしょうか?」
コズエ「ふふ、そんなにかしこまらなくて大丈夫よ」
コズエ「私のことは好きに呼んでくれて構わないわ」
-
カホ「じゃ、じゃあ…コズエちゃん、とか?」モジモジ
コズエ「いきなりちゃん付けで呼ばれるのは、何だかくすぐったいわね…」
コズエ「でも、好きに呼んでいいと言ったのは私だもの。それで構わないわよ」
カホ「やったー!よろしくお願いします!コズエちゃん!」
コズエ「よろしくねカホさん」ニコッ
コズエ「それで、クエストに同行したいって話だったわね」
カホ「そうなんです!今までCランクのクエストを受けながら生活してたんですけど…」
コズエ「最近はBランク以上のクエストばかりになってきたものね」
-
カホ「そうなんです!だから受けられるクエストが無くて」
コズエ「ということはカホさんはCランクの冒険者かしら?」
カホ「いえ、一応Bランクです」
カホ「とはいえCランクのクエストこなしてるうちに昇級しただけで、Bランクのクエストは一度も…」
コズエ「確かCからBへは比較的簡単に上がれるものね」
コズエ「なるほど、それで私に同行して手軽にお金を稼ぎたいと言うことね」
カホ「うっ…はい、そういうことです…」
コズエ「まぁ食事もできないほどお金に困っているようだし、クエストに同行するのは構わないけれど」
-
コズエ「同行するにはちゃんと戦力にもなってもらうわ。カホさんの職種はなにかしら?」
カホ「えっと、『花屋』です…」
コズエ「花…屋?それって何かの隠語じゃないわよね?」
カホ「クエストの収集依頼で多めに集めた花を売って生計を立ててました…」
コズエ「そう…」
コズエ(それってギルドの規約違反にならないかしら?)
-
カホ「お願いします!今回限りでもいいので、どうかクエストに同行させてください!!」ペコ
コズエ「はあ…まあいいわ。これも何かの縁だものね」
カホ「!!ありがとうございます!」
コズエ「そうと決まれば早速クエストを受けに行きましょう」
カホ「はい!どんなクエストを受けるんですか?」
コズエ「実はもう決めているの」
コズエ「【畑を荒らす魔猪の討伐】よ」
カホ「魔猪?」
-
コズエちゃんなら余裕だな!
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「無事クエストは受けられましたけど、魔猪ってなんですか?」
コズエ「そうね、依頼先の畑までしばらく歩くから、説明するわ」
コズエ「魔猪の説明をする前に、カホさんは『魔獣』と『魔物』の違いは知ってるかしら?」
カホ「いえ、すみません…植物のことは詳しいんですけど…」
コズエ「謝らなくて大丈夫よ。未だに古い風習でどちらも魔物って言う人はいるもの」
コズエ「でも30年くらい前にその2種は生物学的に明確に分類されたの」
-
コズエ「まずこの世界の生き物は『動物』『魔獣』『魔物』『植物』の4種類に分類されるわ」
カホ「4種類…」
コズエ「『動物』は体内に魔素を蓄えられない生き物よ」
コズエ「街を歩いているネコやリスがそうね」
カホ「あ、ネコちゃん!確かにネコは魔法を使えないですもんね!」
コズエ「私達の標的の魔猪は『魔獣』よ」
コズエ「何らかの要因や進化の過程で、魔素を体内に蓄えられるようになった動物」
コズエ「動物だった頃の性質が強化されてることが多いわ」
カホ「なるほど〜」
-
コズエ「魔猪はイノシシの荒々しい性格と脚力、体の頑丈さが強化された危険な魔獣よ」
カホ「…っ」ゴクリ
コズエ「そして『魔物』は、身体の全ての組織が魔素でできている生物よ」
コズエ「他の生物のような臓器にあたる器官が無く、疲労もしないし死ににくい…」
カホ「うわぁ…じゃあ魔物が一番強いんですか?」
コズエ「そうとも限らないわ」
コズエ「魔物は基本的に自身の習性に則って機械的に行動する」
コズエ「野生の勘のような臨機応変な行動がない分、習性がわかっていれば対応しやすいわ」
カホ「そうなんですね!」
-
コズエ「そして『植物』は…カホさんの方が詳しいかしら?」
カホ「はい!植物のことなら任せてください!」
カホ「今この星に存在する植物は全て魔素による影響を受けて変化した生き物です!」
カホ「大昔は水と太陽の光だけで生きる植物もいたみたいですけど」
カホ「もともと環境の変化に柔軟な生物だったので、すぐに魔素に適応したらしいです」
コズエ「ふふ、さすがお花屋さんね。私よりもずっと詳しいわ」
-
カホ「えへへ!…あれ?じゃあ人間はどれに分類されるんですか?」
コズエ「人間は生物学的には『魔獣』に分類されるわ」
コズエ「私達も体内に魔素を蓄えることで身体能力を高めたり、魔法を使ったりしているでしょ?」
カホ「あ、確かに」
コズエ「もっとも、人間を魔獣と呼ぶことは禁止されているけれど…」
-
コズエ「さて、話しているうちに件の畑に着いたわよ」
カホ「わー!大きな畑!」
コズエ「依頼書によると魔猪は人のいない夕暮れ時に畑を荒らしていくそうよ」
カホ「じゃああの小屋に隠れて魔猪が現れるのを待ちましょう!」
コズエ「ええ、それがいいわね」
カホ「そういえばコズエちゃんの職業ってなんでしたっけ?」
コズエ「あら、言っていなかったかしら。私の職業は──」
コズエの職業
1.剣士
2.武闘家
3.槍使い
4.???
-
2
-
4 魔法使い
-
4 殴りアコライト
-
2.武闘家
コズエ「武闘家よ」グッ!
カホ「あ!だから手ぶらだったんですね!」
コズエ「武器の訓練もしたのだけれど、やっぱり素手で戦うのが一番勝率が高かったの」
カホ「なんかカッコイイですね!己の肉体だけで戦うって!」
コズエ「あら、そう言って貰えたのは初めてだわ」
コズエ「小さい頃はよく下品だからやめなさいと言われていたから…」
-
カホ「そんなー!カホは良いと思いますよ!」
コズエ「ふふふ、ありがとうカホさん」
カホ「それで、どういう作戦で行きますか?武闘家なら遠くから奇襲はできませんよね」
コズエ「ええ、正面から戦うつもりだったのだけれど」
カホ(見た目の印象と違って脳筋だなぁ)
-
コズエ「ちなみにカホさんは遠距離攻撃できる魔法は使えるの?」
カホ「ごめんなさい…一般的な生活魔法しか使えません」
コズエ「そうなのね。ならカホさんはここに隠れたままでいいわよ」
カホ「!」
コズエ「私が一人で対応するわ。もともとその予定だったのだし」
カホ「ダメです!そんなのコズエちゃんにとって不公平すぎます!」
カホ「何でもやりますから!あたしにも手伝わせてください!」
コズエ「……今、何でもって言ったわね?」
カホ「──え」
-
言ったね
-
【30分後】
ガサガサ… ガサガサ…
魔猪「フゴッ!フゴッ!」モシャモシャ
カホ「こ、こらーー!!」
魔猪「フゴ?」
カホ「は、畑を荒らす悪いイノシシは、あたしが退治しちゃうからね!」
カホ(ひぃぃ!何か遠目で見た時よりずっと大きいよ〜!)
-
魔猪は体を紫がかった長い体毛で覆い、口元には頭蓋よりも大きな太い牙が天に向かって伸びている。
だが、最も特筆すべきはその巨大化した体躯だ。
4足歩行にもかかわらず、その背丈はカホと同じかそれ以上。
圧倒的な体格的有利を誇るその魔獣は、50m先に立つカホの事など意に介さない様子だ。
カホ(怖いけど…もっと近づかないと)ソロソロ
ゆっくりと魔猪に近づいて行く。
すると──
-
魔猪「…」ピクッ
カホ「!」
30mの距離まで近づいたところで、魔猪は野菜を食べるのを止めカホのことを凝視した。
『それ以上近づけば敵とみなすぞ』
赤く光る眼がカホにそう告げていた。
カホ(怖い…あんな大きなイノシシ見たことない…)ガクガク
カホ「──っ!」
それでも、ありったけの勇気を振り絞り一歩を踏み出す。
自分に与えられた役割を、果たすために。
-
魔猪「…」ザッ ザッ
魔猪は体をカホに向けて、後ろ足で地面を掻きだした。
カホ(魔猪が走り出す前兆!)
魔猪「ッ!」ダン!!
ドンドコ!ドンドコ!ドンドコ!
魔猪はカホに向かい猛突進する。
カホ(来た!)
あのような巨大な体と牙に激突されれば、人間の体は愚かレンガの壁さえも粉々になってしまうことだろう。
カホ(魔猪は真っ直ぐにしか走れない!だから、走り出したらすぐに真横に避け──)
-
カホ「あ、あれ?」
カホ「足が、動かないっ」ガクガク
カホ「な、なんで!いやっ!避けなきゃ!死んじゃ──」ガクガク…
魔猪「!!!」ドコドコドコ!
カホ「っ!」
魔猪はもうすぐ目の前まで来ていた。
カホは1秒後の自身の運命を悟り、キュッと目を閉じる。
-
ドシーーン!!!
肉と肉が激しくぶつかり合う音。
だか、それはカホの体からでは無い。
魔猪「フゴッ!?」バタン!
物陰に隠れていたコズエが、真横から魔猪の頭蓋目掛けドロップキックを放つ。
魔力の籠った蹴りに、魔猪はそのまま吹き飛ばされて地面を転がった。
コズエ「囮になれとは言ったけど、そのまま死ねとは言ってないわよ!」
-
カホ「コズエちゃん!うぅ…怖かったよ〜」
コズエ「泣くのは後!まだ終わってないわ!」
魔猪「💢💢」ムクッ …ザッ ザッ
コズエ「仕留められるとは思ってなかったけれど…脳震とうも起こさないなんてね」
コズエ「さすがに頭が頑丈だわ!」グッ
コズエは腰を落とし、腕を前に構える。
すると、体がほのかに緑色の光で包まれだした。
-
魔猪「ッ!」ドコドコドコ!
コズエ「はあっ!!」ガシッ!
魔猪の突進を正面から牙を掴んで受け止める。
だが、200kgを優に超える巨体はそう簡単には止められない。
コズエ「う"う"う"〜!!」ズザーーッ
魔猪「💢」ブン!
コズエ「きゃっ!」
-
魔猪は牙を掴まれたのが気に食わなかったのか、頭を振り上げコズエを放り投げた。
コズエ「ぐふっ」バタン
カホ「コズエちゃん!!!」
魔猪「…」クルッ
カホ「ひっ」
魔猪「…」ザッ ザッ
-
魔猪「!」ダン!ドコドコドコ!
カホ「いやー!」ピョン!
今度は生存本能のまま、魔猪の突進を間一髪で避ける。
魔猪「フゴーッ!」ズザー!
カホを仕留め損なった魔猪は急停止し、今度こそとカホに狙いを定める。
ザッ…ザッ…ザッ…!
コズエ「こっちよ!!」ブン!
コツン
魔猪「?」
コズエは手頃な石を投げて相手の注意を自分へ引き付けた。
-
コズエ「カホさんは隠れてて!」
コズエ「最初に仕留められなかった以上、ここからは持久戦になるわ!」
カホ(持久戦?あんな巨大な生き物に対して?)
魔猪「フゴッ!!」ドコドコドコ!
標的を変更し、コズエに向かい突進する魔猪。
対してコズエは一歩も動かず、またしても正面から受け止めようと──
-
コズエ「ふっ!」クルッ
魔猪「!?」スカッ
しかし、魔猪とぶつかる直前、コズエは右足を軸にしてひらりと回転して横に避ける。
コズエ「はあっ!」ドスッ!
そして回転の勢いのまま、魔猪の脇腹に強烈な蹴りをお見舞した。
魔猪「フゴッ!」ヨロ
コズエ(体勢を崩したわね!この隙に畳み掛ける!)
-
コズエ「はっ!はあっ!」バシ!バシン!
先程蹴りを入れた箇所を目掛けて、両拳で二連撃を叩き込む。
コズエ「ふん!」ゴス!
さらに膝を突き出しめり込ませる。
魔猪「フグゥ…」
魔力によって強化された打撃は、鉄板さえも凹ませる程の威力を持っていた。
しかし、
魔猪「💢💢」ブン!
コズエ「っ!」
太く硬い剛毛と分厚い肉の壁は、外部からの衝撃を体内へ通さない。
コズエ「やっぱり大技を当てないとダメージは与えられないわね!」
コズエ(でも、走り出し回る魔猪が
相手じゃ…)
-
戦況は依然として変わらない。
魔猪は何度も突進をし、その度コズエはギリギリで避けてカウンターを入れる。
だが、このまま続けていればどちらが先に体力切れになるかは明白だ。
この状況を変えられる者が居るとすれば、それは──
カホ(何か…何か打つ手は無いの?)
カホ(何処かにコズエちゃんの助けになりそうなものは…)キョロキョロ
カホ「あれ?この畑に植えてある野菜って…」
-
魔猪「フゴッ💢」ドコドコ
コズエ「っ…キリが無いわね!」
カホ「コズエちゃーーん!!」
コズエ「!?」
カホ「魔猪をこっちに誘導してくださーーい!」
コズエ「…」
一時の逡巡、カホには魔猪をどうにかできる攻撃手段は無いはずだ。
それでも、覚悟の籠ったカホの眼を見た瞬間、コズエはカホを信じることに決めた。
-
コズエ「」ダッ!
魔猪は突然背を向けて走り出したコズエを敗走と捉え、追撃せんと追いかける。
コズエは全速力で走ると、そのままカホの横を通り過ぎた。
魔猪「フゴ?」
カホ「食らえーーー!!」ポーン!
カホは迫り来る魔猪に向かって、人の頭程の大きさの野菜を投げる。
魔猪は飛んできた濃緑の野菜を牙で跳ね除けた。
-
バーーーン!!💥
魔猪「フゴーッ!?」
その瞬間、牙に当たった野菜は大爆発を起こし、強い衝撃と共に赤い中身を撒き散らした。
バン💥 バン💥バン💥
更にはその衝撃が魔猪の足元に植えてあった同種の野菜をも誘爆させる。
魔猪「フガーー!!」ヒューー
魔猪「!」ドシン!
いくつもの野菜が足元で爆発し、200kgを超える巨体は宙を舞ってそのまま地面に叩きつけられた。
-
魔猪「フゴ……」🌀
カホ「今です!コズ──」
コズエ「」ビュン!
これを勝機と見たコズエは、カホに言われるよりも早く魔猪に向かって走り出していた。
コズエ「はっ!」ピョン! クルッ!
コズエは魔猪の目の前で飛び上がり、空中で前転をする。
同時に右足にありったけの魔力を込めて、魔猪の頭に向かって踵落としを繰り出す。
-
コズエ「奥義──」
コズエ『雷落とし!』ドゴーン⚡️
バキッ!
閃光は魔猪の頑丈な頭蓋をもかち割り、その頭を半分ほど地面にめり込ませた。
魔猪「 」シーン
カホ「あの、これって…」
コズエ「ええ、【畑を荒らす魔猪の討伐】完了よ!」
-
カホ「………はぁ〜〜〜怖かった〜」ペタン
コズエ「お疲れ様。これもカホさんのおかげだわ」
カホ「そんな!ほとんどコズエちゃんのおかげですよ!」
コズエ「ふふ、謙虚だこと」
コズエ「まさかあんな隠し球を持っていたなんて思わなかったわ」
カホ「あ、さっきの爆発した野菜ですか?」
カホ「あれは元々この畑に植えてあった『バクダンスイカ』です!」
-
コズエ「バクダン…スイカ?スイカって、あの甘くて水っぽい果物の?」
カホ「はい!市場に売ってるスイカは爆発したりはしませんけど」
カホ「植えてあったり収穫直後のものは強い衝撃を加えると爆発するんです!」
コズエ「そうなのね。スイカは食べたことがあったけれど、そんなことまでは知らなかったわ…」
カホ「爆発するなんてイメージが付いたら売れなくなりますからね!」
コズエ「取り敢えず魔猪の死体を畑の外に移動させましょう。それからギルドへ報告に──」
コズエ「その前にこの畑の持ち主にも謝罪をした方が良さそうね…」
カホ「あ……」
辺りを見回してみると、そこには魔猪が走り回った跡や爆発の衝撃で無惨な姿になった畑が広がっていた。
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「畑のおじさん、優しい人で良かったですね!」
コズエ「そうね……」
カホ「でもコズエちゃんのことを見てから、急に態度が丁寧になったような…?」
コズエ「き、気のせいじゃないかしら!?」
カホ「あっ!もしかして!」
コズエ「!」ギクッ
カホ「コズエちゃんがすっごい美人だから見とれちゃったのかも!」
コズエ「……ふー」ホッ
-
コズエ「それを言うのなら、カホさんだって可愛らしいわよ?」
カホ「え〜照れちゃいます〜」🎵
コズエ「うふふ、さあギルドに着いたわ。報酬をもらいましょう?」
カホ「はっ!そうでした!」
コズエ「こんばんは」
受付嬢「こんばんは、オトナシさん。それにヒノシタさんも」
カホ「こんばんはー!」
コズエ「魔猪の討伐、無事完了しました」
受付嬢「はい、把握していますよ。お疲れ様でした」
-
受付嬢「こちらが成功報酬の『20,000 SIsCa』になります」
コズエ「ありがとうございます」
カホ「に、2万!?」
カホ「すごい…Cランククエストの5倍以上…」
コズエ「カホさん、報酬は折半でもいいかしら?」
カホ「ええ!?むしろ良いんですか!?」
コズエ「もちろんよ。カホさんが居なければ、もっと苦戦していたでしょうから」
カホ「あ、ありがとうございます!これで家賃が払える…」
-
コズエ「それでカホさん…もし良ければなのだけど」
コズエ「……やっぱりなんでもないわ!今のは忘れてちょうだい!」
カホ「?」
カホ「そうだ!コズエちゃん、この後あたしの部屋に来ませんか?」
コズエ「カホさんの?」
カホ「はい!折角なので祝勝会をしましょう!」
カホ「それにコズエちゃん怪我してますよね?あたしの部屋に薬草があるので、傷によく効く薬作れますよ!」
コズエ「あら、それならお言葉に甘えようかしら」
カホ「ぜひ!それじゃあ案内しますね!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「もうすぐ着きますよ!そこを曲がった先のアパートで──」
カホ「え、なんで…」
コズエ「……もしかして、外に置いてある荷物って」
カホ「どうしてあたしの荷物が出されてるのーー!」
大家「あっ!ヒノシタさん」
カホ「大家さん!なんであたしの荷物が捨てられてるんですか!」
大家「なんでって…月末までに家賃を払えなかったら出てってもらう約束だろう?」
-
花帆「だったらあと1日猶予ありますよね!?」
大家「何言ってるんだい。今日が月末だよ」
花帆「え──もしかしてあたし、日付間違えてた…?」
大家「夜逃げでもしたのかと思ったから、部屋の荷物は外に出させてもらったよ」
カホ「っ!お金…ちゃんと家賃代持ってきました!だからもう一度──」
大家「悪いねヒノシタさん。実はもう明日から住みたいって人と賃貸契約を結んじゃってね」
カホ「そ、そんな……」
-
大家「そういうわけだから、そこの荷物も明日までに綺麗にしておいてね」テトテト
カホ「うぅ…あたし、住む場所無くなっちゃったよぉ…」ポロポロ💧
コズエ「…………カホさん、提案なのだけれど」
カホ「?」
コズエ「新しい部屋が見つかるまで、私と一緒に暮らさないかしら?」
カホ「え」
コズエ「わ、私の住んでる家、1人で住むには広すぎるくらいなのよ!もちろん寝室も別々に確保できるわ!」
-
カホ「…」
コズエ「っ!やっぱり嫌よね!今日会ったばかりの女と一緒に暮らすなんて…」
コズエ「今の話は忘れて──」
カホ「よ…」
コズエ「よ?」
カホ「よろしくお願いします!!!」
-
ここまでがプロローグ。
運命の導きによって出会ったカホとコズエ。
二人の少女のドキドキワクワクな共同生活の幕開けです!
でも、この先カホ達が誰と出会い、どんな運命を辿るかはみんなの選択次第!
あたしと一緒に、この物語を素敵なものにしていこうね!
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
"花帆さん"
"今、どこにいるんですか?"
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
コズエ「カホさん、朝ごはんの用意ができたわよ」
カホ「むにゃむにゃ……お母さん…」
コズエ「寝ぼけていないで起きてちょうだい。もう朝の8時よ」
カホ「あれ、コズエちゃん…はっ!おはようございます!」ガバッ
コズエ「おはよう、カホさん」ニコッ
コズエちゃんと二人で暮らすようになって一週間が経った。
コズエちゃんの家は平屋の大きな一軒家だった。
廃墟同然だったものを安く買い取って自分でリフォームしたらしい。
-
カホ「わっ!いい匂い〜」
コズエ「毎朝同じメニューで飽きないかしら?」
カホ「全然!あたしも朝はパンでしたし、コズエちゃんの入れてくれた紅茶飲むの好きです!」
コズエ「うふふ、それならよかったわ」
優雅な朝食、フルーティーな香りの紅茶は、寝起きの頭をゆっくりと覚醒させる。
カホ「そうだ!今日の予定なんですけど、あたし魔道具店に行きたいんです」
コズエ「あら、欲しい魔道具があるの?」
-
カホ「まだ何を買うかは決めてないですけど…戦いに役立つものが欲しいんです!」
コズエ「戦いに役立つ?」
カホ「居候させてもらってから3回クエストに行ったじゃないですか」
コズエ「そうね」
カホ「でもどれも戦いはコズエちゃんに頼りきりで、あたしが役に立ったのは最初の魔猪の時だけでした…」
コズエ「確かに戦いではできることが少ないけれど、カホさんにはそれ以外のことでとても助けになっているわよ」
コズエ「例えばカホさんの調合してくれる薬はよく効くし、お花を飾ってくれたおかげで部屋の中がこんなに華やかに──」
-
カホ「それでも!あたしが嫌なんです!」
カホ「せっかくパーティーを組んだんですから、あたしも戦闘で役に立ちたいんです!」
コズエ「まあ、カホさんがそこまで言うのならわざわざ止める理由は無いのだけれど…」
カホ「ありがとうございます!この後早速行ってきますね!」
コズエ「ええ、でも無駄遣いはしないようにね」
カホ「わかりました!」
-
【街の魔道具店】
カランカラン〜🔔
カホ「ごめんくださーい」
店員「いらっしゃいませー」
カホ「あの、Bランク帯のクエストで使える魔道具が欲しいんですけど…」
魔道具とは魔力を通すことで簡単に魔法を使える道具の事だ。
道具事に決まった魔法しか使えない代わりに、呪文や魔法陣を省略できる便利な道具。
戦闘用だけでなく、料理や洗濯など、今や生活の中に欠かせないものになっている。
-
店員「攻撃用の魔道具ですね。それならこちらにありますよ」
カホ(うわ、どれも高いな…できれば2,000SIsCa位で買いたいんだけど)
カホ「すみません、もう少し安いものってありますか?」
店員「でしたらこちらの中から選んではどうでしょうか」
1.シンプルな杖
2.魔法の笛
3.宝石の着いたブローチ
4.???
-
4
-
3
-
ふんふん!4番を選んでくれてありがとう!
でも4番は自由記述欄なんだ…わかりづらくてごめんね!
具体的な内容が無かったから、今回はその次のコメントを採用するよ!
-
3.宝石のついたブローチ
カホ「これください!」
店員「はい、こちらのブローチですね」
店員(? こんなブローチ売ってたっけ…でも値札ついてるしいっか)
店員「2,000SIsCaになります」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「ふんふんふ〜ん!」
カホ「素敵なブローチ買えちゃった!こういうの着けるの夢だったんだよね!」
カホ「──────あれ?」
カホ「なんであたしブローチなんか買ったんだろう…」
-
【コズエの家】
カホ「ただいまです!」
コズエ「おかえりなさい。欲しい物は買えたかしら」
カホ「えっと、それが…」
コズエ「あら、その反応から察するに、いい魔道具は買えなかったの?」
カホ「いえ…買えはしたんですけど」スッ
コズエ「まあ!綺麗なブローチね。いったい何の魔道具なの?」
カホ「わかりません……」
コズエ「え?」
カホ「なんかこのブローチを見た瞬間にこう…ビビっと来て」
カホ「効果も聞かずに買ってたんですよね」
-
コズエ「?? お店の人に暗示魔法でも掛けられたのかしら…そのブローチいくらだったの?」
カホ「ちょうど2,000SIsCaでした」
コズエ「ぼったくりという程の値段ではないわね」
コズエ「むしろその大きさの宝石がついてるなら安すぎるくらいだわ」
カホ「そうなんですよね…」
ブローチには真ん中に透明で大きな宝石がついている。
普通これだけの宝石がついているのなら、数十万はしてもおかしくない代物だ。
コズエ「まあ、魔道具なら魔力を通せばどんな効果かわかるんじゃないかしら」
カホ「あ、それもそうですね!それじゃあさっそく」✨
コズエ「ちょっと!家の中で発動させたら危な──」
-
ピカーーーーン!!!🌟
ブローチに魔力を込めると、宝石から白く眩い光が溢れ出した。
カホ「わっ!なに!?」
光と共に部屋を満たしていた魔力は、やがて一箇所に収縮し人の形を型どり出した。
???「じゃーん!呼ばれて飛び出てハロめぐ〜〜♡」
メグミ「大天使メグミエルの参上だー☆」
カホ「…」ポカーン
コズエ「…」ポカーン
-
メグミ「ちょっとちょっと!反応薄くない!?」
カホ「あの…どちら様ですか?」
メグミ「だ・か・ら!大天使メグミエルだってば!」
カホ「天使?」
コズエ「突然出てきたように見えたけど、テレポートかしら」
メグミ「ちがうちがう!この子の持ってるブローチ、私この宝石の中に封印されてたの」
カホ「なんで封印されてたんですか?」
メグミ「それは……なんでだっけ?」
-
コズエ「だいたい本物の天使かどうかも疑わしいわ。だって天使は1000年前に──」
メグミ「本物だってば!見てこの神聖な姿!真っ白な衣に、美しい翼!」 ))
カホ「確かに見た目は言い伝えの天使そのものですけど」
メグミ「あ、その魔力!あなたが私を解放してくれたんだ!ねえ、名前なんて言うの?」
カホ「え?ヒノシタ カホです」
メグミ「カホちゃん!素敵な名前だね!」ギュッ
カホ「うわっ!なんですか!?」
コズエ「ちょっとあなた!カホさんから離れなさい!」グイ
-
メグミ「えーカホちゃんは私の御主人様(マスター)なんだから、24時間くっ付いてるのは当たり前なんですけど?」
カホ「マスター!?」
コズエ「何言ってるのよ!封印が解かれたならさっさと天界にでも帰りなさい!」
メグミ「帰らないよ。カホちゃんは私を解放してくれた。だから私はカホちゃんに仕える義務があるの」
カホ「解放したって…あたしただ魔力を通しただけですよ?」
メグミ「ううん。カホちゃんの魔力が宝石の封印を解いたのをハッキリ感じた」
メグミ「だからこれからは、カホちゃんが死ぬまで私が側にいてあげる!」
カホ「なんか重い!」
-
コズエ「じゃあ何?あなたもここに住むの?言っておくけど、追加でベッドを置くスペースなんて無いわよ」
メグミ「ベッド?ああ、人間が寝る時に使うやつか」
メグミ「それなら大丈夫!メグちゃんはこの通りずっと浮いてるから、横になる必要なんてないんだよ☆」プカー
カホ「確かに浮いてますね…でも翼を動かしてはいないような?」
メグミ「この翼は私を世界の重さから解放してくれてるからね!羽ばたく必要なんて無いのだよ!」
メグミ「あの鳥?とか言う生き物は、私たちの翼を形だけ真似して無理やり空を飛んでるだけだから」
カホ「そうだったんだ〜」
コズエ「そんな訳ないでしょ」
-
コズエ「はぁ…とんでもない物を買ってきたわね…」
カホ「すみません……」
メグミ「なんでそんなガッカリしてるの!?本物の天使だよ?」
コズエ「カホさんは戦いに使える魔道具を買いに行ったのよ。そしたら"コレ"が出てきたんだからガッカリもするわ」
メグミ「コレってなんだ!むらさき女!」
コズエ「私の名前はコズエよ」
メグミ「あんたの名前なんて知らなーい!べーだ」👅
コズエ「このっ…その翼もぎ取るわよ」💢
-
メグミ「きゃーこわーい♡カホちゃん助けて〜♡」
カホ「えっと…メグミエルさん?」
メグミ「メグちゃんでいいよ☆」
カホ「じゃあメグちゃんは魔物と戦ったりはできますか?」
メグミ「戦う?」
カホ「さっきコズエちゃんが言った通り、あたし本当は武器が欲しくて魔道具店に行ったんですけど…」
メグミ「えーメグちゃん戦いは専門じゃなくて〜そう言うのはあのラッパ吹きどもの仕事でしょ?」
-
コズエ「カホさん、役に立たない天使は返品してきなさい」
メグミ「あわわっ待って!加護、天使の加護なら与えられるから!」
コズエ「加護ねえ……どんなものかしら?」
メグミ「えっと、それは──」
メグミエルの加護
1.全ての人から好かれる
2.獣や魔物の声が聞こえるようになる
3.実は加護なんか無い…
4.???(自由記述欄)
-
4 動植物と意思疎通できる
-
4.動植物と意思疎通できる
メグミ「『以心伝心の加護』!具体的には動物や植物と意思の疎通ができるんだよ!」
カホ「えー!すごいすごい!じゃあ、ここにいるお花さん達とも話せるってことですか!?」
メグミ「ふふん!そういうこと!どう?すごいでしょ☆」
コズエ「……それで、その加護が戦いにどう役立つの?」
メグミ「ぎくっ」
カホ「でもでも、もし魔獣とも意思疎通できるなら、戦わずに話し合いで解決するかもしれませんよ!」
メグミ「そ、そう!メグちゃんの加護は平和的なんだよ!」
メグミ(本当は魔獣とは意思疎通できないけど…)
コズエ「ふん、そういうことにしてあげるわ」
-
カホ「メグちゃん!さっそくあたしにその加護を授けてください!」
メグミ「いいよ〜任せんしゃい!」
そういうとメグミエルはカホの頭にそっと手を添える。
メグミ『大天使メグミエルの名のもとに、ヒノシタ カホに以心伝心の加護を授けます』✨️
カホ「……あれ、もう終わりですか?」
メグミ「もう授けたよ!」
カホ「でも何も聞こえませんよ?この部屋にはいっぱいお花飾ってるのに」
コズエ「まさか、嘘じゃないでしょうね」
メグミ「違うって!植物は人間と意思疎通できるなんて思ってないから無口なの!」
-
メグミ「試しにそこの机の上の花に話しかけて見て」
カホ「えっと…こ、こんにちは」
卓上の花『…………え、ぼく?』
カホ「! そうだよ!あたしはカホ!よろしくね!」
卓上の花『よろ、しく…』
カホ「突然話しかけてごめんね!これからはして欲しいことがあったら遠慮なく言ってね!」
卓上の花『わ、わかった…』
-
コズエ「……カホさんには、その花の声が聞こえているの?」
カホ「あ、そっか。コズエちゃんには聞こえないんですね。メグちゃん、コズエちゃんにも加護を──」
コズエ「いらないわ。戦いの途中に動植物の声が聞こえてきたら、気が散ってしまうもの」
カホ「えー!コズエちゃんにもお花さんとお話して欲しかったな〜」
メグミ「言われなくても紫になんか加護は授けませーん」
コズエ「だから、コズエだと……はあ、もういいわ」
-
カホ「ねえコズエちゃん!クエスト受けに行きましょうよ!この加護が活かせそうなやつ!」
コズエ「それはいいけれど、この天使はどうするの?」
カホ「ん?お留守番じゃないですか?」
メグミ「えー!ヤダヤダ!メグちゃんも一緒に行く!」
コズエ「そうは言っても、天使なんて連れてたら悪目立ちするわよ…」
カホ「確かにそうですね…」
コズエ「あなた、せめてその翼しまえないの?」
メグミ「は? 無理だよ。人間だって両手を自由にしまったりできないでしょ?」
コズエ「それもそうね」
-
カホ「じゃあ、ローブでも羽織って翼を隠すのはどうですか?」
コズエ「それしか無いかしら」
メグミ「え〜隠すの〜?こんなに美しい翼なのに」
コズエ「メグミ、着なさい。さもなくば留守番よ」
メグミ「うぐ、留守番はやだ…ていうかメグミってなに!?」
コズエ「いいじゃない。『エル』は神の使いの意味でしょ?街中では呼びづらいわ」
メグミ「ならせめてメグちゃんって呼んで!」
コズエ「嫌よ」
メグミ「ぬぁーんでよー!」
-
カホ「あはは…コズエちゃん、なんかいいローブ持ってたりします?」
コズエ「私のお古ならあったはず。今持ってくるわ」
ガサゴソ……ガサゴソ……
コズエ「これよ」スッ
メグミ「え、汚い。しかも黒じゃん」
コズエ「しばらく使ってなかったのだから仕方がないでしょ」
コズエ「それに色に関してはローブは大抵黒いわ」
メグミ「はあ、こんなの着たらメグちゃん堕天しちゃう…」
カホ「まあまあ!意外と似合うかもしれませんよ!」
-
メグミ「ふーん、まあ着てみるか」ファサ
メグミ「どう?似合ってる?」クルン
カホ(うーん…)
コズエ(うーん…)
カホ「に、似合ってますよ!」
コズエ「もう少し翼を畳めないの?それだとローブの下にリュックを背負ってるみたいだわ」
メグミ「うーん、こんな感じ?」モゾモゾ
カホ「いいですね!さっきよりマシになりました!」
メグミ「"マシ"?」
カホ「あ……」
-
コズエ「とりあえず、これなら外に出ても大丈夫そうね」
カホ「それじゃあさっそくクエストに行きましょう!お金稼ぐぞー!」
メグミ「おー!」
コズエ(不安だわ……)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【冒険者ギルド】
カホ「こんにちはー!」
受付嬢「ヒノシタさん、こんにちは」
コズエ「お世話になっています」
メグミ「こんにちは〜」
-
受付嬢「あら?そちらの方は…」
メグミ「ふっふっふ…聞いて驚け!私は大天──むぐっ!?」
コズエ「メグミです」ググ…
カホ「えっと、新しくパーティーに加わったんです!」
受付嬢「そうでしたか。メグミさん、よろしくお願いします」ペコ
メグミ「ぷはぁ!ちょっと何するの!」
コズエ「あまり目立つ言動は控えてちょうだい」ボソッ
メグミ「ふんだ!」
-
カホ「今日もクエストを受けに来ました!」
受付嬢「はい、掲示板に本日の依頼が貼ってありますよ」
どのクエストにしようか──
1.迷子の猫の捜索(Cランク)
2.ヒトクイバナの除去(Bランク)
3.森の魔物の討伐(Bらんく)
4.???(自由枠 ランク:C or B)
-
1
-
1.迷子の猫の捜索
カホ「これにしましょう!報酬は低いけど、加護の力を試すにはピッタリです!」
コズエ「そうね、このクエストにしましょうか」
【クエスト受注!】
『迷子の猫の捜索』
カホ「猫の特徴は『黒色の子猫』だそうですよ」
コズエ「子猫ということは、興味本位で街を歩いてるうちに帰られなくなったのかしら…」
カホ「よーし!さっそく探しましょう!」
コズエ「とは言っても、そこそこ広い街だし、当たりをつけないと永遠に見つからないわよ?」
メグミ「てゆーか、そもそも街の外に出てるって可能性は無いわけ?」
カホ「う、確かに外の森に逃げられてたら見つけようが無いですね…」
コズエ「それは大丈夫じゃないかしら。街には結界が貼ってあるもの」
-
カホ「あ、そっか!」
メグミ「結界?」
コズエ「街の中に魔物や魔獣が入らないように、ドーム状の結界が貼られているのよ。出入口である東西南北の門を除いてね」
メグミ「ふーん」
カホ「まずは門番の人に猫が門を通らなかったか聞いてみましょう!」
コズエ「それなら二手に分かれましょう。私は北門、東門の順に回るから、カホさん達は西門、南門の順に回ってちょうだい」
カホ「そのまま壁沿いに進んで、東南の位置でいったん合流ですね!」
コズエ「ええ、歩いてる途中に聞き込みをするのを忘れずにね」
カホ「わかりました!」
コズエ「それでは、行動開始よ!」
「「おー!」」
-
【数十分後】
カホ「おーい!コズエちゃーん!」
コズエ「無事合流できたわね。カホさん達の成果はどうだったかしら?」
カホ「門番の人は猫が通った記憶はないと言ってました。道中に街の人にも聞き込みしましたけど、黒猫は見てないと…」
コズエ「そう、こちらの門番も黒猫は見てないそうよ」
コズエ「ただ、街の人から野良猫の溜まり場をいくつか教えてもらったわ」
メグミ「ならそこに行ってみようよ」
コズエ「でもその溜まり場、それぞれが結構遠いのよね…」
-
カホ「それならまた分かれて探しますか?」
コズエ「ええ、ただし時間制限を設けましょう。猫が見つかっても見つからなくても、午後5時に冒険者ギルドに集合よ」
カホ「今が午後1時ですから、だいたい4時間ですね」
コズエ「そういえばメグミ」
メグミ「なにさ」
コズエ「あなた空を飛べるのでしょう?上から探してくれないかしら」
メグミ「え〜できるけど、さすがに路地裏みたいな場所は見えないよ?」
-
カホ「屋根の上に居たら地上からは見えないので、そういう所を重点的に探して欲しいです!」
メグミ「まぁそういうことなら…」
コズエ「そしたらカホさんにはこの地図を渡しておくわ。さっき言った野良猫の溜まり場に印を付けてあるから」
カホ「コズエちゃんは持たなくていいんですか?」
コズエ「私はもう覚えたわ」
カホ「お〜さすがです!」
コズエ「私は街の半分から南側を探すから、カホさんは北側をお願いね」
カホ「了解です!」
-
コズエ「それじゃあここからは各自捜索をお願い。午後5時に冒険者ギルドに集合するのを忘れないように!」
カホ「はい!」
メグミ「あ、そうだカホちゃん、あのブローチ持ってる?」
カホ「メグちゃんが封印されてたやつですか?」
メグミ「そうそれ」
カホ「それなら、この胸元に付けてるブローチです!」
メグミ「そのブローチ越しに呼びかけてくれれば、私には聞こえるからさ、何かあった時は使ってね」
カホ「わかりました!」
-
メグミ「んじゃ、メグちゃんは空から探しますか」プカー
コズエ「……そういえばメグミに上空の結界に気をつけろと伝えてなかったわ」
カホ「あはは!天使なんですから、さすがに結界には引っかかりませんよ!」
【上空】
メグミ「あばばばば…!」⚡️ビリビリ
カホ「…」
コズエ「…」
-
めぐちゃん・・・・
-
草
-
これめぐちゃん街からて
-
これめぐちゃん街から出られないのでは…?
-
めぐちゃん……
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「地図によるとこの辺りに猫の溜まり場が…」
ニャーン ニャーン
カホ「わ、ほんとに沢山いる!えっと迷子の子猫は……いなさそうかな」
カホ「うーん、次の場所に行ってみようかな」
ボソボソ……ボソボソ……
カホ「ん?今、声が聞こえたような…」
トラ猫『あー腹減ったな〜』
三毛猫『またあの人間の家行く?』
白猫『あそこのおばあさんパンくずしかくれないからにゃ…』
トラ猫『パン湿らせればオレらが満足すると思ってんだよ』
三毛猫『お肉が食べたいよー!』
-
カホ(すっごい雑談してる…)
カホ(そっか!動物とも話せるんだから、この子達にも聞き込みできるんだ!)
カホ「えっと、こんにちは!」
白猫『!? 今あいさつされた?』
カホ「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
三毛猫『不思議だな〜いつもより人間が何言ってるかわかる気がする』
トラ猫『あんた何者だ?』
カホ「実はあたし動物や植物ともお話しできるんだ!」
白猫『すごい人間も居るんだね…』
三毛猫『人間は変なことする動物だから』
トラ猫『それで、聞きたいことってなんだよ』
カホ「人探し…じゃなくて猫探ししてるんだ。ここ最近『黒色の子猫』って見かけてない?」
-
白猫『うーん、私は見てないかも』
三毛猫『オイラも知らない。縄張りに入られたらすぐわかる』
カホ「そっか……」
トラ猫『オレも──いや待て、そういえば…』
カホ「何か知ってるの!?」
トラ猫『ああ、確か……』
カホ「確か?」
トラ猫『知ってはいるが、タダじゃあ教えられないな』
三毛猫『! そうそう、オイラ達今お腹が減ってるんだ!』
-
カホ「食べ物ってこと?今はパンしか持ってないけど…」
トラ猫『解散ー』
カホ「ま、待って!どんなものが食べたいの?」
白猫『私あれが食べたいわ!細い肉!』
カホ「細いお肉?」
トラ猫『毎朝色んな所から匂ってくるんだよ』
三毛猫『うん、あれめっちゃ食べたい』
カホ「朝によく食べる細いお肉…もしかしてソーセージ?」
白猫『名前は知らないから取り敢えず持ってきて欲しいにゃ』
カホ「わかった!今買ってくるから待ってて!」パタパタ
-
こういう雰囲気好きだわ
-
【数分後】
白猫『クンクン…この匂いは!』
カホ「お待たせー!いっぱい買ってきたよー!」🌭
三毛猫『ニャッホーィ!これこれ⤴︎』
カホ「よかった、買ってる間にどっか行っちゃったかと思ったよ!」
トラ猫『とんでもねぇ、待ってたんだ』
白猫『はやくはやく!食べさせて欲しいにゃ』スリスリ
カホ「待っててね…はいどうぞ!」
三毛猫『ん"お"っ!う、美味い!!』ガツガツ
トラ猫『人間はいつもこんな美味いもんを食ってたのか……』
白猫『おいしいにゃ〜ん』
カホ「えへへ、喜んでもらえて嬉しいよ」
-
トラ猫『…』シュバ
三毛猫『あ!それはオイラの分だ!』
トラ猫『うるせぇ!食べるのが遅いんだよ』シャー
三毛猫『なんだとー!』シャー
カホ「こらこら喧嘩しないの!トラちゃんも、自分の分残ってるのに他人のを取らない!」
ガツガツ……ガツガツ……
白猫『ありがとう!おいしかったにゃ!』
カホ「うん!お粗末さまでした!」ナデナデ
白猫『♪』ゴロゴロ
-
トラ猫『それで、ガキを探してるんだっけ?』
カホ『あ!そうそう、忘れてた!』
トラ猫『忘れてたのかよ……』
トラ猫『昨日の夜、向こうで残飯漁ってるのを見たぞ。知らない臭いだったから多分そいつじゃないか?』
カホ「向こうって東の方?確かあっちに定食屋さんあったよね…」
トラ『向こうを縄張りにしてる奴らもいるから、ソイツらにも聞いてみな』
カホ「うん!ありがとうね!」
三毛猫『肉くれたお礼さ!』
トラ猫『お前は何にもしてねぇだろ!』ネコパンチ
カホ「あはは…仲良くね?」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「トラちゃんが言ってたのはこの辺りかな」キョロキョロ
カホ「うーん、居なさそう」
木の上の猫「…」zzz
カホ「あの子に聞いてみようかな。おーい、こんにちはー!」
木の上の猫『ふが?何だよ、せっかく寝てたのに…』
カホ「起こしちゃってごめんね!実は今、黒い子猫を探してて、この近くで見かけてないかな?」
木の上の猫『ああ見たよ。でもタダでは教えられな──』
カホ「…」スッ🌭
木の上の猫『ふっ…人間にしては気が利くな』
-
カホ「それで、どこで見かけたの?」
木の上の猫『向こうの公園の方で見た』
カホ「公園だね!ありがとう!」
木の上の猫『おう。あとさっきの肉うまかったから、また持ってきてくれ』
カホ「わかった!またね!」
カホ「よーし!この調子で見つけるぞー!」
その後も何匹かの猫に聞き込みをしながら場所を絞っていった。
『食べ物くれたら教えるにゃー』
『おしり掻いて〜』
『縄張り争いを手伝って欲しい』
-
カホ「疲れた…」
カホ「みんなの話をまとめるとだいたいこの辺りに居るはず…」
子猫『…』キョロキョロ
カホ「いたーーー!!!」
子猫『!?』ビクッ
カホ「あなた、もしかして最近迷子に──」
子猫『!』ピューン!タタタタ!
カホ「あ、待って!」
子猫『○#△&□¥?@!!!』
カホ「うっ…心の声がうるさい。きっと混乱してるんだ…」
-
カホ「お願い逃げないで!あたしはあなたを家に返してあげたいだけなの!」パタパタ
子猫『△&□¥?@』タッタカターン!
カホ「! あっちの裏路地は行き止まりだったはず…!」パタパタ
子猫『…』ビクビク
カホ「はぁはぁ…やっと追いついた」
カホ「驚かせてごめんね?あたしはカホ、あなたの飼い主から頼まれてあなたを探してたんだ」
子猫『……ご主人様の?』
カホ「そう!だから一緒に帰ろう?きっと心配してるよ」
-
子猫『ぼく、ご主人様がいつも出掛けてる場所に行ってみたくて、家の外に出ちゃったんだ…』
カホ「それで迷子になっちゃったんだね」
子猫『うん…』
カホ「じゃあ帰ったらご主人様に、あなたと一緒にお出かけしてくれるように頼んであげる!」
カホ「だから、ね?こっちにおいで」
子猫『…』トコトコ
子猫『…! う、後ろ!』
カホ「? 後ろって──むぐっ!?」
突然、後ろから羽交い締めにされ、口元を塞がれてしまう。
カホ「んー!ん〜〜!!」ジタバタ
子猫『カホ!!』ニャー
男「『スリーパス』」
カホ「……」zzz
男「よし、連れてくぞ」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【冒険者ギルド】
メグミ「お疲れ〜」プカー
コズエ「遅いわよ。集合時間を30分も過ぎてるじゃない」
メグミ「うるさいな〜天使感覚では誤差なんだよ」プカー
コズエ「天使感覚って何よ…あと、あからさまに宙を浮くのは辞めなさい」ボソッ
メグミ「あ、そうだった」スィー⤵
コズエ「それで迷子の子猫は見つかったの?」
-
メグミ「ぜんぜん。少なくとも上から見える場所には居なかったよ」
コズエ「そう…私も見つけられなかったわ」
メグミ「あとはカホちゃんの報告待ちか〜」
コズエ「カホさん、遅いわね…心配だわ」
メグミ(私のことは心配してなかったくせに!)
メグミ「もう少し待ってみれば?今こっちに向かってる途中かもしれないし」
コズエ「そうね…もう少し待ちましょう…」
-
【5分後】
コズエ「まだかしら…」
【8分後】
コズエ「遅いわね…」
メグミ「……」
【9分後】
コズエ「もしかしてカホさんも迷子に…」
【10分後】
コズエ「まさか誘拐されたんじゃ!?」
メグミ「あーもう!そんなに気になるなら探しに行くよ!」
コズエ「でも、もしも入れ違いになったらカホさんが心配するわ…」
メグミ「めんどくさいなこいつ!そんなに頭が回るならもう少し冷静になりなよ!」
コズエ「う…」
メグミ「じゃあ私がここで待ってるから、あんたはカホちゃん探しに行けば?」
コズエ「そ、そうね!それがいいわ!」
メグミ「まったく…だいたいカホちゃんには何かあったらブローチに呼びかけてって伝えて──ん?」
コズエ「それじゃあ私はカホさんを探しに行ってくるわね」
メグミ「待って!!」
メグミ「この声────カホちゃん?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【薄暗い地下室】
髭男「本当にコイツが例のお嬢様なのか?」
禿げ男「間違いねえ、農家のオヤジが言ってた。"女二人組冒険者の髪色が派手な方"だって」
髭男「でもコイツどう見ても田舎娘って感じだぞ?」
禿げ男「別に違くても構わねぇよ。どうせ引き渡す頃にはボロボロになってるんだ、わかりゃしねぇ」
髭男「へへっそれもそうだなw」
禿げ男「依頼主からは『抵抗しないよう精神を壊してから連れてこい』って言われてる」
髭男「えげつねぇよな〜まっ俺達はそのおかげで役得なんだが」
-
禿げ男「さて、起こすか」
髭男「待て待て!心壊すなら眠ってる間に一発ヤっといた方がいい。その方がショック受けるから暴れないぜ」
禿げ男「なるほどな……おっ、小さいくせにいいもん持ってんじゃねぇか」
子猫「ニ"ャー!ニ"ャー!」シャー
髭男「なんだ?この汚ぇ猫…どっから入ってきやがった」
禿げ男「さっきの路地裏に居たやつだろ。この女に懐いてるのか?」
子猫「ニ"ャー!ニ"ャーー!!」
カホ「ん…起きろって…もう朝?」
髭男「ちっ、起きやがった。てめぇのせいだぞクソ猫!」ゲシッ!
子猫「ギニャッ!」
カホ「っ!やめて!」バッ!
-
禿げ男「ふん、真っ先に猫を庇うのか…嬢ちゃん、自分の状況わかってるのか?」
カホ「自分の状況って……あれ、ここどこ?どうしてあたしこんな場所に…」
子猫『カホは眠らされてここに連れてこられたんだ!』
カホ「誘拐ってこと!?」
髭男「理解が早いな?そういうことだ、大人しくしてれば悪いようにはしねぇ」
子猫『こいつらカホの服を脱がそうとしてた!』
カホ「っ!?」ガバッ
反射的に自分の体を抱きしめる。
カホ「だ、誰か…誰か助けて!!」
-
禿げ男「いくら叫んでも無駄だ。ここは地下室だから、外に声は聞こえない」
髭男「でも声を我慢する必要はねぇぜ?若い女の叫び声はそそるからなw」グヘヘ
カホ「ひっ…」
カホ「ど、どうしてあたしなの…」ガタガタ
禿げ男「あんたがいい所のお嬢様だからだよ」
カホ「お嬢様…?人違いです!あたしはただの平民です!」
髭男「なあ、やっぱり別のやつなんじゃ…」
禿げ男「くそっ…しくじったか」
カホ「だからお願いします!あたしを解放してください!誰にも言いませんから!」
禿げ男「そういう訳にはいかねぇ」
髭男「無駄な労力使わせたツケは、体で払ってもらうからよ」
カホ「そん…な…」
-
子猫『カホ…』スリ
カホ「っ!あなただけでも逃げて」
子猫『でも…』
カホ「お願い、あたしは大丈夫だから」ブルブル
子猫「ニャー……」トコトコ…
禿げ男「優しいねぇ嬢ちゃん」ズィッ
髭男「俺達にも優しくして欲しいにゃーw」ズイッ
カホ「っ!あ、あたしだって冒険者なんだから…!」
カホ「あなた達なんかの好きにはされない!」
髭男「ほー威勢がいいな」
禿げ男「なら抵抗する気も起きなくしてやるよ」
-
禿げ男「『シンク』」︎︎
カホ「!」
カホ「か──っ──は──」
カホ(息ができない…!)
カホ「あ──っ──!」パクパク
禿げ男「『キャンセリ』」︎︎︎︎
カホ「っはあーーーっ!!」
カホ「げほっ!げほっ…!」
髭男「どうだ?苦しいか?」
禿げ男「抵抗しなければこんなことしないで済むんだけどな」
カホ「っこの程度──」
禿げ男「『シンク』」︎︎
カホ「!!」
カホ「くっ──ぁ──!!」
-
カホ「────っ!──」バタバタ!
カホ(苦しい…!息を吸うことも吐くこともできない!)
カホ「────っ」パクパク…
カホ「──────」バタン
カホ「─────────」ピクピク…
禿げ男「『キャンセリ』」︎︎︎︎
カホ「っはぁーーっ!!はぁっ!はっ!はぁ…」グッタリ…
髭男「だんだん長くしてやるとその内みんな白目剥いて失禁するんだよなw」
禿げ男「俺にそっちの趣味はねぇんだよ。いいからさっさと脱がすぞ」
髭男「はいはいっと!」
ビリッ! カラン…
カホ「──あ」
-
髭男「ウホッ!でっけぇw」
カホ(あのブローチ……)スー
禿げ男「おっと、変な真似はするなよ」ガシッ
カホ「っ離して…!」グネグネ
髭男「胸をはだけて両手を頭の上で拘束された姿…そそるなぁ」モミモミ
カホ「っ!」
カホ(気持ち悪い……!)
髭男「うおっすげぇ弾力!やっぱり若いって最高!」
カホ「ヤメテ……」
-
禿げ男「俺が触るまで唾は付けんなよ。汚ぇから」
髭男「わかってるってw」モミモミ
カホ「ぅ……ぅぅ……」💧ポロポロ
髭男「さて、下の方はちゃんと手入れされてるかなぁ?」スッ
カホ「!!!」ゾワッ
男の手がパンツの隙間から入り込んで来る。
素肌を触られるだけで、全身が粟立つ程の嫌悪感。
その手が下腹部を伝い秘部に伸びていく感覚は、カホの心を絶望で埋め尽くすには充分過ぎた。
カホ「ヤダ……」
カホ(コズエちゃん……メグちゃん……誰か…お願い…!)
カホ『助けてぇぇぇ!!!!!!』バチバチ⚡️
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
子猫「!」⚡️
トラ猫「!」⚡️
三毛猫「!」⚡️
白猫「!」⚡️
木の上の猫「!」⚡️
卓上の花『!』⚡️
メグミ「この声────カホちゃん?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
禿げ男「無駄だよ。いくら叫んでも聞こえやしねぇ…ん?」
ドドドドドド!
髭男「何だ、この音?」
子猫『カホ!』ニャー!
カホ「子猫ちゃん?」
トラ猫『助けに来たぜ!』
白猫『大丈夫にゃ?』
カホ「トラちゃん達まで!?なんで…」
三毛猫『なんでって、あんたがオイラ達を呼んだんだろ?』
カホ「え…あたしが?」
木の上にいた猫『場所がわからなかったが、この子どもが案内してくれた』
-
子猫『他にもカホの力になりたいって猫達をたくさん連れてきたよ!』
ニャー! ニャー! ニャー! ニャー!
禿げ男「何だこの猫ども!?どこから湧いてきやがった!」
トラ猫「シャー!」ガブッ!
髭男「痛ってぇ!噛み付くな!」ブン
白猫「ニ"ャー!」ヒッカキ!
髭男「ぎゃー!!目が!目がぁ!」
禿げ男「クソっ!『ファイア──』」
木の上にいた猫「ニャッ」バシッ!︎︎
禿げ男「あっ!返しやがれ!」
三毛猫「ヴニャー!」ブチブチ!
禿げ男「っ!やめろぉ!残ってる髪を抜くなぁ!!!」
-
ウオーーーー!!!
🚪バーン!
メグミ「カホちゃん無事!?」
カホ「メグちゃん…!」
メグミ「って──何この猫たち!?猫屋敷?」
全禿げ男「クソっ!今度は何なん────うぉでっか…」
髭男「まさか嬢ちゃんの仲間────うぉでっか…」
メグミ「おい。お前らどこ見てんだ?」
メグミ「人と話す時は相手の目を見なさい!目を!!!」
メグミ「メグちゃん人じゃなくて天使だけどぉ!!」
-
全禿げ男「天使だぁ?イカれてんのかこの女…天使はとっくに絶滅しただろ!」
メグミ「はぁ!?適当なこと言いやがって…!ていうかカホちゃん大丈夫?コイツらに何かされなかった?」
カホ「う……襲われそうになりました…」ガタガタ
メグミ「っ!!!お前らぁ!!!」
全禿げ男「ちっ!おい早く杖を返せ!」
木の上にいた猫「…」ピューン︎︎
全禿げ男「あっ!畜生!」
メグミ「女の子傷付けて、タダで済むと思わないことだね」
メグミ「お前らなんか絶対天国に行けなくしてやる!」
その瞬間、メグミエルの体から膨大な量の魔力が溢れ出る。
髭男「何だこの魔力は!?まさか、本物の天使……!」
-
メグミ『主を代行し、愚かな人間に天罰を下します』
全禿げ男「ちぃっ!」
メグミ「くらえ!『エンジェルブロrrrrオォォォォ!』」👊🔥
ポムッ💭
全禿げ男「あ?なんだ、大口叩いた割に大したことねぇな…」
全禿げ男「デカいのは乳だけにしとけやぁ!!!」👊ブン
メグミ「ぐぎゃーー!」バタン
カホ「メグちゃん!!」
髭男「どうする?コイツも一緒に連れてくか?」
全禿げ男「顔を見られたからには仕方ねえな…」
-
猫達「「「!!!」」」
ニャーー! ピューン!💦
カホ「あれ?みんなどこ行くの!?」
ゴゴゴゴゴ…!
ドカーーーン!!!!
髭男「!!!天井が抜けた!?」
全禿げ男「バカな!ここは地下2階だぞ!?」
コズエ「…」スクッ
カホ「コズエちゃん!!!」
コズエ「カホさん無事───っ!」
コズエ「……あなた達、『覚悟』はいいわね」ギロッ
髭男「おい…特徴的な髪色のお嬢様って…」
全禿げ男「こっちがターゲットの令嬢かよ!」
コズエ「!!!」
コズエ「そう、私のせいでカホさんを巻き込んだのね…」
-
全禿げ男「もういい!3人まとめてとっ捕まえ────ぐおっ!?」ガシッ
コズエ「覚悟をしろと…言ったはずよ!!!」ブン!!
コズエは男の胸元を掴むと、力の限り壁に男の体を打ち付ける。
全禿げ男「ぐはっ!」ドシン!
コズエ「はっ!!」👊ブン!
全禿げ男「お"え"っ!」
コズエ「はあーーーーーーーっ!!!!」
ド!ド!ド!ド!ド! ド!ド!ド!ド!ド!
👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥
👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥 👊💥
バキッ!ボキッ!バギャッ!!
幾度となく全身に降り注ぐラッシュ。
骨は砕け、内蔵は破裂し、裂けた皮膚からは殴られる度に血が吹き出す。
全禿げ男「お"ごっ!が──がが」
-
めぐちゃん……
-
ミシミシ…ボロッ……ピシッ!
その衝撃は男がもたれ掛かる壁にも伝播し、ついには壁に蜘蛛の巣状の大きな亀裂が走る。
全禿げ男「も──止────ごめ────」
コズエ「ふん!!!」👊バーン!
慈悲の一撃はその汚らしい頭へ。
頭を強く打ち付けた壁には、ペンキをぶちまけたように、赤い血が放射状に広がっている。
────男はそれきり、二度と動くことは無かった。
髭男「ひっ──人殺し……」ペタン
コズエ「『人』殺し?何を言っているのかわからないわ」
コズエ「有害な『魔獣』の駆除は、冒険者の責務よ」
髭男「は…はは……はははっ…!」
-
コズエ「ぬぅん!」グチャ!
髭男「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
コズエは腰を抜かしている男の股間を踏み潰す。
男のズボンには、尿を漏らしたように赤いシミがみるみると拡がっていく。
髭男「こ゚────」ビクン!ビクン!
髭男「 」ブクブクブク…
コズエ「…」スッ
泡を吹いて倒れる男の頭に、コズエは真っ赤に染まった手を伸ばし──
-
メグミ「ちょっーーと待った!!両方殺しちゃったら情報聞き出せないでしょうが!」
メグミ「それに……カホちゃんが見てる…」
コズエ「!!!」
カホ「…」
コズエ「ごっ…ごめんなさいカホさん!酷い目にあったばかりなのに…こんなものを見せてしまって…」
カホ「あ……い、いえ!あたしは大丈夫です!」
カホ「それよりごめんなさい…あたしのせいでコズエちゃんが……」
コズエ「私のことはどうでもいいの!謝らなくてはいけないのは私の方だわ!」
カホ「そんな!コズエちゃんが謝ることなんて何も──」
コズエ「違うの!本当に、私のせいなのよ……」
-
メグミ「とりあえず、コイツらはもう動くことは無いだろうし、コズエは手を洗って誰か呼んできなよ」
メグミ「カホちゃんは私がそばに居るからさ」
コズエ「そう、ね…こんな姿で傍にいられても落ち着かないものね…」トコトコ
メグミ「カホちゃんこれ、私のローブ羽織ってて」ファサ
カホ「でも、そしたら羽が…」
メグミ「私は別に天使であること隠そうだなんて思ってないから大丈夫☆」
カホ「ありがとうございます…」ギュッ
-
子猫「ニャーン」スリスリ
カホ「あっ!子猫ちゃん!」
メグミ「え、もしかしてこの猫、捜索依頼のあった迷子の子猫?」
カホ「はい!この子が他の猫を連れて来て、あたしを助けてくれたんです!」
子猫「ニャーン」
カホ「ううん、本当に助かったよ。ありがとうね」ナデナデ
子猫「ニャン!」
メグミ「ふーん、"この猫が"ねぇ…」
子猫「♪」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、カホを誘拐した男達は病院に連れていかれた。
治癒魔法による治療をした後、警察に引き渡されるそうだ。
そして子猫はというと───
???「マッシュくん!」
子猫『ご主人様ー!』ピョン
???「よかった。心配したんだよ?」
子猫『ゴメンなさい…』ニャーン…
カホ「その子、あなたが毎日どこかに出掛けてるのが気になってたみたいで…それでつい外に出ちゃったそうなんです」
???「そっか、1人でお留守番するのが寂しかったんだね。今度は一緒にお出かけしよう」
子猫「ニャーン」
-
???「キミがマッシュくんを見つけてくれたんだよね?」
ツヅリ「ボクは『ユウギリ ツヅリ』改めて、ありがとうございます」ペコ
マッシュ「ニャー!」
カホ「あたしはヒノシタ カホです!」
ツヅリ「カホ、さっき聞いたんだけど、マッシュくんを探す途中で大変な目に会ったんだよね?」
ツヅリ「ボクにできることがあるかわからないけど…カホはマッシュくんの恩人だ、何かあれば力になるよ」
カホ「いえ、むしろあたしがマッシュくんに助けられたので…でも、もし良ければまたマッシュくんに会いに行ってもいいですか?」
ツヅリ「もちろんだ。いつでも歓迎する」👍
カホ「えへへ、ありがとうございます!」
コズエ「カホさん、そろそろ帰りましょう」
カホ「はーい!それじゃ、ツヅリさん、マッシュくん、さようなら!」
ツヅリ「うん。またね」
マッシュ『また会おうねー』ニャーン
-
【コズエの家】
コズエ「カホさん、お腹空いたでしょう?夕飯の準備をするから待っててちょうだい」
カホ「あ…ごめんなさい。あたし、今日はご飯はいいかもです」
コズエ「そう……お風呂はどうする?」
カホ「入ります」
コズエ「それならお湯を沸かしてくるわね」トコトコ
メグミ「……カホちゃん、今夜は一緒に寝てあげようか?メグちゃんのマシュマロボディは寝心地抜群だよ♡」
カホ「ありがとうございます。でも大丈夫です」
メグミ「そっか。まぁ今日会ったばかりの天使と一緒に寝るのは逆に眠れないか」
カホ「いえ、お気持ちだけでも嬉しいです」
-
メグミ「……」
カホ「……」
コズエ「カホさん、お風呂沸いたわよ」
カホ「あ、今入ります」トボトボ
コズエ「……」
メグミ「そういえばコズエ、カホちゃんに話があるんじゃないの?」
コズエ「ええ…でも今は相当疲れてるだろうから、明日落ち着いてから話すわ」
メグミ「了解」
コズエ「……ところであなたは何処で寝るつもりなの?」
メグミ「私?普通にそこら辺に浮いて寝るよ?」
コズエ「それじゃあ毛布を被れないじゃない」
メグミ「毛布なんか要らないよ。羽でこうやって体を包んで、直立して寝るから」プカプカ
コズエ(サナギみたいね…)
-
カホ「お風呂あがりました。今日はこのまま寝ますね」
コズエ「ええ、おやすみなさい」
メグミ「眠れなかったら、夜中でも私かコズエに声掛けていいからね」
カホ「ありがとうございます。おやすみなさい」
🚪ガチャ バタン
トボトボ…
🛌 ポフン!
カホ「はぁ……」
今日あったことを思い出そうとして、──途中で思考を中断した。
あまり、考えたくない。
カホ「う……うぅ……」ポロポロ💧
リビングに居る二人に聞こえないように、声を抑えながら泣く。
眠れないと思ったが、疲れ果てた体はいつの間にか意識を手放してくれていた。
【迷子の猫の捜索】 完了!
-
花帆ちゃんがこれ妄想してるってことでしょ?
とんだドスケベドMうさぎちゃんだねぇ
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【ステータス情報更新!】
『称号獲得』
ヒノシタ カホ : 『Linker』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【おしえて!魔法教室】
魔法解説のコーナーだよ!
今回出てきた魔法はこちら!
『スリーパス』
睡眠魔法。この魔法をかけた相手を即時に眠らせるよ!
『シンク』
窒息魔法。この魔法をかけた相手の呼吸を封じるよ!
『キャンセリ』
解除魔法。自分や相手にかけられた魔法を解くよ!
【豆知識】
基本的に身体の状態に干渉する魔法は『魔法使い』には効かないよ!
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メグミ「…」zzz
『メグミエル 聞こえますか』
メグミ「…」zzz
『メグミエル 第八のラッパを授けられし天使よ』
『使命を 果たすのです』
メグミ「…」zzz
『メグミエル メグ──いつまで寝てるんですか貴女は!!!』
メグミ「ふが!?今、神の声が聞こえたような……」
メグミ「うーん、気のせいか!二度寝しよっと!」
メグミ「くかー」zzz
『…………メグミエル……』
-
【リビング】
カホ「おはようございます」
コズエ「おはよう、カホさん。朝は食べるかしら?」
カホ「あ、はい!食べます!」
コズエ「待っててね、今パンと紅茶を用意するから」
カホ「そういえばメグちゃんは?」
コズエ「上よ」
カホ「上?──うわぁ!」ガタッ
メグミ「…」zzz
コズエ「直立の姿勢で寝るとか言ってたのに…朝起きてきたら天井に張り付いていたわ」
メグミ「ううん…あ、カホちゃんおはよう〜」
カホ「お、おはようございます…」
卓上の花『カホちゃん、昨日は大丈夫だった?』
カホ「え?」
卓上の花『ごめんね、呼んでくれたのに助けに行けなくて…』
カホ「もしかして、あなたにも声が届いてたの?」
-
コズエ「カホさん?誰と話しているの?」
カホ「あ、このお花さんが話しかけてきたんです!」
コズエ「そういえば、動物や植物と話せる加護をもらっていたわね」
メグミ「ねぇカホちゃん、昨日の猫達もカホちゃんが呼んだんじゃない?」
カホ「あたしが?」
メグミ「たまに天使の加護がすごく馴染む人間がいてね。そういう人は加護を自分のスキルとして開花させちゃうんだよ」
カホ「うーん?」
メグミ「ま、ただの予想だけど」
コズエ「朝食ができたわよ。食べましょう」
コズエ「メグミもそろそろ降りてきなさい」
メグミ「はーい」スィー↓
-
カホ「いただきます!」
モグモグモグ……
コズエ「……カホさん、昨日の話なのだけれど」
カホ「っ」ビクッ
コズエ「ご、ごめんなさい!今のは忘れてちょうだい!」
カホ「いえ…大丈夫です。何か話したいことがあるんですよね?」
コズエ「でも…やっぱり昨日の今日じゃまだ…」
カホ「確かにまだ、昨日のことを思い出すと体が震えちゃいます…」
カホ「でも!コズエちゃんがあたしに伝えようとしてることも、ちゃんと聞きたいです!」
-
コズエ「けれど……」
メグミ「あーもう!焦れったいな!変にもったいぶられるとムカつくからさっさと言いなよ!」
コズエ「そうね…」
コズエ「まず、一つ謝らないといけないのとがあるわ」
コズエ「私の名前、オトナシと名乗っていたけれど、本当は『オトムネ コズエ』って言うの」
カホ「オトムネ?どこかで聞いたような…」
カホ「あーー!!それってカナザワの有名な豪族じゃないですか!」
カホ「え、もしかしてコズエちゃんって、本当にお嬢様だったんですか!?」
コズエ「実は…そうなの」
-
カホ「でも、何でわざわざ偽名まで使って冒険者を?」
コズエ「それは、私が家出をしたからよ」
カホ「家出?」
コズエ「オトムネ家の長女である私は、産まれてから死ぬまでの
道筋は全て両親に決められていた」
コズエ「けれど私は自由に生きたかった。家に縛られずに、自分の人生は自分で決めたかったの」
カホ「だから家出を…」
コズエ「オトムネ家はカナザワでは有名だし、本名を名乗っていたらすぐに家の者に見つかってしまう」
コズエ「だから偽名を使って冒険者をしていたの」
カホ「そうだったんですね」
-
コズエ「今まで騙していて、ごめんなさい」ペコ
カホ「そんな!頭を上げてください!」
カホ「それにあたしにとっては、コズエちゃんはただの優しいコズエちゃんです!今までもこれからも変わりません!」
コズエ「ありがとう。でも今回カホさんが誘拐された件、あれは恐らく本来私が標的だったはずよ」
カホ「それは…身代金目的とか?」
コズエ「多分そうね…」
コズエ「カホさん、私これからは本名で冒険者を続けようと思うの」
カホ「え、でもそれじゃ…周りの人にコズエちゃんの正体がバレて…」
コズエ「正体を隠しているせいで、またカホさんや無関係の人が被害に遭う方が深刻よ」
コズエ「それに、私は対人戦の方が得意だから、たとえ襲われても問題ないわ」💪
カホ「襲われる時点で問題だと思いますけど……」
-
カホ「わかりました。実を言うと、本名を名乗るのはあたしも賛成です」
カホ「偽名を使い続けるのは大変ですし、本名で生活する方がコズエちゃんも気が楽だと思います!」
コズエ「ありがとう、カホさん。今日さっそく冒険者ギルドに謝罪と登録名の変更に行ってくるわ」
カホ「はい!いいと思います!」
メグミ「私はよくわかんないんだけどさ、本名を名乗ったら家の人が連れ戻しに来るんじゃない?」
コズエ「それは…そうでしょうね」
コズエ「でも、だからと言って帰る気は無いわ。力ずくでも追い返してみせる」
メグミ「ふーん。あんたがいいって言うなら文句はないけど」
-
コズエ「それとカホさん、今後について提案があるのだけれど」
カホ「なんですか?」
コズエ「しばらくの間、カホさんには家で家事をしていて欲しいの」
カホ「それって……クエストには同行させてもらえないってことですか…?」
コズエ「そうよ」
カホ「嫌です!あたしも一緒に行きたいです!」
コズエ「でも、心の傷というものは、自覚がなくてもなかなか癒えないものよ」
カホ「あたしは大丈夫です!!」
コズエ「それに、昨日の事件はそれなりに大きな騒動になったから…」
コズエ「今カホさんが冒険者ギルドに行ったら、否が応でも好奇の視線を向けられるかもしれない」
カホ「あ──それは……」
-
コズエ「もしカホさんの心が大丈夫だと言うのなら、せめて世間の注目が薄れるまでは家にいた方がいいと思うのだけれど……どうかしら?」
カホ「……わかりました」
コズエ「お金の心配はしないで。私とメグミでしっかりクエストをこなすから」
メグミ「そうそう!メグちゃん達に任せて──って、私も行くの!?」
コズエ「当たり前でしょ?タダ飯を食べるつもりなら捨てるわよ」
メグミ「今の私は一応カホちゃんに仕えてるんだけど!?」
コズエ「そのカホさんの為でもあるのだから、しっかり働きなさい」
メグミ「うわ〜ん!戦いは苦手なのに〜!」
コズエ「そういうことだから、昼間の留守番はお願いね。もしも誰か訪ねてきても、居留守を使って構わないわ」
カホ「わ、かり…ました!家事はあたしに任せてください!」
結局、あたしはその日から約1ヶ月半、クエストに行くことはなかった。
あの事件が起こるまでは──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
乙ー
-
【1ヶ月半後】
カホ「おはようございます〜」ポヤー
コズエ「おはよう、カホさん」
コズエ「最近起きるの遅いわね?もう10時よ」
カホ「午前中はやることがないので〜」
コズエ「まったくもう」
カホ「あれ、メグちゃんは?」
コズエ「あの子なら冒険者ギルドに行ってるわ。今日はあの子がクエストを選ぶ番だから」
カホ「そうですか。メグちゃんって戦いは強いんですか?」
コズエ「弱いわ。というか、攻撃力が0だから弱いどころの騒ぎじゃないわ」
-
カホ「それ、もはやコズエちゃん一人の方がいいんじゃ…」
コズエ「そうでも無いのよ。魔獣や魔物は何故かあの子に強く反応するし、飛んで逃げれるから囮役に最適よ」
カホ「あはは…」
🚪バーン!
メグミ「ただいまー!」
コズエ「メグミ!ドアはもう少し優しく開けてくれないかしら」
メグミ「うるさいな〜あ!カホちゃんおはよう!」
カホ「おはようございます!」
メグミ「カホちゃんは今日も教会に行くの?」
カホ「いえ、今日はバイトの日です!」
-
あの日以降、あたしが外出する先はだいたい2箇所に決まっている。
1箇所目は街の教会、コズエちゃんの勧めで、体のお清めとメンタルケアを兼ねて通っている。
もう1箇所は近所のお花屋さん。
だいぶ心も落ち着いた頃、自分だけお金を稼いでいない状況の方が辛くなって、バイトをすることにした。
元々あたしがやってたお花屋さんは、経営難とかギルド規約的な問題で廃業になっちゃったけど…
やっぱりお花は好きだから、おばあさんがやってるお花屋さんに手伝いに行っている。
-
コズエ「それでメグミ、クエストは受けてきたの?」
メグミ「あ、そうそう!面白そうなクエスト持ってきたよ!」
コズエ「あなたの持ってくるクエストは大抵ろくでもないのだけれど…」
メグミ「今回は大丈夫だって!これだよ!」
メグミエルが受注したクエスト
1.森から聞こえる謎の音の調査(Bランク)
2.突然現れた謎の洞窟の調査(Bランク)
3.捨てられたドラゴンの巣の調査(Bランク)
4.???(自由記述欄 ランク?)
-
3
-
3.捨てられたドラゴンの巣の調査(Bランク)
コズエ「ちょ、ちょっと!ドラゴンの巣の調査って!それSランクじゃないの!?」
メグミ「よく見て!『捨てられた』ドラゴンの巣だから!」
コズエ「そうは言っても…」
メグミ「大丈夫だって!むしろ戦わずに高い報酬もらえるんだから、ちょーやり得じゃん!」
コズエ「……」
カホ「ドラゴンって、巣を捨てたりするんですか?」
コズエ「いえ…ドラゴンは一度居着いた巣を生涯離れることは無いわ」
カホ「ならこの依頼は…」
コズエ「居着いていたドラゴンが死んだか、或いは──」
-
メグミ「まあまあ、『調査』だけでいいんだから!もしもドラゴンがまだ居たら、その時点で帰っちゃえばいいんだよ☆」
コズエ「簡単に言うけれど、あなたドラゴンの恐ろしさをわかっているの?」
メグミ「? ドラゴンってそんなにヤバいの?」
コズエ「ドラゴンと言えば、普通は王国騎士団が数十人で対処するような相手よ」
カホ「王国騎士って──冒険者で言えばSランク級の凄腕集団じゃないですか!?」
カホ「そんな人達が数十人で戦わないといけない相手なんて…」
メグミ「でもそんなに危険なドラゴンの巣の調査がBランク帯にあるってことは、もう居ないことは確定してるんじゃないの?」
コズエ「それは…確かにそうとも捉えられるわね…」
-
メグミ「もし何かヤバそうだったら、特別に私がコズエを抱えて逃げてあげるから!」
コズエ「あなたそこまで速く飛べないでしょうに」
コズエ「はぁ、いいわ。どうせ調査なんだから、危険を感じたらすぐに逃げれば済む話よ」
カホ「気を付けてくださいね…」
コズエ「大丈夫よ。メグミはともかく、私はドラゴンの恐ろしさは理解しているから」
コズエ「それよりカホさん、そろそろバイトの時間じゃないかしら?」
カホ「あ!そうでした!それじゃあバイトに行ってきまーす!」
コズエ「今日は夕方までだったわよね。私達もカホさんのバイトが終わる頃までには帰るようにするわ」
カホ「わかりました!お二人ともお気をつけて!」
メグミ「カホちゃんも頑張ってね〜」
-
【花屋】
カホ「こんにちはー!」
店主「あらカホちゃん!今日も元気ね」
カホ「はい!カホは今日も元気いっぱいです!」
店の花々『カホ!』
カホ「お花さん達もこんにちは!今日もキレイに咲いてるね!」
店主「カホちゃんが手伝いに来てくれてから、店の花も心なしか楽しそうだよ」
カホ「おばあちゃんの育て方が上手なんですよ!いつも参考にしてます!」
店主「まあ!嬉しいこと言うわね。私が死んだらこの店はカホちゃんに譲っちゃおうかしら」
カホ「あはは!まだまだ元気じゃないですか!あと100年は続けてください!」
店主「おっほっほ!そんなに続けられないよ。50年は隠居生活したいんだから」
-
棚の上花『カホーぼくまだ水もらってないよー』
カホ「あ、待ってて!今お水持ってくるね!」
店主「あら?そういえばあそこのお花に水やりするの忘れてたわね…カホちゃんはよく気がついてくれて本当助かるわ」
お花屋さんはいつも賑やかだ。
チャーミングなおばあちゃんに、おしゃべりなお花達。
もっとも花の声が聞こえるのはあたしだけだけど、おばあちゃんも何となくお花の気分はわかるらしい。
「ごめんくださーい」
店主「お客さんだわ。カホちゃん、接客お願いね」
カホ「はーい!」
店に来たお客さんは──
1.ツヅリ
2.ルリノ
3.サヤカ
4.???(自由記述欄)
-
2
-
博愛の聖女様かな?
-
4.花帆ちゃん?
-
2.ルリノ
店の入口に向かうと、そこにはよく知った修道服の女の子がいた。
カホ「あ!ルリノちゃん!」
ルリノ「やっほーカホちゃん!今日も楽しそうでなによりだよ!」
カホ「ルリノちゃんに会えたからかな!」
ルリノちゃんはあたしが通っている教会のシスターさんだ。
同い年ということもあってか、あたしの悩みを親身になって聞いてくれた。
実を言うと途中からは相談の為ではなく、ルリノちゃんとおしゃべりするために教会に通っていたりする。
-
ルリノ「あはは!カホちゃんは相変わらず人たらしですなー」
カホ「今日はお花を買いに来たの?」
ルリノ「うん。教会に飾る花を」
ルリノ「今飾ってる花もカホちゃんのおかげでだいぶ長く咲いてたんだけどね。さすがにそろそろ限界だから」
カホ「そっかーじゃあ元気な子を選んでくるね!」
ルリノ「お願いしやす!」
カホ「この子なんてどうかな?綺麗な白ユリだよ!」
ルリノ「おー!いい感じ!」
カホ「じゃあ5,000SIsCaね」
ルリノ「あいあい!領収書も出してもらえる?」
カホ「わかった!」
-
カホ「あ、そうだルリノちゃん!今日あたしのバイト17時頃終わるんだけど、そしたらあたしの家に遊びに来ない?」
ルリノ「カホちゃん家?」
カホ「まあ、正確にはコズエちゃんの家だけど…ルリノちゃんの話はよくしてるし、きっとコズエちゃんも歓迎してくれるよ!」
ルリノ「うーん、その時間ならギリ行けるかな?」
カホ「本当?やったー!ずっとルリノちゃんを招待したかったんだ!」
カホ「そしたらバイトが終わったら教会に迎えに行くね!」
ルリノ「うん!待ってる!」
-
【森の中】
コズエ「情報によるとこの辺りにドラゴンの巣があるはずよ」
メグミ「ねぇ、なんか臭くない?」
コズエ「そうね…だんだんと臭いが強くなってきてるわ」
メグミ「……やっぱり引き返す?」
コズエ「さすがに今戻ったら何の調査にもなってないわよ。せめて臭いの原因が例のドラゴンの巣からなのかくらいは確認しないと」
メグミ「うーん…やっぱり受けてくるクエスト間違えた?」
コズエ「今さら何言ってるのよ」
-
コズエ「それよりメグミ、上から巣がどこにあるか探して貰えないかしら?」
コズエ「巣のある場所だけ木が無いからすぐにわかるわ」
メグミ「了解」スィー↑
メグミ「うーん、ドラゴンの巣、ドラゴンの巣……あ!あれじゃない?」
コズエ「見つかったかしらー?」
メグミ「それっぽいのあったよー!」
コズエ「巣の様子は確認できそうー?」
メグミ「待ってて!うーん……」ジー
メグミ「え────何あれ…」
-
【教会】
カホ「ごめんくださーい!」
シスター「あらヒノシタさん、こんにちは。今日もルリノさん?」
カホ「そうなんですけど…今日はルリノちゃんを奪いに来ちゃいました!」
シスター「奪いに?」
ルリノ「ちょっと!ちょっと!紛らわしい言い方しないでよカホちゃん!」
カホ「ルリノちゃん!」
ルリノ「ただカホちゃんの家に遊びに行くだけでしょ?」
カホ「えへへ!ちょっと言ってみたくなって!」
-
ルリノ「まったくもう…でも、軽口叩けるくらい元気になってよかったよ」
ルリノ「初めてここに来た時は、明るく振舞おうとしてたけど結構ヤバかったから」
カホ「あたしが元気になれたのも、ルリノちゃんがあたしに寄り添ってくれたおかげだよ」
カホ「だから今日は、あたしが取っておきの料理を振舞っちゃうね!」
ルリノ「おっ!それは楽しみですな〜」
カホ「よし!それじゃあ今から買い物に行こう!」
ルリノ「まだ食材買って無かったんかい!」
-
博愛の女神さまぁ……
-
【コズエの家】
カホ「ただいまー!」
ルリノ「お邪魔しまーす!」
カホ「あれ?二人ともまだ帰ってないんだ」
ルリノ「カホちゃんの話によく出るコズエさん?」
カホ「うん!それとメグちゃんを合わせた3人暮らしなんだ!」
ルリノ「へー賑やかだねー」
カホ「多分すぐに帰ってくるから、先にご飯の用意とかして待ってよう!」
ルリノ「ルリも手伝うよ」
カホ「ありがとう!」
-
【森の中】
コズエ「これは──いったい何があったの?」
メグミ「ドラゴンの……死体だよね?」
コズエ「ええ、ドラゴンから魔力を一切感じないもの。恐らく腐臭もこのドラゴンからだわ」
メグミ「何で死んでるんだろう?」
コズエ「それを調べるのが私達の仕事よ」
メグミ「パッと見た感じ、身体に大きな傷とかは無いよね。もしかして寿命で死んじゃった?」
コズエ「どうかしら…成獣と言うよりはまだ子どもに思えるけれど」
-
コズエ「何より街のこんな近くにドラゴンが住み着いてるなんて聞いたことがないわ。きっと最近ここに巣を作ったのよ」
メグミ「それなら病気とか?」
コズエ「有り得るわね。あとは獲物が少なくて餓死したとか……」
メグミ「! コズエ、見てあれ!」
コズエ「木が何本も折れているわね…何かと戦っていたのかしら」
メグミ「まさか…このドラゴンより強いやつが殺した!?ヤバいじゃん!早くここから離れようよ!」
コズエ「ドラゴンよりも強い生物…想像が付かないわ…それにメグミが言ったように、身体に目立った傷は無いのよね」
-
メグミ「ねぇ考察はあとでいいでしょ!もう帰ろうよ!なんだか気味が悪くなってきた…」
コズエ「……そうね。一応調査はできたのだから、あとは街に戻ってギルドに報告を──」
カラカラカラカラカラ……
コズエ「!! メグミ離れて!」
メグミ「へ?」
コズエは咄嗟に拳を構えて前に飛び出す。
コズエ「はぁーー!!」👊
-
【コズエの家】
カホ「二人ともどうしたんだろう…」
ルリノ「クエスト長引いてるのかな?」
カホ「まさか、二人に何かあったんじゃ!」
ルリノ「どんなクエストに行ったの?」
カホ「たしか『捨てられたドラゴンの巣の調査』って言ってた気がする」
ルリノ「おう……ドラゴンの巣かぁ……二人だけで行くようなクエストじゃないね…」
カホ「もしかして、ドラゴンがまだ巣に居て鉢合わせしたんじゃ……」
カホ「ごめんルリノちゃん!あたし──」ガタッ
ルリノ「うん。一緒にギルドに行こう。実はもう帰ってて、街で寄り道してるだけかもしれないし」
カホ「! ありがとう!」
-
【冒険者ギルド】
受付嬢「オトムネさんとメグミさんですか?まだクエストの完了報告は受けていませんよ」
カホ「じゃあ、やっぱりまだ帰ってきてないんだ…」
受付嬢「お二人が受注されたクエストは……なるほど、ドラゴン関連ですか」
受付嬢「最悪の事態を想定して、王国騎士の派遣を要請した方がいいかもしれませんね」
カホ「その王国騎士さんって、どれくらいで来てくれるんですか?」
受付嬢「今から要請をする場合、最短でも明日の午前中になるでしょうね」
-
カホ「明日!?それじゃあコズエちゃん達は、一晩森の中で放置されるんですか!?」
受付嬢「厳しい言い方になりますが、冒険者の生死は基本的に自己責任です」
受付嬢「王国騎士が動くのは、あくまで国民を危険から護る為です。彼らの要件に冒険者の救出は含まれていません」
カホ「そんな……」
ルリノ「……」
カホ「あたし……二人を探しに行きます!」
ルリノ「ええ!?カホちゃん落ち着いて!カホちゃんが行っても何の解決にもならないって!」
カホ「でも!もしも二人が怪我をして動けないなら、一晩も森に放置されたら魔獣に襲われるかもしれないよ!!」
ルリノ「カホちゃん…」
-
カホ「例えルリノちゃんが止めても、あたしは二人を探しに行くよ」
ルリノ「……わかった。それならルリもついて行くよ」
カホ「え」
ルリノ「カホちゃん戦いは得意じゃないんでしょ?まあルリも本職じゃないけど…」
カホ「でも、最悪ルリノちゃんまで……」
ルリノ「聖職者として、困ってる人は見過ごせないかんね!」👍
カホ「ルリノちゃん…!ありがとう!」
ルリノ「ただ、探すと言ってもどこに居るのかがわかんないか…」
受付嬢「巣への地図はクエストを受注された際にメグミさんに渡してしまいました。『北』の方角だったことは覚えていますが、詳しい位置までは…」
-
ルリノ「もうすぐ日も完全に落ちちゃうし、そうしたら迷子になっちゃうよ?」
カホ「うーん…うーん…二人の進んだ方向の手がかりさえあれば…」
カホ「……あ!!!」
ルリノ「カホちゃん?」
カホ「もしかしたら、あたしが案内できるかも!」
ルリノ「実は地図を見せてもらってたとか?」
カホ「ううん。あたしは二人がどこに向かったかは知らない。でも、"知ってるひと"に聞くことはできる!」
ルリノ「知ってる人?」
カホ「そう!だからドラゴンの巣までの道のりはあたしに任せて!」
受付嬢「念の為この街に駐屯している王国騎士にも出動要請を送っておきます。お二人とも、どうかお気をつけて」
-
【街の外】
ルリノ「取り敢えず北門を出たけど、これからどうするの?もう辺りは暗いし、話を聞けそうな人は居ないと思うけど…」
カホ「『人』は居ないね。でも、ここにはこんなにも沢山の『木』が生えてる!」
ルリノ「木?」
カホ「実はあたし、植物とお話ができるんだ!二人を見かけたって言う木を辿っていけば、きっと二人の所までたどり着くよ!」
ルリノ「カホちゃんそんなスキル持ってたの!?すげー!」
カホ「さっそく近くの木に聞いてみるね!すみませーん!お聞きしたいことがあるんですけど!」
木『人間…何か用か?』
-
カホ「実は人探しをしてて、紫の髪をした背の高いお嬢様って感じの女の人と…」
カホ「ゆるふわな雰囲気で宙を浮いてる天使を見ませんでしたか?」
ルリノ「天使!?!?」
木『すまないが、我々には人間の区別は付かない。だか、天使なら珍しいから覚えている』
カホ「本当ですか!?どっちの方角に行ったかわかりますか?」
木『方角、というものは私にはわからない。私にわかるのは天使が私の前を通ったということだけだ』
カホ「そうですか…いえ!ありがとうございます!」
ルリノ「どうだった?」
カホ「少なくともこの木の前は通ったみたい。この調子でどんどん聞き込みしていこう!」
-
【30分後】
ルリノ「ねえカホちゃん、何か臭く無い?」
カホ「うん…お肉を腐らせたみたいな嫌な臭い」
カホ(まさかコズエちゃん達はもう……)
ルリノ「カホちゃん、止まって」
カホ「ルリノちゃん?」
ルリノ「心の準備をしてから、向こうの開けてる場所を見て」
カホ「うん?暗くてよく見えない……」
ルリノの指差す方を見る。
暗い森の中でそこだけは開けていて、月の光に朧げに照らされている。
-
カホ「! あれって、ドラゴン…?」コソコソ
ルリノ「たぶんそう。寝てるのかな」コソコソ
カホ「もう少し近づいてみようか」コソコソ
ルリノ「うん。音を立てないように気をつけてね」コソコソ
息を止めながらゆっくりと近づく。
ドラゴンが起きる様子は無い。
代わりに、先程からしていた腐臭が強くなっていく。
カホ「もしかしてこのドラゴン、死んでるの?」
ルリノ「そうかも。でも何で…?」
-
カホ「あ!ルリノちゃんあそこ!」
ルリノ「人が倒れてる!?」
カホ「まさか…!」ダッ
ルリノ「あっカホちゃん!走ったら危ないよ!」
カホ「やっぱり!」
ドラゴンから少し離れた場所に、二人は重なるように倒れていた。
カホ「コズエちゃん!メグちゃん!しっかりしてください!」ユサユサ
ルリノ「この二人がそうなの?」
カホ「そう!二人とも起きてください!」
ルリノ「待ってカホちゃん、ルリが診る」
そう言うとルリノは倒れている二人の首元に手を当てる。
-
ルリノ「……うん、大丈夫。二人ともちゃんと生きてるよ」
カホ「!! よかっ…た……」ペタン
ルリノ「でも、二人ともかなり衰弱してる」
ルリノ「魔力もすっからかんだし、大魔法を連発でもしたのかな?」
カホ「え?コズエちゃんは格闘家だから、魔力はそこまで消費しないはずなんだけど…」
ルリノ「そうなの?じゃあ何でこんなに──」
カラカラカラカラ……
カホ「!?」
ルリノ「!?」
-
突然、後ろから奇妙な物音がした。
カホ「誰か……いる」
カラカラカラカラ……
いつの間に近づいて来たのか、音源はカホ達のすぐそばで佇んでいる。
それは骸骨だった。
カラカラという軽い音は、骨同士がぶつかる際に発せられる音だ。
しかし、奇妙なのは骨の種類がバラバラだということ。
全体的には人間の骨格だか、頭蓋には狼の頭、手や足もそれぞれ獣のような鋭い爪が付いている。
-
カホ「何あれ…骨?もしかしてアンデッド!?」
ルリノ「下がってカホちゃん!」バッ
ルリノがカホと骸骨の間に割って入る。
カホ「ルリノちゃんも危ないよ!」
ルリノ「ルリなら平気だよ。やっぱり、着いてきて正解だった……」
ルリノ「アンデッドの相手なら、ルリの専門分野だ!」
ルリノの攻撃技能──
1.聖典の詠唱
2.浄化魔法
3. ドデカいハンマー
4.???(自由記述欄)
-
2
-
2.浄化魔法
ルリノ『聖なる光よ 穢れを祓え』
ルリノ『ピューリファイ』💠
ルリノは詠唱と共に両手を骸骨に向ける。
すると骸骨の体が、みるみると青白い光に包まれだした。
骸骨「……」ガタガタガタ!
『1』
カホ「なんか…苦しそうにしてる?」
ルリノ「今のは浄化魔法だよ!アンデッドみたいな不浄な魂はこれで一発ってもんよ!」
骸骨「……」フラ〜
カホ「! こっちに来たよ!」
ルリノ「意外としぶといなぁ…『ピューリファイ』!」💠
骸骨「……」ガタガタ!ポロ…
『2』
2発目の浄化魔法を受け、骸骨の体から骨がポロポロと崩れていく。
-
ルリノ「トドメだ!ちゃんと天国へ行けー!」
ルリノ『ピューリファイ!』💠
骸骨「……」バラバラ…ガシャン!
『3』
ルリノ「っ…!」ギューン↓↓↓
カホ「すごいすごい!あっという間に倒しちゃった!」
ルリノ「う、うん」
ルリノ(さっきの感覚……)
カホ「今のがコズエちゃん達を?」
ルリノ「どうだろう…正直、浄化魔法じゃ無くても倒せる程度だったと思う」
カホ「じゃあ、コズエちゃん達が倒れてるのとは無関係なのかな」
ルリノ「わかんない…とりあえず二人を安全な場所まで運ぼ──」
-
カタカタカタカタカタ……
ルリノ「!」
カホ「嘘……何で復活してるの」
ルリノ「…………いや、違うよカホちゃん」
カホ「え?」
ルリノ「足元を見てみて。今まで暗くて気が付かなかったけど……」
カホ「足元って────っ!」
目を細め地面を凝視する。
そうすると、あちこちに白い石のようなものが落ちていることに気が付く。
カホ「まさか、これ全部骨……?」
無数に転がる骨は一人二人分のものじゃない。
人や獣、様々な種類の骨がざっと数十体分ほど落ちている。
中にはまだ完全に骨になっていない、腐りかけの獣の死体もあった。
-
骸骨「……」カタカタカタ
ルリノ(何でだろう…あいつとは戦っちゃいけない気がする。でも…)チラッ
ルリノが振り返ると、そこには初めて見るアンデッドに怯え、震えるカホがいた。
ルリノ(やるしかない!)
ルリノ『ピューリファイ!』💠
『1』
骸骨「……」ガタガタガタ!
青白い光に包まれ、骸骨は膝から崩れ落ちる。
しかし──
-
骸骨「……」カチカチカチ
骸骨は地面に転がる他の骨を纏い、今度は巨大なクマのような形状へと変化した。
骸骨「……」ブン!
ルリノ「あぶね!?」ヒョイ
ルリノ『ピューリファイ!』💠
骸骨「……」ガタガタガタ…
『2』
カホ「効いてるよ!あと少し!」
ルリノ「……」
カホ「ルリノちゃん?どうたの?」
ルリノ「いや……なんていうか…これ以上攻撃しちゃいけない気がする」
カホ「?」
-
ルリノ「えーい!魔法攻撃じゃなきゃどうだ!」ポーン!
ルリノは自分の足元に落ちていた骨を掴み、骸骨に向けて投げつける。
骸骨「……」コツン!
ガラガラガッシャン!
投げられた骨は決して重くは無かったが、それを受けて骸骨はバラバラに崩れ落ちてしまった。
『3』
ルリノ「ぐえっ…」ギューン↓↓↓
カホ「ルリノちゃん!?」
ルリノ「魔力使わない攻撃でもダメかぁ…」
-
カホ「どうしたの?顔色悪いよ?」
ルリノ「カホちゃん、どうしてコズエさん達が倒れてるのかわかったよ」
カホ「え?」
ルリノ「さっきからあいつに3回攻撃する度に、ルリの魔力が無くなる感覚があるんだ」
ルリノ「具体的には3割くらい持ってかれてる……」
カホ「ええ!?じゃあ、もう6回攻撃してるから…半分以上無くなってるってこと?」
ルリノ「そういうことみたい。それと多分──」
骸骨「……」カラカラカラカラ
カホ「また別のやつが出てきた!」
ルリノ「やっぱり無限湧きかぁ…」
-
カホ「どうするのルリノちゃん?このまま戦っても不利になる一方だよ!」
ルリノ「ちょっと試したいことがあるんだけど…カホちゃん手伝ってくれる?」
カホ「もちろん!あたしにできることなら何でもするよ!」
ルリノ「そしたらあいつに2回だけ攻撃して。その後ルリが攻撃してみる」
カホ「……あ、そっか!一人で3回攻撃しなければ魔力を吸われないかも!」
ルリノ「そういうこと!上手く行けばだけどね!」
カホ「よーし!じゃあこれでもくらえ!」ポーン! ポーン!
骸骨「……」コツンコツン!
『1』
『2』
-
ルリノ『ピューリファイ!』💠
骸骨『……』ガタガタ…ガシャン!
『3』
ルリノ「ぐ…!」ギューン↓↓↓
カホ「っ!」ギューン↓↓↓
ルリノ「二人とも取られるんかい!──あ」フラッ…
カホ「ルリノちゃん!」
ルリノ「ごめんカホちゃん…ルリ、役に立てなかった……」
カホ「そんな──そんなことないよ!」
カホ「あたしこそごめん…戦いをルリノちゃんに任せっきりで…」
骸骨「……」カラカラカラカラ
背後ではまたしても骨が組み上がる音がする。
-
ルリノ「カホちゃん、逃げて。あれ多分、アンデッドじゃない」
ルリノ「戦わなければ魔力を吸われることもないはずだから…」
カホ「そんなことしないよ!」
カホ「待ってて!あたしがみんなを助けるから!」
カホ(情報を整理しよう)
これまでにわかったことは3つだ。
1つ、敵はアンデッドじゃない。骨を操る別の魔物だ。
2つ、『3回』攻撃すると魔力を大量に吸われてしまう
3つ、魔物の本体は骨とは別の場所にいる。実際何度骨を崩しても復活しているのが証拠だ。
-
カホ(それなら本体を倒せれば、骸骨はもう復活してこないはず!)
カホ(考えるんだ!今までの情報から、本体の居る場所は──)
1.骨の中
2.上空
3.地面の下
4.メグちゃん
-
3
-
3.地面の下
カホ(そういえば、何でここだけ木が生えてないんだろう?)
最初に来た時はドラゴンの巣だからと疑問に思わなかった。
だが改めて見渡すと、この一帯だけ植物が生えていた形跡すらない。
骨が落ちているということは、ここで死体が分解されたということ。
ならばその栄養で雑草やらが育つのが自然の摂理だ。
カホ(つまり植物が育てない"不自然"が、地面の下にあるってこと!)
-
カホ「ふん!」ザクザク!
適当な骨をスコップ代わりにして足元の土を掘る。
カホ「!」
地面を掘っていると、何かにぶつかった感触があった。
土の中を見ると、木の根の様なモノがドクドクと脈打っている。
カホ「居た…多分これが、骨を操ってた魔物の本体!」
恐らくはこの広場一帯の地面に張り巡らされているのだろう。
毎回骸骨が崩れる度に別の場所から出てきてたのは、ここが巨大な魔物の上だったからだ。
-
カタカタカタカタカタ!
カホ「なに!?骨が一斉に……」
カホが地面を掘り起こした瞬間、辺りを覆っていた骨が吸い寄せられるように集まりだす。
やがてそれは巨大な骨の大蛇へと姿を変えた。
グラッ……
カホ「きゃっ!!」ピョン!
骨の大蛇は体を起き上がらせると、カホに向かって倒れかかって来た。
ドガーーン! ガラガラガラ…
衝撃によって骨が散らばるが、直ぐに集まり再び天に向かって真っ直ぐに伸びる。
そしてその巨体でカホを押し潰そうと倒れかかる。
-
先程までの骸骨とは明らかに違う、明確な殺意のある攻撃。
しかし、その反応はかえってカホに真相を告げていた。
カホ「正体がバレて焦ってるんだ…!この下に居るやつを倒しさえすれば──」
カホ「!!」
ドーーン!! ガラガラガラ…
カホ「きゃーー!!」バタン
カホ(攻撃は大雑把だけど……範囲が広いから避けるので精一杯になっちゃう!)
ドーーン! バーーン!!
ガラガラガラ……
カホ「はあ…はあ…はあ……」
攻撃を避けようと走り回っていると、あっという間に体力は底をついてしまった。
-
カホ「はあ…はあ…うわっ!?」コテン
疲れで足が上がらず、地面の小さな起伏に躓いてしまう。
カホ「いてて…」
カホ「────!!」
魔物はその隙を見逃さなかった。
カホの目の前でその巨体を持ち上げると、カタカタと骨を鳴らしだす。
まるで、あと一歩のところで負けるカホを嘲笑うように。
カホ「っ!!」
頭を守ろうと腕を上げるカホを、骨の大蛇は無慈悲に押し潰そうとし──
ピタッ
カホ「…………あれ?」
-
カタカタカタカタカタ……!!
再び骨が揺れて音を鳴らす。
しかし、今度の揺れは嘲笑ではなく、純粋な恐怖から来るものだった。
ルリノ「ありがとうカホちゃん…時間を稼いでくれて」
カホ「ルリノちゃん!!」
いつの間にか地面を掘っていたルリノは、その手に木の根のような魔物の本体をがっしりと握っていた。
ルリノ『聖なる光よ 不純を解き放ち 病から世界を救え』
ルリノ『我ら天の代行 神の名のもとに 穢れを祓う』
ルリノ『エクス ピューリファイ』💠
-
↓↓↓↓ ズンッ!!!
ルリノが詠唱を終えると、広場全体の地面が数センチ陥没する。
ガラガラガラガラ……!
同時に骨の大蛇は、操り人形の糸が切れたように一斉に崩れ落ちた。
カホ「倒した……?」
カホ「!」 🔋↑↑↑
ルリノ「うお!?魔力が帰ってきた!」🔋↑↑↑
カホ「てことは、やっぱり!」
ルリノ「う"ん!ルリ達の大勝利〜!」✌️
-
カホ「やった!やったー!ルリノちゃんすごーい!」
ルリノ「いや、カホちゃんが魔物の正体を見破ってくれたおかげだよ」
カホ「ふふん!なんか突然ピンと来たんだよね!」
ルリノ「カホちゃんは頭の回転が速いですな〜」
カホ「えへへー」
コズエ「…………ん」モゾモゾ
カホ「!」
コズエ「あら…?カホさん、どうしてここに……」
カホ「コズエちゃん!」ダッ!
コズエ「きゃっ!いきなり抱きついてきてどうしたの!?」
-
カホ「あたし、心配したんですよ…!いつまで経っても帰ってこないし、探しに来たら倒れてるし…」
コズエ「倒れて────」
コズエ「そうだわ!カホさん隠れて!魔力を吸収する魔物がいるの!」
カホ「その魔物ならルリノちゃんが倒してくれました!魔力も戻ってきてるはずです!」
コズエ「ルリノちゃん…?」
ルリノ「はじめまして!オオサワ ルリノっていいます!教会でシスターやってやす!」
コズエ「もしかして、よくカホさんが話してくれる優しいシスターさん?」
-
カホ「はい!あたしがコズエちゃん達を探しに行くって言ったら、着いてきてくれたんです!」
コズエ「そうだったのね。いつもカホさんがお世話になってます。それと──」
コズエ「助けてくれて、ありがとう」ペコ
ルリノ「いえいえ!困ってる人はほっとけないので!」
メグミ「う〜〜ん……」
カホ「あ、メグちゃんも起きた!」
メグミ「あれ?なんでカホちゃんがいるの!?」
カホ「助けに来たんです!それとメグちゃんにも紹介したい人がいて…」
-
ルリノ「どーも!」
メグミ「!!!」
ルリノ「はじめまして!自分はオオサワ──」
メグミ「ルリちゃん!!!」ギュッ!
ルリノ「ぐえっ!?」
メグミ「ルリちゃん久しぶり!会いたかったよ!」ギュー!
カホ「え……もしかして二人は知り合いだったの?」
ルリノ「いや、ルリこの人のことなんも知らねーんだけど……」
メグミ「そんなぁ!私が目覚めたらまた楽しいことしようって約束したじゃん!」
-
メグミ「たった千年離れてただけで、私のこと忘れちゃったの!?」ギューー!
ルリノ「いや千年前ってルリ生まれてないかんね!?てか苦しい!離して!」
メグミ「あ、ごめんね」パッ
コズエ「メグミ、人違いじゃないの?流石にあなたと知り合いの人間なんて、現代には居ないと思うのだけれど…」
メグミ「人間?違うよ!ルリちゃんは私の一番の親友、『大天使ルリエル』だよ!」
ルリノ「天使!?いま天使って言った!?!?」
メグミ「待たせちゃってごめんね?これからはまた一緒に、楽しいことしようね」
カホ「なんか、盛大な勘違いをしてる気が……」
ドラゴン「……」ピクッ
-
あっ・・・
-
カホ「ん?なんか、気温上がってません…?」
コズエ「確かに…さっきまでよりも暑いわね…」
ドラゴン「……」ムクッ
ゴゴゴゴ……
「「「!!!」」」
コズエ「嘘…どうして──」
ルリノ「ドラゴンが動いた!?」
メグミ「死んでんじゃなかったの!?」
カホ「まさか…!ドラゴンもコズエちゃん達と同じように、魔力を奪われて動けなくなってただけ……」
ドラゴンは起き上がると大きく羽翼を伸ばす。
黒ずんでいた鱗は、魔力が戻ってきたことで燃えるような赤色に変化していく。
-
ドラゴン「…」ギロッ
カホ「ひっ…」
コズエ(どうする…戦う?いや、今の戦力じゃ無理。ここは──)
コズエ「みんな走って!逃げるわよ!!」
「「「うわーー!!」」」 バタバタ!
ドラゴン「…」 スゥー
ドラゴンは逃げようとするカホ達を一瞥すると、大きく息を吸い込んだ。
そして──
「▇▇▇▇▆▆▆▅▂───!!」
カホ「!!」ビリビリ⚡️
メグミ「なに!?体が…」ビリビリ⚡️
ルリノ「動かない……!」ビリビリ⚡️
コズエ「これは…エンペラー・コール!」ビリビリ⚡️
-
ドラゴンはこの星の生態系の頂点である。
その咆哮には、自分よりも弱い生物の動きを制限する特殊な音波が含まれている。
一度ドラゴンがその雄叫びをあげれば、周囲に居る生き物はピタリと動きを止め、生殺与奪の権を握られてしまう。
それ目にした冒険者は、その光景を王に平伏する兵隊の様だったと表現した。
故に、ドラゴンの咆哮はこう呼ばれている。
『王の号令(エンペラー・コール)』
-
ドラゴン「🔥」グワッ!
ボーン!🔥🔥🔥🔥🔥🔥
メグミ「熱っつ!!!」
カホ「っ!炎で道が塞がれて…!」
コズエ「そう……逃がす気はないという事ね!!」
コズエは恐怖を押し殺し、ドラゴンに向かい合う。
コズエ「はああああぁぁ!!」
ゲシッ!!
助走をつけて渾身の飛び蹴りを放つが、ドラゴンの硬い鱗に弾かれてしまう。
-
コズエ「くっ!硬い…!それなら!」
今度は鱗のない腹部に向けて攻撃を仕掛ける。
コズエ「はあっ!!!」👊ドカッ!
ジュッ🔥
コズエ「熱っ…!!」
拳に伝わる熱に思わず手を引っ込めるコズエ。
ドラゴンの腹に鱗が無いのは、胸部にある火炎袋の熱を逃がすためだ。
安易にそこに攻撃を仕掛ければ、まるで溶岩に触れたように接着面が焼け焦げてしまう。
ドラゴン「▆▆▆▅▂!!!」ベシッ!
コズエ「ぐはっ!」バタン!ゴロゴロ…
カホ「コズエちゃん!!」
-
ルリノ「っ!『エクス ピューリファイ』!!!」💠
ドラゴン「🔥」グワッ!
バーン!🔥🔥🔥🔥
ルリノ「ぎゃーー!!」🔥
メグミ「ルリちゃん!!!」
メグミ「よくもルリちゃんを…!」
メグミ「食らえ『エンジェルブロー』!」👊コテン
ドラゴン「……」 シッポペシ!
メグミ「うぎゃあ!」
カホ「そんな……みんなの攻撃がまるで効いてない…」 ガタガタ…
-
ドラゴン「🔥」グワッ!
カホ「あ──」
コズエ「カホ!!!」ドン!
カホ「うわっ!」
ボーン!🔥🔥🔥🔥
コズエ「あ"あ"あ"あ"ぁ!」🔥
カホ「コズエちゃん!!!」
ドラゴン「…」ドスン!ドスン!
カホ「あ…ああ……」
ドラゴンはカホの目の前まで迫ってくると、口に灼熱の炎を溜める。
ドラゴン「🔥」グワッ!
カホ「っ…!!!」
-
???「…」 シュバッ!
ボーン🔥🔥🔥🔥
カホ「!?」
炎が直撃する寸前、カホは何者かに抱えられて、その場から離脱する。
カホ「え、あなたは──」
ツヅリ「ひさしぶり。カホ」
カホ「ツヅリさん!?どうして……」
ツヅリ「言ったでしょ?何かあれば力になるって」
ツヅリ「カホ達がドラゴンの巣に向かったって聞いたから、急いで来たんだ」
そう言われてよく見てみると、ツヅリの服装はほぼ寝間着のままだった。
-
ツヅリ「少し被害が出てるみたいだね。すぐに終わらせて病院に連れていこう」
カホ「終わらせるって……」
ツヅリはカホを地面にゆっくり降ろすと、落ち着いた様子でドラゴンに近づいて行く。
ツヅリ「王国騎士『ユウギリ ツヅリ』ギルドの要請により参上した」
カホ「王国騎士!?!?」
ツヅリ「王命に従い、国民の生活を────えっと、なんだっけ?まぁいいや」
ツヅリ「これより『ドラゴンの討伐』を開始する」
カホ「!」
-
ドラゴン「…」スゥー
「▇▇▇▇▆▆▆▅▂───!!」
カホ「っ!またこれ…!」ビリビリ⚡️
ツヅリ「…」 シュバッ!
ドラゴン「!!!」
後から振り返ってみれば、きっとこの時点で勝敗などとうに決まっていた。
ツヅリ「ほっ」
ツヅリ「はっ」
ツヅリ「やー」
ドラゴン「▆▆▆▅▂!!!」バタン!
ツヅリがドラゴンに近づくと、あっという間に鱗や爪、角がボロボロに砕けていく。
カホ(すごい…攻撃が速すぎて何をしてるのか全く見えない──)
-
ドラゴン「🔥」グワッ!
ツヅリ「おっと」 ペシ🔥
ヒュ────ン🔥
ボーン🔥🔥🔥🔥
ツヅリ「ごめんね。こっちには怪我人がいるから、あんまり遊んではあげられないんだ」
ツヅリ「だから──バイバイ」
シュバッ!!!
ドラゴン「 」 ゴト…ブシャー
目に見えない攻撃によって、ドラゴンの首は簡単に切り落とされてしまった。
-
ツヅリ「よし。ドラゴンは倒したし、早く怪我人を街に連れて帰ろう」
カホ「は──はい……」
ツヅリ「カホ、そこのシスターさんをお願いしてもいい?ボクは残りの二人を運ぶから」
カホ「わ、わかりました!」
ツヅリ「よいしょっと…さて帰ろう」
カホ「はい!」
ツヅリ「………………」
カホ「ツヅリさん?どうしたんですか?」
ツヅリ「……街ってどっちだっけ?」
カホ「え」
『捨てられたドラゴンの巣の調査』完了!
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【おしえて!魔法教室】
魔法解説のコーナーだよ!
今回出てきた魔法はこちら!
『ピューリファイ』
浄化魔法。
死者の魂を鎮めたり、体から魔素を解き放つよ!
『エクス ピューリファイ』
上級浄化魔法。
魔素同士の結合を強制解除するよ!大抵の魔物はこれで消滅するよ!
『エンジェルブロー』
メグミエル唯一の攻撃魔法。
攻撃力はポ○モンの『はねる』と同じくらいだよ!
「天使の攻撃 = 天罰」だから、受けた相手には不幸が降りかかるよ!
-
【豆知識】
>>220の選択肢は不正解を選んでたらペナルティがあったよ!
今後は選択次第でBADENDになるものも出てくるから気をつけてね!
あ、でも安心して!例えBADENDになっても直前から何度でもやり直せるから!
これはネバーエンディングストーリー。
おしまいも、お別れも無い、夢の物語だからね!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
乙
-
【数日後】
コズエ「どうぞ。こんなものしかないけれど」
ツヅリ「おー焼いたパンだ。おいしそー」
カホ「たっくさん食べてくださいね!今日はパーティーですから!」
ルリノ「いやールリまで招待してもらっちゃって申し訳ないですなー」
今日は先日のクエストの祝勝会に、ルリノちゃんとツヅリさんを招待している。
祝勝会とは言うものの、実際のところは命の恩人である二人を盛大にもてなす為の会だ。
-
カホ「何言ってるの!ルリノちゃんが居なかったらあの魔物倒せてなかったじゃん!」
ルリノ「でもあの魔物倒したせいで、結果的にドラゴン復活しちゃったし…」
コズエ「ルリノさんがカホさんに着いてきてくれなかったら、今頃私達はあの骸骨の仲間入りをしていたわ。本当にありがとう」
メグミ「そうそう!ルリちゃんは私達の命の恩人!」ギュッ
ルリノ「う…カホちゃん、この人引き剥がしてくんね?」
メグミ「なんで!?やっぱりルリちゃん、私のこと忘れちゃったの……?」
ルリノ「だから人違いですって!ていうかメグミさん、本当に天使なんですか…?」
メグミ「そうだよ!見てこの綺麗な白い羽根を!」))
ルリノ「確かに天使っぽいけど…」
-
メグミ「そうだ!これからはルリちゃんもここに住みなよ!そうすれば毎日一緒にいられるよ☆」
ルリノ「いや、ルリの家は教会だから!」
メグミ「むー…なら私がルリちゃんの家に住む!」
ルリノ「ぜっっったいにやめてね!?教会に本物の天使なんか居たら、みんなお迎え来たと思っちゃうから!!」
コズエ「まったく、メグミはいつまで勘違いしてるのかしら…」
カホ「……」ツンツン
コズエ「カホさん?どうかしたの?」
カホ「……コズエちゃん、もう『カホ』って呼んでくれないんですか?」ボソッ
コズエ「あ、あれは!咄嗟に呼ぶのに短い方が言いやすかっただけで…///」
-
カホ「あたしは別にいいんですよ?呼び捨てでも」ウルウル
コズエ「……………………カ、カホ…」
カホ「♡」
ツヅリ「ふふっ、みんな楽しそうだ」
コズエ「あっ…ごめんなさい!お客様を放っておいてしまって」
ツヅリ「いいんだ。ボクは楽しそうなみんなを見てるだけで楽しい」
カホ「ツヅリさんは王国騎士なんですよね?どうしてお城じゃなくてこの街に居るんですか?」
ツヅリ「ボクは『ちゅうとん』?だから。この間みたいに、街のみんなに危険が迫った時に駆けつけるのが役割なんだ」
ツヅリ「あ、ちなみにこの事は他の人には話さないでね?『ごくひ』だから」
-
カホ「そうだったんですね〜ビックリしましたよ!いきなり現れてドラゴンを一人で倒しちゃうんですもん!」
ツヅリ「あのドラゴンはまだ子どもだったから。もし大人だったら、さすがにボクひとりじゃ勝てなかった」
コズエ「それでも充分にすごいことです。その若さでドラゴンと戦えるなんて…さすがは王国騎士ですね」
ツヅリ「ボク若い?」
コズエ「え?若いと思いますけど…失礼でしたか?」
ツヅリ「そうなんだ。同世代の子からはよく大人っぽいって言われるから、新鮮な気分だ」
コズエ「?」
-
メグミ「そういえばカホちゃん、よく私達のいる場所がわかったね?地図渡してなかったでしょ?」
カホ「そのことなら、メグちゃんがくれた加護のおかげですよ!二人を見たって言う木を辿って来たんです!」
メグミ「あ、なるほど」
ルリノ(加護とか……いよいよ本物の天使じみてきたなぁ……)
ツヅリ「カホは木と話せるの?」
カホ「はい!植物だけでなく動物さんともお話ができますよ!」エッヘン
ツヅリ「おーすごいねーじゃあ使い魔とかもいるの?」
カホ「使い魔?」
ツヅリ「だって動物と話せるんでしょ?使い魔がいたら便利そうだけど」
コズエ「カホの使い魔はコレよ」👉
メグミ「おい、私を動物と一緒にしないでくれる?」
-
カホ「使い魔か……考えたこと無かったなぁ。そういえばあたし戦いに役立つスキルとか持ってないんですよね」
コズエ「そもそもカホは戦闘用の魔道具を買いに行ってメグミを拾ってきたのよ」
メグミ「だから動物みたいに言うなー!」
カホ「確かに!色々あってすっかり忘れてました!」
コズエ「もしもカホが今後クエストに同行するなら、魔道具か使い魔を買うことも考えた方がいいわね」
カホ「え!?クエストに行っていいんですか!」
コズエ「カホの勇敢さに助けられたもの。あなたがそうしたいなら、もう止める理由はないわ」
カホ「やったー!」
ルリノ「よかったねカホちゃん。ルリも今のカホちゃんならもう大丈夫だと思う」
カホ「うん!」
その日の宴は夜が開けるまで続いた。
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『メグミエル 第八のラッパを授けられし天使よ』
『使命を 果たすのです』
『天の国の さい──』
メグミ「はくしょんっ!!」
メグミ「うう…寒い……もう朝かぁ」
メグミ「あれ?何これ…ラッパ?」
メグミ「なんか見覚えがあるような……まあいっか!適当にしまっとこ!」
『メグミエル…………』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【朝】
メグミ「おーい!起きろお前ら!」
コズエ「ん……メグミ?珍しいわね、あなたの方が早く起きるなんて」
メグミ「私だってたまには早起きくらいするし!ていうかコズエとカホちゃんはいいけど、あの二人はいいの?」
ルリノ「くか〜」zzz…
ツヅリ「……」zzz…
コズエ「はっ!そうだわ!昨日はあのまま寝てしまって…」
コズエ「二人とも起きてちょうだい!」ユサユサ
ルリノ「ん〜ここどこだ……」
ツヅリ「……」zzz…
コズエ「私の家よ。昨晩のこと覚えているかしら?」
-
ルリノ「…………はっ!」ガバッ!
ルリノ「やばい!教会に無断で外泊しちゃった!」
コズエ「ごめんなさい…私が家主としてちゃんと起きておくべきだったわ」
ルリノ「いやいや!むしろ他人の家で勝手に寝ちゃってすみません!片付けとか手伝いましょうか?」
コズエ「大丈夫よ。ルリノさんは早く教会に帰った方がいいのでしょう?」
ルリノ「うう…かたじけねぇです!」
ルリノ「じゃあルリはここで失礼します!ご馳走様でした!カホちゃんにもよろしくお願いします!」
コズエ「ええ、さようなら」
メグミ「じゃあね〜コズエ〜」
ガシッ!
コズエ「ルリノさんについて行こうとしないの!あなたは片付けよ!」
-
ツヅリ「……」zzz…
コズエ「ツヅリさん!いつまで寝ているんですか!」ユサユサ!
ツヅリ「むにゃむにゃ……あと6時間だけ…」
コズエ「家でマッシュさんが待ってるのでしょう?」
ツヅリ「マッシュくん!!」ガバッ
コズエ「きゃっ!」
ツヅリ「ごめんコズ、ボク帰らなきゃ」
コズエ「ええ、そうしてください」
ツヅリ「じゃあね。昨日は楽しかったよ。バイバイ」
パッ!
コズエ「消えた!?流石は王国騎士……帰り方も規格外ね…」
-
めぐちゃんw
-
カホ「ふぁ〜おはようございます」
コズエ「おはようカホ」
カホ「えへへーカホですぅ〜」
カホ「あれ?ルリノちゃんとツヅリさんは…?」
コズエ「ちょうど今帰ったところよ」
カホ「ええ!?あいさつできなかった!」
コズエ「ルリノさんがカホによろしくと言っていたわ。カホも今度会った時にお礼をするのよ」
カホ「はい…」シュン
コズエ「ほら、顔を洗ってきなさい。ヨダレの跡が付いてるわ」
カホ「っ…///洗面所お借りしまーす!」ピューン
コズエ「まったく忙しないわね」
メグミ「コズエだって頬に机の跡付いてるよ」ニヤニヤ
コズエ「なっ!?気が付いていたなら早く言ってちょうだい!」
-
【朝食後】
メグミ「ふぅ!ごちそうさま!」
カホ「コズエちゃん、今日はどうします?」
コズエ「そうねぇ…正直、昨日遅くまで起きてたからクエストに行く体力は無いわ」
カホ「確かに…あたし体中の関節が痛いです」
コズエ「それは無理な体勢で寝ていたからよ」
コズエ「昨日話に出たけど、魔道具とか使い魔とかを探しに行ってはどうかしら?」
カホ「あ、それいいですね!あたしも昨日話を聞いてから、買いたいと思ってたんです!」
-
メグミ「魔道具と言えば…朝起きたらこんなのがあったんだけど、誰かの忘れ物かな?」🎺
カホ「何ですかそれ?楽器……ラッパ?」
コズエ「二人ともそんなもの持ってきてなかったと思うけれど…それをどこで見つけたの?」
メグミ「なんか朝起きたら私の近くに置いてあったんだよね〜」
カホ「楽器にしては簡単な作りですね?三角の筒を広げただけみたいな…ちょっと貸してください!」
メグミ「ほい」
カホ「すぅーっ!ふーーー!」🎺…
メグミ「何も音が鳴らないね?」
-
コズエ「貸してカホ。管楽器は唇を震わせて吹くものなのよ」
コズエ「すぅーブブブブブ!」🎺…
メグミ「ぷっ!あはは!なに今の!全然吹けてないじゃんw」
コズエ「こ、これはきっと楽器が悪いのよ!本当なら今ので音が鳴るはずだわ!」
メグミ「ブブブってwあはは!」
コズエ「っ〜〜///そんなに言うならメグミが吹いてみなさい!」
メグミ「えーー今コズエが汚くしたからヤダ」
コズエ「まったくもう……とりあえずコレはうちで保管しましょう。あの二人には次にあった時にでも聞けばいいわ」
-
カホ「結局、魔道具でもなかったですね?」
コズエ「ええ、そうそう棚ぼたでは手に入らないわね」
メグミ「カホちゃんは魔道具が欲しいの?」
カホ「うーん…魔道具もいいですけど、メグちゃんから貰った加護を活かすなら、使い魔もありな気がしてきました」
コズエ「それなら今日は、試しに使い魔を売ってるお店に行ってみましょうか」
カホ「いいんですか?使い魔って魔道具と比べるとかなり高いし…」
コズエ「使い魔はしっかり育てられれば、魔道具以上に幅広く活躍する良きパートナーになるわ」
コズエ「それに今はお金に余裕もあるから、資金面のことは気にしなくても大丈夫よ」
カホ「わーい!じゃあ今日は使い魔ショップだ!」
-
めぐちゃん……
-
【使い魔ショップ】
🚪ガチャ
カホ「こんにちはー!」
店員「いらっしゃいませ」
メグミ「おー動物がいっぱい」
コズエ「使い魔は人と契約して一時的に魔獣化した動物のことなの」
コズエ「だから使い魔ショップと言っても、実際に売られてるのはただの動物よ」
メグミ「ふーん。つまりはペットショップってことだ」
-
店員「使い魔をお探しですよね。種類の希望などはございますか?」
『ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ…』
カホ「えっと…すみません。もう一度言ってもらえますか?聞き取りにくくて…」
店員「? 申し訳ありません。声が小さかったでしょうか?」
カホ「いえ!ちょっと周りがうるさくて!」
店員「うるさい?」
メグミ「あ、そっか。カホちゃん動物の声聞こえるから、これだけ動物がいるとうるさく感じるのか」
コズエ「今だけでも加護を解くことはできないの?」
-
メグミ「うーん…もうカホちゃんのスキルになっちゃってるから、私じゃどうしようもないかな?」
カホ「自分で制御するしかないんですね…」🌀🌀
店員「動物の声が聞こえるんですか!それは確かに使い魔を扱うのにピッタリのスキルですね!」
店員さんは先程より少し大きな声で話してくれる。
カホ「そうなんです!あたし戦闘では役立たずなので、使い魔を使ってみんなをサポートしたいなって!」
店員「なるほど、クエストに同行できる使い魔をお探しですか」
-
店員「それなら『鳥類』の使い魔はいかがですか?偵察、連絡、陽動など様々な場面で活躍しますよ。まさに『万能型』の使い魔ですね!知能は少し低いですが…」ボソッ
店員「『賢さ』を重要視するなら犬や猫の『哺乳類』がオススメです。躾が簡単ですし、鼻がいいので見つけずらいターゲットを探すのにも便利です!」
店員「特に犬はいいですよ!喜んでいる時はしっぽを振るからわかりやすいし、私が落ち込んでいる時は寄り添ってくれます!まさに人類の友と言え──」ペラペラ
カホ(この店員さん犬が好きなんだろうなぁ)
-
店員「あ、失礼しました!つい熱く語ってしまって…」
カホ「大丈夫です!あたしもワンちゃん好きですし!」
店員「『強さ』を重要視するなら『爬虫類』がいいですね!爬虫類はドラゴンと先祖が同じなので、魔力を与えると巨大化する特性があります。その代わり多少凶暴化するので扱いが難しいですが」
カホ「なるほど〜」
店員「他にも色々な動物がいるので、気になる子が居たら解説しますよ!」
コズエ「動物の種類ごとに特色があるのね」
-
メグミ「カホちゃんはどんな使い魔が欲しいの?」
カホ「そうですね…素直で頑張りやな子がいいです!」
メグミ「種類じゃなくて性格かい!」
メグミ「まあ、カホちゃんの場合はスキル的に性格重視の方がいいのかな?」
コズエ「せっかくなら気になる動物とお話してみたらどうかしら」
カホ「はい!そうしてみます!」
-
【数十分後】
コズエ「結構話していたけれど、いい子は見つかったかしら?」
カホ「うーん…ここにいる子達は割と怠け者タイプみたいです」
カホ「何もしてなくてもご飯が食べれるんだから、一生ここで暮らしたいって言ってました……」
コズエ「まあ…人間だって働かずに生きられるのなら、その方がいいって人は多いでしょうね」
メグミ「はいはーい!メグちゃんも働きたくありませーん!」
コズエ「店員さん、ここは使い魔の買取は取り扱っていますか?」
-
カホ「あはは…取り敢えずここには目当ての性格の子はいなさそうです」
コズエ「別にこの店で決めないと行けないわけじゃないわ。パートナーになる相手だもの、しっかり選びましょう?」
カホ「そうですね。この街で他の使い魔ショップは──」
『ウオオオオオ!チェストーーー!!』ガシャン!
カホ「ん?ちぇすと?」
メグミ「どうかしたのカホちゃん?」
カホ「いえ、何か店の奥から変な音が聞こえた気が……」
-
『チェストーー!』ガシャン!
カホ「あ、また聞こえた!店員さん、もしかしてここ以外にも動物が居るんですか?」
店員「聞こえてしまいましたか…実はもう一匹いるのですが、性格に少々難ありで…」
店員「何度もゲージに体当たりするので、奥に隔離しているんです」
カホ「会わせてもらってもいいですか?」
店員「いいですが…あまり近づかないでくださいね。危険ですので」
店員さんに案内され店のバックヤードに入る。
そこに居た動物は──
1.鳥
2.犬
3.トカゲ
4.???(自由記述欄)
-
2
-
4.幼いドラゴン
種族的に無理なら恐竜、または3
-
4.花帆ちゃんどうやって配信してるの?
-
2.犬
そこには一匹のワンちゃんが居た。
姿や体格は柴犬に似ていて、黄色がかった栗色の体毛に、桃色の瞳がチャーミングだ。
左耳の先端の毛だけ少し長く、ピョンとはねていて可愛い。
首には黒い地味なリボンが巻かれている。
カホ「かわいい〜〜!」
店員「こちらはカチマチ犬という犬種になります」
店員「事情があって店で引き取ったのですが、如何せん落ち着きがなく……」
カチマチ『ちぇすとー!』ガシャン!
メグミ「うわっ!びっくりした」ビクッ
-
コズエ「ゲージを壊そうとしているのかしら?」
店員「はい…何度も脱走しようとするので、万が一を想定してバックヤードに居てもらっているんです」
カホ「あなたは外に出たいの?」
カチマチ『はい!カゴを壊して外に出るチャレンジです!』
カホ「何かやりたいことがあるとか?」
カチマチ『どうしても会いたい人がいるんです!なのでこうして柵を壊そうと──』
カチマチ『あれ?人間さんとお話できてます!もしかして、カチマチに秘められた能力が覚醒したのでしょうか!?』
-
カホ「ごめんね。お話できるのはあたしのスキルのせいかな」
カチマチ『そうでしたか…カチマチが特別になった訳ではないんですね…』シュン
店員「あの……その子は何と言っているのでしょうか?」
カホ「柵を壊すチャレンジ?って言ってます。会いたい人が居るとかで…」
カチマチ『ちぇすとー!』ガシャン!
カホ「えっと、カチマチちゃん?さっきからずっと言ってる『ちぇすと』って何?」
カチマチ『これはカチマチを育ててくれた人間のおじいちゃんの口癖です!他の言葉はわからないけど、コレだけは記憶に残ってるんです!』
-
カホ「そうなんだ。もしかしてカチマチって言うのもおじいさんがそう呼んでたの?」
カチマチ『はい!カチマチを呼ぶ時にいつもそう言っていたので、それがカチマチの名前なんだと思います!』
カホ「あー確かにお年寄りの人って、動物を模様とか犬種名で呼びがちだよね…」
カホ「どうしてこのお店に来たの?」
カチマチ『おじいちゃんが急に起きなくなってしまって、布団の周りを走り回ってたんです!そしたらいつの間にか知らない人に連れ去られました!』
カホ「そっか……」
カチマチ『カチマチ、できるならまたおじいちゃんに会いたいです!』
カホ「うん…そうだね!きっと会えるよ!」
-
カチマチ…
-
カチマチ『ありがとうございます!──はっ!その為にはやっぱり外に出ないと行けません!ちぇすとー!』ガシャン!
カホ「あわわ!待って待って!そんなに何度もぶつかってたら怪我しちゃうよ!」
カチマチ『うう…やはり所詮カチマチではこの柵を壊すことはできないんでしょうか…』
カホ「カチマチちゃんは、どうしても外に出たい?」
カチマチ『もちろんです!外に出て、またおじいちゃんと一緒に山菜狩りに行くんです!』
カホ「うん──わかった!それならあたしがおじいちゃんを探すの手伝ってあげる!」
-
カチマチ『え?いいんですか?』
カホ「だってお別れも言えずに離ればなれなんて寂しいもん!」
カチマチ『そんな…見ず知らずのカチマチなんかの為に…うぅ……』
カチマチ『ありがとうございます!!』
コズエ「カホ、この子を使い魔にするの?」
カホ「いえ、そこまではまだ考えていません。ただ単純にこの子がおじいちゃんを探すのを手伝ってあげたいんです!」
メグミ「それってお店的にありなの?使い魔にはしないけど外に出すってことでしょ?」
-
店員「さすがに連れ出すとなると……使い魔にするかはお任せしますが、せめてペットとしてお迎えしていただかないと…」
カホ「なら飼います!いいですよねコズエちゃん!」
コズエ「え、ええ…ただ家の中を荒らされては困るから、しっかり躾るのよ?」
カホ「もちろんです!それに、この子は多分そんな暴れん坊じゃないですよ!」
メグミ「あんなにゲージに突進してたのに!?」
コズエ「カホ、この子と何を話していたの?」
カホ「実は──」
-
店員「そうだったんですね……」
コズエ「店員さん、そのおじいさんは?」
店員「脳卒中で倒れたと聞いています。この子がずっと吠えているのを不審がった近所の人が見つけたそうです」
店員「私はその方を経由してこの子をお店で引き取りました」
店員「おじいさんがその後どうなったかは知りませんが、その…かなり高齢だったようなので……」
メグミ「そっか」
カホ「例え最悪な結果だったとしても、この子にちゃんとお別れさせてあげたいんです!」
-
コズエ「本当にそれでいいの?もしかしたら、何も知らない方がこの子は幸せかもしれないわよ」
カホ「確かにそうかもしれません……それでも!あたしなら何も知らないまま生きるなんて嫌です!」
カホ「例え会うことができなくても、お別れくらいはちゃんと言うべきです!」
メグミ「ていうか、おじいちゃん死んじゃってる前提で話してるけど、普通に生きてる可能性もあるんじゃない?」
コズエ「ん……確かにそうよね。ごめんなさい、不謹慎だったわ…」
カホ「よし!カチマチちゃん!こっちの話はまとまったよ!」
カチマチ『よくわからないけど、わかりました!』
カホ「そうだ!まだ自己紹介してなかったね。あたしの名前は『ヒノシタ カホ』。カホって呼んでね!」
カチマチ『カホさん!よろしくお願いします!』
カホ「うん!よろしくね、カチマチちゃん!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
むかしむかしあるところに、山菜狩りの翁がいました。
その日も翁は、日課の山菜狩りをしようと森の中に入ったのでした。
翁「……何だ?子犬か」
カチマチ「……」ペタン
翁「行き倒れか。可哀想に、子どもだから上手く狩りができなかったんだな」
カチマチ「……クーン」ピクッ
翁「お?まだ死んでなかったのか…仕方ねえ、これでも食いな」
カチマチ「!!」ガツガツ…!
カチマチ「ワン!ワン!」
翁「美味いか?そりゃそうだ、人間様の食いもんだからな。干し肉は犬っころには絶品だろ」
-
カチマチ「ワン!ワン!ワン!」
翁「そんなにしっぽ振ったってもうねぇよ!元気になったんならどっか行きな!」
カチマチ「クーン……」トボ…トボ…
翁「今度はちゃんと自分でエサ見つけろよー!」
翁「さて、ぼちぼち始めるか」
-
【数十分後】
翁「あ"ぁー腰が痛え!最近は長い間しゃがんでいられなくなったな…」
カチマチ「…」ツンツン
翁「うお!?なんだ、さっきの子犬か…」
翁「もう食わせられるものは無いって言ったろ」
カチマチ「……」ポト
翁「ん?なんだこれ…どんぐり?」
カチマチ「ワン!」
-
翁「もしかして、俺が山菜採ってるのを見て集めて来たのか?」
カチマチ「ワン!ワン!」
翁「くくっ…ガハハハ!馬鹿だなおめえ!どんぐりなんか人が食うわけないだろ!」
カチマチ「?」
翁「どうせ手伝ってくれるってんなら、ここを掘ってくれ。腰が痛えから屈めねえんだ」
カチマチ「!! ワン!」ザッザッザッ!
翁「違う違う!自分の足元を掘ってどうするんだ!ここ!タケノコの周りを掘れって!」
カチマチ「🎶」ザッザッザッ!
翁「さてはこいつ、アホだな?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
カホ「よーし!さっそくおじいちゃん探し開始だー!」
カチマチ『おー!』
コズエ「店員さんはこの子──カチマチさん?の元いた家の場所は知らないそうよ」
カホ「カチマチちゃんは家の場所覚えてる?」
カチマチ『わかりません!いつも家から直接山に行っていたので、街の様子はあまり見ていませんでした!』
メグミ「てことは散歩もしてないのかな?これ結構探すの大変そうだなぁ…」
-
コズエ「街の様子を知らないってことは、街の中心じゃなくて外側に家があったんじゃないかしら」
カホ「あ、なるほど!コズエちゃん頭いい!」
メグミ「そしたら前の猫探しの時みたいに、街の周りぐるっと回る?」
カホ「うーん…どの方角かわからないなら、それしかないですね」
カチマチ『家の場所はわからないけど、いつも山菜狩りに行ってた山の場所はわかります!』
-
カホ「え!?カチマチちゃん、山の場所はわかるの?」
コズエ「そういえば、犬は本能的に方角がわかると聞いたことがあるわ」
メグミ「なにそれ!すご!」
カホ「方角がわかればかなり範囲が絞れますよ!」
コズエ「それじゃあお散歩も兼ねてカチマチさんに案内してもらいましょう」
カホ「案内よろしくね、カチマチちゃん!」
カチマチ『はい!がんばるぞー!ちぇすとー!』
-
カチマチ可愛い
-
【数分後】
カチマチ『ごめんなさい迷いました!どこですかここ!』
カホ「ええー!?」
コズエ「カホ?どうしたの」
カホ「カチマチちゃん迷ったって…」
メグミ「方角がわかるんじゃなかったの!?」
カチマチ『うう…知らない建物がいっぱい……』🌀🌀
カホ「初めて見る景色に目が回ったみたいです」
メグミ「野生の本能退化しすぎでしょ!」
-
コズエ「仕方がないわね。当初の予定通り、街の外側を散歩しながら聞き込みをしましょう」
コズエ「よく山に行っていたそうだから、きっと家は東か南の方よね?」
メグミ「反対側は海だしね」
カホ「カチマチちゃん、山に行く時に通ってた門は覚えてる?」
カチマチ『はい!見ればわかると思います!』
カホ「よかった!じゃあここから近い東門の方に行ってみよう!」
-
【東門】
カホ「カチマチちゃん、いつも通ってた門はここ?」
カチマチ『違う…と思います!』
カホ「そっかぁ…」
メグミ「ここじゃないって?」
カホ「はい、違うみたいです」
コズエ「二択を外してしまったわね。でもこれで南門の周辺であることは確定したわ」
メグミ「そんじゃ南門の方に向かいますか!」
-
目回してるカチマチかわいい
-
カホ「そういえばカチマチちゃん、おじいちゃんってどんな人だったの?」
カチマチ『とっても優しい人でした!カチマチがお腹がすいて森で倒れてたところを助けてくれたんです!』
カホ「カチマチちゃんの命の恩人だったんだね」
カチマチ『それにカチマチが穴を掘ったり、「ちぇすとー!」って叫ぶといつも頭を撫でてくれるんです!』
カチマチ『寝る時も布団に入れてくれるし、一日中ずっと一緒でした!』
カホ「仲良しなんだ!」
カチマチ『はい!だから今頃、カチマチがいなくなって一人で寝れていないかもしれません!』
カホ「あはは!じゃあ早く再会しないとね」
カチマチ『はい!』
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翁「チェストー!」ガコン
翁「ふぅ。だいぶやったが…今夜は冷えそうだし、もう少し薪を割っとくか」
カチマチ「ワン!ワン!」
翁「どうしたカチマチ。腹でも減ったか」
カチマチ「ハッ ハッ ハッ」チョコン
翁「ん?見てるだけか?」
カチマチ「ワン!」
翁「どうせなら手伝って欲しいもんだかな。まあ、犬に薪割りは無理か──よっと」
-
翁「チェストー!」ガコン
カチマチ「ワン!ワン!」
カチマチ「 ワオーン!」
翁「なんだ俺の真似か?チェストー!」ガコン
カチマチ「ワオーン!」
翁「へへっやかましい野郎だ」
翁「チェストーー!」
カチマチ「ワオーーン!」
翁「チェ──ごほっ!ごほっ!」
カチマチ「? クーン」ツンツン
翁「ははっ悪い悪い。心配すんな、ちょっと張り合って大声出しすぎただけだ」
-
カチマチ「ワン!」スリスリ
翁「おい!あんまくっ付くと危ねえだろ────ん?」
翁「何だあれ…でっかい鳥?」
メグミ「猫ちゃんいないな〜」プカー
翁「な!?て、天使!?」
翁「まさか、俺にもお迎えが?いや、天使なんかいるわけねえ…きっと見間違いだ。そうに決まってる!」
カチマチ「?」
翁「お前を置いては逝けねえもんな」ナデナデ
カチマチ「ワン!ワン!」シッポフリフリ
翁「わかってんだか無いんだか…」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
カホ「あれ?ここら辺なんか見覚えがあるような」
ニャー ニャー
カホ「あ!そうだ、トラちゃん達の溜まり場だ!」
トラ猫『腹減ったなー』
白猫『またあのおばあさんの家に行くにゃ?』
三毛猫『もうパンは食べ飽きたよ〜!』
カホ「おーいみんなー!久しぶり!」
トラ猫『ん?嬢ちゃんじゃねえか。元気にしてたか』
カホ「うん!おかげさまでね!」
-
メグミ「あれ?いつかの猫ちゃん達じゃん」
三毛猫『あ!鳥人間と殺人ゴリラも一緒だ!』
カホ「……メグちゃんとコズエちゃんのこと、だよね?」
メグミ「なになに?私達のことも覚えてくれてるの?」
カホ「は、はい!えっと……可愛い天使と麗しの乙女だって!」
コズエ「うふふ、何だか照れてしまうわね」
-
白猫『ん?犬の匂いがするにゃ!隠れてないで出てくるにゃ!』
カチマチ『こ、こんにちは!カチマチです!』
トラ猫「シャーー!!!」
カチマチ『ひっ!』
トラ猫『おっと、すまんすまん。反射でつい威嚇しちまった』
三毛猫『なんでカホが犬を連れてるの?』
カホ「今ね、この子の元の飼い主を探してるんだ」
白猫『元の飼い主?』
カホ「実はかくかくしかじかで──」
-
トラ猫『なるほど。あんたも大変だな』
カチマチ『恐縮です!』
トラ猫『お前じゃねえ!嬢ちゃんのことだ!』
カチマチ『あぅ…』シュン
カホ「それで、みんなはカチマチちゃんのおじいちゃんのこと、何か知らないかな?」
白猫『うーん、ご飯くれる人間以外はあんまり覚えてないにゃ』
三毛猫『オイラもわからない!』
カホ「ここでは手掛かりなしかぁ」
-
ゴリラ草
-
カチマチ『カチマチはめげません!必ずおじいちゃんを見つけます!ちぇすとー!』
トラ猫『ん?そのバカみてぇな掛け声、どこかで聞き覚えが……』
トラ猫『おい犬、ちょっと匂い嗅がせろ』
カチマチ『? はい!』トコトコ
トラ猫『近寄るんじゃねえ!!』
カチマチ『理不尽です!?』
トラ猫『クンクン…』
カホ「トラちゃん?」
トラ猫『思い出したぜ。こいつ、いつもパンくずばっか寄越すばあさん家の隣に住んでた犬だ』
-
白猫『そういえば、たまに隣の家から犬の気配がする日があったにゃ』
カホ「本当に!?お願い、そこまで連れて行ってくれないかな!後でソーセージあげるから!」
三毛猫『それくらいお安い御用さ!』
コズエ「どうしたの?」
カホ「もしかしたら、この子達がカチマチちゃんの家を知ってるかもしれません!」
メグミ「まじで!?すごいじゃん!」
トラ猫『案内するから付いてきな』
カチマチ『ありがとうございます!』
トラ猫『お前はもっと後ろにいろ!!』
カチマチ『ひゃい!』ビクッ
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
チーーーン……
翁「おはよう、ばあさん」
翁「ばあさんが死んじまってから、この家はずいぶん静かだったが…最近はまたうるさくなったよ」
カチマチ「……」zzz
翁「カチマチは何の手伝いもできねえ駄犬だけど、あいつと居ると何だか毎日楽しいんだ」
翁「ちょっと前までは早くばあさんに会いたいと思ってたんだが、今はもう少し長生きしたいと思うようになった」
-
カチマチ「ワン!」
翁「やっと起きたか。よしよし」ワシャワシャ
カチマチ「♪」シッポブンブン
翁「とは言え、いつお迎えが来るかもわからねぇし、せめて遺書でも書いておくか」
翁「お前はひとりだとまた行き倒れそうだしな?」
カチマチ「ワン!ワン!」ペロペロ
翁「うわっやめろ…!くすぐってえだろ!だははは!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
トラ猫『ここだ』
お婆さん「あらぁ?可愛らしいお嬢さん達ね」
カホ「こんにちは!」
三毛猫「ニャー」
お婆さん「あなた達も一緒なの?またお腹が空いたのかしら」
白猫『お肉が食べたいにゃ』
お婆さん「待っててね、今パンを持ってくるから」
白猫『お"肉"がいいにゃ!!!!』
-
コズエ「実は私達、人を探していまして」
お婆さん「人探し?」
カチマチ「ワン!」
お婆さん「まあ!カチマチちゃんじゃない!新しい飼い主に出会えたのね!」
カホ「やっぱりカチマチちゃんのこと知ってるんですね!!」
お婆さん「ええ、お隣に住んでたスズヤさんが、ある日拾ってきたのよ」
-
お婆さん「スズヤさん、奥様が亡くなってからずっと塞ぎ込んでたんだけど…」
お婆さん「カチマチちゃんが来てからは、以前の快活さを取り戻してたわねぇ」
メグミ「そのスズヤさん?って今どうしてるかわかります?」
カホ「カチマチちゃん、またおじいちゃんに会いたがっているんです!」
お婆さん「え、スズヤさんは──」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
むかしむかしあるところに、一匹の子犬がいました。
子犬は狩りが苦手で、森の中で飢えに苦しんでいました。
子犬『お腹空いた……もう一歩も動けない』
子犬『このまま死んじゃうのかな…』
ザッ ザッ ザッ…
翁「……◻️◻️?◻️◻️◻️」
子犬『誰……人間?』
翁「◻️◻️◻️◻️◻️。◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️」
子犬『ハンターかな…お願い殺さないで』
-
翁「◻️?◻️◻️◻️◻️◻️…◻️◻️◻️◻️◻️」
子犬『!! この匂いは、お肉だ!』ガツガツ…!
子犬『美味しいよう!』
子犬『ハッ!勝手に食べちゃった!怒られる!?』
翁「◻️◻️◻️?◻️◻️◻️◻️◻️。◻️◻️◻️◻️◻️」
子犬『怒って…ない?優しい人間だ!よかったー!』
翁「◻️◻️◻️◻️!◻️◻️◻️◻️!」
子犬『あれ?やっぱり怒ってる!?うぅ、ごめんなさい…』トボ…トボ…
翁「◻️◻️◻️◻️◻️ー!」
-
子犬『あの人間さん…さっきからずっと地面を掘ってるなー』
翁「◻️◻️◻️◻️」
子犬『なんか疲れてそう』
子犬『そうだ!お肉のお礼に木の実をあげよう!ご飯を食べれば元気になるよね!』
子犬「…」ツンツン
翁「◻️◻️!?◻️◻️◻️◻️…」
子犬『これ、さっきのお礼です!』ポト
翁「◻️?◻️◻️◻️?」
子犬『あなたは命の恩人です!お手伝いできることがあったらなんでもやります!』
-
翁「ガハハハ!◻️◻️◻️◻️!◻️◻️◻️◻️◻️!」
子犬『喜んでる?きっとそうだ!』
翁「◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️」
子犬『地面を指さしてる?そっか!代わりに穴を掘って欲しいんだ!』ザッザッザッ!
翁「◻️◻️◻️!◻️◻️◻️◻️!」
子犬『あ!これなんかすごく楽しい!わーい!』ザッザッザッ!
翁「◻️◻️◻️◻️?」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ガコン!
カチマチ『ふあ〜おじいちゃん何してるんだろう?』
翁「チェストー!」ガコン
カチマチ『ちえすと?』
翁「◻️◻️◻️◻️◻️カチマチ◻️◻️◻️」
カチマチ『ねぇ!さっきのもう一回やって!』チョコン
翁「◻️◻️◻️◻️?」
カチマチ『お願い!お願い!』
翁「◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️」
翁「チェストー!」ガコン
カチマチ『あはは!面白い鳴き声!』
カチマチ『ちぇすとー!』
-
翁「◻️◻️◻️◻️?チェストー!」ガコン
カチマチ『ちぇすとー!』
翁「◻️◻️◻️◻️チェストーー!」
カチマチ『ちぇすとーー!』
翁「チェ──ごほっ!ごほっ!」
カチマチ『あれ?どうしたの?』ツンツン
翁「◻️◻️◻️◻️◻️◻️◻️」
カチマチ『よくわからないけど無理しないでね!』スリスリ
翁「◻️!?◻️◻️◻️◻️!?」
カチマチ『? 空に何かいるの?』
翁「◻️◻️◻️◻️◻️」ナデナデ
カチマチ『わっ!頭撫でてくれた!おじいちゃんの手大きくて好き!』シッポフリフリ
翁「◻️◻️◻️◻️…」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
チーーーン……
カチマチ『ん…』ピクッ
翁「◻️◻️◻️◻️◻️◻️」
カチマチ(おじいちゃんは毎朝、大きな箱の前で女の人の絵に手を合わせてる)
翁「◻️◻️◻️◻️◻️◻️」
カチマチ(その時のおじいちゃんはちょっぴり寂しそうで、それでも嬉しそうだから、カチマチは邪魔をしないと決めてるんだ)
翁「◻️◻️◻️◻️◻️◻️」
カチマチ(人間の言葉はわからないけど、おじいちゃんと一緒にいると毎日楽しい)
-
カチマチ『おじいちゃん!』
翁「◻️◻️◻️◻️」ワシャワシャ
カチマチ『えへへ!ちょっぴり雑な撫で方だけど、カチマチはそれが好きなんだ!』シッポブンブン
翁「◻️◻️◻️◻️◻️」
翁「◻️◻️◻️◻️◻️◻️?」
カチマチ『おじいちゃん!これからもずっと一緒に居ようね!』ペロペロ
翁「◻️◻️◻️◻️…!◻️◻️◻️◻️!だははは!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
みんなで小さな墓石に手を合わせる。
お婆さん『スズヤさんは、1ヶ月前に亡くなったわ──』
カホ「……ごめんね、カチマチちゃん。きっと会えるって言ったのに」
カチマチ『カチマチはわかりません…ここにおじいちゃんがいるんですか?おじいちゃんの匂いもしないのに…』
カホ「うん。おじいちゃんはね、眠りについちゃったんだ。二度と起きれない、長い眠りに…」
カチマチ『信じません!おじいちゃんはきっと山に行ってるだけです!もう少ししたら家に帰ってくるに決まってます!』
カホ「……カチマチちゃん、さっきのおばあさんから手紙を預かってるんだ」
カチマチ『てがみ?』
カホ「おじいちゃんがカチマチちゃんに遺した手紙。正確には、カチマチちゃんの次の飼い主に宛てたものだけど…」
-
カホ「遺書──」
翁『遺書って言っても、俺には大した財産もねえし、親族もいない。ただこれを読んでる人に俺の心残りを任せたいだけだ』
翁『俺の家には一匹の犬がいる。カチマチ犬のカチマチだ。我ながら安直な名前だと思うが、あいつもそれを自分の名前だと思ってるみたいだから、そう呼んでやってくれ』
翁『カチマチは馬鹿な犬でな。狩りどころか、山菜を掘るのだってまともに手伝えねえ』
翁『そんな駄犬だが、俺にとってはかけがえのない家族だった。ばあさんが死んでから暗かった我が家が、カチマチが来てからパッと明るくなった気がした』
翁『最初は鬱陶しかった鳴き声も、今じゃ聞こえないと不安になるし、夜は一緒じゃなきゃ眠れない程だ』
翁『あいつは俺にベッタリ懐いてるから、俺が急に死んだらどうしていいかわからずに混乱するだろう』
翁『だからもし良ければ、この手紙を読んでるあんたにカチマチのことを頼みたい』
翁『何度も言うが、あいつは馬鹿で使えない犬だが、紛れもなく俺の大切な家族なんだ』
翁『俺がいなくなった後も、カチマチが楽しく幸せに生きられるように、どうか愛情を持って育ててやって欲しい』
-
翁『追伸──』
カホ「──お前と出会えて幸福だった。ありがとう、カチマチ」
カチマチ『う…うぅ……』💧ポロポロ…
カチマチ『イヤだよ!カチマチおじいちゃんともっと一緒にいたいよ!!』
カチマチ『他の人じゃなくて、おじいちゃんとずっと暮らしたい!』
カチマチ『また一緒に山に行こうよ!今度はちゃんと手伝うから!カチマチがんばるから!!』
カチマチ『だから!だから……』
カチマチ『うぅ…おじいちゃんーー!』
カチマチ『カチマチも大好きだよーーー!!!』
その遠吠えは夕暮れの墓地に高く響き渡った。
別れの悲しみと、精一杯のありがとうを乗せて。
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【コズエの家】
カホ「我が家へようこそ!カチマチちゃん!」
カチマチ『わー!ここがカホさんのお家ですか?お花がいっぱいでとってもオシャレです!』
カホ「正確にはコズエちゃんの家だけどね」
コズエ「別にもう堂々と自分の家だと言っていいのよ?実際3人で暮らしているのだから」
メグミ「そうそう!ここは私たちみんなの家だよ!」
コズエ「あなたはもう少し遠慮を覚えなさい」
-
カチマチ『カチマチ、ほんとにここに住んでいいんでしょうか…』
カホ「もちろんだよ!」
カホ「……カチマチちゃんは、本当はおじいちゃんと一緒に暮らしたかっただろうけど」
カホ「カチマチちゃんのこと、手紙で託されたし、何よりあたしがカチマチちゃんと一緒に暮らしたいんだ!嫌かな?」
カチマチ『そんな!全然イヤじゃないです!おじいちゃんも、カホさんなら安心してくれると思います』
カホ「えへへ、そうかな?そうだったら嬉しいな!」
-
カチマチ『……あ、あの!カホさん!』
カホ「ん?」
カチマチ『カホさんは使い魔を探していると聞きました。もし良ければ、カチマチをカホさんの使い魔にしてください!』
カホ「ええ!?いいの?」
カチマチ『はい!カチマチ、カホさんには本当に感謝してるんです』
カチマチ『カホさんがいてくれなかったら、カチマチはおじいちゃんが死んじゃったことも知らないままでした…』
カチマチ『それにカチマチだけでは、おじいちゃんの手紙を読むこともできませんでした!』
カホ「カチマチちゃん…」
-
カチマチ『だから今度はカチマチが、カホさんのお力になりたいです!カチマチはどうやらバカな"ダケン"?らしいですが、精一杯がんばります!』
カホ「うん。わかった!カチマチちゃんをあたしの使い魔にします!」
メグミ「お?そういう話になったんだ」
コズエ「ある意味予定通りなのかしら?」
カホ「ところで、使い魔ってどうやって契約するんでしたっけ?」
メグミ「知らないんかい!」
-
コズエ「使い魔ショップの店員さんに教えてもらったわ。自分とお揃いの私物を与えた上で、契約の呪文を唱えるそうよ」
カホ「お揃いの私物かー」
カホ「あ、そうだ!あたしのウサギの髪飾り、これを片方あげるね!」凹
カチマチ『わー!うれしいです!』凹
カホ「さてと──」
カホ『汝、人に仕える獣よ。その魂を我に捧げよ』
カホ『汝の魂は我が手に、我が魂は汝の背に』
カホ『ファミリア!』✨
-
ピカーー!!✨✨✨
呪文を唱え終えると、カチマチちゃんの体は眩い光に包まれる。
カチマチ『お?おおお!?』ムクムク…
メグミ「なんか体おっきくなってない!?」
コズエ「動物が使い魔の契約を結ぶと、人間の魔力が流れ込んで半魔獣化するのよ。その影響で体が一回り大きくなるそうよ」
カチマチ『そうなんですね!びっくりしました!』
カホ「何だか頼もしくなったね!カチマチちゃん!」
カチマチ『はい!どんな冒険も任せてください!』
-
メグミ「……ていうか」
コズエ「私達にも聞こえるわね…カチマチさんの声」
カチマチ『はっ!そういえばカチマチにもお二人の話していることがわかります!』
カホ「そうなの!?どうして?使い魔になったから?」
コズエ「そう考えるのが妥当でしょうね。察するにカホの以心伝心の加護がカチマチさんに逆流したということかしら?」
カチマチ『よくわかりませんが、カホさん以外の人間さんともお話できるようになったということでしょうか?』
カホ「そうみたいだね!」
-
カチマチ『おお…すごいです!一気に世界が広がった感じがします!』
メグミ「カチマチちゃんってこんな感じなんだあ。素直でいい子そうじゃん!」
コズエ「ええ、また賑やかになるわね」ウフフッ
カホ「よーし!今夜はカチマチちゃんの歓迎会だー!」
メグミ「おー!」
コズエ「またやるの!?昨夜あれだけ騒いだばかりじゃない!」
ガヤガヤガヤ…!
カチマチ(おじいちゃん、離ればなれは寂しいけど、カチマチ新しい家で幸せになるから)
カチマチ(だから安心して、空から見守っててね!)
【使い魔と契約しよう】完了!
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【おしえて!魔法教室】
『ファミリア』
契約魔法。
動物と契約して使い魔にすることができるよ!
使い魔とは魂で繋がるから使役者のスキルが使えるようになるんだ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
カチマチいい子やなぁ…
-
飼い主との別れ話は涙腺にくる……
カチマチちゃん幸せになってね…
-
【翌朝】
カホ「おっはようございまーす!」
カチマチ『おはようございます!』
コス「二人ともとおはよう。今朝は早いわね」
カホ「昨夜はカチマチちゃんを抱いて寝てたおかげで快眠でしたので!」
カチマチ『カチマチはカホさんの寝相が悪いのでよく眠れませんでした!』
カホ「さっき快眠のテンションじゃなかった!?」
コズエ(カホの抱き枕になるなんて…羨ましいわね…)
-
カホ「今日はメグちゃんはどこで寝ているんですか?」
コズエ「さあ?そういえば見てないわね」
カホ「ふーん」ガタ
ムニッ
カホ「あれ?机の下に何か…」
メグミ「…」zzz
カホ「うわあっ!!」
コズエ「机の下にいたのね。よくそんな狭い隙間に入り込めたものだわ」
カチマチ『カチマチはリビングに入った時から気が付いていました!』エッヘン!
カホ「カチマチちゃんは目線が低いからでしょ!ていうか気付いてたなら教えてよ!」
-
メグミ「ふぁ〜うるさいな…」ガタン!
メグミ「痛て…狭っ!何ここ!?監獄?」
コズエ「自分で入ったのでしょう…」
カチマチ『アハハ!メグミさんは面白いです!』
コズエ「全員起きたのなら朝食にしましょう。──あら?そういえばカチマチさんのご飯はどうすればいいのかしら?」
カチマチ『おじいちゃんと暮らしてた時は干し肉とかをもらってました!』
カチマチ『お店ではなんかカリカリしたやつ?でした!』
-
カホ「ああ、ペットフード!買うの忘れてましたね」
コズエ「とりあえず今はベーコンでいいかしら?ちゃんとしたのは今日買ってくるわ」
カチマチ『ありがとうごさいます!』
カホ「ペット用のトイレも買わないとですね」
メグミ「意外と出費かかるね。使い魔になったら排泄しないとか無いわけ?」
コズエ「あるわけないでしょう…使い魔と言っても基本は動物よ」
カチマチ『うぅ、みなさんに迷惑をかける訳には…!カチマチ、うんち我慢チャレンジです!』
カホ「我慢しなくていいから!体に悪いよ!」
-
カチマチ『いえ!カチマチごときのために大切なお金を使ってもらう訳にはいきません!』
カチマチ『がんばるぞー!ちぇすとー!』💩ブリッ
カチマチ『ああ!力んだら出ちゃいました!!』
カホ「あわわわ!コズエちゃんキッチンペーパーを!」
コズエ「え、ええ!」バタバタ
カチマチ『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!カチマチが責任をもって掃除します!』アーン
カホ「きゃーー!!食べようとしないで!カチマチちゃんステイ!」
メグミ「ふっ…まったく騒がしい朝だね」☕️ズズー
コズエ「メグミはなに呑気に飲んでるのよ!手伝いなさい!!」バシッ
メグミ「ぶほっ!──って、熱っつ!あっ白い服にシミが!」
メグミ「メグちゃんの一張羅なのに…!おいどうしてくれんだ!」
ガヤガヤガヤ……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
「「ごちそうさまでした」」
コズエ「ふう、やっと一息つけたわね」
メグミ「この後はどうするの?」
コズエ「とりあえずペット用品を買ってから、出費した分をクエストで稼ぎましょうか」
カホ「クエストにはカチマチちゃんにも着いてきてもらうからね!」
カチマチ『はい!初仕事がんばります!』
ツヅリ「キミはやる気があって偉いね」
コズエ「ええ、本当に──ってツヅリさん!?」
-
カホ「いつ来たんですか!?」
ツヅリ「今だよ。ちょっとみんなにお願いがあって」
メグミ「今って……瞬間移動かよ」
コズエ「それで、お願いとは?」
ツヅリ「君たちに受けて欲しいクエストがあるんだ。本当はボクにに来た依頼なんだけど、ちょうど他の依頼と被っちゃって」
カホ「王国騎士さんに来た依頼なんて、あたし達にできるんですか?」
ツヅリ「大丈夫。見た感じそんなに難しくないから、キミ達にもできるよ」
カチマチ『あの、突然現れたこの方は……』
-
カホ「あ、初めましてだよね。この人はユウギリ ツヅリさん。この街に駐屯してる王国騎士さんだよ!」
カチマチ『おうこくきし?』
カホ「そう!すっごく強くて頼りになる人なんだ!」
カチマチ『そうなんですね!初めまして!昨日からカホさんの使い魔になったカチマチです!!』
ツヅリ「うん。よろしくね、カチマチ」
メグミ「んで、私達に押し付けたい依頼ってのはなに?」
ツヅリ「これだよ」
ツヅリからの依頼
1.連続殺人鬼の確保
2.???(自由記述欄)
-
1
-
2.『そこに居るんですね、花帆さん』
-
1.連続殺人鬼の確保
カホ「連続殺人鬼!?」
ツヅリ「そう。最近被害が増えてるんだって」
メグミ「いやいや、絶対危ないでしょ!」
ツヅリ「危険はあるけど、キミ達なら大丈夫だと思うよ」
ツヅリ「あと正直に言うと、ボクの魔法は人探しに向かないんだ」
コズエ「ツヅリさんの魔法……」
ツヅリ「カホは人探しが得意なんでしょ?それに今は捜索が得意な犬の使い魔もいる」
カホ「得意というか…誰かを頼ってたらいつの間にか見つけてると言いますか…」
メグミ「まあぶっちゃけ、コズエは対人戦の方が得意みたいだし、私達向きの仕事ではあるのかな?」
-
コズエ「私は受けてもいいと思うのだけれど、みんなはどうかしら?」
カホ「コズエちゃんがそう言うなら」
メグミ「異議なーし」
カチマチ『カチマチも賛成です!人探しなら役に立てそうです!』
ツヅリ「よかった。成功報酬はボクが出すから、終わってもギルドには行かないでね」
メグミ「それで、おいくら頂けるんですか?王国騎士さん☆」
コズエ「ちょっとメグミ!そんな露骨な聞き方…!」
メグミ「え〜だってこんな危険そうな仕事を押し付けられたんだし、それ相応の報酬は期待したいじゃん?」
-
ツヅリ「うーん。そうだな……500,000SIsCaでどう?」
メグミ「──────は?」
カホ「ご、50万!?!?」
コズエ「Aランククエスト相当の報酬金額ですよ!?」
ツヅリ「そうなんだ?ボクそういう相場はよく知らないから」
カホ「50万もあれば3ヶ月は働かずに暮らせますよ!」
コズエ「さすがに3ヶ月は厳しいのではないかしら…?でもそうね、カチマチさんも増えて食費も上がるし、50万SIsCaはありがたいわね」
-
コズエ「わかりました。ツヅリさん、その依頼こちらでお受けします」
ツヅリ「ありがとう。じゃあ、これとコレ渡しておくね」
カホ「手紙と……笛?」
ツヅリ「紙の方は依頼書、そっちの笛は魔道具だよ」
ツヅリ「その笛を吹くとボクにだけはどこに居ても聞こえるから、犯人を捕まえたらその笛で教えてね」
ツヅリ「もちろんどうしても危険な時にも呼んでいいよ」
カホ「わかりました!お預かりします!」
ツヅリ「依頼の詳細はこの紙に書いてあるから。それじゃよろしくね」 パッ
カチマチ『わっ!消えちゃいました!』
コズエ「相変わらず神出鬼没ね」
カホ「とりあえずツヅリさんが置いていった依頼書を読みましょうか」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【依頼書】
ユウギリ ツヅリ 様へ
ここ最近世間を騒がせている連続殺人鬼『切り裂きジャック』の確保を依頼します。
『犯行の特徴』
・事件が起きるのは夜
・被害者は身体を鋭利な刃物で切り裂かれている
・この犯人に関連すると思われる死者は計17人
・ここ2ヶ月で被害者が増加傾向
・襲われた者で生存者は無し
・被害者は若く美しい女性が多い
・犯人の容姿について情報は無し
以上
情報が少なく恐縮ですが、これ以上被害を出さないためにも早急な解決をお願いいたします。
冒険者ギルド カナザワ支部
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
カホ「ふんふん…女性ばかり狙う殺人鬼『切り裂きジャック』…」
カホ「え、17人も被害者出てるんですか!?思ってたより危険そう……」
コズエ「もともと王国騎士に依頼が来た案件だもの。一般に出回るクエストとは訳が違うわ」
メグミ「まっ!その変態通り魔をとっ捕まえるだけだし、楽勝っしょ!」
コズエ「あまり気を抜かないの。17人も殺害してなお犯人に関する情報が全くないということは、相手はかなりの手練ということよ」
カホ「でも、受けたからには必ず捕まえましょう!」
コズエ「ええ、これ以上被害者を出す訳にはいかないわ!」
メグミ「それで、どうするの?被害が出るのは夜みたいだけど、それまで待機?」
コズエ「そうねぇ…昼間のうちにできることもあるはずよ」
コズエ「とりあえずカチマチさん用のペット用品を買ってから、作戦を立てましょう」
カホ「了解です!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コズエ「さてと、買い物は一通りできたわね」
カホ「やっぱり結構お金掛かっちゃいましたね」
カチマチ『カチマチごときのためにありがとうございます!』
メグミ「いいんだよカチマチちゃん!今夜には50万SIsCaも手に入るんだから!」
コズエ「"成功報酬"よ。犯人を捕まえられなかったら1SIsCaももらえないわ」
カホ「それで、ここからどうするんですか?」
コズエ「まずは事件現場を見ておきましょう」
-
コズエ「犯人を特定できるものは無いでしょうけど、事件現場の特徴がわかれば、注意するべき場所が絞りこめるわ」
カチマチ『おー!コズエさん頭がいいです!』
カホ「なんか探偵さんみたい!」
メグミ「ていうか私達、いつも探偵みたいなことしてない?猫探しとか人探しとか…」
コズエ「まあその実績があるから、ツヅリさんも頼ってくれたのよ」
カホ「あれ?でも事件現場ってあたし達知りませんよね?」
コズエ「ツヅリさんから預かった依頼書に添付されていたわ」
メグミ「うわ、結構場所バラバラだね…」
-
コズエ「夜までまだ時間はある。行けるところだけでも行って、情報収集するわよ」
カホ「カチマチちゃん、事件現場に行ったら共通する人の匂いがないか覚えておいてね!」
カチマチ『わかりました!任せてください!』
メグミ「えっと、ここから一番近い事件現場は──」
カホ「ルリノちゃんの教会の近くですね。こんな身近で殺人事件が起きてたなんて……」
コズエ「まずはそこに行きましょう。みんな昼間だからって油断しないようにね」
「「はーい!」」
-
【教会近くの裏路地】
カホ「ここですね。なんかお昼なのに薄暗い……」
コズエ「建物に囲まれて陽の光が入らないのね。大通りからも死角になっているわ」
メグミ「いかにもって感じの場所だね」
コズエ「ここでは2ヶ月前に20代の女性が被害にあったようよ」
カホ「ぱっと見た感じ、事件に繋がりそうなものは何も残ってないですね」
コズエ「掃除されたのでしょうね。カチマチさん、何か気になる臭いはある?」
-
カチマチ『クンクン…微かに血の匂いがします!』
メグミ「え、血痕なんてどこにも無くない?」
カホ「ワンちゃんはすっごく嗅覚がいいんです!例え目には見えないくらいキレイに掃除してても、少しでも成分が残ってたらわかっちゃうんですよ!」
メグミ「へ〜……待って、私達臭くないよね?大丈夫だよね!?」
カチマチ『ご心配なく、みなさんとってもいい匂いです!』
カチマチ『あとメグミさんからは紅茶の匂いがします!』
メグミ「げ、今朝こぼしたやつ…ちゃんと洗ったつもりだったけど匂い残ってたか〜」
-
コズエ「はいはい雑談はそこまで。カチマチさん、血の臭い以外に何か感じるものは無いかしら?」
カチマチ『すみません…それ以外は色んな臭いが混ざっててよくわかりません』
カホ「人通りは少ないとはいえ、事件が起きたのは2ヶ月ですからね」
カチマチ『ん?待ってください!血の臭いです!』
メグミ「だからそれはわかったってば」
カチマチ『違います!大通りの方から強い血の臭いがするんです!』
-
カホ「まさか…!こんな昼間に殺人鬼が!?」
コズエ「行きましょう!カホ達は私の後ろから付いてきて!」
カホ「はい!」
コズエを先頭に路地裏を出る。
そこに居たのは、口元を押さえて立つヒョロガリな男性だった。
しかし、手に隠れた口元からは真っ赤な鮮血が滴っている。
カホ「ひっ」
コズエ「あなた何をしているの!」
痩せ男「え、ええ?何ですかあなた達…」
メグミ「それはこっちのセリフだよ!その口元の血はなんだ!お前が連続殺人鬼か!」
痩せ男「殺人鬼!?!?何を言っているんですか!」
-
痩せ男「この血は見ての通り鼻血ですよ!なかなか止まらないから困ってたんです」
カホ「わ、大変!ちょっと待っててください…」
カホ「どうぞ、このハンカチを使ってください!」
痩せ男「え…いやダメだよ。せっかくの可愛らしいハンカチを汚してしまう」
カホ「困った時はお互い様です!ハンカチは返さなくてもいいので、遠慮なく使ってください!」
痩せ男「……すまないね。それなら遠慮なく使わせてもらうよ」
カホ「はい!」
痩せ男「そういえば、さっき殺人鬼がどうのとか言っていたけど…」
-
コズエ「先程は失礼しました。実は私達、近頃話題の通り魔犯を追っているんです」
カホ「あたしの使い魔が『血の臭いがする』って言ったので、てっきり事件が起きたのかと思いまして…」
痩せ男「そういう事でしたか」
メグミ「疑っちゃってごめんね。ついでと言ったらなんだけど、その殺人鬼について何が知ってることあったりします?」
痩せ男「うーん済まない…数か前に越してきたばかりでね。そういう事情には詳しくないんだ」
コズエ「そうですか…お時間を取らせてしまい申し訳ありません」
痩せ男「いやいや。こちらこそハンカチまで貸してもらったのに何も返せなくて申し訳ない…」
-
コズエ「気にしないでください。もともとすぐに情報が集まるとは思っていないので」
カホ「鼻血、早く止まるといいですね!」
痩せ男「ありがとう。君たちも気をつけるんだよ」スタスタ
カホ「優しそうな人でしたね」
メグミ「いやいやカホちゃん。ああいうタイプが実はってのがミステリーの定番なんだよ!」
コズエ「メグミは小説なんて読まないでしょう……」
コズエ「とりあえず次は教会に行って事件当時のことを聞いてみましょう」
カホ「はーい!」
-
【教会】
カホ「こんにちわー!」
ルリノ「お?カホちゃん!一昨日ぶり!」
メグミ「ルリちゃん…♡」
ルリノ「げ、メグミさん…羽根は隠しておいてくださいよ」 コソッ
メグミ「わかってるよ。ルリちゃんに迷惑はかけないから♡」
カチマチ『こんにちは!』
ルリノ「おや、かわいいワンちゃんですな〜よしよし」
カホ「あたしの使い魔のカチマチちゃんだよ!」
ルリノ「カホちゃん使い魔買ったんだ。そう言えばこの間のパーティーの時にそんな話してたね」
-
カホ「そうなの!あ、カチマチちゃん、この人はあたしの友達のルリノちゃんだよ!」
ルリノ「こんにちは。オオサワ ルリノだよ。よろしくねカチマチちゃん!」 ナデナデ
カチマチ『はい!よろしくお願いします!』
ルリノ「それで、今日はどうしたの?新しい家族の紹介?」
カホ「それもあるけど、実は──」
コズエ「私達は今、とある殺人鬼を追っているの。近頃世間を騒がせている『切り裂きジャック』って知っているかしら?」
ルリノ「ああ、若い女の人ばかり狙ってる通り魔だよね…教会の近くでも被害者が出たから知ってるよ……」
メグミ「事件当時のこと、知ってることがあれば教えて欲しいんだけど」
ルリノ「うーん知ってることか…」
-
カホ「どんな些細なことでもいいから教えて欲しいな!」
ルリノ「そうは言っても、ルリが知ってることといえば、襲われたのは近所の若い女性だってことくらいだし…」
ルリノ「そうだ!確か被害にあった女の人を見つけたの、うちのシスターだった!」
カホ「本当!?その人から直接お話聞けないかな!」
ルリノ「ちょっと待っててね。今呼んでくるから」 パタパタ
メグミ「さすがは私のルリちゃん!頼りになる〜」
コズエ「メグミはいつまで勘違いしているのよ…」
メグミ「勘違いじゃないもん!ルリちゃんがちょっと忘れてるだけだもん!」
-
カチマチ『メグミさんとルリノさんはお知り合いなんですか?』
メグミ「そうだよ。もう幼なじみと言ってもいいくらい昔からの付き合いなんだから!」
カチマチ『わ〜幼なじみ!ステキです!』
コズエ「カチマチさん、あまり素直に人を信用してはダメよ。主人を守るためにも疑うことを覚えなさい」
メグミ「私は仲間なんですけど!」
ルリノ「お待たせー!連れてきたよ」
シスター「こんにちは」
ルリノちゃんが連れてきたのは、黒髪でスラッとしたシスターさんだった。
身長はコズエちゃんより少し小さいくらい。控えめな印象の美人といった感じだ。
-
シスター「えっと、通り魔の犯人を探しているとお聞きしましたが…」
カホ「そうなんです!事件当時のこと、何か知ってたら教えてください!」
シスター「…わかりました。あの日の夜は、私は聖堂にいました」
カホ「夜に聖堂?」
ルリノ「たまに夜にもお祈りしに来る人がいるからね。毎晩交代でひとりは居るようにしてるんだ」
シスター「私は聖堂でひとり、静かに祈りを捧げていたんです。そしたら突然、持っていた十字架が震えだして……」
カホ「十字架って、首にかけてるそれですか?」
シスター「そうです。この十字架は祈りの道具であり、同時に魔のモノに反応する魔道具でもあります」
-
カホ「魔のモノって…まさか街に魔物が出たってことですか!?」
シスター「私もそう思い、急いで反応のある方へ向かったんです。被害が出る前に祓わなければいけないと…」
シスター「すると路地裏の方から背の高い大男が飛び出してきて、走り去るのを見ました」
カホ「大男…まさかそれが殺人鬼?」
シスター「そうだと思います。その男が出てきた路地裏を覗いたら、首を裂かれて倒れている女性を見つけました」
カホ「あれ、でも十字架は魔物に反応するんですよね?でも逃げていったのは人間…それっておかしくないですか?」
-
シスター「確かに十字架は人間には反応しません。ですが私は、神が事件が起きていることを教えてくれたのだと思っています」
シスター「最も、その女性を助けることはできませんでしたが…」
シスター「私が知っていることは以上です。お役に立てたでしょうか?」
カホ「はい!貴重なお話ありがとうございました!」
ルリノ「カホちゃん達も、殺人鬼を捕まえるなら気をつけてね」
カホ「大丈夫!こっちにはコズエちゃんとカチマチちゃんがいるから!」
メグミ「今ナチュラルに私のこと戦力から外さなかった?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【商店街】
カホ「こんなに人通りが多い場所でも事件が起きているんですか?」
コズエ「ええ、最も事件現場は大通りから外れた場所だけれど──」
カチマチ『わー!人がいっぱい!いい匂いもいっぱい!』
メグミ「カチマチちゃんは商店街は初めてなの?」
カチマチ『はい!初めて来ました!』
カホ「ここはお肉、魚、野菜なんでもそろってるから!食べたいものがあったら遠慮せず言ってね!」
カチマチ『な、なんでも…!ゴクリ』
コズエ「聞き込みがてら少しお店を見てまわりましょうか」
カチマチ『いいんですか!?わーい!』
-
カホ「ふふっ、カチマチちゃん嬉しそう!」
カチマチ『おじいちゃんはいつも森にばかり行ってたから、こんなに賑やかな場所に来るのは初めてです!』
メグミ「あ、見て!あそこのお肉屋さんコロッケ売ってるよ!せっかくなら食べ歩きしようよ!」
コズエ「確かに、ちょうど小腹が空いてきたわね」
カホ「すみませーん!コロッケ3つください!」
肉屋「はいよ!お、可愛らしいお嬢さん達だね!お買い物かい?」
カホ「買い物ではないですけど、美味しそうなコロッケだったのでつい!」
肉屋の主人はワイルドでガタイのいい男の人だった。
ニコニコの笑顔とハッキリとした話し声から人の良さが伝わってくる。
-
肉屋「はいコロッケお待ち!嬢ちゃん達可愛いから一個オマケしといたよ!」
カホ「わーいありがとうございます!」
カホ「あむっモグモグ……ん!おいしい!!」
コズエ「確かに美味しいわね」
カチマチ『……』 ジュルリ
メグミ「カチマチちゃんも食べる?」
カチマチ『食べたいです!』
カホ「ワンちゃんってコロッケ食べられますか?」
コズエ「どうかしら…食べられないことはないと思うけれど」
カチマチ『多分食べられます!いや…食べてみせます!!』
-
カチマチ『あむっ!おいしいです!!』
メグミ「よかったね、カチマチちゃん」
カチマチ『はい!』
コズエ「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
肉屋「そうだろう!うちのコロッケはここで売ってる上物の肉を使った特製だからな!」
肉屋「ミンサーを使わずに包丁を使ってひき肉にしてるから、肉がごろっと入ってて美味いんだ!」
カホ「確かに普通のコロッケよりもお肉の食感を感じました!」
メグミ「でも機械使わずにひき肉作るの大変じゃない?」
肉屋「この特製の包丁と鍛え上げた筋力がありゃ、どんな肉だって簡単に細切れにできるさ!」🔪キラン!
カホ「っ!」
-
肉屋の店主は大きめの肉切り包丁を掲げてみせた。
ガタイのいい体でそんなことをされると妙な迫力がある。
カホ(犯人の特徴は大男…まさかね?)
メグミ「あー!カチマチちゃん食べ方汚すぎ!口周りとかリボンとかベチャベチャじゃん!」
カチマチ『はっ!夢中になって食べてたらこんなことに!』
コズエ「あらあら、油汚れは落ちにくいのよね…」
カチマチ『ごめんなさい…』
???「何かお困りですか?」
カホ「え?」
突然後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、髪をおさげに結った美少女がこちらを伺っていた。
-
肉屋「おや?サヤカちゃんじゃないか!今日も肉買ってくかい?」
サヤカ「はい。でもその前にこちらの方が困っているようなので」
カホ「えっと…」
サヤカ「ああ、汚してしまったんですね。少し失礼します」
サヤカ『エクス ウォッシャー』
カチマチ『わっ!ベタベタが無くなりました!』 フサッ フサッ
メグミ「それどころか全体的に毛がフサフサしてない?」
サヤカ「ふふっお役に立てて何よりです」 ニコッ
コズエ「あの、あなたは?」
サヤカ「失礼しました。わたしはムラノ サヤカと申します」
サヤカ「お困りのようだったので、つい声を掛けてしまいました。驚かせてすみません」
-
カホ「ううん!カチマチちゃんをキレイにしてくれてありがとう!」
カホ「あたしはカホ!こちらはコズエちゃん、メグちゃん、カチマチちゃん!」
コズエ「よろしくねサヤカさん。それよりもさっきの魔法、上級の洗浄魔法かしら?」
サヤカ「はい。生活魔法が得意なもので」
コズエ「上級の生活魔法を使えるなんて珍しいわね。もしかして家政婦でもしているのかしら」
サヤカ「いえいえ、趣味で学んでいるだけです」
カホ「でも一瞬で油汚れがこんなにキレイになるなんて、すごい魔法だね!」
サヤカ「上級洗浄魔法は汚れを分子レベルで分解しますから、どんなにしつこい汚れも一発なんですよ」☝️
メグミ「あ、じゃあじゃあ!私の服にもさっきの魔法使ってくれない?今朝紅茶こぼしちゃってさ、匂いが落ちないの」
コズエ「ちょっとメグミ、初対面の相手に図々しいわよ」
-
サヤカ「いえ、構いませんよ」 ニコッ
サヤカ『エクス ウォッシャー』
メグミ「カチマチちゃん、どう?」
カチマチ『クンクン…匂いが消えました!お日様で干した後みたいです!』
メグミ「よっしゃあ!ありがとう、サヤカちゃん!」
サヤカ「お役に立てて何よりです」
カホ「そうだ、サヤカちゃんってここら辺に住んでるの?」
サヤカ「ええ、このすぐ近くですよ」
カホ「じゃあさ、『切り裂きジャック』っていう殺人鬼知らない?この近くでも被害者が出たみたいなんだけど」
サヤカ「いきなりですね……もちろん知っていますよ。女性ばかりを狙っているとか」
-
カホ「あたし達その犯人を追ってるんだ。何か犯人について知ってる事ない?」
サヤカ「そうですね…あ、確か『月』の出ている夜に現れると聞きました」
コズエ「晴れた夜ということかしら?なんだか違和感があるわね」
メグミ「よく知らないけど、悪いことするなら普通は暗闇の中じゃないの?」
サヤカ「奥様方の情報網によると、最近の事件は毎回月の綺麗な夜に起きているらしいです」
カホ「うーん…何が関係あるのかな?」
コズエ「一応心に留めておきましょう」
メグミ「そういえば今夜は月出そうじゃない?晴れてるし」
サヤカ「今夜は満月ですよ。もしも月と犯人に関係があるなら、今夜は動きがあるかもしれませんね」
カホ「む!なら捕まえる絶好のチャンスですね!」
-
コズエ「サヤカさん、貴重なお話ありがとう」
サヤカ「いえいえ。どんな事情かわかりませんけど、危険な人物を追うなら注意してくださいね」
サヤカ「それではわたしはここで」
カホ「うん!また会ったらよろしくね!」 バイバイ
サヤカ「はい、さようなら」 テクテク
カホ「──サヤカちゃん、いい人でしたね!」
コズエ「そうね」
メグミ「いやいやカホちゃん、ああいう露骨な登場をした人物は犯人の可能性が高いんだよ!」
コズエ「だからメグミはどこでそういう知識を身に付けたのよ」
メグミ「何か違和感は感じなかった?近寄って来た時に気配がしなかったとか、体の動きが妙に洗練されている…とか!」
コズエ「無いわよ!普通に気配もしたし、違和感も感じなかったわ」
-
コズエ「だいたい服をキレイにしてもらった分際でよく疑えるわね…」
カホ「そもそも犯人は大男ですよ?サヤカちゃんは女性だし、明らかに小柄だったじゃないですか」
メグミ「で、でも!あんな洗浄魔法が使えるなら、人を殺した後でもすぐに自分の居た痕跡を消せるでしょ!」
コズエ「それはできるかもしれないけれど──あなた、単に探偵ごっこがしたいだけなんじゃ…?」
メグミ「ふん!マジメに考えてるだけだもん!」
カチマチ『サヤカさんはいい人だと思います!人を傷つけるような悪意は感じませんでした!』
カホ「カチマチちゃんがそう言うのならいい人ですよ。動物は人の悪意に敏感だって言いますし!」
コズエ「さあ、メグミのことは放っておいて、次の事件現場に向かいましょう」
メグミ「あ!置いていこうとするなー!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コズエ「ここは最も直近で事件が起きた場所よ」
カホ「そう言われるとなんか不気味に感じますね…」
カチマチ「クンクン…」
メグミ「何か感じる?」
カチマチ『うぇ…さっきの場所よりも濃い血の臭いがします』
コズエ「被害者の女性は首を切り裂かれていたのよね。きっと血を流しすぎたせいで亡くなったんだわ」
カホ「可哀想…」
コズエ「一刻も早く犯人を捕まえましょう」
-
メグミ「その為にはカチマチちゃんが頼りだよ!」
カチマチ『はい!頑張ります!クンクンクン…』
カチマチ『あれ?この臭い、今日どこかで嗅いだような……』
カホ「え、まさか今日会った誰が殺人鬼!?」
カチマチ『でもちょっと違うような?どちらかと言うと獣臭い感じ…』
メグミ「獣?犯人も使い魔を使ってるとか?」
カチマチ『う〜ん、別の場所も行けばハッキリわかるかもしれません!』
コズエ「それなら次に向かいましょう。案の定ここも、目視で確認できるような証拠は残っていないみたいだし」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「ここで5箇所目ですね」
カチマチ『クンクン…やっぱり『あの人』の臭いがします!』
メグミ「てことはほぼ確定か。まさか捜査初日に犯人に出くわしていたとは…」
コズエ「獣臭というのが若干気がかりだけれど…」
メグミ「それでどうするの?犯人はほぼわかったけど、あいにく名前も住んでる場所も知らないよ?」
カホ「あ、それならカホに考えがあります!」
カホ「前に猫ちゃん達に一斉に意思を伝えた感覚で……」ムムム
カホ「ふん!」⚡️
カチマチ『わっ!』⚡️パチン
コズエ「カホ、何をしたの?」
-
カホ「街中の動物さん達に一斉送信で情報を伝えました!これで『あの人』に動きがあれば教えてくれるはずです!」
コズエ「本当に便利な能力ね…」
メグミ「もとはメグちゃんのあげた加護なんだから感謝してよね!」
コズエ「はいはい。でも動物達は正しく見分けられるの?」
カホ「動物は特に悪意には敏感なので、悪いことをしようとしてればわかるはずです!」
カホ「だよね、カチマチちゃん!」
カチマチ『はい!』
メグミ「そしたら後は人を襲おうとしてるところを現行犯逮捕だ!」
コズエ「……いえ、もっと確実な方法を思いついたわ」 ジー
メグミ「な、なに?こっちをじっと見つめて…」
コズエ「みんな、耳を貸してちょうだい」コショコショ…
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【夜】
女性「……」 テクテク
夜の10時。
人気の無くなった道を、女性が歩いている。
月はちょうど雲に隠れ、辺りはいっそう暗い。
夜の散歩か、はたまた友達の家から帰る途中なのか。
何にせよ、夜中に女性がひとりで出歩くのは無用心だ。
???「……」ソロリ…
だからほら、悪い狼がそんな格好の獲物を見逃すはずがない。
???「……」 ガシッ
女性「んむ!?」
-
そいつは後ろから近づき、女性の口を手で塞ぐ。
女性は見た目よりもずっと軽く、簡単に路地裏に引きずり込まれてしまった。
女性「んー!ん〜〜!!」バタバタ
暴れる女性を地面に押し倒し、体を観察する。
大きめのローブを着ていてわかりずらいが、よく見ればかなり男好みの体つきをしていた。
なんて──
『 お い し そ う な 』
???「はぁ…はぁ…もう我慢できない」
男は女性の首筋に手を伸ばし──
コズエ「そこまでよ」
-
???「!!!」
後ろからの突然の声に、男は思わず振り返る。
コズエ「ふん!」👊バコッ
???「があっ!」
そこに強烈な一撃が入り、思わず体が仰け反る。
???「ひっ…ひぃぃぃ!!」バタバタ!
コズエ「! 待ちなさい!」
なりふり構わず表通りに走る。
しかし──
カホ「カチマチちゃん!」
カチマチ『ちぇすとー!』ガブッ!
???「痛"っ!!」バタン
足を犬に噛みつかれて、勢いそのままに地面に倒れ込んでしまった。
-
コズエ「ふっ!」ガシッ!グググ…!
うつ伏せの体勢のまま背中に乗られ、腕を締めあげられる。
かくして、連続殺人鬼は呆気なく捕まってしまった。
コズエ「やっぱりあなただったのね」
カホ「鼻血出してた男の人…」
痩せ男「な、なんの真似ですか!」
コズエ「とぼけないで、あなたが切り裂きジャックなのでしょう?」
痩せ男「! 君達は昼間の…まだ探偵ごっこをしているんですか!」
コズエ「私達は正式に依頼を受けて捜査していたのよ。探偵ごっこなんかじゃないわ」
メグミ「あー怖かった!なんでメグちゃんが囮役なわけ?コズエがやればよかったじゃん」
コズエ「メグミが一番見た目が地味だから、覚えられていないと思ったのよ」
メグミ「地味じゃないし!メグちゃんは世界一の美少女だし!髪の色だけで決めないでくださいー!」
-
痩せ男「っ!離しなさい!何かの間違いだ!」ジタバタ
メグミ「あんなに『はぁはぁ』言いながら私を襲っといて、言い訳なんか通用するとでも?」
カホ「カチマチちゃん、この人の臭いで間違いない?」
カチマチ『クンクン…はい!事件現場に残ってたのはこの人の臭いです!』
痩せ男「わ、私は記者です!君達と同じように通り魔を追っていて…その時に臭いが付いてしまったんだ!」
カホ「それならなんでメグちゃんを襲ったんですか!」
痩せ男「そ、それは…女性がこんな時間にひとりで出歩くのは危ないから…注意しようと……」
コズエ「御託ならいいわ。メグミ、この人の体を探ってちょうだい。刃物を持っているはずよ」
メグミ「はーい」
痩せ男「あ、やめ…!どこ触ってるんだ…///」
メグミ「気持ち悪い反応しないでくれる?えーと、刃物は…」ゴソゴソ
-
メグミ「ん?」
カホ「どうしたんですか?」
メグミ「いや、この人刃物っぽいものは持ってなくて……」
コズエ「ちゃんと探しているの?」
メグミ「探してるってば!」
痩せ男「だから言ったでしょう!勘違いだって…!」
コズエ「…………いえ、どの道女性を襲おうとした不審者よ。ひとまずツヅリさんを呼びましょう。カホ、笛は持っているわね?」
カホ「もちろんです!」
ピーーーーーー!!!
痩せ男「な、何を……」
コズエ「この街に住んでる王国騎士を呼んだわ。あなたの身柄はその人に引渡します」
痩せ男「そ、そんな!」
メグミ「なーんか思ったより呆気なかったね」
カホ「連続殺人鬼って聞いてたから、もっと怖そうな人だと思いましたよ」
メグミ「たいして大男って感じでもないしね。まさか本当に人違いじゃ……」
-
コズエ「尋問はプロに任せましょう……それよりも、ツヅリさん遅いわね」
カホ「いつもはパッと現れるんですけどね」
メグミ「笛が聞こえなかったんじゃない?もっかい吹いてみたら?」
カホ「そうですね」ピーーー!
シーン……
コズエ「まあ、忙しいから私達にこの依頼をしてきたのだし、すぐには来られないわよね」
カホ「とりあえずこの男の人を縛っちゃいましょう!コズエちゃんもずっと抑えてるの疲れるでしょうし!」
コズエ「そうね。二人ともお願い」
痩せ男「…」
その時、上空の雲が風に動かされ、月がその姿を露わにする。
月光に照らされた男の目が、一瞬ギラリと光った。
-
痩せ男「…」 グググッ
コズエ「抵抗しても無駄よ。あなたの体格では私は退かせられないわ」
カチマチ『! 臭いが…変わった?』
カホ「どうしたのカチマチちゃん?」
カチマチ『この臭い…!事件現場でいつもしてた獣の臭いです!』
カチマチ『それがこの男の人からします!』
コズエ「え?でも使い魔なんて──」
バンッ!!
コズエ「きゃ!」
「「!!!」」
コズエはあろうことか、完全にマウントを取った姿勢から後ろに弾き飛ばされてしまった。
痩せ男(?)「ふぅー…ふぅー…」メキメキ
-
メグミ「なに…?あいつの体、なんか大きくなってない!?」
痩せ男(?)「お、お"お"お"お"!」
ニョキニョキ……フサフサ……
痩せ細っていた体はみるみる肥大化し、破けた服からは毛むくじゃらで筋肉質な上半身が露になる。
更には肉食動物のように鋭く伸びた爪や牙は、コズエ達に剥き出しの敵意を告げていた。
コズエ「まさか…人狼──」
人狼「…」ガシッ
ガシャーン!!
-
ワーウルフか
-
コズエ「がっ──」ボロ…
人狼は一瞬でコズエに近くと、その頭を鷲掴みにして外壁に叩きつけた。
カホ「え──コズエちゃん!?」
カホ(速い!!動きが見えなかった!)
人狼「油断シスギダ…自分達ナラ殺人鬼相手にモ楽勝だナンテ、本気デ思ッてイタノカ?」
カホ「っ!」ゾワッ
人狼の声は人の姿だった時よりも低く、そしてしゃがれている。
まるで肉食獣がその声帯で無理やり人間の言葉を話しているようだ。
メグミ「人狼…ってなによ!あいつ人間じゃなかったの!?」
カホ「人狼は人と狼の血が混ざった魔獣です!噂には聞いてたけど、本当に存在してたなんて…」
-
『ドラゴン』がトカゲとコウモリ、獅子などの血が交わり生まれた魔獣ならば、『人狼』はヒトと狼が交わって生まれた魔獣である。
普段は人の姿で街に溶け込み、月夜には真の姿を現し、人を襲うと言い伝えられている。
人狼「サテ、今夜は豪華ナ食事にナリソウダ」
カチマチ「ガルルル…ワン!」バッ!
カホ「あ、ダメ!!」
人狼「邪魔ダ」ザクッ
カチマチ「キャウン…!」バタ
カホ「カチマチちゃん!!」
カチマチは人狼の鋭い爪で皮膚を裂かれて、血を流して地面に倒れる。
人狼「犬の肉ハ不味い。ソレに毛ガ舌に張リ付ク」シュッ!
ガシッ!
カホ「かはっ…!」
カホ(また一瞬で距離を詰めて来た…!)
人狼「ヤハリ、女の体ガ一番ウマイ」ジュルリ
カホ「!!」
メグミ『エンジェルブロー!』🔥
人狼「フン…」スカッ
-
人狼「オラ!」ゲシッ!
メグミ「ごはっ!」
カホ「め──ぐちゃ──!」
人狼「焦ラナクテモ全員殺ス。大人シク待ッテ──」
コズエ「無理な話ね!」👊ブン!
人狼「グァ!?」ヨロッ…
コズエの拳が人狼の顎に炸裂する。
人狼はカホの首を離して後ろによろめいた。
コズエ「頭がでかくなったぶん狙いやすいわ!」
カホ「げほっ!げほっ!」
コズエ「カホ!無事!?」
カホ「コズエちゃんの方こそ…頭から血が…!」
コズエ「私は大丈夫よ。少し切れただけだわ」
人狼「チッ!マダ意識がアッタカ」
コズエ「第二ラウンドよ!今度は油断しないわ!」
コズエの体が緑色の魔力を纏う。
戦闘モードに切り替わった合図だ。
-
人狼「フン…ホザケ!!」バッ!
コス「はっ!」シュバッ!
二人は急接近し、互いに拳を繰り出し合う。
コズエは拳による打撃を、人狼は長い爪でコズエを切り裂こうとする。
コズエ「っ!」スカッ
人狼「ナニ──ブハッ!!」バシン!
コズエは目の前に迫る爪を紙一重で避けると、魔力を込めた拳を相手の鼻っ面に叩き込む。
コズエ「はぁ!!」👊👊ドドドン!
さらに人狼の鳩尾、腎臓、肝臓の位置を的確に撃ち抜く。
どれも人体にとっては急所となる部位だ。
人狼になったとはいえ、身体の構造までは大きく変わらない。
人狼「ウグッ…!」
腹部を襲う激痛に、人狼は思わず前屈みになり、頭をコズエに向けて差し出す体勢になる。
-
コズエ(今!!)クルン
コズエはその場でクルリと回転すると、勢いをつけて相手の顎に渾身の蹴りをお見舞する。
コズエ「ふんっ!!」バシーン!
カホ「入った!」
コズエの蹴りはまるで吸い込まれるように、綺麗に人狼の顎にヒットした。
が──
コズエ「っ!」グググ…!
コズエ(硬い!まるで巨大な岩を蹴ったような──)
人狼「調子二…」ガシッ
コズエ「しまっ──」
人狼「調子二乗ルナ!!」ブン!!
コズエ「きゃー!」ポーン!
メグミ「コズエーー!!」キャッチ
投げ飛ばされたコズエを、メグミがギリギリで抱きとめる。
メグミ「ぐえ!」バタン
-
コズエ「ありがとうメグ──」
コズエ「っ!?」ガシッ
メグミ「え?うわわわわぁ!」ピョン
人狼「オラァ!!!」 👊バコーン!
コズエはメグミを抱えて跳躍する。
次の瞬間には、先程二人がいた場所は、人狼の拳によって粉々に砕けていた。
メグミ「ひぃぃ!レンガ畳があんな簡単に…!」
コズエ「それくらい私にもできるわよ!」バッ!
コズエ「はっ!」👊ドシン
コズエは岩をも砕く一撃を人狼に叩き込む。
コズエ「!!」
人狼「……」ニヤリ
しかし、相手はピクリとも動かずに、コズエの拳を腹で受け止めていた。
コズエ「な!?」
人狼「貴様ノ強サはサッキノデ把握シタ。ナラバ後はソレに合ワセテ身体を改造スルダケダ」ビキビキ…
コズエ「まさか…!そんなことが!?」
-
人狼「ウラァ!!!」バーン!
コズエ「ごぼっ!!」
強烈な蹴りを受け、コズエは10m程後方に吹き飛ばされる。
コズエ「お"え"!ごほっ!ごほ!」
カホ「コズエちゃん!──っ!口から血が!」
人狼「フン!」ガシッ! メキメキ…
人狼はおもむろに傍らにある街灯を掴むと、片手でそれを引っこ抜いた。
メグミ「ちょ…!あいつ何してんの!?」
人狼「オラ!オラ!オラ!」ブンブン
ガシャン!ガシャン!ガシャーン!
カホ「きゃーー!!」
メグミ「っ!そんなに物音立てたら、今にも警備隊が来るよ!」
人狼「来ないサ。コノ一帯ニは防音ノ結界を貼ッテアル」
カホ「結界…?」
人狼「ソウダ。俺はイツモ狩リをスル時ニハ結界を貼ッテ音が漏レナイヨウニシテイル」
-
コズエ「げほっ…だから誰にも気づかれずに人を殺せたのね…」
カホ「コズエちゃん!?大丈夫ですか!」
コズエ「ええ…大丈夫よ…」
コズエ(本当は肋が折れているけれど…)
メグミ「じゃあまさか、ツヅリが来なかったのも…」
カホ「!!」
人狼「ソウイウことダ。無論、結界ノ中デモ空間的に遮断サレテイレば音ハ聞コエナイ」
人狼「家ノ中の連中モ、ワザワザ夜中に窓デモ開ケナイ限リ外ノ様子にハ気ガ付ケナイ」
コズエ「くっ…!」
人狼「サア…存分に泣キ叫ベ!!」
ブォン! ガシャーン!!
カホ「きゃあ!!!」
人狼はわざと乱暴に街灯を振り回し、カホ達に恐怖を植え付けようとする。
彼にとって、女の泣き叫ぶ声こそが食事を彩る最高の"スパイス"だった。
-
人狼「ハハハハハ!!!」ガシャーン
コズエ「がはっ!」ドサ
メグミ「コズエ!」
コズエは乱暴に振り回される街灯から二人を守るために、自らを肉の盾として人狼に立ちはだかる。
人狼「イツマデ立ってイラレるカナ?」バシン!バシン!
コズエ「ぐっ…!がはっ…!」
カホ「避けてください!コズエちゃん死んじゃいますよ!?」
人狼「オラオラ!ガハハハ!!」ブン!
コズエ(注意がこちらに向いている…!)
コズエ「今よ!」
人狼「ア?」
カチマチ「ガルァ!!」ガブッ!
人狼「ナニッ!?」
物陰に潜んでいたカチマチが、後ろから人狼の首に噛み付き、牙を突き立てる。
-
カチマチ『カチマチだって役に立つんだ!たとえ歯が折れようとも、絶対に離すもんか!!』
人狼「クソ犬がァ!離レヤガレ!」
人狼はカチマチを引き剥がそうと、踊り狂ったように暴れて背中を壁に叩き付ける。
カチマチ「ヴヴヴヴ……ッ!!」グググ
人狼「クソッ!ナラ目ん玉をエグリ出シテ──!?」
その時、人狼の頭に影が落ちる。
人狼「上にナニカ…?」
その影は、空高く跳躍したコズエが生み出したものだった。
人狼「!」
コズエは満月を背に、地上の人狼に狙いを定める。
コズエ「奥義──」
コズエ『雷落とし』⚡️
コズエ「はああああああ!!!!」
ありったけの魔力を脚に集め、標的に向かい落下する。
人狼「クソ──」
ドゴーーーーン!!!
-
かつて魔猪の頭蓋を粉砕した技。
その時よりさらに威力を増した踵落としが、人狼の脳天に炸裂する。
メキ…ドカッ!
技の衝撃は人狼の体を伝い、レンガが砕け、人狼の足が地面にめり込む。
人狼「カハ──」バタン
カチマチ『た、倒した?』
コズエ「はぁ、はぁ…私の全力を叩き込んだわ。これでダメなら、お手上げよ…」
カチマチ『カチマチ、お役に立てたでしょうか?』
コズエ「ええ、カチマチさんがいなければ、技を繰り出す隙は作れなかったわ。ありがとう」ナデナデ
カチマチ『えへへ!カチマチやりました!』
カホ「おーーい!」パタパタ
メグミ「大丈夫ーー?」パタパタ
コズエ「二人とも無事よ。それよりも早くロープを──」
-
ガシッ! ガシッ!
コズエ「!?」
カチマチ「!?」
カホ「え──嘘…」
人狼「…」ムクッ
コズエ「かっ──」グググ…
カチマチ『うぐ──』グググ…
人狼「言ッタヨナ、調子に乗ルナって…俺ァ言ッタヨナァァ!!!」
メグミ「どんだけタフなのわけ!あいつ…!」
人狼「俺はワーウルフだ…人間にトッテモ犬にトッテモ、完全ナ上位種ナンダヨ!!!」ブン!
人狼は二人の首を掴んだ腕を高く掲げると、勢いよく振り下ろし、二人を地面に叩きつける。
バコーーン!!
コズエ「ごっふ…!」
カチマチ「キャウン…!」
-
二人が叩きつけられた衝撃でレンガは砕け、細かい破片が二人の背中に突き刺さる。
そのまま二人は動かなくなってしまった……
カホ「コズエちゃん!カチマチちゃん!」
メグミ「このぉ……よくも!」
カホ「あ、メグちゃん待って!」
メグミ『エンジェルブ──』
人狼「…」ガシッ!
メグミ「ぐっ…!」
人狼「サッキは食べ損ネタからナ。今度コソその血肉をイタダクゾ」 ツー
メグミ「っ──!」タラー
鋭い爪がメグミの首筋を軽く撫でる。
すると少し遅れて、白い肌からじわりと血が滲み出てきた。
-
人狼「イイ匂いダ…」ジュルリ
人狼は舐めるようにメグミの首筋を見つめると、メグミの頭よりも大きな口をガバリと開けた。
メグミ「ヒュ──」
カホ「メグちゃん!!」ダッ
メグミに向かって全速力で走る。
だが、もう間に合わない。
メグミは頭からかぶりつかれ、リンゴでも食べるかのように骨ごと頭を咀嚼されてしまうだろう。
メグミ「いや──助けて──」
人狼「アーーーンガ!?」グイ
コズエ「う"ーーっ!!」ガシッ
メグミ「コズエ!?」
コズエは人狼に後ろから組み付くと、大きく開けられた顎に自身の左腕を咬ませる。
人狼「アガッ──!ガァ!」ググ!
人狼は顎を無理やり閉じようと、コズエの腕に牙を突き立てる。
対するコズエは、右手で上顎を掴み、閉じさせまいと必死に抵抗する。
-
コズエ「痛"っ──メグミ、今のうちに逃げて!!!」
メグミ「っ! えいっ!!」バッ!
メグミは隙をつき何とか人狼の手から逃れる。
人狼「ヴーッ!」グググ…ボキッ!
コズエ「あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」
メグミ「コズエ!?」
カホ「コズエちゃん!!」
コズエ「っ──!!!」バタン
コズエの腕は自身の血にまみれ、関節の無い位置で不自然に折れ曲がってしまっていた。
カホ「コズエちゃん!そんな──腕が…!」
人狼「悪くナイ味ダ…」ペロリ
カホ「来ないで……」ガタガタ
人狼「ソイツは生カシテオクと面倒ソウダ──先に殺スか」
-
カホ「いや……コズエちゃんに近づかないで!!」
コズエ「カホ──逃げ──」
コズエ「っ!」ズキズキ…
肋骨に加えて、腕の骨を折られた痛みは尋常ではないものだった。
出血による急激な血圧の低下と、骨折による痛みは、コズエの意識を容赦なく刈り取ろうとする。
コズエ(ダメよ…コズエ…)
コズエ(今意識を失えば…みんな殺されてしまう…)
コズエ(私が……守ら……な──)
コズエ「 」ガクン…
カホ「コズエちゃん…?コズエちゃん!!!」ユサユサ
メグミ「そんな…私のせいで…」
-
人狼「お前達ノ中デマトモに戦エルノはソイツだけダッタ様ダナ」
人狼「ソンナ歪なパーティで、ヨクモ今マデヤッテ来ラれたモノダ」ノシ…ノシ…
カホ「あ──ああ──」
人狼「…」ガシッ
カホ「やめて……コズエちゃんを離して……」グイグイ
人狼「安心シロ。お前もスグに同ジ所に送ッテヤル」ギュー!
カホ「やめてよ……コズエちゃんの首が折れちゃう……」💧ポロポロ
カチマチ「………………」
-
カチマチ(カホさんが泣いてる)
カチマチ(コズエさんが殺されそうだからだ)
カチマチ(メグミさんは座り込んで地面を見つめてる)
カチマチ(もう誰も戦えないんだ…いや、そもそもコズエさんが負けた時点で、アレと戦える人なんて、どこにも──)
カホ『誰か──』
カチマチ「!」
カホ『お願い……誰か…』
カホの心の声が頭に響いてくる。
言葉だけでは無い。
その絶望、悲しみ、恐怖、後悔…
そして──
-
カホ『助けてっ!!!!』
その──切望が。
ドクン!
カチマチ『助け、なきゃ……』ヨロッ
カチマチ『カチマチしかいないんだ……今、カホさんを、みんなを守護れるのは…!』⚡️バチ…
カチマチ『カチマチは、カホさんの使い魔だから!』⚡️⚡️バチバチ!!
人狼「ッ!!!」ゾワッ
人狼(ナンダ、コノ魔力は…!)
カチマチ「ガルルルッ…!!」メキメキ!
カホ「カチマチちゃん……?また体が大きく……」
カチマチ『ちぇすとーー!!!』ブワッ!
カチマチの体内で、魔力が急激に増幅する。
体はみるみる大きくなり、遂には人狼の背丈と変わらない程にまで急成長した。
黄金の毛並みは魔力を帯びて妖しく光り、夜の闇の中でカチマチの体だけが陽の光の下に居るようだった。
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『称号獲得』
カチマチ : 『Guardian』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「かっこいい……」
人狼「ナニが、起キテイル?アレは本当にサッキの犬ナノか…?」
カチマチ「ワオーーーン!!!」
これが人と契約した使い魔の力。
使い魔は主を守護る覚悟を決めた時、その真価を発揮する。
カチマチ『カチマチが、みなさんを護ります!!』
覚醒したカチマチの能力──
1.雷魔法
2.氷魔法
3.炎魔法
4.???(自由記述欄)
-
1.雷魔法
-
1.雷魔法
-
1番で
-
Sparkly Spot(雷魔法)
-
1.雷魔法
氷上を舞う群青の意志を越え、紅蓮に燃える炎の熱も越え、たった一つの輝く星に手を伸ばす。
人狼にとって月が力のトリガーならば、カチマチにとっては、その輝き(一番星)こそが意志を照らす『スターメイカー』!
カチマチ『力がみなぎってくる…今なら、凄いことができそうです!』⚡️ビリビリ
人狼「チッ…」スッ
コズエ「 」ボト…
人狼「デカくナッタ程度デ俺に勝テルト──」
⚡️⚡️⚡️バリバリバリ!
瞬間、闇の中を一筋の稲妻が走る。
人狼「グオォ!?」ブシャー
まさに電光石火。カチマチは瞬きをする間に人狼に近くと、その爪で胴を切り裂く。
人狼「体ガ痺レル…!」⚡️ビリビリ…
カチマチ『カホさん達は下がっていてください!カチマチが戦います!』⚡️
カホ「う、うん!」
-
⚡️⚡️バリバリバリ!
再び稲妻が走る。
カチマチの体は電気を纏い、肉体の限界を超えた速度で夜道を駆ける。
人狼(速イ…!俺ノ目デスら追イキレナイ!)
ザシュ! ザシュ! ガブッ⚡️
人狼「クソッ…!」ダラー
人狼「舐めルナァ!!!」👊ブン
カチマチ「!」⚡️バチン!
スカッ
人狼「ナ!?消エ──」
カチマチ「ッ!」ガブッ⚡️
人狼「ヴァァァァ!!!」⚡️ビリビリ
目の前に居たはず相手は、消えたと認識した瞬間には後ろから腕に噛み付いていた。
-
カチマチ『コズエさんにしたことのお返しです!』バキッ
人狼「グァッ!離セ!!」⚡️ビリビリ
カチマチ『わかりました!』ブォン!
人狼「ォ──」ビュン
カチマチは腕に噛み付いたま体を捻らせると、人狼を勢いよく壁に投げつける。
ドカーン!!
人狼「ガハッ──コノ野郎…!」メキメキ
人狼の筋肉が再度肥大化する。
カホ「あっちもまた大きくなってる!?」
カチマチ『うおおおおぉ!!』ダッ⚡️
人狼「フン!」💪
ガブッ!⚡️
カチマチ『!?』
大口を開けて飛びかかってくるカチマチに対して、人狼は先程折られた方の腕を前に出し盾とする。
-
人狼「モウ電流は効カナイ…!」⚡️
人狼「オォラァ!!」✊ガツン
カチマチ『うわっ!!』バタン
噛ませたのとは反対の腕で、カチマチの顎に強烈なアッパーが放たれる。
カホ「なんで!?さっきまで効いてたのに…!」
人狼「俺ハ肉体ヲ自由に改造デキル…常に相手ヨリ優レタ性能にナレルッテ訳ダ」メキメキ…!
メグミ「そんなの…デタラメだよ……」
人間から人狼形態への変化は、『人体改造』というスキルへと昇華している。
その肉体の強化には物理的な上限は無く、戦いが長引けば長引くほど、人狼は己の体を『獲物』よりも強い性能へと改造することができる。
人狼「俺を倒シタケレバ、初手デ頭を噛み砕ケバ良カッタンダ。ソレがデキナイなら──」
-
人狼「ヤッパリお前ハ、タダの飼い犬ダ!!」バッ
カチマチ『っ!』⚡️バチン
人狼「今度は見エルゾ…!後ろダ!!」シュッ
カチマチ『あわわっ!』スカッ
人狼「チッ!外シタカ…」
カチマチ『さっきよりも反応されてる!もっと…もっと速く!』⚡️⚡️
爪と爪、牙と牙がぶつかり合い、その度に黄色い閃光が瞬く。
カチマチは稲妻となって人狼の周りを走り、翻弄しながら一撃一撃確実にダメージを与えている。
対して人狼はその場から動かずに、高速で動き回るカチマチを目で追いながらカウンターを繰り出す。
人狼「ウぐッ…!ソコォ!!」👊
カチマチ『痛っ…!まだまだ!!』⚡️
両者の力は互角。
互いに血だらけになりながらも、闘志は決して衰えていない。
傍から見ているカホには、その戦いは拮抗しているように思えた。
しかし──
カチマチ『はぁ、はぁ、はぁ…』
体に電流を流すことで無理やりリミッターを外してたカチマチは、既に体力の限界が近づいていた。
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コズエ『う、ううん……』モゾ
気が付いたらそこは、何も無い真っ白な空間だった。
コズエ『ここは一体…私は何を…』
ボヤけた頭を回転させて、意識を失う前の記憶を呼び起こす。
コズエ『そう…そうだわ!私達は殺人鬼と戦って、それで!』
それで、どうなったんだろう?
考えるまでもない。
私が倒れたのなら、それでおしまい。
コズエ『まさか、ここは天国?それとも地獄なのかしら。私は結局、みんなを守れなかったから…』
後悔の念が胸を締め付ける。
-
コズエ『もしも……』
もしもあの時、私がツヅリさんの依頼を断っていれば…
相手が凶悪な殺人鬼であることを、もっと正しく認識していれば…
敵の正体を知った時点で、撤退の判断ができていたら…
もしも──
私が家を出なければ──
『ああすれば良かった』
『しなければ良かった』
過去の選択の全てが、自分だけでなく、周りの人間にも最悪の結末をもたらしてしまった。
-
『もう、やめにしましょうか?』
考えることすら疲れてしまった。
どうせいくら悩んだところで、湧き出る感情は後悔ばかり。
ああ、こんなものが私の最期だなんて。
もしも生まれ変わったら、またみんなと、楽しかった日々をもう一度──
カホ『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
カチマチ『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
メグミ『⬛︎⬛︎⬛︎』
コズエ『え?この声──』
コズエ『まさか、まだ戦っているの?あんな化け物相手に…勝てっこないのに……』
-
『コズエ、キミはどうしたい?』
かつて家を出ようと決意した時、格闘の師匠に言われた言葉を思い出す。
コズエ『私は──生きたい』
コズエ『みんなと"一緒に"生きていたい!』
コズエ『その為なら、過去も後悔も、乗り越えて進んでみせる!』
🚪 🚪 🚪 🚪
突然、何も無かった空間に、4つの扉が現れる。
それはこの世界の理、即ち4つの『魔法』へと繋がる扉。
コズエ『私は力が欲しい。アレを倒せる力…みんなを守れるだけの力が!!』
ガチャ
コズエが手を掛けた扉は──
1.『引力』の扉
2.『質量』の扉
3.『保存』の扉
4.???(自由記述欄)
-
3
-
1
-
どれも見たいんだけど「引力、即ち愛!!」なので
1
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
人狼(動キが鈍クナッタナ…)
カチマチ『うおおおおぉ!』⚡️
ガシッ!
カチマチ『!!』
人狼「捕マエタ…コレでスピードは関係ナイ!」メキメキ…!
カチマチ『あ──』
人狼「死ネェ!!!」👊ブン!
バシッ!
カチマチ『!?』
人狼「女ァ……生キてヤガッタカ」
コズエ「……」グググ…
-
カチマチ『コズエさん!生きてたんですね!』
コズエ「ええ、一瞬三途の川を渡りかけたけれど」
コズエ「カチマチさんは一旦下がって、カホとメグミを守ってちょうだい」
カチマチ『でもその体じゃ……』
コズエ「私は『大丈夫』よ。信じて」ニコッ
人狼「何ガ大丈夫ダ!死にカケノクセにヨォ!」👊ドカッ
コズエ「ぶふっ!」
人狼「オラオラオラァ!」👊👊👊
ドゴッ! バシッ! ボガッ!
コズエ「──っ!」
-
メグミ「ちょ、ちょっと!一方的に殴られてるじゃん!!」
メグミ「まさか私達を逃がすために、自分だけ犠牲になろうと──」
カチマチ『やっぱりカチマチも加勢します!』ダッ!
カホ「待って!!」
カチマチ『うわ〜あ!カホさん!?』
メグミ「何止めてるの!このままじゃコズエ本当に死んじゃうよ!!」
カホ「コズエちゃん、さっき言ってたんです。魔法への扉を開けたって」
メグミ「魔法?何の?」
カホ「それは──」
-
人狼「オラオラ!反撃シナイト死んジマウゾ!」👊バシ! 👊バシ!
コズエ「っ!そうかしら?さっきから全然痛くないわよ?」
人狼「アン?」
コズエ「きっとカチマチさんにやられた傷が相当答えているのね…無抵抗の女性ひとり殺せないなんて」
人狼「ウルセェ!!」👊ドカ!
コズエ「ぐふっ…」
コズエ「ああ……そう言えばあなた、若い女性しか狙わないのよね?」
コズエ「自分より弱い相手しか襲えないなんて…よほどの臆病者──」
👊ドゴッ!
コズエ「っ!」
-
人狼「ヨク回ル舌ダ…」💢
人狼「キメたゾ。今夜はハンバーグだ」メキメキメキ…!
人狼「テメェの肉デ作ッタナ!!!」👊👊👊ドドドド!!
コズエ「かっは──」
コズエ体に無数のラッシュが降り注ぐ。
人狼が拳を振るう度に、空気は振動し、カホ達が待機している後方にまでその衝撃が伝わってくる。
メグミ「コズエーーー!!!!」
人狼「オラオラオラオラ!!」
人狼「オラァ!オラ…!ハァ…ハァ……」
コズエ「……………それで終わり?」ギロッ
人狼「!?」ゾワッ
-
人狼(オカシイ…何でコノ女、立ッテラレルンダ…?)
コズエ「そしたら次は私の番ね」グッ
人狼「ハ──ハハッ!」
人狼「強ガルナ!そのボロボロの体デ何ガデキル!!」
コズエ「そうね…確かにこの体では、せいぜい一発しか放てないわ」
コズエ「でも──それで充分よ!!!」🔥
コズエの拳に炎が灯る。
否、それは炎では無い。
コズエの体に蓄積したエネルギーが凝縮し、発光したもの。
人狼の攻撃によって発生したエネルギー、その全てをコズエは『保存』していた。
-
人狼「オイ、ナンダソノ光は…!」
コズエ「あなたは相手に合わせて肉体を改造できるそうね。でも、それはあくまで相手の力量を測れた場合のみ…」🔥
コズエ「最初の一撃は、受けてみるまでわからないはず」🔥
人狼「待テ!ヤメロ!!」
コズエ「よく味わいなさい。あなたが今まで殺してきた、全ての女性たちの苦しみ、悲しみ、痛み──」🔥
コズエ「その全てを、そっくりそのままお返しするわ!!!」🔥
人狼「ダマレェェェ!!!」👊ブン
コズエ『フルリリース──』
コズエ『インパクト!!!』👊💥
-
キーーーーーーーーン──
ドゴォーーーン!!!💥💥💥
凄まじい衝撃と共に、街に轟音が響き渡る。
ガタガタガタ…!パリン!パリン!パリン!
カホ「きゃーーーー!!!」
メグミ「飛ばされるうーー!」
カチマチ『うー!二人ともカチマチに掴まってください!!』
コズエを爆心地とした暴風は、一帯の窓ガラスを全て割り、あらゆるものを吹き飛ばす。
人狼「ゴ──ァ──ガ──」ビューン
その衝撃をモロに食らった人狼は、もはや飛んでいるのか転がっているのか判別不能なスピードで、大通りを500mほど吹き飛んだ。
人狼「──」ズザー!ゴロゴロゴロ…
…パタパタ!
サヤカ「な、何が起きたんですか!?爆発…?」
人狼「」ピクッ…ピク…
サヤカ「え──これはいったい…」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コズエ「 」バタン
カホ「コズエちゃん!!!」
カホ「大丈夫──な訳ないですよね!意識はありますか!?」
コズエ「え…ええ……」
メグミ「うわっ!ちょっと何その右腕、血だらけじゃん!血管全部破裂してんじゃない!?」
コズエ「それだけで済んでいればいいけれど……正直、感覚がないからどんな状態かわからないわ……」
近隣住民「今の何!?爆発!?」
近隣住民「誰だ!夜中に爆裂魔法打った馬鹿は!!!」💢💢
近隣住民「おい、外に誰か居るぞ!」
メグミ「まずっ…流石にみんな気が付いた!」
-
カホ「とにかくここから離れましょう!それでコズエちゃんを病院に──」
コズエ「待って……その前に、私が飛ばした人狼を……」
メグミ「どうせ死んでるって!それよりもコズエの体の方が優先!」
コズエ「ダメよ……依頼は最後まで責任をもって果たさないと……」
カホ「……じゃあ、人狼を確認したらすぐに病院に行きますよ!!」
コズエ「それでいいわ……」
カチマチ『それならカチマチの背中に乗ってください!今なら3人を乗せても走れます!』
カホ「ありがとう!」
-
コズエ「メグミは飛べるから…乗らなくてもいいんじゃない?」フフフ…
メグミ「冗談言う余裕はあるみたいだね。あと、カチマチちゃんめっちゃ速いから!飛んでも追いつけませーん!」
カチマチ『みなさん乗りましたか?それじゃあ、しっかり掴まっててください!』ダッ⚡️ビリビリ
カホ「あばばば…!」⚡️
メグミ「あばばば…!」⚡️
コズエ「 」チーン😇
カチマチ『ああぁ!!ゴメンなさい!』
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カチマチ『クンクン…近いです!』ダッ ダッ ダッ
メグミ「頼むからもう立ってないでよね…」
「きゃーーー!」
メグミ「!?」
カホ「この声…サヤカちゃん!?」
カチマチ『! 見てください!』
サヤカ「だ…誰か……」ブルブル
人狼「ゼェ……ゼェ……」
メグミ「もう何なのあいつ!いくらなんでも頑丈過ぎるでしょ!!!」
人狼はサヤカを後ろから抱き抱えるながら、唯一残っていた爪をその首元に添えている。
とはいえ、その体は満身創痍。
全身からは血が止めどなく流れ、片腕はちぎれてどこかへ飛んで行った。
顔面はぐちゃぐちゃに潰れて、人にも狼にも見えない。
もはや、生きていることの方が奇跡と言える状態だった。
-
人狼「ヂアウヴァ…ヘンアエイタラ──オ"ォ"エ"ッ!!」ビチャビチャ
人狼「ゼェ…コノ女をコロス……」ジリ…
人狼はサヤカを人質にとったまま、ゆっくりと後退していく。
カチマチ『あわわ…どうしますか!?』
カホ「──大丈夫、ここならもう結界の外に出てるはず!」
カホ「すぅーっ…!」
ピーーーーーー!!!
人狼「オイ!何モスルナと言ッタハズだ!ソレトモ女がドウナッテモ──」
人狼「アレ?女は──」
ツヅリ「4人とも、よくがんばったね」
メグミ「ツヅリ!?」
サヤカ「あれ?わたしいつの間に……」
-
ツヅリ「怖かったね。もう大丈夫だよ」ポンポン
サヤカ「は──はい…///」
人狼「ク、クソォ…!」ダッ
カホ「あ!人狼が逃げ──」
ボト……ゴロゴロ
バタン
カホ「──ようと……え?」
カホが見ている目の前で、人狼の首がなんの前触れもなく落ちた。
ツヅリ「あれが連続殺人鬼であってたよね?」
カホ「あ、はい」
ツヅリ「ならあの死体は衛兵に任せよう。後でボクが説明しておくね」
ツヅリ「それよりもコズを早く病院に連れて行かないと」
-
カホ「そうです!ツヅリさん良い病院知りませんか!?」
ツヅリ「王国専属病院に連れていくよ。あそこならコズの怪我も治してくれるはずだ」
カホ「あたし達も行きます!」
ツヅリ「ごめん。全員は難しい。3人はその女の人を家まで送ってくれる?」
カホ「でも…」
メグミ「ツヅリがついてるなら大丈夫だよ!ね?」
カホ「はい…わかりました!」
カホ「ツヅリさん!コズエちゃんのこと、よろしくお願いします!」
ツヅリ「うん、任せて」👍
-
サヤカ「あ、あの!」
ツヅリ「ん、ボク?」
サヤカ「えっと…お名前を教えてもらえないでしょうか…///」
ツヅリ「ボクはユウギリ ツヅリだよ。それじゃあ、またね」パッ!
ツヅリはコズエを抱えると、そのままどこかへ消えてしまった。
サヤカ「ユウギリ…ツヅリ…///」
メグミ「おや〜?サヤカちゃん顔赤いよ?」ニヤニヤ
カホ「え〜?本当だー!」
サヤカ「なっ…もう!なんですかなんですか!」
メグミ「あはは!まぁなにはともあれ」
カホ「連続殺人事件の解決!」
カチマチ『大成功です!』
【連続殺人鬼の確保】完了!
-
コズエ戦闘要員のわりにはあんまり強くなかったから強化入って良かった
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【サヤカの家】
サヤカ「ここがわたしの家です。送ってくださりありがとうございます。」
サヤカ「カチマチさんも、お背中に乗せていただきありがとうございました」ナデナデ
カホ「いいんだよ!」
メグミ「もともとコズエがあいつを吹っ飛ばしたせいで巻き込んだんだしね!」
カチマチ『カチマチの背中で良ければ、またいつでも乗ってください!』
サヤカ「うふふ。頼もしいですね」
カホ「じゃあね!サヤカちゃん!」
メグミ「あんまり夜に出歩かないようにね〜」
ダッ…ダッ…ダッ…
サヤカ「おやすみなさ〜い」✋フリフリ
サヤカ「…………」
サヤカ「……」トコトコ
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サヤカ「……」トコトコ
肉屋「おや?サヤカちゃん!」
サヤカ「お肉屋さん、こんばんは」
肉屋「どうしたんだい?こんな夜中に」
サヤカ「眠れなかったもので、少し散歩でもしようかと。お肉屋さんこそどうされたんですか?」
肉屋「俺か?俺は…『仕入れ』だ」
サヤカ「仕入れ…お肉のでしょうか?」
肉屋「ああ、明日に売る分をな」
サヤカ「この時間だと、森には危険な肉食動物しかいないと思いますが」
肉屋「それが案外いるんだよ…不用心にひとりでのこのこ歩いてる、格好の『獲物』が…」👁ジロッ
サヤカ「そうなんですか。やっぱり、本職の方は色々な知識を持っていますね」
-
肉屋「サヤカちゃんも気を付けるんだよ?近頃、切り裂きジャック…とか言う通り魔が出るらしいから…」
サヤカ「あ、それならもう大丈夫ですよ。冒険者さんと王国騎士さんが倒してくれたので」
肉屋「そうなのかい?それはよかった!でも…通り魔以外にも危ない人はいるからね…」👁ジロッ
サヤカ「確かにそうですね。では、今日はもう家に帰ろうと思います」
肉屋「ああ、それがいい…今後も、夜道には注意するんだよ?」
サヤカ「ご忠告ありがとうございます」ニコッ
肉屋「それじゃあ『おやすみ』、サヤカちゃん…」スッ
サヤカ「はい。おやすみなさい」🔪サク
-
肉屋「ごぼ──!?」
🔪スパッブシャー!
肉屋「 」バタン
それは、あまりにも"自然"な行為に思えた。
食前に手を合わせるように、人とすれ違った時に会釈を交わすように──
まるでそれが当然の挨拶であるかのように、サヤカは相手の首にナイフを突き立てた。
サヤカ「また汚れてしまいました…」
サヤカ『エクス ウォッシャー』
サヤカ「うん。これでキレイになりましたね!」
サヤカ「それにしても、お肉屋さんは夜中に森に行っていたんですか」
サヤカ「いつもそんな危険を犯してお肉を調達してくれていたなんて…」
-
お前だったのか
-
野良猫「ニャー」
サヤカ「? こんばんは。あなたもお散歩ですか?」ナデナデ
野良猫「ニャーン」♪ゴロゴロ…
サヤカ「うふふ。喉を鳴らして、そんなに嬉しいですか」
動物は人間の悪意に敏感だ。
それは正しい。
だが、人間にとっての『善悪の基準』を理解している訳では無い。
猫も時に、戯れに小鳥を殺すことはある。
人はその行為を残虐と思うかもしれないが、猫にとってはただの遊びだ。
もしも──
微塵の悪意も持たずに非道を成す人間がいたとして、動物達はその人間を『悪』と感じるのだろうか。
サヤカ「『切り裂きジャック』の称号は、人狼さんにお譲りします」
サヤカ「わたしはそんな大層な者ではありませんから」
サヤカ「それにしても、ツヅリさん…綺麗な人だったなぁ…///」
あの真っ白な首筋が紅く染まった姿は、きっと更に綺麗なのだろう──
【連続殺人鬼の確保】完了(?)
-
探偵ごっこ正解だった…
-
サヤカ純粋悪だけどこれ仲間化無理か?
-
乙、こうきたかぁ・・・
-
メグちゃんお手柄じゃん
自分もサヤカちゃんみたいなキャラ怪しいなと思ってたけどこうなったか
続きも楽しみだ
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【おしえて!魔法教室】
『エクス ウォッシャー』
上級洗浄魔法。
どんなにしつこい汚れも分子レベルで分解するよ!
この魔法があればお洗濯いらず!
『保存魔法』
世界を構成する原理魔法のひとつ。
通常は習得できない。
エネルギーを一時的に保存できる。
『ツヅリの魔法』
世界を構成する原理魔法のひとつ。通常は習得できない。
詳細不明。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【豆知識】
『カチマチの大きさ目安』
契約前 : 中型犬
契約後 : 大型犬
覚醒時 : もののけ姫の山犬(子供)
-
『保存魔法』て結構ガチなのね
冷蔵庫や真空パック的なアレを想像してたわ、日常生活に便利的な
-
>>444
シリアスな展開の中でもこういうコメディ描写を忘れないところスゴイわ
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「──って、どうしてわたしが殺人鬼なんですかー!」
「さやかちゃん、どうどう…花帆ちゃんも本気でそういう性格だとは思ってないだろうから…」
「でも、綴理大先輩を見る時の目はだいたいあんな感じでした!」
「こーすーずーさーん!」💢
「はひっ!ごへんあはい!」
「ふんっ!小鈴さんはいいですよね!かわいい犬のキャラで、物語上も優遇されてて…」
「あはは〜でも、クールなアサシンのさやか先輩も意外とありでしたよ〜?」
「あれはクールと言うよりサイコパスなんじゃ…」
「吟子ちゃん!シー!シーー!」
「むー…!」💢
「あぁ…!さやか先輩が風船みたいに!」
-
「そ、そう言えば!どうして小鈴だけ苗字なんでしょうね?他の人はみんな下の名前なのに」
「あぁ、それは多分こういう理由かな〜」カキカキ…
『コスズ』
『コズエ』
「小鈴とこす…あれ?」
「これは読みづらいですね……」
「なるほど!てっきり花帆先輩が徒町の名前を忘れたんだと思ってました!」
「そんな訳ないでしょ!?と言うか片仮名表記にしなければよかったのに…」
「一応、花帆ちゃんなりにルリ達に配慮したのかな?プライバシー的な」
「わたしはあまり変わらないですけどね!よりによってわたしが!」💢
「やっぱり、『あのコメント』が地雷でしたかね〜」
「八当りでサイコパスキャラにされたんですか!?」
「うーん…花帆先輩だと否定できない…」
「もう!これ以上暴走する前に花帆さんを止めますよ!」
「わたしはネバーエンディングストーリーなんて認めません。必ず連れ戻しますからね!花帆さん!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
自分の凌辱シーンを友達に読まれてる花帆さん…
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【1ヶ月後】
カホ「ふぁ〜おはようございますー」
コズエ「おはよう、カホ」
カホ「あー!コズエちゃんまた朝ごはん作ってる!あたしが作るって言ってますよね!」
コズエ「はやく起きてしまって暇だったのよ。それに、昼も夜も作ってもらっているのに…」
カホ「コズエちゃんは利き手を怪我してるんだからいいんですよ!」
あの後、コズエちゃんはツヅリさんに連れられて王国専属病院で治療を受けた。
王都は隣町のはずだけど、ツヅリさんのことだから距離は関係ないのだろう。
結果的に言うと、人狼に折られた左腕は完治したけど、右腕には後遺症が残った。
なんでも病院に運ばれた時の右腕の状態は、筋肉も神経も全部ちぎれて、骨は粉々に砕けていたらしい。
優秀な治癒魔術師のおかげで切断はせずに済んだけど、今は握力がほとんどない状態だ。
-
メグミ「zzz…」
カホ「あれ?今日はメグちゃん大人しく座って寝てるんですね」
コズエ「ああ、自由にしておくとどこに飛んでくかわからないから、椅子に紐で縛っておいたのよ」
カホ(カチマチちゃんですらリードで繋いでないのに……)
カホ「でもよくOKしましたね」
コズエ「最近やけに聞き分けがいいのよね。ちょっと気持ち悪いくらいだわ…」
メグミ「んがっ!…おはようー」
カホ「おはようございます!今紐を解きますね!」
メグミ「ありがとカホちゃん」ポヤー
コズエ「二人とも、起きたのなら朝食を運ぶのを手伝ってちょうだい」
カホ「はーい!」
コズエ「あ、メグミは先にカチマチさんを起こして来てくれる?」
メグミ「了解ー」プカー
-
全員がリビングに集まって優雅な朝食が始まった。
カホ「あれ?コズエちゃんの紅茶だけずっと湯気立ってません?」
メグミ「ほんとだ、私達のはもう冷めてるのに」
コズエ「ふふふ……よく気が付いたわね!これは私の魔法の力を使っているのよ!」
カホ「エネルギーを保存する魔法でしたっけ?」
コズエ「そうよ!本来空気中に霧散するはずの『熱』を魔法で保存して、冷めそうになったらまた紅茶に戻しているの!」ドャ
カホ「へー熱も保存できるんですねー」
メグミ「ていうか、せっかく手に入れた魔法を何くだらないことに使ってるの…?」
コズエ「失礼ね!この魔法を理解するための実験も兼ねているのよ!」
-
コズエ「私自信まだこの魔法に何ができるのか、完璧には把握できていないわ。ちゃんと理解して使わないと、またこの右腕みたいになりかねないもの」
メグミ「……」
カホ「…図書館で調べてみたんですけど、コズエちゃんのその『保存』?の魔法は、一般的な魔導書には載っていませんでした」
コズエ「そうでしょうね。私も今までこんな魔法聞いたことがないわ」
カチマチ『特別な魔法なんですね!カッコイイです!』
カホ「カチマチちゃんの雷魔法も格好良かったよ?」
コズエ「ええ、むしろそっちの方が使いやすそうで羨ましいくらいだわ」
カチマチ『えへへ、ありがとうございます!』
カチマチちゃんは今は元の大きさに戻っている。
巨大化した姿はいわゆる戦闘モードらしく、雷魔法もその姿でないと使えなかった。
カチマチ『でもカチマチ、あの後全身が痛くて動けなくなりました…あれは何だったんでしょうか?』
カホ「カチマチちゃん、それは筋肉痛って言うんだよ!」
メグミ「あの時はトイレもひとりでできなくて大変だったね」
カチマチ『ご迷惑をおかけしました…』
-
冷蔵庫や保温室みたいな事もできるのか、かなり応用できそうだな
-
コズエ「迷惑をかけているのは私もよ。二人にはお世話になりっぱなしだし、クエストにも行けなくなってしまって…」
カホ「…」
メグミ「…」
この1ヶ月、あたし達は一度もクエストを受けていない。
主戦力のコズエちゃんが戦えなくなり、積極的にクエストに行く勇気がでなかったのだ。
しかし、貧困かと言えばそうでもなく、ツヅリさんからもらった報酬金50万SIsCaのおかげで、現状生活には困っていない。
コズエちゃんの治療費をツヅリさんが肩代わりしてくれたのも大きい。
とは言え、使うばかりではいつかお金は尽きるし、お花屋さんのバイト代だけでは今後生活できないのは明白だった。
-
カホ「そ、そういえば!知ってますか?サヤカちゃんのこと…」
暗くなりかけた空気を変えようと、咄嗟に別の話題を提供する。
メグミ「何かあったの?」
カホ「実はサヤカちゃん…なんとツヅリさんの家に居候することになったんです!」
コズエ「まあ」
メグミ「へーやるじゃん!意外と積極的だったんだね」
カホ「この間お花屋さんに二人で来てたので、怪しいと思って聞いてみたんです!」
カホ「なんでもツヅリさん、私生活の方は結構ズボラだったらしくて…」
カホ「サヤカちゃんが身の回りのお世話をするって名目で住まわせてもらってるみたいです!」
メグミ「いや〜お熱いですね〜」
コズエ「うふふ、そうね」
何とか明るい空気を持ち直し、その後の朝食は和やかに過ごすことができた。
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
🕒チク…タク…チク…タク…
メグミ「……」
コズエ「…」📖ペラッ
カホ「カチマチちゃん、お手!」
カチマチ「ワン!」
メグミ「……」
メグミ「あの…さ…ちょっといい?」
コズエ「なに、メグミ?」
メグミ「相談、というか…お願いというか…」
カチマチ「?」
カホ「どうしたんですか?」
メグミ「その…魔法教室に通いたいなーなんて…」
コズエ「魔法教室?メグミが?」
カホ「本当にどうしちゃったんですか!?急にそんなこと言い出して」
メグミ「いや、現状私だけこのパーティーのお荷物じゃん?魔法勉強したら少しくらい役に立てるかなーなんて」
-
カホ「そんな!誰もメグちゃんのことお荷物だなんて思ってません!」
カチマチ『そうです!メグミさんは大切な仲間です!』
メグミ「でも、この間も私を庇ったせいでコズエが余計な怪我したし…私が魔法使えれば、またクエストとかも行きやすくなるでしょ?」
コズエ「あなたを庇った時の傷はもう完全に治ったし、気にする必要は無いのだけれど…」
コズエ「まあ、自分から学ぶ姿勢はいいことだわ。メグミがそうしたいなら私は賛成よ」
カホ「魔法教室って言っても色々ありますよね。どこに行くかは決めてるんですか?」
メグミ「うん。この間ポストにチラシが入ってたの」
コズエ「魔法工房『モモセ』…?」
メグミ「そう。完全初心者向けで優しく教えるって書いてあるし、何より受講料が安いから」
-
カホ「へーいいですね!あたしも魔法習いたいかも」
メグミ「この後体験会に行く予定だけど、二人も一緒に来る?」
カホ「行きたいですけど、あたしはもうすぐでバイトなので…」
コズエ「私も自分の魔法のことを調べたいから、申し訳ないけれどひとりで行ってもらえるかしら?」
メグミ「わかった。じゃあちょっと着替えて行ってくるね」プカー
🚪ガチャン
コズエ「あの怠け者のメグミが自分から魔法を習いたいだなんて…」
カホ「きっと責任感じてるんですよ。コズエちゃんが倒れた時、メグちゃん結構ショック受けてましたから。自分のせいでって……」
コズエ「本当に気にしなくていいのに。前衛が怪我をするのは当たり前のことなのだから」
カホ「でも、メグちゃんが魔法を覚えること自体は、あたし達にとってはプラスですよ!」
コズエ「そうね。ただ……」
カホ「ただ?」
コズエ「トラブルを起こさなければいいのだけれど……」
-
吟子ちゃん来るか
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【魔法工房『モモセ』】
🚪 コンコンコン!
メグミ「こんにちはー!」
🚪<ハーイ!
🚪ガチャ
ギンコ「いらっしゃいませ!工房のお客さんですか?」
メグミ「いえ、魔法教室の体験会に参加したくて」
ギンコ「あ、魔法教室のほうですか!どうぞお入りください」
メグミ「おじゃましまーす」
その家は年季がありながらも小綺麗な工房だった。
中に入ると様々な魔道具が商品棚に並んでいる。
よく見ると、見慣れたものから初めて見るものまで、実に多種多様な魔道具が揃っていた。
メグミ「色々売ってるんだね」
ギンコ「ここは代々魔道具を作っている工房なんですよ」
ギンコ「ただ最近は魔道具の需要も減ってきてて…収入の足しにと思って魔法教室を始めたんです」
ギンコ「って、こんな話お客さんにすることじゃないですよね」💦
メグミ「ふ〜ん」
-
ギンコ「魔法教室は奥のお座敷スペースでやります」
ギンコ「ここからは土足禁止なので、お履き物は脱いでください」
メグミ「あ、私靴履いてないから大丈夫」
ギンコ「え…じゃあ何を履いてるんですか?」
メグミ「裸足だよ」
ギンコ「は、裸足!?痛くないんですか!?」
メグミ「ん、別に…」
メグミ(大きめのローブで足元隠してるけど、実際は常に浮いてるしね)」
ギンコ「そうですか…一応タオルで足を拭いてから上がってください」
ギンコ(足の裏の皮が厚い人なのかな…)
メグミ「あー…うん。はい」フキフキ
-
ギンコ「それではさっそく始める──前に自己紹介ですね」
ギンコ「私は『モモセ ギンコ』と申します。さっき少し話しましたけど、祖母からこの魔法工房を継いで、今はひとりで店を切り盛りしています」
メグミ「私はメグミって言います!メグちゃんって呼んでね☆」
ギンコ「メグミさん、よろしくお願いします」
メグミ「メグちゃんって呼んでってば!」
ギンコ「ご、ごめんなさい!初対面の人と距離を詰めるのが苦手でして…」
メグミ「まぁいいけどね」
ギンコ「それで、メグミさんはどうして魔法教室に?」
メグミ「実はうちのパーティーの主戦力が怪我しちゃって…私も戦力になるために魔法を覚えたいなって」
ギンコ「なるほど、つまり生活魔法よりも、クエストで役立つ攻撃・サポート系の魔法を覚えたいということですね」
メグミ「そういうこと!ギンコちゃん理解が早くて助かる!」
ギンコ「きょ、恐縮です」
-
メグミ「で、さっそく何か教えてくれるの?」
ギンコ「その前に、メグミさんの魔法の適性を確認しましょうか」
メグミ「適性?」
ギンコ「人によって得意な魔法の種類が違うんです。魔力を放出するような攻撃系の魔法が得意な人。対象の状態を操る催眠・幻術系の魔法が得意な人」
ギンコ「もちろん適性のある魔法以外も習得は可能ですが、得意分野を伸ばす方が成長も早いですし、すぐに戦力になれると思いますよ」
メグミ「へーその適性ってどうやって調べるの?」
ギンコ「この水晶玉を使います。これは適性のある魔法を調べられる魔道具なんです」
ギンコ「水晶玉に手を添えて、魔力を送ってみてください」
メグミ「えーと、こんな感じ?」
ポワー
ギンコ「緑色に光りましたね。メグミさんは回復魔法に適性があるみたいです」
-
スクステと一緒だね、慈は回復
-
メグミ「回復魔法かー…できれば攻撃系が良かったなー」
ギンコ「回復魔法自体は攻撃ができませんけど、前衛を適時回復することでパーティーの継戦能力を高めることができます。全体として見れば、充分火力に貢献できると思いますよ」
メグミ「うーん、確かにこの間のカチマチちゃん、戦ってる途中でへばってたしなぁ…」
メグミ「よし!とりあえず回復魔法覚えてみるか!」
ギンコ「わかりました。ではまず回復魔法『リカバー』について、効果と使い方を教えますね」
ギンコ「『リカバー』は身体の傷や疲労を回復する魔法です。治せる傷の程度は、欠損を伴わない怪我全般ですね」
ギンコ「基本的には、魔法をかけた相手の自然治癒力を高めることで、傷を急速に回復させます」
ギンコ「なので、自然には治らない手足の欠損などの大きな怪我は、傷口は塞げても再生まではできません」
-
メグミ「筋肉とか神経が全部ちぎれた場合は?」
ギンコ「そこまでの重症だと、上級の『エクス リカバー』でないと回復は難しいかもしれません」
ギンコ「上級回復魔法は本人の自然治癒力を"超えて"傷の再生ができます」
ギンコ「もちろん怪我の程度にもよりますが…もしかして先程話されていたパーティーメンバーの方ですか?」
メグミ「そう。そいつ腕を大怪我して、王国専属病院?で治療を受けたんだけど、後遺症が残っちゃってさ」
ギンコ「そうだったんですね…あまりこんなこと言いたくないですが、王国の治癒魔術師でも治せなかったのなら、その腕はもう……」
メグミ「そんな…!本当に何とかならないの!?」
ギンコ「残念ながら彼ら以上の治癒魔術師は、少なくともこの国にはいません…」
メグミ「……」
ギンコ「で、でも!根気強く回復魔法をかけ続ければそのうち治るかもしれませんし!希望をもっていきましょう!」
メグミ「そう…だね!うん!」
-
メグミ「それで、その回復魔法ってどうやって使うの?」
ギンコ「使い方は簡単です。魔法をかけたい相手に触れて、魔力を込めながら『リカバー』と唱えるだけです」
メグミ「それだけ?」
ギンコ「それだけです。メグミさんは回復魔法に適性があるので、長い詠唱は必要ありません」
メグミ「なるほどね。手順が少ないのも、自分に合った魔法を使うメリットって訳だ」
ギンコ「そういうことです。では今度はこちらの花を使って回復魔法の練習をしましょう」
ギンコちゃんはそう言うと、小さめの鉢植えを机の上に置いた。
鉢植えの中には蕾の状態の花が植えられている。
メグミ「これは?」
ギンコ「回復魔法は自然治癒力を高めるもの。言い換えれば成長を促す魔法でもあります」
ギンコ「なので上手く使えると蕾が花開くんです。魔法を練習するために怪我をする訳にも行きませんし、まずはこれで練習しましょう」
メグミ「はーい!」
-
ギンコ「それでは蕾を覆うように軽く手を添えて、魔力を込めながら『リカバー』と唱えてください」
メグミ「えーと、こんな感じかな?」
メグミ『リカバー』
メグミが魔法を唱えると、蕾は一瞬白い光に包まれた。
🌼 ポン!
メグミ「おっ!咲いたよギンコちゃん!」
ギンコ「すごいです!一発で成功させるなんて!やっぱり回復魔法の適性が……ん?」
ニョキニョキニョキ…
メグミ「どんどん成長してるよ!回復魔法ってこんなにすごいんだ!」
ギンコ「え…何これ、知らん…こわ……」
ニョキニョキニョキニョキ!!!
メグミ「どわぁ!腕にツルが巻きついてきた!?」
-
ギンコ「このままじゃ植物屋敷になっちゃう!可哀想だけど…!」
ギンコ「えい!」💭ボーン
ピタッ
メグミ「……止まった?」
ギンコ「今のは植物の成長を止める魔道具です。元々は花を枯らしたくないって人の為に作ったものですが…」
メグミ「今のが回復魔法の効果なの?」
ギンコ「いえ、普通なら成功しても蕾が開く程度なんですけど…もしかしたらメグミさん、本当に回復魔法の才能があるのかもしれません!」
メグミ「え!マジ!?私才能ある!?」
ギンコ「はい!今のはもはや上級回復魔法…いや、それ以上の"ナニか"です!!」
-
メグミ「えへへ〜まあ?メグちゃんってば天使だし?人間とは素の性能が違うって言うか〜」ニヤニヤ
ギンコ「天使?面白い冗談を言うんですね、メグミさんは」フフッ
ギンコ「あっ!これだけの回復魔法なら、もしかしたらメグミさんのお仲間の怪我も治せるかもしれません!」
メグミ「本当に!?」
ギンコ「はい!」
メグミ「ギンコちゃん!来てまだ少ししか経ってないんだけど、家に帰ってもいい?」
ギンコ「構いませんよ。結果はまた教えてくださいね」ニコッ
メグミ「うん!ありがとう!バイバイー!」ピューン
ギンコ「さようならー」
ギンコ「……メグミさん今飛んでなかった?」
🌼ニョキ……
-
あっ・・・最後
-
こんなのかけたら腕が伸び続けてしまう
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
🚪バーン!
メグミ「ただいまーー!!」
コズエ「メグミ!?魔法教室はどうしたの?」
カホ「あれ、もう帰ってきたんですか?」
メグミ「ちゃーんと教わってきたよ!とびっきりの魔法をね☆」
メグミ「コズエ、右手出して!」
コズエ「え、何…?嫌な予感がするのだけれど…」
メグミ「別に変なことはしないって!回復魔法を習ってきたの!」
コズエ「回復魔法…でもメグミ、この腕はもう……」
メグミ「いいから!はやく右手出せ!」
カホ「メグちゃん?」
コズエ「……」スッ
メグミ「ふぅ──いくよ」
メグミ『リカバー!』キラキラ
コズエ「……」
メグミ「ど、どうコズエ?腕動く?」ドキドキ
-
コズエ「嘘──」
コズエ「──動くわ…」グッパッ
カホ「本当ですか!?」
コズエ「ええ、しっかり力も入るし、むしろ前より調子がいいくらい…」
カチマチ『わー!よかったですね!コズエさん!』
メグミ「ふふん!どんなもんだい!メグちゃんに感謝し──うわっ!」ドサッ
コズエ「ありがとうっ…メグミ…!」ギュッ
メグミ「コ、コズエ!?」
コズエ「私、もう一生あのままだと思って…本当はずっと悔しくて…みんなに申し訳なくて…」💧ポロポロ
メグミ「コズエ……私こそごめん。あと、ありがとう。あの時コズエが助けてくれて、嬉しかった…」ギュッ
カホ「グスッ…よかったですね、コズエちゃん…」💧ポロリ
カチマチ『うぅ…感動です…!』
-
コズエ「でも、どうして…?王国の治癒魔術師でも治せなかったのに…」
メグミ「ふっふっふっ!ギンコちゃんが言うにはね、私の回復魔法は特別らしいんだよ!」
カホ「ギンコちゃん?」
メグミ「魔法教室の先生だよ!なんでも私の『リカバー』は上級回復魔法以上の性能なんだって!」
メグミ「『エクス リカバー』を超えた回復魔法…さしずめ、『メグ リカバー』ってところかな☆」
カチマチ『おぉ!なんかすごそうです!』
コズエ「やっぱり天使だから特別なのかしら…?」
メグミ「んまぁ確かに?魔力の"質"が違うっていうか〜元々の魔力量も段違いっていうか〜」ニコニコ
カホ「あれ?じゃあメグちゃんが最初から魔法使えれば、もっと楽にクエストをこなせたんじゃ……」
メグミ「あ」
-
メグミ「ま、まあ!これからは私も全力でサポートするし!過去のことはどうでもいいでしょ!」
コズエ「ええ、今回ばかりは咎めることなんて何も無いわ。本当にありがとう、メグミ」
メグミ「へへっ!そうだコズエ、他にも悪いところとかないの?」
コズエ「うふふ、大丈夫よ。メグミのおかげで体調は万全だわ」
メグミ「そう言わずにさ!右手使えなくて不便してたでしょ!肩とか凝ってるんじゃないの?」
コズエ「いや、本当にもう平気なのだけれど…」
カホ「あはは!きっとメグちゃん、役に立てて嬉しかったんですよ!」
メグミ「回復魔法は怪我だけじゃなくて、疲労も回復できるみたいだからね!日頃の疲れを癒してあげるよ☆」
コズエ「だから!本当にもう大丈夫だって──」
メグミ『メグ リカバー!』キラキラ
コズエ「あああぁぁぁん!?」
-
メグミ「どー?元気になった?」
コズエ「──ええ、体がとても軽いわ…」
メグミ「でっしょ〜!今後も疲れた時はいつでもメグちゃんに──」
コズエ「いえ……それどころか、体の奥から力が溢れてくるわ!!」🔥
カホ「コ、コズエちゃん……?」
コズエ「こんな感覚初めてよ!!体を動かしたくてたまらない!筋トレがしたい!!!」🔥
メグミ「どうしたのコズエ…?元気になってくれたのは嬉しいけど、なんかテンション高くない?」
コズエ「筋トレ!筋トレ!筋トレ!」🔥
コズエ「そうだわ!身体で最も大きな筋肉は大腿四頭筋!ここを鍛えるわよ!」🔥
コズエはそう言うなり、両手を頭の後ろに添えて全力でスクワットを始めた。
コズエ「ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!」(全力スクワット)
-
カホ「えええええ!?何してるんですかコズエちゃん!」
コズエ「下半身を鍛えると…ふっ!体幹がアップして…ふっ!より強い攻撃を放てるようになるのよ!ふっ!」(全力スクワット)
カホ「そうじゃなくて〜!どうして急に筋トレしだしたんですか!」
コズエ「ふっ!わからないわ、ただ…ふっ!力が止めどなく溢れてくるの…ふっ!体を動かさずにはいられないわ!ふっ!」(全力スクワット)
カチマチ『コズエさんすごい気迫です!カチマチも負けられません!ちぇすとー!』ダッ!
カホ「ちょっとメグちゃん!さっきの回復魔法じゃなかったんですか!?」
メグミ「いやーそのはずなんだけど……」
コズエ「そうだわ!スクワットのエネルギーを『保存』して再利用すれば、永遠に筋トレができるのではないかしら!?」
コズエ「『保存』!……ふっ!ふっ!ふっ!」(全力スクワット)
カホ「ああ!コズエちゃんがまた魔法を無駄使いしてる!」
-
カチマチ『うおおおおぉ!痛っ!』ゴツン
メグミ「カチマチちゃん大丈夫!?」
カチマチ『うわ〜ん!机に頭をぶつけました!痛いです!』💧
メグミ「怪我なら私に任せて!『メグ リカバー』!!」キラキラ
カホ「あ!待っ──」
カチマチ『おぉぉぉぉ!?』メキメキ…フサフサ
カチマチ『ちぇすとー!!』⚡️ビリビリ
カホ「うわぁ!カチマチちゃん!家の中で巨大化しないで!!」
カチマチ『ごめんなさい!でもカチマチ…今なら光よりも速く走れる気がするんです!走らせてください!!』⚡️
カホ「ここ(リビング)で!?!?」
カチマチ『行きます!ちぇすとー!』⚡️
ガラガラ!パリン!ドシン!バーン!
カホ「きゃーー!!お願い落ち着いてー!」
-
カオスだ…
-
コズエ「97……98……99……100!」(全力スクワット)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【称号獲得】
オトムネ コズエ : 『全力ドリーマー』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「今コズエちゃんに変な称号付きませんでした!?」
メグミ「うわー…」
カホ「うわーじゃありません!メグちゃんのせいですからね!!」
メグミ「いや、私のせいと言われましても…」
カホ「責任!取ってくださいよ!」💢💢
メグミ「うぐっ…まあまあ、カホちゃん落ち着いて!ほら『メグ リカバー』」キラキラ
カホ「フラワー!今日もお花さんはキレイに咲いてるね!」🌻
カホ「え?なになに…お水が欲しいの?任せて!何リットルでもあげちゃうから!」
カチマチ『ちぇすとー!!』⚡️ガタン!
🌻ゴトッ…ガシャン!
カホ「お花さーーーーーん!!!」
コズエ「ふっ!ふっ!ふっ!」(全力スクワット)
メグミ「…………どうしよう、これ」
メグミ「まっ、そのうち元に戻るでしょ!」
メグミ「うるさいし散歩にでも行ってよーっと」プカー
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
投げっぱなしで終わるの、実にめぐちゃんぽい
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メグミ「ふんふんふ〜ん!どこかに怪我してる人とか居ないかなー」
メグミ「おや〜あの金髪の美少女は…」
ルリノ「ぱたぱたぱたぱた!」
メグミ「おーい!ルリちゃん!」
ルリノ「あ、メグミさん!こんにちは」
メグミ「掃除してるの?」
ルリノ「うん!教会の周りはキレイにしとかないとだから!」
メグミ「ルリちゃんはえらいね〜よちよち!」ポンポン
ルリノ「ちょ!子ども扱いしないでよー」
メグミ「あはは!それにしても、ルリちゃんもだいぶフランクに接してくれるようになったよね。もしかして記憶が戻ったとか?」
ルリノ「あれだけ毎日会いに来られたらね…嫌でも距離が縮まるってもんですよ!」
-
メグミ「そろそろ『メグちゃん』って呼んでくれてもいいんだよ?」
ルリノ「それはヤダ!なんかメグミさんの言ってることを認めたみたいになりそうだから!」
メグミ「もう、強情だな〜」
ルリノ「そういえば、コズエさんの手、少しはよくなった?」
メグミ「ああ、それならもう完璧に治ったよ!メグちゃんの魔法のおかげでね☆」
ルリノ「そうなの!?よかった……あれ?メグミさん魔法使えたっけ?」
メグミ「今日覚えたの!回復魔法!」
ルリノ「そうだったんだ〜コズエさん、喜んだんじゃない?」
メグミ「そりゃあもう!泣きながら私に抱きついてきたよ!」
ルリノ「あはは!」
メグミ「今はテンション上がってずっとスクワットしてる」
ルリノ「あはは!……なんで?」
メグミ「さあ?ずっとクエスト行ってなかったし、体力が有り余ってるんじゃない?」
ルリノ「へ、へー…」
-
メグミ「そうだ!ルリちゃんもどこか怪我したり、疲れたりしてない?」
ルリノ「うぇ?別に何ともないけど…」
メグミ「本当に?シスターってやること多くて結構疲れるんじゃない?」
ルリノ「まあ、確かに最近は懺悔をいっぱい聞いてたから、結構消耗してるかも…」
メグミ「それなら私に任せて!バッチリ回復してあげる☆」
ルリノ「でもこれは体の疲れと言うよりは心の問題だから…回復魔法は意味ないんじゃないかな?」
メグミ「大丈夫でしょ?コズエ達もなんかハイになってたし!」
ルリノ「え、いやーちょっとひとりで居れば自然に回復するし…」
メグミ「遠慮しないで!『メグ リカバー』!」
ルリノ「うおおおおぉ!やる気出てきたーー!!」🔋↑↑↑
ルリノ「今ならどんな罪も赦せる気がするぞー!!」
-
男「あの…教会のシスターさんでしょうか?」
ルリノ「あい!なんでしょう!」
男「懺悔したいことがありまして…実は──」
ルリノ「赦します!!」
男「ええ!?まだ何も言っていないのですが……」
ルリノ「罪を受け入れ懺悔しに来た時点で、あなたは既に贖罪への道を歩んでいます。その姿勢は必ず神にも届いていることでしょう」
ルリノ「と、ルリ思う!ゆえにルリあり!」👍
男「あ…あああ……」ガクン
男「なんと…慈悲深いお方なんだ……」💧ポロポロ
女「私も告白させてください!夫の給与を全てギャンブルに使ってしまいました!」
老人「わしは妻の墓前にお供え物をするのを忘れてしまった」
優男「浮気相手と結婚するために妻と子を殺してしまいました…」
-
ルリノ「う"ん"う"ん"!」
ルリノ「ぜんぶ赦しやす!!!」👍
女「おぉ…!」
老人「聖女じゃ…」
優男「現代に生誕せし博愛の聖女様だ…!」
「すみませーん!私も!」
「僕も懺悔させてください!」
ルリノ「おっけおっけー!全員まとめて赦しちゃるぞー!!」
ワー!ワー!ワー!
メグミ「うんうん。ルリちゃんが人気者になってくれて、私も鼻が高いよ」(後方幼馴染面)
メグミ「忙しそうだし、邪魔しないように別のところに行こーと」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【商店街】
サヤカ「ふむ、このニンジンはなかなか…」
メグミ「サーヤカちゃん!」ポン!
サヤカ「きゃあ!メグミさん!?」
メグミ「久しぶり!元気にしてた?」
サヤカ「おかげさまで。メグミさんも元気そうですね」
メグミ「まぁね〜!サヤカちゃんは買い物中?」
サヤカ「はい。ツヅリさんが肉じゃがを食べたいとおっしゃったので、食材の調達をしに来ました」
メグミ「そういえばツヅリの家に住んでるんだっけ。どう?新・婚・生・活は!」
サヤカ「しん!?か、からかわないで下さい!わたしはただ、助けてもらったお礼に身の回りのお世話をしようと…///」 モジモジ
メグミ「あはは!じゃあそういうことにしといてあげる!」
サヤカ「もう!メグミさん!」
-
メグミ「そうそう!サヤカちゃん、疲れてたりしない?」
サヤカ「え?いきなりですね…確かに家事の量が増えたので、少し疲労が溜まっていますが」
メグミ「おっ!いいね〜」
サヤカ「何がいいんですか!?」
メグミ「その疲れ、メグちゃんが癒してあげましょう!」
メグミ『メグ リカバー!』
サヤカ「はあんっ…///」
メグミ「どう?サヤカちゃん」ワクワク
サヤカ「あ、確かに疲れが取れました。体が軽い感じがします」
メグミ「……それだけ?」
サヤカ「ええ。メグミさん、ありがとうございます」
メグミ「なーんだ、サヤカちゃんのハイテンションが見られると思ったのに…つまんないのー」
サヤカ「ハイテンション?」
メグミ「まあいいや。じゃあねサヤカちゃん!ツヅリにもよろしく!」
サヤカ「はい、さようなら」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メグミ「そろそろ家に帰るか。さすがにもう3人とも落ち着いてるでしょ」
メグミ「おや?あそこで木に話しかけてるのは……」
カホ「うんうん!そうなんだね!……あはは!確かに!」
メグミ「あれはどっちだ?通常運転?ハイテンション継続中?」
子ども「ママーあのお姉ちゃんひとりで木としゃべってるー」👈
母親「こーら!人に指をさしちゃいけません」
メグミ「あらら、変な人だと思われちゃってるよ。声掛けてあげるか……ん?」
-
コズエ「ふっ!ふっ!ふっ!」(全力スクワット移動)
子ども「ママーあの人変な動きしながらこっちに来てるー」
母親「見ちゃダメ!!!あれは関わってはいけないタイプの人よ!」
メグミ「うわぁ…」(ドン引き)
メグミ「やっぱり他人のフリしとこっと…」
<キャー!ダレカタスケテー!
<マジュウガデタゾー!
メグミ「向こうの方はなんか騒がしいなぁ…何があったんだろう?」プカー
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カチマチ『ちぇすとー!』⚡️ダッダッダッ
「狼の魔獣だ!みんな逃げろー!」
「どうして街中に魔獣がいるのよ!結界は機能してないの!?」
メグミ「あれって…カチマチちゃん!?」
カチマチ『速く!速く!もっと速く!』⚡️ビリビリ
カチマチ『ちぇーすとー!!!』⚡️ダン!
「きゃあ!」
「うわぁー!」
「くそう!誰かギルドに討伐要請をだせ!」
メグミ「あわわ…やばいって!怪我人も出てる!このままじゃカチマチちゃん殺されちゃうよ!」
メグミ「カチマチちゃん!ストップ!ストーーップ!!」
-
カチマチ『ちぇすとー!』⚡️バビューン!
メグミ「くっ!ダメだ、速すぎて私じゃ追いつけない!」
メグミ「とりあえず怪我人を治療して、少しでもカチマチちゃんの罪を軽くしないと!」
メグミ「うむむむ…!出力全開『メグ リカバー』!!!」パーー!
「あれ、傷が治ってる?」
「なんかテンション上がってきた!」
「そこのお姉さーん!今夜俺と𝑻𝑶𝑵𝑰𝑮𝑯𝑻しようぜ!」
「もうこんな世界うんざりだ…!いったん壊そう!全部っ!!!」
メグミ「よし!ここの怪我人は全員治した!」
メグミ「とにかくカチマチちゃんを追いかけよう!」ピューン!
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サヤカ「食材も買えたし、ツヅリさんの待つ家に帰りましょうか♪」
「魔獣だー!みんな逃げろー!」
ワーー!キャーー!
サヤカ「この騒ぎはいったい?」
子ども「はぁはぁ!ママはやいよ!」
母親「頑張って!もう少しで安全な場所に着くから!」
サヤカ「あの!何かあったんですか?」
母親「街中に魔獣が出たの!あなたも早く避難した方がいいわ!」
サヤカ「ええ!?魔獣が!?」🔪サク
母親「がっ──」バタン
子ども「──ママ?」
🔪スパッ
バタン
サヤカ「大変です!はやくツヅリさんに知らせないと!」 タッタッタッ…!
🔪スパッ!
🔪サク!
🔪ズボ!
🔪ブス!
バタバタバタバタ……
サヤカ(不思議です。なんだか今日はとても気分がいいですね♪)
-
ちょいちょい素でアカンやつが住んでて草
-
さやかちゃんテンション上がって素でスパスパしてない?
-
カナザワの風紀は崩壊寸前
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カチマチ『うおおおおぉ!』⚡️ダダダ!
「うわー!魔獣がこっちに来たぞー!」
「逃げろー!」
カチマチ『まだまだ走れます!!』⚡️
カチマチ『ちぇす──』 パッ!
「……ん?魔獣が消えた?」
【人気のない路地裏】
カチマチ『──とー!!???』
ゴツン!
カチマチ『痛てて……』
カチマチ『あれ?どこですかここ!?』
先程まで大通りを駆けていたはずのカチマチは、いつの間にか狭い裏路地に入り込んでいた。
-
ツヅリ「ボクが連れてきたんだ」
カチマチ『ツヅリさん!?いつの間に現れたんですか!?』
ツヅリ「カチマチ、いったん落ち着こう。街のみんなが怖がってるよ」
カチマチ『不思議です!さっきまで道を走ってたのに!いつの間にか薄暗いところに──』
ガシッ!
ツヅリ「落 ち 着 い て」 ムギュウ!
カチマチ『ふぎゅ!』
ツヅリ「ボクの目を見て」👁ジー
カチマチ『……』ジー
ツヅリ「落ち着いた?」
カチマチ『……はい、落ち着きました』
ツヅリ「よかった。それで、どうして暴れてたの?」
-
カチマチ『暴れ…?カチマチ、メグミさんに魔法をかけられてからすごく気分がよくなって、それで…』
ツヅリ「メグ?」
カチマチ『はい、メグミさんが回復魔法を覚えたので、コズエさんやカチマチに使ってくれたんです。でもその後から記憶が曖昧で…』
ツヅリ「なるほど、メグが原因か」
カチマチ『メグミさんは悪気があった訳じゃないんです!コズエさんの腕も動くようになったし、純粋にカチマチ達を癒そうと──』
ツヅリ「え、コズの手が治ったの?」
カチマチ『はい!』
ツヅリ「そうなんだ」
ツヅリ「とりあえずボクはメグを探すから、キミは体が小さくなるまでここに隠れててね」
カチマチ『わかりました!』
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メグミ『メグ リカバー!』パー!
「Fooooo!!!」
「テンション上がってきたー!最高ー!」⤴︎⤴︎⤴︎
メグミ「はぁ、はぁ…カチマチちゃんどこ〜?」
「そこの君〜!一緒にお茶でもしな〜い?」ガシッ
メグミ「うわぁ!?ちょっ肩組むな!離せー!」 ジタバタ!
ギンコ『リラックフィール』︎︎✨
「あれ?俺は何を…わっ!す、すみません!」 パッ
メグミ「いや、別にいいけど…」
ギンコ「メグミさん大丈夫ですか?」
メグミ「ギンコちゃん!なんでいるの?」
ギンコ「騒がしいから外に出てみたんです。そしたら皆さん様子がおかしいかったので、ひとまず気分を落ち着かせる魔法をかけて回ってました」
ギンコ「いったい何があったんですか?」
メグミ「それが…話すと長くなるんだけど……」
-
〜めぐめぐしかじか〜
ギンコ「──つまり、あの回復魔法を手当り次第使ってたら、街が大混乱になったと」
メグミ「…………はい」
ギンコ「はぁ…これ、私のせいやわ。魔法を覚えたての人にちゃんと指導をしなかったから…」
メグミ「そんな!ギンコちゃんのせいじゃないよ…」
ギンコ「とにかく、反省は後にして、今はその使い魔の犬さんを探しましょう」
ギンコ「人に危害を加えた使い魔は殺処分される可能性もあります。一刻も早く捕まえないと!」
メグミ「さ、殺処分!?」
ギンコ「道中に怪我人がいたら、回復魔法は私がかけます。メグミさんは使わないでください」
メグミ「わかった!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「ふんふん〜♪今日はお花さん達といっぱいお話しできちゃった!」 ルンルン♪
『……ナイ』
カホ「ん?」
『タリ…ナイ…ゼンゼン…タリナイ……』
カホ「この声…どこから聞こえるんだろう?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギンコ『リカバー』︎︎✨
ギンコ「ふぅ、怪我人はもう居なさそうですね」
メグミ「でも、肝心のカチマチちゃんがどこにも見当たらない…」
メグミ「まさか、もう誰かに殺されちゃったなんてこと…!」
-
ツヅリ「それなら大丈夫だよ」
メグミ「どわぁ!ツヅリいつの間に!?」
ツヅリ「カチマチは人気のないところに隠れてもらってるよ。もう落ち着いてるから、暴れたりしないと思う」
メグミ「本当に?よかった〜〜」 ホッ
ツヅリ「それよりもメグ、コズの手が動くようになったってほんと?」
メグミ「え?あーうん。もうバッチリだよ!」👌
ツヅリ「よかった。それならあの話もできるかな」
メグミ「あの話?」
ツヅリ「今度みんながそろった時に話すね」
メグミ「ん〜?わかった」
ギンコ「あの…お話の途中にすみません。結局、もう被害は出ないってことでいいんでしょうか?」
メグミ「カチマチちゃんが隠れてくれてるなら大丈夫でしょ!あとは小さくなったところを回収して一件落着!」
-
メグミ「ツヅリ、カチマチちゃんが隠れてる場所まで案内してくれる?」
ツヅリ「わかった。着いてき──」
カホ「メグちゃーん!ツヅリさーん!」 バタバタ
メグミ「あ、カホちゃんだ!おーい!」
カホ「はぁ、はぁ…大変なんです!街に魔物が!」
メグミ「カチマチちゃんのこと?それならもう大丈夫だよ!ツヅリが匿ってくれてるから!」
カホ「違います!カチマチちゃんじゃなくて、本物の魔物が現れたんです!!」
メグミ「へ?」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
🌼「キェェェェェ!!」
メグミ「何あれ!?花の魔物?」
そこには家の3倍ほどの高さまで育った花の魔物がいた。
花弁の中心には食虫植物の様なトゲトゲとした牙の生えた口があり、何本もの長い蔓をウネウネと動かしている。
ギンコ「待って…あそこ、私の工房……?」
メグミ「あ、本当だ。てことはまさかあの魔物──」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メグミ『リカバー』
🌼 ポン!
メグミ「おっ!咲いたよギンコちゃん!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メグ・ギン「「あの花だ!!!」」
-
カホ「え、え?2人ともあの花を知ってるんですか?」
メグミ「私が回復魔法の練習で咲かせた花だ…ギンコちゃん成長止めたって言わなかった?」
ギンコ「そのはずですけど…花の成長速度が魔道具の効果を上回ったのかも…」
🌼「キェェェ!」 ピュン!
バシッ!
「うおっ!?何だこの蔓は!あ?あぁぁぁ!!」 グイン!
🌼パクッ!
🌼 ムシャムシャ…
ギンコ「ひっ…」
メグミ「あいつ、人を食べてる!」
『タリナイ…マダ…タリナイ』
カホ「足りない…?もしかして、急な成長で栄養が不足してるの?」
メグミ「はあ?じゃあ養分として人を食べてるの…?」ゾッ
-
ビオランテみたいになってるのか
-
バシッ!
「あぁぁぁ!いやだ!誰か助──」グイン!
スパッ!
「──けて…あれ?」
ツヅリ「もう大丈夫。今のうちに逃げて」
「あ、ありがとうございます!」ダッ
ツヅリ「花かぁ…急所がどこかわからないな」🗡️シャキン
メグミ「え、ツヅリって剣使うの?」
ツヅリ「ん?いつも使ってるよ」
ツヅリ「あ、そっか。みんなにはボクが戦うところは見えないんだった」
🌼「キェェェェェ!!」ピュン!ピュン!
花の魔物はツヅリを驚異と感じたのか、ツヅリに向かって何本もの蔓を伸ばしてくる。
ツヅリ「⬛︎⬛︎⬛︎」 ボソッ
スパン!ボトボトボト…
しかし、全ての蔓はツヅリに届く寸前に切り落とされる。
-
ギンコ「すごい……」
メグミ「ツヅリがいればもう安心だよ!なんたって王国騎士だからね!大舟に乗ったつもりでいなよ!」
カホ「そのセリフ、人任せにしてる側が言うんだ…」
🌼「キェェェェェ!」ピュン!ピュン!
🗡スパンッ!
ゴトゴト…
ツヅリ「よし、蔓は全部斬った。後は大元を──」🗡
パシッ!
ツヅリ「!?」
しかし、全ての蔓を斬ったと油断していたツヅリの手に、死角から伸びてきた別の蔓が巻き付く。
-
ツヅリ「く…」 グググ
🌼ニョキニョキ…!
ピュン!ピュン!バシッ!
ツヅリ「あ」
さらに、新たに生えてきた蔓がツヅリの体にガッチリと巻き付く。
ツヅリ「うわっ」 グイン
カホ「捕まっちゃいましたよ!?」
メグミ「い、いや!ツヅリならあれくらい簡単に解けるはず!」
ツヅリ「あ、ごめん。ボク拘束されると何もできなくなるんだ」
カホ「え」
ツヅリ「たすけてー」 プラーン
メグミ「嘘ぉぉぉぉ!!??」
【物陰】
サヤカ「なるほど、ツヅリさんは拘束されると魔法が使えないと」📓✍️
-
ピュン!バシッ!バシッ!
「うわぁぁぁ!」グイン
「助けてぇぇぇ!」グイン
🌼パクッ! ムシャムシャ…
ギンコ「っ!また人を襲いだしましたよ!」
メグミ「もう!こんな時にコズエは何やってるの!!」
バシッ!
カホ「えっ」グイン
メグミ「カホちゃん!」
蔓はカホの胴体に巻き付くと、カホを魔物の口の高さまで持ち上げた。
🌼ガバッ
カホ「あ、そんな──」
⚡️⚡️⚡️ザクッ!
🌼「キェェェェ」 パッ!
カホ「きゃっ!」 ストン ↓↓↓
ギンコ『ワールウィンド!』🌪
カホ「!?」🌪フワッ
メグミ「ほっ!」 キャッチ!
カホ「ありがとうございます…!」
-
カチマチ『無事ですか!カホさん!』⚡️
カホ「カチマチちゃん!」
ギンコ「別の魔獣!?」
メグミ「大丈夫、この子がさっき話したカホちゃんの使い魔だから」
カチマチ『この魔物はいったい…』
メグミ「色々あって魔物化した花だよ!」
メグミ「それよりもカチマチちゃん、あそこで縛られてるツヅリ助けられる?」
ツヅリ < タスケテー
カチマチ『わかりました!やってみます!』⚡️ダッ!
カチマチは魔物の茎に爪を立てて、ツヅリに向かって登っていく。
カチマチ『ツヅリさーん!』ピョン!
-
🌼 ヒョイ
カチマチ『!』スカッ
しかし、手が届く寸前に魔物はツヅリを縛っていた蔓を動かし、カチマチの攻撃を回避する。
🌼ニョキニョキ…
さらに数本の蔓が伸びて、ツヅリに巻き付く。
ツヅリ「うぷ──」グルグル
ついには体が見えないほどにツヅリの体は蔓に覆われてしまった。
メグミ「くそ…あいつ花の癖に頭がいい!ツヅリが1番強いってわかってるんだ!」
カホ「あの…メグちゃん……」クイッ
メグミ「カホちゃん、どうしたの?ツヅリを助ける方法思いついた?」
カホ「いえ、そうじゃないです…」
カホ「実は、さっき食べられそうになった時に見えたんですけど…生きてます…」
メグミ「え?」
カホ「食べられた人達、酷い状態でしたけど、まだ生きてるように見えました……」
メグミ「!!!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カチマチ『ちぇすとー!』⚡️ダッ ダッ!
🌼「キェェェェェ!」 ピュン!
バシッ!
カチマチ『わっ!』グイン
🌼 ブン!ガシャン!
カチマチ『がはっ…!』
蔓はカチマチを捕まえると、カチマチを振り回し家の屋根に叩きつける。
ギンコ『フレアボール!』🔥
🌼「キェェェェェ!?」🔥ボッ
パッ!
カチマチ『おっと!』ストン
カチマチ『助かりました!えっと…』
ギンコ「モモセ ギンコです」
カチマチ『ギンコさん!ありがとうございます!カチマチはカチマチと言います!』
カチマチ『あ!もしかしてメグミさんに魔法を教えてくれた先生ですか?おかげさまでコズエさんの怪我が治りました!ありがとうございます!』
ギンコ「それはよかったけど!今はそんな話してる場合じゃない!」
カチマチ『はっ!そうでした!』
-
ギンコ「カチマチ…さんは雷魔法が使えるんですよね?あの花の魔物に電流を流せますか?もしかしたら無力化できるかも!」
カチマチ『わかりました!やってみます!』
ギンコ「邪魔な蔓は私がさばきます!」
カチマチ『うぉぉぉ!!』⚡️ダッ
🌼ピュン!ピュン!
ギンコ『フレアボール!』🔥ボン
ギンコはカチマチに向かってのびる蔓を、火の玉を飛ばして牽制する。
カチマチ『ふん!』ガブッ!
カチマチ『ちぇすとー!』⚡️⚡️⚡️ビリビリ
🌼「キェェェェェ!」ブン!ブン!
カチマチ『ぐわっ!』バシッ!
ギンコ「きゃ!」バシッ!
-
カチマチ『うぅ…全然効いてませんよ!?』
ギンコ「植物は水を吸い上げてるから、電気を流せば感電させられると思ったのに…!」
カホ「傷が浅すぎるんだよ!」
ギンコ「え?」
カホ「花の『道管』は茎の中心にあるの!あれだけ大きく育ってるなら、カチマチちゃんが噛み付く程度じゃ道管まで届かないよ!」
ギンコ「そんな…」
カチマチ『ギンコさん!さっきの魔法、もっと大きな炎は出せないんですか?あれで全部燃やしちゃいましょう!』
ギンコ「できなくは無いけど…」チラッ
ギンコは魔物の足元を見る。
魔物の根はギンコの工房にがっしりと巻きついている。
ギンコ「ううん……これ以上被害を出さないことほうが大事…だよね、おばあちゃん」スッ
-
メグミ「待った待った!ギンコちゃんの大切な工房なんでしょ!?あの魔物を燃やしたら家にまで火がついちゃうよ!」
メグミ「ていうかツヅリが捕まったままだし!」
カホ「それに、もしかしたら食べられた人達がまだ生きてるかもしれません!」
カチマチ『え!?』
ギンコ「それは、確実なことなんですか?」
カホ「いや…一瞬見えただけだから、絶対とは言いきれないけど…」
ギンコ「魔物に捕まった仲間を助けようと、無理をして全滅したパーティは沢山あります。今、確実に助けられる命を優先するべきです!」
メグミ「つまり、食べられた人達やツヅリは見捨てろってこと…?」
ギンコ「街の人達の安全を優先するって話です!!このまま際限なく成長したら、街全体を覆いかねません!」
カホ「でも……」
ギンコ「それにほら、あそこを見てください!面白半分で魔物を見に来た人が──」
-
コズエ「ふっ!ふっ!ふっ!」(全力スクワット)
ギンコ「魔物より様子のおかしい人が来た!?」
カホ「え、あれって…コズエちゃん!?」
メグミ「あいつまだスクワットしてるんかい!!」
コズエ「ふっ!ふっ!ふっ!」
ギンコ「そこの人!危ないですから下がって──」
コズエ『……リリース』ビキビギ
バビューン!
ギンコ「!?」
コズエは屈んだ姿勢から魔物に向かって飛び上がると、猛烈な勢いのままツヅリが捕まっている蔓の束を掴む。
コズエ「っ〜〜〜!!」ブチブチ!
コズエ「はっ!」ブチン!
-
カチマチ『蔓をちぎりましたよ!』
メグミ「やった!コズエー!そのままツヅリを助け──」
コズエ「ふん!」ブオン!
バコン!
🌼「キェェェェェ!!」グラッ
メグミ「あ」
カホ「あ」
カチマチ『あ』
ギンコ「あ」
コズエはツヅリの拘束されている束をハンマーのように振り回すと、屋根を足場に何度も飛び上がり魔物の頭に打ち付けていく。
コズエ「ふっ!はっ!」ブン!ドン!
メグミ「ちょ!コズエ待って!」
コズエ「大丈夫よ!スクワットで貯めたエネルギーがあるから!はっ!」ブン!
メグミ「あんたの心配なんてしてないから!」
-
ドーン!
🌼「──」ユラッ…バタン!
コズエ「…」スタッ
コズエ「ふぅ、咄嗟に武器になりそうだと思って掴んだけれど、存外使いやすかったわね」
カホ「いや、あの……」
カチマチ『あわわわわ…!』
コズエ「みんなどうしたの?そんなに青い顔をして…」
メグミ「コズエが武器にして振り回してたそれ、ツヅリなんだけど」
コズエ「は?」
ギンコ「その中にユウギリツヅリさんが捕まってます…」
コズエ「なんですって!?」
慌てて全員で蔓を剥いでいく。
ツヅリ「キュー……」🌀
カホ「完全に気を失ってますよ!」ユサユサ
-
ギンコ「離れてください。『リカバー』」︎︎✨
ツヅリ「……」
ギンコ「ダメージは回復したはずなんですが…」
カチマチ『ツヅリさん、起きませんね』
カホ「ツヅリさん!起きてください!」ユサユサ!
ツヅリ「ムニャムニャ……サヤ、もうちょっと寝かせて…」
ギンコ「あぁ…この人寝起き悪いタイプだ……」
コズエ「ごめんなさい…まさかツヅリさんが捕まってるとは知らなくて…」
カホ「し、仕方ないですよ!コズエちゃんその時居ませんでしたし…」
カホ「ですよね、メグちゃん!……メグちゃん?」
-
メグミ「……」ジー
メグミの視線の先には、口を開けて倒れている花の魔物がいる。
メグミ(今なら口の中に入れるかも…)
メグミ「ちょっと私、あいつの口の中に行ってくる!」
コズエ「はあ!?何言ってるのメグミ!」
ギンコ「まさか…」
メグミ「ギンコちゃんはああ言ってたけど、やっぱり私は助けられるなら全員助けたい!」ピューン
ギンコ「あ、待ってメグミさん!」
-
スポン!
メグミは魔物の口内に入る。
メグミ「うっ!何この臭い…それに、暗くてよく見えない」
目を細めてよく見ると、段々と魔物の腹の中の様子が見えてきた。
栄養を経口摂取するために急造で作られた"胃"には、動物の胃のような消化液は無い。
流れた血をただ吸収するためのハリボテの胃袋の中には、雑に噛み潰された死にかけの人々が重なっていた。
「あ……ああ…」モゾモゾ
「たすけ……て…」
メグミ「っ!」
メグミ(みんな酷い状態だ……でも、まだ生きてる!)
メグミ「私のせいで巻き込んでごめんね。絶対に…助けるから!!」
メグミ『メグ リカバー!!!』
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「メグちゃんが魔物の口の中に入って行っちゃいましたよ!」
コズエ「メグミ!……っ」ガクン
カホ「え、どうしたんですか!?」
コズエ「なんてこと…足が一歩も動かないわ」プルプル…
カホ「スクワットをしすぎたんじゃ…」
ギンコ「いったい何回やってたんですか?」
コズエ「だいたい1万回くらいだと思うわ」
ギンコ「い、1万回!?」
カホ「絶対そのせいじゃないですか!!」
コズエ「さっきまで全く疲労を感じなかったのに…!」プルプル
カホ「もういいです!コズエちゃんはツヅリさんを見ててください!」
-
カホ「カチマチちゃん!ギンコちゃん!あたし達も魔物に食べられた人達を助けに行こう!」
カチマチ『!! 待ってくださいカホさん!』
🌼「……クォーーーン」ムクッ
カホ「!」
ギンコ「まずい、魔物がまた起き上がった!」
🌼「キェェェェェ」
カホ「ど、どうしますか!?まだメグちゃんお腹の中ですよ!」
ギンコ「ああもう!だから言ったのに!」
コズエ「メグミ…」
🌼『クルシイ──クルシイ──』
カホ「あの花も苦しんでる。好きで魔物化した訳じゃないんだ…」
ギンコ「植物は体に魔素が過剰蓄積することで魔物化します。多分、メグミさんの回復魔法を受けて体内の魔素が増幅したんです」
カホ「じゃあ、魔素を排出できれば無力化できるの?」
ギンコ「恐らくは…」
-
カホ「……!」💡
カホ「あたし、ちょっとルリノちゃんを探してきます!」
コズエ「ルリノさんを?」
カホ「3人はそれまであの花を抑えておいてくださーい!」ダッ
カチマチ『カホさん!?』
コズエ「抑えろと言われても…」
🌼ウネウネ〜
ギンコ「蔓は全方位に伸びてます!3人だけで全部対処するなんて無理ですよ!」
コズエ「くっ…エネルギーはまだ残ってるのに!足さえ動けば…!」
カチマチ『コズエさん、動ければ何とかなりますか?』
コズエ「え?ええ…あの蔓くらいは弾き返せるわ」
カチマチ『それならカチマチの背中に乗ってください!カチマチがコズエさんの足になります!』
コズエ「ダメよ、カチマチさんに乗ったら感電してまともに──」
コズエ「いえ…電流を魔法で保存できれば無効化できるかもしれないわね」
ギンコ「保存?」
-
コズエ「カチマチさん!背中に乗せてちょうだい!」
カチマチ『はい!』カプッ!ポイ!
カチマチはコズエの服の襟に噛み付くと、自分の背中に放り投げる。
コズエ「ほっ!」ストン
コズエ(乗せ方が雑ね……)
⚡️⚡️ビリリ!
コズエ「っ!」⚡️
コズエ「ほ、『保存』!」
カチマチ『どうですかコズエさん?』⚡️
コズエ「やっぱり、電流も無効化できるわ!」⚡️
カチマチ『よかったです!カホさんが戻るまで、カチマチ達で魔物の気を引きつけましょう!』
コズエ「ええ!襲ってくる蔓の対応は私に任せてちょうだい!」
カチマチ『はい!コズエさんを信じます!』
ギンコ「あの…!私はどうすれば!」
コズエ「あなたはツヅリさんを見てて、ついでに私達がさばききれなかった蔓を処理してもらえると助かるわ!」
ギンコ「わかりました!」
-
コズエ「それじゃあカチマチさん!行くわよ!」
カチマチ『了解です!!』⚡️ダッ!
カチマチはコズエを背に乗せたまま屋根から屋根へ飛び移り、魔物の周りを駆け回る。
🌼ピュン!ピュン!
コズエ「さっそく釣れたわね!カチマチさんはそのまま走っていて!」
カチマチ『わかりました!』⚡️ダッ ダッ
駆け回る1匹と1人を捕らえようと、魔物は数本の蔓を伸ばしてくる。
カチマチは素早い動きでそれらを器用に避けるが、手数が多く全ては避けられない。
🌼ピュン!
カチマチ『っ!コズエさん!お願いします!』
コズエ『フルリリース:インパクト!』👊💥
🍃🌪ブオーン!
🌼「キェェェェェ!!」グラッ
コズエの放った拳が、襲い来る蔓をまとめて弾き返す。
更にはその風圧で魔物の体を揺らし、姿勢を崩させた。
-
カチマチ『おっとっと…!コズエさん!もう少し威力を抑えてください!危うく落とすところでした!』
コズエ「ごめんなさい、まだ調整が上手くできないの!」
🌼ニョキニョキニョキ…!
コズエ「!」
カチマチ「!」
ギンコ「また新しい蔓が生えてきた…さっきの一撃でツヅリさんと同じように、脅威として認識されたってこと?」
🌼「キェェェェェ!!」
今まで四方に伸びていた十数本もの巨大な蔓が、一斉にコズエ達に襲いかかる。
カチマチ『少しスピードを上げます!しっかり掴まっててください!』⚡️ビリリ
コズエ「わかったわ!」⚡️
⚡️ダン!
もはや屋根を伝い走っていては避けられないと、カチマチは襲い来る蔓を足場にしながら、飛ぶように攻撃を避けていく。
カチマチ『ほっ!はっ!』⚡️タン!タン!
-
コズエ(私も攻撃しないと、乗せてもらった意味が無い…!)
コズエ「やったことは無いけれど…一か八か!」スッ 👉
コズエはカチマチに乗りながら貯めた電気を指先に集め、魔物に狙いを定める。
コズエ(エネルギーの出口を一点に絞って、圧縮して放出する!)
コズエ『フルリリース:アンペア!』
👉⚡️バチン!
🌼「!!!」⚡️ビリリ
コズエは魔物を狙って指先から電流を放つ。
放電は魔物の本体ではなく、近くの蔓に吸われてしまったものの、着弾地点は雷に撃たれたように焼け焦げ、折れている。
カチマチ『なんですか今の!?カッコイイです!カチマチにも教えてください!』
コズエ「後で教えるわ!今は回避に集中して!」⚡️ビリリ…
コズエ(やっぱり、放出の時には自分にもダメージが来るわね…)
🌼「キェェェェェ!」ピュン!
コズエ「蔓にいくら構っていても埒が明かないわ!本体の方に近づいてちょうだい!」
カチマチ『できるか分からないけどやってみます!』⚡️
🌼ピュン!ピュン!
コズエ「はっ!」👉⚡️バチン!
カチマチ『ちぇすとー!』⚡️ダッ!ダッ!
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【魔物の胃の中】
メグミ『メグ リカバー!』
「あぁ…あぁ!生きてる!?ありがとう!ありがとう!!」
メグミ「まだ安心できないよ。魔物が起き上がったせいで出られなくなっちゃったから」
「私達、どうなるんでしょうか…このまま魔物の中で餓死するのを待つくらいなら、いっそあのまま死んでた方が……」
メグミ「大丈夫!私の仲間が外で戦ってくれてる!必ず助けに来るから!」
メグミ「さて…残る怪我人はあと1人」
メグミ『メグ リカバー!』
「 」シーン
メグミ「あれ?なんで治らないの??」
「その男の人は一番最初に食べられた人です。きっともう……」
メグミ「そんな!」
メグミ「また…私のせいで……」
ーーーーーーーーーーーーー
カホ『メグちゃんのせいですからね!』
カホ『責任!取ってくださいよ!』
ーーーーーーーーーーーーー
-
メグミ「…………責任、とるから」
メグミ「今度は逃げない!!」
メグミは目を閉じて自身の感覚を拡大する。
普段人の世界で生きる上で封印している第六感。
『天使』として、本来見るべきものにピントを合わせる。
メグミ(感じる…亡くなった人達の魂……)
メグミ(てか多くない!?あの子達ちゃんと天国に連れていってるでしょうね?)
メグミ(いや、今はそんなことよりもこの人の魂を…)
ポワーン…
暗闇の中に、青い火の玉の様なものが見える。
その男性の魂は、自分の死体の傍にゆらゆらと浮かんでいた。
さらに感覚を研ぎ澄ますと、その魂が細い糸のようなもので体と繋がっていることがわかる。
-
メグミ(よし!まだ切れてない!)
メグミ「あなたはまだ死なせないよ!」ガシッ!
メグミ「体に戻れー!!」グイッ!
メグミは浮いている魂を掴み、体に無理やり押し込む。
メグミ『メグ リカバー!!!』
キラキラキラ✨
一際強い光が男性の体を包み、みるみると傷口が塞がってゆく。
「──!」ビクン
「げほっ!げほっ!…あれ、なんで生きてるんだ…?」
メグミ「よっしゃ!蘇生成功!」
「すごい…」
「奇跡だ!」
メグミ「あとは脱出するだけ──!?」
ググググ……
「なんか狭まってきてないか!?」
「このままじゃ潰される!」
メグミ「っ!みんな…信じてるからね!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カチマチ『はあ、はあ…』⚡️
コズエ「カチマチさん大丈夫?」
カチマチ『ま、まだまだ大丈夫です!』
コズエ(そうは言っても、さっきからかなり息が上がってる…そろそろ限界のはずよ)
ビシッ!
コズエ「!?」グルグル
カチマチ『コズエさ──うわっ!』バシッ
疲労により速度の落ちたカチマチ達を、魔物は蔓であっさりと捕まえる。
ギンコ『フレアボール!』🔥
🌼ベシッ!🔥
ギンコ「防がれた!?それなら…」
ギンコ『ウォーターカッター』
ブシャー!スパッ!
カチマチ『わ!』ストン
コズエ「!」ストン
ギンコが短い呪文を唱えると、杖の先から高圧の水が噴出し、2人を拘束していた蔓を切断する。
-
コズエ「助かったわ!」
カチマチ『ありがとうございます!』
ギンコ「いえ、この為に待機してたので」
ギンコ「でも、状況は変わってません!このままじゃ──」
カホ「おーい!コズエちゃーん!カチマチちゃーん!」
コズエ「カホ!」
ルリノ「ルリ達も来たよー!」
ギンコ「協会のシスターさん達!?」
カホ「みなさん!あの花の魔物です!」
ルリノ「了解!みんな準備はいい?」
「もちろん!」
「穢れを祓いますわ!」
ルリノ『聖なる光よ 不純を解き放ち 病から世界を救え』
ルリノ『我ら天の代行 神の名のもとに 穢れを祓う!』
『『エクス ピューリファイ!』』💠
-
🌼「キェェェェェ!?!?!?」
シスター達は花の魔物に向かって一斉に浄化魔法を放つ。
すると花の体から、黒いモヤの様な魔素が大量に溢れ出し、空気中に霧散した。
🌼「──」グラッ
バターン!
魔素が抜け、ただの植物に戻った花は、巨体を支えきれずに根元から折れて地面に倒れる。
コズエ「メグミ!」ガバッ!
カホ「メグちゃん!」
メグミ「痛てて……コズエ!カホちゃん!」
「おお!出られるぞ!」
「助かった!」
ルリノ「怪我をしてる人はいませんかー!」
メグミ「ルリちゃん!大丈夫だよ!私が全員治療したから!」
ギンコ「全員!?やっぱり、メグミさんの回復魔法は規格外やわ…」
カチマチ『さすがメグミさんです!』
-
カホ「……ルリノちゃん、この花はもう魔物じゃなくなったの?」
ルリノ「うん、シスター全員で浄化魔法をかけたからね。魔素は完全に体から抜けてるはずだよ」
カホ「それなのに大きいままなんだ…」
ギンコ「例え魔素が浄化されても、成長は不可逆です。巨大化した体が元に戻ることはありません」
カホ「じゃあ、この花はどうなるの?」
ギンコ「栄養不足になってすぐに枯れると思います」
カホ「そっか…」
🌼『どう…して……』
カホ「!」
🌼『ただ…キレイに咲きたかった…だけなのに……』
カホ「っ!……あなたは綺麗だったよ」
🌼『ほん…とう…?』
カホ「うん!すごく綺麗に咲いてた!たくさんのお花を見てきた、カホが保証します!」
🌼『あぁ…それなら…よかった──』
🌼ポロ……
-
メグミ「ごめんね、あなたのことは救えなかった」
カホ「でも、メグちゃんのおかげで、この花が人を殺さずに済んでよかったです」
カホ「メグちゃん、これを」
メグミ「花の種?」
カホ「さっきこの花が落としました。一緒に育ててみませんか?」
メグミ「……魔物が育ったりしないよね?」
カホ「さあ?どうでしょうね!」
メグミ「ま、いっか。たまには花を育てるのも悪くない!」
カホ「魔法は使っちゃダメですよ?お花を育てるのに必要なのは、土と水と太陽と、たくさんの愛情だけです!」
メグミ「そうだね。今度は正しく花咲かせてあげる」
-
サヤカ「みなさーん!」パタパタ
カチマチ『あれ?サヤカさんです!』
サヤカ「え、ツヅリさん!?なんで倒れてるんですか!もしかして、お怪我でも!?」
ツヅリ「ムニャムニャ……」
カホ「あ、ツヅリさんは寝てるだけだから大丈夫だよ!」
サヤカ「そうですか…」ホッ
サヤカ「もうすぐギルドの派遣した解体屋が来ます。ツヅリさんはわたしが連れて帰るので、みなさんもいったん家に帰られては?」
コズエ「そうね…ギルドへの報告もしなきゃだけれど、一度着替えに家に戻りましょう」
カホ「わかりました!」
カチマチ『カチマチ、お腹ペコペコです!』
ギンコ「……」
メグミ「……」
-
ザオラルめぐちゃん
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【冒険者ギルド】
受付嬢「お疲れ様でした!皆様の勇敢な行動によって、街に現れた魔物を討伐することができました!ギルドを代表して御礼申し上げます」
コズエ「いえ…そんなお礼を言われることでは…」
ギルド「こちらはギルドからの報酬金1,000,000SIsCaになります」
コズエ「ひゃっ100万!?こんな高額な報酬受け取れません!!」
受付嬢「遠慮なさらないでください!」
受付嬢「それにこの報酬には、メグミさんに命を救われた人達からの謝礼金も含まれています」
メグミ「ふふん!」ドヤ
コズエ「……」ベシッ
メグミ「痛っ!」
受付嬢「数名の死者が出てしまったとはいえ、魔物の規模の割に被害が少なかったのは、紛れもなく皆様のおかげです」
メグミ「え?」
メグミ(魔物に食べられた人は全員助けたはずなのに……)
受付嬢「なのでどうか、お納めください」スッ
コズエ「……わかりました。受け取らせていただきます」
-
コズエ「……はぁ」テクテク
カホ「お帰りなさい!聞こえてましたよ、100万SIsCa!!」
コズエ「本当はこんなお金…受け取る資格はないと思うのだけれど」
受付から離れたテーブル席で、コズエ達にギンコを加えた5人は椅子に座って話し合う。
メグミ「いいじゃん!もらえるお金はもらっとこうよ!」
コズエ「そもそもあの魔物が生まれたのはメグミのせいなのよ!?」
コズエ「それを倒して報酬を受け取るなんて…私は恥ずかしくて恥ずかしくて……!」
カチマチ『カチマチ知ってます!こういうのはマッチポンプって言うんですよね!』
カホ「すごーい!カチマチちゃんよくそんな言葉知ってるね!」
カチマチ『えっへん!』
-
ギンコ「メグミさんだけを責めないでください。責任と言うなら、あの花を放置して外に出た私にも責任はあります」
メグミ「いや!ギンコちゃんは何も悪くないよ!あと、ごめんね。大切な工房をめちゃくちゃにして…」
ギンコ「それは──」
コズエ「…メグミから聞いたわ。あの工房、ギンコさんがおばあ様から受け継いだものだったのよね?本当にごめんなさい」
ギンコ「き、気にしないでください!元々近いうちにリフォームする予定でしたし!」
コズエ「……考えたのだけれど、さっきもらったこの報酬金、ギンコさんに渡そうと思うの」
ギンコ「──へ?」
コズエ「さっきも言った通り、今回の一件は元はといえばメグミが発端となった事件よ。私達は仲間の尻拭いをしたに過ぎない」
メグミ「うん、まぁ…ぶっちゃけ私も素直にお金を受け取るのは罪悪感あるかな…」
-
ギンコ「いや、でも!100万SIsCaですよ!?」
コズエ「ええ、工房の修繕費には到底足りないでしょうけれど…少しでも足しにしてちょうだい」
ギンコ「そうじゃなくて!そんな大金受け取れません!無理です!私だって責任感じてるんですから!」
コズエ「……それなら、授業料ということでどうかしら?」
ギンコ「授業料…?」
コズエ「ええ、どうかこれからも、メグミに魔法を教えて欲しいの。同じような事件を起こさないためにも」
メグミ「うんうん!ざっと半年くらいは付きっきりで指導して欲しいな〜」
カホ「はいはい!あたしも!あたしも魔法教えて欲しい!」
ギンコ「別に魔法を教えるのはいいですけど…それだけじゃ大金を受け取る理由には…」
-
メグミ「あ、それならさ。ギンコちゃんうちのパーティに加わらない?」
ギンコ「え?」
メグミ「このパーティ魔法使い居ないからさ〜ギンコちゃんが入ってくれると超助かる!!」
コズエ「なるほど…確かにそうね。ギンコさんさえ良ければ、どうかしら?私達は歓迎するわよ。ね?」
カホ「もちろんです!」
カチマチ『異論ありません!』
ギンコ「それは──確かに私も工房を直すのにお金が必要だし…女性だけのパーティは珍しいから、願ってもないことですけど…」
コズエ「なら、この100万SIsCaは授業料+スカウト料ということでどうかしら?」
ギンコ「わかり──ました。その提案、謹んでお受けします」
カチマチ『おー!新しい仲間が増えました!』
-
メグミ「ていうかさ、ギンコちゃんも一緒に住まない?どうせ修理終わるまであの家には帰れないでしょ?」
ギンコ「え!?そんな、そこまでお世話になる訳には!」
コズエ「あら?私は大歓迎よ。部屋もまだ余っているし」
ギンコ「本当に、いいんですか?」
カホ「もちろんだよ!同じパーティなら、一緒に住んでた方が都合がいいしね!」
ギンコ「……それなら、家の修理が終わるまでお世話になろうと思います」
ギンコ「皆さん、改めてよろしくお願いします」
コズエ「よろしくね、ギンコさん」ニコッ
メグミ「それじゃ帰りますか!私達の家に!」
カホ「はい!」
カチマチ『帰るまでがクエストです!』
-
【コズエの家】
コズエ「ここが空き部屋になっているから、ギンコさんはこの部屋を使ってちょうだい」
ギンコ「ありがとうございます」
コズエ「少し狭いけれど、ギンコさんの好きに使ってもらって構わないから」
ギンコ「そんな!部屋を間借りする身で好き勝手になんて使えません!部屋を出る時にはキレイな状態でお返ししますので!」
コズエ「本当に好きに使ってくれて構わないのだけれど…まあ、ギンコさんに任せるわ」
コズエ「それじゃあ、今布団を持ってくるから」
ギンコ「あ、待ってください!その…メグミさんは今どうしてますか?」
コズエ「メグミ?今日は疲れたと言って寝てしまったわ」
ギンコ「そうですか。あの、メグミさんって本物の天使なんですか?」
コズエ「……少なくとも本人はそう言っているわね」
ギンコ「コズエさん達もそう信じているんですか?」
コズエ「それは──」
ギンコ「この世界では誰もが知る常識です」
ギンコ「天使は1000年前に、悪しき魔獣との戦争に敗れて、全滅したと…」
メグミ「zzz……」
【魔法を習得しよう!】完了!
-
全滅したのか・・・
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【おしえて!魔法教室】
ギンコ「皆さんこんにちは。モモセギンコです」
ギンコ「今回から私がこのコーナーを担当しますね。さっそく新しく出てきた魔法を振り返ってみましょう」
『リカバー』
回復魔法。
傷や疲労を回復する魔法です。回復は本人の治癒力の範囲内に限ります。
『メグ リカバー』
特級回復魔法。
メグミさんだけが使える特別な回復魔法です。どんな重傷も一発で治せます。
回復の必要が無い人に使うと…少し開放的な気分になるようです。
『リラックフィール』
鎮静魔法。
相手の心を落ち着かせることができる催眠魔法です。
『ワールウィンド』
旋風魔法。
小さな竜巻を発生させます。人間ひとりを飛ばせるくらいの威力です。
『フレアボール』
炎魔法。
拳程の大きさの火の玉を作って、任意の方向に飛ばすことができます。
『ウォーターカッター』
水魔法。
高圧の水を噴出させる魔法です。
木材程度の硬さのものなら切ることができます。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メグミ「zzz…」
『メグミエル 私の愛し子よ』
『使命を 果たしなさい』
メグミ「……」
『ラッパを 使うのです』
『全ての天使を目覚めさせ』
『忌まわしき魔獣達を 滅ぼすのです』
メグミ「……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
天使の力を解放したことによりいよいよメグちゃんの中に眠っていた天使の使命も目覚める…のか?
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【1週間後】
カホ「おはようございまーす!」
メグミ「カホちゃんおはよー」
カホ「あれ?メグちゃんが先に起きてるなんて珍しいですね」
メグミ「ちょっとねー夢見が悪くって」
カホ「そうだったんですか。怖い夢って妙に覚えちゃいますよね」
メグミ「そうなんだよね〜」
カホ「そういえば、コズエちゃんとギンコちゃんは?」
メグミ「コズエなら中庭でギンコせんせーと魔法の実験中」
カホ「朝から!?ストイックですね…」
メグミ「2人とも朝起きるの早いからね。その上ダラダラ過ごすのが苦手だし」
カホ「へー」
-
🚪ガチャ
コズエ「あら、おはよう。カホも起きたのね。今朝食の準備をするから待っていて」
カホ「あたしも手伝います!」
メグミ「どう?保存魔法についてなんかわかった?」
コズエ「ええ、ギンコさんのおかげでかなり整理できたわ」
ギンコ「大したことはしていませんけど…」
コズエ「そんなことないわ。ギンコさんがいないとできなかった実験が沢山あったもの。ありがとう」ニコッ
ギンコ「きょ、恐縮です!」
カホ「コズエちゃんの魔法の話も気になるけど、まずは朝食にしませんか?」
コズエ「そうね。そうしましょう」
-
【朝食後】
カホ「それで、コズエちゃんの魔法について何がわかったんですか?」
ギンコ「それについては、私から説明させてください。魔法の基本の話も含んでいるので」
コズエ「お願いするわ」
ギンコ「まず、コズエさんの『保存』の魔法ですが、具体的には3つの要素を持つ魔法ということがわかりました」
メグミ「3つの要素?保存するだけじゃないってこと?」
ギンコ「はい。そもそも現代の魔法は、ひとつの呪文で複数の魔法を同時に発動させるものが多いんです」
ギンコ「例えば『フレアボール』という魔法は、①炎を発生させる②炎を維持する③炎を飛ばすという3つの要素をもっています」
-
カホ「ひとつの魔法に見えて、実はバラバラのまほうを組み合わせてるんだ」
ギンコ「そういうことです。そして同じように、コズエさんの魔法も別々の要素を内包していました」
ギンコ「それが『吸収』『保存』『放出』の3要素です」
メグミ「ほう?」
ギンコ「仮定の話として、コズエさんの魔法は、エネルギーを収納する箱を扱う魔法だと考えてください」
ギンコ「『吸収』はこの箱が開いて中にものを入れられる状態です。この時、コズエさんの全身がその箱への『入口』になっていて、攻撃は本体には届きません」
カホ「え、それって無敵ってこと!?」
ギンコ「吸収状態の時はそうなりますね」
メグミ「じゃあずっと吸収モードでいれは最強じゃん!」
コズエ「そうでも無いのよ。例えば…メグミ、ちょっとこっちに来てちょうだい」
メグミ「ん?」スィー
-
コズエ「動かないでね」グッ
メグミ「ちょっと!なにファイティングポーズしてるの!?」
コズエ「はあっ!!」👊ブン!
メグミ「っ!」
ポムッ
メグミ「──あれ?痛くない…」
カホ「今、全力で殴ってましたよね?」
コズエ「ええ、どうやらこの吸収モードでは、こちらが攻撃した衝撃も全て私が吸収してしまうようなの」
カチマチ『ダメージを受けない代わりに、攻撃もできないってことですか?』
コズエ「そういうことよ」
メグミ「うーん、盾としては最強だけど、攻撃できないんじゃね…」
カホ「でもコズエちゃん、その魔法を使って攻撃してましたよね?」
-
コズエ「それについては別の要素の話になるわ。ギンコさん、話の腰を折ってごめんなさい。続きをお願いできるかしら」
ギンコ「はい。ちなみにこの『吸収』ですが、どんな攻撃も吸収できるというわけではないようです。斬撃や催眠など、一部の攻撃は無効化できませんでした」
カホ「完全に無敵って訳ではないんですね」
ギンコ「次に『放出』についてです」
メグミ「ん?順番的に次は保存じゃないの?」
ギンコ「もちろん順序としてはそうなんですが、保存状態は外からは何が起きているのか確認する手段がないんです」
ギンコ「なので外から見てわかりやすい吸収と放出を先に説明して、それらの現象から予想できる『保存』の仕組みを最後に説明します」
-
メグミ「お、おう…もしかしてギンコちゃん頭いい?」
ギンコ「まあ、一応魔法使いの資格は持っているので…///」
ギンコ「コホン!それでは気を取り直して『放出』の説明です」
ギンコ「放出では吸収したエネルギーを、コズエさんの体を『出口』として外に出すことができます」
カホ「それは何となくわかってましたよね?」
カチマチ『この間もカチマチの電気を指から出してました!』
ギンコ「はい。ただ、ここで一つ重要なことがあります」
ギンコ「放出するエネルギーは『コズエさんの体が生み出したもの』として外に出ます」
メグミ「ん〜?つまりどういうこと?」
ギンコ「放出する際にはコズエさんの体に相応の負荷がかかるということです」
-
コズエ「結論だけを言ってしまうと、吸収で無効化したダメージを、放出の時に受けてしまうということよ」
カホ「あ、人狼の時の…」
ギンコ「皆さんは既に見ているんですよね?」
ギンコ「例え即死級のダメージを吸収で無効化できたとしても、それを解放した瞬間にダメージはそっくりそのまま帰ってきてしまいます」
メグミ「つまり結果を先送りにしてるだけってこと?それじゃあ意味ないじゃん!!」
ギンコ「もちろん、本来はただ受けてしまうだけのダメージを、攻撃に転換できるというのは凄まじいメリットです!」
コズエ「ただ…防御という側面のみで見るのならば、この魔法は全くの"無意味"だと、私とギンコさんは結論づけたわ」
ギンコ「メグミさんの言う通り、所詮はダメージを受けるという結果を先送りにしているにすぎません。ですが──」
-
カホ「無意味なんかじゃありません!!」 バン
カチマチ『わっ!?』ビクッ
コズエ「カ、カホ…?」
カホ「"例え問題を先送りにしてるだけでも、その間に解決策が見つかるかもしれないし、そのこと自体が新しい繋がりを産むことだってあります!"」
メグミ「へ?カホちゃん…急にどうしたの?」
ギンコ「えっと…何か気に障ることを言ってしまいましたか?」オロオロ
カホ「……ううん、大丈夫。話を中断しちゃってごめんね。ギンコちゃん、『続けて』」
ギンコ「はい」
ギンコ「先程も言った通り、防御として使うのは推奨できません。ただ、全くの無意味というのは言い過ぎでしたね」
-
ギンコ「例えば顔に受けたダメージを吸収して、腕から放出した場合を考えましょう」
ギンコ「本来顔へ来るダメージを腕に肩代わりさせることで、致命的な隙や失神を防ぎ、更には攻撃に転用することまでできます」
ギンコ「トータルで受けるダメージ量は変わらなくても、ダメージを受ける箇所とタイミングを自由に変えられるのは大きな強みです」
メグミ「確かに失神さえしなければ、私の回復魔法でなんとでもなるしね!」
コズエ「そ、そうね……戦闘中に正気を失うのは困るけれど…」
ギンコ「それと、"今は"放出をするとそれまでに溜め込んだエネルギーを一度に出し切ってしまうようです」
カチマチ『今は?』
コズエ「これは感覚的な話だけれど、上手く使えれば保存したエネルギーを少しずつ使うこともできる気がするの」
-
メグミ「ふーん、その心は?」
コズエ「この間花の魔物と戦った時、スクワットで貯めたエネルギーを無意識に分けて使えてたのよ。だから、理論上はエネルギーは自由に取り出せると思うの」
カホ「それができたら大怪我をせずに済みますね!」
コズエ「ええ、今後はその特訓を進める予定よ」
ギンコ「放出のルールとしては、最後にもうひとつ。放出するエネルギーは吸収した時と同じエネルギーとしてしか使えないようです」
ギンコ「カチマチさんの電気を吸収しても、その電気を熱や衝撃に変換して使うことはできません。あくまで電気として放出します」
カホ「複数の属性のエネルギーを同時に保存してる場合はどうなるの?」
ギンコ「あ、その実験はしてませんでした!あとで試してみましょう」
-
ギンコ「と、放出についてはこんなところです。最後に『保存』について」
ギンコ「これはあくまで予測ですが、保存状態では吸収したエネルギーを時間を止めた状態で異次元に保管してるんだと思います」
メグミ「おうおうおう!急に壮大な話になったな!」
ギンコ「すみません…ただ、そうとしか考えられないんです」
ギンコ「そもそも打撃の衝撃などは瞬間的なもので、留めておけるものではありません」
ギンコ「それを保存するとなると、エネルギーの発生時点で時間を止めてるとしか思えません」
カホ「う〜ん…まあ魔法の力だし、何が起きても不思議じゃないのかな」
-
ジャストガード&カウンターみたく攻撃を吸収した瞬間に放出とかできないかな
-
カチマチ『異次元に保管してるとはどういうことですか?』
コズエ「それは感覚的な話だから私から」
コズエ「エネルギーを保存してる状態の時、私自身は体に何の負担も感じていないの」
コズエ「人狼に殴られてる時も、スクワットをしている時も、何かが体に蓄積してる感覚はなかったわ」
カホ「つまり、エネルギーはコズエちゃんの体以外の場所に保管されている。それが異次元ってことですか?」
コズエ「そうよ。あと、これはただの勘なのだけれど…恐らく保存できるエネルギーの量に限界はないわ」
コズエ「無限のエネルギーを保管できる器。そんなもの、この地上には存在しない」
ギンコ「なので便宜上、その器を異次元だと定義しました」
カホ「4次元ボックスってことだね!」
ギンコ「4次元?」
-
コズエ「ただ、放出の時に私の体を仲介するから、実質的に私が耐え切れる分までが溜め込む量の限界になるわ」
メグミ「保存できる量が無限って言うのは、コズエの感覚だから私達は信じるしかないけど、保存できる時間は制限ないの?」
コズエ「それも恐らくないわ」
メグミ「じゃあクエストに行く前にエネルギー溜め込んどいて、魔物と出会った瞬間にドカーン!って一発かますこともできるんだ」
コズエ「できるでしょうね。というか、それが一番強い使い方じゃないかしら」
ギンコ「と、保存魔法についてわかったことはこれくらいですね。何か質問はありますか?」
カホ「う〜ん…」
メグミ「あるっちゃあるけど、今は頭がいっぱいで上手く言語化できない…」
コズエ「まあ、未知の魔法だから仕方がないわ。私も使いながら少しずつ理解を深めるつもりよ」
-
ギンコ「少し話が長くなりすぎましたね」
メグミ「ちょっと休憩〜頭使って疲れた!」
カホ「あたしも頭が沸騰しそうです…」
コズエ「それなら紅茶を入れ直すわ。休憩の後に今日の予定を話し合いましょう」
カホ「久しぶりにクエストを受けますか?」
コズエ「ええ。魔法を実践で試したいし、ギンコさんの初陣も兼ねて」
メグミ「ギンコちゃん家の修理費も稼がないとだしね」
ギンコ「ご迷惑をおかけします…」
メグミ「いいのいいの!困った時はお互い様だよ!」
コズエ「半分以上メグミのせいなのだけれど」
-
カホ「でも、5人分の生活費+ギンコちゃん家の修繕費となると、Bランクのクエストだと報酬が少ないですよね」
コズエ「そうね…そろそろAランクへの昇級試験を受けるべきかしら」
カホ「昇級試験って難しいんですか?」
コズエ「ええ、受験資格がBランククエストの30回連続成功で、その上で筆記試験と実技試験があるわ」
メグミ「うわっ!めんどくさ!」
ギンコ「しかも筆記試験も実技試験もかなりの難易度らしく、毎年合格率は10%程らしいです」
カホ「合格まで時間がかかりそうですね…」
コズエ「でも試験を受けるしか昇級するすべはないわ」
メグミ「すぐにお金稼ぎたいのになー」
カチマチ「……」👂ピクピク
カチマチ「?」
-
『Welcome to ♪ welcome to ♪ welcome to my house〜♪』
コズエ「あら?この音は、お客さんかしら。ちょっと出てくるわね」 パタパタ
カホ「……」
メグミ「……」
カチマチ「……」
メグミ「……今の、なに?」
カホ「知りません…あたしもこの家に来て初めて聞きました…」
ギンコ「あ、今の音ですか?あれは『インターホン』という結界魔法です」
ギンコ「外から結界の中に人が入ると、音で知らせてくれるんです。コズエさんに頼まれて私がつけました」
メグミ「そうなんだ…でも、どちらかと言うと気になってるのは歌の方なんだけど…」
カチマチ『コズエさんの声でしたよね?』
ギンコ「あの歌声は確かにコズエさんのものですよ。音は自由に設定できるので、家主であるコズエさんに歌ってもらったんです」
-
メグミ「へ、へーコズエって歌うまいんだーははは…」
カチマチ『今度はカチマチの『ちぇすとー』も使ってほしいです!』
カホ「カチマチちゃんだと『ワン!』しか聞こえないんじゃない?」
カチマチ『はっ!?そうでした!』
🚪ガチャ
コズエ「どうぞ」
ツヅリ「こんにちはー」
サヤカ「お邪魔します」
メグミ「ツヅリとサヤカちゃんじゃん」
カホ「こんにちはー!」
ギンコ「こんにちは」
ツヅリ「あれ、ギンもいる。やっほー」
-
カホ「今日は普通に入ってきたんですね」
ツヅリ「今日はサヤが一緒だから。お話しながら歩いてきたんだ」
ツヅリ「不思議だね。ただお話してるだけなのに"時間"があっという間に過ぎる。まるで魔法みたいだ」
メグミ「あらあら♡もっとゆっくり歩いてきてもよかったんですのよ♡」
サヤカ「もうメグミさん!またそうやってからかって!」
サヤカ「それよりツヅリさん、今日は皆さんにお話があるんじゃないんですか?」
ツヅリ「あ、そうだった」
コズエ「立ち話もなんですから、どうぞおふたりとも座ってください。ちょうど紅茶を入れようとしてたところなんです」
サヤカ「お気遣いありがとうございます」
-
ツヅリ「ふぅ…コズの紅茶はおいしいね」
コズエ「うふふ、ありがとうございます」
コズエ「それで、もしかしてまた『依頼』をしに来たのかしら…?」
メグミ「この間の人狼みたいなのはやめてよね。危うく全滅しかけたんだから」
ツヅリ「大丈夫。今日は依頼じゃないよ。むしろ、みんなにとっても良い話だ」
ギンコ「良い話?」
ツヅリ「うん。ボクの名前でコズをAランク冒険者に推薦しようと思う」
コズエ「え、推薦?」
ツヅリ「本当は人狼を倒して直ぐに言うつもりだったんだけど、コズが腕を怪我して戦えなくなったから保留してたんだ」
カホ「推薦してくれるってことは、昇級試験とか受けなくていいってことですよね?」
メグミ「やったじゃんコズエ!」
-
コズエ「でも、どうして私を?」
ツヅリ「もともとあの依頼はAランク並の難易度だったし、その上犯人がワーウルフだったからね」
ツヅリ「それを倒したとなれば、Aランク相当の実力があると証明されたも同然だよ」
カチマチ『カチマチはエーランク?にはなれないんですか?』
ツヅリ「キミがとても活躍したのは聞いてるよ。でもごめん、使い魔にはランクは付かないんだ」
カチマチ『そうなんですね…』シュン
カホ「コズエちゃんがAランク冒険者になったら、あたし達も一緒にAランクのクエストに行けるんでしたっけ?」
ギンコ「はい。ギルドの規約では、パーティに1人でもAランク冒険者がいれば、他のパーティメンバーも高ランクのクエストに同行できます」
メグミ「じゃあ全員でAランククエストに挑めるんだね!」
-
ツヅリ「じゃあこれ、ボクからの推薦状。これをギルドの受付に渡せば、Aランク資格をもらえるから」
コズエ「ツヅリさん、ありがとうございます」
ツヅリ「こちらこそ、おいしい紅茶をありがとー」
サヤカ「では、わたし達はそろそろおいとましましょうか」
カホ「え、もう帰っちゃうの!?もう少しゆっくりしていけばいいのに」
サヤカ「そうしたいのは山々ですが、あいにくツヅリさんは多忙な身ですので…」
カホ「そっか、王国騎士さんですもんね」
ツヅリ「ごめんねカホ。今度またゆっくりお話しよう?」
カホ「はい!」
サヤカ「それでは、お邪魔しました」
ツヅリ「バイバーイ」
🚪バタン
-
サヤカちゃん順調そうだなぁ…
-
コズエ「ふう、まさかこんな簡単にAランクになるなんて」
カホ「実績を認められたんですよ!素直に喜びましょう!」
ギンコ「実際、保存魔法を使いこなせればAランクには簡単になれたと思いますよ?それくらいの可能性を秘めた魔法ですし」
メグミ「ていうかカチマチちゃんは仕方ないとして、メグちゃんもAランクになっても良かったんじゃない?この間たくさん人を助けたし!」
コズエ「……もうツッコまないわよ?」
メグミ「うっ…」
メグミ「そ、それじゃさっそく今回からAランククエストに挑戦だー!」
「「おー!」」
-
カホ「……」ツンツン
ギンコ「カホさん?どうかしましたか?」
カホ「ねぇギンコちゃん。あたしでもすぐに覚えられる魔法とかないかな?」
ギンコ「すぐに覚えられる魔法…ですか」
カホ「あたしの役割って基本的に情報収集だから、魔物と対峙したあとは何もすることがないんだよね」
カホ「一応カチマチちゃんのマスターだけど、カチマチちゃんはほとんど自分で判断して動くから、戦闘の指示とかしないし…」
メグミ「わかる!わかるよカホちゃん!やることがないと不安になるよね!」 ポンポン
カホ「あー!メグちゃん自分が回復魔法覚えたからって!余裕な笑みを浮かべるのやめてください!」
-
ギンコ「短時間で覚えられる魔法も無くはないですけど、戦闘で使える魔法に限ると難しいですね…」
カホ「そっかぁ…まあそうだよね」
ギンコ「ですがそんなカホさんにうってつけの物があります。魔道具です!」
カホ「!」
メグミ「そっか、ギンコちゃんの本職は魔道具職人だったね」
ギンコ「最近は色々な魔道具が生まれてますが、やっぱり私が一番おすすめするのは、伝統的な魔道具である『十徳杖』ですね!」
ギンコ「使い方がシンプルかつ多機能で、何よりそのカスタマイズ性に優れた魔道具です!」
カホ「十徳ってことは10種類の魔法が使えるの?」
ギンコ「使える魔法の数はそれを作った職人の腕によるので、必ずしも10種類という訳ではありません」
ギンコ「工房から辛うじて持ち出せた道具と、今の私の技術ではせいぜい3種類しかセットできませんね…」
-
カホ「え!もしかしてギンコちゃんが作ってくれるの!?」
ギンコ「はい。十徳杖はオーダーメイド品ですので」
コズエ「さすがは職人さんね」
カホ「やったー!ねぇギンコちゃん!あたし十徳杖はよく知らないんだけど、どんな魔法でも使えるの?」
ギンコ「さすがに上級魔法は今の私には無理ですけど、大抵の魔法なら使えますよ」
カホ「お〜!」
ギンコ「十徳杖を知らないそうなので、使い方を教えるついでに十徳杖の仕組みを説明しますね」
メグミ「また勉強の時間かぁ…」
ギンコ「今度はそんなに長くなりませんから!」
-
ギンコ「コホン。そもそも、本来魔法を使うのに道具は必要ありません。正しく魔力を回すか、或いは長めの呪文を詠唱すれば誰にでもできます」
ギンコ「でもそれだと、戦闘中咄嗟に魔法を使えるようになるまで、かなりの練習が必要になりますよね?」
ギンコ「それを解決するために生まれたのが『十徳杖』です」
ギンコ「杖に使いたい魔法の呪文を途中まで刻んでおくことで、詠唱時間を短縮できます」
カホ「なんで呪文の途中まで?最後まで刻んでおけば、魔力を通すだけで魔法を使えるよね?」
ギンコ「ほとんどの魔道具はそうなってますが、十徳杖は複数の魔法を使うために敢えて不完全な呪文を刻みます」
ギンコ「完全な呪文を刻んでしまうと、魔力を通した時に必要ない魔法まで一緒に発動して危険だからです」
カホ「あ、そっか」
-
ギンコ「杖に魔力を通して全ての呪文を活性化させ、最後に使いたい魔法の名前を詠唱することで、その呪文だけが完成して魔法が発動するんです」
コズエ「十徳杖ってそういう仕組みだったのね」
ギンコ「ちなみに私が使ってる杖も、おばあちゃんからもらった十徳杖なんです」
メグミ「ああ、だから短い詠唱で色んな魔法使えてたんだ」
ギンコ「十徳杖の仕組みは理解できましたか?ではお待ちかね、杖にセットする魔法を決めましょう!」
カホ「待ってました!やっぱりかっこいい攻撃魔法がいいなー!」
ギンコ「今回は3種類だけなので、私のおすすめとしては『防御魔法』『支援魔法』『攻撃魔法』を1つずつ入れることですね」
-
ギンコ「カホさんは前衛ではないので、生存と支援に特化した方が無難だと思います」
カホ「じゃあそこはギンコちゃんの言う通りにします!」
ギンコ「それではまず、防御魔法から決めていきましょう。代表的な防御魔法は次の3つですね」
ギンコ「魔力の壁を作る『結界魔法』、地面を隆起させて壁にする『防壁魔法』、身体の強度を上げる『硬化魔法』です」
カホ「結界魔法と防壁魔法の違いは?」
ギンコ「結界魔法は魔法攻撃に対して強く、防壁魔法は物理攻撃に強い魔法ですね」
ギンコ「硬化魔法はどちらにも強い代わりに、体を動かせなくなるので隙が大きいです」
カホ「う〜ん、じゃあ──」
1.結界魔法
2.防壁魔法
3.硬化魔法
4.???(自由記述欄)
-
1
-
4.いい加減起きてください!
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1.結界魔法
カホ「決めた!結界魔法にするよ!」
ギンコ「わかりました。では防御魔法は結界魔法をセットしますね」
ギンコ「次は支援魔法を決めましょう。支援魔法は種類が多いですが、私のおすすめは3つです」
ギンコ「物体を浮かせられる『浮遊魔法』、対象の動きを遅くする『遅延魔法』、攻撃の軌道をずらせる『歪曲魔法』」
ギンコ「浮遊魔法は杖を向けてる間、対象を空中に浮かせます。ただ、動きを完全に封じるものではないので注意が必要です」
ギンコ「遅延魔法は数秒間だけ、魔法をかけた相手の動きを遅くします。効果時間が短い代わりに、拘束力が高いのが特徴です」
-
ギンコ「歪曲魔法は遠距離攻撃に対して有効ですが、近接攻撃に対しては著しく効果が下がります」
メグミ「歪曲魔法は微妙じゃない?攻撃は避けるよりコズエが受けた方が得になりそうだし」
ギンコ「それなら敢えて敵の攻撃をコズエさんに集めることもできますよ」
ギンコ「最もそういった使い方をするなら、戦況を瞬時に判断する"勘"が必要になりますが…」
カホ「なるほどー」
ギンコ「サポート系の魔法は、上手く使えば戦況を有利にすることができます。しっかり考えて選んでくださいね」
カホ「そうだな〜じゃあ──」
1.浮遊魔法
2.遅延魔法
3.歪曲魔法
4.???(自由記述欄)
-
1
花帆ちゃんもハリーポッターについて話すなかで触れてたし
-
4.█ク██アイ██はどうするんですか!?
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1.浮遊魔法
カホ「浮遊魔法にする!やっぱりモノを浮かせるのって一番魔法ぽいし!」
カホ「それに、普段からメグちゃんを見てて空を飛ぶのに憧れてたんだ!」
ギンコ「なるほど、自分に対して使うのもアリですね。ただメグミさんのように自由に飛び回ることは難しいですが…」
メグミ「その時は私が手を引いてあげる!空中散歩の極意を教えてしんぜよう☆」
カホ「わーい!」
コズエ「うふふ、楽しそうね」
カチマチ『……』👀ジー
カホ「カチマチちゃんも一緒に飛ぼうね!」
カチマチ『! はい!』
-
ギンコ「では最後に攻撃魔法を決めましょう」
ギンコ「定番で言うと魔弾ですが…きっと普通の魔法では満足できませんよね?」
カホ「おお〜ギンコちゃんすごい!あたしの思考読んでる!?」
ギンコ「という訳で、少しマニアックな魔法を選んでみました」
ギンコ「相手を弾き飛ばす『反発魔法』、無機物を爆発させる『破裂魔法』、陽の光を集めて攻撃する『光線魔法』です」
ギンコ「反発魔法は敵を吹き飛ばすのはもちろん、浮遊魔法で浮かせた物体を飛ばして攻撃したりもできます」
ギンコ「破裂魔法は、石などの無機物に破裂する特性を付与します。殺傷力は高いですが、近くに仲間がいる時は危険なので注意してください」
吟子「光線魔法は陽の光を利用する関係上、天気や場所によって威力が変わります。攻撃力の振れ幅が大きい魔法ですね」
カホ「どの魔法も面白いから迷っちゃうな〜」
ギンコ「一応言っておくと、攻撃魔法にこだわらずに、今まで出てきた魔法をセットすることもできますよ」
カホ「……うん。決めたよ!」
1.反発魔法
2.破裂魔法
3.光線魔法
4.???(自由記述欄)
-
1
-
[規制されたアカウントによる投稿]
[規制されたアカウントによる投稿]
[規制されたアカウントによる投稿]
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1.反発魔法
カホ「…………」
カチマチ『カホさん?どうかしましたか?』
カホ「あ、ううん。なんでもない!」
カホ「最後の魔法だけど、反発魔法にしようと思う!他の魔法はちょっと危なそうだし」
ギンコ「わかりました。では『結界魔法』、『浮遊魔法』、『反発魔法』の3つをセットしますね」
ギンコ「杖に呪文を刻むのに1時間程かかるので、それまで待っていてください」
カホ「うん!よろしくね!ギンコちゃん!」
-
【1時間後】
ギンコ「お待たせしました」
カホ「!」 ガタッ
ギンコ「こちらが完成したカホさんの十徳杖になります」
カホ「おおー!これがあたしの杖…!」
カホ「あれ?呪文刻まれてなくない?」
ギンコ「専用の道具を使って魔素で刻印しています。なので見た目ではわかりません」
カホ「そうなんだ〜」
カホ「ねえねえ!さっそく魔法使ってみていい?」
ギンコ「はい。じゃあお庭に行きましょうか」
メグミ「私もカホちゃんが魔法使うところ見たーい!」
カチマチ『カチマチも見たいです!』
カホ「じゃあみんなで行きましょう!」
-
ギンコ「まずは浮遊魔法を試しましょう。浮かせたい対象に杖を向けて、魔力を込めて『フローティア』と唱えてください」
カチマチ『はいはい!カチマチを浮かせてください!』
カホ「わかった!いくよ…『フローティア』!」✨️
カチマチ『あ、何か体が軽くなった感じがします!』✨
ギンコ「そのままゆっくりと杖の先を持ち上げてください」
カホ「こうかな?」クイッ⤴︎
カチマチ『わっ!カチマチ浮きました!』フワ~
カホ「おー!すごい!あたし魔法使ってるよ!」ユラユラ
カチマチ『あわわっ…あんまり揺らさないでください!』↓~↑~↓
カホ「これだよこれ!この世界に来てからやっと魔法らしい魔法が使えたよ!」
コズエ「?」
-
カホ「ギンコちゃん、他の魔法は!」
ギンコ「では次に反発魔法『レプルス』を使いましょう」
ギンコ「でもカチマチさんをこのまま飛ばす訳にはいきませんし、何に使いましょうか…」
コズエ「私に使ってちょうだい」
カホ「え!?危ないですよ!仮にも攻撃魔法ですし!」
コズエ「いざとなれば魔法で衝撃を吸収するから大丈夫よ」
コズエ「それにどれくらいの威力なのか、作戦を立てる上で知っておきたいもの」
カホ「わ、わかりました!『レプルス』!」✨️
コズエ「!!」 バビューン!
ガシャーン!
カホ「うわぁー!ごめんなさい!」
コズエ「へ、平気よ…」👍
-
コズエ「思ったより勢いよく飛ばされるのね……それに、吸収もできなかったわ」
ギンコ「この魔法自体には攻撃力はありませんからね」
ギンコ「衝撃を加えた訳ではないので、保存魔法が機能しなかったんだと思います」
カホ「大丈夫ですか…?」
コズエ「ええ、受身は魔法を使ってたから怪我はないわ」
カホ「よかった…」 ホッ
ギンコ「最後は結界魔法『ヴァリア』です。使うと自分の周りにドーム状の防御結界ができます」
カホ「わかった!バリア!」
ギンコ「発音が違います。"ヴァ"リアです。カホさんのはバリアー(棒読み)」
カホ「むっ…ヴ、『ヴァリア』!」
魔法を唱えると、カホの周りに小さな光のドームが生成された。
その中はまるで母親の胸に抱かれているかのような安心感がある。
-
カホ「なんか、暖かい…」 ポワー
ギンコ「試しに魔弾を当ててみますね。そのまま結界を維持しててください」
ギンコ「ほっ」 三 🔵
カホ「っ!」
パン!
カホ「……防いだ?」
ギンコ「『ヴァリア』は古くから改良を重ねられた防御魔法です。大抵の魔法攻撃は防げますよ」
ギンコ「物理的な攻撃からもある程度なら守ってくれます」
メグミ「へ〜光の膜に見えるけど触れるんだ」✋ペタ
メグミ「あばばばば!」⚡️
ギンコ「え?」
カホ「メグちゃん!?」
メグミ「うべ…」 バタン
カチマチ『大丈夫ですか!?』
-
コズエ「そういえば、前に街の結界にも引っかかっていたわね」
ギンコ「……」
ギンコ(結界魔法は内部への干渉を防ぐだけで、攻撃性は無いはずなのに…なんで?)
コズエ「まあ、とにかく十徳杖にセットした魔法がどんなものかはわかったわ」
コズエ「それじゃさっそく、久しぶりのクエストに行きましょう!」
カホ「はい!」
ギンコ「あ、はい!」
コズエ「メグミは大丈夫?」
メグミ「うん…ちょっと体が痺れてるけど、すぐに治ると思う」
カチマチ『カチマチ、ちゃんとしたクエストに行くのは初めてです!』
カホ「そういえばそうだったね。頼りにしてるよ!」
カチマチ『はい!がんばるぞーちぇすとー!』
-
【冒険者ギルド】
ガヤガヤガヤ…!
コズエ「なんだかここの雰囲気も懐かしいわね」
カホ「ですね〜」
「おっ!天使ちゃんじゃねえか!」
「ホントだ!今日も可愛いねー!」
メグミ「ありがとうー!ん〜っま♡」
「ひゅー!メグちゃん最高ー!」
コズエ「ちょっとメグミ、いつの間にこんな人気者になったのよ。しかも天使だってバレてるじゃない……」
メグミ「この間の騒動の時にね。色んな人に魔法使ってたから顔見知りが増えちゃって」
メグミ「それにメグちゃんってば、こんなにカワイイ上に本物(マジ)天使な訳だから、どうせバレるのも時間の問題だったと思うな〜☆」
-
カチマチ『さすがはメグミさんです!』
コズエ「まったく、目立ちたがりなんだから…」
「あ!スクワットコズエもいんじゃん!」
「今日は普通に歩いてきたのかい?w」(スクワットのジェスチャー)
コズエ「〜〜〜っ///」
メグミ「コズエも有名人じゃんw」ニヤニヤ
コズエ「うるさいわね!!はやく受付に行くわよ!」
受付嬢「あ!お久しぶりですね、オトムネさん」
コズエ「ご無沙汰してます」
受付嬢「今日はスク…エストを受けに来たんですか?」
コズエ「え、ええ…でもその前に、新しいパーティメンバーの登録と……こちらを」ペラッ
-
受付嬢「これは…なるほど、ユウギリさんからの推薦状ですか」
受付嬢「わかりました。それではオトムネコズエさんをAランク冒険者として登録します」
コズエ「ありがとうございます」
受付嬢「新しくパーティに加入される方は、こちらにサインをお願いします」
ギンコ「は、はい!」 カキカキ
受付嬢「ギルドの規定により、オトムネさんのパーティはAランククエストを受けられるようになります」
受付嬢「今回からさっそく挑戦されますか?」
コズエ「ええ、お願いします」
受付嬢「わかりました。今あるAランククエストはこちらです」
1.森で失踪した王国騎士の捜索
2.『カンカンダラ』の討伐
3.クネクネした魔物の調査
4.???(自由記述欄)
-
3
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3.クネクネした魔物の調査
カホ「これなんてどうですか?」
メグミ「クネクネした魔物?なんじゃそりゃ」
メグミ「記念すべき初Aランククエストがこんな弱そうなのでいいの?」
コズエ「少ない情報だけで判断するのは良くないわよ。まずは依頼の詳細を見てみましょう」
ーーーーーーーーーーー
西門を出てすぐのところに居る魔物を調査、または討伐して欲しい。
この間クエストに行こうとした際に、クネクネと動く奇妙な魔物に遭遇した。
仲間の一人が排除しようと近づいたところ、突然そいつが発狂してクエストどころではなくなってしまった。
このままでは西門を使えなくなってしまう。どうか早急な解決を頼みたい。
ーーーーーーーーーーー
-
カホ「依頼人も冒険者さんみたいですね」
カチマチ『はっきょう、って何ですか?』
コズエ「気が狂ってしまって、まともな会話や行動ができなくなることよ」
ギンコ「発狂したということは、催眠系の魔法を使ってくる魔物でしょうか…」
コズエ「厄介ね。ギンコさんは催眠に対抗できるような魔法は使えるかしら?」
ギンコ「鎮静魔法は使えますが、この魔物の攻撃に対して有効かはわかりません」
カホ「たしかコズエちゃんの保存魔法って…」
コズエ「催眠系の魔法には無力よ」
メグミ「どうする?別のクエストにする?」
カホ「やってみましょうよ!今のあたし達ならきっと大丈夫です!」
-
ギンコ「催眠を使う魔物は、逆に他の防衛手段が無いことも多いです」
メグミ「じゃあ発狂する前に速攻で攻撃ぶち当てて倒しちゃえばいいんだ!」
コズエ「そう上手くいくかしら…」
メグミ「コズエなら初っ端に大火力出せるでしょ?」
カホ「そっか!クエストに行く前にエネルギーを保存しておけばいいって、朝言ってましたね!」
コズエ「でも、あまり強いエネルギーを貯めると放出の時の反動が大きいわよ?」
メグミ「そん時はメグちゃんが回復してあげるって!」 ポンポン
コズエ「不安なのだけれど」
ギンコ「……実はそのことについて、反動を軽減する方法をひとつ思いつきました」
コズエ「え?」
カチマチ『どんな方法ですか?』
ギンコ「それは──」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【西門】
コズエ「ここからはいつ魔物に出会うかわからないわ。みんな、気を引き締めて行くわよ!」
「「はい!」」
依頼書に付いていた地図を頼りに森を進む。
整備されて比較的広い道を歩いていくと、"それ"は突然現れた。
コズエ「! どうやら見つけたみたいね…」
カホ「あの遠くに見えるやつですか?」
メグミ「う〜ん?うわっ本当にクネクネしてるよ…気持ちわるっ!」
ギンコ「白い……何でしょうね?」
コズエ「少なくともまともな生物でないのは確かね」
その魔物は白い体を文字通り『クネクネ』とくねらせていた。
形はよく見えないが、4本の触手のようなものが体から伸びてうねっている。
カチマチ『!!!』 ブルル…
カホ「カチマチちゃん、大丈夫?」
カチマチ『あ、なんか…あれを見てたら気分が悪くなってきて…』 ガタガタガタ
-
ギンコ「まさか…! 目を伏せてください!」 バッ
ギンコ「皆さん一箇所に集まって!カホさん結界魔法を!」
カホ「わかった!『ヴァリア』」
メグミ「急にどうしたの!?」
ギンコ「発狂の条件がわかったかもしれません…恐らく──」
コズエ「"視認"ね……」
メグミ「しにん?」
ギンコ「はい。今のカチマチさんの反応からしてそうだと思います」
コズエ「そうなると尚更に厄介ね…」
メグミ「ちょっと!ちゃんと説明してよ!」
コズエ「要はあの魔物を直視してはいけないということよ」
メグミ「え?さっきガッツリ見てたけど何ともなかったよ?」
ギンコ「多分、遠くて詳細が見えなかったお陰だと思います」
ギンコ「カチマチさんは人間よりも視力が良い分、ハッキリ見てしまったんです。だから私達よりも早く影響を受けたのかと…」
-
カホ「カチマチちゃん気分はどう?」
カチマチ『少し楽になりました!』
ギンコ「結界の中にいれば魔法の干渉は防げます。このまま少しずつ近づきましょう」
メグミ「でも近づいてどうするの?」
コズエ「あらかじめ"仕込んでおいた"アレを使うわ」
カホ「さっきのですね!」
コズエ「それじゃあ進むわよ。カホは結界の維持に集中、あとカチマチさんは念の為直視はしないように!」
カホ「はい!」
カチマチ『わかりました!』
全員で結界の中に入ったままジリジリと進んでいく。
近づくにつれて、魔物の輪郭がハッキリとしてきた。
メグミ「何あれ…遠くからはよく見えなかったけど……木?」
コズエ「確かに、地面から生えているように見えるわね」
ギンコ「まるで人が逆さまになって頭だけ埋めてるみたい…」
-
カホ「なんか、意思みたいなものを感じないから却って不気味ですね…」
ギンコ「魔物の中には生物と言うよりも"現象"に近いものも存在します。あれはその類なのかも…」
コズエ「この位の距離でいいわ。私は結界の外に出るけど、みんなは危険だから結界の中にいて」
メグミ「コズエも気をつけてね」
コズエ「わかっているわ」
コズエは目を閉じて結界の外に踏み出す。
幸い魔物はその場から動く気配は無かった。ならばこちらも相手を視認する必要は無い。
コズエ「ふぅー…」✋スッ
手を前方に向けて突き出し、保存していたエネルギーの塊を解凍する。
コズエ(開けた道でよかったわ。これなら周りの被害は最小限で済む)
-
コズエ『フルリリース──』
コズエ『ファイアトルネード!』🔥🔥🌪❄️
その瞬間、カホ達はまるで石窯の中に放り込まれたかのような灼熱に包まれた。
コズエの腕からは真っ赤な炎が吹き出し、暴風によって束ねられた紅蓮は大蛇の如く前方の魔物を呑み込む。
メグミ「熱っつ!!」
カチマチ『毛が燃えちゃいます!』
カホ「結界魔法って熱は防げないの!?」
ギンコ「熱そのものは魔法じゃ無いから無理です!」
コズエ「う"ぅぅぅ!!」✋🔥ボー!
コズエ「……」✋プシュー
メグミ「もう終わった──って」
メグミ「なんじゃこりゃー!!」
カチマチ『おお!道が真っ黒です!!』
ギンコ「魔物は……跡形も無いですね」
-
コズエが魔法を放ったことで、前方には黒く焼け焦げた道がまっすぐ延びていた。
もはや何処に魔物が居たのか判別することもできない。
カホ「そんなことよりコズエちゃんは大丈夫ですか!?」
コズエ「ええ…少し火傷したけど、この通り無事よ」
ギンコ「この位ならメグミさんの回復魔法を使う必要もありませんね」
ギンコ『リカバー』✨️
コズエ「ありがとう、ギンコさん」
カチマチ『なんでほとんど火傷してないんですか?』
ギンコ「それはコズエさんに炎魔法、旋風魔法の他に氷結魔法も保存してたから」
コズエ「今朝カホが、複数の魔法を同時に保存してた場合どうなるのかって質問をしたでしょう?」
コズエ「それでその後に実験したら、複数の魔法も同時に放出できることがわかったの」
カホ「つまり炎魔法のダメージを氷結魔法でカバーしてた訳ですね!」
コズエ「そういうことよ。上手くいって良かったわ」
-
メグミ「にしてもすごい火力だったね…まじでワンパンだったじゃん」
ギンコ「傍から見たら上級魔法だと思われてもおかしくありませんね」
メグミ「もうこれで依頼は完了?」
コズエ「そうね。魔物の姿は見えないし」
カチマチ『呆気なかったですね』
カホ「あたし結界魔法しか使えませんでした…」 シュン
コズエ「そ、そう落ち込まないで!カホの結界魔法が無ければ、魔物に近づくことすら難しかったわ!」
カホ「あたし、役に立ちましたか?」
コズエ「もちろんよ!とっても助かったわ!」 💦
カホ「なら良かったです!」
-
ギンコ「さあ、暗くなる前にギルドに報告に行きましょう」
カチマチ『今回は楽勝でしたね!』
メグミ「これで報酬いくらだっけ?」
カホ「確か25万SIsCaですよ!」
メグミ「おお!さすがAランク!こんな調子ならすぐにお金溜まっちゃうね!」
カホ「ですね!」
ガサ……
コズエ(? 今後ろで物音が聞こえた気が──) クルッ
👁 👁
コズエ「あ──」
それは、一瞬の気の緩みだった。
倒したと思っていたばかりに、コズエは無防備に後ろを振り返り、そして──
"それ"と、目を合わせてしまった。
-
ヤバいよヤバいよ…
-
コズエ「あ、あ ああ──」ガタガタ
カホ「コズエちゃん?どうかしましたか」 クルッ
スゥー…
カホ「え」
カホ(今、コズエちゃんの中に何かが…)
コズエ「ア だメ──入っテ 来ル──」ガタガタガタ…!
コズエ「 」 スン
コズエ「──アハ」
コズエ「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
カホ「!」 ビクッ
カチマチ『コズエさん!?』
メグミ「は?なに?これコズエの声なの??」
コズエ「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」 ビクン!ビクン!ビクン!
ギンコ「発狂…!あの魔物倒せてなかったの!?」
-
メグミ「おいコズエ!しっかりしろ!!」 ペチペチ!
カホ「ギンコちゃん!コズエちゃんに鎮静魔法を!!」
ギンコ「う、うん…!」
ギンコ『リラックフィール』✨️
コズエ「アハハハハ──アハ──ハ──」
コズエ「 」 バタン
カホ「コズエちゃん!」
メグミ「ちょっとコズエ!大丈夫!?」 ユサユサ
コズエ「 」 ムクッ
コズエ「えエ──ワタわたクしハ──ダイ丈夫──」
カチマチ『!』ゾワッ
メグミ「よかった……驚かせるなっつの!」 バシッ
カホ「戻らなかったらどうしようかと──」
カチマチ『違います!!その人はコズエさんじゃありません!!!』
カホ「え?」
-
💪ブン!
カホ「きゃっ!」 バタン
メグミ「!!なにを──」
コズエ「……」 👊ドカ!
メグミ「ぐわっ!」
コズエは虚空を見つめたまま、顔も動かさずにカホとメグミを突き飛ばした。
ギンコ「コズエさん!?落ち着いてください!」
カチマチ「ガルルルル!バウ!」ダッ
ギンコ「あ、カチマチさん!」
カチマチは地面を強く蹴って、コズエに体当たりを仕掛ける。
カチマチ『コズエさんから出てけ!』
コズエ「……」✋トン
カチマチ「!?」 ピタッ
しかし、コズエは自分の3倍はあろう体格のカチマチを、片手で軽々と受け止める。
否、受け止めたと言うよりも、コズエが鼻先に触れた瞬間、カチマチは推進力を失い急停止した。
-
コズエ「タワ わたくしハ 大丈夫…」ガシッ
ブォン!
カチマチ『うわーっ!!』 ポーーン!
カチマチ『っ!』バタン!ゴロゴロ…
カホ「コズエちゃん…どうして……」
コズエ「カ カカカ カ ホ」 クネクネ
メグミ「あの動き…!さっきの魔物と同じ!?」
ギンコ「コズエさんには悪いですけど…まずは無力化します!」
ギンコ『ワールウィンド!』🌪
ギンコが生み出した竜巻は、一直線にコズエに向かって吹きすさび、その体を吹き飛ばす──はずだった。
コズエ「……」 🌪ファ…
ギンコ「!?」
竜巻がコズエに直撃した瞬間、それまでとぐろを巻いていた風は、まるで絡まった紐が解けるように一瞬で掻き消えてしまった。
ギンコ「これは……まさか!」
コズエ「リ リリ──」
-
コズエ『リリース』 三 ビュン!
ギンコ「!!!」
コズエは短い詠唱を行うと、予備動作もなしに地面を蹴り、ギンコに急接近する。
コズエ「……」👊ゴッ!
ギンコ「かはっ──」
コズエ『リリース』🌪
ブオーーン!!!
ギンコ「っ!!」
腹部への強烈な一撃、さらには時間差で突如強風が吹き荒れる。
その風によってギンコは後方に吹き飛ばされて、体を木に強く打ち付けてしまった。
コズエ「ごほっ…!」
カホ「今の攻撃……」
メグミ「発狂して敵味方の区別がつかなくなったの?」
カチマチ『違います…!そもそもあれはコズエさんじゃありません!』
メグミ「コズエじゃない?」
カホ「実はあたしも見たんです。コズエちゃんの体に、さっきのクネクネが入っていくのを……」
メグミ「つまり、コズエは乗っ取られてるってこと!?」
カホ「たぶん…」
-
コズエ「」 ダッ!
カホ「! 来た!」
カチマチ『させません!』 バッ
メグミ「コズエにカホちゃんは殴らせないよ!」バッ
メグミはカホとコズエの間に割り込み、カチマチは横からコズエに向かって突進する。
コズエがメグミを殴るのと、カチマチが激突するのはほぼ同時。
コズエ「……」
👊ブン!
メグミ「っ!」
👊ポム
メグミ「へ?」
カチマチ『ちぇすとー!』ダッ!
✋トン…ピタ
カチマチ『! さっきと同じ──』
コズエは拳をメグミの胸元につけたまま、片手でカチマチを受け止める。
コズエ『リリース』
メグミ「がっ──!」ドン!
カチマチ『うわっ!』 バン!
コズエは二人に触れたまま魔法を詠唱する。直後、メグミとカチマチは弾かれるように吹き飛んだ。
-
メグミ「げほっ!げほっ…!」
カホ「メグちゃん!カチマチちゃん!」
カチマチ『またです…コズエさんに触れた瞬間に力が抜けて』
ギンコ「保存魔法を使いこなしてる…」 ヨロッ
カホ「ギンコちゃん!大丈夫?」
ギンコ「回復したから大丈夫です」
ギンコ「それよりコズエさん──に憑依した魔物、恐らく記憶を読んで魔法の使い方を理解してます!」
メグミ「はぁ!?魔物のくせに生意気だ!」
カホ「どうしたらコズエちゃんは元に戻るの!?」
ギンコ「上級の浄化魔法ならあるいは…」
メグミ「じゃあまたルリちゃん呼ぶ?」
ギンコ「できるならそれがいいです。でも──」
コズエ「」ダッ!
ギンコ「コズエさんがそれを許すかどうか!」
-
ギンコ「はっ!」ピョン
勢いよく飛び込んでくるコズエを、ギンコは間一髪で横に避ける。
👊ポム
コズエの攻撃はギンコの代わりに背後の木に当たった。
コズエ「」💪ブン!
ギンコ「くっ!」スカッ
続く二撃目の攻撃、薙ぎ払われた腕をギンコは鼻先一寸のところでギリギリ避けた。
💪ポム
大きく振った腕は近くの木に当たるが、まるで軽く触れただけのように音もなく衝撃が吸収されていく。
ギンコ(私の攻撃魔法は殆どコズエさんには効かない!避け続けるしかないの!?)
コツ…
ギンコ「あっ──」ヨロッ
コズエに集中していたギンコは、足元の木の根に気付かず体勢を崩してしまった。
コズエ「」👊ブン!
ギンコ(しまっ──)
コズエ『フルリリース』👊バン!!!
ギンコ「ごっふ──!」
三回分の殴打の衝撃を一度に受け、ギンコはボールのように地面を跳ねる。
-
ドサッ!
カホ「ギンコちゃん大丈夫!?」
ギンコ「──」 グタ…
カホ「まずい…血を吐いてる!メグちゃん回復魔法を!」
メグミ「了解!『メグ リカバー』」
コズエ「」ダッ!
カホ「!」
コズエは追い討ちをかけるようにカホ達へ向かって走り来る。
カホ(カチマチちゃん──ダメだ!間に合わない!)
コズエ「」👊ブン!
カホ「!レ、『レプルス』!!」✨️
コズエ「 」バウン!
拳が顔面に当たる寸前、咄嗟に口に出た魔法がコズエの体を弾き飛ばした。
カホ「あれ?あ、そっか…!反発魔法は吸収できないんだ!」
ギンコ「……反発魔法だけじゃありません。浮遊魔法もです…」ムクッ
カホ「!」
ギンコ「コズエさんを浮かせてください!"まだ"遠距離攻撃は手に入れてないはずです!」
-
カホ「わかった!『フローティア』!」✨️
コズエ「……」フワ〜↑
カホ「浮かせたよ!」
ギンコ「これで少しは時間を稼げるはず…」
コズエ「……」ジタバタ!
メグミ「コズエ暴れてるけど大丈夫?」
ギンコ「恐らくは……」
カホ「どうする?ルリノちゃんを呼ぶ?それともいっそコズエちゃんをこのまま教会に連れてっちゃう?」
ギンコ「さすがに未知の魔物に取り憑かれた人を街に入れるのは…」
メグミ「じゃあこっちから呼びに行くしかないけど、カホちゃんそれまで魔力もつ?」
カホ「ごめんなさい、無理かもです…」
ギンコ「となると私達だけでコズエさんを救うしかありませんね」
-
コズエ「……」ジタバタジタバタ!!
カチマチ『強めに叩いたら魔物が飛び出てきたりしませんか?』
カホ「それだと叩いた衝撃を吸収されて終わりだよ」
メグミ「てかあの魔物、コズエ以上に魔法使いこなしてない?」
ギンコ「確かにそうですね…」
カホ「さっきギンコちゃん、魔物がコズエちゃんの記憶を読んでるって言ってなかった?」
ギンコ「コズエさんの口癖やカホさんの名前を言っていたので、そうかなと思いまして…」
コズエ「……」バタバタバタバタ!
カチマチ『魔物は何が目的で取り付いたんでしょう?』
メグミ「何って……魔物の行動に意味なんてあるの?そういう生態ってだけじゃなくて?」
ギンコ「でも、もしも目的があるとしたらそれは──」
カホ「成り代わり?」
「「!!!」」
それは、ほぼ無意識に口をついて出た言葉だった。
-
ギンコ「そういえば、依頼書には発狂した人がどうなったかは書いてありませんでしたね…」
メグミ「いやいや!それはおかしいでしょ!そしたら魔物が何体もいることになるじゃん!」
ギンコ「私達が見たクネクネが魔物の本体とは限りません。もしかしたら触手みたいに体の一部だったのかも」
カホ「じゃあ発狂した人は魔物が成り代わって、今も街で暮らしてるってこと…?」 ゾッ
メグミ「考えたくもないね…」
カチマチ『なんにせよ、早くコズエさんを助けないといけません!』
メグミ「そうだね…って──」
コズエ「…」バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!
メグミ「ちょっと!あいつ何してるの!?」
カホ「自分の胸を叩いてる…?」
メグミ「コズエの体なんだからもっと丁重に扱いなさいよ!!」
-
ギンコ「自分を叩いて──あ」
ギンコ「皆さん!カホさんを守ってください!」
カホ「??」
コズエ「…」 ピタ
コズエ「フルリリース」👊ブン!
コズエは先程まで暴れていたのが嘘のように停止すると、空中でカホに向かって正拳突きを繰り出す。
当然、距離が離れているため直接拳が当たることは無い。
しかし──
ボンッッ!!!
カホ「きゃっ!」 バタン
拳と共に放たれた衝撃波がカホ達を直撃する。
不可視の攻撃を受け、カホは思わず杖の先をコズエから外してしまった。
コズエ「…」 ストン↓
メグミ「そういえば自分一人でもエネルギー貯められるんだった!」
カホ「無法すぎません!?」
コズエ「」ポタ…ポタ…
カチマチ『コズエさんの腕が…』
ギンコ「さっきの衝撃で腕の方が耐えられなかったんだと思います」
メグミ「他人の体だからって雑に使いやがって…!」
-
カホ「もう一度浮遊魔法を──」
コズエ「」サッ!
メグミ「あ!逃げた!」
ギンコ「追いましょう!」
カチマチ『スピードならカチマチも負けません!』⚡️バチバチ
カチマチ『待てーー!!』⚡️ダッ!
カホ「カチマチちゃん!?一人で行っちゃダメだよ!」
コズエは道を外れて木々の生い茂る森の中に逃げた。
森の中は薄暗く、そびえ立つ木が視認性を下げてコズエを見失わせる。
だが、カチマチも獣だ。
人間の数千倍はある鋭い嗅覚と、軽やかな身のこなしですぐさまコズエに追いつく。
カチマチ『追いつきました!』⚡️
コズエ「」クルッ
✋スッ三
カチマチ『おっと!』 ヒョイ
カチマチ『ふふん!電気を奪おうとしてるのはわかってます!カチマチは足止めをするだけです!』⚡️
コズエ「……」
コズエ「」ダッ
カチマチ『あ、逃がしません!』⚡️
カチマチ(あれ?そういえば……)
カチマチ『触れないのにどうやって足止めしよう!?』
-
コズエ「」👊ブン
🌳👊ポム
🌳👊ポム
🌳👊ポム
コズエは走りながら、すれ違う木に次々と拳を当ていく。
カチマチ『木を殴ってる…ってことは!』
コズエ「」🌳ゲシッ
タン!
カチマチ『!』
前方にある木を蹴り、コズエは唐突に進行方向を変え、カチマチに向かって飛び込んできた。
カチマチ(またあの攻撃が来る!)
コズエ「 」👊グッ
カチマチ(避けられない!ならいっそ!)
コズエ「フルリリース」👊ブン!
カチマチ『ちぇすとー!!』 ダッ⚡⚡️
カチマチは避けられないとふむと、拳に対して渾身の頭突きで迎撃する。
⚡️⚡️)( ゴツン!!
カチマチ『痛っった!!』クラッ
コズエ「…」⚡️ビリリ…
カホ「やっと追いついた!カチマチちゃん無事?」
カチマチ『うぅ〜なんとか…』💫ピヨピヨ
メグミ「クラクラじゃん!回復するからじっとしてて!」
カチマチ『はい〜』
-
コズエ「 」⚡️ピクッ …ピクッ…
ギンコ「痙攣してる…攻撃が当たったの?」
カチマチ『コズエさんの攻撃に合わせたら当たりました!』
ギンコ「! そっか、吸収と放出は同時にできないから!」
カホ「カチマチちゃん頭いい!」
カチマチ『? よくわからないけど、やってやりました!』 エッヘン!
メグミ(絶対そんな深く考えてなかったでしょ…)
コズエ「メ グミ わたくしも 回復を…」
メグミ「っ!?それ以上コズエの声でしゃべるな!!」 イラッ
ギンコ「また暴れられたら危険です!いったん無力化する方向性で構いませんね?!」
カホ「本当は嫌だけど……コズエちゃんの体で好き勝手される方がもっと嫌っ!!」 スッ
カホ『フローティア!』
コズエ「」 フワッ↑
ギンコ「カチマチさん!爪や牙で攻撃してください!」
カチマチ『わかりました!』ダッ!
-
コズエ「」✋スッ
カチマチ『うぉぉぉぉ!』 ズバ!
コズエ「…」 ピシッ
メグミ「攻撃が通った!?」
ギンコ「保存魔法は刃物による攻撃が苦手なんです!」
カチマチ『畳み掛けます!』
カチマチ『とりゃーー!!』 ダッ!
コズエ「」 ゲシッ!
カチマチ『うがっ…!』
コズエは飛びかかってきたカチマチを蹴り、カホの杖の先から体を外す。
コズエ「」 スタッ↓
カホ「あっ」
コズエ「」 👊ブン!
カホ『レプルス!』
コズエ「」 グオン!
拳を振りかぶってきたコズエを、カホは反発魔法で弾き飛ばす。
コズエ「」 🌳ポム!
コズエは後方に勢いよく飛ばされ、背中を木に"強く"打ち付けた。
-
ドラミングで力ためるの殺人ゴリラ感が増してきた
-
ギンコ『ウォーターカッター!』ピュシー!
コズエ「」サッ
🌳ズバッ!
カホ「ちょっとギンコちゃん!あんまり木を傷つけないで!痛いって言ってるよ!」
ギンコ「そこ気遣ってたら私達が殺されるやろ!?」
コズエ「…リリース」 ダン!
カホ「!」
ギンコ「!」
カホ『レプルス!』
コズエ「」シュバ!
🌳タッ!
🌳タッ!
🌳タッ!
カホ「動きが読めない…!魔法が当てられないよ!」
ギンコ「落ち着いて!最後にはこっち向かって来るはず!それまで目を離さないでください!」
🌳タッ!
コズエ「」ゲシッ!
メグミ「うぎゃ!?」 ドン!
カホ「え?」
ギンコ「! 回復役を…!」
-
カホ「メグちゃんから離れて!『レプルス』」
コズエ「」 スッ
メグミ「うぉぉ!?」 グオン!
ピューーーン!
カホ「身代わりにした!?」
👊ブン!
ギンコ(しまった!避け──)
カチマチ『ふん!』⚡️ドン!
コズエ「」バタン!ズサー…
カホ「!! ありがとうカチマチちゃん!」
カチマチ『隠れてた甲斐がありました!』⚡️
ギンコ「意識外からの攻撃には対応できないみたいですね」
カホ「カチマチちゃん!また木の影に隠れて隙を見て攻撃して!」
カチマチ『了解です!』サッ
コズエ「…」ピタ
カホ「あれ?動かなくなった…」
ギンコ「カチマチさんを警戒してるんです。でも、攻撃してこないなら好都合!」
ギンコ「浮遊魔法をお願いします!同時に仕掛けましょう!」
カホ「わかった!」
-
ギンコ『ウォーターカッター!』ピュシー!
コズエ「」 スッ
自身に向けて放たれる高圧の水流を、コズエは無駄のない動きでひらりと躱す。
カホ「そこ!『フローティア』」
コズエ「」フワッ
ギンコ「ふっ!」ピュシーー!⤴︎
ズバッ!
コズエ「あ ああ あああ」ブシャー
カホ「効いた!」
コズエ「ン カホ…やめて」
カホ「!」 ピクッ
コズエ「」ストン↓
ギンコ「あっ!カホさん!惑わされないでください!」
カホ「ご、ごめん!でも今の声、本当にコズエちゃんの…」
ギンコ「それだけ記憶を学習してるってことです!」
コズエ「」ダッ!
ギンコ「! ほら来ますよ!魔法の準備を!」
カホ「う、うん!」
💪ブン!
カチマチ「…」 タッ!
コズエ「」チラッ
-
カチマチ『ちぇす──』
👊ガシッ!
カチマチ『!?』
コズエ「」⚡️バチバチ…
カチマチ『う…力が抜ける…』⚡️ガクン
カホ「電気を使っちゃダメ!!吸われてるよ!」
カチマチ『ち、違うんです!カチマチ電気は使ってません!無理やり引き出されてるんです!!』
カホ「え?」
ギンコ「保存魔法…そんなことまでできるん!?」
コズエ「」⚡️⚡️⚡️バチバチ…
ギンコ「まずい…!カホさん結界魔法を!」
カホ『ヴァリ──』
コズエ「ダメよ、カホ」
カホ「!」 ビクッ
コズエ「んふ、いい子ね」ニコッ
-
コズエ「フルリリース」⚡️
⚡️⚡️⚡️バリバリバリ!!
カホ「あ"っ──!」⚡️ビリリ
ギンコ「う"ぐっ──!」⚡️ビリリ
カチマチ『カホさん!ギンコさん…!』
コズエ「」グイッ
カチマチ『!』
コズエ「」ゴッ!!
カチマチ『おぇ!』
コズエ「」ポイッ!
カチマチ『…』バタン
メグミ「はぁはぁ…やっと戻ってこれた」プカ〜
メグミ「みんな大丈…夫──」
カチマチ「……」グテ…
カホ「 」⚡️ビリリ…
ギンコ「 」⚡️ピクッ…ピクッ…
メグミ「そんな……」
-
コズエ「あら、メグミ」
メグミ「!」
コズエ「遅かったわね。いったいどこまで飛ばされていたの?」
メグミ「…あんたは、コズエなの?」
コズエ「なに馬鹿なこと言ってるのよ?私はオトムネコズエに決まって──」
メグミ「嘘だっ!!!!」
メグミ「コズエがカホちゃん達を傷つけるばすないでしょうが!!」
コズエ「これは魔物がやったのよ。でも安心して、もう倒したから」
コズエ「そんなことよりも、傷を治してくれないかしら?かなり痛むのよ」
メグミ「あのさぁ…コズエに成り代わろうってんなら、もう少し上手くやってくれない…?」💢イライラ
メグミ「なんで倒れてる仲間より自分の回復優先すんのよ!!」
コズエ「……話が通じないわね。もしかしてメグミじゃないのかしら?」
コズエ「魔物に取り憑かれてるなら、殺すしかないわね」
メグミ「っ!」
-
メグミ(どうする!?私の力だけじゃ絶対に勝てない!)
メグミ(増援を呼ぶ?いや、そんなことしてる間にみんなが殺される。そもそも私を逃がしてくれない)
メグミ(回復魔法でコズエの意識を復活させるとか?でも失敗すれば敵の傷を治すことになるし…)
メグミ「ああもう!どうすればいいの!?」
メグミ(それでも選ばなきゃ…今動けるのは、私だけなんだから!)
メグミ(ここは──)
1.助けを呼ぶ
2.回復魔法をかける
3.もう運を天に任せちゃおう!
-
3
-
1
-
3で
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3.もう運を天に任せちゃおう!
メグミ「あああ!考えるのめんどくさい!」
メグミ「いっそ運を天に任せちゃおっか☆」
メグミ「──って、何言ってんの私!?!?」
メグミ「それで何とかなるならとっくに解決してるっての!」
メグミ「だいたい天使は私なんだから、人任せどころか自分任せじゃん!!」
メグミ「…………ん?"天"に任せる──」
コズエ「そろそろいいかしら?独り言も聞き飽きたのだけれど」
メグミ「……」ジー
メグミ「…よかった、コズエの魂はまだ傷ついてない。これなら──」
メグミ「1回くらい死んでも大丈夫だね!」
-
コズエ「は?死ぬ?あなたが?」
メグミ「お前じゃい!」
コズエ「はったりを言っても無駄よ。メグミには私を殺せる技なんて無いわ」
メグミ「あるんだな〜これが」
メグミ「あんた、私が弱いから全然攻撃してこなかったんでしょ」
コズエ「そうね、周りを回復する隙さえ与えなければ、あなたは完全な無力。いつだって殺せるもの」
メグミ「ふん!その判断を後悔させてやるから!」
メグミ「死にたくなければ"避け"てみろ!くらえ──」
メグミ『エンジェルブロー!』👊🔥
コズエ「はぁ…何かと思えば」
✋パシッ
コズエ「それが勢いだけの技だということはわかっているのよ。避けるまでもないわ」
コズエ「ふん!」👊ブン!
メグミ「がっ…!」
-
☁️ゴロゴロ…
コズエ「天気が崩れてきたわね」
コズエ「降られる前に帰りたいし、そろそろ終わりにしましょう」
メグミ「……やっぱり、受けてくれた」
コズエ「?」
メグミ「これはコズエも知らないことだから、記憶を読んでるなら尚さら避けないと思ったよ」
コズエ「何を言って──」
メグミ「これは"烙印"なの。天使はね、罪のある者にしか攻撃しない」
メグミ「そして、罪には"罰"が必要なんだよ!」
誘拐犯、ドラゴン、etc…これまでメグミエルの攻撃を受けた者は、例外なく最悪の結末を辿ってきた。
天使に攻撃されるということは、すなわち罪人の証明。
その烙印を押された者には、必ず"天罰"が下される。
🌩️ゴロ ゴロ ゴロ!ビシャーン!!
⚡️
⚡️
⚡️
コズエ「がっ──!?」⚡️ビリリ!
-
空が割れたような壊音と共に、一筋の稲妻がコズエの近くに落ちる。
完全なる意識外からの攻撃に、コズエは魔法を使う隙もなく、もろに電流を浴びてしまった。
コズエ「あ ががが ──」⚡️ビリリ
メグミ「ばかなやつ…何も考えずに私を殺せば良かったのに。下手に記憶なんて読むから、そういう判断ミスをするんだよ」
コズエ「デ でも、直撃はシなかっタ … 運はまだ ワタくしの味方に…」
メグミ「いいや、"運"はあんたの敵だよ!」
ザッ!⚡️
コズエ「!!」
カチマチ『……』ノシ ノシ⚡️⚡️⚡️バチバチ!
コズエ「カチマチ さン…」
カチマチ『メグミさん……』⚡️
メグミ「大丈夫!後のことは私が何とかするから!カチマチちゃんは何も気にせず、こいつを全力でぶっ殺して!!」
カチマチ『……わかりました!!』⚡️⚡️
-
コズエ「」👊グッ
カチマチからの殺気を感じ取り、コズエは拳を構え戦闘態勢に入る。
カチマチ『すぅー……ふん!』⚡️バチン!
💪 ボト…
コズエ「──は?」
稲妻が地面を駆ける。
カチマチは電流そのものとなり、音をも置き去りにして敵の片腕を切り落とす。
コズエ「ッ〜〜!!!」ブシャー!
カチマチ『コズエさんの体だからって容赦はしません!』
カチマチ『必殺!『一番星ファースト・スター』!!』⚡️ダッ
🌟ズバババババッッ!!!
コズエ「こふっ──」グラッ
雷光は五芒星を描きながら神速で走り回る。
コズエが攻撃を認識した時には、既に5発の斬撃が全身を切り裂いた後だった。
コズエ「こンな技 シらナい……」
カチマチ『今考えました!!』⚡️
コズエ「むチャくちゃ だワ…」
-
カチマチ『トドメです!ちぇすとー!』⚡️
ガブッ!!⚡️
コズエ「ッッッッッア!!」
大きな牙を体に突き立て、カチマチは相手の命を刈り取りにいく。
コズエ「まダ 負けテナい」👊ガシッ
カチマチ『!』⚡️
コズエ「吸収…」⚡️ビリビリ!
コズエはカチマチの体を掴むと、先程と同じように電流を吸収し始めた。
カチマチ『今ならカチマチも負けません!どっちが先に音を上げるか勝負です!』⚡️⚡️⚡️バチバチ!
まるで相撲を取るように組み合う二人。
カチマチは相手の胴に噛み付いたまま、ありったけの電流を放出する。
コズエはそれを必死に抑えるが、吸収しきれず漏れた電流が、時折周辺の木に放電し焦げ跡を作っていた。
-
カチマチ『うぉぉぉぉぉ!!』⚡️⚡️
コズエ「くッ──!」⚡️⚡️
🌳⚡️バチン! ⚡️バチバチ!
メグミ「やば…下手に近づいたら巻き添え食らう!」
メグミ「お〜い!そんなに吸収して大丈夫ぅ〜?放出する時はダメージ受けちゃうんだぞ☆」
コズエ「そンなの 一度にほウシュつしナければ イイだけのことヨ」⚡️⚡️ビリリ
膠着状態は依然として崩れることは無い。
しかし、カチマチの電気が有限であるのに対し、保存魔法の容量は無限。
徐々に放電する量が減り、カチマチの顔からも余裕が無くなりつつあった。
カチマチ(このままじゃ…)⚡️ピリピリ…
「カチマチさん、離れて」
-
カチマチ『!!!』 バッ!
メグミ「え、どうしたの?」
カチマチ『メグミさん!今すぐカホさん達を連れて逃げてください!』
メグミ「はあ!?逃げろって…二人も抱えて飛べないんですけど!?」
ギンコ「カホさんの…杖を……」スッ
メグミ「っ!」 パシッ
メグミ(浮遊魔法?反発魔法?いや──)
メグミ『ヴァリア!!』ブン
コズエ「ソの程度ノ魔法で──」
??? 『フルリリース : アンペア』
コズエ「こァッッッ──!?」キーン
⚡️⚡️⚡️⚡️⚡️バーーーーン!!!
瞬間、眩い閃光と共にコズエの体が爆発した。
1千ボルトもの超高電圧が一度に放出されたことで、周辺の木々は焼け焦げ、地面も結界魔法の中以外は黒く変色していた。
-
メグミ「っ〜〜〜!!びっくりしたー!」
メグミ「はっ!カチマチちゃん大丈夫!?」
カチマチ『うぉぉぉぉ!目が!目がぁぁ!!』バタバタ!
メグミ「よかった…さすがに雷耐性はあるよね」
コズエ「 」バタン…
メグミ「!」
黒く変色した地面の中心に、先程までコズエだったモノが倒れている。
木炭のような体は固く硬直し、毎日手入れを欠かさなかった自慢の紫髪は灰になって消えていた。
その体からは煙の他に黒い魔素が霧のように立ち上り、空中に霧散している。
メグミ「……」チラッ
メグミは傍らに横たわるカホを確認し、密かに安堵した。
メグミ(よかった…コズエの姿をカホちゃんに見られずに済んで…)ホッ
メグミ「あとは私の仕事!絶対に生き返らせるから!!」
-
花の魔物の時と同じように、感覚を拡張してコズエの魂を探す。
メグミ「見つけた!」👊ガシッ
メグミ「ふん!」ポス!
美しいマーメイドグリーンの人魂を、木炭の様な体に無理やり押し込む。
メグミ「ありったけの魔力を使って…!」
メグミ『メグ リカバー!!!』
コズエ「 」✨キラキラキラ…
暖かな白い光がコズエの体を包む。
黒く硬い皮膚は血色と体温を取り戻し、長い髪も元と同じ長さまで生え揃った。
何も知らない人が見たら、炭から人間を創り出したと錯覚するかもしれない。
これは、それ程の"奇跡"だった。
コズエ「ん……メグミ…?」
メグミ「よっ、あんたは本物?」
コズエ「さぁ、どうかしらね…証明する手段がないわ…」
メグミ「あーその生真面目さは本物のコズエだわ」
コズエ「何故かしら…あまり嬉しくないわね…」
-
メグミ「それよりも、さっきの爆発やったのコズエでしょ。なんで死ぬとわかっててあんな事したの?」
コズエ「……だって、メグミが何とかするって言ってたじゃない?」
メグミ「ははっ…聞こえてたんかい」
カホ「コズエちゃん!!!」ギュ!
コズエ「カホ!?」
カホ「コズエちゃん…無事でよかった…!」
メグミ「気をつけなよカホちゃん。こいつまだ偽物かも知んないってさ」
カホ「違います…!このコズエちゃんは本物のコズエちゃんです!」ギュー!
コズエ「ンカホ…苦しいのだけれど」
メグミ「あ、ごめん!私もう回復魔法使う魔力残ってない…」
ギンコ「大丈夫です。カホさんとカチマチさんは私が回復しました」
カチマチ『はい!元気100倍です!』
メグミ「そういえば、依頼は完了でいいのかな?コズエに取り憑いたのは倒したけど、あいつだけじゃないっぽいんだよね」
ギンコ「一応、依頼の内容は魔物の"調査"です。『視認すると体を乗っ取ってくる魔物がいる』と報告すれば、私達の仕事は終わりでいいでしょう」
ギンコ「あとは教会や王国軍とかが何とかしてくれますよ」
-
メグミ「そっか…んじゃあ帰りますか!」
カホ「そうですね!」
コズエ「ま、待って!!」
メグミ「?」
コズエ「その…何か着るものが欲しいのだけれど……///」
カホ「あ」
コズエの服は爆発の衝撃とともに灰になって消えている。
メグミの回復魔法でも、消え去った服までは再生できない。
とどのつまり、コズエは今──全裸であった。
メグミ「…………まあ、みんなに迷惑かけたし、罰としてそのまま帰ろっか☆」
コズエ「っ〜〜〜〜〜〜〜///」
コズエ「絶対に嫌なのだけれどーーー!!!」
『クネクネした魔物の調査』完了!
-
めぐちゃんカッコいい
-
乙
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【おしえて!魔法教室】
ギンコ「前回に引き続き、今回も私モモセギンコがこのコーナーを務めさせていただきます」
『フローティア』
浮遊魔法。
物体を浮かすことができます。
初心者にこの魔法を教えると喜ばれるので、魔法教室の鉄板メニューになってます。
『レプルス』
反発魔法。
物体を弾き飛ばすことができます。
攻撃魔法という分類ですが、この魔法自体には攻撃力はありません。
『ヴァリア』
結界魔法。
防御系の中でも、特に魔法攻撃に強い防御魔法です。
ドーム状に見えますが、実際は使用者を中心とした球状の結界になっています。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【ツヅリの家】
サヤカ「ツヅリさん、起きてください」
ツヅリ「zzz…」
サヤカ「朝ごはんできましたよ?」
ツヅリ「ん……ごはん…」
サヤカ「はい。今日はツヅリさんの好きなものを作りました」
ツヅリ「好きなもの……サヤ?」
サヤカ「わたし食べられちゃうんですか!?そうではなく…いや、嬉しいですけど!」
ツヅリ「ふふ、サヤ真っ赤。やっぱりおいしそうだ」グイッ
サヤカ「きゃっ!」 パタン
ツヅリ「すー……サヤ、いい匂い」ギュ
サヤカ「っ!」
-
サヤカ「も、もう!ベッドに引きずり込んでもダメですからね!」
ツヅリ「ダメなの?ボクはこのままサヤと寝てたいな」
サヤカ「〜〜〜〜〜!」
サヤカ「わ、わたしも、本当は…」キュ
ツヅリ「…」ギュー
サヤカ「ぁ…///」ポワー
少女の鼻腔を甘い香りが満たす。
その甘さは麻薬のようにサヤカの脳を溶かし、思考を鈍くさせていった。
ツヅリ「サヤの温かさが伝わってくるよ。まるでボクたち、ひとつになったみたいだ」
サヤカ「……本当に、ひとつになりますか?」/// サワッ
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【蓮ノ空女学院 部室棟 某所】
「ダメーーーーー!!!」
「わっ!さやかちゃん、どうしたの…///」
「どうして急にムーディーな雰囲気になってるんですか!?子どもも見てるんですよ!」
「なぜ徒町を見て言ったのでしょうか!?」
「はぁ…はぁ…さやかせんぱい、どいてください!ここからがいい所なんです!」フンス!
「鼻息を荒くしないでください!だいたい、花帆さんは何を考えてるんですか!こんな捏造を…」
「え?でも前に徒町が綴理先輩を起こしに行った時は──」
「わーーー!小鈴さんは黙っててください!」
「やっぱり、さやか先輩と綴理先輩ってそういう…///」
-
「っ〜〜〜〜!ああもう!抗議したいのに、どうしてコメントが打てないんですか!」 ポチポチポチ
「蓮ノ空のアカウント規制されちゃいましたからね〜」
「このシーンが終わるまでは皆さんは視聴禁止です!」
「わ、わたしが責任を持って見ますから…///」
「さやかちゃん……」
(さやかせんぱい、nmmnいける口なんだ〜♡)
🚪<コンコンコン!
「ん?お客さん?誰だろう…」
「私が出ますね。はーい」 ガチャ
「やぁ」
「久しぶり、吟子」
「!! なんで、二人がここに──」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
ツヅリ「サヤの作ったごはん、おいしい」モグモグ
サヤカ「ふふふ、良かったです」
ツヅリ「ごちそうさまでした」🙏
サヤカ「はい。お粗末さまでした」
サヤカ「そういえば、今朝郵便ポストにお手紙が入っていましたよ」
ツヅリ「ん、王国軍からだ」
サヤカ「またお仕事でしょうか?」
ツヅリ「たぶんそうだと思う…あれ?」
ツヅリ「なんだろうこれ、チケット?」〜〜✉パサ
サヤカ「見せてください。……温泉宿の宿泊券みたいですね」
ツヅリ「どうしてそんなもの」
サヤカ「他にお手紙などは入っていないんですか?」
ツヅリ「うーん…ない」
-
サヤカ「となると、単にここで疲れを癒してこいということでしょうか」
サヤカ「ツヅリさんは日々お国のために頑張ってますし、福利厚生と言うやつなのでは?」
ツヅリ「ふくりこうせい?よくわからないけど、仕事じゃない?」
サヤカ「はい、ご褒美みたいなものですね」
ツヅリ「おーじゃあサヤも一緒に行こう」
サヤカ「わたしも行っていいんでしょうか?あ、このチケット1枚で6人まで使えるそうです!」
ツヅリ「そうなの?じゃあせっかくだし、カホたちも誘ってみよう」
サヤカ「そうですね。いつもお世話になってますし」
ツヅリ「うん。一緒に行けるといいな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【コズエの家】
カチマチ『ふわ〜ギンコちゃんの太もも気持ちいいよ〜』
ギンコ「ちょっと、足の上に乗られると重いんだけど!」
カチマチ『ふや〜〜』
カホ「あはは!カチマチちゃんとギンコちゃん、随分仲良くなったよね!」
ギンコ「まあ、小さい頃に犬を飼ってたから、扱いに慣れてるだけ…」
カホ「それだけじゃないと思うけどな〜」
ギンコ「ほら、寝るならカホさんのところ行きなよ。使い魔なんだから」
カチマチ『ギンコちゃんの太ももの方がフカフカなんだも〜ん』
ギンコ「なんなん!?それ私が太ってるってこと!?」
カチマチ『ちがうよ〜ギンコちゃんの方がおっきくて柔らかいだけだよ〜』
ギンコ「何も違くないよね……少しダイエットした方がいいかな…?」 プニッ
-
🚪ガチャ
メグミ「ただいまー」
コズエ「戻ったわ」
カホ「おかえりなさい!買い出しありがとうございました!」
サヤカ「お邪魔します」
ツヅリ「おじゃ〜」
ギンコ「あれ、ツヅリさんとサヤカさん?」
メグミ「玄関先で会ってね、うちに用があるみたいだから入ってもらったんだ」
カホ「何かあったんですか?」
ツヅリ「うん。みんなと温泉に行きたいなと思って」
カホ「温泉!?」
コズエ「急に温泉だなんて、どうしたんですか?」
サヤカ「実は王国軍からツヅリさんに温泉宿のチケットが送られてきたんです。それが6人まで利用できるそうなので、よろしければ皆さんもご一緒にどうですか?」
-
カホ「行きたい!行きたーい!いいですよね?コズエちゃん!」
コズエ「まあせっかく誘っていただいたのだし、断る理由はないわね」
カホ「わーい!温泉だー!」
メグミ「6人ってことは、ツヅリとサヤカちゃん、私とコズエ、カホちゃん、ギンコちゃん……あ」
カチマチ『?』
メグミ「ねえ、その温泉宿ってペットOKなとこ…?」
サヤカ「あ、ちょっと待ってください!チケットに書いてあった気が……」
サヤカ「……ごめんなさい、ペットの同伴は不可だそうです」
カチマチ『そんな!カチマチだけお留守番ですか!?』ガーン
コズエ「そのチケットって日帰りじゃないわよね…?」
サヤカ「一泊二日ですね…」
コズエ「さすがにカチマチさんひとりを残して一泊する訳には行かないわね。誰か残ってあげないと」
-
カチマチ『うぅ……大丈夫です!カチマチひとりでも何とか生き延びて見せます!みなさんは楽しんできてください!』
カホ「そうは言っても…カチマチちゃんひとりでご飯とか食べられるの?」
カチマチ『あ…う…がんばります!』
メグミ「ダメそうだね」
ギンコ「それなら私が残ります」
カホ「え!?なんで!ギンコちゃんも一緒に温泉入ろうよ!」
ギンコ「誰かがカチマチさんの面倒見なきゃですし、それに……」
ギンコ(もし太ってるならダラしない体を見せたくない…!)
カホ「ん?」
ギンコ「あ、いえ!実は今作ってる魔道具がもう少しで完成しそうなので、一気に作業したいんです!」
カホ「そうなの?うーん、それなら仕方がないか」
-
サヤカ「でもそうすると一人分余ってしまいますね。まあ、必ず6人でなければいけない訳じゃありませんが」
メグミ「あ!それなら、代わりに誘いたい人がいるんだけど!」
ツヅリ「誘いたい人?」
メグミ「みんなも知ってる人だから大丈夫!」
ツヅリ「うーん…あ、わかった。いいよ」
サヤカ「では15時に馬車を手配しているので、それまでに準備をしておいて下さい」
カホ「はーい!」
ツヅリ「じゃあボク達もいったん準備しに帰るね」
コズエ「はい。また後で」
ツヅリ「またねー」
🚪バタン
サヤカ「了承してもらえて良かったですね」
ツヅリ「うん。みんなで温泉楽しみ〜」
-
【ツヅリの家】
……✉️
ーーーーーーーーーーーー
ユウギリ ツヅリ 殿
平素より、王国の治安維持におけるご尽力、誠に感謝申し上げます。
さてこのたび、王国軍司令部より、以下の任務を貴女に託すこととなりました。
任務名:『ゆのまち昇天』の調査
通称 : 「人喰い温泉」
内容:
当該温泉宿にて、年間数十名規模の宿泊客が行方不明となる事案が確認されています。
これを受け、王国軍はこれを魔物による事件と断定し、調査および事態の鎮静化を要請いたします。
つきましては、任務遂行に必要な潜入用宿泊券を同封いたしました。
被害拡大を防ぐためにも、速やかな調査開始をお願いいたします。
王国軍司令部
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>>682
肝心の指令書がイスの下とかに落ちちゃったのか
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やっぱり見落としてて草
-
今回魔法使いや使い魔おらんけど大丈夫か
あと…まあやっぱりそういう関係なのね現実でも…
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【ゆのまち昇天】
カホ「着いたー!大っきいー!!」
サヤカ「皆さん、馬車での長旅お疲れ様でした。ずっと座りっばなしでしたが、腰など痛いところはありませんか?」
メグミ「全然大丈夫!」👍
コズエ「あなたは浮いてたのだから関係ないでしょう…」
カホ「でも実際、ツヅリさんが道中の魔物を一瞬で退治してくれたおかげで、スムーズに着きましたね!」
コズエ「そうね。ツヅリさん、ありがとうございました」
ツヅリ「ううん。ボクもはやく温泉入りたかったから」
ルリノ「……ていうか、本当にルリも来てよかったんですかね?なんか場違いな気が…」
メグミ「そんなことないって!みんなルリちゃんのこと大好きだから大丈夫!」
カホ「あたし達、ルリノちゃんにはなんだかんだお世話になってるからね!」
ルリノ「そうかな?まあ、もう来ちゃったし、ありがたく満喫させてもらうけど!」
-
サヤカ「さあ、はやく入りましょう?入口で固まっていては他のお客さんにも迷惑ですよ」
コズエ「そうね、入りましょうか」
テクテク…
ツヅリ「?」
サヤカ「ツヅリさん?どうかしましたか?」
ツヅリ「あれなんだろう?」
サヤカ「建物の裏の…山ですか?」
ツヅリ「なんか形がおかしい」
サヤカ「ああ、確かに側面が削れていますね。土砂崩れでも起きたのでしょうか」
サヤカ「でももうかなり古い跡みたいですよ。緑も生えてますし、問題ないのでは?」
ツヅリ「ふーん、まあいっか。行こう、サヤ」
サヤカ「はい♪」
-
カホ「わーー!広ーい!!」
コズエ「ええ、外から見てわかっていたけれど、かなり立派な温泉宿ね」
ルリノ「パンフレットによると、3つの温泉に、屋外プールも付いてるみたい!」
カホ「プールまで!?あぁ、水着持ってくればよかった…!」
メグミ「これだけ大きな宿なら、貸出用の水着もありそうじゃない?」
コズエ「確かに、タオルや館内着は入口に置いてあったものね」
カホ「もしあったら一緒にプール入りましょうね!コズエちゃん!」
コズエ「ええ、そうね」ニコッ
サヤカ「受付に鍵が用意してありました。どうやら3部屋みたいです」
ツヅリ「ボクはサヤと一緒の部屋にするけど、みんなは?」
メグミ「はーい!私はルリちゃんと一緒がいい!」
カホ「じゃあ、あたしとコズエちゃんが相部屋ですね!」
-
コズエ「わかったわ。ルリノさん、(メグミと一緒で)いいかしら?」
ルリノ「はい、大丈夫です」
メグミ「ちょっと〜今2人とも含みのある言い方しなかった?私そういうの敏感だからね」 ジトー
ルリノ「い、いや!実際ルリを誘ってくれたのメグミさんだし、他の人だと気使っちゃうから!」
メグミ「ふーん。ま、いっか!部屋に行こうよ!荷物とか置きたいし!」
サヤカ「そうですね。夕食は19時からだそうなので、それまで自由行動にしましょう」
「「はーい!」」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【217号室】
カホ「おお…部屋も広いですね!」
コズエ「ええ、立派なお部屋だわ。露天風呂まで付いているなんて」
カホ「見てください!ベッドが2つもありますよ!」
コズエ「二人部屋なのだから、それは当たり前ではないかしら…?」
カホ「でもあたしは…ひとつでもよかったですよ?」 ウルウル
コズエ「!! そ、そしたら私が床で寝ることになっていたわね!!」
カホ「むぅ…もういいです!」 プクー
カホ("こっち"でも意気地無しなんですね)
カホ「温泉に行きましょう!最近ハードなクエストばっかりで疲れてたんです!」
コズエ「そうね、この時間帯だと女湯は2箇所みたいだけれど…どちらに入ろうかしら?」
カホ「両方入っちゃいましょうよ!」
コズエ「うふふ、カホは欲張りね。のぼせないように注意して入りましょう」
カホ「はーい!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【513号室】
メグミ「ふい〜やっと羽伸ばせるよ」 ファサ
ルリノ「あはは!メグミさんだと二重の意味になるね」
メグミ「実際いつもはローブで隠してるからね。ずっと羽を畳んでると肩甲骨辺りが疲れるんだよ」
ルリノ「天使も大変なんだ〜」
ルリノ「ねえ、この後どうする?やっぱり温泉入りに行く?」
メグミ「あーそれなんだけど…私は後で入るから、ルリちゃんだけ先に入ってきなよ」
ルリノ「え?なんで?」
メグミ「ほら、裸になるとどうしても羽を隠せないし…他の宿泊客が居なくなってから入ろうかなって。最悪露天風呂もあるしね」
ルリノ「そっか…じゃあルリも後で入る!」
メグミ「え?」
ルリノ「せっかくの温泉なんだし、一緒に入ろうよ!ひとりで広い温泉入るのも、それはそれで気持ちいいけど…」
メグミ「ルリちゃん…!ありがとう!」
ルリノ「えへへ」
メグミ「それなら夕飯まで館内を探検しよう!」
ルリノ「お!いいね!」
メグミ「よっしゃ!行くぞー!」
ルリノ「おー!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サヤカ「ここがわたし達のお部屋みたいですよ」
ツヅリ「じゃあ入ろっか──ん?」
???「……」テクテク
サヤカ「? 他の宿泊客でしょうか…」
長い廊下の向こうから、細身で背の高いカマキリのような顔をした男が歩いてくる。
サヤカ「こんにちは」 ペコッ
???「お、またお客さんか」
ツヅリ「また?」
カマタ「いや、なんでもない。俺の名前はカマタだ。あんたらそこの部屋か?」
サヤカ「ええ……」
カマタ「そうか、俺はちょうど隣の部屋に泊まってんだ。お隣さんどうし、仲良くしようぜ」 ガシッ
サヤカ「きゃっ!」
-
ベシッ!
ツヅリ「サヤに触らないで」
カマタ「おっと、わるいわるいw」
カマタ「へぇ、サヤねぇ…」
サヤカ「な、なんですか……」
ズイッ
男は軽薄な笑みを浮かべたまま、突然サヤカの耳元に顔を寄せる。
カマタ「あんた、人殺してるだろ」ボソッ
サヤカ「!?」
ドン!
カマタ「うお!?」 ヨロッ
ツヅリ「触らないでって言ったよね?」
カマタ「触れてはないぜ?」ヘラヘラ
ツヅリ「サヤ、部屋変えてもらおう」 グイッ
サヤカ「あ、ツヅリさん」バタバタ
カマタ「……」 ニヤッ
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【557号室】
サヤカ「ふう、空いてる部屋があって良かったですね」
ツヅリ「うん。それよりも、サヤ大丈夫?さっきの男の人になにかされなかった?」
サヤカ「へ?特に何もされていませんが…どうしてですか?」
ツヅリ「あの時のサヤ、かぼちゃみたいだったから」
サヤカ「かぼちゃ……大丈夫ですよ。急に近寄られたので、少し驚いただけです」
ツヅリ「ほんと?」
サヤカ「はい」
ツヅリ「……わかった。サヤはボクが守るから、またあの男の人が来たら呼んでね」
サヤカ「ありがとうございます」ニコッ
サヤカ「気を取り直して、温泉に行きませんか?夕食まであと1時間程ですし」
ツヅリ「温泉はいるー」
-
🚪ガチャ
メグミ「あれ?ツヅリとサヤカちゃんじゃん」
ツヅリ「メグとルリだ。やっほー」
サヤカ「お二人も温泉に行くところですか?」
ルリノ「ううん、ルリ達はご飯食べてから入ることにしたんだ。今は旅館を探検に行くところ!」
メグミ「てか、ツヅリ達の部屋は別の階じゃなかったっけ?」
サヤカ「ちょっとお隣さんとトラブルがありまして…部屋を変えてもらったんです」
メグミ「そうだったんだ。来てそうそう災難だったね」
サヤカ「いえ、大したことではないので」
メグミ「ふーん。ツヅリ、ちゃんとサヤカちゃんを守ってあげるんだぞ!」
ツヅリ「任せて」👍
ルリノ「じゃあルリ達は行くね。二人とも温泉満喫してきて!」
サヤカ「はい。ありがとうございます」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メグミ「にしても広い建物だねー」
ルリノ「ね〜温泉は3つもあるし、マッサージを受けられる場所もあるみたい」
メグミ「本当に一日中いても飽きなさそう」
ルリノ「むしろ一日で全部満喫するの難くね?」
メグミ「あはは!確かに!」
ルリノ「ねえメグミさん、さっき1階に無料でドリンクとお菓子食べられる場所見つけたんだ。夕飯前だけど、後で一緒に行かない?」
メグミ「え!行く行く!じゃあこの階を見終わったらそっち行こう!」
ルリノ「うん!」
メグミ「ジュース♪お菓子〜♪」
ルリノ「ん?外に見えるのって…」
メグミ「カホちゃんが行きたがってた屋外プールじゃない?」
ルリノ「あ、本当だ。プールもでっけ〜」
メグミ「でも誰も入ってないね」
ルリノ「もう夕方だからかな?下に行ってみる?」
メグミ「そうしよう!どうせ1階に用があるんだし!」
-
【1階 プール入口】
メグミ「ありゃりゃ、『プールは修理中のため使用禁止』だって」
ルリノ「修理って、何かあったのかな?」
メグミ「うーん… ああ、確かに派手に壊れてるや」 プカー
ルリノ「落石でもあったとか?ちょうど裏が山だし」
メグミ「そうかもね。あとでカホちゃんに教えてあげるか」
ルリノ「そうだね」
メグミ「んじゃ!ドリンクバーに行きますか!」
ルリノ「ルリが誘っておいてなんだけど、あんまり食べすぎないようにしようね?」
メグミ「大丈夫だって!それくらい自分でちゃんとセーブできるから!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【食事処】
メグミ「うっぷ…」
ルリノ「メグミさん大丈夫…?」
メグミ「だ、大丈夫…美味しいものは別腹だから…」
メグミ「だから言ったのに…」
サヤカ「メグミさん、ルリノさん!こっちです」
メグミ「あ、二人は先に来てたんだ」
ツヅリ「さっきぶり〜」
ルリノ「おっ!二人とも浴衣が似合いますな〜」
サヤカ「ツヅリさんと比べられてしまうと、さすがに恥ずかしいですが…」
ツヅリ「? サヤ浴衣似合ってるよ」
サヤカ「ありがとうございます。ツヅリさんもとても、とても!お似合いですよ」
ツヅリ「ありがとうー」
-
コズエ「あら?私達が最後かしら」
カホ「お待たしぇしました〜」ポカポカ
メグミ「遅いぞ二人とも……って、カホちゃんどうしたの?」
コズエ「実は、2つの温泉をはしごしたから、のぼせてしまったみたいなの」
サヤカ「ああ、だからわたし達が入った時、やたらと早く上がって行ったんですね」
カホ「カホはのぼせてましぇ〜ん」ポヤポヤ
メグミ「完全にのぼせてるじゃん!うっぷ…」
コズエ「メグミも本調子じゃなさそうね」
メグミ「うっさい!ほら、料理はもう用意されてるんだし、冷める前に食べよ!」
ルリノ「うわ!お肉でっけー!脂ものっておいしそー!」
サヤカ「なんでも国産牛らしいですよ」
カホ「国産牛!?」バッ!
ツヅリ「あ、元気になった」
カホ「はやく食べましょう!ほらコズエちゃんも座って座って!」
コズエ「うふふ、はいはい」
-
カホ「それじゃあ両手を合わせて──」
「「いただきます!」」
メグミ「わっ!おいしい!」
カホ「ん〜〜〜!あたしこんなにおいしいお肉初めて食べました!」
コズエ「お肉はもちろんだけれど、お刺身や天ぷらもとっても美味しいわ」
サヤカ「このお野菜…すごく甘い!」
ルリノ「このグラスに入ってるの梅のジュースなんだ〜スッキリしてて料理にもあう!」
カホ「ツヅリさん!改めて誘ってくれてありがとうございます!」
ツヅリ「ボクも、みんなと来れてうれしい。みんなで一緒に食べるの、たのしいね」 ニコニコ
-
< ワイワイ ガヤガヤ
カホ「コズエちゃん…」ツンツン
コズエ「? どうかしたの、カホ」
カホ「向こうの奥の方の席、見てください」
コズエ「奥の方の席…?」
太った男「あむっ!あむっ!ああむっ!」モグモグ
カホ「なんか様子おかしくないですか?さっきから何かに取り憑かれたみたいに、すごい勢いで食べてますよ」
コズエ「……まぁ、これだけ美味しい料理だもの。箸が止まらないのも無理はないわよ」
カホ「そういう感じですかね?」
コズエ「あまり他人の食事マナーに口を出すものではないわ。私達は自分の食事を楽しみましょう?」
カホ「そう…ですね!ごめんなさい」
コズエ「いいのよ。それよりカホ、蟹の食べ方はわかるかしら?」
カホ「あんまり食べたことないので教えてください!」
コズエ「ええ、まずは蟹の脚を関節の手前で折って──」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【コズエの家】
ギンコ「カチマチさん、ご飯できたよ」
カチマチ『はーい!あれ?今日はカリカリじゃないんですか?』
ギンコ「カチマチさん用の料理を作ってみたの。毎日ドッグフードだと飽きるでしょ?」
カチマチ『わー!こんなおいしそうなご飯食べていいんでしょうか!』
ギンコ「今頃コズエさん達も豪華な料理食べてるだろうし、私達も少しくらい贅沢しても大丈夫だよ」
ギンコ「あ、食材はちゃんと自分で買ってきたやつだから!」
カチマチ『あはは!ギンコちゃんはマジメだな〜冷蔵庫の中身使っても怒られないと思うよ?』
ギンコ「まあ、それはそうだろうけど…帰ってきた時に食材が無くなってたら困るだろうし」
ギンコ(あと、私がひとりで食べたと思われたら恥ずかしい)
カチマチ『お〜さすがギンコちゃん!気遣いのできるいい女です!』
ギンコ「…ちょっとバカにしたでしょ?」
カチマチ『え!?してないですよ!!』
-
ギンコ「まあいいや。食べよう?」
カチマチ『はい!いただきまーす!』
ギンコ「いただきます」
カチマチ『んー!温かいご飯おいしいです!』
ギンコ「あ、そっか。ドッグフードは温めたりしないもんね。熱すぎたりしない?」
カチマチ『ちょうどいいです!』
ギンコ「そう?よかった」
カチマチ『カチマチ、毎日これがいいです!』
ギンコ「それは……食費がすごいことになるからダメやね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【温泉】
メグミ「ふ〜〜〜ごくらくごくらく…」 チャプン
ルリノ「ね〜温泉を二人占めなんて最高〜」
メグミ「あーやばい…私寝ちゃいそう…」
ルリノ「ちょいちょい、溺れないでね……あ、メグミさん浮くから溺れないのか」
メグミ「むしろ掴まってないとどんどん持ち上げられるだよね。なんでだろ?」
ルリノ「メグミさんは重力がかかってないから、浮力の影響がでかいんだよ」
メグミ「ふりょく?」
ルリノ「それよりメグミさん、せっかく二人きりだから聞きたいことがあるんだけど…」
メグミ「ん〜?」
ルリノ「メグミさんの本当の幼なじみ、ルリエルさんってどんな人だったのかなって…あ、人じゃなくて天使か!」
メグミ「う〜ん、そうだな……一言で言うと、ルリノちゃんにそっくり」
ルリノ「いや!見た目の話じゃなくて!」
-
メグミ「ううん。見た目だけじゃないよ。声も性格も、魂の色さえも、本当に同一人物かと思うくらいそっくりなの。それこそ、幼なじみである私が間違えるくらい」
ルリノ「え、そうなの…?」
メグミ「とっても優しい性格で、他の天使や人間達のことをいつも気にかけてた」
メグミ「まあ、そのせいで疲れることもあったみたいだけどね」
ルリノ(そんなところまでルリと同じなんだ…)
メグミ「"るりちゃん"とは幼なじみって言ってるけど、人間の感覚だと実際は姉妹みたいな感じなんだよね」
メグミ「天使は全員ひとりの神様から産まれるから、みんな姉妹なの。その中で産まれたタイミングが近い私達は、お互いを幼なじみとして認識してた」
ルリノ「へーそうなんだ〜」
メグミ「るりちゃんはいつも『メグちゃんかわいい!』って言ってくれてね…もう!るりちゃんの方こそかわいいっての…///」 バシャ!
ルリノ「どわっ!ちょっと、勝手に照れてお湯かけないでよ!」
メグミ「あ、ごめんごめん」
メグミ「私とるりちゃんはお仕事も一緒に勉強したから、それもあって本当に二人でいる時間は長かったんだ」
ルリノ「仕事?」
メグミ「天使の仕事はね、地上で亡くなった人の魂を『天国』に導いてあげることなの。そこで魂をキレイに洗って、次の器が生まれた時のために保管しておくんだ」
-
ルリノ「うわ、それルリが聞いてよかったやつ?なんか世界の裏側を知っちゃった気がするんだけど……」
メグミ「まあ大丈夫でしょ」
ルリノ「ん?そうなるとアンデッドってなんで生まれるんだろう…?亡くなった人の魂は、天使が連れていってくれるんでしょ?」
メグミ「あーそれね…私にもわからない。少なくとも私が眠る前は居なかった魔物だから」
ルリノ「そうなんだ。確かに1000年くらい前から徐々に発生しだしたって習ったっけ?」
メグミ「じゃあちょうど私が寝てる間に"何か"あったんだね」
ルリノ「ふーん。そもそもメグミさんはどうして1000年も封印されてたの?」
メグミ「それは……」
メグミ「忘れちゃった☆」
ルリノ「え!?それ絶対重要なことだよね!」
メグミ「しょうがないでしょ?1000年も寝てたら記憶なんて飛んじゃうって」
ルリノ「ルリエルさんのことは覚えてるじゃん」
メグミ「るりちゃんは特別なの☆」
ルリノ「まあいっか。ルリエルさんのこと、教えてくれてありがとうね」
メグミ「まだまだ話せるよ!ざっと100年分くらい!」
ルリノ「全部聞いてたらのぼせちゃうかな…」
メグミ「あはは!じゃあそろそろ出よっか?」
ルリノ「うん」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【217号室】
カホ「ふぁ〜〜〜」 アクビ
コズエ「まあ、大きなあくびね」 フフフ
カホ「はっ!み、見なかったことにしてください…!」
コズエ「とても可愛らしかったわよ?昔実家で飼っていたネコを思い出したわ」
カホ「あたしは人間ですー!」
コズエ「あら、カホもこうして頭を撫でてあげると喜ぶわよね?」 ナデナデ
カホ「ん…///もう、からかわないでくださいよ!」
コズエ「うふふ、ごめんなさい。じゃあそろそろ寝ましょうか」
カホ「え、もう寝ちゃうんですか…?」
コズエ「カホも疲れているんでしょう?」
カホ「でも、せっかくなら夜更かししましょうよ…」
コズエ「明日も朝食が用意されるみたいだし、早く寝ないと起きられなくなるわよ?」
-
カホ「むぅー…じゃあ、せめて一緒のベッドで寝ませんか?」
コズエ「それはさすがに……ひとりでベッドを使った方が安眠できるんじゃないかしら?」
カホ「………わかりました」
コズエ「ホッ…じゃあ明かりを消すわね」
カホ「はい、おやすみなさい」
コズエ「おやすみ、カホ」
パチン
コズエ「zzz…」
モゾモゾ…モゾモゾ
コズエ「ん……え?カホ…?」
カホ「……やっぱり一緒に寝たいです。ダメですか?」
コズエ「! えっと、その…///」
コズエ「…私の寝相が悪くて眠れなかったら、ごめんなさいね…」
カホ「カホは…今夜は眠れなくてもいいですよ?」
コズエ「っ〜〜〜〜〜〜///」
コズエ(耐えるのよ!オトムネコズエ!ここで変なことをしてしまったら、今後の生活が気まずく──)
カホ「……」 ギュッ
コズエ(あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【557号室】
🕑チク…タク…チク…タク
ツヅリ「んん…」 👀パチッ
ツヅリ「暗い……」
珍しく深夜に目が覚めてしまった。
"珍しく"というより、こんなことは初めてだ。いつもは一度寝たら、サヤに起こしてもらうまで自分では起きられない。
…………サヤが家に来るまでどうやって起きてたんだっけ?
サヤカ「スゥー……」zzz
サヤはボクに寄り添うように隣りで寝てる。
そういえば、いつもボクが先に寝て、サヤが先に起きちゃうから、寝顔を見たことがなかった。
ツヅリ「……」 サラッ
顔にかかった長い髪を避けて、サヤの顔をまじまじと観察する。
起きてる時は年相応にお姉さんって感じだけど、無垢な寝顔は実際よりも幼く見える。
サヤに出会うまでは、軍に命令されるまま何も考えずに働いてきた。
でも、今は違う。ボクはこの安らかな寝顔を守るために、魔物と戦うんだ。
ツヅリ「サヤ……」 ボソッ
-
グスッ……グスッ……
ツヅリ「泣き声…? 廊下からだ」 ムクッ
サヤを起こさないように慎重にベッドから抜け出す。
🚪 キー…
少女「ぁ……おかあさん…?」
ツヅリ「? ボクはおかあさんじゃないよ?」
少女「おかあさんじゃなかった……グスッ…」
ツヅリ「もしかして、迷子?部屋がわからなくなったの?」
少女「ううん……お部屋はわかるの…でも、起きたらおかあさん達がいなくて…」
ツヅリ「それでひとりで探してたの?」
少女「…」 コクン
ツヅリ「うーん…もしかしたら温泉に入りに行ってるのかもしれない。もしそうなら、帰ってきた時にきみが部屋にいなかったらびっくりすると思うよ?」
少女「……帰ってくる?」
ツヅリ「きっと帰ってくるよ。もし寂しいなら、それまでボクが一緒にいてあげよう」
少女「お姉ちゃんが?」
ツヅリ「うん。ボクはツヅリだ。きみの名前は?」
マオ「あたしはマオ!」
-
ツヅリ「マオ、きみの部屋に連れていってくれる?」
マオ「わかった!こっち!」
少女に手を引かれ、館内を歩く。
階段を上がったり下がったり、同じ場所を何度か通った気もするけど、暗いからそう思っただけかもしれない。
ツヅリ「マオは何歳なの?」
マオ「6さい!」
ツヅリ「そっか、じゃあボクの方が倍くらい年上だ」
マオ「やっぱり!ツヅリお姉ちゃん、すっごく背が高いもん!」
ツヅリ「気がついたら大きくなってたんだ」
マオ「いいなー!あたしももっと背伸ばしたいなー」
ツヅリ「いっぱい寝れば大きくなるよ」
マオ「ほんと?じゃあ今日からたくさん寝る!」
他愛もない会話をしながら歩いていると、長い廊下の端にぶつかった。
マオ「ここだよ!あたしの部屋!」
ツヅリ「うん。おじゃまします」
🚪 バタン
【 ⬛︎⬛︎⬛︎ 号室】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【朝 食事処】
メグミ「コズエ、カホちゃんおはよう〜」
ルリノ「おはようございまーす!」
コズエ「ええ…二人ともおはよう…」
メグミ「ん?なんかコズエ、クマすごくない?ちゃんと寝た?」
コズエ「大丈夫よ……」
コズエ(本当は一睡もできなかったわ…)
ルリノ「カホちゃんは顔色よさそうだね!」
カホ「うん!"ぐっすり"眠れたからね!」💢
メグミ「じゃあなんで機嫌悪いの…?」
ルリノ「サヤカちゃん達は?」
コズエ「まだ来てないわね」
カホ「ツヅリさんを起こすのに手間取ってるんじゃない?前にサヤカちゃんから、寝起き悪いって聞いたよ」
メグミ「なら、先食べ始めちゃおっか。なんかもう朝食用意されてるみたいだし」
ルリノ「昨日も思ったけど、いつの間に準備してるんだろうね?」
コズエ「こういう旅館はお客さんがいない隙に準備をするものなのよ」
メグミ「プロってやつだね!」
カホ「じゃあ冷める前に食べましょう!」
「「いただきます!」」
-
モグモグ モグモグ
カホ「コズエちゃん、コズエちゃん。また昨日の人いますよ」
太った男「あむっ!あむっ!」バクバク
コズエ「あら、本当だわ。朝からよく食べるわね」
カマタ「あいつは一日中食ってるからな」
カホ「うわっ!!びっくりした!」
カマタ「おっと、わるい。驚かせるつもりはなかったんだ」
コズエ「あの……どちら様でしょうか…?」
カマタ「いやなに、名乗るほどのもんじゃねえよ。あんたら昨日から来てる団体さんだろ?サヤちゃん達は一緒じゃないのか?」
カホ「サヤちゃん?サヤカちゃんの知り合いですか?」
メグミ「あ!この人多分サヤカちゃん達とトラブルになった人だ!あんまり関わらない方がいいよ」
カホ「え!?」
カマタ「トラブルなんて大袈裟だな。ちょっとシンパシー感じたから話しかけただけだって」
カホ「シンパシー?ただのナンパじゃないですか」 ジトー
メグミ「おあいにく、私達はみんなパートナーがいるから、あんたと遊んでる暇はありませーん!」
カマタ「ふん、つれねぇな…」 テクテク…
カホ「感じの悪い人でしたね」
ルリノ「まあ、色んな人がいるから…」
-
コズエ「それにしても、ツヅリさんとサヤカさん遅いわね。何かあったのかしら」
バタバタバタ…!
メグミ「あ、来たんじゃない?」
サヤカ「はぁ、はぁ…あの!ツヅリさんを見てませんか!」
カホ「え?見てないけど……」
コズエ「どうかしたの?」
サヤカ「朝起きたらツヅリさんがいなくなっていて…」
メグミ「朝風呂に行ったとかじゃなくて?」
サヤカ「温泉も見てきましたが、いませんでした…そもそも!ツヅリさんがひとりで起きられる筈がありません!」
ルリノ「さすがにそれは言い過ぎじゃない…?」
サヤカ「いいえ!絶対にありえません!これは異常事態です!」
メグミ「うーん、とりあえず落ち着こっか?いったんご飯食べようよ」
サヤカ「そんな場合では──」 グ〜
サヤカ「あ……」
メグミ「ツヅリを探し回ってお腹すいたんでしょ?朝はちゃんと食べないと頭回らないぞ☆」
サヤカ「でも……」
コズエ「わかったわ。私達も探すから、サヤカさんはまず朝食を取ってちょうだい」
コズエ「もしかしたら、ツヅリさんもお腹が減ってここに来るかもしれないわ。その時に誰もいなかったら寂しいでしょう?」
サヤカ「……わかりました」
-
カホ「それじゃあ、手分けしてツヅリを探しましょうか!」
メグミ「おっけー私はお土産コーナー見てくるね」
コズエ「無駄使いしちゃだめよ?」
メグミ「別に私が買いたい訳じゃないから!ツヅリそういう場所に引き寄せられそうな性格してるでしょ!」
ルリノ「ルリは宿の周りぐるっと見てくるよ。散歩に行ってるだけかも知んないし」
サヤカ「確かに…外で行き倒れてる可能性もありますね…」
ルリノ「あはは!それはないでしょ!」
サヤカ「……」
ルリノ「え、あるの…?」
【宿 入口】
🚪ガタガタ!
ルリノ「あれ?開かないや。鍵が掛かってるのかな…」
ルリノ「もしかして散歩に行ってる間に鍵を閉められて中に入れなくなったとか?」
ルリノ「うーん…可能性は低そうだけど、一応開けてもらおうかな」
ルリノ「すみませーん!入口の鍵を開けてもらいたいんですけどー!」
シーン…
ルリノ「聞こえなかったのかな…?」
今度は受付の奥に向かって呼びかけてみる。
ルリノ「すみませーーん!!誰かいませんかーー!!」
シーーン……
ルリノ「誰もいない…?」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メグミ「お土産コーナーにもドリンクバーにもいないし…もしかして本当に迷子か?」
メグミ「そうなるとこの広い建物の中を全部探さないとじゃん…」
メグミ「おーい!ツヅリー!出ておいでー!」プカー
ドン!
メグミ「きゃ!ごめんなさい!」
「……」 💩プ〜ン
メグミ(うっ…臭っ!)
「……」 トボトボ
メグミ「なに今の人…温泉宿に来てんのにお風呂入ってないの?」
メグミ「着てる服もボロボロだったし、ここってあんな人でも泊まれる場所なんだ…」
メグミ「っといけない!そんなことよりツヅリを探さないと!」
メグミ「むやみに探してもダメだよね。ある程度当たりをつけないと」
メグミ「サヤカちゃんは温泉も見たって言ってたけど、ツヅリが男湯と女湯が入れ替わってることを知らない可能性もあるよね?」
メグミ「一応覗いてみるか」 プカー
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【557号室】
🚪ガチャ
カホ「ツヅリさーん!いたら返事してくださーい!」
カホ「……いないよね。もしかしたら部屋に帰ってるかもと思って、サヤカちゃんから鍵もらってきたけど…」
カホ「実は置き手紙があったりしないよね?」 トコトコ
カホ「あ、ベッドが片方使われてない。サヤカちゃん達も一緒に寝てたんだ…///」
カホ「はっ!ダメダメ!変な詮索しちゃ二人に悪いよ!」
カホ「ん?」 チラッ
カホ「この部屋のカレンダー、なんか違和感が…」
カホ「あ!このカレンダー50年前のやつだ!」
カホ「なんで誰も変えなかったんだろう…」
カホ「まあいっか!帰る時に従業員さんに教えてあげよっと!」
カホ「……そういえば、あたしここに来てから一度も宿の人を見かけてないような……?」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【1階 ロビー】
コズエ「メグミ、ツヅリさんは見つかった?」
メグミ「あ、コズエ。こっちは全然だよ」
コズエ「そう…私の方も見つけられなかったわ」
カホ「ふたりともー!」✋ブンブン
コズエ「カホも帰ってきたわ。一人ってことは、やっぱりカホも見つけられなかったのね…」
カホ「はい…サヤカちゃん達の部屋も覗いてきましたけど、手がかりは何もありませんでした」
コズエ「そう……」
カホ「この宿に動物さんやお花さんがいっぱいあったらすぐに見つけられたのにー!」
メグミ「ていうか、動物どころか人にすら会わなくない?今朝のナンパを合わせても、昨日と今日で二人しか見かけてないんだけど」
コズエ「実は私も思っていたわ。これだけ広くて部屋数もあるのに、まるで人のいる気配がない…」
カホ「なんか、ちょっと不気味になってきましたね…まさかツヅリさん、神隠しにあったとか?」
コズエ「そうなるとこの旅館に魔物が住み着いていることになるわ。あまり考えたくはないわね…」
ルリノ「おーい!みんなー!」バタバタバタ!
メグミ「ルリちゃん、ツヅリ見つかった?」
ルリノ「ううん、見つかってない…それより!大変なの!」
カホ「どうしたの?」
ルリノ「もしかしたらルリ達、この旅館に閉じ込められたかもしれない!!」
メグミ「はぁ!?どういうこと?」
ルリノ「こっちに来て!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
🚪ガタガタ!
コズエ「本当に開かないわね…」
ルリノ「他の扉とか窓とか、外につながってそうな場所は一通り調べたんだけど、どこもビクともしなかったよ…」
メグミ「どういうこと?なんで閉じ込められてる訳?」
カホ「従業員さんに鍵を開けてもらうとかは…」
ルリノ「それが、そもそも人が居ないんだよね…」
メグミ「待って!お客さんはともかく、従業員も居ないのはおかしいでしょ!?今朝のご飯とか誰が用意したっていうの?」
カホ「も、もしかして、黄泉竈食なんてことはないですよね…」
メグミ「よもつ…なんて?」
コズエ「初めて聞いた言葉ね。魔物の名前かしら?」
カホ「あの世の食べ物を食べると、現世に戻れなくなるって言い伝えです」
カホ「実はこの旅館はあの世で、ここでご飯を食べたから外に出られなくなったんじゃ…」
メグミ「んなわけあるかい!天国の専門家として言わせてもらうけど、この旅館は間違いなく人間界だよ!」
-
サヤカ「みなさーん!」
ルリノ「サヤカちゃん!鍵見つかった?」
コズエ「鍵?」
サヤカ「はい。ルリノさんに言われて、バックヤードから玄関の鍵を拝借してきました」
コズエ「そんな勝手に取ってきて、怒られないかしら……?」
サヤカ「そもそも、裏にもこの宿の人間はいませんでした。ただ、最近まで人が使ってた形跡はあるんですけど」
カホ「そんなことより!今は鍵を使ってみようよ!」
サヤカ「そうですね。それでは…」カチャカチャ
サヤカ「あ、あれ?」
ルリノ「どうしたの?」
サヤカ「鍵が、回りません…」カチャカチャ
メグミ「持ってくる鍵を間違えたんじゃない?」
サヤカ「そんなはずありません!ちゃんとタグも付いてますし!」
コズエ「……仕方がないわね」 グッ
カホ「コズエちゃん?」
コズエ「みんな、離れてちょうだい。扉を突き破るわ!」
ルリノ「壊しちゃうの!?」
コズエ「こんなこともあろうかと、ツヅリさんを探しながら力を貯めておいたの」
メグミ「ははーん。またスクワットしながら歩き回ってたんだ」
コズエ「違うわよ!壁を叩きながら歩いてたの!」
メグミ(どっちにしろ傍から見たら危ない人でしょ…)
-
コズエ『フルリリース:インパクト!』
👊 バァン!!
大きな音とともに、コズエは拳を扉に打ちつける。
しかし、岩をも砕く衝撃を受けてなお、扉には傷ひとつ付かなかった。
コズエ「っ…!」ポタ…
カホ「コズエちゃん、手から血が…!」
コズエ「これは…物質的な頑丈さとは違うわね…」
コズエ「結界?いえ、もっと別の…外との隔たりのようなものを感じる…」
メグミ「ブツブツ言ってないで手出して!回復するから!」
コズエ「ええ、ありがとう」 スッ
カホ「コズエちゃんのパンチでもダメとなると、力での突破は無理そうですね…」
ルリノ「やっぱり、魔物の仕業かな?」
サヤカ「! じゃあツヅリさんが消えたのも、魔物に襲われて!?」
メグミ「あのツヅリが負けるとは思えないけど──いや、前に拘束されると魔法が使えないとか言ってたっけ……」
コズエ「これはもう、冗談じゃすまないわね。みんな!慰安旅行は終わりよ!」
カホ「!」
コズエ「私はこの状況を未知の魔物の仕業と判断するわ!よって、これより自体解決の為の行動指針を示します!」
コズエ「私達の目的は二つ!ツヅリさんを見つけ出すこと!そしてここから脱出することよ!」
コズエ「1人で行動するのは危険だわ。メグミはルリノさんと2人で、カホとサヤカさんは私と組んで旅館を探索しましょう!」
コズエ「カホ、杖は持ってきてるかしら?」
カホ「はい!いつも手放さずも持ってます!」
コズエ「さすがね、花丸よ!」
コズエ「バックヤードでもなんでも入っていいわ!みんな、念入りに探しましょう!」
「「了解!」」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【 ⬛︎⬛︎⬛︎ 号室】
ツヅリ「マオのお母さんとお父さん、遅いね」
マオ「うん…でも、今日はツヅリお姉ちゃんがいるから!そんなに寂しくないよ!」
ツヅリ「本当に?マオ、昨夜からずっと寂しそうだよ」
マオ「あう……ごめんなさい、ほんとは寂しい」
ツヅリ「いいんだ。ボクもね、しばらく両親とは離れて暮らしてるんだ。だから、寂しい気持ち、わかるよ」
マオ「ツヅリお姉ちゃんもひとりなの?」
ツヅリ「今はひとりじゃないよ。サヤって子と一緒に暮らしてる」
マオ「おともだち?」
ツヅリ「うーん…友だちと言うよりも、家族?」
マオ「家族……サヤさんはツヅリお姉ちゃんのおかあさん?」
ツヅリ「違うよ。血は繋がってなくても、家族にはなれるんだ」
マオ「そうなの!?じゃあ、あたしもツヅリお姉ちゃんと家族になる!」
ツヅリ「ふふ、"いいよ"。ボクたちも家族だ」
🔓 カチャ
マオ「やったー!家族なら、ずっと一緒にいられるね!」
マオ「おかあさんとおとうさんにも教えなきゃ!」
ツヅリ「そうだね。はやく帰ってくるといいね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【夕方】
メグミ「全っ然ダメ!見つからない!」
コズエ「とりあえず、報告会をしましょうか。あまり成果はないでしょうけど…」
ルリノ「報告と言われても…」
メグミ「手がかりなし!以上!」
サヤカ「わたし達もくまなく調べましたけど、ツヅリさんはおろか他のお客さんも見かけませんでした」
カホ「あの太っちょのお客さんは、話しかけても食べるのに夢中で反応してくれなかったです」
メグミ「あぁ、そういえば私もひとりすれ違ったなー」
ルリノ「え、そうだっけ?」
メグミ「いや、ルリちゃんと行動する前ね。汚い格好でちょっと臭う感じの人だったから、その時は無視しちゃったんだけど──」
メグミ「あの時に勇気持って話しかけておくんだった!」
ルリノ「二人の時は誰とも会わなかったもんね…結構レアだったのかも」
メグミ「まさか唯一まともに話せそうなのがあのナンパ野郎だけだったなんて!」
サヤカ「ナンパ?」
カホ「朝ごはん食べてる時、つり目のちょっと怖い人に話しかけられたんだ。『サヤちゃんは一緒じゃないのか?』って」
サヤカ「え──」
-
ルリノ「その反応…やっぱり最初の部屋でトラブルになった人?」
サヤカ「あ、はい…そうだと思います」
サヤカ「あの、その人他に何か言ってませんでしたか?」
メグミ「いや?特に何も。ただ嫌味言ってただけだよ」
サヤカ「そうですか」ホッ…
コズエ「あの人もその後は見ていないわね」
カホ「話を聞けたらよかったんですけどね」
サヤカ「!!ダメです!あの人は!」
カホ「え?でも、常連っぽい感じだったし、この旅館について何か知ってるかも知れないよ?」
サヤカ「ダメなものはダメです!あの人からは危険な気配がします!」
ルリノ「サヤカちゃんどうしたの?確かにちょっと怖い雰囲気の人だったけど…」
メグミ「ま、会いたくても見つからないんだけどね」
グ〜〜〜
カホ「あ、ごめんなさい…///」
コズエ「時間も遅いし、夕食にしましょうか」
メグミ「というか、ちゃっかりお昼も食べちゃったけどさ、あれ本当に食べていいの?」
ルリノ「カホちゃんが言ってたやつだとしたら、食べるのはまずいよね…」
サヤカ「そうは言っても、もう3度も食べてしまってますし、今更なのでは?」
コズエ「サヤカさんの言う通りよ。今は食料が提供されていることに感謝しましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【食事処】
カホ「またいつの間にか用意されてる…」
ルリノ「誰が作ってくれてるんだろう?」
メグミ「メニューは昨日と同じみたいだね」
コズエ「……」
カホ「コズエちゃん、どうかしましたか?」
コズエ「いえ、ただ…こういう旅館は毎日仕入れる食材が違うから、献立も変わるはずなのだけれど…」
メグミ「『普通』と比べても仕方ないでしょ?どう考えても今は異常事態なんだから」
ルリノ「そもそも食材を仕入れたり料理する人が居ないもんね…」
サヤカ「というか献立どころか、見た目も何もかも、昨日とまったく同じじゃないですか?」
メグミ「そう?さすがに覚えてないなー」
コズエ「昨日と同じ……もしかして!」 ガタッ
ルリノ「コズエさん?」
-
コズエは自分達から離れた無人のテーブルに向かって歩いていく。
コズエ「……ふぅ」 グッ
コズエ「はぁ!」 👊バキッ!
カホ「えぇ!?」
サヤカ「机を壊した!?」
メグミ「ちょっとコズエ!不安な気持ちはわかるけど、気が触れるには早すぎだって!」
コズエ「いいえ、これでいいの。明日にははっきりするわ」
カホ「はっきりする?」
コズエ「驚かせてしまってごめんなさい。さあ、夕食にしましょう」
メグミ「よくわかんないけど…考えがあるならいいや」
カホ「はぁ、今頃ギンコちゃんとカチマチちゃんどうしてるかな…」
サヤカ「今夜帰らなかったらさすがに不審に思いますよ。もしかしたら、ギルドに捜索以来を出してくれるかもしれません」
メグミ「ギンコちゃんは頭が回るからね。腕利きの冒険者とかが来てくれたら、私達もここから出られるかも!」
コズエ「そうね…私達が閉じ込められていることに、"気が付いていれば"ね……」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【コズエの家】
ギンコ「カチマチさん、ご飯できたよ」
カチマチ『はーい!あれ?今日はカリカリじゃないんですか?』
ギンコ「カチマチさん用の料理を作ってみたの。いつもドッグフードだと飽きるでしょ?」
カチマチ『わー!こんなおいしそうなご飯食べていいんでしょうか!』
ギンコ「今頃コズエさん達も豪華な料理食べてるだろうし、私達も少しくらい贅沢しても大丈夫だよ」
ギンコ「あ、食材はちゃんと自分で買ってきたやつだから!」
カチマチ『あはは!ギンコちゃんはマジメだな〜冷蔵庫の中身使っても怒られないと思うよ?』
ギンコ「まあ、それはそうだろうけど…帰ってきた時に食材が無くなってたら困るだろうし」
ギンコ(あと、私がひとりで食べたと思われたら恥ずかしい)
カチマチ『お〜さすがギンコちゃん!気遣いのできるいい女です!』
ギンコ「…ちょっとバカにしたでしょ?」
カチマチ『え!?してないですよ!!』
ギンコ「まあいいや。食べよう?」
カチマチ『はい!いただきまーす!』
──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【翌朝】
コズエ「やっぱり、そういうことなのね……」
カホ「どういうことですか…この机、昨日コズエちゃんが壊したやつですよね?」
ルリノ「直ってる……」
コズエ「あくまで仮説だけれど、この旅館の中は、時間が止まっている…いえ──"巻き戻って"いるわ」
カホ「巻き戻る?」
コズエ「どのタイミングかはわからないけれど、朝になると前日の朝に戻っているのよ」
サヤカ「! じゃあ、昨晩の料理が同じだったのも、同じ日を繰り返してるから…?」
コズエ「そういうことになるわね」
ルリノ「ちょ、ちょっち待ってください!同じ日を繰り返すにしても、人がいないのは変だし、料理も勝手に出てきてましたよね?」
カホ「たしかに!昨日の時点でおかしかったです!」
コズエ「……もしかしたら、基準日が違う?」
サヤカ「昨日よりもっと昔から、"とある一日"を繰り返してる。ということですか…」
コズエ「そう考えると辻褄が合うわね」
コズエ「人は魔物に襲われたと仮定して、料理は壊れた机と同じで、事象として"この一日"に組み込まれているのよ」
-
メグミ「時間を巻き戻すなんてこと、魔物にできるの?」
コズエ「少なくとも並の魔物には無理ね。そんな大魔法……」
サヤカ「つまり、"並"以上の存在がいると」
メグミ「もしコズエの言ってることが本当だとして、この旅館の外の時間はどうなってるの?」
コズエ「わからないわ。でも最悪の場合、時間が進んでいない可能性もあるわね」
ルリノ「その場合はルリ達の現状に気が付いてもらえないかも…」
カホ「そんな!じゃああたし達は一生ここを出られないんですか!?」
コズエ「そうならない為に、第一にするべきことは決まったわ」
メグミ「それは?」
コズエ「私達がやってくる前からここに居る二人、体格のいい男性と、サヤカさんとトラブルになったという男性」
コズエ「あの二人に何としても話を聞くわよ!」
カホ「確かに、こんな状況で普通(?)にご飯食べたりしてるのは怪しいですね!」
コズエ「昨日と同じ班で行動しましょう。私達は食堂へ、メグミ達はもう一人を探してちょうだい」
メグミ「了解!」
サヤカ「ツヅリさんのことも忘れないでくださいね」
コズエ「もちろんよ。全員で帰りましょう!」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【 ⬛︎⬛︎⬛︎ 号室】
ツヅリ「……」
ツヅリ「ねえ、マオ。聞きたいことがあるんだ」
マオ「なぁに?」
ツヅリ「マオはいつから、ここに居るの?」
マオ「どうしてそんなこと聞くの?」
ツヅリ「おかしいと思うんだ。ボクはこの部屋に来てから、少なくとも"一ヶ月"は経ってると感じる」
ツヅリ「なのに、サヤもみんなも、誰も探しに来ない」
ツヅリ「マオが何かしたんじゃないの?」
マオ「……」
ツヅリ「もう一度聞くよ。きみは"いつから"ここに居るの?」
マオ「……ずっと、ここにいるよ」
マオ「どれくらいかは知らない。でも、ずっとここで、おかあさんとおとうさんを待ってる」
-
ツヅリ「マオ、もしかしてきみは──」
マオ「違う!あたしは何もしてないの!二人が帰ってくるのを待ってるだけなの!」
ツヅリ「……ごめん。ボクはそろそろ行くよ」
マオ「!? だめぇ!」 バッ!
ツヅリ「わっ」 バタン
マオ「あたしを置いていかないで…」
マオ「ツヅリお姉ちゃんもわかるんでしょ?ひとりきりの寂しさは…」
ツヅリ「っ…!」
マオ「ツヅリお姉ちゃんも、サヤちゃんが来てくれて救われたんだよね」
マオ「なら、ツヅリお姉ちゃんが、あたしにとってのサヤちゃんになってよ…」
ツヅリ「そ…れは……」
マオ「もうひとりはヤダよ…!ずっと、一緒にいよう?」
ツヅリ「……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
カホ「あの太っちょの男の人、いませんね」
サヤカ「もう朝食は食べてしまったのでしょうか?」
コズエ「どうかしら…お食事処は何ヶ所かあったはずよ。他の場所も行ってみましょう」
カホ「はい!今度は無理やりにでもお話を聞きますよー!」
テクテク…テクテク…
三人で広い館内を歩く。
大きな旅館だが、この三日間で随分と詳しくなってしまった。
サヤカ「?」
カマタ「……」 サッ
サヤカ(あれは…!)
サヤカ「コズエさん、カホさん!少し自由行動をさせていただきます!」 タッタッタッ
カホ「え──サヤカちゃん!?」
コズエ「ちょっと!単独行動は危険よ!」
サヤカ「すぐに戻るので!お二人は先に向かってくださーい!」 サッ
カホ「いなくなっちゃいましたよ!?どうしますか!?」
コズエ「……何か考えがあるのかもしれないわ。心配だけれど、私達は先に向かいましょう」
カホ「サヤカちゃん、大丈夫かな…」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サヤカ「はぁ、はあ…」
カマタ「よう、サヤカちゃん」
サヤカ「あなたがツヅリさんを攫ったんですか?」
カマタ「おいおい、挨拶もなしかよ…」
サヤカ「答えてください!」
カマタ「さあ、どうだろうね?俺かもしれないし、そうじゃないかもしれ──」
🔪グサッ
カマタ「!?」ボタボタ…
サヤカの突き出したナイフが、男の腹部を突き刺す。
男は刺された箇所を押さえながら、前屈みにうずくまった。
カマタ「っ…!この、躊躇のなさ…やっぱり人を殺したことがあるな?」
サヤカ「次はありません。答えてください。ツヅリさんはどこですか」
脊髄を凍らせるような、絶対零度の視線が男を貫く。
しかし、それでも男の態度は変わらなかった。
-
カマタ「3人や4人じゃないな…少なくとも2桁は殺してるだろ?お前」
サヤカ「そんなことはどうでもいいです。わたしが知りたいのは、ツヅリさんの居場所だけです」
カマタ「なんでそんなにあの女に拘る。惚れてんのか?それとも──」
カマタ「お前自身の手で殺したいからか?」
サヤカ「……」🔪スッ
カマタ「待て待て!わかった!知ってることは話す!」
カマタ「だから物騒なもんはしまってくれ。ナイフを向けられてちゃ落ち着いて話もできない」
サヤカ「……」🔪
この男は旅館で出会った中で唯一、まともに話が出来る人間だ。
もしかしたら、本当にツヅリさんについて知っているかもしれない。
だが逆に、この男が全ての元凶の可能性もある。
今ここで殺せば、事態は驚くほど簡単に解決するかもしれない。
ツヅリさんの居場所だけでも聞き出すか、それともすぐに殺すか。
わたしは──
1.殺す
2.殺さない
-
2
-
2
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
2.殺さ〓〓 🔪グサッ
カマタ「ごぼっ──」
この男は何か知っ〓〓〓まだ殺〓〓
〓〓〓〓〓〓〓〓〓──
『考える必要なんてない』
🔪スパン! ブシャー
…………サヤカは男の喉元にナイフを突き立てた…
ドス黒い血液が、壊れた蛇口のようにとめどなく溢れ出る。
カマタ「こ──の──!」
カマタ「 」 バタン
サヤカ「……」
サヤカ(何も変わりませんね。この人が原因ではありませんでしたか)
サヤカ(まあいいです。ツヅリさんがそう簡単に死ぬはずありません。カホさん達と合流しましょう)
サヤカ「あ、そういえば……」
サヤカ「どうして人を殺してるとわかったのかは、聞いておくべきでし──」
ザクッ!
サヤカ「!?」ブシャー
立ち去ろうとしたサヤカの背中が、何か鋭利なモノで切り裂かれる。
-
サヤカ「ぐっ──」ドサッ
右肩から斜めに袈裟斬りにされ、サヤカの服は溢れる血でみるみる赤く染まっていく。
サヤカ「なんで、生きて──」
カマタ「危ねぇ危ねぇ。俺が"普通の人間"だったら即死だったわ」
後ろを振り返ったサヤカが見たものは、男ではなく異形の魔獣だった。
体は縦に引き伸ばしたように、長く伸び、両手は鋭い鎌のようなものに変形している。
まさに人間とカマキリを融合させたような、奇っ怪な風貌だった。
カマタ「なんでお前が人殺しだとわかったかって?」
カマタ「"同類"だからだよ」
サヤカ「……一緒にしないでください。わたしはあなたと違ってまともな人間です」
カマタ「まとも?人を殺しておいてよくそんなこと言えるな」
サヤカ「化け物と比べないで欲しいと言ってるんです。その姿…人狼とかいうのと同じ、混血の魔獣ですか?」
カマタ「いいや違うね。俺は正真正銘、普通の人間だった。ここに閉じ込められるまではな」
サヤカ「説得力がありませんね…」
-
カマタ「本当さ。この旅館は人の魂を腐らせる。ほとんどの人間は死ぬが、"俺達"みたいな適応できた人間だけが魔に堕ちる」
🔪シュッ
カキン!
カマタ「危ねっ!ほんと人の話聞かないのな!?」
サヤカ「…っ」
サヤカ(不意打ちを外した…となるともう逃げるしかないですね…)
カマタ「雑談してくれる雰囲気じゃないな。なら本題に行こう」
カマタ「お前、俺と一緒にここで暮らさないか?」
サヤカ「──は?」
カマタ「ここは俺達にとって最高の場所だ。飯は勝手に出てくるし、人を殺しても外にはバレない」
カマタ「俺達みたいな人を殺すことに快感を得る異常者は、外では息苦しい生活を強いられるだろ?」
サヤカ「…別に人を殺すことに快感なんて覚えてません」
カマタ「見栄を張るなよ。俺達は同類なんだ。今更そのことを隠す必要もないだろ?」
サヤカ「さっきから"俺達俺達"って──気持ち悪いのでやめていただけますか?」
サヤカ「わたしはあなたが言うような、生きづらさを感じたことなんて一度もありません」
カマタ「ふぅん…」
-
サヤカ「というか、この旅館に人が居ないのって、まさかあなたが殺したからですか?」
カマタ「それだけじゃないけどな?俺は好みの顔のヤツしか殺さない」
カマタ「整った綺麗な顔をぐちゃぐちゃに切り裂く──その行為だけが俺に生きる快感を教えてくれる!」
サヤカ「……はぁ、やはり理解できませんね」
サヤカ「あなたなんかと一緒に暮らしていては、それこそ気が狂って死んでしまいます」
カマタ「ったく、つまらない女だな……」
サヤカ「話はそれだけですか?ならわたしは失礼します」 スッ
カマタ「おっと!」 ピョン
サヤカ「っ!」
男は軽やかに飛び上がると、立ち去ろうとするサヤカの目の前に立ち塞がる。
カマタ「何しれっと帰ろうとしてるんだ?俺の提案を飲まないなら、お前はここで死ぬだけだ」 シャキン!
サヤカ「…殺す人は選んでるじゃないんですか?」
カマタ「残念だったな。お前の顔は割と俺好みなんだ」
サヤカ「……とんだ変態さんに目をつけられてしまいましたね」🔪スッ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【食事処】
カホ「あっ!居ましたよ!」
太った男「あむっ!あむっ!」 ムシャムシャ
コズエ「相変わらずの食べっぷりだわ…」
カホ「今度こそ話を聞きますからね!こんにちはー!」
太った男「……」ムシャムシャ
カホ「こ・ん・に・ち・は!」
カホ「お話聞きたいんですけどー!」
太った男「……」ムシャムシャ
カホ「むぅ…反応してくださいよー!」 ユサユサ!
コズエ「私達のことはまるで眼中に無いのね…」
カホ「こうなったら──えいっ!」
太った男「……!」
カホは男が食べている料理を取り上げ、自分の胸元に持ち上げる。
カホ「ほら!こっち見てください!」
太った男「あ、あぁ……食い物…」
カホ「返して欲しければ質問に答えてください!どうやったらこの旅館から出られるんですか!」
太った男「食べなきゃ…食べなきゃ死ぬ……何か…」
太った男「あ──あった」 ガシッ
カホ「へ?」
太った男「あむっ!」✋ガブリ
カホ「ひうっ!?!?」
男はおもむろにカホの手を掴むと、そのまま指先を自身の口に含んだ。
カホ「っ!」 ゾワゾワ
生ぬるい粘膜と、生き物のように蠢く舌の感触に、カホは全身が総毛立つのを感じる。
-
カホ「は、離して──」
コズエ「何をしているの!」💢
ドンッ!
太った男「うぐ…」 グラッ
ガラガラ!ガシャーン!
男は鬼の形相をしたコズエに突き飛ばされる。
その際に体を支えようとして机を掴み、机ごと卓上のご飯をひっくり返してしまった。
太った男「あ、あぁ……食い物が…!」
コズエ「カホ!怪我はない?」
カホ「だ、大丈夫です…ちょっと歯型が付いちゃいましたけど…」
コズエ「なんてこと…!取り敢えずこれで手を拭いてちょうだい」 スッ
カホ「でも、コズエちゃんのハンカチが汚れちゃう…」
コズエ「そんなことどうでもいいわ!それよりも早く手を──」
ズズズズ…
コズエ「!」
カホ「!」
突然、二人のすぐ近くで膨大な魔力が溢れ出した。
???「食べなきゃ…いけないのに…」
???「よくも…オレの食い物を…!」ミシミシ
カホ「な、なんかこの人…膨らんでませんか!?」
コズエ「何が起きているの…?」
-
???「食い物がないなら…オマエらを──」 ムチムチ…ビリッ!
男の体は風船のように膨れ上がり、着ている服が破れ散る。
露になった皮膚は紫色に変色し、まるで巨大なゴムボールのようだ。
魔人デブー「オマエらを…喰わせろ!!」三 ボン!
コズエ「危ない!」 ドン
カホ「きゃっ!」
ガシャーーン!!
カホ「痛たた…」 ペタン
コズエ「突き飛ばしてごめんなさい!怪我はない?」
カホ「はい!ありがとうございます!それより……」
デブー「あむ!あむ!」バキバキ ムシャムシャ
カホ「あの人、魔物だったんですか…?椅子を食べてるし…」
デブー「ぺっ!マズイ…」モゾモゾ
デブー「肉を…食わせろ!」 ガバッ
ブチブチブチ…!
男はカホ達に向き直ると、顎が外れるほど大きく口を開く。
そのまま口は開き続け、遂には首元まで裂け、その奥に黒ずんだ歯がびっしりと並んでいるのが見えた。
カホ「ひっ…!」
コズエ「なんておぞましい…!」
-
デブー「食い物ぉぉぉ!!」 ドタドタ!
肉塊と化した男は、大口を開けたまま二人に突進する。
コズエ「カホは隠れてて!」ダッ!
カホ「わかりました!」 サッ
コズエ「はっ!」ピョン
デブー「!!」
コズエは迫り来る男を、体を捻らせながら軽やかに飛び越える。
コズエ「ふん!」👊シュッ
更にはすれ違いざまに、男の背中に鋭い拳を叩きつけた。
👊ブニョン
コズエ「!?」
しかし、コズエの拳は男の柔らかい体に沈み込み、想定していた衝撃を返さない。
コズエ「っ!」 シュタ↓
コズエ「はぁっ!!」ブン!
フニョン…
コズエは続けて蹴りを繰り出すも、やはり男の体に飲み込まれて全く手応えがない。
コズエ「やっかいね…相手を攻撃してエネルギーを貯める戦法を試したかったのに……」
コズエには、以前魔物に体を乗っ取られかけた際の記憶が残っている。
皮肉にもその時の魔物の戦い方は、保存魔法の扱いに困っていたコズエにとって、目から鱗なものだった。
コズエ(今回の相手は通常の打撃は効きそうにないわね。どうやって戦いましょうか──)
-
デブー「肉…」 ピョン↑
デブー「むぅぅん!!」 三ビュン
コズエ「!?」
男はボールのような体で軽く跳ねると、着地と同時にコズエに向かって飛んでいった。
コズエ「きゃぁ!」 バウン!
見た目とは裏腹な俊敏な動きに、コズエは対応が一瞬遅れ、その巨体に弾かれてしまう。
コズエ「っ!」 ガシャーーン!
カホ「コズエちゃん!!」 スッ
派手に壁に打ち付けられたコズエを見て、カホはすかさず杖を取り出し援護に入ろうとする。
コズエ「…」 ✋ピタ
だが、コズエはそんなカホを無言で手で制すと、ゆっくりと立ち上がった。
コズエ(幸い、今の衝撃は魔法で吸収できた)
コズエ(攻撃を受けるフリをしてエネルギーを貯めつつ、確実にダメージを与えられるタイミングを狙う!)
コズエ「さあ、かかってきなさい!私は闘牛士のように避けたりはしないわよ!!」 グッ
デブー「ふぅ…ふぅ…!」ピョン↑ピョン↑
デブー「肉ぅぅぅ!!!」三ビュン
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【客室棟】
メグミ「何となく客室の方に来ちゃったけど、どうやって探そっか?」
ルリノ「うーん…でっかい声で呼びかけるとか!」
メグミ「よし!やってみるか!」
メグミ「すぅー…」
メグミ「メグちゃんマジ天使ーーー!!!!」
ルリノ「それ呼びかけじゃなくてただの自己紹介だよね!?」
メグミ「チッチッチッ!これはれっきとした作戦なんだよ☆」☝️
メグミ「わざと変なことを大声で叫ぶことで、隠れてる人も気になって出てきちゃうっていうね!」
ルリノ「おお…考え方は冷静なのに、行動がぶっ飛んでる」
メグミ「さあ!次はルリちゃんの番だよ!」
ルリノ「ルリもやるの!?ルリそんなすげー肩書きとかないよ!?」
メグミ「何でもいいんだって!思わず気になって出てきちゃうようなことなら!」
ルリノ「そんなこと言われても…」
メグミ「肩書きがないなら、ルリちゃんの夢でも叫んじゃえ!」
ルリノ「夢…」
ルリノ「み、みんな仲良くなれ〜〜」
メグミ「お!いいねー!ルリちゃんらしい!」
ルリノ「そ、そうかな…///」
-
ルリノ「てか!ルリだけ夢を叫ぶのは不公平だとルリ思う!メグミさんも言ってよ!」
メグミ「私?いいよ!」
メグミ「世界中を夢中にするーー!!!」
ルリノ「世界中を夢中に?」
メグミ「私が天国にいた頃に、るりちゃんと一緒に掲げた目標!」
メグミ「いつか天使も人間も、種族の垣根なくみんなで笑い合える世界にするって!」
ルリノ「へー素敵な目標だね!」
ルリノ「でもなんでそれで『世界中を夢中に』なの?」
メグミ「そりゃあ、メグちゃん達ちょーキュートだから!"かわいい"でみんなの心をひとつにするんだよ☆」
ルリノ「あはは…メグミさんらしいな」
メグミ「あ、ていうか目的忘れてた!誰も出てこないじゃん!」
ルリノ「それ、最初の時点でわかってたよね…?」
メグミ「むむむ…よし!別の階に行くよ!」
ルリノ「待って!まさか全部の階で今のやるの!?」
メグミ「え?とーぜんやるけど?」
ルリノ「おう…マジか…誰でもいいから早く出てきて欲しいなー…」
-
「……」 トボトボ…
メグミ「あれ、誰か歩いてきてない?」
ルリノ「マジで!?助かった──」
「ぅぁ…ぁぁぁ……」 ユラユラ…
メグミ「あー!あの人私が1回すれ違った人だ!」
ルリノ「!!!」
ルリノ(あれは…!)
メグミ「おーい!お話し聞かせて〜」
ルリノ「近づいちゃダメ!!」
メグミ「へ?」
「ぅぁぁ……」 ガシッ
メグミ「ちょ、ちょっと!お触りは禁止──」
「……」 ガブリ!
メグミ「いったぁぁ!!!?」
ルリノ『聖なる光よ 穢れを祓え』
ルリノ『ピューリファイ!』💠
「ぁ…ぁぁ……」 サラー…
男は浄化魔法の白い光に当てられると、塵になって跡形もなく消えてしまった。
メグミ「消えちゃった…今の人なんだったの…?」
ルリノ「あれがアンデッドだよ。亡くなった人の魂が魔素に汚染されて、ああやって人を襲う魔物になっちゃうの」
メグミ「あれがアンデッド……ごめんね、私達天使が取りこぼしたせいで…」
-
ルリノ「ここに閉じ込められたお客さんだったのかも…?もしそうなら、ルリ達もいつかああなっちゃうのかな…」
メグミ「そんなことにはさせないよ!必ずみんなで家に帰るんだから!」
ルリノ「うん…うん!そうだね!」
メグミ「よーし!今度こそ"生きてる"人を見つけるぞー!おー!」
ルリノ「メグミさん、それフラグっぽくね?」
カリカリ…
メグミ「? 今なにか聞こえなかった?」
ルリノ「そう?ルリには何も──」
カリカリ…
カリカリ…
メグミ「やっぱり聞こえるよ!なにかを引っ掻いてるみたいな音!」
ルリノ「ルリにも聞こえた!客室の中から…?」
カリカリ…🚪 🚪カリカリ…
カリカリ…🚪 🚪カリカリ…
カリカリ…🚪 🚪カリカリ…
カリカリ…🚪 🚪カリカリ…
ルリ メグ
メグミ「!?」
ルリノ「!?」
廊下を挟んだ両側の客室から、扉を爪で掻く音が一斉に鳴り出す。
-
メグミ「これ…なんかヤバくない?」
ルリノ「逃げよう!」
🚪バーン!
「ぁぁぁぅぁ…!」 ヨロヨロ
ルリノ「! やっぱり、アンデッドだ!」
🚪バン! 🚪バン!
🚪バン! 🚪バン!
「ぅぅぅ…」
「タスケテ……」
「ぁぁ…ぁ……」
「ぅぅぁ…」
ひとりが扉を突き破ると、堰を切ったように客室から次々とアンデッド達が溢れ出る。
ルリノ「まずい!挟まれた!」
メグミ「こんなにたくさん…今までどうして気が付かなかったの!?」
ルリノ「メグミさん!ルリから離れないで!」
ルリノ『聖なる光よ 穢れを祓え』
ルリノ『ピューリファイ!』💠
「ぅぅ…」 サー…
メグミ「え」
メグミ(今のが浄化魔法?ちゃんと見たのは初めてだったけど、あれって天使の……)
-
ルリノ『聖なる光よ 穢れを祓え』
ルリノ『ピューリファイ!!』💠
「…アリガ…ト…」 サー…
ルリノ『聖なる光よ──どわっ!?」
「ぁぁ…」ガシッ!
「ぅぅぅ……」ガシッ!
ルリノ(数が多すぎる…!詠唱が間に合わない!)
一度手を止めてしまうと、アンデッドは次々とルリノに覆いかぶさってくる。
アンデッド達の山に押しつぶされ、遂にルリノは身動きが取れなくなってしまった。
ルリノ「うぐぐぅ…!」 ギチギチ
ルリノ(まずっ…息できな──)
メグミ「ルリちゃんから離れろ!」💠ピカー!
「ぅ… 」サー…
「ぁぁ…」サー…
「 」サー…
ルリノ「ぷはぁ!助かったー!」
メグミ「ルリちゃん大丈夫?」
ルリノ「大丈夫!でもメグミさん…今の魔法って…」
メグミ「話はあとだよ!まずはここを突破しなきゃ!」
ルリノ「う、うん!」
ルリノ『聖なる光よ 穢れを祓え』
ルリノ『ピューリファイ!!』💠
メグミ「おらおら!道開けろー!」💠
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【1階ロビー】
🔪カキン! カキン!
サヤカ「っ!」 ズサー
カマタ「だんだん余裕が無くなってきたんじゃねえのか?」シュッ!シュッ!
サヤカ「はっ!」🔪カキン!
ザクッ!
サヤカ「ぐっ…」
二人は1階のロビーに戦いの場を移していた。
敵は二本の大鎌を自在に操り、確実にダメージを与えてくる。
対するサヤカの武器は、小さなナイフ一本のみ。
サヤカは武器のリーチの差で、一方的に攻められ、防戦を強いられていた。
故に、サヤカは遮蔽物が多く、程よく広いこの空間を選んだ。
サヤカ(狭い場所だと逃げきれないし、身を隠せる場所もあった方がいい)
サヤカ「はぁ、はぁ…ぅぐっ…」 ガクン
カマタ「なんだ、大層強いのかと思ったら…戦闘能力は普通の女の子なんだな」
サヤカ「…本気を出していないだけです…」🔪シュッ
カキン!
カマタ「おっと!攻撃を読ませない技術は一級品だ。ハッタリは下手だがな」
カマタ「どうせ今まで全員不意打ちで殺してきたんだろ?だから戦闘の経験は少ない。違うか?」
サヤカ「っ…!」
男の言葉は図星だった。
今までほぼ全ての殺人を、無防備な相手への不意打ちで成功させてきた。
それ故に、サヤカには直接的な戦闘経験はなく、ましてや魔物相手の戦闘経験などある筈もなかった。
-
カマタ「そらっ!」シュッ!
サヤカ「ふっ!」 サッ
ガコン!
サヤカ「!?」
ザクッ!
サヤカ「うぐっ…!」
カマタ「自分からここに誘導してきたくせに、そのせいで自分が動き辛くなるなんて……素人丸出しだな」
カマタ「戦闘ってのは頭の良さよりも経験がものを言うんだぜ?」 シュッ!
サヤカ「がっ……!」 ザクッ
男の振り下ろした鎌がサヤカの太ももに突き刺さる。
サヤカ「っ──わ、わたしを傷付ければ、必ずツヅリさんが助けに来ます…王国騎士相手に戦うつもりですか?」
カマタ「ふん、あのでけー女ならもう帰ってこねえよ。きっとここの管理人に気に入られたんだろ」
サヤカ「は……?管理人?」
カマタ「お前らも気が付いたんだろ?この旅館は魔法によって時が止められてると」
サヤカ「止められて──巻き戻ってるんじゃないんですか?」
カマタ「そうとも言えるかもな。俺がやってる訳じゃないから詳しくは知らない」
カマタ「俺が知ってるのはせいぜい、この旅館にとっての"今"がいつなのかってことだけだ」
サヤカ「……」
サヤカ(お話のターンですかね…隙を見て殺せればいいのですが…)
カマタ「知ってるか?約50年前にここの裏山で土砂崩れが起きた。この旅館は本来それに巻き込まれて潰れてるはずなんだ」
サヤカ「……」
-
サヤカ(そもそも首を刺しても死なない相手は、どこを狙えばいいのでしょうか…)
カマタ「そんな様子どこにもないって言いたいんだろ?そりゃそうだ、ここはその事故の前日で時が止まってるんだからな」
サヤカ(血は通っているようですし、やっぱり心臓?)
カマタ「おい!聞いてんのか!せっかく教えてやってんのに!」
サヤカ「すみません…あなたに切られたせいで意識が朦朧としてるんです」
カマタ「その割にまだ目は死んでないな」
サヤカ「それで、今の話とツヅリさんがなんの関係があるんですか?」
カマタ「単純な話、その時を操ってる魔法使いが、サヤカちゃんの大切な人を監禁してるのさ」
カマタ「今までもそうやって、死ぬ訳でもなく忽然と消えていった客を何人か知ってる」
サヤカ「なぜ監禁なんてするんですか…」
カマタ「さぁな?俺は管理人とあったことがないから知らねぇよ」
サヤカ「今まで何人がその管理人に捕まったか覚えていますか?」
カマタ「うーん…何人だったかな?俺がここに来てから──」
🔪ザクッ!
カマタ「!?」
人は記憶を呼び起こすとき、無意識に視線が上に行く。
その一瞬の隙を、サヤカは見逃さなかった。
カマタ「クソッ!この女ァ!」
サヤカ「〜〜っ!」🔪グググ…
サヤカは相手の懐に飛び込むと、心臓に深くナイフを突き刺し、そのまま手首を回転させて傷を抉る。
-
カマタ「ごばっ…!」
サヤカ(これでどうだ──)
ゲシッ!!
サヤカ「がはっ──!」ゴロゴロ…
サヤカ「げほっ!げほっ…!」
カマタ「やってくれたな…このガキッ!!」
サヤカ「やっぱり…ナイフで刺した程度じゃ死にませんか……げほっ!」
カマタ「当たり前だろ!魔道具でもなんでもないキッチンナイフで、魔獣が殺せると思うなよ!」
サヤカ「ぐっ…」ヨロッ
カマタ「せっかくお話ししてやろうと思ったのに、そっちがその気なら俺も殺るしかねぇじゃんか」 シャキン
カマタ「なぁ、さっき俺が言ったこと覚えてるか?俺はお前みたいな可愛い顔を切り裂くのが生きがいなんだ…」
サヤカ「すみません。興味が無いので聞いてませんでした」
サヤカ「あと、自分語りばかりする男性は女性からモテませ──」
ズバッ!!
サヤカ「ッッッ!?」 ブシャー!
真っ直ぐに振り下ろされた鎌が、サヤカの顔を左目ごと切り裂いた。
サヤカ「あ"あ"あ"あ"ぁ!!」
サヤカ(熱い熱い熱い痛い痛い!!)
サヤカ(目──左目…どうなった!?切られた?無事?ある?)ダラダラ
サヤカ「ぁ──赤い──」
カマタ「いいね!いいねぇ!その顔!」
カマタ「絶望に呑まれた表情と、血に濡れた半面の対比が最高だ!」
-
サヤカ「……」キーーン…
サヤカ(──何を言ってるのか、聞こえない…)
シュッ!
サヤカ「!!」 ✋バッ!
ザシュ!
サヤカ「ぐっ……あ"あぁぁぁ!!」
今まで経験したことの無い痛みに、サヤカの脳が大量の危険信号を発する。
冷静だったはずの思考は、それらの電気信号にかき消され、死に対する恐怖だけが思考を埋め尽くした。
サヤカ「や、やめて…ください…!殺さないで……」
カマタ「あ?何言ってんだ。お前だって楽しんで人を殺してきたんだろ」
サヤカ「たの…しい…?」
カマタ「だってのに、自分が殺されそうになったら命乞いだなんて、虫がよすぎるんじゃねえか?」
サヤカ「ぁ…ぁぁ……」
カマタ「…」スッ
サヤカ「っ!」 ビクッ
カマタ「これからお前の顔を俺好みに切り刻む訳だが…話せるうちにひとつ聞いておきたいことがある」
カマタ『お前はなぜ人を殺した』
サヤカ「なんで……殺したか……」
カマタ「そうだ。お前みたいな若くて顔も良くて真面目そうな奴が、なんで殺人なんかしたのか、純粋に興味があるんだよ」
サヤカ(そんなこと──)
-
──わからない。
なぜ人を殺すのか、そこに疑問を持ったことはなかった。
それは自分にとって当たり前のことだったから。
人が産まれた瞬間に産声をあげるように──
小鹿が産まれてすぐに立ち上がるように──
発芽した植物が太陽を目指すように──
わたしは、この世界に産まれた瞬間から、"そういうもの"なのだと自覚していた。
きっと【わたしを創った人】が、わたしをそうデザインしたんだ。
なぜそんな人間にさせられたのか、神様の思考はわからない。
だけど何となくわかることもある。
その人はきっと、ちょっとした思いつきとか、"誰か"への意地悪だとか、そんな軽い気持ちでわたしを創ったんじゃないだろうか?
たまに、自分の意思とは関係なく人を殺している時がある。
行きつけのお肉屋さんの店主とか、買い物帰りに会った親子とか。
そういう時、わたしは誰かに操られているんじゃないかと錯覚する。
でもそんな感情さえも蓋をされて、疑問も持てずに、わたしはただの人形に成り下がる。
サヤカ「──理由なんて…ありません……」
-
カマタ「はぁ!?無いわけないだろ!」
カマタ「何かあるんだろ?優越感とか、快楽とか、性的興奮とか!」
サヤカ「そんなもの…持ってもいいのでしょうか…」
カマタ「理由も無いのに人を殺す方が不自然だろ!?」
カマタ「よく考えてみろって!殺人なんて、無感情でできるはずないんだからよ!」
カマタ「人を殺したのは"お前の意思"だった筈だ!!」
サヤカ「意思──」
わたしの──本物の意思。
誰かの理由じゃない、わたしだけの理由──
そんなものを、持ってもいいの?
持ってもいいのだとしたら、それは──
『ダ〓〓よ!〓〓カち〓〓!』
声が聞こえる。
いつも聞こえていて、いつも聞こえない声。
わたしの行動を決めている声。
『〓〓〓〓〓!〓〓〓〓〓〓〓』
声はだんだんと遠くなっていく。
わたしを動かす意図、わたしを操る糸──
その"イト"が、切れる。
『〓〓〓──』
ブチン!
-
ツヅリ『サヤ』
サヤカ「──あか──」
カマタ「うん?」
サヤカ「あぁ…そっか……そうだったんですね…!」
サヤカ「やっと見つけられました…わたしだけの理由……」ムクッ
サヤカ「わたしは、"赤"に憧れたんです」
カマタ「っ!」 ゾッ…
カマタ(この感覚…!)
カマタ「あ、赤色に憧れたって……まさか血が見たくて人を殺してたなんて言わ
サヤカ「そうですよ。わたしはその為に人を殺すんです」
サヤカ「わたしはただ、体から流れ出るあの真っ赤な情熱を見たい…!」
カマタ「……そ、そうか。正直何言ってんのかわかんないが……」
カマタ「まぁ質問の答えも聞けたし、お楽しみの時間と行こうか…」 ガタガタ
サヤカ「どうしたんですか?手が震えていますよ?」
サヤカ「あ、手じゃなくて鎌ですかね」 ニコッ
カマタ(何なんだコイツ…口調は変わってないのに、まるで別人と話してるような…)
カマタ(そうだ!殺気…!)
カマタ(コイツはさっきまで、まるで本当は殺す気なんて無いみたいに殺意を消していた──いやそもそも持ってなかった)
カマタ(でも今は違う…今のコイツからは、全身を突き刺すような強い殺意を感じる!)
-
サヤカ「…」 グイッ
カマタ「!!」
サヤカは体を男の方に寄せると、顔を近づけて男の耳元で囁く。
サヤカ「感謝します…あなたのおかげて、自分を取り戻すことができました」
カマタ「なにを……言って…」
ポタ…
カマタ「は──?」 グラッ
バタン……
カマタ「あ──え──?」
カマタ(刺された?どこを?いつ?)
サヤカ「やっぱり、魔物化していても、脳が傷付けは動けなくなるみたいですね」
男の左目には、いつの間にかナイフが深く突き刺さっていた。
サヤカ「これでおあいこですね」 ニコッ
カマタ「な──」
カマタ(なんてヤツだ…あれだけの殺気を放っておきながら、全く攻撃に気付けなかった…!)
カマタ「お前…本当は何人殺してきた…」
サヤカ「はい?」
カマタ「10や20じゃねぇな…これだけの殺しの技術…相当な人数を殺ってる筈だ…!」
サヤカ「えっと……」
サヤカ「変なことを聞くんですね…あなたは1日にするまばたきの回数を、わざわざ数えるんですか?」
-
カマタ「は──」
カマタ「はは──はははっ!!」
カマタ(同類?冗談じゃねぇ…)
カマタ(コイツは魔物になった俺なんかより、よっぽど──)
🔪グググ…ブシャー!
カマタ「」サー…
サヤカがナイフを引き抜くと、男はやっと自分が死んでいることに気が付いたのか、塵になって消えていった。
サヤカ「さて、片付きましたね…」
サヤカ「早くメグミさん達に合流して…傷を…治して……」
サヤカ「あ、れ──?」クラッ
バタン!
サヤカ(あぁ…これまずいですね…)
サヤカ(運良く誰かが見つけてくれると……いいんですが──)
サヤカの意識は、そこで途絶えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『称号獲得』
ムラノ サヤカ : 『Not a marionette』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【食事処】
ズキン!
カホ「痛っ…!」
カホ(今の感覚…サヤカちゃん?)
ガシャーン!
カホ「!!」
コズエ「ぐっ…」ボロ…
カホ「コズエちゃん!大丈夫ですか!?」
コズエ「えぇ、これでいいの…やっと充分なエネルギーが溜まったわ」
デブー「はぁはぁ…肉…肉…!」ダン!
コズエ「…」グッ
コズエ(どんなに身体を鍛えた人にだって、急所というものは存在する…!)
コズエは大口を開けて突進してくる男の下顎に狙いを定める。
コズエ「そこっ!」
コズエ『リリース:インパクト!』ブン!
デブー「あがっ!?」 ゴキッ
長くしなやかな足が男の顎を蹴り抜き、男は一瞬白目を剥く。
しかし、顎を砕かれても突進の勢いが相殺されるわけではない。
カホ「危ないっ!」
コズエ「ふっ!」クルン
コズエは蹴った勢いのままその場で一回転をすると、力を込めた拳に遠心力を上乗せする。
コズエ「はあっ!!」✊ブニッ
…バキバキ!
コズエの拳は再び男の柔らかい額に飲み込まれる。
しかし先程までと違い、頭蓋骨が粉砕された確かな手応えを感じた。
-
コズエ(今よっ!)
コズエ『フルリリース:インパクト!』💥ボン!
頭にめり込んた拳から、今まで溜め込んだ分の衝撃が一気に開放される。
デブー「が──」
脳の中心で爆発が起きたような衝撃に、元人間の魔物が耐えられるはずもない。
男は舌をだらしなく放り出したまま、白目を剥いて気絶した。
カホ「わぁ……」
カホ「あたしが言うのもなんですけど、コズエちゃん本当に強くなりましたね…最初はイノシシを倒すのにも苦戦してたのに…」
コズエ「そうねぇ、守りたい人ができたからかしら」ニコッ
カホ「っ!」ドキッ
カホ「そ、そういえば!結局この人からお話を聞くことはできませんでしたね!」
コズエ「ええ、でもこの様子だと何も知らないのではないかしら?明らかに理性を失っていたようだったし…」
カホ「それもそうですね…やっぱりあのナンパさんの方が当たりだったのかな?」
コズエ「少なくとも話は聞いてくれそうだったわね。メグミ達、見つけてくれたかしら?」
カホ「あ!あとサヤカちゃん!全然戻ってきませんけど、まさかサヤカちゃんも襲われてたりするんじゃ…」
コズエ「……メグミ達に合流する前に、先にサヤカさんを探しましょう」
カホ「そうしましょう!」
-
デブー「……」ムクムクムク…
ボン!
カホ「わっ!?」
コズエ「!?」
デブー「」 (()) プクー…
カホ「え?え?なんかさっきより膨らんでませんか!?」
男の体が突然膨張し始める。
それはまるで割れることのない風船のように、際限なく膨らみ、空間を圧迫していく。
コズエ「まずいわ!出口が…!」
カホ「塞がれちゃいました!」
コズエ「くっ!このっ!」 ブニッ
コズエは男を必死に押し返そうとするが、柔らかい体に沈み込むばかりでまるで効果がない。
コズエ「このままじゃ押しつぶされる…!」
カホ「コズエちゃん!あたしの近くに来てください!」
コズエ「!」 バッ!
カホ『ヴァリア!』︎︎✨
光のドームが二人を覆う。
男の体はあっという間に空間を満たし、安全地帯はカホの張った結界の中だけになつてしまった。
-
デブー「」ギチギチ…
カホ「な、なんとか間に合いましたね…」
コズエ「ありがとう、カホ。助かったわ」
カホ「いえいえ!こんな時のための杖ですから!」
コズエ「でも、これからどうしましょうか…」
カホ「まさか破裂したりしないですよね…あたしグロテスクなの苦手なんですけど…」
ギチギチギチ……ピシッ!
コズエ「!!」
カホ「結界にヒビが!?」
コズエ「そういえばこの結界、物理攻撃に対してはそこそこだったわね…」
カホ「ん〜〜っ!」︎︎✨
ピシッ! ピシッ!
カホ「コズエちゃんごめんなさい!あんまりもたないかもです!」︎︎✨
コズエ「っ…!」
コズエ(結界は直に割れる…それまでに何とかしないと!)
コズエ(でも、どうすれば……)
カホ「コズエちゃん…!床です!床を壊して下の階に逃げましょう!」
コズエ「!! それだわ!」✊ブン
コズエはカホの言葉を聞くなり、足元の床に拳を何度も打つける。
✊ポム✊ポム✊ポム
コズエ「お願い!間に合って!」
-
ギチギチ…ピシッ!ピシッ!
カホ「う〜〜!もう限界です!」︎︎
コズエ「フルリ──」
パリン!
コズエ「!!」
カホ「きゃっ!」ドン
コズエ「うぐっ…!」
ギチギチギチ…!
カホ「あ──コズ──」ギューーー!
コズエ「っ〜〜〜!!」ギューーー!
コズエ(あと少し…!指先だけでも届けば!)👇プルプル…
👇ツン
コズエ(フルリリース!!)
💥ボン!ガラガラ!!
カホ「うわっ!」ストン ↓↓↓
コズエ「きゃ!」ストン ↓↓↓
ドシン!ドシン!
カホ「いった〜〜〜!!」
コズエ「っ…!カホ、怪我はない?」
カホ「お尻から落ちたので痛いです…」
コズエ「そう…ごめんなさい。私がもっと早く床を壊せれば…」
カホ「まあ、あのまま潰されるよりはマシですよ!」
ギチギチ…
カホ「あの人、どこまで膨らむんでしょうか…?」
コズエ「さあ…わからないわ。でも、どうせもう動くことはできないでしょうし、今は放っておきましょう」
カホ「そうですね!サヤカちゃん達と合流するのが先です!」
コズエ「ええ!探しに行きましょう!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【客室棟】
メグミ「とりゃー!」💠
ルリノ『ピューリファイ!』💠
「──」サー…
メグミ「ふぅ…全員倒したぞー!」
ルリノ「アンデッド達、なんだか苦しそうだった…」
メグミ「死ねないってのも、本人にとっては苦痛なのかもね」
ルリノ「あとずっと気になってたんだけど、メグミさんどうして浄化魔法が使えるの?」
メグミ「うーん…どちらかと言うとそれはこっちのセリフかな〜なんで人間があの魔法を使ってるのか」
ルリノ「え?」
メグミ「一緒に温泉に入った時に少し話したと思うんだけど、天使は亡くなった人の魂を天国に連れてって、そこでキレイに洗うの。次の器に入れるようにね」
メグミ「その為の魔法が、ルリちゃんが使ってた『洗浄魔法』だよ」
ルリノ「!!」
メグミ「一応聞くけど、実はルリちゃん本当に天使だったりしない?」
ルリノ「ち、違う…と思う……」
ルリノ「そもそも浄化魔法は教会のシスター達の間で受け継がれてきた魔法だし…」
メグミ「そうなの?」
ルリノ「うん。なんでも神様への信仰心が強い人だけがこの魔法を使う素質があるんだって」
メグミ「ふーん、信仰心ねぇ…」
メグミ「まぁいいや!今はそれより大事なことがあるし!」
ルリノ「そ、そうだね!みんなにアンデッドがいたことを伝えないと!」
メグミ「いったん集合場所のロビーに行こう!」
ルリノ「うん!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【1階ロビー】
メグミ「まだ誰も来てないか〜」
ルリノ「待って!誰か倒れてる!」
メグミ「え?」
タッタッタッ…!
ルリノ「!! サ、サヤカ…ちゃん…?」
メグミ「ちょっと!?何この怪我!?」
ルリノ「え──嘘だよね?生きてるよね!?サヤカちゃん!!」ユサユサ
メグミ「どいてルリちゃん!」
メグミ『メグリカバー!!』パー
サヤカ「…………ん、んん…」
サヤカ「あ…れ?メグミさん…ルリノさんも……」
ルリノ「目が覚めた!よかった…」ホッ
メグミ「なんでサヤカちゃんがボロボロになって倒れてたわけ!?コズエ達と一緒に行動してたんじゃなかったの!!」
サヤカ「すみません…お二人は悪くないんです。わたしが二人とはぐれてしまって…」
サヤカ「例の男の人と接触したのですが、そしたら急に襲われてしまって…」
ルリノ「酷い……」
メグミ「女の子の顔を傷付けるとかクソ野郎じゃん!!そいつ今どこにいるの!ぶん殴ってやる!!」💢
サヤカ「……気が付いたら消えていました…」
ルリノ「じゃあ、まだ近くに潜んでるかもしれないってことだよね…」
メグミ「コズエなら万が一にも負けないだろうけど、早く合流した方がよさそうだね」
サヤカ「確かお二人は食事処を周っているはずですが…」
-
カホ「おーーい!」バタバタ
ルリノ「あ!来たよ!」
カホ「サヤカちゃん!怪我は!?」
メグミ「もう大変だったんだから!サヤカちゃん全身血まみれで倒れてたんだよ!」💢
コズエ「え──サヤカさん怪我をしていたの!?」
サヤカ「はい、少し…」
メグミ「少しじゃない!私達があと少し遅かったら死んでたかもしれないんだからね!」
サヤカ「ご、ごめんなさい!」
メグミ「まぁ助かったからよかったけど…」
カホ「………サヤカちゃん"大丈夫"?なんか変なところとかない?」ジー
サヤカ「はい?いえ、特には…傷はメグミさんに治していただいたので…」
カホ「そっか……ううん!それならよかったよ!」
サヤカ「?」
メグミ「とりあえずツヅリ以外全員揃ったから、まずは報告するね」
メグミ「結果的に言うと、私とルリちゃんは客室棟の方を探索中にアンデッドの群れに襲われた」
カホ「アンデッド!?」
ルリノ「服装からして、ここのお客さんだった人達だと思う…」
コズエ「閉じ込められたまま亡くなって、それでアンデッドに変異してしまったのかしら…?」
メグミ「私達の結論もそんな感じ。それ以外に人には会えなかったし、もちろんアンデッドから話も聞けてはない」
-
コズエ「次は私達の報告ね。私達は食事処で男の人に接触できたのだけれど…」
カホ「その人、魔物になって襲ってきたので、まともな会話はできなかったです…」
サヤカ「!」
ルリノ「魔物になったって…アンデッドみたいな?」
コズエ「いえ、アンデッドと言うよりも、魔獣に近かったかしら?身体能力や身体的特徴が強化されてる印象があったわ」
コズエ「強さで言うとBランク位だったかしら…」
ルリノ「人間が魔獣化するなんて…」
メグミ「それで、そいつは倒せたんだよね?」
カホ「いや、それが色々あってまだ完全に倒せたとは言えないです…でも、多分もう動けないとは思います!」
メグミ「おっけーじゃあ最後にサヤカちゃん。何があったのか説明してくれる?」
サヤカ「はい。わたしはカマタさん…あ、名前を言ってもわかりませんか?」
カホ「名前は知らないけど、サヤカちゃんにナンパした人だよね?」
サヤカ「そうです。わたしはその人に襲われました。カマタさんも魔獣化?のような状態になってました」
メグミ「じゃあサヤカちゃんも話とかはできなかったのか…」
サヤカ「いえ、それが存外饒舌な方でして…聞いてもいないことを色々教えてくれました」
ルリノ「え!そうなの!?」
サヤカ「はい。自身が魔獣化した理由なども話していた気がしますが、おそらく大切なのはもうひとつの方…」
-
サヤカ「どうやらこの旅館には『管理人』と呼ばれる魔法使いがいて、その人がこの建物内の時間を操っているそうなんです」
サヤカ「そしてツヅリさんはその管理人に監禁されていると…」
コズエ「魔法使い……てっきり魔物の仕業だと思っていたけれど、黒幕は人間ということなのかしら?」
サヤカ「詳しい人物像はわかりませんが…」
サヤカ「50年前にこの旅館を襲った土砂崩れによる事故、その直前でここの時間は止まっているそうです」
カホ「土砂崩れ?」
コズエ「ゆのまち昇天……土砂崩れ……」
コズエ「そうだわ!確か100人以上の人が亡くなった大事故じゃない!どうして今まで忘れていたのかしら!」
カホ「え、でもどこにもそんな災害が起こった様子はないですよ?」
メグミ「事故の後に直前に巻き戻って、そこからループしてるんじゃない?」
ルリノ「その管理人さんが何処にいるかはわかるの?」
サヤカ「いえ、そこまでは…」
メグミ「ここの状況は何となくわかったけど、結局管理人を見つけなきゃ何もできないのは変わらないね」
サヤカ「そうですね。でも、管理人とツヅリさんが一緒にいるなら大丈夫だと思います。だってツヅリさんの魔法は──」
ゴゴゴゴゴ…!
サヤカ「!?」
ガタガタガタガタ!!
カホ「じ、地震!?」
ボロ…ボロ…
メグミ「壁崩れてきてるけど!?」
ルリノ「どどどどうしよう!机の下に隠れる!?」
カホ「ううん!それよりみんなあたしの近くに!」
カホ『ヴァリア』︎︎✨
メグミ「ありがとうカホちゃん!」
コズエ「いったい、何が起きているの…?」
サヤカ「ツヅリさん…」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
ーーーーーーーーーーーー
ユウギリ ツヅリ
性別: 女性
年齢: 14歳
職業: 王国騎士
魔法: 時間魔法
幼少期から特殊な魔法の才に恵まれ、その素質から11歳で王国軍に入隊。
その後2年間で1万体以上の魔物を討伐し、その功績から現在はカナザワの街の治安維持を一人で任されている。
ーーーーーーーーーーーー
-
小さい人「キミがユウギリツヅリかい?」
ツヅリ「うん。そうだよ」
小さい人「キミは時間を操る魔法を使えると耳にした。もし本当なら、是非ともその力を国の為に活かしてみないかい」
ツヅリ「? わかりした。がんばります」
小さい人「ありがとう。だが入隊する前に、今ここでキミの魔法を実演してみて欲しい。本物でないのなら、危険な任務に同行させるわけに行かないからね」
ツヅリ「えっと……?」
小さい人「キミの魔法を今使ってくれるかい?」
ツヅリ「魔法を?わかった」
小さい人「……」
ツヅリ「……」
小さい人「……ん?どうしたんだい?」
ツヅリ「?魔法を使ったよ」
小さい人「時間を止めたんだよね?その間に何をしたのかな?」
ツヅリ「? 何もしてないよ?」
小さい人「……時間を止めて…何もせずに時間を戻したということかい?」
ツヅリ「うん。ちゃんと魔法を使ったよ」
小さい人「えっと、そうだな…ありがとう。だがそれだと、私からは本当に時間が止まっていたのかわからないんだ」
小さい人「そこの机の上にあるコップを持ってきてくれるかな?」
ツヅリ「わかった」トコトコトコ
小さい人「違う!時間を止めてる間に持ってきてくれたまえ!」
ツヅリ「あ、なるほど」
ツヅリ「はい」 パッ
小さい人「!!」 ビクッ
ツヅリ「もってきたよ?」
小さい人「なるほどねぃ…ありがとう。では次は──」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サチ「王国軍へようこそ。今日からキミの教育係を務めることとなったオオガミサチだ。改めてよろしく!」ニカッ
ツヅリ「よろしくおねがいします」ペコリ
サチ「早速訓練に行きたいところだが、まずは王国軍の規則、使命、仕組みについての座学からいこう」
ツヅリ「あ、クモ」🕷
サチ「…ユウギリ君、説明をしてもいいかな?」
ツヅリ「?いいと思います」
サチ「コホン!まずは規則についてだ。王国軍では基本的に上官の司令は絶対!無断での外出は禁止!それから──」
ツヅリ「……」ボー
サチ「……聞いているかい?」
ツヅリ「ううん?聞いてないよ?」
サチ「さっき説明してもいいか確認をとったはずだが…」
ツヅリ「?せつめいしたいんだよね?いいと思います」
サチ「キミが聞いててくれないと、ただの独り言になってしまうんだよ…」
サチ「まあいい!ユウギリ君はまだ若いし、頭を使うより体を動かす方が楽しいだろう!」
ツヅリ「おー」👏パチパチ
サチ「ということで、これをキミにプレゼントしよう」🗡️
ツヅリ「プレゼント?」
サチ「ああ、アタシからの入隊祝いだ!いくら時間を止める魔法が使えようとも、素手では魔物と戦えないだろう?」
サチ「とはいえ最初は模擬刀での訓練をするから、それまでは大切にしまって──」
ツヅリ「痛い」🗡
サチ「こら!勝手に鞘から抜くんじゃない!」
ツヅリ「ごめんなさい」
サチ「まったく…ほら、傷を見せてごらん。回復するから」
ツヅリ「あ、チョウチョ」
サチ「…………」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サチ「よし!今日はユウギリ君の魔法の効果を検証しよう!」
ツヅリ「わー」👏
サチ「実験の前に一応確認しておくが、キミは自分の魔法のことをどれだけ把握できてるかなぁ?」
ツヅリ「んー…しずかになる」
サチ「静かになる?」
ツヅリ「うん。魔法を使うとね、音がなくなるんだ」
サチ「なるほどねぃ。時間が止まった世界は何も動かないから音が発生しないのか……」
サチ「そう言えば初めて会った時にコップを持ってきてもらったね。時間を止めても物を動かすことはできるのかい?」
ツヅリ「できるよ」
サチ「ふむふむ、ちなみにどれくらいの時間止めていられるのかな?」
ツヅリ「?わからない」
サチ「まぁそうだろうね。ということで、今日はそれを調べよう」
ツヅリ「わかった」
サチ「ユウギリ君には今から限界まで時間を止めてもらう。ただし、体調が悪くなったり、不安になったりしたらいつでも魔法を解いていいからね?」
ツヅリ「うん」
サチ「もし一向に限界が来ないようなら、感覚的にだいたい3時間程度で戻ってきてくれ」
ツヅリ「りょうかいです」
-
サチ「それじゃあ始めようか。よーいスタート──」ピタ
シーーン…
ツヅリ「……そういえば、止めたあと何をすればいいか聞いてなかった」
ツヅリ「寝てようかな」コロン
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ツヅリ「ううん……」👀パチ
ツヅリ「よく寝れた。どれくらい寝てたんだろう?」
🕒シーン
ツヅリ「わからない……」
グ〜
ツヅリ「お腹へった…何か食べるものあるかな」
トコトコ…トコトコ…
ツヅリ「おーここはいっぱい食べ物がある。これならしばらくは大丈夫そうだ」
モグモグ
ツヅリ「……サチは3時間くらいでやめていいって言ってたけど、時計が止まってるから今どれくらい経ったのかわからない」
ツヅリ「──とりあえず、暇だし寝てよう」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ツヅリ「そろそろ……食べるものもなくなってきた…」
ツヅリ「もういいかな……」
パチン! ガヤガヤガヤ…!
ツヅリ「サチ……」
サチ「!!」
サチ「ツ──ヅリ…?どうしたんだその髪は!?」
ツヅリ「髪?切ってもらえないから伸びちゃった……」
サチ「伸びたって……3時間で帰ってきていいと言っただろう!いったい何週間…いや何ヶ月時間を止めてたんだ!?」
ツヅリ「わからない……」
サチ「しかも随分痩せてるじゃないか…顔色も悪いし、いったん治癒魔法をかけるから休むんだ!」
ツヅリ「わかった……」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ユウギリツヅリの処遇について、やはり処刑した方がいいのではないでしょうか」
「制限のない時間停止魔法、しかも時間を止めている間の外部への干渉は自由、か…」
「これは明らかに個人が所有して良い力ではありません!」
サチ「私は反対です。彼女は強力な魔法を持っているとはいえ、無垢な少女に過ぎない。それを処刑したなどと知れれば、国軍の信頼に関わります」
「その"無垢"さが危険なのだよ。下手に癇癪など起こしてみろ。食器用ナイフ1本で我々は全滅だ」
サチ「そうならない為に、私が精神面のケアも合わせて指導しております」
「……そもそも、地下牢に監禁するはずだった彼女を軍の一員として扱うと押し通したのは君だったね」
「なぜ彼女に肩入れするんだ?」
サチ「……私はただ、ユウギリツヅリ程の才能を持て余すのはもったいないと思っただけです」
-
続き待ってる
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サチ「よしツヅリ!今日は剣を使った戦い方を教えよう!」
ツヅリ「?サチ、怒ってる?」
サチ「え、いや怒ってなんかないよ!」
ツヅリ「そう?ならいいけど」
サチ「本来なら剣術の型から教えるところだが、ツヅリに関しては型が活きる機会はあまりないだろう」
サチ「なので、大切なことを一つだけ教える!とにかく相手の首を斬れ!」
ツヅリ「首を」
サチ「少なくとも魔獣相手なら首を切っておけば間違いない!ただ魔物相手の時は首だけだと不安だから、手と足も切り落とせ」
ツヅリ「うーん、覚えられるかな…」
サチ「そんなに沢山のことは言ってないだろう!?とにかく時間を止めた上で首を斬ればいい!」
ツヅリ「あ、時間止めるんだ」
サチ「そうじゃないと首なんか斬らせてもらえないねぃ…」
サチ「ということで!早速だが実践といこうじゃないか!結局は実際に経験するのが一番だからね!」
ツヅリ「?」
サチ「ギルドからBランク程度の魔獣の討伐依頼をもらってきた。標的は猪の魔獣だ。農作物を荒らす害獣さ」
サチ「地図を渡すから、それを頼りに魔猪を倒して来てくれ!」
-
ツヅリ「わかった。でもどうやって倒すの?」
サチ「さっき教えただろう?首を斬るんだ」
ツヅリ「……手で首を……」
サチ「剣でだ!何のためにプレゼントしたと思ってるんだ!」
ツヅリ「にゅうたい祝い?」
サチ「それもそうだが…一番の目的は戦うためだねぃ……」
ツヅリ「もらった剣で首を切ってくればいいんだよね。じゃあ、行ってきます」
サチ「待て待て、まだ剣の使い方を教えて──」
ツヅリ「ただいま……」ボロ…
サチ「うお!?もう行ってきたのか?というかボロボロじゃないか!しかもまた髪が伸びてるし!」
ツヅリ「大変だった……森の中を探し回っても全然見つからないし……」
サチ「そりゃあそうだろう……標的がいるのは街の畑なんだから……」
ツヅリ「やっと見つけて首を切ろうとしたけど、全然切れないから何回も剣を振ったんだ……」
ツヅリ「途中疲れたからお昼寝をして、何とか全部切れた……」
ツヅリ「サチ、ボクえらい?」
サチ「ああ、偉い偉い…初任務お疲れ様」ポンポン
ツヅリ「ふふっ、褒めてもらえた……」
ツヅリ「ごめんサチ、ちょっと疲れたから寝るね……」
サチ「うん。ゆっくり休め…」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サチ「ツヅリ1人に魔獣の群れを討伐させる!?何を言ってるんだ!」💢
「言葉を慎みなさい、オオガミ卿」
サチ「しかも、ゴブリンだなんて…推定でも500体規模の群れですよね?本来ならこちらも軍隊で出動する案件です!」
「だが、彼女なら"できる"だろう?」
サチ「できるかできないかの問題じゃありません!負担が大きすぎる!」
「前にも言った通り、ユウギリツヅリは本来なら監禁対象だ。それを軍の一員として生かすというのなら、それ相応の貢献をしてもらわなければならない」
「軍隊を派遣すれば、制圧までに少なくとも1週間、こちらの被害は数十人にも及ぶだろう」
「それがユウギリツヅリなら1秒も経たずに殲滅できる。これを利用しない手はない」
サチ「ツヅリは兵器ではないんですよ!まだ子どもで、純粋で、何をするにも"時間のかかる"不器用な女の子なんです!」
「少なくとも、我々が観測している間、ユウギリツヅリが任務に時間をかけたことはない」
サチ「それは…!そう見えるだけで……」
「我々が求めるものは結果だけだ。もし任務を拒否するなら……わかっているな?」
サチ「っ……」グッ…
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ツヅリ「ゴブリンの群れ?」
サチ「ああ……できるかい?」
ツヅリ「うーん、わからないけど…上官の命令は絶対なので、やってみます」
サチ「推定500体規模の群れだ。もしもひとりで戦うのが辛くなったら、時間を止めてる間にあたしをこっそり連れて行ってくれ」
サチ「そうしたら残りはあたしが何とかしよう」
ツヅリ「平気だよ。サチ、最近ずっと疲れてるみたいだし。ボクがんばるね」
サチ「……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ツヅリ「おー…これはすごい」
ツヅリ「思ってたよりも多いな……」
ツヅリ「でも、サチにがんばるって言ったから」🗡
ツヅリ「よいしょ!」🗡バッ!
──それは、ツヅリの想像以上に途方もないことだった。
-
ツヅリにとっては、ゴブリンが相手といえども、人形の首を斬るのと大して変わらない。
しかし、屈強なゴブリンの体は、ツヅリの腕力ではなかなか刃が通らなかった。
ツヅリ「んっ…!ん〜〜!」🗡ギリギリ
ツヅリ「やー」🗡ズバッ!
結局、一体の首を斬るのに体感で10分弱。
途中で休憩や睡眠を挟んだため、その作業時間はサチの想定を遥かに超えてしまった。
ツヅリ「……」🗡ザクッ!サクッ!
100体も処理をすると、頚椎の隙間に剣を入れるコツを自然と身につけた。
200体処理する頃には、大して力も入れずに一振りで首を切れるようになった。
そこからは、感情を殺してひたすらに剣を振るうだけの単純作業。
斬って、斬って、斬って…斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って ──
孤独な空間で無限に続く一方的な虐殺行為。
それは、確実にツヅリの心を蝕んだ。
ツヅリ「……ボク、何してるんだろう……」🗡ザクッ
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ツヅリ「……終わったよ、サチ」
サチ「ツヅリ!!」
サチ「酷い顔じゃないか!早く休んだほうがいい!」
ツヅリ「ゴブリンがどうなったか聞かないの?」
サチ「ツヅリの疲れ方を見ればわかるよ。全て倒したんだろう?」
ツヅリ「うん……ボク、がんばったよ……」
サチ「ああ、ありがとう。本当によく頑張った!今はとにかく休んで──」
「ユウギリツヅリ、次の任務だ」
サチ「!?」
ツヅリ「え…」
「今度は大型の魔物の討伐だ。早速向かって欲しい」
サチ「ちょっと待ってください!ツヅリはたった今ゴブリンを討伐し終えて帰ってきたばかりですよ!?」
サチ「彼女には十分な休養が必要だ!」
「ならば時間を止めて休めばいい。それなら認めよう」
ツヅリ「……わかりました」
サチ「ツヅリ!?こんな無茶な命令を聞く必要なんてない!」
ツヅリ「でも、ここでは上官の命令は絶対だから……」
サチ「!」
サチ「それは──」
ツヅリ「きゅうけい終わりました。行ってきます」パッ!
サチ「ツヅリ!」
ツヅリ「ただいま……」ボロボロ
サチ「──」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サチ「ユウギリツヅリに休養の機会を与えてください」
「休養なら適宜とらせているだろ」
サチ「時間を止めている間だけです!それでは肉体は回復しても、精神が回復しない!」
サチ「心の休養というのは、誰かと話したり、温かい食事を一緒に食べたりすることでしかなし得ないのです!」
サチ「少なくとも!止まった時間の中でいくら体を休めても意味が無い!」
「……」
サチ「……ツヅリが任務に出るようになってからの半年間で、彼女の身長が何cm伸びたか知っていますか?」
「身長?いや……」
サチ「18cmです。たった12歳の女の子が、もうすぐ170cmに届くほどに成長しました」
「成長期なんだろう」
サチ「あたしは真面目な話をしてるんだ!」バン!
-
サチ「ツヅリの魔法は"自分以外"の時間を止める魔法だ!彼女はこの半年間、実働で2年近くを止まった時の中で過ごしてる!」
サチ「音も何も無い世界で、ひとり魔物を倒し続ける日々がどれだけのストレスになるか、わかりますか?」
「……それがどうした?」
サチ「は?どうしたって……そんなの人間にとってオーバーワークだと言ってるんです!いつ心が壊れてもおかしくない!」
「我々はユウギリツヅリを人として扱わない。あれは兵器として運用するのが最も安全だ。その為には感情などない方がいい」
サチ「なっ!?」
「心が壊れる?結構ではないか。我々の傀儡として何も考えずに働いてくれるなら、それが一番だ」
サチ「っ!ツヅリは……操り人形じゃない!」🗡スッ
「……自分が何をしているのかわかっているのか?オオガミ卿」
サチ「ツヅリを軍から解放しろ。彼女はもう十分働いた」🗡
「……騎士の称号まで得た君がここまで入れ込むとは」
サチ「これは要望ではありません。警告です」
サチ「ツヅリを解放しないなら、私が軍の上層部を皆殺しにします」
「そうか──残念だよ」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ツヅリ「ボクが王国騎士?」
「貴女は軍の一員として王国の平和に非常に大きな貢献をしました」
「ちょうど騎士の枠に"空き"ができたこともあり、貴女を王国騎士に任命します」
ツヅリ「?ありがとうございます?」
「また、騎士への昇格にもとなって、ユウギリ卿には王国の領土の一つである『カナザワ』に駐屯して、治安維持に務めていただくことになりました」
ツヅリ「ちゅうとん?」
「これは前任の王国騎士であったオオガミサチの強い推薦によるものです」
ツヅリ「サチの?そういえば、最近サチに会ってない気がする……」
「オオガミサチは──退役しました」
ツヅリ「え」
ツヅリ「退役って……軍を離れたってことだよね…?ボク、そんな話聞いてない──」
「貴女が暮らすための家は既に用意してあります。荷物をまとめ次第、カナザワに向かってください」
ツヅリ「ま、まって!サチのことをもっと詳しく──」
「……」テクテク
ツヅリ「サチ、どうして……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【 ⬛︎⬛︎⬛︎ 号室】
ツヅリ「はっ!?」ガバッ
マオ「起きた?ツヅリお姉ちゃん」
ツヅリ「マオ…今のは君が見せたの?」
マオ「ううん?あたしは何もしてないよ」
マオ「でも、ここは時間が曖昧だから、昔のことを思い出しやすいんだと思う」
マオ「ねぇツヅリお姉ちゃん。あたしも同じだよ。両親に置いてかれて、ずっとひとりぼっちなの」
ツヅリ「?マオ、なんかさっきまでと違う?」
マオ「もう、一人でいるのは嫌。ツヅリお姉ちゃんが居てくれるなら、あたしは──」
ツヅリ「……ごめん。やっぱり、ここに居続ける訳にはいかないんだ」
マオ「どうして!思い出したはずでしょ!置いていかれる辛さを!」
ツヅリ「そうだね。ひとりで任務をやって、その上サチまで突然いなくなった時は、寂しかった……」
マオ「それなら!」
ツヅリ「でもね、それで終わりじゃなかったんだ。カナザワに来てから、新しい出会いがたくさんあった」
マオ「新しい…出会い?」
-
ツヅリ「道端で出会ったマッシュくん。迷子のマッシュくんを探してくれたカホ達」
ツヅリ「いつの間にか一緒に住むことになったサヤ。他にも沢山の人と繋がれた」
ツヅリ「突然の別れは辛いけど、その先でまた別の誰かと出会うんだ」
ツヅリ「ボクは別に、強い意志を持って生きてきた訳じゃない。どちらかと言うと、ぼーっとただ時間の流れに身を任せただけ」
ツヅリ「それだけなのに、こんなにも素敵な出会いが沢山あった。今は、時間が進んでくれることが嬉しい」
マオ「……それは、ツヅリお姉ちゃんに未来があるからだよ……」
マオ「ここに未来は無い。時が動き出せば、全部潰れてなくなっちゃう」
マオ「あたしも死んじゃうし、おかあさんとおとうさんも戻ってこない……」
ツヅリ「君の両親は、もしかして──」
マオ「だからここに居るしかない。未来の無いあたしは、ここでしか生きられないから……」
ツヅリ「──なら、ボクが君の未来を切り開こう」
マオ「え?」
ツヅリ「君が歩むべき未来に、ボクが手を引こう」
マオ「い、嫌!!怖いの!」
ツヅリ「安全な部屋から踏み出すのは、怖いよね」
ツヅリ「でも大丈夫だよ。ボクがそばにいる。二人でなら、きっと怖さも半分になるから」
マオ「いやーーー!!」🔒ガチャン
ツヅリ「!」
マオ「この部屋の時間を止めた!もう誰も外に出られない!」
-
ツヅリ「……そっか、君もボクと同じ魔法を持ってるんだ。それなら確かに、寂しいはずだ」🚪スッ
マオ「無駄だよ!もう扉は動かない!壊すこともできない!」
ツヅリ「ボクはね、二つの魔法を持ってるんだ」
マオ「え?」
ツヅリ「一つは時間を止める魔法。もうひとつは──」
ツヅリ「止まった時間を、動かす魔法だ」
🔓パリン!
🕒……カチ
🕒カチ… カチ…カチカチチチチチチチチチチチチ
マオ「嘘……時間が……」
ツヅリ「さあ、行こう。一緒に」🚪
マオ「〜〜〜〜っ!ツヅリお姉ちゃんのバカ!」ドン!
ツヅリ「うわっ」ヨロッ
マオ「ずっと守ってたのに…もう知らない!ツヅリお姉ちゃんもサヤちゃんも、みんな死んじゃうんだから!」
🚪バタン!
ツヅリ「マオ!」
🚪スー…
ツヅリ「扉が消えた!?」
ツヅリ「マオ!マオ!どこにいるの!」
……ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
ツヅリ「え?何この音……」
ツヅリ「建物が、壊れてる?」
ツヅリ「っ!サヤ達が危ない!」ダッ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
サチ…
-
【1階ロビー】
ゴゴゴゴ!
カホ「ん〜〜〜〜!」
メグミ「どんどん崩れてきてる!何が起きてるわけ!?」
サヤカ「もしかしたら、ツヅリさんが魔法を解いたのかもしれません!」
ルリノ「ツヅさんが?」
サヤカ「あの人は時間を操る魔法を持っています!この旅館にかけられた魔法が時間を止めるものなら、ツヅリさんが干渉できてもおかしくありません!」
ボロボロ……ドスーン!
カホ「きゃー!」
メグミ「っ!魔法を解いたからって、なんで建物が崩れるの!」
コズエ「まさか……土砂崩れ?」
カホ「50年前の災害のことですか?」
コズエ「ええ!災害の直前に巻き戻っていたなら、時間が動き出して当時の崩落が再現されてるのかもしれないわ!」
メグミ「そんな!このままじゃ生き埋めになっちゃうじゃん!」
ボロボロ……ストーン↓
カホ「!!」
その時、カホ達の頭上に一際大きな瓦礫が落下する。
カホ(ダメだ…あの大きさは結界魔法じゃ耐えられな──)
🕒カチ──
-
バーン!💥
「「!!!」」
瓦礫が眼前に迫った時、それは粉々に砕け、小さな破片となって降り注いだ。
サヤカ「ツヅリさん!!」パァ!
ツヅリ「ひさしぶり。心配かけてごめんね」🗡
サヤカ「いえ、ツヅリさんなら帰ってくると信じてましたから」ニコッ
メグミ「色々聞きたいことはあるけど、今はこの状況を何とかしなきゃ!」
ツヅリ「大丈夫。もう"やった"」
バン! 💥 バン! 💥 バン! 💥
メグミ「!?」
カホ「天井に大きな穴が…空が見える!」
コズエ「もしかして、ツヅリさんが穴を開けたの!?」
ツヅリ「穴を開けたというか、壊れかけの天井を砕いて、破片を全部端っこに移動させた」
ツヅリ「疲れた……」グッタリ
メグミ「……それ、瓦礫を動かすんじゃなくて、私達を移動させた方が楽だったんじゃない?」
ツヅリ「あ」
ツヅリ「メグ、もしかして天才?」
メグミ「あんたが不器用すぎるんじゃい!」
サヤカ「!ツヅリさんを悪く言わないでください!頑張ってくれたんですよ!?」
メグミ「こっちは全肯定かい!もちろん感謝してるけど!」
-
カホ「でもおかげで瓦礫に潰される心配はなくなっ──ん?」
ボヨン!ボヨン!ボヨーン!
ルリノ「何あのでっけーやつ!?落ちて来てるけど!」
コズエ「あれは…!私とカホが戦った魔物!?」
カホ「まさか、建物が崩れたから出てきちゃった!?」
デブー「に"〜く"〜〜!!!」↓↓
ドシーーン!!!
メグミ「ちょっと!なんであんな化け物放置してたの!?」
コズエ「倒せなかったのよ!私の戦い方は相性が悪かったの!!」
デブー「!」チラッ
デブー「肉"ーー!!」ドシドシドシ!
サヤカ「こっちに来ましたよ!」
ツヅリ「っ!」🕒カチ
デブー「」ピタ
サヤカ「」ピタ
ツヅリは詠唱をすることもなく、一瞬で周囲の時間を止める。
ツヅリ「やぁっ!」🗡ブン!
))🗡ボヨン
ツヅリ「!?剣が通らない…それなら突きで!」🗡シュッ
グニュ〜〜ボイン!
ツヅリ「うわっ」ペタン
ツヅリ「すごいモチモチだ…コズが倒しきれなかったのわかる」
ツヅリ「この大きさじゃ動かすのも難しい。だったらメグが言ってたみたいに──」
🕒カチ
デブー「肉"ーーー!!!?」ドシドシ
デブー「肉?肉?」キョロキョロ
-
カホ「あれ?あたし達いつの間に移動したんですか?」
ツヅリ「ボクが運んだ。メグがその方が楽だって言ってたから」
メグミ「ナイスだツヅリ!えらいぞ〜」ヨシヨシ
ツヅリ「なでてもらえた。わーい」
コズエ「とは言え、建物が崩れてるから隠れ続けるのも危険だわ」
カホ「ツヅリさん、あれズバッと斬れないんですか?」
ツヅリ「やってみたけど、剣が刺さらなかった」
メグミ「そんなに硬いの?あいつ」
コズエ「逆よ。とても柔らかくて弾力があるの。私の攻撃もそのせいで弾かれてしまったわ」
メグミ「なるほどね〜なんだ、じゃあちょうどいいじゃん!」
サヤカ「ちょうどいい、とは?」
メグミ「ここ数日歩き回ってばっかりだったから、実は結構ストレス溜まってたんだよね〜」ゴキゴキ
コズエ「あなたは歩いてないでしょう?浮いてるのだから」
メグミ「そう言う話じゃなくて!ちょうどいいサンドバックが出てきたんだから、最後にみんなでボコってスカッとしちゃおうよ☆」
ルリノ「あはは…サンドバックって…」
コズエ「あのねぇ…私の拳もツヅリさんの剣も効かなかったのよ?どうやって戦うのよ」
メグミ「そりゃあコズエとツヅリが一人で戦った場合でしょ?今はみんなが揃ってるんだから!力を合わせて協力すれば何とかなるって!」
ツヅリ「力を…合わせる……」
-
コズエ「…………ぷっ」
コズエ「うふふっ」
メグミ「なに笑ってんのさ」
コズエ「いえ、メグミのそう言うポジティブなところ、嫌いじゃないわよ」ニコッ
メグミ「そういう時は素直に『好き』って言っていいんだぞ☆」
コズエ「何訳の分からないこと言ってるのかしら。大体、あたかも自分も参加する様な口ぶりだけれど、メグミは戦えないじゃない」
メグミ「メグちゃんだって戦えるもん!見てなよ!あんな魔物一発だから!」
ツヅリ「おーメグ頼もしい」
カホ「本当に戦えるんですか?」
コズエ「メグミには期待しないとして、見つからないうちに作戦会議を──」
メグミ「おりゃりゃー!」ビューン
ルリノ「メグミさん!?」
コズエ「ちょっと!何ひとりで突っ込んでるのよ!」
デブー「! 肉"っ!!」
メグミ「喰らえ!エンジェルブふぉ!?」ベシッ!
デブー「はぁ、はぁ…国"産"牛"ぅぅ!!」ガバッ
カホ「メグちゃーーん!!」アワアワ
ツヅリ「……なるほど、メグは協力することの大切さを身をもって教えてくれたんだね」
サヤカ「言ってる場合ですか!早くメグミさんを助けてあげてください!」
ツヅリ「そこにいるよ」
メグミ「キュー…」💫
ルリノ「いつの間に!?」
コズエ「回復役が真っ先に倒れてどうするのよ!おバカ!」
デブー「! 見"つ"け"た!!」ドシドシ
カホ「まずいですよ!バレちゃいました!」
コズエ「くっ!仕方ないわね…みんな!臨機応変に行くわよ!」
「「了解!」」
-
デブー「!」ドシドシドシ!
コズエ「はぁーー!!」
)(ドーン!
ルリノ「ツヅさん!お願いがあるんだけど!」
ツヅリ「なに?」
ルリノ「詠唱が終わる直前くらいに、ルリをあの魔物の近くに連れてって欲しい!」
ツヅリ「わかった。やってみる」
ルリノ『聖なる光よ 不純を解き放ち 病から世界を──』ブツブツ…
コズエ「はっ!」👊
))ボヨン!
コズエ「っ!相変わらず厄介な性質ね!」
デブー「う"ぅぅん!」ガシッ!
コズエ「しまった!離しなさい!」ジタバタ
デブー「あーーん」ガバッ
魔物は両手でコズエを掴むと、恵方巻きを食べるようにコズエを持ち上げ口に運ぶ。
ルリノ『我ら天の代行 神の名のもとに 穢れを──』
🕒カチ
ルリノ『祓う!』パッ!
コズエ「ルリノさん!?」
ルリノ『エクス ピューリファイ!』💠ピカー!
突然、物陰に隠れていたはずのルリノが虚空から現れ、魔物の背に魔法を当てる。
デブー「ぐぉぉぉぉ!!??」プシュー
-
カホ「魔物の体が縮んでる!」
コズエ「はっ!」ゲシッ!
デブー「ぐばっ!」
コズエ「さっきより攻撃が通るようになったわね!」
コズエ「ふん!」✊バコッ!
デブー「がはっ…!」バタン
魔物は体から黒い煙を上げると、食事処を埋め尽くすほどだった巨体をみるみる縮ませてゆく。
ついには最初にコズエ達と戦った時と同じサイズにまで小さくなってしまった。
デブー「うぅ……ナニか食べなきゃ……体が…」
カホ「そんなに口が寂しいなら、これでも咥えててください!『フローティア』!」︎︎↑プカー
カホ『レプルス!』ビュン三
デブー「あがっ!?」 スポ
デブー「あがが…!」バタバタ
コズエ「ふん!」グイッ!
デブー「〜〜〜〜!」ゴックン
ルリノ「飲み込んだ!?胃袋規格外かよ!」
コズエ「いいえ!これでいいのよ!あれだけ大きくて硬いものを飲み込めば、体の弾力性も意味がないわ!!」
コズエ『保存モード!』✊ポムポムポム
ツヅリ「?ねぇカホ、なんでコズは床を殴ってるの?」
カホ「力を貯めてるんですよ!コズエちゃんはエネルギーを吸収して、一気に放出する魔法を持ってるんです!」
ツヅリ「なるほど。それなら、ボクも役に立てそうだ」
-
🕒カチ
コズエ「!?」🔥
コズエ「何?急にエネルギーが溜まって……」
ツヅリ「ごめんね。時間を止めてる間にコズのこといっぱい殴っちゃった。痛くない?」
コズエ「最高のアシストよ!ツヅリ!これで手間が省けたわ!」
ツヅリ「役に立ててよかった」
デブー「うぷっ…く"る"し"い"…」
コズエ「すぐに楽にしてあげるわよ!」
コズエ『フルリリース:インパクト!』✊💥
グニュー…バキバキ!
デブー「うごっ!?」
コズエの拳はまたもや魔物の柔らかい体に沈み込む。
しかし、すぐに体内の瓦礫にぶつかり、魔物の体の中でそれを粉々に砕いた。
デブー「う"っ!ご"ぉぉぉぉぉぉ!」
ズボズボズボ!ブシャー
体内で炸裂した破片は魔物の体を突き破り、血飛沫とともに背中から飛び出す。
デブー「あ……あぁ……」ヨロヨロ
コズエ「さぁ、今度こそトドメを──」
メグミ「……」ヒョッコリ
コズエ「メグミ?」
メグミ「ほい。EB」✊ポン
デブー「?」
ゴゴゴゴ…!ガラガラ!↓↓↓
デブー「!?!?」
グシャ!
デブー「が──」サー…
-
カホ「……倒した?」
メグミ「いや〜おいしいとこもらっちゃって悪いね〜」
コズエ「……別にそれはいいけれど、EBって何かしら?」
メグミ「エンジェルブローだよ?面倒くさいから略しちゃった!」
コズエ「だとしたらABだと思うのだけれど……」
メグミ「はぁ?」
コズエ「…まぁいいわ」
メグミ「ちょっと!諦めたみたいな顔しないで!」
カホ「まぁまぁ!倒せたんだからよかったじゃないですか!」
ルリノ「そうそう!」
ワチャワチャ
ツヅリ「すごいね。サヤ」
サヤカ「何がですか?」
ツヅリ「ひとりで戦ってた時は、あんなに時間がかかってたのに、みんなと一緒なら一瞬だった」
ツヅリ「ゴブリンの時も、素直にサチに頼ってたらよかったのかな?」
サヤカ「ゴブリン?何のことかわかりませんが……はい。きっとそうだったと思いますよ」
サヤカ「ひとりで戦うよりも、誰かと協力した方がずっと楽です。時間も、心も」
ツヅリ「そうだね。やっとわかったよ」
ツヅリ「ボクも、あのキラキラに混ざれるかな?」
サヤカ「ふふ、大丈夫ですよ。ツヅリさんの隣にはわたしがいますから」
-
ガタ…
サヤカ「?」
マオ「ツヅリ…お姉ちゃん……」
ツヅリ「え」
メグミ「ん?だれ、あの"おばさん"」
薄暗い建物の奥から、一人の女がじっとこちらを見つめている。
ツヅリ「…………マオ?」
マオ「ツヅリお姉ちゃんは、ひとりじゃないんだね…」
サヤカ「もしかして、あの女性がツヅリさんを監禁してた『管理人』?」
ツヅリ「え、でもマオはもっと子どもだったはず…」
メグミ「おい!あんたのせいで酷い目にあったんだけど!」
マオ「……」トボトボ
ツヅリ「あ、待って!マオ!」
ゴゴゴゴ…!ガタガタガタ!
ツヅリ「!!」
ルリノ「揺れが……!」
カホ「さっきよりも大きいですよ!」
コズエ「みんな!一箇所に集まって!」
ガラガラガラ!ドシャーーン!!
一際大きな揺れとともに、建物は完全に崩壊した。
ツヅリが開けた天井の穴がなければ、全員瓦礫の下敷きになっていたことだろう。
カホ「けほっ!けほっ!みんな無事ですか!?」
コズエ「ええ…なんとか」
ルリノ「完全に崩れちゃった…生きてるのが奇跡だね」
メグミ「ねぇツヅリ、さっきのがこの旅館を操ってた魔女なの?」
ツヅリ「たぶん、そうだと思う」
カホ「いったい何のためにこんなことを…」
コズエ「もしかしたら、この旅館を守っていたのかもしれないわね。実際、魔法が解けた瞬間に建物が崩壊したのだし」
ツヅリ「それは、半分正解で半分間違いだ」
ツヅリ「マオがここを守っていたのは、この旅館のためじゃない。ここが、両親が迎えに来てくれる場所だと信じてたからだ」
メグミ「ふむ…事情はあるんだろうけど、そのせいで大勢を巻き込んだ事実は変わらないよ?」
ツヅリ「そう…だね……」
カホ「あれ?」キョロキョロ
コズエ「どうしたの、カホ?」
カホ「……サヤカちゃんは?」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マオ「……」トボ…トボ…
瓦礫の山の中、その女は"またしても"運よく生き残っていた。
マオ「おかあさん…おとうさん…」
事の始まりは50年ほど前、家族でこの旅館に泊まりに来ていた少女は、そこで大規模な土砂崩れによる事故に巻き込まれた。
「マオ、お母さんたちマッサージ受けてくるけど、マオも一緒に行く?」
マオ「うーん…眠いからいいや…」
「そう?じゃあ30分位で戻ってくるから、大人しく待ってるのよ?」
マオ「は〜い」
🚪バタン
マオ「zzz…」ウツラウツラ
カタカタカタ…
マオ「!?なに?揺れてる?」
ガタガタガタ!!
マオ「きゃーーー!!」
バキバキ!グシャーン!
マオ「ぅ…ぅぅ……」ボロボロ
マオ「おかあさん…!おとうさん…!」
運よく瓦礫の隙間に挟まり、生き延びた少女はひたすらに助けを求めた。
マオ「たすけてよ……」
何時間も動けないまま泣き続け、ついに命の灯火が消えかけた時──
気がつくと少女は、真っ白な空間に立っていた。
マオ「ここ、どこ?」
🚪ポツン
マオ「とびら?」
マオ「……っ!」ダッ
マオ「おかあさん!!」🚪ガチャ!
少女が時間を操る魔法を手に入れたのは、皮肉にも何もかも手遅れになった後のことだった。
-
マオ「はぁ…はぁ……あっ!」バタン
マオ「うぅ…」ズルズル
女の体は急速に老けていく。
ツヅリの魔法が自分以外の時間を止める魔法であるのに対し、女の魔法は自分を含む空間の時間を巻き戻すもの。
故に、魔法を解かれた今、女の体は本来の年齢に相応しい姿へと変貌していた。
マオ「あたし…ちゃんと言われた通り待ってたのに…」ズルズル
マオ「待ってるだけじゃ…ダメだったの…?」
ツヅリ『──なら、ボクが君の未来を切り開こう』
ツヅリ『君が歩むべき未来に、ボクが手を引こう』
ツヅリ『さあ、行こう。一緒に』
マオ「……あの時、ツヅリお姉ちゃんの手をとってたら…もしかしたら……」
???「……」 ザッ…ザッ…
マオ「? おかあさん?」
🔪グサッ
マオ「ごぼっ──」
サヤカ「ダメですよ。ツヅリさんの隣は、わたしのものですので」
マオ「が──ぁ──!」
サヤカ「悪い子には、ちゃんとお仕置が必要ですね」🔪グググ
マオ「っ…!時間を……巻き──」
🔪ザシュッ!
ブシャーー
マオ「」バタン…
サヤカ「まったく、いい大人がお母さんお母さんって……恥ずかしいですよ?」
-
カホ「おーーい!」
ツヅリ「サヤーーー!」
サヤカ「あ、皆さん!」
ツヅリ「サヤ!大丈夫!?急に居なくなったから心配したよ?」
サヤカ「すみません、降ってくる瓦礫から逃げてるうちに離れてしまったようで……」
ツヅリ「ううん。怪我がないならよかった──あれ?そこに倒れてるのって……」
サヤカ「あぁ…今見つけたんです。どうやら瓦礫にぶつかって亡くなったようです…」
ツヅリ「っ!マオ!マオ!」ユサユサ
ツヅリ「メ、メグ!マオのこと治せないの!?」
サヤカ「…」🔪スッ
メグミ「う〜ん…あ、ごめん…これは無理…魂が消滅しかけてる。これじゃあ蘇生もできないよ…」
サヤカ「…」サッ
ツヅリ「そんな……」
ツヅリ「ごめんね。君を救うことはできなかった…」
ルリノ「……本物の天使がいる前でやるのもどうかと思うけど、この人の魂が安らかに眠れるように、祈りを捧げてもいいかな?」
ツヅリ「うん。ルリ、お願い」
コズエ「私達も一緒にいいかしら?直接話したわけではないけれど、ツヅリさんのお話を聞いて、この人が悪い魔女ではないことはわかったから」
ルリノ「もちろん!」
ルリノ『どうか、無垢なる人の魂が安らかでありますように──』
「「……」」
カホ「さて!色々ありましたけど、全員無事に揃ったわけですし──」
カホ「帰りましょう!あたし達の家に!」
サヤカ「わたし達も帰りましょうか、ツヅリさん」
ツヅリ「うん。ボク達の家に」
大切な家族の、待つ家に。
【ゆのまち昇天の調査】 完了!
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【おしえて!魔法教室】
ギンコ「こんにちは。モモセギンコです」
カチマチ『そしてカチマチです!』
ギンコ「ここでは、今回出番の少なかった私とカチマチさんの二人で、魔法の解説をしていこうと思います」
カチマチ『がんばるぞー!ちぇすとー!』
『時間魔法』
世界を構成する原理魔法のひとつ。
発動すると使用者を除き、世界の時間を止めることができる。
ツヅリは先天的に持っていたが、認識したのは9歳の時。
カチマチ『知ってます!これカチマチには効かないやつですよね!』
ギンコ「いや、そんなことないと思うけど…」
ギンコ「時間を止める魔法…若くして王国騎士になるのも納得の魔法ですよね」
ギンコ「ただし、時を止めてる間も自分の時間は進み続けるので、あまり使いすぎると自分だけ歳をとることになります」
カチマチ『ツヅリさんがカホさんより年下だったなんてビックリです!』
カチマチ『ギンコちゃん!次の魔法は?』
ギンコ「今回はこれだけやね」
カチマチ『えぇ!もう終わり!?』
ギンコ「それでは皆さん、また次回お会いしましょう」
カチマチ『さようならー!』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
ツヅリ「……」ウトウト
サヤカ「ツヅリさん、大丈夫ですか?」
ツヅリ「あ、ごめん。ちょっと眠くて…」
サヤカ「色々と大変でしたからね。もうすぐ家に着くので、帰ったら寝てください。荷物の片づけはわたしがやっておきますから」
ツヅリ「ありがとう、サヤ」
サヤカ「いえいえ」ニコッ
サヤカ「あの、ツヅリさん…手を繋いでもいいでしょうか…///」
ツヅリ「寂しかった?」
サヤカ「いや!あの……はい。たった数日でしたけど、離れてる間とても寂しかったです…」
ツヅリ「ふふっ、じゃあはい」
サヤカ「…ありがとうございます」
ツヅリ「サヤの手、ヒンヤリしてて気持ちいいね」
サヤカ「ツヅリさんの手は、暖かいですね」
ツヅリ「知らなかった。ボクってあったかいんだ」
サヤカ「そうですよ。ツヅリさんは暖かいです」
ツヅリ「じゃあ、帰ったら全身でギューってして、サヤを暖めてあげるね」
サヤカ「ふふふ、楽しみにしてますね」🔪スッ
サヤカは"自分の意思"でナイフを掴む。
本当はベッドの上で、ツヅリの腕に抱かれながらが理想だったが──
サヤカ「こんな何でもない帰り道も、二人で手を繋いで歩いていたら特別に感じますね」🔪
ツヅリ「そうだね。サヤと一緒なら、どこを切り取ってもキラキラだ」
サヤカ「はい。本当に──」🔪シュッ
-
野良猫「ニャーン」
ツヅリ「?ネコだ」
サヤカ「…」サッ
野良猫「ニャー」
サヤカ「お腹が減っているのでしょうか?」
ツヅリ「こっちにおいでー」
野良猫「…」 サッ
ツヅリ「あ、行っちゃった…」
サヤカ「何だったんでしょうか?」
ツヅリ「わからない。ネコは気まぐれだ」
ツヅリ「あ!マッシュくん!お腹すいてるかも!」
ツヅリ「サヤ!急いで帰ろう!魔法使うね!」
サヤカ「え?あ、ツヅリさん待っ──」パッ
シーン…
野良猫「……」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「……」
メグミ「カホちゃんどうしたの?目頭なんか押さえて」
コズエ「もしかして体調が悪いのかしら…」
カホ「え?なんでもないですよ!カホは元気いっぱいです!」💪
コズエ「無理はしちゃダメよ?家に帰ったら早めにお風呂に入って寝なさい」
カホ「もう…本当に平気ですってば!ほら、家が見えてきましたよ!」
メグミ「やっと帰って来れたね」
コズエ「私達の感覚では数日だけれど、こっちでは一晩しか経ってないのよね…」
メグミ「ギンコちゃん達に説明すんの大変そうだ〜」
カホ「旅の思い出を話すのも、旅行の醍醐味ですよ!」
カホ「ただいまー!」🚪ガチャ
バタバタ!
カチマチ『おかえりなさいです!温泉どうでしたか?』
メグミ「いやーまぁ…ね?」
カチマチ『? あ、そうそう!今カホさんのお知り合いが来てるんですよ!』
カホ「え、あたしの?コズエちゃんじゃなくて??」
カチマチ『はい!カホさんのです!今ギンコちゃんとリビングでお話してます!』
カホ「???コズエちゃんの知り合いなはずなんだけど……」ボソッ…
アハハハハ!
リビングからは楽しげな話し声が聞こえてくる。
🚪ガチャ
扉を開けて中を覗くと、そこにはギンコちゃんともう一人。緑色の髪をした、小さな…女性……が…………
-
???「あ、どもども〜おじゃましてま〜す」
カホ「────────は?」
カホ「なん……で……」
???「いや〜お久しぶりですね〜」
姫芽「かほせんぱい💜」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……」💻カタカタカタ
[Enter] ポチ!
ピロン
『Link-Like Systemに外部からの干渉を確認しました』
『ようこそ、来訪者』
『今日も素敵な冒険者応援ライフを』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
変えられたか
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【蓮ノ空女学院】
🚪<コンコンコン!
吟子「はーい」 ガチャ
泉「やぁ」
セラス「久しぶり、吟子」
吟子「!! なんで──」
小鈴「セラスちゃんに泉さん!?」
瑠璃乃「どうして瑞河の二人が蓮ノ空に!?」
泉「実はこっちにちょっとした用があってね。それでセラスと移動してたんだけど、花帆先輩の配信を見たセラスが違和感を感じたらしくて」
セラス「花ちゃんの配信、合成にしては背景とか魔物とかがリアル過ぎる。あんなのディズニー映画レベル。それに、花ちゃんの様子も少しおかしい気がする…」
泉「それで花帆先輩の様子を見に蓮ノ空に来た訳なんだが…お邪魔だったかな?」
さやか「いえ、邪魔なんてことはありません。むしろ、わたし達だけでは手詰まりになっていたところなので…」
泉「ふむ、事情を聞かせてもらえるかい?」
さやか「実は──」
-
泉「……なるほど、それは面白──奇妙なことだね」
姫芽(今面白いって言いかけたなぁ…)
セラス「まさかそんなことになってたなんて…花ちゃんの体は無事なんですか!?」
さやか「今は自室で眠ってます。後で声をかけに行ってあげてください」
セラス「そうですか……ねぇ泉!なんとかできないの!?」
泉「なんとかと言われてもね…」
セラス「泉はプログラミング得意でしょ!スクコネをハッキングとかできないの!?」
姫芽「あはは…ハッキングはさすがに…」
泉「ああ、それならできるよ」
姫芽「できるの!?」
泉「と言っても、ちょっと中身を解析するくらいだろうけどね。PCはあるかい?」
瑠璃乃「部活の備品のやつなら!はいこれ!」
泉「ありがとう」💻カタカタカタカタ
姫芽「タイピングはや!!」
小鈴「もしかして、泉さんがラブライブ運営をハッキングしてたら徒町達負けてたんじゃ…」
泉「流石にそんなズルはしないよ。だいたい、そんなことするまでもなく、私達は実力で勝つつもりだったからね」💻カタカタカタカタ
セラス「あれは正直数の暴力もあったと思います。泉が9人いればわたし達が勝ってました」
吟子「それはちょっと怖いかも…」
-
泉「よし、開発者モードで開けた。これでどういう仕組みで動いてるかわか──ん?」
セラス「どうしたの泉?」
泉「これは……見たことない言語だ」
泉「『Link-Like System』?どうやらこのアプリ独自の言語らしい」
さやか「解析は難しいですか…?」
泉「……いや、多少時間はかかるだろうけど、できないことはないよ」
さやか「! お願いします泉さん!花帆さんを助けるためにお力を貸してください!」
泉「……」
セラス「泉」
泉「ひとつ、条件がある」
さやか「条件?」
泉「もし花帆先輩を無事助け出せたら、報酬をもらえないかな」
さやか「報酬?お金ですか…」
セラス「ちょっと泉!蓮ノ空はわたし達の恩人なんだから、タダで助けてあげなよ!」
泉「報酬があった方が、私もやる気が出るんだよ。それに、別にお金を求めてる訳じゃない。私の頼みをひとつ聞いて欲しいだけさ」
さやか「……わかりました。わたし達にできることならなんでもします」
泉「ありがとう。それじゃあ『契約』だ。私はスクコネを解析して花帆先輩を助け出す。君達はその代わり私の願いを聞いてくれ」
さやか「はい」
泉「よし、この学校で一番性能のいいPCはどれかな」
姫芽「あ、たぶんアタシのゲーミングPCだと思う!」
泉「ならそれを貸してもらえないかな?」
泉「Link-Like Systemを──ハッキングしよう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
面白くなってきやがった
-
【コズエの家】
姫◆「お久しぶりですね〜」
?メ「かほせんぱい💜」
カホ「……ヒメちゃん…どうして?」
ヒメ「いや〜ちょっと立ち寄っただけというか、元気にしてるかな〜と思って」
メグミ「なになに?カホちゃんの友達?」
ヒメ「はわっ!天使のめぐちゃん超かわいい〜〜💜」メロメロ
メグミ「私のこと知ってるの?もしかして街で会ってたりする?」
ヒメ「はい〜よく知ってますよ!なんたってアタシはめぐちゃん〓〓の〓〓で〓〓〓の一員ですからね!」
メグミ「ん?ごめん、後半よく聞き取れなかったんだけど…」
ヒメ「あ、あれ?」
ヒメ(もしかして、話せる単語に規制かかってる?)
コズエ「カホ、この人とはどういう関係なの?」
カホ「へ?えーと…前に住んでたところのご近所さん的な…」
ヒメ「そうなんですよ〜一緒に歌ったり踊ったりしてたんです〜」
コズエ「まぁ!カホ歌うのが好きだったのね」
カホ「そ、そうですね〜あはは…」
カホ「あ、ちょっとヒメちゃんと二人でお話してきてもいいですか?」
コズエ「もちろんよ。積もる話もあるでしょうし」
ヒメ「そうですね〜"積もる話"がありますから〜」
カホ「あたしの部屋に行こう!」ガシッ
ヒメ「うわっ!引っ張らないでくださいよ〜」
🚪バタン!
-
『しばらくお待ちください』
-
カホ「……」
ヒメ「……」
カホ「確認だけど──」
ヒメ「安養寺姫芽です。スクールアイドルクラブの」
カホ「っ!どうやってこっちに来たの?」
ヒメ「まぁ、ちょっと裏技を使いまして」
カホ「裏技…もしかして他の子も来てるの?」
ヒメ「いえ、今はアタシだけです。他のクラブのメンバーは、もうこの世界に同名の人が居るから入れませんでした」
カホ「ふぅ…そっか」
ヒメ「安心しました?他の子が──さやかせんぱいが来てなくて」
カホ「……なんでさやかちゃん?」
ヒメ「何となくですよ〜」
ヒメ「もしかして…実はさやかせんぱいのこと苦手だったりします?」コソコソ
カホ「そんなことない!さやかちゃんのことは好きだよ!ただ…」
カホ「さやかちゃんは怒りそうだから…」
ヒメ(実際カンカンに怒ってることは言わないでおこう…)
カホ「それに…」
ヒメ「?」
カホ「さやかちゃんはきっと、正しいことを言う」
ヒメ「……よかった。今の自分が間違ってる自覚はあったんですね」
ヒメ「帰りましょう、かほせんぱい。アタシ、正直この世界は嫌いじゃないですけど、かほせんぱいが居るべき場所はここじゃありません」
カホ「帰れるの…?」
ヒメ「はい。今向こう側でかほせんぱいを引き戻す準備をしています」
カホ「そうなんだ…よかった、じゃあ姫芽ちゃんはちゃんと帰れるんだね」
ヒメ「アタシだけじゃなくて!かほせんぱいも──」
-
ヒメ「──え?」
ヒメ「ここどこ?」
気が付くと、ヒメは窓も何もない地下室にいた。
🚪「ごめんね。あたしは元の世界に帰るつもりはないんだ」
ヒメ「かほせんぱい?外に居るんですか!」
🚪「忘れてなければご飯は持ってくるから、帰れるようになるまでここでじっとしててね」
ヒメ「かほせんぱい!出してください!」ドンドン!
ヒメ「かほせんぱーい!!!」
🚪 シーン……
ヒメ「ど、どうしよう…閉じ込められちゃった……」
ヒメ「……」
ヒメ「……にゃ〜んてね💜」
ヒメ「いっちょ試してみますか」💪グルグル
ヒメ「うまく合わせてね、泉ちゃん…せーの!」👊
『ドカーーン!』
『アンヨウジヒメが拳を振るうと、大きな衝撃とともに壁と天井が崩れ、外に繋がる穴ができた』
ヒメ「げほっ!げほっ!ちょっと威力高すぎない!?」
ヒメ「『地の文』で事象を操れるんだっけ?冷静に考えてチートスキルだなぁ…」
ヒメ「でもこれで外に出られるし、本来の目的を果たしますか」
ヒメ(かほせんぱいに会ったのはあくまで寄り道。アタシ達の一番の標的は、この世界唯一のバグ──)
『ムラノサヤカ』
-
『まもなく再開いたします』
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カホ「戻りました〜」🚪ガチャ
ギンコ「おかえりなさい。あれ、ヒメさんは?」
カホ「急用を思い出したとか言って帰ったよ」
カチマチ『えー!帰っちゃったんですか!?カホさんの昔話もっと聞きたかったのに…』
ギンコ「どう考えても作り話だったでしょ。廃国になりそうな国のお姫様を救って、舞踏大会で一緒に踊ったとか……」
カホ(向こう側でのことをそれっぽく改変して話すのやめて欲しいな…)
メグミ「さっきの子帰ったの?」
カホ「はい。帰りましたよ」
メグミ「なーんだ。かわいい子だったし私もお話したかったな〜」
カホ「……もうすぐ引っ越すらしいので、しばらく会えないかもしれませんね」
コズエ「私もカホの昔の話を聞きたかったのだけれど…」シュン
カホ「自分のことは自分で話しますよ!というか、ヒメちゃんもそこまで昔のことは知りませんよ!?」
カホ「もういいです!あたし今日は寝ます!疲れてるので!」
🚪バタン!
ギンコ「疲れて?温泉旅館に行ってたんですよね?」
メグミ「あーその話しちゃう?ちょっと長くなるよ?」
カチマチ『聞きたいです!』
コズエ「そうね、どこから話しましょうか…実は──」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【森の奥】
ドラゴン「!」ピクッ
ドラゴン「……」ジー
カナザワの街から遥か1万km。
深い森の中、一匹のドラゴンが目を覚ます。
ドラゴンはこの星の生態系の頂点であり、その縄張りは半径数万kmにも及ぶ。
普段はその縄張り(管理下)の中で、人間や魔物が何をしていようと気には止めない。
しかし、例えばこの世界を脅かすほどの存在が、"外側"から侵入してきた場合には──
ドラゴン「▇▇▇▇▆▆▅▂!!」
バサッ!バサッ!バサッ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【カナザワ】
🔔カンカンカンカンカン!
カチマチ『な、何ですかこの音!?』ビクッ
⋆͛📢『緊急事態発生!緊急事態発生!』
コズエ「これは…街の警報!?」
⋆͛📢『巨大な魔獣が街に接近中です!冒険者の皆様は直ちに冒険者ギルドにお集まりください!』
⋆͛📢『繰り返します!巨大な魔獣が──』
メグミ「なになに!?魔獣だあ?」
ギンコ「こんな放送初めて聞きました…」
カホ「とにかく冒険者ギルドに行きましょう!」
コズエ「そうね!みんな急いで準備してちょうだい!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【冒険者ギルド】
ザワザワザワ…
カホ「すごい人数ですね…100人以上居るんじゃないですか?」
メグミ「見知った顔も何人か居るね」
受付嬢「皆様!急な招集にも関わらず、ご対応下さりありがとうございます!」
受付嬢「まず状況をお伝えします。現在この街に向かって、成獣のドラゴンが接近中です」
受付嬢「距離は5000km、カナザワへの到達までおおよそ5時間です!」
「おいおい…」
「魔獣ってドラゴンかよ」
「死んだわ…」
「ドラゴンの目的地がカナザワだって根拠はあるのか?」✋
受付嬢「明確な根拠はありません。ですが、当該ドラゴンはギルドが以前から監視していた個体です。縄張りの範囲内で、現在の進行方向上にあるのはカナザワだけです」
「マジか……」
「おい、まさか俺たちを呼んだのって──」
受付嬢「はい。皆様にはこのドラゴンがカナザワに上陸しないよう、足止めをお願いいたします」
「「「……」」」
受付嬢「……王国軍にも対ドラゴン部隊の派遣を要請していますが、到着まで6時間は掛かるとのことです」
「つまり軍が来るまでの1時間、ドラゴンを足止めしろと……」
「できるわけないだろ!!10分も経たずに全滅するに決まってる!」
「俺達に無駄死にしろって言うのか!」
-
受付嬢「無茶な依頼であることはわかっています!ですが、今この街を守れるのは皆様しかいないのです!」
受付嬢「参加していただいた方には、ギルドから相応の額の報酬をお約束します。ですから──」
「ふん!どうせ全員死ぬから踏み倒せると思ってるんだろ!」
受付嬢「そんなことはありません!最悪の場合でも、ご家族に報酬が渡るようにします!」
「冒険者が結婚できるわけないだろ」
「今から結婚してくれる人探そうかな……」
「冷静になれ。それじゃ赤の他人に金を渡すだけだ」
「──俺はやるぞ」
受付嬢「!」
「正気か!?報酬なんて当てにならないぞ!」
「金の為じゃない。この街の為だ」
「俺は生まれも育ちもカナザワだ。この街には、思い出も、お世話になった人達も沢山いる!」
「どうせドラゴンが来たらみんな死ぬんだ!だったらせめて、俺はこの街の為に戦いたい!!」
「タナカ……お前そんな熱いやつだったのか」
「……僕も、家族じゃないけど、この街には初恋のミキちゃんが居るんだ…彼女は僕のこと覚えてないだろうけど、僕の犠牲でミキちゃんが生きられるなら…」
「それはちょっと気持ち悪いぞ」
<ワハハハハ!
コズエ(空気が少し和んだわね……)
「まぁ確かに!どうせ待ってても死ぬだけだしな!」
「このまま名も無い冒険者のひとりとして生きるよりは、英雄として死んだ方がカッコがつくか!」
「死ぬ前提で話すなよ!"俺達"は生きる為に戦うんだろ!」
受付嬢「その通りです。皆様を生贄にするつもりなんてありません」
受付嬢「全員で生き延びて、かつカナザワを守る。その為の作戦を考えましょう!」
-
「作戦って言ってもな〜」
「誰もドラゴンとの戦闘経験なんて無いし……」
「「「……」」」
メグミ「……ねぇコズエ、ドラゴンって前に私達が戦ったやつでしょ?これだけ冒険者が居れば何とかなるんじゃない?」
コズエ「ちょっと!?メグミ何を言って──」
👁👁 バッ! 👁👁 バッ!
👁👁 バッ! 👁👁 バッ!
👁👁 バッ! 👁👁 バッ!
メグミ「!?」ビクッ!
メグミ「え?なになに?なんで急にこっち見るの!?怖いんだけど!」
「あんた達、ドラゴンと戦ったことがあるのか!?」
コズエ「いえ、あれはまだ子どもの個体でしたし…それも王国騎士に助けてもらわないと全滅してた──」
「そういやあんた、前に街で花の魔物が出た時に孤軍奮闘してたオトムネじゃないか!」
「すごい怪力で巨大な魔物を薙ぎ倒してるのを見たぞ!」
コズエ「ま、待って──」
「隣にいるメグミちゃんは死にかけの人を一瞬で治癒してたよな!」
「それどころか死んだ人間を蘇生したとか!」
メグミ「え、いや、その……」
「女の子に頼るのも情けねえけど、あんたらならドラゴンとも戦えるんじゃねぇか?」
「オトムネさんよぉ!ドラゴンと戦うコツ教えてくれよ!」
コズエ「ですから!!」 ドン!
コズエ「前回は子どものドラゴンに"遭遇しただけ"で!それでも手も足も出なかったんです!」
コズエ「成獣のドラゴンとの戦い方なんて知るわけないでしょう!」💢
「う…悪かったよ……」
-
コズエ「まぁ、それくらいなら…」
カホ(押し切られてる…)
コズエ「ドラゴンと戦った時に一番驚異と感じたのは『エンペラー・コール』でした」
コズエ「正直あれを何とかしないと、冒険者が何人いようと戦いにすらならないと思います」
「王の号令か…確かに咆哮ひとつで動きを封じられてたら堪らないな」
受付嬢「ギルドの本部にドラゴンの咆哮を軽減する魔道具があります。今すぐ手配させましょう」
「今からで間に合うのか?」
受付嬢「それは……」
ツヅリ「ボクが運んでくるよ」
カホ「ツヅリさん!?」
ギンコ「いつの間に…」
ツヅリ「受け取るのに必要な書類さえくれれば、今すぐにでも持ってこられるよ」
受付嬢「王国騎士様が行ってくださるのでしたら安心です。すぐに書類を用意します」
メグミ「ていうかツヅリ」ツンツン
ツヅリ「ん?」
メグミ「ツヅリなら王国軍の人達をここに連れてこられるんじゃないの?ほら、いつもみたいに時間を止めてさ」コソコソ…
ツヅリ「ごめん。それはできなかった…」
ツヅリ「ドラゴン用の武装はすごく重いから、ボクひとりの力じゃ運べなかったんだ」
メグミ「そっか…」
-
「エンペラー・コールは何とかなるとして、どうやって巨大なドラゴンを抑える?」
「純粋に戦っても勝ち目はないんだ。やっぱりトラップで動きを封じるか」
「ドラゴンを1時間も拘束できる罠なんて、今から作れますか?」
受付嬢「トラップに関しては、私にそれなりの知識があります」
「受付のお嬢さんが?なんで──」
受付嬢「これでも元Sランクの冒険者です。昔は大型の魔獣の捕獲もよく行っていました。怪我が原因で引退しましたが…」
「まじかよ!?てか若く見えるけど意外と歳いってんのか?」
受付嬢「女性に対して無粋な発言をするから、結婚できないのではないでしょうか?」💢
「っ!」 ゾワッ
「この威圧感──元Sランってのは本当みたいだな…」 ゴクリ
「じゃあもしかして、ドラゴンとも戦ったことがあるとか?」
受付嬢「いえ、ドラゴンとの実戦経験はありません。生態についての知識は持っていますが…」
受付嬢「実際に相対したことで得られる情報は、オトムネさんのパーティから教えてもらうしかありません」
メグミ「うっ…また矛先が向いてきちゃった」
コズエ「……ドラゴンの吐く炎はとても広範囲を焼いていました。まともに戦うには、エンペラー・コールと炎の2つを防ぐ手段を用意するのが大前提になるかと」
コズエ「ごめんなさい…わかりきったことしか言えなくて…」
-
受付嬢「そんなことはありません。注意するべき攻撃がわかれば、作戦も立てやすくなります」
コズエ「それと、鱗がとても硬いので、上級魔法以下の威力の攻撃はほとんど効かないと思います」
「となると前衛に出るのはAランク以上の冒険者だな」
「Aランクかつタンクができるやつだ。攻撃はドラゴンの気を引く為のもの程度に考えた方がいいだろう」
「ドラゴン相手にタンクって、30秒もてばいいほうだなw」
「…俺は巨大化の魔法を持ってる。頑丈な盾があれば少しはやれるだろう」
「僕は上級の硬化魔法を使えるよ」
コズエ「攻撃を耐えるだけでいいのなら、私もちょうどいい魔法を持っているわ」
カホ「コズエちゃん!?最前線なんて危ないですよ!」
コズエ「みんな戦うんですもの。私だけ安全な場所には居られないわ」
「結界や防壁魔法が得意な魔法使いは、前衛の後ろでサポーターを守るのでいいかな?」
「半分はその位置でいいけど、もう半分は中間地点で回復役のいる後方を守った方がよくないか?」
「なるほど、それもそうだな」
-
832-833
間抜けてる?
-
ギンコ「あの…私は大した魔法が使えないのですが、何か役割はありますか…」
受付嬢「もちろんです。対ドラゴンに有効な魔法を持たない方々には、前衛の負傷者を回復役のいる後方まで運んでもらいます」
受付嬢「場合によってはもっとも動かなくてはいけない役割かもしれません」
カチマチ『脚の速さには自信があります!カチマチに任せてください!』
カホ「えっと、あたしもそれをやればいいのかな?」
ギンコ「カホさんは走り回る体力ないでしょ?あとで杖に回復魔法を仕込んでおくから、メグミさんと一緒に後方にいて」
カホ「う、うん!」
「なあ、もしかして回復してもらった負傷者はまた前衛に出て戦う感じ?」
受付嬢「はい。防衛戦ですので、負傷者にも怪我が回復し次第、前線に復帰していただきます」
「う〜ん……傷は治るかもしれないけど、そうそう直ぐにまたドラゴンの前に立てるか?」
「ぶっちゃけ一瞬でトラウマになって動けなくなる可能性が高いよな」
「士気の問題か……」
メグミ「!」💡ピコン
メグミ「それならメグちゃんに任せて!私の回復魔法、頑張ればテンションも上げられちゃうから!」
「回復魔法なんかなくても、そのドデカい胸で挟んでくれたらテンション上がるけどなw」
メグミ「じゃああんたは死にかけてても回復してあげな〜い」
受付嬢「キムラさん、こういう状況でなければ除名ですよ?」
「……ごめんなさい」
受付嬢「全体の役割分担は見えてきましたね。それではより具体的な作戦を考えていきましょう──」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
>>833
修正
ーーーーーーーーーーーーー
「とはいえ、ドラゴンとかち合って生き延びてんだろ?せめて情報くらいは共有してくれよ」
コズエ「まぁ、それくらいなら…」
カホ(押し切られてる…)
コズエ「ドラゴンと戦った時に一番驚異と感じたのは『エンペラー・コール』でした」
コズエ「正直あれを何とかしないと、冒険者が何人いようと戦いにすらならないと思います」
「王の号令か…確かに咆哮ひとつで動きを封じられてたら堪らないな」
受付嬢「ギルドの本部にドラゴンの咆哮を軽減する魔道具があります。今すぐ手配させましょう」
「今からで間に合うのか?」
受付嬢「それは……」
ツヅリ「ボクが運んでくるよ」
カホ「ツヅリさん!?」
ギンコ「いつの間に…」
ツヅリ「受け取るのに必要な書類さえくれれば、今すぐにでも持ってこられるよ」
受付嬢「王国騎士様が行ってくださるのでしたら安心です。すぐに書類を用意します」
メグミ「ていうかツヅリ」ツンツン
ツヅリ「ん?」
メグミ「ツヅリなら王国軍の人達をここに連れてこられるんじゃないの?ほら、いつもみたいに時間を止めてさ」コソコソ…
ツヅリ「ごめん。それはできなかった…」
ツヅリ「ドラゴン用の武装はすごく重いから、ボクひとりの力じゃ運べなかったんだ」
メグミ「そっか…」
ーーーーーーーーーーーーー
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
受付嬢「──以上で作戦会議を終了します!」
受付嬢「この後は各自準備をして、1時間以内に作戦場所に集合してください!」
受付嬢「皆様、必ずカナザワを守りましょう!!」
「「「おーー!!!」」」
ガヤガヤガヤ…
コズエ「私達も一度家に戻りましょう」
メグミ「そうだね。色々準備しなきゃ!」
コズエ「作戦での役割分担としては、私が前衛、ギンコさんとカチマチさんが負傷者の運搬係、メグミとカホが最後方で回復班ね」
コズエ「今回はみんなバラバラに戦うことになるけれど、しっかり自分の役割を全うしましょう!」
カホ「コズエちゃん…」
コズエ「そんな心配そうな顔をしないで。私は大丈夫だから」
ツヅリ「もしもコズが怪我をしたら、ボクがメグのところに連れていくよ」
ギンコ「ツヅリさんも負傷者の運搬係でしたっけ?」
ツヅリ「ボクは"ゆうぐん"?だって」
ツヅリ「状況を見ながらみんなを助けたり、ドラゴンの気を引いたりする役割だよ」
メグミ「そうなんだ。じゃあ例えコズエが死んでても必ず私のところに連れてきてね!絶対蘇生させるから!」
カホ「縁起でもないこと言わないでくださいよ!?」
-
カチマチ『うぅ…カチマチ緊張してきました』
ギンコ「今から気を張りつめてたら本番までもたんよ?」
カチマチ『でも、カチマチはみなさんと違ってドラゴンを見たことがありませんし…』
ギンコ「そんなの私だってないがいね!」
メグミ「まぁまぁ!そんな緊張しなくても平気だって!」
コズエ「逆にメグミはどうしてそんなにポジティブなの…」
メグミ「コズエがポジティブなメグちゃんが好きだって──」
コズエ「言ってないわよ!!」
カホ「カチマチちゃん、怪我人を運ぶ時には感電させないように注意してね?」
カチマチ『はい!"努力"します!』
ギンコ「……まぁ、止まってる心臓は電気で蘇生できるって聞いたことあるし…」
ギンコ「あ、そうだ!コズエさんに渡したい物があるんです。家に帰ったら説明しますね」
コズエ「私に?わかったわ」
カホ「じゃあ早く帰りましょう!ギンコちゃんにはあたしの杖に回復魔法を仕込んでもらわないといけないし!」
ギンコ「そうだった、1時間で終わるかな……」
メグミ「私達はトラップ作りの担当じゃないし、多少遅れても大丈夫でしょ!」
コズエ「ダメに決まってるでしょう!?こういう大きな作戦は時間厳守よ」
コズエ「ここで話していても仕方がないわ。カホの言う通り、早く家に戻りましょう」
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヒメ「うぉ〜〜ん!やっと街に戻れた〜〜!」
ヒメ「かほせんぱいめ…まさか森の中の小屋に閉じ込めるなんて…」
ザワザワザワ…
ヒメ「なんか街が騒がしい?さっき放送みたいなのも聞こえてたし、何かあったのかなぁ?」
ヒメ「まぁ、アタシは自分の役目を果たすだけですよ〜」
ヒメ「確かツヅリさんの家はこの辺りだったはず……おや?」
ツヅリ「それじゃあ、行ってくるね」
サヤカ「ツヅリさん…必ず帰ってきてくださいね」
サヤカ「万が一ツヅリさんが戻らないようなことがあったら、わたし……」
ツヅリ「その時は、マッシュくんのことよろしくね」
サヤカ「っ!なんでそんなこと言うんですか!!」
-
ツヅリ「ボクはこの街で唯一の王国騎士だ。こういう時、命をかけてでもみんなを守るのがボクの使命だから」
サヤカ「そんな……わたしは他の人なんて──この街が崩壊してでも、ツヅリさんにだけは生きていて欲しいんです!」
サヤカ「もう逃げましょう!ツヅリさんなら、わたしを連れて他の街に行くことくらい簡単ですよね!?」
ツヅリ「……サヤ」ギュッ
サヤカ「ぁ……」
ツヅリ「必ず生きて帰ってくるよ。だから、おいしいごはんを作って待っていてほしい」
サヤカ「ツヅリさん…」💧
ツヅリ「あと、お風呂も沸かしておいて」
サヤカ「ぐすっ…わかりました…」
ツヅリ「それじゃあ、今度こそ行ってくるね」
ツヅリ「愛してるよ、サヤ」
チュッ
サヤカ「!?!?……///」
🕒カチ
サヤカ「……」ポツン
サヤカ「わたしも、愛しています。ツヅリさん」
──⬛︎したいほどに──
サヤカ「さて!ツヅリさんが帰ってきた時の為に、家を掃除しておきましょうか!」
-
ヒメ(うわ〜アダルティだ…小鈴ちゃんには見せられないよ……///)
ヒメ(でも、なるほどそういう状況かぁ……上手く使えるかも?)
ヒメ「もしもし、そこのお嬢さん。ちょ〜っとお話よろしいですかな?」
サヤカ「?どちら様でしょうか?」
ヒメ「アタシは街で占い師をやってる人間でして〜」
ヒメ「さっき一緒にいた長身の女の人について、悪い未来が見えたのでお伝えしようかな〜と思いまして」
サヤカ「悪い未来……?」
ヒメ「はい。あの人……もう帰って来ないかもしれませんよ?」
サヤカ「──は?」
ヒメ「だから伝えたいこととか、"やりたいこと"があるなら、待ってるだけじゃあ機会を逃しちゃいますね〜」
サヤカ「そ、そんなの嘘に決まってます!だいたい、未来が見えるなんてはったりですよね!?」
サヤカ「本当に未来がわかるなら、今ここでそれを証明してください!」
-
ヒメ「そうだな〜じゃあ、この後アタシ達の間に鳥のフンが落ちます!」
サヤカ「鳥の糞?そんなわけ──」
『その時、二人の間に白い糞が落ちる』
『糞はべチャリと音を立てて、地面に放射状のシミを作った』
ベチャ!
サヤカ「!?」
ヒメ「どうです?これで信じてもらえましたか?」
サヤカ「ぐ、偶然です!それか、何か魔法を使って鳥に排せつさせたんじゃないですか!?」
ヒメ「う〜ん…じゃあ魔法を使ってないかよく見ててくださいね?」
ヒメ「えっと……この後また警報がなります!」
『🔔カンカンカンカン!』
サヤカ「!!」
『時間になりました。まだ街に居る冒険者の皆様は、直ちに集合場所にお集まりください!』
サヤカ「…………」
ヒメ「ね?」
サヤカ(この人は魔法を使っていなかった…そもそも今の放送は魔法で操れるものじゃない)
サヤカ(まさか本当に未来が見える?だとしたらツヅリさんは──)
サヤカ「っ!」ダッ!
🚪バタン!
ヒメ「上手く焚き付けられたかな?」
ヒメ「本当はこんなことしたくなかったけど……」
ヒメ「かほせんぱいを連れ戻すには、ツヅリさんとサヤカさんには犠牲になってもらわないといけないんです……」
ヒメ「……ごめんなさい」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【東の森】
作戦会議から約5時間、深夜4時。
カナザワから3km地点。
100人を超える冒険者が、そこで標的が現れるのを待っていた。
メグミ「カホちゃん、そこにいる?」
カホ「いますよ」
メグミ「真っ暗すぎて何も見えないや」
カホ「仕方がないですよ。光らせたらドラゴンに気が付かれちゃいますから」
ルリノ「あれ?その声、カホちゃんとメグミさん?」
メグミ「え、ルリちゃん!?どうしてここにいるの?」
カホ「もしかして、ルリノちゃんもギルドに依頼されて?」
ルリノ「ううん。ルリ達はボランティアだよ。冒険者のみんなが街の為に戦ってくれるのに、教会の人間が何もしないのは申し訳ないし」
ルリノ「戦う力はなくても、せめて回復魔法でみんなを守れたらと思って、教会のシスター達でお手伝いしに来たんだ」
カホ「そうだったんだ!ありがとう!」
──、──、──!
カホ「っ!」
メグミ「カホちゃんどうしたの?」
カホ「声が聞こえます。これは──」
カホ「森が、怯えてる?」
カチマチ『!!見えました!ドラゴンです!』
カホ「!」
メグミ「!」
ルリノ「!」
「よし……全員戦闘の準備をしろ!」
コズエ「…」 サッ!
-
ドラゴン「……」バサッ!バサッ!
それは、黒い鱗を仄かに紅く光らせ、優雅に空を飛んでいた。
鼻先から尾の末端までの長さは約40m、翼開長は50mにも及ぶ、世界最大の魔獣。
その大きさからして、100年以上は生きた個体だと予測される成獣のドラゴンだ。
ドラゴン「……」バサッ!バサッ!
そんな巨龍が、他には目もくれずカナザワの方向に一直線に飛んでいる。
鋭い眼光が睨むのは、街か、人か、それとも──
三 ビュン!
ドラゴン「!!」ドガッ!
ドラゴン「……」キョロキョロ
巨大な岩がドラゴンの腹部に命中する。
突然の襲撃に驚きつつも、ドラゴンは姿勢を崩すことなく無礼者の姿を探す。
ドラゴン「!」ギロッ
コズエ「……」🔥
ドラゴン「▇▇▇▆▆▅▂!!」バサッ!
コズエ「……こちらに気が付いたわね」ダッ!
ドラゴンの標的が自分に移ったの確認し、コズエは持っていた松明の火を消して走り出した。
コズエ「……!」ガサガサガサ!
コズエ(夜目の魔法をかけてもらったとはいえ、さすがに明かり無しで夜の森を走るのはキツいわね!)
-
ドラゴン「……」ギロッ!
ドラゴンは瞳孔を大きく開き、闇夜に紛れて逃亡する標的をしっかりと捕捉する。
ドラゴン「██▇▆▆▆!!!」
コズエ「っ!そうよね……この程度の暗さで見失うはずないわよね!」ダッ!
木々を避けながら走るコズエと、空を自在に飛び回るドラゴン。
当然、両者の距離はみるみる縮んでゆく。
ドラゴン「▇▆▆▄▄!!」ビュン!↘
ドガーン!!
コズエ「きゃあっ!!」
ドラゴンはコズエに追いつくと、急降下して木々ごと薙ぎ倒しながら攻撃を仕掛けてくる。
コズエ(保存モード!)
🌳ポムッ!
コズエ「っ!」ダッ!
コズエ(私ならダメージを吸収できるからって、囮役を買って出たけれど──)
ドラゴン「▆▆▄▄▄!!」バサッ!バサッ!
コズエ「やっぱり怖いものは怖いわね!!」タッタッタッ!
ドラゴン「▆▆▄▄!!」ビュン!↘
ドガーン!
🌳🌳バキバキ!
コズエ「うぐっ!」ゴロゴロ…
コズエ「はぁ!はぁ……!あと少し!」ダッ!
パッ!
突然、目の前が開ける。
そこには大きな湖があり、水面にはちょうど湖を半分に区切るように氷の橋が作られている。
-
コズエ(着いた!)
コズエ『フルリリース:ウィンド!』
💨バビューン!
ドラゴン「!!」
コズエは予め保存しておいた風魔法を、両手から一気に噴射する。
風に背中を押され、コズエは氷の道の上を飛ぶように疾走した。
ドラゴン「▆▆▄▄!!」バサッ!バサッ!
速度を上げたコズエに追い付こうと、ドラゴンも翼を大きくはためかせる。
バシャバシャ……パキッ!
コズエ「!!」
ドラゴンの起こした風が水面を波立たせ、コズエの渡っていた氷の道は、波に揺られて砕けだしてしまった。
このままでは岸に着く前に道が完全に沈んでしまうだろう。
コズエ『フルリリース:インパクト!』ボン!!
コズエは空中を水平に蹴ると、それと同時に足の裏から衝撃波を放つ。
バシャーン!!
大きな水しぶきを立てて、コズエは吹き飛ばされるように水面ギリギリを飛行する。
コズエ「っ〜〜〜!!!」ビューーン!
コズエ(ここさえ越えられれば!)
数十メートルの距離を一息に飛び越え、ついにコズエはドラゴンより先に対岸へたどり着いた。
コズエ「あ」
コズエ(止まり方考えてなかっ──)
-
モフッ!
コズエ「っ!カチマチさん!?」
カチマチ『お疲れ様です!コズエさん!』
「よく頑張ったな!オトムネの嬢ちゃん!」ポン!
「次は俺達の番だ!全員目を伏せろぉ!!」
ドラゴン「▇▇▇▆▆▄!!」バサッ!
『フラーッシュ!』︎︎ ピカーーーーン!
ドラゴン「!?」グラッ
瞬間、夜の森を眩い閃光が照らす。
ドラゴン「▇▆▆▄▄▄!!!」バタバタ!
コズエを追う為に瞳孔を限界まで開いていたドラゴンは、突然目の前に太陽が現れたかのような強烈な光に平衡感覚を失う。
「今だ!追い打ちをかけろ!」
『『エクス レプルス!』』
三 三 三 ビュン!
ドカ!ドカ!ドカ!
ドラゴン「!!」
湖を囲むように待機していた魔法使い達が、ドラゴンに向かって一斉に岩を投擲する。
光で目が眩んでいるドラゴンは、それを避けることができずに翼や頭に岩による打撃を受けてしまう。
ドラゴン「──!」ヒューン↓↓
💧バシャーン!!
-
「湖に落ちたぞー!雷魔法を!」
『『エクス サンダー!』』︎︎⚡️
カチマチ『ちぇすとーー!!』⚡️⚡️
ドラゴン「!!」⚡️ビリビリ…!
湖に高電圧の電流が流され、水面が黄色く発光する。
水に浸かっているドラゴンは、全身を痺れさせる電流に筋肉が痙攣して上手く動けない。
ドラゴン「…」💢
「███▆▆▆▄▄▄▄▄▄!!!」
コズエ「うっ──!」ビクッ
カチマチ『!?』ビクッ
「これが噂のエンペラー・コールか…!」ビリビリ
コズエ「ギルドから支給された耳栓をしていても体が痺れるわ…!でも、動けないほどじゃない!」
「怯むなー!沈めろぉぉ!!」
三 三 三 ビュン!ビュン!
カチマチ『うぉぉぉー!!』⚡️⚡️バチバチ
ドラゴン「!?」ドカッ!⚡️ビリビリ…
ドラゴン「▆▆▄▄▄!」グラッ
💧ジャボーン!
ドラゴン「──!」ブクブク
-
コズエ「頭まで浸かったわ!!」
「よし!氷漬けにしろ!!」
『『エクス ブリザード!』』❄️🌪ブォー
360度から湖に向かって冷風が吹き荒れ、湖の中心で絶対零度の竜巻が立ち上る。
湖は岸に近い場所からジワジワと水分を氷に変換されてゆく。
カチン!
シーン──
やがて湖はドラゴンを沈めたまま完全に凍りついた。
水面は月光を反射してキラキラと幻想的に輝き、この世のものとは思えないほどの美しさだった。
「……」
「……」
コズエ「……」
「……」
そこに居る誰もが、凍った湖を固唾をのんで見つめている。
この場で歓喜の声を上げる者はいない。
皆、ランクの差はあれど、それぞれ経験を積んだ冒険者達だ。
"この程度"でドラゴンを倒せるなどと、楽観的な考えを持つ者は誰一人としていなかった。
────ピキッ
-
「!」
コズエ「湖が……赤く光ってる?」
「違う!発光してるのはドラゴンのほうだ!」
パキッ──バキバキバキ!
バリンッ!
ドラゴン「██▆▆▄▄▄!!」🔥
カチマチ『! これ……さっきのドラゴンですか?見た目が全然違いますよ!?』
分厚い氷の中から、全身を紅く光らせたドラゴンが這い上がってくる。
ドラゴン「……」ガシッ!ジュ〜🔥
「氷が溶けてるぞ!もう一度氷結魔法を──」
「いや、無駄だ……溶けるどころか、氷が蒸発してる…」
「は!?どんな体温してるんだ!!」
ドラゴン「……」ムクッ…バサッ!
ドラゴンは上半身を持ち上げ翼を大きく広げた。
翼膜にはマグマのように光る血管が浮き出ている。
心臓は外からでも位置がわかるほどにオレンジ色に発光し、流れる血が灼熱であることを伝えていた。
ドラゴン「……」🔥ボワッ
コズエ「ドラゴンが炎を吐くわ!」
「全員塹壕に隠れろぉぉ!」サッ!
コズエ「カチマチさんも隠れるわよ」ガシッ!
カチマチ『あわわ……!』ピョン
湖を囲むように掘られた環状の塹壕に、冒険者達が次々と飛び込んでゆく。
次の瞬間──
-
ドラゴン「……!」🔥ゴーー!!
🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥
ドラゴンは自身の足元に向かって灼熱の炎を吐き出す。
炎は全方位に円状に広がり、塹壕の中の冒険者の頭上を火の天井が覆った。
「熱っっつ!!」
カチマチ『毛が燃えて無くなっちゃいますー!』🔥ジリジリ…
「やめろワンコ!その言葉は俺に効く!!」
コズエ「余裕あるわねあなた達!」
「お前ら喋んな!肺が焼けるぞ!」
ドラゴン「……」🔥🔥🔥ゴー!!!
コズエ「!」
「まだ火力上がるのかよ!?」
「ぐわーーっ!」🔥ジュー
「全員姿勢を低く保っ──」🔥ボワッ
コズエ(保存モード!)
コズエ「う〜〜!」
🔥🔥🔥🔥ゴゴゴゴ…!
フッ──
コズエ「…………止まった?」
「!?これは──」ヒョコッ
「湖が無くなってる!?」
「全部蒸発させたのか……」
塹壕から顔を出した冒険者達が見たものは、炭になった木々と、先程まで湖だった地面の大きな窪み──"それだけ"だった。
-
コズエ「待って!ドラゴンはどこ!?」
カチマチ『まさか……街の方に飛んで行ったんじゃ!』
ドラゴン「……」ビューーン↓↓↓
ドスーン!
「「!!!」」
その時、コズエ達の対岸の塹壕の上に、ドラゴンが垂直に落下してきた。
「な!?」
ドラゴン「……」🔥ボッ
「おいおい…嘘だろ!!全員塹壕から出ろーー!!」
ドラゴン「……」🔥🔥🔥🔥ゴーー!
「ひぎっ!?」🔥ボワッ
「ぐぁ"ぁ"ぁ"!!」🔥ボワッ
必死に這い上がろうとする冒険者達を見下ろし、ドラゴンは無慈悲にも塹壕に炎を流し込む。
炎の激流は塹壕を通り、逃げ遅れた冒険者は次々と炎に飲み込まれていった。
コズエ(まずいわ!このままじゃ全員やられる!)
『ジャイアサイズ!』((🛡))ムクムク!
🔥🔥🔥🛡ガシン!
「今のうちに出ろ!」🔥🛡ジュー
コズエ(物体を巨大化させる魔法…!カナザワ愛の強かったタナカさんね!)
コズエ「恩に着ます!」サッ
-
巨大化した盾が塹壕の堀を塞ぎ、炎の流れをせき止める。
「うぉぉぉー!!!」🔥🛡ジュー
(なんて熱さだ!だが、まだ耐えられる!皆が避難するまでは必ず──)
ドラゴン「……」ジー
ドラゴン「」🔥🔥🔥⤵クイッ
ボー! 🔥🔥🔥🔥🔥
「!?あの野郎!逆側に炎を流しやがった!!」
ドラゴンは何かが炎をせき止めていることを確認すると、首を傾げて逆方向に向かって炎を吐き出す。
(まずい!背中から焼かれる──)
ポン!
ツヅリ「よくがんばったね」
「え──」
🕒カチ
🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥🔥ボォー!
ついに炎は塹壕を一周して、真っ赤な火の環を作りあげた。
ドラゴン「███▆▆▆▄▄▄!」
-
「──うぉ!?」ドサ!🛡ゴロッ
「な、なんだ!?さっきまで塹壕にいたはずじゃ…」
ツヅリ「ボクが連れてきた」
「あんたは確か、王国騎士の──はっ!他の奴らは!?」
ツヅリ「大丈夫。みんなも避難させたよ。火傷をした人達もいるけど…みんな回復班に連れて行ってもらった」
ツヅリ「君が炎を防いで、時間を稼いでくれたおかげだ。ありがとう」
「そうか…!」
カチマチ『怪我人を送ってきました!』バタバタ
ツヅリ「カチ、この人もお願い。手を火傷してる」
「いや、別にこのくらい──」
カチマチ『カチ…?わかりました!』パクッ!
「うわっ!」
カチマチ『1名様ご案内です!』ビューン!
ツヅリ「さぁ、ドラゴンが気付く前に次の作戦の準備をしなきゃ」パッ
-
【簡易テント】
カチマチ『連れてきました!』ポイッ
ドサッ!
「痛てっ!もっと優しく下ろせ!」
ルリノ「怪我の具合は……そこまで酷くないね!カホちゃんお願い!」
カホ「はいはーい!」パタパタ
カホ『リカバー!』︎︎✨キラキラ
「ありがとうな。お嬢ちゃん」
カホ「ううん!あたしは戦えないから、せめてみんなをサポートしたいんだ!」
ギンコ「誰か!こっちは重症です!」ヨイショ
メグミ「私に任せて!」ピューン
メグミ『メグリカバー!』
「ぅ…ううん……」👀パチッ
メグミ「やっほ〜痛いところない?」
「うわぁぁ!天使!?まさか、俺死んだのか……?」
メグミ「安心して、生きてるよ!天使なのはあってるけど」
ルリノ「ごめんだけど、怪我が治った人は戦線に戻って欲しい!すぐに次の作戦を開始するって!」
-
「戻る?──無理に決まってるだろ!!」
「お前らはドラゴンを見てないからそんなこと言えるんだ…!ドラゴンを足止めなんて…最初から無謀な──」
メグミ『追加メグリカバー!』ズッキュン!
「────別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?(イケボ)」
メグミ「いいよー行ってらっしゃ〜い!」✋フリフリ
ルリノ「…………なんか、すごく悪いことしてると、ルリ思う…」
メグミ「大丈夫?ルリちゃんもメグリカバーする?」
ルリノ「や、やめとく!前それのせいで調子乗って怒られたから!!」
カホ「カチマチちゃん!回復した人達を送ってもらえるかな?」
カチマチ『もちろんです!みなさんカチマチに掴まってください!』
「ありがてぇ!」ガシッ
「頼んだぞ!」ガシッ
カチマチ『それでは行ってきます!』
カチマチ『ちぇーすとー!』⚡️ビリビリ!
< ギャーー!!⚡️
カホ「……」
カホ(あの人達、すぐ帰ってきそうだな……)
-
感電は草
-
その台詞は死亡フラグなんよ
-
続き待ってる
-
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おーーい!次の作戦の準備はできないのか!?」
「負傷者がまだ帰ってきてないんだ!魔法使いが足りてない!」
「くそっ!ドラゴンに勘づかれる前に始めないとまずいぞ…」
ドラゴン「……」ドスン!ドスン!
「やべぇ!ドラゴンがこっちに来た!」
「今いるやつらだけでいい!早く準備しろ!」
ドラゴン「!」ギロッ
ドラゴン「██▆▆▄▄▄▄」ドカドカドカ!
🌳🌳ボキボキボキ…!
「ひっ──見つかっちまった!」
「もう間に合わない!」
「ここまでか……」
ドラゴン「▆▆▄▄▄」ドカドカドカ!
コズエ「…」サッ
コズエ「ふん!」ガシッ!!
ドラゴン「!!」ピタッ
「ドラゴンを受け止めた!?」
「なんて怪力だ……」
コズエ(推力反転!)
コズエ「はっ!!」
ドラゴン「!?!?」グオン
ドスーーン!
ドラゴン「██▄▄▄▄ __!」🌳バキバキ!
「「投げ飛ばしたー!?」」
-
コズエ「痛っ──」ジンジン…
コズエ(流石に反動がでかいわね…)
ドラゴン「……」ムクッ
コズエ「さあ…私が構ってあげるわ!どこからでもかかってきなさい!」
ドラゴン「……」ガシッ🌳
ドラゴン「……」ポイッ 三🌳
コズエ「!!」
ドラゴンは傍らにあった木を掴むと、コズエに向かってそれを投げつけてきた。
コズエ(避けられる…けれど、避けたら後ろの人達に──!)
コズエ「それなら受け止めるまでよ!」
コズエ『衝撃吸収!』
三🌳ピタッ
コズエが木に触れた瞬間、投げ飛ばされた木は途端に推力を失い、その場に落下する。
🌳ドスン!
コズエ「ふぅ…この程度なら──」
ドラゴン「……」ブン!
コズエ「!?──がっ!」ゴキッ!
木を受け止めたことで、視界が塞がった数秒間。
その隙にドラゴンは身体を翻し、長い尾でコズエの身体を薙ぎ払った。
コズエ「ぐふっ……!」ゴロゴロ…
コズエ(油断したわ…!最初に投げた木は陽動だったのね)
保存魔法は吸収モードと放出モードの切替式の魔法だ。吸収モードを維持している限り、コズエに不意打ちは通用しない。
しかし、コズエ自身が生み出すエネルギーも吸収してしまう為、魔法の発動中は行動を大幅に制限される。
故にコズエは相手の動きを見てピンポイントで魔法を発動する必要があった。
-
コズエ「次は油断しないわ!」ムクッ
ドラゴン「……」バサッ!バサッ!
コズエ「っ!空を飛ぶ気ね!」
ドラゴン「……」バサッ!バサッ!
「させるか!」⛓️ジャラララ!
ドラゴン「!」⛓️ガシッ
誰かが投げた鎖がドラゴンの脚に絡みつく。
鎖の先は太い木に巻き付いており、ドラゴンが空中で暴れる度にミシミシと軋みをあげている。
🌳⛓️ギギギ…ミシ!
「ちっ!やっぱり鎖一本程度じゃ足止めにならないか…!」
ツヅリ「ううん。足場としては充分だ」
🕒カチ
🗡ズバズバズバ!
ドラゴン「▇▇▄▄▄__!」↓↓↓
ドシーーン!
コズエ「ドラゴンの翼が──!」
ツヅリ「赤くなったおかげで、翼が柔らかくなってたんだ」🗡
コズエ「ツヅリ!」
ドラゴンはツヅリに翼膜を切り刻まれて、堪らず地上へ落下する。
「飛ばれなければこっちのもんだ!」
「今のうちに地上に拘束しろ!」
⛓️ジャラララ……ガシッ!ガシッ!
無数の鎖がドラゴンの首や腕に絡みつき、動きを抑制する。
ドラゴン「█▇▄▄▄!」ジタバタ!
「しっかり押さえろ!少しでも時間を稼ぐんだー!」ギシギシ
-
⛓️🔥ジュー
「あっち!なんだ!?鎖が急に熱くなって……」
「いや、鎖と言うよりドラゴンの周りの温度が上がってるんだ!」
⛓️🔥ジュー
⛓️ブチッ! ⛓️ブチッ!
「熱で鎖が溶けて──」
ドラゴン「……」🔥ボワッ
「まずい…!業火が来るぞ!」
コズエ「っ!」ダッ
コズエ「はぁーっ!」ゲシッ!
ドラゴン「!?」グラッ
コズエはドラゴンの頭に、魔法で威力を上乗せした飛び蹴りを放つ。
ドラゴン「…」💢💢ギロッ
コズエ「そうよ!私を狙いなさい!」タッタッタッ!
標的が自分に移ったことを確認し、コズエは全速力で走り出す。
コズエ(こっちの方角なら他に誰もいない!)
ドラゴン「……」🔥ボワッ
ツヅリ「コズ!!」
コズエ「私は魔法があるから大丈夫よ!それよりも他の人のフォローを──」
ドラゴン「」🔥🔥🔥ゴーー!
コズエ「!!」🔥🔥🔥ボー
言い終わるよりも先に、コズエの体は業火に包まれ見えなくなった。
ドラゴンの吐いた炎は扇状に広がり、炎に飲み込まれた木々は一瞬にして炭へと変わってゆく。
-
🕒カチ
ツヅリ「おいしょ」ドサッ
「っ…!ありがとな!騎士の姉ちゃん!」
ツヅリ「うん。怪我がなくてよかった」👍
「でも…さっき囮になってくれた姉ちゃんはもう……」
ツヅリ「……コズは、大丈夫って言ってた。信じよう」
ドラゴン「」🔥🔥🔥ゴーー!
🔥🔥🔥🔥🔥🔥──フッ
やっと炎の勢いが治まると、そこには真っ黒な焼け野原が広がっていた。
パチパチという小さな音と共に、火花をあげて木々が崩れる。
焦げた臭いが鼻をつき、五感の全てが、あらゆる生物がそこから焼失したこと伝えていた。
ただ一人を除いて──
コズエ「ごほっ!ごほっ!……煙を吸い込んでしまったわ」
ぴっちりとした黒いボディスーツを身にまとったコズエが、焼けた大地の上に立っている。
コズエ(それにしてもすごいわね、ギンコさんが作ってくれた耐火服……本当にドラゴンの炎を耐えるなんて)
-
ーーーーーーーーーーーーーー
【数時間前】
コズエ『ギンコさん。私に渡したいものって何かしら?』
ギンコ『こちらです』スッ
コズエ『これは……インナーかしら?』
ギンコ『はい。でもただのインナーじゃありません。これは耐火魔法をかけた糸で編んだものです』
ギンコ『コズエさん、前に電流を一気に放出して服が燃えてしまったことがありましたよね?大技を使う度に服が燃えたら不便だと思いまして』
コズエ『もしかして、この間温泉旅行についてこなかったのはこれを作るために?』
ギンコ『あ、えっと…それもありますけど……』モジモジ
コズエ『……ありがとう。ギンコさん。有難く使わせてもらうわ!』
ギンコ『!』
ギンコ『はい!1000℃の炎にも耐えられるので、ドラゴンの炎でも焼けることはないと思います!』
ーーーーーーーーーーーーーー
コズエ(感謝するわ!おかげでみんなの前で裸を晒さずにすんだ)
ドラゴン「……」グルルル
コズエ「自慢の炎が効かなくてご不満かしら?ドラゴンさん」
ドラゴン「……」
ドラゴン「██▇▇▄▄!」⛓️ブン!
コズエ「!」
ドラゴンが腕を大きく振るうと、腕に巻きついた鎖がうねって宙に浮く。
コズエ(鎖を叩きつける気ね!そのくらい簡単に──)
-
⛓️ジャラララ!
「あだっ!」ベシッ
「ぐあっ!」ベシッ
ツヅリ「うぺっ」ベシッ
コズエ「!?」
ドラゴン「▇▇▄▄▄!」⛓️ブンブン!
ベシン!ベシッ!
「ぎ──」ゴキッ
「クソッ!暗くてよく見え──ぐあっ!」
コズエ「ちょっと!私を狙いなさい!」
ドラゴン「……」プイッ
コズエ「無視!?」
コズエ(私に攻撃が効かないことに勘づいた?薄々わかっていたけれど、あのドラゴンかなり知能が高い!)
-
ファンタジーでも梢センパイの裸体が晒されるのは許せない花帆ちゃん
-
ドラゴン「▆▄▄▄!」⛓️ジャラララ!
『ストーンスキン!』✨カチカチ
⛓️ガキン!
「物理攻撃なら俺にだって防げるぜ!」
ドラゴン「!」⛓️ジャラララ!
⛓️ガキン!ガキン!
「ハハハッ!!効かねぇなあ!」カチカチ
ドラゴン「▆▆▄▄▄!」オテ!
「あ──」
ズボッ!
鎖による攻撃が効かないと見るや、ドラゴンは腕を振り下ろし男を頭から押し潰す。
「………」
(硬化魔法のおかげで死にはしなかったが……地面に埋まって動けねぇ!)
ドラゴン「」🔥ボワッ
(まずい!炎は耐えられ──)
『ジャイアサイズ!!』((🛡))ムクムク
🛡🔥ボン!
「モゴモゴ!(タナカ!)」
「間に合ったか!負傷者戻って来たぞ!」
「魔法使い達も帰ってきた!魔法陣の発動まであと少し時間を稼いでくれ!」
「時間を稼ぐのはいいが、別にアレを倒してしまっても──(イケボ)」
「……若干名キャラが変わってしまったが、気にするな!」
コズエ(メグミの魔法を過剰投与されたのね……)
「モガモガー!(頼む!掘り起こしてくれ!)」
-
「ふんっ!」🏹シュバッ
ドラゴン「……」
男が放った矢を、ドラゴンは避けようともしない。
あのような小さな矢など、ドラゴンの鱗には傷一つ付けられず無様に弾かれて終わりだ。
🏹ギュイーーン!🌀 ズボッ!
ドラゴン「!?」
しかし、矢は男の手を離れた瞬間からドリルのように回転し、ドラゴンの腕の鱗を穿った。
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄▄!!」
「螺旋魔法を付与したのさ。どんなに硬い鱗でも、この攻撃には耐えられまい(イケボ)」
「おお!初めてドラゴンに傷を付けたぞ!」
「流石は街一番の弓使いだ!」
「いいことを思いついた!エミやん!今の矢を俺の横を通り過ぎるように射ってくれ!」
「タナカの横を?ふん、何かしら考えがあるようだな(イケボ)」
「いいだろう…『螺旋矢』!」🏹シュバッ
『ジャイアサイズ!』タッチ!
((🏹)) ムクムク!
ドラゴン「!!」サッ
巨大化した矢がドラゴンの眼前に迫る。
ドラゴンは身の危険を感じ、咄嗟に身を翻そうとするが──
コズエ「ふっ!」ガシッ
ドラゴン「!?」ピタッ
コズエの魔法によって推力を奪われ、動きを止めらてしまった。
🏹ギュイーーーーン!!ブシャー
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄▄!!!」
-
頭への直撃は避けられてしまったものの、矢は翼の付け根の辺りを貫通し、右翼は無残に垂れ下がる。
「翼を壊したぞ!!これでもうドラゴンは空を飛べない!」
「もう一度だ!今度は心臓をぶち抜くぞ!」
「了解した(イケボ)」🏹サッ
コズエ(流石は歴戦のAランク冒険者だわ。即席の連携であれほどの攻撃を撃てるなんて!)
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄▄!」ブン!
「「!」」
ドラゴンは弓の男達を脅威と感じたのか、長い爪を剥き出しにして腕を振り下ろす。
コズエ『衝撃吸収』ピタッ
ドラゴン「…!」💢
ドラゴンの攻撃は男達に届く直前で、間に割って入ってきたコズエに受け止められる。
コズエ「優秀な先輩方のおかげで、私も防御に専念できます!」
「それはこちらのセリフだ!オトムネさんのおかげで攻撃に専念できる!」
「お嬢さん、この戦いが終わったら俺のパーティに移籍しないか?(イケボ)」
コズエ「うふ、素敵な提案ね。でもごめんなさい。私には既にもっと素敵な仲間達がいるの」
「おや、振られてしまったか(イケボ)」
ドラゴン「」🔥ボワッ
コズエ「!」
「オトムネさん!あれは防げるか!?」
コズエ「無理です!」
「逃げろーーー!!」
🔥🔥🔥🔥🔥ボーーン!
-
ドラゴンの口から火球が放たれ、着弾地点に大きな火柱が立ち上る。
コズエ「っ…!」
コズエ「皆さん無事…ですか──」
コズエは咄嗟に横にいた二人の安否を確認する。
しかし、そこには焦げた地面と、何かが燃えつきた残骸しかなかった。
コズエ「そん…な……」
ドラゴン「……」
ドラゴン「!!」ピクッ
『螺旋矢』🏹シュバッ
ドラゴン「!」🏹ベシン!
真後ろから放たれた矢を、ドラゴンは本能だけで感知し、尾で叩き落とす。
「ちっ!後ろに目でも付いてるのか?(イケボ)」
「先に助けてもらったお礼だろ!」
「たわけ!冒険者たるもの、目の前の敵から目を逸らすことなど──」
「さっき思いっきりスカウトしてただろ……」
ツヅリ「気にしないでいいよ。それより次はどこに連れていけばいい?ドラゴンに場所バレちゃった」
ドラゴン「……」クルッ
「死角からの攻撃も防がれるとなると、あえて真下とかか?」
「──いや、時間稼ぎは終わりだ。魔法陣に誘導するぞ(イケボ)」
「!準備ができたか」
ツヅリ「わざとドラゴンの視界に入るように移動するね。いくよ!」
🕒カチ
パッ! パッ! パッ!
ドラゴン「……」グルルル
ドスン!ドスン!
ツヅリ「コズ!」パッ
コズエ「ツヅリ!お二人も無事だったんですね!」
ツヅリ「これからドラゴンを誘導する!コズはドラゴンの攻撃がみんなに行かないように防いで!」
-
「俺の盾を使え!少しデカくなってるが、オトムネさんなら扱えるな?」
コズエ「もちろんです!」🛡ズシッ
ドラゴン「」🔥ボワッ
「さっそく来たぞ!」
コズエ「ふっ」サッ
コズエは盾を持ちながら素早くドラゴンの真下に滑り込む。
コズエ『リリース:インパクト』ダン↑
そのまま盾を構えて飛び上がると、ドラゴンの顎に強烈なアッパーをお見舞する。
コズエ「はっ!」🛡ガコン!
ドラゴン「!?」🔥ボフッ
(思ってた使い方と違うが……結果が出るならなんでもいい!)
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄!」ブン!
ドラゴンは鋭い鉤爪をコズエに向けて振り下ろす。
コズエ「ふん!」🛡ガキン!
コズエ(これなら苦手な斬撃も防げる!私も盾を買おうかしら……)
ドラゴン「……!」💢ドスン!ドスン!
ドラゴンは攻撃を尽く防がれ、躍起になってコズエ達を追跡する。
やがて、木の生えていない広場にまんまと誘導されてしまった。
「ドラゴンが入ったぞ!魔法陣を発動しろー!」
ザッ!!
隠れていた魔法使い達が一斉に地面に魔力を注ぎ込む。
🔯ピカー
ドラゴン「!!」
すると、青紫色の光を放ちながら、広場を覆うほどの巨大な魔法陣が浮かび上がった。
ドラゴン「」🔥ボワッ
ドラゴンは周りにいる魔法使いを一掃しようと、口に炎を溜めるが──
-
『『オメガ・グラヴィオン!!!』』
↓↓↓ズンッ↓↓↓
ドラゴン「!?」ガクン ↓↓↓
突如、何十倍にも重くなった自重に耐えきれず、ドラゴンは潰れたカエルのようにその場に伏せる。
コズエ「受付嬢さんが教えてくれたとっておきの魔法陣。上級魔法を超える終局魔法……」
ドラゴン「……!」💢💢ググググッ
ドラゴンは必死に身体を起こそうと踏ん張るが、体を動かすことはおろか、顎を開くことすらできない。
「いいぞ!動けなくなってる!」
「魔力を途切れさせるな!ここが踏ん張りどころだ!」
ドラゴン「……」💢
ドラゴン「」🔥ジュー
コズエ「!気温が上がってる……?」
ドラゴンの鱗が紅く発光し、体から仄かに陽炎が立つ。
それに伴い、ドラゴン周辺の地面からポツポツと火の手が上がり出した。
コズエ「熱放出で私達を焼くつもりなの!?」
「っ!熱さで目が──!」
「だが、俺達だってここで何十分も拘束するつもりは無い!」
「動きを止めたのは、ひとえにお前を"仕留める"為だ!!」
ゴゴゴゴゴ……!
ドラゴン「!」
地響きとともに地面が隆起し、ドラゴンの目の前で巨大な岩が宙に浮く。
「どんなに硬い鱗を持っていようとも、自分よりでかいものに押し潰されればぺちゃんこだ!」︎︎✨
『ジャイアサイズ!』タッチ!
((())) グングングン…!
魔法によって持ち上げられた岩は、さらに巨大化魔法によってドラゴンと同程度の大きさまで肥大化する。
「プレゼントは大きい方が嬉しいよな!」
ドラゴン「……」💢グルルル
-
コズエ「──さあ、仕上げよ」
宙に浮いた岩の上に、コズエと十数人の魔法使い達が立っている。
コズエ「何の目的でカナザワを目指していたのかは知らないけれど……人々の平和を脅かすモノは駆除しなければならない」
コズエ「それが冒険者の仕事。それが、私達人間のエゴよ!!」
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄▄!!!」
コズエ「ここに眠りなさい」
コズエ『フルリリース──』👊
『『エクス レプルス!』』︎︎✨
コズエ『インパクト!!』💥💥💥
↙↙↙💥 グオン!!
隕石と見紛うほどの巨岩が、ドラゴンに向かって落下する。
如何に強靭な肉体を持つドラゴンでも、この圧倒的な質量の前では為す術もない。
ドラゴン「……」グルルル
ドラゴン「」✨カチカチ…
↓↓↓ゴゴゴ…!
ズドォォォォーン!!!
巨岩はドラゴンの真上に落下し、強烈な衝撃が大地を揺らす。
その揺れの大きさは、数キロ離れたカナザワの街にも地震が起こったと錯覚させる程だった。
バキバキバキ!
岩は砕け散り、周囲にいた冒険者たちは頭を庇って慌てて地に伏せた。
「…………やったか?」
-
砂埃が治まり、広場の中心の様子が徐々に見えてくる。
ドラゴン「」
ドラゴンの体は半分ほど地面に埋まっていた。
紅く光っていた鱗は元の黒色に戻り、空気を焦がしていた熱もいつの間にか冷めている。
ドラゴンはそれっきり、まるで"石像になったように"動く気配はなかった。
「嘘だろ……まさか、倒しちまったのか…?」
お互い顔を見合わせるでもなく、ただ呆然と地面に埋まったドラゴンを眺める。
「やった──やった…!やったー!!」
「勝ったぞーーー!!!」
「「「うぉぉぉぉお!!!!」」」
ひとりが声を上げると、歓声は次々と伝播し、広場は冒険者達の雄叫びで満たされた。
「すげえ!すげえよ俺たち!あのドラゴンを倒したんだ!」
「王国軍なんて要らねぇ!俺達は最強だぁー!!」
「Foooooooooo!!!」
ツヅリ「やったね!コズ!」
コズエ「ええ!ツヅリもお疲れ様!」
「ふっ…まさか成し遂げるとはな(イケボ)」
「お互いよく頑張ったな!」 ポン!
「モガモガーー!!(誰か掘り起こしてくれー!)」
その場に居るほとんどが、お互いの名前さえも知らない即席の冒険者チーム。
それでも皆、肩を組み合い、時に抱き合いながら、互いに健闘を称え合っていた。
🔯バチバチ!
-
まだ埋まってて草
-
赤い弓兵いてワロタ
-
さすエミヤ
-
「ん?なんか魔法陣光ってないか…?」
🔯ポワーン
「あれ、本当だ……もう魔力注いでないよな?」
「大きい魔法陣だし、さっきの分の魔力がまだ循環してるとか」
「……いや、そもそもドラゴンがめり込んだから魔法陣は壊れてるはず──」
🔯バチバチバチ!!
ツヅリ「え、なに?」
コズエ「魔法陣が…………書き換わってる…?」
「!?」フワッ
「なんだ!体が浮いて──」フワッ
ツヅリ「あ、まずい…」フワッ
突然、魔法陣が赤い光を放ち、周りにいた冒険者たちは次々と宙に浮き上がる。
まるで、重力が反転してしまったかのように──
「おい!誰が魔法陣を動かしてるんだ!!」 フワフワ
ズズズズ……
コズエ「!」
ドラゴン「……」 フワッ
冒険者たちに遅れて、地面に埋まっていたドラゴンの体も浮き上がり、その全貌が明らかになる。
コズエ「な──」
「なんだ…あの光……」
ドラゴンの心臓に当たる箇所、先程までマグマのような橙色に光っていた部分が、今は青緑色に輝いている。
-
ドラゴン「……」ギロッ
ツヅリ「どうして──生きてるの?」
ドラゴン「██▇▆▆▄▄▄▄▄!」
🔯バチバチ!
コズエ「魔法陣が呼応してる!?まさか、あのドラゴンが操っているの?」フワフワ
「おい…よく見たら傷一つ付いてないじゃないか!なんで潰れてないんだ!」フワフワ
ドラゴン「▇▆▆▄▄▄!」⚡️⚡️
「ぎゃーーー!!」⚡️ビリビリ
ツヅリ「くっ……!」⚡️ビリビリ
「あいつ……!俺達の使った魔法を学習しやがった!!」⚡️ビリビリ
「「!!!」」
ドラゴン「……」🔯ブーン
「うおっ!?」 グイン
「体が引っ張られ──」 グイン
「ぶつかるーーー!」 グイン
「痛っ!」ゴチン!
仮初の重力に引き寄せられ、冒険者達は一箇所に集められる。
コズエ「ううぅぅぅ…!」ギューッ
ツヅリ「苦しい…!」ギューッ
やがてドラゴンの目の前に、ひとつの"人間肉団子"が完成した。
-
ドラゴン「……」💢💢グルルル
「ちぃ…!『螺旋矢』!」🏹シュバッ
ドラゴン「」✨カチカチ
🏹カキン!
「硬化魔法!?そうか、それで岩の衝突を凌いだのか!!(イケボ)」
ドラゴン「」🔥ボワッ
「おいおい……嘘だろ!!」
「待て!やめろーー!!」
ドラゴンは怨嗟のこもった目で冒険者達を睨みつけると、口に灼熱の炎を溜め出した。
【地上】
一方その頃、ひとり地上に取り残された冒険者は──
「うんしょっと!」 モゾモゾ…
「ふぅ〜地面に埋まってたおかげで飛ばされずに済んだわ」
ドラゴン < ギャオーー!!
「ドラゴンが魔法使うとか……そんなんありかよ…」
「あんな化け物、到底勝てっこない。悪いが俺は降りさせてもらうぞ!」 🏃タッタッタッ!
「生き残るのは勇気のあるやつじゃねぇ…賢い選択ができるやつだ!」
-
【上空】
ドラゴン「」🔥ゴゴゴゴ…
ドラゴンは口を大きく開けて業火を放つ準備をする。
その目は内側から炎で赤く照らされ、黒色の鱗も相まってまるで悪魔のようにも見えた。
(くそっ!さっき盾をオトムネさんに渡したから、防げるものがない……!)
男の魔法は無機物の質量を増幅させる魔法だ。
手ぶらになってしまった男には、もはやその魔法を活かして窮地を脱する術はない。
────本当に?
(死ぬのか?俺も…みんなも……)
(元はと言えば、俺があの時"戦う"なんて言ったせいだ…素直に全員で避難する選択をしていれば……)
────諦めるにはまだ早い
(…………いや、そうだ…!俺も、みんなも!まだ生きてる!!)
(諦めるな!まだやれることがあるはずだ!!)
ピシッ
(俺が戦うと言い出したのなら──)
(俺には、誰よりもこの戦いに命を懸ける責任がある!!)
-
ピキッ──パリン!
男の中で何かが弾ける。
否、弾けたのは殻だ。
男を縛る"役"という名の見えない殻──
元々その男に、大それた設定など無かった。
ドラゴンとの戦いを渋る冒険者達の中で、一番最初に声を上げる。
ただそれだけの役割しか与えられていなかった、無名の"モブ"。
だが、男は常軌を逸する正義感で、そのロールから解き放たれた。
(無機物しか巨大化できない?そんな思い込みは捨てろ!)
(あの日──真っ白な空間で扉を開けた時から、この魔法の使い方は理解っていたはずだ!)
(強い意志を持って使えば、魔法は必ず俺に"応えてくれる"!!!) ガシッ!
──これは、この世界の創造主である日野下花帆でさえも予想できなかった、完全なるイレギュラー。
男は今、名も無きモブではなくなった──
タナカ『ジャイサイズ : ギガース!』
-
ピカーーーン!⋆✦
(((✊)))グングングン! ジュワッチ!
ドスーーン!!
コズエ「あれは…タナカさん!?」
ツヅリ「おーおっきいー」👏
巨人になったタナカは、皆を守るようにドラゴンの目の前に立ち塞がる。
しかし──
ドラゴン「」🔥🔥🔥ゴーーー!!!
タナカ「う"お"ぉ"ぉ"ぉ"!」🔥🔥
コズエ「!!」
限界まで圧縮された熱線が、タナカの体に直撃する。
炎は瞬く間に全身を覆い、その体を秒単位で炭化させていった。
タナカ「ぐう"ぅ"ぅ"──」🔥🔥
コズエ「タナカさん!!」
タナカ「──っ!俺が──守"る"ん"だーー!!」👊ブン!
ドラゴン「!?」
👊ゴツン!
ドラゴン「▇▆▄▄▄ __!」グラッ
渾身の力で振り下ろした拳骨が、ドラゴンの脳天に炸裂する。
頭蓋骨が割れるような強烈な一撃に、ドラゴンは姿勢を崩し、熱線の向きが地面へと逸れた。
🔥🔥🔥ボーー ⤵
「──は?ちょっと待て!なんで炎がこっちに!?」 🏃タッタッタッ
「くっ!『ストーンスキ──🔥ジュボ
🔥サーー……
-
タナカ「」フラッ…
「おい!こっちに倒れてくるぞ!」
「意識をしっかり持て!(イケボ)」
タナカ「…………っ」スッ
タナカは半身を皆の方へ向けると、巨体で押し潰さないように優しく両手で包み、そのまま横向きに地面に倒れこんだ。
ドスーーン!
((👤)) シュンシュン…
「見ろ!体が縮んでるぞ!」
「まさか、死んだんじゃ……」
コズエ「しっかりしてください!──っ!なんてこと…全身酷い火傷だわ……!」
カチマチ『コズエさーん!』タッタカタ!
コズエ「カチマチさん!いい所に!」
カチマチ『一体何が起きてるんですか!?ドラゴンを倒したと思ったら、みなさんは空に浮かぶし!突然巨人が現れるし!』
コズエ「その巨人は彼よ!一人でドラゴンの炎を受け止めてくれたの!」
カチマチ『なんと!!』
コズエ「お願い!この人をメグミのところへ!絶対に死なせちゃダメよ!」
カチマチ『わかりました!よいしょっ!』
カチマチ『安全運転トップスピードで行きます!ちぇすとーー!』バビューン💨
ギンコ「はぁ、はぁ…コズエさん!他に怪我人は!?」
コズエ「居るわ!直ぐに連れて行ってちょうだい!」
ギンコ「はい!」
コズエ「それと…できれば早めに連れて帰ってきて」
コズエ「戦いはまだ、終わっていないわ──」
ドラゴン「……」グルルル!
【王国軍到着まで、あと20分】
-
ドラゴン「……」フワフワ
コズエ「宙に浮いてると攻撃できない。何とかして地面に降ろさないと…!」
「また閃光魔法を使う!みんな目を伏せろ!」︎︎
『フラッシュ!』︎︎✨ピカーーン!
ドラゴン「█▇▇▆▆▄▄▄!」グラッ
「どうだ?」
ドラゴン「……」フワフワ
「落ちない!耐性がついたのか!?」
ツヅリ「違う。今のドラゴンは魔法で空を飛んでるんだ」
ツヅリ「目眩しでバランスを崩したくらいじゃ落とせない」
「なら遠距離攻撃だ!無理やり引きずり下ろすぞ!!」
幸い付近には先程の岩の欠片が散らばっていた。
魔法使い達は残った魔力を振り絞って、岩を宙に浮かせる。
『エクス レプルス!』︎︎✨
ビュン! 三
ドラゴン「……」🔯バチバチ
ピタ!
三 ビュン!
反発魔法によって四方から放たれた岩は、ドラゴンに届く寸前で停止する。
その直後、岩は進行方向を180度変えて、魔法使い達に襲いかかった。
「なに!?──ぐわっ!」ドン!
「ひぎっ──!」グチャ!
「くそっ!反発魔法で跳ね返してきやがった!」
-
「騎士のお嬢さん!時間を止めて俺をドラゴンの体の上に連れて行けるか?(イケボ)」
ツヅリ「ボクの力だけじゃ難しい…コズ、手伝ってくれる?」
コズエ「もちろんよ!二人を飛ばすくらい造作もないわ!」
ツヅリ「ありがとう。じゃあ、ボクの首に掴まって」
「失礼する(イケボ)」 スッ
男はツヅリに覆い被さるように、後ろから首に抱きつく。
コズエ「少し手荒になるから、二人とも舌を噛まないように!いくわよ!」✊ガシッ! ガシッ!
コズエは両手で挟み込むように二人を抱えると、ぐるりと体を回転させて、遠心力を利用して二人を投げ飛ばす。
コズエ「はっ!!」ポーン!
「ぐぉぉぉぉ!?」 ビュン!
ツヅリ「っ!」🕒カチ
ピタッ──シーン……
時間が止まり、世界から音が消失する。
停止した世界の中、ツヅリとツヅリに触れている弓使いの男だけは慣性のまま、ドラゴンに向かって飛んでゆく。
ツヅリ「よっと」ポスッ
ツヅリ「しっぽの付け根あたりかな…きっと頭の方に連れていったほうがいいよね?」
些か不自然な姿勢で固まった男を背負い、ツヅリはドラゴンの体をよじ登る。
ツヅリ「よいしょ…よいしょ…!」
近くで見ると、ドラゴンの体は思ったよりも傷が多かった。
硬化魔法を使ったとはいえ、巨大な岩をぶつけられた為か、鱗は所々割れて血が流れ出している。
ツヅリ「無駄だったわけじゃない…ちゃんとダメージは与えられてる!」ヨジヨジ
割れた鱗に指をかけならが慎重に登っていく。
その際に指を何度も切ってしまったが、ツヅリには気にする余裕は無かった。
-
ツヅリ「うんっ…しょ!」グイッ!
ツヅリ「着いた。ドラゴンの頭の上だ」
ツヅリ「えーと、この人を落ちないように立たせて…」
ツヅリ「よし。頼んだよ」🕒カチ
ガヤガヤガヤ!
「っ!ここは…ドラゴンの頭上か!(イケボ)」ヨロッ
(ゼロ距離ならば魔法を使う暇は無いはずだ)
(狙うのは脳……いや、頭蓋骨を貫通できる保証はない。ならば──)
『螺旋矢!』🏹シュバッ!
🏹ギュイーン!ズボッ!
ドラゴン「!?」ブシャー
矢はドラゴンの瞼を貫通し、内側から瞳を突き破った。
破裂した瞳からは、血に混じってゼリー状の硝子体が流れ出ている。
ドラゴン「██▇▄▄▄▄__!」ブンブン!
頭上から右目を射抜かれ、ドラゴンは痛みと驚きで頭を振り回す。
ツヅリ「あ──」ピューン ↓
「くっ──!」ピューン ↓
上にいた二人は、暴れ回るドラゴンに振り落とされて地上に落下する。
ツヅリ「コズーー!!」
コズエ「任せなさい!『衝撃吸収』」
ツヅリ「っ!」ポム
「!?」ポム
コズエは二人の落下の衝撃を受け止めて、優しく地面に下ろした。
-
「ありがとう。やはり君たちの魔法は特別だな(イケボ)」
コズエ「何言ってるんですか。一番ドラゴンにダメージを与えているのは貴方でしょう?」
「たまたま相性が良かっただけさ。騎士のお嬢さんもありが──」ドス!
コズエ「!?」
ツヅリ「!?」
「がはっ──!」ビチャ
突然、三人の意識外から飛んできた岩が、男の頭を直撃する。
ドラゴン「……」ギロッ🔯
コズエ「ドラゴン!」
ツヅリ「は、早く回復してもらわないと!」
ツヅリ「誰か!この人を回復班のところに!」
「任せてください!」ヨイショ!
タッタッタッ…!
ドラゴン「……」ジー
「くそっ!まだ降りてこないのか!」
「ドラゴンの右側から攻撃しろ!目が潰れてるからバレにくいはずだ!」
『エクス サン──』
ドラゴン「█▇▇▄▄▄▄!」❄️🌪
コズエ「!!これは……!」カチカチ
ツヅリ「体が凍る……!」
「あ──が──」︎︎
ドラゴンは氷結魔法を使い、周囲の環境を丸ごと凍らせる。
カチン!
-
コズエ(まずい!今炎を吐かれたら終わり!)
ドラゴン「……」ジー
しかし、ドラゴンは冒険者達にトドメを刺すことはせず、じっと遠くを見つめている。
コズエ(攻撃してこない?それに、私達ではなく別の場所を見つめて──)
ドラゴン「……」🔯バチバチ
ドラゴン「」バビューン💨
コズエ「!!」
ドラゴンは自身に反発魔法をかけて勢いよく飛び出し、戦線を離脱した。
コズエ「逃げた……?」
「いや……違う!ドラゴンの向かった方向には回復班がいる!」
コズエ「なんですって!?」
ツヅリ「コズ!ボクの氷を溶かして!!みんなが危ない!」
コズエ「ちょっと待ってて!」
コズエ(保存した炎の熱を少しずつ解放して──)
コズエ『リリース:ファイア』🔥ジュー
コズエ(直ぐに助けに行くわ。それまで耐えるのよ、カホ!)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【回復班】
カチマチ『メグミさーーん!』タッタカタ!
メグミ「カチマチちゃん!さっきの大っきい揺れはなんだったの?」
カチマチ『それよりも今はこの人を!』
タナカ「コヒュー……コヒュー……」
カホ「ひゃっ!酷い……」
メグミ「全身黒焦げじゃん……本当に何があったのよ?」
カチマチ「えっと、ドラゴンを倒したと思ったら倒せてなくて…みなさんが空を飛んで…この人が大きくなって炎から守って…それで、えーと──」
メグミ「ああ、ごめん!わかんない!」
メグミ「とりあえずこの人を治すね。大丈夫、まだ呼吸はあるみたいだし」
タナカ「すまない……こんな姿……気分悪いよな……」コヒュー…
メグミ「何言ってんの。みんなを守ったんでしょ?名誉の傷じゃん。かっこいいよ!」
メグミ「んまぁ!そのかっこいい傷も残らないくらい、キレイさっぱり治しちゃうけどね☆」
メグミ『メグ リカバー!』キラキラ!
白い光が男を包み込み、爛れた皮膚はみるみる元に戻っていく。
しかし、完全に治りきる前に、皮膚の再生は止まってしまった。
メグミ「あ、あれ──?」
メグミ「なんで……いつもなら一発でどんな傷も治せるのに……」
-
タナカ「……あんた、今日だけで何人を治癒した?」
メグミ「へ?えっと…私の担当は重症者だけだから20……いや30人くらい?」
タナカ「どおりで……魔力が少ないはずだ……」
メグミ「!まさか……魔力切れ!?」
メグミ「そんな!天使の私が魔力を切らすなんて…!」
メグミ「っ…!もう一回、回復魔法を使うね。そしたら今度こそ治るはずだから!」
タナカ「もういい。俺に使うのはもったいない」
メグミ「でも──」
タナカ「どうせ俺も、あんたと同じで魔力切れを起こしてる。魔法が使えても、せいぜいあと一回が限界だろう」
タナカ「この後も怪我人はやってくるはずだ。あんたの魔力はその人達に取っておいてくれ」
メグミ「……ごめんね。戦いが終わって、私の魔力が回復したら必ず治すから!」
タナカ「ありがとな」
ギンコ「はぁ、はぁ…怪我人です!他にも来ます!」
カホ「よし!どんどん回復するよー!」︎︎
ルリノ「うん!」
簡易テントには再び怪我人が運び込まれ、嬉しくない賑やかさが戻ってくる。
-
カホ『リカバー』✨
「うぅ……」
カホ「傷は治りましたよ。立てますか?」
「はっ!ドラゴンは!?」
カホ「ここは回復所なのでいません。安心してください」
「そ、そうか……なぁ、悪いことは言わない。今すぐこっから逃げた方がいい」
カホ「え?」
「ドラゴンが魔法を覚えたんだ!もう、俺たち人間が太刀打ちできる次元じゃなくなったんだよ!」
カホ「ドラゴンが魔法を!?」
ルリノ「その話、本当なの?」
「本当だ!嘘じゃない!」
ギンコ「私も見てます。あれは間違いなく魔法でした」
カホ「そんな…!ただでさえ強いドラゴンが魔法なんて使ったら……」
「だから早く逃げろ!どうせ向こうで戦ってる奴らも直ぐに殺される!そうしたら次はここの番だ!」
ルリノ「お、落ち着いて…みんな強い冒険者なんだし…きっと大丈夫だよ……」
「忠告はしたからな…!俺は知らねぇぞ!」タッタッタッ!
カホ「あ!どこに行くんですか!?ドラゴンは向こうですよ!」
「勝算のない戦いなんてやってられっか!!」ピューン
-
カホ「行っちゃった……」
ルリノ「どうしよう…みんな心が折れちゃってる……」
ギンコ「メ、メグミさんの魔法で──」
カホ「メグちゃん、魔力切れ気味で無駄に魔力を使えないんだって」
ギンコ「……」
ルリノ「……」
三人の中に嫌な予感が漂う。
このまま離脱者が増えていけば、もはやドラゴンを止める手段はない。
ギンコ「でも…もうすぐ王国軍も到着するはずです!それまで耐えれば!」
カホ「そう、だよね!対ドラゴン用の部隊だもん!きっとあっという間に倒してくれるよ!」
「すみません!重傷者です!」
メグミ「はーい……」フラフラ…
ルリノ「わっ!メグミさんフラフラじゃん!少し休んだら?」
メグミ「大丈夫、大丈夫……重症人は私の担当だから…」
ルリノ「でも……」
メグミ「はいはーい、次の方〜あれ?ちょっと前にドラゴン倒すとか息巻いてた人じゃん」
メグミ「本当にがんばったんだね…えらいえらい…今回復してあげるから」
メグミ『メグ リカバー』ポワー
「スー……スー……」
メグミ「起きないか……やっぱり私の魔力が足りなくなってるなぁ」
-
ビューー!
カチマチ『ん?風を切る音…?』
カチマチ『はっ!みなさん気をつけてください!何か来てます!』
カホ「え?何かって──」
ドラゴン「…」ピューーン!
ズドーン!!!
カホ「きゃー!」バタン!
ルリノ「!?」
ギンコ「な──ドラゴン!?どうしてここに!?」
ドラゴン「……」ムクッ
ドラゴン「██▇▇▇▄▄▄▄!」
「ひっ──」
「こ、これがドラゴン…!」
ドラゴン「…」ギロッ
「っ!」ビクッ
「ひ、怯むなー!みんなを守れー!」
「そうだ…こんな時のために俺たちがいるんだ!」
今作戦において、回復班は少ない人員で戦う為の要だ。
そのため、簡易テントにはいざという時のために一部戦闘要員が配置されている。
-
『サンダー!』︎︎⚡️
『フ、フレアボール!』︎︎🔥
⚡️バチバチ!🔥ボン!
ドラゴン「?」キョトン
カホ「全然効いてない…」
そう、ここに居る戦闘員は"いざという時"のための配置。
最前線で戦う経験豊富な冒険者よりも一段劣るBランク冒険者ばかり。
加えて作戦会議の時間が限られていたため、こちら側はまともに戦うプランは練られていない。
統制の取れていない人間の攻撃など、ドラゴンにとっては蟻に噛まれた程度のダメージにしかならない。
「っ……!ヴ『ヴァリア』!」︎︎✨
「バカ!それじゃ自分しか守れ──」
グチャ!
ドラゴン「……」グルルル
「ひっ!!あ……あが……!」︎︎✨
ドラゴン「」🔥ボン!
「ギャーーー!!熱い!なんで!?結界魔法使ってるのに──」🔥ボッ
「に、逃げろーー!!」
ドラゴン「……」ブン!
「んぎっ──!」ゴキッ!
-
カホ「あ、あぁぁ……」ガタガタ
ギンコ「カホさん落ち着いて!」
ギンコ(攻撃する?いや、下手に刺激してこっちに意識を向けられたら終わり!)
ギンコ「カホさん隠れよう!ここは他の皆さんに任せて──」
メグミ「……」ピューン!
ギンコ「え、メグミさん!?そっちは危ないですよ!!」
「ぁ"──あ"ぁ"──」🔥
メグミ「今助けるからね!『メグ リカバー』!」
「うぅ……」ポワー
メグミ「よし、あとは安全な場所に移動させて…」
ドラゴン「……」ジー
メグミ「っ!」ビクッ
メグミ「な、なによ!メグちゃんは美味しくないぞ!」
メグミ「……いや!メグちゃんのことだから美味しいかもしれないけど!」
ギンコ「変にプライドが高い!?」
ドラゴン「……」
ドラゴンは非常に知能の高い魔獣だ。
当然、今まで倒したはずの冒険者が元気になって帰ってきたことにも気が付いていた。
故に、先程までの戦いで傷ついたドラゴンは探していたのだ。
どんな深い傷も治す魔法を、それを使う何者かを──
メグミ「……」
-
ドラゴン「█▇▄▄▄▄!」ドカドカ!
メグミ「え、マジ!?うそうそ!本当は美味しくないってば!!」
カホ「メグちゃん!!」
ドラゴン「」 グアッ!
大きく開いた口に鋭い牙が並んでいるのを見て、メグミはいつだったか人狼に食べられそうになった時のことを思い出した。
メグミ(あ、私今度こそ死ぬかも──)
メグミ(思えば楽しい日々だったな〜人間界も案外面白い所じゃん)
メグミ(まあ、楽しかったのはきっとあの子達に会えたおかげか)
メグミ(なんか使命とかあった気がするけど、ぶっちゃけ私"アレ"は使いたくなかったし……)
メグミ(私が死んだらるりちゃんに迎えに来て欲しいな〜あれ?天使が死んだ時も天使が来るんだっけ?)
カチマチ『メグミさん!!』⚡️バチバチ!
メグミ「うぉ!?」グイッ
ドラゴン「!」ドシーン!
カチマチ『ギリギリセーフです!』
メグミ「カチマチちゃん!」
カチマチ『カチマチの背中につかまってください!安全な所まで連れていき──』
ドラゴン「██▇▇▄▄▄!」ドスドス!
カチマチ『えぇーー!こっちに来ました!?』
メグミ「走って!カチマチちゃん!」
カチマチ『ち、ちゃえすとーー!』ダッ
-
カチマチは素早い動きでドラゴンを翻弄しながら、できるだけ人のいない場所を走り回る。
メグミ「なんであいつずっと追いかけてくるの!?メグちゃんのファン!?」
カチマチ『メグミさんは可愛いのでそうなのかもしれません!』タッタッタッ!
メグミ「ぐぬぬ…!自分の可愛さが憎い!」
ドラゴン「……」🔯ブォーン
カチマチ『え?』フワッ
メグミ「どうしたの?」
カチマチ『体が勝手に浮いて……動けません!!』ジタバタ
メグミ「はー!?ちょ!動け〜〜!」パタパタパタ!
ドラゴン「」ドカドカドカ!
メグミ「!」
カチマチ『!』
ギンコ『ウォーターカッター!』︎︎
💧ビュシーッ!
ドラゴン「█▇▄▄▄!」ヨロッ
高圧の水が左目付近を掠め、ドラゴンは思わず顔を逸らして動きを止める。
カチマチ『ギンコちゃん!』ストン↓
ギンコ「はやくこっちに!」
カチマチ『でも、そしたらドラゴンまで付いてきちゃう……』
ギンコ「それでいいの!ドラゴンを誘導して!」
カチマチ『!よくわからないけど、わかりました!』ダッ!
-
ドラゴン「……」🔯バチバチ
カホ『レプルス!』三
ドラゴン「!」🔯ピタ
ギンコ「よし…意識を逸らせば魔法も逸れる!」
カホ「カチマチちゃん!もうちょっとだよ!」
カチマチ『うぉぉぉぉ!!』タッタッタッ!
ドラゴン「█▇▄▄▄▄!」ドスドス
カホ「来た!ルリノちゃん!」
ルリノ「あいむおーけー!」
『『カテドラル!』』💠⛪️
ドラゴン「!!」
シスター達がドラゴンを囲み、一斉に呪文を唱える。
すると巨大な光の建物が現れ、ドラゴンを閉じ込めた。
ドラゴン「██▇▇▄!!」⚡️ビリビリ💠⛪️
ルリノ「無駄だよ!これは大聖堂を模した上級結界。外からも内からも、この結界は一切の干渉を受け付けない!」
ドラゴン「██▇▇▄▄▄!」ドン!ドン!
-
メグミ「ルリちゃんナイス!」
ルリノ「……とはいえ、これ魔力めっちゃ消耗するから数分しか持たないかも…!」
メグミ「短っ!」
ルリノ「お願い!みんな逃げて!ルリ達がドラゴンを閉じ込めてる間に!」
カホ「っ!そんなことできないよ!」
ルリノ「でも……」
ドラゴン「……」🔯ブーン
カタカタ……フワッ
三ブン!
カホ「!ルリノちゃん危ない!」
ルリノ「!?」
ルリノ(しまった!結界の中から岩を操って──)
🕒カチ
バリン!
ルリノ「え?」
ツヅリ「もう大丈夫だよ。よく耐えたね」🗡チャキ
ルリノ「ツヅさん!」
カホ「ツヅリさん!コズエちゃん達は!?」
ツヅリ「コズは今みんなの氷を溶かしてる。だから遅れてくるはずだ」
-
ルリノ「ツヅさんごめん!思ったよりドラゴンが暴れてて、もうすぐ結界が壊れそう!」
ツヅリ「わかった。みんな!このドラゴンは右目を潰されてる!攻撃魔法を使える人は右側に、防御魔法を使える人は左側で注意を引いて!」
「わ、わかった!」
💠⛪️ ピシッ…
バリン!
ドラゴン「██▇▄▄▄!」
ツヅリ「よし…みんないくよ!」
「「うぉぉぉ!!!」」
カチマチ『カチマチも戦います!ちぇすとー!』⚡️
カキン!
カチマチ『!鱗が硬くて弾かれちゃいます!』⚡️
ツヅリ「鱗が割れている箇所を狙うんだ!そこなら攻撃が通るはずだよ!」
カチマチ『鱗が割れてる所……あった!』
カチマチ『くらえーー!!』⚡️ズバッ!
ドラゴン「……!」⚡️ビリビリ
カチマチ『ちょっとは効いてる……のかな?』
「やれやれー!撃ちまくれー!」︎︎🔥
ギンコ『ウォーターカッター!』︎︎💧
カホ『レプルス!』︎︎✨
三🔥 三 三 三⚡️三💧
ドーン!!
ドラゴン「█▇▇▄▄▄!!!」💢
ドラゴン「……」🔯バチバチ…
メグミ「おーーい!」((✋))ブンブン
ドラゴン「!」 ピタッ
メグミ「私が目当てなんでしょ?メグちゃんはこっちだぞ〜!」
ドラゴン「██▇▄▄▄!!」
-
ツヅリ「メグがドラゴンの気を引いてくれてる!今のうちに──」
ドラゴン「……」❄️🌪ブォーン!
ツヅリ「っ!またこれだ……!」
カチマチ『カ、カチカチのカチマチです!』
メグミ「やばっ…羽根が凍って…!」
ドラゴン「▇▇▄▄」ブン!
メグミ「っ!?」
メグミ「……なーんてね☆」ヒョイッ
ドラゴン「!!」スカッ
メグミ「天使の羽根は羽ばたく必要ありませーん!凍ってたって関係ないんだよ!」💨ピューン
ドラゴン「██▇▄▄!」ドスドス
メグミ(よし!追ってきた!このまま人のいない場所に誘導──)
ドラゴン「……」🔯フワッ
ドラゴン「」💨バビューン!
メグミ「ドラゴンってそういう飛び方だっけ!?」
ドラゴン「……」ガシッ!
メグミ「あっ──」ギュー!
ドラゴンは片手でメグミを捕まえると、殺さない程度の力で握りしめる。
メグミ「うぐっ……!」ボキボキ
硬い鱗に覆われた手に掴まれ、メグミの柔肌は切れ、肋骨などが数本折れる。
メグミ「メ…『メグリカバー』」ポワー
ドラゴン「……」ジー
メグミ「うぅ…助けてぇ……コズエ…」💧ポロポロ
-
タンッ!➚
『フルリリース──』
メグミ「!!」
コズエ『インパクトォォ!!』💢👊💥💥💥
ドラゴン「██▇▄▄__!」ゴツン💥
ヒューーン ↓↓↓
ズドーン!!!
メグミ「きゃっ!」
コズエ「メグミ!手を!」スッ
空中に放り出されたメグミに、コズエは左手を差し伸べる。
メグミ「っ!」ガシッ
コズエはメグミの体を手繰り寄せると、抱き抱えたまま地上へ落下する。
コズエ『衝撃吸収!』↓↓↓ ストン
コズエ「ふぅ…間に合ったわね」
メグミ「……別に、私飛べるから放っておいても良かったのに」
コズエ「何言ってるの?あなた怪我してるじゃない」✊ポタ…
メグミ「いや右手!コズエの怪我の方がよっぽど酷いじゃん!」
コズエ「メグミに治してもらうから問題ないわ」
メグミ「その信頼は嬉しいけど…もっと自分の体を大事にしろ!」
メグミ『メグ リカバー』ポヤー
コズエ「あら?」
メグミ「……ごめん。魔力が足りなくて…」
コズエ「そう…メグミも頑張っていたのね」
コズエ「腕のことは大丈夫よ。まだ左手が残ってるわ」
メグミ「だから……壊す前提で話さないでよ…」
-
カチマチ『メグミさーん!』
ツヅリ「コズ、来れたんだね。他のみんなは?」
コズエ「直に来るはずよ。それよりも王国軍は?」
ツヅリ「まだ来てないみたいだ」
コズエ「時間的には到着してもいい頃なのに……ちょっと探してきてもらえるかしら?もしかしたら道に迷っているのかも」
ツヅリ「いいけど…ドラゴンは?」
コズエ「少しくらいなら抑えておけるわ。それに、ツヅリなら直ぐに戻ってこられるでしょ?」
ツヅリ「わかった。行ってくるね」🕒カチ
ドラゴン「……」
メグミ「てか、ドラゴン動かなくない?さっきのコズエのパンチで倒しちゃったんじゃないの?」
コズエ「いえ、あの程度で死んだりはしないわ。ずっと戦ってたからわかる。きっと何か企んで──」
ドラゴン「……」キラキラ
カチマチ『!見てください!ドラゴンから白い光が!』
メグミ「白い……光…?」
コズエ「っ!まさか…!メグミ、ドラゴンに回復魔法を見せたの!?」
メグミ「え?見せたっていうか……コズエに助けてもらう直前に……」
コズエ「……!」
コズエの顔がみるみると青ざめてゆく。
メグミとカチマチにはその理由がわからなかったが、コズエの視線を追って再びドラゴンの姿を見た時、全てを理解した。
メグミ「嘘──」
カチマチ『体の傷が、治ってます……』
コズエ「やられたわ!メグミの回復魔法を学習された!」
ドラゴン「……」ムクッ
コズエ「これじゃあ……振り出しよ……」
ドラゴン「██▇▇▇▄▄▄▄▄!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
ツヅリ「はぁ!はぁ!はぁ!」タッタッタッ
少女は走っていた。
ツヅリが走るのは、実に数年ぶりのことだ。
時間を止める魔法を認識してから、ツヅリには『急ぐ』という感覚は欠落していた。
実際、今だって時間を止めているのだから走る必要は無い。
ツヅリ「はぁ…!はぁ…!」タッタッタッ
それでも、無意識のうちに脚は地面を蹴っていた。
ツヅリ(はやく軍を連れて戻らないと!)
自分のためには走れないツヅリでも、他人を思えばこそ体は自然と動き出す。
ザッ!ザッ!ザッ!
ツヅリの走った後には、巻き上げられた土や落ち葉が空中で停止して、その軌跡を残している。
慣れない夜の森を右へ、左へ…記憶の中の行軍情報を頼りに探し回る。
ツヅリ「っ!いた!」
そしてようやく、見慣れた紋章を刻まれた鎧の集団を見つけた。
彼らは休憩していたのか、立っている者は一人もおらず、皆一様に木にもたれかかって地面に座っていた。
-
ツヅリ「むっ……」
ツヅリはほんの少し苛立ちを感じる。
冒険者達が必死に戦っているというのに、こんな所で道草を食っている軍に微かに怒りが湧いてきた。
🕒カチ
ツヅリ「起きて!ドラゴンはすぐそこだ!」ユサユサ
ツヅリ「もうみんな戦う力が残ってない!だから──」
騎士「」グラッ……バタン
ツヅリ「え?」
しかし、怒りはすぐに違和感へと変わる。
ツヅリ「ど、どうしたの…?お腹痛い?」
騎士「」
倒れた騎士は一向に起き上がる気配がない。
よく周りを見渡すと、そこには草に埋もれるように、同じように倒れた騎士達が大量に転がっていた。
ツヅリ「みんな?なんで倒れてるの?いったい何が──」
ザッ
ツヅリ「!」ビクッ
背後からの物音に気付き、ツヅリは勢いよく振り返る。
そこに居たのは──
-
サヤカ「……ツヅリさん?」
ツヅリ「え……サヤ!?」
闇の中から、ツヅリのよく知る少女の姿が現れる。
サヤカ「あぁ、よかった……まだ生きてたんですね!」ホッ
サヤカ「占い師の人がツヅリさんはもう帰ってこないって言うから、わたし心配で心配で……」
ツヅリ「……どうしてサヤがここにいるの…?」
サヤカ「わたし、ツヅリさんを追って森に入ったんです。でも道がわからなくて…」
サヤカ「そしたらこの人達に会ったので、ツヅリさんのところまで案内してもらおうと──」
ツヅリ「サヤは…ここで何が起きたか知ってる…?」
サヤカ「でも、連れて行けないって…挙句の果てにはわたしを街に送るって言い出して……」
サヤカ「だから──」
サヤカ「殺しちゃいました」🔪ポタ…ポタ…
ツヅリ「────────は?」
-
ツヅリ「ま、待って欲しい…言ってる意味がわからない……」
サヤカ「だってしょうがないじゃないですか?邪魔だったんですから」
ツヅリ「……………………」
ツヅリは混乱する頭を整理しようと脳をフル回転させる。
ツヅリ(夢……幻覚魔法……魔物が化けてる可能性……それともサヤが乗っ取られた?)
必死に、目の前の状況を否定する仮説を並び立てる。
サヤカ「そうでした。ツヅリさんに見せたいものがあるんです」ポイッ
ベチャ
ツヅリ「?」
二人の間に落とされたナニカに、ツヅリの視線は釘付けになる。
一瞬、ツヅリはそれを人の頭だと思った。
それは片手で持てる程度の大きさで、全体を覆う毛は赤黒い血に濡れている。
しかし、よく見ればそれは人の頭にしては細長く、骨などないかのように地面にグッタリと伸びている。
ツヅリ「────マッシュくん?」
"それ"が何かを認識した途端、ツヅリの脳は思考を完全に停止させた。
ツヅリ「ぁ──」ガクン
ツヅリ「う…そ……だよね……」
喉が急速に乾き、上手く言葉が発せられない。
ツヅリは手足の動かし方を忘れてしまったかのように、ズルズルと体を引きずりながらそれに近寄る。
-
ツヅリ「ぁ……ぁぁ……」
ツヅリ「なん……で……」
死んでから相当な時間が経っているのか、抱き寄せた体は冷たく、流れた血の分かひどく軽く感じられる。
それは間違いなく、ツヅリの愛した家族の成れの果てだった。
ツヅリ「サヤが……やったの……?」
サヤカ「……」
ツヅリ「お願い……違うって言って……」
サヤカ「……」
ツヅリ「サヤっ!!!」
ゴツン!
ツヅリ「うっ──」バタン
サヤカ「……だって、その子がいるとわたしだけを見てくれないじゃないですか」
サヤカ「安心してください。すぐにマッシュさんとも再会できます」
サヤカは地面にしゃがみこみ、気を失っているツヅリの頭を自身の膝に乗せた。
サヤカ「本当に、綺麗なお顔……」サワッ
頬を撫でた手を、そのまま首筋に伸ばして脈を確認する。
サヤカ「本当によかった…間に合ってくれて」
サヤカ「あなたを殺す特権は、他の誰にも渡しません」
サヤカ「わたしはツヅリさんを愛してます。この世界の誰よりも。だから──」
サヤカ「あなたの一番綺麗な姿を、わたしに見せて?」🔪
スパッ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
姫芽この惨状をどうにかできるのか…?
-
ドラゴン「██▇▇▇▄▄▄▄▄!」
メグミ「そんな……私のせいで……」
コズエ「メグミのせいじゃないわ。こっちに来られた以上、この事態は避けられなかった」
ドラゴン「……」🔯バチバチ
カチマチ『来ます!』ガルル
フワッ↑
……ストン↓
ドラゴン「?」
メグミ「ん?何も起こらないよ?」
コズエ「もしかして……メグミの回復魔法って実は魔力消費が激しいの?」
メグミ「え、それなりかなぁ?私(天使)基準だと大したことないけど」
カチマチ『あ!つまりメグミさんの魔法を使ってドラゴンが魔力切れ起こしたってことですか?』
コズエ「その可能性はあるわね!」
ドラゴン「……」🔯バチバチ……シュン
メグミ「おー!やったじゃん!結果オーライ☆」
-
岩の効果音すき
-
メグミ「ぶっちゃけコズエ的には、傷が治るのと魔法使ってくるの、どっちの方が厄介だったの?」
コズエ「どっちらとも言えないわね……魔法を使う前から十分強かったから。でも──」
ドラゴン「……」ドスン!
コズエ「戦い方はシンプルになったわ!」
ドラゴン「」ブン!
風を切る鋭い音と共に、ドラゴンの腕がコズエ達に襲いかかる。
コズエ「ふっ!」✋ポム
コズエ(私の予想ではツヅリはすぐに帰ってくるはず。王国軍がどれくらいで到着するかだけでもわかれば……)
ドラゴン「」🔥ボワッ
コズエ「!!魔法が使えないなら、当然そう来るわよね!」タンッ!
コズエ『リリース:インパクト!』✊💥ドン!
ドラゴン「▇▄▄▄▄__!」グラッ
コズエ「痛っ……!」✊ピシッ
カチマチ『コズエさんだけに戦わせる訳にはいきません!カチマチも戦います!』チェストー!
メグミ「私は戦えそうな人達呼んでくる!」💨ピューン
カチマチ『うぉぉぉ!』カキン!
カチマチ『あ!傷口治ってるんだった!』
ドラゴン「」ブン!
カチマチ「キャウン!」ベシン
コズエ「カチマチさん!」
まるでハエを払うかのように、ドラゴンの太い尻尾がカチマチを叩きつける。
-
ドラゴン「」🔥ボワッ
コズエ「くっ!」
コズエ(間に合わない!なら──)
コズエ「カチマチさんごめんなさい!」ガシッ
カチマチ『え?』
コズエ「ふん!」🐕ポイッ!
カチマチ『うわぁぁぁ〜!?』ピューン
ドラゴン「」🔥🔥🔥ボー!
コズエ「っ!」🔥🔥🔥
カチマチ『コズエさん!!』
コズエ「大丈夫よ!あなたは炎に注意して!私以外は耐えられないから!」🔥🔥🔥
カチマチ『カチマチだって役に立たないと……!』⚡️
カチマチ『ちぇすとー!』⚡️カキン!
ドラゴン「……」プイッ
カチマチ『ダメだー!見向きもされないよぉー!』
コズエ「はっ!」✊💥
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄▄!」ブン!
ドラゴンはカチマチを無視して、コズエと激しい攻防を繰り返す。
最も、正確には両者とも相手に明確なダメージは与えられていない。
頑丈な肉体を再生させたドラゴンと、攻撃を無効化して吸収するコズエ。
決定打に欠ける戦いは、しかしカチマチが割り込んだところで優勢になることはない。
カチマチ『うぅ、カチマチは無力……せめてドラゴンと同じくらい大きければ……』
カチマチ『あ、そうだ!』
ドラゴン「」ブン!
コズエ「っ!」ポムッ
カチマチ『コズエさーん!カチマチちょっと離れます!すぐに戻ってくるので〜!』ダッ!
コズエ「わかったわ!──はっ!」✊
カチマチ(あの人の魔法なら、カチマチを大きくしてくれるかも!)タッタッタッ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【回復班】
メグミ「だーかーらー!今コズエとカチマチちゃんが戦ってくれてるの!みんなも助けに行ってあげてよ!」
「でも、ドラゴンは回復したんだろ……」
メグミ「そうだけど……!ドラゴンも魔力切れでもう魔法使えないから!」
「そうは言ったって、俺達だって魔力切れだ」
「だいたい、あんたが回復魔法を見せたせいで……こっちがどれだけ苦労してドラゴンにダメージ与えたと思ってるんだ……」
メグミ「うぐっ……それはごめんだけど」
回復班の拠点に戻っていたメグミは、内心後悔していた。
前衛で戦っていた冒険者達が到着していたため、状況説明をしたのだが……
メグミの話を聞いた彼らは、端的に言って──"萎えて"しまった。
「オトムネさんは特別な魔法を持ってるが、俺達は普通なんだよ……」
「今行っても無駄死にするだけだ。大人しく王国軍の到着を待とう」
彼らが無謀とも思える戦いに挑めたのは、そこに一縷の希望を見出したから。
『もしかしたら勝てるかもしれない』
皆で作戦を考える中で、そんな思いが生まれたからこそ、彼らは持てる力を駆使して戦ったのだ。
しかし今、それまでの努力が無に帰したことを知り、彼らの闘争の炎はいとも簡単に吹き消されてしまった。
-
メグミ「ちょっと!何弱気になってるの!こうなったら──」
メグミ「メグ リカバー!」
シーン……
メグミ「……あれ?何にも出なくなっちゃった!?」
メグミ「くそ〜〜どうすれば!」
カホ「あ、あの!あたし戦います!コズエちゃんのところに連れて行ってください」ガタガタ
ギンコ「カホさん!?」
メグミ「青い顔して何言ってんの!」
カホ「で、でも……仲間が必死に戦ってるのに、あたしだけ安全な場所に居るなんて……」
ギンコ「カホさん落ち着いて。ひとりで行っても仕方ないよ。行くならみんなで行かないと」
メグミ「ほら男ども!女の子が戦うって言ってんのに、あんた達はそんな逃げ腰でいいの!?」
「……」
メグミ「あーもう!いいよ!私達だけでも行ってやる!」
カチマチ『おーい!』タッタッタッ
カホ「え、カチマチちゃん?コズエちゃんはどうしたの!?」
カチマチ『今はひとりで戦ってくれてます!それよりもメグミさん、さっきカチマチが連れてきた男の人はどこですか?』
メグミ「え、さっきのって……あの全身火傷してた?その人なら向こうで安静にしてるよ」
カチマチ『ありがとうございます!』タッ!
-
タナカ「……」
カチマチ『いました!』
タナカ「ん?あぁ俺をここまで運んでくれた……ええと……」
カチマチ『カチマチです!』
タナカ「カチマチか、犬種が名前なんだな。さっきはありがとう」
カチマチ『どういたしまして!それよりも頼みたいことがあります!』
カチマチ『あなたの魔法で、カチマチを大きくしてもらえませんか!』
タナカ「なに?」
カチマチ『今のカチマチじゃ、ドラゴンに相手にもされませんでした……でも、さっきのあなたみたいに大きくなれば、少しくらいコズエさんのお役に立てるかもしれません!』
タナカ「…………無理だ」
カチマチ『ガーン!どうしてですか!?』
タナカ「元々俺の魔法は無機物を巨大化する魔法だ。あの時自分を巨大化できたのは、なんと言うか偶然だったんだよ……」
タナカ「それに、できたとしても俺にはもう生き物を巨大化させられるだけの魔力が残ってない」
カチマチ『そ、そんなぁ……』
カチマチ『それじゃあ、仕方がないですね……』
タナカ「今オトムネさんが戦ってくれてるんだろ?彼女には何度も助けてもらった」
タナカ「俺が行くよ。武器を巨大化するくらいはできる。だからカチマチ君はここで待って──」
-
カチマチ『仕方がないので、このままコズエさんのところに戻ります!』
タナカ「──は?いや待て待て!戻ってどうする!文字通り歯が立たなかったんだろ!?」
カチマチ『それでもいいです!ドラゴンの前で跳ね回れば、注意くらいは引けるはずです!』
タナカ「そんなことしてもすぐ殺されるだけだ!勝算がないならわざわざ行く必要は無い!」
カチマチ『例え勝てなくても、カチマチは戦います!』
カチマチ『何もできないことを、何もしない言い訳にはしたくありません!』
タナカ「……それは蛮勇だ。あえて厳しい言葉を使うが、身の程を弁えろ」
カチマチ『!』
タナカ「お前じゃドラゴンの相手にはならないし、行ったところでオトムネさんの足手まといになるだけだ」
カチマチ「うぅ……それでも……それでもカチマチは──」
ドラゴン「……」バサッ!バサッ!
ギンコ「あれは──ドラゴンがこっちに飛んできます!」
メグミ「え、コズエが抑えてくれてるんじゃなかったの!?」
カホ「まさか、コズエちゃんに何かあったんじゃ──!」
回復班の拠点から1km弱、折れた木々に混じって、コズエの身体は血溜まりの中地面に伏していた。
その胸に、ぽっかりと大きな穴を開けて──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【10分前】
コズエ「はっ!」✊💥ドン!
ドラゴン「▇▇▆▆▆▄▄!」
✊ビュシッ!
コズエ「っ……もう右手は使えないわね……」
コズエ(メグミ達はともかく、ツヅリはなぜ帰ってこないの?まさか、何かトラブルが──)
ドラゴン「」ブン!
コズエ『吸収!』✋ポムッ
ドラゴン「……」イライラ💢
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄」ザザー
コズエ「っ──土が目に……!」
コズエ(また目眩しをして不意打ちする気ね。でも、その手はもう通用しないわ!)
ドラゴン「……」バサッ!バサッ!
コズエ「え?」
不意打ちを警戒し衝撃に備えたコズエだったが、ドラゴンはそんなコズエを横目に飛び立とうとする。
コズエ「そういうことね……させないわ!」ガシッ!
コズエはドラゴンの尻尾にしがみつき、周囲の木々を見渡す。
コズエ「どこか掴まれそうな木は……あった!」ガシッ!
両手にそれぞれ尻尾の先と木の枝を持ち、魔法を発動させる。
コズエ『吸収!』
するとコズエの体は、本来両側からかかるはずの引力を吸収し、決して切れない頑丈な鎖と化す。
ドラゴン「!!」ビン!
ドラゴン「▇▆▄▄▄!」↓↓↓ドスン!
-
コズエ「私を無視して行かせたりはしない!増援が来るまでとことん付き合ってもらうわ!」
ドラゴン「……」💢💢
まるで無敵とも思えるコズエの耐久力に、ドラゴンは苛立ちを覚え始める。
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄!」ブン!ブン!
ドラゴンはコズエを振り払おうと尻尾を振り回すが、コズエもしつこくしがみついて離さない。
コズエ「この程度のことでは──」
🌳ピシッ!
コズエ「痛っ……!」
その時、戦闘の中で折れた木の枝が掠れ、コズエの体に小さな切り傷が出来る。
ドラゴン「!!」
コズエ「はっ!」タンッ!
コズエ『リリース:インパクト!』✊💥ドン!
ドラゴン「__!」グラッ
ドラゴン「……」ブン!
ドラゴンは頭部への攻撃によろめくが、すかさずコズエを睨むと、屈強な腕でコズエの体を薙ぎ払う。
コズエ「無駄よ!『吸収』」
ドラゴンの行動を見て、コズエはすぐさま魔法を切り替え、来るべき衝撃に備える。だが──
コズエ「っ!!」ザクッ
予想よりも短く伸ばされた腕は、コズエにぶつかることはなく、その爪の先でコズエの体を切り裂いた。
-
コズエ「偶然、よね……?」
ドラゴン「……」ギロッ
コズエ「っ!」ゾクッ
しかし、コズエの淡い希望は"獲物"を見つめる細く鋭い眼光によって撃ち砕かれた。
コズエ(都合よく考えちゃダメよ!オトムネコズエ!)
コズエ(恐らく、私の魔法の弱点がばれた!)ゴクリ
ドラゴン「……」グルルル
ドラゴンはコズエを見据えながら、牙を剥き出しにして低く唸る。
その表情は、メグミが初めてボードゲームでコズエに買った時の得意げな笑顔に似ていた。
ドラゴン「」シャッ!
コズエ「!」タンッ!
明らかに爪で切り裂くことを狙った攻撃に、コズエは思わず後ろに飛び退く。
コズエ「今までよりもリーチが短い……!やっぱり気付いたのね!!」
ドラゴン「██▇▇▆▄▄▄!」
シャッ!シャッ!シャッ!
コズエ「くっ!」スカッ
鉤爪による連続攻撃が、コズエに襲いかかる。
斬撃を苦手とする保存魔法では、この攻撃を受けきることは難しい。
必然、コズエは今までと打って変わって、ドラゴンから距離をとることになる。
コズエ(これだと今までみたいに、攻撃を受けつつカウンターを狙うことができない!ならいっそ──)
コズエ(自分から攻める!)ダンッ!
ドラゴン「!」
コズエは相手の攻撃の合間を縫って、ドラゴンの懐へと飛び込んだ。
-
コズエ「はぁー!」✊💥ドン!
ドラゴン「▇▆▆▄▄▄!」ピシッ
重い一撃がドラゴンの腹部に繰り出される。
通常の魔獣なら内蔵が破裂する程の衝撃だが……
ドラゴン「」シャッ!
コズエ「うぐっ!」
重なり合う鱗が衝撃を分散し、有効なダメージを与えられない。
コズエ(出し惜しみをしても仕方がないわね……全力の一撃で少しでもダメージを稼がないと!)
ドラゴン「」ブン!
コズエ「……」ヒョイ!
戦闘プランを考えながら、コズエはドラゴンの攻撃を軽々と避ける。
ベシン!!💥
コズエ「がっ──!?」
しかし、避けることに専念していたコズエは、突然全身を打ち付ける強い衝撃に対応できなかった。
🌳ドシン!
コズエ「ぐふっ……!」ズルズル…
バタン
コズエ(失敗した……魔法を解いたまま油断してしまった……!)
コズエ(あぁ、まずいわ……体が動かない……)キーーーーン
ドラゴン「……」スッ
地面に倒れて動かないコズエに向かって、ドラゴンは片腕をゆっくりと持ち上げる。
ドラゴン「......」ブン↓↓↓
グサッ!
コズエ「ごぼっ──!」ビチャ!
振り下ろされた爪は、コズエの体を貫通し、そのまま地面へと突き刺さる。
-
コズエ「ガ──アガ──」
想像を絶する痛みは信号となり、コズエの脳を焼き切った。
ドラゴン「……」ズルリ↑
コズエ「」ビクン!
ドクドク…
ドラゴン「……」
ドラゴン「██▇▇▆▆▄▄▄!」
コズエは苦痛に顔を歪め、目を見開いたまま動かなくなる。
そんなコズエを一瞥し、ドラゴンは勝利の咆哮を上げた。
ドラゴン「……」バサッ!バサッ!
コズエ「」
コズエ(だめ──体が全く動かない──)
背骨が砕け、脊髄が断絶したコズエは、もはや体の痛みを感じられない。
ただ、血液と体温が失われていく感覚だけが、朦朧とした意識の中でわかる唯一の事実だった。
コズエ(ごめんなさい──あなた達を──最後まで守れなかった──)
一秒ごとに、身体の機能が失われていく。コズエに残された時間は、あと数十秒がいいところだろう。
最期に思い出すのは、家族同然だった仲間達との日々。
コズエ(楽しかった──本当に──)
コズエ(せめて最期にお礼を言いたかった──"出会ってくれてありがとう"と──)
だが、それもここで倒れていては叶わぬ願い。
コズエの瞳の中には、カホ達の方へ向かって飛んでゆくドラゴンの姿が、小さく映っていた。
向こうに残っている冒険者は、カホ達を守ってくれるだろうか。
或いは、自分が稼いだ時間のおかげで、王国軍が間に合っただろうか。
コズエ「──────」グッ
許せなかった。
ドラゴンが、ではない。
大切な人達の命を、人頼みにしかできない自分自身の弱さが。
コズエ(お願い……動いて……!)
コズエ(まだ諦めたくない!私の命なんてどうだっていい……あの子達の命だけは、諦めたくないの!)
コズエ(魔法よ……あらゆるモノを保存できるというのなら、今この一瞬だけでも、私の結末を先延ばしにさせて!)
コズエ『保──存──』
🕯フッ──
コズエが呟いたのと、その命の灯火が消えたのはほぼ同時のことだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
【回復班】
ドラゴン「……」バサッ!バサッ!
ギンコ「あれは──ドラゴンがこっちに飛んできます!」
メグミ「え、コズエが抑えてくれてるんじゃなかったの!?」
カホ「まさか、コズエちゃんに何かあったんじゃ──!」
ドラゴン「██▇▇▆▆▄▄▄!」
カホ「っ!」ビクッ!
「おい、本当に傷が全部治ってるぞ……」
「なんで王国軍は来ないんだよぉぉぉ!!?」
ドラゴン「」🔥🔥🔥🔥ボー!
「ギャーー!」🔥
ドラゴン「……」ドシン!↓
ギンコ「!ドラゴンの爪に血が……!」
メグミ「私がこっち来る前は、あんな血は付いてなかったはず……」
カホ「じゃああの血は……もしかしてコズエちゃんの……?」ガクン
ギンコ「しっかりして!逃げるよ!」グイッ
カチマチ『そんな……カチマチがもたもたしてたせいで、コズエさんが……』
カチマチ『っ……!うわぁぁぁ!』ダッ
タナカ「あ、おい待て!」
-
カチマチ『コズエさんの仇です!ちぇすとーー!!』⚡️ビリビリ
カキン!
ドラゴン「……」ベシ!
カチマチ『うぎゃー!!』バタン
メグミ「カチマチちゃん!」
「無理に決まってるだろ……使い魔ごときにどうにかできる相手じゃない……」
メグミ「っ!だったら一緒に戦ってよ!」💢
「……」
メグミ「おい!」💢
「もうどうせ勝てない。下手に刺激しても、自分の死期を早めるだけだ。だったらじっとしてるのが懸命──」
カチマチ『ちぇすとーー!!』
「!?」
ドラゴン「」バシッ!
カチマチ「キャウン!」バタン!ゴロゴロ……
カチマチ『うぅ……ま、まだまだ!』ヨロッ
カチマチ『ちぇーすとーー!』⚡️ダッ!
ドラゴン「██▇▇▆▆▄▄▄!」
カチマチ『!』ビクッ
ブン!
カチマチ『ぎゃ──』ベシン!
カホ「カチマチちゃんもう止めて!」
カチマチ『ぐっ……止めません!』ダッ
ギンコ「勝てっこないよ!」
-
カチマチ『そんなのわかってます!わかってますけど──』
カチマチ『逃げたくないんです!!!』
タナカ「!」
タナカ(なんであんなに必死なんだ……自分でも勝てないとわかっているのに)
カチマチ『たとえどんなに無茶なことでも、カチマチは絶対に逃げません!』
カチマチ『何もできないことよりも、何もしない自分でいることの方が、ずっと嫌だから!!』⚡️バチバチ
タナカ「お前……」
カチマチ(もっと速く走るんだ!ドラゴンの目でも追いつけないくらい、速く!)⚡️⚡️
ドラゴン「▇▇▆▄▄▄!」ブン!
カチマチ『スピードスター!』⚡️バチン!
ドラゴン「!!」スカッ
カチマチは筋肉に電流を流し、自身の身体能力のリミッターを外す。
⚡️タッ!
⚡️タッ!
⚡️タッ!
爪を地面に突き立て、稲妻を思わせる速度で駆け回り、その姿を捉えさせない。
ドラゴン「……!」キョロキョロ
カチマチ『やぁーー!!』⚡️ザクッ
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄▄!」
カチマチ『ふっ!』⚡️シュバ!
時に周りの木を足場にし、変則的な動きでドラゴンに攻撃する。
タナカ(なんだこの感情は……あいつから目が離せない……)
-
カチマチ『!』
カチマチ(ドラゴンのお腹のところ、少し鱗が割れてる……コズエさんがやったのかも!)
カチマチ『よし──必殺!』
カチマチ『ファーストスター!』⭐️⚡️
ズバ! バ! バ! バ! バ!⚡️
五芒星を描く神速の5連撃を、ドラゴンの傷口に叩き込む。
ドラゴン「!」ブシャ
タナカ「やった……!」
メグミ「すごい!効いてるよカチマチちゃん!」
カチマチ『ぜぇ……はぁ……ど、どんなもんだです!』
カホ「でも……」
カチマチの渾身の必殺技をもってしても、その成果はドラゴンの傷口を僅かに広げただけ。
ドラゴンを倒すどころか、コズエが放った攻撃の1/3程のダメージしか与えられなかった。
ドラゴン「█▆▆▄▄▄!!」💢
「余計に怒らせただけじゃねーか!」
ドラゴン「」🔥ボワッ
カチマチ『あ』
カチマチ(どうしよう……疲れで足が動かない!)プルプル
-
ドラゴン「」🔥🔥🔥ボー!
ギンコ「危ない!!」ドン!
カチマチ『わっ!?』
🔥🔥🔥🔥🔥🔥
ギンコ「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!」🔥
カチマチ『!!!』
カホ「ギンコちゃん!『リカバー』!」✨
ギンコ「うぅぅぅ……」グタッ
カホ「大丈夫!?しっかりして!」
ドラゴン「……」ドシン!
カホ「っ!」
三コツン
ドラゴン「?」クルッ
メグミ「や、やーい!こっちだよー!」プリプリ ))
ドラゴン「█▇▆▄▄!!」
メグミ「きゃーーー!」💨
ドラゴン「……」ドシン!ドシン!⤴︎
カチマチ『ごめん!カチマチのせいで……!』
ギンコ「別に、気にせんでええよ……カチマチさん見てたら、体が勝手に動いただけだから……うっ!」ズキズキ
カチマチ『ギンコちゃん!!』
カチマチ(まただ、カチマチが鈍臭いせいでみんなが……)
タナカ「だから言ったんだ、中途半端な覚悟じゃ周りの迷惑になる」
カチマチ『でも……でも……!』
-
タナカ「やるなら勝つつもりで戦え」
カチマチ『え?』
タナカ「『勝てなくても』なんて言うな。戦うなら必ず勝て!」
タナカ「その覚悟ができるなら、力を貸してやろう」
カチマチ『それって──』
タナカ(俺も大概おかしいよな……よく知りもしない他人の使い魔にお節介なんて……でも)
タナカ(こいつを見てると、何故か心が揺さぶられる)
タナカ(無鉄砲なだけのこの犬が、どうしようもなく眩しく見える)
タナカ(こいつなら、何かすごいことができるんじゃないかと)
タナカ(『期待』させられてしまったんだ──)
タナカ「3分」
カチマチ『!』
タナカ「俺の魔法で巨大化できる時間だ。その間にドラゴンを倒せ」
カチマチ『──わかりました』
カチマチ『必ず、勝つとお約束します!!』
赤く大きな目が、真っ直ぐに男を見つめ返す。
男はその瞳の中に、星の輝きを見た気がした。
タナカ「いくぞ!」
カチマチ『はい!』
タナカ(正直魔力が足りないが、俺の生命力を魔力に変換すれば補えるはずだ)🕯
タナカ「あとは頼んだぞ……」
タナカ『ジャイアサイズ:ギガース!』✨
-
メグミ「うわぁーー!」💨ピューン
「バカ!こっちに来るな!」
ドラゴン「██▇▇▆▄▄!」ドシンドシン!
「ひっ──」グチャ!
ドラゴン「」🔥ボワッ
メグミ「!待って待って!それはダメェ〜〜!!」
ドラゴンは口に炎を溜めてメグミに狙いを定める。
ドラゴン「」🔥ゴゴゴ
──────ズン!!
ドラゴン「?」クルッ
カチマチ『ちぇーすとー!』ドン!💥
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄▄!?」グラッ
ドシーン!
ドラゴンが炎を吐く直前、巨大化したカチマチが背後から体当たりを仕掛ける。
予想外の攻撃に、ドラゴンはけたたましい音と共に地面に倒れ込んだ。
メグミ「カチマチちゃん!?なんで大っきくなってるの!?」
カチマチ『ふん!』ガブリ!
ドラゴン「!!」
カチマチ『うぉりゃぁぁ!!』グルン ↺
ドラゴン「▆▆▄▄▄__!」ズズズズ!
🌳🌳🌳バキバキバキバキ……!
カチマチはドラゴンの首に噛み付くと、体を回転させて相手を投げ飛ばす。
ドラゴンの体は宙にこそ浮かなかったものの、慣性に従って木々をへし折りながら遠ざかってゆく。
「……もしかして、俺達から遠ざけてくれたのか?」
-
ドラゴン「……」ガシッ!ズサー!
ドラゴンは長い爪を地面に突き立て、体を止めて半身を持ち上げる。
ドラゴン「……」ムクッ
カチマチ『…………』グッ
100m程の距離を空け、二体の巨獣が向かい合った。
体格はカチマチの方が僅かに小さいが、それでもドラゴンに負けない気迫で相手を睨んでいる。
カチマチ(今の状況、人狼と戦った時と似てる。コズエさんが倒れて、カチマチが頑張らなくちゃいけなくて)
カチマチ(あの時は結局、コズエさんが倒してくれたけど……今回は──)
カチマチ『カチマチが、あなたを倒します!』⚡️バチバチ
ドラゴン「██▇▇▆▄▄▄!!!」バサッ!
カチマチ『うおぉーーー!!!』ダッ!
二体は咆哮と共にほぼ同時に走り出す。
両者間の距離が急速に縮まり、0になった。
ズシーーン!!!
カチマチ『ぐぐぐぐっ!』⚡️ズル…ズルズル
ドラゴン「」ブン!
カチマチ『っ!ぬわっ!』💥ベシ!
ドシーン!
ドラゴン「」🔥ボワッ
カチマチ『こ……のぉーー!!』⚡️ブン!
💥ベシン!
ドラゴン「!!」フラッ……
カチマチ『いやぁ!!』ドサッ!
ドシーーン!
カチマチはドラゴンを地面に組み伏せ、マウントポジションをとる。
-
ドラゴン「」🔥ボワッ
カチマチ「!」ガブッ!
ドラゴン「▇▆▆▄▄▄!」🔥🔥🔥ボー!
ドラゴンは炎を吐こうとしたが、カチマチが喉元に噛み付いてきたせいで狙いが外れ、火柱は空へと舞い上がった。
カチマチ「ガルルルル!」ガジガジ
ドラゴン「……!」💢ノシ ⤴ ︎
💥ベシン!
カチマチ『痛い!』ズキン!
突然、カチマチの後頭部を何かが叩く。
カチマチ『っ!尻尾!?あだっ!』💥ベシン!
ドラゴン「▇▇▆▆▄▄!」グイッ
カチマチ『あ──』グルン
ドスン ッ!
力が弱まったカチマチを引き倒し、今度はドラゴンがカチマチに覆い被さる。
カチマチ『うぅ〜〜〜〜!』ジタバタ
自分よりも一回り大きいドラゴンの体を、カチマチはなかなか撥ね除けることができない。
ドラゴン「」🔥ボワッ
カチマチ『!』
カチマチ(死ねない……!必ず勝つって約束したんだ!)
カチマチ『ちぇすとーー!』⚡️⚡️⚡️バチバチィ!!
ドラゴン「!?」⚡️ビリビリ!
-
カチマチの咆哮と共に、何本もの雷が空に昇ってゆく。
ドラゴンはゼロ距離から放電を浴び、全身の筋肉を痙攣させている。
ドラゴン「──!」⚡️ピクピク
カチマチ『よっと!』スルッ
ドラゴン「グルルル……!」
カチマチ(体格の差があるから、純粋な力比べじゃ勝てない!それなら!)
カチマチ『スピードをのせて体当たりです!』
カチマチ『行くぞ〜!スピードスター!』⚡️ダッ!
カチマチは再び自身の体に電気を流し、筋肉のリミッターを外す。
ドシン! ドシン! ドシン!
カチマチ『──って、あれ?全然速く走れない!?』⚡️ ドシン!ドシン!
ドラゴン「……」グルン ↻
ブーン!
カチマチ『!』
💥バシン!
カチマチ『ぐわっ!』ドターン !!!
ドラゴンはカチマチが向かってくるのを確認すると、体を反転させて尻尾をカチマチに打ち付ける。
カホ「カチマチちゃん!」
メグミ「どうしたんだろ?いつもならもっと素早く動くのに……」
ルリノ「多分、大きくなったから体が重くて動きづらいんじゃないかな」
カホ「あっルリノちゃん!ギンコちゃんは!?」
ルリノ「大丈夫。落ち着いたよ」
カホ「よかった……」ホッ
メグミ「見て!ドラゴンが動いたよ!」
-
ドデカチマチ
-
カチマチ『うぅ〜〜……』クラクラ
ドラゴン「……」ガシッ!
カチマチ『!!』
ドラゴン「……」バサッ!バサッ!↑
カチマチ『あわわわわ!』↑
ドラゴンはカチマチの体をしっかりと掴み、そのまま地面を飛び立った。
カチマチ『離してください!』ジタバタ!
カチマチ『こうなったら、また電気を流し……て……』
地上を見下ろしたカチマチは、思わず言葉を失う。
ドラゴンはカチマチを掴んだまま、一気に100m程の高さまで飛んでいた。
カチマチ『っ!や、やっぱり離さないで──』
ドラゴン「……」ニヤッ
ドラゴン「」パッ
カチマチ『うわぁーーーーー!!』↓↓↓
ドラゴンは充分な高さまで到達したと見ると、無常にもカチマチを掴んでいた手を離した。
命綱を無くしたカチマチは、仰向けの姿勢のまま地面に向かって自由落下する。
-
「まずい!下にでかい木がある!」
「このまま落ちたら串刺しになるぞ!」
メグミ「!!」
カホ『カチマチちゃん!下!下を見てーーー!!!』⚡️
カチマチ『!!カホさんの声!』⚡️キュピーン
カチマチ『下に何が──』↓↓↓
🌳ドドン!
カチマチ『!?さ、刺さっちゃうー!』バタバタ
カチマチは空中で必死にもがくが、イヌ科のカチマチには猫の様に高所からの落下に対応する術は備わっていない。
カチマチ(ダメだ避けられない!せめて少しでも位置をずらす!!)クイッ
ヒューーン↓↓↓
🌳ザクッ!
カチマチ『うっ……!』
ドシーーーン!!!
カチマチ『かはっ────』
大地を揺らす大きな衝撃と共に、土が高く舞い上がる。
カホ「っ!」キュッ
ルリノ「ひどい……」
カチマチ『ごぼっ!う"ぅ"……』
落下の直前に体を捻ったおかげで、木に串刺しになることは避けられた。
しかし、大木はカチマチの脇腹を裂き、傷口からは大量の血が流れ出ている。
-
カチマチ「──ッ──ッ 」ビクッ!ビクッ!
さらに、落下の衝撃で全身を強打した上に、横隔膜が痙攣して呼吸がままならない。
カチマチ(痛い……苦しい……痛い……)
((🐕))シュンシュン……
「見ろ!体が縮んでいく!」
「ダメだったか……」
カホ「……」
カチマチ(魔法が解けちゃう……やっぱりカチマチごときじゃ無理だったのかな……)
ドラゴン「……」 バサッ!ドシン ↓↓↓
ドラゴン「」🔥ボワッ
カチマチ(あぁ……殺される……)
カチマチ(やっぱりカチマチはダメダメでした……必ず勝つって約束も、果たせなくて──)
カチマチ(ごめんなさい……カホさん……コズエさん、メグミさん、ギンコちゃん……)
カチマチ(ごめんなさい……おじいちゃん……)💧ポロッ
『諦めるのはまだ早いよ!』
-
カチマチ(え……?)
『あなたはまだ負けてない!ううん。たとえ負けてたって──』
『また何度でも、チャレンジすればいいんだよ!!』
『ちぇすとー!!』
チリン
それはいったい、どこからやってきたのか。
夜空に輝く星の一雫が、"小さな鈴"となってカチマチに向かって落ちてくる。
カチマチ「」パクッ
カチマチは、落ちてきた鈴を思わず口に入れる。
チリン
その刹那、見たこともない──でも、カチマチによく似た瞳をした少女の姿を見た気がした。
🐕ピタッ
メグミ「……小さくなるのが、止まった?」
ドラゴン「」🔥ゴゴゴ…
カチマチ『っ!』
⚡️⚡️⚡️ビシャーン!
ドラゴン「!?」⚡️ビリビリ
カチマチを中心に、電流の波紋が大地に広がる。
ドラゴン「グルルル……!」💢
カチマチ『諦めない……』ムクッ
カチマチ『カチマチはまだ、負けてないんだ!!』⚡️⚡️⚡️バチバチ!
-
栗色の毛並みが、電気を帯びて黄金に輝く。
闇夜の中で輝くその姿は、まるで夜空に浮かぶ星の様に、見る人の瞳に光を映しだす。
「! なんで──あんなにボロボロでも、立ち上がれるんだ……」
カホ「カチマチちゃん……!」
その名前は、世界で最も真っ直ぐで、最も諦めの悪い少女からとった名だ。
その名を冠するカチマチが諦めることを、この世界は決して許さない。
カチマチ(体が重いから、スピードが出しにくくなってるんだ)
カチマチ『それなら!』⚡️ダッ!
カチマチは四脚に力を込め、再びドラゴンに向かって走り出す。
カチマチ『うぉぉぉ!!』⚡️ドシン!ドシン!
ドラゴン「……」グルン ↻
無謀にもまた立ち向かってくるカチマチに対して、ドラゴンも先程と同じ技で対応してくる。
「だから突進はダメだ!またカウンターを喰らうぞ!」
ブーン!
カチマチ『はっ!』ピョン!
ドラゴン「!!」スカッ
メグミ「上手い!ドラゴンの尻尾攻撃を躱した!」
ルリノ「でも、飛び上がった分スピードが……」
-
カチマチ『……!』ピョーン
ドラゴンの尻尾を避けたカチマチは、そのままドラゴンの体に衝突する──
カチマチ『ふっ』スタッ↓
カチマチ『……』⚡️ドシン!ドシン!
──ことはなかった。
カホ「あれ?カチマチちゃんどこ行くの!?」
「おいあの犬、ドラゴンを飛び越えてそのまま走って行ったぞ!」
「まさか勝てないからって、主を置いてひとりで逃げたのか……?」
メグミ「っ!カチマチちゃんはそんな子じゃ──」
「……いや違う!よく見ろ!」
「あいつ……旋回してるのか?」
カチマチ『はぁ!はぁ!はぁ!』⚡️ダッ!ダッ!ダッ!
カチマチ(体が重くてすぐにスピードが出せないのなら……!)
カチマチ(目一杯、助走をつければいい!!)
カチマチ『うぉぉぉぉぉぉ!』⚡️ダッ!ダッ!
-
最短距離ではなく、最長距離で。
黄金に輝く巨体が、大きな弧を描くように夜の森を疾走する。
スピードは徐々に上がってゆき、その軌跡には光の尾が伸びる。
その光は、夜空を駆ける流星のようで──
カホ達はもちろん、戦うことを諦めかけていた冒険者達でさえ、祈るような気持ちでカチマチを見つめていた。
カホ「頑張れー!」
カチマチ『!』
「頑張れ!」
「やっちまえ!」
「いけ!」
カチマチ(使い魔の契約のおかげかな?カホさんの思いが伝わってくる)⚡️ダッダッダッ!
カチマチ(ううん。カホさんだけじゃない……沢山の人がカチマチの背中を押してくれているのを感じる!)⚡️ダダダダッ!
カチマチ『今なら──すごいことができそうです!!』⚡️⚡️⚡️バチバチ!
半円を描いた光の矢は、その円周上にドラゴンの姿を捉え、一段と速度を上げる。
-
ドラゴン「グルルル……!」バサッ!
カチマチ『!』
メグミ「やばい!ドラゴンが飛ぼうとしてる!」
カホ「何か……!飛ぶのを止められる魔法は──」
「全員目を伏せろ!!」
カホ「!?」
『フラッシュ!!』✨ピカーン!
ドラゴン「██▇▇▆▆▄▄!」クラッ
『螺旋矢!』⛓️⛓️🏹ヒューン!
⛓️🏹グサッ!
ドラゴン「!!」⛓
鎖を繋がれた矢が、ドラゴンの足に深く突き刺さる。
「逃がしはせんぞ!(イケボ)」
「野郎共引っ張れ!絶対に飛ばせるなー!」
「「オーエス!オーエス!」」⛓️
メグミ「みんな!急にどうして……!」
「どうしてだろうな?あのワンコ見てたら体が勝手に動いてた!」⛓️
「なんかわかんねぇけど、『自分も頑張らなきゃ』って思ったんだ!」⛓️
カホ「っ!」
カホ「……やっぱり、そういうところは敵わないな……」
『一番星』──それは誰よりも早く、夜空に光る最初の星。
太陽のように、全てを照らすほどの光はなくとも──
北極星のように、旅人の道標になることはなくとも──
いつだって率先して輝き、人々が顔を上げる理由であり続けた。
-
メグミ「私たちも手伝うよ!」⛓️
カホ「グスッ……はい!」⛓️
ルリノ「おうよ!」⛓️
「「オーエス!オーエス!!」」⛓️グググ!
カチマチ『!!!』⚡️ダダダダダッ!
円周の7割を走りきり、カチマチはドラゴンに向かってラストスパートをかける。
ドラゴン「██▇▇▆▄▄▄!」⛓️バサッ!バサッ!
「ぐっ!うお!?」⛓️グイッ↑
「ダメだ!俺達だけじゃドラゴンを抑えられない!」⛓️グイッ↑
「諦めるな!あのワンコの頑張りを無駄にするな!」⛓️グググ……!
⛓️ガシッ!!
「っ!あんたは──」
???『──引力吸収』
⛓️ビーン!
ドラゴン「!?」グイン ↓↓↓
ドシーン!!
メグミ「コ──」
カホ「コズエちゃん!!」パァ!
コズエ「心配かけてごめんなさい」
カホ「いえ!信じてました!」
ドラゴン「グルルル!」ギロッ💢
コズエ「私を睨んでいる暇はあるのかしら?」
ドラゴン「!!」クルッ
⚡️⚡️⚡️⚡️バチバチイ!
激しい電流を纏いながら、光の矢はドラゴンのすぐ側まで迫ってきていた。
コズエ「あなたに任せたわ。カチマチさん」
-
カチマチ(みんながドラゴンを押さえてくれてる!カチマチにできるって信じてるんだ!)
カチマチ(だったらもう、後ろ向きなことは言えない。みんなが信じてくれたカチマチを、カチマチも信じる!)⚡️⚡️⚡️バチバチ!
「来るぞ!全員離れろー!」
カホ「カチマチちゃん!」
メグミ「いっけぇぇぇぇ!!!」
ドラゴン「!」🔥ボワッ
カチマチ『必殺!』
カチマチ『シューティングスター!!』💫⚡️キィーン!
ドゴーーーーーーン!!!
ドラゴン「!!!!!」グオン!
黄金の星が音速でドラゴンに衝突する。
ドラゴンの姿は瞬きの間にカホ達の前から消え去り、あっという間に遥か遠くに行ってしまった。
カチマチ『うおぉぉぉぉ!』⚡️⚡️⚡️ダッダッダッ!
自分よりも大きな相手にぶつかろうとも、カチマチの勢いは衰えることはなく、木々をなぎ倒しながらドラゴンを押し続ける。
🌳🌳🌳🌳🌳🌳🌳バキバキバキバキ!
ドラゴン「▆▄▄▄▄____!」
カチマチ『ちぇーーーすとーー!!』ブン!⚡️⚡️⚡️
ドラゴン「──────!!」
ドシン!ズザザザー!
結局、カチマチはもう1周弱走った後、ドラゴンを投げ飛ばして静止した。
カチマチが走った軌跡には、折れた木の残骸と、ドラゴンの口から吐かれたおびただしい量の血が撒かれていた。
ドラゴン「▄▄▄▄___」ムクッ……
ドラゴン「」バタン!
-
「……」
「……」
「……やったか?」
「馬鹿!そのセリフは言うな!」
「た、確かめてくる!」ダッ
一人の男がドラゴンへと近づき、その状態を確認する。
よく見れば、ドラゴンはカチマチに衝突された衝撃で眼球が飛び出し、口から内臓らしきものが垂れていた。
超高電圧の電流を浴びたためか、全身からは黒い煙が上がっている。
ドラゴンも生物である以上、これで生きていると考える方がよほど無理な話であった。
「死んでる……」
「死んでるぞ!!」
「お、おぉ……おぉ……!」
「「「勝ったーーーーーー!!!」」」
カチマチ『やった……カチマチ、やりました──』((🐕))シュンシュン……ヨロッ
メグミ「おっと!」ガシッ!
カチマチ『メグミさん……』
メグミ「カチマチちゃん、お疲れ様!」
カチマチ『えへへ……』
カホ「カチマチちゃーん!」
ギンコ「大丈夫!?」
カチマチ『カホさん!それにギンコちゃんも……はっ!怪我は大丈夫なの!?』
ギンコ「それはこっちのセリフ!!カチマチさんこそ酷い怪我……」
カホ「回復魔法かけるね!『リカバー』!」✨
カチマチ『ありがとうございます……』
-
コズエ「本当に、よく頑張ったわね」トコトコ
カチマチ『コズエさん!?生きてたんですね!』
コズエ「私、死んだことになってたの……?」
カホ「よかった……また会えて嬉しいです!」
コズエ「うふ、私もよ」ニコッ
メグミ「ていうかホントに平気なの?すっごい血まみれだし、なんか胸のところ服に穴空いてるし……」
コズエ「あ……これは……」スッ
コズエ「えぇ、"大丈夫"よ」
メグミ「ならいいけど……」
「おーい!そこのお嬢さん達ー!」
「もっと楽しそうにしようぜ〜!」
「そうそう!カチマチちゃんもほら!大金星なんだから、ドラゴンの肉でも食って元気出しな!」
メグミ「こらー!うちの子にバッチイ肉を食べさせようとするな!」
カチマチ『い、今は遠慮して──いや、これもまた挑戦……!』
カチマチ『ドラゴン食チャレンジです!ちぇすとー!』
ギンコ「カチマチさん!?変なことに挑戦しないでいいから!お腹壊すよ!?」
ワハハハハ!
この戦いを通して、大怪我をした者、亡くなった者の数は決して少なくない。
それでも今だけは、ドラゴンを倒すという大偉業に、皆一様に歓喜していた。
-
カホ「あれ?そういえばツヅリさんはどこですか?」
メグミ「あっ!そうじゃん!王国軍連れて来るって言ってたのに」
コズエ「え、こっちにも来ていないの?」
ギンコ「どうしたんでしょうか……」
メグミ「迷子にでもなったんじゃない?あの子しっかりしてるように振舞ってるけど、意外とフワフワしてるし」
ルリノ「そうかなぁ……?たとえ迷子になってても、カチマチちゃんが派手に戦ってたから場所はわかると思うけど……」
コズエ「結局、王国軍も来なかったわね。倒せたから良かったけれど」
メグミ「確かに!もうとっくに時間過ぎてるし、こんなの詐欺だよ!詐欺!」💢プンプン
メグミ「こうなったらたっぷり報酬をもらわないとね!ギルドだけじゃなくて王国からもぶんどっちゃお☆ツヅリに言えば幅を利かしてくれるでしょ!」
コズエ「まったくもう、ちゃっかりしてるわね……」
ギンコ「でも、ツヅリさんが帰ってこないのは心配ですね。もしかしたら途中で別の魔物に襲われたとか」
カホ「…………」
-
カチマチ『それならカチマチが探します!ツヅリさんの匂いは覚えているので!』
ルリノ「大丈夫?まだ休んでおいた方がいいんじゃない?」
カチマチ『平気です!さっきドラゴンのお肉食べたら元気出ました!』
ギンコ「えぇ!?本当に食べたの!?お、お腹痛くない……?」
カチマチ『向こうの冒険者さん達が焼いてくれたので、殺菌はバッチリでした!』
メグミ「あいつら〜〜!変なもの食べさせるなって言ったのに!」💢
コズエ「今度から首に『食べ物を与えないでください』ってプレートをさげておきましょうか」
カチマチ『そんなぁ!散歩中の楽しみが……』
カホ「そんなことよりも、ツヅリさんの匂いを追ってもらえるかな?なんだか少し嫌な予感がするの……」
カチマチ『はい!任せてください!』
カチマチ『クンクン……クンクン……』
カチマチ『こっちです!』タッ!
「ん?おーいどこ行くんだ〜!」
メグミ「ツヅリ探してくるねー!」
「あぁ、あの王国騎士の……何かあったら大声で呼べよー!」
メグミ「ありがとう!」
-
カチマチに着いていきながら、一同は森の中を進んで行く。
夜明けが近いのか、辺りは仄かに明るくなり、肉眼でも森の様子が見えるようになってきた。
カチマチ『!!』ピクッ
ギンコ「どうしたの?」
カチマチ『血の臭いがします……それも、かなりの人数の……』
コズエ「え?」
メグミ「ツヅリの匂いを追ってたんじゃなかったの?」
カチマチ『血の臭いの中に、ツヅリさんのも混じってます……』
ルリノ「!?」
カホ「行こう!その臭いの方に連れてって!」
カチマチ『はいっ!』ダッ!
コズエ「あっ、待ちなさい!私が先頭を行くから!」ダッ!
先程までの高揚感は何処へやら、一瞬にして皆の間に緊張が走る。
駆け足で進むこと数分、血の臭いはカチマチでなくともわかるほどに濃くなってきた。
メグミ「うっ……何なのこの臭い……」
コズエ「これだけ強い臭いだと、肉食の魔獣が集まっててもおかしくないわ。ここからは慎重に進みましょう」
-
カホ「……」
ルリノ「カホちゃん大丈夫?気分悪いなら、ルリと一緒に戻る?」
カホ「ううん。平気だよ」
獣が集まるという予想とは裏腹に、血の臭いに近づくほど森は死んだように静かになってゆく。
自然と口数も少なくなり、耳に入るのは忍ぶように慎重に地面を踏みしめる音だけ。
〜〜〜♪
カチマチ「」ピクッ
メグミ「……ねぇ、なんか聞こえない?」ボソ
コズエ「聞こえるわね。これは……ハミング?」
木々の間を縫って、小さな鼻歌が聞こえてきた。
その音色はまるで、サンタさんからのプレゼントを大事に抱きしめる子どものようで……
周囲を満たす血の臭いとのアンマッチさが、余計に胸をざわつかせる。
カチマチ『着き……ました……』
コズエ「これは……」
カホ「!」
そこに広がっていたのは、死体の山だった。
王国軍と思わしき鎧を着た人達が、首から血を流して倒れている。
だが、カホ達の視線を釘付けにしたのは死体の山ではなく、その中心に座っている女──
ルリノ「サヤカ……ちゃん?」
-
サヤカ「あ、皆さんこんばんは」
サヤカ「それとも『おはようございます』でしょうか?この時間はどちらで挨拶するのがいいか迷いますね」
メグミ「いや……そんなことより、なんでサヤカちゃんが居るの……?」
サヤカ「ツヅリさんを追ってきたんですよ」ナデナデ
ギンコ「え、サヤカさんが抱えてるのって──っ!」
サヤカが抱えているもの、それはここに居る全員がよく知る人物だった。
一見、ひざ枕をされている様にも見えたが、その胸元は首から流れたと思わしき血で真っ赤に染まっている。
元から色白だった顔は、失血のためさらに青白くなり、一切の生気が感じられない。
コズエ「ツヅリ……!」
カチマチ『い、いったい何があったんですか……』
カホ「あなたがやったの?」
サヤカ「……」
ルリノ「そんな訳ないよ!カホちゃん何言ってるの!?」
ルリノ「きっと、たまたま倒れてるツヅリさんを見つけたんだよ……ね?」
ルリノ「サヤカちゃんも混乱してるよね……今は無理に話さなくてもいいから」トコトコ
カホ「っ!近づいちゃダメ!」
-
ルリノ「大丈夫だよカホちゃん。ねぇサヤカちゃん、怖くないよ。ルリ達がいるからもう安全だよ」
サヤカ「……ルリノさんは優しいですね」
ルリノ「うん。ルリはサヤカちゃんの味方だから」
ルリノ「立てる?手貸そっか?」
サヤカ「はい。ありがとうございます」🔪スッ
シュッ!
コズエ「危ない!!」グイッ!
ルリノ「うお!?」
🔪スカッ
メグミ「!!ルリちゃん大丈夫!?」
ルリノ「う、うん……」
コズエ「サヤカさん、あなた今何をしようとしたの」
サヤカ「何って──」
サヤカ「ちょうどいい位置に首があったので、切ろうとしただけですよ?」🔪
「「!!!」」
ギンコ「え?首を切る?何を言って……」
カチマチ『もしかして、この前のコズエさんみたいに魔物に取り憑かれてるんじゃ……!』
ルリノ「それなら浄化魔法で……!」
ルリノ『ピューリファイ!』💠
サヤカ「っ!?」ビクッ
-
メグミ「どう?正気に戻った!?」
サヤカ「……はっ!わ、わたしはいったい何を……」
サヤカ「どうしてこんな所に……」
メグミ「ほっ……よかった。やっぱり魔物に取り憑かれてた──」
🔪シュッ!シュッ!シュッ!
メグミ「ぎっ──!」
ルリノ「痛っ!」
コズエ「っ!」
カホ「みんな!!」
サヤカ「なーんて、わたしは最初から正気ですよ」ニコッ
コズエ「このっ……!」✊ブン!
サヤカ「……」ヒラリ
🔪グサッ!
コズエ「ぐっ……!」
サヤカ「やっぱり皆さんお疲れですね。"いつもより"隙だらけですよ」
コズエ「その言い方だと、まるでいつも殺す隙を伺っていたように聞こえるのだけれど……?」
サヤカ「そんなことはありませんよ。ただ、殺せるな〜って瞬間が何度かあっただけです」
-
ギンコ「狂人……」
サヤカ「失礼な……その程度のことで狂人呼ばわりは心外です。蚊が腕にとまったら、誰だって潰しますよね?」
サヤカ「それで言うと、わたしは何度も見逃したのですから、むしろ優しい方じゃないですか?」
カチマチ『ひ、人を殺すのと蚊を殺すのが一緒な訳ないじゃないですか!』
サヤカ「いけませんよカチマチさん。たとえ虫であろうとも、命の重さは平等です。そこに優劣はありません」
メグミ「じゃあ、そうまで言うならなんで人を殺せるの……!」
サヤカ「え?さっき言いましたよね?腕に蚊がとまれば殺すと……」
サヤカ「蚊は殺せるのに、どうして人を殺せないんですか?」
ルリノ「──」クラッ
メグミ「あ、ルリちゃん!」ダキッ
ルリノ「ごめん……ちょっとめまいがしただけだから……」
-
サヤカ「あぁ、でもツヅリさんだけは特別です」
サヤカ「ツヅリさんは本当に、わたしが今まで出会った中で一番綺麗で、芸術的で──」
サヤカ「だからどうしても、わたしの手で殺したかった!わたし以外に殺されて欲しくなかった!」
ギンコ「理解できない……そんなに好きなら、どうして生きてずっと一緒に居たいと思えないの……」
サヤカ「それはまぁ、わたしがそういう風に生まれてきただけの話です。別に理解して欲しいとは思いません」
カホ「……」
サヤカ「さて、おしゃべりはここまでにしましょうか」🔪グサッ
コズエ「う"っ──!」バタン
メグミ「コズエ!!」
コズエ(刺された?こんな簡単に……動作が自然すぎて攻撃が読めない!)
コズエ「待ちなさ──っ!」グサッ
コズエ「……」バタン
サヤカ「まずは一番厄介なのを……」🔪
メグミ「このっ……!」
🔪サクッ
メグミ「え──?」
メグミ「げぼっ!」ビチャ
サヤカ「次に回復役……」
-
ルリノ「メグ──」
🔪スパッ
ルリノ「」バタン
サヤカ「あとは消化試合ですかね?」
カチマチ『はぁ……はぁ……!』ガクガク
カチマチ『なんで……そんなに無心で友達を……』ガクガク
サヤカ「別に、わたしは元々友達を作る気なんてありませんし」🔪スッ
カチマチ『!』ビクッ
ギンコ『ファイヤーボール!』🔥
サヤカ「おっと」サッ
🌳🔥ボッ……メラメラ
ギンコ「しっかりしてカチマチさん!私達が戦わないとみんなを助けられない!」
カチマチ『はっ!そうです!せっかくドラゴンを倒したんだから、必ず全員でお家に帰るんです!』⚡️ビリリ
カチマチ『うぉぉぉ!ちぇ──』
三🔪シュン
カチマチ『す──』グサッ🔪
ギンコ「カチマチさん!!」
サヤカ「足は速くても動き出すまでが遅いんですよ」🔪ズボッ↑
カチマチ「」ドクドク
-
ギンコ「っ!『ファイヤ──」
🔪カキン! コロコロ……
ギンコ「あ──」
サヤカ「一対一なら、詠唱の隙なんて与えません」
ギンコ「カ、カホさん逃げて!」
🔪スパッ
ギンコ「こ──」ブシャー
バタン
カホ「嘘……こんな一瞬で……」
サヤカ「逃げないんですか?」
カホ「よくも、みんなを……!」スッ
サヤカ「やる気があるのはいいですが……カホさんではわたしに勝てませんよ?」
サヤカ「あなたの技能は探索やサポート寄り。戦闘においてはパーティで一番劣っている」
カホ「っ……!」
サヤカ「ギンコさんの言う通り逃げていれば、少しは長生きできたのに」
🔪シュッ!
カホ「!」
サヤカの突き出したナイフが一直線にカホの喉元へのびてゆく。
もはや詠唱をすることも、避けることも能わない。
瞬きの間に、ナイフはカホの喉に深く突き刺さり──
-
🕒カチ
サヤカ「ごはっ──!」
🌳ドスン!!
突然、サヤカの体が勢いよく吹き飛び、数メートル離れた木に激突した。
サヤカ「あ"──ごぼっ!ごほっ!」ビチャ
余りに突然のことで受身が取れず、サヤカは背中を強打して血を吐き出す。
サヤカ(今のは……ツヅリさんの魔法……まさか生きて──)チラッ
ツヅリ「」
サヤカ「!?」
サヤカ(違う……ツヅリさんは間違いなく死んでる!ならいったい誰……が……)
カホ「…………」
サヤカ「はっ……」
サヤカ(誰かなんて……そんなの一人しかいない……)
サヤカ「そっか……カホさんが"そう"だったんですね……」
カホ「すぅ──」
カホ『▇▇ ▇▇▇ー』キラキラ
コズエ「う、うぅ……」✨
ギンコ「……」✨
メグミ「……」✨
カチマチ「……」✨
ルリノ「……」✨
ツヅリ「」✨
-
ツヅリ「──」ピクッ
サヤカ「!!!」
サヤカ「ツヅリ……さん……?」
サヤカ「嘘……生き返って……」
カホ「あなたはやり過ぎた。もうサヤカちゃんとは言えない存在にまでなってしまった」
カホ「悪いけど、あなたには消えてもらうね」スッ
サヤカ「あぁ……ああ…!ツヅリさんが、生き返った……!」
サヤカ「そんな……また……また…!」
サヤカ「もう一度──殺せるんですね!!!」パアッ
カホ「!」ゾッ…
ピシッ……ピシッ!
サヤカの顔面に亀裂が入る。
まるで閉じ込めていたモノが溢れ出すように、亀裂の奥からは黒い皮膚が覗いている。
ペリペリ……
やがて亀裂は大きくなり、元の顔がボロボロと落ちてゆく。
『ムラノ サヤカ』という仮面が、剥がれ落ちる──
サ?カ『ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!』
仮面の奥から出てきたのは、夜の闇よりさらに黒い、虚無そのものだった。
-
カホ「え……何これ?あたしこんなの知らない……」
シュッ!
カホ「痛いっ!」ピシッ
サヤカ「あれ?外しましたか……初めてだから制御が難しいですね」
カホ(何をされたの?ナイフを投げた訳じゃない……まさか魔法?)
カホ「ありえないよ……サヤカちゃんは洗浄魔法しか使えないはず……」
サヤカ「たった今、使えるようになりました」
サヤカ「これが魔に堕ちるってことなんですね。えっと……なんて名前でしたっけ?温泉で会った人が教えてくれたんです」
サヤカ「魂が腐るとはどんな不快なことかと思いましたが──存外、気分がいいですね」スッ
カホ『ヴァリア!』
パリン!
カホ「!?」ピシッ!
カホ(目に見えない斬撃を出す魔法……!有効範囲は?連発できるの?)
カホ「ううん、関係ない。また時間を止めて──」
-
コズエ「はっ!」✊ゴッ!
サヤカ「!?」グラッ
カホ「あ、コズエちゃん……」
コズエ「ごめんなさい!少し気を失っていたみたい!」
カホ「い、いえ!平気です!」
コズエ「あれは……サヤカさんなの?」
カホ「気を付けてください!あれは見えない斬撃を使ってきます!」
コズエ「斬撃……私の魔法では対応できないわね」
サヤカ「……」ムクッ
コズエ「それなら──攻撃される前に討つ!」ダッ!
サヤカ「あなたじゃ相手になりませんよ」スッ
コズエ「!!」サッ
ピシッ!
コズエ「っ……!」
サヤカ「あなたの攻撃よりも、わたしの攻撃の方が圧倒的に早い」スッ
スパ! スパ! スパ!
コズエ「がっ……!」ブシャ
カホ「コズエちゃん!」
-
サヤカ「さあ、さっきみたいに魔法を使ったらどうですか?カホさん」
カホ「っ……」
サヤカ「それとも、コズエさんが見てる前では本気を出せませんか?」
コズエ「何を言ってるの……」ポタポタ
サヤカ「それなら、こんな人さっさと殺してしまいましょう──」スッ
カホ「危ない!」ガバッ
スパーン!
カホ「うぐっ……!」ブシャー
コズエ「カホ!!」
サヤカ「……はぁ、なんて滑稽。猿芝居でも見せられていんるですか?」
サヤカ「もういいです。二人まとめて死んでください」
コズエ「このっ!」✊💢
サヤカ「っ……!」ヒラリ
🌳ポム
コズエ「目を覚ましなさい!サヤカさん!」 ブン
サヤカ「まだわたしが操られてると思っているんですか?」ヒラリ
🌳ポム
コズエ「はぁ!」ブン
サヤカ「当たりませんよ。そんな攻撃」ヒラッ
コズエ「わざと外してるのよ!」ダッ!
サヤカ「強がりですね」スッ
スパーン!
コズエ「ぐはっ……!」ブシャー!
サヤカ「そのまま大人しくしててください」
カホ「コズ──」
-
コズエ「──っ!」✊ブン!
サヤカ「え?」
コズエ『フルリリース:インパクト!』✊💥
💥ドゴーン!!!
サヤカ「がっ──!」
コズエは肩を大きく切られながらも、立ち止まることなくサヤカに向かって拳を叩き込む。
ドラゴン戦の時から溜めていたエネルギーをここぞとばかりに解放した一撃に、サヤカの体は大きく吹き飛んだ。
ドカッ!🌳バキバキ……!
サヤカ「──」ビクッ!ビクッ!
コズエ「はぁ、はぁ……うっ」ガクン
カホ「大丈夫ですか!?肩から血がこんなに……」
コズエ「心配しないで、私は平気よ……」クラッ
カホ「そんなフラフラで何言ってるんですか!座ってください。回復魔法をかけますから」
コズエ「これくらい放っておいても治るわ。それよりも、倒れてる皆んなを──」
スパッ!
コズエ「っ!?」ブシャー
カホ「え」
-
サヤカ「……」ムクッ
コズエ「そんな……心臓が破裂してもおかしくない威力だったはずなのに……」
サヤカ「わたし自身も驚いています。魔物化するとこんなにも体が丈夫になるんですね」スッ
コズエ「危ない!カホ!」バッ
ズバババ!ブシャーー!
コズエ「が──」バタン
カホ「コズエちゃん!!」
サヤカ「さぁ、今度こそ死んでもらいますよ。カホさん」
カホ「っ!」
サヤカ「あなたが死んだら、"この世界"はどうなるのか……興味があるんです」スッ
💥🔫バン!
サヤカ「っ──!?」ブシャッ!
カホ「へ?」
サヤカの手がカホへ伸びた瞬間、突然謎の魔弾がサヤカの体を撃ち抜いた。
???「かほせんぱいを殺されるのは困るかな〜何が起きるかわからないし」
-
木の影から現れたのは、白い鎧を身にまとい、仮面をつけた人物。
いや、鎧と言うにはそれは余りにも心許なかった。
肝心の胴体の装甲は薄く、腰にはスカートのような長い板が張り付いている。
カホ(あの格好──!)
それは姫芽が吟子に頼んで、戦闘用にデザインを改良してもらったステージ衣装。
正真正銘、安養寺姫芽の"勝負服"。
サヤカ「誰ですか……?」
ヒメ「誰って──」
ヒメ「通りすがりの、スクールアイドルですよ〜」
サヤカ「すくーる…あいどる……?」
コズエ「何者なの……味方?」
カホ「多分……」
カホ(──って!いやいやいや!ダメだよねあの格好!?完全にファンファーレ!!!の衣装じゃん!世界観的にもめちゃくちゃ浮いちゃってるよ!)
-
やっぱりファンファーレ衣装かw
-
サヤカ「よくわかりませんが、これから死ぬ人のことなんてどうでもいいですね」
ヒメ「あれ〜?なんかムラノサヤカ顔無くない?完全にバグるとこうなるのか〜」
ヒメ「まあでも、その方がいいと思いますよ〜だって──」
ヒメ「これ以上、尊敬する先輩を汚されたくないですから」
サヤカ「何を言っているのかさっぱりです」スッ
シュバッ!
透明な魔力の刃が、ヒメに向かって一直線に飛んでゆく。
ヒメは気付いていないのか、その場から一歩も動こうとしない。
コズエ「避けなさい!!」
カキーン!
サヤカ「弾かれた!?あんな裸同然の装備で!?」
ヒメ「さっき、魔物化して体が丈夫になったって言ってましたよね?」
ヒメ「つまり、殺しちゃう心配をしないでいいってことですね!」
『戦闘モード起動 』
『ビットをセパレートします』
ガシャン!ガシャン!
無機質な女性の声と共に、鎧のスカート部分が外れて四枚の板に別れる。
フワフワ……
サヤカ「浮遊魔法ですか。そんな薄い板に何ができると……」
-
ピュン!ピュン!三
サヤカ(飛んできた?ですが、撃ち落とせばいいだけ)スッ
↖ ➚
バッ!
↙ ➘
サヤカ「え?」
ビットはサヤカの数メートル手前で四方に別れ、そのままサヤカの周りを無秩序に飛び回る。
コズエ「なんて練度の高い浮遊魔法なの……同時に四枚の板を操るなんて……」
カホ「……」
カホ(いや、絶対動力魔法じゃないよね?)
サヤカ「鬱陶しい!」シュッ!
ヒョイッ ⤴ ︎
💥バキュン!バキュン!バキュン!
サヤカ「がはっ──魔弾!?この板から出てるんですか!?」
ヒメ「みんな上手いですよ〜事前にシューティングゲームで特訓した甲斐がありますね〜」
ヒメ「じゃ、アタシも本領発揮しま
すか!」🔫ダッ!
サヤカ「くっ!どうせ魔法使いを殺せば、この板も止まるはず!」シュッ!
ヒメ「……」サッ
サヤカ「このっ!」シュッ!
ヒメ「……」ササッ
サヤカ「当たらない!?斬撃が見えているんですか!」
ヒメ「弾道が見えないなんて、アタシにとっては当たり前のことなんですよ!」💥🔫バン!バン!
-
サヤカ「ぐっ……それなら、避けられない程の密度で切り刻んであげます!」サッ!
💥バキュン!バキュン!バキュン!
サヤカ「ぐはっ!」ブシャ!
ヒメ「どうです!ビットによるオールレンジ攻撃は!これこそクラブの絆の結晶ですよぉ!!」🔫💥バン!
サヤカ「っ……!」
カホ(世界観〜〜!!!『ビットによるオールレンジ攻撃』とか、魔法の世界で絶対に出てきちゃダメな文字列だよ!!!)
カホ(ていうかそれガ〇ダムだよね!?大丈夫?ファンの人に怒られない!?)
コズエ「カホ?どうしたの?そんなに顔を赤くして……」
カホ「はっ!……いえ!何でもないです!」
コズエ「それにしても、あの人はいったい……奇っ怪な鎧に、見たこともない武器……胸元で光っているのは魔石かしら?」
カホ「そうかもしれませんね〜あはは……」フイッ
サヤカ(あぁ、鬱陶しい……何よりも周りを飛んでいるこの板。まるで一枚一枚が意志を持っているかのようで動きに規則性がない)
サヤカ(もっと自分の魔法を理解しないと。そうだ、今はナイフを持ってるわけじゃないんだから、攻撃の為に手を動かす必要は無い)
サヤカ(ただ、切ろうと思えばいい──)
サ?カ「すぅ……」ピタッ
ピュン!ピュン!ピュン!三
サヤカ「そこ!!」
スパン!スパン!──ボカーン💥
ヒメ「え?今攻撃モーションあった!?」
スパン!スパン!──💥ボン!ボン!
ヒメ「ビットが──!」
ヒメ(ノーモーションで斬撃飛ばすとか、どんなクソゲーだこれ〜!?)
スパン!🔫バキ!
ヒメ「しまった!武器もやられた!」
-
サヤカ「感謝します。"すくーるあいどる"さん」
サヤカ「あなたのおかげで、わたしはまた次のステージに辿り着けました」
サヤカ「」ブーン……
コズエ「なに?サヤカさんの周りに光の輪が……」
視認できるほど高密度な魔力が、リングとなってサヤカの周りに浮かび上がる。
光の輪は高速で回転し、空気とリングが擦れ合う音は、黒板を引っ掻いたような不快な音を響かせていた。
サヤカ「せっかくです。わたしの全力の魔法がどこまで届くのか、試してみましょうか」
ヒメ「あ、これヤバいやつだ──」
コズエ「カホ!伏せて!」ガシッ
カホ「うわっ!」グイッ
キ────────────ン!
まるで水面に波紋が広がるように、光の輪はその円周を拡大し、森を呑み込んでゆく。
🌳🌳🌳🌳🌳スパ──────ン!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【ドラゴンの死体前】
ワイワイワイ!
「ん?何か聞こえないか(イケボ)」
「いや別に?そう言えばオトムネさん達戻ってこないな」
「確かに。だいぶ明るくなってきたし探しに行くか。よいっしょっと」↑
スパ────────ン!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
カホ「うぅ……」
カホ「……あれ、何も起こらない?」
ギギギギギ……
カホ「この音は……」
🌳🌳🌳🌳🌳🌳🌳🌳ドサドサドサ!
カホ「!?」ビクッ
サヤカを中心に、周りにある木がドミノのように次々と倒れてゆく。
光の輪は半径1km・高さ120cmの位置にあるモノを、尽く真一文字に両断した。
ヒメ「──ごぶっ」ビチャ
ヒメ(まずったなぁ……反応遅れた……)バタン
カホ「はっ!ヒメちゃん!」
サヤカ「……すごいですね。真っ二つになってないなんて」
サヤカ「その鎧、本当にどんな素材でできてるんですか?」テクテク
ヒメ「うぅ……」ドクドク
サヤカ「さて、どうせならその仮面の下の顔、拝ませてもらいますよ」
カパッ
サヤカ「! あなたは占い師の──」
💥バッキュン!
サヤカ「!?」ブシャ!
その時、ピンク色の光線がサヤカの心臓を撃ち抜いた。
サヤカ「くっ!」
スパン!──💥ボン!
サヤカ「さっきの板……まだ一枚残って……いましたか……」ガクン
-
ヒメ「……」ガシッ!
サヤカ「?」
ヒメ「捕まえた……」
サヤカ「だから何ですか?もうあなたは戦えないし、今のわたしはこの程度では死にません」
ヒメ「そりゃあ、死なれちゃったらここまで苦労が水の泡ですよぉ……」
ヒメ「泉ちゃーーーーん!!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よくやってくれたよ。姫芽さん」
「これで、作戦の鍵(キー)が手に入る」
💻ポチ
『Code : DESTROYER』
『実行します』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
-
ヒメ「……」ピカーン!
突然、ヒメの胸に付いていた宝石が強い光を放ちだした。
光は球状に広がり、ヒメとサヤカを包み込む。
サヤカ「!?何を──」
ヒメ「アタシの目的は、最初からあなたを生け捕りにすること」
ヒメ「ちょっとムカってたから、無駄な戦闘をしちゃったけど……」
ヒメ「これで役目は果たせたよ」
カホ「……姫芽ちゃん」
姫芽「かほせんぱい、せんぱいが自分の意思で帰ってこなくても、アタシ達は必ず連れ戻します」
姫芽「だって、かほせんぱいは大切な仲間ですから!」
カホ「……」
ツヅリ「…………ん」ピクッ
ツヅリ「──え、サヤ?」
サヤカ「ツヅリさん……」
ツヅリ「ま、待ってサヤ!行かないで!」
ツヅリ「ボク、まだサヤと話したいことが──」
サヤカ「──」スッ
ピカーーーン!パッ!
ツヅリ「あ……」
一際強い光と共に、二人の姿は跡形もなく消えてしまった。
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ツヅリ「そんな……どうして……」ペタン
ツヅリ「何が……いけなかったの……ボクは、どうすればよかったの……」💧ポロポロ
コズエ「ツヅリ……」
メグミ「ううん……」モゾモゾ
コズエ「メグミも起きたのね」
メグミ「コズエ……はっ!サヤカちゃんは!?」
ツヅリ「っ……」ビクッ
コズエ「……消えたわ」
メグミ「消えたって、殺しちゃったってこと?」
コズエ「わからない。本当に消えたとしか言いようがないの」
メグミ「そっか……え、てかツヅリ生きてるじゃん!」
メグミ「よかった……私、ツヅリが死んじゃったかと思って……」💧ポロポロ
コズエ「メグミが蘇生させたんじゃないの?」
メグミ「うぇ……?私じゃないよ。魔力もう無いもん」
コズエ「それならいったい誰が……」
メグミ「あれ?そう言えばカホちゃんは?」
コズエ「カホならそこに──あら?」
コズエ「──カホ?」
-
カホ「……」トボトボ…
カホはドラゴンの元まで戻ってきていた。
そこはサヤカの魔法に巻き込まれた冒険者達の血で、一面が真っ赤な水溜まりのようになっている。
だが、そんな惨状からは目を逸らし、カホは一直線にドラゴンの死体へ近づいてゆく。
ドラゴン「」
カホ「姫芽ちゃん達は、必ずまたここへやってくる……」ピト
ドラゴン「」✨キラキラ……
カホがドラゴンの死体に触れると、死体は光の粒子となってカホの体に吸い込まれていった。
カホ「その時までに、あたしも力を溜めておかないと」
カホ「たとえこの世界が夢のようなものだとしても──あたしにとってはもう、現実だから」
【ドラゴン撃退作戦】 完了!
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勝利者はいない
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【教えて!魔法教室】
ギンコ「こんにちは。モモセギンコです」
カチマチ『そしてカチマチです!』
ギンコ「今回は沢山の魔法が登場したので、ざっくりと見ていきましょう」
カチマチ『お願いします!』
『エクス サンダー』
上級電撃魔法。
杖の先から高電圧の電流を放つ。
『エクス ブリザード』
上級氷結魔法。
氷点下の竜巻を発生させることができる。
『ストーンスキン』
硬化魔法。
皮膚を岩のように硬くする魔法。
動けなくなる代わりに、物理攻撃に対してはめっぽう強い。
『スパイラー』
螺旋魔法。
対象に付与することで、その物体を高速で回転させる。
『オメガ・グラヴィオン』
終局・加重力魔法。
魔法陣の中に入った者を、通常の数十倍の重力で拘束する。
『質量魔法(ジャイアサイズ)』
世界を構成する原理魔法のひとつ。
物体の質量を自在に操ることができる。
大きくするだけでなく、小さくすることも可能。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
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【蓮ノ空女学院】
姫芽「はっ!?」ガバッ
姫芽「あれ、アタシ生きてる……?」
吟子「大丈夫。生きてるよ」
瑠璃乃「お疲れ様。ひめっち」
姫芽「るりちゃんせんぱ〜〜い!!痛かったですよぉぉ!」💧ポロポロ
瑠璃乃「うんうん。大変な役割を押し付けちゃってごめんね」ギュッ
姫芽「グスッ……でもでも、最後助けてくれて嬉しかったですぅ〜」
小鈴「結局、徒町達の操ってたビット(?)はすぐ壊されちゃいました……」
吟子「仕方ないよ。私達はパソコンでゲームするのとか慣れてないし。あれでも頑張った方じゃない?」
セラス「吟子……先輩の言う通りです。わたし達は充分役目を果たせたと思います」
吟子「なんで言い淀むの……」
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泉「すまなかったね姫芽さん。今回はその後の準備があったからサポートができなかった」
姫芽「大丈夫だよ。それがわかってたからバトルスーツを用意してもらったんだし」
姫芽「それに、痛いのは嫌だったけど、正直ゲームの世界に入り込んだみたいで楽しかったしね〜」
吟子「……花帆先輩も、姫芽と同じような感じなのかな……現実世界よりも楽しくなっちゃって、帰りたくないみたいな……」
瑠璃乃「うーん、どうだろう。花帆ちゃんはこっちの世界のこと、そんな簡単に捨てたりしないと思うけど」
吟子「じゃあ!なんで姫芽が一緒に帰ろうって言った時に拒絶したんですか!」
姫芽「……なんというか、かほせんぱいからは使命感みたいなものを感じたかな」
吟子「使命感……?私、花帆先輩が何考えてるか全然わからん。同じユニットなのに……」
小鈴「だ、大丈夫だよ!徒町も最初の頃は綴理先輩の考えてることわからなかったし!」
吟子「でも、もう一年も一緒にやってきたのに……しかも本物の私は放っておいて、偽物の私と楽しそうにしてるし……」モヤモヤ
小鈴「あぅ……」
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セラス「吟子……」ポン
吟子「セラスさん?」
セラス「…………ドンマイ」👍
吟子「なんなん!?」
セラス「わたしなんて登場する気配もないから……いっそ姫芽先輩の代わりにわたしが行ってやりたかったくらい」
泉「別にセラスでも良かったんだけどね。花帆先輩からしたら、いきなりセラスが現れるのは脈絡が無さすぎるだろう?」
泉「それに、直近で一緒に部活をやってた姫芽さんの方が、花帆先輩のことを説得できると思ったんだ」
姫芽「まぁ結局、とんでもない力技で逃げられちゃったけどね〜」
泉「やっぱり侵入することはできても、花帆先輩に直接干渉することは難しいだろうね」
泉「こちらからも花帆先輩に対して色々攻撃してたんだけど、強力なロックが掛かっていて花帆先輩には届かなかったよ」
瑠璃乃「でも、そのために向こうのサヤカちゃんを捕まえたんでしょ?」
泉「あぁ。花帆先輩なりにあの世界の住人になりきろうとしているのか、NPCからの攻撃には無敵判定が生じていない」
吟子「つまり、向こうの世界の人を乗っ取れば花帆先輩に干渉できる?」
泉「あぁ。そういうことさ」
小鈴「じゃあ、さやか先輩は……」チラッ
さやか「すぅ……すぅ……」zzz
泉「今頃、向こうの『ムラノサヤカ』と、対面している頃だろう──」
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サヤカ「……真っ暗、ですね」
サヤカ「ここは一体どこなんでしょうか……確か、占い師の人と一緒に飛ばされたはずですが」
サヤカ「もしかして天国?」
???「いいえ。天国ではありません」
サヤカ「っ!」バッ
???「本当は死んで欲しいくらいですが、あなたにはまだ"利用価値"があります」
サヤカ「な!?その顔──わたしと同じ……」
さやか「正確には、あなたがわたしと同じ顔なんですよ」
サヤカ「…………」
さやか「別に理解する必要はありません。というか、もうあなたは何もしないでください」
サヤカ「……さっき利用価値があると言っていましたが、何もするなと言うのは矛盾しませんか?」
さやか「矛盾しませんよ。あなたは何もしないでいいんです」
さやか「利用価値があるのは、あなたの体だけですから」
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サヤカ「…………はぁ、せっかく自由になれたと思ったのに。また操り人形ですか」
さやか「自由には対価が必要なんですよ。そういう意味で、あなたは借金をしすぎました」
さやか「人を騙し、殺し、挙句の果てにわたしの顔でツヅリさんを傷付けた──」
さやか「その対価は、しっかりと体で払ってもらいます」
サヤカ「……」スッ
さやか「ここでは魔法は使えませんよ」
サヤカ「……そうみたいですね」
サヤカ「それならもうどうでもいいです。好きにしてください」
さやか「納得されなくてもそうするつもりでした」
サヤカ「最後にひとつ教えてください。わたしの体を使って何をするつもりですか?」
さやか「それは──」
さやか「大切な友達を、連れ戻すんです」
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続き
【SS】蓮ノ空ファンタジーⅡ Part.2
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11224/1754226303/
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キリがいいので続きは別スレを立てました。
どれくらい読んでくださっているかわかりませんが、物語を生み出した責任として、あと2話最後まで書き切ります。
何卒よろしくお願いします。
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読んどるで
まさか次スレまでいくとは
最後まで楽しみ
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乙おつ
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乙でした、もちろん最後まで付き合うよ
むしろあと2話なのが惜しいくらい
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おつおつ
面白すぎるわ
最後まで楽しみにしとるぞ
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105期開始から続いてると思うとかなりのボリュームだ
続きも期待
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リンクさせ具合もいいね
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スレ完走乙
安価以来あまりコメ出来てなかったけど楽しく読ませてもらってます
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更新いつも楽しみにしてます
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読んでるぞ
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乙
毎日たのしみにしてるよ
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完結まで楽しみにしてる
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記念うめ
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うめ
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