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【SS】吟子「八番出口ラーメン」
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花帆「ごちそうさまでした!」パン!!
吟子「ごちそうさまでした」
花帆「おいしかったねー、吟子ちゃん。今日は誘ってくれてありがとね!」
吟子「うん。先輩にも味わって欲しかったから。満足、できました?」
花帆「満足も満足だよ! お野菜が中心のらーめんだったけど、ボリューミーだしお肉もあるしで満足です!」
吟子「そっか……。じゃ、じゃあ花帆先輩」オズ…
花帆「うん? なになに?」ズイッ
吟子「えっと……い、いや、なんでもないですっ。お会計も終わったし、早く帰るよ!」タタッ
花帆「えぇ? なんだったの〜? ちょっと待ってよ〜」
ウィ~ン
吟子「なんでもない──」
イラッシャイマセー、ニメイサマデヨロシカッタデショーカー
吟子・花帆「……え?」ポカーン
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*
吟子「だ、だめ。いくら出口を出ても店内に戻されちゃう。なんやの、一体……」
花帆「ふーむ」
吟子「……花帆先輩、さっきからなにか考えてるみたいだけど、いい考えは浮かんだ?」
花帆「……うんっ、たぶん、この考え──うぅん、この推理で合ってるはず!」
吟子「……じゃあ、聞かせて。期待はせんけど」
花帆「一言余計! えっとね、つまりこの状況は……ゲームの8番出口と同じなんだよ!」
吟子「はちばん、出口……?」
花帆「うん。8番出口はちょっと前に流行ったゲーム、それもホラーテイストなゲームなんだ」
吟子「ほ、ホラー!? そんなんに巻き込まれてしもうたん!?」
花帆「あ、とはいっても、ジャンプスケア要素はほぼなくてね、まぁ、それはいっか。簡単に言えば、異変を発見するゲームなの。ドアノブの位置が違うとか、ポスターがいつもより大きいとか、要は間違え探しみたいな感じだね」
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吟子「間違え探し……あっ、つまり、ああいうこと?」
花帆「あれ?」
吟子「ほら、店内ポスターに描いてあるハチカマの縁が赤い。縁取りが赤いのは初期だけで、今は黒いの。あれ、異変じゃないかな」
花帆「へぇ〜。今って黒いんだ。うん、吟子ちゃんがそう言うならアレが異変だね!」
吟子「あっ、それに見て、メニューに書いてある文章」
花帆「うん?」チラッ
・店内で異変を発見した場合、入り口に戻ってください
・店内で異変を発見できなかった場合、トイレに向かってください
・異変には必ず気付けてください
花帆「おぉ。8番出口っぽい! 今回は異変を発見できたからもう一回入り口に戻るんだね!」
吟子「そうみたい。……ふぅ。攻略法があるみたいでよかった……。花帆先輩がいなかったらだめだったかも……」
花帆「よーし! 二人で完全攻略目指すぞー! おー!」
吟子「お、おー……」オズ…
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*
花帆「えと、まずは店内を軽く見回してっと。う〜ん、特に変わったところはないし、いったんトイレに行ってみる?」
吟子「先輩、店内に入ったらまずは一品頼まないと」スッ
花帆「えっ、でもでも、さっき食べたばっかりだよ!?」
吟子「何も頼まず突っ立ってるだけは失礼」キリッ
花帆「そ、そ〜だけどぉ……今月のお小遣いはピンチなのです──って、あれ?」
吟子「どうかした?」
花帆「……減って、ない」
吟子「なにが?」
花帆「あ、あたしのお金! さっき、確かにお会計を済ませたはずなのに……」
吟子「それ、先輩の気のせい……いや、もしかして──」ガサゴソ
吟子「当たりだ……私のお金も減ってない」
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花帆「吟子ちゃんも!? なんで……? あっ、もしかして……」
吟子「な、何かに気付いたん!?」
花帆「うん! 吟子ちゃん、お腹の調子を確認してみて!」サワッ
吟子「ひゃっ、お腹触らんといてよ!」
花帆「ねぇねぇ! お腹、空いてない!?」
吟子「え? そんなわけ……」グゥ~
吟子「……ほんとだ」
花帆「可愛い音だったね!」ニコニコ
吟子「で、デリカシー!」プンスコ!!
花帆「でも、これで分かったね。たぶん、入り口かトイレを潜ることでお金と空腹度はリセットされるみたい」
花帆「これなら何度だって挑戦できるね!」グッ
吟子「どういう仕組みなのかちょっと怖いけど……受け入れるしかない、か」
花帆「大丈夫だよ吟子ちゃん、怖くないよ! あたしが付いてるから一人じゃないからね!」
吟子「先輩……」
花帆「それに、いろんならーめん食べ放題だよ! この際だからいっぱい堪能しちゃおうよ!」
吟子「……はぁ、呑気な人。一瞬でも尊敬したの間違いやった」
花帆「えぇ!? 言わなければよかったぁ!」
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*
花帆「さて、今回の異変は何かな。内装に関わるものかな、らーめんの具かな」
吟子「あっ、先輩、外を見て」スッ
花帆「外?」チラッ
吟子「私たちが最初いたところは本店、つまり一号店だったけど、外の様子は高柳店の風景になってる」
花帆「え……? あ、確かに、見覚えないかも」
吟子「よし、らーめん頼んだら次にいこう」
花帆「あ、うん。さすが吟子ちゃんだなぁ……。ねねっ、おすすめって、なにかあるかな」
吟子「おすすめ……。限られた常連さんは、味噌らーめんにバターを増し増し増しにして食べるんだって」
花帆「増し増し増しって……3倍!?」
吟子「空腹がリセットされるなら、挑戦してみるのもあり、かも……?」
花帆「そ、そっか。空腹がリセットされるなら、それもありだね!」
吟子「うん。バター増し増し増しにしまっし」
花帆「ましがいっぱい!?」
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*
花帆「うーん。今度は風景にも内装にも異変がないし、らーめんかなー」
吟子「そうだね。次はなにを食べるの?」
花帆「店員さんにおすすめを聞くって、だめかなぁ?」
吟子「えっと……今は混雑してないみたいだし、いいと思う」コクリ
花帆「そっか! すみませーん!」
店員「はい。ご注文はお決まりでしょうか」
花帆「あの、店員さんのおすすめするらーめんってなんですか?」
店員「えっ、私がおすすめするらーめんで、よろしかったでしょうか」
花帆「はい! やっぱり、餅は餅屋かな、って思っちゃって! 迷惑だったらごめんなさい!」
店員「いえいえ。そうですね、今日の暑さを考えると……ざるらーめんなんていかがでしょうか」
花帆「ざるらーめん! あっ、おいしそう! じゃああたし、これにします! 教えてくれてありがとうございました!」
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店員「いえいえ。お連れ様はお決まりでしょうか」
吟子「……」
花帆「吟子ちゃん? 聞かれてるよ?」
吟子「あっ、じゃあ私は、塩の野菜らーめんでお願いします」
店員「はい、かしこまりました──」
花帆「どうしたの吟子ちゃん。なんだか悩んでるみたいだったけど」
吟子「……うん。一瞬素通りしかけたけど、今のが異変だと思う」
花帆「えぇ!? どこかおかしなところあった!?」
吟子「ほら、さっきの店員さんの言葉を思い出して。『今日の暑さを考えると……ざるらーめんなんていかがでしょうか』」
花帆「それの何が異変なの?」キョトン
吟子「ちょっと待って……。ほら、今日の天気予報を見て。今日の最高気温は31度。つまり、真夏日に該当する」
吟子「真夏日なら、冷めんをおすすめしないとおかしい」
花帆「へ?」
吟子「8番らーめんでは、猛暑日に冷やしらーめん、真夏日に冷めん、夏日はざるらーめんって宣伝の仕方をしてるの」
吟子「だから、真夏日の今日ざるらーめんをおすすめするのはおかしい……異変なの」
花帆「へぇ……そっか、そっかそっかそっかぁ! すごい吟子ちゃん! そんな細かいところまで気付くなんて信じられないよ!」
吟子「そ、それほどでもないけど……」テレッ
花帆「らーめんオタクだね!」ニッコリ
吟子「ん、んん……その言い方は、ちょっと嫌、かも……」
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*
吟子(その後も、色々なラーメンを食し、異変を見つけるのに終始した)
吟子「このハチカマ、色味が若干濃い。厳選したスケトウダラを使っているはずなのに、この色味はおかしい」
吟子「カウンター席から見える調理、時間を掛け過ぎてる。短時間かつ高火力の『爆(バオ)』を使って野菜の旨味を閉じ込めてない。おかしい」
吟子「店内のお客さんが醤油味ばかり頼んでる。8番らーめんの半分以上は塩と味噌が割合を占めているのに、これはおかしい」
吟子(異変の発見は順調なはず、だった。けれど──)
吟子「だめ……。何度やっても、カウンターが7を越さない。異変の最後の一つが、どうしても見つからない……」
花帆「吟子ちゃん……。一旦落ち着いた方がいいよ。ほら、花帆の冷やしらーめん一口あげるから、頭も一緒に冷やそうよ」
吟子「……うん」チュルリ
吟子「おいしい、けど、今はそれどころじゃ……」
花帆「……ね、吟子ちゃん」
吟子「なに、先輩。世間話なら後にして。今忙しいから」
花帆「あたしたちは今、どこにいるのかな?」
吟子「どこって……8番らーめんだよ」
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花帆「8番らーめんって、どういうところ?」
吟子「そんなの、美味しいらーめんが食べられて、野菜もたくさん取れる素敵な場所……あっ」
花帆「だよね。素敵な場所だってあたしも思う。野菜も多いし、スープだってあっさりしてて食べやすい」
花帆「ここってもしかして、吟子ちゃんのおばあちゃんともよく行ってたんじゃないかな?」
吟子「……うん。行ってた。おばあちゃん、こってりしたラーメンとかは好きじゃなかったみたいだけど、8番らーめんならぺろりとたいらげて……」
吟子「なんだか、大切な人が美味しそうに食事してるところって、すごく幸せで、そんなおばあちゃんを見るのが大好きで」
吟子「でもそれは、おばあちゃんも一緒みたいでね、私の食べる姿を見て、『吟子が美味しそうに食べてるところを見るのが、ばあばの幸せなんだ』って、笑いながら言ってくれて」
吟子「……うん。そうだね先輩。ここは、幸せな場所。何かに追われた気持ちのままじゃ、らーめんにも失礼だね」
花帆「……」ニコッ
吟子(ここは、私にとって思い出の場所で、幸せが溢れている場所。一旦心を落ち着けて、もう一度異変を探せばいい)
吟子「ん……ごちそうさま」トン
花帆「あたしも、ごちそうさま!」パン!!
吟子「ふぅ、お腹いっぱい……」スッ
花帆「だねー。食休みしたら、異変探しにもどろっか」
吟子「うん……」
吟子「……」ボ~…
吟子「……あれ?」ピクッ
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花帆「ん……? どうしたの吟子ちゃん」
吟子「いや……まさか、これって……」
花帆「……もしかして、異変見つけたの?」
吟子「う、うん。でもまさか、こんなところにあるだなんて気が付かなかった……」
花帆「えっ、どこどこ?」キョロキョロ
吟子「先輩。満腹になると、つい上を見ちゃうよね」
花帆「え? うん……ってことは、上……?」チラッ
花帆「……あっ! これ!?」
吟子「そうだよ。これ──」
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吟子「『【SS】吟子「八番出口ラーメン」』」
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吟子「8番らーめんの『8』は算用数字」
吟子「8番らーめんの『らーめん』はひらがな」
吟子「このSSのタイトルが、異変だったんだ!」
花帆「ついでに言えば、8番出口の『8』も算用数字だね!」
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吟子ちゃんが8番ラーメンカルトクイズ状態に
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吟子「これできっと、全ての異変は見つけられたはず……! 先輩、出口に行こう!」タタッ
花帆「うん!」タタッ
吟子「……」
吟子「ごめん先輩……、ちょっと、待って」ピタッ
花帆「あ、うん。どうしたの?」
吟子「えっと……その、さっき、言いそびれたこと、なんだけど……」モジ…
吟子「……っ」
吟子「……次も、一緒に行かん?」チラッ
花帆「……え? あ、言いそびれたことって、次の約束のことだったんだ!」
吟子「うん……。先輩って、すごくおいしそうに食べるから、次も一緒に行きたいな、って思って……」
花帆「うん! もちろんだよ!次も一緒に行こ! あたしもね、吟子ちゃんと一緒に食べると、いつも以上においしいよ!」
吟子「そ、そっか。うん……約束、だよ、花帆先輩」スッ
花帆「うんっ、指切りげんまん嘘ついたらハリセンボンのーます! 指切った!」
吟子「……よし。じゃ、じゃあ今度こそ、店を出よう」
花帆「ごちそうさまでした〜」
吟子「ごちそうさまでした──」ペコ
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吟子(こうして、私と花帆先輩との奇妙な体験は幕を閉じ──なかった)
花帆「うっぷ、からだ、おも……」ヨロヨロ
吟子「な、なに、これ……。店を出た途端……。急に体が、重く……」ヨロヨロ
花帆「……あっ」ピキーン
吟子「な、なにか気付いたの、先輩」
花帆「これ……お金と空腹度はリセットされるけど、カロリーは上乗せされるんじゃ……」
吟子「……え」サァ~…
花帆「ごめん、吟子ちゃん……。またらーめんが食べられるようになるの、ずいぶん先になりそうだね……」
花帆「ダイエット、がんばらないと……」ニヘラ
吟子「そ、そんなぁ……」
吟子(そうして、私と花帆先輩の奇妙な体験は、なんとも後味の悪い結果に終わった)
吟子(たとえるなら、そう……)
吟子(まるでホラーゲームのエンディングのような、そんな感じだった)
おしまい
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おまけ
吟子「……」ツン、ツン
花帆「な、なに吟子ちゃん。ほっぺ突っついて」
吟子「ぽっちゃりした先輩、柔らかいなって」ツンツン
花帆「えぇ!? や、やだー! ぽっちゃりって言わないでよー! なんで吟子ちゃんはそんなすぐ元通りになってるの!?」
吟子「体質、ですかね……」
花帆「わーん! この世の不条理すぎるー!!!」
吟子「……」ツン、ツン…
おまけおしまい
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乙
8番ラーメンに詳しくなった気がする!
-
乙
次はゴーゴーカレー編だな
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