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藍物語(投稿・感想・雑談専用=隔離)スレ

1枯れ木も山の賑わい:2014/03/26(水) 23:49:11 ID:sdeCrXLs0
藍 ◆iF1EyBLnoU の 投稿と
投稿に対する感想・雑談の為に立てた専用スレです。
レスの都合上コテハン推奨ですが、匿名の書き込みも勿論OK。
非難の書き込みは「作品に関する話題・雑談」スレで存分に。
こちらへ書き込まれた場合は(可能ならば)削除します。

941名無しさん:2016/02/16(火) 05:41:25 ID:nxJaLFJIO
投稿ありがとうございました!続きを読めると思ってなかったので嬉しいです^o^-
Rさんモテモテですね。認められなかったらRさん一家が可哀想だと心配になりましたが、大丈夫そうで良かったです。
続きありがとうございます。

942名無しさん:2016/02/16(火) 20:32:52 ID:O9neFNdMO
御影さんまでRさんに…うらやましい…。Rさんもある意味、一族最強ですね。

943 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 20:53:58 ID:scfGdIuY0
テスト中です。

944 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:01:20 ID:scfGdIuY0
皆様今晩は、藍です。

以下、『契(中)』の残りを投稿致します。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

945『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:02:17 ID:scfGdIuY0
 呪文は続いている。止めてくれ。頭が、割れるようだ。
正直、これなら死んだ方が余程...鬱陶しいが、『契約』は全てに優先する。

 「契約に基づき、汝に命ずる。」
見たことの無い顔。という事は、長の代替わりがあったのか。では、○明は。
「我が契約したのは●◇の家。お前と契約したのではない。」
「私は◆明、●◇の家の長だ。●◇の式を使役する正統な権限を継承している。」
やはり、○明は死んだのか。なかなかに力のある術者で、見所のある男だったが。
「話は聞くが、受けるかどうかは私が決める。」
「もしも、契約に基づく依頼を断ればどうなるか」
「何時でも消える覚悟はある。式となっても、我は殆ど一族の為に働いていないから。
契約に背いた罰則で我を縛れるなどと、思わない方が良い。」
男の右頬がピクリと動いた。伝わってくる、荒い波長。 こんな男が●◇の家の長とは。
暫く寝ている間に、一族には何が起こっていたのだろう。
「その、まさに一族の為の仕事だ。一族の命運を左右する、重要な任務。」
「他の式でなく、我を召喚したのだから、相応の覚悟があるのだろうな。」
「次の当主が決まった。しかしその男は、術者を軽んじ一族の未来を危うくする
危険な思想の持ち主だ。術者の誇りを、一族を守るために、その男を殺して欲しい。」

946『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:03:19 ID:scfGdIuY0
 「そんな思想を持つ者を、『上』と『眼』が次期当主として認証するとは思えないが。」
「術者の育成を巡る考えの違いで、●◇の家は一族を離れた。
その後、奴等の中で術者を軽んじ、力を持たぬ者を重視する輩が力を増した。
『新しい時代に対応した一族の在り方』などと詭弁を弄して、な。
私は、術者の力を尊重し、術者の力で一族の未来を開きたい。力を貸してくれ。」
「次の当主となれば相応の力、返り討ちになる可能性も有るだろう。
しかも式を使って一族の者を殺めれば、お前には血縁相克の大罪。
どちらにとっても割に合う仕事では無いな。」
「割に合う、報酬を約束しよう。成功すれば、契約を解く。つまりこれが、最後の仕事だ。」
「我自身が、報酬か。面白い。」
今更自由を得ても人の身には戻れない。だが、面白いのは、依頼の対象。
それがどんな人間なのか、何故術者を軽んじるのか、知りたい気もする。
そう、今のままではあまりに、退屈だから。
「依頼を受けよう。しかし勝負は時の運。成功の保証は出来ない。

947『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:04:38 ID:scfGdIuY0
 日が沈む。完全に夜の帳が下りるのを待って目的地に移動した。夜こそ、我の時間。
小さな、屋敷。2階建て、部屋の数はせいぜい8つ...本当に、次の当主が、此所に?
屋敷を護る結界はなく、護衛の姿もない。あまりに不用心ではないか。
罠? いや、我に罠など。 笑止...返してみせる。
灯りの点る窓は3つ、2階にはそのうちの1つ。あれが、仕事の舞台。
闇に融けて壁を抜け、家の中に入り込む。そして部屋へ。部屋の中にも護衛はいない。
大きな机、革張りの椅子に背中を預けた後ろ姿。この時間、護衛なしで暢気に本を?
気配を抑えたまま、ゆっくりと近付く。やはり罠ではない。
少なくとも、相応の警戒をするように『上』からの指示があった筈だ。何故、この男は?
じりじりと、距離が詰まる。もう、十分。万が一にも

948『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:05:29 ID:scfGdIuY0
 「少しだけ、待ってくれないかな。」
!? 今、我に、呼びかけたのか? この男は。
「そう、君だよ。どうして僕を殺すのか、理由を聞いてみたいと思ってね。」
その男は椅子ごと、くるりと体を回した。人の良さそうな顔に、悪戯っぽい笑顔。
その目はしっかりと我を見つめている。 閉じた本を机の上に。
『見えるのか、我が?』
「ああ、見えるよ。僕はそういうのが、ちょっと得意なんだ。だけど、『◇話』は苦手。
だから出来れば、声を出して話してくれると有り難い。このままだと、疲れる。」
夜、侵入してきた式と対峙して、それが自分を殺しに来たと知っていながら...『疲れる』?
「自分の置かれた状況は、理解している筈だが?」
「勿論理解してるさ。あっさり君の侵入を許し、その気になれば君は僕を殺せるかも。」
その男は笑った。押し殺した声で、如何にも可笑しそうに。
「これ、かなりマズいよね。」

949『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:06:22 ID:scfGdIuY0
 「何故、笑う?」 罠も、護衛もなし。この状況からどうやって我を。
「だって、僕が今夜あっさり殺されたら、僕を次の当主に選んだお偉い方々の間違いだろう?
だから、『なんであんなのを選んだ?』って大騒ぎになるよ。笑っちゃうね。」
「他人事だな、まるで。」 本当に、その神経は一体どんな。
「確かに、今でも他人事みたいだ。僕が次の当主だなんて。」
また、男は笑った。去勢を張っているようにも、自棄にも見えない。晴れやかな笑顔。
「あ、それで君も此所へ来たんだろう?
僕が次の当主に決まったから、僕を殺せと頼まれた。ね、君にそれを頼んだのは誰だい?」
「馬鹿げた質問だ。その質問には答えを得られないと、分かってるだろう。」
「そう、だね。まあ、大体予想は付いているし。ただ、確かにその人の指示なら、
おとなしく殺されても良いかなと思ってて、だから確かめたかった。」
この家に結界がなく、この部屋に護衛がいないのは。
「わざと、我を侵入させたのか?」
「わざとって言われると心外だな。かなりの手間をかけて君を止める結界を張っても、
ずっと結界に閉じこもる訳には行かない。そして僕が結界を出て襲われれば他人を巻き込む。
それに、無駄死にになるって分かってるのに護衛の術者を置くのは可哀相だろう?
あ、ちょっと失礼。」
ドアの外、廊下を近づいてくる気配...とうに気付いていた。恐らく高位の術者。
もしこの男がそれを隠していたら、術者が加勢に入った瞬間に、まとめて殺すつもりだった。

950『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:08:22 ID:scfGdIuY0
 「○さま、凪です。先程から微かに不審な気配が。念のためお部屋の警戒を。」
「ああ、来客だよ。心配要らない。下がって休みなさい。」 「しかし、今夜来客の予定は。」
男は我を横目で見て、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「妙齢の美しい御婦人でね。夜の密会という訳だ。後は察してくれ、朝まで。」
溜息、遠ざかる気配。我の気配に気付くなら相当な術者だが、それよりも。
「本当に、見えているのだな。我の姿が。『妙齢の』と『美しい』は余計だったが」
「見えるって、はじめにそう言ったろ。それに、僕は余計な事なんて言ってない。
僕たちとは年の取り方が違うから、見かけで判断するしかないんだけど。
そうだな、二十代前半、第一級の美人。まあ、勇ましすぎる服が玉に瑕かな。」
「...お前と話してると妙な気分だ。何だか自分の感覚に、自信が持てなくなる。」
「いや、君は自信を持って良い。僕は美人が大好きで、要求水準がかなり高いからね。
あ、そうだ。」 男はまた椅子ごと体を回して机の上から写真立てを取った。
「ほら、凄い美人だろう?これが僕の妻で、娘のSが3歳の時の...御免、脱線し過ぎた。」
「分かれば良い。それで、もう一度聞くが。」 「何、かな?」
「わざと、いや、分かっていて我を侵入させたのは、
本当に『おとなしく殺されても良い』と思ったからか?」
「そうだよ。今も、そう思ってる。」
「当主なら、一族の為に、自身の命を大切にするべきだろう。お前が死ねば、それは。」
駄目、だ。やっぱり感覚がおかしくなってる。我はこの男を殺しに来たのではなかったか。

951『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:10:10 ID:scfGdIuY0
 「僕はまだ当主じゃ無い。それに、君を寄越した人が僕の予想通りなら、
僕が殺される事でその人の憎しみが少しは緩むんじゃないかと思ってね。」
「本家と分家の争いは承知している。普通に考えて、分家に勝ち目はない。多勢に無勢。
戦いを長引かせるだけで、分家はやがて瓦解する。憎しみを緩める目的が分からない。」
「憎しみが緩み争いが終わるなら、それこそが望むべき結果。
一刻も早く争いを終わらせ犠牲者を減らす。それより優先すべきものが有るとは思わない。」

 ...『犠牲者を減らす。』 前に、同じ言葉を聞いた事がある。何時?

 「争いを終わらせるために、お前自身が最後の犠牲者に、なると言うのか?」
「僕たちがどんなに手を尽くしても争いを終わらせる事が出来ないのは、
あの人の憎しみが解けないことも大きな原因だろう、だから。
勿論死ぬのは怖いし、未練もある。特に妻と娘を残していくのは...娘は、まだ6歳だ。」
愛する妻と大切な娘を残して、それでも自らの命を捧げて、争いを終わらせると?

 頭が、痛い。心の底に沈んでいた記憶が浮かび上がり、心の旧い傷が。

952『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:11:14 ID:scfGdIuY0
 「何故だ?言っただろう。戦うなら夜を、我の帰りを待てと、あれ程。」
弱々しい咳。我の腕の中で、その人は真っ赤な血を吐いた。
「太陽が地平線に隠れた直後、敵襲...夜まで待てば、村に残った人達を、だから。」
黄昏時に力を発揮できる亡者が混じっていたのか。一体、どうやって?
「でも、村の人々に、被害は出なかった。力を持たぬ人々の、犠牲を増やしてはならない。
成る可く早く戦いを終わらせ、彼我の、力を持たぬ人々の犠牲を最小限に。
だから、俺と共に戦った術者達は納得してくれたと思う。だが。」
「だが、何だ?」
「お前は、褒めてくれるか?俺たちは村の人々を守ったと。」
「ああ、お前達は、お前は良くやった。お前の力も我が教えた術も、全て越えて。良くやった。」
「そうか、なら」
我の腕の中で、あっけなく、その人の体から力が抜けた。
何故だ? 何故だ...
村の人々を守っても、お前を失ってしまったら、我はどうすれば良い? これから。

953『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:12:16 ID:scfGdIuY0
 「今、一体何と?近しい者を奪われた憎しみに呑まれれば、結局お前も闇に。」
「いいえ。憎しみに呑まれてなどおりません。ただ、あの御方の言葉を実現するために。」
そう、あの人は言った。『成る可く早く戦いを終わらせ、彼我の犠牲を共に最小限に。』と。
「どうか『黒の宝玉』を我に。宝玉の力で変化し、成る可く早くこの戦を終わらせましょう。
敵味方に関わらず、力を持たぬ人々の犠牲を最小限に、それが、あの御方の願いでした。」
「いくら類い希な『適性』を持つとは言え、女子の身で、其処までせねばならぬとは。
それにもし失敗すれば其方は、それではあまりに、過酷な...」
「女も男も、問題ではありませぬ。当主様のお慈悲は、どうか、あの御方と我の菩提の為に。」
「承知した。戦が終わったら◎✕とお前を偉大な先達の列に。」
「有り難う、存じます。」

954『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:13:23 ID:scfGdIuY0
 遠い、記憶。あれから、どれだけの時が流れたのか。
まさか今また、同じ言葉を。ならば我は。
「家族の話を聞いたから言うのではないが、犠牲などという考えは止めた方が良い。
あの男の頭の中には争いを終わらせるなんて考えは全くない。
あの男は本家の人間を殲滅して争いに勝つ事しか考えていないから。
それはあの男が組織した戦闘集団の術者たちも同じ。完全に洗脳されている。」
「そうか、なら別の手を...あれ?
君は僕を殺しに来たんだろう?どうして僕にそんな事を。」
「お前を殺すのは、気が進まない。正直に言えば、お前を殺したくない。」
「でも、契約に基づく仕事だから、もし違反したら君は。」
「我が消えても大した影響はないが、お前が死ねば、一族は未来を失う。そんな気がする。」
そう、もう潮時かも知れない。あの戦いの為に変化したが、
戦いの後、人外と成り果てた我が身を式としたのは、偏に一族を守るため、それなのに。
我の力を恐れる術者は、我に任務を与えることをも恐れた。
大した仕事も出来ず、挙げ句の果てに、一族の者の暗殺を請け負うなど、本末転倒。
長い時間の内に、我の感覚は曇っていたのだろう。

955『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:14:34 ID:scfGdIuY0
 「『●△の大難』から一族を救った式を失うのは惜しい。君が美人だからと言う訳でなく。」
「お前は我を、知っているのか。」 背筋が冷える、それなら事前に対策することも。
「君を寄越した人の予想が付けば、寄越す式の予想も付く。分家、いや、一族最強の式。
一族の大難に際し、黒の宝玉を身に着けて変化となり、多くの敵を倒した。
敵の反撃で黒の宝玉が欠け、変化を解くことは出来なくなったが、
それでもなお一族を守護する誓いを立て、自ら式となった。真に偉大な術者。
その功績と名誉は今も大切に、確実に伝承されている。
だからこそ君に、一度会ってみたかった。君になら、殺されても良いと思った。」

956『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:15:24 ID:scfGdIuY0
 「昔の、話だ。今はこのような任務を請け負う程、堕落した影に過ぎない。」
「君が堕落したんじゃない。堕落したのは契約を引き継いだ術者達だ。
契約の効力を一族全体の為でなく、一部の者の偏狭な考えの為に利用した。」
「契約がある限り、従う。だが、お前を殺すくらいなら、契約ごと、我が消えよう。」
「今此所で、契約を解除する方法がある。」 「まさか、一体どうやって?」
契約の当事者双方が同意しない限り、契約を解く事など。
男は机の引き出しから白木の小さな箱を取り出した。幾重にも施された厳重な、『封』。
「僕たちは史実を伝承するだけでなく、何世代にも渡ってずっと探し続けて来た。
一族の大難を救ってくれた恩に報いるために。 そして去年、とうとう見つけた。
一度は確保しながら、戦いの後の混乱で行方知れずになっていたもの。
あの戦いに協力した土着の術者の家を経て、小さな資料館の収蔵庫に保管されていた。
それが此所にある。失われた、『黒の宝玉』の欠片。
これがあれば、君は契約当時の君ではなくなる。つまり、契約は自動的に失効する。」

957『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:16:15 ID:scfGdIuY0
 既に宝玉と融合した体の変化を解くことは出来ない。
だが、失われた欠片を補えば変化が完成し、変化に許された力を全て使う事が出来る。
確かに、契約も失効する。しかし。
「何故だ?何故最初からその話をしなかった?何故わざわざその命を危険に曝した?」
「...確かめたかった。」 「何を、だ?」
「自分に当主たる器が有るかどうかを。
もし君に殺されるなら、僕には器がないという事だから。」
「変化が完成すれば、お前は絶対に我を殺せない。それなのに。」
「だから言ってるだろ。殺されるのは僕に器がないからで、それは僕自身の責任だ。」
その御方は白木の箱に触れて一気に封を解いた。躊躇無く、その蓋を取る。
「さあ、取り給え。これは、君の物だ。」

958『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:17:12 ID:scfGdIuY0
 「それで、確かめた結果は?」
「...僕に、当主の器があるということなのかな。あまり、気は進まないけどね。」
「気が進まないのでは困る。お前が当主にならなければ、契約は発効しない。」
「え、契約って。それはさっき失効したから君は。」
「新しい、契約だ。お前は美人が好きだと、そして我を美人だと言ったな?」
「確かに、そう言ったけど。」
「ならば、よもや我の願いを断る事はあるまい。」
足下に膝を折り、その御方の左手に口づけた。
「尊き御方。我が名は◎✕◇。
貴方様に従い、貴方様を守るとお誓い申し上げる。どうか我を僕に。」
「ええと、その、気持ちは嬉しいんだけど。契約はちょっと。」
「何故?」
「だって、勝手に君の契約を解除して、おまけに君を僕の式にしたと知れたら、
あの人は怒り狂うに決まってる。戦いを終わらせるのがもっと難しくなるよ。
あっさり僕を殺して、少しは溜飲を下げるつもりだったろうから。」

959『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:18:37 ID:scfGdIuY0
 「貴方様の僕になれないなら、我の力は無用の長物。生きる意味も無い。
ならば、せめて戦いを早く終わらせるよう、あの男を」
「待った。契約していなければ僕は血縁相克の大罪を回避できるけど、
あの人を殺したら、君は一族全体の仇として報復の対象になってしまう。
契約した術者を殺すなんて、それは式として絶対に。」
「望むところ。それがどんな相手でも反撃はしない。心穏やかに、座して死ねる。」
そう、この御方が、我に対し反撃の手段を全く用意していなかったように。
「参ったな。正直、君の契約を解いて自由の身にする所までしか考えてなかった。
恐らく君は、愚かな人間達の無益な戦いに辟易しているだろうと思っていたからね。」
「人は愚かかもしれない。だが我はその愛しさに賭ける。我も、かつて、人であったから。」
重い沈黙の後、その御方は深呼吸をした。
「さっき話した問題点を解決して、君の希望を叶える方法は1つしかない。
君が僕の暗殺に失敗して死んだ事にする。『上』を通してそう発表するんだ。
『分家の式が次期当主を暗殺しようとしたが失敗した。式は死んだ。』と。
死ねば契約は解除されるし、契約が解除されればあの人は君の動向を把握出来ない。
暗殺失敗には怒るだろうけれど、それは当然想定すべき結果だ。
でも、君にとっては相当な不名誉だよ。君ほどの式が任務に失敗するなんて。」

960『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:19:32 ID:scfGdIuY0
 「貴方様に負けた。それで良い。名誉など要らぬ。」
「本音を言えば、君が助けてくれるなら本当に心強い。でも、契約するには条件がある。
君は当分対外的な任務には関わらない。出来る限り、君の存在を隠すためだ。どうかな?」
「御意。」
「では、君の新しい呼び名を。ええと。そうだ、
君は決して堕落した影なんかじゃない。だから、みかげ、御影はどうかな?」
「有り難う存じます。」
その御方の、照れたような笑顔が眩しい。
「それで...御影は、出来ればこれからずっとその服でいて欲しいな。凄く、綺麗だから。」
「御意。」 全てこの御方の、仰せの通りに。

961『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:20:55 ID:scfGdIuY0
 今日も水平線に陽が沈む。
夜の帳が下りれば、彼方此方の影に拡散していた我の感覚は1つに繋がり、
この場所を覆う大きな傘となる。この場所から少し離れて、あの御方のお社とお屋敷。
あの御方は本当に、敵対する術者の殺害を我に命じなかった。
あの御方の命を狙い、以前の私を差し向けた、あの狂った男の殺害さえも。
私に与えられた御役目は、『聖域』の境界の守護。
この場所を護り、この場所から『聖域』に侵入しようとするモノを排除する。
ふと、感覚の端に違和感。星影に紛れた、微かな、気配。
「秋津殿、戯れが過ぎると、今に間違いが起きよう。そうなっても、責任は取れない。」
「見破られたか。さすがは御影。これなら『聖域』は安泰。安心して隠居出来る。」
我の前任者、一族の黎明から今までを見守ってきた、最古の式。
「して、本日は何の御用かな?この所、穢らわしい船で近づく不心得者が増えて忙しい。
正直、暇な御老体の相手をしている暇は無いのだが。」
「綺麗な顔をして、相変わらず取り付く島も無い。せめてもう少し愛嬌があればの。」
「もし我に一片の美あれば、それはあの御方のため。他の誰のためでもない。」

962『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:23:13 ID:scfGdIuY0
 「...しかし其方がどれ程想いを掛けようと、あの御方は人の身。
その真心も、美しい漆黒の衣も、報われる事はあるまいに。」
「既に全てが、報われている。それにもし報われずとも、我の心は変わらぬ。」
「まあ良い。美味い酒が手に入った、夜光の杯もこの通り。付き合うてくれ。」
「肴を用意しよう、今の季節なら。」
「錆び鮎の塩焼きかな、茸の蒸し焼きもあれば猶良い。」 「贅沢な年寄りは嫌われる。」
「そう言わずに。ほれ、一献。見よ。望月が美しい。何度見ても、な。」
確かに、何度見ても美しい。これから何百年の後もずっと。だが、何時かあの御方は...
いや、今は考えない。ただ、日々心を込めて、あの御方に与えられた任務を果たす。それだけ。
そう今は、それだけで良い。

『契(中)』 了

963 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 21:26:40 ID:scfGdIuY0
皆様今晩は、再び藍です。

無事『契(中)』の投稿を終える事が出来ました。
(下)以降を投稿することが出来るかどうかは未だ分かりませんが、
此所までお付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
本当に有り難う御座いました。

964名無しさん:2016/02/16(火) 22:23:41 ID:nxJaLFJIO
投稿ありがとうございます!
Sさんのお父さんはとても魅力的な方ですね、覚悟や責任感や器など色々なものが偉大です。凄いです。
憎しみに憎しみを抱く未熟者なので、尊敬します。
「伝承」は本当に大切ですね。明治維新後の伝承の途絶え方に途方に暮れているところです。
それでも歌や昔話や遊びにヒントを残して下さったご先祖様方に感謝です。

本当に続きの投稿ありがとうございました。とても興味深かったです。

965 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/16(火) 22:51:43 ID:scfGdIuY0
藍です。

早速のコメントを頂き、とても嬉しく思います。込み入った事情があり、
個別の返信は控えておりますが、全てを有り難く拝読しております。
多くのコメントを頂き、(下)以降を投稿する事が出来れば嬉しいです。
きっと皆様のコメントが、説得材料になると信じています。

では、今夜はこれにて。ご機嫌よう。

966名無しさん:2016/02/17(水) 00:21:00 ID:ZYr84F8s0
ご投稿に感謝致します。
美しき式,美しき魂,そして時代を超えて紡がれるその美しき物語。
今回の物語の行方がRさんの五日行にどうつながっていくか,本当に楽しみです。

967名無しさん:2016/02/17(水) 00:40:23 ID:dDULxibc0
ふむ。黒の宝玉は破壊されたのではなく憑代になっていて輪廻の円環から外れた術者を作り出した事
南の守護の為に北が役目を得ている構図と韻を踏んでいると思ったのだが。
黄龍に従うとは形式上のものであったのか。

壬申の乱だとしたら背景を今一度練り直さねば。

968名無しさん:2016/02/17(水) 20:41:21 ID:dDULxibc0
御影さん視点の物語ですか。コレイイ。川の神様とかのもあるのかな。
しかし・・恐れられていたという事は恐れられるような事をしたという事であって
一体何をやらかしたんでしょうなぁ。仕事の依頼が少なかったってことろは少し気になる

969名無しさん:2016/02/19(金) 01:49:06 ID:2WQC3Qw2O
(;´д`)みかげさんは
男性的なイメージでした

一新しました

970名無しさん:2016/02/23(火) 00:06:41 ID:BRsgbXo20
まだかなぁ〜

971名無しさん:2016/02/26(金) 14:26:22 ID:ab2duLI60
かなあ〜

972名無しさん:2016/02/26(金) 14:45:49 ID:JCzLFX5A0
まあ のんびりお待ちしましょう(^v^) 気持ちは分かりますが〜

973 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:39:32 ID:/gDcHzP60
テスト中です。

974『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:42:30 ID:/gDcHzP60
 眼が、覚めた。腕の中の、温かく滑らかな感触。
Sさんか姫、でなければ翠。 そっと抱き寄せて...いや、待て。そういえば昨夜。
一気に高まった鼓動に混じって聞こえてくる、これは、寝息?
その寝顔は何だか可愛くて、安らかで、見ているだけで胸の鼓動が静まっていく。
自分の事だけでいっぱいいっぱいだったから思いが至らなかったけれど、
ここへ来てから御影さんは何時、いや、そもそも寝ていたのか。
『特に寝る必要はない』と管さんから聞いた事がある。『必要ならずっと起きていられる」と。
でも管さんとは違う。『生身の体に化生したのは初めてだ』と御影さんは言った。
それなら、こんな風に眠るのは一体何年振りなのか。
あの四股の効果はまだ続いているから、何の問題も無いのだろうけれど、
それにしてもこんなに無防備な寝顔を。もう少しでも寝てもらった方が。
その時、微かに身じろぎをして御影さんが眼を開けた。
「朝か?」 「いいえ、まだ夜明けまではもう暫く。」
「とても、気持ちが良い。もう少し寝かせてくれ。」 「はい。でも、今日の行は。」
「今日の行は、問題なく」 言い終わらない内に、寝息が聞こえた。

975『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:43:49 ID:/gDcHzP60
 「『寸鉄人を殺す』の例えはこの術が出所だという話がある。
初めは蝋燭の火を消す。かわらけを割れるまでになれば充分。
此所では力が増しているし、恐らくお前はこちらの方が得意だろう。半日もかかるまい。」
言霊に物理的な影響力を与え、必要なら弾や刃としても使えるようにする術。
御影さんの言葉通り、その日の行は滞りなく成就した。
此所を出て力が元に戻れば、多分蝋燭の火を消すのがせいぜい。
でもきっと、依頼人に見せる手品代わりにはなるだろう。
それよりも適性を自分で細かく制御できる技術を習得した事に重要な意味がある。
(もちろんこれも御影さんの受け売りなんだけれど)

 翌日は5日め、いよいよ最終日。
 『五日行』が成就するかどうかは、最終段階の行の成否による。
ただ、その行は夜が更けてから始まるのだそうで、
御影さんは朝食の後出かけたまま、夕方前まで帰ってこなかった。

976『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:45:09 ID:/gDcHzP60
 夕食の後、風呂。暫く部屋でボンヤリしていると、御影さんに声を掛けられた。
予め指示されていた白い道着に着替え、昨日まで修行していた板の間に移動する。
俺と御影さんは正対する位置で胡座をかいていた。
蝋燭の明かりが、御影さんの端正な顔をゆらゆらと照らしている。
「簡単に説明すると、今からお前はこの庵を出て更に登り、山頂を目指す。
その途中で幾つかの試練が用意されている。
最後の試練は山頂近く、小さな祠の前。其処で夜明けを迎えられれば行は成就。
案内の者が現れる筈だから、その者に着いていけ。」
此所を出るって事は...。

977『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/26(金) 21:46:36 ID:/gDcHzP60
 「それだと、御影さんが張った結界を出ることになりますね。」
「当然だ。様々な怪異がお前の行く手を遮ろうとするだろう。
だが、決して振り向くな。そして、引き返すな。何としても最後の試練を乗り越えろ。
もしも、それが...」
「最悪の場合、僕を処理する。そこまでが、御影さんの仕事なんですね?」
あの夜、乾杯した時に俺なりの覚悟はしていた。あれは、水杯。
御影さんは立ち上がり、背後に廻って俺を抱き締めた。
「無事に戻れ、必ず。お前を、殺したくない。」
背中に感じる温もりが急速に薄れ、ぞっとするほど冷たく。
『行け、時間だ。』 太く、低い声が響くと同時に、背中の感触は消えた。

978『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:20:33 ID:ifWbxSHQ0
 庵を出て、山道を登る。思った程、妖の気配は強くない。
ただ、山道の斜度がきつくて、登り続けるのがかなり辛い。
次第に道も悪くなる。まさかこれが1つめの試練という事は無いだろうが。
暫く上ると道はやや平坦になった。額の汗を拭い、ペットボトルの水を飲む。
濃い霧の中、LEDの小さな懐中電灯が照らす範囲以外は、白い闇に閉ざされている。
一体、道を外れたらそこは。その時、それが聞こえた。俺の背後からやや離れて、足音?
思わず振り向こうとして、御影さんの言葉を思い出した。
『決して振り向くな、そして引き返すな。』
歩きながら耳を澄ます。気配は1つ。しかし、その足音。
少なくとも人ではない。絡まり合った足音に、何かを引き摺るような音が混じっている。
ゆっくりと、ゆっくりとそれは近づいて来た。 もうすぐ後ろ、何だか寒気がする。
ふと、笑みが浮かんだ。これでは、まるで同じだ。何も変わっていない。
子供の頃、夜道を通って家へ帰る途中、怖くて怖くて仕方なかった。
闇の中に、得体の知れない恐怖が潜んでいる気がして。しかし。

979『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:26:16 ID:ifWbxSHQ0
 『本当に怖いのは、人の心の闇。』
そう、今なら俺は知っている。救いの無い真の闇が現出し得るのは、人の心の中だ。
それに今俺の後ろに感じる気配は、子供の頃に想像した闇に潜む恐怖そのもの。
それに気が付いた時、背後の気配は消えた。
最初の試練は俺自身の弱さが生み出した幻、あるいは俺の弱さにつけ込もうとした妖か。
どちらでも構わない。今はただ、前へ。次の試練へ向かうだけ。
その後も幾つかの怪異が現れたが、俺は御影さんの言いつけを守った。
決して振り向かず、引き返さず、道とも言えぬ細い道をただひたすら前に。
気味の悪い呼び声。助けを乞う血まみれの女性。子供騙し、だと思った。
此の場所に満ちる気で怪異は力を増している筈なのに、こんな。
現れる妖たちが何故これ程見え透いた手を使い、いとも簡単に引き下がるのか。
そう、修行の効果で俺の力が増している。化生していたとはいえ一族最強の式に、
あの御影さんに修行の相手をして貰ったのだから、誰も俺の行く手を阻む事は出来ない。
自信の裏に生じた微かな慢心。思えばその時から、俺は危険な陥穽に踏み込んでいた。

980『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:30:12 ID:ifWbxSHQ0
 さらに歩き続け、11時を過ぎた頃、辺りの様子が変わった。
LEDライトで周りの様子を確かめる。草一本生えておらず、獣道のような痕跡も見えない。
ライトを右に向け、次に左。視界の端に何か見えた。小さな祠。
此所が、最後の試練の場。
歩み寄り、深く一礼。祠に背を向けて胡座を掻き、目を閉じて心を静める。
...ピチ...キン。冷えた岩が収縮する音。口笛のような高い音は岩の間を縫う風の声。
ゆっくりと、静かに時間が過ぎていく。一体どの位経ったろう。
このまま朝を迎えられればお屋敷へ帰れるし、今後もこの手で翠を育てる事が出来る。
そしてもし、藍や丹が優れた素質を現し始めたとしても、俺の資質が問われることは無い。
翠は、藍は、どうしているだろう。早く、一刻も早く帰りたい。その思いが隙を生んだ。

981『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:33:14 ID:ifWbxSHQ0
 目の前に並んだ、小さな背中が2つ。見覚えのある、懐かしい景色。
「お父さんがいなくて寂しいね。翠は、お父さんが大好きなのに。」
「あのね、あいも、おとうさんだいすきだよ。」
「藍は男の子でしょ。翠は女の子だから、藍の好きとは違うの。」 「ちがう、すき?」
「そう、翠は何時かお父さんのお嫁さんになる。そして可愛い赤ちゃんを産むんだから。」
酷い目眩。確か、前にもこの光景は。あれは何時だったろう?

 「お父さん。」

 女の子が立っていた。7・8歳くらい?初めて見る顔と姿。
でも、確かに残る面影。間違いない、翠が成長した姿。
『あの人』の生まれ変わり、しかし宿った肉体が違うのだから成長した姿も「あの人」とは違う。
「修行が上手くいって良かったね。一緒に帰ろう。お屋敷に。」
歩み寄り、話しながらその姿は成長していく。 15・6歳? 綺麗だ。
「お屋敷に帰ったら、私をお父さんのお嫁さんにして。」

982『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:35:43 ID:ifWbxSHQ0
 目の前に浮かぶ、美しい顔。潤んだ眼と、紅い唇が艶めかしい。
全身全霊をかけて育てる。そう誓った。では、育てた後は?
成長した後も、その願いが変わらないとしたら俺は...
いや、そもそも俺はその願いが変わることを願っているのか。もしも。
「今度こそ、きっと...R、さん。」
一瞬で、俺の心は覚めた。 『あの人』の記憶は完全に封じられたのだから、
翠が俺を『R』と呼ぶことはあり得ない。
御影さんの言った通り、これは俺の弱さと醜さ。
右掌に甦る、柔らかな温かい感触。心のずっと奥、未だ癒えぬ傷口。
分かってる。 助けたかった、叶えて上げたかった。 心残り。
弱く、醜い。 本当に俺が翠の父親としてふさわしいか、それは自分自身で判断すべき事。
もし俺が此所で死ぬのなら、俺には資格が無かったと言うだけ。
肩の力を抜き、深く息を吸う。

 『・・・ ・・・ ・・・・・』

 雷鳴を、聞いた気がした。 しかし雨の一粒も、黒雲が生む強風も、何一つ。
そして何時の間にか、暁の空が夜明けを告げている。

983『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 01:41:07 ID:ifWbxSHQ0
 「まさか今の世に、『五日行』に挑む者がいるとは。長生きはしてみるものよ。」
小さな笑い声。振り向くと、灰色の法衣を着た老人が立っていた。これが、案内の。
「あきづ、だ。おや?」 老人の右半身。輪郭がぼやけて、やがて戻った。
「やれやれ、化生も満足に、年は取りたくないのぉ。さ、ついて参れ。」
発言に矛盾がある気もするけど、『あきづ』って、確か昨夜の。
「既に儂の名を。ふむ...あの唐変木に気に入られたか。何と不思議な。」
やはり、御影さんの記憶にあった一族最古の式。
それからは2人、黙って、険しい斜面を登り続けた。道とも言えないガレ場が続く。
空は次第に明るさを増した。たどり着いたのは少し開けた場所。
相変わらずの濃い霧で様子は分からないが、視界全体がボンヤリと明るい。
周りに明るさを遮る影は見えないから、きっと此所が山頂。
そして、その場所の中央近くに小さな祠。
「千年あまり前、此所に術者を1人案内した。それが、お前達の一族の開祖。」
小さな祠の後ろには大きな岩があり、その脇に...泉?
1m四方ほどの深み。清らかな水を湛え、そこから一筋の水が流れ出している。
「近付いて水底を見よ。ただし、まだその水に触れてはならん。」

984 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 02:04:16 ID:ifWbxSHQ0
皆様今晩は、藍です。

少々トラブルも有ったのですが、本日予定の投稿を終える事が出来ました。
続きは明晩以降、成る可く早くにと考えております。ではまた。

985名無しさん:2016/02/27(土) 14:54:23 ID:YIuLBkikO
待ちに待った投稿、知人さん藍さん大変ありがとうございました。五日行の続きを心から楽しみにしています。

986 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:16:06 ID:ifWbxSHQ0
テスト中です。

987 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:18:26 ID:ifWbxSHQ0
皆様今晩は、藍です。

以下、『契(下)』以降を投稿いたします。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

988契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:20:01 ID:ifWbxSHQ0
 険しい山頂に湧く泉、それだけで既に俺の理解を超えている。一体、水脈は?重力は?
『触れてはならん』という言葉には、当然その理由があるのだろう。気を抜くことは出来ない。
慎重に、流れ出しの反対側から泉に近づく。深さも1mくらい?思っていたよりも深い。
水面の反射を避け、ほぼ真上に身を乗り出した時、『それ』は見えた。
水底、他の石とはまるで違う。透き通る濃い黄色という言葉でしか表現できない。
これに比べれば琥珀やトパーズは黄色ではなく、茶色。
今まで、こんな色の宝玉を見たことは無い。そして何より、この形。
「見えるか。」 「はい、今まで見たこともない...何て、言ったら良いのか。」
そう、言葉が無い。俺の適性こそ『言の葉』なのに。
左、右。老人は首を大きくぐるりとまわし、ため息をついた。
「この宝玉が開祖を所有者と認め、代々の世嗣がその力を継承する事を許した。
それがお前たち一族の始まり。以来、開祖を此所に案内した儂は『眼』と称された。
秋津という名とは別にな。それが、あの御方が儂に残してくれた、一番の名誉。」
『眼』、御影さんの記憶に、確かその言葉も。 あきづ=眼=この老人。

989契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:22:47 ID:ifWbxSHQ0
 何時の間にか、老人は小さな柄杓を手にしていた。泉の水を汲み、それを俺に。
きっとこれは『手水』の作法、正座をして深く一礼、右手で柄杓を受け取った。
今まで数えきれぬほど、体に染み込んだ所作。自然に、遅滞なく体が動く。
その水を口に含んだ時、俺は『五日行』の意味を理解したのだと思う。
そして恐らく、当主様の意図を。
「必要な修練を積まぬままでも、『力』を現し術を使う者は希におる。
術者を鍛え育てる手段を忘れた旧い家系、術者の家系以外でも変わり者は生まれるから。
大抵は極く簡単な術しか使えない、基本的な修練を積めば済む者たち。
しかし『奥義』に近づく事が出来る力となれば話は別。
これは、失われた時を埋めるための行。十数年を五日で、無理は承知の荒行。
例え試練を乗り越えても、宝玉に拒まれれば、灰も残らず焼き尽される。
さあ、戻ろう。既に使者が、いや、迎えの者が待っている筈だ。」
使者、か。この行を成就出来たかどうかを知るための。
それはそうだ。もし俺があの水で焼き尽くされたなら...自然に笑みが浮かぶ。
「まるで、他人事だな。ところで、聞きたいことがある。」 「はい、何でしょう?」
すいすいとガレ場を下るその老人を、遅れないように追いかけた。

990契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:23:56 ID:ifWbxSHQ0
 「妖が見せた夢だと見破りながら、あの答えを選んだのは何故だ?」
「選んだ訳じゃありません。僕の中の答えは、あれだけでした。」
「...成る程、あの唐変木がお前を。」 「唐変木で、悪かったな。」
俺の右隣を御影さんが歩いていた。下って行く道の先に、あの庵が見える。
「御影さん、有り難う御座いました。お陰様で。」 「うん。」 小さな声、前を見て歩き続ける。
しかし『一族最古』と『一族最強』。 何で俺が、こんな豪華なシチュエーションに。
庵を通り過ぎても老人と御影さんは歩みを止めない。2人の後を追う。
「まさか、御自ら?」 「五日前も、そうだった。そういう、御方だ。」
??? 何の、話?
5日前、此所に来た時車を降りた場所に出た。やはり、あの時と同じ車。
2人が立ち止まり、揃って片膝を着いた。深く頭を下げる。一体、何?

991契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:26:09 ID:ifWbxSHQ0
 運転席のドアが開き、男性が降りてきた。あの時の、でも今日はマスクとサングラスが。
!! あの時に気付いていた筈なのに、何故? 当主様なら、その気配だけでも俺は。
いや、今はそれどころじゃない。慌てて御影さんの右隣で片膝を着いた。
「まずは御影、Rの行が無事成就したのはお前の指導有っての事。礼を言う。」
「いいえ、私はただ。」 俯いた御影さんの頬が紅に染まっている。とても綺麗だ。
「それで、Rをどう見る?」
「その来歴故、最高位の術者としては未だ非力、心に巣くう虚も看過できません。」
「未だ荷が、重いかな。一族の希望を託すのは。」
「いいえ、時が経てば力は増し、想いが虚を満たしましょう。肝要なのは一途な情。
ならばこの者は一族の宝を託すに最適な術者。
一途な情の織りなす揺り籠、その強さと暖かさは余人を持って代え難し、と。」
「そうか、なら良い。Rにこの行を課した甲斐がある。」
当主様は微笑んで体の向きを変えた。

992契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:27:36 ID:ifWbxSHQ0
 「さて秋津、何を見た?我が一族の『眼』が見たものを教えてくれ。」
「来たるべき者。既に生まれ、目覚めを待つ者。」
「そう、か...今後私がこの任を担うべき時間は?」
「十二乃至十五年。それまでは、どうか。」
「長いな。それまで私は生きていられるか。」 「いざとなれば...」
御影さんと老人の姿がゆらりと薄れる。
老人の最後の言葉は聞き取れなかったが、当主様は微かに笑みを浮かべていた。
「さて、出発だ。皆も着いた頃だろう。」 当主様は踵を返した。慌てて後を追う。
『皆も着いた頃』って? 皆は今、何処に?
「もしお前を失えばSは正気を保てないかもしれないと、桃花の方が。
それで今朝、皆で私の館へ来るように伝えて置いた。
勿論お前ならきっと成し遂げると信じていたが、
最悪の事態に備えるのが私たちの仕事。気を悪くしないでくれ。」

993契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:28:31 ID:ifWbxSHQ0
 「気を悪くするなんてとんでもありません。それより運転は、どうか私に。」
「いや、それは危険だ。此所を出れば一気に疲れが出るし、死ぬほど、痛いぞ。」
イタズラっぽい笑顔。 俺は先回りして運転席のドアを開け、膝を着いた。
当主様が乗り込むのを待ってドアを閉め、後部座席に乗り込む。
「あの、当主様、質問があります。」 「御影のことか?」
「はい。御影さんは当主様のことが好きなのに、何故御影さんの気持ちを。」
「御影の心には今もある御方がいて、私にその面影を見ている。
未だ心の古傷が癒えていないなら、心残りに縛られるのも無理は無い。」
そうか、御影さんの記憶。 御影さんの腕の中で息を引き取った、若い男性。
「当主様なら、きっと御影さんの傷を癒やせると思います。」 そう、御影さんは確かに。
「御影に宝玉の欠片を返したのは私の独断、当然異論も有った。
だから万に一つも、誤解を生みたくない。」

994契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:30:08 ID:ifWbxSHQ0
 「誤解、ですか。」
「もし私が御影の想いを叶え此の場所に通っていたら、誤解する者が出ただろう。
『御影は好きな男のために寝返った。』と。今後も、それだけは避けたい。
私への想いとは関係なく、御影は一族に取って最良の選択をしようとしたのだ。
『●△の大難』を終わらせ、力を持たぬ人々を救うと心を決めた。
だから宝玉の器に変化して敵の主力を単騎で壊滅させ、
更に『●△の大難』の後は自身を式として一族を護ってきた。
その名誉を傷つけることは絶対に許されない。それに。」
一瞬、バックミラーの中から、当主様の視線を感じた。
「御影はお前にも、その御方の面影を見ている。そしておそらくお前の方がその御方に...
傷を癒やすのはお前の方が適任だし、お前が相手なら、要らぬ誤解をする者も出ない。
どうだ、時々は此所で御影と暮らしてみるか?それならあの庵をお前にやろう。」
「いや、でもそれは。あ、済みません。動転して失礼な物言いを。」
「冗談だ、気にするな。御影の傷が癒えれば良いとは思うが、互いの気持ちが最優先。
それに、『代役』が御影の心の傷を癒やせるかどうか、正直分からない。
ただ、癒えぬ傷の痛みに耐える強さを御影は持っている。そしてそれはお前も同じ。
傷の痛みに付け込まれても、闇に飲まれることは無いと自ら証明した。
そして、同じ傷の痛みに耐えている者だからこそ出来る心遣いがある。」

995契(下) ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:31:01 ID:ifWbxSHQ0
 「お前なら、『同情』でなく御影に『共感』できるだろう。
これからはどうか、御影の良き友となってくれ。それだけは、頼む。」
「身に余、あっ...」 全身に激痛、息をするのも辛い。これが。
「境界を越えて体の強化が解けた。打撲の痛み、筋肉痛。
あと疼痛というか神経痛も。暫くすれば薄れてくる、それまではひたすら我慢。」
当主様の口調はいかにも気の毒そうだが、それも、正直少し恨めしい。
それから一時間あまり、俺は後部座席でのたうちまわった。

『契(下)』 了

996『契(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:32:55 ID:ifWbxSHQ0
 「それで、『来たるべき者』と『目覚めを待つ者』については詳しく聞かなかったのね?」
「はい。話の感じと12〜15年っていう期間で、次の当主の事だと思ったんですけど。」
「ええと、翠ちゃんは女の子だから関係ない、と。」 「はい。」
Sさんと姫は黙って顔を見合わせた。 何となく気まずい、間。
「話してなかったから仕方ないけど、当主は男性って決まってる訳じゃ無い。
実際、今までに何度か女性が即位した例がある。
そういう場合は桃花の方を男性が務める。その女性の夫や兄弟、あるいは従兄弟。」
一気に血の気が引いた。 「じゃあ、もしかしてあの話は翠の?」
「それだけじゃない。藍にも、丹にも、可能性がある。」 「そんな、まさか。」
「可能性の話です。つまり、Rさんの行が成就した日にその質問をなさったのだから、
Rさんに関わりが有ると考える可能性が高い。そういう解釈も出来ますから。」
もし自分の子が...いや、慌てる必要は無い。当主様の代替わりは何時か必ず起こるのだし、
一族はそうやって千年余の命脈を繋いできた。それなら。

997『契(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:35:33 ID:ifWbxSHQ0
 「その可能性があるとしても、今までの生活を変える必要はありませんね。」
「...どういう、こと?」 呟くようなSさんの声。姫も黙って俺を見詰めている。
「子供たちを一生懸命育てて、その資質が開花すれば、当然術者への道が開ける。
術者として更に成長した結果がどうあれ、受け容れる覚悟は必要です。
もし『それ』が3人の内の誰かなら、僕たち3人が出来る限りのサポートをすれば良い。
SさんとLさんは、あの子たちを産む時に、その覚悟をしてたんでしょう?
お待たせしました。僕もようやく、その覚悟が出来ました。」
2人は代わる代わる俺を抱き締めてキスをしてくれた。
その涙の美しさを、俺は一生忘れない。
そう、必要ならこれからも、どんな行にだって挑むことが出来る。
「ところで、子供たちの教育のために、考えていた事があるんです。」
Sさんと姫は涙を拭って俺を見つめた。

998『契(結)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:36:23 ID:ifWbxSHQ0
 それから一週間程して、俺たちは雪をお屋敷に引き取った。
翠の仲介もあったのか、雪は管さんや鵬とも上手く馴染んだ。
晴れた日の午後、ウッドデッキで日向ぼっこをする狐と巨大な猛禽と秋田犬。
それぞれの大きさからして遠近感が滅茶苦茶な、不思議で心暖まる風景。
もちろん、家族皆が雪を愛し、あの妖が授けてくれた寿命が尽きるまでの2年間、
雪は俺たちに沢山の笑顔をくれた。 そして。

『契(結)』 完

999 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/27(土) 20:39:47 ID:ifWbxSHQ0
皆様今晩は、再び藍です。

色々有りましたが、『契』の投稿を無事に終えることが出来ました。
大幅な書き換え等は有りましたが、投稿の許可を頂けて良かったです。
全て、皆様のコメントの御力故。有り難う御座います。

1000名無しさん:2016/02/27(土) 21:39:55 ID:EZqE5VDE0
面白かった

1001名無しさん:2016/02/27(土) 23:23:51 ID:I6EftpfQ0
藍さんの寝落ちに付いていけなかった・・
私の毎日のクリックを巧妙に避けられるとは
翠さんが誰かを好きになるときに封印は解かれるのかもね。
行はその前なのか、後なのか。

でもね、もういちどあの薄暮。あの草原をRさんが見れるといいね。

1002名無しさん:2016/02/27(土) 23:48:37 ID:I6EftpfQ0
大難の設定だが、前九年の役であれば符合するかもしれませんね。
狼の生息する標高の地形がある(アカメの生息域の北端とは違ってしまうが)
上流にダムもあるしX田物部氏とも思ったが名前の上の字が「長」だと代が昔過ぎる。
戦乱の有った地のひとつに玉造の地名がある。

1003名無しさん:2016/02/28(日) 06:43:27 ID:4yHxEX.EO
投稿ありがとうございます。最後まで読めて嬉しいです。
5日行が無事に済んで、みなさん良かったです。黄色い泉はヨミと文字が合いますね。
有名な修験場とは違いそうですが、そういう神秘が幾つかあるようで興味深いです。
雪ちゃんと式さん方のアンバランスな情景、見てみたいです^^
トラブルの中、投稿を続行して下さってありがとうございました。お疲れ様です。

1004名無しさん:2016/02/28(日) 12:59:06 ID:AhhnqWXUO
五日行は予想を遥かに超えた意味深いものでした。幼な児たちと一族の未来に幸あれ。この物語はいつも想定外の展開を見せながら、他では知ることのできない秘儀を垣間見せてくれます。
なお、管さんと鳥さんと雪ちゃんの姿が目に浮かぶようでとても微笑ましいです。

1005名無しさん:2016/02/29(月) 10:01:18 ID:lC4sOFw60
原本と違ってこの物語は藍さんに元気になって欲しくて続いてきた気がするね
公開の順番にも意味があるのかもしれない
それゆえに厳しくも前を向けと声なき声が横たわっている気がする

1006 ◆iF1EyBLnoU:2016/03/04(金) 00:09:46 ID:zuKQ9dF60
皆様今晩は、藍です。

早速沢山のコメントを頂き感謝いたします。
心の底から共感できるコメント、博識に感心する深いコメント。
個別の返信は遠慮させて頂いておりますが、全て有り難く拝読しております。
ただ、自身の体調の問題もあり、暫く留守に致します。

急ぎの対応は留守の者に任せておりますが、少々頼りないのが心配の種です。
それでは、『次』を投稿できる日を信じて、御機嫌よう。有り難う御座いました。

1007名無しさん:2016/03/04(金) 07:20:08 ID:fQ91Vmg.O
具合が良くなかったんですね、いつもトラブルを乗り越えての投稿ありがとうございました。
どうぞご自愛下さい。

1008名無しさん:2016/03/06(日) 02:14:49 ID:oJl43hAM0
インフルエンザで5日間隔離・・
枯れ木さんが次に罹患のパターンかも

1009名無しさん:2016/03/11(金) 00:07:59 ID:31X2bu6M0
また来ましたね。この日が。
みんな生きててくださって有難う。
神様、お役目や誓いが必ず果たされますよう、我が祈り、人々の気持ちがカタチになります様よろしくお願い申し上げ奉ります。

1010名無しさん:2016/04/05(火) 12:52:08 ID:Fvkzn0NIO
次スレ立てなくても良いのかな…

1011名無しさん:2016/04/05(火) 23:38:17 ID:tYD9igYM0
スレ建てするんなら弟氏の出番と言えるが

もしかしたら藍さんのお加減思わしくなくて、付き添いしてるかもね。気長に待つべしだな。

1012上下段のベッドの人:2016/04/07(木) 20:01:39 ID:SSw4OEjA0
受験生の頃、兄弟でベッドを使っていたときに上段で寝ていた私は奇妙な夢を見た。

女が自分に覆い被さって覗き込む夢だ。
長髪で服を着ていたかまではわからないが、とにかく怖かったのを覚えている。

しかし朝には無論そんなものはいなくて、そのときの私はただ「変なものをみたな」
くらいにしか思っていなかった。

ただ、その次の日の深夜のこと。
私が机に向かって受験勉強をしていたときに弟がふいに起きてこちらに来た。

弟は半分寝ぼけながらもむにゃむにゃと何事か寝言を言うと(当時の弟は小学生だったが、
ふいに起き上がっては一人で寝言とか言ったりするタイプだった。)
ふらふらと兄弟で使っている部屋から出て行ってしまった。

聞けば、その晩は母親の部屋に行き、そのまま母の布団で一夜を明かしたらしい。
私は甘ったれた小僧だと思っていたが、そのときに母親の言った一言が少し怖かった。

「なんでもね、髪の長いお姉さんが自分を覗き込んでて、怖かったんだって…。」

私と弟は、いったい何をみていたんだろうか…?

1013上下段のベッドの人:2016/04/07(木) 20:15:26 ID:SSw4OEjA0
すみません。書き込む場所を間違えました。
駄文失礼いたしました。

1014名無しさん:2016/04/13(水) 23:56:46 ID:jV787j360
もしかして・・二人になって帰ってくるのかもしれないな

1015 ◆iF1EyBLnoU:2016/04/18(月) 23:51:59 ID:Wozqtx6c0
皆様、今晩は。藍です。

先程帰りました。ただ、諸事情により、明朝直ぐ仕事に出ます。
何時仕事の区切りが付くか分かりませんが、精一杯頑張るつもりです。
そんな訳で「次作」の投稿は明言できません。御免なさい。

1016名無しさん:2016/04/19(火) 13:35:31 ID:J0JtEnAUO
藍さんお疲れ様です。
慌ただしい中、お知らせありがとうございます。
どうぞお気をつけて下さいm(_ _)m

1017名無しさん:2016/04/20(水) 00:58:53 ID:Rqkw8ito0
藍さん、のんびりとお待ちしてます^^
ご自愛くださいね。

1018名無しさん:2016/04/21(木) 00:10:49 ID:34OtVijI0
まずは無事に辿り着くことを祈念して。

1019名無しさん:2016/04/30(土) 17:52:40 ID:g3ooVi.6O
藍さんのご健勝をお祈りいたします。また発表済みの作品を読み返しながら「次回作」を待ってます。

1020枯れ木:2016/05/10(火) 21:03:26 ID:xYPvV/xQ0
 本日昼過ぎ、姉が家に戻りました。
暫く仕事の予定はないと確認済みです。

 ただ、かなり消耗が激しいらしく、暫くは目を覚まさないでしょう。
正直、物語の行方を尋ねる気にもなれない様子でした。

 まとめのコメント返信等、引き続き失礼を致しておりますが、
姉自身からのコメントを落ち頂ければと存じます。

1021名無しさん:2016/05/10(火) 23:20:31 ID:Nw1Oe/jg0
さてはて列島は守られるのかどうか。

阿蘇神社見たけど胸が痛むね。どうか一柱でも災いから免れていただきたいものだ

1022名無しさん:2016/05/11(水) 08:39:37 ID:d238ZcF.O
枯れ木さん、お知らせありがとうございます。
藍さん、お疲れ様です。ゆっくりお体を癒されて下さい。

1023 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/14(土) 18:45:02 ID:tjlBh92o0
皆様今晩は、お久しぶり。藍です。
先程までダラダラして体調も少し回復しました。

『新作』と言えるかどうか判りませんが、今度の仕事の終わりに
掌編を1つ、知人から預かってきました。
以前非公開となった作品なので、これから原稿を精査して
指示された条件で明日から書き直し作業に入ります。

期待して下さる方がまだおられるなら、
どうかゆっくり、気長にお待ち頂ければと存じます。
ではまた、いつかきっと、此所で。

1024名無しさん:2016/05/15(日) 02:04:22 ID:btCfCW/sO
お待ちしてます♪

1025名無しさん:2016/05/15(日) 18:33:24 ID:hPxyDJWQ0
嬉しいなぁ♪新作が読めるこの幸せ!
藍さん、どうも有難うございます!!
でも、くれぐれも無理はなさらないでくださいm(__)m

1026名無しさん:2016/05/15(日) 21:29:22 ID:54qwGcvQO
ありがとうございます。待ちに待った新作,とても楽しみです。

1027名無しさん:2016/05/17(火) 00:18:39 ID:q3bILnNU0
おかえりなさい。

1028名無しさん:2016/05/18(水) 12:34:45 ID:neESg9fY0
Rさんご夫妻に会う夢を見た‥
他心通を使える人を前にして、Sさんの、子供を作ろうと思うのやり取りを思い出してしまい、笑が込み上げてしまうのだが、当たり障りのないのだから言葉の最中に「ぶふぉ」と息がもれてしまい、そこで目が覚めた
世の中には遭遇してはならない怪異が存在する事を思い知った

1029名無しさん:2016/05/18(水) 12:45:03 ID:neESg9fY0
当たり障りのないのだから→当たり障りのない、に訂正。予測変換誤字スマソ

1030 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:30:12 ID:zCg44kbM0
テスト中です。

1031 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:32:02 ID:zCg44kbM0
皆様今晩は、藍です。
以下、新作『護符』の前半を投稿いたします。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

1032 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:32:34 ID:zCg44kbM0
 『護符』

 柔らかい午後の日差しの中、心地よいエンジン音が山道に響いている。
「ずっとこんな道なら、この車も最高に気持ち良いのに。」
姫は窓から吹き込む風に眼を細めた。
残念ながらあと1・2分で山道を抜け、幹線道路に入る。依頼の場所は市街地の一角。
「本当にずっとこんな道を走り続けられたら気持ちいいでしょうね。
その、何時でも僕たち二人一緒なら。」
姫は少しだけ驚いた顔をした後、微笑んで俺の右肩に頭をもたせかける。
「嬉しい、です。」 最後の連続コーナーに向け、少しだけアクセルを踏み込んだ。

1033 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:33:21 ID:zCg44kbM0
 その依頼を受けたのは3日前、いつも通り『上』からのFAX。
特に指名は無かったのだが、是非にとSさんに頼んで俺がその依頼を受けた。
依頼主はあるレストランの店長。俺が大学を休学→中退する前にバイトしていた店で、
明るく和やかな雰囲気と美味しい料理が評判だった。同じ大学の学生も良く来てたっけ。
季節毎の洒落た飾り付けや楽しいイベントは今でも続いているだろうか。
古い知人達がそうであるように、修行で面変わりした俺に、きっと店長は気付かない。
それでも、バイト中は何かと良くしてくれたからこの機会に恩返しが出来れば。
その思いにはきっと、過ぎ去った時への感傷も混じっていただろう。
感傷的になり過ぎたが故の事故を心配したSさんが、姫に俺の後方支援を命じた。

1034 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:34:13 ID:zCg44kbM0
 市街地、繁華街の一角にその店はある。狭い駐車場は店の裏手。
駐車場の雰囲気はあの頃のまま。駐車場奥のフェンスが俺の駐輪場所だった。
2時までのランチが終わって一旦閉店、ディナーの開店は6時から。それも変わっていない。
客足の途絶える時間帯に、依頼された仕事を片付ける事が出来れば良いのだが。
ドアを開けるとカウベルが鳴った。重く、乾いた音。これもあの頃と同じ。
ただ、不思議な程に俺の心は平静だった。もちろん懐かしい気持ちは有る。
だが、何処か現実感が無いような、まるで他人事のような感覚。
もう、あの頃の俺とは違うという事なのだろうか。何より今日は『仕事』なのだ。
「こんにちは、昨夜電話したRです。依頼の件で参りました。」

1035 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:35:04 ID:zCg44kbM0
 「はい、ただいま。」
奥から出てきた初老の男性。間違いない、あの店長だ。
「私がこの件を担当するRです。こちらはLさん。」
「Rさんだけでも大丈夫ですが、万一に備えての助っ人です。今日は宜しくお願いします。」
爽やかな笑顔で姫が差し出した右手を、店長は躊躇いがちに握り返した。
「此方こそ、どうぞ宜しくお願い致します。」
一礼した後、店長は俺の顔を見つめて怪訝そうな表情を浮かべた。
...まさか、俺の顔を。いや、Sさんは『心配要らない』と。
実際、偶々数年ぶりに会った親戚や旧友の誰にも俺だと気付かれたことはない。
「あの、どうかしましたか?」
姫が声を掛けると店長は気まずそうに頭を掻いた。
「あ、いや。Rさんが、何だか初対面じゃ無いような気がしたので。」
「どなたかお知り合いに似た方が?」
「はい。もう何年も前、この店でバイトしてた子に。名前も確かRと、それで。」

1036 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:36:03 ID:zCg44kbM0
 どうやら店長には少し『力』があるようだ。あまり深入りしない方が良い。
「興味深い偶然ですが、依頼の話を。出来れば今日で始末をつけたいので。」
「そうですね。ではこちらの席に。今、営業日誌を持ってきます。」
勧められたテーブルの椅子を引く。「どうぞ。」
「ありがとうございます。」 腰掛けた姫の、悪戯っぽい笑顔。
「折角、昔のRさんの事、聞くことが出来そうだったのに。」
「その話は後です。僕が感傷的になり過ぎないように監視するのがLさんのお仕事ですよ。」
「でもお仕事は。」
店長がホットコーヒーの用意をして戻ってきたので姫は続く言葉を飲み込んだ。
コーヒーの香りが店の空気に溶けていく。ふと、店の片隅に小さな気配。
店の壁際、大きな窓を背にして立つ。多分小さな男の子のシルエット。
「ああ、なるほど。確かに一体、いるようですね。」
俺が呟くと、テーブルに日誌を並べていた店長の左頬がピクリと動いた。
「本当に分かるんですか?この店に入ってからずっと?」
「いいえ。今コーヒーを淹れて貰ってるうちに。何処からか突然現れた感じです。」
「コーヒーを淹れたから...やはりお客さんに反応するのでしょうか?」
まるで独り言のように、店長は小さな声で呟いた。

1037 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:36:58 ID:zCg44kbM0
 店長は分厚い営業日誌をめくりながらポツリポツリと事情を説明してくれた。
開店後暫くして、時折店の中に不思議な気配を感じるようになったこと。
当初は営業に支障が無かったので放置していたが、
3年ほど前から希に支障が出るようになったこと。
「家族連れのお客様でした。お子様が突然泣き出したと思ったら、
過呼吸のような感じでそのまま意識が無くなって、それで救急車を呼びました。
病院ではすぐに回復されたようですし、この店に原因があるかどうかも...。
ただ、その後も、同じようなことが二度起きています。」
「計三度、お客さんの子供に障りが出たということですね?」
「はい。開店から11年、開店当初大学生だった常連さんが家庭を持って
ご家族と一緒に御来店下さることも多くなってます。
今後も同じような支障が出るのでは安心できません。それで今回の依頼を。」

1038 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:38:27 ID:zCg44kbM0
 この件と俺、いや、店長と俺に何かの縁があるのだろう。
この店の常連に一族の者がいて、たまたま『事件』に出くわした。
それでその人が『上』への依頼を取り持ったのがこの仕事の発端。
その人と俺たちの面識はないから、特に俺たちが推薦された訳では無い。
たまたま近場で手の空いている術者が俺たちで、だからこれは本当の偶然。
そうでなければ店長の依頼を俺が受けることは無かった筈だから。
「まあ私としては、以前のように、営業に支障が出なくなればそれで良いんですけど。」
相変わらず心の広い人だ。胸の奥から、温かな感情が込み上げる。
多くの人は事情も分からぬまま、そのような存在を忌み嫌う。
それに、『上』からの指示とは言え、無理矢理に始末を付けるのが哀しい事例も有る。
「営業に支障が出ないなら、共存しても構わない。そう解釈して良いですか?」
店長は暫く俺の顔を見つめ、やがて溜息をついた。
「私にはそれが何なのか分かりません。だから少し、怖いような気もします。
でもそれが今までずっとこの店にいたものなら、お客様に悪い影響が出ないのなら、
このままこれからも此所にいてくれて良い。そんな気がするんですよ。
客商売をする人間としては、失格なのかも知れませんが。」

1039 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:39:57 ID:zCg44kbM0
 開店して暫くしてから、それが店長の記憶違いでないのなら、
俺がバイトをしていた頃には既に、それはこの店にいたことになる。
小さな男の子の姿がハッキリしてくるほど、人間離れした特徴も目に付く。
体全体がゆらゆらと波打つように動き、顔の造作が絶え間なく変化する。
もし、当時の俺がそれを見たら間違いなくパニックになって腰を抜かしただろう。
俺の仕事は主に皿洗いだったから、11時頃まで厨房に一人でいることも多かった。
もしもそんな時にこの姿を見ていたら...
思わず、笑顔が浮かぶ。あの頃とは、随分違った自分を俺は生きている。
「男の子です。5〜6歳位の。だから希に小さな子供に反応・干渉して、
加減を忘れてしまう事がある。そんな感じでしょうね。
この店から祓うとしたら、その由来を調べて入念に準備をする必要がありますが、
あなたが共存しても良いと仰るので有れば、お祀りするだけで十分です。」
「お祀り?」
「はい、あなたやお客さんに対する悪意を持った存在ではないのですから、
しっかりお祀りしてこちらの好意と願いを示せば、きっと応えてくれると思います。」
一体、見えないということは、不幸なのか幸福なのか。
俺の正面に座った店長の背後、すぐ右側に、小さな男の子の姿をしたそれが立っている。
俺と姫を交互に見つめる、不安そうな表情。その眼には悪意も悲しみも感じられない。

1040 ◆iF1EyBLnoU:2016/05/18(水) 18:42:33 ID:zCg44kbM0
「先ほど『小さな男の子』と言いましたが、所謂幽霊では有りません。
どちらかというと妖精に近いもので、それが男の子の姿をとっています。
ハッキリした意思を感じませんから、おそらく記憶を封じているのでしょう。
それが何かの拍子にあなたか、それとも店のお客さんに憑いてきて、ここに落ち着いた。」
「それなら、何処かに本当の居場所があるということですか?」
その優しさに少し、胸が詰まる。
「大昔ならともかく、近代以降は妖精の住める場所はどんどん減っています。
それに、詳しく事情を調べたら却ってマズい事になるかも知れません。
例えば住処を人間に破壊されて、それを思い出したら怒りと悲しみに囚われるとか。」
調べたとしてそれの正体が判明するか分からない。ただ、人の姿を取っているのだから
もともと人に親しみを感じていた存在なのだろう。もしも、人に住みかを破壊されてもなお、
『人を恨みたくない』『人を憎みたくない』 そんな気持ち故に記憶を封じたのなら、哀しい。


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