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藍物語(投稿・感想・雑談専用=隔離)スレ

1枯れ木も山の賑わい:2014/03/26(水) 23:49:11 ID:sdeCrXLs0
藍 ◆iF1EyBLnoU の 投稿と
投稿に対する感想・雑談の為に立てた専用スレです。
レスの都合上コテハン推奨ですが、匿名の書き込みも勿論OK。
非難の書き込みは「作品に関する話題・雑談」スレで存分に。
こちらへ書き込まれた場合は(可能ならば)削除します。

806名無しさん:2015/10/01(木) 00:39:18 ID:TAfSU6so0
聖夜の奇蹟,神の木に,恵みの子が来ませり。
今はやりの年の差婚もめでたきかな。
とってもいいお話を,ありがとうございました。

807 ◆iF1EyBLnoU:2015/10/08(木) 01:42:43 ID:RGITgbM60
皆様今晩は、藍です。

>>757
>>758
>>772
>>773
>>774
>>788
>>789
>>790
>>805
>>806

いつも通り、本当に温かく、とても深いコメントに感謝申し上げます。
未だ個別の返信は禁止されておりますが、禁を破りたい衝動に駆られる程です。
身内の事情、お仕事の都合、その他にも色々ありまして時期は明言出来ませんが、
もし縁が有りましたら次作も是非此処で。本当に有り難う御座いました。

808名無しさん:2015/10/09(金) 00:03:24 ID:1gLp.ps.0
一応、枯葉氏が作った板だからOKじゃね?なぜか粘着氏がここまで付いてきたのは誤算だったが

809 ◆iF1EyBLnoU:2015/10/16(金) 22:56:23 ID:NC7kAbkk0
皆様今晩は、藍です。

明日早朝からお仕事で暫く戻れません。
留守は頼んでありますが、コメント等への反応で失礼が有るかと存じます。
申し訳有りませんが、いつか新作を投稿出来る日を楽しみに。では、ご機嫌よう。

>>808
暖かいお心遣い、感謝致します。

810名無しさん:2015/10/18(日) 06:51:43 ID:OdcDjmMIO
藍さんお知らせありがとうございます。お仕事頑張って下さい。
新作も楽しみにしています(^o^)

811名無しさん:2015/10/22(木) 20:47:23 ID:TyU4/jCIO
一番あたたかいのは藍さん

812名無しさん:2015/11/10(火) 07:38:54 ID:JLcnug3M0
スレストッパーにやられなかった、よかった

813名無しさん:2015/11/20(金) 10:15:08 ID:4Ti0bvnk0
新作まだかなー楽しみだなー

814名無しさん:2015/11/21(土) 00:15:16 ID:EF3bi51U0
こんばんは、投稿追ってくと最近藍さんしきりに体調が良い時にって言いながら連発で作品アップしてたけど仕事も大変みたいだし、元気にしてるんだろうか。ただの通りすがりのROMだけどなんか気にはなっちまって、勝手な事書いてすいません

815名無しさん:2015/11/22(日) 00:04:23 ID:uX0mSdfo0
休暇と思ってよく休まれるべし。
もしかしたら1.5か月位忙しいかもね。

816 ◆iF1EyBLnoU:2015/11/22(日) 22:03:03 ID:4ZG7sau20
皆様今晩は、藍です。

一昨日の朝戻りました。
昼寝のつもりが丸一日以上経っていて、心配されたり怒られたり、色々と。
今はもう少し休んで、また仕事に出ます。新作の時期は明言出来ませんが、
お待ち下さる皆様のコメントは何よりの励みになります。
有り難う御座いました。

817名無しさん:2015/11/22(日) 22:20:02 ID:q/7ujS92O
藍さんお疲れですね。爆睡できて良かったです。
年末年始は特に忙しいと思います。お体にお気をつけて下さい。

818名無しさん:2015/11/22(日) 23:27:40 ID:HyehISCI0
藍さん,ご健勝をお祈り致します。
次の物語を楽しみに待っています。

819名無しさん:2015/11/24(火) 01:36:48 ID:Y/JSHITA0
知人さんのサポート、頑張って

820名無しさん:2015/11/24(火) 11:49:45 ID:srJPOBeY0
多分 このスレ見ている方々は 次作を急いで欲しいということではないと思いますので大丈夫かと思います。
良い物語をじっくり読むことができると信じてのんびりお待ちしています(^'^)

821 ◆iF1EyBLnoU:2015/11/24(火) 22:09:27 ID:kXF66t4A0
皆様今晩は、藍です。

暖かいコメント感謝致します。
充分お休みを頂きましたので、明日早朝から仕事に出ます。
また暫く留守、コメント返信等の失礼をお許し下さい。

『次作』について情報を得ましたら、留守番の者を通してお知らせ致します。
それでは皆様ご機嫌よう。 きっと何時か、また此処で。

822名無しさん:2015/11/27(金) 09:06:19 ID:brOEnfkYO
お知らせありがとうございます。
楽しみにしてます(^o^)/お仕事お気をつけて下さい。

823名無しさん:2015/12/11(金) 01:45:36 ID:dU3dWWfMO
д`)

824名無しさん:2015/12/16(水) 20:12:59 ID:3j4Nbj2sO
皆さん、オワコン社長さんを夜露死苦!!パズドラ動画いっぱいあるよ!男子も女子もバンバン見ってねー☆☆
http://m.youtube.com/channel/UCbc7XPBjep5i25QRnO0J5-A/videos?itct=CAAQhGciEwi3pKr6tN3JAhVMFlgKHYP-DQk%3D&hl=ja&gl=JP&client=mv-google

http://m.youtube.com/channel/UCkM7vL3osDR15f_jtlq94UQ/videos?itct=CAAQhGciEwi85dGItd3JAhWDe1gKHXlZCpc%3D&hl=ja&gl=JP&client=mv-google

825 ◆iF1EyBLnoU:2015/12/20(日) 20:47:10 ID:G5LmntdE0
皆様今晩は、お久しぶりです。藍です。

本日戻りました。良いお土産と悪いお土産があります。
良いお土産は2つ、新しいお話の作業が始まったこと。
悪いお土産はその2つとも完成・投稿の目処が未だ不明なこと。

早く仕上がる方を年内に投稿出来るよう、知人と相談中です。
頼りないお話ですが、楽しみにして下さる皆様に取り敢えずお知らせまで。
どうかもう暫く、気長にお待ち下さい。


追伸

近々投稿出来るとしたら、『聖夜』の中で記述のあった
『危険ではないが滅茶苦茶ややこしくて、どちらかというと救いの無い仕事』
に関わるお話です。榊さんと恵子ちゃんを引き合わせる直前のお話ですね。
Rさん単独でのお仕事。私自身、投稿出来る日がとても楽しみです。

826名無しさん:2015/12/21(月) 01:03:00 ID:mfROaJkQ0
原案はR氏の日記のような物があるのだろうか?
でないとしたら知人さんは結構行動を共にすることがあるのかもしれないな

827名無しさん:2015/12/21(月) 06:44:41 ID:kQBpo262O
知人さん=Rさん
という設定でいいのでは(笑)
違っていても、違和感ないし…

828名無しさん:2015/12/22(火) 00:53:03 ID:bZ2.eegA0
最初の通り取材と言う形式なら、密度が濃すぎてストーカー(笑)の様でもあり、とても仕事にならないと推論

829名無しさん:2015/12/23(水) 13:37:28 ID:PKPa1xqYO
楽しみ楽しみ

830 ◆06C70Y0X62:2015/12/28(月) 22:58:12 ID:0J.09yVw0
申し訳ありません。確認させてください。

831 ◆iF1EyBLnoU:2015/12/28(月) 23:50:19 ID:0J.09yVw0
再チャレンジ、これでどうか。

832 ◆iF1EyBLnoU:2015/12/29(火) 00:02:11 ID:kcZCIbZc0
皆様今晩は、藍です。

25日の投稿を目指して作業中にPCが壊れました。
PC本体だけでなく、復元用の記録部品も同時に壊れていたようで、
「こんなの、まるで呪いだよ。どうにもならない。」と言われてしまいました。
本日新しいPCを買ってきてもらったので取り敢えず復活です。

ただ、作業中の文書も消失してしまったので年内の投稿は微妙。
お年玉企画として投稿できれば御の字かもしれません。
(本当はクリスマスと絡めて投稿したかったのですが)

次作・掌編は、『異教徒』です。 どうかもう暫くお待ち下さい。

833名無しさん:2015/12/29(火) 04:12:17 ID:1PZRBfCw0
異教徒か・・・
ホアカリニギハヤヒ(徐福=物部)、ヒボコ、八咫烏、阿部
対になるのはオキナガタラシ、藤原であろうか?向、神門はどちらにせよ異教徒にはなり得ない。

834名無しさん:2015/12/29(火) 16:18:45 ID:GhvR.3KkO
新しいお話、楽しみにしています。ありがとうございます(^o^)/

835名無しさん:2016/01/04(月) 02:27:00 ID:5R06zDbw0
復元用の記録部品って何?
USBなどの外部メディアじゃなくて?
大切なデータのバックアップは外部HDD、BDディスク、USBなどに速攻でコピーしてるわ
それも定期的に更新しないと、今のメディアはすぐ消えるからなあ
数年前にDVDにバックアップした何割かは消えてたわ

836名無しさん:2016/01/04(月) 21:43:34 ID:TQ7rKrJM0
他山の石と思い、見ている人はバックアップとりましょう。こういうのは必ず続く。

837留守番:2016/01/04(月) 23:09:49 ID:6zhOcCEE0
 内蔵の復元専用HDDと外部USB接続のHDDも同時に壊れて
復元が出来ませんでした(デスクトップの背景は未だ不満があるようです)。
昨夜急に出かけましたが、「すぐに帰る。」と言っていたので、
投稿の準備はかなり進んでいると期待しています。

838名無しさん:2016/01/05(火) 10:40:21 ID:lxPHam8IO
お知らせありがとうございます(^o^)/電化製品系のトラブルはなかなか厄介で大変ですね。
納得のいく背景ができますように

839名無しさん:2016/01/05(火) 17:39:31 ID:hYtx5H360
HDDはいきなり壊れるからな
テキスト何だからUSBにもこまめにバックアップした方がいい
ミラーリングするフリーソフト使うとか。

840 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 00:30:39 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は、藍です。

次作の掌編の公開に障害となりそうな事件が起きたため、
公開すべきかどうか再度話し合いがありました。
特に書き直しの指示も無く公開が決まりましたが、
あくまで架空の物語としてお楽しみ下さるよう、予めお願いしておきます。
これから最終チェック。知人の確認を経て、明日の夜投稿予定。
新しいPCはとても調子が良いので作業が進みそうで楽しみです。

では明晩。ごきげんよう。

841名無しさん:2016/01/06(水) 09:56:30 ID:dkiwtePwO
わーい(^O^)/~~楽しみです

842 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:30:44 ID:hNLskE2c0
テスト中です。

843 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:38:39 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は、藍です。投稿の準備が整いました。

決して特定の宗教を誹謗中傷する意図は有りません。
海外の情勢等に関係なく、きっと皆様はこの作品を
一つの物語として楽しんで貰えると信じています。

では以下『異教徒』、ゆる〜い気持ちで、お楽しみ下さい。

844 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:39:58 ID:hNLskE2c0
 『異教徒』

 「申し訳有りません。折角来て頂いたのに、今日も義父は何も...」

 未だ二十歳を過ぎたばかりと見えるその人は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「『上』から指示された仕事ですからそれは構いません、ただ。」
そう、完全に拒絶されたのでは、俺に出来ることは無い。恐らくSさんにも、姫にも。
「お義父様の体に寄生した妖の様子から見て、ほとんど時間が無いんです。
年内にあと一度、多分それが最後のチャンス。その日付は、お義父様に。
それでも駄目なら、『上』に話をして手を引く以外に有りません。」
「...はい。」

845 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:40:58 ID:hNLskE2c0
 悲しそうに目を伏せたその人を見ると、何だか俺が悪い事をしているような気になる。
俺と同じ家系、『分家』の出。修行中、ある男性に見初められ相思相愛となり、
数々の困難を乗り越えて、その男性の嫁としてこの家に迎えられた女性。
その縁があったからこそ、この依頼を『上』が受理したのだし、俺を名指しで。
だが、これは初めから気乗りしない仕事だった。
依頼者の義父とは未だ一言も話すことが出来ていない。
依頼の対象であるその老人は、俺を異教徒として拒絶しているからだ。
自分の信仰に反し、怪しげな呪術に頼って生きるつもりはない。それが沈黙の意味。
これでは俺の言霊も力を発揮できない。
異教徒とも話が出来ると期待して、『上』は言霊使いを、つまり俺を指名した訳だが、
これほど頑なに拒絶されるとは予想もしていなかっただろう。

846 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:42:09 ID:hNLskE2c0
 「ホントに、手を引く以外になさそうですか?」
藍を抱いた姫の、心配そうな笑顔。 翠はSさんの寝室。
どういう組み合わせで寝るのか、毎晩一悶着起こる。今夜はこの状態に落ち着いた。
「昨日、一日がかりで車を走らせたのも、この依頼を完遂するためです。
準備は完璧だと思っていますし、最後まで、出来るだけの事はするつもりですが、
正直今回は自信がありません。
依頼の『対象』は、異教徒である僕に対して、とても頑なに心を閉ざしています。
あれでは『言霊』の響きも力を失うでしょう。」
その老人は一代で財をなした大変な資産家。
成功した後は慈善事業に力を尽くしてきたと聞いた。数年前、引退してからは特に熱心に。

847 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:43:50 ID:hNLskE2c0
 「その人の心の闇に寄生している妖は大した力を持っていないけれど、
心の闇が『不幸の輪廻』に繋がっているから難しいって事ですよね?」
「はい。その妖を祓えば『通い路』が開いて、もっと強大な悪霊が現れます。」
人の心の闇が濃度を増すと、そこに妖が寄生することがある。
当然、心の闇はやがて『不幸の輪廻』と繋がり、妖は次第に力を増す。
しかし通路が拡がりすぎれば、宿主の魂とともに
寄生していた妖も『不幸の輪廻』に呑み込まれる可能性がある。
だから寄生した妖は、通路を閉じないように拡げすぎないように宿主の心を操る。
『不幸の輪廻』に呑み込まれることなく、しかしそこから最大の力を得られるように。
そのために宿主を護ったり、その願いを叶えたりすることもあると聞いた。
寄生した妖と宿主の、奇妙な調和。おそらくそれが、この件の発端。
「でも、あの短剣があれば特に問題は。」

848 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:44:58 ID:hNLskE2c0
 確かに、あの短剣を使えば開いた通路を閉じて悪霊を押し戻すことも出来るだろう。だが。
「そうなんですけど、それでは、その人の心の有り様を変えることは出来ません。
もし、異教の術で助かったと知ったら、その人の心は支えを失ってしまうかも。
高齢だし、体も弱ってる。長年の信心、その根拠を失ったら、多分これからの人生は。」
「『出来るだけの事』ですか...やはりこれは、Rさんのお仕事なんですね。」
姫は優しい微笑を浮かべた。

 事態が一気に動いたのは3日後、『聖夜』。

849 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:46:23 ID:hNLskE2c0
 「瞳さん、外して下さい。」 「御父様、でも。」
「この人と二人だけで話したい。だから、お願いします。」
「はい。」 女性が部屋を出ると、その老人は一つ深呼吸をした。
「Rさん、でしたな。聡い人のようだから、私の言いたいことはお判りでしょう。
もう、これで最後にして下さい。義娘やあなたの気持ちはわかりますが、
異教の、それも妖しげな呪術に頼ってまで、生き延びるつもりはありませんから。」
やっと、口を開いてくれた。結果はどうあれ、これで言霊を使える。できるだけ単純に、簡潔に。
『御自身の心の闇に呑まれるのが、貴方の望みなのですか?』
数秒、言霊が届くと信じて返答を待つ。
「私自身の、心の闇?」 その老人の眼が光りを増した。
「自らの信仰に疑問を持つ、それを『心の闇』以外の言葉で言い表す事は出来ません。」
「...」
「ずっとお話をさせて頂けなかったので、その間に色々と調べさせてもらいました。」
「何をどう調べても、私自身がそれを話していないのなら、判るはずがない。一体何故?」

850 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:47:54 ID:hNLskE2c0
 「いいえ。術を使わずとも、予想するのは難しくありませんでした。
プロファイラーやセラピストでも、きっと同じ結論に達したでしょう。
貴方は世界の恵まれぬ子供たちを救う事業に力を尽くしてきた。
それならば遅かれ早かれ、『そういう子供たちを生み出すものが何なのか』そう、考えた筈。
『だれかがあなたの右の頬を打つなら』
異教徒の私でも、その例え話を知っています。しかし、その宗教を国是とする国々が、
例外なく自衛のための先制攻撃を認めているのは何故でしょう?
それらの国々が生産した兵器が、多くの子供たちを不幸にしているのは何故でしょう?」
「私は今、人を惑わす悪魔と話しているのか。」
「本当にそう思われるなら、どうぞ、一言『立ち去れ』と。
ただ私は、この国で生まれ育った貴方と私の感覚の根は同じで、
だからこそ貴方と私の心に同じ『違和感』が生じたのだと信じます。
その『違和感』が貴方の心に影を作り、その影は次第に濃度を増して闇となった。
そして、その闇に妖、つまり妖怪が入り込んだ。それが貴方の病の原因です。」

851 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:50:56 ID:hNLskE2c0
 「馬鹿げてる。妖怪なんて。」
「どんな医者にも、その病の原因は分からなかった。
既にご承知の通り、貴方の義娘さんは私と同じ一族の出身で、術の心得も有ります。
だから貴方の体に寄生している妖怪に気付いて、ある組織に依頼したんです。
貴方の寛容さは義娘さんを拒まず、むしろ大切にしておられる。なら、私の言うことも。」

 「どうやら私は、本物の悪魔と話しているらしい。だが、私は。」
ここが、勝負所。勿体をつけて十分に間を取り、挑戦的な笑顔を作る。
「そう、これは貴方にとって、またとないチャンスではありませんか?」
「チャンス?」 俺はポケットの中から琥珀の指輪を取り出した。
Sさんに作ってもらった代。強力な式を封じてある。
この依頼の対象は、異教徒である俺に心を許さない老人。
当然その手に触れることは難しいだろうと予測して、非接触系の術を選んだ。
老人に向けて、ゆっくりと掌を開く。
「この指輪を見つめて『現世の者は現世に、異界の者は異界に。』と。
それだけです。取り敢えずそれで貴方の体を蝕む病の原因を取り除けます。」
「そんなこと。」 「私が異教の悪魔で、貴方の信仰が確かなら何の問題も有りませんよね?」
「一体、あなたは何を?」

852 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:52:15 ID:hNLskE2c0
 「こんなもので貴方の体が癒える筈がない。それで、証明できます。
私は悪魔で、貴方の信仰こそ正義。堂々と私をこの家から追い払えるし、もう二度と。
そう『神の子』が聖地から偽の預言者たちや呪い師たちを追い払ったように。そうでしょう?」
この台詞を編むために、相当な時間をかけて『聖典』を調べた。
とんでもなく面倒で、その割に実りは少なく、救いの無い時間。
「どう、しますか?」 「やって、みましょう。私の、信仰を証明するために」
それは俺の努力がもたらした、極く僅かな救いだったかもしれない。
作りものでは無い微笑が、自分の顔に浮かぶのを感じる。
「では、この指輪を見つめて。私の言葉の後に。」

853 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:54:14 ID:hNLskE2c0
 「現世の者は現世に、異界の者は異界に。」

 その老人の言葉が終わると同時に、式の封印が解けたのを感じた。
「まさか、痛みが消えた。どうして?」
その老人の体に寄生している妖を祓う。これは大した仕事ではない。問題はこの後だ。
あの短剣は持参したアタッシュケースの中。前もって取り出しておくことも出来たが、
助力をお願いした以上、聞き届けて頂けると信じて証を立てなければ。
部屋の空気が低く、大きく震えた。不吉な、禍々しい気配。
一番大きな窓を覆ったレースのカーテンが大きく揺れ、その前に湧き出る黒い霧。
来る。『不幸の輪廻』へ繋がった通路を通って。予想通り、俺の術では対処出来ない悪霊。

 微かに、鈴を振るような音が響いた。直後、俺の目前に浮かぶ光。
ピンポン球程の大きさ。強い光を放った後、ゆっくりと舞い降りて、床の上で光り続ける。
次々と現れ、白銀の光を...そうか、これは『原型』だ。Sさんの使う、あの奥義の。
その証拠に、その光が数を増すにつれ、黒い霧は濃度を増すどころか、
むしろ力を失いつつあるように見える。
俺の願いは、聞き届けられた。良かった。思わず足から力が抜け、床に両膝をつく。

854 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:56:21 ID:hNLskE2c0
 『何故、帯剣していない?それを、私が咎めるとでも思ったか?』

 耳元で、いや、耳の奥深くで涼しい声が響いた。
咎められるなどとは一瞬も、しかし、お願いをしたからには証を。

 『証は要らない。それよりも万一に備え、その身の安全に心を配れ。
今回は特別。願いを叶える機会は、むしろ少ない。
もし御前の身に何かあれば、いくら悔やんでも間に合わないのだから。』

855 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:57:33 ID:hNLskE2c0
 俺の前、2m程先。姿を現しつつある悪霊と俺の丁度真ん中に女性が立っていた。
水色のパーカー、紺のジーンズ。見覚えのある後ろ姿。
そう、あの御方だ。 降りしきる雪のような、無数の白い光。 その中に佇む美しい御姿。
両膝をついたまま、深く頭を下げた。

 「愚かな...折角の信心が心の闇を増幅し、
終にはこんなモノまで呼び出す『通い路』を作ってしまうとは。」

 突然現れた御姿。その御方が人間でないことは直感で理解できた筈。

856 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:00:12 ID:hNLskE2c0
 「これが、あなたの言う異教の悪魔、なのか。」
その御方は振り返り、その老人に視線を移した。微かな笑み。
「私を、悪魔と...発した言葉は、どれ程後悔しても取り消すことは出来ないのに。」
その御方はパーカーのフードを脱ぎ、軽く束ねた長い髪を背中に垂らした。
その御方の全身を仄白い光がゆらゆらと包む。 そして何よりその両肩から天井へ。
「燃える、身体...光り輝く、6枚の翼。まさか、Seraph」
「お前達がそう呼ぶ者は私と同種の存在。」 小さな笑い声。
「つまり私が悪魔なら、お前は悪魔崇拝者と言う訳だ。」
古来から、仏像の光背や宗教画の光り輝く翼として表現されてきた『後光』。
両肩から3方向に枝分かれしたそれは、確かに6枚の翼のようにも見えた。

857 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:02:28 ID:hNLskE2c0
 『主は聖なる傷跡を示して言われた。
「おまえは見たから信じるのか。見ないのに信じる者たち、彼らは幸いである。」
その職にあるなら、当然諳んじているのだろう?』
「ヨハネによる福音書、第20章29節。何故、その御言葉を...悪魔では、ないのか?」
『不思議だが、異教徒は力を持つ者ほど、信じる根拠を、理由を欲しがると聞く。
この国に生きる人間は、己が生きていることだけで、私たちの力を信じてきたのに。』
そうだ、俺がSさんや姫を信じるのに根拠など要らない。もちろん当主様も、桃花の方様も。
会えたから信じたのではない。きっと、信じていたから会えた。
Sさんと姫に出会う前、俺は自分が生きている意味を理解出来なかった。
世界はまるでTV画面の向こうに広がっているように空虚で、
過ぎていく時と次々に起こる出来事は、いつもどこか他人事だった
でも俺はじっとTVの画面を見つめ続けた。そうしていれば、何時か、
こんな俺にも生きている理由があると、その理由が分かると信じていたから。

858 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:04:35 ID:hNLskE2c0
 「いや、悪魔は天使にすら擬態する。悪魔の王は堕天した天使の長だった。
それにこの国の神話においても、神と人の契約はありふれたものではないか。
信じるのに理由が必要なのはこの国の人間も同じ。」
『その通りだ。自分で言っていて気付かないのか?
お前にはお前の神との契約、異教徒には異教の神との契約があるのなら、
「唯一絶対の神」とは何だ?』
「それは...」
『唯一絶対であるが故に、異教徒の、当然同胞の偶像崇拝を認めない。
しかしお前の傍らにあるその書物は、お前の首にかかるその印は、お前の崇拝の対象。
しかし、それは神の姿そのものではない。つまり、偶像。』
「違う!偶像とは、例えば木像に金箔を貼った」

 ごう、と風の鳴る音を聞いた。続いて部屋のあちこちで倒れたり落ちたりするものの音を。
寒い。昔風の暖炉に似せたストーブはそのままなのに、部屋の中に満たす冷ややかな空気。
「お義父様!」 ドアの向こう、気配が駆け寄るより早く、ドアの鍵が掛かった。

859 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:06:40 ID:hNLskE2c0
 『古来、この国に生きる人々は世界のありとあらゆるものの中に高次の力を感知して
畏怖の対象とした。希な豊作や豊漁だけで無く、多くの犠牲を伴う天災にも。
時には人知れず咲く花や路傍の小さな石ころの中にさえ。
もちろん人々が関知した高次の力を擬人化した像も数知れず造られた。
しかし、森羅万象の『全て』が畏怖と崇拝の対象になるのなら、偶像など存在し得ない。』
その御方は、一瞬俺に視線を投げた。
『高次の力と人々の間を取り持つ者たちも存在するが、
それらの役割はあくまで道標。力を持たない者たちを光に導くだけ。
もし、自分の力を崇拝の対象にしようと望めば、それらも早晩自壊する。』

 突然、部屋に舞い続ける白銀の光が数と輝きを増した。その御方の、微笑。
『無駄だ。既に退路は断った。この部屋からは出られない。』
そう言えば、今にも圧倒的な質量を伴って物質化するかに思われた悪霊は。
『この傷跡を刻んだ鏃、それを作ったモノたちを唆した首謀者。』
その御方の姿はゆらりと薄れ、人の形を失いつつあった。
『千載一遇、術者の適性が現出した奇跡。長居し過ぎたようだし、そろそろ』

860 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:09:41 ID:hNLskE2c0
 「私は、間違っていたのだろうか。」 その老人は体を起こし、ベッドに腰掛けていた。
瞳という名の女性は、老人の傍らに跪いてその両手を握っている。
深呼吸、最後まで、俺に出来る限りのことをする。それが受けた依頼の『契約』。
「私は、間違った『信仰』があるとは思いません。
とんでもない教義を掲げる邪教でもなければ、
どんな宗教にも、人々の魂を導く役割がある筈です。」
「しかし、先ほどの、あの御方は私を『愚か』だと。」
「愚直という言葉があるように、愚かさそれ自体は間違いではありません。
『見ないのに信じる幸いな者たち』も、見方によっては愚かでしょう。しかし間違いではない。
信仰が間違いを生むとすれば、自分の信仰を唯一の正義とし、
異教徒を排斥しようとする衝動に囚われた時です。例えば、魔女狩りのように。」

861 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:12:24 ID:hNLskE2c0
 「『違和感』。Rさん、あなたは先刻そう言いましたね?」 「はい、確かに。」
「正直に告白すれば、『違和感』、その通りです。
世界に不幸をもたらす争いの根底に宗教対立があると、それを思い知る度に疑念が生じた。
私が信じているのは、本当に唯一無二の絶対神なのか。
異教徒は本当に、邪神に惑わされた罪人なのか。
でも私が関わってきた異教徒の子供たちの眼は...」
その老人の心が大きく揺れ動いている。それこそ自我の維持すら危うくなるほどに。
今なら、持続性の後催眠暗示も簡単。だが、それは決して『救い』ではない。
俺に出来ることは全てやった。願いは叶えられ、あの御方の助力を得る事も出来た。
しかし、この老人が自ら乗り越えなければ、また同じ事が繰り返される。
暗示がもたらす偽の幸福の彼方にあるものは、きっと魂の破滅。

862 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:24:09 ID:hNLskE2c0
 「依頼された仕事、私に出来る事は全てやりました。
これからは貴方自身の問題です。幸い、貴方の傍には義娘さんがおられる。
沢山、話をして下さい。きっと得られるものがあるでしょう。
ゆっくりと時間をかけて、より良い答えを見つけられるように、祈っています。」

 面倒でややこしくて、時間がかかり、どちらかというと救いの無い仕事。
しかし、その場で答えの出る仕事ばかりではない。それは重々承知している。
屋敷の門を出た。寒い。時計を見る。 予想はしていたが、どうやら遅刻だ。
今夜は『聖夜』。○△ホテルでチーム榊の忘年会、今頃、姫とSさんは翠と藍を連れて、もう。
きっと幹線道路は渋滞している。どうせ遅刻なら、バスやタクシーより、近道を歩こう。
そして○△ホテルについたら屈託無く笑えるように、心の整理をしよう。
肩に白いものが舞い降りて、消えた。 積もる事は無いだろうが、きっと聖夜にふさわしい。
賑やかな雑踏を抜け、川沿いの裏道に向かう。
吐く息が白い。頬を刺すような冷たい風が、不思議に気持ち良かった。


『異教徒』 完

863 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 23:31:28 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は。再び藍です。

日付の変わらぬ内に『異教徒』の投稿を終える事が出来ました。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。

それぞれが信じる宗教を互いに尊重し、生きる事が出来たら良いですね。
この作品は公開されないと思っていたので少々複雑な気持ちです。
では、また。 きっと何時か此所で。 ご機嫌良う。

864名無しさん:2016/01/07(木) 04:42:27 ID:pPryZLNMO
藍さん、PCが壊れたり大変だったのに投稿ありがとうございます。とても面白かったです。
道具や手法に善悪はなく、それらを使う人の心が善悪の色付けをするんでしょうね。

865名無しさん:2016/01/07(木) 08:12:22 ID:0WnhUte.0
藍さんお疲れ様でした。
いつもありがとうございます。

今回の作品、なんだか難しかった…
もう一度時間をおいて熟読します。

866 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/07(木) 20:57:36 ID:LQnv805k0
皆様今晩は。藍です。
微妙な題材なのに早速のコメントを頂き感謝致します。

>>864
〜それらを使う人の心が善悪の色付けをする〜
『曲解』を恐れずに投稿して、本当に良かったと思いました。
まさにそのお言葉は、知人の思いに添うものだと存じます。
有り難う御座いました。

>>865
折角お読み頂いたのに申し訳有りません。
宗教対立という微妙な題材のため、
投稿前に行った書き換え等の作業が作品を読み難くしてしまったのでしょう。
事情をお察し頂き、再度お読み頂ければ嬉しいのですが、
どうぞ無理はなさらないように。有り難う御座いました。

867名無しさん:2016/01/07(木) 22:18:05 ID:2c7pTgEA0
 並大抵ではない,非常に深いお話だと思います。
 それだけに,「曲解」や反発という形で,人の心の闇があらわれることもあるでしょうね。それを恐れずに投稿していただき,本当にありがとうございました。
 自分がなぜこの藍物語に惹かれるのかがわかりました。読み続けてきて本当によかったと思います。

868名無しさん:2016/01/07(木) 22:59:15 ID:2H/pir4I0
人は一度高まると、ぶれてはいけない存在になるという事か・・
日本の神様や精霊にも反転があるという事は興味深かった・・
求る先は同じとて、また分たれたのも一つの試練。
全ての物に感謝するって深くて難しいものだな。

869名無しさん:2016/01/08(金) 06:07:40 ID:EaQ4h7N6O
神話は遡れば繋がる気がするので自分では分けて考えてないです。
日本の昔話の「隣のいじわるな老夫婦」は隣国を暗示しているのではないかと仮定したスケールで見ると、桃太郎の鬼が荒らす都は米大陸で、鬼ヶ島は…。とか妄想。
観測者の文化圏で見え方や受け取り方が変わり、同じものを見ているのに「表現」が違うということで摩擦が起きてるんじゃないかという気がずっとしてます。
負も極まれば正となるはずなので、どちらでも良い気がしていたけれど、どちらでも良いにしては地球のダメージが酷すぎて、どちらでも良いわけではなかったのか?と悶々してます。
感想から脱線してごめんなさい!

871 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/10(日) 08:39:14 ID:p5..m6qM0
皆様お早う御座います。藍です。
引き続き『異教徒』へのコメントを頂き感謝いたします。

>>867
『自分がなぜこの藍物語に惹かれるのかがわかりました。』
投稿する立場からすれば、最高の賛辞を頂いたと感じます。
知人にも伝え、次作の準備を進めます。有り難う御座いました。

>>868
本当に深いコメント、私がどれだけ理解できているか分かりませんが、
この国の神様や精霊には常に『両面』があり、それ故、人に近しいのだと思います。
不謹慎の誹りを覚悟の上で言えば『不完全』なのかも知れません。

>>869
この地上に最初の人が生まれたとき、『国』は有りませんでした。
ですから『神話は遡れば繋がる』という感覚は、まさにその通りだと思います。
では一体何が、文化や宗教、見え方や受け取り方の違いを生んだのでしょう?
嬉しい『感想』、有り難う御座いました。

872名無しさん:2016/01/10(日) 11:51:47 ID:qZQ.4lA6O
869です
日本みたいな狭い国土でも方言がたくさんあるように、「場」が人に影響を与え、その「場」から特有の文化が形成されるように思っていましたが、
藍さんから頂いたコメントを読ませて頂き、「文化の違い」は「場の違い」だけではないのかな?と視野が広がりました。
ありがとうございます。
次作も楽しみにしています(^o^)/

873:2016/01/10(日) 14:16:01 ID:CdyoHDR.0
実話です
夜寝ようとして廊下を歩いていたら
ガラス越しに黒髪に白いワンピースの女性が
普通だったら恐怖ではありませんがその窓の下は
ごつごつした石が並んでいて
その女は頭を全く動かさずに歩いて行ったんです無い足で
その場所は雑木林があって昔たくさんの人が首を吊ったとか吊ってないとか

874名無しさん:2016/01/10(日) 23:45:30 ID:KDuQVKyY0
寄生する妖の目的は何だろう?
力をためた後はその体から出て行き次の段階に進むのか?
いわゆる成りすましとは違う感じがするな

875名無しさん:2016/01/30(土) 23:05:55 ID:OHyr6PIYO
д`)チラッ

876名無しさん:2016/02/02(火) 10:50:23 ID:oxmL/bfEO
エミシはシュメール語のエンシ(王)で陰陽師はその血筋
ずっと求めてきた答えは合ってますか…卒業したいです

877名無しさん:2016/02/03(水) 23:45:59 ID:tZxAa8M60
忌部も高加茂(神門)・下加茂(磯城)も元を正せば出雲に当たる。その考え方によると、阿部(大彦)は東北〜青森にも存在する。

878 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:31:41 ID:w2AYPIJ.0
テスト中です。

879 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:46:28 ID:w2AYPIJ.0
皆様今晩は、藍です。

突然ですが、次作の冒頭部を投稿致します。中々込み入った事情がありまして、
お話の全部が仕上がった後では、投稿の許可を頂けるかどうか分かりません。
知人と相談の上、少々強引な策を取ることに致しました。

完成してからではなく、作業の進捗状況をそのまま読んで頂く形になります。
これで、知人と私は『確信犯』・『共犯者』。
どうか気長に、生温く、もし投稿が途中終了した場合は事情をお察し下さい。

では以下『契』、お楽しみ頂ければ幸いです。

880『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:48:14 ID:w2AYPIJ.0
『契(上)』

 皆で午後のお茶を飲んだ後、俺は庭の落ち葉を掃き集めた。
やや力を失った陽光に、秋の気配を感じる。もうすぐ、紅葉と落葉の季節。
出来ればこまめに庭の手入れをするのが理想。しかし。

 翠、藍、丹。

 小さな子が3人もいればさすがに忙しい、どうしても庭の手入れは後回しになりがち。
もちろんSさんの式に手伝ってもらう事もできるが、出来ればそれは避けたかった。
珍しく子供達3人が揃って機嫌が良い。一種奇跡的な、穏やかな、ある日の午後の事。

881『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:51:44 ID:w2AYPIJ.0
 突然の違和感。胸騒ぎのような、嫌な予感のような。何だろう、これは?
庭の掃除をしながら突然感じた理由のない焦燥、掃除を切り上げて玄関へ急いだ。
「Rさん!」 玄関のドアを開けた姫は丹を抱いていた。緊張した顔。まさか子供達に何か?
「Rさん、お母様から電話が有りました。成る可く早く電話して欲しいって。」
違和感と胸騒ぎの原因はこれか...ケイタイのボタンを押す間がもどかしい。

 「犬のことで大げさだけど、御免ね。雪が、もう長くないみたい。
でも、お前にはあんなに懐いていたから、せめて知らせるだけでもと思って。」
雪は俺の実家で飼っている雌の秋田犬、今年で15歳になる。
今年の正月、家族揃って実家を訪れた時、老いて衰えた様子を心配したのだが。
覚悟していた時期が、かなり近いらしい。
「大げさって、雪は俺を...知らせてくれて本当にありがとう。今仕事はそんなに忙しくないし、
多分時間は作れる。様子を見に行けるようにみんなと相談してから、また電話するよ。」
「ありがとう、お願いね。」

882『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:55:07 ID:w2AYPIJ.0
 「雪ちゃん、もう長くないかもって、どんな様子なんですか?」
丹を抱いた姫は、とても心配そうだ。
「エサをほとんど食べないって言ってましたから...あと数日、ですかね。」
俺が子供の頃に貰われてきた雪は、まだほんの小さな子犬で、とても寂しがり屋だった。
夜、勝手口の三和土で心細そうに鳴き続ける雪が可哀相で、
枕と毛布を持っていって勝手口で一緒に寝たことが何日もあった。
それからの色々な思い出が一気に蘇り、胸が詰まる。
「今急ぎの仕事はないし、一週間くらいなら何とでもなる。
家の事は私とLに任せて行ってらっしゃい。大事な、家族なんでしょ?」
「有り難う御座います。取り敢えず3日間の予定で行って来ます。その後は様子を見て。」
「みどりもいっしょに行く。お父さん、つれていって。」
ソファの上で翠が上体を起こしていた。さっきまで、藍の隣でぐっすり寝ていたのに。
「みどりも、ゆきちゃんに会いたい。」

883『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:56:58 ID:w2AYPIJ.0
 正月、翠はすぐに雪と仲良くなった。撫でてやったり、狭い庭を一緒にゆっくりと散歩したり。
雪も翠に良く懐き、お屋敷に戻る時には翠の後を付いてきて、俺たちの車を見送っていた。
話を聞かれてしまった以上、翠をお屋敷に残して出掛けるのは難しい。
Sさんは微笑んでソファに歩み寄り、翠を抱き上げた。

 「遊びに行くんじゃなくてお見舞いよ。御祖父様と御祖母様の御迷惑にならないように、
お父さんの言う事をちゃんと聞けるって、約束出来る?」
「うん、約束する。」
「お父さん、翠も一緒に連れて行って。お願い。ほら、翠も。」 「おねがい、します。」
父と母は翠を猫可愛がりだから問題は無いだろう。
それに翠がいれば、もし『その時』が来ても皆の気が紛れるかも知れない。父母も、勿論俺も。
「分かった。今夜準備して明日の朝早く出発するから、早起きしてね。」
「うん、早起きする。」 真剣な表情。思わず小さな肩を抱き締めた。

884『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:58:39 ID:w2AYPIJ.0
 翌朝、少し早起きをして軽い朝食を食べた。翠もしっかり起きている。
実家までは車で約半日。7時にお屋敷を出れば、昼過ぎには到着出来る筈。
Sさんが作ってくれたサンドイッチを持って、予定通り7時丁度に出発した。
途中で一度サンドイッチ休憩を挟み、実家に着いたのは1時半過ぎ。
車の音を聞きつけて母が玄関から顔を出した。翠が母に駆け寄る。
母は微笑んで翠を抱き上げた。
「いらっしゃい、翠ちゃん。雪のお見舞いに来てくれて、有難うね。」
「おばあさま、ゆきちゃんは?だいじょうぶ?」
「今、寝てるけど。やっぱりエサを食べなくて...。」 「そうなの。心配、だね。」
トランクから荷物を降ろし、2人に続いて玄関のドアをくぐる。
車はあとで移動するとして、取り敢えず雪の様子を。廊下から台所の勝手口に急ぐ。
...三和土にぐったりと横たわる雪の体。目を閉じて、寝ているようだ。
想像以上に痩せた姿に、言葉が出ない。これではあと数日どころか、今日明日も。
寝ているのを起こすのは可哀相なので、そっと居間へ移動した。
「今の内に車を移動してくるよ。いつもの所でしょ?」 「そう。今朝電話しておいたから。」

885『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 22:59:57 ID:w2AYPIJ.0
 馴染みの有料駐車場に車を移動して戻ってくると、雪は起きていた。
勝手口の床に頭をもたせかけ、翠が頭を撫でている。俺もそっと背中を撫でた。
雪は俺と翠の顔を交代で見つめていたが、暫くすると安心したのか、また寝てしまった。
「お医者さんは『老衰だから治療は出来ない。』って。
頭はしっかりしてるみたいだし、朝と夕方は自分でトイレに行って、水も、飲むんだけど。」
母はハンカチで目尻を押さえた。
「どこか痛がったり呼吸が苦しそうなら可哀相だし、こっちも辛い。
でも、そんなんじゃないから少し気が楽だね。でも、あの様子だと今夜を乗り切れるかどうか。」
「夜はみどりがゆきちゃんのおうえんするから大丈夫。」
「応援?」 「そう、ここでいっしょにねるの。ゆきちゃんも、みどりといっしょにいたいって。」
母は泣き笑いのような表情を浮かべた。
「お父さんもね、此処に寝て雪を応援したことがあるの。今度は翠ちゃんも、お願いね。」

886『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:01:23 ID:w2AYPIJ.0
 夕方6時前、母の言葉通り雪はふらふらと立ち上がった。
勝手口のドアに頭を擦りつけた後、俺たちの顔を見つめる。
見慣れた、『外へ出たい』という意思表示。翠を連れ、庭から勝手口へ廻った。
外からドアを開けると、雪は少しよろめきながらドアをくぐり、ゆっくりと歩き出す。
元気な時は外階段を上った屋上がトイレの場所だったが、もう階段は上れないと聞いていた。
庭の外れでオシッコをしたあと、自分用の水桶へ向かう。
専用の水桶に新しい水を入れると、少し多めに水を飲んだ。
その後暫く庭の方を見つめていたが、勝手口へ歩き出そうとしてよろめいた。力無く座り込む。
俺が手を出すより早く、翠がしゃがんで雪の頭を撫でた。
「大丈夫だよ、ゆきちゃん。ここで少し休んで、それからかえろう。
みどりが、ずっと一緒にいる。大丈夫だよ。おうえんも、たのむから。ね。」
まるで頷くように俯いた後、雪は暫く目を閉じた。

887『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:03:57 ID:w2AYPIJ.0
 「オシッコの量は普通、かな。でも、戻る途中でよろけて。体力がかなり消耗してる。」
「何か食べてくれたら良いのにね。一応エサは用意するけど。」
7時前に父が帰って来ると雪は目を開け、小さく尻尾を振った。しかしエサは食べず、
俺たちが夕食を食べている間も、目を閉じて三和土に横たわっていた。
三和土からじっと母を見つめる『ご飯頂戴』アピールはあんなに必死で可愛かったのに。
翠と母がお風呂に入っている間、俺は台所のテーブルと椅子を移動して布団を敷いた。
雪はじっと横になったままでピクリとも動かない。何度も呼吸を確かめる程だった。
翠が布団に入ったのは9時前。
『今夜はずっとおうえんしてるからね。』と声を掛けた後、10分もしないうちに寝息が聞こえた。
母は洗い物を終えて明日の準備をしている。俺は冷蔵庫から缶ビールを2本取り出した。
ナイトゲームの実況が、居間から微かに聞こえて来る。

888『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:06:12 ID:w2AYPIJ.0
 「何だ、巨●、負けてるじゃない。」
缶ビールを一本父の前に置き、もう一本のプルタブを開ける。
父は薄く笑った。「まあ見てろ、次の回に逆転する。△伸が、打つからな。」
表情と声がいつもより控えめなのは、やはり雪のことが気に掛かっているからだろう。
父の斜め向かい、一人がけのソファに腰を下ろした。缶ビールを半分程、一気に飲む。
「で、どうだ?何か、分かったか?」 「何かって、何?」
「雪の寿命とか、延命の方法とか。色々あるだろ。お前は陰陽師、なんだから。」
「人の寿命も分からないのに犬の寿命が分かる訳ないよ。
それに医者も老衰で手の打ちようが無いって言ってるんだから、延命なんて無理。」
父は俺の眼をじっと見つめた。TVの明るいCMソングは、場違いなBGM。
「それは、Sさんでも、Lさんでも同じか?」
「死期が予測できるのは特別な場合だけ。雪の正確な寿命は、多分2人にも予測出来ない。
それより今夜を乗り切れるかどうかが心配な位なんだけど。」
「そうだな。」 父は中継が再開された画面に視線を移した。
ポツリと呟く。 「もう15歳。仕方、ないか。」 寂しそうな、横顔。
雪の死、その実感がじわりと胸にのしかかってくる。

889『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:09:47 ID:w2AYPIJ.0
 「あ、でも、今夜は多分大丈夫だよ。」 「何故分かる?」
「翠がそう言ってたからね。あの子が鋭いのは特別だから、信じても良いと思う。」
半分は親父への、残り半分は俺自身への、気休め。
「そう願いたいな。今夜を乗り切ってくれたら、明日と明後日は俺も一日家にいられるし。」
沈黙。静かな居間に、歯切れの良い実況だけが小さく響いている。
突然、鋭い打球音が響いた。興奮したアナウンサーが叫ぶ。
「ほら。言った通りだろ?」
いつもなら派手なガッツポーズが出る場面だが、父は微笑んだだけだった。
空き缶を持って台所へ戻ると、母が翠の枕元に座り雪の頭を撫でていた。
「この頃、あんまり寝てないでしょ?今夜は翠と俺に任せてゆっくり寝てよ。」
いくら雪が俺に懐いていて、父には絶対服従だとしても、
一番長い時間を雪と共有したのは母だ。今の雪の姿を見て一番辛いのも母だろう。
「そうだね。そうさせて、もらおうかな。」 母は手を洗い、そっと翠の頬を撫でた。
「お休み。雪のこと、お願いね。」 「うん、お休みなさい。」
寝室に向かう母を見送った後、缶ビールをもう一本飲んだ。
やはり落ち着かないが、翠の言葉通り今夜を乗り切れば、『その時』は多分明日。
今は体を休めておいた方が良い。翠の隣、布団に入ったのは10時半を過ぎていた。
半日運転した疲れとビールの酔いのせいか、俺はすぐに眠りに落ちた。

890 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/08(月) 23:15:02 ID:w2AYPIJ.0
皆様今晩は。再び、藍です。

今夜は此所まで。
お付き合い頂いた方々に心からの感謝を。
続きを投稿できる時期も、そもそも投稿ができるかどうかも分かりませんが、
気長にお待ち頂ければ幸いです。有り難う御座いました。

891名無しさん:2016/02/09(火) 00:44:30 ID:Eg5vyTH60
ああ、もう続きが気になって仕方がありませんよ(チラッ)
もう眠れそうにありませんよ(チラッ)

892名無しさん:2016/02/09(火) 02:04:58 ID:xvMf8f.EO
(;´д`)き、来てた!
覗いた私はラッキー〜

しかし…


この切り方は…

893名無しさん:2016/02/09(火) 05:43:33 ID:HdRzDYFg0
契、だから、雪が死んで、翠の使い魔?にでもなるのかな?
つづきが気になる。

894名無しさん:2016/02/09(火) 18:28:27 ID:MdLtaSwUO
大切な飼い犬の死に際に会いに行ける仕組みのあったことも凄いですが、Rさんのご家庭の温かさも凄いです。
投稿ありがとうございました。

895 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/09(火) 20:32:06 ID:KLqQfkWY0
皆様今晩は、藍です。

確信犯とはいえ、知人も私も出来れば円満な投稿を望む立場。
今夜中に禁止の通達がなければ、『契(上)』と『契(中)』までは
明晩以降、問題なく投稿できると思います(あとは私の作業次第ですね)。
藪蛇を避けるため、今回は投稿終了まで個別の返信は控えさせて頂きます。

では、明晩、此所でお合いできることを楽しみに。ご機嫌良う。

896名無しさん:2016/02/09(火) 22:58:03 ID:Eg5vyTH60
・・昨年はSさんと知人さんの文章表現には皆してやられましたね。
  ちょい悪のイメージが何と一目惚れに近かったとわ。
  これからもビックリ展開を希望いたしますね。

897名無しさん:2016/02/10(水) 08:56:46 ID:2jvkazs.0
去年12年一緒に暮らしたワンコ看取ったから
真面目に涙が出ちゃったよ。
序章でこんななら、本編はどうなっちゃうんだろう…

898 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:23:47 ID:C/Dvoyfo0
テスト中です。

899 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:31:52 ID:C/Dvoyfo0
皆様今晩は、藍です。

『契(上)』後半を投稿いたします。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

900『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:33:40 ID:C/Dvoyfo0
 全身に感じる、風の圧力。 体に粘り着く空気を力尽くで切り裂く。
これは、夢? はるか空の高みから見下ろす夜景が凄い勢いで後方へ流れ去っていく。
『もう目的地は目の前。一刻も早く姫君の下へ。』
その時、少し前方の夜景の中に徴が見えた。 『あれだ。』
気配を消しつつ、徴を目掛けて急降下。 夜景がどんどん大きくなる。
四角い屋根の縁に向けて着陸体勢。注意深く、速度を殺す。
梟や木菟たちとは違うし、翼の細かな制御は不得手。
抑え損ねた風が、庭の木々を揺らす音を聞いた。

901『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:34:56 ID:C/Dvoyfo0
 「お父さん。お父さん、おきて。外に、何かいる。」
...翠の声、これも夢? いや、違う。慌てて上体を起こした。
翠は布団から出て勝手口の三和土に足を下ろし、庇うように雪の背中を擦った。
ドアの向こう。憎悪に満ちた、低い唸り声。 全身が総毛立つ。 これは、何だ?
深呼吸、感覚を最大限に拡張する。激流のように流れ込む、激しい感情と映像。

 地面すれすれの視点。目の前に数頭の犬。その背後から此方を見下ろす男。
耐えがたい痛み、断末魔の苦しみ。 犬たちと男に対する激しい憎悪。
...狩りの情景?
男が携えた銃に見覚えがある。いつか読んだ本の旧い写真。確か、●田銃。
大きな破裂音と同時に、暗転。

902『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:37:03 ID:C/Dvoyfo0
 「ゆきちゃんはずっとこのうちでそだったから、動物たちをころしてない。
それに、ゆきちゃんが年をとってからこんなこと、ひきょうだよ。
ゆきちゃんが元気なあいだは何もしなかったのに。」
?? 翠がドアの向こうに語りかけている。 唸り声の意味を感知しているのか?
再び唸り声。苛立ったような調子が不吉だ。そっと翠の肩を抱いた。
翠は俺に頓着せず、ドアの外の気配に語りかける。
「それにね。くまさんだってほかの動物をたべるでしょ?
思い出して。たべられた動物たちはよろこんでいた?」
ドアの向こうの気配が大きく揺らいだ。しかし唸り声が含む憎悪は増している。

903『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:39:28 ID:C/Dvoyfo0
 言語を伴う思考が伝わってこないのだから、気配の主は人間ではない。
翠の言葉からすると、猟師に撃ち殺された熊の、幽霊?
いや、動物でも幽霊に成り得る霊質を持つのは稀な筈だし、
狩りで殺された動物たちが幽霊になって祟るなら、猟師や猟犬はとうに絶えている。
恐らく妖。狩りで殺された熊や、その他の動物たちの怒りや苦しみ。
山の妖の1つがそれらと共振し、強い憎しみと悪意を宿した存在へと変化したモノ。
父方の祖父は、若い頃猟師だったと聞いた。雪は祖父の飼っていた猟犬の子孫にあたる。
その体に流れる濃い猟犬の血が、血迷った妖を引きつけた。それが何時かは分からない。
雪が元気な間は何も起きなかったのだから、猟犬や猟師に対する恐怖は残っていたのか。
雪の寿命が尽きかけたのを察知して恐怖は薄れ、憎しみが恐怖に勝った。だから、今夜。
母が張った結界を越えられないようだが、結界越しの妖気でも弱った雪には毒だ。

904『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:41:25 ID:C/Dvoyfo0
 「お父さんがいってたよ。動物はほかの生きものの命をいただいて生きてるって。
動物はみんな同じことしてるのに、うらむのはおかしい。ずっとこのうちにいて、
動物たちをころしたことがないゆきちゃんをうらむのは、もっとおかしい。」
ドアの外の気配は益々濃く、既に実体を現出したのでは無いかと感じる程だ。
残念ながら翠の説得は効果を上げていない。というか、むしろ逆効果。
このままでは濃度を増す妖気が雪の体を更に弱らせる。
この執着の強さからして、結界越しに祓うのは難しい。
だからと言って、相手の正体や力が分からない状態で母の結界を解くのは危険過ぎる。
鎮魂の詞歌で慰める方法はあるが、相手を特定できなければ効果は薄い。
何種類もの動物の魂を引き寄せ混ざり合い、妖を芯として寄り集まった集合体。
1つ1つ特定するなんて、俺には無理...いや待て、さっき翠は『くまさん』と。それなら。
「翠、外の妖、どんな動物の魂を取り込んでるか分かる?くまさんの他に。」
「うん、分かる。どうして?」
「憎しみに狂った動物たちに普通の言葉は通じないから、『言霊』で慰めてみるよ。
でも相手がどんな動物か分からないと効き目がない。
お父さんの術が始まったら、どんな動物たちの魂を感じるか教えてくれる?」
「分かった。」

905『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU:2016/02/10(水) 20:46:22 ID:C/Dvoyfo0
 深く息を吸い、下腹に力を入れた。心を込めて鎮魂の詞歌を詠唱する。
動物の姿を強く、鮮明に想い浮かべ、そのイメージを歌詞に織り込む。
最初は熊。ツキノワグマだ。大きく、力強い姿。その魂を慰め、憎しみと執着を解く。
植物から草食動物へ、さらに肉食動物へ。繋がる命の道理。
猟師達を始め、人間も動物の命を有り難く頂いて生きている。感謝と、鎮魂の祈り。
詠唱は一区切り、其処此処に浮かぶ色とりどりの花が見えた。次々に開いては散る。
散った花びらは光る軌跡を残して...大丈夫、『言霊』はちゃんと。
「しかさん。」 翠は俺の意図を理解していた。 詞歌の一区切り毎に動物を。
「きつねさん。」 「うさぎさん。」 「たぬきさん。」 「いのししさん...」
何度繰り返したか分からない。しかし確実に、ドアの外の悪意は薄れている。
? 翠はドアの向こうを凝視したまま、黙っている。
一区切りついたタイミングなのに?? 取り敢えず詠唱を中断する。
「お父さん、分からない。あれは、見たことない、から。」
見たことがない? そうか! これが最後。もう鎮魂でなく、祝詞を奉る時。
泣きそうな顔の翠をしっかり抱き締めた。
「翠のお陰で助かったよ。大丈夫。残ってるのはきっと、山の妖だから。」


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