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藍物語(投稿・感想・雑談専用=隔離)スレ

1枯れ木も山の賑わい:2014/03/26(水) 23:49:11 ID:sdeCrXLs0
藍 ◆iF1EyBLnoU の 投稿と
投稿に対する感想・雑談の為に立てた専用スレです。
レスの都合上コテハン推奨ですが、匿名の書き込みも勿論OK。
非難の書き込みは「作品に関する話題・雑談」スレで存分に。
こちらへ書き込まれた場合は(可能ならば)削除します。

750名無しさん:2015/07/02(木) 23:26:44 ID:.71XmAtY0
藍さん知人さん
 ありがとうございます。
 楽しみにして待ってます〜。

751名無しさん:2015/07/03(金) 02:03:50 ID:Tu7k.JVc0
ナオ君の心理描写が想像ではなく、ある程度の取材を経たものだとしたら今後の展開が期待できるのかも新米

752名無しさん:2015/07/15(水) 17:04:12 ID:7z7tbw1c0
まとめで出会い、全て読ませて頂きました。
とても興味深く、続きを心待ちにしております。
ここまで投稿し続けるのにとても長い時間がかかった事、その裏にある様々な苦労をお察し致します。
作者様と、お身体にお気を付けて、これからも頑張って下さい。

753名無しさん:2015/08/23(日) 09:43:25 ID:bShbRdA.O
Sさんはダビデの血をひいているという夢など見ました。
いつも命懸けの家業、どうぞお気をつけ下さい。
新しいお話もいつか公開される日をお待ちしてます。藍様もどうぞご安全に。

754名無しさん:2015/08/24(月) 22:52:40 ID:3/CfCGCo0
フフ。9月まであともう少しですな。

755名無しさん:2015/09/07(月) 23:15:46 ID:ku4dNWbwO
しばらく藍さんが来ないので、また「出会い」から読み返しています。次はまだかな…。

756 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/08(火) 21:25:27 ID:vV6Wb0V60
皆様今晩は、藍です。

>>750 751 752 753 754 755

交渉を続けて来た結果、数日中に掌編を1つ投稿出来そうです。
それまで、どうかもう暫くお待ち下さい。

757名無しさん:2015/09/08(火) 23:07:24 ID:ri/kH.dMO
藍様、交渉ありがとうございます!
新しいお話を楽しみにお待ちしてます。

758名無しさん:2015/09/08(火) 23:48:34 ID:6KuYA5Pg0
知人さん藍さん,ありがとうございます。
楽しみにしています。

759 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:29:32 ID:8ZyP6UVg0
皆様、今晩は。藍です。

予想外の事態で投稿のための時間が取れず、投稿が遅れました。
作業が済んだ所まで投稿して、後は今後の状況に任せたいと存じます。

どうか『水に流すことの出来ない事情』を、お察し下さい。

760『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:30:46 ID:8ZyP6UVg0
『召喚』

 「ね、翠。やっぱり止めた方が良いんじゃない?今夜は2人だけだし、怖いかも。」
「お父さんが一緒だから大丈夫。それに、きっと色々面白いよ。」
 
 リビングの床に広げた新聞を読む翠の、小さな背中。
翠の精神的な成長が著しいのは、良いことなのだろう。
しかし、新聞のTV欄を不自由なく読めるようになってから、時々問題も起こる。
翠が見たいと望むTV番組が、俺たちの方針と異なることがあるからだ。
そんな時、Sさんは翠を甘やかさずピシリと言ってくれるし、
姫はTVを見るよりずっと魅力的なイベントを考えてくれる。 しかし今夜は違う。
丹の、ある儀式のためにSさんと姫は昼前からお屋敷を離れていて、明日まで戻ってこない。
藍も一緒に出かけたから、お屋敷には俺と翠が2人きり。
しかも翠は俺が翠に甘いのを理解している。結局2人でその番組を見ることになった。

761『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:31:57 ID:8ZyP6UVg0
 まあ、夏にはお決まりの企画。 『心霊●▲特集2時間スペシャル』
この手の企画には珍しく、何年か続いているらしい。局のやる気(?)は感じる。
しかし、本気でこの手の企画を実行したらそれはそれで...悪い予感しかしないが。

762『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:33:20 ID:8ZyP6UVg0
 翠がいつもより早く食べ終えた夕食の後、いよいよ番組が始まった。
最初は心霊写真のコーナーで、一枚映し出される度に出演者達が大げさに怖がる。
自称『専門家』が写真を解説して、また出演者達が怖がる。
お決まりの演出なんだろうが、当然、本物の心霊写真なんて滅多にない。
光の反射か何かでそれらしい影が映り込んだ写真や、あきらかに作為を感じる写真。
どちらかというと翠は心霊写真よりも出演者達の反応に興味が有るようだった。
「ホントに、怖いのかな?」 「え?」 「だから、あの写真見て怖いのかな?」
「う〜ん、本物かどうか分からない人は怖い、かもしれないね。
それにほら、『偽物だ』なんて言ったら、番組の雰囲気が壊れちゃうでしょ?」
「そっか、怖がって、楽しむんだね。」 『怖がって楽しむ』か、確かにそうなんだけれど。
「それで、今までので変な写真あった?本物っぽい写真とか。」
俺は気付かなかったが、俺より感覚の鋭い翠なら。
「え〜っと、2枚目の写真には写ってたよ。○印で囲んだところじゃなかったけど。」
「2枚目?公園の木が写ってた写真?」 「そう、端っこに『手』が写ってた。女の人の。」
ぞく、と背中が冷たくなる。○印をつけられて、他の部分には俺の感覚が向かなかったのか。
CMソングが何だか空々しく、不気味な響きに聞こえる。
「翠、あのさ、出てくる写真に何か変なのが写ってたら、教えてくれない?」
「うん、良いよ。」 あっさりと答え、翠はTVの画面に視線を戻した。

763『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:34:32 ID:8ZyP6UVg0
 写ってる人数より腕が多いという写真。 → 「みんなの後ろにかくれんぼした人の手。」 

 無数のオーブが映っているという写真。 → 「凄いホコリだね。マスクしないと。」

 翠は写っているものを淡々と語り続け、それは俺の感覚とも一致していた。 しかし。

764『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:36:18 ID:8ZyP6UVg0
 ビーチの写真が映し出された時、翠の表情が変わった。
曇り空の下、並んで座る親子連れ。男の子の右半身に赤い光が重なっていて、
自称専門家が『これは霊障が心配ですねぇ。右半身の怪我とか。』などと解説している。
俺は赤い光に嫌な気配を感じない。しかし、微かな違和感。
振り向いた翠の、キラキラ光る瞳。 「見つけたよ。お父さん、ほらここ。ね?」
指さしたのは家族連れから海側に少し離れた場所、若い男性の後ろ姿。
突然感覚が拡張し、首筋の毛が逆立った。確かに、これは生きた人間ではない。
生きている人間と寸分変わらぬ姿で、ハッキリと写っている霊。
あまりにハッキリと写っていて、写真を撮った人も、この写真を見た人も
それが霊だとは気付かなかったのだろう。
何より、この写真を撮った時、そこにいた人たちに男性の姿は見えていたのか。
どちらにしても、一見ごく普通に見える写真が実は心霊写真の場合もあると言うことだ。
そしてもしかしたら、街中の人混みに混じって...。
俺は幼い頃から写真と人混みが苦手だったが、こういう感覚が原因だったのかも知れない。
軽い気持ちで見ていた番組が、急に禍々しいものに思われた。
『本物』の心霊写真を不特定多数の人に見せて、どんな影響があるのか見当も付かない。

765『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:37:39 ID:8ZyP6UVg0
 「この女の人写してる間に、中に入ったの。」
投稿されたという動画のコーナーになっても、翠の解説は続いていた。
心霊スポットだという廃墟。一度開けたドアの中には誰もいなかったのに、
怖がる若い女性を写したあと、もう一度ドアを開けると白い服を着た人影。子供騙しだ。

 「階段が有るから、隠れて後ろから手を出せるんだよ。」
港の岸壁。海側から手が伸びてくるという動画も作り物。
作業用の階段に隠れている協力者が、岸壁の際に立つ女性の足に手を伸ばす。
良く考えられた構図で階段自体は写っていないし、中々の工夫と言えるだろう。
出演者達の表情は引きつっていた。泣きそうな女性タレントもいる。

766『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:39:47 ID:8ZyP6UVg0
 「ねぇ、お父さん。この人たち、怖くないのかな?」
「え?みんな怖がってるでしょ。階段が写らないようにしてるから騙されて」
「騙されてることじゃなくて。」 「え?」 翠は立ち上がり、俺の隣に座って体を寄せた。
その体は少し強張っている。一体何を感じているのか。
「どうしたの?」 「来てるよ。あの人たちの近くに。」
既に動画のスロー再生も終わり、若い芸人が自分の体験談を話している。
「来てるって、何が?」 「分からない。何か、怖いもの。前は、男の人だったもの、かな。」
『集まって怪談をしていると寄ってくる』と、何度か聞いたことがある。
編集済みの録画に、翠はそれを『見ている』のか。 TVの画面越しに?
突然、大きな音。スタジオで何か小道具か倒れたらしく、出演者達はパニック寸前だ。
「あんまり強くないと思うけど、大丈夫かな。」 翠の声は沈んでいる。
心なしかTVの画面が薄暗く見える。 悪意、だ。 今は確かに、俺も感じる。
もし出演者達の身に何か起こって、その場面が放映されたら、
感受性の高い人間が受ける悪影響は心霊写真とは比較に...しかしどうすれば良い?
局に電話したとしても、まともに取り合っては貰えないだろう。
何の証拠もない、イタズラか異常者かも知れない電話一本で放送を止める筈はない。

767『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:44:03 ID:8ZyP6UVg0
 「お父さん。」 我に返る。 俺を真っ直ぐに見上げている、真剣な瞳。
「何?」 「お友達に頼んじゃ駄目?」 お友達って...
そうか。 一瞬、一飛びで遠い距離を越える、『空を往く者』。 翠はこの放送が今。
次の瞬間、大きな音を立てて窓ガラスが震えた。 突然の、強い風。 そして、羽音?
リビングの窓ガラス越しに、黄色く光る瞳がこちらを覗き込んでいる。
ソフトボールほどの大きさ。濡れたような艶のある、嘴の一部も。
確かに...式の使役に限れば、翠はSさんの指導を仰いで基本的な修練を終え、
既に当主様の『裁許』を受けている。だが、どんな術者も『時間』だけは操作出来ない。
『戻れ。例え術者の誓いが有ろうとも、これは汝の仕事では無い。』
「お父さん、どうして?」
「あのね、翠。この番組は、ずっと前に撮影されたものを放送してるんだよ。」
「じゃあ、もう、間に合わないの?」 悲しそうな表情、胸が痛くなる。

768『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:46:08 ID:8ZyP6UVg0
 一瞬、TVの画面が明るくなった気がした。思わず視線をTVに移す。
俺には見えない何か、その『気配』は出演者の間を縫うように、画面左から右に動いていく。
『気配』が画面の右端に消えると、スタジオの雰囲気が変わった。
出演者達は相変わらず大げさに怖がったりしているが、先程までの緊張感はない。
「あれ、『式』だね。お母さんが、あれに似たのを作ったことがある。」
「式?」 「うん。トンボみたいな形、光ってた。ポワ〜ッて。」
ふと、思い出した。
怪談を基にした映画や心霊関係の番組を撮影する時は、
スタッフや出演者が揃ってお祓いを受けると聞いた事がある。
しかし、式だとすれば番組を収録した時スタジオに術者がいたか、
あるいは事前に式を仕込んだ代を配置して置いたのか。 2つに1つだ。
そうでなければ、何時寄ってくるか分からない相手に対応できた筈がない。
もし式を封じた代を配置したのなら、かなり力のある『式使い』ということになる。
Sさんの作る式に似ているとしたら一族の術者かもしれない。
TV局からの依頼があるルートで『上』に伝わって、それで。
しかし代に式を封じて配置する程、力のある『式使い』は数える程しかいないと。

769『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:47:45 ID:8ZyP6UVg0
 「どうしたの?まだ時間は残ってるのに。」
俯いた翠を抱き上げた。 左手でリモコンを操作してTVの電源を切る。
「お母さんとお姉さんの言ってた通りだった。怖いTVを面白半分で見ちゃいけないって。
お父さんなら駄目だって言わないと思って、お願いしたから。翠が悪いの。」
ふと、出かける前のSさんと姫の様子を思い出した。
家を空けるとき、気になる事があれば特にSさんは細かく指示をしてくれる。
しかし、今回は何も。当然新聞はチェックしたはずなのに...そうか。
『見せない』から、『見せて気付かせる』へ。 翠がその段階まで成長したと言う事だろう。
「今日、お母さんもお姉ちゃんも『翠にTV見せちゃ駄目』って言わなかったんだよ。」
「何故、かな?」
「翠を、信じていたんだと思う。『今の翠なら見せても大丈夫』って。」
「面白半分で見ちゃいけないわけが分かるってこと?」
「そう。駄目だと言わなければ、翠があの番組見るのは間違いないからね。
それに翠はもう分かったでしょ?面白半分で見ちゃ行けない理由。」
「うん、分かった。」 サラサラの髪をそっと撫でた。

770『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:52:11 ID:8ZyP6UVg0
 自らTVの電源を切って欲しいと言った翠。 その心は、きっと。

 「子供の頃、お父さんも好きだったよ。さっきみたいな番組。」 「ホントに?」
「うん。まだ『感覚』が働いてなかったから、怖がって、それを楽しんでいたんだね。
『感覚』が働いていたら、きっとお祖母ちゃんに怒られてたと思う。」
「『怖いTVを面白半分で見ちゃいけません』って?」 「そう。」 小さな、笑い声。
「じゃあ、TVの続き、どうする?」 「見ても大丈夫、かな?」
「『式』が配置されていたんだから、悪い事は起きなかった筈だよ。見たい?」
「うん。」 翠の顔に笑みが戻った。
その後は体験談の再現ドラマとUMAコーナー、式が発動する機会はなかった。

771 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:54:09 ID:8ZyP6UVg0
 藍です。

 今夜は此処まで。お付き合い頂いた皆様に感謝致します。
有り難う御座いました。

772名無しさん:2015/09/14(月) 23:45:07 ID:q0toJZE60
洪水とかだったら心配。御無事そうで何より

773名無しさん:2015/09/15(火) 00:09:52 ID:LqecAaiwO
投稿ありがとうございます!
心霊番組はやっぱりあんまり見ちゃ駄目なんですね。でもTV局で本格的な御祓いをしているなんて意外でした。
翠ちゃんの解説面白かったです。素敵な女の子に成長されてますね。
お父さんが娘に甘くて、娘がそれを見透かしてるって、リアルな関係に思わずにやついてしまいました。

774名無しさん:2015/09/16(水) 00:51:28 ID:RZ3OlA5.0
知人さん藍さん,投稿ありがとうございます!
それにしても翠ちゃん,可愛すぎてしっかりしすぎです・・・。
事情はわかりませんが,ご無事,ご健勝をお祈り致します。

775 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:44:40 ID:pyBusNHI0
皆様、今晩は。藍です。

以下、『召喚』の残りを投稿致します。
掌編の割に書き換えの指示が多かったので少し心配です。
大きな不都合無く、お楽しみ戴けると良いのですが。

776『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:48:54 ID:pyBusNHI0
 「実は、昨夜翠と2人で視たんですよ。『心霊●▲特集2時間スペシャル』
マズかったですかね?まだSさんには話していないんですけど。」
姫と2人で夕食の準備をしている。子供達とSさんはリビング。穏やかな夕方の一時。
「全然問題有りません。『見せなければ済むという時期じゃない。』って、Sさんも。」
やっぱり、事前の禁止が無かったのはそういうことだったのだ。
「それなら良かった。その番組を見てる時に、その何というか、変わったことが起きたので。」
「変わった、ことですか?」 姫の眼に宿る光が強くなった気がした。
「ソレ系の動画を紹介するコーナーの途中で、翠が『怖いものが来てる』って。
動画自体は作り物だと思ったんですけど、スタジオの雰囲気に惹かれて
『何か』が寄ってきてたんだと思います。」
「それで、術者が前もって配置していた式が発動したんですね?」
心臓が、止まるかと思った。
「あの、どうしてそれを?Lさんは、番組を視ていないのに。」
優しく笑って、姫は鍋を火に掛けた。

777『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:50:29 ID:pyBusNHI0
 「あのTV局には一族の人が働いていて、そういう番組や企画が有ると
『お祓い』を依頼されるんです。でも、実際には式を封じた代を配置して、
次の依頼が来た時にその状態を確認して対応する、そう聞きました。」
『お祓い』では、その後に起こる怪異には対応できないという予想は当たっていた訳だが、
まさか本当に一族の術者が関わっていたとは。
「それで、翠ちゃんには見えたんですか。式の、姿が。」
「見えていた、と思います。トンボみたいな形だと言ってましたから。」
「Rさんには?」 「見えませんでした。気配が移動するのは、分かったんですけど。」
姫は小さく溜息をついた。
「やっぱり適性の違い、なんでしょうね。それに翠ちゃんの感覚はかなり鋭いし。」
「ええと、『式』って写るんですか?ビデオとか、写真とかに。」
俺は気配を感じ、翠が姿を見たなら、収録した映像には『何か』が記録されている筈だ。
「私、実験した事が有るんです。昼寝してる管を、『●ルンです』とデジタルカメラで。」
「どうして、2種類?」 珍しく、姫は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

778『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:54:37 ID:pyBusNHI0
 「『デジタルカメラが普及してから心霊写真』が減った』という話、聞いた事がありますか?」
「はい。『デジカメだと二重露光みたいなトリックが使いにくいから』だ、と。」
デジカメのついたケイタイやスマホを持ち歩く人が増え、
心霊写真が撮れる可能性はむしろ高くなっている筈なのに心霊写真は減っている。
とすれば、デジカメ普及以前の心霊写真はほとんど偽造という結論を導くのに無理はない。
「本当にデジタルカメラでは心霊写真が撮れないのか、それを確かめたかったんです。
全く同じ場面を2種類のカメラで撮影した管の写真を比べたら、手がかりになると思って。
式も幽霊も妖も、私たちとは『在り方』の違う存在だし、
実際に幽霊や妖を相手にする時に、写真を撮っている余裕は有りませんから。」
確かに、仕事中は一瞬の油断が命取りになりかねない。
悠長に写真の撮り比べ実験なんて。 その点管さんがモデルなら100%安全だし、
管さんはもともと独立した妖。 幽霊の代わりの実験台としても最適だろう。

779『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:55:55 ID:pyBusNHI0
 「それで結果は、どうだったんですか?その実験の。」
「10枚ずつ写真を撮りました。『●ルンです』で式の姿が撮れたのは2枚、
デジタルカメラで撮れたのも2枚。 4枚とも少し少しボケてました。
でも、デジタルカメラでも本物の心霊写真は撮れると思います。」
デジカメでも撮れる? じゃあトリックって話は...いや、それよりも。
「昼寝してたってことは、管さんが『見える』時に撮ったんですよね?」
「はい。いつものウッドデッキの端っこで。」
肉眼ではハッキリ見える管さんが、10枚中たった2枚ずつ?
「不思議、ですね。姿は見えるのに写真に写らないことの方が多いなんて。」
「以前は幽霊の数が少ないから本物の心霊写真も少ないんだと思ってましたけど、
そんな単純な話では無いみたいです。それに、もっと不思議なのは。」
姫はたっぷりのレタスとミニトマトを盛りつけたサラダボウルをテーブルに運んだ。

780『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:58:08 ID:pyBusNHI0
 「式の姿が映っていない写真でも、『気配』を感じるんです。
まるで、私には見えない何かが写真やデータに記録されているみたい。」
それがどういう理由なのか、俺には想像もつかない。しかし、それはまるで昨夜の。
「姿は見えないけど『気配』を感じるというのは、昨夜の僕と同じですね。あの番組の。」
「はい。管の姿は写っていなくても、その写真やデータには確かに『何か』が記録されていて、
私たちはそれを『気配』として感じるけれど、翠ちゃんなら多分映像として見ることが出来る。
ただ、術者でない人が写真に記録された『気配』を感じるのはごく希な事でしょうから、
そんな写真が心霊写真と言えるかどうかは分かりません。間違いなく『本物』だとしても。」
本物だが、心霊写真とは...ふと、思い出した。昨夜の番組、本物の心霊写真。
ビーチの家族連れの背景に立つ、若い男の後ろ姿。 髪型も、海パンの模様も。

781『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:59:49 ID:pyBusNHI0
 「昨夜の番組で紹介された中に、本物の心霊写真があったんです。
管さんを狙って撮っても、その姿が写る確率が2割(10枚の内2枚)位だとしたら、
心霊写真が偶然に撮れるなんて有り得ない気がするんですが。」
「偶然なら、本当に『有り得ない』くらい確率は低いでしょうね。
でも、偶然でないなら『有り得ない』から『たまには起こる』位の確率にはなるかも。」
「え?偶然でないならって、そんな事が。」
「結婚の時に撮った記念写真、憶えてますか?」 「はい、憶えてますけど。」
数枚の記念写真。家族全員で撮った一枚は引き延ばして、今も俺の背後の壁に。
「全部の写真に写っていましたよ。ほら、その写真にも。」
姫の視線を辿り、振り返る。 あ。

782『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:03:02 ID:pyBusNHI0
 姫の足下に蹲る、小さな白い影。まるでペットが家族と一緒に。そうだ、確かに5枚とも。
『管さんも家族ですから、全員集合ですね。』 俺自身がそう言って笑ったのを思い出した。

 「きっと、その気になれば写真に写ることが出来るんです。管さんも、妖も、幽霊も。
それがこの写真みたいに、良い事ばかりじゃ無いのが問題なんですけど。」
内容は別にして、心霊写真は此の世ならぬ存在からのメッセージ? それなら。
「Rさん。」 「あ、はい。」
「完成です。配膳は私が。皆に声を掛けて下さい。お喋りしてた割には時間通りですね。」

 ダイニングを出て、リビングに向かう。 Sさんと翠の気配。
藍と丹の気配はかなり薄い。 丹のミルクと藍の離乳食の世話を考えれば神展開。
さすがにSさんだ。 その直後。

783『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:12:53 ID:pyBusNHI0
 「ホントだ。TVで見たのと同じだね。すごく綺麗。」 これは、翠の声。
足が動かない。盗み聞きではなく、ただ、2人の会話を邪魔してはいけない。
何故だろう。 その時俺は、そう思った。
「でしょ? この式をTV局に配置したのは、一族で最高の術者の1人だった。」
「もう、その男の人はいないの?」 「そう。」 Sさんはそれが男だなんて一言も。
一瞬の間。 そうか、『上』を通してその依頼を受けていたのは、あの人。
初対面の日、あの人は俺の背中に式を貼り付けた。
通常ではあり得ない、幾つもの適性を併せ持つ、『最高傑作』。
まるで昨日の事のように目に浮かぶ。 端正な顔、長身の黒いスーツ。
「こんなに強い式を封じるには紙の代じゃ駄目。湿気も黴も平気な、例えばこれ。紫水晶。」
そう言えば、当主様の式は翡翠の代に。
「お母さん。その代、どうするの?」

784『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:17:39 ID:pyBusNHI0
 「炎の、この仕事を継いだのは私。だからこれを出来るだけ早くTV局に届けて。
でも、お母さんの式は翼を持ってないから...そうね、翠のお友達に頼むのはどう?
もし、炎の式が発動した後に入り込んだ悪いモノがいたら、それを片付けてからこれを。」
「良いのかな? 翠と、翠のお友達で?」

785『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:18:32 ID:pyBusNHI0

 『怒り故で無く、憎しみ故で無く。悲しみ故に。』

 Sさんの声。 まるで謡うような、不思議な調子。

 『ただ、はらから(同胞)の、あんねい(安寧)のために。』

786『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:28:41 ID:pyBusNHI0
 それは式を使役する術者の、『誓詞』だとSさんから聞いた事がある。

 翠の、鈴を振るような声が、Sさんの声を追いかける。

 「そう。これは遊びじゃない。面白半分でなく、真剣な仕事だと、誓える?」
「はい。誓い、ます。」 「良く、分かった。じゃ、お友達を呼んで。翠は、偉いね。」

 直後。 突然の強い風が、庭の木々とお屋敷の窓ガラスを揺らした。


 『召喚』 完

787 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:35:10 ID:pyBusNHI0
皆様今晩は。 再び藍です。

色々ありましたが、ようやく『召喚』の投稿を終えることが出来ました。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。有り難う存じます。

預かったお話がもう1つあるのですが、投稿の許可を頂けるか分かりません。
もし縁があるのなら、次のお話もきっと此処で。

788名無しさん:2015/09/16(水) 23:31:03 ID:RZ3OlA5.0
知人さん藍さん,ありがとうございました。
翠ちゃんのお友だち,ビッグバードさんのデビューですね!

789名無しさん:2015/09/17(木) 07:07:35 ID:oyuqQm8cO
続きの投稿、ありがとうございます!
翠ちゃんはもうお仕事を始めたんですね。お魚さんは喜んでいるのでしょうか。
Lさんはアナログとデジカメを10回ずつ試すなんて客観的ですね。検証面白かったです。

790名無しさん:2015/09/19(土) 01:17:49 ID:AcG3Mc7M0
己の持つ力に対する強い自制と恐れ。その積み重ねの業。
冷酷な計算と強い自制による冷徹な行動、本質的に自ら制限をかけるが故の・・・馬鹿正直さ
それを知事さんが変化球で描く。面白い。

791 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 22:49:48 ID:u7o6d5uw0
テスト中です。

792 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 22:59:37 ID:u7o6d5uw0
皆様今晩は、藍です。

以前『聖夜』というお話を投稿致しました。
その時点では非公開となっていた部分の許可を得ましたので、
指示された書き換えを終え、事情が変わらない内に投稿致します。

793『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:06:52 ID:u7o6d5uw0
『続・聖夜』

 チーム榊の忘年会の夜、恵子ちゃんと榊さんとの出逢い。
それから十日程経ったある日、Sさんと俺は榊さんから呼び出しを受けた。
あの少女は既に安全な場所で保護され無事に年を越したと聞いていたのだが、
それでは今日になってSさんと俺が呼び出しを受ける理由が分からない。
まさか、あの少女の身に何かあったのか? いや、それならそうと連絡が有った筈。
早々に『今夜はお酒を飲まない。』と宣言したSさんの運転で待ち合わせ場所に向かった。
それは郊外の寿司屋、『藤◇』。大事な会合で決まって使う、俺たちの隠れ家。

794『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:08:24 ID:u7o6d5uw0
 「もうあの娘は安全な場所で保護されていると聞いたんですが。」
「まあ、あの娘が母親の死や継父との生活を思い出す機会は少ないだろうから、
その意味では精神衛生上は確かに安全だよ。俺の家は。」
「へ? じゃあ、あの娘は今、榊さんの家に?」
「忘年会の後、二人で分署に戻る訳にもいかないだろ。だから、さ。」
確かに。それはそうだ。一人きりでホテルに宿泊させるのも心配だし。
「いきなり年寄りを驚かすとマズいから、勿論家に電話してから帰ったよ。そしたら。」
榊さんは大きな溜息をついた後、杯の日本酒を一息に飲み干した。
すかさずSさんが空の杯に日本酒を注ぐ。完璧なタイミング。少しだけ、嫉妬。
「手ぐすね引いてたらしいお袋は甲斐甲斐しく風呂やら着替えの世話を焼くし。
あの強面の親父まで、見てられないくらいに相好を崩して。全く、俺の立場がないっての。」
きっとそれは、年末で帰省した孫娘の世話をする感覚だったのだろうか。

795『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:10:08 ID:u7o6d5uw0
 「姉貴が使ってた部屋だ。着替えとかも。新学期の最初からは高校にも通ってる。」
ああ、それなら新しい落ち着き先が見つかるまで何の心配も。
「ただあの娘の引取先を探すのに二週間くらいかかって。それがマズかった。」
...たった二週間の内に何が?

 「姉貴の所はみんな男の子ばかりだったから、無理もないと言えばそうなんだが。
お袋と親父があの娘を文字通りの猫っ可愛がりなんだよ。
まずは毎日5時半に起床、5時半だぜ。それで親父と一緒に犬の散歩。
散歩から戻ったらお袋と一緒に朝食の準備。3人で朝食を食べたら高校へ。
高校から帰ってきたら、またお袋と一緒に準備して3人で晩飯。それが日課らしい。」
「あの、3人って?」
「だから親父とお袋、それとあの娘だよ。」
そうか。まあ、どう考えても榊さんの帰宅時間は当てにならないからね。

796『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:11:54 ID:u7o6d5uw0
 「でも、引き取ってくれる親戚がいるならそれが一番だろ?
『新年早々』って、親父とお袋には散々嫌な顔されたけどやっと見つけたよ。母方の祖父母。
乗り気と言うほどでもないが、引き取って面倒を見るのは構わないと言ってる。
それでその日は早く帰って、話を切り出したんだ。そしたら。」
榊さんは両掌で顔をゴシゴシと擦った。
「あの娘に、派手に泣かれちゃってさ。結果、お袋と親父も仏頂面。
『いきなりそんな事、無理強いするものじゃない。』って。まるで俺一人が悪者だ。」
ああ。普段から家庭内での空気が読めないと、それで色々有るのは仕方ないですよね。
「でも、あの娘の将来が一番大事なんだから。構わず言った訳。
『恵子ちゃんの将来が一番なんだから何時までもこのままじゃいけない。
恵子ちゃんはこれからどうするつもりなんだい?』って。そしたら。」
榊さんは杯の日本酒をくいっとあおった。

797『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:13:39 ID:u7o6d5uw0
 『私、健太郎さんのお嫁さんになりたいです。
それが駄目なら、このお家のお手伝いさんにして下さい。』

 俺と榊さんは盛大に日本酒を吹いた。この声はあの娘の...そうか、『声色』。Sさんだ。
「何だよ〜いきなり。Sちゃん、俺の心臓止める気かい?」
「いいえ、もうそろそろ本題に。依頼の内容を聞かせて戴こうかと思っただけです。」
「そうか。それはそう、だな。折角来て貰ったんだから。」
ウーロン茶のグラスを持った、Sさんの笑顔。しかし榊さんの表情、冷たい翳りは?

 「あの娘の、気持ちを変えて欲しい。俺に関する記憶を消せるならそれも。」
!? どうして...あの夜、榊さんもあんなに楽しそうに。
「とても辛い状況から助け出されたから、あの娘は思い違いをしてるんだ。
これから色々な人に出会うんだし、その中にはあの娘を待ってる運命の人もいる筈だ。
俺の事を好きだなんて思い違いは、あの娘の未来を狭めてしまう。」

798『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:15:52 ID:u7o6d5uw0
 違和感。

 本庁からも一目置かれる『チーム榊』のボス。その話術は筋金入りの犯罪者の心さえ。
それなら、何の問題も無くあの娘を説得出来る筈。なのに何故俺とSさんに?
掘り炬燵の中で、右の爪先が軽く踏まれた。Sさんだ。つまり、これは俺の役目。

 「榊さん。術者に仕事を依頼するのに、嘘はいけませんよ。基本中の基本でしょう?」
「嘘?」 一瞬、顔から肩に膨大な熱を感じた。 正面から押し寄せる激情。 熱い。
自分の歳の約半分しか生きていない若造相手。しかし、榊さんは見事に感情を抑え込んだ。
それとなく額の汗を拭い、心に鍵を掛ける。 そう、出来るだけ平静を装うために。
「榊さんなら説得は簡単でしょう?さっきの通り説明すればあの娘も理解する筈。
なのに何故わざわざ僕達に? 一体榊さんは何を、困っているんですか?」
「参ったな...分かった、正直に言おう。俺もあの娘が好きだから、困ってるんだよ。
いつも通りに話が出来れば説得は簡単だろうが、その間、自分を抑えてる自信が無い。」
「え〜っと。相思相愛なら、何の問題も無いんじゃ?」
あの娘は18歳。母親は既に亡く、継父とは法律上の親子関係が無いと聞いていた。
それならあの娘の意思だけで結婚を決めることだって出来る。
「歳の差だよ。 45-18=27 幾ら本人の希望でも、それは無理。だろ?」

799『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:17:47 ID:u7o6d5uw0
 「あの、榊さん。」 「何だい?」
「亡くなった奥さんと結婚した時は周りの反対を押し切ったって聞きました。なのに何故今回は?」
「反対、か。確かにあの人の御両親は俺たちの結婚に反対してた。
でもそれはあの人が中々結婚を承知してくれなかったからだ。
『1年も経たずにあなたをバツイチにするって分かってるのに、結婚なんて。』 そう、言ってな。
でも、俺はどうしてもあの人と結婚したかった。それに。」
榊さんは言葉を切り、窓の外を見詰めた。目尻にうっすらと、涙?
「もしあの人が妊娠したら、俺たちの子供が出来たら、一族の護りがあの人にも、そう思った。
結局それは、間に合わなかったけど。」

 「榊さん、あなたは『約束』を果たすべきです。未だ果たしていない『約束』を。」
Sさんの優しい、それでいて厳しい表情。
「Sちゃん、『約束』って。まさか。」 少し、榊さんの声が震えている。
「結婚を承知するのと引き替えに、あの人と交わした約束です。」
「それは。」
Sさんは眼を閉じ、ゆっくりと、深く息を吸った。

800『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:20:19 ID:u7o6d5uw0
 『もしもあなたが誰かを好きになって、
それが一族を護る力の仕業だと分かったら、その想いは冷めてしまうの?
もしもあなたの前に現れた女性が私の生まれ変わりだと分かったら、
今と同じように、どんな障害も乗り越えてその人を愛するの?』
違う、これはSさんの声じゃ無い。それに、あの娘の声でも無い。だとしたら。
「分からない。本当に分からないんだ。君を失ってから、俺は何も。」
『たとえ私が死んでも、きっとあなたは幸せになって。
素敵な人をお嫁さんにして子供を作って、お父様とお母様を安心させて。
あんなに約束したのに。』
「確かに約束したよ。でも君が俺を残して逝ってしまって、俺はどうしたら良いのか。」
『私も精一杯頑張る。約束、あれから一時だって、忘れてはいない。それは今も』
「俺は...」
榊さんはそれきり黙った。俯いたまま、テーブルの上で、きつく握りしめた両の拳。

801『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:21:43 ID:u7o6d5uw0
 Sさんが俺の右肩に触れた。小さな目配せ。
そうか。素早く立ち上がり、壁のハンガーからSさんのコートを取る。
「ご馳走様でした。依頼はキャンセル、車を呼んでおきます。落ち着いたらどうぞ。」
Sさんは俺が着せかけたコートに袖を通したあと、座敷の襖をそっと閉じた。
廊下を進むSさんの軽やかな足取り。後を追いながら声を掛ける。
「『武士の情』って事ですか?あとは榊さん自身が。」
「武士?良い歳して、まるで駄々っ子じゃないの。あれじゃ恵子ちゃんが可哀相。」
ふと、立ち止まったSさんが振り向いた。
「でも、あなたは違う。榊さんの半分しか生きてないけど、駄々っ子じゃ無い
何時だって真っ直ぐで、一生懸命で。私、あなたの事、大好き。」
熱く、長いキス。

802『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:24:32 ID:u7o6d5uw0
 運転席のドアを閉じ、助手席に乗り込むとSさんがケイタイを取り出していた。
「もしもし、そう、S。今『藤◇』を出る所。車出して貰うように話して頂戴。
ちょっとキツく言い過ぎたかもしれないから、しっかり慰めて上げてね。
依頼の件は多分成功。全部上手く行ったら報酬は約束通り、忘れないで。」
白く細い指がボタンを押し、ケイタイを仕舞う。続いてキーを捻った、低いエンジン音。
「今の電話の相手、もしかして。」 「そう、恵子ちゃんよ。」
「今夜の、本当の依頼主はあの娘だったんですね?」
「あなたの依頼主は榊さん、私の依頼主は恵子ちゃん。
あなたも私もそれぞれの仕事をしっかりこなした。そういう事。」
「でもこれは二重」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「細かい事は言いっこなし。最大多数の最大幸福、それはいつだって絶対の真理。」

803『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:42:34 ID:u7o6d5uw0
 「あの、もう、1つだけ。」 「なあに?」
「仕事の報酬って。あの娘はまだ高校生で...もしかして榊さんの御両親が?」
「いいえ、榊さんの御両親は無関係。」 「じゃあ、一体どんな報酬を?」
「折々の葉書。」 「葉書?」
「そう。まずは式と披露宴の招待状。それから近況報告を兼ねた年賀状とか暑中見舞い。
依頼への私たちの対応。それが本当に正しかったのか、確かめなきゃいけないでしょ?」

 その後、チーム榊の会合で、
水野という青年のモノマネに新たなネタが加わったと聞いた。
それは多分、犯罪かと見まごうほど若い夫人と、可愛い子供達にデレデレの榊さん。
なら、俺と女装の結びつきはとうに『過去』。 きっとそうだ。
暗い山道に響く、力強いエンジン音。 本当に気持ちが良い
待てよ、でも今夜は聖夜じゃ。 いや、俺はキリスト教徒じゃない。何の問題も。
とても綺麗な、Sさんの横顔。 自分の頬に笑みが浮かぶのを感じた。
そう、何の問題も無い。 明日からまた、一生懸命に生きるだけだ。

『続・聖夜』 完

804 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:47:55 ID:u7o6d5uw0
皆様今晩は、再び藍です。

お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。

805名無しさん:2015/09/27(日) 08:03:13 ID:ZxypnuEYO
榊さんと恵子ちゃん、幸せになれますように。
RさんとSさんはラブラブ過ぎて、ごちそうさまですm(_ _)m

藍さん投稿ありがとうございました!

806名無しさん:2015/10/01(木) 00:39:18 ID:TAfSU6so0
聖夜の奇蹟,神の木に,恵みの子が来ませり。
今はやりの年の差婚もめでたきかな。
とってもいいお話を,ありがとうございました。

807 ◆iF1EyBLnoU:2015/10/08(木) 01:42:43 ID:RGITgbM60
皆様今晩は、藍です。

>>757
>>758
>>772
>>773
>>774
>>788
>>789
>>790
>>805
>>806

いつも通り、本当に温かく、とても深いコメントに感謝申し上げます。
未だ個別の返信は禁止されておりますが、禁を破りたい衝動に駆られる程です。
身内の事情、お仕事の都合、その他にも色々ありまして時期は明言出来ませんが、
もし縁が有りましたら次作も是非此処で。本当に有り難う御座いました。

808名無しさん:2015/10/09(金) 00:03:24 ID:1gLp.ps.0
一応、枯葉氏が作った板だからOKじゃね?なぜか粘着氏がここまで付いてきたのは誤算だったが

809 ◆iF1EyBLnoU:2015/10/16(金) 22:56:23 ID:NC7kAbkk0
皆様今晩は、藍です。

明日早朝からお仕事で暫く戻れません。
留守は頼んでありますが、コメント等への反応で失礼が有るかと存じます。
申し訳有りませんが、いつか新作を投稿出来る日を楽しみに。では、ご機嫌よう。

>>808
暖かいお心遣い、感謝致します。

810名無しさん:2015/10/18(日) 06:51:43 ID:OdcDjmMIO
藍さんお知らせありがとうございます。お仕事頑張って下さい。
新作も楽しみにしています(^o^)

811名無しさん:2015/10/22(木) 20:47:23 ID:TyU4/jCIO
一番あたたかいのは藍さん

812名無しさん:2015/11/10(火) 07:38:54 ID:JLcnug3M0
スレストッパーにやられなかった、よかった

813名無しさん:2015/11/20(金) 10:15:08 ID:4Ti0bvnk0
新作まだかなー楽しみだなー

814名無しさん:2015/11/21(土) 00:15:16 ID:EF3bi51U0
こんばんは、投稿追ってくと最近藍さんしきりに体調が良い時にって言いながら連発で作品アップしてたけど仕事も大変みたいだし、元気にしてるんだろうか。ただの通りすがりのROMだけどなんか気にはなっちまって、勝手な事書いてすいません

815名無しさん:2015/11/22(日) 00:04:23 ID:uX0mSdfo0
休暇と思ってよく休まれるべし。
もしかしたら1.5か月位忙しいかもね。

816 ◆iF1EyBLnoU:2015/11/22(日) 22:03:03 ID:4ZG7sau20
皆様今晩は、藍です。

一昨日の朝戻りました。
昼寝のつもりが丸一日以上経っていて、心配されたり怒られたり、色々と。
今はもう少し休んで、また仕事に出ます。新作の時期は明言出来ませんが、
お待ち下さる皆様のコメントは何よりの励みになります。
有り難う御座いました。

817名無しさん:2015/11/22(日) 22:20:02 ID:q/7ujS92O
藍さんお疲れですね。爆睡できて良かったです。
年末年始は特に忙しいと思います。お体にお気をつけて下さい。

818名無しさん:2015/11/22(日) 23:27:40 ID:HyehISCI0
藍さん,ご健勝をお祈り致します。
次の物語を楽しみに待っています。

819名無しさん:2015/11/24(火) 01:36:48 ID:Y/JSHITA0
知人さんのサポート、頑張って

820名無しさん:2015/11/24(火) 11:49:45 ID:srJPOBeY0
多分 このスレ見ている方々は 次作を急いで欲しいということではないと思いますので大丈夫かと思います。
良い物語をじっくり読むことができると信じてのんびりお待ちしています(^'^)

821 ◆iF1EyBLnoU:2015/11/24(火) 22:09:27 ID:kXF66t4A0
皆様今晩は、藍です。

暖かいコメント感謝致します。
充分お休みを頂きましたので、明日早朝から仕事に出ます。
また暫く留守、コメント返信等の失礼をお許し下さい。

『次作』について情報を得ましたら、留守番の者を通してお知らせ致します。
それでは皆様ご機嫌よう。 きっと何時か、また此処で。

822名無しさん:2015/11/27(金) 09:06:19 ID:brOEnfkYO
お知らせありがとうございます。
楽しみにしてます(^o^)/お仕事お気をつけて下さい。

823名無しさん:2015/12/11(金) 01:45:36 ID:dU3dWWfMO
д`)

824名無しさん:2015/12/16(水) 20:12:59 ID:3j4Nbj2sO
皆さん、オワコン社長さんを夜露死苦!!パズドラ動画いっぱいあるよ!男子も女子もバンバン見ってねー☆☆
http://m.youtube.com/channel/UCbc7XPBjep5i25QRnO0J5-A/videos?itct=CAAQhGciEwi3pKr6tN3JAhVMFlgKHYP-DQk%3D&hl=ja&gl=JP&client=mv-google

http://m.youtube.com/channel/UCkM7vL3osDR15f_jtlq94UQ/videos?itct=CAAQhGciEwi85dGItd3JAhWDe1gKHXlZCpc%3D&hl=ja&gl=JP&client=mv-google

825 ◆iF1EyBLnoU:2015/12/20(日) 20:47:10 ID:G5LmntdE0
皆様今晩は、お久しぶりです。藍です。

本日戻りました。良いお土産と悪いお土産があります。
良いお土産は2つ、新しいお話の作業が始まったこと。
悪いお土産はその2つとも完成・投稿の目処が未だ不明なこと。

早く仕上がる方を年内に投稿出来るよう、知人と相談中です。
頼りないお話ですが、楽しみにして下さる皆様に取り敢えずお知らせまで。
どうかもう暫く、気長にお待ち下さい。


追伸

近々投稿出来るとしたら、『聖夜』の中で記述のあった
『危険ではないが滅茶苦茶ややこしくて、どちらかというと救いの無い仕事』
に関わるお話です。榊さんと恵子ちゃんを引き合わせる直前のお話ですね。
Rさん単独でのお仕事。私自身、投稿出来る日がとても楽しみです。

826名無しさん:2015/12/21(月) 01:03:00 ID:mfROaJkQ0
原案はR氏の日記のような物があるのだろうか?
でないとしたら知人さんは結構行動を共にすることがあるのかもしれないな

827名無しさん:2015/12/21(月) 06:44:41 ID:kQBpo262O
知人さん=Rさん
という設定でいいのでは(笑)
違っていても、違和感ないし…

828名無しさん:2015/12/22(火) 00:53:03 ID:bZ2.eegA0
最初の通り取材と言う形式なら、密度が濃すぎてストーカー(笑)の様でもあり、とても仕事にならないと推論

829名無しさん:2015/12/23(水) 13:37:28 ID:PKPa1xqYO
楽しみ楽しみ

830 ◆06C70Y0X62:2015/12/28(月) 22:58:12 ID:0J.09yVw0
申し訳ありません。確認させてください。

831 ◆iF1EyBLnoU:2015/12/28(月) 23:50:19 ID:0J.09yVw0
再チャレンジ、これでどうか。

832 ◆iF1EyBLnoU:2015/12/29(火) 00:02:11 ID:kcZCIbZc0
皆様今晩は、藍です。

25日の投稿を目指して作業中にPCが壊れました。
PC本体だけでなく、復元用の記録部品も同時に壊れていたようで、
「こんなの、まるで呪いだよ。どうにもならない。」と言われてしまいました。
本日新しいPCを買ってきてもらったので取り敢えず復活です。

ただ、作業中の文書も消失してしまったので年内の投稿は微妙。
お年玉企画として投稿できれば御の字かもしれません。
(本当はクリスマスと絡めて投稿したかったのですが)

次作・掌編は、『異教徒』です。 どうかもう暫くお待ち下さい。

833名無しさん:2015/12/29(火) 04:12:17 ID:1PZRBfCw0
異教徒か・・・
ホアカリニギハヤヒ(徐福=物部)、ヒボコ、八咫烏、阿部
対になるのはオキナガタラシ、藤原であろうか?向、神門はどちらにせよ異教徒にはなり得ない。

834名無しさん:2015/12/29(火) 16:18:45 ID:GhvR.3KkO
新しいお話、楽しみにしています。ありがとうございます(^o^)/

835名無しさん:2016/01/04(月) 02:27:00 ID:5R06zDbw0
復元用の記録部品って何?
USBなどの外部メディアじゃなくて?
大切なデータのバックアップは外部HDD、BDディスク、USBなどに速攻でコピーしてるわ
それも定期的に更新しないと、今のメディアはすぐ消えるからなあ
数年前にDVDにバックアップした何割かは消えてたわ

836名無しさん:2016/01/04(月) 21:43:34 ID:TQ7rKrJM0
他山の石と思い、見ている人はバックアップとりましょう。こういうのは必ず続く。

837留守番:2016/01/04(月) 23:09:49 ID:6zhOcCEE0
 内蔵の復元専用HDDと外部USB接続のHDDも同時に壊れて
復元が出来ませんでした(デスクトップの背景は未だ不満があるようです)。
昨夜急に出かけましたが、「すぐに帰る。」と言っていたので、
投稿の準備はかなり進んでいると期待しています。

838名無しさん:2016/01/05(火) 10:40:21 ID:lxPHam8IO
お知らせありがとうございます(^o^)/電化製品系のトラブルはなかなか厄介で大変ですね。
納得のいく背景ができますように

839名無しさん:2016/01/05(火) 17:39:31 ID:hYtx5H360
HDDはいきなり壊れるからな
テキスト何だからUSBにもこまめにバックアップした方がいい
ミラーリングするフリーソフト使うとか。

840 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 00:30:39 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は、藍です。

次作の掌編の公開に障害となりそうな事件が起きたため、
公開すべきかどうか再度話し合いがありました。
特に書き直しの指示も無く公開が決まりましたが、
あくまで架空の物語としてお楽しみ下さるよう、予めお願いしておきます。
これから最終チェック。知人の確認を経て、明日の夜投稿予定。
新しいPCはとても調子が良いので作業が進みそうで楽しみです。

では明晩。ごきげんよう。

841名無しさん:2016/01/06(水) 09:56:30 ID:dkiwtePwO
わーい(^O^)/~~楽しみです

842 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:30:44 ID:hNLskE2c0
テスト中です。

843 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:38:39 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は、藍です。投稿の準備が整いました。

決して特定の宗教を誹謗中傷する意図は有りません。
海外の情勢等に関係なく、きっと皆様はこの作品を
一つの物語として楽しんで貰えると信じています。

では以下『異教徒』、ゆる〜い気持ちで、お楽しみ下さい。

844 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:39:58 ID:hNLskE2c0
 『異教徒』

 「申し訳有りません。折角来て頂いたのに、今日も義父は何も...」

 未だ二十歳を過ぎたばかりと見えるその人は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「『上』から指示された仕事ですからそれは構いません、ただ。」
そう、完全に拒絶されたのでは、俺に出来ることは無い。恐らくSさんにも、姫にも。
「お義父様の体に寄生した妖の様子から見て、ほとんど時間が無いんです。
年内にあと一度、多分それが最後のチャンス。その日付は、お義父様に。
それでも駄目なら、『上』に話をして手を引く以外に有りません。」
「...はい。」

845 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:40:58 ID:hNLskE2c0
 悲しそうに目を伏せたその人を見ると、何だか俺が悪い事をしているような気になる。
俺と同じ家系、『分家』の出。修行中、ある男性に見初められ相思相愛となり、
数々の困難を乗り越えて、その男性の嫁としてこの家に迎えられた女性。
その縁があったからこそ、この依頼を『上』が受理したのだし、俺を名指しで。
だが、これは初めから気乗りしない仕事だった。
依頼者の義父とは未だ一言も話すことが出来ていない。
依頼の対象であるその老人は、俺を異教徒として拒絶しているからだ。
自分の信仰に反し、怪しげな呪術に頼って生きるつもりはない。それが沈黙の意味。
これでは俺の言霊も力を発揮できない。
異教徒とも話が出来ると期待して、『上』は言霊使いを、つまり俺を指名した訳だが、
これほど頑なに拒絶されるとは予想もしていなかっただろう。

846 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:42:09 ID:hNLskE2c0
 「ホントに、手を引く以外になさそうですか?」
藍を抱いた姫の、心配そうな笑顔。 翠はSさんの寝室。
どういう組み合わせで寝るのか、毎晩一悶着起こる。今夜はこの状態に落ち着いた。
「昨日、一日がかりで車を走らせたのも、この依頼を完遂するためです。
準備は完璧だと思っていますし、最後まで、出来るだけの事はするつもりですが、
正直今回は自信がありません。
依頼の『対象』は、異教徒である僕に対して、とても頑なに心を閉ざしています。
あれでは『言霊』の響きも力を失うでしょう。」
その老人は一代で財をなした大変な資産家。
成功した後は慈善事業に力を尽くしてきたと聞いた。数年前、引退してからは特に熱心に。

847 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:43:50 ID:hNLskE2c0
 「その人の心の闇に寄生している妖は大した力を持っていないけれど、
心の闇が『不幸の輪廻』に繋がっているから難しいって事ですよね?」
「はい。その妖を祓えば『通い路』が開いて、もっと強大な悪霊が現れます。」
人の心の闇が濃度を増すと、そこに妖が寄生することがある。
当然、心の闇はやがて『不幸の輪廻』と繋がり、妖は次第に力を増す。
しかし通路が拡がりすぎれば、宿主の魂とともに
寄生していた妖も『不幸の輪廻』に呑み込まれる可能性がある。
だから寄生した妖は、通路を閉じないように拡げすぎないように宿主の心を操る。
『不幸の輪廻』に呑み込まれることなく、しかしそこから最大の力を得られるように。
そのために宿主を護ったり、その願いを叶えたりすることもあると聞いた。
寄生した妖と宿主の、奇妙な調和。おそらくそれが、この件の発端。
「でも、あの短剣があれば特に問題は。」

848 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:44:58 ID:hNLskE2c0
 確かに、あの短剣を使えば開いた通路を閉じて悪霊を押し戻すことも出来るだろう。だが。
「そうなんですけど、それでは、その人の心の有り様を変えることは出来ません。
もし、異教の術で助かったと知ったら、その人の心は支えを失ってしまうかも。
高齢だし、体も弱ってる。長年の信心、その根拠を失ったら、多分これからの人生は。」
「『出来るだけの事』ですか...やはりこれは、Rさんのお仕事なんですね。」
姫は優しい微笑を浮かべた。

 事態が一気に動いたのは3日後、『聖夜』。

849 ◆iF1EyBLnoU:2016/01/06(水) 22:46:23 ID:hNLskE2c0
 「瞳さん、外して下さい。」 「御父様、でも。」
「この人と二人だけで話したい。だから、お願いします。」
「はい。」 女性が部屋を出ると、その老人は一つ深呼吸をした。
「Rさん、でしたな。聡い人のようだから、私の言いたいことはお判りでしょう。
もう、これで最後にして下さい。義娘やあなたの気持ちはわかりますが、
異教の、それも妖しげな呪術に頼ってまで、生き延びるつもりはありませんから。」
やっと、口を開いてくれた。結果はどうあれ、これで言霊を使える。できるだけ単純に、簡潔に。
『御自身の心の闇に呑まれるのが、貴方の望みなのですか?』
数秒、言霊が届くと信じて返答を待つ。
「私自身の、心の闇?」 その老人の眼が光りを増した。
「自らの信仰に疑問を持つ、それを『心の闇』以外の言葉で言い表す事は出来ません。」
「...」
「ずっとお話をさせて頂けなかったので、その間に色々と調べさせてもらいました。」
「何をどう調べても、私自身がそれを話していないのなら、判るはずがない。一体何故?」


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