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藍物語(投稿・感想・雑談専用=隔離)スレ

1枯れ木も山の賑わい:2014/03/26(水) 23:49:11 ID:sdeCrXLs0
藍 ◆iF1EyBLnoU の 投稿と
投稿に対する感想・雑談の為に立てた専用スレです。
レスの都合上コテハン推奨ですが、匿名の書き込みも勿論OK。
非難の書き込みは「作品に関する話題・雑談」スレで存分に。
こちらへ書き込まれた場合は(可能ならば)削除します。

711『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:26:58 ID:7Sc44gmA0
 翌朝、オレと父親はタクシーで空港に向かった。
一便が到着するのは9時40分、『定刻』の表示が出ている。
9時50分過ぎには到着ロビーに客の姿が見え始め、すぐにその人達が現れた。
凄く綺麗な女の人と、その後ろに荷物を持った男の人、こちらは少し地味な顔。
2人の周りだけ、何だか空気が違う。この人達だ。間違いない。
父親も同じ事を感じたのだろう。戸惑うこと無く、2人に歩み寄った。
「あの、Sさんでしょうか?私、◎野です。電話で言われた通り息子のナオも。」
女の人はニッコリと笑った。本当に、今まで見た事も無いほど、綺麗な人。
「はい。私がSです。こちらは夫のR。宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。」 父親に続いて、オレも深く頭を下げた。
「大体の事は聞いています。あまり時間が取れないので、
これから早速病院に案内して頂けませんか?」
それなら直ぐにでもアキちゃんの眼が覚めるかも知れない、オレは嬉しかった。
待たせて置いたタクシーに乗り、病院へ向かった。

712『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:27:45 ID:7Sc44gmA0
 父親がドアをノックして、病室のドアを開けた。
青白い顔のアキちゃん、枕元の椅子に座るオレの、母親。
挨拶もそこそこにSさんはアキちゃんの手を握った。眼を閉じる。
暫くして、眼を開けた。アキちゃんの手をそっとベッドに戻す。
「分かりました。準備と、それから調べたい事もあるので、少し時間を下さい。」
「それなら、私の実家の方へ。申し訳ありませんが、今の時期ホテルは難しいので。」
「いいえ、有り難いお話です。ご実家は問題の起きた港に近いんですよね?この病院にも?」 「はい。どちらも歩いて10分以内です。」
「ならますます好都合。」 Sさんは一歩前に出て、オレの顔を覗き込んだ。
「ナオ君、後で港とか、案内してくれるかな?」
ふっ、と、一瞬目眩がした。思わず足に力を。
「あの、オレで良ければ。頑張りますから。」 「うん、良い返事。」
Sさんは微笑んでオレの肩に右手を添えた。 「お願いね。」 「はい。」
少しだけ、胸がドキドキした。

713『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:28:24 ID:7Sc44gmA0
 家に着くと、祖母が用意していた昼食をみんなで食べた。
SさんとRさんは細い体に似合わずよく食べるので、オレと父は驚き、祖母は上機嫌。
その後、少し休んでから港に出かける事になっていた。
SさんとRさんはオレが使っていた部屋に泊まって貰うことになっていて、2人は荷物を運んだ。
オレは昨夜からその隣、両親と同じ部屋で寝ている。
風呂に入って少し潮臭い髪と体を洗った。廊下を通る時、襖の向こうから話し声が聞こえた。
女性の声、Sさん?
「..そう、今夜。上手く行けば明日帰れる。翠をお願いね。大丈夫、少しややこしいけど...」
悪いことをしているような気分になって、思わず急ぎ足で居間に向かった
母親と一緒の部屋に戻るのは気まずい、出来ればその時間は最小限にしたかった。
居間では、普段着に着替えたRさんがお茶を飲んでいた。祖母は台所?。
「ああ、ナオ君。早速、案内を頼むよ。」 「あの、Sさんは。」
「あんまり時間が無いから、手分けしなきゃならないんだ。
港を見に行くのは僕でも出来るけど、他の調べ事や準備はSさんじゃないと。ゴメンね。」
Rさんが、心から謝ったのが分かった。この人は、良い人だ。
ただ、港へ向かう道の途中、Rさんはしきりに島で釣れる魚の事を尋ねた。
本当にやる気があるのか、良く分からなくなるくらい。大丈夫なんだろうか。

714『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:29:11 ID:7Sc44gmA0
 漁協の裏、あの桟橋が見えたとき、突然Rさんの雰囲気が変わった。
ホントにさっきまでと同じ人かと思うほど、その表情が引き締まっている。
綺麗な瞳で見詰められると、心臓が苦しくなった。
「成る程、あの桟橋だね?」 「はい、そうです。」 一体、どうしてこの人はそれを?
「アキちゃんは妖、ええと、妖怪に囚われてる。強い力というのはその妖怪の事だよ。」
妖怪?今の時代、本当にそんなものが、この港に?
「ナオ君、どうしてアキちゃんはこの港に?」 「魚を釣ろうとして、僕の両親のために。」
「それならアキちゃんは、釣りの名人でしょ?」 「そう、ですけど。どうして?」
「海に、愛される人が稀にいるんだ。極々稀に、ね。
アキちゃんが妖怪に囚われていることを、海が嘆いてる。
本当に、滅多に無い事なんだけれど。」

715『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:30:04 ID:7Sc44gmA0
 「どうして、アキちゃんはその妖に?」 「大丈夫?聞くのにはそれなりの覚悟が要るよ。」
オレが黙って頷くと、その人はゆっくりと口を開いた。
「アキちゃん自身の心に、この世界を去りたいという気持ちがあったんだと思う。
だからアキちゃんの願いが思いがけない力を持って、妖との契約が成立してしまった。」
「アキちゃんの、願いって。」
『私はどうなっても良い。私の命と引き替えに、ナオさんを助けて下さい。』
胸の、奥深くを貫かれたような気がした。言葉が出てこない。
「でも、アキちゃんが今も未だあの状態なのは、君がいたからだよ。分かる?
君がアキちゃんの手を離してしまっていたら、多分アキちゃんは体ごと取り込まれてた。」
身体ごと?アキちゃんが完全に消えてたかも知れないってこと?それならオレも少しは役に。

716『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:31:03 ID:7Sc44gmA0
 「さて、凄く強い妖。どうしたものか。まあ、Sさんなら、大丈夫だと思うけど。」
SさんとRさんは夫婦だと聞いた。なのに何故?
「あの?」 「何?」 「SさんとRさんは夫婦、なんですよね?」 「そうだけど。」
「どうしてRさんは『Sさん』って?」 「さん付けは、可笑しい?」
「いえ、でも僕の両親は。」
「僕はSさんが大好きだし、心から尊敬してる。夫婦って、それが当たり前じゃない?」
父親は『母さんを愛してる』とは言ったが、2人が互いを尊敬してるなんて、一度も。
「さあ、帰ろう。ところで、ナオ君。」 「はい。」
「君には、ホントの勇気がある。その勇気に報いるために、
僕達は何が何でもアキちゃんを助けるよ。アキちゃんが妖に囚われたまま、
2人の大切な未来が奪われるのを見過ごす訳にはいかない。
縁に導かれて出会った魂を結ぶ絆は、何よりも大切なものだからね。
きっと色々面倒な事が起きるだろうけれど。』
Rさんは言葉を切り、俯いた。聞き取りにくい、呟くような声。
「きっと、『◇』の加護は此方にある。」
それは『ひ、かり』? それとも『き、たり』? しかし、聞き直す雰囲気ではなかった。
出かける時とはまるで違い、その後Rさんは祖母の家に着くまで、一言も喋らなかった。

717『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:31:53 ID:7Sc44gmA0
 「只今、戻りました。」 玄関でRさんが声を駆けると、廊下を走る足音が聞こえた。
SさんがRさんに飛びつき、RさんもSさんの背中を優しく抱き締めた。
「お帰りなさい。心配だった。ホントに。」
眼を閉じたSさんの頬に、涙? 胸がドキンと高鳴る。 この感じ、何処かで。
「大丈夫です。それに、ナオ君はとても立派でしたよ。」
SさんはRさんの腕の中で、オレの顔を見詰めた。
「お手伝い、有り難う。今夜が本番なんだけど、今度は私の案内、お願い出来る?」
「はい。」 「うん、良い返事。」 そうか、そうだったのか。
魚を釣り上げた時のアキちゃんの笑顔に、Sさんの笑顔は良く似てる。その時、そう思った。

718『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:33:02 ID:7Sc44gmA0
 その日の夕食前、オレはSさんたちの部屋に呼ばれた。
「ナオ君、聞きたい事があるんだけど。」 「何ですか?」
Rさんは奥の長椅子で昼寝をしているようだった。
「色々調べて、事件の内容はほとんど分かった。ナオ君は少しも悪く無い。
でも、ナオ君がこの島に来なければ、きっとこの事件は起きなかった。
それについて、どう思う?正直な気持ちを、聞かせて。」
「分かりません。この島に来なかったらオレ、アキちゃんに会えなかったから。
でも、オレがこの島に来たのが原因なら、オレがアキちゃんを助けたいし、
そのためなら何でもします。でも一体どうしたら良いのか、全然分からなくて。」
「もし、君の大切なものと引き替えにアキちゃんが助かるとしたら、どうする?」
アキちゃんが助かるなら何だって...ふと、思い出した。花柄のTシャツ、ピンクの運動靴。
友達に冷やかされて、学校に行けなかった日のこと。元々オレには、大切なものなんて。
「オレは、要らない人間、です。だから、オレの命でも何でも。」
Sさんはオレの唇にそっと人差し指をあてた。
「そこまで。君の気持ちは分かった。だけど憶えて置いて。
自分を『要らない人間』なんて言っちゃ駄目。そういう言葉に『闇』が食い込んでくる。
それにもし君がいなくなったら、誰がアキちゃんを守るの?」

719『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:34:02 ID:7Sc44gmA0
 少し早めの夕食の後、母親が一足先にアキちゃんの病院へ出かけてから、
Sさんは皆を居間に集めた。重苦しい雰囲気。Sさんが話し始めるまで誰も喋らなかった。
「まずは状況を簡単に、その後今夜の予定を説明します。R君、お願い。」
「はい。今日ナオ君と一緒に港に行って、状況を確認しました。
アキちゃんは古くて力の強い妖怪に囚われています。
港で二人が溺れた時、『私の命と引き替えにナオ君を助けて下さい。』と願ったから、
その願いに妖怪が反応したんです。アキちゃんが特別な、妖怪や精霊に親和性の高い
魂を持っていたことも、この場合に限っては災いだったと言う事ですね。
アキちゃん自身が願ったことなので、基本的に変更は効きません。」
「ちょっと待って下さい。それじゃ、あの娘は。」 祖母は青ざめていた。
「『基本的に』です。1つだけ、方法がありますが、私たちだけではどうにもなりません。」
Sさんの声は力強かったが、何となく悲しげでもあった。
「私たちに出来る事があれば何でも。息子を助けるためにこうなったのなら、私たちは。」
「有り難う御座います。ナオ君には先に確認を取ってあるのですが。」
Sさんの視線、続いて父親と祖母も。オレは思いきり頷いた。

720『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:35:27 ID:7Sc44gmA0
 「簡単に言うと、『身代わり』にアキちゃんの名前をつけ、アキちゃんと入れ替えます。
妖は名前を無くした人間を認識できないので、
『身代わり』と引き替えにアキちゃんを妖から解放して、この世界に呼び戻す。
だからアキちゃんには、新しい名前が必要です。ただし、普通に名付けるのでは駄目。
直前まで誰かが使っていた『生きた名前』が必要なんです。
でないと、たとえ妖から解放しても、アキちゃんをこの世界に繋ぎ止められない。
妖に囚われていたアキちゃんは、この世界との繋がりがとても弱くなっていますから。」
「『生きた名前』って、一体どうすれば?」 父親の、怪訝そうな表情。
「ナオ君の名前を、アキちゃんに贈って下さい。勿論ナオ君にも新しい名前が必要ですね。
幸い、ナオ君はこの世界との結びつきが弱くなっている訳ではないので、
全く新しい名前を付けても大丈夫です。」
「ええと、『儀式の間そういうことに』ということですか?」 祖母が訊ねた。
「いいえ、出来るだけ早く正式な改名手続きを取って下さい。
改名手続きが成立しなければ、やがて術の効果は消えてしまいます。」
名前なんかどうなっても、オレはそう思ったが、父親と祖母は顔を見合わせた後、考え込んだ。
「それから、これはもっと重要です。7日の内に、アキちゃんをこの島から連れ出して下さい。
『本物』が近くに居れば、遅かれ早かれ妖は術を見破ります。
あの妖を欺いた報いは、アキちゃん1人の命だけでは済まないかも知れません。」

721『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:36:10 ID:7Sc44gmA0
 「御免なさい。その、お話があまりに常識とかけ離れていて、どう考えれば良いのか。」
父親の、躊躇いがちの言葉。 Sさんはニッコリ笑った。
「いきなりこんな事言われても信じられない、それは当然です。しかし信じてもらえなければ、
私たちに出来る事は殆どありません。信じてもらうために、こういうのはどうでしょう。」
Sさんはテープルの上の箱から取り出したティッシュを無造作に丸め、テーブルに置いた。
コップに残っていた氷水を、丸めた紙片に少したらして...まさか。
白い芽が出て、どんどん伸びていく。やがて数枚の白い葉が付き、白い花が1つ咲いた。
祖母も父親も、もちろんオレも、黙ってその光景を見ていた。
『パン!』 Sさんが手を叩いた瞬間、花と葉は散り、細かく千切れた紙切れだけが。
「陰陽師の術、信じて頂けましたか?」 父親と祖母は頷いた。もちろんオレも。
「それは何より。R君、お願い。」

722『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:37:51 ID:7Sc44gmA0
 Rさんは父親の目を真っ直ぐに見つめた。
「ごく単純に言い換えます。あなたが、アキちゃんを自宅に引き取って下さい。
2人の名前の件については、追加の説明は要らないと思いますが。」
「どうして、私たちが。」
「それが一番良いと思うからです。私たちが受けた依頼はアキちゃんを助けること。
助けたアキちゃんが幸せに暮らすにはナオ君が幸せでなければならない。
ナオ君が幸せでいるためには。」 Rさんは言葉を切り、深く息を吸った。
『ナオ君が幸せでいるためには、『ナオという名の女の子』が、あなたの家にいた方が良い。』
父親の体が固まった。呆然とRさんを見つめたまま、何秒経っただろう。
「恭子の、妻の事を、言っているのですか?」 父親の、消え入りそうな、言葉。
「そうか、これもあなたたちの力。あなたたちは術で、妻とナオの心を。」
「はい。すぐにでも手を打たないと、奥様の心は完全に壊れてしまいます。」
「あなたたちの言う通りにすれば、アキちゃんは助かり、妻の心も?」
「アキちゃんをこの島から連れ出して妖怪との繋がりを切り、
アキちゃんの、女の子の世話を任せる事で奥様の心の崩壊を止める。
どちらも裏技、対症療法ですが、まず症状の進行を止めないと回復は望めません。」

723『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:38:56 ID:7Sc44gmA0
 「分かりました。これから具体的にどうすれば良いのか、指示して下さい。」
父親は吹っ切れたような表情になり、祖母はそっと涙を拭った。
これで、やっとアキちゃんは。そう思うと嬉しくて、オレも涙が。
「ナオ君、本番はこれからだよ。油断しないでSさんの指示を良く聞いてね。」 「あ、はい。」
「これから二手に分かれます。お父さんとお祖母さんはR君と一緒に直接病院へ。
私とナオ君は港へ寄ってから病院へ。私とナオ君が病院へ着いたら術を完成させます。
それまでにナオ君の新しい名前を用意しておいて下さい。
仕事が済むまで、奥様には眠って貰いますが、体には影響有りません。何か質問は?」
誰も、手を挙げない。
「質問が無ければ早速出かけましょう。出来れば面会時間内に完成させたいので。」
オレたちは二手に分かれて家を出た。

724『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:39:52 ID:7Sc44gmA0
 一体、港に何の用があるんだろう。まさか、Sさんは妖怪と直接交渉するつもりなのか。
黙ったまま歩き続ける。港の入り口近く、東屋が見えた。
Sさんは先に立って東屋のベンチに座った。 「そこへ座って。」
ホントはあまり、この場所には。でもSさんたちを信じると決めたから。Sさんの隣に。
「君に術を掛ける前に、確かめたいことがあるの。
さっき君は、あの娘を助けるためなら何でもすると言ったわね。」 「はい。」
「大切な名前を無くしてまでも、あの娘を助けたいのは何故?」
「...好き、だからです。初めて、本気で好きになった女の子だから。」
「もし、全てが上手く行ってあの娘が戻ってきたら、一生かけてあの娘を守る?」
「はい。そのためになら、オレが生きていく理由もあると思いますから。」
「良く分かった。じゃ、これに君の名前を書いて。」 渡された紙切れ、小さな、人の形。筆ペン。
何だか、体が、思うように動かない。ノロノロと名前を書いた。ナオ、ああ、これがオレの。
「有り難う。丁度良いタイミング。『待ち人来たる』ね。」

725『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:40:57 ID:7Sc44gmA0
 近付いてきた、数台のママチャリ。
「私の使い魔に命じて、4人を此所に集めたの。直接、話を聞きたかったから。」
ママチャリをゆっくり降りた人影。コイツは、あの時の。
「あれが、漁協の偉い人の孫よね?この件の首謀者、●太。残りは取り巻き3人。
今日調べたら祖父には色々噂があったけど、本人はどうかしらね。」
薄暗くて見にくいが、間違いない。ソイツの鼻を覆う不格好な白いガーゼが何よりの証拠。
ソイツはベンチに近づき、Sさんの正面に座った。オレには全く反応しない。何故?
「今晩は、●太君。」 軽く手を叩くと、ソイツはSさんを見詰めた。
「君に、聞きたいことがあるの。」 「何、だ?」 やはり反応が遅い、多分、Sさんの術。
「アキちゃんのことよ。アキちゃんが海に飛び込んだ時のこと。」
ソイツの目がフラフラと泳いだ。怯えた表情。 「俺は関係ない。何も。」
「嘘は駄目。私見たの。君たちに追い詰められて、2人は海に飛び込んだ。」
「あれは、あれは2人が勝手に。そんなつもりじゃ無かった。」
「私が黙っていれば、騒ぎにはならない。安心して。」
父の話からすると、例えSさんが話をしたとしても、どうせ警察は。
ソイツの、疑わしそうな表情。 「じゃあ、一体どうしようって。」
「警察のお世話にならないとしても、君に責任があるのは間違いない。
もし、君の大切なものと引き替えにアキちゃんが助かるとしたら、どうする?」

726『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:42:29 ID:7Sc44gmA0
 「金なら、金で済むなら、祖父ちゃんが何とかしてくれる。」
「お金...君も、アキちゃんが好きだったんじゃないの?」
「どうせ、いつかアキは誰かに囲われる。それなら俺が、祖父ちゃんもそう言って。
○△の家に残った土地と、屋号を」
突然、冷たい風が吹いた。真夏なのに、腹の底から冷えて、体全体が凍えそうだ。
Sさんは微笑んでいた。でも、全く笑っていないその両目は、青く光っているように見える。
怖い。思わず立ち上がり、後退った。東屋を包む、この気配は一体?
「良く、分かったわ。それなら全て、君の望み通りに。」
Sさんはもう一度手を叩いた。
動きを止めたソイツの、胸ポケットに押し込んだ白い紙切れ。小さな、人の形?
Sさんは立ち上がり、オレの横をすり抜けて歩き出した。
「さあ、病院へ。ほら、急いで。」
促されるまま、ボンヤリした頭で、Sさんの後を追った。

727『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:46:03 ID:7Sc44gmA0
 病室の中に入ると、Sさんは何か小声で呟き、母親に歩み寄った。左手で額に触れる。
椅子の上で、母親の体からぐにゃりと力が抜けた。そういえば祖母の家で、Sさんは。
「では、始めます。」 父親と祖母は真剣な表情で頷いた。
Sさんは白い紙切れを取り出し、それをベッドの...
あ? この、オレの好きな女の子の、名前は。 そうか、オレたちの名前はもう。
白い紙切れを女の子の胸の上に置いて布団をかけ、耳元に口を近づけた。
やがて、Sさんは父親の方に向き直った。
「息子さんの、新しい名前は用意できましたか?」 オレの、新しい名前?
「はい。『ユウ』です。悠久の悠という字で。」 「良い名ですね。短い時間で、何故その名を?」
「息子が生まれる前、考えていた名前の1つです。母にも了解をもらいました。」
Rさんが父親に白い紙切れと筆ペンを差しだした。
「どうぞ、その名前をこの紙に。」 「はい...これで良いですか?」
白い紙切れを受け取ると、Sさんは振り向いてオレを見た。目の前に、白い紙切れ。
『これが、汝の名。『ユウ(悠)』、汝の分身。憂いを祓い、難を避く。』
目の前が真っ白になった。その中に浮かぶ、2つの顔。男の人と、女の人。
どちらも晴れやかな笑顔。 誰だろう?いつかこの2人には会ったことがある。
『これで思い残すことはありません。娘を宜しく頼みます。』 女性の、優しい声。

728『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:47:10 ID:7Sc44gmA0
 「ユウ、大丈夫か?しっかりしろ。」 目の前に、父親の顔。
「大丈夫、ちょっと目眩がしただけだから。」
「ユウ君、君の声で、あの娘の名前を呼んであげて。これは君の役目。」
Sさんに手を引かれ、オレはベッドに歩み寄った。膝を着き、そっと手を握る。温かい。
そう、そうだ。この子の名は。
「ナオちゃん、起きて。オレだよ、ユウ。お願いだから、起きて。ナオ、ちゃん」
空気が、変わった。軽い。何だか、厚い雨雲が晴れたような。
ナオちゃんは微かに身じろぎをして、ゆっくりと眼を開けた。
「ユウ、さん。」 ナオちゃんの眼から涙が零れた。オレも...良かった。これで、やっと。
「本来なら、お医者さんに連絡すべきだけど。」 「対応する時間は無くなるでしょうね。」
SさんとRさんは顔を見合わせて頷き合った。それは一体?
「どういう、ことですか?」 父親の問いにSさんが答えるより早く、不吉な音が聞こえた。
切れ切れの悲鳴、いや、救急車のサイレン。近づいてくる。辺りの雰囲気が慌ただしくなった。
「急患です。多分4人。ちょっと乱暴ですけど、タイミングを見て
ナオちゃんを連れて帰りましょう。お医者さんも看護師さんも、
今夜退院手続きをしている余裕はないでしょうから。」
Sさんは少し寂しそうに微笑んだ。

729『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 20:49:14 ID:7Sc44gmA0
 カーテンの向こうで、赤い光が明滅している。辺りがすごく騒がしい。
「そろそろですね。出発です。表玄関へ。R君、ナオちゃんをお願い。」 「了解。」
まだ少しボンヤリしている母親の手を引き、父親が部屋を出た。次に祖母、そしてオレ。
ナオちゃんを抱いたRさん、最後にSさん。閉めたドアに触れ、眼を閉じる。
「これで、良し。」
玄関を出ると、沢山の人々が駐車場に集まっていた。みんな緊急搬入口の方を見ている。
救急車、見えるだけで2台。オレたちを気に留める人はいない。黙ったまま、門を出る。
早足で近づいてきた数人の男と擦れ違った。

「●太たちだって、ホントか?」
「ああ、無灯火の自転車で、前から散々無茶しよったが。とうとう。」
「しかも轢いたのは●蔵だとよ。まさか自分の孫をな、いつもの店で酒飲んだ後らしい。」

父親がギョッとした顔で振り向いた。オレも思わずSさんを振り返る。
Sさんは人差し指を唇に当て、それから黙って前を指さした。

730『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:00:17 ID:7Sc44gmA0
 翌朝、いつもより早い朝食後、父はSさんとRさんを空港に送るためにタクシーを呼んだ。
本当は、もっと、ちゃんと御礼をしたかった。でも、2人が『時間が無い』と言ったから。
母は夜明けからずっと、つきっきりでナオちゃんの世話をしている。
昨日までとは別人のように明るくなり、オレへの接し方にも温もりが感じられた。
「Sさん。あの、聞きたいことが、昨夜の事故のことで。」
オレが声を掛けると、居間でお茶を飲んでいたSさんは微笑んだ。 「何?」
「昨夜アイツらが事故に遭ったのは、ナオちゃんの『身代わり』になったから、ですか。」
「いいえ。『身代わり』はただの、紙の人型。」 「でも、Sさんはアイツのポケットに。」
そう、確かに憶えてる。もしアイツを犠牲にしてナオちゃんが助かったとしたら。
「君がR君を港へ案内してる間に、私は病院に行ってあの娘の名前を預かってきたの。
だから妖はあの娘を見失った。昨夜、慌てた妖が港の周辺を探し回ってる所に、
君と、『身代わり』を持った私があの東屋へ。 当然、妖はすぐに『身代わり』を見つけた。」
何だか、凄く恐ろしい話を聞いている気がして、体中に鳥肌が立つ。

731『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:01:38 ID:7Sc44gmA0
 「そう、ね。あれが答えじゃなければ、事故は起きなかったかも知れない。
でもあれが、アイツが自分で出した答え。血眼になってあの娘を探していた妖の前で、
『あの娘はいつか誰かに囲われる』、『それなら俺があの娘を』と。
それでアイツの望みを叶えた。いいえ、そうするしかなかった。 あれ程に、怒り狂った妖。
『身代わり』を手放さなかったら、私と、そして君も無事には済まなかったもの。
だから君もナオちゃんも、気に病む事なんて何1つ無い。
アイツ自身が、そういう結末を選んだったって事。
結局、自分が犯した罪の報いからは誰も、逃れられない。
まあ、昨夜のお膳立てをしたのは私だから、あの事故の責任の一部は私にある。
それを後ろめたいなんて、これっぽっちも思わないけれど。」
少し悲しそうな、笑顔。
オレの脇をすり抜けたRさんが、Sさんの肩をそっと抱いた。何時、オレの後ろに?
「私は大丈夫よ。」 「はい。いつも通り、信じていました。」
何が大丈夫で、何を信じていたのか、オレには分からない。
きっとこの人たちは、オレと同じ世界に住みながら、オレとは違うものを見て、感じてる。
その人たちが『気に病むことはない』って。 オレはそれを信じて、ナオを守る。

732『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:02:30 ID:7Sc44gmA0
 「Sさん、Rさん、タクシーが来ました。」
2人を呼びに来た父の、穏やかな顔。 母親が元気になったからだろう。
夕方シゲさんに会い、事情を説明して今後の事を相談すると聞いていた。
「有り難う、御座います。」 SさんとRさんは荷物を持って立ち上がった。玄関へ。
Sさんは、折りたたんだ紙を父に手渡した。
「出来るだけ早く此処に電話を。面倒な手続きを助けてくれます。約束、どうかお忘れ無く。」
「はい、必ず。何から何まで本当にお世話に。ありがとうございました」
オレと父と祖母は、揃って頭を下げた。
「では、これで。」 手を振ってタクシーに乗り込んだ2人の笑顔は、とても温かかった。

733『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:10:17 ID:7Sc44gmA0
 「ナオ、早くユウを起こして!急がないと遅刻しちゃうわよ!!」
...微かに聞こえる。母の、声だ。今も未だ、少しだけ調子外れの。
階段を上る軽い足音、ドアが開いた。軽い音がしてベッドが揺れる。くすりと、小さな笑い声
「ユウさん、起きて。ほら、早く。」 ノロノロと上体を起こし眼をこする。眠。
細い腕が、オレを抱き締めた。シャンプーの香り。右頬に感じる、温もり。
「今日も、大好き。下で、待ってるから。」 走り去る足音。
いつもと同じ、朝の決まり事。よし、大丈夫、今日も頑張れる。ナオのために。
ナオとオレと父は3人一緒に家を出る。ナオの小学校までは歩いて5・6分。
ナオが大きく手を振って小学校の門をくぐるのを見届けてから、父と2人で駅に向かう。
「ユウ、どうだ?新しい中学校は?」 「また、その話?いい加減にしてよ。」
父は微笑んでオレの背中をポンと叩いた。以前よりもずっと、父との会話は増えた。

734『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:11:52 ID:7Sc44gmA0
 「しかし、あの2人、一体何者だったんだろうな。たった二ヶ月前なのに、何だか夢みたいだ。」
教えてもらった電話番号も、オレとナオの色々な手続きが済むと同時に繋がらなくなり、
今は連絡を取る方法が全く無いと聞いていた。確かに、あの島で起きたことは夢のようで。
例えば、あの丸めたティッシュから咲いた白い花。一体あれは、現実だったのだろうか。
微かに、雷鳴が聞こえた。 青い空には雲1つ見えないけど、何処か遠くで雷が。 そうだ。
稲光が見えなくても、微かな雷鳴が遠い遠い雷の存在を教えてくれるように、
オレの家族とオレ自身に起きた変化が、あの2人の実在を教えてくれる。
今もきっとこの国のどこかに、あの2人は、いる。
「夢じゃない。今はナオがいるし、母さんも毎日楽しそうにしてる。
ナオがいるから、みんなで幸せに暮らせる。全部あの2人のお陰でしょ?
きっと、神様の、御使いだったんじゃないかな。ナオと、母さんを助けるために来てくれた。」
「神様の御使いか...そうだな。でも、それだと俺が母さんを不幸にしたり、
お前がナオを不幸にしたら、罰が当たるぞ。それも、とんでもない天罰が。」
「オレは大丈夫だけど、父さんは地獄に落ちるかもね。」 「馬鹿言え!」
拳骨。その痛みも何だか嬉しい。オレはその人の笑顔を思い出していた。
ナオに少し似た、とても綺麗な人。

『遠雷』 完

735 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/15(月) 21:18:19 ID:7Sc44gmA0
皆様今晩は、再び藍です。

何とか投稿を終えました。お付き合い頂いた皆様に、心からの感謝を。
考えて見れば、書き出しの時期が6月と言うことよりも、
許可を得る交渉を応援して頂いた皆様への、プレゼントなのかも知れませんね。

有り難うございました。

736名無しさん:2015/06/15(月) 21:23:17 ID:uWH9oUYoO
終わりまで一気に書き込みありがとうございます!
とりかへばやなど「交換」の話は昔多かったですが、そのリアルな経緯を知ることが出来て嬉しいです。ありがとうございます。

737名無しさん:2015/06/16(火) 00:22:28 ID:zVrsk1Hs0
名も知らぬ遠き島で起きた,不可思議で,人の心を温かくする物語。
幼き魂の清らかさ,純な思いがいつまでも心に残ります。
神に遣わされた術師たちに誉れあれ。

738名無しさん:2015/06/16(火) 00:26:10 ID:wvBszuOE0
7月と言われたのに次の日にチェックに来た私に隙は無かった

739けんぽん:2015/06/16(火) 00:59:42 ID:slaSi0nk0
藍様
知人様

お忙しいにもかかわらず、お話の続きと新しいお話を有り難うございました。

遠雷は全くの第三者目線でのSさん達の活躍のお話で、今までとは違った新鮮な印象でした。

次回のお話も楽しみにしております。

お忙しい事とは存じますが、ご自愛下さいませ。

740名無しさん:2015/06/16(火) 05:41:55 ID:qQFA9Eio0
お話に魂がこもっているようでとても感動する
今回もまた涙が・・ 
ありがとうございました

741名無しさん:2015/06/16(火) 12:49:53 ID:himkp/b.0
「新しい命」で亡くなった女性の子どもが気になるな。
次世代での重要登場人物になりそう。

742名無しさん:2015/06/17(水) 00:00:08 ID:i4fkaHVE0
圧巻の投稿量でした。どちらの物語も楽しく拝読させて頂きました。ありがとうございます。体調、お大事になさってください。

743ある寿札僧〜の作者:2015/06/18(木) 19:30:32 ID:tn9ddZDU0
すごいなぁ。
エネルギーを感じました。

744名無しさん:2015/06/19(金) 20:40:00 ID:BazbVQiIO
しかし…
小学生の女の子をレイプしようとする高校生に…
中学生学生と小学生の純愛ですとか…
ハードです(笑)
一昔前なら、よくて大学生(悪役)・高校生(主人公)・中学生(ヒロイン)でしょう♪〜θ(^0^ )♪〜θ)

もっと前なら、悪役は大人で、主人公は大学生・ヒロインは高校生くらいが…

考えたら、恐い話しだ…

745名無しさん:2015/06/20(土) 14:52:46 ID:n9upD6vk0
世界にわね、かけちゃいけない電話番号がいくつかあるんだって。090-4444-4444これ貞子につながるやつ。かけた人は1週間以内に死ぬってうわさだよ。ちなみにこの電話番号ってかけても電話代かからないらしいよ。

746名無しさん:2015/06/21(日) 02:04:07 ID:NOrVmZFQ0
R氏のご両親の馴れ初めのフェイクだったとしたら面白い

747 ◆iF1EyBLnoU:2015/06/23(火) 15:36:25 ID:33TdJtHw0
皆様こんにちは、藍です。
沢山のコメント、有り難う御座います。
投稿を続ける、勇気の基ですね。

748名無しさん:2015/06/26(金) 01:20:39 ID:bZwIcVgw0
藍様、いつも投稿ありがとうございます。

749 ◆iF1EyBLnoU:2015/07/02(木) 21:25:42 ID:un9l2.EE0
皆様今晩は、藍です。

予告したスケジュールと全然違う投稿でしたのに、
早速多くのコメントを頂き感謝致します。
どうすれば皆様のご厚意に応える事が出来るか、知人と共に検討中です。
どうぞ気長にお待ち頂ければ嬉しく思います。
有り難う御座いました。

750名無しさん:2015/07/02(木) 23:26:44 ID:.71XmAtY0
藍さん知人さん
 ありがとうございます。
 楽しみにして待ってます〜。

751名無しさん:2015/07/03(金) 02:03:50 ID:Tu7k.JVc0
ナオ君の心理描写が想像ではなく、ある程度の取材を経たものだとしたら今後の展開が期待できるのかも新米

752名無しさん:2015/07/15(水) 17:04:12 ID:7z7tbw1c0
まとめで出会い、全て読ませて頂きました。
とても興味深く、続きを心待ちにしております。
ここまで投稿し続けるのにとても長い時間がかかった事、その裏にある様々な苦労をお察し致します。
作者様と、お身体にお気を付けて、これからも頑張って下さい。

753名無しさん:2015/08/23(日) 09:43:25 ID:bShbRdA.O
Sさんはダビデの血をひいているという夢など見ました。
いつも命懸けの家業、どうぞお気をつけ下さい。
新しいお話もいつか公開される日をお待ちしてます。藍様もどうぞご安全に。

754名無しさん:2015/08/24(月) 22:52:40 ID:3/CfCGCo0
フフ。9月まであともう少しですな。

755名無しさん:2015/09/07(月) 23:15:46 ID:ku4dNWbwO
しばらく藍さんが来ないので、また「出会い」から読み返しています。次はまだかな…。

756 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/08(火) 21:25:27 ID:vV6Wb0V60
皆様今晩は、藍です。

>>750 751 752 753 754 755

交渉を続けて来た結果、数日中に掌編を1つ投稿出来そうです。
それまで、どうかもう暫くお待ち下さい。

757名無しさん:2015/09/08(火) 23:07:24 ID:ri/kH.dMO
藍様、交渉ありがとうございます!
新しいお話を楽しみにお待ちしてます。

758名無しさん:2015/09/08(火) 23:48:34 ID:6KuYA5Pg0
知人さん藍さん,ありがとうございます。
楽しみにしています。

759 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:29:32 ID:8ZyP6UVg0
皆様、今晩は。藍です。

予想外の事態で投稿のための時間が取れず、投稿が遅れました。
作業が済んだ所まで投稿して、後は今後の状況に任せたいと存じます。

どうか『水に流すことの出来ない事情』を、お察し下さい。

760『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:30:46 ID:8ZyP6UVg0
『召喚』

 「ね、翠。やっぱり止めた方が良いんじゃない?今夜は2人だけだし、怖いかも。」
「お父さんが一緒だから大丈夫。それに、きっと色々面白いよ。」
 
 リビングの床に広げた新聞を読む翠の、小さな背中。
翠の精神的な成長が著しいのは、良いことなのだろう。
しかし、新聞のTV欄を不自由なく読めるようになってから、時々問題も起こる。
翠が見たいと望むTV番組が、俺たちの方針と異なることがあるからだ。
そんな時、Sさんは翠を甘やかさずピシリと言ってくれるし、
姫はTVを見るよりずっと魅力的なイベントを考えてくれる。 しかし今夜は違う。
丹の、ある儀式のためにSさんと姫は昼前からお屋敷を離れていて、明日まで戻ってこない。
藍も一緒に出かけたから、お屋敷には俺と翠が2人きり。
しかも翠は俺が翠に甘いのを理解している。結局2人でその番組を見ることになった。

761『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:31:57 ID:8ZyP6UVg0
 まあ、夏にはお決まりの企画。 『心霊●▲特集2時間スペシャル』
この手の企画には珍しく、何年か続いているらしい。局のやる気(?)は感じる。
しかし、本気でこの手の企画を実行したらそれはそれで...悪い予感しかしないが。

762『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:33:20 ID:8ZyP6UVg0
 翠がいつもより早く食べ終えた夕食の後、いよいよ番組が始まった。
最初は心霊写真のコーナーで、一枚映し出される度に出演者達が大げさに怖がる。
自称『専門家』が写真を解説して、また出演者達が怖がる。
お決まりの演出なんだろうが、当然、本物の心霊写真なんて滅多にない。
光の反射か何かでそれらしい影が映り込んだ写真や、あきらかに作為を感じる写真。
どちらかというと翠は心霊写真よりも出演者達の反応に興味が有るようだった。
「ホントに、怖いのかな?」 「え?」 「だから、あの写真見て怖いのかな?」
「う〜ん、本物かどうか分からない人は怖い、かもしれないね。
それにほら、『偽物だ』なんて言ったら、番組の雰囲気が壊れちゃうでしょ?」
「そっか、怖がって、楽しむんだね。」 『怖がって楽しむ』か、確かにそうなんだけれど。
「それで、今までので変な写真あった?本物っぽい写真とか。」
俺は気付かなかったが、俺より感覚の鋭い翠なら。
「え〜っと、2枚目の写真には写ってたよ。○印で囲んだところじゃなかったけど。」
「2枚目?公園の木が写ってた写真?」 「そう、端っこに『手』が写ってた。女の人の。」
ぞく、と背中が冷たくなる。○印をつけられて、他の部分には俺の感覚が向かなかったのか。
CMソングが何だか空々しく、不気味な響きに聞こえる。
「翠、あのさ、出てくる写真に何か変なのが写ってたら、教えてくれない?」
「うん、良いよ。」 あっさりと答え、翠はTVの画面に視線を戻した。

763『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:34:32 ID:8ZyP6UVg0
 写ってる人数より腕が多いという写真。 → 「みんなの後ろにかくれんぼした人の手。」 

 無数のオーブが映っているという写真。 → 「凄いホコリだね。マスクしないと。」

 翠は写っているものを淡々と語り続け、それは俺の感覚とも一致していた。 しかし。

764『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:36:18 ID:8ZyP6UVg0
 ビーチの写真が映し出された時、翠の表情が変わった。
曇り空の下、並んで座る親子連れ。男の子の右半身に赤い光が重なっていて、
自称専門家が『これは霊障が心配ですねぇ。右半身の怪我とか。』などと解説している。
俺は赤い光に嫌な気配を感じない。しかし、微かな違和感。
振り向いた翠の、キラキラ光る瞳。 「見つけたよ。お父さん、ほらここ。ね?」
指さしたのは家族連れから海側に少し離れた場所、若い男性の後ろ姿。
突然感覚が拡張し、首筋の毛が逆立った。確かに、これは生きた人間ではない。
生きている人間と寸分変わらぬ姿で、ハッキリと写っている霊。
あまりにハッキリと写っていて、写真を撮った人も、この写真を見た人も
それが霊だとは気付かなかったのだろう。
何より、この写真を撮った時、そこにいた人たちに男性の姿は見えていたのか。
どちらにしても、一見ごく普通に見える写真が実は心霊写真の場合もあると言うことだ。
そしてもしかしたら、街中の人混みに混じって...。
俺は幼い頃から写真と人混みが苦手だったが、こういう感覚が原因だったのかも知れない。
軽い気持ちで見ていた番組が、急に禍々しいものに思われた。
『本物』の心霊写真を不特定多数の人に見せて、どんな影響があるのか見当も付かない。

765『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:37:39 ID:8ZyP6UVg0
 「この女の人写してる間に、中に入ったの。」
投稿されたという動画のコーナーになっても、翠の解説は続いていた。
心霊スポットだという廃墟。一度開けたドアの中には誰もいなかったのに、
怖がる若い女性を写したあと、もう一度ドアを開けると白い服を着た人影。子供騙しだ。

 「階段が有るから、隠れて後ろから手を出せるんだよ。」
港の岸壁。海側から手が伸びてくるという動画も作り物。
作業用の階段に隠れている協力者が、岸壁の際に立つ女性の足に手を伸ばす。
良く考えられた構図で階段自体は写っていないし、中々の工夫と言えるだろう。
出演者達の表情は引きつっていた。泣きそうな女性タレントもいる。

766『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:39:47 ID:8ZyP6UVg0
 「ねぇ、お父さん。この人たち、怖くないのかな?」
「え?みんな怖がってるでしょ。階段が写らないようにしてるから騙されて」
「騙されてることじゃなくて。」 「え?」 翠は立ち上がり、俺の隣に座って体を寄せた。
その体は少し強張っている。一体何を感じているのか。
「どうしたの?」 「来てるよ。あの人たちの近くに。」
既に動画のスロー再生も終わり、若い芸人が自分の体験談を話している。
「来てるって、何が?」 「分からない。何か、怖いもの。前は、男の人だったもの、かな。」
『集まって怪談をしていると寄ってくる』と、何度か聞いたことがある。
編集済みの録画に、翠はそれを『見ている』のか。 TVの画面越しに?
突然、大きな音。スタジオで何か小道具か倒れたらしく、出演者達はパニック寸前だ。
「あんまり強くないと思うけど、大丈夫かな。」 翠の声は沈んでいる。
心なしかTVの画面が薄暗く見える。 悪意、だ。 今は確かに、俺も感じる。
もし出演者達の身に何か起こって、その場面が放映されたら、
感受性の高い人間が受ける悪影響は心霊写真とは比較に...しかしどうすれば良い?
局に電話したとしても、まともに取り合っては貰えないだろう。
何の証拠もない、イタズラか異常者かも知れない電話一本で放送を止める筈はない。

767『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:44:03 ID:8ZyP6UVg0
 「お父さん。」 我に返る。 俺を真っ直ぐに見上げている、真剣な瞳。
「何?」 「お友達に頼んじゃ駄目?」 お友達って...
そうか。 一瞬、一飛びで遠い距離を越える、『空を往く者』。 翠はこの放送が今。
次の瞬間、大きな音を立てて窓ガラスが震えた。 突然の、強い風。 そして、羽音?
リビングの窓ガラス越しに、黄色く光る瞳がこちらを覗き込んでいる。
ソフトボールほどの大きさ。濡れたような艶のある、嘴の一部も。
確かに...式の使役に限れば、翠はSさんの指導を仰いで基本的な修練を終え、
既に当主様の『裁許』を受けている。だが、どんな術者も『時間』だけは操作出来ない。
『戻れ。例え術者の誓いが有ろうとも、これは汝の仕事では無い。』
「お父さん、どうして?」
「あのね、翠。この番組は、ずっと前に撮影されたものを放送してるんだよ。」
「じゃあ、もう、間に合わないの?」 悲しそうな表情、胸が痛くなる。

768『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:46:08 ID:8ZyP6UVg0
 一瞬、TVの画面が明るくなった気がした。思わず視線をTVに移す。
俺には見えない何か、その『気配』は出演者の間を縫うように、画面左から右に動いていく。
『気配』が画面の右端に消えると、スタジオの雰囲気が変わった。
出演者達は相変わらず大げさに怖がったりしているが、先程までの緊張感はない。
「あれ、『式』だね。お母さんが、あれに似たのを作ったことがある。」
「式?」 「うん。トンボみたいな形、光ってた。ポワ〜ッて。」
ふと、思い出した。
怪談を基にした映画や心霊関係の番組を撮影する時は、
スタッフや出演者が揃ってお祓いを受けると聞いた事がある。
しかし、式だとすれば番組を収録した時スタジオに術者がいたか、
あるいは事前に式を仕込んだ代を配置して置いたのか。 2つに1つだ。
そうでなければ、何時寄ってくるか分からない相手に対応できた筈がない。
もし式を封じた代を配置したのなら、かなり力のある『式使い』ということになる。
Sさんの作る式に似ているとしたら一族の術者かもしれない。
TV局からの依頼があるルートで『上』に伝わって、それで。
しかし代に式を封じて配置する程、力のある『式使い』は数える程しかいないと。

769『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:47:45 ID:8ZyP6UVg0
 「どうしたの?まだ時間は残ってるのに。」
俯いた翠を抱き上げた。 左手でリモコンを操作してTVの電源を切る。
「お母さんとお姉さんの言ってた通りだった。怖いTVを面白半分で見ちゃいけないって。
お父さんなら駄目だって言わないと思って、お願いしたから。翠が悪いの。」
ふと、出かける前のSさんと姫の様子を思い出した。
家を空けるとき、気になる事があれば特にSさんは細かく指示をしてくれる。
しかし、今回は何も。当然新聞はチェックしたはずなのに...そうか。
『見せない』から、『見せて気付かせる』へ。 翠がその段階まで成長したと言う事だろう。
「今日、お母さんもお姉ちゃんも『翠にTV見せちゃ駄目』って言わなかったんだよ。」
「何故、かな?」
「翠を、信じていたんだと思う。『今の翠なら見せても大丈夫』って。」
「面白半分で見ちゃいけないわけが分かるってこと?」
「そう。駄目だと言わなければ、翠があの番組見るのは間違いないからね。
それに翠はもう分かったでしょ?面白半分で見ちゃ行けない理由。」
「うん、分かった。」 サラサラの髪をそっと撫でた。

770『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:52:11 ID:8ZyP6UVg0
 自らTVの電源を切って欲しいと言った翠。 その心は、きっと。

 「子供の頃、お父さんも好きだったよ。さっきみたいな番組。」 「ホントに?」
「うん。まだ『感覚』が働いてなかったから、怖がって、それを楽しんでいたんだね。
『感覚』が働いていたら、きっとお祖母ちゃんに怒られてたと思う。」
「『怖いTVを面白半分で見ちゃいけません』って?」 「そう。」 小さな、笑い声。
「じゃあ、TVの続き、どうする?」 「見ても大丈夫、かな?」
「『式』が配置されていたんだから、悪い事は起きなかった筈だよ。見たい?」
「うん。」 翠の顔に笑みが戻った。
その後は体験談の再現ドラマとUMAコーナー、式が発動する機会はなかった。

771 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/14(月) 22:54:09 ID:8ZyP6UVg0
 藍です。

 今夜は此処まで。お付き合い頂いた皆様に感謝致します。
有り難う御座いました。

772名無しさん:2015/09/14(月) 23:45:07 ID:q0toJZE60
洪水とかだったら心配。御無事そうで何より

773名無しさん:2015/09/15(火) 00:09:52 ID:LqecAaiwO
投稿ありがとうございます!
心霊番組はやっぱりあんまり見ちゃ駄目なんですね。でもTV局で本格的な御祓いをしているなんて意外でした。
翠ちゃんの解説面白かったです。素敵な女の子に成長されてますね。
お父さんが娘に甘くて、娘がそれを見透かしてるって、リアルな関係に思わずにやついてしまいました。

774名無しさん:2015/09/16(水) 00:51:28 ID:RZ3OlA5.0
知人さん藍さん,投稿ありがとうございます!
それにしても翠ちゃん,可愛すぎてしっかりしすぎです・・・。
事情はわかりませんが,ご無事,ご健勝をお祈り致します。

775 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:44:40 ID:pyBusNHI0
皆様、今晩は。藍です。

以下、『召喚』の残りを投稿致します。
掌編の割に書き換えの指示が多かったので少し心配です。
大きな不都合無く、お楽しみ戴けると良いのですが。

776『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:48:54 ID:pyBusNHI0
 「実は、昨夜翠と2人で視たんですよ。『心霊●▲特集2時間スペシャル』
マズかったですかね?まだSさんには話していないんですけど。」
姫と2人で夕食の準備をしている。子供達とSさんはリビング。穏やかな夕方の一時。
「全然問題有りません。『見せなければ済むという時期じゃない。』って、Sさんも。」
やっぱり、事前の禁止が無かったのはそういうことだったのだ。
「それなら良かった。その番組を見てる時に、その何というか、変わったことが起きたので。」
「変わった、ことですか?」 姫の眼に宿る光が強くなった気がした。
「ソレ系の動画を紹介するコーナーの途中で、翠が『怖いものが来てる』って。
動画自体は作り物だと思ったんですけど、スタジオの雰囲気に惹かれて
『何か』が寄ってきてたんだと思います。」
「それで、術者が前もって配置していた式が発動したんですね?」
心臓が、止まるかと思った。
「あの、どうしてそれを?Lさんは、番組を視ていないのに。」
優しく笑って、姫は鍋を火に掛けた。

777『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:50:29 ID:pyBusNHI0
 「あのTV局には一族の人が働いていて、そういう番組や企画が有ると
『お祓い』を依頼されるんです。でも、実際には式を封じた代を配置して、
次の依頼が来た時にその状態を確認して対応する、そう聞きました。」
『お祓い』では、その後に起こる怪異には対応できないという予想は当たっていた訳だが、
まさか本当に一族の術者が関わっていたとは。
「それで、翠ちゃんには見えたんですか。式の、姿が。」
「見えていた、と思います。トンボみたいな形だと言ってましたから。」
「Rさんには?」 「見えませんでした。気配が移動するのは、分かったんですけど。」
姫は小さく溜息をついた。
「やっぱり適性の違い、なんでしょうね。それに翠ちゃんの感覚はかなり鋭いし。」
「ええと、『式』って写るんですか?ビデオとか、写真とかに。」
俺は気配を感じ、翠が姿を見たなら、収録した映像には『何か』が記録されている筈だ。
「私、実験した事が有るんです。昼寝してる管を、『●ルンです』とデジタルカメラで。」
「どうして、2種類?」 珍しく、姫は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

778『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:54:37 ID:pyBusNHI0
 「『デジタルカメラが普及してから心霊写真』が減った』という話、聞いた事がありますか?」
「はい。『デジカメだと二重露光みたいなトリックが使いにくいから』だ、と。」
デジカメのついたケイタイやスマホを持ち歩く人が増え、
心霊写真が撮れる可能性はむしろ高くなっている筈なのに心霊写真は減っている。
とすれば、デジカメ普及以前の心霊写真はほとんど偽造という結論を導くのに無理はない。
「本当にデジタルカメラでは心霊写真が撮れないのか、それを確かめたかったんです。
全く同じ場面を2種類のカメラで撮影した管の写真を比べたら、手がかりになると思って。
式も幽霊も妖も、私たちとは『在り方』の違う存在だし、
実際に幽霊や妖を相手にする時に、写真を撮っている余裕は有りませんから。」
確かに、仕事中は一瞬の油断が命取りになりかねない。
悠長に写真の撮り比べ実験なんて。 その点管さんがモデルなら100%安全だし、
管さんはもともと独立した妖。 幽霊の代わりの実験台としても最適だろう。

779『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:55:55 ID:pyBusNHI0
 「それで結果は、どうだったんですか?その実験の。」
「10枚ずつ写真を撮りました。『●ルンです』で式の姿が撮れたのは2枚、
デジタルカメラで撮れたのも2枚。 4枚とも少し少しボケてました。
でも、デジタルカメラでも本物の心霊写真は撮れると思います。」
デジカメでも撮れる? じゃあトリックって話は...いや、それよりも。
「昼寝してたってことは、管さんが『見える』時に撮ったんですよね?」
「はい。いつものウッドデッキの端っこで。」
肉眼ではハッキリ見える管さんが、10枚中たった2枚ずつ?
「不思議、ですね。姿は見えるのに写真に写らないことの方が多いなんて。」
「以前は幽霊の数が少ないから本物の心霊写真も少ないんだと思ってましたけど、
そんな単純な話では無いみたいです。それに、もっと不思議なのは。」
姫はたっぷりのレタスとミニトマトを盛りつけたサラダボウルをテーブルに運んだ。

780『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:58:08 ID:pyBusNHI0
 「式の姿が映っていない写真でも、『気配』を感じるんです。
まるで、私には見えない何かが写真やデータに記録されているみたい。」
それがどういう理由なのか、俺には想像もつかない。しかし、それはまるで昨夜の。
「姿は見えないけど『気配』を感じるというのは、昨夜の僕と同じですね。あの番組の。」
「はい。管の姿は写っていなくても、その写真やデータには確かに『何か』が記録されていて、
私たちはそれを『気配』として感じるけれど、翠ちゃんなら多分映像として見ることが出来る。
ただ、術者でない人が写真に記録された『気配』を感じるのはごく希な事でしょうから、
そんな写真が心霊写真と言えるかどうかは分かりません。間違いなく『本物』だとしても。」
本物だが、心霊写真とは...ふと、思い出した。昨夜の番組、本物の心霊写真。
ビーチの家族連れの背景に立つ、若い男の後ろ姿。 髪型も、海パンの模様も。

781『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 21:59:49 ID:pyBusNHI0
 「昨夜の番組で紹介された中に、本物の心霊写真があったんです。
管さんを狙って撮っても、その姿が写る確率が2割(10枚の内2枚)位だとしたら、
心霊写真が偶然に撮れるなんて有り得ない気がするんですが。」
「偶然なら、本当に『有り得ない』くらい確率は低いでしょうね。
でも、偶然でないなら『有り得ない』から『たまには起こる』位の確率にはなるかも。」
「え?偶然でないならって、そんな事が。」
「結婚の時に撮った記念写真、憶えてますか?」 「はい、憶えてますけど。」
数枚の記念写真。家族全員で撮った一枚は引き延ばして、今も俺の背後の壁に。
「全部の写真に写っていましたよ。ほら、その写真にも。」
姫の視線を辿り、振り返る。 あ。

782『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:03:02 ID:pyBusNHI0
 姫の足下に蹲る、小さな白い影。まるでペットが家族と一緒に。そうだ、確かに5枚とも。
『管さんも家族ですから、全員集合ですね。』 俺自身がそう言って笑ったのを思い出した。

 「きっと、その気になれば写真に写ることが出来るんです。管さんも、妖も、幽霊も。
それがこの写真みたいに、良い事ばかりじゃ無いのが問題なんですけど。」
内容は別にして、心霊写真は此の世ならぬ存在からのメッセージ? それなら。
「Rさん。」 「あ、はい。」
「完成です。配膳は私が。皆に声を掛けて下さい。お喋りしてた割には時間通りですね。」

 ダイニングを出て、リビングに向かう。 Sさんと翠の気配。
藍と丹の気配はかなり薄い。 丹のミルクと藍の離乳食の世話を考えれば神展開。
さすがにSさんだ。 その直後。

783『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:12:53 ID:pyBusNHI0
 「ホントだ。TVで見たのと同じだね。すごく綺麗。」 これは、翠の声。
足が動かない。盗み聞きではなく、ただ、2人の会話を邪魔してはいけない。
何故だろう。 その時俺は、そう思った。
「でしょ? この式をTV局に配置したのは、一族で最高の術者の1人だった。」
「もう、その男の人はいないの?」 「そう。」 Sさんはそれが男だなんて一言も。
一瞬の間。 そうか、『上』を通してその依頼を受けていたのは、あの人。
初対面の日、あの人は俺の背中に式を貼り付けた。
通常ではあり得ない、幾つもの適性を併せ持つ、『最高傑作』。
まるで昨日の事のように目に浮かぶ。 端正な顔、長身の黒いスーツ。
「こんなに強い式を封じるには紙の代じゃ駄目。湿気も黴も平気な、例えばこれ。紫水晶。」
そう言えば、当主様の式は翡翠の代に。
「お母さん。その代、どうするの?」

784『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:17:39 ID:pyBusNHI0
 「炎の、この仕事を継いだのは私。だからこれを出来るだけ早くTV局に届けて。
でも、お母さんの式は翼を持ってないから...そうね、翠のお友達に頼むのはどう?
もし、炎の式が発動した後に入り込んだ悪いモノがいたら、それを片付けてからこれを。」
「良いのかな? 翠と、翠のお友達で?」

785『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:18:32 ID:pyBusNHI0

 『怒り故で無く、憎しみ故で無く。悲しみ故に。』

 Sさんの声。 まるで謡うような、不思議な調子。

 『ただ、はらから(同胞)の、あんねい(安寧)のために。』

786『召喚』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:28:41 ID:pyBusNHI0
 それは式を使役する術者の、『誓詞』だとSさんから聞いた事がある。

 翠の、鈴を振るような声が、Sさんの声を追いかける。

 「そう。これは遊びじゃない。面白半分でなく、真剣な仕事だと、誓える?」
「はい。誓い、ます。」 「良く、分かった。じゃ、お友達を呼んで。翠は、偉いね。」

 直後。 突然の強い風が、庭の木々とお屋敷の窓ガラスを揺らした。


 『召喚』 完

787 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/16(水) 22:35:10 ID:pyBusNHI0
皆様今晩は。 再び藍です。

色々ありましたが、ようやく『召喚』の投稿を終えることが出来ました。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。有り難う存じます。

預かったお話がもう1つあるのですが、投稿の許可を頂けるか分かりません。
もし縁があるのなら、次のお話もきっと此処で。

788名無しさん:2015/09/16(水) 23:31:03 ID:RZ3OlA5.0
知人さん藍さん,ありがとうございました。
翠ちゃんのお友だち,ビッグバードさんのデビューですね!

789名無しさん:2015/09/17(木) 07:07:35 ID:oyuqQm8cO
続きの投稿、ありがとうございます!
翠ちゃんはもうお仕事を始めたんですね。お魚さんは喜んでいるのでしょうか。
Lさんはアナログとデジカメを10回ずつ試すなんて客観的ですね。検証面白かったです。

790名無しさん:2015/09/19(土) 01:17:49 ID:AcG3Mc7M0
己の持つ力に対する強い自制と恐れ。その積み重ねの業。
冷酷な計算と強い自制による冷徹な行動、本質的に自ら制限をかけるが故の・・・馬鹿正直さ
それを知事さんが変化球で描く。面白い。

791 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 22:49:48 ID:u7o6d5uw0
テスト中です。

792 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 22:59:37 ID:u7o6d5uw0
皆様今晩は、藍です。

以前『聖夜』というお話を投稿致しました。
その時点では非公開となっていた部分の許可を得ましたので、
指示された書き換えを終え、事情が変わらない内に投稿致します。

793『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:06:52 ID:u7o6d5uw0
『続・聖夜』

 チーム榊の忘年会の夜、恵子ちゃんと榊さんとの出逢い。
それから十日程経ったある日、Sさんと俺は榊さんから呼び出しを受けた。
あの少女は既に安全な場所で保護され無事に年を越したと聞いていたのだが、
それでは今日になってSさんと俺が呼び出しを受ける理由が分からない。
まさか、あの少女の身に何かあったのか? いや、それならそうと連絡が有った筈。
早々に『今夜はお酒を飲まない。』と宣言したSさんの運転で待ち合わせ場所に向かった。
それは郊外の寿司屋、『藤◇』。大事な会合で決まって使う、俺たちの隠れ家。

794『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:08:24 ID:u7o6d5uw0
 「もうあの娘は安全な場所で保護されていると聞いたんですが。」
「まあ、あの娘が母親の死や継父との生活を思い出す機会は少ないだろうから、
その意味では精神衛生上は確かに安全だよ。俺の家は。」
「へ? じゃあ、あの娘は今、榊さんの家に?」
「忘年会の後、二人で分署に戻る訳にもいかないだろ。だから、さ。」
確かに。それはそうだ。一人きりでホテルに宿泊させるのも心配だし。
「いきなり年寄りを驚かすとマズいから、勿論家に電話してから帰ったよ。そしたら。」
榊さんは大きな溜息をついた後、杯の日本酒を一息に飲み干した。
すかさずSさんが空の杯に日本酒を注ぐ。完璧なタイミング。少しだけ、嫉妬。
「手ぐすね引いてたらしいお袋は甲斐甲斐しく風呂やら着替えの世話を焼くし。
あの強面の親父まで、見てられないくらいに相好を崩して。全く、俺の立場がないっての。」
きっとそれは、年末で帰省した孫娘の世話をする感覚だったのだろうか。

795『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:10:08 ID:u7o6d5uw0
 「姉貴が使ってた部屋だ。着替えとかも。新学期の最初からは高校にも通ってる。」
ああ、それなら新しい落ち着き先が見つかるまで何の心配も。
「ただあの娘の引取先を探すのに二週間くらいかかって。それがマズかった。」
...たった二週間の内に何が?

 「姉貴の所はみんな男の子ばかりだったから、無理もないと言えばそうなんだが。
お袋と親父があの娘を文字通りの猫っ可愛がりなんだよ。
まずは毎日5時半に起床、5時半だぜ。それで親父と一緒に犬の散歩。
散歩から戻ったらお袋と一緒に朝食の準備。3人で朝食を食べたら高校へ。
高校から帰ってきたら、またお袋と一緒に準備して3人で晩飯。それが日課らしい。」
「あの、3人って?」
「だから親父とお袋、それとあの娘だよ。」
そうか。まあ、どう考えても榊さんの帰宅時間は当てにならないからね。

796『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:11:54 ID:u7o6d5uw0
 「でも、引き取ってくれる親戚がいるならそれが一番だろ?
『新年早々』って、親父とお袋には散々嫌な顔されたけどやっと見つけたよ。母方の祖父母。
乗り気と言うほどでもないが、引き取って面倒を見るのは構わないと言ってる。
それでその日は早く帰って、話を切り出したんだ。そしたら。」
榊さんは両掌で顔をゴシゴシと擦った。
「あの娘に、派手に泣かれちゃってさ。結果、お袋と親父も仏頂面。
『いきなりそんな事、無理強いするものじゃない。』って。まるで俺一人が悪者だ。」
ああ。普段から家庭内での空気が読めないと、それで色々有るのは仕方ないですよね。
「でも、あの娘の将来が一番大事なんだから。構わず言った訳。
『恵子ちゃんの将来が一番なんだから何時までもこのままじゃいけない。
恵子ちゃんはこれからどうするつもりなんだい?』って。そしたら。」
榊さんは杯の日本酒をくいっとあおった。

797『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:13:39 ID:u7o6d5uw0
 『私、健太郎さんのお嫁さんになりたいです。
それが駄目なら、このお家のお手伝いさんにして下さい。』

 俺と榊さんは盛大に日本酒を吹いた。この声はあの娘の...そうか、『声色』。Sさんだ。
「何だよ〜いきなり。Sちゃん、俺の心臓止める気かい?」
「いいえ、もうそろそろ本題に。依頼の内容を聞かせて戴こうかと思っただけです。」
「そうか。それはそう、だな。折角来て貰ったんだから。」
ウーロン茶のグラスを持った、Sさんの笑顔。しかし榊さんの表情、冷たい翳りは?

 「あの娘の、気持ちを変えて欲しい。俺に関する記憶を消せるならそれも。」
!? どうして...あの夜、榊さんもあんなに楽しそうに。
「とても辛い状況から助け出されたから、あの娘は思い違いをしてるんだ。
これから色々な人に出会うんだし、その中にはあの娘を待ってる運命の人もいる筈だ。
俺の事を好きだなんて思い違いは、あの娘の未来を狭めてしまう。」

798『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:15:52 ID:u7o6d5uw0
 違和感。

 本庁からも一目置かれる『チーム榊』のボス。その話術は筋金入りの犯罪者の心さえ。
それなら、何の問題も無くあの娘を説得出来る筈。なのに何故俺とSさんに?
掘り炬燵の中で、右の爪先が軽く踏まれた。Sさんだ。つまり、これは俺の役目。

 「榊さん。術者に仕事を依頼するのに、嘘はいけませんよ。基本中の基本でしょう?」
「嘘?」 一瞬、顔から肩に膨大な熱を感じた。 正面から押し寄せる激情。 熱い。
自分の歳の約半分しか生きていない若造相手。しかし、榊さんは見事に感情を抑え込んだ。
それとなく額の汗を拭い、心に鍵を掛ける。 そう、出来るだけ平静を装うために。
「榊さんなら説得は簡単でしょう?さっきの通り説明すればあの娘も理解する筈。
なのに何故わざわざ僕達に? 一体榊さんは何を、困っているんですか?」
「参ったな...分かった、正直に言おう。俺もあの娘が好きだから、困ってるんだよ。
いつも通りに話が出来れば説得は簡単だろうが、その間、自分を抑えてる自信が無い。」
「え〜っと。相思相愛なら、何の問題も無いんじゃ?」
あの娘は18歳。母親は既に亡く、継父とは法律上の親子関係が無いと聞いていた。
それならあの娘の意思だけで結婚を決めることだって出来る。
「歳の差だよ。 45-18=27 幾ら本人の希望でも、それは無理。だろ?」

799『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:17:47 ID:u7o6d5uw0
 「あの、榊さん。」 「何だい?」
「亡くなった奥さんと結婚した時は周りの反対を押し切ったって聞きました。なのに何故今回は?」
「反対、か。確かにあの人の御両親は俺たちの結婚に反対してた。
でもそれはあの人が中々結婚を承知してくれなかったからだ。
『1年も経たずにあなたをバツイチにするって分かってるのに、結婚なんて。』 そう、言ってな。
でも、俺はどうしてもあの人と結婚したかった。それに。」
榊さんは言葉を切り、窓の外を見詰めた。目尻にうっすらと、涙?
「もしあの人が妊娠したら、俺たちの子供が出来たら、一族の護りがあの人にも、そう思った。
結局それは、間に合わなかったけど。」

 「榊さん、あなたは『約束』を果たすべきです。未だ果たしていない『約束』を。」
Sさんの優しい、それでいて厳しい表情。
「Sちゃん、『約束』って。まさか。」 少し、榊さんの声が震えている。
「結婚を承知するのと引き替えに、あの人と交わした約束です。」
「それは。」
Sさんは眼を閉じ、ゆっくりと、深く息を吸った。

800『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:20:19 ID:u7o6d5uw0
 『もしもあなたが誰かを好きになって、
それが一族を護る力の仕業だと分かったら、その想いは冷めてしまうの?
もしもあなたの前に現れた女性が私の生まれ変わりだと分かったら、
今と同じように、どんな障害も乗り越えてその人を愛するの?』
違う、これはSさんの声じゃ無い。それに、あの娘の声でも無い。だとしたら。
「分からない。本当に分からないんだ。君を失ってから、俺は何も。」
『たとえ私が死んでも、きっとあなたは幸せになって。
素敵な人をお嫁さんにして子供を作って、お父様とお母様を安心させて。
あんなに約束したのに。』
「確かに約束したよ。でも君が俺を残して逝ってしまって、俺はどうしたら良いのか。」
『私も精一杯頑張る。約束、あれから一時だって、忘れてはいない。それは今も』
「俺は...」
榊さんはそれきり黙った。俯いたまま、テーブルの上で、きつく握りしめた両の拳。

801『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:21:43 ID:u7o6d5uw0
 Sさんが俺の右肩に触れた。小さな目配せ。
そうか。素早く立ち上がり、壁のハンガーからSさんのコートを取る。
「ご馳走様でした。依頼はキャンセル、車を呼んでおきます。落ち着いたらどうぞ。」
Sさんは俺が着せかけたコートに袖を通したあと、座敷の襖をそっと閉じた。
廊下を進むSさんの軽やかな足取り。後を追いながら声を掛ける。
「『武士の情』って事ですか?あとは榊さん自身が。」
「武士?良い歳して、まるで駄々っ子じゃないの。あれじゃ恵子ちゃんが可哀相。」
ふと、立ち止まったSさんが振り向いた。
「でも、あなたは違う。榊さんの半分しか生きてないけど、駄々っ子じゃ無い
何時だって真っ直ぐで、一生懸命で。私、あなたの事、大好き。」
熱く、長いキス。

802『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:24:32 ID:u7o6d5uw0
 運転席のドアを閉じ、助手席に乗り込むとSさんがケイタイを取り出していた。
「もしもし、そう、S。今『藤◇』を出る所。車出して貰うように話して頂戴。
ちょっとキツく言い過ぎたかもしれないから、しっかり慰めて上げてね。
依頼の件は多分成功。全部上手く行ったら報酬は約束通り、忘れないで。」
白く細い指がボタンを押し、ケイタイを仕舞う。続いてキーを捻った、低いエンジン音。
「今の電話の相手、もしかして。」 「そう、恵子ちゃんよ。」
「今夜の、本当の依頼主はあの娘だったんですね?」
「あなたの依頼主は榊さん、私の依頼主は恵子ちゃん。
あなたも私もそれぞれの仕事をしっかりこなした。そういう事。」
「でもこれは二重」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「細かい事は言いっこなし。最大多数の最大幸福、それはいつだって絶対の真理。」

803『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:42:34 ID:u7o6d5uw0
 「あの、もう、1つだけ。」 「なあに?」
「仕事の報酬って。あの娘はまだ高校生で...もしかして榊さんの御両親が?」
「いいえ、榊さんの御両親は無関係。」 「じゃあ、一体どんな報酬を?」
「折々の葉書。」 「葉書?」
「そう。まずは式と披露宴の招待状。それから近況報告を兼ねた年賀状とか暑中見舞い。
依頼への私たちの対応。それが本当に正しかったのか、確かめなきゃいけないでしょ?」

 その後、チーム榊の会合で、
水野という青年のモノマネに新たなネタが加わったと聞いた。
それは多分、犯罪かと見まごうほど若い夫人と、可愛い子供達にデレデレの榊さん。
なら、俺と女装の結びつきはとうに『過去』。 きっとそうだ。
暗い山道に響く、力強いエンジン音。 本当に気持ちが良い
待てよ、でも今夜は聖夜じゃ。 いや、俺はキリスト教徒じゃない。何の問題も。
とても綺麗な、Sさんの横顔。 自分の頬に笑みが浮かぶのを感じた。
そう、何の問題も無い。 明日からまた、一生懸命に生きるだけだ。

『続・聖夜』 完

804 ◆iF1EyBLnoU:2015/09/26(土) 23:47:55 ID:u7o6d5uw0
皆様今晩は、再び藍です。

お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。

805名無しさん:2015/09/27(日) 08:03:13 ID:ZxypnuEYO
榊さんと恵子ちゃん、幸せになれますように。
RさんとSさんはラブラブ過ぎて、ごちそうさまですm(_ _)m

藍さん投稿ありがとうございました!

806名無しさん:2015/10/01(木) 00:39:18 ID:TAfSU6so0
聖夜の奇蹟,神の木に,恵みの子が来ませり。
今はやりの年の差婚もめでたきかな。
とってもいいお話を,ありがとうございました。

807 ◆iF1EyBLnoU:2015/10/08(木) 01:42:43 ID:RGITgbM60
皆様今晩は、藍です。

>>757
>>758
>>772
>>773
>>774
>>788
>>789
>>790
>>805
>>806

いつも通り、本当に温かく、とても深いコメントに感謝申し上げます。
未だ個別の返信は禁止されておりますが、禁を破りたい衝動に駆られる程です。
身内の事情、お仕事の都合、その他にも色々ありまして時期は明言出来ませんが、
もし縁が有りましたら次作も是非此処で。本当に有り難う御座いました。

808名無しさん:2015/10/09(金) 00:03:24 ID:1gLp.ps.0
一応、枯葉氏が作った板だからOKじゃね?なぜか粘着氏がここまで付いてきたのは誤算だったが

809 ◆iF1EyBLnoU:2015/10/16(金) 22:56:23 ID:NC7kAbkk0
皆様今晩は、藍です。

明日早朝からお仕事で暫く戻れません。
留守は頼んでありますが、コメント等への反応で失礼が有るかと存じます。
申し訳有りませんが、いつか新作を投稿出来る日を楽しみに。では、ご機嫌よう。

>>808
暖かいお心遣い、感謝致します。

810名無しさん:2015/10/18(日) 06:51:43 ID:OdcDjmMIO
藍さんお知らせありがとうございます。お仕事頑張って下さい。
新作も楽しみにしています(^o^)


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